ねずみ男 幻想郷に立つ (狸狐)
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プロローグ


 こんにちは、狸狐です。
 私は以前、鬼太郎ファン、東方Project、そして読者を裏切る行為をしました。

 許してくださいとは言いません。許せないのは当たり前です。
 反省し続けて、誠意を示していこうと思います。

 では完全新作、よろしくお願いします。







 墓場の奥。

 蛙の合唱が響く沼を超えて。

 亡者の魂が踊り狂う廃墟を抜けた先。

 

 常人ならば絶対に近づきたくない廃トンネルの闇の中を、裸足で歩く『男』があった。手に持っていたスマホの光を闇に向けるが、そんな小さな機械の出す光を嘲笑うかのように、闇が飲み込む。

 

 だが、臆する事なく進み続ける男。

 永遠の闇は存在しない。

 次第に明るい光が彼を出迎える。トンネルを抜けた先には、広大な自然が待ち受けていた。化学物質で汚されていない綺麗な空に川、青々しい草原、そして何千年と君臨し続けた古木がある。──日本にはもう存在しないだろう景色。

 

 そして、そこの中央には木の上に建てられたであろうツリーハウスがあった。梯子(はしご)を登り、家の中を覗く。ちゃぶ台、木の葉でできた布団や干物が掛けられている壁以外には誰もいない。

 

 

「へへへっ、こりゃツイてるね」

 

 

 梯子の足の近くには、ポストがあった。

 木製で、今にでも壊れてしまいそうなポスト。その中には手紙が一通だけ入っていた。男はヒョイとポストから手紙を抜き取り、封を破り、そこら辺に捨て、中身を取り出す。

 

 

「え〜と、なになに……。『()()()()()()()()()へ。助けてください。私たちの村の作物が大きな獣のような妖怪に荒らされています。場所は鹿羽山集落(しかはやましゅうらく)』……か。ニヒヒヒヒッ……、鬼太郎なんか呼ばなくても、この心霊現象なんでもござれの妖怪研究家──」

 

 

 男は封筒をぐしゃっと握りしめた。

 自信溢れる彼は、手紙を服の内側にしまうと、踵を返す。目指すは鹿羽山。焦点を定めて、歩み始める。両方に伸びる髭に唾つけて、汚い鼠色のローブを見に纏うその男の名は──。

 

 

「この『ビビビのねずみ男』にお任せあれェッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───鹿羽山 集落地帯

 

 ここは鹿羽山。

 中部地方にある全く知名度のない山である。

 ここで疑問だが、なぜ日本、いや世界中の様々な山全てにはちゃんと名称があるのにも関わらず、人に知られない、地元の人でも知っているのはごく僅かな山があるのか。

 そんな疑問に対し、かのエベレストを30回も登頂し、他にも名のある山脈を制覇してきた登山家 “山尾(やまお) (のぼる)”氏は言った。

 

 

『誰もが知り、誰もが崇め、誰もが挑戦したくなる山になる条件?ははっ、そんなのちょっと考えれば分かるさ。そして答えは簡単!()()()()()()()()()()()()()()()()さ。富士山やエベレスト、高いだけなら誰も登らないさ。疲れるしね。君もそうだろう?

 でもね、人間が登りやすいように手を加える…。例えば、手すりやロープウェイをつけたり、山小屋なんか用意したりして、是非山にいらしてください。怖くないよぉってメッセージを伝えるのさ…。こうするだけで人は山に登る。どんなに高くてもね。

 逆に人が手をつけず、獣道だらけの場合、どんなに低い山でも誰も登らんて!登った時に得られる達成感は皆無だしね。死んでも見つけてもらえんかも。………まぁ誰もいないからイチャつくにはもってこいかなぁ、ははは!』

 

 

 つまり、人の手が介入していない『神秘』の山、ということだ。

 獣道は動物たちが築いてきた歴史。

 静けさは広大な証拠。

 そして誰にも見つかったことのないこの世のものではないものたちが静かに暮らしている。

 しかし、いや、だからこそ・・・・・・いるのだ。良いものだけでは、ない。この山に巣食う邪悪な奴らも。

 

 

 

「随分と廃れた村だこと。本当にこんなところに人いんのぉ?」

 

 

 ねずみ男は顎に手を当て、様子を伺う。

 山の中にほんの小さな集落があった。

 棚田のようになっているのか、辺り一面田んぼしかなく、首の折れた案山子(かかし)が力無く害鳥や害獣から農作物を守る姿は何とも哀れだ。

 集落という方を見るが、家は数軒。あとは家の残骸で住めるものではないものが転がっている。住めるのは両手で数えられるほど。きっとここにも若者たちがいただろうが、過疎化の影響で、都市部に行ってしまったのだろう。残っているのは後先短い老人たちだけだと予想する。

 

 

「まぁ、行くしかないよな…」

 

 

 ボロボロな木材が2本。

 それがしっかりと地面に突き刺さり、鳥居のようになっている。手のひらで、ゆっくりと触れてみると、じんわりと全体に感触が伝わってくる。ボロボロだがしっかりとしており、これがこの村と外の境界になっているのだろうと実感した。

 きっと何百年もの間も、外敵から村人を守っていたのだろう。だが悲しいかな、今では壁も壊れ、獣の爪でできたのか謎の傷だらけで、昔の面影は感じられない。

 

 

「どなた…ですかな」

 

「!?」

 

 

 突然の低い声。

 ねずみ男の隣には、いつの間にか老人がいた。足音を立てずに、それでも杖を持って、立っていた。驚いたねずみ男はパッと大木から手を離す。

 

 

「ぉ──…こ、これはこれはどうもぉ〜。怪しいものではありませんよ、お爺ちゃま!私、あの『ゲゲゲの鬼太郎』の師匠であるビビビのねずみ男と申しますです」

 

 

 驚いたのも束の間。

 直ぐに営業モードに早変わりする男。手をこすこすとこ擦りながら、ペコペコと、そしてペラペラと早口で自己紹介を始める。鬼太郎の師匠なんて嘘を交えるが、どうせ会ったこともないだろう。疑われる必要はない。

 

 

「おぉ、なんと!あの鬼太郎さまの師匠ですか!」

 

 

 この反応。

 手紙を出したのは、この老人だと直感する。そして素直に聞き入れたその姿勢、簡単に騙せると長年のわるぅい経験が告げていた。

 

 

「如何にもタコにも!あの鬼太郎に様々な技を授け、生きる術を教えたのは俺よん!……ご存知ない?俺の名前」

 

「す、すみません。儂はこの村から一度も出たことないので、知識があまり……」

 

「構わんよ。今度からは覚えてね。はい名刺」

 

「ど、どうも」

 

 

 名刺には『怪奇現象なんでもござれの心霊研究会兼妖怪コンサルタント ビビビのねずみ男・住所不定』と書いてある。

 何とも胡散臭いし、長くて結局何を言いたいのかは分からないが、こういった妖怪絡みには強いことだけわかる。

 

 

(──それにしても俺を知らないのは好都合だネ。にひひひひ)

 

 

 ねずみ男は内心笑っていた。

 自分の正体を知っていたら、きっと出て行けと言われてしまう。お金を稼ぐチャンスを失ってしまう。

 自分を知らない人がいるなら、ここではどんなに大きな嘘をついても、真実になる。

 

 

「そ、それで、ねずみ男様…。鬼太郎様は……?」

 

「鬼太郎は別の依頼に行っていて今日は来れない!」

 

「そんなぁ」

 

「だからこそ俺様が来たのだ!あの鬼太郎を育てた俺が君たちを助けに来たのだ!──勿論、有料で」

 

「ゆ、有料、ですか?」

 

「ボランティアじゃないんでね。だがまぁ、良いことを教えてやるよ、爺さん。耳貸して」

 

 

 老人が耳を傾ける。

 ねずみ男は小さい声でつぶやいた。

 

 

「ここだけの話だがな、俺が来てラッキーだったぜ」

 

「と、いいますと?」

 

「鬼太郎はな、セコい男でよぉ。金持ちしか相手にしないんだ。それに一回依頼するだけで100万円!」

 

「本当ですか!?あの正義の味方の鬼太郎さんが!?」

 

「それはアイツの流した調子の良い嘘だよ。良かったな、来たのが俺で。俺は依頼料、そして達成した報酬合わせて10万で良いんだから。ニヒヒヒヒ」

 

 

 

 勿論嘘。

 そして見事なドアインザフェイス。鬼太郎は100万かかるが、自分は10万円で良いと言われたら、安い!こっちの方がいい!と錯覚してしまうのも無理はない。

 嗚呼、その時の、嘘をついているねずみ男の顔を、本当に皆さんに見せたかった。自分を罰する者がいない自由人の邪悪な笑顔の凄まじいこと。

 

 

 

「・・・では!ねずみ男様、お願いします。我々をお救いください」

 

「任せなさい!!」

 

 

 契約成立。

 ねずみ男を完全に信じた老人は、ねずみ男を自宅へと招く。

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

 話を聞けば、老人はこの村では村長であり、村の者を導いてきたとのこと。ただ、まぁ導くといっても税金の払い方等だ。ここ、鹿羽山集落は、都市部からも離れ、スーパーや公民館などは存在せず、コンビニもない。本当にごく稀に来るトラックでの移動販売以外には娯楽を手に入れる術はない程の弩級の田舎。病院もないので、行くには滅多に来ないバスに乗って、片道2時間かけるしかない。電波もほとんど届かないのでスマホはいつも圏外。電気は通っているので、この村での唯一の情報を得られるものはテレビだけ。そんな暮らしに耐えきれず、九割の子どもたちは

 

 

「──我々は、不便な村だと自覚しておりますが、それでも少人数で逞しく生きてきました」

 

 

 暗かった老人の表情は更に暗くなる。

 

 

「1週間前、隣の市の市長がニコニコとした顔でやってきました。何しにきたのかと思えば、この鹿羽山に太陽光パネル?…というものを建てたいとの事でした。だから我々には出ていって欲しいと」

 

「それで?」

 

「勿論、承諾しました。パネルの事は分かりませんが、都市部の方に家を用意してくれるとの話でしたし、都市部なら病院も近いので。それにもうこの村には年寄りだけ。失うものは何も何も。ですが……」

 

「読めたぜ。その日を境に襲われ始めたってわけだ」

 

「はい。移動は1ヶ月後との話でしたので、それまではこの村で生きようとしましたが……。今日から1週間前の夜、6尺(約2メートル)は超える獣のような者が現れたのです。それは我々の食糧を奪い、酒を奪い、煙草(ごらく)を奪い、豪快に笑い、最後に『また来る』と一言言って去っていきました」

 

「なるほどな」

 

「何とか残ったものを隠し、少しずつ食べ、生きてきましたが、奴は2日に一度山から降りてきて、家を壊し、隠したものを見つけて奪っていくのです。・・・もう我々には食糧が尽きてしまいました。そして鬼太郎様を呼ぼうと今に至った次第であります」

 

「ふぅむ……」

 

 

 ねずみ男は考える。

 これまで様々な修羅場を生き延び、色々な妖怪を見てきた。その知識を総動員させて、聞く限りの情報をまとめ考える。

 

 

(……聞く限り、人を襲うような妖怪ではないな。壊すだけじゃなくて、食べ物を襲い、人は生かして、恐怖を与えるタイプ。つまり……知能はある!なら()()()()()()!!)

 

 

(俺の口八丁手八丁を使って、丸めこめるなら楽勝だ。だ、だが…。もしダメなら……鬼太郎に泣きつこ!うん、そうしよ!まぁ、アイツが来たら、報酬は貰えねえが・・・)

 

 

(俺にはアレがある!…ここに来る前に、ちょいと現地を調べようと、ここの市の資料館で見た中部地方のお宝伝説!!詳しく調べたら、この山だけは誰も調べていないから、見つかる可能性は大!見つけたら10万なんてカスだ、カス!)

 

 

(とりあえず現地調査して、その妖怪と話して、上手くいけば報酬と宝探し。ダメなら鬼太郎呼んで退治してもらってる間に俺は宝探し!へへへへ!どっちを選んでも俺に得しかない!我ながらナイスアイディア!)

 

 

 

 シクシクと泣く村長。

 そんな事は気にせず、ニタニタとほくそ笑む。

 そしてゆっくりと立ち上がり、村長の肩をポンと叩いた。

 

 

「安心しな!今から山に行って、その妖怪をやっつけてくるからヨ!」

 

「おぉ…!!」

 

 

 その自信満々な表情。

 仏のような笑顔。

 村長にとって、ねずみ男はまさに、まさにまさに、救いの神と等しかった。手を合わせてひれ伏す。

 

 

「お願い致します!ねずみ男様ぁ」

 

「どれ、妖怪退治に行ってくる!──とりあえず10万円は頂きますよ」

 

「それはダメです」

 

「え?」

 

「以前、排水管工事を頼んだら前金だけ貰って、逃げられたことがありまして。達成したらお払い致します」

 

「・・・・し、しっかりしてるのねん。ガクッ」

 

 

 

 

 

 

 

───────

 

 

 

 鹿羽山。

 枝をくぐり、草木に迷いながら、山中を歩く。

 イライラしながら山を登る彼には虫も寄りつかない。風呂に全く入らない臭い彼が、汗をかいているのだ。その匂いときたら、蝿も逃げ帰る。

 

 

「チッ!チッ!金も貰ってねえのに山に登らせるなんて!この俺を誰だと思ってんだよ!」

 

 

 予想してた展開とは違い、モチベーションは低いまま。

 乱暴に木の枝を折って、花を踏み潰して、時には立ち小便をして、進んでいく。しかし妖怪の痕跡は見えない。仮にも半妖怪の彼は、少しくらいなら妖気を感じることも出来るが、この山の気が邪魔しているのか、気持ちの問題かは不明だが感じられない。

 このままだとジリ貧だ、そう思い、彼は声を上げる。

 

 

「おーい!村を襲う妖怪さーん!おーい!居たら返事しておくれー」

 

 

 勿論、返事はなく、返ってくるのは自分の声だけ。

 しかしもう歩きたくはない。

 体を使うのは専門外だ。そう思い、近くの岩に腰掛けて、大きな声でまた叫ぶ。

 

 

「返事くらいしてみろってんだ!馬鹿やろーーーっ!!」

 

『オイ』

 

「何だよ、邪魔すんな。おーい、妖怪!出てこいよー」

 

『オイ』

 

「だから邪魔すん──ヒョッ!?」

 

 

 自分は1人で登ってきた。

 だからこの状況で、隣で話しかけてくるのは、自分が追い求めている()()だけだ。

 

 

『この俺に何か用か?』

 

「で、でで、出たァァァーーーッ!?」

 

 

 ひっくり返ったねずみ男の目の前に現れた妖怪。

 『らんらんと光る一つの目玉。

  腕、胸、足、背中等、ほぼ全身に生えわたる体毛。

  鋭い爪に、丸太のような手足。

  そして局部を隠すように身につけている腰蓑』

 

──例えるなら、一つ目の原人

 

 そしてねずみ男を見下ろす約2メートル身長が怖さを倍増させる。その大体2メートル50センチの大男が、ねずみ男の背後に立っていた。

 

 

『何をそんなに驚くんだ…。オメェが俺を呼んだんだろうがよ』

 

「あわ、あわわわわ、貴方様は一体・・・っ!?」

 

『俺?俺は──山童(やまわろ)。見ねえ顔だ。もしかして俺のシャレを聞きに来たのか?』

 

「へ?」

 

『聞かせてやってもいいゾ。・・・山童が()()()()〜〜!何ちゃって!!プッ、我ながら上出来!ガハハハハハ!』

 

「あ、あはは・・・」

 

 

 ねずみ男は立ち上がり、状況分析。

 会話は通じるか? YES

 温厚そうか?   YES

 馬鹿そうか?   YES

 いけそうか?   YES YES YES!!

 舌に力を入れろ。脳内にエンジンをつけろ。煽てろ。褒めろ。とにかく好かれてからが勝負だ。

 

 

「あはは!あはは!あははのは!!いやー天才的なギャグセンスですね!山童大先生!笑いすぎてお腹がよじれそうですよ!ほら、見て見て!」

 

『ガハハハハハ!ノリのいい奴!にしても誰だ、おめえさん?』

 

「お初にお目にかかります!私、ビビビのねずみ男と申すものです!勿論、あなた様と同様!妖怪でございます。はい」

 

『妖怪?・・・くっせえし、人間の匂いもするけど、……確かに妖怪の匂いもするな』

 

「いやーそれにしても、随分と立派な筋肉でございますですねェ!それに貫禄もある。そして何よりそのお顔!よっ、かっこいい!日本一!──実は、アタクシ、そんな日本一の大先生にお話があって参ったんですよ!」

 

『ガハハハハハ!褒められるのは気分がいい。どれ、その話とやらをしてもいいぞ』

 

 

 基本的に動植物と共に生きる山童。

 人間と関わる、いや言葉を持つものと会話をしたのは久しぶりであり、そして褒められるのも久しぶり。

 怪しんでいたが、すっかり気を良くし、その場で胡座(あぐら)を組む。ねずみ男は彼の目の前で正座をした。

 

 

「あのですね…、えへへ、今ぁ、人間の村を襲っているとかいないとかの噂を聞きましてね……。本当かなって」

 

『おう!本当だぞ!』

 

「じ、事実でしたか。にしても、どうしてそんなことを?」

 

村人(アイツら)が嘘つきだから』

 

「嘘つき?」

 

『そうなんだよ。俺はさぁぁ……何百年もこの山に住んで、この村の人間たちと協力しながら暮らしてたんだ。一緒に田植えして、稲を刈って、荷車動かして、土耕してな。そして俺は約束したんだ!これからも()()()()()()()()()()なって』

 

 

 山童はため息をつきながら、そこら辺に落ちていた石を拾う。

 そしてぎゅっと握りしめた。

 グゴっと音を立てて、手のひらを開くと、石はなく砂になっていた。きっとイライラするのを石に当たったのだろう。その恐ろしい握力に、もし自分が掴まれたりしたらと思うと、声が出なくなる。

 

 

『だがよ、時代が進むにつれて、あの村の人間たちが俺と関わろうとしなくなって……最近じゃあ俺のことを知らない奴らが現れてよぉ〜。それって自分たちの子孫に、俺のこと伝えてなかった訳だろ。協力していこうって約束したのに、嘘ついたって訳だよなァ〜』

 

(・・・これって?)

 

『ったくよぉ、俺があんなに手伝ってやったのに、その恩を忘れやがってよぉ』

 

(やっぱり・・・)

 

 

 頭の良いねずみ男。

 この妖怪中心の話を聞いたうえで、人間の視点になってみる。すると見えてくる。お互いの誤解を。

 

 

(人間たちにとってコイツは協力してくれる仲間じゃなくて……、()()()()()()()()()だったんだな)

 

 

 その予想通りである。

 だが結局はただの予想。真実はわからない。

 ねずみ男がいくら頑張っても真相を知る方法がないので、この話を読む方々にだけ真相を伝えよう。

 

 

 

 実は、数百年前、この山に住む人間たちの前に突然、山童は現れた。

 その姿、その声。

 一目で人間ではないと察するが、こんな異形に何をされるかも分からないので、とりあえず放置していると、山童は人間の仕事を代わりにやり始めたのである。

 驚き、固まっていると、流石は異形の存在だからか、あっという間に農作業を終えた。

 勿論感謝はした。何も言わずに仕事を手伝ってくれたのだから。

 

 だが、問題はここからだ。

 山童は人語を使い、人間たちに言った。──『手伝ってやったのだから、お礼を寄越せ』と。

 勝手に来て、勝手に手伝って、お礼を寄越せ?? 何と図々しい奴だと思っていると、米倉の戸を山童は開けて、米俵を全て持っていってしまった。その中には年貢として収めなければならない米もあったというのに、全てを持っていってしまった。

 

 勿論、農民たちは処罰された。

 命を奪われることはなかったが、次の年貢は更に重くなる事を条件で許されたので、結局は死んだようなものだ。

 

 そしてここに住む人間たちは決めた。

 もう妖怪には頼まないと。

 そして、この妖怪の話はせずに、このまま闇の歴史として葬ろうとしたのだ。そして成功。初めのうちは農作業の時期になると現れ、無理やり手伝おうとしたが、断ったりする、酒を飲まして眠らせ放置されるなどをした結果、手伝えず米も貰えないと知った山童は姿を消した。

 

 

 

 

(まぁ人間と妖怪の考えや思考は合わないものよね。だが悲しいかな。こういった類は気づかねえ。ありがた迷惑なんて言葉、知りもしねえだろ)

 

『けど、こんな温厚な俺でも許せねえことがある!』

 

「太陽光パネルですね?」

 

『んだ!その、ぱねるぅってのを俺の住処に建てようって話を許可した訳じゃねえか。あんなに人間に尽くしてきたのに、俺の気持ちを、優しさを、踏み躙りやがってェ〜〜〜ッ!!』ギリギリ

 

 

 歯を強く噛み締めるとギチギチという音が鳴る。

 それをねずみ男は大音量で聞いていた。

 まるで餌を奪われたボス猿が、怒り狂うように、口から涎を垂らし、犬歯をくわっと見せるようだった。

 

 先程まで、おだてられて、喜んでいたのに、イライラし始めた。

 

 

「け、けけ、けど!山童先生はお優しいじゃ、あーりませんか!命を奪うんじゃなくて家を壊すくらいですし!」

 

『俺はやられた事はキチンとやり返す男だ!!俺の住処を奪うなら、アイツらの家を奪う!俺の食べ物を奪うなら、アイツらの食べ物を奪う!ガハハハハハ!!殺さずに苦しめて生かしてやるのさ!』

 

(こ、怖ぇ〜〜!?俺、もうここから逃げたいよぉ〜。でも…)

 

 

 

 血走る単眼を見て、完全に震え上がる。

 元より怖がりなこの男。

 こういった場合、本当なら走って逃げたいのだが、彼の脳裏には10万円がちらつく。

 老人たちが死のうが、生きようが、苦しもうが、自分には関係ないが、お金だけは欲しい。その気持ちが彼の原動力となる。

 

 

 

「や、山童先生、あのですねぇ」

 

『何だ?ねず公』

 

「その仕返し…、もう終わりにしませんかねェ…、なんて、あはは」

 

 

 一気に真顔になる山童。

 同時に木に止まっていた鳥たちも一斉に逃げ出す。

 途端に吹き出す冷や汗。そして猛烈に喉が渇いていく感覚に襲われる。だが、このままではダメだとカラカラな口を必死に動かす。

 

 

『俺に意見するのか?ああ?』

 

「ええっ!?」

 

『おまえ・・・、まさか人間の味方するってのか? 俺が悪いって言いてえのかアァッ!?』

 

「ち、違いますよ!私はただ、貴方の身を心配してるだけなんすよ!もしこのまま襲い続けたら、我々妖怪の天敵……ゲゲゲの鬼太郎がやってきますよぉ!そしたら退治されちゃいますって!」

 

『鬼太郎?』

 

「はい!!生意気なクソガキなんですが、強いのなんのって!私をよくいじめる人間の味方なんですよ!」

 

 

 強い人の名前ほど便利なものはない。

 例えば、喧嘩のシーン。

 自分の背後にはこの学校で1番強いお方がいる。私に手を出せば、大変な目に遭うとでも脅せば、争おうとする気は起きない。

 ここでも同じだ。

 今まで数え切れない妖怪とのトラブルを乗り越えてきた伝説的に有名で、幽霊族の末裔の鬼太郎の名前を出せば、妖怪たちは怖がってしまう。

 

 だが、それは()()()()()()()()()()()()

 

 

 

『・・・』

 

「へ、へへっ、ねっ、今回のところは人間を許しましょうよ。誰だって命は惜しいですしね。へへへへへ」

 

『・・・れが』

 

「はい?」

 

『この俺が! 鬼太郎(ガキ)に! ビビると思ってんのかアァァァッ!?!?舐めてんじゃねええええーーーッッ!!!!』

 

「ひぃいいーーーッ!?」

 

 

 山童は、座っている状態で、地面を叩く。

 ダンっと叩いた衝撃で、地面は割れる。そして、それと同時に一瞬だけ浮き、立ち上がった。圧倒的な腕力だからこその出来る技だ。

 

 

『許さん!!俺に意見するだけじゃなく、脅そうとまでしやがって!!この野郎!グチャグチャにしてやらねえと気が済まねえェッ!!──殺す!』

 

 

 短気。

 圧倒的な気の短さ。

 血走る目玉がねずみ男を捉えた。

 

 

「お助──うごぁっ!?」

 

 

 ガシッ!!

 ねずみ男の肩を、その巨腕に掴まれる。

 もがいても逃げられない。圧倒的な握力の前に、ねずみ男の行なっている行為は無駄な抵抗だ。

 

 

『このまま骨を折って殺してやる』

 

「ぎぃやあああ──」

 

 

 

 メキメキメキと悲鳴をあげる骨。

 その攻撃に悲鳴をあげる。

 全身を、万力で挟まれる感覚に襲われ、死を実感し始めた。

 

 しかし。

 しかしだ。

 

 山童は知らないのだ。

 この『ねずみ男』という存在を。

 ただのセコイ、臭い、弱いだけだと決めつけていた男のピンチの際に起こる能力を!!

 

 

 

──ブッ

 

 

『あ?』

 

 

──ブブブ…ッ

 

──ブババババババッッッ!!!!

 

 

 

『ヌゥウウウッ……ウンギャアアァァァーーーッ!?!?』

 

「出たぁ・・・」

 

 

 美しい自然の中に、腐ったような臭気が立ち込めていた。

 今まで生きてきた中でこんなに強烈な匂いを嗅いだ事はない。その匂いはまるで死の予感を運んできたかのようで、山童はねずみ男を放り投げ、膝をつき、目鼻を両手で押さえる。

 

 

「いつ嗅いでも恐ろしい俺様の屁の威力、思い知ったか!!」

 

 

 危機的状況に陥ると、イタチの最後っ屁ならぬ、ねずみ男の最後っ屁が炸裂するこの体質。以前は鬼太郎たちに火炙りの刑にされそうな時に出したが、今回はその時よりもキツい匂いだった。

 山童がこんなに苦しむのも、無理はない。何と恐ろしいことか、周辺の自然が少しだけ腐っていた。

 

 

「俺の屁を嗅いで立てた奴はいない! けど、まぁ……」

 

『グオオオオオ──』

 

「とりあえず・・・にーげよっと!!」

 

 

 脱兎の如し。

 その逃げるねずみ男の背中を、涙を流しながら、山童は睨みつける。全身から血管を浮き出しながら、呪いの言葉を発して、睨み続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────

 

 

 

 とりあえず奥へ。

 とにかく奥へ。

 逃げろ。逃げろ。逃げろ。

 

 鹿羽山の自然が作り出した、複雑な迷路に迷い込んだねずみ男。人間が一切手を加えていないのだから、考え無しに進んで行けば遭難するのはあっという間。ねずみ男がこの山から出る事は厳しいだろう。

 

 

「はぁ…、はぁ……。と、とにかくここまで来れば……」

 

 

 無我夢中で走ったねずみ男。

 素足だから、植物の葉で足を切っており血が流れていた。だが人体の不思議というもので、アドレナリンが出ていると痛みを感じなくなる。

 

 

「早くこの山から脱出しねえと…。・・・ん?あらぁっ!?」

 

 

 一応、今は敵から逃げている最中だ。

 それだというのに。

 分かってはいるのに。

 

 

「俺様のヒゲがビンビン反応してるぞぉ!?この強い反応!きっと!伝説のお宝ぁ!!……あーもうダメ、俺様、我慢できない。お宝の方が優先よーん!」

 

 

 これは、ねずみ男の『お宝アンテナ』。鬼太郎の『妖怪アンテナ』と似た、彼の能力の一つである。

 このアンテナは、『金目のもの、儲け話、宝、未知の存在』といった自分にとって都合が良かったり、興味や関心あるものを感じ取ることができる。非常に便利なものなのだが……あまりの性能の方はよろしくない。不定期に反応するからだ。

 

 

「お金〜お宝〜大判小判〜〜!全てはこの俺のものぉ〜・・・・・っておおおおおっ!?!?」

 

 

 アンテナが示す方向。

 ねずみ男の視界の先には、廃墟と化しているが『神社』があった。

 山の奥深く、自然の雄大さが侵食しようとも拒み続けるかのような場所で、かつて繁栄し、今は静かな『神秘に包まれた神社』の跡地を見つけた。荒々しい風が青々と茂る草木をなびかせ、神聖な空気がそこに満ちているかのようだった。石段は苔に覆われ、建物の一部は崩れ落ちてはいる。

 

 だが、何か重要なものが、ここに、この場所に息づいていることは間違いない。

 

 

「すげぇ・・・」

 

 

 歴史的建造物。

 芸術的アート。

 それらを見て、全く理解を示したことのないねずみ男だったが、さすがのこの歴史に()()()()()()()()

 

 

「──っ、柄でもねえ。さぁて、お宝お宝」

 

 

 あんなに疲れていたのに足取りは軽かった。

 とても長い階段を登り切ると、苔に覆われた鳥居が待ち構えていた。そして、その鳥居には・・・。

 

 

「ん〜?……『博…神…』?掠れてて読めねえな。まぁいいや。お邪魔しますよん」

 

 

 本殿の方へ向かう。

 賽銭箱らしき残骸を見て、金はないだろうなと察する。

 本殿の戸を開けると、空気が変わるのを感じる。

 

 そして中には、鏡があった。別に何か変わった装飾がついていたり、古代からある銅鏡というわけでもない。ボロボロで、もう何も写せない、何も変哲のない鏡だけがポツンとあり、それを手に取った。

 

 本殿の中は暗いので、外へ出た。

 木漏れ日で見る鏡には、特に価値を感じない。

 

 

「まさか……これだけ?このボロっちい鏡だけ!?骨折り損じゃねえか…」

 

『見つけたぜェエ〜〜〜ッ!!』

 

「ひっ!?」

 

 

 山童が遂にねずみ男を見つけた。

 鳥居を破壊し、ねずみ男の所までズンズンと向かってくる。

 万事休す。

 ねずみ男は腰を抜かし、立つことが出来ない。唯一、怒り狂う山童の顔を見て、許して許してと声を出すしか出来なかった。

 

 

『ここは昔からある廃神社でなァ。ここには鏡以外何もねえのさ』

 

「そ、そんな」

 

『にしても、死ぬ場所を神社にするたぁ、なかなか良い趣味してんじゃねえか』

 

「お慈悲をぉ〜っ!!」

 

『許すかアァァァッ!!ぶっ潰れろオォォォッ!!』

 

 

 巨大な拳が来る。

 あぁ、もう逃げられない。

 死ぬんだ。

 

 

(あー…)

 

 

(死ぬんなら…)

 

 

(特上の寿司を腹壊すまで食ってみたかったなあ……)

 

 

 実際に死ぬ時は、走馬灯を見る暇もないんだな。

 涙を流し─。

 目を、ゆっくりと閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あれ?)

 

 

(殴られない?)

 

 

(攻撃やめてくれた?もしかして誰か来てくれた?鬼太郎来てくれた!?それとも痛みを感じる間もなく死んだ?えっ、俺、今一体どうなって──)

 

 

 

 恐る恐る目を開く。

 開いた先。

 そこには──。

 

 

『ぬぅうううわあぁにいいいいいっ!?』

 

「・・・」

 

 

「女…の……子…?」

 

 

 今、夢を見ているのだろうか。

 試しに頬をつねってみると、ジーンと痛みを感じた。

 つまり今見ている─『山童の拳を、紅白の巫女服を着た女の子が止めている』──光景は、嘘じゃないってことだ!!

 

 

 

「ねえ、おじさん」

 

「はっ、はい!」

 

「危ないから離れてなさい。巻き込まれて死んでも責任取れないけど」

 

「あ、ありがとうございますぅっ」

 

 

 腰を抜かしながら、必死にその場から離れる。

 遠くから改めて見ると、まるで特撮映画の撮影現場を近くで見ているようだった。

 

 

『この俺の拳を、女に、ましてや子どもに、止められるなんてェッ!?』

 

「自分の力を過信して良いのは、強者だけよ。デカブツさん」

 

『くぅううっっっ!? 何者だっ、貴様アァァァッ!?!?』

 

「博麗の巫女……『博麗霊夢(はくれいれいむ)』。・・・知らないって事はアンタも()()

 

 

 博麗霊夢。

 そう彼女は名乗った瞬間に、自分の3倍以上もの大きさを誇る巨体の足を、サッと払った。

 この様子と来たら、まるでスペインの闘牛を余裕で避けるマタドールのように、軽々と。

 

 

「よっと」

 

『ガッッ…ハッ!?』

 

 

 思い切り顔面を地面にぶつける。

 それに普通の自慢ではなく、石畳が割れていた。相当のダメージだろう。悔しそうに頭を上げる山童の額からは赤い血が流れていた。

 

 

「あーあー…。掃除したばかりなのに、どうしてくれんのよ、これ?ガタイが良いのに受け身も取れないわけ?」

 

『〜〜〜っ、ぐうぅっ』

 

「何よ、その目は。まだやられたいの?今ので察しなさいな。アンタじゃ私には勝てないんのをさ。ほらっ、さっさと出ていきなさい。今回は許してあげる。けど、まだやるっていうのなら──“容赦はしない”」

 

『・・・へっ、へへっ、へへへ』

 

 

 突然笑い出す山童。

 霊夢はなんだ急に、と首を傾げる。

 ねずみ男はその笑いに恐れを感じていた。

 

 

『へへ…はは…ガハハハハハ!! 容赦しない、か…。・・・舐めんじゃねえ!この俺は怪力の山童だ。その余裕綽々な顔をグチャグチャのメタメタにしてやるよぉ〜〜〜〜』

 

 

 

──ゴキゴキバキバキゴリュリュ……

 

 

 

「きっも・・・」

 

 

 山童の右腕が。

 右腕が、山童自身の体の中に飲まれていく。

 それと同時に、左腕が伸びる。伸びて伸びて、更に伸びていく。

 

 

『俺はナ……、元々『河童(かっぱ)』なんだぜェ。巫女のくせに知らねえのかッッ!?河童は、両腕が繋がってんだぜ!!だから片方縮めれば、その分もう片方は伸びるゥゥウッ!!』

 

「へー。“アイツ”もできんのかな」

 

 

 

 ここで、山童の事を少し紹介しよう。

 山童は人間の仕事を手伝ってくれる山の妖怪だ。伝承としては、手伝った後にはお礼は与える。もし与えなかった場合、大暴れをするというものがある。

 

 そして、ここからが重要!!

 

 山童という妖怪は、元々『河童』が進化した妖怪なのだ!!

 (例えるなら、某モンスター育成ゲームで、レベルアップで進化するのではなく、特定の場所でしか進化するようなものである)

 

 水中で生きる河童が、陸地で生きる事を決意。

 お皿が乾く苦行に耐えながら、陸地に上がる。キリンが木の葉っぱを食べようと首を伸ばしたように、子どものような身体は、ぐんぐんと成長。草木や石で怪我しないように硬くなる。(用途は不明だが、二つあった目玉は一つとなる)。手足にある水かきを失う代わりに、皮膚は厚くなる、筋肉量は増える。川から山へと生きるための体へと変わるのだ。

 

 

 

『この圧倒的な長さ(リーチ)から繰り出される・・・!俺の拳を喰らえェいッ!!!!』

 

 

 山童の瞳には憤怒が燃え盛り、怒りに震える手が無意識にこぶしを握りしめた。その拳はまるで怒りの炎を込めた鉄の塊のように、空中に突き上げられると同時に、その周囲の雰囲気までもが熱く燃え盛った。

 

 

『喰らってくたばれ───ッ! 【山を割る一撃(コッパ・ミジン・パンチ)】ィィィッ!!』

 

 

 拳が、当たる。

 ダメだ。

 これは流石にダメだ。命を助けてくれたのは、ありがたいが、相手は妖怪だ。死んでしまう。いくら鬼太郎みたいにすごくでも、華奢な体じゃ耐えられない。

 

 

「逃げ」

 

「──ふっ」

 

「ろ……、えっ!?」

 

 

 先程のを見て、耐えると思っていた。

 正面から耐えると思っていた。

 きっと相手もそうしてくると思っていたんだろう。

 だけど、目の前の少女は“天才”だった。だって──。

 

 

『うわおおおおーーー』

 

 

 投げたのだ。正面から受けるのではなく、受け流す。そして長い腕をガシッと掴んで、ぶん投げた。そう、あの技は『一本背負い』。

 戦闘の素人の俺でもわかる柔道技だ。柔道は元より相手の力を利用する技だ。だからこそ、力で押してくる相手にとってはピッタリな技なのだ。

 

 

『ーーーガベバッッッ!?!?』

 

 

 2度目だ。

 あの山童が地面にめり込めむのは。

 だが1度目と違って、長い腕がボキッと折れる。重症だ、どこからどう見ても重症だ。

 それでも怒りが収まらない山童に、流石に呆れた巫女は、護符を取り出した。

 

 

「怨みの魂、我が祈りに屈せしめ。神々の加護、この儀に宿り、悪しきものよ、我が手に封じられん。──『夢想封印』」

 

『GYAAAA──』

 

 

 山童の身体が、護符に吸い込まれた。

 今までと同様、妖怪の封印。

 護符の表面に山童の姿が浮かび上がる。完全に護符の中に封印され、破られない限り、この世に出る事はないだろう。

 

 

「妖怪なら住みやすい環境なのに…」

 

「す、凄え…」

 

 

 護符を本殿の中にしまう。

 きっとこれまで悪い事をしてきた妖怪たちも封印されて、この中にいるのだろう。

 片付けが終わった巫女は、自分の目の前に立つ。差し出された手をとって、ねずみ男はやっと立つことができた。

 

 

「え、えと、どうもありがとございます…」

 

「お礼なら良いわよ。仕事だし」

 

「それで貴女は・・・、あれ、ここは?」

 

 

 落ち着いた事で、現状の異変に気付いた。

 あんなに薄暗かったのに。

 あんなにボロボロだったのに。

 

 自分の目の前には、壮大な山々と、荘厳で神聖な神社があった。そして掠れていたはずの文字もはっきりと書いてある。『博麗神社』と。

 

 

 

「外の世界からお疲れ様」

 

「外・・・?」

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、幻想郷へ。歓迎するわ」

 

 

 

 

 





 今回のゲストは『山童』。
 本来は河童と同様に、小柄な体で、気の良い妖怪だそうですが、悪い妖怪にしてしまいました。

 読者さんからのアドバイスによって知りましたが、2021年頃の『東方虹龍洞』から『山城たかね』なる山童キャラが東方側でも登場したみたいですね。あんまり最新作すぎる東方キャラには詳しくないので、彼女を出す可能性は極めて低いですが……

 鬼太郎作品ではメインになった事ない妖怪です。
 もし出して欲しい妖怪がいましたら、言ってくれると嬉しいです。


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第一章 始まり
ようこそ幻想郷へ 巫女と魔女との出会い



 こんにちは、狸狐です。
 仕事がひと段落しました。

 この前書きのスペースは、私の近況報告的なものにしようと思います。

 まっじでブリーチ面白過ぎませんか?私はアニメ勢なので、今後の展開がわからないのですが、最新話の剣八がもう…最高よね……。グラミィの空想する能力に、力でゴリ押しとか最高すぎる。
 
 他にも呪術廻戦最高だし、子安さんの声を聞けるだけで最高すぎる。漫画で今後の展開知ってるから、早くあのシーンが見たいです。

 fgoは水着イベントが始まりましたね。勿論、私は爆死です。ですが後悔はしてない!!






 

「幻…想…郷……?」

 

 

 生まれて落ちてから()()()

 一度も聞いたことのないその単語を復唱する。こういった不思議なことは自慢じゃないが、たくさん巻き込まれてきた。目玉の親父からも色々な伝承なども聞いてきた。だが、『幻想郷』という言葉は知らなかった。

 

 

「そう。ここは、人間と妖怪が共存する世界」

 

「人間と妖怪が共存って……出来るわけないでしょ…。あ、あはは」

 

「信じるも信じないもアンタの勝手。私にとってはどーでも良いわ」

 

 

 無関心だった。

 目の前の巫女は、困っている、困惑しているねずみ男なんかに微塵も興味を抱いていないのは表情を見れば、分かる。だが、嘘をついていないのは分かる。数えた事はないが、さまざまな人を騙し続けてきた()()()()は人の表情で大体のことは察することができる。怒り、悲しみ、嘲り、嫉妬、喜び、そして嘘を。

 

 

「けど、とりあえず博麗の巫女として仕事(せつめい)をするわ。面倒だし、一度しか言わないから、ちゃんと聞いてね」

 

「ああ…」

 

「ここではアンタのいた世界を『外の世界』、私たちの世界を『幻想郷』と呼んでいるわ。そしてこの幻想郷は誰も入れないように、ここと外にある博麗神社の『結界』で区切られていて、入ること出ることは出来ない。つまり結界がある限り、私とアンタは出会う事は無い」

 

「あー、あの(かす)れてた字は博麗神社って書かれてたのか。つまり、あれが外の博麗神社だったのね。随分とボロっちかったけど」

 

「しょうがないわ。外にある神社を信仰する人はもういないし」

 

「でもよ、実際に俺たち会ってるよな。もしかして結界壊れたのか?」

 

「私が生きてる限り、結果は壊れないから安心して」

 

「そうなんだ」

 

「はぁ……。だからこそ謎なのよね。ここの結界がある限り、幻想になる以外、入る方法は無いし」

 

「?…幻想?」

 

「あー、簡単にいえば絶滅しかけるとか、色々な人から忘れられるとか。だけど、どう考えてもアンタは例外よね」

 

 

 博麗霊夢の言う通りだ。

 ねずみ男は、山童と共に、突然この博麗神社の庭に現れた。2人同時に転移した例は、今まで一度もない。

 

 

「……アンタ、外で何かした?」

 

「何か…?何かしたっけかな、俺」

 

 

 山童に喧嘩を売ったこと?

 追われたこと?

 逃げたこと?

 いや違う。別に関係ないだろ。いつもの事だし。

 

 そういえば、この博麗神社に似たボロボロの神社を見つけて入ったんだ。何で入ったんだっけ?

 

 あっ──

 

 

「お宝……!!」

 

「お宝?」

 

「そうだよ! 外の博麗神社で鏡を見つけたんだ。その時に山童に襲われて……」

 

「なるほどね。読めたわ…」

 

「何か分かったのか!?」

 

「アンタは外の博麗神社で“御神体”を見つけたのよ」

 

「御神体?あんな古い鏡が・・・?」

 

「アンタは外の博麗神社の御神体に触れた事で結界を歪め、そして超えてきたんだわ」

 

「なるほどなぁ。いやー、俺様の悪運はやっぱり冴えてるネ!こうやって強い巫女に助けてもらえたんだから。後は帰るだけか。霊夢ちゃんなら僕を帰せる?」

 

「帰せる。それも私の仕事の一つだから。だけど御神体に触れた事は覚悟しなさいよ」

 

「覚悟?」

 

「外の廃れた神社とはいえ、仮にもアンタが触れたのは『博麗の御神体』。絶対に何か面倒なことにな、る・・・ぐぅっ!?」

 

 

 突然、霊夢は、突然急激な頭痛に襲われた。今まで一度も病気になったことのない健康体の霊夢は生まれて初めて頭痛を経験する。ガンガンと響く痛みに動けなくなり、そのまま倒れてしまった。

 

 

「だ、大丈夫かっ!?霊夢ちゃん…!?」

 

 

 ねずみ男は身体をゆすってみるが反応はない。手首を触ると、トクトクと脈が動くのを感じる。生きてはいるようだ。直ぐに担ぎ上げ、座布団の上に寝かせた。

 

 

「まっ、無事なら何より。目の前で死なれても夢見が悪いや。にしても、暇になっちったなぁ。起きてくれないと帰れないよ。・・・あっ」

 

 

 家の中に入る。勿論、無断で。

 ねずみ男の人生経験的に、盗みはいくらでもやってきた。家の者がいない間に、夕飯だって盗み食いして完食したことがある。

 

 

「へへへ……足音立てずに歩くのなんて余裕だネェ〜。金目のものも盗んじゃおうかなァ」ゴニョゴニョ

 

「見られてちゃあ意味ないぜ?」

 

「シー……、静かにしてろ。巫女が起きちゃうだろ」

 

「いやぁ…、このグータラ状態なら夕方までは起きねえな」

 

「だから喋るなって・・・・ギョギョギョォッ!?!?」

 

 

 またやってしまった。夢中になると周りが見えなくなってしまう悪い癖。

 ビビり散らかして、後ろを見れば、そこには魔女がいた。本当に魔女らしい、分かりやすい姿。西洋妖怪が一瞬チラつくが、とりあえず手を擦る。

 

 

「えー…と、えっへへ…。き、今日も良い天気です、ね…」

 

「いいよ。媚び売らなくても」

 

 

 魔女も、ねずみ男同様に、家の主人の許可なく家の中に入る。

 そして無断でお茶を飲み始めた。

 

 

「それで何してたんだよ、新入り」

 

「新入り?」

 

「うん。だってお前、外来人だろ。見た事ないし。だから新入り!いやー久しぶりだな!5年前に来た奴は直ぐに食われちまったからな」

 

「く、食われ?」

 

「それで、何やってたんだ?空き巣か?・・・それとも夜這いとか?夜這いはやめといた方がいい。霊夢は色気ないし、ペチャパイだからな!あはは!!」

 

「どっちでもねえよ!!俺をそこら辺の男と同じにすんな!俺は妖怪一、紳士なんだよ!」

 

「はは、わりぃわりぃ。それで何やってたんだ?あんまり悪い事してたらぶっ飛ばすけど?」

 

「ぶっ飛ばすなんて野蛮な……。俺はただ…あー…」

 

「?」

 

「そうっ!地図だよ!地図とか無いかと思ってよ」

 

「地図?んなもん、霊夢は持ってねえぜ。買うより、覚えた方が金がかからないって言ってたな」

 

「マジかー…。ケチすぎるな。はぁ……人がたくさん住んでる場所を見つけたかったのに(棒)」

 

 

 とにかく適当に嘘をつき、演技をした。そんな困った表情を見た魔女はコップに入ったお茶を一気に飲み干す。ゴクンと音と、蝉の鳴き声が染み渡る。

 

 

「ぷはぁっ、ふぅ……。新入りさんよ、里に連れてこうか?」

 

「里?」

 

「んだよ、霊夢のやつ、何も教えてないのか。しょうがない。私が代わりに説明するぜ。幻想郷には、人里っていって、この幻想郷には、人間が住んでる場所があんだよ」

 

 

 魔女は、使い終わったコップを台所に置く。

 そして靴を履き、箒を手に取った。

 

 

「ほら行くぞ。乗りな、新入り」

 

「マジで!?やったーっ!これで暇を潰せるよ。ありがと、ええと……」

 

魔理沙(まりさ)。 霧雨(きりさめ) 魔理沙(まりさ)ってんだ。覚えといて損はないぜ」

 

「魔理沙か、よろしく!俺っちはねずみ男!」

 

「ねずみ男か、こちらこそよろしくだぜ」

 

 

 お互い、挨拶を済ませる。

 そして魔理沙が跨る箒に、ねずみ男も同乗した。

 だが空を飛ぶことはなかった。

 

 

「くっせええええええーーーッ!?!?」

 

「し、失礼な…」

 

「いや、くっせえよ! お前、風呂入った事ないのかよ!?うえぇ〜…」

 

「しょうがねえだろ。俺っち、風呂嫌いだもん」

 

「あり得ない!!ちょっと来い!」

 

 

 魔理沙に導かれて、ねずみ男は博麗神社の裏に連れてかれる。

 そこには亀がいる池。林檎の木。地面から湧き出た天然の『温泉』があった。

 

 

「まさか・・・」

 

「洗ってこい!!」

 

「ちょっ!?あっらぁっ!?」

 

 

 ゲシッと背中を蹴られ、頭から水の中に落ちる。

 ガボガボと沈む。

 すると、どうだろうか。あんなに澄んでいた温泉の色が黒く変色していった。温泉の効能が、ねずみ男の汚れを洗い落としてくれているのだろう。(根拠はないが)

 

 

「おぇ…。きったねぇ……」

 

「がぼぼっ!?ごぼぼっ!!」

 

 

 ねずみ男は泳ぐのはあまり得意ではない。

 バチャバチャと水飛沫をあげて、何とか温泉から脱出する。するとどうだろうか。あんなに生ゴミとドブを混ぜたような匂いを放つ身体から、温泉のいい香りが漂ってくる。時間の問題だろうが、今は何とか落ち着いた。

 

 

「はぁ…はぁ……死ぬかと思った…。・・・・・このクソ(あま)がぁ〜っ!!いつか絶対に仕返ししてやる!!」

 

「そう怒るなよ、ほら」

 

「何よこれ」

 

 

 魔理沙は、こちらを向かずに布を渡してきた。どうやら新しい布だ。色は自分の名前と同じ─“ネズミ色”。そういえば自分が着ているのは、びしょびしょで、何年も前から同じのだからボロボロだ。

 

 

「霊夢の家で使ってなかった布だ。前のやつは汚いし、これを早く着な。見ないから」

 

「勝手に使っていいのか?」

 

「借りるだけだ。永久にな。それよりも早く着ろって!目のやり場に困るんだよ!!」

 

「・・・へ〜」

 

 

 この魔女。意外とウブだ。それに気づいたねずみ男はニヤァっと笑う。何を思いついたのだろう。

 

 

「おーい、魔理沙ちゃん。着替え終わったぜ」

 

「“ちゃん”付けはやめてく──きゃああっ!?!?」

 

「どうしたのン?」

 

「な、なっ、何やってんだっ!? “さっさと服を着ろ””ッ!!」

 

「ぎゃーはっはっはっ!!仕返し成功!!ほれほれ、くらえくらえ。へっへっへ」

 

 

 彼がやった行為。それは詳しく教えない。

 だが、彼は自分よりも若い女性に、『セクハラ』をしたのだ。外の世界でも、幻想郷でも、やってはいけないセクハラを!

 

 

「この変態ッッッ!!」

 

「はうっ!?そこは男の───」

 

 

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

 

 

「おお、絶景だな。こりゃ」

 

「だろー。私も空から見る幻想郷の風景は大好きさ」

 

 

 空から見る景色。

 やはり広大な自然を上空から見るのは気持ちがいい。ねずみ男は魔理沙の後ろ、背中にきっちりと捕まって、空を飛んでいた。

 

 

「見えてきたぞ」

 

「おお!」

 

「あれが人里だ」

 

 

 ゆっくりと下降する2人。

 里と外を区切る門を超えて、ふわりと地面に着いた。箒から降り、足で土を感じると、遂に人里に辿り着いたことを実感する。

 

 

「すげえ…、まるで江戸時代だ」

 

 

 柄にもなく興奮してしまう。

 だがしょうがない。きっと誰もが感動してしまうだろう。この風景、木造平屋建ての建物がずらぁっと並び、着物を着た人々や子供たちが歩き回る、その様子は、今となっては見れないものだから。立ち尽くすねずみ男に魔理沙はポンと肩を叩く。振り向けば、彼女の手には地図が握られていた。いつの間に手に入れたのかは不明だが、これで目的は果たせた。

 

 

「これが地図!?里と博麗神社までの道のりしか書いてねえじゃん」

 

「仕方ないだろ。人間にとって行く場所はそこしかないんだし。わざわざ里から出ることもない。そうなると地図はこうなんだよ」

 

「うへぇ…マジかよ」

 

「んー…目的は果たせたな。それでこの後は、何するつもりだ?乗りかかった船だし、手伝える事なら手伝うぞ」

 

「・・・そうだった。何やろうかな」

 

「んー、…そうだ!この里の守護者の『慧音(けいね)』にまず挨拶に行こう!慧音と仲良くして損はないぜ。絶対に世話になると思うし。今頃なら寺子屋で授業してると思うから連れてってやるよ」

 

「おー、助かるぜ、魔理沙ちゃん」

 

「だーかーらー、“ちゃん”付けはやめてくれよ。ほら行くぞ」

 

「にしても何でこんなに助けてくれるんだい?会ったばかりだろ?」

 

 

 そう言うと、魔理沙は不思議そうな顔をする。

 

 

「んー、あんま考えたことないな。そういうの」

 

「いや普通はな、自分に得があるから助けんだよ。でも見ず知らずの奴を助けるなんて得るもんないだろ?そこら辺が…ちょぉっと、俺にゃあ理解できんな」

 

 

 腕を組み、悩む。少し考えてから屈託のない綺麗な笑顔で答えた。

 

 

「得とか損とかはさ、私にとってどうでもいいのさ。ただ目の前に困っている人がいたら手を差し伸べたいのさ」

 

「き、既視感!!くぅ…まぶしいっ!」

 

 

 親友の姿と重なる。利益になることはしないねずみ男にとって、その笑顔は眩しかった。そっと顔を背けてしまう。

 

 

「けど、頑張りすぎんなよ。全員は助けられないし、結局のところ大事なのは自分自身よ」

 

「何でそんなこと言うんだよー」

 

「そうやって頑張って、心身ともに擦り切れた事がある奴を知ってるからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのぁ…魔理沙さん」

 

「ん?」

 

 

 2人の会話をしている途中、俺たちの前に、主婦が現れた。お話の邪魔をしてしまっていいのだろうかと考えながら、申し訳なさそうに間に入ってきた。

 

 

「おお!山谷のおばさん!」

 

「お話ししてる所申し訳ないんだけど、ちょっといいかい?」

 

「気にすんなよ。それで、どうしたんだ?」

 

 

 一目見て、頼りにされていることがわかる。

 きっとこの“困っている人を無視できない性分”だからこそ、里の人間たちは彼女を頼りにし、好きなのだろうと察した。

 

 

「実はさ……、昨日、ウチに妖怪が入ったの。食べ物を全部食べられて」

 

「それって本当に妖怪か?ここのルールは妖怪たちは理解してるぞ。ちゃんと警備団の人たちには言ったのか?」

 

「言えないわよ。だって、絶対に人じゃなかったもの」

 

「何で言い切れるんだ?」

 

「だってさ、あの匂いがしたのよ」

 

「匂い?」

 

「腐臭よ…。夏の暑さで生ものが腐ってる?みたいな匂いのする奴が部屋の中で何かしてたのよ。そして私の名前を何度も呼ぶのよぉ。もう怖くて、怖くて」

 

「・・・」

 

「どう考えても人じゃあないわ。ねぇ、ちょっと調査してくれない?厳しいなら巫女様に…。勿論、()()は渡すわ」

 

「お礼なんて──「お任せください!!」」

 

 

 2人の会話に、突然その男は入ってきた。

 彼は魔理沙をグッと押し退けて、山谷婦人の前に出る。

 

 

「あ、あなたは?」

 

(わたくし)! ビビビのねずみ男!と申します!ニヒヒヒッ、以後お見知り置きを!!」

 

「はあ…」

 

「実はこの私、怪奇事件を専門にしている弁護士でして。今、隣で聞いておりましたが、それは確実に妖怪の仕業です!それも邪悪な・・・。早急に手を打たなければ、今度はあなたが被害者第一号に!!」

 

「なっ、ならどうすれば」

 

「全てこの私にお任せください!どんな事件も解決してみせますよ、ケケケケ。勿論、お礼はお忘れなくぅ・・・イデデデ!?」

 

「おばさん、ちょっと待っててねー」

 

 

 魔理沙が、ねずみ男の髭を引っ張った。そのまま路地裏へと連れてかれ、魔理沙にギリッと睨まれる。

 

 

「何を勝手に話を進めてんだ。お礼なんか貰わなくてもいいのに!」

 

「いやー貰えるもんは貰っておかないとダメでしょ。もしかしたら、結構なお宝が貰えるかもしれないし!」

 

「要らねえよ!!てか、ねずみ男、良いのか!寄り道して」

 

「面白いことは優先するのよん!あー!早く見たいナ!不思議なことをよぉー!怪奇趣味が疼いてくるわ!」

 

「なんて、めんどくさいやつ」

 

「それが俺よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 事情を詳しく聞けば、事件が起きたのは昨日、というよりも12時を過ぎたあたりの時間帯であった。この家の主『山谷のり子』は、ニワトリ達の激しい鳴き声で、目が覚めて、庭を覗くと、辺り一面にニワトリの羽が待っているのを発見した。飼っていたニワトリ10羽は全て軒下に隠れてしまい、クマか何かが入ってきたのかと思った。

 

 怯えていると、今度は家の中で物音がする。

 誰かが食糧庫に入ったのだろう。グチャグチャと汚い咀嚼音が、部屋の中に響き渡る。今度は物色する音。金目のものがぢゃらぢゃらと音を立てて。暫くすると、音は聞こえなくなり、最後に──。

 

 

『ゆりぃ〜…ゆりぃ〜…。どごだ…ゆりぃ。めじぃ、めじぃいい』

 

 

 何度も私の名を呼んだ。息を殺し、気配を消す。すると私の名を呼ぶ主はまた闇の中に消えていった。

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 2人は山谷宅へと向かった。家の中を調べてみると、確かに壁や床に傷が残っていた。だが予想よりも荒れてはおらず、のり子が1人で片付けをしたのだろうと予想する。

 

 

「うっ…」

 

 

 ねずみ男の体臭とは違う臭さ。だが匂いよりも気持ち悪さを感じた。冷や汗を拭い、吐き気を催してしまう。妖気を感じることはなく、死臭の方が強い。

 

 

「確かに凄い匂いだな」

 

「でしょう。換気しても、なかなか落ちなくて」

 

「そんなに匂うかなぁ」

 

「お前は鼻が壊れてんだよ」

 

 

 フンッと、ねずみ男はそっぽを向く。

 魔理沙は耐えられないと言わんばかりに鼻を押さえた。この匂いは嗅いだことがある。あまり好んでは嗅ぎたくないものだ。

 

 

「おばさん、最近ここで誰か亡くなったかい?」

 

「・・・亡くなった? そ、それなら旦那が」

 

 

 おばさんは仏壇の前にある写真を魔理沙に見せた。厳格そうな表情の写真を見せた。

 基本的に、魔理沙は誰かに固執するタイプでもないため、人の家族構成までは知らない。この山谷家も同様で、このおばさんとは何度か話したり仕事を手伝ったことがあるので面識はあったが、旦那がいることは知らなかった。

 

 

「待て!?まっ、まさかっ、旦那が化けて出たんじゃねえかっ!?」

 

「それは分かんないけど・・・」

 

「そういえば……あの妖怪、『のり』って…。私の事を“のり”って呼ぶのはあの人だけだった……」

 

 

 その場でしゃがみ込むのり子。そしてプルプルと震え出した。しかし無理もないだろう。自分の旦那が、化けて出た可能性があると聞いて、気が滅入ってしまったのだ。

 

 

「あ、あの人は私を恨んでいる…っ、そ、そうよ。きっとそう!」

 

「お、おい。落ち着けよ。ほら、水」

 

 

 ガタガタと震える。心の底から怯えていた。

 だが、魔理沙のおかげで落ち着きを取り戻す。はぁはぁと息を切らしながらも何とか冷静になる。

 

 

「……ありがとう、魔理沙さん」

 

「いいんだよ。それより──」

 

「ええ。そうよね。話しといた方がいいわよね」

 

 

 座布団に座り、ポツポツと過去に何があったのかを話し始める。

 魔理沙は向かいに座った。

 

 

「あの人、大工でね。仕事中の怪我のせいで、ずっと寝たきりだったの。勿論、介護するのは私。毎日毎日、食事に、排泄、お風呂……。それで去年の夏、私はこの日々に疲れて、家から飛び出したの」

 

 

 だんだんと息が荒くなる。

 恐怖、絶望、失意に襲われる。思い出が首を絞めてくる。

 

 

「はぁ…はぁ…っ、そ、そして夜。旦那は『死んでいたわ』。原因は熱中症。私がちゃんと見ていたら、逃げなければ、死なずに済んだはずなのに・・・。旦那はきっと私を殺しにきたのよ……!!あああああっ!!」

 

「おばさん!!」

 

「あららー、ぶっ倒れちゃったよ」

 

 

 気を失ったのり子。魔理沙は、彼女を床に眠らせた。

 きっと、彼女はずっと苦しんでいたのだろう。自分の罪に苛まれて、今まで後悔し続けてきたのだろう。

 

 

「うがー!どうすりゃいいんだよーーー!!大丈夫で済む問題でもないし!私に何ができるんだァァーー!」

 

「やめとけ、何も出来ねえよ。悩むだけ無駄さ」

 

「おい!何でそんな冷たいこと言うんだよ!!」

 

「知ってんのか? 介護に疲れちまうのはな、()()が原因なんだ。ここの連中はどうだ?こうやって困っている人がいるのに手を差し伸べたのか?」

 

「それは知らなかったんだ……っ。それに、おばさんはいつも笑ってたし、困ってる様子なんて……」

 

「だろうな。所詮は、その程度なんだよ。ここの連中も、お前も、助けてって言わないと助けてなんかくれない。本当に苦しんでるやつは声を上げる力がないことを……恵まれてる奴は知らないのさ」

 

 

 ねずみ男の脳裏に幼き日々の思い出が浮かび上がってくる。親はおらず、人間と妖怪からも疎まれて、助けを求める力なんて何も無かった。そうさ、大事なのはいつだって自分だ。

 

 

「悪い、変なこと言った。俺は別なとこ調査するぜ」

 

「・・・っ」

 

 

 

 

 

───

 

 

 

 ねずみ男が向かったのは食糧庫だ。この幻想郷には、どうやら冷蔵庫というものは存在しないらしい。このように暗く、陽が入らない場所で食べ物を保存しているのだ。

 

 

 

──ぎゅるるるるる…

 

 

 

「そういや俺、何も食べてねえんだった。波瀾万丈で飯のこと、すっかり忘れてたな……。あー、腹減った。何かねえかな…」

 

 

 調査という名目で残っている食べ物を探してみる。漬物をつけていたであろう壺の中は空っぽ、吊るしてあった魚もない。だが奥の方をもっとよく見てみると、荒らされ瓦礫だらけの中に、干し柿が転がっていた。

 

 

「おお!これぞ天の恵み…!では、早速いただきまー……ぁっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────

 

 

 

 

 あの後、魔理沙も調査を続けた。家の中には特に何もない。おばさんの言う通り、荒らされた形跡や獣のような爪痕があった。軒下に隠れたニワトリ達は余程怖かったのか、出てこようとしない。こうなったら、また夜まで待つかと考えていると、食糧庫がやけに静かだった。魔理沙は大きな声でねずみ男を呼ぶ。

 

 

「ねずみ男ー、どうだ?」

 

 

 すると、ひょこりと顔を出す。

 へへへっと笑いながら、魔理沙を手招きした。どこかぎこちない、引きつった笑顔ではあったので奇妙ではあった。

 

 

「マーちゃん!やったよやったよ!凄いの見つけちゃったよ!完全にこれは手がかりだぜ!来てみろよー!」

 

「本当か!?」

 

「へへっ…、ほんとほんと!」

 

 

 ねずみ男は食糧庫の奥を指差す。

 中に入ってみれば、この部屋の中の空気はとても冷たく、夏だと言うことを忘れてしまう。しかし、それ以上に、この部屋の中は濃い死臭で満ち溢れていた。

 

 

「うぅっ…、ひどい匂いだ。ねずみ男よく耐えられるな…」

 

「・・・」

 

「ねずみ男…?」

 

 

 振り向けば、彼は食糧庫の戸を閉め始めた。そして困惑する魔理沙に、申し訳なさそうにペコリと頭を下げる。

 

 

「今ですよ!!── 狐者異(こわい)センセェーッ!!」

 

『アアアアーーームゥゥゥーーッ!!』

 

「──っ」

 

 

 誰だって天井に張り付いていると思わないだろ。それにしても、こいつが死臭の原因かよ。そう思った瞬間に、魔理沙は、天井から降ってくる巨大な口にバクンと飲み込まれた。

 

 

『ング…ングング……』

 

「すまねぇ…っ、魔理沙ちゃん…。出会ったばかりだってのにヨ。でも必ず立派な墓建ててやるからな。ちゃんと成仏してくれよぉ〜」

 

 

 ねずみ男は手を合わせて拝む。基本的に誰とでも仲良く接するねずみ男だが、その実、自分の生命に危険がある場合は相手が誰であろうと簡単に寝返る。多少は良心の呵責を感じることもあるが、明日には忘れてしまうだろう。

 

 

「なんまんだぶ…、なんまんだぶ…」

 

『げふぅ〜…。んまんま…。ね、ずみ』

 

「はっ、はい!何でしょうか、大先生!」

 

『もっどもっど。まんま…ぐれ』

 

 

 

 ここで紹介しよう。

 この妖怪の名は── 『狐者異(こわい)』。執着心を持った人間が、死後、この妖怪になると言われている。生前は知らないが、基本的には食欲に取り憑かれており、頭の中には食べることしかない。

 

 姿形は、人間とあまり変わらないが、巨体にはなる。大きな目玉、常に涎まみれの口、獣のような手足が特徴である。

 

 

 

「もっと、と仰られましても。あっ、この家の女主人なんかどうでしょう!無理矢理でも連れてきますよ!」

 

『ぁ、ぅう・・・っ、のりは、ダメ・・・。ぢがうのっ!…もっでごいっ!!じゃないどっ、おまえをぐっでやるうゥゥゥっ!!』

 

「ひぃいい!?魔理沙を食わせたら命を助けてくれる約束ぅ…──って、あれ?どうしたんですか、そのお腹!?!?」

 

 

 ねずみ男が指摘する。

 パンパンに膨れ上がる狐者異の腹。 狐者異は慌てて、自分の腹部を叩くが、自分の体を痛めつけるだけで何の意味もなさなかった。

 

 

『も、もがっ!?』

 

「ひええぇ〜〜っ!?魔理沙の祟りだ!!なんまんだぶぅ!!」

 

 

 これはもう堪らんと、大きな口を開ける狐者異。その口から魔理沙が顔を出した。涎で全身ベタベタだが、必死に這い出そうともがいていた。

 

 

「噛まずに飲み込んだのが間違いだったな!」

 

『もがぁっ、もっ、もががっ!?』

 

「くっ、来い。箒ッ!」

 

 

 玄関に立てかけていた箒が、その呼び声に反応する。バサバサと動き出した後に、フワリと宙を舞い、自分の主人のもとに飛んでいく。

 

「うげっ」

 

 その通り道にいたねずみ男をぶっ飛ばし、狐者異の口、魔理沙が必死に手を出している場所で止まった。そして箒を握りしめ、グウッと上空へと引き上げる。そのままオエェッと口から吐き出すと同時に、魔理沙は口から脱出した。

 

 

「生きてやがった・・・っ!!」

 

「はぁ…はぁ…っ、クッソォ…。ねずみ男っ!お前、やってくれたなァッ!!」

 

「ちっ、違うんだよ!俺だって脅されたんだよ!被害者なんだよォッ!?」

 

 

 大きなタンコブを携えたねずみ男は、必死に弁明する。しかし、その間にも狐者異は、涎を撒き散らしながら、上空の魔理沙へと必死に手を伸ばす。せっかく腹の中まで入れたのに逃げるなんて許せない、と言わんばかりの怒りの形相で。

 

 

(この顔! あの写真で見た旦那とそっくりだ!! という事は、旦那は本当に恨んで妖怪に──)

 

 

 魔理沙が下から見る狐者異の顔は、仏壇にあった旦那の顔と酷似していた。何とか助けてあげたい。だが、その考えは後回しだ。とにかく『里で妖怪は暴れてはいけない』。ここから離さなければ!!

 

 

「くぅっ、おい、妖怪!里で暴れるのは御法度だろ!私についてこい!!」

 

『ウガアアッ!ばらにぃ〜もどォれェエ〜〜ッ!!』

 

 

 魔理沙はピューっと里の外へと飛んでいく。 狐者異は、魔理沙の後を追って、ドタドタと走って行った。ねずみ男は今がチャンスだと逃げようとするのだが、流石にこの騒ぎで目が覚めたのか、家の中から岩谷のおばさんが出てきた。

 

 

「一体何が・・・、あっ、ねずみ男さん」

 

「えっ、ええと、実は──」

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 里で妖怪が暴れてはいけない。とにかく外へと連れ出した。必死に追ってきた狐者異は、魔理沙がその場で止まると、ゼェゼェと荒い息を整え始める。

 

 

『だりないだりないッ!!もっど!ぐわぜろォ〜〜ッ!!』

 

「おい落ち着け!おばさんの事を恨んだ所で何も解決しないぞ!!」

 

『・・・』

 

「なぁ、頼むよ。私には何も出来ないけど、何かしたいんだ!だから、こうやって暴れるんじゃなくて会話でさ!!」

 

『ィィィイ〜〜ダ・ダ・ギ・マ・ズ〜〜〜〜!!』

 

「くっ」

 

 

 狐者異は、魔理沙に飛びかかる。その獣の如き足で地面を蹴り、空を舞い、手を伸ばす。だがお目当てには届かない。対する、魔理沙はスカートの裏に手を突っ込み、仕込みポケットから、何か筒のようなものを取り出した。

 

 

「話を聞いてくれよ!!このやろう!」

 

 

 四つほど筒を投げる。だが狐者異の体には掠りもしなかった。全然的外れな方向に落ちる筒に気を止めず、食わせろ食わせろとこの妖怪は叫ぶ。不発か!?

 

 

 

──ポンッ、ポンポンッ

 

 

 

『あ"っ!?』

 

 

 筒から破裂音が出ると同時に、魔力で出来た金色の鎖が飛び出した。あっという間に、四つの鎖が、狐者異の両手両足に巻きつき、縛りつけた。

 

 

「宴会道具『魔法固定具(マジックフック)』だ!……本当は板とかを固定して机にとかにするものだけど…」

 

 

 動こうに動けない。本物の鎖なら狐者異の力で壊すことは簡単にできる。だが、これは魔力を編んで作った鎖だ。そう簡単には壊れない。だが、諦めない。目の前のご馳走を逃すわけには行かない。

 

 

『グウ!グワ"ゼロ"ォォォォオーーーッ!!』

 

「おい!のり子おばさんの事忘れちゃったのかよ!?」

 

『の、り子…ッ?だ、だれ? あ"ッ!お、おお!お"んな"だぁっ!おんな食うゥゥゥ!!エ、エヘヘヘッ!』

 

「なっ──」

 

 

 思考がもう完全に飲まれていた。身体だけではなく、心までもが『狐者異』という妖怪になってしまった。悔しい。もし自分がもっと早く気づいていれば、みんなで協力していれば、どっちも助けられたのに!

 

 

「助けてやるからな…」

 

『アッ、ァァゥゥゥ……オロロエエエエーーーッ!!!!』

 

 

 容易に吐瀉物を回避。

 直ぐに帽子の中から魔理沙は小さな何かを取り出した。それは陰陽の印がある、その名も『ミニ八卦炉』。自身の魔力を燃料とし、ものすごいエネルギー密度の攻撃を放つ事ができる魔理沙の唯一無二の武器だ。

 

 

「・・・ごめん」

 

 

 弾ける魔力。それがバチバチ溢れる電気に変換される。

 魔理沙は握っているのだ。本来なら、神の武器である『雷』エネルギーを。人間には操れないほどのエネルギーを!!

 

 

「恋符『マスタースパーク』ッッ!!」

 

『あ"っ──』

 

 

 狐者異を貫く。

 これまで数多の実力者と戦い、倒してきた魔理沙の一撃は、巨体を貫き、抉る。煙が晴れると、そこには頭部だけの狐者異が転がっていた。残った頭部の首からパラパラと粉になっている所から、身体が消滅しかけている事がよくわかる。しかし死んではいない。口をぱくぱくと動かしていた。

 

 

「おーい…!」

 

「ねずみ男…とおばさん?」

 

 

 呼ぶ声のする方を見てみれば、山谷のおばさんを背負ったねずみ男がこちらへ走ってきていた。何事かと思っていると、おばさんはねずみ男の背中から降りて、走って狐者異の元へと寄って行った。

 

 

「あなたっ!!」

 

 

 のり子の顔を見て、 狐者異はぴくりと反応する。目玉を動かして、彼女を見た。死ぬ寸前で思い出したのだろうか。

 

 

『ぁぅ・・・!! の、り……。ご、め…っ、ごめ…』

 

「え?」

 

 

 魔理沙とねずみ男は、まさか嘘だろ、と大きく口を開けて驚く。先程まで人を殺そうとしていた妖怪が、涙を流しているのだから。つまり魔理沙のおかげで旦那さんは人間の心を取り戻せたのだ。これ以上、誰かを傷つける事もない。

 

 

『あや、まりだ……がった。のり、に"ィ…あやまりだがっだぁぁぁ…。さいごまで・・・めい"わぐ、がげで…ごめん…よぉぉぉ』

 

「悪いのは私よ!!私がしっかりしないから、貴方が死んでしまった!私がもっと…っ」

 

『ぁぅぅぅぅ……の、り子。のり子」

 

 

 最後に狐者異の顔が、人間に戻った。獣のような牙も消え、妖気は一瞬にして消え去る。微笑みながら写真にあった顔よりも、優しそうににこりと笑って。

 

 

「それは違うよ。君は何も悪くないんだ。あれは事故なんだ。だけど私が死んだせいで、君は今までずっと罪に苦しんできた。謝るならこちらの方だ」

 

「あなた…っ」

 

「一度も恨んだ事はない。のり、ありがとうな。…本当にありがとう。ありが、と・・・」

 

 

 完全に消滅した。ただ広い野原で、のり子の涙がこぼれ落ちた。

 魔理沙はその最後を見届けて、ねずみ男に言った。

 

 

「なぁ、何で旦那はあんな妖怪になっちゃったんだろうな」

 

「狐者異は、()()()()()()()()()が歪んだ姿だって聞いたことがある。きっと旦那さんは、ずっと謝りたかったという気持ちに縛られて、あんな妖怪になったんだろうよ」

 

 

 魔理沙は悔しそうな顔をしていた。もっと早く気づいていれば、お互いがこんなに辛い思いをしなくて済んだのに。

 

 そんな彼女の頭にポンと手を乗せる。

 

 

「最後は救えたじゃねえか。魔理沙ちゃんのおかげで、最後の最後にお互いの気持ちを理解することができたんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 時刻は夕方。

 慧音の所に行くのは今回の件で有耶無耶となった。2人はとりあえず博麗神社に帰る。手にはたくさんの御土産(たまご)を持って。

 

 

「なぁ、ねずみ男」

 

「ん?」

 

「ありがとな」

 

「俺はお礼を言われるような事はしてないぜ」

 

 

 博麗神社に到着した。魔理沙はねずみ男と卵を置いて、自分の家へと帰って行く。一方で、霊夢は目覚めており、表情は明るさを取り戻してはいた。頭痛は止まったようで、お茶を飲んで、沈んでいく夕日を眺めていた。

 

 

「ただいまぁ。お!霊夢ちゃん、起きたか」

 

「寝たくて寝たんじゃないわよ。アレが来たのよ、アレが」

 

「アレ? もしかして生r──」

 

 

──パァンッ!!

