緋弾のアリア -強襲科の狂戦士- (南瓜お化け)
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特別編
第0策 あの日の約束


 割り込み投稿しているので、第12狂を投稿したあとの私の反応を、前書きに書きます。

投稿の少し後
南瓜「わーお気に入り100超えちゃった。頑張って書かないとなー」

投稿の次の日
南瓜「うーん、行き詰まったなー。お、ランキングなんてあるんだ。見てみよ」
南瓜「うーん、この原作知らないや。ハリー・ポッターかー、ハリーアンチ多いしなー」
スクロール
南瓜「お気に入り登録数1000超えってどんなんだよw」
デイリーランキング 28位『緋弾のアリア ~強襲科の狂戦士~』
南瓜「( ゚д゚)」「(つд⊂)ゴシゴシ」「( ゚д゚)」
デイリーランキング 28位『緋弾のアリア ~強襲科の狂戦士~』
南瓜「バグか」

 この作品を読んで下さる皆様、本当にありがとうございます。


「まったく、なんでこんなことに……」

 ハァ、と大仰にため息をつく。ため息もつきたくなる。■■が子供だなんて。相手が、■■くんだということも、だ。どうして、この二人は私の策の外側を、いや、策すら練っていない、どう練ろというのだ。

 とりあえず、私は、この事実を秘匿した。味方には勿論、零崎にも、徹底的に秘匿した。檻神家を始め、四神一鏡とは縁もゆかりもない、とは流石にいかないが、どちらかと言えば、玖渚機関の影響力の強い施設に、河川敷で拾ったといって、届けた。その時見せた偽造学生証では、私はその施設の近隣に住んでいることになっているので、あってないようななけなしの休日の全てを、遠方まで行って、赤ん坊を見なければならなくなった。なんでこんなことに……。

 

 

「ほーら、■ー■ーくん。いいかげん、名前覚えてください。■■が、貴方の名前ですよ。■ー■ーくん」

 ■■、それが、私がこのこにつけた名だ。なんてことはない、父親の名前からとっただけの、名前だ。一応、戸籍登録のためだとかで、苗字は母方のしたが、特に何もない。そもそも母方の苗字は、私がつけたものだし、父親の名前は、どちらも本物で、どちらも偽物なのだから、思い入れもない。

 しかし、この赤ん坊、名前を呼んでも、私にもたれかかって、ガラガラを振り回したまま、振り向きもしない。うるさいし、たまに顎にあたって、結構痛い。

「あら、■■くん、ごきげんですね。おねえちゃんが来てくれたからですかねえ」

 施設の職員さんが、話しかけてきた。優しげな雰囲気だが、まあ、直接ではないとはいえ、バックに玖渚機関がいる施設だ。給料もいいのだろう。

「そうなんですか? この子、振り向いてもくれませんよ?」

「いえいえ、私達が触れた途端に、泣き出して、生えたばかりの歯で、かんでくるんですよ」

「そうなんですか……」

 苦労されているようだ。しかし、私はなつかれていたのか。お世辞にも、子供に好かれる性格ではないはずなのだが……。私を性格で好くのは、あの変態……いや、あの変態は女子中学生なら、だれでもいいような気がする。お兄ちゃんという存在なら、だれでもいいような気すらする。

「ああ!」

 施設の人が、驚いて、私の後ろを指さしている。なんだろう、子供が遊具から落ちたのか、と思って振り返ると、いつのまにか、私の後ろに移動していた■■くんが、もっしゃもっしゃと、私の髪の毛を咀嚼していた。

 

「ああッ!?」

 私は生まれて初めて素頓狂な声を出した。

 

 

「おねーたん?」

「お姉ちゃんです」

「あねーたん?」

「遠くなっています」

 ふむ、なるほど、これはこれは。生まれて初めて、変態の気持ちがわかったような気がした。

「しかし、貴方も大きくなりましたね。最初はこーんな、小さかったのに。いえ、まあ、それでも小さいですね」

「むー」

 小さいといわれたからか、ぽかぽかとパンチしてきた。本当に、あの二人の子供なのだろうか。たしかに、ものすごく似ているが。

「むむー」

「ほんと、もちもちですね。肌もすべすべ、羨ましい限りです」

 ほっぺをむにむにしていると、抵抗するように、腕を伸ばすが、ぎりぎりのところで届かない。それでも頑張って、腕をブンブンと振り回すが、届かない。

 施設の人は、微笑ましそうに、こちらを見ている。なるほど、これが、平和で安穏とした、といったところか。

 その後、絵本を呼んであげたり、遊具で遊んであげたりしている内に、疲れたのか、■■くんは、眠そうに目をゴシゴシとし始めた。でも遊びたいのか、千鳥足で、こちらにやってくる。

「お昼寝、しますか?」

「ええ、では、おねがいします」

 施設の人が、いいところで、聞いてきたので、そのまま任せて帰ろうか、と思っていたが、穏やかに笑ったまま施設の人は、首を横に振った。

「いえ、ちょうど、仮眠室のベットが開いているので、■■くんと一緒に、お昼寝しますか? 貴方とても疲れているみたいですし……」

「え……」

 

「ねんねころりやねん……こ……ろ、り……」

 私は生まれて初めて意味もなく昼寝をした。

 

 

「もっきゅもっきゅ」

「ケチャップ、顔に豪快についていますよ」

 なぜだろう。なんでこんなことになったのだろうか。そのうち施設に行く回数を減らしていくつもりだったのに、回数が増えていっている。それどころか、学校側も一切疑わない上に、施設の人の信頼も勝ち得てしまったのか、こうして、外に連れ出せるようになってしまった。

 しかし、全国チェーンのハンバーガーショップ。どこでも同じ味の信頼感は、最高です。ビバ安定。■■くんも、キッズセットを頭から、文字どうりに、頭からかぶりついている。そのせいで、髪の毛にまでケチャップが付いている。

 バーガーを食べ終わると、メニューに有るシェイクを、バンバンと叩いている。何てガキだ。髪の毛を紙ナプキンで拭くのも手こずったのに、本当に遠慮を知らない子供だ……。

 

「すみません、イチゴシェイク二つください。Lで」

 私は生まれて初めて他人を甘やかした。

 

 

「ええわかりました。では、ゆとりには、武偵高の教師になってもらいましょう。兵士(コマ)として使えないのなら、提供者(サポート)に回ってもらいましょう」

 これも織り込み済みだ。あの戦場で、誰がどのような傷を追っても、代替の効くように、策を立てておいてある。この策に要など存在しない。もし、自分が死んでも、大丈夫なのように、予め、後任を押してある。そして、作戦要項の全てを死んだ時に、彼女に行き渡るよう、手はずは整っている。

「玉藻、もしかしたら、……もう寝ていますか」

 しかし、世界も厄介なものを、作ってくれたものだ。

 武装探偵、通称『武偵』。増加する凶悪犯罪に対向するため、などと銘打ってあるが、実質的には、少なくとも日本がこの制度を採用した背景には、財力の世界と政治の世界が深く関わっているはずだ。これで四神一鏡と玖渚機関は、私兵を動かしやすくなる。民間の武偵会社も殆どが、息のかかった会社ばかりだ。

 武偵養成の学校も作られるが、国立なのか、県立になるのかは、まだ分からないが、規模や意義を考えるに、国営が妥当。しかし、民衆の反対意見で、効率ではあるが、武器会社や二つの勢力からの支援が多くを占めることになるだろう。

 ならば、早めに手を打っておくに越したことはない。ゆとりには、そこの教師になってもらおう。

 あとは公安か。しかし、遠山金叉。いくら圧力をかけても、調べようとしてくる。よし、偶然、不慮の事故で、たまたま道を通りかかった、赤き制裁とぶつかってもらおう。公安0科どころか、公安ごと潰れるかもしれないが、なんとかなるだろう。

 

 私は何時もどうりに策を練った。

 

 

「ええ、今日はこれで」

「何時もありがとうねえ。■■くん、いつも、お姉ちゃんはー、って聞いてくるんですよ」

 私は愛想笑いを浮かべながら、それとなく返事をする。

「本当は引き取りたいんですけど……」

 職員さんは、いつもどうり、ニコニコ笑っている。まるで、引き取ってくれ、と言わんばかりに。

「でも、いまは寮で生活していますし……」

 これは本当のことだ。

「でも、両親には、なかなか切り出せませんし」

 これも本当のことだ。ただ、いや、なんでもない。

「すみません」

「いえいえ、来てくださるだけで大助かりです」

 申し訳無さそうに、謝る。謝る必要も、どこにもないはずなのに、こういう場合は、謝るのが普通らしい。

「お姉ちゃん、帰っちゃうの」

「あら、■■くん、お昼寝はどうしたの? すみません、この子いつも音もなく現れるんですよ」

 名残惜しくなるから、お昼寝の時間とやらに帰宅しようとしていたのに。寝ぼけて、ふらつきながら立っている姿を見せられたら、帰りにくくなるじゃないですか。でも、やはり眠いのか、ごしごしと目をパジャマの裾でこすっている。

「ええ、そうですよ。宿題が、どーっさりとでてしまって、速く帰って済ませないと、先生に怒られてしまうんです」

「むー」

 ふくれっ面で、袖を引っ張る■■くんだが、職員さんに抱っこされて、手を話してしまう。

「大丈夫です、いつかはわかりませんが、また必ず、会いに行きます」

「ホントに?」

「本当です」

 頬を膨らせたまま、コテン、と首を傾げる■■くん。こんな反応をされるから帰りづらくなる。

「むー」

「むー、じゃなくて……」

 電車の時間は、結構ギリギリだ。乗り継ぎもあるので、これを逃したら、ごまかすのが面倒になってしまう。

「……じゃあ、またね。お姉ちゃん」

 不服そうに、そっぽを向きながら、どうにか帰るのを許してくれた。

 

「ええ、では、またね」

 私は生まれて初めて確証のない約束をした。

 

 

「……はぁはぁ」

 死体は偽装した。あんな惨状の職員室に、腕一本でも残しておけば、死んだことになるはずだ。

「生き残る。なんとしてでも……」

 澄百合学園は、今日、この日を持って事実上の壊滅をするだろう。お母さんも死んだ、いま上から来ている命令もない。ジグザグは、私を殺したと思っている。『赤き制裁(オーバーキルドレッド)』は、今この場にはいない。彼は、恐らく、面倒なことに、生き残るだろう。

 死ぬのは怖くない。別に後悔するほど殊勝な人生は送っていない。でも、それでも、今日、死ぬのだけは嫌だ。

 

「あの日の約束を果たせないまま死ぬのだけは、私が許さない」

 私は生まれて初めて生きたいと思った。

 

 

「ゲバババババ、シャバの空気はうまいぜ」

「そのまま太陽光に焼かれて死ね! 血吸蝙蝠」

「ほほっ、トランプよ。お前は凍え死ぬが良い」

 北極の氷の上で、異形と怪盗と魔女が、いつもどうりに争っていた。

「本当に、あの三人だけはいつでもどこでも、いつもどうりなのだな」

「ええ、そうね。いつでもどこでも、原子力潜水艦のなかでも、氷の上でも、喧嘩三昧」

「キヒヒッ、リサも混じらないネ?」

「ヒッ!?」

「……?」

 表情に乏しい緑装束の弓を担いだ少女が、珍しくわかりやすく疑問の表情を浮かべたので、みんななんだなんだ、と線の先を凝視すると、三人のNo.2の壮絶な喧嘩の先に、人影が見えた。

 おかしい、どう考えてもおかしい。この北極に人影、犬やらそりやらがあれば、怪盗が起こしている爆発に興味を持って近づいてきた、冒険家とも考えられるが、それすらない。なにものだ?

 その人影はゆっくりゆっくりと近づいてくる。不思議なことに、三人は気づきませずに、喧嘩を続けている。このままでは、巻き込まれて死んでしまう。

 そして、目を疑った。戦っていた三人が、同時に空中で半回転したかと思うと、そのまま頭から落ちた。

「「「? ?!?」」」

 そして爆発の熱で薄くなった氷は、落ちた衝撃で割れ、極寒の海に三人共落ちた。すぐに氷に掴みかかって、出ようとするが、薄くなっているのか、掴んだ先から割れて、抜け出せない。

「初めまして、イ・ウーの皆さん。シャーロック・ホームズはいますか?」

 ばしゃばしゃと、後ろでもがく三人を尻目に、やすやすと教授(プロフェシオン)の名前を口に出す、隻腕の女性。

「やあ、初めまして。お互いに素性は知っているとはいえ、名乗らせてもらうよ。シャーロック・ホームズだ」

 と、予見していたかのように、いや、実際予見していたのだろう。シャーロック・ホームズと名乗った男性は、潜水艦から姿を表した。

「しがない、策士さん、貴女も名乗られたらどうですか?」

 挑発するように、名探偵は策士に言う。そして、策士は答える、その名を名乗る。

 かつて、殺戮奇術集団、匂宮雑技団と殺人鬼集団零崎一賊を手玉に取りながらも生き延び、『人類最悪の遊び人』を持ってして、究極の化物と言わしめたその名を、名乗る。

 

「例え相手が名探偵であろうとも、私の名前は萩原子荻。私の前では悪魔だって全席指定、正々堂々手段を選ばず真っ向から不意討ってご覧に入れましょう」

 今日、この日より、死んだはずの策士は、約束を果たすため、表舞台へと復帰した。

 

 

教授(プロフェシオン)のこれでも不安澄百合講座

萩原子荻

 正直、彼女は手に余る。ちょっと前まで所属していたあの亡霊が、まだ所屬していたならいざしらず、今のイ・ウーでは手に余るどころの騒ぎではない。しかし、同時に、他の組織に彼女を取られるのだけは、何が何でも阻止しなければならなかった。ブラドもトランプもパトラも、強いんだが、いかんせん、単細胞すぎる。直ぐに頭に血が登って、いいところ手玉に取られるのがせいぜいだろう。いや、これはこの三人が弱いとか、そういう話じゃない。事実、この三人を好き勝手に暴れさせたら、アメリカの行っている第二次『橙なる種』の失敗作、人口天才の生き残りたちを、跡形もなく全て蹴散らすぐらいはたやすい。脱線してしまったが、要するに、所属されるのは嫌だが、他に所属されるのはもっと嫌、という同しようもない理由で、彼女を引き入れざるを得なくなったわけだ。彼女もそれを重々承知の上で、姿を表したのだろう。

 世界の終わりを見てみたいとのたまっていた、あの亡霊が執心している、というよりも、あの伝説の殺し屋よりも評価しているのだから、どうしようもない。もしかしたら、ヒューレット准教授や哀川潤に、並び立つ、これは古い友人の口癖なのだが、『可能性』があるのやもしれない。正直、行動は予見できても、どこまで行くかは、予見しきれない。タイプ別にするとしても、策士タイプだなんて枠に収まるとも思えない。というか、彼女結構戦えるし。

 曾孫がタッグを組んでも、正直、辿り着けもしないような気がしてならない。圧倒的な推理力も、その直感に則った戦闘能力も、彼女の前では意味を成さないだろうからね。才能に頼っている時点で、くだらない、と一周されるだろうし。僕もされたし。

 緋色の研究の答えも、あっさり出されそうで、僕が凹みそうなので、聞いていない。宝の持ち腐れとは、まさにこのことだろう。




 割り込み投稿なので、後書きにはそれなりに、ネタバレを含みます。




 シャーロック、カミングアウトしすぎィ!
 何はともあれ、萩原子荻ちゃん、死んだと思っていたでしょう! 生きてんだな、これが!
 哀れ、公安。そして、新キャラのトランプ、感のいい人なら、コロコロコミック思い出したでしょう。
 最後の北極の場面は、時系列的には、今の二年生たちが一年生の2学期あたりです。


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第一章『怪盗と泥棒の違いは?』『換金するかしないか』
第1狂:お説教


 はじめまして、南瓜お化け(ランタン)と申します。正直、まえがきをどう書けばいいのかわからないので、これだけは言わせてください。

 ユアン・メイシーちゃんカムバーック!


 任務の途中、なのか終盤なのかはわからないが、俺が正気に戻った時には時すでに遅し。後悔するも後悔先に立たずというかなんというか、兎に角、殺っちまう直前で正気には戻れたが、俺はすぐに意識を失うだろう。味方からの攻撃によって……---。

 

 意識を戻したら見知った天井だった。俺---西条(さいじょう)四季(しき)は東京武偵高所属の武偵である。武偵とは、近年急増する凶悪犯罪に対向するためだか、なんだかで作られた武装探偵の略称で、一応国際資格をもつ必要のある職業である。らしいのだが、俺に言わせれば、法に従うだけのゴロツキだ。ゴロツキは言い過ぎかもしれないが、世間一般ではいいイメージを持たれていない。当事者の俺だって、いいイメージを持てと言われたら「あっ、はい、無理っす」と答える。それほどにアンダーグラウンドな職業、正直どこが探偵なのかわからないが、それが武装探偵である。

「あ、意識戻りましたか。いやーいつもどおりでしたね」

「はい、キンジにやられました」

 ちなみに俺が見知った天井は救護科の病棟の天井。いつもどおりに遠山キンジに気絶させられてここに担ぎ込まれた。遠山キンジは強襲科(アサルト)のエリート、Sランク武偵と呼ばれる化け物の一人だ。Sランクの例に漏れず特殊体質持ちで、常にSランクではないものの、普通の状態でもAランクの実力は確実にあると俺は考えている。その脅威じみた実力を教務科に買われて、俺みたいな問題児と一緒に仕事をさせられているかわいそうな人だ。

「キンジさんは厳しいですねー。まあ、武偵が人殺そうとしちゃダメなんでしょうけど」

「なんですか、そのちょっと武偵業界にも詳しい一般人みたいな発言は……。あんた武偵だろうに」

 ちなみにこの治療をしてくれている人も武偵高の救護科の生徒。ちなみに俺があまりにも入院しているので個人契約した。名前は紅梅(べにうめ)楽器(がっき)、楽器というだけあって音楽の成績がいいらしく、超音波治療などの音関係の医療行為については一流の生徒。それ以外は平均的。まあ、女子っていうのと、キンジに惚れていないっていうのと、面白い名前っていうのと面白い人っていうだけで契約したにしては、うまく行ったと思う。

「よっこらせっと、じゃあ、キンジに謝ってくるわ」

「教務科にも行ってくださいよー。私まで怒られちゃいますからー」

「りょーかい」

 

「えーと、西条四季……全くお前はよお……はぁ……」

 教務科は武偵高3大危険地域の一つに挙げられており、ここに呼び出された生徒は、どんな問題児でもたちまち更生するという恐怖の蟲毒の壺だ。うん、マフィアとか殺し屋とかなんか危険な人ばっかいるよ。教育学部の人たちがかわいそうなぐらいに。

 そして目の前にいる教師が綴梅子先生。危険人物の一人というか筆頭候補だ。尋問に限れば日本でも5本の指に入るという武偵で、ネットで調べたら表彰の記録がいっぱいあった。そんな危険人物すら呆れるほどの問題児がこの俺である。HAHAHAHAHA。

「お前のその戦闘狂はどーにかなんないのかねえ……」

「え、えーと、母と会ったことがある人物いわく母も狂戦士(バーサーカー)だったらしいですよ」

「そんなこと知るかァ。こっちは死なれるだけで困るっつーのに、加害者になって帰ってこられちゃ困るんだよ」

 ちなみに俺は、いろんな先生をたらい回しにされた挙句、この綴先生がお説教係になったから、始めっからこの程度にはまじめに話をしてくれているのだが、キンジはものすごく驚いていた。タバコ吸っていないとか、なんとかで。

「自分でも気をつけているんですけど、授業中の睡魔みたいで気がついたら……」

「例えは悪くないがよぉー。そんなんだから《闇鬼》だなんて名前で『二つ名』登録されんだよ」

 頭を書きながら資料を見る綴先生。二つ名ってそんな珍しいことなのかな。キンジは一年生の頃に《エネイブル》って二つ名貰ってたし。

「強襲科二年の切り札。実力だけならSランク相当。ただし殺人衝動に似た戦闘狂の気を持っており、それを制御するためにSランク武偵の同伴が必要なためCランク止まり。銃を使おうとしないが銃が効かない。獲物は基本的に重くて派手なナイフ二本に、様々な形の刃物。二つ名は『闇鬼』。解決した依頼の数、質ともに学年トップクラス……おまえなぁ……」

 正直、依頼に関してはキンジやレキの功績がでかいし、Sランク相当なだけSランクと同等なのかと言われればそれは否定せざるを得ない。Sランクは他のランクと違い人数制限がある。何を基準にしているのかは分からないが、年を追うごとにSランク武偵の実力は向上してきている。なにせ、弱い奴は省かれて強い奴が入るのだから、強くなって当たり前といえばあたりまえだ。

「えーと……、いろいろとすみません?」

「なんで……、えーと、ああ、あれだ……そうそう疑問符。なんで、疑問符なんだぁ?」

「……」

「……」

 互いに結構な時間を沈黙で過ごした。そしておでこにジュッ、と根性焼きをされた。

「うおあっち!?」

「まあ、殺してないよぉだしぃ? 今回も大目に見といてやるけどよぉ……」

「あ、ありがとうございます」

 いつもこんなかんじで終わっている。俺自身この狂化(理子命名)を抑えられるものじゃないし、実際に殺したことはないからなのだろうけど、これで本当にいいのだろうか? いや、絶対にダメだろ。

「ああ、そうそう。火野ライカってわかるか?」

「ええーと、中等部の期待の星ですか?」

 たしか今年からこっちに進学してくるらしいが……。徒手空拳に限れば相当強い女子で、俺の目測だと推定Bランクぐらいだったような気がする。よく記憶が混合してしまうから確信は持てないけど。

「期待の星ねぇー。まあ、そう思うのは自由だがよぉー。お前に来年度の戦兄契約してきたぞぉー」

「……マジっすか?」

「大マジ。良かったなぁー、パシリできてぇ」

 そういう制度じゃないだろうに。

「まあ、これはどうでもいいとしてぇ」

「どうでもいいんですか。じゃあ、これにて失礼させてもらいます」

「明日ぁ、強襲科体育館でぇ、神崎・H・アリアと遠山キンジの決闘がある」

 正直聞かなかったことにしたい。

 

 

西条四季

性別 男

学年 二年

学科 強襲科

二つ名 闇鬼

武偵ランク C

 

背はやや小さく痩せているが体重は重い。髪は緑がかった黒で散切りにしている。

基本的に重くて派手なナイフを好んで使うが、刃物ならなんでもいい。

 

 




 Sランク相当とか言われていますが、この主人公、たとえ狂戦士になったところで、理性吹き飛んでいるので、いいとこ理子ぐらいの強さにしかなりません。さらには超能力にも強くはないので、結構弱いです。徐々に成長していくつもりなので、生暖かい目で見守ってくれると光栄の至りです。


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第2狂 両親

 名前は語られませんが、両親について語ります。
 結構主人公で悩んだんですよ。最初は皐月様だったんですが扱いきれず諦め、次に子荻ちゃんはキンジを扱いこなして無双する光景しか思い浮かばないからボツ。
 そしてこのザマである。


遠山キンジは武偵である。とはこの間説明したが、しかし、彼の凄まじさは語り尽くせないほどある。例えば、HSS(ヒステリック・サヴァン・シンドローム)という遺伝的特徴もだが、すさまじいのはHSSを使用した際の経験からの技術の模倣がとてつもなくうまいのだ。つまりは、最初はHSSを使わないと出来なかったことが徐々に使わなくてもできるようになってくるという、まあ、チートだ。HSSになったキンジが存在そのものがチートで理不尽だというのに、条件なしで使われたら犯罪者などは、涙目になるだろう。

 昔はこんな芸当はできなかったらしいが、俺みたいな問題児と一緒に行動するうちに身につけたらしい。だから、昔はHSSのキンジ>狂化した俺>ノーマルキンジだったのが、いまやHSSのキンジ>ノーマルキンジ>狂化した俺になってしまっている。

 それでいて、自己評価が低く、自分にないものを持っているものを高く評価するからややこしくなってくる。

 だいたい、兄が水難事故で死んだのに、多分生きてるとか言い出すあたり、頭のネジが吹っ飛んでいる。もし生きていたら鼻でスパゲッティ食ってやる。

 

 そして、このキンジと強襲科で双璧をなすのが、神崎・H・アリア。去年の三学期、つまりは俺が休学していた頃に転校してきたイギリス武偵局の虎の子。

 そんな二人が、今日決闘するとあって、学校は浮ついていた。

 

「そーいや、キンジと神崎って、あったことないんだっけ?」

 と、朝ごはんを学食で済ませながらぼやいた。横には車輌科の武藤剛気、前には強襲科の不知火亮、そして遠山キンジだ。

「そういえばそうだったね。昨日が初めてじゃないかな、遠山くん」

「ん? そうなのか、俺はてっきりSランク同士仲良くドンパチしているのかと思ってたぜ」

 あー、反応で性格がわかるなー。不知火は人当たりのいい笑顔を向けながら聞くけど、武藤は飯食いながら喋ってるよ、キタネエ。

 キンジは俺のような問題児が、任務に出る際には必ず同行しなければならないので、学校にいることそのものが少ないのだ。そして、アリアも人気者で、彼女個人への依頼が後を絶たない。それによって、奇跡的なまでに、この二人は会ったことがないのだ。

「……そうだな、初めましてが『決闘しなさい!』なのには驚いたが……」

はあ、と億劫そうにため息をつくキンジだが、じゃあ、断るって言えよ。とは、口が裂けても言えない。いったらこっちが殺されかねない。

「でもよー、一年坊主たちには見せないほうがいいんじゃねえの? 俺たちゃお前らの化け物っぷりを知ってるからいいけど、一年坊主が見たらやる気なくすぜ?」

「うん、先生方も遠山くんと神崎さんの決闘を、一年生に見せるべきかどうかで会議してるよ」

「かぁー! Sランク武偵様はスゲェーよな!」

 がっくりと項垂れるキンジ。それもそうだろう、なんかこいつあの超人曲芸を身につけるたびに、やっちまったって顔するし、人間離れするのがそんなに嫌なんだろう。理子あたりは若者の人間離れ(笑)とか言っていたし。

 

 

「くふふふ、しきしきー、決闘みなくていーのー?」

「……だって、途中からキンジがやる気なくなって、防戦一方になるの見えきってんじゃん」

 と、春休みなのにやっている購買で、授業で使う銃弾を補充しに行ったら、峰理子にあった。

 こいつとは、どこか親近感が湧いてくる。限りなく同じ座標に近い平行線とでも言うべき、親近感だろうか?

「ねえねえ、りこりん、しきしきのご両親の話聞きたいなー。一年生の二学期の頃話してくれるって約束したよねー」

 ……覚えていやがったか。さすがは情報屋、情報を得る情報には抜かりない。正直、反故してもいいんだが、武偵は信用がモノを言う。ここで話しても俺の弱点には成り得ない。だって、両親しんでるし、親戚のみんなだって、俺の十倍じゃ足りないほどつよいんだし。

「分かったよ。だけど、他のやつに話すときには、俺にも言えよ?」

「あいやいさー」

 

 

 まあ、俺の過去を語るにあたって、一番重要なのは、俺は両親の記憶が一切ないってことだ。生まれてすぐに母親の上司ともゆうべき人の賢明な判断で、孤児院に入れられて、オバサンに引き取られるまでの十年間を孤児院で過ごした。孤児院での生活はよく覚えていない。喧嘩もすれば、一緒に本を読んだ奴もいた。みんな顔は覚えていないけど。

 まあ、だから親戚についても軽く言っておくよ。まず、オバサンはニット帽を一年中かぶっていて、義手をつけていて、ハサミ振り回しながら、BLについて暑く語ってくる人。おい、引くな、もっとやばい二人が待ち構えてるんだから。で、オジサンはチェーンソー振り回して手とか足とか収集する自称元死神。で、イトコのネーチャンは、鉄扇を片手に俺に抱きついてくる変態。え? 最初の人が一番やばいって?

 まあ、この人達と関わるのが一番多かったかな。みんな俺に生き残るすべを教えてくれたんだよ。戦うすべは、まーったくだったけど。

 で、この人達は父さんの親戚なの。血はつながってないけど親戚なんだって。昔は人バンバン殺す家柄だったらしいけど、赤い人に禁止されていらい、殺せるようにするために、赤色襲撃作戦を打ち立ててはボロクソに負けて帰ってくるんだよ。

 ああ、そうそう、その赤い人が俺のことをオバサンに教えたらしくって、教えたと言っても、父さんの子供がいるかも程度で、それでもオバサンは必死になって俺を探しだしてくれたんだ。

 で、オバサンが、たまにはオジサンもだけど、やっぱりオバサンがよく俺に父さんのことを話してくれたよ。気まぐれで、襲撃作戦にも参加しなくって、それでも家族のピンチにはひょっこり顔出して助けてくれる。そんな人だったらしい。

 

 それから俺は、自分の母親について気になりだした。だから、俺は一年生の三学期まるまる使って、自分のルーツを探ることにしたんだ。

 

 まず、母さん、ひいては父さんをよく知る人物が必要になった。で、頼ったのがさっき言った赤い人。

 赤い人はシニカルに笑って、もっといい人がいるっていって、最近生きることを始めたような人にあったんだ。その人は自分のことを請負人といっていたよ。赤い人もだけど。

 その人も母さんについては、ほとんど知らなかったけど、いろんな紙媒体を渡してくれたよ。そのほとんどが、---いや、全部が全部、戦闘に関するものだった。そして驚いたよ、母さんの享年が16歳、つまりは高校1年生だってことに。請負人さん曰く、首を切られて死んだらしい。

 母さんの人物像? 散々だったよ。多分っていうか、絶対に君のことを忘れていたって断言されたもん。つーか、父さんに至っては、俺の存在すら知らなかったらしい。なんやかんやで父さんは責任感が強かったらしいから、もし俺のことを知っていたら絶対に自分の手で育てていたってみんな言ってたよ。

 でも母さんは違った。戦うことしか---いや、戦うことすら知らなくて、他人だけじゃなくて自分すらも、とりあえずズタズタにすればいい人っていうのが一番なのかな? だから奇跡だって言っていたよ。母さんなら産んだ直後に、それどころか腹が膨らんだ時点でズタズタにしてもおかしくなかったらしいから。

 ---腹が膨れない妊娠って知ってるか? ああ、知ってる。なら良かった。母さんはそれだったかもしれないって、請負人さんは言っていたよ。だから、俺は生まれてこれて、母さんの上司の計らいで孤児院に避難させてもらえた。

 

 実際運が良かったんだろうな。実際に、たった一度の行為で生まれてきただけでも運はいいのに、……え? 親を恨んでいないかって? そんなわけねーじゃん、もし出会えたら涙を流して産んでくれてありがとう、っていうし、尊敬さえしているよ。

 ああ、そうそう、父さん! 父さんは俺が思っている以上にいい死に方をしたよ。老衰、二十代で老衰したらしい。思わず俺は笑ったね。いや、これホントなんだって。

 まあ、いろいろ話は飛んだけど、三学期をまるまる使って得られたのはこれぐらい。父さんも母さんも写真がほとんどなくって、でも少ししかない写真を見た時は、泣いたなー。写真に向かってさ、ありがとうございます、ありがとうございますって言ったよ。無意識のうちにね。

 

 いろいろ収穫もあったよ。母さんと父さんについてしれたこともだけど、このナイフもその一つだったよ。一つっつーか無数になんだけど。この重くて派手な二本のナイフが母さんの形見。それ以外はオバサンが俺を引き取った時からありとあらゆるコネを使って集めた、父さんの使っていたナイフ。

 不思議と全部手にしっくりと来るんだよ。制服を、自分でチクチクぬってナイフを収納できるようにしていたら、あの二人もこんなことしていたのかなーって、思う時があるんだよ。

 

 

「これが俺が知り得た全部。写真見る? 俺は母さんに何だけど、爪の形とかは父さんだったりするんだよ。口元もだけど」

 理子は唖然とした顔で、俺を見ている。まさか、ここまでベラベラしゃべるとは思わなかったんだろう。

「えーっと、ひとつ聞いていい?」

「ん? なんだよ、改まって」

「なんでそんなことを喋れるの?」

 質問の意味がわからない。しゃべれと言われたから喋っただけなのに。

「普通は、そんな事だれにも喋りたくないはずだ」

「あいにく、普通の生活なんてしたことないんで」

「お前は……、狂っている」

「知ってる」

 だいぶ、言葉を選んでくれたようだけど、選びきれずに、そのまんま伝える理子。どことなく男口調になっているのは、なぜなんだろうか。

「両親を、恨んでないといったな」

「ああ、尊敬すらしている」

 理子は、何かを言おうとして、でも思いとどまって、それでも言おうとして、結局口を開いた。

 

「お前は、誰にも望まれないで、生を受けた」

「ああ、知ってる」

「普通は、私にしたって、私の知る限りは、両親が早死したり、いろいろ事情はあるにせよ……。生まれた時点では、誰かに望まれて生まれてくるものだ」

「そうかもな」

「だが、お前は……、お前だって両親に愛されたかったんじゃないのか」

「ああ、愛されたかった」

「望まれて、生まれてきたかったはずだ」

「ああ、望まれたかった」

「ならなぜ! 親を恨まない! 親を憎まない! お前には誰よりもその資格があるはずだ!」

「……そんなこと言われても」

 

 理子が何に怒っているのかわからない。涙こそ流さないものの、怒りで今にも泣きそうになっている。同情でもしてくれているのだろうか。

「……ごめん。感情的になった」

 淡々とした理子の声。いつものふざけた口調はそこになかった。

「約束する。この話は私の胸の中に収めておくよ」

「いや、そこまでしなくても……」

 正直、今度キンジにでも親の自慢話でもしようと思っていたのに。これじゃあ、喋れる雰囲気じゃないじゃないか。

「お前にはわからないだろうが、これはそこまで、いや、これでも足りない話なんだよ」

「は? 人とちょっと生まれた理由が違うだけだろ」

「そのちょっとが、大きな問題なんだよ」

 よくわからんが、まあ、そうなんだろう。

 

「ほんじゃ、まあ、りこりんザギンでシースー食べてくるねー!」

「とかいって、かっぱ巻きだけとかやめろよー」

 いつもの理子にもどって、どこかへと駆けていく。

 まあ、この話は、理子の忠告に従って、誰かに話すのはやめておこう。なんか、キンジに話したら殴られそうだし。

 

 

紅梅楽器

性別 女

学年 二年

学科 救護科

二つ名 ナシ

武偵ランク B

 

黒髪で髪型をよく変える。身長体重共に平均的であり、健康優良児。

利権を守るのが好きで、性格が偏った人間に好かれ、常人に嫌われる。




 はい、もう両親の名前は語るまでもありませんね。一応鉄扇振り回す変態は、京都あたりで出します。
 もうね、キンちゃん様は常にキンちゃん様でいいと思うんだ。
 あと愚痴なんですが、緋弾のアリアAAの時系列がわかりにくいですよね。
 序盤の時系列でも あかりとアリアの戦姉妹契約→キンジとアリアの出会い(及び4月の始業式)ということなんですよね。武偵高だからと納得していますが。


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第3狂 エンブレム

Sランク武偵は全員人間やめてるとおもったら、登場した武偵全員なにげに人間やめているという事実。
アリアの超人ランキングの順位とか知りたいです。


 目の前には、地に伏しながらも立とうとする火野ライカ。呆れ顔でそれを見るキンジ。そして、そのお友達諸君。

「いやいや、悪かったって。謝るよ。俺はお前を過大評価していた」

「うるっ、せ、っえ!」

 そして、これで通算13回目の、俺に言わせれば、特攻だった。

 

「ケースF3BのO2をクリアしただぁ?」

「ええ、かなり危なかしかったけどね」

 ももまんという、サイズが小さいくせに高い謎のあんまんを食べているピンク髪の武偵、神崎・H・アリア。

 こいつは素晴らしい武偵だ。任務中に暴走することもないし、女を口説くこともない、非常に優秀な強襲科のSランク武偵だ。俺の知っている限り、強襲科にかぎらずSランク武偵は、プロのプレイヤーにも引けをとらないだろうし、強襲科ともなれば、かの七名とも、個人としてなら同等以上かもしれない。

「だけど、あんたのお父さんが、あの京都の事件の犯人だった等はねえ。ありがとう、これでママの刑期がだいぶ減るわ」

「いやいや、父さんが悪いだろ。これは」

 あったこともない亡き父よ。死んでからも人に迷惑をかけるのは、やめてほしい。

 このピンク髪が、俺と一緒にパイ屋のまえで、ももまんや出前の冷やし中華という、営業妨害甚だしい行為をしているのは、俺の父さん(及び先代の親戚一同)が、殺った殺人行為の一部が、冤罪として神崎の母親にきせられているかららしい。東京武偵高には、3分の1ほど俺に会うために来たらしい。そりゃそうだ、証言台にたっても、しっかりと証言できる人間なんて親戚の中では、俺ぐらいだろう。主に出て行ったら捕まるか捕まらないかの範囲で。

 しかし、集団でとはいっても、O2をかー。

「なんで、あんた火野を戦妹にしたがらないのよ」

「だって、余計に蘭豹に絡まれるし」

 いままで、なんやかんやではぐらかしてきたけど、このまま来たらラン・デビューが来かねない。まあ、キンジみたいに、とにかくパシらせて、修行だなんだっていうか。

「まあ、私も反対なんだけどね」

「なんでだよ、だいたい察するけど」

 だって、あの娘じゃ、あんたの狂戦士っぷりに殺されかねないもの。と、言うアリア。そう、それが怖いのだ。見た感じ、一年では、まあまあだけど、それでも弱い。キンジのような強さは求めていないけど、あれじゃあ弱すぎる。

「まあ、エンブレムでもして、適当に諦めさせるよ」

「それが、一番ね」

 

 そして、火野ライカは、諦めが悪かった。エンブレムは俺の腹。それも服の上に張ってある。そしてナイフすら使わずに、徒手空拳で圧倒した。

 にも関わらず、諦めもせずに、突っ込んでくる火野。いい加減、殴るのがかわいそうになってきた。

「諦めろよなぁ~。いいの他に紹介してやるから」

 こいつはCQCが、一年生にしては強い。大凡、プロの世界でも使い物にはなるだろう。だが、そこ止まりだ。

 まず、こいつが押されている理由は、大きく分けて2つある。ひとつは俺が、逃げるかナイフを使うかと思い込んでいたこと。もちろんそれがセオリーだから、それそのものを責めるつもりはないが、それ以外のケースを想定していなかったのは責めなければいけない。

 そしてもう一つが、攻撃が非常に単調になっていることだ。エンブレムを捕ろうとしかしていない。だから、非常にやりやすい。しかもナイフを警戒していて、及び腰になっているし。

 

「おい、キンジ。もう俺の勝ちでいいだろ」

「まだ10分以上あるから、ダメだ」

「つってもよぉ……」

 さっきのパンチがよほど効いたのか、もう動いていない。生きてるよな? もし死んでいたら、キンジにドツキ回された挙句、教務課の地獄のフルコースだぞ。

「ライカ! 頑張って!」

「ライカさん!」

 気絶した(と信じたい)人間がどう頑張るってんだ。だいたい、俺の本気パンチを13発も喰らって、ようやく気絶(というか上手く躱されていた)するだけよく頑張ったと思う。もう、島の妹は涙目になってるし。

「はぁ、全くどうしたもんかねえ……」

 トコトコと、俺は火野に(死んでいないかを確認するために)近づく。しかし、背でかいなー、年上でもう少しおとなしかったら好みだったのに。

 火野のそばに来ると、息の音が聞こえた。そしてエンブレムを取られた。そう、エンブレムが取られた。

 

「最近、CVRの戦妹ができたんでね。騙し討も勉強したんですよ」

 と、ボロボロになりながらもドヤ顔で、言ってくる火野(バカ)

「えっと、取り返せばいいんだっけ?」

「いいや、盗られたら終わり。お前はいつもそうだ、殺気や敵意のない攻撃にはめっぽう弱い。あと、油断しすぎだ。慢心野郎」

「だって! 殺気を操ったり、殺気を感知するすべを叩きこまれたんだもん!」

 っていうか、攻撃ですらなかったし! 攻撃だったら避けれたし! 敵意あったらあいつの腕切ってたし!

「ま、お前も今日から戦兄だな。放置すんなよ」

「お前は放置しかしていねえだろ! パシリに使うとか以外に使っていねえだろ!」

 本当にキンジにだけは言われたくない言葉ワースト8には入ってる言葉だよ!

 

「ライカー、おめでとう!」

「ライカさんおめでとうございます!」

「お姉さま! 今からでも遅くはありません! 考えを改めてください! あんな野蛮人……」

 俺の意見を無視してあのお友達集団は盛り上がってるし! 畜生、本当に考え改めてくれないかな。つーか、あのあかりとか言う奴、始末番っぽいカンジがするんだが……、気のせいか? 気のせいだな。

「いや、これは勝ったとはいえないよ」

「そうだ! お前は勝っていない! だから契約なんてしないもんゲフッ!?」

 キンジに横腹蹴られた……。こいつのすごいところは、絶対に味方に対して容赦がないところだろ。

「だいたいこの方、お姉さまよりランクがしたじゃないですの!」

「このドチビ! 豆粒! ランク差別すんじゃねえ! 決めた! ズタズタにしてやる! 父さんと母さんのナイフでゲゴがぁ!?」

 今度は秋水使われた! 痛い!

「四季てめえ! CVRに何刀傷つけようとしてんだ!」

「キレるところそこかよ!」

 強襲科の人間は何人も再起可能な範囲でズタズタにしても、高笑いしていたくせに! CVR(美少女)は別ってか!

「まあいい。これから二日間だが、香港に行くぞ」

「ああ!? 仕事は一日だけだろうが!」

 俺の抵抗も虚しく、首根っこを掴まれて、ズルズルと引っ張られていく。ぜってーこいつ女に釣られたか、ねだられたかしたよ!

 

 

 その後、アリア経由で式の電話番号を得た火野ライカが電話をかけると、この世の終わりのような断末魔が、仲間の手によって出されるのはまた別のお話。




四季はヒステリアモードのイメージが強すぎるためキンジ=女関係だと思っています。そしてそれを冷やかしているから、四季には容赦のない攻撃が来ます。

遠山金次

性別 男
学年 二年
学科 強襲科
二つ名 『哿(エネイブル)』
武偵ランク S

女ったらし(西条四季談)
化物(匿名希望の後輩)
師匠(忍者)
パートナー候補(ピンク髪のSランク武偵)


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第4狂 カルテット①

近くにヤンガンのお店がなくって困っているんですよ。アリスベルもコミック出ましたし、いろいろとお金のかかる時代になりました。

もうすぐで赤松サンタが来るよ!(錯乱)


 香港の一件で、また教務課に呼び出された俺。たしかに俺は武偵法を違反したが、キンジのヤローはまた女を(無意識に)手篭めにしてきた。あのネクラ鈍感ハーレム野郎め。昔は今ほどハッチャケちゃいなかったくせに、この一年で無茶苦茶な性格になったぞ。

 と、まあ、キンジに対する恨み辛みを抱きながら、綴先生の諦めが大半を占めるお説教を聞いて、教務科を出ると火野(バカ)高千穂(カネモチ)風魔(ビンボー)が争っていた。

「ハハハハハ! いいぞ! 高千穂もっとやれ! 俺の敵をはらせ!」

 と、俺が囃し立てていたら、アリアが止めに入った。ちなみに俺が止めなかった理由は、さすがにあの人数になると、狂化してしまうかもしれないから。と言うのは建前で、見ていて面白いから。

「アンタも、少しは止めなさいよ……」

「武偵憲章第N条! 武偵は自立せよ! だろ?」

「仲間を信じ、仲間を助けよもあるわよ」

 痛いところをつかれたが、俺は火野を仲間だとは思っていない。

 

「カルテット? 俺とキンジとレキと不知火で無双した」

「とてもタメになる話をどうもありがとうございます」

 シャワー室から出てきた一行に、去年先輩はカルテットどうしたんですか? と聞かれて答えたら、棒読みで返された。正直、レキが敵っぽい(そして全員敵だった)のを、高いところから狙撃して、キンジが旗の位置吐かせて、終了したから、あの二人だけで解決したようなものだった。

「つってもよぉ。高千穂は満身がすぎるけどそこそこだぜ」

「だから、あなたCランク武偵じゃないですの! どうしてそうも上から……」

「だって、四季は相当なイレギュラーよ。実力だけなら私とタメだし」

 ははは、一年坊主共驚いてやんの。いやー、Sランクからそんなお世辞言われると嬉しいなー。

「あ、アリア先輩……」

 震える声で間宮は何かを言おうとしている。しかし、何だこの世の終わりのような顔は。

「西条先輩と友達だったんですか!?」

「ええ、そうよ」

 どうでも良い質問に、即答するアリア。いや、アリアとは最初っから友達だったわけではない。つい最近、親友になったのだから。

 

「まあ、最初はこいつの経歴もあるし、結構敵視していたんだけどね」

 なーんか、語りだすアリア。しかし、間宮が親の敵でも見るような目で見てくる。なんだ、こいつ。アリアのファンか?

「なんやかんやあって今ではすっかり親友になったのよ」

 親友という言葉に、愕然とする間宮。そして、興味津々といった感じで聞き入るバカども。

 そう、なんやかんやあったのだ。語りたくもない、親友アリアとの思い出が。

 

 最初は、まあ、一方的に敵対視されていた。そりゃそうだ、親のこともあるし、俺が任務中に結構な人数の一般市民をズタズタにしたこともあるので、武偵の皮を被った殺人鬼として見られていてもおかしくはなかった。

 それから、学力や(英語で負けて国語で勝って、化学で負けて物理で勝って……)、実践試験(銃で負けてナイフ術で勝ってCQCで負けて……)、体育(持久走で勝って短距離で負けて……)、そんなこんなで徐々に友情が芽生えていった。

 

 そして親友となり決定的な出来事が、ついこの間、そう身体測定の時にあったのだ。

 結果が帰ってきた時俺は、この世の理不尽を嘆いていた。体重が増えている、まあ、これはいい。筋肉がついて、体重が増えたのだろう。しかし問題はそこではなかった。

 身長が、1ミリたりとも伸びていなかったのだ。らき☆すたで好きなキャラクターはこなた、理由は身長が似ていたから。ロボットレキですら身長伸びているんだぞ! ロボットですら! ロボットやめてサイボーグレキにでもなれよ!

