DragonballVivid (blacktea)
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プロローグ1

はじめまして、以前はにじファンに投稿してた作品の加筆修正が完了しましたので投稿させていたいただきます!


――――悪の魔人ブウを倒してから月日は流れて三年後。地球は穏やかな平和を保ち続け、今日も何変わらぬ平和に包まれた穏やかな朝を迎えていた。

何一つ変わらない風景、何一つ変わらない澄み切った空気、太陽が昇り大地を照らす毎日、全てが綺麗に保たれてこの世界の歯車は動いている。

だがその太陽の光を遮る森の中のほんの些細な出来事、少年らしい声が森の中で響き合って軽快な足音が何度も何度も地面を踏み出す。

 

 

「おーい!見つかったか悟天!!」

 

「うーうん。全然見つからないよ~~。」

 

 

何かを捜し求めるように少年は森奥深くまで足を踏み入れて探し続けていた、目当ての物は一向に見つからずその一連の流れを続けて数時間。それでも彼等は見つけることができず。

 

 

「おっかしいなあ。ドラゴンレーダーだとこの辺にある筈なんだけどな~。」

 

 

薄紫色の髪を持つ少年の片手には丸い機械、不服そうにその機械を見ながら再確認。ポップな音が軽快に繰り返す様を見る限り彼等が求めている物は確実にこの近辺にあるのだった。

そしてもう一人、ドラゴンレーダーを持つ少年と然程歳の変わらない黒髪の少年はあちこちと動き回ってひたすらにそれを探す、そして突然少年は足を止める。目をキラキラと輝かせて――。

 

 

「ドラゴンボール、ドラゴンボールっと……あっ!あったーーーっ!!ドラゴンボールを見つけたよトランクスくん!!」

 

 

―――オレンジ色に輝く丸い宝石が地面にポツンと転がっていた、それを真っ先に見つけた黒髪の少年はすぐに両手で抱えてトランクスの元へと駆け寄っていく。

 

 

「よくやった!これで7つ全部そろ……ん?悟天、お前の足元光ってないか?」

 

「え? あ、ホントだ。なんか赤い石みたいなのが埋め込まれているね。」

 

 

ドラゴンレーダーを持つ少年は黒髪の少年の足元から淡い光が帯びている事に気づき指摘する。

指摘された少年がしゃがみ込んで確認すると其処には真紅の宝石が埋め込まれていた、少年に掘り起こされた事で宝石が姿を見せ淡い光を発していたのだ。

 

 

「赤い石? ま、いいや。早くドラゴンボールを並べようぜ。」

 

「わかったー。」

 

 

しかし彼等の目的は別にあり、トランクスと呼ばれる少年の手には更に同じような丸い玉が複数個、胸をドキドキと高鳴らせながら順番通りに丸い玉を並べていき最後に悟天が持っていた丸い玉をそこに置く。

 

 

「いいか悟天。この事はぜーったいに誰にも言うなよ? もしママ達にバレたらこっぴどく叱られちゃうからな。」

 

「うん!ボク誰にも言わないよ。」

 

「よし、じゃあ始めるぞ。―――いでよ、シェンローン!」

 

 

宝玉に対してまるで呪文の言葉を投げかけるようにトランクスは叫ぶように丸い玉に対して口にした。そしてそれに共鳴反応するように眩い光を次々と発する宝玉――。

太陽で照り輝く青空は一気に灰色の雲に覆われ暗闇が広がる夜空へ、異常気象というレベルを超えた現象が目の前で繰り広げられる中、少年達は無邪気に頬を緩ませながら輝くような視線を空に向けていた。

 

 

「―――…さあ、願いを言うがいい。どんな願いでも3つだけ叶えてやろう。」

 

 

大空に出現したのは巨大な竜、シェンロン――彼は少年達を見下ろしてはその一言を言い放ち願いを待つ。トランクスと悟天は成功した!とばかりにお互い顔を見合わせて子供らしい無邪気な笑顔で宣言する。

 

 

「オレと悟天を魔法の存在する世界に連れてってください!」

 

「承知した…。」

 

「やったー!これで本で見た魔法の世界に行けるぞーっ!!」

 

「ボク魔法を覚えたらたくさんお菓子を出して食べちゃうもんねー。」

 

 

夢物語のような会話を繰り広げている間に彼等は突然その場から姿を消していた。何一つ音も立てずに、まるで彼等がその場にいた事実が消されているかのように。

 

 

「願いを叶えたぞ。さあ、次の願いを……あれ?」

 

 

一人取り残された竜は困り果てたようにその場を佇む、本来なら三つ願いを叶える必要があるのだが別世界に飛ばされた時点で残り二つは無くなったも同然。

こうして、トランクスと悟天は夢にまで見た魔法世界へとドラゴンボールの力によって飛び立つことになるのであった――――。



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プロローグ2

これでプロローグは終了です


「やっぱ神龍だったか。いきなり夜になったからオラおどれえたぞ~。」

 

 

二人が消失したその場にもう一人の人影が現れる、突風を撒き散らして宙から降り立ちやってきたのは四方八方に伸びた黒髪に山吹色の道着を着込んだ男。

目の前の巨大な竜を見上げれば少々驚いた様子で周辺へと視線を向ける、当然其処には誰一人として人影も何もない。彼は改めて問いかける。

 

 

「なあ、悟天とトランクス見なかったか?さっきまでこっちから二人の気を感じたんだ。」

 

「…孫悟天とトランクスは一つ目の願いで魔法の世界に向かった。」

 

 

―――魔法の世界?拍子抜けた声が思わず漏れ出る、首を軽く捻っては魔法の世界がどういうことなのか、思考。

だが、彼にはその魔法の世界についての知識はまったく無いせいかすぐに思考は中断する。

 

 

「魔法の世界か……よくわかんねえけど、二人はその世界にいるんだな。」

 

 

目を真ん丸くキョトンとした表情を見せながら男は一先ずそれで納得することにした。後に逆立った黒髪を持つ男と全身緑色の男、更にはまた四方八方に伸びた男と似た顔の男が空中から降り立つ。

 

 

「ち…あのバカ息子め。まったく成長しとらんな…。」

 

「ああ、悟飯の頃とは大違いだ。神龍をくだらんことに使いおって。」

 

 

荒々しい口調で吐き捨てる男、それに同意する緑の男。山吹色の道着の男から神龍から聞いた話を聞くと呆れ返った表情を見せる、道着の男に似た顔の男は状況を理解すると暫く思考してから顔を上げた。

 

 

「お父さん。とりあえず、次の願いで二人をこの場に呼び戻すというのは……。」

 

「そうだな。神龍! 悟天とトランクスを此処に呼び戻してくれ。」

 

「…それは不可能だ。魔法の世界は無数に存在する故にどの世界に向かったのかはわたしにもわからない。そして次元を超えた先はわたしの力を遥かに超えている為、干渉できないのだ。」

 

「いいっ!? そうなんか。まいったな~、このまま悟天が帰ってこなかったらオラ、チチにメシ抜きにされちまうぞ。」

 

「そういう問題じゃないですよ…。」

 

「お前はメシのことしか頭にないのか。」

 

 

食事を抜きにされたときのショックさは計り知れない、勿論悟天達のことも心配してはいるが悟空にとっては食事が抜きにされることもそれに並ぶほどの恐怖らしい。

 

 

「面倒をかけさせやがって…オレが直接連れ戻してきてやる。」

 

「ま、待ってください! 神龍はその魔法の世界が無数にあると言ってます。だからベジータさんが悟天達のいる世界に行ける保証はありませんよ。」

 

「それに、仮にその世界に行けたとしてどうやって戻ってくるつもりだ?」

 

 

打つ手なしと言わんばかりの反論、どれも間違った論ではないせいでそれに対しての否定もできずに彼等は途方にくれてしまう。

 

 

「しょうがねえ、一回戻って考えるか。みんなで考えればなにか方法が見つかるかもしんねえし。」

 

「そうですね。では、ボクはクリリンさん達を呼んできます。」

 

「ふん…。」

 

「なら、オレは神殿に戻る。デンデならなにか知ってるかもしれんからな。」

 

 

それぞれの方向性を決めた男達はその場から姿を消す、一刻も早く魔法の世界へ飛ばされた少年達を見つけ出して連れ戻さなければならないのだ。

 

 

「あの~……願いは?」

 

 

―――蚊帳の外にいた神龍はまたまた取り残されてしまっていた。



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異世界来訪編
第1話 やんちゃコンビ、魔法世界に降り立つ


視界に飛び込んできた世界は魔法の世界――辺り一面、暗闇で包まれた紺色の空が広がる市街地の上空に彼等はいた。

 

 

「うわっ!? トランクスくん!真っ暗だよ。」

 

「たぶん夜だからじゃないのか? ほら、月が見えるし。」

 

 

目線の先には輝かしく闇を照らす満月…どうにも周辺は地球とまったく変わりのない世界だ。

 

 

「それより、魔法の城を探そうぜ。そこに行けば魔女が魔法を教えてくれるはずだ!」

 

「うん! …あれ?」

 

 

足は疎かに地面に足がついていないせいで奇妙な浮遊感、全身からくる落下の感覚が襲っていた。だが少年達は空中から地面へと落下している事は大した問題ではない。

問題は―――。

 

 

「どうしたんだ悟天…?」

 

「トランクスくん、舞空術が使えないよ。」

 

 

舞空術とは自身の気を使う事で空中を自由自在に飛び回る事ができる技。到底、一般人には使いこなす事などできないが一般人ではないこの少年達は習得していた。

 

 

「はぁ? なに言ってるんだよ。気をコントロールすれば……あれ? 上手くコンロールできない…!」

 

「ボクも…それにカラダの中の気が減ってる。」

 

 

悟天とトランクスは自身の気をコントロールしようと空中から落下する間に軽く集中して飛ぶように心がけてみる――だが上手くいかない。

というより気が減っているような、奇妙な喪失感があるのだ。自分の中の気が自身が知っている範疇よりずっと小さく足りない。

 

 

「オレの気も減ってる…もしかしてこの世界に来たからなのか?」

 

「きっとそうだよ! 魔法の世界に来たから気が使えなくなったんだ。」

 

「…って事はこのままだとオレ達は……。」

 

「ボク達は……。」

 

 

「「――――うわあああああぁぁぁっ!!!!」」

 

 

 

舞空術を使う事ができない、となれば空中から地面への落下に抗う手段は何一つないということになる。直後に吹き荒れる激しい風に対しても何も抵抗できない。

よって悟天とトランクスはその強風によって小さな体はあらぬ方向へと放り投げられ、それぞれ別の方角に向かって吹き飛ばされてしまうのだった…。

 

 

 

 

 

「―――それで、クリスみんなに大人気!かわいいって!」

 

「ほんと?」

 

「それはよかったね。」

 

 

その頃、濡らした金色の髪を持った少女、ヴィヴィオは湯船の中で楽しそうに話していた。茶髪の女性なのはとヴィヴィオと同じ金色の髪を持つ女性フェイト、三人は風呂を堪能中だったのだが…。

 

 

「うわあああああぁぁぁーーー!!!」

 

「「「……?」」」

 

 

彼女達の会話を強制切断させるが如く、絶叫と共に落下音が木霊した。暫くの間、静寂が風呂を支配していたがそれを打ち破るような一言を少女は落とす。

 

 

「…ねえ、さっきの声なんだろう?」

 

「わからないけど…ちょっと気になるから、様子を見てくるね。」

 

「なのはママ、わたしも一緒に行く!」

 

「ヴィヴィオ、なのは、まって…!」

 

 

慌てて三人は部屋から出るとすぐに服に着替える。さすがに何も着ていない状態で外に出る訳にもいかない、衣服を着た状態ですぐに庭へ出て彼女達は目線を向けた。

其処には地面に傷跡を残した悟天の姿。それを目にした彼女達は互いの顔を見合わせて、戸惑いながらも静かに彼に近寄っていく…。

 

 

「君、大丈夫…!?」

 

「…どうやら気絶してるみたいだね。」

 

「ホントだ……男の子かな…。」

 

 

なのはとフェイトは起きる気配を感じさせない悟天の顔を覗き込むと、本人はグルグルと目を回して気絶していた。外見からして自分と同年代である事にヴィヴィオも余計に戸惑った表情を浮かべる。

 

 

「と、とにかくこの子を運ばなきゃ…!」

 

「そうだね、暫くベッドで寝かせてみようか…。」

 

「起きてくれるといいんだけど……。」

 

 

なのはは地面に倒れている悟天を抱きかかえて部屋に戻り、すぐに自室のベッドに寝かせ、そして近くで落ちていた重量のある荷物をフェイトは手にとってベッドで寝る悟天の隣に荷物を置く、ヴィヴィオは一連の様子を見守りながら不安そうにクリスを抱きしめていたのだった。

 

 

 

 

 

―――真夜中の公園。そこでは激しい攻防戦が繰り広げられ互いの拳をぶつけ防御してを繰り返していた。

 

 

「寝惚けた事抜かしてんじゃねェよッ!! 昔の王様なんざ皆死んでる!生き残りや末裔達だって普通に生きてんだ!!」

 

 

激しい砂煙を引き起こして強風をも巻き起こす、高速で発生する攻撃と防御を瞬間的に繰り返し続ける。赤髪の女性はただ怒りに溢れ、碧銀色の髪を持つ女性は冷たい視線を向けていた。

彼女達は暴風に逆らうように後方へと一気に飛んで距離を置く。それだけで周辺をかき乱す強風を発生させるほど彼女達が今起こしている戦闘はレベルが高い物なのだ。

 

 

「弱い王なら…この手でただ屠るまで。」

 

「この…バカったれがぁぁ!!」

 

 

怒りが頂点にまで湧き上がり、絶叫を上げるノーヴェ。強烈な爆風が天へと掲げられる中で発生したのは無数の光の道であった。重力に逆らうように空中の道を作り上げていく。

 

 

「ベルカの戦争も聖王戦争もッ!!」

 

「―――ッ!?」

 

 

碧銀色の髪を持つ女性は自身が魔力で形成されたリング状の拘束具によって身動きが取れない状態である事にようやく理解する、両足と片足を封じられ動きを封じられてしまう。

 

 

「ベルカって国そのものも!もうとっくに終わってんだよッ!!」

 

 

光の道を走行し更なる加速を持って勢いをつける女性、真上から責めてくる相手に焦りを隠しきれない碧銀色の髪の女性。

 

 

「リボルバー・スパイクッッ!!!」

 

「…終わってないんです。」

 

 

強烈な一撃、決して手加減されていない本気の蹴り。光の道を走行して更なる加速をつけパワーアップした手加減なしの蹴りを碧銀色の髪を持つ彼女の縛り損ねた片手で受け止められていた。

 

 

「私にとってはまだ何も…。」

 

 

空中から横切るように入れようとした蹴りを受け止めている間、体中は魔力で形成された鎖によって女性は縛れていた。

ノーヴェはようやく気がついたのだ、敵は防御を捨てて反撃の準備をしていたことに。動きを止める鎖は恐らく、次の攻撃を確実に当てるための準備。

 

「くっ、しまった…!」

 

「覇王…!」

 

 

紫色の瞳と青い瞳、オッドアイの目が赤髪の女性を捉える。短時間の間に練り上げた力が瞬間的に拳に収束され強大な破壊力が伴っていく。

拳を封じる拘束具を跡形もなく崩壊させ、気圧だけで圧倒させる魔力が拳に集中する…。

 

 

「断空け―――。」

 

「わああああああああぁぁぁぁ~~~~!!!」

 

 

ノーヴェが瞼を閉じた瞬間に響いた叫び声――まだ幼いその場に存在していない筈の少年の声が暗闇の中で響き渡る、意味不明と心底思うばかりのまま瞼をもう一度、女性は開けた。

 

 

「な……!!」

 

 

強烈な破壊力を込めた拳は何の間違いか、子供の腹へと激突して地面に全身を叩きつけ衝撃でバウンドを繰り返しながら一気に吹き飛ばされてしまう。

殺傷能力はないが幼い少年を気絶させるぐらいの威力は充分すぎるほどに持っている。寧ろ骨折などの重傷を引き起こしてしまうのではと思考を走らせる。

 

 

「お、おい…何が…!」

 

「いっててて…一体なにがおきたんだ…。」

 

「立った…!?」

 

「覇王断空拳をまともに受けた筈……。」

 

 

苦々しく苦痛の表情を浮かべた薄い紫色の髪を持つ少年は片手を脇腹に添えて痛みに耐えていた。女性の拳はバウンドにより攻撃力を抑えていたとしても破壊力は充分すぎるほどにある。

にも関わらず少年を気絶に追い込む事さえできなければ立ち上がらせる事を可能としてしまった事実。赤髪の女性は驚きのあまり言葉を失ってしまっていた。

 

その後、少年は痛みは治まったのか脇腹から片手を離して服についた汚れを反対の手で払っている。

 

 

「…………。」

 

「ちょっ、おい!まてよ!何する気だ!?」

 

 

緑が薄く混ざった銀色の髪は風によって揺れる、静かな歩みでトランクスの前にまで。彼を見下ろしながら凛とした声で言葉を発する。

 

 

「失礼ですが、あなたと私…どちらが強いか、試させていただきます。」

 

「…はぁ!?」

 

「……ヘ?」

 

 

ノーヴェを縛り上げる鎖が解かれた直後、彼女のオッドアイの瞳は真っ直ぐにトランクスを捉えていた。魔法の世界にやってきた二人に起きた予測不可能な事態、彼等の波乱はまだ始まったばかりであった。




悟空「オッス!オラ悟空!! どうやら二人とも無事に着いたみてえだな。けど、なんで舞空術が使えなくなったんだ?」

ベジータ「ふん…修業をサボるからだ。帰ってきたら徹底的にしごいてやる。」

悟飯「それにしても、トランクスに勝負を挑んできた女性は何者なんでしょうか…。」

ピッコロ「只者ではないだろうな…。」

悟空「次回DragonballVivid「激突! 覇王VSトランクス!」

トランクス「オレ、弱くなってる~~!!」


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第2話 激突! 覇王VSトランクス

威厳に溢れる碧銀の髪を持つ女性を前にしたトランクスは一体何がどうなっているのか理解できずにいた。

 

 

「えーと、お姉さん誰? 試すってどういうこと?」

 

「私はハイディ・E・S・カイザーアーツ正統…『覇王』と名乗らせていただいてます。

試すというのは、文字通り…私とあなたがどちらが強いか勝負をするという事になります。」

 

「覇王…? よくわからないけど、お姉さんと闘えばいいんだね。じゃあさ、オレが勝てたら魔法を教えてよ。オレ、魔法で世界一の遊園地を作りたいんだ!」

 

「…はぁ?こいつ何言ってるんだ。」

 

「………。」

 

 

支離滅裂な言動にノーヴェは首を傾げるが女性は無表情を貫いていた。

 

 

(……この人からは魔力が感じられない?)

