転生×HUNTER (オガルフィン)
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原作突入前~修行編~
第1話―憎悪の渦―


2018/7/13

私生活のほうが一段落したので、一度は消そうと思っていた黒歴史同然の本作ですが4年前よりはマシになったであろう文章力を駆使して(笑)また色々と書いていこうと思います。

ただ新しい話を書く前に、既に投稿した話に気になる部分があるのでそこを修正していきたいと思います。

それでは始まります。


眼に映る光景がやけにゆっくりと感じる中、少年は自分の死を悟り遣り切れない思いを胸中で吐き出していた。

 

(何で俺が。)

 

何で俺が...

 

頭の中で呪文のように同じ言葉が繰り返される。

今まで溜め込んできた分だけ堰を切ったように溢れ出してきていた。

 

(俺は一体何のために生まれてきたんだ?)

 

ドス黒い感情が止めどなく溢れ心を沸騰させるが、それに反して体はどんどん冷たくなっていく。

そこに容赦なく女の金切り声が叩きつけられた。

 

「ア、アンタが悪いのよ!?私に逆らうから!そうやってあの男みたいに私を捨てるんでしょ!?」

 

「アイツみたいになるんだったら、私が...私が止めてあげないと!だって私は悠里のお母さんだもの!」

 

目の前に立つ女性はこの少年、悠里の母親だ。

血に濡れた包丁を手に持ちながら頬を涙で濡らし半狂乱で叫んでいる。

 

この母親は俗に言う教育ママだった。

ただ飽くまでそれは息子を思っての事であったし、度が過ぎた要求をしてくることもない。

仕事命であまり家庭を顧みない父親の影響で少し息子に対し依存していた節はあったが、普通の仲の良い親子だった。

 

たがある事件を境にその関係は大きく歪んでしまう。

悠里の父親が職場の女と不倫していたのだ。

それにより母親は精神を病み、父親はそんな母親を捨て家を出て行った。

 

それからと言うもの悠里の母は父への恨みから、男という生き物そのものに憎悪を抱くようになってしまった。

当然、それは息子である悠里にも及び、「父親のような男にならないように」という思いから彼に過剰な躾と歪んだ愛情を向けるようになる。

そして教育ママっぷりに更にも拍車がかかり、家にいる時は常に息子を机に縛り付け監視する日々。

友達と遊ぶ事も許さなかったし、通っていた格闘技の道場も辞めさせた。

息子に自由や娯楽を与えず、彼女の中の世界だけで完結させようとしたのだ。

 

まだ16歳である少年にこの現実は辛過ぎた。

この世界に絶望し、悠里は漫画の世界に異常にのめり込んでいった。

その中でも特に彼を惹きつけて止まなかったのはワンピースとHUNTER×HUNTERだった。

 

ワンピースの大海賊時代、あそこで仲間と一緒に海に繰り出し自由に冒険ができればどれだけ楽しいか。

そしてHUNTER×HUNTERの世界、あそこでハンターになって世界中を旅してみたい、修行して強くなって色んなものをハントしてみたい。

 

(鳥籠の鳥だった俺にはどっちも眩しすぎるよ、俺も自由に冒険がしたかった。)

 

もう悠里に母親の叫び声は聞こえていない、彼の心にあるのはその後悔と理不尽な環境に置かれ続けた憎しみだけ。

 

徐々に意識が薄れてくる。

母親に反抗するという彼にとって人生で初めての冒険は、とうとう終わりを迎えようとしていた。

 

その場に崩れ落ちる悠里。

もう既に意識はないが、それでも遣り場のない憎悪の炎は消えること無く、遂には悠里の魂を灼いた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ピチャッ、という音と共に顔に冷たい何かが掛かった。

 

その正体は上から垂れてきた雫のようで、悠里は驚きから目を覚ます。

緩慢な動作で上体を起こし周りを見渡せば、樹海のような場所らしく悠里はそこに寝転がっていた。

もちろんこんな所に来た記憶はない。

そもそも悠里は母親に腹を刺され、死んだはずだ。

一瞬母親が自分をここに捨てたのかとも思ったが、そもそも悠里の家があったのはアスファルト畑の都会のド真ん中であり、近くにこのような場所はない。

 

状況は全く理解できないがこのまま寝ているわけにはいかないだろう。

とりあえず起き上がろうと軽く身じろぎしてみて、ふと気付く。

やけに体が軽かった。

 

そして違和感を感じながらも立ち上がると、更におかしな事が起きていた。

何故か腹を刺されたというのに傷も残っていないし、寧ろ逞しくなった気さえするのだ。

体は死ぬ(?)前よりもすこぶる健康である。

 

ただ、悠里はそれを素直に喜べなかった。

助かっても明日からまたあの辛い日々を過ごすのだ、無間地獄から解放されるなら死んでしまってもよいとは思えるほどに毎日が辛かった。

 

暗い気持ちを抱えながら悠里は森を歩き出す。

ポジティブな気分には些かなれないが、いつまでもここにいても仕方がないからだ。

とりあえず状況を確認するために近くにある街なり人のいる場所に向かわなくてはならない。

それにいくらなんでもこんな所で夜は明かしたくはない、悠里は若干早歩きで森を抜けていくのだった。

 

そして森を出て少し歩いていると、一際目立つ高い建物が見えてきた。

見たことのない建築様式の建物が並ぶ、古い町並みの場所だ。

自分の生活圏にはこんな場所は無かったはずだ。

何か手がかりは無いかと思い看板や張り紙等に目をやるが、

 

(とりあえず街についたのは良いけど...なんだこの文字?まさか象形文字?)

 

悠里には何一つとして読めなかったのである。

本当にここは日本なのか?と、そんな疑問が浮かんでくるのも無理はないだろう。

若干焦りを覚えながらも、前を歩いていた大柄の男に声をかけた。

 

「すみません、少し道に迷ってしまいまして。良ければここが何処だか教えて貰えませんか?」

 

「ん?ここは有名どころだぜ。あの高い塔が見えるだろ?この場所こそ世に名高い天空闘技場さ!」

 

話しかけられた男は親切に、そして元気いっぱいに答えてくれる。

とくに嘘を付いている様子もない。

ただそれは絶対にあり得ない事だ。

何故ならその場所は悠里が好んで読んでいた漫画に登場する場所だからだ。

衝撃を受けながらも、悠里はもう一度確認のために質問した。

 

「それはもしかして、バトルオリンピアという格闘技の祭典が開催される場所ですか?」

 

「よく知ってんじゃねえか!まぁ当然か、俺も格闘技には目が無くてよ、よく見に行くんだ。」

 

やはり間違いないらしい、あまりの驚きから悠里は吃り気味に返事をしてしまう。

 

「そ、そうですか。ありがとうございます。」

 

それを聞くと男は「じゃあな!」と言って去っていった。

とりあえず親切に教えてくれたあの男に感謝するも、悠里の頭を占めているのは別のことだ。

 

もしあの男が言っていることが正しいとすると、ここはHUNTER×HUNTERの世界ということになってしまう。

よく見てみればあの象形文字も作中によく出てくるハンター文字という奴に似ている気がした。

そして何故かじっと眺めていると頭に意味が入ってくる、あり得ない現象だ。

 

悠里は途方に暮れていた。

 

確かに悠里は生前、というか転生前にこういった世界に憧れはしたが、身一つで、しかもこんな子供の姿―先ほど気付いたのだが年齢が11、2歳くらいに若返っていた―で放り出されるのは流石に堪える。

 

着の身着のままで何も持っておらず、このままでは孤児として物乞いで生きていく他ない。

戸籍さえあるか不明なので、ちゃんとした仕事を見つけられるかどうかも怪しかった。

 

状況は分かったところで良くなってはいないが、まずは生きるために仕事や住居を見つけなくてはならない。

憧れの冒険や何だの前に野垂れ死んでしまえば意味が無いのだ。

 

(せめて生活基盤くらいはしっかりした所に転生させて欲しかったな。)

 

そう心の中で愚痴りながら、気持ちを切り替えこれからの事を冷静に考える。

HUNTER×HUNTERの世界で生きていくならばまず身体能力と戦闘能力が一番大事だ。

それを確認するために悠里はまた森へと引き返していった。

 

人目につかないように森の奥まで入り少し動き回ってみれば、やはり初めに思った通り動きは軽く、肉体は少し強靭になっている。

見た目こそ筋骨隆々というわけではないが、悠里は自分の体の秘めたる力を感じていた。

 

この分ならゾルディック家の試しの門も1の門くらいは開くかもしれない、と大木を持ち上げながら独り言ちる。

こうなると進路はもはや決定したも同然だ。

幸い近くには天空闘技場、肉体も調子が良いし何より格闘技で培った動きも体に染み付いておりそのままだ。

 

(確か100階以上で個室が与えられたはず。修行にもなるし住居も手に入る、正に一石二鳥じゃないか!)

 

そうと決まれば善は急げと、悠里は颯爽と天空闘技場に向かっていった。

先ほどよりもだいぶ明るくなった心境を反映するように、足取りは大分軽かった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「それにしても凄い行列だ...」

 

天空闘技場に着いて早々思わず呆れてしまう。漫画で読んだ光景もそうだった気がするが、この夥しい人の数はそれ以上のように感じられた。

 

「それは当然だよ♦︎ここはこの辺りじゃ一番お金が集まるといわれている場所だしね。身一つで一攫千金が狙えるんだ、こういう雑魚が群がるのも無理はない・・・まあ僕はそんなことよりも戦うことに興味があるけどね♥」

 

悠里がその光景に呆れながらも少しボーっとしていれば、なにやら男が話しかけてきていた。

 

(うん、気のせいだろう。恐らく幻聴だ。そしてこの変態ルックなピエロは幻だ、蜃気楼だ、幻覚だ。)

 

「ねぇ...どうして無視するんだい?君から話しかけてきたのに♣︎」

 

(...お前に話しかけてねぇよ!)

