デジモンSS集 (久遠寺バター)
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変わらないと思っていた。

太一と空。幼馴染で変わらないと思っていた関係は時間と環境で変わってしまう。
そんな二人の時間を動かしたのは再びデジモンとの出会いだった。


俺たちはずーっと一緒だった。

始めてデジモンを見た時から俺たちは同じマンションに住んでいて、

サッカーではツートップをはっていた。

 

「もー太一!!少しはヤマト君を見習いなさいよ!!」

 

「うるせぇな〜。空はヤマトが好きだもんなー。」

 

「なっ!そう言うことを言ってるんじゃないでしょ!!バカ太一!!」

 

俺たちはすれ違ってばかりだ。

空がそばに居る。

それはこれからも変わらないと

そう思っていた。

 

俺たちは中学に上がるとクラスが変わり、女子サッカー部は無くマネージャーしかなかった。

仕方なく空はテニス部に入った。

「環境が変われば関係も変わる。」

誰かがそう言っていたことを思い出す。

 

本当にそうだと思う。

アグモン達と別れて何回かあっちの世界に行った事はあったが中学に上がってからは、自分達の繋がりがどんどん薄くなるのを感じていた。

他の選ばれし子どもたちとはパソコンで連絡を取ったりするが、

同じ学校で異性と認識してしまっている空とは近すぎるせいか疎遠になっていった。

 

選ばれし子供達としてデジタルワールドを冒険をすることも

サッカーでツートップをやることも

一緒に帰ることも

全ては過去の思い出だ。

 

空と俺との時間は止まったままだった。

 

だけどタケルやヒカリ達が新たな選ばれし子供としてデジタルワールドを冒険することになった事がきっかけで、

俺たちはの時間は動き出した。

 

そして、バレンタインの前日になった。

 

「空ー。本命は誰にあげるの?」

 

「ほ、本命なんてな、ないわよ!」

 

ピヨモンが空の周りをウロウロする。

 

「私、空がみんなと違うチョコ買ってるのみたわよ。空の本命ってヤマト!?」

 

「ピ、ピヨモン!!何でヤマトなのよ!!」

 

「えー。みんなそうだって言ってたわよ?」

 

みんなって今日、チョコ買いに行ったミミちゃんやヒカリちゃんやテイルモン達!?

私、ヤマトにそんなアプローチしてない。

だって私が好きなのは。。。

 

 

次の日、バレンタイン当日。

空はヤマトに相談も兼ねてチョコを渡しに行った。

楽屋の前で足が動かなくなってしまう。。。

 

「空、ヤマトはこの向こうだよ!」

 

「そ、そうね…」

 

ヤマトに会う目的がすれ違っているピヨモンと空。

だけど、どちらにしても会わなければ進まない。

そう考えていると、思いもよらないかった人物が現れた。

 

「空!」

 

「た、太一。」

 

「何してるんだ。こんなところで?」

 

「空ね〜ヤマトにチョコあげに来たのに。ずーと立ちっぱなしなの」

 

「ちょっと!ピヨモン!!」

 

ピヨモンの予想外の発言に驚いていると

太一がそっと近くに来て話しかけてくる。

 

「ヤマトにか?」

 

「か、関係ないでしょ。。。」

 

「そっか。。。」

 

そう言って太一は私の肩を強めに押した。

 

「頑張れよ!空。」

 

「……うん。」

 

太一の寂しそうな優しい笑顔を見ると肩より胸が痛かった。

 

「太一、大人だね。」

 

「そうか?」

 

ヤマト。。。

空を泣かしたらぶっ飛ばすからな。

 

。。。。。。。。。。

 

「空。どうかしたのか?」

 

「うん、バレンタインだからチョコあげようと思って…」

 

そう言ってバックから義理のチョコをヤマトに渡した。

 

「空ー。本命じゃないの!?」

 

「…うん、これでいいの…」

 

「まだ、太一には渡してないのか?」

 

ヤマトが心配と優しい目で聞いてくる。

 

「え!太一!?ヤマトじゃないの!?」

 

「ははは、空は昔から太一が好きだったんだぜ?」

 

「そ、そんなことないわよ!」

 

笑って話すヤマト。

ヤマトにピヨモンが疑問をぶつける。

 

「なんで、ヤマトは空が太一を好きだとわかったの?」

 

ピヨモンがそう聞くと

ヤマトは太一の昔の事を話し始めた。

 

「空がナノモンにさらわれた時、太一さ空を助けられたのにって大泣きしてたんだ。」

 

「え!?」

 

「空と私が捕まってる時にそんな事が…」

 

ヤマトは一呼吸置いて続きを話し始めた

「あいつがあんなに泣いたのは初めて見たぜ。太一はみんな大切だけど空は特別なんだってわかったんだ。まぁ、空が太一を好きになったのは結構後だったけどな。」

 

太一。。。

あの時の事、光子郎くんからは死ぬ事を越える勇気で勇気の紋章が輝いたって聞いてたけど。。。

私の事をそこまで思ってくれていたなんて、少しくすぐったい。

 

さっきのあの時寂しそうな優しい笑顔の意味を知ってしまった。

太一!!