 

 

あの拳を受けきって尚、立ち上がることもできればまともに喋る事もできる少年に驚きは隠しきれないが、女性にとってはこの少年に不可解な点が幾つも残っている。

魔力が感知できない点も勿論それも当てはまっているが…そもそも、目の前にいるこの少年は一体どこからやってきた?少なくとも渾身の一撃を受けて立ち上がる時点で只者ではないだろうが。

 

 

「…その前に、あなたには魔力自体がありませんので魔法を扱う事ができません。」

 

「くそ!逃げろ、ガキーっ!!」

 

 

今頃になってダメージが体に通用してきたのかノーヴェは上手く行動できない中で少年へと叫ぶ。だがその直後、軽やかなステップと共に強烈な拳を叩き込もうとする女性。

 

 

「えっ?魔力って……うわあぁっ!!」

 

 

呆気なく腹部に激突。そのまま勢いよく吹き飛ばされ地面へと全身を強打させてしまう――まったく状況を上手く理解していない為にトランクスは反応に遅れたようだ。

 

 

「いって~~…コラーーッ!いきなり攻撃するなんてズルいじゃないか!!」

 

「―――隙だらけですね。」

 

 

決して女性自身も万全の状態で戦っているわけではない。ノーヴェの攻撃を受け止めたとはいえ、多少の疲労は残っているのだ。

攻撃自体の威力もスピードも全て万全の状態ではないにしろ、油断してしまっているトランクスにとって充分に苦戦させられてしまう。

 

 

「また来るぞ!!」

 

「わあっ!?」

 

 

女性はトランクスに急接近した後――殴る、蹴るの高速連続攻撃が次々と雨のように降り注ぐ、だがそれでもトランクスは避け続けていた。

 

 

(そんな……掠りもしないなんて。)

 

 

いくら疲労が残っているとは言っても相手は子供、なのに一撃も当たらないどころか掠りもせず全て空振りで終わっている事に焦りさえ感じる。

 

 

「ねえ、本気でやってるの? 言っとくけど、そんな攻撃じゃオレには当たらないよ。」

 

「……っ!!」

 

 

その発言が挑発として通用してしまったのか、女性は次々と殴る蹴るをひたすら繰り替えし暴力の雨を降らし続ける。

以前よりも命中率と威力が増した凄まじい攻撃の数々。しかしそれでもトランクスに当たる事はなかった。

 

 

「はあぁっ!」

 

「よっ…と! たあっ!!」

 

 

トランクスは素早い連続攻撃を避け続け、最後に隙をついて足払いを仕掛けて相手の体制を一気に崩していく。そして刹那の浮遊感に襲われる相手に容赦なく蹴り上げを図る。

 

 

「ッぐ…!?」

 

「―――でやああああ…あ、あれ…?」

 

 

上空へと吹き飛ばされた女性は体制を立て直す事すら叶わず、正に隙だらけの状態。好機と思ったトランクスは最後の重い蹴りを食らわそうと高くジャンプするが―――蹴りは届かなかった。

勢いが途中で途切れ、不本意な喪失感が刹那に焼きつく。空中を支配し動いていた筈の少年の動きは急停止して気味の悪い浮遊感が全身から浴びせられる。

 

 

(マジかよ!? オレこんなに気が減ってたのか……。)

 

「何やってんだよあのガキ!?」

 

「………。」

 

 

何時ものような戦いを行おうとすれば必ず途中で詰まってしまうのだ。気の半滅は戦闘力が半滅したも同然、トランクスは自身が弱くなっている事を改めて思い知ると同時に形勢は一気に逆転してしまう。

 

 

「はあっ!!」

 

「うああああああぁぁぁっ!!?」

 

 

瞬時に上空にいる碧銀の髪を持つ女性から重圧な蹴りを食らって一気に地面へと急降下して激突する。コンクリートが破壊されるのではと思うほどの威力がトランクスの全身を襲う。

 

 

「…あなたは確かに強いですが、その油断がある限り私には勝てません。」

 

「っぐ…しまった! カラダが挟まって動けない…。」

 

 

全身が地面に衝突した際の衝撃によって埋もれてしまっておりトランクスは身体を動かせない、女性は勢いをつけて空中を急降下、拳に練り上げられた力を収束させていく。

 

 

「――――覇王・断空拳!!!」

 

 

怒涛の勢いで凄まじい破壊力が込められた拳が真っ直ぐにトランクスへと打ち下ろされる刹那、亀裂が入り込んだ地面から金色の粒子が煌き爆発を起こす。

 

 

 

 

「はあああぁぁっ!!!」

 

「な…!?」

 

 

拳は真っ直ぐに受け止められていた。女性の視界に入り込んでいたのは金色のオーラに身を包む少年の姿であり、髪の色も瞳の色も先程の物とは変貌していたのだ。

一瞬、誰なのかと見間違うほど外見が様変わりしてしまっており、女性自身も困惑の色を隠しきれない。ノーヴェ自身もトランクスの姿に冷や汗を額から流していた。

 

 

「だああぁーーっ!!」

 

「ぐうっ!!」

 

 

輝かしき金髪碧眼の姿を持った少年は倒れていた片手を重い拳として女性の腹へと叩き込む、その威力は信じられないほどの怪力が彼女を襲い体制を崩したのだ。

 

 

「あ…ぐ……。」

 

 

先程の攻撃はまったくもってトランクスには通用していない、女性は揺らぐ視界の中で金色のオーラに身を包んだ少年を見据えた後――地面に倒れた。

その後すぐに金色のオーラは消え去っていき薄紫色の髪と目つきの悪い青色の瞳へと姿が元通りになる。

 

 

「はぁ、はぁ……やっぱりオレ弱くなってるなあ。」

 

「あ、あれで弱いだぁ!?」

 

 

動けるようになったノーヴェは倒れた女性とトランクスに目を奪われていた、この女性の事や金色のオーラなど謎が深まるばかりなのだ。

暫くすると眩い光が女性を包み込んでいき、消失した頃には碧銀の髪をツインテールにさせた少女が地面に先程の女性のように倒れていた。

 

 

「ええっ!? お、女の子になっちゃ…った……」

 

「お、おい…!」

 

 

そしてトランクスもまた彼女と同じように体制が崩れそのまま地面へと倒れてしまう、何がなんだかわからないまま一人になってしまったノーヴェは重いため息しか出ず。

 

 

「一体どうなってんだよ…とりあえず、家に運ぶしかねーか…。」

 

 

二人の怪我と比べればノーヴェの怪我は軽症であり時間が経っている事もあってか少し和らいでいる。

倒れてしまった二人をこのまま放っておくわけにもいかなかったので家に連れて行くことにするのであった…。




悟空「オッス!オラ悟空!! なんとかトランクスは勝てたみてえだな。」

ベジータ「ち…あんなガキに手こずりやがって……。」

悟飯「そういえば、悟天はどうなったんだろう。」

ピッコロ「問題を起こさなければいいが。」

悟空「次回DragonballVivid「ミッドチルダへようこそ!魔法少女との出会い」」

悟天「え?兄ちゃんを知ってるの?」


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第3話 ミッドチルダへようこそ! 魔法少女との出会い

柔らかい物体にしがみついて生暖かい感触が伝わってくる、まだ眠気が残っているせいで状況が今一つわからない中、気持ちよさそうな表情を浮かべ静かに悟天は寝言を口にしていた。

 

 

「ん~~もう食べられないよ~。」

 

「……すー…。」

 

 

朝日の光を浴びた金色の髪は輝いており、悟天はその金色に輝く髪を持つ女性の膝をしがみつくように枕代わりにして寝ていたのだ。

―――唐突に「チリリリリッ!」と騒がしい音が木霊して一気に頭を目覚めさせるキッカケとなった。

 

 

「わっ! なんだなんだ…!!」

 

「もうこんな時間…? ふあぁ~……。」

 

 

悟天は飛び起きて音の正体に気がつくと冷静さを取り戻していく、どうやら目覚まし時計が一定の時間になったので音が鳴っただけらしい。

 

 

「……あれ? ここ何処…?」

 

「此処はなのはの家だよ……。」

 

 

金髪の髪を持った女性は自分の疑問に答えてくれたが――それでも完璧に冷静さを取り戻せるわけもなく、寧ろ余計に頭の中でパニックになっていく。

 

 

「わあっ!? お姉ちゃん誰…?」

 

「私はフェイト・T・ハラオウン…フェイトって呼んで。それで、君のお名前…聞かせてくれる?」

 

「ボクは……。」

 

「―――フェイトママ~~!朝ご飯できたよーー!!」

 

 

聞いた事もない少女の声が部屋にまでたどりつく、フェイトは「すぐ行くよー!」と返事を返して自己紹介は後回しにされてしまった。

 

 

「ごめんね、続きは朝ご飯食べ終わってからで…その時みんなのことも紹介するから。」

 

「うん!いいよー。」

 

 

特に気にする様子もなく明るい返答をする悟天に思わず優しげな笑みを露にするフェイト。成り行き上、朝ご飯を共に食べる事になって部屋から出ると二人で手を繋ぎながら階段を下りていく。

 

 

 

 

「おはよう!フェイトママ。」

 

「フェイトちゃん、おはよう。…それから、君もおはよう。」

 

「へ? お、おはよう…。」

 

「えっと、とりあえず話は朝ご飯を食べてからにしよっか…?」

 

 

他に言いたい事もあるがひとまず朝食を取るために全員、椅子に腰をかける、テーブルにはオムレツやサラダなどが並べられていた。

――数十分後にはなのは達は朝食を済ませてようやく本題に入る流れの筈だったのだが……。

 

 

「んぐんぐんぐ…おかわりーっ!!」

 

「ま、まだ食べるのー!?」

 

「ふぇ、フェイトちゃん…ご飯残ってる…?」

 

「ううん、もうあれで最後だよ…。」

 

「そうなの? だったらいいや。」

 

 

未だに食事が終わらなかった者が一名、図々しくも悟天は炊飯器の残りのご飯を全て一人で食べ尽くしてしまったのだ。

 

 

「そんなに食べても大丈夫なの…?」

 

「うん、大丈夫だよ。いつもはもっと食べてるから。」

 

「「………。」」

 

「あはは、そうなんだ。」

 

 

恐る恐る聞いたヴィヴィオの質問に明るい言葉を投げる悟天、その後に包み込んできた静寂に悟天は首を傾げながら周りを見渡していた。

 

 

「え、えーと、そろそろ君の事聞かせて貰えると嬉しいな。名前とか……。」

 

「わかった。ボクは孫悟天だよ。」

 

「(えっ、そん…ごてん……。)わたしは高町なのは、なのはでいいよ。よろしくね、悟天くん。」

 

「わたしは高町ヴィヴィオだよ。よろしくね、悟天くん!」

 

「私はさっき自己紹介したけど、フェイト・T・ハラオウン…改めて宜しくね?」

 

「よろしく!なのはさん、フェイトさん、ヴィヴィオちゃん。」

 

 

互いに明るい笑顔を浮かべて自己紹介を交わす。だが一人、なのは自身は怪奇な表情を浮かべて様子を眺めるように見据えていたのだ。

 

 

「それで悟天くんは一体どこからきたの? ミッドチルダに住んでるようには見えないけど……。」

 

「ミッドチルダ? 違うよ、ボクは地球から……あ、そうだ! ボク魔法を教わりにきたんだった!!」

 

「「「ええっ!?」」」

 

 

その言葉を聞いた悟天を除いた三人はそれぞれ異なる反応を示す、なのはは地球に反応してフェイトは魔法に、ヴィヴィオはミッドチルダ出身ではない事に。

悟天は椅子から降りると近くに置かれていた荷物に手を伸ばす。玩具やお菓子を取り出していくが最後に円盤のような機械が取り出された瞬間、なのはの目はその機械に注目する。

 

 

「これってもしかしてドラゴンレーダー!?」

 

「ドラゴンレーダー?」

 

「なのはは知ってるの?」

 

きょとん、とした表情で見守るヴィヴィオは機械を見て首を傾げており、フェイトもなのはが言い当てた事に呆気にとられている。

 

 

「ねえ、悟天くんは兄弟とかいたりする? もしいるのなら名前を教えてほしいな。」

 

「うん!兄ちゃんがいるよ。名前は孫悟飯だよ。」

 

「―――!? やっぱりそうなんだ……。」

 

 

ヴィヴィオもフェイトも言葉を失ってただ二人を見守るだけであった、そんな中でなのは自身は懐かしむような優しげな微笑を浮かべて話し出す。

 

 

「…なんていうか、フェイトちゃん。わたしが子供の頃に突然行方不明になったこと…覚えてる?」

 

「覚えてるよ…1ヶ月ほど行方不明になったあの事件のことだよね?」

 

「ゆ、行方不明!? なのはママいなくなったこと、あった?」

 

「にゃはは、ごめんねヴィヴィオ。わたしの子供の頃のお話なんだけど……。」

 

 

――軽く彼女は思い出話でも語りだすように説明し始める。なのはは子供の頃に次元犯罪者を追跡中に、突然行方不明となった時期があったのだ。

フェイトの言う通り1ヶ月ほどの期間でありその期間内の間、彼女は異世界で過ごしていた。その異世界では1週間ほど過ごしたのだが元の世界では1ヶ月も時間は過ぎていたという昔話だ。

 

 

「その異世界でね、孫悟飯って男の子にお世話になったんだ…だから孫悟天って名前を聞いたときは驚いたの。」

 

「そういえば、昔不思議な女の子に出会ったって兄ちゃん言ってたな~。」

 

「悟天くん、悟飯くんは元気にしてるの?」

 

「兄ちゃんは元気だよ。今は大学ってとこで学者さんになる為に勉強してるんだ。」

 

「そうなんだ…悟飯くんらしいね。……あ、あと悟天くん、悟飯くんには仲の良い女の子とかいるの?」

 

 

何故か頬を赤くしながら訪ねるなのはにヴィヴィオは首を傾げてしまう、一方でフェイトは何かを察したのかクスッと小さな声で笑っていた。

 

 

「仲の良い女の子? う~ん、ビーデルさんかな。」

 

「ビーデルさん…って、どんな子なの?」

 

「ビーデルさんは兄ちゃんと高校からの友達で、一緒にグレートサイヤマンをやってて、ミスター・サタンの子供なんだ。」

 

「グレートサイヤマン?ミスター・サタン?」

 

「なのは、そろそろ出勤時間。ヴィヴィオもそろそろ行った方がいいよ。」

 

 

このまま放っておけば長い話になりかねない事を見計らった上でフェイトは話題を切り出す。当然、それを合図として会話は中断となった。

 

 

「ええっ、もうこんな時間!?」

 

「ごめんね悟天くん!それとフェイトちゃん、悟天くんのこと任せていいかな…今日は休みだったと思うんだけど。」

 

「うん、大丈夫…任せて。」

 

「ありがとう! じゃあ、いってくるね。」

 

「いってきまーす!」

 

 

フェイトと悟天は慌てて荷物を持って家を飛び出していくなのはとヴィヴィオを見送る。その後、フェイトは食器を片づけに入り、暫くするとソファで寛いでる悟天の元へと戻る。

 

 

「お待たせ。さっきの話の続き…といきたいけど、悟天は少し匂うから一緒にお風呂に入ろっか?」

 

「お風呂! うん!入る入るーーーっ!!」

 

 

無邪気な笑みと共に平然と口にした悟天、どうやら何も抵抗感がないらしくフェイトもまた母親のような微笑を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「わぁ~おっきいお風呂だ。トランクスくん家みたいだな。」

 

 

数分の時間が流れた頃には悟天とフェイトは風呂場に出ていた、悟天はただ無邪気に風呂場を眺めて見渡している。

本来なら異性同士で抵抗感が出てくる物なのだが悟天自身が子供で甘えん坊な性格に問題があり、そしてフェイトの過保護さから招いた結果だった。

 

 

「悟天、なのはに話してくれたお話の続き聞かせてくれる…?」

 

「お話ってビーデルさんのこと?」

 

「ううん、どうやって此処に来れたのかとか…どうして魔法を教わりにきたのか、とか。」

 

「いいよー。ちょっと待ってて!」

 

 

悟天は慌てて風呂場から飛び出していくと自身の荷物に手をかけて何かを取り出す。それは一冊の分厚い本であり、わざわざ手にとって風呂場に持って戻ってきた。

 

 

「うんとね、ボク達はドラゴンボールを集めて神龍にお願いして来たんだ。魔法の世界に行けばこの本みたいに魔法を使えると思ったから。」

 

「これは…おとぎ話みたいだね。」

 

 

まだ湯を被っていないだけあって本に触っても特に問題がないのでフェイトは悟天の持つ分厚い本の中身をペラペラと捲っていく。

内容に触れていると大体の悟天の考えが読めてきたフェイトは本を閉じて改め問いを投げてみる。

 

 

「悟天はどんな魔法を使いたいの?」

 

「えへへ、ボクは魔法でいくら食べてもなくならないケーキとお菓子の国を造るんだ~。」

 

 

笑顔で語りだす悟天、お菓子の国はあの分厚い本の内容で登場しておりそれを想像しているのではないかとフェイトはすぐに推測が浮かんだ。

 

 

「そ、そうなんだ…でもごめんね。そういう魔法はこっちの世界にはないんだ。」

 

「ええ~~!? そんなあ……ボク楽しみにしてたのに~~。」

 

 

わざわざドラゴンボールを7個集め、異世界に飛ばされてでも探し出そうとした自らが望む魔法がないと告げられ今にも泣きそうな表情を浮かべてしまう悟天。

 

 

「え、えっと、ごめんね悟天……代わりに私が魔法を見せてあげるから。」

 

「え? フェイトさん魔法使えるの?」

 

「使えるよ。でも、悟天が思っている魔法とは違うんだけど……それでもいいかな?」

 

「うん! 見せてくれるならいいよ。」

 

「わかった……じゃあ、あとでね?」

 

 

優しく声をかけてなんとか場を落ち着かせようとする、それが上手く成功して悟天は笑顔になっていた。

 

 

「そうだ、トランクスくんにも教えないと…。でも、気が探れないから何処にいるかわからないや…。」

 

「そのトランクスくんと気っていうのもお風呂に入りながら教えてくれる?」

 

「いいよー。」

 

 

またもや長い話になりそうなのでフェイトはすぐに風呂へと切り上げる。先に体を洗ってから二人は湯船に浸って暫くの間、楽しそうにお互いの世界や家族の事など様々な会話を続けていたのだ。

 

 

「10歳か…じゃあ、悟天はヴィヴィオと同じ歳なんだね。」

 

「うん!けど、トランクスくんはボクより一つ年上なんだよ。」

 

「そうなんだ。」

 

「そういえばフェイトさんの髪の色って超サイヤ人みたいだね。」

 

「超サイヤ人…?」

 

「みせてあげるよ。はあっ!」

 

 

そして最終的に行き着いた話題は超サイヤ人……なのだが、悟天が気合いを入れても何も変化がない。

 

 

「悟天、今のは?」

 

「あれれ? 超サイヤ人になれない……気合が足りなかったのかな。」

 

 

試しに今度は更に気合いを入れてみるが変化は変わらず、フェイトは悟天の行動を不思議に感じていたが突然、地響きが鳴り浴槽のお湯が溢れ始めている事に気づく。

 

 

「お湯が溢れて……。」

 

 

「んぎぎぎ………だあっ!!」

 

 

次の瞬間、物凄い爆音と共に浴槽があっけなく破壊されてしまったのだ。そしてお湯で髪を濡らしたままフェイトは言葉を失う。其処には金色のオーラに身を包み、逆立った金髪と碧眼の姿に変貌した悟天の姿があった…。




悟空「オッス!オラ悟空!! あちゃ~~悟天、風呂ん中で超サイヤ人になっちゃダメだぞ。」

ピッコロ「…孫、お前も以前似たような事をしてなかったか? しかし、あの様子だとまともに超サイヤ人になる事もできないようだな。」

クリリン「それにしても、悟飯も隅におけないな~~って悟飯は?」

ヤジロベー「悟飯なら用事ができたと言って行っちまったぎゃ。」

ベジータ「トランクス、オレに恥をかかせるような事はするなよ。」

悟空「次回DragonballVivid「悲願を果たせ! 明かされる覇王の過去」」

トランクス「オレだってサイヤ人の王子だ!」


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第4話 悲願を果たせ! 明かされる覇王の過去

女性の声が耳に入ってくると同時に何人もの人の気配を肌身で感じ取るトランクス、更に次々と他の女性のような声が降りかかってくる。

トランクスはノーヴェの家のベッドで寝かされていた、あの少女との戦闘により二人とも気絶してしまった所をノーヴェがわざわざ運んできてくれたのだ。

 

 

「とりあえず、あの男の子が起きてからこっちの説明はさせてもらうね。」

 

「…わかりました。」

 

「ん…この匂いは…?」

 

 

静かに目を覚ませば見知らぬ部屋と見知らぬ声、だが一部はどこかで聞いたことある凛とした声と甲高い声。

更に言うなら食べ物の匂いも漂っているのだ、それと同時にトランクスは自身の空腹状態に気づいて尚更空腹感が高まってしまったようにも感じてしまう。

 

 

「よう、やっと起きたか。」

 

「へ? えっと……。」

 

 

赤い髪を肩につくかどうかほどの長さを持つショートヘアーの女性が静かに部屋に入ってくると同時にトランクスと目が合う。

 

 

(そういえば、あの後倒れちゃったんだっけ……ってことはオレはこのお姉さんに誘拐されたのか…?)