 

反射的に声のする方に顔を傾け、悠里は固まってしまった。

そしてそのまま無視を決め込んでいれば、またもしつこく話しかけてくる変態ピエロ。

思わず心の中で毒づいてしまう。

 

最悪な展開である。

悠里は確かにこういった世界で生きるのを望んだが、決してこのような変態との邂逅は望んでいなかった。

 

無視してこのまま離れたいが、目の前のピエロのこちらに興味ありげな視線を見てしまうと、どうもそれは無理そうである。

出会ってしまったものは仕方がないと強引に自分を納得させ、悠里は嫌々ながらも適当に相槌をうった。

 

「すいません雰囲気に圧倒されてて。あなたも登録希望者のようですが先程の口ぶりだと腕に自身があるんですか?」

 

「うん、僕は強いよ。でもそれを差し引いてもここにいる殆どの連中は不合格かな♦︎」

 

「でも君は...うん、合格。いいねぇ青い果実って♥︎」

 

そして何やら勝手に納得してニヤリとした表情を浮かべるピエロ。

なんとフラグがたってしまった。”青い果実フラグ”。

ヒソカの視線から逃れるように少し体を傾け、まずいことになったと肝を冷やす。

体には冷や汗が滴っていた。

 

転生してから早々に命の危機とはまったくもって笑えない冗談だ。

カストロのようにボロきれ同然に殺されるのは御免である、なんとか強くなって生き延びなければならない。

然もなければ勝手に失望され、勝手に命を奪われる。

しばらく天空闘技場で戦うしか道の無い悠里としては、彼に目をつけられるのは本当に不味い事態だった。

 

(下手に相槌なんか打たなきゃ良かった...)

 

「まあ、お互い頑張りましょう...」

 

「うんそうだね、頑張ろう♦︎」

 

後悔先に立たず、謎の合格発言には触れず変態の笑顔に対しなんとか気合で愛想笑いを浮かべた。

どのみち修行はしなければならないし、こうなれば背水の陣に追い込まれたと思って頑張るしかなさそうだ。

変態ピエロを前に、悠里は現実から逃げるようにポジティブシンキング(?)をするのだった。

 

そして変態との会話もそこそこに、しばらく待っていると唐突に前方から悠里に声がかかった。

 

「天空闘技場へようこそ!こちらに必要事項をお書きください。」

 

受付のお姉さんを見てまばたき数秒、

 

(え...もう?そういえばさっきの行列が無くなってる...)

 

極度の緊張感の中変態と居た事で、時間をまともに感じられる間もなかったようだ。

これは正しく”コインの時のゴトーさん効果”ではあるのだが、全く嬉しくは無かった。

 

そんな詮無いことを考えながらざっと登録用紙に目を通してみれば、やはり原作でゴン達が書いたものと形式はあまり変わらない。

となればさっさと記入してしまうに限る。

 

(名前は、稲葉悠里っと。)

 

真っ先に一番上にあった名前の欄に書き込むが、そこで唐突に思い至る。

このHUNTER×HUNTERの世界でガチガチの日本名は明らかに浮きそうだった。

ただでさえ戸籍も無い身だ、悪目立ちはしたくない。

この世界に馴染むためにもこちらに合わせた名前に改名した方が良いかもしれない。

 

(名前は悠里をそのままユーリでいいとして...)

 

問題は名字だ。

悠里はもともと稲葉という苗字という名字は稲に葉っぱでまるで農民代表のようで好きではなかったし、カタカナ表記でのイナバは某倉庫業者のようでしっくりこない。

 

(どうせなら大空寺とかかっこいい苗字にしよう、ただそのままだと変だし...)

 

大 空 寺=ビッグ スカイ テンプル

 

(ビッグスカイテンプルを...ビステム)

 

小学生並みの頭脳をフル回転させついに悠里はこの世界での名前を決めた。

 

次に格闘技歴の項目。

そこには8年と書いた。これには嘘は無い、悠里は8才から空手とムエタイをやっていた。

 

そして他の項目もスラスラと埋めていくが、何故かニヤつきながらヒソカがこちらを覗き込んできていた。

正直言って非常に気持ちが悪かった。

 

「ユーリっていうんだ...ヨロシクね、ちなみに僕はヒソカ◆」

 

聞いてもいないのに自己紹介してくるヒソカ。

さっさとこの変態から離れよう、と思い悠里は書くスピードを上げていく。

気のせいかもしれないが、ヒソカの股間が膨らんでるようにも見えたからだ。

 

「そうですか、じゃあ俺はこれで...」

 

書類を書き終えれば、若干引き気味の愛想笑いを受けべながらもさっさと変態と距離を取る悠里であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

変態を振り切って天空闘技場の待合室に座り一息ついていると、隣に無造作に置かれていた新聞が目に入った。

転生やらヒソカやらの衝撃ですっかり忘れていたが、他にも確認しなければならない事は沢山ある。

戸籍がないので身分証明のためにハンターライセンスを取らなければならないが、ハンター試験はかなりの難易度。

受けるのであれば内容を知っているゴン達がうけた1999年の第287期の試験が望ましい、というかそれ以外では不可能かもしれない。

 

色々とこれからの事を考えながら悠里は新聞に手を伸ばした。

 

“第284期ハンター試験締め切り間近!登録をしていない方はお早めに!“

 

(やっぱりすごいな、新聞の第一面がこれだ。)

 

ハンターがこの世界でどれだけ大きな存在か再確認させられた。

原作開始まであと3年あるが、念の修行のことを考えればゆっくりとはしていられない日数である。

 

やはり急ピッチで修行を進める必要があるか、と決意を新たに新聞の他の記事に目を通していると、

 

『1611番・1907番の方!Dのリングへどうぞ!』

 

スピーカーから悠里の番号を呼ぶ声が聞こえた、出番のようだ。

間違っても失格になどならないように素早くリングに移動する。

あの行列をもう一回並ぶのは勘弁願いたい。

 

そうしてリングに着けば相手は既に開始位置に立っており、悠里を待っていたようだ。

悠里は審判が簡単なルール説明をしているのを聞きながら軽く体をほぐして戦闘態勢に入った。

 

「ここ一階のリングでは入場者のレベルを判断します。制限時間の三分以内に実力を出しきってください・・・それでは、始め!」

 

開始の合図に反応してお互いに構える。

 

見たところ相手はパワータイプのようで、原作でゴンが1階で戦った奴とそっくりだ。

だから慌てず、とりあえずは待つ悠里。

 

(でかい奴は動いた後の隙がでかい、そこを付く。)

 

一瞬の膠着の後に、まずは相手が動いた。

ゴォッという鈍い音で風を切りながら、凄まじい勢いで張り手を繰り出してくる。

纏も使えない今の悠里でまともに喰らえば重症は免れない。

 

だがカウンターを狙っていた悠里は軽々と避けることに成功する。

そして避けた後はそれに合わせて相手の手首に鉄槌にをくらわせた。

「グッ!」と呻き声を発し相手がひるんだ隙に、更に外側から肘にミドルキックを浴びせた。

 

(効いてる。ガードが下がってきた、もう一発!)

 

動きの止まった相手に全体重を載せてもう一度蹴り上げる。

 

「ギャァ!」

 

叫び声を上げながらボキッという小気味のいい音と共に相手の肘が折れた。

それに「よし。」と内心ガッツポーズをしながら懐に飛び込む悠里。

飛び込んだ勢いを殺さずに、すかさず後回し蹴りを放つ。

 

ゴキィッ、と鈍い音が響きガードの下がった相手のアゴに思い切り踵がめり込んだ。

 

「勝者!1611番!...君はかなりいい動きをしているね。50階まで進みなさい。」

 

そこで試合終了、審判が相手の意識を確認した後勝敗を宣言する。

ゴン達と同じペースという自分が意外に高い評価を受けたことに喜びながら「どうも。」とお礼を返し渡された紙を受け取った。

一階のファイトマネーは勝っても負けても152ジェニーで缶ジュース一杯分だが、50階は勝てば5万ジェニーだ。

なんとかもう一試合組めれば今日のホテル代が確保できるだろう。

 

試合が終わり引き返そうとするが、そこで会場がやけにザワついているのに気づいた。

発生源は斜め前のリングだろうか。

 

(あれはヒソカ...?)

 

「し、勝者!1612番!50階に行きなさい...」

 

そこに目を向ければヒソカが血だまりの中で立ち尽くし、恍惚とした表情で自身の血塗れの両手を見つめていた。

さながら猟奇殺人の現場だ、審判も顔が引きつっている。

 

あまりの光景にドン引きし、改めてヒソカの異常性を確認した悠里は軽く念仏を唱えながらヒソカに見つからないようにそそくさとその場を去った。

 

(しかし原作の重要人物とのファーストコンタクがまさかヒソカとは...)

 

早々から心が折れそうな悠里であった。




初めまして、オガルフィンと申します。

早速ですが自分では脳内補完しながら読むので感じないのですが、客観的に見ると描写不足になっている箇所が結構にあるようです。

そうならないように努力してはいるのですが、もしそのような箇所があれば報告してくださるととても助かります。
それ以外にも違和感を感じるところや誤字脱字など、変な所があればどんどん言ってください。

皆さんの力もお借りしながら、良い二次創作にしていこうと思っているのでよろしくお願いします。


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第2話―ピエロのきまぐれ―

今回短いです。


一階での試合が終わった後、悠里は50階クラスの控え室で待機しながら体を休めていた。

先程無傷で勝ち上がった事で、今日中にもう一試合組んでもらえることになったのだ。

未だにこの世界で152ジェニーしか稼いでいない身としては何としても次の試合に勝ってホテル代を捻出しなければならない。

一日目から野宿は御免だ。

 

『ユーリ様・ヒソカ様!55階Cのリングへお越しください。繰り返します...』

 

もう結構時間が経っていたのか呼び出しがかかっている。

悠里の聞き間違いでなければ自分の名前に続いて「ヒソカ」と聞こえた気がする。

やや間を置いた後に「今のは密かにリングにお越しくださいみたいな呼び出しであって...」と心の中で一縷の望みにすがるが、

 

『繰り返します!ユーリ様・ヒソカ様!55階Cのリングへお越しください!』

 

(.................。)

 

無常にも繰り返されるアナウンス。

神はいない、そう確信した瞬間である。

1階の試合でヒソカに殺された選手に対して念仏を唱えたではないか、その自分に対してこの仕打は如何に、と理不尽な怒りをいるかも分からない神に向けてしまう。

 

「神はいない。」

 

キメ顔で独り言をつぶやく。

悠里の周りの選手が奇妙なものを見る目で見つめてくるが、現実逃避をせずにはいられなかった。

 

確かに上がった者同士で当たらせるのはキルアとズシでもあったが、よりによってヒソカとは運が無さ過ぎるだろう。

 

(とりあえず、すぐに降参するしか道は無さそうだ。)

 

リングに向かいながら両手をビシッと上に伸ばし降参の練習をする悠里。

転生後に初めてしたのが念ではなく降参の練習とはなんとも情けない話だ。

それでも死ぬよりマシだろう、せっかく命拾いして転生までしたのにこんな所で死ぬなど出落ちにも程がある。

 

遠い目をしながら悠里はゆっくりとリングへ歩いていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――-

 

暗い雰囲気を纏いながら牛歩で歩いていた悠里だが、気づけばリングに着いていた。

どんなに小さな歩みでも、たゆまず歩を進めていけば何れはたどり着くものだ、どこかで聞いたような名言を心の中で反芻する。

ちなみに全くありがたくは感じていない。

 

