早坂愛は守りたい 〜ヴァレットの恋愛諜報戦〜 (Cleansweep08)
しおりを挟む

序章

原作漫画既読推奨。原作・アニメのネタバレ、オリ主注意。序章は原作本編開始の半年前で12月後半を想定。
※登場するカマセドニア共和国は中東の存在しない架空の国です。
病院での会話を加筆しました。


〜月城尚武は守りたい〜

 

早坂はかぐやに命じられた[いつか会長と行きた…じゃなくて、、一般論として女性が男性に連れて行って欲しいスポット]事前調査を何件か梯子して放課後を過ごした。調査が役に立つなんていつの話になるやらと考えながら周りを見渡せばうっすら雪が積もってイルミネーションが建物を照らし、あっちこっちからクリスマスソングが聞こえてくる。辺りはクリスマス一色だった。クリスマスイブもまだだというのにカップルだらけ。自分だって仕事じゃなくて好きな相手とここに来たいなんて心の中で冗談半分、願望半分の愚痴を溢す頃には空はすっかり暗くなっていた。

夜も遅くなってしまったので折角だし、近場で晩御飯を済ませようと早坂は思ったがそうはいかない事情があった。さっきも言ったように街はクリスマスで染まり、どこもかしこもカップルだらけで独り身が入れる店なんて何処にもない……ーーー

 

という訳では無く、何者かに尾けられていたのだ。少なくとも2人。

 

早坂は足を早めて人混みに紛れると素早くウィッグを被って眼鏡をかけ、上着を裏返すと柄の違うマフラーを巻いた。次の路地に入って様子を伺う早坂。追って来る気配はない。そのまま路地を抜けて裏通りから戻って急いで帰ろう。しかし、それは間違いだったと悟ることになる。

前から3人、後ろからさっきの2人が。しくじった。

全員が能面を被り、不気味な笑顔を文字通り貼り付けていた。どう考えても趣味の悪いイカれた集まり。問題は突発的に女子高生を狙うのとは血色が違う。確実に組織的で最初から狙いをつけてきた。私が四宮家の関係者だとバレたのか、だとしたら何の目的で?情報目的か身代金かなどと早坂が思案しているうちにも5人はジリジリと距離を詰めてきた。極め付けは早坂がポケットのスタンガンに手をかけた時、バンが緩やかな速度で角を曲がって通りに入って来るとすぐ近くに停車。一瞬、見えた運転席には同じ能面をつけた男が座っていた。

まずい…

人気のない通りで入れる建物もなく、飛び移れる高さの建物もない。早坂の並外れた身体能力を発揮する手段がかなり狭められてしまい、道も塞がれている。

 

最初に手を伸ばしてきた男の腕を払い、姿勢を崩させて追撃しようと素早く取り出した右手は運悪く、もう1人に袖を掴まれて阻まれる。一瞬の隙を突かれて早坂は首筋に鋭い痛みを受けた。

男が手にしていたのは注射器。早坂は一気に体に力が入らなくなってしまい、フラつく視界の中で立つのが精一杯の状態に追い込まれた。そのまま口にガムテープを貼られそうになる。

 

万事休す…その時だった。

 

バリッン!!!

 

「ゴハッ...ッ!!!」

ガムテープを持っていた能面男のひとりは突然現れたスーツ姿の男に頭を掴まれて勢いよくバンに叩きつけられていた。顔面が助手席のドアガラスを突き破る形で車内に突っ込まれている。なかなかエグい絵面であった。

 

「へ…?」

早坂が小さい声を漏らすと同時に後ろの能面男も汚い悲鳴を上げながら路上に吹き飛ばされた。

 

他の3人がナイフやら注射器を片手に一斉に突然現れたスーツを着ている男に向かっていく。ナイフがすぐにはたき落とされて地面にカラカラと音を立てて転がっていく。スーツを着た男の手刀が喉元に刺さり、仰け反った顔面に裏拳が直撃して腹部に回し蹴りがめり込むと1人はその場にうずくまった。

もう1人は腕を絡め取られて捻られた。肩が外れる音が微かに聞こえると同時に持っていた注射器が自分の顔に刺さり、悲鳴をあげる前に顔から地面に叩きつけられていた。断末魔と注射器が壊れる音だけが残った。

最後は戦意喪失の中で無防備な顎を蹴り上げられ、骨が砕ける嫌な音が微かに響いたと思うと取り出された警棒で体の節々を殴打されながら首に鋭い一撃を受けた所ですっかり意識を失った。追い打ちの蹴りで街灯に背中から叩きつけられて地に伏した。

 

全員やられたと悟ったバンの運転手は焦りと震えで訳もわからずその場から逃げようと急発進したが通りを出る前に現れた乗用車に道を塞がれるように体当たりされて電柱に突っ込んでいた。乗用車からはスーツを着た男女複数が降りてバンの運転手を引きずり出すと手際よく拘束した。

 

早坂はついに立てなくなってその場に座り込んだ。何が何だかだけどとりあえず助かった…。さっきのスーツ男が敵じゃなければ……その男は地面に散らばった注射器の破片を手に取ると漏れ出る溶液を確認しながら早坂の元に近付いてきた。

 

「低濃度の弛緩剤…、早坂!大丈夫?!ぎりぎりになってごめん」

彼は腰を下ろすと早坂の首筋に手を当てて息を確かめるように同じ目線で語りかけた。

 

「つき…くん…何でここに…?」

そこにいたのはクラスメイトの月城尚武。

「あとで説明するから。まずは病院に」

既に限界だった。彼の声や手の体温に安心してしまったのか、けたたましく聞こえてきたサイレンを耳の端にとらえたと同時に早坂は眠るように意識を失った。

 

 

*  *  *

 

 

「知らない天井だ…」

重たい瞼を持ち上げるように目を開けた早坂は焦点が合うと清潔感のある天井に思わずそう呟いた。

 