 

 

あらぬことを想像していくトランクスは次第に警戒した目線になっていく、だがその前にノーヴェはまるで思考を中断させるが如く言い放つ。

 

 

「あたしはノーヴェだ、とりあえず朝食をとりたいからテーブルに来てくれ。ついでに話もな。」

 

「話? あ、うん…わかったよ。」

 

 

勿論そんなことを考えているわけもないのでトランクスにとっては意外な回答が降ってきたも同然、目を丸くさせながらトランクスはノーヴェの後を追う。

 

 

「この先にみんなが待ってるから。」

 

「みんな?」

 

ノーヴェについていった結果、行き着いた部屋にはテーブルの上に朝食が並べられていたのだ。更に周りには複数の女性の姿がトランクスの視界に入ってくる。

そんな中でトランクスは一人の少女に視線が向いてしまう、というのも女性が大勢いるこのメンバーの中でこの少女は少し浮いている――というよりトランクスからすればどこか見覚えのある少女なのだ。

 

 

「…あぁーーーっ!!」

 

「え……。」

 

 

トランクスはすぐにその少女の正体を見破ってしまう、意識が落ちる前に突然襲い掛かってきた女性だ。碧銀の髪と特徴的な青と紫の虹彩異色の瞳は一度覚えてしまえば忘れられない顔立ちである。

あまりに驚いたのか指を向けられた少女は困惑した態度でどう対応すればいいか困り果ててしまっていた。ティアナは少年の反応に驚いたような呆れたような苦笑いを浮かべながら様子を見守る。

 

 

「うん、元気で結構!とりあえず一緒に朝ご飯にしない?」

 

「その時に色々お話も聞かせてくれると嬉しいんだけど…。」

 

「オレは別にいいよ。」

 

「そっか、それじゃあそっちの椅子に座ってくれるかな?」

 

 

青髪の女性が笑顔を浮かべながら指示された椅子にトランクスは腰を下ろす。改めて部屋に全員が集まったかと思える状況。

少しの間に沈黙が流れ込むが、それを崩した一言を青髪の女性は微笑を崩さずに口で告げた途端に視線は女性の方へと集まっていく。

 

 

「まずは自己紹介からだね、あたしはスバル・ナカジマ…ノーヴェのお姉さんってところかな。それでこっちがあたしの親友で本局執務官の……。」

 

「ティアナ・ランスターです。」

 

 

スバルとノーヴェは姉妹というだけあって外見は少し似ているとトランクスは感じていた。オレンジ色の髪を背中ほど伸ばした女性は二人と比べると浮いているだろう。

しかしそれでも少女は未だに不安が胸に残りつつあるのか暗い表情を一切崩さずに話を聞き続ける。一方でトランクスは少女のような暗い表情を浮かべることはなかった。

 

 

「アインハルト・ストラトスです…。」

 

「オレはトランクスだよ。よろしく!」

 

「うん、よろしく二人とも。ところで本題だけど…アインハルトはどうして皆を襲ったのかな。」

 

「確か大昔のベルカの戦争がお前の中ではまた終わってないんだったか?んで自分の強さを知りたくて…。」

 

 

ノーヴェとアインハルトが交戦中に彼女が口に出していた事を思い返しながら話していく。少女は静かに頷きながら話はどんどん進められる。

 

 

「…あとはなんだ、聖王と冥王をブッ飛ばしたいんだったか?」

 

「最後のは……少し違います。」

 

 

重苦しい表情を浮かべた途端に隠すように俯く、膝に置かれ握り締められた手は震えだす。思った以上の反応を見せられトランクスを除いた女性陣は驚いた表情を見せていた。

 

 

「古きベルカのどの王よりも覇王のこの身が強くあること…それを証明できればいいだけで……。」

 

 

顔を上げた途端、ノーヴェと目が合い視線を交し合う。ぐっと力強く握り締められた拳と決意で固められた瞳が彼女を射抜いている。

 

 

「ようするにアインハルトちゃんは誰よりも強くなりたいってことだよね?」

 

「…はい、だから私は誰にも負けるわけにはいきません…。」

 

 

悲しみに溢れた表情から一変、アインハルトの虹彩異色は隣にいるトランクスの方に向けられていた。三人ともわけがわからず様子を見守ることにする。

だが一番にわけがわからないのはトランクスだった。鋭い視線をこちらに向けられて一体何なのかと疑問を抱いていれば―――。

 

 

「…次は必ずあなたに勝ちます。」

 

「……へ?」

 

「おいおい……。」

 

 

自身の強さを求め続けるアインハルトにとってはトランクスとの勝負による敗北は何か胸に響いた物がある、何よりトランクス自身は魔力を持っていない。

この世界では元々魔力を持っていなければ一般市民と対して変わらないこともあってトランクスとの敗北は衝撃的だったのだろう。

 

 

「そういや、お前一体どっからきたんだ?」

 

「どこから…って地球からだよ。ドラゴンボール…と言ってもわからないか。」

 

 

トランクスは此処にまで来るキッカケとなったドラゴンボールについてや魔法の世界について、もう一人の悟天という少年について細かく説明していく。

途中で彼女達の目が丸くなっていくことに不自然に思ってしまう、トランクスからすればアインハルトの話こそが不自然に感じざるをえないのだ。

 

戸惑いを露にするスバルを前にしながらトランクスは全員の態度がおかしくなっていることに首をかしげて様子を眺める。

 

 

「そ、それって本当……?」

 

「本当だよ。もしかして疑ってるの?」

 

「いや、そうじゃねぇけどよ…。」

 

 

途方もなく信じられない話が四人の本音なのだ、故に信じられないといった表情を浮かべているが話した本人であるトランクスは嘘をまったく吐いていない。

その事をしっかりと彼女達は見抜いていた。だからこそ余計に信じられないという感情もより一層強くなっていたのだ。

 

 

「…事情はわかったけど、あとで近くの署に一緒に来てくれる?」

 

「いいよー。ついでに悟天も探さないとだしね。」

 

「…トランクスさん、少しいいですか。」

 

 

間が空いた所でアインハルトは話を切り出そうと口にする、トランクスを含め彼女達の視線が一気にアインハルトへと集中すると同時に彼女異なった二つの色を持つ瞳を全員に向けながら語りだす。

それは彼女が最も追求したい分野であり挑戦状だった。

 

 

「先程も言いましたが、覇王を受け継ぐ私には敗北は許されません。だからもう一度私と勝負してください。」

 

「ええっ!? そ、それは構わないけど、昨日の戦いがアインハルトちゃんの本気ならオレには勝てないよ。」

 

「いえ、あの時の私には僅かな油断がありました。―――今度は初めから全力で挑みます!」

 

「凄い負けず嫌いだね…。わかった、いつでも相手になるよ。」

 

「…ありがとうございます。」

 

「じゃあ話も纏まったことだし…そろそろ署に行く支度をしよっか。」

 

 

スバルは優しげな微笑を称えながら全員に告げる、朝食も取り終えた所で全員は早速署に向かうために支度を始めていく。

途中、アインハルトは今日は学校があるからという理由により用意する荷物は周りと比べて非常に多くトランクスからすれば大変そうな印象が焼き付くのだった。

 

 

 

 

ノーヴェの家から一番近い署である湾岸第六警防署に到着すれば早速話などを聞く三人。だがトランクスだけはとばっちりなので腑に落ちない気分で注意を聞いていた。

後にもう喧嘩はしないという方針で決まった所ですぐに部屋から出ることができたのだ。思った以上に早く帰してくれて喜ぶところではある。

 

 

「まったく、なんでオレまで怒られなきゃいけないんだよ。」

 

「……すみません。」

 

「あ…いや、そこまで気にしなくていいから。」

 

「ですが、私が襲わなければこんな事には……。」

 

 

アインハルトが襲い掛かったことが発端となった為にそれを一番強く責任を感じていたのもアインハルトだった。

署に来る前までは明るさを取り戻していたが今では責任感からまた暗い表情と鳴ってしまっており、トランクスもまた途方にくれていたのだ。

 

 

「あーもう!終わってしまったことをいつまでも気にしたってしょうがないだろ。次から気をつければいいの!わかった?」

 

「……そう…ですね。」

 

「それと、オレのことは呼び捨てでいいよ。見たところオレとトシ近いみたいだし。」

 

「え…ですが……。」

 

「いいからいいから。ほら、言ってみて?」

 

「……ト、トランクス…さん。」

 

 

丁寧語を決して外さないアインハルトにとって相手を呼び捨てで呼ぶこと自体がまったく慣れない喋り方であった。

だが逆にトランクスにとっては常に丁寧語で更に自分の名前をさん付けで呼ばれること自体が慣れていなかったのだ。

 

 

「だーかーらー!なんで“さん”を…―――わあっ!!?」

 

「ようっ、何話してたんだ?」

 

「…色々です。」

 

 

突然ノーヴェが突拍子もなく会話に乱入すると同時にすぐ近くにいたトランクスの頬に冷えた缶を押し付ける。

冷たい感触が頬から伝わってきたことにトランクスは慌しい反応を示せば満足そうにノーヴェは笑っていた。

 

 

「で…あのさ、前から気になっていたんだけどよ。」

 

 

自販機で購入した円柱のような形状を持つ缶をトランクス、そしてアインハルトに渡していくと自身も椅子に座ってその缶の中身を飲み始める。

 

 

「お前がこだわってる戦争のことについて…詳しく聞かせてくれねーか?」

 

「あ、オレも聞きたい!」

 

 

必要な事情はすでにしてしまったものの、詳しい戦争の内容については彼等には話していない。

改めてノーヴェは問いを投げかけてトランクスも便乗するとアインハルトは再び暗い表情のまま一度は俯いてしまうものの、暫くすれば顔を上げて視線を交わし合おうとする。

 

 

「―――諸王戦乱の時代…。武技において最強を誇った一人の王女がいました…後の最後のゆりかごの聖王。」

 

 

覇王の記憶を受け継いでいるアインハルトの脳裏にはその記憶の中に出てきた女性を映像のように思い浮かべながら語り出す。

肖像画でその女性の姿を確認することはできるが映像となってその女性を見ることができるのは覇王の子孫であるアインハルトだけだろう。

 

 

「かつて覇王イングヴァルトは彼女に勝利することができなかったんです…。」

 

「それで時代を超えて再戦……か?」

 

「覇王の血は歴史の中で薄れていますが時折、その血が色濃く蘇る事があります……。」

 

 

色濃く蘇っている、それがアインハルトなのだろうとすぐにノーヴェとトランクスは察することができていた。

 

 

「碧銀の髪やこの虹色異色…覇王の身体資質と覇王流、それらと一緒に少しの記憶もこの体は受け継いでいます。」

 

「つまり生まれ変わりってこと?」

 

「まぁそれに近い状態だな……。」

 

 

自分の胸に手を添え、突然悲願の思いが溢れ出して今にも泣きそうな表情になっていけば声も多少荒げ始めていく。

 

 

「弱かったせいで強くなかったせいで彼は彼女を救えなかった…!……そんな数百年分の後悔が…私の中にあるんです。」

 

(そうか、だからあんなに勝つ事にこだわってたんだな。)

 

 

数百年にも及ぶ覇王の悲願、突然アインハルトはこちらに顔を向けたかと思えば彼女の虹彩異色の瞳には涙が積もっていた。そんな彼女を見たトランクスは複雑な表情を浮かべる。

 

 

「だけど、この世界にはぶつける相手がもういない…救うべき相手も守るべき国も世界も!」

 

「…いるよ、お前の拳を受け止めてくれる奴はちゃんといる。」

 

 

涙が止まらなくなり頬を伝っていく中で涙を止めさせた言葉をノーヴェは投げかけてアインハルトは泣くことをやめる。

内心では疑いの感情が湧き上がってくるがそれでも自分の思いや拳を受け止めてくれる人がいるのだと思えば気が楽になりつつはあった。

 

 

「そうそう、なんだったらオレがアインハルトちゃんが納得するまで受け止めてあげるよ。さっき勝負するって言ったし。

それに、一応オレも王族なんだぜ。サイヤ人のだけど…。」

 

 

椅子から立ち上がってアインハルトに歩み寄れば自信満々そうにトランクスは呟く、元々彼の父親が王子なのでその子供であるトランクスは歴とした王族だろう。

確かにトランクスほどの実力があれば受け止めてくれるかもしれないと一瞬思考が脳裏に浮かんだアインハルトは静かに「……ありがとうございます。」と返答した。

 

 

(どうせ暫くは元の世界には帰れないし、オレにとってもいい修行になるからね。)

 

 

トランクスはこの世界に立ち寄ってから日も浅い、アインハルトの言う戦争や王家についてはほとんど理解していないのだ。

王家についてはアインハルトを通じて多少知ることができたがそれでもちゃんとした知識のない浅知恵程度である。

 

それでも泣き出してしまうアインハルトを放っておけるほど非情ではない、彼等は王と王の勝負の約束を結ぶのであった。

 

 

「…それからもう一人、戦ってほしい奴がいるんだけどよ。」

 

「戦ってほしい人…?」

 

「ああ、今日の夕方辺りに。」

 

「…そうですか、わかりました。」

 

 

話に決着をつけたところでスバルとティアナに合流、全員が揃ったところでアインハルトは学校の為にすぐに署から出て行く。

スバルとティアナもアインハルトを学校まで送るという理由から彼女と一緒に行ってしまい残りはトランクスとノーヴェだけになったのだ。

 

 

「時間も余ったし、軽くトレーニングでもするか?」

 

「オレはかまわないよ。ノーヴェさんとも戦ってみたかったし。」

 

 

こうしてトランクスとノーヴェの二人は昼間、軽いトレーニングや散歩などを繰り返すことにより時間を潰す事にするのだった。

そもそもこの世界に来たばかりのトランクスはまったくこの世界を知らないこともなり、慣れていくための手段としてノーヴェは気を遣っていたのだ。

 

 

(でも、もう一人戦ってほしい人って誰だろう…。)

 

 

その途中でトランクスはふとノーヴェがアインハルトに言った言葉が突拍子もなく再生される。アインハルトは承諾したが一体誰と戦うんだろうと好奇心にも似た感情を原動力としてトランクスは考えていた。

―――果たして、ノーヴェの言うアインハルトに戦ってほしい人物とは…そして二度目の勝負の行方はどう転ぶのだろうか?




ピッコロ「お、オッス!オレ、ピッコロ……くそ、何故オレがこんなことを……。」

クリリン「まあ悟空が戻ってくるまでの代役みたいだけど。それにしても、トランクス男になったな~。」

ベジータ「よく言ったトランクス!それでこそサイヤ人だ。」

悟空「わりい遅れちまった。次回DragonballVivid「真っ向勝負!覇王と聖王とサイヤ人」」

ブルマ「トランクスー!負けるんじゃないわよーーっ!!」


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第5話 真っ向勝負! 覇王と聖王とサイヤ人

トランクスとノーヴェのトレーニングが始まってから相当な時間が経過しており今もその修行の真っ最中だ。

だが数分後には二人のトレーニングの時間は終わり、一息尽いた所でベンチに上に座り休憩を図っていた。

 

 

「ノーヴェさんも結構強いね。」

 

「お前ほどじゃねーけどな。」

 

 

改めて二人で修行する事でトランクスとノーヴェの力量の差を互いに把握した上で二人は感想を述べている。

 

 

「へへん、オレはガキの頃からパパに鍛えられてたから。」

 

「パパ…?お前の親父さんもお前と同じ戦ったりする事ができんのか?」

 

「もちろん! パパは宇宙で一番強いんだ。」

 

「いやいや、さすがにそれは大げさすぎだろ。」

 

 

休憩中は世間話によりある程度の時間を潰す。そうしている間にも夕暮れの時刻へとなっていた。

夕暮れになれば学校の授業も一通り終了する時間でもあるのでノーヴェはすぐにアインハルトの事を思い出す、彼女に紹介したい人物がノーヴェの中には存在している。

その金色の髪の少女がふと頭に思い浮かんだ瞬間、ノーヴェは立ち上がってトランクスの方へと視線を向けた。

 

 

「じゃ、そろそろあいつを連れてくるか。お前は此処で待っててくれ。」

 

「わかったー!」

 

 

ノーヴェはそのまま立ち去っていく。一人になったトランクスは引き続き一人で修行の再開をする事になった。

途中でアインハルトに告げたノーヴェの言葉がトランクスの脳内で回想して改めて疑問が浮かぶ。アインハルトの覇王としての悲願を受け止めてくれる人物。

堂々と『いる』と宣言したノーヴェの中には心当たりの人物がいるのだろうか?トランクスはノーヴェとアインハルトが来るのを修行しながら待ち続けた―――。

 

 

 

 

「…参りました。」

 

「よう、待たせて悪いな。」

 

「え、えーと……。」

 

「おかえりアインハルトちゃん、ノーヴェさん……と誰?」

 

 

アインハルトの隣に金色の髪を青いリボンによってツーサイドアップにさせた少女が目に入る、更に周りには複数の少女。見慣れない人物に思わずトランクスは目を丸くさせながら問う。

 

 

「あ、はじめまして。ミッド式のストライクアーツをやってます!高町ヴィヴィオです!」

 

「そのヴィヴィオの友達のリオ・ウェズリーです!それでこっちがコロナって言います!」

 

「えっと、よろしくお願いします!」

 

「ストライクアーツ? オレはトランクスだよ。よろしくヴィヴィオちゃん、リオちゃん、コロナちゃん。」

 

「つまり格闘技ってことだ。挨拶は終わったようだな。」

 

 

補足するような説明を加えながらノーヴェは改まった表情と瞳を見せながら全員に視線を向けていく。

 

 

「まあ皆、格闘技者同士。ごちゃごちゃ言わず手合わせでもした方が早いだろ。場所も確保してあるしな。」

 

「う~ん、女の子が相手だから手加減した方がいいのかな…。」

 

「…私は手加減されたくありませんが。」

 

「その辺りの加減は任せる。んで最初はヴィヴィオとアインハルトからだ、それでいいな?」

 

「別にいいよー。」

 

「はい、全然いいですよ!コロナもでしょ?」

 

「うん!二人の勝負見てみたいかな。」

 

 

一通りの流れを話していくと場の雰囲気は気まずい物ではなくなっていた。それこそがノーヴェの気遣いでもあり狙いでもある。

トランクスはふと脳内で回想していた。覇王の悲願を受け止めてくれる人物、もしかしたら高町ヴィヴィオの事なんじゃないかと思考が走りつつ。

 

 

 

 

こうしてノーヴェの提案もあり、アインハルトとヴィヴィオは互いにコートの中央にまで足を進めば一定の距離を保ちながら軽い運動をし始める。

 

 

「じゃ、あの!アインハルトさん、よろしくお願いします!」

 

「……はい。」

 

 

明るく陽気にヴィヴィオはアインハルトとの手合わせに嬉しさを見出しながら構えを取り、アインハルトも同様に構えを取った。

二人の準備が整ったタイミングを見計らうようにノーヴェは息を吸い込む。

 

 

「スパーリング4分1ラウンド…射砲撃と拘束(バインド)はナシの格闘オンリーな。」

 

 

魔法系統なしの純粋な肉弾戦による対決、トランクスは魔法系統にはピンとこない様子のままノーヴェは試合開始の合図を口にする。

 

 

「レディー・ゴー!!」

 

 

―――合図を発した直後、ヴィヴィオが先手必勝の勢いでアインハルトへと次々と拳を振るう、連撃のように次から次へと繰り返される拳をアインハルトを腕を交差させて受け止めていく。

受け止めることにより防御をしており、ダメージが微妙ながらに体に響いているのかアインハルトの体は拳を防御する度に僅かに後退していた。

 

 

(まっすぐな技…きっと、まっすぐな心……。)

 

 

アインハルトは後方へと下がる事で拳を避け、避けられない拳は腕を交差する事で防御する。ヴィヴィオの攻撃は全て急所を外しており、まともな攻撃を食らわせずにいた。

それでもヴィヴィオは焦る事もなくアインハルトとの手合わせを楽しんでおり、更に攻撃は激しくなり無駄もなくなっていく。

 

 

「結構いい感じだな。」

 

「今の所はね。でも、アインハルトちゃんにはまだ余裕がある。」

 

 

ヴィヴィオの猛攻は増していく、蹴り上げを加えてアインハルトに命中させようと試みるヴィヴィオだが容易にそれも避けられる。だがその度に攻撃の威力もスピードも増してきていた。

それでもアインハルトには命中しない。防御され避けられの繰り返しであり、アインハルトもまたスピードが上がっていく。

 

 

(だけどこの子は……。)

 

 

その途中、悲しみに溢れた表情がヴィヴィオを貫く。不意なアインハルトの表情の変化がヴィヴィオにとっては唐突な物に思えた。

 

 

(だからこの子は―――!!)