『さぁ皆様!始まりました注目の一戦!二人とも先程の1階での戦いから一気に50階まで駆け上がってきた強者です!お二人の戦いのVTRはコチラ!・・・ユーリ選手は正確なカウンターを決め、怯んだ相手に強力なバックスピンキック!登録情報によると格闘技暦は8年!映像を見る限りでもかなりの使い手である事が分かります!』

 

『続いてヒソカ選手!ヒソカ選手についてはもう凄惨としかいいようがありません!かつてのザバン市の凶悪犯罪者、バラし屋ジョネスを彷彿とさせる戦いぶり!そして!ここに生粋の武道家VS悪魔の殺し屋の試合が始まろうとしています!それではみなさんギャンブルスイッチの準備はよろしいでしょうか!?スイッチ・オン!』

 

悠里がリングに着くなり実況席から盛大な煽り文句が飛んでくる。

悠里はその熱気に反するように背中を丸めるが、ヒソカは呼応するように体のある一部分を膨らませていた。

 

そして暫しの時間を経てギャンブルスイッチでの集計が終わる。

結果は悠里が優勢。

しかし悠里はすぐに降参するつもりだった、内心で自分に賭けた人に謝りながら降参のポーズを取るために両手を下に構えた。

 

『投票の結果ではユーリ選手優勢!やはり華麗なカウンターや足技を決めていたところを評価されたのでしょうか!?それでは3分3ラウンドポイント&KO制・・・始め!』

 

悠里は試合開始と同時に降参をしようとしたが、ヒソカから発せられた突然の威圧感により体が動かなくなってしまった。

 

「くっくっく♦まさか”まいった”なんて言うつもりじゃ無いだろうね?もしそんな事したら勢いあまって殺しちゃうかも♥しっかりと僕に実力を見せてくれよ。」

 

予想していた最悪の展開、ヒソカが完全にヤル気になっていた。

こうなってしまっては仕方がない、覚悟を決めて悠里は拳を構えた。

 

「ある程度やったら降参させてくれる?」

 

「それは君の実力次第かな♣もしも、とるに足らないような男なら...」

 

絶望しながらも藁にもすがる思いでヒソカに尋ねたが、期待していた答えは帰ってこなかった。

そう言いながら更にオーラを噴出させるヒソカ。

ウイングさんがオーラに当てられた状態を「極寒の地で全裸で凍える」と表現していたが正にその通りだ。

審判でさえも息を呑んでいるようで、見れば顔に冷や汗が伝っている。

 

本気でやらなければ、こちらが死ぬ。

死を自覚した瞬間、自由への渇望がユーリを本気にさせた。

 

(行くしかないっ!)

 

気合一閃、悠里はヒソカの真横へ飛びながら翻弄するように周りを動き始めた。

不気味にニヤけた表情のヒソカから内心を読み取ることはできないが、足を止めるわけにはいかない。

押し寄せてくる死神に背中を押されるように悠里はリング上を動き回った。

 

『おっとユーリ選手!ヒソカ選手を囲むようにステップを踏んだ後に一気に距離を詰めた!?そして...首筋への手刀だー!しかしヒソカ選手も流石です!左腕でしっかりとガードしています!ファーストコンタクトはユーリ選手だ!』

 

急所への奇襲を仕掛けたが案の定ガードされる。

当たり前だがヒソカは強かった、先程戦っていたような相手ならまず反応すらできていまい。

道場でもこの動きからの奇襲は悠里の得意技で実戦形式の組み手でかなり有効だった。

それを軽々と受けるとはヒソカは念だけでなく格闘センスも超一流のようだ。

 

でも諦めるわけにはいかない、ヒソカに悠里の価値を認めさせなければ待っているのは死だ。

幸い200階未満の試合では武器の使用は認められておらず、ヒソカはトランプを使えない。

しかし単なる打撃だけでも簡単に悠里を殺せるだろうことは今の打ち合いで理解していた。

さらに死神が悠里の背中を強く押した気がした。

 

ガードされつつも幸いその勢いのまま動く事ができたので、ヒソカの腕をつかんで後に引き込み足払いを掛け、そのまま膝蹴りへ繋げることができた。

更にその反動で回り込み、回転肘をヒソカの顎に決めた。

 

「クリーンヒットォー!」

 

悠里の一連のコンビネーションに会場が沸いた。

 

『先にポイントを奪ったのはユーリ選手!クリーンヒットとダウンで2P先取です!』

 

前を見やれば、ヒソカが俺の肘を食らった顎を擦りながらニヤついている。

 

「僕から一本取ることができたか♥」

 

「全然効いてないだろ。」

 

「まあね♣でも...」

 

そこからヒソカのセリフの続きを待っていると、ふいに頭が引っ張られた。

 

(...え?)

 

「~♪♣」

 

腹部に衝撃を感じ、まるで自分じゃないかのような声が口から漏れた。

 

「っ!?」

 

「クリティカルヒットォー!」

 

『次はヒソカ選手!一瞬でユーリ選手に近づき一回戦で見せた怪力で頭を引き寄せての膝!かなりの力が入った一撃です!ダウンと合わせて3P!』

 

咄嗟になんとか立ち上がる悠里ではあったが、どう見てもこれ以上戦える状態ではない。

足が小刻みに震え、視点はどこか合っていない。

だがそれでも悠里は倒れなかった。

 

(闘志だけは折れちゃダメだ、アイツが失望すれば俺は殺される!)

 

「驚いた♣まさか今のを食らって起き上がってくるとはね。」

 

「それに...あぁ、いいよその目...」

 

フラフラしながら睨みつけて来る悠里を見つめながら、股間をふくらませジョジョ立ちをするヒソカ。

 

悠里の攻撃は簡単に止められ、当たったとしてもダメージは無し。

逆にヒソカの攻撃に悠里は反応すら出来ずに深刻なダメージを負っていた。

状況は誰が見ても絶望的だった。

 

そして少し送れるように審判が悠里を見て手を上げる。

 

「クリーンヒットォー!」

 

その声を尻目に悠里はジリジリと足を引きずりながらヒソカに前進していく。

最後の足掻きだ。

それを見たヒソカは一旦は構えるも悠里と目があってから数瞬、何やら考えるような素振りをしたかと思えば構えを解き唐突に口を開いた。

 

「僕には分かる、君はこれから強くなる...だから君のその将来性に敬意を表し僕が洗礼をあたえよう。」

 

「強くなるんだよ♦」

 

ヒソカが軽くこちらに手を向けると、朧気ながらヒソカの右腕に尋常じゃない“ナニカ“が集まっているのを感じた。

悠里は息が詰まり体から冷や汗が止まらなくなった。

 

だが震えながらもなおも進もうとする悠里は攻撃に備えて最後の抵抗とばかりにガードを固め”バチンッ!”...ようとした瞬間には倒れていた。

 

「クリティカルヒットォー!」

 

審判が何事が言った後、悠里に駆け寄りその後に手で大きく×の印を実況席に向けて作っている。

 

『ユーリ選手!ここでTKO負けです!ヒソカ選手もここにきてまさかの平手打ち!しかもユーリ選手はそれでダウン!決め技が平手打ちとは最後が締まらない展開になってしまいましたが...勝者!ヒソカ選手!』

 

(平手打ちを食らったのか、全く反応できなかった。)

 

朧気な意識の中で、聞こえてきた実況の声から自分が何をされたのか初めて理解する。

 

それにしても、

 

(体が熱い...それに湯気みたいなのが全身から?まさかこれがオーラ?ヒソカのやつさっきの平手打ちで強引に精孔をひらいたのか...?)

 

「ヒ..ソカ、お前..これ...」

 

「くっくっく♦それは君の生命エネルギーだ。うまくそれを全身へめぐらせて体に纏わせてご覧よ...あとは君次第だ♥」

 

驚きから呻きながらもヒソカに言葉を投げかけるが、軽くいなされる。

ヒソカは悠里へともう一度振り返りニヤリとした表情を浮かべると結局そのまま会場を去って行ってしまった。

 

(ヤバイ意識が...でもはやく纏をしないと...。)

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そこからは悠里にはっきりとした記憶は無かった。

必死で纏をしようとしていたら、気づけば天空闘技場の医務室に寝かされており目が覚めた時には実に一週間も経っていたのだった。



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第3話ー念能力の修行ー

※旧3話と4話を一つに纏めてみました。

原作突入までに律儀に全場面を書いているととんでもない話数になってしまうので、場面を飛ばしながら書いています。
今回は主人公の念の開発の描写のみなので、斜め読みでも次回以降に影響はないかもです。


悠里はヒソカに精孔を開かれてから偉い目に遭っていた。

 

まず「纏」の制御が難しく、不完全な「纏」になってしまいオーラが体から抜けていくので怪我や体力の回復が非常に遅れていた。

ゴン達が1000万人に1人の才能と言われたのが身を持って理解できた悠里である。

 

そして「纏」は勿論そもそもオーラの流れを感じるの自体が難しく、更に悠里はヒソカにボコられた後だったので痛みやその他諸々で余計に集中できないでいた。

そのお陰で5日間も天空闘技場の救護室に世話になる羽目になっていた。

 

結果的に数日分のホテル代は浮いたのかもしれないが、それを喜べるほど悠里は図太くなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ヒソカとの試合から一週間ほどが経ち、悠里は漸く「纏」が出来る様になっていた。

勿論その間は試合に負けて当然お金をもっていなかったため、悠里がこの世界で目覚めた時にいた森で野宿である。

そして今日ようやく「纏」をマスターし街に戻ってきた。

 

ただ天空闘技場に戻る前に、森での生活で汚れていた体を清めるために銭湯へいかねばなるまい。

 

汚い体でいるのはあまり好きではなく、

 

(!?)

