転生先生テリま (物書き初心者)
しおりを挟む

始まり

かなり思い付きで書いています。
楽しんでいただけるとうれしいですが、
自己満足小説な感じなので、批判は受け付けません。

気分で書いて投稿するのでたぶん亀更新です。
ご了承ください。


「知らない天j・・・いや、空間か・・・?」

 

 テンプレなんだろうけど、これはマズイよく二次小説なんかである真っ白い空間ってやつだ。

 

 起きて早々に気が狂いそう、口で虚勢を張って冷静を装ってみても、頭の中は破裂寸前。

 

 必死こいて今まで何をしていたか思い出そうとするが、夢から覚めたときのように徐々に内容を忘れていく。

 

 どこで産まれ、どう生きて、どう過ごし、どう死んだか。それらが頭の中から抜けて行く。

 

 どれほどの時間が過ぎたのか、ようやっと冷静になれた時には大半の事を忘れていた。

 

 今思い出せるのは、朧げな人として過ごしていた時間とその知識、そして、死の間際の狂おしい想い。

 

 生きた死にたくない……。

 

 その想いに突き動かされるように周りを見渡してみる。

 

「…あれは、なんだろ」

 

 斜め上あたりに小さな点のような物があった。それが徐々に近づいてくる。

 

 それは手だった。漫画などで出てくる指先が尖った手の影が徐々に近づいてくるのだ。

 

 しかも、遠近感覚が狂ってなければ自分の身長の倍はあるように見える。

 

「・・・え!!ちょっ、なにそれ!!」

 

 必死に避けようと体を動かすが、まるで関係ないと言わんばかりにその手が自分をすくい上げて行く。

 

「ゎあああああぁぁぁぁっぁーーー!!!」

 

 すさまじい加速を感じているのに周りの景色は一向に変わらない。その奇妙な感覚に何時しか自分は意識を手放していた。

 

 

   ◆

 

 

 今、まどろみの中にいる。水の中で漂うな感覚の中、忘れてしまっていた過去を追憶している。

 

 追憶が終わりかけた時、頭の中をかき回されるようなノイズまじりの、

 

<…………オキヨ>

 

と、言う音が頭の中を響き渡る

 

「っがぁ~~…」

 

 俺はその瞬間飛び起き、のた打ち回った。今までに体験したことのない不快感と痛みだったからだ。

 

 それはまるで脳の中身を直接シェイクされたようなそんな不快感だった。

 

 そうして、のた打ち回っていると今度はちゃんとした言葉が耳に入ってきた。

 

「起きたようだな。…欠けし者よ」

 

 その声はまるで、老人のような、青年のような、淑女のような、少年のような、少女のような声だった。

 

 その不思議な声の主を探そうと周りを見渡す。

 

 その時、自分はどんな場所に居るのか漸く認識した。

 

 そこは宇宙空間のような場所だった。闇色の宇宙<そら>に煌めく星ぼししかない空間。

 

 そんな空間の中で、白い輪郭の巨人の闇よりなお暗い手のひらの上に俺だけが立っていた。

 

「……なんだ、ここ」

 

 俺は呆然としながら、自然とそんな言葉を口にした。

 

「ここは我の世界、外なる世界、旧なる世界、……管理者の住まう場所」

 

 巨人の方から声が響く。俺は答えが返ってきたのに驚いた。

 

 何せ、答えなど期待してなかったし、そもそも巨人が喋るとは思ってもみなかったからだ。

 

 パニックになりそうな頭を無理やり押さえつけて考える。

 

 この声の主が、管理者と言う者らしい事は理解した。だが、俺としてはそんな事よりも気になる単語があった。

 

 外なると旧なるである。

 

 その事を考えようとした瞬間、何故か勝手に知識の中から<デモンベイン>とその関連の知識が浮かび上がってきた。いわゆるクトゥルフ神話体系の話である。

 

「……ってことは、旧神ないしは、邪神ってことに…」

 

 俺は真っ青になって冷や汗を流しながら、声を震わせ言った。

 

 無理もない。かの神話体系の神を前にしたら人間なんぞ普通即死である。

 

「その通りだ。欠けし者よ。我は旧神が一柱《■ ■ ■ ■ ■》だ。我は汝に依頼したい事があってここに招いたのだ。」

 

「あ、あ、アナタ様のような万能に近い方が、わわわ、わたしのような屑で、ゴミで、塵芥な人間に依頼するですと!?」

 

 あれ今のセリフ、何か自分以外が混ざってるような。

 

「ふむ、強く刷り込みすぎたか…まあ構うまい。今から汝の置かれた状況と依頼の内容を説明する。心して聞くがよい。」

 

「あ、あの~~、依頼の拒否権などは~~…」

 

「あるとおもおてか、欠けし者よ」

 

《やっぱないんだ、どちくしょ~~~》と心の中で叫ぶも、旧神の語りは止まらない。

 

「まずは汝の事からだ。今の汝は魂<アストラル>の様な物だ。アストラルの海より汝を引き上げ、今回の依頼に必要な物を付け足した。」

 

「えっと・・・アストラルの海と、付け足したってのはどういうことなんでしょうか?」

 

「アストラルの海とは、輪廻の輪と言われる場と考えればよい。魂を浄化する場の事を言う。汝はその海で、魂の形も色もわずかばかり残っていたのですくい上げた。」

 

 なんか広大な海にコップ一杯の泥水(俺の魂)を流すイメージが浮かんだ……。よく無事だったな俺の魂……。

 

「付け足したと言うのは、欠損した汝の魂に依頼に必要な情報と力を我が欠損した部分に刷り込んだのだ。性格や人格に少し影響があるが構うまい。」

 

《構って、お願いだから……》と泣きが入る俺だが、《先程の違和感は、これか……》と、とも納得が出来てしまった。

 

「本題の依頼だがとある邪神が謀(はかりごと)をしておる。それを潰してほしい。」

 

「わ、わたしの様な人間なぞに邪神をどうやって潰せばよろしいのでしょうか……」

 

「なに、簡単な事よ。大十字九朗(だいじゅうじくろう)を錬磨し共謀すればよい。」

 

《……え、ちょ、まさかこの流れは…》

 

「汝には、マスターテリオンとして獅子身中の虫として働いてもらう。邪神もまさか始まりからこちらの思惑通りに動いておるとは思うまい。」

 

「あの、そうすると半邪神になって無限螺旋に囚われるって事ですか……」

 

「しかり」

 

《おわった。俺の魂……、原作の公式チートなテリオンさんでも狂った無限螺旋って……》

 

 滝のような涙を流しながら俺は崩れ落ちる。

 

「安心するがいい。先ほども申したが力を与えた、その中には魔道に対抗する力や無限螺旋において狂わずにすむ処置もしてある。」

 

《ああ、旧神様、ありがとうございます。一生ついて来ます》

 

 今度は、違う意味で泣きながら祈るゲンキンな俺であった。

 

「だが、心せよ。汝が己の錬磨を怠ればたちまち邪神に呑まれてしまう。呑まれてしまえば我は汝を消す事になる」

 

「……肝に銘じます」

 

「うむ、先も言ったがこれは依頼だ。成功すれば報酬がある」

 

「報酬ですか?」

 

「まず、先払いにも当たるが先に言った。知識と力、これはテリオンとして生きていく上で、必要な才能や身体なども含まれておる。原作知識もあるので有効利用するとよい。それと大まかではあるが前世の記憶も再構築されておる。」

 

「あ、ありがとうございます。」ああ、涙が止まらんよう~~。

 

「それと、無限螺旋の中では原作のテリオンの強さまでしかなれん。だが、それを無視し錬磨を続けナコト写本を強化し続けると、成功報酬に色がつく。覚えておくとよい。」

 

 無言でうなずく俺……。

 

「そして、成功報酬は銀河を一つくれてやろう」

 

《……は、銀河》

 

 その言葉に呆然となる、銀河ってどう反応すればいいんだろうね……。

 

「どうした、銀河だぞ。うれしくないのか?」

 

 旧神様も少し首をかしげた感じに聞いてくる。

 

「あ、あの~、銀河をどうしたらいいんですか?」

 

「ふむ、解り易く言えば好きな世界を一つくれてやると言う事だ。例えば汝の前世に近い世界やデモンベインの世界などだ。この報酬は今すぐに決めてもらう。でなければ、成功時までに間に合わないのでな。さあ、答えを聞こうか。」

 

《う~ん、色々と思い浮かぶけど、せっかくテリオンとしてがんばるんだ。それを活かせる世界で、なおかつ、ある程度ほのぼのとした世界観がいいよな~~。絶対病みそうだものデモベの世界…となると・・・あの世界がいいか》

 

「魔法先生ネギまの世界でお願いします。」

 

「うむ、用意しておこう。あと、細々とした報酬があるがそれは成功した時に話そう。汝に不利になる事はないので楽しみにしておくとよい。」

 

「はい。わかりました」

 

「では、そろそろ仕事に就いてもらおう。油断せぬようしっかり勤めよ。」

 

「逝ってきます!」

 

「うむ」

 

 そして、俺は徐々に意識を失っていった。

 




誤字脱字があればお知らせください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

依頼達成,そして旅立ち

無限螺旋終端にて……

 

 お、おわった~~~。やりきった、乗り切ったんだ、俺。

 

 一体何度諦めかけた事か、始めのころは大十字君も俺にあった瞬間バットエンド迎えてたけど、最後は旧神様になっちゃて大出世だよね~。

 

 まあ、俺も最後の最後にナイアさんには借りをこっそり返したからスッキリした。

 

 原作だと成仏した感じだけど、俺の場合は依頼主の所に密かに運ばれたみたいです。

 

 今、忠犬こと、ナコト写本<エセルドレーダ>のエセルと一緒に旧神の手の上に来ています。

 

 エセルがこちら向き、意思を確認してきます。戦うのかと……

 

「……マスター」

 

 そんなエセルの頭を撫でながら、契約のパスから旧神の依頼や報酬、前世の記憶などを流し込みます。

 

 すると、理解したのか目を細め気持ちよさそうに俺の手を受け入れてくれます。

 

 幻だと思いますが尻尾が千切れんばかりに振られています。

 

 デモベの世界で、がんばり過ぎたみたいだ。

 

 などと考えながら眉間を揉みながら色々と思い返してみる。

 

 

   ◆

 

 

 送り込まれ、ナイアさんに会って、エセルに会って、ナイアさんに呑まれかけて、エセルと愛し合って、ナイアさんに食われて、大急ぎで俺とエセルを強化して……。

 

 うん、まず思い浮かんだのが、肉欲と自己錬磨って……

 

 ああ、そういえば最初いろいろ物珍しくて俺もアンチクロスも大暴走してたよなぁ~~。

 

 アルちゃんが大十字君に会う前に、アルちゃんをアンチクロスが捕まえて来た時は焦ったよ~。

 

 まあ、アルちゃんの情報は、エセルに反映させてもらったけどそういえばエセルも暴走してるんだよねぇ~。現在進行形で。

 

 原作でアルちゃんが、ネロ(母)の魔道書から記述を移植してたいから、エセルもできるんじゃ、とエセルに相談したらできるらしい事が分かった。

 

 空きページさえあれば、エセルが読めんだ時に写本されるらしい。なぜしなかったのか聞いてみたら。

 

「今のわたし<ナコト写本>に満足してらっしゃるなら、余計な手を加えない方が良いかと、それに手を加えるならマスターの手で…」

 

 などと恥じらいながら言われ、あまりの可愛さにお持ち帰りした俺は、悪くないと思う……、うん。

 

 それ以降、時間があれば知識の収集に勤しんでいたらしい。

 

 らしいと言うのは最後の方、自分の事で大忙しだったからだ。最初は、写本する⇒俺に見せる⇒俺ほめる⇒エセル大喜び⇒写本する量ふえる、のスパイラル。

 

 いくら半邪神だからといっても限界は在る。

 

 最後の方になると、写本する量が多過ぎて主だった魔導書しか読んでいなかった。

 

 その時に今どの位の魔導書を蓄積したのか聞いてみたのだが。

 

 いやぁ~驚いたね。いつの間にか某食いしん坊魔導図書館になってた。

 

 エセルさん、あ、あんた、18万冊って……。 後で聞いたが、アンチクロスの魔導書や、ナイアさんの図書館の本も収集済みらしい。

 

 一体、どうやったのやら……。

 

 

 俺個人としては、自己錬磨(裏の裏の仕事)と、大十字君の相手、組織の運営(裏の仕事)で暇なんてなかったけど飽きは来る。

 

 なので、覇道にちょっかい掛けてみたり、大十字君と親しくなって裏切ってみたり、ウェストに肩入れしてみたり、ライカさんを弄ってみたりとナイアさんに怪しまれない為に色々やってみたのだが……、うん、我ながら外道な事が多々あった。

 

 ナイアさんが「やっぱり君も、僕らの同胞だよね。」と言われた時は、自分の部屋で落ち込んだ。今では「良い思い出」なのか?

 

 そういえば、一度だけウェストが最終大十字君(トラペゾ無し)とやり合って完膚なきまでに勝ったのには驚愕した。

 

 あの時は、ウェストに肩入れしてたから、色々協力してたんだけどいきなり。

 

「きたきた!きぃぃ~たぁぁぁ~~~のであぁぁぁ~~~~る!!!」

 

と、ギター掻き鳴らしながら狂ったように図面を引いて、あれよあれよという間に機体ができて、

 

「スーパーウェスト無敵ロボ29号DX未来を先取り、ああ、今、私輝いてる、2014!!」

 

と、やはりギター掻き鳴らしなから叫んでいて、気がついたら出撃。

 

 それで、そのドラム缶でデモンベインをフルボッコ……。覇道とアンチクロスは呆然、俺とナイアさん大爆笑。

 

 いや~、恐れ入ったよ。キチ○イの底力というか、ぶっ飛びっぷりと言うかに。

 

 あの時の、あいつと戦かったら俺でもキツイと思う。それ位の変体ロボだった。

 

 だが、もうそれ以降彼に協力するのはやめた。

 

 だってなんか進化して邪神すら倒しそうな勢いだったし……、一応、自分、半邪神ですから。

 

 

   ◆

 

 

 想い返せば本当に色々あったなぁ~、と思いつつ旧神に話しかけてみる。

 

「旧神よ、依頼は完了した。確認を頼む。」

 

「うむ、確認した。報酬の話をしよう。」

 

 ああ、本当に永かった。

 

 原作のテリオンさんが絶望し狂ったのも頷ける。あの世界、一歩裏に入ったら鬼畜に陵辱してくるからなぁ~(精神を)

 

 この旧神の加護とエセルがいなかったら途中で堕ちてたね。大十字君も言ってたけど、愛って偉大だよね。

 

「まず、世界。これは望み通りネギまに限りなく近い世界だ。好きにせよ。次に、今まで鍛えた肉体、精神、魂、魔導具などなどだ。そしてナコト写本、最後に我が与えられる物で汝が望む物を一つだけ与えよう。」

 

《いやいや、ちょ、待とうよ、旧神様。チート超えてバグってるから、俺(マスターテリオン)+エセル(魔道図書館)って、星が物理的に消し飛んじゃうから。さらに+1って、大丈夫か、ほんとに大丈夫なのか》

 

と、頭の中ではそう考えつつも顔は涼しげである。

 

 あの無限螺旋を超えてきたのは伊達ではない。まあ単なる見栄であるが。

 

「では、旧神よ。他の物語、いや世界に介入できる力がほしい」

 

「それはヨグ=ソトースの門のような物でよいのか」

 

「かまわない」

 

「なれば、その世界の管理者に了解をとるか、呼ばれるかしなければ介入が出来んが構わぬか?」

 

「十分だ、感謝する旧神よ」

 

「では、そろそろ汝等を転移、汝は転生になるか、をしよう。それと安心するがよい。次は母の腹を裂いて産まれると言うことはない。かの世界の人の因子と、我の因子を混ぜて無から汝を生み出す」

 

《まあ確かに安心だけど……。ってことは、俺、半邪神から半旧神に変わるって事。じゃあ、次からこの旧神が父上…!!》

 

「感謝する。・・・父上とお呼びしても」

 

「うむ、それでよい。汝の事は気に入っておるし、このまま邪神の種をばら撒かれても困る。ゆえに我が眷属に、息子になって貰う。では、かの世界に送るとしよう」

 

 旧神《父上》がそう言うと、俺の身体か徐々に蛍火のような物に解けて行く。

 

 そこで俺は、エセルの頬を撫でながら、

 

「向こうでもよろしく頼むぞ、エセル」

 

「イエス、すべては偉大なるマスターの御心のままに…」

 

「では、先に逝っている。」

 

 忠犬の様に気持ち良さげに撫でられているエセルと、

 

「我が新たな息子に幸多からんことを、万難を排し平穏たらんことを」

 

と、旧神の加護と守護を与えてくれる新たな父に見守られながら、俺は次第に意識が解けていった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

出会い

気がついてみれば其処は…

 

 

 

周りを見渡し。

 

「…………ふむ」

 

うん、何もない。俺は今、草原のど真ん中にいる。

 

取り敢えず簡易な探査魔術を走らせてみる事に、この世界で初の魔術、リハビリ代わりに丁度いい。

 

どうやら半径20kmに大型の生物はいないみたいだ。

 

そうこうしているうちに、慣れ親しんだ気配が側に現れた。

 

「遅くなりました、マスター」

 

と、エセルが言って近寄って来たので頭を撫でながら思案する。

 

取り敢えず人を探すか。時間と場所が分からなければ身動きが出来んし、微妙に残っている原作知識も意味がない。

 

「エセル、調子を診るついでに人を探す」

 

と、エセルに力を流し探査魔術を走らせさせる。

 

大体50kmの所に小さな集落があった。

 

「エセルあの集落の近くの森に跳ぶぞ」

 

「イエス、マスター」

 

そうエセルの返事を聞くやいなや、その場から誰もいなくなった。

 

 

   ◆

 

 

取り敢えず森から出てきた俺たちは集落、いや多分村なのだろう。

 

木の柵で囲われ、周りに川、畑、小さな草原。そして、俺たちがいた森。

 

見た所、中世はヨーロッパという感じである。俺達はその村の入り口と思しき門に歩いて近寄って見る。

 

「中世と言った所か……。エセル、特定は出来るか」

 

と、村の門を潜った辺りで聞いてみる。

 

「イエス、1500年±100年だと推測します」

 

どう推測したかは解からんが、何かしら在るのだろう。

 

「完全に中世、それも魔女狩りの全盛期。作為的だな、邪神にでもかどわかされたか……」

 

いや、むしろ幸運なのか。

 

俺が今持っている原作知識は、大まかな時系列と好みだと思われるヒロイン?のイベントの日時と場所と大まかな内容。

 

そして、原作舞台の場所(埼玉県麻帆良市)狂ったようにどデカイ木(光り輝いている??)まあ、最後の情報は使えるのかどうか解からんが……。

 

要するに、さっぱり解かっていないのである。

 

ヒロイン?のイベントの日時と場所と大まかな内容と言ったものの。

 

顔も名前も解からず、内容にデートやら、キス(仮契約?)が複数在った事から、勝手にヒロイン?にしているだけである。

 

前世の記憶が真新しい状態で選んだ世界だ。きっと、きっっと、男少数の女多数な世界観な物を選んだはず。

 

逆は、うん、多分ない…、きっとない…、昔から信頼のエロスだったはず。

 

今も昔も安心と信頼の俺だったはず……ってか信じてるぞ!昔の俺! 

 

まあ、この年代に時系列とイベントが少々引っ掛かっている。

 

原作は2000年代と言うことはだ。

 

この人物は原作開始時点で最低でも400歳、多くても600歳、なので不老もしくは不死者に間違いない。

 

現在の俺自身不死に近いはずならば丁度いい。

 

女なら、愛でるもよし、調ky……教育するもよし。男なら…まあ、そん時決めるか、間違いなく暇つぶしにはなる。

 

ティベリウスみたいなのなら、即抹殺だな。オカマで腐乱な変態なんて俺の世界にはいらん。

 

しかし、この村は少々妙だ。まだ、昼過ぎだと言うのに畑などに人がいない。

 

代わりに村の奥にあるみすぼらしい教会(十字架があるから恐らく教会だろう)周りに人の気配と結界??らしき物が張ってある。

 

十中八九、魔女狩りだろう。

 

もしも、これでお宝(ヒロイン?)があったら、間違いなくナイア<邪神>の罠だね。

 

もしくは、旧神<父上>の加護か……、まあ行けば解かる。

 

「エセル、丁度いい。本場の魔女狩りを見物しつつ情報収集をするとしよう」

 

「イエス、マスター。この世の全ては、マスターの思うままに」

 

そう言いながら、薄いベールにも劣る結界??を破らないように、俺たちは静かに入っていった。

 

   ◆

 

其処はスゴイ熱気だった。いや正しくは、狂気で狂喜、今から始まる事が待ちきれないと言わんばかりの大熱狂に大声援、いわゆる呪詛だ。

 

正直、「殺せ!!」だの「死んでしまえ!!」だの煩くて敵わない。

 

狂気としては、(個人的には)生温い感じではあるが、こう叫ばれては話しかけられん。へたに刺激したら暴動になりそうだ。

 

昔それで失敗したんだよな(大導師時代)最終的に力ずくで鎮圧したが……。

 

ふむ、情報収集はひとまず置いておいて、魔女狩りの方を見学するか。……はてさて、どん魔女が裁かれるのか。

 

そう考えながら磔(はりつけ)にされている人物を注視する。

 

   ◆

 

第一印象は、ボロとか汚いよりも小さいだった。

 

どう見ても年齢は10代入ったか入ってないか。身長は130ぐらいだろうか。

 

そんな幼女が木製の十字架に磔にされているのである。

 

キリストを思い出してくれるといい、ただ釘が石の杭のような物に代わっているが、おおむねキリストのあれだ。

 

磔にした人物はナイア<邪神>の親戚か何かなのだろう。どう考えても此方(こちら)のほうが痛々しいし上に邪神らしい。

 

次に目が行ったのが、瞳である

 

髪は金髪でボサボサ、顔や体、服は汚れでぼろぼろ、そんな中、瞳だけはランランと輝いていた。

 

まるでその瞳は、「負けない!貴方達には負けない!私は生きるだ!絶対活き抜いてやるんだ!!」と、叫んでいるかのようだった。

 

その瞳にこぼれぬよう涙を溜め、声が漏れぬよう硬く口を閉ざし、ただじっと耐え忍んでいる。

 

逃げ延びる。いや、生き抜くための機会をただじっと待っている。

 

そう感じた俺は、その時思った。

 

ああ、やはり人は美しいと。死を見つめ、迫り来る絶望いう逆境に逆らい跳ね除けその先に希望があると生があると希望を信じ戦う姿は美しい。

 

ちょっと前までならそんな人を叩き潰さねばならなかったが、今はそん仕事<呪い>はない。

 

全て自分の、俺の思い通りにやっていい。ならばと俺は考える。

 

彼女は美しい。俺に惚れさせたいし愛(め)でもしたい。

 

だが同時にあの瞳を屈辱にぬらし余の前に跪かせ。あの気骨をへし折ってやりたいとも思う……。

 

さて同時に手に入れるには、如何すれば良いか……。

 

そんな強欲極まりない事を考えながら、頬を吊り上げ、魔眼を煌かせながら、計画を練っていく。

 

 

   ◆

 

 

計画を決め、まあ、計画と呼ぶには陳腐だが……。

 

横に立っているエセルにその計画を伝えようと、顔を向けると……。

 

何故かエセルさんが悶えてた……。

 

あれ、俺なんかしたっけ!?

 

欲求不満で無意識の内にナニかしたとか……コワッ…、ドンだけ欲求不満よ、俺…。

 

あぁ~考えてもわからん直接聞くか。

 

「あ~、エセル、ナニがあった…」

 

「…ぃ、いえす…ますた~。その…ますたーの『イイ笑顔』がその…」

 

あ~~ 俺はよっぽどドSな笑顔してたいたんだろ~な~、エセル俺に対してドMだもんな~。

 

恐らく被虐心をくすぐられたんだろう。

 

エセルの悶える姿は、可愛らしいから個人的には見ていたいんだけど。

 

そろそろ、彼女を手に入れるために動くからエセルさん戻ってきて~~。

 

「いけるか、エセル」

 

「イエス、マスター、すいませんお時間をとらせてしまい」

 

「かまわん、ただし余(俺)の望む者を、全力を持って手に入れよ」

 

「イエス、マスター。総てはマスターの御心のままに」

 

と、言いながら、エセルさんの背中には、真っ黒な嫉妬の炎がたぎってた。

 

もう総(すべ)て妬(や)き尽せって感じである。

 

基本的にこの炎は俺には無害だから、これから先にぎやかになりそうだと無責任に楽しみにしている俺であった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔女狩り

 取り敢えず俺は彼女と交渉<契約>をする事に決めた。

 

 簡単に言えば交渉<契約>によって自分の意思で俺に縛り付けようと言う事である。

 

 まあ、失敗しても力ずくなんて方法もある。正直遊びな部分もある。

 

と、言う事で、再び情報収集を開始しよう。と、動こうとした時、さっきまで大絶叫していた観客が、潮が引くみたいに静かになった。

 

 何だと思い再び彼女に目を向けると、体型的に恐らく男だろう、それが四人ほど彼女に近づいて来ていた。

 

 四人とも全身白いローブ姿で身の丈ほどの木の杖を持っている。

 

 そして、彼女を囲い、まるで手負いの猛獣を相手取ってるかの用に睨み付けながら杖を握り締め、ゆっくりと周りに着いた。

 

 俺は大の大人が幼女に対して怯えてるってどう言う事だよ。と、思ったのだが、未だに緊張を解かない四人を見て、俺は何か見落としている事が在るのでは、と考え始めた。

 

 その時、彼女の斜め後ろにある教会の扉が盛大に開く。

 

 注目を集める為なのか勢い良く扉は壁にぶち当たり、かなり嫌な音が出ていたが……、いいのか聖職者、教会は神の家なんのだろうに……。

 

 そこから出てきたのは、痛々しくて直視出来ないような豪華絢爛な法衣を着た背の低い肥満のオッサンだった。

 

 そして、その小太りな親父が彼女の斜め前まで来て懐から巻き物のような物を出し読み上げ始めた。

 

「今より裁判を始める!被告は、己の一族郎党、使用人すら食い殺した悪魔のような吸血鬼、エヴァンジェリン・マクダウェル 裁判官は司教○×○ ○×○  1411年」

 

 ふむ、今は1411年のようだ。いい事聞いた。

 

 それと己の一族郎党、使用人すら食い殺す、の行(くだり)で彼女、エヴァでいいか長いし、が思い切り顔をゆがめた。一瞬だったが憎悪の表情だったろう。

 

 それにしてもエヴァは面白い。そして興味深い。

 

 もし、本当に不死に近い吸血鬼なら死を軽んじて結構簡単に死ぬはずだ。

 

 俺たち(テリオンとアンチクロス)みたいな人外から見れば、まだまだ、穴のある不死である。

 

 思いつくだけでも、傷口を塞げなくしたり、深海に沈めたりなどの弱点がありそうだ。

 

 だが、エヴァはもしかしたら吸血鬼では無いんじゃないかって位に死を恐れている。同時に、恐怖以上に生に執着している。

 

 これはこのまま成長したら、油断も慢心も無い吸血鬼っていう人間にとっちゃあ厄介な化け物が生まれそうだね。

 

 まあ、まだエヴァが吸血鬼かどうかなんてまだ確定してないし、拷問か、処刑前に動き出せばいいでしょ、うん。

 

と、考えをまとめていると司教が口を開いた。

 

「通常、質疑応答や検査などをして魔女と認定しますが、魔法使いの隠れ里に住まう皆様なら吸血鬼と言う存在がどれだけ邪悪で、醜悪で、凶悪な存在かご存知のはず。なので、このエヴァンジェリンが吸血鬼であると、動かぬ証拠をお見せしてその後すぐに不死殺しの宝剣で処刑します。よろしいですね」

 

 その話の最中エヴァは徐々に顔色が悪くなり瞳の光も弱くなってきたが、司教が話し終えた後も、弱くはなってもその光を宿した瞳で司祭を睨んでいた。

 

 普通はもう詰んでるよね、この状況。

 

 周り全員魔法使いらしいし不死殺しの宝剣で処刑、なのにあの目はまだ諦めてない。

 

 昔から、あきらめの悪い奴の所には神様が手を差し伸べてくれるんだよ。

 

 イイ神か、ワルイ神かは、わからないけが……。 

 

 まあ、今回のその役所は俺が貰うけがね。

 

「では、証拠をお見せしましょう」

 

 司教はそう言い袖口から出した短剣で、エヴァの手首を切った。

 

 普通ならこれで致命傷である。

 

「っっ~~」

 

 だがエヴァはかなり痛いはずなのに、痛みをかみ殺し涙を流しながら司教を睨みつける。

 

 次の瞬間、吹き出していた血が止まり始めから無いかのように傷が消えた。

 

 周りがざわめき、また呪詛の大絶叫が響き渡る。

 

「これが証拠です。では、判決!エヴァンジェリン・マクダウェルは吸血鬼であり、魔女であるため死刑に処す!執行人構え」

 

 その言葉と共に微動だにしなかった白ローブ達が一斉に剣を抜き、それぞれが別の急所を狙う。

 

 それでもエヴァは、周り見て抵抗しようともがいている。

 

 もう無理だろうと俺は次の準備に取り掛かる。と言っても力を流すだけで大半はエセルがもう済ませてくれている。 

 

 そして、司教が大声で「刺せえぇ!!!」と叫ぶ。

 

 執行人は、その声と同時に動き出し、エヴァは目を閉じた……。

 

 

 

side エヴァンジェリン

 

 

 ああ、これが走馬灯と言う物なのね。と、あたしは浮かび上がる映像に想いをはせた。

 

 

   ◆

 

 

 あたしは10の誕生日に大切な物を総て奪われてしまった。

 

 その日、起きたらもう夜だった。夜なのに昼間みたいに明るかった。

 

 それが不安で、急いで父様と母様の部屋に走った。

 

 そしたら自分じゃないみたいに早く走れた。

 

 それも不安で、急いで父様と母様の部屋に入った。そこには父様と母様が倒れていた。

 

 泣きながら父様と母様を揺すった。

 

 するとゆっくりと目を明けこう言った。

 

『ああ、エヴァ生きていたのね』とそして『私達の分も生きなさい、どんなに辛くとも生きて幸せになりなさい』と言い残してこの世を去った。

 

 しばらく泣いていたら、笑い声と共に黒いローブの男が現れて、笑いながら告げてきた。

 

 あたしは、真祖の吸血鬼になったと、あたし以外の人間はいい贄になったと。

 

 それを聞いた瞬間、あたしは目の前が真っ赤になって気付いたら手で男の胸を刺して血を吸い尽くしていた。

 

 その日、あの男に総てを奪われ、真祖の吸血鬼という化物にさせられてしまった。

 

 翌朝、あの男の仲間だろうか、数人の魔法使いに追い掛け回された。

 

 どうにか逃げれたがもう家にも帰れない。

 

 それからの10年は、辛い逃亡生活だった。

 

   ◆

 

 最初は親切な人達がいて世話をしてくれていたのだけど、ある日突然、化物は出て行けと、刃物や農具を持って追い掛け回された。

 

 あたしは賞金首になっていたらしい。時たま賞金稼ぎが襲ってくるようになる。

 

 それからは、山や森を転々として獣や行商人の食料を襲って飢えをしのいでいた。

 

   ◆

 

 その日も賞金稼ぎに襲われた。あれから10年位経って賞金が上がったのか、複数人で来るようになった。

 

 今日も白いローブ姿の男達に襲われたが何とか一人倒せた。それが精一杯で今回はそのまま何とか逃げ伸びられた。

 

 そいつらの所為で食料が確保できず備蓄も底をついた。

 

 明日、調達しないと、と思いながら今使っているねぐらであたしは丸くなる。

 

 とたんに負の感情が、寂しい、寒い、ひもじい、辛いと次々に湧き上がってくる。

 

 自然と涙が止め処なく流れてくるが、せめて夢の中くらいは幸せだったらいいなと思いながら目を閉じた。

 

 

 目が覚め、辺りを探索するも食料になりそうな物はなかった。

 

 仕方なく森を出て行商人か村の備蓄を襲おうと考え、何かないかと歩き回った。

 

 夜も深くなった頃ようやく小さな村を見つけられた。

 

 その村は、多分200人位は住めそうな大きさだった。あたしは食料庫だと思われる所に忍び寄り入り口に鍵があったが手でねじ切る。

 

 そして、入り口をくぐろうとした時、後ろから殴られたような衝撃を感じあたしは倒れた。

 

 すぐさま立ち上がろうとしたが身体が痺れた様に動けない。

 

 その後、すぐにあたしの横まで人が来てぶつぶつ何か言ったと思ったら、あたしは急に意識を失った。

 

   ◆

 

 両手足の激痛で意識を取り戻したあたしは、痛みに耐えながら周りを見渡した。

 

 そこは襲おうとした村の広場のようだった。

 

 あたしはそこの真ん中で木の十字架に石の杭で磔にされたようだ。

 

 磔にしたのは、あたしの目の前にいる白いローブの男だろう。多分この前の魔法使いだ。

 

 男はあたしを一顧だにせず、そのまま民家の方に歩いていった。

 

 あたしは周りに誰もいない事を確認して、痛むのも構わず思いっきり腕に力を入れる。

 

 見た目はこんなだが吸血鬼だ。

 

 たとえ石の杭に魔法が掛かっていてもこれ位の木の十字架なら折って逃げられると思ったのだ。

 

 だけど、その目論みは脆くも崩れさる。どれだけ力を入れようともビクともしなかったのだ。

 

 その時後ろから意地の悪そうな声が響く。

 

「それは、吸血鬼用の特別製だ。殺されるまで大人しくしていろ」

 

 あたしは首ひねり声のほうを向いた。

 

 そこには、華美な法衣を着たニヤニヤと笑っている太った男がいた。

 

「貴様のおかげで私は上の位へ上がれる。貴様のような穢れた存在でも人様の役に立てるのだ、うれしかろう。」

 

と、言い放ち男は教会に入って行った。

 

 悔しかった。なりたくて成ったんじゃないのに。

 

 怖かった。このままじゃ殺されてしまう。父様と母様の約束が守れない。

 

 決意した。逃げてやる、絶対生き延びてやると。

 

 もう一度力を入れてみるけど、やはりビクともしない。

 

 なら他の方法を探さないと、と周りを見ながら考えていたら徐々に村人が集まりだし一斉に『殺せ、死ね』など狂ったように叫びだした。

 

 心臓が鷲掴みにされたような恐怖、負ける物かと気合を入れ、顔を上げると目が吸い寄せられるかのように一人の人物に目が行った。

 

 金髪と金色の瞳の美青年。神々しくて、妖しくて、神が作り上げた芸術品なんじゃないかと馬鹿な考えが浮かぶほど綺麗だった。

 

 その青年は、村人達をウザったそうに見回した後、あたしに方をじっと見てきた。

 

 その人はまるで値踏みをするような、魂の奥底まで覗きこまれたような、そんな感じがした。

 

 次の瞬間あたしは凍りついた。まるで蛇に睨まれた蛙である。

 

 青年がランランと目を輝かせ、いい玩具を見つけたと少年のような笑みを浮かべていた。同時にどうエモノをいたぶろうかと悩む肉食獣の笑みにも見えた。

 

 先ほどまであった恐怖は、青年から来る暖かいような冷たいような威圧感に吹き飛ばされ、叫んでいる声は時が止まったように静かになり、あたしの目は彼しか映ってなかった。

 

 そして青年があたしから目線を外した。その時、漸くあたしの所に音が戻ってきて動けるようにもなった。

 

 その青年が横を向いて少し驚いた顔をしていたので、何かあるのかと思いそちらを見たが何もない。

 

 視線を戻そうとした時、周りに四人の白いローブの男達がよって来て杖をこちらに向けて威嚇するようにあたしを獲り囲った。

 

 あたしはそいつらを睨みつけながら必死に生き残る方法を考える。

 

 この石の杭さえなければ逃げられる。

 

 そこで思い付いたのは、死んだ振りをするという物だった。

 

 いつまでも磔にしっ放して事もないだろうし、最後は杭を抜くだろうとそこまで考えていたら、後ろから大きな音がして先ほどの太った男があたしに前に来た。

 

「今より裁判を始める!被告は、己の一族郎党、使用人すら食い殺した悪魔のような吸血鬼、エヴァンジェリン・マクダウェル 裁判官は司教○×○ ○×○  1411年」

 

 あたしはそんな事していない!父様と母様を殺したのはあの魔法使いだ!と、一瞬にして頭に血が上った。

 

 それと同時に、悪魔のような吸血鬼といわれて先ほどの青年から軽蔑や蔑みの視線を向けられるのではないかと怖かった。

 

 軽蔑や蔑みの目以外の目で見られるのは久しぶりだった。それこそ10年ぶりかもしれない。だから余計に怖かった。

 

 手のひらを返すように目の色が変わるんじゃないかと、怖くて青年の方を見れなかった。

 

「通常、質疑応答や検査などをして魔女と認定しますが、魔法使いの隠れ里に住まう皆様なら吸血鬼と言う存在がどれだけ邪悪で、醜悪で、凶悪な存在かご存知のはず。なので、このエヴァンジェリンが吸血鬼であると、動かぬ証拠をお見せしてその後すぐに不死殺しの宝剣で処刑します。よろしいですね」

 

 司教がと言いこちらに近づいてくる

 

 それを聞いてあたしは愕然とした。ここにいる総ての人が魔法使いらしい。そして不死殺しで処刑される。

 

 このままじっとしていたら死んでしまうと、絶望しそうな心を必死に奮い立たせ。どうするか考えようとした時、

 

「では、証拠をお見せしましょう。」

 

と、司教は言い出した短剣であたしの手首を切った。

 

 歯を食いしばり痛みに耐えながら、怒りと憎しみを込めてあたしは司教を睨みつける。

 

 その時にはもう傷は消えていた。

 

 それを見た司教は男達に指示を飛ばす。

 

「これが証拠です。では、判決、エヴァンジェリン・マクダウェルは吸血鬼であり、魔女であるため死刑に処す、執行人構え。」

 

 その言葉を聞き、あたしの周りのローブの男達は一斉に剣を抜いた。

 

 あたしはその剣を見て何故かあの剣ならあたしを殺せると解かってしまった。

 

 必死にもがくもやはり杭も十字架もビクともしない。

 

 そして司祭が大声で「刺せえぇ!!!」と叫ぶ

 

 剣が一斉にあたし目掛けて突き進んでくる。

 

 ああ、父様、母様、あたしは約束を守れそうにありません。そう思い、あたしは目を閉じた。

 

   ◆

 

 そこまで想い帰しておかしい事に気付く。いくら走馬灯だといっても、もう痛みが来てもおかしくない。

 

 それとも痛みも無く即死してしまったのだろうか。

 

 あたしは恐る恐る目を明けると、そこには不思議な光景が広がっていた。

 

 剣はあたしのすぐ側で止まっていて、ローブの男達も司教も村人も口を閉じ、目を閉じる前と同じポーズで固まっているのだ。

 

 良く見ると目蓋と瞳だけが動いている。どの目も恐怖に染まり不安そうにキョロキョロ動いていた。

 

 何が起きているの確かめようと、首を動かしたらすんなり動いた。それに驚きつつも周りを見渡たそうとした時。

 

「ふむ、さすがアル・アジフの術式、使い勝手の良い術だ。エセル捕縛し終わったら魔法知識を収集して来い、余(俺)は、彼女と会話を楽しんで来よう。」

 

「イエス、マスター。」

 

と、涼やかな声と鈴を鳴らしたような声が村人の後ろのほうから聞こえてきた。

 

 そちらを見ると、先程の金髪金色の瞳の青年が立っていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

処刑執行

執行人たちの剣が届く前に、俺はエセルに用意させて置いたアトラック=ナチャの術式を開放する。

 

これはアル・アジフの記述で、クモの化物の力を真似た糸による捕縛術式だ。

 

通常なら糸やひも状の物を媒介にして使うのだが、俺の場合は自身の力で練り上げた、不可視の糸を使う事にした。

 

その糸は、俺の意思に従い縦横無尽に動き出し瞬時に執行人、司教、村人を雁字搦めにしていった。

 

ついでに口も閉じるようにさせたので、くぐもった声が聞こえるが気にしなくても良いだろう。

 

俺はその出来に満足し、エセルに次の指示をする。

 

「ふむ、さすがアル・アジフ使い勝手の良い術だ。エセル、捕縛し終わったら魔法知識を収集して来い、余(俺)は、彼女と会話を楽しんで来よう。」

 

「イエス、マスター。」

 

エセルはそう返事をし、一番大きな民家に歩いて行った。

 

エヴァはこちらを目を丸くしながら見ていた。俺は、エヴァを見ながら彼女の前まで歩いて行った。

 

 

 

「初めましだな、エヴァンジェリン・マクダウェル」と挨拶する。

 

エヴァは呆然として返事が返って来ないので、俺は話を進める。

 

「助かりたいか、『え・・・』助かりたいかと聞いたのだ。エヴァンジェリン・マクダウェル」

 

エヴァはまるで今まで聞いた事の無い言葉を聞いたという表情をした後

 

「・・・・なんで、助けてくれるんですか?」

 

と、驚きと恐れと期待が混ざり合った様な顔で、か細く聞いてきた。

 

「貴女がほしいのだよ、・・・余の者になれ、エヴァンジェリン・マクダウェル」

 

と俺は真正面から行く事にした。

 

それを聞いたエヴァは、初め何を言われたのか解からないとばかりに呆然としていたが、次第に顔に赤みが差して来て目を泳がせながら色々言ってきた。

 

「あああ、あたし、きゅっ、吸血鬼です!!」とアワアワしながら言って来る。

 

「知っている、余も人外だ。」と平然と返してみる。

 

「かか、身体もこんなだし、多分もう成長しません・・・」自分の身体をちらりと見ながら残念そうに言って来る。

 

「安心しろ気にしていない、余はロ○コンだからな!」とたぶん意味は解からないだろうが、堂々と言い放つ。

 

「あの、えっと、しょ賞金首です」

 

「ふむ、余が如何にかしよう」

 

「・・・あの・・・その・・・えっと・・」とエヴァはパニックになっているのか目がグルグルになっている

 

「それで、答えを聞こうか、エヴァンジェリン・マクダウェル」

 

と、俺はエヴァの頬に手を当て、瞳を覗き込むようにして聞いてみる。すると、ぽろぽろと涙を流しながら、

 

「・・・助けて・・くだ・さい・・貴方の・物に・・なるから・・・」

 

と、つっかえつっかえ答えが返って来た。

 

「諒解した」

 

俺は石の杭を消し去り、エヴァを抱き上げ抱きしめてやる。初めは、驚いてもぞもぞしていたが、暫らくすると、

 

「ああぁ~~~~~、ゎあぁぁぁ~~~~」と声を上げて号泣しだした。

 

取り敢えずエヴァの頭を撫でながらこの後どうするかを考える。

 

 

 

 

考えがある程度まとまる頃には、エヴァは寝息を立てていた。

 

なのでお姫さま抱っこで抱き直し、取り敢えずエセルと合流するかと考えた時、丁度、後ろからエセルの気配が近づいてきた。

 

「収集完了しました、マスター。」

 

と俺に報告した。俺はエセルに振り向きながら、

 

「記憶の改竄もしくは、消去の術式は在るか?」

 

「イエス、先ほど収集して来た物の中に該当する物があります。それとも、魔道になさいますか」

 

俺はしばし考え、

 

「魔法にしよう。魔道は十全に使えるようだからな、この世界の魔法がどんな物か試すのに丁度良さそうだ。それに使えなければ魔道に切り替えれば良いだけだしな。」

 

「では、マスター。こちらの魔法についての知識を渡します。」

 

俺は、エセルから知識を受け取り、それを整理する。

 

《大体は魔道と同じようだ。ただ魔法発動体と呼ばれる物がいるらしい。呪文や魔法式の演算はエセルに任せれば一番効率が良いだろう。最悪、適当に唱えればエセルが意訳してくれるから、魔法名さえ言えば如何にかなりそうだ。発動体も魔杖剣で如何にかなるだろう。》

 

俺はエヴァを片手で抱き直し、右手に自分の魔杖剣<黄金の十字架剣>を呼び出す。

 

そして周りの人間に記憶消去と、改竄の魔法を掛けていく。

 

エセルにちゃんと魔法が発動しているか、効果は出ているか、魔道で確認させる。

 

「問題ありません、マスター。」

 

「そうかでは、ニトクリスの鏡を使ってエヴァを造り、死んでもらうとするか。」

 

ニトクリスの鏡と言うのは、幻と現実を曖昧にする術式だ。限りなく現実に近い幻、限りなく幻に近い現実を作り出す力がある。

 

その力と先ほどの記憶消去と改ざんの魔法。

 

これらにより、吸血鬼エヴァンジェリン・マクダウェルは、今日確かに処刑されたと歴史に記される事になる。

 

俺達は、処刑を見届け誰にも気付かれず村を出て大きな町に向かって転移した。

 

 

 

 

 

side エヴァンジェリン

 

 

目が覚めた・・・・夢だったんだ。安心したような残念なような。

 

あんな都合のいい事なんて現実にはありえないよね。と思いながら目をこする。

 

頭がしっかり働き出して自分がベットに寝ている事に気付く。

 

えっと思いながら横を見たら、金髪金色の瞳の青年が椅子に座り読書をしていた。

 

夢じゃ無かったんだ!と思うと同時に彼と話した内容や、抱きしめられながら号泣した事を思い出し、全身がカッとなって火照り出した。

 

たぶん顔はもう真っ赤だろう。

 

それで、シーツに潜り込もうとした時に気付いてしまった。髪や身体、服が清潔になっている事に、服にいたっては新品みたいだ。

 

もう完全にパニックだ。

 

彼に全身くまなく見られたとか、もうお嫁に行けないとか、関係ないかもう彼の物だしとか、穴が有ったら入りたいとか、いろんなことが頭の中を駆け巡った。

 

その時、いつの間にかベットの隣に彼がいて

 

「起きたか、身体は大丈夫か」

 

と聞いてきたので、あたしはシーツで顔を半分隠しながら、

 

「大丈夫です、助けてくれて有り難うございます。」

 

「気にするな、俺がしたいから、しただけだ」

 

「・・・それでも、嬉しかったです」

 

「ふむ、そうか」

 

と会話が終わってしまった。何か話題はないかと考え、ふと気付く、あたし彼の名前を知らない。

 

「あ、あの、お名前は何て言うんですか」

 

「・・・名前・・ふむ、名前か・・」

 

と彼は悩みだしてしまった。あたしは聞いてはまずい事を聞いてしまったんだろうかと焦った。

 

その時ドアから、

 

コンコンコンコン とノックが鳴った。

 

彼が入れと言うと、ドアが開き、

 

「ただいま戻りました、マスター。」

 

と鈴を転がすような声が聞こえ、黒のお姫様が部屋に入ってきた。

 

神秘的な黒髪に黒い瞳、黒い服、可愛らしい容姿と相まってお姫様のように見えた。

 

彼はまだ悩んでいるのか、ああ、と生返事をしていた。するとお姫様がたずねた。

 

「どうされたのですか、マスター。」

 

「名前を聞かれてな、どう名乗るか考えていたんだが・・・うむ、これでいこう・・・」

 

と彼はあたしをまっすぐ見て

 

「アレイ、アレイ・クロウ、アレイと呼んでくれ。でこっちがエセルドレーダ」

 

と彼、アレイがお姫様の頭に手を置いた。

 

「不本意ですが、エセルと呼んですださい」

 

とエセルが目を三角形にしながら言ってきた。

 

あたしは身体を起こして、

 

「エヴァンジェリン・マクダウェル、エヴァって呼んでください」

 

「あ~、エヴァ暫らく本名を名乗らないでくれ。」

 

と言われ、あの後如何したか教えてもらった。

 

「じゃあ、あたしもう賞金首じゃぁないんですね」

 

「ああ、賞金首なエヴァには討ち取られて貰ったからな」

 

「ありがとうごいます。アレイさん」

 

「さっきも言ったが、気にするな、・・・さて今後如何するか話合うとするか」

 

とアレイさんがテーブルの方に歩いて行った。そこにはいつの間にか食事が用意されていた。

 

あたしもベットを出てテーブルに向かう。

 

ああ、今あたしは幸せだと、感じながら。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

旅立ち

今、俺達は大きな町にある小奇麗な宿で食事をしながら今後の事について如何したいか意見出し合っていた。

 

と言っても、

 

 

エセル曰く、マスターの御心のままに。

 

エヴァ曰く、あたしはアレイさんの物なんだから、アレイさんの好きにして。

 

 

結局、俺に意思しだいらしい。なので、確認と注意と今後の予定をいう事にする。

 