「早坂…!目さめた?!よかった~」

心底、安心した表情で月城はナースコールを押した。再び、丸椅子に座り込むとスーツのジャケットを脱いでネクタイを緩め、ゆっくりと息を吐いていた。

 

「月城くん、ここって」

早坂は体を起こそうとしたがそれは月城に阻まれた。無理しないでと顔が訴えていたのもあって早坂はそのまま力を抜いて、頭を枕に戻した。

 

「警察病院だよ。ここは要人保護向けの病棟なんだ。セキュリティは永田町も顔負けの体制を敷いてるから安心して」

そこはまるでホテルのスイートルームのような病室だった。点滴に心電図、ナースコールのボタンがあることを除けば。

 

「今日は何日…?」

窓の外は暗かった。口の中が乾いた感覚を覚えながら早坂は尋ねた。

「あれから5時間ちょっとだから23日」

 

「じゃあ日が跨いですぐなんだ。それでその…」

状況はいまだ掴めなかったが早坂はお礼を言おうとしたが月城がそれを遮って発したのは謝罪だった。

「ごめん。未然に防げなくて。後手に回った」

「でも月城くんが助けてくれたんでしょ?まだ何が何だかわからないけどありがとう」

「……そう言ってもらえると少し気持ちが楽になれるよ。無事でよかった」

 

すると廊下からドタバタと慌ただしい音が聞こえたと思うと医者と看護師、スーツがまぁまぁの数で部屋になだれ込んできた。

「田沼先生。ご足労をおかけしました」

「久しいね月城君。案ずることはない。これは私の最も優先すべき仕事の一つだ。それではちょっと席を外してもらえるかな」

「外で待ってます。ではまた後程、あとでね早坂」

 

「マッ…いや…そのありがとう」

早坂は一瞬、伸ばしかけた手を引っ込めて咄嗟に出そうになった願いを感謝に言い直した。部屋は静寂に包まれて看護師は若干気まずい空気を感じ取った。

 

「報告通り、弛緩剤による影響以外は見受けられないね。数日後には全快すると思うよ」

田沼医師は問診を終えるとそう言った。

 

「そうですか」

 

「何か他に聞きたいことはあるかな」

 

「特に大丈夫です」

 

「月城君とは久しぶりに話したのかな。なに、ちょっとした世間話だ。嫌だったら答えなくてもいいからね」

 

「学校で多少話すことはありましたけど、そうですね。久しぶりです」

 

「そうだったんだね。今は彼が側にいないと不安だったりするかい?」

 

「まだよく分かんないけどあの時、彼が助けてくれたのでそう意味ではちょっと不安です。んあれ…?」

やけに素直に話しているなと早坂は自分に対して困惑した。

 

「やはり軽度ながら自白作用のある弛緩剤だったようだね。検査で出てた成分からその可能性は高かったんだけど」

 

「自白作用…」

 

「まぁ吊り橋効果ってやつだね。いいねぇ若人の初々しい感じがグッとくるよ」

「先生」

看護師はまた始まったと田沼医師を叱責。

 

「え?」

早坂は唐突すぎる話題にあまりピンと来ず素っ頓狂な声が出た。

 

「少々手荒くて恐縮だけどストレス状態や心的外傷のチェックも兼ねてるんだ。彼が側に居ないと不安、まさに吊り橋効果だ。え違うの??」

「違うかもしれないでしょう...!」

田沼先生の発言に看護師が強めにかぶせる。

 

「……助けられたとき、彼の声とか手が温かくて安心したやつのことですか?」

普段だったら言わないことを早坂は口走っていた。しばらく経ってから時々起きて思い出してはあああああああ!と布団の中で荒ぶる羽目になる。すると田沼医師は看護師と顔を見合わせると深刻な面持ちで口を開いた。

「我が医者人生でも大きな誤診だ。それは吊り橋効果なんて易しい一過性の現象じゃない」

 

「じゃあなんなんですか」

早坂はどこか悪い予感がしていたがつい聞いてしまった。

 

「それは恋の病だね」

 

「?????」

悪い予感がそのまま的中して早坂の頭上には疑問符が整列していた。

 

「やっぱり王道の幼馴染だよね。先生、密かに君たちのことは応援してたんだ」

「最後の絶対言わなくていいです先生。というか言わないでください」

看護師は今にも田沼医師の頭を引っ叩きそうな顔をしていた。

 

「いやっでも幼馴染って言えるほど関わってないですし、家同士の付き合いもあったから最初に顔を合わせたのは昔ですけど。それからは学校で話す機会もそんなになかったし。最近は向こうから全然話しかけてくれなくて」

 

「疎遠になってたけど元々、気になってた男子がいざという場面で颯爽と助けに来るなんて白馬の王子様そのものじゃないか。ときめいて当然だよ」

 

「ちちちちち、違います」

早坂は否定した。

 

「そう照れなくてもいい。私も君くらいの年にはそんなシュチュエーションを想像したもの…」

 

スパン!

 

「ごめんなさいね。この人最近ボケが始まってるんじゃないかって噂があるくらいで。私たちはこれで失礼するから、何かあったらナースコールを押してちょうだい」

「いきなり引っぱたかなくてもいいじゃないか。というかその噂初耳」

「そのうちいつか訴えられますよ先生!熟年逮捕とか勘弁してください」

「熟年離婚の危機ならこの前あったから気を付けるよ。それじゃゆっくり休むんだよ」

看護師はツッコむことを諦めたようでそれ以上は口にしなかった。

 

「あ、はい…!ありがとうございました」

田沼医師ご一行が出てからワンテンポ遅れて入れ替わるように月城が病室に戻ってきた。さっきの今で早坂はまともに月城の顔を見れずにうつむいた。

 