 

瞬間、頭の隅にズキッとした痛みが走った。

次いで女の金切り声が脳内にフラッシュバックする。

 

『男は汚い!汚い!汚い!お願いだから悠里は汚くならないで!』

 

悠里の母親の声だ。

異世界という離れた場所にいても母親の呪縛は時折悠里を蝕んだ。

 

(未だに俺はあの女に縛られているのか...。)

 

次の瞬間悠里は若干母親と重なるような目の前を歩いていたショートヘアの女を素早い手刀で昏倒させ裏路地へ連れ去る。

そして「銭湯に行くにはお金がだ。」と呟きながら躊躇無く女の鞄から財布を抜き取り、首をへし折った。

 

転生前の悠里であればありえない行動だ、悠里の内面のドス黒い何かがそうさせるのだ。

 

だが当の本人はその異常性に一切気づけないでいた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

銭湯からあがりサッパリとした悠里は天空闘技場に向かっていた。

何やかんや“纏“ができるようになったのは思わぬ成果といえよう、体を清め頭がスッキリすれば自然と思考もポジティブになってくる。

 

あとはとりあえず試合に出ないことには始まらない。

ヒソカに負けて40階クラスに落ちてしまったので、早く上がらなけければそれだけホームレス生活が長引いてしまうのだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

『ユーリ選手・マクシン選手!43階Eのリングまでおこしください!』

 

悠里は呼び出しに応じ軽い足取りとともにリングへ向かった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

森から戻っての復帰戦であるが、試合結果は悠里の圧勝だった。

当然といえば当然だ。身体能力も補正を受けて強化されており、念も不完全ながら使えるのだから。

なので悠里は纏のおかげで多少は攻撃を食らっても問題ない、とある程度割り切り戦いの空気を掴むためあえて力は抑えてテクニック面で戦う試合を心がけていた。

ゴンのように力で押し出すのも悪くはないが、それだと同等かそれ以上の相手とやった時に全くの無策になってしまう。

ヒソカとの戦闘を経験した悠里は格上との戦いを非常に意識するようになっていたのだ。

 

ちなみにこの試合でのファイトマネーは3万ジェニーだった。

とりあえずホテル代は出たのでひと安心といえる。

 

それに50階でもう一度勝てばさらに5万ジェニーで合計8万ジェニーになる。

これだけあれば服などの生活必需品も買えるだろう。

 

達成可能な目標ができれば人は頑張れるものだ。

 

悠里は今日中にもう一試合組んでもらうため、足取り軽く受付に駆けていった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――― 

 

幸い悠里は50階でも楽に勝つことが出来た。

やはり念能力は「纏」だけでも防御力アップと体力増加などの効果がある。

 

それとウィングさんはゴンたちに「纏で攻撃力が上がるわけではない。」と言っていたが、悠里の場合は若干の攻撃力増加が見られる。

普通に考えればオーラを垂れ流しでいるよりは、うっすらとではあるが体表に纏っている「纏」の方が僅かにその分攻撃力も上がる。

あの言葉にはゴンやキルアを増長させない戒めの意味もあったのだろう。

 

(この調子で明日からは100階に行くまでノンストップでやっていこう。)

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そして順調に勝ち進んだ悠里は今日やっと100階クラスに昇格した。

100階クラスへ進むと個室とある程度の戦闘準備期間が用意される。

悠里はキチンと相手との打ち合いをし、割と長丁場の試合をするタイプなので戦闘準備期間も長い方だ。

 

それを最大限利用しながら修行を行い、悠里は「纏」を取得してから一週間、やっと「練」の修行に入ることが出来た。

これも試合の中で実際に「纏」を使い体にオーラというものを馴染ませてきた結果だ。

いきなり「練」ができたゴンやキルアはやはり普通ではない。

 

(それにしても俺の「練」の記録...1分30秒。)

 

G・Iの初期のゴンも3分程度だったのでそこまで落ち込む必要はないだろうが、やはりへこんでしまう。

「纏」の時から薄々気づいてはいたが悠里に特別な才能は無いらしい。

2週間で「纏」と「練」をマスターした悠里もそれなりに凄いのだが、比較対象があの二人だったので本人はその事に気づけないでいた。

 

ただそのことが幸いして悠里は念の基礎修行により一層力を入れるようになる。 

 

それから悠里は100階から150階を適当に行き来しつつ暫くは纏・練・絶の基礎修行をひたすら行っていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そして月日は流れ、漸く悠里は「練」が10分出来るようになっていた。

 

蟻編でビスケの助けが合ったとはいえ10日間で3時間練ができるまでオーラを増やしていたゴンとキルアはやはり普通ではない。

 

(それにしてもビスケか...。俺がお願いしても修行はつけてくれ無さそうだ。)

 

(なんせダイヤの原石じゃないからね。)

 

そう心中で諦めにも似た思いを吐き出し苦笑しながら、纏→絶→練の修行ルーチンを終える。

 

悠里は未だ180階にいる。

正直に言ってしまえばこの段階でも200階に上がるのは不可能ではない。

ただもし初戦で強い相手に当たってしまえば、ギド戦のゴンの二の舞になる可能性もある。

主人公補生のない悠里ではそれで再起不能、下手すれば死もあり得る。

 

現に150階くらいの相手はかなり良い修行の練習台になっていた。

「弱くはないが、決して悠里が負けることは無い相手」というのは中々役に立つ。

特に「流」の修行にはもってこいだった。

部屋でいくら攻防力移動の訓練をしても、実戦での感覚がつかめなければ意味がない。

相手の動きを読みながらの流は、オーラの移動以外にも意識を集中しなければならないので難しいが、いずれは戦いの中で自然と行わなければならないので初めから難易度を上げておいても損はないはずだ。

 

悠里は「賢い臆病さ」を発揮しながら慎重に修行に臨んでいった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そして実に1年半もの時間が経った。

悠里がこの世界に来てからもう大分時間が経っていた。

 

悠里はこの期間弛まず基礎修行を続けた事により、“練“を約3時間は維持できるようになっていた。

他の応用技も一通りはこなしている。

ほぼ毎日戦いながらの訓練だったので、体に馴染むのも早かった。

 

そして今日はとうとう水見式を行う日。

 

少し遅いのではないかと思うかもしれないが、基礎修行中は余計な事を考えたくなかったし、各応用技の修行時にも自分の系統を知った事による妥協が生まれかねないと思ったので悠里はあえてやらないでいた。

「周」が苦手で「流」などは得意なので恐らく強化系から離れた具現化系あたりだろうとは内心で何となくわかってはいるが、やはり強化系であってほしいとは思っていた。

 

悠里は早速コップに水を汲んで葉を浮かべた。

 

「“練“!」

 

オーラを込めてコップに手をかざせば、もの凄い勢いで葉が揺れ始めた。

 

「凄く葉っぱが揺れているけど、これは強化系の水位上昇に伴い揺れているだけだ。」

 

うんうん、と大げさに首を振りながら独り言ちて一人納得する。

明らかに操作系であるのだが悠里は現実を受け入れられないでいた。

しかしさりげなく目線は斜め下へ。

 

何度見てもすごい勢いで葉っぱが揺れていた。

 

「諦めよう、操作系だ...。」

 

これは悠里が一番なりたくなかった系統である。

なぜなら悠里はインファイター、強化系の習得率が60%というのはかなり厳しい。

その点に関しては”発”で補うしかないのだろうが、操作系の能力に対する明確なビジョンなどある訳がなかった。

 

操作系の難しい所は、一重に「操作」といってもまず「何を操作するか」だろう。

 

相手の肉体・自分の肉体、どちらを操作するにしても、根っからのインファイターである悠里にはシャルナークのような戦い方は合わない。

故に自分の接近戦をいかに有利に展開できるか―「強化が苦手」という操作系の短所を如何に補えるか―に焦点を絞って考えるしかないだろう。

 

悠里が最初に思い付いたのはFate/Zeroの切嗣の固有時制制御だった。

しかし確かに使い勝手は良さそうだが、まず何を操作すれば良いのか分からないし、どういった制約や誓約をつければいいのかも分からない。

自分が仕組みを理解していなければ念能力は発現しない、これでは駄目なのだ。

 

それに極論スピードが早くなった所で同格以上の強化系が相手ではダメージを与えられないだろうし、強化にまわせるオーラが少なく相手との顕在オーラ量で差が出来てしまうという欠点も補えていない。

 

「次だ。」と呟きながら悠里は必死に方を回転させる。

 

(ならば...相手を弱くする操作、つまり“相手のオーラの操作“。)

 

それにより相手を弱体化させ相対的に自分が強くなる。

これが可能ならば対念能力者ではハマればどのタイプにも対処可能だろうし、無能力者相手では簡単に死に追い込むことも出来る。

 

だがまたしてもどういう行程を経て相手のオーラを操作するかというところで非常に悩む。

しばらく考えこみ少し原作での念の修行シーンを思い返せば、精神とオーラの結びつきについて思いが至った。

 

そういえばビスケがキルアに本人の悪癖を説明する時に、能力者をA、B、C、Dと用意し、その時の精神状態や体調で強さは大きく変わると説明していた。

確か一番格上であるAも不調時には、二つ格下のCの最高頂時に負けるといったものだ。

 

つまり、敵の精神状態や体調を操作できれば結果的に相手のオーラを操ることにも繋がるということ。

 

(キルアは敵のMAXを想像し、勝手に勝てないという幻想を作り出していた。)

 

これを意図的に起こさせることができれば完璧。

悠里の中で大分ビジョンが固まってきていた。

 

(脳の扁桃体や前頭前野、人間の感情を司る部分を操作できれば完璧だ。)

 

(直接相手を操作する一撃必殺的なものではないので割と軽い条件で可能なはず。)

 

(次は発動条件・・・”俺のオーラに触れさせる”ここは単純にこれでいいだろう。触れたオーラが多ければ多いほど相手に与える影響も大きくする。)

 

(そうすれば自身のオーラの操作が得意な長所も生かせるし、相手にオーラを触れさせるために広く展開する必要が出てくので、オーラ消費を促すそれがそのまま制約にもなり得る。)

 

一度方向性が決まってしまえば頭からどんどん考えが浮かんで来る、転生前に漫画の世界にのめり込んでいた事がここで活かされていた。

 

後はどういう影響を相手の精神に与えるか・与えられるかだが、自由に相手の精神を操作できるような能力にしてしまってはメモリを大量に食い制約が厳しくなってしまう。

「これは追い追い犯罪者などを使い実験していく必要があるだろう」と心に留め置いた。

 

悠里はサラサラと紙に考えを書き出していく。

最初は悩んだが大枠が出来てくれば案外すらすらと思いつくものだ。

あとはそれを固めていく修行や実験だが、それにはある程度纏まった時間が必要である。

 

(それならとりあえずすぐに試合に登録して200階クラスに上がってしまおう。)

 

200階クラスは戦闘準備期間が90日もあるので、発の開発にはもってこいだからだ。

悠里は急ぎ足で試合登録をしに行った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

『ユーリ様・ルーン様!193階Aのリングまでおこしください!』

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

『ポイント11対0!ユーリ選手圧勝!やはり強い!これで晴れて200階クラスへ昇格です!』

 

結果は当然圧勝だった。

念能力者が一般人に負けることはありえない、少しオーラを込めて鳩尾を小突けばそれで終わりだ。

 

200階に登録しに行くために悠里は倒れた相手を尻目に早々にリングを後にした。

 

(そういえばあの200階の登録所のタレ目の物憂けなお姉さんとは会えるかな?)