「俺達は、人外でこれから永い時を共に生きていく。俺達の外見は、基本変わらないから必然的に旅をしながら生きていく事になる。当てのない旅は精神的に辛い物があるから、基本東に行こうと思っている。ここまではいいか。」

 

と二人を見ながらいう。二人も頷いた。

 

「旅の道中は、危険も多いはずだ。俺とエセルは大丈夫だが、問題はエヴァだ。俺の物になると言うのならエヴァにも強くなってもらいたい。如何するエヴァ、嫌なら別の手段を考えるが」

 

「あたしを強くしてください!自分を守れるだけじゃなく、アレイさんを守れるくらいに」

 

とエヴァが俺の目を見つめて言ってくる。

 

その返事に嬉しさを感じながら、

 

「クククッ・・・そうか、なら覚悟しろ。身体も心も魂さえも鍛え上げてやる。そして、魔法を取得してもらう、かなりキツイだろうが頑張って貰うぞ。」

 

とエヴァの頭を撫でてやる。エヴァが顔を柔らかくしながらも、

 

「はい!」

 

と力強く答えてくれた。

 

俺はエヴァの頭から手を離しつつ(エヴァは少し残念そうな表情だが)、エヴァの方を目を三角にして見ているエセルの方を向きながら、

 

「俺とエセルは、エヴァの修行と平行して、厄介事請負業をしながら、各地に使い魔を放ち情報収集と客との仲介をしてもらう。」

 

「イエス、マスター。」

 

とエセルが頷き、使い魔に準備をしだす。

 

「エヴァさっきも言ったが、本名は2,300年は名乗らない様にしてくれ。それと俺達以外には茶色の髪と瞳の褐色の女の子に見えるはずだ。気に留めておいてくれ。」

 

「わかりましたぁ」

 

と幸せそうに、ホニャッと答えてくれた。

 

「さて食事が終わったら、旅に支度をして明日の朝にはここを出るからな」

 

「はい」

 

「イエス、マスター」

 

とみんなで食事をする。

 

《はてさて、これからどうなるやら。

取り敢えずは日本を目指すとして、今は1411年、可能なら1540年には、日本の三河国(愛知県)に着いて置きたい。後の徳川家康や,天皇家に取り入ってやれば楽に日本を裏から支配できるはずだ。

それにエセルの中(図書館)には、未来の知識が詰まっている。それを小出しにしながら行けば、2000年には大国になっているだろう。

色々楽しみではあるが、取り合えずは130年掛けて日本まで行きますか》

 

と今後に思いをはせながら、食事をする俺であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからはダイジェストでお送りします

 

 

 

 

 

 

 

<エヴァの修行 その1>

 

 

 

そのは森の中の開けた広場・・・・

 

 

「さてエヴァ、君は真祖の吸血鬼だ。一般人に比べたらだいぶ強い。優れた身体能力、魔力、回復力に生命力、基礎はすでに出来ていると見ていい。」

 

俺は白衣に指示棒を持って講義をする。それを真面目に聞くエヴァ、

 

「ならどう訓練するか。普通なら技術を磨き、心を磨くだろう。だが我らは人外だ!、永き時を生きるうちに自然と身に付く。ならどうするか・・・・古人曰く、『習うより、慣れろ』『百の訓練より、一の実戦』と言う訳で・・・」

 

徐々に熱が入っていく俺、だんだん不安になるエヴァ、

 

「エヴァ、紹介しよう。彼が今後講師をしてくれる先生だ!!」

 

バッと右手を広げ。

 

俺の影が闇色に染まりながら右手側に移動し穴のような形になり、そこからズブズブと、マッスルポーズを決めるムキムキなガーゴイルがせり上がって来た。

 

エヴァは目が点になり、口を開け呆然としていた。

 

俺は白衣からカンペを出し読み上げる。

 

「なになに、・・・彼は<SSS講師>鍛えてナイトゴーント君、通称ゴン君。夢魔の一種です。

身長170cm、体重??。身体能力、魔力共にエヴァより、常に少々上を行くように設定してあります。

ゴン君の身体は可能な限り人に似せました。なので、<刺したり、斬ったりの>手応えは、かなりリアルに再現されているはずです。

私が、丁寧に魔心込めて組んだ術式です。エヴァこれを使って効率よく強くなってください。

ps、SSSの意味は、スーパー、スパルタ、サディストの略です。

では、くれぐれも、死なないように、いいですか、死なないように頑張って下さい、大事なので二回言いました。それでは、良い訓練を。・・・

エセルの奴、えらい気合の入ったのを組んだな・・・」

 

 

俺がカンペを読み上げている間、ゴン君は次々にポージングを決め、徐々に黒い炎のようなオーラを纏いだした。

 

エヴァはそれを見て徐々に顔色が悪くなり、最後には冷や汗を流しながらガクガク震えていた。

 

「じゃあ実戦、逝ってみようかエヴァ、心の準備は良いかい」

 

「え・いやちょ!!」と慌てふためくエヴァ

 

「じゃあ、スt」

 

と俺が言い出した頃には、ゴン君はエヴァの顔を鷲掴みにして、サイドスローで思い切り斜め下に投げつけた。

 

「あぶぶぶぶぶぶ、」と情けない悲鳴を上げ、頭を軸にスピンしながら地面を滑って行って

 

「ぎゃふん!!」と最後は中々の太さの立ち木にめり込んでいた。

 

ゴン君は、ボーリングの投げ終わりのように残心して、満足そうな雰囲気を出しながら俺の横に戻ってきた。

 

俺は取り敢えず、ゴン君を影に戻し、《いや~この世界の伝統芸を見たぜ》と言う電波を無視いて、エヴァを助け出す。

 

よほど怖かったのか、「おうち、かえる~~」と言い出すぐらい幼児退行していた。

 

如何にか説得してもう一度やらせて見たが、実戦というより、リアル鬼ごっこになっていた。

 

なんとか逃げ切っていたので今後に期待という感じだ。

 

 

 

 

<初仕事>

 

 

 

厄介事請負業、いわゆる何でも屋である。

 

ただ俺の場合、戦闘系それも名前売れるような物を優先しようと思っている。

 

初仕事は山賊退治。

 

被害のあった村々で集めたなけなしのお金で頼んだが、高名な使い手は報酬が少ないと断られたそうだ。確かに少なかった。これで命掛けろとは酷である。

 

まあ俺は初めから受け取る気がないが。

 

エセルが言うには、山賊の頭に賞金が掛かっているらしい。それに良い訓練になる。

 

 

 

今の俺の格好はマギウス・スタイルといい。

金髪がひざ裏まで伸び、目の白い部分が黒に反転し、白いボディースーツの各所に本を模した鎧が付いている物を着ている。

 

このマギウス・スタイルは、ナコト写本(エセル)を纏っているような物で、魔力のブーストや、魔術行使の分担化・補助魔術によるパワードスーツ化・翼を出したり・翼を刃に変えたり・ドリルに変えたりと魔術師にとっては、万能決戦戦闘服である。

 

でも悲しい事に、魔術師が高位に成れば成るほど、意味を成さなくなって来る。

 

今回の姿も偶像として、後々まで語られるようにこんな格好をしてきたのだ。

 

そして、顔がばれないよう、自作の口元だけ出した黒い仮面を着けている。そして、この仮面、顔に同化するように付いており、俺が取ろうとしない限り取れない。

 

しかも、視界や触覚などの感覚を一切阻害しないし付けてる感覚がない。正直言われないと解からない位だ。

 

 

 

 

今、俺はマスコット化したエセルに案内されながら、山賊の根城に向かっている。

 

ちなみに、エセルは犬耳にくきゅう手袋をして、手の平サイズにデフォルメされて俺の頭上にいる。

 

まだ、肉眼では確認できないが、洞穴が根城にしているようだ。

 

その洞穴を中心に大きく結界を張りまるで漁をするように徐々に結界を狭めていく。そして半径1㎞で停止させる。

 

洞穴の前は広場みたいに成っていた。そこには、汚らしいガタイの良いオッサンどもが、50匹位たむろしていた。

 

俺は隠れもせず堂々と広場に歩いて出て行く。あちらも気付いたのか、錆びた武器を持って半包囲してきた。

 

俺はある程度の近さにまで近づき無言で止まった。

 

すると、オッサン等が『死にたくなければ、有り金・・・とか、身包み・・・とか』色々言っていたが無視して、頭を探しだす。奴には生きていてもらわないと困るのだ。なので開戦早々寝ててもらう。

 

下準備が終わる頃、一番下っ端ぽいのがじりじり寄って来た。功を焦ったか、命令されたか、どちらでも構わない。

 

俺は先ほどから無言で、自然体のまま動いていないのだ。普通の山賊には、美味しい獲物に見えるだろう。

 

結界をさらに狭め広場の外周位に張りなおす。

 

その時、近づいてきた山賊が雄叫びを上げながら飛び掛て来た。

 

俺は細心の注意を払って、相手の右側に自分の右足を一歩出し、相手の胸に右手を優しく突き出した。

 

そして、手が胸を突いた瞬間、赤錆のような臭いが辺り一面に広がり、俺の横を先ほどまで山賊だった物が通り抜ける。

 

先ほどまで煩かった場が、耳が痛いほど静まり返った。

 

その間、俺はエセルに5段階でリミッターを掛ける様に指示し、頭がちゃんと安全な場所で寝ているか確認する。

 

その後山賊は3種類に分かれた。

 

一つ目は悲鳴を上げ一目散に逃げる奴ら。二つ目は茫然自失の状態で突っ立てる奴。三つ目、これは少なかったが俺に向かってくる奴。

 

俺は今度は何も意識せず向かってくる奴を迎撃した。やはり、血霞に変わる。

 

更にリミッター追加で茫然自失な奴に殴り掛かる。やはり、血霞、埒が明かないので、もう10段階追加。ようやく、思いっきり殴っても蹴っても即死しなくなった。

 

エセルにこの状態でオンオフ自在に出来きるようにしてくれと伝え、俺は身体に力を廻らし生きている奴に突っ込んでいった。

 

 

 

あらかた殲滅し終わり、もういないかとエセルに聞いてみると

 

「マスター、洞穴の奥に3人います。後は総て殲滅しました。」

 

と答えが返って来た。

 

「洞穴か」

 

と呟きながら、足音を立てて洞穴の奥へ足を進める。

 

エセルがこの洞穴の形を教えてくれた。

 

この洞穴は、奥に行くにしたがって狭くなり奥の広間に入るには、2人がぎりぎり通れる隙間しかないらしい。前方後円墳みたいな感じだ。

 

狙うなら其処しかないだろう、と俺は広間に入る。すると斜め前から、2人の男が音もなく心臓に短剣を突き付けて来た。

 

俺は短剣を弾き、逆に手刀で相手の心臓を突き潰す。その際2人を支える形になった。

 

奥のほうから「ひゃ・・・ひゃははは、死にやがった。化物が死んだ。ひゃははは・・・・」と耳障りな音がしたので、その方向に向かって支えていた物を思い切り投げつけた。

 

奥のほうから、壁に熟れたトマトを思い切り投げつけたような音がして静まり返った。

 

俺は音がしていた方に、足音を立てながらゆっくり進んだ。とたん男が命乞いをしだした。俺は後一歩で間合いに入るところで立ち止まった。

 

男はチャンスと見たのか、一気に喚き出した。

 

俺は男を醒めた眼で見ながら、

 

「知ってるか、悪人に人権はないらしい」

 

そういいながら、ゆっくり手を上げていく。そして、上げた手を手刀にして霞む様な速さで振り下ろした。

 

「ま、俺は人じゃなんで知ったこっちゃないんだが」

 

といいながら、山賊のお宝を亜空間の倉庫に放り込み。村々から出た報酬の入った袋に村の数分宝石を入れ、賞金首を換金しに町に向かって転移した。

 

 

 

村に戻るとわらわらと村人が寄って来た。その中に村長がいたので依頼の報告をした。

 

「村長、依頼道理もう二度と絶対に悪さが出来ない様にして置いた。」

 

村長たちは喜んでくれた。 

 

俺は、もう山賊がいないか様子を見るため1週間ほど泊めてくれるよう村長に頼んだ。

 

 

 

1週間後、俺は『宿泊代だ、出来たら依頼した村々で分けてくれ。   ギルド、ブラックロッジ、リ-ダー、マスターテリオン』と村々から出た報酬の入った袋と書置きを残し姿を消した。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 1

<エヴァの修行 その2>

 

3人で旅を始め、そろそろ50年、旅の道程も半分位。

 

そしてエヴァの修行も節目を迎えていた。

 

 

空を飛ぶエヴァが

 

「来たれ氷精、大気に満ちよ。白夜の国の凍土と氷河を<こおる大地>」

 

地上にいたゴン君は突き上げてくる氷柱を後ろを見ずに避けながらエヴァに向かって飛翔する。

 

すぐさまそのゴン君に向かってエヴァが、手を上にあげ、

 

「氷神の戦鎚、いっけ!!」

 

と尋常じゃない大きさの球形の氷の塊を投げ落とし、エヴァは次に呪文詠唱には入る。

 

ゴン君は速度を落とさず突き進み、氷の塊に渾身の右ストレートを放つ、

 

「ガアアアァッァァ!!!」

 

その拳が氷塊に叩きまれ,氷塊は粉々に砕け散った。その時には、エヴァは先ほどまでいた場所にはいなかった。

 

氷塊に隠れ、エヴァは呪文詠唱しながらゴン君のほぼ真上に来ていた。

 

そしてゴン君が氷塊を砕き欠片が舞い散る中、目標が見えたその瞬間迷わず、真下に向かって虚空瞬動、欠片を縫う様に目標に着地する。

 

そこは、渾身の力を放ち終わったゴン君の右腕の上だった。

 

そうとな力が掛かったのだろうゴン君の身体が斜めの沈み込んでいる。

 

普通なら腕が千切れ飛んでいたはずだ。

 

今回に限るならそちらの方が良かったかも知れない。

 

「エクスキューショナーソード」

 

エヴァは右腕に乗った状態から、右手を振り上げ魔法の剣を作り出し、ゴン君の首を落としに行く。

 

ゴン君は右腕のエヴァを前に振り払い、左腕犠牲にし無理やりそらし、自身は後ろに飛び退いたお蔭で何とか死は免れたが、左腕は二の腕から切り飛ばされた。

 

エヴァは体制をすぐさま整え、手を前に突き出し

 

「解放、闇の吹雪」

 

黒い極太なレーザーの様な魔法がゴン君を襲う。

 

「ガアアアアアアア!!!」

 

ゴン君は全魔力前方に集めて必死に耐える

 

エヴァは魔法を放ち終わった瞬間、ゴン君が飛んでいるであろう位置の右側に向かって虚空瞬動をした。

 

それに気付いたゴン君が右手で殴ろうとするが、エヴァの方か早く、

 

「凍て付く氷柩」

 

ゴン君は氷の柩に閉じ込められ地面に向かって落ちていく、エヴァは落ちてゆくゴン君に狙い更に呪文詠唱していく。

 

「リク・ラク ラ・ラック ライラック

 

契約に従い我に従え 氷の女王 来れ永久の闇 <えいえんのひょうが>

 

全ての 命ある者に等しき死を・其は安らぎ也 <おわるせかい>」

 

そして、ゴン君は砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・勝った・・・やった!初めて勝った!!!」

 

「おめでとう、エヴァ・・・ナイトゴーント卒業だ」

 

「ありがとぉ、アレイさん・・・あ!ご褒美!!」

 

「うん?ご褒美??」

 

「ナイトゴーント卒業したら、一つだけアレイさんが叶えられる物なら叶えてくれるって言った」

 

「ああ、言った言った。で何がいい??」

 

「・・・仮契約をしてほしい・・」

 

「仮契約か、俺は術式を知らんぞ・・・お~い、エセル」

 

「どうかされましたか?、マスター。」

 

「仮契約の魔方陣を書いてくれ」

 

「イエス、どなたと契約なさるんですか?マスター。」

 

「うん?エヴァとだが」

 

「そうですか、エヴァと・・・・《ギロ》『っひぅっ』書きました、マスター」

 

「ああアレイさん、ああの、エセルさんとも仮契約されたらどうですか!!」

 

「そうだな、そうするか、で如何すればいいんだ?」

 

「(ッホ)えエセルさん、お手本をお願いします。」

 

「わかりました、マスター、陣の中で私にキスをしてください」

 

「ああ、わかった」

 

「あれ、アレイさん、何だか知りませんが《普通其処は戸惑いません??》と聞かなくちゃいけない気がします。」

 

「ふむ、そうかでは答えよう。・・・アレイ・クロウは、漢<オ・ト・コ>だからだ!!」

 

そう言い放ち、アレイとエセルは口付けを交わす。すると陣が光だし、彼らの間に一枚のカードが現れた。

 

それをアレイが取って、

 

「これが仮契約カードか、え~と、魔人の従者」

 

虹色のカードでクラシックなメイド服を着て立っているエセルが写っている。

 

アレイは、エセルにカードを渡す、エセルは何かしたのかカードが二枚に増え、一枚をアレイに返した。

 

「これで仮契約終了です、マスター。次はエヴァです」

 

「は、はい、よろしくおねがいします!!」

 

「改めて、よろしく」

 

緊張してガチガチのエヴァに、アレイが口付けをする。すると陣が光、カードが出てきた。

 

エヴァがぽ~~としてるので、アレイが取る

 

「今度は何々、魔人の教え子ねぇ、」

 

金色のカードで、背後に人影があり、その前に右手に地面に刺さった黄金の十字架剣を左手に弓を持ち、白いゴスロリドレスを着たエヴァが写っていた。

 

複製したカードを渡し、

 

「主従逆転して見るか、俺のカードが気になる」

 

エセルとエヴァそれぞれと契約してみる、二枚とも同じカードが出た。

 

金と黒色のカードで、アレイが魔導書を胸の前に持ち、巨大な機械の手の上に立っている姿が映っていた。

 

「これまた、あからさまな・・・非常識な破壊神ね」

 

それぞれから複製カードを貰い仮契約の儀式は終了した。

 

 

 

「・・・そうだ、エヴァ、次からの修行は、俺かエセル、手の空いてる方が相手をするから、両方無理なら、強化型ナイトゴーント、ゴン君DXが相手してくれる筈だからがんばってくれ」

 

「・・・・え、修行終わったんじゃ・・・・」

 

「ああ、初級編がな、次から中級だ」

 

バタッとあんまりな現実に倒れるエヴァだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<気が付けば>

 

 

 

 

 

もう少ししたら日本に着く。

 

旅を始めて120年近く経っている。

 

色々やって来たが今に至って予想外な所がでてきた。

 

まず、ギルド、ブラックロッジだが、いつの間にか秘密組織のような扱いになっていた。

 

理由は主な依頼主が王や、上流貴族、宗教のトップなど、後ろ暗い事や不祥事を隠したい連中ばかりだからだ。

 

要するに、そいつらが勝手に隠すから、極一部の人間しか知らないギルドになった。

 

 

 

次に、情報収集用に自立型の使い魔を放し飼いにしていたが、効率よく情報を集める為、エセルが商人に化ける様に命令していた。

 

それがいつの間にか、各国それぞれで大商会の主になっていた。

 

使い魔は常に情報を共有化している、そんな状態で、商人を演じているのだ儲からないはずがない。

 

しかも商会が大きい方が情報が集まりやすい。なのでせっせと使い魔達は商会をでかくしていった。

 

しかも、普通3、40年で商会の主が代替わりするが、それも使い魔である。

 

例えば、商会の主とその妻、息子とその嫁、孫、総て使い魔である。

 

要するに10匹位で役所を回しているだけである。

 

要するに、経済支配をいつの間にかしていたのだ。しかも未来の主要国家の地域もカバー済み。

 

 

 

気付けば、世界征服(経済的に)完了まで秒読み段階に入っていた。

 

 

 

 

<さあ、暗躍するぞ>

 

 

俺達は日本に着いた。

 

まだ、家康公が活躍し出すまで20年ほどある。なので、使い魔をばら撒きつつ日本一周してみる。

 

その間に、天皇家に占星術師として出入りしたり、原作舞台を見に行ったり(巨大な木が在りました)、エヴァが京の都が気に入って其処に拠点を設けたり、ブラックロッジの仕事をしたり、いつの間にか戦国に突入してました。

 

俺は、マギウス・スタイルに仮面、更に今回はジェダイの騎士のローブ黒色版を着て仕官しようとしたが断られた。

 

当たり前である。

 

なので戦場に乱入し首をあげ、それを手土産に仕官した。

 

初めは侍として仕官しろと言う話になったが、どうにか説得して策士兼占い師として仕官できた。

 

家康公に付き従い基本的の影で暗躍する事にした。おおうつけ殿にサルとも仲良くなった。

 

俺は家康公に天下泰平になったら金も権力いらんから、今の埼玉一帯の土地をくれと頼み了承してもらった。

 

理由としては、京に次ぐ霊地だからだと答えて置いた。

 

そう言えば、いつの間にか俺の名前が、阿零 九朗と書かれていた時には驚いた。俺は大十字君じゃなんだけどなぁ。

 

江戸時代に入り、少しずつ知識を小出しにしていく事にした。この知識は使い魔を使い日本中に広まっていった。

 

俺は基本政治には関与せず、徳川家と天皇家の相談役として始終した。

 

そして、それからは幻術などを使い、天皇家と徳川家に占い師兼相談役として強いパイプを保って行った。

 

 

時は幕末、明治と流れ行く

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 2

<エヴァの修行 その3>

 

 

 

それは江戸時代に入って、70年位。某森の中の広場で

 

 

 

 

「さて、エヴァも大分強くなったな」

 

「あれだけ、毎日戦っていれば嫌でも強くなるわ!!」

 

とエヴァが両手を上げて、うがぁーーーとこちらに詰め寄ってくる。

 

訓練の後これだけ元気なら、次の段階に行っても大丈夫だろ。

 

「そこで、恒例の卒業試験をしようと思う」

 

「何だ、前みたいにゴン君を撃破しろとか。そういうやつか」

 

エヴァがジト目で俺を見てくる。今回はは更にしんどいと思うぞエヴァ。

 

「今回は、長期間かけてやる」

 

「何をやらせる心算なんだ」

 

少々不安そうなエヴァ。色々無茶をやらせて来たから不安なんだろう。

 

「地球を一周してきてくれ」

 

「・・・・は・・・」

 

エヴァの目が点になり、茫然自失になっている。行き成りあんこと言ったらこうなるよな。

 

「だから、世界一周してきてくれ。自分の足のみで」

 

「ちょっと待て、試験にいったいどれだけの時間を掛ける心算だ!」

 

正気に戻ったエヴァが慌てて聞いてくる。

 

ふむ、少し多めに見ておくか、何があるか分からんし。

 

「予定としては150年と言った所か」

 

「・・・150年」

 

エヴァの背景に雷が落ちた。何がそんなにショックなのか分からないが、エヴァが固まってしまった。

 

「エヴァ如何した?」

 

「・・・アレイは、私が嫌いになったのか」

 

と俯いて聞いてくる。何でそんな結論に至ったエヴァよ。

 

「何を言っているんだ、エヴァ?」

 

行き成りエヴァがしがみ付いて来て、俺の胸倉の掴んでガクガク俺を揺さぶってくる。

 

「じゃあ何で150年も私を遠ざける!ッハ、私の身体に飽きたのか!」

 

「嫌っても、飽きてもいない」

 

「なら、女か!新しい女が出来たんだな!!」

 

「違う、新しい女が出来たらちゃんと紹介する。っていい加減落ち着け」

 

錯乱して、落ち込んで、黒いオーラを纏ってと百面相をするエヴァ。もうちょっと見ていたい気もするが話が進まないのでエヴァにチョップを落とす。

 

「もひゅ」と言いながら、地面にズルズル落ちていった。よっぽど痛かったのか暫らく頭を抑えて、うんうん唸っていた。

 

 

 

「落ち着いたか、エヴァ」

 

「ああ、落ち着いた」

 

と言いながら恨めしそうに見てくる。俺は機嫌を取る為に頭を撫でる。

 

「これまで俺達は3人で旅をしてきた。今度は、一人で世界を見て見聞を広めてきて欲しい。今まで見えなかった事が見えたりするはずだ。」

 

「納得は出来んが、理解はする」

 

と不満そうでは在るが、一様納得してくれたようだ。

 

「そうか、なら今回のご褒美は何がいい?」

 

「なんでもいいのか?」

 

「ああ、叶えられる事ならな」

 

エヴァはしばし考え

 

「・・・ミドルネームを付けてくれ」

 

モジモジしながら、頬を赤らめ言ってくる。正直凄く愛らしい。

 

「分かった。考えておく」

 

と答えるとエヴァはうれしそうに微笑んだ。

 

 

 

そして、エヴァが旅に出て暫らくたったころ。

 

俺は魔導書を読みながら、エセルに入れてもらった紅茶を飲んでいた。

 

「エセル、エヴァは今頃如何してるんだろうな」

 

「エヴァはアフリカで賞金首をやっています。」

 

俺はそれを聞いて固まった。エセルはサラリと言ったが、エヴァがまた賞金首になたらしい。

 

「それでどんな感じに手配されているんだ」

 

「子供姿で金髪の吸血鬼としか分かてないそうです。あと、やたらと魔法に精通していて普通の人間には対抗できないそうです。」

 

今のエヴァが負けるとは思えないが注意はしておこう。

 

「エセル、エヴァが死んだり、捕まったりしない様にだけ注意しておいてくれ」

 

「イエス、マスター」

 

 

 

 

「ちなみに額はいくらだ」

 

「現在、300万ドルです。マスター」

 

 

 

 

 

 

<チャチャゼロ改造計画>

 

 

 

 

 

チャチャゼロ、それはエヴァが、修行の旅の途中で作った従者人形である。

 

「エヴァ、チャチャには刃物しか攻撃手段が無いのか?」

 

俺は丁度ウェストが残した走り書きを呼んでいて、人形つながりでふと疑問に思った事を聞いてみた。

 

「うん?ああ、あれには前衛を任せるために造ったからな、高速戦闘が出来るように余分な物は一切つけてない。それがどうかしたか?」

 

エヴァが趣味の裁縫の手を止めた。

 

「いやな、古い知り合いの書いた物を読んでいて自動人形の記述があってな。それで気になった」

 

「前々から疑問に思っていたが、そのよく読んでいる本、その知り合いとやらが書いた手記なのか?」

 

エヴァが興味深そうに本を覗き込もうと此方にやって来る。俺はエヴァが見る前に本を閉じた。

 

「これは少々特殊な本でな、俺以外が読むと無差別に発狂死する呪いが掛かっている。だから、間違っても開くなよ」

 

所謂、魔導書だ。いくら吸血鬼と言えども発狂するだろう。

 

エヴァは俺が本を閉じたのを不満そうにしていたが、その話を聞くと顔が蒼白になり、コクコク頷いた。

 

そして、エヴァがフゥと息を吐いて気を取り直して聞いてきた。

 

「で、その自動人形とやらがチャチャゼロの武装とどう関わる。」

 

「そいつが射撃武器を使っていたのを思い出してな、チャチャがどうなのか気になった。」

 

エヴァが腕を組み少し悩んだ後で、

 

「今後どうなるかは不明だが今はないな」

 

「今後という事は強化を考えてるのか。どんなのを考えてるんだ」

 

と興味本位で聞いてみる。すると本人?がやって来た。

 

「オイオイ、御主人モ旦那モ、ソウイウ話ハ本人モ交エテスルモンジャナイノカヨ」

 

とチャチャが酒を片手にフヨフヨ飛んでくる。

 

「なら、チャチャはどうしたいんだ?」

 

俺は片手にグラスを二個作り出し、一個エヴァに渡してチャチャに酒を分けて貰いながら聞いた。

 

チャチャは酒を注ぎつつ、

 

「旦那ヲ切レル刃物ヲクレリャア其レデイイ」

 

と言って来た。行き成り物騒な事だ。

 

この殺人人形、出会い頭に切り掛って以来、暇な時は俺を切る為の刃物を探しいているのだ。

 

「確かに、アレイを傷つけられる刃物なら攻撃面には最適だろうが。存在するのかそんな物?」

 

「存在するかは疑問だが、俺の防禦陣を純粋な攻撃力か、効果かで抜けれれば可能性はあるぞ」

 

「いや、無理だろう。私の全力攻撃に耐え切る理不尽な防禦陣だぞ。どうせ、お前の事だ、抜けたとしてもまだ何かあるんだろ」

 

白け切った感じで聞いてくる。

 

「確かに、いくらでも手段はあるが。ふむ、取り敢えず攻撃面は置いておこう。他に何かないのか」

 

「いくらでもって・・・いや、いい。他か、防御力と機動力だな。この二つは、私の魔法に依存しているから直ぐには如何し様も出来んな。」

 

少し呆れた顔をした後、真面目に考え答えてくれるエヴァ。

 

ふむ、手詰まりか。俺も思いつかんし他に意見を聞いてみるかと、手元の魔導書を見る。

 

「エセル、何か良い案はないか」

 

すると、俺の手から本が消え、俺の隣に転移して来た様に現れる。

 

「イエス、マスター。2m位の破壊ロボを着ぐるみの様に着せれば良いのではないでしょうか」

 

エセルは涼やかに言った。

 

俺は固まり、頭の中では破壊ロボの顔がチャチャに変わり破壊の限りを尽くす映像が流れた。

 

「ナンダソリャァ」「何なのだその破壊ロボとは」

 

二人が同時に聞いてきた。そりゃ疑問だろう。そもそもロボという物が無いだろう。

 

「これです」

 

とエセルが何処からか破壊ロボのCGがプリントされたボードを出してきた。

 

二人とも呆然としていたが、エヴァが立ち直りもう一度見て口を開いた。

 

「こんな鉄の塊みたいが強いのか?防御力は有りそうだか、機動力ゼロでは話にならんぞ」

 

エセルを疑わしげに見るエヴァ。

 

「見た目はこんな鉄の円柱に――――――――――――――――」

 

なぜか破壊ロボを猛プッシュするエセル、それを聞き徐々にそれも良いかもッと言う感じになるエヴァ。

 

それを横で聞いて「アレヲ着ルノカヨ」と顔に縦線が入るチャチャ。

 

俺は哀れチャチャと思ったがあえて放置する事にした。

 

 

 

 

 

 

その後、結局、破壊ロボを2mサイズにするのは無理という結論に達した。

 

それを聞いて、少し残念そうにするエヴァと横で心底ホッとした感じのチャチャが印象的であった。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

創設 麻帆良学園

 

時代は明治1879年

 

 

幕府は倒れ明治政府が発足し、色々とあったが俺達は余り変わりが無い。

 

埼玉一帯の土地は天皇家やら政府やらと裏取引をして、分割し使い魔が管理している。

 

なので正直ヒマである。

 

エヴァも、もう俺の手から離れている。今度、暇つぶしに最終試験みたいな物を課そうと思っている。

 

そう言えば、ブラックロッジは、秘密結社に進化した。

 

使い魔に運営を任せただけであるが、その使い魔、総て世界有数の企業や財閥のトップである。

 

そのせいでブラックロッジは裏から世界経済を支配している秘密結社となった。

 

 

 

そんな暇を持て余している時に、使い魔から連絡が入る。

 

一人の老紳士が、世界樹一帯の土地を言い値で買い取りたいと、これは、久しぶりの原作関係かと思いながら、エヴァとエセルを呼び出す。

 

 

俺はマギウス・スタイル、仮面、ローブ付きになり、エヴァは仮契約のドレスを着て貰う。

 

「エヴァ、世界樹一帯の土地を言い値で買い取りたいと言う奴が現れた。で、今からそいつに会いに行く。」

 

「ほ~う、私まで、呼んだと言う事は、ブラックロッジのトップとして交渉するのか、大導師殿」

 

面白そうだ、と言う顔をした。

 

普通交渉は使い魔を介して行われる。なので俺達がでる場合は、ブラックロッジ幹部として出る事になるのである。

 

ちなみに、エヴァはこの手のことは初めてである。

 

「ナンダ敵ジャネーノカヨ、旦那」

 

とナイフ片手に残念そうな雰囲気で言ってくるので一応注意しておく。

 

「チャチャ、交渉が決裂したらそうなるかも知れんが、期待するな、俺自身は蹴るつもりは無い」

 

「そうなのか、私はてっきり威圧して追い返して、相手から手を出させてから叩き潰すのかと思ったぞ。それに、アレイはあの巨木が目的でここら一帯を専有したのではないのか?」

 

と真面目に聞いてくる。

 

「エヴァはいったい俺を何だと思っているんだ。それと目的だった、だ。今はもういい。エセル調査は終了したんだろう。」

 

「イエス、マスター。地下構造物から性質まで調べ終えています」

 

と頭の上から声が聞こえる。

 

「地下が在ったのか。・・・大理不尽だろう、アレイは。と言う事はまた旅にでるのか?」

 

呆れ顔の後に少し残念そうなエヴァ。

 

この国には長いこと居るから思う事もあるだろう。

 

「いや、まだ決めてない。せっかく350年も一つの国に留まっているんだ。この国を住み易くして、本拠地をここに置くのもいいと考えている。」

 

「そうか、好きにするがいい。今も昔も、私はお前の物なんだからな、お前に付いて行くさ。」

 

頬を綻ばせ、少し恥ずかしそうなエヴァ。

 

「イエス、マスターの御心のままに」

 

いつも道理に涼やかだが、少し嬉しそうに聞こえる。

 

「ケケッ、旦那、愛サレテルジャネーカ」

 

とからかう様な感じに言って来る

 

「当たり前だ。俺も愛してるんだからな。と、そろそろ行くぞ。あの木の下に呼び出したから、あと、蹴る気はなくても交渉だからな。相手が青くなって震える位は威圧してくれ。」

 

と不敵な笑みを浮かべて言う。

 

「アレイ・・・、それは交渉ではなく、恐喝と言うんじゃないか。」

 

何言ってるんだこいつは、言う顔をしているエヴァに、

 

「何言ってるんだエヴァ、ガン付けて、威圧して、こちら言い分を押し通すのが、交渉の基本だぞ、なぁ、エセル」

 

逆に呆れた感じに言ってみる。

 

「イエス、マスター。それが基本なんですよ、エヴァ」

 

物知らない子供に諭すように言うエセル。

 

「ケケ、知ラナカッタノカ、御主人」

 

さも当然と言うチャチャ。

 

「私か!私がおかしいのか!!」

 

愕然とし、半泣きになるエヴァ。

 

「ほら、さっさと行くぞ」

 

そのまま俺は世界樹に向った。

 

 

 

巨大な木陰の中、背もたれの長い黒い玉座に俺は肘を付いて座っている。右には品のいい黒い椅子にチャチャゼロを足に乗せたエヴァが座って、前には、丸いくて薄い黒大理石の板が浮いている。その上にティーカップが三つ、対面には、初老の英国紳士が品のいい白い椅子に座っている。

 

 

ちょっと前セッティングを終えて、座って紅茶を飲みながら待ていると、シルクハットを被った。初老の英国紳士が現れた。

 

「初めまして、私、アーロン・ロックハートと言うイギリス人です、今日はこちらにこの土地を統括されている方に会いに来ました。」

 

と椅子の横に立ち、自己紹介をした。

 

「ふむ、まあ座り給えよ。魔法使い殿。紅茶でも飲んで話そうではないか」

 

と微笑を浮かべながら椅子を勧める。

「ありがとうございます。あなたがたのお名前を教えて貰ってもよろしですかな。」

 

少し驚きながら椅子に座り紳士が人の良さそうな笑顔で聞いてくる。

 

「ああ、すまない、名乗りが遅くなった。余はブラックロッジが大導師、マスターテリオン」

 

不敵な笑みをもらす 。

 

「私は、アンチクロスが一人、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ。そして、従者のチャチャゼロだ。よろしくしなくていいぞ、ジジイ」

 

「ケケケケ」

 

エヴァはニヤリと笑い、チャチャ面白そうに笑った。

 

俺達は名乗りを済ますと抑えていた力を少し解放する。

 

アーロンは驚愕し徐々に青くなり小刻みに震えだした。そして、ちらりとエヴァを見た。

 

彼が驚くのも無理はない。

 

ブラックロッジは表では一切知られていないが、裏では知らないとモグリと言われるほど有名である。しかし、組織の内情はほとんど知られていない。

 

分かっているのは、強大な権力が有る事、トップが大導師と呼ばれている事、幹部はアンチクロスと呼ばれている事、そしてこれらの名前を騙ると翌日には行方知れずになる事だけである。

 

さらに、エヴァは現最高額の賞金首として200年位前から手配されている吸血鬼である。

 

「用件を聞こうか。魔法使い殿」

 

と俺は脚を組み、頬杖を付いて聞く。

 

「私は、魔法世界はメガロメセンブリアから来ました。この世界樹一帯の土地の確保をするように指示されています。この土地を譲って頂けないでしょうか」

 

冷や汗を流しながら、必死に言って来る。

 

「ほう、中々剛毅ではないか、魔法使い殿。余らにここから去れとは」

 

更に威圧する。

 

「いいえ!そのような事は!!」

 

彼は顔を引き攣らせ、慌てた様子でいってくる

 

「ないと、魔法使い殿は土地を譲ってくれと言ったではないか。この土地で好き勝手できる権利が欲しいのであろう。もし譲ったとして余らがここにいれば邪魔に成ろう、排除するしかないではないか。なあ、魔法使い殿」

 

「いえ!土地さえ使えれば!!」

 

「ふむ、土地を借りたいと言う事かな、魔法使い殿」

 

「・・・はい」

 

俺はニヤリとし、彼は少々苦虫を噛んだ顔をした。

 

「その土地を何に使うね」

 

「学園を、一般人と魔法使いが一緒に学べる学園を創りたいのです。」

 

少し考える振りをして、

 

「いくつか条件を呑むのなら土地を貸そう。如何する魔法使い殿」

 

「・・・私は、国より全権を預かっています。条件を教えていただけますか」

 

「ふむ、では言おう。

ひとつ、ブラックロッジの支部を置く事。

ひとつ、その支部に可能な限り便宜を図る事。

ひとつ、何かしらの不祥事が起きた際、総てそちらが責任を持つ事。

ひとつ、毎年決められた日に2千5百円(現代価格5億円)相当の金を納める事。

以上だ。

どうだね、魔法使い殿。世界樹付きの土地としては、破格だと自負するが。」

 

「・・・本当にその条件でよろしいのですか。」

 

とエヴァの方をチラリと見る。エヴァはそれに気付きニヤニヤしている。

 

「ああかまわんよ。ただ、違反すればそれ相応な罰は受けて貰うがね」

 

アーロンは驚愕していた。本当に破格の条件なのだ。真意を探ろうとするが、放たれているプレッシャーで全く分からない。それに、この土地を手に入れられる機会はもう無いかもしれない。いくら本国が強大な力を有していようと、目の前の2人には勝てるような気がしないからだ。

 

「ありがとうございます。本国にいい返事を持って帰れます」

 

「では、契約書を作るとしよう」

 

そういいながら、俺はどこからとも無く、彼の前にに契約書を作り出した。

 

「サインしたまえ、それで、この土地は君達の自由に使える。支部は、出来たら連絡を入れよう。」

 

彼がサインして、この話し合いが終わった。

 

 

 

 

アーロンが本国に報告に帰り、今後の話は使い魔を介して進めることにした。

 

「よかったのか?あんな条件で、魔法世界の一国家にこの土地を任せて。創設した学園、その国の出先機関になるぞ。間違いなくひと悶着あるな」

 

エヴァが意地悪そうに目を細める。

 

「ああ、あれでいい。俺としては静かに暮らせる場所と、ある程度口出しできる手段が欲しかっただけだしな。それに、これで間違えなく魔法世界と関わりを持つことになる。敵のなるか味方になるかは分からんが。どちらにしろ大歓迎だ。暇をつぶすいい玩具になってくれそうだ。」

 

俺はマギウス・スタイルを解いて、エヴァのほうを見て片頬を上げる。

 

そして今気付いたと言う感じに、

 

「悶着と言えば、京の退魔師とかとなんかありそうだな」

 

「ああ、あいつ等か。奴らの所為で京に住めなかったんだ。今思い出しただけでも腹が立つ!」

 

忌々しそうに、エヴァが言い放つ。

 

仕様が無い。あんまり近くで暮らすと人外なのがばれてしまう。

 

京に今回の事、伝えるべきか・・・

 

「まあ、いいか。あいつ等とは敵対はしてないが、味方でもないからな。エセル、支部は町並みが決まってから立ててくれ。西洋風ならログハウス、東洋風なら武家屋敷で頼む。あと、ばれない様に魔術的かつ魔法的に要塞化してくれ。」

 

「イエス、マスター。家の規模は如何されますか?」

 

「ちょっと待てアレイ、戦争でも起こすつもりなのか」「オ、オモシロソージャネエカ」

 

「備えておくだけだ。今は、戦争をする気はないよ。規模は10人位が楽に暮らせる大きさにしてくれ。名目上、支部なんだ。そこそこの大きさがあったほうがいい。」

 

「イエス、マスター。準備しておきます」

 

それから、何度かの話し合いがあり、麻帆良学園が創設された。

 

 

 

 

ちなみに、支部はログハウスになった。

 

エヴァは少々残念そうにしていた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大戦期突入

1980年、学園が設立してから約100年

 

二度の世界大戦があったが、俺達には然程影響はなかった。

 

色々と細工をして来たが、大きな歴史の流れには影響がなかった。

 

少々科学技術の発達が早いのと、日本の発言力が強くなった程度である。

 

ブラックロッジは相変わらず世界経済を牛耳っている。ただ魔法世界、取り分けメガロメセンブリア(以降MM)と仲が悪い。

 

初代、二代目学園長まではよかったが、三代目時代から、何処から情報が漏れたか分からないが、エヴァがブラックロッジに所属しているのが魔法世界に伝わった。

 

その結果、MMから、自称正義の味方とか言うのが来くるようになった。

 

初め五体満足でボコしてお帰りいただいていたのだが、更に代を重ねると何を勘違いしたのか大人数で襲ってきたので首だけにして学園長室に送り届けてやった。

 

この後、正式な抗議はないが、魔法世界ではブラックロッジは悪の秘密結社で悪の魔法使いの巣窟だと噂されているらしい。

 

更に暫らくして、マスターテリオンに3000万ドル、アンチクロスに1000万ドルの賞金首になっていた。

 

ちなみにブラックロッジの支部は此処しか無いし、存在がばれてるのも此処だけである。だから、千客万来かと言うとそうでもない。

 

此処はあくまで支部で本拠地ではないと思われてるらしい。

 

それに旧世界に詳しい人間は手を出してこない。

 

麻帆良でも、外様の魔法先生と生徒以外は穏健派で触らぬ神に祟り無しと言った感じである。なので時々、思い出した様に一人二人襲ってきたりする。

 

取り敢えず今は少人数なのでボコして、学園長室に放り込んでいる。

 

 

 

さて、久々の原作知識によると来年から大きな戦争が始まるらしい。この戦争は原作に深く関わってくるらしいので俺も参戦しようと思う。

 

問題はエヴァだ。付いて来るのはいいが麻帆良に縛られるってのがある。これをしないと原作が崩れる気がする。

 

まあ如何にかしよう。まずは、エヴァの説得からだな。

 

 

「エヴァ、調べたい事が出来たからここを空ける。留守番を頼みたい」

 

「うん?わかった。で、どれ位空けるんだ?」

 

一瞬少し寂しそうな表情になる。

 

俺も一緒に居たいが、向こうの世界で身動きが取れなくなりそうなので我慢して貰う。

 

「5,6年といった所だ。それ以上なるとしても一度戻ってくる」

 

「私が一緒じゃまずいのか」

 

不満顔で暗に着いて行きたいと言ってくる。

 

「絶対に来るなとは言わんが、行き先は魔法世界だ。」

 

「・・・そうか、わかった。私もアレイの邪魔はしたくない。今回は大人しく待っているとしよう」

 

残念そうな顔をして、拗ねた様に横を向くエヴァ。

 

俺はそんなエヴァの頭を撫でながら、

 

「ありがとなエヴァ。何かしらの土産を持って帰るから、楽しみにしていてくれ」

 

と苦笑しながら言う。

 

エヴァはちょっと機嫌が直ったのか、此方を向いて

 

「私達にとっては、5,6年なぞ直ぐだ。だから、しっかり調べて来い!」

 

微笑んで言ってくれた。

 

 

 

それから俺とエセルは、密かに魔法世界に旅立った。

 

 

 

 

それから約一年間、どう立ち回るか決めるために情報収集に勤しんだ。

 

 

其れで分かった事が、この戦争に裏がありそうな事、オスティアが怪しい事、魔力完全無効果能力を持つ黄昏の姫巫女と呼ばれる存在が居る事。

 

この戦争の黒幕と直接敵対し勝つのは正直簡単だと思う。まあ、探すのが面倒臭い、それに面白くも無い。なので、帝国の勢力に加担して裏を探ろうと考えいる。

 

帝国を選んだ理由は、MMが関わっている連合は除外、そして、中立なのでアリアドネーも除外そうすると必然的に帝国しかないのである。

 

どういう風に参戦するかは考えてないが、どうとでもなるだろう。

 

 

オスティアが怪しいと考えるのは、使い魔がオスティアに近づいたら消されたからだ。

 

今回使ったのは使い捨ての使い魔とは言え一般魔法使いになら5、6人に囲まれても勝てる位には強い。

 

それが何の情報も持ち帰れなかったのだ。これは何か有ると見ていい。

 

 

黄昏の姫巫女は、魔力完全無効果能力と言うのを使った。防衛兵器扱いらしい。聞いた話によると小さな女の子だと言う話だ。

 

俺は能力もそうだが、小さな女の子と言われエヴァを思い出して興味が湧いた。なので帝国に行く前に可能なら見に行こうと思う。そして、気に入ればお持ち帰りしようと思う。

 

俺は取り敢えずオスティアに向かった。

 

 

 

 

オスティア着いて早々戦闘に巻き込まれる事になった。

 

ヘラス帝国が攻めて来たみたいだ。俺は戦場が一望できる高度まで空を駆け上がった。

 

黄昏の姫巫女が防衛兵器なら能力的に結界のように使うだろうと中りをつけ、それらしい施設を探す。

 

そして、一際は高い孤立した塔を見つけ、その塔に最上階に転移した。

 

 

其処は、屋上にドーム型の屋根を付けた様な祭壇だった。

 

転移して最初に見たのは両手を鎖につながれた人形の様な女の子、次に周りにいる5人のローブの魔法使い。

 

顔を見られる前に魔法使いを魔術を使い昏倒させる。此処までの作業に要した時間は刹那も無いだろう。

 

俺は女の子に近づきながら、取り敢えず自己紹介をすべきかと彼女の前で片膝を着いた。その時、能力の反動か何かなのだろう。彼女が口から血を流した。

 

俺はそれを左手でふき取りながら、

 

「初めましてだ、姫巫女。俺はブラックロッジが一人、アレイ・クロウとい言う。君の名は?」

 

と俺は可能な限り威圧などしない様に、小動物を相手にする感じで言ってみる。

 

すると彼女は、無表情、無感動な声で、

 

「・・・アレイ・・名前・・・アスナ・・・・アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア」

 

と名前を教えてくれる。

 

その時俺は気付いた。常時展開している防禦陣が解呪されていた。そして通常空間より幾分か魔力が薄い。まさに、魔力を吸うブラックホールの様である。

 

今後どうなるか分からないがやり方しだいでは脅威になりそうなので、彼女を手元に置いておいた方が良いと考えた。

 

なので俺は、彼女の頭を撫でながら、

 

「アスナか良い名だ。・・・・アスナ、外に興味は無いか?」

 

と何も写さない彼女の瞳を覗きながら聞いてみる。無表情だが撫でられて少し気持ち良さそうだ。

 

「・・・外」

 

と興味を持ったのかは分からないがそう呟いた。

 

ここまでで出時間切れのようだ。塔の外にヘラスの物と思われる鬼神兵が間近に迫っていた。今ヘラスに顔が割れるのは面白くない。

 

俺は右手を鬼神兵に向け、長年使ってきて最も信頼している魔導書の術式を走らせる。

 

「ン・カイの闇よ!」

 

この術式は重力結界術式である。結界内の重力を操作してそれこそブラックホールのような超重力にしたりもできる。更に捕縛結界として設置したり、空中に球形に作り出し打ち出したり、操作したりとかなり自由の利く術式である。

 

右手の前に漆黒の球体が出来、視認不可能な速さで鬼神兵の胸に向かって打ち出された。

 

打ち出されたこぶし大の球体は鬼神兵に当たったとたん、爆発的に大きくなり鬼神兵の上半身を飲み込み消え、下半身だけが残された。

 

下半身が崩れ落ちる大きな音を聞きながら俺はアスナに向き直った。

 

「アスナ。すまない時間のようだ。次に会った時アスナが外に出たいと思えば連れ出そう。考えておいてくれ」

 

