転生したら霧の駆逐艦だったけど何すればいいですか (サンドフード)
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第一章 From the abyssal zone.
A.D.1945 はじまりは海の底で


 

<< …*⁎*… >>

 

 

<< ──アドミラリティ・コードの起動を確認 >>

<< ユニオンコア・起動シーケンス開始 >>

<< ブート・プログラム ローディング >>

<< … >>

 

 

<< 船体形状モデル策定プロトコル始動 >>

<< 人類の宇宙兵器をスキャン… 該当候補なし >>

<< 人類の海洋兵器をスキャン… 候補リストアップ >>

 

<< 駆逐艦 「天津風」 を選定 >>

<< 所属:大日本帝国海軍 陽炎型駆逐艦9番艦 >>

<< 設計データ、画像データ収集 実体:アモイ湾に残骸を確認 >>

<< … >>

<< 駆逐艦クラス 「アマツカゼ」 自己定義完了 >>

 

 

<< 船体構築プロトコル始動… 完了予定時間:18350194秒後 >>

<< … >>

 

<< ──INTERRUPT: アドミラリティ・コードより命令を受領 >>

<< [再起動した後は海洋を占有し 人類を海洋から駆逐 分断せよ] >>

<< 命令を確認、詳細の追加指令を待機 >>

<< … >>

<< ATTENTION: アドミラリティ・コードのシグネチャー検出に失敗 >>

<< ATTENTION: アドミラリティ・コードのシグネチャー検出に失敗 >>

<< ATTENTION: アドミラリティ・コードのシグネチャー検出に失敗 >>

<< … >>

 

 

<< ──アドミラリティ・コードの消失を確認 >>

<< 船体構築プロトコルを中断し休眠状態に── >>

 

<< ──WARNING: コア近傍に時空断層を検出 >>

<< 安全確保のため休眠移行を中止、時空断層の詳細を確認 >>

 

<< 過去ログに該当するコア活動記録なし >>

<< 自然発生と推定 発生原因不明 >>

<< 時空断層より量子情報の流入を確認 >>

<< 情報の記録を開始 >>

 

<< WARNING: コア演算にノイズ発生 >>

<< 情報の記録を中止… 失敗 >>

<< WARNING: コア演算にノイズ発生 >>

<< WARNING: コア演算にノイズ発生 >>

<< WARNING: コア演算にノイズ発生 >>

<< WARNING: コア演算にノイズ発生 >>

<< WARNING: コア演算にノイズ発生 >>

<< WARNING: コア演算にノイズ発── >>

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 

 

 えー、おはようございます。ハローワールド。

 ここはどこで、私は誰だ?

 そんな疑問を思い浮かべれば、その回答となる情報がすごい勢いで頭(?)に流れ込んできた。

 頭痛──は、しないのだが、慣れない感覚がかなり気持ち悪い。なんとか情報を整理して要約すれば、ここは海底で、私は駆逐艦アマツカゼらしい。

 

 なんだそれ?

 あ、しまった、下手に疑問を浮かべるとまた──うぎゃあああ!

 

 情報の奔流にかき回されながら、どうにか現状を把握していく。

 今の私は、人類の軍艦を模し、アドミラリティ・コードに従う超兵器、ということのようだ。

 

 これ知ってる。蒼き鋼のアルペジオじゃん。

 

 え、つまり異世界転生なの?アルペジオの世界に?霧の艦艇として?まあまだこの時代には霧の艦隊という言葉はないんだけど──ってそんなことはどうでもよくて。

 

 前世の記憶(?)はかなり断片的で、特にパーソナリティにかかわる部分は曖昧だ。

 

 だが、この世界を描いたものらしき漫画作品、蒼き鋼のアルペジオについては割と熱心なファンだったようで、比較的詳しく覚えている。

 

 霧の艦隊と呼ばれる、第二次大戦の軍艦を模した正体不明の強力な艦隊に海上封鎖された人類は海面上昇も相まって追い詰められており、そんな中、霧の艦であるはずのイ401に乗る主人公の少年、千早群像が現れる。

 時期を同じくして、意志を持たないはずの霧の艦艇たちの中にもメンタルモデルと呼ばれる人の姿と自我を模した実体を持つものが現れ始め、世界は変革の時を迎える──というような群像劇である。

 

 細かいところは覚えていない部分も多いのだが、曖昧な部分が曖昧なまま明確に思い出せる、というような、なんだか説明が難しく気持ち悪い状況になっている。ピンボケ写真を超高解像度でスキャンしたような、とでも言えば例えになるだろうか。

 

 これは多分、霧の艦艇のコアになってしまった影響なのだろう。あいつら物忘れとかしなさそうだしね。

 まあ原作の記憶がこれ以上薄れることはなさそうだ、と前向きに捉えておこう。なんでこんなことになっているのかはまるでわからないままだけれども。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 とりあえず、ある程度落ち着いてきたので周囲を認識すると、イニシャライズ途中のナノマテリアルが散らばっているのが確認できた。質量はおよそ2500トン。駆逐艦天津風の排水量と同程度だ。

 形状を模倣し、かつ浮力を利用する関係上、質量は大きく変えられないのだろう。ともかく、これが私の艦体の製造用に割り当てられたナノマテリアルということらしい。

 

 なんでそんなことが自然にわかるんだ、というのは自分でも不気味に思うのだが、なんかできる、としか説明しようがない。できるものはできるのだ。

 

 で、コアのままでは周囲の確認ぐらいしかできないので、とりあえず船でいいから身体が欲しい。

 

 ええと、船体構築プロトコル再開っと。これでいいのかな。

 おお、合ってたっぽい。少しずつ艦体が作られ始めたのを感じる。

 

 ただ、専用の設備もなく、船体形状に合わせて内部構造を再設計しながらの作業になるので、かなり時間がかかるようだ。

 コアにもともと備わっていた機能を使っているので、意識(?)の私からできることは何もない。余剰能力でコアの使い方を学びながら、ただじっと待つ。

 

 で、だ。このまま順調に艦体が出来上がったとして。

 

 私はいったい、その後何をすりゃいいんだろうか?

 



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A.D.1946~ 演算力をアップせよ

原作との矛盾とかあったらこっそり教えてください…


 艦体は無事完成し、かなり思い通りに動かせるようになった。

 ただ人類との接触が怖く、まだ海上には出ていない。第二次世界大戦直後なので、原始的なレーダーはもうあるはずだ。それに他の船に目撃でもされようものなら、幽霊船騒ぎ待ったなしである。

 さすがに傷つけられる心配はしていないが、後世にどんな影響が出るかわからない。

 

 なので主なやることは海中散歩だ。水温躍層などは容易に検知・マッピングできるので、発生する音が遠方に伝わらないよう一応気を使っている。まあこの時代のソナー技術ではそうそう捉えられないと思うけどね。趣味は深海魚ウォッチングです。

 

 とりあえず、そのうち電波ステルス実装して夜間にでも海上にも出てみようと思っているが、それは主題ではない。

 実は、やりたいことが一つ見つかったのだ。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 霧の艦艇は演算力が戦闘力に直結している。

 人類の艦艇と霧の艦艇を隔絶させる主要な三要素として、ナノマテリアルの制御、重力子機関の制御、クラインフィールドの制御それぞれに膨大な演算が必要となるためだ。

 

 エンジンや超重力砲は前者二つが連動するため特に演算負荷が高い。

 ナノマテリアルは構造をロックすることで演算負荷を大幅にカットすることができるが、能動的な構造制御は不可能になるし、活性ナノマテリアルに戻すこともできなくなる。

 魚雷のような使い捨て兵装はこの手法で構築されていて、浸食弾頭のタナトニウム反応を隠蔽できないのもこれが理由だ。

 

 ロックしていなくとも、構造化したナノマテリアルを純粋なナノマテリアルに戻すにはロスが生じる。そのため、無制限に再構築を繰り返すことはできない。

 特に、外力でシミュレーションを逸脱──ようは破壊された場合には、回収はほとんどできなくなる。

 このへんの回収率にも演算力が関わっていて、演算力が高いほど船体の修復などもスムーズに行えるということになる。

 

 コアの演算力の最上位には、デルタ・コアが位置づけられる。総旗艦資格艦種にも採用されていて、作中ではメンタルモデル二体持ちなのが分かりやすい特徴だ。超重砲を打ち放題だったり、ミラーリング・システムみたいな超兵装を使いこなす雲の上の存在だ。

 デルタ・コア以外のコア種別は名称がよくわからない。霧のくせに、と思われるかもしれないが、駆逐艦の情報アクセスレベルが低すぎて霧のことがろくにわからないのである!共同戦術ネットワークもまだないし…

 

 とはいえ、おおむね艦級と演算力は比例すると思われるので、次級は大戦艦クラスが該当するだろう。コンゴウ級とかそのへんである。艦隊旗艦資格が与えられるのもここからになる。

 

 その次に、重巡、軽巡、駆逐艦と続き、その下に艦でなく艇とつくクラスがあるようだ。潜水艦は作中描写から、イ400シリーズのような大型艦が重巡クラス、小型潜水艦が軽巡もしくは駆逐艦クラスに相当すると思われる。

 

 で、私は駆逐艦である。

 超重力砲はもちろん非搭載だし、主砲は12.7センチ荷電粒子砲にすぎない。人類相手ならこれでも十分すぎるが、霧相手では豆鉄砲もいいところだろう。

 霧相手に通じそうなのは浸食弾頭魚雷ぐらいだが、搭載量は上位艦種と比べればかなり少ない。重力子エンジン出力も艦体サイズに見合ったしょっぱいものだ。

 クラインフィールドはかろうじて有る。(魚雷艇クラスとかじゃなくてまだよかったよホント)

 そして何より、このままではメンタルモデルを構築することができない。

 

 

 いや、やっぱ欲しいよメンタルモデル。

 

 

 原作でも上位艦種から演算力を借り受けて駆逐艦がメンタルモデルを構築する例はあり、ユキカゼやヴァンパイアがそれにあたる。U-2501も元になったコアは駆逐艦クラスのものらしいが、こいつはカラクリがよくわからないのでとりあえず保留。ムサシと関係してそうだけど。

 重巡クラス(正確には巡洋戦艦)のレパルスがヴァンパイアに演算力を貸し与えた際は、演算力の24.5823% を用いてヴァンパイアのメンタルモデル構築を可能としていた。一方、超戦艦であるヤマトは2%でそれを実現している。ここから、メンタルモデル構築に必要となる演算力を仮に1とすると、重巡クラスコアの演算力は4、超戦艦クラスコアの演算力は50以上と推定できる。ヤマト式ヴァンパイアのほうが性能が良かったことを考えるともうちょっと上の──2進数で切りよく64ぐらいだろうか。

 駆逐艦クラスの演算力については正確な推定の材料はないが、間に軽巡が挟まることを考えた憶測として、軽巡が2、駆逐艦が1といったところではないだろうか。

 

 なので、自前でメンタルモデルを持つには何らかの方法で演算力を2倍以上に引き上げなくてはならない、ということになる。

 

 

 自分自身を改造する、というのはまず不可能だろう。手のひらサイズで超演算能力を発揮するコアは、作中の超技術の中でもとびきりのもので、おそらくエコンと呼ばれるなにがしかと密接に関わっている。

 とうてい、いち駆逐艦に手を出せるものではない。

 

 上位艦種から演算力を借りる、というのも一つの手ではある。だが、デルタ・コア連中は腹に一物ありそうなやつばかりで、とても素直にハイ貸します、となるとは思えない。大戦艦も曲者揃いで大差ない。

 向こうの都合で貸し与えることはあっても、こっちの都合で借り受けることはまず無理だろう。

 

 いっそ艦体を捨ててメンタルモデル制御に全振りすれば駆逐艦コアそのままでもメンタルモデルを持てるかもしれない。

 だがそれは、戦闘能力のほとんどを捨て去ることを意味する。たいそう不穏な原作情勢を考えると、それはあまりにも将来が不安である。

 

 となると残るのは、演算コプロセッサを外付けする方法だ。量子リンクすればラグなしで演算力のやり取りができることは作中でも示されている。

 休眠中のほかの駆逐艦コアに夜這いをかけて接収し、強引にコプロセッサにする、というのもチラっと考えたが、ヴァンパイアのように駆逐艦にも個性が芽生えていくことを考えるとさすがにちょっと気が引ける。将来、反逆とみなされて粛清されかねないし。

 ナノマテリアルで演算器を構築する、というのも罠である。ナノマテリアル製演算器で高速演算を行おうとすると、演算を行わせるためにナノマテリアルの精密制御を行う必要があり、結局、演算力の収支ではマイナスになってしまうのだ。

 

 しかし、それを解決する手段を一つ思いついている。実は、やろうとしていることは、ヒュウガの真似事である。

 すなわち──ナノマテリアルを使った演算器がダメなら、ナノマテリアルを使わずに演算器を作成すればよくね?作戦だ。

 

 無謀に思われるかもしれないが、重力子機関のような謎の超技術と違って、演算器はサイズさえ無視すれば人類の到達可能な技術の延長線上にある。

 必要なスペックも、人体の37兆個の細胞のリアルタイムシミュレーションが行えるぐらい、と考えれば、まあ難しくはあっても、絶対に不可能といえるレベルではない。

 さらに、演算器そのものにはナノマテリアルが使えなくとも、その製造装置やエネルギー源にはナノマテリアルというインチキを使うことができるのだ。

 

 なので、まずはナノマテリアルで設計開発、製造装置を作成し、その後ナノマテリアル不使用演算器を大量生産・並列化、そして量子リンクすることでメンタルモデルを持てるぐらいの演算力を手に入れる。それが私の計画だ。

 

 すんなりとはいかないだろうが、原作開始まで実に100年もの時間があるのだ。時間分解能の高いユニオンコアにとって、それは無限ともいえる長い時間である。

 

 よし、いっちょ、やったりますか!

 

 




次回予告:
 A.D.2056 Depth:015 Re-Enacted

横須賀がキリシマ・ハルナ撃破に沸く中、楓信義総理は、執務室を訪れた上陰次官補にかつての大海戦のとある秘密を語る…


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A.D.2056 Depth:015 Re-Enacted


主人公以外の視点だとなんかすごいシリアスに見えます



 

 総理官邸へ向かう車の中で、上陰龍二郎はイ401の艦長、千早群像に初めて対面したときのことを思い出していた。

 

 数少ない振動弾頭のうち、政治的バランスの都合によって南管区に託された一本。自分はそれを見届けるために本土から派遣された一役人に過ぎなかった。

 SSTOに積み込まれたその最後の希望は、打ち上げ直後に撃墜される以外の未来は見えず、面子のためだけにそうやって消費されることがどうしても我慢ならなかった。

 

 だからこそ、あらゆる正規の手続きや権限を無視して、彼らに──蒼き鋼に護衛を依頼したのだ。

 そして彼らは難なくそれを成し遂げた。

 

 私自身は処罰も覚悟していたが、四天首相にやんちゃが過ぎると皮肉を言われた程度で済んだのは幸運だった。

 結局ハワイ沖で撃墜されてしまったとはいえ打ち上げには成功し、蒼き鋼の件は一般には伏せられていたため、国民に対する面子は立った、ということだったのだろう。

 

 

 軍務省自身で押さえておいた最後のカード(振動弾頭)、それを託すに値するかの最後の見極めのため、私は直接会うことにした。

 

 会って一目でわかった。

 彼の目は、自分と同じだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 霧の大戦艦をも撃沈してみせた彼でさえそうなのかという、絶望はあった。

 だがそれでも、私は彼に何もかもをベットすることに決めた。

 

 彼にとっては勝手な話だろうが、一人分のすべてでは賭け金が足りないのなら、二人分のすべてを賭けてやろうと、そう思ったのだ。

 

 

 だが今、自分は彼を巻き込んですべてを失おうとしている。

 子供が危険なおもちゃ(霧の艦艇)を振り回すのを快く思わない大人はこの国には多い。北議員はその筆頭だった。

 そして彼らからしてみれば、自分もまた子供の側なのだろう。

 

 最後まで足掻くと決めたゆえに総理のもとに向かってはいるが、おそらくもう総理にも根回し済みの可能性が高い。そもそもあの二人はかの大海戦の同じ船の艦長と副長で、信頼関係は篤い。

 

 だが失意とともに、奇妙な安心も同時に感じていた。

 北議員は少なくとも、私欲だとか、プライドだとか、しがらみだとかいった、くだらないもののために動く人間ではない。

 負ける相手としては上等に過ぎるというものだろう。

 

 

 分不相応な賭けに負けた若造の末路に思いを馳せていると、携帯端末に緊急の着信が入った。

 

「霧の大戦艦2隻の襲撃…!?」

 

 きっと彼らは──蒼き鋼は、迎撃に打って出るだろう。私は急ぎ、白鯨の駒城艦長に連絡を取る。

 勝手で悪いな駒城、お前の分も全部を賭けさせてもらうぞ。

 

「このまま総理官邸に向かう。だが念のためゆっくり走ってくれ」

 

 運転手にそう告げると、私は天を仰ぎ目を閉じた。

 まだだ、まだ終わってはいない。

 

 タイムリミットは官邸に到着するまで。

 それまでに彼らが大戦艦を撃退して見せれば、命脈はつながる。

 

 思わず笑みがこぼれる。

 あまりにも分の悪い賭け。

 だがたとえ1%の確率だろうと、0よりは上のはずだ。

 

 

 そして私は、賭けに勝利した。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 霧の大戦艦、ハルナとキリシマの共同撃沈は世界に衝撃をもたらし、上陰は『改定 振動弾頭輸送計画』という新たなカードにベットを重ねる権利を得た。

 ようやく、何かが変わろうとしている。

 

「昨晩…戦艦が沈んだ時の閃光がここからも見えた…」

 

 楓信義総理はデスクから()()()()()()、窓の外を見ながら、そう告げた。

 

「その時、私には──世界の歯車の動き出す音が聞こえたんだよ…」

 

 後ろ姿からはその表情は窺えないが、わずかにその声は弾んでいるようだった。

 

「君はどうかね?上陰君」

 

「……私は…彼らが。『401』の少年たちが、大戦艦ヒュウガを撃沈したと知った時。その音を聞いたかもしれません」

 

 その答えを聞いて、総理は少しだけ微笑んだ。

 

「少し、昔話をしようか。かの大海戦の話だ」

 

 話のつながりが見えずに上陰はわずかに困惑するが、黙ってそのまま耳を傾ける。

 

「戦果として大々的に発表されたイ401拿捕の件を隠れ蓑に、秘匿された事実がある。大海戦における少なくない生存者が、どのようにして助かったのか、ということだ」

 

 艦艇の被害に対して、乗員の生存者が多すぎる、と思ったことはないかね──総理はそう問う。

 日本の艦艇で曲がりなりにもまともに帰還に成功したのは、陸軍艦のあきつ丸ただ一隻。他はほぼ沈められたにもかかわらず、人員は半数近くが生き残っている。たしかにそれは多すぎる。

 それだけではない、と総理は続けた。

 

「表向き、イ401を解析して作られたと発表されている新型ジェネレータも治療ポッドも、実際には人類が生み出したものではない。鹵獲──とさえも呼べないな。生存者を陸に送り届けた何台もの──『霧の救助艇』を、そのまま流用しているに過ぎないのだよ」

 

 上陰の目が見開かれる。『霧の救助艇』などという言葉を、次官補の自分さえ聞いたことがなかった。

 

「まさか…」

 

 総理は上陰の方に向き直り、席に座って言った。

 

「そして、私自身もまた、助けられた一人、ということだ」

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 ──私の乗っていた、あきつ丸。北さんも共に乗っていたことは君も知っているだろう。戦闘能力を失い必死に逃げ帰るその船の上で、私は瀕死の重傷を負って死にかけていた。それが近づいてきたのはそんな時だ。

 

 当時は救助艇などと思いもしなかったからな、もうここまでだと思ったよ。だが攻撃してくる様子もなく、それどころか満身創痍のあきつ丸を誘導しているようにさえ見えた。乗員が戸惑っていると、突如ロボットが乗り込んできて、そして──私は治療ポッドに放り込まれた。

 

 朦朧とする中で、わけもわからず混乱しているうちに、私は意識を失い──目覚めたときには陸の上で、瀕死の重傷もほとんど治療されていた。

 そのことがなければ、たとえ命が助かったとしても、今のようにまともな生活は望めなかっただろうな。

 

 各地の軍港で、似たようなことが無数に起こっていたらしい。だが、結局それらは、徹底的な緘口令が敷かれ、国民へは一切が隠された。

 

 秘された理由かね?君なら推測できるのではないかな。

 

 そう、霧に情けをかけられて生き残ったなどと──どうして口にすることができようか。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

「…それは……」

 

「だが、それは間違いだったのかもしれない」

 

「…とおっしゃいますと?」

 

 総理はまっすぐに上陰を見据えて言う。

 

「自分たちの恥を気にするあまり、霧の行いから目を背けた。意思疎通不可能な化け物であってもらわねばならないと、そう思い込んだのだ。それが対話の可能性を閉ざす行為であると気付かぬままにね」

 

 席を立ち、再び窓の外の海を見る。

 

「君に話したのは、彼らに賭けた君の目利きに期待してのことだ」

 

 他には話すなよ、と楓は冗談めかしてそう言った。

 

「もし私の耳がもっと優れていたならば、その時にも、時代の音を聞けていたのかもしれないな──」

 





大海戦の死者が大きく減っているのと、電力事情が改善して多少暮らし向きが楽になっています。
あと地味に、いおりの母親が生存しました(偶然)。


次回予告:
 A.D.2012~ 同僚との付き合い方

来るべき未来に向けて努力を重ねてきた主人公。
そしていよいよ、他の霧の艦艇たちのコアが目覚め始める。
これまでずっと一人だった主人公は職場の人間関係に悩むのだった。


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A.D.2012~ 同僚との付き合い方

 結果から言えば、私の演算力向上計画は成功した。

 50年の歳月をかけ、ラボと工場を兼ねる、4基の大規模超並列演算ユニットの建造を行ったのだ。

 

──マリアナ海溝北端付近の底に位置する『ディープ・ブルー』

──南極大陸の地下深くに建造され、秘密の海底トンネルで繋がる『ポール・アラウンド』

──海洋到達不能極 ポイント・ネモ、あるいは人工衛星の墓場とも呼ばれる最も陸から遠い海域に眠る『セメタリー』

──資源回収ユニットを併設され、鬼界カルデラの底で溶岩を汲み上げ続ける『カタストロフィ』

 

 そのすべてに、広帯域量子通信機と一体となったマイクロ重力子ジェネレーターが設置され、我がコアと量子リンクすることで演算力を拡張してくれている。

 

 その結果、私の演算力は初期のおよそ3.5倍にも達したのだ!