 そんな心中で体育館外のベンチで丸まっていたら、憔悴しきった様子のアリアが出てきた。そして、口から漏れてきた言葉は「ノビテナイ」。

 

 それで親友になった。語るつもりはない。仕事の前にキンジ、武藤、不知火、レキに話したら武藤には「くだらねえ!」と言われ(ズタズタにした)、ほか三人にはうわぁ、って顔された。初めて見たよ、レキの表情。

 

「でも、そうだな。戦いとなると、要になるのは、佐々木と火野だろうなー。CVRは闇討ち専門だし、間宮は、成績から見て、囮ぐらいにしか使えなさそうだぜ」

「ちなみに四季。あんたならこいつらの中で一番嫌な組み合わせってある?」

「全員でも三分ぐらいで制圧できる」

 そ、と言って納得するアリア。納得するな。さすがに八分はかかるぞ。

「んー、でも、そうだな。そこのCVRにバカにされ続けるのも癪だし……。火野、喜べ、指導してやる」

「……そう言ってこの前、訳の分からない武器商人から、ボウガン取りに行かせましたよね」

 人脈は大事だぞ人脈は。パシリとかでは、決してなく。

「この前なんて、緑色のチュッパチャップス買いに行かされましたけど」

「今回はまじめに、戦う。ルールはアリアが止めに入るまで戦い続ける。これだけだ!」

「やっぱり今まで真面目じゃなかったんですか!? 人口島からどれだけ歩いたと思ったんですか!?」

 ばっかっでえ! と、くだらないやりとりのあと、アリアに契約料としてももまんを十個かわされた。

 

「別に俺は伝説の殺し屋みたく両腕を封じないし、今回はナイフも使う。危険だと判断したら、アリアが止めに入る。いいな?」

「ええ、いいですよ」

 人を育てる戦い方、そんなものが確かに存在する。親戚の中じゃ、おじさんあたりがうまい。母さんも釘バットと戦って、実力を大幅に向上させたらしい。俺が今からやるのはそんな戦い方だ。

「あ、ちなみに俺の持ってるナイフ壊すなよ」

「壊せませんよ……。高いんですか?」

「母さんの形見」

「重い! 理由が重い! そして使わないでください! お願いします!」

「えー、じゃあ父さんの形見で」

「あんたは形見しか持ってねえのか!?」

 失敬な、ちゃんとそれ以外も持っている。身長伸びること前提で買っちゃったから、使えないだけで!

 これもキンジにいったら引かれた。が、兄の形見を使ってる奴にだけは言われたくない。

「じゃあ、初めで」

「お願いしますっ!」

 といって、突っ込んでくる火野。だが遅い。そして、わかりやすい。ここまで明確な敵意を持っていたら、攻撃される場所などすぐに分かってしまう。




この二次創作の設定として、呪い名は兎も角として、殺し名の分家なり本家なりの一部はそれなりに武偵業界に進出しています。
世代的に言えば、綴先生や高天原先生は『小さな戦争』、緑松校長は『大戦争』といったところでしょうか。
そこら辺についてもおいおい語ろうと思います。


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第5狂 カルテット②

短いので2話連続更新です


 オバサンに引き取られていらい、俺は殺気を操って攻撃を避ける技術を叩きこまれた。オバサンは、俺にあまり戦ってほしくはなかったように思う。きっとそれは、父さんの死因にも関わってくることだし、俺は無理に教えてもらうこともなんとなく気が引けた。感謝はしている、結果的にオバサンの思いを裏切ってしまったことに罪悪感も感じている。

 

 だけど、馬鹿な俺にはこれぐらいしか、武偵という職業しか、父と母への償いが思いつかなかった。

 

「ほれほれ、お前はわかりやすいな~」

「わッ、かりやすいのは! あんただァ!!」

 やはり馬鹿だった。わざと作ったスキに入り込んできやがった。殴ろうとしているけど、かわいそうなので、ナイフのグリップで殴った。

「俺は、キンジじゃねえから、本当は弟子なんか取りたかねえし、教えてやる義理もねえが、教えてやるよ」

「義理はあるでしょう!? 戦妹っていう義理が!」

 そもそも俺は、戦闘に対するスタンスやスタイル、モチベーションでは、スタンダードな方だ。多分アリアもスタンダードな方だろう。対してキンジは、例外だらけの男だ。弟子に関しては、遠山家の伝統芸能以外は来る者拒まずで教えるし、スタンスやスタイルはともかくとして(それでも十分におかしいが)、モチベーションは常軌を逸している。

 最悪の代名詞たる一賊に所属する俺には言われたかないだろうが、正直言って、あれと一緒にされるのだけは、侮辱としか思えない。

 だけど、その恥を忍んで、言ってやる。主に火野を困らせるために。

 

「もうちょい、強さを隠せよ。そんな中途半端な強さをアピールしていたら、だれも手加減してくれねえぞ」

「あんたに言われたかねえよ!」

 さっきから火野は、徒手空拳で挑んできているが……、ふぅん。なるほど、蘭豹が可愛がるわけだ。

「ナイフは使わねえのかよ? 使ってもいいんだぜ」

「貴方にナイフを使ったら、勝ち目がないじゃないですか」

 正解。というよりも、こいつは徒手空拳のほうが強いんだろう。状況判断や、戦力を見極める力もだいぶいい。こいつは確実に、着実に伸びていくタイプだ。だからこその俺だったのかもしれない。キンジのは、こいつの強さの質にあっていないし、とんでも技術ばっかだから、真っ当な武偵を育てるのには向いていない。

 だけど、先生さんよぉ。それは俺だっておんなじなんだよ。しかも、たちの悪いことに、教えられるようなもんじゃねえんだ、このナイフ術は。

 

「いやー、よく頑張った頑張った。俺認めちゃったよ」

「なんで息切れ一つしていないんですか……」

 結局、火野は根性はあった。技術もあった。まあ、戦妹にしてもいいかな程度には認めた。この前の仕返しにボコボコにしたけど。

 

 その後、彼女たちのカルテットは適任者の指導を受けて、危なっかしいものの見事勝利を収めたらしい。なんか、お祝い会みたいのあったらしいんだけど、呼ばれなかった。いや、別に、悲しいとかそんなんじゃないんだけど、腑に落ちないっていうか、なんていうか。いや、まあ、女子会みたいなもんだったらしいし? 呼ばれなくっても仕方ないよね。ね?

 

 

「ああ、おばさん? いやいや、お姉さんには無理があるって。いやね、あることを調べて欲しいんだ。うん、お願いできる?」

 俺はオバサンに間宮の家のことを調べてもらった。武偵高内の調査でわかっていることは、公儀隠密の家柄で、暗殺技術に長けていること。

 こんなことを急遽調べることになったのも、アリアに見せられた、間宮あかりの『体に染み付いた撃ちグセ』によるものだ。可能性は極めて低い。そもそもプロのプレイヤーが銃の撃ち方に癖が出るほど撃つとは思えない。

 しかし、最初に感じたあの違和感。始末番かと思う雰囲気。放っておくにはいささか危険すぎる可能性だった。



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第6狂―――ズタズタに

さて、この話は、いわゆる第三者視点、もしくは神の目で進行させてもらう。こうする他ないのだ。この話の中では、西条四季の視点での話などとうてい無理なのだから。

 西条四季は両親の才能を色濃く受け継いでいる。特に母親の存在は大きい。大きすぎると言っても過言ではないだろう。最強の赤色でさえ、最終の橙色でさえ、暴君の青色でさえ、危険な黄色でさえ、失敗作の殺し屋でさえ、小山の策士でさえ、そして血統書付きの殺人鬼でさえ、到底到達し得ない領域に到達してしまった母親の才能と呼ぶにはあまりにも制御のきかない、それこそ災害や現象といったほうが正しいあれは、父親譲りの卓越したナイフ術さえ霞んでしまう。彼は否定するだろうが、ナイフ術そのものは根気よく教えれば、ある程度は再現できる。関節の異常なまでの柔軟性は、さすがに再現は難しいかもしれないが、身長差がある程度カバーしてくれるだろう。

 しかし、母親の災害は、不可能だ。あれは人間が足掻いてどうこうなるものではない。

 はっきりと言おう。西条四季は喜ばしいことに殺人鬼ではない。現象だ。と。

 もしも仮に、この話を西条四季の主観にするとすれば、会話文も回想もなく、地の文にこう書かれるだろう。---ズタズタに、と。

 

「ぐ、ううううう!」

 神崎・H・アリアは苦戦していた。

 バスジャックが起きて、実践での実力を見るために、四季と遠山キンジ、そしてレキを引き連れて、救出に向かった。

 爆弾を無効化し、バスを追っていたセグウェイは、四季の活躍によって見事ズタズタに破壊した。問題はそこからだった。四季が暴走したのだった。少なくともアリアの目にはそう写ったはずだ。

 なんとか、バス内部ではなく、バスの屋根の上での先頭にもつれ込ませたが、バスを止めてから移ればよかったと公開している。キンジは負傷した運転手の代わりにバスの運転にかかりきりで、レキはアリアごと撃ってきそうなメンタルの持ち主なので、予めキンジが味方を打たないようにいってあった。

 結果として、高速道路を走るバスの上でアリアと四季は争っていた。

「あ、んったねえ!!」

 運が悪かった。と、アリアは本気で思う。実際に運が悪かったのだ。車輌科が朝練で、バスに誰一人として載っていないこと。四季の暴走によって、実力のあるものは負傷し、ないものは腰が抜けた。

「っ!?」

 アリアは大きく引いた。普通であれば、例え、一流の武偵であろうとも本来は入り込んでこないところを、本来は踏み込めないあと一歩を、平気な顔をして、一歩どころか、二歩三歩と踏み込んでくる。日本刀とナイフ、小太刀とはいえ、接近戦になればなるほどナイフの方が圧倒的に有利になる。だから、引かざるを得なかった。しかし、バスの上という限られた空間の上で、引くという選択肢はあまり褒められたものではない。引かなければズタズタに、引けばバスから落ちる。最良の選択などなかった。

 バスの方は少しずつ、少しずつではあるが、減速している。ブレーキなどかけられようものなら、慣性の法則で吹っ飛ぶ。

 

 アリアは苦戦する。苦く長い戦いになりそうだ。

 

 

「二人共、ただの出血が多かっただけですよ。あれなら、減速などせずにそのままかっ飛ばして、病院に来るべきでした」

「……そう、だな」

 武偵病院のロビーで、紅梅楽器と遠山キンジは、話をしていた。

 結局あの戦いは、四季が血を流しすぎたため、倒れ、続いてアリアが倒れた。命に別条はないまでも、武偵高でもトップクラスの実戦経験と実力のある西条四季と、世界規模で見てもトップクラスの武偵である神崎・H・アリアの両方が、バスジャックに向かい満身創痍で帰ってきたという事実は、武偵高中に瞬く間に広まった。

「いまのところ、二人がバスの上で、……死闘を繰り広げたということは出回っていません。バスジャックの被害者の皆さんも、口をつぐんでいますし」

 バスジャックに為す術がなかった、というだけでも武偵として恥なのに、たった一人に負け、一人の女子生徒にすべてを任せたなど、口が裂けても言えないだろう。

「四季は、覚えていないんだろうな」

「ええ、暴走した時の記憶は見事なまでにありません」

 二人共、今は麻酔で眠っている。四季には暴走時の記憶はない。だから、いくら注意しても、実感が無いのだ。最初の頃など、つくり話と思っていたらしい。記憶も実感もなければ、いくら注意しようと、そして、その注意をいくら真摯に受け止めようとも、制御できるはずがないのだ。

「俺が、出るべきだった」

「あなたが運転を始めてから、暴走したんですよ。出るべきではなかった」

 たしかに、遠山キンジがでていれば、暴走するまもなく鎮圧することはできただろう。遠山キンジと西条四季とでは、遠山キンジの方が有利になってしまう。

「そういや、紅梅さん。あんたはなんで、四季と契約したんだ?」

「ちっちゃくて可愛いからです」

 遠山キンジはかなり前から気になっていたことを、現実から少し離れるために聞いたら、思考が停止した。ちっちゃくてかわいい、確かにあいつは、写真で見せられた母親にそっくりであったし、父親に似ている部分もあったのだが、どちらにせよ、カワイイの部類に入る顔であった。そして、西条四季もまた可愛らしい顔立ちで小柄であった。一年の頃など、性別を間違われ、CVRに勧誘されたこともあった。

 だが! あのバーサーカーを可愛いからという理由で身近においておくなど、キンジにしてみればありえないことだった。だからこそ、思考が停止しながらも、精一杯の言葉を口に出す。

「は?」

 精一杯だった。精一杯だったのだ。

「ちっちゃくて可愛いからです。正直、最初は断ろうかな、と思っていたのですが、ドストライク。断る理由がなくなりました」

「馬鹿じゃねえの!?」

「可愛いは正義です! 法ってなんですか!? 可愛いこそが至高! だいたい、同い年ですからYESタッチです! 気絶している時に頬ずりしていますがなにか!?」

「教務科に引きずり出すぞ!」

「すいませんでした!」

 なんなんだ、このギャグ漫画の登場人物みたいな奴は。と、苦い顔をしながらキンジは、話を元に戻そうとする。

「たぶん、あのホシはすぐに動く。目星も大体ついた」

「言わなくて結構です。どーせ、内部の犯行でしょうし。あと、その奇妙な血流早くどうにかしたらどうですか? 聞いていて気持ち悪いです」

「切ったら寝ちまうから無理だ」

 どうやったら聞けるんだ、とキンジは思ったが気にしたら負けだとなんとなくわかったので、そのまま病院を後にした。

 



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第7狂 始末番

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
と、まあ、そんな感じで、今年こそはユアン・メイシーちゃんの再登場を願っております


「オバサン、今何時だと思ってるの、それにここ病院だよ」

 けたたましいケータイの着信音で起こされた俺。例によって、キンジにぶっ飛ばされたのだろう。にしては、体の節々が痛い。まるで防刃制服の上から日本等で殴りつけられたみたいな痛みだ。はて、キンジは殴る蹴るの徒手空拳をよくやっているが(いい刃物は高いとか呻いていた)、まさに一撃で俺を倒すから、体のあちこちが痛いことなんて、滅多にないんだが……?

 あと、恥ずかしいことに銃痕っぽいのが結構ある。あとは残らなそうだけど、イヤだなー、きっとオジサンにどやされる。

「え、いま五時ぐらいなの? あ、ホントだ」

 オバサンからの電話の内容は、この前頼んだ、間宮家のことについてだった。

「なーるほどー、どーりで気持ち悪い感じがしたわけだ。ありがとーオバサン」

 今度帰るときに東京バナナ一ダース買って行こっと。

 うーん、しかし、狂化をアリアに見せてしまったか。嫌われたら嫌だなー、まあ、隠していた俺が悪いし、頭下げて全部打ち明けよう。

 

「……、聞いたわ、キンジに全部」

「……ごめん、アリア」

 狂化した俺を止めていたのは、キンジじゃなく、アリアだった。少し考えればわかるはずだった、キンジの強さよりも、アリアの強さの方が、分かり易いだなんてこと、そんなこと、少し考えていれば、分かるはずだった。

「いいわよ、アンタのことちゃんと調べなかった私が悪いわけだし。私もあんたを日本刀でボコボコにしたわけだし」

「いや、でもそれは……」

 俺を止めるためだった。きっと、俺は邪魔だったであろう、他の生徒に斬りかかって、それをアリアが止めたのだろう。いつもなら、キンジが俺を制圧するはずだったが、何かの手違いとアリアの派手な強さに惹かれて、アリアが俺を止める役割になった、としか考えられない。

「これで、引け目を感じるとかなしにしてよ。私はちょっとやそっとじゃ、絶好なんてしないんだから」

「……じゃあ、この事件ロハでいいよ。それで俺は引け目を感じない」

 アリアはニッコリと笑って俺を許してくれた。

 

「……何が言いたいんだ、高千穂は?」

「私が聞きたいわ。一応、鑑識科の暗号部門に送っといたけど、反応なしよ」

 訳がわからない、何が言いたいんだ、高千穂は。そんなメールがアリアに送られていた。

「心配になって、どうもあかりがここにいるらしいのよ」

「ふむふむ、それでなんか中が深刻そうな雰因気と……」

 ここはタイミング見計らって、かっこいい場面で登場するしか道はない。といっても、真面目なアリアは聞き入れそうにもないから、オバサンから聞いた間宮家のことを話した。

「そう、まあ、暴力の世界の家柄だとは思っていたけど。第四位の分家ねえ。零崎じゃないだけ、ましね」

「それは、俺に対する皮肉かよ」

 そうこう言っているうちに、扉が開き、間宮が逃げ口上を言いながら出ようとしていた。

 

「お前ら、殺し名七名、呪い名六名って知ってるか?」

 ひと通り、アリアが諭し、間宮が事情を話したところで、俺は口を開いた。

 大半は、なにそれ? みたいな顔しているが、間宮は奥歯を噛み締めて更にうつむき、アリアは少し目つきが鋭くなった。間宮の妹も何かを知っているようで、不安そうにこっちを向いた。

「色々省くけど、世界は四つに区分されてて、そのうちの一つが《暴力の世界》なんだよ。その世界の大きな勢力が、殺し名七名、呪い名六名」

 色々省いてちょうどいい。すべてを話すにはまだ早すぎる。こいつらは、関わるには弱すぎる。この情報が武偵として公式に知らされるのは、Sランクになってからだ。それほどまでに危険な情報。俺は、なってすぐに降格されたけど、Sランクの時に自分の世界を改まって説明されて拍子抜けした。

「おい、間宮。お前、殺し名序列第四位《薄野》――薄野部隊。正義の為に殺す(・・・・・・・)『始末番』の分家だったんだろ?」

「違います……」

「ああ、厳密には違う。もう数世紀も前に縁を切ったらしいしな」

 だから、銃なんて遅えもんを使うようになったのだろう。だけど、それでも、殺し名という呪縛はそう簡単に切れるもんじゃなかったのか。

「縁を切ってなお、正義の為に殺し続けた挙句、狙われて離散たあ、マヌケな一族だな」

「違う! もう殺しなんてやっていなかった!」

「でも技術は伝承し続けた。間宮の家は殺す技術をやめなかった。てめえみてえに、殺さねえように変えようともしなかったんだよ」

 正義の為に殺す。殺さなくてもいい時代になったんなら、殺さずに正義を貫く技術に変えるべきだった。俺だけには言われたくないだろうけどよお。

 

「縁っていうのは、そう簡単に切れるもんじゃねえ。俺だってそうだ」

「何を言って……」

 言葉に詰まる間宮。そりゃそうだ、殺気を操るとか、殺気を感知するとか、殺し名どころか、プロのプレイヤーにとっては取るに足らない技術だ。だけど、それを最も得意とする一賊は確かにいる。殺し名の中でも最も忌み嫌われる一賊がいる。

「いや、でも……、そんなはずは……、だってあの一賊は……、武偵なんてそもそもできるはずがない……」

「そりゃそうだ、俺はその一賊の人間の子供ってだけなんだからよ」

 それこそありえない。そんな顔をする間宮。しかしそれは本当のことなんだ。計画性も愛情もねえ、たまたま出来た子供とは言え、本当のことだ。だから、殺人衝動なんて始めっからなかった。いくら待ってもなかった。発現が遅かったオバサンや、父さんでさえ、高校は通えきれなかったり、入学できなかったりした。発現のトリガーが一杯あるところで育っても、一切発現しなかった。

 だから俺は、あの一賊の親戚ではあっても家族じゃない。家族なんて、いない。

 

「俺の父親は、殺し名序列第三位《零崎》――零崎一賊。理由なく殺す『殺人鬼』の中でも異端とされた」

 アリアには話した、キンジにも話した、レキにも話した、全員が受け入れてくれた。でもそれは、こいつらが親とか、出生よりも俺個人を認めていてくれたからだ。まあ、レキは聞いていたかも微妙なんだけど。

 

「血統書付きの殺人鬼――零崎人識だ」

 

 異端であり、禁忌であった殺人鬼、零崎人識。その名は、きっと分からないだろう。知っている人は、一賊を除けばごく僅かであり、晩年は相当衰弱していたと聞いている。

 赤い人が言うには、殺人鬼としては二流だったらしい。だからあそこまで有名なことになったのだろう。

 

「おい、間宮。逃げたければ逃げろ。それでも逃げ切れないからな」

「……」

 俯いたまま何も言わない間宮。きっと、自分と俺とを対比しているのだろう。薄野と零崎を。だけど、もう決心はしたようだ。

「逃げないなら、とりあえず、まあ、よ」

 戦え。と、柄にもなく説教して気恥ずかしくなる俺。キンジの女ったらしの口の旨さを見習いたい。ああはなりたくないけど。

 

「火野、これかしてやる」

 あのあと、アリアがかっこ良く占めて、俺はあるシュレッダー鋏を渡した。

「なんですか、これ……」

 なんかがっかりしたような表情しているけど気のせいだろう。

「罪口積菜作『七七七(アンラッキーセブン)』」

「ライカ! 今すぐそれ捨てて! 絶対まともなものじゃない!」

「てめえ! それ父さんの形見だぞ!」

「だから重いんですって!」

 確かに呪い名の人間の作品ではあるけど、良いハサミだよ! 呪い名に対して疎いのは仕方ないけど、呪い名=なんかヤバイのだけっていう発想はやめろよ! おばさんも罪口製の義手つけてんだぞ!

 それにそれ、オジサンがツテをたどって、ボロボロになって復活、もとい修復したシロモノなんだからな!

 

「あの、でも、これ文房具ですよね?」

「武器商人作ったから武器だ」

 日本で作られたから日本刀だみたいな暴論でねじ伏せる俺。

 

「じゃ、火野がんばれよ」

「ハイッ!」

 言ったあとにやや無責任なセリフだと思ったが、元気の良い返事が帰ってきたのでまあよしとしよう。自分に自分をよしとしているのでなんともあれだが……。

 

 連中がいなくなった病室で、アリアが俺に作戦を伝える。予防線とも言える、作戦であり、見方によっては過保護とも言えたし、見方によっては信頼をしていないとも取れる作戦を、俺に任せてきた。

「OK,親友。任された」

「……ありがとう」

 苦悶の表情を浮かべながらお礼をいうアリア。ある意味においてはこれは、裏切りであって、でもこれは連中が大切だからこその裏切りだ。もしも連中が期待に答えられれば裏切らずに済む、徒労に終わり、杞憂で済まされる。

「そんな顔すんなよ。武偵は金で動く。だから動くんだよ」

「まさか、友情とか言うんじゃないでしょうね?」

 この作戦は、俺がアリアに信頼されているから与えられた、かけがえの無いもので、作戦コードネームは、互いにとってとても重要な意味を持つ。

「わかってんなら言うなよ。そーだよ、値千金の友情で動くんだよ」

 あー、きまらねえな、ほんとに。




鏡高菊依ちゃん出したかったな。鏡餅みたいな苗字だし


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第8狂 闇鬼

~数年前~
ニット帽の殺人鬼「いいですか、妹という単語は変態がよく使う言葉です」
ショタ四季「はーい」
ニット帽の殺人鬼「そんな変態は海にでも投げ捨てちゃいましょう」
ショタ四季「わかった!」


 アリアの立てた作戦は、簡潔に言えば、一年どもがピンチになったら助ける、というものだった。俺からすれば過保護で必要のないものと感じたし、アリアも過保護だと言っていた。そう、必要のないまま終わるべきだった。だったのだが……。

 はっきり言わせてもらう。これは当然の策だった。一年たちに、魔宮の蠍こと夾竹桃は荷が重すぎた。出来る限り、ぎりぎりまで、俺は出て行かないように努力した。努力が必要なほど、一年どもは悲惨だった。

 間宮は取り逃がし、風魔は慢心し、火野は一撃で、佐々木は出るタイミングを見間違え、悲惨としか言いようがない。

 そして何よりも、間宮の隠し持っていた技が、毒でないと理解すると、夾竹桃は興味を失いガトリングガンから、とりあえず手を離した。原理は分からないが、間宮が回転しながら触れたガトリングガンは木っ端微塵になった。だけどそれだけだ。夾竹桃には一切のダメージはなかった。そして、体制を崩した間宮は毒手にかかり、俺は表舞台に出る羽目になった。

 

「あー、闇鬼の西条四季って言えばわかるか?」

「ええ、零崎でしょう? 頼むから、私を恨まないで」

 ちげーよ、とボヤきつつ、戦況を確認する。佐々木が道端に転がっていて邪魔だから、海にでも突き落とそうかな。

「あー、その間宮おいて行ってくれ。別に俺にはお前を捕まえる理由がない」

「あら、貴方は武偵でしょ?」

 といって、雑に間宮を地面に落とす夾竹桃。こいつ腹立ってんだな、毒だと思っていたものが毒じゃなくて。

 そりゃ俺だって、アリアの信頼を裏切った一年に結構腹は立てているけど、さすがに実際に行動には移さねえよ。

「ああ、そうだ。俺にはないだけで、武偵としてはある」

 それでも、間宮と佐々木のグズコンビの救出を最優先にするんだけどな。

「つーか、俺を零崎の親戚(・・・・・)って知ってるだけで、お前は俺に全力が出せない(・・・・・・・)

「殺さなければいい。それだけよ」

 もっとも、零崎の親戚なんて、初めて聞いたけどね。と続ける夾竹桃。

 そう、零崎の親戚なんて俺ぐらいだろう。零崎は家族という括りしかない。そして、例外たる親戚の俺のセーフラインはどこまでなのか、それが誰にも分からない。少なくとも殺されたら、オバサンが復讐に乗り出すだろうけど、敵対程度じゃあ、何も起きない。

 もっとも、それなしでも対策は講じてきている。毒使い、病毒遣いの感染血統奇野師団とはぜんぜん違うタイプだけど、しかし、ドーピングはしてやがる。恐らく痛みは感じないだろうし、身体もよく動くはずだ。

 

「じゃあ、始めるか」

「ええ、間宮の子は一応持ち帰らせてもらうわ」

 戦いの始まる前の程よい緊張。狂化は、できない。この作戦は俺が俺のままで遂行しなければいけない。

 

「待って……くだ……さい……!」

「おい、火野。邪魔だから引っ込んでろ」

 ハァハァ、言いながら火野出てきやがった。いつの間にか俺の右にいるし。邪魔だなあ。海に突き落とそうかな。

「さ、ぽーとしま……す」

「テメエに何が出来んだ。ウスラトンカチ」

 火野はギリッ、と歯を食いしばりながら、決心を固めた主人公みたいな顔で俺をみる。なんともかっこいいが、苦しんでいるのが媚薬だから、格好つかねえな、おい。

「貴方の! 貴方の戦妹(いもうと)だから!」

 海に投げ捨てた。妹と聞いて反射的に投げ捨てた。うわあああ、という無様な声が聞こえてくるが、妹なんていう変態しか使わないような言葉で、戦妹の上にルビ降ったほうが悪い。

「またせたな」

「……漫才なら吉本でやってなさい」

 弱冠、いや結構哀れみを込めた目で海を見つめる夾竹桃。

 仕方ないじゃん、妹なんて自己申告してきたんだから。

 

「それじゃあ、作戦コード『Dear Friend』開始だ」

「零崎は始めなくてもいいの?」

 

 なるほど、呪い名じゃねえ! 開始直後に思い知らされた。夾竹桃は結構強かった。しかも避けるのに専念しているから、余計に厄介だ。毒は手に塗っているから、近接格闘はそれなりに得意なはずだ、と予想はしていた。火野との戦闘でも、蹴られながらも毒で犯した。恐らくわざと蹴られたんだろうな。そんな呪い名が、絶対にできないような戦い方を見てもなお、殺し名で鍛えられた俺は毒=奇野=呪い名=戦闘弱い、のなんの根拠もない図式が頭にありやがった。そもそもこいつは毒使いであって病毒遣いじゃねえ。いや、そもそも奇野師団なら戦闘にもつれ込むなんてことはまずしない。馬鹿か俺は!

「いいから、ズタズタにさせろよなああああ!」

「いやよ、痛いのは」

 しかも極めつけはドーピング。一時的にだろうけど、疲れ知らずになってやがる。

「く、っソガああああああ!!!!」

 その攻撃は、必然だった。苛立った俺に生じた致命的なスキ。その隙は毒手が届くのには十分すぎた。

 

 ……ああ、まったく。情けねえ。そう思いながら、俺は倒れた。

 

「は?」

 不思議そうな声をだして、夾竹桃は倒れた。西条四季を撃破し、間宮を回収して帰ろうとしたら、ばたりと倒れたのだ。肩に間宮を乗せていたので、間宮は顔から落ちることになったのだが、まあ仕方ない。

「あ、え、でも、どうして……?」

 体全体が動かなくなっていることに驚く夾竹桃だが、足にナイフが刺さっていることで、毒が盛られたことを確認したようだ。もっとも、それは毒ではなく、病院に普通にある薬なんだが。

「で、でも、どうして……、どうしてアナタが立っているの!?」

「テメエ、とりあえず、自分の指見やがれ」

 そういって、俺、西条四季は勝ち誇りながら、爪が短くなった(・・・・・・・)毒手に手錠をかけた。

 

 簡単な事だ。いくら強いとはいっても、毒手が主体で、必然的に近接格闘にもつれ込む必要があり、火野の蹴りを一切痛がらない。これは、もう痛覚がないからとしか思えない。そうでなくとも、爪が短くなったのには気づかない程度には、鈍くなっているのだろう。

 そして、いくら隙が生じたとはいえ、ご丁寧にチクリと刺すほどの余裕はなかったらしく、横に切るように俺に触れた。

「気が狂ってるわ」

「よく言われる」

 俺の制服を見て、正確には夾竹桃が触れて、敗れた制服から見える右脇腹を見て、憎々しげにいう。そこには、いやそこでなくとも、服で隠されているほぼ全身に、俺は刃物を仕込んでいる。人間の爪はもちろん、肉や骨すらも簡単に切る事ができる、父さんの形見。もちろん普通に転べば、俺だって大けがをする。さっきだって注意しながら、意図的に倒れたとはいえ、軽く切り傷ができた。

 もしも、もしも夾竹桃が、この前の火野のように、俺を殴ろうとしていたならば、きっと彼女の左手はズタズタに、皮も肉も骨もズタズタになっていただろう。

 そんな全身凶器に無造作に触れて、爪だけとは、どうしてなかなか、運がいいやつだな。

「毒は何を使ったの」

「病院でよく使われる薬」

「なるほどね」

 まあ、もしも病院に運ばれて手術するときに、この薬使えねえ! ってならないように耐性は考えて作るはずだ。と賭けたのだが、もし外れても、手負いだから奇襲して勝てたし、どっちに転んでも勝てる賭けだった。

「私の負けね。零崎さん」

「零崎じゃねえよ。西条四季、武偵だ」

 

 

 次の日、恨めしげな顔の火野にであった。

「なんで、助けてくれなかったんですか……」

「あ、ごめん。忘れてた」

 そういや、海に落としたんだった。これキンジにしられたら……何もしねえなあいつ。うん。

「あー、お前ってアイドルとか好きか?」

「なに話題そらそうとしているんですか!? 好きですけど!」

「こんどアイドルの護衛の仕事入ったから、手伝わせてやる。報酬は7:3だ」

「酷い! 色々と酷い!」

「じゃあやめる?」

「うけます! いつですか!?」

 こいつイジってておもしれー。まあ、飯でもおごってやるかな。キンジじゃあるまいし(キンジなら北海道から本州まで泳いできたとか言われても驚かない)、結構大変だったろうし、割と本気で悪いことしたし。




一応一区切りついたので、次話は登場人物紹介にしようかなと思っていますので、それほど時間はかけないつもりです。


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第二章『ズタズタな氷と炎』『爆炎纏う怪盗』
第9狂 武偵たちの日常


 先に行っておきます、キンちゃん様マジチート。おまけが長くなりすぎました、今後のネタバレも多大に含んでおります。


 ある日のお昼休み、俺はこの前に言っていたアイドルの護衛の詳しい話をするために、食堂に火野を読んだ。

 さすがにテーブルの指定まではしていなかったが、火野が先に食堂の入り口に、島の妹と一緒に待っていたので、助かった。

「なんだよ、その新聞」

 火野が芸能関係がやたらと詳しく乗っている新聞を、柄にもなく持っていたので、なんとなく聞いた。一面には『武偵アイドル独占インタビュー!』と書いてあった。……ビンゴ。

 

 武偵局公認の武偵アイドル、千歳ルミ。本名、瑠河(るかわ)千奈(ちな)。デビューのきっかけは、アイドルの護衛(バックダンサー)をしていたら、変なのが乱入してきたので、叩きのめしたら、会場大盛り上がり。その光景を見た数々の事務所から、スカウトだかオファーだかが殺到。学校や武偵局はというと、『イメージアップに繋がるんじゃね?』ということで、ギャラとは別にお金を払って、アイドルにさせた。そして、大人気アイドルとなり、少なからず武偵のイメージアップに貢献している。なんというシンデレラ・ストーリー。すばらしき少女漫画人生。

 ちなみにこの方が今回の護衛対象だ。

 

「おーい、聞こえているかー?」

「ふぁふぁふぁふぁ、ファンなんです! チルチルの!」

 今回の任務について説明したら、火野の変態はトリップしやがった。気持ち悪い。チルチルなんてあだ名で呼ばれてるのかよ、あいつ。

「にしても、先輩は、この方について詳しいですの」

「ん? だって、友達だし。てか、こいつの好みのタイプってキンジ、遠山キンジのことだぜ?」

 あー、と納得する島の妹と、泡を吹いて気絶する火野。やっぱコイツ馬鹿で変態だ。

「お姉さまの女子女子した女子好きはいつものことですが、あの女嫌いで有名な遠山先輩、微妙に倍率高いですの」

「まあ、アイドルなる前からだし。つーか、こいつに言っとかないとな~」

 CVRなら、瑠河の噂は知っているだろうけど、(たぶん)同じ学校にいることも知らなかったバカは、あのことを知らないだろうし。

 まあ、キンジと瑠河はお似合いだとは個人的に思っている。まあ、キンジの特異体質を考えたら、あんな綺麗にも可愛くもなれる瑠河は苦手にしていそうだけど。

 

 

「久しぶり、四季」

 と、本当に久しぶりに聞く穏やかな声。その声の主は、護衛対象の瑠河千奈であった。バットタイミングにも程がある。いや、いつバカに忠告しよう。

 顔立ちこそ日本人だが、髪は水色で、目も青みがかっている。俺よりは背はあるが、小柄な部類には入る。アイドルしているときは、ポニーテールなのだが、今は髪を下ろしているため、かわいいではなく、美人として映るだろう。目つきは悪いし、不機嫌そうな顔ではあるが、それすらも美人の要素に入ってしまうぐらいに、美人だった。ようするに、美人だ。美人は美人なのだ。

「おい、キンジは切れてなかったか?」

「あの朴念仁がスポーツ紙を見るとでも?」

 みませんね。はい。泡を吹いて気絶している火野を見て、少し考えてから、瑠河は、俺に向かって、とんでもないことを言った。

「あんた、また弟扱いされてぶん殴ったでしょう?」

「よーし、表出ろ。ぶっ飛ばしてやる」

 

 瑠河千奈は、アイドルとしての自分が大っ嫌いだ。それこそ、武偵高で武偵としてではなく、アイドルとして接せられたら、例外こそあれど、基本的にブチ切れる。例外というのは、仕事関係だ。例えば、今回の『アイドルの護衛』という仕事は、仕方がないと割り切るなど、結構ビジネスライクな性格でもある。

 そしてもう一つ、特筆すべき事がある。それは、武偵としての挟持の高さである。実力はBランクだが、仕事の達成率やリピーターの数が群を抜いており、将来有望視されている実力派の武偵でもある。なんだこの超人。

 

「今回の依頼は、アドシアードでの私の護衛にキンジを引き入れることよ」

「おい、帰るぞ、島の妹。そんな変態ほっとけ」

 ふざけんな、と叫びたい衝動を抑えて、出ていこうとする。いや、まじふざけんな。ラブコメならほかでやってろ。と、思っていると、足が地から離れて、グエッ。

「いや、待ってよ! 待ちなさいよ! 待ったわね」

「お前ふざけんなよ! 俺の首根っこを捕まえて持ちあげるとか! ほんとふざけんな!」

 このノッポ! といったところで降ろされた。人の身体的特徴を侮辱したけど、相手は相手で身体的特徴を侮辱した上に辱めたから、こっちのほうがまだ被害者だ。武偵では、悪平等気味とはいえ、男女平等が重んじられている。男が女に勝とうとも、女が男に勝とうとも、評価としては一緒だ。女だからとか、男だからとか、言っているのは一年だけだ。武偵は実力こそ全てで、実績が何よりも大事なのだ。

「いや、だってあの堅物を引き入れるためには、あいつの友達を引き入れて、じゃあお前も、って持っていくしかないじゃない!」

「誰引き込んだんだ! 言っとくがドラムとかギターはダメだからな! 身体的特徴で!」

「武藤と不知火、神埼さんに、レキよ!」

「レキ!? どうやって引き込んだんだよ! あのロボットレキを!」

 いや、ほんとに、どうやって引き込んだんだ! レポートとして提出したら評価もらえる偉業だぞ。

「未発売のカロリーメイト上げるって言ったら、簡単に」

「アイドルってスゲー!」

 っていうか、あいつ友達少なくね? つーか、全員Aランク以上じゃねーか、このチームで動かしたら一回100万はくだらねーぞ。

「まあ、お察しの通り、今回私は、開会式と閉会式で、歌を歌わされる。その護衛兼演奏として参加してほしい」

「えー、刀剣技術競技(ソードスキル)代表に選ばれたんだけど」

「あんたなら何もしなくたって、入賞ぐらいできるでしょうに」

 どうせやるなら、メダルほしいんだけど、三年生は技術を隠すために出たがらないし、結構、いい線いけると思うんだけどなー。

 島の妹は、チラチラと心配そうに火野の方を見ている。いやー、人間って泡ふいて気絶するもんなんだな。

「そういうことで、お願いね」

 そういって、俺らにジュースを奢って立ち去っていく瑠河。おい、報酬これじゃねえだろうな、と思いつつごっきゅごっきゅと飲み終わってしばらくすると、火野の馬鹿が目を覚ました。

「ハッ!? チルチルは!?」

「帰った。あと、お前への仕事はなかったよ」

 目が一気に絶望の色に染まる火野。あまりに可愛そうだったので、島の妹にもつきわせてしまったので、二人にステーキをおごった、

 

 

「というわけで、鍋パーティーをしようぜ! キンジもゼッテー喜ぶって!」

 と、キンジをどうやってアイドル護衛させるか会議(参加者、俺、武藤、不知火、アリア)で、武藤が言った。

「うん、いいんじゃないのかな?」

「そうね。鍋ならみんな好きだし、いいんじゃないの?」

「いいんじゃね?」

 と、考えるのも面倒な俺達は、即刻俺とキンジの部屋で鍋パーティーの結構を決定した。ついでに、戦妹も呼ぶことにして。もちのろんで、瑠河も呼ぶ。数で攻めて、納得させてやる。

 

「護衛ならやらないぞ」

 顔を合わせるなり即刻これである。強襲科の体育館で顔を合わせるなり、即刻これである。なぜばれた!?

「いいじゃない、ロハじゃないんだし」

「そうだよ、今を輝く瑠河さんの護衛をしたっていうだけでも、企業からの注目は集まるよ」

「護衛やろうぜ!」

 上から、アリア、不知火、俺。なんか俺だけ馬鹿っぽい。いや、この中じゃ成績一番下だけどさ。

「……とりあえず、四季。その後輩にむけての無茶な柔軟をやめろ、足を200度広げるなんて無茶聞いたことないぞ」

「俺は300超えできるよ」

 200度なんて簡単にできないものかねえ? ヨガでもやらせようかな。と、痛いのか、床に突っ伏したまま何も喋らなくなった(最初は叫んでいた)火野を見ながら、俺も柔軟体操を始めた。

「何をどうやったら、身体はそんなふうに曲がるのよ?」

「成せば何とかなった」

 イリン先生が言うには、俺の体の構造は少しおかしいらしい。なんでも、動きのバリエーションが人間をはるかに超えているとか。いや、俺だって人間なんだけど。

「とりあえず、今日、部屋で鍋パーティーするから。そんときに話しあおうぜ!」

「とりあえずもなにも、両足を180度づつ開いて、前屈しながら話すのをやめてくれ。見ていて気持ち悪い」

 失敬な、と思いつつ、日々の成果が実ったのかこの体制でも全然苦しくない自分に、ちょっと嬉しくなった。

 

「あ、そうだ。四季」

「なんだよ、アリア」

 と、アドシアートのための練習をしながら、アリアに話しかけられた。ちなみに練習相手は、アリアだ。いやー、小太刀とはいえ、二刀流の相手っていうのはあんまりいないので助かった。

「ちょっと、この刀、刃こぼれっていうか、メンテしたいんだけど、あんたそういうの得意って聞いて、お願いできるかしら?」

「いいよー、代金は友情で」

 親友の頼みでなくても、知り合いなら、ロハで研ぐぐらいはするし、手に負えなかったらアムドのやり手でも紹介するし。

 と、そうこうしているうちに、時間が終わった。今回の練習のルールは五分間、アリアの猛攻に耐えることだったけど。やっぱ、無理だったな。さすがはSランク、五回ほど防ぎきれずに避けちゃったよ。しかも、アリアは五分間刀振り回していたのに息切れ一つしていないし。やっぱ、基礎体力の差は埋めないとな。

「あの、先輩……」

「なんだよ、えーと竜崎だっけ?」

「あ、はい、えっと、その……」

 と、ひじょーに聞きにくそうにいる後輩。確か名前は竜崎凛世だっけ? どうでもいいや、さっさと、アリアに今後の課題聞きたいんだけど。

「どうして、アリア先輩の二刀流にナイフ一本(・・・・・)、いえ、左手だけのナイフで(・・・・・・・・・)対応できた(・・・・・)んですか?」

 そりゃ、俺がナイフ、つーか刃物のエキスパート、刃物一点特化の武偵だからとしか答えようがない。アリアは双剣双銃という極めてまれな、戦い方をする。そのため先導者が少なく、自分のセンスに頼ることが大きい。それに比べて俺は、先導者は数多くいるし、これだけを鍛えてきたから、片手でも一応は対応できた。もし、あの状態で、互いに全力を出したら、俺は負ける自信がある。技のバリエーションを半分以上封じているという点では、お互い様でもあったわけだし。

 というわけで、俺は後輩にわかりやすくこういってやった。誰にも負けない分野を作れ、そうしたらわかると、といった。

 

「なんで、あんた片手で、その鉈みたいなナイフ一本で、私の攻撃全部防げるのよ」

「全部じゃねーよ。お前だって、何回かいじわるで攻撃しようとしたの、する前に封じてたじゃねえか」

 と、一応ノルマでもある射撃成績をだすために、レーンで喋りながら撃つ。動かない的なんて、当てて当然なので、どこまで正確にかつ集中力を持続させつつ、が重要になってくる。プレイヤーはともかくとして、一般人には、銃は効果的なので一応やっておく。ぜってー、ナイフ投げたほうがいいって。

「そうね、あんたが防ぎきれなかった五回は、全部左の脇腹より下だったわ。注意が、届きにくい右側と、致命傷になりやすい上半身に集中しすぎ。もうすこし、全体に注意を向けなさい」

「あー、確かに。でもどうしても防ぎにくいところに意識持ってっちゃうんだよなあ……」

 うーん、武偵同士の戦いだから、しょーじき殺気には頼れれない。うーん、俺の十八番がひとつ封じられてしまった。まじどうしよう。

「うおーい、四季~」

 と、対策と傾向を二人して相談していたら蘭豹が紙の束を持ってよんでいる。

「あ、らんら……」

 あっぶねえええ!? あの教師、5m先から斬馬刀なげてきたぞ!? ちなみに、るろうに剣心の影響で、斬馬刀は柄が短く、剣の部分が長い、モンスター・ハンターの大剣みたいなイメージの人が多いかもしれないが、実際には柄が長く、剣が短い武器で、更には馬の足を狙う武器なのだ。さらにいうと、武芸者たちの間では、専ら『斬馬刀持ち上げられたぜスゲーだろ!』みたいな武器だったとされている。つまりそれだけ重いのだ。それをぶん投げるってどんな怪力だよ!