 

 

ノーヴェとトランクスはアインハルトの行動に目を奪われる、今まで防御一線だけであった彼女が始めて攻撃に移した瞬間だったのだ。

一気に身を屈めて姿勢を低くし、そのままヴィヴィオの胸へと手で押し当てて一気に暴風と共に彼女を後方へと大きく吹き飛ばす。

その瞬間はヴィヴィオの猛攻の中で一瞬の隙を突いたアインハルトの攻撃が見事に彼女へと命中させたのだ。

 

 

「ッ……す…。」

 

 

吹き飛ばされた挙句、ヴィヴィオはスポーツコートに体を叩きつけられる。全身の痛みと別格の胸からの激痛にヴィヴィオは胸に手を当てると同時――、彼女の体は震えていた。

それは全身の痛みで震えているというよりも相手の強さに感動した上での武者震いのようにも見て取れる。顔を上げた彼女の表情は純粋な笑顔だったのだ。

 

 

「すごいっ!!」

 

(―――私とは違う。)

 

 

再びヴィヴィオは構えを取って次の攻撃段階へと入る準備を行おうとする前に、アインハルトは彼女に背を向ける。

敵に背を向ける行為は自ら隙を見せているのと同様であり、ヴィヴィオは戸惑いを露にしていた。

 

 

「…お手合わせ、ありがとうございました。」

 

 

唐突に響いた声が発する言葉にヴィヴィオには理解できず戸惑いだけが残る、試合終了という意味が込められた言葉を淡々と述べるアインハルトの背が虚しく感じてしまう。

そのまま自らの前から立ち去っていくアインハルトの歩みは止まることはなかった。放心状態を打ち破ってヴィヴィオは慌てて問いかける。

 

 

「あの…あのっ!すみません、わたし何か失礼を……?」

 

「いいえ。」

 

「じゃ、じゃあ、あの、わたし……弱すぎました?」

 

「いえ…趣味と遊びの範囲内でしたら充分すぎるほどに。」

 

 

ヴィヴィオは思わず口に出すべき言葉を失った、つまりアインハルトからすれば自分は弱すぎたのだと彼女は結論付いたのだ。

決して趣味と遊びだけではないつもりなのだがアインハルトからすればそれぐらいの範囲であるという事実がヴィヴィオの胸を苦しめる。

 

相手の期待に応えられなかった事――、ガッカリさせてしまった事、自らのレベルの低さ、様々な現実が小さな胸に突き刺さっていく。

 

 

「あのっ!すみません…今のスパーが不真面目に感じたなら謝ります!!」

 

 

その声が背を向け立ち去ろうとしていたアインハルトの歩みを静止させた。

 

 

「今度はもっと真剣にやります、だからもう一度やらせてもらえませんか…?今日じゃなくていいです!明日でも…来週でも!」

 

 

必死な説得を訴え続ける、このまま彼女をガッカリさせて期待ハズレのままの結果で終わらせたくないという思いがヴィヴィオを突き動かす。

その思いはアインハルトにも確実に届いており、故に彼女はどう対応すればいいかわからずにいる。助けを求めるようにノーヴェへと視線を向けていた。

 

 

「あー、そんじゃまあ…来週またやっか?今度はスパーじゃなくてちゃんとした練習試合でさ…。」

 

 

言葉に悩みながらもノーヴェは言い放つ、この状況で下手な事を言えば空気を凍りつかせかねない。その上で考慮した結果がこうなったのだ。

 

 

「…わかりました、時間と場所はお任せします。」

 

「ありがとうございます!」

 

 

深くヴィヴィオは頭を下げて感謝の言葉を発した。再び背を向けたアインハルトは無表情を浮かべていた、悲しんでいるようにも受け取れるが真意を読み取る事は難しい。

 

 

「よし、話も纏まったから今日は解散ってことにするか。」

 

「え、えっと…アインハルトさんもそれでいいですか?」

 

「……構いませんよ。」

 

 

話の決着がつけば不穏な雰囲気も消失していく、それがノーヴェの狙いでもあり気遣いでもあった。

そして彼女達は帰宅する為の準備をする。一人の少年を除いて―――。

 

 

 

「ちょーーーっとまったーーっ!!!」

 

 

 

「なんだよ、いきなり…。」

 

「なにか忘れてない?」

 

 

真顔で問いかけるトランクス、それに対してアインハルトは無表情。ノーヴェは二人の少女の顔を見合わせている。

 

 

「忘れてないって…ノーヴェ、何かわかる?」

 

「いや、あたしにもさっぱりだな。」

 

「忘れてるって…なんだっけ?」

 

「宿題のことかな~?」

 

「こらこらー!オレと勝負するって約束だよ。覚えてるでしょアインハルトちゃん。」

 

 

ヴィヴィオとリオ、コロナは純粋に忘れているように読み取れるが、ノーヴェは冗談で言い放っているのかヴィヴィオ達と同様なのか読み取る事が難しい。

だがトランクスからすれば後者、つまり本当の意味で忘れてしまっているのだと受け取っている。

 

 

「そうですね…。」

 

「まあ、時間もあれだしそれは明日か明後日ぐらいでいいんじゃねーか?」

 

「…すみませんが、そうしていただけると助かります。」

 

 

試合開始の時間帯は夕暮れが過ぎ去ったぐらいの時間帯、早ければもうこの時間帯には夕飯を取っている頃合いだろう。

だがそれにも関らずトランクスは決して引き下がろうとしなかった。というのも、彼の中に流れるサイヤ人特有の血が騒いでいたのだ。

 

 

「ふーん、そんなにオレに負けるのが怖いんだ。」

 

 

挑発的な言葉を投げる、ヴィヴィオとアインハルトの手合わせはサイヤ人の戦闘本能を騒がせる要因となっていた。

故にトランクスは今すぐにでも勝負をしたいという本能的な衝動によって突き動かされている。

 

 

「あのなー、勝負したいって気持ちもわか…。」

 

「ま、それも仕方ないか~。この前の勝負もオレが勝ったし、覇王も大したことないね。」

 

「……わかりました、そこまで言うのなら受けて立ちます。」

 

 

流石に言い過ぎだ、とノーヴェが抑えようとする頃にはアインハルトは挑発を真に受けていたのだ。覇王という言葉が重く圧し掛かっている彼女にとって内心の苛立ちは隠しきれずにいる。

無表情を貫いているが体は違う。拳を強く握り締めて真っ直ぐな目線をトランクスにぶつけて凛々しくも言い放った彼女の姿にノーヴェは呆れたような感情さえ覚えてしまっていた。

 

 

「そうこなくっちゃ。あ、どうせならヴィヴィオちゃんと二人でかかってきなよ?その方が面白い試合になると思うからさ。」

 

「わ、わたしまで……?」

 

「ヴィヴィオも入るの!?」

 

「二対一になるね…。」

 

「はあ…仕方ねぇーな、でもこれが最後な。」

 

「オッケー!よーし、まずは準備運動だ。」

 

 

立ち去ろうとしていたアインハルトはコート内に加わり、ヴィヴィオと同じ位置へと歩みを進めていく。若干の緊張感が湧き出ながらも真っ直ぐにトランクスを目で捉えながら。

二対一という理不尽とも感じ取れる勝負方式でトランクスは挑む。―――勝負の行方はどう転がるのだろうか…。




悟空「オッス!オラ悟空!! あいつらすげえな、なんだかオラまで戦いたくなってきたぞ~。」

ベジータ「よし、オレと勝負だカカロット!」

クリリン「お、おい!ここで戦うなよ…。」

ピッコロ「しかし、トランクスのやつめ。あまり調子に乗ってるとイタい目をみるぞ。」

悟空「次回DragonballVivid「これがサイヤ人だ!トランクス、本領発揮!」」

悟天「ボクも戦いたいな~。」


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第6話 これがサイヤ人だ! トランクス、本領発揮!

「ルールはさっき言った通りの射撃と拘束はなしの格闘オンリーだ。」

 

「わかった。…あれ? 大人の姿にならなくていいの?」

 

 

トランクスの何気ない発言に対してアインハルトの眉がぴくりと動く。そう反応しても可笑しくはないとノーヴェは表には出さない呆れた感情を抱いていた。

 

 

「…貴方の方もあの金色の姿にならないのですか?」

 

「金色って超サイヤ人のこと? 気が減っちゃった所為で自由になれなくなったんだ。」

 

 

あれから何度か超サイヤ人への変身を試してみたが、悟天の時と同様思うように変身できずにいたのだ。そして今のトランクスが持つ気は元々の半分にも及ばず、アインハルトとの戦いで変身できたのは切羽詰って気を限界まで解放した結果である。

 

 

「……そうですか。そういうことであれば私も武装形態にはなりません。」

 

「ふーん、でもそれじゃあ簡単に勝負がついちゃうからさ。今回は左手を使わないであげるよ。」

 

「えっ……左手を…?」

 

「…ヴィヴィオさん、彼に油断は禁物です。」

 

 

アインハルトが囁くように口にした言葉に対してヴィヴィオは上手く理解する事はできなかった。故に彼女は怪訝な表情を浮かべながらトランクスを不思議そうに見つめる。

彼女から見た印象はトランクスとは格闘技に自信がある少年。予想する実力はアインハルトと互角か、もしくはノーヴェに匹敵するくらいか。その程度の取るに足らない認識なのだ。

 

やがて二人はトランクスからある程度の距離を取った位置に付けば試合開始の合図とも呼べるノーヴェの声が響き渡る。

 

 

「―――レディー・ゴーッ!!」

 

「「ッッ!!」」

 

 

試合は早々にアインハルトとヴィヴィオが地面を走り抜け攻撃に出たのだ、試合開始も間もなくトランクスの眼前には一気に二人の少女が飛び込む。

二人の息を合わせた拳による連撃が次々と絶え間なく降り注ぐ、決して遅くはない速度を持った攻撃の雨は通常の格闘技者であれば避ける事は容易い事ではない。

ヴィヴィオは最初の攻撃に対して加減をしながら次々と拳を振るい続けるがやがてその加減は弱まっていく。アインハルトも更なる速度と攻撃を持って畳み掛けていた。

 

 

「ほらほら、こっちだよー!」

 

「く…っ!」

 

「う、うそ……!?」

 

 

何故なら彼は当たらない。二人掛りでの拳による高速連続打撃に対しても避け続けている。軽やかに余裕を持っていると言わんばかりの動作で彼女達以上の速度で回避しているのだ。

だがその行動自体は挑発であり、アインハルトとヴィヴィオの感情を余計に高ぶらさせ攻撃はより過剰な物へと変貌していく要因となっていく―――!

 

 

「おお、やってるッスねぇ…。」

 

「うん…来て正解だったよ。」

 

「……っておい! なんでお前等が此処にいんだよ!?」

 

 

ノーヴェの後ろには長い茶髪の女性、銀髪の少女のような外見を持つ者もいれば大勢の女性陣が姿を現したのだ。リオとコロナは話についていけず首をかしげて眺めている。

 

 

「すまんな、ノーヴェ…どうしても気になるそうだ。姉も一応止めたのだが……。」

 

「陛下の身に危険が及ぶことがあったら困りますし…。」

 

「護衛役としては当然。」

 

「「陛下……??」」

 

「あー、いや。こいつ等の事は気にしないでくれ…。」

 

 

リオとコロナは口を揃えた。大勢の女性陣はヴィヴィオを集中的な視線を浴びせているような気配を見せているがリオとコロナはその意図を理解する事ができない。

唯一、理解していたのはノーヴェだけであり、だからこそ彼女は呆れた表情を彼女達に向けていたのだ。

 

 

(当たらない……!!)

 

 

一方、アインハルトとヴィヴィオの猛攻は激化の一方を辿る、更に更に更に攻撃と速度は上昇し続け、キレのある高速打撃を幾度となく繰り返し続ける。

だが全てが空振りとして終わっていく。初っ端から息の合う二人のコンビネーションにノーヴェは大したもんだ、と感心の眼差しを向けているが二人の内のヴィヴィオにとってはトランクスの強さに焦りしか覚えない。

 

 

「そろそろ体があったまったかな。じゃあ、今度はこっちからいくよ!」

 

 

瞬時にトランクスは二人との距離を置いた途端、一気に今まで行動に出なかった攻撃を始める。高速をも超えた拳の一撃がヴィヴィオを叩きつけようと迫り来る刹那――アインハルトは身を乗り出した。

ヴィヴィオの目の前にへと身を置くと同時に強烈な威力を誇る一撃を両手で受け止め持ち堪えようと全身に力を入れた瞬間、アインハルトは不意に体を仰け反らせ勢いよく吹き飛ばされてしまう。

 

 

「う、ぐぅ…ッ!!」

 

「だあっ!!」

 

「アインハルトさん!? …っ、きゃあああ!!」

 

 

唐突な行動の展開に追いつけずにいるヴィヴィオのほんの僅かな隙にトランクスは付け込む、すかさず蹴りを入れられ後方へと地面を擦り合わせる音が流れながらも必死に耐えようとする。

幸いにも出遅れたヴィヴィオが唯一取れた行動は防御だ、トランクスの拳に対しての防御動作が持続し、攻撃が蹴りに代わっただけなのだ。吹き飛ばされる勢いが止めば大きくトランクスとヴィヴィオは距離を開けていた。

 

 

「まさか、あそこでアインハルトちゃんがヴィヴィオちゃんを庇うなんてね。」

 

 

 

 

「今のは危なかったよ…!」

 

「トランクスって奴、中々やるッスねー…。」

 

「二人で協力しても相手にならないって感じだね。」

 

「このままでは陛下が負けてしまうな……。」

 

 

圧倒した試合に言葉すら失う光景であり、様々な女性陣がそれぞれの感想を呟いている。アインハルトは大きくトランクスとの距離を作り出されてしまうがヴィヴィオと同様に踏み止まっていた。

単純な戦闘能力は二人合わせた力とトランクスを比較すればどれも彼に圧倒されているのだ。その事実が挑発のせいもあって苛立ちを芽生えさせるが対抗手段が見つからない状況である。

 

 

「トランクスくんって強い…! どうやったら勝てるんだろう……?」

 

「それはわかりません、ですが何か弱点があれば……。」

 

 

圧倒的すぎるレベルの違いを埋められるほどの状況を打開する事のできる弱点が存在していれば、アインハルトの脳内は勝利という事象を求めて思考し続ける。

ヴィヴィオ自身もまだ負ける気はないのか、彼女の瞳は輝いていた。トランクスとの勝負を投げていない様子で再び構えを取ると同時にトランクスとの間合いを詰める。

 

 

「あのなぁ……アインハルトにヴィヴィオ!もっとこう、協力して戦えぇーっ!!」

 

「「――――ッ!!」」

 

 

ノーヴェの高く鳴り響いた声は二人に届いた、刹那―――アインハルトは急に目の色を変えてヴィヴィオから距離を置いてトランクスの右側へと移行していく。

瞬発力に優れた動作にトランクスとヴィヴィオは彼女の行動の意図を理解できないまま対応しようと試みる、トランクスはアインハルトの攻撃を避けようと動作を起こした瞬間…。

 

 

(そうだ…!!)

 

 

結果的にトランクスの反対側、左側は隙が生じたのだ。空かさずヴィヴィオは隙が生じている左側へと移行すれば高速の蹴りが振るわれ、アインハルトも同様の行動を起こし左右対照の攻撃を食らわせようとする。

 

 

「挟み撃ちか…考えたね。」

 

 

単純な格闘戦であれば一人でも可能な業だが挟み撃ちは二人が揃う必要がある、アインハルトとヴィヴィオのコンビネーションは優れているが二人特有の業を今に至るまで成し遂げていない。

 

 

「でも、甘いっ!」

 

「ええッ!?」

 

 

だがトランクスには通用しなかった、常人が出し切れないであろう飛翔力を持って挟み撃ちを回避する。

彼は高くジャンプを行うことで蹴りを避け、拳が味方同士で命中するという自滅を企んでいるのだ。それは挟み撃ちの弱点を突いた的確な行動とも言われる動作である事に変わりはないが…。

 

 

「――――甘いのは貴方の方です。」

 

 

今に至るまでの全ての動作はアインハルトの目論通りであり、彼女は蹴りに急停止を掛けると同時に腰を屈めて一気にトランクスを追うように飛翔。

唐突な動作だがヴィヴィオも急停止を掛けてすかさず一歩出遅れた飛翔でトランクスに対して拳による追撃を加えようと試みる、まるでそれ等の動作は全て計算されたかのように。

 

 

 

「え?え?……うそでしょ~~~!!?」

 

 

 

手足をバタバタと動かすがトランクスにはこの場での対処方法が存在しない、舞空術を使用すればこの状況は難なく乗り越えられるが大幅に気が減った状態では上手くコントロールできないのだ。

 

 

(まずいぞ!まだ気を完全にコントロールできてないから舞空術が使えないし、かといってこのまま落ちれば――――――。)

 

 

「「はあああっ!!」」

 

「くっ…!」

 

 

勝利は目前と言わんばかりの容赦ない攻撃にトランクスは両手を伸ばし、彼女達の拳と脚を受け止めてしまう。あまりにも軽々しく扱う姿に二人の思考は一時中断して絶句する。

 

 

「―――――でりゃああっ!!」

 

「きゃあああぁぁ!!」

 

「ぐぅっ…!?」

 

 

脚と拳を掴んだまま空中で即座に回転し、二人を同時に地面へと背中から激突させてしまう。予想外の危機を回避したトランクスの額には焦りで冷や汗を流していた。

 

 

「ふう~今のはマジで危なかったな。でも、これでオレの勝ち―――。」

 

「勝負あり!! アインハルトとヴィヴィオに一本!」

 

「…ふぇ? や…やりましたよ、アインハルトさん!!」

 

「ええっ!? なんで!勝ったのはオレじゃないの?」

 

 

嬉しそうに微笑むヴィヴィオは上体を持ち上げて子供らしい笑顔をアインハルトに向ける、だがアインハルトは納得がいかないと言った怪訝な顔を浮かべており、トランクスもまた不満を持っていた。

 

 

「……なぜ私達の勝利なのですか?」

 

「トランクスは左手を使わないって言っておきながら使ったからだ。」

 

「そういえば最後で使ってたね。」

 

「うん、思いっきり使ってた。」

 

「証拠の映像もあるよ。」

 

「だから、トランクスの反則負けなのか…。」

 

 

当初トランクスは左手は使わないという条件、ハンデを背負いながら戦うと宣言していたのだ。

余裕の表れとも言うべき条件であったが空中での二人の攻撃に両手を使用してしまった事は充分に約束を破る行為と言える。

 

 

「ですが…それは本当の勝利ではありませんので、私達の負けです。」

 

「はぁ……もういいよ。自分の言葉には責任を持たなきゃだしね。この勝負はオレの負けだ!」

 

「えっ、本当にいいんですか…?」

 

「うん。元はと言えばオレがハンデを出したからこんな結果になったんだと思うし…だから次はハンデなしでやろうね。」

 

 

ノーヴェは何かトラブルが起きると予想していたがその予想はあっさりと崩れてしまう、自然な会話の流れでトランクスは自分で負けを認めてしまったのだ。

 

 

「はい、次はもっと強くなってからお願いします!」

 

「……次こそは、必ず。」

 

 

両者の虹彩異色の瞳がトランクスに向けられればヴィヴィオは笑顔を浮かべて、アインハルトは表情の変化がないが何処か悔しさを感じさせる瞳を向けていた。

その後はウェンディ達一味とリオとトランクスが互いに自己紹介を交わして時間は過ぎていく。後にトランクスは何処で住むかの話になるがノーヴェからの提案でナカジマ家という事に決まる、姉妹達にも依存はない。

 

―――最後にはアインハルトとヴィヴィオとの再戦の約束を交し解散する事になったのであった…。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー、なのはママ!フェイトママ!」

 

「あ、ヴィヴィオお帰りなさい……。」

 

「ヴィヴィオお帰りー…今日は遅かったね…?」

 

「うん!ちょっと色々あったの。あ、汗をかいたからお風呂に入りたいんだけど…。」

 

 

ヴィヴィオはノーヴェ一同と解散し自宅に帰宅するが出迎えてくれたフェイトとなのはの表情に違和感を覚えて続けようとしていた言葉を止めて首を傾げる。

室内は談義中という雰囲気に包まれ奥にいる悟天となのはが特にその雰囲気を曝け出しているようにヴィヴィオは感じ取ったのだ。

 

 

「そ、それが…あはは……。」

 

「にゃはは、ヴィヴィオ…驚かないでね。実は……。」

 

「ごめんねヴィヴィオちゃん、お風呂壊しちゃった。」

 

「………ふえええええぇぇぇ~~~っ!?」

 

 

頭に手を添えながら悟天は苦笑いを浮かべながら返答、無論ヴィヴィオの反応は家内のフェイトとなのはが予想した通りの物である。

後にヴィヴィオは風呂の状態を直接目で確かめて見る事となったが予想通り浴槽の状態は完璧に壊されてしまっているのだ。その深刻さだけは彼女の予想を上回っている。

 

結局、風呂に入る事はできずなのは一家は明日作業員の人達に相談する事になり、直るまでの期間はフェイトの提案により銭湯に頼る事になるのであった…。




悟空「オッス!オラ悟空!! なかなか面白え勝負だったな。」

ベジータ「ふん…相手がガキだと思って油断するからこうなるんだ…。」

ピッコロ「だが、自分の負けを素直に認めるとは…少しは成長したようだな。」

クリリン「ははは。そういえば、さっきブルマさんが呼んでたぜ。」

悟空「次回DragonballVivid「いざ異世界へ!悟空チーム出発!」」

悟飯「魔法の世界…か…。」


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第7話 いざ異世界へ! 悟空チーム出発!!