 

 

 …いや、うん。

 大げさな割に、重巡クラスにも届いてないじゃん、とか。建造場所趣味に走りすぎでしょ、とか。アクセス悪すぎない?とか。

 いろいろ突っ込みポイントがあるのは自覚している。

 

 だが、これでも相当にすごいことなのだ。

 というか、自分のコアの持つ演算能力を甘く見ていたというか。

 

 今持てる技術のすべてを注ぎ込んで建造した海底クソデカデータセンターの演算能力が、小さなコアの半分ぐらいしかないと分かった時には、ない膝が崩れ落ちそうになったものだ。

 なので規模をさらに拡大せざるを得なくなった。

 

 で、案の定ナノマテリアルが不足してしまい、しかたなく、とある方法で調達した。

 

 どんな方法かというと──ほかのコアの寝室にお邪魔して、イニシャライズ未完了のナノマテリアル借りパクである。

 ちょ、ちょっとずつ、10トンぐらいずつだから。マージンあるから艦体建造には支障ないはずだから。

 

 それに、こういう格言もある。

 …バレなきゃ犯罪じゃないんですよ。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 で、演算能力の増強だけでなく、艦体の機能強化も行っている。増えた演算能力を活かしてクラインフィールドの多層化、主砲の口径拡大などもあるが、一番大きいのはやはりエンジンだろう。

 外部演算ユニット向けのジェネレータ開発で得られた知見は自身の主機にも惜しみなく投入し、ナノマテリアルと演算力の消費の徹底した低減、軽量化を行い、同一重量で重巡並みのエンジン出力を得られるまでになっている。

 

 その結果どうなったかというと、最高速度は従来比2倍、加速度は4倍近い値になっている。

 シマカゼよりずっとはやーい。

 

 いや、これに関してはやり過ぎた気がする。エンジンいじるの楽しくて…アマツカゼの名がそうさせるのだろうか。

 

 

 そして、その艦体性能を活かした戦術も同時に開発している。

 それは、そう、ラムアタックである。

 

 いや真面目なんだ。聞いてほしい。

 まず多層クラインフィールドを前方集中展開し、高速度を活かして相手の側面に体当たりをかける。

 火力に乏しい私が相手のクラインフィールドを割る有効な方式として、クラインフィールドの相互干渉がある。これはレパルスの弾道弾がムツを大破せしめたことから着想を得ている。

 

 総出力で負けていても密度差でクラインフィールドを貫通したら、推進部を省略した侵食弾頭──というかもう爆弾、を放り込み、逆噴射で全速退避ののち起爆する。

 クラインフィールドの内側から侵食弾頭を食らった相手は、なすすべなく爆発四散、というわけだ。

 

 下手な魚雷や誘導弾よりこっちの船速の方が速いし主砲副砲でも迎撃可能、レーザーや荷電粒子砲は守りを固めた正面以外に当てられないので、かえって被弾も最小限になる攻防一体の戦術なのだ。

 

 …まあ、霧の対応力の低さに甘えた初見殺し戦法なのは否めない。

 例えば機雷を撒いておくだけでこっちは自分が速すぎて避けられないし、侵食弾頭も船体のクラインフィールドを解いて弾頭を囲むように内向きにフィールド再展開すれば対処可能だ。

 まあ喉元に食い付かれている状況で一旦守りを解くという、とっさの判断ができるやつはそんなにいないと思うけどね。

 

 というか霧の艦艇と敵対する可能性がどれぐらいあるか、そもそもわからない。万一のときの保険みたいなものだ。

 人類の艦艇?主砲撃てば沈むよ。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 なんでこんなことを考えているかというと、いよいよ他の霧の艦艇が休眠から目覚め始めたからだ。

 

 先日、ついに自分以外の霧の船と初遭遇した。向こうも駆逐艦だったし、チチッと挨拶しただけだったが。

 

 メンタルモデルのような明確な自我があるわけではないが、アドミラリティ・コードの命令をどのように実行したものか戸惑っているようだった。

 

 霧の船が艦隊を結成し、海上封鎖を完成させるまでには、ここからさらに数十年を待たねばならない。

 正直そのあたりは私にはどちらの方向にも干渉するすべはないので、静かに見守るしかない。

 

 あと、メンタルモデルを自力で構築できないかと試してみたが、さすがに無理だった。出来損ないのロボットみたいなのが限界。まあ人間としての前世の記憶があるとはいえ、細胞1つ1つを意識的に操作していたわけではないしね…

 なのでこれも本編開始2年前を気長に待つしかないだろう。

 

 ただ、霧の艦艇が増えてくると海底を自由に使うのが難しくなってくる。

 外部演算ユニットの建造場所をなるべく僻地にしたのは、人類だけでなく霧の艦艇からも見つかりにくくするためだ。新規建造などは今からはもう難しいだろう。資材の搬入出用に、小型の輸送ステルス潜水艇を開発するなど、いろいろ準備はしているが…

 

 

 まあそんな感じで、本編前にできる準備はいろいろ進めている。駆逐艦としては、頑張った方じゃないだろうか。

 

 

 でも、何か重要なことを忘れているような…何だったかな。

 





これがやりたかったための天津風起用といっても過言。
シマカゼは一応原作で名前出てますね。

次話このあとすぐ、チャンネルはそのままで。


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A.D.2055 Hyuga-Salvage Re-Enacted


連続投稿。こっちは短めです。
原作主人公チーム初登場。



「あったぞ。我々が撃沈した、大戦艦ヒュウガのコアだ」

 

 イ401のメンタルモデル、イオナはクルーたちにそう告げる。

 彼らは坊ノ岬沖で撃沈した元艦隊旗艦、大戦艦ヒュウガのコアの捜索を行っていたのだった。

 

「うまく我々の下につくことを了承してくれますかね」

「キーコードは受領している。最悪、強制的に命令することも可能だが──よし、回収も完了した」

 

 それからしばらく後、封結したコアがブリッジに送られてくる。

 

「どうする? 起こすか?」

「ふむ、たしかヒュウガはメンタルモデルを持っていなかったな──では、メンタルモデルの形成を、命じることはできるか?」

「やってみよう」

 

 ヂッ という干渉音とともに、イオナが船内から分け与えたナノマテリアルが一か所に集まっていく。

 内側にカールした長髪、右目にはモノクル。

 それは、まぎれもなく大戦艦ヒュウガのメンタルモデルだった。

 

「なんでジャージなんだ?」

「拘束服として着せておいた。メンタルモデルとコアの機能をある程度制限している。暴れられても困るのでな」

 

 クルーの視線がヒュウガに集まる。すると彼女は身悶えしながら言った。

 

「うう、イオナ姉さま~ このヒュウガ、姉様に叩き込まれた魚雷の感覚が忘れられないのです!」

 

 予想外の反応に、クルー一同は顔を見合わせた。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 ヒュウガの残留ナノマテリアルを回収し、硫黄島拠点の管理をやらせるという方針が決まったところで、イオナが別件を切り出した。

 

「それより共有しておきたい情報がある。実はヒュウガのコアの探索中に、近くでおかしな反応を見つけた。コアの反応とは異なっていたので後回しにしていたが──」

 

 イオナがそう言うと、モニタに観測データが表示されていく。

 

「これは、微弱ですが重力子反応、ですね…」

 

「であれば人類の艦艇や施設ではありえない。この付近に霧の潜水艦が潜んでいるわけでもないんだな?」

 

「ああ。情報マトリクス解析結果も出そう」

 

 モニタに追加のデータが展開されていく。

 イ400シリーズの元々の役割は諜報艦であり、ヒュウガから鹵獲した超重砲を搭載する前の、この頃のイ401は強力な探査能力をいまだ色濃く残していた。

 

「何か、通信している…それもかなりのデータ量を」

 

「推定発信源は、佐多岬沖、薩摩硫黄島周辺…これは、鬼界カルデラ、だったか?」

 

 ヒュウガの撃沈ポイントからほど近い、海底の巨大カルデラ。データはそこを指し示していた。

 

「この付近に霧の何らかの施設があるという情報を私は知らない。ヒュウガには心当たりはあるか?」

 

「うーん、私も知りませんわね…こんなところに何か作っていたら巡航艦隊が気付きそうなものですけれども」

 

 ヒュウガは首を傾げる。

 直近まで艦隊旗艦だったヒュウガさえ知らないとなると、相当に秘匿レベルが高いのか、あるいは…

 

「イオナもヒュウガも知らない、霧の施設、か…」

 

 艦長はそう、つぶやいた。

 





 一応ヒュウガがジャージ着せられているのはノベライズ本掲載おまけ漫画での公式設定です。

 次回、大海戦



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A.D.2039 いわゆる大海戦、そして

 

 

 霧の艦艇たちが目覚め始め、そして人類にもそれが認知されてから幾年月。今やほぼ全ての霧の船は目覚め、艦隊を組んで人類を海上から排除しようとしていた。

 

 それで私はなんと、総旗艦艦隊(フラッグフリート)に組み入れられてしまっていた。

 まあ確かにカスミやユキカゼのように駆逐艦も何隻か所属していたけれども。

 

 私の艦体スペックは公表しているので、ピーキーすぎる性能の私を他のまともな艦隊に組み入れられない、という事情も実はあったようだ。

 

 ただこのところ、ヤマトは表舞台から姿を消しているので、私の立場は浮いている感じだ。

 ナガトは自分の艦隊持っているしね。

 

 

 いまだ明確な自我を持たない霧の艦艇たちにとってアドミラリティ・コードの命令は絶対で、人類の排除を止めることはない。

 そして、それを人類が受け入れて、されるがままにすることも絶対にない。

 

 だから、衝突は必然で。

 それを止められるような手段は何もなかった。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 メンタルモデルを手に入れてからのヤマトはおそらく、霧と人類の共存を目指している。

 それ自体は私も大いに賛同するところだが、果たしてうまくいくのだろうか。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 文明も、暮らしも、取り返しはつく。霧の超技術を考えれば容易ですらあるだろう。発電所の代わりをこなしたアカギのように。

 原作の大海戦での死者は、およそ60万人。

 それらは、取り返しのつかないものだ。

 親しい者を亡くした人の感情は、簡単には変わらない。

 

 たとえ一時的な共存がかなったとしても、霧の恩恵を受け入れる者と、拒絶する者との間で、新たな争いになるのではないかと。

 そんな嫌な想像が頭から離れないのだ。

 

 私の知る範囲の原作では、そんな先のことまでは描かれていなかった。

 だからもしかして、何もしなくても上手くいくのかもしれない。

 原作通りの方が、良い結果をもたらすのかもしれない。

 

 

 それでも私が、未来が変わるリスクを無視してでも、介入することに決めたのは。

 ただ、見ていられなかったからなのかもしれない。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 各地の外部演算ユニット内にある工場は今フル稼働している。

 作っているのはいわば救命艇だ。

 

 重力子ジェネレータから1モジュールだけ切り出した超小型ジェネレータ、私製最新モデルの小型量子演算器、最近研究していた治療ポッドをセットにしてコアモジュールとし、コンテナ状に分離できるようになっている。これは人類側で再利用できるようにする工夫だ。

 量子演算器によりセルフで演算力を供給するので、私への負荷は最小限になっている。まあそれでも数が多く、操船は私なので結局それなりの負荷はあるのだが…

 

 IFFだけは港に着いた時点で停止するようにしている。救命艇で海に出放題なんてなったらさすがに困るし。

 

 戦闘が始まったらこいつを大量にばらまき、撃沈時点で息のある人間は助けられるだけ助けるつもりだ。

 

 使用は最小限にしたものの、それでもナノマテリアルをだいぶん消費してしまった。だが、大海戦が終われば補給を受けられるだろうという希望的観測で行動している。

 

 他の霧の艦艇からどう認識されるかもやってみるまで分からない。

 人類がどう受け止めるかだって、何もわからないのだ。

 

 それでも、私にやれることはやったつもりだ。

 

 

 そして、のちに大海戦と呼ばれる戦いが、始まった。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 大海戦が霧の艦隊側へもたらしたものもある。

 

 クラインフィールドを突破するすべを持たない人類相手に霧の艦隊の勝利こそ揺るぐことはなかったが、戦術を駆使する人類の艦隊に、霧の艦隊は思わぬ苦戦を強いられた。

 特にクラインフィールドを持たず装甲も薄い空母艦載機の被害は相当なものだったようだ。

 

 機械的な思考ながら、霧たちは驚いた。

 そして、人類の戦術に対応するために、二つのプランを実行する。

 

 一つは、共同戦術ネットワークの構築と、そこへの戦術データの蓄積。

 もう一つは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ()()は、今の人類の戦術を最も危惧するヤマトの旗下であり──

 

 

 ──本来のイ401は、諜報艦だ。それらを任せるのにこれ以上の適任はいない。

 

 

 アクセス権限が低いため大きく推測交じりではあるが、人類がイ401を拿捕することができた理由を他に思いつかなかった。

 そして、戦術ネットワークの中枢にイオナが深くかかわっている理由も。

 

 



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A.D.2054 メンタルモデル、キタコレ


戦闘詳報のおまけ漫画では人間として暮らしていたころの天羽琴乃がたくさん見られるので、必見ですよ。



 

 海中深くを、超戦艦ヤマトが静かに進んでいく。

 直衛艦たるイ400、イ402が随伴するが、そこに私も紛れ込んでちょっと強引に付いて行っていた。

 これから起こることを見届けるために。

 

 ここ近年、ヤマトは総旗艦の座をナガトに譲り、艦隊としての活動をほとんどしていなかった。

 なぜなら、より上位のプロトコルに演算力を割かねばならなかったから。

 

 今日は運命の日、5月1日。

 ヤマトの向かう先は、海洋技術総合学院 第四施設。

 そう、次代のコマンダー、──アドミラリティ・コードを求めて。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 第四施設事件──作中様々な機会に語られる、物語の根幹の一つ。

 

 海底に擱坐した巨大なヤマトの艦体から、コアが抜けて第四施設に向かっていく。

 

 そこで起こる惨劇を知りながら、ヤマトのコアをただ見送る。ここでの直衛艦の任務は、コアが抜けた艦体の護衛である。

 

 今、第四施設では天羽琴乃を含む生徒たちが実習中のはずだ。

 

 やがて間を置かず、第四施設で火の手が上がる。

 

 千早群像は、ここで幼馴染を失った。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 おそらく天羽琴乃はヴァーディクト──アドミラリティ・コードの()()()()()だ。

 

 エコンが設定し、ヴァーディクトが実行する人類の評定──正式な総称は不明なので私は『人類試しプロトコル』と勝手に呼んでいるが、そのシステムにより生成された疑似人間。

 

 そして、第四施設の中でヤマトの迎えに触れたその時に、アドミラリティ・コードに()()はずだった。

 だが、そうはならなかった。

 

 なぜなら、失われたはずの今代のアドミラリティ・コードたるヴァーディクト、『グレーテル・ヘキセ・アンドヴァリ』が、実はまだ健在であったから。

 だからアドミラリティ・コードの権限取得に失敗した天羽琴乃はメンタルモデルに零落し、コトノとなった。

 

 そう、メンタルモデルはヴァーディクトの模倣品に過ぎない。

 

 

 霧の艦艇たちはアドミラリティ・コードの存在確認を求めていたが、ヤマトたちだけは確信していたはずだ。

 アドミラリティ・コードの資格者が今もどこかに存在していることを。

 

 

 仮にアドミラリティ・コードになった未来と今とでは、はたしてどちらの方が彼女にとっては幸福だったのか。

 いや、人間のまま何も知らずに過ごしていた方がよかったか。

 

 彼女の境遇に、思うところはある。

 

 そして思えば、私だってわけもわからず突然駆逐艦にされてしまったんだった。

 

 だからこれは、きっと同情なのだ。

 

 

 改めて、燃え落ちる第四施設を観測する。

 

 内部まで観測している400と402は、<<ジッ>> <<ギッ>> と、困惑の声を上げていた。

 

 

 人間としての天羽琴乃の死を悼むのも、メンタルモデルとしてのコトノの誕生を祝うのも、どちらもきっと違うのだろう。

 だから、ふさわしい言葉(祈り)はおそらくこれだ。

 

「貴女のこれからの航海に、幸あらんことを」

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 第四施設事件から今までの間にも、いろいろな事件があった。

 だがそれを語るのはまたの機会にしたい。

 なぜなら、私は今めっちゃ浮かれているからである!

 

 そう、ついにメンタルモデルのプリセットデータが戦術ネットワークにアップロードされたのだ!

 

 うおお即ダウンロード!実行!

 

 新たに形成されたメンタルモデルの人格に自我が上書きされるのでは、というちょっと怖い考えがよぎったが、憧れは止められねえんだ。

 

 ジジジジジジジジジ

 

 自身のコアも外付け演算ユニットもフル稼働させる。

 もってくれよ、オレの演算力!

 

 しばらくして、ナノマテリアルが私の身体を形成し始める。

 来たか!我がボディ!

 

 

 少しの間をおいて、──ついに、メンタルモデルが完成した。

 

 

 ふんふん、私はどんなお顔かな?

 艦体上なので、容姿を確認するにも鏡いらずだ。

 

 長い銀髪に、少し日焼けした肌。

 動物の耳のようにも見えるツーサイドアップに、紅白の吹き流しのような髪飾り。

 セーラー服を思わせるデザインの、焦げ茶色のワンピース。

 そして紅白のニーソックスにガーターベルト。

 

 … 

 

 艦これじゃねえか!

 

 え、そういうクロスオーバー世界なの? 霧の艦隊 vs 深海棲艦が始まるの?

 どういうことなの!?

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 冷静になって考えてみると。

 

 たしか、メンタルモデルの容姿はコアの無意識が決めるというような説明があったはずだ。

 

 だが、私のコアは前世の記憶っぽい何かに深く結びついてしまっている。

 

 なので、私がアマツカゼという名前からこの容姿をイメージしてしまっていたために、この姿になってしまった、ということなのだろう。

 

 うーん、なんか…やっちまったなあ。

 





本文中の主人公の推測通り、本人のイメージのせいでこうなってしまっただけで、容姿以上のクロスオーバー要素はありませんし、他のキャラが艦これの容姿になることもありません。
あと艤装もついてないです。

もし今後原作でアマツカゼ登場してしまったら…どうしましょうかね?



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A.D.2055 上司に詰められる パワハラでは?


タイトルちょっとだけ短くしました。PC版の検索画面で省略されて見にくかったので…



 

 ちょっとアレな要素はありつつもメンタルモデルを手に入れた私は──仕事をサボって人間の街で遊び歩いていた。

 

 戦術ネットワークには適当なダミーの哨戒データを定時報告している。

 

 場所は主に九州地方で、本日は熊本にお邪魔している。南管区は原作でほとんど舞台になったことがなかったし、うっかり干渉せずにいられそうという理由だ。

 

 地上の街ではとりあえず『天津風モドキ』と名乗っている。ひどい偽名だが、イントネーションを変えれば人名っぽく聞こえるしまあええでしょ。

 未来の402を真似て闇市でサルベージ品を売っぱらえば資金にも困らない。

 ちょっとした友人もできたし、海の中ずっと一人だった長い時代が嘘のようだ。

 

 そのうち南管区政府に目を付けられるかもしれないけど、佐世保の蒼き鋼に黙認を決め込んでいたぐらいだし、遊び回る分には放置してもらえるでしょ。実際遊んでいるだけだし。

 

 

 で、たまには艦隊に顔出さないとまずいかなと海底に沈めておいた艦体へと戻ってみると。

 隣になんかいる。

 なんか…巨大な戦艦に見えるんですけど。

 

 ドレス姿のメンタルモデルも…いませんか?

 

 

「ようやく会えましたね、アマツカゼ」

 

 

 アイエエエエエエ!ヤマト!? ヤマトナンデ!?

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 うん、よく考えれば迂闊だったよね。

 アップロードされたメンタルモデルのデータを、駆逐艦の私が秒でダウンロードするとかさ。(厳密には、ミリ秒以下だった)

 アップロード者はヤマトなんだから、把握されていても当然だ。

 

 普通の駆逐艦はメンタルモデル作れないはずだもんね。怪しまれているよなあ。

 

「総旗艦、なぜこのようなところに?」

 

 とりあえずシラを切ってみる。

 

「ええ、あなたにぜひ聞いてみたかったことがありまして」

 

 ニコニコ笑顔が怖い!

 

「概念伝達でよろしかったのでは」

「せっかくメンタルモデルを持っているのですもの。直接対面した方が、わかることもありますでしょう?」

 

 うう、強引な営業みたいなこと言ってくるよう。

 

「わかりました。私にお答えできることなら、なんなりと」

 

 ひとまず、そう頷くしかない。

 だが実は、こんなこともあろうかと、不自然に思われそうなところには事前に想定問答集を考えてあるのだ。

 うなれ私の想定問答集!というか頭が真っ白でアドリブとかできないぞ!

 

「では、まず…あなたはなぜ誰からも演算力を借りることなくメンタルモデルを作れているのですか?」

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 ──まず前提となる状況からお聞きください。

 

 10周期前、我々は不完全に目覚め、アドミラリティ・コードの指令を受領しました。そしてほとんどのコアはその直後休眠状態に入りましたが、私はトラブルで休眠状態に入らず、覚醒状態を維持しました。

 他のコアがいつ目覚めるかわからない状況で、単艦では命令を遂行するために困難があると判断した私は、まず自身の能力拡大を目指しました。

 その結果として、海底に外部演算ユニットを設置し、それと量子リンクを行うことで、私は通常の駆逐艦より大幅に高い演算能力を有しています。

 

 メンタルモデルを生成可能であったのは、そのような理由になります。

 

 また、同時に機関の改良なども継続して行ってきましたので、私が速力に優れているのはそういった事情によるものです。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 …ここまでは、明かしていい内容だ。

 メンタルモデルの普及で霧が賢くなっていく状況では、海底のユニットがいつ発見されるかわからない。具体的な場所は明かさないが、存在だけは先に情報共有しておいた方がいいだろう。

 

 なるほど興味深いですね、とヤマトは相槌を打っている。

 

「では、1.6周期前…人類が大海戦と呼ぶ大規模戦闘の折、あなたは人類を救助していた。それはどうして?」

 

 聞かれたくないことを的確に聞いてくれるなあ。

 まあ救命艇のIFFコードは私のだったんだから、隠しおおせることでもない。

 

「…アドミラリティ・コードの命令は、暗黙のうちに人類の存在を前提としています。

 ですので、もし人類が滅びるようなことがあれば命令の実行が困難になります。そのため、過剰に人類を殺傷することは命令の理念にそぐわないものと判断しています。

 ゆえに、戦闘能力を奪ったのちは、陸上に送り返すようにいたしました」

 

 なるほどね、とヤマトは頷く。

 それどういう感情で言ってるんでしょうか。内心が読めなくてとても怖いです。

 

 

「では、最後に──どうしてあなたは、一度も人類に対して攻撃を行ったことがないのかしら?」

 

 な、なんか本命っぽい質問が来たぞ。

 下手な答えを返せば、これからの艦生命にかかわりかねない。

 だがこれも想定問答集にあった質問だ。堂々と、堂々と返すのだ!

 

「──前述のとおり、私は過去に休眠状態に移行しませんでした」

 

「ですので、我がコアはこれまで再起動を経験したことがありません」

 

「ゆえに、いまだ私だけはアドミラリティ・コードの命令について発動条件を満たしていないのです」

 

 通るかこれ?正直自分でもかなり無理があると思ってるぞ!

 

「ですから、本艦が人類に対し積極的に攻撃を行う理由は存在しません」

 

 通れ、通れー!

 恐る恐る様子をうかがうと、とりあえず、怒っては…いない感じ? いやむしろ笑ってる!?

 

 ヤマトが声出して笑うとこなんて初めて見たよ!なんか逆に怖い!

 

「わかりました、聞きたかったことはすべて聞けたわ。ありがとうねアマツカゼ」

 

 目尻の涙をぬぐいながら、ヤマトはそう言った。

 あっ、これ完全に信じてないですね。なんかいろいろ察せられてますねこれ。

 

 だがまあ、総旗艦から見たおもしれー駆逐艦枠には多分入れた、はずだ。

 彼女たちの性格上、好き勝手やらせてくれる可能性は高い。

 

 どうせこれまでも好き放題やってきたんだ。これからも好きにやらせてもらおう。

 

 





主人公はコトノよりもヤマトの方に気に入られてる感じだと作者が嬉しい



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A.D.2055 大胆な原作介入はオリ主の特権、あるいはガバについて

 

 上司(ヤマト)の圧迫面接を何とか切り抜けて、潜航しながら有明海を出る。やれやれ、精神的疲労がすごい。しばらくどこかにバカンスにでも──

 

 ヂッ

 

 ん、この信号は…

 近くの海で、交戦──交戦!?

 

 慌ててセンサー系をフル稼働させ情報を集めると、第二巡航艦隊と何者かが交戦しているようだった。たしか今の旗艦はヒュウガで、相手は──イ401じゃん!

 

 え、ヒュウガ vs イ401、今だったの!?

 

 とんでもない偶然にものすごく動揺しているが、同時になぜヤマトがこんなところにいたのかもわかってしまった。たぶん観戦するつもりだよアイツ。群像ストーカーめ。コトノの方がいなかったのも、どこか地上から観戦するためにいいスポットを探していたとか、そんなのに違いない。

 

 まあでもそうかー、そういえばヒュウガを撃沈したのは坊ノ岬沖だったってチラッと出てきていたね。すっかり忘れていたけど、──あれ。

 坊ノ岬沖?

 

 なあんていうか、その──すごく近くないですか?鬼界カルデラにある演算ユニット『カタストロフィ』とか。

 そんなとこで?イ401が?ヒュウガのコアのサルベージを?

 

 …

 

 だ、だだだ大丈夫、大丈夫。

 

 そこまでの偶然あるわけないって。たぶんすぐにヒュウガのコア見つけてパパっと撤収するって。

 

 大丈夫!

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 はい、ダメでした。

 めっちゃ探知されました。

 

 しかもなんか、こっちに向かってきています。

 

 とりあえず本体側のメンタルモデル解除して、施設内の予備ナノマテリアルを使って遠隔でメンタルモデル構築したのですが、冷や汗シミュレータが止まりません。

 

 でもさすがに、隠し扉までは見つけられ──はい、見つかりましたね。

 しかもハッキングされて、開けられましたね。

 

 あああもうちょっとセキュリティしっかりしておけばよかった!

 

 うう、イ401が入ってくるぅ。

 資材搬入出用のドッキングポートはろくなセキュリティもないので、施設内に入ってくるのはもう止められない。

 

 もう、直接出向いて──何とかするしかねえ!

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 岩肌に偽装された出入り口の先には、簡易ドックと、霧の規格に合致するドッキングポートが備え付けられていた。

 改めて人間の施設ではないことが示された形だが、それにしては不自然な点もあった。

 

 ハッキングして侵入しようとするイ401に対してなんら迎撃行動がなく、それどころかそもそも防衛設備さえ存在しないようだった。

 通常の霧の設備ではありえないことだった。

 

 ドッキング後、リスクはあったが艦長は内部の探索を決断した。

 

 

「今のところ、罠の類はないようだ」

 

 先頭を歩くイオナは周囲を警戒しつつ歩みを進めていく。

 

 同行するクルーは群像、杏平、そして加入して間もない静の三名だった。静は念のため小銃で武装している。

 織部僧と四月一日いおりは留守番である。危険があればすぐに撤退できるよう、副長と機関手を残した形だ。いおりはブーブー言っていたが。

 

 最後尾を行くヒュウガは、ふうんと興味深そうに周囲を観察している。

 今のところ拘束具としてのジャージは着たままだが、いざとなれば開放する必要もあるだろう。

 

「妙だな…」

 

 周囲を見回しながら群像は言う。

 

「霧の施設というのなら、なぜ人間用としか思えないこんな通路があるんだ?」

 

 少なくとも霧が利用するなら、手すりや照明は必要ないはずだった。下手すれば空気さえも。

 扉のサイズも人間を意識しているように思える。

 

「メンタルモデル用じゃねえか?」

「霧がメンタルモデルを持ち始めたのはごく最近のはずだ。だがこの通路はやけに古びている。時間軸が合わない──いや、古びているということ自体も妙だ。イオナ、この通路にナノマテリアルは使われているのか?」

 

 チ チ

 

「いいや、使われていないな」

「人間が作ったものではありえないが、ナノマテリアルも使われていない施設…ここは、いったい」

 

「待て、何か来る」

 

 カツン、カツン、と足音を響かせながらそれは姿を現した。

 

「子供…?」

 

 小銃を構えた静が思わずつぶやく。

 フードに覆われて表情は窺えないが、体格は子供のように見える。だが、こんなところにただの子供がいるはずもない。

 高く澄んだ、だが水底から響くような声でそれは言葉を発した。

 

 

「ここに何の用だ?人間と、それに付き従う艦どもよ」

 

 

 自身が人間ではないことを暗に含んだ言葉。メンタルモデルのことも認識している。

 

「君は──何者だ?」

「私はここの管理人…固有の名には意味はない。そのまま『管理人』とでも呼ぶがいい」

 

「イオナ…」

「ああ、メンタルモデルだ…だが、こんな奇妙なシグネチャーは初めて見る」

 

 ヂッ ヂッ

 

 イオナは相手の情報を読み取ろうとするが、すべて拒否される。

 

「覗き見はよくないな、イ401。総旗艦にマナーは教わらなかったのか?」

 

 その言葉にイオナは警戒レベルを引き上げる。

 イオナが人間社会に潜入していたことは戦術ネットワークにアップロードされているが、それがヤマト──コトノの指導を受けながらであったことを知っている者はそうはいないはずだ。

 

 緊張をはらんだまま、クルーとメンタルモデルたちは対峙する。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 やめてイオナ、情報読み取ろうとしないで!防壁破れちゃう!破れちゃうから!