 

 

 流石にデリカシーが無さすぎた。その発言が、霊夢の逆鱗に触れ、吹き飛ばされる。頬を真っ赤に腫らしながら、ねずみ男は謝罪をする。霊夢は眉間に皺を寄せて、本殿を親指で指す。

 

 

「アレっていうのは……()()よ。神託が来たのよ。こんなの初めてよ。巫女を引き継いでから、今まで神託が来たことなんてなかったのに。……大体、何の神を祀っているのか分からないのよ?それなのに今更何よ」

 

「それで巫女やってんだからすげえよなぁ…」

 

 

 神託。

 それは神に仕える存在に、本来なら見守り試練を与える存在の神がメッセージを送る手段である。

 

 

「それで、博麗の神はなんだって?」

 

「幻想郷のこと。そして、ねずみ男、アンタについて」

 

「お、俺ぇ〜!?」

 

 

 

 

 

 

 





 次回予告

 「ねずみ男が幻想郷に呼ばれた理由が明らかに!!」



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ビビビ相談事務所

こんにちは。

 刃牙をネトフリで観たのですが、やっぱり面白いっすよね。何よりジャックとピクルとの戦いで「噛みっこだ」って言ってからのあの戦い…。まさかの結末にすごく興奮しましたもん。

 あとスースク2をアマプラで見ました。
 映画館でももちろん見ましたが、やっぱり何度観てもあれは面白い。ピースメイカーって本当に平和の使者だなぁって思うからこそ、平和って怖いものなのかなと思ってしまいます。後からは眠る時、白もっこりブリーフってのがめちゃくちゃウケますよね。




 

 霊夢は空を見上げた。

 夜空には星が瞬いており、その光は幻想的な光景を創り出していた。星座が空に広がり、星々はまるで遠い神秘の国からの使者のように輝いていた。山々が翠緑に包まれ、その頂上には大木がそびえ立っていた。木々の間からは静かな風が通り、その風に乗って香り豊かな花々の香りが漂ってきた。

 

 とりあえず歩く。そしてさまざまな光景を見た。湖の畔には静寂が広がり、水面は月光に照らされて銀河を反映しているように見えた。静かに波紋が広がるその光景は、まるで神秘の力が水面から溢れ出ているかのようだった。木々の間から聞こえてくる鳥の囀りは、まるで神々の歌声のようだった。風に揺れる笹の葉が心地よい音を奏で、その音色は心を洗練された響きで包み込んでいる。

 

 

「どこよ、ここ」

 

『ここは原初の幻想郷。出来たばかりの頃の姿』

 

「・・・誰?」

 

 

 霊夢は声のする方を見る。そこには光の塊があった。人なのか、妖怪なのか、それとも神なのかは分からない。だが敵意は感じられない。

 

 

『我は〇〇。巫女であるお主に言葉を授けに来た』

 

 

 良く聞き取れない言葉があった。だが、目的はわかった。なるほど、これが神託というものか。

 

 

「言葉?」

 

『よく聞け、巫女よ。幻想郷に危機が迫っておる…。存在自体を揺るがす危機がな』

 

「へー。どんな物よ?」

 

『例えるなら、毒だ。遅効性で極めて重いな。……初めは大したことがない。だが、徐々に蝕む。先端を腐らせ、最後には核までも」

 

「恐ろしいわね。でも私に解決できない事なの?ねぇ、神様。自慢じゃないけど、私この幻想郷で最強よ?」

 

 

 誇張ではない。

 これまでに数えきれない強敵を倒してきた実力があり、これまでに様々な異変を解決してきた実績があるからこそ、本当に霊夢は幻想郷で最強なのだ。

 

 

『確かにお主は強いが、強さだけでは危機は突破できん』

 

「?」

 

『なぜなら、お主には“心”がない。思いやる心、理解する心、人の心が欠如しておる』

 

 

 

 博麗の巫女の存在。

 それは、幻想郷の秩序と存在を守るためだけにある。そこに心は要らない。そうやって『巫女』として幼い頃から育てられてきた霊夢には、人を思う心は存在しない。

 

 誰かを助けるのは、義務のため。

 異変を解決するのは、秩序のため。

 

 そんな彼女に友はいない。もし魔理沙が、幻想郷に仇なす存在になったのなら、容赦なく叩き潰すだろう。

 

 

 

『今後必ず起こる危機は、心の無いお主に救えない。幻想郷は救えても、そこに住まうものは誰も救えん』

 

「私の仕事は幻想郷を守る事よ。そこに住むものは含まれていないわ。責務を果たせるのなら、幻想郷の全員が敵になっても構わない」

 

『我は……我はそのような展開は望まない。博麗の巫女の最期は必ず1人だ。我はもう見たくない。・・・だからこそ、彼奴を呼んだのだ』

 

「それって、ねずみ男(あれ)!?本気で言ってんの?汚い、ただのおっさんでしょ!?」

 

『ふふふ。奴が、我に触れた時に、奴の心を見た。そして、この幻想郷に爆発的な変革を起こすと確信した。人間と妖怪を知る者だからこそ、お前にはできないことができるかも知れんとな。──だからこそ博麗の巫女よ。お主は彼奴と協力して幻想郷を救え』

 

 

 初めて神様というものと会話してみたが、何だろうか、この親しみやすさは。もっと厳格なものだと、冷たいものだと思っていたが。

 

 

『解決するまで彼奴は帰さん』

 

「性格わるすぎない?」

 

『それにこれは罰でもある。彼奴は我に触れたのだからな』

 

「大体、神様ならアンタが解決しなさいよ」

 

『元々、信仰を集めさせすれば我が何とかするはずだったのだが、な』

 

「くっ…」

 

『くく……くははは!! 神というのは試練を与えるものよ!乗り越えよ、博麗霊夢!!くはは、ふはははは!!』

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

──────────

 

 

 

─────

 

 

 

──

 

 

 

 

「…幻想郷に何か大きな危機が迫っているんだって。そして、それを解決するキーがアンタだっていうお達しが来たのよ」

 

「俺が・・・キー!? んなバカな!?」

 

「私だって納得いかないわよ。あとそれを解決するまでは帰さないって」

 

「ゲゲゲェェーーッ!!めちゃくちゃだ!」

 

「神様が言ってんだから、認めなさい。・・・ここで正式にアナタを幻想郷で生きる事を認めるわ。面倒だけど一緒に頑張っていきましょ。・・・はぁあ……」

 

 

 そう言って、霊夢は説明をしながら、封筒を渡した。

 

 外から迷い込んできた人、通称『外来人』。彼らは幻想郷に来た場合、二つの選択肢が与えられる。一つは、元の世界に帰ること。これが1番多い。妖怪のいる世界で力を持たない者が生きていくのは怖い。2番目は、この世界で生きること。普通は選ばないが、外の世界に戻ったところで生きる希望もない者はここに永住する事を選ぶ。

 

 2番目を選んだ際に、博麗の巫女はここで暮らすための永住権を渡す。これを持って、里に行き、守護者である慧音に渡すことで家を与えてもらえるのだ。

 

 

 

「く、くぅうう!!危機だろうが、異変だろうが、やってやるよ!俺は元の世界に帰らなきゃなんねえんだからな!!」

 

「あら、泣き喚くと思ったけど」

 

「ふん!これでも俺はどんな時も必死に生き延びてきたんだ。ここでも生き延びてやる!!」

 

「・・・とりあえず今日は(うち)で休んでいきなさい。明日になったら、里まで送る。途中で死なれても困るしね」

 

「死ぬ?どういう事だ?」

 

「そうか。ここのルールを教えとくわ。ここと里以外で妖怪に襲われても自己責任っていうルールがあるの」

 

「は、はぁっ!?」

 

「元々、ここは妖怪のための場所。言い方は悪いけど、人間は妖怪のための家畜。博麗神社から里までは、かなりの距離がある。移動してる時に食い殺されるなんて日常茶飯事よ。だからアンタも気をつけなさい。自分の身は自分で守るのが基本。……半分妖怪だから大丈夫だとは思うけど、肝に銘じておきなさい」

 

(…鬼太郎。俺やっていけるかなぁ……。お前と一緒にいた時の方が安心だったよぉ……)

 

 

 ねずみ男が持ってきた卵を見て、霊夢はニコォっと笑う。実はこの神社、かなりの貧乏神社。参拝するのが難し過ぎるし、ここに来た人しか助けない。そして人付き合いが苦手な霊夢のせいで賽銭箱はいつも空。何も食べない日なんて普通にある。だからこそ、こんなに大量の卵を見て、めちゃくちゃ喜んでいた。

 

 

「ほら早く手を洗ってきなさい!今日は卵のフルコースよ!!」

 

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 次の日の朝。

 ねずみ男は、人里にやってきた。博麗の巫女と一緒に歩いている事と外来人という理由から、全員に注目される。

 

 

「慧音、いる?」

 

 

 寺子屋の前に立ち、大きな声で呼んだ。

 すると少し待っててくれ、という返事が聞こえ、2、3分後にチョークで白く汚れた女性が出てきた。青く長い髪、そして同じ色の青いスカートに、頭には赤いリボンをつけた女性だ。

 

 

「すまん、巫女殿。授業中だったので遅れた」

 

「良いのよ。いきなり押しかけたこっちに非があるわ」

 

「それでどういった……、なるほど」

 

 

 ねずみ男を見て、大体の事情は察する。

 霊夢は封筒を慧音に渡して、中身の永住権を確認する。永住権を受け取り、しまう。

 

 

「ねずみ男、何かあったらお賽銭持ってきなさい。相談くらいには乗ってあげるから。じゃあ、後は任せたわ」

 

「承知した」

 

 

 霊夢は飛んでいった。

 それを見届けると、慧音はねずみ男の方を向き直す。

 

 

「巫女殿から聞いていると思うが、改めて自己紹介しよう。私は『上白沢(かみしらさわ) 慧音(けいね)』。こそばゆいが、里の守護者とも呼ばれている。よろしくな」

 

「ご丁寧にどうも!俺はねずみ男。これからよろしくな」

 

「ねずみ男、か。よろしく頼む。それにしても…巫女殿に送って貰えるとはツイてるな。普通なら外来人は、ここに辿り着く前に妖怪の餌食になってしまうからな」

 

「失礼かもしれないが、やっぱりそういうの聞くと、幻想郷って怖く感じるぜ。こんなにもイキイキとしてるのに」

 

「・・・ここのルールだからな。私はあまり納得していないが、上が決めた事だ。だが安心しろ。里にいるなら何があっても守ってやる」

 

「そりゃどうも。あっ、家を紹介して貰えるって聞いたんだけど」

 

「勿論。外来人のための家を紹介しよう。……だが、少し待ってくれないか。まだ授業中でね。今は自習にしているが、目を離すと遊び出すんだ」

 

「授業?」

 

「そうさ。私は子どもたちに勉強を教えている。ここしか、学び場がないからな。あっ、そうだ。良ければ外の話をしてやってくれないか?子どもたちもきっと喜ぶ」

 

「まぁ、暇だし構わないぜ。本当なら講演料1人一万円なんだけどよ。今回は出血大サービス。面白いのを期待してな」

 

「おお!感謝する!では、入ってくれ」

 

 

 

 教室では20名ほどの子どもたちが、黒板の前で座布団に座っていた。

 ねずみ男が入ってくると、自習に飽きていた子どもたちは一斉に目を輝かせる。慧音先生が言うには、外からきた人が授業をやってくれるらしいとの事だ。外来人が何かをやってくれるのは初めてだ。そんな子どもたちにねずみ男は手を振って応え、冒険譚を話してくれた。

 

 

「〜〜〜が襲い掛かったんだ!!そこに彗星の如く現れたのは、この俺!」

 

 

「全て燃やす火焔が世界を包み、生き物が静止する氷の世界が手招きをする。そこで俺は〜〜」

 

 

「髪の毛針ィッ!体内電気!リモコン下駄ァッ!霊毛ちゃんちゃんこッッ!!俺の部下が〜〜」

 

 

 それは、ねずみ男の経験したこと。

 鬼太郎との思い出を誇張し、大袈裟に、そして途中途中で嘘を交え、自分を主人公にした物語を語り始めた。例えば、“がしゃどくろ”と戦ったり、“河童”と泳いだりと色々な話に、子どもたちは“おぉー”っと反応をした。その反応は心地よく、いつもなら猫娘や目玉親父が邪魔してくる筈だが、ここで真実を知る者はいないので何でも話せた。2時間から3時間ほど喋り尽くし、終業時間を迎えた。

 

 

「慧音先生、ねずみ男さん、さようなら!!」

 

「「「「さようなら〜!!」」」」

 

「ああ、気をつけて帰るんだぞ」

 

 

 子どもたちは満足して帰って行く。

 ここの寺子屋の対象年齢は、6から12歳程度だ。13歳以上は自由参加であり、基本的には13歳になれば働いても良いのだ。ここで学ぶのは社会に出ても困らない程度の知識。そしてここで生きる全ての大人たちは、慧音の元教え子となるだろう。

 

 

「いやー、ねずみ男殿!楽しいお話だった!特に、君の部下である“鬼太郎”?という少年は実に強いんだな!」

 

「俺じゃないんかいっ!?」ズコッ

 

「ははは!子ども達も大喜びだった!是非、また今度頼む!」

 

「ケッ、次は金取るからな!それよりよ」

 

「ああ、分かってる。ではついてきてくれ」

 

 

 慧音は、ねずみ男を居住区に連れて行く。

 この里は、幻想郷出身者の居住区と、外来人の居住区は分けられている。別に差別というわけではない。外来人居住区は外の生活様式に似ているようになっており、ただ元からいる人にとっては住みにくい。だから分けているのだ。

 

 

「ここだ。この3番号だ」

 

「へー、中々だな。外の世界だと、家持ってないからラッキーだぜ」

 

「なら良かった。好きに使って良いからな。家具は元々備え付けられているので我慢してくれ。増やしたいなら自分でな。食糧庫は小さいが庭にある」

 

 

 大体15畳くらい。キッチンとリビング、トイレと風呂がついている。電気はないので、風呂は自分で湯沸かしたりするが、トイレは汲み取り式である。家具は布団一式に、ちゃぶ台、座布団、蝋燭がある。

 

 

「3番号ってことはお隣さんいるのかな?」

 

「あー…いや、外来人はお前だけだ。1番、2番号には元々住んでいたんだが、中で自殺してしまってな…。その処理で少し手間がかかっているんだ」

 

「あ、そーすか」オエッ

 

「ま、まぁ、何かあったらすぐに私の所に来てくれ。私の家は寺子屋の裏の家だから直ぐに分かると思う」

 

「慧音ちゃん、質問でーす」

 

「どうした?」

 

「俺って働いて良いの?こー…露店開いたりとか」

 

「構わんよ。だが外来人は苦労すると思うから、一応働き口も私に相談してくれ。肉体労働などなら紹介できる。最悪、お前は教師に向いてるから、寺子屋の教師も良いと思うがな」

 

「まっ、そんときゃ頼むわ」

 

「ではな!」

 

 

 慧音が出て行くと、早速ねずみ男は作業を始めた。適当な板に、部屋にあった墨と筆を使い、つらつらと文字を書く。 完成すると、それを家の前に立てかけた。

 

 

「完成っと!」

 

 

 

──『ビビビ相談事務所』

 

 

 

「・・・俺が危機を救うとか、そんな柄じゃねえさ。俺はやりたいようにやる。好きなように生きてやるのさ。・・・さぁて!!困ってる人見つけに行こうっと」

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 里の商店街通り。

 いろいろな出店が並んでいる中、ねずみ男は大風呂敷を床に敷いて、他の人にも負けないくらいに大きな声で始めた。

 

 

「さぁさ、道行くお父さんお母さん!不思議な事件に、怖い妖怪、怪奇現象に困っておりませんか!外の世界で色々なお化けを倒してきた私が、相談料たったの1,000円でなんでも聞きますよぉ〜!勿論、解決料は別ですがね!ニヒヒヒヒ」

 

「・・・」

 

 

 しかし、誰も相手にしない。そりゃあそうだ。突然現れた外来人の話なんか、どうでもいい。そんな事は百も承知。ねずみ男だって長年色々な仕事をしてきたから分かるものだ。だが、諦めはしない。冷たい目で見られようとも頑張り続ける。だって、この世のどこかには必ずいるもんだ。悩みを言えない人が。

 

 

「あのぉ…」

 

 

 ほらね、やっぱり来た。

 博麗神社に行くのが困難だからこそ、中々心霊現象を解決できない人がいる。さらに里では妖怪が暴れてはいけないという理由がある。それがあるから話を信じてもらえない人もいる筈だ。

 

 

「どうも。いらっしゃい」

 

「お話聞いてもらって良いですか?」

 

「へへへ、どうぞどうぞ。詳しいお話は事務所でお話ししましょうか。こちらですよ」

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 相談者、古木(ふるき) (なえ)

 年齢は23歳。婚約者がいるとのこと。最初は良い女だと思ったが、人妻と聞いて、口説くのはやめた。

 

 

「本当は、慧音さんの所に相談に行けば良かったのですが…」

 

「行けない理由があるんですね」

 

「実は、結婚し、慧音さんには新築を建ててもらうのに協力してもらったのですが、その新築の家で怪奇現象がありまして…。引っ越そうと思っているのです。あんなに色々してくれたのに引っ越すなんて申し訳なくて……」

 

「分かります分かります。そして、ここに来たのは正解ですヨ!まっ、とりあえず相談料は頂きますね!にひひひ」

 

「は、はい、千円です。どうぞ」

 

 

 千円を受け取ると、直ぐに自分の懐にしまう。

 

 

「それで一体何が?」

 

「実は……」

 

 

 

 

 1週間前の事です。

 

 18時ごろ、私は旦那と共に夕飯を取っておりました。そんな時に地獄の底から響くような恐ろしい笑い声が、家の中から聞こえてきました。声の主の姿は見えず、震え上がっているとガタガタと家の中が揺れ出して、食器が浮き、家具が浮くといった現象が起き始め、我々夫婦は家から追い出されてしまったのです。

 

 朝になると、物が動くといったことは起きなくなり、家の中に戻ると、そこには食器や家具で『デテイケ』とありました。

 

 ですが、建ててもらって1週間しか経っていない。恩人がせっかく建ててくれた。それらの理由から我慢していこうと思ったのですが、もう無理です。旦那は病に伏せてしまい、今は実家で休んでおります。悔しいのですが、誰にも頼れない。だからこそ、外の世界から来た貴方の力を頼ろうと思った次第であります。

 

 

 

 

「なるほど。典型的なポルターガイスト現象ですね」

 

「分かるのですか!?」

 

「簡単な話ですよ。犯人は──『家鳴り』。間違いありません」

 

「家鳴り?」

 

「まぁ、家を揺らして、物を動かすことしかできないチンケな小鬼ですね。相手が分かったら、対策は簡単ですよ。私に任せてください。今日中に解決してみせますから」

 

 

 ねずみ男は魚屋に行き、鰯の頭をもらう。魚屋的には頭は捨てる部分なので、むしろゴミを出さずに済んで、有り難がってくれた。袋いっぱいの鰯の頭とマッチを持って、その古木家に向かう。

 

 

「鰯の頭なんて何に使うのですか?」

 

「昔から鬼ってのは鰯の匂いに弱い。この鰯の頭を焼いて、家鳴りたちを追い出しましょ」

 

「博識なんですね」

 

「へへへ、そうじゃなきゃ怪奇現象を専門にしませんよ」

 

 

 全ては目玉親父の受け売りだ。

 あの親子と長ーい間一緒に過ごしてきたからこそ、一般的な怪奇現象や妖怪への知識はついている。

 

 

「さぁて、やりますか。少し待っててねん」

 

 

 時刻は18時。

 ねずみ男は家の中に入る。家の中はとても静かで、嫁入り道具で持ってきたのか不明だが、甲冑が鎮座していた。その隣にねずみ男は座り、袋からバケツの中に移し替えた鰯の頭を置き、火を放った。焼けた魚の匂いが充満して行く。

 

※実は焼く必要なんて、全くない! 鰯の匂いさえあれば良いのだが、焼いた理由は、事件が解決した後に自分の夕飯にしようと思ったからである!いやーセコいね!!

 

 

「良い匂いだぜ。あー、腹減った。一個食べちゃお。あむ……あちちっ、うま」

 

 

 

──ガタガタ…

 

 

 

「お!きたきた!苦しんでるナ」

 

 

 家全体が軋み始める。

 家の中の物が浮き始め、ねずみ男は予想通りだと笑った。

 

 

「・・・あり?おかしいな。何も出てこないぞ?耐えてんのか?あの、家鳴りが?」

 

『……エゼ』

 

「ん?」

 

『俺は、家鳴りじゃネエゼ!!…と言ったんだ!マヌケェ!俺の家から出ていけぇ!!』

 

 

 燃える鰯の頭が入ったバケツが浮く。

 そして、それに気づかないねずみ男の頭に被さった。そして、ねずみ男の頭部が炎上した。

 

 

「アッッッチャアァァァッ!?!?」

 

 

 火だるまのねずみ男。

 家の戸を突き破り、里を抜けて、近くの川へざぶんと飛び込んだ。その光景に道行く人たちはなんだ何だと大騒ぎ。とりあえず火は消えて、濡れねずみとなって帰ってきた。

 

 

「死ぬかと思った。ぜぇ…ぜぇ…っ」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「まぁ、何とか。古木さん!相手は強敵のようだ。とりあえず今日はこの辺にして、また明日にしましょ」

 

 

 家鳴りじゃない。ていうか、絶対に俺1人でどうこう出来る相手じゃない。こうなったら逃げるが勝ちだ。

 

 

「えっ、でも今日中に解決できるって…」

 

「素人がプロに意見するんじゃなーい!!とにかく、今日は──」

 

「何の騒ぎだ?」

 

「「!?」」

 

 

 2人の間に、聞いたことのある声が。

 振り向けば、慧音が立っていた。というか、慧音だけではなく、一般の人々もこの家に集まってきていた。

 

 

「火だるまの男が走り回ってると報告されてきてみれば、ねずみ男、それと…苗?2人は一体何をしてるんだ?」

 

「え、ええと…」

 

「実は─」

 

 

 隠しきれない。

 いや、慧音に隠し事をしたくないと、苗は今までの経緯を全て話す。怪奇現象に悩まされていたこと、引っ越したいこと、慧音に申し訳ないこと等、自分の気持ちを伝えた。

 

 

「馬鹿だな、私がその程度で怒るわけがないだろ」

 

「ごめんなさい…」

 

「はぁ…。顔を上げてくれ、苗」

 

「慧音さん」

 

「私にとって大事なのはお前だ。私は、ここのみんなが傷つくのが私は耐えられないんだ。・・・待ってろ、直ぐに解決してやるからな」

 

 

 そう言って、優しく苗の頭を撫でる。

 里の皆んなが慧音の言葉に感動し、やっぱり里の守護者はこの人しかいねえな等と褒め称えた。これこそが彼女の持つ圧倒的なカリスマだ。里で、慧音を尊敬しない者はいないのだ。

 

 

「ねずみ男。お前も外の世界で色々解決してきたんだろ?」

 

「え?それが何?」

 

「私だけでは心持たない。ついてきてくれ」

 

「やだよ!絶対にや、だ……」キョロキョロ

 

 

 ここで断れば、今後に関わる。

 死にたくはないが、信用に繋がらない。信用がなければ仕事が入らない。仕事がなければ金がない。泣き叫びたい気持ちをグッと堪えて、必死に余裕をアピールするために作り笑いをする。

 

 

「……なーんちゃって!ま、まま、任せてよ!」

 

「よし。ならば退治しに行くか!」

 

 

 2人は、ゆっくりと家の中に侵入する。

 先程とは違い、辺りは静かだった。そして部屋の中には『妖気』が充満していた。確実に何かいる。

 

 

「ここにいるのは分かっているぞ。姿を現せ、妖怪!! 里の中のルールを知ってての狼藉か!!」

 

『知らねえな。そんなルールゥゥ!!』

 

「「!!」」

 

 

 

──バタンッ

 

 

 

 戸が完全に閉まる。

 いち早く気づいたねずみ男が本気で開けようとするが、びくともしない。どんどんと叩いたり、タックルしたりしてみるが、戸が動くことはなかった。

 

 

「閉じ込められた!?開かないっ!出れないよっ!」

 

「落ち着け、ねずみ男!」

 

 

 慧音も手伝おうと、戸に向かう。

 ねずみ男の方を向くために背を向けた瞬間、その背後には包丁、トンカチ、食器などが浮かんでいた。そして刃先が一斉にこちらを向く。包丁が空中を舞い、恐るべき速さで慧音らに向かって飛んできた。顔面蒼白なねずみ男は叫ぶ。

 

 

「慧音ちゃん!後ろ!!」

 

「──っ!」

 

 

 慧音の目は冷徹なまでに鋭く、その瞬間、彼女の身体は動き出した。髪をなびかせる中、彼女は優雅に体を捻り、まるで舞踏を踊るように包丁の刃を避けた。床を蹴り、ジャンプ。ねずみ男は瞬時の判断で動き、包丁を避けるたびに微妙なバランスを保っている慧音の様子を見て、揺るぎない自信を感じさせた。

 

 

──タンッ

 

 

 

 ねずみ男の鼻先で包丁の刃が、戸に突き刺さる。

 あまりの出来事に固まり、絶句していた。しかし、そうやって固まっている暇はない。次々と色々な物が飛んでいき、慧音が躱す度に、全てねずみ男の周りに壁に刺さって行く。

 

 

「──し、死ぬぅ!?」

 

「背後から狙うとは、卑怯だと思わないのか!?」

 

『へっ、妖怪に説教か?女ぁ。俺は卑怯で結構だゼ』

 

 

 

──ガシャンガシャン…

 

 

 

「こ、今度は甲冑かよぉ〜っ!?」

 

 

 重厚な甲冑がゆっくりと動き出す様子が、その場の空気まで重く感じられるほどの緊張感を漂わせていた。鎧の鋼鉄が微かな響きを立てながら、それはまるで古代の巨獣が目覚めるかのような畏怖を感じさせた。

 

 最初は静かな金属の音が響き、次第にその音は増幅されていくかのように響き渡った。甲冑の動きはゆっくりとしたものでありながら、その威圧感は圧倒的で、見る者たちは心の奥底で戦慄を覚えた。

 

 

「なるほど。貴様がこの騒動の原因だな…。来いッ!!」

 

『・・・!!』

 

 

 闘いの始まりは瞬時に訪れた。先に仕掛けたのは甲冑。甲冑の刀が縦横無尽に振り下ろされ、空気を切り裂く音が家の中に響き渡った。対する、慧音はその動きを見切り、しなやかな身のこなしで攻撃をかわし、瞬時に反撃へと移行した。

 

 

「そこ!!」

 

 

 刀を振るったことで、胴体がガラ空きとなる。その瞬間を見逃さず、重い蹴りをぶち込んだ。耐えきれなかったのか、蹴られたのと同時に崩れ落ちる甲冑。ねずみ男は大手を振って喜ぶ。しかし、慧音はこの甲冑との戦いを経て、()()()()()()()()()

 

 

「やったー!!倒したぞ!」

 

(いや、あまりにも軽い。中身なんて初めから無かったのか。いや、そうか──)

 

 

 慧音は倒れた甲冑ではなく、その上部分に手を伸ばし、ギュッと握った。ねずみ男からしたら、いきなりグーパーグーパーと手を動かしてるようにしか見えないのだが。

 

 

「・・・捕まえたぞ」

 

「捕まえた?何を?」

 

「ねずみ男、これを見てみろ」

 

「これは……」

 

 

 慧音の手の中には、白い()()()()()()()のような生物が握られていた。見たことのない生物に目をぱちくりさせる。

 

 

「何だこのチンチクリンは」

 

木霊(こだま)だ」

 

「木霊ぁ!?あの木の精霊!?」

 

「そうだ。どうやら、物を動かしていたのはコイツらのようだ」

 

 

 慧音が上を向く。

 ねずみ男も一緒に上を向くと、天井にフワフワと木霊たちが舞っていた。かなり色が薄いので目を凝らさないと見えないが、確かに大量に発生していた。

 

 

「こ、コイツらが犯人!?」

 

「いや木霊は悪さをするような精霊じゃない!」

 

「じゃあ何でコイツらは俺たちを襲ってくるんだ………ん?」

 

 

 足に何かを感じる。

 そう思い、下を見ると、縄が足に巻き付いてきた。縄の周りには木霊たちがくっついており、縄を操り、逃げようにもあっという間に全身に巻きついた。そして引っ張られる。

 

 

「うわあああああっ!?お助けェーーッ!!」

 

「ねずみ男!!──くっ!?」

 

 

 ねずみ男はそのまま、この家の大黒柱の前で『逆さ』に固定される。慧音にも同様に縄が飛んできたが、躱し、動かしていた木霊を払い除ける。すると慧音には木霊による攻撃が通用しないと分かったのか、段々と大黒柱から妖気が溢れ出し、強まっていった。次第に柱の木目が、動き、逆さ向きの人の顔のようになる。

 

 

「妖気……!お前か!犯人は!?」

 

『ご明察の通りィッ!』

 

 

 木霊たちが一斉に動く。

 自由気ままに動く精霊たちが、一国の軍隊かのように美しく幾何学模様を作り出した。

 

 

『全ては、この『逆柱(さかばしら)』が起こした騒動よ!!』

 

 

 

 家の中心にあった柱。それはこの家を支え、守るはずの大黒柱。この柱こそが、この騒動の原因。 妖怪─『逆柱』である。

 正しく生えていた頃のように使われた木材は建物を支える重要な存在になるのだが、生えていた時と違い、向きを変えて使うと、このように『逆柱』という妖怪へとなる。

 

 この逆柱を使った建物には不幸が起こるとされており、物が浮くポルターガイスト現象の他にも、悪夢を見る、病気になるといった例が見られる。

 

 

 

「お前が木霊たちを操り、人間たちに危害を加えていたのか!なぜこんな事をする!」

 

『知りたいか?俺の大いなる計画を!!』

 

 

 逆柱はニヤリと口角を上げて、闇の中で妖しい微笑みを浮かべた。その笑みは陰鬱な空気と相まって、周囲の者たちに寒戦を覚えさせた。

 

 

『この幻想郷の全てを“逆さ”にしてやるのだ!!そして、俺の基盤となるこの家を手始めに逆さまにする!』

 

「・・・?」

 

『な、何だその顔は?』

 

「訳がわからん」

 

『フッ、頭がトロい奴には我が理想を理解できんよなァ!俺は逆さまが好きなんだ!!だからこの世界を変えてやるのだ』

 

「自分の好きなものを他人に強要するな、と教わらなかったのか」

 

『生憎、俺は学校に通う必要が無いんでね』

 

「なら私の寺子屋に来るか?席は空いてるぞ」

 

 

 逆柱の周りに、浮いていたはずの木霊が集まってきた。更には、逆柱の身体からポロポロと木霊がこぼれ落ちてくる。争いを好まない慧音は会話で解決できるなら、それで解決したい。だが、相手は会話はする気はなさそうだ。目を鋭くし、殺気を飛ばし始める。

 

 

『断るッッ!!──静かな騒霊(ポルターガイスト)ッ!!』

 

 

 壁に刺さっていた包丁。バラバラになった鎧武者。布団や衣類、縄に食器。家にあるものが木霊たちが持ち上げる事で、一斉に浮く。

 

 久しぶりだ。弾幕以外で戦うのは。本気で殺しにかかってこられる、殺気を向けられるのは何とも懐かしい感覚で血が踊る。慧音のもう片方、彼女の中に眠るもう1人の自分。()()()()()()()()

 

 

「今日は……三日月か。30%ってところだな」

 

 

 慧音の瞳は冷静に、その流れるような包丁を見定めていた。風のような音が響き、慧音は俊敏な動きで足を前に蹴り出し、瞬時に側へと飛びのいた。包丁の一撃が彼女のいた位置に突き刺さる。その間にも、彼女は次の家具の攻撃ルートを読み取りつつ、地面に着地した。

 

 

『は、早いっ!? これなら…どうだ!!逆・通夜雰囲気(ダンスパーティー)

 

 

 瞬きも許されない速さで、大小様々の家具が慧音に向かって迫る。彼女は一点に視線を集中させ、弾幕の一部分を見つけ出す。その一部分には微妙な間隔があり、そこに身をかがめることで家具の包囲網をすり抜ける隙間があることに気付いた。

 

 

「──ふっ」

 

 

 身のこなしを変え、踏み込む一瞬を逃さずに、慧音はその隙間に飛び込んだ。その瞬間、彼女の身体は、あたかも鳥が瞬時に風を切るように、弾幕の中を駆け抜けた。風が髪を舞い上げ、空気の振動が感じられる中、慧音は完璧なタイミングで弾幕を避けることに成功した。

 

 

『なっ、何ィィィイーーッ!?!? 何だっ、あの速さ、あの身のこなしはっ!?人間が出せるわけがないッ!』

 

 

 慧音の身のこなしは、まるで舞踏家のような優雅さと、獣のようなどっしりとした確かな技術が融合したようだった。逆さまに吊し上げられたねずみ男は息を呑み、その一瞬の美しさに見とれていた。慧音は敵の猛攻を乗り越えることで、戦いの流れを一気に自分のペースに引き寄せたのだった。

 

 

「この程度か?」

 

『うっ、うぅぅぅぅ…っ』

 

「そうか。なら良いことを教えてやる。この程度の弾幕は、ここでは()()だ。ましてや室内で当てられないとは情けない」

 

『クソが!?クソクソクソがァッ!! 木霊どもが無能のせいでェ…っ!』

 

「先程から聞いていれば、お前は誰かに『強制する事』しかできないのか。自分で戦う事はできないのか!!」

 

『うっ、うるさいっ!!強制して何が悪い! 皆んな、俺に合わせれば良いんだ!生まれた時から俺は違う!なら、皆んなが俺の基準に合わせた世界を目指して何が悪い!!』

 

 

 

 逆柱、彼の能力──『木霊生成/操作』。

 

 木である自身の身体から木霊を無限に生成する(産み出す)ことができる。そして木霊の意思は関係なく、無理やりに操作をすることが可能だ。これらを使い、ポルターガイスト現象等を引き起こす事ができる。

 

 つまり逆柱自身には何もできないのだ。生まれてから自分だけが逆さまであり、他者とは違うからこそ、周りと同じになりたい願望が暴走したのだろう。

 

 

 

「元々はみんなを支える存在なのに、逆さまになって、性格が歪んだようだな。ならば教えてやる──」

 

『うおっ!?』

 

 

 慧音は、逆柱の前まで移動する。

 そして両手で、ガシッと柱を捉えると、力を込め始めた。ミシミシィッと柱が悲鳴を上げ始めた。

 

 

『やっ、やめろ!! 俺から手を離せっ!!』

 

 

 途端に焦り出す逆柱。司令塔である逆柱が、ちゃんとした指示を出さないせいで、木霊たちは一斉に持っていたものを手放し、統率が取れていないので全員がバラバラに動き回る。

 

 

「誰かに分かってもらいたいならっ、まずは自分が相手を分かる努力するんだ!!そうすればっ!周りもお前のことを理解してくれるッ!はずッッ!!ダァァァアーーーッッ!!!」

 

『ヤメロォォォオオーーーーッッッッ!?!?』

 

 

 

 スポンと柱が抜けた。

 力士10人がかりでも動かせない程に、丁寧に埋めてある柱を抜き、そして180度回転させた。そして、再び地面に埋め直す。なんと凄い怪力か!?

 

 木霊たちは一斉に元逆柱の体の中に戻っていく。家の中の妖気も消えていく。正しい向きになった元逆柱の表情は、とても穏やか。まるで正月元旦の朝に早起きして、初日の出を見た時のように、清々しい顔になっていた。

 

 

 

『先生…、僕が間違ってました…!!』

 

「分かれば宜しい…」

 

「け、慧八(けいぱち)先生だ…!」

 

 

 

 その後…。

 博麗霊夢の手記──(霧雨魔理沙からの情報を参考とす)

 

 慧音の活躍により時間は解決。またもや彼女の株は意図せずに上昇した。里の守護者として期待しているので、ますます頑張って欲しい。

 

 意外にもねずみ男も、「外来人なのに妖怪に立ち向かうなんて男だね!」と、里の人から称賛された。自分が解決する予定だったが、まぁ良いかと妥協する。ほんの少しだけだが、彼の商売が軌道に乗ってきたらしい。

 

 古木夫婦は無事にこの家に帰ってこれた。旦那さんの病気もすぐに良くなり、家も慧音の計らいで作り直すことになった。勿論、大工には木の向きのことを注意してもらって。

 

 だがここで、一つ疑問が生じた。

 

 逆柱となってしまった大黒柱が、幻想郷の『神木』から作られていることがわかった。古来から幻想郷に生えている木は神木として崇められており、触れてはいけないと決められているのだが、何者かに切られていることも分かったが犯人は不明である。

 

 

 因みに逆柱はどうなったのか?

 夫婦の家に使おうとしたが、やはり怖いということで、慧音は悩んだ挙句、寺子屋に連れて行った。

 

 

 

「はい。では…、そうだな。……柱!この問題解けるかな?」

 

『えっ!?えぇっと……わっ、分からないです』

 

「ふぅむ。柱は計算問題が苦手なようだ。では、柱くんを助けてくれる子いるかー」

 

「はい!」

 

『べ、勉強って大変だぁ』

 

 

 

 今は子どもたちと一緒に勉強したり、遊んだり、中々上手くやっているらしい。子どもたちからは「柱くん」「柱ちゃん」と呼ばれてなかなかに人気者だ。寺子屋の柱の一部となってしまったので動けないが、木霊を使い、サッカーをしている姿を以前見たが、問題も今のところ起きず、上手く行っていて何よりだ。

 

 

 

「・・・認めてもらえたのはいいけどヨ。今回!1,000円しか稼げてなァーーーい!!」

 

 

 その千円札も、酒代に消えてしまった。

 何もない床の上に寝っ転がり、何と愚かなことをしたんだと後悔をする。だが彼の辞書に反省という文字はない。

 

 

「俺は慈善活動家じゃねえ…。もっと効率よく稼いでやる!俺なりの方法でな!!ケーッ!ケッケッケッ!!」

 

 

 

 




ここまでのキャラクターパワー(0から5)

博麗霊夢 
 パワー4
 霊力 5
 
 彼女は幻想郷を守る使命を持った巫女。守るためなら友人でさえも倒す。普通の戦闘も弾幕勝負も負けなし。空を自由に飛び、封印をする。


霧雨魔理沙

 パワー 1
 魔力 5

 博麗霊夢の相棒的存在。困っている人を見たら助けずにはいられないので色々な人から好かれている。趣味は異変解決で、異変が発生したら解決せずにはいられない。そして魔法道具の製作にもハマっている。ミニ八卦炉は作ってもらったものであり、自分もこのようなものを作りたいと努力しているが、これまで作ったものは「宴会用道具」になってしまう。



上白沢慧音(通常時)

パワー 1
妖力  0

 里の守護者と呼ばれている白澤とのハーフ。つまりねずみ男と同じ半妖怪。基本的には里の相談役や、寺子屋で授業をしている。


上白沢慧音 (三日月時)

パワー 3
妖力  3

 月が出ている間、白澤の部分が現れる。力が増し、妖怪としての姿が見られるが、妖怪としての『能力』は使えない。
 ※月の満ち欠けによって変化ある可能性あり


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人里編
疫病神? 苦笑の孤独①


こんにちは。

 最近仕事が終わったら刃牙ばかり見てます。面白すぎる。親子喧嘩編もアニメで見れて嬉しいっすね。やっぱり。

 ジョジョ9部の一巻が発売されて即買い。もう最高の一言しかない。











 

 幻想郷で小さな異変が起きていた。

 誰も気にしないような小さな異変が起きていたのだ。

 

 

 

「あのぉ…、この薬はお腹にも効きますか?」

 

「勿論勿論!この薬、一粒飲めば、あっという間に腹痛も治るどころか、寿命も3年延びるおまけ付き!あの博麗の巫女もお墨付きでして!今なら一つ5万円のところを5,000円!!お安いですよ!」

 

「それじゃあお一つ──「ちょっとお待ちを」」

 

「この薬は偽物です!」

 

「なっ!?」

 

 

 とある日の昼ごろ。

 露店を開くねずみ男が、行者姿の女と揉めていた。ねずみ男は里の人間たちに『ビビビ印の何でも治療薬』という薬を売っていたのだが、突然現れたこの行者に止められたのだ。行者が薬の袋を開けて、中身を取り出す。そこには黒くて小さな塊が一つ入っていた。

 

 

「なっ、何を根拠にそんな事をっ!!れっきとした営業妨害だぞコレは!」

 

「・・・根拠も何も…っ、うわっ、コレ、鼻くそですよね?毛がついてます」

 

 

 乾燥しているが、明らかにそれは鼻くそだ。

 それを適当に丸めて袋に入れているだけだった。女性は悲鳴をあげると、さっさと逃げてしまった。その騒ぎを聞いていた、ねずみ男の元で薬を買ったお客たちが怒りの形相でやってくる。ねずみ男は直ぐに立ち上がり、逃げる準備をする。

 

 

「ぐぎぎ〜〜っ、商売あがったりだぜ!あばよっ!!」

 

 

 ねずみ男は捨て台詞を吐くと逃げていった。

 騙された人々が追いかけるが、結構稼いだ5000円札の山を持って逃げて、消えていった。

 

 

 

 

 

「お母さん…っ、お腹痛いよぉ」

 

 

 夕刻。

 とある家の中で小さな事件が起きていた。その内容は、腹痛。今日はとにかく暑く、少女はお腹を出して寝ていた。それが良くなかった。お腹を冷やしてしまいギュルルと音を立てて苦しんでいた。

 

 

「腹巻きして寝れば、すぐ良くなるわよ」

 

「良くならない…。永琳(えいりん)先生のとこ、連れてって……」

 

「そんなことで連れていけません!」

 

「うーっ」

 

 

 あまりにも苦しく、涙が溢れてくる。

 そんな時だ。外を見れば、大きな笠を被り、大きな葛篭を背負った姿が見える。あれは幻想郷の薬売りだ。

 

 

「はぁ、しょうがない。お薬買ってきますから」

 

「うん」

 

 

 財布を持って、外に出る。

 行者の格好をした薬売りは「薬ー、薬はいらんかねー!」と元気な声が聞こえてくる。もう直ぐで夕飯の時間になるというのに感心なものだと思いつつ近づくと、薬売りは気付き、葛篭を降ろす。

 

 

「いらっしゃい」

 

「お疲れ様、鈴仙(れいせん)ちゃん。腹痛の薬はあるかしら?」

 

 

 鈴仙と呼ばれた少女は笠を取る。

 するとピョンとウサギの耳が飛び出した。紫色の長髪の少女がニコリと笑い、腹痛の薬を取り出した。彼女は、『鈴仙・優曇華院・イナバ』。幻想郷の病院である永遠亭に住む『月の兎』という種族で、薬師の八意永琳の弟子である。普段は師匠の手伝いをしているが、時間がある時には薬売りという仕事をしている。

 

 

「ありますよ!一つ150円です!」

 

「150円ね。ちょっと待って……」

 

 

 

──キャアアア……

 

 

 

「娘の声っ!?」

 

「お母さん、ここで待ってて!!」

 

 

 少女の悲鳴を聞いて、母親よりも早く鈴仙が荷物を置いて走った。家の中に入ると、布団の中で震える少女に近づく謎の妖怪がいた。

 

 

「その子から離れなさい!里の人間に手を出してはいけないのを知らないの!」

 

「薬売りさん、助けて」

 

『エッ…』

 

 

 振り向く妖怪。

 その顔に、鈴仙はゴクリと唾を飲む。その妖怪の容姿は何とも醜い、恐ろしいものだった。白い肌に、山羊のようなツノを生やし、人間のような目と鼻を持つ姿。だが人型には違いないが、例えるなら悪魔のような姿とも言える。

 

 

『エッ…、エッ…。お、オレェ…』

 

「ひぃいい」

 

 

 その声はガサガサで、聞いていてゾッとする。子どもは一瞬の隙に逃げ出して、薬売りの元へ駆け寄る。

 

 

「怖いよぉ…っ」

 

「大丈夫?ケガは?」

 

『マ、待ってっ、オレ…ッ、ウゥッ…』

 

 

 その妖怪は悲しそうな顔をすると、窓を開けて逃げていった。ホッと一安心していると母親が、鈴仙の置いていった荷物を持ってやってくる。

 

 

「お母さん!!」

 

「ど、どうしたの!何があったの!?」

 

「怖い妖怪が私のお腹を触ってきたの…っ!紫色の爪でサラッて」

 

「ケガは!?」

 

「無いけど…。あれ?お腹痛いの治ってる?」

 

「ちょっと見せてください」

 

 

 鈴仙が少女のお腹を見る。

 どこにも異常は見られない。変に傷があるわけでもなく、呪いがかけられてはいない。更には腹痛の様子は見られず、寧ろ良くなっているのではないかと診察をしてみて感じた。

 

 

「・・・とりあえず、戸締りは忘れないほうがいいですね」

 

「は、はい」

 

「私は少し見回りをしてきます」

 

 

 外を見てみる。

 窓の外には紫色の液体がテンテンと垂れていた。後を追ってみると、次第に液体の跡は消えて行く。謎の妖怪の行方は追えなかった。

 

 

「・・・」

 

 

 葛籠を背負い、笠を被る。

 その後も里で薬を売ってから、帰路に着く。一度入ったら必ず迷うとされる迷いの竹林を抜け、和風家屋の永遠亭に辿り着く。

 

 ここは通称『闇の病院』。

 この病院の先生である八意永琳の医療の腕は天才的である。たとえ首が取れたとしても簡単につなげてしまうと言われるほどである。そして闇と呼ばれる理由は、ここに来たものは人間だろうと妖怪だろうと分け隔てなく診察をするから、いつしか言われるようになった。

 

 

「ただいま戻りました」

 

「おかえりなさい、優曇華」

 

「師匠!今日も腹痛の薬がたくさん売れましたよ!」

 

「今日も、か」

 

 

 調合の手を止める。

 葛籠の中を見てみれば確かに腹痛の薬は売り切れており、他は全く売れなくなっていた。

 

 

 

「…()()()()()()()()()()()()()()()わね」

 

 

 

 ここ最近、幻想郷では腹痛が流行っていた。だが、腹痛は命に関わるほどではない。しかし原因は不明。水質調査をしても結果は出ず、皆んなは腹を温めるか、八意印の薬しか対策しようがなかった。

 

 

「異変でしょうか?」

 

「異変…。だとすると地味すぎるわ」

 

「後ですね…」

 

 

 鈴仙は先程出会った妖怪の話をした。

 とても怖い見た目をしており、紫色の毒のような液体が含まれた爪を、少女に向けていた事を。

 

 

「・・・それは『疫病神』かもね」

 

「疫病神、ですか?」

 

「ええ。人間たちに未知の病気を齎す悪神ね。仮にそうなら色々と辻褄が合うわ。・・・でも、原因不明の腹痛を起こして何がしたいのかしら」

 

「分かりません。でも…とても悲しそうな目をしてました」

 

「・・・まぁ、どんな病気がきても私ならワクチンが作れるから安心しなさい」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

 

 ここは里の外。時刻は夜。

 ねずみ男は稼いだお金を全て居酒屋に使い、とても酔っ払っていた。外は危険だと聞いてはいたが、野良妖怪たちだって好みはある。ガリガリで臭い男を食べようとは思わないから見逃していた。

 

 

「クソがよォ〜。折角、里の人間たちが腹痛で苦しんでるっていうのによぉ〜。本当は、ひっく、もっと稼げたっていうのによぉ〜。馬鹿にしやがって」

 

 

 フラフラと歩く。

 途中でブルブルと体が震えた。

 

 

「うぃーっ、催してきたな。……よいしょっと」

 

 

 ジョボボボボと溜まりに溜まっていた小便が発射される。ねずみ男の膀胱は常人よりも大きく丈夫なので、めちゃくちゃに溜まる事ができる。昨日の今日でトイレをしていなかったので溜まっていた全てを出す。

 

 その尿の酸が、辺りに生えている植物を枯らしていく。そしてあまりの勢いで跳ねに跳ねまくり、黄色い水滴が蜘蛛の巣だらけの小さな社に降りかかる。そして社の中にあった『石』を濡らした。

 

 

「へへっ…」

 

 

 神聖なものを穢すという背徳感に身震いしながら、しっかりと社に目掛けて発射した。屋根を溶かし、中の石に直撃。ねずみ男は気づかない。その石に彫られた『疫災封印』の文字も溶けていく事を。

 

 

「ふぅ〜っ、スッキリした。……ん?」

 

 

 社から邪気が噴き出している。

 ねずみ男は驚き、そのまま後ろに倒れた。噴き出し終えると、ガタガタと音を立てて社が崩れ、中から人型の何かが出てきた。

 

 

『んー!500年ぶりの外の世界』

 

「お、女が出てきたァっ!?」

 

 

 突如として、妖艶なる雰囲気をまとった女性が、ねずみ男の目前に現れた。その美しさは、月明かりの下でさえも鮮やかに輝き、彼女の存在はまるで幻想の世界からの訪れ人のように感じられた。一気に伸びる鼻の下。自分でも気づかないうちに舌がベロンと出てしまう。

 

 

『ふふふふふ……』

 

「お美しい女神様!あなたは一体?」

 

 

 女は、目の前のねずみ男に気づく。

 この男が封印から解いてくれたのだろう。そのままねずみ男にもたれ掛かり、頬を撫でる。

 

 

『・・・そうね、とりあえず“ホウコ”とでも呼びなさい』

 

「おぉ〜!ホウコさんの細長い指が私の顔にぃ♡」

 

『それにしても、あなたが封印から解いてくれたのね〜。アリガト〜!ねっ、私、あなたにお礼がしたいんだけどォ』

 

「お礼なんてそんな…、へへへ。 寧ろ、お礼したいのはこっちの方ですよん。貴女みたいな美しいお姉様に出会えたんですから!むふふふふふ」

 

『そう?・・・なら、私の仕事を手伝ってくれるぅ?』

 

「はいはいはい!何でもやりますよ!それで“仕事”って何やるんすか?」

 

『それはねぇ──…』

 

 

 耳元で囁かれるとぶるりと震える。

 その甘い声に脳が痺れるが、ちゃんと内容は聞いている。

 

 

『─ってことをやりたいの』

 

「お任せあれ!ひひひひひ」

 

『期待してるわっ、色音さん』チュッ

 

 

 チュッと頬にキスされる。

 もうねずみ男は完全にこの女の虜になっていた。昔から彼は、お金と権力と美女には逆らえない。

 

 

「色男ってェ…そんな当たり前なこと言われても、デヘデヘデヘ……♡♡」

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 少しずつだが、幻想郷には腹痛が広がっていった。

 幸いにも命に別状はない程度ではあるが、免疫力の弱い子ども達から徐々に腹痛を起こしていった。誰もが腹を冷やした、悪いものを食べたのかなどを考えていたが関係ないことが判明し、謎の感染病だと考えられた。とりあえず寺子屋は一時的にやらないようになる。

 

 

「里の活気が無くなってる」

 

 

 薬を売りにきていた鈴仙。

 事態が事態なので、永琳の指示もあり、一つ一つ家を回りながら薬を無償で配りに来たのだ。

 

 里に着いて少し歩くと、掲示板に『白イ妖怪 里ニテ現ル報告多数 気ヲ付ケルベシ』とお達しがされていた。直ぐにあの時見た『疫病神』だと理解する。

 

 

「疫病神の影響が広がってる。・・・早く配ろう。ん?」

 

 

 活気がないと思っていたのに里の中心に、人だかりが見える。皆んな、お腹を抑えながら行列を作って並んでいるのだ。どこに並んでいるのかと思い、目を凝らすと、あの偽の薬を売り捌いていた男と謎の美女がいた。

 

 

「どんな病気も一瞬で治す『万能丸』!今ならたったの500円だよー!買った買った!」

 

「売ってくれ」

「こっちにも!」

 

「はいはい!押さない!押さない!薬は逃げませんよ〜!ニヒヒヒヒ」

 

 

 また詐欺をやっていた。しかし、以前騙されたと憤慨していた人たちも見える。何故だ。何故あの男を信じているのだ。近づいてみると人々は買った薬を直ぐに飲んでいた。腹痛を訴えていた人たちの顔が楽になる。いや、だが、怪しくはないのだろうか。とにかく、目の前の男にちゃんと話を聞いてみるしかない。

 

 

「ケケケ…、すごい儲け」

 

「飽きもしないで、また同じ詐欺ですか?」

 

「あっ、お前はあの時の薬売り!開口早々に“詐欺”とは何たる失礼なやつだ」

 

「鼻くそを売りつけていた人が何を言いますか。さっさとお金を返しなさい」

 

『ちょっと何事?』

 

 

 陰から美しい女性が現れた。どうやら今回は二人で営業しているようだった。

 

 

「ホウコちゃん! クレーマーだよ、クレーマー!俺たちの薬が売れてるからって文句言ってきたんだよ!」

 

『へぇ〜』

 

 

 そう言うと、彼女は袋から丸薬を取り出した。

 大きさ的には普通の錠剤と変わらない。黒色で、墨のように見えた。それを鈴仙に渡す。

 

 

『お嬢さん。何を疑ってるのか知らないけど…ちゃんとした薬よ、これは。何でも治る特効薬…。あなたもお一つ如何かしら?』

 

「特効薬?そんなものある訳が・・・」

 

 

 いつのまにか、薬売りの周りに、ねずみ男から薬を買った人々が集まっていた。誰もが清々しい表情をしており、先程まで苦しんでいたとは思えない。

 

 

「薬売りさん、これは凄いぜ!本物だ」

「腹痛だけじゃなくて腰の痛みまでなくなったわい」

「皮膚病もスッキリよん」

 

 

 そう口々に言ってきたのは、最初に騙されたと怒っていた人々だ。彼らが全員、ねずみ男の味方をしている。

 

 

「ですが!医者でも無いものが作った薬は怪しいに決まってます。成分、材料、実験、それらをちゃんと調べたのですか?」

 

「まあまあ……鈴仙さん。確かに最初はまた鼻くそでも売りつけられるんじゃねえかと疑ったんだ。そしたら、試しにあの別嬪さんが飲んでみろって言うから飲んだわけよ。そしたら腹痛以外にも身体の異常が全部無くなったんだよ!!こりゃあ本物だぜ」

 

『因みに…一度飲めば、これから先は病気になることはありませんわ』

 

「毎回150円払うよりも、一回500円の薬を買ったほうが安上がりってもんよ!」

 

 

 ねずみ男は、鈴仙に近づき、家々の奥を指差した。あそこは所謂、貧民街と呼ばれる所でお金に困る人たちが暮らしている所だ。

 

 

「あっちなら、アンタのチンケな薬を買ってくれるかもな!買う金があるならだけどよ!うしゃしゃしゃ!!」

 

「そうですか。・・・ですが皆さんに忠告しておきます。何の説明もない薬よりも、お医者さんの薬の方が100倍安心です。都合のいいことだけを何でもかんでも鵜呑みにしたら酷い目に遭いますからね」

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 ねずみ男や里の連中には腹が立つ。なぜ医者の言うことよりも訳のわからない情報を信じてしまうのだ。だが、きっと我々の薬を必要としている人はいるはずだ。そう決めて、貧民街エリアに向かった時、チラリと白い何かが動いているのが見えた。

 

 

「あれって…」

 

 

 それは一度見たら忘れない白ヤギのような妖怪だ。妖怪は、鈴仙に気づいていないのだろう。そぉっと家の中に潜り込んでいった。鈴仙も急いで後を追い、窓から家を覗く。

 家の中では3人の家族が腹痛に苦しみながら横になっていたのだが、その妖怪は爪を立て紫色の液体を垂らしながら、その3人に近づき、そしてその爪で3人の腹を撫でようと手を伸ばした。

 

 

「そこまでよっ、疫病神!」

 

『ア"ッ!?アゥ…アウゥゥ…ッ、エイッ!!』

 

「あっ!?」

 

 

 妖怪はその家族全員の腹をさっと撫でると、急いで逃げていった。後を追う前に鈴仙は3人の様子を伺うと、その表情は落ち着いており、先ほどまでの苦しそうな顔は消えていた。父親が先に目を覚まし、目の前の鈴仙を見て、彼女が助けてくれたのだと察した。

 

 

「……薬売りさんが助けてくれたんですね」

 

「えっ、いや、その」

 

「おかげでとても楽になりました。でも、まだ眠い……すぅ…」

 

(眠った。体のどこにも異常は無さそうね。寧ろ、良くなっている?まさか……でも、あの妖怪が犯人じゃなかったの?とりあえず追いかけよう)

 

 

 鈴仙は急いで後を追う。

 今度はあの紫色の液体はちゃんと残り、続いている。追いかけて行くと森の中に続いており、足音を立てずに歩く。

 

 

 

 

 

 辿り着いた先は川だった。岩に腰掛けて妖怪はうずくまっていた。

 

 

『ウッ…ウゥゥゥッ……』

 

(泣いてるのかしら?とりあえず話はしないと…。それにもし襲われても……)

 

 

 護符を持ちながら、鈴仙がこっそりと更に近づこうとした時、落ちていた枝を踏んでしまう。パキッという音に反応した妖怪は驚きながら振り向く。そして先程出会った薬売りの姿を見て、怯えながら逃げようとする。

 

 

『ヒィイイッ!?』

 

「ま、待って。私は話を──」

 

 

 反応や表情から敵意は感じない。この妖怪から感じるのは恐怖だけだった。護符を見て、鈴仙が自分を退治しにきたと思ったのか必死に逃げようとするが、砂利に足を取られ、転んでしまう。足から血を流し、白い体毛を赤く染め上げながら逃げようとする姿を『可哀想』に思い、直ぐに葛籠から救急セットを取り出した。近づいてくる鈴仙から逃げられないと思い、妖怪は頭を守る態勢になる。

 

 

『殺サナイデッ、コ、ココ、殺サナイデッ』

 

「落ち着いて…、私は治療をしたいだけなの」

 

『アウゥゥ…』

 

「大丈夫…。危害は加えないから…」

 

 

 消毒液と包帯を取り出し、手際よく妖怪の足を治療する。永琳の隣で、弟子として、看護師として修行を積んできた成果が出ていた。その所作は完璧であり、あっという間に巻き終える。

 

 

『・・・ア、アリガトウ?』

 

「どういたしまして」

 

 

 鈴仙は敵じゃないと判断したのか落ち着きを取り戻す妖怪。鈴仙は包帯などをしまいつつ、目の前の妖怪を観察すると白い体毛で気づかなかったが、全身に切り傷や打撲の跡が残っていた。やはり命を守る者としてほっとけない。それに、仮に疫病神なら、腹痛を止めなければならないからだ。

 

 

「ねぇ…少しいい?」

 

『・・・』

 

 

 近くの岩に2人は腰をかける。

 警戒していた妖怪だが、目の前の川の流れや、魚の泳ぐ姿、虫の声を聞いていると次第にリラックスしていくのがわかった。

 

 

「あなたは一体何者なの?幻想郷で一度も見たことがないんだけど、森の妖怪なの?」

 

『オ・・・、オレ、“苦笑(にがわらい)”。ゲ、幻想郷、知ラナイ……。気ヅイタラ、ココ、イタ』

 

(嘘はついてないわね。この妖怪は……外で忘れられたことで迷い込んだのか…)

 

 

 彼女の『能力』。

 これを使うことで相手の精神や心が嘘をついているのか見分けることができる。具体的な詳細は今は省くが、心の中を読むことはできない。

 

 

「ええと…苦笑?は、自分がお尋ね者になってるの知ってるの?噂だと、人間を襲おうとする姿を見たって周りは言ってるんだけど…」

 

『オ、襲ウツモリナイ…。ココ、キタラ、子ドモ泣イテタ…。助ケヨウ、思ッタ』

 

「助ける?」

 

『俺ノ能力ハ……“正反対毒(いんどく)”。コレ、爪カラ出ス。コノ毒…、病気ヲ治ス力、アル』

 

 

 

 ここで紹介タイムに入ろう。

 

 苦笑(にがわらい)

 その名の通り、常に苦笑いをしているので、その名がつけられた。見た目は二足歩行する白ヤギのようだが顔が人間に近いことが特徴である。但し、肉食獣と同様に手足には爪がある。

 

 何をするのか不明だとされている妖怪だが、唯一分かっている最大の特徴として、その能力が挙げられる。

 【苦笑の生成する毒は、何でも反対する力が備わっているのだ。例えば、不味い料理に混ぜれば美味しくなり、美味しい料理に混ぜれば不味くなるといったものだ。】

 

 この能力を応用する事で、何か病気になっている者に、この毒を使えば簡単に治ってしまう。勿論その反対もあるから、簡単に使うことはできない。

 

 

『俺、困ッテル人、助ケタイ…。デモ、俺、嫌ワレテル。コワイ顔、コワイ爪、コワイ声…。ミンナ、俺、嫌イ。 俺、1人ボッチ。ズットズット』

 

 

 この身体の傷は、迫害を受けてきた証拠だ。

 人間たちから恐れられていると自覚しているのに、苦笑は人間のために尽くそうとしている。それは何故か? 一人でいる方がずっと辛いからだ。そんな痛みに比べれば、暴力なんて気にならない。

 

 

「・・・そんな事ないよ」

 

『?』

 

「ずっと一人ぼっちなんかじゃない。ねぇ、苦笑……。私と友達にならない?」

 

『エ…、エッ…?』

 

「私もね、ここに来たばかりの時は里の人から嫌われてたわ…。でもお師匠や、皆んながいてくれたから乗り越えられたの」

 

 

 鈴仙や永琳たちは元々は月の住人だった。

 ここに来たばかりの時、()()()()()()の影響で月の住人は煙たがられる存在だった。だが、同じ地で生きていくと決めたのだから協力していこうと、嫌われながらも関わり続けた結果、今のように薬売りとしてやっていけている。勿論、心が折れそうになったこともあるが、それらは仲間と共に乗り越えてきた。

 

 そんな過去もあり、目の前の存在がかつての自分と重なる苦笑に手を差し伸べる。

 

 

「どう、かな…?」

 

『──アリ、ガトウ。初メテノ・・・友達!!」

 

 

 ゆっくりと鈴仙の手を握った。

 今までずっとひとりぼっちだったからだろう。手を取るのと同時に、自分の存在を肯定してくれる人と出会えて、涙を流していた。

 

 

「よし!それじゃあ貴方の無実を証明しに行きましょう!!」

 

「エ…ッ、デ、デモ、信ジテモラエルワケ……」

 

「最初から決めつけない!貴方の力で今幻想郷に蔓延る病気を治したら、噂なんか直ぐに消えるわ!善は急げよ!」

 

 

 

 

 

 

 

─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「何これ…っ」

 

 

 2人が幻想郷に戻ると、そこには異変が訪れていた。あんなに元気だった人々が地面に倒れ、家の中で倒れ、全員が顔を赤くして苦しんでいた。

 

 

「ゲホッ…ゲホッ…苦しい」

「痛いよぉ」

 

 

「あんなに元気だったのに…」

 

 

 倒れている人に駆け寄り、診察すると熱は40℃を超えており、手や足など末端からブツブツと発疹が出ていた。明らかに腹痛の範疇を超えていることは直ぐにわかった。そしてそれは1人だけではなく、里全体で人々が倒れていたのだ。

 

 

「何故こんなことに…。直ぐに治療しないと…!ええと、でも、まずは何を…っ」

 

「エイッ!!」

 

「苦笑…!」

 

 

 苦笑が倒れている人に毒を注入する。

 すると、体内に入った毒素が全身に広がる病原菌を殺していく。数分経たずに一瞬にして熱が引き始めた。

 

 

「ミンナ、助ケル…!!」

 

「そうよね。私も出来ることをやらないと…。それにしても、この症状、どこかで……」

 

 

 苦笑は、1人、また1人と毒を注入しに回る。

 あっという間に中心エリアの人々の病気が治っていく。鈴仙は里中を走り回り、この場所に連れてくる。この状況で、苦笑しか治せるものがいないなら自分はアシストに回るだけだ。

 

 

『ねぇ、これはどういう事?』

 

「「!?」」

 

『これ、あなたがやったの?』

 

 

 ゆっくりと2人に、ねずみ男と一緒にいたホウコと呼ばれていた女がやってくる。彼女は、今ちょうど病気を治している最中の苦笑の前に立つと大きく足を張り上げて──。

 

 

『目障り』

 

「エ─」

 

 

 苦笑の顔面を蹴り上げた。

 突然の出来事に避けるは出来ず、ヒールが顔面を直撃し、近くの家屋の壁まで吹き飛ばした。苦笑は鼻血を噴き出し、顔面がぐちゃぐちゃになってしまった。

 

 

「苦笑ッ!?」

 

「オ、オレ、ヘーキ……。ソレ、ヨリモ、ア、アノ女ニ……気ヲツケ……」

 

『あら?死ななかったの?案外丈夫なのね』

 

「貴様ァッ!!」

 

『私の計画の邪魔をするからいけないのよ。そしてアンタも邪魔よ、このブスが──』

 

 

 瞬間、鋭利なヒールの踵が鈴仙の身体にぶつかる。その威力に抗うことなど不可能であった。身体は無慈悲な力によって宙に舞い上がり、遥か遠くへと吹き飛ばされた。

 

 

「ぐふっ……!!」

 

『飛んだ飛んだ。随分と軽かったってことは中身が全くないのかしらね』

 

 

 馬鹿にするように笑う目の前の敵。そんな女の陰から、ねずみ男はひょっこりと現れる。彼は大量の500円玉を抱えながらニヤニヤと笑っていた。

 

 

「計画はうまくいったね、ホウコちゃん」

 

『・・・ねずみ男』

 

「う、ぐ……っ、計画、ですって…?」

 

 

 ふらつく体を起こして無理やり起こす。目の前の光景が歪んではいるが、必死に足に力を入れて立ち上がる。ねずみ男はニヤニヤと笑い、鈴仙の前に立つ。

 

 

「へへへ……。ボロボロだな、ウサギ女」

 

「ぐ・・・っ」

 

「冥土の土産に教えてやるよ。俺たちがやっていたのは侵略だ!里に病気をばら撒くだけじゃなくて、その病気をさらに重くする丸薬をホウコちゃんが作り、俺が人間たちに売りつけて侵略する。こうも上手くいくなんてな!!これで()()()()()()()()()()!」

 

 

 ゲラゲラと笑うねずみ男。金も十分に手に入った、今この場で圧倒的に誰よりも上に立っている充実感に満ち満ちていた。幻想郷に来て、そんなに経っておらず、知り合いも少ない彼が、まさに今この地で立っているのだ。

 

 そんな彼に、ホウコは近づく。耳元でそぉっと、優しく、エロく言った。

 

 

『ねずみ男ちゃん♡♡言い忘れてたことあったわ♡』

 

「でへへへ、何よ急に!もしかして愛の告白じゃ──」

 

『アンタも邪魔になった』

 

「へ?」

 

『ウフ』チュッ

 

 

 

 そして、優しく頬に口づけ。

 ねずみ男は突然の言葉や行動に固まる。固まり、現状をやっと理解し、思考が終えた頃にねずみ男はそのまま地面に倒れる。

 

 

「……た、立てね、え? 全部が揺れて……、あれ、頭が痛いっ、体が痛い…っ」

 

 

 見て分かるほどの発熱。身体中が赤く染まり、湯気が吹き出す。

 だがそれ以上に目を見張るものがある。それは全身にできた発疹。顔、手足、背中、腹部。至る所でブツブツと皮膚が膨れ上がり、そこからブチュっと膿が吹き出した。

 

 

「こ、この症状は……っ」

 

 

 鈴仙はその症状を見たことがある。永遠亭で、数年前に師匠からこの地球という場所で発生したウイルスによる感染症の種類や症状、歴史を講義してもらった際に見たのだ。

 

 

「──天然痘(てんねんとう)!!」

 

 

 天然痘。

 それは日本だけに留まらず、全世界中で発生した殺人ウイルス。このウイルスの感染力は凄まじい。そして何より恐ろしいのは人種や性別、貧富の差関係なく、誰をも大量に殺してきた。

 

 

「で、でも天然痘は、根絶されたはず。だから幻想郷で発生するなんて──」

 

 

 その通りだ。

 大量に人間を殺してきた天然痘は何と皮肉なことか。天然痘は、人間の手により根絶された唯一のウイルスだ。

 

 だから幻想郷でも発生するわけがない・・・と思っていた。

 

 

「いや、だからか!幻想郷だから!・・・絶滅したもの、根絶されたもの、幻想となったものを呼び寄せてしまう幻想郷だからこそ、天然痘が発生した!!」

 

 

 全てを受け入れる幻想郷。それは良い言葉に聞こえて、最悪の言葉。

 

 根絶され、外の世界では幻想とされる天然痘が、幻想郷に訪れていたのだ。だが感染することはなかったが、この女が現れたことで本来の力を取り戻したのだ。

 

 

『そうよ。うふふ、あははは!!・・・この地に来れてよかった。世界から消えた私が復活でき、力を蓄えるには最適の地だった』

 

 

 ホウコの全身に、人間たちの天然痘に対する【恐怖】【畏怖】【絶望】【死】という感情が集積していく。

 

 

『──封印された身ではあったが、気づけばこの幻想郷に辿り着き、ゆっくりと病を撒き散らした。情けなかった…、自分が非力になってしまったことを呪った…。私が…腹痛しか起こせなかったことを』

 

 

 幻想郷の、隅の隅に蔓延る病原菌。それらも一気に集約される。

 

 

『だが偶然にも封印は解け、愚かな男を利用し、幻想郷に天然痘を起こさせた』

 

 

 妖怪にとって涎を垂らしてしまう程の、羨ましい程の圧倒的な『畏れ』が、妖力へと変換される。

 

 

『さあて……大感染(パンデミック)を始めるわよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 苦笑。
 出してみたかった妖怪です。見た目は怖いですけど、水木先生の図鑑を見ると意外と良いやつ、かも。

 私の作品では気は弱いけど優しい妖怪としてみました。


 さぁて、今回のゲスト妖怪はもう1人──『ホウコ』の正体は??

 次回に続く。


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疫病神? 苦笑の孤独②

こんにちは。

 私、つい最近『シン・ウルトラマン』を見ました。
 あまりウルトラマンを通ってきませんでしたので、マンモスフラワーが出た時に「鬼太郎のものじゃないんだ。ウルトラマンにも出るんだ」と思いました。

 異星人の時に、津田ボイスのザラブ星人というのが出ましたが、めちゃくちゃ卑怯な奴だと思いましたね。あとアイツの背中どうなってんだ?空洞なのかな?
 メフィラスはなんか好き。なんか分からないんですが、めちゃくちゃ好きですね。

 最後にゾーフィというのが出ましたが、あれはゾフィーと違うんですかね?ゼットンを持ってたし、あれはウルトラマンの仲間というよりも、似た何かなのでしょうね?
 めちゃくちゃ面白かったけど、私自身が知識無さすぎて、小ネタが分からなかったのがマジで残念。詳しい人はもっと楽しめたよなと思いました。






 

『大感染を始めるわよ』

 

「──させません!!」

 

 

 ホウコの目前に、鈴仙が飛ぶ。

 硬い地面に泥を踏んだかの如き足跡を刻み、地面を割り、礫を辺り一面に飛散させ、空気の尾を引いて跳ぶ。

 

 

『──ッ』

 

「シャアアァァァッッ!!」

 

 

 鈴仙のこの動き。

 月の都の“兵士長”として認められた抜群の戦闘テクニック。飛び、体を回し、大きく足を回し、首を狙い蹴り付ける。

 

 

『ガッ──』

 

「シュッ」

 

 

 奥歯を噛み締め、続け様に鈴仙が手刀を打ち下ろす。

 空気を引き裂いて打たれる手刀が、また首を狙う。首はどんな生物でも大事な部分であり、急所だ。だがそれは当たらなかった。ホウコは肩を上げてガードする。

 

 

『何度もやらせねえよ…』

 

「ふぅ…」

 

 

 久しぶり。本当に久しぶりの戦闘だ。

 アドレナリンが巡るのを感じる。鈴仙はゆっくりと息を吐きながら、体を伸ばす。

 

 

『チッ、目が回る。──やっぱり()()()じゃ調子が出ないわね』

 

「この体?」

 

『そう。これは人を騙すための仮の姿。・・・見せてあげましょうか。私の真の姿をねエェェ──』

 

 

 

 全身の骨格が変わっていく。

 バキバキと音を立てて、1メートル50センチしかなかった小柄な体格が、3メートルという巨人の姿へと変わる。細い手足に筋肉が盛り上がり、柔らかそうな腹から腹筋が浮かび上がる。背筋も浮き出て、筋骨隆々となった。

 

 そして全身から黒色の体毛が生える。例えるなら墨汁で半紙を染め上げるように、ホウコの全身が闇のような黒の毛皮に覆われただ。服も破れ、全裸になったのだろうが女性らしい身体のフォルムは毛のせいで見えない。

 

 

 

『お前を殺して……、幻想郷を天然痘で支配してやる』

 

 

 

 口、鼻が消える。人間らしさは無くなり、二つあった目玉が混ざり一つとなった。手足は丸くなり先端は馬の蹄となる。そして腰から三つの髑髏が現れ、頭から牛や鬼を連想させるような2本の角が生えてきた。

 

 あんなに美しかった女性はもういない。

 居るのは、隻眼の大きな獣だ。

 

 

『これが真の姿! そして真の名を……『疱瘡婆(ほうそうばばあ)』と呼ぶ!』

 

 

 疱瘡婆。疱瘡とは天然痘の別の呼び名である。

 人間の『天然痘という病気は妖怪が広めているのだ』という“恐怖”から生まれた妖怪であり、病気で死んだ人間の死体の肝を好んで食べると言われている。

 

 東北地方の宮城県で現れたとされ、姿も見られている。

 高僧に封印され、復活しようとしたのだが、時代が進むと共に天然痘は根絶されてしまい恐怖も消え、力を失っていた。

 

 

「婆…というよりも牛ね…」

 

『私の実力を見せてあげましょうか』

 

「来い」

 

『三連撃…“蹄王拳(ていおうけん)

 

 

 疱瘡婆はコキコキと関節を鳴らすと、地面を蹴った。

 今までとは段違いなスピードだ。だが、それも当たり前だろう。あの馬の蹄は走るために特化したものなのだから。

 

 

蹄壁(ていへき)ッ!!』

 

 

 スピードが乗ったまま両腕の蹄を振るう。

 蹄は、我々人間のような鋭い爪とは違い、大きく平たい。その独特な形状は殴る事に特化しており、拳を握る動作を必要としないのだ。

 

 

「──ッ!」

 

 

 何とか見切れる─。

 鈴仙は地面を蹴り、空を舞い、両足を高速で踏み変え、瞬時に体を水平移動させた。脇腹をかすめる一撃が行者の服を引き裂いた。平たい蹄が高速によりナイフへと変わる。・・・疱瘡婆の一つ目は彼女の動きをちゃんと追っていた。

 

 

蹄尖(ていせん)ッ!!』

 

 

 続け様に、空を舞う鈴仙の顔面を狙う。

 蹄の先端。唯一の鋭い部分を、その流れのまま繰り出した。高速の手刀というよりも手槍が水平線を描き突く。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 身体を回転させ、狙う箇所を顔面から逸らす。

 顔面ではなく長い髪の毛に直撃。鋭利なナイフのような一撃は、髪の毛を切り落とし、長髪だった彼女はショートヘアになってしまった。だが三連撃と言ったようにまだ一撃残っている。何とか避けて、重力に流され、地面に降りてきた瞬間を狙う。

 

 

蹄側(ていそく)ッ!!』

 

 

 間合いを詰めて、大きな蹴り。

 疱瘡婆の剛脚が大砲の弾のような威力で鈴仙の腹を射抜く。 

 素早いが大きい攻撃。鈴仙は咄嗟に防御の型を取り、両腋を締め腹部を守る構えとなるが、粉塵を巻き上げ、鈴仙は遥か後方へと飛ぶ。

 

 

『ふはははは!!これだ…。これこそが私の実力だ…!』

 

「ぐふっ…」

 

『よしよし。まだ生きていたな。貴様は両手両足を折った上に、天然痘で苦しみ死んでもらわなければならないのだから、この程度でくたばってくれるなよ?』

 

「はぁ…はぁ…っ」

 

 

 鈴仙の瞳が赤く染まる。

 果物のような赤さというよりも、ルビーのように真紅に近い色へとなった。疱瘡婆はその目を見て、睨みつける。

 

 

『・・・良い目だ。その目のように赤く、紅く、緋く、お前の全身を染めてやろう。──蹄王拳 “蹄壁”ッ!!』

 

 

 

──ドンッッ…

 

 

 

『なっ、何だと…っ!?』

 

 

 先程のように蹄を叩きつけた。

 目の前にいた女はボロボロで動きが鈍くなっていると思っていたが、攻撃を躱されたのだ。鈴仙ではなく、彼女の隣の壁に直撃した。

 

 

「どこを狙っているの…」

 

『ク──』

 

 

 避けられたと言っても、偶然だ。

 対象はめり込んだ壁の隣にいる。自分の蹄からわずか数センチ程度しか離れていない。この至近距離ならば殴り続ければ、必ず当たる。

 

 

『オラオラオラオ、ラ…ッ!?』

 

 

 拳を乱舞させた。

 だが、鈴仙に直撃することは無かった。当たったと思っても、隣の壁だったり、地面を殴っていたりと自分の感覚が狂ってしまったという感覚に陥る。

 

 

『な、なぜ当たらな──』

 

 

 ゆらり、と間合いを詰められた。

 自分と鈴仙の距離は僅か1センチ。あまりにも自然な動きについていけず、固まる疱瘡婆の顔面を、鈴仙は片手で掴むと、そのまま腕に力を込めて地面に叩きつけた。

 

 

『ゴッ─…ハッ…!?!?』

 

「私の目を見て、“普通”でいられると思わないことね」

 

『─ッ、あの時か』

 

 

 鈴仙の真紅の瞳を見た。

 あの瞬間に、何か術をかけられたのだ。過去に自分を封印した坊主が使ったのとはまた違う不思議な術を喰らっていたのだ。

 

 

「私の能力は─狂気を操る程度の能力。発動条件(トリガー)は私の目を見た瞬間。あなたがお喋りなお陰で瞳に力を溜めることができたわ」

 

 

 満月の時に人は狂う、という話は多々ある。

 例えば、満月の時に運転をすると事故に遭うといったものが。そういった満月の狂気を瞳から発するのが彼女の力の“一つ”だ。

 そして、その技の名を、“波符 赤眼催眠(マインド・シェイカー)”と呼ぶ。

 

 

「あなたは狂う。上も、下も、右も、左も、五感さえも…全てが狂う。あなたは正常でいられるかしら?」

 

『こ、小娘が…。舐めるなァァァーーー』

 

「師匠直伝・・・! 栄華之夢(ルナ・メガロポリス)!!」

 

 

 

 舞う。

 月からの使者、美しき天女の舞だ。

 空気のように軽く、水のように流れ、疱瘡婆の全身に打撃によるダメージを与える。瞳の影響で全てが狂った疱瘡婆は、どこから攻撃が来るのか判断できずに防御は不可能。

 

 

 

『ア"ッ!?アッ、アッ、アッ、アッ、アァイィィーーッ!?!?』

 

 

 

 これは師匠から教えてもらった月の殺人技術。

 こめかみ、目玉、顎、首、鳩尾、膝、つま先。人間の急所と呼ばれる箇所を連打、連打、連打。それに加えて、彼女の能力を併用することで、次にどこ殴られるのかも予測できないままに一方的に殴られる暴力の嵐を生み出した。

 

 

『ア"ゥ・・・』

 

 

 力尽きた。

 膝を地面につく。

 だが、倒れることは無かった。何故なら、目の前のこの妖怪はまだ意識を保っているから。

 

 

「まだ倒れない。・・・ん?」

 

 

 疱瘡婆の腰にある三つの髑髏がカタカタと震えていた。

 異変を感じて距離を取ったその瞬間、髑髏の眼の部分から、紫色の炎が吹き出した。

 

 

 

──ボウッッ…

 

 

 

 現代兵器の一つである火炎放射器。

 それと同じ…否、それ以上の力を持った紫炎が辺り一面を包み上げた。いくら素早く動ける鈴仙でも直撃する。だが色からも判断できるように、これは普通の炎ではない。

 

 

「熱く、ない…?」

 

 

 炎の中に包まれているが、()()()()()()()

 防御の構えをしていたのだが、この謎の状態に油断をしてしまう。一方で疱瘡婆はゆっくりと立ち上がると、蹄を彼女に向けた。

 

 

『私の・・・勝ちだ!!』

 

「何を言って──」

 

 

 

 

 

 

 

─────────

 

 

 

 

 一方、里の中心エリア。

 里の守護者でもある慧音の他、数名の実力者たちも天然痘の影響によりダウンしていた。実力者たちが力尽きたこともあり、完全に人里には一気に蔓延し、里外に出てしまうのも時間の問題であった。

 

 

「ナオレ…ッ、ナオレ…」

 

 

 疱瘡婆に蹴りを入れられた苦笑は、血反吐を吐きながらも復活。

 唯一動ける者として人間たちの人命救助を行なっていた。誰かを優先するわけでもなく、全員平等に、必死に自身の毒を注入して回る。

 

 

「あり、がとう…。楽になった」

「妖怪さん、ありがとう…」

 

「ハァ…ッ、ハァ…ッ、次ダ…!!」

 

「苦しい…っ」「助けてぇ」

 

 

 だが、この人数の多さに加えて、ほぼ瀕死状態。

 1人で助け続けるのは時間がかかっていた。このままでは死者も出てしまう。だから止まるわけにはいかない。

 

 

「ハァ…っ、ハァ…っ、うぐぅっ…イダイ…」

 

 

 骨が折れている。

 血も止まらない。

 自分の毒は外傷には意味がない。病気などしか治せないのだ。段々と足取りが重くなる。

 

 

「ア…キラ……メタク…ナ、イ…」

 

 

 チラリと遠くを見る。

 自分の存在を認め、友達だと言ってくれた存在が命を懸けて戦ってくれている。ならば自分も止まるわけにはいかない。

 

 

「おい…っ、お前。俺様だけでも助けてぇ〜…」

 

「アッ…!?」

 

 

 そんな傷だらけの苦笑に、ねずみ男が覆い被さった。

 この中で比較的に軽いので体を無理やりに動かし、全員に治療を施そうとしている苦笑に飛びかかったのだ。

 

 

「俺だけでも助けてくれェ…、俺様だけでもぉ〜。この俺がいなくなったら世界の損失よ…。早くぅ」

 

「ア・・・」

 

 

 もうダメだ。

 心は諦めたくないと言っているのに、体がついていかない。もう視界が歪み始めてきた。

 

 

 

──ぷすっ!

 

 

 

「あひんっ!?」

 

 

 何かを刺した音と、ねずみ男の変な声。

 眠ろうと思った瞬間に目を覚ました。ゴロンとねずみ男は転がっていった。その際に見えたのは、ねずみ男のお尻には大きな注射器が刺さっていた。

 

 

「いつの世も医療従事者は大変なものね…」

 

(ダレ・・・?)

 

「待ってなさい。すぐに治療(たす)けるから…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 

『油断した奴から負けてゆく。古代からの常識よ、小娘!!』

 

「はぁ…はぁ…っ」

 

 

 今度は立場が逆になっていた。

 疱瘡婆が勝ち誇り、鈴仙が膝をつく。彼女の皮膚からは発疹が出ていた。更には高熱といった病に侵され始めた。

 

 

『私の腰にある髑髏!ここからは毒が出るのさ。私の体の中で超熟成した超絶危険な天然痘がな・・・!!』

 

「ぐっ…」

 

『貴様のことを認識できないのなら、辺り一面に毒を撒けばいいだけの事!効果はテキメンよ!オー!ホッホッホッホー!!』

 

 

 鈴仙の能力により、未だに感覚が狂い続けている疱瘡婆。

 だが無差別の技ならば相手を捉えられなくても構わない。それに加えて、この腰から出る毒は、今蔓延している物の100倍の危険度である。耐えられるはずがないのだ。

 

 

『お前を嬲り殺しにするのは出来ないが、このまま天然痘で死ぬのもまた一興!そして・・・はぁあああああ!!』

 

 

 両手に向かって手を挙げる。

 その手の上に段々と幻想郷に蔓延している毒、瘴気、病が集まってきた。あの超有名な元気を集めて放つ技のように、超邪悪な力を一身に集めていたのだ。

 

 

『蔓延している全ての負のエネルギーと、私の毒を混ぜ合わせ、この幻想郷を地獄に変えてやる!!』

 

「く、そ……っ、この程度で…っ」

 

『立ち上がれるものか。天然痘を甘く見るな。人類史の中で誰よりも殺してきた菌なのだぞ。くくく……じゅるり』

 

 

 ポタリポタリと涎が垂れ始めた。

 目の下の所にある口からダラダラと涎を垂れ流し、それが体を伝って地面に落ちる。

 

 

『天然痘で苦しみ…力尽いた死んだ人間の肉は美味いんだよな。特に薬漬けになってから死んだ肉はクセがあって最高だぁ〜』

 

(このままでは……っ、動け、体ぁ…)

 

『早く溜まれ…!溜まれ!!全ての邪気よ!!』

 

 

 

 笑う疱瘡婆。

 その後ろで必死に立ち上がる鈴仙。

 近くの壁に寄りかかりながら、ふらつく足を叩いて立ち上がろうとする。だが全身の痛み、物凄い頭痛、恐ろしいほどの眩暈に、再び膝をつく。立ち上がれない。何も考えられない。あぁ、このまま死ねたら何と楽なのだろうか。そんな考えばかりが浮かんでしまう。

 

 

 

「も、う…だめ……」

 

 

 

──チクッ…

 

 

 

「んっ!?」

 

 

 小さく鋭い痛み。

 例えるなら注射器で刺されたようなほんの僅かな痛みが背中に感じた。それと同時に段々と痛みが引いていく。視界も明るくなってくる。力も湧いてくる!