 

詮無いことを考えながらも、この日悠里はとうとう200階クラスへ上がったのだった。



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第4話ーようこそ200階クラスへ♣ー

旧5話と6話の一部を纏めてみました。


「くっくっく♦ようこそ200階クラスへ。待ってたよ君が来るのを。」

 

エレベーターを降りて受付へ向かうと、 そこには悠里の一番会いたくない人物がいた。

もしや悠里のことを待ち伏せしていたのだろうか。

試合が終わってから先回りするために急いでエレベーターに乗り、200階に着いたら廊下に座り、それっぽい雰囲気を出しなら待機するヒソカ...その光景を想像してしまうととてもシュールである。

 

「随分と遅かったじゃないか♣僕の期待はずれだったかな...!」

 

悠里が色々と想像し引き気味で距離を取っていると、唐突にヒソカが腕を伸ばしながら禍々しいオーラを叩きつけてきた。

威圧感に思わず後ずさってしまう悠里だが、

 

(ビビるな、俺も今は「纏」を使えるし「練」も出来る。)

 

踏み留まりながら己を奮い立たせ、お返しとばかりにオーラを噴出し「練」をしながらヒソカを睨みつけた。

 

「へえ...見事な“練“だ♦確かに”纏”が使えるだけで粋がっているのは5流だね。今までは修行でもしてたのかい?」

 

「まあね、お前にこの力に目覚めさられてからは大変だったよ。それにしても前は聞いても全く教えてくれなかったのに、今日は随分とお喋りじゃないか。」

 

そう、以前に師匠のいない悠里はヒソカに念について聞きに行ったことがあった。

しかしその時は笑みを深くしてこちらを見てくるだけで、何も教えてもらうことは出来なかったのだ。

 

悠里が言い返せば、ヒソカは「ククッ」と笑いながらも満足そうな顔をして悠里を見やる。

上から下まで舐め回すように見た後、再び視線を戻した。

 

「あれはテストさ♠だからあそこで君が念を使いこなせなければそれまでだったけど、君は随分と優秀な青い...いや黒い果実だからね、今はつい応援したくなっちゃうんだ♥」

 

(黒い果実...?)

 

ニヤリと笑いながら意味のわからない事を言うヒソカ。

聞き返しても良かったが、その流れで試合でも組まされては修行計画に支障が出る。

そもそも「発」が未完成であったし、現時点の悠里ではヒソカとは渡り合うのは不可能だ、間違いなく何も出来ずに殺される。

 

「それは光栄なことだけど...まだ“必殺技“が未完成なんだ。だからこのクラスで戦うのは期限ギリギリの90日後近くになると思うよ。」

 

「それは残念だ♦まあ僕もまだ君と戦う気はしない...ヤるのはもっと君が熟してから...」

 

悠里がそうして先んじてヒソカを牽制すれば、どうやらヒソカも同じ思いであったらしい。

それから二、三言交わすとヒソカは早々に立ち去っていってしまった。

とりあえずの危機は脱したらしい。

 

だがヒソカとの戦いは回避しても、そこまで余裕が無い事実は変わらない。

原作開始まで後1年、それまでに「発」を形にして自在に使いこなすまで成長できなければ、この世界でハンターとして暮らすには厳しいだろう。

 

ゴン達主人公組がハンター試験に参加してからがこの世界の物語の始まりと捉えるならば、悠里もそれに合わせて自身を万全の状態にチューンナップしておかなければならない。

 

(それにしてm「ユーリ様ですね。あちらに受け付けがございますので、今日中に200階クラス参戦の登録を行ってください。今夜の0時をすぎますと登録不可能になりますのでご注意ください。ちなみに200階クラスには――」...)

 

少しボーっとしすぎていたようだ。

物思いに耽っていた悠里に受付嬢が声をかけてきた、ここでは原作と同じ説明がなされる。

あの物憂けな美人お姉さんじゃないのが残念だ、と密かに気落ちする悠里だが、聞きたいことがあったのを思い出し口を開いた。

 

「参戦登録は行いますが、試合登録はまだでお願いします。確か90日は猶予がありましたよね?」

 

どうやらそれは正しかったようで、受付嬢は笑顔で答えてくれる。

 

「はい、可能です。では参戦登録だけしておきますね。お部屋はこちらの2237号室をお使いください。」

 

そういって部屋の鍵を渡されたが、その鍵も100階クラスの民宿の鍵のような物から高級ホテルで見るような物に見た目が進化していた。

ゴン達が使っていた部屋もスイートルームのような部屋だったので、これは期待ができそうである。

 

そして部屋に行ってみれば、やはりというか用意された部屋は十分すぎるくらいに良い環境だった。

かなりの広さがあるので、ある程度は部屋の中でも修行が行えるだろう。

 

「では早速」、と悠里は以前から「発」について書き出していた紙を机の上に置いた。

その内容は、

 

一つ、狂気の蔓延(スプレッドインサニティ)―能力発動中に自分の“オーラに触れた相手に”負の感情を植え付ける。

 

一つ、狂気の視線(インセインゲイズ)―能力発動中に自分の“目を見た相手に”更に強い負の感情を植えつける。

 

一つ、狂気の接触(インセインコンタクト)―能力発動中に自分の“体が触れた相手に”最大限の負の感情を植え付ける。

 

思いついたのはざっとこの3つだった。

まだ漠然としてはいるが、大枠は出来上がっている

 

ただ、この能力を使うにあたってもう一つ課題が出来てしまった。

それは相手をオーラに触れさせるためには自分が近づく以外ではオーラを飛ばすか広げるかしかなく、高度なオーラ運用の技術が要求された。

 

理想的なイメージとしてはネフェルピトーの「円」。

オーラに触れているというのは自身の「円」の中でも可能なので、それが出来れば悠里の「発」がかなり使いやすくなるはずだ。

 

さらにそれと平行してオーラ量も増やさなければならない。

そのために悠里は今後の修行メニューを「発の修行→限界まで円を展開しそのオーラを動かす修行」というルーチンでやっていくことにやっていく事を決めた。

「練」を限界まで行うより「円」を限界でやった方がオーラを使い尽くすのは早いだろうし、時間短縮になる。

 

この1年はかなり精神と肉体を酷使することになるだろうが、悠里は止まれない。

自由と冒険を掴み取りたいからだ。

 

そして善は急げと、早速修業に入った。

 

まず相手に感情を植えつけるにしろ操作するにしろ明確なイメージがなければならない。

実際に感情や体調によって能力が上下する過程のサンプルを集める必要がある。

 

蟻編ではユピーとプフのオーラを吸収し覚醒したメルエムが、「“円“で触れた者の感情が読みとれるようになった」とウェルフィンに言っていた。

敵意についても「眼を凝らすだけで見える」などとバランスブレイカーの超絶チートと化していたが。

 

ただその理屈で行けば、ある程度の域にならば修行で到達できるという事だろうと悠里は思っていた。

ならば悠里もまず“円“で相手の感情を読み取り、自分のオーラにそれらを馴染ませる。

そうすれば逆に自分のオーラからそれを相手に植え付けることも可能なはずだ。

 

やるべきことは決まった。

 

「そうと決まれば“人体実験“が必要だな...」

 

思わず物騒な事をつぶやいてしまう悠里だが仕方がなかろう。

期間はあと一年、最も効率の良い方法を取るほかないのだ。

 

この街やその周辺にももちろん犯罪者や賞金首はいる、そういった連中を使い一刻も早く発を完成させなければ。

 

悠里は実験のために部屋を飛び出していった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ハァハァ...ゼェゼェ...」

 

「...」

 

人の居ない静かな路地裏に、二人分の足音と男の荒い息遣いがやたらと大きく響いている。

 

今悠里は一定の距離を保ちつつある男を追跡していた。

男の名前はローグ、C級の賞金首だった。

毎回ケチな窃盗しかしないが、目撃者を皆殺しにするのでタチが悪い。

塵も積もれば何とやら、今では立派な賞金首である。

 

一応念は使えるらしいが、先程の戦闘で「発」を使ってこなかったことから、覚えたてか、師匠のいない不完全な能力者だろうと悠里はあたりをつけていた。

 

その予想からある程度余裕があると見た悠里は円を展開しながらオーラを高濃度に練り上げローグに集中させた。

今使ったのは、ネフェルピトーの「円」の濃度を上げて、範囲を狭くしたようなものだ。

一部分を突出させて展開する事も出来る「円」の高度操作で、「練」と「円」の複合技のようなものである。

 

暫くそうしていると、確かに感じる「焦燥感」や「恐怖」。

 

(こいつは今死を恐れてる。)

 

度重なる修行によって悠里のオーラはローグの感情を正確に読み取っていた。

何せ修行の生贄はこの男で10人目になる、慣れたもので後は捕まえて少し拷問に掛けながらいつもと同じ作業をするだけだ。

 

そのおかげで狂気の蔓延(スプレッドインサニティ)に至っては完璧に使いこなせていた。

 

そろそろ捕まえて能力を試さねばと、手始めに狂気の蔓延(スプレッドインサニティ)を発動させた。

 

悠里の体から相手に伸ばされていたオーラの質が激変する。

 

狂気の蔓延(スプレッドインサニティ)!)

 

「うっ...!?」

 

能力を発動するとローグは急に立ち止まり小刻みに震えながら、顔から脂汗を噴出させた。

威力の上がった今の悠里の発ではこのレベルの使い手ではオーラを練る事どころか、まともに体を動かす事も出来なくなるようだ。

 

悠里は大きく頷き自分の能力に感心しながら、前に回り込み狂気の視線(インセインゲイズ)を発動させた。

 

悠里と目が合った瞬間、ローグはそのまま口から泡を吹き出し失神してしまう。

狂気の接触(インセインコンタクト)まで発動させれば相手の精神は完全に破壊されただろう。

 

やはりどの能力も相手に大きな影響を与えられるまでに成長している。

悠里は確実に強くなっていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「発」の修行を開始してからはや260日。

最初は試合をする予定の悠里であったが、修行に興が乗ってくると登録だけして試合には出なかった。

そのせいで2敗がついてしまったが、悠里の目標は天空闘技場でのし上がることではない。

しかし失格になるのも本意ではなく、出来るだけ長くこの良い環境で修行をしていたかったので、失格になるギリギリ10日前の今日に試合の登録に来ていたのだった。

 

「すいません、試合登録をお願いしたいんですが。」

 

悠里が尋ねれば、「希望日はありますか?」とにこやかな表情で聞き返してくる受付嬢。

それに答えようと口を開きかけるが、

 

「希望日は、...」

 

(・・・!)

 

ふいに嫌な気配を感じ、言葉を止め振り返った。

 

(アイツらは...?まさか新人狩りのギドとサダソにリールベルト?)