「おい四季ィィ! 今度それ言おうとしたら、病院送りや」

「ツイッターと学校裏サイトでバラすぞ!」

 ぐわん、といつの間にか近づいていた蘭豹に、本日二回目の、女の人に片腕で持ち上げられるという屈辱を味わった。

「まあ、ええわ。IADAが、お前の試合で使用する刃物が多すぎる、無制限ってしたけどさすがに限度があるだろ、バカヤロウやて」

「むう、決勝で抱きついて終了作戦終了のお知らせ?」

 えげつない、とアリアとらんらんに言われた。ちなみにちなみに、らんら……蘭豹は俺に二人目のお説教係(一人目は高天原せんせーだった。何故か怖がられて話にならずチェンジになった)で、『んなもん、怪我するほうが悪い』って悪ぶって言ったら『せやな!』と本気で同意された時は、あ、こいつやべえ! って思ったけど、なんやかんやで意気投合して、お説教にならなかったのでチェンジになった。

「なきついたらOKでるかな?」

「お前人生なめとるやろ」

「正直涙目になれば、人生たいていなんとかなると思ってる」

 殴られた。敬語使えって、いまさらながらに殴られた。しかしどうしたもんか。俺の戦闘スタイルは、基本的には母さんの形見のナイフで、相手を圧倒するもんだけど、奇襲的に父さんのナイフを使ったり、状況によっては攻撃の主体となるナイフを矢継ぎ早に変えていき、相手を翻弄することもする。だから、ナイフの数を減らされるのはもんのすごい痛い。

「いくつぐらいに納めればいいんですか?」

「20以内つー、ルール改正された。んじゃ、これで」

 20、普通じゃ多いんだろうけど、これじゃあ弾幕ナイフができないじゃないか。と、身勝手に思ってみたりする。

「まあ、いい機会なんじゃない? あんたナイフ遣いとして、一流でなんでも出来たけど、同時に何を選べばいいか解んなくなってる時結構あったでしょ?」

「え? 別になかったけど」

 アリアがポジティブに捉えようとしていたけど、例えが悪かった。本能的にナイフ選択して戦ってたから、悩んだことなどない。といったら、天才め、と言われた。武偵の申し子には言われたかない。二丁拳銃ってどうやったら出来んだよ、ふざけんな。

 

 そんなこんなで、今日の授業や訓練が終了し、俺は鍋の材料(野菜担当)を買って家に帰った。

 

 

教授(プロフェシオン)のこれで安全強襲科対策①

遠山キンジ『哿(エネイブル)』

 なんというかかんというか、ヘタしたら出番なく終わるかもしれないから、引っ張ってこられた私なのであるが、いやいや、本当に出番なくイ・ウー編が終わりかねない構想らしい。最も、この作者はそこまで続けられるのか疑問でもあるのだが。しかし、彼、遠山キンジは私としても驚異的な脅威であることには違いない。かの『赤き制裁』でさえ、彼の父親には、若干トラウマ気味でさえあるそうだ。そして彼自身もまた、まだまだ成長途中とはいえ、発展途上とはいえ、この時点で、相当に危険な存在に成長してしまっている。どうも、この原作にはない成長には、西条四季の存在が大きく関わっているらしいが、それはまた別のお話だ。さて、彼の保有するスキル、技術を紹介しよう。まず一つ目、形式上は『俺的必殺問答無用拳』だ。ちなみにこれは、とある島のとあるメイドを師事し、多くの技術の一つ、彼は一部技術をそのメイドの師匠の段階まで昇華させている。心肺蘇生に至っては、蹴って蘇生できるらしい。二つ目は『曲絃糸』、あるいは『ジグザグ』だ。最もこれに至っては、一般的な防御用の技術であり、また『曲絃師』名乗る最低ラインのレベルでしか行えない。攻撃性は皆無ではないが、攻撃としては実用的ではない。危険であることには変わりないがね。三つ目は、『音使い』。これまた名乗ることのできる最低ラインなので、そこまで危険ではないが、彼はこれを自分自身にかけることによって、心拍数、血流を操作し、擬似的にHSSを発動している。総合的に言えば、防御型に分類されるだろうね。対策としては、擬似HSSは脳への負担が大きく、持久戦には不向きだ。まあ、HSSなんてなくても十分すぎるほど強いんだがね。

 

教授(プロフェシオン)のこれで安全強襲科対策②

神崎・H・アリア『双剣双銃(カドラ)』

 彼女は、キンジくんのように、脅威的なスキルも、四季くんのような、常軌を逸したメンタルも、持ち合わせていない。それでも、というよりも、それ以上に、人間としての基礎能力が非常に高いんだ、彼女は。これは意外と厄介だ。四季くんやキンジくん(そして多くのイ・ウーメンバー)は、半ば一芸に秀でたエキスパートだ。つまり、対策はとれることには取れる。しかし、彼女は普通に強いだけなんだ。誰にでもできることを誰よりもできる、これほど厄介なものはない。総合的にも何も、普通に万能型だ。だからこそ、(本人の強い希望はあったとはいえ)理子を彼女にあてたのだが、親友という心の強さ、落ち着きを手に入れた彼女には、いささか役者不足だったようだ。母親が終身刑になりかけている、なんてあっちゃあ、どんな人間でも焦るし、結果的に暴力的にさえなる。しかも彼女は、優れすぎてる故に、誰かに頼ることはできなかった。まあ、それは見下していることと同義なのだが。対策としては、全く未知の攻撃をするのが一番だろうね。それも直感で乗り切られる可能性があるけど。全く難儀なひ孫だ。

 

教授(プロフェシオン)のこれで安全強襲科対策③

西条四季『闇鬼(ホワイトアウト)』

 闇なのか白なのか、ハッキリしてほしい二つ名だね。さて、全身凶器にして全身刃物、全身狂気にして全身刃者とは、彼の父親の事で、狂戦士とは彼の母親のことなのだが、彼は、その両親の、ことに刃物に関しての才能、というよりも、特性を惜しみなく、満遍なく、漏れ無く、受け継いでいる。精神的には、母親よりではあるが、イヌ好きなところは、血は争えないのかも知れない。さて、身体の駆動域、動きのバリエーションが、人間をはるかに超え、なおかつ、筋肉を、関節を、どう動かせば最速かを本能で理解している彼は、強襲科の切り札とまで言われている。切れ過ぎて、持ち主さえ切ってしまうような切り札として、だがね。狂化などと言われて入るが、実際に『なった』ときは、常に情緒不安定で、理性はまるでない。ここで注意して欲しいのは、なくなるのは理性であって、知性ではないことだ。つまり、本格的に目的のためなら手段は選ばなくなる。「ズタズタにできるなら、自滅してもいい。ていうか、自分ズタズタにすればいいじゃん。」こんな感じだ。ついでにいうと、キンジくんは『俺的必殺問答無用拳』で、殺してから蘇生して、正気(?)に戻しているが、それをしなかった場合、結構な期間、この状態が続く。正直、イ・ウーでも持て余す人材だ。また、普通の状態でも、零崎に育てられたが故に、殺気には敏感になっている。間違っても殺気を当てようものなら、自動迎撃されるから、気をつけるように。あと、家族や仲間を蔑ろにしたら、ズタズタにされるから、大切にするように。攻撃型にしたいところだが、殺傷型や刃物型、いっそのことズタズタ型もいいかもしれない。対策としては、狂化するまえに、殺意を持たず、一撃で、一瞬で、戦闘を終わらせることだね。彼は、いつでもどこでも、苦い戦い、辛い戦いなんてないんだから。




 キンちゃん様マジチート。地味な強さの代表格を揃いも揃って使うチートっぷりです。正直強くしすぎたかなって思っていますが、原作は原作で音速駆動したり生き返ったりしてるんで、まあいいかなって。
 ホワイトアウトはルビ決めてなかったので、それっぽいのを選びました。本人は「やみおに」と名乗っている設定にします。


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第10狂 戦妹

更新非常に遅れました。白雪さんが、変になったので、書き直していたら遅れてしまいました。ライカの主観が難しかったです。失踪はしないと思うので、気長に待ってくださると幸いです。


「昨日鍋パーティーしたんだ~」

「そうっすか」

 食堂で、昼飯を食べながら聞くと、火野から気のない返事が帰ってきた。結局、キンジは了承しなかったし、瑠河はキンジにデレッデレになってうざかったし、鍋は美味しかったし、総じて言えば、いい日だった。

「そういえば、お前夏休み何か用事ある?」

「いえ、ないですけど……」

「あっそ」

 なんなんだ、この人は。みたいな目で見られているが、キニシナーイ、キニシナーイ。

 アリアも呼ばれていなかったし、やっぱりキンジはすげーや。

「四神一鏡って言ってさ。そこの赤神家のお嬢様に、キンジが気に入られてるんだよ」

「またですか」

 あいつの華麗な、そして死ねばいいとわりかし本気で思う女性遍歴のうちの一人ではないんだけどな。どうもそのお嬢様は、天才が好きらしい。だから、天才を島に集め、サロンを開いている、と聞いている。キンジが言っていたが、少し前まで、本家とは絶縁されていたらしいが、跡取り候補が、バカスカと死んでいき、お鉢が回ってきたそうだ。

 それ以外にも、あのうすら昼行灯の師匠がその島にいるとかで、年に数回島に通っている。

 そんなこんなを、ぶちぶちと死ねばいいと思いながら、飯を食っていると、ぴんぽんぱんぽーんと、呼び出しの放送チャイムがなった。

『西条四季。今すぐ来い』

「どこにだよ!」

 いや、職員室でしょうけどね。はい。でも最近は、特に任務もしていないし……。殺し名とか呪い名関係かな?

 

「星枷のぉ、護衛誰がぁいいと思う?」

「知りませんよ」

 綴先生のところに行くなり、変なことを聞かれた。一応知り合いっちゃ知り合いだけど、俺はアイツのことが大っ嫌いなのに。そりゃ、キンジに作ってくる過剰量の弁当は美味しいし(八割方俺が食べる)、杏仁豆腐は美味しいし(十割俺が食べる)、あいつの持ってる日本刀は本当はいいものだし(この前奪ったら泣きながら土下座されたので返した)、だけど、絶対にアイツのことは許さない。

「いやねぇ、『魔剣(デュランダル)』がぁ、えーと、そう、そう、星枷をぉ、狙ってるっつー、タレコミがあってよぉ」

「へーそうっすか」

 気のない返事をしたら、でこピンされた。涙ぐんでやる。

「あの……なんで私までここにいるんですか?」

「だって怖いじゃん。一人でここに来るの」

 と、なんとなく連れてきた火野に聞かれたので、答えてやったら、綴先生にほっぺた引っ張られた。痛い。

「でさぁ。星枷によぉ、誰が護衛にいいか聞いたんだけどよぉ」

「キンジを指名したんですね」

 そぉゆーこと。と答えられた。そら、そうだ。あのヤンデレを拗らせたはた迷惑な武装巫女が、考えそうなことだ。

「でも無理っすよ。その件に答えるぐらいなら、先約の瑠河を優先するでしょうし」

「そぉだよなぁ。学校としても、瑠河の護衛にSランクやらAランクの同学年をつけたほうが、話題になるし、宣伝にもなる」

 あーなるほど。多分、瑠河のやつは、何となくこのことを察知していたな。で、先手を打ったと。女ってこえーな。

 学校も学校で、星枷よりも、世間の目を気にして瑠河を優先したと。

「あれ? でも俺はCランクですけど?」

「お前は特例だ、つってんだろーがぁ。護衛のやつにメダリストがいるっつーのも大きいしよぉ」

 メダリスト確定かよ。いやー、期待が大きくて押しつぶされそう。

 しっかし、火野は本当に喋らねえな。萎縮しちゃうとか、そんなキャラじゃねえだろ。と思ったので、そいつの座ってる椅子を蹴り倒した。

「おーおー、パワハラかぁ?」

「愛の無いシゴキです」

 あっはっはっは。と二人して笑った。そしてデコピンされた。涙ぐんでやる。

「じゃあ、あの三年生の依存夫婦にでも任せたらどうですか? 諜報科(レザド)ですけど、あの二人に勝てるやつなんて、らんらんぐらいしか知りませんよ」

「私はぁ、お前以上の怖いもの知らずをぉ、知らねえがなぁ」

 HAHAHAHA、らんらんすっげー睨んでるわ。

「それによぉ、その二人はぁ……。ん? なんだったか。そぉそぉ、えーっと、あれだあれ、そう。新婚旅行にぃ出かけたぁ」

「ああ、そういや、旦那のほうは、4月が誕生日でしたね。なるほど、18歳になったから、結婚したと」

 初めて見たよ。18歳と17歳の夫婦。向こう見ずすぎだろ。大丈夫なのか、人生設計。と思っていたが、二人共、絵鏡家に就職が決まってんだった。それも本家直属の親衛隊に。と、なるということは1つか。

 

「ねえー! らんらーん! 結婚支援サイトに登録してぇー! 合コンにも出まくってんのにー! 教え子に! それも恋愛結婚でぇー! 先越されて! 今どんな……びえーん! 殴られたぁ! 思いッきし殴られたぁ! 首の骨圧縮されてせぇ縮んだぁ!」

「じゃかしぃ! 縮むほどの身長もないやろ!」

 うわーん! びえーん! あーん! えーん!

 

 

 

 四季先輩が泣き喚いた。別に可愛いとかは思っていない! 小学生が駄々こねるみたいとか、……ああ、ええ、はい! 可愛いです! 抱きしめたいです! なにか悪いかこんちくしょー。でもそれ以上に、教務科ってところが怖い。とくにマジギレしている蘭豹とかが怖い。

 などと、私――火野ライカが、困惑しながら、見ているうちに、綴先生に抱きつき(!)、そのまま泣き疲れて寝てしまった(!?)。

「あ、あの……」

 なんていうのが正解なのだろうか。いや、そもそも正解だなんてあるのだろうか、この異常な光景に。武偵高三大危険地帯の一つで、教師を挑発して、当たり前のように殴られて、泣き喚いて、寝る先輩を前に、どう対処しろっつーんだよ!

「おい、火野ぉ」

「ひゃい!?」

 怖い! もしかして殺される!?

「紅梅、紅梅楽器を呼んできなぁ。今のこいつに……、ええーと、そうそう。たいしょ、対処できるのはァ、今現在は楽器しかいないからなぁ」

 

「四季さん! いいえ! もう四季ちゃんです! ああもうかわいいかわいい! あの地獄コンビが学校にいたせいで、こうやって頬ずりもできなくてごめんさい! いつ見てもハァハァ……! じゃあ、先生、タップリと堪能……じゃなかったああもうええっと! 撫で回してきます! 愛でてきます! 知ってますか!? 萌えって、室町時代らへんからあったんですよ! ですから、萌えというのは、現代文化ではなく伝統文化なのです!」

 

「わ、私が、ぜぇ、走るのでぇ、ぜぇ、まげる、ゲホッ、なんで……」

 用件を言ったら、嵐のように走って行って、疾風のように去っていった。なんだったんだ、あの人は……。

「紅梅楽器。四季の友人にしてはぁ、つーかぁ、学校全体で見ても全ッ然弱い、救護科の生徒だぁ」

 と、先程までは、珍しく吸っていなかったタバコを吸い始める綴先生。

「あの……じゃあ、自分はこれで」

「ちょぉっとまてぇ、火野ぉ」

 帰してください! もうこんな地獄から逃げ出したいんです!

「お前、四季の戦妹をこのまま続けるつもりか?」

 真面目な口調で、真剣にこちらを見られて聞かれた。なんというか、こちらのみを案じているかのような口調で……。

「正直、四季は武偵高でも持て余すような人材だ。優秀だが歯止めが効かない」

「はぁ。えっと、どういうことですか?」

 さっきの会話と言い、挑発と言い、もしかしたら、四季先輩は見た目以上に精神年齢が幼いのかもしれない。いや、そういえば、殺人鬼に育てられたとか言っていたから、善悪の区別がついていないのかも……。倫理観にかける教務科じゃあ、教えることもむずそうだし。

「つーか、善悪の区別云々じゃなくて……。まあ、いい。率直に言わせてもらうけどさぁ」

 

 ――お前じゃ、四季の戦妹には弱過ぎ過ぎる。




怒涛の四神一鏡。ところで最強シリーズ発売されましたね。緋色の英雄には寸鉄殺人が出てくる予定だったらしいですが、最強シリーズには出てくるのでしょうか。

では、またの機会に


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第11狂 戦妹2

実は結構前に書き上がったのですが、書き終わったあとに、どうやって次の話につなげようと考えているうちに、こんなに遅くなってしまいました。すぐに次の話は上げると思います。


「別にぃー、弱いからどうこうって話じゃないんだよ」

 声は届かない。何を言っているのかわからない。

「例えば、神崎とか遠山みたいなぁー、あいつを止めれるなら文句はないんだけどさぁー」

 止めれるわけがない。止められなかったから、遠山先輩は、あそこまでストイックに強くなったんだから。

「そぉーじゃなくても、逃げれるならぁ、引き際を心得ているならァー、ここまでは言わないけどさぁ」

 逃げる? そんなの、私の性分じゃない。逃げれるはずがない。

「お前さぁ、申請書出した時、けっこぉー、教務科(こっち)でも、議論になったんだよねぇ―?」

 ふざけるな。何が議論だ、骨折しようが、身体が欠損しようが、放っておくのが、教務科《あんたら》だろうが。

「そう、でもさぁー? 死人、死人は困るんだよねぇー?」

 死人出て、初めて動く、教務科(マスターズ) なんて、誰が考えたか知らないけど、よく考えたものだ。

「まあ? あいつの友達はぁー、おまえがなれないって、踏んでたしぃ? 受けさせることを許可したんだよ」

 はは、まあ、麒麟が戦妹じゃなかったら、四季先輩の戦妹になんて、なれなかったでしょうね。

「なったあともぉー、様子見してたんだけどさぁ。あいつはあいつでやる気ないし、教えんのもうまくないしさぁー」

 痛かったなぁ、柔軟体操。まだ一回も、刃物関係で教えてもらっていないや。

「このままじゃぁー、お前っつ―金の卵をぉ、四季っつープテラノドンに食い潰されちまう」

 フザケルナ。

「もう、わかったよなぁー? せんせーは、二回おんなじことを言うのが嫌いです、っと」

 フザケルナ。

 

 その日の訓練は、散々だった。集中しきれなかったし、西条先輩と話をしようにも、そもそも来ていなかった。遠山先輩も、急な用事とかで来ていなかったが、これは別に珍しくもなかった。あの先輩は、学校にいるほうが珍しいぐらいに、あちこちを飛び回っている。同じぐらいに、浮いた話を聞かない日もないのが、玉に瑕なのだが。

 

 次の日は、一年生と二年生で、普通教科の授業数が一限違うので、一年生が先に来て訓練をすることになっていた。奴隷の一年、等と言われているように、トレーニング器具は二年生が先に使い(三年生は就活やら任務やらでそもそもいない)、一年生はその後急いでノルマを達成しなければいけなくなるのだ。

 だから今日のような日は、自分のトレーニングや、同じ科に戦兄や戦姉がいる場合は、稽古をつけてもらえる貴重な日でもある。

「いっちばーん」

 虚しい声だと、自分でも思った。綴先生に言われたショックで、ここ二日間は、あかりからも元気が無いと言われてしまった。授業はいつもどおりなのだが、体育にすら集中できなかった。

 ため息を付きながら、強襲科の体育館の扉を開けると、体育館の中央に、一人の少女がこちらに背を向け、虚空を眺めていた。一番乗りでなかったコトに舌打ちをするが、そんなイラ正しさよりも、すぐに疑問が強くなっていった。まず、その奇怪な服についてだ。辛うじて、制服だとわかるが、ズタズタに避けており、原型をとどめていない。そもそもあんな背の小さい少女は、東京武偵高にはいなかったはずだ。ましてや、強襲科には、断言できるほどに決していない。

 

「ゆらぁり、ゆらぁり」

 何かをしゃべっていることはわかったものの、その言葉にはとても意味があるとは思えなかった。よく見ると、両手には凶悪なデザインのナイフ二本が握られており、一目見ただけでも身長や体重とは釣り合わない事がわかる。

「ゆらぁり?」

 と、その少女がこちらを向いて、ようやく分かった。というか、なぜ、今までわからなかったのだろうか。少女、もとい、それどころか男で、しかも年上の、西条四季先輩だった。

 その目は淀んでおり、こちらを見ているのに、自分をまるで見ていないような錯覚を覚えてしまうほどだった。凶悪で身体に吊り合わない大きさのナイフ二本に、淀んだ目、恐らく自分でそうしたであろう武偵高の制服だったズタズタの服。それらと相反するように、アホ毛にはチョウチョが止まっていた。

「あ、あの、先輩、えっとその……」

「ゆらぁり」

 何を話そうか、迷っているうちに、というかものの数秒程度で、西条先輩はこちらから興味をなくしてしまったらしい。

 ――ああ、そうか。先輩はもう私に興味が無いんだ。

 ――だったら、せめて、最後にせめて……

 

「先輩。私と決闘してください」

「ゆらぁり」

 肯定とも否定とも取れない息継ぎだったが、しかし、その顔は笑っていた。決して、後輩に向ける笑顔ではなかったことを除き、もし、これが狩りを楽しむ笑顔だとすれば、満点がもらえる笑顔だった。

 

 

 

 もちろん彼女の勘違いである。と、第三者視点から偉そうに、天の声として弁明しておく。

 今回は、普段とはなり方が多少は違ったとはいえ、例によって西条四季は、狂化していた。狂化すると、ある程度強くないと、あるいは何か彼にとって特別でないと、ほとんど無軌道なのだが、中途半端に強い火野ライカに、決闘を申し込まれ、西条四季は即座に行動を起こした。体育館には、チラホラと人が集まりだしており、周りの目は大いにあった。非推奨行為の決闘を行い際には、暗黙の了解として、目立たないところで行うのがならわしのだが、あろうことか、体育館で始まったのだ。

 更に不幸なことに、チラホラと集まりだした中に、間宮あかりがいなかったのだ。もしいつもどうりに、火野が間宮と一緒にきていればこのような事にはならなかっただろう。もし、もしの話なのだが、もしも間宮あかりが、西条四季に戦兄を出願していれば、教務科は何も言わなかっただろう。間宮あかりは、分家とはいえ、仮にも殺し名の所属だ。引き際は心得させられているし、彼我の戦力差などは、おおよそ一年生全体で見てもトップに立つことはできる。なによりも、西条四季の『狂化』について、ある程度は知らされていた。だから、間宮あかりがこの場にいた場合、真っ先に火野ライカをぶん殴ってでも、気絶させて戦いを終わらせていただろう。

 

 ズドン、とおおよそ刃物の音とは言いがたい音を出して、何かが、体育館の壁をえぐった。それを投げたのは、西条四季でいつも通りなのだが、なんの警告もなしに、いきなり四方手裏剣を火野に向かって投げたのだ。一年生の多くは、その音に驚き、一目散に二階に逃げていったので、これで火野ライカと西条四季は誰に臆することもなく、誰かがじゃまになることもなく、戦うことができる。

 西条四季はもう一本の手裏剣を、投げつけた。予備動作などは、腕を上に上げ、下に振り落としたことぐらいだろう。狙いをつけているようには見えず、たったそれだけの動作であるにもかかわらず、手裏剣は防弾性の壁を安々とえぐりとった。一般に手裏剣の射程距離は7~8メートルと言われているが、明らかに超えている。

 その後も西条四季は、矢継ぎ早に投げナイフ、苦無、手裏剣各種を投げ続けていた。それらすべてを、火野ライカは、紙一重で避け続けていた。そしてこれは、避け続けることができるペースで、西条四季が投げていることにほかならない。

 西条四季に取って戦いとは、神聖なものでも、大切なものでもない。ただ楽しむだけのものでしかないのだ。その楽しみ方にもいろいろあり、強い相手とまじめに戦い楽しむことや、今のように、弱い相手を疲れさせてからズタズタにして楽しむこともある。要するに、火野ライカは西条四季にとって弱いと区分されている。フィジカルの問題ではなく、技術的な問題で弱い。しかし、これは彼女に限った話ではなく、二年生の強襲科の生徒の大半ですら、彼に嬲られて終わる。中には、相手にすらされないことすらあるほどだ。だからといって、今の彼に決闘を申し込むような、愚かなことをする二年生は皆無なのだが。

 

「チッ」

 と、ようやく到着した間宮あかりが、人目も憚らずに舌打ちをした。見る人が見れば、プレイヤーとわかる目をして。

 彼女はすぐに状況を把握し、戦姉である神崎・H・アリアにメールを送った。この学校で、授業中だからメールを見ないなどという、殊勝な学生は摘んだ砂糖をさらに半分にするより少ないだろう。

 そして、自分のやれることはやったといった顔で、二階に避難した。勿論、火野ライカならば、今の彼女なら、簡単に止めることはできるだろうが、そんなことをすれば、西条四季の標的が彼女に移り(明らかにさっき西条四季は彼女を見ていた)、プロのプレイヤー同士の熾烈な殺し合いに発展してしまう。プロのプレイヤーの身体能力は、並みの武偵の比ではなく、伝説の殺し屋に至っては、一般人をなでただけで首がもげたらしい。

「あ、麒麟ちゃん」

「ひっ、あ、間宮さまですの……」

 間宮あかりの表情をみて、島麒麟は目を見張った。人は表情が違うだけで、こうも印象が変わるのかと。

「言っとくけど、本当は助ける気なんてサラサラないし、あんな馬鹿なことするなら死んでくれたほうがいいと思うよ」

 と、冷酷に間宮あかりは告げる。紛うことなきプレイヤーのひとりとして。

「最近、多分あの西条先輩の影響で、私という私がぶれ始めているんだよ」

 冷たい目で、正確に状況を把握していく間宮あかり。彼女の目には、10分もしないうちに、火野ライカがひき肉にされている姿が目に浮かぶ。

「だから、私は友達を見捨てるほど、昔に戻っていない」

 アリア先輩なら、もしかしたら間に合うかもしれない、と間宮あかりは思案する。

 

「ゆらぁり、ゆらぁり」

「――ッ!?」

 決闘が始まって、ここで初めて西条四季は火野ライカに接近した。この時点で、床には投擲具が大量に転がっており、自由に動くことが難しくなっていた。それに加え、火野ライカの体力も大幅に削れており、息が荒く、汗が吹き出していた。

 そこを見計らっての、接近戦。フィジカルで優れている火野ライカであるが、裏を返せば、的が大きいことになりかねない。そもそもCQCを得意とする彼女が、全身に刃物を仕込んでいる西条四季を殴れば、拳が使い物にならなくなるので、相性は最悪と言えた。

 こうなってしまえば、フィジカルの優位点などどこにもない。遠山キンジは、確かに西条四季を殴り飛ばしていたが、それはあくまでも、力の向きの制御に秀でた彼だから出来た至高の業である。イチかバチかでやるには、できないことが多すぎる。

「ぐううううううう!」

 なんとか、致命傷のみは、タクティカルナイフで防ぐものの、西条四季の攻撃は防ぎきれなかった。矮躯に見合わない重厚なナイフによる遠心力、人間の可動域をはるかに超えた関節の柔軟性、洗練されたナイフさばき、どれをとっても、『Cランク』などというものを、はるかに超えた技量である。

(腕が八本に見えた!? いや、それ以上に一撃一撃が重すぎる! 2,3合逸らしただけなのに、腕がしびれて使いものにならない!?)

 何も教えなかったのではなく、自分が何かを教えてもらえるほど強くなかったということを、ひどく痛感する火野ライカ。距離を取ろうにも、後ろに意識を移すだけの、余裕もない。腕のしびれと、目の前の西条四季に意識を向けるので、手一杯である。

 

 

 

 ダンッ、と音がした。その後に腹部に熱い何かを感じた。鋭い痛みが遅れてやってきて、視線を下ろすと、西条先輩がいた。手には、薄い刃が曲線を描いている、芸術的なフォルムのナイフが握られていた。

 そして、私が最後に見たものは、ピンク色の何かだった。

 

 目を覚ますと、知らない天井で、遠山先輩にぶん殴られた。あのあと私は、授業を抜けだしてやってきたアリア先輩に助けられたらしい。腹部の応急処置は、遠山先輩がしてくれたらしい。わざわざ跡が残るように。

「この、大馬鹿野郎!!」

 と言われて、遠山先輩にぶっ飛ばされた(殴られたのとは別に)。周りの先輩方が止めてくださったおかげで、どうにか生きている。

 西条先輩は教務科で、お説教を受けているらしい。アリア先輩、遠山先輩、蘭豹の三連戦でも、ピンピンしていたらしい(スゲエ)。

「よくやった、なんて絶対に言わないわよ」

「……はい」

 私は、この後、教務科に行って、説教を受けることになっている。その前に、アリア先輩の説教が始まった。

「どれだけ、危険で、無謀なことをやったかわかってる?」

「……はい」

 わかっているつもりだった。でも、これっぽっちもわかっていなかった。心の何処かで、躊躇はしてくれるんじゃないかと、高を括っていた。

「死んでもおかしくなかったし、本当なら死んでたのよ。あとで、あかりにお礼を言うことね」

「すみません」

 私は死ぬ覚悟もなければ、西条先輩に殺人の罪を着せる可能性すら、考えなかった。

「もう、泣いても何も始まらないでしょ? 四季はあんなんだから、気にしないでしょうけど」

「すみません」

 もう、聞きたくない。ここから消えたい。

「今回は、楽器の大馬鹿が、目を離す大ヘマをしたのが原因だから、処罰は軽くて済むわ」

「……違います」

 悪いのは、全部私だ。私が、私が……。

「私達も説明しなかったのは、悪かったわ。でも、正気とは思えないわ」

「悪いのは、悪いのは……、全部……」

 私だ。

「そうやって背負い込まない。だれだって、勘違いするわよ。『狂化』があんなのだなんて、誰も思わないわ」

「でも、だって……」

 もう何も言えなかった。弱いと言われて、悔しくって、無鉄砲になって、死ぬのは私だ。でも、牢屋に入るのは、西条先輩だ。そんな簡単な事も、考えず、自暴自棄に突っ込んで、当たり前のように、殺されかけた。

「……もう何も言わなくて、いいようね。じゃあ最後に」

 戦兄妹の契約を切れ、と言われる。そう思ったし、言われて当然だ。

「『契約は切らないからな、大馬鹿野郎』。四季からの伝言よ」

 

 始まりは憧れだった。

 身体の大きな私は、格闘関連の訓練なら、簡単に男子にも勝てた。勝って勝って、CQCなら誰にも負けない自信さえあった。だから、なんとなく、それこそ、拳銃よりもCQCに近いからという理由で、ナイフ術も始めた。そこで、お手本にならない最高峰として、西条先輩の戦いを、ビデオで、初めて見た。

 カッコ良かった。小柄な身体にも関わらず、自身よりもはるかに大きなCQCが得意なAランクの先輩を圧倒し、無傷で圧勝するその姿が、カッコ良かった。

 これでもかと綺麗な軌跡を描くナイフ、遠ざかれば恐ろしい速度で投擲されるナイフ、身体に見合わないナイフを主導権を握ったまま振り回す、どれをとっても、カッコ良かった。自分にないからこそ、憧れた。

 だから、悔しかった。自分が弱いと言われたことよりも、西条先輩の指導力が、自分のせいで、自分の弱さのせいで、低く見られることが悔しくてたまらなかった。




キンチャンサマまじキンチャンサマ。あとあかりを若干強くしすぎたかなと。
あと戦犯は楽器です。なんでほっといたのか。馬鹿だからか。


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第12狂 刀剣競技

気がついたら、お気に入りが90人突破していました。皆さんありがとうございます。
百人突破したら、特別編でも書こうかな(/ω・\)チラッ


『さあ野蛮人共! 刀剣競技最終試合だ、ああああああああああああああ!!!』

 喝采が会場を包んだ。もうオリンピックっツーよりも、地下の賭け試合みたいな感じだな、おい。

『まずはドイツ代表!並み居る豪傑を切り裂いた麗しの美少女! アドルファ・シュミット! かわいい!』

 ピューピューと口笛があちこちから聞こえる。ほんとに可愛いなぁ、いかにも北欧って感じで。金髪蒼眼の小柄な美少女だ。ぶっきらぼうな表情がまたいい。

『さあ、開催国の特権! 内輪揉めのトーナメントを圧倒的な実力で! おおっと、敗戦者からブーイングが来た―!』

 なんなんだ、あの地下闘技場の盛り上げ役みたいな実況の人は……。

 

 

「ねえねえ、皆さん。あの二人が戦ったら百合っぽくないですか? 見た目的に」

「紅梅、お前は三十秒でいいから黙ってろ」

「はっ、この前時代の遺物が! 大晦日ぐらいしか出番ないくせに!」

「はぁ~? 握手券付けないと需要のない業界のくせに!」

 遠山キンジは後悔していた。考えるのもめんどくさくなって、ついでに教務科の思惑なども鬱陶しくなったので、瑠河と白雪の護衛を両方受けたら、この有り様である。もう、この二人は顔を合わせれば罵詈雑言の嵐。あり大抵に言って、凄まじく仲が悪い。なんとなく察知したアリアと四季は、逃げた。いや、逃げたというよりは、我関せずと言わんばかりに、事務的なことしか話さなかった。それだけだったらまだ良かった。まだ、キンジを挟んで、コスプレだの、枕営業だの、脱税だの、スキャンダルだのと、悪口合戦を繰り広げているぶんには、心を無にすればまだ我慢はできたし、仕事と割り切れた。

 しかし、だ。しかし、どうしても気になってしまうことがあった。口を開けば、変なことしか言わない紅梅楽器や、茶化す武藤、苦笑いの不知火、桃まんを食べるアリアもまだ許そう。だが、なんで、そろいもそろって、ここにいるのかがわからない連中がいた。

「なんでお前らここにいるんだよ!」

「「「「「「「ここしか席空いてねえからだよ!!!!」」」」」」」

 四季に負けた、日本の各武偵高の代表選手達だった。男女混合競技なので、男と女が2:1ぐらいの割合でいるが、全員身体のあちこちにガーゼやら絆創膏がはられていた。

「あのチビすけが! 西郷さんを馬鹿にしやがって」

「ハハッ、九州の武偵はんは、やはり何もかもが前時代的どすなぁ」

「ああ、もう世紀単位で時代錯誤している暗器使い(笑)も似たようなもんやき」

「おやおや、うどんしか食わねえから秒殺されるんだぎゃ」

「三重のもんしか食べない蝮が何を言う……」

「大人しく、じゃがいもか牛でも育ててたらどうですか? アイヌ」

「へん、野球やったら阪神が一番や! お笑いも負けてへんで!」

「「「「「「「ああん!?」」」」」」」

 仲悪いな、こいつら。などと、人事のように考える遠山キンジだった。しかし、べつにこの七人が弱いわけではない。四季の実力というよりも、才能が圧倒的すぎただけだ。実際に、四季はかなり真面目に戦っていた。短期戦ばかりだったが、むしろそれは、あの才能の暴力とまで形容される四季が、短期決戦を行わないと勝てない相手、ととったほうが正しい。

「しっかし、チビすけほんとに強かったわ」

「ええ、ほんま、流麗なナイフさばきどした」

 などと、悪態はつきながらも自身の負けは潔く認めている。

 そうこうしている内に、最終試合、アドルファVS四季の試合が始まった。

 

 

『おいおい、互いに苦戦してんじゃねえか! 二人共、十八番の短期決戦はどうしたんだよオイ!』

 勝手なことを言うんじゃねえよ! 試合が始まって、15分が経過していた。俺も最初はソッコーで終わらせようとしていたのに、クソッ、この娘、可愛い顔して強い。今までの連中と比較しても、基礎的な部分が、土台となる基本的な技術が半端無く洗練されている。癖はあるっちゃあるが、今までの連中ほどアクは強くない。

「強いですね……、貴方は」

「……ノー! アイムジャパニーズ! アイムノットスピークイングリッシュ!」

 やべえよやべえよ! 外国人に話しかけられた! うわこええ! しかも日本語で! ん? 日本語? 日本語で話しかけられたよね。いま。

 たん! と音が聞こえたかと思うと、美少女が仕掛けてきた。サーベルで切りかかってきた。

「ッ!?」

「貴方は強い。私と同じぐらい」

 サーベルって今じゃ儀礼用の片刃剣になっているが、昔は世界中で尉官を示す軍刀として使われていた。要するに、合理的な剣なんだ。たぶん! しかし妙だな、あんなに耐久性のある武器だっけ、サーベルって?

「日本語上手だね」

「頑張って覚えました」

 意識たけえなオイ。多分開催地が日本だったから、日本語覚えたんだろーな。

「るろうに剣心面白いです」

「漫画かよ!」

 がっかりだよ! がっかりだよ! 意識高くて勉強頑張る武偵かと思ったら、漫画読みたくて日本語覚えた外国人で、がっかりだよ!

「しかし、がっかりです。忍者も侍もいないなんて。ほんとに日本ですか?」

「お前はほんとにるろうに剣心を読んだのか!?」

「京都編で終わっとけばよかったんですよ。北海道編やらないとか、ないですよ」

「妙に詳しいな!」

 うわー、なんか、牙突の構えしてるよ。まじかよ、馬鹿じゃねえの? うわー株大崩落だわ―。

 

 

「強えな。あの女」

 鹿児島代表の別府義一がボソリとつぶやいた。

 確かに、アドルファは強い。巫山戯たような構えをしているが、観客席からだと、余裕があるようにしか見えない。いや、実際に余裕が有るのだろう。

 がやがやと、後ろのほうで敗戦者たちが話し始めた。この試合を己の糧にするために。

「キンちゃん、ちょっとお花を摘みに行ってくるね」

「アリア、瑠河を少し頼む」

「糸使いなさいよ」

「た・の・む」

 キンジの気迫に気圧されたアリアは、いやいやながらも、ぐったりした顔をしながらも、瑠河の隣りに座った。

「ねえ、聞いてくださいよ。あの脱税者、この名試合を見ないって、しかもキンジにまでみせないなんて。武偵としてどう思います?」

「ええ、まあ、そうね」

 これだ。めんどくさい。表立って悪口も言うし、陰口も辞さない。どれだけ仲が悪いのかわかったものじゃない。

 そうして、会場で激戦が繰り広げられながらも、試合は続いていった。

 

 

 

 

「--ズタズタに」

 

 

敗戦者紹介コーナー

 

名前:別府義一

性別:男

武偵ランク:A(強襲科)

所属:鹿児島武偵高等学校二年

獲物:野太刀

試合内容:試合前に西郷隆盛を尊敬していると四季に言ったら、西郷隆盛を馬鹿にされ、キレて、冷静さを欠いたまま試合にて、腹部を刺され敗北。

 

名前:神足梅

性別:女

武偵ランク:A(諜報科)

所属:京都武偵高等学校二年

獲物:暗器全般

試合内容:暗器の収納性、隠密性を重視した結果、強度が脆弱な点を突かれ、暗器すべてを破壊され、降参。方言はキャラ付け。

 

名前:國方賢

性別:男

武偵ランク:A(強襲科)

所属:高松武偵高等学校二年

獲物:アンカライトナイフ

試合内容:特に何もなく瞬殺。強いて言えば、場外敗北。

 

名前:天城矛

性別:男

武偵ランク:A

所属:名古屋男子武偵高等学校二年

獲物:ジャグリングナイフ

試合内容:ジャグリングナイフを奪われ、降参。愛知は曲芸師養成学校でもやっているのだろうか。

 

名前:白府浩司

性別:男

武偵ランク:A(強襲科)

所属:札幌武偵高等学校二年

獲物:鎖鎌

試合内容:別にアイヌ人ではない。9分間ねばるも、体力切れを突かれ敗北。

 

名前:衣笠白鷺

性別:女

武偵ランク:A(強襲科)

所属:神戸女子武偵高等学校二年

獲物:軍刀

試合内容:手数の多さと、圧倒的な刃物の量に、為す術なく敗北。四季に一番多くの武器を使わせた。

 

名前:大植緑

性別:女

武偵ランク:A

所属:大阪武偵高等学校

獲物:薙刀

試合内容:開始二分までは優位にたつも、調子に乗って場外に間違えて飛び出てしまい、敗北。




書くことが多分ないと思うので、書いておくと、伊・ウーの予言能力持ちは全身全霊で、赤き制裁を居場所を予言して避けています。



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第13狂 魔剣

 コハエース欲しい(唐突)。以下愚痴です。
 グランドオーダーで一体も星四以上のサーヴァントが手に入っていません。一回の十連ガチャで三体セラ&リズが出てきた時には、やめてやると思いました。清姫ちゃんいなかったらやめてましたよ。なんだよ、三回も十連ガチャしたのに、単発でガチャ回した時のほうが、サーヴァント出てるって。初日からやってるのに。概念偽装で使えそうなのが、カレイドスコープぐらいってのも大問題な気がしてしかたないですよ。
蝉やらアタランテ姐さんや金ピカが実装されるまで、ガチャ引くのやめようかな(無理)


「……」

 遠山キンジはトイレの前で、あやとりをしながら待っていた。この前、ドラえもんののび太が作っていた『ギャラクシー』というものをつくろうとしているのだが、なかなかどうしてうまくいかないものだ。と思いながら、10分は過ぎていることに気がつく。まあ、女性の身支度だなんて、こんなものだろう、と済ませようとした時、アリアから電話がかかってきた。音使いの彼だから分かる程度だが、電話帳に入っているすべての番号の着信には、微妙に音が違うように登録してあるので、音だけで分かった。わざわざ、電話を出すのも面倒なので、糸をつないで、電話に出る彼だが、怒鳴り声がまっさきに聞こえてきた。

「キンジ! 今あんたどこにいるの!?」

「どこって、白雪がまだトイレから、出てこないから……」

「四季が逃げ出したわ! 多分、狂化して! 爆弾魔が、ああもう! 速く来なさい! 速く!」

 ブツッ、と一方的に電話を切られ、頭痛で頭を抱えた。恐れていたことがおこってしまった、と。しかし、妙なことに、狂化の後に続いた言葉は、爆弾魔、という結構最近きいた単語だった。というか、最近被害にあった。四季が、逃げ出したとなると、下手をすると一年の時の悪夢の再来になりかねない。あの依存夫婦は、帰りの便が、ストライキだかなんだかで乗れなくなり、まだ帰ってきていない。対応、というよりも、探し出せる方法は、人海戦術か自分の曲絃糸ぐらいで、前者は犠牲覚悟、マスメディアやら国内外の武偵高が来ていることを考えると、やはり、自分が行くしかないと、頭痛を理屈でねじ伏せた。

「おい、白雪、四季が逃げたから、先に会場戻っているぞ!」

 答えはなかったが、そんなもんだろう、と割り切りすぐに会場に走っていった。

 

 

「だれだこいつ」

「爆弾魔よ、それよりも四季が!」

 会場にたどり着くと、全身に刀傷をおい、カジュアルだったであろう服が、古着屋で500円ぐらいで売られていそうな、赤一色(ところどころ茶色くなっているが)のぼろっぼろの布を着た男が、入口近くで紅梅から治療を受けていた。

 目を競技場に向けると、大勢の大人に抑えられながら主審に、ドイツ語で何かを叫んでいるアドルファが映った。

「あんの、チビすけが、この爆弾魔にどういうわけか気づいて、ジャンプしてここまで来たかと思うたら、切りつけたんや」

「ああ、えーと、……鹿児島代表、ジャンプじゃねえよ。コンクリートの壁に、ナイフを何本か突き刺して、足場を作って登ってきたんだよ」

「今はそんなことよりも四季の行方よ!?」

 パニック状態のアリアの言動に、頭痛がもう一度してきた。どんだけ親友が好きなんだこいつ。などと思いながらも、学校の敷地全体を覆える糸を展開し始めるキンジ。あの全身刃物に触れれば、糸が人間の形をして切れるので、探すのにはかなり楽なはずだった。

 ……はずだったのだ。

「どこにもいねえ」

 敷地は勿論建物の中まで、隅々と調べ上げた結果、四季らしき人間はどこにもいなかった。狂化したならば、あのごっついナイフを両手に持っているはずなのだが、それどころか、ナイフを両手に持った人間すらいなかった。

「まさか、人口浮島からもうでたんじゃ……」

「いや、もしそうだとしたら、出入口にいる警備員から何らかの連絡が、教務科に届くはずだ」

 そして、見つからなかったからこそ、キンジにはどこにいるのかが見当がついた。

 学校の敷地、すなわち人口浮島すべての上部は調べた。ならば、調べていない箇所は一箇所だけ。

 それはすなわち

「『地下倉庫(ジャンクション)』か」

 アリアの行動は早かった。すぐに、一番近くの地下倉庫へと続く地下道に向かって走りだし、そしてキンジに首根っこをつかまれ、一本背負いの容量で地面にたたきつけられた。

「みぎゃ!?」

「落ち着け」

 犬に待てというようなイントネーションで、落ち着けと言い放つキンジ。今のアリアは親友のこととあって、完全に冷静さを欠いている。いつもの状態ならば、地下倉庫での発砲は抑えるはずだが、この状態だとそれさえ怪しい。そもそも、いつもの状態ならば、武偵一本背負い(一本背負いだといえば一本背負いになる)が決められるはずがない。逆にキンジが地面にたたきつけられていたはずだ。

「地下倉庫は、広い。索敵能力の高い俺が行く」

「キンジさーん、アリアちゃ……さん、地面にたたきつけられて気を失っていますよー」

「……」

 力加減を間違えた。と、思いつつ、ごまかすためにそっぽを向く。気を失うほうが悪い、いや、でも女に手を出す自分ってどうなんだ? でもあのままだったら、人口浮島ごと吹っ飛んでいたかもしれないし……。などと言い訳と後悔が、交互に錯綜し、また頭痛がしてきたキンジだった。

「あのー、いいところわるいんやけど、あてらはなにかすることがあるんどすか?」

「自分で考えろ、武偵だろうが」

「いや、ここはよその土地だぎゃ。下手に動いて、こっちの連中の連携を滞らせかねんのだぎゃ」

 たしかにそのとおりだ。だが、座っていろと言って座っている奴らじゃないことぐらい見ればわかる。いろいろと、考えている内に、めんどくさくなってきたキンジは、全てを一気に解決する素晴らしい案を思いついた。

「ぶん殴って気絶させればいいじゃん」

「患者増やすのやめてくださいよ、本気で……」

 もう色々と吹っ切れた。同業者なんだ、厳しくして強くなっていくことを願おう。などと、殴って気絶させた七人を見ながら思った。これから、ただでさえ味方に容赦のなかったキンジが、更に容赦無くなったのは言うまでもない。

 

 

 

「あ、……え? し、四季くん……?」

 物音がした。確認をすると西条四季がいて、切りつけられた。これが『地下倉庫』で星枷白雪が確認できた事柄だった。

「ゆでらぁり」

 『魔剣(デュランダル)』に呼び出され、地下倉庫の最深部に来ていた星枷白雪は、暗闇の中で、四季を見つけた時助けが来た、と思った。キンジを、ひいてはみんなを守るために、傷つく可能性から守るために、『魔剣』の呼び出しに応じ、トイレから逃げ出した白雪だった。

 別に、彼女の助けが来た、という発想そのものは、ごくごく自然なものだ。四季の狂化についても、秘密主義色の強いのSSRの生徒は、殆ど知らない。そして、トイレの付き添いには、キンジがいた。さすがに混んでもいないトイレから、10分も出てこなければ、不思議に思いトイレを調べ、探しに来るはず、と踏んでいた。だから、警戒が、背後に対する警戒が、四季に対する警戒が、狂戦士に対して無防備になることは、ごくごく自然なことだった。

「な、んで……?」

「ゆらぁり、ゆらぁり」

 背中の激痛に耐えながら、距離を取ろうとするが、目の前には『魔剣』が呆然と立ち尽くしている。もし、前に逃げる際に運悪く正気に戻られでもすれば、そのままさらわれてしまうかも知れない。

「ズタズタに」

 そして、考えがまとまらない内に、狂気が彼女を襲った。

 

 

「……初めまして」

 呆然とありえない状況に立ち尽くすしかない『魔剣(デュランダル)』ことジャンヌ・ダルク30世は、丁寧にも挨拶をする狂戦士(バーサーカー)に唖然とする。

「ええっとぉ……魔法……なんだっけぇ? まあいっか……モリアーティちゃん、です……」

 違う。絶対に違う。間違っても違う。イ・ウーにも、戦闘狂(ガンモンガ―)は何人もいた、魔女なんて腐るほどいた、呪い嫌いの怪盗もいれば、吸血鬼やら人狼などといった異形もいた。だが、こんな奴は初めてだった。味方を攻撃とか、そういう次元じゃない。はっきりと異形だとわかれば、異形の遺伝子を持っているとわかれば、ここまで恐れることではない。しかし、ちがう、こいつは人間が人間のまま狂しくなっているんだと、強烈に認識させられた。

「そのぉ……ええっとぉ、剣? 下さぁい」

「……なんだ、お前は仲間を売り渡せば、私が聖剣をやると思ったのか……?」

 絞りだすように、ありえない要求に答えるジャンヌ。だが、狂戦士の反応といえば、不思議そうな顔をして顔をかしげるという、普通だったら可愛らしい反応だった。

「いいえ……、ええっと……なんとなく……?」

 その仲間を攻撃するどころか、攻撃する理由にすらならない回答を聞いて、ジャンヌは、やっぱりか、と思った。むしろ、まっとうな理由が帰ってきたほうが驚いただろう。

 イ・ウーには、狂っている連中が数多くいる。それこそ零崎ではない自称殺人鬼や、剣士、義賊まで、数多くいる。しかし、彼らは、高潔ではないにしろ、卑怯でありはしても、味方は刺さない。ヴラドやパトラ、トランプのように自尊心が強く、味方を馬鹿に(特に理子イジメが酷かった)する連中もいるが、味方と認識したものは刺さなかった。

 しかし、こいつは違う。こいつは、狂戦士は、味方を余裕で刺す。イ・ウー指折りの策士のジャンヌ・ダルク30世は、奇しくも彼の母親に対して伝説の殺し屋と同じように評した。

「……ええっとぉ、ではぁ……ズタズタになっ」

 ゆらぁり

「てぇ……、……その剣をぉ……く」

 ゆらぁり

「ださい」

 ゆらぁり、と変なタイミングで息継ぎをする矮躯の狂戦士に冷や汗を掻きつつも、『ラ・ピュセルの枷』で拘束を試みる。

「ゆらぁり」

 ダンッ、と音がしたかと思うと、驚くことに5m以上はあった距離を、ジャンプして切りかかってきた。既のところで、避けるも、その異常な身体能力に、目を見張るジャンヌ。

(超能力か!? いや、だったら現れた時点でわかるはずだ! こいつ、まさか素の身体能力なのか!?)