 

 

「マニ…アッタ……!!」

 

「にがわらい…!?」

 

「友達、タスケ、キタ!」

 

 

 傷口を消毒し、縫い、包帯を巻いた苦笑が、彼女に解毒を施したのだった。鈴仙は身をもって、苦笑の能力の凄さを体感する。その解毒の速さは驚きのもので、月の技術といえども治療をして入院するといった工程が必要なのだが、それが要らない程の力である。

 

 

「タスケ…ラレテ……ヨカッ……タ」

 

「苦笑!?」

 

「─大丈夫。疲れて眠ってしまっただけよ」

 

「えっ!?その声…。まさか・・・!?」

 

 

 鈴仙の見覚えのある姿が現れた。

 美しい銀色の髪の毛を携え、左右が赤と青の二色に分かれた服を身につけた女性。手には医療道具が入ったバッグを握られていた。女性は、驚いている鈴仙を冷たい目で見下ろしていた。

 

 

「お、お師匠さまぁ〜…」

 

 

 鈴仙の師匠、永遠亭の凄腕の薬師──『八意永琳』である。

 月の元リーダーであり、基本的には医療を提供するが、戦闘面でも天才的な実力を持つ。性格は患者には優しい。

 

 

「私の弟子を名乗るくらいなら、天然痘(このくらい)は自力で対処してもらいたいわ」

 

「ひぃいい…!」

 

 

 身内には厳しい。特に、弟子の鈴仙は人一倍厳しく接している。だがそれは愛情の裏返しであり、自分を師として慕っているならばその期待に応えようとしているのだ。

 

 

『何だ、騒がしいな?』

 

「あなたが病原菌ね。こんにちは、この里の医者です」

 

『く、くははははーーっ!!医者?たかが医者だと!?ククク……お前らが何をしに来たのだ!』

 

「弟子がお世話になったのでその御礼と……除菌させていただきます」

 

『・・・除菌だと?ただの医者の分際で偉そうにィ。やってみろ。この“病殺玉”を止めてみろよ!!』

 

 

 疱瘡婆は完成させた。この幻想郷の邪悪な物を吸収し、疱瘡婆は自身の最強の究極奥義を作り上げたのだ。

 しかし、永琳は落ち着き払っていた。冷静に、ゆっくりとバッグを開き、そこからフラスコを取り出した。

 

 

「分かったわ」

 

『え?』

 

 

 自信満々に作り出した究極奥義『病殺玉』に向けて、フラスコの蓋を外し、中の液体をかけた。あんなに時間をかけて作った技が、一瞬にして消え去った。

 

 

『な、なな、な・・・』

 

「?」

 

 

 理解できない。これは人間たちを殺してきた天然痘の集合させたマイナスエネルギーの塊なんだぞ。それをこんな簡単に?

 

 

「あっ、何が起きたか理解できない反応か。目玉しか無いから感情が分からなかったわ」

 

「お師匠?一体今のは…」

 

「これはついさっき作った『幻想天然痘対抗ワクチン』。本来の天然痘のワクチンと、苦笑(かれ)のミラクルな毒を特殊に配合したものよ」

 

「やっぱりお師匠は天才ですぅ!!」キラキラ

 

 

 そうなのだ。

 この八意永琳はマジで天才なのだ。月の中でもずば抜けた頭脳を持ち、苦笑の毒のメカニズムを解読。それをワクチンにするために調合を行なった。その間、僅か10分である。

 

 

 

『〜〜〜っ、馬鹿な人間どもを食い殺す私の算段をよくも…、よくもォ…!!こんな奴さえ来なければ幻想郷なんてェ〜っ』

 

「一言言わせてもらえる?先程、アナタは()()()()()だと侮ったみたいだけど・・・天然痘を根絶させたのは誰だと思ってるの?医者よ!アナタがバカにした医者が、天然痘を倒したのよ」

 

『何をォ…言いたい……!!』

 

「──私たちを甘く見るな。人間はどんなに劣勢でも時間がかかっても、知性を継承し、命の連鎖を通して・・・必ず対抗する手段を手に入れる!私がいなくても、お前は必ず倒れる!」

 

 

 

 長い間、全世界の人間を殺してきた天然痘。

 だが人間たちは黙ってやられるほど馬鹿ではない。昔から病と向き合い研究してきた叡智を駆使し、天然痘の全てを解明した。奴らの好む物、嫌いな物、環境、条件を全て調べ上げ、それを基に倒す武器までも作り上げたのだ。

 

 もし仮に新たなウイルスが来ても、人間たちが諦めない限り、必ず乗り越えられる。歴史がそう物語っているのだ!!

 

 

 

『私は…、私はぁぁ……“疱瘡婆”だ!今まで何万人と人を殺してきたんだ!!たかがワクチンを作られただけで……私を止められるわけがないんだァァァーーー!!』

 

 

 

 頭にある左右対称の角を振り上げて突進。

 疱瘡婆は、天然痘を感染させたとしても無駄であると察して、武力行使以外に道はないと判断。自分の最大打点を与えられるところは角であるので、あの脚力を使って、永琳を串刺しにする為に地面を蹴った。

 

 

紅矢(べにや)・・・」

 

 

 昔から疫病神は『赤色を嫌う』とされている。そして妖怪である天然痘を用いる疱瘡婆も例外ではない。赤色の物は力を封じ、退散させる力を持つのだ。

 

 

「狙いは…頭部」

 

 

 風はそよそよと吹き、木々は永琳の冷静な心を反映しているかのように優しく揺れた。彼女は一本の『紅い矢』を矢立てにセットし、弓を徐々に引いていく。その弓矢の弦はギギィと音を立てた。永琳の瞳は疱瘡婆、その一点を見つめていた。

 

 

「貫け・・・『天丸・壺中の天地』」

 

 

 そして、最後の瞬間、力強く放った。

 紅矢は空を切り、目標に向かって飛び立ち、見事に命中。疱瘡婆の頭蓋を貫通し、内部から肉体を崩壊させた。

 

 

『──』

 

 

 悲鳴を上げる間も無く、疱瘡婆は消え去り、魂だけが空に飛んでいった。きっとまた疱瘡婆は、人間たちが病に恐れた時に力を溜めて復活をするのかもしれない。だが、成長し続けるのが人間たちだ。永琳や苦笑たちがいなくても、いつの日か必ず万能薬を作れるだろう。

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 疱瘡婆が戦闘不能。

 八意永琳が主導となって、人間たちに特効薬を与え回復することに成功した。更に人里を一斉に除菌する計画が実行され、その後の調査から幻想郷において天然痘の根絶が認められた。

 

 そしてもう一つ吉報がある。それは──

 

 

「妖怪さん、あの時はびっくりしてごめんなさい」

「あの時は助けてくれてありがとうよ。俺たちはお前さんを勘違いしてたみたいだ」

「助けてくれてありがとう」

 

 

 天然痘で苦しんでいた人間たちは、苦笑が我々を助けようと必死に動き回ってくれた姿を見ていたのだ。そして認識を改めた。苦笑に助けてもらった人たちは次々と謝罪をしていた。苦笑も褒められて、謙遜しつつ笑っていた。

 

 

「コレ、全部、友達、鈴仙ノオカゲ! アリ、ガト!」

 

「私は何もしてませんよ。良い人は必ず好かれるものなんですし、これは当然の結果です!寧ろ、私がやられそうになった時に助けてくれてありがとうございます!」

 

「エ、エヘヘ…」

 

 

 鈴仙と苦笑。

 最初は色々あったが、人を助けることが好きと言う共通点からここまで仲良くなれた。

 

 

「苦笑はこれからどうするの?」

 

「エト…、実ハ」

 

「彼は、永遠亭(うち)に来て、私の研究を手伝ってもらう事になったわ」

 

 

 2人の間に、永琳が現れた。

 そしてこれから永遠亭に来ると聞いて、鈴仙はとても驚く。

 

 

「し、師匠!」

 

「彼の毒はとても未知数で興味深いわ。私のところで研究して、この毒から最強のワクチンを作りたいの!だからさっきお話ししてたのよ。ね?」

 

「ハ、ハイ!!」

 

 

 フンフンと鼻息荒くする永琳。

 普段は冷静沈着でみんなの頼れるリーダーなのだが、実はめちゃくちゃ『好奇心旺盛』なのだ!

 医学や薬学についての知識への欲求はとてつもなく、特に今回の『正反対毒』の効能には目を見張るものがある。このままにしておくなんて勿体ない。手に入れたいという気持ちが溢れ出し、こうなったのだ。

 

 

「優曇華、苦笑は今日からウチの家族でもあり、今日から()()()()()()()よ。しっかりと教えてあげてね」

 

「はい!・・・これからよろしくね、苦笑!!」

 

「ウン!!」

 

 

 生まれてからずっと一人ぼっち。疫病神ではないかと恐れられ、疎まれてきた。それでも誰かを助けたいと願い続ける。

 そんな彼に生まれて初めて、家族というものができた。これからの人生に幸あらんことを。

 

 

「あとは、アイツの処理ね」

 

 

 永琳は、未だに目を覚まさないねずみ男をチラリと見て、笑った。

 

 

 

 

 

 

「・・・ん?あれここは?って、何で俺っち縛られてんの!?」

 

 

 ねずみ男は目を覚ました。

 体の調子は良くなっているので病気は治ったのだろうが、それよりも自分の今置かれている状況に驚いていた。

 

 

「幻想郷に病気を持ち込み、蔓延させた罰は受けてもらうわよ」

 

「ば、罰ってそんな、あははは……はっ!?何その注射器!?」

 

「今から投薬実験を始めます。ちゃんと付き合ってもらうわよ、モルモットさん」

 

「もう『薬』は懲り懲りだァア〜〜〜ッ!?」

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

「──ねずみ男」

 

 

 隙間で小さく、声が聞こえた。

 

 

 

 






 いやはや、最後の人物は誰なのか?
 
 次回をお楽しみに─。


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2人目の巫女 東風谷早苗!!①

こんにちは!

 皆さんはアウトドアタイプでしょうか?
 それともインドア?

 私はインドアです。
 人と関わらずに、家の中でテレビとかYouTube見てる時が幸せだなって感じます。








 

「あー、酷い目にあった…。変な薬打ち込まれて変色したり、稼いだ金も返されちゃったし。何で俺がこんな目に遭わなきゃいけねえんだろうナァ」

 

 

 お仕置き終了後、ねずみ男はヘトヘトになりながら家に向かっていた。永遠亭、迷いの竹林から何とか抜け出して、いまの今まで必死に逃げてきたのだ。グゥグゥ鳴るお腹を抑えて、下を向きながら歩く。

 

 

「腹減ったよぉ〜……。あぁ悲しいかな。何の運命で今日も残飯なのか。偶には、高級牛肉弁当を腹一杯に食いてえなあ」

 

「ならば私がご馳走しようか?」

 

「だ、誰でい!?」

 

 

 何処からともなく女性の声がする。パッと振り向くが、誰もいない。また何か問題に巻き込まれてしまったのだろうかと震えていると、“こっちこっち”とまた背中の方から声がして、更にはツンと触られた。

 ねずみ男は小さく悲鳴をあげて、辺りを見渡すと、そこには『九つの尾を持つ短髪の女性』が立っていた。

 

 

()()()()()。ねずみ男」

 

「ひ、久しぶり…?い、いや俺たちは初対面っすよ?もし会ってたら、貴女のように美しいお姉様を忘れるわけがありませんですし」

 

「・・・え?私のこと覚えてないの?」

 

「うす」

 

「この幻想郷の創始者である八雲紫さまの従者の八雲(らん)よ、名前に聞き覚えは?」

 

「全く」

 

「──ぐすん」

 

「ファッ!?」

 

 

 突然美女が現れ、知らないと言われて泣かれる。

 突然のイベントの連続にねずみ男の頭はしっちゃかめっちゃか。思考が停止しかけていた。

 

 

「霊夢から“ねずみ男”という半妖が幻想郷に迷い込んだと聞いて、とても嬉しかったのに…私のこと覚えてないなんて……ぐすん。嗚呼、あの時に紫様が記憶を弄ったのだろうか…」

 

「ま、待ってくれよ。アンタは俺の何なんだよ!?俺の何を知ってるんだよ!」

 

「・・・お前は自分の幼少期を覚えているか?」

 

「幼少期?」

 

 

 それは遠い自分自身の過去。

 しかし、何故だろうか。自分の幼い過去の記憶に霞がかかっている。どうやって大人になるまで生き延びてきたのか、何を経験してきたのか、思い出せない。覚えているのは、()()()()()()()()鹿()()()()()()()()()だ。

 

 

「何も覚えてねえし、思い出したくもねえよ…」

 

「そうか。それは悪いことをした。申し訳ない。・・・だが、これは忘れないでくれ。()()()はお前の味方だからな」

 

 

 一瞬、悲しそうな顔をしてから彼女の背後に亀裂が走る。そしてゆっくりとその謎の空間に入り、消えて行った。

 

 

「な、何だったんだ。・・・っておい!飯奢ってくれるんじゃねえのかよ!!おーい!戻ってこーい!!」

 

 

 叫び声が闇の中に響き渡る。

 ただただ自分の声が吸い込まれていくのを聞いて、大きなため息をついた。

 

 

「ダメだ。叫んでたら腹が減る。と、とにかく、里に帰らなきゃ…」

 

 

 ねずみ男の胃がグゥグゥからギューゴロゴロと大きな音になっていき、食べ物を求める欲望が彼の体を支配していた。しかし、長い仕置きの疲れがねずみ男の意識を朦朧とさせ、里の前まで進むことが難しくなった。

 

 

「あ、れ・・・」

 

 

 気づけば、迷子になり、見知らぬ道を彷徨っていた。目の前には博麗神社に酷似した苔むす石階段が続いている。そこに立った瞬間、不思議な静寂が彼を包み込んでいく。まるで神秘的な場所に迷い込んだかのようだった。

 

 

「あっ、も、もうダメだ…。げ、限界……っ」

 

 

 ねずみ男は遂に力尽く。

 ばたりと崩れ落ち倒れ、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──えっ!?行き倒れ!?」

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

「ん・・・いい匂い」

 

 

 鼻腔をくすぐる味噌汁の匂い。

 ねずみ男は、ゆっくりと目を覚ました。知らない天井だった。最後に見た光景は訳のわからない山道だったはずなのに、今は布団の上にいる。とりあえず匂いのする方は歩き出した。

 

 

「ふふーんふーん♪」

 

 

 寝室を出ると、台所に着いた。

 そこでは鍋の中でオタマをくるくると回していた。その隣では釜がグツグツと音を立てており、更には焼き魚も見えた。

 だがそれよりも・・・エプロン姿の女子に、ねずみ男は心奪われていたのだ。

 

 

「良い…」

 

 

 ポツリと呟く。

 その声に反応して、エプロン姿の女子がこちらを向いた。髪の毛は緑色、蛇の形の髪留めをつけた可愛らしい女の子だ。

 

 

「あっ、起きましたね」

 

「ええと…、これ夢っすか?」

 

「あはは、夢じゃありませんよ。ええと……貴方はこの神社の前で倒れていたんです。それでほっとけなくて、助けたんです」

 

「そうなんすか!いやぁ、お恥ずかしい限りで!かれこれ3日くらい生ゴミしか食べてなかったんで」

 

「な、生ゴミぃ!?…それはそれは壮絶な人生を歩んでいらしたんですね。色々聞きたいですが、とりあえずご飯にしましょ!腹が減っては何とやら、です!」

 

「マジ!?やったーー!久しぶりのご飯だぁ」

 

 

 部屋の真ん中にちゃぶ台が置いてある。

 その上に彼女の分と、ねずみ男の分と、そしてあと2人誰かの分の食事が置かれていた。ねずみ男は丼が置かれた場所に座る。

 

 

「他に家族が?」

 

「ええ。今呼んできますので、みんな揃ってから一緒に“いただきます”しましょ!」

 

「はい!!でへへへ」

 

「神奈子さまー!諏訪子さまー!朝餉の時間ですよー!」

 

 

 どちらも女性の名前。

 遠くの方からこの部屋まで足音が向かってくる。段々とこの部屋に近づくに連れて、ねずみ男の全身に電気が走るかのように、ピリピリとした感覚が広がってくる。

 

 

「わーい!ご飯だ、ご飯!」

 

「いつもありがとね、早苗」

 

 

 座っていたねずみ男は反射的に立ち上がる。

 一瞬で全身から汗が吹き出した。ねずみ男はこの感覚は知っていた。かつて『牛鬼』という妖怪を倒してもらうために顕現した『迦楼羅(カルラ)さま』と同じ神聖な感覚だ。

 

 

「この気配っ、まさか・・・“神”っっっ!?!?」

 

「「そうだけど?」」

 

 

 

 ここは『守矢神社』。

 妖怪の山の頂上にある()()()()から来た神社である。外から神社ごと幻想郷に転移し、ここに降り立った。主な信者は、ここの山に住む妖怪たちであり人間は少ない。だがある程度人間たちもいるので、里からここに向かうための索道が作られている。この守矢神社の住民は、巫女と二神である。

 

 ねずみ男は里に向かおうとして、いつしかこの道に迷い込んでしまったのだ。

 

 

「・・・」

 

「あれぇ?んぐ……箸が進んでないんじゃないノ?」

 

「こんなに美味しいのに?」

 

「そうですよ。私、結構料理には自信があるんですよ?ええと・・・」

 

「あっ、お、私は“ビビビのねずみ男”です、はい。数日前にこの世界にやってきました」

 

「外来人だったんですね。ではこちらも自己紹介を!」

 

 

 ねずみ男が名乗ったのを皮切りに、お互いに自己紹介を始める。

 

 

「私はこの守矢神社の巫女!『東風谷(こちや)早苗(さなえ)』です!──こちらの2人は私の家族であり、この神社に祀られる神様の『八坂神奈子』さまと『洩矢諏訪子』さまです!」

 

「どうも」

 

「よろしくー。信仰してくれたら子孫繁栄、家内安全、五穀豊穣は約束するよ」

 

 

 八坂神奈子と呼ばれる神は、髪の色は青紫。頭と背中には注連縄が巻かれていた。そしてもう1人の洩矢諏訪子と呼ばれる小さな神はカエルをあしらった帽子を被っている姿をしていた。

 

 

「私たちも元々は外の世界の出身者なんですよ!仲間ですね!」

 

「えっ!アンタらも俺と同じで無理やり?」

 

「いえ、私たちは望んでここに来ました」

 

「望んで?そりゃまたどんな理由で?」

 

 

 一瞬時が止まった。

 明るい空気が重くなった。ねずみ男は何かまずい事を言ったのかと思ったが、その空気を早苗は振り払う。

 

 

「それは〜……ひみつ、なんて。あはは」

 

 

 早苗は笑っていた。そして何か話したくない様子だった。

 教えてよん、と追求したかったが、二神がいる前で出来ないと思い、自重する。少し重くなった空気を変えるために神奈子がごほんと咳払いをする。

 

 

「そんな事よりも早く食べちゃいましょう。折角、早苗が作ってくれたんだから」

 

「そーだよ、ねずみ男」

 

「はい!あぐっ…うっ、うめぇえーーーっ!!!?」

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

「ふぃ〜食った食った…。幸せ〜、ご馳走様ぁ」

 

「お粗末さまでした」

 

 

 食事が終わった。

 男の人がいるからと早苗は8合くらい炊いたのだが、ねずみ男は久しぶりの温かい食事に感動し、お代わりをたくさんして完食してしまったのだ。流石の神様たちも目を丸くするが良い食べっぷりだと笑った。腹がパンパンに膨れ上がった彼は縁側で横になる。

 

 

「お口に合いました?」

 

「もう最高よん。毎日食べたいくらい…げぷぅ」

 

「なら良かった」

 

 

 せっせと片付けを始める早苗。

 それを見て、歳に似合わず立派だと感心する。大体高校生くらいだろうか。それにしても彼女は何故ここに来たのだろうか。外の世界には友人や家族を置いてきたのだろうか。

 

 

「・・・気になりますか?」

 

「え?」

 

「私が何故ここに来たのか、気になるんでしょ?顔に書いてありますよ」

 

「ば、バレた?」

 

「ふふっ、ねずみ男さんって正直なんですね」

 

 

 洗い物を始めながら、早苗は笑う。

 二神たちは部屋の奥に行ってしまったので、今なら聞けるだろうか?とねずみ男は悩んでいたのだが、予想外にも早苗自身が語り始めた。

 

 

「実は私──『すみません』」

 

 

 早苗が語りかけた時、その言葉を遮るものが現れた。

 2人が振り向くと、外には杖をついた老人が立っていた。早苗を見て、ぺこりと頭を下げる。

 

 

「続きはまた今度ですね」

 

「そうだな」

 

「コホン………はーい!何でしょう!もしかしてご入信ですか?」

 

「いえ。守矢神社の巫女様にお願いがあってまいりました。…“生贄”を止めて頂きたいのです」

 

「「生贄・・・!?」」

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 老人の名は『花村 武敏』。

 人間の里で古くから続いてきた酒屋の40代当主である。幻想郷で酒を扱う店はとても少なく、人間たち、特に大人の娯楽の一つである酒を売っていることからとても繁盛していた一族であった。

 

 

「それで花村さん。生贄とは、具体的に…」

 

「はい。先日の事です。・・・」

 

 

 花村武敏はあの出来事をポツリポツリと語り始めた。その語る顔はとても怯えていた。

 

 

 

『──いつものように私たち家族が店を開こうとすると、家の前に小さな小さな毛玉のような妖怪が立っておりました。その妖怪は、家の中に入ると我々にこう言ったのです。

 

【俺は毛目玉(けめだま)。神主である!!今日は、“かみさま”の伝言を伝えに参上した。・・・1週間後、この家の20歳になる娘を生贄として捧げろ。捧げなければ、この一族を滅亡させる。・・・との事だ。俺が迎えに来るので、必ず準備をしておくように】

 

 私どもは勿論、反論しました。訳がわからないのですから。しかし毛目玉という妖怪は当然だと言うように、また言いました。

 

【知らないのか?この酒屋は、“かみさま”の力でここまで繁栄してきたのだ。ここの1代目当主『花村喜一郎』とかみさまが約束し、毎年夏に『髪の毛神社』にお供え物をする条件で繁栄させた。それなのに、いつしか約束が忘れられ、お供え物が来ない。だからこそ、今年は必ず頂くのだ。娘をなぁ・・・】

 

 私どもは大変驚きました。そんな約束聞いたことがなかったからです。きっと先代たちも伝えられてこなかったのでしょう。そのツケが回って来たのです。ですが、はいそうですか、と了承なんかしたくない。大切な孫娘を神になど捧げたくないのです。だからこそ、ここを頼らせていただきました』

 

 

 

 因みにだが、ここを選んだ理由としては安全に来れるからである。博麗神社に頼っても良いが、守矢神社と違って襲われる可能性が高く、死んでしまうのでこっちにしたのだ。

 

 

「何だか今日は、『神』の話ばっかりだなァ」

 

「それにしても生贄…。よほど古い神様なのかな」

 

 

 ねずみ男はあまり興味がなさそうだった。

 早苗の隣で鼻をほじり始める。

 

 

「けど悪いのはアンタら一族だろ?約束破った先祖の罪は、今生きるアンタらの罪ってもんだ。知らぬ存ぜぬは意味ないだろうし、ここは黙って娘を差し出すんだな」

 

「うぅっ、そんなこと言わないで!お願いです、どうか助けてください!()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「もーちょい、今の所詳しく聞こうじゃないノ!」

 

「ねずみ男さん!」

 

 

 早苗が、ねずみ男の髭を引っ張る。

 痛い痛いと抵抗した。

 

 

「だってよ、くれるって言うんだぜ。金はあっても困らねえだろう」

 

「人の弱みにつけ込むのは巫女として許しません。それにこの話は、私に来たんですから、ねずみ男さんは外に出ててくださいね!ほらほら」

 

「えっ、ちょっ!?」

 

 

 確かにねずみ男はここでは部外者。

 ねずみ男はポイと追い出される。ねずみ男は舌打ちをして出て行こうとするが、実はこっそりと裏手に回って2人の話を聞いていた。

 

 

「それで、その毛目玉は他に何か言ってませんでした?」

 

「ええと…、妖怪の山の顔面岩から来たとも言っておりました」

 

「顔面岩。確か、顔の形をした大きな岩があって……ちょうど口の部分が洞窟になってる場所。中に入ったことはなかったな……」

 

 

 ねずみ男はニヤリと笑う。

 命の恩人である早苗には悪いが、金が絡むなら話は別だ。その顔面岩に先回りして問題を解決してやろうと思いついた。

 

 

「神様だか何だか知らねえけど……、神主の毛目玉ってやつは小さいんだろ。俺でも倒せそうだな。ケケケケ」

 

 

 ねずみ男はさっさと出て行った。

 一方で、早苗と花村との会話に諏訪子と神奈子が参加する。2人の顔は何だか怪訝そうな顔であった。

 

 

「どうしました?」

 

「悪い。立ち聞きしちゃってさ」

 

「それでちょっとね」

 

 

 そう言って2人は座る。

 花村はその威厳に汗を流した。そりゃあ本物の神が目の前にいるのだから、恐れない方がおかしい。

 

 

「生贄ってのが納得いかなくてね」

 

「確かに、神的には手っ取り早く信仰と畏れを集めるには丁度良いかも知れないけど……ここは幻想郷だよ。生贄なんてしなくても信仰は集められるじゃん。だから私たちは幻想郷に来たんだしね」

 

「そう、ですね」

 

 

 全てを受け入れるからこそ、信仰を集めるのに最も適している幻想郷に移住してきた。移住して信仰を集め、神を存在させる。早苗たちは全てを投げ捨てて、やって来たのだ。

 

 

「それなのにわざわざ生贄を選ぶ。・・・本当に神なのか?そいつは」

 

「もしくは……悪神だったりして!私が言えたことじゃないけどね♪」ケロケロ

 

「えっ?」

 

「こっちの話だよ、花村くん。・・・それよりも、マジで悪神ならさ。早苗……アンタじゃ勝てない。神は人間に倒せない」

 

「・・・っ」

 

「そう暗い顔しない!大丈夫!アタシが一緒に着いてくから」

 

 

 そう言って、早苗の膝の上に向き合うように座る。

 そして優しく抱きしめた。

 

 

「大丈夫…、早苗は絶対に私たちが守るからね」

 

「神社の方は私に任せな。諏訪子頼んだよ」

 

「あーい、お任せあれ」

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

「ちゅーちゅーちゅー」

 

 

 ねずみ男は、ゴミ捨て場にいるドブネズミたちを総動員させ、顔面岩の場所を探させる。これが彼の能力の一つである『ネズミとの会話』である。因みに鬼太郎はカラスや虫などと話せるのだ。

 

 

「なるほど。ここが顔面岩か。確かに人間の顔だわな。どれ、中に入ってみましょうかネ」

 

『おい、この先に何か用か?』

 

 

 足元で声がする。

 ねずみ男が下を見ると、そこには目玉の親父に毛を生やしたような妖怪が立っていた。

 

 

「お前が毛目玉ってやつか」

 

『俺を知ってるのか? まぁいい。ここから先は神聖な場所なんだ。お参り以外なら出て行けよ』

 

「ふんっ、悪いが俺は無神論者なんでね。それよりも俺様はお前を倒しに来たんだよ」

 

『何だと!?』

 

 

 ねずみ男はニヤリと笑い、裾を持ち上げる。

 ブラリンと自分のナニを毛目玉に向けた。ジョボボボと豪快に音を立てる。

 

 

「喰らえっ」

 

『ひゃあっ!?』

 

 

 ねずみ男は、毛目玉に発射した。

 体の小さな毛目玉は、流されかけてしまう。近くの草に掴まり、何とか危機から脱出する。

 

 

「ほれほれ、キキキキ…。これで謝礼は俺のもんだ」

 

『や、うげぇっ!?やめっ、やめてくれぇ〜!?()()()()()を話すからやめてくれぇい!』

 

「すごい秘密?」

 

 

 ねずみ男はぴくりと反応する。ちゃんと話を聞くために発射をやめた。毛目玉は近くにあった葉っぱで体を拭くと、ねずみ男に土下座をする。

 

 

『じ、実はこの洞窟の奥には、“髪の毛神社”がありまして……。そこに売れば一億円もする鏡があるのです!!どうでしょう?その鏡を差し上げますから……許してくださりませんか?』

 

「一億円っ!?」フハッ

 

 

 フハッと鼻息荒くする。

 即座に脳内で計算を始めた。わざわざ危険な目にあって謝礼を貰うよりも、売れば一億円もする鏡がある。楽して儲けるのがモットーの彼はすぐに考えを切り替えた。

 

 

「・・・よしよし、案内しろ。毛目玉くん」

 

『はい!こちらです』

 

「中は意外と広いんだなぁ…」

 

 

 顔面岩の口のトンネルの中。

 その先には小さな社があった。そして社の中央には、確かに高価そうな鏡が鎮座していた。

 

 

『これです!これが宝の鏡なんです!』

 

「よしよし。本当だったようだな。どれ、俺はこれを売りに行くからな。あとは生贄でも何でも勝手にしてなさいよ。へへへ…」

 

 

 ねずみ男は鏡に手を伸ばす。

 その瞬間!!

 鏡の中から長い髪の毛が伸びていき、ねずみ男の手に絡みついた。そしてそのまま鏡の中に引っ張っていく。

 

 

「ゲゲゲェェッ!?何だってんだよォッ!あぁっ、吸い込まれるっ、助けて!助けてェーーーッッ……・・・」

 

 

 スポンと、ねずみ男は鏡の中に吸い込まれていった。

 鏡の周りが鈍く光る。

 そして光った直後に、今度は鏡の中から『髪の毛の塊』が飛び出して来た。例えるなら長髪のカツラである。そして髪の毛の中に目玉が一つだけ存在していた。

 

 

『何だ今のは……!?妖力が殆どないカスだったぞ!?』

 

 

 その髪の毛の塊は、毛目玉にギョロリと単眼を向ける。

 毛目玉は小さな体をガタガタと震わした。

 

 

『毛目玉!貴様、適当なものを儂に喰わせたのか!?』

 

『ち、違います!少しでも貴方様の力になればと思いまして…!けど直ぐに生贄を用意させますから!』

 

『ヌゥウウウ……!!言い訳なんぞ許さんぞォッ!!』

 

『お許しを!どうかぁっ!!』

 

『カァアァァァッ!!』

 

 

 

──バヂィィィイィィィーーーッッ!!!!

 

 

 

 目玉から電気が発射。

 毛目玉に直撃し、その衝撃が全身を痺れさせた。全身に火傷を負い、抵抗できずに辛苦の悲鳴をあげる。

 

 

『ぎゃあああっ!?』

 

『フゥッ、フゥッ……。それにしても今の小汚い男…、“生贄”の事を知っていたな。 花村のやつ、密告したな。儂の事をバラしたなァァァ……。目に物見せてやる』

 

 

 毛目玉は這いつくばりながら、目の前の神に手を伸ばす。

 涙を流していた。痛みからの涙か?悔しさ?それとも憐れみ、悲しみ?何の理由かはわからないが涙を流していたのだ。

 

 

『行ってはなりませんっ、かみさま…。生贄を待つべきです!……今出てはお身体が…身体が壊れてしまいます!!』

 

『黙れ!!神に意見するな!』

 

 

 髪の毛を伸ばし、転がる毛目玉を締め付ける。

 ググッと首を絞めた。

 

 

『ぐぅっ、ぐるじい…』

 

『儂は神だぞ。神を敬わぬ者には罰を…、罰をォッ!!』

 

『ぐえっ』

 

 

 毛目玉を投げ捨てて、髪の毛の塊はふわりと空へ飛ぶ。

 そして里に向かって飛んで行った。

 

 

 

 

 少し経ったタイミングで、顔面岩の洞窟に早苗が入って来た。彼女の肩にはカエルが乗っていた。

 

 

「やっぱり神社の外に出ると、力を失っちゃうんですね」

 

「ケロケロ。でも可愛いケロ?」

 

「諏訪子さまはオタマジャクシになっても可愛いですよ。……そろそろですね」

 

「ケロ」

 

「あれって……?」

 

 

 洞窟の先には、ボロボロになった小さな社があった。

 そこには鏡と、全身に火傷を負った小さな妖怪が転がっていた。早苗は直ぐに駆け寄る。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

「早苗、罠かもしれないケロ!こいつが、花村が言ってた“毛目玉”ってやつかもケロ」

 

「それでもです!人間も妖怪も、目の前で苦しんでいたら助けると決めてます!!」

 

 

 直ぐに回復効果のある護符を取り出す。

 応急処置のために作った物だが効果は本物だ。貼り付けると、毛目玉の火傷が治ってくる。完治までとはいかないが、グジュグジュと焼け爛れた皮膚に薄い膜が張られていく。

 

 

『うっ、うぅっ…』

 

「大丈夫ですか?喋れますか?」

 

『うぐぅっ』

 

 

 一瞬だけ目を覚まし、また寝た。

 早苗は手のひらに乗せた。

 

 

「直ぐにウチに運ばなきゃ」

 

「早苗!これを見るケロ!」

 

 

 諏訪子カエルの指差す先には、鏡があった。

 中を覗くと『ねずみ男』がいた。声は聞こえないが、何か叫んでいるようだった。

 

 

「ねずみ男さん!?何でここに!」

 

「とりあえず、この鏡も持っていくケロ」

 

「はい!」

 

 

 

 

※※

 

 

 

 守矢神社。

 毛目玉は布団の中で眠っている。全身にたっぷりの火傷治しの薬を塗ってあるので、治るのは時間の問題だろう。

 

 一方で、神奈子と諏訪子は鏡の前で格闘していた。神力を発動させると、ガタガタと鏡が揺れ始めた。

 

 

「くぅっ、手強いな。これ」

 

「まぁ、神の領域(よそさま)の家に不法侵入してる訳だしね!」

 

「でも」

 

「私らに突破できない壁は」

 

「「ない!!」」

 

 

 その鏡から、ねずみ男が飛び出した。

 ねずみ男は少し痩せており、生気が吸われてしまったのだろう。

 

 

「し、死ぬかと思った……って、ひぃっ!?神様ぁっ」

 

「何したんだよ、こんなところに閉じ込められるなんて」

 

「えっ、俺は、そうだ!歩いてたら、そこにいる毛目玉に騙されて閉じ込められたんだ!野郎!叩き起こしてやる!!」

 

「待て待て。アイツは重要参考人ってやつだ」

 

 

 ねずみ男が騒いだ。

 すると毛目玉の体はぴくりと動き、ゆっくりと目を覚ます。

 

 

『ん……』

 

「起きました?」

 

『お、お前は?』

 

「私は、この守矢神社の巫女の早苗と申します。そしてあそこに居られますのが、この神社の祭神の諏訪子さまと加奈子さまです」

 

 

 早苗が紹介すると、2人は毛目玉に手を振った。

 段々と意識がはっきりして来て、毛目玉は自分の状況を察する。自分は手当てしてもらい、ここまで運んでもらったのだ。

 

 

『助けてくれたのか。ありがとう早苗殿。そして神様方』

 

「おい!俺に挨拶と謝罪はどうしたんだよ!このペテン師目玉!」

 

『お前は…俺にションベンをかけた守銭奴!俺を退治して謝礼はもらったのか!』

 

「「「えっ?」」」

 

「ばかっ!黙って──」

 

「結局、自業自得かい!それに勝手に早苗の依頼を取ろうなんて!ちょっとそこに座りな!拳骨喰らわしてやる!」

 

「ひぃっ!?」

 

 

 神奈子に拳骨を落とされる。

 ボコンと殴られ、頭に大きなタンコブをつける。まぁ悪いのは彼なので、全ては自業自得。

 

 

「キュゥ…」

 

「それで本題に戻ろうか。早苗、頼むよ」

 

「はい。……毛目玉さん、教えてください。生贄のことを、花村さんの一族のことも」

 

『そ、それは出来ない…』

 

 

 毛目玉は、布団から出ると頭を下げる。

 近くにあった茶碗と同じ大きさであるが、土下座の形になると余計に小さく見える。

 

 

『助けてくれたのは感謝するが、かみさまを…裏切るわけにはいかない……っ』

 

「そう思うという事は…、貴方は、崇める神の行いは間違っていると自覚しているんですね」

 

『──だ、だが、かみさまの気持ちを考えればっ』

 

「なるほどな。生贄を求める理由はそういうことか」

 

 

 隣で聞いていた神奈子と諏訪子。

 何か思うところがあるのだろう。

 

 

「その神様は…信仰がなくなったんだね」

 

『!!』

 

「その反応、図星か」

 

 

 指摘されて、毛目玉はもう言い逃れできなくなった。観念したのか、毛目玉はどうしてこうなってしまったのか経緯を話し始める。

 

 

『かみさまは…、元々はあの洞窟の土着神だった。まぁ……信仰する者は殆ど居ない。元々信者だった俺は…廃れる神を悲しみ、神主を始めたんだ』

 

 

 土着神。

 その土地で強い存在を放つ自然物、例えば岩や大木、湖といった物に宿る神である。

 元々はただの自然物であっても、人々が敬い、信仰する事で、それは神聖な物となる。皆様も見た事はないだろうか?家の周辺や近くの山、旅行先などで注連縄が巻かれた物を。それを土着神と呼ぶ。

 そして昔から言われているのは、土着神は、必ず『〜さま』をつけなければならない。敬い、畏れ、尊敬しなければ必ず祟られる。

 

 

『そこに花村喜一郎が現れた。……彼は社と、御神体の鏡を用意し、一族が毎年食べ物や酒を捧げ、敬い続ける事を条件に子孫繁栄と商売繁盛を契約をしたんだ。かみさまは……その条件を飲み、願いを叶えた』

 

 

『だが、それは初めのうちだけだった。時が経つにつれて……花村家は来なくなった。だが、かみさまはきっと来ると信じて力を使い続けた結果、段々と弱ったのだ』

 

 

『信仰を失った神が・・・、どうなるのか知っているか!?消えるか、堕ちて妖怪になるんだ!!』

 

「・・・」

 

 

 毛目玉は泣いていた。

 涙がボロボロと落ちて、足元に水溜りができていく。何度も何度も頭を掻きむしり、目玉が充血していった。

 

 

『俺は必死に…、必死に……考えた。信仰を取り戻す方法を考えて、考えて考えて……閃いたんだよ』

 

「それが……生贄」

 

『人間の恐怖こそが、何よりも手っ取り早く恐怖を手に入れる方法。昔からの畏敬の念を集める手段。……俺が、かみさまにそれを提案したんだ』

 

「でも分かってるのかい?神主として生贄を与える行為の意味を…」

 

『知ってるよ。でもなぁ……、かみさまを救う為なら…、ずっと一緒にいた()()()()()()()なら……俺は堕ちるところまで堕ちてやる!!』

 

「・・・!」

 

 

 

 早苗は、毛目玉を見て唇を噛むと同時に考える。

 ああ。

 私と彼は同じなんだ。──これは私の過去そのものなんだ、と。

 

 それでも、同情してはいけない。

 生贄も確かに考えたことはあるが、それをしない為に幻想郷にやって来たんだから。私たちは間違っていないと証明しないといけないのだから。

 

 

 

「それでも……、私はあなたの“神様”を倒します。毛目玉さん。貴方だって見たくないでしょう。家族が…誰かを傷つけて暴れる姿は……」

 

『・・・!』

 

 

 毛目玉は、やめてくれと言わなかった。

 きっと彼も願っていたのだ。

 【お前は間違っているんだ】と注意して、自分の行いを止めてくれるのを。

 

 

 そんな時だ。

 息を切らしながら、階段をかけてくる音がした。体が弱っているのに老骨に鞭打って花村武敏がやってきた。

 

 

「たっ、大変です!!髪が…っ、髪がぁ〜〜っ!!」

 

「髪?」

 

 

 花村武敏に起きた異変。

 彼の髪の毛が無かった。やって来た時には綺麗な白髪があったというのに、今ではツンツルテンになっていた。

 

 

「あらぁ〜っ、ハゲてるぜ。綺麗によ」

 

 

 ねずみ男の指摘通り。

 彼は毛根から全てを奪われていたのだ。

 

 

「里の人間たちのっ!()()()()()()()()()()()()()()ぁあ〜〜〜っ!!??」

 

 

 

 

 





 今回の妖怪(ゲスト)はだーれだ?
 ヒントは、“髪の毛” “神様と妖怪の中間”です!

 今回のストーリーは、怪物になったAのために、その家族が人間を与えるみたいな感じです。

 みんなも好きな人が大変な目にあったら?誰かを犠牲にしてでも助けたいですか?



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2人目の巫女 東風谷早苗!!②

こんにちは

 今回の話で、スキンヘッドについて言及しているシーンがありますが、決してスキンヘッドの事を馬鹿にする意図はありません。不快になられる方がおりましたら、今ここで謝罪をさせていただきます。












 

 

『髪さまが暴走したんだ…!あ、ああああ…っ、俺が、俺が生贄を用意するなんて言って希望を持たせたせいで…っ!!』

 

「毛目玉さん…っ」

 

『髪さまぁ、髪さまぁぁぁ…、どうかお止めくださいっ、本当に人に手を出したりしたら、貴方への信仰が失われてしまうっ!信仰ではなく、憎悪に変わってしまうぅぅぅぅ……!!』

 

 

 毛目玉が生贄を与えるといい安心していたが、人間たちが生贄の用意もせず、更には他のものに助けを求めた。その行為に裏切りを感じて、遂に暴れ出した。毛目玉は、自分の行為は間違っていたことや、髪さまを失ってしまう恐怖で泣き叫んでいた。

 

 

「早く何とかしないと…っ」

 

「早苗、ちょっと待って」

 

「? どうしました?諏訪子さま」

 

「ちょっとしゃがんで」

 

「わ、分かりました?」

 

 

 スッとしゃがむと、諏訪子は彼女の髪の毛にキスをした。チュッという可愛い音とその行為に早苗は驚く。

 

 

「諏訪子さまっ!?どうしたんです!?」

 

「無事に帰ってこれる、おまじないだよ」ケロケロ

 

 

 そう言って、早苗を優しく抱きしめる。自分よりも小さい諏訪子に抱きしめられ、全身に愛情を感じる。

 

 

「今回の相手は、きっと早苗にとって辛いものになると思う。だけど忘れないで…。私も、神奈子も、早苗の味方だからね」

 

「諏訪子さま。……ありがとうございます」

 

「それじゃあいってきな」

 

「はい!行ってきます!!」

 

 

 

 

※※

 

 

 

「神奈子さま」

 

「どうした、早苗?」

 

「今から毛目玉さんの信仰する神を倒しに行く。・・・この私の考えは間違っているでしょうか?」

 

「私が決める事じゃない。早苗の心はどう変わったんだ?」

 

「私は……倒したくありません。まだ希望が残っているのなら、また毛目玉さんに合わせてあげたいです。だって家族なんですから」

 

「そう、か。やっぱり早苗は優しい子だな!」

 

 

 不安がる早苗の頭を優しく撫でる。

 

 

「ならそうしなさい。私も必ず手伝うからさ」

 

「神奈子さま、ありがとうございます。私は良い家族に恵まれています」

 

「ほら、目をウルウルさせるのは止めな。もう着くよ」

 

「はい!」

 

 

 里に一向は辿り着く。

 

 

「「「!!」」」

 

 

 そこで見た光景に神奈子、早苗、ねずみ男が息を呑む。男も女も、子どもも老人も、犬も猫も鳥も、妖怪も妖精も関係なく、里の中にいた生物は皆んなツンツルテンになっていた。真上にある太陽の光が反射するくらいに抜かれてしまっていた。

 

 

「ひ、ひどい…っ、髪は女の命だっていうのに…っ」

 

「早苗殿ー!」

「早苗ー!」

 

 

 早苗たちに気づいた二人組がやってくる。

 両者は手拭いや帽子で頭を隠している。その表情は悔しそうで、同じ女であるからこそ、その気持ちはひどく伝わってくる。

 

 

「慧音さんっ、魔理沙さんっ!」

 

「すまない…、守護者だというのにこのザマだ…。髪の毛を取られ、この姿を見られたくないという羞恥心で動けなかった…っ」

 

「私もだぜっ。八卦炉で、あの髪の毛のバケモンをブッ飛ばそうと思ったけど…この姿じゃ……っ!!」

 

 

 スキンヘッドは普通におしゃれだ。

 今では女性でも、スキンヘッドにする方もいる。だが、それは望んで行うものであり、スキンヘッドにしたくない人からすると無理やりやられるのは苦痛であろう。

 

 

「大丈夫です。私が必ず説得してみせます!」

 

「くぅっ、頼んだ…っ」

 

「ぐうたら霊夢は来ないみたいだし……、早苗に託すぜ」

 

 

 早苗は魔理沙と慧音の想いを受け止める。

 ねずみ男は、里の人間たちの困った様子を見て、ニヤリと笑う。何かを思いついたのだろう。

 

 

「そこら辺の川の水を、毛生え薬って事で売ったら大儲けできたりし──あっ、あらァッ!?!?」

 

 

 ねずみ男の()()しかない髪の毛。

 それがピクピクと動き始めたかと思いきや、スポンと抜け、飛んで行ってしまった!

 

 

「お、俺っちの大切な髪の毛ェェーーーっ!?!?待ってくれェェいっっ!?」

 

「何処かに飛んでいくようだね」

 

「追いかけましょう!!」

 

 

 抜けた髪の毛は何処かに向かって飛んでいく。

 ねずみ男たちはその後を必死に追いかける。辿り着いた先は花村家。里に住む者たちの髪の毛が全部この家を中心に集まっていた。

 

 

「ここは花村さんの家…」

 

「俺っちの髪の毛! ゲットォォォーーーッ!!」

 

 

 ねずみ男は髪の毛の山に飛び込む。

 ザバンと山の中に入った瞬間、紫色の電気が流れ、ねずみ男は吹っ飛ぶほどの威力で感電する。

 

 

「シビレビレェェ〜〜〜ッ!?!?」

 

 

 黒焦げになるねずみ男。

 そんな彼を尻目に、髪の毛の山が花村家を壊そうと巻きつき始める。ミシミシ、ギシギシという嫌な音が響いてくる。

 

 

『鏡から出れたのは褒めてやるが、何とまぁ馬鹿な男だ。儂の加護が宿った髪の毛に触るからそうなるのだ。まさに“触らぬ()に祟りなし”だな!』

 

「あひぃ〜…」

 

『どれ…。髪の毛だけではなく、全身の毛を奪ってやろう…!!』

 

 

 今回の黒幕。

 長い髪の毛の塊が、ねずみ男に自身の体毛を伸ばそうとする。

 

 

「待ちなさい!!」

 

『誰だ?』

 

 

 早苗が間一髪でねずみ男を救出する。

 神奈子は、ねずみ男を避難させようと背を向けている早苗の前に立つ。神奈子の姿を見て、敵は動きを止める。

 

 

「私は守谷神社の巫女、東風谷早苗!貴方を止めに来ました」

 

「そして守矢神社に祀られている神・・・八坂神奈子!貴殿も名乗ってもらおうか?」

 

『儂の名だと?儂の名は……』

 

 

 妖力?

 神力?

 どちらとも言えない力が高まってくる。この存在は堕ちかけている。だから妖力と神力の二つを感じるのだろう。

 

 

『儂は髪の毛神社の──“(かみ)さま”!!余所者の神と巫女が…、儂の邪魔をするなァァァアーーーッ!!』

 

 

 

 『髪さま』

 髪の毛神社に祀られている神。姿は長髪の中央に目玉が一つだけある。夜叉という妖怪に似ているのが特徴だ。髪の毛を操る力を持つが、元々は「髪の毛を美しくする・子孫繁栄・商売繁盛」を司る。

 

 古代の人間たちに神聖視された人面岩に宿った神であるが、花村喜一郎の手により社と御神体を用意されたことにより、土着神から祭神へと変わった。祭神になった事により強い力を得られたが、信仰心が無いと生きていけない体になってしまう。

 

 花村家から忘れられ信仰が減った事と毛目玉だけが信仰していることから、神と妖怪の中間の存在になってしまった。

 

 

 

「髪さま、お願いです!どうか大人しく皆さんに髪の毛を返してくれませんか?こんなやり方は間違ってます!」

 

『断る…!生贄を遣さないというのならっ、儂の恐ろしさをみせてやるのだ!まずは髪の毛の山で家を壊す。次は、そのまま潰してやるゥ!!』

 

「毛目玉さんから事情は聞きました!私たちも、髪さまの気持ちが痛いほどわかります!だからこそ、ここは──」

 

『黙れェェッ!! 気持ちが分かるなどと……知った風な口を聞くなァッ!!』

 

 

 

 目玉から紫色の電撃。

 ねずみ男や毛目玉を一撃でノックアウトさせた髪さまの必殺技だ。それを早苗に発射するが、神奈子がそれを両手で防ぐ。

 

 

 

「早苗、今の状態では会話は無理だ。怒りに飲まれている!とりあえず私は髪さまを何とかするから、あの山を頼めるか?」

 

「──っ、分かりました。お願いします!」

 

 

 2人だからできる作業。

 早苗は護符を取り出して髪の毛の山へ向かう。神奈子は御柱と呼ばれる4本の柱を顕現させる。

 

 

『このまま家の中の人間を圧死させてやる…!!』

 

「させません!!開海『モーゼの奇跡』!」

 

『何ぃ!?』

 

 

 護符を投げつける。

 すると、髪の毛の山の一箇所がパカリと開き、家の壁が見えた。そこに弾幕を打ち込み、穴を開ける。その穴から家の中にいた花村一家や使用人たちが助けてと叫んでいるのが見えた。

 

 

「皆さん!そこから出てください!!私はもっと出口を作ります!」

 

『邪魔するな、小娘がァッ!!』

 

 

 早苗に敵意を向ける髪さま。

 しかし、神奈子が間に入る。

 

 

「それはこっちのセリフだ」

 

『どいつもこいつもォォ…ッ!?』

 

「御柱よ、吹き飛ばせ。──流星御柱(メテオリック・オンバシラ)

 

『!!』

 

 

 4本中の一本。

 御柱がその場で輝きを増し、発射された。その御柱が高速で空中を舞い、髪さまに直撃すると上空へ吹き飛ばした。

 

 

『よくもォォォ……!』

 

「やっぱりダメージはほとんどないな」

 

 

 髪さまは、その名の通り『髪の毛』で出来ている。

 台風の日に大木は折れるが柔らかい葉は吹き飛ばされないように、完全なる脱力……いや、力が入っていない髪の毛は全ての物理攻撃を受け流す。

 

 

『儂の邪魔をするというなら、例え同じ神だとしても容赦はせんぞォッ!!』

 

「こっちだって容赦はしないさ。御柱よ、叩け!」

 

 

 次は2本の御柱。

 それが髪さまの両脇に顕現された。その両方が髪さまを殴ろうと大きく振りかぶる。

 

 

『無駄だ!髪の毛綱!!』

 

 

 伸びる髪の毛。

 御柱に絡みつくとその動きを封じた。圧倒的な毛量が、神奈子の攻撃を防いだのだ。

 

 

『返してやる!フンッ!!』

 

「!」

 

 

 そして、そのまま髪の毛で持つと神奈子に向かって、御柱を投げ返した。しかし元々は神奈子の武器だ。彼女が目前まで迫る御柱に睨みつけると、パッと消えた。

 

 

「やっぱり神というのは伊達じゃないね」

 

『今度はこちらから行くぞ。見せてやろう。……儂の能力を!!』

 

「なっ!?うわぁっ!?何だこりゃあっ!!」

 

 

 神奈子の髪の毛が伸び始めた。

 短髪だったのに、一瞬にして長髪になる。だが、似合う程度になるわけがない。どんどんと伸びていき、勢いは止まらなかった。あっという間につま先まで髪の毛が伸び、全身を覆い尽くす。

 

 

「髪が伸びすぎて、前が見えないっ!?」

 

『そのまま締め付けろ!!』

 

 

 髪さまの号令。

 神奈子の髪の毛は、自分の身体に絡みついた。両足を爪先から太ももまで丁寧にグルグル巻きにされ、両手は縛られる。これで身動きが取れなくなるが終わらない。

 

 これが髪さまの力──『髪の命令』。

 相手の髪の毛を自由自在に操ることができる。操るだけではなく、更には無限に伸ばしたり、ポンと抜いてしまう事も出来る。そして髪の毛たちは髪さまの眷属になってしまうのだ!

 

 

 

「!? うっ、ぐぇっ、おぇっ!?」

 

 

 自分の髪の毛が、自分の首を絞めてくる。

 呼吸をしようと口を開けると、飛び出した舌にも絡みつき完全に神奈子を封じた。これが仮に普通のロープ等であれば簡単に引きちぎれるのだが、巻き付いているのは『神聖さを纏った神奈子自身の髪の毛』だ。簡単には壊せない。

 

 

『ふはははは!今度は髪の毛全てを抜いてやるわい』

 

「待ちなさいっ!!神徳『五穀豊穣ライスシャワー』ッ!」

 

『!? ヌゥワァッ!?』

 

 

 米粒の波が、髪さまに降りかかる。

 そのままライスシャワーに流されて地面に落ちてしまう。その間に神奈子に護符『モーゼの奇跡』を使い、髪の毛から脱出させる。

 

 

「大丈夫ですか!神奈子さま!」

 

「はぁ…っ、はぁ…っ、ぐっ、大丈夫だっ。油断した…っ」

 

 

 髪さまはすぐに戻ってくる。

 目玉が赤くなっており、とても怒っていることが分かる。

 

 

『ぺっ、ぺっ、貴様ぁぁ…っ!!どうやって眷属たちから逃れられたァ!?』

 

「それは──」

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 数分前。

 早苗は髪の毛の山に襲われていた。髪の毛全てが絡み合い、巨大な蛇のように空を泳ぎながら、早苗を飲み込もうと襲いかかる。

 

 

『──!!』

 

「蛇符『雲を泳ぐ大蛇』ッ!」

 

 

 護符を投げると、大蛇になり髪の毛の山とぶつかる。そのまま爆発させたのだが、煙の中から髪の毛は追ってくる。

 

 

「くぅっ、護符が効かない…っ!!」

 

 

 弾幕ごっこで使う彼女の護符。

 相手が生き物ならダメージを与えることはできただろうが、相手は髪の毛だ。どう攻撃しても受け流されてしまう。

 

 

「とにかく動きを封じる。──奇跡『神の風』!!」

 

『──!?』

 

 

 髪の毛の山の全方位を護符で囲む。

 そして護符から強風が吹き荒れた。その全方位からの風により色々な方向から押されて、髪の毛は身動きが取れなくなる。

 

 

「抑えられた…。でも、これは時間の問題。どうしたら…っ!」

 

 

 護符の効果は永遠ではない。

 更に、早苗の持っている武器は弾幕ごっこの為に用意したものであり、実戦などしないと思っていた彼女にとって、この状況は大変まずいものであった。そんな時だ。里の方で声がする。

 

 

「おーい!早苗ちゃーん!!こっちだ、こっち!」

 

「あれは・・・ねずみ男さん!」

 

 

 早苗は、ねずみ男の方に飛んでいく。

 地面に降りると彼はヘヘンと鼻をこすり、やってやったぜという顔をしていた。

 

 

「どうしたんですか!?危ないから隠れていた方が…」

 

「へっ!俺様だってやられっぱなしは嫌なんだよ」

 

「それはどういう・・・」

 

「あの髪の毛の山、俺()()に任せな!!」

 

「俺、たち?」

 

「この里全部を走り回って呼んできたぜ。……カモンッ!幻想郷理髪店の皆んなァッ!!」

 

 

 ねずみ男の掛け声と共に、数十人の美容師たちが現れた。彼らの手の中にはバリカンやハサミなど髪の毛を切るものや、シャンプー・リンスなど洗うためのものを手に持っていた。

 

 

「早苗ちゃんが頑張ってんのに、黙って隠れてるわけにはいかねえわな」

「私たちは何十年も髪の毛を扱って来たのよ。任せなさい!」

「所詮は髪の毛。相手じゃねえぜ」

 

 

 ねずみ男が里中を走り回り、早苗が戦っているんだと鼓舞したおかげで立ち上がった精鋭たち。早苗は驚きと同時に嬉しくもなる。

 

 

「皆さん!」

 

「とりあえず早苗ちゃんは、この路地にあの髪の毛を連れて来てくれ!そしたら俺たちが髪の毛を何とかするから」

 

「そしたらあの妖怪をやっつけちょうだい!任せたよ!」

 

「はい!!ありがとうございます!」

 

 

 全ては早苗の人徳のおかげだ。

 元より地元密着型、つまり里の人と仲良くして来たからこそ、皆んな手伝おうと思ってくれたのだ。

 

 

「そろそろ護符の効果が切れる…っ、皆さんお願いします!」

 

「「「おう!!」」」

 

「じゃあ俺様は逃げるんで、あとは頑張れよーっと!」

 

 

 ねずみ男はダッシュで逃げる。

 一方で、護符の効果が切れて自由になった眷属たちは早苗を見つけるとまた体をクネクネさせて襲いかかる。早苗は敢えて、捕まりそうで捕まらない距離で飛び、この路地まで誘い込む。

 

 

「今です!!」

 

「「「オラァッ!!」」」

 

『──!?』

 

 

 ブゥンブゥンというバリカンの音や、チョキチョキというハサミの音。更には水をかけたりシャンプーやリンスであっという間に整えられてしまい、早苗を追いかけて路地を抜けた頃には、ただの髪の毛の塊に戻っていた。毛先がトゥルントゥルンになったり、短くさせられたせいで、髪さまの力が無くなり、元の髪の毛に戻る。

 

 

「どんなもんだい!」

 

「早苗ちゃん、あとは頼んだよ!!」

 

「はい!」

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

「──ということです」

 

『・・・元より眷属には頼っておらん。儂自ら相手してやるわ!』

 

 

 しかし髪さまは内心焦っていた。

 この里全体は、今髪さまの力が働いており、髪の毛は全て髪さまの好きなように操れる。だが、一向に目の前の早苗の髪の毛はどんなに念じても動くことがない。

 

 

(何故だ。何故動かせん…。あの加奈子とかいう神の髪の毛は操れるのに。たかが巫女の分際で、何故動かせんのだ…っ)

 

 

 ゆらりと動く早苗の背後の影に髪さまは気づいた。

 カエルだ。早苗という巫女の全身に、カエルの姿が見える。どうやらアレが早苗のことを護っているようだ。

 

 

(あれは──)

 

 

 これは諏訪子の加護だ。

 あの時の接吻が、早苗を護っているのだ。

 

 

(ふざけるな…っ)

 

 

 髪さまが髪の毛を束にして槍の形にする。

 それを早苗に向けて発射した。

 

 

「早苗はやらせないよっ!!御柱よ、守れ。そして叩きつけろ!」

 

 

 2本の御柱が槍の攻撃を防ぎ、残りの2本で髪さまの全身に叩きつけた。鈍い音を立てて地面に落とす。

 

 

「そのまま押さえつけろ!」

 

『ぎぃっ!?』

 

 

 髪の毛を挟んだまま、地面に御柱がめり込む。

 途端に動けなくなり、標本のように動けなくなってしまった。その状態で早苗を見上げる。

 

 

(──自慢しているのか…っ。儂の前で、自慢しているのかァァァ…っ!!)

 

 

 自分だって昔は信仰されていたんだ。

 だから力を使っていたんだ。

 それなのに、それなのに、今では自分とお前に差があると見せつけられている。儂だって神だったんだ。信仰される神さまだったんだ。

 

 

「力が増している!?」

 

 

 めり込んでいた髪が巻きつき、バキバキと音を立てて御柱を破壊する。そして浮かぶと咆哮を上げた。

 

 

『儂の前で自慢をするなアァァァーーーッ!!』

 

「早苗、気をつけ──」

 

『失せろォッ!!』

 

 

 

 

──ググゥ……プチッ、プチプチッ…

 

 

 

 

「痛っ、痛いっ!?」

 

 

 突然、神奈子の頭から髪の毛が引き抜かれる感触が広がった。

 まるで無数の細い指が一瞬にして彼女の髪をつかんで引っ張るかのように、謎の力に抗うことも叶わず、髪の毛は次々と頭皮から根こそぎ引き抜かれた。その痛みは一瞬で、しかし神奈子には永遠に感じられた。

 

 

「・・・うっ」

 

 

 驚きと恐怖が彼女の心を支配し、無力感が心底に広がりました。一本一本、髪の毛が彼女の頭から離れていく。神奈子はそっと手で自分の頭を撫で、その違和感に慣れることなどできなかった。

 

 

「やりやがったな…っ」

 

 

 神奈子の髪の毛が全て抜けた。

 抜け落ちるのではなく、そのまま神奈子の上でフワフワと浮いていた。

 

 

「この程度で私が動けなくなるとでも……」

 

『抜くだけかと思ったか!髪の毛よ、もう一度襲えっ!!』

 

「何度も同じ手を喰らうとでもっ!?」

 

 

 加奈子は自分の髪の毛につかみ掛かる。

 その瞬間に、ねずみ男に流れたのと同様な電流が流れ、加奈子は両手が焼ける。

 

 

「グゥッ!!私のものなんだから言うことを聞け!」

 

「神奈子さまっ!?髪の毛がっ!!」

 

「すまんっ、()()()()()()()()()()()()()()()()。早苗、頼めるか?」

 

「・・・はいっ」

 

 

 改めて髪さまと向き合う。

 最初に見た時よりも大きくなっており、髪の毛も伸び、目玉の色が充血して真っ赤になっていた。

 

 

『殺すゥゥゥ…ッ!!』

 

(これじゃあ…、本当に妖怪……っ)

 

 

 神奈子は神社から離れすぎたせいで本来の力を使うことが出来ない。これは神というものの特性である。それは髪さまも例外ではないのだが、髪さまは力が弱まるどころか強まっている。つまり・・・【神から離れていっている証拠】だった。

 

 

『“髪の毛地獄”ッッ!!』

 

 

 早苗に向かって、髪の毛を伸ばす。

 そして両足に巻き付いた。

 

 

『潰れろォォォオーーーッ!!』

 

「あっ──」

 

 

 何度も何度も固い地面に叩きつけた。

 更には、そのまま彼女を地面に引きずり倒した。髪さまの髪の毛の力に抗うことが出来ずに、彼女は鈍い衝撃と共に激しく地面にぶつかり、苦痛の叫び声が響き渡った。早苗の体は、その無慈悲な力によって粉々にされ、彼女の目には涙と血が滲んでいく。

 

 

「うぅっ、ひぐぅっ、いだいっ」

 

『抵抗しないノカ…?』

 

「初めは…、初めは倒そうと思っていたんです…っ、でも、でもそうしたら…、毛目玉さんが1人になっちゃう…っ。毛目玉さんの家族は、貴方だけなのに……。一人ぼっちになるのは死ぬよりも痛い…っ」

 

『・・・キ、キィ、キィィッ!ヤアアアアッッ!!』

 

 

 そこからは本当に酷かった。

 先程よりも強く、高く、思い切り、叩きつけた。早苗はぶつかる時に防御の姿勢をとるが素人である彼女が完全に防ぎきることは出来ない。

 

 

『串刺しにしてヤルゥゥゥッ!!──髪の毛槍ィッ』

 

 

 髪の毛が纏まり、今度は無数の槍になる。

 その先端がクルクルと回転し始めて、槍というよりもドリルのようになっていった。その鋭い先端が早苗の全身を狙う。もしこのまま刺されたら、皮膚や骨、内臓などを破壊し、死んでしまうのは間違いない。

 

 

「ぁ・・・」

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 一方、守矢神社では──。

 毛目玉の全身に巻かれた包帯を、諏訪子は取り替えていた。傷は早苗の治療のおかげで治りかけており、まさに奇跡の所業である。毛目玉は冷静にはなっているが、死にそうな表情をずっとしていた。

 

 

『諏訪子殿…』

 

「どうしたの〜?」

 

『俺を殺してくれませんか』

 

「・・・あ?」

 

 

 諏訪子の手が止まる。

 そして手の中の包帯がドロリと溶け始めた。だが毛目玉は諏訪子の表情や反応、この異変に気づかず、ただ単に言葉を続けた。

 

 

『俺のせいで、俺が馬鹿なせいで、髪さまは堕ちてしまいました。今、早苗殿が髪さまを倒してくれている。本当は俺が何とかすべきなのに…。あぁ……信仰すべき神がいない俺に生きる意味なんてありませ──……』

 

「おい、死んで逃げる気か」

 

『ひぃっ!?』

 

 

 全身から汗が噴き出る。

 1番幼い神なのだと思っていたが、髪さま以上の圧を感じる。光を失った目の奥の闇に飲み込まれそうになる。

 

 

「早苗は、一度も逃げなかった。お前と同じように信仰を失い、絶望しかけても逃げなかった。巫女としての役割を捨てなかった」

 

『俺と同じ…?早苗殿も、俺と・・・』

 

「そうだ。外の世界で信仰を失い、存在が消えかけた私たちを救うために、全てを捨てて共に幻想郷に来てくれた。仮に私たちが消えても、後悔はしない決断もした。貴様も、神に仕える神主ならば『覚悟』を見せろ」

 

『覚悟…』

 

「そうだ。自分でやってしまったと思うのなら、大切なものを守りたいのなら、自分の手で責任を取るという覚悟を見せろ。出来ないのなら……貴様を祟るぞ」

 

 

 

 守矢神社で祀られているのは八坂神奈子だ。

 だが、実は本来祀られているのは、この『洩矢諏訪子』である。彼女の正体は、髪さまと同様に土着神であり、尚且つ『祟り神・ミシャグジさま』を束ねる頂点の存在なのだ。

 彼女は、過去に八坂神奈子に敗北し、守矢神社を渡した。だから表向きは神奈子を信仰しているのだが、その実は諏訪子を祀るためでもある。

 

 根底が“祟り神”であるからこそ、礼節には特に厳しく、巫女や神主が正しい行いをしない場合は死ぬよりも恐ろしい祟りを与えるのだ。だからこそ死んで逃げようとした毛目玉を許せなかった。

 

 

 

『・・・初めから覚悟を決めておけば、こういう事態にはならなかったのでしょうね」

 

 

 信仰を得るために、俺は何をした?

 生贄なんて髪さまと人間の信頼を壊すような案を出して、髪さまを壊してしまった。

 

 

「諏訪子殿。やるべき事が分かりました」

 

「そうか」

 

 

 早苗のような覚悟が無かった。

 今起きている悲劇は、髪さまを失ったらどうしようと覚悟が出来なかった自分の招いた結果だ。髪さまの神主として、やるべき事は──。

 

 

「俺が、髪さまを止める!!」

 

 

 毛目玉は立ち上がり、庭へとジャンプする。

 そこから自分の背丈と同じくらいの小石を拾う。せっせと御神体の『鏡』の前まで運ぶと、毛目玉は大声で叫んだ。

 

 

「うおおおおーーーっ!!」

 

 

 

 

──バリンッッ…

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

「・・・? あれ?」

 

 

 攻撃が来ない。

 痛いのは覚悟していたつもりだが恐怖はあるので目を瞑っていた。しかし一向に攻撃が来ないので、目を開けると丁度ヘソの上で槍は止まっており、髪さまの動きは固まっていた。

 

 

『・・・早苗さん』

 

「か、髪さま?」

 

『誰かを殺す前に止めてくれて、ありがとう・・・』

 

 

 そう言うと、髪さまの全身から力が煙となって抜けていく。

 里の人間たちが盗られた髪の毛たちは、フワフワと飛んで自分の持ち主の元へ戻っていき、頭の上に収まると元通りになった。

 

 

「早苗ー!終わったんだね」

 

「神奈子!ご無事でしたか!」

 

「早苗も無事で良かった。それにしても自分の髪の毛と戦うなんて初めての経験だったな。それよりも髪さまは?」

 

「髪さまは・・・」

 

 

 最後には“ただの小さな髪の毛”となってしまった。

 例えるならカツラだ。そのカツラのような小さい髪の毛が、早苗の手の上に乗っかっていた。

 

 

「信仰も妖力も失って……、ただの土着神に戻ったんだな」

 

「けど急にどうして」

 

「そりゃあ、覚悟を決めたからだろう」

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 これにて、生贄異変は終わった。

 人々は髪の毛が抜ける初めての経験をしたと笑うものがいる一方で、妖怪のせいなのかと不安を募らせるものも現れた。

 

 そして、毛目玉たちは、あの顔面岩の元へ集まっていた。

 

 

「今回は俺のせいで迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした。これからは髪さまとここでひっそりと暮らしていこうと思います」

 

 

 花村武敏は、一族の犯した罪を償うべく、社を立て直して、お酒や果物などを捧げた。髪さまは修復された鏡の中で静かに眠っている。

 

 

「何かあったら必ず来てくださいね。力になりますから」

 

「ありがとうございます。でも神主として覚悟を決めました。これからはもっと頑張っていきたいと思います」

 

「ふふ。では失礼しますね」

 

 

 早苗は守矢神社に戻る。

 毛目玉は彼女の姿が見えなくなるまで頭を下げ続けた。

 

 

「守矢の巫女、早苗殿。本当に本当にありがとうございました…!!」

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

「髪の毛は盗られるし、謝礼は貰えないし、散々な目に遭った。アレは流行病のせいだって嘘ついて泥を塗り薬として売りつけようかなァ」

 

「そんなこと言ってると祟られますよー」

 

 

 ねずみ男は、守矢神社で泥を集めてニタニタと笑っていた。

 早苗は呆れてしまう。

 

 

「ケケケ。早苗ちゃん、今時祟りなんてある訳が──」

 

「ねずみ男さん!?頬っぺたが!」

 

「俺の頬っぺたぁ?……ゲゲゲーーーッ!?俺様のヒゲが全部抜けたァッ!?」

 

「悪い事って出来ませんね〜」

 

 

 

 

 

 ねずみ男の悲鳴の裏で、小さくカエルの鳴く声がした。

 

 

 

 

 

 




 早苗は、外の世界でやるだけやって、最後は神を救うために全て(友達や家族)を捨てて幻想郷に移動した。その結果、神を失っても『ここまでやってきた事』や『過程』に後悔はない。どんな結果になろうとも後悔しないという覚悟ができていた。

 その反対として、毛目玉。
 彼は、信仰を失い変わっていく髪さまを見て、生贄という案を出した。そのせいで髪さまは悪神へと変わってしまい、後悔し続けた。神主として生贄をやると決めたのなら、こうなると覚悟し、自分でどうにかすると決めなければならなかったが、出来なかった。


 この対比を出したかったんですが、やっぱり難しいー!!
 もっと自分の表現レベルをアップさせたいです。

 『髪さま』。
 当てられた方は、鬼太郎マニアです。マジで!

 次回は紅魔館組か、妖夢、文を出したい。
 


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森近霖之助の鏡合戦!!①



こんにちは。狸狐です。

 この前、映画館で『ミステリと言う勿れ』を見てきました。
 ネタバレはしませんが最後のシーンは号泣しましたし、あの悪いやつの言葉が耳にべたりとくっついて離れません。怖かった…。

 また時間があれば、次はジョン・ウィックは見たいですね。今のところ全作見ているので。やっぱりアクションは最高。










 

 『半妖怪』。

 人間と妖怪の間に生まれる半妖怪というのは、古来から存在する“異類婚姻譚”にも記載はされているが、存在自体は稀有である。しかし基本的に半分妖怪、半分人間として生まれた者の末路としてはどちら一方の道を選び社会で生きていくか、その境遇に耐えきれずに自殺することが多い。だからこそ異類婚姻譚の殆どの内容は『結婚して子供を得る』ことまでしか書かれておらず、その子供たちがどうなるかは書かれていない。

 

 この幻想郷で生きる半妖怪は2人しかいない。

 1人は上白沢慧音。

 彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()後天的に半分妖怪の力を得ることができた。

 

 

──

 

 

 そしてもう1人、彼は純粋な半妖怪である。

 その者の名は『森近(もりちか) 霖之助(りんのすけ)』と呼ばれる男性だ。幼い頃から古道具や珍しい物を集めることが好きだった彼は、その蒐集(しゅうしゅう)癖を活かして、魔法の森の入り口あたりで古道具屋『香霖堂(こうりんどう)』を営んでいた。

 

 彼の営む香霖堂には、人里には決して手に入らない『妖怪の道具』、『冥界の道具』、『魔法の道具』、そして『外の世界の道具』が置いてある。この珍しさ故に魔理沙や霊夢のみならず幻想郷全体に香霖堂のファンは多く買いに来る者は多い。

 

 だが大抵は非売品である。先程も述べたように、霖之助は古道具や珍しい物が大好きであるため、役に立たない物でも彼が気に入っているなら並べているだけなのだ。

 

 そんな彼は、今日も迷い込んできた道具たちを探しに出掛けるのである。心配かな?ここだけの話だが、彼は戦闘経験や実力ともに『未知数』である。たまに1人で冥界まで行くのを目撃されているので襲われることはないのだろうから安心していい。

 

 

──

 

 

 

「何か見つかるといいが…」

 

 

 そう言って、魔法の森を散策する。

 この眼鏡をかけた彼こそが森近霖之助である。魔法の森は大小様々なキノコが生えている場所で、普通の人間ならここの魔力やキノコの胞子でダウンしてしまう。しかし彼は半分が妖怪なので効かない。軽い足取りで気ままに歩く。

 

 

「・・・あれは?」

 

 

 暫く歩くと、暗く汚れた鏡台が転がっていた。

 近づいてよく見ると、装飾は立派で相当な値打ちがあるように見える。鏡の方は『銅鏡』であり、鈍く自分を反射していた。

 

 

「銅鏡か……。これは随分と珍しいな」

 

 

 銅鏡の知識にはあるが実物を見るのは初めてだった。銅鏡は古来から贈り物や神聖視される物であるため、祀られたり、保管されたりするのが一般的だ。だからこそ実物が転がっている事に柄にもなく興奮してしまった。

 

 

(どれ、少し調べてみるか…)

 

 

 ここで森近霖之助のの能力を紹介しよう。

 彼の力は『道具の名前と用途が判る程度の能力』。道具を愛してきたからこそ目覚めた後天的な能力である。

 具体的には触れた物の名前、使い方を瞬時に理解することができる。仮にスマホに触れたのなら、名前は“スマートフォン”であり、“画面に触れれば遠くの人と連絡が取れる”と理解できる。

 

 

(銅鏡なのは分かるが、これは何に使われてきたのかを知りたい…。祭事の物か、古代人の化粧道具か、はたまた宇宙から来た物なのか…!)ゴクリ

 

 

 そう思い、鏡台に触れる。

 触れると中々に立派な土台で、まず初めに流れてきたのは台の部分だ。鏡意外にも色々なものを乗せられる、との事だ。次に銅鏡自体に触れる。

 

 

(・・・おかしい。何も流れて来ないぞ)

 

 

 彼の能力が今まで発動しなかったことはない。

 だが、この銅鏡に触れても、名前や使い方などは何も流れて来ない。鏡なのだから写すものではあるのは触れなくても分かるが、何に使われるのかを知りたい彼にとってはますます興味が惹かれた。

 

 

「持ち帰るか…!」

 

 

 店の中まで運ぶ。

 運んでいる最中の霖之助は気づかない。銅鏡の薄く汚れた表面の奥底で、何者かが笑っていることを。

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 香霖堂に着き、戸を開けると見知った魔法使いがいた。

 霧雨魔理沙である。

 実は──魔理沙が産まれるよりも前だが、霧雨魔理沙の実家で同じく古道具屋である『霧雨店』に霖之助は修行、居候していた過去がある。だからこそ幼少期から霖之助は魔理沙を知っているし、魔理沙にとっては歳の離れた兄的な存在であった。つまり2人は幼馴染なのである。

 

 

「おひゃまひへるへぇ〜」モゴモゴ

 

「煎餅を食べたまま喋らないで欲しいな。何言ってるかわからないよ、魔理沙」

 

「ん……っ、ふぅ、お邪魔してるって言ったんだよー、香霖」

 

「その煎餅は後で僕が食べようと思ってたんだぞ」

 

「何言ってんだ、香霖の物は私のものだぜっ。あむ」バリバリ

 

「やれやれ」

 

 

 鏡台を中央に置く。

 魔理沙は煎餅を齧りながら、霖之助が持ってきた鏡台が気になり始め、ヒョイと立ち上がる。

 

 

「これは?」

 

「魔法の森で見つけたんだ。能力を使っても何も読めないから、きっと何か凄いものだろうと思ってね」

 

「ふぅ〜ん。こんな汚いのがなア。・・・・あっ、私も結構前に『不思議な鏡』を見つけたぜ」

 

「不思議って?」

 

「綺麗な鏡なのに私の顔を映さないんだよ。とりあえず小さいし飾ってある」

 

「気になるな。要らないなら言い値で買うが?」

 

「やだネ」

 

「だが是非見せてくれ。形、重さ、手触り、全てが気になる…」

 

「わ、わかった!だから落ち着け!」

 

「…すまない。少々興奮してしまった。とりあえずお茶を持ってくる」

 

 

 霖之助が奥に行ってから、魔理沙も彼女なりに少し調べてみたが鏡のくせに何も映さないので直ぐに興味は失せた。それに下は、どこからどう見てもただの鏡台。何なら自分の家にも小さいが似たようなのはある。どうでもいいや、と煎餅に再び齧り付く。

 

 少し待っていると、霖之助が布きれとお茶、そして柘榴(ザクロ)の実を持ってきた。

 

 

「はい、お茶だよ」

 

「香霖は気が利くな〜。丁度喉が渇いてたんだ」

 

 

 ごくごくと喉を鳴らして飲む。

 今日は残暑か、少し暑い。冷たいお茶とカラコロとなる氷の音に、一気に涼しくなることができた。

 

 

「この柘榴は?」

 

「鏡を磨くんだ。昔から柘榴(ザクロ)は銅鏡を磨くのに使われていたんだ。だから僕も真似しようと思ってね」

 

「物知りだなぁ」

 

「修行時代に教わったんだよ。物を扱うものとして知っておいて損は無いし」

 

 

 昔から柘榴は鏡を磨く道具として重宝されていた。更には西洋では皮革をなめすためにも使われており、食べるだけではなく色々と万能な効能を持っている。

 霖之助は濡らした布を使い、鏡台の汚れを落とす。そして手は休めずに柘榴を使いせっせと磨く。魔理沙も色々なものを蒐集する癖があり、道具に対する姿勢を霖之助から学んではいるつもりなので、勉強の一環として隣でじっと見ていた。

 

 

「ふぅ…」

 

「おお!あんなに汚かったのに綺麗になったぜ」

 

「ちゃんと反射するか、な──・・・え?」

 

 

 鏡を覗く霖之助は固まり、手に持っていた柘榴を落としてしまった。その反応に異変を感じた魔理沙もどうしたんだと後ろからそぉっと覗く。

 

 

「はあっ!?これは──」

 

「「()()()っ!?」」

 

 

 そうだ。

 2人が覗く銅鏡の中には、魔理沙と同じ年齢くらいの女の子がいた。見た感じだが、鏡の中に閉じ込められているのだろう。2人に気づいた鏡の中の女の子は必死に何かを訴えかけていた。

 

 

「これ、マジか?」

 

「鏡の中に閉じ込められている。つまり鏡の中に世界があるってことか……!?」

 

「メルヘンやファンタジーじゃないんだからある訳ない・・・と言いたいけど、これを見ちゃったらなぁ」

 

 

 霖之助は眼鏡を外し、眉間をグッと抑えてから大きな深呼吸をした。幻想郷では不思議なことはたくさん起きるのだ。いちいち驚いていたら、やっていけない。だからこそとにかく落ち着くために深呼吸を繰り返した。

 

 

「僕の予想だけど、この銅鏡は(まじな)いの道具かもしれない。そして何かが起きて、この子は“吸い込まれたのか”、“無理やり入れられたのか”、異常事態が起きて閉じ込められてしまった訳だ」

 

「この女の子、服装的に外の世界だな」

 

「そうだね。閉じ込められて、こっちの世界に流れてきたのかもしれない。兎に角、助けてあげないと……。こういう時はやっぱり霊夢の力を借りるべきだよね?」

 

「んー、霊夢もいいけど人里に新しく来た『ねずみ男』に見せに行こうぜ」

 

「?・・・ねずみ男?」

 

「ああ。外から来た奴なんだけど、不思議なことに詳しいって里で噂になってんだよ。髪の毛が無くなった異変の時もその新入りが早苗と一緒に解決したらしいし。私も一回絡んだことあって面白い奴なんだよな」

 

「まぁ良いか、じゃあ早速行こう」

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

「ここかい?」

 

「ああ。慧音に聞いてきたから間違いない」

 

 

 外来人区域にやってきた2人。

 そこでねずみ男の家の前まで来た。ちょうど『怪奇事件専門法律事務所』と看板が掛けられており、家にいることが分かった。

 

 

「ねずみ男ー!邪魔するぜー」

 

「お邪魔します」

 

 

 戸を開けると、床に寝っ転がるねずみ男がいた。

 彼はお客さんが入ってきたと思い飛び跳ねる。

 

 

「いらっしゃ──…ケッ!何だよ、彼氏でも自慢しに来たのかよ」

 

「バッ!?バッカ!?何言ってんだ!?////」

 

 

 顔を赤くする魔理沙。

 そして帰ってくれと表情からも現しているのが、ねずみ男である。霖之助はこの布だけを被った男が噂の男なのかと思い、少し呆気に取られていた。

 

 

「俺っちは客が全然来なくてイライラしてんだよ。用がないなら帰ってくれ」

 

「違うぜ、今回は──」

 

「今回は相談しに来たんです」

 

「ほお?」

 

 

 魔理沙の代わりに答える霖之助。

 相談。つまり金に繋がる話だと直感したねずみ男は魔理沙ではなく、改めて霖之助に向き合う。

 

 

「僕はこの幻想郷で長いこと骨董品を扱っている森近霖之助と申します」

 

「俺は、新しく来たねずみ男ってんだ。それで相談って?」

 

「実はこれを見てもらいたくて」

 

 

 霖之助は背負っていた風呂敷を置き、開く。

 中には鏡台があった。そして霖之助が指差す銅鏡の中には、1人の少女が写っていた。

 

 

「なっ、何じゃこりゃあ!?」

 

「どうやら閉じ込められているみたいで」

 

「ねずみ男なら何か知ってるんじゃないかと思って見せに来たんだぜ」

 

「この子の服は……えーと…確か、東京の有名な私立校の制服だった気がするな」

 

 

 ねずみ男は長い事生きてきておりスケベな男なので、昔から女子の制服には目がないのである。だからこそその知識が役に立った?のかもしれない。

 

 

「やっぱり外の世界の子がこっちに来てしまったんだ」

 

「どうにか出来そうか?」

 

「この俺を誰だと思ってんノヨ。大学出てるエリートですよ?この俺に解決できない問題はなーい!」

 

 

 勿論嘘だ。

 解決できるわけがないが、ここで断ったら金を得るチャンスはパァだ。ここはいつも通りの虚勢を張る。

 

 

「だがタダでやるって訳にはネェ。ンフフフ」

 

「ああ。とりあえず一万円…」

 

「待てぃ!」

 

 

 財布を開こうとする霖之助。

 しかし、直ぐに魔理沙が止めた。

 

 

「香霖。コイツは嘘つきだから簡単に金出すんじゃないぜ。一回騙されて、悪い妖怪に食われそうになったこともあるからな」

 

「えぇ……」

 

「おい!なに適当なこと言ってんだよ!アレは事故だったって言ってるだろ!」

 

「とーにーかーくー!!女の子を出せたら金は出すぜ!まずはやってみてくれ」

 

「カキクゥゥゥ〜〜〜ッ!!」ギリギリ

 

 

 魔理沙のせいで失敗した。

 ねずみ男は近くの布切れをギリギリと噛むと悔しそうな顔をする。しかし、ここで逃げてはビッグチャンスは逃れてしまうもの。兎に角、やってやる!