俺はアスナを撫でてから転移しようと思い、アスナの頭に手を伸ばした。その時背後から俺に向かって一発の魔法の射手が迫って来た。

 

俺は振り向き様裏拳で打ち消し、魔法を放ったと思われる赤毛の少年と向き合う。その少年が俺達の居る祭壇に降りて来た。

 

「その子から離れやがれ!!」

 

と、開口一番叫んだ。そして、長刀を持った黒髪の青年と胡散臭い雰囲気のローブの男、彼の仲間と思わしき人間も降りてくる。

 

ふむ、第三者から見ると俺はこの子を襲っている様に見えるらしい。強襲を掛けた後に話していたから間違いではない。

 

3人とも此方をかなり警戒している。俺はアスナが居るので威圧などしない様に気をつける。

 

「先ほどの鬼神兵の上半身が突然消えたのは、貴方がやったのですか?」

 

と、ローブの男が問うてくる。黒髪の青年は疑わしそうにローブの男を軽く見た。

 

俺は答える心算が無いので無視して今後どうするか考える。

 

先程までなら俺が、感知できない距離からヘラス側を攻撃して撤退させようかとも思ったが、この3人がオスティア側に付くのなら押し返せるだらろう。ならこのままヘラスに跳んでも問題ないな。

 

そう考えていたら、赤毛の少年が此方に一歩踏み出してきた。

 

「すかしてんじゃね!何者だてめぇ!!」

 

とチンピラのように凄んで来る。

 

ふむ、三下にしか見えんぞ、少年。時間は無いが少し遊んでから帰るか。

 

「貴様ら程度三下に名乗る心算は無い。時間が押しているので去らしてもらう」

 

と眼中に無いかのごとくあざ笑ってやる。

 

少年の仲間は色めき立つが、少年は頭から何かが千切れた音がした。

 

「ふっざけんなぁぁぁ!!」

 

と、かなりの速度で一直線に向かってくる。

 

「ナギ!!」「待ちなさい、ナギ!」

 

青年、ローブが静止の声を掛けるが赤毛は聞かずに此方に飛び込んでくる。

 

俺は魔力をほんの少し右手に集め赤毛に向かって軽く打ち出した。

 

それに当たった赤毛は「ガフッ」と肺の中の空気を出しながら、スマッシュを決められたピンポン玉の様に青年に向かって吹っ飛んでいった。

 

何とか青年は受け止め咳き込む赤毛を心配した後、此方を睨み付けて来た。その間、ローブは此方から目を離さず、何時でも迎撃出来る様にしていた様だ。

 

「図に乗るなよ少年。貴様ら如き今すぐ消せる。それを見逃してやろうと言うのだ」

 

其処まで言って、殺気を叩きつる。奴等は顔色を変えるが、俺は一顧だにせずに、

 

「其処で大人しくしていろ」

 

と言い放ちアスナに向き直る。

 

「機会があればまた会おう」

 

俺はアスナにだけ聞こえる声で微笑みながらそう言い、ヘラスに向け転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

じゃじゃ馬?登場

 あの後、俺はオスティアからヘラス首都近郊の森林に転移してきた。もうそろそろ夕方と言った所か少々早いが食事にすることにする。

 

俺はエセルを呼び出す事にする。今回の戦争では保険としてエセルには裏方に徹してもらおうと考えている。なので基本、戦闘中は別行動である。

 

「エセル、来てくれ食事にする」

 

「イエス、マスター。何を食べられますか」

 

いつもの涼やかな声が答えてくれる。

 

俺は折角なので食材をその辺にある物で食事をしてみようと考えて、何か無いか周りを探知してみた。

 

するとおあつらい向きに此方に超大型な生き物が何かを追って走ってくるのを察知した。たぶんドラゴンだろう。今夜の食材はこいつに決めた。

 

「エセル、ドラゴンにしよう。丁度もう少ししたら此処に来る。解体の準備をしててくれ」

 

「イエス、マスター。アデアット<万能従者の鑑>」

 

エセルのアーティファクト<万能従者の鑑>とは、契約者の主に関する行動に限りかなり強力なサポ-トとブーストをしてくれるメイド服である。

 

今回なら解体と言う事で何処からとも無く出した。大振りの包丁を握っている。

 

エセル曰く、従者にとっての万能工具みたいな物らしい。色々と重宝しているようだ。

 

そうこうしているとしていると、木を薙ぎ倒す音とドスドスと重低音な足音が徐々に此方にやって来る。

 

そして、追われていたのであろう小さな影が草むらから俺に向かって飛び出してきた。さらにその後ろから、木々を吹き飛ばしながらドラゴンも現れた。

 

多分子供であろう。ローブを目深に被り顔などは判別できない。その子供は此方に気付いたのか、

 

「にげるのじゃぁぁぁ!!!」

 

と叫んだ。そして、叫んだ拍子に足が絡まったのか何も無い所でこけた。

 

俺の目の前で盛大にこけ、「へぶっ」とくぐもった声が聞こえ、そのままヘッドスライディングして俺の足元で止まった。

 

ドラゴンも急の止まると思ってなかったのか俺達を跨ぎ越えて行こうとしたが、俺はすれ違い様首を切り飛ばした。

 

ドラゴンはそのままの勢いで俺の後ろに重い音立てながら転がって行った。

 

「エセル、解体は任せた。今夜はステーキにしよう。それと客人の分も頼む」

 

「イエス、マスター」

 

と答え早速解体に取り掛かるエセル。あれよあれよと見事に解体されていくがそれを見届けずに足元で荒い息をしている物体を見た。

 

しばらくすると行き成りガバッと身を起こした。

 

「何で逃げないのじゃぁぁ!お蔭でこけたではないかぁぁ!!」

 

身を起こしたと同時に吠えられてしまった。

 

「ッそれどころではないアヤツがいない内に逃げるのじゃ」

 

俺の手を引いて先ほど飛び出してきた方に駆け出そうする。当然俺は動こうとしないので、その子供はつんのめって止まる。

 

「どうしたのじゃ!もしや恐怖で身がすくんで動けんのか?」

 

どうも後ろの解体作業が位置的に見えなくて、いまだドラゴンに追い掛けられてるものと思っているらしい。

 

俺は無言で子供の襟首を掴んで持ち上げる。

 

「なな何をするんじゃぁ!」と言って手足をばたつかせているが気にしない。

 

俺はその子供を、皮が剥がされ内臓が取り出され半分骨になっている元ドラゴンに向けた。

 

「ドラゴンの末路だ」

 

俺はそう説明したが反応が返ってこない。おかしいと思いフードを取って様子を見てみた。そしたらだらしない表情をして気絶していた。ちなみに女の子だった。

 

俺は仕方が無いので近くの木にもたれ掛かって座りその横に寝かせた。そして、魔術で火を出して焚き火代わりにした。多分、解体が終わってステーキが焼ける頃には起きるだろう。

 

 

 

 

「みぃぃぃぎゃぁぁぁぁ!!!」

 

俺の横で奇声が上がった。女の子でこの悲鳴はいいのか、とも思ったが取り敢えず起きたらしい。

 

「起きたかステーキが焼けている食べるといい」

 

ステーキを食べる様に進めてみる。どういう反応をしてくれるか楽しみである。

 

「・・・え、わかったのじゃ。・・って食べれるかぁぁぁ!!」

 

両手を上げて吠えられた。ふむノリ突込みだったか。

 

「食べてやれ、お前を追いかけた所為でこんな姿になったんだ」

 

ニヤニヤ内心で笑いながら、表情は酷く真面目そうにして言ってみる。

 

「妾の所為なのか・・・いや、しかし・・・あんな物さえ見なければ・・・」

 

など呟きながら、う~~んと頭を抱えてうなていた。

 

俺はエセルに焼いてもらった串焼き状にしたステーキを頬張りながら見ていた。ちなみに、エセルは俺の横でせっせと肉を焼いている。

 

「よく考えたらみなたら、そなたの所為ではないかぁぁぁぁ!!」

 

また、両手を上げて吠えられた。よく吠える子だ。

 

「では、食べないのか」

 

「そんな哀れな物を見る目で肉を見るでない!食べる食べるのじゃ!」

 

俺から串を奪い取り肉を見つめプルプル震えていたが意を決したのか肉を頬張った。

 

「・・・うまいのじゃぁぁ・・・でも戻しそうなのじゃぁぁ・・・」

 

滝の涙を流しながら食べていた。結局、三本も食べていたので途中で気にならなくなったのだろう。

 

 

俺達は食事を終え、お茶を飲みながら一服していた。

 

「それにしても、ドラゴンを瞬殺とはすごいのぉ」

 

感心した風にこちらを見ながら言ってくる。この女の子、角があり褐色な所を見るとヘラスの良い所の子女だろう。何でこんな所に居るのか分からないが。

 

「そんな事は無い。その気になれば割と誰でも出来る」

 

俺は正直に感じたまま答えた。ちょっとナイトゴーントと訓練すればいける気がする。

 

「いやそんな訳無いのじゃ。それでじゃなぁ・・・妾の護衛になってはくれんか?」

 

俺を下から覗き込むように聞いてくる。上目遣いでかなり可愛い。 

 

「良い所の子女が何処の誰とも知れない人間を雇って良いのか?ちなみに俺は何でも屋をやっていて、今仕事は請けてない」

 

「何でも屋とは何じゃ?」

 

女の子は首をかしげて聞いてくる。オイオイ、質問には答えないのか。まあいいが。

 

「そのままだ。金次第で何でもやるから何でも屋なのさ」

 

女の子はしきりに頷いて、俺を真っ直ぐ見つめて言った。

 

「なら妾の護衛をしても問題は無いのじゃ!妾がそなたを雇うじゃ!!」

 

握りこぶしを作り力説する。要するに自分自身が雇うから俺の出自は気にしないと言いたいらしい。

 

「ほんとに、俺を雇うのか?かなり高い上に此方の世界では悪名が酷い筈だが、そういえまだ名乗りをしてなかったな」

 

そういって俺は名乗ろうとしたが女の子に止められた。

 

「そなたを雇うんじゃ。妾から名乗るじゃ。妾は、テオドラ・・・テオドラ・バシレイア・ヘラス・デ・ヴェスペリスジミアじゃ。気軽にテオと読んで欲しいのじゃ」

 

テオがサラリと名乗ったが帝国の王族らしい。ほんと何でこんな所に居るのやら。

 

「ふむ、王族か?」と一応確認を取っておく。

 

「うむ、第三皇女じゃ」と無い胸を張って答えられた。

 

「余計に雇わない方が言いと思うが」と呟きながら取り敢えず名乗ることにした。

 

「俺は、ブラックロッジが一人、アレイ・クロウだ。」

 

そう名乗るとテオが顔面蒼白になって、ガタガタ震えだした。ブラックロッジはこの魔法世界でどんな扱いなのか凄く気になる反応だ。

 

「嘘じゃ!そなたがブラックロッジの一員なんて嘘なのじゃ!!」

 

テオが悲痛な感じで否定する。何を持って嘘と断定してるのか分からないが、テオが思っているブラックロッジはどんな物か聞いて見る事にする。

 

「ふむ、テオが知っているブラックロッジとはどういう物なのだ」

 

「悪逆非道を尽くす秘密結社、禁術や外法を好んで使う悪人ばかりが所属してるのじゃ。そして、かの闇の福音<ダーク・エヴァンジェル>も在籍いてるらしのじゃ。そして、いい子にしてないと闇に福音やブラックロッジのメンバーに禁術の実験台にされるのじゃぁぁ!!」

 

テオはまるで怪談でも話すかのように話してくれた。なんか寝物語の一種みたいだ。取り敢えず実態を話せる所だけ話してみる事にする。

 

「俺の所属しているブラックロッジは今は旧世界の経済のバランスを執っている秘密結社だ。もとは厄介事請負業、所謂何でも屋のギルドが元だ。だから俺も何でも屋なんだが」

 

エヴァが所属しているとかは態々言わない。他にも後ろ暗い事はあるが聞かれてないから黙っておく。

 

「悪の魔法使いが所属してるのではないのか?それに確か結社のトップと幹部に賞金が掛かっておった筈じゃ」

 

テオは真実を確かめるように俺の目を覗き込んでくる。その目は純粋で俺のなけなしの良心突き刺さって来る。

 

「悪かどうかは置いておくが、少数だが魔法使いも所属している。今は会社や企業のトップが殆どだ。賞金に着いては俺も分からん。昔、MMと喧嘩した後に何時の間にか賞金が掛かってたそうだ」

 

まぁ嘘は言っていない。其処まで話してテオは何度か頷いた。そして、俺を目を真っ直ぐ見ていった。

 

「それなら妾が雇っても問題ないのじゃ!!」

 

元気に両手を上げて宣言してきた。どうあっても雇いたいらしい。実際ヘラスから参戦する心算であったから、これはこれで良いのだがテオの相手は大変そうだ。

 

「ふむ、取れあえずテオの両親と要相談だな。後は基本的に護衛だが応相談で何でもやると言った感じか」

 

「やってくれるのじゃな!」

 

テオははしゃぎながら言ってくるが。

 

「テオの両親しだいだ。取りあえずテオのうちに行くぞ」

 

エセルに念話で情報を集めるように指示を出し、俺はテオの襟首を掴んで歩き出した。

 

「やめい、自分で歩けるのじゃぁぁぁ!!」

 

じたばたしてたが俺は気にせずに王城の上空にあたりに転移する準備をした。

 

「そういえば、テオは何でこんな所にいたんだ?」

 

「うむ!うざったい護衛を巻いたらいつの間にかドラゴンに出くわしたのじゃ!」

 

何かすこぶるやる気が無くなる事を堂々と言いやがりましたよ、このテオ。俺は無理やり気分を変えて、転移の術式を走らせた。

 

「テオ跳ぶぞ」

 

「とぶってどういう事じゃ」

 

次の瞬間二人は消えた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

皇帝に謁見

ヘラス帝国の首都上空

 

 首都が一望できるほどの高度に先ほどまで何も無かったが、いつの間にか一組の男女が現れた。

 

 一人はマスターテリオン、現在はアレイ・クロウと名乗っている。もう一人は、アレイの手に子猫のように襟首を持たれ吊るされている、テオこと、テオドラ第三皇女。

 

「何じゃ。何処なのじゃ?ここは?」

 

 突然の転移に場所が掴めてないらしい。今は夜だから何処を見ても星空に見えるのだろう。俺は今の位置をテオに伝える事にした。

 

「今、ヘラスの首都上空だ。大体雲の更に上だな」

 

 そうと伝えると、テオは興味深そうに周りを見渡した。ふむ、高い所は平気のようだ。ちょっと残念。

 

「星空が綺麗なのじゃ。そう言えば何でこんな所に転移したのじゃ。そもそもどうやったのかも謎じゃが?」

 

 此方を振り向きながら聞いてくる。俺は答えられる事だけ答える事にする。

 

「俺はヘラスに行った事が無い、だから大体で転移してたんだ。で、空の上なのは歩かなくてすむだろう。ちなみにどうやったかは秘密だ」

 

「うむ、大体分かったが歩かなくてすむのはどうしてじゃ?」

 

 テオは不思議そうに聞いてくる。もうちょっとしたら分かるが、まあ心の準備は大事だろう。

 

「このまま、王城に向って落ちていけば良いだけだろ」

 

 俺はさも当たり前のように言ってみる。テオは目を見開き俺を見た後、下を見てまた俺を見た。

 

「のう、アレイ。冗談じゃろ?この真っ暗の中落ちるのは嫌じゃぁぁ」

 

 よほど嫌なのか半泣きで聞いてくる。俺はこのまま自由落下を開始しようかとも思ったが此処で暴れられても困るので滑空するように螺旋を描いて王城に降りていった。

 

 

 

 

 俺は王城を目視可能な位置まで来て、テオに、皇帝の執務室と謁見の間に位置を聞いた。多分時間的に執務室にいるだろうとテオが言うので執務室の中に転移する。

 

 俺はかなりデカイ執務机の前に転移したらしい。俺に気付いたのかダンディなオヤジが声を上げながら立とうとするが、俺はアトラック=ナチャで椅子に縛り動けなくする。

 

「あんたが皇帝か?取りあえず、落し物を届けに来た。後はそいつから聞いてくれ」

 

 俺は自分の前にテオを降ろした。そして、術式を解いた。テオはいきり皇帝の前に出るとは思って無かったのか。少々慌てていたが皇帝の方を向いて挨拶をした。

 

「ただいま戻りました。父上」

 

「ようやく帰ったか、じゃじゃ馬娘が」

 

 俺は普通に敬語を話すテオに驚いたがそれも直ぐに元に戻った。

 

「な、なんじゃと。バカオヤジ」

 

 なんだか、親子喧嘩、兼説教に突入したので俺は壁際に退避した。

 

 

 

 それから暫らくたってテオが罰で謹慎することが決まったようだ。テオは半泣きだったが仕方ない。

 

「すまない。待たせた、お客人」

 

「いや、其処まで待っていない。テオに俺の話はきいたか」

 

 俺は皇帝に対して全く気にせず何時も道理に接する。皇帝はたいして気にしてないのかそのまま話し続ける。器のデカイ事だ。

 

「いいや、まだだ。君を交えて話したいのだがどうだね」

 

「俺は其れで良いが、テオさっさと経緯を話してくれ」

 

 俺はテオに護衛を撒いてから、どうやって今に至るか話て貰った。皇帝は静かに聴いていたがドラゴンを瞬殺とブラックロッジの行で少し驚いた顔をしたが概ねポーカーフェイスで聞いた。

 

「という感じで、アレイを護衛にしたいじゃ。だめじゃろうか、父上」

 

 テオは真剣そうに皇帝の目を見て言った。皇帝も娘の視線を確り受け止めていた。そして、俺に向き直った。

 

「まずは、娘の命を助けてくれた事に感謝する」

 

「気にするな食糧確保の次いでだ」

 

 俺は事実を其のまま言う事にする。テオは此方を不満そうに見ていたが俺は気付かない振りをした。それを見て皇帝は苦笑していた。

 

 皇帝は表情を真面目な表情に作り直た。俺も自分の話だろうと皇帝を見やる。

 

「君はブラックロッジ所属だそうだが、其のブラックロッジとはなんなのだね。余も帝国を預かる者として外の情報は集めているが、ブラックロッジだけはよく分からなかった。よければ話せるだけで構わないから、話してくれないか」

 

と、言ってきた。

 

 ふむ、今後、魔法世界で動く時に正しい情報を入れて置けば何かしら役に立つかもしれない。少し考え俺は言った。

 

「どんな情報が集まったか、聞いても良いか」

 

 皇帝は小さく頷いて

 

「曰く、大規模な慈善事業を取り仕切っている。

 曰く、死の商人である。

 曰く、旧世界の主だった企業が参加している。

 曰く、悪の魔法使いの巣窟である。  

 曰く、闇の福音が所属している。

 曰く、もう既に世界征服している悪の組織である。

などなどだよ正直情報が錯綜していてどれが正しのか分からない」

 

 さすが帝国、色々と情報を集めてるようだ。

 

「概ね正しい。悪の魔法使いの巣窟位か間違いは、あと悪の組織でもない。俺に言えるのはそれ位か」

 

「という事は、善悪関係なく、裏で旧世界を征服している組織で闇の福音も所属していると、そう言う事かね」

 

 皇帝は難しい顔をしながら聞いてきた。概ねそんな感じだろう。ただ征服と言っても経済的にだが。

 

「満足できたか。これ以上聞かれても答えられないが」

 

「大丈夫だ。助かった。だが今後、ブラックロッジとは敵対したく無いな」

 

 皇帝は真面目な顔でそう言って来た。

 

「護衛の件はどうする」

 

 断られたら正直こまる、と思いながら表情はポーカーフェイスで聞いてみる。

 

「ブラックロッジの名は出すのかね」

 

「ああ、聞かれたら出すと考えてくれ」

 

 皇帝は少し悩んで俺を見ながら言った。

 

「雇おう。護衛以外も応相談でやってくれるのだろう。それと名を出すのは少し待てくれ、帝国内で根回しをしておく」

 

 まあ基本何でも出切るからな。帝国内だけとは言え動きやすくなるのは有り難い。

 

「諒解した。取りあえず、今から護衛に付く」

 

「ああ、よろしく頼む。契約書などは明日になる」

 

 分かった、と答え俺は皇帝とガッチリ握手した。

 

 

 

 そして、テオの案内でテオの部屋まで来た。

 

「此処が妾の部屋じゃ。そして、アレイは隣の部屋になるのじゃ」

 

 テオが自分の部屋の壁のドアを指指す。このドアで隣の部屋と繋がっているらしい。

 

「取りあえず、今日は寝るぞ。テオは明日から謹慎なんだったな」

 

「そうじゃ、じゃがアレイが居れば好きなときに遊びにいけるの」

 

 テオは嬉しそうに言った。ジト目で俺はテオを見る。

 

「・・・しばらくは、俺も動けんから大人しくしとけ」

 

「うむ、大人しくしているし、やる事もちゃんとやるからそんな目で見ないで欲しいのじゃぁぁ」

 

 徐々に後ずさりながら後半泣きが入るテオであった。

 

「俺は部屋にいるから、何かあれば呼ぶか叫ぶかしろ」

 

「うむ、わかったのじゃ」

 

 そう言い、俺は部屋に入っていった。

 

 

 

 取りあえず、俺はテオと自分の部屋に害意を持った存在が入ったら、とある素敵な異空間(餓鬼結界)に転移するトラップをしかけ、更に各種結界を構築していった。

 

 それを済ませてからエセルを呼び出した。

 

「エセル、来てくれ」

 

「イエス、マスター」

 

 何時も道理の涼やかな声が返って来た。俺はエセルを撫でながら訊いた。

 

「あの後、オスティアはどうなった」

 

「3人がアスナと接触、その後ヘラスを押し返しました」

 

「そうか、あの三人の事は分かるか」

 

「イエス、マスター。彼らは<紅き翼>と名乗り、連合に所属しているようです。

 一人目は赤毛の少年<ナギ・スプリングフィールド>魔法使い、特徴はその他に比べ魔力が多いです。

 二人目は黒髪の青年<近衛 詠春>神鳴流剣士、特徴は良くも悪くも高次元で纏まった神鳴流剣士です。

 三人目はローブの男<アルビレオ・イマ>魔法使い、特徴は重力魔法を好んで使うようです。これは私見ですが彼は私と似たような存在だと思われます。

 総じて見るにマスターの脅威にはならないと思われます」

 

 他に比べたらかなり強かったから、其のうち頭角を現してくるだらう。そうなったらヘラスは俺を出すか他に強い奴が居るのならそいつか。

 

「ヘラスは次どう動くか情報はあるか」

 

「イエス、もう一度オスティアを攻めるようです」

 

 かなり無謀、いや、無理だろ何考えてんだ。皇帝はまともそうだったから、他のやつか。

 

「エセル、どうしてそんな作戦になった」

 

「貴族が主導で推し進めたそうです。連合の援軍が引いた所を狙うそうですが、あの三人が残るようなので現戦力では攻略不可能でしょう。いかがなさいますか。マスター」

 

 取りあえず、根回しが終わるまで俺は動く気は無い。其の間に貴族と軍人を徹底的に調べて丸裸にしてみるか。それとブラックロッジの噂を流しておくとしよう。

 

「明日から帝国の貴族と軍人を丸裸にしろ、裏で何かやってる連中が居るはずだ。それとブラックロッジの噂を流してくれ。これで今日は終了だ。一緒に寝るぞ、エセル」

 

「イエス、マイ、マスター」

 

 俺はエセルを抱いてベットに向った。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

グレート=ブリッジ陥落作戦

 俺達の予想道理に二度目のオスティア侵攻作戦は失敗に終わった。やはり紅き翼が大分奮戦したらしい。これにより戦況は小康状態、各地で小競り合いが多発している。

 

 現在紅き翼は辺境を転戦しているらしい。俺の予想では奴らを主軸にヘラスに逆侵攻を掛けてると思っていた。今ヘラスにあいつ等を止めれる駒は(俺を除けば)無い。オスティア侵攻作戦を見れば分かりそうな物だが、それなのに奴らを下げるという事は向こうも何かあるらしい。

 

 俺達は帝国の貴族と軍人を洗ってみたがやはり裏で繋がっていた。何かしらの巨大組織のようだ。全容はまだ分からないが其の内解明できるだろう。目的に関しては推測になるが戦争の長期化。これが目的なのか、目的達成の過程なのかは分からない。

 

 俺はテオの護衛として一応認められた。根回しが効いたのか、それほど酷い扱いは受けていない。聞いた話によると、ブラックロッジの悪名はMMが故意に流した物と皇帝が言い触らした様だ。

 

 俺は皇帝に相談事があると言われ、現在執務室に居る。

 

「呼び出して、すまない。意見を訊いたいのと、依頼をしたい」

 

 多分だが次の大規模侵攻に関する事だろう。この作戦を聞いた時、耳を疑ったが、例の組織も関わってるらしので仕方が無い。

 

「かまわない。話を聞こう」

 

「次のグレート=ブリッジ陥落作戦、アレイ殿はどう見る」

 

 皇帝は真剣な顔で此方を見ながら資料を渡してきた。エセルから作戦内容は聞いているが一応確認して率直に言う。

 

「誰が考えたか知らんが、無駄以外の何物でもないな。作戦概要は大規模転移による奇襲、それも内部に転移しての強襲制圧作戦、更に速やかに制圧した後要塞設備を使って外部勢力の撃退、まあ奇跡に近いが出来なくは無いだろう。よしんば出来たとして維持が出来ない。あそこは勢力圏外だ。落し返されるのが落ちだ」

 

「やはり、アレイ殿もそう思うか」

 

 皇帝は難しい顔にになるが、俺はなぜこんな作戦が通ったのか聞いて見ることしにした。

 

「なぜ、そう思うなら作戦を通した。止められなかったのか」

 

「うむ、上級貴族、軍人が根回しをしていたようだ。この頃余の意見は通り辛くなっておる」

 

 ふむ、今まで調べた情報を小出しにしてみるか、皇帝はかなり優秀な為政者だ。情報を渡したら上手く立ち回ってくれるだろう。

 

「この戦争おかしいと思わないか。後ろで誰かが糸を引いてる感じがする」

 

「例えそうだとしても今の余には出来る事は少なし!」

 

 皇帝は驚愕した後、苦虫を噛んだ顔で言葉を吐き捨てた。今現在は情報収集しかできんだろう。

 

「其れで皇帝、数少ない手段の内の一つである俺に何を依頼するんだ」

 

俺は大体予想が付いていたが皇帝に話を進めるよう促した。皇帝はすまなさそうにこういった。

 

「グレート=ブリッジ陥落作戦時、外部勢力に奇襲して欲しい」

 

「皇帝、俺の記憶が確かなら戦艦が大小合わせて300隻以上配備されてなかったか」

 

 正直、制圧も簡単に出来るがやり過ぎるのも拙い。黒幕がどう動いて来るか分からないので手の内はさらしたくない。世の中何があるか分からないのだ。

 

「やはり、無理か、ドラゴンを瞬時に屠るそなたなら可能と思ったが」

 

 皇帝自身無謀だと分かっていて訊いてきたのだろう。期待はしていなかっただろうが、少し気落ちしていた。

 

「受けないとは言っていないぞ、皇帝。要は派手に暴れて陽動をすれば良いのだろう」

 

「おお、受けくれるか、アレイ殿」

 

 そして、俺はグレート=ブリッジ陥落作戦において陽動をする依頼を受けた。

 

 

 

 

 その後、依頼の件をテオに伝えるために部屋に向った。多分テオに色々言われるだろう。覚悟しておこう。

 

「テオ、入って良いか」

 

「うむ、アレイか。入って良いのじゃ」

 

と、元気な声が聞こえてくる。

 

「父上の話はなんじゃったんじゃ?」

 

 俺が入って早々に依頼の事を訊かれた。俺は包み隠さず依頼内容だけ答えた。

 

「のう、ちゃんと戻ってくるんじゃろ?」

 

 テオは目を潤ませながら此方に近寄ってきた。そして、じっと俺の目を見る。俺は不敵な笑みを浮かべ、テオの頭に手を乗せた。

 

「ふむ、問題なく戻ってくるだろうな。むしろ、この作戦で俺とブラックロッジの名前が魔法世界に響き渡るだろう」

 

 テオは何を言われたのか分からないと言わんばかりにポカンとした後笑い出した。

 

「アハハハ!そうか問題がないか」

 

「ああ、有名人になりすぎて表を歩けなくなりそうで不安だ」

 

「ハハハハ、そうか、そうか」

 

 テオは暫らく笑っていたが収まると真面目な顔になり訊いてきた。

 

「護衛になってから、アレイは一度も戦闘をしていないようじゃが実際の所どれ位強いのじゃ?」

 

 俺は悩んだ比べる対象がいないのだ。現在はどれ位と言われても困る。しばし悩んでこう答える事にした。

 

「テオが望むなら月をも砕いて見せよう」

 

 テオは冗談と思った様だった。実際は星くらい砕けてしまう。其の後、俺達は其のまま他愛の無い話をして過ごした。

 

 

 

 

 今からグレート=ブリッジ陥落作戦が夜明けと共に開始される。俺は全長300kmあるグレート=ブリッジ要塞のほぼ真ん中を飛んでいる護衛艦隊の旗艦である超弩級戦艦の真上5km地点にいる。

 

 この位置からは旗艦やそれを取り巻く大小30隻余りの護衛艦、疎らに配置され護衛艦の編隊その数300隻以上がよく見える。最初は全部落す気であったがこうして見るとウンザリして来た。

 

 もう直ぐ日の出だ。俺は滞空する為に使っていた術式を解いて旗艦に向って頭から落ちて行った。そして、接触まで数十秒の所で魔力を開放し全方位に目立つよう念話を飛ばした。

 

「ブラックロッジが一人、アレイ・クロウ。悪いが連合よ。依頼により俺と戯れてもらう!」

 

 そう言い、俺は術式を駆使し総てのエネルギーを足に集約して、真上から旗艦の真ん中に蹴りを撃ち込んだ。

 

「(擬似)アトランティス・ストライク!」

 

 旗艦に当たった足を基点に戦艦の真ん中は粉砕され吹き飛んだ。そして旗艦はへの字に折れ曲がり海に沈んでいく。まだ、要塞も周りの護衛艦も動き出していない。俺はすぐさま次の術式を紡ぎ出す。

 

「ン・カイの闇よ」

 

 俺を取り巻くように漆黒の重力球を11個作り出す。そして、周りの護衛艦に向ってバラバラに別の軌道で襲い掛かった。重力球は護衛艦に到達するまでに4mに成長していた。それが通った後は、くりぬかれた様に何もかも消えていた。

 

 其の重力球は意思があるかのごとく縦横無尽に無事な戦艦に襲い掛かった。5分もせずに護衛艦隊30隻は虫食い状態となり、火を吹きながら沈んでいった。

 

 その間、漸く事態を把握したのか、俺に向って要塞から集中砲火を浴びせてきた。そして、残りの護衛艦約200隻も最低限の防衛戦力を残し此方に向ってきている。

 

 要塞の砲火は防禦陣に任し、次の行動に移った。

 

「天狼星<シリウス>の弓よ」

 

 それは黒き龍の躰を持った金色の弓、ナコト写本の呪法兵装。この弓は自身の魔力を矢として使う。放たれる矢は分裂、自動追尾、自由操作、更に威力も自在でまさに万能の弓である。

 

 俺は弓を構えグレート=ブリッジ要塞の一点に矢を放った。

 

 

 

 

<グレート=ブリッジ要塞司令室>

 

 

 

 

 私はこの要塞を取り仕切る司令官をしている。もうそろそろ夜明け、あと2時間ほどで当直も終わり部屋に戻り寝る事が出来る。

 

 その時司令室に警報が鳴り響き緊張が走った。今は戦時下、何時敵が攻めてきてもおかしくは無い。たとえ此処、難攻不落と言われたグレート=ブリッジ要塞であろうとも。

 

「司令、旗艦直上に高魔力反応です!後、数十秒で接触します!!」

 

 下士官が悲鳴を上げるかのように報告して来る。其の報告を聞いた者は皆固まった。更に私達の頭に中に念話が響き渡る。

 

「ブラックロッジが一人、アレイ・クロウ。悪いが連合よ。依頼により俺と戯れてもらう!」

 

 其れは古の英雄が戦場で名乗りを上げるようなそんな印象を抱かせた。

 

 なぜ悪の秘密結社のブラックロッジがここにいるのか、そんな考えが私の頭に浮かんだが、次の瞬間、旗艦が真ん中でへし折れた。私はその時人影を見た気がした。

 

「旗艦が折れた位置をアップでモニターに出せ!!」

 

 私は気が付いたらそう叫んでいた。そして、モニターに映ったのは金髪金色の瞳の青年だった。其の青年はスッと周りを見渡し、いつの間にかその青年を取り巻くように黒い玉が舞っていた。

 

「・・・・黒の王」

 

 誰かがそう呟いた。確かに黒い玉を従えてるように見える。其の黒い玉が大きくなって護衛艦を襲いだす。大きな黒い玉に護衛艦が喰われている様に見えた。其処で私は漸く正気に戻った。

 

「要塞の全砲をあの男に集中させろ!護衛艦をかき集めろ!!」

 

「り、了解!!」

 

 私は漸く指示を出せた。

 

 その時には男の周りに護衛艦は全滅していた。そして、男は何処からか黄金の弓を出しそれを構え、矢を放った。

 

 其の後、私達は光に飲まれた。

 

 

 

 

 俺は構えた弓を下ろした。手応え的には司令部を潰せた筈だ。そろそろ内部でヘラス兵が制圧を開始した頃だろう。少しは足しになっただろうか。

 

 未だ止まない集中砲火の雨を防除陣に任せ、押っ取り刀で集まって来て此方に砲撃を開始した護衛艦を見やる。数としては100はくだらないだろう。

 

 俺は弓を構え魔力を込めて引き絞る。弓は俺の意思に応える様に5本纏めて弓に掛けられた。俺は其れ上空に向って放った。

 

 放たれた矢は5本が50本、50本が500本と分裂し数を爆発的に増していった。そして、其の矢達は護衛艦にまさに雨のように降り注いだ。

 

 

 

 俺が此方に向って来た護衛艦を全艦撃滅した頃には要塞からの砲撃が止み残った護衛艦に攻撃を開始

していた。上手く内部を制圧したようだ。俺は護衛艦が撤退したのを見届けヘラスに帰るのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

陥落作戦 後日談

 先の作戦により連合に激震が走った。グレート=ブリッジ要塞が陥落した事もだが、何よりもたった一人で300から成る護衛艦隊を壊滅した人物がヘラスに居る事に皆、震撼した。

 

 しかもこの人物、今噂のブラックロッジを名乗ったのだ。

 

 其の噂とは、

曰く、大規模な慈善事業を取り仕切っている。

曰く、死の商人である。

曰く、旧世界の主だった企業が参加している。

曰く、厄介事請負業、何でも屋の組織である。

などなど、根も葉もない噂だがヘラス、連合、アリアドネーにいつの間にか蔓延していた。

 

 更にこの人物、アレイ・クロウの作戦時の写真をヘラスの大手出版社がいつの間にか入手しており、現在第三皇女の護衛として雇われた、ブラックロッジ所属の傭兵であると写真付きで雑誌に載ったのだ。しかも作戦が決行された夕方に出版された。まさに作為的である。

 

 予断であるが、何時の間にやら会員制のファンクラブが出来ており、会長用の会員番号00番を何処かの本の精霊が持っていて、旧世界のログハウスに雑誌と共に特別プレミアム会員の会員番号01番が送られた事はもはや予定調和だろう。

 

 

 

 

「ほんとにアレイの名が世界に響き渡ったのう。それにしても艦隊壊滅はやり過ぎじゃと思うのじゃ」

 

 テオは雑誌を読みながら呆れたように言って来た。そう言われてもあれでもかなり手加減したのだ。下手をすると要塞ごと蒸発なんて事になったかも知れない。

 

「一応手加減はしたから、問題ないだろう」

 

 俺は特殊な椅子に座りながら、何時も道理魔導書を読んでいた。

 

「あれのどこら辺が手加減なのじゃ!!それと、先ほどから気になっていたがアレイは何に座っとるんじゃ?」

 

 雑誌からガバッと此方に視線を向けて吠えた後、テオは俺が座っている物を注視して来た。俺はテオが見易い様に本を閉じ立ち上がって質問の答えを返した。

 

「ちゃんと他の兵に仕事を残しただろう。それで、何に見える?」

 

「其れは手加減とは言わんのじゃぁぁ!!」

 

 テオはそう吠えた後、「う~む、スライムのクッションかの?」と答えてくれた。

 

 俺はテオを手招きして呼んだ。テオは雑誌を置いて首を傾げながら俺の横まで来た。まあ傍から見たらゼラチン状の物体Xにしか見えんだろう。

 

「こいつは俺が最近飼いだした珍獣でジョゴスと言う。名前はラヴだ。基本俺は椅子代わりとして使っているが中々の働き者で肉体労働はお手の物だな。あと紳士だ」

 

「これが生き物じゃとぉ!」

 

 テオが目を丸くしていると、ラヴが動き出しテオがビクついて俺の服を掴んだ。仕方なしと思う。目・口と思しき感覚器官が縦一列に一個ずつあるスライムの親玉みたいなのが動き出したらソリャ怖いよな。

  

「てけり・り」

 

 そうラヴが言いながら、テオに触手を伸ばして来た。テオはそれを見た後俺を見て来たので挨拶だと教えてやった。すると、テオは恐々手を伸ばした。

 

「わわ妾は、テオなのじゃぁ。よよよろしくなのじゃ」

 

「てけり・り」

 

 少々腰は引けていたがちゃんと挨拶をしていた。ちなみにラヴは紳士らしくシェイクハンドをしていた。其の後打ち解けたのか、テオとラヴは戯れていた。

 

 

 テオはラヴに乗っかり弄り倒し、ラヴはされるに任せてじっとしている。

 

「のう、アレイ如何すれば戦争は終わるんじゃろうなぁ」

 

 ふと湧いた疑問を子供が親に聞くようにテオが俺に訊いて来る。

 

「テオはこの戦争を止めたいのか」

 

「当たり前なのじゃ!!戦争さえなければもっとこの国は住みやすうなる。なのに父上は戦争を止め様とせんのじゃ・・・・」

 

 テオは真剣な表情で語っていたが、徐々に沈んで行った。

 

 皇帝の考えは分からないがヘラスからの停戦は難しいだろう。可能なら平等な条件での停戦、連合からの停戦じゃないと国民が納得しないだろう。

 

「現状では、帝国、連合、双方どちらかからの停戦は無いだろう。なら第三者を立てて仲介をしてもらい平等な条件の下、双方停戦するのが現実的は案だろう」

 

 おぉ~とテオは感嘆の声を上げてキラキラした目で此方を見てくる。俺としてはそれだけじゃこの戦争が終わらないのが分かっているからかなり心に来る物がある。あの組織を如何にかしない限れ止まらないだろう。

 

 テオが頭の中でああでもないこうでもないと考えながらポツリと呟いた。

 

「第三者か、アリアドネー辺りが良さそうじゃのう」

 

「其れと今のテオみたいな考えの人間を探して相互協力をするのも良いだろう」

 

 其れを聞いてテオはなるほどと頷いた。

 

「テオ、俺は皇帝に話があるから今日は戻る。ラヴは俺の代わりに護衛として置いて行く。ラヴ食料の為にも頑張れ」

 

「うむ、おつかれなのじゃ!父上によろしくのぅ」「てけり・り」

 

 元気良くテオは挨拶して、ラヴはキリリと答えてくれた。ちなみにラヴの餌は、産地直送の南極に棲む某泳ぐ鳥である。

 

 

 

 

 俺は皇帝に頼みがあって執務室まで足を運んだ。ノックをしたら返事があったので俺は部屋に入る。

 

「失礼するぞ、少々頼みが出来た」

 

「おお、アレイ殿。頼みとは何にかな」

 

 書類仕事の手を止めて此方を優先してくれる。

 

「まず確認なのだが、グレート=ブリッジ要塞が攻められた場合、俺は時間稼ぎをして兵達を逃がすで良いな」

 

「うむ、其のかたちで依頼しようと思っておった。やはり、攻められた場合落ちてしまうか」

 

 俺は頷きながら思案顔の皇帝に持ってる情報の一部を開示した。

 

「間違いなく落ちるだろうな。此方に入った情報だと紅き翼が呼び戻されたらしい。更に俺が落したのと然程変わらない数の戦艦が何処からか補充されたようだ」

 

「やはり裏で何かが動いているのだな。皇帝の身でありなが何も出来んとは歯痒いばかりだ」

 

 皇帝は苦虫をダース単位で噛んでいるかの様な顔をしていた。

 

 現状で何かしたら帝国が空中分解してしまうかも知れない。今、判明している黒い貴族と軍人の情報を渡して現状維持して貰うのが最良だろう。テオも和平の為に動くらしい。

 

「まず、帝国内の裏切り者の情報を渡すので上手く使って国の現状維持をして欲しい。其れと、テオが第三者の仲介で和平を成そうと動き出そうとしている、其れを陰から支援して欲しい。最後にグレート=ブリッジ撤退戦時の指揮権譲渡の委任状を誰にも知られずに作って欲しい。これが今回の頼みだ」

 

 皇帝は俺が渡した資料を見てワナワナと震えていたが何とか平静を取り戻し俺を確りみて言った。

 

「委細分かった。総て遣って退けよう。それにしても、あのじゃじゃ馬娘がそんな事をしようとするとは、アレイ殿、アヤツを頼みます」

 

 皇帝は父親の顔で嬉しそうにしていた。俺はそれに返事をし、自身の部屋に戻った。

 

 

 

 

 俺は部屋に戻り恒例のエセルとの情報交換を行う。

 

「エセル何か新しい情報はあるか」

 

 俺はベットに座り、膝の上に頭を乗せるエセルに聞いてみた。

 

「イエス、マスター。紅き翼が新たに2名増えました。

一人は、<フィリウス・ゼクト>魔法使い、子供の姿ながら齢数百歳の熟練した魔法使いです。現在ナギ・スプリングフィールドの師でもあります。なお、生体自動人形(オートマタ)の可能性が高いです。

もう一人は、<ジャック・ラカン>傭兵、30年間戦闘に身を置き続けたベテランの傭兵です。気と体術を得意としています。

戦力的には大国の軍を凌駕しています」

 

 普通ならこれだけの戦力があれば戦争は終わってる筈なんだがな。俺は良くできましたと言う風に頭を撫でてやる。エセルは嬉しそうに目を細めた。

 

「ふむ、次の奪還作戦に出て来ると思うか?」

 

「間違いなく出てくると思われます。此方に紅き翼を撃破できるのはマスターだけです。不愉快ですが向こうもマスターを止められるのは紅き翼だけだと考えているでしょう」

 

 向こうは今回、紅き翼に戦力としてではなく俺の押さえとして参戦させる気か、ならば戦艦の数が凄い事になってそうだな。

 

「エセル、投入される戦艦の数はどうなっている」

 

「連合の歴史上類を見ない大艦隊だそうです。超弩級戦艦5隻から成る艦隊で500隻はくだらないとか、無理やり持ち出してきた為、後ろにいた組織の事も少し分かりました」

 

 褒めてと言わんばかりにこちらをエセルが見て来る。俺は更に優しく撫で先を促す。

 

「あの組織ですが、武器商人やマフィアなどの裏組織を隠れ蓑に使っているみたいです。組織の名は、『完全なる世界(コズモエンテレケイア)』と呼ばれているそうです」

 

 完全なる世界ね、なんか理想主義者が付けそうな名前だな。まあいい、次は撤退戦、あの要塞は此方にとっては唯の金食い虫、足枷に近い物なのでとっと返したいが、ただで返してやる気は無い。

 

「そう言えばエセル。アスナは見つかったか?」

 

 あれから次いでで良いから探すようには言っていたが如何なったのやら。

 

「すみません、マスター。オスティアには居ると思われますが詳しい場所までは特定できていません」

 

「そうか。引き続き捜索してくれ」

 

 片手間とはいえ、エセルが見付けられないなんてどこかに封印でもされたか、次の戦闘が終わってから時間が出来たら探しにでも行ってくるか。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

グレート=ブリッジ撤退戦

<グレート=ブリッジ要塞司令室>

 

 俺はもうじき開戦を控えた要塞の司令室に来ていた。司令官が如何言う命令を受けているか確認と、それいかんでは、皇帝から出して貰った指揮権委任状を使う為である。

 

「これはアレイ・クロウ殿!この司令室にどういったご用件でしょうか」

 

 司令官らしき人物が俺に気付き用件を聞いてくる。

 

「皇帝からの依頼だ。今どの様な命令を受けている」

 

「ハッ、この要塞を死守せよと上から言われています」

 

 上は兵たちを見殺しにする心算の様だ、戦力比的に勝てないだろう。司令官も分かっているのか、苦い顔で俺に告げて来た。

 

「其の命令は変更された。直ちに今から言う作業を完了させ次第随時撤退を開始しろ」

 

 ポカンと呆けている司令官に委任状を渡し、今後の指示を出す。そして、俺は開戦の狼煙を上げにグレート=ブリッジを後にした。

 

 

 

 

 side ナギ

 

 紅き翼はグレート=ブリッジ奪還作戦に参加する為輸送船に乗っていた。

 

「なぁ、アル。ほんっとぉに、オスティアの時の奴が出て来るんだろうな」

 

「ええ、彼はヘラスの王家に雇われた傭兵らしいので私たちを止める為に帝国は彼をぶつけて来るでしょう」

 

 俺はアルに何度目になるか分からない確認をした。あの時の借りを返す為に参戦するんだ、出て来て貰わなくちゃ困る。グレート=ブリッジは次いでだ、次いで。あの後、お師匠に師事して魔法を教えて貰ったしアンチョコも戦闘では止めた。次はぜってぇあいつをぶっ飛ばす。

 

「オイッ、オスティアの時の奴ってぇのはなんなんだ、アル」

 

 ラカンが興味深そうに聞いてきやがった。俺はあの時の事を思い出してイラついて来た。

 

「貴方やゼクトに会う前に一度彼アレイ・クロウに会って軽くあしらわれたんですよ」

 

「オイオイ、今売り出し中の『金色の魔人』じゃねえか」

 

「なんじゃそれは」

 

 アルとラカン、お師匠はアレイの話で盛り上がってるみたいだ。アルはローブから雑誌を取り出して皆に見えるようにあいつが乗ってるページを開いた。

 

「彼は一度しか戦闘に参加しては居ませんが、其の戦闘で300からなる艦隊を壊滅して見せました。其の戦果と見た目から付けられた彼の字ですよ、ゼクト」

 

「なるほどのぉ、それでこの戦艦の数なのじゃな。わしらが奴を足止めしている間に要塞を落す気なんじゃろうな」

 

「ナギを軽くあしらうか。ハッかなり面白い戦になりそうじゃねぇか」

 

 俺たちはそんな感じに騒ぎながら開戦の時を待った。

 

 

 もうそろそろ、戦闘が開始される。俺たちは出撃する為に甲板に出ていた。その時、グレート=ブリッジの方からスゲェ魔力を感じたと思ったら、雷の暴風を軽く越す太さの魔法の矢の様な物が飛んできて5本に分裂して、護衛艦を避けて突き進み旗艦を含む5隻の超弩級戦艦を貫いた。

 

 貫かれた戦艦は徐々に高度を落としていって最後は大爆発した。

 

「派手だなぁ、オイ」と、剣を構えるラカン。

 

「あそこに彼がいそうですね」と、何時もの胡散臭い笑みを見せるアル。

 

「前のように勝手に突っ走るなよ。ナギ」と、小言を言う詠春。

 

「わしに師事したんじゃ。成果を見せてみぃ、バカ弟子」と、檄を飛ばすお師匠。

 

「野郎ども、行くぜぇ!!」と、俺も気合を入れ飛び出した。

 

 

 奴の位置は直ぐに分かった。此方を誘うかのように力を垂れ流しにしているのだ。

 

 今、俺達は奴の前に立ている。奴はまるで俺達が来るのと待っていたと言わんばかりに腕組みをして目を閉じていた。 

 

「よぉ、借りを返しに来たぜ」

 

「ふむ、何かを貸した記憶は無いが」

 

 俺は魔力が自然に高まるのを感じながらアイツと会話する。他の奴らは直ぐに動けるように準備しているようだ。

 

 アイツは不敵な笑みを浮かべつつ目を開き自然体になって此方を見てくる。たった其れだけで凄まじい威圧感が身体を襲ってくる。俺は其れを跳ね除けるように自身の魔力を更に高めてく。

 

「俺は『千の呪文の男(サウザンド・マスター)』のナギ・スプリングフィールド!テメェをぶっ飛ばす男の名前だ!覚えとけ!!」

 