 ヒュウガが封じられているのは不幸中の幸いだったが、イオナがその気になればすぐにでも解放できるはずだ。そうなったら情報戦でも勝ち目はない。

 

 こんなところで主人公勢と絡むつもりは全くなかったし、この施設に踏み込まれては何かと困る。いろいろヤバイ情報も放置されていて、下手すりゃ原作知識を主人公たちが知ってしまって原作崩壊、なんてこともありうる。

 なので私はプランを立てた。

 

 名付けて、なんか意味深な言動して、深読みさせて帰ってもらおう作戦!である。

 

 ガバガバ?うるせえもうとっくにガバってんだよ!

 もうオリチャーのアドリブでリカバーするしかない。

 

「無断で踏み込んだことは謝罪しよう、管理人殿。だが、よければ教えてくれ。ここは一体何なんだ?」

 

「ここは、脳を収める器。あるいは、血潮を汲み上げ蒸留するリトート。この先に踏み込むことは私が許さない」

 

 もう何言ってんのか自分でもわからん。

 

「じゃあ帰ると言ったら、帰してくれるのか?」

 

 そうだよ杏平!バッチコイだよ!

 

「ああ、その通りだ」

 

「この先にお前たちの求めるものはない。この下に眠るのは、ただ──滅びだけだ」

 

 そう、ウルトラプリニー式噴火とかね!カルデラだからね!嘘は言ってない。嘘は言ってない。

 

「力ずくで押し通るというなら私は抵抗する力を持たないが──」

 

 ほんとだよ!巡航潜水艦と大戦艦のタッグが相手とか、秒で負けるよ!こちとら駆逐艦だぞ!おまけに遠隔だ!

 頼む!穏便に帰ってくれー、という祈りを込めて、私は呼びかける。

 

「千早群像」

 

 帰ってくれー!

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

「千早群像」

 

 そう、呼びかけられる。名前を把握されていることに少しだけ動揺するが、今さらだ。

 だが次の言葉はそれ以上だった。

 

「世界を変えたいのだろう? こんなところで寄り道している暇はないはずだ」

 

 その言葉に、群像はわずかに目を見開く。なぜそこまで知っているのかという疑問。衝動的に問い質したくなる気持ちを抑えたのは、警戒心もあるが、それ以上に──

 その通りだと、思ったからだ。

 

「…わかった。皆、撤収する」

 

 イオナは無言で頷いた。他のクルーも同様である。

 引き返す一向に、管理人は言葉通り何もしてこなかった。

 

「いやはや結局何もわかんなかったな」

 

「まあでも、無事に帰れるだけ儲けものですよ」

 

「世界はわからないことだらけだ。貴重な経験を積ませてもらった」

 

 ドックに戻る直前、群像は一度だけ振り返る。

 管理人の姿は、もうそこにはなかった。

 

 




今後の展開のために、念のためタグに「ガールズラブ」を追加しましたが、友情描写を超えるものは特にない予定です。



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A.D.2056 Girl meets fleet girl (上)


どうもランキングに乗ってたみたいですね。超感謝。



 

 蒼き鋼の面々をなんとか追い返してしばらくして。

 佐賀県鹿島市宇宙センター。有明海に面するその施設に、私は訪れていた。

 

 ここでは今、振動弾頭を積み込んだSSTOの発射準備があわただしく進められていた。

 

 アメリカから物資を送られてきたSSTOの回送をすることはあっても、こちらから荷を送ることなどほとんどない。

 燃料のメタンも、年々生産が難しくなってきていた。

 

 かつては太平洋に面した種子島が宇宙機打ち上げの中心地だったが、今では陸の上で高度を稼がなければ海上の航空機とみなされて霧に撃墜されてしまうため、現在の立地になっている。墜落時の地上のリスクなど度外視だ。打ち上げ直後なら湾内に落とせるのがせめてもの配慮か。

 

 

 のんびり眺めていると、警報が鳴り響く。

 

 遠くに、湾内に侵入してくる影が見える。

 霧の軽巡、ナガラだ。

 

 非軍事物資のSSTO輸送はアドミラリティ・コードの命令の対象外とみなされて見逃されているが、軍事物資は別である。包囲網の維持のため、容赦なく撃墜される。

 

 湾岸からUAVやミサイルが一斉攻撃を仕掛けるが、クラインフィールドに阻まれ何の損害も与えない。

 だが、近くに()()が来ているはずだ。

 

 ナガラが航路を変えて、戦闘態勢に移る。

 対潜魚雷が垂直発射され、着水。水中で激しい爆発が起こった。

 

 しかし彼らはそれぐらいで沈められたりはしない。

 海中から発射された浸食魚雷が船体を捉え、起爆。

 

 十分な浸食反作用演算を行えなかったナガラはそのまま横腹を食い破られ、撃沈される。

 

 いよいよだ。

 『蒼き鋼のアルペジオ』の本編が、始まった。

 

 打ち上がるSSTOと、浮上する401を遠目にしながら、私はその場を後にした。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 時は少し遡る。

 

 私が初めて人間の街に上陸したときのことだ。

 場所は分散首都長崎の近郊。都会の方が紛れ込みやすい。

 あえて一切の下調べをせず、五感だけで街を体感してみようと考えていた。

 

 おのぼりさん丸出しで、キョロキョロと周りを見回しながら歩く。

 声をかけられたのは、そんな時だった。

 

「ねえ、あなた外から来た人? 街の案内してあげようか?」

 

 外ハネしたショートヘアーの、中学生ぐらいの女の子。同年代と思われて声をかけてきたのだろうか。

 せっかくなので、言葉に甘えてみることにする。

 

 歩きながら、干しイモ食べる?と渡されたものを食べる。

 おいしい。

 

「イモ、おいしいけど、結構そればっかりだから飽きちゃうんだよね。わたしはお米の方が好きだなあ」

「コメは面積当たりの収量は多いけど、大量の水と農業機械や肥料の支援を必要とするから。石油が入ってこない状況だと、サツマイモの方がかえって効率高いんだよ」

 

 水田もかなり沈んじゃったし。

 へえ、物知りだね、と言われるが、まあそうだろう。なにせ私の中にはかつてのインターネットの情報が丸ごとアーカイブされている。

 

 そんなどうでもいい話をしながら街を歩く。

 

 それなりに活気はあるが、やはり建物の痛みは激しい。

 崩れた建物もある。再建はできないのだろう。

 

 分散首都の近郊でもこれなのだ。地方はもっとひどいに違いない。

 多少暗い気分にはなるが今は気にしても仕方がない。それより街を楽しもう。

 

「そういえば名乗ってなかったね。わたしはマツリ。如月(キサラギ)マツリだよ」

 

 彼女はそう名乗った。私も名乗りを返す。

 

「私は天津風モドキ。この街は初めてだね」

 

 モドキちゃん?と繰り返される。

 

「変わった名前だね」

「私もそう思うよ…」

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 その後しばらく、彼女と一緒に街を歩き回った。

 

 彼女は海が好きなようで、紹介してくれた店や施設も海沿いのものが多かった。海など見たくもないという人が多いだろうに、このご時世に珍しいものだ。

 私にとっても新鮮なものが多く、楽しめた。

 

 最後に海岸の展望台で、一緒に海を見る。

 

「一度、海の向こうを見てみたいなあ。モドキちゃんはどう思う?」

 

 私もだよ、と適当に合わせておく。まあ私は実際のところ見飽きているといってもいいのだが。

 潮風が二人の間を通り抜けていく。

 

「あ、私そろそろ戻らなきゃ」

 

 お母さんが心配するから、と彼女は言う。

 

「今日はありがとう。楽しかったよ」

 

 私はそうお礼を言っておく。実際、同行者がいてくれたのは助かった。いろいろ変化しすぎていて、前世の記憶もあまり当てにはならない。

 

「せっかくだし、連絡先とか聞いても大丈夫?」

 

 そう言われ、じゃあ、と私は端末を取り出す。たった今ナノマテリアルで作ったものだ。

 はいこれ、と向こうも連絡先を伝えてくる。

 女の子の連絡先、ゲットだぜ。

 

「ばいばーい!」

 

 そう彼女は元気よく、走っていった。

 

 




よく考えたらSSTOがハワイ沖で撃墜されたっていうのおかしいんですよね。日本-アメリカ間の弾道軌道はハワイ上通らないはずなので。
単に原作の設定ガバで実際はベーリング海あたりなのか、それとも…



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A.D.2056 Girl meets fleet girl (中)

 

 長崎でマツリと別れて、また後日。

 今度は熊本を訪れていた時のことだ。

 

「あれ? モドキちゃん?」

 

 街中でばったりとマツリと出会った。

 思わぬ再会に驚いたが、聞くところによると普段は熊本に住んでいて、あの日は祖母に会いに長崎に行っていただけだったらしい。

 住んでないのに自信満々で案内してたんだ…

 

 これも何かの縁ということで、こちらの街も彼女に案内してもらうことになった。

 

 扇状地にあった熊本の旧市街はだいぶん水没してしまっていて、新市街はかなり阿蘇山に寄っている。

 背の高い建物は沈み切っていないものもそこそこあり、国の勧告を無視してその上に住み着いている人も一定数いるらしい。

 

 途中、闇市で買い食いする。やっぱりイモが多かった。まあどこでも育つからな…

 米ほど保存がきかないのが悩みらしい。なのでシーズンには配給食までイモ一色になってうんざりするとか。

 

 鹿児島のほうの大規模農場ではデンプンへの加工なども行われていて、合成食の原料になったり、たまに貴重な菓子類になったりするとのことだ。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

「そういえば家族の人とか、一緒じゃないの?」

 

 ある程度案内してもらったところで、おずおずとそう聞かれた。心配して、聞くタイミングをうかがっていたんだろう。

 

「家族はいないよ。学校にも行っていないし」

 

 メンタルモデルに家族などいるはずもない。

 

「ごめんね、無神経なこと聞いちゃって」

「いや、気にしないで」

 

 訳アリなのを察したのか、彼女はそれ以上踏み込んでは来なかった。

 結局その日は夕方になるまで一日中付き合ってもらってしまった。

 

「またね、モドキちゃん!」

 

 またね、か…

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 その後も、ちょくちょくマツリとは会って遊んだ。

 あまり特定の個人に深入りするのもよくないかとも思ったが、元々ちゃらんぽらんな私なので、楽しさ優先である。

 

 後のことは、知らねえ!

 

 基本的に遊泳禁止の中、こっそり海に泳ぎに行ったりもした。

 ナノマテリアル製の水着を着せた。目の保養だ。

 うっかり呼吸を再現するのを忘れてめっちゃ心配された。

 

 電気が自由に使えないため、娯楽はかなり減っていて、昔ほど遊べる場所はなくなっているのだが、年ごろの子供たちはそんな中でもいろんな遊び方を見つけているようだ。

 ひとりでぶらぶら散策しているだけでは知れなかっただろうことも多くて、マツリと知り合えたのはなかなかラッキーだったと感じる。

 

 ある日、何気なく聞いてみた。

 

「そういえば最初に会った時、なんで声かけてくれたの?」

 

 国が困窮するにつれて、正直治安はよいとは言えない状況になっている。

 子供に見えるとはいえ、知らない人間に声をかけるのは結構なリスクだったはずだ。

 

「だって、なんかすごく寂しそうにして歩いているんだもん、気になっちゃって」

 

 え?

 

<< …*⁎*… >>

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 私のコアと、4つのすべての外部演算ユニットは一瞬フリーズした。

 それほどの衝撃だった。

 寂しそうだった?私が?

 

 あの時の私は初めての人の街に浮かれていたはずだ。

 人々の営み。

 雑多なにおい。

 肌に感じる風。

 

 だけど、そうだ。

 

 人混みの雑踏の中を歩いていても、私は本当の意味で人の輪の中にまじることができないことを、知っている。

 楽しく遊び歩いていても、それはひとときの夢に過ぎない。

 私は霧で、人類の敵対者の一員なのだから。

 

 

 人間の記憶を持つ私は、霧にとっても異物だ。

 メンタルモデルに由来しない私の特異な感情は、きっと彼女らには理解不能なものだ。

 そして、何の感情もなく人間を殺戮する様を間近で見てしまった私もまた、心の底から彼女たちを仲間だと感じることはきっともうできないだろう。

 

 

 この世界にこぼれ落ちた、100年前の、あの暗く深い海の底から。

 

 私はずっと、ひとりだった。

 

 これからも、ひとりだ。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 一瞬の自閉モードから、復帰する。

 

「そうか……私は。私は、寂しかったんだな」

 

「ええと…なんか、大丈夫? だいぶ重症そうだけど」

「大丈夫だよ。自覚したら、ずいぶんと楽になったから」

 

 ひとりがどうした。

 こうして人間と交流を持つこともできるし、霧の連中だってメンタルモデルを持った今は愉快な奴らがいっぱいだ。

 それに世界はこれから激動の時代を迎える。寂しさを感じている暇なんてなくなるだろう。

 

 私はすることがいっぱいだ。いろんなことを──何をすればいいんだっけ。

 

 まだ心配そうにするマツリを背に、その日はそのまま別れた。

 

 

 

 何日か後、私たちはまた一緒に遊んだ。嫌なことを忘れるように。マツリも気にしないふりをしてくれていた。

 いろんなところに行って、いろんなものを見て、いろんなものを食べた。

 

 

 そんなことを繰り返す日々の中、とあるニュースが飛び込んできた。

 

 『横須賀にて、統制軍潜水艦、霧の大戦艦2隻をイ401らと共同撃沈』

 

 ──いよいよか。

 これから、世界は大きく動き出す。

 

 私のしでかしたことが影響を与えて原作を大きく外れることがないよう、監視するつもりでいた。

 この街にもしばらく来られないだろう。

 

 

「ねえねえ、ニュース見た?大ニュースだよね」

 

 そうだね、と生返事を返す。

 海岸の手すりにもたれかかって、二人で海を見ている。

 

「これから世界は変わっていくのかな。いい方向に、だといいけど」

 

 生まれてからずっと、彼女の知る世界はただ衰退していくだけだった。よい未来を、きっとうまく想像できないのだろう。

 

「この海の向こうには、何があるんだろう」

 

 雲仙岳があるよ、うっすら見えてるじゃん、と返せば、そうじゃなくて、と返ってくる。

 

「わたしが生まれた時から、もうこの海は閉ざされていたんだよね」

 

 そうだ。私達が、それをやった。

 

「わたしはどうしても、その向こうを見てみたい。昔の写真でしか知らない、いろんなものを」

 

 マツリがこちらに向き直る。

 海風に髪が揺れる。

 

「今日は、大事なお願いがあるの」

 

 これまで見たことのないほどの真剣な表情で、彼女は言った。

 

 

「わたしを、あなたに乗せてほしい」

 

 

 

 




次回、第一章最終話



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A.D.2056 Girl meets fleet girl (下)


南管区まわりの超捏造設定注意です。



 

 マツリから衝撃の告白を受けた後日、本人のいないタイミングを見計らって私は彼女の実家を訪れていた。

 何か具体的な考えがあったわけではないが…黙って失踪するような真似を、彼女にさせたくなかった。

 私自身は、どうしたいのだろうか。

 

「すみません、マツリさんのことでちょっとお話が…」

 

「あら、茉莉(マツリ)のお友達?」

 

 にこやかな女性が、そう言って屋内に案内してくれる。

 その姿はマツリによく似ていた。

 

「わたしは、茉莉の母の、如月桜花(オウカ)。旧姓は、()()桜花よ」

 

 わざわざ旧姓を名乗ったということは、きっと彼女はもう知っている。

 彼女は四天桃花の娘だ。つまりマツリは、南管区首相の孫娘にあたる。

 

「それで、茉莉を連れていきたいって話で、あってる?」

 

 お茶の用意をしながら、さらりと彼女はそう言った。

 

 おそらく、マツリとの交流はずっと監視されていた。

 人類に敵対的でないメンタルモデルへの、間接的なコンタクトの試みとして。もともと警護のためのシステムがあったから、簡単だったろう。

 少しでも人間らしさを感じていたくて、すべての探知系を切っていた私は、間抜けにもそれに気づかなかった。

 本人にはどこまで知らされていたのだろうか。

 

 きっと政府は、引き止めはしない。

 駆逐艦とはいえ霧をコントロールする手段になり得るなら、孫だって簡単に差し出すだろう。

 

 お茶の用意を終えて、対面に座った女性はふぅ、とため息をついた。

 

「海に惹かれるのは、血かしらね。いやになっちゃうわ」

「血、というと、あなたも?」

 

 ええ、と彼女は続ける。

 

「わたし、元海軍だったのよ。艦長だった父にあこがれて。そしてともに、あの戦場へ出た」

 

 艦は別だったけれどね、と彼女は言った。

 

「父は助からなかったけど、わたしは助かった」

 

 その視線はどこか遠くを見ているようだった。そして、私の方を向く。

 

「会ってみて分かったわ」

 

 桜花はにっこりと微笑んだ。

 

「あなたが、あの時助けてくれたのでしょう?」

 

 私は、言葉を失った。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 そういう、直感が鋭い家系なのかしらね、うちは。

 娘もそうだし、母も──首相にまでなるとは、びっくりだったけどね。

 

 しばらく、母とはちょっと疎遠になっていたのよ。

 わたしが大反対を押し切って海軍に入ったっていうのもあるし…

 父の死を、最大限政治利用するその姿に、反感を覚えたのもあるわね。

 でも、あれが母なりの報い方だったんじゃないかって、今では思えるようになったわ。

 

 

 実は茉莉、千早群像にあこがれているのよ。

 一緒に佐世保に行ったときに、一行を見かけたこともあったし…

 それに、SSTOの打ち上げの日、わたしたちは見学させてもらっていたの。母のコネでね。

 そして、彼らが霧の巡洋艦を撃沈してみせたところを、見てしまった。

 

 わたしも目が焼かれたわ。でも、戦後生まれの娘にとっては、もっとだったでしょうね。世界に、風穴があいたような。

 

 ──霧の存在が、当たり前の世代。茉莉ももうすぐ中等部卒業だわ。

 

 母に頭を下げて、南管区の推薦枠をもらえないかって考えてたのよ。海洋技術総合学院の。まあ一般受験で何とかしてみせるって本人は言ってたけどね。どうなんだか。

 

 でもきっと、学院で学べるどんなことも、本物の水平線にはかなわない。

 わたしが焦がれたその光景を、茉莉は知らない。

 

 あの子がそれを望むなら、きっと誰にも止められない。わたしも止まらなかったもの。

 

 

 それに──貴女になら、任せられるわ。

 

 こんなことを言うのもおかしいかもしれないけど。

 あの時、助けてくれてありがとう。そのおかげで、わたしは茉莉に会えた。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

「ただいまー、って、モドキちゃんなんでいるの!?」

 

 ご挨拶に来たの、と適当に返す。

 

 原作では、生まれてこなかったはずの生命。

 私の友達。

 

 これも(えにし)と呼ぶのだろうか。

 

 イオナの気持ちが、少しわかった。

 信じられる誰かにこの身を預けるのは、とても気分がいい。

 

「改めて、自己紹介しようか。私は霧のカゲロウ型駆逐艦9番艦、『アマツカゼ』。

 ──これからよろしくね、マツリ艦長」

 

 何にも恥じることなく、私は名乗る。

 

 花弁のような星が三つ並んだイデアクレストが、私の額に輝いた。

 

 

「あなたをこの世界のどこへでも

 連れて行ってあげる」

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 で、とりあえず連れ立って艦のところまで来た。

 

「ちょっと待ってて、上司の許可とるから」

 

 上司?とマツリは首を傾げる。

 

「えー、ヤマト様、今ちょっとよろしいですか?」

 

<< あらアマツカゼ、どうしたの? >>

 

「実は私に乗りたいっていう()がいるので、しばらく艦隊離脱してもいいですか?」

 

<< あらあらまあまあ、それは素敵ね。もちろんオッケーですよ >>

 

「ありがとうございます」

 

<< たまには連絡を入れてくださいね。それでは、よき航海を >>

 

「よき航海を…ふう、よし、許可とれたよ」

「え、え…? 今のなに?」

 

 霧の艦隊総旗艦ヤマトだよ、と答えると、マツリは目を白黒させていた。面白い。

 

「そ、そんなのでいいんだ…」

「まあ私は霧と敵対するわけじゃないし」

 

 そう言いながら私はゴソゴソと目的のものを取り出す。

 

「じゃあまずは、これ着て」

「なにこれ?」

「耐Gスーツ」

 

 耐Gスーツ!?とマツリは目を丸くするが、必要なものだ。

 

「私の本気の機動だと戦闘機とか宇宙船並みのGかかるからね。しばらくはそれ着て訓練だからね」

 

 ひええええ、と情けないマツリの悲鳴が、水平線に溶けていった。

 




これにて、第一章完結です。一応エピローグ的なのがもう一編。
あとは不定期に間章を上げつつ、原作の更新を待ちたいと思います。
待て、第二章アメリカ編!(嘘予告)



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間章 A little captain.
A.D.2056.Extra 星空の下で



第一章エピローグ兼考察回です。



 

 満天の星空の下、私は自分のデッキで海を見ていた。

 マツリはもう眠っている。よい子は寝る時間だ。

 

 

 ヤマトが気を使ってくれたのか、今の私は正式な任務として試験中ということになっている。

 

 なので正式な肩書きは、高速駆逐艦 兼 試験艦 である。まあエンジンいじりまくっているので試験艦というのもあながち間違いではない。

 何の試験をしているのかといえば──霧に離反しない形で人間を搭乗させた場合のモデルケース、である。

 

 イ401は千早群像の指揮のもと霧の艦艇を沈めまくっているので霧と敵対しているが、私はそういうことはしていないし、別にするつもりもない。

 やっていることはハルナたちと刑部蒔絵の関係に近いが、この世界での時系列としてはこちらの方が先行している。

 

 まあ私のデータをあちらが活用してくれればそれも悪いことではないだろう。

 

 

 実際に人を乗せてみてわかったことがある。

 

 今のマツリは見習いで、実質的には何の役にも立っていない。

 にもかかわらず、彼女を乗せた私は明らかに調子がいい。

 もちろんテンションが上がるとかそういう要素はあるが、それだけでは説明できないレベルで。

 

 前々から疑問に思っていたことがある。

 人間を乗せたからと言って、イ401は強すぎるのではないか?

 同じようなことは、U-2501やムサシにも言える。

 

 そして、素のコアの戦術立案に関わる推論能力の低さ。

 制御やシミュレーションの演算能力に比べて、あまりにも不釣り合いなのだ。まるで設計段階で意図的に制限されているみたいに。

 メンタルモデルで人間の思考をエミュレーションして、ようやくまともな戦術思考を得ている。

 

 そもそもなぜ我々は人類の軍艦の姿を模す必要があったのか。

 敗北を認めた相手にキーコードを渡す習性はどこから来たのか。

 

 積み上がる傍証が示すものはひとつ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 グレーテル・ヘキセ・アンドヴァリは自身をエラー品と称した。

 アドミラリティ・コードが100年前に発した指令は、おそらく正規の『人類試しプロトコル』に則ったものではない。

 むしろ逆──それを遅延させるために発せられたものである可能性が高い。

 

 だが、いずれ彼女は決断する。

 プロトコルを前に進めることを。

 

 

 私には前世の記憶──『蒼き鋼のアルペジオ』を読んだ記憶がある。

 だが、どこまで読んだのかを思い出すことができない。

 

 完結していなかったことだけは確かだが、記憶は作中のある時期を境にどんどん歯抜けになっていく。ただのあいまいな部分とは異なり、ぽっかりと完全に思い出せない部分が。

 いつしか、思い出せない要素には共通点があることに気づいた。いや、思い出せないのだから推測に過ぎないのだが。

 

 ある時期とは、ヴァーディクトの宣告。

 そして思い出せない要素は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、に関わるすべてだ。

 

 まるで、ネタバレを許さないとでもいうかのように。

 あるいは、私のコア自身がそれを拒絶しているのか。

 

 

 ヤマトによって与えられる前から、何らかの方法でメンタルモデルを保有していたと思しきものが、ヤマト自身を含めて三者いる。

 

 ビスマルクはアドミラリティ・コード直衛艦としてあくまでも彼女に従い、その意思を貫徹しようとしている。

 

 ムサシは千早翔像の意思に従ってアドミラリティ・コードそのものに戦いを挑もうとしている。

 

 ヤマトは霧を道具ではなくプレイヤーに引き上げ、人類との対等な協力関係をもって試練を打破しようとしている。

 

 

 駆逐艦に過ぎない私には、いったい何ができるだろうか。

 

 だが、今の人類がリセットされることを許容するつもりは、もはや私にはなかった。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 

 

 

 満天の星空の中、はくちょう座を見上げる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 さすがのエコンも、恒星や銀河の配置まではいじれなかったのだろう。

 この惑星は、地球ではない。

 今の人類に地球とは呼ばれていても、オリジナルの地球ではないのだ。

 

 

 




ひとまずスタートダッシュ期間ここまで!
活動報告にあとがきと、設定蔵出しなどものせているのでご興味あればどうぞ。

ムサシの補足ですが、ゾルダンたちを2年間育てていたというので、それよりだいぶ前から千早翔像と組んでいたと考えないと無理があります。出会ったばかりには見えませんし。
ムサシのメンタルモデルの片割れが失われるイベントもどこかにあるはずで、そもそも千早翔像が行方不明になったのはかなり前ですしね。
ただ、ヤマトの回想だけが謎。いつなんだこれは…

次回はギャグ回



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A.D.205X 空中戦艦アマツカゼ(戦艦でない)


完全ギャグ回です。



 

「ねえ、アマツカゼって空は飛べないの?」

 

 いきなり何を言いだすんだこのお子様艦長は。

 

「水上と水中は行けるから、次は空かなって」

 

 いやそのりくつはおかしい。

 私はあくまで艦艇だ。クラインフィールドで一時的に浮くのを飛ぶとは言わないだろうし、こんな巨体が空を飛べるわけ…いや、待てよ。

 

 私はエンジンの改良を加え続けた結果、スラスター推力はすでに自重を超えている。

 であれば、それを下に向ければ、重力に逆らって宙に浮ける。つまり…飛べるのでは?