 

後ろに視線を向ければ、そこにはどこかで見た事がある三人組がいた。

特徴のある独楽型の義足に車椅子、間違いなくゴンとキルアに負けた新人狩りの3人組だろう。

正直悠里は新人ではなかったが、ずっと試合に出ていなかったので勘違いしているのかもしれない。

 

まさかの人物の登場に思わずこんな時期からいたのか、と呆れてしまう悠里。

確かに原作でのこの連中は既に7戦程度はしてたいし、単純計算でも二年前程前からいた事にはなる。

 

思わぬ原作の登場人物との邂逅だった。

ただいつまでも見つめ合っていては埒が開かない、先んじて悠里が問いかけた。

 

「そこで見てる3人組は何か用?」

 

悠里が声をかければ、下卑た表情を浮かべ白々しくも答えてくる。

 

「いや、俺たちも登録しようと思ってさ。」

 

原作と同じ流れだ。

間違いなく悠里と試合日を合わせようとしている。

悠里は一瞬だけ考えたが、そのまま登録することにした。

 

「そっか、じゃあ俺はいつでも良いです、ただなるべく早めに組んでください。」

 

考えてみれば念を覚えたての「発」を使えないゴンに「練」だけで押し切られていたような連中だ。

丁度良い練習相手だろう。

 

「承知しました。では明日の放送で発表されると思いますのでご確認ください。」

 

受付嬢にわかりました、と短くいって悠里は素早くその場から立ち去った。

長くいると実力がバレる可能性があったからだ。

 

部屋に戻ると悠里は200階に来るまでに稼いだファイトマネーの合計を確認―

戸籍を持たない悠里は銀行口座を作る事が出来ず、部屋の金庫に現金でそれを保存している―していた。

何故そんな事をしているかといえば、次の試合の相手が絶対に自分の勝てる相手だとわかったため、ギャンブルで全額自分に賭けるつもりだからだ。

200階クラスの選手は“名誉のみの戦い“といってファイトマネーが全く出ない。

なので仮に勝ち越していても、ただ試合をしているだけでは金は無くなる一方だ。

 

そんな所にあの雑魚三人組である、笑いが止まらない悠里。

ニヤつきながら巨額の利益を得る未来に思いを馳せ、ベッドに潜り込んだ。




今回出来た主人公の能力については「※主人公の人物像・能力まとめ(改訂済み)」に詳しく書いてあるので、良ければ見てみてください。

次回はギド戦です。


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※主人公の人物像・能力まとめ

【名前】

稲葉悠里

ユーリ=ビステム

 

【系統】

操作系

 

【人格】

表面上は明るく気安い冒険好きな少年に見えるが、内面にかなり危ういものを抱えている。

元々は人に優しく、他者と悲しみすら共有できる心根の真っ直ぐな少年だったが、10代の多感な時期に母親と自分だけの狭い世界しか与えられずに虐待に近い扱いを受けていたために歪んでしまった。

母が父を超えて「男」すら憎んでいたように、悠里は母を超えて「女」、更にそれすら超えて「人」そのものにある種の憎しみを抱くようになってしまった。

それ故「自分の自由や冒険のためには他人に何をしようが構わない。」というような危険な考えを持っており、念の修行で強くなったことで更にその身勝手な考えを助長してしまっている。

そして始末の悪いことに本人はその事に気がついていない。

 

【身体能力】

転生前に空手とムエタイを8年間やっている、一度学生チャンピオンにもなっており実力は高い。

筋力については天空闘技場に来た当初はゾルディック家の試しの門の一の門が開けられる程度だったが、今は念無しで2の門まで開けることができる。

動体視力に関してもそこそこ高いが、野生児のゴンには負ける。

 

【念能力】

操作系らしく、オーラの操作が得意で独自の「円」と「練」の複合技ーネフェルピトーの円の範囲を狭めて密度を濃くしたようなものーを使用できる。

転生前の環境の影響でオーラが負の感情と呼応するような性質を持っている。

しかし現段階ではその特性の全ては分かっていない。

 

【発】

狂気の蔓延(スプレッドインサニティ)―能力発動中に自分のオーラに触れた相手に、威圧感や悠里に対する恐怖の感情を植えつける。強制的に脳の前頭前野及び扁桃体に作用する能力なので、いくら心を強く持っていても抗うことはできない。

 直接多人数に使用した場合は相手間に伝染し相乗効果が加わり高い効果が得られる。

 

 制約―相手が自分のオーラに触れていなければならない。

 誓約―特になし。

 

狂気の視線(インセインゲイズ)―能力発動中(半強制的に自分は凝に近い状態になる)に悠里の目を見た相手に強い挫折感や自分への不信感を植えつける。強制的に脳の前頭前野及び扁桃体に作用する能力なので、いくら心を強く持っていても抗うことはできない。

 多人数に使用した場合は相手間に伝染し相乗効果が加わり高い効果が得られる。

 

 制約―自分は半強制的に凝の状態になる。

   ―予め狂気の蔓延(スプレッドインサニティ)を発動しておかなければならない。

 誓約―特になし。

 

狂気の接触(インセインコンタクト)―能力発動中に自分の体で触れた相手に死の恐怖を植えつける。強制的に脳の前頭前野及び扁桃体に作用する能力なのでいくら心を強く持っていても抗うことはできない。

 多人数に使用した場合は相手間に伝染し相乗効果が加わり高い効果が得られる。

 制約―相手に直接触れなければ発動しない。

   ―予め狂気の蔓延(スプレッドインサニティ)狂気の視線(インセインゲイズ)を発動しておかなければならない。

 誓約―特になし。

 

④???―???(第7話に若干の記載あり。)

 

【総評】

どちらかと言えば戦闘向けの能力、もちろん交渉事や駆け引きにも有効。

①~③の能力を上手く使えば相手の精神状態をドン底に突き落とし、能力者としての質を一段階も二段階も落とすことが可能(効力は③>②>①)。

 

それによりガチンコの対強化系での戦闘でも相手の強化にまわせるオーラを自分と同等かそれ以下に下げることが可能であり、正面切っての戦闘に弱いという操作系としての弱点が補われている。

場合によっては「流」を鈍らせたり、「発」の発動を妨げたりと様々な応用が可能。

そして何より「相手に対して常に精神的なアドバンテージが取れる」という大きなメリットがある。

 

ただ結局は相手の能力を下げているだけであり、自身の能力が上がっているわけではないのでそこには注意が必要。



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第5話ーVSギドー

今回はギド戦だけで短めです。


試合登録を済ませてから部屋に戻った悠里は、毎日欠かさず行っている修行のルーチンを行っていた。

それも今ようやく終わり、大きく息を吐きだしベッドに体を預けた。

 

気付けばそろそろ闘技場の公式放送の時間である、戦闘日を早めに設定したので当日の放送で発表されてもおかしくない。

ベッドに寝っ転がりながら、悠里はテレビの電源をつけた。

 

『戦闘日決定!215階闘技場にて10月2日午後3:00スタート!』

 

暫く経つと悠里の予想通り対戦相手が発表されていた。

なんと相手はギド。

今の悠里ならばゴンが戦った時のようにパネル剥がしなどの搦め手を使わなくとも、単純にオーラ量が違いすぎるので正面からの力押しで勝てる相手だ。

 

しかしそうできない理由があった。

 

(だけどなー、そうするとサダソとリールベルトが戦ってくれなさそうだ。)

 

そう、自分が勝てないと分かれば新人狩り専門の奴らは絶対に試合を挑んで来ない。

「ちょうど良いレベルの念能力者」を求めている悠里には、実力が分かっている彼らとの試合は中々に貴重だったのだ。

 

(仕方がない。”発”を弱めながら使って訓練もしつつ、ある程度接戦に見えるように奴らの戦い方に付き合ってやるか。)

 

悠里は貴重な機会を失わないように本来の実力を出さない事を決めた。

明らかに未だ戦ったことがない相手にも関わらずナチュラルに見下しているが、原作で実力を知ってしまっているのでそこは仕方がないだろう。

 

後は万が一にも当日に体調を崩したりしないよう、十分に休息をとるだけだ。

内に小さな闘志を燃やし試合に向けて準備を進めていく悠里だった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「はじめ!!」

 

『さあ!今日はなんと!二回連続不戦敗のユーリ選手が初めて試合に登場です!対するギド選手は既に5勝しているベテラン選手!今日はどういった戦いが繰り広げられるのでしょうか!?』

 

審判の開始の合図と共に実況がテンション高めに喋り出す、それに吊られるように観客もボルテージを上げていき今や会場の熱気は最高潮だった。

 

「ボウズ...初戦が俺で良かったな...俺は非力だから死ぬことはなかろう。」

 

そしてギドは開始の合図があった後もその場から動かず、ゴンと戦った時と同じような台詞を言いながら懐から取り出した独楽を構えている。

 

『でました!舞闘独楽!コマを自在に操り敵を攻撃するという、彼独自のスタイルです!』

 

奇しくも解説も原作同じような事を言っている。

こちらはもしかすると各選手毎に紹介文のテンプレのようなものがあるのかもしれない。

 

悠里は一度転生を挟んでデジャヴを感じるというレアな体験をしながらも、ギドの構えを見てオーラを弱めた。

前に決めた通りある程度はくらってやるつもりだからだ。

 

戦闘円舞曲(戦いのワルツ)!」

 

ギドが能力名を叫びながら杖のような物の上で複数の独楽にオーラを込めてリングに解き放った。

 

喧嘩独楽さながら互いにぶつかり合い独特の金属音を鳴らす舞闘独楽。

自分以外の「発」は初めて目にする悠里は興味深くそれを観察していた。

 

だが、特に「円」を展開するわけでもなくただ正面の独楽だけを見続けるのはかなりの悪手だ。

 

「ぐっ...!」

 

「クリーンヒットォー!」

 

悠里は背後からの攻撃に反応できず、衝撃に思わず呻き声をあげた。

そこまでのダメージは無いのだが、突然の事で声を上げてしまった事と仰け反ってしまった事で審判にクリーンヒットを宣言されてしまった。

 

(雑魚キャラ扱いされてはいたが舞闘独楽も最低まで出力を抑えた纏ではガードできないレベルの攻撃ではあるわけか、“弱くはない“な。)

 

ギドの実力を少しだけ上方修正する。

 

(だからもう油断はしない、俺は技術でお前の能力を破ってやる。)

 

悠里は内心でそう決めると「円」を使いながらひたすら回避に専念し始めた。

華麗に独楽を避け続ける悠里にギドはどんどん独楽を増やしていく。

 

しかしそれでも悠里に攻撃は当たらない、そしてとうとう持っていた独楽を全て撃ち尽くしたギドはどうする事も出来ずにリングに立ち尽くしていた。

 