「本当に千の呪文を使えるのか気になる所だが、他の面子も名乗るのか?其れ位は待ってやる心算はあるが」

 

 何とも萎える様な親切なような事を言ってくる。

 

「紳士だねぇ。俺様は『千の刃』のラカン!いっちょ派手に戦ろうじゃねぇか!!」

 

と、ラカンは闘気を高めて名乗りを上げた。他の奴等はやら無い様だ。

 

「他は良いようだな、一応名乗っておこう。ブラックロッジが一人、アレイ・クロウだ。さて、死にもの狂いで来い!そうしないと直ぐ死んでしまうぞ!!」

 

 俺達は襲ってきた殺気に弾かれるように動き出した。アレイは全く動かず其の場でジッとしている。

 

 俺、アル、お師匠はすぐさま詠唱に入った。其の間、ラカンと詠春の二人が左右から襲い掛かる。アイツは詠春に前俺に食らわした魔力の塊を投げつけた。

 

「神鳴流に飛び道具は効かん!!」と、魔力の塊を切り伏せる。

 

 其の隙にラカンが剣で袈裟懸けに斬り付けようとした。アイツは投げつけた時の動きを止めず、そのまま回し蹴りにつなげラカンの剣を蹴り砕いた。

 

「ちょっマジかよ!!」とラカンは剣を捨てつつ呟く。

 

「其の程度かラカン」と言いつつアイツは先ほど廻し蹴りした足を下ろさずラカンの腹に蹴りを突き刺した。ラカンは「ぐふっ」と漏らしながら後ろに飛ばされる。

 

 そのラカンを飛び越えるように詠春が飛び掛かって行った。

 

「雷鳴剣!!」と己の刀に雷を纏わせながら上段から振り下ろす。

 

 霞む様な速さで振り下ろされる雷を纏った刀をアイツは眉一つ動かさずに白刃取りを決めた。詠春は驚き一瞬硬直してしまった。其処にアイツは前蹴りを放つ、詠春はラカンに向って一直線に飛んでった。

 

 ラカンが体制を立て直した所に丁度詠春が飛んできて其れを受け止めた。其の瞬間前蹴りした直後にはなった魔力弾が二人に直撃した。

 

 其の直後に俺達の呪文が完成した。

 

「まずは私が行きます」と、アルが言いお得意の重力魔法を放つアイツは避ける素振りも見せず直撃した。

 

「ふむ、重力による捕縛か・・・」と、アイツが言う。

 

 アルは冷や汗を流しながら、「・・・圧殺する心算で放ったんですがね」と呟いていた。

 

 俺とお師匠が同時にそれぞれ最大の魔法を放つ。

 

「千の雷!!!」「燃える天空!」

 

 凄まじい爆音と余波、そして、煙が周りに撒き散らされる。アイツに確実に直撃させ、手応えも有った。

 

 だが煙が晴れて見ると其処には、見た事の無い術式の障壁に守られた傷一つ無いアイツが立っていた。

 

 

 side out 

 

 

 

 最後の魔法は凄かった。特にナギの放った千の雷、内包された魔力はエヴァの終わる世界を超えいていた。一応障壁を張ったがもしかしたら防禦陣だけだったら抜かれたかもしれない。

 

「先ほどの魔法は中々の物だった。此方も其れ相応の物を返礼しよう」

 

 ナギに魔術を放とうとした瞬間、ボロボロになったラカンが猛然と瞬動で突っ込んできた。咄嗟に左手を突き出し組んだ術式をラカンにぶつける。

 

「ABRAHADABRA<アブラハダブラ>『死に雷の洗礼を』!」

 

 雷光と雷がラカンに襲い掛かる。

 

 ラカンは体中から煙と血を噴き出させながら耐え切りアレイの左腕を握り締めた。そして、其の影からアレイの右側にボロボロの詠春が躍り出た。

 

「斬魔剣 弐の太刀」と詠春はアレイの脇腹を切って来る。 

 

 アレイは防禦陣と身体に魔力を行き渡らせたが、其の技は防禦陣をすり抜けアレイの身体に小さな傷をつける。アレイは技の撃ち終わりの隙を衝いて詠春に拳を打ち下ろし下の海に沈めた。そして、ラカンを潰そうと術式を組む、其れと同時にラカンの左手が水月に押し当てられた。そして、同時に放たれた。

 

「ゼロ距離ラカンインパクト!!」「ン・カイの闇よ!」

 

 凄まじい衝撃が身体に掛かり数m後ろに下がらせられた。この程度で如何にかなる身体では無いが常人では確実に消し飛んでいただろう。

 

 ラカンは高重力の波に揉まれボロ雑巾のようになって海に落ちて行った。 

 

「詠春!ジャック!!こっの野郎!!」とナギが吠えながら自身の杖に魔力を集中させだした。其の隙を見逃すはずも無く、3個の重力球を作り出し撃ち込もうとする。

 

「ワシらを忘れておらんか『燃える天空』」「そうですよ『雷の暴風』」

 

 アルとゼクトが両脇から此方に突っ込んで来ながら魔法を放つ。

 

「すまない忘れていた。だが、これで許せ」

 

 重力球を大きくしながら二人に向けて放つ。漆黒の玉はそれぞれ放たれた魔法を問答無用に飲み込みながら二人に直撃した。

 

 ナギはその間に準備し終えたのか紫電が迸る、光る槍の様な物を掲げていた。其処から感じる魔力は先程の比では無く、ナギ自身の全魔力を凝縮したようであった。

 

「くらいやがれぇ!これが俺の全力だ!!」

 

 放たれた其れは光のような速度で一直線にアレイへと突き進んで来るが、アレイは其れ無視し重力球をナギに撃ち込んだ。

 

そして、それらは同時に着弾した。

 

「・・・へへっ・・今度は・・勝っ・・たぜ・・・」

 

 ナギは飛べているのが不思議なくらいズタボロだった。だがそれでも如何にか堪えて浮いている。それに引き換えアレイは腹にナギが投げた槍が突き刺さり口からは止め処なく血を吐いていた。

 

 そして、他の紅き翼のメンバー達もズタボロながら肩を貸し合いながらナギの元へ集まってきた。 

 

 

 この戦い、誰の目から見ても紅い翼の勝利のようだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦闘結果

 アレイは血を吐きながら紅き翼を睨み付け、腹に刺さった槍を握り砕いた。

 

「さすがの魔力だな、ナギ・スプリングフィールド」

 

「・・まだ・・やる気か・・アレイ・クロウ、死んじまうぞ」

 

「・・・不思議なことを言う。これは戦争だ。死んで当たり前、殺して当然」

 

 アレイはさも当然と言わんばかりに頬を吊り上げながら言って来るが、ナギは苦笑しながら、

 

「出来るなら死んでほしくねぇ」

 

 アレイは不思議な物を見るような目でナギを見る。他の紅き翼メンバーはまたかと言う顔をしている。一人ニヤニヤしてるラカンがいたが如何でもいいだろう。

 

「・・・ふむ、一応理由を聞いておこうか」

 

「あ~~・・・なんとなく・・・・」

 

 アレイは呆れた顔でナギを凝視する。

 

「あのバカは・・・」「バカ弟子・・・」「まぁナギですから」「ハハhイテェ」

 

 ナギの後ろから野次が飛んでくる其れに対して「うっせ、うっせぇー」と返しながらアレイの方に向き直り照れた様な、真剣な様な顔をして頭を掻きながら、

 

「其れとあんたほどの使い手が協力してくれたら、この戦争を終わらせられるんじゃないかと思ったんだ」

 

「要するに、死にそうだから紅き翼の軍門に降れと、そして、戦争を終わらせるのを手伝えとそう言う訳か」

 

「ああ」とナギは真剣に頷いた。

 

 他のメンバーをアレイは見たが、ナギが言うなら仕方ないと言う感じの諦めと納得の中間のような顔をしていた。

 

 アレイは少し考える素振りをして、

 

「このまま遊んでやろうと思っていたが、気が変わった」

 

 アレイがそう言うと、ピシッとガラスに皹が入るような音がした。そして、紅き翼たちはアレイの体中に皹が入るのを見た。

 

「おいっ・・ちょ、お前!!」「なっ!!」「なんじゃと!」

 

 などと紅き翼が驚愕の声を上げるが、其の皹は無数に入り、最後には盛大にガラスが割れるような音をさせながらアレイ・クロウは砕け散ってしまった。其れを見て紅き翼の面々は凍り付く。

 

「・・・おい、まさか・・・死んだ・・のか・・・」

 

と、呆然としながらナギが呟くが何処からか返事が返って来た。

 

「勝手に殺すな、ナギ・スプリングフィールド」

 

 ナギたちの前ににじみ出る様にアレイ・クロウは現れる。

 

「へっ・・・え、でも・・え・・」

 

 混乱した様子で先程までアレイ・クロウが居た場所と俺とを交互に見やるナギ達。そんなナギに乳白色の小さな玉を投げ渡す。

 

「話せる状況になったら誰も居ない所でそいつを地面に投げろ」

 

 アレイはそう言い残し先程と同じように徐々に消え様としていた。

 

「ちょっと待ちやがれ!!」

 

 ナギの叫びと同時にグレート=ブリッジの方から無数の爆発音が響いたが俺は気にせず其の場を去った。

 

 

 

 

 皇帝やテオに粗方の報告を済ませて部屋でエセルと寛いでいたらあの玉が割られた反応があった。俺は其の反応に向って転移する。

 

 転移した先はどこかのホテルの一室だろう其処には紅き翼メンバーが揃っていた。

 

「お、ほんとに現れやがったぜ」

 

と、なぜかミイラ男の様なラカンが目の前に居て、それぞれ応急処置の後が見えるメンバーがやさぐれたナギを宥めていた。

 

「ケッ、呼ばなくても良いってのによ」

 

「ナギ、私達が何と戦っていたのか気になるじゃありませんか」

 

「ワシも同感じゃ。それにナギが呼んだような物なんじゃ。最後まで確りせんか」

 

「俺も事と次第によっては問い詰めようと思うがまず話しを訊かん事には」

 

 などラカンの後ろから聞こえてくる。

 

「あれはなんだ」

 

「あ~~なんだ・・・借りを返せて気分良く仲間に誘ってみたら、そいつが偽者で其の後出てきた本物は説明も無くすぐさま消えちまって、色々裏切られた気分らしい。っで小僧は拗ねちまってんだよ」

 

「ふむ、そうなのか」 

 

と、俺が答えると「すねてねぇ!」と後ろからナギが吠えているがラカンが更に色々言っていつの間にか殴り合いになっていた。身体はボロボロの筈なんだが元気のいいことだ。

 

 其の所為か手の空いた、前名乗らなかったメンバーが近付いて来てそれぞれ挨拶をしてきた。

 

「名乗るのは初めてだったな、近衛詠春だ」

 

「ワシはフィリウス・ゼクト」

 

「アルビレオ・イマです。御見知り置きを。早速で悪いのですが、今回の事を説明して頂けないでしょうか?」

 

 アルがそう言い出したらナギとラカンも殴り合いを止めて此方の話を聞く体制になった。俺は近くのソファーに座り全員に座るように促した。

 

「で、何が聞きたいんだ。アルビレ『アルで結構です』アル、俺はナギ・スプリングフィールドの勧誘の答えを返しに来ただけで、質問に答える心算は余り無いのだが」

 

「全部だ全部!!後、俺はナギで良い。一々フルネームじゃなくて名前で呼べ!」

 

「まぁ、バカ弟子は無視するとして、ワシ等の戦った物は何じゃったのかと、今回の勧誘ともゆえん様な話の答えを態々返しに来る経緯など話してくれても罰は当たらんと思うが、どうじゃ?」

 

「・・・・ふむ・・・・・お前達が戦ったのは、特殊な方法で作り出した俺の写し身だ。作ったは良いが限界性能や能力などどれだけ写し取れているか測れなくてな、貴様ら紅き翼にぶつけて見たんだ。まさか敗れるとは思ってなかったが」

 

 ほんとなら写し身を砕いた後蹂躙する気だったが・・・・いう必要はなかろう。

 

「写し身ですか。と言うことは、貴方はあれより強いという事になりますね」

 

「じゃろうの。自分より強い物はそう作れる物じゃないからの」

 

 二人のセリフを聞いて色めき立つ他のメンバー。ナギやラカンは「もういっぺん勝負しろやぁ!!」と言って来るがスルーする。

 

「確かにあれよりは強いが、壊されてしまたのだ其の時点で今回は此方の負けだ。それで此処に来た経緯だが、今の依頼主がこの戦争を止めたがっていてな。ナギも戦争を止めたいと言っていたので勧誘の返事ついでに話を聞きに来たのだ」

 

 俺はナギを見ながら訊いてみる。他のメンバーもナギに注目する。

 

「あんなんは勝ったとはいわねぇ」とナギは呟きながら全員が注目しているの気付いたのか少し見渡して、

 

「あ~~どうゆうことだ?」

 

「要するにナギはどうやって戦争を止める気なのかとアレイは訊きに来たのですよ」

 

と、アルはナギに微笑みながら教えている。其れを見て詠春は目頭を揉んでいて、ゼクトはバカな孫を見る目している。ラカンは戦争の話になった途端興味が失せたのか我関せずである。

 

 暫しナギが頭を抱えて考えていたが次第に頭から煙が出てきて、「あーわかんねぇ!!」と叫んだ。

 

「ふむ、ナギは戦争は止めたいが手段がまだ分からないといった感じか」

 

「ああ、そんな感じだな」

 

 まぁ、この年齢(14,5歳)ならこんなもんだろう。それに参謀役たちも政治には明るそうではないしな。

 

「次に仲間にするなら世事に明るい奴にすると良い。そういう奴ならこの戦争を止める手段も思い付くだろう」

 

「やはり貴方は仲間にはなって下さらないのですね」

 

「へ、そうなのか?」とナギは疑問そうな顔をする。

 

「俺は今護衛として雇われているんだ。其れなのに連合所属の紅き翼に参加できるわけあるまい。それ以前に俺の所属はブラックロッジだ」

 

「そいやぁ、ブラックロッジだったんだよなぁ」とナギが思い出したように言ってくる。

 

「忘れてたのか鳥頭!旧世界じゃ禁忌に近い名前だぞ!其れをお前は!!」

 

と、これまで沈黙していた詠春がナギに小言を言い出す。

 

「へぇ、ブラックロッジってぇのはそんなにヤべぇのか?」と、ラカンはまた興味が湧いたのか話しに入ってきた。

 

「ヤバイなんて物じゃない!名前を騙っただけで次の日には消されてる!ただ噂があるだけでどんな組織かも実際の所分かってない!」

 

と、興奮気味に詠瞬が言っている。

 

「それはすごいのう」とゼクトは呆れ顔のなっていた。

 

「でしょうね。あのエヴァンジェリンが所属しているぐらいです。相当大きな組織なのでしょう?」

 

 アルは此方に説明してくれとばかりに言って来る。

 

「そうだな、一応旧世界では一番厄介で巨大な秘密結社だ。故に俺は仲間にはならない」

 

「そっか、それならしかたねぇよなぁ」

 

と、ナギは残念そうだが納得はしてくれた。

 

「だが、戦争を止める為なら協力はしよう。依頼主が了承すればだがな」

 

 俺は立ち上がりながら言った。

 

「ああ、そん時は頼む!」とナギは笑いながら言った。

 

 俺は其の声を聞きながらヘラスの自分の部屋に転移する。アレイの転移した後にはナギに渡された玉が再生されて床に転がっていた。

 

 

 

 

 俺が帰ってみると何処かの馬鹿がこの部屋に侵入を試みている所を捕らえたとエセルが報告して来た。

 

「マスター、どういたいますか、一応重力結界で捕縛していますので、このまま圧殺する事も可能ですが?」

 

 何故か少々不機嫌そうなエセルがそう訊いてきた。俺は取り敢えず捕らえられたのがどんな奴なのか見に行く事にした。そして、そこには地面に這いつくばった白い髪の学生服のような物を着た青年が居た。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

完全なる世界

 完全に押しつぶされた蛙のような感じになっている白い髪の青年、もう一寸力を加えたらプッチと逝きそうだ。取り敢えず話せる程度にまで重力を弱めてやる。

 

「それで、何のようだ」

 

「君達は何者なんだい?このぼぐっ・・・」

 

 メキメキと、音をさせながらまた無様に押し潰されている。俺では無いのでエセルだろう。

 

「マスターの質問に馬鹿みたいに答えていればいいんです、駄人形」

 

 絶対零度のような声で警告するエセル。何故か不機嫌そうである。俺はもう一度尋問する為に力を弱めるよう伝えながらエセルの頭にポフンと手を置いて撫でてやると、エセルは目を細め力を弱めた。

 

「・・・さて、もう一度だけ訊くが・・・・・・何のようだ」

 

 流石に先程の事が応えたのか今度は無駄口を叩かなかった。

 

「ぐうぅ・・・我が主が貴方がたとお話になりたいと対談を希望されている。僕は其の案内役として遣わされたんだ」

 

 この生体自動人形の主か、この世界ではかなりの使い手のはずだ。

 

「其の主とは誰だ」

 

「僕らを創られた『造物主<ライフメイカー>』と呼ばれてる方で貴方がたが調べている『完全なる世界』の代表であられる方だよ」

 

 戦争を長引かせている原因の組織の長からの招待状を持ってきたらしい。さて、罠の可能性もあるが・・・・問題は無いだろう。罠に掛けられたら破ればいいだけだしな。

 

 其れよりも何故そんな事をしているかに興味が湧いてきた。それに俺たちを態々呼ぶことも。

                                 

「ほう、ならば其の誘い受けてやろう。エセル、妙な事をしたら殺って構わないから結界を解いてやれ」

 

「イエス、マスター」

 

 開放された青年は身体をガクガクさせながら何とか立て上がった。まるでKO寸前のボクサーの様だ。

 

「我が主の下まで転移するので、何処でも構わないから僕の身体を握っていて欲しい」

 

 俺達は素直に彼の腕を掴んだ。エセルは少し眉をひそめていたが。そして、俺達はいつの間にか出来た水溜りを使い、何処かに向って転移した。

 

 

 

 

 転移先は何処かの宮殿のラウンジのような場所だった。そして、部屋の真ん中にはテーブルがあり其の横には黒いマントの様な物を纏った麗人が立っている。

 

「ようこそ、ブラックロッジの方々。私が『完全なる世界』を束ねている『造物主』と呼ばれている者だ。良く来てくれた。さぁ、ゆっくりと語り合おうではないか」

 

 何故か始めからフレンドリーな感じの造物主に椅子を勧められ俺は用意された席に着いた。

 

 エセルは俺の斜め後ろに付き従い、もしもの時の戦闘準備と情報収集を開始していた。

 

「プリームム、彼にお茶を」と先程の俺たちを連れて来た青年がすぐさまお茶を用意してくる。もう身体は回復したようだ。そして、エセルと同じように造物主の斜め後ろに付いた。

 

 カップを持ってもエセルが止めなかったので、俺はそのままお茶で軽く口を湿らせ言葉を発する。

 

「さて、造物主だったか。なぜ俺達を此処に招いたのだ」

 

「単刀直入に訊くがそなた達、人ではないであろう。それが理由だ」

 

 どういう訳か俺達が人外だと言う事がばれたらしい。まぁ、ばれるのは構わないがそれが理由で招かれたというのが分からない。

 

 この造物主も人と言うよりは精霊に近い気配があるが、まさかとは思うが、その所為だけではないだろう。

 

「確かに俺達は人外だが貴様もそうだろう。それとも仲間探しとか、そういう理由か?」

 

 挑発する様に俺が不敵に嘲笑しながら言ったら、プリームムと呼ばれた従者がムッとした顔で重心を下げた。

 

 其の瞬間、エセルから絶対零度の槍の様な殺気が其の従者に突き刺さる。従者は身体をビクつかせた後、凍り付いた様に動けなくなっていた。

 

 造物主は此方に軽く苦笑いしてきたので、俺は返すように片手を上げる。そうすると先程までの殺気が嘘の様になくなって従者は崩れ落ちそうになりながら何とか耐えたようだ。

 

「いい従者だ。主の為に力量差を忘れられて向って来ようとするとはな」

 

「其方こそ。先の答えだが、確かに其の側面もあったが、・・・其れよりも先達の意見を訊いてみたかったのだよ」

 

「なぜ先達だと思う。違うかも知れないぞ」

 

「私にはあのような複雑怪奇な術式の使い魔は創れない。そんな相手が先達じゃないはずがない。たとえ違ったとしても私より上なのは確かだ」

 

と、何故か嬉しそうに造物主が言ってくる。

 

「・・・それで、何に対しての意見が聞きたいんだ」

 

 

 造物主は現状を語りだした。

 

 この世界は火星に作られた人造異界で、何もしなければあと30年位で火星の魔力が尽きて人間が火星の荒野に放り出される事になるそうだ。

 

 更にこの世界の固有の生物は魔力で編んだ幻想だと言う事だ。人間も95%が人形と呼べる幻想らしい。

 

 それで、この異界《魔法世界》がもう持たないから『完全なる世界』と呼ぶ新たな異界を作ったらしい。この世界は魔法世界の様な物質世界でなくより魔力を使わない精神世界で各自がもっとも幸福に思える夢を魅せてくれる。

 

 今回の戦争で死んだと思われている人間も『完全なる世界』に死ぬ直前に精神を送り身体を魔力に還元しているそうだ。そうやって今度行う『完全なる世界』に完全移行する為の大規模な儀式用の魔力を稼いでるとか。

 

 要するに造物主はこの世界の自分が生み出した生き物を如何にか救いたくて、こんな戦争を企てたそうだ。ちなみに外から入ってきた人間は如何でもいいらしい。

 

 かなり独善的かつ矛盾しているような気がするが本人は真面目にこの世界を救いたいと考えた結果だとか。

 

「『完全なる世界』への退避が私の出した解だ。そなたは如何思う」

 

 俺には魂の牢獄に見える。かつて居た無限螺旋のような。正直この世界の連中が如何ならうと俺の知った事ではないのだが、テオは如何にかしてやりたい。紅き翼の連中なら自分達の好きにするだろう。

 

「俺は否定はしないが肯定もしない。それと賛同しない者も多く出るだろう。最悪魔法世界の住民全てを敵に廻す事になるぞ」

 

「それでも構わない。助からないのならせめて魂だけでも救えるのなら敵になろうとも親としては本望だ。そなたは何か良い案は浮かばないか?」

 

「・・・・何個か思いついたが、どれも不確定要素が大きすぎて俺にはどうなるか分からんが聞くか」

 

 俺がそういうと造物主は少し期待した目で此方を見ながら話を促した。

 

 

 

《plan1 パンがなければお菓子を食べればいいじゃない》

 

 魔力が足りないのなら、何処かから魔力を融通すればいい。例えば、月や他の惑星にゲートを繋ぎ魔力だけを此方に流せば良い。

 

 この方法は根本的な解決になっていない為、時間稼ぎの意味合いが強い。更に技術的かつ時間的に実行出来るか怪しい。

 

 

《plan2 超長期的火星育成計画》

 

 読んで字の如く、数百年掛けて表の火星を魔法的、科学的に人が住める環境に改造育成する計画

 

 この方法は確実であり実行は可能であるが何時実現するか分からないのがネックである。

 

 

 

 此処から先は造物主には言わなかったが思いついた計画である。

 

 

《plan3 我輩の科学力は宇宙一なのであ~~る》 

 

 デモンベインの主要動力機関となった、銀鍵守護神機関(ぎんけんしゅごしんきかん)の再現。この機関、平行世界から無限に力を引き出せる半永久機関である。これと世界樹の様な物と組合せて世界に魔力をばら撒けば良い。

 

 似たような考察をウェストが書いていたから再現は不可能ではないが材料や錬金術関連の技術が発達していない為、何時完成できるか分からない。完成すれば問題はほぼ解決するとみていい。

 

 

《plan4 俺(マスターテリオン)による火星改造計画》

 

 plan2の亜種で昔、俺が火星に封印された時に火星人を作り上げた事がある。その時のことを応用して火星を人が住める星に改造する。この計画やって見ない事にはどうなるか分からないため、かなりリスクが高い。

 

 

 

「両方ともかなり魅力的な計画だが時間的に厳しいかもしれん。plan1の方は可能だが調査などを考えるとかなりギリギリになる。2に至っては絶望的だな」

 

「ふむ、調査と言うのはなんだ」

 

「他の惑星にも異界が存在するのだよ。例えば金星は悪魔達がすむ世界らしい。そんなところに無断でゲートを作り魔力を吸い出せば其れこそ戦争になりかねない」

 

 そんなのが他の星にも在るかもしれないから調査してからゲートの固定などすると20年は掛かるらしい。

 

「と言うことは貴様の計画道理に『完全なる世界』に退避させるのか」

 

「いや、先ほど聞いた計画を混ぜてみようと思う」

 

 要するに、『完全なる世界』に退避させるのと平行してゲートを繋げ、火星を改造してし終わったらまた『完全なる世界』から人を戻すという計画に変えるらしい。どちらにしろ『完全なる世界』に人を移すのは変わらないから、たいした手間にはならないらしい。

 

「好きにするといい、ただこのままだと敵対関係になりそうだな。その時はお互い後腐れなく殺し合うとしよう」

 

 俺達はお茶を飲みながら今後どうするか色々話し合った。最終的にお互い好きにする事となった。協力できる所は協力して、気に入らない所は戦って勝った方が我を通すことにした。

 

 其の後、世間話をしてこのお茶会は幕を閉じた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

配達

 紅き翼と造物主との会合から暫し経った。其の間に事あるごとにナギ達に呼ばれるようになった。基本酒の席に呼ばれるが、最終的にはナギかラカンと決闘のような状態になる。

 

 あの撤退戦後、紅き翼は連合の英雄として祭り上げられた。何でもグレート=ブリッジ奪還の功労者と言うことらしい。

 

 だがそのグレート=ブリッジ要塞はもう機能しないはずである。あの撤退戦で撤退する時に要塞設備に時限式で自爆するように魔法を徹底的に仕掛けるように言って撤退させた。最後の爆発音は其れだろう。

 

 そして、紅い翼に新メンバーが加わった。ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグと言う元政府の犬と其の弟子、タカミチ・T・高畑。これにより紅き翼は戦争を止める為に動き出すだろう。

 

 戦争の動きとしては連合が盛り返して昔ながらの勢力図に戻ったらしい。それ以降は小康状態に小競り合いが続いている。他にはテオが言っていたがウェスペルタティア王国の王女が帝国と連合の調停役に成ろうとして失敗したらしい。

 

 テオは其の王女にコンタクトをとって協力する気らしく、今、俺にその内容を書いた手紙を渡してきた。

 

「と言うことで、それをアリカ・アナルキア・エンテオフュシアと言う王女に渡してきて欲しいのじゃ」

 

 テオはにこにことしながら俺に手紙を渡してくる。エンテオフュシア、アスナの関係者だろうか。

 

「それは依頼か?」

 

「うむ、信用できて、確実に届けてくれるじゃろ」

 

「で、其の王女は今何処にいるんだ」

 

 俺がそう聞くと少し目を逸らしながら、

 

「MMじゃ」とボソリと言って来た。

 

 よりにもよって連合の首都まで行かせる心算らしい。何でオスティアの王女が連合にいるのかは分からないが行くしかなさそうだ。

 

「時間が掛かるかも知れないからラヴを常に連れて歩くようにしろ」

 

 ラヴはスライムの親玉みたいだがあれで結構強い。この頃のテオはラヴに乗って首都内を駆け回って無法者を見付けたらラヴで成敗しているらしい。其の所為か何気に首都ではジョゴスが人気者になっている。縫いぐるみにすら成っていたのには驚いた。

 

「うむ、頼むのじゃ!」と、元気に送り出してくれた。

 

 

 

 

 俺は取り敢えずMMまで転移してきた。顔が知れると面倒臭い事になるから認識阻害の魔法の掛かったメガネを掛けて置く。そして、水晶の錘が付いたペンデュラムを使い術式を走らせダウジングを開始する。

 

 ダウジングに従って歩いていくと徐々に人が居なくなり日が傾いてきた。そして、広場のような所に出た、其処には何故か紅き翼が居た。まだ時間もある・・・俺は声を掛ける事にした。

 

「久しいな、紅き翼。戦争の止め方は決まったか」

 

 一瞬警戒してた様だが俺がメガネを外したら此方を正しく認識しできたみたいだ。

 

「よぉ!アレイじゃねぇか如何してこんなとこに居るんだ?」

 

と、言いながらナギが殴り掛かって来る。其れを危なげなく受け止め。

 

「依頼でとある人物に会いに来たんだが何故か此処に出た」

 

「そうなのか俺にはクロウが術を失敗する様な事は無い気がするのだが?」

 

 詠春がそう言いながら此方に歩いてくる。

 

「わかんねぇぞ~。完璧超人みてぇなこいつにも失敗位あるかも知れねぇじゃねか」

 

 ヌハハ笑いながら俺の肩を叩いてくるラカン

 

「いや、ラカン、まだ捜索中で結果は出てない。それで何でMMに来てるんだ。確かこの前の酒盛りの時はグレート=ブリッジ辺りに居なかったか」

 

「ガトウに呼ばれたんだ。じゃなきゃわざわざ本国になんて来てねぇよ」

 

 そうなナギが説明しくれたので、ガトウの方を向いてどういう事なのかと見てみる

 

 ガトウが一瞬悩んだようだが此方に近づいてきながら、

 

「皆にあって欲しい人が居てな。それで本国まで呼んだんだ」

 

「ほう、ついに結婚するのか」

 

 俺はニヤリとしながらガトウに言ってみる。それを聞いたナギ、ラカン、詠春がそれぞれ声を上げる。

 

「おっ、そうなのかガトウ!」「なにっ、どんな女だ!」「それはめでたいな」

 

と、俺以外がガトウを囲みそれぞ祝福してタカミチはオロオロしている。ガトウは苦笑しながら、

 

「俺にそんな相手いると思うのか?会って欲しいのは協力者だ!ってアレイ分かってて言ってるだろう!」

 

 皆が《何だそうなのか、まぁガトウに女は居ないか》という空気になり、ガトウが落ち込みタカミチに慰められていた。少年に慰められるオヤジってのは、かなりシュールだ。

 

「それでガトウ、協力者と言うのは誰なんだ?それによって、俺は此処を去ろうと思うのだが」

 

「かまわぬよ」と行き成り横合いから声が掛けられた。其方を見た詠春が、「マクギル元老院議員!!」と叫ぶが彼が協力者ではないようだ。

 

 そして、シズシズと女性がこの広間に上がって来ようとしていて議員が其方を指し、

 

「主賓はあちらの方だ。ウェスペルタティア王国・・・・アリカ王女だ」

 

 そう紹介されてアリカ王女には議員が赤き翼だと紹介されていた。其の間、ナギがぽ~~とした感じで見ていた。

 

 ガトウとタカミチは知り合いらしく、王女と議員の横に並んでいた。そうこうするうちに王女にナギたちが自己紹介する事に。

 

「俺は紅き翼のリーダーのナギ・スプリングフィールドだ。よろしくな姫さん」

 

と、ナギが自己紹介して色々喋っていた。そして、詠春も無難に自己紹介し、次のラカンの時、ナンパでもしたのだろう、「気安く話しかけるな下衆が」とキレれられていた。

 

それが終わると王女がお前は誰だと言う目でこちらを見てきた。此処で自己紹介していいものか考えたが、まぁ、何かあったら実力行使と言うことで名乗ることにした。

 

「ブラックロッジが一人、アレイ・クロウだ」

 

「そなたが、帝国の『金色の魔人』か。何故このような所に居るのじゃ」

 

と、かなりきつく睨まれている。どうしたものか、と悩んでいると

 

「アレイとはこの前戦ってから仲良くなったんだ。今日はなんか依頼で人を探していてここに来たらしい」

 

と、ナギが珍しく覚えていたらしく俺が依頼できた事を話していた。

 

其の後、ナギと王女が仲良く会話してこの会合がお開きになった。

 

 

 

 

 会合が終わり俺はナギたちから飲みに誘われた依頼があると断り、王女の元に行った。

 

「先ほどぶりだな、アリカ・アナルキア・エンテオフュシア」と、俺は王女の後姿に声を掛ける。

 

「む・・金色『アレイでいい』では、アレイなんのようじゃ」

 

 王女は振り返り怪訝そうな顔をしていた。俺は手紙を出してそれを王女に差し出しながら、

 

「現依頼主、テオドラ・バシレイア・ヘラス・デ・ヴェスペリスジミアからアリカ・アナルキア・エンテオフュシアに手紙だ」

 

 王女が其の手紙を受け取ったのを確認してから俺は踵を返した。

 

 

 

 其の後、行き成りラカンに拉致られ酒場に連行された。

 

「でぇ~、おめぇは王女様と何話してたんだ」と、鼻息荒く近づいてきた、隣でナギも黙ってはいるが気になるらしくこちらをジト目で凝視してくる。

 

「依頼で会っていただけだ。変な勘ぐりはするな、それに彼女自身に興味はない」と、顔面を近づけてくるラカンの顔を押し返す。ナギはホッとしている。王女に一目惚れしたらしい、青春してるみたいなのでそっとして置く事にする。なにより俺が弄らんでもラカンが弄るだろう。

 

「あんな良い女なのに興味なしかよ。うん?彼女自身って事は、なんに興味が在るんだよ」

 

「・・・・・・黄昏の姫巫女」

 

 そう言えば赤き翼にアスナについて知らないか訊いてないことを思い出し、ラカンがウザいのもあるがついでなので教えてやることにした。

 

「なっ、姫子ちゃん狙いかよ、って事はアレイもアルと同じ趣味って事か・・・・」

 

 驚愕した顔でナギが言ってきて、ナギとアル以外、意外そうな物を見る目で此方を見てくる。アルは一瞬目が光った気がするが。タカミチは分かってなさそうだ。

 

「アルの趣味は知らんないが、俺は間違いなくロリコンだろう。それと先に言っておくが、アスナには約束があって探しているだけだ」

 

 そう涼やかにハキッリ宣言した。そうしたら、ナギとラカンは興味が失せたのか二人で飲み始め毎度の事ながら喧嘩に突入して外に出て行った。俺は詠春とガトウに挟まれ何故か説教を受け、お前はアルのようになるなと言われた。

 

 其の後、アルに「同士よ。今宵は幼女について語り合おうではありませんか」と言われたので、

 

「ふむ、特別幼女が好きなのではなく、愛している伴侶等(パートナー達)が見た目完全に幼女だからロリコンだと言ったんだが。まぁ、語ると言うなら聴こう」

 

と返したら何処からともなく、紅き翼のメンバーが集まってきて「お前結婚してたのか!!!しかも、等って何だ!等って!!」と詰め寄られた。

 

 取り敢えず、正妻と愛人が一人ずついると言ったら、何故か全員から殴られ、今度一緒に飲みに来いと誘われた。

 

 機会を見て紹介するとしよう、先に色々話しをしていないとアルとラカン辺りがエセルにSAN値直葬されかねない。

 

 アスナの居場所は紅き翼も知らないらしい。ナギ曰く、王女にも訊いたが話しずらそうにしていたらしい。

 

 

 そんな感じに今回の飲み会は終了した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

襲撃 一番目《プリームム》

 あれからテオとアリカ王女は手紙でのやり取りを密にしながら『完全なる世界』の情報を集めているそうだ。

 

 アリカ王女は紅き翼に頼り情報を集めているようだが、俺は造物主に義理立てする訳ではないがテオに直接的な情報は教えていない。

 

 今度、テオがアリカ王女に直接会いに行くらしい。何故かお互い一人で会いに行くそうだ。

 

 テオ曰く、アリカ王女が一人で来るのに妾だけ護衛が付いて来るなんて嫌じゃ!との事だ。

 

 それに対して、皇帝がキレ、親子喧嘩に発展したのは言うまでもない。

 

 その後俺と皇帝で説得してはみたが、テオは聞く耳持たず説得は失敗。仕方ないので某初めてのお使いよろしく、こっそり後ろから護衛(俺)が付いて行く事となった。

 

 テオが乗っている船の後方斜め上2000m位を飛びながらストーキングして目的地まで付いて行っていたのだが、途中から多分『完全なる世界』の下っ端の連中なんだろうと思うが、テオの船の後方1000m位を付いていく船があった。

 

 この時点で、潰してしまっても良かったのだが、情報が漏れているのならアリカ王女の方にも尾行者がいる可能性もある、それよりも目的地で待ち伏せされている可能性の方が高そうだが。

 

 まぁ、どうせ助けるのなら二人一緒の方が面倒が少なくて済む。そう考え、取り敢えず静観している事にした。

 

  ◆

 

 現在、テオとアリカ王女は敵に強襲されてあえなく捕えられて、主にテオがギャアギャア騒いでる。

 

 それにしてもアリカ王女の呆れるくらい強い事、あれは護衛を連れて来ないんじゃなくて、連れてくる必要がないだけなんじゃ・・・・

 

 殆どの敵を一人で倒していたようだけど、最後の方でテオが人質にされ仕方なく投降した様だ。余りの暴れっぷりに暫し呆然としたがそろそろ助けないと拙い。

 

 さて、どう助けるか・・・・

 

 目の前でミンチにしたり、細切れにしたりのような放送コード(モザイク)に引っかかりそう助け方は反応が面白そうではあるが刺激が強すぎるので却下・・・・・・仕方ないが此処は無難にアトラック=ナチャを使うことにするとしよう。

 

  ◆

 

「案の定、襲われたなテオ」

 

 俺はそう言いながら光学迷彩のように掛けていた幻術を解いて二人の前に現われた。

 

 二人は行き成り周りが動かなくなって呆然としていた所に、声を掛けられてビクッとなっていたがテオはすぐに俺だと気付いたのか此方によって来た。

 

「アレイ信じてたのじゃ!」

 

と、余りに反省の色も無くニコニコしていたので、死なん程度に加減したデコピンをしてやった。

 

「もぴゅっ!!!」と悲鳴?を上げながら、目を廻して銃で撃たれたかのように後ろに倒れていった。それを見ていたアリカ王女は相変わらずの無表情だが、心地顔が引き攣ってる様な気もする。

 

「・・・助かったぞ。それでこれから如何するのじゃ」

 

 かなり事務的な感じに抑揚なく訊いてくる。其処まで親しい関係ではないからこんな物だろうが軽く警戒されているようだ。

 

「まず、この場を離れる。話はそれからだ」

 

 俺はそういいながらテオを担いだ。

 

 さて、何処に転移するべきか、テオだけなら其のまま帝国にとって返せばいいが今は荷物がある。

 

 順当に考えるとウェスペルタティア王国辺りまで送らないといけないが、『完全なる世界』にどういう理由か分からないが一度狙われたのだ目的を達成するまで狙われるだろう。如何考えてもまた攫われそうだ。

 

 仕方ない取り敢えず一番安全な自分の部屋まで跳ぶかと、転移の準備をし終わりアリカ王女に近寄って行った。

 

 そうすると行き成り巨大な影が出来たと思ったら頭上から特大の石柱(10m×10m×100m位)が降ってきた。

 

「・・・なんじゃ・・・これは」と呆然としながら王女が言ってるが構っている時間もないので、無言で王女にテオを投げ渡すが受け止めきれずに尻餅をついていた。頭の位置が下がって丁度良いかと考えながら一応守護結界を張っておく。

 

 そして、その石柱をアッパーの要領で殴り飛ばす、それと同時くらいにプリームムが俺の斜め前に挑発するように転移してきてテオたちに向けて手を伸ばしながら瞬動で俺の横を抜けるように突っ込んで来た。

 

 殴られた石柱は発泡スチロールで出来ていたかのように重さを感じさせずに砕けながら凄まじい速さで上空に吹き飛んでいった。その時には俺の横くらいに来ていたプリームムの襟首を掴み俺の前に引き倒すように投げつけ足で押さえつけてやった。

 

「ガフッ・・・っグゥ・・」と苦痛の声を上げながら押せつけていた足を必死に掴んでくる。

 

「さて、プリームム、なぜテオ達を狙う」

 

「・・・っぐぅ、紅き翼が目障りになって来てね・・・・・くっ、アリカ王女を人質にして時間を稼ぐ心算だったんだよ。それにしても流石、我が主がお認めになった人外だね。冗談の様な理不尽さだ。ただ殴るだけで僕の冥府の石柱に対応できるなんて」

 

「どうした、今日はえらく喋るじゃないか、プリームム」

 

 そういいながら俺は足の力を込め地面に埋めていく。

 

「っガァァッ・・・・い、一応、我が主の協力者なんだ。それなりにお相手するさ」

 

 先ほどからテオたちに聞かせるように俺や造物主との関係を言っているがこれは唯の嫌がらせの様な物だろう。

 

 セオリー道理ならそろそろ来る頃なんだが、折角イイ餌を使ってるんだ何かしら掛かってくれないと寂しいではないか。

 

と、冷めた眼でプリームムを見ながら考えていたら、魔力を込めたのだろう足を掴む手の力が跳ね上がった。そして、テオたちを囲むように転移してきた三つの人影が襲いかかる。

 

「・・・あなたを出し抜くのも楽でわない」と、プリームムが呟く。

 

俺は驚いたようにテオ達の方を向いて、

 

「しまった!!・・・・・・・なんて言うと思うか」と、無表情にプリームムを見返して訊いた。

 

 三つの人影はテオたちの30cm手前で止まっている。いまだ残っているアトラック=ナチャの不可視の糸に絡め取られているのだ。

 

「此処は最早、俺(蜘蛛)の巣の中だ。そんな所に頭から突っ込んできたんだ、捕縛されて当然だろう」

 

「やはり、これくらいでは出し抜けないか・・・・デュナミスも呼んでいて正解だったよ」

 

 そうプリームムが言うと、三人の足元に魔方陣が出現しそれぞれが干渉し合い、影のような物が漏れ出して半円状のドームの様な物なって三人ごとテオ達が取り囲われた。

 

 そして、その影がなくなったときには誰もいなくなっていた。囲われていた空間ごと、テオ達と三人は何所かに転移して連れて行かれてしまったようだ。

 

「・・・・・・あの二人に危害は加えない、それは約束するよ。マスターテリオン」

 

 そう言われた瞬間、プリームムの胸を踏み抜くもいつの間にか幻影と変わっていて水になってしまった。

 

 いったいどうやって俺がマスターテリオンだと特定したのか、今のセリフは鎌賭けだったのか色々聞きたいことは出来たが取り敢えずプリームムは去っていたようだ。

 

 

 ・・・・ただ面倒な事を色々二人には聞かれたから後できっと問い詰めて来るだろうと考えながら張っていた幻覚を解く。

 

 そうすると少々離れた空中にテオと王女が雁字搦めにされ捕らわれていてもぞもぞ動いていた。プリームムたちが連れて行った方は後一時間は持つはずだが、さっさと此処から離れるに限る。二人を担いで取り敢えず自分の部屋に転移した。 

 

 

  ◆

 

 

 部屋に着き、結界を最大強度にして内外を完全隔離してから二人を開放してやる。

 

 アリカ王女が冷ややかに親の敵を見るような目で見ながら口を開こうとした時、テオが俺に突っ込んできて、

 

「なんて事してくれたんじゃぁぁ!頭がハジケ飛ぶかと思うたわぁ!!しかもアリカ王女に思い切り投げ付けよって一緒に吹き飛んだではないか!!!」

 

 そう吠えながら俺めがけて水月に頭突きするように飛んでくる。俺は飛んできたテオの頭をわしずかみにして止めてから徐々に力を込めていく。

 

「人の忠告を無視して一人で行って襲われときながらニコニコしている奴にはあれで丁度イイ。ソウダロ、テオ・・・」

 

 瞳に暗い光をともしがら、優しい笑みを浮かべてテオに訊いてみる。テオはそれを見てガクガク震えていたが、途中から頭の痛みが恐怖を勝ったのかバタバタ暴れだした。

 

「・・・っみぎゃぁぁぁぁ!われる、われてしまうのじゃぁ!やめ・・・に゛ゃぁぁぁぁ・・・・」

 

 最後の方はなんか猫の断末魔の悲鳴みたいなのが出てきたので、いつの間にかテオを心配そうに見ているラヴに投げ渡す。ラヴは器用に触手で受け止め頭を撫でてやっていた。テオは頭を抑えてさめざめと泣いていた気がするが気にしない事にしておこう。

 

 ちなみにアリカ王女はラヴを凝視していたが、最終的には触れない事にしたらしい。

 

「さて、見苦しいものを見せたがアリカ王女は何を言おうとしたんだ」

 

 未だに睨み付けてくる王女に話を振ってみる。

 

「しらじらしいぞ、大導師殿。『完全なる世界』の幹部とおぼしき者の名前を知っていたり、其の主に認められた人外だと言われてみたり、そして、其の協力者なのだろう。更にマスターテリオンと言えばブラックロッジのトップではないか。どう説明してくれるのだ、アレイ・クロウ」

 

 説明ね、今しても良いがナギ達にもどうせ、何時か説明を求められそうだし一々説明し直すのは面倒だ。何よりこの王女からナギ達に変に情報が行って付け回されるとかは嫌過ぎる・・・・・・・

 

 いっその事此処にナギ達連れてこさせるか。・・・・・何気に其の案がいいかもしれない。

 

 俺はそう思い、エセルに至急、紅き翼を連れてここに来るように念話した。

 

「少し待っていろ、今、王女を引き取りにナギたちが此処に向っているはずだ。説明はそれからしてやる」

 

と、涙目のテオと睨み付けてくる王女に俺はそう伝えた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

獣、鳥に説明す

 いったい何故こんな事に・・・・・・・・・

 

 俺の目の前には捕って来いをして、見事目的の者を持ち帰ってきた忠犬(エセル)がちょっと期待した目で此方を見上げてきている。

 

 まぁ、頭を撫でてやるのだが、その後ろに何故か湯気か昇り、レアに焼かれた年齢層がバラバラの7人の男が倒れていた。言わずもがな紅き翼の面々である。王女、テオ、ラヴが俺の渡した薬を飲ませて介抱しているので直ぐに復活するであろうが中々に痛々しい光景である。

 

 

  ◆

 

 

「で、何であんな姿で連れて来られたんだ」

 

 俺は、ようやく復活したナギたちに一応訊いてみる事にした。大体予想がつくが、どうせエセルが連れて行こうとして断るかなんかで実力行使に出たんだろう。と俺は考えていたんだがナギたちの反応を見ると違うようだ。

 

 何故かアルが全員からジト目で睨まれてる。アルも額から一筋の汗を流しながらいつもの笑みを浮かべつつ誤魔化そうとしているようだ。

 

「私がマスターからの用件を伝えようとしたのですが、あの駄本が行き成り欲望にぬれた目で襲い掛かって来ましたので、変態を制圧し、一緒にいる者たちも危険と判断、無力化して持って来ました」

 

 王女とテオのアルを見る目が汚物を見るようなものに変わった。流石にその視線には耐えられなかったのかアルが崩れ落ちた。

 

「・・・私はただ・・・・・口説いてイヌ耳、スク水セーラーを着て欲しかっただけなのです・・・・・・・・貴方なら・・・同士である貴方分かってくれなすよね!アレイ!」

 

 OTL状態のアルが此方を縋る様に見てくるが流石にこれは庇う気も起きない。

 

「崇高なるマイ、マスターが行き成り欲情するような駄本如きの想いを理解する必要はないのです。ましてや同士などと・・・・存在を消し去ってしまいたい位不愉快ですが、こんな駄本でもまだマスターの役に立ちそうなのでそれだけは勘弁してあげましょう」

 

 エセルの言葉と絶対零度の雰囲気に、皆引き気味になりながらも考える事は一緒だった。

 

《この娘、アレイの役に立たないと分かったら本気でアルを消す気だ・・・・・》

 

 この後アルは凹み部屋の隅でカビを生やしていた。

 

 もうこの事には触れない方がいいと判断したのか、王女が此方を睨みながら、

 

「さて、そろそろ、話してくれても良いのではないか。その娘の事を含めて」

 

と、言ってくるが、紅き翼の面々は復活したばかりで事態が飲み込めていないみたいで

 

「おい、姫さん、話って何だよ。つーか此処どこだよ」

 

と、ナギが言って来るが他の連中も似たような感じで口にはしないがこちらを不可解そうに見ていくる。

 

「此処は俺の部屋でナギたちを連れてきたのはそこの王女を持って帰って貰おうと思ったからだ。話と言うのは・・・・・ゼクト、記憶を見れる魔法を使えるか」

 

「うむ、使えるが・・・なんじゃ、お前さんの記憶でも見るのか?」

 

「いや、俺の記憶はかなり有害なんでな止めておけ。王女かテオの記憶を覗かせてもらってくれ」

 

「待て。何故に私の記憶を提供しなくならんのじゃ」「そうじゃ!そうじゃ!」

 

と、王女が待ったを掛け、テオが調子よく片手を上げている。

 

「・・・・・ふむ、SAN値直葬されていいのであれば見せてやるが・・・・・どうする」

 