 イ・ウーにも、プロのプレイヤーは、それなりにはいる。ジャンヌが、身体能力、技術で、彼らに大きく劣っているわけではない。しかし、実力如何以前に、こいつとは、この狂戦士とは、戦いたくないと、反射的に思ってしまう。思わされてしまう。

 人体構造上、人体力学上、物理学上、ありえない動きなど、異形の存在を知るジャンヌからしてみれば、そこまで恐ろしいものではない。恐ろしいのは、この狂戦士が、なんとなく聖剣に突っ込んできて、そのまま自分が大怪我を負ったとしても、斬りかかって、否、ズタズタにしに来るであろう、そのメンタルが恐ろしい。覚悟でもなければ、無限回復があるわけでもない。ましてや機械のように冷血なわけでもない。覚悟があるなら、理屈が通るなら、機械のように冷徹であるなら、どれほど救われたことか。自分の剣技を物ともしないなら、それこそチートと呼ばれるぐらい強ければ、どれほど楽だったか。

 だけど、こいつは違う。覚悟もなければ、無限回復もない。感情があれば、対策が取れないほど強くもない。ただただ、そのメンタルが狂っているだけなのだ。

 たったそれだけで、イ・ウーが、武偵が、殺人鬼が、策士が、世界が、持て余す『現象』。それがこの狂戦士だ。

 覚悟ならくじけばいい、無限回復なら殺し続ければいい、冷徹なら温めればいい、チートならルールを破ればいい、最強なら会わなければいい。

 だが、こいつは、どうしようもない。ほっとくにしては危険すぎる。だからといって観測できたものじゃない。干渉しようものなら危険度が増すだけ。どうしようもない。

 そして、何時もどうり狂戦士は、どうしようもなかった。

 

 

「すぅー、すぅー」

「なんだ、こいつは……」

 わなわなと、身体が震える。声が怒りと悲しみのあまり震える。狂戦士は、寝た。戦いの最中で、糸が切れたように寝た。とても気持ちよさそうな寝顔で、いい夢でも見ているような顔で、やすらかに眠っている。

 どうしようもない。どうすることもできない。こいつにとって、デュランダルは、眠気以下の存在だったのか、と怒りを通り越して、同情のあまり悲しくさえなってくる。

「なんなんだお前は……」

 モリアーティと名乗ったこの狂戦士は、強い。狂っていてなお、鍛錬の末の技術が多く垣間見れた。間違いなく、こいつは強い。それも鍛錬による、強さだ。

「なんなんだお前は……!」

 決して才能任せではない、努力で実を結んだ強さだ。

「なんなんだ! お前は!」

 わけがわからない。狂っているなら、いつ努力した。狂っているなら、なぜ今まで生きてこれた。狂っているなら、狂っているなら……。答えは簡単だ、狂っている時と狂っていない時で、分かれているだけなんだ。

 努力は嘘をつかない。まさにその言葉のとおりだ。狂っていてなお、この狂戦士は技術を持っていた。

 じゃあ、なぜ、なぜ……!

「なぜ私の時に狂っていた!!」

 狂っていない時に、戦いたかった。もしそうだったなら、お互いの技術を高めあえただろう。是が非でも、イ・ウーに連れて帰っただろう。だが、あんなものを魅せつけられた今は、手が届かない。恐ろしさのあまり、近づくこともできない。

「なんなんだ……、お前は……」

「西条四季。俺の友達だ」

 声がした。暗い地下で、人気のない地下で、鉄仮面をつけた学生服姿の男がいた。

「やっぱ、白雪が一番被害にあってるな」

 忘れていた。そういえば、星枷白雪を回収しに来たのだった。もしかしたら、出血多量かショックで死んでいるかもしれない。まあ、いいか。いまはそんなことどうでもいい気分だ。

「おい、そこをどけ。今の私は、気が立っているのだ」

「いやだね、お前を捕まえねえと、親友が親友が騒いでる小学生が更に煩くなるんでね」

 

 じゃあ、死ね。誰かが言った。




 ジャンヌの四季の評価と死亡フラグがマッハ。
 ジャンヌの言っている通り、四季は対策さえ取れば、そこまで恐ろしくはありません。
 レキが直接出てきていないのも、四季が苦手意識を持っているので、会おうとしていないだけです。
 ただし、刃物に関しては、天性の才能があるので、暴走さえしなければ、イ・ウーが勧誘していました。零崎に手を出すことになるので、本当にするかは、微妙ですけどね。


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第14狂 俺は拳士だ

fate/Ground Order悲喜こもごも
理子「ええい! ヴラドはいい!!(ドンッ」
アリア「お曽祖父様をだせ! お曽祖父様を!!(ドンッ」
レキ「ご先祖様が痴女!?(バタリ」
白雪「医者ーーーーッ!?」

ジャンヌ「つらいわー、大当たり過ぎてつらいわー」
キンジ「エクスカリバーってビーム撃てたのか」


「チイぃ!」

 埒があかない。という諺なのか慣用句なのかは知らないが、埒があかないという言葉が日本にはある。そして、今の状況はまさに、それだった。

 ジャンヌ・ダルク30世の攻撃が、斬撃が、一切として通らなかったのだ。超能力も使えないことはないが、精神的な混乱が大きく、暴発の危険性を孕んでしまうため、どうしても奥の手になってしまう。そしてその奥の手を使う状況にすら、相手は持って行かせなかった。

 強い。おそらく万全の状態の自分よりも、圧倒的とまでは行かないが、相当に強い。逃げ道もいくつか確保してはあるが、恐らく塞がれている。恐らくというよりも確実に、だ。張ってあったはずの糸が、先程から一切見当たらないことを考えると、高位の糸使いだと推測できる。ならば、逃げ道には、エゲツナイ罠が仕掛けられている可能性がかなり高い。いや、自分だったらまずそうする。となると、正面突破しか、逃げ道がないことになる。

「……」

 しかし無口な男だ。と、苛立ちながら、息を整えるために、間を開いてから思う。先程から、一切喋らない。その鉄仮面と合わさって、薄暗い地下にはぴったりだった。

「はぁはぁ……」

 そして、自分よりも数段階上の実力を持っている目の前の鉄仮面と、未だに戦えているのは、この男の拳が、それほど重くないからだと、冷静に状況を整理する。十数発ほど、殴られたが、致命的なほどの強さはない。プロボクサーというよりも、それこそ拳法家の拳だった。

 それに対して一撃、そう、まさしく一撃さえ入れられれば、『聖剣(デュランダル)』は、鉄仮面の男を撃破するだろう。その一撃がどうしても入れられないのだが。

 一撃があまりにも遠い。

「貴様の名前はなんというのだ」

「……」

「『無口な心は怠け者』という言葉が、この国にあるらしいではないか。少しは喋ったらどうだ?」

「……」

 本当に喋らない男だ。と再認識した。一撃、そう一撃なのだ。一撃さえ入れば、目の前の鉄仮面を撃破できる。相手の拳は軽い、あと数発を喰らう覚悟さえすれば、一撃は入れれる。

 

 

「埒があかないな」

 

 

 と、最後の会話と言っていいのかは分からないが、最後の会話から、しばらく立って、沈黙を貫いてきた鉄仮面の男が言った。

「こんなスリリングな削り合いかわし合いに、なんの意味がある? なあ、『魔剣《デュランダル》』」

「……なんだ、話し合う気になったか?」

 ふと、鉄仮面の男の後ろで気絶している星枷白雪のことを考えると、なるほど、死ぬな。時間的に、私にかまっていたら、確実に死ぬな。

「まあ、そういうわけだ。こっちも急いでいるんだ」

「わたしが、はいそうですか、といって投降するとおもうか?」

「いいや。だから、打っていいぞ」

 なに? と顔に出たかもしれないが、今はそんなことはどうでもいい。どうでもいい気分だ。鉄仮面の男が言いたいことは、なとなく察しがついたが、しかし、それは……。

「『魔剣(オマエ)』の一撃必殺を、打っていいぞ。俺はそれを避けない」

 勝負を焦ったという見方もできる。実際に、焦る理由が鉄仮面の男の後ろに転がっている。もしかしたら、四季とかいう狂戦士が目覚めるのを恐れたのかもしれない。しかし、それでも解せない。なぜ、これだけ戦っている中で、鉄仮面の男の応援が来ないこともそうだが、なぜこのタイミングなのかが、解せない。

「なに、オマエみたいな、騎士道やら武士道を貫こうとする奴は、実力で圧倒するよりも、心を折ったほうが早いんだよ」

 心を読んだかのように、疑問に答えるようにしゃべる鉄仮面の男。舐めるな、と思った。軽く見るなとも思った。『聖剣《デュランダル》』はそこまで軽くない。

「いいだろう、貴様の申し出、受けて立とう」

 そして打ち破る。

 

 

 

 ジャンヌ・ダルク30世は勢い良く鉄仮面の男――遠山キンジ――に突っ込んだ。

 ジャンヌ・ダルク30世は『聖剣《デュランダル》』を振りかぶった。

 ジャンヌ・ダルク30世は『聖剣《デュランダル》』を振り下ろした。

 

 

 

 速度も、威力も、申し分なかった。満足の行く人達を、鉄仮面に叩き込んだ。

 叩き込んだはずだったのだ。

「……あ、あ」

 言葉が出てこない。声が震える。人体を一刀両断する勢いで、振り下ろしたにも関わらず、一刀両断どころか、鉄仮面に僅かな切れ込みを入れたに過ぎなかった。

「別に俺の策じゃねえんだが、なるほど、うれしくないな(・・・・・・・)

 鉄仮面の男は、なにかをポツリと呟いた。何を言っているのかは、わからない、聞き取れない。

「では、続きまして。――俺の(・・)一撃必殺をお見舞い(・・・・・・・・・)させていただこう(・・・・・・・・)

 

 

「……」

 遠山キンジを沈黙していた。『魔剣』は、死亡の定義にもよるが、死んでいた。俗にいう、心臓死というやつだ。脳死まではしていないので、早急に心肺蘇生しなければ、本当に9条破りになってしまう。そのために、心を落ち着かせていた。いつもなら、簡単なはずの作業だが、昔、というほど昔でもない、一年ほど前に彼の師匠が語った、二度と行いたくない勝ち方をしてしまい、心が落ち着かない。

 別に、殴りあっていれば、そのうち普通に勝っていただろう。ただ、なんとなく、状況が師匠の語っていた内容に似ていたから、決して言葉数の多い師匠ではなかった、それどころか数えるほどしか喋らなかった師匠が、珍しく多弁になっていた状況と、似ていたから、試してみたくなった。それだけだった。

 しかし、思いの外気分の悪くなる勝ち方だった。絶対的な相性のもとで、絶対的な地の利を活かし、そして奸計でもっての勝利。

 なるほど、多弁にもなるわけだ。

 キンジのやったことは、ただ力任せにぶん殴るだけの『俺的必殺・問答無用拳』と言われる一撃必殺技だ。ひどい名前だが、これも師匠の数少ない言葉だった。だから、変えるつもりはない。

 ギュムギュムと、いつもなら、蹴り飛ばして蘇生だしているところだが、今は念を押して、丁寧に心臓マッサージを、足で踏みつけて行っている。

「――こんなものか」

 心臓が、またなり始めた。呼吸の音もする。正直、失敗する公算もあったのだが、なかなかに強運の持ち主らしい。

 そして、必要最低限に、『魔剣』を拘束し、後ろを振り返る遠山キンジ。

「アリア。いるんなら、出てきて、白雪とお前の親友を上に運んだらどうだ」

「いつから、気づいてたの?」

 最初から、となんとなしに答える遠山キンジに、苦笑いをするしかないアリア。詮索するつもりはなかったが、交渉に入っていたので、身を隠したら、これだ。

「あんたねえ、別に怪物とか妖怪じみてるのは別にいいんだけど」

「生き返るんだから、いいだろうが」

 反論は許さない、そんな口調でアリアを見ずに告げるキンジ。たしかに、9条破りではあるものの、確実に生き返るのならば、警察に送り届けるときに生きているのならば、9条は実質的には破ったことにはならない。

「まあいいわ。でも、そんなのに頼りきってると、いつか、ぼろが出るわよ」

「……」

 だんまりか、と肩を浮かせるアリア。そのあと四季を担ぎ、若干雑に白雪を抱えて、地上に向かうアリア。

 往々にして、武偵は、捕まえた人が受け渡す習わしがある。これは法整備が進みきっていなかった頃に、横取りを防ぐためのものが残っているだけなのだが、一種の礼儀作法のような形で残っている。

 そして、残ったキンジは、未だ気を失っている『魔剣(デュランダル)』に向かって、消え入るような声で、しかし明瞭に言った。

 

「俺は拳士だ」




 雀の竹取り山のオマージュです。早い話がパクりです。
 ちなみにキンジは師匠に勝てません。どうしても手加減してしまうのもありますが、普通に全力でも負けます。あと、師匠だけは、変装していても見抜けます。

 もうすぐ受験なんで更新したら、現実逃避だと思ってください。そして感想で勉強しろと言ってください(妖怪感想くれ


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第15狂 その後の厄介事

 投稿したら、現実逃避だといったな。
 あれは本当だ。

 いや、始まりましたね。緋弾のアリアAA。キンちゃん様人気に納得の南瓜お化けです。いや、ニコ動でキンちゃん様が出た途端に、呪いの男とか、まだ心臓を止めたら死んだ頃のキンジとか流れた時は笑いましたよ。地方民には、ニコ動のアニメ配信は命の架け橋ですよ。本当に。
 そしてNOUMINと比べられる志乃。仕方ないね、燕返しだもん。

 ちゃんと勉強はしているんだろうなですって?
 大丈夫、艦これで聖杯戦争したら面白いんじゃね、と思いついて設定だけ作って飽きたところです。つまり、ぜんぜん大丈夫な精神状態じゃありません。さあ、感想を下さい(感想乞食感)

 では、どうぞ


「祝賀会だぁーーー!!!」

「「Fuooooooo!!!」」

「飲めや食えや!!!」

「「Fuoooooooooo!!!」」

「金ならある!!!」

「ごっつあんです!!!」

「イエ―!」

 乗ってくれたの武藤と瑠河だけだったよ!!!

 今回は目が覚めたら本気で見知らぬ天井で、その後すぐに授賞式だったから焦ったよ! 刀剣競技(ソードスキル)準優勝をとって賞金でウハウハなのに、なんだよ! 不知火は苦笑いで乾杯の音頭とってるし、キンジはネクラな顔をさらに根暗にして睨んでるし、アリアは苦笑いだし、後輩諸君はキョドってるし! やっぱ武藤と瑠河ってノリいいわ! カラオケ誘おう!

 なんか白雪は拉致られたらしく、キンジが颯爽と救い犯人と一緒に事情を聞かれているらしい(アリアが言ってた)。

 ちなみに祝賀会の会場は、ロキシーとかいうファミレスだ。ファミレスなんてドリンクバーあればだいたい何処も一緒だろと言ったら、後輩からブーイング食らった。

 

「そういやアリアー。あのアドルファが授賞式のあと掴みかかってきてなんか言っていたけど、あれなんて言ってたの?」

「ああ、あれね……。あれは――」

 

 

 時はさかのぼって授賞式の直後になるが、ひと目につかない、といえば語弊になってしまう。なぜならそこには、多くの受賞者がいる控室だったのだから。とにかく、控室でアドルファが掴みかかってきた。ドイツ語で何かを叫びながら。勿論周りは、アドルファを引き剥がそうとするが、なかなか引き剥がせない。だんだん泣きながら叫ぶアドルファに周りもうろたえ始めて、お前が何とかしろという視線を送ってきた。無茶言うな、こっちは英語だって怪しいんだ。ドイツ語なんてわかりゃしない。そう思っていると、泣いたら落ち着いたのか、腕を離し控室から出て行くアドルファ。こちらに背を向けた時、周りのことを忘れていたのか、大きな声で、ドイツ語で言い放った。

「――Weiter win!!!」

 

 

「なんて言うのかしらね。そう、『なんで私なんだ。お前のほうが武偵として正しかった。私じゃなくてお前が一番高いところにたつべきだった』みたいなことを、メチャクチャに言っていたわ」

「へー、何言ってんだろうね」

 本気で何言ってんだろ。もしかして、狂化でもして、なんか変なことでもしたのかな。いやいや、そんなはずない。そうしんじたい。だって狂化したら、たぶんだけど、準優勝だなんて成績もらえなかっただろうし、キンジに授賞式終わったあとボコられるはずなんだから。となると、なんだ? なんで、そんな事言ったんだ、あの美少女は?

「あと、最後の言葉なんだけど……」

「なに? ドイツ語のファックみたいな言葉だったの?」

「『次は勝つ』だって。今のうちに寝首でも洗っといたら?」

「いみわかんねー」

 俺に勝ったから、優勝したんじゃん。負けた時のこと覚えてないけど、どーせ、集中力途切れてぶっ飛ばされて気絶したんでしょ? だったら根負けしただけじゃん。うーん、スタミナもそうだけど、ナイフ一本一本に対する技術の向上、あとは集中力、これが当面の課題かなー?

 しかし、ファミレスって美味しいな~。子供の頃なんて、給食とオバサンがコンビニ定員に頭下げて貰ってきた賞味期限の大々的に切れたコンビニ弁当ばっかだったし。オバサンは毎回スパゲッティとかのパスタ系ばっかだったけど、あれなんで何だろ。

 

 

 その日のことを俺は、一生後悔する。一回戦で、適当に負けときゃよかったと。

 

 

 

「四季はん、あてと手合わせを!」

「ぎゃー!」

「四季! ぜひ俺と!」

「ぎゃー!」

「いやいや、私とですよねえ?」

「ぎゃー!」

「こんな有象無象なんかよりも私とだ!」

「お前は本当になんで日本にいるんだよ!?」

「先輩! ぜひ指導お願いします!」

「おい火野! この転校生(・・・)たちみてよくそんなこと言えるな!?」

「はやく先輩に認められたいんです!」

 クソ! なんでだ! 別府に神足、國方やら天城、白府、衣笠、大植、極め付きはアドルファまでもが、この東京武偵高に転入してきた。別府と神足は毎日絡んでくるし、クラスは一緒で昼休みはつけてくるし、アドルファはもっと酷いし、衣笠はめんどくさいし! 何だこいつら!

「だいたい神足! オマエ諜報科だろうが! 選手名簿見たぞ」

「Aランクとりましたんで、Sランク目指すために強襲科へ転科したまでやで」

「それにオマエ、京都府は京都府でも兵庫のほうが近い京都出身じゃねえか! あそこ方言結構違うはずだぞ!」

「キャラ付けや」

 言い切りやがった! こいつ言い切りやがった! こいつら来ちゃったせいで、ここに苦情の電話が殺到したんだぞ! 虎の子を取られたとか何とかで!

 たしかに、こいつらの言い分である『テッペンで威張っているよりもたとえ底辺でも目標が近くにいる方がいい』は、たしかにそのとおりなんだけど、だからってこんな大々的に行うなよ! 準優勝したのに怒られたんだぞ、なんだよこの理不尽。

 火野は火野であの一件以来熱心に教えを請うようになってきやがって! めんどくさいんだよ!

「やだやだー! 俺はノルマ達成したら、この前買ったクロスボウの練習するんだ―」

「しらねえよ!」

「知らへんわ」

「そんなことよりも私と戦え! そして負けろ!」

「うわー人の都合聞いていねえやこの脳筋共」

 えー、昨日、アリアとマリカー十時間耐久レースして眠いんだけど。なんか、部屋にいた楽器がパシャパシャ写真をとってたけど、なんか珍しいもんでもあったのかな。

「えー、じゃあ、TSUBAME返し見せてくれたら考えてあげる」

「志乃ぉーーーーー!!!」

 えまじで? キシュア・ゼルレッチみれんの?

 

「ギャハハハは!! んだよ、その鞘なし居合い抜き!」

「おまんさん、居合を馬鹿にしとるんか?」

「……話にもならんわ」

「……っ!?」

 腹痛い! すっげー! あんな馬鹿初めて見た! 燕返しって言うから期待したけど、腹筋殺しじゃん! 片腹いてえ!

「こ、これは……!」

「速いのは分かったけど、居合い抜きの利点ほとんど潰してんじゃん。馬鹿なの? 馬鹿なのか」

 ひぃ、ひぃと言いながら、なんとか、言ってやる俺。捜査科の一年の佐々木とかいう、夾竹桃にうたれてた馬鹿だけどイジメてやる。

「居合い抜きっていうのは、速いんじゃなくて早いんだよ。鞘を抜いて切る態勢作って切るのを、鞘を抜いて切るに短縮してるから、武術として成り立ってんだよ。馬鹿なの?」

「いえ、ですからこれは……!」

「大体! 速さを求めんなら、重力を味方につけた縦斬りの方がどうやったって早いじゃん!」

「!? !?」

 口をパクパクさせて、火野を見る佐々木。まあ、たしかにあの速度での抜刀術は確かに妙技だし、どぉーこか極めきってないような気もするけど、やっぱり矛盾している。そもそも、抜刀術の利点って刃渡りを知られないことや奇襲にすぐに対応できることだって言われてるから、鞘を捨てるなんて自殺行為も甚だしい。だいたい、居合い抜きとか抜刀術が早い速い言われてるのは、鞘に収まっている時と抜いた時の速度の差で錯覚が起きるから、ものすごく速く感じるものだし。つーか、鞘捨てるの明らかにタイムロスだろ。

「あ、あの先輩、志乃がショックで……」

「まあ、初見殺しではあるのは評価するけど。そもそもどうやって軌道つけてんのさ。抜刀術が摩擦を生じる最大の理由って、軌道をつけるためだよね」

 質問に答えずにふらふらと強襲科体育館から出て行く志乃。ちぇー、答えたら答えたで、いじめるつもりだったのに。つーか、あいつ、地味に『鍵』開けれてたな。佐々木なんて家聞いたこともないけど、弱小分家かなにかなのかな? うーん違うか。だとしたら、あれを速いと認識するのもされるのもしかたないか。

「そうだー、ライカー。明日キンジたちと一緒に買い物行くんだけど、いっしょに行くー?」

「え、あの、その日はちょっと用事が……」

「刃物買ってあげるよ。ちょうど宝くじ当たったし」

 なーんか変な目で見られてんだけど。当たったつっても、10万ぐらいだから大したことないんだけど。

「いえ、その、ありがたいんですが、麒麟と約束してて……」

「瑠河も来るけど」

「麒麟も連れてっていいですか?」

 どんだけアイドル好きなんだよこいつ。馬鹿じゃねえの? だいたいナイフ術学びに俺を師事してるくせにトンファーなんて使いやがって。

 

 

 

 

教授(プロフェシオン)の前回紹介しとけよ解説①

ジャンヌ・ダルク30世

 相手が悪すぎた。これに尽きる。最弱最弱いってるけど、そもそもイ・ウー自体いる人数が結構な頻度で変わるので、あんまりあてにならない。ツボに引きこもった古株もいたりするのだけど。正直なところ、パトラとブラドとトランプがぶっちぎりすぎるだけで、彼ら以外が問答無用で最弱の部類扱いの可能性もある。

 ちなみなんだが、キンジ君は彼女の斬撃をどう防いだのかを解説しようと思う。まず、大剣(クレイモア)にしろ日本刀にしろ、斬るという行為には、使い手の腕などを抜きにして、二つの要素がある。一つ目は言わずもがなだが、切れ味。二つ目が重量、具体的には重量と位置エネルギー、遠心力からくる運動エネルギーだ。そして、キンジ君はこの運動エネルギーを減衰させた。曲絃糸をつかってね。ジャンヌは振り上げた直後から、糸を切り続けて少しずつ運動エネルギーを減衰させ、最後にはお得意の力の流れをコントロールして、防ぎきった。勿論、鉄仮面の中間にはゲル状の物質があったりする。そもそも肩とか狙ってたらどうするんだよ、とか思われるかもしれないが、実は彼の制服は特別製でね。赤神財閥の宇宙開発部門が作った宇宙服に使われるような繊維で編み上げた『赤壁(レッドクリフ)』と呼ばれる制服だ。試作段階で赤神のお嬢様に気に入られてる彼が、モデルケースとして貰ったというわけだ。

 

 

教授(プロフェシオン)の前回紹介しとけよ解説②

アドルファ・シュミット

 彼女はイ・ウーメンバーでも異質な存在だ。え? そもそもイ・ウー所属なのかよ、だって? ああ、そうだ。主に夏休みとか長期休暇の時だけ来ていたので、イ・ウーの仕事にはノータッチだったがね。イ・ウーでは主に『聖剣《グラム》』の二つ名で誂われていた。まず異質なのは、無法者集団において彼女は律儀にも法を順守していた。まあ、無法者を見逃していたり犯罪集団に所属という時点で、世間一般では真っ黒なのだが、彼女はイ・ウーはまさに学校の側面しか認識していなかった。馬鹿正直の脳筋思考なんだよ、彼女。死ぬほど性格の悪いイジメっ娘のトランプとか、差別主義者のヴラドとか、問題行動の多いパトラとか、そもそも全員結構問題児なイ・ウーメンバーを素直に尊敬して、周りを困らせてたからな。彼ら、素直な好意を向けられるの慣れてないから。

 剣技に関しては、素直な性格がいいように作用して、飲み込みが異常に早く剣聖といっても過言ではない域に達している。しかも年配の師範から、孫のように可愛がられているらしい。

 そんな彼女だが、カツェは会ったら斬りかかるぐらい嫌っている。カツェというよりもカツェの思想を、だがね。カツェはカツェで彼女を気に入っていて、勧誘をするから余計にややこしい。

 当たり前だが、グラムなんて魔剣は所有していない。第二次世界大戦で同盟国日本から彼女の曽祖父に送られた正宗一派の日本刀をサーベルに加工したものを、持っている。




 アドルファ盛り過ぎだって? 最初匂宮設定だったので、だいぶ減らした方ですよ。

 いや、さすがに勉学に専念するために、しばらくは投稿を控える所存です。
 まあ、亀更新なので、そこまで気にすることではありませんよね。

 感想ください。


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第16狂 お買い物まえのお説教

 投稿は控えるといったな。
 あれは嘘だ。

 これが言いたかっただけです。予約投稿超便利。
 良くも悪くも、緋弾のアリアAAってもうご新規さん困惑ですよね。モブの主人公が大人気とか、わけわからないことになってますもん。

 ちなみに今回の話を要約すると
ニット帽の殺人鬼「四季くんは私が育てた!」
 といったお話です。

 では、どうぞ。


「すぅー、すぅー」

「うみゅ、ももまん」

 どうコメントすればいいのかわからない。私、火野ライカは四季先輩の買い物に付き合うことになり(決してアイドルに釣られてではない)、「迎えに来てね」などと命令されたので、気合入れて朝一番で(具体的には朝の八時ぐらい)きたのだが……。

 

「鍵かかってるよ」

 そりゃそうだ。一応、合鍵は貰ってるんだけど、遠山先輩めっちゃ怖いし。いやだよ、あの先輩。なんかいっつも眉間にしわ寄せて不機嫌そうだし、そのくせ二年生の先輩方からの信頼とか人気はすごいある。一石先輩が戦いたくないとか言ってたのを聞いちゃったから、本当こわいんですけど。

「お姉さま、はやく入りましょうよ」

「いや、でも……」

 若干呆れ気味の声で、麒麟に言われた。しかし、たしかにこのままドアの前で突っ立ているのも変だ。完全に不審者である。下手をすれば尋問科行きもあり得てしまうのが、この武偵高である。

「というか、インターホンをならせば……」

「も、もちろん気づいていたぜ!?」

 そうか、合鍵があるからってインターホンを押せばいいのか。いや、勿論気づいていましたけどね!

 

「なんだ、こんな朝っぱらから」

 今起きたばかり、というわけでもないだろうが、かなり不機嫌そうな声でリビングにあげてくれた遠山先輩は、台所で何かをしている。なんか、シリアル系が大量に買い置きしてある。

「一応行っておくが、こんな馬鹿みたいにシリアル買ったのは四季だからな」

 牛乳大丈夫か? と言いながら、朝ごはんを作ってくれる遠山先輩。もしかして、優しいのかな、この人。しかし、四季先輩が見えない。テレビにはマリオカートが写っているから、起きてるとは思うんだけど……。

「四季とアリアなら、ソファーで寝落ちしてるぞ」

 なにやってんだろ、あの先輩達。ゲームで寝落ちとか、小学生じゃあるまいし。いや、むしろ大学生に多いような……?

 その後、遠山先輩が作ってくださったチョコフレーク(牛乳少なめ)を食べて、四季先輩の部屋の掃除をさせられた。奴隷の一年とは、まさにこのことである。

 

「……すごいですの」

「どうしたんだよ、麒麟」

 意外なことに、四季先輩の部屋は結構片付いていた。ただ、ほこりが窓枠や部屋の隅にたまってはいたので、掃除機をかけ終わったところで、麒麟が四季先輩の本棚を見て驚いていた。

「いえ、この参考書が、あまりにも高度なものばかりですので……」

「買ってるだけだろ、あの先輩のことだし……」

「ちゃんと解いてますの。しかも解放が別冊の解答と微妙に違いますの」

 うーん、もしかして遠山先輩の部屋に収まりきらなくなった参考書とかか? なんか頭良さそうな顔してるし。

「お姉さま、四季先輩の出身中学はご存知ありませんの?」

「ん? ああ、そういえば前言ってたな。一般中(パンチュー)でおどいたぜ」

 中学校の名前を言ったら、麒麟が二分ほど固まった。苦笑いを浮かべながら、固まった。かわいいな~。いやいや、そうじゃない。大丈夫か?

「超絶進学校じゃありませんの!?」

「はぁ? なにいってんだよ。あの先輩が頭いいわけ無いだろ。いっつも脳天気にチョウチョ追いかけてるような先輩だぜ」

 まったく、麒麟もつく嘘も選べってんだよ。あの先輩が、頭いいわけ無いだろうに。本人も成績悪いって嘆いていたんだぜ?

 

「四季の奴、全授業を昼寝してるくせに、テストじゃほとんど満点とるから成績悪いんだよ」

「嘘だ――! あの先輩が――!?」

 遠山先輩にアイアンクローをされた。麒麟があまりにもうるさいもんだから、遠山先輩に聞いたら、ありえない答えが帰ってきた。

「大体、四季はアリアと英語で競うようなやつだぞ、頭悪いわけ無いだろうが」

「あの、でもどうやってこんな高校に進学できたのですの? 学校舌噛みきっても許さないでしょうに……」

 泣いて止められたけど泣いたら許されたって言ってたぞ。と、ありそうな話をする遠山先輩。しかしこの先輩、疲れただろとか言って、新作のコンビニシュークリームをくれたり……、絶対いい人だ。

「ねえねえ、火野ー。オマエ、例のものもってきたー?」

「うわ!? し、四季先輩?」

「起きたのか、四季」

 うん、と言って私が食べてたシュークリームを引ったくって食べだす四季先輩。少女マンガだったら、間接キスとか言い出すところなんだろうけど、この先輩のことだから、食べたいから奪った程度の感覚なんだろうな~。

「まあ、いいですけど。はい、成績表ですよね?」

「うん、戦妹の成績が悪いと、俺までトバッチリうけ……る……か、ら?」

 固まる四季先輩。失敬な、たしかに褒められた成績じゃないとはいえ、そこまで悪くないでしょうに。

 

「なんだよ、あの成績! 三教科がキンジの保険の点数と同じって! 馬鹿なのは知ってたけど、そこまで馬鹿だとは思わなかったよ!」

 すんげー、怒られてる。かれこれ、二時間怒られ続けている。お昼から出かける予定だったらしく(四季先輩のメール確認したらしっかり書いてあった)、集まりだした先輩達が憐れみの目でこちらを見ている。助けてください。

「強襲科系の成績以外、80点切ってんじゃねえか! なに赤点とってんだ!」

「80点以下が赤点って! 先輩だって中学の時どんな点数だったんですか!?」

 名門校らしいから、きっとテストも難しいんだろうと高をくくっていってみたら、進学校と武偵高を一緒にするなとキレられた。たしかにその通りなんだけど、解せない。ちなみにしっかりと8本の指に入っていたらしい。8本て、タコなのかよ。

「英語は良かったじゃないですか!」

「72点じゃねえか!」

「喋れますし! 私、喋れますし!」

「俺だってアリアに教えてもらって喋れるようになったわ!」

 やべえ、勝ち目ねえ。ていうか、学習能力パねえんだけど、この先輩。実は頭が良かったとか、そういうレベルじゃないような気がする。

「なあ、もういい加減行こうぜ」

「五月蝿え、バカ武藤」

 武藤先輩が助けてくれそうだ! やった! もう足の感覚ないぐらい正座してたけど、ようやく助かる!

「なんだと、轢くぞ」

「いいぞ、その代わり期末は一切勉強見てやんねえからな」

「サーセン、四季さん。どうぞ、ご存分に愚かな後輩を叱ってやってください!」

 割と必死な声で、しかも直角にお辞儀をして謝る武藤先輩に、思わず涙が出そうになる。だからか、先輩たちが一切助けてくれないのは、四季先輩に勉強見てもらってるからか! クソッ、なんで今日に限って白雪先輩がいないんだ! 不知火先輩はたまに助け舟を出してくれてるから、超絶尊敬します。

「全く、なんで強襲科は馬鹿しかいないんだ! 一石にしろキンジにしろ、すこしは佐伯を見習えっていうんだ!」

 徐々にエスカレートしていく四季先輩のお説教は、この後一時間続いた。勿論足は死んだ。




 まあ、あの汀目俊希の子供で、無桐伊織に育てらてたんですから、アタマが悪いわけがないですよね。

 さすがに、本当に、前振りでも何でも無く、こんどこそ、しばらく投稿はできなくなるので、気長に待っていただけると幸いです。
 現実逃避してる場合じゃない時期になってきたので。
 本当は10月31日に投稿したいのはやまやまなんですが、無理です。小論文とか誰が考えたんでしょうか。面接とか、きついですよ。

 では、またのお話で。
 感想ください。


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第17狂 ショッピング

 だいぶ更新が遅れましたが失踪はしておりません。
 久しぶりにお気に入り登録者数を確認したところ、191人となっていたので、ネンマツの師走時だからこそ、200人行ったら特別編書きます。

 大学合格しました。やったー。


「三条祭り……?」

「そ、今日このデパートで三条市の刃物が安く売られるってネットにあったから」

 だからわざわざ今日だったのか。みたいな顔をしている火野(バカ)。情報ぐらい常日頃から集めておけよ。まったく、世話のやける戦妹だ。

 それにしても、やっぱりゴツイな、和式ナイフ。だから、若いのに人気ねえんだよ。個人的には好きだけど。刃物ならなんでも好きだけど。

「で、お前らなんで来たの?」

 なんでいんだよ、俺の自称ライバルのえーっと、面倒臭え。刀剣競技で戦った奴ら。

「尾行したらここについただけだ。それはそうと私と決闘しろ!」

「いいや、あてとや」

「わいとや!」

 確信犯かよ、こいつら。てっきり、このフェア知ってんのかと思った俺がバカだった。二言目には決闘以外話さないバカどもに何を期待してたんだか。

「てか、別府。なんでオマエ槍持ってきてんだよ。野太刀だろ、お前の獲物は」

「ん? ああ、あれは日本男児として国際大会には日本刀で出えへんと格好が掴んと思うてな」

 バカジャネーノ? なに、こいつ本当は槍のほうが強いわけ? 槍っつーか、精霊の守り人のバルサ使ってたようなもんなんだけど。えー、いや、たしかに大抵の人間にとっちゃ、刀より日本等のほうが断然強くなるのは当たり前なんだけど。えー、釈然としない。

「それに、相手はナイフ使いが多かったからな。こいつじゃあ、対応しきれへん。ま、一回戦負けやったけど」

「まあ、それなら、納得はするけど……」

 たしかに、懐に潜り込まれたら対応しづらいだろうけど、野太刀だって同じじゃね? うーん、たしかにこの大男が脇差しとか使ってたら大笑いするけどさあ。

 

「先輩、どんな刃物がいいですかね?」

「しっくり来るやつ」

「うわーい」

 うわーいって言ってるくせに全然嬉しそうじゃねえな。だって、個人差あるもんだからなあ、武器って。刃物だったらだいたい使いこなせるけど、身体に合わないのは、技術的に他のと比べて半歩劣る。その半歩が実践じゃあ命取りになるから、やっぱり『しっくりくる』以外に選び用がないんだよ。

「まあ、刃物としての良し悪しぐらいは見てやるからさ。お金のことは気にせず、選べよ」

 忙しくて、お菓子と生活用品以外にお金使う暇ないんだよな。宝くじ当てたし、まあ、大丈夫だろ。

「そういえば、他の先輩方は何処に行かれたんですか?」

「キンジは手芸店、アリアは弾買いに。武藤は車見に行った」

 不知火は一緒にここで刃物選んでる。自称ライバルたちは砥石とか、ナイフの買い替えとかで悩んでる。

「砥石の良し悪しってあるんですか?」

「使い方の良し悪しならある。さっさと選べ」

 頭を抱えながら、刃物を見て回る火野。見てわかるわけねえだろうが、持って触って確かめろよ。まったく、出来の悪い戦妹だ。俺のもとで何を学んできたのやら。ああ、そういやヨガしか教えていねえわ。

「オバチャーン、このナイフちょーだい」

「はいはい、おや、銀メダリストくんじゃないか」

「えー知ってるの―? じゃあ、千円ほどまけてよ」

「話を飛ばし過ぎだよ。だいたいこれ、三千円じゃないか。大赤字だよ」

 露天なんだからぼったくってんだろ。狩猟用の斧もいいけど、やっぱベーシックな和式ナイフがいいな。頑丈だし使いやすい。

「じゃあさ、今度テレビの取材来るから、その時三条市の刃物は新潟一って宣伝するから、まけてよ」

「えらく範囲狭いねえ」

 結局まけてれなかったけど、砥石を結構な数くれた。いいじゃん千円ぐらい。

 

「結局選べませんでした」

「銃の性能ぐらいしか学校じゃあ教えてくれないから、仕方ないよ」

「甘やかすなよ、不知火」

 種類ぐらいは授業でやるだろうが。しかしまあ、こうなることぐらいは予想していた。たとえ二年でも刃物の良し悪しがわかるのは、整備科や強襲科の一部生徒に限られる。ようするに、始めっから無理難題を押し付けていたんだ。今回のお題は、しっかりと刃物を観察することだったし。まあ及第点かなぁ?

「ああ、そうそう『アミカ・アミコ』制度利用者限定のテストが期末にあるから、これからビシバシ鍛えてくよー」

「マジすか」

 まあ、まだ一ヶ月あるし、なんとか鍛えられるだろうな。こいつ、元々が強いし、フィジカルには優れている。あとは知恵と技術を叩き込めば、Aランクは狙える。

「あと、このナイフ。お前用に買ってあやったから、崇めろ」

「ナイフをですか?」

「俺をだ」

 すんごい微妙な顔をされたんだが。失礼なやつだ、せっかく三千円のナイフを買ってあげたのに。

 

 

 

「ぎゃははは、弱すぎんだろ」

「がっ、あっ……」

 とある政令指定都市のビルの屋上で、二人の女が戦い終わった。否、戦いというには、あまりにもワンサイドゲームであり、言ってみれば弱い者いじめに近かった。否、本当に弱いものいじめであった。

「こちとら、足技だけで戦ってやったんだぜ。一時間とは言わねえが、せめて三十分は持ちこたえてもらわねえと、さすがに良心を痛める時間もねえんだが」

「なに……がっ、目的だ……。トランプ……!」

 長髪の長身痩躯、いわばモデル体型のトランプと呼ばれた女は柵の上で汗一つ掻かず立っているのに対して、峰・理子・デュパン4世は汗だくで地に付していた。

「ああ? 目的だぁ? ねーよ、見かけたからちょっかいかけただけだ、ばーか」

「ふざ……けてんじゃ……!」

 ドッ、と鈍い音とともに理子の矮躯は吹っ飛び、がしゃんと柵にぶつかった。

「おいおい、テメエ如きが、なんで私に意見してんだよ。いまの戦いでどっちが上かわかったんじゃねえのか?」

 巫山戯た口調で、挑発が目的とすぐにわかるような声で、トランプは言う。

「しっかたねえなぁ。じゃあ、こうしよう。一週間後、またこうやって喧嘩してやる。テメエは仲間を二人までならつけてもいいぜ」

「誰が乗るか……!」

「これなーんだ?」

 トランプの巫山戯た提案に乗る理由は、理子にはなかった。しかし、トランプがこれみよがしに見せたものは、理子を提案に乗らさざるを得なくした。

「返せ……! それはッ」

「帰してほしけりゃ、私に勝てるやつを仲間にしな」

 そういって、トランプはビルから飛び降りた。




 ところで、今年の赤松サンタも豪華ですね。お金も薪のごとく使うことになりそうですが。ヒロアカのアニメ化でどきどきわくわくしております。AAアニメなんてなかったんや。なにもあそこまでドキツくせんでも良かったんや。
 あと、全く関係ありませんが、艦これ秋イベ、プリンツ掘りに全力出してたら、クリアを逃してしまったクソ提督はこちらです。プリンツもグラーフも出ませんでしたがなにか?


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第18狂 惨状! 怪盗トランプ

 あけましておめでとうございます。本年もどうかよろしくお願いします。
 今年はどんな年になるんでしょうね。


「たっだいまぁー!」

「おっかえりー!」

 理子がアメリカから帰ってきた。その日の朝のSTはちょっとしたお祭り騒ぎとなった。

 しかし、アリアとキンジは苦虫を噛み潰したような顔をして居るんだけど、ただいまって言われたんだから、おかえりぐらいいおうよ。たしかに、ランドセルはどうかと思うけど。

「キーくんもアリアもこっちおいでよ~!」

「へいへーい、野郎どもー、仏頂面の二人を連れてきな~」

 俺はノリの良い人間を自称してるからね。ノリの悪い人間も巻き込んじゃうよ。そしてもうすでに教卓の周りは人でごった返していた。教室内でここだけ人口密度が高くなっている。というか、みんな教卓の周りに集まっているから、他が0だ。

「あとで話がある」

 理子が怖い声で、今にもかき消されるほど小さく言った。

 

 

「助けてほしい」

「私からもどうか頼む」

「ところでお前誰だ?」

 食堂に呼び出された俺は、少しびっくりしていた。声の主は、上から、理子、ジャンヌ、アドルファ。え、何この集団。と思っていたら、説明がジャンヌから来た。要約すると、イ・ウーていう秘密組織があって、この三人はそこに所屬していて、理子がその組織のイジメっ子のトランプとか言う爆発怪盗と親の形見をかけて戦うらしい。ふむ、よくわからんぞ。

「ようするに、無法者同士が潰し合うだけじゃないの」

「……」

「なあ、ところでお前、ほんとに誰だ?」

 さっきから場の雰囲気壊すなぁ、アドルファ。まるで楽器みたいだよ。あいつは狙ってやってるけどこいつは素でやってるし。

「ああ、アドルファは理子とあったことがなかったな」

「理子? ああ、名前だけは聞いたことがある。確か、トランプが雑魚オブ・ザ理子とフルネームで言ってたな」

「峰! 理子! Lupin! 四世! が! 私の! フルネームだ!」

「変な名前」

 理子が泣きだした。大丈夫、変なのはアドルファだから。失礼にも程があるだろ、アドルファ。

「もうちょっと言いようがあるんじゃないの?」

「私は強いやつには敬意をはらうが、雑魚には侮蔑しか与えない」

 なんつー価値観の持ち主だよ、この金メダリスト。いままで、武人みたいな性格だと思っていたけど、ただ単に頓珍漢なだけなのね。

「だいたい、漢字とフランス語がまじった名前なんて変だろ」

「たしかにそうだけど、お前の価値観よりかはまともだ」

 あーもう、本題から外れちゃったよ。この場にいるのは、俺とアリアとキンジとなぜか間宮あかり。なんでも、あかりには知る権利があるとかで、アリアが連れてきた。

「トランプだったわよね」

「うん……、ぐすっ、ごめん、ちょっと立ち直れないかも……」

 よっぽど名前が気に入ってたんだな、理子。アリアは手を顎に添えて考え込んでいる。なにか知ってるのかな?

 

「怪盗トランプ。本名不明の神出鬼没の呪いの物品専門の怪盗ね」

「ああ、そうだ」

 ジャンヌが理子に変わって、答えた。へー、なんでかアリアはイ・ウーっていう組織に詳しいみたいだ。入りたかったのかな?

「盗む対象が美術館でも持て余すような呪いの品物だけだから、盗まれた方も歓迎する指名手配犯ね」

「せーかーい。ぴんぽんぴんぽーん、花まるあげちゃう」

 と、唐突に、巫山戯た口調の声が聞こえてきた。その声の主は、アドルファの隣で、焼きおにぎりをもって、ニヤニヤしており、きれいな長い黒髪の眩しいサングラスをカチューシャがわりにつけた女だった。

「ぎゃははは、大正解ついでに本名教えちゃう。イ・ウーじゃ教授に言うの禁止にされてたから、久しぶりに名乗るぜ」

 どこまでも軽い口調で話しているけど、やべえ、もしかしたらキンジよりも強いかも知んない。理子は明らかに敵視しているし、ジャンヌは驚いている。アドルファは、まあ、予想どうり、久しぶりですだなんて悠長なことを言っている。

 

「本名は~、匂宮(・・)……っと」

 飛びかかった。反射的に俺は飛びかかった。そして地に足をつけること無く、匂宮(・・)と名乗った女によって投げ飛ばされた。自分でも理解できていることが不思議なほどに、一瞬の出来事だったが、理解できるほどに女の手際は見事だった。まさか、俺一人じゃなく、間宮あかりごと投げ飛ばすだなんて。しかも、極自然に、息をするかのようにだ。

「最後まで言わせろや、澄百合の忘れ形見と始末番の末席ちゃん」

 と、後転が失敗したみたいな形になっているあかりと、なんとか立って着地した俺に言った。ちなみに、お昼時でそれなりに人がいるとはいえ、騒ぎにはならなかった。これぐらい、武偵高では日常茶飯事である。

「じゃあ、改めまして。匂宮絵札ちゃんでーす!」

「で、その匂宮がなんのようだ」

 ここにきて、初めてキンジが口を開いた。頼むぞ、頼むから喧嘩にはならないでくれ。いまのではっきりとわかった。この匂宮絵札は強い。それもキンジどころか蘭豹よりも、強い。多分、殺そうと思えば、俺達二人をあの一瞬で殺せただろう。

 それに、匂宮絵札は有名な名前だ。本名を知っていたら、飛びかかるだなんて、馬鹿げたことはしなかった。いや、噂道理だった(・・・・・・)からこそ(・・・・)、飛びかかってしまったんだが……。

「いや、そこの殺人鬼の忘れ形見と名探偵の直感ちゃんとは戦う訳にはいかないから、交渉に来た」

「巫山戯るな! トランプ、オマエ……!」

「理子、大丈夫よ。で、絵札さん、私が交渉に乗ると思う?」

 アリア、頼むから喧嘩だけはやめてくれ。軽い口調で騙されてしまうかもしれないけど、こいつは本当にやばい。ここの校長に暗殺されかかっても、笑顔で返り討ちできるぐらいにはやばい感じなんだから……!