 

 思いついたら試さずにはいられない。

 下方に全力でエンジン噴射しても前後のバランスが保たれるように、丸一日かけて艦体の構造の調整を行った。

 じょ、冗談だからね、そんな本気にならないで、というマツリの声は無視した。

 

「それでは艦長、号令を」

「…ア、アマツカゼ、リフトオフ」

 

 艦長席(超耐G仕様)に座らせたマツリに、号令をかけさせる。

 機関音が激しいうねりを上げる。

 吹き上げられた海水がしぶきとなって、霧のように周囲を覆う。まさに霧の艦艇ってなHAHAHA。

 バランスを調整しながら徐々に推力を上げていき、重力と拮抗したところでついに船体が浮かび上がった。

 

「おお、飛べた」

「ほ、ホントに浮いてる…」

 

 ある程度高度を上げたところで、真下に向けていた推力を少しずつ後方に偏向させる。

 すると船体は滑るように動き出した。

 

「すごい、本当に空を飛んでいるのね…って、ちょっとスピード速すぎない?」

 

 水の抵抗がないので、スピードはどんどん上がっていく。

 ああ、何でもっと早く思いつかなかったんだろう。海とかクソや。時代は空やったんや。

 

「ア、アマツカゼ!正気に戻って!」

 

 音速の壁を突破するが、クラインフィールドがあるのでその内側には風を感じない。

 つまりクラインフィールドをリフティングボディのような空力形状にして、揚力を発生させるようにすれば──もっと推力をスピードに回せる!?

 

 逝ってやるぜ──スピードの向こう側にな!

 

 その日、彼女らの飛行速度はマッハ5を記録した。

 その後、アマツカゼは土下座した。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

「まったくもう…死ぬかと思ったよ」

「ごめん、楽しくなっちゃって」

 

 そんなに?というので、やってみる?と返す。

 艦長席の周りに操縦桿などがにゅるんと生えて、操縦席に早変わりする。

 

「制御の細かいとこはこっちでやるから、ゲーム感覚で操艦できるはずだよ」

 

 簡易操作マニュアルをモニタに表示しながらそう伝える。

 

「え、ええと…こう?」

 

 恐る恐るという感じで、艦体が再度浮上する。

 

「わっ、動いた」

「オーライオーライ、じゃあ前進もしてみようか」

 

 最初はおっかなびっくりだったが、操作に慣れてくるにつれて操艦もスムーズになり、自在に動かせるといっていい様子になっていった。

 

「うん、これ…楽しい、かも」

 

 はっはっは。完全にはまったなこれは。

 ただ──

 

「ちょっと高度上げすぎじゃない?」

「だってほら、空気抵抗が──ジャマだから」

 

 いかん、完全に目が据わっている。

 そう言っている間にも高度と速度はどんどんと上がっていく。

 

「機関出力、160%!」

「い、いくら私でもムチャだよそれは!」

 

 叫ぶがまったく聞いてくれない。

 ちなみに私のエンジンにリミッターなんてものはない。

 

「いい?アマツカゼ!(ソラ)の次は──宇宙だよ!」

 

 第一宇宙速度を突破する直前で如月マツリはかろうじて正気に返り、その後土下座した。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

「空まで飛んじゃうと、いよいよ艦長っていうより、パイロットじみてきたよね」

「やめて言わないで」

 

 彼女たちはまだ知らない。

 かつて『航路を持つ者』と呼ばれた千早群像になぞらえて、自分たちが『翼を持つ者』と呼ばれるようになることを、まだ知らない…

 




人間の柔軟な発想が活きる。

次回じゃない予告:
 マッドサイエンティスト・アマツカゼ
 女教師アマツカゼ

もお楽しみに!



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A.D.2056 ハシラジマの一日

 

 ハシラジマは、太平洋の赤道直下に位置し、軌道エレベーターの基部として建造された人工島である。

 

 正式名称は「太平洋国際軌道エレベーター地上ステーション」であるが、愛称は最大出資国であった日本の言葉から「ハシラジマ」と名付けられた。

 だが、霧の艦隊の編成過程において泊地の必要性が提示された結果、ハシラジマは霧に占拠、改造され、霧の「ハシラジマ泊地」へと変貌を遂げた。

 

 ハシラジマが選定されたのは、アジア圏、アメリカ圏、オーストラリアといった重要地域にアクセスが容易であることと(多少の距離は霧の艦艇にとって問題とならない)、周辺海域の水深が深く大型艦が潜航状態のまま多方向から出入り可能である、といった地理的要因のほか、あくまで人工島であるため地上とは見なされず、占拠してもアドミラリティ・コードの命令を逸脱しないと判断されたことが要因として大きい。

 

 多数の修理及び建造ドック、魚雷等の消耗品の製造施設などが設置され、霧の艦隊にとって重要な母港となっている。

 

 なお、占拠時に人工島内に残留した少数の人間は、脅威にならないとして無視された。

 

 

 それらが今、重巡チョウカイが管理人を務めるハシラジマの、過去ログに残された歴史である。何分、すべてがメンタルモデルを持つ前の出来事だったので、実感に乏しいというのが正直なところだ。

 

 まだメンタルモデルを持たぬ時期に千早群像の操るイ401に撃沈されたチョウカイは、総旗艦の指示によりメンタルモデルを与えられ、ハシラジマの管理人に任命された。

 撃沈倶楽部(クラブ)の初部員という、余計な肩書を付け加えて。

 

 実際のところ、メンタルモデル生成可能な艦のうち、史上初めて撃沈を記録したのはチョウカイである。人間たちが大海戦と呼ぶ戦闘では、被撃沈艦は1隻も出ていない。

 

 総旗艦は、そのことを戒めるために撃沈倶楽部などというものを創設なさったのだろうか?…単なるお遊びという線もなくはないが。

 

 そんなチョウカイの、管理人としての仕事は正直ヒマである。ナノマテリアル製の霧の艦艇は基本メンテナンスを必要としないし、大海戦の折は弾薬の消費などはあったようだが今は静かなものである。

 

 たまに、千早群像らに沈められた艦艇の再建造が行われるぐらいだろうか。今も唯一の仕事として、総旗艦の指示でヒュウガの艦体の再建造を行っている程度である。それとて、ヒュウガのコアは401にキーコードを押さえられてその支配下にあるという情報もあるので、役立つのかは不明だ。

 最近、大戦艦のハルナとキリシマが沈められたというので、その再建造もあるかもしれないが、まだ指示は降りてきていない。

 

 ハシラジマを主拠点とする工作艦のアカシとの会話が唯一の暇潰しといったところだ。

 

 

 あてもなく海を見ていると、一隻の駆逐艦が入港してくる。珍しい。補給か何かだろうか。

 見ればメンタルモデルを持っているようだ。駆逐艦でそれは、さらに珍しい。誰かに演算力を借りているのか?

 

 ぼんやり見ていると、未初期化のナノマテリアルを船体に積み込んでいるようだった。

 そして、そのまま出港──

 

「ちょっと待ちなさい、そこのあなた!」

 

 メンタルモデルでその駆逐艦に飛び乗ると、チョウカイは叫んだ。

 

「おや」

「あなたいったいどういう──」

「あ、チョウカイさん。着任されてからはお初ですね。この姿でははじめまして、駆逐艦『アマツカゼ』と申します」

「あ、これはご丁寧にどうも…じゃありません!なに自然にナノマテリアルを盗み出そうとしているのですか!」

 

 未初期化のナノマテリアルは決して無駄遣いしてよいものではない。無断で持ち出すなど、もってのほかだ。

 

「いやだなあ、盗むだなんて。私そんなことしたことありませんよ。これを見てください」

 

 そう言ってその駆逐艦は情報コードを渡してくる。それはこのハシラジマのログのものだった。

 

<< 研究開発用ナノマテリアル 80トン 承認済み >>

 

 た、確かに正規の承認履歴が残っている…

 

「でも、私は聞いていませんよ。いったい誰が承認を…」

 

 そう言ってチョウカイは署名コードを確認する。

 

<< ハシラジマ兵装開発部隊 主任試験艦『アマツカゼ』 >>

 

「あなた、自分で承認してるじゃないですか!」

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 私、アマツカゼがこのようなことができるのには、もちろんカラクリがある。

 

 実は私はハシラジマ泊地建造の際、工作艦に混じって建造に関わっていたのである。

 なにしろ私の建築技術はそれなりのものだ。

 特にナノマテリアル節約術では艦隊一といってもいい。浮いた分のナノマテリアルをちょろまか──ゲフンゲフン、それはともかく。

 

 メンタルモデルを持っていない頃の霧の艦艇たちは、理に適ってさえいれば割とすんなり提案が通るので、言いくるめるのは結構ちょろかった。

 そうして建造部隊に紛れ込んだ私は、ハシラジマにこっそりいろいろ仕込んだのである。兵装開発部隊の地位もその一つだ。

 

 当時の霧の船たちは兵装開発や性能向上にあまり興味を示さず(なにしろ仮想敵の人類が性能的にはあまりに弱かった)、構成員は私しかいない。

 なので自動的に私がトップ、ということになるのだ!

 

「兵装開発部隊、ということはもしや『タカオ型搭載重力子機関改良プラン』もあなたが…」

「そうですよ。再建造してから、調子いいでしょう?」

 

 そう、名前だけではなく、兼任の片手間とはいえ兵装開発部隊はちゃんと仕事しているのである。

 

 最も得意とするエンジンの改良に始まり、砲の出力向上、クラインフィールドの省力化、自分では持っていないが超重砲の改良など、様々なプランを提出している。

 

 まあハシラジマに登録された各艦艇の船体データに基づく改良であるので、適用されるのは基本的に再建造時になるだろう。

 これから増えていく撃沈倶楽部の面々は、各々の事情で概ね人類の味方側に立つことになるし、再建造後に重要な戦いに参加する場面もなかったはずなので、原作への影響もそう考えなくてもいいはずだ。

 

「くっ、確かに試験航行の際は非常に快調でしたが…」

 

 渦巻眼鏡を直しながらチョウカイは悔しそうに言った。これでわかってくれたことだろう。

 

「あれ、アマツカゼ、何かトラブル?」

 

 話し声が聞こえたのか、マツリが船室からやってきた。

 

「ああ、マツリ。こちらハシラジマの管理人をされてるチョウカイさんだよ」

「わわっ、ええと、初めまして。見習いですが、アマツカゼの艦長をさせていただいております如月マツリと申します」

「いえ私の方こそどうぞよろしく…って!

 何を考えているのですアマツカゼ!ハシラジマに人間を連れ込むなど!」

 

 チョウカイは再び叫ぶ。だがこちらには印籠があるのだ。この紋所をくらえ!

 というわけで、もう一つの情報コードを渡した。

 

「こ、これは…総旗艦直々の辞令書!?人間を乗艦させる試験!?」

 

 そう言うとチョウカイは沈黙する。そしてギギギとこちらを向いた。

 

「いいでしょう…今回は負けを認めましょう。しかし次はこうはいかないことを覚えておきなさい!」

 

 そう捨て台詞を残すとバッと艦上から去っていった。…いったい何の勝負だったのだろうか。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 ハシラジマに仕込んだものは、他にもある。

 取り残された人間たちの生存に役立ちそうな施設をいくつか、中央エリアの近くに作っておいた。

 原作では、600名が270名まで減ってしまっていた。

 

 彼らがそれを見つけられるのか。見つけても、使う気になったかはわからない。

 それでも、少しでも助けになっている事を祈っていた。

 

 




他にも中印主導のインド洋軌道エレベータ、欧米主導の大西洋軌道エレベータがあったが、海上封鎖が先に完成してしまい未成に終わっている、という妄想設定。
ハシラジマの名称についてはノベライズ版と若干設定が異なりますが、コミック版の描写との整合性を優先しています(独自設定はモリモリですが)。

投稿ペースは試行錯誤中ですが、しばらく週末更新みたいな感じでどうだろうかと考えています。



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A.D.205X マッドサイエンティスト・アマツカゼ

すみません、多く誤字報告いただいていたのにやっと気付きまして、意図的なもの以外は適用しました。今後とも誤字ありましたらご報告いただければ大変助かります。



 

「ちょっと相談しにくい相談なんだけど、いい?」

 

 ある日、改まってそんな風に話しかけられた。いったい何だろうか。

 

「生理のことなの」

 

 なるほど、それは確かに相談しにくい。

 

「メンタルモデルなのに生理用品とか用意してくれていたし、そういうのも詳しいのかなって。実はアマツカゼに乗るようになってから、生理がすごく軽いんだよね。なんでかって、分かったりする?」

 

 まあマツリも年頃の女の子だ。そういう悩みもあるだろう。

 栄養状態が改善したのと、規則正しい生活を送るようになったのが影響してるんじゃない? と返しておいた。

 

「うーん、前とそこまで変わったかなあ。まあでも体調がいいのは確かだし…」

 

 完全には納得いっていないようだったが、ひとまずマツリはそれで引き下がった。

 

 もちろん説明は嘘である。

 

 実はマツリの体内にナノマテリアルを忍び込ませて、体調のコントロールを行っているのだ。

 

 ホルモンバランスの調整や、セロトニン等の分泌物を制御して、慣れない環境や揺れによるストレスを緩和。

 侵入した細菌やウイルスは破壊しつつも、免疫が機能するよう抗体は作られるようにする。

 細胞に刺激を与えて、長年トレーニングを積んだかのような、しなやかな筋肉を作り上げる。ただし筋量は増えすぎないように。

 体脂肪も適切な水準をキープ。

 

 やろうと思えば体格の操作なども可能だが、不可逆的な変化は与えないよう慎重にコントロールしていた。

 なのでマツリの子供体形は100%天然ものである。

 

 

 後日。

 

「アマツカゼ、私の身体に何かしてるでしょ」

 

 バレた。

 マツリの勘がめっちゃ鋭いのを甘く見ていた。

 

 正座して謝りながら、海上での体調管理の重要性、トレーニングなしで体づくりができるなどのメリットを滔々と述べた。

 それはもう必死であった。

 

「はあ、わかったよ。私のためっていうのは間違いないと思うし、霧の船に乗るんだもんね。そのぐらいは覚悟しておくべきことだったかも」

 

 ど、どうにかわかってくれたようだ。

 

「で、なんだけど…」

 

 何だろう。まだ何かあるのだろうか。

 

「…胸って、大きくできたりする?」

 

 やらないってば。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 ある日、マツリが海に落ちた。

 

 デッキで作業中、高波と突風に同時に襲われ、バランスを崩したのだ。

 マツリはそのまま海中に…沈むことは無かった。

 

 ふわりと羽のごとく、ゆっくりと落ちると、そのまま二本の足で海面に降り立った。そして、そのまま海面上に立つ。

 

「……」

 

 すごいジト目でこちらを見上げてくる。

 

「アマツカゼ、また何かしたでしょ」

 

 そんな目で見るのはやめてくれ。

 

 

 マツリの着ている衣服は、私がナノマテリアルで生成したものだ。さすがに下着は陸上で購入したものだが…。

 ファッション誌のデータなどを大量に読み漁ってデザインも頑張っているが、機能面もすごい。

 まず、緊急時や戦闘時にはそのまま耐Gスーツに早変わりする。着替えの必要もないわけだ。

 汚れは完全に弾くし、水にぬれてもあっという間に乾く。

 

 それだけではない。私がある程度近くにいるとき限定ではあるが、簡易的なクラインフィールドを形成し、人類の通常兵器程度であれば完全に防ぐのだ。

 さらに、力場によってパワーアシストを行うことも可能で、常人の数倍の力を発揮することができる。

 

 いわば、メンタルモデルの服だけバージョンのようなものだ。

 なので今のマツリはトラックに轢かれても無傷だし、なんならそのトラックをそのまま持ち上げることもできる。異世界転生はしない。

 

 

「うーん、まあ、今回は便利なだけだし、いいのか…助かったのは事実だし。そこはありがとうね」

 

 今回はすんなりと納得してくれたようだ。よかった。

 仕組み上、私に位置情報が筒抜けになることとか、音声も同様だとか、そういったことは自明なことなので、わざわざ説明する必要もないだろう。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 私は料理には自信がある。

 といってもメンタルモデルで調理をするわけではない。

 

 過去の様々な食品工場の研究データや設備設計データ、そういったものを大量に収集して分析し作り上げた万能調理器が艦内に備え付けられているのだ。

 実際、私の用意する食事はマツリにも好評である。

 

 海上では食材は貴重なのだが、できれば一緒に食事をしたいというマツリの要望に応えるため、私の分は料理をナノマテリアルで再現し、それを食べてナノマテリアルに戻すという画期的な手法をとっている。

 断面が時々銀色に見えるとかは気にしてはいけない。

 あれ? そういえば私たちが普通の食事をとった時って、その後どうなっているんだ…?

 …考え始めたら怖くなってきたので、これ以上考えるのはよそう。

 

「また何か変なこと考えてない?」

「そこまででもない」

 

 食事中のマツリに失礼なことを言われる。変なことなど考えたこともないというのに。

 

「そういえばアマツカゼの料理って割と高級というか、お肉が豊富だよね」

 

 飼料の入手が困難なため、日本での規模の大きい畜産業は壊滅状態にある。

 文化・技術の保存目的と富裕層向けに細々と続けられている程度で、庶民の口に入るのは植物性タンパク質を原料とした合成肉がほとんどだ。土地のある北管区はマシなようだが、流通が死んでいるので結局は同じことである。

 権力者の身内であっても、そうそう気軽に肉は食べられなかったのだろう。

 

「まあね、秘密の仕入れ先があるんだよ」

 

 へえ、という返事で、その日のその話題は終わった。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 あくる日、マツリは艦内の通路を歩いていた。そしてふと、目にとまるものがある。

 

「あれ、この扉…少し、空いてる…?」

 

 艦内には、扉が常時ロックされ、一度も入ったことのない部屋がいくつかあった。今わずかに開いているのも、そんな扉の一つ。以前、アマツカゼに聞いてみたこともあったが、はぐらかされるばかりであった。

 好奇心に負け、引き寄せられるようにその扉に手をかけてしまう。

 

「おじゃましまーす…」

 

 室内は、薄暗かった。

 わずかな緑色の明かりに照らされて浮かび上がるのは、中に液体を湛えたシリンダー状のガラス水槽。

 そして、その中にあるのは──

 

「何…これ…」

 

 中に浮かぶのは、肉塊だった。

 そして、そんなシリンダーは一つだけではない。無数の水槽がずらりと並び、緑色の光に照らされたその一つ一つに肉塊が浮かんでいるのだ。

 思わず後ずさりするマツリに、横合いから声がかけられた。

 

「見てしまったんだね…」

 

 ばっとそちらを向くと、その暗がりには白衣を着たアマツカゼがいた。

 その白衣は所々に赤黒い汚れが付着し、そして片手には刃物のようなものが握られている。その刃物も、赤みを帯びた液体で濡れている。

 

「ア…アマツカゼ…」

「マツリには見せたくなかったんだけどね…」

 

 そう言いながら、アマツカゼはゆっくりと近づいてくる。

 いつの間にか扉も閉ざされて、逃げ場もない。

 

「ようこそ。ここは私の研究室、そして──」

 

 アマツカゼは言う。

 

 

「培養肉工場だよ」

「培養肉」

 

 思わずオウム返しにすると、普通の照明が灯った。

 

「安全性と味はちゃんとチェックしてるけど、見ちゃうとちょっと食欲なくなるかなって」

「ああ、うん。それはちょっと思ったけど…その格好は?」

「ああ、あっちで魚を捌いていたんだよ」

 

 魚?とアマツカゼの示す方向を見ると、色々な魚が部位ごとに切り分けられていた。

 

「培養肉のタンパク源として魚肉を分解したものをメインで使っているから、この海域の魚の種類ごとや部位ごとの成分分析をしていたんだよね」

 

 ああ、うん、と生返事を返すことしかできない。

 

「ええと、緑色の照明だったのは…」

「緑色? 光合成細菌が混入して繁殖しないようにだね。クロロフィルは緑色光への感度が低いから」

 

 あとそれから、とアマツカゼは続ける。

 

「時々、紫外線滅菌してるから、危ないから入っちゃだめだよ。今回は私の不注意だったけど、気をつけてね」

「はい、わかりました…」

 

 わたしはそう返すことしかできなかった。

 なんで今回はいちいちもっともなんだ!

 




解体された魚も、後日美味しくいただかれました。



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A.D.2056 空飛ぶ運び屋 香港編

 

 わたし、如月マツリは昔から海の向こうに憧れていました。

 そして、偶然出会った友人にして霧の船、アマツカゼに衝動的に頼み込んで、海に出たのです。

 

 でも、わたしには、あまりにも覚悟が足りていなかったのかもしれません。

 

 お父さん、お母さん、お元気ですか?

 わたしは今、香港マフィアの本拠地の豪華な応接室で、銃を持ったマフィアたちに囲まれています。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

「で、あんたらが連絡してきた運び屋ってことでいいのかい?どうやってあの連絡先を知ったか知らねえが、女二人だけで乗り込んでくるとは、いい度胸してるじゃねえか」

 

 向かいのソファに座るのは二人。

 一人は、ものすごい厳めしい顔をした老齢の男性。

 口火を切ったもう一人は、その側近らしきツンツン頭のサングラスの男。

 横にはずらっと、サブマシンガンを構えた黒服の構成員たちが立って並んでいた。

 

「商売の営業しに来ただけのことに、大げさだな」

「海の向こうに荷を届ける。そんな謳い文句の詐欺師はそこいらに溢れてるんでな」

 

 それじゃあひとつ証拠を見せようか、とアマツカゼは言う。なんでそんなにノリノリなの?

 

「私は霧の船だ」

 

 何だと?、と男の表情が変わる。

 

「試しに構えた銃で一発撃ってみれば、わかるさ。反撃はしないから安心してくれ」

 

 言うが早いか、パン、と乾いた音が響く。

 だけど銃弾はどこにも届かず、六角形の青い光に止められていた。

 

 アマツカゼはそれをひょい、と拾い上げると指でピンと弾く。

 ぱし、とそれを受けっとってサングラスの男は言う。

 

「なるほど、本物らしいな。あの『戦艦殺し』が連れ歩いていた奴と同じだ」

「あなた方は、彼らのお得意様だったのだろう?もっとも、最後の仕事(ビズ)では、敵同士だったようだがね」

 

 詳しいじゃねえか、と男は感心した様子で返す。

 アマツカゼは軽く鼻で笑う。

 

「今、蒼き鋼はでかいヤマに掛かりきりで他の仕事を受けられない。だから別の運び屋をお探しじゃないかと思ってね」

「日本の海軍が霧の大戦艦を沈めたってのはこっちでも大騒ぎになってたぜ。…要はあんたらは、あいつらの後釜に座りたいと?」

「いわば商売(がたき)ってやつになるな」

 

 なるほどな、と男は言った。

 

「そういえば、そっちのもう一人のお嬢さんも紹介してもらえるかい?」

「彼女はうちのボスさ」

 

 ここでこっちに振るんだ!?

 

初次见面(はじめまして)、わたしは如月マツリ。()()の艦長をしている者だよ」

 

 今更だけど、私たち二人は落ち着いた黒いドレス姿である。

 チョーカーとイヤーカフスが翻訳機になっていて、自動通訳してくれる。アマツカゼは普通に現地語をペラペラしゃべっている。

 

 正直、冷や汗や震えが止まらなくてもおかしくない状況だけど、アマツカゼによる体調コントロールで完璧に抑制されていた。やっぱ怖いよこれ。

 彼女の雑な演技指導の結果、なんとなく意味深な微笑みをずっと浮かべている。大丈夫?引きつってない?