【月城尚武と早坂愛の関係は幼少の頃に家同士の付き合いで顔を合わせた時まで遡る!月城家は殆どが警察関係者という絵に描いたようなエリート警察一家。四宮グループを始めとして財閥や企業経営者など警護や警察の協力を必要とする多くの名家と繋がりがあるのだ!何かと狙われる立場にある名家の子息や令嬢が集まる秀知院学園の安全は代々、月城家が守ってきたという歴史がある。加えて財閥と警察組織が直接、癒着しないように緩衝材の役割も果たしてきたその苦労は計り知れない!その直系でひとり息子である月城尚武は幼い頃から社交界にも顔を出し、小学生の頃には親に連れられて四宮邸を訪れて四宮かぐやと早坂愛の3人で遊んだ回数は数知れず。ところがここ最近では、同じ四宮かぐやの護衛という立場でありながらお互い特に干渉せず、学校で顔を合わせれば自然に世間話をするがそれだけの距離感となっていたのだ!】

 

「月城君…」

 

「それじゃ、何から知りたい?」

それからは月城は知りうる限り全ての質問に誠実に答えた。

四宮かぐやの護衛というのは本当でもありそこに偽りは無いが正確でもないということ。

それは警察一家の月城家で特例として高校生でありながら既に公安捜査官として多少の権限を持っていることだった。主な任務内容は四宮かぐや並びにその関係者を中心に秀知院学園に在学する生徒の保護、警護であること。任期はとりあえず秀知院学園を卒業するまで。

 

「…私が狙われたのって」

 

「四宮家、それも四宮かぐやに近しい人物だから」

 

「っつ…」早坂は察していた理由が答えとして帰ってきて言葉に詰まった。それはもうかぐや様の側には居られない事を意味している。

 

「ただ、早坂が四宮家だと嗅ぎつけたのは今回のグループだけ。幸い、他への情報流出は見受けれない。早坂が四宮の近侍を辞める緊急性は無い」

 

「そう…なんだ」

 

「ただ今後は何らかの対策を講じる必要がある。早坂、君は四宮グループに対する交渉材料としては実に魅力的な存在だ。普段の仕事ぶりは極めて優秀。故に四宮の関係者とバれる確率は低いがバレた瞬間にリスクが跳ね上がる」

 

続けて何故ここまで危険性が上がっているのか。言ってしまえば直近で四宮周りの治安が急激に悪化したのかを月城は淡々と語った。

「発端はカマセドニア共和国の鉄道整備計画。日本企業が多く参加し、四宮グループは正に主幹企業だった。プロジェクトの進行自体は順調そのものだったが共和国の反政府勢力が反対運動を始めた。最初はただの署名活動だったがそれがデモ、暴徒化、ついには過激派の武装勢力が建設現場でテロを実行。これに対して四宮グループは日本政府を通じて莫大な額をテロ対策の資金として共和国に提供した。この辺はニュースになってないね」

 

「資金提供は本家からも特に聞いてない話です。それに結局、治安の悪化を理由にプロジェクトは中止された」

 

「その通り。その疑問を解消するには捕捉すべき理由がある。提供された資金の多くは正しく使われなかった。共和国の体制維持や情報統制に金を回して不足していた予算の補填にさえも使われた。極め付けは中抜きだ。肝心のテロ対策はおざなりになった。安全性の担保されない現場で仕事が出来る訳がない。国民の暮らしを豊かにするはずの鉄道は完成を迎えずに四宮グループは撤退。残ったのは反日感情と四宮グループへの憎悪を燻らせた過激派やテログループ。憤りを抱えた国民と途中で途切れた線路と無駄に肥えた体制側」

 

「……初耳です」

 

「だろうね。本家にとって…というよりあの長男にとっては末代の恥だろう。国際情勢的にも人聞きが悪いったらありゃしない。事が事だから情報全ては統制しきれていないが少なくとも大手メディアが報じる事は今後もないだろうな。ネットでもせいぜい現実味のある陰謀論止まりで片付いて終わっている。実際はその件を皮切りに四宮グループを狙う事案が急増した。国外からあの手この手で入ってくるのに対して水際対策で大体はなんとかなるが国内の反社会的な団体やグループがネットを通じて仕事を請け負い、代行されればこっちは後手に回る可能性が高くなる」

 

「何というか…聞きたくなかった話のオンパレード。というか私が聞いて大丈夫な話なの?」

 

「今回の件で君は関係者から当事者になってしまった。今後において情報を共有しないというのはリスクに直結する。上から許可は降りている。早坂が他言しない限りは問題ない。それでもうひとつの仕事、というより本来の君の業務に関してだが」

その言葉に早坂は目を見開いた。

 

「現段階で我々が関知する事はない。四宮家長男は良くも悪くも四宮家の発展と繁栄の為に動いている。当主としての器があるのかは大いに疑問が残るがね。君が本家に行っている四宮かぐやに関する報告に安全保障上の危険は少なくとも今現在においては無い。故にその問題は当事者間での穏便な解決を望む。“と”ここまでが我々、こっち側の見解」

 

「どこまで…知って」

 

「今ので全部だよ。僕にも開示される情報には限りがあるから。だからさっきまでの話も全部が本当かは保障できない」

 

「でも私の仕事は本当。軽蔑…とかしないの」

 

「しない。これ以上、僕がとやかく言うつもりは無いけど君は悪くない。そう思ってる」

 

「かぐや様を裏切ってるんだよ私は…ずっと、知ってるならせめて罵ってよ」

 

「それはできない。今までもこれからも僕はたとえ何があっても早坂の味方だから。その上でここからが本題なんだけど」

 

「……………」

 

「早坂、僕と付き合って欲しい」

 

「うん…うん?!」

 

「唐突なのは謝る。そもそも最近はあんまり話せてなかったし、それで…え〜といやそれでこっち…を先に言っとくと上司から君と恋人関係やそれに準ずる近しい関係となって自然な形で警護をするように命令を受けた。その方が四宮かぐやの護衛もしやすいと」

 