 日ごろは出さない、異界の狂気をにじみ出しながら訊いてやる。ナギ達には黒い陽炎が俺の周りに纏わりついて見えるだろう。

 

「産地直送とはなんじゃ・・・お主から出ているものが危険な物なのは解るがそれと関係が有るのかの」

 

と、ゼクトが訊いてくる。それの説明しようとしたら、横に控えていたエセルが大判のデッサンノートを胸の前に出して一歩前に出た。

 

「SAN値とは、正気度を表す数値です。これが0になると発狂します。SAN値直葬とは、この数値が一瞬にして0になることを言います。例えるならこうです・・・・・・・」

 

 デッサンノートにSAN値、SAN値直葬と書かれて見していたエセルがページをめくる。そこには元気の良さそうなナギぽい漫画絵が描かれていた。

 

「これが・・・・・SAN値直葬されるとこうなります・・・・」

 

 また、エセルがページをめくる。そこには手をバタつかせ意味不明な記号を叫んでいるナギぽい漫画絵が描かれていた。

 

「・・・・なんで、俺・・・」と、ナギが呟くが、皆、苦笑していた。

 

「要するにお主の記憶を覗けば理由はわからんが正気失うと、そういうことなんじゃな?」

 

「俺だけじゃなくエセルもだが。呪いみたいな物だ、精神干渉関係を受けると逆侵食して狂気を植えつける。・・・・それでも見たいというなら見せてやるが」

 

と、にやりとしながら言ってやると俺とエセル以外が一斉に首を横に振っていた。

 

 その後、王女が自分の記憶を見せることで話は落ち着いた。予断だが、その際ナギがちょっかいを出し空中を舞っていた。

 

  ◆

 

「アイツは議員を殺して成り代わっていた奴だ。アレイはあいつのことを知ってるのか」

 

 ナギは真剣な顔をして此方を睨みつけてくる。ナギだけでなくほかの全員もだが俺の回答を真剣な顔して待っているようだ。

 

「知ってはいるが教える気はないな」

 

「何でだよ!戦ってたって事は仲間って訳じゃないんだろ」

 

「仲間じゃないが敵でもないからな・・・・・」

 

「敵じゃねーて・・・・じゃ、誰の味方なんだよ!」

 

「基本的には自分の味方だな。今は強いて言うならテオの味方でもある」

 

 ナギたち幼少組は納得しかねる顔をいていたが、ゼクトたち大人組は苦笑していた。

 

「じゃぁ教えてくれていいじゃねぇーか」

 

「ふむ、なら訊くが俺が『完全なる世界』の奴らが実はいい奴で他の奴らが間違っているんだ。と言って信じるか?」

 

「はぁ!信じるか!戦争を陰で操ってるような奴等のどこがいい奴なんだよ!!」

 

 ナギが吠えるのに合わせて、他の奴らも肯定する。

 

「逆に極悪人だ。そう言われたら理由も聞かずに信じただろう。それに俺には真偽を確かめる魔法は効かない」

 

 ナギ以外が一斉に難しい顔になった。

 

「要するに、貴方は私達が信じたい方を信じてしまう。そして、本当に真実なのか分からない。そう言いたい訳ですね」

 

 いつの間にかアルが復活して話しに入ってきた。

 

「そうだ、事実はどうであれ、人は信じたい物を信じるからな。だから、あいつらの事は自分達で調べろ」

 

「では、一つだけ教えてください。『完全なる世界』のやっている事をアレイ自身はどう考えているんですか」

 

「あいつらにも言ったが、否定も肯定もしない。ただ今回の事はやり方が気にいらんから潰そうとは考えている。そんな所だ」

 

 アルはいつもの胡散臭い笑みを浮かべ、クツクツ笑っている。他の奴らも似たり寄ったりの反応をしている。

 

「なんだよ、結局アレンは味方してくれんじゃねぇかよ」「はっはっは、あれだ・・テレてんだよ。ご大層に自分の味方だぁ~なんて言っちまったんだ」

 

 などなど外野が言っているが取り敢えず無視しておく。

 

「そうですか。それは心強いですね。でも、よろしいのですか?あのプリームムと呼ばれていた方が言うには貴方は協力者なのでしょう?」

 

「協力できる所は協力するが、気に入らん所は殺し合いをしてでも我を通すと宣言しているから大丈夫だ」

 

 それを聞いたアルが顔を引き攣らせていたが、大方自分達にも当てはまる事に気付いたのだろう。

 

「・・・・そうですか。それで人外やら、マスターテリオンと呼ばれていたのはなんでなのですか?」

 

「そのままだ、俺、アレイ・クロウは人外で古くはマスターテリオンと名乗っていた時がある。ちなみにエセルも人外、魔導書の精霊で俺のパートナー(伴侶)だ」

 

「あ~、前の言ってた本妻と愛人かぁ」「うむ、まさにロリコンじゃの」「・・・・アレイが・・・ブラックロッジのトップ・・・・」「・・・そんな・・・理想の幼女が・・・・」「そなた結婚しておったのか・・・」「・・・・うそなのじゃぁぁ」

 

 など思い思いの反応をしているが、また、アルが崩れ落ちた。そんなアルにエセルが珍しく少し近付いて行って、

 

「ちなみに、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが愛人と言うことになっています。それと私、貴方程度の駄本に興味ありませんので。あしからず」

 

と、エセルが涼やかに宣言した。 

 

 皆びっくりした顔をしていたが、アルが何故か真っ白になってしまいその後の追及は有耶無耶になった。何故かエセルはアルが嫌いらしくことあるごと口撃を繰り出していた。

 

 この後はラヴの紹介があったり、俺がどんな人外なのかとか訊かれお茶を濁したり、ラカンとナギがエセルにリベンジしようとして、する前に重力に潰されたりと色々あった。

 

 暫らくしてアルが復活したので今後の方針を話し合う事になった。っと言っても、紅き翼が連合、俺達とテオが帝国をそれぞれ担当して『完全なる世界』の拠点を潰しつつ本拠地を探す事となった。

 

 本拠地は知らないのかと訊かれはしたが、この前行った所が本拠地とは限らないのでしらないと答えておいた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

獣、招喚す

 あの話し合いの後、帝国勢力の真っ只中に放り出すわけにもいかず、紅き翼の隠れ家まで連れて行く事となった。

 

 転移を多用したのでそれほど苦労はないが、その途中で紅き翼と俺が賞金首になっていることに気が付いた。

 

 俺はテリオンとして手配されていて今まで顔がなかった手配書に俺の顔がでかでかと載っていた。ちなみに賞金額は相変わらずの3000万ドル。紅き翼は王女誘拐やなにやら色々捏造されたみたいでナギと詠春がキレていた。

 

 隠れ家に着いたら何故かナギが王女の騎士に任命されたり、それにテオが対抗しようとして俺に『騎士になるのじゃ』と言ってきたが謹んで辞退した。

 

 その後は予定通り、拠点潰しや国の浄化などで時間がどんどん過ぎていったのだが。

 

 とあるバカン曰く、映画なら3部作、単行本なら14巻くらいの死闘らしいが、正直此方はぬるゲー。

 

 情報収集はエセルと使い魔が、国の浄化は皇帝とテオが、俺は3秒と持たない拠点潰しとラヴのお蔭で居ても居なくても変わらない護衛しか仕事がなく、賞金稼ぎも額にビビッたのか全く現れない。ほぼ毎日バカンス状態である。

 

 そんな日々を送りながらとうとう敵の本拠地が判明した。それとアスナの居場所も。

 

 そして、俺とエセルが帝国側の先遣隊として派遣される運びになった。

 

 

  ◆

 

 

 現在、オスティア王宮最奥部『墓守り人の宮殿』が見渡せる所に紅き翼と立っている。

 

 この後、混成部隊で周りを牽制しつつ、俺達と紅き翼が宮殿に乗り込む事になっている。そして、準備が整ったのをアリアドネーの隊員が伝えに来たが・・・・・・・・・

 

 こいつら全く緊張してやがらない。つか、アリラドネーの隊員・・・・・今の状況でサインねだるのはいいのか?しかもナギのサイン貰った後に何故此方を期待の眼差しで見てくる。

 

 仕方がないので書いたが、何故かエセルが隊員に睨みを利かせていた。その隊員はサインがよほど欲しかったのかビクつきながらもキッチリサインを受け取って帰っていった。

 

 そうこうしている内に、ガトウから連絡が入り、連合、帝国の援軍がこちらに来るのが遅れると知らせが来た。要するにこの戦力で『完全なる世界』と戦う事になるらしい。

 

 戦力的には、俺とエセルがいる時点で最終的に負けはない。だが、あいつがこの世界を作った張本人だというのなら数をそろえても意味はないだろう。

 

 魔術とは世界と言うプログラムにハッキングして自分の思い通りの現象を起こす術だ。

 

と、いう表現がどこかで使われていたが、その言葉を借りるならアイツはこのプログラムの生みの親、下手をするとこの世界の中でならかなりの無茶が効くはず。

 

 そう考えれば実際の有効戦力はナギと詠春、それと俺たち位か・・・・・

 

 そんな感じのことを考えていたら宮殿の方から視線を感じたのでそちらを見てみた。

 

 すると何故か造物主がアンティークな望遠鏡でこちらを見ている。

 

 なんであんな物でこっちを見ているんだ。と、少々呆けた顔になりながらも注視していたら造物主も気付いていたのか軽く片手を挙げ、そして、下を指差す。

 

 反射的に下の方を向くと、宮殿を背景に200m級の魔方陣が行き成り出現し、その中心に巨大な黒いドラゴンが生み出される。

 

 周りは騒然となったが無理も無い、見た事も聞いた事もないドラゴンが行き成り召喚?されたのだ。

 

 見た目は龍樹のような感じだが、色がカーボンの様なツヤがない黒で何よりデカイ。

 

 今は丸まって空中に浮いているが翼を広げれば下手をすると200mは有るかもしれない。

 

 横から「あんな種は存在しません」とか「オイオイ、マジかよぉ」「ハ、ハッ、どど、どんな奴が出てきても、ぶったおしてやるぜ」など、紅き翼はかなりテンパっているようだ。

 

『お気に召してくれたかね。テリオン殿、あれは貴方の足止め専用に創ったドラゴンだ』

 

と、行き成り念話が聞こえてきた。周りの反応が無いので俺以外聞こえてないのだろう。

 

『その名は名乗った覚えは無いのだが。まぁいい、それで行き成り念話して来てどうした。命乞いでもする気か』

 

と、不敵な笑みが自然と浮かぶ。

 

『いえ、何故貴方がそちら側に付いたのかが気になったのでね』

 

『あの異界が気に入らない・・・・ただ、それだけだ』

 

『そうか、では、この儀式以外は邪魔しないのだな』

 

 聞こえてくる声に安堵の雰囲気が混じっているが、俺個人の今回の主な目的はアスナの確保にある。

 

 そして、今回の儀式の核になっている位の重要度だ。今後敵対しない保障はない。

 

『さて・・どうだろうな・・・・』 

 

『私としてはそうなる事を願っているよ。では、また会えたら会おう。・・・・ああ、それとあのドラゴンは君を執拗に狙うように設定してある。では、また』

 

と、かなりの高速思考で行われた念話での会話が終わると、見計らったかのように丸まったいたドラゴンが起き翼を広げ大地が揺れるような咆哮をして俺に喧嘩を売るように殺気を飛ばしてきた。

 

 その咆哮を聞いた周りの混成部隊の奴等は悲鳴を上げたり、パニックになっていてとても戦闘が出来る状態ではなくなっていたが正直丁度いい。

 

 乱戦になってしまうとアレが使い辛くなってしまう。

 

「・・・・ふむ、ナギ。あれの相手は俺たちがしてやる。お前達は先に行って儀式を止めて来い」

 

「はぁ!アレイ何言ってんだよ!!あんなでっけぇのどうやって二人で相手する気だ!!」

 

「全員であれの相手をいているような時間は無い。それに切り札を使うのに他の奴等は邪魔でしかない」

 

 俺は仮契約カードを出して不敵に笑ってみせる。

 

 それでも周りからは「ナギの言うとおりです」など魔法世界組は過剰なまでに心配してくる。

 

 詠春は目でお前を信じてると語ってくるがやはり心配そうにはしていた。

 

「・・・・邪魔って・・・じゃぁその切り札ってのを使ったら勝てんのか?」

 

と、ナギは苦笑しながらも任せて大丈夫なのかと目で問いかけてくる。

 

「ああ、正直周りに甚大な被害を出すから余り出したくは無いのだがな・・・・・」

 

と、そこで言葉を切り、エセルに目配せし鬼械神(デウス・マキナ)招喚の術式を走らせる。

 

「・・・・来い!!リベル・レギス!!!」

 

 俺はそう叫び、幻覚で仮契約カードを使ったように見せかける。後々の追及をすべてアーティファクトで押し通す為だ。

 

 俺の背後で60m位のこの世界では存在しない言語の複雑怪奇で微細な魔方陣が出来上がり、その中心の空間が割れた。

 

 そして、そこから巨大な真紅の鋼が出てくる。

 

 その鋼を見てすべての人間が息を呑んだ。

 

 

 神々しくも美しい血よりもなお紅い真紅

 恐怖や絶望、狂気を感じさせる翼を折り畳んだ姿

 怒りと憎悪、色々な印象をうける圧倒的な存在感

 

 色々な物がごちゃ混ぜになり、その刃金は人の魂を揺さぶる。

 

 それは機械の巨人、機械仕掛けの神、鬼械神デウス・マキナ。

 

 

 無限螺旋を抜けて始めてリベル・レギスを招喚したが、昔に比べ随分丸い印象を受けることに驚いた。

 

 黒き魔術の皇の絶望と恐怖の具現、極限の魔神とまで言われていたが今は負の力だけでなく正の力まで内包しているような印象を受ける。

 

 これは、俺が旧神の因子を身に宿している所為ではないかと思うが、実際の所は分からない。

 

 色々考察をしたい所だが一先ず置いて、呆けているナギに向き直り、

 

「道は開けてやる。お前たちは宮殿へ向え」

 

と、言い放ちナギたちに背を向けリベル・レギスに乗り込んだ。

 

   ◆

 

 リベル・レギスのコックピットと言うべき立体魔方陣の球体の中で久振りの感覚に身体を浸していた。

 

 圧倒的な力の本流、その力を今からあの哀れな爬虫類に叩き込む事を考えると、人知れず身体から黒い物がにじみ出てしまう。

 

 クツクツと笑いながら、

 

「さて、エセル。この世界に我ら三位一体の力見せ付けてくれようではないか!」

 

と、俺と同じような球体に入って前に浮いているエセルに向って宣下し蹂躙する為にあいつの元に向う。

 

「イエス、マスター」

 

と、エセルの声が返ってくる頃にはもう奴の正面に転移して顔面に踵を振り落としていた。

 

 蹴りを食らったドラゴンは頭が砕け、首も引き千切れそうに成りながら、空気の壁を打ち破り、さながら黒い流星の様に堕ちて行く。

 

 取り敢えず、宣言通り道を開いた事に満足しつつ、まさか、一撃で終わる等と興醒めさせてくれる事はしまいな。と考えつつ空を滑る様にリベル・レギスを流星が落ちるであろう場所に向わせる。

 

 それは隕石の衝突のようだった。強烈な衝撃波を撒き散らし巨大なクレーターを作り出す。

 

 その中心には完全に手足や羽が千切れ飛び、黒、赤、ピンクの色彩に彩られた原形を止めていないナマモノが散乱していた。

 

 まさか、ほんとに一撃で終わってしまうとは・・・・・興醒めだなと考えつつも、爬虫類相手に鬼械神を使ったのだ痕跡が残っているだけ良くやった方かとも思う。

 

 まぁいい、アスナを探して連れ帰るかと気を取り直してエセルに探索を頼もうと声を掛けようとしたその時。

 

「マスター。屍骸が魔力に還元されています。おそらくもう一度ドラゴンとして顕現させる気のようです」

 

 エセルがそう報告している間に肉塊が花びらのような物にほどけ、先ほどと同じ召喚陣からドラゴンが出現してきた。

 

「ふむ、無限召喚と言った所か・・・・・・・おそらく核となる術式を壊さない限り召喚し続けそうだな」

 

「イエス、マスター。それにもう時間が残されていないと思われます。何時この世界の崩壊が始まってもおかしくない魔力の推移です」

 

 なるほど、ならば何処に在るのか分からない核ごと、あの爬虫類を瞬時に滅するまでだ。

 

「エセル、奥義をもって瘴滅(しょうめつ)させる」

 

「イエス、マスター」

 

 

 第一近接瘴滅呪法『ハイパーボリア・ゼロドライブ』

 

 それは、負の無限熱量、白く焔える極々低温を刃とし瘴滅必死の手刀とするリベル・レギスに搭載された一撃必滅の奥義

 

 

 俺はリベル・レギスに右手刀を前に出し左上段に構えさせる。爬虫類も漸く此方にノロノロと羽ばたいて来ている。

 

「我が怨念! 余さず纏めて極めてやろう! 享けよ! 極低温の刃!」

 

 俺は右手刀に呪法走らせ言霊を叫ぶ。するとリベル・レギスの右手に世界を静かに停止させ凍えさせる白く炎える焔が宿る。

 

 そして、リベル・レギスは弾かれたかのよう勢いでドラゴンに迫った。

 

「「ハイパーボリア・ゼロドライブ!」」

 

 手刀を振り落とし、ドラゴンをすり抜ける。

 

「瘴滅!」

 

 そうエセルが叫んだ瞬間ドラゴンは真っ白に燃え尽き静かに消滅した。

 

 俺は血振りをするかのように手刀を振りながら宮殿を仰ぎ見る。

 

 宮殿は内側から魔法を受けボロボロになっていた。この戦闘の終焉はもう間近のようだ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

獣、魔法世界を去る

 爬虫類を消し去ってやった後、俺は宮殿の中心部と思われる所に侵入した。もう儀式は始まっているようだ。中心部に近づくほど空気中の魔力が希薄になってくる。

 

 中心部は祭壇の様になっていて真ん中にクリスタルの結晶のような物が浮いていた。その中にアスナが囚われている。

 

 アスナの目の前まで近寄っていく。

 

 その途中で儀式が完全に発動し魔力が爆発的な勢いで消失いていく。ここら一帯は最早魔力が完全に存在しなくなっているようだ。

 

 俺個人は体内に莫大な量の魔力があるから関係ないが普通の人間はすぐさま魔法が使えなくなるだろう。

 

 俺はクリスタルに触れ術式に亀裂を入れる。その瞬間クリスタルが弾け浮いていたアスナが徐々に降りてくる。

 

 その間に細工をしたアスナの写し身を作り出し変わりに浮かべてやる。すると弾けたクリスタルが集まってきて始めの様に写し身を捕らえた。

 

 俺は降りてきたアスナを優しく抱きかかえてやる。すると今まで寝ていたようだったアスナが目を覚ました。

 

「・・・うぅん・・・ア・・レイ・・・・・」と、アスナが呟く

 

「ほう、覚えていたか。・・・・・アスナが外に出たいと思えば連れ出そうと言ったがその返事を聞きに来た」

 

 感情の映らない瞳を覗き返答を待つ。

 

「・外・・・出る・・・」

 

と、理解しているか怪しいが一応返事はしてくれた。なので、アスナを抱えエセルが用意している部屋に転移する。

 

 

  ◆

 

 

 アスナは覚醒したばかりで疲れているのかまた寝てしまった。仕方ないのでベットに寝かせエセルに付いている様に言いつける。

 

 俺はその間にナギたちの様子を見に行く事にした。

 

  ◆

 

 何時も使っている飲み屋兼宿にナギを探しに行くと治療中らしい。

 

 知り合いと言うことで部屋に通してもらうと珍しく沈んだ空気だった。

 

 部屋の中を見回すとゼクトがいない。どうやら逝ったらしい。

 

「お疲れだな」

 

「おっ、よう、聞いたぜ。あのデッカイので大暴れして、あのドラゴン消しちまったんだってな」

 

「ああ、キッチリ逝かせてやった」

 

 不敵な笑みを微笑みながら言ってやる。それを受けてナギたちもなんとか笑っていた。

 

「そう言えばアレイ。貴方は最後のほう何処に居たのですか?」

 

と、アルが訊いて来る。まぁ、こいつ等に隠す事でもないので軽く話す事にする。

 

「ナギが造物主と殺り合っている間に、火事場泥棒をしていただけだ」

 

 俺がニヤニヤしながら言うとアル以外がポカンとした顔をした後、ムッとした顔になった。

 

 まぁ普通そうだろう死に物狂いで戦っている時に泥棒をしていたと言われればそういう反応だろう。

 

 ナギたちが何か言う前にアルが再び口を開いた。

 

「最後、光球が勢いを弱めたのは貴方の仕業でしたか」

 

「あぁ、どう言う事だアル」と、かなりドスの利いた声でナギが言ってくる。

 

「ナギ。彼は姫御子を掠め盗って来たそうですよ」

 

と、くっくっとアルが笑いながら言うとアル以外が、「はぁーーー!!」と言はんばかりに口をあけ目を丸くする。

 

「じゃ、じゃあ、姫子ちゃんは封印されてないのか!?」

 

「ああ、今、俺の部屋でエセルが見ている」

 

「・・・・・はぁ、そうか、・・・・サンキュなアレイ」

 

「気にするな。アスナとの約束を果しただけだ。・・・・・・これで王女にいい顔が出来るな」

 

 最後の方だけニヤリとしながら言ってやる。

 

 ナギは顔を真っ赤にしながら「かっ関係ねぇ!!」と取り乱し、それをラカンが茶化すという何時ものパターンに入っていた。

 

 けが人なのに乱闘する馬鹿二人は置いといてアルが続きを聞いてくる。

 

「それで、アレイはこれからどうする心算なのです?姫御子を匿うのなら帝国には居られないでしょう」

 

「明日の調印式を見届けてすぐさま、旧世界のブラックロッジの支部に戻る予定だ」

 

「そうですか。ならば、やはり麻帆良ですか?」

 

「一応な、あそこは数百年掛けて表も裏も整備した土地だから何があろうとあそこなら対処できる」

 

 クククッと黒いオーラ出しながら笑って言い切る。皆引いたがその中でナギが思い出したように、

 

「あ、今度遊びに行っていいか?姫さんと約束してんだ。姫子ちゃんと一緒に詠春の故郷に遊びに行くって」

 

「ああ、歓迎してやる」

 

 それから他愛の無い話で盛り上がりつつ、再会を約束してテオの元へ向った。

 

 

  ◆

 

 

「調子はどうだ。テオ」

 

「おお、アレイか。うむ、戦争も終わり絶好調じゃ!」

 

 明日の式典の準備をしながら答えを返して来る。

 

「そうか。・・・・明日の式典後、俺はすぐさま旧世界に戻らなければならなくなった」

 

 それを聞いたテオはショックで固まってしまったようだ。

 

 暫らくすると、目に涙を溜めつつ近付いて来て上目づかいで聞いてくる。

 

「・・・どうしても帰らないとならんのか」

 

「・・・・・ああ」

 

「・・・・・アレイ・・・どこにもいかんでくれ!」

 

と、テオが泣きながら足にしがみついてきた。俺はそんなテオの頭を撫でてやりながら、

 

「すまない、テオ。・・・・・だが、今生の別れと言うわけではない。また、暫らくしたらまた会える」

 

「・・・ぐじゅ・・・ほんとじゃな?」

 

「ああ、何時になるかは分からんが。また、会いに来る」

 

「ぐじゅ・・・絶対じゃぞ」

 

 その後、テオの機嫌を取り、ラヴをここに置いていく事を伝え、エセルの待つ部屋に転移して帰るときに、

 

「―――――引き留められるくらいイイ女になるのじゃ」とボソボソ聞こえたが・・・・・気のせいだろう。

 

 

  ◆

 

 

 翌日、滞りなく式典は完了した。これをもって俺の名(マスターテリオン)は英雄となったそうだ。

 

 有象無象が俺をどう呼ぼうがどうでもいい事だが、MMの奴らには関係が無いのか未だに賞金を取り下げる心算は無いようだ。

 

 現在、俺は態々前もって予約していたゲートの近くに来ていた。

 

 そこには予想通り、完全武装したMM元老議員の私兵らしき軍隊と鬼神兵が15体ほどいた。ご丁寧に人払いまでしてあるらしく周辺に人の気配はない。

 

 さてどう潰そうかと考えながら不敵な笑みを浮かべてそいつ等に近づいていく。

 

「アレイ・クロウ改めマスターテリオン!!貴様には完全なる世界に関与し、今回の戦争を裏から操っていた容疑が掛けられている同行しろ!!」

 

 議員っぽいのがかなり偉そうに薄ら笑いを浮かべて言ってくる。

 

「ふむ、断るとしよう」

 

 折角だMMに俺を相手にするという事はどういう事か躾けてから帰るとしよう。

 

「な!!貴様の様な悪人に拒否する権利など無い!!」

 

 外野からも嘲笑の声が飛ぶ。

 

「フッ、余に貴様程度の小悪党に従う義務は無い」

 

 俺がわざと鼻で笑ってやると頭に血が上ったのか顔を赤黒く染めながら此方を指差し、

 

「身柄を確保して来いといわれたがもう関係ない!殺せ!!殺してしまえ!!」

 

「これだから小者は嫌なのだ。会話すら成り立たん」

 

 あえて、ヤレヤレだと言わんばかりに溜め息を吐きつつ小馬鹿にしてやる。

 

「~~!何をいている!!殺せと言っているだろう!!さっさとしないと貴様等も唯ではすまさんぞ!!」

 

と、わめき散らすが兵士達は一向に動く気配が無い。

 

 おかしい事に漸く気付いたのか後ろを見るが別段変った所は無いように見える。

 

 実際はある一定レベルを超えた人間になら極悪なまでに練り上げられた魔力で作られた、不可視の糸が見えたであろう。

 

「貴っ様ぁ!!なにをしたぁ!!」

 

「なに、お前程度のゴミには見えぬ方法で逃げられぬよう縛っただけだ」

 

「へ、兵士を縛ったくらいでいい気になるなよ!こ、此方にはまだ鬼神兵がいるんだぞ!!」

 

「ああ、流石の余も鬼神兵は縛れぬな」

 

と、俺はクツクツと笑いながら言ってやる。実際は大嘘だ、鬼神兵如き縛るのはたいした労力ではない。

 

 それを聞いた議員は翳っていた顔色がよくなっていき気を取り直したようだ。

 

「ククッ、余裕の顔を居ていられるのも此れまでだ!此処に張った結界はアーティファクトを呼び出すのを阻害する!あの巨人はもう呼び出せん!貴様の死は確実だ!!」

 

と、言って高笑いしだした。

 

 あの無意味に見えた術式はそういう効果があったのかと思いつつも、こいつら程度にリベル・レギスを使うわけも無く、そもそもアーティファクトではない。要は無駄な努力である。

 

「ほう、そうなのか」

 

 これ以上の馬鹿は見たことが無いと言わんばかりの目をして聞いてやる。

 

 すると先ほどま笑っていたのが止み、信号機みたいに顔色が赤から青に変わった。

 

「こ、こ、こるれぇ~~~!!!!」と、とうとう人語すら喋れなくなったようだ。

 

 その声に反応した一体の鬼神兵が俺に向って跳びかかり全体重を使って下手に構えた剣で突き殺しに来た。

 

 それは直撃し衝撃波と砂埃が舞い上がる。

 

「あひゃははは、私のいう事を聞かない貴様が悪いのだ!ははh・・・・・・・・・はぁ!」

 

 砂埃が晴れ、そこには何とも涼しい顔で剣の切っ先を掴み鬼神兵ごと持ち上げているテリオンの姿があった。

 

「先ほどから勘違いしているようだが貴様ら程度の雑魚にはデウス・マキナはいらん。余の生身一つで十分だ」

 

 そう言いつつ、持ち上げていた鬼神兵を他の鬼神兵に投げつけ議員を縛り、

 

「そこで待っていろ。鬼神の名を騙るまがい物を解体した後に相手をしてやる」

 

と言い放ち、鬼神兵に目にも止まらぬ速度でせまる。

 

 そこから始まったのは蹂躙と言う言葉すら生易しい物だった。

 

 どんな攻撃も避けようとせず正面から受け傷一つ付かず、むしろ攻撃した剣や拳が砕け散った。

 

 テリオンが拳や蹴りを繰る出せば攻撃を受けた部分が弾け飛び鬼神兵を解体していく。

 

 そんな物を見せ付けられている議員や兵は堪った物ではない。しかも始終テリオンの楽しそうな笑い声が響いていた。

 

 そんな物を見聞きして平静でいられるわけも無く必死に逃げようとするがその程度でテリオンが組んだ術式が破れる訳も無く。

 

 ひとしきり解体が終わったのか笑い声が消え、辺りには無残な鬼神兵の残骸が転がっていた。

 

 そして、先ほど縛り上げた議員の前にテリオンが戻ってきた。

 

「さて、次は貴様らの処遇だがどうして欲しい」

 

 異界の狂気と暗いオーラを放ちながら、黒い愉悦に頬が緩むのを感じつつ優しく聞いてやるテリオン。

 

「ヒッ・・・た、助けてください。じ、上司に言われただけなんだ!命だけは!命だけは!!」

 

 元よりこいつとあと一人、メッセンジャーとして生かして置く心算でいたが、・・・・・ただで生かして置く心算は無い。

 

「ふむ、そうか・・・まぁ・・・いいだろう。・・・・・そう言えば貴様は餓鬼と言うものを知っているか」

 

 真っ青ながら嬉しそうな顔で必死に答えようとするが構わず言葉を続ける。

 

「餓鬼と言うのは常に飢えと乾きに苦しみ、食物、また飲物を欲している小さな子鬼でな。何でも喰らい尽くす」

 

 そこまで言うと困惑した顔で冷や汗を掻き出していたが無視し更に語りながら今度は近場の一人の兵士に近づいていく。

 

「もう一人くらい欲しい所だ・・・・貴様でいいだろう。今から起こる事を一部始終見て余を・・・黒の皇を相手にするとはどういう事か伝えろ」

 

 そう言い兵士の甲冑のヘルムを剥ぎ取り、議員の方へ戻る。

 

「慈悲だ。命だけは助けてやる。ああ、それとサービスだ痛みで気が狂わんようにはしておいてやろう」

 

 そう言いテリオンが指を鳴らすと先ほど語られた餓鬼が一人一匹のの割合で先ほどヘルムを脱がされた兵以外の目の前に現れた。

 

 全員半狂乱になり泣き叫ぶがテリオンは取り合わず更に語る。

 

「じっくり味わうように命じてある。誰を相手にしたのか噛み締めながら逝くといい。・・・・・クク・・あは・あはははははははは・あはははははははははははははははは」

 

 テリオンは笑いながら歩き出す。

 

 そうするとマテをとかれた犬のように一斉に餓鬼達が喰らい付いた。

 

「ヒーー」「・・ぎゃぁぁ」「待て・・・喰うな・・喰うなぁ~」と、その場は阿鼻叫喚の地獄絵図となる。

 

 そして、テリオンはどこかに向って転移していった。

 

 その場には、大量の鬼神兵の残骸、この世の物とは思えない苦悶の表情を浮かべた兵士の人数分の生首、苦痛にあえぐ手足の無い議員、そして、死んだ魚のような目をして『・・・黒の・・・皇・・・』と呟く兵士だけが残されていた。

 

 

  ◆

 

 

 その後、MM議員の別働隊に発見され、手足を失くした議員の上司の独断でこれはテリオンが行った犯行であると発表され賞金額がもう1000万ドル上乗せされた。

 

 これによりマスターテリオンはMMよりの人間からは魔王、それ以外からは英雄と呼ばれるようになる。

 

 予断だが発表後に議員上層部と発表した議員が生き残った兵士の記憶を見ることになり、その場で胃の中の物をぶちまけ深いトラウマを植えつけたという。

 

 なお、発表した議員だが報復を恐れた上層部が社会的に抹殺したそうだ。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

獣、再会す

 ゲートで大暴れした後、先に旧世界に行っていたアスナとエセルに合流しエヴァの待つログハウスに帰って来た。

 

  ◆

 

「ただいま、エヴァ」「ただいま戻りました」

 

と、俺たちは何のためらいも無くリビングに入って行く。

 

 エヴァは驚いたのか目が点になってポケーとしていたがすぐに再起動して此方に飛びついてきた。俺はそれを優しく受け止める。

 

「・・・あぁ、久しぶりのアレイの匂いと感触だ・・・・・。予定より大分早いではないか?調査とやらは済んだのか?」

 

 俺も久しぶりのエヴァ感触を楽しみながら頬や頭を撫でてやる。

 

「ああ、終了した。後は(紅き翼と造物主の)経過待ちといった所だ。用事が無い限り前のように此処で暮らせる」

 

 それを聞いて凄く嬉しそうな笑みを見せてくれるエヴァ。

 

 さて、そろそろお土産を紹介するとしよう。

 

「エヴァ、お土産を紹介しようと思う・・・」

 

 抱きしめていたのを離し俺は後ろを向く。

 

「・・・紹介?・・・」と、エヴァが呟いているが気にせず後ろに隠していたアスナを抱き上げる。

 

「エヴァ、この子が土産のアスナだ・・・ほら、アスナも挨拶しろ・・・」

 

「・・・アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア・・・です・・・」

 

 エヴァは始め呆然としていたが途中から「・・あ・・・・ああた・・」と言葉が出てこないようだ。

 

「今日から此処で一緒に暮らすことになる。仲良くしてやってくれ」

 

 そう言いまたエヴァを撫で始める。そうすると落ち着いたのかエヴァがボソリと、

 

「・・・新しい女か・・・」

 

と、涙目で此方を見てくる。

 

「・・・いや、そんな心算で連れて来た訳ではない。・・・・詳しい事は後で話す。今後どうなるかは分からないが今はその心算は無い」

 

「・・・そうか」

 

と、一応エヴァも納得したようだ。

 

 その後、ソファーでアスナを膝に乗せ抱きしめながらエヴァを横に座らせ、向こうで何があってどの様な事をしてきたか語った。

 

 一から十まで全て隠すことなく語って聞かせる。

 

 

  ◆

 

 

「なるほど、調査と言うのは魔法世界その物を調べていたのか。しかし、2000年以上も前の火星に人造異界を作り出すとは・・・・・・・造物主もすごい奴だな・・・・・・」

 

 エヴァは軽く呆れ顔をしていた。

 

「それだけでなく、戦争に介入するのも目的ではあったんだが。・・・・・昔、世界樹の地下に遺跡があると言った事を覚えているか」

 

「うん?・・・確かMMにこの土地を貸すときに言っていたな・・・それがどうかしたのか?」

 

と、可愛く小首をかしげているエヴァ。アスナが俺の手を弄りながらも一応自分も無関係ではないので真剣な様子で聞いている。

 

「多分だがあの遺跡を作ったのは造物主だ。そして、あれが地球と火星をつなぐ重要な命綱の様な役割をしているらしい。だから、MMは必死にこの土地を死守したかったのだろう」

 

「・・・・・なるほどな、自分達の立っている世界の命運が他人の手にある・・・・・ゾッとせん話だ」

 

 ニヤニヤと悪い笑みを浮かべるエヴァ。アスナもこの話には多少驚いたようだ。

 

「今後、何かあった場合は『遺跡を破壊しつくす』と言う魔法の言葉で全て通りそうだな」

 

と、俺が真顔で言うとエヴァとアスナが驚愕の表情でこちらを見ていた。

 

  ◆

 

「それにしても戦争で英雄とは大暴れだな。・・・・しかも、ファンクラブなんぞ作りおって」

 

 何が気に入らないのか膨れて拗ねたようにエヴァが言う。

 

「ファンクラブについては俺は直接は関与してないから分からん、エセルに聞いてくれ。・・・まぁ確かに大暴れしたな。戦争の英雄なぞ唯の大量殺人者と言うだけだからな、今更俺の呼び名が替わろうと本質は変わらん」

 

 そんな感じに戦闘の内容などの話をしだしたら不意にアスナが何か聞きたげにこちらを見上げてきた。

 

「どうした、アスナ?」

 

「わたしは・・なにもの・・・英雄・兵器・大量殺人者・化け物??」

 

と、感情が無い声色で訊いて来る。

 

「全部ではないのか?」

 

 俺が間髪入れずに答えるとアスナは珍しく目を丸くしていた。エヴァは苦笑している。

 

「全部?」

 

「オスティアを守護していた英雄であり、防衛兵器とも言える、ゆえに大量殺人者なのも確かだ。まあ、化け物かと言われれば・・・・・・どうだろうな、俺たちに比べれば魔力完全無効果能力者なぞ可愛い物だが。・・・・・アスナが何ものかは。・・・そうだな強いて言うならアスナが名乗りたい者だろうな」

 

 それを聞いたアスナは俺の膝の上で対面する様に座り直し俺の服をギュッと掴んで俺を見上げてくる。俺はそんなアスナを撫でてやる。

 

「名乗りたい者・・・・アレイとエヴァンジェリンは何者?」

 

「ふむ、・・・・・魔術師・黒き魔術の皇・外法の担い手・魔術の真理を求道する者・元半邪神・現半旧神・マスターテリオン・(教育上省くがロリコン)・・・・この全部が俺、アレイ・クロウと名乗る男が生きて来て得た物を表した一部だろうな」

 

 俺がそう言うと、次は私だという感じにエヴァが胸を張る。

 

「アスナ、私はエヴァと呼んでくれて構わん。それで自分が何者か、か・・・・魔法使い・闇の福音・闇魔法の担い手・魔法の真理を求道する者・神祖の吸血鬼・アンチクロス・(同上、アレイの所有物)こんな所か」

 

 アスナは困惑したようで、

 

「アレイは英雄じゃあないの?」

 

と、聞いてくる。

 

「あれは、魔法世界の有象無象が勝手に呼んでるだけで俺自身は一度たりとも認めていない」

 

「呼ばれているだけ・・・じゃあ私は・・・・」

 

と、うつむきながら呟いた。

 

 おそらく自分には何も無いと感じたのだろう。それは仕方の無い事だ。今まで道具のように扱われてきたのだから。

 

 先ほど、俺とエヴァが名乗ったのは長い年月を生きて自分で自身を表現した二つ名でしかない。俺は俺、エヴァはエヴァ、それが本質だ。

 

 だがアスナは100年生きて来てはいるが、人生経験で言えば5歳以下のはず。それなのに思考能力は大人とそう変わらない。

 

 だからこそ、不安なのだろう。だがこればかりは時間でしか解決できないだろう。だが人格の骨子となる物は与えられる。

 

「・・・・まぁアスナは暫らく真っ当な生活をして考える事だ。暫らくすれば何かしら分かる事だろう。取り敢えず今は唯のアスナと言った所か」

 

「唯のアスナ・・・アスナ」

 

と、かみ締めるように名前を繰り返すアスナ。

 

 暫らくしたら自分で自我を組み上げて行くだろう。そうしたら自分が如何したいか決められる様になる。

 

 暫らく時間が掛かるだろうが、まだまだ時間はある。

 

 今は1983年、原作まで約20年だが最早原作知識は有って無い様な物で、今後どうなるか分からないが俺は俺で楽しむとしよう。

 

 取り敢えずはアスナの健康診断と最低一人でも生きて行けるくらいには鍛えてやらないと。

 

 そう考えていたら、厨房に居たエセルが料理を運んで来たので久しぶりに大人数で食卓を囲んだ。

 

 

 

 ◆これよりまた、原作までダイジェストでお送りします◆

 

 

 

<アスナ超スーパー育成計画 その1>

 

 

 

 旧世界に俺たちが帰還してから数日たって、アスナの健康診断をかねた身体検査を行った。

 

 そこで判明した事は、アスナの成長を阻害して肉体年齢を止める呪いが掛けられていた事と実年齢が100歳を超える事。

 

 実年齢は置いとくとして、呪いの方は一定期間が経ったら重ね掛けしなければいけないタイプらしく暫らくしたら解けることが分かった。

 

 成長を開始するのが何時かは分からないが無理をする必要も無いので自然に解けるのを待つ事にする。

 

 それらの事と同時に、今後否が応にも魔法(裏社会)に係わる事が予想される事もアスナにきちんと伝えられた。

 

 これらを踏まえ今後どうするかアスナに考えらせるが、これまで人に利用され続けてきたアスナが直ぐに自身の意思で答えられるとは俺も思っていない。

 

 なので大まかな選択肢を用意した。

 

 それは魔法に『積極的に係わるか・極力係わらないか』

 

 係わるのなら、戦う力を・・・・・係わらないのなら、逃げる力を・・・・・主に鍛えてやる事にしていた。

 

 アスナの生い立ちを考えれば将来どの様になったとしても力は必要だ。

 

 そう考えていたのだが、暫し考えてアスナは選択肢を選ばずに、

 

 「ねぇ、アレイたちとずっといるならどうすればいいの?」

 

 と、訊ねて来た。

 

 俺としては、自分の意思できちんと決められるようになってから、俺たちの下に居るか、去るかを決めさせる心算でいた。

 

 これからのアスナの人生を無理に捻じ曲げる心算は無い。

 

 俺の手元を離れたとしても最悪監視して造物主たちの手元にさえ行かなければ、アスナの選択に干渉する気はなかったのだが、今現在のアスナはここにずっと居たいらしい。

 

 「ふむ、ずっとか・・・・・・昔、エヴァにも言った事があるが身体も心も魂さえも鍛え上げる必要がある。アスナならそれこそ人をやめるくらいにな」

 

 アスナはかなり特殊な身体をしている。それこそ、人外に片足を踏み込んでいるぐらいだ。その気にさえ成ればエヴァと同じ寿命になることも可能だろう。

 

 地獄のような修行を行えば・・・だが・・・・・・

 

 今すぐに選択しなければいけない訳でもないので取り敢えず保留にしておく事にする。

 

 アスナがもうすこし大人になった時にでも訊いてみる事にしよう。

 

 アスナはそんな事を考えている俺を数日前よりも生気が宿る目で、

 

 「きたえてほしい」と、しっかり言ってくる。

 

 なので、まずは予定通り一人で生きて行ける程度に鍛える事にした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 3

 <アスナ超スーパー育成計画 その2>

 

 

(その1)魔力完全無効果能力の制御

 

 Lesson1 魔法を消さないようにしよう

 

 アスナと魔力で出来た玉でキャッチボールをする。

 

 始めは受け止めた瞬間消えたが、害が無いと分かると消えなくなった。

 

 今現在の制御は無意識らしい。

 

 Lesson2 任意で魔法を消そう

 

 先ほどのキャッチボール中にアトランダムにエヴァが軽い衝撃がくる魔法球をぶつける。

 

 これも何故かすぐさまクリアしてしまった。

 

 簡単な制御は出来るようになったらしい。

 

 

(その2)氣・魔力の活用法

 

 アスナは能力がある為、魔法が使えないことが判明した。

 

 ただ氣・魔力の量は中々に多いらしくこれを最も活用しやすい方法として究極技法『咸卦法』を習得する予定となった。

 

 この咸卦法、発動すると肉体強化・加速・物理防御・魔法防御・鼓舞・耐熱・耐寒・耐毒等の作用があるらしく、これだけでかなり強くなれるそうだ。

 

 ただエヴァ曰く、普通、数年厳しい修行をしてものにするものらしく、究極技法の名に恥じない難易度らしい。

 

 更にこの技法を習得したとしても更に厳しい修行が待ってるとか。

 

 ・・・・・・取り敢えず、常人なら才能が無い限り手を出さない技法らしい。

 

 それで使える人間(ガトウ)がいないので口頭で伝えて取り敢えずやらせてみたのだが何故かアスナは出来てしまった。

 

 魔力完全無効果能力の制御の時もそうだったが、アスナは所謂、天才という奴らしい。

 

 それを見たエヴァが「お前も理不尽の部類か・・・・」という目で見ていたが気にせず先に進む事にする。

 

 

 3)体術、剣術

 

 咸卦法を使うアスナは、近接戦闘が主眼となる。

 

 現在のアスナは五歳児と変らない身体だ。

 

 そうすると得物は有った方がいいだろうという事になり、普通の木刀を持たせて剣術の基礎を教える。

 

 後は何時の通り、習うより慣れろという事でナイトゴーントのゴン君にお出まししてもらう。

 

  ◆

 

「という事で、アスナにはこれと戦ってもらう」

 

 俺がゴン君を出して指差すとそれを見たアスナはハイライトの消えた目、所謂、レイプ目でフルフルと首を横に振っている。

 

「といっても出した以上、問答無用で襲い掛かるがな」

 

 それを聞いた瞬間、「イヤァーーー」とアスナが悲鳴を上げながら逃げって行った。

 

 ゴン君はそれと同速で追いかけていく。

 

 この頃のアスナは感情が豊かになってきたな。

 

と、考えていたら横に立っていたエヴァが、

 

「・・・・・今日はアスナの好きな料理でも作ってやるか・・・」

 

と、昔を思い出したのか、哀愁を漂わせながら呟いていた。

 

 

 

 

 

 <アスナの日常>

 

 

 

 私、アスナの日常は、ここに来て約二年間毎朝行っているアレイを起こす事から始まる。

 

「アレイ・・・・起きて・・・・朝だよ」

 

 アレイの上に跨りながらアレイを揺さぶる。

 

 こうすると横で揺さぶるよりも長時間アレイに構ってもらえる。気付けた私・・・・ナイス。

 

「・・・アスナ、おはよう」

 

 アレイの寝起きは異常なほどいい。本当は起きていたのではないかと疑いたくなるくらい。

 

 起きたアレイは私の頭を撫でて抱き上げてくれる。

 

 暖かさと安心感、この後の事を考えると束の間の至福ね。

 

 何時もの事なのだが、ふにゃっと私がとろけているといつの間にかアレイの服が変っているのよね。不思議、多分魔法なんだろうけど。

 

 アレイは私を抱きかかえたまま近くに立て掛けておいた木刀を持ち庭に出て行く。早朝訓練の為である。

 

 この訓練、エセルかエヴァが朝食に呼びに来るか、私がゴン君に勝たない限り続けられる事になっている。

 

 ゴン君に勝てるとアレイが優しく微笑んでくれるから勝ちたいのだが、悔しい事に中々勝たせてもらえない。

 

 前にエセルとエヴァに相談したら、ゴン君は私と同スペックに調整されているから力技では絶対に勝てないと言われた。

 

 なのでそれからは咸卦の気の密度と効率化、剣術と体術に力を入れている。

 

 訓練が終われば朝食だ。エセルかエヴァが作ってくれるがどちらもプロ級。

 

 ちなみに昼と晩は私がエセルかエヴァに習いつつ作る事になっている。

 

 まだまだ二人の腕には追いつけてないがアレイは美味しいと言ってくれる。とっても嬉しい。もっと頑張らなくては。

 

 基本的に家事は私たち三人で行っている。

 

 アレイも一度しようとしたみたいだけどアレイ至上主義のエセルが尽く代わりにやったそうだ。

 

 私の仕事にはもう一つ、招かれざる客の相手がある。『偉大な魔法使い(笑)』とか賞金稼ぎの事だ。

 

 ムカつく事にアレイを魔王呼ばわりして殺しにやって来る。

 

 基本的にはボコボコにして追い帰すが、一応殺しても構わないとは言われている。

 

 私もアレイや私を殺そうとする相手の命を助けてやる程お人好しではないけど上手く手加減できたらアレイが褒めてくれるのよね。

 

 だから、基本ボコすだけで止めている。

 

 アレイが前に言ってたが魔法世界と違いこっちでは殺人は面倒な事になるらしい。それに力の制御訓練にもなっていいとか言っていた。

 

 ちなみに顔がばれると拙いから認識阻害の魔法を掛けたアレイのお下がりの仮面を貰った。今では宝物の一つになっている。

 

 仕事が無いときはアレイ達のうち、手の空いている人が色々教えてくれたり構ってくれる。

 

 家事や旧世界と魔法世界の一般常識、勉学、魔法、剣術、体術、雑学、遊びなどほんとに色々だ。

 

 夜は皆思い思いに過ごしているが、大体はアレイが居ればそのそばに全員居るし、アレイが部屋に戻れば皆戻るという感じね。

 

 ちなみに寝る時は、エセル、エヴァ、私の順でアレイと一緒に寝ている。

 

 私以外がアレイと寝ると次の日、機嫌がすこぶるいい上になんかツヤツヤしているのよね。

 

 二人に理由を訊いても苦笑してそのうち分かるとだけしか教えてくれなし。

 

 仕方ないからアレイに訊いてみたら、「呪いが解けて2,3年したら知識として教えてやろう」と、言われた。

 

 教えてくれる気が無いんじゃなくてまだ私には早いらしい。

 

 アレイがそう言うなら仕方ない・・。

 

 ・・・・仕方ないから「ぶぅ~」と頬を膨らませて私不満です。と、いうポーズを取りつつアレイに甘える。

 