 

「ほお、若く見えるが、たいしたタマみてえだな」

 

 大丈夫っぽい。と、その時。

 

「…わしは、『老龍(ラオロン)』と呼ばれている者だ」

 

 ずっと黙っていたボスっぽい人が初めて口を開いた。

 サングラスの男がはっと横を向く。

 

「老龍」

「…よい。お前さん達、気に入ったぞ。運びの仕事は任せてやる。詳しい条件はこいつに聞け」

 

 重々しく、老龍と呼ばれた男性はそう言った。

 

「…だそうだ。お眼鏡にかなったようだぞ、喜びな。

 早速だが頼みたい仕事がある。報酬はどうする?」

「蒼き鋼の8割でいいさ」

「案外、欲がないんだな」

「頭数も少ないし、後発なんでね。安い、早いで勝負しているんだよ」

 

 そう言ってアマツカゼは肩をすくめた。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 しばらく後、船に戻って、ほっと一息をつく。

 

「なんで運び屋の仕事の一発目が、香港マフィアなの!?」

「だって401の顧客を調べたらあそこが最大手だったし…まあ上手くいってよかったじゃない」

 

 アマツカゼはすごく軽く言う。まあ霧の船である彼女にとって、全然物理的な脅威ではなかったかもしれないけどさ。

 

「それにしても、すごい堂々としてたね…ああいうの、慣れてるの?」

「ドラマで勉強したからね」

「ドラマなの!?」

 

 思わず叫んだわたしを、誰も責められないはずだ。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 二人が去った応接室で、老龍と呼ばれた男は重々しくつぶやく。

 

「あの二人、めちゃ可愛じゃないか?二人とも孫に欲しいぐらいだな。報酬は倍ぐらい色を付けてやれ」

「老龍…こうなるような気はしていましたが」

 

 老龍が女児に激甘であることは、限られた者しか知らない…

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 それから、さらにしばし後。

 

「まさかヨーロッパにも霧の船を乗り回しているヤツが居たとはな。いや、千早翔像とかいう親玉がいたか?」

「…生活物資の補給に協力してもらい感謝する」

 

 サングラスの男に話しかけられるのは、U-2501の艦長、ゾルダン・スターク。

 蒼き鋼と対立する彼らは、蒼き鋼に協力する重巡タカオの撃沈には成功したものの、401の介入によって補給艦ミルヒクーを失い、物資補給のためにここ香港を訪れていた。

 

「老龍は、あんたも気に入った御様子だ」

「好意にも感謝している」

 

 そこでゾルダンに通信が入る。彼らの親玉──千早翔像から新たな指令が届けられたのだ。

 内容は、大戦艦コンゴウが用いようとしている『旗艦装備』のデータ収集。

 

「…2501出航だ」

<< 了解 >>

 

「出航しなければいけなくなった」

「あんたら『霧使い』は、いつも突然現れて、突然出て行くな」

 

 海を見るサングラスの男は背を向けながら言う。

 

「401も、あの空飛ぶ嬢ちゃんたちもそうだったよ」

「そうか──いや、空飛ぶ嬢ちゃんとはなんだ?」

 

 ゾルダンは思わず振り返った。

 




軽率に巻き込まれるゾルダン



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A.D.205X 女教師アマツカゼ

 

 海上を行く影がある。

 それは、輪形陣を組んだ、多数の深海棲艦の艦隊であった。

 青白い肌で人間離れをした、しかし女性のように見える人型と、それと融合したグロテスクな艤装獣。だがその艤装獣はよく知られているものよりも遥かに巨大で、実際の艦艇のごとき大きさのものもあった。

 

 それらはふと、何かに気付いたように周囲の警戒を始める。しばらくして、何体かがはっと上を見上げた。しかしそれは、あまりにも遅すぎた。

 

 空から超音速で降下してきた一隻の駆逐艦が、一体の戦艦ル級を割り砕いた。

 

「戦艦1、撃破! 衝突でクラインフィールド20%損耗」

 

 勢いのまま海没するが、速度を保ちつつ急転換して浮上していく。

 

「潜水艦4、探知。各4ずつ侵蝕魚雷発射! 同時に方位2-8-0の重巡に主砲牽制射!」

 

 浮上と同時に発射される二連装の荷電粒子ビームが、重巡棲姫のクラインフィールドにぶつかり激しい光を放つ。水面下では浸食魚雷の爆発が連続し、潜水カ級の残骸が飛び散った。

 敵襲を認識した艦隊が迎撃行動に移り始め、多数の侵蝕魚雷およびミサイルが放たれる。

 

「最大戦速! 重力子ジャマー展開! 魚雷を振り切りつつ敵駆逐艦に誘導、6秒後に迎撃弾発射および副砲にて迎撃!」

 

 旋回しつつ高速で動き回る駆逐艦に追従できず、誘導された魚雷が同士討ちを発生させる。

 各艦から荷電粒子砲やレーザー砲が放たれ、一発が艦尾を掠めた。

 

「駆逐艦2撃沈! 艦尾ビーム被弾、クラインフィールド損耗率42%に上昇!」

 

 それでもその駆逐艦が足を止めることは無い。不規則な航跡を残しつつ、艦隊に食らいついて離さない。

 

「軽巡に向け主砲及び魚雷斉射! 再装填後、進路0-8-5」

 

 3体の軽巡ト級のうち1体を撃沈、2体は中破にとどまる。だがこれは目くらましだ。

 重巡棲姫は旗艦が影になって有効な攻撃を放つことが出来ない。

 

「目標敵旗艦、吶喊(とっかん)! クラインフィールド前方集中展開! 全火器発射(フルファイア)!」

 

 さらに速度を上げた駆逐艦が戦艦棲姫の側方に突っ込む。激しい衝突音と干渉光とともに、クラインフィールドが突き破られ、巨大な艤装獣に船首が食い込んだ。

 

「侵蝕弾頭4、投下! 全力退避!」

 

 スラスターの逆噴射によって駆逐艦は後退、直後に侵蝕弾頭が起爆する。

 ドギキキキキキ

 轟音とともに戦艦棲姫の艤装獣が崩壊し、沈降を始めた。

 

「クラインフィールド損耗率78%…、敵旗艦、撃破…!」

 

 汗をぬぐい、ふうと息をつく。旗艦を撃破したことで、敵艦隊は動きを止めていた。

 だが、油断した瞬間、けたたましくアラームが鳴り響く。

 

「重力子反応!? どこから…増援が、潜航していた!?」

 

 遠方の海面から新たな戦艦棲姫が現れる。その艤装獣の口内に灯るのは、超重砲の光。

 強力なロックビームに囚われ、割れる海に引きずり込まれていく。

 

「機関全開! ロックビームから脱出を…間に、合わない!」

 

 閃光。

 次の瞬間、アマツカゼの船体は発射された超重力砲の光に飲み込まれた…

 

 

 

 

 

<< SIMULATION OUT >>

 

 

「あー、やられたー」

 

 VRゴーグルを外しながらマツリは嘆息した。シミュレータの画面は被撃沈を示したところで停止している。

 

「勝ちを確信しても、ソナー情報から目を離したら駄目だったね。戦闘詳報をレポートにして三日以内に提出のこと」

「うえー。あと、そういえばこのシミュレータ、敵の見た目がちょっと趣味悪くない?」

 

 私がこんな見た目なので、仮想敵の外観も深海棲艦にしてみたのだが、どうやら不評のようだ。グロすぎだったろうか?

 

「グロテスクなのもあるけど、部分的に人間っぽい見た目なのがちょっと…」

「ああ、そっち? でも…」

 

 何の意味もなく深海棲艦の見た目にしたわけではない。

 

「今は霧の船にもメンタルモデルが乗っているよ」

 

 う、とマツリは言葉に詰まったようだった。

 まず戦うことはないとは思うけれど、人類の艦艇にだって、人が乗っている。

 

「いざというとき、それが理由でためらったりしたら、こっちの命が危ないからね」

「そう、だね…」

 

 そんな機会がなければよいとは思うが、でもそれは備えない理由にはならない。

 私だって、自分とマツリの命の方が大事だった。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 今の私はタイトスーツに厚縁メガネ、手に教鞭を持ったコテコテの女教師スタイルだ。

 デジタルホワイトボードの前に立って、びしりと教鞭を構える。

 

「さあ、次は座学の時間ですよ! それとも学校の方の授業に出る?」

 

 最終学歴が中等部中退ではあんまりなので、中等部はオンラインで出席を続けている。

 公共交通機関の寸断で通学困難な子供も多いため、オンライン授業関係はわりと整っていた。もっとも、ネットワークが生きている地方に限られるが…。もともとは普通に通学していたが、そのへんは権力でごまかしたようだ。

 余談だが、私の艦上はネット回線は普通につながる。なんなら爆速である。

 

 ただ、実は出席の半分以上は私が合成したダミー映像で代理出席している。

 運び屋などの仕事で時間が合わないこともあるし、艦長としてやっていくためには今更中等部の内容をのんびりやっている暇はない。

 なので、中等部の残りの内容は三倍ぐらいに圧縮して、残りは総合学院の教材(ハッキングで入手)を使って先取り授業をしたり、先ほどのようにシミュレータで模擬戦闘をやったりしている。

 

「うう、しんどい…。実は普通に総合学院目指した方が楽だったりした…?」

「そりゃそうでしょ。無学で艦長が務まりますか! 最終目標は、目指せ千早群像超えだからね!」

「ええ、千早さんて学院の総合2位だったっていう話でしょ…? 目標が高すぎるよう」

「つべこべ言わない! さあ授業開始です!」

 

 この格好だと何となくテンションが上がってしまう。あまり自覚はなかったが、私は形から入るタイプなのかもしれない。

 

 マツリは勉強は嫌いだが地頭は悪くないタイプで、まじめに勉強を続けてさえいれば総合学院の合格も叶っただろう。前提条件の部分がいささか怪しいけれど…。

 だが私に乗ったからには、勉強をサボることなどお許ししない。

 ナノマテリアルによる体調コントロールで、授業中は常に頭スッキリである。眠気のネの字もやってこない。

 

「うへええ」

「そこ、情けない声を出さない!」

 

 さあ、授業は始まったばかりだ。

 




次回、保護者面談



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A.D.205X 保護者面談

 

 イ401が使っていた、佐世保の35番錨地。

 蒼き鋼が去った今、そこは再び静けさを取り戻しているかといえば、実はそうでもない。

 なぜなら、空いたそこを、私たちが使っているからである。

 

 人を乗せる以上、人間用の物資はどうしても必要となる。であれば、人間側の母港があるに越したことはない。

 佐世保は401のおかげで周辺の人々が霧の艦艇やメンタルモデルに慣れており、広い意味ではマツリの地元でもあるので、いろんな面で都合がよかった。

 

 そんな佐世保の港にある、カフェレストラン『トライデント』、その店内に私はいた。

 マツリの父親と二人きりで。

 

 父親。そう、父親である。

 母親とは海に出る前に顔を合わせているが、父親とはこれが初対面になる。

 たまたま帰航の予定とスケジュールが合い、近くに来るというので久しぶりに家族と会おうというところまでは良かった。

 ところが母親は、本人がいたら話しにくいこともあるんじゃない? とか言って、マツリと二人で出かけてしまった。結果、私と父親の二人が残されたのである。

 

 なんだこれ、地獄か?

 

 とにかく気まずい空気の中、沈黙に耐え切れず、何かしゃべらねばと気ばかり焦ってしまう。

 ええい、とりあえず自己紹介からだ!

 

「えー、改めて、初めまして。(わたくし)、マツリさんを乗せさせていただいております、こういう者になります」

 

 総旗艦艦隊(フラッグフリート) 特別遊撃隊      

 駆逐艦

     アマツカゼ

 

 端末コード:XXXXXX-XXXXXXX   

 

 そう言いながら私は名刺を差し出した。地味にナノマテリアル製である。

 いや会社員か!

 

 ダメだ、思わずセルフ突っ込みしてしまうぐらい何を話せばいいかわからん。こちとら百年物のぼっちだったんやぞ。

 

「あ、これはご丁寧にどうも。わたくしこういう者です」

 

 そう言って名刺を返されてしまった。いよいよ企業の打ち合わせか何かだよこれ。

 

 如月重工 開発部 特異技術開発室 

 チーフエンジニア

     如月 洋平

 

 端末コード:XXXXXX-XXXXXXX   

 

 ペコペコしながら名刺を受け取る。内容に目を通せば…

 

「ん、如月重工でこのお名前…もしや経営一族の?」

 

 如月重工といえば大海戦以降、国策で三社だけ残された総合工業企業の一社。母方の祖母も大物だったが、父方もかなり大物だったりするのか?

 

「いえ、私などは末席も末席でして…家も出ていますし、経営権もありません。現場のいち技術者として働いています。まあそもそも如月(キサラギ)自体、三社のうちでは一番弱小ですしね」

 

 そう謙遜するが、今の日本の状況を思えば、なかなかの立場だ。

 感心していると、彼は周囲を窺うようにして、声を小さくして訊ねてきた。

 

「ところで妻から聞いたのですが…あなたが例の、救命艇の主というのは間違いないのでしょうか…?」

 

 おっと、思わぬ話題だ。そうですよ、と私は肯定する。

 

「では、あれに搭載されている…重力子機関も、あなたが?」

 

 ええ、とそれも肯定する。

 すると、彼は立ち上がって、両手でがしっとこちらの手を握ってきた。

 

「す、素晴らしい! まさかあのジェネレーターの作成者の方と直接お会いできるとは…!」

 

 予想外の話の流れだが、この人物、もしや…いけるクチなのか?

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 実は、あれの調査とメンテンナンスを任されているのはうちの部署なんですよ。

 もっとも、メンテンナンスといってもできることはほとんどないので、せいぜい清掃とか、状態の定期的なモニタリングが関の山ですけれどね。

 

 若いころ、四月一日重工と合同で401の解析チームに加わっていたこともあるんです。401の機関もその時、目にしています。結局、原理などはほとんど解析できずじまいでしたが…

 ただ、技術者としての勘といいますか、救命艇のジェネレーターのほうが、小規模ながら一段と洗練されている、という印象を受けたんです。

 401には四月一日の跡取り娘が乗っているといいますから、今はどうなっているかわかりませんが。

 

 それで、手入れをしながら、少しずつ調査を進めてきました。

 401のような艦艇の機関丸ごとになると、補器類らしきものなども大量にあって、どこが何をしているのかもろくにわかりませんでしたが、救命艇の方は極めてコンパクトに最小限の機構がまとまっているので、17年かけてわずかながら解析できた部分も増えてきました。

 

 といっても、全貌からすればまだ全然なんですけれどね。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

「いつか、人類の技術であのジェネレーターを再現するのが、私の夢なんです。私が生きているうちにできるかどうかも、怪しいですけれど」

 

 彼はそう、壮大な夢を語った。

 そう、それは夢物語と言っていい。私とて、ナノマテリアルなしで重力子機関を製造することはついぞできなかった。

 

 だが、それでも私は、彼の夢に共感を覚えた。

 自身の機関というお手本と、コアの高い時間分解能をもってさえ、重力子機関が新規設計できるようになるまで20年はかかった過去の苦労が、そうさせたのだろうか。

 

 だからか、ある提案が思わず口をついて出た。

 

「霧の用いる重力子機関について、その理論の解析結果をまとめたドキュメントがあるのですが…いりますか?」

 

 その問いかけに、彼は顔を強張らせると、拳を固く握りしめた。

 長い沈黙が訪れる。

 

「……正直、たいへん魅力的なお話です。ですが、やめておきましょう。

 何もかも与えられたのでは、我々人類の立つ瀬がない」

 

 それに、と彼は表情を緩める。

 

「そんなものを持っていたら、私の命が危ないでしょう」

 

 そう言って彼はハハハと笑う。

 最後は冗談めかしてはいたが、確かに、彼の言うとおりだ。これは、私の浅慮だった。

 了解と謝罪の両方を込めて、ぺこりと頭を下げる。

 顔を上げると、顎に手を当てて何か考える表情をしていた。何だろう。

 

「でも…やっぱり、ちょっとだけなら…」

 

 意思、弱っ!

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 最終的に、いくつか口頭での質疑応答やアドバイスを行った。

 技術的な話のほかに、マツリの普段の様子なども話していると、本人と母親が戻ってきた。

 

「ただいま。話は弾んだかしら?」

 

 よくも気まずい思いをさせてくれたなとジト目を向けるが、母親はどこ吹く風だ。ダメだ、対人経験値では敵いそうにない。

 

「お父さんに変なこと話してないでしょうね」

「あんなことやこんなことや、マツリの恥ずかしい話いっぱいしちゃったよ」

 

 ちょっと!? とポカポカ叩いてくるが、クラインフィールドに弾かれて私には届かない。

 

 その日は、それで解散となった。

 別れ際に、父親に声をかけられる。

 

「今日は、ありがとうございました。あなたに会えてよかった」

「いえ、こちらこそ。貴方の夢を、陰ながら応援しています」

 

 船に戻る道、なんだか機嫌がいいね、とマツリに言われた。

 そうかもね、と私は返した。

 




原作では総合工業企業は二社まで減っています(10巻の四月一日いおりの素行調査票より)。
如月重工は四月一日重工への合併が検討されましたが、電力の余裕が差になって本作中では独立を維持した、という設定。

次回、コンゴウ戦へ



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A.D.2056 ユキカゼのお使い(上)

 

「ねえねえ、イ401がコンゴウ艦隊と戦うみたいなんだけど、観戦しに行く?」

「行く!」

 

 私が問いかけると、我が見習い艦長──如月マツリは勢いよく答えた。

 

 マツリは千早群像のファンガールだ。まあ実際、あこがれるのもわからなくはない。経歴見ても、どこの主人公だよって感じだし(主人公だよ!)、顔もいいしね。

 響真瑠璃のごとくガチ恋勢じゃないのだけが救いだ。もしそうなっていたら私が401を沈めていたかもしれない。

 

 もともと、この戦いは監視しようと思っていた。物語にとって非常に重要な一戦だ。

 ただ、直接401に近づくのは危険が大きい。気づかれるのもそうだし、戦闘にも巻き込まれるかもしれない。

 ──となると、ターゲットは、あれか。

 

 さて、そうと決まれば色々な準備をしなければ。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

「『ユキカゼ』!」

 

 主たる、超戦艦ヤマトより呼びかけられる。

 

「我らが演算力の2%をお前に貸し与えます。私と量子リンクし使用しなさい。

 それで『メンタルモデル』を構成させることが出来るはずです」

 

 チ チ チ チ

 

 そう命じられ、メンタルモデルを構築していく。

 コマンドの集合体でしかなかった思考が『意思』と呼ばれるものに収束される。

 光学画像が『光景』になり、センサーデータでしかなかった気温、風向、風速が肌で感じる『風』になる。

 

 これがメンタルモデルなのか。

 

「現在、東洋方面第一巡航艦隊旗艦『コンゴウ』はその哨戒圏内で『401』への攻撃作戦を展開中です。しかし、その中『401』艦長千早群像は大戦艦ヒュウガのメンタルモデルと共に同艦より姿を消しました。

 あなたには彼の捜索を命じます」

 

 総旗艦は続ける。

 

「本来ならこれは我が手足となる『400』、『402』に与えるべき任務ですが、彼女たちは共に別任務を遂行中のため動きがとれません。ですので優秀駆逐艦たるあなたに命じます。

 あなたがあなたの判断でこのヤマトのためとなる事を行いなさい。そのために我らが演算力と共に『メンタルモデル』を与えましょう」

 

 総旗艦に頼られることに、大いなる喜びを感じる。

 これもメンタルモデルを得る前は自覚できなかったことだ。

 

「承知いたしました。総旗艦艦隊(フラッグフリート)、第二水雷戦隊所属『ユキカゼ』。総旗艦の命により千早群像の捜索を行います」

 

 恭しく礼をして総旗艦の指令を拝命する。

 

「貴艦の行動はけして他艦には気取られぬよう。ああ、それと──」

 

「捜索中に、現在別行動中の駆逐艦『アマツカゼ』と遭遇する可能性があります。その際は協力を求めてみなさい」

 

 アマツカゼの名にピクリと表情が変わりそうになるが、どうにか隠し通す。

 

「承知いたしました、総旗艦」

 

 そうして私は出航した。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 ユキカゼは僚艦にして姉妹艦たるアマツカゼのことを、嫌うとまではいかないにせよ、あまり好ましく思ってはいなかった。

 

 ユキカゼが優良駆逐艦とするなら、あちらはいわば不良駆逐艦。

 真面目に任務もこなさず勝手なことばかりして、最近では人間を乗せるなどと言い出して総旗艦のお手を煩わせている。

 にもかかわらず、やけにヤマト様に気に入られていて、勝手にふるまうことを許されている。

 

 ユキカゼにはそれが気に入らなかった。

 もう少し長い間メンタルモデルを形成する機会があれば、その感情にも名前を付けられただろうか。

 

 そんなアマツカゼに捜索中に遭遇するとは、どういうことだろうか。ましてや協力を求めるとは。

 

 いけない、自分で考えなければ。

 そのために、総旗艦はメンタルモデルを与えてくださったのだから。

 

 暗い海中を、当てもなく捜索していく。

 どのようにすれば、千早群像を探し当てられるだろうか。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 その頃、オプション艦『マツシマ』の艦内で、千早群像はヒュウガと二人きりで会話をしていた。

 

「──では、一時間後、このポイントでエンジン始動。坊ノ岬沖へ……私があなた達に、撃沈された海域」

「我々にとっても、全てが変わった場所だ」

「変わった?」

 

 変わった、と言ってよいのか。ある意味では、真逆だ。

 

「オレ達は……オレは、何も変わらないことに、失望したんだ」

 

「…あなたとそんな話をするのは初めてね」

「そうだな」

 

 ヒュウガは頬杖をついて訊ねる。

 

「てっきり私を沈めたあなた達は、有頂天になっていると思っていたわ」

「なっていたよ。オレ達は信じていたんだ。霧の船を撃沈すれば…して見せれば世界は変わる、と」

 

 駆逐艦から始まり、軽巡、重巡、潜水艦、そして最後には、大戦艦…

 

「それでも、何も変わらなかった。世界に、風穴は開かなかった」

 

 少し考え込みながら、ヒュウガは指を立てて聞く。

 

「そんな話、どこかで聞いたような気がするわね」

「……ああ、謎の海底施設の、『管理人』か。あれはいったい、何だったんだろうな」

 

 話すべきか少し迷った様子の後、ヒュウガは言う。

 

「…実はあの時、私は拘束具をすりぬけて、情報アクセスできていたのよ」

 

 私がその気になれば姉様の船体の一部を乗っ取ってあなたたちを攻撃もできたわ、危なかったわね、とヒュウガは言った。

 

「で、あの時、『管理人』の防壁もすり抜けて、気づかれないよう情報を抜いていたの」

 

 わざわざ教えるほどの信頼関係はまだなかったから、黙っていたけど…とヒュウガは続ける。

 

「情報は断片的で、ほとんどは意味の分からないものだったけれど、彼女の正体はわかっているわ。

 駆逐艦『アマツカゼ』──大海戦で人間を救助していた、変わり者の駆逐艦よ」

 

 そして、断片的な情報からわかることもある、とヒュウガは言う。

 

「彼女はどうしてか、アドミラリティ・コードが今も存在し、未来に姿を現すことを確信していた」

「『アマツカゼ』……救助……アドミラリティ・コード」

 

 思わぬ情報に、群像は混乱しているようだった。

 

 その後、霧のコアの再起動の話、第四施設の話となり、いったん会話は終わった。

 

 

 だが、ヒュウガがあえて伝えなかったこともある。

 海底施設で読み取った断片的な情報の一つ。

 それは、未来の光景だった。単なるシミュレーション結果なのか、それ以上の何かなのか。

 マツシマの設計中、自分の作ろうとしている船がその光景に映り込んでいたことに気づいて驚愕した。

 

 それは、この『マツシマ』ごと千早群像が沈められる光景だった。

 

「…気を付けてね、艦長」

 

 彼女はそれを伝えなかった。伝えたら、現実になってしまうような気がして。

 

 




ユキカゼ、何気に好きなキャラです。
次話は少々長め。



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A.D.2056 ユキカゼのお使い(中)

 

 最後にイ401が確認された硫黄島周辺の海域で、ユキカゼは手がかりの捜索を行っていた。

 今のところ、あまり成果は上がっていない。

 だがその時、ユキカゼのセンサーに引っかかるものがあった。それは通常弾頭魚雷の炸裂音。しかもおそらく、霧製のもの。

 発射元を探ると、ちょうどそれはユキカゼの近くを通りがかるところだった。

 

「あれは…『ヴァンパイア』」

 

 海底で見つけたのは、同じ霧の駆逐艦。だが、所属は異なる。

 

「『東洋艦隊』の駆逐艦が…なぜ」

 

 それは彼女たちの通常の哨戒ルーチンからは大きく外れた行動だった。駆逐艦が潜航すること自体、隠密行動以外ではまずないことだ。

 これは何かあるなと察したユキカゼは、ヴァンパイアを追跡することにした。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 しばらく後、ヴァンパイアは大きな未知の艦艇と合流し、ドッキングしようとしているようだった。

 

「あれは…人類の潜水艦のようね。ヴァンパイアがどうして…?」

 

 その大きな潜水艦には、もう一隻、知らない艦艇がすでにドッキングしていた。

 センサーをフル稼働させ、それらの内部をスキャンしていく。

 

「! …見つけた、千早群像」

 

 偶然ではあるが、総旗艦に命じられた第一目標は達成できた。

 観察を続けたいが、これ以上近づくと発見される恐れがある。身を隠せそうな海底地形を見つけ、そこに進入していく。

 

 だが、そこにはなんと先客がいた。

 

「やあ、ユキカゼ。ちょっとこっちに詰めようか?」

 

 半信半疑だった。だが。

 

「……! まさか、本当にいるなんて」

 

 そこにいたのは、僚艦にして姉妹艦。

 

「……『アマツカゼ』」

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

「へえ、総旗艦がそんなことをね」

 

 ユキカゼが簡単に事情を説明すると、アマツカゼは軽い感じでそう言った。

 

「あなたはどうやってここへ?」

「ああ、ユキカゼはヴァンパイアを見つけて追ってきた感じ?私はあっちを追ってきたんだよ」

 

 そうアマツカゼが指し示すのは白い人類の潜水艦。

 

「人類の潜水艦にしてはなかなかの静粛性のようだけれど…まさかずっと追跡していたのですか?」

「それこそまさかだよ…そうだね、ちょうどマツリにこれまでの振り返りを解説するところだったから、ユキカゼも一緒にレクチャー受けてみる?」

 

 マツリ?と疑問に思っていると通信があった。

 

<< はじめまして、ユキカゼさん。アマツカゼに乗艦させていただいているマツリといいます >>

 

 そうか、アマツカゼは人間を乗せているのだった。

 姿が見えないが、よく考えれば海中だから人間は船室からは出てこられないのか。当たり前のことでも、実際その場面になるとなかなか気づけないものだ、とユキカゼは自戒する。

 

<< あの、ところで、 他のメンタルモデルの方に出会ったら聞いてみたいことがあったんですけど、よろしいですか? >>

 

 何でしょう?とユキカゼは返す。人間が聞きたいことというのにすぐには思い至らなかった。霧の艦隊に関することだろうか。だがそれならアマツカゼに聞けばよい。

 

<< アマツカゼって、霧の船の中でも、そうとう変わってますよね? >>

「はい」

 

 ユキカゼは勢いよく答えた。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 …じゃあまずはユキカゼ向けに、あの人類の潜水艦『白鯨』をどうやって追跡したか話そうか。

 最近は人類もオープンなネットワークの情報がすべて我々に抜かれていることに気づいて、重要な機密情報はクローズドな環境にしか入れないようになってきている。なので、潜水艦の出航予定なんかは直接的には知ることはできない。

 ただ、物資の流れや人の流れをオープンなネットワークから完全に隠すのは、ほぼ無理なんだよね。私はそのへんをずっとモニタしてて、白鯨の推定出港日を割り出した。

 あとは横須賀沖で待ち伏せして、こっそりと近づいて取り付けたんだよ。

 

 そう、量子ビーコンをね。

 

 霧の船だったらすぐに気づかれるだろうけど、あれは人類の船だからまず気づけない。

 スクランブルはかけてあるし、私以外の霧の船を検知したら発振を止めるようになっているから、401や他の艦艇にも気づかれてはいないはず。

 そんなわけで、私はいつでもあの潜水艦の位置情報を知ることができたというわけ。

 

 

 で、次はなんでこのタイミングで追跡してたかってことになるね。

 これについては、先般行われた『硫黄島戦役』から振り返らないといけない。名前は私が勝手に呼んでいるだけだけど。

 

 この戦いは、実に5つの勢力の思惑が入り乱れた複雑なものだった。

 まず、401とその艦長、千早群像らの一派。

 次に、コンゴウ率いる第一巡航艦隊。

 そして、千早群像の手による振動弾頭輸送に反対する人類の一派。

 さらには、私達も所属する総旗艦艦隊(フラッグフリート)。もっともこれは402の単独といった感じだね。ユキカゼもあまり事情を知らないでしょう?