その言葉に早坂は昂った心臓に冷や水をかけられたような気分になった。自身の知られたく無い秘密が知られている。そんな心中穏やかじゃ無い中で人生で初めてされる告白。それも自分が淡くどこか気になっていた男子、大袈裟に言ってしまえば意中の相手から。医者の言ってた吊り橋効果もあながち間違いじゃないかもしれない。この告白は断るとか受けるとかそんな甘酸っぱいものなんかじゃなくて仕事の延長にあるものだと。一瞬昂った心が冷え切ってジクジクと痛んだ。

 

「だけど早坂、僕は…」

 

「それ以上は言わないで」

ここで慰めやフォローをされても辛い。ましてや本当のカップルでは無いからという旨を釘に刺されてはもっと辛い。その辺はハッキリさせずにいつかこの関係を本物にしてしまえばいい。一瞬でそう判断した早坂は月城の発言を遮った。存外、早坂は強い女性であった。

 

「…言ったらダメかな」

月城はいざ勇気を振り絞って好意を伝えようとしたタイミングで見事に出鼻をくじかれ、結構心にキていた。早坂に好意を伝える資格など自分には無いのかもしれないと…

 

「だめ」

 

「……分かった。ただこれだけ言わせて。さっきも言ったけど僕は何があっても早坂の味方だし、何があっても絶対に守るから」せめてこれだけは言わせてという月城の切実な願いであった。いつかこの関係を本物にしたい。

 

「ありがとう。これからよろしくね。折角、付き合うんだからさ、休みの時とか放課後にデートとか行こーよ」

 

「僕でよければ喜んで。買い物でも何でも付き合うよ」

 

「そうだなぁ…つっきーとナオ君どっちがいい?」

 

「ナオ君かな。父さんがたまに自分の一人称をつっきーにしてボケるからちょっとね」

 

「警視庁特別監察官の月城警視正が……?」

早坂は彼の父親を思い出しながら公の場とのギャップに衝撃を受けていた。

 

「父さんの役職フルで言わないで上司なの思い出すから」

 

「それはごめん…」

 

「秀知院、卒業したら転職したい…」

 

「私も転職したいかも」

 

「「お互い大変だね」」

そう言って穏やかに2人は笑い合った。やがて早坂が眠るまで月城は側で見守った。

 

彼女が静かに寝息を立ててしばらくして廊下に出ると駆け付けた早坂母と月城がエンカウントした。月城は挨拶すると同時に開口一番頭を下げた。

「早坂さん。この度は本当に申し訳なく」

「必ず、命に代えても娘を守るって言いましたよね」

「はい」

「約束を破りましたね」

「結果的に、はい」

「ですがギリギリでも間に合ったのは親として感謝しています。本当にありがとう」

「今の私にお礼を言って頂く資格はありません」

「それはそれ、これはこれです」

「ありがとうございます」

「ところで娘に交際を申し込んだというには本当ですか」

「些か情報が伝わるの早すぎませんか」

「本気なんでしょうね」

「本気です」

「なら良いんです。私は応援します。ただあなたが娘を泣かせたら容赦しません」

「はい、心得てます」

「それでは、今度ゆっくりお食事でもしましょう月城警部補」

「その際はお手柔らかにお願いします。では私はこれで失礼します」

早坂母の圧。月城はめちゃくちゃビビり散らかしていた。

 

*  *  *

 

早坂は窓から差し込む朝日で目を覚ました。早起きという訳ではないが昨日の今日としては比較的、気持ちの良い目覚めだった。手を握られている感覚で横を見るとそこには早坂を見守っていた母の姿がった。

 

「ママ…?」

 

「おはよう愛、本当に無事でよかった…!」

 

「ん、苦しいよママ…」

などと言いながら早坂は抱きしめられて多幸感に包まれていた。抱きしめられながら頭を優しく撫でられて顔はすっかりとフニャけている。久しぶりの母親とのスキンシップに感無量の早坂。

 

「きてくれたの?」

 

「当たり前でしょう。こんな時にさえ仕事で来れないなんてなったら親失格になってしまいます。会える時間がいつも少なくてごめんね」

 

「すぐ帰っちゃう?」

 

「今日と明日いっぱいは一緒にいますよ。それとも帰った方がいいかしら?」

 

「ううん、一緒にいて」

 

「はいはい」

 

午前中には四宮かぐやが病室に見舞いに来るとほとんど半泣きで早坂に飛びつかんとする勢いであった。すっかり賑やかになった病室で四宮は夜、一緒にここで寝ると言い出す始末だった。

 

 

 

 

 

 




誤字、脱字は随時、修正致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1話 映画館

原作ネタバレ注意


〜早坂と月城は見守りたい〜

 

『対象自宅2ブロック先において2名発見。実行犯の残りだと思われる』

 

『目視で確認。こちらで対応する』

 

『回収完了。対象自宅は現在フリー』

 

『目標グループのメンバー全員の無力化を確認。対象の拉致等の可能性は排除されました』

 

『状況終了。護衛形態を通常に移行。別班への引き継ぎを済ませ次第、各自で撤収』

 

『対象は学ラン、自転車で移動を開始』

 

『ママチャリです』

 

『その補足は要らん。月城は速やかにαと合流。任務を続行せよ』

 

 

 

「...了解」

 

月城は短く、応答すると足元に伏して気を失っている男を一瞥した。隣の先輩

でもある同僚に後を任せると指示通りに”α”の元へ急ぐべく駆け出した。

 

*  *  *

 

『こちらA地点。対象が自転車で自宅から出発しました。トラブルは解決済み』

 

『了解。交通量やその他問題は』

 

『ありません』

 

『...こちらB地点に対象が現れました。現在ママチャリに乗ってC方面へ進行中』

 

『こちらC地点。対象は自転車置き場にて駐輪完了。そのままシネマ方向に移動中と思われる』

 

 

「かぐや様そろそろ宜しいかと」

 