 こんな感じに今の私の日常は充実している。

 

 

 

 

<アスナ無双>

 

 

 1985年 魔法世界 ケルベラス渓谷上空

 

 

 今、アスナと魔法世界に来ている。

 

  ◆

 

 あの大戦の後、色々とあってどう言う訳かアリカ女王が全責任を取らされ投獄、処刑されるようだ。

 

 使い魔の情報では裏でMM元老院が動いているらしいが、アリカ女王と親しい訳でも一応の友人である紅き翼の連中に頼まれた訳でもなし、何よりナギの事だ、タイミングを見て助けるだろうと考え放置していた。

 

 この2年間、その事を思い出すことは無かったが先日久しぶりにナギから「姫さんの救出の手伝い頼めねーか?」と連絡が来た。

 

 戦力的にお前等だけで問題ないだろ、と聞いてみたのだが救出後に旧世界に逃げる予定で、それならブラックロッジトップの俺に話しを通しておいた方がいいとアルに言われたらしい。

 

 ナギ自身は遊びに来ねーか。って、くらい軽く訊いて来たが・・・。

 

 ・・・政治的にはかなり問題のような。まぁ、アスナが対集団戦の経験を積むいい機会か。

 

  ◆

 

 そんな感じのやり取りがあって今俺たちは此処に来ている。

 

「ねぇ、アレイ。あの人がアリカって人?」

 

と、俺の腕の中で髪を下ろして仮面を着け、俺とおそろいの黒いローブ纏っているアスナが訊いて来る。

 

「ああ、そうだ。あれがアリカだ」

 

 谷に突き出した足場の上を歩かされている女を指してそう答えながら、この後の計画の流れを思い返す。

 

 ケルベラス渓谷という場所は特殊で、その谷底では魔法や気が作用しない。更に凶悪な魔物が巣くっている。

 

 そこに上から落すというのが今回の処刑方法だ。

 

 予定としてはナギが落ちてきたアリカを受け止め谷底から脱出、その間に周りに居る有象無象(軍隊)を排除、その後ラカン以外全員で旧世界に逃げると言うのが今回の計画だ。

  

 そんな事を考えていたらアリカが飛び降り、ラカンたちが現れ周りがどよめいていた。

 

「アスナ、そろそろ俺たちも出るぞ。準備して置け」

 

「は~~い」

 

と、いう元気な答えを聞きながらラカン達の近くに転移する。

 

  ◆

 

「ぐ・・捕らえよ反逆者だ!!谷底の二人も逃がすな!!」

 

と、偉そうな魔法使いが叫んでいる。

 

「おおっとやるのか?良いのかよその程度の戦力で」

 

 などとラカンが挑発しているが・・・・・

 

「・・・・ふむ、確かにこの程度、俺が来るまでもなかったな」

 

「そーだよ!私だけでもだいじょぶよ。きっと!」

 

 俺の呟きにアスナが元気に返してくる。

 

「なっ貴様は!く、黒の皇!マスターテリオン!!貴様まで出て来ただと!!」

 

「クク・・安心するといい。今回、俺は高みの見物をさせてもらう。・・・戦うのはこの子だけだ」

 

 俺はそう言いながらニヤリとしてアスナを降ろし、頭を撫でる。

 

「くぅ~・・・舐めおって!・・・そんな幼子が我らの艦隊と精鋭部隊相手に何が出来るというのだ!」

 

 それを聞いたアスナが「ぶぅ~」と頬を膨れさせて「あんな雑魚には負けないもん」と言っている。

 

 ラカン達は何か言いたそうに此方を見ているが無視して、

 

「舐めているのは貴様らだろう。この程度の戦力などこの子だけでも殲滅出来るよ」

 

と、言いアスナの頭を頑張れよとポンポンとした後、俺は上空に戻った。

 

  ◆

 

 アスナが囲んでいた兵士に向って駆け出し木刀を振るたびに数十人が冗談の様にポンポン空を飛んでいく。

 

 そんな異様な様子を見て固まっている兵士にアスナが容赦なく襲い掛かる。

 

 五歳児が軍隊を圧倒している。・・・何ともシュールな光景だ。

 

 頭の中で、「そなたこそ、真の魔法世界無双だ!!」とナレーションが聞こえてきそうだ。

 

 それにしても高々2年でここまで強くなるとは、・・・エヴァも言っていたがアスナも色々と規格外のようで・・・。

 

 ・・・・・・正直危なくなれば手を出す気で居たがこれなら大丈夫だろう。

 

  ◆

 

 その後、粗方殲滅し終わりナギ達と合流したがアスナが戦闘していたと知られ詠春とガトウにお説教されアリカにキレられた。

 

 更に俺を庇うアスナが加わり収拾が付かなくなりながらも俺たちは旧世界に向けて歩き出した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 4

 <親バカ詠春>

 

 

「お久しぶりです。クロウ、エセル、エヴァ・・・・木乃香(このか)の出産以来になりますか」

 

 詠春が懐かしそうに言って来るが顔を会わせるのは本当に久しぶりだ。

 

 これまで色々な事件(ナギ結婚式崩壊事件、第一次アスナ養育権争奪戦争、関西呪術協会神覚醒事件、第二次アスナ養育権争奪戦争、木乃美(このみ)出産時呪術合戦)にあの馬鹿供(紅き翼)は俺を尽く巻き込んできた。

 

 今回の件も似たようなものなのだろう。と、詠春の奥さん(木乃美)が入れたお茶を飲みつつ考えていた。

 

「それで近衛詠春、話とはなんだ。まさか、旧交を温めるだけで私たちを呼び出した訳ではあるまい」

 

と、エヴァがお茶を啜り苛立たしげに訊いている。折角京都に来ているのに観光に行けずにいるからかなり不機嫌そうだ。

 

「ええ、クロウに相談と言うか・・・頼みがありまして・・・・」

 

 詠春はそこまで言って決意を込めた目で此方を見てくる。

 

「・・・木乃香の事です。お気づきと思いますが何の因果かあの馬鹿(ナギ)以上の魔力を宿してしまって・・・・」

 

「・・・・・ああ、来るときに会ったからな。ついでにアスナを置いて来た。・・・・だが、まるで悪い事のように言っているがお前の娘だ。魔力は多いに越した事はないだろう」

 

 あの大戦に参加しているのだ。詠春も色々と恨み、つらみを抱えているそんな奴の娘だ自衛の戦力は多い方がいい。

 

「・・いえ、できれば裏には係わらせたくないのです」

 

 それを聞いて俺たちは呆然とした。

 

 近衛詠春、魔法使いとの確執が深い関西呪術協会の長に戦後処理を円滑に進めるため、大戦の英雄、更にブラックロッジのトップと顔見知りという事でこの前就任した男だ。

 

 剣士に政(まつりごと)のトップを任せるのはどうかとも思うが奥さんがかなりのやり手だったらしく今の所大きな問題は起きていない。

 

 まぁその所為で出産時に呪いや呪術が飛び交ったが、・・・・・・今は関係ない。

 

 そんな夫婦の娘だ・・・。大戦の復讐の標的、政治の道具、魔力タンクにと狙われる理由に事欠かなさそうな子に裏に係わらせたくないとは・・・・・・。

 

「無理だな」「ハッ、不可能だ」「アホですね」

 

と、俺、エヴァ、エセルが容赦なく否定されガックリうな垂れる詠春。

 

 木乃香が産まれてから、「うちの子がハイハイした!!」とか「私をパパと言ってくれた!!」などと事ある事に連絡してきた奴だ。・・・・・・親バカなのは知っていたが此処までとは・・・・

 

と、考えていたら、うな垂れていた詠春が行き成り顔を上げ「このかーー!」と取り乱して叫びだした。

 

 どうせ、いらん想像をしたのだろう。

 

 エヴァが「ええい!落ち着かんか!!」と、かなり容赦の無い掌底を決め、「もんぶらっ!!」と、叫びつつ詠春が障子と庭を突き破り遠くでバキバキと生木が折れる音がするが・・・・・・問題ないだろう・・・・・多分・・・。

 

   ◆

 

「すみません。少々取り乱しました」

 

と、血をダクダク流しながらも平気そうな詠春が頭を下げてくる。

 

「それで頼みというのがその事ならさっき言った通り無理だ」と、苦笑しながら言う俺。

 

「いえ、嫁とも話して無理なのは分かっていた事なのですが、クロウならいい案が無いかと相談しただけです。まさかこんなボロボロになるとは思いもしませんでしたが・・・」

 

と、やはり苦笑しながら言う詠春。

 

それに対して「取り乱すお前が悪い」とニヤニヤしながらエヴァが言い切る。

 

「それで頼み(依頼)とはなんだ。内容にもよるが友人価格で請け負ってやろう」

 

「いえ、依頼の形にされると拙いのですが・・・木乃香をブラックロッジに捧げようかと・・・」

 

 詠春も苦渋の決断なのか苦い表情だ。だが、それを聞いたエヴァたちは感心したようだ。

 

 まぁ、ブラックロッジに帰属したらそれはそれで大変だが確実に外敵は減るだろう。

 

特に旧世界の人間なら手を出してこない。

 

 しかも俺の身内という事になる。関西呪術協会の人間も俺たちに取り入ろうと、木乃香の支援に回るだろう。

 

 実際よほど俺たちが怖いのか、麻帆良に攻めてくる関西呪術協会の人間から必ず事前に『ブラックロッジに敵対する心算はありません』という感じの書状が届く。

 

 一度も学園長の近衛近右衛門に教えた事はないが・・・・・・

 

 この策を考えたのは、木乃美だろうが娘の安全の為とはいえ、その意思を無視するというのは・・・・・・

 

「・・・ふむ・・・断る」

 

 エヴァも賛成なのかうんうんと頷きつつ「これ以上簡単に(ハーレム)要員を増やすわけにはいかんからな」と呟いていた。

 

 俺の答えを聞いて愕然としていた詠春の目元が翳ったと思ったら「・・・フフフ・・・うちの娘を愚弄する奴は・・・・・・斬る!!」と目の色を反転させ何処からか出した黒い妖刀で斬りかかって来た。

 

 俺はその妖刀を指で白刃取りし、詠春には頭が弾け跳ばない程度の力加減のデコピンをかます。

 

 詠春は「~~~~っ!!!」と声にならない悲鳴を上げながら俺の前でのた打ち回っていた。

 

   ◆

 

 暫らくして回復したのか額を押さえながら「うちの木乃香の何処が不満なんだ」と詰め寄ってくる。

 

 俺は詠春が回復する間に俺を乗っ取ろうとしていた生意気な妖刀を砕けるか砕けないかのギリギリの力加減で刃を握り締めながら、

 

「木乃香自体に不満は無い。魔力も多い上、利用価値も多々ある。木乃香自身が俺に身を捧げると言えば俺も一考しただろう。だが今回は木乃香の意思が介在していない。いくら親だからと言っても俺はそういうのは気に食わんのでな・・・・」

 

「・・・そうですか。クロウがそう言うのなら仕方が無いですね。・・・・・・ですが、小学生に上がる時に木乃香を麻帆良にやろうと思っているので、出来ればクロウの所に居候させてくれませんか?」

 

 詠春がそう言って来る。要するに俺が受けようが断ろうが俺たちに近くに寄越して安全を図る心算だったらしい。

 

 しかもアスナと友人になっているだろうから何かあったらアスナも手を出すだろう。

 

 確かに此処で育つよりは安全で関西呪術協会の人間も手出しできないが・・・・・・

 

 もしここまで考えていたのなら中々の策士だ。

 

「構わないが居候したら一週間待たずに魔法がばれるぞ」

 

「もう魔法の事は諦めていますよ。それに魔法をばらしたのならクロウの事だ。木乃香が望めば魔法を教えてくれるでしょう」

 

 などと笑いながら言ってくる。確かに望めば教えるだろう・・・。

 

「それと下手をすると関東魔法協会に取り込まれるだろう」

 

「流石のお義父さんも本人の確認も無しに孫にそんな事はしないかと・・・・それに、麻帆良は世界樹の認識阻害結界と学園結界の二重結界でかなりの防衛力と魔法隠蔽力があるとか・・・・・・」

 

 似たような事をしようとしていた奴がよく言う・・・・・・

 

 麻帆良の地は俺が手を加えているのだ。全ての能力を開放したら防衛力と魔法隠蔽力だけで無く、全てに置いて他を圧倒しているだろう。

 

 この後アスナと木乃香が乱入してきて話が有耶無耶になったがアスナに居候の件を知られ俺達の所に来る事が決まった。

 

 予断だがエヴァの提案で一ヶ月ほど此処に滞在して京都観光をしていたが、その間に木乃香に懐かれ「うち、将来アレイと結婚するぅ」発言で詠春がキレて、死闘を行う破目になった。

 

 流石は親バカ、現役時代より確実に強かった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 <正義のラスボス、真のラスボスに出会う>

 

 

 2001年 1月 麻帆良学園 某所

 

 私、超鈴音(チャオ・リンシェン)は約100年先の消滅した魔法世界からこの過去の世界に未来を変える為にやって来た未来人ヨ。

 

 四年後にあるはずの世界樹の魔力発散現象を利用して、世界に魔法を認識させる強制認識魔法を使う計画を立てているネ。

 

 この計画を遂行する為には人脈形成や根回し、そして、何よりも最凶にして最強の悪の魔法使いエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが手を出してこないように交渉しておかないといけないネ。

 

 学園最強と言われている近衛近右衛門や紅き翼のタカミチ・T・高畑ならまだ与し易いヨ。

 

 記録では普段、登校地獄と学園結界でほぼ無力化されて唯の10歳児と変らないらしいからそこが狙い目ネ。

 

 そこで私は協力者の葉加瀬聡美(はかせ さとみ)と共同で生活から戦闘までサポートしてくれる万能ロボ『絡繰茶々丸(からくり ちゃちゃまる)』のボディーを作り上げる事に成功したネ。

 

 これで予定通りエヴァンジェリンとの接点が出来るヨ。

 

 今日、私たちは記録にあったエヴァンジェリンのログハウスに来ているのだが・・・・・・記録より明らかに大きくないカ、このログハウス。

 

 私が過去に来た為のバタフライ効果(エフェクト)カ、はたまた、他の要因カ・・・・・・。

 

 ウーー、悩んでなんていれないネ。私には前に進むしか残されてないヨ!私は決意を新たにしてドアの横に付いているアンティークなベル鳴らすネ。

 

 「カラーン、カラーン」と耳に心地良く響き、暫らくするとパタパタと小走りな足音が近付いて来て「はーい、どちら様」と元気な声と共にドアが開かれた。

 

 出て来たのは、聖ペテロ十字をあしらった鈴の髪飾りで赤毛をツインテールにした活発そうな女の子ヨ。

 

 髪飾りが少々違うが記録映像で見た『神楽坂明日菜(かぐらざか あすな)』ネ。何故この時期に此処にいるカ・・・・・・・・・。

 

「―――ボソボソ(ベルを鳴らせたって事は普通のお客さんよね)―――。あのー、誰に用事なの?」

 

 私が呆然としていた所為で不信げに明日菜サンに見られてしまったネ。この先何があっても驚かないように気を取り直し、

 

「あーその相談に来た超鈴音と言うネ。『人形使い』のエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルはご在宅カ?」

 

と、言ったら明日菜さんの目が一瞬冷たくになったような気がしたが確認する前に家の中に振り返ってしまったヨ。

 

「エヴァー!あんたにお客よー!・・・えっとチャオさんだっけ、じゃあ付いて来て」

 

   ◆

 

 私たちは何処かの城のラウンジのような所に通されたネ。このログハウスの中はまさに異界の様だったヨ。

 

 外見と中身の広さが全然違うネ。しかも窓から見えてる景色が広大な草原・・・・・・此処は麻帆良じゃないのカ!?

 

「それで私に何のようだ。・・・・アスナは裏(魔法)の関係者だろうといっていたが」

 

 此処からが私の正念場ネ。

 

「改めまして、私は超鈴音(チャオ・リンシェン)こっちは協力者の葉加瀬聡美(はかせ さとみ)ネ。私達は持てる科学の全てで自動人形(ロボット)を作ったネ。その人形の動力の事で『人形遣い(ドール・マスター)』としてのエヴァンジェリンさんの知恵を借りたくて此処に来させてもらったネ」

 

「ほーう・・・私に頼み事をするという事がどういう事か分かっているのか?」

 

 エヴァンジェリンさんがニヤニヤしながら聞いてくるが計算の内ヨ。

 

「分かっているヨ。私たちの全てと言っていい、生活から戦闘までサポートしてくれる万能ロボ『絡繰茶々丸(からくり ちゃちゃまる)』を捧げるネ」

 

 どうネ!登校地獄と学園結界で苦しんでいるエヴァンジェリンは喉から手が出るほど何でも言う事を聞く従者が欲しいはずネ!

 

「・・・私たちの全てか・・・正直、人手は腐るほどあるが話位は聞いてやる」

 

 あれ・・・なんか予想していた反応と違うネ。でも、話を聞いてくれるならまだ脈があるヨ。

 

そう思いながらチャオは茶々丸の仕様書をエヴァンジェリンに渡しプレゼンしだす。

 

   ◆

 

「・・・なるほど、魔力を動力とした機械の身体・・・魔法科学か。―――ボソボソ(アレイ以外にこんな事を考える奴がいるとはな)―――」

 

 エヴァンジェリンは感心した様に仕様書を流し見していたネ。いい感じヨ。

 

「そうネ。私たちは魔法に関しては門外漢ネ。それでエヴァンジェリンさんが持っている魔法の知識を貸してほしいネ」

 

「中々に面白そうな試みじゃないか。いい暇潰しになりそうでもある・・・だが助言を受けるなら私よりもアレイの方が良いだろうな・・・一応聞いてみるか・・・」

 

 アレイとは誰ネ!?・・・エヴァンジェリンがなんか仮契約カードで連絡してるがその相手カ?記録ではエヴァンジェリンは人間相手には誰とも契約してなかったはずネ。ほんと、どうなってるカ!

 

「・・・・・・アレイも興味が出たようだ。よかったな。上手くすればありえん様な物が見れるかも知れんぞ・・・」

 

 エヴァンジェリンが私を見てニマニマしてるガ・・・どういう意味ネ・・・嫌な予感しかしないヨ。

 

  ◆

 

 私の前でアレイ・クロウとエセルドレーダと神楽坂明日菜と紹介された人物たちが茶々丸の仕様書読み終わり、アレイと呼ばれた人物が私たちを見てくるネ。

 

 でも、なんネ、この人の瞳は。金色なのに一切の光が宿ってないネ。まるで底なしの穴を覗き込んでいるみたいヨ。

 

「・・・さて・・・チャオ・リンシェンだったな。・・・貴様、何者だ・・・?」

 

 私はアレイにそう訊かれた瞬間、魂まで凍りついたかと思ったネ。背中の冷や汗が止まらないヨ。

 

「・・・・・な、何者とはどういう事ヨ。私は唯の科学と発明が好きな美少女ネ」

 

 私が冗談混じりに答えたら部屋の重力が一気に倍になったように空気が重くなったヨ。

 

「・・ほう・・現行の科学力を軽く凌駕しておいて、唯の科学と発明が好きな美少女・・・か・・・」

 

 アレイはニヤリと、さも面白いと言わんばかりにプレッシャーを掛ける。

 

 チャオは顔を青くしてガクガク震えながらも、

 

「・・・そ、そうネ。唯の美少女ヨ。それ以外の何に見えるネ」

 

 チャオは気丈にそう答える。ちなみにハカセは早々に気絶していた・・・・・・

 

「・・・・この威圧で気絶しない時点でまともな部類ではあるまい・・・もう、一度だけ訊いてやる・・・貴様は何者だ?」

 

「・・・・・・ちなみに正直に答えないと私どうなるネ?・・・・」

 

「ふむ・・・そうだな、無理やり脳髄から記憶を引きずり出す。確実に気が狂うが構うまい・・・・・・」

 

 アレイとエヴァはニヤニヤと、アスナは哀れな小動物を見るような目でチャオを見ている。

 

「は、話すヨ!全部話すからそれは勘弁して欲しいネ!!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 5

スイマセン。

PCが故障して修復に時間がかかりました。

また更新していく心算なので温かい眼で見ていただけるとありがたいです。


 <チャオ・ドキュメント>

 

 

 チャオが言うには未来の魔法世界(火星)から来た未来人で、未来の魔法世界が崩壊してしまいそれを変えたくて過去の世界に来たそうだ。

 

 崩壊した理由は何でもナギの息子が係わっているそうだ。しかも、何故かエヴァ、アスナ、木乃香まで関係が有るとか・・・

 

 その辺は一先ず置いておいて、約2年後にナギの息子(10歳)が教師としてやって来るらしい。

 

 しかも何故か明日菜と木乃香の部屋で面倒をみて、何故かエヴァに勝ったらしいのにエヴァに弟子入り、クラスほぼ全員と仮契約していたとか・・・・・・

 

 所謂、原作通りという奴だ・・・by作者

 

 その話を聞い終えたエヴァとアスナがキレた。

 

アスナに至ってはチャオの胸元を持ってブンブン振り回している。エヴァはエヴァで真っ黒になってチャオを睨みつけている。

 

「・・・なんで私がそんなマセガキの面倒なんてみなくちゃいけないのよー!!」「・・ハハハ・・私が10歳の小僧に負けた・・・・・・」

 

「私に言われても分からないネ!と言うか降ろして欲しいネ!吐くネ!このままだと吐いてしまうヨ!!」

 

 それを聞いてか聞いてないか分からないが、アスナがチャオを投げ捨て俺に駆け寄ってきた。

 

「し、信じたら駄目だからね!わ、私、絶対キ、キ、キス(仮契約)なんてしないからね!!」

 

 叫ぶアスナと真っ黒なエヴァ、部屋の隅で痙攣しているチャオとエヴァの殺気に当てられて泡を吹いているハカセ・・・・・・混沌とした状況になってきた。

 

「・・落ち着けアスナ。エヴァも別の世界、別の時間軸の話だ・・・・・・」

 

 そう言いながら二人を撫でて宥(なだ)め、二人はもっと撫でろと身体を摺り寄せてくる。

 

これでチャオとハカセが回復したら落ち着くだろう・・・・・・

 

  ◆

 

 全員が落ち着いた所でチャオから当然の疑問が出て来た。

 

「・・・私の事はこれで全部ネ。それでアレイサンこそ何者ネ。未来の記録には影も形も存在しなかったヨ」

 

 それはそうだろう俺はこの世界の外から来た存在なのだから、しかもこの世界を軸にした平行世界には俺は存在しない。ちなみにエヴァとアスナには話してある。

 

「・・・俺がそれを言うと思うのか・・・・・・」

 

「言わないだろうネ・・・茶々丸と私の計画、貴方たちはどうするネ」

 

「自動人形の件は手を貸してやろう。計画は・・・・・・その時になってみないとわからないな」

 

 俺はニヤリとしながら答えてやる

 

「一番困る事をさらりと言うネ。・・・・・・茶々丸の事は素直に礼をいうヨ」

 

 その後、茶々丸が完成し我が家にやって来る事になる。

 

  ◆

 

 後日、帰郷していた木乃香が帰ってきてアスナからナギの息子の(悪意に)偏った情報が流れ、特大の玄翁(げんのう)と釘バットを装備した木乃香とアスナが学園長室を襲撃。

 

 このログハウスから登校する事を勝ち取ってきたそうだ・・・・・・

 

 その後、学園長室で頭に玄翁とバットをのせ、血の海に沈んでいたぬらりひょんが発見されたらしい・・・・・・

 

 

 

 

 

 <獣、学園長に頼まれ事をされる>

 

 

「それで近右衛門、俺まで呼んで何の話だ」

 

 俺とエヴァは今学園長室に来ている。エヴァだけなら囲碁か将棋だろうが俺とエヴァが一緒にと言うのは始めてだ・・・・・・

 

「すみませんの、アレイ殿にご足労願ってしまって」

 

 本当に済まなそうに謝ってくる学園長。

 

「構わんよ。立場的に俺達の所には来る事が出来んだろう。それに歩いて来る以外方法が無い」

 

 あのログハウス、登録者以外が魔力を使った方法で近付いたら問答無用で捕縛されるか排除される。しかも車が入れる様な所でもない。唯の老人には厳しい立地条件だ・・・・

 

 それに学園長が俺と懇意にしていると分かれば騒ぎ出す馬鹿も出てくる。

 

「そう言って頂けると助かりますの。・・・此処に来て頂いたのはナギの息子の事についてです」

 

 そう言えばチャオも似たような事を言っていたな・・・

 

「一年後にメルディアナ魔法学校、首席卒業予定、その半年後、此処に教師としてとあるクラスの担任もしくは副担任として赴任させろと本国から通達が来ております」

 

「まるで、何かの人工飼育のスケジュールの様ではないか・・・」

 

と、エヴァが呆れ顔で言っているが多分その通りなのだろう。

 

「その通りじゃ、エヴァ。嘆かわしい事に全て本国の指示じゃ・・・本国は思い通りに動く英雄が欲しいのじゃろうて・・・・・・」

 

「だが私たちには一切関係ないことだ。ナギ本人ならともかく、その息子には何の義理も無い」

 

と、フンッとばかりにエヴァが言い切る。確かにナギの息子がどうしようと俺とエヴァには関係ない・・・そう俺とエヴァには・・・

 

「エヴァならそう言うと思うとったよ。じゃが、その子がアスナちゃんとウチの木乃香のクラスを受け持つ事になると言ったらどうじゃ・・・」

 

「・・・どういう心算だ。じじぃ・・・・・・」

 

 エヴァの殺気が部屋に充満する・・・

 

 エヴァは身内には何だかんだでかなり甘い。特に木乃香はこの約6年、自身が持つ技術や知識を惜しげもなく注いで育てていた。

 

 何か有れば学園都市を更地にする勢いでキレるだろう。

 

「・・・なるほど、未来の英雄のパートナー候補か・・・・・・」

 

 エヴァはそれを聞き殺気が高まる。学園長は沈痛な面持ちで語りだす。

 

「その通りです。アレイ殿・・・・魔法資質もしくは才能が高い娘が一つのクラスに集められナギの息子が受け持つ事になっております。この選出はワシだけでなく本国の息のかかった者も行い本国に集計され選出されたそうです」

 

 中間管理職の学園長の辛い所だ。腹黒くて見た目ぬらりひょんだが一応教育者だ。無関係の一般人を巻き込むのは心苦しいのだろう。

 

 学園内ならかなりの強権を振るう事が出来るだろうが本国からの命令には従わないとならない。

 

 しかも近右衛門が従わなければもっと本国寄りの人間に学園長を任せるだろう。

 

「それで俺たちに何をさせたいのだ。近右衛門」

 

 どうせ自分も俺たちも納得の策があるのだろう。と近右衛門を見る。エヴァも落ち着いたのか殺気が霧散していた。

 

「アレイ殿とエヴァには、自身の意思でそのクラスに介入して欲しいのです」

 

「・・・・なるほど・・・・本国の指示にしたがいつつも、ブラックロッジに最大限の譲歩をしたため止むを得なくクラスに異物を入れた・・・そう報告する心算か。しかもその後どうなろうと俺たちの責任になる。・・・・・・ナギの息子を切る心算か?」

 

 近右衛門は一般人を巻き込んで本国の思惑通りにナギの息子を教育したくない。

 

 だから、俺たちを介入させ本国の思惑を外す心算なのだ。更にあわよくば俺達が一般人を守る事を期待しているのだろう。

 

 エヴァは身内であるアスナと木乃香をナギの息子の食い物にされたくない。だからクラスに介入すればクラスの中から監視と警戒が出来る。

 

 俺はこの頃、常に暇潰しになる玩具を探しており、その他に比べ身内に少々甘い所がある。

 

要するにそのクラスで暇を潰していいと学園長は暗に言っているのだ。

 

 確かに無闇矢鱈と裏に引き入れる心算はないが・・・・・・それで良いのか、聖職者・・・

 

 それにもし俺達と敵対した場合ナギの息子だろうが殺す事になるだろう。

 

 エヴァも理解したのか呆れた顔で近右衛門を見ていた。

 

「ナギの息子はワシとタカミチ君で面倒を見るのでアレイ殿達には迷惑を掛けんとは思いますが、何かあった時はお手柔らかにお願いします」

 

 その後、細々とした話しをした後、エヴァは中一の初めからクラスに介入する事に俺は一月空けて5月辺りから副担任として歴史関連を担当する事になった。

 

  ◆

 

 ちなみに、始めて学校に行くエヴァはかなり楽しみらしく、この話し合いの次の日には学校に行く準備を茶々丸、アスナ、木乃香と開始していた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 6

 <おちる哲学少女>

 

 

 私、綾瀬夕映(あやせ ゆえ)は今落ちているです。ええ、落ちているのです、物理的に・・・・・・。

 

「いやぁぁぁぁーーーー」

 

  ◆

 

 私は先日、中学に上がり図書館探検部に所属したです。そこで私は親友と言っていい友達と出会ったのです。

 

 おじい様が亡くなってこの世界がどうでも良く、くだらないと感じていた私にこの世界はくだらなくないと教えてくれた友達。

 

 今日もその親友の宮崎のどか、早乙女ハルナ、近衛木乃香と図書館探検部の練習をする予定だったですが、のどかは委員会、ハルナは自費出版の〆切、木乃香さんは家で用事があるそうです。

 

 正直残念ですが、仕方ありません。そうして時間が空いてしまったので図書館島で何か面白い本はないかと本棚を見ながらウロウロしたのですが・・・それが拙かったのです。

 

 気付けば自分が何処にいるかも分からなくなっていました・・・。

 

・・・うぅ、何たる醜態、この年で迷子とは・・・猛省せねば・・・・・・。

 

 それから30分は歩いたですが一向に見知った道に出ないです。むしろ奥へ奥へと行っている様な気がするです。

 

 更にもう一時間位歩いたです。もう完全に日が落ちたようで・・・・・・ぐす、寂しさと心細さで涙が出てきそうです。

 

 更に尿意まで催して来ました。

 

うぅ、先ほど自販にあった『ドリアンペッパー』という不思議ドリンクを飲んだ所為でしょうか・・・・・・。

 

 こ、この近くにトイレはないのですか!?先ほどから脂汗が・・・、・・・うぅぅぅぅ、も、もるです~~!

 

 焦っていたのがいけなかったのでしょう。普段なら気付けていたであろうブービートラップに足をとられ、底の見えない本棚の谷に頭から落ちてしまったのです。

 

  ◆

 

 ここで冒頭に戻るです。要するに今までの事は回想です。

 

「いやぁぁぁ・も・もるですぅぅぅぅぅぅ」

 

 先ほどからかなりの速さで本棚の谷をまっ逆様に落ちているが先が未だ見えないです。

 

 と言うより地面より先に私の我慢の限界が先に来そうです。でもこのままでは地面に落ちた熟れたトマトみたいになってしまいます。

 

な、何かないですか・・・。

 

・・・・・・え!・・あ、あれはなんですか?

 

・・・本と・・人が浮いている!?

 

 崖の様な本棚の中間で金髪の黒い服を着た人が『空中に浮かんで』本を探しているようです。

 

 ・・・ま、幻です!あ、余りの恐怖で幻を見ているのです!退屈な日常を脱し刺激的で非日常的な物を求める私の願望です!!

 

 あっ、こっち見たです。金色の瞳が凄く印象的です。・・・・・・ってそんな事を思っている時ではないのです。

 

 このままでは直撃してしまうです!

 

「よ、避けるです!!危ないですよぉ!!」

 

 ここまでの大声を出したのは産まれて初めてかもしれません。

 

 金髪、金色の瞳の青年は私の叫びを聞いても涼しそうに此方を見ているだけで避ける素振りすら見せません。

 

「・・ほう、そんな状態で助けて、でなく、よけろか・・・」

 

 そんな涼やかな声で言われ何の衝撃も無く受け止められてしまいました。お姫様抱っこで・・・・・・。

 

 あぅ~、か、顔が近いですぅ~~。・・・・・・はっ、今はそれ所ではありません!

 

 下を見てみますが床があるようには見えません。というか、彼の足、爪先立ちと言うか、完全に加重が掛かっていません!!

 

「・・・どうした?浮遊術がそんなに珍しいのか。この区間に来れる魔法生徒なら知識としてなら知っているだろう」

 

 ・・・はい?今なんと、・・・浮遊術?・・・魔法・生徒?・・・・

 

「・・・あなたは・・・・・・魔法・・・使い・なんですか?・・・」

 

「・?・・いや、俺は魔術師だ。それでなんでこんな時間に中学生がここにいるのだ」

 

 ほ、ほ、本物ですぅぅぅ~!マジもんの魔術師ですぅぅぅ~!!ああ、神様今ほど貴方に感謝した事はありませんです!!!

 

 こ、こ、ここは落ち着いてじっくり話を聞かなくては・・・・・・し、深呼吸です。

 

 スゥ~、ハァ~・・・・・・あれ・・・私何か忘れているような・・・・・・・・・。

 

 ・・・はうっ・・尿意でしたか・・ま、拙いです・・・・・。

 

「先ほどからどうした?深呼吸しかと思えば、涙目でプルプル震えだして?」

 

 く、口を開く事すら出来ないです・・・。・・げ、限界ですぅ・・・。・・も、も、もるですぅぅぅ~~~・・・・・・・・ 

 

 

 

  ◆  暫らくお待ちください。  ◆

 

 

 

 しかし、まさか助けた相手が腕の中で失禁するとは・・・・・・取り敢えず、綺麗にはしたが、完全に真っ白になっているよ。この子・・・。

 

 アスナ達と同じ制服という事は多分寮生だろうが、・・・流石に放り出すのは少々酷か・・・。

 

 ふむ・・・確か、近くに休憩所があったな・・・・・・。

 

  ◆

 

 ああぁぁぁぁ~~~!私はなんて事をぉぉぉぉぉ~~~!!

 

 初対面の男性に失禁姿を見られたなんて乙女としてどうなんですか!!

 

 いえ!それ以前に人としてどうなのですか!犬ですら助けてくれた相手に恩を返すというのに、私は・・・・・・ぐすっ・・・・・・

 

「・・・取り敢えず、これでも飲んで落ち着くといい」

 

 その優しさが今の私にはすこぶる痛いのです・・・・・・。

 

「・・ぐすっ・・・ありがとうございますです・・・・・・」

 

  ◆

 

「落ち着いたか・・・」

 

「はいです。・・・すみません、粗相をしてしまい・・・・・・」

 

 うぅぅ・・・一生物の恥です・・・。

 

「気にするな・・・助かって気が抜けたのだろう」

 

 ち、違うのです。自業自得なのです。

 

「それで何故ここに居るのだ」

 

 うぅ、そう言えば私、今迷子なのでした。・・・更に恥を掻かないといけないですか・・・・・・。

 

  ◆ 

 

「要するに唯の迷子で罠に掛かってただ単に上から落ちただけだと・・・」

 

「はいです」

 

「しかも、魔法も魔術も裏も知らない一般人」

 

「そうです」

 

 ・・・・・・やってしまったらしい。

 

 あの区間は禁書指定された本が多く普通の人間は入れないと思っていたがどうやら紛れ込んで来てしまったらしい。

 

 さて如何するか・・・・・・

 

 しかし、何でそんな期待を込めた瞳でこっちを見ているのだろうか、この娘は・・・・・・

 

「・・・しかたないか」

 

 俺がそういうと彼女は身を乗り出して目をキラキラさせているが・・・そんな目をされると少々苛めたくなってしまう。

 

「・・・古来より、無関係の人間に知られてしまった場合――」

 

 俺の様子が変なのに気付いたのか彼女の顔色が曇るが俺は其のまま続ける。

 

「――残念なことだが、消すのが習わしだ。怨むなら自身の運の無さを怨むといい・・・・・・」

 

 そう言い右手に自然界に存在しない闇色の炎を点す。

 

 彼女は涙目になって座っていた椅子から落ち、はゎゎと壁まで這ってあとじさってのを俺はゆっくり追いかける。

 

 壁にもたれ掛かってイヤイヤと首を振る彼女の前まで来てゆっくり炎を掲げるアレイ。

 

  ◆ 

 

 はわわわぁ・・・もっと注意すべきでした・・・彼は魔法、魔術といった後に裏と言ったのです。

 

 それにこういう処置をして置かないと世界中に魔法が自明の物となっているはず、少し考えれば分かった事です。

 

 自分の迂闊さが恨めしい・・・・

 

 彼が恐ろしげな黒い炎を掲げます。

 

 余りの恐怖に目をギュット閉じると、のどか、ハルナ、木乃香さんの顔が脳裏に過ぎりました。

 

 そうです!こんな所で死んでたまる物ですか!!

 

 私はそう決意して彼を睨みつけようと彼の顔を見ると私を面白そうに見ているです。

 

 な、なんですか!その顔は!怯える私はそんなに面白いですか!!

 

「――と、消したい所だが今回は俺にも非が有る。・・・だから、選ばしてやろう」

 

 そう言い彼は炎を握りつぶしました・・・・・・。

 

 あ、あれ、ならさっきまでの事はなんだったのですか・・・・・・。

 

「ただ苛めて遊んだだけだ。中々に面白い見世物だった」

 

 も、弄ばれたのです!!いい人だと思ったのに私弄ばれました!!

 

「憶えておくといい。基本、魔術師にいい人はいない」

 

 そうなのですか。勉強になります・・・って、さっきから私の思考が読まれてませんか!?

 

「その思考が口からダダ漏れだ・・・」

 

 はわぁっ・・ダダ漏れ・・・・もれ・・・・・・うぅ、ぐすっ・・・。

 

 嫌な事を思い出す言葉なのです・・・・・・。

 

「先程の事がトラウマになっているようだか、話を進めてもいいか・・・」

 

「・・・うぅ・・・お願いします」

 

  ◆ 

 

 彼が言うにはこの世界には魔法や魔術、神などの神秘の存在が隠されているそうなのです。

 

 そして、それらは裏社会と係わりがあり、これらに係わるのは紛争中の外国に行く程度の決意を持った方がいいと言われました。

 

 彼は何も言いませんでしたが私を脅すような真似をしたのは、私が魔法や魔術に憧れを持っていたのを察したからかも知れません。

 

 きっと彼なりの優しさだったのです。

 

 そして、彼は私に3つの選択肢を提示してきたです。

 

 1つ目・・・魔法の事を忘れ日常に戻る。記憶消去の魔法を使うそうです。もっとも安全で平穏を享受出来るそうです。

 

 2つ目・・・魔法の事を忘れずに日常に戻る。何もせずにこのまま帰るだけだそうです。もしかしたら彼以外から魔法を習うことが出来るかもしれないそうです。

 

 3つ目・・・彼に代価を払い魔法に完全に係わる。どんな代価かはその時に教えてくれるそうです。

 

 ただ、3つ目を選んだ場合のみ、彼の所属している一派以外から目の敵にされるそうです。

 

 その理由というのが目の前の彼、4000万ドル、日本円で31億7798万円の賞金首だそうです。

 

 いったい何をしたらそんな額を掛けられるのですか・・・・・・。

 

 これは彼としては3つ目の選択肢は選んで欲しくないのですかね?そんな感じがするくらい悪い情報しか出てこないです。

 

 きっとまだ何かあるです。

 

 その後、根掘り葉掘りと言うほどではありませんが色々聞いてみました。

 

 彼はそんな私を楽しそうに観察しつつも私の質問は基本的に全て答えてくれたです。

 

 例えば、所属名に活動内容、自身の地位に力量、何故賞金首なのか、何故麻帆良に居るのか、などなど、正直、半神半人だと言われた時は我が耳を疑いましたが・・・。

 

 嘘は言ってないのでしょう、多分ですが・・・。

 

 その後、彼が選択するのは最低半年くらい悩んでからにしろと言われたです。

 

 この先の一生が決まる選択になるのだからと、・・・・・・悪人なのか善人なのか分からない人?なのです。

 

  ◆ 

 

 予断ですが、寮には彼に抱えられ転移と言うもので送ってもらったです。しかも、お姫様抱っこで・・・心臓が破裂するかと思ったのです・・・・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 7

 <獣、副担任に就任す>

 

 

 今、俺とタカミチは1-Aの教室に向って廊下を歩いている。

 

「それにしても、アレイさんが本当に教師をするとは思いませんでしたよ」

 

「そうか?…エヴァも中々にクラスの人間が面白いと言っていたからな、正直今から楽しみだ……」

 

 俺を先導するタカミチにそう言って俺は渡されたクラス名簿を開く。

 

 そこには30人の少女の顔写真と名前、それと部活が書かれている。

 

 7人程知っている者が居るが残り23人どんな人物なのか……

 

「ああ、それでそんな気合の入った格好なんですね」

 

 俺が今着ているのは、スーツというよりはモーニングコートと呼ばれる正礼装に近い格好をしている。用意したのは勿論エセルだ。

 

 ちなみに、そのエセル、デフォルメ不可視モードで俺の肩の上にいる。

 

「いや、これはエセルが用意した物だ」

 

「・・・・相変わらずですね。エセルさん」

 

 そんな話しをしていたら一際騒がしい教室の前に辿り着いた。

 

「では、僕が先に入った後に呼びますから入ってきてください」

 

 タカミチがそう言い開けて入ろうとした瞬間、俺は「…タカミチ」と声を掛ける。

 

「…えっ・・はい?」

 

 タカミチが反射的に此方に振り向くと同時に頭に迫る黒板消し。

 

 完全に死角から迫るそれに気付いたのか咄嗟に後ろに飛び退いた。

 

 だがそこには足元にロープが……

 

 勿論それに引っ掛かり後ろ向きに倒れていくが流石は長年修行を積んでいるタカミチ。

 

 そのままバク転の要領で水の入ったバケツと玩具の矢をかわし教壇まで辿り着く。

 

「お、おぉぉぉ~~~」と感嘆の声と拍手をタカミチが受けるが、タカミチはこちらを見て。

 

「酷いですよ!アレイさん、気付いていたなら教えてくれてもいいじゃないですか!?」

 

と、俺を非難してくる。

 

「前にも言ったが、ラカンじゃあるまいし罠は掛かってから破るんじゃなく掛かる前に見つけろ」

 

 俺はそう言いながらタカミチの隣に歩いていく。

 

 タカミチはばつが悪そうに頭をかきながらクラスに俺を紹介し始める。

 

「あー、出張が多い僕に代わって君達の面倒を見てくれる事になった新しい先生だ。…アレイさんよろしくお願いします」

 

「初めまして、今、紹介に与ったアレイ・クロウと言うものだ。今日から歴史の授業を担当し、卒業まで君達の副担任として面倒を見る事になっているのでよろしく頼む」

 

 そう俺が自己紹介したら一拍間が空いて、

 

『きゃあぁぁっぁ! 美形~! モデル~!?』と教室が破裂するのではないかと言う位の黄色い悲鳴が上がった。

 

 ログハウス組の三人はニコニコと歓迎の表情をしているが、チャオとハカセは顔色が曇っている。ユエに至っては固まっている。

 

 その後、何歳?どッから来たの?何人?と矢継ぎ早に聞いてくるがタカミチがすぐさま鎮火する。

 

「はい、はい。質問はひとつずつにね。じゃないとアレイさんも答えられないだろう」

 

と、タカミチが押さえると「はーい!」と、パイナップルヘヤーの女の子が元気良く手を上げる。

 

「ふむ、なにかね。出席番号3番 朝倉和美(あさくら かずみ)君」

 

「うわぁ!もう顔覚えられてる!…えーと、麻帆良のパパラッチこと報道部員の私がある程度まとめて質問したいと思いますがいいですか?」

 

「朝倉君だけじゃなく、このクラスの人間は皆覚えているよ。それで質問とはなにかね」

 

タカミチが俺の口調に驚いて固まっているが気にしない。

 

「んじゃ、まずは歳から」

 

「…ふむ、永遠の二十歳としておいてくれ」

 

 俺がクスリと軽く笑いながら言うと、周りがどよめく。

 

「おおっと!以外に茶目っ気のある先生だ!…実際はどの位なんですか?」

 

「タカミチが俺をさん付けで呼んでいる辺りで察してくれるかな」

 

「こ、これは以外に年上か…。いや…地位の問題も…」

 

と、メモ片手に唸っていた。

 

「年齢に関してはこんなもので良いのではないかね」

 

「あ、そうよね。じゃあ次は、何処から来たんですか?」

 

「ここ…麻帆良からだ。ちなみに出身はアメリカになるか」

 

 もっともこの世界にアーカムと言う都市はないのだが。

 

「ふむふむ、じゃあこの近くに家があるんですか?」

 

「ああ、そこから通勤する事になっている」

 

 何か良からぬ事を考えているような顔だが構うまい。

 

「では、最後にこのクラスに気になる人はいますか?」

 

 朝倉の質問にクラス全員が前のめりに興味深そうにこちらを見てくる。

 

 ログハウス組は私を選んでくれるよねと期待の眼で見てくる。ちなみにユエは漸く硬直が解けたのか顔を真っ赤にした後ブンブン首を振っていた。

 

「ふむ、いろんな意味で全員気になっているよ」

 

 そう言いながら優しく微笑んでみる。

 

『きゃあぁぁっぁ!』と黄色い声が上がるが朝倉は少々不満そうだ。もっともログハウス組はかなり不満そうだが。

 

「さて、一時限目は俺の授業だったか。・・・・・・ではこのまま、質疑応答の時間にするとしよう。朝倉君以外で質問がある者は挙手しろ」

 

『はーい!はーい!』とかなりの数が上がる。

 

   ◆

 

『出席番号6番 大河内アキラ』

 

「スポーツは好きですか?」

 

「嫌いではないよ・・・」

 

 

『出席番号14番 早乙女ハルナ』

 

「至る所から甘酸っぱいラブ臭がするのは何でですかぁ~?」

 

「ふむ、俺にはそんな匂いはしないから分からないな」

 

 

『出席番号7番 柿崎美砂(かきざき みさ)』

 

「女性遍歴をおしえてください」

 

「…ふむ、始め付き合ったのは…・(約五分)・…といった感じか」

 

『きゃー!きゃー!』と全員がトマトのように真っ赤だ。

 

「す、すいません…ほ、ほんとに話すとは・・・・」

 

「フッ・・冗談だ…」『ぇえぇぇぇ!!』

 

 

『出席番号12番 古菲(クー・フェイ)』

 

「かなりの強者と見たネ。勝負して欲しいアル」

 

「役者不足だ。鍛え直して来い」

 

「分かったアル!鍛えなおして挑戦するアル!!」

 

   ◆

 

その後チャイムがなるまで色々なやり取りが行われた。

 

 

 

 

 

 <獣、歓迎会に招かれる>

 

 

「あ、おった、おった。アスナおったぇ~」

 

 職員室で帰り支度をしていたら、木乃香とアスナがやって来た。

 

「よかった~。帰ってたら家まで迎えに行かないといけなく成ってたよ~」

 

 どうやら俺を探していたみたいだ……。

 

「どうした?二人して何か問題か」

 

「え~と…黙って私達について来て、アレ・・クロウ先生…うぅ、なんか違和感」

 

「しゃ~ないよ、何時もはアレイさんって呼んどんやから」

 

 二人はそう言いながら俺の腕を抱いて引っ張っていく・・・・・・。

 

 横の席の瀬流彦が「両手に花ですね」などと言っているのが後ろに聞こえてくる。

 

 それを聞いてかどうか知らないが二人は機嫌がいいようで身体を密着させながらクラスの話をしながら俺と歩いていく。

 

 俺は適度に相槌をつきながら話を聞いていたら教室の前に着いた。どうやらここが目的地のようだ。

 

 二人は俺の腕を放しドアの両脇に立った。

 

「よし!準備はいいわね、木乃香!」

 

「ええよ!アスナ!」

 

『せーの!』と、掛け声と共にドアを開け放つ。

 

『ようこそ♡クロウ先生ーッ』

 

と、生徒達がクラッカーを鳴らし俺を出迎えてくれる。

 

 どうやら歓迎会を開いてくれたらしい。

 

『ほらほら、主役は真ん中にー』と、数人の生徒に促されコップを渡された。

 

 そして、委員長(雪広あやか)が軽く自己紹介をした後にジュースを注いで、俺の顔をまじまじと見てくる。

 

「どうかしたのか、委員長」

 

「あら、いやですわ。先生が余りに昔、アスナさんが言っていた想いっうぐ・・」「うぎゃーーその先を言うなーーいいんちょーーー」

 

 委員長がアスナに拉致られ、少し離れた所でキャットファイトを始めた。

 

しかも賭けまで始まる始末…どこぞのバカ二人を思い出す・・・

 

「お疲れ様です、アレイさん。どうでしたか初日は・・・」

 

 タカミチと学園長の秘書を兼任している源しずなが俺の近くの椅子に座ってきた。

 

「中々に楽しませてもらったよ。歓迎もしてくれているらしいしな・・・」

 

「あはは。昔からモテてましたもんね」

 