「みんなーー!できたわよーーー!!」

 

 

唐突に木霊した女性の声に悟空達は目を丸くさせた。―――彼等の現在地はカプセルコーポレーション、あれからの数日間、悟天とトランクスを連れ戻す方法を彼等は探り続けている。

その結果、ブルマが思いついた手段で二人を取り戻すという方針となり、その方針で決めてから数日の時間が経ったある日。急にブルマに呼び出されて悟空とベジータ、悟飯とピッコロがその場に居合わせていた。

 

 

「できたってなにがだ?」

 

「決まってるでしょ、タイムマシンよ。ここまで完成させるのに苦労したんだから。」

 

「へへっ、今回はオレも手伝ったんだぜ。」

 

「ヤムチャ様かっこよかったですよ!」

 

「雑用をだけどな。」

 

 

―――苦労したと言わんばかりのブルマと周りにいるヤムチャ、クリリン、プーアルとウーロンの顔と言葉に彼等の目は点になる。そして巨大なカプセル型の形状を持つ特殊な装置、タイムマシンに改めて全員は注目した。

だがクリリンはタイムマシンに違和感を感じ取ったのか目を凝らして暫く観察を続けていると疑問を口にする。

 

 

「あれ? ブルマさん、未来のトランクスが乗ってきたタイムマシンより少し大きくないですか?」

 

「そりゃ、まあ乗る人が多いんだから仕方ないじゃない。」

 

「ブルマ…それはどういう事だ?」

 

 

まるでもう決まった事実、決定事項のように語り出すブルマに疑問を抱かざるおえないだろう。彼女に対してベジータは問いを投げる。

 

 

「どういう事って……そのままよ。これに乗るのは孫くんに悟飯くん、あとベジータとピッコロ。わかったわね?」

 

 

つまりブルマが思いついた方法とは、タイムマシンを使ってどこかの世界に飛ばされた二人を連れ戻すという方法だったのだ。

だがその事情をまったく聞かされていなかったブルマを除いた四人は驚いた表情を隠せずにいる。

 

 

「へっ? オラもタイムマシンに乗るんか?」

 

「当たり前でしょ!あんたは悟天くんの父親なんだから。チチさんからの承諾も得ているわ。」

 

「オレが乗る意味はあるのか…。」

 

「あるわよ。もし孫くんとベジータがケンカでもしたら悟飯くん一人で止められると思う?」

 

「ははは…確かにオレやヤムチャさんじゃ無理っすね…。」

 

「なるほど…だが、魔法の世界は無数にある筈だ。タイムマシンを使ったとしてもその世界には辿り着けないんじゃないのか?」

 

 

それは悟空達が悟天とトランクスを連れ戻す上で断念させた大きな理由でもあり大きな難問でもあった。

だがブルマは決して態度を崩さず、その質問を待ってたと暗黙のメッセージを伝えているような笑顔を浮かべる。

 

 

「ふっふーん、あたしを誰だと思ってるの?こんなこともあろうかとトランクスの荷物の中に発信器をつけておいたのよ。

それで、このタイムマシンにはその発信器の特殊な電波に反応すると自動でその世界に移動できるように改造したわけ。」

 

 

大きな難点でもあり誰もが断念させられる理由、だがブルマの天才的な技能によりタイムマシンは大幅な改革が施されていたのだ。

このタイムマシンは自身のいる世界の時間内を移動するだけではない。ブルマの発明は異世界への移動も可能にさせていた。

 

 

「さすがブルマさんだ…!」

 

「ほーっほほほほ。あ、念の為に最終確認するから、終わるまでちょっと待ってて。」

 

 

万が一の事を考えた上でブルマは機械の最終確認を始めていく、彼女の天才的な技術力には関心した視線を集めるばかりである。

 

 

 

 

 

 

(魔法の世界か…そういえばあの子は元気にしてるかな。)

 

 

唐突に悟飯の脳裏に浮かび上がった一人の少女が回想という形で記憶から浮かび上がっていた、姿は茶色い髪をツインテールにさせた白い服を着込んだ幼い少女。

まだ悟飯が幼い頃に出会った少女であり、今は記憶の中にだけ存在している少女だが現実に実在していたと思い知らせるように、彼は懐かしさから銀白のリボンを取り出す。

 

 

(もう、あれから10年も経ってるんだな……。)

 

「それって、昔あの白い魔法使いの女の子にもらったリボンじゃないのか?」

 

「ヤ、ヤムチャさん!?」

 

 

ガラス越しから覗き込まれるような視線に悟飯は驚いた表情を浮かべる、誰も見ていないという考えは思い込みであったに過ぎず慌しい反応を表に出したのだ。覗いていたのはヤムチャで苦笑を浮かべながら悟飯の隣に座る。

 

 

「ははは、驚かせて悪かったな。そっか、確かその女の子も魔法がある世界に住んでるんだっけ。」

 

「はい…。これから行く世界も魔法が存在する世界なので、念の為に持って行こうかと…。」

 

 

彼等の記憶の中に存在する少女は魔法が存在する世界に在住しており、トランクスと悟天が向かった先がもし―――という考えが彼等の脳裏にある。

真っ白なリボンを懐かしむ悟飯の姿にヤムチャは観察するように目を凝らす。

 

 

「なるほどな。で、悟飯はその子の事がスキだったのか?」

 

「ええっ!? えっと、その…スキかどうかはわかりませんが……気にはなってました。」

 

 

当時は恋愛の疎さ故に恋愛感情を持っていたどうかすら怪しい、その範疇に入っていた事は事実でも肝心な所は理解できずにいる。

 

 

「マジかよ! でも、それなら悟飯がミスターサタンの娘と付き合わなかった理由も説明できるな。」

 

「付き合うって…ビーデルさんは友達ですよ?」

 

「あー……お前は気にしなくていいぜ。」

 

「はぁ…?」

 

(悟空と同じで相手の好意には鈍感だからな。サタンの娘もよく懲りずにアプローチするぜ。)

 

 

言葉の真意が理解できないとばかりに首を捻る悟飯。先程の話が彼女と何の関係があるのだろうと彼は思考を張り巡らす。それを見たヤムチャは呆れ返りながらも好意に気づいてない悟飯を何度もアプローチするビーデルに同情するのだった。

 

 

 

 

 

「あのさ悟空、出発前に不安にさせるようなこと言って悪いんだけど……気をつけろよ。」

 

 

悟飯とヤムチャが騒ぎ立てる中で密かに静かな声と共に届いた言葉に悟空は振り返っては目を丸くさせて問いを投げる。

彼の言葉に含められた意図を理解できない、何故彼は急に言い放ったのか理由が悟空の中で見当たらずにいた。

 

 

「ん? 急にどうしたんだクリリン?」

 

「えっと…ほら、その異世界に住む魔法使いがいいヤツとは限らないだろ?もしかしたら悪い奴等の可能性だってあるし…。」

 

「それは一理あるな。あのバビディの持つ魔術も危険なものだった。もっとも昔、異世界から来た魔法を扱う少女は例外だったが…。」

 

「えっ? あの悟飯が連れてきた女の子って魔法使いだったのか!」

 

「ボクとヤムチャ様は知ってたよ。」

 

「だが、どちらにしろ用心に越したことはないだろう。」

 

 

魔法が実在する世界ではどのような魔法なのか、彼等はその世界の魔法を知らない…一部を除いては。故に警戒心は僅かながらに添えられている。

誰もが留めておくべき心得であるのだが悟空はまた別の疑問を抱いていた。クリリンと目を合わせればその内容を口にする。

 

 

「なあ、クリリン。その異世界の魔法使いって強えのかな?」

 

「…え? それはわからないけど……。」

 

 

怪訝に満ちた表情を浮かべて応えるクリリン、不安の思考を脳内で張り巡らせるクリリンは悟空の言葉で思考を中断させていた。

 

 

「そっかあ…強えヤツだったらいいな~~。オラそいつらと戦ってみてえぞ!」

 

「…ぶっ、はははははは!」

 

「なんだよ。オラ、ヘンなこと言ったか?」

 

「いや、お前らしいなと思ってさ。なんだか心配して損したぜ。」

 

「ん~~よくわかんねえけど、心配してくれてサンキューなクリリン!!」

 

 

納得がいかないとばかりに悟空はムッと表情を強張らせて露にする、決して彼は警戒心が添えられていない訳ではないのだが他の戦士達と違い思考が多少外れている部分を持つ。

本人は無自覚である事が返って他のメンバー達にとっては微笑ましい光景であり同時に失笑を浮かべてしまう思考である。彼の一面は変わり者でもあるのだ。

 

 

 

 

 

「これでよし…と。お待たせ―!確認が終わったから乗ってもいいわよ。」

 

 

早速メンバー全員が座席に腰を掛けていくとブルマは操縦パネルに視線を向け悟飯に操縦の仕方を説明し始める。

 

 

「次元の空間に入れば勝手にレーダーが反応すると思うから、そしたらこのボタンを押すのよ。」

 

「はい!この赤いボタンですね。」

 

「そうそう。それとエネルギーが…。」

 

 

次々とタイムマシンについての機能を説明し始めるブルマ、それ等を必死に飲み込もうと努力する悟飯だが終わる見込みのない話を聞いていたベジータは苛立ちを募らせていた。

 

 

「いつまでもグズグズしやがって…いい加減にしやがれ!!」

 

「……あ。」

 

「バカが……。」

 

 

腹を立てたベジータは拳を操縦パネルへと叩きつけ衝突音が鈍く流れ出した後、開いていた筈のハッチが突然閉まりだしたのだ。

違和感を覚えたベジータは自身の拳がブルマの説明していた起動ボタンに押す形で激突していた事に気づくが時既に遅し。

 

 

「ああっ!? なんてことしてくれたのよ!これじゃ外に出られないじゃない…!!」

 

「う、動きだしちゃいましたね…。」

 

 

ブルマを座席に乗せた状態でタイムマシンは空中を浮遊し、地面から一定の距離へと離れていくと悟空は騒ぎ出すクリリン達に…。

 

 

 

「じゃ、みんな!いってくる!!」

 

「―――ってちょっと!あたしは行かないわよ~~~~っ!!」

 

 

悟空は無邪気に明るい笑顔を向けて片手を上げる、そしてブルマの叫び声がタイムマシン内に五月蝿く木霊した後に、彼等は風景に溶けていくように姿を消すのであった……。




悟空「オッス!オラ悟空!! 早く魔法の世界で強えヤツと戦いてえな~~。」

ブルマ「ベジータ!あんたの所為であたしまで行く事になったじゃない!」

ベジータ「知るか。お前がノロマなのが悪いんだろうが…。」

ブルマ「なんですってえ…!!」

ピッコロ「…先が思いやられるな。」

悟空「次回DragonballVivid「再会の二人、銭湯大決戦!」」

悟飯「なんだか嫌な予感がする…。」


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第8話 再会の二人、銭湯大決戦!

高町家の浴槽が悟天によって破壊されてから数日が経過する、直るまでの期間は銭湯を利用する日々が続いていたのだ。

夕方が過ぎた夜中の時間帯に彼女達は日課のように銭湯を訪れていた。施設の内部へと足を踏み入れていけば受付係となのは、フェイトが会話を終えたところで。

 

 

「…じゃあ、そろそろ行こうか?」

 

「―――なのはさん、フェイトさん!」

 

「スバル!それにティアナも…?」

 

「アインハルトさん!?」

 

「……どうも。」

 

 

途中で呼び止められた声の本人に目を向ければ見慣れた顔を持つ人物が大勢いる。バルとティアナ、ノーヴェが其処に居たのだが彼女達よりも小さな子供はなのはとフェイトにとって面識が無かった。

ヴィヴィオは戸惑いを浮かべながらも新しく出会った翠銀色の髪を持つ少女を二人の母親に紹介する。

 

 

「え、えーーっと…こちらアインハルトさん。」

 

「はじめまして、ヴィヴィオの母…高町なのはです。娘がお世話になってます。」

 

「私はフェイト・T・ハラオウンです、ヴィヴィオの監察官をやっています。」

 

「アインハルト・ストラトスです。いえ、こちらこそ……。」

 

「ところでなのはさん、こっちの子は…?」

 

 

アインハルトはぎこちなく挨拶を交していた。何処かやりにくさを感じさせる彼女の表情にヴィヴィオは心配そうな視線で見守っている。

後に首を捻り、蒼紫色の髪を持つ女性は悟天へと穏やかな視線を向け、きょとんとした表情を見せる悟天にフェイトは微笑ましそうに彼を眺めていた。

 

 

「孫悟天、ちょっと色々あってなのはと面倒を見ているの。」

 

「そうだったんですか。あたし達と同じですね。」

 

「あー、お前が悟天か。あたしはノーヴェ・ナカジマ、よろしくな。」

 

「私はティアナ・ランスターよ。よろしくね、悟天くん。」

 

「うん!よろしくノーヴェさん!ティアナさん!」

 

 

悟天とティアナ達が互いに自己紹介をしていると、ヴィヴィオはその場には存在しない、最近出会ったばかりであろう少年の姿が見えない事に気づく。

 

 

「あれ?あの、トランクスくんはいないんですか?」

 

「あー、トランクスなら先に風呂に入っちまった。」

 

「スバルが一緒に入ろうっていうからよ。」

 

「え~~だって、家族なんだし。」

 

「……ホントだ!あっちにトランクスくんの気を感じる!!」

 

「あ、悟天!」

 

「悟天くん…ッ!?」

 

 

悟天は気が半滅したとはいえ、トランクスとの距離は近距離に値する。故に気を探る事は容易であり、彼は突然廊下を走り出してトランクスがいる風呂場へと足を進めていく。

唐突過ぎる行動にフェイトは彼の後を追いかけて行けばヴィヴィオもまた途方にくれた表情と共に後を追う。しかし悟天が脱衣所に入ってしまう諦めるかと思いきや、そのまま中まで入ろうとするフェイトに慌てて引き止めようとするが間に合わず自らも脱衣所に入ってしまう、その光景になのはとスバルは苦笑し、ノーヴェは呆れたように頭を抱えているのだった―――。

 

 

 

 

「トランクスくーーーーーーーーーーん!!!」

 

「えっ!? 悟天!なんでお前が…―――って危ないから走るな!!」

 

 

一方、悟天は脱衣室に突入すると同時に衣服を脱ぎ捨てながら疾走し続け扉を開け湯船に向かって勢いよく飛び込んでいく。突然の来訪者に湯船に浸かっていたトランクスは目を丸くしていた。

大声で会話のやり取りを風呂場で木霊した直後、悟天は途中から足を滑らせてしまい――――――

 

 

「へっ? わ、わわわああっ!?」

 

「こっちに来るなーーーーっ!!!」

 

「止まらないよおおおおぉぉぉぉぉーー!!?」

 

「うわあああぁっ!?」

 

 

風呂場の床を構成するタイルは湯によって塗れており、只でさえ床は滑りやすい状況である中、見事に悟天は足をトランクスの顔面へと衝突させていた。

 

 

 

 

 

―――数分間の時間が経過した頃、落ち着きを取り戻した二人は此処に至るまでの経過を二人で話し合い静寂的な雰囲気が場を包み込む。

 

 

「しっかし、まさか悟天がヴィヴィオちゃん家で世話になってたなんてなぁ。」

 

「えへへ、今度ヴィヴィオちゃんのお母さん達が魔法を見せてくれるんだよ。でも、ボク達は魔法が使えないんだって。」

 

「あー知ってるよ。魔法を使うには魔力を持ってなきゃダメなんだよな。それと、オレ達は次元漂流者ってやつらしいぜ。」

 

「じげんひょうりゅうしゃ?」

 

 

湯に浸かりながら悟天は目を丸くさせると同時にトランクスへと質問をぶつけた。彼等にとって聞き慣れない単語かつ、この世界にとっての専門用語に近い言葉の一つであった。

二人の居る世界以外―――他世界から、何らかの手法でこの世界へと入り込んだ人間の事を指す名称である。トランクスは悟天にわかるように次元漂流者の意味を述べていく。

 

 

「そういうわけだから、オレ達の世界が見つかるまではこの世界にいることになったんだ。」

 

「え!? じゃあボク達帰れないの?そんなのイヤだよ~。」

 

「仕方ないだろ、スバルさん達も元の世界に帰る方法を探してくれるって言ってるんだ。それまで待ってようぜ。」

 

 

あれからスバル達との生活は続いており、その中で仕入れた情報をトランクスは次々と教えていくのだが、途中から悟天は首を捻り始めて。

 

 

「待つってどのくらい?」

 

「ど、どのくらいって……そんなのオレがわかるわけないだろ。とにかく待ってればいいの!」

 

「イヤだ!ボク早く帰りたい。兄ちゃんやお父さん達に会いたい!!」

 

 

悟天の脳裏には悟飯の姿、悟空の姿が次々と映像的な演出で流れ出していくのだが彼等には元の世界へ帰る方法は残されていない。

途方も無く行き当たりばったりに行った行動に対して悟天は寂しさが胸に積もりトランクスに次々と吐き出すが、本人は途方にくれた表情を浮かべるしかなかった。

 

 

「ワガママ言うなよ!オレだってパパやママに会いたいさ。けど、今は待つしかないんだ…。」

 

「うう…トランクスくんが悪いんだ!トランクスくんが魔法の世界に行きたいって言ったから。」

 

「なんだよ!! 悟天だって乗り気だったじゃないか!オレ一人の所為にするなよな!」

 

 

湯船から立ち上がった悟天とトランクスは口論を行いながら互いを睨み付けていた。

 

 

 

 

 

男湯で激しい口論が展開される最中、女湯では既に湯に浸かり男湯とは違った静寂な雰囲気で包まれていた。

真夜中という時間的に他の人間が室内に入る事は無く、なのは達だけで湯船を独占する事ができている。

 

 

「誰もいないね……。」

 

「そうだね、普段は誰かが利用してるんだけど…。」

 

「なのはさん達はお風呂が壊れて以来、ずっと此処を利用しているのですか?」

 

「うん、そうだよ。ちょっと事情が今一よくわからないんだけど悟天くんがお風呂を壊したとか……。」

 

 

彼女の話だけでは完璧な把握は非常に難しい。なのははフェイトの浴槽が壊れるまでの経過を聞いたつもりだがそれでも彼女にとっては理解しづらい物であった。

フェイトは言葉を返す訳もなく、困ったように苦笑いを浮かべているだけでその事情に対して口を挟む行為は取らない。湯気が風呂場を包み込む中で、彼女達の肌は透き通るように濡れていた。

 

 

「そういえば、他の姉妹はどうしたの?」

 

「他の姉妹は買い物をしています、本当は一緒に銭湯に来る予定だったんですが…。」

 

「そうだったんだ…はやてちゃんも誘って今度は皆で来たいね。」

 

 

なのはは不意に脳裏に浮かんだのだ、ノーヴェを囲むように存在していた姉妹達の事を。ティアナは淡々と湯船の熱に頬を薄く赤くさせながらも返答を投げた。

 

 

「……あの、フェイトさん。悟天くんはどんな感じですか?」

 

「えっと、純粋で甘えん坊な子だけど、急にどうしたのスバル…?」

 

「あはは…トランクスくんの友達はどんな子なのかってちょっと気になって……。」

 

「ちょっとだけ話しましたけど、トランクスくんと違って悟天くんは素直な子ですね。」

 

 

苦笑い気味にスバルとティアナはトランクスについて話し始めたのだ、トランクスが来てからの生活の日々を耳にすればフェイトも暖かさを感じさせる微笑を向けていた。途中からノーヴェもその輪に加わり彼等についての話題を並べていく。

 

―――そんな中、アインハルトとヴィヴィオの間には気まずい空気だけが場を包み込んでいたのだ。

耳にするのはトランクスと悟天の話題、女性的なソプラノ音声が視界を悪くさせる湯気の中で反響し合う。だが二人の声は反響する事も無ければ一切言葉を発さずにいる。

 

 

(ど、どうしよう…なんとかして、アインハルトさんと話をしたいんだけど……。)

 

「……。」

 

(けど、声をかけたとしても何を話せばいいんだろう…?)