 

「我慢してください。白銀さんもう来ますよ」

 

 

『対象がランデヴーポイントまでカウント5

 

4

 

  3

 

    2

 

      1

 

「ごめん早坂、間に合った?」

急いで服やらウィッグやら何やらを整えてきた月城は若干息の上がった声で早坂に問いかけた。上司に“α”との合流を伝えると通信器具を鞄にしまった。

 

「丁度やってますよ月城君。ほら」

後ろから聞こえてきた声色で相手を悟った早坂は振り向かずに、少し遠くに目線を向ける。白銀と四宮が”偶然”“バッタリ”と映画館前で鉢合わせていた。

「バッタリ奇遇ってやつね。微笑ましい光景で何よりってえー白銀、制服で来てんの」

デートっぽい様相になっていない絶妙なチグハグな服装に不満を述べる月城。 

「残念ながらそのようです。にしても今日は随分と合わせてきましたね」

早坂は月城のギャルの隣に溶け込めるよう努力した事が感じ取れる服装もとい変装にコメントした。

「あんまり時間なくてこれしか無かったんだけどやっぱ変かな」

「別に..ただ男子がギャルっぽくしようとするとどう頑張ってもチャラくなるというのがよく分かります」

「ウィッグが茶髪だから余計だよね。これでプリクラでも撮る?」

「映画の後で撮る」

「撮るんかい。他の人達は?」

「絶賛撤収中。あそうだナオ君。悪いんだけど伊達メガネとか余ってたりする?」

「これで良ければ」

「サンキュー。それじゃ映画楽しもっか!まずはドリンクとポップコーン買うし〜ナオ君は何味にする?」

一気にギアチェンしてギャルモードに換装した早坂は月城と手を繋いだ。

 

早坂と月城は半年前のクリスマス襲撃事件以降、交際している。病院での告白はロマンのかけらのなければ絵面として全然美しなかっただろう。月城は偽り無く、全てを早坂に伝えた。上からの命令で恋人もしくは近しい関係で早坂愛を守れという指示を受けたのだ。その方が四宮かぐやの護衛もしやすいと。

それを踏まえたうえでそんなのは関係なく、好きだと伝えようとした月城だったがそれは叶わなかった。いざ自分の本心を口に出そうとした直後だった。あくまで警護のための偽装カップルだからと釘を刺される事を恐れた早坂にそれを遮られたのだ。以来、完全に伝えるタイミングを逃した月城、本当の所はどう思ってるのか聞き逃した早坂。以降、付き合ってるのに何とも言えない距離感なのだ。ただでさえ二人とも仕事上、複数の人格を演じることが多く、そもそも口調や言葉遣いが安定しないので完全によくわからん感じになっている。しかし、半年の交際期間を経て距離は確実に縮まっており、本人たちはそれを意外と楽しんでいたりする。

 

「キャルメルポップコーンとチョコホイップラテにする〜!」

手を握り返しながら唐突なギャルに付いて行こうと無理する月城。

 

「「キッツ」」

ムリだった。

 

「自分でやっててキツかった」

「何かその自分を客観視してしまったような気分でだいぶ心にきた」

「そこまで言う?!大丈夫だよ。ギャル早坂はキツくないし可愛いし」

「恥じらいが無いとあんまりドキドキしないし~」

「顔を赤らめながら言った方が良かった?」

「それはそれでキモいのでちょっと」

「ひっでぇ、可愛いのは本当なのに」

そんな軽口を叩き合いながら決してあの2人に見られない距離感で映画館に足を踏み入れた。これから早坂と月城が行うのは映画デート…

 

否!!偶然を装って映画デートを試みる白銀御行と四宮かぐやの護衛である!月城は月城家直系、警視庁特別監察官の父を持つひとり息子でその名は月城尚武。家同士の付き合いもあり、四宮と早坂とは旧知の仲。高等部から外部入学してきた白銀とも友好的な関係を築いており、未だ正式メンバーではないが生徒会の業務を手伝うことも多い。一方で秀知院学園において生徒の立場から学園の警備の一端を担っており、高校生ながら四宮かぐやの保護を最重要とした生徒の護衛任務に就いてる公安の捜査官なのだ。四宮グループの本家本流の長女である四宮かぐやは反社会的な勢力や国外のテログループにとって喉から手が出るほどに欲しい存在で正に金のなる木。国家はテロリストに屈しない。だが巨大グループとはいえ民間企業相手なら通るのではないか。四宮グループに身代金を要求するならいくらでも吹っ掛けられる。そんな発想が蔓延るのもあってか狙われる立場にあるのだ。今日は白銀の方に路線変更したトリッキーな誘拐目的のテログループ一派と公安がやりあったばかり。目下の危険性は排除されたが油断できない状況なのである!

 

白銀たちを視界の端に収めた月城は歩幅を緩めて入場口から少し離れたソファに早坂を促した。そのまま2人で腰掛ける。落ち着いて一呼吸おいた時にチケットを巡って右往左往する四宮が見えた。

「かぐや様の世間知らずが遺憾なく発揮されてますね。会長が介護してるみたい」

「もしかして映画館初?」

「初では無いけどチケット購入は初じゃないですか。そういえばその辺、教えてませんでした」

「白銀が先にチケットを買ったか」

「偶然だとしても入場前に会ってるんだから座席ぐらい一緒に決めればいいのに」

「確かに。でもそれが出来たら」

「こんな面倒な事になってない。あでも会長がかぐや様に何か伝えてます」

「じゃあ大丈夫か。こっちもボチボチ行く?」

さっきのキツイ声ではなく、自然体で口調が崩れて朗らかになった月城に早坂もほとんど素で合わせる。

 