(そろそろ良いか。)

 

涼しい表情で独楽を避け続ける悠里だったが、相手に手は出し切らせたので勝負を決めよう最後にギドに話しかけた。

 

「面白い能力だけど、もう見切ったよ。それに他に新しい武器もないみたいだし、後は無防備なお前を倒すだけだね。」

 

そして言い終わるや否やギドに向かって突進した。

 

独楽を避けながら体勢を低くして上を見上げれば、ギドが軽くニヤけている。

顔が隠れているので正確には分からないが、あのマスクのシワの寄り方から考えると恐らくニヤけているのだろう。

 

待ってましたと言わんばかりだ。

 

「やるな...しかし、俺への攻撃は無駄だ!」

 

やはりというかその場で回り始めるギド。

恐らくこれが原作でも見せた竜巻独楽だろう、間近で見るとそれなりに迫力がある。

この技は舞闘独楽と違って使い方次第ではそれなりに強い技だ。

 

しかし強い分かっていながらも悠里は一度威力を確かめる為にあえてそのまま突っ込んだ。

 

『出たー!ギド選手の攻防一体必殺奥義!竜巻独楽ァーー!カウンター気味にユーリ選手にヒット!』

 

「3ポイント!」 

 

『審判はクリーンヒットとダウンを宣言!これで4-0とギド選手優勢!』

 

今のを食らった事で一気に点差が開いてしまった。

審判が試合を早く終わらせるためにダウンまで取ったからだ。

 

原作でも審判が危険だと判断した試合はあえて早めにポイントを取らせるものもあるという事が書かれていた。

初戦であり傍目には防戦一方に見えていた悠里は審判に気を使われていたのだ。

 

このままではポイントで負けてしまう可能性が出てきた。

 

「くっくっく、この竜巻独楽をしながら相手への攻撃は独楽にまかせる、俺の黄金勝利パターンだ!」

 

悠里の複雑な心境を嘲笑うかのように、先程までの狼狽えっぷりは何処へやら、ギド独楽が全く当たらないことも棚に上げ急に饒舌になる。

ギドも悠里と同じ事に思い至ったのかもしれない。

 

こうなった以上は早く試合を決めなければならない。

悠里はもう一度ギドに向かって突っ込んでいった。

 

「何度来ても同じだ!散弾独楽哀歌(ショットガンブルース)!」

 

(まだ独楽を隠し持っていたのか?だけど無駄だ!)

 

ここですかさず悠里は狂気の蔓延(スプレッドインサニティ)狂気の視線(インセインゲイズ)を発動させた。

 

「なっ...!?」

 

ギドは驚きながら唐突に動きを止めた。

悠里の「発」の影響でオーラが乱れ散弾独楽哀歌(ショットガンブルース)の発動が出来なくなっていたのだが、本人は当然それに気付けない。

 

『おっとユーリ選手!またまたギド選手めがけて突撃だ!このままではまた竜巻独楽の餌食だが...どうするんだー!?』

 

「ぬ・・・くっ!」

 

上手くオーラを練る事ができずその場で回転し始めるギド。

発の発動が間に合わず竜巻き独楽でその身を守ることにしたようだ。

 

そんなギドの様子に悠里はご満悦だ。

 

(この少ないオーラで使っても相手の”発”の発動を妨げるほどの力・・・この“発“本当に気に入った。)

 

そして勢いをつけて拳を振りかぶり、ギドの足元に振り下ろした。

 

『な、なんとユーリ選手ギド選手の足元の床を破壊!それによりギド選手の回転が止まった!...すかさずパンチの連打!!そのまま...出た!バックスピンキック!ギド選手の顎に見事命中!』

 

「やれるか!?」

 

「...。」

 

悠里蹴りで思い切り吹き飛ばされたギドに慌てて審判が駆け寄ってくるが、その後大きく×の印を作る。

 

『なんと!なんと!ここに来てユーリ選手逆転!独楽の足場を破壊してしまうという見事な戦略勝ちです!!!』

 

『勝者!ユーリ選手!!!』

 

勝利宣言を聞き、悠里は軽く観客に手を振りながら上機嫌でリングを降りていく。

格下が相手とはいえ力押しはせず、キチンとした念の戦闘で勝てた。

それに自身の「発」に新たな可能性を見出すこともできた。今回の感覚を忘れず磨いていけば、格上に一撃を喰らわせることすら出来るものになるだろう。

 

悠里は今日の試合に大変満足しまがら部屋へと帰っていった:




次で原作前の修行パートは最後です。


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第6話ー旅は道連れハンター試験へー

先週末までに修正版を全てあげるといっていましたが、予想外に色々と立て込んでしまい投稿できませんでした、申し訳ありません。
なるべく早く投稿できるように頑張ります。



ザバァッ、という大きな音と共に川から水しぶきが上がる。

悠里はそれを手で防ぎながら、今日の修行を終えた事に一息ついた。

 

表情には余裕があり、あたかも何事も無かったかのような態度で寛いではいるが、先程まで賞金首の女を追い回して能力の実験台にしていたところだ。

そこで繰り広げられていた光景は悲惨なもので、女は悠里の能力を何度も浴びせられ、最後には糞尿を垂れ流しながら完全に廃人と化していた。

悠里はかれこれ「発」を開発してからというもの、これで合計で50人近くの賞金首を実験台に使っている。

そのおかげで威力は大幅に上がり、上位の念能力者との戦闘でも有効な手段となり得るものへ成長してきていた。

 

ただ、それと同時に一つ不可解な事が悠里の身に起きていた。

 

悠里は賞金首で実験を繰り返す中、何度か意識を失う事があったのだ。

しかしそれだけならばあり得ない事ではない、不可解というのは別の理由がある。

悠里が意識を失った時には毎回実験台にしていた賞金首が殺され遺体がバラバラにされていたからだ。

初めは何者かの仕業だと疑った悠里だったが、それが二度三度続けば誰がそれを行っていたかは明白だ。

 

悠里は無意識の内にバラバラ殺人を起こしていた。

 

勿論その間の事は全く記憶には無かったが、その後に何度も起きる内に自然と共通点が見えてきた。

悠里が意識を失う直前、必ずと言っていいほど胸のあたりが疼いていたのだ。

疼きと共にドス黒く力強いオーラが体の内側から溢れ出し、それに身を任せれば悠里の能力を際限なく高め全能感が身を包んだ。

そして気がつくと、賞金首の死体が転がっている。

 

以前にはそのような事は起きなかったので、修行により能力が強まった事に原因がある可能性は高い。

それに元々悠里のオーラは何故か負の感情に呼応する性質を持っていたので、それとも関係があるかもしれない。

 

そしてその禍々しいオーラは悠里の内面をも変化させていた。

今まではいくら相手が賞金首といえど、きちんと埋葬して手も合わせていた。

そこまで信仰に厚いというわけではないが、自分なりの秩序というものがあったのだ。

しかし段々とそれは行わなくなっていった。

何時しか埋め方は適当になり、何時しか手も合わせなくなり、何時しか死体はそこら辺に捨てるようになった。

 

悠里自身にも自分が以前と変わった自覚はあったが、それが自身のオーラによるものなのか、それとも元々持っていた気質が法治国家である日本を離れて徐々に解き放たれていったからなのかは分からなかった。

ただ、原作で見た限りだが殺しを生業にしているゾルディックという人間もいるくらいだ。

転生前でも一々蚊を潰すのに躊躇したりしなかった、この世界で人命の重さがその程度ならむしろそれに順応しているのは良い変化だとも言える。

 

この世界では別にそこまで特殊なことではないのかもしれないと結局は結論づけていた。

 

ただ一応はそれを自覚した悠里は修行で能力を限界まで行使する事を止めた。

なので、そうした意味でも今の悠里には若干の余裕があった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

悠里はギトと戦った後しばらくの準備期間を経て、リールベルト、サダソとも戦っていた。

流れ作業のように一瞬で試合を片付けられると思っていた悠里だったがそこで思わぬ誤算が起きた。

なんとあのサダソが思いのほか念能力者としてのレベルが高かったのである。

リールベルトに関しては「爆発的推進力(オ-ラバースト)!」などと悠長にリングを走り回っている隙にゴンの真似事で石版を投げ飛ばして余裕で倒せたのだが、サダソはあの“見えない左手“で最後まで諦めずに応戦してきた。

 

原作では雑魚三人組のように描かれていたが、サダソは他の二人に比べれば「発」が自身の系統とも合っており、頭一つ抜きん出ている印象を受けた。

「発」の“見えない左手“も考え抜かれており、質量を持たせ物理攻撃としても使えるぐらいにオーラが凝縮されている。

捕まえた敵を侵食するような能力も付与されており、正面から対抗するには無駄にオーラを消費させられる厄介極まりない能力だった。

オーラの総量の違いで圧倒し「発」の力技でねじ伏せたが、もしもサダソが悠里と同じオーラ量、身体能力だとしたら苦戦していたのは間違いない。

 

原作ではキルアに怯えて闘技場を逃げ出しているが、あの頃のキルアの念のレベルを考えれば万全のコンディションで戦えばサダソの圧勝だったろうと思うほど、悠里はサダソを高く評価していた。

 

既に一人での修行は行き詰まりマンネリ化していた事もあり、悠里はサダソと顔を繋ごうとたまらず試合の後に話しかけた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

「やあサダソ、良い試合ができたね。」

 

「フンッ...アンタこそ実力を隠してたんだね。いきなりあんなオーラをを出してきたからビックリしちゃったよ。」

 

悠里が軽い調子で話しかければ、サダソは特に警戒する風でもなくサッパリとした表情で応対してきた、まるで試合後の武道家同士のようだ。

「新人狩り」などと呼ばれてはいるが、やはり念能力者同士の戦いでは高揚するものがあるのだろうか。

 

「まあ、君の能力が強かったからね。それにしてもこれ程戦えるのに何であの雑魚二人とつるんでるんだ?」

 

そう、悠里の評価ではサダソはあの中では圧倒的に強い。

200階クラスの平均レベルを考えれば十分に勝ち上がれるほどだ。

故になぜ新人狩りなどをしているのかが分からない。

 

「別につるんでる訳じゃない...このクラスで“洗礼“を受けてから俺は戦うのが怖くなったんだ。それで割と自信のある能力が作れたのに試合が怖くてね、その時にアイツらが“新人狩り“を教えてくれたのさ。」

 

何となく「心外だ」と言わんばかりの雰囲気を出しながらサダソが答える。

それからは新人の情報とかを交換するだけのギブアンドテイクの関係さ、と奴らとの交流はキッパリと否定した。

 