 

「…………。」

 

(家族の話は聞きづらいし…トランクスくんの話題とか?ストライクアーツとか……。)

 

「…………………。」

 

「あ、あの!アインハルトさ―――!」

 

 

 

 

「うわああああああぁぁぁぁーーっ!!!!」

 

 

 

 

漸く、ヴィヴィオは遂に声を発すると同時にアインハルトの虹彩異色の瞳がヴィヴィオを映し出す。が、唐突に広がるのは壁が倒壊する破壊音。

この場には有り得ない程の衝撃音が反響し合い、余計に耳を五月蝿く音が叩きつける。気分を害するには充分過ぎるほどの邪魔な存在である事に変わりはない。

 

分厚い壁に空穴のような破壊行動を行った小さな張本人に、全員の視線は収束していく…だが本人はその事に気づく余裕を持ち合わせていなかった。

 

 

「わ……っ!? 悟天…?」

 

「フェ、フェイトちゃん大丈夫…!?」

 

 

突然壁を突き抜けて出現すると同時に脱衣室まで聞こえる程の叫び声を上げながら、悟天は湯気が立ち込む空中を宙を舞うと湯船へと滑空―――その際、フェイトの豊富な胸部へ背中が密着する形でクッション代わりと化したのだ。

フェイト自身は悟天が子供故に気にする事はない。しかし、ノーヴェはその光景を見てわなわなと拳を握り震え出しており、頬は紅色に染め上がっていたのだ。

 

 

「ありがとうフェイトさん!」

 

「あ、悟天ッ!」

 

 

悟天は体制を整えるとフェイトに礼を述べて迎え撃つ為に高く飛翔する。穴の先からはトランクスの姿が見られ、彼は自身に迫り来るトランクスへと向かっていけば舞台を女湯に変えて再び乱闘を繰り広げる。

 

 

「でやああああっ!」

 

「だあああああっ!」

 

「おい、此処で戦うのかよっ!?」

 

「…え、えっと、すごいね、アインハルトさん……。」

 

「そう、ですね………。」

 

 

二人の空中戦闘は僅かな時間で終結したが、濡れた床に足が接触した途端―――間合いを秒間的に詰めた接近戦を始める始末なのだ。

言葉を失う女性陣にお構い無しに戦闘を続ける中でアインハルトとヴィヴィオは純粋に彼等の圧倒的な力量による戦闘に魅入られていた。

 

 

「すごく強いって事はわかるんだけど……。」

 

「ちょっとやり過ぎだね……。」

 

 

なのはとフェイトは静観の態度を崩さない、目視すら許さない人間を遥かに凌駕した格闘戦に桶や石鹸が何処の方向へと投げ飛ばされていく光景には目を丸くさせるだろう。

桶は壁に衝突した直後にヒビが入り粉々に塵となっていく姿にノーヴェは更に怒りを積もらせていた、鏡は破壊され破片が飛び取る衝撃音が室内で飛び交う。

 

 

(これで人がいたら不味い事になってたわねぇ……。)

 

「悟天くん、落ち着いて……!」

 

「それに此処で戦ったら危ないよ…っ!」

 

「はぁ…トランクスくーん!止め……きゃっ!?」

 

 

悟天に対してはフェイトとなのはが止めに入り、トランクスにはスバルとティアナ、それぞれの保護者が呼び掛けるが一切止まる事のない二人は戦闘が激化の一方を辿るのみである。

散乱する桶や石鹸などが空中移動する中で偶然的にティアナへと桶や石鹸が投げ込まれるが彼女は上手く避け切り、怪我する事は回避された。

 

その事実に気付いていない二人は雄叫びのようにかけ声を叫びながら接近戦で行われる打撃攻撃に歯止めが掛かる事はなく、遂にノーヴェは怒りの限界にまで達した瞬間――――。

 

 

 

 

「…………いい加減にしやがれ、てめえらぁぁぁーーーッッ!!!!」

 

 

 

 

最大限の激怒が込められた叫びが破壊音や衝撃音よりも木霊した、それに驚いてようやく二人は制止するのだった。

 

 

 

悟天には保護者であるなのはとフェイト、トランクスには保護者のスバルとティアナが交互の説教タイムを行っており、アインハルトとヴィヴィオ、ノーヴェはその場で彼等を見守っている。

 

 

「あのね、此処は沢山の人が利用する所だから戦闘したり物を壊したりしたら駄目なの…。」

 

「大勢の人に迷惑が掛かるんだよ……わかるよね?」

 

「ごめんなさい…。」

 

 

頭の上がらない悟天は謝罪の一言を口にしていた。女湯や男湯共々、二人の戦闘によって桶や石鹸等が飛び交い散乱している状況なのだ。

 

 

「トランクスくんも、次から絶対にしないように!」

 

「それで、どうして喧嘩していたの?」

 

 

淡い水色の瞳が覗き込むようにトランクスを捉える、スバルも同様の行為を行うと同時になのはやフェイトを始めとした女性陣の視線が悟天とトランクスへと向けられていた。

 

 

「悟天が帰れなくなったのはオレの所為だって言ったんだよ。」

 

「だって本当のことじゃないか!ドラゴンボールで魔法の世界に行こうって言ったのもトランクスくんだし。」

 

「だから、それはお前も賛成してただろ!いい加減自分にも原因があることを認めろよな。」

 

 

再び言い争いを始める二人に対してスバルはため息を吐く、ヴィヴィオやアインハルトは一切喧嘩を起こさない事を比べれば二人は非常に幼い印象を覚えてしまう。

同年代である事に間違いは無い、だが精神的に幼く感じる女性陣は男と女の違いなのかと疑問が脳裏で展開されていた。

 

 

「トランクスくんのバカ!!」

 

「悟天のわからずや!!」

 

「あー、おい。わかったからこの続きは四日後にしろ、だから此処でまた暴れんなって。」

 

 

頭に血が上り、両者に戦闘の構えを見せた途端にノーヴェはそれを見計らって牽制の言葉を口にすれば二人はキョトン、とした表情を浮かべんがら戦闘体制を崩す。

“四日後”という具体的な言葉が引っ掛かったヴィヴィオはその意味を求めて頭は回転する―――、暫くの間ヴィヴィオは険しい表情を浮かべていたが表情を崩し何かに気が付いたような顔色を突然露にさせながら口にした。

 

 

「四日後って…アインハルトさんと戦う日になるよね?」

 

「……確かにそうですね。」

 

「ああ…。だからお前等はその時に決着をつけろ、いいな?」

 

「四日後か……オレはいいぜ。悟天、お前が負けたら自分の非を認めろよな。」

 

「いいよ。でもボクが勝ったらトランクスくんが大事にしてるおもちゃを貰うからね。」

 

「ああ、構わないぜ。どれでも好きなのをやるよ。男の約束だ!」

 

 

ノーヴェの一言で一段落が付いた頃に悟天とトランクスは振り返って後ろに位置するヴィヴィオ達へと目を向ける。

 

 

「よーし!帰ったら修行するぞー!ヴィヴィオちゃん、一緒に頑張ろうね!!」

 

「悟天なんかに負けるもんか。アインハルトちゃん、オレ達も一緒に修行しよう!」

 

「「………………。」」

 

 

だが二人から放たれる視線は全身を凍り付かせる程、冷却的な視線を二人に浴びせていたのだ。彼女達の意図を理解できず首を捻る二人に苦笑いを浮かべる女性陣。

無理も無い、彼等は何も衣服を着ていない状態。数分前の展開から気づく事は無かったが静寂な雰囲気に包まれた直後、改めて彼等の体が目に映る。

 

しかも先程振り返った時に腰に巻いてあったタオルが床に落ちて、二人は素っ裸の姿を公に晒していたのだ。

 

 

「あ………。」

 

「……ん?」

 

 

その事に気が付いたとばかりにトランクスは全身を紅色に染まり上げて体が凍り付くが、悟天は意味が理解出来ない様子のまま不思議そうに首を傾げて場の雰囲気を見守っていた。

 

 

 

「いやあああああぁぁぁーーーっっ!!!」

 

「ッッッ~~~~~!!!」

 

 

「「――――わああああああぁぁぁぁっ!!!」」

 

 

 

直後、ヴィヴィオとアインハルトの高威力を誇る拳が二人の顔面へと殴りつけた挙句に男湯にまで悲鳴と共に吹き飛ばす、風呂場は少年少女達の悲鳴だけが混ざり合い木霊している。これには大人組も苦笑を浮かべるしかなかった。

 

なにはともあれ四日後の勝負に向けて彼等の修行の日々が始まるのであった……。




悟空「オッス!オラ悟空!! 悟天とトランクスのヤツ派手に暴れたな~~。」

ヤムチャ「女湯かあ。あいつらが羨ましいぜ…。」

天津飯「ヤムチャ。お前は何を言ってるんだ?」

ピッコロ「理由はくだらんが、修行をすることは良い心掛けだ。」

ベジータ「トランクス、カカロットのガキに負けたら許さんぞ。」

悟空「次回DragonballVivid「迫る日に向けて、悟天とトランクスの猛特訓!」」

悟飯「普段から真面目に修行すればいいのに……。」


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第9話 迫る日に向けて、悟天とトランクスの猛特訓!

「くっそー!まだこれくらいしか浮かべないのかよ~~。」

 

悟天への勝利に向けて修行の日々を積み重ねるトランクスは舞空術の訓練を行っていた。

この世界に訪れて以来、気の半滅が原因で上手く自身の実力を出し切れずにいる――前回の戦いはそれを象徴させるかのような結果なのだ。

元々トランクス自身の性格も重なっているが恐らく本来の実力を発揮出来れば性格によるマイナス要因をカバー要素としては充分すぎる。

 

 

「でも、昨日よりほんの少しだけ気のコントロールができるようになったし、このまま修行を続けてれば元の状態まで戻れるかもしれないぞ!」

 

 

確実に彼の実力は本領を取り戻しつつあるのだ、本格的な戦闘が可能になる日は近い。その時は悟天も本領を取り戻している可能性はあるが。

 

 

「…空を飛ぶ術自体が高度な技だと思いますが。」

 

「そう? それにしてもアインハルトちゃんの部屋ってトレーニング道具がいっぱいあるね。」

 

 

現在、トランクスはアインハルトの自宅でトレーニングを行っていたのだ。だがトランクスは当初アインハルトの部屋に訪れて驚いた事が一つ。

それはトレーニング道具が大量に置かれていた事、ごく普通の女子部屋とはかけ離れた大量のトレーニング道具は女性らしさを感じさせないのだ。

 

アインハルトにとって格闘とは趣味でも無く遊びでも無い、生きる意味と同意義。それをある種の形として表現した結果ではあるのだが――。

 

 

「…いけませんか?」

 

「いや、そういうわけじゃないけど…女の子なんだからぬいぐるみとか置いてあってもいいんじゃないかなって…。」

 

「……私には必要ありません。」

 

 

女子部屋の定番とも呼べるぬいぐるみの存在は無い、本人が必要としていないからこその結果なのだろう。元々ぬいぐるみが無くても生活するうえでは問題ない。

だがトランクスは腑に落ちずアインハルトの回答に不満を感じていた、言葉に言い表しにくい感情に対してどう言えばいいのかと言葉に迷う。

 

 

「え、え~と…あ、そうだ!修行に便利なアイテムを持ってるんだけど、アインハルトちゃんにも見せてあげよっか?」

 

「便利なアイテム…? ……そうですね、興味はあります。」

 

 

気まずい空気が流れている事に気付いたトランクスはすぐに話題を変える言葉を振る。ごく普通の言葉ではアインハルトは吊られない、これは彼女と生活する日々を重ねた上で知った事だ。

格闘に関連しない物に対してはあまりにも無関心すぎる。ぬいぐるみもその一部であり、少々窮屈な思考であるとトランクスは感じていた。

 

 

「オッケー! じゃあ、先に外に出て待ってて。」

 

「……わかりました。」

 

 

自宅から玄関へ、靴を履けば外に足を踏み入れるアインハルト。内心では外に出てほしいという言葉に動揺を覚えていた。

何故なら殆どのトレーニング道具は自宅に用意してしまっているのだ。修行に関るトレーニング道具などアインハルトにとっては今更な気がしてならない。

 

――――だが彼が用意するトレーニング道具は画期的だった。

 

 

「お待たせー!じゃ、ちょっと離れててね。それっ!」

 

「…っ!? これは……。」

 

 

自宅の庭に出たアインハルトが目の当たりにしたのは長方形型の装置。これだけなら驚くに値しないがアインハルトが驚いた要因として一つ。

トランクスはこの装置を設置する前に小型カプセルを投げているのだ、親指と人差し指だけで持てる程のカプセルから装置は唐突に出現した。

 

 

「じゃじゃーん、ママが作ってくれた小型版重力発生装置だよ。それで、ここをポチッと押せば…。」

 

「重力発生装置…!? ぐ、ぅっ……!!」

 

 

名称を察するに惑星全体に例外なく作用する重量に対して何らかの効果があるのだろう、それは明白だ。

だがトランクスが遊び半分で押したボタンでアインハルトは地に這い蹲らせる結果を生み出す事となる。急激な圧力がアインハルトとトランクスに圧し掛かったのだ。

 

それは奥深く水の中に潜れば誰もが必ず感じる圧力。それと似た感覚が二人の全身へと押し付けられアインハルトは立てる事が出来ずに体を地面に激痛と共に叩き付けられてしまう。

 

 

「ここから数メートルの範囲なら重力を自由に発生できる…ってアインハルトちゃん!?」

 

「っ、これが重力ですか……ッ。」

 

 

アインハルトは眼前で平然と立ち尽くす相手に驚きを隠せず、動揺を露にしていた。同時に重力発生装置に対しても、話には聞いていたが異文化の技術は侮れない事を叩き付けられる事になってしまう。

数秒だけアインハルトの状態に気付いていないトランクスは彼女の状態を直視して初めて効力を切る。その事によって今まで全身に掛けられていた異常な圧力は瞬時に消え伏せてしまう。

 

―――そして彼女は理解した事が一つ、あの装置を自身の自宅で使用すれば間違いなく部屋が崩壊してしまうだろう。トレーニング道具やベッド、ガラスが押し潰されるのは目に見える。

 

 

「ご、ごめん……大丈夫?」

 

「……はい、問題ありません。」

 

 

トランクス自身に悪気は無い、アインハルトの反応は予想外だったのだ。彼は幾度と無く当たり前のように重力装置を使って訓練を繰り返していた為に彼女へと配慮が欠ける結果となってしまった。

罪悪感に苛まれながら手を差し出し彼女はその手を掴む。生暖かい感触が伝わってくると同時に立ち上がればトランクスは謝罪する。

 

 

「よかった、本当にごめんね。すぐに片付けるから…。」

 

「いえ…その必要はありません。」

 

「えっ!? それってどういうこと?」

 

 

片付けようと伸ばす筈の手は伸びる事は無く、否定の言葉に動揺を表す。

 

 

「トランクスさんと私の実力の差が縮まらないのは修行のやり方が違う事も関係していると思います。

恐らくあの強力な圧力に浴びているだけで体は鍛えられる筈…少なくとも立てるぐらいにはなれるかと。……暫く貸してもらえませんか?」

 

「……わかった、その代わりそれを使うときはオレがいる時だけだからね。アインハルトちゃんは女の子なんだし、無茶してカラダ壊したら元も子もないから。」

 

「わかりました。…そんなことはないと思いますが、ありがとうございます。」

 

 

完璧に納得したわけではない、アインハルトは内心腑に落ちないが承諾故に回答を口にする。

―――こうして二人は決闘に向けての修行の日々を確実に進めているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ヴィヴィオと悟天はアインハルト達との対決に向けて同じように特訓を繰り返しており修行の毎日を重ねている。

ヴィヴィオの自宅周辺に広がる庭が彼等の修行場となっており、今も修行を続けているのであった。

 

悟天は気が半滅した事による影響でトランクス同様に実力を発揮できる訓練、ヴィヴィオは今の実力よりも更に上の実力を身に付けるため。それぞれ目的に応じた練習を行っている。

 

 

「ヴィヴィオちゃん、ちょっと手伝ってーー!!」

 

「どうしたの悟天くん?」

 

 

だが唐突にヴィヴィオを呼びかける声によって修行は一時中断、悟天の方へと振り返った彼女の瞳は点となっていた。

 

 

「ここからボクに石を投げてよ。」

 

「い、石……?」

 

 

発言はヴィヴィオの予想斜め上、きょとんとした唖然の表情を浮かべるヴィヴィオの真意を悟天が理解する事は難しい。

彼の言う通りに周りに置かれた小さな石を片手で掴み取ったヴィヴィオは悟天へと狙いを定める―――。

 

 

「ええいっ!」

 

 

ヴィヴィオは何処か遠慮がちに投げていた、理由がわからない悟天への発言からくる戸惑いが彼女の力を弱めているのだ。

だがそれでも体に命中すれば怪我を負う事は間違いない。彼女が遠慮がちに投げた小石は手加減が入っていても充分な速度と威力を持つ。

 

 

「ヴィヴィオちゃん、もっと速く投げてくれないと修行にならないよ…。」

 

「えっ、そ、そうなの……?」

 

 

余計に増した戸惑いに満ちた声を漏らすヴィヴィオ、だがよく考えてみれば彼は自身より実力は明らかに上。それは温泉時の事件によって一通りの戦闘力を目にしている。

悟天は投げられた石を片手で容易に受け止め不満を口に出す。恐らくヴィヴィオが本気で小石程度を投げてもビクともしないだろう。それは安易に思い付く取るに足らない誰でも理解出来る思考、単純に明快に彼の方が強い。

 

そしてもう一度、小さな兎のぬいぐるみが取った小石を受け取るヴィヴィオの手には加減など一切入らない。彼女本来の実力を出した高速の一発が飛来する――!