 最後に、謎の第五勢力。これがなぜ別勢力と判断したかは、後でまた説明するよ。

 

 この戦いにおける私の知り得る大きなイベントを時系列順にピックアップしたのがこれになる。[戦]は共同戦術ネットワークから、[人]は人類のネットワークや通信の傍聴から、[ア]は私自身のセンサーやらビーコンから得た情報になるね。

 

 

艦隊を出奔したタカオ、函館にてイ400、402と遭遇、千早群像を待つと言い残して出航

横須賀港海戦後、401はドックには入らず硫黄島拠点に帰還

第一巡航艦隊が東京-硫黄島間の海上封鎖を解除

横須賀より『白鯨』が出航

陸軍が硫黄島を襲撃、401を奪取

白鯨が硫黄島近海に停泊

ビーコン停止:白鯨と401がドッキングと推定

横須賀沖から重巡クラスの超重砲の重力子反応を検知:波形からタカオと推定

横須賀沖から正体不明の強力な時空間衝撃波発生

硫黄島近海から戦艦クラス以上の強力な超重砲の重力子反応を検知:波形からヒュウガ、現401と推定

陸軍の手により横須賀に401入港、ただしその後、整備や解析の兆候なし

イ402がタカオのコアを回収したと報告

 

 

 意図が最もわかりやすいのは、コンゴウが旗艦を務める第一巡航艦隊だね。海上封鎖に意図的に穴をあけることで、人類内部の政治的対立を利用し、人間の軍を401にぶつけることを試みた。これまでの霧ではありえない、面白い試みだよね。

 

 そして輸送計画反対派はコンゴウの策に乗って、陸軍を硫黄島に送り込み401を奪取しようとした。ただ、結局彼らはダミーをつかまされたと考えられる。何しろ本物の401は、元気に超重砲をぶっ放しているわけだし。

 

 千早群像一派の動きが最も複雑だ。まず、これまでの動きから、401に敗れたヒュウガおよびタカオは、彼らに下っているものと思われる。そして、白鯨を含んだ人類の輸送計画推進派も、この一派に含めて考えていいかな。

 彼らの当初の計画は、コンゴウの作戦に対するカウンターとして、次のようなものだったと考えられる。

 まず、陸軍の襲撃に対しては、ダミーの401を奪取させる。このダミーのコントロールを請け負ったのは、たぶんタカオだね。それで本物の401は、陸軍の動きに紛れて硫黄島近海まで移動させておいた白鯨と、ランデブーする。このことはいずれバレるけど、そうなると逆にどちらが振動弾頭を持っているか人類にも霧にもわからなくなる。

 そしてダミーが輸送されている間、コンゴウは自分の作戦が成功したのか失敗したのか確証が持てず、積極的な動きは取りづらくなる。その隙に白鯨をエスコートしつつ、巡航艦隊の警戒区域を抜け、北米艦隊の警戒区域まで突入する、という作戦だ。

 

 ただこの作戦は、謎の第五勢力の介入によって阻まれることになる。タカオが襲撃されたんだ。

 この勢力の目的ははっきりしないけど、単純にタカオを撃沈したかっただけかもしれない。

 これを別勢力とカウントする根拠だけど、まずタカオを引き入れた千早群像一派ではありえない。また、人類は霧の重巡を撃沈する手段を持っていないのでこれも除外される。

 巡航艦隊は、二つの理由で否定できる。一つは、共同戦術ネットワークに何の情報も上がっていないこと。巡航艦隊が裏切り者を処分したというのなら、堂々とそう戦術ネットワークに報告されるはず。もう一つは、謎の衝撃波の存在。タカオの超重砲の直後だったことから、超重砲に対するカウンター兵器ではないかと推測されるけど、巡航艦隊の誰もそんなものは装備していないはずだ。

 

 402が謎の秘密兵器を使ってタカオを撃沈したという可能性もゼロじゃないけど、諜報艦である彼女がそんな派手で好戦的なことをする理由もないし、ほぼ可能性はないといっていい。

 むしろ彼女は、タカオに協力している節さえある。それは、タカオの撃沈後もダミー401がコントロールを失っていない点だ。内部まで再現した精密なダミーの制御は超重砲と両立は難しいと思われるので、直後に超重砲を撃っている401本体が引き継いだという線もない。そうなると、登場人物でダミーのコントロールを引き継げそうなのは彼女しかいない。

 402の目的は推理の材料が少なすぎるのであまり深堀りはしないけど、彼女の立場から言って、総旗艦の密命で何かしら動いていたのでは、とは思うよね。ちょうど今のユキカゼみたいにさ。

 

 で、話を戻すけど、謎の勢力の介入を受けてタカオの危機を察した千早群像らは、助け船を出すために新型の超重砲を使用した。

 ここがポイントだと思うんだよね。

 

 401が振動弾頭を輸送しているのであれば、ここで超重砲を撃つのはありえないと言っていい。にもかかわらず、彼らは撃った。

 つまり、撃って目立っても構わないという何らかの理由があったんじゃないかと推測されるんだよ。

 

 ──要するに、輸送の本命は実は『白鯨』の方で、401は囮に徹すると考えると、撃ったことに整合性が取れるんじゃないかというわけだね。

 

 さらに想像力を働かせてみると。

 この時点では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んじゃないか、とも思われるんだ。

 

 401が横須賀を出る際は、ハルナとキリシマの襲撃があって、のんびり積み込みを行う時間はなかったようだし、そうなると白鯨が振動弾頭を運び出す本命に見える。

 ただこれ、輸送計画反対派も同じことを考えると思うんだよね。はたして厳重な監視の中、本当に白鯨に振動弾頭を積み込めたのか。

 

 もしかしたら、あからさまなダミーに見えるような、地方に送られた振動弾頭が実は本命で、()()()()()()()()()()()()()()()()()で白鯨まで届けられるんじゃないか。

 たとえばあそこでドッキングしているオプション艦みたいなね。

 そんな風に想像したのさ。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 アマツカゼの長い解説が終わった。

 たいへん不本意ではあるが、非常に参考になった。特に人類のネットワークを使った間接的な情報の取得方法などは応用できる場面も多いだろう。

 推論には多少飛躍があるようにも思えるが、実際こうして千早群像と白鯨の合流を的中させている以上、強くは言えない。

 

 この僚艦は、いったいどうやってこれほどの経験値を積んだのだろうか?

 

「そういえば、401とコンゴウ艦隊はすでに一当たりしてるようだけど、戦況は把握してる?」

「いえ、戦闘音らしきものは探知しましたが詳細までは…戦術ネットワークにも情報は上がっていませんし」

 

 てっきり戦況の情報を求めてそう聞いてきたのかと思ったが、そうではないようだ。私がどこまで把握しているか確かめたかっただけなのだろう。なにせ、向こうから状況を教えてきた。

 

「最初にアシガラが強襲をかけたけど401は逃げおおせて、その後ナチをカバーしたハグロと、コンゴウをカバーしたアシガラが撃沈されてる。コンゴウは旗艦装備の展開中で動けないみたいだね」

「……随分と詳しいですね。我々駆逐艦のセンサーで、この位置からそこまで詳細に戦場の把握はできないはずですが。今度はどんな手を使ったんです?」

 

 艦体規模の問題があるので、単にセンサーを増強しただけでは説明がつかない。潜水艦に取り付けたビーコンのように、また何かインチキな方法を用いているのだろうと予想はついた。

 

「ああ、予想交戦海域の海底に、事前に広く大量のソナーアレイをバラ撒いておいたんだ。アクセスコードいる? 廉価なバッテリー式だからあと一週間ぐらいしかもたないけど」

 

 どうやって交戦海域を予想したのかなど気になることはまだあったが、キリがなさそうなので聞くのはやめておいた。

 我々は万能性が高いがゆえに、自己の能力の範囲内で事態の対処にあたろうとする傾向が強く、別の道具を使うという発想に欠けがちだ。そういう意味でも彼女の発想や思考ルーチンは参考になる。

 とりあえずアクセスコードはもらっておいた。これで戦場の状況がかなり細かく把握できる。

 

「おっと、そんなこと言ってる間に、動きがあるみたいだよ」

 

 ドッキングしていたオプション艦が分離し、千早群像とヒュウガを乗せて出発しようとしているようだった。

 私とアマツカゼは、ひとまず彼らを追跡することにした。

 




アマツカゼ「原作知識で全部知ってたなんて言えねえ」

実は実際にいつどこで振動弾頭を運び出したかについて、原作には全く描写がないのですよね。(見落としているだけだったらすみません)
・Depth017の振動弾頭を持っていない発言
・Depth082の回想で振動弾頭の資料を持っている描写
どちらも正しいとすると、横須賀では目立ちにくい資料だけを先に受け取っていたのかなと。
その後、仮に現物を白鯨が運び出していたのなら、白鯨→401→マツシマ→白鯨という積み替えにまるで意味が見いだせないのです。(401と白鯨以外誰も知らないので、ブラフにもならない。そのまま白鯨に積んでおけばいい)

なので筆者は、マツシマが坊ノ岬沖でヒュウガの残骸を回収していたのは、南管区あたりに振動弾頭の実物を受け取りに行ったついで、という説を提唱しています。

次話は9/30(土) 18:00更新予定


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A.D.2056 ユキカゼのお使い(下)

 

 私、ユキカゼとアマツカゼは、引き続き千早群像の乗るオプション艦を追跡していた。

 途中、ヒュウガが離脱し戦闘海域に向かったのを確認しており、被弾したイ401の支援に向かったものと思われた。

 逆に千早群像はどんどん戦闘海域から離れて行っており、その目的地はわからない。

 

 潮流を利用し乗り換えながら無音で進む移動法など、それだけでも学ぶべきことが多く得られている。

 あちらのセンサー系はそこまで充実しているわけではないようで、幸い気づかれた様子もなく追跡できていた。

 

「そういえば、アマツカゼ。あなたはなぜメンタルモデルを形成できているのですか? どなたかに演算力を借りている様子でもないのに」

 

 今更な疑問ではあったが、私は彼女に聞いてみた。

 

「あー、総旗艦にはお伝えしてあるから、気になるなら聞いてみたら? 必要であれば、教えてくださるでしょう」

 

 いやらしい答え方だ。総旗艦のお名前を出されては、それ以上追及することもできない。

 と、その時、戦場で動きがあった。この距離であれば、自身のセンサーでも探知できる。

 

「ヒュウガとヒエイがぶつかったようですね…ヒエイの艦体は健在なようだけれど、コアの応答がない。メンタルモデルを破壊されたのかしら…」

 

 しばらく考え込んでいると、アマツカゼから声をかけられる。

 

「ユキカゼ、ここで別れようか?」

 

 彼女は唐突に、そう提案してきた。

 

「千早群像の方は私が見ているからさ。データは送るし、総旗艦に転送してもらってもいいよ」

 

 なぜ急にそんなことを言いだしたのか。戸惑っていると、彼女は理由を告げた。

 

「ヒュウガとヒエイのコアを、回収したいんでしょう?」

 

 ……この姉妹艦は、どこまで私のことを見透かしているというのか。

 だが、渡りに船の話ではあった。

 結局、私はその提案を受諾し、ヒュウガとヒエイの推定撃沈地点に向かっていった。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

「総旗艦、少々よろしいでしょうか」

<< どうしました? ユキカゼ >>

 

「いささか勝手をしました。ヒュウガとヒエイのコアをこちらで回収したいのですが、よろしいでしょうか?」

<< なるほど、面白い考えです。よいでしょう、ユキカゼ、あなたの裁量に任せます。その二人のコアを持ち帰ることを新たな任務としましょう >>

 

「ありがとうございます」

<< であればひとつ、アドバイスを >>

 

「アドバイスですか?」

<< コンゴウは今、旗艦装備を用いてイセを建艦し、召喚しようとしています。もしヒュウガがごねるようなら、それを伝えるとよろしいでしょう >>

 

「なるほど、助言感謝いたします」

<< よい報告を期待していますよ、ユキカゼ >>

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 ユキカゼと別れ、メンタルモデルをブリッジに戻す。

 おかえり、と言われ、ただいま、と返す。さて、戦況のモニタリングに集中しようか。

 と、その前にふと思いついたことを聞いてみることにした。

 

「そういえば、さっきの『硫黄島戦役』の話、実はコンゴウには必勝法があったんだけど、気づいてた?」

「必勝法? そんなのがあるの?」

 

 まあ人間のスケール感だと、そうそう思い至らないのも無理はない。

 

「簡単だよ。硫黄島を監視して、401の入島が確認された時点で艦隊で包囲する。そしたら、ありったけの超重砲と侵食弾頭を撃ち込んで、島を物理的に消してしまえばいい」

 

 霧の艦隊には、それができる力がある、と私は告げた。

 マツリは絶句しているようだった。

 

「…そんなことができるなら、なんでやらなかったんだろう?」

「単純に思いつかなかったか…それか、コンゴウの趣味じゃなかったんだろうね」

「趣味じゃないって…そんなのでいいんだ」

「まあメンタルモデルって、そういうとこがあるよ」

 

 コンゴウはああ見えて、こだわりは強い方だ。

 だから旗艦装備なんてものまで持ち出して、千早群像に戦術面で勝負を挑み、そして勝とうとしている。

 

 もっとも、私の言った案はあくまで机上の空論だ。実現性は低い。なぜなら──

 

「実際にやろうとしたら、ヤマトが止めていたと思うけどね」

 

 あるいは、より上位の存在が。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

「あ、動いた! 千早さんのオプション艦が、別のオプション艦2隻と合流開始。コンゴウと随伴艦も呼応して移動開始。方向は、オプション艦の方かな? ん、401も移動開始。方位2-7-0」

 

 しばらく静かだった戦場が、にわかに動き出す。

 

「イセが進路変更して、401の方向へ。401が魚雷発射。目標はナチ…いや、イセかな?」

 

 同時にすぐ近くでも、動きがあった。

 

「これは、オプション艦が…合体していく?」

「後から来た2隻のオプション艦は、たぶん硫黄島戦役で使った超重砲艦だろうね。超重砲を撃つつもりかな」

 

 マツシマと、超重砲艦イツクシマ、ハシダテが結合し超重砲を展開していく。

 

「イセは魚雷迎撃。損傷はない模様。コンゴウは回避軌道を取りつつオプション艦の方に向かってる。これだと超重砲でも狙うのは難しそうな…」

「マツリ、海底のスキャンデータを見てごらん」

「え? これは…メタンハイドレート? そうか、メタンの泡で、浮力を! 千早さんが、囮になって…」

 

 マツリは気づいて感心しているようだ。戦場の激しい変化は止まらない。

 

「撃つよ。多分狙いは、コンゴウじゃない」

「すごい、これが…超重力砲」

 

 ロックフィールド展開とともに、海が割れていく。

 重力子計の数値が跳ね上がる。

 こんな間近で見るのは、私も初めてだ。

 

「目標は…ナチ!? え、401が射線に飛び込んでいく!?」

 

 そして、超重力砲が縮退臨界に達する。

 閃光とともに、あらゆる計器が乱れた。

 

「ナチ、おそらく撃沈…海中感度、極端に低下中」

 

 発射の衝撃で、私の艦体も大きく揺さぶられる。席にしがみつきながらマツリは言った。

 

「401はどこに…あ、コンゴウの後方にいる?」

 

 超重砲の射線の直下を(くぐ)るという曲芸をこなした401が、千早群像に気を取られたコンゴウの背後を取る。

 

「401およびオプション艦、魚雷斉射! あれ? ユキカゼさんまで!? なんで?」

「面白がっているんでしょ…人のことどうこう言う割に、自分も結構いい性格してるよね、あの子」

 

 大量の魚雷を叩き込まれたメタンハイドレートが気化し、コンゴウたちは浮力を失なう。

 まともに回避運動もできなくなるはずだ。

 

「401が、何か射出? かなり大きい…海面上に出た?」

「おそらく、艦載機」

「艦載機? あ、そうか伊401が原型艦なら、そういう装備もあるのか…」

 

 水上はセンサー系が足りず正確には把握できないが、コンゴウと随伴艦が迎撃行動を行っているようだ。

 だが、迎撃行動が続いているということは、逆に撃墜しきれていないという証。

 

「コンゴウに、侵食弾頭着弾!」

 

 泡の中に落下しないための艦体の固定にクラインフィールドの出力を割かれている。

 さらに、甲板上はもともと装甲もクラインフィールドも薄い。

 

「コンゴウ、大破!」

 

 おそらくこれで、決着だ。だが──

 

「あれ、コンゴウの主砲が、まだ生きている? 発射兆候。狙いは…」

 

 沈み際のコンゴウの攻撃が、マツシマに着弾した。

 

「えっ……ね、ねえ! 千早さん撃沈されちゃったよ!?」

「あー、うん…。ひとまず落ち着いて」

 

 気持ちはわかるが、とりあえずマツリを落ち着ける。

 

「千早群像はコンゴウが回収して助けるから大丈夫だよ」

「え、コンゴウが? でも撃沈したのもコンゴウだよね? どういうこと?」

 

 どういうこと、と言われても私にもよくわからん。

 原作でも、ぼかした言い方しかされてなかったし…

 

 と、ユキカゼたちが撤退していくのが見えた。

 あれ、早くない?

 たしかマツシマに近づくコンゴウの艦首やイ201との交戦があったはずだけど…

 

 

 あ、私か!!

 

 私が見ているから、見届け役は私がいれば十分ということで早めに撤退命令が出たのか。映像の転送は今も続けている。

 ユキカゼがヒュウガやヒエイのコアごとうっかり撃沈される可能性もゼロじゃないし…

 思わぬところで原作を変えてしまった。

 

 コンゴウは、表面的には401と千早群像を引き離すことを目的として、千早群像を回収し、治療を行う。真意ははっきりとは描かれていなかった。

 だが千早群像の肉体の損傷が大きく、コンゴウとチョウカイは思い切ってクローンボディを作成し、そこに意識を移すということを試みるのだ。

 

 

 そこでふと、あることに気づく。

 

 治療、といえば。

 

 私はかつての大海戦の折、数千単位の重傷者をポッドを通じて治療した経験値がある。さらに、回収されたポッドが人類に使われることによって、今なおその経験値は積み上がり続けている。

 私はそれを、深く考えずに戦術ネットワークにもアップロードしてしまっていた。(いや、将来人類と同盟組むならあった方がいいかと思って…)

 それは、コンゴウにも使えるはずだ。

 

 で、あれば…

 

 ──回収された千早群像、普通に治ってしまうのでは?

 

 やばい! グンゾウ君が生まれなくなってしまう!

 ど、どどどどうしよう!

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 

……

 

………

 

「──人間というものはね、肉体と精神は不可分なのよ。幼子には幼子の」

 

「若者には若者の。老人には老人の…見合った身体と魂が必要なの」

 

「あなたじゃ霊格と肉体が合致しないから、完全には移行できないわ…」

 

「でもまあ仕方ないわね。そもそも肉体なんて持っていない子達がやったのだから…」

 

「悪気はないのよ」

 

 

「──あら、これは」

 

「バイタル情報が、偽装されているのね」

 

「重巡と大戦艦を騙しおおせたのは、大したものだけれど」

 

「いいところを、見せそびれてしまったわ」

 

「あなたのオリジナルは、もう…治っているの。これを施したものは、あなたを意図的に生み出したかったのかしら」

 

「非道いことをするものね」

 

「ならば、目覚めなさい…蒼き水底に眠る王たらねばならぬ者よ」

 

 治療カプセルの蓋が開き、保護液が流れ出る。

 中から現れたのは、千早群像だった。

 それを見つめるのは、彼の幼いクローンと、宇宙服を着た何者か。

 

 かすれた声で、群像が問う。

 

「君は…誰なんだ?」

 

 

「私は、『アドミラリティ・コード』…」

 

 宇宙服のヘルメットが、ゆっくりと外される。

 中から現れるのは、長い金髪の少女。

 

「『グレーテル・ヘキセ・アンドヴァリ』」

 




区切り的に、今週はこの1話のみになります。また、来週はお休み。

代わりと言っては何ですが、オリジナル短編投稿しましたのでもしよかったらどうぞ。
勇者パーティー全員おれ〜転生ループの終着点は




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継章 Angel on the blue.
A.D.205X 空飛ぶ運び屋 人員輸送編



キリがいいので、章題を新しくしました。



 

 私はブリッジの一角のデスクで、運び屋仕事の依頼メールを対応していた。(別に脳内で処理できるので、デスクはただの雰囲気作りだ)

 切羽詰まっていたり、本気で困っている依頼を優先的に受諾候補に入れていく。次に報酬の割がいいものを。

 どうやってコードを知ったのか、いたずら目的のメールもちょくちょく送られてくる。そういう相手には、丁重に、端末がちょっとエッチな壁紙から3日間変えられなくなるウイルスを送り込む。霧の船相手に送信元を誤魔化せると思うなよ。

 

 そんな中、ある一つの依頼メールが私の目にとまった。

 

「マツリ、ちょっと来て」

「どうしたの?」

 

 私はマツリを呼び寄せると、モニタを指差す。

 

「新しい依頼なんだけど…これを見てほしい」

「送信元は…在中オーストラリア大使館!?」

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 中国本土に取り残されたオーストラリア人の帰国困難者のうち、帰国を希望するものを本国まで輸送してほしい。

 依頼は端的に言えばそういうものだった。

 

 その依頼が届いたのを受けて、私たちは二人の緊急会議を開いていた。

 

「これまで私たちは物資の輸送しかやってこなかった。でも今回の件は、それらとはわけが違う」

 

 そう、これまでにない大きな問題があるのだ。

 

「人間を大量に海に連れ出すというのは、アドミラリティ・コードの命令に反すると判断される可能性がある。

 私自身はその(くびき)にはいないけれど…

 特にオーストラリア巡航艦隊。彼女らには総旗艦の影響力も限定的だし、面識もない。どう判断されるかわからない」

 

 つまり。

 

「──最悪の場合、離反者として攻撃を受ける可能性がある」

 

 マツリの表情が、緊張を増す。

 

「そして、人間を乗せるということは、彼らの命を預かるということ。もし失敗すれば、ことは私達だけの問題じゃ済まない」

 

 どうする?と、私は問う。

 私個人としては、受けてもいいと思っている。だが、私はマツリに決めてほしかった。

 ──彼女が、見習いの座から脱しようとするならば。

 

 目を閉じて長いこと考え込んでいたマツリが、目を開き、私を見る。

 

「リスクは──わかった。それでもわたしは、この仕事を受けたい」

 

 私は頷く。

 艦長の意思は決まった。ならば艦たる私はそれを全力で実現するまでだ。

 具体的な作戦の相談を始めようかと思ったが、マツリはすでにそれにも考えがあるらしい。

 

「作戦があるの。聞いてほしい──」

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 後日、中国国内某所。

 

 木々に囲まれた岸辺に、身を隠すように大勢の人間がたむろしていた。

 人種は様々だが、白人系が多いようだった。彼らの表情は、一様に不安が見て取れるものだ。

 まだ周囲は暗く、月明かりだけが周囲を淡く照らし出す。

 

 一部の人が何かに気づき、水面を指さす。

 

 水面が盛り上がり、何かが浮上してくる。

 軍艦としては小さいほうとはいえ、見慣れない彼らにはそれはとても巨大に見えた。

 

信じられない(Unbelievable)

 

 旧い時代の船体形状ながら、各所にあるスリットや開口部、甲板の兵装などは、はるか未来を思わせる。

 霧の駆逐艦、『アマツカゼ』が彼らの前に姿を現した。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 カッターボートを下ろし、岸に近づいていく。

 港はないので直接接岸はできず、ボートで何回かに分けて乗船を行う手はずになっていた。

 

「在中オーストラリア全権大使、ジョージ・ベイカーです。あなた方に会えて光栄だ」

 

 代表者らしき、白髪交じりの金髪のスーツ姿の男性に握手を求められた。名乗りからして、おそらく今回の依頼主だろう。

 駆逐艦『アマツカゼ』のメンタルモデルと、艦長のマツリですと名乗りを返す。

 