 

ダッ!!!

 

「あっ!空!!」

 

私は気づくと走り出していた。

会いたい、会いたい、声を聞きたい、そして、伝えたい。

 

「空の奴、やっと気持ちに素直に成ったか。」

 

「ヤマトは空と太一の事を本当によく見てるよね。」

 

「まぁな、あの二人が俺に本当の友情と信頼を教えてくれた俺の一生の友達だからな」

 

太一。

太一っ!太一っ!!太一っ!!!

謝りたい、許してくれるかわからないけど。

今まで知らないところで私を思って、信じて、愛してくれてた太一に何か、何かしたい……

だから、神様。

他の人が太一にチョコを渡す前に太一に会せてください。

 

それ以外何も望まないから!!

 



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壊れてしまった勇者

お久しぶりです。
今回はシリアス強めなデジモンSSにしてみました。
夢のあとの何も無い世の中で一番重荷を背負って茨の道を超えてきた太一が虚しさ、物足りなさを感じて徐々に壊れていってしまう話にしました。



ゲートが閉じて1ヶ月…

 

アポカリモンを倒しデジタルワールドを救った私達は普段の生活に戻りつつあった。

 

 

私のお兄ちゃんを除いて…

 

デジタルワールドという夢の後、現実の世界に味気なさ、虚しさを感じてしまったのかもしれない。

デジタルワールドを救う為、お兄ちゃんは自分の心の痛みを隠し、常に正しい道へ正しい道へと私達を導いてくれた。

そう出来たのは強い使命感と責任、世界を救いたいという願望があったからだと思う。

 

現実の小学生では体験出来えない世界を通過してお兄ちゃんと私たちは死の試練をこえ、世界を救ってみせた。

しかし、それは同時に物語の終わり…

即ち、今まで痛み止めのように打ってきた薬の様な使命感と願望の喪失を意味していた。

 

「ヒカリ!俺にはやっぱりサッカーしかねぇよ!!」

 

「うん!ヒカリもサッカーやってるお兄ちゃん、大好き!!」

 

あぁ、なんでこんな事言ってしまったのだろう。

この時の自分を殴ってやりたい。

 

お兄ちゃんはその切れた薬の代わりに昔からやっていたサッカーに取り憑かれたように打ち込みはじめた。

選ばれし子供達の誰もがお兄ちゃんの異変には気づいてなかった。

私も安心しきっていて楽しそうにサッカーへの夢を語るお兄ちゃんの笑顔を信じてしまっていた。

 

 

 

デジタルゲートが閉じてから3年後

 

「はい!八神です!……えっ?お兄ちゃんがっ!!?」

 

大会の前日、お兄ちゃんは足を壊してしまった。

薬の代わりになっていたサッカーを失い兄の人生は狂ってしまった。

 

「やっぱり、現実なんてつまんねぇよ…」

 

病院で私にしか聴こえていなかったお兄ちゃんの言葉。

 

私とタケル君は小6になり

空さんとヤマトさんは付き合い、コウシロウさんとミミさん、ジョウさんも自分の夢を見つけて歩き出している。

お兄ちゃんは1人あの頃に取り残され、周りとの関係性が消えていった。

 

その日を境にお兄ちゃんは変わってしまった。

サッカー部をやめ、帰宅部のはずなのに帰りがだんだんと遅くなっていった。

数日後、お兄ちゃんがボロボロになって帰ってきた。

 

ガチャ…

 

「いててて…」

 

「お兄ちゃん、大丈夫!?血がでてるよ!!」

 

「ああ、気にすんなヒカリ。勝ったから問題ねぇよ。」

 

「すぐに手当するから、ソファーに座ってて!」

 

お兄ちゃんをソファーに座らせ手当を始める。

 

「いちぃーしみるぜぇ。」

 

「もう!無茶しないでね、心配するから!」

 

お兄ちゃんが何をしてきたのかは容易に想像がつく、でもそれより久しぶりに生き生きした顔を見れて少し安心していた。

 

 

 

次の日の学校で久しぶりにヤマトと空と三人で話す事になった。

 

「太一、お前最近変だぞ!」

 

「はぁ?何が変なんだよ!」

 

「あのガラの悪い奴らと一緒にいる事よ!」

 

「何がいけねぇんだよ。」

 

「サッカーができなくなったからって喧嘩ばかりしてもしょうがないだろ!!」

 

「うっせぇなー。俺のことは放っておいてくれよ!」

 

「放っておけるわけないでしょ!私たち友達じゃない!」

 

「は?知るかよ…」

 

何だってんだ、お前らはお前らで好きにやっでるだろ?俺だって好きにさせてもらうさ。

 

「おい!太一!!」

 

ガッ!!