 

 

「女の子を出すには集中しなきゃいけないんだッ!!2人はとりあえず外に出てろ!ていっ!」

 

 

 そう言って2人を追い出すと、ねずみ男は家の全ての戸や窓を閉じた。

 

 

「ぱ、パワフルな人だね…」

 

「んー、ねずみ男は見当違いだったか…。まっ、とりあえず散歩して時間潰すか?」

 

「あ、ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人が遠くに行くのを確認すると、ねずみ男は頭を抱える。去勢を張ったは良いものの金は得られなかったし、上手くいかなきゃ信頼も得られない。金からは遠く離れてしまう。

 

 

「・・・はっ!似たような女の子を誘拐してきて、助けられましたよ〜って嘘つくのはどうだ!?」

 

「いや、いやいや、待て待て。どうせバレてお仕置きされるのがオチだ。あーーーー!もうっ!どうにか上手く騙して、ドカンとお金を稼ぎたい!!」

 

 

 

 

「どうすれば・・・ちょっ!?ええぇぇぇ〜〜〜っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

「いや〜俺には無理だったわ。申し訳ねえぜ」

 

 

 2人が帰ってくると、ねずみ男はペコリと頭を下げた。

 手を尽くしたが自分の力量では無理だと言う。

 

 

「それでよ、俺さま思ったんだけど……霊夢ちゃんの所に連れてくのはどうだろ?」

 

「ああ。僕は賛成だ。元々、霊夢の所に行こうと思っていたし、魔理沙もそれでいいだろ?」

 

「ちぇーっ、ねずみ男の所に連れてくれば()()()()()かなと思ったんだがなあ。霊夢の力なら余裕だろうし、今回は戦い無しか〜」

 

 

 それを聞いた霖之助は大きなため息を吐く。

 そしてズレた眼鏡をクイッと上げた。魔理沙は何かに気づき、顔が引き攣った。

 

 

「魔理沙、君の狙いはそれだったのか。異変解決好きなのは構わないが、今回はこうやって閉じ込められている人もいるというのに君という奴は〜〜」クドクド

 

「あー!また始まったよ、香霖の長ーい小言!はいはい…、私が悪かったよーだ」

 

「夫婦漫才はそこまでにして、さっさと行こうぜ!こんな麗しい女の子が狭いところにいて良い訳がない!助けよう、直ぐに!!」

 

「あ"っ、夫婦って〜〜〜!!そんなんじゃなーい!」

 

 

 ねずみ男は鏡台を風呂敷に包み、背負って我先に進む。

 魔理沙はまた揶揄われ、顔を赤くする。しかし顔を赤くしながら魔理沙は何か違和感を感じた。

 

 

(ねずみ男が人助けに乗り気?守銭奴なのにか?・・・うーむ)

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 ねずみ男は歩いて行こうとしたが日が暮れてしまうので、鏡台を霖之助が、ねずみ男を魔理沙が運ぶ形となり、空を飛んで博麗神社へと向かった。博麗神社の前では巫女の霊夢と、九尾の狐である八雲藍が縁側に座って何かを喋っていた。

 

 

「おーい!霊夢ー!」

 

 

 空から呼びかけると、霊夢は気怠そうに手を振って答える。座っていた両者は立ち上がり、空からの来訪者を迎えた。

 

 

「何の用よ…。昼寝の時間だってのに…」

 

「事件だよっ、事件〜!!」

 

「うわ〜面倒事が舞い込んできたぁ〜」

 

「まぁそう言うなよ」

 

 

 その隣ではねずみ男、霖之助、藍が顔を合わせる。

 中々に珍しい光景だ。このメンバーが話し合うなどあまりない。

 

 

「まさか八雲殿の式様がいらっしゃってるとは…」

 

「そう畏るな、森近殿。久しぶりだな。・・・それと、ペケ……オホンッ…ね、ねずみ男も」

 

「どうも、狐の姉さん」

 

「狐の・・・!?私の名前は八雲藍だ、名前で呼んでくれ、名前で…!!」

 

 

 尻尾をフリフリとする八雲藍。

 また珍しいものを見てしまったと森近霖之助は驚く。

 

 

「ほお、2人はお知り合いですかな?」

 

「いや俺は前に一回な。狐姉さんの方は俺を知ってるようだったけど…」

 

「私は知っているが・・・ねずみ男、お前には自分の力で私を思い出してもらいたいんだ」

 

「そー言ってもなあ」

 

(元恋人か…? いや、それ以上なのか?こちらもまた気になるが・・・)

 

 

 

 長くなりそうだと察したねずみ男は“そんな事より!!!!”と一喝した。普段は猫撫で声を発する彼だが、こんなにも大きな声を出せるんだと驚いた。

 辺りの面々が一斉に彼の方を向く。話してもいいなと思ったねずみ男は風呂敷を広げて指を指す。

 

 

「霊夢ちゃん!この子を助けてくれィ」

 

 

 ねずみ男の指差す銅鏡の中に、セーラー服を着た女の子がいた。どうやら先ほど見た時よりもグッタリとしているようで、このままでは命の危機だと予感させた。

 

 

「・・・なるほど。アンタらがここに来た理由が分かったわ」

 

「微かにこの鏡から妖気を感じるな…」

 

「ええ」

 

 

 銅鏡を観察する2人。

 魔理沙でも感じることができなかった微弱な妖気も感じ取ってしまう辺り、巫女というのは伊達ではない。

 

 

「魔法の森に転がっていたんだ。助けられないかな」

 

「霖之助さん、貴方の能力で何か分かったことは?」

 

「何も。僕の能力が発動しなかったんだ」

 

「・・・危険ね。呪物かしら。けどまぁ……ここから出すくらい朝飯前よ」

 

 

 霊夢は自身の武器である『お祓い棒』を取り出す。そして銅鏡の前でお祓い棒を振るいながら呪文を唱え始めた。

 

 

「〜〜♪〜〜〜♪〜♪」

 

「ありゃあ歌か?」

 

「『呼び出しの歌』だ。元々はとある妖怪が封印された時に、その仲間の7人の妖怪が解くために歌った技さ。霊夢の力なら7人で歌う必要はないが」

 

 

 呼び出しの歌を歌っていると、晴天だった空に段々と黒雲が広がっていく。ゴロゴロと雷も鳴り始めた。銅鏡にかけられた呪いと、霊夢の巫女の力が拮抗しているのだろう。額には汗が滲んでいた。

 

 

「〜〜〜〜♪」

 

「鏡が震え出した!?」

 

 

 流石の鏡も霊夢の歌の力には勝てないのだろう。

 カタカタと震え出す。

 鏡面から少女の手がゆっくりと出てきた。そのチャンスを見逃さず、霊夢は手をガシッと掴むと一気に引っ張り出した。

 

 

「きゃあっ!?」

 

「「出てきたァッ!!」」

 

 

 鏡の世界から脱出できた少女は、安心からかポロポロと涙を流す。そして感謝の言葉を述べた。

 

 

「もう一生出れないと思いました…っ。本当に…ありがとうございます…」

 

「へへへ、良いってことよ」

 

「ねずみ男、アンタは何もしてないでしょうが」

 

「美人の前なんだから見栄張らせてよって、イテテテ!髭引っ張らないでッ!?」

 

 

 ねずみ男は退場。

 混ぜてくれたって良いのにヨ、と文句を言いながら引っ込んでいった。

 

 

「それでアンタ、一体何があったの?」

 

 

 霊夢たちは彼女を縁側へ座らせる。

 落ち着ける環境に来て、セーラー服を着た少女はようやく安堵した。差し出されたお茶を飲みながら語り始める。

 

 

「はい。私の名前は鏡子(きょうこ)と申します。実は…、1ヶ月ほど前に化粧をしていたら鏡の中から『鏡子は可愛いから嫁にしてやる』と声がして、怖くなって逃げようと思ったら・・・閉じ込められてしまったのです」

 

「鏡の中から声・・・」

 

「鏡の妖怪で、女の子を誘拐するとなると……あっ」

 

「どうしたの?何かわかった、藍」

 

「ああ。『鏡爺(かがみじじい)』という鏡の世界に住むスケベな爺様がいたな。昔、外の世界で何度か話したことがある」

 

 

 それを聞いて鏡子は立ち上がる。

 

 

「そうです!私の前に現れたのは老人の姿をしておりました!私を誘拐した後、もっと連れてきてやるとも言ってましたわ!」

 

「なるほど。今回の犯人がこれで分かったな!早速やっつけに行こうぜ!!」

 

「待て、魔理沙。鏡爺はロリコンで変態ジジイだが、誘拐なんて事はしなかった。あいつの心情は確か…なんと言ったかな……『いえす、ろりぃた、のー、たっち』??とかで、女の子は触るものではなく鑑賞する物だとか言っていたな」

 

 

 すると、ねずみ男は“ノンノン”と言いながら会話に混ざってくる。

 また来たかと思われるが、ねずみ男は全く気にしない。

 

 

「考えが古いねェ。人間も妖怪も時代が過ぎれば変わる。それが普通よ。きっと見てるだけじゃ辛抱たまらなくなって誘拐したんだネ。ンフフフ」

 

「それは本人に聞いてみるしかないようだ。これ以上被害が出ない為にも私は鏡爺を探してみる」

 

「お願いするわ。私はこの鏡を処分するから」

 

「ああ」

 

「私も探すぜ!!うおおっ!待ってろよ!」

 

 

 八雲藍、霧雨魔理沙は博麗神社から離れる。

 神社に残ったのは霖之助、ねずみ男、霊夢、鏡子の4人だった。

 

 

「霊夢。やはり、この鏡を壊さないといけないかい?」

 

「んー。原因がこの鏡とは言い切れないから壊さなくても良いと思うけど、これ以上被害が出るのは巫女として見過ごせないから。疑わしきは罰した方が良いと思う」

 

「そうか…。残念だな。鏡子さんも出れた事だし、家にでも飾ろうと思ったが……」

 

 

 欲しい。

 とにかく好奇心が刺激される。

 何も分からない摩訶不思議な銅鏡。それを調べる人生も悪くない。霖之助はそぉっと霊夢に耳打ちする。

 

 

「言い値で買うと言っても?」

 

「はぅっ!?」

 

「キキキキ…。迷ってる迷ってる。霊夢ちゃんも人の子よのォ」

 

 

 最近山菜しか食べてない。

 たまにはお肉が食べたい。

 貧乏巫女はお金に釣られそうになるが、お祓い棒を握る。自分の巫女という使命を恨み、唇を噛んで悔しそうな顔をしながら──。

 

 

「断るわァッ!! 大体、この鏡があるからこんな辛い目に遭うのよ!!壊す!」

 

 

 

 

 

──ピシャンッッ!!!!

 

 

 

 

 

 霊夢がお祓い棒を振り上げた瞬間、『雷』が落ちた。

 お祓い棒が避雷針の役割を果たしたのかは全くの不明だが、霊夢と鏡台の間に雷は落ち、辺りに黒煙が舞う。

 

 

「霊夢!霊夢!?無事か!?」

 

 

 霖之助が心配し声を上げるが返事はない。煙が晴れると、そこには鏡台しか無かった。霊夢の姿はどこにも無かった。

 

 

「そ、そんな、まさか!?」

 

 

 いや霖之助は、霊夢を発見した。

 あの銅鏡の中に霊夢は閉じ込められていた。鏡の裏側で何度も壁を叩いている霊夢が写っている。

 

 

「霊夢が閉じ込められてしまった…!?」

 

「ああっ、霊夢ちゃ〜ん!」

 

「これは緊急事態だぞ。ねずみ男くん、呼び出しの歌を我々もやるしか無いようだ。直ぐに魔理沙たちを呼び戻そう」

 

「いや!待て待て!俺様に妙案がある!」

 

 

 妙に落ち着いたねずみ男が提案する。

 

 

「いやー実はついさっき思い出したんだがヨ。鏡の中に閉じ込められた時には『照魔鏡(しょうまきょう)』っていう鏡を使えば、簡単に脱出できるってのを外の世界にいた時に聞いた事があるんだ」

 

「照魔鏡…。確か、日本が九尾の狐の正体を暴く為に使ったとされる神具のことだね」

 

 

 照魔鏡。

 中国や日本の伝説に出てくる神具の『鏡』である。照魔鏡名光を集めて発射すれば、妖怪といった魔性の物の妖術を消し去り、隠された正体を暴く力を持つとされる。

 

 

「だが照魔鏡の存在自体は見たことも聞いたこともない。・・・いや、待てよ」

 

 

 そういえば、魔理沙と香霖堂で話していた時に何か言っていたような気がする。自分が見つけた鏡台を見て、確か魔理沙も不思議な鏡を見つけたと言っていた。自分の顔が写らない不思議な鏡。

 

 

「確か……魔理沙が不思議な鏡を見つけたって言っていたな。もしかしたら、それが…」

 

「ああ!それが照魔鏡よ!分かったのなら善は急げ。早く取りに行こうぜ」

 

「ここは僕一人で取りに行った方が早い。ねずみ男君は鏡子さんと一緒にいてくれないか?」

 

「おっしゃ!ここは俺様に任せてくれ!」

 

「頼む!」

 

 

 霖之助も飛んでいった。

 博麗神社には遂にねずみ男、鏡子しかいない。霊夢は鏡の中から外の世界を見ることくらいしか何もできなかった。

 

 

「ンフフフ…! ンーーフフフフッ!!」

 

 

 突然、ねずみ男は笑い出す。

 愉快そうにケラケラと腹を抱えて笑い出し、鏡の中の霊夢を見た。その豹変ぶりに霊夢は固まる。

 

 

「照魔鏡の在処も分かったし、幻想郷の実力者である博麗霊夢も倒した。これも全部()()()の計画通りだネ。ンフフフフフ」

 

 

 アンタ。

 そう呼ばれる存在は、ねずみ男の前に立つ“鏡子”である。先程までお淑やかでビクビクとしていた鏡子はもういない。ニヤリと笑う悪い顔をしていた。

 

 

「ふふふふ。……あとは憎き照魔鏡を壊しさえすれば、私の悲願は達成する』

 

(何ですって…!?まさか、この女・・・妖怪ッ!?)

 

 

 鏡の中の声は届かない。

 だがその表情で大体は察することができる。それを見て、愉快そうに笑う2人。

 

 

「おや?おやおやおやぁ??悔しそうだね、霊夢ちゃんッ!分かる分かるよ、その気持ち!俺様もね、最初はビックリしたんだからよ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 時は数時間ほど先戻る。

 ねずみ男が呪いを解除するなど嘘をつき、魔理沙と霖之助を追い出して、鏡台と2人きりになった時に事件が起きた。

 

 

 

「どうすれば・・・ちょっ!?ええぇぇぇ〜〜〜っ!?」

 

『ふはははは…!!』

 

 

 鏡の中からヌルリと鏡子が飛び出した。驚くねずみ男の前に立つと邪悪に高笑いする。

 

 

「自分で出れるのかい…!?」

 

『当たり前だ。私は鏡子、鏡の中の妖怪だ。あの魔女と男には閉じ込められた幸薄い少女の演技していたのさ』

 

「そ、そんなアンタが俺に何のようだよ!?」

 

『私と手を組まないか?』

 

「手ェ?」

 

 

 差し出される手をねずみ男は握る。

 そのまま引っ張られ、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

『私には夢がある。人間たちを鏡の中に閉じ込め、永遠に苦悶の顔を見続けたいのさ』

 

「ほぉ、そりゃあ立派な夢だネ。……だがよ、それを手伝って俺に何の価値があるってんだよ」

 

 

 ねずみ男は鏡子の胸ぐらを掴む。

 鼻息をフハッと吐いて、珍しくやる気を見せる。

 

 

「俺っちは正義の心に目覚めたんだよ!そーいう金にもならない事を手伝うかっての!!」

 

 

 人間たちがいなくなると金を稼ぐ事ができない。

 ねずみ男はこの事を全部魔理沙たちに伝えようと心に決めた。だが鏡子はねずみ男を見透かすように笑う。

 

 

『ほぉ〜?人間たちがいなくなれば、里の物は全部お前のものになるんだぞ』

 

「何を…!?」

 

『土地も、金も、全てな…!!』

 

「……乗ったアァァ〜〜〜ッ!!全部俺のモン!ンーーッ!フフフフフ!」ビビビ

 

 

 働かなくて済む。お金も好き勝手にできるし、広い土地も手に入り、自由に遊び放題。そう考えると段々と楽しい気持ちになってくる。正義の心なんて糞食らえ。将来よりも目先のことよん。

 

 

「けどよ、嬢ちゃん。この幻想郷には博麗霊夢っていう邪魔くさいガキがいるんだよ。どうすんだ」

 

『鏡の中に封じ込める。だからお前には私を霊夢の元まで連れて行くことと、照魔鏡を探してもらおう』

 

「照魔鏡?」

 

『私の弱点だ。それがこの世界のどこかに流れてきたと、私をこの世界に運んできた()()が教えてくれたんだ。それさえ処分すれば私の天下は間違いない』

 

「ふぅーむ、照魔鏡か…」

 

 

 そう言えば、あの森近霖之助とかいう奴。

 骨董屋を営んでいるとか言ってたな。

 こんな風に鏡台を見つけてきたんなら、どっかで見たことあったり、もしかしたら持ってるかもしれない。

 

 

「任せときな。俺の口八丁手八丁で何とかしてやるぜ」

 

『では作戦開始と行こうか…!!』

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

「・・・って事があったんだよん。霊夢ちゃん、お前が幅を効かせる時代は終わりさ。ニヒヒヒヒ」

 

(このペテン師っ!!)

 

「聞こえなーい!ケケケケ」

 

『おい、穴を掘れ。この鏡を埋めろ。そしたら博麗霊夢は終わりだ』

 

「あいあいさー」

 

 

 スコップを取りに行こうとするねずみ男。

 しかし、彼は歩みを止めた。

 ゾクリと殺気のようなものを感じる。例えるなら、猫娘に追いかけられているときのような生命の危機めいたものだ。

 

 

「一通り探して、帰ってきてみれば・・・」

 

「聞いたぞ、今の会話。そういう事だったのか」

 

「ひぃいい〜〜ッ!?ましゃか!?」

 

 

 振り向けば、魔理沙と藍がいた。

 魔理沙は霊夢が閉じ込められていることに怒っており、藍はねずみ男の行為に呆れていた。

 

 

「鏡子…。被害者かと思ったが、お前自身が犯人だったのか」

 

『帰ってくるのが早い奴だ』

 

「ねずみ男が人助けに対して乗り気なのがどうしても引っかかったんだぜ」

 

「そしたら、まさかこんな事に…」

 

 

 ねずみ男は鏡子の後ろに隠れる。

 相手は物凄い力を振るう魔女と、あの九尾の狐だ。簡単に倒せるわけがない。

 

 

「ど、どうすんだよっ!?」

 

『私がこの程度の問題を乗り越えられないとでも?』

 

 

 鏡子は不敵に笑う。

 強がり、余裕を演じているようには見えない。本当に勝ってしまうかのような雰囲気を出していた。

 

 

『かかってこい…!!小娘ども!』

 

「幻想郷の秩序は守る。言われなくても──」

 

「やってやるぜ!!」

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 一方、魔法の森の魔理沙の家の前では。

 霖之助は魔理沙の家に無断で入れずに、右往左往していた。魔理沙や霊夢は勝手に自分が留守でも店の中に入ってくるが、自分はもう大人だ。そんな真似ができるのだろうか。それも異性の家に、と葛藤していた。

 

 

「じょ、女性の部屋に勝手に入って良いのか…!?」

 

 

 

 

 

 




 森近霖之助の活躍は次回です。
 あと個人的に彼はクールよりもオタクっぽい感じがするので、古物オタクっぽくしました。

 やっぱりねずみ男がいると面白いように話が進みます。呼び出しの歌はどうしても入れたかったので綺麗に入れられて少しホッとしてます。マジで7人全員で歌わせようと思いましたが、それはやめました。
 

 さぁて、この鏡子の正体は…?
 鏡爺なのか、それともまた別なのか。予想待ってます!
 因みに僕はこの正体の妖怪は3期が好きです。





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森近霖之助の鏡合戦!!②

こんにちは、狸狐です。

 今回はバトル・アクションメインですね。
 鏡子の戦闘方法は昔何か漫画かアニメを見た時に、鏡系の能力を使うキャラがいて、それを参考にしました。

 
それではどうぞ












 

 上空の藍と魔理沙を睨みつける鏡子。彼女の妖力は段々と高まり、確かに2人を相手できると豪語できるくらいに上昇してくる。久しぶりの強豪の雰囲気に流石の2人も冷や汗を流す。1番最初に試合開始のゴングを鳴らしたのは、鏡子である。

 

 

『雷を喰らえ』

 

 

 雷が無数の槍となる。

 それを2人に発射したが、弾幕ごっこになれている為に余裕で避ける。八雲藍は護符を2枚取り出し投げつける。

 

 

「その程度が我々に当たるか。──式神「前鬼後鬼の守護」ッ!!」

 

 

 護符からは筋骨隆々の鬼2人が飛び出した。

 昔話で見るような姿をした5メートル以上の大きさの鬼が金棒を振り回しながら地面に降り立つ。前鬼後鬼と言う名前の通りで、藍と魔理沙を守護する陣形となる。

 

 

ウオオオオオーーー

 

「後鬼は我々を守りつつ、前鬼は攻撃しろ」

 

ガアァァァーーーッ!!!!

 

 

 前鬼の右腕を。

 バキバキと膨れ、血管が波打っている右腕を掲げ、圧倒的な質量を持ち、確かな重量感を備えた必殺の威力を秘めた金棒を高々と構えた。そして思い切り鏡子の頭上目掛けて叩き落とそうとする。

 

 

『陰陽師の真似事かぁ〜!!ははははははっ!!』

 

 

 鏡子は両手で印を結ぶ。

 妖力というよりも霊力がその両手に集まっていく。

 

 

四方八方(シホウハッポウ)万華鏡(マンゲキョウ)

 

 

 藍と魔理沙の背後に鏡が現れる。

 それだけじゃない。

 気づけば、辺り一面に鏡が召喚され、周囲に無数な鏡が現れてドームのような形状になった。どこを向いても自分が写っており、不思議な感覚に襲われる。

 

 

『“反射”』

 

 

 直撃する瞬間に一枚の鏡が、鏡子と金棒の間に現れた。

 

 

 

 

 

──パァンッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 鏡子を叩きつけた瞬間に、“前鬼”が弾け飛んだ。

 式神である為弾け飛んだ瞬間に消え去ったが、もし式ではなかったら辺り一面には鬼の血肉が飛び散っていただろう。そして何事もなかったように鏡子が現れる。

 

 

『ふふふふふ・・・』

 

「前鬼が…ッ!?」

 

「どけっ!!ここは私がやってやるぜェェェーーーッ!!!!」

 

 

 片手に握られたミニ八卦炉から電気エネルギーが溢れ出す。バチバチと弾ける雷ほどのエネルギーが集中する。発射する前に、箒に乗った魔理沙が鏡子の目の前まで高速で移動する。

 

 

「頂きィッ!!」

 

 

 魔理沙は幻想郷で2番目に早い。

 鏡子が気づいた時には、目前に八卦炉が向いていた。魔理沙は笑い、攻撃の構えになる。

 

 

「ぶち抜くぜェェエーーーッ!!恋符マスタァァァーーー…スパークッ!!!!」

 

 

 

 

 

──バリィィィン……ッ!!

 

 

 

 

 

 

「・・・は?」

 

 

 砕け散ったのは鏡子ではない。

 ただの鏡だった。

 マスタースパークが貫通したのは鏡子の姿を写した鏡。その鏡の破片が地面に散らばって行く。しかし直ぐに割れた鏡の代わりが補充された。

 

 

『どこを狙っているのかな?』

 

「──っ!?」

 

 

 背後から鏡子が現れ、魔理沙の肩を叩く。

 攻撃できるというのに敢えてしないのは余裕の表れだろう。魔理沙は背を向けたまま固まってしまう。

 

 

「魔理沙ァっ!!」

 

 

 

 

──パリンッッ

 

 

 

 

 

 藍が手刀を叩きつける。

 しかし鏡子には直撃せずに、代わりに鏡が砕け散る。魔理沙は汗を拭い、武器を構える。

 

 

「すまん、助かったぜ」

 

「だが完全に我々は奴の手の中だぞ…。どうする?」

 

「どうするもこうするも全部叩き割るしかないぜ」

 

『ならやってみろ』

 

 

 鏡子の数が一気に増える。 

 いや、増えたというよりも合わせ鏡の原理で、鏡子が写った鏡から鏡へと繰り返し沢山の上下左右逆さまだらけの鏡子が向かってくる。

 

 

『どれが本物かな?当ててみなァ?』

 

「馬鹿にして…!!」

 

「あーもう!うだうだ考えるよりもブッ壊す!火力はド派手にィッ──」

 

 

 魔理沙の周りに五つの魔法陣。

 虹色に輝く高火力の魔力。

 

 

「──恋符「ノンディレクショナルレーザー」ッッ!!」

 

 

 全方位に発射されるレーザー光線。

 マスタースパークが直線状の極太エネルギー波ならば、ノンディレクションレーザーは周囲に巡る光の花火。五つに伸びたレーザーが花火のように弾けて行く。

 

 

「待てッ!それは悪手だ!!」

 

「えっ!?」

 

 

 八雲藍の言う通りだ。

 鏡は光やレーザーを反射する力を持っている。マスパのようなエネルギー波は反射する事はできないが、レーザーならば簡単に反射できる。更に鏡が向いている方向は魔理沙であり、自分で放ったレーザーが自分に返ってくる。

 

 

「ウオオオオオーーー! マジかよォッ!!」

 

「後鬼!守れ!!」

 

バウゥゥゥッ!!

 

 

 魔理沙の代わりに後鬼がレーザーを受ける。

 全てを受け切ると後鬼は崩れ去った。魔理沙のレーザーの威力はあまりにも強く、式神の体を最も簡単に破壊したのだ。

 

 

「──っぶねェ…!!」

 

 

 パラパラと落ちてくる後鬼の残骸に冷や汗を流す。

 もし、もう少し遅かったら自分がこの鬼のようになっていたかもしれないと想像すると心臓がキュッとなる。

 

 

「大丈夫かっ、魔理沙!猪突猛進すぎるぞ」

 

「す、すまんっ」

 

「相手をよく見ろ。何が本物で、何が虚像かを見極めなければ……」

 

「って、言ってもよ!この鏡、頭がおかしくなりそうだぜ」

 

 

 魔理沙が前を、藍が背中を守る。

 その2人にゆっくりと鏡子が向かってきた。

 

 

『はははははは!!どうした?来ないのかア?……ふっ、ならコチラから行くぞ!!』

 

 

 鏡子は、八雲藍本人ではなく彼女が映る鏡に手を突っ込む。そして鏡の中にいる藍の腹部を思い切り殴った。

 

 

「ごふっ!?」

 

 

 回避できない痛みが鳩尾に広がる。

 胃腸内部が捩れるような痛みで思わず吐き気を催してしまった。嗚咽が響き渡る。

 

 

「らっ、藍!!──お前っ、何をした!?」

 

『ククク…』

 

 

 次は、鏡の中の魔理沙の顔面に裏拳を繰り出した。

 鏡の中の顔が歪み、鼻血が吹き出す。

 すると現実の方も鏡の中と同様の変化が起きた。

 

 

「がはっ!?」

 

 

 鼻を抑えて、不思議がる魔理沙。

 殴られていないのに顔面に殴られたかのような違和感を感じた。この不快感は一体何なのだ。

 

 

『教えてやるよ。私の能力』

 

「「・・・っ!?」」

 

 

 鏡子は、鏡の中の両者を組み伏せる。

 すると触られてもないのに魔理沙と藍は身動きが取れなくなる。抵抗しても動けない。

 

 

『お前らが怪我をすれば鏡のお前らも同じ怪我をする。つまりその逆も然り。鏡の自分が動けないなら、現実の自分も動けない。これが【鏡革命(かがみかくめい)】』

 

 

 両者を写す鏡以外の全てに鏡子の姿が映る。

 

 

『さらに私は鏡に映る自分といつでも場所を入れ替えることができる。これが私に攻撃が当たらない秘密。そして最後が──』

 

 

 2人の体に鏡が近づく。

 水面に波紋を広げるかのように、二人は鏡の中で絶望の闇にズブズブと沈み込んでいく。頭から飲み込まれたせいで悲鳴を上げられない。手足をバタバタとしても無意味。蛇に丸呑みされるようにゆっくりと鏡の中へと消え去った。

 

 

『そして、どんな相手も鏡の中に封じ込められる。──私の能力は“鏡を支配する”こと。アンタらはもうおしまい』

 

「マジかよ、2対1で勝っちゃったよ…」

 

 

 ねずみ男が銅鏡の中を覗く。

 鏡の中には霊夢だけではなく、魔理沙と藍もいた。鏡子の力により鏡の世界に封じ込められてしまったのだ。

 

 

「やったな!これで──うわぁっ!?」

 

『うるさいぞ、この役立たずが…。お前はさっさとこの鏡を埋めろ!』

 

「は、はひぃっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 少し前、2人が戦闘中の頃。

 

 決心をした霖之助は、魔理沙の家に入る。中は誰かから借りたのか魔導書や魔法道具、ガラクタの山がある。台所の方には何が入っているかは分からないが魔法の火でグツグツと煮立っている鍋や材料に使うのかは不明だが怪しげなトカゲなどの動物達がいた。

 

 

「これは緊急事態だからだ。緊急事態。・・・女の子の家に無断で入るなんて僕の主義に反するが場合が場合だ…ッ」

 

 

 魔理沙の研究部屋に向かう。

 机の上には新たな魔法道具の設計図が置いてあり、試しに作ったであろう物が転がっていた。少し気になり、設計図を読んでみる。

 

 

(・・・常闇缶(るみあかん)の設計図。必要なものは……の髪の毛、爪少々。用途としては、いつでもどこでも暗くする事ができる。但し、自分も見えなくなる可能性アリ・・・)

 

 

 どうやら、()()()()()の特性を活かした魔法道具のようだ。しかし欠点も多い。自分も見えなくなるなんて使い道はない。自分ならもっと改良するだろう。とりあえずこの部屋には何も無いようだ。

 

 

「ここは…倉庫か?」

 

 

 倉庫といってもゴミ屋敷のようだ。

 大小様々なガラクタが転がっていた。そして、その一つの棚の上に似つかわしくない手鏡があった。手に取ってみる。質感はザラリとしていて中々に重い。鏡面はとても綺麗だが、魔理沙の言う通りで何も反射しなかった。握ったと同時に、自身の能力を発動させる。

 

【照魔鏡 悪しき者の正体を暴き、妖術を断つ】

 

 

「・・・すごい、本物だ」

 

 

 神具を自分の手の中に収めている事実に感動し、震える。

 一気に手汗が溢れ出す。

 だが直ぐに大きく深呼吸。冷静さを何とか取り戻した。曇る眼鏡を拭き取り、頭を冷やす。

 

 

「とにかく今は霊夢の救出が優先だ」

 

 

 

 

 

 

 魔理沙の家を出て、博麗神社に向かう。

 その途中、手の中に収まる照魔鏡を見て、とある事を思い出した。それはあの銅鏡に触れた時のことだった。

 

 

(僕の能力は・・・物の名称と用途が分かる。そう。・・・“物”なら必ず発動するんだ)

 

 

 能力に例外は無い。

 相手がどんなに危険な物でも、神聖な物でも、穢れた物でも、触れれば必ず分かる。

 この能力が発動しないのは『生き物』だけだ。人間のみならず妖怪や神様、妖精も勿論発動しない。

 

 

(待てよ・・・)

 

 

 段々と点と点が繋がってくる。

 嫁にしてやると言われたのに閉じ込められた鏡子。突然ねずみ男が照魔鏡の話を持ち出してきたこと。大体どうやって照魔鏡が流れてきたと分かったんだ。あまりにも不自然じゃないか?

 

 そして仮に銅鏡が生命体だったら?

 自分の正体を明かしてしまう照魔鏡は邪魔になってくるはずだ。霊夢を閉じ込めて照魔鏡が必要だから持ってきて欲しいと自分に頼んできたのかもしれない。

 

 

(なるほどな・・・)

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

「掘り終わりましたよ〜」

 

『ならさっさと埋めろ』

 

「へーい。・・・けっ、威張り散らしやがって」

 

 

 博麗神社の裏。そこに大きめに掘った穴に鏡台を落とす。

 そしてその上に土をかけていく途中、何かに鏡子は気づく。

 

 

『おい来たぞ』

 

 

 空から霖之助がやってきた。鏡子とねずみ男はこの状況はまずいと思い、演技をしながら表に出て行った。

 

 

「おかえりなさーい。へへへ」

 

「ただいま戻りました。あれ?あの銅鏡は?」

 

「あっ、あー…あれはっすねェ、裏にありますよ、裏に。日に当たると悪いかなァと思いまして。あれ?霖之助の旦那、その背中に背負ってるのは?」

 

 

 ねずみ男が指摘する。

 霖之助は何か固そうなリュックのようなものを背負っていた。

 

 

「ちょっと忘れ物しちゃってね。あれ?鏡子さんは?」

 

「それなら…」

 

 

 ねずみ男の後ろから鏡子がやってくる。

 目をウルウルとさせながら言う。

 

 

「霖之助さん、照魔鏡は見つかりましたか!」

 

「・・・はい。見つかりました」

 

「それは良かった!では、直ぐそれを私に・・・」

 

 

 霖之助の手の中には確かに照魔鏡がある。

 鏡子はそれに手を伸ばした。

 だが霖之助は渡そうとしなかった。

 

 

「ええ。直ぐに照魔鏡を使いますよ、貴女にね」

 

「──なっ!?」

 

 

 照魔鏡を鏡子に向けた。

 反射した光が鏡子に直撃すると、全身をその光が焼いた。ボワンと音を立て煙を出し、鏡子の姿は消えた。代わりに着ていた服だけが地面に転がっているだけだった。

 

 

「あらぁ〜っ!?死んじゃったの!」

 

「いや、正体を暴いただけだ。奴はどこに!?」

 

『ここだぁっっ!!』

 

 

 上空から低い声。

 振り向けば、巨大な球体に顔がついてたものが空に浮いていた。髪の毛のような形をした妖力が巻き上がっていた。

 

 

『はははははは!!』

 

「それが本当の姿か!」

 

『そうだ。これが儂の本来の姿だ。儂は──雲外鏡(うんがいきょう)

 

 

 雲外鏡。

 2000年以上経った鏡が妖怪と化した物であり、鏡の中に潜む鏡爺と違って、鏡そのものが妖怪となっている。あの銅鏡も体の一部であり、このように妖怪体と銅鏡の自分を分離させて行動ができる特性を持つ。

 

 

『おのれ小僧。儂の正体に気づくとは中々頭の切れる奴だ』

 

「少し気づくのは遅くなったけどね」

 

 

 ねずみ男はこのやり取りを通じて、ニヤリと笑う。

 正体を暴いたということは雲外鏡は、自分で言っていた通りで本当に照魔鏡が弱点なんだろう。

 

 

「ちょっと貸せ!」

 

「あっ、おい!?」

 

『?』

 

 

 ねずみ男は照魔鏡を霖之助の手から奪う。

 そして雲外鏡に向けた。

 

 

「ヒーッ!ヒッヒッヒッ!本当に弱点のようだな、雲外鏡!散々俺さまをこき使った仕返しをさせてもらうぜ!!」

 

「おいやめろ!」

 

「ハァ〜」

 

「うっ…!?!?」

 

 

 なんという口臭だ。

 鼻を抑え、のたうち回る。

 あまりにも臭い匂いを嗅いだときに“鼻がもげる”と使うが、それを身をもって知るとは思いもしなかった。

 

 

「黙ってろ!!この俺が雲外鏡を倒すんだよォ。喰らえーーーッ!!」

 

『ぬぅっ・・・!?』

 

 

 照魔鏡の光を当てる。

 その聖なる光が雲外鏡に直撃するが、眩しがるだけで、やられるような事はない。しかしねずみ男は苦しんでいると思い、ゆっくりと雲外鏡に近づく。

 

 

『眩しいィッ』

 

「ケケケェッ!!どうよ、ほれほれ!苦しめ苦しめ!」

 

『くっ、このォ──』

 

「え?」

 

 

 雲外鏡は目を閉じながら、ねずみ男に突進。

 近づいていたせいで避けることはできない。

 

 

『邪魔だアァァァ』

 

「アラーーーッ!?!?」

 

 

 照魔鏡を持ったまま、ねずみ男はどこかに飛んでいってしまった。雲外鏡は目をパチパチとさせながら笑う。

 

 

『照魔鏡じゃ儂は倒せねえんだよ!カアアアァァァーーーッ!!!!』

 

 

 

 

 

──ゴウッッッ

 

 

 

 

 

 口からの火炎放射。

 霖之助は懐から『ミニ八卦炉』を取り出し、魔力を放射させて攻撃を相殺させた。

 

 

『その武器はあの魔女の…!?』

 

「そう。魔理沙のと同じミニ八卦炉だよ。因みにだが、魔理沙のミニ八卦炉を作ったのは僕なんだ。彼女のは威力、スピードと共に完璧な唯一無二の存在だ」

 

 

 霖之助の手の中のミニ八卦炉は砕け散る。

 今のエネルギーに耐えられないようだった。

 

 

「……でも、これは試作段階で作った『ミニ八卦炉プロトタイプ』。威力はあってもスピードが無いし、壊れやすい。高速で移動する相手には当たらないから捨てるはずだったんだが、まさか役に立つとは…」

 

 

 眼鏡をスチャッと掛け直す。

 森近霖之助は幼い頃から色々な道具を扱ってきた為に知識が豊富である。そして手先が器用なのを活かして、様々な魔法道具を生み出してきた。彼の家には工房があり、そこにこれまで作ってきた道具達が眠っていた。彼はその中からいくつかを持ち出しており、このプロトタイプもその一つである。

 

 

『だが、その役立つ武器は壊れてしまったぞ?それともまだ何か隠しているのかな?』

 

「そう焦るなよ」

 

 

 背中のリュックに手を伸ばす。

 そしてスイッチをカチリと押した。

 

 

「ちゃんと準備はしてるからさ」

 

 

 霖之助の背中に身につけているリュックから鉄板が飛び出す。その鉄板が霖之助の全身を包み、瞬時に鋼鉄製の武装を展開した。頭以外を鋼鉄で包み、体を守るような形になっている。両掌には魔法陣が描かれており、微弱な電気が流れていた。

 

 

「装備……『品物比礼(くさもののひれ)』」

 

『魔女、式神使いの狐に続いて、鉄絡繰か』

 

「どうだい、凄いだろ。材料不足で頭部の所は完成してないけど」

 

『ならその凄さ、試してやるわ!!』

 

 

 雲外鏡が口から火球を放つ。

 霖之助は火球に向かって片手を向ける。すると掌から魔力と電力を帯びた障壁が生じて、火球を防ぐ。

 

 

「これは『紅魔館の魔女』と『発明家の河童』、その天才達の協力により作ったスペシャルな鎧でね。人智の電気と神秘の魔力を織り交ぜてるんだ。この程度なら余裕で防げるさ」

 

『そうか。それなら──』

 

 

 辺り一面に鏡が召喚される。

 あの魔理沙と藍を倒した『四方八方万華鏡』という結界だ。無限に現れる鏡で周囲を囲み、全ての箇所に合わせ鏡を作り出す。五感のうちの視覚、聴覚を狂わせるだけではなく、平衡感覚もぐちゃぐちゃになる。それだけではなく自分と、鏡の中の自分を入れ替えたり、攻撃も反射させられる。

 

 

『これならどうかな?』

 

「結界…」

 

『そう。儂だけの世界。これを破るには照魔鏡しか無かったのに残念だったな』

 

 

 愉快そうに笑う雲外鏡。

 大きな舌を出しておちょくっていた。

 

 

『照魔鏡は、儂の正体を暴くだけではない。儂の結界、妖術、能力…全てを無効にしてしまう厄介な道具だった。もし照魔鏡があれば簡単に突破し、儂を攻撃できたんだが、あの馬鹿のお陰で…。これで儂の天下だ!!』

 

(さぁて、どうするか。照魔鏡を使おうと僕も考えてはいたが、まさかの事態だしな。…いやはや見事なまでに、辺り一面見渡しても鏡だらけ。これ以上攻撃したところで無駄だろう)

 

 

 ボウボウッと火球を連射。

 今度は両手で二重の壁を張り、攻撃を防ぐ。しかし時間の問題だ。この鎧は完成品ではないので、このままダメージを受け続ければ壊れてしまう。

 

 

(……考えろ。相手は鏡だ)

 

 

 鏡の結界。どんなに凄い力があるとしても、結局は鏡だ。ならば必ず科学的根拠を元に思考することができる。

 

 

(光だ。光さえ奪えば、鏡は何も写せない。・・・だが持ってきた装備に光を奪うものはない……っ)

 

『なかなか耐えるが、これはどうかな?』

 

 

 鏡の中の雲外鏡達が飛び出してくる。

 像と自分の居場所を交換したり、攻撃を反射させるだけではない。鏡に映る自分自身を幾らでも分身体として出すこともできる。

 

 

『『『はははははは!!』』』

 

『鏡分身だ』

『1人が本物で他全部は偽物だぞ』

『だが全ての攻撃は本物だ』

『その鎧で耐えられるかな?』

『試してみろ』

 

『『『カアァァァーーーッ!!!!』』』

 

 

 ダンダンダンダンと火炎弾が全方位から発射される。

 身を屈め、頭を守るような体制を取り、魔法壁を展開して必死に耐える。だが火炎弾の温度は超高温と火力である。初めは耐えられていたが魔法壁がバリンと割れ、両掌の魔法陣が壊れる。鎧でしか受けられず、段々と鎧にヒビが入っていく。

 

 

『そろそろ』

『終わりだな』

『焼け焦げて死ぬがいい』

『全員一斉に発射だ』

 

『『『ハアァァァーーー…』』』

 

 

 やばい。

 負ける。死ぬ。

 諦めかけたその時、割れて生まれたヒビの中からコロリと何か出てきた。黒い缶が瞳の中に入る。

 

 

(これは…魔理沙の………?ポケットに入れてしまったのか?)

 

(あれ?そういえばこれ…?)

 

(──そうか。魔理沙)

 

(ありがとう……!!)

 

 

 炎を溜めていると、霖之助は立ち上がる。

 胸のところをカチリと押すと、バラバラと鎧が砕けていく。鎧の中の服は端の方が焦げてしまっており、鎧は限界を迎えていたのがわかる。

 

 

『おや?我慢大会は終わりかな?』

 

「ふぅ…。ああ、終わりだ」

 

『随分と潔いな』

 

「僕の仲間が諦めるなと怒鳴ってくれたんでね」

 

 

 霖之助の手の中には真っ黒い缶が握られていた。雲外鏡達は何を持っているのか疑問を持ち、火球を準備したまま固まる。

 

 

『・・・何だそれ?』

 

「反撃の時間だ」

 

 

 プシュッと音を立てて、黒い煙が吹き出した。

 勢いよく上空に巻き上がり、泥のような黒い煙が下にドロドロと落ちてきた。鏡の結界を覆う程の闇が包む。

 

 

『こ、これはァ〜〜〜ッ!?!?』

 

(今だ──)

 

 

 博麗神社に常闇がやって来た。

 光が届かない場所では鏡は何も写さない。あっという間に、分身達と鏡の結界は消えていく。さらにこの闇は視界を奪い、雲外鏡は何も見えず、何もできないままだった。

 

 

『これじゃあ力が使えねえ!テメェ、この野郎!チンケな真似をしやがって!!殺してやる!!』

 

 

 自分の無敵の技を照魔鏡抜きで突破された。

 その事実に、雲外鏡は怒り狂う。

 だが雲外鏡もこのまま怒り続けるほど馬鹿ではない。これだけ何も見えないのなら、それは相手も同様だと推測する。

 

 

『ふぅ…ふぅ…っ、おい!このままじゃお互いにジリ貧だぞ!良いのか?』

 

「そうだね。確かに終わらせないと困る」

 

『なぁ、ここで提案なんだが……休戦しないか?』

 

「何?」

 

『あの巫女達を解放する。そしてもう悪い事はしないと約束しよう。だから見逃してくれ。悪くないだろ?』

 

「なるほど。お互いに利がある」

 

『そうだろう・・・?』

 

 

 雲外鏡は、霖之助の場所を探していた。

 見えないなら声から当てる。

 敢えてわざと話し、声の場所から大体の位置を把握する。そして見つけた。大きく口を開ける。

 

 

「分かった。その要求を飲もう」

 

『馬鹿な奴・・・そこだアァァァーーーッ!!』

 

 

 

 

──バクンッッッ

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

「いってえ〜。ったくよ、酷い目に遭ったぜ」

 

 

 大きなタンコブを乗せたねずみ男。

 照魔鏡を手に持って、博麗神社の階段を登る。近くの森までぶっ飛ばされて、気を失ったが目を覚まして戻って来たのだ。

 

 

「うおっ!?何だ、こりゃあ!?何も見えねえぞ」

 

 

 階段を登った先には神社ではなく、闇があった。

 何も見えないので入ろうか悩んでいると、時間が切れたのかは不明だが、空気に消えていくように闇は無くなっていった。

 

 

「決着は・・・」

 

『アムアム……んぐっ。げぷぅ〜〜っ!!貧相な男だが、腹の足しにはなったな〜…ぁ』

 

 

 口をモゴモゴとさせる雲外鏡。

 そしてゴクンと呑み込んで、また大きな舌をベロンと出す。ねずみ男はペタペタとやって来て、雲外鏡に頭を下げる。

 

 

『お前ェ…』

 

「いや〜お見事ですよ!雲外鏡大先生!やっぱり私の目に狂いはなかった!このねずみ男はどこまでも貴方様について行きますよん!!」

 

『おっ、おおおっ、オォォ……マァええぇ…っ』

 

「雲外鏡大先生?」

 

 

 雲外鏡の様子がおかしくなる。

 段々と色が赤褐色になっていきグズグズと皮膚が爛れていく。目玉が飛び出し、舌からは紫色の煙が吹き出す。

 

 

『オォォ〜〜〜〜……・・・』

 

「あっ、ああ〜〜っ!?!?」

 

 

 遂に飛び出した目玉が、そのままねずみ男に落ちる。

 それと同時に一気に雲外鏡の体は崩壊していき、地面に落ちていった。その雲外鏡だった物質の中から霖之助が出てくる。

 

 

「あの状況で休戦を提案するなんて怪し過ぎるよ…」

 

「うげげぇっ、たずげでぇえ」

 

「照魔鏡は返してもらうよ」

 

「あげぇ…っ」

 

 

 潰れたねずみ男は助けずに、照魔鏡を拾い上げる。

 そして裏に行くと大きな穴の側に銅鏡が転がっていた。それに向かって、照魔鏡を当てると閉じ込められている霊夢、魔理沙、藍が飛び出した。

 

 

「大丈夫かい?みんな」

 

「今回は流石にやばいと思った〜」

 

「霖之助さん、助かったわ」

 

「中々に恐ろしい相手だった…。それにしてもどうやって、あの雲外鏡を?結界もあんなに強かったのに」

 

「ああ。結界はこれを使ったんだ」

 

 

 そういって、あの缶を3人に見せる。

 魔理沙は直ぐに自分のものだと気づいた。

 

 

「常闇缶?」

 

「光が無ければ、鏡は何も反射できないと思ってね。予想が当たって助かったよ。まぁ全部魔理沙の発明のお陰だ。ありがとう」

 

「えっ、えー!何か照れるぜ」

 

「それで雲外鏡は?」

 

 

 霖之助が案内する。

 神社の前にはぐちゃぐちゃになった雲外鏡だった物があった。ねずみ男はその下で潰れている。

 

 

「溶けたのか?」

 

「いや、錆びたんだ。これを使ってね」

 

 

 霖之助が錆の山の中から取り出したのは空の俵。

 それは霊夢の家に貯蓄してある塩が入っていた俵であり、雲外鏡に自分が食べられた時に持っていた俵も一緒に飲み込んだのだ、と説明をした。

 

 

「塩?ナメクジみたいな奴だな」

 

「雲外鏡は銅鏡の九十九神。塩は銅を錆びらせることが出来るから、食べた時点で相手の負けは確定していたのさ」

 

「だがお前も視界は奪われていただろ?」

 

「缶を使う瞬間に、自分の立ち位置と台所までの距離を把握しといたんだよ。伊達に長く生きてるから霊夢の台所のどこに何があるかとかは知ってるしね」

 

「まぁ、事件は解決ってわけだな! それで、こいつどうする?」

 

 

 魔理沙はねずみ男を引っ張り出す。

 ねずみ男は全員が睨みつけているの察して笑うことしかできなかった。

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

「ほら、さっさと片付けなさい」

 

「はーい!」

 

「風呂掃除は終わったの?」

 

「今直ぐぅっ!!」

 

「肩揉んで。トイレ掃除して。買い物してきて、あんたの金で」

 

「ひぃいい〜〜っ」

 

 

 霊夢に迷惑をかけたということで、ねずみ男は1ヶ月間無償で奉仕活動の罰となった。そしてこのように霊夢の召使として博麗神社で霊夢に尽くしている。もし少しでも遅れると霊夢から恐ろしいお仕置きが待っているので逃げられない。

 

 

「もうお許しをぉ〜っ!!」

 

「ダメ」

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 あの銅鏡は壊す事となった。

 霊夢の立ち合いの元、除霊をしてから魔を払い落とし、ただの銅鏡になったところで粉々に割った。その破片は聖なる場所、博麗神社の敷地に埋められた事件は終わった。

 

 照魔鏡は、霖之助が所有する事となり、丁寧に保管される事となる。魔理沙に持たせておくとガラクタの中に紛れてしまう可能性があり、必然的である。

 

 

 場所は変わり、雲外鏡が置いてあった魔法の森に黒い影が3つ現れる。

 

 

『雲外鏡。かなりの強豪を用意できたと思ったが…、まさか弱点の照魔鏡がこちらに来てるとは誤算じゃったな』

 

 

『探すのに苦労したのにぃ。俺たちの努力と結果が見合ってなーい!!』

 

 

『しかし、ゆっくりと我々の目的には近づいているさ。焦ることはないさ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はははははは・・・!!』

 

 

 

 

 

 





 この雲外鏡の話は原作に寄りすぎていました。すいません。
 めちゃくちゃ反省しており、オリジナルストーリーをしっかりと考えて書いていこうと思います。

 次回はまだ決まってませんが、書きたい妖怪はめちゃくちゃいます。
・釜鳴、南方妖怪、牛鬼、大百足、ぶるぶる、などなど

 リクエストでは結構色々な妖怪のアイディアを頂いていまして、泥田坊、白山坊などをもらっています。
 泥田坊はめちゃくちゃ書きたいですね。

 リクエスト、感想などお待ちしております。


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幻想郷の住人編
悪魔の妹 フランドール・スカーレット



 こんにちは、狸狐です。
 最近身体の不調が激しく休む日々が多くなってきました。気温とか気圧のせいなのかは不明ですが、マジで情けないです…。

 最近の近況報告
 ・水木しげる先生の作品を探しに図書館に行く。
 ・眠れない夜とか休みの日にやる事がないので、3DSを引っ張り出して「ポケモン・ソウルシルバー」をやっております。実は前にやっていましたがデータを消して改めて始めました。

 サファリパークでヨーギラスが出てきて、今ではサナギラスになったので早くバンギラスになってほしいですね。本当にもう、悪タイプとか毒は好きなんですよ。岩・地面タイプから悪・岩になるのが楽しみすぎます。噛み砕く、したい。

 皆さんは何タイプとか、何のポケモンが好きですか?
 私は昔はクロバット、ゲンガー大好きだったんですが、最近はニューラとバンギラスです。








 

 幻想郷にある唯一の人間たちの住む場所である人里。

 そこの門を出れば、大小様々で異形の集団である人喰い妖怪達が跋扈する『妖怪の森』が広大に広がっている。そしてその森を抜けると“氷の妖精”が住み着いていると言われる昼になると霧が濃くなる『霧の湖』がある。

 

 その霧の湖をさらに奥へ進むと、西洋妖怪の強豪でもあり、ビッグネームの存在“吸血鬼”の住む世にも恐ろしい館──『紅魔館』がある。

 

 

 

【緊急事態発生!!緊急事態発生!!】

 

 

 けたたましい音が真夜中の山に鳴り響く。湖の中に住む魚たちも、あまりの音に眠りから覚めて飛び跳ねていた。

 

 

「ア"アアアァァァーーーッ!!」

 

 

 とある日の深夜。

 その紅魔館で大きな爆発音がした。血のように真っ赤な城壁が大きな音を立てて崩れ落ち、その中から一つの影が飛び出した。その影を、もう一つの影が追いかける。

 

 

「ウ"アアァァァーーーッ!!」

 

「妹様!落ち着いてくだ──ごふっ!?」

 

 

 しかし追いかけることはできても、止めることはできなかったようだ。鈍く低い音を立てるのと同時に、血飛沫が舞い、追いかけた影が紅魔館の方、つまり真反対に吹き飛び、新たに城壁に穴を開けた。

 

 

「ウウゥゥ…うわああああぁぁぁぁーーーん!!お姉様なんか大嫌いぃぃっ!!」

 

 

 この紅魔館を半壊させたのは、この泣きべそをかいている少女であった。今もなお、崩壊を続けている紅魔館に向かって、少女は大声で叫ぶ。

 

 

「お姉様もっ!パチュリーも!咲夜も、美鈴も!皆んなみんな大嫌いィっ!!皆んな死んじゃえぇぇええーーーっ!!うわああああーーーっ!!もう出ていくんだからァーーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

「はぁ〜い!美しいお嬢さん方、注目注目ぅ〜!」

 

 

 今日は人里で行われるバザーの日である。

 もう使わない家具や食器、ドングリや石などを使った小物、芸術家たちが描いた絵など様々なものが売られている。そして、我らが「ねずみ男」もこのバザーに参加していた。

 

 

「これを見てちょうだい!外の世界では超高級品のブランド物の傘よ!他所じゃ絶対に手に入らないレア品なのよ!」

 

 

 ねずみ男が売っていたのは傘である。

 可愛らしい花柄、高級感溢れる黒色の傘…。幻想郷にある傘の殆どが唐傘なので確かに珍しいものである。

 

 

「それに今日はレディースDAY!一本10,000円のところ、女性が買うなら30%もオフしちゃう!男性陣は関係ないと思って行かないで!女性にプレゼントするならちゃんと割引しますよーん」

 

「一本見せてくれる?」

「嫁にプレゼントしようかな。僕も一本見せてくれ」

 

 

 物珍しさに惹かれた人々や、安さを気に入った人々がやって来る。そして気になるものを手に取る。ねずみ男は手をコスコスしながら笑う。

 

 

「どうぞどうぞ!開いてみてちょーだい!」

 

「あら、結構可愛い!」

「オシャレだね」

 

「グフフフ…!さあさあ数は決まってるんだ!入荷も未定よん!早いもん勝ちだ!買った買った!!」

 

 

 全員が財布を開けて、お札を取り出す。

 それを見ていた赤い傘を持つ青い髪色をした少女が、ねずみ男とお客の間に入ってきた。

 

 

「皆んな、これ買わない方がいいよ」

 

「な…っ」

 

 

 ザワザワと辺りがうるさくなる。

 ねずみ男は立ち上がり、腕をまくり、怒るフリをしてその女の子に怒鳴る。

 

 

「こ、このガキンチョ!何を根拠に!」

 

「だってこれ偽物でしょ」

 

「ゲゲゲ!?」

 

 

 更に五月蝿くなる。

 少女は一つ傘を取ると、柄の部分をちょいと引っ張った。するとペリペリと簡単に剥がれてしまい、いとも簡単に骨だけになってしまう。

 

 

「な、なんだこれ!本当に偽物じゃない!」

「おい、これも剥がれるぞ」

 

 

 少女に即発された客たちも剥がす。

 全ての傘が骨組みだけとなってしまった。骨の部分には、まだ乾いていないノリが残っていた。

 

 

「これ、紙を貼り付けただけじゃないか!」

「金を払う前で助かった…」

「私たちを騙したのね!!」

「詐欺だ、詐欺!」

 

「あ、あはは、ちょいと落ち着いて!」

 

 

 実はみんなの言う通り。

 これは彼の得意のインチキ商売である。近くのゴミ捨て場からボロボロになり捨てられていた傘を拾い、更には和紙などを売る店で数十枚ほど万引きを行い、糊で貼って、見栄えだけが良い傘を作り上げた。勿論水に濡れれば簡単に紙が溶けてしまうので傘としては役に立たない。

 

 

「あちきはちょいと傘に詳しいんだ。だから偽物と本物の違いくらい簡単にわかる!あちきの前で偽傘の売買が出来ると思わないことだね!」

 

「くうぅ〜〜〜っ!!これじゃあ商売上がったりだ!やってられるかよォッ!」

 

 

 怒る客たち。

 こうなったら仕方がないと、一本だけ傘を持って、他は店をそのままにして逃げ出した。ねずみ男が去った後、その少女は皆んなに言った。

 

 

「去る者追わずだ!あちきの出店なら、本物の上質な傘が売ってるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

「くぅうう〜〜〜〜っ!!!!悔しいぃぃぃ…っ!!」

 

 

 インチキがバレた。更には客まであんな少女に取られた。あまりにも悔しくて梅干しを食べた時のように顔をぐしゃぐしゃにして、更にはギリギリも歯軋りをする。地団駄を踏み、大人気なく怒る。

 

 

「この天下のねずみ男様の行いを白日の元に晒すだけではなく、客まで取るとはァ〜ッ!!」

 

 

 怒りが頂点まで達した瞬間──。 

 プチリと何か彼の中で切れた。そのまま近くの草原の上に横たわる。何が起きたのかと言うと、あまりにも悔しかったのだが、それが頂点を超えた瞬間に一周回って冷静になってしまったのだ。

 

 

「・・・はあ。なんて俺は愚かなんだろうか。だからあんなガキにしてやられるんだ…。あー!何たる悲劇かっ、この世はあまりにも俺に残酷だ」

 

 

 寝転びながら、服の中に手を入れる。

 そこから数百円が転がってきた。何かで稼いだ時に残っていたのだろう、彼の所持金全てである。

 

 

「金はこれだけ…。あとは」

 

 

 そして他には店から逃げる時に持ち出した傘一本しか手元にない。

 

 

「・・・唯一の本物の傘。偽物と紛れ込ましたら信憑性が増すと思って拾ったのに結局はパァだよ。ったく」

 

 

 この傘をどうしようか考える。

 別に自分は濡れたところで困らないことを考えると不要なものだ。しかし捨てるのは何か惜しい。基本的に捨てるよりも拾うタイプだからか、簡単にポイは出来なかった。

 

 

「…とりあえずこの傘を霖ちゃんの所に持っていこうかなァ。数十円くらいで売れたら良いんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

──ポツ…

 

 

 

 

 

 

 

「あ?」

 

 

 頬が濡れた。

 空を見上げれば、あんなに澄んでいた空が曇っている。灰色の雲があっという間に真っ黒になってきたと思えば、雨が強く降ってきた。ポツポツという音はザアザアという激しい音になった。

 

 

「傘、持ってて助かったア〜」

 

 

 ビチョビチョになる前に傘を開く。

 それにしても、すごい雨だ。最近は涼しくなってきたと思ったが、天気もついでに悪くなってきた事を思いながら歩く。

 

 

(こうなると霖ちゃんの所に行かなくても良いか。けど、暇だしな。・・・そういや昼間だと霧が濃くなる湖があるらしいな。なんか面白そうなのあるかもしれないし行ってみるか)

 

 

 そういえば、この森を抜けた先に湖があると誰かから聞いたことがある。まだ行ったことがない場所というのは好奇心がくすぐられる。もしかしたら何か大きな発見を得られるかもしれないと希望を持つ。

 

 

「10月だからかなァ。蛙の鳴き声はもう聞こえない。寂しいねぇ…」

 

 

 

 

 

── キャアアアァァァ……

 

 

 

 

 

「・・・ん?何だ?猿が木から落ちた声か?」

 

 

 何か遠くから聞こえる。

 音のする方へ行くと、聞こえてきた音は悲鳴のようなものだった。恐怖の悲鳴というよりは痛みに苦しむ声。

 

 

──いだいぃっ、痛いっ、熱い……!!

 

 

 悲鳴を上げているのは全身傷だらけの少女だった。

 木の下で身を小さく屈め、濡れないようにしている赤色の服を着た金髪の少女が見えた。しかし無駄な行為で、結局は跳ねた雨水で濡れて、その度に苦しそうな悲鳴をあげる。

 

 

「あづいっ、痛いっ、誰か助けて…っ。誰かぁ」

 

(何だァ?あのガキ…?こんな所でピーピーと…。助けねえとマズイよな。・・・いや待てよ。ありゃあ妖怪だな)

 

 

 一瞬助けようかと思ったが、冷静になるとおかしい。こんな危険な場所に人間の子供なんかいない。更によく見れば、何だあの背中から生えている羽は?てかあれは羽なのか?羽のように見えるが、宝石がキラキラと光っているぞ。明らかに人間じゃないな。

 

 

(妖怪なら助けなくて良いや。それにガキだし…、金にもならなそうだし)

 

 

 見捨てようかと思った。

 しかし不意に彼女がいる木の上を見ると、枝に大きな蛇がいる。頭が3つある蛇の妖怪だ。蛇の妖怪は、少女を見てニヤリと笑い、大きな口を開いてゆっくりと降りて来る。

 

 

『シャアァ…!シュルルルゥゥゥ〜〜〜!!』

 

「きゃあっ!?」

 

(何やってんだよ、早く逃げろよ…!?何だ、あいつ?逃げれねえのか?)

 

 

 少女は木の下からは出ようとしなかった。

 あの少女は雨がダメだから動けない。つまり“前門の虎、後門の狼”といった状況だった。蛇の妖怪は舌をチロチロと出して少女に近づく。それに比例して悲鳴も大きくなり、ねずみ男はグッと目を瞑る。

 

 

(くぅう〜〜っ、金にはならん事はやらない主義だってのに。くそおぉっ!!)

 

 

 ねずみ男は飛び出した。

 傘をグルグルと振り回し大きな声をあげて、少女の前に立つ。

 

 

「何やってんだアァァァーーーッ!!」

 

「!?」

『!?』

 

「喰らえっ、()ズーカー!!」

 

 

 バフゥッと大きな屁をかます。

 蛇の妖怪は声にもならない声をあげ、走馬灯を見ながら絶命する前に逃げ出した。突然の出来事に少女はポカンと口を開ける。

 

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい」

 

「あと・・・これ使いな」

 

「ほぇ?」

 

理由(ワケ)は分かんねえけど雨が嫌なんだろ。使いな」

 

「「・・・」」

 

 

 現状を把握できていない少女。

 突然現れた謎の人物やオナラで妖怪を撃退した状況に驚き、完全に固まってしまい、2人は何もしないまま見つめ合う。その時の中で先に動いたのは少女だった。

 

 

「ありがとう…ございます……?」

 

「ふん!お礼なんか要らねえよ。じゃあな」

 

 

 ねずみ男はさっさとこの場から去ろうとした。

 彼の性格上、利益関係なく誰かの為に何かをして、心の底からのお礼を言われたり感謝されるのは苦手だ。全身が痒くなってしまう。悪いことして騙してる時に感謝されても何も響かないが、こういったのは慣れていない。

 

 

「あっ、待っ──ぐぅっ…」

 

「お、おい!!」

 

 

 緊張から解放されたのか、誰かと話せて安心したのかは不明だが、突然痛みを訴え始める。ねずみ男は直ぐに駆け寄った。少女の腕や足、首に顔といった服から出ている箇所が赤く腫れていた。

 

 

「何だよ、この傷は・・・!?まさか虐待じゃ…!!」

 

「違うの…っ、私、()()()だから水に濡れると火傷しちゃうの……うぐぅっ」

 

「きゅ、吸血鬼ぃっ!?吸血鬼ってあの西洋妖怪の……!?」

 

「──ぁ」

 

 

 やばい。

 この反応は昔から見たことがある。生き血を啜る穢らわしい存在、卑しい獣。きっと自分のことを化け物だと思ったり、敵視しているんだ。この状況では力もうまく出せない。

 

 

「じゃ、じゃあお嬢ちゃんは()()()()()()()の部下だったりするぅ…?」

 

「ばっく?…なに?ごめんなさい、分からない」

 

「なーんだ、無関係ね。なら怖くねえや」

 

「へ?」

 

 

 予想とは違った。

 先程までは完全に怯えていたのに、知らないと答えたら明るい顔になった。まさかの反応に驚く。

 

 

「あ、あの」

 

「何よ」

 

「本当に怖くないの?私、吸血鬼だよ?血を吸うんだよ?皆んな、私から逃げるんだよ?」

 

「ケッ、まーったく怖くないね」ヘヘン

 

 

 ねずみ男にとって吸血鬼という単語は何も怖くない。自慢じゃないが彼は外の世界で、鬼太郎と出会う前には吸血鬼の召使いをしていたり(その後夜叉と戦わせて相打ちさせたが・・・)、西洋妖怪たちと戦ったりする等、ここにも負けないくらいの色んな幻想的なイベントがありすぎて、吸血鬼というのは聞き飽きているのだ。それに、あの西洋妖怪の帝王『バックベアード』とは無関係なら何しても報復される心配もないので怖くない。

 

 

 

「怖くない・・・」

 

 

 

 少女にとって『ねずみ男』との出会いは、火傷の痛みを忘れさせるほどの初めての体験だった。これまで自分を見て怯えたり罵ったりする人間はたくさん見てきた。霊夢や魔理沙だけがそんな事をしない唯一の存在だとも思っていた。それなのにまさかただの人間がこんな反応するとは思わなかったのだ。

 

 

「隣、失礼するぜ」

 

「あ、うん。…傘」

 

「いいんだよ、自分に差してな。その大きさは俺に合わなかったから丁度いいさ」

 

「・・・うん」

 

「痛くねえか?」

 

「傘のおかげかな。なんか落ち着いてきた」

 

「そうか」

 

 

 傘を渡したせいで少女は濡れなかった。

 しかし、ねずみ男はあっという間に濡れネズミになってしまうが傘をする方が珍しいので、こんな風に濡れることに何も感じない。とりあえず得意のお喋りで場を和ます。

 

 

「それにしてもよ疑問に思わないかい?」

 

「?」

 

「人間だよ。アイツら人間ってのは自分と違う存在にはビビり過ぎなんだよ。血を吸うなんて蚊もするし、何も珍しくなんかないってのに」

 

「“蚊”と一緒にされるのは、ちょっと…」

 

「コウモリの方が良かった?……ってそんな事より、聞いて驚くなよ。俺はな吸血鬼の執事やってたんだぜ?すごいだろ」

 

「えっ!?本当!?」

 

 

 自分のところにいるメイドと同じだと驚愕する。

 人間が吸血鬼に仕える事は殆どないというのに、この男は嘘をつくどころか真面目な顔で答えている。なんて面白いんだ。

 

 

「嘘なんかつくもんか。俺はな正直者の聖人君子で有名なんだ。……あっ、自己紹介が遅れたな。俺さまは『ビビビのねずみ男』ってんだ。知っといて損はないぜ」

 

「私は……フランドール・スカーレット…」

 

「長い名前。やっぱり外国人って皆んなこうなのかしら?ねえ、フランドールちゃん?皆んなからは何て呼ばれてるの?」

 

「え、えーと、お姉様や霊夢、あとは魔理沙からはフランって呼ばれてる、かな」

 

「いいネ。じゃあ俺様もそう呼ぼうっと!よろしくな、フランちゃん」

 

 

 手を差し出すねずみ男。

 今まで人間からは武器を向けられたことしかなかった彼女にとって初めての経験だ。ドクンドクンと心臓が高鳴る。何なんだ、これは。霊夢や魔理沙と戦った時とは違うドクドクだ。

 

 

「あれ?海外じゃ握手しないの?」

 

「ご、ごめんなさい!いきなりでビックリしちゃっただけなの!・・・よ、よろしくね」

 

 

 姉や咲夜の柔らかい手とは違う。

 男性特有のゴツゴツした感触にフランは何故か()()()()()()()。大体急に現れて助けるなんて何なんだ。まるでお部屋にある絵本に出てくる王子様?とかみたいじゃないか。

 

 

「くきゅぅ」

 

 

 変な想像をしてしまった。

 顔が赤くなる。なんて熱いんだ。てかめちゃくちゃ恥ずかしい。こんな顔見られたくない。見ないで──。

 

 

「それにしても吸血鬼の嬢ちゃんがこんな所で何してんたんだ・・・ってゲゲェッ!?!?」

 

「うぅ…」

 

「すげえ熱だ!・・・くぅ〜っ、乗りかかった船でい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 ここは紅魔館の大広間。

 紅魔館全体は血のように赤いが、内装は違う。どことなく中世ヨーロッパの王宮の様な造りになっており、奥には権威をあらわす玉座が置かれている。その玉座に座る少女が居る。彼女こそフランの実姉でありにして紅魔館の主、『レミリア・スカーレット』である。

 

 

「〜〜〜っ」

 

 

 ()()な事で妹のフランと喧嘩をしてしまった。

 そのせいで屋敷が壊れるだけではなく、妹が出て行ってしまった。更に天気が雨になってしまい、あまりにも心配で落ち着いていられないのだ。

 

 

「お嬢様、落ち着いてください。焦っても妹様は帰ってきませんよ。ここは主人らしくカリスマを持って威厳を示してください」

 

 

 彼女は紅魔館のメイド長『十六夜(いざよい) 咲夜(さくや)』。この主人レミリアに忠誠を誓った人間である。彼女はレミリアに紅茶を用意する。人間の血を混ぜた特別性だ。

 

 

「・・・別に。落ち着いてるわよ」

 

「肘掛けにヒビが入ってますわ。指で叩きすぎです」

 

「くぅっ、この玉座がもうボロいのよ!新しいのを用意しておきなさい!」

 

「承知しました」

 

「それで……フランは?」

 

「美鈴が気を追っております。見つかるのは時間の問題ですよ」

 

「…そう。良かった…。…ゴホンッ、全く迷惑かけすぎなんだから。雨だって降ってるし何かあったらどうするつもりなのかしら」

 

「はぁ……お嬢様…。帰ってきたらちゃんと謝ってくださいね。私は仲の良いお二人の方が好きです」

 

「ふ、ふん。言われなくてもわかってるわよ」

 

「なら良かったです。私は妹様がお腹を空かせて帰ってきた時のために厨房でご馳走の準備をしてきます。では──」

 

 

 一瞬にして姿を消す。更にはレミリアが飲み終わった紅茶のカップまでも同じく消えていた。一応だが彼女は人間だ。しかし彼女には『とある異能』が備わっているので、このような芸当ができるのである。

 しかもこの紅魔館には他にも様々な技術や能力を持つ猛者たちがいる。だからこそ、その全員の主人であるレミリアの実力はかなり高い事は想像がつくだろう。

 

 

(あー!帰ってきたら何て謝ろう…!!勝手にフランのケーキを食べてごめんなさい、とかかなぁ。……でも、私はカリスマ溢れる吸血鬼なのよ。もっとこう……悪かったわね…とか、仮にも私の妹ならこのくらいで騒がないで……とかの方が威厳があっていいわよね。うん、そうしましょ…)

 

 

 

──キ…キィィ……

 

 

 そんな時だ。

 キィイ……と、この部屋の扉が開く音が聞こえた。レミリアはそれに反応する。咲夜なら音を立てずに現れるし、美鈴ならノックする。パチェなら図書館から出てこない。もしかしてフランが帰ってきたのか!?申し訳なさそうに静かに入ってきたのか。

 

 

「何やってたの!!心配し…──誰だ、貴様」

 

 

 レミリアの雰囲気が変わる。

 猛烈な殺意と怒りを込めた視線で扉を開けた相手を睨みつけた。扉を開けたのは単眼の異形。体は植物ではあるが地面から生えている気配はなく完全に経って自立しており、頭部からは花を咲かせている異形が立っていた。

 

 

『・・・』

 

「私は今、機嫌が悪い。消えろ」

 

 

 パチンと指を鳴らす。

 途端に異形は破裂した。何をしたのかは不明だが、レミリアは見た目は幼いが霊夢とも張り合えるほどの実力者だ。出来てもおかしくはない。

 

 

「くそっ、何なのよ…。美鈴は何してんの。門番でしょ…」

 

 

 

──バキ…メギッ……

 

 

 

「・・・へぇ」

 

 

 異形が復活した。

 そして()()()()()

 バラバラにされた木片が新たな異形となりあっという間に数十体ほどに増殖していた。奴らは大きな口の中にある鋭い牙を見せながら再生して直ぐに迫ってくる。

 

 

『キキキキ…』

 

「そう。壊すくらいじゃダメなら……灰にでもしてみましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 厨房。

 紅魔館の大きくて広い台所。ここではメイド長である咲夜の他にも召使いであるホブゴブリンや下級妖精たちが日々料理作りに勤しんでいる。

 

 

「かぼちゃのスープはどう?」

 

「もう少しで完成です」

 

 

 手先の器用なゴブリンたちがスープを作る。

 咲夜は後ろから指示をしていた。メイド長であるからこそしっかりと指導するのも仕事のうちだ。仮に自分がいなくなっても、お嬢様には苦労をかけてはならないので、このように教える必要がある。

 

 

「ねぇ、地下の血液貯蔵庫から新鮮な血を持ってきた?」

 

「10分ほど前に妖精たちが取りに行きましたよ」

 

「何をそんなにかかっているのかしら…」

 

「でしたら私達が見てきます」

 

「ええ、頼むわ。あとついでに食糧庫から人間の肉と鶏、あとは豚…それと卵を持ってきて」

 

「承知しました」

 

 

 ゴブリンたちが行くとかぼちゃスープの火を止める。

 あまり煮たせすぎると味が落ちてしまうからだ。さてと自分はメインディッシュを作ろうかと包丁を取り出す。5分経った、誰も帰ってこなかった。流石に痺れを切らした咲夜は地下へと向かおうとする。

 

 

「・・・料理は時間が命だって何度も教えたのに。まさかあの子達、地下でサボってるんじゃないでしょうね」

 

 

 その時だ。

 厨房の扉が開いた。

 

 

「遅い!一体何をしてい──」

 

『キキキキ』

 

「・・・ここは食材を扱うところでしてよ。不潔なものはお断りです」

 

 

 異形がいた。

 咲夜を見ると大きな口を開けて迫る。だが迫ったと思った瞬間には首が刎ねられていた。

 

 

『キ?』

 

 

 自分に起きた出来事を把握できないまま絶命。

 咲夜はナイフを洗いながら文句を言う。

 

 

「美鈴は何をしているのかしら。あの子たちは帰ってこないし、変な輩が入ってくるし、妹様は出て行ってしまうし。全く今日は厄日だわ……」

 

 

 咲夜のこの能力。

 高速移動だとか、瞬間移動だとか、そんなチャチな能力ではない。彼女の能力は『時を操る程度の能力』だ。そして今まで見せたのは全て時を止めて行っていたのだ。但し、止められる時間は約5秒であり万能ではない。

 

 

「ん?」

 

 

 排水口から何か伸びている。

 赤く、細長い植物のようなものが伸びていた。何か植物の種などを流してしまい生えてきたのか?時を操ったせいで急激に伸びたのかもしれないと思い、手を伸ばす。

 

 

「ちゃんと排水口の掃除はしてるのに・・・きゃっ!?」

 

 

 ツタを抜こうと握った。

 するとツタが手に絡みついてきた。振り払おうにも完全に巻き付いてしまい取れない。そして、そのままツタは脈の部分までいくと──。

 

 

「痛っ」

 

 

 チクリと刺した。

 直ぐにナイフで切断した。するとバタバタと暴れてから、そのまま排水口の中に沈んでいった。

 

 

(棘でもあったのかしら…。それにしても……チッ)

 

 

 ほんの少しだが怪我を負う。しかし包丁で切った時よりも軽い、縫い物をしていて指に針が刺さった程度である。しかし今はそんなのはどうでも良い。気になるのは後ろで蠢く無礼な客だ。

 

 

『キ・・・キキキキ!!』

 

「タネなし手品でもご覧になっていきますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅魔館 門前。

 紅魔館と外を切り離す大きな鋼鉄製の門。その傍の壁に寄りかかり腕を組んでいる赤い髪の女性がいた。

 

 

(あった!妹様の気!!方角的には人里の方…。動いている?・・・やっぱり帰ってくる気は今はないのかな)

 

 

 紅美鈴。

 レミリアにスカウトされ、その経緯で仕えている妖怪であり、この紅魔館の門番を務めている。門番を任せられるという事はかなりの実力である証であり、3食(昼寝)付きなので彼女も満足して働いている。

 

 

「あ〜あ、さっさと謝ればいいのに。そしたら私も安心してお昼寝できるんだけどなぁ」

 

 

 ぐぅっと体を伸ばす。

 ずっと立っているのも中々に大変で、体が固まっていたのかポキポキと骨がなる。

 

 

「ふぅ…。それで・・・いつまで覗いているつもりですか?不意打ちは無駄ですよ」

 

『キキキキ…』

 

 

 地面から木の異形が生えてきた。

 美鈴は軽く構えた。久しぶりの弾幕以外の戦いに心が躍る。地面を蹴り、一瞬にして異形の前に来ると、その顎に鋭い蹴りを喰らわした。

 

 

『キ──』

 

「・・・えー。この程度ですか。思い切り蹴ったわけじゃないのに脆いんですね」

 

 

 紅美鈴の能力。

 それは『気を使う程度の能力』である。

 詳しく説明すると、自分だけではなく生命エネルギーを持つ者の気やオーラなどを可視化できたり、攻撃や防御などに用いることができる。これを使えば相手の位置なども把握することができるため人探しをしたり、更には不意打ちを防ぐことも出来るのだ。

 

 

(おっかしいなぁ〜。もうちょい強い気を感じたんだけど勘違いだったのかなァ)

 

 

 

──ドクン…ッ

 

 

 

 敵の弱さに呆れて目を閉じようとした瞬間、彼女は飛び跳ねた。大きな気を感じた。幻想郷に来て直ぐに感じた“霊夢や魔理沙”といった猛者の純粋で綺麗な気とは違う。とても邪悪で強い気を感じたのだ。

 

 

(感じていたのはコレだ…ッ。一体どこから・・・っ、紅魔館の地下か! パチュリーさんが危ない…っ!!)