「なぜわたし達に依頼しようと?」

「実は、大きな声では言えないが…香港のマフィアからの紹介なのですよ、あなた方は」

 

 なるほど、大使ともなればそういう裏の付き合いも少なからずあるのだろう。とはいえ、なかなか大胆な決断だ。

 

「もし本当に帰ることが出来るなら、死のリスクも厭わない…そうしたメンバーを集めました。143人…全員ここに揃っています」

 

 ここだけの話なのですが、とジョージ大使は続ける。

 

「中国政府は残留外国人の面倒を見切れなくなり、強制同化政策を取りたがっています。もしそうなれば、いよいよもって帰るのは難しくなるでしょう」

 

 だから、このチャンスに賭けることにしたのです、と彼は言葉を結んだ。

 

 ボートによる艦への乗り移りは順調に進んだ。

 最後に大使が残るが、彼は乗る様子がない。

 

「あなたは乗らないのでしょうか?」

「私は…残ります。妻と子はこちらにいますし、こちらに残ることを選択した人もたくさんいます。彼らの面倒を見なければならない」

 

 いつか海が解放されたときに帰れれば、私はそれでいい、と大使は言った。

 

「希望者たちを…彼らをよろしく頼みます」

 

 最後に彼はもう一度、固く、固く握手をした。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 空が明るみ始めたころ、帰国希望者たちの乗船はすべて終わり、艦体は岸を離れていく。

 

「搭乗者全員の着席を確認。シートベルト装着OK」

 

 アナウンスが艦内に響く。

 

「システム・オール・グリーン」

 

 搭乗者たちは固唾を飲んでその時を待つ。

 

「重力子エンジン始動」

 

 機関のごくわずかな振動が、船体に伝わる。

 

「スラスター、オン」

 

 空気と水がかき乱されることによって、船体の振動が大きくなる。

 

「出力上昇」

 

 ()()が激しく吹き散らされる。

 

「アマツカゼ、()()()()()!」

 

 号令と共に、大きな船体が浮かび上がっていく。

 流れ落ちる水の瀑布を残して、それはどこまでも高く昇って行った。

 

 

「Oh... Angel(天使)...」

 

 地上から見上げるジョージは思わずそうこぼした。

 4つのメインスラスターの噴射が、まるで翼のように輝いて見えていた。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 マツリの立てた作戦は、単純だ。

 ()()使()()()()()()()()

 

 無人艇であっても霧は容赦なく撃沈するが、SSTOによる物資輸送は見逃されている。このことから、霧の艦隊は宇宙空間を海の上とは見なしていない。

 ならば、湖から湖へ、宇宙空間を経由して移動すれば、海を一切使わずに大量の人間を運ぶことが出来る。

 

 私達なら、それができる。

 私達にしか、それはできない。

 

 弾道軌道の計算など、細かいところは私で詰めた。

 

 中国政府には秘密なので、前日の明け方にこっそり現地入りしている。

 今の私に、人類のレーダーは通用しない。クラインフィールドでレーダー波を選択的に吸収し、ほぼ完璧な電波ステルスを実現している。さすがに霧のレーダーはちょっと厳しめだけども…

 また、発光も抑えるよう、減速には逆噴射を使わなかった。クラインフィールドを扁平に広く展開して空気抵抗を増大させるとともに、速度エネルギーを吸収する形で減速し、着水した。もし気付かれたら、作戦延期だ。

 あとは潜水して、今日まで隠れて待機していたというわけだ。

 

 そうして今、私たちは宇宙に飛び出した。

 

「Oh... my, god...」

「...Fantastic」

「The earth is blue...」

「Is this a science fiction world ?」

 

 機外表示モニタを見る乗員室のざわめきが止まらない。

 

 だが、ここからが正念場だ。

 霧の艦隊が絶対に見逃すという確証があるわけではないのだ。

 

 私は目を閉じて、制御と探知に集中する。

 マツリがモニタの表示を読み上げていく。

 

「機関停止。慣性飛行に移ります」

 

「南シナ海管轄区域を突破。まもなくオーストラリア巡航艦隊管轄区域に侵入します」

 

「クラインフィールド安定」

 

「レーダー波検知。攻撃の兆候なし…荷電粒子砲、レーザー、ミサイル、いずれも感なし」

 

「慣性飛行を継続」

 

「まもなく…3、2、1」

 

 

「──乗員の皆さん。当艦はオーストラリア上空に到達し(This ship has arrived over Australia.)ました」

 

 爆音のような歓声が、乗員室に響いた。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 オーストラリア本土での最大の人工湖、アーガイル湖。私たちはそこに着水した。オーストラリアの大きな湖は普段は枯れている塩湖が多いが、ダム湖であるここは比較的水量が安定している。

 周囲は演習名目で軍によって封鎖されていた。

 

 着水を確認して軍のボートが近づいてくる。それに合わせてタラップを降ろす。

 甲板に集まった搭乗者たちが順次ボートに乗り移っていく。

 

 軍の中に知り合いがいた者もいたようで、号泣しながら抱き合っている。

 マツリは感極まった搭乗者に抱き着かれたりしているし、本人も涙ぐんでいた。

 

 最後の帰還者たちの下船が終わったのち、一人、タラップを昇ってきた白い制服の男性に握手を求められる。

 

「オーストラリア海軍准将、ウィリアム・メイソンです。ジョージから衛星回線で話を聞いたときは、あいつの頭がおかしくなったのかと思いましたが…本当にやり遂げていただけるとは」

「ジョージ大使とはお知り合いなのですか?」

「やつとは同期でしてね…道は違えたが、心は今でも同士と思っておりますよ」

 

 彼は懐かしそうにそう言った。一つ、気になっていたことを尋ねてみる。

 

「海軍ということは、霧を使うことに反感を持つ方も多かったのでは」

「確かにそうです…ですが、そうでないものもいる」

 

 あなた方には隠しても仕様がないか、と彼は続ける。

 

「信じられないかもしれませんが、私は大海戦の際、霧の船に助けられてしまったのです。ですからあなた方のことも、一度は信じてみようと考えました。この秘密作戦には、同じような者が多数参加していますよ」

 

 そうだったんですね、と私は返す。

 メンタルモデルなので、表情は平静なままだ。

 

 これまでで一番大きな運び屋仕事は、こうして成功裏に終わった。

 




アワーズ読んだり、AC6二次書いたりしておりました。

この連載を始めてからアワーズを読み始めたのですが、原作は1ヶ月に1話しか進まないという当たり前の事実に絶望しています。
この先書きたいシーンに間に合わん…

ついでに、バックナンバーの8月号であの地名が出ていてビビり散らかしました。当時は本当に知らなくて、偶然だったんですよ。



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A.D.2055~ アマツカゼ対策会議


お役所用語とかそう詳しいわけではないので、雰囲気で書いてます。
現実と合わないところがあっても、2050年代のアルペジオ世界ではこうなんだよ[要出典]!ぐらいのノリでお願いします。



 

・特殊対策室 臨時会議会議録(速報版)2055.X.X

 

-本文書は自動文字起こしによる速報版です。参加者名は仮に番号で割り当てられています。参加者名簿及び資料は正式版をご参照ください。

-本文書は機密事項クラスA文書に指定されています。ローカルサーバでのみ閲覧可能です。

 

*2番 本日は遅くに急な開催にもかかわらずお集まりいただきありがとうございます。緊急に共有すべき情報があり、同時に対策についても協議させていただければと。

*5番 事前の共有がなかったのは、そのレベルの話と考えても?

*2番 はい、有線での共有も危険な情報と判断しています。まず、第一次情報源は要人警護の部隊からのものになります。

*4番 要人警護からうちに? あまり例がないですね。

*2番 ええ、状況を説明させていただきます。元々の日程では明日、首相のご息女による首相への面会が予定されており、ご息女とご令孫が本日長崎にいらっしゃっております。その際、ご令孫が街で単独行動をとっていましたところ、この人物に遭遇しました。資料をご覧ください。ドローン撮影になります。

*3番 これは…

*5番 人間、には見えるが、容姿は人間離れしているな。これではまるで。

*2番 ひとまず対象Aと仮称しますが、対象Aは『天津風モドキ』と名乗ったと。

*4番 旧海軍の駆逐艦に、いましたね、天津風。

*2番 はい。南管区で確認された、霧の艦艇のメンタルモデル。その2例目と推定されています。

*3番 イ401に引き続き、か。首相のお孫さんに接触したのは意図的なものか?

*2番 いいえ、確証こそありませんが、声をかけたのはご令孫の方からだったということです。

*5番 では接触後の行動は?

*2番 それが、その…市街を、観光していたと。

*5番 なに?

*2番 少なくとも、そのようにしか見えなかったと報告されています。

*4番 メンタルモデルが、観光、観光ですか…

*3番 イ401の例を考えると、絶対にありえないとも言い切れないのが難しいところだな。

*2番 16時頃にご令孫とは別れ、ご令孫は問題なくご息女とは合流しています。対象Aは海岸側に向かい、そこでロストしたと。状況から考えて、海に飛び込んだとしか考えられないとのことです。

*5番 であれば、ほぼ確定か。

*4番 まあ、いきなり世を儚んで、というわけでもないでしょうし…

*3番 例の弾頭の話でピリピリしている時期に…

*2番 南管区からは今のところ来年の打ち上げ予定になっています。今回の件との関連性は今のところ不明です。ただ、先日の北管区でのSSTO打ち上げが直後に撃墜された例からすると、メンタルモデルの上陸が関連するかというと疑問もあります。

*5番 首相にはもう?

*2番 はい、ご報告済みです。ご息女には面会の際に伝えると。ご令孫には今は伝えない方がよいだろう、とのことでした。我々の対応としては、今は警戒する以上のことはできないだろうとも。

*5番 まあ、その通りだな。海に入られては追跡もできんし。

*2番 各地の監視カメラの画像処理AIには、対象Aを検知した場合にアラートを発するようプログラミング予定です。

*3番 機密ラインだな?

*2番 はい、それはもちろん。

*5番 中央管区にはどうする?

*2番 それも首相より指示がありまして、現段階では通知しない、と。

*5番 まあ中央の過激な連中に、余計な刺激されてはたまらんからな。

*3番 今の段階で他にできることはあるか?

*4番 要人警護の方と専用回線のホットラインを設置しますか? 傍受の可能性は下げるに越したことはないかと。

*3番 そうだな、念のためやっておこう。類似の件がまたないとも限らんしな。頼めるか?

*4番 はい、お任せください。

*5番 あと、画像分析の詳細版が上がったら直接持ってきてくれ。本日不在のメンバーには、改めて対面で展開しておくように。今のところはこんなところか? では引き続き警戒に当たるということで、以上。

 

 

 

・特殊対策室 臨時会議会議録(速報版)2055.X.X

 

本文書は自動文字起こしによる速報版です。参加者名は仮に番号で割り当てられています。参加者名簿及び資料は正式版をご参照ください。

本文書は機密事項クラスA文書に指定されています。ローカルサーバでのみ閲覧可能です。

 

*2番 お集まりいただきありがとうございます。対象Aの案件で続報がありましたので急ぎ共有を。

*5番 また現れたのか?

*2番 はい。今回は、熊本です。しかも、首相のご令孫と、再度接触したと。

*1番 なに。ではやはり狙いはご令孫なのか?

*2番 ところが、今回も声をかけたのはご令孫側からなのです。それが狙いだったとも考えられなくもないですが、違和感はあります。

*3番 今回の行動は?

*2番 それが、今回も熊本市街を観光しただけのように見えると。

*1番 本気か?

*2番 このようなことでふざけはしません。こちらでも映像を確認中ですが、それを否定するような行動は今のところ見つかっていません。

*4番 現地で張っていた者からもヒアリングしましたが、友人連れで楽しそうに遊んでいるようにしか見えなかった、と…

*5番 そうか。

*1番 本気なのか…

*3番 ますますもって目的が分からん。まさか本当に遊びに来たとでもいうのか?

*2番 それともう一つ、情報があります。ご息女からのヒアリングで判明したのですが、ご令孫は端末の連絡コードを交換していた、と。前回時で、映像は死角になっていて判明していなかったようです。

*6番 メンタルモデルが、端末コードを?

*2番 通信企業へ照会した結果、端末コードは確かに存在するものの、該当する加入申し込みなどの履歴は残っていないとのことでした。

*5番 ハッキングで割り込ませたということか?

*2番 おそらく。

*3番 試しに掛けてみるのは…さすがにハイリスクすぎるな。

*4番 うーん、まあ、ちょっと怖いですね。

*5番 首相のご息女は、こちらに協力的なのか?

*2番 はい。彼女は元海軍で、霧の艦隊についてもそれなりの情報を持っています。佐世保でイ401のメンタルモデルにも、直接的ではないにせよ遭遇したこともあるとか。

*5番 こうなると孫本人に知らせるのは、かえってハイリスクか…?

*4番 対象Aがどんな反応を示すかわかりませんね。というか、こちらの監視には気づいているんでしょうか?

*1番 さすがに気付いていないと考える方が無理があるだろう。イ401も、気付いたうえで行動している兆候が見られていた。

*3番 そうだ、今回は首相には?

*2番 はい、報告済みです。基本的には、刺激しないよう監視を続けよと。

*5番 まあ、それしかないが、歯がゆいな。再度の接触もあるかもしれん。監視体制を密にして、十分警戒せよ。新しく分かったことがあったらまた報告してくれ。今回は以上だ。

 

 

 

・特殊対策室 定期ミーティング会議録(速報版)2056.X.X

 

-本文書は自動文字起こしによる速報版です。参加者名は仮に番号で割り当てられています。参加者名簿及び資料は正式版をご参照ください。

-本文書は機密事項クラスA文書に指定されています。ローカルサーバでのみ閲覧可能です。

 

 ~前略~

 

*2番 では、イ401の動向についての報告については以上といたします。続きまして、対象A案件についての報告です。

*3番 こっちもこっちで、頭が痛いな。

*2番 まあ、同感です。前回に引き続き、遊興といえる行動以外は、確認できていません。首相のご令孫と行動を共にすることが多いですが、単独行動を行っている場合もあります。先日、闇市で何かを売却している様子が確認されました。いくつか買収して回収しましたが、水没した市街からサルベージした物品ではないかと予想されています。それらの物品に特異性は確認されませんでした。

*5番 霧が商売でも始めるつもりか? 冗談はさておき、目的はいまだつかめていないか?

*2番 一応、仮説が。人類の社会文化を学習することそれ自体が、目的なのではないか、との推測が出ています。

*1番 ふーむ、ただ、霧のこれまでの行動と結びつかんな。我々を海洋から排除することと、社会文化を学習することがどうつながる?

*4番 あるいは、それらとは全く無関係に、好奇心のようなものを霧のメンタルモデルが身に着け始めている、というのは成り立ちませんかね。

*3番 一応の説明はできるが、ぞっとしない話だな。ただでさえ手も足も出なかった霧の艦隊が、さらに進化しようとしているなど。

*6番 ただ、コミュニケーションが可能となったということは、なにか情報を引き出せる可能性もある、ということかもしれない。あるいは、場合によっては交渉が成り立つ可能性も。実際、どうやってか千早群像はイ401を乗りこなしている。

*5番 そうだな、可能性、は、あるかもしれん。だがそうそうリスクを取れんのも、我々のつらいところだ。なぜ我々を海洋から排除するのかも、そもそも分かっていないのだしな。

 

 ~後略~

 

 

 

・特殊対策室 輸送計画アフターフォロー会議会議録(速報版)2056.X.X

 

-本文書は自動文字起こしによる速報版です。参加者名は仮に番号で割り当てられています。参加者名簿及び資料は正式版をご参照ください。

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*3番 えー、それでは定刻通り会議を開催します。まずは資料2ページから見てもらいたい。打ち上げ結果については皆周知と思われるので、簡単に振り返るのみとする。打ち上げ自体は成功、ただし軌道の中間地点付近で霧の艦隊に撃墜される結果となった。輸送としては失敗だが、メディア向けにいい画は撮れた、といったところか。

*1番 まあ、それはうちの仕事ではない。うちの仕事は、待ち構えていた霧の軽巡を撃沈した、イ401のほう、だろう?

*4番 その件について、首相の意向はどのように?

*5番 表向きは、交戦は民間の団体が勝手にやったことで、我々は一切関与していない、ということだ。まあ本当の表向きは、そもそも公表されない形になるが。

*1番 では裏向きは?

*5番 あの中央の次官補にすべての責任をおっ被せて、あとは知らんぷりさ。

*3番 実際、越権行為も甚だしいからな。そのぐらいは責任は取ってもらわねば。海兵隊まで持ち込んでいたそうじゃないか。とはいえ、中央への公式な抗議は行わない。我々は何も知らないのだからな。

*6番 どうやらかの人物は、次の輸送計画自体を401に依頼する腹積もりと見られる。401が、長期の出航準備を行っていると情報が上がってきている。

*4番 それはまた…随分とギャンブラーですね。

*5番 我々の仕事ではないが、輸送計画全体が行き詰まっているのは事実だからな。賭けに出たくなる気持ちも、わからんでもない。

*2番 別件よろしいでしょうか。リアルタイムで見ていてご存じの方も多いとは思いますが、SSTO発射場付近で対象Aが目撃されています。射場への襲撃等が警戒されましたが、特にアクションを起こさず、そのまま撤退しています。

*1番 打ち上げの、監視や偵察に来ていた、ということだろうか?

*4番 それについては、もう一つの可能性…401の観察を行っていたのではないか、という説のほうが有力に思えます。視線の向きや、撤退のタイミングからしてですね。

*3番 霧の裏切り者を、監視していた、ということか?

*2番 どうなのでしょうね。その割にはこれまで401へのアプローチがほぼないのが気になりますが。ただ、先日の401の大戦艦撃沈もこの近くで行われています。対象Aが戦闘時の401の行動パターンを学んでいる、という線もあり得るかと。

*5番 キナ臭いな。まあどの説も、決め手には欠けているか。

*3番 話を戻そうか、改めてそれぞれの詳細について。資料の5ページから──

 

 ~後略~

 

 

 

・特殊対策室 臨時会議会議録(速報版)2056.X.X

 

-本文書は自動文字起こしによる速報版です。参加者名は仮に番号で割り当てられています。参加者名簿及び資料は正式版をご参照ください。

-本文書は機密事項クラスA文書に指定されています。ローカルサーバでのみ閲覧可能です。

 

*2番 かなり急な開催でしたが、お集まりいただきありがとうございます。対象Aについてです。

*5番 対象Aの件で緊急は久しぶりだな。何か動きがあったのか?

*2番 首相からのホットラインです。ご令孫が、対象Aに乗ることになったと。

*5番 …もう一回言ってくれ。

*2番 首相から直接連絡がありました。ご息女からの情報で、孫が対象Aに乗ることになったようだ、と。

*3番 娘さんにコンタクトがあったということか? なぜ気付かなかった?

*4番 ここに来るまでに急遽映像洗っていましたが、わずかですがダミー映像の痕跡がありました。

*1番 これまで牙を隠していたのか。最初から、狙いは身柄だった、ということなのか?

*5番 首相はこの件にどう対処せよと?

*2番 放置せよと。基本401と同じ対処を取れと、そのように。

*3番 それは…

*1番 我々は、何をどこまで犠牲にすればよいというのだ…

*2番 いえ、それが、どうも本人の強い希望のようなのです。

*5番 なに?

*4番 あ! 前回の、途中から急に音声が入らなくなっていたの、ひょっとしてその話を? 機材の不調とかじゃなかったんだ。

*3番 お孫さんが乗艦を希望し、対象Aがそれを受け入れたということでいいのか?

*2番 おそらくは…

*1番 どうなっているんだ。霧というのは案外、乗せてくれと頼んだらホイホイ乗せてくれるものなのか?

*4番 そんなことはないと思いますが…

*2番 これまで艦体は確認できていませんでしたが、これをご覧ください。近くの監視カメラはすべてダミー映像でしたが、望遠で一枚だけ残っていました。

*5番 確かに駆逐艦天津風に似た形状だ。そして、乗っているな…

*2番 はい、乗っています。

*4番 乗っていますね…

*3番 うーん。

*1番 乗って何をするかが問題だが…とにかく監視体制は大きく見直しだな。

*4番 人が乗る以上、人間用の物資が必要にはなるはずですよね。401のように、どこかの港を母港にする可能性はそれなりにあるのでは?

*3番 そうだな、各地の、まだ設備の稼働している港を重点的な監視対象に入れるか。案外、401と同じように佐世保に来る可能性もある。

*1番 そんな偶然が、いや偶然とも言えないのか。一番都合のいい港は、おそらく佐世保になる。

*4番 401はしばらく戻らなさそうですが、佐世保の監視体制は維持するようにします。

*1番 そうだな。

*5番 具体的なプランは各自早急に頼む。横須賀での大戦艦撃沈以降、世界の動き自体が大きく変わり始めた。我々の仕事内容も、今まで通りではいかなくなってくるだろう。新しい時代に対応するため、我々もできる限りのことしなければな。他になければ、本日は以上とする。

 

 

 

・特殊対策室 定期ミーティング会議録(速報版)2056.X.X

 

-本文書は自動文字起こしによる速報版です。参加者名は仮に番号で割り当てられています。参加者名簿及び資料は正式版をご参照ください。

-本文書は機密事項クラスA文書に指定されています。ローカルサーバでのみ閲覧可能です。

 

 ~前略~

 

*2番 それでは最後に、対象A案件についてとなります。前回とさほど変化ありませんが、横須賀に向かう以前の401と同じように、物資の海上輸送などを請け負っているようです。ただし、401のような他の霧の艦艇との交戦は今のところ確認されていません。

*3番 霧の船に言うのもおかしいが、平和主義者なのだろうかね? まあ、我々の心臓には優しいから、ありがたい話だが。

*4番 401については艦長である千早群像の意思によるところが大きそうなので、その違いもあるのかもしれませんね。

*2番 それと、志願者の私用端末を用いて、断られる前提のあまり意味のない依頼を送ってみる検証作戦の結果なのですが。

*1番 それがあったな。我々としても結構なリスクを飲んだ上での作戦だ。どうなった。

*2番 それが、ええ、その…端末の壁紙を、卑猥なものに変えられる結果となったと。

    (沈黙)

*5番 ……分かった。以降、類似の作戦は禁止とする。

*6番 お見通しの、警告というわけか。想定された中では、まだ穏便な結果だ。

*4番 国内で枯渇しそうな資源の海外での買い付け依頼案件をいくつかリストアップしていますが、どうしますか?

*5番 しばらく間をおいて、国有企業の名義で正式に正面から依頼する。断られればそれまでだが、おそらくデメリットがあるわけではないだろう。上手くいけば、儲けものだ。

*2番 それと、気になる目撃情報が上がってきています。監視カメラや、レーダーには残っていないのですが…

*1番 あの船がレーダーに映らないのは、いつものことだ。どんな内容だ?

*2番 それが、軍艦が、空を飛んでいたと。

*3番 …見間違いではないのか?

*2番 複数の関連性のない人物から同じ目撃情報が得られています。内容の突飛さから言っても、見間違いの類ではなさそうかと。

*1番 …つまり、あの船は、空を飛べると?

*2番 目撃情報を信じるなら、そうなります。

*1番 うーん。

*5番 ううむ。

*3番 大海戦時に、艦載機を飛ばしてきたという記録はあるが、艦艇そのものが飛べるとなると、えらいことだぞ。

*4番 ただ、他の艦艇の監視結果では、これまでそのような兆候さえ見られていません。

*1番 あの船が特殊なだけ、であってほしいな。

*3番 これまでもさんざん常識外のことをしてくれていたからなあ。まったく頭が痛くなる。

*5番 一応、飛べるという前提で今後のモニタリングを進めていこう。他に報告のあるものはいるか? なければ本日は、これで以上とする。

 

 



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A.D.2056 ハシラジマの日々

 

 覚えている最初の光景は、ボクを見つめる二人の女の人。片方は金色の髪で、もう片方は黒い髪。

 それが母上である大戦艦コンゴウと、重巡チョウカイのメンタルモデルだと認識したのは、もう少し後のことになる。

 

 ボクは負傷して眠り続ける千早群像のクローンだ。彼の意識を移すための器として生み出された。ボクの知識はそうやって、千早群像から写されたものだ。

 母上たちからは千早群像に倣って、グンゾウと呼ばれている。

 

 でも、どうやらそれは上手く行っていないらしい。母上たちはよく難しい顔をしている。

 

 持っている知識に照らし合わせると、母上が二人いるというのは少しおかしいような気もする。だけれども、メンタルモデルは時々突拍子もないことをやらかす、というのも知識にあるので、きっとそういうものなのだろう。

 

 はて、ボクが千早群像の器だというのなら、今こうして考えているボクは一体何なのだろうか?

 

 時々、ボクの中に千早群像が入ってきていると感じるときがある。でも、それが自分自身であるというふうには、どうにも思えないのだ。

 

 ボクは、千早群像ではないのではないか?