「友達ってわけじゃないのか...じゃあ、あいつらとはもう手を切りなよ。それで俺と修行しないか?君のオーラの運用技術については感動した。」

 

「...。」

 

「サダソ?」

 

なぜか黙ってしまったサダソにもう一度悠里は問いかけた。

 

「...修行なんて久しぶりに聞いたよ、アンタとの戦いで少し昔の直向きさを思い出しちゃったね。」

 

少し間を空けてからサダソは感慨深そうに答えた。

 

それを聞いて悠里は言われてみれば、とある事に思い至る。

いくら洗礼を受けているとはいえ、念無しで地道に200階に到達できる時点で生半可な実力ではない。

ギドやリールベルト達も今でこそあんなではあるが200階未満は武器使用が禁止なので、キチンと修行をしてそこそこレベルの高い体術を身に着けていたはずだ。

そう考えると200階クラスの“洗礼“とは何とも悲しいものである。

 

そうして悠里は一瞬感傷的になるが、次の瞬間には逆に「これがこの世界の標準なのだろう。」と前に自問した命の軽さについて再び納得していた。

ただ、せめてサダソだけでも潰されたその才能にもう一度命を吹き込んでみたいとも考えていた。

善意というよりはむしろ自身の修行のためという理由と探究心の方が強いが、それでもその思いに嘘はなかった。

 

「サダソは絶対強くなれる、もう一度俺と一緒に真面目に修行してみないか?」

 

「......わかった、試しに少しだけやってみるよ。それにあんたの本当の強さも気になるしね。」

 

「なら、明日俺の部屋に来てくれ。そこで色々話そう!」

 

その返答に悠里は喜び、テンション高めにサダソに答えた。

そしてある程度話が纏まったことで会話も終わり、互いに部屋に帰っていった。

多少の葛藤はあったものの、サダソも根は武人だったようだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そしてサダソとの修行初日。

 

「だからってこの森はどうなの?ユーリちゃん...?」

 

悠里達は悠里が普段修行に使っている森へと来ていた、悠里がこの世界で始めに目覚めた場所だ。

しかし初っ端だというのに先程からサダソは不満タラタラである。

 

「文句言うなよ、ここは広いし修行にもってこいなんだ。」

 

一方悠里はサダソを宥めながらも既に修行モードに入っていた。

 

「時間は有限だ、とりあえず”練”をやってみれくれ。」

 

悠里が指示すると不満そうにしながらも、ズズズ...とサダソがオーラを噴出させた。

 

(力強いオーラだ、やっぱりコイツは強くなる。)

 

「それ、何分くらい出来るんだ?」

 

「う~ん、10分ちょっとかな...こんな真面目に修行やったの久しぶりだし分かんないけど。」

 

「じゃあ、まずその“練“が一時間できるようになるまで特訓だな。オーラ量を増やさないと念の修行は始まらん。」

 

「あとそれに加えて俺は四大行の応用を教えるから、サダソはオーラの凝縮と質量をもたせるコツを教えてくれないか?」

 

そう、悠里がサダソを修行に誘った理由の大部分がこれだった。

これが出来れば悠里の”恐怖の蔓延(スプレッドインサニティー)”の威力が大きく上がる。

幸いハンター試験までは約半年ある、新たな技術ではあるが本気で取り組めば不可能ではないはずだ。

悠里が今後の修行計画について考えながら提案するが、サダソは衝撃的な事を言ってきた。

 

「俺がそれを教えるのは構わないけど、四大行ってそもそも何?」

 

(...は?)

 

あまり驚きに固まってしまう悠里、なんとサダソは念の四大行を知らなかったのだ。

確かにサダソは洗礼組なので元は師はいなかっただろう。

ただ、悠里はてっきりその後に誰かに師事したと思っていた。

 

とりあえず基本を知らなければ修行どころではない、悠里は念について一から説明し、応用技について全てやってみせた。

 

一通りそれが終われば初めは感心しながら頷いていたサダソだったが、何故か今はジト目で悠里を見て来ていた。

 

「にしてもさあ...それだけ出来るならさっさとフロアマスターになっちゃってよ。俺らが勝てなくなっちゃうだろ?」

 

サダソの言う事も最もだ、何せ悠里は修行のために必要以上に準備期間を引き延ばして200階クラスに居座っている。

一瞬返答ににつまり何か言葉を探す悠里だったが、ここで前に戦いが怖くなったとサダソが言っていたのを思い出した。

そう言っていた割に未だに闘士として登録している事をふと疑問に思ったのだ。

 

「そういえばお前、なんで200階で戦ってるんだ?」

 

「そりゃあ、フロアマスターになって名前売って、道場でも開いて、んでもって流派も作っちゃえばウハウハでしょ?」

 

帰ってきた回答はとても俗っぽかった。

ただ、金儲けが目的ならばもっと良い方法がある。

どうせならハンター試験にもサダソを誘ってしまおうか、と悠里は思い立った。

 

「ならもっと効率よく儲けられて、有名になれる方法があるよ。」

 

「なにそれ?」

 

「ハンター。」

 

「...は?」

 

間抜け面をしているサダソに悠里は再度告げる。

 

「だからハンター。」

 

「ユーリちゃん冗談キツイよ~、ハンターなんて簡単になれるものじゃないだろ?」

 

一般論としては確かにそうだ、だが悠里達には「念」がある。

 

「そうでもない。今年の試験会場までの道のりならツテがあるし、サダソは念が使えるから試験自体は軽く受かるだろうね。」

 

「...本当に?」

 

「ああ、ちなみに俺も今年のハンター試験受けるよ。」

 

「...合格者ってどれくらい出るの?」

 

(お...サダソのやつ少し乗ってきたか?)

 

「それは一概には言えない。ただ参加者は毎回何百人といるけど念が使えるのは居ても1、2人。だからある程度の念能力者なら合格自体は問題無い。」

 

「なら俺も受けようかな...?ユーリちゃんのツテって確かなの?」

 

「ああ、そこは信頼してくれ。」

 

サダソも一緒に来る事が決まり、仲間が出来て内心喜んだ悠里。

それからは修行の内容もとんとん拍子で決まっていった。

 

しかし気になる点が一つ。

 

(にしても、今更だがちゃん付けか・・・)

 

実は悠里とサダソが会うのは今日でまだ2回目、些か距離感が近すぎる気がしないでもない。

ただ確かにサダソはギドの事も”ギドっち”と呼んでいたし、そういったあだ名をつけるのが好きなのかもしれない。

原作でもそうなのだから本当に今更なのだろう、悠里は半分諦めてサダソの「ちゃん」づけを受け入れた。

 

それからというもの悠里はオーラの凝縮と質量をもたせるようにする特訓を、サダソは“練“の持続訓練と悠里に見せられた四大行とその応用をそれぞれ特訓した。

 

悠里の特訓内容だが、サダソに聞いてみたところオーラに質量を持たせること自体は普通に変化系の延長で“発“ではないらしい。

少し懐疑的だった悠里だが、「別に放出系じゃなくてもある程度の念弾は誰でも撃てるでしょ?」と言われて納得した。

 

そしてそれに並行して肉体強化。

これに関しては筋トレや走り込みなど、悠里が毎朝やっているメニューにそのままサダソを参加させた。

そのため2人は毎日同じ時間に起きて顔を合わせるようになり、気の置けない仲になっていくのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

悠里は夢を見ていた。

それが何故夢だと分かるかといえば、視界に写っているのが自身の体だからだ。

その体は何故か心臓のあたりが黒く光っている。

不思議に思い近づいて触れようとしてみるが、指が触れた瞬間黒い光が体を包み、遂には黒い炎が全身から上がった。

 

呆然としながら燃え続ける自身の体を見つめる悠里だったが、そこに近づいてくる人物がいた。

サダソだ。

それに気づいたのか、今まで微動だにしなかった体が唐突にサダソに向き直り、手を伸ばした。

 

そして次の瞬間、黒い炎がサダソの全身をも包み込んだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「...おーい?」

 

「おーいユーリちゃん、準備できた?」

 

自分を呼びかける大声により悠里は目覚めた。

先程まで何か夢を見ていたような気がするが、生憎内容については忘れていた。

 

今日は1999年1月7日、悠里達の受ける第287期ハンター試験の開始日だ。

 

悠里とサダソは試合をしてから半年間、休む事なく修行し続けた。

そのおかげでサダソも“練“を一時間は維持できるようになっていたし、一通り応用技も身につけている。

ただどうしても“円“と“流“が苦手らしく、オーラを操れる操作系が羨ましい、と悠里に良く零していた。

ただ悠里からすれば強化系も80%習得でき、色々と汎用性の高い能力を使える変化系の方がよっぽど羨ましかったが。

 

旅の準備は昨日の内に全て済ませていたので万全だ。

ベッドから這い出てサダソを部屋へ招き入れ、悠里は素早く顔を洗い始めた。

歯を磨きながら、一応、とサダソにも詳細を伝えておく。

 

「ああ、ちなみに試験の開始場所は“ザバン市ツバシ町のめし処ごはん“って所だから。」

 

「ちなみに合言葉はステーキ定食を”弱火でじっくり”ね。」

 

それに対してサダソは微妙に冷ややかな目だ。

 

「...ま、良く分かんないけど案内よろしくね。」

 

そんな全く信じていなさそうなサダソの微妙な反応を皮切りに、悠里達のハンター試験はスタートした。

 

(俺は嘘ついてないのに...)

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

それから飛行船で数時間、2人はザバン市に到着した。

原作で知っている悠里は迷いなくサダソの前を歩いている。

暫く歩けば古びた食堂の前で立ち止まり、何度か看板を確認しながら中へ入っていった。

 

「いらっしぇーい!ご注文は?」

 

「おじさん、ステーキ定食ちょうだい。」

 

「・・・焼き方は?」

 

「弱火でじっくり!」

 

「お客さん!奥の部屋へどうぞ!」

 

合言葉を言えば奥に通され、原作で出てきたセリフを言えた事に感動しながら席に座れば、部屋全体が動き出し真下へ降り始めた。

部屋まるごとをエレベーターにするとはハンター協会も考えたものである。

 

「実はさ、この試験会場につくまでだけでも1万人に1人の倍率なんだよ。」

 

「ユーリちゃんすごいじゃん、でもどうやって調べたの?」

 

まさか原作知識と言うわけにはいくまい。

 

「ま、知り合いの情報屋にね・・・」

 

「へ~情報屋を活用してるなんて、なんだか本当のハンターっぽいね。」

 

「だろ?」

 

暫く会話をして過ごしていれば、チンッという音と共にエレベーターが止まり扉が開いた。

 

「じゃ、いくか。」

 

「だね。」

 

悠里達のハンター試験が始まった




次回からハンター試験編です。


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