 

 

 異変に気づいた美鈴。

 地下に高エネルギーを感じ取り、直ぐに救援に向かおうと思ったが目の前に先程の異形たちが立ち塞がる。

 

 

『キキキキキィ』

 

「再生からの増殖ですか。悪いですけど・・・押し通る!!」

 

 

 

 

 

 

 

 地下の大図書館。

 ここは紅魔館の地下にあるとても広い図書館である。窓といった換気をする場所はないためカビ臭く、貯蔵されている本は魔導書だけではなく、ここの管理をする魔女が書いた自筆の本や外の世界から流れてきた漫画などもある。

 

 そして、その魔女は緊急事態に陥っていた。

 

 

「パチュリー様ぁ!何なんですかァッ、アレはァ〜!!倒しても倒しても増えていきますよぉ〜ッ!?」

 

「黙ってなさい、こあっ!今、集中してるのよ!!」

 

『キキキキキィ〜!!』

 

 

 何重もの魔法壁を作り出し維持しているのが、この大図書館の司書であるパチュリー・ノーレッジ。そして泣きべそをかいているのはパチュリーの使い魔であり雑用の小悪魔である。小悪魔は戦闘のための使い魔ではないため何も出来ず、木の異形たちを攻撃しまくり増やしてしまったパチュリーは流石に攻め続けられず、防御に徹していた。

 

 

「きゃあっ!?」

 

「こあっ!どうしたの!?」

 

 

 小悪魔の足に植物の蔦が絡まっていた。

 その現状を見て、パチュリーは図書館の異変に気づく。図書館の壁や床、棚にびっしりと蔦が伸びて絡まっているのだ。それも肉眼で分かるほどグングンと成長しており、今も伸び続けている。

 

 

「いやあああああ〜〜〜ッ!?!?」

 

 

 足に絡まっていた植物が段々と上へ上へと登ってくる。太ももから腰、腰から胸、胸から首と伸びていく。手足も拘束されて身動きも出来ない。ギチギチと締め付けられ、小悪魔の白い肌には圧迫された後が赤く残る。あっという間に全身を絡め取られると物凄い力で魔法壁の外へジリジリと引っ張られる。

 

 

「たずげでぇ〜っ!!」

 

「くっ、待ってなさい!こんなツタ焼き切ってやるから!火符アグニ──へぶぅっ!!」

 

 

 パシンとツタに殴られる。

 その衝撃にパチュリーは吹き飛び、小悪魔はそのままどこかに連れ去られてしまった。ゆっくりと起き上がり鼻血を拭う。誰かに殴られるのは初めての経験で軽く目を回す。

 

 

「う、うごご……っ、と、とにかく原因が分からないと…」

 

 

 魔法陣を展開し、紅魔館全体のマップのようなものを展開する。現代でいうところの3Dのように浮かび上がると豆電球ほどの小さな赤い光と小さな白い光が点滅していることがわかる。この白い光の点滅は仲間たちの命の光であり、赤は敵を表していた。その中では一際大きく、とても赤く光っている物が一階よりも下で図書館よりも上の箇所で点滅していることに気づいた。

 

 

「上に…何かい、る……ぅぅ…っ、もうっ、だっ、だめ…貧血ぅ…」

 

 

 気づいたは良いものの鼻血の処置の仕方を知らない彼女は、そのまま貧血により倒れた。同時に魔法壁も消え去り、一斉に異形たちが流れ込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 フランを背負いながら、急いで自宅へ戻る。子どもの看病なんかした事ない、否、誰かを看病なんてしたことがないねずみ男は焦りながら敷いた布団の上で寝かせる。勿論の事だが、ねずみ男が普段から使っている布団ではなく、使ってなかった新品の方だ。元々外来人たちには同じ家に一緒に住んでもらおうと考えられており、そのため外来人用の家に備え付けられている布団の数は2セットある。流石に風呂にも入らず、何日も洗っていない布団の上で寝かせるのは酷だと思い、その新品の上に寝かせて、窓を開けて換気する。

 

 

「こんなに俺の部屋って汚かったかァ?ゲホッ、ゲホッ…」

 

「はぁ…っ、はぁ…っ」

 

「横にさせたは良いものの……、あとは何すりゃあ良いんだ?俺っち全然病気になった事ないし、そこら辺が分からねえな…」

 

 

 普段から汚いものに溢れたところにおり、汚いものばかり摂取したおかげで彼の体の中には様々な細菌に対する耐性がついているので、病気になった経験がほとんどない。しかしそれは言い訳にならないと必死に考える。

 

 

「・・・薬と飯!!」

 

 

 この家には何もない。

 薬は要らないから基本的に貰っても売るだけだし、腹が減ったらゴミ捨て場に行けば良いという生活のため、この家には何もない。買いに行かなければならない。

 

 

「・・・」

 

 

 大体700円程度はある。

 今日はこれで弁当でも買おうと思っていた。流石に使えない。寝かせといて水さえ飲ませていれば大丈夫だ。そう思いつつ、ねずみ男はフランを見る。全身火傷のせいで赤くなっており、息も苦しそうだ。その光景に()()()()を感じた。手の中にあるお金をギュッと握る。

 

 

「しょうがねえなあ」

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぽちゃんぽちゃんと水の滴る音で()()()()は目覚めた。どうやら気絶していたようだ。

 

 

「──!?」

 

 

 目が覚めて異変に二つ気づく。

 一つ目は植物の蔦によって拘束されている事だ。抵抗しようにも身体に力が入らない。そしても二つ目はこの部屋の匂いだ。むせかえるような匂いにクラリとする。

 

 

「・・・血の匂い」

 

 

 ゴクリと喉を鳴らす。

 何と濃くて芳しい匂いだろう。久しく嗅いでいない鮮血の匂い。咲夜の入れてくれる血液とはまた違う新鮮な香り。吸血鬼としての本能が目覚めかけている。これを口に含め、転がし、味わって、飲み込む。考えるだけでおかしくなりそうだ。

 

 

『最高よねェェ〜〜。その顔見てれば分かるワァ〜』

 

 

 遠くからではなく近く。

 寧ろ内側から声が聞こえる。見渡しても植物のツタや幹しか見えない。

 

 

「・・・誰だ?どこにいる?」

 

『ウフフフフフフフ……。私も血の匂い大好き。飲むのも好きよ』

 

 

 メキメキと植物たちが動く。

 そして一つの形となった。

 その姿にレミリアは嫌悪を抱く。こんなにも気持ちの悪い物があるのかとゾッとした。

 

 

 

 

『だから貴女“も”私のために血をくれる?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 今回の構想の話です。
 カワウソの回やカロリーヌちゃんの話を見たり読んだらして思いつきました。最近のねずみ男は裏切って怒られての繰り返し(基本そうですが)だったので、極々たまに見せる子どもには優しい姿を書きたくなり、今回の経緯に至りました。

 フランは、私の解釈ですが、マジで男性慣れしてない。吸血鬼のこともあって敵視しかされてこなかった。更には家族とのこともあり魔理沙と霊夢に出会うまでは完全に病んでたと思っていますので、男性に傘を差し出してもらったことや優しくされたこと、特に怖がられなかったことを含めて、初めて知り合ったねずみ男に“ときめいている”状態にしました。
 小さい子が大人に「〇〇先生、好きー」みたいなものより若干重めを意識しました。



 さぁ、今回のゲスト妖怪はどなたか!!
 ヒントは作中のものと、「6期以外」には全部出てます。


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悪魔の妹 フランドール・スカーレット②

こんにちは、狸狐です。

 今回長めです。
 あと最近調子悪い…。何なんだろうか














 








 

 誰かに頭を撫でられている感覚がする。

 優しく、心地の良い感覚。

 何とも懐かしい。まだ両親が生きていた頃、よく姉が私を膝の上に乗せてくれたり寝かせてくれたんだ。立派な姉になってみせると息巻いていた姿を見て、幼いながらに笑っていたんだ。

 

 

「・・・おねえ・・・さま・・っ」

 

 

 ゆっくりと目を開ける。

 知らない天井だった。

 地下の無機質なものではない、表現するには難しいが木目の天井というのは何とも暖かさを感じる。

 

 

「……んっ」

 

 

 ゆっくりと身体を起こす。同時に頭から湿ったタオルが落ちてきた。辺りを見渡すと小さな部屋で、近くには水の入った桶がある。どうやら誰かが看病してくれていたらしい。何度もタオルを濡らして、絞って、頭に乗せてくれているようだ。窓も空いてはいるが太陽の日差しが入らないようにされており、秋の心地よい風だけが流れてくる。

 このあまり感じることのない朝の心地よさを感じていると、ガラガラと玄関の戸が開く。

 

 

「おっ、フランちゃん。目が覚めたのか。良かった良かった」

 

 

 現れたのは自分に傘をさしてくれた男性。

 初めて見た時はあまり気にならなかったが、よく見てみると私の想像する服とは思えない布だけを身に纏っており、そして裸足。失礼な言い方だが貧しい格好をしていた。彼はタライと紙袋を持っており、紙袋からはリンゴが頭を出しているのが見えた。

 

 

「ね、ねずみ男…さん……だっけ?助けてくれて……」

 

 

 お礼を言おうとすると、ねずみ男は頭を横に振る。

 紙袋を置いて止めた。

 

 

「お礼なんかやめろぃ!俺ぁは目の前で死なれたら夢見が悪くなると思って助けただけだ。それと“ねずみ男さん”って固く呼ばないでくれ。むず痒くなる」

 

「で、でも…」

 

「デモもストもねえんだよ。子どもは子どもらしいってのが1番なんだからよ」

 

 

 ねずみ男は別に子どもが嫌いというわけではない。寧ろ、子どもは好きだ。生意気で泣き虫、強がりに怖がり、いじめっ子にガキ大将にいじめられっ子と色々いるが全てにおいて純粋だ。そんな彼らが大人にへいこらしているほうが好きじゃあない。フランにも伝わったのか、先程とは違った思い切りの良い笑顔を見せる。

 

 

「・・・分かったわ。おじさま!」

 

「おじ様って…。まっ、“さん”付けよりはマシか。よし、元気になったなら薬飲んで朝飯だな」

 

 

 そう言って、ねずみ男は袋から薬を取り出す。

 汲んできた水をコップに入れて渡す。

 

 

「今、ウサ耳の薬売りから薬買ってきたんだ。()()()で値引きしてくれねえでやんの」

 

「前の…?」

 

「こっちの話よん。……ほれ、飲めるか?」

 

「うん。……ん、苦〜っ」

 

 

 あまりの苦さを訴えるためかベェっと舌を出す。

 昨日とは大違いの子どもらしい姿にケラケラ笑う。

 

 

「ケケケケ。甘い味だと思ったか?良薬口に苦しっていうだろ。薬飲んだなら、次はこれだな。ほれっ」

 

「わわっ」

 

 

 ねずみ男はリンゴを投げた。

 フラン本人に言うつもりはないが本当ならお粥でも作ってあげたかったが金が足りなかった。薬代は意外とかかってしまい、残った金で買えたのは果物だけだった。

 

 

「ええと…」

 

「? 食わねえのか?」

 

「切ってあるのしか食べたことないの。皮もあるし食べ方がちょっと分からなくて…」

 

「ま、まじかよ・・・」

 

 

 フランの発言に目を丸くする。

 しかし、それと同時にねずみ男の心の中に悪い物が芽生えていた。言動や服装、言葉遣いなどを聞いたり見たりしたところ、このフランという少女は『金持ちの家系』だ。あんなにボロボロだったところを助けたんだから謝礼が貰えるかもしれない。

 

 

「じゃあ俺が教えてやるよ。リンゴの1番美味しい食べ方をな。・・・こうやって齧り付くんだよ!あーん」

 

 

 ガブリと皮ごと齧り付く。

 ジューシーな果肉から弾ける果汁。そして何よりもねずみ男の美味しそうに食べる表情がお上品なフランの食欲に火をつける。

 

 

「お姉様の前だと出来ない食べ方…!!いただきます」カプ

 

 

 ねずみ男とは違う小さな口でカプリとリンゴに齧り付く。家で咲夜がうさぎの形にしてくれたリンゴとはまた違って、気持ちの良い歯応えを感じた。極たまに人間の首筋に噛み付いた時のようなピンと張っている肌に歯を突き立てて、中の果汁のように甘い鮮血を飲んでるかのようだった。

 

 

「〜〜〜〜っ!!」

 

「うめぇだろ。ニヒヒヒヒ」

 

 

 声は出さずに表情で美味しさを伝えるフラン。ねずみ男はそれに満足して、あっという間にリンゴを芯まで食べてしまった。彼の持つ歯は大岩さえも削ってしまうくらいの力があり、更に何でも消化する胃がある。彼の前ではどんな食べ物も骨すら残らない。

 

 

「美味しかったわ…。こんなのはじめて」

 

「なら良かった。薬飲んで、飯食ったなら、後は寝るだけだな」

 

「・・・うん」

 

「大丈夫だよ。寝るまで隣にいてやるさ」

 

「ほんと?」

 

「ああ」

 

 

 そう言って、ねずみ男はフランの前に座る。

 フランは治ったといっても病み上がり状態だ。ねずみ男の言葉に安心して、直ぐに横になった。食べて直ぐに寝ると牛になるなんて迷信をお姉様が言っていた気もするが気にしない。

 

 

「・・・」

 

 

 目を閉じると、あの家出をした日を思い出す。

 あの日は朝から虫の居所が悪かった。生まれ持って備わっている破壊衝動が溢れていた。しかし霊夢たちと出会ってからはコントロールしようと頑張ってきた。だがあの日だけはどうしても我慢できなかったのだ。

 

 咲夜や美玲に当たり散らし、小悪魔やホブゴブリン達に罵詈雑言を放つ。そんな状態で姉が私の楽しみにしていたケーキを食べてしまったのを見て、流石に我慢できなかった。姉に襲い掛かり、返り討ちにされ、悔しくて悔しくて家出したのだ。

 

 その後は雨に直撃。

 濡れて、火傷を負った時点で冷静になり、ねずみ男に助けてもらった。こうやって誰かの家にお泊まりしたのは初めての経験だが、経験して分かったのはこんなにも家族に会いたくなる、恋しくなる事。寂しい…、寂しい寂しい…。やっと地下室から軟禁されなくなったと思ったら家族と離れ離れになるなんて思わなかった。

 

 

(・・・お姉様)

 

「眠れないみたいだな」

 

「おじ様」

 

 

 小さい声で言ったと思ったが聞こえていたようだ。

 ねずみ男は寝ているフランの頭をポンポンと触った。彼のことを冷たい男だと周りは言うが、実は子どもには甘いのだ。

 

 

「何があったんだよ」

 

「やっぱり聞いちゃうんだ…」

 

「言いたくないなら言わなくても良いけどよ……1人で強がるよりも誰かに言える奴の方が立派なんだぜ?それが出来なくて勝手に自滅する奴は多いけど、自滅するよか周りを巻き込むのも悪くねえさ」

 

「・・・」

 

 

 フランは少し黙って俯く。

 ねずみ男はとにかく答えるのを待っていた。フランはゆっくりと起き上がるとウルウルした目をねずみ男に向ける。

 

 

「笑わない…?」

 

「もちろん」

 

「・・・実はね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃーっ!はっはっはっ!!!い〜っ!ひっひっひっ!!」

 

「ううぅ〜〜っ!!」

 

 

 ねずみ男は大爆笑。そのねずみ男を、顔を真っ赤にしたフランが半泣き状態で睨みつける。それでも構わずにねずみ男は床をダンダンと叩く程笑っていた。

 

 

「家出した原因がケーキッ!ケーキって!!そんな赤ちゃんじゃないんだから!」ゲラゲラ

 

「おじ様の嘘つきィィィ〜〜〜ッ!!笑わないって言ったのにィィ〜ッ!!」

 

 

 一通り笑い、ねずみ男は落ち着くために深呼吸。

 フランは頬っぺたを大きく膨らまして怒っているのを表現し、そっぽを向いた。

 

 

「そんな怒んなよ〜」

 

「知らない…」

 

「でもよスッキリはしただろ?」

 

「・・・それは、そうだけど」

 

「それによ、こうやって笑えるレベルって事は必ず仲直りは出来るってもんさ。話してくれたって事は謝りたかったんだろ?姉ちゃんに」

 

 

 返事は無かったが頷いたのは見えた。

 きっとフランも自分がこの程度で家出してしまった事を恥じているのだろう。変なプライドが邪魔して今に至るわけなのだから。

 

 

「じゃあ今日の夜に謝り行こうぜ。俺も付いてくからよ」

 

「もし許してくれなかったら? お姉様も、咲夜も、パチュリーも…皆んな許してくれなかったら?」

 

「そん時きゃ、俺んちにずっと居たらいいさ。まっ、大丈夫だとは思うけどな」

 

「ずっと!?……ば、ばかっ!どうせ本気じゃないくせに。……でも、ありがと」

 

 

 顔を赤くしたことを悟られないように布団の中に潜り、顔を隠す。ねずみ男はフランが眠るまで隣に居続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

 夜が来た。

 太陽が沈み、お化けの時間がやってくる。

 フランとねずみ男は既に紅魔館に向かっていた。フランは家族が許してくれるだろうかとドキドキと緊張していたが、ねずみ男にとっては大したことのないただの夜の散歩の気分だった。

 

 

「着いた」

 

「ほへ〜〜っ!ここが紅魔館かぁっ!確かに外装全部が血のように真っ赤だ。良い趣味してるぜ、西洋さんは」

 

 

 フランは門を見て、何か異変に気づく。

 いつもならいるものが居ないのだ。

 

 

「・・・あれ?」

 

「どったの?」

 

「美鈴がいない」

 

「えーと……門番だっけか?」

 

「うん。いつもなら立ったまま寝てるのに」

 

 

 門へと近づく。

 紅魔館はとても静かだった。まるで誰も居ないような、ここだけ時が止まっているかのような冷たく静かで少し怖かった。

 

 

「おいおい……すげえよ、これ。びぃーっちりと植物のツタが門に絡んでるぜ。うわっ、屋敷にまで。これさ紅魔館よりも植物館にした方が良いんじゃねえか?」

 

「・・・」

 

 

 ねずみ男の言う通りだ。

 紅魔館全体に植物のツタが巻き付いていたり、這っているのが確認できる。いつも見慣れた紅魔館が別な場所、例えるなら廃墟のように見えた。

 

 

「流石におかしくねえか?話で聞いたのと違って、何百年も手入れされてないってくらい荒れてるし…」

 

「お姉様に何かあったんじゃ…!!」

 

「…よし、入ってみるか」

 

 

 ゆっくりと門に手を伸ばす。

 しかし触れる前に勝手に門が開いた。その重く低く音を立てて開く門は何年も開いていないかのようだった。その奥に視線を向けると門の先、玄関の前にメイド服を着た女が立っていた。

 

 

『お待ちしておりました』

 

「咲夜!!」

 

 

 フランが駆け寄る。

 しかし咲夜は目を合わせる事はしなかった。表情などに光は無く、何処か冷たくて人形と話している気がした。

 

 

『・・・』

 

「咲夜・・・?咲夜、怒ってる?……っ、ごめんなさい!!私、あの時カッとしちゃって、それでそれで…」

 

『・・・』

 

 

 そのまま玄関を開ける咲夜。

 フランはきっと昨夜が怒っているからだと悲しくなり、スカートの裾をギュッと握る。それを見かねたねずみ男が間に入った。

 

 

「なぁ、おい。咲夜…さんだっけ?フランちゃんが謝ってんだからそんな態度しなくても──」

 

『どうぞ、こちらです』

 

「おっ、おい!?」

 

 

 咲夜は2人を紅魔館に招き入れる。

 何を聞いても答えずに、ただ同じことだけを壊れたスピーカーのように繰り返すことしかしなかった。2人が入ると同時に玄関の扉は誰にも触れられていないのに閉じた。

 

 

「い、家の中にもツタが…っ」

 

「おじ様…」

 

 

 紅魔館の外部だけではなく、内部も植物のツタが巻き付いたり這ったりしていた。その赤いツタはまるで血のような色であり、少しゾクリとする。怖くなったのかフランが寄ってきて、ねずみ男と手を繋いだ。

 

 

「何なんだよ…」

 

『主人がお待ちです。こちらへ』

 

「お姉様が待ってるの?でも、そっちは──」

 

 

 咲夜が連れて行こうとしているのは地下のようだった。地下室へは人間の血液が保管されている部屋、その先に図書館、最後にフランの部屋である。レミリアがいるはずではない場所だ。彼女はこんなところに来るはずがない。長年暮らしているからそれは分かっていた。

 

 

「おじ様…、私、また閉じ込められるのかな。悪い子だからっ、喧嘩したから閉じ込められるのかな…っ」

 

 

 あの時のトラウマが浮かび上がる。

 もう1人は嫌だ。

 しかしねずみ男はギュッと更に強く手を握る。フランはねずみ男の顔を見た。彼は安心させるようににっこりと笑う。

 

 

「大丈夫だ。俺が助けてやっからな…」

 

「うん…!」

 

 

 階段を降りる。

 一つ一つ降りるたびに鉄臭い匂いが濃くなっていく。フランも、ねずみ男も嗅いだことのある『血の匂い』。溢れ出した鮮血とは違って、飛び散ったり血溜まりになって固まりつつある時特有の鉄の匂いだ。

 

 

『こちらで主人がお待ちです』

 

 

 辿り着いた場所は紅魔館の血液貯蔵庫。

 迷い込んだ人間や里の外に出た人間、外来人たちから血を抜いて樽に詰め、パチュリーの魔法で保管されている部屋だ。主人が吸血鬼であるために血は絶対に必要になる。しかし毎回人間を襲うのは博麗霊夢や幻想郷のルールが許さないため、こうやって保存するしかないのだ。

 

 

「何だこりゃあ…」

 

 

 部屋に通され、中を見た。

 中央に巨大な大木が生えていた。幹や根の部分は普通の木だが、そこから上がおかしな形状で枝が重なり合い、2、3人程度なら入れるくらいの広さの(かご)の形になっている。大木、つまり植物であるのは間違いないが全てが赤い。枝も幹も根もツタも全てが血のように赤く、時折ドクンドクンと波打っているのが分かる。まるで巨大な心臓にある血管のようだ。

 

 

(何処かで見た気が・・・)

 

 

 ねずみ男の脳内にある記憶。

 あの形の植物を外の世界で見た気がする。必死に自分の過去を振り返り、いつ見たのかと思い出そうと試みる。

 

 

『お帰りなさい、フラン』

 

「お姉様…?」

 

 

 籠の中にフランを手招くレミリアがいた。

 青白いというよりも土色で生気の感じられない表情に、痩せてしまったのか枝のように細い手足、虚な瞳をしたレミリアに最後に見た時とは違う感覚に襲われる。

 

 

「お、お姉様、なの…?」

 

『当たり前でしょ、フラン。・・・あの時はごめんなさいね。私の行いが貴女を傷つけてしまったわ。許してね?』

 

 

 深々と謝罪をするレミリア。

 違和感を感じつつフランも暴れてしまったことや暴言を吐いたことを謝ろうとする。

 

 

「お姉様、実は私も…」

 

『フラン…、フラン…。私が全部悪いのよ。私が悪いの。ごめんね、ごめんね』

 

「──」ゴクリ

 

『その人に助けてもらったのね。心配したのよ…。さぁ…姉さんに抱きしめさせて。こっちにおいで、おいでおいで』

 

(違う──)

 

 

 おかしい。

 こいつは姉なんかじゃない。

 何百年も一緒に暮らしてきたから、家族だから分かる。自慢じゃないが姉はめちゃくちゃにプライドが高い。主人であることに誇りを持ち、カリスマを得るために格言集なんか読んで咲夜に笑われて怒るくらいだ。そうだ、姉は簡単に謝らない。

 

 

『こっちに──…フラン?』

 

「あなた、誰」

 

『誰って…。私はレミリアよ。貴女の姉よ。まぁ…まだ怒っているのね。だから意地悪しないでぇ。そんな忘れるなんて演技しないで…。寂しい。泣いちゃっても良いのぉ?』

 

「私の大切なお姉様は…簡単に人に頭を下げないわ!」

 

『・・・』

 

 

 レミリアは固まる。

 羽を動かし、ゆっくりと籠から降りる。ねずみ男たちの背後にいた咲夜も移動しレミリアの側に。同時にどこに隠れていたのかは知らないが美鈴、パチュリーも現れて全員が揃うと大木の前に(かしず)いた。

 

 

「フランちゃん、全員本物だ」

 

「でも!お姉様はあんな事しないわ!!咲夜も、美鈴も、パチュリーも木なんかに頭を下げるわけないもの!」

 

「そりゃそうだ。だって、()()()()()()()んだからな…!!」

 

 

 大木がゆっくりと動く。

 ツタも枝もそれぞれが別の生き物のように、意志を持って動き出す。そして更に大きくなる大木の籠の中から赤い目玉が生えてきた。植物に目玉とは考えられないかもしれないが、実際に一つだけ目玉が飛び出して、フラン達を睨みつけた。

 

 

「あ、あれって・・・」

 

「吸血性植物妖怪……妖怪樹(ようかいじゅ)だ!!」

 

 

 

 『妖怪樹』。

 別名、吸血樹とも呼ばれる吸血性植物妖怪である。日本の小笠原諸島や南方といった暖かい場所に生える植物の妖怪であり、生き物や妖怪の血を吸う事で何百年も生き続けるとされている。木の妖怪という特性上、根が生えているために移動する事はできないがツタを動かす事は可能である。

 

 

『こんばんは。青白い吸血鬼に代わって、新たにこの紅魔館の主人になった妖怪樹よ。まだ生まれて2日くらいしか経ってないの。よろしくネェェ〜。それにしても私を知ってるなんて有名人だったのね、アタシ!キャハハハハ!!』

 

 

 口はどこにも無いのに言葉を発する異様さ。

 何かテレパシーのようなものを発しているのかは不明である。

 

 

「妖怪樹といやぁ、外の世界のあったけえ場所でしか生息できないはずだ。それなのにどうやって…」

 

()()()()種の私を血の入った樽に入れてくれたのよ。そこで色々この世界のことを教えてもらったわ。それにしても、ここの血と空気、土は完璧だわァ。寒いけど、私がこんなに成長するなんて思わなかった。幻想郷の質と私の体質はベストマッチだったのねェ』

 

「あの人?」

 

『教えるわけないじゃん!ばぁか』

 

 

 最近幻想郷中には人間が妖怪に対して怯えることに発生する『畏れ』が溢れ出している。畏れは妖怪たちのエネルギーとなり、生きる活力にもなる。外と違って“それ”が溢れている幻想郷は、妖怪樹を成長させるのにとても適していた。だが、そんな事はどうでも良い。知らなくても良いし知った所で興味もない。フランはねずみ男よりも前に出ると青筋を立てて怒鳴る。

 

 

「お姉様たちに何をしたァッ!?」

 

『こっわあ☆』

 

「答えろ!!」

 

『フン。何をしたって……毒を注入しただけよ。私の体内から分泌される『女王命令絶対毒(クイーン・ポイズン)』を注入されるとね……どんな相手でも私の言うことを聞いちゃうの〜!貴女の姉も、この通りィィィ〜ッ!!』

 

 

 ツタを伸ばしてレミリアに巻き付け締め上げる。

 物凄い力で締め上げ苦悶の表情を浮かべるが、決して抵抗したり、泣いたり弱音を吐く事はなかった。完全に服従しているようだった。

 

 

『アンタのお姉さん、強いみたいだけど・・・馬鹿よねェェエ。この仲間(メス)たちを盾にしたら何もできなくなっちゃった!キャハハ〜☆』

 

 

 妖怪樹はツタを咲夜に向ける。

 咲夜はそれに応えるように立ち上がった。

 

 

『まずこのメイドに毒を注入して操り、門番と魔女を操るのに手伝わせた。異変に気づいたアンタの姉が私のところにやってきたけど、コイツらを盾にして狼狽えている間に毒をブチュっ♡とね』

 

「貴様ァ…!!」

 

 

 ねずみ男はフランの怒りに初めて触れた。

 あんなに幼くて可愛らしい姿からかけ離れた牙を剥き爪を立てる吸血鬼本来の姿だ。かつて友と旅行した際にフランスで見た『怒りに狂う獣』のような姿を彷彿とさせた。

 

 

『私の子供達はみんな倒されちゃったけど、コイツらを使って幻想郷を支配してやる!私の青春の1ページが今はじまるのよぉ〜!!』ケラケラ

 

「殺してやるっ!!・・・『きゅっとして──』」

 

『レミリアちゃ〜ん!守ってぇん!』

 

 

 命令だ。

 我らが女王様の命令は絶対だ。

 たとえ目の前の敵が血を分けた妹とだろうと、何年も暮らしてきた家族であろうとそれよりも我が主人の命令の方が絶対だ。

 

 

『・・・』

 

「──っ、お姉様!?」

 

『我が主に手出しはさせない』

 

「きゃっ!?」

 

 

 レミリアは、妖怪樹に能力を発動させようとするフランの目の前に立つと胸ぐらを掴み、轟音を立てるほど力強く、天井を突き破って屋外へ出ていった。ここで暴れても良かったが主人に迷惑がかかってしまうと考えて外に出た。

 

 

「姉妹で殺し合いをさせるなんて……!!ひぃいいっ!に、逃げなきゃっ!」

 

 

 外が見えるほどポッカリの穴を見て血の気が引くねずみ男。流石に話し合いができる相手ではなさそうだし、自分とは圧倒的にレベルが違うことを肉眼で把握すると、彼の脳内コンピューターは瞬く間に動き出し、逃げろという判断を下した。運の良いことに敵は上を眺めている。フランには悪いが自分の命が優先だ。

 

 

「抜き足差し足……うわぁっ!?」

 

 

 何かに躓いた。

 思い切り転び、自分が転倒した原因を見る。それを見て再び声が出なくなる。瓦礫かと思ったが、それは──

 

 

「ミイラ…!?」

 

『ん?』

 

「な、何でミイラがこんなところに…!?」

 

 

 瓦礫ではなくミイラだ。

 それも一つだけじゃない。大量のミイラが無造作に積まれている。ねずみ男に気づいた妖怪樹はニヤリと笑うと、ツタを伸ばしてそのミイラを拾い上げる。

 

 

『これはここに居た有象無象たち。戦力にならないから血を吸ったのよ。この悪魔?みたいな子の血は甘くて有象無象の中でも格別だったわよぉ』

 

「血を吸ってカラカラにして殺したのかよ・・・!?」

 

『キャハハ。妖怪とか妖精とか悪魔ってね…血を吸われたくらいじゃ死なないの。凄いわよねェ〜。・・・感じる?カラカラの体でも心臓がゆぅっくり動いてるの。ほらっ、トクン…トクン…って。きゃわいい〜〜☆』

 

 

 妖怪樹の指摘した通り、浮き出た心臓がゆっくりだが動いていた。きっと本当に絶命するかしないかのギリギリまで血を吸われたのだろう。グロテスク好きなのは本当だが、ここまでくると結構惨い。

 

 

「かっ、可愛い!い、いやはやお見事です!まさに生と死の狭間を表現したかのような芸術です!!」

 

『嬉しいこと言ってくれるじゃナイ』

 

「で、ではアタクシはここで…」

 

 

 しかしこの部屋から出る事は叶わない。

 出入り口に美鈴が立っていた。それも戦闘体制で。気づけば自分はこの住民たちに囲まれていた。

 

 

『逃すわけないじゃん』

 

「へ?」

 

『きったなくて、ざぁこで、みっともな〜い()()()()でも私のご飯にはなるでしょ。美鈴捕まえて』

 

 

 はい、と返事をする美鈴。

 ねずみ男にじっくりと近づくが、ねずみ男も伊達に修羅場を潜り抜けてきたわけじゃない。ねずみ男は大きく息を吸う。

 

 

『?』

 

『構わないわ。どうせ雑魚のやる事だもん。アンタなら対処できるでしょ』

 

 

 ねずみ男の喉が動く。

 それが喉から口へと上がりモゴモゴと頬が動く。美鈴は妖怪樹の命令通りにねずみ男の異常を気にする事なく飛びかかる。

 

 

「はぁ〜〜〜ッ!!」

 

『!?』

 

 

 ねずみ男の口から黄色いガスが発射された。

 それは『息』だ。

 普通の息は口臭を感じるものだが、今回は違う。胃から喉、そして口と熟成された最大級の悪臭だ。屁よりは臭くはないが、その口臭の恐ろしさは10メートル先の蝿さえも撃ち落とすほどの威力だ。美鈴は妖怪だからきっと耐えるだろうが死んだほうがマシだと思えるだろう。

 

 

『パ○☆$〒€→ッッッ!?!?』

 

 

 鼻が曲がる。

 視界がチカチカする。

 全身の穴という穴から訳の分からない汗のような液体が吹き出す。手足が痺れ、喉が激しく痛む。そして何より込み上げてくるのは圧倒的な不快感と吐き気だ。

 

 

『ウ"ッ…オ、オエエェェ……ッ!!』

 

「へっへへ〜!じゃあな!」

 

 

 胃の中のものが全て出てきた。

 ねずみ男がその傍を通り抜けていくが追いかけられない。手足に力が入らないのだ。次第に視界が暗くなり、妖怪樹の命令が聞こえなくなる。美鈴は自分の吐瀉物の上にばたりと倒れた。

 

 

『美鈴、動け!命令よ!・・・チッ、完全に気絶してやがる』

 

 

 女王命令絶対毒は命令されれば誰であろうと妖怪樹を主人だと思い、どんな命令にも従わせる技だが弱点はある。それは命令が聞こえなくなる事。耳が聞こえなくなったり、気絶した場合はこの毒の力は発動されない。

 

 

『博麗霊夢に知られるのはまずい…!!咲夜、追いなさい!殺してでもよ』

 

『はい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 その戦いに優雅さなんてものはなかった。

 吸血鬼の戦いというのは凄い技を使ったり、何かに化けたり、見るものを魅了するような派手さや上品さというものがあるが、この姉妹の戦いにそんなものはなかった。

 

 

 

 

──バキィッ…ドス…

 

 

 

 

 殴り合いだった。

 フランの能力『ありとあらゆる物を破壊する程度の能力』は、対象の最も弱い箇所、急所、弱点等を自身の手のひらに移動させて、握りしめる事で対象を破壊することができる。この()()()()()()のせいで、フランは過去に地下室に幽閉されていた。実の姉の手で。だが霊夢たちとの一件があり、今は外に出られるがこの能力のせいで周りから愛されていないとフランは自覚している。

 

 今の所フランは実の姉に使う事は決してないが、レミリアとしては妖怪樹に向けて使わせないためにフランの両手を引き抜いてしまおうと考えて圧倒的な暴力で襲いかかってきていた。

 

 

『・・・!』

 

「おねえっ…さまっ、やめ、うぐぅっ!!うぐぁっ!!」

 

 

 髪を引っ張り、顔や腹を殴る。

 フランは必死に抵抗して姉の顔に爪を立て引っ掻く。頬から耳にかけて皮膚が切れてしまい血が流れる。

 

 

「はぁ…はぁ…っ、あっ、お姉様、ごめんなさ──」

 

『・・・』

 

 

 しかしレミリアは怯むどころか、余計に殴る力を強めてきた。苦しめるように何度も何度も腹を殴り、痛めつけるように顔を殴る。フランの腹は服の内側で青くなっていき、顔面も歯が折れ、瞼を切り、鼻血を流して血まみれだ。あんな幼い子がしていい怪我ではない。レミリアの拳も殴りすぎたせいか皮膚が裂けていた。

 

 

「やめ…て…っ、いたい…」

 

『・・・』

 

「いたいよ…ぉ…」

 

 

 フランとレミリアの血がこぼれ落ちる。

 下の妖怪樹が目覚めた後のシャワーのように気持ちの良いブラッドシャワーを浴びていた。

 

 

『良いわぁ…、良いわよぉ…。もっと殴り合ってぇ…、貴女たちの純血が私を……成長させるわぁぁ……!!』

 

 

 成長。

 妖怪樹の身体が更に大きくなる。幹は更に太くなり、根っこは深く伸び、ツタは巨大な蛇のようだ。血液貯蔵庫を突き破り、遂には紅魔館の天井を抜けた。並の成長じゃない。吸血鬼という自分に近い種族の血を吸収することで今までにないくらいの成長を遂げたのだ。

 

 

『キャハハハハッ!!レミリア、もっと痛めつけて殺しなさい!』

 

 

 フランの息は絶え絶え。

 レミリアは命令通り、更に血を流させるために無慈悲にも剥き出しの拳を振おうとした。意識がはっきりしない中、完全に戦意を喪失したフランは抵抗する気も失せてしまい、両手両足がダランと垂れ下がる。

 

 

(私が……あの時、家族(みんな)に死んじゃえって……言ったから…、酷いこと言ったから…罰が当たったのね……)

 

 

 脳裏に浮かぶは、最後の会話。

 全員に罵詈雑言を飛ばして、家出して…。帰りたいと思った時には家族はどこにも居ない。なんて惨めな最後だろうか。

 

 

(……お姉様…)

 

 

 意識を閉ざそうとしたその時。

 自分自身の耳の中に何かが響いた。小さい雑音のようだったが、不思議な事に集中して聞き取ろうとしていた。

 

 

「フランちゃーん」

 

(この声…)

 

「フランちゃーーーん!起きろォォオーーーッ!!」

 

「お、ぃ、さま…?」

 

 

 ねずみ男だ。

 理由は不明だが褌一丁である。崩れていく紅魔館の中で彼が大きな声でフランの名前を呼んでいた。答えようとしたが口が切れて上手く話せない。

 

 

「諦めんなよおーーッ!姉ちゃんに謝るって決めたんだろーッ!ならやり遂げろぉい!!諦めるのは!やりきってからだぞォーーッ!!」

 

「・・・!!」

 

 

 ねずみ男の激励。 

 そうだ、決めたじゃないか。

 謝るために帰ってきたじゃないか。全身に力を込めろ。口の中に溜まる血の塊を吐き出して、見せたことのないようなとびきり邪悪な笑みを飛ばす。

 

 

「おねえ、さまらしく無いわよ…っ。あんな変な奴の言うこと聞くなんてっ。私の好きなお姉様は誰かに従う人じゃない…!!」

 

 

 もうここに泣き虫の少女はいない。気品とカリスマに溢れた吸血鬼がそこにはいた。

 

 

 

 

※※

 

 

 

(フランちゃんがやられたら、俺が殺されちまうだろ〜ッ!?諦めてる暇なんかねえんだぞ!)

 

 ねずみ男の激励(自分の命を守るための必死の叫び)は、フランだけではなく妖怪樹にも届いていた。妖怪樹はねずみ男の方を見る。理由は不明だが時間を操る咲夜から逃げ切ったというのか。驚いていると、ねずみ男は妖怪樹がフラン達に意識を向けないように、妖怪樹に向かってお尻ペンペンという行動を取る。

 

 

「やーい!妖怪樹!こっちだよーん」

 

『んな…!? 咲夜はどうしたのよ!!』

 

「あのメイドはそこら辺でぶっ倒れてるさ!へっへーん」

 

 

 

 

 

 少し遡るが、とっくの前に咲夜はねずみ男を捕まえていた。時を操る彼女の前では逃げるなんて不可能だった。しかし近付いてくれた事こそがねずみ男の狙い通りである。

 

 ねずみ男をただの雑魚と思った時点で勝敗はついていた。窮鼠猫を噛む、というように咲夜に自分の着ていたローブを投げつけたのである。あの不潔なローブを咲夜は被ってしまい──。

 

 

『くぁwせdrftgyふじこlpッッ!?!?』

 

 

 ─と、意味不明な奇声をあげて気絶してしまった。もし1ヶ月以上も洗っていない物だったら発狂し、気が狂い、元に戻る事は出来なくなっていたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

『雑魚のくせに…!!パチュリー!行きなさい!パチュリー!!返事をしなさい!』

 

『むぎゅぅ…』

 

『へっ!?』

 

 

 パチュリーは既に気絶していた。

 妖怪樹が成長して天井を突き抜けた際、落ちてきた瓦礫が頭に直撃していたのだ。

 

 

「やっぱり生まれたばかりのクソガキにゃあ何もできやしないのよ〜ん」

 

『馬鹿にしやがってぇ…!!』

 

 

 紅魔館全体に広がっているツタを動かし、ねずみ男がいるところまで伸ばす。そしてツタを大きく動かし叩きつけるがツタは自動で動くわけではなく妖怪樹が操作しているためちゃんと見えていないと精密性は低く、大きくなりすぎた妖怪樹はひょこひょこ逃げ回るねずみ男を捉え切れなかった。

 

 

「ノーコンノーコン!こんなの屁のカッパ」プッ

 

『ちょこまかと!!』

 

「え?──あっらぁぁぁーーッ!?!?」

 

 

 しかし遂には吹き飛ばされてしまった。

 邪魔者が居なくなり、妖怪樹は直ぐにレミリア達の方を見る。

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・?』

 

 

 レミリアの拳が止まる。

 不思議そうな表情を浮かべる姉の異変に妹は即気づいた。引っ掻いた傷や皮膚が破れた拳から赤い血以外の、紫色の液体が流れている事に。どうやら毒は体内に溶けず血液と共に全身を巡っているのだろう。

 

 

(これって……あの妖怪が言っていた“毒”っ!!)

 

 

 レミリア自身も怪我を負う事で、血だけではなく体内に循環していた毒素も流れてしまっていたのだ。フランはそれに気づくと、姉を助ける方法を思いつく。ゆっくりと動けない姉の首元に唇を近づける。

 

 

「お姉様、血を吸われるのは初めてよね。私もお姉様の血を吸うのは初めてだから許してね………んっ」

 

『──ぁ』

 

 

 かぷっと首元に噛み付く。

 ストローで飲み物を吸うように、姉の首元に必死に吸い付きちゅうちゅうと血を吸った。

 

 

「んっ……ちゅっ…んぅ」

 

 

 口の中に甘い血が流れてくる。

 キャンディ?プリン?それに似た甘い血がトロトロと口内を染める。しかし、それと同時に不快な味も混ざっていた。きっとこれが毒だろう。一度首元から口を離す。

 

 

「やっはり……んべぇ…」

 

 

 ペッと吐き出す。

 血と唾液の中にドロリとした紫色の液体が見えた。確実に毒だ。毒を抜かれてレミリアの表情は少しずつだが明るくなってきた。フランはこの毒抜きを何度も繰り返す。

 

 

(お姉様っ、私のお姉様はこんなところでやられない。やらせはしない!!)

 

 

(言いたい事が私にはある。これからもずっと一緒にいたいの!だから──)

 

 

(元に戻って!!)

 

 

 

 10回は超えただろうか。

 フランの唇が11回目を向かおうとした時、頬っぺたを優しくむにゅっと掴まれる。レミリアの手が吸血を止めた。

 

 

「吸いすぎよ、ばか」

 

「おへえさま…っ!!」

 

 

 レミリアは本来の自分を取り戻した。

 姉が元に戻った事により力が抜けるフランをレミリアは抱き寄せる。その温かみに触れて涙が溢れた。

 

 

「お姉様…っ、良かった…」

 

「フラン…」

 

「ごめんなさいっ、ケーキ食べられたくらいで死んじゃえって、酷いこと言っちゃって…!!」

 

「楽しみを奪っちゃった私が悪かったのよ。ごめんなさい。でも・・・貴女が帰ってきてくれて本当に良かった…」

 

 

 レミリアは優しくフランの頬を撫でる。

 あんなに殴られた傷もゆっくりだが回復しつつあった。操られてたとはいえ妹に手を挙げた事実は消えることはない。このことは決して忘れないだろう。

 

 

「お姉様。うぅ…」

 

「泣かないの。一人前のレディの涙は簡単には流してはいけないのよ」

 

 

 

 

『テメェらッ!!』

 

 

 抱き合う2人に妖怪樹は近づく。

 上空で戦う2人に近づけるくらい大きくなった。噂の博麗霊夢も怖くない。幻想郷に自分の種を撒き散らし、支配してやる。

 

 

『おぉわぁすぅれぇでぇすぅかぁ〜〜〜ッ!?アタシがまだいる限り、ハッピーエンドはやって来ねえぇんだよぉ〜!!』

 

 

 ツタが2人を囲む。逃げ場なんてどこにもない。しかし姉妹は妖艶に笑う。

 

 

「せっかちね。フラン」

 

「ねー!お姉様!」

 

「でも確かに終わりにしましょうか。私たちに手を出したこと……一生後悔させてあげる」

 

 

 レミリアは指先を自身で歯で少し切る。

 そこから流れる血をフランに飲ませた。

 

 

「吸血鬼が吸血鬼の血を吸うとね…。一時的だけど、爆発的に回復能力と心身の力が向上するの。……本当は私がやるべきなんだろうけど、フランにお願いできる?」

 

「ちゅっ……ん…、任せて」

 

 

 フランの両手にエネルギーが溜まっていく。

 そのエネルギーによりフランの周りだけの空間が歪み始めた。瞬間的に空中に赤い炎の粒子が舞い上がり、その粒子は彼の手の前に集まって剣の形を成した。その剣は炎を纏い、火花を散らし、まるで宇宙からの力を具現化したかのように、圧倒的なエネルギーを放っていた。

 

 

「・・・禁忌『レーヴァテイン』」

 

『たかが光る剣で私の手足をどうにか出来んのかよォォーーーッ!!串刺しじゃあァァァーーーッ!!』

 

 

 ツタという名の植物の槍が全方向から飛んでくる。

 フランは自分よりも大きな剣『レーヴァテイン』を振るった。

 

 

 

 

 

──スン…

 

 

 

 

 

『へっ──』

 

 

 レーヴァテインを手にし、襲いかかる触手の群れに向けて大きな一振り。エネルギー体の剣の刃から燃えるような赤い光と炎が放たれ、触手は一瞬で焼き尽くされ、その灰と煙が舞い散った。妖怪樹の全身にあったであろうツタは全て無くなり、唯一の自身での攻撃手段を失ってしまう。

 

 

『あ……ああ…ああああぁぁぁーーーっ!?!?誰か、誰かぁぁぁ…!助けてぇぇぇーーーッ!!まだ生まれて3日くらいなのッ!0歳なのォォーーーッ!!青春だって謳歌してないの!』

 

「うるさぁい…」

 

 

 フランは剣を向ける。

 圧倒的に大きいはずの妖怪樹が、圧倒的に小さいフランに怯えていた。全身をガタガタと震わし、頭部らへんの枝は恐怖て枯れていく。剥き出しの目玉は死の恐怖を目の前で味わう。

 

 

『ひぃいいっ!?』

 

「『ブラッディカタストロフ』」

 

 

 避けられない。

 逃げられない。

 レミリアの血を体内に取り込み、急激に力が向上したフランの一撃が妖怪樹を一刀両断した。真っ二つに切断された瞬間に妖怪樹が今まで吸ってきた血が噴水のように噴射した。

 

 

 

『ギャアアアアア───』

 

 

 

 敵の最後を見届けて、レミリアは上空で気を失う。フランとの一戦で血が抜け過ぎたのだ。満身創痍でボロボロなフランは姉に抱きつく。姉がこれ以上怪我をしないようにゆっくりと地面へと落ちていく。

 

 

「よっ…と、へへへ…上手く行ったみたいだな」

 

「おじ…さま、フランやったよ…。がんばった」

 

「ああ、ちゃんと見てたよ」

 

「え…へ、へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 妖怪樹の死亡。

 流れ出した血が紅魔館全体に染み渡り、ミイラになっていた小悪魔達の皮膚に触れると元の姿に戻っていった。勿論完全回復とまではいかずに召使い一同自室で療養中との事だ。咲夜、美鈴、パチュリーの体内に巡っていた毒はレミリアの眷属である吸血コウモリを使い、毒を吸い出させる事に成功した。3人とも大事はなく直ぐに動けるように回復した。

 

 パチュリーは動くことはできたのだが、咲夜と美鈴は1週間ほど鼻が効かなかったとの事だ。ついでに全身にこびりついた匂いも3日は取れずに苦労したとの事だ。

 

 レミリアとフランは咲夜、美鈴の看病により回復。フランの顔はまだ少し腫れており、レミリアの方は緊急輸血用パックが手放せない状態であった。崩れた紅魔館はパチュリーの魔法を中心に復活した。完全に復活した紅魔館内部の玉座の間でレミリアはねずみ男と話していた。

 

 

 

「フランから全て聞いたわ。紅魔館の主人として感謝を……と言いたいけど」

 

「ひぃいいっ!!」

 

 

 レミリアは素直に喜べなかった。

 なぜなら目の前で、我が妹がねずみ男の腕にずっとくっ付いているからだ。それも完全に乙女の顔をして、湿った瞳がどれだけこの男を好いているのかを示していた。

 

 ねずみ男としては興味のない子に勝手に好かれて、その姉に殺意を向けられているのでこの状態を素直に喜べなかった。

 

 

「おじ様…、おじ様…。私のおじ様ぁ…♡」

 

「何なのかしら、この状況は!!離れなさーーい!!」

 

「俺だって分からねえよ!離そうとしても離れてくんねえし!!」

 

 

 フランは発情していた。紅魔館に満ちる血の香り、姉から摂取した血が体を巡り、吸血鬼として大人の階段を登っていた。更にはねずみ男に助けてもらったり応援してくれた思い出補正もあり、フランはねずみ男にメロメロになっていた。

 

 

「ちょっとお姉様。私ね、本当は誰にもおじ様を触れさせたくないの。もし、おじ様に色目使ったら絶対に許さないから」

 

「は?」

 

 

 静寂が流れる。

 ねずみ男は耐えきれずに走り出した。

 

 

「また喧嘩かよ!!もう俺は関係ねえよォォーーーッ!!」

 

「あっ、待ってえ〜ッ!おじ様ぁ〜!!」

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 後日。

 地下図書館。

 

 

「急に呼び出してどうしたの?パチェ」

 

「レミィ…、これを見て欲しいの」

 

 

 2人の間には小さなコウモリがいた。

 これは監視コウモリ。紅魔館全体の天井にぶら下がり、監視をしているコウモリ達である。

 

 

「紅魔館に設置した監視コウモリの見ていた記憶を見返していたんだけど……」

 

「これは・・・」

 

 

 記憶の映像を見る。

 そこに写っていたのは、血液貯蔵庫に何やら大きな植物の種を持ち込んでいる()()()姿()が映っていた。

 

 

「フランが家出した時に生じた穴から入ってきたようね」

 

「そう。・・・地下の奴らか」

 

「どうするの?」

 

「決まってるじゃない。──報復よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございます

 妖怪樹と吸血樹で悩みましたが、原作リスペクトで妖怪樹。
 今思うと5期の吸血樹は生まれて1週間くらいなのかな?そう思うと私のが1番赤ちゃんかも…。

 最近バトル多かったんで、次回は戦いやめようかな…。
 鬼太郎も毎回バトルってわけじゃあないもんね。うん。

 秋にちなんだキャラ描こうかな。
 描きたいキャラ多いのよね。




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ジャックとチルノ 《ハロウィン特別編》


ハッピーハロウィン! 狸狐です。

 渋谷ハロウィンは普通にコスプレして楽しそうなイメージだったのに、一部の人が迷惑な事するから全員が同じだと捉えられちゃうんでしょうね。

 その分、池袋ハロウィンは成功のようで。

 一体何が正解なのやら。












 皆様はハロウィンは楽しんでいますか?

 ハロウィンの起源とは古代ケルト民族が始めた秋の収穫祭との事でありますが、10月31日は地獄の門が開く日でもありますので、収穫祭に先祖の霊だけではなく悪き心を持った邪悪な魑魅魍魎や悪魔に魔女達が闊歩するのだそうです。だからそんなお化け達を逆に驚かそうと人間達はお化けの格好をして、街中を歩き、仲間だと安心させたり、相手よりも怖い姿になって追っ払うとのことであります。

 

 そこでついでとなりますが、ハロウィンになると街中に現れるカボチャ『ジャック・オー・ランタン』をご存知でしょうか?

 

 ジャック・オー・ランタンとは『鬼火』の妖怪です。

 しかし元々はただの人間なのです。

 年齢も性別も分かりませんが、生前はそれは有名なくらいイタズラ好きで鍛冶屋という仕事についていた人間でした。その人間は悪魔との知恵比べに勝利したり、その悪知恵を使って町中の人たちのことを困らせておりました。

 

 だからでしょうね。

 死後は、生前の行いのせいで天使達に見限られてしまい天国に行くことができず、面目を潰された悪魔にも嫌われてしまい地獄に行くことはできませんでした。

 

 天国にも地獄にも行けない。

 つまりは転生することができないということです。また新たに生を得ることはできずに一生死ぬことなく現世を漂い続ける幽霊となってしまいました。幽霊になったせいで誰にも気づかれない、誰にも知られない。鍛冶屋のこともみんな忘れてしまい、一人ぼっちになってしまいました。いたずら好きな人間が与えられたのは永遠の孤独という罰だったのです。

 しかし幽霊となった人間を見て、流石に憐れに思った悪魔(この人間のせいで面目丸潰れですが人情はあったのでしょうね)は地獄の石炭を一つあげました。

 

 これは何があっても消えることのない石炭です。

 自分の姿は誰にも見えないが石炭の光は人間達に見えることに気づいた幽霊は近くに転がっていたカボチャの中身をくり抜き、中にその石炭を入れてランタンを作りました。誰にも見えない幽霊ですが、石炭の光を用いることで周囲の人々にやっと気づいてもらえたのです。道中にいきなり現れる火の玉として認知されました。

 

 そこで人々はその火の玉に『ジャック』と名づけました。ジャックというのは日本でいうところの佐藤とか鈴木のようなありふれた名前を指します。ジャックのランタンから『ジャック・オー・ランタン』と呼ばれ、恐れられました。

 

 やっと気づいてもらえたジャックですが、ジャックはきっとこれからも誰かに恐れ続けられる存在としているのでしょう。孤独よりは軽くなりましたが嫌われ恐れられるというのも悲しいことですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーいはい!皆さーん!今日は年に一度のハロウィンだよ!!俺様特製のコスプレグッズ売ってますよォ!」

 

 

 今日はハロウィン。

 幻想郷も何故このような文化が流れてきたのかは分からないが古代ケルト人達のように明日から始まる収穫祭の前日にハロウィンという催し物を始めている。誰が始めたのかは分からないが人間というのは順応する生き物であり、寧ろ幻想郷の住民達にとって楽しいことはウェルカムなので、すぐに受け入れられた。そして勿論この男もハロウィンならば金を稼げると思い、すぐに商売を始めていた。

 

 

「ここにあるのは虎のように黄色と黒の縞模様のチャンチャンコ!着れば空も飛べちゃうってきたもんだ!」

 

 

 売ってるものは全て模造品。

 それでも浮かれた人々はねずみ男の口八丁手八丁に連れられて覗いてしまう。

 

 

「更に今回の目玉商品!!あの博麗の巫女の協力により生まれた巫女服!一度着れば誰でも博麗の巫女に早替わり!人々を守ってくれる巫女様に変身するなんて女の子にとって夢のようじゃないかしらん?……勿論、男の子用もありますからね!!ンフフフフフ!」

 

「おいおい、本当に飛べるのかよ?」

 

「え!?」

 

 

 そういう1人の客。

 ねずみ男の売り言葉に指摘をした。ギクリと驚き、冷や汗を流すがここで怖気付いたら負けだ。最悪でっかいオナラでもして浮けば信じてもらえるだろうと勇んでチャンチャンコを羽織る。

 

 

「どうしたんだよ。早く飛んでくれよ〜」

「そうだよ!やってくれなきゃ信じられないよ」

「嘘なら買わないぞ」

 

 

 オーディエンス達も騒ぎ出す。

 覚悟を決めたねずみ男は腹に力を込める。

 

 

「待ってろよ、今飛んでやぁあああ〜〜〜っ!?!?なっ、何じゃこりゃあああ〜っ!?」

 

 

 何もしてない。

 何もしてないのに、ねずみ男は空を舞っていた。フワフワと浮いていたのだ。嘘だと思っていた人々はその光景を目の当たりにして口をぽかんと開けた。

 

 

(まっ、マジかぁ〜!俺様の念じた力が奇跡を呼ぶなんてよ!これが俺の隠された力かー!幻想郷にきて才能が開花したのか、はたまた日頃の行いがいいからか、どっちでも良いけどなんてツイてるんだ俺っちは!ウシシシ)

 

 

 ねずみ男自身も自分に何が起きたのか分かってはいないが、何たる偶然か奇跡か、これを利用してやろうとニヤリと笑う。

 

 

「ま、まじで空を飛んでるぞ!?どうなってんだ!!」

「この売り物、本当だったんだ!!」

 

「だから言ったでしょ、空飛べるって。ここまでしたんだから勝ってくれるよね?一枚10000円」

 

「い、10000円!?」

 

「要らないなら別にいいけどよ。でも数は限りあるからナ〜。飛びたくないなら構わねえよ!買ってくれるやつに売るだけだから」

 

「分かった!10000円出す!」

「俺にも売ってくれ!」

「私にも!」

 

「ンフフフ!毎度ありぃ〜……ってあれ?」

 

 

 全員が財布の中から10000円を出そうとしている中、ねずみ男は異変に気づいた。どんどん浮き続けているのだ。全員がねずみ男にお札を渡そうと手を伸ばすが、ねずみ男の方がみんなから離れていく。

 

 

「な、なんかおかしくねえか?」

 

 

 1人が言った。

 上空のねずみ男がバタバタと空で暴れているのだ。空を飛んでいるというよりも誰かに引っ張られているかのようだ。

 

 

「いぃやあぁぁぁ〜〜〜っ!?!?誰か降ろしてぇ〜っ!!」

 

『分かったよ』

 

「え!?そんないきなりィィィ───」

 

 

 誰かの声が聞こえた途端、プツンときれる音がした。ねずみ男はそのまま急降下する。パラシュートなんてないので重力に引っ張られて落下した。地面にめり込み、着ていたチャンチャンコは衝撃でボロボロになってしまう。住民達はもし買って着てしまっていたら同じ目に遭うかもしれなかったと思うと青い顔をして散り散りとなって逃げていった。

 

 

「うごごごごご……いっだいなにがぁぁぁ…っ」

 

 

 頑張って這い出るねずみ男。

 満身創痍とはこの事だ。全身がボロボロで何とも苦しそうである。しかしそれでも地面から出てきて辺りを確認する。すると目の前にはカボチャ頭で小さな光が灯るランタンを持った謎の存在がフワフワと浮いていた。

 

 

『へへへへへっ、引ーっかかった!引っかかった!オイラのイタズラ大成功!』

 

「が、がぼぢゃぁ?」

 

『ただの人間が飛べるわけないじゃん!オイラがこっそり浮かしてやったんだよぉ〜!へへへ!それなのに喜んじゃって馬鹿みたい!』

 

「にゃ、にゃにおぉ〜!?このクソがきぃ」

 

 

 ボロボロで怒りたくても怒れそうにないねずみ男を見て、カボチャ頭はケラケラと愉快そうに笑う。そしてフワリと空中を舞うと

 

 

『さぁて次は誰にイタズラをしようかなァ、へへへ』

 

「覚えてろぉ〜……がくっ」

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 ねずみ男と遭遇後、カボチャ頭の謎の存在がイタズラをしまくっているという噂が幻想郷中に広まっていった。

 

 八百屋や肉屋では売り物の食品達が店を出て行き、肉屋の方に野菜が売られ、八百屋の方に肉が売られるような状態になってしまったり、骨董屋では店主の頭の上に壺が落ちてきて抜けなくなってしまったり、掃除したはずのゴミが気づいたら散らかっていたりという具合だ。イタズラの程度は子どものやるレベルだが流石に腹が立ってくるというもの。カボチャ頭が見えると直ぐに店じまいをしてしまう始末だ。

 

 この被害は更に人里を超え、妖怪や妖精達にも及んだ。とある傘の妖怪は人間を驚かせようとしたところ背後からカボチャ頭に驚かされた。またとある闇妖精は、人間を食べようと能力を最大限にまで生かした罠を仕掛けたのにも関わらずカボチャ頭に背中を突き飛ばされて自分が罠にかかってしまった。そしてまた、とある半霊剣士は強そうな相手に斬りかかろうとしているとこっそり現れたカボチャ頭の変な声にビックリして、幽霊が出たと半泣き状態でその場から逃げてしまったとのことだ。

 

 

「謎のカボチャ頭によるイタズラ事件……。むむむ〜っ!これは異変ね!カボチャ頭異変と命名するわ!!」

 

「そのままじゃない?」

 

 

 ふんすと鼻息荒く、腕組みするのは湖上の氷精チルノである。氷の妖精であるからかは不明だが肌は白く、髪の毛は青い。そしてチルノの話を聞いているのが虫の触覚を頭から出した蛍の妖怪であるリグル。緑色の髪の毛に大きなマントをつけた少年か少女のような容姿をしている。

 

 

「しんぷるいずざ…とか言って、こーいうのは簡単な名前の方が良いのよ!アタイが考えたアイデアに文句言わないでよね!」

 

「分かったよ、そんなに怒らないでよ。それで僕を呼んだ理由ってなに?チルノちゃん。そのカボチャ頭異変と関係あるの?」

 

「あるよ!大アリだよ!リグル!実は私たちの仲間であるルーミアが、例のカボチャ頭に襲われたんだって!」

 

「ほ、ほんと!?ルーミアちゃんが?」

 

「本人から聞いたから間違いないわ。カボチャ頭が後ろから来て、落とし穴に落っこちてお尻痛いって言ってたもん。ここで本題なんだけど、アタイ達がその犯人を捕まえようと思うの!」

 

 

 妖精というのは自由気ままな存在だ。

 だから基本的には自分本位な奴らがたくさんいる。だがルーミアとは結構長く居る存在であり、友達だ。彼女は友達がやられて黙ってはいられないのだ。

 

 

「えーっ!?僕、怖いよ」

 

「そうやってブルブル震えない!この件に魔理沙も動き出したっていうし、アタイのライバルである霊夢が動くのも時間の問題だわ。でも、ここでアタイ達が犯人を捕まえて突き出せば……霊夢はきっと悔しがる!どう!私の完璧な作戦は!」

 

「け、結局、霊夢さんに勝ちたいだけじゃん」

 

「違うのー!これはルーミアの敵討なんだから!リグルも来るでしょ?」

 

「うーっ、分かったよ。でも危なくなったら直ぐに逃げるって約束してよ?僕たちじゃどうにもできない事だってあるんだから」

 

「分かってるわよ!じゃあ“カボチャ頭を捕まえ隊”の出発よ!!」

 

「名前ダサっ!!そういえばカボチャ頭をどうやって見つけるの?」

 

「?」

 

「それにさ罠とかあるの?何かちゃんとした作戦とかあるの?」

 

「・・・」

 

 

 チルノは腕組みをして、少し考えてから笑った。

 

 

「考えてなかった」

 

「やっぱり〜」

 

「でもとにかく当たって砕けろ、よ!!まずは里に行って聴き込みしてみましょ」

 

「楽観視し過ぎだよ…、チルノちゃん」

 

 

 人里に着き、2人は手分けして聞き込みをした結果どうやら何かを熱心にやっている人のところに出没しやすいらしいという情報を得た。頑張って商売をしている人のところに現れて邪魔をする、人を驚かそうとする妖怪や妖精達も例外ではないようだ。

 

 

「大変な相手だね。どうする?」

 

「ふふふ!アタイ、良いことを思いついちゃった!」

 

「良いこと?」

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

「何で僕がこんな事をーーーっ!?」

 

「うるさい!真面目にやってよ!」

 

「うわぁ〜ん!!」

 

 

 チルノの考えた作戦。

 それは囮作戦だ。

 詳しく説明しよう。人里からほんの少し離れた場所で、リグルにはこの前寺子屋で慧音から渡された宿題を頑張って解かせ、その頑張りに気づいたカボチャ頭がやってきたら、その頭目掛けてチルノの必殺技『アイシクルフォール』をぶちかますというものだ。

 

 

「アタイ、隠れてるから頑張って解くのよ!!」

 

 

 チルノは近くの茂みに隠れる。

 リグルは泣きながら宿題を始めた。

 

 

「ううっ、大体この宿題、チルノちゃんのじゃないかぁ。なんで僕がやんなきゃいけないんだよぉ〜」

 

『こんな所で宿題とは…随分と真面目な妖精がいたもんだな』

 

「!?」

 

『どぉれ、その頑張った宿題をビリビリに破いてやろうかなァ』

 

「どっ、どこ!?」

 

 

 声だけが辺りに響く。

 リグルは視認することはできなかったが、茂みの中に隠れて見ていたチルノはカボチャ頭の姿を見ることができた。自分たちと対して変わらない背丈で子どもらしい高い声をしていた。観察していると、ゆっくりと背後からカボチャ頭がリグルに迫る。カボチャ頭が完全に油断している瞬間をチルノは見逃さなかった。チルノは勢いよく飛び出す。

 

 

「見つけたぁぁぁーーーっ!!」

 

『えっ!?』

 

「必殺のアイシクルフォール!!」

 

「待ってチルノちゃん!それって僕も巻き込ま──」

 

 

 2人の悲鳴が響き渡る。

 土埃が晴れるとそこには氷のせいで頭に大きなタンコブをつけて倒れるリグルと同様に目を回しているカボチャ頭がいた。

 

 

「完全に大・勝・利!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

『ん〜…うわっ!?何だこれ!?』

 

「ようやく目を覚ましたのね、カボチャ頭」

 

 

 カボチャ頭が目を覚ますと、目の前には氷の妖精が仁王立ちをしていた。逃げようとするが全身にめちゃくちゃな状態でロープが結びついており、逃げようにも逃げられない。

 

 

「よくもアタイの仲間にイタズラしてくれたわね、カボチャ頭。テングの納め時ってやつよ」

 

「チルノちゃん、テングじゃなくて年貢だよ!年貢!」

 

「うっさい!!今カッコよく決めてるんだから邪魔しないで!」

 

 

 その氷の妖精の隣には虫の妖怪。

 頭には大きなタンコブができており何とも痛そうである。

 

 

「そういえばアンタ、名前は?」

 

『そういうのは自分が先に名乗るもんじゃないの』

 

「アタイは幻想郷最強の妖精…チルノ! そしてそっちのがリグルね」

 

「よ、よろしく〜」

 

「ほら名乗ったんだからアンタも!」

 

『・・・ジャック』

 

「ふーんアタイの次の次にオシャレな名前じゃん。それでジャックは、何でイタズラばっかりしてるのよ」

 

『理由なんかないやい!妖精だって妖怪だって人間にイタズラするじゃないか!オイラも同じことしただけだろ!!』

 

「確かに言う通りだよ。僕たちだってやるし、ここまでしなくても良いんじゃない?」

 

「でもだったら人間だけにイタズラすれば良いでしょ」

 

『人間にしたって……つまんないんだもん。最初は楽しかったけど、皆んなオイラを見たら隠れちゃうし。だったら怒って追いかけてくる妖精とか妖怪にもやろうと思って…』

 

「はぁ〜〜」

 

 

 それを聞いていたチルノはやれやれというポーズをしながら大きなため息をつく。

 

 

「アンタってバカね」

 

『何だとぉ!』

 

「チルノちゃんには言われたくないと思うけど…」

 

「リグルは黙ってて!ジャックっ、アンタの魂胆は読めたわ。どうせ皆んなに構ってもらいたかったんでしょ!」

 

『うっ…!』

 

「だから人間や妖精に朝からちょっかいかけてたんでしょ。アタイはね、それをバカだと思ってんのよ!確かにイタズラするのは楽しいけど、ずっとやってると相手は怒ってくるもんよ。そういう時はどうすれば良いか分かる?」

 

『わかんない』

 

「ふふん。そういう時は……友達とたっくさん遊べば良いのよ!!友達と遊んで、時間経ったらまたイタズラ!皆んながプンプン怒ってきたらまた遊べば良いの!そーいうのを上手くやっていくのが幻想郷で生きるコツよ。……それとね、あんまりやり過ぎると霊夢っていう奴が来るから気をつけた方が良いからね」

 

 

 今のを聞いてリグルは意外にも感心していた。

 どうせまた突拍子のないことを言うのかと思っていたのだが、意外と正しくて真面目なことも言うのだと。

 

 

『・・・でもオイラ、友達なんていない』

 

 

 ジャックの言葉に力なんてなかった。

 表情はくり抜いたカボチャなので変わらないが、声というのも感情を示す道具だ。きっと本当にいないのだろう。

 

 

「じゃあアタイが遊んであげる!!」

 

『えっ!いいの?」

 

「ちょっ、ちょっと待って。チルノちゃんはジャックを……ええと、その……捕まえたかったんじゃないの?」

 

「んー、最初はそう思ったけど、やっぱりさ!捕まえるより鬼ごっこの方が楽しいじゃん!」

 

「え〜…じゃあ僕の犠牲は一体…」

 

「過去のことはいいから!皆んなで遊ぼうよ!カエルも冬眠して凍らせて遊べないしちょうど良かったし」

 

「はぁ。まっ、いいか。じゃあ何して遊ぶ?」

 

「かくれんぼ!!ジャックが鬼ね!」

 

『えっ、えーー!」

 

「ほら早くー!」

 

『あっ、待ってよー!」

 

 

 

 初めは犯人探しで知り合った3人だったが、実はジャックは寂しくて周りにイタズラをしていたことをチルノにより明らかとなる。そしてチルノの持ち前の明るさにより、こうやって遊ぶ関係へとなっていった。しかし色々あったが、子どもというのはこのくらいで良い。子どものいうのは“一人ぼっちの子がいたら一緒にあそぼと声をかけて仲間を増やしていける不思議な力”を持っているのだから。

 

 

 しかし──。

 

 そんなものを許せない男がいた。

 全身に包帯を巻いている“ねずみ男”だった。あのジャックのせいで金儲けできず、こんな怪我まで負ってしまった。そして彼は鼻息をフガフガさせながらカボチャ頭を探しており、この場所で遂に見つけた。

 

 

「俺様にこんな事してタダで済むと思うなよぉ〜……!!ネズミの怒りを知るといい…!」

 

 

 ねずみ男の手には大きな木槌が握られていた。

 彼はそれを持って里の中へと消えていく。

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 夜の時間帯頭に包帯を巻いたねずみ男が向かったのは博麗神社。階段の前まで来ると、ゴホンの咳払いしてから思い切り駆け上がる。登った先には霊夢が縁側に座って月を見ながらお茶を啜っていた。結構寒いのに凄いものだ。ねずみ男が来ると大きなため息を吐く。

 

 

「霊夢ちゃん!霊夢ちゃん!霊夢ちゃーーーん!!大変だっ、大変だよー!」

 

「聞こえてるわよ、うっさいわねぇ。……って何でそんなに汚れてんの?服がペンキ塗れじゃない」

 

「そんな事よりも大事件だよっ」

 

「何よ。しょうもなかったらお尻蹴るからね」

 

「しょうもなくないよ!悪い妖怪が里で暴れてるんだよ〜っ!!」

 

「悪い妖怪?」

 

「ハロウィンっていう楽しい催し物を壊そうと、地獄の底からカボチャ頭の妖怪がやってきたんだよ!!見てくれよ、この怪我を!俺を超能力かなんかで空まで引っ張ってよ、何度も何度も何度も!地面に叩きつけたんだよ!」

 

 

 そう言って、頭の包帯を見せつける。よく見ると身体中に包帯が巻かれてはいた。確かに何者かに襲われたであろう形跡が残っている。ねずみ男は大袈裟に大きな声を出しながら、霊夢の両手を握る。

 

 

「里の人間達にも襲いかかってよ。里はめちゃくちゃだぜ。すっかり怯えて出て来ねえんだ。それに今は妖精達に襲いかかっているのを見たぜ!早くやっつけねえと大変なことになっちまうよ!」

 

「ん〜……」

 

 

 霊夢はジッとねずみ男を見る。

 これまでの経緯や彼が里で何をしていたのかを魔理沙などから聞いており、彼の今回の発言を信じられないでいた。

 

 

「なっ、何だよ、その目は!まさか俺っちを疑ってんのか!?」

 

「だってねずみ男だし」

 

「なら俺の目をちゃんと見てくれよ!こんな目をした俺が嘘つくように見えるのかよ!」

 

 

 ねずみ男は充血させた目を近づける。

 ますます怪しかった。

 そんな時だ。新たに階段を登る音がして、そちらを向くと魂のような物を浮かせて歩く刀を携えた少女が現れた。

 

 

「霊夢さ・・・えっ!?男とイチャイチャしてるぅ!?」

 

 

 目の前では霊夢と謎の男が手を繋ぎ、顔を近づけていた。少女はその衝撃に飛び跳ねるが、霊夢はねずみ男を直ぐにぶっ飛ばし訂正する。

 

 

「そんな訳ないでしょ!なんで私がこんなオッサンと」

 

「酷いよ〜……」

 

「ですよね。霊夢さんに男性なんて天地がひっくり返っても有り得ませんよね」

 

「ちっ、それで何のようなの、妖夢」

 

 

 この少女の名は魂魄妖夢。

 白玉楼に住む冥界の主人『西行寺幽々子』に仕える庭師であり警護役でもある半人半霊だ。

 

 

「じ、実はご相談がありまして…」

 

「相談?」

 

「お昼頃に人里の方に行っておりましたら、カボチャ頭のお化けに脅かされまして……。怖くて里に行けないんです!!このままだとお買い物に行けません。それで…そのお化けを追っ払ってくれないかなぁ…と相談に来て」

 

「幽々子には言ってないの?」

 

「言えるわけありません!!この年になってお化けが怖いなんて、笑われちゃいます!」

 

 

 2人の話を聞いていたねずみ男。

 ヒョイと起き上がり、妖夢に近づく。

 

 

「私は笑いませんですよ」

 

「あ、あなたは?」

 

「私は怪奇事件専門弁護士のビビビのねずみ男と申します。お化けが怖いと思うのは普通ですが、怖がってばかりもいられませんよね。どうです?お化けを寄せ付けない私特製のお線香があるのですが……って痛いよ痛い!!ヒゲはやめろって!!」

 

 

 霊夢がねずみ男の髭を引っ張る。

 ねずみ男は悲鳴を上げた。

 

 

「コイツにはあんまり頼らない方が良いわよ」

 

「は、はぁ…」

 

「さてと、じゃあ私はカボチャ頭を退治しに行くわ」

 

「おっ、信じてくれんのか?」

 

「別にあんたを信じたわけじゃないわ。妖夢の方を信じたの。とりあえず里の方に行ってくるわ。留守電よろしくー」

 

 

 飛んでいく霊夢。

 ねずみ男はニヤリと笑う。

 

 

(ザマァ見ろ、カボチャ頭!!ウケケケケ……)

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

「タッチー!」

 

「よしっ!リグルが鬼だ!」

 

「お、追いつけないよ〜…!2人とも早すぎるぅ」

 

 

 深夜、妖怪の森上空。

 チルノ達は鬼ごっこをして遊んでいた。皆んなでお喋りしたり、かくれんぼしたり、競走したりと色々やって今に至る。カボチャ頭はこれまで友達と遊んだ経験が皆無であるため、心の底から楽しいと思っていた。だがその楽しい時間もそこまでだ。3人の前に幻想郷最強が現れる。

 

 

「アンタらー」

 

「霊夢?」

 

「霊夢って…チルノが言ってたヤバい巫女の?」

 

 

 霊夢は3人の中の1人、カボチャ頭を見つめる。

 何かを察したのかチルノはカボチャ頭を庇うように前に立つ。

 

 

「なんで邪魔するのさ!アタイら何もやってないよ!」

 

「そ、そうですよ。霊夢さん」

 

「2人じゃなくて、ちょっとそこのカボチャに用があんのよ」

 

「・・・っ」

 

「人里で人間を襲ってはいけないルールはご存知かしら?アンタ、それを破ったわね?」

 

 

 霊夢の言葉にビクンと体が反応する。

 きっと里のみんなが働いているのを邪魔したからだ。そのことを怒りにきたのだと3人は思った。しかしイタズラ程度だ。叱られるくらいで済むかなと予想していた。だが予想とは違い、霊夢の目からは優しさが消えていた。

 

 

「れ、霊夢。そんなに怒んないでよ。ただのイタズラじゃん」

 

「ただのイタズラだったら私もそこまで怒らないわ。でも今回のは度が超えてる。建物に何度も殴られた跡があったり、穴が開いてるのを確認したわ。そして大きな頭の影が暴れているっていう話も聞いた。流石に博麗の巫女として見過ごせないわ。それに退治してと依頼も受けているの。観念なさい」

 

「お、オイラ、そんなのやってない…!」

 

「疑わしきは罰するのが私よ。諦めなさい」

 

「本当にやってない…!!」

 

「ジャック…」

 

 

 

 霊夢は護符を取り出す。

 戦闘態勢だ。

 しかし霊夢は良くても、カボチャ頭は戦闘なんてしたことがない。ただただ目の前の脅威に震えることしかできない。

 

 ただ、1人を除いて・・・。

 

 

「やめろっ!」

 

 

 放たれた巨大な氷塊を霊夢は拳で破壊する。

 散り散りになる氷の欠片。

 その欠片の雨の中、チルノと霊夢が睨み合う。

 

 

「なんのつもり?」

 

「頭でっかちのバカ霊夢!ジャックはそんな事しないのになんで決めつけるのよ!!」

 

 

 眉を顰める霊夢に対し、チルノはいかにも牙を剥いて飛び掛かりそうである。友達が目の前で祓われそうになっているのに黙ってはいられなかった。リグルとジャックはガタガタと震える。

 

 

「チルノちゃん、やめた方が良いって!」

 

「リグルは目の前でジャックがやられそうなのに黙って見てられるの!?」

 

「そ、それはそうだけど」

 

 

 相手はあの博麗霊夢だ。

 気迫と尋常ではないこの空気に触れてリグルはチルノを止めようとする。だがチルノは聞き入れるつもりはない。まっすぐに霊夢を睨み、一戦交えるつもりなのが明白であった。

 

 

「それじゃあ望み通り……一回休みにしてあげる」

 

「やってみろ!!ジャックに手は出させないぞ!」

 

 

 チルノの周りに、冷気が立ち込め始める。そこまでに奮起し、力を震わせているのだ。霊夢は護符を数枚取り出す。お互いの、その気迫が触れ合おうとしたまさにその瞬間である。何処からか気の抜けた声が聞こえた。

 

 

「おーい、霊夢ぅー」

 

「あれは…」

 

「魔理沙!?」

 

 

 箒に乗った魔理沙だった。

 彼女の手には写真が握られていた。

 

 

「霊夢もこの件に来てたのか!じゃあ今回の異変解決は私の方が一歩リードだな!」

 

「どういう意味よ」

 

「だって犯人の写真を手に入れたんだぜー!凄いだろ」

 

「…ちょっと見せなさい」

 

「いいけど何そんな怖い顔してんだよ。…てか、これなんの集まり?」

 

「いいから!」

 

 

 あの気迫は何処へ行ったのか。

 全員が魔理沙の持ってきた写真に集まり、中を見る。そこに写っていたのはカボチャ頭……ではなくゴミ箱にオレンジ色のペンキを塗って壁を木槌で殴る男性の写真が写っていた。

 

 

「これ・・・」

 

「ジャックじゃないじゃん!やっぱり霊夢の勘違いだったんだ!」

 

 

 このペンキで汚れているゴミ箱を被った男の写真、何処かで見覚えがある。霊夢は記憶を辿る。そうだ、ただ1人。ペンキに汚れていた人物が1人いた。

 

 

「コイツ、穴を開けてそこから食べ物とか盗むんだぜ!最悪だよな」

 

「・・・ねずみ男」

 

「えっ、これアイツかよ!?」

 

「カボチャ頭のフリをして里で暴れて…盗みまでして……、最後には罪をなすりつけようとしたのね」

 

 

 霊夢はチルノ達の方に振り向くと、ペコリと頭を下げる。そしてしっかりと謝罪をした。里の中とはいえイタズラ程度なら霊夢は咎める事はしない。今回は自分に非があるとしっかりと認めた上で謝罪をした。

 

 

「待ってなさい、ねずみ男!!」

 

「何だよ、結局アイツかよ。久々に戦えると思ったのにつまんねえの〜」

 

 

 霊夢は神社に高速で戻る。

 魔理沙はフワフワと里に戻って行った。

 まるで嵐が過ぎ去ったかのような出来事だった。3人はこの一連の流れをいまだに理解できず固まってしまう。

 

 

「と、とりあえず…」

 

「一件落着?」

 

「だね。あははははは…」

 

 

 緊張がほぐれ、ジャックは笑う。

 チルノも力が抜けてリグルに寄りかかっていた。やはり霊夢と向き合うのは中々に怖いのだろう。

 

 

「あはは……、なんかさ…」

 

「?」

 

「友達って良いね」

 

「でしょ!これからも毎日遊ぼうな。明日はルーミアとか大ちゃんのことも紹介してあげるから」

 

「そうだね。皆んなで遊ぶともっと楽しいんだよ」

 

「ありがとうね、リグル、チルノ。遊んでくれて。オイラ…初めてだったよ。こんなに楽しいの」

 

「だから明日も遊ぼーって」

 

「いや…時間切れみたいだ」

 

 

 時間切れという言葉に違和感を感じるチルノとリグル。ジャックの方を見ると体が薄くなっており、今にも消えそうだった。

 

 

「ジャック、体が!?」

 

「オイラ…10月31日しか存在できないんだ。そういう妖怪なんだよね」

 

「じゃあもう遊べないの?」

 

「また来年の10月31日にならないと遊べないんだ。だからオイラ、1日しかいられないからいっぱい構ってもらいたくてイタズラばっかりしてたんだ。だから毎年皆んな、オイラの悪口をたくさん言うけど構ってもらえてるから幸せだった」

 

 

 最初に出会った時、友達がいないと言っていたジャックと違って、今はとても明るく言葉に力を感じる。

 

 

「でも……2人のお陰で、それ以上にとっても楽しく過ごせた!本当にありがとう!こうやって笑って終われるなんて初めてだよ」

 

「・・・また来年も待ってるからな」

 

「そうだね。また来年、今度は皆んなと遊ぼう!」

 

「!・・・うん、また来年!!バイバイ!」

 

「「バイバイ!!」」

 

 

 そして3人はハイタッチ。

 今日はバイバイ、また来年と約束を交わして。そう。友達同士なら当たり前の『約束』をして。

 

 

「・・・あーあ、ハロウィンもお終いかー」

 

「でもさ何だか僕さ、来年のハロウィンが今まで以上に楽しみになったよ」

 

「アタイも!!一年に一度しか会えない友達、早く皆んなに会わせたいな!!」

 

 

 2人は空の月に叫ぶ。

 届け。

 一年に一度の友へ

 

 

「「ハッピーハロウィン!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 次の日。

 全身殴られまくったねずみ男はタンコブをさすりながら、壊した家々の壁の修理をしていた。

 

 

「何で俺様がこんな目に…」

 

「良いからさっさと壁を直しなさい!!」

 

「ううぅ〜っ!俺も一度でいいからハッピーハロウィンしたいよぉ〜〜!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 今回はバトル無しです。
 偶にはこんな回も良いかなと思って書きました!!