「へ~、やっぱり昔からモテたんやなぁ~」

 

 いつの間にか俺の隣に木乃香が座って自然に酌をしていた。

 

「そうだよ。ここだけの話…ファンクラブも存在するくらいだからね」

 

「うわぁ、そんなんあったんやねぇ。あ、でもエヴァちゃんも雑誌もっとったかも」

 

 何故かタカミチと木乃香、それと何処からかエヴァと茶々丸まで集まってきて俺の(主にタカミチとエヴァが語る)昔話が始まる。

 

 何々がすごいとか、あれには驚いたとか途中から身に覚えのない武勇伝が混じりだしたがこれはこれで面白いので放置する。

 

 武芸組というか褐色スナイパーや糸目忍者、マッドコンビが聞き耳を立てていたが、エヴァが細工していたから話の輪に入らない限り話は聞けないだろう。

 

 ただ、クーフェイだけは素直に輪に入っていたのでモロに聞こえているはずだ。

 

 現に「そんなに強いアルカ!!」とか眼を輝かせて叫んでいる。

 

「―あの、クロウ先生・・・」

 

 振り向いて見るとユエが早乙女と宮崎を連れ立って俺の近くに立っていた。

 

 ちなみに宮崎は早乙女の陰に隠れていた。

 

「うん?・・・・綾瀬君に早乙女君それに宮崎君か、どうかしたかね」

 

「あの、この前はありがとうごさいましたです。これお礼なのです」

 

と、紙袋を渡された。

 

 後ろでアホ毛をにょんにょんと動かして早乙女が「ラブ臭が!強いラブ臭がする!!」とキョロキョロしている。

 

 あのアホ毛はレーダーか何かなのだろうか……。

 

 ユエが俺に話しているのを見て生徒達が『あのクールなユエが先生にアタックしてる!?』と騒ぎ出すと喧嘩していたアスナと話しに興じていた木乃香が詰め寄ってきて、

 

『夕映ちゃんとはどういう関係なの?/ユエとはどういう関係なん?』と、聞いてくる。

 

 どこぞのアホ毛が「修羅場!?これが現実の修羅場なの!!」と、大興奮しているが無視だ。

 

 それにこんな生温いのは修羅場とは言わん。昔、俺が昼寝していたらエセルとエヴァで添い寝権を争って別荘崩壊の危機にまで行ったことがある。

 

 俺は隠す必要がない馴れ初めを語ろうとするがユエが慌てだす。恐らく失禁や迷子の事を気にしているのだろう。

 

 暫らくはこのネタで遊ぶ心算なのだ、ばらす訳がない。

 

「そうなの。図書館島で困っていたのを助けだけなんだ。私はてっきり・・・」「アレイさんは何やかんやゆ-ても優しいなぁ~」

 

 そんなことを言いつつ二人揃ってタカミチの昔話を聞きに戻っていった。

 

 それをホッとした様な困惑した様な複雑な表情でユエが見ていた。

 

 そうこうする内に歓迎会が終わり片付けをしたりして解散となった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話 8

 <武闘派中華娘>

 

 

 とある休日、茶々丸が日課の猫の餌やりに行くと言うので散歩がてら付いて行く事にした。

 

 それで判明した事なのだが俺が小動物に近寄ると問答無用ですぐさま服従のポ-ズをとる。

 

 たとえ餌を食べていようとも。

 

 ・・・・その所為で茶々丸から「餌を与えられません。どうしましょうか?」と訊かれてしまった。

 

 嫌味でなく本当にどうすればいいか分からないから聞いてきたのだろうが他の人間には嫌味に聞こえるから気をつけるように教えておく。

 

 その帰り道、反対の方向からクーフェイが歩いてきた。

 

「センセに茶々丸アルか。こんな所でどうしたアル?」

 

「アレイさんが私の猫の餌やりに付き合ってくださったのです。古菲さんこそここは余り人の来る所ではありませんが?」

 

「ワタシはこの先で何時も修行してるアル。……センセはこの後、暇アルか?」

 

「…ふむ?・・時間はあるが」

 

 俺は何も考えずにクーフェイに言ったがそれが拙かったようだ。

 

 キラキラと遊んでもらえるのを期待する子虎がクーフェイの後ろに幻視できる。

 

「センセに敵うとは思ってないアルが。今のワタシの全力を受けてもらいたいネ」

 

 ビシッと八卦掌の構えを構えるクーフェイ。

 

 今いるのは道というよりはちょっとした広場のような所で軽い運動をするには丁度よさそうな場所だ。

 

 俺は護衛しようとしている茶々丸を下がらせ、

 

「…一本だけだ」

 

と、答え軽く脱力し、身体を自然体にする。

 

「……センセは構えないアルか?」

 

「構えてはいる。クーフェイにはそれが判らないだけでな・・」

 

 構えを看破しようとしたのか一瞬ムムッと難しそうな顔をしたが諦めたのだろう。

 

 すぐさま八極拳の外門頂肘(がいもんちょうちゅう)+活歩(かっぽ)、肘をつきだして地面を滑るようにして、こっちにそこそこの速度で突っ込んでくる。

 

 俺はそれを軽く斜めに一歩踏み出し避ける。

 

 クーフェイは振り向き様に肘を内側から突き上げてくる裡門頂肘(りもんちょうちゅう)を決めに来るがそれを左手で防ぎ、押し返しつつ軽く後ろに飛ぶ。

 

「八極拳による奇襲か、…いい手ではあるがいかんせん地力が足りていない。……これで終わりという事はあるまい。お前の全てを見せてみろ」

 

「・・・フゥー・・・行くアル!!」

 

 クーフェイはアレイに向って拳、掌、手刀、蹴り、体当たり、頭突きと考えうる攻撃を仕掛けてくるがアレイは全て逸らすか防ぐかして無力化していく。

 

 そして、その内クーフェイが肩で息をしだしていた。

 

「…終わりが見えてきたな」

 

「・・ハァ、ハァ。…これに全てを籠めるネ」

 

 そうクーフェイが宣言すると先程まで一切気が込められてなかった身体に気を微量に纏わせていた。

 

 そして、クーフェイの突き、形意拳の砲拳が防御しなかったアレイの水月に突き刺さる。

 

「・・中々にいい拳だ。返礼してやろう。…耐えろよ、クーフェイ」

 

 クーフェイの突きを意に介さずアレイはそう言いつつ、クーフェイの身体に手を押し当て突き飛ばす。

 

 ただそれだけでクーフェイはまるで砲弾のように吹き飛んでいく。

 

 そして、砂埃を上げながら転がって10mほどして漸く止まった。

 

 アレイは横たわっているクーフェイの横に歩いて近寄る。それに気付いたクーフェイは寝たまま口を開く。

 

「う~勝てないとは思ってたアルが、勝負にすらならなかったアルよ」

 

「武芸の技術としては一級品だが地力がなさ過ぎる。せめて気を使えるようにならないと遊びにすらならん」

 

「う~ん、気アルか。師匠から鍛錬方法は聞いてるアルが。…そんなに変わるアルか?」

 

「それはクーフェイしだいだ」

 

 吹き飛ばされたダメージから回復したのか跳ね起きて「次からは気を重点的に鍛えるアル」と言い今回の模擬戦?は終了した。

 

 

 

 

 

 <獣、白鳥に会う>

 

 

 今日、桜咲刹那(さくらざき せつな)と言う人外の気配が軽くする少女が転校生としてやって来た。

 

 何故か初対面から睨みつけられ、クラスに連れて行く間中、背中に強い視線を感じていた。

 

 敵意や害意と言う感じではないので無視したが。

 

 昼休み、ログハウス組と新しくチャオが作ったという超包子(チャオパオズ)と言う移動式中華料理店に来ていた。

 

 チャオ曰く、計画の為の資金調達の一環として始めたそうだが、予想以上に金が集まって笑いが止まらないそうだ。

 

 それは取り敢えず置いておくとして、木乃香達と合流してから熱い視線が俺に突き刺さってきている。

 

 鬱陶しい事この上ない。

 

 事前に詠春から、木乃香の友人を護衛と言う名目で送ったと連絡があったがまさか何の断りも無く護衛?らしき事をし始めるとは……。

 

 その所為でエヴァとアスナが不機嫌だ。なんでも木乃香と話していると一々視線を感じてウザッたいらしい。

 

 一般人なら気付けない様なものだが俺たち相手にはつたない隠形法(おんぎょうほう)だと言わざるおえない。

 

 まだ、アスナや木乃香の方がうまく隠れる。

 

 木乃香曰く、二代目幼馴染らしい。ちなみに初代はアスナとの事だ。

 

 更に言うと思い込んだら一途と言うか頑固な性格らしく今回も何か勘違いをしているのだろう。っと言っていた。決して悪い子ではないそうだ。

 

 ただ、こちらに来てからは時々手紙を出してはいたようだが返事は返って来なかったそうだ。

 

 木乃香は修行が忙しいのだろうと寂しそうに言っていた。

 

 

  ◆

 

 

 放課後、木乃香とアスナが茶々丸に教えながら料理を作っていた。そんなおりに結界に誰かが捕まったのを感知した。

 

 最近では珍しいことだ。俺とエヴァが家を空けることになってからは結界の感度や強度を上げている。

 

 麻帆良の魔法使い達はその事を学園長から通達してある所為かここに来ることはまずなくなった。

 

 ちなみにちょっと前、学園長に俺やエヴァが学校に行っていて魔法使いからの不満は出ていないのかと聞いたことがあるが。

 

 なんでも俺はアレイ・クロウと認識されてはいるがマスターテリオン=俺とは認識できていないらしく同姓同名の別人と認識されているらしい。

 

 エヴァも似たような物で、人ではないのは理解できているが吸血鬼としては認識されていないそうだ。

 

 血を吸うなどの行為をしていないのだ。ばれる訳が無い。

 

 ただ、これらは極々弱い認識阻害なのでほんのちょっとした事でばれるらしい。

 

 正直な話どうでもいい事ではあるので今は放置している。ばれたとしても一寸前の生活に戻るだけで実害は余り無い。

 

 ただ、学園長はばらさんでくれと懇願してきたが……。

 

 今現在の麻帆良の勢力図は、学園長とタカミチを有する少数の融和派、旧世界出身の俺達に係わりたくない穏健派、魔法世界に関係のある大多数の過激派で構成されている。

 

 力関係としては学園長が何とか過激派を抑えていると言った所だろう。

 

 間違いなくばれればひと悶着あって再起不能者が量産される事になるだろうが、それを回避したいのが学園長の本音だろう。

 

 なにせちょっと前に木乃香がこちらに来てからは関西呪術協会の過激派の動きが活発になったとかで警備に割く人員が増えて困るとぼやいていたぐらいだ。

 

 その辺の話は一先ず置いておいて侵入者の事に戻ろう。

 

「アスナ、どうやら侵入者らしい相手をしてやってくれ」

 

「はーい!という事で後頼んだわよ。木乃香」

 

「うん。任されたえ。がんばってな、アスナ」

 

と、緊張感の無い会話が交わされた後、

 

「いってきまーす」と、ローブと仮面、そして縄を持ってアスナが駆けて行った。

 

 よほどの事が無い限りは今のアスナが敗れることはないだろう。

 

「…あの木乃香さん。ああいう危険が伴う作業は私の方が向いていると思われますが何故私に任されないのでしょうか?」

 

「う~ん、ウチらは修行の一環やしな。でも、心配せんでもゴン君倒せるようになったら嫌でも任されるえ」

 

「そうなのですか?」

 

「ウチもそうやったからな。でも、茶々丸さんは武装が揃うまでは本格的な戦闘はさせないってエヴァちゃんがゆーとったえ」

 

「そうですか、マスターが…。木乃香さんは戦闘が嫌なのでしょうか」

 

「そやね。ウチは人を傷付けるんは苦手やね。『でしたら』でもな、茶々丸さん。ウチは戦うって決めたんよ。自分と大切な人を守るために・・・。あっ、ちゃんと茶々丸さんも入っとるからな」

 

「・・ありがとうございます、木乃香さん。でしたら、私も皆さんをお守ります」

 

と、そんな会話が台所から聞こえてくる。

 

 エヴァも聞いていたのか顔を紅く染め紅茶を飲んでいた。

 

 俺もエヴァに紅茶を分けて貰いながら飲んでいたら、困惑した顔で侵入者と思われる縄で縛られた女生徒を俵抱えにしたアスナが帰って来た。

 

「どうかしたのか。侵入者なぞ連れて来て・・・」

 

と、エヴァの声に引かれて木乃香と茶々丸も集まって来た。

 

「あー、うん。そうなのよ」と、アスナが俺たちに見えるように椅子にその侵入者を座らせた。

 

 そこに居たのは………、

 

「せっちゃん?!」と、木乃香が顔を曇らせた。

 

 そう今日、転校してきたばかりの桜咲刹那がぐったりして座っていた。

 

  ◆ 

 

「…ぅう~ん。・・ここは」

 

「ようやく起きたか桜咲刹那」

 

 そこには真っ暗な部屋でアレイ、エセル、エヴァ、アスナ、木乃香、茶々丸が縛られた刹那を半円に囲うように座っており、それぞれが上からスポットライトを当てられている様に黒い部屋に個々人が浮かび上がっていた。

 

 ちなみに、この演出は誰かの遊び心である。

 

 刹那は自身の状態に気付いたのか慌てたように周りを見渡し木乃香が真剣な表情をしているのを見て脂汗を流し出した。

 

 それを見たアレイとエヴァはニヤリとし、そんな二人の反応を見たアスナは刹那を売られていく子牛を見るような眼で見ていた。

 

 エセルと茶々丸は無表情である。

 

「さて、桜咲刹那。何故ここに来たのか話してもらおうか」

 

と、エヴァがニヤニヤしながら尋問じみたことをするが、刹那は言葉を発さない。

 

「…ほーう、黙秘するという事はやましい事でもしに来たか?」

 

「ちがう!私は…」と、そこで言葉を切りチラリと木乃香を見る。

 

 木乃香は刹那の顔をじっと見ている。

 

「…私はお嬢様のお父上から頼まれた木乃香お嬢様の護衛です」

 

 刹那は苦虫を噛んだような顔をして言葉を吐き出した。

 

「それがあの不躾な視線の理由か」

 

「なっ、気付いていたのですか!」

 

 それを聞いたエヴァとアスナがジト眼になった。エセルですら少々呆れ顔だ。

 

「アホか貴様!あの程度、アスナと木乃香の方がもっと上手くやるわ!!」

 

 驚愕した顔をして刹那が木乃香の方を見るが木乃香は肯定するように苦笑していた。

 

「…ですが、お嬢様は裏に一切係わりの無い一般人だと……」

 

「・・・何だ貴様、じじぃと近衛詠春から私達の事を聞いていないのか」

 

「…何のことですか。私は木乃美様から『木乃香は未来の旦那様の所でご厄介になっているからちゃんとご挨拶に行くのですよ』としか伺っていません」

 

 それを聞いた木乃香が「いややわー。母様ったらー」と手を頬にあて顔を真っ赤にしてイヤンイヤンと首を振っていた。

 

 どうやら刹那は学園長と木乃美のいたずらにはまっている様だ。

 

 だからと言ってアレイは懇切丁寧に会ったばかりの感心の無い人間に事情を話す心算はない。

 

 学園長達が黙っていたのはそういう側面もあったのだろう。ただ、半分以上が遊び心だと断言できるが。

 

「・・・まぁ、桜咲の隠形がつたないのは置いておくとするが木乃香の件は護身術の一環だ。それと詠春が何を言ったかは知らないがあんな護衛は必要ない」

 

と、アレイは刹那をいらないとばっさり切り捨てた。

 

「なっ……!!」

 

「そうよね。影から守る積もりなら周りに一切存在を知られちゃいけないから私達にばれた時点でアウトだし、何よりあの程度じゃ木乃香が逆に目立って危険よね」

 

と、アスナが追い討ちをかける。

 

「うぐっ…」

 

「更に言うならそれは複数人でやる護衛方法です。基本は護衛対象に付かず離れずですが、今回はマスターやアスナさん、そして私が居ますのでこれ以上の人員が必要だとは思えません」

 

 優先順位はあるが基本人間のいう事を受け入れる茶々丸が珍しく拒絶を示す。

 

 刹那が煤けてきたのを見て木乃香がアレイに助けを求める視線を送っている。

 

 アレイはそれを見てフゥとか来る息をつき、

 

「桜咲刹那、俺は君に興味はない。ゆえに君が何をしようと君の勝手だ。それこそ木乃香の護衛をしようとな」

 

 それを聞いて少し顔色がよくなるが次の言葉でまた曇る。

 

「ただし、友人としてそばに居る程度の護衛で、だ。それ以外は認めない」

 

「・・ですが。私は…」

 

と、刹那は悩んでいたようだがこれ以上いう事もないので問答無用で寮の前に強制転移させる。

 

 余談だかその後、刹那は思い悩んでいるようだが徐々にクラスに溶け込んで木乃香に近づいてきているそうで木乃香も安心していた。

 

 ただ、刹那の俺を見る眼が日に日にきつくなって来ているのは何故なのだろうか…。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

獣、薬味に会う

 

 

 俺が赴任してから約二年の時が過ぎた。

 

その間に特に大きな事件も無く二度の学園祭と体育祭も乗り越え、明日、ナギの息子である<ネギ・スプリングフィールド>(数えで10歳)が赴任してくる。

 

その件で先週、学園長から話が来た。

 

 本国から生徒の近くに住まわせるよう通達が来たそうだ。

 

 要するに寮に住まわせて親密な関係が築きやすいように取り計らえという事らしい。

 

 学園長は憤慨してはいたがメリットが無いわけではない。

 

学生寮はこの学園で一、二を争うほど堅牢な造りになっている。

 

まぁ、暗闘が繰り広げられている学園だ。大事な子供ということでそれがベストなのかもしれない。

 

 生徒のことを考えると迷惑この上ないかも知れないが。

 

 それで誰の部屋に預けたらいいかと相談がきた。

 

 学園長としては、何もなければ孫娘の木乃香に頼むだろうが今は俺の所にいる所為か何所に預けるか決め兼ねているらしい。

 

 俺としてはあの非常識が常識化しているクラスの誰に預けようと変わらないと思っているが、子供を預けるなら那波といいんちょしかいないというのがアスナと木乃香の意見だった。

 

 そういう事で二人を推しておいたがいったい当日どうなる事やら……。

 

   ◆

 

 そういう訳で、学園長室前で委員長と那波に手を引かれて来たネギと軽く対面したのだが……。

 

 いい意味でも悪い意味でもナギに似ていなさそうな雰囲気の子供だった。どちらかと言えばアリカに似ている雰囲気だろうか。

 

 変に大人びているというか歪んでいるというか…。

 

ただ、第一印象としては型にはまってつまらなそうというのが俺の感想だ。

 

 正直、九割方興味は失せたが…。副担任として係わらねばならん。

 

 そんなことを考えていたらネギの指導教員を任された、源しずながやって来て一緒に学園長に呼ばれた。

 

 部屋に入ってまず目がいったのは狂喜乱舞して変な舞を踊っている委員長だった。

 

 那波の方を見ると、あらあらまあまあと片手を頬に当てて驚いているようだ。

 

 大方ネギが教師をすることを聞いての反応だろうが那波はともかく委員長のこんな反応は二年間で始めて見た。

 

 アスナはいいちょはショタコンだと言っていたがどうやらその通りらしい。

 

 その二人は取り敢えず置いておいて俺としずなを学園長が紹介して、その後、委員長たちの部屋にネギを預かってほしいと伝えていた。

 

 二人は快諾していたが……、いいのだろうか。確か委員長たちは三人部屋だったような……。

 

 そして、変なテンションの委員長が先導するように全員が学園長室を後にしようとしたが、俺の学園長が呼び止める。

 

 そして、学園長が俺以外全員出たのを確認して口を開いた。

 

「どうでしたかの、アレイ殿」

 

と、ちょっと期待を滲ませ顔の学園長が感想を聞いてくるが、

 

「興味は失せた。手を出してこない限りはそちらに干渉せんよ」

 

 そういい俺も職員室に向かう為、学園長室を後にした。

 

   ◆

 

 昼休み、ログハウスのメンバーに時たまユエが加わるのがこの頃の昼食風景だ。

 

 勿論、話題は今日来たネギ一色である。

 

 そのネギだがなんでもタカミチが「歓迎してほしい」と、頼んでいたらしく盛大に悪戯トラップを仕掛けられたらしい。

 

 そして、初っ端の黒板消しトラップを常時展開型の魔法障壁で止めてしまい、慌てて消していたとか……。

 

 更に自己紹介で担当教科を魔法と言い掛けたとかでエヴァとユエが「隠す気あるんか!!」とキレ気味の反応をしていた。

 

 アスナと木乃香も苦笑である。

 

 魔法使いとしてはどうかと言う感じの意見だが人間としては中々に好印象だそうだ。

 

 トラップに掛けられても文句一つ言わなかったそうだ。

 

 多分、言わなかったのではなく、言えなかったの間違いのような気がするが…まぁいい。

 

 それで放課後、俺にしたのと同じような歓迎会をするから忘れずに来てほしいそうだ。

 

その際、俺に「サービスするえ」と、木乃香は言っていたがネギの歓迎会であって主役は俺ではない筈なのだが……。

 

 そう言えばパパラッチがこの前、取材と言って俺たちの関係を聞いてきた。

 

 噂話によると、俺と木乃香は夫婦で、アスナは恋人、エヴァはファザコン娘(母親は茶々丸)、ユエはブラコン(妹)のように見えると言われているらしい。

 

 それで全員に聞いて回っているそうだが一様に顔を赤らめ手痛い突っ込み(トンカチ)や、はぐらかされたり逃げられたりで真相が分からないから俺に直接訊きに来たそうだ。

 

 その行動力は認めるが公衆の面前で訊くか普通……。もっとも俺もお構いなく話すからどっちもどっちなのだろうが。

 

 その際、「朝倉君の想像通りだ」と答えておいた。

 

 朝倉はパパラッチを自称しているくせに常識人だ(あのクラスでは)。

 

 案の定、本当にしても嘘にしても色々まずいと思ったのか、この噂に関しては自粛すると言って去っていった。

 

 ただ、何処かで聞いていたのか噂拡散機の漫画家が次の日には尾ひれ、胸びれ更に翼まで付けて広めていた。

 

 その内容というのが何でも俺は超大金持ちの外国の貴族、そして、四人は愛奴隷だそうで身も心も俺なしじゃ生きて行けない様に調教されているとか何とか・・・。

 

 もっとも、この噂はすぐさま立ち消えた。

 

 噂が流れた放課後、寮の玄関先に噂を流した首謀者が簀巻きにされて一晩中吊るされていたそうだ。

 

 その頭には、自慢の触覚をしんなりさせ巨大なたんこぶが6つあったとか。

 

 そして、張り付けてあった紙に「あの噂は私が流したデマです」とデカデカと書いてあったそうだ。

 

 そんな事があった所為なのか、何故か学園では半ば公認の関係と思われてしまっている。

 

   ◆

 

 放課後、予定通り歓迎会が行われた。

 

 その際、宮崎のどかが助けてもらったとか言ってネギに御礼をしていた。

 

 それを心配そうにユエが見ていたが色々と思うことはあるだろう。

 

 その後、のどかに触発された委員長が銅像を出してアスナに文句を言われじゃれ合ったりと何時のクラスのノリになっていた。

 

 そんな時、珍しくタカミチから念話がきた。

 

『あの、アレイさん相談と言うか、聞いてほしいことがありまして』

 

『…ふむ、でなんだ』

 

 タカミチが言うには先ほど、ネギがのどかを助けた際に生徒に魔法バレをしてしまったらしい。

 

 何でも魔法を使った瞬間を買出しに出ていた春日美空(かすが みそら)と佐々木まき絵に見られていたそうだ。

 

 幸いだったのが美空は(あまりの影の薄さに忘れていたが)魔法生徒ですぐさま杖とネギを抱えて物陰にダッシュしたそうだ。

 

 物陰に下ろされたネギは錯乱にしていたのか自分から魔法使いの事を暴露して秘密にしてほしいと懇願したらしい。

 

 美空はその際、自身も魔法使いだと言いたくないが、言おうとしたらしいのだが後ろからの、

 

「へ~、ネギ君って魔法使いだったんだ」

 

と、言う声に止められたそうだ。

 

 美空が錆びたブリキの玩具の如く後ろを振り返ったらまき絵がたっていた。

 

 不幸だったのは美空の常人離れした健脚について来れる運動能力が一般人のはずのまき絵にあった事だろうか…。

 

 まき絵自身は秘密を守ると快諾していたそうだが…。

 

 そこにタカミチが来て、ネギ達を言いくるめて取り敢えず三人を教室に行かせたそうだ。

 

 その後、タカミチは学園長に報告。

 

その際、学園長はそれぞれの自由にさせなさいと指示したそうだが、こんなに早く魔法バレするとは思ってもいなかったらしく声が引きつっていたそうだ。

 

 それで美空はたっての希望でネギに係わらない様に記憶を消して貰ったと伝えてくれと頼まれたそうだ。

 

 まき絵の方は取り敢えず様子見ということで秘密が漏れないことを祈るばかりという感じか。

 

 それでタカミチの相談というのはこのまま何も知らない生徒たちを巻き込んでいいのだろうかというものだった。

 

 今になって迷いが生じてきたらしい。

 

『良いも悪いも、それは本人が決める事だろう。お前がどうこう言う話じゃない』

 

『ですが、本国の計画で!!』

 

『選ばれたのも、そいつの運命であり人生の一部、その後どうするかは本人しだいだ』

 

 タカミチは納得したかどうか分からないがそこで念話が切られた。

 

   ◆

 

 歓迎会も終わり食事の準備もできた頃、ログハウスにユエが飛び込んできた。

 

 何でものどかがネギに恋をした?らしく私は如何すればいいのですかぁと俺に言ってくる。

 

 取り敢えず俺は落ち着かせるために軽くユエの額を小突く。

 

「あぅっ!」と頭を仰け反らした後、額を両手で押さえて口をぺけ印にして恨みがましくこちらを見てくるユエ。

 

「それで、どうした」

 

 ユエ曰く、男性恐怖症ののどかが興味をしめし、恋する乙女の表情をしていたそうだ。

 

 人間としてはまだ分からないが、ネギは魔法使いとして未熟すぎて親友の恋を応援していいものだろうか。

 

と、いうのがユエの想いだそうだ。

 

「…本人の好きにさせてやれば良いだろうに」

 

と、いう俺の答えにユエが噛み付いてくる。

 

「ですが、この前、赴任してくる先生は魔法世界の政治に関係が有ると言っていたではないですか。このままではのどかが―――」

 

 要するに俺達から事前情報を聞いていた限りでは、後々厄介事に巻き込まれていくのが目に見えている。

 

 だが、子供で未熟な魔法使いのネギでは親友を守れないと言う事だろうが。

 

「お前が言えた義理ではないだろうに…」

 

 俺はそういいながらユエを抱き寄せキス手前まで顔を近づけ頬を撫でる。

 

 自身の考えをずっと口にしていたユエは抱き寄せられ顔をリンゴの様に真っ赤になり、「あぅあぅ」言いながらもしっかり俺の服を掴んできた。

 

「…ユエ。…ネギよりも何倍も厄介な俺の所に自分の意思で来ておいて友の事をどうこう言える資格があるともう思うか」

 

 俺の腕の中で真っ赤になっていたユエが途端にしゅんとして、

 

「・・・ないのです」

 

 そう口にしたユエが今にも泣きそう顔になり目に涙を溜めだした。

 

 どうせこいつの事だ、自分の中でネガティブな方向にまっしぐらと言った所だろうか。

 

 ユエのこういう表情は中々にそそるものがあっていいのだが余りこのままにして置くと使い物にならなくなる。

 

 故にそこそこで切り上げる為、ある程度堪能してから精神を引き上げてやる。

 

「…そんなに不安なら有事の際に手を貸してやればいい」

 

「いいのですか」

 

と、さっきまでの泣きそうな顔が嬉しそうに微笑んでいた。

 

「ユエの好きにするといい」

 

余談だが、俺達の会話と言うか体勢を羨ましそうに数人が見ていたとか、いなかったとか……。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吸血鬼、薬味を襲う計画を受ける

 

 明日から新学期、アスナたちは三年に上がり俺の契約は後残すこと一年となった。

 

 その間に俺達には大きな事件などはなかったがネギは大なり小なり事件を起こしていて、タカミチとユエがやきもきしていた。

 

 特に印象的だったのは期末テスト前の図書館侵入事件だろうか。

 

 これには少なからず学園長も関与していたが、それは後で話すとしよう。

 

 概要としては、学園長が魔法ばかりに頼るネギに魔法以外の解決法を模索させる為の試験を課す事から始まる。

 

 試験内容としては学年順位の向上だったとか……。

 

 そうなった理由としては大抵の事は魔法に頼るネギだが流石に生徒に対して安易に魔法を掛けないじゃろう。と、学園長は思ったからだそうだ。

 

 もしも掛けようとした場合、タカミチの幻影を使い説教する予定だったらしいが、委員長やまき絵がいいタイミングで割って入り使わなかったそうだ。

 

 そして、試験を課すと決めて学園長は難易度調整の為、二つの噂を流した。

 

 一つ目は、効率よく学習ができる場所が図書館島にある事。

 

 二つ目は、この頃の学生の学力低下を学園長が嘆いていると言うものだったらしい。

 

 一つ目はネギが生徒を誘って勉強会を開くことを狙って、二つ目は少しでも生徒のやる気向上を狙ったそうだが、……愚策と言うか、悪手だった。

 

 なんせ、この噂は生徒に耳に入る頃にはかなり捻じ曲がって伝わってしまったのだから。

 

 まず、一つ目は図書館島深部には読めば頭のよくなる本がある。二つ目は学園長が怒っていて学力の低い生徒を集めたクラスを編成するという具合に噂が変異していた。

 

 それを聞いた学園長は机に突っ伏し長い頭を抱えたそうだ。

 

 で、悩んだ末に、もう発してしまったものはどうしようもないという事で、急遽、学園長と、とある古本な司書が大慌てで図書館島を整備したとか。

 

 それで生徒に噂が流れてきて特に慌てたのが三羽烏(さんばがらす)ならぬ三バカ烏の長瀬楓(ながせ かえで)、クーフェイ、佐々木まき絵だった。

 

 元々はこれにユエが加わりバカ四天王だったのが一年の時にユエが抜けた事によりこう呼ばれる事になった。

 

 その際、周りからどんな勉強をして抜け出したのか聞かれていたがユエは顔に縦線が入って、ガタガタ震えるだけで一切話さないそうだ。

 

 それもそのはず、中間で赤点を取ったことを知って黒くなったエセルがユエを調きょ・・・、もとい、拷も・・・、独自の勉強法でしばらく面倒を見ていた。

 

 何でもアレイの元にいる人間がそんな事では困るという理由で。

 

 その事を知ったアスナ達は絶対悪い点だけは取るまいと誓い合ったとか……。

 

 そんな感じでパルにそそのかされ、図書館島に本を取りに行く潜入部隊が編成された。

 

 内訳は三バカ烏に、連絡員として噂の大本のパルことハルナ、まき絵に巻き込まれたネギとパルに説得され保護者として付いて来た暴走委員長、そして、地上班のユエとのどか。

 

 この後は基本的に原作通りに話は流れて行く。

 

 ちなみにツイスターは某古本の趣味だったとか……。

 

 その後、ネギ達が行方不明になり何故かアレイまで一緒にクビになるという話が出てまた学園長が血の海に沈む事になったのは別の話。

 

 その際、学園長のそばにはバットやトンカチ、広辞苑が落ちていたそうだ。

 

 その後もネットアイドルバレ事件やらもあったが、ネギはもう一つ大きな失敗をした。

 

 まあ、これはネギの所為ではないのだが魔法学校のネギの従姉妹からの手紙が委員長の部屋宛で来てしまい、それを委員長が見てそこから魔法バレに発展。

 

 更に手紙の中身を一緒に見て委員長がパートナーに立候補したり、寮内でこの話が広まり大騒ぎになってしまったりと事件に事欠かなかった。

 

 そう言えば事件と言うほどの事ではないがエヴァが珍しく学園長からの依頼を受けた。いや、依頼として受ける事になった

 

 その依頼内容はネギにパートナーの重要性と実戦とはどういうものかを教えてやってくれんかと言うものだ。

 

 だが、この依頼は、元々は依頼などではなく、とある愚かな教師が持ってきたMM本国からの指令が発端(ほったん)だった。

 

   ◆

 

 この依頼を受けた際、アレイ立会いの下、タカミチも含め4人と一冊で話し合いの場がもたれたのだが……。

 

 今回の件はどうも学園長が預かり知らぬ所で新参者の魔法教師が本国とやり取りしていたらしい。

 

 しかもつい先ほどその教師が本国から指令書を預かってきたらしく、得意げに持ってきたそうだ。

 

 その内容というのがネギに協力して吸血鬼エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと対決させよと言うものだったらしい。

 

 タカミチ曰く、それを見た学園長は余りの事に真っ白になっていたそうだ。

 

 教師が言うにはエヴァは<女子供は殺さない>と言う話を本国が目を付け、ならばネギと軽く対決させて生き残らせて『凶悪な吸血鬼と引き分けた』と、喧伝する気なのだとか。

 

 実際はこの教師が本国の議員に取り入り適当な事を言っていたらしい事が後々分かった。

 

 このバカな考えには色々と穴があるが本国は本気らしい。

 

 ちなみにこの策が上手く行けば教師は本国に栄転できるとかで張り切ってお膳立てしたそうだ。………事後承諾で。

 

 まあ、要するに桜通りの吸血鬼の噂はこいつの所為という事だ。

 

 この噂には俺達も気付いていたのだがエヴァが何かしている訳でなし、ただの噂だろうと高をくくっていた。

 

 もっとも、幾人かの過激派はエヴァの事を疑いだしたらしいが……。

 

 その所為もあって、事の次第を話す学園長の煤けた顔がすごい事になっていたが此方の知った事ではない。

 

 ちなみに、その教師が言う女子供を殺さないと言うのは事実だが真実ではない。

 

 この話は昔、エヴァに襲い掛かってきた賞金稼ぎが男ばかりだっただけの事で、今でも襲われたら老若男女関係なく返り討ちだそうだ。

 

 要するにエヴァに襲い掛かればネギだろうが何だろうが命はない。

 

 特に此処の所、エヴァは満ち足りた生活をしていて大人しくしていたのだ。

 

 それを破ろうと言うのだから命だけで済めばいい方といった感じだろうか……。

 

 ただ、幸いだったのがこのタイミングでこの話を持ってきた事だ。

 

 なんでも学園長の持ち物で個人的に欲しい物があるとかで先の依頼内容でなら依頼として受けてもいいとエヴァが言ったお蔭でこの話は丸く収まった。

 

 本当ならば、契約違反という事で色々出来るのだがエヴァとしても今の生活が気に入っているのか余計な波風を立てたくない。と、言うのがエヴァの本心だろう。

 

 ちなみに報酬は学園長秘蔵の幻の日本酒『魔王・極』と『びようじょ』だそうだ。

 

 まあ、要するにネギの命は日本酒二本で助かったと言う事に……。

 

 一本前払いで渡していたがその際の無念そうな学園長が印象的だった。

 

 後日、アレイと二人きりで温泉で飲んだそうでかなりの美味だったと惚気と共にエヴァに聞かされ学園長がいろんな意味で打ちひしがれていたそうだ。

 

 

   ◆

 

 

 現在、とある昼下がり、ログハウスのリビングでお茶をしているのだが。

 

 その際、今夜クラスメイトの誰かを襲い、明日にでもネギを誘き出して、取り敢えずパートナーの重要性を教えようと考えているとエヴァが言い出した。

 

 要するにそこで誰を襲うべきだろうかと相談を持ちかけてきたのだ。

 

 アスナと木乃香、ユエは流石にクラスメイトを襲わせる訳にはいかないと自分を襲えといっているのだが、エヴァ本人としては刹那が気に食わないから襲いたいらしい。

 

 何でも幸せが目の前にあるのにウジウジ悩んでいるのが気に食わないとか。

 

 それ理由を聞いてアスナ達は苦笑していたが木乃香は冗談で「せっちゃん!にげて~!」と叫んでいた。

 

 そんな中、俺は美空とのどかを推す事にした。

 

 それに対して、ユエが「なんでなのですか!」と噛み付いてくるので理由を解説する。

 

「のどかに関してはただのお節介、もし襲われればネギの人柄的にお見舞いに行くだろう。何かしら恋に発展もありえるかもしれないぞ」

 

 悪魔の囁きの様に然(さ)も魅力的な事のように語るアレイ。

 

 アスナ達も実際には危険がない事が分かっているが精神的のどうなの?と、少々渋い顔をするが、乙女的には看病されるのもいいかも、と仕切りとうなずいている。

 

 その時のユエは頭を抱え色々考えているのかコロコロ表情が変わって面白い。

 

 のどかを推した本当の理由はこうしてユエを弄ぶ為だったりする。

 

 まあ、ネタにする報酬として微量のお節介が混じっているかもしれないが……。

 

「美空を推したのはただの仕返しだ」

 

 少々黒さが目立つ笑み浮かべるアレイがそう語る。

 

 この理由を聞いた瞬間、全員小首を傾げの頭の上に?マークが飛び出す。

 

「美空は俺やネギに悪戯をよくして来るのだが大事(おおごと)が嫌いなのかネギを避けている節がある。それで仕返しにエヴァをけしかけて見ようと思ってな」

 

 要するに仕返しの為だけにこの男は「魔法世界のナマハゲ」をけしかけ様としているのである。

 

 エヴァはそれを聞き少々考えた後、それはそれで面白そうだとニンマリ笑った。

 

 アスナ達もそれを見て、「ああ、これは本決まりだ」とここにはいない美空に黙祷をささげた。

 

 余談だが、この時、教会に居た美空は言葉に出来ないような悪寒に襲われたとか……。

 

   ◆

 

 エヴァ達の方針が決まりすぐさま学園長から、美空に今晩桜通りに行くように指示が出された。

 

 その際、学園長の声が心地弾んでいたらしいが恐らく勘違いではないだろう。

 

 なにせ、遊びが多分に含んでいると聞いて嬉々として見学に行くと言っていたぐらいだ。

 

 ちなみに指示の内容は噂の調査。

 

 その際、美空には時間が指定され特殊な人払いの結界が張ってあるが気にせず調査するようにと注意される。

 

 この結界は確かに人払いの効果もあるが主要目的は特定人物が入ったら空間をずらして異空間へと隔離するというものだ。

 

 簡単に言ってしまえばどこぞのループ空間の様な物だ。

 

 そして今、俺達は上空から結界に入ってきた美空が俺達の下を何か呟きながらビクビクしながら歩いているのを観察している。

 

「さて、そろそろ行って来るとしよう」

 

 言葉を残しエヴァが俺達から離れ下りていった。

 

 ちなみに今のエヴァの格好は大人モードである。

 

 これは茶々丸の調べで、怪談のように語られているエヴァは美女なのだそうだ。

 

 さらに余談だが、エヴァはこの大人モードに抵抗があるらしい。

 

 この世界のエヴァはアレイの本妻の年恰好があれな所為か幼女姿のほうが良いと思ってる節がある。

 

 まあ、実際所、アレイは容姿自体にそこまでのこだわりは無いらしいのだが……。まあ、この話は置いておくとしよう。

 

 そうこうする内にエヴァが美空と接触した。

 

 影から静かにエヴァがせり出し、美空の後ろに立ったのだ。

 

「ほ~う、今夜の獲物は一段とイキが良さそうじゃないか……」

 

 後ろから掛けられた、その声に美空がビクッと反応し恐る恐る振り返る。

 

 そこにはニィィィとばかりに頬を吊り上げ目の色が反転している伝説の吸血鬼の姿があり、それを見た美空は余りの恐怖に凍り付いてしまった。

 

 その美空を見たエヴァはゆっくり手を伸ばしながら面白そうに声を掛ける。

 

「…どうした、逃げないのか」

 

 そして、エヴァが一歩踏み出した瞬間。

 

「ぎゃぴぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

と、なんとも乙女に有るまじき叫び声を上げ美空の足元が光ったと思ったら尋常じゃない瞬発力と速度で逃げていった。

 

 その余りの速さにエヴァはおろかアスナ達でさえポカーンとしている。

 

 おそらく靴のアーティファクトなのだろうが走る事に関して凄まじい性能だ。

 

 もっとも、いくら走って逃げようが学園を再現したこの異界からは抜け出す事はできない。

 

 しかも、エヴァは先程使ったように影を使った転移が使える。

 

 何処に逃げても変わりはしないだろう。

 

   ◆

 

「…なんなんスか。あれは」

 

 学園長から直接指示された時点でなんか嫌な予感してたけどこれはないっスよ。

 

 吸血鬼の噂調査って、……アンタあれマジもんの吸血鬼じゃないっスか!

 

 あれの前じゃシスターシャークティーが可愛く見え…、いや、どっちも怖いか……。

 

 取り敢えずあれだけ離れれば直ぐには、

 

「……なんだ、もう終わりか」

 

 追ってこれないとかちょっとでも思った私はアホでした。

 

「神様!いったい私がなにをした~~!!」と、心の中で叫びつつ私は本日第二の激走を開始した。

 

   ◆

 

「それにしても、ものすごい逃げっぷりね、美空ちゃん……」

 

 引きつった笑みを浮かべちょっと気の毒そうな声を出すアスナ。

 

「あれはしゃーないって、エヴァちゃんがノリノリで脅しに掛かっとるんやし」

 

 それに対しいつもの通り朗らかなコノカ。

 

「マスター、楽しそうですね」

 

と、茶々丸はどこか嬉しそうに言う。

 

「まあ、脅かす側としてはあれだけ反応してくれれば面白いでしょう。美空さんには同情するですが……」

 

 表情的にいつもの通りなのだが少々気の毒そうに美空とエヴァを観察しいているユエ。

 

 その後、逃げ回る美空を追い掛け回し精根尽き果てた所で吸血したのだが……。

 

「……うっ、マズ!」

 

と、言うのがエヴァの久しぶりの吸血行為の感想だったとか。

 

 日頃はアレイの血に手を加え、ワインで薄めて飲んでいて、それと比べるとドブ水なんじゃないかと言う位酷かったらしい。

 

 その言葉が美空に聞こえていたかどうか分からないが、涙を滂沱の如く流し、真っ白に煤けて気絶していた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吸血鬼、薬味を誘い出す

 

 

 美空が生贄に捧げられた翌日。新学期開始。

 

「三年!A組!!アレイ&ネギ先生―♡」

 

と、いう具合に新学期早々、相も変わらずウチのクラスはなんとも軽いノリである。

 

 俺とネギが抱負を述べ、その後、身体測定となったのだが、そこでネギが「今すぐ脱げ」という感じの事を言ってしまい生徒たちに弄られていた。これも何時もの光景である。

 

 弄られてネギはそれに耐え切れず教室を飛び出した。

 

 それで飛び出したネギの後を追うように俺も教室を出て職員室でお茶でも飲むかと思っていたら、何故かネギに呼び止められた。

 

 なんでもエヴァの事を聞きたいそうだ。

 

 どうも先ほどエヴァが挨拶代わりに軽く睨んでいたのが気になったらしい。

 

「それでエヴァの何を聞きたいのかね。教師としての評価かね。それとも一緒に暮らすモノとしての評価かね」

 

と、学校用のアルカイックスマイルを浮かべて訊いてみる。

 

「…じゃあ、一緒に暮らす人としての評価をおねがいします」

 

 人ではなくモノなのだがね、俺は……。

 

「…そうだな、愛らしい娘(こ)と言った所か」

 

「愛ら…!」

 

と、どう考えたのかネギが真っ赤になっている。

 

「昔からがんばっていて面倒見もよく身内にやさしい良い娘だよ。反面、苛烈な所もあるから気を付けたまえ」

 

 そんな事を言っていたら保険委員の和泉亜子(いずみ あこ)が叫びながらこちらにやってきた。

 

「先生ーっ大変やーっ美空がー」

 

 その声に反応したのか下着姿の生徒たちが廊下に出てきて俺とネギに気付き『きゃーきゃー』言っていたがこのクラスではよくある事だ。

 

 休憩時間に生徒とネギが連れ立って美空の様子を見に行く。そこには真っ青な顔をした美空が保健室のベッドに寝かされていた。

 

 何でも桜通りに寝ていたのを発見されてからずっと「ナ・ナマハゲ・・」と、うなされているそうだ。

 

 その際、エヴァがわざわざ残していた魔力を、ネギが感知していたようなので確実に釣れただろう。

 

   ◆

 

 そして放課後、アレイと茶々丸、アスナの目の前で盛大な追い駆けっこをネギとエヴァが行っている。

 

 派手に魔法を打ち合っているがエヴァが認識阻害を行ってなければネギはオコジョ直行だろう。

 

 二人から視線を外せば襲われかけて気絶したのどかを運ぶコノカとユエ、そして、ネギの後を追う委員長とまき絵の姿も見える。

 

 一応はエヴァの計画通りだろう。

 

 そのエヴァはナギをダシにしてネギを挑発しつつ予定の場所へ誘導していく。

 

 計画としては、この後、茶々丸を投入してパートナーの何たるかを説いて第三者の介入を切欠に引く予定だ。

 

 ちなみにこの茶々丸、二年間をフルに使い、アレイとチャオ、ハカセの合作により色々と突き抜けたボディーになっている。

 

 特に某西博士の研究資料を開示した事により、見た目ほぼ人と変わらない身体となった。

 

 研究資料を見たチャオとハカセは余りのマッドっぷりに感心するやら恐ろしいやらで、震えていたが、そのおかげで研究が大幅に進んだそうだ。

 

 そのボディーの所為なのか、この頃の茶々丸は色々と情緒が成長してきているようだ。

 

 二人で出かけた時にいつの間にか俺の服を摘んでいたり、茶々丸個人の秘密が増えた。

 

 ちょっと前までならオーバーホールなどで俺が立ち会っていたりもしたが、この頃は恥ずかしいらしく俺の知らない内に済ませていたりし出した。

 

 そして、茶々丸はその事をチャオやハカセに相談したそうだ。

 

 その所為で二人は狂乱して茶々丸の記憶を覗き見て茶々丸を暴走させたりしていた。

 

 結論として、誰かに茶々丸は恋をしているらしい。と、ニヤニヤしながらチャオが言って来た。

 

 ちなみにこの頃は茶々丸にせがまれのゼンマイを巻くことが多くなっている。

 

 余談だが、この暴走の所為で麻帆良大学工学部が甚大な被害を被(こうむ)り、その被害額に学園長が涙したそうだ。

 

 そんな事を考えている内に茶々丸の出番が来た。

 

「茶々丸、確(しっか)りやって来い」

 

 そう俺が声を掛けたら茶々丸は心地嬉しそうに顔をほころばせ。

 

「はい」

 

と、返事して出て行った。

 

 茶々丸がいなくなったとたんアスナが腕に抱きつきジト眼で見上げてくる。

 

「なに、ユエの次は茶々丸なの……」

 

と、すねた感じに頬を膨らませ、更に身体を摺り寄せてくる。

 

 俺は軽く微笑んで頭を撫でてやる。

 

「……そんなんじゃ、誤魔化されないもん」

 

 とか言って剥(むく)れたままだったが頬を赤らめ、何かをねだる様に潤んだ瞳でアレイを見上げるアスナ。

 

 アレイは頭を撫でていた手を止め、アスナを優しく抱き寄せ前髪を払った後、頬にてそえた。

 

「……嫉妬か、相変わらず可愛らしいなアスナは」

 

 そう呟きながらアスナの唇を優しく触れるようにキスをする。

 

「…ぅん……私もエセル達の後から割り込んだんだから、人の事の言えないってのは分かってる積もりなんだけどね」

 

 そうアスナはすねる様な、照れる様な、恥じるような声を出してアレイの胸に顔を埋(うず)めギュッと抱きつく。

 

「……気にするなそういう姿も愛(いと)おしく、そそられる」

 

 胸に埋めていたアスナの顎を上げさせ、アレイがその唇を貪(むさぼ)る。そんな行為を受け入れるようにアスナは唇を半開きにして舌を迎え入れる。

 

「…んぅふ、ぴちゃ……ちゅくっ…うぁ…」

 

 口の中を蹂躙されるアスナは顔を蕩けさせ、先ほどまでギュッと抱き付いていた身体を弛緩(しかん)させ随喜(ずいき)の涙で瞳を潤ます。

 

最後には、首まで真っ赤にしたアスナが「う~~」と悔しそうに唸りながらも、結局、有耶無耶になった。

 

 そして、この後のエヴァ達は計画通りに進み、最終的に現れた委員長たちがエヴァと茶々丸に詰問するが、それに答えず撤退。その後、委員長たちにネギが泣き付くという感じに幕切れした。