「いこっか、ナオ君。ポップコーンどうする」

「そこまで並んでないから先に買おう。味は…」

「そこはキャラメル一択…待って期間限定のチョコキャラメルだって!そっちにして」

「時間空けて傷をえぐりに来たね」

「何のこと~?私が塩にするからさ。シェアしよ」

「それもう逆でいつも通りに買えば」

「だめ。チョコキャラメルとチョコホイップラテ買ってるとこ写真に撮りたいし」

「左様ですか」

「左様です」

「それで気が済むなら喜んで」

「よっしゃ」

*  *  *

気付かれないように月城と早坂は上映時間ギリギリで既に大きい照明が落ちてるタイミングで最後方の座席に腰を低くしながら段差を登って座る。恋愛映画なだけあって明るい映像で客もそこまで多くなかったので中央の方に座っている白銀と四宮は割とすぐに見つかった。隣に座ってポップコーンを食べているであろう写真に収めたい光景が見れると思っていた月城は焦点が合うと、え!と口を半開きで目を見開いてから二度見した。早坂は劇場の天井を仰ぎながら軟体動物かのように姿勢を崩して座席にぐてーとしていた。なんと二人は隣ではなく一列違い。ひとつ席を空けているとかですらない。斜めに座っていたのだ。

 

(ここからは互いの手の甲に指を叩いてのモールス信号で会話でお送りしています)

『あれは何をやって…何がどうなってあぁなったの?』

『私が聞きたいです。4時起きして指揮を執った私の努力が…あれじゃ』

『列違いで斜めか~。あぁポップコーンのシェアが全然エモくない』

『ほんとですね。ナオ君だってそっちはそっちでひと悶着あったんでしょう?』

『まぁ元気なのが十数名。全員が白銀家の周りをうろついてた』

『マジ?ガチな奴じゃん。大丈夫だったの?』

早坂は姿勢をある程度、直すとやけ食いしようと月城の買ったポップコーンを鷲掴みした。ちなみに一粒もこぼさなかった。

『取りこぼしはない。なんならその十数名が取りこぼしのようなものだったから。これでしばらくは平和になるはず』

『ならよかった。チョコキャラメルおいし!』

『塩ちょうだい』

 

「ん」

早坂が塩味のポップコーンを一粒手に取って月城に差し出した。

 

「え」

「あ~ん」

 

ぱくっ

暗い場所で赤面が隠せた月城に味はわからなかった。塩味は全くわからなかった。というかチョコキャラメルの味だった。

 

『チョコキャラメルの味がする。』

早坂はさっきチョコキャラメルを鷲掴みした手であ~んを試みていた。

モールス信号でそう送られた早坂は全く嬉しくない感想に心の中で舌打ちすると羞恥も相まって月城の手に人差し指を何回も突き刺した。

『それは! どうも! すいませんね!!』

「いっ!!」

「劇場ではお静かにですよ。ナオ君」

「愛…めっちゃツボに刺さった」

「狙いましたから」

「まじかよ」




誤字脱字随時修正


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話 恋愛相談&登校

原作ネタバレ注意。キャラ崩壊、捏造、オリキャラ諸々注意。


〜月城はあんまり聞きたくない〜

 

弁当交換未遂事件前日 四宮邸にて。

 

「こうなったら旬の食材、最高級料理、産地直送で勝負よ!」

「はぁ」

それはもう逆効果なのでは…

「何か問題でもあるかしら早坂」

「いえ、かぐや様のお望みとあらば、そのように致します」

早坂はここで適切なアドバイスや助言をしなかった。何故なら面倒だったからである。

* * *  

弁当交換未遂事件から後日、生徒会室にて。

 

「正直、牡蠣食べたかった」

白銀が事件の経緯を月城に語っていた。

「それ弁当交換したかっただけなんじゃないの?」

「いやそれはない。あの時の四宮は人を殺せる目をしていた」

「そう」

「あれは暗殺者の目だった。人を人とも思わずに家畜や虫を見るような恐ろしい目を」

「ふ〜ん、で半年過ぎて成果は列違い斜め座り映画デートだけか」

「うぐっ…さては月城、あんま興味ないな?」

「そんな事はないって」

 

コンコン

生徒会室に来客。

「あぁ俺が出るよ」

「どうも」

 

ガチャ

「何か用かな」

「はい。会長、今お時間よろしいでしょうか」

「まぁ構わんが………恋愛相談?」

 

「ッヘフフ…げほっげほっ」

月城は咽せて笑いを隠した。

「はい、僕もうどうすればいいのか分からなくて。恋愛において百戦錬磨との呼び名の高い会長なら何か良いアドバイス頂けるのではないかと思って……!」

「判った」

会長は短く了承すると生徒会として生徒の悩み云々と素晴らしい続きを言いながら相談者を生徒会室に招き入れた。

「恋愛相談ってどうしよ…!おい何笑ってんだ月城!(小声)」

「アッハハハh、だって恋愛マスター、百戦錬磨とか言われてるから(超小声)」

「あ月城いたんだ」

「ちょっと手伝いでね。お疲れ田沼、退席した方がいいか?」

「いや構わないって。月城も良ければ聞いてくれると嬉しい」

「れ…恋愛のことなら俺に任せろ!俺は今まで一度も振られた事がない」

「告白したことがないからな(超小声)」

「黙ってろ…!(めちゃくちゃ小声)」

「一度もですか…さすが…会長」田沼は微塵も疑わずに驚嘆の声を漏らした。

「さすが会長!」月城もニッコニコで続いた。

「だ、だろう…」

月城テメェ!

 

最初は白銀の取り繕いを揶揄っていた月城だったがどう考えても義理チョコが脈あり。ただのからかいがモテ期とポジティブかつ上から目線の内容に変換、展開されていく恋愛相談にえぇ…と若干引いてからはどのタイミングで部屋を出るかだけを考えていた。何故なら扉の方には四宮が聞き耳を立てている。八方塞がりなので月城は耳をシャットダウンした。

「な月城もそう思うよな?」

「…まぁ素直に頑張ってみたらいいんじゃない」

ヤベェ全然話を聞いてなかった。

「僕、頑張ってみます!壁ダァンですね!」

 

何だって?