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勇気の一太刀 魂魄妖夢①

こんにちは。

 投稿遅くなって申し訳ありません。
 ここ最近ずっと体調が悪いのと、仕事の影響で遅くなりました。

 令和版悪魔くん見ましたか?
 僕は見ました。
 内容は置いといて、こうもり猫の声が変わってなくて涙が出ました。マジで嬉しい。12使徒全員出してよ〜。

 もう少しで映画も始まるので楽しみです。
 皆さんは見に行きますか?僕は見に行きます!!









 

 

「いちっ!にっ!さんっ!しっ!──」

 

 

 道着を身に纏い、竹刀を振るう1人の少女。

 気温もちょうど良くなりお昼頃から外に出られる。空から照らす太陽が彼女の汗をキラリと輝かせた。

 

 

「今日も精が出るわね〜、妖夢(ようむ)

 

幽々子(ゆゆこ)さま!」

 

 

 ここで簡単に紹介しよう。

 2人のいるところは現世とあの世の中間地点である『冥界』である。冥界とは何も罪を犯していない善良な魂たちが滞在する場所である。ここにいれば天国や地獄にも行かず、転生することもないので永遠をここに留まることになる。因みにだが冥界は四季が存在しており、春の季節になると満開の桜、夏になると妖夢とスイカ割り、秋になると紅葉、冬になると皆んなで雪合戦する光景が見られるので意外と死者たちの間では人気のある名所となっている。

 

 そして、その冥界にある館『白玉楼(はくぎょくろう)』。その主人こそが『西行寺幽々子』である。ピンクの髪で常に扇子を握った女性である。その従者が以前ハロウィンの時に出てきた『魂魄妖夢』。半人半霊という特異体質であり、得意の武器は剣。2本の刀を携えており、実力は半人前だがバランスは取れており折り紙つき。

 

 

「はい!幽々子さまの従者として当然です!!いちっ、にっ──」

 

「あらあら嬉しいわぁ。でも頑張りすぎて倒れないでよ。あっ、そうだ。この前藍ちゃんからお饅頭貰ったの。おやつ休憩しない?」

 

「いえ!私は結構です!!」

 

 

 

 今日はその従者である魂魄妖夢の物語だ。

 炊事洗濯も完璧。

 容姿端麗。

 更にはめちゃくちゃ強い。

 しかし完璧に見えるそんな彼女にも意外な弱点が存在する。・・・魂魄妖夢は半人半霊でありながら()()()()()()なのだ。

 

 幽霊は突然現れて、フワフワと浮いていて、透けていて、実体がなくて、常に恨み言を吐いていて、もうとにかく怖いのだ。理由はあまり肝心ではない。本能から訴えてくるくらいに怖いのだ。

 

 そして、あのハロウィンの時に背後から現れたカボチャ頭が脅かしたせいで腰が抜けてしまい、生まれたての子鹿のようにプルプルと震えながら逃げ帰った。

 

 自分が情けなかった。

 悔しかった。

 尊敬する幽々子の従者であるのに幽霊が怖いなんてなんて情けないんだ。あの日霊夢に助けを求め、逃げた自分はもういらない。

 

 だから克服すると決めた。

 しかし幽霊を克服するとはどうすれば良いのだろうか。そう考えてから一個だけ方法を思いつく。それは兎に角、修行をする!鍛錬を積む!自身を追い詰めて追い詰めて追い詰めることで幽霊を克服しようと思ったのだ。だから、この素振りは朝の5時から今の11時まで続いていた。

 

 

 

(幽々子様の従者が幽霊なんかに臆するなんて……!待っててください、幽々子様。妖夢は、妖夢は……必ず強くなります!!)

 

「そんなこと言わないで休憩しましょ。美味しいお茶でも飲んで……あら?お茶っ葉がないわ」

 

 

 主人の困った声が聞こえる。

 素振りをやめて汗を拭う。

 

 

「お茶っ葉ですね。直ぐに里で買ってきます!」

 

「本当?私、稽古の邪魔しちゃったかしら?」

 

「いえ!幽々子様のいう通り、稽古を中断しようと思いましたので大丈夫です!!」

 

「ごめんね、妖夢。頼むわ」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 人里。

 とある一軒家。

 その家主(年齢は50くらいの男、仕事は夜の警備)がガタガタと震えていた。家の角で座って丸くなり、周囲の物全てに対して恐怖をしていた。

 

 

「怖い…っ、怖い怖い…」

 

 

 暗いところが怖かった。

 子供の頃にイタズラがバレて父親に押し入れに閉じ込められてから暗くて狭いところがダメになってしまった。大人になっても恐怖は消えず、しかし父親になった事で恐怖を我慢し、見栄を張り続けてきた。子どもたちにも“そんな事で怖がるな”と叱ったこともある。俺のように強い男になれと怒鳴ったこともある。

 

 だが突然、急に暗闇に我慢できなくなった。怖くて怖くて堪らない。布団で眠ろうにも布団の中の闇が怖い。目を閉じた時の暗闇も怖い。何処行こうにも恐怖が襲ってきたのだ。遂には家の中に閉じこもり、家族には誰も入るなと釘を刺して閉じこもった。家族は心配するが、心配されてもどうにかなるわけではない。全てにおいて恐怖が優先し、やる気も起きずにこうやって震える日々を迎えている。

 

 

『ヒヒヒ…』

 

「ぎゃああっ!?だっ、誰だ!!」

 

 

 男は振り向く。

 声がした方向に人影はなく、ただただ闇が広がっていた。息が詰まる。突然聞こえた声よりも目の前の闇が怖かった。明かりはついているのに辺りは真っ暗だった。

 

 

「だ、誰か…誰かぁぁぁあーーーッ!!!!」

 

 

 ゾクリと体が震えた。

 心の底から震え上がった。

 怖い。

 そして寒い。

 震えが止まらない。息が白くなる。悲鳴を上げても闇に吸い込まれて部屋の外には家族がいるはずなのに声が聞こえていない。

 

 

「さ、寒い…っ、寒い…。怖い怖い…」

 

『ヒヒヒ』

 

「こわ…い…」

 

 

 

 

 

 

──

 

 

 

 

 

 

「ひぃいい…、誰か助けて…」

 

 

 また別の家。

 若い男性(年齢は二十歳くらい、仕事はホスト)が震えていた。顔面蒼白で吐く息も真っ白だ。この男は別に暗闇に対してそこまで恐怖を感じる人間ではなかったが、何処からともなく聞こえる女性の声に恐怖して震えていた。

 

 ホストという仕事柄、女性に対してたくさん失礼なことはしてきたと自覚している。しかししょうがないじゃないか。夢を見せる仕事なんだ。金を貢がせて何が悪い。それで借金して返済できずに自殺したりする等の事件はよく聞くが無視してきた。無視してたくさん働いてきた。それに俺以外もやっていたんだ。何で俺だけがこんな目に遭わなきゃいけないんだ。

 

 

『あんなに弄んで…酷いわぁ…ヒヒヒ』

 

「うるさいうるさいうるさい…」

 

『ねぇ…酷いわよぉ』

 

「俺は何も悪くないっ、お前が悪いんだ。勝手に死んで…勝手に化けて出やがって……っ」

 

 

 震えが止まらない。

 とにかく寒い。

 部屋中閉じているのに、昼間なのに、布団に包まっているのに、何でこんな寒いんだよ。

 

 

「さむい…、さむい……」

 

 

 首元に冷たい感触。

 誰かに撫でられている感覚。

 それが余計に震えを増させる。

 

 

「怖えよぉ……」

 

『ヒヒヒ』

 

 

 

 

 

──

 

 

 

 

 

「誰かおらんのか!!誰かぁぁぁぁ…!」

 

 

 またまた別の家。

 年配の男性(大体80歳くらいで、嫁家族と仲良くなっておらず1人で暮らしている。職業はお茶屋)が叫んでいた。しかし虚しく誰にも声は届かない。誰もいない家の中にこだまして、そのまま消えていった。

 

 頑固爺とよく言われてきた。しかし育ててきた子に自分の介護なんかさせたくなかったので嫁の家に厄介にはなりたくなかった。だから何度も一緒に住もうと言われても断ってきた。そのせいで嫌われても、ただでさえ育児で大変なのに自分の介護なんかやっている嫁に苦労をかけるわけにはいかなかった。孤独なんか何も思わない。

 

 

「嫌だ、嫌だ!!」

 

『ヒヒヒ…、どんなに叫んでも1人よ。誰も助けには来ない』

 

「うるさあい…!!」

 

 

 力無く叫ぶ。

 この家にいたら死んでしまう。

 廊下に飛び出すと、そこには無限の闇。確かここをまっすぐいけば玄関があるのに何も見えないほどの闇が出迎えた。

 

 

「あっ、ああ……」

 

『ほぉら、誰も来ない。あんたの先も闇。一生1人』

 

 

 途端に身体が震え出す。

 寒い。

 寒い寒い。

 自分は一体どうなってしまうんだ。怖い、1人は怖い。1人は寒い。誰か助けて。

 

 

「……ぁぁ…」

 

『ヒヒヒ』

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 とある事件が幻想郷に駆け巡った。

 成人男性を含む3人が部屋で凍死したという怪奇事件である。確かに11月で冬の季節ではあるものの死亡推定時刻は昼間であり、更に家の中には囲炉裏もある為凍死はあり得ないということが判明。別の要因かと思われたが、解剖して死体を調べた八意永琳によると死体は至って健康体であり、持病もないことから完全に凍死だと断定。別々の犯行現場で同様に凍死。人間がやった証拠はどこにもなかった。

 

 怪死事件という明らかに妖怪絡みの事件に、霧雨魔理沙と博麗霊夢も出動。2人が向かった先はこういった事件を引き起こすのが大好きな男の家だ。大抵犯人というのは決まっているものだと判断して向かう。

 

 

「なっ、何なんだよー!?こんな朝っぱらから!」

 

「怪死事件の件よ」

 

「早めに白状したほうがいいぜ。流石に金儲けの為に殺人事件を起こしたとなりゃ…妖怪の山の()()()()()()にぶち込まれるけどよ。死刑は免れるかもしれねえぜ」

 

「待ってくれって!!一体全体何の話なんだよっ、怪死事件とか、刑務所とかよ!俺っち、今回はまだ何もしてねえって!」

 

「「まだ?」」

 

「言葉の綾だよ!!大体何もやってないやつを初めから疑うなんてどうかしてるぜ!ふざけんなっ!」

 

 

 2人が脅してもねずみ男は折れなかった。寧ろ反応的に何も知らなかったように見える。家の中を覗くと布団しかないようで裕福そうなことはない。事件の裏にはインチキ商売で儲けた金有りかと思っていたが貧しそうだ。本当に今回は絡んでいないのかもしれない。

 

 

「なんだよーっ!今回もねずみ男が犯人で、悪い妖怪を私がぶっ飛ばしてチャンチャンの楽勝物語かと思ってたのにガッカリだぜ」

 

「ふん!悪かったな、犯人じゃなくてよ!……ってかよ、怪死事件ってなんの事だ?」

 

「教えない。どうせ変に首突っ込んでめちゃくちゃにするだけだし」

 

「だってよ」

 

「ケッ!あっそ!そーかそーか!そーだよなっ!あーあ、半妖怪として生まれたばっかりにここでも俺は仲間外れ。俺ぁなんて孤独なんだ。ううっ」

 

 

 途端に泣き出すねずみ男。

 完全に被害妄想だ。

 しかしこうやって泣かれるのも面倒くさい。魔理沙は落ち着けと肩をさすりながら訳を話す。

 

 

「大の大人がこれくらいで泣くなよ!教えるから!」

 

「へへっ、ありがとよ」

 

「!! てめぇ、嘘泣きか!…ちぇっ、騙されたぜ」

 

「世の中騙されるほうが悪いのさ。さっ、教えてくれ」

 

「はぁ……実はかくかくしかじかって訳でよ」

 

「なるほど。謎の凍死事件ねェ。・・・・金にならなそうだし、興味ねえや。寝ようっと」

 

 

 聞いて満足したのかねずみ男は家の中に帰っていく。魔理沙は話さなきゃ良かったと愚痴る。

 

 

「けどこれで振り出しに戻ったわけね。とりあえず私は被害者たちの家に聴き込みに言ってくるわ」

 

「私も別で調査するかぁ」

 

「じゃあ15時に博麗神社に集合ね」

 

「あいよー」

 

 

 そうして2人は別々に向かう。

 そんな2人の会話をねずみ男は実は戸を閉めた後も、戸にピッタリと耳を当てて最後まで聞いていた。

 

 

「キキキキ…。行ったな。どおれ、この俺様が事件を解決して金を稼いじゃうもんねェ〜。この腹のためにもナ」グゥ

 

 

 グゥと大きな音がする。

 今回は本当に無実のねずみ男。流石に依頼も無いし、金も無いために空腹に陥り、頭も働かずインチキ商売が出来ない。だからこそ今回はまさにツイていた。良いものを食べるために立ち上がる。

 

 

「あのお邪魔虫がいると金も稼げねえだろうし。俺は1人でやらせてもらうぜ」

 

 

──ぐるるるぅぅぅぅ

 

 

「このままじゃ餓死にだっ、くっ、いざ行かん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 妖夢が人里に降り立った時に感じたのは怯えと忙しい空気だった。確かにそろそろ正月ではあるが、のんびりが似合う人里にしてはどこか焦っているような感覚で道行く人々もどこか少ない。常に何かに見られていると思うのか、ソワソワと辺りを見渡している姿があった。しかし自分にはあまり関係ないだろうと目的地へと向かう。

 

 

「お茶のお店に……人だかり?」

 

 

 お茶屋にたくさんの人が集まっていた。

 ここにいる人たちは“何でこんなことに”と口々に言い、その表情は暗く、中には涙を流す人たちもいた。少し背伸びして彼らの視線の先を見ると、そこでは葬式の準備がされていた。

 

 

「あら妖夢ちゃんじゃない」

 

「あっ、おばさん。こんにちは」

 

 

 妖夢に話しかけてきた人物。

 彼女はこのお茶屋の店主の娘であり、何度も一緒に住もうと提案していた人物である。まだ娘が結婚する前に店を手伝っていた頃から妖夢はここで必ずお茶を買うので顔馴染みであった。娘さんは涙ぐんでおり、誰が亡くなったのかを察する。

 

 

「お茶っ葉を買いに来たんですが……そんな空気じゃないですね。もしかして…」

 

「ええ。お父さん」

 

「そうですか。ご愁傷様です」

 

「ありがとう。お父さん、妖夢ちゃんに会いたがってたから……()()()()に巻き込まれなきゃ会えたのに…」

 

「変な事件…ですか?」

 

「そっか。最近こなかったもんね。実は今ね、幻想郷で原因不明の凍死する事件が増えてるのよ。3人も被害が出ててね…。慧音さんが言うには妖怪か妖精、もしくは()()の仕業だろうって」

 

「・・・」

 

 

 遠くを見つめて話すおばさんに対して妖夢は何とも言えない気持ちになり店を去ろうとする。元より冥界で暮らしているため死後の魂たちには慣れてはいるが、残された者を見ることは少ないのだ。悲しいというか虚しくなり、この場を去ろうとする。

 

 

「妖夢ちゃん」

 

「?」

 

「最後にさ、これ持って行ってよ」

 

 

 手にはお茶っ葉が入った筒があり、妖夢に渡す。まさか貰えると思わなかったので驚く。

 

 

「あ、ありがとうございます!ええと、お金…」

 

「大丈夫。要らないわ」

 

「えっ…」

 

「店閉めようと思うの。私は家庭もあるし継げない。この商品も全部持ち帰るってわけにも行かないから。それにねお父さんはいつも言ってたわ。うちのお茶を買って笑顔になってもらいたいってね」

 

「おばさん・・・」

 

「ふふっ、心配してくれてありがとうよ。でもね今、博麗の巫女様と魔理沙ちゃんが捜査してくれてるのさ」

 

「あの2人が…」

 

「そうさ!なら犯人探しも時間の問題!私は安心して葬式の準備して、さっさと店を閉めれるってもんだ!」

 

 

 元気に笑うおばさん。

 妖夢は貰ったお茶っ葉を見て、店主とおばさんの意思のようなものを感じた。こんな悲しい事件を起こした犯人を見つけてやりたいという気持ちが芽生えてきた。

 

 

「おばさん!」

 

「?」

 

「私も犯人を探します!!お爺ちゃんの敵討ちを私もします!」

 

「ふふ、優しいね、妖夢ちゃんは。でも・・・ダメだよ」

 

「えっ」

 

「昔からの付き合いだし妖夢ちゃんが強いのは知っているわ。だけどね、アンタ…怖いのダメじゃないか。幽霊とかさ。寺子屋でやる肝試しだって苦手だろ。気持ちは嬉しいけど無理しちゃいけないよ」

 

「そ、そんなことないです!!」

 

「そんなことあるさ。妖夢ちゃんは優しいから、敵討ちなんか似合わないことするもんじゃない。私は大丈夫だから、ねっ。その優しさは復讐なんかに使っちゃいけない。分かったら話はこれで終わり。じゃあね、妖夢ちゃん」

 

 

 そう言って、おばさんは背中を向けて店の中に入って行った。一方で妖夢は下を見て涙を堪えていた。悔しいが言葉が出ない。私は期待されていないのか。確かに幽霊は怖い。でもだからって。

 

 

(私が…怖がりだから……)

 

 

 臆病な自分が情けない。

 期待もされず、何も求められない自分が今後敬愛する幽々子様を守れるのか。疑問と焦りが全身を巡る。そんな時だ。携えていた刀が()()()()()()()()

 

 

「──!!」

 

 

 邪悪な気配も感じた。振り向くと遠くに見えるおばさんの背中に透明な何かが張り付いていた。ちゃんとは見えないが透けていて女性のような姿をして、足が無くて、、

 

 

「幽霊っ!?!?」

 

 

 妖夢の叫びに幽霊は気づく。

 そしてニヤリと笑うとゆらりと飛んで妖夢の目の前に現れる。ガタガタと震える妖夢に幽霊は手を伸ばし、首筋を触る。

 

 

「あ、ああああ……っ!?!?」ガタガタ

 

 

 なんと冷たい手なのだろう。

 裸のまま雪山に放り出されたかのように一瞬にして全身の血の気が引き、ガタガタと寒くなる。

 

 

『良い恐怖心だ』

 

「」

 

 

 何と弱々しい声だ。

 風が吹けば消え去りそうなほど細い声だというのに、一言一句が妖夢の耳にこびりつく。

 

 

『だがまだお前じゃない』

 

 

 そう言うと、一瞬にしておばさんの背中に女の幽霊が張り付いた。幽霊はそのまま乾いた布に水が染み込むように姿を消した。妖夢は腰を抜かし、その場で倒れ込んでしまった。

 

 

「ど、どうしたら…」

 

「おーい、妖夢。どうしたー」

 

「ま、魔理沙…」

 

 

 混乱して動けない妖夢。

 遠くから自分を呼ぶ声がするので振り向くと魔理沙だった。しゃがみ込む妖夢の手を掴み、立たせる。明るい彼女に出会って何とか落ち着きを取り戻す。

 

 

「大丈夫かよ、どうしたんだ?顔が真っ青だぜ?」

 

「今…ゆ、幽霊が…」

 

「幽霊?」

 

「女の人の幽霊が、お、お茶屋のおばさんの背中に…!こ、怖い笑顔を浮かべて…!!」

 

「そういやお前、幽霊苦手だったな〜。ホント普段はキッチリしてんのに幽霊が絡むとダメだぜ、妖夢は」ケラケラ

 

「うぐぅ…っ」

 

「お茶屋のおばさんの背中だっけか?どれどれ……」

 

 

 魔理沙は遠くのおばさんの背中を目を凝らして見るが妖夢が震え上がるようなものは何も見えなかった。

 

 

「私には何も見えないぜ?」

 

「おばさんの背中に張り付いて…そのまま……」

 

「疲れて幻覚でも見えたんじゃないか?早く帰って休んだほうがいいぜ」

 

「──!…うっさい!帰る!!」

 

 

 助けてくれた魔理沙の手を振り払い、逃げるように帰る。おばさんに言われた言葉と魔理沙の言葉が重なった。唇を噛み締めて本当に心の底から悔しかったのだ。まるで“お前には用がない”、“半人半霊のくせに幽霊が怖いなんて”と笑われているようだ。自身の悔しさが憎さへと変わっていることを妖夢は自覚する。

 

 

「変なやつ・・・。まっ、今はいいか」

 

 

 何に怒ってんだと不思議がる。だがすぐに思考を切り替えた。今は妖夢の謎の不機嫌よりも怪死事件の犯人を見つけるほうが先だ。箒に跨り、博麗神社へと向かう。

 

 

 神社へと辿り着く。

 魔理沙は殆ど収穫が無かったことを伝え、霊夢も同じくと言いつつ、唯一手に入れた解剖する前の死体の写真を取り出し見せた。永遠亭に行って貰ってきたという。

 

 

「何だぁ、この死体の背中…」

 

 

 3人とも背中の色がおかしかった。

 他の皮膚と比べると圧倒的に青白くなっていた。

 

 

「永琳が言うには一瞬で凍死した訳じゃなくて、この写真からわかると思うけど長時間も冷たい何かを背中に当てられ続けたみたい。そして、そのまま臓器から…って訳ね」

 

「背中に冷たいもの、か…。普通そんなの張り付いていたら気づくよな。振り払うとかすると思うが…」

 

「そう思わせないように何かしていたようね。この跡の主は」

 

「それにしてもこの跡、女の形に見えるぜ。髪の長いよ」

 

「幽霊か何か張り付いてたのかしら?チルノが乗っかってきたなら簡単に分かるし、質量のある妖精や妖怪とは違うのかも」

 

「幽霊…?幽霊か。なんか…さっき聞いたな」

 

「幽霊の話を?」

 

「ああ。さっき妖夢と会ったんだが…お茶屋の娘さんの背中に幽霊が張り付いていたのを見たって……ん?あっ、背中に張り付く!!幽霊!!もしかして!」

 

「もしかするかもね」

 

 

 霊夢は退魔針を握る。

 博麗の巫女として、これ以上里の人間に危害を加えさせないという決意を感じた。

 

 

「行くわよ」

 

「おう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうです?最近急に何かが怖くなってません? あっ、なってない」

 

「急に疲れが溜まっておりませんか?っておい、近寄るななんて酷いなァ」

 

「あなたの後ろの暗闇に何か見えてはいませんか?もしかしたら妖怪が取り憑いて……っちょ、そんな怒らなくても」

 

 

 ねずみ男もねずみ男で犯人探しをしていた。

 彼なりに集めた情報は大したものではなく、被害者の共通点は男性であること以外に何も分からなかった。しかも今後女性が同じ被害に遭った場合はこの共通点は関係なくなってしまうので、もっと新たな情報を得る必要があるだろう。

 

 

「ちっ…誰も襲われてる様子はねえし。もっと派手に暴れてくれたら簡単に見つけられるのによ。だがまぁ、こそこそやるタイプって事は……そんなに強くないかも」

 

 

 とりあえず次の幸薄そうな人のところに行こう。

 大抵何かに困る奴はそういう顔をしていると経験上知っている。ねずみ男は道行く人々を眺めた。

 

 

「ん?・・・あれは?」

 

 

 視線の先には妖夢がいた。

 以前一度顔を見たくらいで知り合いというわけではない。素性も名前も何も知らないが、妖夢の顔は暗く、足取りも重そうで、何より彼女の周りに人魂のようなものが飛んでいた。

 

 

「まっ、マジかよ!あの辛気臭そうな顔っ、重い足取りっ!あの小娘、取り憑かれてんじゃん!!あのちっちぇ魂が犯人だな!やっぱり俺ってツイてるぜ」

 

 

 ゆっくりと妖夢の背後につく。

 幼女の背後に近づくおっさん。側から見れば完全に不審者の行動だ。息を殺し、今回の怪奇事件の犯人であろう人魂のような何かに手を伸ばす。

 

 

「犯人捕まえた〜!!」

 

「えっ!?」

 

 

 驚いた妖夢が振り返ると黄色い布だけを羽織った男が自分の半身に抱きついている異様な光景が映っていた。人里の連中ならばあの人魂は妖夢の半身(もう1人の妖夢のような存在)だと知っているので気にしなかったが、ねずみ男はそんな事は知らない。

 

 

「暴れんじゃねえ!!妖怪!」

 

「ちょっ、何やって──」

 

「こうしてやる!!」

 

 

 ねずみ男は飛びかかり、人魂をめちゃくちゃにする。逃げ出そうと人魂も暴れて抵抗するが、ねずみ男が摘んだり引っ張ったり握ったりするせいで上手く逃げる事はできない。妖夢は焦り、直ぐにねずみ男を止めようとした。なぜなら──

 

 

「はぅっ?!♡♡」ビクンビクン

 

 

 人魂と感覚を共有しているからだ。

 共有しているから家事を手伝うこともできるし、戦闘にも活用できる。だがデメリットもある。共有しているということは半霊が触れられた感覚は妖夢の身体にも通じてくるのだ。

 

 

「や、めぇ…っ!?」

 

 

 体を捩らせ、妖夢はへたり込む。

 ガクガクと足が震える。立っていられない。

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」ガクガク

 

 

 しかしすっかり人魂を捕まえようと夢中になっているねずみ男に、妖夢の声は届かない。

 

 

「ひぅっ、ひゃっ…、はぅぅ……っ♡♡」

 

「この野郎が!!」

 

「んっ♡声が出ちゃ…うぅっ」

 

 

 このままではやばい。

 妖夢は片手で口を抑えて何とか耐える。そしてもう片方の手で刀を抜き、ねずみ男にゆっくりと向かう。

 

 

「ふー…ふー…!!」

 

「殺気を感じる?なぜに……ひゃあああっ!?」

 

 

 ねずみ男が頭を上げると、そこには荒く息を吐く少女。目をうるうるとさせ震える体を押さえつけて刀を頭上に振り上げていた。

 

 

「は…な、せぇ……!!変態ィィィーーー!!」

 

「お助けぇええ〜ッ!?」

 

 

 飛び跳ねて斬撃を避ける。

 ガクガクブルブルの妖夢の一撃はねずみ男程度でも躱せる。しかし躱した結果、人魂は抜け出すことができ、妖夢の元へ戻ることができた。変な感覚の檻から出ることができた妖夢はやっと落ち着くことができた。

 

 

「「はぁっ、はぁっ…!!」」

 

 

 ねずみ男と妖夢は互いに睨み合う。

 

 

「あっぶねえなぁっ!!俺っちがアジの開きみたいになったらどうするつもりでい!焼いてご飯と一緒に食うってのか!?」

 

「なんでそっちが怒っているんですか!!私の体中を弄る変態のくせに!」

 

「はぁ〜っ?!何を言ってんだよ、俺はお前の体なんか触ってねえよ!」

 

「触りましたよ!」

 

 

 そう言って妖夢は人魂を指差す。

 ねずみ男は何を言ってんだと怒鳴るが、妖夢は怒りながらもちゃんと説明した。人魂は自分の半身で、感覚を共有していると。ねずみ男は理解はしたが知らなかったのだから怒られるのは納得がいかない。フンっと鼻息荒くしてそっぽを向く。

 

 

「半人半霊だが何だか知らねえけど俺は悪くないね!」

 

「無知は罪とも言いますけどぉ!?」

 

「大体人魂浮かせながら、暗い顔して何度もため息ついてたら取り憑かれてると思うのが当たり前だっての!!」

 

「そ、それは…っ」

 

「ちっ!ちっちっちっ!!もう行く!あっかんべぇ〜だ!!」

 

 

 ねずみ男は妖怪の山へと走って向かう。

 妖夢は自分よりも歳上のような大きい大人が、大人気(おとなげ)なく舌を出して走り出す姿に驚き、ポカンと口を開けてしまった。

 

 

「・・・何なのよ。今日って厄日かも……」

 

 

 チラリと横を向くと団子屋があった。

 妖夢はヨロヨロと団子屋へ向かう。

 

 

「幽々子様。お土産して帰るんで……買い食いをする妖夢をお許しください。ううっ…」

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 一方、魔理沙と霊夢はお茶屋に着く。

 中ではおばさんが身体をぶるぶると震わしながら店じまいの準備をしていた。顔面蒼白で動くのもやっとのようだったが、力を振り絞り大切な店と向き合っていた。魔理沙はその姿に耐えられず大丈夫かと駆け寄る。

 

 

「おばさん!!」

 

「ま…魔理沙……ちゃん…、いらっしゃい。ゴホッゴホッ…、ごめんなさいね。もう…お店閉めちゃうの」

 

「んな事よりも大丈夫かよ!?」

 

「…え?」

 

「その顔、その声、震えてる体……普通じゃないぜ」

 

「あ、ああ…。急にね。風邪よ、きっと。……でもね大丈夫よ。……お父さんはもっと辛かったと思うから」

 

「は?何言って…」

 

「なんかね…頭ん中にね……声が聞こえてくるのよ。私がほっといたからこうなったって。私、あの世でお父さんに恨まれてると思うと怖くて……。きっとこれは罰だから。お父さんはもっと辛かったから…」

 

 

 完全におかしくなっていた。

 目も焦点が合っておらず、何を言っているのかも理解ができない。明らかに何かがあったとしか思えない。

 

 

「どいて、魔理沙」

 

 

 様子を見ていた霊夢が間に入る。

 大抵の妖怪などなら霊夢が来たら、その霊力にビビり出て行こうとするが動きがなかったので、自分から追い出すしかない。

 

 

「巫女…さ…ま…?」

 

「お祓いに来たわ。多分あなたに怪死事件の犯人が取り憑いてる。動かないで」

 

「えっ、え…!?」

 

 

 現状を理解できないおばさんの背中に護符を貼る。貼った途端に背中がモゾモゾと動き出し、鈍い声も響く。

 

 

「な、なに!?」

『ア…アア……アアア…!?』

 

「妖夢の言う通りだった・・・!」

 

「出てくるわよ、気をつけなさい」

 

「ああ」

 

 

 我慢できなくなったのだろう。

 背中から何かが飛び出した。

 その姿は薄く透明に近い体色で、髪の長い女性の形をした幽霊ようなものだった。

 

 

『アアアアァァァ〜〜〜ッ!!』

 

「こいつが…事件の犯人……!!」

 

「小さいけど妖気を感じるわ。幽霊ではなく妖怪が犯人だったようね」

 

 

 女妖怪はギロリと2人を睨みつける。

 よくも邪魔をしたな、絶対に許さない…そう言う気持ちが伝わってくるほどグググと口を曲げて怒りを露わにする。

 

 

『もう少しで…、もう少しで……この女を殺せたというのに…!!小娘どもが邪魔をしおってぇええ〜〜っ!!』

 

「うるせえ!退治してやる!!」

 

「同感」

 

 

 怒りの形相を見ても2人は怖気付く事はなかった。寧ろ、自分よりも強い殺気を感じる。そして2人の中に対する()()()が輝き始め、女妖怪は眩しそうな表情をした。

 

 

『くぅうっ、貴様らは私の嫌いな部類だ。嫌だ、貴様らは嫌だ!!キェエエエエ〜〜〜ッ!!』

 

 

 そう叫ぶと外へ飛び出した。

 あんなに怒り狂っていたのに女妖怪は逃げ出したのだ。

 

 

「なっ、なんだ!?逃げたぞ」

 

「追うわよ!」

 

「おっ、おう!おばさんは部屋の中に隠れてなよ!!」

 

 

 外へ出ると女妖怪は空を飛びながら森へと向かう。あんなに透明色な妖怪なら暗い森の中に入られれば見つけるのは困難になってしまう。更には妖気を隠せるのかは不明だが、とても微弱なやつなので、妖気を追うこともできないだろう。箒に乗った魔理沙はミニ八卦炉を取り出すと、しっかりと狙いを定める。

 

 

『ヒヒヒヒヒィィィイ〜〜〜ッ!!』

 

「あんな寒天みたいなのが、あんな事件を引き起こすなんて……!思いもしねえぜ!!──恋符『マスタースパーク』ッ!!」

 

『ヒヒヒ!!』

 

「なっ──」

 

 

 極太レーザーは真っ直ぐに飛ぶ。しかし女妖怪の体をスルリと通り抜けてし、さらに遠くの岩へとぶつかり砕け散った。女妖怪に全くダメージは無くゲラゲラ笑うと更に森へと急ぐ。

 

 

「なんだ!?通り抜けた?!」

 

「多分霊体…、もしくは霊体に近い体質なんでしょうね」

 

 

 そう言うと霊夢は魔理沙の箒を握る。

 そのままクルリと旋回し箒へと乗った。

 

 

「私の速さじゃ追いつけない。幻想郷2位のスピード久々に見せてよね」

 

「ちぇっ!一位の方が響きが良いのによ!…舌噛むなよな!!」

 

 

 一気に加速する魔理沙。たまに乗せてもらうことはあるが未だにこの速さには慣れない。乗っている霊夢は吹き飛ばされそうになるのを耐える。一方で女妖怪は森へと入りかける。だがその一瞬にして女妖怪の目の前に魔理沙たちは着く。

 

 

『はやぃっ!?』

 

「よっしゃ!今だぜ、逃すなよ!」

 

「誰に言ってるのよ。フッ!」

 

 

 

 

──タタタタンッ

 

 

 

 

 

『あぎゃっ!?あっ、ああっ、動けないぃぃ!?!?』

 

 

 女妖怪の全身を退魔針が貫く。

 霊体さえも突き刺してしまう針ならば、如何に薄くて半透明な女妖怪の体質であろうとも捉えてしまう。霊夢が投げた数十本の針が女妖怪を木に貼り付けにした。

 

 

『ヒィイイ……』

 

「やったな、霊夢!」

 

「あとは封印するだけね」

 

「任せるぜ。私は退治専門だからな」

 

「はいはい。……?あれ?」

 

「どうした?」

 

 

 霊夢は自身の衣類の中に手を突っ込み護符や封印札を探す。出かける時は必ず数十枚は持ち歩くというのに袖の中等を探っても、どこにもなかった。

 

 

「護符が無い…」

 

「えっ!?何で!?」

 

「・・・はっ!まさかアンタの箒に乗った時に飛んで行ったんじゃ……!!」

 

「ま、マジかよ。里に戻って探しに行くか!?」

 

「探すよりも博麗神社に戻って取りに行った方が早いわよ。あー、もう!アンタがあんなに飛ばすから!!」

 

「はぁーっ!?お前がスピードを見せろって煽てるからだろうが!!」

 

「加減しなさいよ!!」

 

「何だとォッ!?このわがままグータラ巫女!」

 

『・・・』

 

 

 ある程度口喧嘩をすると魔理沙はアカンベェと霊夢にして、フワリと空に飛ぶ。

 

 

「そんなに文句言うなら私が取ってきてやるぜ!!グータラ巫女じゃ私よりも早く飛べないし、ここで待ってるんだな」ベー

 

「待ちなさい!!どこに置いてあるか知らないでしょ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして誰もここに居なくなった。

 2人は里を超えた先の妖怪の森の木でもあり、妖怪が触ればダメージの喰らう退魔針だから抜かれる事はないだろうと油断していた。

 

 

「あー…あんな小娘に構ってたら余計に腹が減ったよ。ちくしょー」

 

 

 だが、この森へと簡単に来れて、この針を抜けてしまう男が……女妖怪の元に近付いていた。腹を空かせたその男はグゥグゥと腹を鳴らせながら森の中に入っていった。

 

 

「大体その怪奇事件の犯人ってまだ幻想郷にいんのかよ。俺が探しても見つけられないんだからいるわけねえよ…」

 

『・・・』

 

「んっ?こりゃあなんだ?」

 

 

 少し入ると、ねずみ男は木に何か刺さっているのが見えた。近づいてよく見るとそれは針に刺さっており、青白くプルプルとしていて寒天?透明なキクラゲ?ゼリー?のように見えた。

 

 

「この針…、霊夢のやつのじゃねえか。何でそれが刺さってんだ?」

 

『・・・』

 

 

 ねずみ男はそのプルプルとした物に触れる。

 ヒンヤリとしていて匂いも特にない。少し考えてから、ねずみ男はニンマリと笑う。

 

 

「よく分かんねえけど…、あの貧乏巫女のことだ。こっそり美味しいものを見つけて、干物にでもしようとしたんだな。セコイ奴だぜ。独り占めしようとするなんてよぉ。年長者を敬う気を感じられないナ」

 

 

 そして悪い顔をしたねずみ男は針を一本、また一本と抜き始めた。彼の口からは涎がこぼれ落ちる。

 

 

「ンフフフフフフ♪俺様が先に食っちまうか!!」

 

 

 そう言って針を全部抜く。

 そしてガシッとプルプルしたものを掴むとムガーッと食べてしまった。食感は意外とコリコリしていて食べ応えはある。

 

 

「あぐっ、むぐぐぅっ、・・・こりゃあ美味え!!この食感に、このほんのりとした甘み……間違いねえ、クラゲの干物だ。ラッキー!!」ムシャムシャバクバク

 

 

 あっという間に食べ尽くす。

 結構大きかったが腹が減っていたこの男にとっては前菜程度。食べ終わると満足そうに膨れるお腹を撫でたり、ポンポンと叩く。

 

 

「かぁーっ、久しぶりに腹一杯になった!」

 

『ヒヒヒ…』

 

「?」

 

 

 何処からか声がした。

 しかし誰もいないので風の音か疑っているとブルリと体が震えた。もうこんな時期だ。そりゃあ寒くなるだろう。

 

 

「……なんか急に冷えてきたな。団子屋で熱いお茶でも飲んでから帰るか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 続く…。

 

 





 今回の妖怪だーれだ!
 ここの読者様たちなら簡単ですね。


 


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勇気の一太刀 魂魄妖夢②

こんにちは、狸狐です。

17日「ゲゲゲの謎」を即見てきました!!
面白かった…。
めちゃくちゃ面白かったよぉぉぉお!!もう序盤からずっとダークな展開だったけど本当に良かった!!墓場見てて良かった。実は2回目見にいきました!

 けどまさかのゲスト妖怪だったな・・・。

 感想は活動報告に書いていきたいと思います。ガッツリネタバレするので見る人は注意してね。











 

「嘘でしょ」

「マジかよ」

 

 

 魔理沙と霊夢が戻ってきた頃には女妖怪の姿は何処にもなかった。あるのは地面に転がる退魔針。

 

 

「自力で脱出したのか?!」

 

「あの妖怪にそんな力は無いはずよ。誰かが抜いて逃した…と考えるのが妥当かも」

 

「黒幕って訳か。にしてもこの森の中に隠れられたら、流石に見つけるのは骨が折れるぜ…」

 

 

 

──パシャッ

 

 

 

 シャッターの切れる音。

 バサバサと羽ばたく音。 

 焦る霊夢たちの前にフワリと誰かが降り立った。

 

 

「霊夢さん達の落ち込む顔見るのってラッキーですねぇ。どれもう一枚!」

 

「何しに来たのよ、(あや)

 

 

 彼女は鴉天狗の射命丸(しゃめいまる)文。

 詳細はまた後日にするが妖怪の山に住む記者である。

 

 

「あやや…、今度は怒った顔。なんか私怒らせるようなことしました?」

 

「今はお前に付き合ってる暇は無いんだぜ。悪徳記者」

 

「酷い言われよう。そんなこと言って良いのかなァ?私は良いものを見せようと思ってたのに」

 

「良いもの?」

 

「構わなくて良いわよ、魔理沙。大したことないに決まってるし」

 

「えー、そんなこと言って良いんですかぁ。貼り付けにしたあの妖怪の行方、知ってるんだけどなぁ…っと!?」

 

「さっさと見せなさい」

 

 

 霊夢は文の胸ぐらを掴み、引き寄せる。

 その迫力に怯んだ文は写真を取り出した。

 

 

「あ、あやや…、怖いですよ、霊夢さーん。けどけどォ…タダで見せるのもなぁ…。もし今の怪奇事件について取材させてくれるなら喜んで見せるんですけど…」

 

「祓うわよ?」

 

「ジョーダンですよ、冗談〜!えへへ!はいっ、どうぞ!」

 

 

 文から渡された数枚の写真を覗く。

 そこには必死に針を抜くねずみ男の姿が映っていた。2枚目を見ると全て抜き終わり喜んでいる姿。魔理沙は流石に呆れてしまう。

 

 

「やっぱりアイツが黒幕か…」

 

「いや、そうじゃないかも」

 

「何でそう思うんだ?」

 

「これよ。……ハァ」

 

 

 3枚目以降の写真は全て女妖怪に齧り付いている姿が映っていた。ムシャムシャと咀嚼する姿。全部飲み込む姿。満足に腹をさする姿等が映っていた。

 

 

「ねずみ男は……食べ物だと思って食っちまったってのかよ!?」

 

「バカすぎる…」

 

「実は私もこの事件追っててですね。霊夢さん達が女妖怪を貼り付けにしたのを目撃したのでこっそり写真撮ってたら、偶然にも見てしまって」

 

「見てたんなら止めろよ!」

 

「だって面白い記事が書けそうじゃないですか!」

 

「記事だと!?あの妖怪は3人も殺してんだぞ!」

 

「私が殺した訳じゃありませんしねぇ。同族がやったわけでもないし。私が止める意味も、怒られる意味も分からないんですけど」

 

 

 笑う文に怒る魔理沙。

 流石は妖怪というべきか。彼女は悪人ではないが人間達の味方、正義のヒーローというわけでもない。面白い記事を書きたいだけの記者なのだ。だから道徳や倫理を説いても響かないのは無理もない。

 

 

「ほっときなさい、それよりもこの男は何処に向かった?」

 

「えーと…団子屋でお茶を飲もうかなとか言ってましたよ」

 

「分かった。行くわよ、魔理沙」

 

「……おう」

 

「私もついて行きますね!カッコいいシーンが見れるかも!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

「寒い…、寒い……」

 

 

 ガタガタと全身を震わすねずみ男。

 青白い顔に重い足取り、口からこぼれる白い息。確かに冬だが明らかに様子がおかしい。重病人のようだ。何か熱いものを摂取したいと必死に考え、死ぬほど寒いのを耐えながら団子屋に向かう。

 

 

「死ぬ…、本当に死んじまう……。あの干物に当たったのかな…。あ、あれは団子屋!早く中にぃ…」

 

 

 何とか辿り着いた団子屋。

 中を覗くとそこには先程喧嘩したばかりの妖夢がいた。彼女は小さい口を頑張って開けて団子を頬張っていた。ねずみ男と目が合うと全身を弄られたことを思い出した事に加え、口を大きく開けている姿を見られたことを考え、赤面しつつ固まる。

 

 

「うぅっ…また恥ずかしいところを見られた…」

 

「お茶ぁ、茶ぁぁ」

 

 

 ねずみ男は団子屋に入ると直ぐに妖夢の所へと走った。何かされるのではないかと妖夢は刀を抜こうと構えるが、彼女に用はない。用があるのは机の上のお茶だ。

 

 

「我慢できねえーー!!」

 

「あっ、ちょっと!?」

 

「ンゴンゴ……」

 

 

 温かいお茶を全て飲み込む。

 だが所詮は焼け石に水。お茶を飲んだところで凍える体が温まることはなかった。

 

 

「何するんですか!私のお茶ぁ!」

 

「寒い寒い…っ」

 

「聞いてるんですか!?」

 

 

 ねずみ男はその場でしゃがみ込む。

 妖夢は肩を揺らすが特に反応はなく“寒い寒い”としか呟かなかった。最初は怒っていたが、そのおかしい様子に心配し始める。

 

 

「あのぉ……?」

 

「寒い寒い」

 

「あ、あの…大丈夫ですか?」

 

「ダメだ…。寒い、寒い……」

 

 

 ねずみ男は大きな口を無意識に開けた。

 口の中に何かが見える。

 

 

「寒いんだよぉおおお〜〜〜おげええええっ!!??」

 

「きゃああああっ!?」

 

 

 妖夢は見た。

 ねずみ男の口から女の幽霊が飛び出したのを。恨めしそうな瞳に、妖夢は身体の芯から固まってしまう。

 

 

『ヒヒヒヒヒヒィィ…ッ!!』

 

 

 女の幽霊はねずみ男の身体から解放されると周囲を見渡す。遠くにあの時自分を攻撃してきた魔女と巫女の姿が見えた。急いで団子屋に向かう魔理沙は叫ぶ。

 

 

「妖夢、目の前のが今回の犯人だ!直ぐにそいつから離れろ!」

 

「えっ、えっ、さっきから何が何だか…!?」

 

『まだ来るか、邪魔者どもめぇ!・・・ヒヒヒ』

 

 

 何かを思いついたのか幽霊は妖夢を見て笑う。その場で4回ほどクルクルと飛んだ。すると空間が歪み、真っ暗で何も見えない謎の世界が現れた。

 

 

『ヒヒヒィッ』

 

「きゃあっ!?」

 

「ちょっと何ぃっ!?」

 

 

 そして近くにいた妖夢とねずみ男の首を掴むとそのまま謎の世界に飛び込んだ。3人がその世界に入るとあっという間にその入り口は閉じてしまい、魔理沙と霊夢が団子屋に到着した頃には初めから何事もなかったような静寂が流れていた。

 

 

「やられた…。理屈は分からないけど完全に逃げられた」

 

「霊夢、どうするよ?」

 

「餅は餅屋よ。変な空間に逃げ込んだなら、空間を行き来できるアイツに頼みましょう」

 

「なるほど!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは・・・」

 

 

 その世界には何もない。

 暗く、何も見えない闇が永遠と続いていた。立っているのだから床はある。だが周囲を探ろうにも壁らしきものはなく果てしないくらいに広い事だけは分かる。いくら声を出しても誰かに届くわけもなく、反響する壁も無いのでそのまま消えていく。そしてこの世界はとても寒かった。何をしようにも寒さが邪魔をして行動させる気を奪っていった。

 

 

「大丈夫っ、とにかく進まなくちゃ…」

 

 

 暗中模索。

 前に前に歩みを進める。足が重い。進みたくないと言っているようだ。それでも逃げずに進み続ける。帰らなくてはいけない。主人がきっと心配している。心配をかけるのは従者としてあってはならない。そうやって自分を鼓舞して歩き続けた。

 

 

「何処かに出口が必ずあるはず…、諦めちゃだめ……」

 

 

 どの位歩いたのか。

 どの位経ったのか。

 何も分からない。

 主人に会いたいという気持ちで奮わしてきた心が果てしなく続く無限の闇により折れそうになる。

 

 

「諦めちゃ……だめ…」

 

「諦めな」

 

「──!?」

 

 

 体がその声に大きく反応した。

 まさか。まさかずっと1人だと思っていたのだが、自分以外に誰かいるとでもいうのか。声のする方を見るが何も見えない。だが落ち着いてみると確かに気配を感じる。

 

 

「出口なんかねえよ、お嬢ちゃん」

 

「その声・・・!」

 

「よっ!さっきぶりだな。俺だよ、ねずみ男様だよ」

 

 

 もう1人というのがまさかの“ねずみ男”という名の自分の体を弄った奴だった。変な名前に変な格好で身体が少し匂う事と大人気ない事は覚えている。

 

 

「どういう意味ですか、諦めろって」

 

「そのままの意味さ。俺も出ようと必死に出口を探したが見つからなかった。だから無駄に体力を使うんじゃなくて、諦めて寝てた方がいいのさ」

 

「ふざけないで!もっとよく探せばきっと──」

 

 

 “きっと”…。

 その続きを言おうとしたのだが言葉が出ることがなかった。生暖かい風が吹き、冷や汗が垂れる。背中をツーっと垂れていき、余計に全身が冷えていく。

 

 

『その男の言う通りさ。諦めろ』

 

「ぁ──」

 

 

 振り向けば、女の幽霊が目の前で笑っていた。諦めずにもがく妖夢を嘲笑うように愉快そうに笑っていた。

 

 

「はぁ…っ、はぁ…っ」

 

『ヒィ〜イッヒッヒッヒッ』

 

 

 息が上手く吸えない。

 ただでさえ暗い所にいて幽霊が出るかもしれないと怖くて震えていたのに、その幽霊が本当に現れてしまったのだから気がおかしくなる。

 

 

『この世界は私が作り出した恐怖の世界だ。私が許可しない限り出る事はできないよ。ヒヒヒヒヒヒ…!』

 

「そ、そんな・・・」

 

『良い顔だねぇ』

 

 

 舐め回すように絶望する妖夢の顔を見る幽霊。

 そんな幽霊にねずみ男は抱きつこうとジャンプをした。しかし抱きつく事はできずに通り抜けてしまう。

 

 

『なんだ?』

 

「頼むぅ!俺だけでもいいから出してくれぇ〜!!」

 

『嫌だね』

 

 

 ねずみ男は幽霊に近づく。

 必死に笑顔を作り、敵対心がない事をアピールする。自分だけでも気に入られようとしていた。

 

 

「あの巫女を殺す手伝いだってするし、アンタがバレないように援助する事だってやる!ほら、仲間がいた方がいいだろ?本当に何でもするからさあっ!ねっ、大先生ぇ?」

 

『嫌だと言ってるだろ。お前みたいな臆病者と組んで得することなんかないわ』

 

「こっ、この野郎!こっちが下手に出てるからって好き放題言いやがって!!大体何が目的だってんだ!」

 

『ヒヒヒ・・・!』

 

 

 幽霊は笑う。

 ふわりと空を舞い、踊るように飛んだ。

 

 

『目的なんて分かりきった事を…!恐怖に塗れた魂を食らうためさ!!』

 

「魂…!!」

 

『近頃の人間は手に小さな機械を握って深夜まで起きていたり、至る所に街灯を設置したせいで“闇”を恐れなくなった。そのせいで恐怖の濃度が薄くなっちまってねぇ。そしたらある日“アイツ”が来てね。飢えて困っている私を幻想郷に連れてきてくれたのさ』

 

 

 幽霊が手のひらを開くと、そこにはあの3人の死んだ顔が映り出した。それを愛おしそうに眺める。

 

 

『この世界は良い。昔そのものだ。夜を、闇を恐れている!私の求めていた楽園だ!……そして私は人間の恐怖心を食らったのさ。取り憑いて…、幻聴や幻覚を見せて…、この世界に連れ込んで……!骨の髄までしゃぶり尽くしてやったのさ!!ヒヒヒヒヒヒ…!!』

 

「恐ろしい…!!」ヒィイイ

 

『あの3人は美味かった…。私はね、()()()()()()人間が恐怖に屈した時に出る恐怖心が大好物なんだ。恐怖に勝とうとしているが、心の中では怖くて震えているんだ。その真の恐怖こそが魂を美味しくするんだよぉ〜!!』

 

 

 

 別にあの3人じゃなくても良かった。

 だが幻想郷に来て、人間達を観察している時に発見したあの3人は良いものを持っていた。暗闇を恐れていたのに強がって威厳を見せようとした者。女からの報復を恐れていたのに強がって自分には関係ないと目を逸らし続けた者。孤独を恐れていたのに強がって1人でいようとした者。

 

 そんな3人に取り憑き、恐怖を見せ続ける事で、次第に体と心は擦り切れていき、心を折り、死に至らしめた。その味が今でも忘れられないのだ。

 

 

 

『ヒヒヒ……。だからねずみ男(おまえ)は嫌いだ。強がらず弱い自分を変えようともしない。恐怖に負けても別に良いと思っている負け犬。絶対に普通の味だ。それに比べて・・・』

 

 

 幽霊は妖夢の顎を掴み無理やり上を向かせた。

 幽霊と妖夢の目が合う。

 

 

『女…。お前は素晴らしい。強がってまだ希望があると信じている。幽霊を克服できるとも思っている!!ああああ味わいたい・・・!その希望が、心が、絶望に染まり折れた時に出る恐怖心を早く味わいたい…!!ヒヒヒヒヒヒィィィ〜〜〜ッ!!』

 

 

 幽霊の姿は消えた。

 再びこの世界に静寂が訪れる。幽霊は居なくなりはしたが、不安と恐怖は消えない。妖夢の心は折れる寸前だった。

 

 

「大丈夫か、嬢ちゃん」

 

「・・・」

 

「そうガッカリすんな。大丈夫だよ、きっと」

 

「何が大丈夫なのよ…。諦めろって言ったのは貴方じゃない!諦めろとか大丈夫とか訳わかんないのよっ!!」

 

 

 防衛本能というべきか。

 人というのは心が折れそうな時や諦めそうになる直前に『怒る』事で、絶望から目を逸らそうとする。だから妖夢は敬語を使うことも忘れるくらいにねずみ男に怒鳴ってしまった。

 

 

「俺っちは出口を探すのを諦めろって言ったんだよ。俺はまだここから出る事は諦めてねえよ」

 

「出口が無いのに出れるわけがないわ…」

 

「あるね」

 

 

 ねずみ男は得意そうに笑う。

 段々と暗闇に視界が慣れてきて、2人はお互いを認識する。その時に彼のニヒルな笑みが見えた。

 

 

「出口が無いなら誰かが助けてくれるのを待つんだよ。嬉しい事に霊夢ちゃんはめちゃくちゃ強えし、きっと助けてくれるさ」

 

「来なかったらどうするの…」

 

「そん時はそん時だ。まっ、とりあえず気長に待とうや。どっこいしょ」

 

 

 ねずみ男はその場で横になる。

 そんな彼を見ていたら怒っているのもアホらしくなり、不思議と落ち着いてきた。落ち着いて冷静を取り戻すと、確かに霊夢の実力や霊力ならば助けに来てくれるのではないかと希望を持つことができた。

 

 

「ねずみ男さん」

 

「あん?何よ、お嬢ちゃん」

 

「私はお嬢ちゃんじゃない…。魂魄妖夢……。その、よろしく」

 

「おう」

 

 

 唯一救いだったのは1人じゃ無い事だ。

 仮に一人ぼっちでこんな所にいたら発狂していた。妖夢はねずみ男と話す。自己紹介から始まって次に自分の住んでいる所等を簡潔に。自身の主人の自慢話をしたりと兎に角沢山話した。話していないと直ぐに目の前の闇が迫ってきて自分を飲み込むような気がしたからだ。

 

 ねずみ男の話もとても面白かった。

 嘘が本当かは不明だが、彼と彼の親友?である“鬼太郎”の話は聞いていて飽きない。例えば“人身御供信仰のある村に行ったら島自体が妖怪だった”とか、“人間を自殺に追い込む妖怪に追いかけられた”、“巨大な建物が実は巨大な骸骨妖怪の体内だった”等、ある種の冒険譚のようでとても楽しかった。自分は永遠亭から買い物する時以外殆ど出ないので外の世界というのにほんの少しだが憧れもあった。だからこそこんなにも聞けるのだろう。

 

 

「ねえ」

 

「あんだよ」

 

「あの幽霊に“負け犬”って言われて悔しくなかったの?」

 

「・・・」

 

「私は『強がってる』って言われて…悔しかった。半分幽霊のくせにって周りは笑うし、自分でも情けないのは知ってたけど……改めて言われるとね。だから修行をすれば克服できると思ってたんだけど…結局こうなっちゃった。……変わらなかったなぁ。悔しいなぁ……」

 

 

 妖夢はねずみ男に見えないように反対方向を向き、溢れてくる涙を拭う。拭っても拭っても涙は止まらなかった。ねずみ男は起き上がると妖夢に背中を向けた。敢えて気づかないふりをした。

 

 

「半分幽霊の奴が幽霊怖いってダメなのかねぇ。俺は半分妖怪だけど…妖怪はいつだって怖えよ。大体誰が何を怖がっちゃダメなんて決まってねえんだから気にすんな」

 

 

 ねずみ男は妖夢の方を向かずに言った。

 

 

「それによ、強がってもいいと俺は思うぜ」

 

「・・・何でよ。かっこ悪いじゃん」

 

「馬鹿か。強がるって行為は、自分の弱い所を知ってる奴しか出来ねえもんだ。()()()()()()()()()()()()()()()だよ。……カッコいいじゃねえか。俺にゃあ出来ねえな」

 

 

 

 あの3人もそうだった。

 1人は我が子達に弱い父親を見せたくなかった。何があっても家族を守りたい。その為に強い姿を見せなければという思いがあった。

 

 もう1人もそうだ。自分のやっている事は女性を騙している事だと知っていた。ただ毎回罪悪感を抱えていたらこんな仕事は続けられない。金持ちになるためには非情にならなければという思いがあった。

 

 最後の1人も同じ。ただでさえお茶屋という金にならない仕事をやって苦労をかけてきたというのに、歳を取ってからも家族に苦労をかけさせてしまうと思ったら寂しくても1人で生きてやろうという思いがあった。

 

 全員がそうだ。

 妖夢だってそう。

 自分の悪い所、嫌な所、弱い所と向き合うためにも人一倍強がってやるしかなかったんだ。

 

 

 

「ふふ・・・」

 

「なんだよ」

 

「カッコいいって言われたの初めてで」

 

「可愛いの方が良かったか?」

 

「いえ、でも……もっとカッコつけたくなりました…!」

 

 

 妖夢は腰に携えた刀を握る。

 先程までは恐怖で抜けなかった刀が簡単に抜けた。相手は幽霊なんだ。幽霊を切る手段なら持っている。ねずみ男の肯定的な言葉に不思議と力が入っていた肩から力が抜けた。

 

 それこそが妖夢の持つ二本の剣の一つ『白楼剣』。

 魂魄家に伝わる家宝の一つ。

 迷いを持つ者の迷いを断ち、幽霊を強制的に成仏させることが可能な剣。物体を通り抜け怨念の力で動く幽霊に対する妖夢の唯一の手段だ。これならば奴を倒せる。

 

 

「ふぅ…」

 

「だ、大丈夫かよ…!?そりゃあ立ち向かう奴はかっこいいけど無理しなくても…」

 

「そりゃあ大丈夫じゃないけど・・・。馬鹿にされたままは私の性に合いません。精一杯強がってみせます…!!」

 

 

 冷静に剣と向き合う。

 大きく深呼吸し、雑念を払う。

 妖夢がコンディションを整えようとしていた時、タイミングを見計らっていたかのように歪む空間から幽霊が這い出してきた。

 

 

『何だ?』

 

「きた」

 

『嫌な感じだ…。私の嫌いな空気がこの世界に漂っている…』

 

 

 苦しそうに言う幽霊。

 目も半分くらい開けて妖夢を見る。しかし直視はできなさそうで眩しそうな様子だった。

 

 

『何だ?さっきまであんなに心が折れかけていたのに…』

 

「・・・やってやる!」

 

『眩しいぃぃ…!苦しいぃぃ…!!』

 

 

 ついに背を向ける幽霊。

 誰がどう見ても隙だらけだった。勝ちを確信したねずみ男が跳ね上がり、叫ぶ。

 

 

「今だ!!」

 

『ひぃいいっ!?死にとうないぃっ、嫌だぁっ!?』

 

「この世を彷徨う亡霊の迷いを断ち切る…。──断迷剣(だんめいけん)

 

 

 抜刀。

 逃げようとする幽霊の頭部に振り落とす。

 

 

迷津慈航斬(めいしんじこうざん)ッッ!!」

 

『ギィヤアアアアーーー』

 

 

 見事なまでの剣戟。

 そして圧倒的な速度。

 振り上げられた白楼剣による上段斬り。華奢な少女が振るっているとは思えない程の重い一撃が命中した。

 

 だが──

 

 

(手応えがないっ!?)

 

 

 水を切ったときのような実態のない感覚が手のひらに広がる。これまで数々の妖怪を切ってきた事もあり手全体の感覚を用いる事で有効だったかを判断してきた。この感覚的に無効、効いていない。

 

 

「なっ、何で・・・っ」

 

 

 ありえない。白楼剣は幽霊を切ることが出来るのに。今までこんな事なかったのに。理解ができない。まさか弱い自分のせいなのか。そうやって疑問で頭を埋め尽くされ自問自答を繰り返す。

 

 

『アァぁぁぁ──……あ?何ともない…?ヒッ…!ヒヒヒヒヒヒィッ!!どうやらそのナマクラ如きじゃあ私を切る事は出来ないようだな。──びびらせやがってッ!!』

 

 

 幽霊は妖夢の髪の毛を鷲掴みにすると地面に叩きつけた。

 ズシンと重い衝撃。遅れて走るのは鈍い痛み。目を開けると視界が真っ赤に染まり、垂れる血液の温かさがじんわりと広がっていく。少し裂けた額から血が滲み出てきているのが認識できた。

 

 

「かはっ…」

 

『この!私を!ビビらせる!悪い子は!お仕置きしなくちゃダメよねぇぇええッッ!!』

 

 

 何度も。

 何度も何度も叩きつける。

 鼻からも血が流れ、ジンジンとした痛みに悶える。握っていた白楼剣から手を離してしまう。涙と血がこぼれ落ちる。みるみる赤く染まってゆく地面の様子を、震える瞳が捉えていた。

 

 

『ヒェヒヒヒヒヒィッ!!痛みもまた恐怖の一つなり!』

 

「ぁぁ……なん、で…」

 

『ヒヒヒヒヒヒィッ…!!』

 

 

 幽霊は妖夢の背中に張り付く。

 必死な思いで立ち向かった妖夢の心に隙間が見えた。幽霊はその瞬間を見逃さなかったのだ。直ぐに耳元で呟く。

 

 

『やっぱりお前はただ強がってるだけで何も変わってないのさ。本当のお前は怖がりで、弱くて、大切な主人も守ることができない惨めな存在なんだ』

 

 

 妖夢は耳を塞ぐ。

 しかしその負の言葉は耳に入ってきた。

 

 

『諦めろ諦めろ。お前には何もできない。お前は変われない。無駄な足掻きをするくらいなら諦めて私に身を委ねろ。ひひひ』

 

「この幽霊野郎!!妖夢ちゃんから離れろっ!」

 

『黙れ』

 

「ごめんなさいっ!」

 

 

 幽霊は心が折れたであろう妖夢の背中から離れて、今度は向かってきたねずみ男の背中にべたりと張り付いた。その瞬間全身に恐怖が広がり、妖夢を幽霊から守らなければという立ち向かう意志を粉々に砕いた。なけなしの勇気もこの幽霊の前では無駄だった。

 

 

「離れてくれぇっ!冷たいぃ〜!」

 

『このまま魂を食い、殺してやるか』

 

「俺が悪かったから、先に殺すのは妖夢ちゃんからにしてくれよぉ〜!!」

 

『嫌だね。あの女はもっともぉっと絶望させてから魂を食う事に決めた。お前の魂は美味そうじゃないから、今から食ってやる』

 

「うひぃっ!?なんで幽霊のくせにこんなに強えんだよぉ…。幽霊なんか怖くなかったはずなのにぃ!」

 

『・・・さっきから幽霊、幽霊と失礼な奴だねぇ。この私を青白いだけの幽霊なんかと一緒にするんじゃないよ』

 

「何ぃ!?」

 

『私は妖怪だ。妖怪…震々(ぶるぶる)。ヒィーっ!ヒッヒッヒッ!!』

 

 

 

 

 妖怪『震々』。

 別名“ぞぞ神”や“臆病神”とも呼ばれる。幽霊に酷似した姿と体質をしているが歴とした妖怪である。太陽や光などの“明るさ”、熱いところや人の持つ“勇気”等を嫌い、洞窟や墓場といった暗く冷たい場所を好む。

 

 この妖怪の能力は【恐怖】

 取り憑くと、人間の奥底にある恐怖を呼び起こすことが出来る。それを応用し、何かに対して頑張ろうと思った者のやる気を奪い無気力にしたり、寒気を発生させたりする。このような悪質な方法で人間の心を折り、寒気と恐怖で心身共に弱らせて、魂を食らう邪悪な妖怪である。

 

 皆さんは急にブルルと震えたことはないだろうか?悪寒は?急に何かに対して“恐怖”を抱いたことはないだろうか?何かをやろうと思っていたのに無気力になった事は?

 ・・・もしあったのなら貴方には震々が取り憑いている可能性がある。そんな時は熱い風呂に入れば出ていくので直ぐに入って欲しい。

 

 

 

 

「・・・よう、かい・・・?」

 

 

 妖夢は頭を上げた。

 あんなに恐ろしかった幽霊が実は妖怪だというのか。妖怪なら()()()()()()

 

 

『ヒヒヒヒヒヒ……ッ、どぉれ…寒くなって魂が出て行きたがってきたかなぁ』

 

「寒いぃぃ…──ぷわぁ〜…」

 

『出た出た。ヒヒヒ、ヒ…』

 

 

 意識が遠くなり魂が飛び出る。

 それを震々は手に取り自身の口の中へ放り込もうとした。飲み込まれればねずみ男も死んだ3人の仲間入りだ。魂が唇に触れた瞬間、震々は動きを止めた。殺気だ。殺気を感じるのだ。

 

 

『おやぁ?』

 

「・・・」

 

 

 ギギギと音を立てて振り返る。

 振り返った先には長刀を抜刀し構える妖夢の姿があった。額から出た血は固まり皮膚と髪の毛に張り付いて顔を赤く染めていた。例えるなら修羅のようだ。

 

 

『ひひ…』

 

 

 ねずみ男の魂を投げ捨てる。震々はまた切られるのではないかと恐怖や焦りを感じる事はなかった。なぜなら先程あの女の短いナマクラでは自分の体を切ることが出来なかったのだから長刀も同じであろうと思ったからだ。そう思うとあの構えた姿勢も愉快になってくる。

 

 

『おやおやおやおやぁ…?何事かと思ったら、今度はそっちのナマクラで私を切るつもりかい?ヒヒヒ…躾が足りなかったようだねぇえ…!!』

 

 

 幾らでも切ってこい。

 どうせこの身体に刃は通らない。何度でも真正面から叩きのめして私には勝てないことを身体に叩き込んでやる。そうしてお前は私には勝てないことを痛みで自覚して絶望と恐怖で満ちるんだ。きっとその魂は食ったことのない味になるだろう。やっぱり芯のある奴は折りがいがある。折ってやる、折ってやる折ってやる。

 

 

『かかっておいでぇえ〜ッ!!』

 

「・・・」

 

『ヒヒヒヒ……ヒ……?』

 

 

 妖夢に飛びかかる、その時だった。

 突如として胸部に走る鋭い痛み。震々は自分自身の体質をよく理解しており物理攻撃はほとんど効かない事を自覚しているからこそ今まで感じた事のなかった直接的なダメージに驚く。カッと熱が込み上げてくるかのような感覚の後、血反吐のような透明でドロドロした体液を吐きだし、激しく咳き込む。

 

 

『ごふっ……!?!?ごはっ、ごはっ!!』

 

 

 理解できない。

 先程は切れなかったのに、どんな攻撃も躱せられる体質なのに、何なんだこの激しい痛みは。

 

 

『あ、ああ……いだっ、いだああああい…っ!?』

 

 

 視線を落とすと長刀が突き刺さっていた。妖夢が抜き放った長刀は、亡霊女の胸を背中から貫いていた。ドクドクと溢れ出る体液とシューシューと吹き出す妖力。震々は見る。妖夢の怒りに染まった瞳が、こちらの姿を捉えていた。

 

 

「どうしましたか?」

 

 

 怒りの声。

 あんなに怯えていた少女はもう何処にも居なかった。あんなに自分に対して醸し出していた恐怖の香りは完全に消えていた。そして、これまで他者を陥れて絶望させてきた震々が今度は生まれて初めて【死】への恐怖を感じた。

 

 

「お仕置きするのでは?」

 

『ひぃいいいっ!?なんっ、何でっ、刀がっ、ささ刺さってぇっ!?』

 

「あぁ。初めに切り掛かった時に用いた刀は()()()()()ものです。つまり迷い彷徨う幽霊を切ることが出来るのです。ですがこの長刀は…これまでに数え切れないほどの妖怪を切り鍛えてきた。()()()()()事に特化した刀という事です」

 

 

 妖夢のもう一つの武器。

 長刀『楼観剣』。

 魂魄家に伝わる家宝の一つで、妖怪を切るためだけに特化したまさに妖怪殺しの名刀である。何度も何度も妖怪を切り倒し、鍛え続けられたこの刀は妖刀へと変貌したとも言われている。

 

 

「どんなに硬くても、どんなに()()()()()()…… 妖怪が鍛えたこの楼観剣に斬れぬものなど、あんまり無いッッ!!」

 

『こ、殺さな──』

 

「あと私は幽霊は怖くても妖怪を怖いと思った事は一度もないッ!!」

 

 

 刀を引き抜き、一瞬で首を刎ねた。

 先に落ちた身体は煙のように霧散した。地面に落ちて跳ねる頭は少しゴロリと転がって妖夢を睨みつけた。

 

 

『ひぃいい……。“あの女”に騙されたぁっ、来るんじゃなかったぁ…』

 

「おや。まだ息が」

 

『ひぃい…ひひひっ、ひひひーーっ!!』

 

「?」

 

『私が死んだところでこの世界からは出られないよ!無駄な努力ご苦労さ──』

 

 

 ザクリ。

 喋り続ける頭に刀を突き刺す。ぶしゅうと音を立てて頭部も完全に消滅した。煙のように消え去り、震々はついに倒された。

 

 

「・・・」

 

 

 だが死に際に放った言葉。

 “永遠に出られない”。

 確かに震々は倒したのにこの世界に変化はない。妖夢は倒れるねずみ男の隣に座った。

 

 

「もう出られない……」

 

 

 そう声に出した時だった。

 目の前の空間に亀裂が走った。割れた先には目玉だらけの空間があり、そこから誰かが近づいてくる。主人に似た気品ある女性が。

 

 

「妖夢、諦めるなんて貴女らしくないわよ」

 

「!!──貴女は」

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

「妖夢ぅ〜!心配したのよぉ〜!!」

 

「幽々子さまぁ〜!!」

 

 

 助けられた妖夢を幽々子は出迎えた。 

 抱きしめられ、その温かさを感じて妖夢は涙を流す。あの空間にいた寒さや心細さも溶けていく。

 

 

「うううぅっ…!!」

 

「怖かったのによく頑張ったわね…。よしよし」

 

 

 頭を撫でられ、妖夢は無意識に抱きしめる力を強くする。その包容力と母性に包まれて妖夢のコチコチに固まった心は蕩けていった。すると自分の悩みを打ち明けたくなり、何があったのかを全て話した。なぜ幽々子に止められても尚修行をやり続けたのか、自分の弱いところや、震々に襲われた経緯などを全て。

 

 

「馬鹿ね、妖夢は。そんな事で私は貴女を見捨てないわよ」

 

「・・・ですがぁ」

 

「そうやって自分を卑下しないっ!私の従者は女々しくないわよ!」

 

「はぃ…」

 

 

 ぐずる妖夢。

 今回の異変は妖夢にとって大変な事だったのだ。幽々子は妖夢の頬をむにゅっと掴む。

 

 

「よく聞きなさい」

 

「?」

 

「確かに何も怖いものがないのも“強さ”よ。でもね、自分の弱さを理解して、助けてと言えるのも“強さ”だと私は思うわ。誰かと協力し合える強さの方が私は素晴らしいと思うわ」

 

「・・・!!はひぃ、わかりまひたぁ」

 

「あと、そのねずみ男?っていう人の言ったことも正しいわよ。強がる妖夢はカッコいいし、可愛いんだからね〜〜♡♡」

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

「・・・はっ!?俺は何を!」

 

「やっと起きたの?寝坊助ね、()()()()()

 

 

 魂が戻り、目を覚ますねずみ男。

 見上げると金髪の女性。霊夢や魔理沙に比べるとグラマラスな身体をしており少し顔が赤くなる。

 

 

「相変わらずってどちら様…?」

 

「記憶が……。…やっぱり藍の言う通りね。ねずみ男」

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

 震々。
 能力的には『4期』をイメージしました。
 本来はマジで悪寒を発生させるだけの妖怪ですが、本文中に書いたように臆病神の類なので、人間のやる気を奪ったり、孤独感を感じさせたりなどもできると私は考察しています。

 そうなると今、皆様の中に『震々』に取り憑かれている人がいるかもしれませんね。






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まみえる


こんにちは、狸狐です。

 この前、調布に行きました。
 水木しげる先生100周年イベントでめちゃくちゃ盛り上がっており、雨でしたがすごい人気でした。

 ショップでめちゃくちゃ買っちゃいましたよ。
 ポスター、ぬいぐるみ、クリアファイル、DVD等々。

 次は鳥取に行きたいです!!