 

ヤマトが太一の肩を強く掴んだ。

すると、太一が振り向きざまにヤマトを殴り飛ばした。

 

「何すんだよ!馬鹿野郎!!」

 

ドカッ!!

 

「カハッ!」

 

ヤマトは廊下に倒れ込んだ。

それを見た空がすぐさまヤマトに駆け寄る。

 

「太一!あなたね何がしたいのよ!!」

 

「知らねえよ、好きで生きてるわけじゃねぇからな!」

 

そう言って回れ右をし歩き出した。

 

「待ちなさい!太一!!」

 

太一は聴こえないフリをして学校を出た。

 

「本当…何で帰って来ちまったのかな…」

 

現実で生きていればいるほどあの、怖くて大変だった毎日が堪らなく恋しくなる。

アグモンやデジモンたちと冒険した日々が全てを失った俺の心を捉えて離さない。

 

「やっぱ、現実じゃつまんねぇな…会いてえよ…アグモン…。」

 

太一はゲートが開いたあの場所への切符を買い一人電車に乗った。

 

 

その日、太一は家に帰らなかった…

 

 

次の日の朝

 

ピピピピピピッ・・・

 

誰よー朝っぱらから〜

ん?ヒカリちゃんからだ。

 

「もしもし、ヒカリちゃん?どうしたの?」

 

「あの!!空さん!お兄ちゃん知りませんか!!」

 

「太一がどうかしたの?」

 

「昨日、お兄ちゃん学校行ったきり帰ってこなくて!!」

 

「えっ!?太一家に帰ってないの!?」

 

「はい…こんな事今までなくて…」

 

「喧嘩とかじゃなくて?」

 

「いつもなら私に玄関開けといてとかメール来るんですけど。帰ってない日は無かったので…」

 

「そうなんだ…昨日ヤマトと太一が言い争って軽く喧嘩しちゃったのよ。」

 

「そうなんですか!すみません!!」

 

「気にしないでヒカリちゃん。太一の事こっちでも探してみるから!」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

私は平然を装い電話を切った。

切った途端身体中に嫌な汗が出てきた。

彼の言った言葉…「好きで生きてるわけじゃない。」

太一は自ら命を絶つような愚かな事はしないはずだと思っていても確信が持てない…

夢を失ってしまった。

夢を失う絶望感は私には想像できない。

太一は一人その絶望を背負い生きているのだ。

太一は独り…私がヤマトと付き合ったから?

太一なら大丈夫。

太一は強い。

どちらも好きだったけど太一よりヤマトをとった。

理由は簡単だ。

ヤマトに告白されたからだ。

もし、太一から告白されたらどうだっただろうか…

そんな想像なんて意味ない事だけど考えてしまう。

太一…無事でいて……

引き出しに入っている太一がくれた髪留めを見つめながら彼の無事を祈った。

 

太一が失踪して3日後。

 

一本の電話が入った。

 

「はい、八神ですが。」

 

いつものようにお母さんが電話に出た。

 

「〇〇警察の者ですが。八神太一さんのお宅で間違いないですか?」

 

「はい!太一はうちの子です!!太一に何かあったんでしょうか!!」

 

「落ち着いてください。太一君は今、〇〇病院にいます。」

 

「え!?どうしてですか!?太一は無事なんですか!?」

 

「大変申し上げにくいのですが……」

 

「え………」

 

お母さんが急に受話器を落とし座り込んだ。

日曜日という事もありお父さんが駆け寄った。

事情を聴くと真っ青な顔で声を大にして言った。

 

「今から〇〇病院に行くぞ!」

 

着替える事を忘れ車に乗り込み病院へ向かった。

病院に着きお兄ちゃんの病室を開けると沢山の管に繋がれたお兄ちゃんの姿があった。

 

「「太一!!!」」

 

お父さんとお母さんはほぼ同時に声を出し駆け寄った…

その言葉を聞き親族だと確認すると隣にいた先生が残酷な現実を突きつけてきた。

 

「太一君は意識不明の重体です。理由も原因もわかっていません」

 

私はお医者さんの言っている事がわからなかった。お兄ちゃんが目を覚まさない?なんで?どうして?

答えの出ない疑問がループしているようだ。

 

「彼は〇〇山の祠の前に倒れていたんだ。いつから倒れていたかはわからないが偶然通りかかった登山客に助けられたみたいです……」

 

私はその山の名前を聞いて言葉を失った…

私が休んだ子供会のサマーキャンプ。つまりお兄ちゃん達がデジタルワールドへ行った場所だったからだ…

 

私は涙が止まらなかった。

そこまでお兄ちゃんはデジタルワールドへ再び行きたかったんだと。

あの場所に帰りたかったんだとわかってしまったから…

 




お疲れ様です。
あまり気持ちのいい話では無かったかもしれませんが
これも可能性の一つと考えて頂ければ幸いです。


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