「思うね―、思っちゃうね―!」

「それこそ、ふざけ……ッ!」

 絵札は、アリアにある一枚の紙を見せた。ドイツ語と日本語で羊皮紙にかかれており、ハンコと血判が名前らしきところにあった。

「『匂宮絵札、ブラド、パトラの三名は、神崎かなえ氏の無罪証明のため法廷へ出頭することをここに約束する。なお、この紙が破られた場合はその限りではない』。一人で最高裁までに三人共捕まえる自信があるんならどーぞ、ご自由に」

「卑怯よ……! こんなの……! こんなの……」

 かなえって誰とはいえないけど、アリアの親戚が無実の罪で捕まっていて、色々とあれらしいことは予想できた。ふむ、紛うことなき卑怯。

「澄百合の忘れ形見は、テメエの母親についてメチャクチャ知ってるやつを紹介してやる」

「こいつめっちゃ親切!」

「あっさりと買収されてんじゃねえよ」

「えー、あんま親しくない理子より、お母さんのほうが大事だし」

 理子が泣きだしたが、知った事か。わーい、お母さんのことを知ってる人って誰だろ。澄百合学園の誰かかな? キンジは頭を抱えてるけど、そんなことはどうでもいい。

「おにーさんとは戦わない理由はないんだけど、邪魔者のいないタイマンでバトりたいタイプだ」

「……」

「ぎゃははは。物分かりがいいことで」

 じゃあなー、といって食堂から出て行く匂宮絵札。そしてタイミングよく(・・・・・・・)火野たちが来た。本当に良かった、ヘタしたらこいつらが、殴りかかって返り討ちにあっていた可能性が高過ぎる。

「ねえ、ヴラドとパトラって誰さ」

「……イ・ウーのトランプと同格の者達だ。3人揃ってNo.3だったからトリプルスリーなんて影で言われていた」

 ジャンヌが律儀の答えてくれたけど、あのクラスが3人。それもNo.3って、どんなバケモノ集団だよ。しかもかなえって人の罪は、この3人の組織の罪であると……。

「アリア―。あんまいいたかないけどさあ、今の制度で最高裁までにあのクラスを3人。それも上に最低二人いる集団を相手取るなんて無茶だよ」

「そんなこと――」

「匂宮絵札は匂宮兄妹の後継機ですよ」

 ああ、間宮が言っちゃったよ。この場の誰もが固まってるよ。理解してない一年生を覗いてだけど。そう、それほどまでに匂宮兄妹は伝説的な伝説の殺し屋なんだよな。オバサンが父さんがよく話してたって言ってたから、そんな感じはしないけど、その実績と強さ、情報収集能力は伝説と言ってもまだ足りない。あの匂宮雑技団のエースってだけでもバケモノなのに、それ以外にも多くの伝説が残っている。そしてそのほとんどが、過少に言い伝えられている。

「はっきり言って、勝ち目なんてない。あれで慢心も油断も隙もないんだから。傲慢な態度もちゃらけた言動も、全部こっちの油断を誘うためのものでしょうね」

 怖い目で話す間宮に一年共は若干引いている。まあ、仕方ないか。これでも暴力の世界じゃあ、俺も間宮も恵まれている方なんだろうけど。

「そーだよ、アリア。今回の話だって、捕まっても司法取引の材料があるんだぞ、っていうモーションだ。くたびれ儲けのなんとやら、今回はひいて、あの書類を信じるしかないって」

「私が言うのも何だが、トランプは嘘はつくが約束は守るぞ」

「おい、アドルファ!」

「事実だろう」

 本当に空気も和もわかんないやつだなー、アドルファは。というか、こいつ理子のことが嫌いなのかな。さっきから、変な名前だの何だのと。

「それに助っ人は二人だったな。私が出てやる。あっちの手の内はあんまり知らないけど、こっちの手の内も知られていないだろうし」

「君の手の内テレビ放送されてたじゃん」

「とっておきがある」

 ふん、と誇らしげに胸を張るアドルファ。うわー、コイツ絶対匂宮と戦いたいだけだよ。きっと近くに理子いたら、盾にするよ。

「なに、牙突か三段突きでもするわけ?」

「え、なんでわかったの?」

 うわーい、こいつ漫画脳だったこと忘れてた―。なんちゅー無責任。

 しっかし、なんだ、この空間。アリアは暗い顔で悩み続けてるし、キンジはいつもどうり怖い顔してるし、一年生共は間宮の周りに群がってるし、ジャンヌは頭を抱えて悩んでるし、俺とアドルフぁはバカ見て得な会話続けてるし、理子は暗い顔してる。うーん、カオス。




 匂宮雑技団の一員がとうとう出てきました。とんでもねえイジメっ子です。ヒルダに会えば海に沈めるぐらいには問題児です。なんで、退学にならないのかについては、のちのち語ると思います。

 誤字脱字の報告、感想、どうかよろしくお願いします。レビューをいただけたら、小躍りします。


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第19狂 首吊高校『前編』

 前後編に分けてありますので、短いです。伏線でもなんでもありませんが、示唆したキャラクターが出てきます。
 掟上今日子の備忘録のドラマの録画予約に失敗してることに気がついて、ダウナー状態です。



「高天原ゆとりに会いに行け」

 後日、匂宮絵札からメールが届いた。なぜ、メアドを知っていたのかとか色々不思議なのだが、少し考えただけでも方法は思いつくので、決して無理なことではないのだろう。いや、あの匂宮理澄の後継機ならばきっと朝飯前にちがいない。

「まあ、そう言われれば、納得はするな」

「だよね~」

 と、俺はシリアル、キンジはトーストを朝食にして話していた。

 高天原先生は、俺が話しかけるとビクつく弱気な先生だけど、昔は『血塗れゆとり(ブラッディユトリ)』と呼ばれ、10代の頃から戦場で傭兵をしていたらしい。そして、かつて日本にそういった側面を持つ学校があるのを、俺らは知っている。

 俺はお母さんが出身だからだが、キンジは赤神だったから。最近知ったんだけど、キンジの実家は、その特異体質を狙われて昔っからいろんな裏の世界の家と半ば無理やり血族関係を結ばされていたらしい。というか、完全に無理矢理らしく酷い時には女を拉致して子供を産ませる、なんてこともされたらしい。そのなごりで、遠山は赤神との関係を未だに持っているとのこと。最も、赤神のお家騒動の時に、ある少女をかばったがために離縁状態だったとのこと。

「たしかに、あの高校だったら高天原先生の略歴にも違和感がなくなる」

「んでもって、俺をビビる理由もはっきりする」

 まあ、俺はお母さんに似てるから、お母さんを知ってる人から見れば、死んだ人間が目の前に居ることになるから、怖がるのは当たり前かもしれない。

「んじゃ、今日職員室に行って話聞いてくるよ」

「いや、まて。俺にいい案がある」

 うわー、すっげ~嫌な予感しかしねえんだけど。キンジって、基本脳筋戦法しか立てねえし。頭使った作戦は理解しきらないし(微妙に理解するからややこしい)。でも逆らったら、殺されるから黙って言うこと聞こう。

 

 

「高天原先生。単刀直入に聞きます」

「はい、遠山くんが職員室まで質問なんて珍しいですね。なんですか? 探偵科の授業でも受けたいんですか?」

 職位室では、多くの職員と僅かな生徒がいる。その中で、遠山キンジは高天原ゆとりと話していた。遠山キンジの表情には緊張が見え、それを高天原ゆとりは、ここが職員室だからだととらえた。キンジのことは、多くの職員が知っているし、彼を買っている職員も多い。高天原自身、あの西条四季と相部屋というだけでも、それは評価に値するものだと思っている。

「先生は、澄百合学園をご存知ですか? いえ、ご出身だったんじゃないですか?」

「はい? 澄百合……? いえ、知りませんし、出身じゃありませんよ」

 互いに、きょとんとしている。キンジは高天原ゆとりが、本当に知らないといった素振りを見せていることに、そして高天原ゆとりは本当に知らない学校の名前を言われて、きょとんとしている。

「いえ、じゃあ、えっと、では、質問を変えます」

「はあ……?」

「先生は、西条玉藻という名前の人物を、ご存じですか?」

「……、はい。西条くんのお母さんですよね」

 知っている。確信がもてるほどに、高天原ゆとりは動揺した。そして、高天原ゆとり自身、観念したといった感じでため息を付き、一旦床を見てから、立ち上がり、椅子を持ってきて、キンジに座るよう促した。

「はあ……。確かに、確かに、あの高校は、澄百合学園と呼ばれていましたね。誰も読んでいなかったから、もう忘れていました……。誰でしたっけ、あの高校で最後にその名前言ったのは……」

「先生?」

 遠山キンジがすわってから、思い出したように、ぶつぶつと呟く高天原ゆとり。

「遠山くんの思っている通り、私は、西条先輩(・・・・)を知っています。そして、澄百合学園……いえ、首吊高校は私の母校です」

 首吊高校というただならぬ言葉に、教職員がこちらを向くが、向いた先が高天原ゆとりと遠山キンジだったので、大したことはないとすぐに首を戻した。

 澄百合学園は、昔、世間一般では、いわゆるお嬢様学校(・・・・・・・・・)として広く知られていた。内情を少なからず知っている遠山キンジも、澄百合学園の生徒だった高天原ゆとりも、お嬢様学校であることは否定しない。事実、西条四季の母親である西条玉藻も、あの至高の策士も、生まれは紛うことなきお嬢様なのだから、そういった側面はたしかに持っていた。実情はどうあれ、誰も入学せず、誰も卒業せず、生徒なんて居なく、要るのは傭兵訓練生ばかりだったとはいえ、お嬢様学校ではあった。

 首吊高校、友達が首を吊るようなところは、学校ではない。そういった意思表示のための名前ではあるが、遠山キンジは知らない。

「そして、西条先輩を私は……、わ、私は……!」

「先生!?」

 ガクガクと身体を震わせ、動悸が激しくなる高天原ゆとりに驚くキンジ。トラウマがフラッシュバックするかもしれないとは危惧していたが、まさかここまでだったとは、思わなかった。遠山キンジは自身の読みの甘さに内心舌打ちをするも、どうすればいいのかもわからない。

「おいぃ、ゆとりぃ。ここじゃ、人の目がぁ……、えーっと、なんだっけぇ? そうそう、人の目がある。場所を移せぇ」

 なんでひらがな二文字の言葉を忘れられるんだ、この教師は。と言った目で見るキンジをラリった目で一瞥し、綴は高天原をつれて職員室から出ていこうとする。

「ああぁ、そうだそうだぁ。遠山ぁ、その台車に乗ったダンボールを、相談室まで持ってきてくれぇ」

「……はい」

 高天原ゆとりを肩で支えながら出て行く綴梅子と、台車に乗ったダンボールが多くて、困惑している遠山キンジ。整理整頓ぐらいしろよ。

 

 相談室にキンジがつくと、奥の席に高天原ゆとりは座っていて、狭い室内に綴梅子は見当たらず、机の上にはコーヒーが置かれていた。

「綴先生が入れてくれたんですよ」

「……はあ」

 変なもん入ってないよな。と勘ぐり、手を出さないことを決意したキンジだった。

「先ほど行ったとおり、私は遠山くんの言う、澄百合学園の出身者です。在学中に潰されちゃいましたけどね」

「『赤き制裁(オーバーキルドレッド)』にですか」

「ええ、でも聞きたいのはあの最強のことじゃないでしょう」

 こくりと、頷くキンジに、少しため息と軽い深呼吸をして、高天原は言った。

「私は、西条先輩を知っています」

 目を瞑り、もう一度深呼吸をしてから、覚悟を決めた顔で言った。

 

「そして私は、西条先輩を殺しました」




 後編は明日予約投稿する予定です。ただ、前書きと後書きは後編には載っていないので、あしからず。
 感想ください、前後編呼んでからでもいいので感想ください。


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第20狂 首吊高校『後編』

「私が西条先輩と出会ったのは、中等部の時でした」

「中学ですか……」

 コーヒーを見つめながら、ぽつりぽつりと話す高天原ゆとりに、相槌を打つように言葉を返す遠山キンジ。

「その時、西条先輩……。ややこしいですね、玉藻先輩は、初等部でした」

「は……? は?」

 明らかにおかしい言葉に、やや、というかかなり混乱する遠山キンジに、不思議そうな顔をする高天原ゆとり。そして、ああ、となっとくしたのか、次のように継ぎ足した。

「『先輩』というのは、実戦部隊での話です」

「実戦部隊ですか」

 ええ、とにこりと笑って返す高天原ゆとりに、ほんの僅かな狂気を感じる。多分、コーヒーに精神安定剤でも入っているのだろう。合法かどうかは、知らないが。もしかしたら、矢常呂イリン先生の試作品かもしれない。

「初めてあった時は、可愛くって可愛くって、思わず頭をなでちゃったんです」

「はあ……」

 自白剤でも混じっているのか、多分、本当のことなのだろう。なんか、妙に熱っぽい顔をしており、それが色っぽい、そう美人が頬を赤らめており、密室空間で二人。正直逃げ出したい気持ちでいっぱいのキンジであるが、ここで逃げ出したら、あとで四季になんて言われるか、たまったもんじゃない。

「そしたら刺されました」

「は……はあ!?」

 頭を撫でたら刺された、撫でるとはあれだろうか? チンピラを撫でるとかの意味合いだったのだろうか? いや、そんなはずはない。というか、そうであってほしくない。頬を赤らめながら、悪い方で撫でるといい、刺されたと語る美人教師などと一緒に居たくない。

「ああ、玉藻先輩の性格を話していませんでしたね」

「いや、あの、その……」

 だめだ、高天原ゆとりの表情を見て直感する遠山キンジ。これは、暴走した時の白雪と同じ表情だと、理解してしまった。理解したくなかったが、分かってしまった以上どうすることもできない。

「あなた達が『狂化』とよんでいる『現象』が常時、途切れることがない。と思っていればいいですよ」

「……」

 どう戦士として使っていたのかが、気になる。いや、そもそも、戦士として使えないから狂戦士なのだ。普段、あれだけ仲の良いアリアに、『狂化』した四季は迷いなくズタズタにしに行った。あれが、常時。チェスに例えると、自分の周りにある駒全てを勝手に破壊するようなものだ。ものというか、現象か。あれを、駒として、戦士として起用するなど、常軌を逸してる。

「私、とろくって、何度も戦場に置いて行かれたんですよ」

「……」

 もうそろそろ、なんて相槌を打てばいいのかに困る内容になってきた。仲間を信じ仲間を助けよ、武偵憲章にある言葉だが、どうも違うらしい。誰が建てた策だかは分からないが、恐らく、この策を建てた策士は、仲間を駒と割り切っているのだろう。と、限りなく正解に近い回答を導き出すキンジだが、それも違う。その程度で、あの策士は語れない。

「そのたびに、玉藻先輩が助けてくれたんです。いえ、ついでに刺されましたけど」

「……」

 多分助けたわけではないだろう。結果的に助かっただけなのだろう。だが、結果的に助けたとも言える。

「いえ、わかっています。玉藻先輩は、ただ単にズタズタにしに来ただけですし、恐らくこれも策の内だったんでしょう」

「そうですか……」

 空になったマグカップを見ながら、懐かしそうに語る高天原ゆとり。目頭は熱くなり、今にも泣き出しそうに、愛おしそうに語る。

 

 たとえ、策士の考えたとおり、策の順当な手順の結果だったとしても

 たとえ、狂戦士の狂戦士たる所業の、恐慌の、結果論だったとしても

 

「でも、……助けてくれたんです」

 

 彼女は、あの小さな狂戦士は、高天原ゆとりを助けてくれたのだと。

 

 

 

「でも、私は……」

 一度、目を閉じ、キンジをしっかりと見て、もう一度語り始める高天原ゆとり。もう、キンジは相槌すら打てなかった。なんて、答えればいいのかが、わからなかった。

「私は、頭に銃弾を喰らい、一般の大学付属高校に編入しました」

 来るとき、いや、将来的に武偵が日本国内で、広く知れ渡るときに備えて、教師となるために。兵士として、使えなくなっても、駒として最大限に活用する。実にあの生徒会長らしい、策士らしいやり方だと、今になって気がつく高天原ゆとり。

「ある時、あの高校に帰ったんです。あの高校が終わった日に、たまたま、帰ったんです」

「……」

 そのことについては、赤神であること以外でも、キンジは知っている。あの『病蜘蛛(ジグザグ)』については、曲絃師の師匠から罵詈雑言とともに聞かされている。

「糸が、掛っていたんです」

「糸、ですか……」

 十中八九、ジグザグの曲絃糸だろう。本来は低いはずの殺傷能力を、極限まで高めた、ある意味でのストリング技術での到達点。師匠は決して認めなかったし、キンジ自身、身につけたいとは微塵も思わないが。

「手を、あと少し、ほんのあと少し伸ばせば、届いたんです」

 手で顔を覆い、嗚咽とともに、それでも逃げずに語る高天原ゆとり。

「あとちょっと、あとちょっと、手を伸ばせば」

「……」

「でも、その勇気がなかった」

 自分自身を憎むように、声を絞り出す高天原ゆとりは、きっと、悔恨の念のなか生きていたのだろう。そう思うに、十分な言葉だった。

「あれだけ助けてもらったのに、命の恩人だったのに、糸に、あの糸に触れれば、自分が殺されるかもしれないと、卑怯な、卑屈な……」

「先生……」

「あの時、死ねばよかったんです」

 ずっとそう思って生きてきました。そう、言った。

 卑怯でもなんでもない、誰だって死にたくはない。だけど、『狂化』した四季ならば、どうだろうか。きっと、ズタズタにすることしか、興味が無いのだろう。

 きっと、西条玉藻は糸に気がついていたのだろう。でも、気にしなかった、自分の命も気にしなかったのだろう。そうやって、何度も高天原ゆとりを助けてきたのだろう。

「たった一度も、先輩のように、命を賭して助けることもできなかったんです」

 震える声で、涙ながらに、語る。きっと、薬はもう関係ないのだろう。ただ、懺悔しているのかもしれない。許されなくてもいいと、思いながら。

 

「片時も、忘れたことはありませんでした」

「四季は……」

「きっと、恨みもしないでしょうね。四季くんは……」

 そう、恨むことさえしてくれない。無邪気に、健気に、母親の事を聞いてくるのだろう。恨んでくれたら、蛇蝎の如く嫌ってくれたら、どれだけ楽なことか。

 

「でも、今度は助けるって、初めてあった日に、決めたんです」

 高天原ゆとりは、西条四季に関して、不自然な行動があった。異常に怖がっていることもだが、なぜか問題行動を四季が起こすたびに、真っ先に庇うのだ。一度、とんでもないことをやらかした時も、彼女が多くの人に掛け合ったおかげで、なんとか退学処分は喰らわずにすんだこともあった。それが、キンジにとっては、不思議で不思議で仕方がなかった。わけが分からなかった。だが、この話を聞いてしまえば、それは極々自然なことになった。

 

 しばらく沈黙が続き、持ってきたダンボールが開いた。開いたというか、四季が我慢できなくなって、中から出てきた。

 そして、ダダっと走って、びっくりしている高天原ゆとりの元まで走って行き、ニコニコ笑って、無邪気に、健気に、あどけなく言った。

 

 

「もっと、お母さんのことを教えてよ!」

 

 

 恨んですらくれない、嫌ってもくれない、無邪気に、健気に、母親の事を聞いてくる。わかっていたことだ、わかっていたから逃げてきた。耐えられないから。

 でも、それは、あの日と同じことを繰り返しているだけだった。あとすこし手を伸ばせば、と後悔し続けているあの日と同じことを、ただ繰り返していただけだった。

 そうわかると、涙が出てきた。自然と、四季を抱きしめていた。四季が体中に携帯している刃物が、肌を、肉を裂くが、知った事か。服が血で染まりながら、四季をしっかりと抱きしめ、涙を流しながら繰り返す。

「ごめんね、ごめんね……」

 ただ、そう涙ながらに繰り返していた。



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第21狂 友情

 だいぶ遅れてすみません。まず言い訳をさせてください。特別編を書き終わったら、あれ、これって理子とトランプの戦い終わらないと公開できなくね?ということに気がついちゃって、戦いの話を書いてたらこんなに遅れてしまいました。5日間連続更新でどうにか許してください。


「もっきゅもっきゅ」

「四季、一体どうやったらそんな咀嚼音が出てくるんだ」

「オマエ、実は人類じゃないんじゃねえか?」

「うるせえ、ガサツバカ」

「オマエ、俺に対する扱いひどくないか?」

 お昼、食堂で俺とキンジと武藤(バカ)と不知火で、昼食を食べている。

「つーか、何があったら高天原先生にお弁当だなんて作ってくるんだよ」

「うっせーバカ。こっちはもっとジャンクでファーストなもん食いたいんだ」

 なんか、高天原先生があの日からお弁当作ってきた。野菜とか健康食品のオンパレードの。あと、なんか目がやばい。何かと膝の上に乗るよう促してくるし。なんなんだろうか、あの先生は。てか、これマスコミにバレたら結構問題なんじゃね? えこ贔屓は日常茶飯事、というか、人に付け入る才能として評価の対象ですらある学校だけど、お弁当はマズイだろ。

「まあ、これから大変になるんだけどさ」

「……」

 キンジは結局戦うのかな。まあ、戦わないだろ。だから、代役を立てておいた。あいつなら、なんとか勝負には持ち込める。勝負にならなくとも、アドルファの足を引っ張らず、理子とも連携が取れるアイツを代役に立てた。あとは、俺のすべきことをするだけだ。

 

 

「ぎゃははは、結局一人しか集まんなかったのかよ。友達すくねーな、理子」

 人口浮遊島のとある廃ビルで、トランプは理子を挑発する。アドルファもいるが、挑発が効くような性格ではないので、しない。

「イ・ウーの友達はお前の名前を聞いただけで、電話を切ったよ。トランプ、嫌われすぎじゃーん」

 理子も負けじと挑発で応酬するが、殴られた。トランプは間髪入れず、挑発に乗る形で腹を躊躇なく殴った。着ていた防弾チョッキがメキメキと変な音を立てて一発で壊れたが、一発なら耐えられた。

「で、アドルファと理子、あと一人はおにーさん、つーか遠山侍の希望くんかい?」

 すこし、残念そうな声で来ていたキンジに話しかけるトランプ。理子が集めたのは一人と言っていたが、この場にいる人数はそれなりに居た。まず遠山キンジだが、戦いたくないといったから数に入れたくなかった。あとは間宮あかりを始めとしたいつもの一年生たちだが、そもそも戦力として数えていないのでノーカン。辛うじて、この前すれ違わなかった高千穂麗はなんとか戦えそうではあるが、もってコンマ2秒ぐらいか。だから、しかたなく、いやいや、本当はタイマンで戦いたい、遠山キンジを理子のお仲間として数えたのだが……。

「いいえ、違うわ」

「ああ、そうかオマエか。夾竹桃ぉ」

 この場のトランプを除いた全員が驚いている。そんなことお構いなしに、遅刻気味に夾竹桃は歩み寄る。一年生は後退り、理子は混乱した頭を整理しようとする。キンジは夾竹桃の左手を見て危険だと察した。

「なるほどな。ホームズの曾孫、なかなかいい友達もったじゃねえか」

 

 

「やめなよ、アリア」

 時を同じくして、武偵高の強襲科棟。いつもどうりに、死ねと死ねの罵声が飛び交う中で、完全武装したアリアといつもの服装の四季が張り詰めた空気の中、向かい合っていた。

「どいて、四季。私はトランプを逮捕しなきゃならない」

「お母さんを助けたいんだろ?」

 あの後、四季はキンジからすべてを聞いた。理子のこと、イ・ウーのこと、神崎かなえのことを。イ・ウーについてはもう一年生どもに漏らしたら殺すといってある程度は教えた。正直、裏の世界の危険度に比べれば、せいぜい財力の世界ぐらいでしかない。あるいは、ER3システムか。殺し名、呪い名のすべての名前を知るよりも重い程度だ。へんに調べられて、変な勘違いをされても困る。だから、教えた。

「どいて……!」

「いったら駄目だ」

 今回は逮捕できるかもしれない。でも、逮捕できたからどうなんだ? 脱獄の可能性だって十分すぎるほどある。いや、それ以上にパトラ、ヴラドとかいう連中も逮捕できる確証はない。だから、止めなきゃいけない。

「私は、犯罪者を全員捕まえて、ママを助ける!」

「助けたいんだったら、あいつの条件飲めよ!」

 わかっている。わかっているんだ。アリアが何を言いたいのかぐらい、わかっているんだ。間違っているのはこっちだってことぐらい、わかっているんだ。アリアは正しい。犯罪者の条件を飲むのはあくまでも司法取引の時だけ。あくまでもこちらが主導権を握らなければいけない。わかっているんだ。

「私は、折れるわけにはいかない!」

「助けたいんだったら折れろよ!」

 助けたい、だけどここで条件を飲んでしまったら、誇らしく救う事ができない。だから、おかしいってわかっていながら、助けに行く。わかってるんだよ、それっくらい。だから、止める。なんとしてでも。間違えたままでも、親友を助けるために。なんとしてでも止める!

 

「そこを退きなさい! 四季!!」

 

「やめろつってんだよ! アリア!!」

 

 第0試合『闇鬼(ホワイトアウト)』西条四季VS『双剣双銃(カドラ)』神崎・H・アリア

 場所、東京武偵高校強襲科棟二階廊下

 

 

 理子を含めて3人集まったので、さっさと決闘を始めたトランプ。今回はあくまでも、怪盗トランプとして、この場にいる。殺しはなしと、己に枷を敷いた状態といえば、なかなかかっこいいじゃないか。と思うトランプではあるが、同時に違うと否定する。人は本来、人を殺してはいけないのだと。人は人を殺さなくて当たり前なのだと。殺し屋らしからぬと、自嘲するがそれで殺し屋をやめるのかといえばそうでもない。だからどうしたと斬り伏せる。矛盾だろうがなんだろうが知った事か。

 そして、廃ビルの一階中央廊下階段付近で立ち止まる。理由は明快、階段の数段上から突きの構えをしたアドルファが一人で居たからだ。

「んでんで、まずはオマエ一人か。アドルファ!」

 

「連携なんてまっぴらゴメンだ。トランプ!」

 

 第一試合『武芸百般(メアリー・スー)』匂宮絵札VS『白鯨(モビーディック)』アドルファ・シュミット

 場所、人口浮遊島のとある廃ビル一階中央廊下



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第22狂 アドルファの意地

 イ・ウーではジャンヌを皮肉って、聖剣(グラム)と呼ばれていたアドルファではあるが、彼女を知る人は口々に言う。『白鯨(モビーディック)』じゃなくて、『白鯨狩り(エイハブ)』の間違いだろうと。

 

 先に動いたのは、絵札だった。その圧倒的な実力に裏打ちされた自信からでもあるのだが、それ以上に、アドルファとの長期戦を避けたかったからだ。彼女は、アドルファの噂は聞いていた。運悪くなのか運良くなのかはわからないが、仕事やら気に食わない呪いの品を盗むのやらと、アドルファが来る日がバッティングしてしまい、会う機会がなかったのだ。そして、ヴラドやパトラなどの話を総合して考えられるアドルファの性格と性質は、恐ろしく素直。直情型で、生真面目、ここまでは良かった。口車に乗せればいいだけであるが、この素直さは危険であった。特に、匂宮絵札にとっては天敵とも呼べる天性の才。時間を与えれば、確実に良い方向に成長する彼女を抑えるために、一撃で仕留めるために彼女は動いた。

 

「『三連月夜雪月花美人』」

 先に動いたのは間違いなく絵札であったが、先に仕掛けたのはアドルファであった。彼女は、学内においては四季にしか興味の示さない戦闘狂扱いなのだが、その実、戦闘狂というよりは探求者といったほうが正しい。故に、稚拙とはいえ、イ・ウーにおいて超能力を学び、ドイツでは武偵として技術の向上に励み、日本で実践を用いた最適化を図っている。四季に対する執着は、決勝戦の決着が目的ではあるが、彼がアドルファにとってギリギリのところで、殺し合いにならないラインであった。もし、遠山キンジと戦えば殺し合いは必須。下手をすれば、互いにただではすまないことになる。

 だが、目の前の匂宮絵札は違った。たとえこちらが全身全霊後先を一切考えずに特攻をしたとしても、勝ち目どころか一矢報いることさえ難しいだろう。

 なればこそ、彼女のとった行動は明白であった。

 

 初見殺しの必殺技を開幕ブッパ。

 

「……」

「チィ!」

 絵札は驚愕していた。そして現状を確認し、理解できていなかった。

 アドルファの攻撃を絵札は安々と避けたのだが、アドルファの剣はそのまま床のコンクリートをえぐった。それだけならば大したことはない。精々が切れ味のいい剣と思うぐらいだろう。

 問題なのは、そのえぐった痕だった。

 えぐった傷は、一筋ではなく三つだった。更にいうと中央は削りとったような痕跡であるにもかかわらず、両端の二本は突き刺したような後だった。もし、絵札がアドルファをジャンプして飛び越えて避けなければ、三つの穴が胴体に開いていたことになる。狭い廊下で、紙一重で避けたとしても、端の一本が身体を貫く。考えただけでゾッとするが、問題なのはそこではない。

(なんだこれは? 超能力にしてもこんなのは聞いたことがない。事象の同時出現だとしても中央の痕で説明がつかない)

 一般人からすれば神速の域に達しているアドルファの剣戟をいとも簡単に、考え事をしながら避ける絵札。その実力差は圧倒的であったが、反面余裕は互いになかった。

「ぐぅ!?」

「……」

 絵札の右ストレートをぎりぎり避けるアドルファに、ジャブによる連撃が襲う。これは避けれないと後ろに下がるアドルファ。さっきのジャンプで立ち位置は逆転し、絵札と階段を阻むものはないので、このまま階段を登って理子をボコろうかとも考えるが……。

(さっきのはなんだったんだ?)

 絵札の直感が、アドルファの謎の攻撃は危険だと警鐘を鳴らす。しかし、本当に皆目検討がつかないのだ。いや、同じことができる魔術やら超能力に心当たりがあるが、それらは莫大な魔力やらなんやらが必要であったり、所詮机上の空論であるものばかりであった。そんな魔力があるならば、廊下を覆う範囲攻撃をするだろう。剣にこだわったとも考えらるが、こいつたまに蹴りもするので、その線もない。そもそもそこまでの魔力を使ったのならば、こんな廊下時空がねじれてヘシャゲてるところだ。

 せめてもう一度、もう一度、あの『三連月夜雪月花美人』とか言う外国人が漢字かっこいいからつけたみたいな技を観察すれば、正体をつかめるはずだと思うが、果たして使うだろうか? すでに避けられた技を……。

 

「『三連雪月花美人朧月夜荼毘』!」

 

 使った。技名も変わって。

 

 

 

「そこを退きなさい! 四季!」

「やめろつってんだよ! アリア!」

 この会話により、アリアと四季の戦闘が始まった。互いに一歩も譲らない迫真の戦いであったが、周囲への被害も甚大であった。なにしろ、互いに一級品の武偵。持てる技術のすべてを使って、一方は打ち破ろうと、一方は防ごうとしているのだ。そう簡単には決着はつかない。

 周りの人間はそそくさと避難した。止めようと思えば止められるだろうが、放っておい他方が被害が少なくなる上に、この二人に悪感情を持たれるのは、悪手だからだ。

「効かねえんだよ! 銃なんざ!」

「それは、どうかしらね!」

 アリアは銃を使うが、それは本来有り得ない選択肢であった。四季は銃弾を避けられることは有名であり、銃を撃つという行動によるロスが、明暗を分けるだ。いや、そもそも『暴力の世界』の住人には、銃弾など輪ゴム程度の脅威にしかならない。

 では、何故使ったのか。それもまた、簡単であった。

 四季には、銃弾が効かないのではない。銃弾を避けれるだけなのだ。もし、当たれば致命傷にはなるし、痛い。避けざるをえないのが、銃弾であり、息をするように避けれるのが銃弾なだけだ。つまり、避けるという行動が読めれば、決して無駄な行動とはならない。むしろ、次の行動を制限できるというメリットが有り、アリアほどの身体能力ならばロスタイムなど気にしなくてもいいといえるほどの対価である。

 

 戦いは続く。より激しく、戦火をまき散らして。

 

 

 

「そーいうことね」

「……」

 匂宮絵札は勝った。否、勝つことそのものは、難しいことではなかった。アドルファ・シュミットの技がなんなのかがわからなかっただけであった。それももう判明した。だから、打ち負かした。

「ハッ、瞬間移動。ロスタイムをなくすことを命題としている。だれだってそう思うわな。こんな使い方があっただなんて……」

 アドルファは未だに戦おうと、立ち上がろうとするが、しかし、それはできなかった。全身の震えが止まらない。恐怖ではなく、そういった攻撃だったのだろう。骨にも内蔵にも以上はない。もしかしたら明日は筋肉痛かもしれない。

「ワープに必然的に生じるラグを、オマエは意図的に発生させた。答え合わせだよ。あとで教えてね」

 アドルファの『三連雪月花美人朧月夜荼毘』の正体は、瞬間移動の際に生じるラグを意図的に操作したものだった。瞬間といいつつも、消えて移動するまでには、認識するだけの時間がある。一瞬だとしても、そこにラグが生じる。これをなくすのが、この超能力の、魔術の命題だった。だが、この『三連雪月美人朧月夜荼毘』は、相手までの助走中に、刀身のみをワープゲートに入れて取り出すという行為を二回行う。そして相手に対する突きと同時に、射出用のワープゲートを発生させて、三つの突きを擬似的に同時に生じる。ワープに対する魔力消費は自分を起点とした距離と移動させるものの大きさに準じるため、魔力消費は極々少量となる。なくすことのできないものを、逆転の発想で大きくすることで、初見殺しの必殺技に昇華させたのだ。

 この『三連雪月花美人朧月夜荼毘』は、注意深く観察させしていれば、見破るのはたやすい。まして、相手が高位の魔女ならば魔力の局所的な集中から何が怒ったのかなど、簡単にわかる。だからこその、一撃必殺だった。この『三連雪月花美人朧月夜荼毘』が一撃で決まらなかった時点で、アドルファの敗北は必定だったのだ。

(しかたないですよね。だって、私なんかよりも、四季なんかよりも、ずっとずっとつよいんですもん)

 立ち上がれず、うつ伏せのままアドルファは思う。そう、仕方ないのだ。理子のことなんざ知ったこっちゃない。

(戦うっていう第一目標は達成しましたし、よしとしましょう)

 絵札の足音が遠ざかる。急いですら居ないようだ。

(このまま寝よう。もう疲れたし。そうだ、明日四季に言わなきゃなー)

 まぶたがゆっくりと、アドルファの視界を覆う。

 

「って、思えるわけないですよねえ!」

 だれが、負けていいといった。いや、負けるのは仕方ない。だけど、諦めるのだけは御免だ!

「え? まじ? 半日は動けないと思ったのに……」

 少しだけ、驚く絵札だが、その驚き方は、ひょうひょうとしていた。

 結果は変わらない。しかし、それでも彼女は立ち上がった。

 

 

廃ビル、というのは外見の話しであり、その実この建物は武偵高が所有する訓練棟の一つである。そもそも学園島は限られた敷地面積に廃ビルだなんて無駄なものが立っている余地はない。そして、その廃ビルの管制室兼モニタールームで、遠山キンジやジャンヌ・ダルク30世を始めとした応援組は、唖然としていた。

 あの刀剣競技の金メダリストであるアドルファ・シュミットに難なく勝利した匂宮絵札の強さに、ただただ唖然としていた。あるいは心の何処かで、特に一年生たちは思っていたのかも知れない。きっと、理子たちは勝つと。だが、こんなものを見せられては、勝つというビジョンが見えない。

「おい、魔剣(デュランダル)

「なんだ」

「夾竹桃の毒は効くと思うか?」

「……効きはするだろうな。あいつが人間離れしているのはあくまでも、技術の話だ。突き詰めれば、努力でたどり着ける領域の人間なんだ。耐毒訓練もしては要るだろうが、それでも限界はある」

 ジャンヌの言葉を聞き、目を輝かせる一年生達だったが、キンジとあかりだけは、違った。それもそうだろう。もし毒が効いたとしても、それが匂宮の焦りにつながり、相手を殺してしまうかもしれないからだ。だが、その心配もジャンヌの言葉で消えることとなる。

「もっとも、夾竹桃の毒がトランプに届けばの話だがな」

 四季の考えは、概ね間違ってはいなかった。だが、知らなかったのだ。いや、考え付きもしなかったのだ。あの匂宮が超能力を使えるだなんて、考えもしなかったのだ。




 我ながらアドルファの超能力の説明はわかりにくいにもほどがあると思いました。ちなみに、技名が二つ出ましたがおんなじ技です。ついでにかっこいい漢字を並べただけで意味はありません。


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第23狂 死闘

 すみません、一回間違えて投稿してしまいました。
 四季の戦闘においての弱みが出てきます。あと、リボルバー拳銃はロマンだと思うんですよ。


「参りました」

「ぎゃははは、ご利口なことで」

 夾竹桃はトランプと会合するなり、白旗を上げた。毒はすでに使っている。常人ならすでに立っていることもできない濃度で空気中に充満しているはずなのだ。だが、トランプは立っている。ではどうするか? 別の毒を使うという案は却下だ。へんな化学反応起こされたらこっちがたまらない。爪で刺すのも無理だ。ボコボコにされておしまいだ。つまり、打つ手なしである。ガトリングガンなど撃つ前にボコボコにされておしまいである。

 ここで下手に戦いトランプのギアを上げるよりも、いまのまま理子と戦わせたほうが、理子の安全にもつながる。などと、言い訳をしてはいるが、本音はトランプを信用しているのだ。こいつはろくでなしだが、ひとでなしではない。金髪目がチカチカしてうざいという巫山戯た理由で理子やヒルダなどをいじめているが、殺してもいなければ一生残る傷もつけては居ない。あくまでも外傷のはなしであり、心の傷については一切考えていないあたりは外道である。

 

 

 

 たぁーん、と乾いた音が教室で響いた。強襲科棟では別段不思議なことではないが、それが明確に人を狙ったものであることは、極めて珍しい。まして、実弾であり、武偵が武偵を撃つなどほぼほぼない。

 だが、周りの強襲科の生徒が驚いたのはそのことではなかった。彼らが驚いたのは、西条四季が(・・・・・)神崎・H・アリア(・・・・・・・・)を銃で撃った(・・・・・・)ことだった。

 

 四季とアリアの戦いは、熾烈を極めた。四季は何本かのナイフを壁や床に突き刺したまま放置し、一部では彼の代名詞となりつつある右手にエリミネイター・00、左手にグリフォン・ハードカスタムを使っていた。アリアも銃弾が底をつき、不利とわかりつつも双剣にて応戦した。しかし、刀剣同士の戦いではどうしても、四季に分がある。だからこそだったのかもしれない。もしくは、はじめから狙っていたのかもしれない。アリアは動いた。極めた技は極々普通の技だった。武偵ならばだれでも知っている技であり、たとえ使用者がアリアだろうと極められるまでにはなんなりの抵抗はできるはずだった。

 しかし、四季は抵抗も気づくこともできなかった。極められた後も何をされているのかがわからなかったのだから。しかし、それも無理からぬ事。四季は訓練で一度見たことが有り、知識としてあるだけの技術の一つだったのだから。することも、されることも想定していなかった技。

 それが関節技(サブミッション)でも最も有名な技の一つである『腕挫十字固め』である。

 一度極まってしまえば脱出することは不可能とされている極めて強力な技であり、軍隊格闘術としても採用されている技である。では、なぜ四季はこの技に対して驚くほど無知だったのか。それ単純に、四季に関節技など狂気の沙汰だったからだ。全身に刃物を携帯している四季に関節技など仕掛けようものならば、刃物で肉や骨がズタズタにされてしまう。全身の武器が鎧となっていたのだ。四季を知っているものならば、まず関節技などかけない。知らないものならば、刃物に驚き腕をわずかでも緩めてしまう。対策としては二流だが、全身刃物の副産物としては上々なものだった。

「ぐうううううう!!!」

「ぎ、ぎぎぎ!」

 しかし、アリアは緩めない。戦いの中で、四季はナイフを置いてきた。それは全身に刃物を仕組んでいるとはいえ、使うものは上半身、それも腕に近いものから出していく。そして、これ以上ナイフを新しく出すのは、時間が惜しいと四季が判断するまで待っていたのだ。覚悟さえできていれば、鋭利な痛みなど、どうにか耐えられる。その程度、親友に刃を向ける苦しみに比べれば、なんでもない。その顔は苦悶に満ちており、気を抜けば技を緩めてしまうだろう。そして、四季の身体から力が抜けた。気絶したのだろうと判断して、技をとくアリア。無論警戒は怠っていなかったが、四季が攻撃する様子はない。本当に気絶してしまったのだろう。

 アリアは四季を置いて、戦いの中でいつの間にか入っていた教室から出ようとする。もうすでに全身がぼろぼろだが、なんとか戦える。痛覚が麻痺しているのもあるが、それ以上に後には引けないという心理が強く働いていた。親友に刃を向けてまで、進もうとしたのだ。もう後には引けないと。

 

 気を張り詰めていたからだろう。それには気がつけた。明確な、強烈な殺気が背中に感じた。正確には背を向けた四季から感じ、身を翻すと四季はS&W M500を構えていた。拳銃としては世界最高の威力を誇る回転式拳銃は、四季の体格には向かないが、そこは使用者に対するクッション性能を上げる改造を施し、僅かとはいえ威力を減衰させていた。それでも脅威であることには変わりない。

 トリガーに指をかける四季に対して、アリアは超反射で腕で銃弾を払った。払いのけたというよりも、故意的に腕で受け止めたといったほうがいいだろう。腕がジンジンと響き、少し遅れで痙攣が始まった。骨もどれだけ良くてもヒビが入っているだろう。そんなアリアを見て、四季は安心したように少しだけ微笑み、本当に気絶した。いや、本当に気絶していたのだろう。それでも親友を行かせまいと、切れたはずの気力で最後の攻撃をしたのだ。アリアが四季ならば使わないと思っていた銃で、アリアを撃った。アリアは四季が気絶する直前に、ごめんね、と言っているように聞こえた。気のせいかもしれない。だけど、これでアリアは戦えない。痛みが全身に響いてきた。戦えないと、なんとなくわかりアリアもまた最後の力を振り絞り四季のもとに近づき、膝から崩れ落ちた。

「四季、ありがとう」

 ぽろぽろと涙が頬を伝いながら、少しだけ、少しだけ、アリアは休むことにした。




 アリアとの友情ものが、少なかったので親友設定を取り入れてみたのですが、個人的にとてもいい具合になったと思います。
 四季は体が密着する体術全般はほとんど使えません。だって使う必要ないんだもん。


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第24狂 お遊び

 エイプリルフール! 型月が一番仕事する日ですね! 今年はどうなるんでしょうか。そんなことよりもいい加減、緋弾のアリアの新刊まだですかねえ!?