 

──博麗神社。

 

 

 

 

「記憶・・・?そ、そんな事言われても、俺は貴女のようにお美しいお方を知りませんよ」

 

「・・・」

 

 

 その言葉に嘘はなかった。

 今まで色々な女性に会ってきた。中には本気で愛した人もいれば騙し騙された関係のものだっている。意外と言われるかもしれないが、特に美しかったり、愛したり、怖かったりと強烈な思い出がある女性は忘れたことはない。目の前の女性は西洋風の金髪に、男としては涎もんのグラマラスなボディをしていて、一度会っていたなら忘れないだろう。

 

 

「・・・?」

 

 

 黙って見つめ合う。

 1人は美人に見つめられて照れつつも疑問を浮かべており、もう1人は懐かしい思い出を思い出しているかのような哀愁を含んだ瞳をしていた。何分経ったのかは不明だが、その2人に神社から出てきた霊夢が近づく、

 

 

「何やってんのよ2人とも」

 

「霊夢ちゃん!いやぁ〜何か訳あり美女と出逢っちゃって……むっ!そうだ、俺は震々に変な世界に連れてこまれて……魂抜かれて…それで、それで…どうなったんだ?」

 

「妖夢が妖怪を倒して、あの世界からこの“(ゆかり)”が助け出してくれたのよ。まぁ、あんなに呑気に寝てたら覚えてないか」

 

「魂を抜かれていたやつに何て冷たい言い方だ。それにしても・・・」

 

 

 霊夢の隣にいる確か紫という名の女性が助けてくれたのか。どこからどう見ても、ここにいる人の中では一番気品に溢れておりカリスマ性の強さから紫という存在は偉いのだと察する。ねずみ男はニッコリと笑い、頭をペコペコと下げる。

 

 

「霊夢ちゃん。俺、紫…さんの事をよく知らないんですが……」

 

「だってよ、自己紹介したら?」

 

「そうね。……ねずみ男さん。私は幻想郷の創造主の1人にして、妖怪の賢者『八雲紫(やくもゆかり)』ですわ。お見知り置きを」

 

「さっきからすごい見つめ合ってたけど。なに、あんたら知り合いだったの?」

 

 

 途中から来た霊夢は2人の事情を知らない。

 まぁ、ねずみ男も何も覚えていない。だからこの中で唯一何かを知っている紫だけであった。

 

 

「いや、俺も何も覚えてなくて…」

 

「無理に思い出さなくても良いですわ。閉した記憶の扉はこじ開ける物ではないですから」

 

 

 紫は淡々と言った。知り合いだというのに敢えて関わろうとしていないようにも見えた。だが紫と長い付き合いの霊夢はその冷たさの中にも暖かさは残ってはいる事を感じた。何故なら紫は興味のない相手や敵には無視をしたり、相手にしない。言葉も義務的になる。だがねずみ男にはそんな事をしなかった。気にかけているのか何度も彼の方をチラチラと見ていた。

 

 

「・・・っ」

 

 

 しかし我慢できなくなったのか。

 紫は不自然にも分かり易いように大きく息を吸って、また大きく吐いた。そして座り込んでいる彼に視線を合わせるようにしゃがむと言った。

 

 

「でも……随分と大きくなったのね。元気そうで良かった」

 

「大きくなったって、まるで俺がガキの頃からの知り合いみたいじゃ・・・」

 

「……あっ」

 

 

 “大きくなった”。

 “良かった”。

 聞き慣れない言葉に笑うが、目の前の女性はまずい事を言ってしまったという表情をしており、ねずみ男も段々と笑みは消えた。幼い頃からの知り合いだというのならその頃の記憶を辿れば良いと昔を思い出そうとした。しかしそこで感じた異変。

 

 

「あ、れ?」

 

 

 戦前も戦後も覚えている。

 色々な妖怪と共に悪どい商売もした事だって覚えている。その度に鬼太郎に助けられて、猫娘に引っ掻かれて、目玉おやじに説教されて、またインチキ商売を繰り返した。それなのに、

 

 

「俺のガキの頃ってどんなだったっけ?」

 

 

 記憶の欠落。

 人間で例えると3歳から6歳程度の年齢の時の記憶が欠落していた。しかしその後はしっかりと覚えている。人間にも妖怪にも媚を売って必死に生きてきて、海外で一儲けしようと思って行ったら吸血鬼に出会って召使いになって、その後に鬼太郎に出会ったんだ。

 

 だがその欠落は、もう少しで思い出せそうとか、色褪せた記憶、頭の中に霞がかるといった表現とも合わない。記憶という直線の道があるという表現をした場合、その道の途中にぽっかりと大きな穴が空いているような感覚だ。幼い頃の記憶が何も無かった。

 

 

「思い出せない…。あれ…、俺はどうやって育ってきたんだ?」

 

「こほん……。魂を抜かれたせいで記憶の方に問題があるようですね。ご自宅でゆっくり休んだ方がいいですわ」

 

「待ってくれよ、あんた何か知ってんだろ!?あの狐の姉ちゃんも俺のことを知っているようだったし、俺はアンタらと…、この幻想郷と何か関係があるのかよ!?」

 

「ではご機嫌よう」パチン

 

 

 指を鳴らす。

 直後にねずみ男の足元の空間がパカっと開き、彼は落ちて行った。紫の能力は『境界を操る程度の能力』であり、今のはその一端である。境界を切り、繋げることで、隙間を作り出し、そこを通して対象を自由な場所に移動させられる。今頃ねずみ男は自宅で転がっているだろう。

 

 

「うわぁああああーーーっ!?なんだってんだよぉーーー…」

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ」

 

 

 ねずみ男が居なくなり、ホッと一息つく。

 冬だというのに汗をかく紫は扇子で仰ぐ。余程何かに緊張していたのだろう。

 

 

(私としたことが……失言をするなんて…。あれでは思い出して欲しいと言ってるような物じゃないっ)

 

 

 その様子が霊夢は引っかかった。

 普段なら見れないほどの焦り様に、無理やりねずみ男を突き放す言動。何か隠している様にしか見えない。

 

 

「なんか今日暑いわね。おほほ…」

 

「紫。あんた…」

 

「なっ、何よ」

 

「ねずみ男の記憶を弄ったわね」

 

「そっ、そんな訳──…やっぱり分かりやすかったわよね。はぁ」

 

「あんたらしくないわよ」

 

 

 紫は縁側の方に周り、座る。

 昼間だというのに全然寒かったが、紫の方は涼しそうだった。霊夢は厚着を決め込む。異変でもない限りは基本的に冬は半纏を身につけている。注いできたお茶を手渡し、隣に霊夢が座る。

 

 

「はい」

 

「珍しいわね。いつもは直ぐ帰れって言うのに」

 

「ふん。ただ目の下の隈も酷いし、ここ最近姿を見せなかった。冬眠まではまだ先でしょう。お得意の読めない表情も作れていない。・・・よっぽど疲れてるみたいだけど何かあったの?」

 

「あらぁ?心配してくれるの?」キャー

 

「別に。ただアンタが倒れたら、その仕事とかが私や藍に回ってくるから面倒だと思っただけよ」

 

「ふぅん…。ズズ……美味しい…」

 

 

 霊夢にとって八雲紫とは『育て親』だ。

 博麗の巫女の一族には血の流れはない。今の博麗の巫女が死んだ際にその後継者として、八雲紫が霊力のある()()()()()()()()。八雲紫と博麗の巫女がいるからこそ安全に成り立つ幻想郷にとってはやらなければいけない事だ。霊夢も例外ではない。物心がつく前に攫われて、先代に鍛えられて、死後は紫に面倒見られる。

 

 基本的に他人に興味や関心のない霊夢でも多少は紫に対して思うところがあるのだろう。彼女なりに気を遣っていた。

 

 

「実はね、博麗大結界に本当に小さいけど綻びや穴が見つかってね。原因を探っていたんだけど中々手強くて」

 

「最近、幻想郷にいなかった筈の妖怪が現れた事は知ってる?」

 

「ええ。藍から逐一連絡は来てて、知ってはいたわ。何もしなかったのは申し訳ないけど」

 

「そこは気にしてない。あの程度、幻想郷に住む者たちなら余裕で対処できるから。紫も分かっているから敢えて何もしなかったことくらいは想像つくわ。・・・その妖怪たちは関係してないの?」

 

「多少は関係していると思う。でも大抵が“気づいたらこの世界に居た”と言ってて被害者寄り。自分から望んできた震々とかは話を聞こうにもやられちゃったし結局真相は闇の中よ」

 

「分かった。…私の方でも調査はしてみる」

 

 

 両者ともお茶が飲み終わる。

 茶菓子は勿論無い。

 

 

「それと、ねずみ男とはどういう関係なの?」

 

「やっぱり聞くわよね…」

 

「勿論。気になるじゃない」

 

「・・・しょうがないか」

 

 

 紫は隙間に手を入れて古い写真を取り出した。

 それを霊夢に見せる。

 今よりもほんの少しだけだが若く服装も派手目な紫と藍。そして紫の足元には彼女のスカートの裾を握りながら不安げにカメラの方を見る小さな男の子の姿が映っていた。

 

 

「これ…!もしかして、ねずみ男!?」

 

「そうよ」

 

「へー…小さくてもネズミみたいな髭生えてたのね。歳とかは関係なかったのか。・・・えっ、待って。そうなるとアイツって幻想郷出身ってこと!?」

 

 

 霊夢の答えに紫は少し笑ってから、首を横に振る。

 

 

「少し違うわ。ねずみ男は外生まれよ。私たち賢者が幻想郷を創った際にね、住人を外から集めようという計画を立ててね。創ってから数百年後くらいにゴミ箱の中で見つけたのよ。……赤ん坊ながらに人間にも、妖怪にも、両親にも必要とされず()()()()()()()()。それが彼なの」

 

「捨てられた…」

 

「半妖だし、まだそんなに住人も居なかったから初めは興味本位で拾ってね。大変だったわ。赤ちゃんなんて育てたことなかったけど、必死にね。私と藍で6つになるまで育てたわ」

 

「なら記憶を消す必要なんかないでしょ。それに外に追い出すなんて…」

 

「私だってそんな事したくなかった。何年も一緒にいたのよ、もう家族の一員だった。でも・・・」

 

 

 次の言葉が聞こえない。

 普段はあまり他人に興味を持たない霊夢もここまで聞いたなら最後まで聞きたいと思い、紫の顔を見た。その表情には続きを話そうという気は感じられなかった。

 

 

「霊夢」

 

「ええ」

 

 

 何故なら、続きを話している“暇”は無さそうだったからだ。何か大きくて邪悪な気がゆっくりと近づいてきているのを感じた2人は直ぐに縁側から移動し、社殿の方に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

『ここが博麗神社ネ。長い階段を登らせた割には、ケッコー(ちぃ)ちゃいネ』

 

『あらあら。人も建物も中身が肝心よ』

 

 

 鳥居の下で立っていたのは2人の男女。男の方は三つ編み、糸目で、チャイナ服に黒色で丸い形のサングラスを身につけていた。女の方は髪の毛から足先まで青色で、髪の毛には簪をつけていた。どちらも幻想郷では見ない二人組である。

 

 

「小さくて悪かったわね」

 

 

 霊夢の言葉に2人は反応する。

 その余裕たるは幻想郷最強の2人を相手にした者とは思えないほどで、男の方は敵対する気はないと言わんばかりに手を振っていた。

 

 

『オー!你好(ニーハオ)!君が霊夢だね!そして隣のは賢者の紫!ご主人から2人の話はよーく聞いてるヨ』

 

『あらあら、これは嬉しい誤算ですね。本日は巫女様しか会えないと思っておりました故、賢者様と話せるとなると手間が省けます』

 

 

 丁寧な口調だが邪悪な気は消せていない。このような見え透いたような腹黒さは幻想郷では見たことがなかった類である。

 

 

「お二人とも幻想郷の者ではないですわね。それなのにそちら様は我々を知っている。・・・一体何者でしょうか?私、争い事は好みませんの。素直に教えてくださるかしら?」

 

『あらあらうふふ、怖い怖い。そう怖い顔をしなくてもちゃんと名乗りますわよ』

 

 

 脅しにまるで動じない。紫は心の中で舌打ちをする。強者というのは互いに見合うだけで力量を察することができるという。つまりこの2人も強者ならば紫の実力は察している筈だ。だがそれでも軽口や飄々とした顔を崩そうとはしなかった。

 

 

『我々は妖怪革命軍から来た使者ですヨ。因みに僕の名前は窮奇(きゅうき)。よろしくアルねェ〜』

 

『私は霍青娥(かくせいが)と申す仙人です。よろしくお願いしますね』

 

「それで…、その解放軍のお二人が何のようかしら?」

 

()()()()()()()()()を教えて欲しいんだヨッ!』

 

「・・・ほお」

 

 

 紫は口元を扇子で隠し、冷たい瞳を向ける。霊夢もゆっくりと払い棒を取り出した。戦闘態勢に入る2人。完全に敵対者と断定した。

 

 

『あらあら愚直すぎます。窮奇は黙っていなさい…』

 

『ちぇっ』

 

『賢者様、巫女様、ご無礼をお許しください。窮奇は頭も言葉も少し足りないのです』

 

 

 紫としてもあまり争いたくは無い。

 少し自身を落ち着かせる。

 

 

『賢者様、我々は争う気はありません。ただ交渉をしに来たのです』

 

「交渉ねえ」

 

『はい。我々は大結界を破壊し、この世を妖怪だけのものにしたいのです。つまり敵ではなく味方。寧ろ我々の思想は賢者様と似ていると思います』

 

「訳がわからない。結界の破壊と妖怪がなぜ繋がるといえるのだ?」

 

『我々、革命軍の“リーダー”にはとある思想があります。それは()()()()()。賢者様が妖怪の【保護を目的】として幻想郷を創ったように、我々は力で妖怪たちの【権威を取り戻したい】と考えております』

 

 

 隣で窮奇は薄ら笑いを浮かべながら頷く。

 

 

『ご存知かと思いますが、今外の世界では人間が増え続けております。更には科学が進むにつれて妖怪の棲家は無くなるどころか、愚かにも人間たちは今戦争ばかりして、自分たちの暮らす場所さえも消そうとする始末。このままでは妖怪たちはいずれ消えてしまうでしょう。ですからこの地球から害なる人間を滅ぼし、妖怪だけの楽園を作らなければなりません。全ては妖怪の為なのです。力をお貸しくださりませんか。力を貸してくださった暁にはかなりの地位は約束します』

 

「・・・確かに妖怪たちを守るという部分では目的は同じようですわね」

 

『では!』

 

 

 ぴしゃりと扇子を閉じる。

 

 

「ですが、それならばそのリーダーに“幻想郷は全てを受け入れる場所”だと、こちらに“妖怪たち全てを移住させても良い”、と伝えなさい。大体人間と妖怪を争わせたところで憎しみの連鎖は消えません。幸せのために争うのなら人間と同じではないですか。こちらに入り保護されるべきでしょう」

 

 

 紫は妖怪たちを守るために幻想郷を創った。人間が増えた事や人間が犯した罪に文句はない。ただ彼らのせいで居場所を失った者たちが安心して行ける場所を求めた結果がここなのだ。つまりリーダー側と幻想郷側の目的は同じだが手段は全く別なものであるということだ。

 

 

『あらあら。賢者ともあろうお方が逃げの一手しかないとは肩書きが泣いておりますわ。勿論外での生活は保証しますのよ?』

 

「我々の生活はここですわ」

 

『奪われたのなら奪い返すのがこの世の理だとご存知で?』

 

「うふ。それじゃあ獣と同類では」

 

『あらあら。では交渉決裂ですわね』

 

 

 厳しい空気が漂い、交渉の舞台は緊張感に包まれていた。言葉のやりとりは冷えきり、先に進む感情は微細な線にすぎない。その瞬間、両者の視線が交錯し、交渉の糸が切れたかのような静けさが広がった。

 

 

「・・・話し合いは終わったの?まっ、私はなんだって構わないわよ。巫女として幻想郷に仇なすなら徹底的に祓うまでだから」

 

『おー!やっちゃうネー!』

 

 

 霍青娥は簪を抜き、目の前の空間に突き刺すような仕草をする。するとポッカリと透明な円形の空間が開いた。博麗神社に進む際、鳥居より先に進めるのは悪き心を持たない者とされている(例外はいるが)。邪悪な物は結界に阻まれ弾き返されるが、その結界に穴を開けて2人は入ってくる。

 

 

(大結界にちょっかい出してたのはあの女か)

 

 

 霊夢は護符を数枚取り出した。

 

 

(外から中に入れるなら、どちらかが紫みたいな“空間の能力”持ちかと思ったけど、なるほど。霍青娥(あのおんな)の能力で入れるようね。手の内がわかった今、注意すべきはあの男の方か)

 

 

 即座に霊夢は理解する。

 しかし彼女に焦りはない。

 

 

(まぁこの程度なら私の出る幕はないでしょうけど)

 

 

 何故なら自分の隣には、化け物がいるのだから。彼女は向かってくる窮奇に対して鋭い視線を向けてから一言呟いた。

 

 

「頭が高い」

 

『!?』

 

 

 窮奇はその場で崩れ落ちる。

 そしてベタンと地面に倒れるような姿勢になり、立ち上がろうにも立ち上がれず、段々と重くなり地面にめり込むように潰れていく。

 

 

『オ…ッ』

 

「そのまま往ね」

 

 

 ミシミシと音を立てる体。

 窮奇の身につけているサングラスは既に粉微塵だ。限界も留めていない。その負荷が全身へと巡っており、立てるわけがない。

 

 

(まぁ…想定内。では私も動きますか)

 

 

 音を立てて潰れていく窮奇に冷たい視線を送る霍青娥。八雲紫は一歩も動かず、指先一つでさえ使わない程の実力者であることはこれで確認できた。それならばと──。

 

 

『下法「死体御遊戯(シートーヨシーフー)」』

 

 

 呪文を唱えると、地面から棺が現れた。

 少しほど中が揺れたかと思うと棺を突き破り、化け物が飛び出した。継ぎ接ぎだらけの身体に人間よりも圧倒的に巨体で頭部の部分が大きな口になっている。腹部に目玉や鼻などが付いていた。死臭を纏わしながら頭から涎を垂らす姿に知性は感じられなかった。

 

 

「アンデッド……いや、僵尸(キョンシー)か」

 

『これぞ、神秘の仙術!ゴー!ゴー!キョンシー♡♡』

 

 

 固まった体を無理やり動かしているようでギギギと鈍い関節を動かす。そのぎこちない動きで周囲をキョロキョロと見まわしていたキョンシーだったが、紫の姿を捉えた途端、唐突に動きを変える。急にピタリと動きを止めたかと思えば、前のめりになりながらも勢いよく駆け寄ってきたのである。

 

 

『ガババババァァァーーーッ!!』

 

 

 奇声を上げながらも駆け寄ってくるキョンシーを見て、動いたのは紫ではなく霊夢だった。無策にも突っ込んでくるキョンシーに向けて思い切り顔面へ蹴りをお見舞いする。ズンッという鈍い音と共に蹴り飛ばされた。

 

 

「私を無視すんじゃないわよ」

 

『パパパッ!!』

 

 

 奇声を止めずに立ち上がり叫ぶ。

 ダメージはない。腹部の目玉がギョロギョロと動き、霊夢を見定めると獣のような咆哮をあげて走り出す。

 

 

「あら、首を折ったと思ったんだけど」

 

「霊夢。そいつは死体よ。上手くやりなさい」

 

「なるほど…ねっ!!」

 

『ギィッ!?』

 

 

 しゃがみ込み、足を払う。

 重心がずれて体は一瞬宙を舞い、重力に引っ張られて地面に落ちる。メギィと音を立てて倒れた所にすかさず霊夢は護符を貼り付ける。邪悪な気は消され、キョンシーは何かに対抗するようにバタバタと暴れたかと思うとピタッと動きを止めた。

 

 

「次はアンタよ」

 

『あらあら。まだ一体倒しただけですよぉ』

 

 

 気づけば10体ほどのキョンシーの群れに囲まれていた。全員が先程のキョンシーとは違う容姿をしており、筋肉に特化している物もいれば触手だらけもいる。肉食獣のように四つん這い、翼の生えた鳥のような姿もいた。

 

 

『もう少しこの子達のお遊戯会を楽しんでね』

 

「だっっっっる」

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 今日は風が強い日だ。

 

 

 

『ギッ…ヒィ…ヒヒ』

 

「・・・」

 

 

 紫の目の前で窮奇は笑っていた。とてつもない重力で潰されかけているのにニタニタと笑っている姿はどこか不安を駆り立てる。しかし紫にとっては、窮奇のそれは瀕死になりかけの動物が少しでも抵抗するかの如く小さな物だった。潰れなくても動けない時点でこちらの有利に変わりはない。こんなに呆気ないと思わなかったので手持ち無沙汰となるが、ならばあの霍青娥という女をやってしまうかと意識をそちらに向けた。

 

 

 

──ざくり

 

 

 

 

「あら」

 

 

 意識を向けた瞬間に、背後から自身の背中に鋭利な刃物が突き刺さった。血が衣服に染みていく。刃物を抜こうと背中に手を伸ばすが、既に刃物は消えていた。

 

 

『油断したなぁ?』

 

「ふふ、窮鼠猫を噛むと言ったところかしら。でもごめんなさいね」

 

 

 傷口に手を触れる。

 一瞬にして傷は無くなり、衣服についた血の滲みも消え去る。彼女にとってこの程度は油断するしないに関係ない。

 

 

「ご覧の通り、無意味になってしまって」

 

『マジかー…。厄介な力だネェ…。まぁ、大丈夫でしょ(モーマンタイ)

 

「それはどうかしらー?」

 

 

 更に重力を強めると流石の窮奇を声を出せなくなり、ぐちゃっという肉の潰れる音と共に圧死した。肉片が飛び散るが、それらも重力で散り散りになってしまう。1人がやられたところで紫は現状を分析した。相手は大した事ないと。この分なら革命軍はリーダーとやらに唆された不良集団ぐらいだと考えた。

 

 

(この方々は革命軍とやらの下っ端ってところね。挨拶に来たようだけど…この程度ならたかが知れてるか)

 

『また油断したニャ』

 

「!!」

 

 

 潰したはずの相手が背後にいた。

 ゆらりと幽鬼のように忍び寄り、風が吹いたかのように俊敏な動きで奴は立っていた。窮奇の両腕から指先までが()のようになり、その漆黒の爪を振るう。

 

 

凶牙砕(きょうがさい)…ッ!』

 

 

 鋭利な爪が紫を襲う。

 上から下へと振り下ろされた邪気を纏った爪の威力は凄まじく、紫だけではなく彼女が立っていた地面さえも抉ってしまい、硬い地面に爪痕が残る。

 

 

(柔らけえ・・・!?攻撃が入った感覚がまるでニャい!?)

 

 

 巻き起こる砂煙。

 晴れた先にはノーダメージな紫の姿。窮奇の感覚に間違いはなく、確かに攻撃はしたものの彼女に攻撃を与えられた実感だけは感じない。あの時は確実に突き刺せたというのに、今回は完全に防がれてしまった。

 

 

『胸でも触っちゃったカァ?』

 

「ご安心を。余所者に触らすほど軽くないので」

 

『じゃあ次は触ろっかな。ゲヘヘ』

 

「……今度は確実に殺しましょうね」

 

 

 周囲が、変異する。

 その二人の周囲で、空気が濃さを増す。

 重力は強くなり、綺麗だった山々が見える風景は歪み、近くで霊夢たちが戦っているはずなのにその音は遠くなる。段々とこの空気に粘性を帯びた殺気が満ちる。

 

 

『や、ば──…とっ、饕餮(とうてつ)ぅっ』

 

 

 あの巫女を最強とまで呼ばれるように鍛え上げたのは八雲紫だ。つまり彼女も戦闘能力は桁違いである。何か呪文のようなものを唱えて、全身が岩のように黒く硬く変化する窮奇に向かって、体の勢いを片足一本に流し、地面が爆発するほどの勢いを伴う直蹴りを放つ。

 

 

『ごべばぁっ!?!?』

 

 

 ヒビが走る。

 血が吹き出す。

 叫んだところで耐えられるはずも無く、膝を屈し、腰を折り、その体が沈み、顎が地につくほどに体を折りたたむ。

 

 

(倒れないか。けど骨と内臓は全て壊れた…)

 

『うぐぐぅ……ぐぷぅっ、ごぽっ…』

 

 

 窮奇の腹部が大きく膨れ上がる。

 その膨らみが胃を上がり、食道を進み、喉へと動く。蛇が自分よりも大きな獲物を飲み込むシーンの逆再生のようだ。何かが動く度にひび割れた体の表面から血液がドクドクと流れ出るが、お構いなしに上がっていき、窮奇は吐き出す。

 

 

『おええええ〜〜〜ッ!!!!』

 

 

 それは唾液に塗れた紫色な球体。

 大きさは1メートルくらいで表面には人間の口が大きく開いており、パクパクと開いたり閉じたりしている。

 

 

餓鬼球(がきだま)ぁぁぁ〜〜〜っ!!』

 

「うっそ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

 

 既に殆どのキョンシー達は護符を貼られ、地面にゴミのように転がっている。何も無くてある意味綺麗だったといえる博麗神社の敷地内は地獄絵図のようだ。石畳の地面や鳥居、賽銭箱には血液がべったりと塗れており、至る所に死体達の肉片が散らばっている。その中で霊夢は血に濡れながら立っていた。10体ほどの異形達に囲まれ、時折手足に爪や牙で切り傷を付けられるが気にする事なく返り討ちにした。

 

 

『この子達を作るのに結構かかったのに、こんなにもあっさりとやられるなんて…』

 

「ごめんなさいね。簡単に倒しちゃって」

 

『あらあら心配無用ですよ。この子達の強度のレベルが分かったのでこれは嬉しい結果です。うふふ』

 

「んー、けど分かったところで無駄じゃない?」

 

『なぜ?』

 

「ここでアンタは倒されるから」

 

『あらあら…貴女って本当に面白いわねェ。でも…』

 

 

 直後。空の上から、何かが勢いよく飛び込んできた。

 響く鈍い轟音。巻き上がる砂埃。ゆらりと立ち上がる人影。霊夢の目の前に突如として現れたのは、当然ながら新たなキョンシーだった。今までとは違う少女の姿。額にはお札が貼ってあり、肌は灰色。焦点もまるで合っていない瞳を、ギロリとこちらに向けてきて笑う。

 

 

『倒されるのはそっちかもね』

 

『うー!』

 

「どんだけい──ぐっ!!」

 

 

 あどけないキョンシーの不意打ち。

 風が唸りを上げ、キョンシーの膝が空気を裂いて霊夢の顔面に迫る。その瞬間、鋼の衝撃が霊夢の頬を襲い、息をのむような痛みが全身に響く。飛び膝蹴りだった。霊夢は背後の賽銭箱に直撃。轟音と共に崩れ落ち、破片が空に舞い散る。霊夢は血しぶきを纏いながら、地にひれ伏した。

 

 

『キャー!カッコイーッ!!♡♡♡…はっ、カメラ忘れちゃったぁ……』

 

『このていどかー?』

 

 

 ブンブンと肩を回すキョンシー。

 鼻や口から流れる血を拭い、霊夢は立ち上がる。口に溜まった血をペッと吐き出した。そしてニッコリと笑みを向ける。

 

 

「この程度か?」

 

 

 動物界において笑顔とは友好の証ではない。口内の牙を見せて、噛みついてやろうかと脅す攻撃の証だ。人間はやらないと心理学者は言っていたが、今それが覆る。霊夢の見せた笑顔こそ、他の肉食獣にも勝るほどの攻撃性を示していた。

 

 

『おー立った立った。じゃあもう一回行くぞー』

 

 

 今度は助走をつけて走るキョンシー。

 青娥は笑う。

 この【戦闘型キョンシー製造番号01 : 宮古芳香(みやこよしか)】は青娥の作り出したキョンシーの中で最もお気に入りであり、最強の人造妖怪である。その華奢な肉体には成人男性の筋肉量約10倍もの筋肉が詰まっており、格闘スキルも脳内にインプットされている。耐久性にも優れ、伸縮自在の関節によりどの方位からの攻撃にも対応できる優れものだ。つまりめちゃくちゃ強い。

 

 

(今までの人造戦士(キョンシー)は博麗霊夢の戦闘法を引き出し、芳香にインプットさせるために用意したに過ぎない。この子が切り札よ。うふふふ…!!)

 

 

 目を閉じて作った時や一緒にいた時を思い出す。親バカだと笑われるかもしれないがしょうがない。手塩にかけて作った愛する我が子だ。他の有象無象よりも勝る子を愛さないわけがない。

 

 

『さぁやっておし──』

 

 

 

 

 

──ドンッ…

 

 

 

 

 

『ま"ぃっ──』

 

 

 足元にその愛する我が子が無惨に転がっていた。両目に針が突き刺さっており、額のお札の上には護符が更に貼り付けられ、胸部が踏みつけた時の空き缶のようにべっこりと凹んでいた。あの一瞬で視界を奪い、肋骨を全て折るほどの一撃を与えられた事に驚くと共に全身にゾクゾクと不安と恐怖の震えが走る。

 

 

『芳香ァァァーーーッ!?!?』

 

『やーらーれーたー』

 

『なんて酷いことを…!だ、だだ、大丈夫よ、直ぐに直してあげるからね…!!』

 

「あらぁ…初めて焦ったんじゃない?」

 

『このサディストっ!鬼畜っ!悪魔っ!!』

 

 

 パチンと、青娥が指を鳴らす。

 すると突然神社内の空気が重くなり、肌をピリピリと擦るような嫌な感覚が霊夢に襲い掛かった。術か何かをかけられたのかとも思ったが、しかしどうやらそれは思い違いだったらしい。特に身体には異常は感じられないし、何か妙な事をされたような感覚もない。

 

 

(へぇ、鳥居の結界を改造したんだ…)

 

 

 目の前では青娥が必死に芳香を直そうとしていた。

 

 

(ただの死体操術者(ネクロマンサー)ってわけじゃないんだ。三下かと思ったけど…)

 

 

 隙だらけの霍青娥の方へ手を伸ばすが、見えない壁のような物が立ち塞がり行く手を阻む。更にはその壁に触れると強めの電撃が手を始めに全身へと走った。あのピリピリと擦るような感覚の正体はこれだろう。

 

 

『窮奇ぃっ、退却よ』

 

『はっ、はぁ、(ハオ)〜ッ』

 

 

 隣を見ると紫の姿は無く、全身傷だらけ、血まみれの窮奇だけが立っていた。青娥の命令を聞くと返事をする。その瞬間に突風が巻き起こる。土煙が舞い、視界が遮られる。気づけば邪悪な気配は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 土煙が落ち着く頃には両者の姿はどこにも無く、散らばっていたキョンシーの肉片も全て消えていた。立つ鳥跡を濁さずとはこの事だろう。

 

 

「…この血飛沫も片付けてから行きなさいよね」

 

 

 霊夢の背後で隙間が開く。

 大体気配で察知できるので霊夢は基本的に驚かない。振り向くと少し衣服がボロボロの状態の紫がペロッと小さく舌を出して笑う。

 

 

「あら居ない」

 

「逃げたのよ。尻尾巻いてね」

 

「霊夢が居たのに逃げ切れるとはやるわね」

 

「感心してる場合じゃないでしょ。何で途中で居なくなるのよ。アンタが居れば本当に逃げられないってのに。見なさいよ、この賽銭箱…。治さなきゃいけないじゃない」

 

「ごめんなさいね。…うふふ、寂しかった?」

 

「はっ、まさか」

 

「霊夢なら余裕でいなせるもんね。…でも、あの男。まさかこの神社に【餓鬼道への出入り口】を繋げるとは思わなくて。処分するのに手間取っちゃった」テヘペロ

 

 

 紫との戦闘中に窮奇は餓鬼球と呼ばれる球体を口から出した。その球の持つ気配、邪悪さ、これまでの戦闘経験、長年生きてきた事により得た知識から直ぐに『現世と餓鬼道を繋ぐ扉』だと判断し、このままでは餓鬼道にいる貪欲な餓鬼達が溢れ出してしまう事を予想した紫が外の世界のとある活火山内に処分した事により事なきを得たのである。

 

 

「それにしても革命軍か。厄介な奴に狙われちゃったわねぇ」

 

「……でも神託の内容が段々と見えてきたわ」

 

「神託。藍から内容は聞いたわよ。幻想郷に未曾有の事態がやってくるという内容だったかしら」

 

「ええ。そしてその内容こそが…奴らの目的は博麗大結界を破壊し中と外を繋げる。そして人間と妖怪を争わせて、人間側を滅亡させる事っぽいわね」

 

 

 巫女だからこそ神と対話できる。

 その際に伝えられた神託の内容がはっきりと分かってきた。確かに幻想郷の存在自体を揺るがす物であり、早急に何とかしなければならない事である。そしてその解決するための対策のキーポイントになるのが──。

 

 

「鍵は“ねずみ男”、か」

 

「・・・」

 

「紫。私も知らない大結界の“解き方”を知っているのは幻想郷を創ったアンタと初代博麗の巫女だけよね」

 

「ええ」

 

「そして記憶を失ったねずみ男。……もしかしてアンタが家族とまで言ったアイツの記憶を奪い、外に捨てたのは……もしかして…」

 

「霊夢」

 

 

 霊夢の唇に手を当てる。

 

 

「詮索は無用。・・・話すべき時が来たら言うからそれまでは我慢よ」

 

「・・・」

 

「物分かりがいい子は好きよ。ふふっ、とりあえずお掃除しましょうか」

 

「……ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外の世界。

 東京都のとある大きな屋敷があった。そこは金持ち達が次々と大きな屋敷を建てている場所であり、その中でも群を抜いて大きかった。その屋敷の中に瀕死状態の窮奇を引きずる青娥の姿があった。彼女はとある一室に“失礼します”と言って入る。中には老人、赤鬼、老婆が座っていた。

 

 

「入れ」

 

「窮奇、霍青娥、共に戻りました」

 

 

 青娥と話すのは頭部の大きな老人だった。

 高級な座布団に胡座をかいてキセルを吹いている。老人の背後には鷲の剥製が飾ってある。その老人の顔中に刻まれる無数の皺は幾年と生きてきた事を物語っている。だが老いてはいるものの言葉はしっかりとしており、全てにおいて芯が通っていた。全てにおいて力強くカリスマに溢れていた。老いてますます健在であるのだ。

 

 

「結構な痛手を負いましたが、データは取れたと思います」

 

「…窮奇(そいつ)は生きてるのか?」

 

「ええ。中々しぶといようで」

 

「結構結構。しぶとさ程強いものはない」

 

 

 床に倒れる窮奇。

 肋骨が折れて肺に刺さっており、ゼェゼェと苦しそうに必死に呼吸する。糸目が特徴だというのに半開きで今にも死にそうなのだが目の中の輝きは消えておらず、老人を見るとその輝きは増していた。

 

 

『ご…主人……へへ、へ…ガフッ…』

 

「窮奇よ、お前はまだ成長段階。お前が完全体になるまでは死ぬなよ。……お(ばば)。治療をしろ」

 

「はいよ」

 

 

 赤鬼が窮奇を医務室へ運ぶ。

 その後ろをお婆と呼ばれた老婆がついて行った。

 

 

「それで……どうだった、幻想郷は」

 

「中々に素晴らしい所でしたわ。この度は私を行かせてくれてありがとうございます」

 

「猫被りが。仮に儂が命じなくても1人で行っていただろうが」

 

「うふふ。分かりますか」

 

「当たり前だ。──だが儂はお前がどこで何をしようが構わん。儂がお前を引き入れたのは、その能力と技術が目当てだからな」

 

「あら、素直に私を求めていると言えば良いのに」

 

「ふん。それで返事は?」

 

「断られましたの。それで私の兵士(こども)達や、芳香まで……ヨヨヨ」

 

「だろうな」

 

「分かっていたのなら初めから交渉なんかせずに武力行使をすれば良かったのにぃ。いけずですわよ、もう」

 

「分かってはいたが“昔馴染み”であるのでな。交渉という慈愛の手を差し伸べただけだ。振り払うのなら致し方ない。増えすぎた人間どもを駆除するための妖怪(ぶき)を頂戴させて貰おうか」

 

 

 その邪悪な笑み。

 既に勝ちを確信していた。そして青娥自身も幻想郷の滅亡は時間の問題だということは知っている。嗚呼、自分自身の未来を想像して悶えてしまう。

 

 

「うっふふふ、うふふふふ…!!全てが上手くいけば私の目的が遂に叶うのねェ」

 

「その為の【障害】は取り除かなければな」

 

 

 そう言って、老人は写真を取り出した。

 そこに映るは幻想郷の強者面々。八雲紫、博麗霊夢、西行寺幽々子、スカーレット姉妹等である。

 

 

「まずは準備段階だ。ふはははは!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでくださりありがとうございました。

 筆が乗り、長文を書きました。
 次回からねずみ男をまた悪く書きたいなァと思ってます。


─前作から読んでる方に向けて─


 ねずみ男は幼少期の頃のエピソードが無かったので、捨て子・外生まれ幻想郷育ち・過去の記憶はとある理由で消されているという設定にしました。今後明らかにします。
 前作だと八雲家とねずみ男は面識ある、幻想郷の存在知ってた、でもなんで外にいたの?等何も説明せずに終わったと思います。

 ボスの正体
 皆さんならもうお分かりだと思いますし、どうせまたアイツだろと思う方もいますが、やっぱりボスはアイツにしたいと私の中にあるので変えませんでした。当初はギーガにしようと思ってましたが、上記の理由で辞めました。

 前作の『人と妖怪が争う世界が見たいだけ』というボスの計画を変えて、ちゃんとした目的を持たせました。
 原作とは違いますが、霍青娥は幻想郷初めてで誰とも面識ない設定です。彼女にはとある目的があります。つまり東方神霊廟の面々は出ないと思ってください。彼女達を楽しみにしていた方々には大変申し訳ないと思っております。更に東方神霊廟に対しての知識が筆者はめちゃくちゃ浅いので、仮に無理やり書いたとしても薄くなる可能性があり外しました。知識不足も謝罪します。


 部下は赤鬼、老婆は絶対確定です。ここは変えません。
 ですが増やしていきたいと思います(窮奇みたいに)。手の目、文車妖妃は部下から外し、別の枠で必ず出したいと考えてますね。特に文車妖妃は今度は味方サイドで出したいです。

 窮奇は完全に部下にピッタリな妖怪ですが、能力は今のところ不明です。因みに窮奇の技は『スーパーロボット大戦シリーズ』の『窮奇王』から引用しました。ロボット系に興味がなかった私が初めて触れた物でしたのでにわかに覚えていて、使いたいと思いました。



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小悪魔の事件簿①

こんにちは、狸狐です。
遅れて申し訳ないです。いや本当に仕事が忙しくてこっちに時間を回せる暇がなくて、空いた時間にfgoのイベントや小説を書くなどをしておりました。

 まさか今年の映画で鬼太郎とゴジラがこんなにも話題にもなると思いませんでしたね。ネタバレ避けるために感想はもう少し後で書こうと思います。

 fgoのグダグダイベントって何であんなに面白いんでしょ。初期の頃はギャグだけかと思ってたのにいつの間にか重いストーリーとか見られて、読む時にいつもワクワクしております。今回は特に新選組に対してしっかりと恨みを持つキャラが出て、面白かったし最後までかっこよかった。糸目キャラって最高だぜ。







 

 それはとある日の優雅な午後のおやつの時間だった。毎日毎日同じような西洋の菓子の繰り返しに飽きてしまったレミリアが咲夜に(駄々をこねて)頼み、和洋中と様々なお菓子を用意してもらった。しかし咲夜が主人のワガママを素直に聞くはずもなかった。こっちは飽きないように様々な工夫をしてきたというのに飽きたから別なのを作れとプリンを残して言った主人にカチンとしてしまったからだ。

 

 

「うわぁ〜!!」

 

「右から順におはぎ、きな粉のおはぎ、3色のお団子、お饅頭、焼き饅頭、水饅頭、酒饅頭……」クドクド

 

「あーもう!説明は良いわ。それで…これ全部食べて良いのよね?」

 

「勿論でございます。全てお食べください。因みにですが……これは全てお嬢様の為に朝から作った特別製。もし仮にもお嬢様のお心にメイドの事を思ってくれる優しさがあるのなら、残すということはしませんよね?」

 

「はっ、何を言うのかと思ったら。この私が食べ物を残すと?フランみたいなお子様じゃあるまいし」

 

「そうですわよね。ではお楽しみくださいませ」

 

「じゃあまずはこれ─」

 

 

 初めのうちは食べ慣れない和菓子や中国菓子に舌鼓をしていたのだが、次第にペースは落ちてくる。甘い物は無限に入るとか、別腹とか、食べ飽きないと言われているが流石に限度はある。それは人間だけに言えることではない。吸血鬼でも同じだった。右から左まで大量にある糖分に段々と身体が耐えられず、舌がもう何も入れないでくれとストライキを起こしかけていた。

 

 

「げぷっ」

 

「おや?如何なされましたか、お嬢さま。今ゲップのようなものが聞こえたのですが…?」

 

「聞き間違いじゃ…っぷ」

 

「もしかしてお腹いっぱい……なのでしょうか?」

 

「そんな訳な…、い…っ」

 

「ですわよね。安心しましたわ。誰よりも慈悲深くて有言実行のカリスマ溢れるお嬢さまが残すなんて有り得ませんもんね。ですが…フォークが動いてませんわよ?」

 

「ちょっと…うぷ……休憩…」

 

「うふふ。遠慮なんかしなくて良いのですのよ。フォークを待つのが疲れたのならそう言ってくださいまし。私が食べさせてあげますから。はい、あーん」

 

 

 世の男性なら咲夜からの“あーん”なんてご褒美なのだが、レミリアには悪魔の所業にしか見えなかった。冷たい瞳に、レミリアの必死に作った余裕ある笑顔は引き攣る。

 

 

「あ、あぁ…」

 

「あーん」

 

「ああぁぁ……ギブアップぅぅぅぅ〜っ!!もう食べられないわよぉ〜!びえーん!!」

 

 

 自分自身の放った傲慢なセリフと咲夜の視線に耐えきれず、遂にはカリスマを捨て去り泣き始めてしまった。

 

 

「・・・」

 

「うわーん!」

 

「・・・んふ♡」ゾクゾク

 

 

 泣いている主人の姿を見て、不思議とニヤけてしまう。可愛いと内心思ってしまう。咲夜は我が主人のことは敬愛している。だがいつも踏ん反り返っている主人が泣いている姿を見ると体の内側から震え上がってくる物がある。この感情、この気持ちはなんなのだろうか。咲夜はまだ知らない。

 

 

「…こほんっ、これで分かりましたか?折角作ったのに残された物を見た人の気持ち。私も泣きたかったんですのよ」

 

「うん…」

 

「でも私も意地悪し過ぎました。どうぞ愚かなメイドに何なりと罰をお与えください」

 

「……いい。今回はワガママ言った私も悪かった…」

 

「お優しいのですわね、お嬢さま」

 

「ふ、ふん!別に大したことないわよ!メイドの責任は主人である私の責任でもあるしね!」

 

「流石ですわ!」

 

 

 伊達に長いこと一緒にいない2人。

 悪いことは悪いと教えつつ、良いところはしっかりと褒めて、レミリアを立てている。この一連の流れができるのは彼女だけだろう。

 

 

「でも、残ったお菓子はどうしましょうか…」

 

「・・・良いこと思いついたわ!」

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

「むしゃむしゃ…、こりゃあ絶品だよ!まだまだ入るぜ、こりゃあ」

 

「あっ、おじ様!1人でおはぎばっかり食べるなんてズルい!私も食べる!」

 

「ダメだねー、全部俺のもんだ」

 

「ちょっと!これはお茶会なのよ!もっと優雅に食べられないの!」

 

「こんなに騒がしいお茶会は初めてよ」

 

「うふふ」

 

 

 レミリアの考えた作戦は大成功だった。

 まぁ、そんな作戦と言うほどでもないが。自分1人で独占してやろうと最初は思っていたが食べきれないのなら皆んなで分け合おうという皆んなからレミリア様はお優しいと思ってもらえる考えだ。フラン、パチュリーだけでなく、この前のフランを助けてくれたお礼も兼ねてねずみ男を呼んだ。

 

 

「美味え美味え!こんなに美味いもんを食う機会なんて滅多にねえから食い溜めしとかねえとな。ケケケ」

 

「何で手で食べるのよー!下品過ぎるー!」

 

「へーんだ!大体、俺が下品上品で味は変わらねえし問題ねえだろ。そんな事よりもこうやってムシャムシャ食わねえと、誰かに取られちまうしなぁ。あーん」

 

 

 最近美味しいものにありつけていなかったので大興奮。端から端まで一心不乱に腹に放り込んでいく。特に咲夜のおはぎはお気に入りだったようで、折角スプーンやフォーク、お箸まで用意されているのに素手でムシャムシャと食べていた。口や手には生クリーム、粉砂糖、更にはきな粉や餡子がベッタリと付いており、まるで子どものようだ。

 

 

「ほんと、誘ってくれて感謝しかねえよ。レミリアちゃん」

 

「“ちゃん”じゃなくて“様”をつけなさい!でも、ふふん!私の寛大な心にはもっと感謝しても良いのよ」

 

「マジで食べ飽きねえぜ!」

 

「ちょっと聞いてるの!?」

 

 

 15時から始まったお茶会が終了したのは17時ごろ。途中でパチュリーはお腹いっぱいになり図書館に戻り、フランも甘いものの食べ過ぎて眠くなる。ねずみ男はトイレに行ったりと離席することは多々あったが、無事にお菓子は完食。勿論外で門番をしている美鈴やパチュリーの使い魔で地下宝物庫の番人も兼ねてやっている小悪魔にもお裾分けさせた。

 

 美鈴は門の前で、小悪魔は地下宝物庫から出て図書館で美味しいお菓子を食べた。

 

 

「げふーっ、いやー食った食った。ごちそーさん!んじゃあ俺っちも帰るぜェ」

 

 

 ねずみ男は大きく膨れた腹をさすりながら紅魔館を後にする。そして咲夜が片付けを始めた。その日の23時頃に()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地下宝物庫。

 

 

 

「あれ、ない…」

 

 

 最終確認としてこの紅魔館に保管された超弩級の魔導書や魔法道具、吸血鬼に代々と受け継がれる秘宝などなどがちゃんと揃っているのかを調べたり、破損がないか点検をしていた小悪魔は呟いた。

 

 

「な、ないっ!?ないないないっ!」

 

「どうしたのよ、騒がしいわね」

 

 

 深夜、目が冴えていたパチュリーは図書館で読書に勤しんでいた。だが小悪魔の声に気付き、やってきた。パチュリーの心配する声に反応した小悪魔の表情は青ざめており、冷や汗もかいていた。

 

 

「ぱちゅりぃ…さまぁ…」

 

「・・・どうしたの」

 

「無いんですよ、どこ探しても無いんですよぉ」

 

「無いって何が?はっきり言わないと分からないわよ」

 

禁忌の魔術書(アルマデル・グリモワール)がどこにも無いんですよ〜!?」

 

 

 

 魔術書(グリモワール)

 それは古代の魔法使いや占星術師といったスピリチュアルな人間たちが残した神秘の秘術をまとめた魔術の書物のことを指す。グリモワールと聞くと邪悪なイメージばかりかもしれないが実はそうでもない。

 

 内容は様々ではあり、例えば薬草の種類や効能、見分け方や栽培方法などをまとめてあるもの。星の並び方、月の満ち欠けから人の人生さえも見通したり占ってしまう占星術。どのような呪文で、どのようなことが起きるのかを丁寧にまとめた魔法使いのための物もある。

 

 このように使ったところで害は特にないのだが、中には危険な物もある。昔には魔女狩りと呼ばれる最低最悪の事件があった。その際に本物の魔女たちが恨み辛みを残して書き綴った物もあり、使い方を間違えれば使用者の命も奪ってしまうこともある。

 

 

 

禁忌の魔術書(アルマデル)、か。元は天使や精霊を召喚するための書物だったけど、途中で術者が道を外れ、悪魔の召喚も書き記した究極であり禁忌の本。外の世界にいた頃にレミィを狙う吸血鬼ハンターが何故か持っていたけど、レミィが倒して宝物庫に入れてたものよね…」

 

「究極っ、禁忌っ!?うぅっ…ううぅっ…」

 

「朝と昼はあったんでしょう?鍵は盗まれてないの?」

 

「はい…。ちゃんとありました。鍵も大丈夫です…」

 

「・・・となると、こあが居ない時を狙って誰かが宝物庫の鍵を使わずに開けたのね。力の強い妖怪や妖精、魔力を持つものが入れば必ず警報がなるというのに反応した形跡もないなんて」

 

「パチュリーさまぁ、私、お嬢様にこの失態を伝えてきます・・・」

 

 

 小悪魔が泣く理由は宝を失ったからではない。この失態を伝えに行くことに心底恐怖しているからだ。

 

 

「パチュリー様、長い間でしたが…大変お世話になりました。ううう、ひぐうぅっ!!」

 

 

 深々と頭を下げる小悪魔。

 まるで永遠の別れであるかのように感謝の言葉を述べる。大袈裟だなぁ〜と思う方はいるだろうか。実は全然大袈裟ではないのだ。紅魔館においてメイド長である咲夜を除くメイドや執事、お手伝い達に地位はない。粗相を犯せば殺処分にもなるし、フランが癇癪を起こした時のサンドバッグになったとしても誰も悲しまない。替えの利く人形のようなものだ。

 

 残酷と思われるかもしれないが、ここで働く者たちは元々、どこにも居場所がなく毎日食事や寝床に困っていた醜い妖精や妖怪たちであり、そんな彼らを雇用し衣食住つけてくれるのだから彼らとしては粗相させしなければ温かい食事にありつけるので文句は無いのだ。

 そして小悪魔もその1人。パチュリーに使い魔として召喚され、紅魔館で働く事を契約したのだから、粗相を犯したらどうなるかくらいは知っている。

 

 

 

「では…」

 

「待ちなさい、こあ」

 

 

 立ち去ろうとする小悪魔をパチュリーが呼び止めた。

 

 

「パチュリーさま?」

 

「使い魔のミスは、主人である私の失態でもあるわ。この事は私の責任として報告するわ」

 

「な、何を言って……、私に主人が罰を受ける姿を見ていろというつもりですか!」

 

 

 確かにパチュリーが罪を被れば、殺される事はない。レミリアからは罰を受けると思うが軽くなるのは当たり前だろう。だが自分の主人が罰を受けて、自分が罪から逃れるのは従者としては耐えられなかった。

 

 

「そんなの死ぬより辛いです…」

 

「ならば貴女が何とかしてみせなさい」

 

「え?」

 

「貴女の主人は、レミィではなく私。ならば罰を与えるのは私の役目。私が仕置きされるのが嫌なら、3日以内に真犯人を見つけてきなさい」

 

「えっ、え!?」

 

「さあ、どうするの?」

 

「あっ、えっ、はい!行ってきます!!」

 

「準備はしていきなさい」

 

 

 小悪魔は走って紅魔館を飛び出した。

 走り出す小悪魔を背にパチュリーは天井にぶら下がるコウモリを見た。その視線にコウモリは気づくと、パタパタと飛んでパチュリーの側へと行く。

 

 

「随分と強引じゃない、パチェ」

 

「覗き見なんて良い趣味してるじゃない、レミィ」

 

 

 レミリアの眷属である血吸いコウモリ。

 吸血鬼の多種多様な能力として眷属の視界を通して物事を見たり、耳を通して音を聞いたり、口を使って会話ができるというものがある。それで一部始終を見聞きしていたのだろう。

 

 

「・・・また、やって来ると思っていたけどこんなに早いとはね。これってやっぱり」

 

「ええ。私の感知用の結界を抜けての宝を盗む技。あの()()()を紅魔館に仕掛けて、我々を襲わせたあの赤鬼の仲間と同じでしょうね」

 

「感知されないで入り込む芸当が出来るのは……あの酔っ払いの鬼しか考えられないか」

 

「地下の者たち…。アルマデルを盗んで一体何を考えているのやら」

 

「宣戦布告とかじゃない?まぁ、アルマデルは()()()()()じゃない。改めて気を引き締めてもらうために、あの子には大袈裟に言ったけどね」

 

 

 実は全て嘘だ。

 色々あるうちの中でアルマデルが盗まれたが、相手にはどの宝がどれほど重要なのかは分からなかったようだ。何故ならアルマデルはそこまでの書物ではないし、レベルも低い。大体悪魔を召喚したいのならば隣のページに天使の召喚方法などを書くか?普通に嫌だろう。術者も書き記す際によっぽど焦っていたのだろうが、こんなのに呼ばれるのは余程の馬鹿か、強者のみ。とにかく紅魔館に被害を出したかったのだろう。

 

 以前の妖怪樹の借りも返したいのと、小悪魔への一応の罰として、今回のことを企てたのだ。

 

 

「ふん、何だって良いわ。私たちに喧嘩を売るとは良い度胸だし、逆にぶっ潰してやる」

 

「優雅さが欠けているわよ」

 

「うっさい!!」

 

「まぁ、安心なさい。見てたと思うけど、小悪魔に犯人を探させに行かせたから犯人を見つけるのも時間の問題よ」

 

「アイツにぃ!?本気ぃ?私が能力を使えばあっという間じゃない?」

 

「馬鹿。私達が紅魔館を出れば、そこを責められるわ。だから私たちは構えてれば良いのよ」

 

 

 馬鹿にするように笑っていたが直ぐにやめた。コウモリの瞳を通じて、レミリアはパチュリーの自身溢れる目を見たからだ。馬鹿にするなという気持ちが言葉ではないが気迫や思いからビシビシと伝わってきたのだ。

 

 

「あの子は()()()()よ。舐めないでもらいたいわね」

 

「やれやれ…。まぁ、お手並み拝見よ」

 

「最悪な事態になったら・・・、その時は私が行くわ」

 

 

 

 

 

(そう─)

 

(最悪な事態になったら、その時は私──)

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 ガリ…、ガリガリ……。

 

 黒い影が古い書物を読みながら、枝を使って地面に模様を書いていた。時に数字、時にどこかの国の言葉、時に鳥や魚の絵、そして中央には明らかに目立つような逆五芒星。それは所謂魔法陣と呼ばれるものであり黒魔術などに使われるものだ。書き慣れてはいないのか、少し粗は目立つが徐々に完成して行く。

 

 

「・・・」

 

 

 悔しい。

 憎い。

 ふざけるな。

 

 

「エロイムエッサイム…」

 

 

 俺をこんな目に遭わせやがって。

 許さない。

 絶対に許さない。

 

 

「エロイムエッサイム…、エロイムエッサイム……」

 

 

 殺してやる。

 

 

「我は求め訴えたり……!!」

 

 

 足元に描かれた不恰好な魔法陣が黒く、鈍く、怪しく光る。魔法陣の中心に置かれたニワトリの死体が黒い光に飲み込まれると、その代わりに黒煙が舞った。

 

 

「お…、おおぉぉぉ……!!」

 

 

 歓喜の声。

 とある儀式は成功のようだ。

 黒煙と共にとある世界の扉が開く。幻想郷と異界が繋がり、逆五芒星から禍々しいものが這い出てきた。

 

 

──サア…、迷える子羊よ。汝の欲望を俺に見せてくれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

「・・・ここにあるはず」

 

 

 早朝。

 手帳に、鉛筆、深い帽子にコートを身につけ、うきうきの探偵気分で人里にやってきた小悪魔。いつもはパチュリーの付き人という立場であるため、パチュリーが里に赴かない限りは来ることができなかった。だからこそ1人で里に来るのは初めての経験であり、パチュリーが罰を受けてしまうことに不安を感じながらも内心実は少しワクワクしていた。

 

 

「うぅ、寒い。でもなんか遠足来たみたいで楽しみかも……ってダメダメ!パチュリー様がお仕置きされる前に見つけなきゃ!」

 

 

 なぜパチュリーは小悪魔に行かせたのか。

 それは彼女の種族が関係している。

 小悪魔は名前の通り、悪魔に属する存在である。悪魔とは天使という敵対種族が存在しており浄化されるのを恐れるため常に同胞や魔力の気配を察知することができる能力を生まれた頃から持っているのだ。つまり誰かは分からなくてもいいが、どこであの魔力を帯びた本があるのかは探せる。──ただ、小悪魔は上級悪魔ではなく下級の存在。その探知能力は完璧ではない。ふんわりだが感じるから、大体ここだろうとある程度予想しなければならない。

 

 

「魔力は感じる。里からは出てない…かな」

 

 

 4時頃でまだまだ早い時間帯だ。

 起きている人も少ないだろうから聴き込みは出来なさそう。もしかしたら落ちているかもしれないと考え、とりあえず里全体を探索し始めようと考えた。

 

 

「あれ?」

 

 

 だが予想とは違った。

 早朝は静かだろうと決めつけていたのだが、ガヤガヤと人々が走り回ったり焦っているような騒がしさを感じる。時折、悲鳴のようなものも聞こえていた。音の方へと向かった。辿り着いた先には大勢の人が大きな家の前に集まっていた。野次馬の人に小悪魔は近づく。

 

 

「うひゃあ〜…ひでぇな、おい」

 

「あのぉ」

 

「ん?」

 

「あの、なんかあったんですか?」

 

 

 男は小悪魔を見る。

 童顔に似合わない大きな胸に、白い肌。守ってあげたくなるような欲を駆り立てさせる姿と抱いてみたいという欲情を引き立てる彼女に一気に鼻の下を伸ばす。

 

 

「で、でへへ…、あー、いやね。今そこの家の家主“大門寺(だいもんじ)さん”が腹とか首に切り傷つけて飛び出してきてよ。助けようにも凄え出血だったからもうダメかと思ったんだよ、俺たち」

 

「思った? 無事だったんですか?」

 

「おう。慧音先生の友達の妹紅さんが駆けつけてくれて応急処置してくれたのよ。こう…傷口を炎でジュゥゥゥーッと、ね。・・・でさっき慧音先生が永遠亭の人たちを呼んできてくれて、俺らはどうなったか気になるからこうやって野次馬ってるわけよ」

 

「それにしても首を狙うとはよっぽど恨まれてたのか…」

 

「それはねえな。大門寺さんは貧乏に苦しむ人に援助とかよくしてた。ここにも世話になった人も多い。好かれることはあれ、恨まれることはねえな」

 

「では夜盗か何かに襲われたのかも…」

 

「そうかもな。うひっ…ひひっ……、今この里は危ねえからよ。どうだい、俺の家に来ないかい?守ってやるよぉ?」

 

「結構!」

 

 

 鼻の下を伸ばした男の手を払いのける。

 どうしたものか、男の目はトロンとしていて息も荒々しくなる。払い除けられた男はニチャリと笑うと舌をベロリと出して、何度も唇を舐めてからもう一度襲いかかってくる。腕をがっしりと掴むとそのまま路地裏に連れて行かれた。周りの人たちは家の方を見ているので不思議と誰も気づいていなかった。

 

 

「ちょ…、離してっ…」

 

「大丈夫だから大丈夫」

 

「何が大丈…むぐぅっ……!?」

 

 

 手で口元を抑えられ、悲鳴は上げられない。

 抵抗しようにも体の大きな男の力は強く、抵抗しようにも動けずに無駄に終わる。その姿が更に興奮させてしまったのか我慢できなくなった男は自分のズボンへ手を伸ばす。

 

 

「ムチムチな身体のくせに顔はガキみたいとか堪んねえよなぁあ!うひひひぃ──がばぁっ!?」

 

「犯人探ししてたら変態をみつけるとはね」

 

「ぷはっ…!」

 

 

 黒い羽が突如舞った瞬間に小悪魔の目の前で男は倒れ、地面と熱い口づけを交わす。解放された先にいたのはカメラを持ったよく知る人物であった。

 

 

「あなたは文…さん…」

 

「どーも」

 

 

 接点はなく、会話をしたこともほとんどない。偶に取材として紅魔館にやってきてはレミリアお嬢様や咲夜様、パチュリー様に追い出される新聞記者の射命丸文であった。

 

 

「大丈夫ですか?えーと…小悪魔さん、でしたっけ」

 

「はい。ありがとうございます…」

 

「変態に襲われるとは大変ですね。どうします、この男。慧音さんのとこまで連れてっちゃいます?」

 

「あっ、彼には何もしなくていいです!」

 

 

 手と首を横に振る小悪魔。

 一生懸命に否定する姿に違和感を感じる。

 

 

「襲われたのにですか?随分とまぁお優しい……、それともそういったお趣味とか…、はたまたあーいうプレイをしてたとかですかね?あっ、そういえば貴女って夢魔(サキュバス)でしたっけ」

 

「確かに夢魔ですけど、私はそんなんじゃありません!!ただあのおじさんは私の能力のせいで狂っちゃったから責めたくないんです!」

 

 

 

 小悪魔の能力。

 それは『異性を惹きつける程度の能力』である。但し、元よりそれは、相手の最も好みの姿に化けて精気を吸う下級の悪魔【夢魔】が持つ当たり前の力である。つまり我々人間が生まれた時から呼吸ができるようなものであり能力と呼んでいいのかは分からない。

 

 この能力は相手が異性である場合に本人が発動させる気がなくても自動で発動する。男たちは小悪魔に対して性的に興奮し、どんなにタイプじゃなくても必ずときめき、振り向いてしまう。長い間に一緒にいるだけでその性的興奮は限界を突破し、男を獣へと変貌させてしまう魔性の物だが、この能力の最大の特徴であり強さは、男は小悪魔のお願いを聞いてしまうというものだ。小悪魔のことを好きで好きで堪らなくなり、秘密を教えてくれと言われたら教えてしまうし、お金をくれと言われたらあげてしまう。先程の男性も、元々の性格は偏屈で頼まれても断るようなものだったのに、小悪魔に教えてくれと言われたので教えてしまった。

 

 

 

「ふーん、難儀なものですね。それよりも何故貴女がここに?ご主人様と一緒では?」

 

「それがかくかくしかじかでして」

 

「なるほどなるほど…。魔導書が盗まれ、里まで来てみれば殺傷事件の発生!これはとくダネの予感…!小悪魔さん、私もその魔導書探しお手伝い致します!」

 

「えっ、いいですよ。嫌な予感しかしないし」

 

「そんなこと言わずに。乗りかかった船、旅は道連れと言いますしねぇ。ほら、早速戻ってみましょ!」

 

「ええ〜〜〜」

 

 

 強引さに敵わずズルズルと引っ張られる。

 これぞ射命丸文の愛嬌というべきか、コミュニケーション能力の高さ故か、何だかんだで気を許し、しまいには相手の口調も砕けてしまう。ただこれが取材に生きたことはないが。

 既に家の周りには人はおらず中にもいなかった。里の人々のヒソヒソ話や井戸端会議に耳を傾けると、どうやら妹紅のお陰で死ぬ事はなく、永遠亭の助力もあり悪化することなく運べたらしい。

 

 

 

「では家宅捜索と行きますか!」

 

「人の揉め事なんかに興味ないのよ、私はー!」

 

「なに冷たいこと言ってんですか!」

 

「貴女だって記事にしたいからこんな事してるんでしょ!」

 

「あやや、バレてましたか。まぁ、いいじゃないですか!旅は道連れですよ」

 

「いや〜、殺人事件なんかに用は無いのに〜〜」

 

 

 

 行こう行かないの水掛け論をしながら2人は大門寺宅に入る。中は壮絶なもので刺された時に出た血液が至る所に付着してはいた。だが何かを盗もうとしていないのか何処にも荒らされた形跡はない。寧ろ家の中は綺麗であった。強いて言うなら湯呑みが倒れており、中身がこぼれている事くらいだろう。

 

 

「犯人は知り合いだったのかなぁ」

 

「何故?」

 

「だって湯呑みが2つあるのよ。見た感じ、大門寺って人は独身みたいだから家族のものではないでしょ。そうなると湯呑みを2つ出すって事は自分用と知り合いとかお客さんになるかなって。それに何も盗まれてないし強盗の線は薄いかな……、怨恨かも…」

 

「おお〜!メモメモ…」

 

 

 メモ帳に犯人は知り合いの可能性有り、とメモを書く文。小悪魔は他の場所も探してみる。

 

 

「大門寺さんは優しいって噂だったんですが、実際は恨まれていたりとかもしたのでしょうね」

 

「やっぱり本当の善人なんか居ないのよ」

 

「悪魔が言うと重みがありますねぇ」

 

 

 愉快そうに笑う文。

 小悪魔は相手にはせずキッチンへと向かう。包丁の数が一本足らないところから犯人はここで武器を得て、刺したのだろう。

 

 

「・・・っ!?」

 

「どうしました?」

 

 

 小悪魔は同胞の残り香を感じた。

 リビングでは何も感じなかったのに、キッチンに入った途端に邪気と血の匂いが鼻についた。

 

 

「・・・悪魔」

 

「はい?」

 

「悪魔が今回の事件に関与している」

 

「悪魔……って、マジですか?悪魔がやってきて人を殺そうとしたってことですか?幻想郷の悪魔は貴女だけですよね?」

 

「そうだけど…。多分、悪魔を召喚した人が犯人…。そして悪魔を召喚する方法を知っているということは……そいつが私たちの図書館から魔導書を盗んだ!!」

 

「お目当ての物、発見ですね。うふふふ…、これで俄然やる気が出ましたね」

 

 

 なんだかそう言われるのは癪だが、本当にその通りだ。初めは自分にとってどうでも良い事件だったけど、魔導書が関わっているのなら本当にこの事件の闇を暴かなければならない。

 

 

 小悪魔はそう決心すると、文と共に知り合い達の所へと向かうのだった。

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

「うううっ…、どうしようどうしよう……っ」

 

 

 その者は風が吹けばかき消されてしまうほどのか細い声で言った。布団の上で体を丸め膝を抱きしめる体育座りの形になり、頭をガリガリと荒々しく掻き、爪の間には皮脂や髪の毛がついていた。ガタガタと震え、頭を上げると机の上の魔導書と赤く染まった包丁の鈍い輝きにまた震える。

 

 

「人を殺してしまった…」

 

フフフフ…

 

「何がおかしい!?」

 

お前のその反応がおかしいのさ

 

 

 その者は何もない壁に向かって叫ぶ。

 我々には何も見えないが、その者の血走った瞳はその闇の中に潜む物をしっかりと捉えていた。

 

 

考えてみろ。お前は何か悪い事をしたのか?

 

「何を言って・・・!人を殺してしまったんだぞ!?」

 

違う。悪いのは全部あの男だ

 

「なに?」

 

考えてみろ。あの大門寺が()()()()()()()()()()、お前は手を汚さずに済んだ。つまり全ては大門寺のせいじゃないか?違うか?ん?

 

「そ、それは・・・」

 

大門寺のせいだ。お前は何にも悪くない。お前はアイツのした事に耐えられなくなり、覚悟を決めて刺したんだ。寧ろ…お前のお陰で他に被害が出ることはなくなったんだ

 

「・・・」

 

誇れ。お前はよくやったじゃないか。自分自身の手で悪を裁いたんだぞ

 

「そう、だな……。そうだよな…」

 

 

 甘い言葉が彼を肯定させる。

 力無き言葉が背中を押す。

 

 

「何も悪くない。私は何も悪くない…!そうさ、大門寺の野郎があんな事しなきゃ…俺はあんな事しなかったんだ。元々あんなことするつもりなかったのに、アイツが悪い。全部アイツのせいだ」

 

その通りだ。では……そろそろ次に行こう

 

「次?次って…私は大門寺を殺したかっただけだぞ」

 

違う。お前の怒りはまだ消えてない。まだ殺らなければならない。アイツが残ってる…

 

「アイツ・・・」

 

そう。あの──

 

 

 

 

 

 

──コンコンコン…

 

 

 

 

 

 

 何者かが戸を叩く。

 誰だ。

 もしかしたら私が犯人だと気づいて、慧音達がやって来たのか!?

 

 

「ふぅ…ふぅ…」

 

 

 包丁を握る。

 戸を開けた瞬間に刺してやる。心の奥底にある罪と疑心暗鬼によりその者は冷静な判断ができないが、殺意だけがメラメラと湧いて来た。

 

 

「どなたですか?」

 

「俺だよ」

 

 

 包丁を下ろす。殺意も消える。声の主はよく知っている。自分に力を与えてくれた恩人だ。自殺しようかと悩んでいた時に突然目の前に現れてくれた福の神のような人で、給料3ヶ月分の金で魔導書を売ってくれたのだ。戸を開けることはなく、この戸を隔てての会話。

 

 

「大変な事になったぞ」

 

「大変なこと?」

 

「あの大門寺って奴、生きてたぞ」

 

「・・・え?」

 

 

 確かに首を刺した。

 腹にも刺してやった。

 そして直ぐに裏口から逃げた。誰にも見られてないし、包丁だって持ち帰って来たし証拠は決して残していない。残してないはずだ。それなのに何なんだ、この不安は。

 

 

「ば、ばかな…、確かに首を刺してやったのに……!!」

 

「詰めが甘いんだよ、馬鹿。今永遠亭で緊急入院中だ。そして探偵気取りの2人組がこの件を探ってる。もし悪魔を召喚したこともバレたら……博麗の巫女がのりこんでくるぞ!!捕まるんじゃなくて殺されるかもしれねえ!」

 

「はぁ…っ、はぁっ…!?苦しい…、苦しい……!!」

 

 

 過呼吸になる。

 博麗の巫女が来るなんて考えもしなかった。やばい、やばいやばい。殺される。

 

 

「良いか?お前が捕まれば、俺もどうなるか分からねえんだ。上手くやれよ?・・・おい、聞いてんのか?」

 

「ひゅーひゅー…っ」

 

「……チッ、売る奴間違えたか。夜逃げの準備しねえと…!!」

 

 

 戸の向こうの男の声が遠ざかる。

 一方で犯人は真っ暗な部屋で不安と恐怖に押しつぶされていた。いつかバレてしまうという恐怖に涙が出る。

 

 

落ち着け

 

「おち…っ、はぁっはぁっ…、落ち着いていられるか!お前も殺されるかもしれないんだぞ!!」

 

大丈夫だ

 

「ちゃんと殺したはずなのに…!お前が言うから首刺したのに!どうしようどうしよう…っ、もし目が覚めて、私の名前を言ったら…確実にやられる…ぐっ!?」

 

 

 首を絞められる。

 ザラザラする感覚だ。昔いじめっ子に無理やり首に蛇を巻きつけられた過去を思い出した。そしてその冷たさに驚き、前を向く。

 

 

とりあえず俺の話を聞け

 

「なっ、なんだよ…。逃げろとでも言うのかよ。逃げられるわけねえだろうが…」

 

逃げるなんて誰が言うんだよ。その逆だ。もう一度大門寺を殺っちまえば良いんだよ

 

「はっ、はあっ!?」

 

荒唐無稽と笑うか?いや、笑ってる暇はないぞ。いいか?永遠亭に乗り込んで、大門寺が話す前に殺すんだよ。死人に口なし。さぁ、やれ。お前なら出来る

 

「無理だよ。出来るわけねえよ…」

 

自信持てよ。最初は無理無理って言うけど、お前だって心の底では出来るかもって少しは思ってるじゃねえか。俺には分かるんだ。だってよ、最初は無理と思ってたのに刺せたしな。なら絶対に出来るって。今が勇気を振り絞る時だぜ?

 

「ふ、ふふ…。お前だけだよ。こんなに応援してくれるの…」

 

 

 否定ばかりして来た人生。

 諦めていたばかりの人生。

 だが負け犬街道まっしぐらの私に、お前だけは手を差し伸べてくれた。勝手に呼んで怒っているかと思ったら、出会ってからずっと応援してくれたんだ。

 

 

 

「出来るかな、私に出来るかな…。上手く殺せるかなァ」

 

ああ……出来るさ。いつもは気弱だが、本当のお前は強いんだ。お前のやる行動は何も悪くないんだ。──お前は()()()なんだよ

 

「そうだよ…。そうだよなあ……!私は何も悪くないもんなァッ!!」

 

 

 

 包丁を拾い、ぎゅっと握る。

 ああ力が湧いてくる。

 勇気も湧いてくる。

 

 

 昔から気が弱くて、馬鹿にされて来たけど、本当の自分は強いんだ。コイツはそれを教えてくれた。俺の中に眠る獅子を起こしてくれた。俺に勇気と自信を与えてくれた。

 

 

 

「私は何も悪くない・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

「彼女らがつい最近まで大門寺さんと接触していた人たちです」

 

 

 射命丸文は持てる情報網を使い、事件が起こる1週間の間に大門寺と接触していた人たちを調べ、ここに呼んだ。

 

 集められたのは男女含め4人。

 彼らの共通点は全員が貧困で苦しんでいた経歴を持ち、大門寺から援助を受けていたことである。

 

 

「何で集められたのよ」

 

「もしかして私らを疑ってんの!?」

 

 

 姉妹だろうか、少し顔つきが似ている2人。調べによるとつい最近まで大門寺から金を借りていた。ラーメン屋を営んでいたが全く売れずに店をたたみ、金に困っていたところ偶然立ち寄った大門寺に金を貸してもらったのことだ。

 

 

「大門寺さんは私たちの命の恩人よ…!刺すわけなんかない!」

 

「そうですよ。我々は本当にあの人にお世話になったんだ。感謝することはあれ、恨むことなんてない!」

 

 

 2人は夫婦だ。聞くところによると新婚で、両親の反対を押し切ってのものらしい。ただ両者の親からは完全に縁を切られてしまい、夢だった結婚式を挙げれずに困っていたところを大門寺に助けられた。お金はゆっくりだが返していた途中である。

 

 

 

「この人の中に魔導書を盗んだ犯人のいる…!!絶対に見つけてやるわ。パチュリー様の名にかけて!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ありがとうございました。

 今回は小悪魔が主役です。なぜ彼女か?自分も分かりません。ただ書きたかったんですよね。そろそろ文のメイン回も書きたいから、小悪魔の話を書きつつ書いてます。

 作者は探偵ものは全く書けません。コナンの作者様は本当に天才なんですね。毎度めちゃくちゃ凄いミステリーを書けるのだからまず脳内が違うのでしょうね。


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小悪魔の事件簿②

 こんにちは、狸狐です。
 23日の昼頃に急な腹痛によりちょっと大変な目に遭いまして、病院にいたので投稿遅れました。マジで最近体調が悪い。血便が多いとは思ってたけど、まさか腸に血の塊があったなんて思いませんでした。でも完全に治り、復活したので本当に良かったです。




─────────






 数十年前
 とある小国の研究室内の地下。


「ええと…、ここが魚…かな。その反対位置には母を意味する海。それで……」


 地下室の床にガタガタとずれている円と何語かは不明だが象形文字のような絵に似た形があった。そして中央には神に叛く逆五芒星があり、その上に花が一輪置いてあった。


「こんな感じよね?・・・まぁ、うん、この本通りにはなってるでしょ」


 机の上に置かれた魔導書を読み返す少女がいた。
 古びた魔導書には掠れた文字で色々何かが書いてあり、きっと我々には読めないものだろうが不思議と邪悪さを感じた。


「見てなさい、レミィ。私だって悪魔くらい簡単に召喚できるんだからね…」


 少女はとある友人の顔を思い出しては悔しそうな顔をする。悪魔召喚は基本中の基本だが、病弱のために外に出て材料を集める力はないので、基本が未だにこなせない事を馬鹿にしてくるのだ。次期当主だからと伸びている鼻をへし折ってやりたい。


「生贄はコスモス。集められなくて花瓶の花を持ってきちゃったけど大丈夫かな。・・・でも無いよりはマシよね」


 蝋燭を立て、両手で三角の形を作り、六芒星を空中に作る。込められた魔力が逆五芒星に集中していく。


「エロイムエッサイム…、エロイムエッサイム…、我は求め訴えたり……!出でよ、悪魔!!」


 黒煙が吹き出し、地獄と地上がつながった。
 過去の文献では悪魔が出てくると腐った肉の匂いがすると読んだはずなのだが、実際には甘い匂いが鼻腔をくすぐった。


「貴女様が召喚者ですか?」

「・・・やった!出来た!私にも召喚できた!」

「あっ、あのぉ?」

「あっ、……んんっ、そうよ!私が貴女を召喚したの。これで友達の鼻を明かせるわ!さっ、契約しましょ」

「あ、あはは…」


 困ったように笑う悪魔。
 ポリポリと頬を引っ掻く姿にどこか人間味を感じてしまう。


「期待してくれて大変申し訳ないんですが、私は悪魔の中でも下級。いろんな方から召喚される度に追い返される程に弱くて落ちこぼれのダメダメ悪魔と馬鹿にされるくらいですし……。ご友人が私を見たら、馬鹿にされてしまいますよ?」


 自虐をして乾いた笑いをする。
 少女はそんな悪魔の額に指を伸ばしてデコピンをした。


「──ったぃ!?」

「悪魔のくせにレッテルなんて気にすんじゃないわよ!大体言われっぱなしで悔しくないの?」

「いやぁ…、でも……事実ですし」

「うっさいわね。私だって魔法学校で使い魔も呼べない落ちこぼれって同級生たちから馬鹿にされてるし、吸血鬼の友達からは勉強だけの頭でっかちって言われてる。でも、やり返してやろうとこの城に忍び込んだ悪魔召喚に成功した!これで見返せるわ」

「おっ、幼いのにお強いんですね…」

「言われっぱなしは悔しいもの!けど…、そうね。貴女、結構自己肯定感低そうだし……。そうね、なら私が貴女の価値を決めるわ」

「え?」

「私と共に生きて、死ぬまで仕えなさい。私は今後すごい魔法使いになる。そしたら貴女は大魔法使いの使い魔ってことよ。その時に貴女の価値が決まる。誰からも馬鹿にされないわ」


 少し驚き、最後に笑った。


「ふふっ、こんな私を選んでくれてありがとうございます。ご主人様。誰かに仕えるのは初めてですが、精一杯仕えさせていただきます」

「因みに貴女ってなんて悪魔なの?」

「えーと種族は夢魔でして、名前は・・・」

「待って」

「なんでしょう?」

「やっぱりまだ名乗らなくて良いわ。強い悪魔は自信満々に名を名乗るものって本で読んだわ。貴女はまだ弱いしナヨナヨしてる。だから貴女が自分自身に自信を持てた時に真の名をなりなさい。それまでは『小悪魔』よ!」

「・・・!はい、分かりました。この小悪魔、末長く永遠にお側に仕えさせていただきます!」


 これが私とあの人との出会いだ。
 落ちこぼれという泥の中にうずくまっていた私を、そこから救い出してくれた。


(小悪魔、か。へへ…)


 魔女から名を与えられる。
 その行為は“貴女の一生は私のもの”というプロポーズ的な意味合いなのだがこの魔女はそのことを知らないだろう。








「・・・読書中失礼します」

「どうしたの?咲夜」

「宝物庫の中で気になるものがありまして」

「気になるもの?」


 2人が宝物庫に向かう。
 そして咲夜は気になる箇所を指差す。扉の取手には黒い粒や白い何かが付着してあった。


「何これ?ゴミ?」

「いえ、おそらくですが……小豆と生クリームかと」

「何でこんなところに。・・・ん?待って。もしかして」

「どうしました?」

「咲夜。お願いしたい事があるの」











 

「大門寺さんは優しくてねぇ」

 

「こんなに美味いラーメンを失いたくないってお金を工面してくれて」

 

 

「大門寺さんは私たちの結婚式のお金を出してくれて。本当に良い人だよ。なあ?」

 

「え、ええ…。あの人のお陰です」

 

 

 

 ラーメン屋を営む虎子と龍子の姉妹。そして結婚式代を工面してもらった飯島夫婦。旦那は凪、妻はナミである。彼女たちがこの1週間で大門寺と接触が多かったという証言があった。それぞれに小悪魔は話を聞いた。

 

 

「・・・はぁ」

 

「散々でしたねぇ。全員が同じように“優しい”とか“尊敬してる”とか……つっまんねぇ〜。誰かしら恨んでるとかあれば記事を書く時にも面白くなるのになあ。悪魔(アッチ)関係はどうでした?」

 

「話してみたけど魔力は特に感じられなかった。アテは外れたかな……。でも…」

 

「でも?」

 

「私の好きな姦淫(ニオイ)がしたなぁ…」ジュルリ

 

「おんやぁ…、これは特ダネの匂い。詳しく詳しく…」ウヒヒ

 

 

 夢魔。

 その悪魔の特性の一つに『男女関係を察知できる』というものがある。勿論、夫婦や恋人の繋がりも見えるがそれだけではない。不倫関係さえも見えてしまう。そういうものを司る夢魔としては興奮してしまうくらいに好きなものである。

 

 

「虎子、龍子、そして飯島ナミ。全員から大門寺とのアッチの匂いがぷんぷんよ」

 

「ふむふむ…。これはこれは……。()()()()()は殺したくなっちゃいますよねぇ」

 

 

 とあるお方。

 2人は大門寺を恨んでいるだろう人物に想像がつく。小悪魔はその者の家に向かい、証拠を確定させるために文はもう片方の方へ向かった。

 

 

「こんにちは、飯島凪さん」

 

「こんにちは。…ええと、何ですか?」

 

「“お家に入れてもらえます”?」

 

「・・・はい」

 

 

 小悪魔が向かった先は飯島夫婦の元だった。

 家の中には旦那である凪しかおらず、小悪魔の頼みで家の中に入れてもらえた。

 

 

(襲われても嫌だし…、魅了はもう止めておくか…)

 

 

 オンオフは出来ない。

 だが強弱は可能だ。めちゃくちゃに魅了の力を弱めた瞬間に、我に帰ったように凪は表情が変わる。

 

 

「あ、あれ?何で私は…、貴女を家の中に?」

 

「快く入れてくれたじゃないですか。うふふ」

 

「・・・まぁ、いいか。それで何の用です?」

 

「面倒なんで単刀直入に言いますね」

 

「?」

 

「貴方、大門寺を殺そうとしたでしょう」

 

「・・・は?何を言って。あんなに感謝してる人に手をかけるなんて真似をする訳ないでしょう」

 

「動機は奥さんの大門寺との不貞行為。それを知った貴方は大門寺の家に向かい、包丁で滅多刺し。悪魔の力で証拠隠滅…といったところでしょうか」

 

「さっきから何なんだっ!!証拠とか、殺すとか。それに……ナミが不貞行為だと?馬鹿にするのも大概にしろ!大体、悪魔って何なんだ。わけわからんことを言うな!」

 

「私にとって殺人なんてどうでもいいんです。それよりも魔導書を返してもらいたいだけなんで」

 

「本当に何言ってるんだ。魔導書?知るわけないだろ」

 

「アクマでシラを切るつもりですか?この私の前で男性は嘘をつけませんよ。“正直に言い──”」

 

 

 再び魅了をかけようとした瞬間に小悪魔の言葉は大きな羽の音と声にかき消された。空から文が大慌てで飛んでやってきたのだ。

 

 

「小悪魔さん!スクープです!」

 

「今いいところだったのに……」

 

「それどころじゃありませんよ。実は今、あの虎龍姉妹に話を聞きに行ったら……大門寺ってやつはとんでもない悪党だったんです!」

 

「悪党?」

 

「はい。あの大門寺は初めは善意で金を貸しつつ、返金が遅かったり出来ない時には体で払えと言ってくる奴なんですって。その被害者は姉妹だけではなく、たくさん!恩着せがましいな。まさに女の敵ですねえ」

 

「まぁ複数の方と関係あるくらいですから。怪しいとは思ってましたよ」

 

「ちぇっ、つまんない反応。じゃあ…もし新婚したてのナミさんがそれに耐えられずに……殺そうとした、なら?」

 

「・・・本当に旦那は知らなかった、ってこと?」

 

 

 先程から黙って聞いていた凪は立ち上がる。

 そして小悪魔たちに悲しそうな、必死な顔をして近づいた。

 

 

「なぁ…、本当に妻は…、ナミは大門寺と……その…」

 

「ええ。間違いないでしょう」

 

「……そんな」

 

 

 絶望する凪。

 そして不意に、何かを思い出したかのように言葉をポロリとこぼした。

 

 

「そういえば最近妻は部屋に篭って…、ブツブツと何かを言っていました」

 

「奥さんの部屋を見ても?」

 

「ええ」

 

 

 凪の案内により、ナミの部屋へと向かう。

 そして部屋の戸を開けた。

 

 

「これ・・・!!」

 

 

 そこには黒魔術に使われる道具や生き物の死骸が転がっていた。そして中央には何かの紙切れが丁寧に置かれていた。小悪魔はそれを手に取り、中身を読んだ。

 

 

「これ…。アルマデルの切れ端。悪魔の召喚方法の部分だ」

 

「予想通りですね」

 

 

 床から何か嫌な感じがした。

 生き物を生きたまま焼いた匂いと、肌を汚い獣に舐められているようなじっとりとした感覚が全身に走る。床を壊してみると、地面には円と様々なマークなどが描かれたものが書いてあった。

 

 

「これは魔法陣…」

 

 

 1()()()()()()()()()()()()だった。

 汗をびっしょりとかいて、全身がびちょびちょになっていた。常人には中々に堪えるのだろう。

 

 

「とりあえず奥さんが悪魔か何かを召喚したのは確定ですね。写真撮っちゃお!パシャリ⭐︎」

 

「じゃあ奥さんが本自体を持っているんだ。旦那さんっ、奥さんはどこに」

 

「え、ええ…と、あっ!大門寺さんの所にお見舞いに行くって…」

 

「文さん!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷いの竹林を2人が歩く。

 1人は案内人の藤原妹紅と、もう1人は飯島ナミだ。この竹林は一般人なら必ず迷い、無理に進めば即死級のトラップが多数。だからこそ里の人間たちは妹紅に頼むのだ。

 

 

「ほい、着いた」

 

「ありがとうございます」

 

「それじゃあ私は外で待ってるから終わったらここで待ち合わせよう」

 

「はい。()()()()()()()()()()()

 

 

 にっこりと笑うナミ。

 その笑顔に違和感を覚えつつ妹紅は時間潰しのためにタバコを取り出した。本来なら楽しい殺し合い(アソビ)をしたい所だが、今はお客さんが来てるので出来ない。

 

 

(お見舞いって顔じゃなかったなぁ〜)

 

 

 タバコに火をつけて口に咥えた時に、何かが竹林を飛んでいるのが見える。少し身構えるが、緊張を解いた。

 

 

「何だお前か。それと珍しい奴もいるな」

 

「どうも妹紅さん…って挨拶してる場合じゃなかった!い、いい、今、ナミさん来ませんでした!?」

 

「・・・来たけど」

 

「本当ですか!こ、小悪魔さん!!」

 

「急ぎましょう」

 

「おいおい。何なんだァ」

 

 

 

 

 

 

 

「こちらです」

 

 

 ヤギみたいな妖怪とウサミミの看護師に連れられて、入院されている部屋に連れて行かれた。大門寺の体には手術痕は無く、これほどまでに上手く処置された技は中々に見られない。

 

 

「2人にしてもらえますか?」

 

「はい」

 

 

 ヤギ顔とウサミミが出ていく。

 部屋には眠っている大門寺とナミしかいなくなった。ナミは服の裏側から包丁を取り出すと、大門寺にゆっくりと近づいた。

 

 

「・・・ス。殺ス。コォォォ…ロォスウゥゥゥ……!!大門寺、死ネェェエ……!!』

 

「そこまでです!!」

 

『──ッ!?』

 

 

 小悪魔と文が飛び込んだ。

 驚き、振り向いたナミの顔を見て絶句する。その顔は人間の顔というよりも獣のような顔だった。牙を剥き出し、白眼になっていた。

 

 

「アルマデルを渡しなさい!」

 

「そこは違うでしょ!」

 

「私はそっちが本命です!・・・あと、人格を乗っ取っているのは悪魔ですね!」

 

『オ前ェッ、同族カ』

 

 

 小悪魔の指摘通りだ。

 ナミの言葉を借りて、誰かが喋っていた。ギラギラとした牙を見せて笑う。

 

 

『悪イガ、アルマデルハ渡サネエヨ。ソレト…コイツハ殺スゼェェ…!』

 

「アルマデルを返せ!」

 

『ウケケケケ!!邪魔ダァッ!』

 

 

 ナミは敏捷に身体を動かし、走ってくる小悪魔に向かって一気に蹴りを繰り出した。彼女の足はしなやかで、関節が軽やかに動き、その動きに敵も一瞬反応できない。小悪魔の腹に蹴りが命中すると、衝撃が広がり、彼女の力強い一撃によって小悪魔は跳ね飛ばされた。

 

 

「うぐぅっ!?」

 

「小悪魔さん!…このっ!!」

 

『今度ハ、カラス女カ!』

 

 

 ナミは蜘蛛のような身のこなしで地面を這ったり壁を走りながら文に近づき、棚の上を飛び跳ねた。この狭い部屋を縦横無尽に走り回る。文は圧倒的な不利である狭い場所での戦いに苦しむ中、普通は動かないような場所の関節を回して、瞬時に近づいてきた。

 

 

(早い…!?)