 

 これは蛇足だが、エヴァのネギに対する評価をみんなの前で聞いた所、一言目にファザコンと口にしてみんなの顔を引きつらせた。

 

 魔法使いの評価は見習いにしては良い方。

 

 ただし、変な成長をしているらしく使っている魔法の難度に比べ術や魔力の効率化や制御が下手すぎるとの事。

 

 たしかに戦闘方法も生まれ持った魔力と頭でっかちな知識に頼るごり押しらしく戦術のせの字もなかった。

 

 それら所為で特定の新体操部員やネットアイドルがキャストオフ芸をする羽目になっているとか……。

 

   ◆

 

 翌日、委員長がエヴァ達に話しを訊きに来たそうだ。

 

 何故、ネギ先生を襲ったのですか?という問いにエヴァがお前には関係ないと切り捨て、係わるならそれ相応の覚悟をしろと脅して置いたそうだ。

 

 ちなみにネギは委員長とまき絵に連れられて教室に入ってきてエヴァ達を見て震えたり、俺を複雑そうな顔で見たりと忙しそうだった。

 

 その後もネギが授業中に「年下のパートナーは嫌ですよね」発言をしたり、放課後、オコジョのペットを飼ったりと色々あった。

 

 次の日、噂のオコジョを肩に乗せネギが出勤してきたが何故かそのオコジョ、俺に対して敵意を込めた視線を送ってきた。

 

 その瞬間、俺の頭の上に乗っていたプチ・エセル(デフォルメ・エセル)が漆黒の覇気(オーラ)を出しながら、『今夜の晩餐はカモ鍋にしましょうか』と、ぼそりと呟くと野生の感だろうか。

 

 オコジョには、エセルの姿は見えたり、声が聞こえたりしていないはずなのだがオコジョはネギの懐に入りガタガタ震えだした。

 

 その後、その小動物が暗躍して何故かまき絵とネギが仮契約をしてしまったらしい。

 

 後日、その事を知った委員長が悔しがったそうだ。

 

 更に次の日の放課後、ネギとまき絵の二人がこそこそと茶々丸を追いかけているのをアレイは発見した。

 

 プチ・エセルに様子を探らせてみたら、オコジョがエヴァ達を各個撃破するようにそそのかしたらしい。

 

 どうも、あの小動物は彼我の戦力差が分かっていないようだ。

 

 エヴァは勿論の事、今の武装していない茶々丸でもタカミチレベルを持ってこないと勝てはしない。

 

 俺は茶々丸に連絡(念話)を取りネギたちの相手をするように言っておく。

 

   ◆

 

 とある広場でネギ達は茶々丸に接触した。

 

 どうやら説得を試みたようだが無駄である。

 

 茶々丸はアレイやエヴァからネギやクラスメイトの事を思うならトラウマになる位に痛め付けた方があいつ等の為だと囁かれている。

 

 実際そこまでする積もりはないが、アスナ達の修行を見て優しさと甘さは違うのだと思っている茶々丸。

 

 故に、茶々丸は二人を余り傷付けずに完膚なきまでに叩くつもりでいた。

 

「佐々木まき絵さん…いいパートナーを見つけましたね。……ですが、あなた方では私に勝つ事は出来ないでしょう」

 

「そんな事やって見ないと分かりません」

 

と、ネギが言い放ち。

 

「契約執行!90秒間!ネギの従者『佐々木まき絵』!!」

 

 ネギがまき絵に魔力を充填してまき絵が茶々丸に爆発的な速度で駆け寄っていく。魔力充填していたとしても素人では考えられない速度だ。

 

 その間にネギは攻撃魔法の準備を始める。

 

「えーいっ!」とまき絵がデコピンをしようとしているが、……舐めているのだろうか…。

 

 もしかしたらまき絵は魔法使い同士の戦い=殺し合いと理解していないのかもしれない。

 

 もっとも治癒魔法も発達している所為で驚くほど致死率は低いのだが……。

 

 茶々丸はデコピンをしようと伸ばしてくる腕を絡め取りネギの後方に向かって投げ飛ばす。

 

 背中から落ちるように調整したのか派手に投げ飛ばされたにしては大したダメージはなさそうだ。

 

 激しく咳き込んではいたが……。

 

 まき絵が投げ飛ばされた瞬間、ネギの手からそれを迂回するように11本の魔法の矢が放たれた。

 

 これでいいのかとネギは逡巡するが、その時には茶々丸をその場から消え失せ。次の瞬間にはネギは杖を奪われ地面に叩きつけられていた。

 

 茶々丸は瞬動術を使った訳でも転移した訳でもない。ただただ、自身の身体性能を駆使し駆け寄っただけだ。

 

 茶々丸は奪った杖を咳き込むネギのノド元に突き付ける。

 

「ネギ先生、もっと自覚してください。魔法使い同士の戦いは殺し合いと変わらないのです。もっと熟考し慎重に動く事をお薦めします。でなければ、総てを失う事になってしまいますよ。……では、私はこの後用事がありますので」

 

 ネギの横に杖を置きペコリと頭を下げ茶々丸は去って行った。

 

 その後、ネギは真っ暗に沈み込むが、まき絵の持ち前の明るさで慰めつつ保護者の委員長にやった事を話して相談する。

 

「この!おバカオコジョ!なんて事をネギ先生にやらせるのです!!」

 

 あやかはカモを掴み上げてぶんぶん振り回す。

 

「あぶぶぶぶっ。で、でも今回は仕方なかったんです。お嬢」

 

「何が仕方なかったですか!もしエヴァンジェリンさんが最強クラスならその従者の茶々丸さんも最低でも足手まといにならない程度に強いと、ちょっと考えれば分かるでしょうが!!」

 

『…あっ』と二人と一匹は今気付いたと呆然としていた。

 

「まったくもう。……それにしてもお二人とも何故あのような事をおっしゃったのでしょうか……」

 

 まるで何かを指導しているようですわ……。

 

 それにネギ先生はお命を狙われているとおっしゃっていましたが、あのお二人が本気だったならもう命は無かったでしょう。

 

 更に言うならここ麻帆良はネギ先生の様な魔法使いの修行の場。

 

 そんな場所にそんな危険人物を放置しておくでしょうか……。

 

「……明日、エヴァンジェリンさんの保護者の方にお話を伺(うかが)いに言ってきます」

 

 カモが止めるがあやかは無視し、ちょっと躊躇してからアスナに電話を掛けた。

 

 余談だが、あの後の茶々丸は勝ったご褒美としてねだった、アレイと二人きりでのショッピングを楽しんでいた。

 

 

   ◆

 

 

 翌日、アレイは休日だと言うのにアスナに連れられて学校の進路指導室に来ている。

 

 そこには委員長こと雪広あやかが待っていた。

 

「クロウ先生。休日にお呼び出しして申し訳ありませんわ」

 

「アスナが何も言わずについて来てと言うから来て見れば、……やはりお前か雪広あやか」

 

と、アスナの方を見た後、あやかをちらりと見る。

 

「うっ…いいんちょにあんなに頼まれると断り辛くて……」

 

「……ふぅ…あとでコノカに言っておけ、好きなおやつを取り上げられた様な顔をしていたぞ」

 

「うわっ!今日コノカの番だっけ!ちょっと電話してくるー!!」

 

と、アスナは慌てたように部屋を駆け出していった。

 

 あやかはアレイ達のやり取りを、眼を白黒させながら見ていた

 

 アスナの態度や台詞にも驚いたが、一番驚いたのはアレイの口調と雰囲気がガラリと違うことだろう。

 

 例えるなら学校でのアレイは好青年風と言うべきか黒さが少ないが、今のアレイは悪役で黒いなにかが滲み出ている。

 

 ちなみにあれは一種の遊びとしてやっているだけで深い意味は無い。

 

 強いて上げるなら今の委員長の様に驚く顔を見るためだろうか……。

 

 更に言うと生徒たちに受けはいいがエヴァ達の受けは悪かったらしい。

 

「それで、何を驚いているかは予想がつくが…、何を聞きたいんだ。エヴァの事ならネギのペットの下等妖精に調べさせれば分かるはずだが」

 

「そうなのですか?」

 

「ああ、エヴァは昔から色々悪名高いからな、中々に面白いから調べるといい」

 

 アレイがニヤリと黒い笑みを浮かべて委員長を促す。

 

「分かりました。帰宅したら調べてみますわ。それでお聞きしたい事はエヴァンジェリンさんの目的ですわ」

 

「ふむ……、それを聞くと言う事は、目星は着いているのだろう。言ってみろ、正解なら色々質問に答えてやる。不正解なら・・・…、そうだな、教師生徒の仲だ。忠告ぐらいはしてやろう」

 

 ニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべるアレイ。

 

「……私が考えついた答えは、エヴァンジェリンさん達は魔法使いの指導員か試験官なのではないかというものですわ」

 

「…当たらずといえども遠からず、と言った所か。大方、魔法使いの修行場所に凶悪な吸血鬼が野放しになっているはずが無いとでも考えてその答えに行き着いたのだろ」

 

 あやかはコクリとうなずいた。

 

「……その考え方は逆なのだが今は関係ないから置いておく。一応、不正解と言う事で忠告だが、……あれだけ語ったんだ。命の保障はされているのは勘付いたはずだが?」

 

「…はい」

 

「それを踏まえた上で忠告だ。保障されているのは命だけだ。……故に足掻け。全力で…、なりふり構わずに…」

 

 あやかはその言葉を正しく理解したのか真っ青になっていた。

 

「……あのクロウ先生、魔法使いの世界では子供にそんな試練を与えるのが普通なのでしょうか」

 

「……その問いの答えを俺は持っていない」

 

 その後、あやかはお礼を言ってフラフラと帰っていった。

 

 帰宅中のあやかは色々考えネギの手助けをしようと決意したようだ。

 

 帰宅後、顔色が悪かった所為か心配されたが取り敢えず言われていた事をカモに調べさせる事にした。

 

 そこで分かった事は現在1600万ドルの賞金首で悪の秘密結社の幹部の疑いが濃厚という物だった。

 

 それを見たカモが錯乱して不用意な事を言ってしまった為、ネギが失踪してしまう。

 

 ちなみにアレイが面白いと言ったのは、ネギが失踪してしまった所為で気付かれなかったが、ここの所の二、三年の大きな事件がエヴァの所為にされている事だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吸血鬼、薬味をいたぶる

 

 週明け、ネギは何故かすこぶる元気になっていた。

 

 元気なのは別にいいのだが、朝、クラス全員の前でエヴァに果たし状を叩き付けるのは如何なのだろうか……。

 

 しかも、「僕が勝ったらお父さんの事を教えてください」って大声で言ってしまった物だからクラスは騒然としてしまった。

 

 エヴァはポッカーンとしてしまい、その隣にいた茶々丸もオロオロとして俺にすがる様な視線を向けてくる。

 

 仕方ないので俺と委員長で収集をつけたが変な噂が蔓延する事になった。

 

 例えば、エヴァがナギの娘だったり、後妻だったり、中には真実に限りなく近い物もあったが…。

 

 その所為でエヴァは機嫌が悪い。

 

 あのノーテンキなクラスでもアレイ達以外近づかないくらいに不機嫌なオーラが充満している。

 

 昼休み屋上で何時も通りのメンバーで食事をしていたのだが食べ終わったとたんエヴァがアレイの足の上に乗り甘えて抱きついて来た。

 

 普段ならアスナ達のけん制が入るのだが流石に今日は苦笑して見ているだけにしたようだ。

 

「なんなんだ!あれは、ほんとに隠す気はあるのか!」や、「日本酒二本じゃ割に合わん」などなど、猫の様に顔やらをアレイに擦り付けながら愚痴るエヴァ。

 

 その後、委員長たちに連れられた少し萎れたネギがエヴァに謝罪しに来て、後日の大停電の日に決闘する事が決まったのだが……。

 

 アレイの上から退かないエヴァとネギの掛け合いを見て全員ホッコリしていた。

 

 

   ◆

 

 

 そして、大停電の晩 麻帆良大橋

 

 そこには魔法薬などで完全武装したネギと委員長とまき絵。

 

 それに相対するように白いゴスロリドレスのエヴァとチャオ謹製の軍用服を着た茶々丸が立っていた。

 

 エヴァと茶々丸は大人気ない位に本気モードである。

 

 それもそのはず、決闘が決まった日の晩の事、エヴァが「これで勝利と美酒は私の物だ」と高笑いしていたのをエセルに聞かれ、

 

「では、少しでも不甲斐無い結果になれば再教育です」

 

と、黒い笑みを浮かべたエセルに通達されたもんだから気合の入り方が違う。

 

 俺、アスナ、コノカ、ユエは大橋の最上部に立って観戦する事に。

 

 その中でも特にコノカは治癒魔法要員として頑張ってもらう予定である。

 

 心配そうなアスナが委員長の方を見て、

 

「それにしても気合は入りすぎじゃない。あれじゃ下手したら殺しちゃうんじゃ…」

 

と、言うがコノカがいつも通りの朗らかな顔で、

 

「うーん。だいじょぶやろ、うち等の中じゃ手加減が上手いんやし。それに何かあってもうちが治したるえ」

 

と、宣言する。

 

「確かにエヴァさんは私達と比べ技量がずば抜けて高いですから……」

 

 ゴーヤ青汁オ・レなる物を啜(すす)りながらつぶやいているユエ。

 

 そんな事を言っている間に開戦。

 

 エヴァは詠唱を開始しながら中空に飛び上がり、茶々丸は委員長たちに向かって駆け出す。

 

 ネギ達は、まず三人で茶々丸を無力化する積もりなのか、ネギは魔法薬を投げ付け、魔力充填されたあやかとまき絵が突っ込んでいく。

 

 茶々丸がその程度で止まる訳も無く魔法薬を掻い潜りあやかとまき絵の腕を掴んで遠くへ投げ飛ばし自身も追いかける。

 

 ネギも「いいんちょさん!まき絵さん!」と叫び追いかけようとするが目の前に氷の壁が立ち上がり追いかけられない。

 

「さて、これで一対一だ…。覚悟はいいか小僧…」

 

と、エヴァが眼の色を反転させ壮絶な笑みを浮かべる。

 

 そこからはただの虐めである。

 

 始めは魔法の射手の打ち合いになっていたが早々にエヴァが本数を増やしていった。

 

 10が20に、20が50に、50が100にという具合だ。

 

 そして最終的には千に達した。

 

 しかも、あえて深手を負わさず猫が獲物を弄ぶようにかすらせていく物だから最後の方ネギは体中に血が滲み凍傷だらけになっていた。

 

「見習いとしてはよく持ったほうだ…。褒美にいいものを見せてやろう」

 

 エヴァが片手を掲げ莫大な魔力を集中させる。

 

 ネギの顔が絶望に染まりながらも魔法の射手で止めようと試みるも、その程度の魔法でエヴァの常時展開している障壁が貫けるわけも無く。

 

『リク・ラク ラ・ラック ライラック

 

 契約に従い 我に従え 氷の女王

 

 来れ とこしえのやみ

 

“えいえんのひょうが”』

 

 エヴァがそう唱えるとネギを中心に約45m四方が瞬間的にほぼ絶対零度となった。

 

 そして、ネギが氷柱の中に封じられる。

 

「アハハハハッ!どうだ小僧!広範囲完全凍結呪文の味は!!」

 

と、空の上で高笑いするエヴァの下で二つの涙声に気付きそちらにゆっくり降りていく。

 

「ねぎく~ん。死んじゃだめ~」「このままではネギ先生が」「ア、アニキー」

 

と、二人と一匹が氷柱にすがり付いている。

 

「…何をやっているんだ。お前たちは……」

 

 一斉にそれぞれエヴァの名を呼んだ後、ネギを開放してくれと懇願してくる。

 

「ああ、開放してやるとも…。ちゃんと報酬を受け取ったらな」

 

『報酬?』と二人が首をかしげているとエヴァが声を上げた。

 

「おい!じじぃ!近くにいるんだろ!さっさと報酬をよこせ!!」

 

「……うむ。にしてもまた派手にやったのう。エヴァ」

 

と、言いながら現れた呆れ顔の学園長が手に持っていた一升瓶をエヴァに渡す。

 

「ふんっ!こっちも成り行きで(精神的な)命がけになったんだ。手加減する気などさらさら無いわ」

 

 エヴァは渡された一升瓶を確認してから指を鳴らす。

 

 するとネギを捕らえていた氷柱がくだけて気絶したネギが転がり出てきた。

 

 二人と一匹は冷たくなった冷凍ネギに抱きついて介抱するがエヴァは一顧だにせず学園長に跡片付けを頼み早々にアレイの下へ去って行った。

 

 学園長は、その後ネギの治療と事情説明に片付けにと大忙しだった。

 

 その頃、エヴァはアレイと別荘にこもって温泉で酒盛りをして楽しんでいたとか……。

 

   ◆

 

 次の日、エヴァと茶々丸とアレイで買い物に出ていたのだが、そこでばったりネギパーティーに出くわした。

 

「こ、こんにちは」

 

と、少々怯えが混ざっている物のアレイ達に挨拶してくるネギ。

 

 委員長とまき絵も挨拶してくるが学園長がどう説明したか知らないが後腐れはなさそうだ。

 

 ネギの反応を見ていじめっ子の本能がうずくのかエヴァの目がランランと輝いている。

 

で、ネギ達はどうやらアレイ達を探していたらしい。

 

 それでネギはアレイに話があるらしくお茶でもどうですかと誘ってきた。アレイ達は断る理由も無いので付いて行く事にした。

 

 とある喫茶店で注文した商品が全部出揃いアレイは軽くコーヒーに口を付ける。

 

 そして、アレイはエヴァの認識阻害の結界が発動したのを確認してから話し出した。

 

「それで、話とはなんだ」

 

 やはり雰囲気が違うのに戸惑いつつもネギが質問してくる。

 

「あ、あのクロウ先生も魔法使いなんですよね?」

 

「正確には違うが、……それがどうした」

 

「いえ、エヴァンジェリンさんが僕の父さんの事を知ってるのならクロウ先生も知ってるかなと思って……」

 

「要するにエヴァに負けて、エヴァから聞けないから知っていそうな俺に訊きに来たと」

 

「……はい」

 

と、ばつの悪そうに返事をするネギ。

 

 それを、紅茶を啜りつつジと眼で見ているエヴァ。

 

「―――普通なら何の対価もなしに人からモノをもらう事はできないという事を理解しているか」

 

 まき絵は理解していないのか頭の上に?マークが浮かんでいる。

 

「要するにですね、まき絵さん。物を買うのにお金を払うようにクロウ先生は情報を貰うんだから何を払うのかと聞いていらっしゃるのですわ」

 

「えーー情報ってただじゃないの!!」

 

「いや、まき姐さん情報ってのには、色々価値があるんスよ。しかも、この旦那、あの闇の福音の保護者ですぜ。きっと貴重な情報を知ってますよアニキ」

 

「あの僕に払える物があるなら払いますから、父さんの事を教えて下しい」

 

 ネギは深々と頭を下げて訊いて来る。

 

「ナギの事か…。で、ナギの何が知りたいんだ」

 

「その、クロウ先生と父さんの関係を訊いていいですか?」

 

「敵、協力者、飲み友達、好きなのを選ぶといい。全部事実だ」

 

と、ニヤニヤしながら答えてやる。

 

「え、え~と、父さんとは複雑な関係で、いいんでしょうか?」

 

 難しい顔をして確認してくるネギに対してアレイは、

 

「それで実際は何が知りたいんだ。俺の事が知りたい訳じゃないのだろ」

 

と、さっさと本題に入れと促す。

 

 それを受けネギが少し期待した顔をしながらたずねる。

 

「えっと、父さん居場所を知りませんか?」

 

「ふむ…(予想はつくが)…、知らんな。たしか今現在、行方不明だったか」

 

「…そうですか。……でも、クロウ先生は父さんが死んだとは言わないんですね」

 

と、少々不思議そうに訊いて来る。

 

「うん?たしか死体は出ていないはずだが…」

 

「そうなんですか。大人の人はみんな僕が生まれる前に死んだって言うんですが、僕、六年前に父さんに会ってこの杖を貰ったんです」

 

「で、居場所を探していると…」

 

「はい」

 

「フー…」

 

 何でこいつは俺に所に来たんだ、もっと先に訪ねる場所があるだろうに。と、ため息はきつつ考えるアレイ

 

「あの、どうしたんですか」

 

 本当に不思議そうに訊いて来るネギ。

 

「危険を冒して俺に訊ねに来ずとも、学園長とタカミチに訊きに行けばいいものをと思ってな」

 

と、いうアレイの呟きに、何を勘違いしたのか、

 

「学園長先生とタカミチですか。分かりました!訊いてみます!……それとクロウ先生と会うのが危険なんですか?」

 

 元気に返事をした後にまた不思議そうに訊いて来るネギ。

 

 エヴァが何言ってんだこいつはという顔でネギを凝視するが、昨日、学園長が上手くはぐらかしたのだろう。

 

「ふむ、昨日、学園長は俺達についてなんと言っていた」

 

「えっと…、実戦の厳しさを教える為に外部組織の人間に頼んだと言っていました」

 

「なるほど、一応、俺達が関東魔法協会に属してないという事は知っていると言う事か…」

 

 エヴァの事が知れたのだ。ここで名乗るのも一興か……。

 

「ふむ、下等妖精。貴様、ブラックロッジという組織を知っているか」

 

「か、下等…。オレっちこれでも由緒正しきオコジョ妖精なんですが…」

 

「そんな事はどうでもいいことだ。で、知っているのか」

 

「ど、どうでも…。…そ、そりゃ、知ってるっスよ。世界を裏から操っている悪の秘密結社で『偉大な魔法使い』の仇敵っスよね」

 

「今はそんな風に言われているのか…。他には何を知っている」

 

 ネギ達はそんなのがあるんだと驚いて憤慨したりしていたが、それをエヴァは面白そうに眺めていた。

 

「他っスか…。トップがマスターテリオンって言う魔王で、幹部も悪魔の様な奴だって事位っスかね。基本的に分かんない事だらけの組織っスから。…あ、あと、幹部に闇の……」

 

と、そこで解説していたカモが凍り付き、ガクガク震え、脂汗をダラダラ流しだした。

 

「理解はしたようだな。後は学園長にでも聞くといい」

 

 そう言い残しアレイ達は去っていった。

 

 

 




衝動的に「魔法少女リリカルなのは」を原作に新作を書いてしまいました。

よければ、そちらもお読み頂けると嬉しいです。

ちなみに題名は『死神少年リリカルライム』です。よろしくお願いします。

あと、可能なら評価を頂けるとありがたいです。作者のモチベーションが上がりますので。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

獣、京都に発つ

 

 

 修学旅行の時期が来た。

 

 取り敢えずウチのクラスからは古都『京都・奈良』が良いと満場一致で決定したが、その理由がなんとも善人と言うか真面目と言うか。

 

 俺やネギ、留学生に日本文化をもっと知ってほしいからだそうだ。

 

 この事で最も喜んでいたのはネギとエヴァだろう。

 

 エヴァはこの頃行っていなかった京都へ行けると見た目相応の喜び様でアスナ達がそれを温かい眼で見ていた。

 

 ネギがどうしてそこまで喜んでいるかは定かでないが、おそらくナギが日本に居た時に使っていた別荘が京都にあるのを学園長かタカミチにでも聞いたのであろう。

 

 ちなみに、ブラックロッジの事を仄めかせた後のネギたちの反応だが。

 

 どうやら学園長とカモはネギに伝えなかったようだ。

 

 現にネギとまき絵は変わった様子が無くブラックロッジと俺達を繋げられないでいる。

 

 おそらく世界樹が発する認識阻害結界の所為もあるだろうが、ネギは魔法使いの暗い面を教わらずに育ったのだろう。

 

 その所為か、魔法使い?の俺=善人と思っている節がある。エヴァの方に対しては未だおびえているようだが。

 

 委員長は個人で色々動いているようだ。

 

 今まで通りの態度を崩さないがブラックロッジの事を調べたり、アスナにそれとなく聞いたりしている。

 

 雪広財団も一応はブラックロッジの下部組織に当たる。

 

 その所為という訳ではないがブラックロッジの情報は集まってない様である(使い魔、調べ)。

 

 カモに至っては触らぬ神に祟り無し、と言わんばかりに俺達を避けているようだ。

 

 だからと言って何も変わらないが……。

 

    ◆

 

 何故か俺とネギが学園長室に呼び出された。

 

 学園長曰く、修学旅行先の京都が受け入れ拒否しているとの事だ。

 

 正確には関西呪術協会が、であるが。

 

 まあ、要するに、……茶番だ。

 

 毎年数人の魔法教師も生徒も修学旅行として京都に黙って行っているし、あちらも黙認している。

 

 もっとも、決して魔法を使わぬように言い含められるが……。

 

 ただ今年は訳が違う。

 

 ナギの息子の未熟なネギもそうだが一番のネックはコノカである。

 

 未だ一般人と思われているコノカは向こうの過激派にとって格好の標的にされているだろう。

 

 そうすると魔法的なトラブルが予想される。

 

 そのけん制の為に担任、副担任が魔法使いと言ったらしいが、案の定あちらは難色を示したようだ。

 

 もっともそれで予定が変わるわけでもないのだが、学園長がいらない事を言った所為で修学旅行先が変わるとネギが絶望。

 

 その後、学園長がネギに関西呪術協会の事などを話し、ネギが特使になる事になった。

 

 これについては事前に聞いていた話だと特使と言うよりもただ単にネギを詠春に会わせる口実作りらしい。

 

 この話だけならネギ一人でも良かったのだが此処からが今回の話の本題だ。

 

「あ~それでじゃなアレイ君。孫のコノカの事なんじゃが」

 

「詠春と木乃美からすでに話が来ている」

 

「……あの、僕の生徒のコノカさんの事ですよね。何かあるんですか?」

 

「うむ、京都にコノカの生家があるんじゃが、今、御家騒動でごたごたしとるから『アレイ君に』護衛を任せたのじゃよ」

 

「そうなんですか。(御家騒動??よく分からないけど、僕は教師なんだ。生徒に何かあったら助けないと)」

 

「うむ、じゃから何かあってもアレイ君は手伝えんということを頭に入れとくように(思ったより素直に聞き入れてくれたの、ネギ君の性格的に手伝うと言ってくるかと思っとったが)」

 

「(あの様子ではネギが邪魔しそうだが・・・、邪魔になれば排除すればいいか)話が済んだのなら帰るが」

 

「うむ、ご苦労じゃった」

 

 

    ◆

 

 

 修学旅行当日、教師として普通はアスナ達より早く出なければならないのだがその必要がなかった。

 

と、言うのもエヴァに叩き起こされたアスナ達も一緒に駅に行くと言い出したからだ。

 

 そんなこんなで駅に着いてみると教員だけでなく何故か3-Aの生徒が数人到着していた。

 

 なんでも待ち切れずに早々に駅に来たそうだ。

 

 その後、学年主任の新田教諭達と今後の予定などの確認をしていると生徒が集まりだし点呼などを終え新幹線に乗り込んだ。

 

 ちなみに班分けはエヴァと茶々丸が加わった為、原作と違い6班あるが人員は変わらない。・・・by作者

 

 今、諸注意事項などを伝え終え生徒をみまわっているのだが、他のクラスの数倍3-Aの生徒は騒がしい。

 

 その途中でいろんな生徒に捉(つか)まり話をしていたりしているが今はアスナとコノカ、それと図書館組に捉まっている。

 

 座席に座らせられたが配置はアスナとコノカに挟まれ、対面にユエ達図書館組という具合だ。

 

「ほい、アレイさん。お茶どーぞ」

 

と、コノカがお茶を俺に手渡し甲斐甲斐しくお茶菓子などの準備を始める。

 

「でもホント、コノカってアレイ先生の奥さんみたいだよねー」

 

と、言うハルナの言葉にノドカも同意する様にうんうんと頷いている。

 

「いややわー、ハルナ」

 

と、言いつつも嬉しそうに微笑んでいるコノカ。

 

「そこんとこ、娘としてどうお考えですかにゃ~。アスナさん?」

 

 パルがどこぞの童話に出てくる猫のようにニンマリしながらアスナに訊いて来た。

 

「誰が娘よ!誰が!!」

 

 憤慨しながらパルの頬を掴むアスナ。

 

「いひゃい!いひゃい!!」と、実際痛いのかどうか判らない悲鳴をパルが上げる。

 

「懲りないですね、ハルナは。それでなくてもこの前、酷い目にあったばかりなのに」

 

 腹黒コーヒーなる物を飲んでいるユエが二人のじゃれ合いを見てそう呟いた。

 

 確かに、寮の前にハルナが吊るされていた事件は記憶に新しい。

 

 まぁその程度で懲りるようなハルナはハルナじゃないと言うのが全員一致の認識だが……。

 

「う~、酷い目にあった」

 

と、ボヤキながら頬を擦りながらハルナにコノカが、

 

「乙女にむこうて、そんな事ゆうたらあかんえ」

 

 メッと言わんばかりにコノカが人差し指を伸ばしてハルナに注意していた。

 

「ごめんね~。でもさー友人としてはあんた達の恋愛模様が気になるわけよ」

 

「嘘いいなさい!殆どパルの趣味でしょーが!!」

 

「あっ、ばれたー?という事でアスナとコノカとの馴れ初めを教えて♪」

 

と、その言葉を聞いてかクラスの何人かがこちらにやってきて騒ぎ出した。

 

『なんかアスナ達とアレイ先生の出会いが聞けるらしいよー!!』

 

と、遠くから聞こえてくる。

 

 どうすんのよ、と言わんばかりに俺の方を下から覗き込んで来るアスナ。

 

 勿論、本当の事を言える訳ないので適当に脚色して騙(かた)る事にするが、少し協力しろとアスナに目配せする。

 

 少し不安そうにコクリとアスナが頷いたのを確認してから真面目そうな顔を造り俺は騙り出す。

 

「ふむ、あれは俺がまだフリーの傭兵だった頃『えっ!傭兵!!』とある組織に拉致された少女を救い出したのがアスナとの出会いだったか―――」

 

 周りの反応は始め、また冗談かという具合の反応だったがアスナが昔を思い出してます、と言う感じにどんよりした空気をかもし出したから真実味が増してきた。

 

「―――その後、組織の所為で家族を失ったアスナを俺が引き取ったと言う具合だ」

 

 取り敢えず騙り終えたが、この話を聞いて涙ぐんだクラスメイトに取り囲まれ、なぐさめられているアスナが助けを求めるような表情をして此方を見ていた。

 

「あ、あの~、これホントの話なんですか?…冗談とかじゃなく」

 

と、すこぶる気まずそうなハルナが訊いてきた。

 

「ふむ…、確かにこの話はかなり脚色されてはいる」

 

 それを聞いた、涙ぐんでいた全員が『えぇぇぇーーー!!』と驚愕の表情で此方を見る。

 

 対照的に安堵の表情をするハルナ。

 

「が、嘘は言っていない。そもそも、血のつながりのない俺が引き取っている時点で訳有りなのは言うまでもなかろう」

 

 そう言うと確かにと全員が納得顔になった。

 

「要するに、いくら親しい友といえど言いたくない事もあるし、言えない事もあるという事だ。特に早乙女は良く考えて口を開いた方がいい」

 

と、説教じみたことを言いつつ、この場は解散となった。

 

 ハルナとしては恋の馴れ初めを聞いたはずなのに、いつの間にか説教になっていて納得いかないと言う感じの顔をしている。

 

 ハルナには悪いがこう言って置けば、今後、不用意にアスナ達の過去を聞いては来ないだろうという打算で話を騙ったのである。

 

 この二年、良くも悪くも遠慮と言う物が無くなってきていたので丁度良かったのだ。

 

 その後、コノカを除いた図書館組がゲームに誘われて席を離れていった。

 

「良かったのかあんな事を言って?」

 

 エヴァと茶々丸が空いた席に座りながら訊ねてきた。

 

「構わん。今回の件で裏の表舞台に立つのは確実だ。情報の隠匿に意味が無い」

 

 そもそもが隠していないのだから正規の手順で調べていけばアスナはともかくアレイの方は魔法関係者なら調べがつく。

 

「確かにそうだが、私としてはこのクラスでそんな事を言って、後でどう歪んで周りに伝わるかの方が心配なんだが」

 

と、憂鬱そうな顔をするエヴァ。

 

「エセル曰く、かく乱に丁度いいらしい」

 

「そうなのか?そういえば先程から陰陽術らしき魔力が飛び交っているがあれは放置でいいのか?」

 

「ああ、物を蛙に変える、という呪だった。ただの洒落と嫌がらせだろう」

 

「まあ、いくら魔法使いが憎いからって、わざわざ一般人巻き込む事も無いものね」

 

と、うんうんと納得しながらアスナが何でもない風を装って俺によってくる。

 

「そうやね。でも、みんなに迷惑掛けるんは忍びないえ」

 

 コノカが俺の服をキュッと握り憂えた瞳で見上げてくる。

 

「恐らくこれはコノカの所為ではなく、ネギを中心に呪が配置してあるので特使の親書が本命でしょう」

 

と、俺の頭の上のプチ・エセルが言い出した

 

「あと、周りがどう反応するか観察しているのだろう」

 

「イエス、マスター。恐らくコノカの護衛の確認も兼ねていると推察できます」

 

「なるほど、だからあえて桜咲刹那を見逃したな」

 

「どういうこと、エヴァ?」

 

「先程、勝手に呪の大本を探りに桜咲刹那が車両を出て行った。これをアレイは囮として使う気なのさ。コノカの護衛が一人も居ないと言うのは不自然だからな」

 

 どうだ、と言う感じに此方をエヴァが見てくる。

 

「えぇー!せっちゃん、だいじょぶなん?」

 

「結果的にはエヴァの言う通りなのだが、此処では手荒なことが出来んから放置しているだけだ」

 

 そう約時速200kmで走っている此処で暴れて何かあったら目も当てられない。

 

 だからこそ刹那を放置している側面もある。

 

 その後、騒ぎが起きネギが親書を盗まれるも丁度居合わせた刹那が取り返し事なきを得た。

 

 その際、ネギが不振そうに刹那を見ていたが俺が態々なにか言う訳も無く放置である。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

獣、温泉を堪能する

 

 

 

 今、ネギと共に温泉に浸かっている。

 

 

 あの後、京都駅に着き予定通り清水寺や地主神社を見学した。

 

 ハイテンションのエヴァに手を引かれ、ユエのやたらと詳しい解説付きの見学となったが、やはり色々と工作? を受けた。

 

 なかでも酷い事になったのは音羽の滝だろうか……。

 

 とわいえ、酒が混入しており生徒が酔い潰れただけだが、その所為で3-A の三分の一がダウンした。

 

 その際、エヴァが音羽の滝になんて事するんだ! とキレ気味だったのだが、恐らくやった人間が判れば八つ裂き決定だろう。

 

 その時の酒はエヴァが「この酒には罪は無い」とか言いつつ、ちゃっかりくすねていた。

 

 そんなこんなで波乱の一日目を終え、ホテル嵐山の温泉を堪能していたら鴨葱コンビが入ってきたという具合だ。

 

 ちなみに俺達以外の教師はもう上がった後である。

 

「風が気持ちいいですねー。アレイ先生」

 

「ああ、これも露天風呂の醍醐味の一つだろうな」

 

 お互い気持ち良さそうな顔をして語り合うネギとアレイ。そこに近付いていく小動物。

 

「――ちょっと教えて欲しい事があるんスけどいいですか、旦那」

 

「――うん? 物によるが……、なんだ」

 

 一瞬、衛生的に叩き出した方が良いのだろうかとも思ったが、よく考えればこいつは獣ではなく、妖精だったのを思い出し放置する。

 

「あのですね、桜咲刹那のことなんスけど西側の刺客じゃないんスか――」

 

 その話を聞くと、どうもこの鴨葱コンビ刹那をスパイとして疑っているらしい。

 

 このまま誤解したままでも面白そうだと一瞬考えるも、いや、余計な騒ぎになるかと考え直し、それを俺が口をしようとした時、カラカラカラと脱衣所の扉を開ける音がして、そこには何故か裸身のエヴァと茶々丸がいた。

 

「エヴァ、まだ生徒が入る時間じゃないはずだが?」

 

「そう硬い事を言うな」

 

と、エヴァ達がかけ湯をして身体を隠そうともせずに俺の横に陣取り、何処からか出したお猪口を渡してくる。

 

 俺がそれを受け取ると茶々丸が俺達にお酌を開始した。

 

「昼間の酒なのだが地酒のようでな。中々に美味だぞ」

 

 口をつけるとエヴァの言う通り中々に美味かった。

 

「確かに美味いな」と俺が飲み干すといつの間にかお湯に浸かっていたエセルが「どうぞ、マスター」と酒を注いでくれる。

 

 それを見た茶々丸が残念そうにシュンとしてエヴァの酒を注ぐが、エヴァが「酒が不味くなる。どうにかしろ」と目で語ってきた。

 

 それを受け、『こんな飲み方はしたくはないのだが』と考えつつもくっと飲み干し、杯を茶々丸の前に差し出す。

 

 すると、茶々丸が俺の顔と杯を交互に見た後、心地嬉しそうに酒を注ぎだした。

 

 交互に酒を注いでもらうか、と酒で口を湿らせながら考えていると先程から空気とかしていた鴨葱コンビが自己主張しだした。

 

「あ、あの、アレイ先生。生徒の飲酒を止めなくていいんですか?!」

 

 ……他にもっと言う事はある筈なのだが何故か飲酒に突っ込んだネギ。

 

「何を言っているんだ小僧? この国では二十歳以上は飲酒可能だぞ」

 

 案の定、何をアホな事を言っているんだ、と言う顔を作って約六百歳のエヴァは堂々と言い放った。

 

 あまりの堂々とした態度にネギは、あれ僕がおかしいの、と頭を抱えて悩みだす。

 

 そうするとまた脱衣所の扉が開く音がして先程カモが言っていた刹那が現れた。

 

 まだこちらに気付いていないのか「ネギが頼りない」とか、「俺にコノカを任せて大丈夫なのか」等、呟いていた。

 

「桜咲刹那! なぜお前がここに居る!?」

 

と、思考が止まっていたエヴァが驚きの声を上げると刹那は漸くこちらに気付いたのか。

 

「へっ!! な、何故先生方がまだいらっしゃるのですか!?」

 

と、慌てて前を隠す刹那。

 

「エヴァにも言ったがまだ生徒の入浴時間じゃないぞ」

 

「え……、私はエヴァンジェリンさんと茶々丸さんが脱衣所に入ったから、てっきり……」

 

 要するにエヴァの所為で間違えたと言いたいらしい。

 

 俺をその言葉を受けエヴァの方を向くと、エヴェはそっぽを向き「誰にでも失敗はある。お前もゆっくり浸かっていけ」等と言って誤魔化していた。

 

 まあ、確かに丁度いいと言えば丁度いい。

 

「ふむ、刹那。どうもネギ達に西のスパイじゃないかと疑われているぞ」

 

 俺がそう言うとネギと刹那が目を丸くしてこちらを見た後、お互いに顔を見合わせた。

 

「なっ、ち、違います。私はスパイじゃないです」

 

と、あーだ、こーだとネギ達と刹那が言い争っているとまた扉が開いた。

 

「あ、やっぱりここにいた。抜け駆けなんてずるいわよ。エヴァ」「あ、せっちゃんや。……もしかして、せっちゃんも誘惑に来たん?」

 

と、アスナがエヴァに言いつつこちらにやって来る。コノカは声も雰囲気も柔らかいが目がかなり真剣に刹那を観察していた。

 

 一応、二人はきちんと湯着を着ていた。恐らく俺達以外がいた場合「間違えました」とでも言う積もりだったのだろう。

 

「そんな積もりはありません。おじょ『このちゃん』」

 

と、言う刹那にいつの間にか詰め寄ったコノカが訂正を入れる。

 

「ですがお『このちゃん』でも『こ・の・ちゃ・ん!』……このちゃん」

 

 コノカに押し負け訂正する刹那を見て満足そうに頷いた後、コノカが俺達の方にやって来た。

 

「コノカって時々、押しが強いと言うか頑固よね」

 

と、呆れ顔でアスナが言う。

 

「ほぉか?うちとしてはアスナの方がよっぽど頑固やと思うけどなぁ」

 

「何処がよ?」

 

「ほら、昔からアスナって呼び方以外やと反応すらしてくれへんやない」

 

「それは拘りよ。こ・だ・わ・り。(はじめて貰ったモノだもの)この名前以外認めないし、呼ばれたくないもの」

 

 アスナとコノカがそんなやり取りをしていると刹那が行き成り「失礼します!」と言って脱衣所に駆けていった。

 

 それを心配そうに見ていたネギが何故か俺の方を見てきたので軽く脱衣所の方を顎で指してやるとコクリと頷いて走っていった。

 

「なんか変に懐かれているな。アレイ」

 

「だからと言って方針を変える積もりはないぞ」

 

 その後、湯着を脱いだアスナ達も加えて代わる代わる酒を注がれたり、話をしたり、甘えられたりでそれぞれが時間一杯まで温泉を満喫した。

 

 ちなみに、原作では脱衣所に式紙が仕込まれていたが、エヴァが早々に気付き破り捨てた為、それに気付いた術者は一目散に逃げ去った。

 

 

   ◆

 

 

「ねえ、アレイ。あれいいの? おもいっきり邪魔してるけど」

 

 眼下のネギ一行を指してアスナが訊いてくる。

 

「構わん。どの道、主犯格さえ押さえられればそれでいい」

 

 あの後、それぞれが就寝してから西の術者が動き出しコノカをこちらの予定通り誘拐したのだ。

 

 その際、へまをしたのか、それとも腕が無いのかネギ達にバレ追いかけられているという寸法である。

 

 こちらの予定では気絶させられた振りをしているコノカを連れた術者に根城まで案内させて内と外から奇襲し一網打尽する積もりだったのだが(エヴァ&ユエ立案)恐らくそれはもう不可能だろう。

 

 相手はネギに見つかった時点で色々手を講じた筈である。

 

 最初と逃げる方向が違う上、大回りして京都駅に向かった事からも判るが他の仲間に連絡して待ち伏せでもしているのだろう。

 

 

 案の定、前鬼と後鬼を委員長とまき絵に抑えられ、刹那が突貫したらゴスロリ剣士が現れて刹那と五分の切り合いを演じていた。

 

と、言っても月詠と呼ばれた少女、刹那より腕が上の筈なのに遊んでいるのか、それとも時間稼ぎが仕事なのか刹那を切り捨てる気は無いようだ。

 

 ネギは手を出したいのだろうが乱戦気味で今魔法を放てば下手をしたら味方に当たるとでも考えているのだろう、杖を構え機会を窺っている。

 

 このままでは埒が明きそうに無い。

 

 それにどうもあの女の術者が誘拐犯のリーダー格らしいという事で俺とアスナは戦闘が行われている京都駅の大階段の最上段に降り立った。

 

「予定変更だ。コノカ、その女を組み伏せろ」

 

 俺のその言葉を聞いたコノカは地面に横たわっていた状態から跳ね起き「ほいな!」と気合の入っているのか判らない声と共に近くに居た女の術者の腕を極めて組み伏せた。

 

 いや、組み伏せたというのは語弊がある、あれは自身と相手の体重を最大限活用して地面に頭から叩きつけたと言った方がいい。間違いなく常人なら死んでいる。

 

 それに気付いた月詠が刹那を吹き飛ばし、コノカの方に向かって走り出そうとするが、アスナが旅館を出る前にお土産コーナーから失敬してきた木刀『嵐山』(2890円)で切り掛り月詠を止める。

 

「あなた強いですなー。ウチには今の一太刀でよーわかります。いったい何人切ればそんな殺気の篭った太刀筋になるんです?」

 

 肩に木刀を乗せたアスナに淫靡なオーラを発し、艶の篭った声で問いかける月詠。

 

「(何体のゴン君を切り倒したか何て)そんなの一々憶えてないわよ」

 

 眉を顰(ひそ)めつつ取り合わないアスナだが、

 

「そんな蔑んだ眼でウチを見んといて、濡れてまう」

 

と、内股になりながらモジモジし出した月詠。

 

 それを見たアスナがバッとこちらを見て、

 

「どうしよう! アレイ! この人、変態さんだ!!」

 

 ズギャーンと効果音が鳴りそうな勢いで半泣きのアスナが俺に報告してきた。

 

 戦闘狂にドM、ドSとレズを狂気と一緒にブレンドしたような月詠。……まごう事なき変態である。

 

「早々に戦闘を切り上げないと(精神的に)大怪我をするぞ、アスナ」

 

と、コノカの元に向かって歩きながらアスナに忠告する。

 

「ハァ~~~♡アスナさんって言うんやね♡」

 

「うぅ~~もう大怪我してるわよ~」

 

と、泣きが入るが隙を一切見せないアスナ。

 

「ねえ~アレイさん、この人どうしたらええん?」

 

と、小首を傾げるコノカ。

 

「一応、縛り――『石の息吹』」

 

 俺がそう言い掛けた途端、俺を中心にするように石化のガスが充満した。その魔法は懐かしい人工物(にんぎょう)の気配を俺に伝えてくる。

 

 すぐさま俺はコノカとアスナを抱きかかえネギの立っている場所の上空へ浮遊術を使って離脱する。

 

「なーなー、アレイさん。もしかしてあれって石化魔法の『石の息吹』やないん?」

 

と、緊張感無く嬉しそうに抱きついているコノカがアレイの服をクイクイと引っ張りつつ言うとコノカと大差ない感じのアスナが疑問の声を出す。

 

「へっ、でも相手、陰陽師ぽかったわよ?」

 

「どうも、(アスナにとって)厄介な相手が向こう居うるようだ……」

 

「アレイさんの知り合いなん?」

 

 アレイの言葉を聞いて小首をかしげるコノカ。

 

「――いや、恐らく奴本人ではなく奴の系譜だろう」

 

 プリームムは大戦の折に破損した(死んだ)らしいしな……。

 

「ふーん。ちなみにどう厄介なの?」

 

「『完全なる世界』の幹部で強さとしてはエヴァよりは下と言った所か」

 

 二人はそれを聞いて固まった。

 

 アスナは完全なる世界と言う単語に、コノカは純粋にエヴァクラスの敵が居ると分かって。

 

 ガスが晴れるとそこには誰も居なかった。

 

 顔ぐらい見せるかとも考えてはいたがどうやら素直に引いたようだ。

 

 下から「アレイせんせー」とネギ達の能天気な声が響いてくる。

 

 そちらに眼をやると約二名と一匹、顔が青い様な気がするが放置しておく。

 

「どうかしたのか?俺達はすぐさま旅館に戻るが」

 

 浮遊術を解かずにネギ達の近くに浮かびながら近寄り間髪いれずに宣言する。

 

 自身が起こしていない騒動の跡片付けなど手伝わされては堪らない。

 

「え、いえ、コノカさんが無事でよかったで『あ、あの』」

 

と、珍しく刹那が割り込んできた。

 

「もしかして、私達はアレイ先生の計画を邪魔したんじゃないでしょうか?」

 

 それを聞いたネギがアッと何か思い出した顔をして固まった。

 

 ネギの表情を見てネギパーティーは気まずそうに俺の顔を窺うが今回は別段どうとも思っていない。

 

「今回は別に問題ない。むしろ結果的にはこれで良かったくらいだ。唯、今回の事を立案したエヴァからは小言を言われるだろうがな」

 

「それは今回、アレイ先生からはお咎めは無いが次はどうか分からない。と言う事でしょうか?」

 

「いや、何をしようと咎める積もりはないが、俺の行く手を遮るのならそれ相応の覚悟をしておけ、と言う事だ」

 

 そう言い残してアレイ達は去って行った。

 

「あのいいんちょさん、アレイ先生の最後に言った事はどういう意味なんでしょうか?」

 

「そうですわね。自由に動いてもいいが、アレイ先生の邪魔になったら強制的に排除する。で通じますか?」

 

「あ、はい。すいません、日本語の表現はまだ不慣れなもので」

 

 委員長の言葉を受け少し悩ましい顔をするネギ。

 

「どーしたの、ネギ君?」

 

「あ、いえ。プロは厳しいんだなと、あと何でアレイ先生はコノカさんを囮にする様な事をしたのかなと思いまして」

 

「アニキ、恐らくコノカ嬢ちゃんとアスナ嬢ちゃんだったか、あの二人は旦那のパートナーなんじゃないんスか。だから、敵を燻り出す為にあえて囮役にしたじゃ」

 

「やっぱり、そうなのかなぁ」

 

「……ネギ先生、そんなに心配しなくてもきっと大丈夫ですわ。アレイ先生に抱きかかえられていた時のコノカさんとても幸せそうでしたもの」

 

「うん、確かに幸せそうだったよね。二人とも。」

 

その後、ネギは大慌てで後始末をして翌日寝不足気味になるのは言うまでも無いことだろう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。