 

 

「よっと!」

 

 

再び軽々と小石を受け止める悟天、ヴィヴィオは未だに彼の真意を見抜く事は出来ない。修行という言葉が彼の行動を理解するヒントであったとしても理解する事は出来ずにいる。

 

 

「これがヴィヴィオちゃんの本気なの? それならこの辺から投げてよ。」

 

「うう~……!」

 

 

ヴィヴィオ自身、こうなる結果は見据えていた。だがそれでも不満を抱かずにはいられない、悟天の悪意のない挑発的発言は火に油を注ぐ行為に等しいのだ。

指摘した位置は悟天とは近距離に値する位置であって同時に其処から小石を投げ付ければ必ず命中するであろう位置、馬鹿にされたと感じるヴィヴィオは内心腹を立てていた。

 

 

 

 

「だったら………。」

 

 

 

 

故に彼女は愛用のぬいぐるみを手に取る。発生するのは巨大な発光体―――。

 

 

「わたしの本当の実力を見せてあげる!セイクリッド・ハート…セーットアーップ!!」

 

 

「え…?」

 

 

少女に纏わり付く発光体は姿を消す、同時に変わり果てたヴィヴィオの姿を悟天は目視する。あどけなさが残る幼い顔立ちから一変した凛々しく逞しい姿。

彼女の面影が残された金色の髪とオッドアイの瞳を持つ大人の姿。右サイドに束ねられた金色の髪と先程までの衣装とは違う戦闘防護服(バリアジャケット)。

 

 

「うわあっ!? ヴィヴィオちゃんが大きくなっちゃった…。」

 

「あ……そういえば悟天くんにこの姿を見せるの初めてだっけ…?」

 

 

負けず嫌いな面から来る感情と苛立ち、様々な物が綯い交ぜとなり複雑な心境を抱くヴィヴィオ。だが実は悟天にこの姿を見せるのは初めてだ。

何処か拍子抜けな声を漏らしながらヴィヴィオは自身の姿をどう説明しようか言葉に迷いながら思考する。

 

 

「その、これには色々事情があって……えっと魔法を使ったら大人になるの!」

 

「そうなの? いいな~ボクも大人になってみたいなぁ。」

 

「けど、悟天くんには魔力がないから……。」

 

「あ、そっか…。魔力は気と違うんだっけ。」

 

「気がどんな物かわからないけど、多分違うと思うよ…?」

 

「えっ!? ヴィヴィオちゃん、気を知らないの?」

 

 

かくんと首を傾げるヴィヴィオに不思議そうに見据える悟天、やがて話の論点がズレていく事に気付いたヴィヴィオは腰を屈めて。

 

 

「そ、それより修行に戻ろうよ。まずはわたしからだっけ…えいっ!!」

 

 

話題を変える為、ヴィヴィオは付近の石を拾い取り再び悟天へと投げ付ける。その速度は先程の物と比べ物にならない程に速い。一般人の肉眼では目視する事すら難しいだろう。

何より変身前のヴィヴィオと変身後の彼女との違いは衣装もあるが大人になった事が一番に大きい。子供と大人の差、筋力等が変身前と比べて格段にパワーアップしているのだ。

 

 

「わああぁぁっ!?」

 

「すごいっ!この距離で避けるなんて……それなら!」

 

 

それを象徴させたかのような一撃が近距離で叫び声を上げる悟天へと投げられた、距離上の問題から避ける事すら困難だが悟天はなんとか危機一髪の回避に成功する。

だが次に悟天が目視したのは「小石」。更に続けて視界に入り込む石、石石石、僅かな時間の間にありえない速度で移動する石を次々と悟天は避け続けていく。

 

 

「わっ!?ストップ! ストップしてヴィヴィオちゃん!!」

 

「すごいすごい!それじゃあ、どんどん行くねー!!」

 

 

ヴィヴィオは強い者と戦う行為を好む傾向がある、その強い者が悟天に当てはまってしまっていたのだ―――周りが見えずにいるヴィヴィオは次から次へと石を投げ続ける。

 

 

「わわわっ!?(投げる石のスピードが速くなってきている…。)」

 

 

一般人でもなければこの世界の住人でもない悟天は、幾度となくヴィヴィオからの石の猛攻を避け続けていく。

しかし近距離からの連続攻撃は悟天を徐々に追い込んでいた。悟天の体の動き…即ち避けるパターン、手順が彼女の脳内に記憶され攻撃に反映されていったのだった。

 

 

 

 

 

「…修行まだ続けてるみたいだね、ヴィヴィオも結構本気を出してるみたいだけど……。」

 

「う、うん…そうだね。」

 

 

ヴィヴィオと悟天との戦闘を窓際から静観し続ける二人、なのはとフェイトは手を出す事もなくそのまま見守り続けていたが――ヴィヴィオの行動がエスカレートしていき彼女達は目を凝らす。。

 

 

「なんだかちょっとヴィヴィオがやりすぎかな…。」

 

「そうだね、あのままじゃ悟天が怪我をするかもしれないから……止めてくる!」

 

「えっ、フェイトちゃんまって…!!」

 

 

走り出す、金色の髪を風に乗せてフェイトは突然足を動かした。唐突な行動故に一歩出遅れた反応と共になのはも先のフェイトを追いかける。

なのはとフェイトの目からして二人の修行は非常に危ない物であると互いが共通して感じつつあった。目標付近で石を何度も投げる行為は目に余る光景なのだ。

 

 

「ヴィヴィオ!少しやりすぎだよ。」

 

「悟天くん、怪我はない?」

 

「わっ、フェイトママ……!?」

 

「助かった~…ボクは大丈夫だよ。」

 

 

悟天を遮るように乱入するフェイトを目視で捉えると同時にヴィヴィオの手は静止する、未だに石を掴んだまま驚きの表情を浮かべていた。

一方でなのははゆっくりと相手に近付いていけば悟天の様子を確認して口を動かす。一安心付いたような落ち着いた顔色である。

 

 

「特訓のつもりかもしれないけど…今みたいに本気でやってたら悟天が怪我をするよ。」

 

「そ、そっか……ごめんね悟天くん。」

 

「気にしないで。それより、組手やろうよ。」

 

「組手……?うん、やる!」

 

 

思いもよらぬ言葉を発する相手に小首を曲げるフェイトは会話の内容が理解出来ない。故にこれからの展開もまた予想する事が彼女にはできなかった。それは同様になのはにも言える事だろう。

 

 

「フェイトちゃん、どうする?」

 

「組手で怪我をするかもしれないから…私は二人を見張ってるかな。」

 

「にゃはは…そうだね、わたしも二人を見ておくよ。」

 

「「はああっ!!!」」

 

 

やがて始まる戦闘、ヴィヴィオと悟天がぶつかりあう瞬間を二人は目を凝らして傍観し続ける事となる。修行の成果を発揮する為に、それぞれの決闘が刻々と近付いていた。




悟空「オッス!オラ悟空!! 二人とも真面目に修業してるみてえだな。会う時が楽しみだぞ。」

ピッコロ「流石に今回はふざけたりはしないだろう。」

ベジータ「ふん、トランクスめ…。勝手にカプセルを持ち出した事はブルマに黙っておいてやる。」


悟空「次回DragonballVivid「本気の勝負だ! 悟天、ヴィヴィオVSトランクス、アインハルト」」

悟飯「あの二人が本気で戦ったら、ただじゃすまないだろうなぁ。」


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第10話 本気の勝負だ! 悟天、ヴィヴィオVSトランクス、アインハルト

――――聖地の国で古い結晶により異なる次元の死者蘇りし時、黄金の戦士が出現する。

 

聖王教会・教会騎士団所属の騎士カリムはそう予言した。彼女は予言能力の持ち主であり、唐突に彼女はそう口を開いた。

同じく騎士に相応するシャッハは彼女の言葉を耳にして理解する事は出来ずにいる。意味がわからないのだ。

 

 

「騎士カリム…それは一体どういう意味なのですか?」

 

「……私にもよくわかりません。」

 

 

不吉な予兆か、或は幸福の予兆か。何かに対しての予言に代わりはないが意味を理解出来なければ只の不気味な戯言に過ぎない。

静かに二人は思考を繰り返していく中でカリムは自身が創造した思考を口にした、だがそれは―――……。

 

 

「次元の死者や、黄金の戦士が気になりますね…。」

 

「確かに、黄金の戦士もそうですが死者が蘇るだなんて……。」

 

 

それは彼女達の世界では「最も有り得ない現象」が起きるのだ。故にカリムが予兆する内容は「最も有り得ない予言」である。

決して口に出されず言葉にされる筈がない物。それは正しく彼女達からすれば不気味で不吉な予兆でしかない。

 

 

「…まあ、私の予言はよく当たる程度の占いです。もしかしたらハズれるかもしれません。」

 

「そう、ですが……。」

 

 

不気味な未来、有り得ない未来、普段通りの態度を見せるカリムだが内心では何か胸騒ぎを感じていた。

 

 

「…騎士カリム、そろそろお茶にしませんか?」

 

 

シャッハは優しく微笑みを掛けながらそう提案した、その緩やかな一言が緊迫した空気を見事に打ち破る事ができている。

先程から予言に夢中だったカリムは表情を一変させてすぐに嬉しそうな笑みを浮かべて、問いに同意を返すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、アインハルトとヴィヴィオとの決戦の場はアラル港湾埠頭の廃棄倉庫区画、試合時間まで10分ほど時間に空きがあった。

現在の時刻は1時20分―――その場にはヴィヴィオと悟天だけが姿を現しておりアインハルトとトランクスの二名がその決戦の場から姿を見せずにいる。

 

 

「試合時間まであと10分だね。」

 

「もうそろそろ到着ッスかねぇ…?」

 

「ヴィヴィオ、悟天くん、がんばってね。」

 

「うん…ありがとう、コロナ!」

 

「ありがとうコロナちゃん!」

 

 

ヴィヴィオ以外にもノーヴェやその姉妹、リオとコロナ等が観戦しにその場へ居合わせていたのだ。

だがそのメンバー以外の人物は一人たりとも存在していない。人通りの少ない廃棄倉庫区域は正に決闘を邪魔されない為に選んだ場所とも言える。

悟天は殆どのメンバーと初対面であったがすぐに自己紹介を交わし、彼等と馴染む事ができていた。

 

 

「お待たせしました…アインハルト・ストラトス、参りました。」

 

 

静寂な風が吹き荒れ、ヴィヴィオや悟天達を通り過ぎた瞬間…その場の誰もが聞き覚えのある女性特有の凛とした声が耳に届く。それに続いて幼い少年の声も。

 

 

「久しぶり!ヴィヴィオちゃん、コロナちゃん、リオちゃん。」

 

「来ていただいてありがとうございます、アインハルトさん!それからトランクスくんも…。」

 

 

待ち望んでいた二人が顔を見せた途端にヴィヴィオは深く頭を下げて礼儀正しく感謝の意を唱えた。無論、トランクスにも例外はなく。

その二人の背後に立ち並ぶ二人の若き女性は優しげな微笑を浮かべてその光景を見守りつつあった。

 

 

「此処な、救助隊の訓練でも使わせてもらってる場所なんだ。廃倉庫だし…許可も取ってあるから安心して全力を出していいぞ。」

 

「うん…最初から全力で行きます。」

 

 

一切迷いが見えない、決意で固められた虹彩異色の瞳。決して妥協は存在しない。それはアインハルトが求めている真剣勝負をそのまま再現したような構図をヴィヴィオが描いていた。

だがアインハルトは無表情を崩す事はなかった。ヴィヴィオと最初に出会ったままの感情が見えない表情…だが彼女の瞳は満足している様子はない、寧ろ不満に近く浮かばれないようにも見える。

 

 

「セイクリッド・ハート…セット・アップ!!」

 

「―――……武装形態。」

 

 

小さな可愛らしい兎のぬいぐるみを片手に掴み取ると同時、ヴィヴィオとアインハルトは互いに変身魔法を唱えた。

一瞬にして眩い光が少女達を覆い隠し、光が消え失せた頃には二人の少女はどこか子供の面影を残した見慣れない女性へと変貌する。

 

 

「アインハルトさんも大人モード!?」

 

「わあ…こうして見ると二人とも、凄い威圧感……。」

 

「陛下、無理はなさらずに……。」

 

「頑張ってねヴィヴィオちゃん。」

 

 

金色の髪をサイドテールにさせ、紺色の防護服に純白のジャケットを着込むヴィヴィオ。薄緑が入り込んだ銀色の髪をツーサイドアップにさせた翠色の重厚な防護服を着用するアインハルト。

ごく普通の子供として捉えるには明らかに両者は異端だ、突然大人になってしまう光景には一般人では驚きを隠し切れないだろう。だからこそ二人の対決は見物として充分過ぎるほどの価値を持ち合わせている。

コロナとリオ、姉妹達はその姿に歓声を上げて両者を互いに見守るような視線を送り続けていた。

 

 

「今回も魔法はナシの格闘オンリー!5分間の一本勝負…。」

 

「「…………。」」

 

 

張り詰めたプレッシャーを抱える二人、ヴィヴィオは静かに構えを取る。

 

 

 

「それじゃあ、試合―――開始ッ!!」

 

 

 

アインハルトとヴィヴィオの試合開始直後、ティアナは彼女達から視線を逸らして別方向へと目を向けた。その先にあるのは二人の少年だ。

互いに睨み合い、緊迫した雰囲気が彼等を包み込んでいる。その状況はアインハルトとヴィヴィオのような決闘直前の様子とよく似ているのだ。

 

 

(綺麗な構え……油断も甘さもない。)

 

(凄い威圧感…一体どれくらい、どんな風に鍛えてきたのだろう?)

 

 

甲高く女性のように高い少年の声が鳴り響く、直後に少女が見せた行動はヴィヴィオ同様の戦闘体制…綺麗に構えを取る。

 

 

(いい師匠や仲間に囲まれて、この子はきっと格闘技を楽しんでいる。)

 

(…勝てるなんて思わない。)

 

 

間合いを詰めたり、取ったりの繰り返し。張り詰めた空気が二人を包み込み、緊張故に少女達の握り締めた手には汗が含んでいた。

 

 

(私とは何もかも違うし……。)

 

(だけど、だからこそ一撃ずつで伝えなきゃ!)

 

 

 

 

(覇王(わたし)の拳(いたみ)を向けていい相手じゃない。)

 

 

(この間はごめんなさい、と―――。)

 

 

僅かな時間の差は勝負の世界で非常な結果を生み出す、それを避ける為にも彼女達は動き出したのだ。

 

 

「~~~ッッ!!」

 

 

先手を取ったのはヴィヴィオ、突き出される拳を察知した上でアインハルトは更なる先手…ヴィヴィオよりも一層早く動いた上で拳を突き出す。

 

 

「っく……!?」

 

 

先手を奪い取られたヴィヴィオは必死に両腕を交差させて彼女の拳を防ぐ、だが追い討ちを掛けるようにもう一つの腕で更にアインハルトは畳み掛けていく。

 

 

「ふ、二人とも変身してると余計に凄いね…。」

 

「そうね、二人ともこの日の為に必死で練習をしてたんだし……。」

 

 

スバルとティアナは二人の攻防戦を目にして口を開いた、高速を容易に超えた打撃が繰り返される二人の戦闘は魅入られる要素を持ち合わせている。

両者の才能と能力、そして努力が生み出した力がその魅入られる要素と言っていい。そして悟天とトランクスで行った修行の成果が大きく出ている。

もはや唯の一般人では彼女達を目視する事は厳しい。何を行っているのか、何を思っているのか、残像となった二人の戦闘が彼女達の目に入り続けていた。

 

 

(これがわたしの全力……!!)

 

 

ヴィヴィオが持つ想い、記憶、技量。持ち合わせている全てをアインハルトに叩き込む。自身の全力を認めてもらう為、問答無用の拳。

総ての感情が込められた拳(一撃)が超高速の攻防戦の中に潜む僅かな隙に付け込んで大胆にヴィヴィオは乗り出したのだ。

 

 

(わたしの格闘技(ストライクアーツ)―――ッッ!!!)

 

「っ、ぁ……!!」

 

「アインハルトちゃん!?」

 

 

それは初めてアインハルトがヴィヴィオに出し抜かれ、彼女の勝機に成りえる要素が生まれた瞬間でもある。

 

 

「やったあっ!」

 

 

悟天の無邪気な声が響く束の間、ヴィヴィオの猛攻にたじろぎ始めるアインハルトは必死に抵抗するが徐々にヴィヴィオが先手を取りつつあった。

 

 

(―――強くなるって約束した。)

 

 

彼女によって腹に打ち込まれ、頬へと打ち込まれた事で痛みが生じてきたのだ。防護服によって大幅に痛みは和らぐが何度も彼女の拳を受け止めていれば膝を付くのも時間の問題だろう。

 

 

(強くなるんだ!どこまでだって!!)

 

「がっ……!!」

 

 

初めてアインハルトの表情は苦々しい痛みを耐えるような歪んだ表情へと変化した。同時に彼女の腕に入り込んだヴィヴィオの拳、今まで以上の腕力が込められた一撃。

受け止めた腕に装着された金属品が無残に罅裂が入り、音を立てて崩れていく。――そして勝負を決する時が迫った。

 

 

「……っ!?」

 

 

深淵の虹彩異色はヴィヴィオを捉える、足先から練り上げる強烈な衝動を重厚なアスファルトの地面に強大な傷跡を残して踏み止まった。

 

 

 

「  覇 王  ・  断 空 拳!! 」

 

(―――これで決まった。)

 

 

 

腕に微かな痛みを覚えつつも強烈な衝撃が拳に乗せられ、ヴィヴィオの腹部へと直接叩き込まれる!

 

 

「……そこまで、一本!」

 

 

ヴィヴィオを戦闘不能にさせるには充分過ぎた、異常なエネルギーが集結し命中した事で強大な爆煙が発生したのだ。

それを切り裂くように吹き飛ばされるヴィヴィオは地面へと叩き付けられ再起不能となって子供の姿に戻っている。

 

 

「「ヴィヴィオ…!!」」

 

「ヴィヴィオちゃん!!」

 

「「陛下……!?」」

 

 

―――周りが心配して彼女に近付いてみれば気を失って暫く動けそうにない状態だ。疲労したアインハルトが勝者となって勝負に決着がつくのであった。

 

 

 

 

「ヴィヴィオちゃん大丈夫かなぁ。」

 

「…致命的なダメージを与えないように防護服に叩いておいたので、暫く経てば起きると思います。」

 

「アインハルトが気を遣ってくれたんだね、どうもありがとう。」

 

「そうだったんですか?ありがとうございます、アインハルトさん!」

 

「あ、いえ……。」

 

 

お礼を言われる為に口にした訳ではない、アインハルトはコロナやリオ、姉妹達から視線を逸らして頬を赤くする。

相手の好意的な態度に彼女は慌てふためく対応が多かった。今も視線を泳がして対応に困っていると…。

 

 

「……あら?」

 

「す、すみません……あれ!?」

 

 

突然目眩が生じアインハルトは一気に体制を崩してしまう。今まで凛とした態度から戸惑いに満ちた表情となってティアナに受け止められる形になる。

その時に少女は改めて自分の体の異変を認識した。自身の体の節々に力が入らないのだ、特に片腕。上手く体制を整えようと努力するが思い通りにはならない。

 

 

「ど、どうして……。」

 

「最後のカウンターがカスってたでしょ? それが原因だと思うよ。」 

 

「ああ、恐らく時間差で効いてきたんだろ。」

 

「確か、に………っ!?」

 

「ん、よっと……。」

 

 

トランクスとノーヴェの言葉に納得すると再び足の力が入らなくなりスバルに受け止めてもらう形に。アインハルトは生暖かい感触に戸惑いを覚えながら思い通りにならない自身の体に歯がゆさを感じていた。

 

 

「いいから、じっとしてろよ。」

 

「そのまま、ね…。」

 

 

ティアナとノーヴェの一言によって仕方がなくアインハルトはそのまま状態を継続する事になる。彼女自身も人に凭れ掛かった状態の方が体の安定を得やすかった。

 

 

「……ところで、ヴィヴィオはどうだった?」

 

 

会話の間が空いた所でノーヴェは先程からアインハルトに投げたかった問いを口にしたのだ。此処に至るまでに様々な訓練を詰んだヴィヴィオは以前戦った時よりも遥かに強くなっている。

その成果は驚異に値するほどなのだ。悟天との練習はヴィヴィオの能力を最大限に引き出す事に成功している―――だがそれはアインハルトも同様であり、誰もが彼女達の試合に目を奪われただろう。

 

 

「彼女には、謝らないといけません。」

 

 

未だに表情の変化は乏しいが、その顔色は罪悪感や不安などを表していた。凛とした女性特有の声で彼女は未だに気を失うヴィヴィオへと視線を向けつつ。

 

 

「先週は失礼な事を言ってしまいました…訂正します、と。」

 

「……そうしてやってくれ、きっと喜ぶ。」

 

(今回はアインハルトちゃんが勝ったけど、ヴィヴィオちゃんはまだまだ強くなるだろうな。)

 

 

アインハルトが口にした回答に至るまでの経歴は思考の繰り返しだ。当初彼女は自身に本気で拳を交えてくる理由が今一理解する事ができずにいた。

戦闘で感じたヴィヴィオの様子が今も少女の中では記憶として蘇る。何度も何度も攻撃を受けながらも立ち上がると同時に隙が無くなっていく拳や蹴りの応酬―――。

 

 

「…はじめまして、ヴィヴィオさん。アインハルト・ストラトスです。」

 

 

彼女が本当に伝えたい事が、今アインハルトの考えている物であるかどうかはわからない。証明するにはヴィヴィオが起きる必要があるのだ。

だがアインハルトは目を開ける様子の無い少女の手を取って静かに自分の名前を名乗った。まるで友達のような接し方で。

 

 

「起きてる時に言ってやれよ?」

 

「…恥ずかしいので嫌です。」

 

 

再び視線を逸らすアインハルト、頬は紅色に染まり切っておりそれを隠すように俯いている。表情を覗う事は難しい。

 

 

「お疲れアインハルトちゃん。後はゆっくり休みながらオレ達の試合を観戦しててよ。」

 

「っと、次はお前等の試合だったな…すぐに始めるから配置についてくれ。」

 

 

頷いて返答を返すアインハルト、注目すべき異世界の格闘技者同士の対決は好奇心を刺激されるような試合であり他の者からも視線が一気に二人へと収束していた。悟天は既にヴィヴィオの元から離れて配置に立っており、トランクスもすぐに配置につく。

 

 

「悟天…少しは真面目に修行してきたようだけど、今回も勝つのはオレだぜ。」

 