 

『コッチダ。バーカ!!』

 

「あがっ!?」

 

 

 ナミの巧妙な動きに対処しきれない文は、無慈悲な一撃を顔面に打たれてしまう。ナミの包丁が巧みに羽を刺し貫き、血が床に散る。文は苦痛に歪む表情を浮かべながら後退する。

 

 

「──っつぅ。よくも羽を」

 

『ウケケケケ!オ前ラヲ殺ス契約ハシテナイカラナァッ!』

 

 

 その流れで大門寺に包丁を持って飛びかかる。

 だが大門寺に刺さることはなかった。

 

 

『ア?』

 

「殺させやしねえよ。この野郎」

 

『ウベェッ!?』

 

 

 妹紅だった。

 突き刺そうとした包丁を自分の手に突き刺すことで防ぎ、抜けないと驚いた瞬間にその顔面に拳を叩きつけた。

 

 

「この豚野郎。ナミの体使って人殺しなんかさせるかよ」

 

「うわぁ。そんな事しつつ女性の顔を殴るなんて」

 

「うっせえ」

 

『チィッ……!!」

 

 

 大きな舌打ちをしたと思ったらバタンと倒れるナミ。近寄ってみると気を失っているようだ。ナミの周りに感じていた悪い気配は消えており、妹紅は安堵する。

 

 

「小悪魔さん…」

 

「いたた…。うぐっ、悪魔は逃げたようね。でも何で契約者を見捨てて……」

 

「そうなんですか?」

 

「契約した悪魔は願いを叶えるまでは何があっても契約者を守るから、逃げるなんて考えられない」

 

「じゃあ召喚者は別にいるんですね。じゃあ一体誰が…」

 

「・・・あ」

 

 

 小悪魔は何かに気づく。

 ポケットの中に手を突っ込み、飯島家から持ってきたアルマデルの切れ端を取り出すと助けに来てくれた妹紅に見せた。

 

 

「妹紅さん、これが何かご存知ですか?」

 

「あ?」

 

 

 既に穴の塞がった腕で紙を受け取る。

 そして中を覗き、渋い顔をした。

 

 

「あぁ……悪いけど、私さこーいう洋風なの分かんないんだよな。難しくてよ。けどたまに魔理沙とかは使うよな。ほら、この()()()()()()()とかさ」

 

「やっぱり…」

 

「やっぱり?・・・小悪魔さん、今のやり取りで何を確信したんですか?私には何もわかりませんが」

 

「文さん。じゃあこの妹紅さんが言ったヘンテコマークが何だか分かりますか?」

 

「ええ。詳しくは知りませんが魔法陣ですよね。小悪魔さんと一緒にいたお陰でそっち系に少し詳しくはなった気がしますが…」

 

「そうなんですよ。それが普通の反応なんですよ。文さんには色々と教えたから知ってますけど、大抵の人は妹紅さんみたいに知らないんです。元より里はそういった本は置いてありませんので、そういった方を勉強していないと知りようがない」

 

「はぁ」

 

「でも、今まで会話した中に知っていた人がいたんですよ。文さん、飯島さんの家で魔法陣を見つけた時のことを覚えてますか?」

 

 

 文は腕を組み、ウンウンと唸ってから頭の上の電球がピカッと光った。

 

 

「あっ!凪さんが“魔法陣だ”って一番最初に言ってました!」

 

「そうなんですよ。悪魔や魔導書とかは知らないとか聞いたことないって言ってたのに、魔法陣にだけは直ぐに気づいた。普通あり得ますか?魔法陣だけを知ってるなんて」

 

「隠そうとしてたけど素で出してしまったって訳ですか」

 

「けどこれで犯人はわかりましたね。私は急いで凪さんの所に戻ります!」

 

「私も行きたいんですけど……あやや」

 

 

 羽からは少しだが未だに血が流れていた。

 それを見せて申し訳なさそうにする。

 

 

「四肢や身体なら良いんですけど、我々天狗は羽が傷つけられると平衡感覚とか色々ぐちゃぐちゃになっちゃって……。ここで直してもらったら直ぐに戻ります」

 

「分かりました。お大事にしてください」

 

「お気をつけて!」

 

 

 騒ぎに驚いた看護師2人と永琳がやってきた。

 妹紅が病室でタバコを吸っていたり、文の羽から血が出ていたり、大門寺の周りが散乱していた。

 

 

「何があったのかは知らないけどタバコはダメよ」

 

「あだっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凪さん」

 

「ああ!さっきの!つ、妻は!ナミは大門寺を殺してしまいましたか!?私は心配で心配で…」

 

「見え透いた演技なんかしても無駄です」

 

「え?」

 

「凪さん。貴方が大門寺を殺そうとした真犯人です」

 

「え?え!?何を言ってるんですか?私が犯人?」

 

 

 馬鹿にするように笑う凪。

 だが小悪魔は至って真剣だった。

 

 

「ええ。そうです」

 

「妻は大門寺に無理やり抱かれていて、その恨みで悪魔…でしたっけ?それを召喚して、殺そうとした。でも失敗したから病院にまで行って〜とか何とか言ってませんでしたか?」

 

「初めはそう思っていましたが、ナミさんは悪魔に取り憑かれていただけでした。同じ悪魔ですから契約者を守ろうとすると思っていたのですが、悪魔は逃げた。つまりナミさんではない。そして……初めは悪魔とかを知らなかったはずなのに、魔法陣は知っていた」

 

「・・・」

 

「もし犯人じゃないなら、なぜ魔法陣だけを知っていたのか教えてくれませんか?ねえ、飯島凪さん」

 

「・・・あぁぁぁ」

 

 

 終始黙っていた凪が叫ぶ。

 

 

ああああああああ!!

 

 

 頭をガリガリと掻きむしり、頭から血を流す。

 爪の間には肉と髪の毛が挟まって赤く染まっているにも関わらず気にしていないようだった。

 

 

「やっぱりバレたじゃん!!()()ぅぅぅぅ〜〜〜ッ!!!!」

 

『落ち着けよォォオーーーッ!!お前っ、うるせえんだよぉ〜〜〜ッ!!』

 

 

 影の中から這い出してきた悪魔。

 小悪魔はゴクリと唾を飲む。

 

 

 

「あれは悪魔イルっ!!」

 

 

 

 悪魔『イル』。

 原初の時代に生まれた下級の悪魔である。

 容姿は我々のよく想像する悪魔の姿に近く、長い鼻にギョロリとした目玉。鋭い角に牙、爪を持ち、大きな蝙蝠の羽をつけている。先端が尖った尻尾も付いている。このように悪魔の姿の例として挙げられるイルだが、唯一特徴を持っている。それは背中にもう一つ顔があると言うことだ。首は無いのでお面のように張り付いているように見えるが、ただニタニタとニヒルな笑みを浮かべるだけの第二の顔を持っている。

 

 

「自分の奥さんを操って殺人を犯させようとするなんて最悪ね」

 

『知らねえよ!!俺は契約に基づいたまでのことをしただけだ』

 

「契約ですって?どうせ唆したんでしょ」

 

『唆すわけねえさ。なぁ、凪ィ』

 

 

 小悪魔の問いにに対してイルはケラケラと愉快そうに笑う。中指をピンと立て、長い舌をベロリと出す。

 

 

「そう。イルの言う通りだ…。イルのやった事は私が命じた事だ」

 

 

 項垂れる男は掠れる声で小さく言った。

 イルは愉快そうににっこりと笑う。

 

 

「私は…、私は許せなかったんだ。尊敬してた人と妻が私を裏切っていた事を許せなかったんだ。絶対に殺してやると決めたが……勇気がどうしても出なかった。2人の裏切りを知りながら耐えるしかなかった。そんな時にこの()()()()()()()()本を変な男から買ったんだ。そして、そして──」

 

 

 見たこともない字なのにスラスラと読めた。

 導かれるようにイルのページを開き、その内容に従って魔法陣を書いて、生贄を用意して、呪文を唱え、地獄とこの世を繋ぎイルを召喚することに成功したのだ。

 

 

『そしてコイツは俺を召喚した。欲望と憎しみ、後悔、絶望に塗れながらコイツは言ったのさ。“アイツらを殺してください”ってな!!』

 

「イルは私に勇気をくれた。心が折れそうな時は必ず応援してくれたんだ。でも殺すのは失敗してしまった。悪い事は続くもんだな……。お前もあの天狗も俺を怪しんでるのは明白だった。それで、気を逸らそうと……イルに頼んで妻を操り、殺そうとした。大門寺が死んで妻が殺人者として捕まれば私の復讐は果たせたのに……結果バレてしまった」

 

 

 凪の目は小悪魔を捉えていた。

 悪いことが親にバレた子どものように甘えるように、妙に優しく同情を向けてもらおうとする声色で言った。

 

 

「でも私って悪くないよね?」

 

「は?何を言ってるの?自分の大切な人を身代わりにしようとしたのよ・・・」

 

「だって裏切った2人が悪いじゃん。なんで怒られるのは私なの?ふざけんなよっ、ふざけんな…!!被害者は私なんだよ!!イルは私のこと悪くないって…、悪いのはアイツらだって言ってくれたのに…!イルだけだ。私の味方は」

 

 

 そう言って言い訳をする凪。

 彼の耳にイルは耳打ちをする。

 

 

「──っ!!凪さんっ、アイツの言葉に耳を傾けちゃダメ!心を強く持ちなさい!」

 

『ヒヒヒ…』

 

 

 

 悪魔にはそれぞれ能力が備わっている。

 上級悪魔とは比べ物にならないくらいに弱い能力だが、どんな下級でも必ず最低一つは持っているのだ。

 

 そして、イルの能力は『肯定』。

 別名、悪魔の囁きや甘言とも言われる。耳元で『お前は間違ってない、お前は正しい、お前は悪くない』等と言うだけの能力で何の役にも立たないと思うだろう。

 

 だがこの能力の真価は、どんな悪い事を考えても、悪行をしても、お前は悪くないと肯定し続けて、その人間の『反省する機会を奪ってしまう』事にある。特に心が折れかけている人間などにはよく効いてしまうのだ。自分を肯定してくれる物を心酔してしまう傾向を上手く利用した邪悪な力である。

 

 原初の時代からいたイルの肯定の力は大変恐れられていた。人間が己の弱さに負ける時に神は反省する機会を必ず与えるのだが、イルの力により反省することはなく元の正道に戻ることさえできなくなってしまうからである。

 

 

(馬鹿。悪魔を使役する者が、逆に掌握されてんじゃないわよ!)

 

 

 悪魔の召喚はその過程が大変難しいとされているが、それよりも大変なのは悪魔と共にいる事で召喚者が心を奪われてしまわないように自分自身を保っていられるかどうかである。魔女ならまだしも、普通の人間が悪魔という強力な力を得た場合、その力に酔わずに使いこなせるかが肝となるのだが凪にはその才能は無いようだと見て分かった。

 

 

「凪さん、今ならまだ間に合う。契約を解除し、イルから手を引いて!」

 

「・・・うるさい」

 

「凪さん?」

 

「もう遅いんだ。遅いんだよ!!私は何も悪くないのに……皆んなして責めやがって!悪いのはアイツらなのにィィィ……!!」

 

 

 イルは耳元にそぉっと唇を近づける。

 

 

『ジャアドウスル?』

 

「・・・殺す」

 

 

 凪はポケットから小型のナイフを取り出すと小悪魔にその小さな刃を向けた。その銀色の刃には恐怖する小悪魔の顔と全てに諦めた凪の顔を反射していた。

 

 

「幸い、私が犯人だって知ってるのはお前だけだ。お前さえ殺せば私の犯行がバレることはない。安心して目的を果たせる!」

 

『イィィ〜ヒッヒッヒッ!!殺せ殺せ!殺しちまえ!!ナミも、大門寺も、この里の人間たちも皆殺しだァァァ〜〜〜ッ!!』

 

「死ねぇええーーーっ!!」

 

 

 小悪魔の体を前に凪のナイフは残忍な意図を秘めて振り上げられた。彼は無情にも刃を彼女に向けた。辺りの静寂がナイフの斬撃音で裂けるようだった。小悪魔は咄嗟に身をよじらせ、危機一髪で刺されることを免れた。だがそれは偶然によるものだ。馬鹿同然に真っ直ぐに突っ込んできてくれたおかげで避けられたが、この結果は戦闘経験がほぼ無い彼女にとって次はない事を知らせていた。

 

 

「はぁっ、はぁっ…!!」

 

「避けられた」

 

「凪!イルになんか負けるな!自分を取り戻しなさい!!」

 

 

 声は届かない。

 彼の頭の中には小悪魔を殺す事しかない。

 

 

「あぁ〜〜…また殺せなかったよぉ。イル、力を貸して」

 

『あいよ』

 

 

 そう言うと、イルは背中に溶け込むように入っていった。そして直ぐに変化は訪れる。筋肉のない細い体をしていた凪の腕や脚、肩や首がグググと盛り上がり、一瞬にしてボディービルダーのような体へと変化した。

 

 

『凄い…!力が漲る!頭の中に沢山の殺し方が浮かんでくる…!!』

 

 

 獰猛な獣のように彼の瞳は燃えるような狂気に満ちていく。殺意、闘志と破壊のエネルギーが彼を取り込み、周囲の世界が彼にとってはもはや存在しないかのようだった。

 

 

『ははは…!今度は上手くいきそうだ……なあっ!!』

 

 

 バギィッと大きな破壊音が響く。

 凪の手の中に収められた小さなポケットナイフは原型をとどめておらずパラパラと手のひらからこぼれ落ちた。

 

 

『ナイフ、壊れちゃった』

 

(人間の域を超えてる…!?)

 

『まっ、いいか』

 

 

 腰を抜かす小悪魔の前に凪は仁王立ち。

 まるで落とした消しゴムを拾うように、腕を伸ばして小悪魔の首を掴み両手で持ち上げる。首に触れられているだけで次に何をされるのかを察してしまい生存本能的に全身に震えが伝わる。力では敵わない相手に命を鷲掴みにされている。このままじゃ死ぬ。その情景を小悪魔の脳が勝手にイメージして、恐怖のあまり涙が出ていた。

 

 

「うぐぁ──」

 

『うけけけけけ…!!』

 

 

 そのまま両手のひらに力が込められる。その手が首全体を圧迫し、気管を塞ぐ。バタバタと暴れるが、力のない小悪魔が暴れたところで意味はない。子どもが相撲取りの足にぶつかって倒そうとするくらいに無意味な行動である。

 

 

「あぐっ、ぐ、ぅ……っ」

 

 

 段々と意識が遠くなる。

 青ざめた顔面は涙と涎まみれでベタベタになる。酸素が全身に回らず脳の稼働が止まる。引き離そうと力を込めていた腕やバタついていた足も次第に力を失っていき、ブランと垂れ下がるような形になる。

 

 

『死ね。死ネ。シネェェーーーッ!!』

 

 

 不甲斐ない。

 なんて不甲斐ないんだ。

 不思議なことに死ぬ恐怖よりも最期に脳裏に浮かんだのは愛する主人の顔だった。自分の手でどうにかしたかったが、どうにもならないらしい。不甲斐ない従者でごめんなさい──。

 

 

「ぱちゅ…りぃ……さ、ま……」

 

 

 

 

 

 

──ドゴンッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

『あ"うっ!?』

 

「──ぁっ、げほっげほっ…!!」

 

 

 小悪魔は剛腕から解放された。

 塞がれたところに空気が入ってきたことにより一時的にむせ返ってしまうが、全身に酸素が巡っていき思考もクリアになっていく。首を絞められた跡に指を這わせながら、何があったのかを目で追うと凪は地面に倒れており、左脇腹から煙が出ていた。

 

 

「一体何が・・・」

 

「大丈夫、こあ」

 

「!? その声って…」

 

 

 凪は起き上がる。

 脇腹の火傷を気にすることなく、自分を吹き飛ばした相手だけに意識を向ける。怒りにより全身から血管を浮き立たせ、奥歯をギリギリと噛み締めてビシィっと指を向ける。

 

 

『誰ダ、貴様ァァーーッ!!』

 

 

 その者は長い紫色の髪をした女性だった。

 だが普通の女性ではないことはすぐに分かった。

 圧倒的な魔力。魔導本を開き、魔法陣を形成し、彼女を囲うように色とりどりの精霊たちが踊っていた。

 

 

「そこの小悪魔の主人よ。よくも私の従者を痛めつけてくれたわね。……けほっ、けほ」

 

「パチュリー様…!どうして外に…」

 

「ちょっと里に用があって咲夜に連れてきてもらったの。咲夜には別のことを頼んでて離れてるけどね。でも立ち寄って良かったみたい。けほっ…」

 

「お体に障ります!役に立たない私なんかに助ける価値はありません!」

 

 

 パチュリーが図書館に引き篭もっている理由は、人付き合いが苦手だとか髪や本が焼けてしまうことを避けているからだと周りの人たちは勝手に想像しているが、実際は違う。パチュリーは膨大な魔力を持っている反面、体が非常に病弱なのだ。喘息も持っており、激しい運動はもってのほかだ。

 

 

「こあ」

 

「!?」

 

 

 どうしてだろう。

 いつもの冷静な顔なのに怒りが垣間見えた。パチュリーは小悪魔の頬をぎゅっと両手で掴む。

 

 

「価値は私が決めることよ…!分かったなら返事をしなさい」

 

「ひゃい…!?」

 

「げほっ、げほっ…。それで…敵は?」

 

「あ、悪魔イルですっ、契約者はあの男です」

 

「分かった」

 

 

 そう言って本を捲ろうとした時、大きな影が重なった。見上げれば凪はパチュリーの目の前に移動しており、首を締め上げようと手を伸ばしていた。

 

 

『何が“分かった”だァ〜ッ!魔女風情が偉そうにィィ〜〜ッ!!』

 

「偉そうに、ではなく偉いのよ。悪魔如きが魔女に勝てると思わないで」

 

 

 

 

 

──バヂィッ

 

 

 

 

 

『い"っ!?』

 

 

 触れようと手を伸ばすが触れない。

 目に見えない防御壁に阻まれ、電気を伴い弾かれる。右手の指先を負傷し、少し仰け反る。だが直ぐに体を向き直し、拳を大きく振り上げてその防御壁に叩きつけた。

 

 

 

──バリン…ッ

 

 

 

(すっご…。想定外。それなら…)

 

 

 防御壁にヒビが走り、砕けかける。

 更にもう一撃加えようとするが壊されないように全体に巡らせていた壁を一箇所に集めて、叩きつけてきた拳を逆に弾き返す。ぐらりと凪の体が揺れた。

 

 

『おっ』

 

「今よ!!」

 

 

 その瞬間を見逃さずに本を握らない方の手から魔法陣を一瞬のうちに構成すると、それを凪の足元に展開する。

 

 

「土の精霊たちよ、この地を穢すものに罰を与えよ。土符『レイジィトリリトン』」

 

『があっ!?』

 

 

 大地から岩の塊が咆哮とともに天に舞い上がり、巨漢の前に立ちはだかる。轟音とともに、その堅牢な岩の柱が鋭い勢いで急襲し、腹部に見事に命中。轟音とともに爆風が巻き起こり、巨大な衝撃波が周囲に広がりながら、巨漢は吹き飛ばされ、その威容が崩れ落ちた。残るのは、魔法の影響で揺れる塵だけであった。

 

 

『ぢぐじょぉぉ……ごふっ!!』

 

 

 生身の人間なら即死してしまうかのような鋭い一撃を喰らったはずなのに、目の前の凪は気絶さえもすることなく血反吐を吐きながら起き上がろうとしていた。

 

 

「パチュリー様…。あの男はただの人間です。それなのに悪魔に取り憑かれただけではあそこまで頑丈になるのですか?」

 

「過去に普通の女の子が階段をブリッジしながら登り降りしたり、小さな男の子が大人を殺す事例があるくらいだから、別に不思議な事じゃないわよ。それよりも貴女は下がってなさい。イルが出てくるわ」

 

 

 凪は白目を向いており、あり得ない位に体が肥大化していた。筋肉が膨張してはち切れそうだった。そんな状態で明確にパチュリー達に怒りを向けているところを見ると人格はもう残っていないだろう。イルが完全に乗っ取っていたのは明白だった。

 

 

『テメェら、よくもやってくれたなァ。がふっ…、骨は折れてるし内臓もボロボロだ。絶対に許さねえぞ……!!この(アマ)ぁ』

 

「ならその人間から離れれば良いじゃない?契約者に死なれるのは悪魔の恥なんでしょう?」

 

 

 悪魔には使命しかない天使と違って『誇り』がある。

 それは契約を叶えるというものだ。召喚した相手と契約し、願いを叶える。更に人々を不幸にし、対価として魂をもらう。この一連の流れができるものは地獄では尊敬される。だがその逆に契約者を失い、願いも叶えられずに魂を貰えないと永遠に愚者として扱われるのだ。

 

 

(知ったような口を〜……。俺は弱えんだ。出て行ったところで負けんのは分かってんだよぉ。クソが…。そうだ…!!)

 

 

 悔しそうな顔をしていたが、直ぐにニヤリと笑う。

 

 

『ヒッ!ヒヒヒッ、言われなくても出てってやるサァァァ〜!!』

 

 

 背中からビリビリと音を立てて剥がれるように悪魔イルが這い出てきた。筋肉質な体とは違って枯れ木のように細い手足に長い爪、鷲の嘴のような鼻に、耳まで裂けた口をしたイルが悔しそうにパチュリーを睨みつける。

 

 

『ウケケケケェェ〜ッ!!』

 

悪魔(ほんたい)が出てきた…!一気に決め──」

 

「パチュリー様、後ろ!!」

 

「!?」

 

 

 パチュリーが振り向いた瞬間、意識を失っている凪が飛びかかりガシッと掴みかかり押さえつけた。それは羽交締めと呼ばれるものでパチュリーが本を開けないようにした。一般人よりも貧弱なパチュリーでは振りほどくことは出来ない。

 

 

「なっ、何でっ!?」

 

『背中を見てみな、夢魔』

 

 

 小悪魔は凪の背中に目を向ける。

 背中にはニヒルな笑みを浮かべたお面のような顔が貼り付いていた。あれはイルの一部であった。

 

 

『これが俺の秘技さ。自分の一部を残せば操れる。魔女みたいに技をつけるなら、その名も…『悪魔的双子(ワイフィッシング)』!我ながら天才的命名!グハハハハハ!!』

 

 

 本体であるイルは相手の背中に自分のもう一つの顔を貼り付ける事で、まるでラジコンのように相手を自由自在に操れる。それはイルの思考をもう一つの顔がアンテナのようにキャッチしているカラクリだ。

 

 

『そのまま押さえとけよ。ヒヒヒ…、おい夢魔。お前の主人が死ぬところ見とけよ。俺の爪を突き立て内臓をぶち撒けさせてやる。そしたら腸をマフラーみたいにお前の首に巻いてやるよォ!ウケケケケ!!』

 

「くぅっ!?」

 

『死に晒せェいっ!!』

 

 

 ガキンと鈍い音がする。

 あの時一箇所にまとめておいた魔法壁がパチュリーの腹部に刺さらないようにガードした。だが魔法壁はあの時にひび割れており、長時間は耐えられないようで今の一撃で更に深くなっていた。

 

 

『無駄な抵抗しやがって…!ウキャキャキャアァァァ〜〜〜ッ!!』

 

 

 連打連打連打。

 破片が舞い、ヒビが広がっていく。パチュリーは壊れないように壁の方に気を集中させるが凪の力が強く、体が悲鳴を上げていた。小悪魔は凪に殴りかかる。

 

 

「パチュリー様っ!!こっ、このぉっ!!」

 

『ふんっ!』

 

「きゃっ!?」

 

『無駄無駄!お前には何も出来やしねえよ!黙って見てろ!』

 

 

 だが意味はない。簡単に蹴り返される。転がり、土を被りながらパチュリーを見て、改めて自分の無力さに絶望する。イルの言葉に苦しみ、頭を抱えて悲鳴を上げた。

 

 

「あ、あぁ…、ああああァァァーーーッ!!主人も守れないっ。私は何も出来ない…!」

 

「前を…向きなさい…!!」

 

「──!パチュリー様…」

 

 

 主人が名前を呼んだ。

 血の塊を吐き出しながらパチュリーは小悪魔に言葉を発した。

 

 

「げぼっ…、っぁぁ……私との契約を忘れたの…っ、こあ!!」

 

「!」

 

「契約を破って…、はぁはぁ……私の顔に泥を塗ったら許さないわよ…!前を向きなさいっ。自分にできることを模索しなさい!諦めたら…呪うからね……ごはっ」

 

「私にできること…。私にしか出来ないこと……」

 

 

 考えろ。

 自分自身にしか出来ないことってなんだ。

 私の能力は夢魔らしく異性にしか発動しないような役に立たない能力だ。そんなのが何の役に立つ。いや、待てよ・・・。

 

 

(・・・異性にしか使えない能力)

 

 

 凪を見た。

 悪魔が体に潜んでいたら発動しなかったが、今はどうなんだ?悪魔イルと凪は完全では無いが離れているではないか。ならば私の言葉が、力が、届くのではないだろうか。

 

 

「・・・!」

 

 

 小悪魔は立ち上がる。

 パチュリーを羽交締めにする凪へと向かった。イルはその行動を見ていたが特に興味を持ったり、注意する気にはならなかった。何故なら小悪魔には何も出来ないことを知っていたからだ。誰だって1匹のアリを見て恐れることはないのと同じだった。

 

 

「凪さん、“パチュリー様を離して”」

 

『ああ"・・・?』

 

「“離しなさい”」

 

『!?』

 

 

 ()()()()()()()()()()この女を捕まえろという指示が頭の中に入ってきたので、指示通りに捕まえたのだが、彼女の言葉を聞いていたら不思議と力が抜けていく。ゆっくりとパチュリーを解放した。

 

 

『あ、れ……」

 

何をやっている!手を離すな!この馬鹿!!()()()()()()()()()()()()()!そんな女の言うことなんか聞くな!!聞く、な……。……い、……のか。………

 

 

 頭の中に響いていた言葉が消えていく。

 代わりに聞こえてきたのは、とても聞き馴染みのある声だった。震えながら凪はゆっくりと振り向いた。

 

 

「凪…」

 

「ナミ・・・?何で、君は今、病院にいるはずじゃあ・・・」

 

 

 そこにいたのは愛する妻のナミだった。彼女は優しく私の頬に手を触れ、そして抱擁をしてくれた。その匂い、皮膚感、呼吸音、温かさは間違いなく妻のものであった。『夢魔』という悪魔の特性として、もう一つ特殊な能力が存在する。それは対象の好きな人の姿になれるというものだ。本来は効率よく精気を奪うために備わっている能力だが、小悪魔は頭を使い応用させたのだ。

 

 

「ごめんなさい」

 

「やっ、やめ、やめろ!やめてくれ!謝罪なんてするな!」

 

「なぜ?」

 

「わ、私がクズだからだ。私こそが本当の悪魔だったからだ。愚かな私は怒りに全てを委ねて…、大門寺を殺そうとしただけじゃない。君に全ての責任を押し付けようとしたんだ。謝罪すべきは私の方なんだ」

 

「凪」

 

 

 ナミは凪の手を握る。

 じんわりとした温かさが全身に伝わった。

 

 

「誰だって必ず過ちを犯す。……そして、それは私も同じ。お互い、相談しないで1人で抱え込んだ。それが今回の事を招いたの。でももう終わりにしなきゃ。これからは罪を償うことをしなきゃ」

 

「私に変われるわけ……」

 

「変われるわ。だって貴方は1人じゃないもの」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間に凪は気を失った。

 大門寺を刺してからいつかはバレる、元の生活には戻れないという緊張や不安、恐怖で全身がボロボロになっていたが小悪魔のおかげでそれから一気に解放されたのだろう。

 

 小悪魔自身もその場にしゃがみ込む。力を使いすぎたのとパチュリーを解放をできたことで力が抜けていたのだ。倒れる凪を横目に呟く。

 

 

「・・・こんな安っぽい言葉で止められるなら初めからすんじゃないわよ。パチュリー様、あとはお願いします…」

 

 

 

 

 

 

『何やってんだっ!?』

 

「けほっ、あんなに馬鹿にしたあの子にしてやられるのはどんな気持ち?」

 

『うっ、うるせえぇっ!!』

 

 

 

 

──コキン……

 

 

 

 

『あだぁっ!?』

 

 

 再び爪を突き立てるが、いとも簡単に弾かれる。

 両手の拘束から解放されたパチュリーは瞬時に防御壁を再構築したのだ。力のないイルには破る術はない。自分の割れた爪を見て、ひぃいいと情けない声を上げる。

 

 

「・・・はぁ」

 

『あひぃいい……!!た、たた、頼む…!殺さないで…!』

 

「やめてよ。そんな風に媚びないで。あまりにも哀れで同情してしまいそう」

 

 

 炎の精霊たちがパチュリーの周りを舞う。

 パチパチと音を立てながら火花が舞い、次第に火花というよりも炎の塊へと大きさが変わっていく。

 

 

「勝手に自滅するなら見逃していたけど、私の従者に手を出したなら話は別よ。イル、償いはしなければならない。さぁ、久遠の炎に焼かれなさい」

 

『あ、ああ、あああァァァーーーッ!!??』

 

「火符『アグニシャイン』」

 

 

 暗闇に打ち勝つような熱線が、イルを取り囲むかのように広がっていく。炎はまるで舞踏をするかのように、不規則に揺らめきながら全身を包み込む。その瞬間、巻き上がり轟音響かせる炎の中に苦悶の声が交じり合い、まるで忌まわしきものが神聖なる浄化によって取り込まれていくかのようだった。

 

 

『ひぎゃああああ……ああ…ぁぁぁ……あ………』

 

 

 炎が徐々に高まり、悪魔の姿がその中でユラユラと影のように不安定になっていく。息つく間もなく炎に全てを飲み込まれ、最終的には灰となって空中に散りばめられていった。その美しくも厳かな炎は、まるで神聖なる浄化の儀式が完了したかのようだった。

 

 

「パチュリー様!お怪我は!?」

 

「フッ…、こあ。私を誰だと思ってるの?」

 

 

 バタン。

 爽やかな笑顔したまま地面に倒れ込む。

 

 

「満身創痍よ。もうダメ」

 

「パチュリー様ぁぁぁーーーっ!?!?」

 

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 その後のことは文さんの新聞で知った。

 女性たちに対しての性加害を行ってきた大門寺は直ったら牢屋にぶち込まれるらしい。家財も没収とのことで写真には憔悴しきっていた姿が見られた。

 

 凪は悪魔のせいではあるが有罪となる。だが未遂ということもあり軽くはなった。精神科にも通っているらしい。ナミは健気にも旦那が帰ってくる日を待っている。

 

 

 

 そして肝心の魔導書を盗んだ犯人だが・・・。

 

 

「俺になんか用?」

 

「え?俺がなんか盗んだって。そんな事僕がするわけないでしょ」

 

「机の本?これは……ええと…ひぎゃああああ!?」

 

 

 

「あ、ああ、ごごごめんなさ〜〜〜い!!」

 

 

 

 ねずみ男さんだった。

 現場に残された汚れや凪の証言、パチュリーの推測から絞り込まれ、その日のうちに咲夜さんによって捕まった。特に、彼の家の中にはクリーム塗れの魔導書が発見されたのが決めてとなったらしい。本来なら私が見つけるべきであったのにパチュリー様に尻拭いをさせてしまった。もっと成長しなければならない。

 

 

「やけにトイレの回数が多いと思ったけど…」

 

 

 トイレの際に、お宝の匂いに誘われて宝物庫内に侵入。ピッキングの才能があるので容易に開けた。半妖怪という事とあまりにも弱い妖力という彼の特性で中のセンサーには反応せずに簡単に盗めたらしい。

 

 

「ちょっと魔が差しただけなんですぅっ!そうっ、『魔』!悪魔!僕も悪魔の声に唆された被害者なんです!だからここから出してぇ〜!」

 

「…との事ですが、どうしますか?」

 

「ダメ。有罪(ギルティー)

 

「だそうです」

 

「ひぇえええーーーっ!!!!」

 

 

 ねずみ男は樽の中に両手両足を縛られた状態で入れられていた。レミリアの掛け声と共に上からドボドボと生クリームが流れてくる。

 

 

「もがががっ!?」

 

「謝れば許されるなんて、お菓子よりも甘い考えが通る訳ないでしょ。身も心も砂糖みたいにサラサラになってきなさい」

 

「もがーっ!今年もこんな感じで終わるのかー!!来年こそは金持ちにィィィがぼぼぼ………っ」

 

 

 

 パチュリー様はお咎めなしとなった。

 元々そんな事はするつもりはなかったらしい。レミリアお嬢様やパチュリー様に騙されたのかな。けどまぁ何はともあれ無事に終わって良かった。

 

 

「こあ」

 

「何ですか?」

 

「来年もよろしくね」

 

「こちらこそです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。
もうとにかく書き切らなきゃと急いで書きました。読みにくくて申し訳ないです。誤字脱字あった場合は報告してください。私の方でも読み直していこうと思います。

とりあえず今年は色々とありましたがありがとうございました。

来年はもっと書きたい日本妖怪があるので書いていこうと思います!!






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新年空腹大騒動!?①


新年あけましておめでとう御座います!!

 今年は始まった瞬間に色々と悲しい出来事がありました。
 どんな年になるのかめちゃくちゃ不安ですね。















 江戸時代中期。

 幻想郷が創立されるかなり前の時代の話だ。当時日本全国の人々は飢餓に苦しんでいた。大規模な土地開発や冷害により食べ物は何も取られず備蓄も尽き、人々は家畜だけではなく移動手段に用いられた馬を食い、犬や猫といったペットも食い、最悪なことに死人の肉を食らうという禁忌さえも行った。

 

 

「ひもじい……。正月だってのに……ちくしょぅ…」

 

 

 粉々に壊された家屋の中で、倒れた箪笥の中を漁る1人の男がいた。皮が浮き出ているくらいガリガリで、髪の毛も爪もボロボロとなっていた。明らかな栄養失調である。喉や腹の方に筋肉もないため一言声を出すたびにゼェゼェと息切れをしていた。

 

 

「一郎、何かあったか?」

 

 

 フラフラと歩きながら廃屋にもう1人男が近づいてきた。彼もその男と同様に栄養失調である。

 

 

「次郎か。何もねえ。そっちは?」

 

「・・・」

 

 

 首を横に振るい否定する。

 

 

「なぁ、俺たちも……っ」

 

「ダメだ・・・!!」

 

 

 漁っていた男は頑なに否定する。

 そして外の方を指差した。廃屋の外では目を逸らしてしまうほどの地獄絵図が広がっていた。生き絶えて冷たくなった乳飲み子の首に噛み付く母親、誰かを殺してその地肉を貪る子供たちがいた。

 

 

「俺たちがあんな事しちゃあなんねえ…!親が子どもを食うなんて…許されて良いわけがねえ」

 

 

 血の匂いと生肉の咀嚼する音と生き血を啜る音が聞こえる。嫌な匂いだ。本当に嫌な匂いが鼻につく。

 

 

「俺たちがどれだけ……どれだけ苦しくても、人の道から逸れたことはしちゃあならねえんだよ…!!」

 

「分かってるよ。分かってる。でもよ…このままじゃあ俺たち…っ」

 

「耐えるんだ。耐えろ…」

 

「クソが・・・っ。ん?おい、なぁ、()()はどうした?」

 

 

 アイツ。

 この男たちは実は3人組である。一郎、次郎、三郎と三兄弟みたいな名前だが兄弟ではない。ただの同級生なのだ。幼少期からずっと一緒で、大人になっても農家として共に頑張ってきた。1人が困ったら2人で助け、2人が困れば1人が助けるくらいに仲が良かった。まさに竹馬の友だった。

 

 

「そういやぁ…見ねえな」

 

「何やってんだ。いや、まさか…」

 

「おい、行くぞ」

 

 

 走る力は残っていないがそれでも体に残った力を使い急ぐ。歩き回った先に辿り着いたのは竹藪だった。よく子どもの頃に遊びまわった思い出の遊び場だった。そこにアイツはいた。何かが倒れており、その前でグチャグチャと音を立てて何かをしていた。

 

 

「お、おいっ、三郎、何をしてるんだ」

 

「うぐぅ……っ!?」

 

 

 驚き、振り向いたもう一人の仲間の口は真っ赤に染まっていた。滴る血液が地面に跳ねたところで口を動かすのをやめた。

 

 

「お前…、まさか…」

 

「やりやがった…」

 

「ちがっ、違う!俺はただ腹が減って…、そしたらこの女が……っ!!」

 

 

 言い訳をする仲間に駆け寄り、首元に掴みかかる。“ひぃいい”と情けない声を上げた仲間の服は血に濡れて、その冷たさが手のひらに伝わってきた。やるせない気持ちと怒りきれない感情に手を離し、涙を流す。

 

 

「これも全部アイツらのせいだ…」

 

 

 絶対に人の道から外れたことはしない。そう決めたのに空腹のせいで仲間がそれを破ってしまった。その全ての元凶に怒りが湧く。

 

 

「幕府の奴らは俺たちを助けもせずに、自分たちだけ美味いもんを腹一杯食ってやがる」

 

「この恨み、決して消えることはない。俺たちは永遠に呪い続けてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新年!あけましておめでとうございます!!」

 

 

 幻想郷にも新年がやってきた。

 外の世界では2024年を迎えたのだが、ここにそういうものがあるのだろうか。分からないが人々が楽しそうにしているのならどうでも良いことなのだろう。皆んな楽しそうに笑い、子どもは凧を上げたりコマを回し、大人は餅をついて食べたり酒を飲んだらと楽しそうだ。

 

 

「ケッ。なーにが“あけまして”だヨ。あけてもあけなくても喜んでるくせに全くおめでたい奴らだぜ」

 

 

 ただ1人、楽しそうにしていない奴がいた。

 それこそ我らがねずみ男である。年末から年明けにかけて紅魔館でお仕置きをされていたり、お金を没収されたせいで楽しい食事とはかけ離れた生活を送っており、いつにも増してイライラとしていた。

 

 

「どいつもこいつも楽しそうに…。ちぇっ、ちぇっ!楽しい正月なんかぶっ潰れちまえってんだ。あーあ、帰っても飯なんかねえし……。霊夢ちゃんのところでも行って餅でもごちそーになろうかなァ」

 

 

 歩けば歩くほど腹が減る。

 どんな生物も空腹になれば刺々しく意地が悪くなってくるものであるからか足元に咲く花なんかをわざと踏み潰し、小便をかけたりして、向かっていた。

 

 

「ダメだ…ッ、もーダメ」

 

 

 だが人里から博麗神社まではかなりの距離があり、段々と足がフラフラになってきた。()()()()()()空腹度も高まり、遂には歩くのをやめてしまう。その場にうずくまってしまう程の飢餓感に襲われて指先から水分が失われていく。

 

 

「腹…、減った……。死ぬぅぅ……」

 

 

 ねずみ男は手を伸ばして足元に生えていた雑草を引っこ抜く。土まみれで如何にもどこにでも生えており誰からも気にされないような汚らしいその雑草を口の中に放り込む。昔から空腹には慣れている。漁るゴミが無いのなら地面に生えている草や転がる石のようにもう何だって良かったのだろう。

 

 

「むしゃ…んぐっ…ふぅ〜」

 

 

 胃の中に食べ物を入れたのが上手くいったのかは不明だが、不思議と飢餓感は無くなっていき気持ちも落ち着いてくる。とても気怠かった気持ちも晴れていき、ゆっくりと立ち上がる。

 

 

『・・・』

 

「ゲゲゲッ!?」

 

 

 立ち上がった瞬間に気づいた。

 ──3()()()()()()()()()()()()

 

 

「な、なな、何だテメェらッ!?」

 

 

 目の前に立っている3人は共通しているのはその姿。三者三様全く同じの人間の姿をしており、頭には頬被りを巻いており顔は見えなかった。服装は農家のような格好をしていた。ただ1人だけは錫杖を握っており、手はミイラのようにカサカサではあるが包帯が巻かれているのを確認できた。

 

 

『ふんっ!!』

 

「うべぇっ!?」

 

 

 錫杖で殴られ、地面に転がった。

 

 

『我々は……ひだる神だ』

 

「ひっ、ひだる神…!?」

 

『素直に餓死すれば良かったのに、無駄な抵抗をしおって』

 

 

 ひだる神。そう名乗った錫杖を持つリーダー格の妖怪は残り2人に向かって顎をクイと動かすと、2人はゆっくりと頷いてねずみ男を押さえ付けた。両腕をがっしりと掴み、逃げれないように拘束する。

 

 

「おっ、おい、何すんだ!離せ!会話をしよう!だから暴力は絶対にダメぇぇぇ〜〜っ!?!?」

 

『我々はひだる神。憤怒の化身……』

 

「はあ!?」

 

『貴様のような今を生きる者は平気で食べ物を残し、捨て、感謝もしない。よって粛清する』

 

「しゅ、しゅしゅしゅくぅぅう〜〜〜っ!?!?」

 

『そうだ。粛清だ。貴様も我々の仲間となり、今を生きる人間達に怒りの鉄槌を下すのだ』

 

 

 そう言うと無情にも錫杖でねずみ男を突いた。ギャアアアアアと叫び声を上げて、数秒経つ。ねずみ男の身体には何も変化は起きていない。

 

 

「ひえええ・・・え?」

 

『?』

 

『どうした?』

 

『い、いや、何でもない』

 

 

 首を傾げたリーダーはもう一度突く。だが変化はない。後ろの2人も動揺していた。

 

 

「おい!何度も腹を突くのが粛清だってのかよ!?」

 

『な、何故だ…』

 

『まさかコイツ』

 

『食べ物を粗末にしたことないのか!?』

 

 

 パッとねずみ男から腕を退かす。

 解放されたねずみ男は戸惑っている3人に段々と腹が立っていき、形勢逆転。今度はねずみ男がひだる神リーダーの胸ぐらを掴み、怒鳴る。

 

 

「テメェら!全員そこに正座しやがれぇぇぇーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 里と博麗神社の中間地点あたりで、岩の上に座り怒っているねずみ男と正座をして気まずそうにしている3人がいるという何とも言えないシュールな光景が広がっていた。

 

 

「それで…何でこんな事したんだ?」

 

『・・・』

 

「黙ってないでハッキリしやがれ!!」

 

『・・・我々は元々餓死した人間だった。死後、妖怪となり人間達の生活を見ていたら食べ物を粗末にしているのが分かり……怒りが込み上げてきた』

 

「だから誰でも良いから取り憑いて殺そうとしたってわけだな」

 

『これは復讐なのだ。食べ物を粗末にする人間たちに食べ物の大切さを身に染みて教えてやるのだ』

 

「ハァ〜。なんて小さい奴らだ」

 

『何だと?』

 

 

 ねずみ男の発言に怒る3人。

 しかし怯むことなく馬鹿にするように頭をトントンと叩いて煽る。

 

 

「小さいって言ったんだよ、馬鹿。せっかく妖怪になって蘇ったのにやる事がただの“八つ当たり”なんて小さいにも程があるっての!」

 

『我々の浄化活動を八つ当たりと罵るとは・・・!』

 

『この若造が…!言わせておけば!』

 

『死ぬほどの空腹を味わった事がないくせに我々の事を語りやがって!』

 

「正論だろうがっ。それになお前らのやり方じゃあ、博麗の巫女とかいう無茶苦茶な奴に祓われるのがオチだっつうの」

 

『では……、ではっ、どうしろと言うのだ!!』

 

 

 その言葉を聞いた瞬間に、ねずみ男はニヤリと笑う。ヒゲをビビビと動かして胸を張り、大きな声で言った。

 

 

「お前らの力をビジネスに使わねえか?」

 

『びじ…?何だ、それは』

 

「ビジネス。つまりは社会貢献だヨ」

 

 

 3人が首を傾げた。

 ねずみ男はベロベロと舌を動かして続けた。

 

 

「お前らの気持ちは理解できる。俺だって毎日空腹でゴミを漁る毎日だからな。でも暴れて餓死させるだけってのはダメだ。アイツら、人間には怒りは伝わらねえからな。ならどうするか?答えは人間達にも身を持って空腹の辛さを味わってもらい反省させるんだ」

 

『・・・なるほど。確かに餓死させれば反省はできん』

 

『退治されたくもない。この男の言うことも正しいかもしれん』

 

『具体的には?』

 

「ンフフフ…。ちょいとお耳を拝借…。ゴニョゴニョゴニョニョニョニョ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 ぷくぅと餅が膨れ上がる。

 こんがりと焼けた餅を箸でひょいと持ち上げて、醤油を塗って海苔を巻いて一口。別にいつでも食べようと思えば食べられるが、正月に食べるからこその特別感もある。

 

 

「ん〜〜!やっぱり餅は美味しいな」

 

「流石に磯部焼きは食べ飽きた。こう、小豆とかきな粉はないもんかね」

 

「妹紅は贅沢だなぁ〜。餅というのは醤油と海苔!これが至高なんだぞ。それ以外は邪道だよ」

 

「慧音、贅沢とかってレベルじゃねえよ。朝から磯部焼きだぞ。飽きるに決まってるっての。ちぇっ…残りはやるよ」

 

「んむんむ……ごくん、残すのか?」

 

「流石に腹一杯だよ。ヤニ吸ってくる」

 

 

 そう言ってタバコを取り出し口に加えて出ていく。指をパチンと鳴らし火をつけて吸う。慧音はタバコを好まないので外で吸う事にしているのだ。

 

 

「ぷはぁ〜…、寒いとこで吸うタバコは格別だなァ………ぐはっ!?」

 

 

 

──ぐぅううぎゅるるる

 

 

 

(嘘だろっ、あんなに食ったのに…!?腹が減ってきやがったッ!?)

 

 

 

 タバコを落とし、その場に蹲る。

 グゥグゥギュルギュルと腹が鳴り響き、あまりの空腹に思考がぐちゃぐちゃになる。

 

 

「は、腹が…減った……」

 

「おんやぁ〜、どうしたのかナ??」

 

「テ…メェ……は…」

 

 

 妹紅の前に現れたのはねずみ男だ。

 以前少しだけあったくらいの仲であり親しくはない。背中に沢山の重箱を背負うねずみ男は蹲る妹紅の前にしゃがみ込む。

 

 

「妹紅さん、でしたっけ?こんな所でどうしましたか?」

 

「……ッセェ、他所へ行け」

 

 

 

──グゥウウゥゥゥ〜〜〜

 

 

 

「おやおやおやおや」ニヤニヤ

 

「〜〜〜〜ッ!!??」

 

 

 腹の音を聞かれて赤面する妹紅。

 その反応を見て、ねずみ男は愉快そうに笑うと重箱を取って、妹紅の前に差し出した。

 

 

「ンフフフ。お腹が空いたのなら言ってくれればいいのに。これ食べますか?」

 

「こ、れは」

 

「“おせち”ですよン」

 

「くぅっ」

 

 

 これ以上は我慢できない。

 この異常な空腹には耐えられずねずみ男の差し出した重箱に手を伸ばすが、ねずみ男は取られる前にひょいと持ち上げた。

 

 

「何の真似だ…っ、助けてくれるんじゃ…」

 

「助ける?これは商品でしてね。悪いんですけどボランティアじゃないんです。ンフフフフフ」

 

「商品だと…?」

 

「実は僕ちゃん、今おせち売りっていう商売してましてね。どうです?一つ、10000円ですけど買いますか?」

 

「たっか…!?そんなの買うわけ…っ」

 

「あっそ。なら勝手に餓死しとけばぁ〜」

 

「そう…させて……もらうよ…」

 

「まっ、餓死なら……きっとお笑い草でしょうけど!うしゃしゃしゃ!!」

 

「──っ」

 

 

 その言葉に妹紅の思考にとある人物が浮かび上がる。真の意味の殺し合いができる関係であるアイツに餓死して蘇った事を知られたら、どんなに馬鹿にされるだろうか。そう考えたら死ぬに死ねない。他の奴らには笑われても関係ないがアイツに馬鹿にされるのは耐えられない。

 

 

「ま、て…」

 

「ん?」

 

「一つくれェ…。ほらっ、中に一万円が入ってる…。取りやがれ」

 

 

 そう言って財布を投げつけられる。

 ねずみ男はオトトと言いながらしっかりとキャッチすると中を開ける。財布の中にはポチ袋が入っており、どうやら誰かからお年玉を貰ったのだろうと推測できた。そのポチ袋を開けて一万円取った。

 

 

「毎度ありィ〜。ほらよ、しっかり食ってくれ」

 

「うぅぅ……うっ!?何だこりゃあ!」

 

 

 重箱を開けてみれば中には雑草がこれでもかと入っていた。詰め込まれた雑草を手に取ってみるとそこら辺の地面に幾らでも生えているただの草にしか見えない。

 

 

「何って見りゃあ分かるでしょ。薬草おせちよ」

 

「薬草、だと!?馬鹿にしてんのか…。これはどこにでも生えてる雑草だ…」

 

「薬草って言ってるでしょ。無知なあんたに教えてやるけど、これは妖怪の山の奥底の川辺の謎の洞窟の先にある地底世界から持ってきた伝説の薬草なの。疑うなら食べてみなさいよ。一口食べれば空腹も収まるからさ」

 

「・・・背に腹はかえられぬ、か。南無三……ッ、ぱくっ」

 

 

 もしゃもしゃと苦くて青臭い草を噛み締める。口全体に広がる苦味とエグ味に何度も吐きそうになるが、グッと堪えて必死に飲み込む。

 

 

「うぐぅ…っ、ふぅ…っ、あれ?」

 

 

 腹に入った瞬間にあんなに自分を苦しめてた飢餓感が無くなった。全身に力が漲っていく。ゆっくりと立ち上がり、重箱の薬草とやらを拾って観察してみた。

 

 

(本当に薬草だったのか?でも、どこからどう見てもただの雑草なのに…)

 

「タバコ、吸い終わったのか?」

 

「!!──慧音」

 

「私も腹一杯になってな。くぅ〜…気持ちいいな、外の空気は」

 

 

 体を伸ばし気持ちよさそうにする慧音。

 そういえばねずみ男は?と辺りを探すが、奴の姿はもうどこにもなかった。

 

 

「ん?何だその雑草の山は」

 

「あ、ああ。実はこれな・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

「ングフッ、グフッ、グフフのフ〜〜〜♪実験はァッ!うーまくいったぞ〜ん!いひゃひゃひゃひゃひゃ」

 

 

 物陰で笑うねずみ男。

 一万円を握りしめて愉快そうに笑っていた。

 

 

「ひだる神達を使って人間達を腹ペコにさせる。無知な奴らはどうする事もできずに苦しみ続けぇ〜……藁にも縋りたい時に俺様が参上!!そこら辺で摘んできた雑草を、薬草と嘘ついて売りつければァ〜!原価もかからず大儲け!!やっぱり俺って大天才〜〜♪」ウシャシャシャ

 

 

 そんな彼の背後から幽霊のように姿を現したひだる神3人組。ねずみ男はヨォと軽く挨拶をした。

 

 

「どうよ。そっちは?」

 

『・・・上手くいったぞ』

 

「どぉれどれ?……おぉっ!!」

 

 

 こっそり覗けば、道端に老若男女問わず様々な人間達が腹を空かせて苦しんでいた。楽しく凧を上げていた子どもも、談笑していたお母さん達も、こたつに入っている老人達も涎を垂らして食べ物を求めて転がっている。腹を空かせた赤ん坊は泣いていた。

 

 

「お腹空いたよぉ」「苦しい…っ、苦しいよ」「あんなにお腹いっぱいだったのに」「眩暈が…っ」「うううっ」「おぎゃあ…おぎゃあ…っ」

 

『人間達よ、苦しめ苦しめ。我らはもっと苦しんでいたのだ。ヒヒヒ……笑いが止まらぬわ!』

 

『『・・・』』

 

 

 ねずみ男と同様にゲラゲラと笑う1人のひだる神。3人の中で一番人間達が苦しんでいる姿を見て喜んでいるのだが、錫杖を持ったリーダーともう1人は笑ってはおらず、不思議なことに俯いていた。

 

 

『ねずみ男』

 

「ヒヒヒ、何だよリーダーさん」

 

『赤ん坊はやらなくても良かったのではないか?』

 

「・・・はア?何言ってんの?」

 

『確かに我らは人間達を苦しめたいと思っているが、それは食べ物の大切さを伝えたくて……だな。それで、その…』

 

「君、……オモチロイねぇ。ひだる神のくせに人間の味方なんてするんだ!」

 

 

 ねずみ男はリーダーの肩をガッと掴み、引き寄せる。

 

 

「コイツらは食べ物を無駄にした悪い奴らだ。気を使う必要なんかねえんだよ。・・・それともお前の怒りはこんなものか?」

 

『・・・っ』

 

「赤ん坊も腹を空かせて苦しんでいる。そんな姿を見せられれば、人間達は必ず反省するから…!なっ!俺を信じろ!俺に従えば、人間達は必ず食べ物を大切にするからよ」

 

『・・・』

 

 

 黙るリーダー。

 何かを言うとしていたもう1人のひだる神も口を噤んでしまう。一方、愉快そうにねずみ男と3人目のひだる神はゲラゲラと肩を組んで楽しそうだった。

 

 

「さぁて、どんどん腹を減らしていけ!」

 

『おうよ!任せてくれ!人間達に復讐だーい!』

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「新年1発目の新聞の内容はどこに転がっているのかなぁ〜」

 

 

 射命丸文が里へと向かっていた。

 何かイベントが起きるとすれば博麗神社なのだが、ここ最近は人里で不思議なことが多発している。どれもこれも『例の男』が原因だというのも既に掴んでいる。

 

 

「ここ最近幻想入りして、未だ妖怪に食われずに生活している謎多き存在……『ねずみ男』。数回くらいしか見かけなかったけど、彼を観察していれば必ずとくダネが〜〜!ぐふふ」

 

 

 里に辿り着く。

 そして到着した瞬間に里の全体を撮った。見慣れている光景が広がっているのだが、すぐに分かるくらいの異常があったからだ。

 

 

「何これ・・・」

 

 

 里の殆どの人間達が一ヶ所に集まっているのだ。その異常性は不気味さを醸し出しており流石に面白がってはいられない。何があるのかとゆっくりと地面に降りて跡をつけた。するとそこには──。

 

 

「ねずみ男・・・?」

 

 

 里の中央には露店が一つ出ていた。

 そして里の人間達は全員そこに集まっていた。手には一万円札を握り、老若男女が重箱に手を伸ばす。

 

 

「はーいはい、押さないでね!ちゃんと全員分あるからネ!ねずみ男特製『薬草おせち』!」

 

「また腹が減った!俺にくれぇ」

「私に早く!早く!」

 

「この薬草はとっても貴重!本当なら一つ100万円するものだけど出血大サービスしちゃうわよん!なんとッ、一つ10000円ネ!!ンフフフ」

 

 

 ねずみ男から受け取った薬草を手に取り、口へ運ぶ人々。すると先程の苦しみが嘘だったかのようにケロリとしていく。腹を空かせていた人たちがただの草を食べただけで元に戻っていったのだ。

 

 

「ちゃんと大切に食べなさいよ。中の薬草には限りはあるんだから、一つ一つ感謝するんだからネェ!」

 

(儲け儲け!大儲けェェ〜!!()()()()()()()()()()()()()()!また腹が減る恐怖を思い出せば、俺様に頼ってくると思ってたけど!大成功みたいねぇん!)

 

 

 

 

 

 

 

「私にも一つ……」

 

「はいはい…って、何だお前さん」

 

 

 人が減ったからかねずみ男に1人の女が近づいてきた。明らかに貧しそうな見た目をしており、一万円札を持っているようには見えない。

 

 

「お願いします。私にも薬草を一つください…。お金なら働いて返しますから……どうか、どうか…」

 

「金が無い奴はお断りだよ。さぁ、帰った帰った」

 

「そんな…このままでは餓死してしまいます」

 

「いいかい、おばさん。この世ってのは残酷なんだ。情とか心なんてもんは存在しない。金が無い奴は生きられないんだよ。死ぬなら俺が見てない所でやってくれな」

 

「う、ううぅ……!」

 

 

 泣きながら去っていく女。

 ねずみ男にとっては関係のない相手なので、直ぐに客の相手をするのに戻る。

 

 

『なぜ渡さない』

 

「うわぁっ…て急に出てくんじゃねえよ!心臓に悪りぃな」

 

 

 ねずみ男の背後から1人のひだる神が現れて問う。このひだる神はリーダーのように赤ん坊が腹を空かせている事に喜んでいない考えの持ち主であった。心の底から真剣そうに聞くひだる神に対して、ねずみ男は軽く流しながら答えた。

 

 

「ふんっ、金がねえんじゃ物は渡さないのは当たり前。ガキでも知ってるルールだヨ」

 

『だが困っていたぞ。本当に食べ物を必要にしているようだ。それに見ろ、貧民の者たちは誰も買えていないではないか』

 

「何だ2番目。偉そうに説教でもする気かよ?大体、人間を反省させるこの計画に乗ったのはそっちだろうがよ」

 

 

 ねずみ男はひだる神の肩にガバッと腕を乗せた。そして顔を近づけて言う。

 

 

「お前、食べ物を粗末にする人間が許せなかったんじゃねえのかよ。・・・見てみろ。お前たちの能力が効くって事はあの貧乏人たちも平気で食べ物を粗末にする悪だって事だ。アイツらもお前らの言う“裁かれなきゃいけねえ存在”じゃねえのか?」

 

『それは!……そうだが』

 

「この世ってのは悪い事をしたら必ず罰を受ける。そこに金持ちも貧乏人も差はねえ。そして()()にも差はない」

 

 

 ねずみ男は溢れるほど溜まった金を見せる。

 

 

「俺はその反省の形を金として集めてるんだよ。だから貧乏人は金を払わなくていいとはならねえ。無いなら無いで、あーやって空腹に苦しんで反省させられるんだ。お前らの大きい理想に合ってるし、俺も幸せになれる。Win-Winだろ。違うか?」

 

『・・・もういい』

 

 

 ひだる神は、ねずみ男の言葉を聞いて、一言言い返すと消えていった。ねずみ男は気にする事なくフンと鼻息を吐いてから営業に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お腹が空いた…っ、うぅっ」

 

「おぎゃあおぎゃあ……」

 

「ごめんね。せめて私のお乳が出れば…、坊やだけでも救えたのに……」

 

 

 あの貧しい女はこの家にいた。

 腕の中には細い赤ん坊がおり、腹を空かせて泣いていた。栄養がなく乳を出せない母親はただただ無意味に抱きしめ揺らしていた。意味のない事だと理解しているが、見捨てることはできなかったのだ。

 

 

『おい』

 

「は、はい…!?」

 

 

 声がした。

 振り向けば、背後に見知らぬ誰かが立っていた。自分たちと同じように貧相な姿をしており腕や足はガリガリだった。

 

 

「な、何でしょうか。…あっ、坊の泣き声がうるさかったのでしょうか。申し訳ありません…。すぐに静かにさせますから…」

 

『違う。赤ん坊は泣くのが仕事だ。それよりも手を貸せ』

 

「え、え?」

 

『良いから手を貸せ』

 

 

 言われるままに手を差し出す。

 正体不明の男は、女の枯れ木のような手を掴むと手のひらに指で『米』という漢字を書いた。書き終えると手を離す。

 

 

『手のひらを舐めろ』

 

「な、何を言って・・・」

 

『良いから』

 

「う……」

 

 

 訳がわからない。

 手を貸せと言ったり、手のひらに米を書いたり、更には舐めろという理解ができない。理解ができないが言うことを聞かないといけないと感じて嫌々ながら手のひらを舐めた。

 

 

「あ、れ……?あれ?あんなにお腹が空いていたのにっ、急にお腹が満たされた感じがする」

 

『ただの()()()()だがな。…さっさと、赤ん坊にもやってやれ。それじゃあな』

 

「はい!・・・って、いない?」

 

 

 感激し、自分の手のひらを不思議そうに眺めている間に男の姿は消えていた。一瞬その不思議さに固まってしまったが我が子の鳴き声に我に返り、赤ん坊にも同じことをした。そして赤ん坊に米と書いた赤ん坊自身の手を舐めさせると

 

 

「……きゃっ!きゃっ!」

 

「す、すごい。…きっと今のは救いの神よ。ありがとうございます。ありがとうございます…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「るんるんるん」

 

 

 少し時間を戻す。

 ねずみ男の事を陰から見ていた文はゆっくりとカメラを向けた。カメラのレンズはねずみ男に売ってもらえずに何処か寂しそうに去っていく女性を捉えていた。

 

 

「ひっど〜。まっ、カワイソだけど人間社会じゃあるあるか」

 

 

──パシャッ

 

 

 小さくシャッターがなる。安物の使いにくい『使い捨てカメラ』と呼ばれるこのカメラではちゃんと撮れているかは不安であった。今日持ってきたカメラはいつも持ち歩いている一眼レフではない。かなり前だが香霖堂で手に入れた大切なものだが少し動作が鈍くなってきているので河童たちに修理してもらっていた。

 

 

「謎の空腹現象と怪しい草を売っていること、関係大アリね。とくダネいただき──」

 

『こんな所にネズミがおったとはな』

 

「ひっ!?」

 

 

 振り向けば、人の姿をしているが明らかに人ではない雰囲気を醸し出している存在が1人立っていた。文の持っていたカメラに手を伸ばし奪い取ろうとしてくるが体を反転させて避ける。

 

 

「あやや。新聞記者の戦道具を取ろうとするとは非常識ですねぇ」

 

『・・・』

 

「おや。貴方、妖怪ですね。写真を奪おうとした事から考えると……どうやら貴方が人々を空腹にさせているのカナァ?そしてそれを利用して雑草を売りつけているとか。どうですぅ?」

 

『・・・好奇心は猫をも殺すぞ』

 

「わっかりやすい脅し文句。肯定しているもんですよ、それ。あっは」

 

 

 謎の存在の言葉には怒気が含まれていた。

 プロ根性というべきか、流石の文はそんな脅しには屈しない。新聞記者としてのプライドがあるのでカメラをしまい、代わりにペンと手帳を取り出す。

 

 

「でも私、()()()()()じゃあ無いんです。ただの新聞記者。色んな人に私の記事を読んでもらいたいだけなんで。・・・誰にもバラしませんから取材受けてもらえませんか?」

 

『どうやら……猫だけじゃなく天狗も殺されるようだ』

 

「交渉決裂のようです、ね……ぐっ…!!これ、は…これは……かなり強烈な空腹感…ッ」ギュルルルル

 

 

 射命丸文の腹が勢い良く鳴った。

 全身の栄養がなくなり、身体中が栄養を寄越せと暴れているようだ。一気に貧血状態になり膝をつく。

 

 

『貴様はここで死ね。この世で最も苦痛である飢餓によって・・・!!』

 

 

 そう言って、文のカメラを手に入れようと再び手を伸ばす。動けない相手から物を奪う事など赤子の手をひねるようなものだ。ほっかむりで表情は何も見えないが愉快そうなのは分かった。だから文はそんな自分の方が優位に立っている相手に一泡を吹かせようと服に手を入れようとした瞬間に──。

 

 

『!?』

 

「舐めんなッ!!おりゃあっ!!」

 

『うぐぅわァッ──』

 

 

 綺麗に決まった一本背負い。

 伸ばしてきた手に掴み、腰を回して吹き飛ばす。咄嗟のことに受け身を取ることができず頭から落ちてしまう。

 

 

『あが、が、が……ッ!!』

 

 

 ぐわんぐわんと揺れる頭。

 『よくもやりやがったな、この女』などと恨み言を吐き散らしてやりたかったが、それよりも先に出た言葉は

 

 

『ガガガ、ガ、ガ、ぁあぜ動けぅ!?』

 

「そんなの……貴方が『ひだる神』だからですよ」

 

『何を言ってる…っ!?』

 

「ひだる神。昔、私の一番偉い上司から聞いた特徴とあなたがそっくりでしてね。当たってるでしょう?」

 

 

 ひだる神は答えなかったが、その反応から“やっぱりな”と確信する。人が他人を知らないように妖怪同士でも相手が分からない事は勿論ある。だがひだる神はかなりの有名妖怪。それに山に住む者、特に知識人である天狗といった存在ならば山道で人に取り憑いて空腹させるのは『ひだる神』という妖怪の仕業であることくらいは知っていた。

 

 

「対処法は知っています。もし取り憑かれた時は、草でもなんでも良いから何か食べるか、()()()()()()()()()()()()()()()()()。この二つだとね。私がやったのは勿論後者ですが」

 

『この小娘…!!』

 

 

──シャン…

 

 

『何をしている。三郎(さぶろう)

 

『一郎・・・っ』

 

「もう1人いたんだ」

 

 

 シャンと金属がぶつかり合う音がこの場所に響いた。2人が向いた先には錫杖を握るもう一体のひだる神が立っていた。三郎と呼ばれたひだる神は気まずそうにして俯く。どうやら錫杖を持つ一郎と呼ばれるひだる神こそがリーダーのようである。

 

 

『姿が見えないと思ったら、貴様は何をしているのだ。まさか……その少女に手を出そうとしたのではあるまいな』

 

『ちが──…っ、こ、この女が我々の計画の邪魔をしようとしていて…』

 

『本当か?』

 

 

 一郎は文を見た。

 どうやら会話の通じる相手であると感じた文は別に戦う必要が無いので戦闘態勢を解いて、素直に話す。

 

 

「私はただ今回の異変を記事にしようと調べていただけで、邪魔するつもりなんてありません。この人の勘違いです」

 

『見え透いた嘘を──』

 

『黙れ』

 

『……ッ』

 

 

 一郎は文へと近づいてきた。

 多少は警戒していたが、敵意は感じられなかった。段々と近づくにつれて死体のような香りが鼻につくが気にしてられないほどの威圧感に、確かにこれは黙ってしまうなと心の中で思いながら、緊張で文はゴクリと唾を飲む。

 

 

『記者だと言ったな』

 

「は、はい」

 

『ならば、その取材をして貰おうではないか』

 

「──え?」

 

 

 まさかの快諾に言葉が詰まり、文はポロッと疑問の言葉のみを発してしまう。絶対に断られるか、もう1人と共闘して自分を潰してくるのかと思っていたので完全に不意をつかれてしまった。

 

 

『我々は“ひだる神”。この里で起きている空腹異変は……全て我らとねずみ男が引き起こしたものだ』

 

『い、一郎…?何言ってんだ、お前?』

 

 

 三郎の疑問は最もだ。

 ねずみ男に“バレたら巫女が来て消されてしまう”と言われたのに、自分からバラしてしまったのだから。だが一郎は三郎とは違い、どこか憑き物が落ちて軽くなったような様子であった。

 

 

『・・・ねずみ男と組み、里の人間達を空腹にさせていた時に気付いたのだ。子どもまで空腹にさせるのは違う、とな」

 

『ま、待てよ。ちょっと待てって!何言ってんだよっ、おい!?……人間の時を忘れたのかよっ。俺たちは飢え死にしたんだぞ。…コイツらを空腹にさせて反省させなきゃ……妖怪になった意味ねえだろう!!』

 

『初めはそうだった」

 

『じ、次郎…っ?!』

 

「まだ居たんだ……」ボソッ

 

 

 新たな3人目。

 どうやらこれで全員揃ったようだ。3人組のひだる神とねずみ男が共謀し、里全体に空腹異変を起こしていたのだ。

 

 

「だがな、一郎と私は気づいたんだ。我々のやっている行為は“八つ当たり”だとな。自分たちが飢え死にしたから、今食べ物に困っていない人間達をみて嫉妬しているだけだ」

 

『次郎まで・・・っ!!うわあああああああーー……』

 

 

 三郎は変わってしまった2人に耐えきれず何処かに走って行く。この場に残った2人は文の方を向いた。

 

 

「我らの言葉を全て記事にしてくれ」

 

「そして人間達に飢餓の恐ろしさと食べるものがあることの感謝を伝えてくれ」

 

「わ、分かりました…」

 

 

 文が記事を書きに去って行く。

 2人のひだる神は顔を見合わせてゆっくりと頷くと、里全体に広がっていた力を解いた。異常な空腹感は消し去り、全員が飢餓から解放される。

 

 

「これで良かったんだよな」

 

「良かったさ」

 

「・・・」

 

「恨み続けてやる……って心に決めた筈なのに。今は子ども達がしっかりと飯を食えている事を知れたらさ。怒りがだんだんと薄れてきた」

 

「飯を残す奴がこんなに多い事も知れたがな……。まぁ、そのくらい食べ物があるってわけだ。良い時代になって良かったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山の中に三郎がいた。

 木の株に座り、膝を抱き抱えた状態で座っていた。あの2人と違って未だに消えぬ怒りの炎に燃えながら、変わってしまった2人のことを思い涙を流す。

 

 

『ふざけんなよ…っ、ふざけんなっ。許せるわけがねえ』

 

 

 命を繋ぐ食事という行為。

 それが出来ない苦しみを知っていた。だからこそ平気で食べ物を捨てたり残したりする現代の人間達が許せない。

 

 

『でもアイツらがいなきゃ……俺には…っ』

 

「お困りのようだな」

 

『──!?』

 

 

 顔を上げれば、見知らぬ老人。

 しかしただの老人、いや、人間じゃないことだけは一目見て分かった。異様に発達した頭部と美しい着物が何故か不気味さを出している。

 

 

『き、貴様は・・・』

 

「なぁ〜に、儂の事など知らんで結構。それよりもコレを授けに来たのだ。受け取れ」

 

『これは?』

 

 

 渡されたのは緑色に曇ったガラス玉。

 手のひらの上に置いた瞬間にじんわりと温かみが広がっていく。まるで命そのものに触れているような感覚だった。

 

 

「これは貴様に()()()()()()()()魔法の玉。ここぞという時に飲み込むと良い。お前の望むものを与えよう。ハハハ!」

 

『・・・』

 

 

 そう笑うと最後に老人は言った。

 

 

「元気を出せ!!今の人間たちはいつでも食べられる食事に感謝なんかしない。だがな、それを思い出させるのは正しい心を持つお前だけなんだ」

 

『・・・!!』

 

「だが、良い事をしようとすると必ず障害が現れる。それでもな……諦めなければ乗り越えられると儂は信じておる。ひだる神の三郎よ…。お前が幻想郷を変えるのだ・・・!」

 

 

 老人の言葉に元気が湧いてくる。

 不思議な玉をギュッと手のひらで握りしめてお礼を言おうと老人の方を見た。

 

 

『俺がこの世界を変え、る……ってあれ!?居ない!?』

 

 

 しかしどこにも居なかった。

 お礼は諦めて、三郎は立ち上がる。幻想郷に住む生きとし生けるもの全てに食べ物のない苦しみと大切さを教えるために。

 

 

『それにしても何で俺の名前、知ってたんだろ・・・?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。

 今回のゲスト妖怪は『ひだる神』でした。
 ですが、まだまだ続きます。
 
 次回、ただ1人で暴走を始めたひだる神の三郎。彼が幻想郷に齎すのは希望か絶望か・・・。ことの顛末を知る謎の玉は鈍く光っているのだった。






 


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新年◻︎◻︎大騒動②


 どうもっす、狸狐です。
 大きな仕事がほとんど片付いて、やっと小説の方に集中できます。ペースを上げて投稿していければなと思います。

 話は変わりますが、皆さんは漫画ワンピースはお好きでしょうか?私はとても好きなのですが、その中でも特に好きなのはモリア様です。ペローナを育てた優しい一面もありつつ、クマに対して物怖じしない所も好き。能力も好きで、どう考えてもソルソルやホビホビなんかよりも強い。

 そんな彼が最近漫画に出ないのでとても悲しいな、と思う私でした。







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「おい、マジかよ」

「なんかおかしいと思ったんだ。俺は」

「騙しやがったんだな!?」


 新聞を握りしめて叫ぶ人間たち。
 ねずみ男の家へと向かう怒り狂う人々の中を反対方向に進む1人の亡者のような男。ふらりふらりとした足取りであてもなくただ歩いているだけだった。


『・・・ぁ』


 裏路地に入るとゴミ箱があった。蓋が開いており