 

*  *  *

 

〜かぐや様を歩かせたい〜

 

「かぐや様って本当に優しい」

「なんかこれ、はじめてのおつかいみたい」

折角の徒歩登校そっちのけでぐずっていた小学生の手を引いている四宮の姿を見て早坂は溢れるように口にした。

 

「まぁウチらもやってる事はストーカーと同じだからね」

「ちゃんと護衛って言ってね早坂、マジもんのストーカー処理したばっかなんだから」

自業自得で上流階級から弾き出された経緯を持つ男は四宮グループを盛大に逆恨みしてストーカーになったそうだ。男が持参していたロープで縛り上げて回収を頼んだ所だった。

 

「やっぱり徒歩での登校はこれっきりか〜」

「こればっかりはどうしても、仕掛けやすいのは事実だからね」

「わざわざ学校から戻ってきてくれてありがとねナオ君」

「構わないよ。仕事でもあるし」

月城はたまたま早く登校していたが要請に応じて荷物を置いて教室を飛び出して通学路に戻り、早坂と合流していたのである。

その後も四宮と小学生に近付こうとする輩を片っ端からしばき回していく月城と早坂。後ろから早坂の髪を掴もうとした男は月城の蹴りが首元に直撃して聞いたことのない呻き声を奏でていた。因みにあと少し勢いがあれば首の骨が折れていた。

「怪我ない?」

「無論有りません」

 

それからは襲撃者の影も無く、手を引かれてた小学生も無事に上級生と合流できたようであったが辺りを見渡して静かに諦めたように四宮は電柱にもたれかかっていた。

「完全に迷子ですね。仕方ありません。あとはこっちに車を…」

「ちょっと待って」

「なるほど」

電話に手をかけた早坂を止めた月城。早坂も瞬時にその意味を理解した。

 

自転車で駆ける白銀と四宮が本当にバッタリ出会ったのだ。少し問答をして信号が変わると四宮は自転車の2人乗りに応じて後ろの荷台に腰を掛けていた。

「わたし…今ちょっと感動してます」

パシャパシャパシャパシャ

「何というかよかったね」

月城は持ち前の撮影スキルで高画質の写真を連写していた。

 

「なんか会長急いでましたね」

「始業まで時間ないからじゃない?」

「あぁそういう…」

「「あ」」

「鞄机に置いて教室出てきたから遅刻すると説明まじめんどくさい」

「ヤバ!そういえば今日、日直だったかも」

 

テレレレレレレレレレレレレレレエレレレレレレレレレレレレレ……

 

「早坂…鞄よこして」

 

デン! デン! デンデン! デン テン テン テン テン テン テンテン テンテン テン テン!テレレー! テレレー!

 

早坂と月城は全力疾走で登校を始めた。普段から想像を絶する鍛錬と並外れた身体能力を持つ2人の全力の走りは毎度の如く組織から支援を受けずに飛行機の扉に捕まったり、ヘリコプターをよじ登ったりしながら不可能な任務を受けて世界を救っている諜報員のようで映画化待ったなしであった。

 

テレレー!テレテレ!テレテー!テレテー!

 

四宮は白銀との自転車2人乗りに夢心地だったが遠くから近づいてくる2つの人影に顔が引き攣った。月城と早坂がアクションハリウッド映画顔負けの速度で全力疾走していたのだ。あっという間に追いつかれて四宮は2人と目が合う。

月城は両手を合わせて四宮に謝罪の意を示しながら申し訳無さそうな顔をして早坂もそれに倣っていた。四宮は自分が歩いて登校したいという我儘に付き合わせていたとすぐに悟ると怒りも湧かなかったので穏やかに頷いて応えた。

 

「ん…?」

白銀が自分の自転車以外に空気を切り裂く音に一瞬、振り返った時に2人は白銀を追い越していた。

「おはよう白銀四宮!また後でな!」

「おはよ〜四宮ちゃんに会長、またね〜!」

 

「おはよう月城って早っ…!すげーな。イーサンとイルサかよ」

「会長、誰ですかそれ」

四宮が白銀に尋ねた。

「あー最近観た映画のキャラだ。シリーズものでな。なかなか面白いんだが、もう少しスピード上げるぞ。危ないから腰に掴まっててくれ」

「え!…いやその、はい…」

 

そんな微笑ましい光景が広がる後方に耳を傾けながら全く息もあげずに2人はペースを保って走り続けていた。

「これ結局、会長の持久力次第ですね。完全に目を離す訳にはいかないですし」

「白銀もスピード上げてるしまぁ大丈夫だろ。というか大丈夫であってくれ」

 

無事、全員遅刻は免れた。

 

 

 




誤字脱字随時修正


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話 スマホ&ラブレター&パーティー

〜白銀御行は手にれたい〜

 

「本当にタダでいいのか?」

白銀は自身のスマホがノートPCに繋がれている机を横目に月城に尋ねた。

 

「こっちが金払ってでもやらせてもらうよ」

タイピングの手を止めないまま月城は割と真面目な口調で答えた。

 

「そこまで言われるとなんか怖いんだが。只より高いものはないっていうだろう」

 

「大丈夫。代金なら既にもう貰ってるから」

 

「え、誰から?」

 

「学園長」

 

「何で?!」

 

「えーゴホンゴホン、白⤴︎銀クンのスマホデビュー大変⤴︎オメデタイですね〜!ですがこの学園の生徒会長のスマホは正にレッドボックス!国家機密といっても差し支えアリマセン!そこで月城クンにセキュリティの方をお願いシタイのデス!」

 

「その心臓に悪いレベルの再現度でモノマネすんのやめろよな月城。というかなんで学園長にスマホデビューが伝わってるんだ…」

 