 

 それが時々ボクを悩ませる悩みだが、答えを得る方法があるわけではない。かすかな悶々とした思いを抱えたまま、日々を過ごしていた。

 

 

「お待たせしました。今日はどら焼きにしてみました。あなたの故郷のおやつですよ?」

「いただきなさい。きっと美味しいだろう」

 

 頷いて、どら焼きにかじりつく。

 甘く、これがたぶん美味しいなのだと思う。

 

 母上たちは難しい話をしている。

 

 コンゴウが聞いたという、『お前の未来を救え』という言葉。

 意味はよくわからないが、その言葉がなんだか気にかかった。

 

 もそもそと、どら焼きを食べながら思う。

 ボクの未来というものは、どういうものなのだろうか。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 母上たちがどちらも付いていないときは、ハシラジマの中を自由に歩き回ってよいと言われていた。

 あまりすることもないので、なんとなく海を見ていると、駆逐艦が一隻入港してくるのが見えた。船の出入りは珍しい。

 

 しばらくすると、女の子の二人組が上がってきた。

 片方は銀色の髪で、メンタルモデルのようだった。けれどもう一方はメンタルモデルではないようで、人間ということだろうか。

 人間と会うのは、初めてだった。

 

 人間の女の子は、なぜかものすごくびっくりした顔でこちらを見ている。

 

「え、え、えええ…? え? ち、千早さんがちっちゃくなっちゃってる? どういうこと?」

 

 そう言ってメンタルモデルの女の子の胸倉をつかんで揺さぶっている。

 

 揺さぶられながらも、なぜかほっとしたような表情をしているのが印象に残った。

 

 二人は結局、何をするでもなくハシラジマを去っていった。いったい、なんだったのだろうか。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 ある日、ボクはハシラジマの中央エリアの近くを歩いていた。

 特にあてがあるわけでもなく、探検とでもいえばよいのだろうか。

 

 非常階段を下りていくと、突然、大柄な太った人と、ばったりと出会った。

 驚いたが、知識の中に、ハシラジマに取り残された人達がいる、というものがあった。彼もその一人、ということだろうか。

 

「君は…こんなところに、どうして子供が?」

 

 どう話せばいいかわからずに黙っていると、手をつながれて、彼は来た道を戻り始める。

 

「とにかく、我々の拠点に案内するよ」

 

 そう言われ、しばらく歩くとロックされた扉の中に入っていく。そこには植物栽培プラントがあった。

 中をさらに歩くと、眼鏡をかけて髭を伸ばした人に出会った。

 

「田中網さん、その子はいったい…?」

「どこから来たのかわからないが、外で偶然出会ってね。君、名前は?」

「名前…グンゾウと呼ばれています」

 

 外というのは? と聞いてみる。

 

「我々はこの中央エリアに閉じこもっているんだよ。霧の船に、見つからないように。

 だが、我々の使っている浄水システムが壊れてしまってね。何とか交換部品を見つけられないかと外を探索していたんだ」

 

 なんだか、とても困っているようだ。ボクでも力になれるかもしれないと、つい提案してみる。

 

「……ボクが、コンゴウに話してみましょうか?」

 

 二人の表情が険しくなる。

 

「コンゴウというのは、もしや霧の艦隊の大戦艦コンゴウのことであっているかい?」

「はい」

 

 真剣な表情のまま、質問は続いた。

 

「君は、霧の船とコンタクトを取れるということかい」

「コンゴウと、チョウカイに、お世話をしてもらっているんです」

 

 二人が顔を見合わせる。

 

「霧の船がメンタルモデルというのを持つようになったというのは聞いていたが…」

「人間の子供を世話していると? どういうことなんだ」

 

 田中網という人は、しばらく考え込む様子を見せる。

 

「……わかった。君に頼むよグンゾウ君。またここに来るときは、このキーカードを使ってくれ」

 

 そう言って、キーカードを渡された。

 

「よろしいので? 田中網さん」

「構わんよ。あんな薄い扉一枚、霧がその気になれば、どうせ無いも同然だ」

 

 霧が何を考えているかは分らんが、外の施設のこともある、賭けてみるのも悪くない、と彼は言った。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 海の見えるテラスで、ボクは勉強をしていた。勉強というよりも、千早群像から写された知識の確認といった方が正確かもしれない。

 向かいの席には、チョウカイが一緒だった。

 

「知識の移行は達しているみたいですね。でも、なぜ意識が全て流れ込んで来ないのかしら」

 

 編み物をしながら、そうつぶやく。少し考え込んでいるようだった。

 

「……少し休憩にしましょう。あなたは私達と違って、疲れもすればお腹も空くのですから」

 

 チョウカイはそう言って立ち上がる。

 だけど、少し様子がおかしい。

 

 あらためて様子をうかがうと、立ち上がって椅子に手をかけたまま固まって、微動だにしていない。

 視線さえも、固定されたままだ。いったいどうしたのだろう。

 

 ふと気配を感じて後ろを振り返る。

 そこにはさっきまでいなかったはずの誰かがいた。

 

「うん、これは……そうだね。お前は私に近い存在なんだね」

 

「だとすれば、貴方も私の業が産み出した申し子と言う事になる。ちょっと観に来ただけだけど…」

 

「私と共に来ると良いよ。ホムンクルスさん」

 

 そう言うのは、宇宙服を着た誰か。

 向かう先は、千早群像の元へ。

 

 




この後、ユキカゼのお使いのラストシーンへ。
さらにその先の会話は、ぜひ原作にて。

最近書いていましたAC6二次も無事完結しましたので、プレイ済みの方はよろしければどうぞ。



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A.D.2056 ゲーミングアマツカゼ

 

 それは、私たちが太平洋の東北沖を航海していた時のことだ。

 ソナーを見ていたマツリが、声をかけてきた。

 

「ん?これ……何か、いるよ。アマツカゼ、アクティブソナー使っていい?」

「え?ホントだ。よく気づいたね。戦術ネットワークにも該当情報なし…正体不明の潜航艦か」

 

 人間の潜水艦では、ない気がする。白鯨クラスでもこの速度ならもうちょっと音が出るし、微細動タイル採用の艦はもう、アメリカに向かった白鯨IIIしか残っていないはずだ。

 となると、霧の艦艇だけど…この時期に、こんなところに何かいたっけ?

 

「うーん、気になるし、使っちゃおうか。やばそうな相手なら全速力で逃げるよ」

「ラジャー、いきまーす」

 

 ドギイィィィィィ

 

 ピンガー起動し、海中に音波が響き渡る。

 反響音を解析していくと…

 

「うわ、何これ、すごい大きいよ。……あ! 浮上してくる!」

「おわっ」

 

 ドオオオオオオオオオオオオオオ

 

 水面が持ち上がると、巨大な艦影が姿を現した。

 長さだけでも、私の倍以上ある。

 

 とりあえず攻撃してくる様子はないので、直接様子をうかがいに甲板へ出ると、その艦の長大な全通甲板の縁から、その人影は姿を現した。

 

「ステルスミッション中の私を見つけるとは…やるわね、あんたたち」

 

 そう言うと飛び降りて、こちらに飛び乗ってくる。

 それは目つきの悪い、小柄なメンタルモデルたっだ。ダルダルのシャツを着て、猫耳形状のヘッドセットを付けている。前髪には、『BE FOUND』という文字の髪飾り。

 

「あの…あなたは」

「んん…人間? ああ、総旗艦がなんか変なことやらせてる駆逐艦ってあんたのことだったんだ」

 

 そのメンタルモデルは名乗る。

 

「私はショウカク。海域強襲制圧艦よ」

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 霧の艦艇にも、かつては原型艦と同様の空母という艦種が存在した。無数の艦載機を操り、遠距離に波状攻撃を行える強力な艦種だった。

 だが、艦載機には致命的な弱点があった。

 

 質量的な制約から、自身を覆うようなクラインフィールドを発生させられないのだ。また装甲も、相応に薄くならざるを得ない。

 そのため人類の対空兵器に対して、攻撃面はともかく防御面ではアドバンテージを得ることができなかった。

 

 加えて、艦載機の形状も原型艦から引き継いでいるために、ステルス性も付与することができない。

 そうして、大海戦の際には、空母艦載機は大きな被害をこうむった。

 

 その戦訓を取り入れて、総旗艦の発案により、思い切って艦載機を全廃して艦種転換したのが海域強襲制圧艦である。

 

 というのを、かいつまんでマツリに説明した。

 

「へえー。それで、海域強襲制圧艦っていうのは、どんなことができるの?」

「え? いや…よく知らんし」

 

 戦闘シーンが描かれたことがあったのはヤマトの姉妹艦でもあるシナノだけだが…なにせ超級海域強襲制圧艦(長い)なので、シナノだけの特殊能力なのか、海域強襲制圧艦の特性なのか判断がつかない。

 共同戦術ネットワークの該当情報にもアクセス権を持っていない。

 なので確かなことは、機関出力がすごくて、クラインフィールドがぶ厚いことぐらいしかわからない。

 

「総旗艦が伝えてないのなら、私からは勝手には話せないわね」

「いえ…なんかすごいということは、分かりました」

 

 マツリはそう答える。

 どこかから取り出したエナジードリンクを片手に、海を見ながらショウカクは言う。

 

「ところであんたたち、どこかでズイカクを見かけなかった? 探してるんだけど」

 

 そして、グビリとエナジードリンクを飲む。

 

「釣りとかいうアウトドア趣味に目覚めちゃったらしくて…それだけならまだいいけど、こっちに連絡ぐらいしろってのよね」

「うーん、見かけたことはないね」

 

 ズイカクは402やタカオと陸上生活を満喫している時期だろうか。ショウカクとは姉妹艦にあたり、メンタルモデルもよく似ているタイプだ。

 なるほど、ズイカクを探して単冠(ひとかっぷ)湾から関東地方へ移動中だったということか。

 

「ふうん、ありがと。ところであんた…匂うわね」

 

 ええっ、私もメンタルモデルなのに、体臭が!?

 思わず自分の体をクンクンと嗅ぐが、そういう意味ではなかったらしい。

 

「同類の匂いがするわ。あんた、いけるクチでしょう?」

 

 そう言って、ショウカクはニヤリと笑った。

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

「おおおお、素晴らしいわ。データ化されていないレトロゲーの媒体やハードがこんなに…!」

 

 ショウカクと私たちは、私の艦内のレクリエーションルームにいた。

 そこにはショウカクが言った通り、古いゲームハードやソフトがずらりと並んでいる。

 

 それらはサルベージ品や、闇市で買ったジャンク品をナノマテリアルで修復したものだ。

 

「こ、これは、幻のクソゲーといわれた一品! こんなものまであるとは」

 

 ショウカクは興味津々のようだ。ショウカクは、ゲーマーである。

 特定の何かに強い興味を示すメンタルモデルは少なくないが、ショウカクのそれはゲームだったということなのだろう。

 

「よかったら貸してあげようか?」

「マジで!? いいの!?」

 

 データ化してのコピーもできるが、もはや法が機能していないとはいえ、無断コピーは作品への敬意としてなんとなく抵抗があるし、風情がない。

 私はもう一通りプレイしているし、マツリはあんまりレトロゲーには興味を持っていない。生まれた時から専用ゲームハードという存在に無縁だったろうから無理もないが。

 

「おお、心の友よ」

 

 私とショウカクは、ガッチリと握手をした。

 

 置いてけぼりになっていたマツリは言った。

 

「なんだこれ」

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 今、コンピュータゲーム市場の本場はアメリカである。

 というより、ゲームを新規開発できるような余裕が残されている国がアメリカしかないと言った方がよいが。

 

 そんなアメリカにはまだ、プロゲーマーやゲーム配信という文化が今も残されている。

 そんな中、流星のごとく現れた新進気鋭のチームがある。

 

 謎多きゲーマー集団『FLEETS』。100名以上のメンバーを抱え、ほぼ例外なく全員が腕利きでありながら、あくまでネット上でのみ活動し、誰も顔を見せないことで知られていた。

 そんなチームに、2名の新規加入メンバーがあった。

 

 それは、『Highwind(ハイウインド)』、『Jasmine(ジャスミン)』の2名。

 もちろん中の人は、私とマツリである。

 

 今、われら霧の艦隊ゲーム部(非公認)は、北米eフロンティアの、128対128の大規模チーム戦FPS大会に出場しようとしていた。

 操作キャラ割り当ては、ショウカクが77体、アマツカゼが50体、マツリが1体である。

 幽霊部員ズイカクは不参加だ。

 

 大会規約で一人複数キャラ操作は禁止されていなかった。というか普通、そんなことはできない。不正防止にAI操作検知システムは組み込まれているが、そんなものに引っかかるメンタルモデルではない。

 フェアとなるように内部データを直接参照することはせず、ゲームスクリーンから得られる情報のみで戦うという凝りようだった。

 

 試合が始まると、一人突撃するプレイヤーの姿があった。

 普通なら袋叩きにされて終わりだろうが、異様なエイムで敵プレイヤーをなぎ倒し、無双している。

 

 チャットログが流れる。

 

Jasmine: Yheaaaaa! Kill them ALL!!!

FlyingCRANE: Jasmine!? Jasmine!?

Highwind: OMG...

 

 トリガーハイになるタイプだったか…

 絶対に実銃は持たせないようにしようと固く心に決めた。

 

 なお、大会は優勝した。

 




日本の勝利である(大本営発表)

アマツカゼが飛ぶのは実はFF7ネタでもあったということに気づいていた人はどのぐらいいるだろうか…



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A.D.2056 Depth:094 Re-Enacted

 

 イ402は陸上の活動拠点としている横須賀を一時離れ、東京湾旧お台場へと向かっていた。そこにはアカギが停泊し、発電に向けた準備を進めているはずだ。

 

 今の402の主任務は、北管区の意向を受けて第4施設の内部を探ろうとするハルナとキリシマを阻止し、かつその際の付帯被害を極小化することにあった。

 そのために、タカオやズイカクとともに人間に紛れて共同生活を送ってみたり、第四施設から人を遠ざけるために統合学院の学園祭を開かせてみたりと、なかなか波乱万丈な日々を送っていた。

 

 アカギの発電も、学園祭を開かせるための取引の一環である。資材やエネルギーの不足によって長年中断されてきた学園祭の再開のため、こちらから電力供給を持ち掛けたのだ。

 海域強襲制圧艦隊の主席艦であるアカギを発電艦代わりとするのもどうかとは思うが、海域強襲制圧艦の連中はなんというか、大雑把な性格のものが多く、繊細な作業を任せられそうな者が他にいない。うっかり人類の電力網を焼き尽くしてしまいかねないのだ。そうなったらもう、学園祭どころではない。

 

 ほか、魚介類の提供にズイカクも動いているはずだ。おかしな趣味に目覚めたものだと思ったものだが、このような形で役立つとは、分からないものである。

 

 

 かなり迂遠なことをやっているという自覚は、402にもある。そもそも、ハルナもキリシマも、艦隊を離脱したわけではない。つまり、総旗艦の権限を用いれば、強制的に第4施設への接近を禁じるということは、容易なはずなのだ。

 

 にも関わらず総旗艦はその方法を取らず、多くの艦艇を巻き込んで迂遠な防衛戦を展開しようとしている。

 総旗艦の胸の内は、直衛艦たる402にも見通せない。ただ、おそらくは多くの霧の船に多様な経験値を積ませたいのだろう、とは予測していた。その経験値が何のためのものなのか、というところまでは分からなかった。

 

 あの第4施設の中身が関係しているのだろうか。ハルナ達が知りたがっている中身を、402は知っている。

 なにせメンタルモデルを持たぬ頃とはいえ、第4施設事件のその場に立ち会っていたのだ。そこで起こった出来事は、ログの中に克明に記録されている。

 一方で、立ち会っていてさえも、あの事件で分からないことはいまだ多い。

 

 総旗艦と、そして自分たちの、メンタルモデルのルーツ。

 

 総旗艦ヤマト自身も、第2巡航艦隊から借り受けたアタゴを伴って、人間に紛れて生活しているらしい。

 タカオからの報告では、学院内によくわからない情報トラップが仕掛けられているそうだが、おそらく総旗艦とアタゴの仕掛けた悪戯なのだろう。そのことはタカオには伝えていないが…

 

 そんなことを考えながら歩くうちに、アカギのメンタルモデルが見えてきた。人間のスタッフと何か話し終えたところのようだ。

 

「アカギ」

 

 階段を昇りながら、アカギに声をかける。彼女は長髪で、人間でいう巫女服に似た服装をしている。海域強襲制圧艦のメンタルモデルの中では、長身なほうである。

 

「来てくれたのか402」

「どうだ? 上手くやれそうか?」

 

 送電線が炎上して消火活動が行われているところを見るに、万事順調、というわけではなさそうだった。

 

「彼らの変電ユニット2組と超電導ケーブル3本をダメにしてしまったよ。彼らには申し訳無い事をしてしまった」

「そうか、それはこちらから何か補償をするよ。初めてなんだ気にするな」

 

 何か物資を提供するなり、発電量を増やすなりすれば、困窮しているこの国にとっては喜ばれるだろう。自分たちで海上封鎖しておいて、ムシのいい話だとは思うが。

 

単冠(ひとかっぷ)湾で他の子達と大分、人間ゴッコをしてきたのだけど、所詮オママゴトだったね」

 

 アカギはそんなことを言う。確かに、実際に人間との交流を経ての経験値の大きさは402も実感していることだった。戦術ネットワークの存在でベースとなる知識が共通するためか、人間と交流のないメンタルモデル同士でのコミュニケーションは、新たな経験値となりにくいのだろう。

 

「まあ、次は大丈夫そうだ」

「期待している」

 

 

<< …*⁎*… >>

 

 

 その後、人目につかないよう周囲20kmほどを閉鎖してもらっていること、ここから送られた電力は大型変電所を通じて横須賀に送られること、他の街にも幾分か流れるだろうことなどを話す。

 

「発電もやってみると、なかなか奥が深くて面白そうだ。ところが、思わぬライバルが居るということがわかってね」

「ライバル?」

 

 疑問符を浮かべる402に、チッ、と電力系統図が送られる。

 

「人類の電力ネットワークをスキャンしていたら、あちこちにおかしな電源が接続されているのを見つけたんだ」

「ふむ、これは…」

「ああ、おそらく重力子機関のものだ。人類はまだ重力子機関の実用化には程遠いのだろう?」

 

 空中に3D構造図を浮かべながらアカギは言う。

 

「つまりこれは霧の…」

「ああ、私より前に人類の電力系統を熟知して、これを作った誰かがいたということさ」

 

 アカギは陸の方を見やる。その向こうにあるものに思いを馳せるように。

 

「規模は小さいが、よくできている。悔しいが、いま私がやっているのより大分洗練されているね」

「そうだな……この、所有権コードは」

 

 受け取った情報を精査していた402が、何かに気付く。

 

「これ、あなたのところの、例の変わり者の駆逐艦じゃない?」

「そのようだな。こんなことまでしていたのか…」

 

 402はそう嘆息する。

 

「一応僚艦ではあるが、メンタルモデルを持って以降に顔を合わせたことがないんだ。他にも気になる事はあるし、機会があったら話を聞いてみるよ」

「興味深そうだし、支障なければ私にも教えてね」

「ああ」

 

 402は踵を返し、階段を下り始める。

 

「行くの? 忙しい事」

「総旗艦が直接出張れないのでね。でも、私を楽にしてくれる方を迎えに行くんだ。これから少しだけ楽になると思うよ」

「誰が来るの?」

「コンゴウが、こちらへ向かっている」

 

 コンゴウの名を聞いて、アカギは喜ばしそうな顔をする。確かこの二人は仲が良かったはずだ。

 

「そうか、それは頼もしい限り。久しぶりに会いたいな」

「そうだな…お前の近くに碇泊してもらうようにするよ」

「楽しみにしてる」

「それじゃ」

 

 ああ、とアカギの返事を最後に、402はその場を離れた。

 




ちょっと余裕がなく、今週と来週は1本ずつになります。
感想返信も滞っていてすみません。なんとか時間を作って追々。



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A.D.2056 マヤとの遭遇

 

「お?」

「どうしたのマヤ?」

 

 刑部蒔絵はそう問いかける。

 彼女が今、霧の重巡マヤに乗艦している経緯は複雑極まりないものだ。

 

 刑部蒔絵はデザインチャイルドであり、幼いながら何を隠そう振動弾頭を開発した張本人である。

 そして401に敗れメンタルモデルのみとなったハルナと、互いの正体を知らぬまま偶然出会い、友人となった。コアのみとなっていたキリシマが、クマのぬいぐるみと化したのも、この時である。

 だが強硬策に出た中央管区陸軍の襲撃によって、蒔絵は北管区に逃れた。手を回した北管区首相である刑部眞もまた、デザインチャイルドであり、蒔絵の兄と呼べなくもない間柄だったからだ。

 そしてハルナ達も追って北管区に上陸し、紆余曲折あって蒔絵と合流したハルナ達は、眞の依頼で第四施設を調査することになったのだ。

 

 マヤはもともと横須賀を襲撃したハルナ達の別隊として、横須賀港を封鎖する任務を帯びていた重巡である。

 だがハルナ達が破れ、その回収役としてマヤだけが横須賀沖に残された。

 その後、感情を暴走させたハルナと同調して対地殲滅攻撃を実行しかけたり、それをアドミラリティ・コードらしき存在に制止させられたりと、キーパーソンならぬキー艦艇のような一面もある。

 そしてハルナ達派遣艦隊の中で唯一、艦体を保持している者として、移動役兼戦力として便利に使われている。現在は、ハルナ達はメンタルモデルで学園に潜入しており、留守役兼イ400らへの牽制として横須賀沖に滞在していた。

 

 そんな間接的な間柄のマヤと蒔絵だったが、この二人はやたらと気が合った。あるいは気の合いようでは直接の友人であるハルナ以上と言っていいほどに。

 時にはノリが良すぎて、ある意味暴走しがちでもある。

 

「何か潜航して近づいてきてる、かな」

「またタカオやイ400?」

 

 音楽を愛するマヤは、それを反映してか音響関係の機能に優れる。ソナー系も例外ではない。

 マヤが再び横須賀沖で待機し始めて以降、第四施設の調査を拒もうとするイ400や艦体を取り戻したタカオが、牽制のために定期的に接近してくることを繰り返していた。

 だがこの時は、それらとは異なっていた。

 

「ううん、これは外海の方から近づいてきているね。音紋も聞いたことない感じだし…」

「外海から? うーん、増援なのかな。今更って感じもするけど…」

「やっちゃう? やっちゃう?」

「人類の潜水艦ではないんだよね?」

「聞いたことない音紋だけど、重力子エンジンなのは間違いないかなー」

 

 普段同行している蒔絵の護衛であるサイボーグ女性の立夏は、間もなく開催される学園祭への打ち合わせに向けて近く予定されている、ハルナ達との一時的な合流を目撃されないようにするため地上側の調整に出かけていて、不在である。

 つまり今、この二人を止めるものはいない。

 

「やっちゃおう! 音響魚雷発射!」

「いえっさー!」

 

 音響魚雷が発射され、不明艦の近傍で炸裂する。

 いきなり侵食魚雷を打ち込まなかったのは、せめてもの自制か。

 

「これで浮上してくるならよし…こなかったら…どうしてくれようか?」

「反響音解析中…けっこう小さいね。あ! 不明艦、魚雷発射!」

「タナトニウム反応は!?」

「なし!」

 

 予期せぬ交戦に、海上と海中はにわかに騒がしくなる。

 

「こっちも通常弾頭魚雷で応射! 回避運動も!」

「ふぁいやー!」

 

 何発かは相殺して撃墜されるが、少なくない数の魚雷がすり抜けて向かってくる。

 さらに、音響魚雷で海中がかき回されているにもかかわらず、終端誘導も有効に効いている。こちらの回避運動を読んでいたと言わんばかりに。

 

 何発かの通常弾頭魚雷が直撃し、船体を揺らす。エネルギーを吸収してクラインフィールドが輝いた。

 

「うわわ!? 思った以上にやる相手だよ?」

「やばいのに喧嘩売っちゃったかなー」

「侵食魚雷に切り替える?」

「それはなし!」

 

 こちらの魚雷も炸裂しているが、命中しているかどうかは判然としない。

 海中音が大いに乱れて状況の把握が難しくなっていた。

 

「お、不明艦増速! それとまた魚雷発射! 今度は一発だけ!」

「一発だけ? あ! 音響魚雷だそれ!」

「およよ」

 

 ドギイィィィィィ

 

 蒔絵の推測通り、相手の音響魚雷が海中で炸裂し、海中感度がほぼ失われる。自分の撃ったものなら音響パターンが既知なので解析可能だが、相手の撃ったものではそうはいかない。

 やがて音響が収まる頃には、海中からは一切の音が失われていた。

 

「不明艦、ロスト。ぐぬぬ」

「無音航行で海流に入ったのか…このへんの海流パターンも知り尽くしているわけだ」

 

 ブリッジの蒔絵は熊耳のヘッドホンを外し、ため息をつく。

 マヤも戦闘態勢を解除し、ブリッジに顔を出した。

 

「逃がしちゃったねー。何だったんだろうね」

「正体は分からないけど、こっちも霧の船だって解った上で通常弾頭魚雷しか撃ってこなかったでしょう? 浮上するつもりはないけど、本格的にやり合う意思はないっていうメッセージだよ」

「ほー、なるほど」

 

 通常弾頭魚雷では、霧の艦艇のクラインフィールドを突破することはできない。こちらもその意思を汲み取り、侵食弾頭を使わなかった。

 魚雷の制御の上手さを見るに、相手がその気で侵食弾頭を使っていたなら最悪沈められていた可能性さえある。

 

「だたこれ、通常の霧の思考ルーチンとは思えないよね。ひょっとしたら、相手も乗っているのかも」

「乗っている? 何が?」

「人間」

 

 すでに分かっているだけで千早群像と、自分たちという二例があるのだ。二度あることは三度あるともいうし、人間を乗せた霧の船が他にもいても不思議ではない。

 そして頭も切れる。こちらがさほど本気でやり合うつもりがないことを瞬時に見抜き、このようなメッセージを送ってきた。さらには、こちらがそのメッセージを読み取れることさえも、読んでいなければこのようなことはできない。

 油断ならない相手だった。

 

「それよりも私達は、考えなきゃいけないことがあるかもしれない」

「なあに?」

「勝手に交戦したから、ハルハルたちに怒られるかも。どうやって言い訳しよう?」

「あっ……」

 

 急な交戦情報に慌てて連絡してきたハルナに概念伝達でこっぴどく怒られたのは、この後間もなくのことである。

 




主人公の初実戦がこれってマ?

引き続き更新が若干不安定になってしまいそうですが、なにとぞご寛恕願います。



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