「オラオラオラオラー!」

 ワンサイドゲームもいいところだった。トランプは手から起こる爆発だけで、理子を圧倒していた。技術も何もない。力技だけで押し切っていた。

 爆発の魔術は技術であり、身のこなしそのものは美しくさえあるが、攻撃は単純なものだった。爆発の威力そのものは高くなく、火力も制服にすすが付く程度なのが幸いだったが理子は一向に攻撃に転じられない。逃げまわるのが精一杯である。

 そしてそれもとうとう壁際に追い詰められて終わった。理子はぎりりと歯ぎしりをする。自身の不甲斐なさもだが、それ以上に悔しかった。こいつはどうしようもなく強い。だから、理子にあわせてどうしようもなく手加減していた。

 

 

「おい、魔剣(デュランダル)

「なんだ、遠山」

 モニタールームで一年生が息を呑んで理子を見守っている中、キンジはあること生きがついた。いや、そもそも最初からおかしかったのだ。『武芸百般《メアリー・スー》』という二つ名をもちながら、遠山キンジは存在すら知らず、裏の世界、それもバリバリの『暴力の世界』出身の四季とあかりが顔を知らない。こんな不自然なことがあるだろうか? ましてあの『匂宮兄妹』の後継機。不自然にも程がある。そして、極め付きに四季が絵札の強さを、『キンジよりも強いと思ったけど、蘭豹より強かった』と称した。なぜ、初めに自分と比べたのか。それら一つ一つを紡いでいけば、自ずと答えが見えてきた。

「匂宮絵札は超能力が得意なのか? いや、そもそも……」

「ああそうだ」

 ジャンヌはキンジの言葉を遮る形で、肯定した。そして言葉を続けた。後ろの一年生には聞こえないように、小さな声で。

「トランプは超能力を使ったほうが弱い。そしてもう一つ超能力を使っている」

 

 

「巫山戯るな! なんで真面目に戦わない!?」

「遊びだから」

 壁際に追い込まれた理子の怒鳴り声にすら、まじめに取り合わない。いや、まじめに答えはしているが、取り合っていないだけなのだ。始めっから遊んでいるだけである。それは理子も分かっていた。だからこそ、この場所まで逃げた。この廃ビルを想定したモックにはいくつか、『廃』ビルにはふさわしくない設備がある。電気はコンセントを通せば使えるし、水道だって完備している。そしてもう一つ、人類が文明生活をおくる上で欠かせないものも十分に配備されていた。

「だったら、真面目に戦わせてやる」

 理子は壁についてあるハンドル状の栓を思いっきりよく回した。栓からは気体の抜ける音と石油特有の異臭が漏れだした。

 理子は壁際に追い込まれたことには違いはなかった。ここに来るまでに何度も反撃を試みたが、全ていなされた。理子の行ったのは、反撃であると同時に理子自身の行動を大きく束縛するものでもあったため、出来る限り使わずにしておきたかった。しかし、もうそうも言っていられなくなったのだ。

 理子の策は廃ビルに完備されているガスを流出させ、トランプの爆発を封じることだった。これで理子は勝てるのかと言われれば、そういうわけではない。むしろ勝算は薄くなる。銃は発泡できないし、ナイフだって危険だ。徒手空拳で勝てるわけがない。しかし、徒手空拳で戦わなければいけないのはトランプも一緒だ。トランプは超能力なんて使わずに普通に戦ったほうが圧倒的に強い。超能力を覚えたのは、パトラやヴラドに対向するためであり、対パトラ用と対吸血鬼用に特化させてある。理子に取っては封じたほうが相手は厄介になるのだ。なぜそんなことをしたのかは自分でもわからない。ただ、悔しかったからと言われれば、多分そうなのだろう。これでトランプが本気をだすのかと言われればそうでもない。きっと、舐め腐った喧嘩殺法でくるだろう。それでも一泡吹かせられた。

 

 そう思っていたのだ。

 

「オマエ馬鹿か?」

 ココに来てようやく真面目に取り合う気になったのか、驚いたような顔で理子を見るトランプ。まさか、ここまで驚くなんて思っても居なかった理子は言葉を発せられなかった。

「あー、そういや言ってなかったっけ。わりぃわりぃ」

 しかし、どうも様子がおかしい。己の落ち度をみとめるように、気恥ずかしそうに頭をポリポリと掻く姿は一見可愛らしくもあるが、この状況と似つかわしくない。爆破を封じられたものの姿ではない。

「まあ、仕方ねえよなー。これ、地味だし」

 躊躇なく爆破させた。いままでになく大規模で、それも理子をすれすれで真っ二つに割れるように避けて、あきらかに制御させた上で爆発を引き起こした。

「わたし、もう一つ超能力使っててさあ。気体操作っていうやつ?」

「……そんなの有りかよ」

 口をパクパクさせて、腰を抜かした理子は半笑いで言った。

 

 

「あいつの気体操作は、肺を鍛えるために覚えたんだ」

「どういうことだよ」

「あいつの周りの酸素濃度……というよりも気体の割合は、常にエベレストの山頂と同じように超能力で調整してある」

 マラソン選手が聞いたら喉から手が出るほどにほしい能力だろうな、と自嘲気味にいうジャンヌだが、こういう使い方があるのは勿論知っていた。そして、夾竹桃の毒がきかなかったわけではなく、そもそも届いていなかっただけということも理解していた。

 ジャンヌが理子に教えなかったのは、超能力者にとって超能力がバラされるのは、攻撃パターン全てをバラされるに等しいからだ。もし理子にこの事を伝えていれば、戦いが終わった後にジャンヌ自身がトランプの遊び相手になっていただろう。保身のためと言われればそのとおりなのだが、ジャンヌの行動は超能力者からすれば極々自然なことだった。

「じゃあ、匂宮は部屋中のガスを調整して爆発を起こしったってことか」

「まあな。そこまで難しいことでもないだろう。爆発限界外に設定するだけだしな」

 爆発限界とは、呼んで字の如く、可燃性気体の爆発できる空気との割合のことであり、例を挙げるとプロパンガスは2.1~9.5%と狭い割合でしか爆発は起き得ない。トランプはこれをそのまま利用し、ある程度までなら爆発の範囲を制御できるようになっていた。

「じゃあ、理子は……」

「墓穴をほったというやつだ」

 もしかしたら、トランプは自分が理子に超能力について教えていると思っていたのかもしれない。そもそもトランプにとって見れば、超能力などかくし芸程度の価値しか見出していないような気がした。せいぜい便利な爆竹。

 だとすれば、理子を含めた自分たちは、トランプに取ってかくし芸の練習相手程度の認識なのかもしれない。

 

 

「うわっ、こわっ!? まじか! 初めてやったけど結構うまくいくもんだなぁ。オイ!」

 トランプが自分で自分の行ったことに驚いている隙に理子は逃げ出した。策を練り直さなければいけない。先ほどの爆発で、壁が吹っ飛び、ガスが漏れ放題になっている。すぐに安全装置が仕事をして止まるだろうが、それまでだけでも十分すぎる燃料をトランプに与えることになる。ならば、ここは逃げるしかない。勝利云々以前に命が危ない。本当にトランプがガスを完全に制御できているかがいまの発言で一気に怪しくなったのだから当然だ。

「おい、逃げんなよ」

「くっ……!」

 一瞬で追いつかれた。普通に走って追いつかれた。逃げようにも、ここまで身体能力に差があるのではただ逃げるのでさえも難しい。追い着かれた瞬間、理子は追いつかれた瞬間、銃に手をかけた。しかし、銃はこの可燃性気体が充満している場所で使うわけには行かず、動きが一瞬止まってしまう。その一瞬は、トランプにとっては十分すぎたし、銃をプロのプレイヤーに使おうという発想すら鼻で笑うことだ。理子の脇腹に、一発爆発をかました。

「動かねえほうがいいぞ。いまの爆発の衝撃で、てめえの肋数本外した」

「う、うぅぅぅ!」

「ずれた肋骨は、内臓にとっちゃ鎧じゃなくて既に凶器だぜ」

 つまらなさそうに、うつ伏せになっている理子を見下ろすトランプ。そして唐突に後ろにあった鉄筋コンクリートの壁を殴った。殴った拳には特に傷はなく、殴られた柱にはヒビと刃物で斬られたような跡があった。

「手刀ってやつでよお。これ見てどう思うよ?」

 勝負はついたとばかりに、話を始めるトランプ。いや、そもそもトランプにとってこれは遊びでしかなかった。興が覚めたらやめる程度にしか思っていなかったのだ。そしてうずくまっている理子を見て、戦いの熱が急激に冷めていった。だから、暇つぶしにお話をすることにしたのだ。

「すげえって思うか? いや、まあすごいんだろうけどさぁ……。でも違うんだよ、こうじゃないんだよ」

 違うんだよなあ、と遠くを見ながら繰り返すトランプに、理子はまだ打つ手はないかと必死に考える。肋骨が外れ身動きもろくにできない。隠れようにも先ほどのガスの匂いが染み付いていて、直ぐにバレてしまう。対してトランプは、匂いこそ付いているが無傷そのものだった。打つ手なしという他ならない。

「私はさあ、匂宮出夢と匂宮理澄を超えるための後継機なんだよ。まあ、うまくいくわけないよなあ」

 半分成功、半分失敗とどうでもよさそうに話すトランプに、こいつが失敗なら自分は何なんだと悔しさと痛みで涙が自然と出てくる理子。だが、そんなことを気にするほどトランプはやさしくない。そもそも優しければこんなことはしない。

「総合値じゃあ、超えていたんだ。でも殺し屋としちゃぁ『人喰い(マンイーター)』以下だし、探偵としても『人喰い(カーニバル)』以下。『一喰い(イーティングワン)』も打てない」

 そもそも、なんでわざわざ二つに分けた役割を一人でできるって思ったのかねえ。と不思議そうに言うトランプに、ようやく理子は気がついた。トランプは自分を遊び相手と見ていても、決して敵視はしていなかったのだと。敵視せずにここまで出来るのももう一つの才能だとは思うが、トランプにとって見れば指導対局のようなものだったのだろう。だから、戦えなくなった理子をみて興が覚めたのだろう。

「んじゃ、そういうことで。これ返してやるよ。いらねえし」

 そう言って理子の母の形見である十字架を置いて出て行った。一切の本気も見せず、終始手加減をして。

 

 

「んで、おにーさん。答えはでたかい?」

「ああ、そうだな」

 廃ビルから匂宮絵札が出ると、そこには遠山キンジが立っていた。それを嬉しそうにニヤニヤと笑う匂宮絵札。

「準備運動は、ちょっとやりすぎて疲れたけど、まあ一戦なら付き合ってやるぞ」

「俺はお前を逮捕する」

 できるもんならやってみやがれ、その言葉を皮切りに第四戦が始まった。そしてこの戦いは、どの戦いよりも速く終わりを迎えた。

 

 

第0試合 西条四季 VS 神崎・H・アリア

 西条四季の粘り勝ち

第1試合 アドルファ・シュミット VS 匂宮絵札

 匂宮絵札の圧勝

第2試合 夾竹桃 VS トランプ

 夾竹桃の降参

第3試合 峰理子デュパン4世 VS トランプ

 トランプの勝ち逃げ

第4試合 遠山キンジ VS 匂宮絵札

 匂宮絵札の勝利

 

 

 

教授のこれで逃げきれトリプルスリー講座①

匂宮絵札(トランプ)

 さて、今回大勝利を収めた彼女だが、彼女の強さの質は実のところ『地味』なのだよ。恐らくこれが彼女が半分失敗したとされる最大の要因なのだろう。超能力の一つが『爆発』という派手なものなのも彼女のコンプレックスに起因するのかもしれない。

 理子くんは彼女の超能力を『爆発』だけだと誤解して、可燃性気体を空気中に散布したわけだが、これが悪手だったのかと言われれば実のところそうでもない。むしろ、少し思考を変えるだけで良い手になっていたはずなのだよ。では、どうするべきだったのか。それは灯油やガソリンをぶっかけるだけでいい。彼女は自分の周りの空気の割合を超能力で制御しているが、彼女を起点として可燃性気体を発生させ続ければ爆発は起こせない。しかし、悲しいかな爆発を封じたところで、今度は『武芸百般』とまで言われる彼女のステゴロによってボコられるだけなのだが。

 ちなみに『武芸百般』と言われて入るが、実際に実践で実用に耐えうる武術やらは60ちょっとらしい。しかし、『メアリー・スー』の二つ名は伊達ではなく、割りと彼女が死ぬと泣く人がいる。悲しさでなく人もいれば、嬉しさでなく吸血鬼もいるがね。これもこぼれ話なのだが、彼女のヒルダに対するイジメがあまりにもひどすぎたためか、どういうことかヴラドの人間への対応が、かなり軟化した。特に理子に対しては顕著に現れている。ちなみヒルダをイジメた理由が、金髪うぜえ、というあたりがとんでもない。

 彼女が呪いの品を盗んでいる理由は至極単純で、ただ単に呪いがうざいからだそうだ。




 最初は理子はもう少し食い下がる予定だったのですが、素手でボコボコにするよりも、肋骨を外したほうがまだいいかな、と思いまして。拷問の件も入れたかったのですが、トランプがする理由がなかったのでできませんでした。
 理子の敗因は話を聞かないアドルファを味方に入れたことですかねえ。3人で畳み掛けてたら、なんとかなったかもしれません。


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第2038話 今日も元気に無法地帯

 話数に関してはただの数遊びみたいなものです。


ここはイ・ウー。私はリサと申します。オランダ出身の戦闘能力ほぼ皆無のメイド兼会計士。イ・ウーは武偵高とはちょっとだけ趣旨の異なってはいますが、戦う技術などを教える学校のような場所。つい最近、変な策士が入ってきてからは至って平和です。

 そして今日は大切な予算会議。一部の人(?)は参加さえしませんが、大切な日です。

 このイ・ウーに集う者達は、ほぼほぼ無法者で、怪盗から殺し屋まで、無法者の職業をほとんどコンプリートしているのではないでしょうか。そして全員が生徒であり教師。互いに互いを高め合う場所でも有ります。

「ニーハオ」

「おはようございます。ココ様」

「今日はあの三馬鹿要るアルか?」

 こちらはココ様。何でも揃えてくれる凄腕商売人です。三馬鹿とは、ヴラド様、パトラ様、トランプ様の三人のことでしょう。はっきり言って何処にいるかなど知りたくもありませんし、知りません。

「ぎゃははは、よぉココぉ。誰が三馬鹿だってぇ~?」

 いました。すぐそこに。何やら手が汚れていますが、何があったかなど知りたくもありません。

「いやよぉ。呪いの物品の解呪と解体に手間取ってさぁ。貫徹で機嫌が悪かったから、ヒルダを生コン入れたドラム缶に詰め込んで海に捨ててきたところなんだわ」

 勝手に話してきました。しかもイジメとかそこら辺で済む話じゃないエグい内容のことを。

 トランプ様は世界を股にかける大怪盗。盗む品は呪いの掛かった下劣な品に限定されているので、一部では義賊ともいわれておりますが、当の本人はこの通り。学校でいうところのイジメっ子。それもニュースで騒がれ、ネットで身元特定されるほど酷いことをする方の。もうイジメというか傷害致死罪です。

「万年自鳴鐘の設計図と材料一式。工具はまけろ」

「勝手にされては……」

「あ゛?」

「なんでもございません」

 脅しに迷いがございません。

 そんな時です。轟音というか、獣の鳴き声というべき音がきました。

 

「トランプ、テメエエええええええええ!!!!!」

「めえめえウルッせえんだよ! ヴラドおおおぉぉぉ!!!」

 一刻も早くここから逃げ出さないと、ヴラド様の暴力と、トランプ様の爆発と殺戮奇術に巻き込まれてしまいます。一刻も早く、ココ様と……あ、いない。

「ヒルダを生コンと一緒にドラム缶に詰め込めて、海に捨てやがったなおい!」

「大丈夫大丈夫、大陸棚の向こう側に捨てたから」

 ヴラド様の怒りはごもっと過ぎます。むしろ被害者の親です。しかし、また(・・)ですか。こりもせず、トランプ様は……。それよりも、傷つかないように速く逃げて、教授(プロフェシオン)に知らせないと、沈むどころか世界の海が滅んでしまいます。

「ころおおおおおおおす!!!!!!!」

「ああ? 回収は諦めちゃったのー?」

 はやくヒルダ様を回収しないと取り返しのきかないことになってしまいます。いえ、もうほかの方が動かれているでしょう。それよりも速く……、なんかこっちに向かって戦闘が進んでいるんですがーーーー!!!?

 

 

 

 トランプの超能力は、爆発と気体操作。最も気体操作は物質単位で一箇所に集め、濃度の調整が限界なのだが、イ・ウーは場所的にも燃料的にもなかなか可燃性気体が集まりにくいので、自前の魔力による爆発しか起こせないのだが……。

「効くかよ、ボケェ!」

「くっそが!」

 圧倒的なタフネスと回復能力のあるヴラドに、人間に対しての即死級の爆破など効くはずもなく、ヴラドが防戦しているにもかかわらず押すかたちとなっている。いや、勿論圧倒的にトランプが悪いので、人道的に見ても正しい展開だ。

「っそが! あ! おーいジャンヌ。剣借りる」

「はあ!? ちょっ、止ま……うわあああああ!?」

 これ以上は行かせるわけには行かないと、集まったイ・ウーの有志連合だが、吹き飛ばされた。ジャンヌに至っては聖剣(デュランダル)も奪われて。

「おらよ!」

「それがどおおしたあああ!!?」

 達人と言っても遜色のない剣捌きでヴラドに刀傷をおわせるが、瞬時に治るので効果はないと言っても過言ではない。しかし、そんなことはトランプにとってどうでも良かった。ヴラドを切れるということさえわかれば、効果はなくともよかったのだ。

 

 ザシュ、と音を立てて人間で言うみぞおちの部分に、聖剣が突き刺さった。無論、そこに魔臓があるわけでもなく、仮にあったとしてもたかが一個。他の箇所も刺されない限り、有効打には成り得ない。

「ゲババババ、それがどうした。勝負あったなあ!」

 そう、攻撃が剣によるものだけであれば、有効打とはならない。

「爆発ってのは気体にしろ物質にしろ、不安定なもんでおきんだよ」

「あ?」

 ぶちゅりと、聖剣(デュランダル)出できた刺し傷に腕を突っ込むトランプ。予想外の行動にヴラドは次の一手が遅れる。

「体外に放出されたらすぐに消費されちまう魔力だって、十分に不安定だ」

「おい、バカ、おいおいおいおい!」

 ズズと、腕をさらに深く入れるトランプだが、彼女は気がついていない。ここが何処であるかを。ヴラドは気付き、なんとかしてトランプをふっとばそうと試みるが、もう遅い。

「起爆ぐらい、他人の魔力でも出来んだよ!!!」

「おい、この! 馬鹿野郎!」

 ここはイ・ウーのエンジンルームの真上。エンジンの燃料は、勿論当たり前のように原子力である。

 

 

「ま、まにあったのじゃ……」

 今回もなんとか、予めスタンバイしていたパトラが、砂でトランプをくるんでふっ飛ばしたお陰で、エンジンルームから離れたところの床が抜けただけで住んだ。当然、その後トランプはイ・ウーメンバーから袋叩きにあったが、それを逆恨みして一人ひとり闇討ちしたのはまた別のお話。

 ヒルダは回収されたものの、繰り返されるイジメというなの殺吸血鬼未遂によって精神を病み、というか精神を病んでいたのに海に放り込まれ余計に引きこもるようになった。

 

「はっはっは、いや、彼女がエンジンルームに解除困難な、というか現状解除不可能な爆弾を仕掛けてなかったら、とうの昔に追い出しているのだがね」

「くだらない。チェック」

 イ・ウーの一室でチェスに興じている男女。軽い世間話をしながら、その棋譜はおおよそ人類最高のものであった。

「君は才能をひていするがね、傍から見れば万全の策を用意するのは、それだけで才能なのだよ」

「そうですか。ですが、所詮私如きでは万全の策を立てられなかった」

 肩をあげてなくなってしまった腕を強調する女性にたいして、男は首を振る。

「いやいや、あの『死色の真紅』……。君の言うところの『赤き制裁(オーバーキルドレッド)』から生きて逃げ延びるだけで、素晴らしいと思うよ」

「私は、というよりも『赤き制裁(オーバーキルドレッド)』は私を殺すつもりはありませんでした。私が逃げたのは……」

「それが化け物じみているといっているんだ。ほら、ナイトをとった」

 はぁ、とため息をつき、盤面をみる女性。実際はチェスよりも将棋のほうがすきなのだが、今回は相手を立ててチェスをすることにしたのだが、負けてやるかは別問題。すでに互いに、クイーンはとられ、主力もほとんど使い果たしている。しかし、女性のほうが攻勢にはでていた。

「君が才能を否定しているのをきいているとね、自分の才能に対して言い訳をしているように聞こえるのだよ」

「なんですか、灰色の脳細胞ですか?」

 それは私ではない。と否定して駒を進める男。

 カタッ、カタッ、と鳴る駒の音とともに時間は過ぎていった。




 かつてここまでヴラドがかわいそうになった二次創作があっただろうか……。
 これからの話にはあんまり関係ありませんが、ヴラド、パトラ、トランプの力関係は三すくみになっていて、ヴラド≧トランプ≧パトラ≧ヴラドのようになっています。


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第三章『死神は始まりとともに』
第25狂 依存


 遅くなってすみません。書き上げてたこと忘れてました。大学にはまだ慣れてません。


「匂宮絵札でええええすッ!!! トランプって呼んでね☆」

 匂宮絵札は理子たちの戦いの後、何を思ったか武偵高に編入してきた。年齢を一切偽らずに、ありのまま、つまりは……。

 

「あんな一年生、居てたまるか!」

 食堂で理子の悲痛な声をだしてる。いまはキンジはおらず(女と電話している)、アリアは気まずそうに横に座っている。いや、正直すごく気まずい。あのあと互いに泣きながら謝ったけど、気まずい。会話もぎこちないし、どうしたもんか。

「しかも、上級生としてパシッてやろうと思ったら、いい声といい顔で焼きそばパンとコーヒー牛乳買ってきたんだよ!」

「いい後輩じゃん」

「ついこの間まで、私をいじめてたやつが! このギャップについていけない!」

 どうやら、匂宮絵札はこの学校じゃ、いい生徒として評判がいいらしい。気さくで、物おじしなく、社交的。装備科であるにもかかわらず、その腕っぷしは強襲科のSランクに匹敵する。授業態度も至って良好であり、同級生、上級生、教職員から早くも信頼を寄せられているとのこと。なんだこの完璧超人。

「ぎゃははは、私は総合値じゃあ匂宮兄弟を超えてんだ。社交性だって総合値の一つだろ?」

 あ、噂をすれば影と言わんばかりに、匂宮がきた。手にはカップ焼きそばとペプシを持っている。なんだ、その組み合わせは……。

「アリア先輩(・・)、約束の契約書だ。大切にしろよ、ぎゃははは」

「……」

「友達は大切にしたほうがいいよ、ってな」

 ぎゃははは、と言いたいことを言ったのか理子の横に座って焼きそばを食べだした。おいしそう……。

 つか、キンジはどこだよ。菊代ちゃんとの電話がそんなに楽しいか! いや、あの女嫌いに限ってそんなことはないだろうけど、さっさと戻ってきてこの空気をどうにかしてよ。

「あと、理子先輩。勘違いしてんじゃねえぞ」

「やめろおおお! 先輩とか言うな! 薄気味悪い!」

「イ・ウーじゃ完全実力主義だったから高圧的なだけで、年功序列が重んじられているここじゃそれ相応の態度を見せてるだけだ」

 適応力も総合値の一つだしな。といってペプシを飲み干す匂宮。悪いやつなんだろうけど、常識と良識はあって、異常性を理性で押さえつけることができるらしい。なんというか、ずるい。

 まあ、いっか。それよりもアリアとどうやって仲直りしよう。いや、気まずいだけなんだけどね。あと、明日例のブツが届くし、それ乗せてこの空気をどうにかしよう。

 

 

「『実家に帰ります。明日には戻る』」

 そんな手紙が寮に戻ったら置いてあった。ふむ、つまりはあれか。菊代ちゃんが駄々こねたのか。やっぱつよいなー、キンジの弱み握ってるし。瑠河しったら卒倒してアイドルやめてキンジ攻略に全力を出しそうだから、教えてやろうかな。本人もやめたがってたし。

 そんなことを考えていたら、背後から抱き着かれた。気取れなかったうえに、結構力が強くて痛い!

「会いたかったよー! 四季君!」

「げえ!?」

 背後から抱き着いたのは、通称『依存夫婦』の妻のほう、諜報科3年の鹿折利根。俺の戦姉なのだが、この人はニガテだ。強いし、旦那にゾッコンだし、気が付いたら2~3時間のろけ話なんてざらにある。挙句の果てには……。

お母さん(・・・・)に会いたかったでしょ?」

「全然、お姉ちゃんにもお兄ちゃんにも別に会いたくぐへぇ!」

 チョークスリーパーを一瞬とはいえ決めてきやがった! このくそ姉、馬鹿じゃねえの!? なにがお母さんだコンチクショー、一歳しか年違わないのにお母さんってなんだよ!

 なんだってこの人は俺を自分の養子にしたがっているんだ。去年、こいつの旦那の戦弟になってから執拗にこの態度をとられている。しかもエイプリルフールで身長伸びたって言ったら泣き出しやがった。

 どうにか抱き着きマジ攻撃から抜け出して(なんで抱き着けるんだよ、無傷で)、ナイフを取り出すがクソ姉は「反抗期?」とか言って首をかしげている。見た目はいいが、脳みそはぶっ飛んでいる。人はいいが人格は破たんしている。

「あんたの旦那はどこだよ! まだ中東にでもいるわけ!?」

「日本に戻ってすぐに仕事よ。あの仕事中毒者(ワーカーホリック)は」

 でもそこもかっこいい。とか、すぐにのろけだす。こいつの旦那も諜報科の中でも人徳があり、品行方正な人として有名だ。だが、如何せん仕事中毒者で休日があることが耐えられないらしい。休日というよりも予定がないのが耐えられないという一種の病気。手帳見たらびっくり、びっしりと予定が組まれていた。さすがに仕事関係は、いついつに何系の仕事を受け難易度はどれくらいのもの、程度で収まっていたがそれ以外はびっしりと事細かく。どうも書いてたらある程度満足するらしく、完璧に予定通りに進まなくてもいいらしい。

「アリアちゃんと仲良しになったんですって?」

「うっわーめんどくさいネタしいれてきたよ」

 いい友達ができてお母さんうれしい。と馬鹿みてえなことを言い出すクソ姉。でも少しうれしいかな、アリアは高圧的な態度だから初対面の人には、いい人として見てもらえないことが多い。完全に自業自得で、同情はするけどそれ以上はできない。根はいい子だけど、それに気づかれるまがとにかく大変なんだよ。

 それからどうにかクソ姉を追い出して、今日は早く寝ることにした。明日は忙しくなるし、なによりも土曜日。いっぱい遊ぶためにゆっくりとねるのだー。

 ……寝れない。やっぱりアリアに謝ってから寝よう。

 

 

「キンジさんを強制的に休ませる方法ありませんかね、あからさまにオーバーワークですよ」

 匂宮絵札との戦い(一年生が担いできた)と四季とアリアの喧嘩(フォーシーズンライバルの会が担いできた)で傷ついた患者を診た楽器が、裂傷だけで意識の戻った四季(と顎で使われているライカ)に相談したのが始まりだった。遠山キンジは匂宮絵札との戦いによる傷はそこまでひどいものではなく、それ以上にオーバーワークによる体の疲労がひどかった。

「最低でも三日、出来ることなら一週間、休息させなければいけません」

 それは救護科の生徒としての言葉だった。いや、たしかに体の疲労もそうなのだが、常日頃からのキンジに対しての気遣いが一番の理由だった。

「なによりも精神面での休息が必要です。これを直接キンジさんに言えばさらに自分を追い込んでしまう」

「あいつ、基本的にはみんなに厳しくて優しいけど、自分には厳しい上に優しくもないからねー」

 なにをそんなに追い込んでるんだろ。とかわいらしく首をかしげる四季を見て、いまなら刃物も携帯していないしチャンスなのでは? と割と本気で考える楽器だが、そこは豆腐の精神を凍らせてガチガチにして、思いとどまる。キンジが自分を追い込んでいるのには、四季が大きくかかわっているのを知っているし、それを口止めもされている。約束は守るつもりではあるが、あれはあまりにもひど過ぎた。

「向精神薬のオンパレードですよ。全部医者から正規に出されてるものですが、容量守っているとは思えません。彼には薬ではなく安らぎが必要です」

「じゃあ、彼女のところに連れてけば? キンジの扱いも心得てるし」

「え、あのキンジ先輩付き合っていたんですか?」

 キンジに言うなよ、否定する上に俺が殺される、という四季に唖然とするライカ。あの昼行燈で女嫌いで有名な女たらしの遠山キンジに彼女だなんて……。

「ちなみにおじいちゃんおばあちゃん公認ね。てかあいつの実家に住み着いている」

「まじすか……」

 アリアと理子とレキと……、つらつらと言ってはいけないリストの武偵高の女子の名前を言っていく四季に、どんだけ女をたらしこんでいるんだあの先輩、と呆れや嫌悪を通り越して尊敬さえしてくるライカ。挙句の果てには、校内の人間ではなく、国外の人間まで言い出す四季。

「キンジさんがたらしこんでいる女性なんて知りませんし、関係ありません」

「大丈夫、明日明後日は僕もオフだし、何よりも土日だ。彼女といちゃこらすれば心の休息になるでしょ」

 キンジがいちゃこらしている姿など考えつきもしないが、なんとなくだがいいお父さんにはなるような気がする。

 それから四季は例の彼女――鏡高菊代――に連絡を取り、キンジを数日実家に拘束させる用意をした。拘束というか軟禁らしいが平穏な言葉ではなかった。

「あ、でも、菊代ちゃん何気に破滅願望あるから気を付けてね」

 などとどうしようもなく不穏な会話が聞こえたが、四季も笑っているのできっと電話のジョークなのだろう。

「あははは、ヤクザだね~。なにがって、ところどころ専門用語使ってるよ。仮にも……正式にSランク武偵の彼女なんだからヤクザの娘だなんてばれない様にしなきゃ」

 たのむからジョークだと言ってくれ。四季が笑えない本当のことをケラケラ笑いながら話すような先輩であることは重々承知しているだけに、心中が穏やかじゃないライカを笑うように電話を終えた四季がとんでもないことを言い出した。

「菊代ちゃんさー、鏡高組の組長の娘で、どっぷりキンジに依存してて、キンジにぞっこんでさー」

「やばい人じゃないですか!? その人絶対彼女じゃなくてストーカーでしょ!?」

「家族公認の彼女だし、キンジも家から追い出そうとしないよ?」

 てか、なんで四季先輩は遠山先輩の家の内情しっているんですか!? と言うと四季はケラケラ笑いながら、帰る家もないし親戚みんな無職のクソフリーターだからキンジの家に長期休暇お世話になってるの。と言い出した。だから笑えないですよ、とのどまで出かかった言葉を飲み込むライカ。戦妹をしていて気が付いたが、四季は突っ込みをするとさらにブラックなことを言い出す傾向があるからだ。

「まあ、二人でデートでもしてればいいんじゃないですか?」

「あんた医者だろ!? もうちょっと実のある事言いましょうよ!」

 キョトンとする楽器にただただ唖然とするライカ。この人、ショタコンなんじゃなくて倫理観がおかしいだけなんじゃ、とさえ思えてくる。

「いやー最近30代のおばさんが女子会とか開いてるのワイドショーで見て、あまりの痛さに女子って名乗らないって心に決めてるんですよ」

 たしかにそれは痛々しいが、それ以前の問題発言である。

「しょーじき、キンジぐらいモテてたらヤッてねえほうがおかしいよね」

「ですよねー」

 ライカはその言葉には否定できなかった。まあ、たしかにやることはやってるんだろうなーと思ってしまう。そして四季がそうだ、菊代ちゃんをそっち方向にそそのかしてみよう。とか四季が徐々に暴走しだしたところで、三人とも医務室から放り出された。




 ちなみにキンジは彼女とは思っていませんが、鏡高ちゃんが外堀を埋めています。
 キンジのストレスは結構えぐいですが、それはまた別の話で語ろうと思っています。


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第26狂 モトコンポ

 定期考査で死にかけていますが、現実逃避しに来ました。


 ついに届いた。一年のころから探していてついに完全な状態で見つけたものがとうとう寮に届いた。正直、現在していたのが奇跡だったので、値は張ったがしかたない。

 ふっふっふと悦に浸っていると、ぴるぴると電話が鳴った。キンジからだ。……どうしよう? 無視したら殺されちゃうよね?

「もしもし? 昨日はお楽しみでしたね☆」

「うるせえ、今から寝るところなんだよ」

 夜通しかよ。死ねばいいのに。いや、この奥手が手を出したとは思えない。んー? どっちだろう……。

「……ありがとな」

「は?」

「死ね」

 切りやがった。ええ、なんなの? 死ねは挨拶だからいいけど、ありがとうって気色わるっ!? うん、多分、体を気遣ったとかの感謝だろうけど、そこまで殊勝なやつかねあいつ。

 そんなことよりもこれだよ! これ!

「これを運ばせるためによばれたんすか」

「そーだよー」

 やっぱ、火野は力があって便利だ。そこそこ重いから、箱から出さずに持っていくには台車か担ぐしかなかったから、楽でいいや。

「なんなんですか、これ……」

「なーいしょ」

 とりあえず、車輌科までもっていかせてから教えてやろう。ふっふっふ、驚くぞー。まさかここまで完璧なものが現存しているだなんて。なにせ50万以降はもう落とすことに必死で、金に糸目つけなくなったからな。

 

 

「西条君、例のものが届いたって本当なのだ!?」

「本当なのだ!」

「約束どうり、ロハで改造してやっから改造させてくれ!」

「死ね」

 お前俺に対する対応ひどくね!? と武藤が叫んでいるけど、知るか。俺が勉強見てやったのに、50点切りやがって。小テストだったから許してやるけど、罪悪感ぐらい抱けや。

 でもたしかに、これはこのままじゃ武偵としては使い物にはならない。俺だって知識と技術は片手間に身に着けたけど、専門家に魔改造してもらったほうがいい。トンでも機能を平賀に、平賀製に標準装備の構造上の穴を武藤に埋めさせる。この二人は幻の機体に触れられる。

「なんなんですか、この段ボールに入ってるの……。HONDA……?」

 火野は本当に趣味の世界に疎いなー。キンジに言ったら武偵向きだって言ってたから、武偵はみんな知っているものだと思ってたけど、やっぱ珍しいんだな。

「ホンダ・モトコンポ。それも未開封の超貴重な奴」

「はい?」

「モトコンポ」

 HONDA・モトコンポはシティーつー車にも乗っけられる小型バイクとして発売されたもので、販売価格8万円だったのだがCMがシティーのおまけみたいなコンセプトだったので、売れなかった。そして発売終了したのだが、発売終了後に人気が出た。馬力が弱いだのの欠点を改造で補うのが主流だ。そして何よりも車に乗っけられるほど小型であり小回りが利くという武偵にお誂えたようなものなのだー。

「改造するなら、未開封じゃなくても……」

「ばっかだなー、そこはロマンだよ」

「そうなのだ。ライカちゃんはわかってないのだ」

「そうだぜ、わかってねえな」

 ロマンを理解できない火野がビミョーな顔をしているが、未開封に理屈はいらない。ロマンがあればいいのだ。

「いくらしたんすか?」

「50万は越えた」

「はあ!? 中古車買えばいいじゃないっすか!」

「ロマンつってんだろうが。この赤点量産馬鹿ライカ」

「だからなんで罵倒してくるんですか!」

 信じられない生き物を見るような目で見てくるが、そこは理屈じゃなくてロマンなんだって。ロマンを追い求めなかったら平賀さんなんかに改造頼まねえよ。俺の形見じゃないけどお気に入りのナイフの整備を頼んだら愉快なドリルにしやがって……、かっこよかったからいいけど。

 

 

「なんか、四季先輩と平賀先輩みたいな体格の人が乗るとおもちゃのバイクみたいですね」

「おい絞めるぞ」

 モトコンポの形を見るなりこれだ。背が大きいからってなんだその物言いは、武偵高ちっちゃいもの倶楽部を敵に回すと怖いぞ。なんでこの高校背が小さいやつ多いんだろうね。

「どんな改造がお好みなのだ?」

「とりあえず、高速は走れるようにして。あとカバー? なんか周りは防弾性のカーボンにして」

「わかったのだ! 武偵基本改造ですのだ!」

 やっぱ最初はオーソドックスにね。白バイっぽくすることもできるけど、そこは漫画のファンでの話だ。見たことないし、結構目立つからなー。

「いや、ちょっと待ってください。その改造だとほとんど全部とっかえるじゃないですか!?」

「「「ロマン!」」」

 ぷるぷると体を震わせるライカだけど、けち臭いなー。キンジと仕事してると忙しすぎて金使う暇もないから、こうやって税金対策しておかないといけないし。あ、タイヤも防弾タイヤに変えなきゃ。

「やっほー、シキシキー」

「あ、理子だー。かわいいラッタッタだね……。あぶねえ!?」

 なんなの!? 理子が白いラッタッタに乗ってきたから誉めてやったら引いてきたんだけど! あと平賀さんと武藤にスパナで殴られたんだけど!? 痛いんですけど!

「ベスパをラッタッタと呼ぶ奴は私の敵だ!」

 低ッ! 敵の基準低いぞ! なんだよ、ベスパかなんか知らないけど、ラッタッタの仲間でしょ?

「スクーターの一種なのだ……。正直引くのだー」

 すくーたーってなに? へんな形のラッタッタのことか? おばさんとか親戚みんな免許なんて持ってなかったから、正直ロマンのある車ぐらいしか知らないし……。F-1を痛車って言ったら白い目で見られたからもしかしてそれっくらい変なこと言ったのかな?

「ああ、思い出した。京都の請負人さんがそれもってた。白色で一緒だ―」

「へえ、りこりんあってみたーい」

 理子はラッタッタもといベスパから降りて、目ざとく無傷のモトコンポを撫でまわしてた。

「こんな骨董品、よく手に入ったね。りこりんびくりだぁ」

「50万したから傷つけるなよ!」

 へえ、思ったより安い。なんていいやがる。さすがに50万は高いだろ! 元値の5倍以上なんだからな。未改造社もほしいから、復刻版出してくれないかな、ホンダ。

「しきしきー、キーくん知らない? 朝から見てないんだけど」

 りこりんがおーだ。なんて言って指で鬼の角みたいなのを頭からはしている。さて、なんて言おうか。女のところって言ったら、理子のことだから明日には学園中に広まる。そして修羅場だ。

「実家に帰って敬老してる」

「えっらーい! うんうん、親戚は大切だよね」

 うん、嘘はついていない。さあ、変に感づかれる前にモトコンポの改造をちゃっちゃとすませよう。なんか食いたくなくなったらライカを走らせればいいし、今日は趣味に没頭するぜ!

「あ、じゃあ、私はこれで……」

「なに帰ろうとしてんだよ。お前にはパシリっていう重大任務があるんだから」

「でも、麒麟との約束が……」

「あ゛?」

「なんでもありません」

 なんてやつだ、先輩の命令に逆らおうとするだなんて……。そりゃ、めちゃくちゃなら逆らってもいいけどこんなの武偵高じゃ当たり前の命令なんだぞ。

「先輩は、どんな命令されてきたんすか……」

「キンジの命令に逆らったら殺されるし、現在進行形で戦姉をお母さんっていうように命令されてる」

 はんっ、て、おいライカ。鼻で笑うことじゃないだろ。冗談じゃなくて、本当に殺されるし、命令されてるんだぞ。後者は逆らってるけど反抗期扱いで全然めげてくれないし。

 

 

「できたー!」

「できたのだ!」

「世界一のモトコンポだぜ、これ!」

 出来上がった改造モトコンポは見た目こそ大きな変化はないものの、その実、中身は全く別物であった。カーボン素材の軽量防弾カバーで包まれ、速力は高速道路を難なく走れるほど、タイヤも防弾性であり、座席のクッション性も上がっている。サスペンションは内部に組み込まれているがオフロードでも問題なく走れるほどの性能、それでいてモトコンポ本来の強みである収納性は全く失われていない。なんだこのバケモノ車。

 それでいて平賀製にありがちな変な不調は武藤によって調整されている。なんだこのバケモノ車。

「これ、そのまま売れるぜ?」

「会社起こしちゃう?」

 さあ、試乗だ! なに、公道がどうとか裏でいくらでも平賀さんが融通を聞かせれる。

 乗り心地はまずまずだったが、加速性は悪かった。そりゃそうだ、結構無茶な改造してるし、外面が四角じゃ空気抵抗で速度を出し過ぎると危なくなる。それでも事件では十分すぎる性能を発揮してくれるだろうな。

「あの……先輩、出来上がったのでしたら自分はこれで……」

「おう、焼きそばパン買ってこい」

「……はい」

 

 

 

「お姉さまはどうしてあんな先輩を戦兄に指名したのですの?」

「どうしてって、そりゃあすごい先輩だからだよ」

 ライカは焼きそばパンを購買で買い終わり、車輌科の倉庫に向かう途中で、麒麟に聞かれた。確かに、四季先輩は横暴で、長いものに巻かれて、戦妹を人とも思わないひどい先輩だが、不思議とやめてやるとは思わなかった。

「先輩はナイフ術だけじゃないんだぜ? 戦術とか勉強、いろんなもんがスゲーんだよ。教え得方もナイフ以外はうまいし、最近CQCもやるようになってさ。ありゃ反則だよ」

「いえ、そういうわけではなくて、どうして遠山先輩や一石先輩のように徒手空拳が優れた先輩がいるでしょうに……」

「ありゃ私のと別もんだ」

 そもそも二人とも後輩にかまっているほど時間があるわけでもないだろうし。

「じゃあさ、麒麟だって私なんかよりもずっと色っぽい人たちがいる中で、私を戦姉に指名したんだろ?」

「う、そ、それはそれですわ!」

 そーいうこった。と快活に笑って、この話は終わり、と締めくくるライカに不満げながらも追及はしない麒麟。

 

「おう、ライカ、島の妹、ラーメン食いに行くぞ」

「え、マジっすか!?」

「女子はそんなの食べませんの! いたたたたっ!?」

 ねえ、こいつなに先輩に逆らってんの? 諜報科でも代用の効く金食い虫のCVRのくせに。

「先輩、最近覚えた関節技の練習に麒麟を使うのやめてください!」

「奴隷の一年、鬼の二年、閻魔の三年、家畜のインターンだ。家畜のくせに口答えしてんじゃねえよ」

「初めて聞きましたよ! そんなの! 家畜ってなんですか!?」

 そりゃそうだ、たったいま俺が作ったんだから。まあ、実際インターンはぬるいらしい。らしいというのは、俺自身一般中学からきているので、インターンの経験が一切ないのだ。まあ、だから最初は大変だった。なにしろガチガチの上下関係とうっすらと漂う派閥関係があったもんだから、きな臭くてキナ臭くて。

 派閥かあ、懐かしいなあ。中学の時は与謝野晶子派か種田山頭火派で盛り上がってたなあ。こっちの派閥は下らなかったけど、中学校の派閥は面白かったなあ。この学校でこの話題したら種田山頭火って誰って言われて、びっくりしたなあ。

「先輩はモトコンポでいかれるんですか?」

「え? 武藤の車だけど?」

「……」

 すっげー複雑そうな顔で俺のことをみてるんですけど、このノッポ。明日申請だすのだから、今日乗ったら警察に捕まっちゃうっつーの。

 




 さすがに50万はしないと思います。未使用どころか未開封なんてまだあるとはとても思えませんが。
 大学の物理は不思議な呪文でしかありません。


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第27狂 死神

夏休みだからある程度更新速くなると思いますが、次の話で悩んでいます。


 一番強いのはどこか。これは『裏の世界』ではたびたび議論になることだ。『財力の世界』ならば土地、美術品、信頼、科学力、いわゆるお金に変換できるものをもって強いと定める。『政治の世界』は玖渚一強なので議論にはならない。そして『暴力の世界』は歪だ。それは、戦闘力であり、家族の絆であり、忠誠心であり、正義であり、義侠心であり、清潔であり、運命であり、心であり、武器であり、病であり、支配であり、認識であり、予言であり、それは暴力である。

 では、最強はだれか。言うに及ばず、議論の余地なく、人類最強の請負人『哀川潤』だ。

 最悪はどこか。それもまた、最悪の代名詞たる『零崎一賊』である。

 どこと戦いたくないか。これは議論の余地はあれど、ほぼすべての人間が、生物が抗うことのできない『感染血統奇野師団』という意見が大多数を占めるだろう。

 

 では、どこと出会いたくないか。どこが、もっとも異質か。これは『裏の世界』の誰もが口を紡ぐ。零崎を最悪だ、最悪だ、と言いながらも最悪扱いはしている。呪い名にしても利用しなければいけないときには苦渋の決断をもって利用できる。だが、『石凪』に関していえば、どこもかしこも四方をみても利用しようとする場所はいない。かつて『結晶皇帝』と呼ばれた男が石凪の女に子を産ませた記録があるにはあるが、それはよほどの例外。端数として切り捨てていいほどの例外だ。

 

 

「アリア! 逃げろ!」

 ド畜生が! なんだってたまたま別件があって五限目の授業に遅れてやってきたら、なんで大鎌(デスサイス)を持った奴とアリアが戦っているんだ!?

「どきなさい! そいつは私に喧嘩を売ってきたのよ!」

「馬鹿野郎! ああもう! 石凪(・・)に真正面から勝てるかよ!」

 くそっ、最悪じゃないが、状況は極めて悪い! どういうわけかアリアは機嫌が悪い。モトコンポ乗せようと画策してたのに台無しだ!

 大鎌(デスサイス)。裏の世界狭しとはいえ、大鎌なんて馬鹿げた武器を使うのは石凪調査室の死神ぐらいだ。死神についてはオジサンから死ぬほど聞かされている。殺し名序列第七位、つまりは最下位にして特権階級。『生きているべきでない者、運命に背く者を殺す』、故に死神。

「あら、あなた……澄百合の忘れ形見さんは、これがみえたの?」

「ああ? 隠したつもりだったの?」

 すごいすごい、と子供をほめるように三つ編みの女はぱちぱちと手を叩いて俺は褒めた。それにしても奇妙な死神だ。髪に鎌……それも連結式の暗器としての特性を高くした大鎌を隠している。その技法は俺も爪とかでやったことがあるが、正直一発限りのかくし芸でしかない。知られたら面白みも効果も半減以下。総合的に見るならば、普通に手にもって戦ったほうがよっぽどいい。

「じゃあ、これはどうかしら?」

 刹那、何が起きたかわからなかった。何が起きたかはわからなかったが、なにをされたか(・・・・・・・)は分かった。

「あんた本当にプロのプレイヤーなの?」

「さあ? どうかしら……?」

 わあ、すごーい、と銃撃をナイフでそらした俺の妙技をほめる女。 ざっけんな。こいつ、銃を使いやがった。石凪を看破できる人間に、銃なんて効くはずがないのに。こいつの銃撃は所詮、不可視の早撃ち。だからどうした……! 不可視だろうが何だろうが、殺意はある。殺意で銃撃をよけたりそらす俺たちには、早撃ちなんて意味がまるでない。馬鹿なのか、この死神は? 白昼堂々、酔っぱらった蘭豹の前で、強襲科の生徒の前で、アリアを殺そうとしてるし、やっぱり馬鹿なのだろうか。

「こ、こらぁー!」

 と、声がした。婦警さん……のコスプレをした理子だな。うん、完成度が異常に高いけど、理子だな。

 

 

「石凪調査室。殺し名序列第七位の死神だ」

 俺はあのあと蘭豹に説教され(理不尽だ)、今はこくこくとアリアに石凪の恐ろしさを教えている。蘭豹いわく、殺意はなかったらしいが、俺からしたら死神に目をつけられたってことが大問題なんだ。

「もうわかったわよ。あいつの使っている銃の品名もわかったし、次は大丈夫よ」

「次は多分本気で殺しに来るよ」

 あっさりと、殺しにくると言い放った俺に眉を顰めるアリア。武偵が武偵を狙うことは往々にしてあることだが、基本的に武偵は狙う側を前提に訓練を受ける。そりゃあ、護衛だってするが、それは狙われているとごく短時間に集中して注意を払えるから仕事として成り立っているだけだ。今回の次となると、四六時中狙われている注意を払う必要が出てくる。こういった状況に武偵は弱い。むしろ、知らないほうがいいかもしれないぐらいに。

「わかったわ。そうね、次が本格的に狙うとしたら、出来れば一人の時、最低でも人通りの少ない場合ね」

「そう。アリアは友達が少ないから、一人の時ばっかだから、怖い顔で睨まないでよ。本当の事じゃん」

「う、うるさいわよっ!? 友達が少ないんじゃなくて、ちゃんとした友達しかいないのよ!」

「レキをちゃんとした友達に入れるなら、採点基準がガバガバなんだけど。だから睨まないでよ」

 でもこれは死活問題だ。なにしろ、アリアは寮でもVIPルーム、つまりは一人部屋だ。一人の時間が圧倒的に多い。それをどうにかしようにも、瑠河のやつは仕事がぎっしり(ドラマの仕事が増えたと文句を言っていた)、一年どもじゃ足手まとい。女子寮は男子禁制、さてどうしようか?