「スマホが普及した頃に初めて生徒会長が持ってたら骨の髄まで情報を引っこ抜かれたらしい。以来、最寄りの警察署で生徒会役員のスマホはセキュリティを底上げするのが決まりになってる」

 

「別の意味で怖くなってきた」

 

「わざわざ署に来てもらうのも手間だから尚武やっといてよろぴく⭐︎って父さんから今日渡されたんだこのパソコン」

 

「月城の父さんってそんなキャラだったけ」

 

「家だと仕事の反動でだいたいはっちゃけてる。はいこれで終了」

 

「どうも」

 

「あぁ、並大抵のウイルスやクラッキングは受け付けない。ちょっと怪し〜いサイトにアクセスしても大丈夫だぞ」

 

「それは助かr…って見ね〜わ!四宮いる時にそういう話、絶対するなよ」

 

「当然。流石にまだ死にたくないし。あぁついでに四宮の連絡先入れとこうか」

 

「知ってんの?!」

 

「流石に知ってるよ」

 

「そりゃそうか。付き合い長いんだったな。だが必要ないさ月城。俺は自分で連絡先を手に入れたい。というか四宮から聞いてもらいたい!」

 

「そうかい。まぁ頑張ってくれ。とりあえずこれ僕のIDね」

どうやら白銀は四宮からラインのIDを聞かれたいらしい。月城は四宮が未だにガラケイ、その上かなり昔のモデルなのを思い出すと知らんぷりする事に決めた。

 

*  *  *

 

〜月城は確かめたい〜

 

「ラブレターね」

 

「かぐや様に宛てたものですね。なかなかポエム節が強いですが内容自体は健全。相手にも失礼ですし、特に裏がなければこのまま放置して…月城君は何やってるんですか」

 

「え?指紋スキャンと筆跡照合」

月城は小型の機械を取り出して手紙をスキャンし始めていた。

 

「謎のハイテク機器をさも常識みたいに語らないでください」

 

「全生徒の指紋と筆跡が紐付けられて登録されてるからそれを照合すれば…こうやって事件性があるか否かを判断できる。外部の人間が他校の生徒を装って秀知院の生徒を介して手紙をロッカーに入れる事自体は可能だからね」

 

「今、全生徒って言いました?」

 

「そう言ったよ早坂。一致したからこれは事件性なし」

 

「こっわ!!」

 

「場所を指定して呼び出す内容である以上はきちんと確認しないと。そこで待ち伏せなんてされたら最悪だ」

 

「そりゃそうですけど…。つまり月城君はこのラブレターを誰が書いたか分かったって事ですよね」

 

「いや、画面には一致したか否かだけ表示されるから特定は出来ないよ。今のご時世、個人情報とかそういうのは厳しいから」

 

「そこは配慮されてんの?!」

 

*  *  *

 

〜早坂は問い正したい〜

 

「「「「間に合った〜」」」」

 

「皆サマお疲れ様デス。いやはや急ナお願いでしたが…

学園長は急な要請を形にした生徒会メンバーに労いの声をかけた。

 

「ただ次からは3日前に言うのやめてください。他の役員などに負担をかけるのは俺の方針じゃありませんので」

「警備上の懸念も生まれますので最低でも1週間前、できれば2週間前には通達頂きたいですね」

白銀に何ならちょっとキレ気味の月城が続いた。

 

「ハッハー…!わかってマス!もうしまセンヨ!」

 

学園長に皆さんも楽しんでと言われた白銀だったがパーティを楽しむどころではなかった。正に非常事態。

「四宮…な、なかなか達者じゃないか」

「藤原書記……お前フランス語話せたのか…?」

「月城…お前もか?!」

この中でフランス語喋れないの俺だけ!?

どどど…どうする?すぐに察して月城が通訳しようかと言ってくれたが急さっき意気投合したのかフランス校の生徒とテラスまで行って帰ってこないし…

この際…藤原書記に助けを求めるか…?月城帰ってきてくれ!

 

白銀の心の叫びとは裏腹にテラスでは別の意味合いで非常事態が起きていた。フランス校の女生徒と月城が当たり障りのない会話をしていたのは最初だけであった。

 

「J'ai mémorisé tous les étudiants de la fête.」

パーティーに参加する生徒の名前は全員覚えたんですよと何故、名前を知っているのかという問いに月城は答えた。

 

「Est-ce le cas ?」

そうなんですか?と驚きの混じった声で答える生徒。

 

「Oui. Au fait, vous semblez avoir grandi de quelques centimètres avant et après votre entrée dans la salle - s'agit-il d'une poussée de croissance ?」

 

「ッチ…!」

会場に入る前と後で身長が数センチ違うと指摘されてこれが罠だったと悟ったフランス校の女生徒?は行動を起こす前に行動不能となった。

 

ベリ!

月城が気を失っている女生徒?の顔を掴むと音を立てながらフルフェイスのマスクが剥がれて全くの別人が現れた。

 

「嬉しくない当たりだなぁ」

 

「殆ど初対面の相手で数センチの違いが分かるもんですか?」

何処からともなく現れた早坂が月城に聞いた。

 

「さっきのはハッタリだよ。彼女を出迎えた時にはかなり強かった香水が会場に入ると全くなかったから試したんだ」

 

「ふぅ〜ん」

 

「何も好き好んで嗅いだ訳じゃないからな。それだけ強かったって話だよ」

 

「別に何も言ってないじゃないですか。あれもしかして…私が妬いたと思いました?」

 

そうだったらいいなと思ってる…(ボソッ)

 

「え?今なんて」

 

「仮にも彼女が居るのにそういう疑惑を持たれるのは良くないと思ったまでだよ。リンスに言及した会計が言葉のナイフで致命傷を追っていたし……それじゃ本物を探してくるから四宮よろしく」

 

「………りょうかい」

納得いく答えでは到底なかった早坂だったがここでこれ以上の問答をする時間は残されていなかったので大人しく引き下がることにした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。