 

「カジノの護衛の仕事をする」

「なに? き……単位でも足りないの?」

 一週間ぶりに寮に帰ってきたキンジがカジノの護衛をするとか言い出した。どうもへたくそに煙に巻こうとしてるけど、菊代ちゃんに駄々をこねられたらしい。でも、これはいいかもしれない。カジノは人が多い上に問題なんてそうそう起きえない。なにしろヤーサンが裏でなんやらなんて序の口で、それによって問題起こしたら組同士の戦争になる。核の傘ではないが緊張が平和を作っているのだ。で、契約日数は長いがこれも今回は、アリアを守るという条件からは好待遇になる。またアリアのパートナーであるキンジには今日あったことを話さなきゃいけないので、手短に話したところ……。

「石凪……? 確か呪い名だったよな?」

「殺し名だよ」

 こいつ本当に座学弱いな。そんなんだから菊代ちゃんにいいように扱われてるんだよ。

「で、その任務のメンバーは?」

「今のところ、俺とお前、依存夫婦に、アリアだ」

 よし、俺の予想だとレキと白雪が加わるな。できれば神足を入れたいところだけど、そうしたら全員いれろとなるので却下だ。そもそも神足は宗教犯罪をメインにしてた諜報科らしいので、畑が少し違う。だからと言って別府や大植を入れようものなら、潜入捜査が破たんする。瑠河は忙しので却下。

「まあ、いいよ。ここ最近、神経削るようなのばっかだったから、たまには息抜きをしないとね」

「仕事で息抜きなんてするな。いくら簡単だとはいえ、仕事は仕事だ」

 なーに、まじめ腐ったこと言っちゃってんだ。程よい緊張と多少の娯楽、これが一番リラックスできる状況だと思うんだけどねえ。

 

 

 このとき俺は気が付かなかった。キンジが本当に単位が危ないことも、それに都合よく表れたこの任務にも、そして任務によって、運命は大きく流転する。




流転って確か意味が違ったような気がしますが、字面がかっこよかったので使いました。宵子のみんなはマネしちゃだめだぞ。馬鹿にされるから。

感想お待ちしています。


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第28狂 配役

かぼちゃ「『戯言シリーズアニメ化』?またまたーツイッターには騙されませんよー」
本当にガセだと思ってました。



「おい、クソッタレ。表出ろや」

「い、いや、待ってくれ四季! 俺は何にも知らねえよ!?」

 知ったことか。と、西条四季は言い放った。その眼は怒りに燃えており、いつもは可愛い、可愛い、ともてはやす紅梅楽器は逃げ出した。依存夫婦の妻のほうの鹿折利根ですら顔が引きつっている。アリアは泣きそうな顔をし、理子はドン引き、白雪は妄想の世界に逃避し、レキははじめから来なかった。ライカやあかりをはじめとした(手伝いに駆り出された)一年生は恐怖で気絶した。

 つまるところ、西条四季は切れていた。それも殺人鬼ではないと明言されているのが嘘だと思われるほどの、悍ましい殺気をだして。

 

 始まりはキンジがカジノの仕事を持ってきたところ、と言いたいが、この事件の始まりは入り組んでおりどこが始まりなのかはわからない。しかし、なぜ四季がここまで切れているのかははっきりとわかる。カジノの仕事には役割が割り振られる。キンジは『青年IT社長』などといったところである。そして西条四季に割り振られた役割が『親につられてこられた小学生』だった。そして親役が依存夫婦だったのだ。

 小学生の文言の時点で文章を引き裂き、親役が分かった時点で切れた。切れた。もうどうしようもなく切れた。

「殺して解して並べて揃えて――晒してやんよ」

 ここで使っていい言葉じゃないだろ、と言いたいほどの言葉なのだが、そんなことすらも忘れるほどの怒りでキンジを殺害宣言する四季。

 四季の思考回路では、キンジがこの配役をえさに依存夫婦に仕事の手伝いをさせたと思い込んでいるようだが、それは違った。鹿折は四季と仕事ができると聞き勝手に飛びついてきただけで、こんな配役になるとはだれも知らなかった。カジノ側が四季の容姿と依存夫婦の関係を知り、これなら一番自然だろうといった考えのもと配役を決めたのだが、幼児体型(アリア)にバニーガールをあてがうカジノがそこまでまともに考えるなど考えなかった。そもそも高校生に小学生の役割をあてがうこと自体まともではないが。

 

 その後、キンジと四季による殺し合いは途中から匂宮絵札が乱入し、家財道具が防弾性でなかったら無事なものは何一つとしてなかったであろうことが予想されるほど荒れに荒れ、壁紙は壁ごと変えたほうがいいのではないかというほどに崩壊した。四季の怒りはそれでも収まらず、いつもは嫌がっているフォーシーズンライバルの会と殴り合いに出て行った。

「殺される。ぜってー殺される」

 四季の勘違いとはいえ、これはあまりにもひどい配役であり、同情と『普段の四季』との相性の悪さから防戦一方だった。それもそうだ。四季は自身を過小評価しているが狂化でもしない限り、普段のキンジでは勝つ可能性は低い。それこそヒステリアスモードにでもならない限りは……。

「四季先輩って本当に強かったんですね……」

「あいつは感性で戦う天才だ」

 志乃の言葉に苦笑交じりに答えるキンジ。四季をよく知らない奴はよく一芸特化の武偵で総合的にはそこまでの実力ではないと勘違いされるが、実際には総合的に見ても高水準にまとまっており、接近戦を押し付けるのがうまいのだ。肉弾戦では学内でもトップクラスだと自負しているキンジだが、鋭利な刃物の攻撃は肉弾戦のように受け流すことができない。そのため四季の攻撃はよけなければいけない。さらに四季は頭がとてもいいため、戦術を組み立てるのがうまい。なによりも戦い方そのものは鹿折利根(アネ)の影響なのかどちらかと言えば、『諜報科(レザド)』のような戦い方をする。強襲科の武力で諜報科のような戦い方をされたらたまったものではない。

 一方、『狂化』した四季は傷つくことを恐れない。そもそも傷つくことを考慮に入れてないのか、攻撃をよけようとさえしない。そして行動原理は意味不明だが行動そのものは直線的なので、『俺的必殺問答無用拳』を叩きこむことができる。そのため非常にやりやすいのだ。そしてもう一つ、これを認識するたびにキンジは自己嫌悪に陥ってしまうのだが、『狂化』した四季は非常に『倒すべき敵』として見やすいのだ。

 キンジはヒステリアスモードになれば四季とも互角以上に戦える自負はある。しかしなってしまうと、『強さの質』が逆転してしまうのだ。

 強さには大きく分けて二種類あるとされている。一般的な強さは『派手な強さ』。これは非常にわかりやすい。一見して強いことが分かる。四季やアリアだけではなく、強襲科のほとんどの生徒がこれに分類される。それどころか、ほぼすべての武偵と言っても過言ではない。もう一つの強さが『地味な強さ』。これは分かりにくい。とにかくわかりにくいのだ。一見したところで強いのかさえ分からない。それどころか弱くさえ見えてしまう。実際に戦うものでこの強さの質を持っている人間はかなりまれであり、キンジや匂宮絵札がこれに該当する。そして匂宮絵札が超能力で行っていたのは、『爆発による強さの偽装』だった。派手な爆発で自身の本来持つ『地味な強さ』を隠していた。それにより初見では、匂宮絵札の主力を爆発だと思い込んでしまった。もっともそれを看破したところで匂宮絵札の実力が強いので、偽装する意味は薄いような気もするが……。

 そしてキンジの場合『地味な強さ』から『派手な強さ』に変化してしまうと、普段はできることができなくなってしまう。つまり攻撃が受け流せなくなり(厳密には受け流すのが下手になる)、曲絃糸は全く使えなくなる。また女性を守ることを最優先に行動するので(正確には違うが)、四季に裏をかかれる可能性もある。つまるところ、普段の四季は普通に手の付けられないほど強いのだ。『狂化』した四季は訳が分からない、要するに先の見えない不気味な強さがあり、こちらとはまともに戦いたくない。いや、まともに戦うことすらかなわないだろう。どうやってもかみ合わない。それが狂化した四季だ。

 あと部屋の女性比率が異様に高いので、あのまま四季と喧嘩してたほうがマシだったかもと本気で考えるキンジだった。

 

 その後、白雪やどういった風の吹き回しかレキもこの任務に参加することになった。

 実はこれ、かなりのレアケースなのだ。Sランク武偵がカジノの護衛をすることではなく、レキと四季が同じ仕事をすることがかなり珍しい。というのもこの二人、かなり仲が悪いのだ。一年生のころから異様なまでに仲が悪い。ロボット・レキとまで言われるレキが不機嫌になるぐらい仲が悪い。仲が悪い理由については、四季がいうにはいきなり撃たれてその理由が意味不明だった。レキがいうには全弾、つまりドラグノフ狙撃銃で撃った弾すべてをナイフで弾かれた上に両腕をへし折られたとのこと。レキもレキだが、四季の仕返しも過激すぎる。

 そのためアリアが最初の任務であるバスジャックの時に、レキと四季が同じであることを現地で話すという配慮をしなければいけなかったほどに。ちなみにそれでも四季は本気でレキの目を潰そうとしたし、レキもキンジが注意しなければまず間違いなく四季を撃っていた。それもヘッドショットで。

 それだけ仲の悪い二人が、いくら合意の上とはいえ同じ仕事になればどうなるかなど目に見えている。

 

「ロボット・レキは充電済んだの? ああそっか風力発電だっけ?」

「四季さん、貴方は偏差値が高いと聞きました。なるほど人格が歪んでいます」

 白雪と瑠河よりも仲が悪い。仕事当日ですらこのありさまである。普段、どれだけ仲が悪いかなど想像に難くない。

「四季さん、その服お似合いですよ。まるで小学生のようです」

「はっはっは、レキもそのディーラー姿とてもお似合いだ。まるでイカサマ師だ」

 まわりはこの二人を無視して任務の段取りを話し合っていた。といっても、大まかな位置決め程度であり、綿密なものではない。配役上自由に動ける者と自由に動けない者で別れるので、動けない者を起点に動ける者が補うといった形に収まった。

「それじゃあ、私と四季君はエントランス。というか四季君自由に動けないから。じゃあ、お母さんと一緒に行こうねー」

「やだー! こんな配役やだー!」

 四季のガチ泣きを鼻で笑うレキに、ああこいつ一応人間なんだな、と再確認するキンジであった。




なんといいましょうか、水着サバ一切当たらなくてナーバスな中書きました。だから? ってだけなんですがね。

感想、評価お待ちしております。もらえたら毎回小躍りしています。批評もバッチ来いです。


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第29狂 襲撃

 新刊が出るたびに先のシナリオばかり出来上がってしまいます。クソウ、クソウ


 『ピラミディオン台場』、数年前に日本に漂着した謎のピラミッド型の人工物から着想を得た時の都知事がデザインしたため、巨大なピラミッド状の建物になっている。中は公営ギャンブル場であり、毎日数億の金が動いているとかいないとか。

「いい加減機嫌を直してくれよ」

「死ね、クソごみ色欲魔」

「ちょっとお前の俺に対する認識で相談がある」

 四季と電話で状況報告をしあうキンジ。やはり問題らしい問題は起きておらず、若手IT社長が鹿折利根もナンパしていたらしいことが報告された(金だけ巻き上げたそうだ)。たまにカジノ反対団体がくると聞いていたが、そのような問題もなく、滞りなく進んでいった。アリアや白雪の体たらく、というよりももともと向いていないであろう、コンパニオンの不出来さを見た後なので、四季の報告がすごくよくできたものに聞こえた。

 電話を切ると、キンジは鹿折利根をナンパした若手IT社長とルーレットでを賭けしているという現実に戻った。ディーラーはレキ。どうやら好きなところにボールを入れられるらしく、勝ってしまった。いくら勝っても、金にすらならないので(配当金はカジノに返却する契約だった)、うれしくもなければ、ばれれば追い出されるのでドギマギしていた。

 

「キンジさん、下がってください」

「ああ。気づいている」

 上に、敵がいた。動物の頭に人の体をした『なにか』が複数体いた。四季の報告はないところを見ると、入り口以外から侵入したらしい。曲絃糸を張り巡らしていたが、この瞬間まで探知できなかった。たしかにピラミディオン台場全体を覆っていたので、かなり雑だったが、それでもあの数を探知できなかったとは考えにくい。そしてなによりも……。

「体重が見た目と釣り合っていない。それどころか心臓が鼓動していない」

「人ですらないようです」

 レキはドラグノフ狙撃を、キンジがベレッタを取り出すと客はクモの子を散らすように逃げていった。天井にいた数匹が降りてきて臨戦態勢に入り、両者に緊張がはしる。

 数分ののちに、白雪によって正体が分かり、白雪が倒された。火に強いらしいが、刀を盗まれていたのがまずかった。普段の間合いから外れた場合、いくら鍛えていようとも人はもろい。まして白雪はSSRの人間であり、戦闘訓練は少ないと聞いている。そして遅れてアリアと依存夫婦の旦那のほう、鹿折信濃が来た。客のパニックをいさめていたらしく、キンジとレキを見て信濃は渋い顔をした。恐らく敵ではなく、この二人の銃を見て逃げたと思ったのだろう。そしてそれは正鵠を得ていた。あとが怖くなったキンジは戦闘に集中して信濃のあの犯罪者を見るような目線を忘れようとした。

 

「フンッ!」

 信濃はヒト型の首をぶん殴って砕いた。何という怪力。本当にこの人は諜報科なのだろうか。

「先輩、こいつらに触れるのは危険です!」

「善処しよう」

 キンジの言葉にぶっきらぼうに答えた顔思ったら今度は銃で首を狙いだした。

「なにしてるんですか!? 自分たちも撃ちましたけど……」

 そこでようやく気付く、なぜか信濃に撃たれたヒト型のなにかは動かないどころか、砂になっていた。もうさすがにヒト型がゴーレムだったとかでは驚かないが、なぜだろうか。

「どういうわけか、こういう式神やらゴーレムを作るやつって、ヒト型にするときは『核』となるものを心臓、脳、そして首に置く傾向が強いのよ」

 と、経験の多いアリアの説明でキンジとレキも砂人形の首を狙って打ち出した。人にやったら完全にアウトなのだが、生きてすらいないので問題はない。そうして四人がかりで砂人形を撃退していった。

 

 

「なんかカジノのほう騒がしくない?」

「そうですね。それにしてもお父さんのカジノ通いにも困ったものです」

 はぁ、と憂鬱そうにため息をする利根。お父さんというワードにこめかみに血管が浮き出る。そもそも膝の上に座らされている時点で不機嫌なのに、逃げ出さないように腕を回されてがっちり固定されている。もはや小学生の扱いですらなく、幼稚園生の扱いであった。ここまでくると恋愛感情があるのではと勘ぐってしまうが、四季は身をもって知っている。そんなのみじんもないと。こいつの恋慕の感情はすべて信濃に注がれていることを、毎回聞かされるのろけ話でうんざりするほど知っている。

「ねえ、何か問題があったんじゃないの?」

「だとしても彼らでだいたいのことは事足りるでしょう」

 それよりもこの混乱に乗じた犯罪を止めなきゃ、と言って利根は横を通った男を叩きのめした。腹を殴ったため胃の中に入っていたものが出てきたが、さっと靴が汚れないように足をあげた。

「はっあ~い、ポケットに入ってるのはなにかな、なにかな?」

「お薬関係の法律変わってね。承認以外の薬は全部非合法になったんだよ」

 取引に訪れたであろう男は睨み付けるが、そんなものにひるむ武偵などいてたまるか。いや中空知などいるにはいるのだが、強襲科や諜報科にはいない。いないと信じたい。

 そしてエントランスには非合法の取引をしに来たであろう人間がちらほらといた。これが一人や二人ならば、いつも道理のたまたまですまされるのだが、ここまでとなるとなんらかの情報があったと見たほうがいい。

「う~ん、どちらかというと皆さん今日この騒動が知らされていたみたいね。ざっと見ただけでも数も多いし」

「で、僕たちはここにくぎ付け。カジノの警備員は混乱に乗じてコインをひったくった客の確認にくぎ付け」

「つまり、自由に動けるのは中の五人だけ、と」

 手際よく売人を取り押さえつつ、状況を確認する二人。戦姉弟だけあって連携は抜群であり、容赦が全くと言っていいほどなかった。特に利根のほうは逃げられないように四肢の骨をしっかり折る徹底ぶり。手錠などの拘束器具もあるのだろうが、めんどくさいからかそれとも趣味なのかは四季でもわからない。

 四季は仲間を信じて、利根は旦那を信じて犯罪者を蹂躙していった。

 

 

「おら起きやがれ、色欲魔!」

「……四季……?」

 ドゴォ、と俺は容赦なく桟橋で倒れていたキンジの腹を踏みつけた。完全に冷静さをなくしていることだけは理解できたがもうやけくそだ。周りに諫められるが、依存夫婦が二人ともいないこの状況で俺を抑えつけられる奴はいなかった。

「ゲホッ、ゲホッ、て、てめえ!」

アリア(・・・)は何処だ!?」

 騒動が一段落して連絡をしあったとき、キンジとアリアには連絡がつかなかっ桟橋で倒れてた。だが、アリアの姿はどこにもなく、ダイバーたちが水中を探していた。

 そしてキンジはキンジは俯いて消え入るような声で、攫われたといった。その言葉を聞いて俺はナイフを両手にとった。わかっている。キンジとここで争ったところで何も進展しない。でも、考えるべきだった。俺と利根をエントランスに縛り付ける策を練っていた相手が、信濃やキンジ、レキ、アリア相手に何らかの策を練っていたと考えるべきだった。もう少し焦っていたら、アリアを助けることができたはずだったんだ。

「もう一度聞いてやる。アリアは何処だ!」

「四季。学校に帰るぞ」

 ぐわん、と視点が一気に高くなったと思ったら、信濃に襟首をつかまれ猫のように持ち上げられた。帰るだと? ざっけんな!

「アリアを探すのが先だろうが!」

「俺らの仕事は終わった。ここからはアリア個人の問題だ」

 この野郎! と言ったがどこ吹く風で出口に向かう信濃。キンジや白雪は信濃をにらんでいるが、何も言えない。きっとこいつの戦いぶりを見たんだな。

 それに、信濃は正しい。武偵は金で動く、いや、金で動かなきゃいけないんだ。そうしなければ武偵は職業として成立しなくなってしまう。

「冷静になれ。ここで駄々をこねて何になる? 攫ったということは目的があるということだ。そうやすやすと殺せない理由がな」

「そうですよ。海に向かって逃げられたんじゃ、今の私たちにできることは何もありませんし」

 その通りだ。アリアとの関係性が薄いだけに冷静に状況を言い並べる二人。あともう一つ、学校に戻るとわかることがある。アリアをさらったのは状況から考えてイ・ウーの人間だ。例の死神だとするとその場に死体が転がっていないうえに、騒ぎにすること自体不自然だ。そしてイ・ウーの人間なら詳しい人間が一人いる。通称『怪盗』トランプ、匂宮絵札だ。




 結構有名な話なのですが、零崎の命名ルールは『本名の下の名前+一文字且つ4文字』で『男性なら識』、『女性ならば織』らしいですね。なにが言いたいかというと魔法少女サイコ☆マキ……。

 感想、誤字脱字の報告、待っています。


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第30狂 依頼

 次話のためのつなぎのようなものです。


「パトラだろ。つーかメール来た」

「殺す!」

 返り討ちにあった。この間僅か2秒。強すぎるだろこいつ。なんなの? いったい何者なの?

 

 武偵校に戻るとすぐに絵札を探した。教室にいるか食堂にいるかの二択なのですぐに食堂で見つかった。友達に囲まれて……。潤応力あり過ぎない?

 絵札によるとパトラも依頼があってついでに誘拐したらしい。止めろよ、と思うが絵札のところにも『手を出すな』という依頼が来ていたらしい。代金は金の延べ棒。何もしないだけで金をもらえるのだったらそりゃ動かない。しかも絵札にとって俺らは遊び相手であっても仲間ではない。

「パトラはつえーぞ。この前遊び半分でバトッた公安0課の連中よりかは面白かったぜ」

「なに公安と戦ってんだ」

「ん? 1式とかが出張ってくるかなーと思って」

 世にも恐ろしい公安の皆様方も、殺し名序列第一位『匂宮雑技団』、その中でも『伝説の殺し屋』として悪名を轟かしている『匂宮出夢』の後継機(ネクストモデル)『匂宮絵札』にとっては、遊び相手をおびき寄せるエサ程度なのか。いや、いきなり表れて、一方的にボコったのだろう。じゃなきゃ一方的にあの公安がやられるとは考えたくない。

「まあ、今は関係ない。パトラについちゃ、ジャンヌとかアドルファよりも私に聞いたのは正解だ」

 NARUTOって知ってる? と言われて、ラーメンのほうなのか漫画のほうなのかときいたら、漫画のほうだった。なんとも所帯じみた殺し屋である。でも人類最強のブログが駄々甘の漫画レビューだったし、強い人って漫画好きなのかな?

「我愛羅だ。パトラは我愛羅のパチモンだ」

 説明はそれで終わって、絵札は友達の輪の中に戻っていった。先輩特権で連れ戻すこともできるが、それでさらに情報を吐くとも思えない。下手をすれば敵が一人増えるだけだ。

 

 

「というわけでパトラについて教えてよ」

 というわけで、ジャンヌ、理子、アドルファを呼んでみた。こいつらも最弱(らしい)とはいえイ・ウーとかいう誘拐組織の構成員なんだから知ってるだろ。

「なぜ私たちよりもトランプが先なんだ……」

「トランプよりも信頼度が低いって……。キー君、しきしき、そりゃないよ……」

「エジプト人だ」

 ジャンヌと理子は実力だけではなく信頼も絵札以下と勝手に思い込んでナーバスになった。アドルファはそんなこと気にせず、一切使えない情報を自信満々に意外とある胸を張っていった。

「パトラはいったいどんな奴なんだ? 少しだが会話したが……」

 キンジがアドルファから目線をそらして、でもジャンヌと理子を真正面から見るのは恥ずかしいからか、変な方向を向いて話した。このむっつりスケベめ。いくら体質だからってここまで徹底的に女性を意識しないよう意識したら、逆効果だろ。

 そしてキンジの問いに、ジャンヌと理子は苦い顔をする。そんなにやばいやつなのか、それとも絵札と同じように先手を打たれたか……。数秒の、しかし一刻を争うこのときにおいては長すぎる時間をかけて、ジャンヌが口を開いた。

「パトラは――」

 ジャンヌは最初、パトラについて当たり障りのないことを話した。クレオパトラの子孫であることや、イ・ウーでも厄介者扱いされていたことなどだ。もともと単独でNo.2であったことから相当な実力の持ち主であることが分かったのはありがたかったけど。

「だがそこにトランプが加入し、トランプがパトラには勝ててもヴラドには勝てない図式が成り立った」

 これでNo.2が3人になった。それからは毎日この三人のうち二人は喧嘩をし、誰かが止めることになった。だれか一人でも抜けてしまえば止める人間がおらず、教授自ら止めなければならなくなるため、退学にすることができなかった。

「しばらくはこの状態が続いた。そしてあの『策士』が現れた後も変わらなかったんだ」

 ただし、とジャンヌはつづけた。どうやらパトラは喧嘩については消極的で、同格、ないし格上の存在によって誇大妄想の気は鳴りを潜めたらしい。目的は変わらず『世界征服』だがな、とため息をついてジャンヌは話し終えた。

「世界征服って……」

「それができるところなんだよ。いや、最悪……最高でNo.3の三人とNo.2の策士で世界征服だけなら可能だ」

 たった四人で世界征服……、しかし匂宮絵札の強さを知っている身からすれば、『表の世界』だけならそれも可能かもしれないとさえ思えてしまう。

 もっともそれはあの最強を考慮に入れなかったら、の話だが。あの最強が関わったら不可能が可能に、加納が不可能になりかねない。下手をすると物理的に物理法億をへし折りかねない。そんなでたらめな存在を考慮に入れてたら何もできなくなってしまう。

 

 

 

「やあ、綺麗な髪の策士さん。最期にチェスでもどうだい?」

「そのためだけに呼んだのですか?」

 そういいつつ教授の前に座る策士。ここはイ・ウーの教授の個室だ。ただし、それはもう少しで終わる。イ・ウーとともに終わる。

「君の策は嫌いだったが、君とのチェスは楽しかったよ」

「a-7のポーンをa-6へ」

 言葉を無視されたのに少し顔色を悪くし、盤面を想像し次の一手を打つ。

「すこしは愛想やよいしょを」

「……ワタシモタノシカッタデスヨ」

 ものすごく棒読みで期待していた返事が聞けて、ますます機嫌を悪くする教授。チェスで『条理予知』を使うほど子供じみてはいないが、もしも使ったところで互角がせいぜいだろう。

「君はこの後どうするつもりなんだい?」

 『条理予知』ですでに分かってはいたが、これは本人の口からききたかった。この人間離れしただけのただの女性が、この超人組織が崩壊したあとどうするのかを聞くべきだと、推理した。

「無粋な人ですね」

「無粋に踏み込むのが探偵だからね。いや、もちろん礼節は持ち合わせているがね」

 コツコツとチェスはよどみなく進んでいく中で、いいえ、違います。と首を振る策士。

「そんなことを聞くのに、推理なんてすることが無粋と言ったのです。普通に聞けばいいだけなのに」

 なるほど。覚えておこう、といってチェスの駒を進める教授に、実行してください、と言って教科書に書かれたように万全の手を打ってくる策士。そう、今の一手への対策ではなく、二手、三手、つまるところ未来への一手として駒を打ってくる。これそのものはチェスに限らずボードゲームでは普通の事なのだが、その精度が異常だ。

 

「教師でもやろうかと思っています」

 盤面を見たまま何気ない日常会話のように、ともすれば聞き流してしまいそうなほど自然に質問に答える隻腕の策士の笑みに、少し驚く名探偵。

「そうか……」

 それはよかった。チェスは続く。続くごとに敗戦の色は濃くなっていくが、それでも負けと認めるのは嫌なので続ける。




 出てくるかもしれないという理由だけで殺し屋に襲われる公安の皆さんですが、そもそも気体操作なんていう対生命に対してチート能力を持った奴に勝てっていうのが無茶苦茶だと思うんですよ。
 絵札の行った戦い方ですが、姿を現す前に大規模爆破→酸素濃度を下げる→ボコる、です。勝てるわけねえ!


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第31狂 蚊帳の外からの強襲

 戦闘はダイジェストでお送りします。考えられなかったんですよ、四季VSパトラが!


「話せることは話した」

「うん……」

「では、そういうことで……」

 ジャンヌ、理子、アドルファは立ち上がり、抜刀した。キョトンとする俺と色欲魔(キンジ)を置き去りにして、覚悟を決めたようにこちらを向く三人。

「アリアを迎えに行きたければ、我々を倒していけ」

 

「で、倒したんだけど……」

 3対2で数的不利だったけど、途中から自称俺のライバルたちが現れ、フォーシーズンライバルの会の協定違反だとかでジャンヌとアドルファを数の暴力で叩きのめした。なに、このカルト……? そのあとは理子を俺とキンジでフルボッコにした。勝てば官軍負ければ賊軍、いやもともとこいつら賊軍だからこのたとえはふさわしくないな。それに、この三人はどこかやる気が感じられなかった。それがまた癪だったが。

「フッ、さすがは私たちを追い詰めた者たちだ……」

 なんかキメ顔でやり切ったみたいな顔をするジャンヌだけど、デュランダル折れてるからね? アドルファは途中からフォーシーズンライバルの会とかいうカルト集団の味方をしてジャンヌを叩きのめしてたけど、やっぱり許されなくて別室で説教されてる。

ついてこい(フォローミー)、いけるのは3人だから白雪を連れて来い」

 ついていくのか連れてくるのかどっちだよ。天然ってこういう人のことを言うのか、この残念美人め。

 

「すまなかった。策士から依頼があって断るに断れなかったのだ」

「策士……?」

「誰かは言えない。特に四季、お前にはあの策士から直接誰なのかを聞かなければいけない」

 磯のにおいがする車輌科のドッグでジャンヌは真面目な顔で語る。しかし、策士かあ、策士ねえ……。

 しっかし、なにあの武藤がいじくってる海水気化魚雷っぽいの……。対人の武偵が魚雷を必要とするとは思えない。車輌科の誰かが趣味で入れたとかかな、この学校予算どうなってんだと思うほどガバガバだからな。

 あと白雪が祭事用の刀を持ってきた。……酷いな、もともと持っていた刀がいい刀だったから今の刀が残念過ぎる。しかしないよりもましか。

「こいつは『オルクス』……]

 武藤の説明が長かったからまとめると、魚雷を改造した自動操縦の潜水艦みたいなものらしい。……もしかしなくても現代版『回天』じゃん。突っ込まない分まだましだけど。で、潜水艦の数え方が艇であってるのかはわからないけど、二艇ある。一艇は結構大型で仲も広々としている。

「このオルクスはトランプがイ・ウーの技術班を脅して作らせたオーダーメイド品だ。こいつにキンジと四季が乗ってもらう」

 で、もう一台に星枷が乗る。やーい、ぼっち。

 

 

 そしてなんやかんやあって、アリアを取り戻して、パトラに勝った。うん、なんていうかね、ほら、あれだよ。あれ。

 まあああああったく、俺活躍しなかった。なんていうかね、割って入っちゃいけない雰囲気というか、なんというか。そもそもとして、犯人のパトラもやる気がまるで感じられなかった。一応、まじめには戦っていたけど、思いきり手を抜いていた。どちらかというと、アリアの不思議パワーをあらかじめ予見して、それに備えていたかのような戦い方だった。

 そう、アリアの不思議パワーだ。キンジが銃で撃たれたら(キンジは銃弾を噛んで止めてたけど)、アリアが変になってすっごいビームを出した。で、勝った。うわー達成感もくそもねえ。そのあとアリアはまた気を失った。

 

「で、やる気もないのになんでこんなことやったのさ」

「教授からの依頼じゃ。妾とてやりとうなかった。もどきとはいえ、ヒヒガミとたかだか超能力とでは勝負にもならん」

 尋問しようかと思ったら、案外簡単に口を割った。キンジは途中から乱入してきた死神と一緒にアリアを介抱している。一応、気は戻ったらしく、キンジが感極まって抱き着いていた。見てられねえよ、知り合いのラブコメやら、ロリコン疑惑やらは。

 しかしヒヒガミってなんだ?

「たとえるなら、そう。数値をそのままに遊戯王とムシキングを戦わせるようなものじゃ」

「お話にならねえ!」

 なにそれ! わけわからないんですけど! さっきのアリアってどんだけ理不尽な存在だったんだよ!

「そんなことよりもお主は、ホームズの曾孫との再会を噛み締めなくてよいのか?」

「……」

 いや、ほら、なんていうかね。本当に後ろのほうでこいつらが戦ってるのを見てたら終わったから、あの輪の中に入りづらいんですよ。だからこうやってちゃんと働いてますよアピールをしてるんですよ。

今生の別れに(・・・・・・)なるやもしれんのだから(・・・・・・・・・・・)、つまらぬ意地を張ると……」

「あ? そうならねえためにこうやって取り戻しに来て、取り戻したんだろうが」

 パトラは俺の言葉に上の空、というわけではなく、しっかりと一点を見ていた。何もないはずの海をしっかりと……。

 何もないはずがいないだろうが! なんで何もいない! あれだけいたクジラもいなけりゃ、海鳥の一羽もいない!

「すまぬ、策士の忘れ形見。少々、忠告が遅かった」

 そして、海が持ち上がった。

 

 

「初めまして、遠山キンジ君と西条四季君、そして僕の孫、神崎・Holmes・アリア」

 海を持ち上げた原子力潜水艦『ボストーク号』から姿を現した男は、死神を銃で殺し、悠々と、ともすれば余裕綽々と言わんばかりに微笑んで挨拶をした。

 ひょろ長い身体に、鷲鼻、角ばった顎。極めつけは、古風(アナログ)な名探偵が持ち歩いてそうなパイプにステッキ。俺は、俺たちはこの男を知っている。武偵の原型とも言われ、おおよそ世界中の人々が名探偵と聞いて連想する人物。

 

「イ・ウーの船長をしている『教授(プロフェシオン)』―――」

「曾、おじいさま……!?」

 

 そう、それはアリアの曽祖父であるまごうことなき『名探偵』

「シャーロック・ホームズだ」




 ジャンヌや理子がやる気がなかったのは策士が嫌いだけど逆らったらひどい目会うからで(アドルファは裏切ったのでノーカン)、パトラがやる気ないのは、勝てないとわかりきっていることをやらされていたからです。
 それで、戦闘をカットした理由ですが、パトラとの戦いで四季が本当に活躍できなかったからです。結構悩みましたが、原作を読めば読むほど、『これ四季入れる場所なくね?』となり、でも四季がここにいないと次につながらないので、オールカットという不甲斐ないものになってしまいました。一応パトラの活躍の場はすぐに訪れる予定です。


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第32狂 氷上の戦い

「ごちゃごちゃ聞いてりゃ、なんだアンタ。キンジと同じロリコンか?」

「……なるほど。彼はそういう性癖を持っているのか。そこまでは推理していなかった」

 この名探偵はアリアをまた拉致しようとした。もう追いかけんのは面倒なんだよ! だからここで止める。パラミディオン台場(あの時)とは違って俺はここにいる。だから俺が止める!

 今にも割れそうな氷上の上で、俺はナイフを構えて叫ぶ。親友の曾おじいちゃんに……。親友をさらった犯罪者に!

「殺して解して並べて揃えて晒してやんよ」

 俺の言葉に少し懐かしそうな顔をする名探偵。お姫様抱っこしてたアリアを下して、ボストーク号へ行くよう促す。もう正常な判断ができていないアリアはそのまま行ってしまうが、ふらふらとしているのですぐに追いつくだろう。

「なるほど。君はお母さんの生き写しだ。しかし、お父さんにもよく似ている」

「あ?」

「ならばこそ、僕は君の言葉にこう答えよう!」

 名探偵はスクラマ・サクスを構えて、大きく息を吸い、空に向かって今までの落ち着いた雰囲気からは考えられないほど大きく叫んだ。

「私は探偵、依頼人は秩序! 十四の十字を身に纏い、これより使命を実行する!」

 匂宮絵札が聞いたら激昂するようなセリフを叫び、俺とシャーロック・ホームズは激突した。

 

「クソッ、四季君が邪魔で銃が撃てない!」

「完全に出遅れたな。兄さん」

 致命傷を負い、それでも戦わんと『ヒステリア・アゴニザンテ』を発動させたキンイチだったが、攫われた時点で勝手に行動を起こした四季には追い付けなった。銃は動き回る四季に当たる可能性が高く撃てず、しかし教授はこちらを攻撃、否、牽制のために銃弾を撃ってくる。せいぜいそれを打ち落とすのが限界だっにた。

 キンジも久方ぶりにヒステリアモード、いや初めてのヒステリアモードである『ヒステリア・ベルゼ』となったが、鉄仮面メイド(師匠)に殺された思い出がフラッシュバックし、吐いているうちに先を越されてしまった。いつもは羨望のまなざしを送っている兄に対しても、先ほどの『人類の至高の武器は銃だ』発言の後にはなった今の言葉に白い目を向けてしまう。

「無茶苦茶だ! せめて四季くんはキンジと一緒に行動するべきだった!」

「四季が無茶苦茶なのは今に始まったことじゃない。それに兄さん、あいつはいたって冷静だぞ」

 キンイチの言葉はもっともだったが、四季に連携とかチームプレイをそこまで期待していないキンジにしてみれば、いつものことでしかなかった。そしてなによりも、これはキンイチも強く感じていることだが、あの場、四季とシャーロック・ホームズとの剣戟の場にいたところで、何もできなかっただろう。遠目から見てもわかる、人類最高峰の刃物同士の戦いであると。もしあの場に割って入ることが許されるのは、四季と常日頃から戦っている四季のライバルたちぐらいであろう。

「四季くんの実力は素晴らしいの一言に尽きるが、ヒステリア(インチキ)をしている自分たちなどよりも素晴らしいが、それでも……」

 キンイチは歯を食いしばって、教授の牽制攻撃である銃弾を撃ち落としながら、少しでも前に進もうとする。

 四季の実力は相当なものだ。イ・ウーでもナイフ使いはいた。だからこそ断言できる。刀剣のみで彼と拮抗できるのはトランプかアドルファぐらいだが、それでも足りない。キンイチとキンジに飛んでくる牽制が何よりの証拠だ。四季の猛攻に対しても教授は片手で持ったスクラマ・サクスだけで対応しきっており、空いている左手でキンイチとキンジを銃で撃つ。さらに氷上が崩壊しないように超能力を使い続けていた。

「クソッ! 年長者として恥ずかしいことこの上ない!」

「銃弾よけて前に進めないのか?」

「無理だ。教授にそんな小細工は通用しない」

 二人は見ていることしかできない。しかし、それでも少しづつ、着実に前に進んでいった。

 

「そう、京都連続殺人事件の犯人もそんなナイフ捌きだった!」

 こいつ、強い! さっきからいろんな戦い方をしているのにすべてに対応、いやそれ以上のことをしてくる。キンジと死神に対して牽制として銃を撃つ。それに対して二人係で撃ち落とすのがやっと、というかどうしていちいち撃ち落とすの? 馬鹿なの?

「澄百合学園の狂戦士は僕でも推理できなかった。京都連続殺人事件の犯人は僕の推理の外側にいた。いや、僕と同じステージに立っていたゆえに推理しきれなかった」

「さっきからごちゃごちゃと!」

 余裕綽々といった感じが気に食わない! まじめに戦われたらひとたまりもないことが余計に腹が立つ。こいつは俺を使って過去の思い出を鮮明に思い出そうとしているだけなんだと、さっき分かった。こいつの口調から、お父さんとお母さん、その両方と名探偵は戦ったことがあることが分かった。

「イ・ウーの勧誘にいったら、狂戦士は自分で自分を何となくずたずたにして死にかけてたし、血統書付きの殺人鬼には金をたかられた!」

 両親がご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした! 反射的に頭の中で謝ってしまった。知れば知るほど碌な人じゃねえな、俺の両親。

「彼らは推理できなかった。君もまた推理しきれなった」

「そりゃどうも!」

 じゃあなんで、俺の攻撃に完璧以上に対応してくれているんだよ。

 クソ、あっちは防戦一方とはいえ、実力は数段上だ。それにスクラマ・サクスも素晴らしい。俺のナイフを数本を台無しにしたのにまだ刃こぼれをしていない。凄くほしい!

「だから、推理だけではなく、彼女から『策』を学んだ。推理しきれないのならば思い通りに場を動かせばよいとね」

 策策策策! ほんっと余計なことをするなあ! その策士とかは!

 名探偵にスキはないのかと言われれば、ある。普通の戦いであれば絶対に見せないであろうスキを故意的に見せつけてきた。そう、心臓、喉、頭の急所と呼ばれる場所だ。武偵は人を殺せない。武偵として戦うならよし、狂戦士として戦うとしても母似た奴と戦えるからよし、殺人鬼として戦うとしても父と似た奴と戦えるからよし、とでも思っているのだろう。

 ――上等だ! 武偵として圧倒してやる!

「残念だ。実に残念だが、時間切れの用だ。これ以上は僕にも時間がないし、彼女を怒らせてしまう」

 名探偵はそう言って、また大きく息を吸った。……どこかで見たことがある。そうだ、キンジが最終手段の一つとして一度だけ使ったことのある『音使い』の技術に似ている。喉をダメにするとかで使いたがらないし、精神系だから物理的なのを正しく使うことができないとか……、まずい! ようやく気が付き、俺は反射的にかがみ、耳をふさいだ。

 

 ――イ゛ェアアアアアァァァァアアアア!!!

 

 叫び声というにはあまりにも大きく、爆音というのにはあまりにも意味を持たせた音があたりに響いた。この周波数は聞いたことがある。楽器がキンジのHSSを面白がって解除する音だ。何で作ったかを聞いたら心拍が気色悪かったからとか言ってた。

 HSS解除の原理は簡単だ。音は生物に大きな影響を及ぼすことが証明されている。それは動物にとどまらず植物の発育にまで及ぶ。HSSは子孫を残すためのすべだと説明された。突き詰めればただの性欲だ。性欲を減衰させる周波数をぶちまける。いや、それだけじゃない。この爆音だ。それだけで鼓膜を破くには十分すぎる!

「素晴らしい反応速度だ。これをどこかで聞いたことがあったのかな?」

「て、めえ……」

 キンジは大丈夫か? いや、それ以上に死にかけの死神が心配だ。あの死神は強いが、戦い方が不自然なうえにあの重症だ。今の音で傷が広がっている可能性が……。それだけじゃない。今の俺は音のせいで全身がしびれてうまく動けない。音もうまく聞こえない!

「兄さん!?」

 キンジのかすれた声が聞こえてきた。音に音をぶつける荒業でもしでかしたのか? いや、それよりも今の俺の状況を打開しなきゃ……。

「君は僕を追うだろう。友情のために」

 名探偵は俺に向かって言う。ここでとどめを刺そうと思えばいくらでもさせるだろうに、それをせずパキパキと氷上を広げながらボストーク号へ向かう。

「なめてんじゃねえぞ、このクソ野郎が!」

 とびかかる俺に見向きもせず、地面に叩き落とす名探偵。すぐに起き上がって後ろにいき体勢を立て直したところで、気が付く。いや、なんで気が付かなかったんだ俺は!

「アリアを追うなら来るといい。ただしイ・ウー(かれら)は手ごわいよ」

 氷上にはいつのまにか人であふれかえっていた。どれもこれもそこそこ強いが顔色は悪い。脅されているのか?

「『空間遣い』という技術だ。君が気が付かなかったのも無理はない」

 

 そう言い残して名探偵は潜水艦へと入っていった。キンジはまだ兄と話している。いや、こっちの状況を認識できていないのか! 空間遣い、話以上に厄介な能力だ。

 

 

「恨みはないが「死ねええええ!!!!」トラ、ぎゃあああああ!!」

 トランプが現れた。唐突に表れて俺の前に立ちふさがった侍っぽい人を絨毯爆撃(ひん死)した思ったら、とどめと言わんばかりに大きい爆発(致命傷)で吹っ飛ばして、最高到達点で指パッチンしたと思ったらさらに爆発(とどめ)が起きた。ひどい。

「ぎゃははは! おい、ヴラド(・・・)パトラ(・・・)、こいつら何人海に沈められるか競争しようぜ!」

「ゲババババ! やり過ぎだ馬鹿!」

「妾はキンイチの治療で忙しいのじゃ!」

 オオカミの顔をした異形の大男とさっきまで戦っていたパトラが現れた。いったい何が起こっているってんだ。いや、それ以上にただでさえ顔色の悪かったイ・ウーのメンバーが吐きそうな顔をしている。何人かはすでに海に向かって吐いている。こいつらいったい何やったんだ?

 

「あのいけすかねえ策士とクソむかつく教授をぼこぼこにしに来たんだよ! 三人で結託して!」

「ゲバババ! こいつらは策士に脅されてるだけだ。手加減してやれ!」

「キンイチ! 大丈夫か!? ここに婚約届けがあるのじゃが!?」

 まとまりねえなこいつら!



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第33狂 圧倒No.3

ファンタスティック・ビースト見てきました。原作ファンならところどころあー、となるところがあって面白かったです。
それはともかく、一人でバイキング2時間は地獄でした。


「あ、慌てるな! トランプは時間がたてば厄介だがごぼぉ!?」

「うるせえ!」

 ひどいいじめを見た。横ではヴラドとかが襲ってくるのを薙ぎ払ってるけど手心を加えている。優しく見えるけど、しっかりと海に投げ捨てているあたり優しくはない。うわー、あの投げられた人、肩脱臼してるよ。

「勘違いするなよ。俺に降りかかる火の粉を払ってるだけだ」

「理子が言ってたぞ。ヴラドとヒルダがかばってくれなかったら、今頃自分は死んでたって」

 キンジの言葉にプイっと明後日の方向を見るバケモノ。筋肉ダルマがそんなことしても可愛くもなんともないんですが。

 しかし、かばうねえ。何からかばってたかは前で蹴散らしてる奴を見ればわかるなあ。

「か、勘違いするんじゃねえぞ! トランプの奴が俺たちの大事な輸血袋をだなあ!」

「勘違いするなって、ツンデレって言葉が出てきてかっこいい言葉じゃなくなったよね」

 てめえから殺してやろうか! と脅された。おお怖い、怖い。

 しっかし、トランプとこのバケモノが同格ねえ。しかもトランプはこいつに勝てないと来た。この場合、バケモノと戦えるトランプがおかしいのか、匂宮雑技団のエースの匂宮絵札が殺せないこのバケモノがおかしいのか。たぶんどっちもおかしいのだろう。

「バチカンの馬鹿どもと魔女連隊、あとはリバリティー・メイソン。フン、策士め、同盟関係の組織を片っ端からかき集めやがったな」

 そうなのか。じゃあ、威勢よくトランプに襲い掛かってるのはイ・ウーのメンバーじゃないって考えたほうがいいのか。そりゃ知ってたら襲い掛からないよね。

 匂宮絵札は地味な強さで分かりにくいだけで、最低でもらんらんなら片手でぶち殺せるだけは強いはずなんだから。らんらんが弱いわけじゃない。というからんらんは俺を片手で殺せると思う。

 しっかし、便利だな、あの爆発。制圧力は申し分ない上に応用力が桁外れだ。おまけ、というよりも本来の切り札である空気調整のいいカモフラージュになっている。

 今まで見た超能力者の中でも群を抜いて実用的だ。強力な超能力者という視点じゃパトラはぶっちぎってるけど、どうも戦うという視点ではなく超能力を研究するのが目的で、戦闘に使えるのはたまたまみたいだ。それに今はキンイチとかいう死神の手当で忙しいみたいだから、こちらに加勢してくれるとは考えにくい。

 

 それはそうと聞かなきゃいけないことがある。

「ねえ、ヴラドさん」

「なんだ、澄百合の忘れ形見」

「さっきから言ってる策士って、もしかして――」

 俺の言葉にバケモノのヴラドは破顔した。とてもうれしそうに笑った。

 

「おい! トランプ」

「なんだよ、チスイ蝙蝠!」

 ヴラドさんは俺とキンジのために血道を作ってくれている。どうやら魔臓とかいう臓器のおかげで無限回復ができるらしく、盾役に最適だとか。なんでヴラドさんが盾役になってまで俺たちを潜水艦に連れて行こうとするのかはわからない。ただ今は感謝しよう。これでアリアを追える!

「こいつらをイ・ウーに連れて行くの手伝え!」

「勝手にやれ! てめえで十分だろうが、馬鹿!」

 ゲババババと匂宮絵札の言葉に愉快そうに笑うヴラドさん。ちなみに後ろのほうではパトラが、キンイチさんの治療がてらヴラドさんのうち漏らしたのを砂で薙ぎ払っている。うわー、バケモノ地味てるよ。あれだされてたら俺ら死んでたって。

「策士の策を崩せる。こいつらはそれができる!」

「……ぎゃははは」

「ゲババババ」

 ヴラドさんの言葉に一瞬キョトンとして、すぐに嬉しそうに笑いだす匂宮絵札。いままでの意地の悪い好戦的な笑顔ではなく、本当に嬉しそうに、ともすれば泣き出しそうな顔で笑う。それにこたえるようにヴラドさんも笑った。ケロロ軍曹かよ。

「なら、私たちの遊びはお預けだ!」

「ああ、あの策士の策が崩せるのが俺たちの復讐で祝福だ!」

 哀れ、イ・ウーの皆さん。結託したこの筋肉ダルマバケモノと爆発怪盗の殺し屋を相手にして、今までさえ薙ぎ払われるだけだったのにもっと遠くに薙ぎ払われることになった。ちぎっては投げちぎっては投げ、というたとえが目の前で再現されている。本当に何人かは手足をちぎられてるし。怖えよ。

 

「おらよ、超特急で運んでやったんだ。必ず勝てよ。下等種族(ニンゲン)

「その人間にボロクソに負けた上に、第三形態を封じられた馬鹿な原始種族(ヴァンパイア)は何処のどいつだぁ?」

 イ・ウーまで運んでくれた二人は、すぐに残党を蹴散らしに行った。感謝はしてるけど目の前で行われた惨劇の事を考えると素直に感謝できない。

 というか、なにに喜んでいたのかさえ分からない。正直言って新興宗教の信者に親切にされた感覚だ。つまり気色悪い。

「四季、どうする?」

「どうするって、中に入ってアリアを探す。で、名探偵をズタズタにする!」

 そして俺たちは前へ進んでいく。あ、ティラノサウルスの化石だ! うわーステゴサウルス! プテラノドンいるかな!

 

 

「妾とて貴様ら如きに魔力を消費するなんて馬鹿らしいことはしとうない。さっさと海に身を投げるのじゃ」

 そんな無茶苦茶なことをパトラは、イ・ウーのメンバーに見向きもせずに言う。彼らもパトラのようなバケモノと戦いたくなどない。いや、勝つ方法は確かにある。パトラは超が付くほどの強力な超能力者だ。故に持久戦には弱い。持久戦に持ち込めば厄介になっていくトランプとの相性が最悪なのも、この超能力者特有のジンクスによるところが大きい。

 しかし、と彼らは怖気づく。そもそもどうやってパトラに自分たち如きが持久戦に持ち込めよう。いままでも治療中にあるにも関わらず、数々の仲間が大質量の砂によって海へと放り出された。勝負なんてものではない。パトラにとっては煙を払った程度の力なのだろう。勝ち筋があるがゆえに、彼らは迷ってしまった。海に身を投げるのをためらってしまった。

「しかたない。競争に負けるのは癪じゃ」

 気だるげにため息をついて、そして大質量の砂の鞭が彼らを襲わせた。それだけで直撃した個所は骨折、あるいははじけ飛んだ。何人かはよけることはできたがそれも初撃のみで、追撃には対応すらできなかった。

 

 氷上にわずかに残ったイ・ウーメンバーは戦う気力などすでになかった。

 なかったがそんなのを気にするトランプではない。

「貯まった」

 そんな言葉とともに氷上で大爆発が起こった。

 むろんこの爆発で氷上は融け切った。悲しいかな、これがNo.3とそれ以外の圧倒的な差であった。それは種族差であり、才能の差であり、技術の差であり、なによりも実力の差であった。




オリジナル小説をなろうのほうで上げました。貫禄のブックマーク0。泣きたい。
気が向いたらこっちにも上げます。


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第34狂 友情と再会

さあ、今年中に人理を救わなきゃ!
だからだれか私の単位を救って!


「知るかァ!」

 アリアに追いついた四季とキンジは、涙ながらに語るアリアの話を聞いた。いろいろな苦悩、曽祖父に認められたということへの気持ち、兎に角いろいろなことを言っている最中に、四季はアリアに無造作に近づいて顔面をぶん殴った。

 アリアは殴られたことよりも、自分の苦悩が「知るかァ!」で済まされたことにキョトンとしていた。キンジはキンジで、あーあ、という顔をしている。あーあ、という顔をしているが止める気配はなかった。

「ざっけんな、家族に認められなかったから犯罪集団の長になりますとか、ガキの癇癪よりもひどいぞ!」

「あんたに、四季に何が……」

 何が分かる、とは言えなかった。思い出したのだ。四季は、いないもの扱いどころか、あったことすらなかったのだ。記憶にないとか、物心つく頃にはとか、そういう領域ではなく、本当にあったことがないのだ。

 そんな、四季に家族の悩みを言うとは、いかに残酷なことかを今になって思い知った。

「家族に認められない、いないもの扱い、んなもん知ったことかよ!」

 歯を向いて怒鳴る四季から目をそむけてしまうアリア。

 初めてできた親友に刃を向けた。親友の敵になることを選んだ。何よりも、親友が絶対に手に入らないものの悩みを言ってしまった。そのことがたまらなくつらかった。

 だから、思いもよらなかった。親友の言葉が。親友が思いもよらないことを言ってくれたのだ。

 

「だったら、俺が認める!」

 眼がしらに涙を蓄え、顔を紅潮させ、歯を食いしばりながら、四季は言い放った。

「ああ、そうだ、俺が認めてやる! そこのキンジだって認めてるだろうさ! 一年坊は認めるどころか目標にさえしている! ああそうさ!」

 ああ、そうだ。いつだって四季は、キンジは、みんなは、アリアを認めていた。

「これでも足りなきゃ、依存夫婦にだって認めさせる! 理子だって、レキだって、俺のストーカー達だって、瑠河だって、白雪だって、楽器にだって認めさせる!」

 それを忘れて認められなかったと、自分たちが勘定に入っていなかったことに怒って四季は殴った。

「ああ、いや違う! みんな認めてんだよ、アリアの事を!」

 眼がしらにためていた涙が限界を超えて頬を伝う。四季は怒っているのか泣いているのか、多分どっちもなのだろう、そんな表情をしながら地べたでしりもちをついたまま動かない、動けないアリアの胸ぐらをつかんだ。

「それに、頼むから気が付いてくれよ!」

 親友だと思っていた、パートナーだと思っていた、仲間だと思っていた、可愛い後輩だと思っていた、可笑しな同級生だと思っていた、頼れる先輩だと思っていた、それを自分はないがしろにしたのだと、アリアは四季の言葉で気が付かされた。

「ごめんなさ……」

「俺らはそんなにも無力なのか!? 無価値だったのか!?」

「違う……、違う!」

 だったら言ってくれよと、相談してくれよと、悩みを打ち明けてくれよと、泣きながら呂律がめちゃくちゃになりながら四季は言った。言ってくれた。

 アリアは四季の肩に顔を押し付けて涙を流す。ここが敵地のど真ん中であることを忘れて、泣いた泣いた。

 

「ねえねえ、肩がぐしょぐしょで気持ち悪いんだけど」

「お前は少しぐらい感動を持続させろ」

 泣き晴らした四季とアリアの目は赤くなっているが、四季は早々に切り替えて文句を言い始めた。アリアはいまだにぐすぐすと泣いているが、それでも前に進む。

 そう、アリアを取り戻して終わりではない。名探偵にしてイ・ウーの頭目であるシャーロック・ホームズを逮捕しなければいけない。

 道のりはアリアが知っている。ここまでがシャーロックホームズの掌の上で踊らされていることは、彼らも理解していた。

 理解したうえで前に進む。前に、進んでいたはずだった。

「……こんな部屋、私知らないわ」

 行き止まり、というよりもある部屋の扉の前にたどり着いてしまった。

「空間遣い……、腹が立つほど踊らされてるね」

 と言って扉を開ける四季。キンジとアリアはあまりにも唐突で、何の相談もしない四季の行動にギョッとする。さっきの相談しろという発言を思い返せと言ってやろうか。

 

「……罠はありませんよ。するとしたらあなた方はとうの昔に転がっています」

 部屋の奥から声が聞こえてきた。声の主は安楽椅子に座っている髪の綺麗な隻腕の美女だった。

「狭い密閉空間。ガスマスクもなしに入ってくるなんて、まったく、万全どころか十全すらできていない」

 隻腕の女性は幽鬼のようにつかみどころのない、あり大抵に行ってふらふらと三人のもとに近づいてくる。

 三人、否、キンジとアリアはなぜか警戒ができない。なぜかは分からないが、この人は大丈夫だと、この人の邪魔をしてはいけないと、分かってしまった。

 

「やっと会えた。やっと約束を守れた」

 泣きながら四季に抱き着く女性に四季は目を見開いて抵抗をしない。

「四季君、やっと、やっと会えましたね」

 

 

 

 きっと忘れている。もう十何年前の話か。四季は幼かった。自分は若かった。年月も、身体の変化も、あまりにも長すぎた。

 この約束の成就は自分のわがままだ。いたずらに四季を混乱させるだけだ。そんなことは分かっている。

「四季君、やっと、やっと会えましたね」

 この言葉に、やはりキョトンと、玉藻の生き写しというには十分なほど似通っている四季の顔はしていた。もしも玉藻がまっとうな感情を持っていたのならばこんな表情もしたのだろうか、と思いをはせるが、そんな仮の話を、死んだ人間の仮の話をしても始まらないと切り捨てる。このように約束も切り捨てればよかったのだ。

 何も言わない四季の肩から手を放し、立ち去ろうとする。これでいいのだ。このために多くのものを犠牲にした。きっと上ではNo.3の手によって何十人かは死んだはずだ。

 まあ、いい。いまさら自分が生きていく中で何人死んだなんて気にするほど、殊勝な生き方はしていない。

 だから、これでいい。これでよかったはずだった。

「お姉ちゃん、ずっと待っていたんだよ!」

 策士の目に映ったのは、頬膨らませた四季の顔だった。

 

 

「人の記憶というものは不思議でね」

 イ・ウーの最奥で、教授は独り言を言う。No.3たちを信じて、策士の策というにはあまりにも自暴自棄な、それでいて崩しようのない策を崩すために、様々な手段を講じた。

「ある記録によると、胎児期の記憶すら持っている人間がいる。齢一歳となるともっとだ」

 あの策士の策はあまりにも悲しかった。柄もなく助けてやりたいと思ってしまった。

 No.3達とはかろうじて闘争という名のつながりを持っていたが、それ以外とのつながりは皆無であった。

 故に簡単に推理できてしまった。策が終わると、あの策士は死ぬだろうと。

「だれしも、テストが終わる鐘の音で思い出せなかった答えが思い出せたという経験があるように、記憶にはトリガーとなるものがある」

 だから、崩す。彼女には死んでほしくなかった。たったそれだけだ。それ以上に理由は必要だとも思わないが。

「故に、四季君の周りに大量のトリガーを置いた。もっとも決め手になったのは彼女と直接会ったことだろうがね」

 それでも成功するかどうかは五分、いや甘く見積もっても三分に行くか行かないかだ。それでも賭けに勝った。

「まったく、彼女の策が敗れた顔を見てみたいものだよ」

 きっとNo.3も同じように笑ったのだろう。そう思いをはせながらほほ笑む教授は、来客を歓迎する。人数は三人、この後のことも考えると少々厳しいが、まあ何とかなるだろう。

 

 

「四季君……なんで……」

「待ってたんだよ!」

 頬を膨らませて、私――萩原子荻――の顔を真正面から見る四季。

 すでに赤くなった眼にまた涙を蓄える四季に、若干焦る。ああ、どうしてこの子はこうなのだろう。自分はこの子になんて弱いのだろう。

「ずっとずっと待ってて、でも来なくって……」

 --さみしかった。涙を流しながら絞り出された言葉に、再度四季を抱きしめて答える。

 そうだったのか。覚えていてくれたのか。あのまどろみの中の約束を……。

「ごめんなさい。ごめんね、ごめんね」

 腕の傷がふさがってすぐにでも引き取りに行こうと思った。

 しかし、自分は公的には死んでおり、仮に違ったとしても未成年で、後継人なれるわけがなかった。

 そのあとどうにかして身分を作って孤児院に行ったときには、四季は引き取られていた。身元保証人の名前に彼の『赤き制裁(オーバーキルドレッド)』の名前があり、絶望した。

 もうどうやっても手が届かないのではないか。そもそもあんなのに喧嘩を売るような組織など、それこそ零崎ぐらいだろう。その零崎もほぼほぼ壊滅している。

 

 だから、こんなに時間が掛かってしまった。

 ああ、言い訳はよそう。

 

 ただ、今は前もって謝っておこう(・・・・・・・・・・)

 

 

「そう構えないでください。ただの麻酔です」

 策士の腕の中でがくりと倒れこんだ四季を見て、臨戦態勢をとるアリアとキンジ。

 特にアリアは歯を向いて今にも殺しにかかりそうだ。それほどに殺気をみなぎらせている。

「この先には二人でどうぞ。この子は私が責任をもって保護します」

「信じるとでも?」

 怒り心頭と言った口調でキンジは警戒を解かない。アリアにとっては勿論、キンジにとっても四季は大切な数少ない男友達だ。

 そんな二人にとっても大切な親友を、こんな得体のしれない女に、四季を眠らせて、四季に抱き着いて傷一つない女に、任せるなんて口が裂けても言えない。

「……まさかとは思いますが、あなた方は私にも勝って、教授にも勝てるとでも?」

 心底不思議そうな声で語りかける策士。

 策士にとってみれば、この二人は弱い。弱った教授に温情を駆けられてようやく勝てるのだろう。No.3たちにはまず勝てない。ちょっと前までなら、あの三人の慢心に漬け込むこともできただろうが、今の研鑽を積んだ三人には慢心はない。そもそもなぜ乗り込んだのか。策もなければ実力も伴っていない。だから、不思議で不思議でたまらなかった。

「危害は加えません。約束します」

「だから……ッ!」

「じゃあ、さようなら」

 四季を抱きかかえて部屋から出て行こうとする女を、アリアは止めようとするが地に付していた。

「――ッッッ!?」

 そして女は二人の目の前から消えていた。

 

 

「四季、四季! ねえ四季!」

 居なくなってしまった、自分を助けるためにここまで来てくれた親友が攫われてしまったアリアは、四季を呼ぶ。答えが来ないことは分かっていても叫ぶ。

「『ん? 何』」

「四季!」

「じゃ、ねえぜ! ぎゃはは!」

 現れたのは、なぜか小夜鳴先生とパトラを背負っているボロボロな匂宮絵札だった。

「まあ、四季なら大丈夫だろ。あの策士は四季のために生きてんだから」

「でも! このままじゃ!」

 ――あしたも学校で会えるだろうさ。といってそそくさと出ていく匂宮絵札。

「もっとも、この先にゃ、人類の最高峰がいるけどな。ぎゃははは、武芸百般(メアリー・スー)の奥義たる『飽食(デウス・エクス・マキナ)』を使って敗走たあ、いつぶりだあ?」

 

 

 ここから先は、何も変わらない。

 それはイ・ウーの壊滅であり、イ・ウーとの戦いにキンジとアリアは勝利した。

 しかしそれは、名探偵と策士によって終始踊らされ、強制的に四季は舞台から降ろされたという結果に他ならない。




 四季って大切な時にいつもいないような気がしてきました。


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第35狂 就職活動

新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
今回は匂宮絵札VS蘭豹です。
一応、前もって言っておきますが、匂宮絵札は匂宮兄弟の後継機です。めちゃんこ強いです。
それはともかく、ソロモンカムバック。


 夏休みの初日に匂宮絵札は校長室に呼び出された。すっぽかそうとも考えたが、今は学生。おとなしく呼び出しに応じることにした。

「絵札さん、貴女は匂宮雑技団の構成員ですね」

「気が付かなかったのかい、クソ雑魚松校長さんよお」

 武偵校の校長室で緑松校長と匂宮絵札、そしてこの二人を囲む教師陣。普通の、いやたとえ一流の武偵だろうと絶体絶命の四文字が脳裏よぎるであろうこの状況でなお絵札は余裕だった。

「ぎゃはは、『姿の見える透明人間』たいしたこたあねえ、こんな風によ!」

 絵札は思いついたように、緑松の顎へトーキックをかました。絵札からすれば手加減も手加減、首が取れないように、むしろよけられるように速度を抑えた。

 しかし、緑松はよけなかった。よけようと体が動くのを無理やり抑えつけて、あえて受けた。周りの教師陣はすぐさま臨戦態勢をとるが、緑松がふらつきながら制止する。

「それで、貴女をおいそれと学校においておくことはできません」

「すげえすげえ、まともに食らったのに言語機能がマヒしていない。ぎゃははは」

 軽薄に緑松を称賛する絵札。しかし、緑松は椅子に座り、しっかりとしゃべるのが限界だった。絵札のトーキックはそれほどまでに打ちどころがよかった。

 だが、これでいい。これで確認が取れた。そしてその結果を教師たちに、蘭豹に見せることができた。

「なので、蘭豹先生と戦ってください。そのうえで我々が判断します」

「さよならランピョーセンセー」

 あらかじめ決まっていた路線に乗せた。しかし、同時にここから先はだれにもわからない。蘭豹の勝利で終わるのが最善。しかし、この場にいる教師全員が殺戮される可能性さえはらんでいる。

 そして、絵札はなめくさった態度でニヤニヤしながら蘭豹をみる。そんな絵札を蘭豹は強く睨め浸ける。

 

 

 強襲科の戦闘訓練用モックで、蘭豹と絵札による教師陣が囲むランバージャックが行われる。

 そしてそれを遠くのビルから望遠鏡をのぞきながら観察する人影が三つ。

 隻腕の策士『萩原子荻』

 砂礫の魔女『パトラ』

 吸血鬼『ヴラド』の擬態『小夜鳴徹』

 この三人で、彼女たちにとっては一種の出来レースを見ていた。蘭豹は強いだろう。しかし、たりない。圧倒的に何もかもが足りない。

 故に彼女たちは楽しむための遊びを考えた。

「皆さん、蘭豹さんが何分粘るかで賭けをしませんか?」

 薄っぺらい笑顔で策士は提案をした。他の二人はうなずき、時間と掛け金を提示する。

「30分に100じゃ」

「30分に、そうですね薄給なもので5で」

「30分に50」

 満場一致で30分。これでは賭けにならない。誰か変えないかと、バチバチと視線を交わすが誰も変えなかった。

「では、『飽食(デウス・エクス・マキナ)』をどれだけ引き出せるかで賭けましょう」

「3、いや5に10じゃ」

「えーーっと、9ですかね。4で」

「15に8で」

 これで賭けが成立した。だれもが蘭豹を舐め腐っている。それほどまでに自分たちと同等か自分に迫る匂宮絵札を評価している。しかし、彼女たちは知らない。蘭豹という一人の武偵を、一切知らない。

 

 

 

「武芸十八般だからってわけじゃあないんだけど、杖術でいっかー」

 武芸十八般、すなわち武芸者が最低限納めるべきとされた十八の武術、弓術、馬術、水術、薙刀術、槍術、剣術、小具足、棒術、杖術、鎖鎌術、分銅鎖、手裏剣、含針術、十手術、居合・抜刀術、柔術、捕手術、もじり術、隠形術、砲術の総称である。時として中身や順番が変わることがあるものの、これは十八にわける、もしくは選ぶ際の個人の趣味嗜好であると考えていいだろう。

 さて、杖術はその名前こそマイナーであるが武芸十八般の中では取得者が多いのではないだろうか。なにしろ日本警察には警杖術と呼ばれる武芸があり、武偵の中でも取得しているものも多い。蘭豹もまたその技術は知っていた。知っていたが、絵札の使う杖術はましてや警察、武偵が使う『殺さないため』の技術であるとは考えにくい。

「今の私は武偵だ。殺しゃしねーよ」

 軽薄そうに言う絵札。殺し屋に殺さないように戦う。これは『手加減してやる』と言われているようなもので、お世辞にも気が長いとは言えない蘭豹は間髪入れず斬馬刀で切りかかった。

 蘭豹の攻撃を当たり前のように避ける絵札は、相変わらずヘラヘラと笑っていた。

「おおー、スゲー膂力。羨ましいことで」

「死ね!」

 こうしてバトルが始まった。

 

 

 

「おお。凄いですね」

「チッ、もう負けじゃ。賭けに負けじゃ。妾はかえる」

「帰るのはいいですが、お金は置いて行ってくださいね」

 ビルで蘭豹の評価を改める三名。しかし、彼らのトランプに対する評価はゆるぎなかった。

「殺しちゃった場合どうします?」

「あの場にいる奴ら殺して貸しをつくるのじゃ」

「え、その殺害対象私も入ってませんよね?」

 そもそも彼らは、仮にトランプVS教師全員だったとしても、トランプが皆殺しにして勝利するとさえ考えていた。もちろんそれは過大評価だし、トランプももしそのような状況ならば逃げる。

 だが、蘭豹を勢い余って力加減を間違えて、殺してしまうこととなれば、あの教師陣の円から逃げおおすのはさすがに厳しいだろう。教師の一人であるスナイパーの南郷は不幸にも、彼らがいるマンションにいたからという理由ではりつけにされているが、少しだけだが手こずった。一人でも手こずる相手を、あの人数相手になると皆殺しぐらいしか道はない。

「さてと、せいぜいあがいてくださいよ、えーっとカンピョウさんでしたっけ?」

 

 

 

 蘭豹と絵札、この二人の最大の違いはそのリーチだろう。武器としているものの長さも、身体の大きさも、蘭豹が長い。故に序盤は蘭豹が攻勢一方、絵札が防戦一方という形だった。そう、序盤は。

 時間がたつにつれ、蘭豹の動きは鈍くなっていった。無理はない、斬馬刀などという重く長いものを、膂力にものを言わせて振り回していれば自然とスタミナは切れる。対して、杖術を使っている絵札に疲れは見られない。軽い木の棒をもって、武器を一切振り回さず、よけること、蘭豹に武器を振り回せることだけに集中しているので疲れは薄かった。

 だが、想定外のことが一つだけあった。

「あんたすげえよ、戦国時代だってそんな風に振り回す奴はいなかっただろうに」

「うるっさいわ!」

 蘭豹が斬馬刀を使い続ける。これが想定外だった。絵札はすぐに手放すと思っていた。手放し、徒手空拳で挑んできて、杖術で滅多打ち。これが絵札の青写真だった。

 しかし、どうだろうか、蘭豹は斬馬刀でいまだに切りかかってくる。うっとうしいから杖で手の甲を叩いても、刀を落とさなかった。根性、肉体の強さ、どれをとっても規格外。裏の世界でも十分に通用する。だが、それだけだ。通用するだけだ、生き残れるだけだ。トップを走る絵札にはまだ届かない。

 

 

「ハァハァ、いい加減にせんかい」

「うん、分かった」

 おおよそ20分は戦っただろうか。いままで軽薄な表情だった絵札が、一瞬だが薄ら笑いをして、薄ら笑いをして、薄ら笑いをして――

「ッ!?」

「よけるねえ!」

 杖を捨てて殴った。しかし、問題なのはそこではない。

 もしも絵札があと一歩、否半歩前にいたのならば、今のジャブに蘭豹は反応できなかっただろう。しかし、結果は変わらない。蘭豹はジャブをよけた。

 一瞬、いや瞬く間もないほどの安堵が蘭豹を襲う。誰もこの感情を持ってしまった蘭豹を非難することはできないだろう。

 誰もが抱く安堵、誰も抱けない安堵、それが失敗だった。

「『奪刀術』」

 蘭豹がかろうじて、意地で持っていた斬馬刀を奪う絵札。しかし使うことはせずにガランと投げ捨てる。

 投げ捨てられた斬馬刀を拾おうと跳ぶ蘭豹だが、顔面にジャブを極められる。

「『ボクシング』。10オンスのグローブなんて気の利いたもんはねえぞ!」

「なめんなッ! ガキィ!」

 殴り合い(ボクシング)が始まった。

 手数では、技術では、圧倒的に絵札が上回っている。仮に、仮に、ボクシングに段位があるとすれば絵札は9段は下らない。しかし、ボクシングにあるのは段位ではなく、階級。

 すなわち体格の差だ。背丈だけでも160センチに満たない絵札と大女と形容される蘭豹では違う。筋力もリーチも蘭豹が大きく上回っている。その差を埋めるだけの技術は素晴らしい。素晴らしいだけに、蘭豹は理解できなかった。

 ――なぜ、この殺し屋はボクシングに必要な筋肉をつけなかったのかと。

 その答えはすぐにわかった。

「『飽食(デウス・エクス・マキナ)』限定発動」

 そんな声が聞こえたと思う間もなく、蘭豹は捕まった。そう気づいたときにはすでに遅かった。

 

 

 

「『飽食(デウス・エクス・マキナ)』。技というよりも流派のようなものですね」

 ある日、イ・ウーで『どの格闘技が最強か』というある意味では定番の話題で盛り上がっていた。最終的に弓だの剣だの刀だの槍だのと格闘技ではないものまで入ってきたところで、トランプは当たり前のように答え(・・)を言った。

『全部覚えりゃいいじゃん』

 確かにその通りだ。全部覚えれば最強だ。相手に合わせてこちらが有利になる武術を使えばいい。それが最適解だ。だがそれはできない。それを実現するには人の命はあまりに短い。

 一つ一つでの競技レベルなら話は別だ。しようと思えばいくらでもできるだろう。しかし、複数を実用レベル、それも並行で実践レベルにすべてを覚えるなどまず無理だ。その無理をなぜかできてしまったのがトランプだった。

 しかし、すべてを覚える過程で筋力はどうしても抑える必要があった。技術は極められても威力が追い付かなかった。

 しかし、いくら追いつかないとはいえ『暴力の世界』の人間。常人なら最初のジャブは避けられず、二発目のジャブで意識を失っていたはずだ。そこはさすがは武偵校の教師と言ったところか。

「ほめてあげますが、ここまででしょうね」

 

 

 

「ぐううぅ……!」

 ここで初めて蘭豹の動きが封じられた。一方的に攻められることはあったが動きが止まることはなかった。

 それもそうだ。彼女は知識として知ってはいても、本格的な攻撃は初めてだったのだ。

 『ムエタイ』。近接格闘技では最強とも言われており、年末の罰ゲームでも有名な武術だ。

 しかし、絵札が行ったのはタイキックではない。ムエタイにおいて最も評価の高い首相撲だ。

 相手の首を両手で捕まえて胴体に攻撃を叩きこむ。これが評価が高いのは、相手に何もさせないからだ。

 膂力で、筋力で、パワーで、覆せるほど技術(武術)は甘くない。否、膂力を、筋力を、パワーを、制するために技術(武術)は作られた。

 ガッ、ガっ、ガッ、ガッ、と絵札の蹴りが続く。蘭豹はガードの姿勢をとっているが、それでもいくらか骨は折れた。

 周りの教師は、当初の『ランバージャックで袋叩き』の計画があっさりと覆ったことと、彼我の戦力差からそれを行った場合押し出す腕がおられることを理解した。

 しかし、実力差がありながらも絵札は決め手に欠けていた。攻撃を当てるのは楽だ。しかし蘭豹のタフネスが常軌を逸していた。あるいは生徒には負けるわけにはいかないという教師としての気概からか、一向に倒れる気配のない蘭豹に苛立ちを覚えていた。

「チィっ!」

 一分間蹴り続けて、それでも倒れなかった。その事実によって根負けした絵札が圧倒的に有利な状況を捨てて距離をとった。しかし、そのことに蘭豹に安堵する暇を与えずに一度やめた杖術で再度攻撃する。

 周りのものにも、蘭豹にもそう見えたはずだ。しかし、最初に蘭豹に届いたのは杖ではなく肩への蹴りだった。続けて杖が蘭豹を襲う。

 が、これは防がれた。

「サバットぐらいは知っとるわ。ボケェ!」

「あっそう」

 ストリートファイトが原型とされるサバットであるが、ラ・カンとよばれる杖を使ったものもある。しかし、これはサバットの武偵向きな性質上、蘭豹にとってやりなれたものだった。

 しかし、たかだが『武芸百般(メアリー・スー)』のうちの一つを攻略した程度で、有利不利が傾くわけではない。絵札の多彩な攻撃の数々に圧倒され続ける蘭豹という構図は変わらなかった。

 

 そして薄ら笑いから10分が過ぎようとしたところで、限界が来た。蘭豹の体が糸の切れた操り人形のように倒れたのだ。無理もない、『暴力の世界』のトップランカーの打撃を受け続けたのだ。限界というならとうの昔に来ていた。それを意地で補っていたにすぎない。そして限界が来た。精神や心、脳機能よりもさきに身体が危険信号として、安全装置として倒れることを選んだのだ。蘭豹に意識はある。しかし身体は戦うことを拒否した。

「あんたすげえよ」

 トンッ、と絵札が蘭豹の頸椎を蹴り、蘭豹の意識はとんだ。

 

 

「私の負けだよ」

 不満げにつぶやき緑松校長をみる絵札。言葉の真意は分からないが、だれがどう見たって匂宮絵札の圧勝以外の何物でもない。

「一つの戦いは30分ってマイルールだよ。30分過ぎた、私の負けだ」

 なんという、なんという侮辱だろうか。仮にこれがスポーツだとして30分ちょうどでレフリーが止めたとしても、絵札の判定勝ちだ。それを過ぎたから負けとは、何たる侮辱。

 それに、それに……。

「その袖の短剣はなんですか?」

「暗器だよ。馬鹿なの?」

 その短剣で刺そうと思えば刺すこともできただろうに。それだけではない。匂宮絵札は杖術をのぞき打撃格闘技のみを使っていた。絞め技、組み技などの非力なものが補うための技を一切として使わなかったのだ。

 そのうえで、負けたなどと言われても、怒りしか出てこない。

「どうするあんたら。死ぬ?」

「……」

 あくまで勝てるという匂宮絵札の言葉で、一触即発の空気が流れる。

 

 

 この空気を絶ったのは一つの銃声だった。威嚇射撃ではなく、緑松校長の肩を襲った弾丸の銃声だった。

「チッ、余計なことしやがって」

「余計なことととは何ですか」

 突然の声にざわつく教師陣とうんざりしたように頭を掻く絵札。そしてそのざわつくとうんざりはすぐに別のものへと変わった。

 声の発生元はトランシーバーだった。しかしトランシーバーを持っている存在がなぞだった。

 いったいどこのだれが砂でできたアヌビス像がトランシーバーを持っていることにざわつかないだろうか。

「パトラもいんのか?」

「ええ。二人そろってパトランプですね」

「そろえんな」

 そんな状況にも全く動じずにトランシーバーの向こうの人物と話す絵札。これを好機と襲い掛かった一部の教師たちはいともたやすく制圧された。

「では、武偵高の皆様、取引をしましょう」

「われわれが応じるとでも?」

「緑松校長、我々があなた方の家族についてなんの工作もしていないとでも?」

 取引とは名ばかりの脅迫に、たじろぐ一同。自分の命だけならばいくらでもかけることはできても、大切なものを賭けにだすほど彼らは人でなしの集団ではなかった。

「ついでに、かつてとある零崎は一賊に仇名す者と同じマンションに住んでいたからという理由で、マンションの生き物全部殺したそうですよ。いえ、ただの世間話ですよ?」

 ダメ押しの脅しにざわつくこともできない。

「なに、そう構えないでください。取引は二つです」

「まて……、君は何者だ……」

「取引が終わったら教えてあげます。一つ目はそこの匂宮絵札を今まで通り生徒として学校に通わせること。二つ目は私を教師として雇用すること。この二つです」

 ふざけるなと言いたい。こんな面接あってたまるか。圧迫面接も圧迫面接。それも立場が逆転した圧迫面接だ。しかし、応じる以外に道はなかった。日米和親条約を結んだ江戸幕府の気持ちが分かったような気がする教師陣。

 彼らは零崎でもなければ、殺し名でもない。狙撃銃の音速を超える弾丸をよけるすべなどないのだから。

「分かった。君を雇用する」

「ありがとうございます」

 しかし、この選択が果たして教育機関として失敗だったかというと、そうでもない。彼らは期せずして優秀極まりない教師を雇用できたのだから。

「では、改めて初めまして」

 彼女は名乗った。その名前にどれだけの価値があるのかは、彼女の掌の上で踊らされていたものならばわかるものだった。

 かつて大鋏と釘バットの二大地獄を相手取り、そのうえで生き残った驚異の規格外。その事実だけでも彼女を伝説とするには十分過ぎた。

 

 ――萩原子荻。

 

 こうしておいしいところだけをかっさらって、ついでに賭けにも勝って、夏休み前の決闘は、萩原子荻の一人勝ちで幕を下ろした。

 

 




就職活動(脅迫)。
いや、名探偵さん、安心しないでください。止めてあげてください。

ちなみにいいわけですが、あそこで蘭豹が倒れていなかった場合、絵札は蘭豹を殺していました。それほどに白熱した戦いだったのです。
いつでも殺せんじゃん、原作キャラの弱体化は認めんぞ、というそこのあなた。人工島を傾ける馬鹿力を持った人間が本気で殴ったら人死ぬでしょ? つまり二人とも相手を殺さないように手加減しながら、真剣に本気で全力で戦っていたのです。
本文に書けって? 忘れてました。すみません。


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第36狂 人喰いの後継機武芸百般による人狩り

 みなさん、すみません。書いても書いてもこれじゃねえ、これじゃねえ、となっていました。ですが、この話を書いていると、自然と筆が乗りました。

 ですが、残酷な描写が多大に含まれている上に、投稿時間の数時間前から数分前に一気に仕上げた物なので、誤字脱字、配慮の欠落、などなど結構問題があります。
 一応、弁明しておきますが、決して差別主義者ではありません。

では、どうぞ

 ところで、メルトリリスが欲しくって一万円課金したところ、初日に一万円の無償石でメルトリリスが三体出てきました。しかも内二体は最初の十連で。これは実施積無課金では?


「ぎゃははは! 弱え弱え! ぎゃはは!」

 ここは名古屋。名古屋名物と呼ばれるものの大半が実は三重県が始まりであったり、三大都市の中でも頭一つくらいには影が薄いことに危機感を募らせている愛知県名古屋市である。間違っても名古屋県ではない。

 そんな名古屋の女子校。それも武偵高きってのタカ派で有名な名古屋武偵女子高等学校旧校舎の一室には、無数の人影が、しかしたっているのは一人だけという異様な光景が広がっていた。

 そもそもいまのナゴジョには結構な問題が起こっていた。

 大きな物は二つ。まずは先の国際大会でめざましい成果が得られなかったことによる信用の失墜。特に刀剣競技においては屈辱にもナゴ男に大敗を喫してしまったのだ。

 二つ目はクーデター。いきなり規模がでかくなったが、ナゴジョではクーデターが起きた。曰く『女日本』を作るとか息巻いていた。そう、いた、のだ。

 ナゴジョの中でも武闘派がそろいもそろってクーデターに参加し、このままではクーデターがおき、失敗するのも時間の問題だった。クーデターが起きることよりも、失敗した後の方が問題だった。多感な青年期に武を覚えさせる武偵高は少なからず世間からの批判の的であり、もしクーデターなんてものが起きれば武偵制度の破綻につながりかねない。

 いや、それだけではない。そもそもクーデターは『内乱罪』が適用され、武偵三倍法に基づき、主犯格の死刑は確実だ。故に教務課は動けなかった。武偵局も動けず、生徒に任せるという手段以外と利用がなかったのだ。いや、闇に葬る『公安0課』もいるが、彼女たちの場合『男に虐げられた』という動機があった。故に一番動く可能性が、一番動かされる可能性があるのは『人類最強の請負人』と呼ばれる存在だった。もちろん彼女が関われば、ナゴジョは崩壊、下手すれば名古屋市に隕石が降ってきたり、殺し名、呪い名が連名を組んで名古屋市に大集結、もしくは世界中の裏組織が彼女を殺そうと名古屋市に大集結、などと言ったことが一度に起きるやもしれない。もうナゴジョのクーデターとかどうでも良くない? というほどの被害が出てしまうのだ。もちろん今回動いたのは彼女ではないし、彼女と関係ないのは不幸中の幸いだった(もし彼女の行動に人類最強の請負人があったら、間違いなく現れた)。

 さて、前置きが長くなってしまったが、ナゴジョのクーデターは夏休みの中頃で終わった。それも一人の殺しをなんとなくやめた殺し屋によって。

 

「ぎゃははは! 防弾制服はいらねえだあ!? どの口が言ってんだよ! このパチモンがあ!」

 蹴飛ばされた小柄な、とてもアリアににた少女の体には無数の銃痕があり、彼女に恥をかかせるには十分すぎた。否、勝敗を決するには十分すぎた。だが、それでは終わらせなかった。

 体もまともに動かせない少女--鯱国子にたぁんたぁんたぁんとリズミカルな銃声を響かせながら、しっかりと内臓をよけて撃つ。

「やめっ……死んじゃ……」

 眼帯をした少女が許しを請うが、喉を手で押さえられ軽い爆発が起きた。表皮が焼けただれる程度のレベル1のやけどだが、それでも喉元は急所であり眼帯の少女を萎縮させるには十分すぎた。

「うるせえ! 弱者が! 敗者が! 強者に! 勝者に! 意見してんじゃねえ!」

 『強きは美なり(ストロング・イズ・ビューティー)』を校訓として掲げているナゴジョの生徒と知った上で、殺し屋は大声で言い放った。この言葉を聞き、この校訓がどれほど破綻を生んでいるかがようやくわかった。

 いきなり現れて、無理矢理連れてこられたであろう尊敬する尾張守無夜美先生をボコボコにし、旧校舎にこもっている生徒を狩り始めた。そう、狩りだった。マンハントと言っても差し違えがないほどに圧倒的だった。生徒の負った怪我は最低でも両足が使えない怪我であり、ひどい場合は四肢がそろっていない生徒もいるほどだ。そんな生徒には爆破の熱による止血がやっつけに施されており、死ぬことはない。死ぬことすら許されない。そういった現状を鑑みれば、この部屋はまだ運がいい。なぜなら全員意識はあるのだから。両手足は健在で、立とう、戦おう、そう思えばそうできるものもいる。だが、だからこそ、心が折れた。

 彼女たちのあがめる、称えている、武極昴がなすすべなく、一矢報いることすらできず、涙を流し、目を腫らし、みっともなく、命を、生存を懇願し、頭を床にこすりつけているという現状が、彼女たちの心をへし折った。それこそ再起不能なまでに。

「だいたいよお! 戦士のくせになに片目封じてんだボケェ!」

「こ、これは……!」

「よし、隠してねえ方もごう」

 躊躇なく手を伸ばす殺し屋に、反射的に目を閉じる眼帯の少女--艾であったが、目に触れられないことを感じ取り、脅しであったことに安堵し目を開けるがそこは闇に包まれていた。

「あ、ああああ、ああああ、なにも!」 なにも! あ、ああああ!?」

 声が枯れんばかり絶叫する艾の耳には、大声で笑う殺し屋の声だけが反響した。

 もちろん、目を潰してなど以内。ただ少しばかり神経にいたずらをしただけで、時間がたてば元に戻る。だからこそ面白がって笑っていたのだが。

 

 武極は後悔していた。こんなことなら初めっから全力で、全兵力を持って、こいつと戦っていれば、戦争していれば良かったと、後悔していた。だが、もう遅い。足音が近づいてくる、そしてすぐ横に殺し屋がいるのがわかった。そして胴体に鈍い衝撃が走ったと思うと蹴りで吹っ飛ばされているのが、体感と視界に入った殺し屋のサッカーのストライカーのようなポーズでわかった。

「サッカーしようぜ! そいつボールな!」

 部屋の人数は23名。ボール役と選手両チーム11人にはちょうどだった。

 

 

 

「えーもしもし! 私ぃ! 匂宮絵札はぁ! これより旧校舎にいる皆様をぉ! 刈り尽くしまぁす!」

 お昼時、校庭に現れた東京武偵高の制服を着た少女は、無夜美先生をボコったあとにメガホンで変なことを言った。最初は何かの冗談だとクスクスと笑っていた旧校舎の面々だったが、次の瞬間、閃光が辺り一体を多い、次いで爆発、爆音、爆風、そして延焼が広がった。

「なのでぇ! 降伏する方はぁ! 直ちに校舎から飛び降りろ」

 悪夢が始まった。

 

 まず手始めに、消化に来た少女たちを一人、また一人と潰していき、足を折った後、火の近くに放置した。もちろんコンクリートの上なので、直接燃え広がることはないが、それでも火の恐怖はすさまじく、悲鳴が喉がかれても続いている。

 つぎに日本各地から集められた、絵札の言うところの『理子以下の雑魚』、『自称強くて虐められた雑魚』の悩みを解消すべく、腕を吹き飛ばし、足をアートに変え、二度と武器を持てなくし、二度と自分の足で、否、自分の意思で立つことを拒絶させるだけの恐怖と苦痛を与えた。

 逆にロンスカと呼ばれ、冷遇されてきた女子には両足を折る程度ですました。なぜなら降伏したからである。降伏したなら許してやれよと思うのだが、そんな理屈が暴力の世界の人間に通いるはずがない。

 

 当初、武極はクーデターに参加したいものが売り込みにきたと考えていたが、どう考えても度が行き過ぎていた。ようやく腰を上げた頃には、武極のいる部屋に匂宮絵札が到着しており、すべてが遅かったと後悔するほかなかった。

 

「好きな技をかけるが」

「『俺的必殺問答無用拳』」

 勝敗は一瞬だった。まともに戦えば負けると冷静に分析した武極は唯一勝ち筋のある、一撃必殺を確実に決めるために提案をした。正確にはしようとした、が正しい。言い切るまえにというか、絵札にとってみればカモが大の字になって間抜けに立っているという状況に他ならず、ついこの間見て覚えた『俺的必殺問答無用拳』の試し打ちをしたのだ。

 筋力に裏付けされた耐久力に自信のあった武極昴といえど直接心臓を止められるとは思いもよらず(思い至る奴がいてたまるか)、大の字で心臓死遂げるという死に様を晒すことになった。絵札はうまく決まった『俺的必殺問答無用拳』に満足しながら、少々乱暴な心肺蘇生を行って、蹴り飛ばし、マンハントを再開した。

 何が起きたかの整理が追いつかずただ固まる少女たちを面白がって四半殺しにし、絵札は知らなかったが幹部と呼ばれている四人には、それぞれの得意分野で圧倒した。そのついでに全員を銃で撃ち、そのなかから鯱国子を的に選び、面白全部に撃っていたのだ。

 そして我慢できなくなった絵札が、適当な女子を殺そうとするところで、生死の境をさまよった武極昴が意識を取り戻し、先頭にもつれ込んだ。

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

「ぎゃはははは! うっレしいねえ! まさかまさか同類と! おんなじ答えに至った下位互換と戦えるなんて!」

 一方的も一方的、武極は絵札のいいサンドバッグだった。だが、それ以上に大刀を振り回すことによる体力の消費の方が武極にとっては痛手だった。なによりも一撃も当たらないのだ。技術というのはここまで恐ろしい物なのかと、まざまざと見せつけられた。体の節々が痛み、体力は消費、こちらの攻撃は一切当たらない。一撃必殺に持ち込もうにも、先ほどのあちらの一撃必殺が文字通り一撃必殺なことから、こちらの敗北は必須。そんなことを思案していると、絵札から提案があった。

「いいぜ、さっきのお礼だ。てめえの一撃必殺を受けてやるぜ」

 絶対嘘である。彼女をよく知るイ・ウーのメンバーなら裸足で海に逃げ出す提案だ。絶対に裏がある。実際に理子を助けるために動いたヒルダは、聖水を点滴され食事は銀食器にサバイバル飯を盛り付け純銀をまぶす、寝床はオオカミの巣に、内臓をべったりとつけて寝るという、サバイバルを一月させられたのだ。そんな腐れ外道が、武士道だの騎士道だのに目覚めるはずがない。あるのは殺しの流儀だけだ。その殺しの流儀さえもいまは『殺さないから別にいいよね』と投げ捨てているのだ。もうオレオレ詐欺のほうが信用できる。

 だが、そんな絵札の実態をしらない武極は、優れた技術をもった絵札が礼を尽くした物と解釈したのは無理もないことだった。

「では、巌流のツバメ返しで……」

「誰が受けるかボケェ!」」

 アッパーカットからの奪刀術により大刀を奪い、峰で部屋にいた女子たちを殴り始め、青く腫れあがったところで服をすべて脱がし写真を撮り始めた。もちろん武極は止めるべく動こうとしたが、そのたびにたまたま近くにいる女子の喉元に大刀をちらつかせ「いいのかなー、切れ味ためしちゃおっかなー」と言わんばかりのニンマリとした表情を浮かべるのである。

 そんな恥でしかない姿を写真にとり、挙げ句の果てには婚活系のサイトや掲示板にこの写真と実名、住所をあげて晒しあげ始めた。

 自分を信じ、ついてきてくれた少女たちがこんな目に遭うことに、そしてそれを止める手段も実力もない武極は、ただ泣きながら土下座し、許しを請うしかなかった。

 

 こうして名古屋武偵女子高等学校のクーデター構想は一人の殺し屋によって瓦解し、参加者全員が重傷を負い、実力の高い物から再起不能なまでの心の傷を負うことで、終了した。

 あまりにもやり過ぎな制裁だったらどれだけ良かったか。

 この事件の発端が、チョイノリで日本一周しようと思い立った絵札が名古屋によったときに面白そうなことしているから叩き潰そうと軽い気持ちでやってきた、などという巫山戯た動機であることを彼女たちに知られていないことがせめてもの救いであることが、救いようがなかった。

 

 

 

「えぇ-! みなさーん! いい朝ですねえ!」

 夜通し、武極をサッカーボールにして学校中を駆け巡った絵札はとても元気な声で、校庭から旧校舎に向かってモーニングコールを行った。

 すでに武極は戦意どころか抵抗の意思も、この状況を変える意思すらなく、自分についてきた女子たちが理不尽な暴力に晒されていても「ああ、そうなのか」としか思えなくなっていた。

「うっ」

「皆さんの! リーダー? 国家元首? である雑魚極昴さんは! 壊れた使い物にならない! 望遠鏡に! なりましたぁー! パチパチパチィ」

 武極の腹を踏みつけながら、モーニングコールを続ける絵札。ここまで侮辱されてなお武極の思うことは、ボールにされてからずっと変わらずに「ちゃんと制服着ていれば良かった」であった。制服の布があれば多少は蹴りの痛みも緩和できたかもしれない。そんな僅かなありもしない希望的観測にすがるほど、武極の精神はすり減っていた。だが、一晩中蹴られ続けた武極のからだは青く腫れあがっており、校庭の砂利がつく背中には血がにじんでいた。もし服なんてあろうものなら布のこすれで全身が激痛に襲われていただろう。

「おい、拍手はどうした? あ? あ? あ?」

 ドッ、ドッ、ドッ、といらだったように武極を蹴りつける絵札の姿を見たのか、それとも拍手をしなければ殺されると感じ取ったのか、校舎の方からはパチパチとまだらな音が聞こえた。

「よぉーし、じゃあ帰る!」

 だれも、校門に向かっていく絵札に反逆の意思を示す者はいなかった。




 再度弁面しておきますが、差別主義者でもなければサディストでもありません。
 リョナ好きかって言われたらたぶん、はい、たぶん。

 夏休みはこれにて終了です。次話からは修学旅行、体育祭、文化祭と続いていきますね。ところで、二話連続で主人公でないってどう思いますか?私はおかしいと思います。ノリノリで女の子を虐める文章を書き上げる作者はもっとおかしいと思います。なんてひどい奴なんだ。


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