「違うよ!ボクが勝つんだ!ヴィヴィオちゃんのカタキは必ずとる!!」

 

「……ヴィヴィオさんは生きてますが。」

 

 

睨み合う二人の少年、互いに一定の距離にまで足を踏み入れていくと勝負直前といった彼等独特の張り詰めた空気が包み込む。

互いに道着を着用した姿は先程の少女と比べ格闘戦を行う上での現実感があるのだが――リオやコロナ、この世界での一般人が彼の衣装を目視すれば馴染みがない為に違和感を覚える衣装でもある。

 

 

「ルールは気絶するか降参するか…それと海に落ちたら負けだからな。」

 

「わかった。ボクが勝ったら約束を守ってもらうからね。」

 

「おいおいおい……まあいいけどよ。」

 

 

ルールを決めるのはノーヴェの役割なのだが二人の間でルールが定められてしまう光景にはため息しか出ない。未だに二人は睨み合いは続いていた。

 

 

「どんな勝負になるんスかねぇ…。」

 

「悟天くん、トランクスくん、がんばってね!」

 

「怪我しないでねーーーっ!!」

 

「なら…今回は二人のどちらかが気絶するか、降参するかまで試合は続行する。」

 

 

廃棄倉庫区域に広がる潮の匂いが嗅覚を刺激する中、甲高い声が響き渡ると同時に再び静寂の風が音を立てて通り抜ける。

生暖かい体温を冷やす冷風とも呼ぶべき気流が彼女達の長髪を靡かせていた。だがそれはまるで嵐の前の静けさを感じさせ、不気味な雰囲気が漂っている。

 

 

「それと例外として海に落ちたら負けだ。んじゃ―――試合…開始ッ!!」

 

 

 

 

 

「きゃぁ…っ!?」

 

「何が起こってるの…!!」

 

 

周辺を吹き飛ばす勢いで発生したのは強大な衝撃破、強風と化してその場に居る者へと叩きつけられていく。穏やかな風から一変した暴風は正しく自然の暴力だった。

 

 

「うっ、く……あのチビ共、最初から本気出してるな…!」

 

「……こちらの事も考えてほしいですね。」

 

 

轟音と共に円状に広がる衝撃破を発生させているのは二人の子供。力と外見との凄まじいギャップを感じさせる二人の少年の拳同士が相打ちとなって命中した途端に発生したのだ。

その威力と速度はヴィヴィオやアインハルトとは比較にならない程の強大な力その物。暴風はもはやアインハルト達を吹き飛ばす勢いで吹き荒れるが彼女達は体力を振り絞って踏み止まっていた。

 

暴風が周辺の建物を無造作に叩き付ける中、彼等は―――。

 

 

「「だだだだだだだっ!!」」

 

 

遥か上空に彼等の姿を目視する事が出来たが、到底一般人では目視する事すら不可能な攻防戦が巻き起こっている。アインハルト達から見れば太陽の光が彼等を視界に入り込む事を拒んでいるようにも見えるのだ。

途方も無い速度で巻き起こる拳と蹴りの連続攻撃の一つ一つの動作が悪戯な暴風と化して周辺に撒き散らしている。それはまるで異常なエネルギーの塊が上空で集中しているという証拠だ。

 

 

「此処からじゃ、二人が何をやっているのかわからないわね…。」

 

「凄い音だね……あんなに離れてるのに聞こえてくる。」

 

 

突然、悟天とトランクスは間を空けると瞬時に高速回転しながら地面へと着地する。彼女達の中では視界に入り込む二人の姿はもはや残像となって脳に処理されているのだ。

 

 

「「はあああーーーっ!!!」」

 

 

高速を軽々と超えた速度、人間の眼では目視出来ない圧倒的な速度に全身を乗せて力任せな拳を互いに突き出す。

同時に再びアインハルト達に襲い掛かるのは暴風。暴力を我武者羅に叩き付ける一撃。

 

 

「っぐ……。」

 

「ッ……。」

 

 

拳は彼等の頬に深く入り込んでいた、圧迫による痛みがじわじわと押し寄せ苦痛の表情を浮かべる二人。

そしてようやくアインハルト達は初めて彼等の動作を目の当たりにしたのだ。今まで圧倒的な速度で確認する事は出来なかったが、今一時停止している彼等をようやく目視する事ができた。

 

 

 

「ん、ぅ……。」

 

「陛下…目が覚めましたか?」

 

「ディード…うん、心配かけてごめん…って悟天くん、トランクスくん!?」

 

 

目を開けた先には自身の見慣れた人物の顔、そして視線を傾けた先に見えたのは悟天とトランクスとの格闘戦。

 

 

「起きたか、今トランクスと悟天の試合なんだ。」

 

「と、トランクスくんと悟天くんの……?」

 

「はい…少し危ないので離れていた方がいいですよ。」

 

 

ヴィヴィオは思わず首を傾げた、危ないという意味を理解出来ないのだ。未だに二人の戦闘は続いており、彼等は額に冷や汗を流していた。

 

 

(悟天の気が前に戦った時より増えている…長引く前に決着をつけなきゃヤバそうだ。)

 

(トランクスくんの全力はこんなもんじゃない。本気を出される前にここで一気に決めないと。)

 

 

足に力を入れ、飛び退くように再び距離を取る二人。全員の注目を浴びる中で悟天とトランクスの表情は険しい物へと変化していた。

それはまだ幼い少年とは思えない威圧感を乱暴に放ちながら、ヴィヴィオとアインハルトとはまた違う他者を精神的に圧倒するプレッシャーだった。

 

 

「金色の光……!?」

 

 

唐突にティアナは口を開いた、そして誰もが彼等を包み込む光に目を奪われてしまう。

 

 

 

 

「「―――はあああ…!!!」」

 

 

 

 

黄金の粒子が出現した数秒後、金色の光が彼等を包み込む。そして無重力に逆らう金色の髪と威圧的な碧眼へと変化する。

炎のように燃え盛る金色の光は太陽の光のように一方的に周辺を照らし出す…遂に悟天とトランクスは真の力を引き出すのだった――――――。




悟空「オッス!オラ悟空!! どうやら修行の成果が出てるみてえだな。なかなかいい勝負だぞ。」

ベジータ「フン、まだまだ甘いな。到着したらオレがみっちりしごいてやる。」

悟飯「やっぱり超サイヤ人になっちゃったか。」

ピッコロ「騒ぎにならなければいいが…。」

悟空「DragonballVivid「遂に到着! フルメンバー大集合!!」」

ブルマ「みんなー!レーダーに反応が出たわよーーーっ!!」


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聖王教会襲撃編
第11話 遂に到着! フルメンバー大集合!!


「遂に……この時が来た。管理局に復讐する時が…!!」

 

 

飛翔魔法を使用しているのか、男は飛んでいた。聖王教会の上空を浮遊する男は憎々しげに華やかな建物を見下ろしている。

その男は戦闘服―――即ち防護服を装着しており、外見上は何処にでも居そうな一般魔導師という素朴な外見であった。

 

 

「村人達の恨み、故郷を失った私達の悲しみを味あわせてやる……!!」

 

 

更に、男の隣に存在したのは女。二人は目立たないように地味なフードを着込む事で顔を隠していた。素顔を知られる事は彼等の中では不味い事なのか、顔や体系をフードによって隠蔽されている。

それは一般人の目に写れば不気味な存在だ。顔はフードと影によって隠蔽され、体系もまったくわからない。それはまるで犯罪者が自身の素顔を知られない為にマスクやサングラス、帽子等を着用して隠すのとよく似ている。

 

 

「ほっほっほ、高揚するのは結構ですが、“アレ”を手に入れることを忘れてはいけませんよ。その為にわたしを呼び出したのでしょう?」

 

「…わかっている。今回の計画にはアレが必要不可欠だからな…失敗は許さんぞ。」

 

「ほう、このわたしに向かってそのような口を叩くとは…本来ならその場で殺してしまう所ですがあなた方には恩がありますからね。

それに今あなた方に死なれては此方としても困りますので今回は特別に生かしておいて差し上げましょう。」

 

 

男と女はこの世界から充分過ぎるほどに浮いた存在だが、一番に並外れて浮いていたのは独特な口調で語りかける生き物。それは人間として形容するのは難しい。

外見上は明らかに別種類の生物。地球に存在するかどうかも怪しく、宇宙人という表現が適当な程の外見を持っているのだ。精々共通するのは二足歩行と言葉を喋るという二点ぐらいである。

 

 

「……ありが―――きゃあっ!?」

 

 

僅かな静寂に紛れた女性特有の甲高い声、同時に巻き起こったのは―――聖王教会で発生する"爆発音"。

巨大な轟音が鳴り響き遥か上空にもその凄まじい破壊音が耳に届く。それはこの世界にとってイレギュラーな事態、にも関らず彼等は反応を示さない。

 

微かに男の口元が歪む、だがそれだけであり微動な反応を示すだけである。

 

 

「どうやら始まったようですね。この星の方々の戦闘力を部下に調べさせた結果、わたしが出る幕ではないと判断いたしましたので彼等に任せることにしました。

勿論アレの在り処を吐かせるまでは殺さないように命令しておきましたのでご安心を。」

 

 

聖王教会から五月蝿く非常ベルが騒ぎ立てれば場は騒然とした大パニックを巻き起こしており、そんな中でも取り乱さず冷静沈着に語り掛ける悪魔は、笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方で金色のオーラを身に纏う二人の姿に圧倒され強風によって吹き飛ばされかねないヴィヴィオ達は動揺を見せながらも踏ん張り続けている。

明らかに自分達とは違う別種類の人間、そして異次元の技術。ヴィヴィオ達の世界から見れば彼等の存在はある種の革命的ではあるがトランクス達から見てもそうだろう。

 

 

「二人の姿が変わった…!?」

 

 

重力に逆らう金色の髪と威圧的な蒼眼、その外見は以前の姿と比べて圧倒的に存在感が増し言葉に言い表せないプレッシャーを感じさせる。

 

 

「金色の、戦士……っ。」

 

「あの金髪…! あの時の……。」

 

「あれがチビ達の真の姿っスか。」

 

「それにしても、凄い力…ちょっと危ないかもしれないね…。」

 

 

気を抜けば確実に吹き飛ばされる環境下、危機感を頂かざるをえないのだ。尋常とは思えない強大な力を持つ二人は存在自体が異質以外の何者でもない。

他の姉妹達もそれを同様に感じ取っている。異世界についての事情をノーヴェから聞かされていたとしても、実際に現場に立ち会えばそれを尚更実感させられていた。

 

 

「綺麗な色~……!」

 

「うん、カッコイイよね!」

 

「だけどスバルさんの言う通り、危ないよ…!」

 

 

邪気の欠片も感じさせないリオとコロナの会話にヴィヴィオは慌しく割って入り釘を刺すような言葉を送る、だがそれは真実味のある言葉だ。

彼等が今以上にヒートアップさせて戦いを始めれば何らかの被害を出す可能性は否めない。二人を身に纏う美しき金色の光は畏怖の対象でもある。

 

 

「やっぱ今のままだと超サイヤ人には長くなれないようだな。」

 

「そうだね。でも、それなら変身が解けちゃう前に決着をつければいいんだよ。」

 

 

燃え盛る金色の炎に身を包む二人の少年、それは飛翔する黄金の炎―――何気なく取り留めない会話を繰り広げるように悟天とトランクスは言葉を交わしていた。

 

 

「そんなことわかってるさ。悟天、勝っても負けても恨みっこなしだぜ!」

 

「うん!よ~し、いっくぞーーーっ!!」

 

 

幾度と無く轟音が鳴り響き、猛烈な攻防戦が巻き起こる。衝撃破のように荒れ狂う暴風を引き起こす二人の戦闘はヴィヴィオ達から見れば次元の違いを感じさせる程だ。

練習の秘訣を知るアインハルトとヴィヴィオなら二人の強い理由がある程度までは察する事が出来るが他の者からすればとんでもないレベルだろう。

 

 

「…あれは止めないとまずいんじゃないかな。」

 

 

不意に茶色い長髪を持つディエチは口を開いた、だがそう言葉を投げるのも無理はない――二人の戦闘による衝撃が地面へと広大な傷跡を残しているのだ。

 

 

「確かにこれはやりすぎだ…っ、ぐ……!」

 

「こんな時に地震…!?」

 

「ううん、違う…二人が戦ってる衝撃が地面に伝わってるだけだと思う……!!」

 

「わわわっ…!」

 

「リ、リオ大丈夫…!?」

 

 

地震が起きたかのような揺れがヴィヴィオ達に襲い掛かっていた、思わず体制を崩したリオはヴィヴィオに支えてもらう形となりつつ。

歩く事すら上手くいかない状況下、それを作り出す元凶は明らかに彼等の存在だろう。

 

 

「…ったく、世話の掛かるチビ共だ。おーい!! 悟天!トランクス~~っ!!」

 

「二人ともーーッ!!!今すぐ戦いを止めて!」

 

 

ノーヴェとヴィヴィオは力強く上空で激闘を繰り広げている二人へと訴えかけるが、その叫び声は虚しく轟音によって消し去られてしまう。

故に二人の戦闘は止まる気配すら感じる事はなく更なる激化を辿るばかりであった――揺れも急激に激しくなり海が荒々しく波を打ち被害は確実に広まっている。

 

 

「っ……、聞こえていないようですね。」

 

「もう少し近づいた方がいいんじゃないっスか?」

 

「それだと私達が怪我をします……!」

 

「二人に近付けば近付くほどこの風が物を言うでしょうね…。」

 

「じゃあ、二人に攻撃をするとか…?」

 

「私達の攻撃ではビクともしないと思いますが……。」

 

 

この場に居合わせる中でトランクスと悟天を止められる者はいない、二人が満足するまでこの超越的な戦闘は止まらないだろう。

だがその頃には周辺がどうなっているのか想像する事は容易い…邪魔をするなとばかりの暴力は一向に激化を巡っていく。

 

 

「こんな時、なのはママかフェイトママが居てくれたら……。」

 

 

脳裏に浮かぶ二人の母親、あの二人ならもしかしたらトランクスと悟天を止められるかもしれない――だがそんな彼女の思考を吹き飛ばす勢いで地震は起きていた。

 

 

「「はああああああああっ!!!」」

 

 

巨大な金色の炎は正しく戦闘の火花、たった二人の少年を止める事すら叶わない。地面には亀裂が入り込みヴィヴィオ達は立ち尽くす事も出来ずにいた。

 

 

「あれ……?」

 

 

トランクスと悟天は更なる激闘を繰り広げ凄まじい音響が何度も鳴り響いている、終息を見せない戦いだが一つの奇妙な発光体が彼等の周辺に出現してたのは誰もが気付かずにいた。

衝撃破と化した暴風にびくともせず、眩い光が消え去った瞬間―――ヴィヴィオは目視する、宙に漂うカプセル型の巨大な機械を。

 

 

 

 

 

 

「おっ!景色が変わったぞ。」

 

「どうやら目的地に着いたようだな。」

 

「でも、なんか暑くないですか?」

 

「確かに暑いわね…ってオーバーヒートしてるじゃない!!」

 

 

ヴィヴィオが目視した機械内での会話は場の空気とは相反しすぎた物、内部からの異常現象に気付いた女性は声を張り上げた。

 

 

「カカロット、後ろを見てみろ。」

 

「後ろ…? うわぁち!あちちちち…!!」

 

 

丁度、背後ではオーバーヒートの末に装置は紅色の火が生じていたのだ。このままでは火が広がり死に至るのは時間の問題。

 

 

「お父さん!? 大変だ、火を消さないと…。」

 

「いや、その前に此処から出ることが優先だ。火は既に全体に回ってるからな。」

 

 

室内全体に火が包み込む事で当然その後に起きるのは急激な温度上昇、彼等が気付いた時は既に緊急事態とも呼ぶべきトラブルへと悪化していた。

慌しく周りに視線を張り巡らせる五人は必死にこの状況を打開する術を思考し探し続ける……。

 

 

「ダメ…ハッチが開かないわ。」

 

「ふん、開かなければオレがぶっ壊してやる。」

 

「まて! 下手に衝撃を与えれば爆発を起こしかねんぞ。」

 

 

余談だがハッチが開かなくなった原因はベジータにあり、この世界に来る以前…出発時点で強引にボタンを壊すように押した彼がこの事態を招いた原因の一つでもあった。

今にも爆発寸前と言わんばかりの勢いで火は全体を包み込み機械自体を焼き尽くしている。

 

 

「ボク達は問題ないですがブルマさんは……。」

 

「えーん、あたしまだ死にたくな~~い!!」

 

「なにか方法は…―――そうだ! お父さん、瞬間移動を使ってください。たぶん近くに悟天達がいるはずです。」

 

 

悟飯は不意に思い浮かんだように悟空へと言葉を投げて提案を口にした。それはこの状況を打開するのに最も合理的な判断とも呼べる。

タイムマシンが悟天達の居る世界へと到着していた事が不幸中の幸いだろう、更に二人の気も全身から伝わってくる事を四人は気付いていた。

 

 

「なるほど…その方法なら此処から抜け出せる他にあいつらも見つけることができる。」

 

「悟飯くん、アタマいい!」

 

「悟天達の気だな……あった! みんな、オラに掴まってくれ!」

 

 

悟空の指示通り全員の片手が悟空へと触れるように接触する。やがて彼等の姿が消えてしまうまで、およそ数秒の出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

「「だあああああ……えっ!? わわわわっ!!?」」

 

 

そして二人を停止させるには充分過ぎる程の要素が唐突に出現したのだ。何の前触れも予兆も、一切の通告も無い。ある筈のない物が其処に居た。

世界にとっては異端物以外の何者でもない、故に悟天とトランクスが驚くに値する。猛攻を繰り広げるバトルは即座に中止され代わりに驚きの声だけが広がったのだ。

 

 

「よう、悟天!迎えにきたぞ。」

 

「無事でよかった。あまり母さんを心配させるなよ?」

 

「お父さん!兄ちゃん!!」

 

 

見慣れた人物が其処に居た、悟空と悟飯を直視した途端に悟天には無意識の笑顔を露にして叫ぶ。

 

 

「トランクス!」

 

「手間かけさせやがって…。」

 

「パパ!ママ!!」

 

 

同様の現象がトランクスにも起こっていた、ブルマとベジータの顔を目視した直後に嬉しさ交じりの驚いた表情を浮かべて。

 

 

「悟天く~~ん!!トランクスく~~~ん……!!」

 

「二人とも、やっと止まってくれたのね……っ。」

 

「地震とか起きちゃったからびっくりしたよ!」

 

「!……もしかしてさっきの光って…。」

 

「トランクスさん、悟天さん、そちらの方々は一体…?」

 

 

スバルとティアナが二人に追いつくと同時、リオが感想を述べた。同時にアインハルトとヴィヴィオは二人の周辺に佇む悟空達へと視線を向ける。

純粋に問いを示すような視線だったが何故かピッコロ相手にだけは誰もが冷ややかな警戒が入った目線を送り続けていた。

 

 

「あ、アインハルトちゃん。一緒にいるのはオレのパパとママ、悟天のパパと悟飯さん、それとピッコロさんだよ。」

 

「オッス! オラは孫悟空だ。悟天達が世話になったな。」

 

「はじめまして、悟天の兄の孫悟飯です。」

 

 

それはこの世界に存在しない人間達、いや正確には人間ではない―――人当たりのよい返事を返す悟空に思わずヴィヴィオは慌てて頭を下げつつ。

だがトランクスの発言に誰もが疑問を持っただろう、悟天の父親と言われた悟空の外見は明らかに二十代。父親としてはあまりにも若すぎるのだ。しかし髪型や服装が親子だと物語っている。

 

一方では兄と称された悟飯は穏やかな優しさを感じさせる笑みを浮かべていた、名前以外を除けば特に不振に感じられる要素は一切ない。

 

 

「………。」

 

「あたしはトランクスの母親のブルマ、それで腕を組んでるのが父親のベジータよ。」

 

「…ピッコロだ。」

 

 

初めて緑色の生き物は口を開く、ベジータと称された男は無言を貫き通しながら。しかしノーヴェやスバル達は驚いた表情を崩す事はなかった。

 

 

「え、えっとはじめまして…!悟天くんのお友達の高町ヴィヴィオです…!」

 

「……アインハルト・ストラトスです、以後お見知りおきを。」

 

 

戸惑いが残った自己紹介を口にする、頭を下げるヴィヴィオと物静かに名を名乗るアインハルトは正反対の反応をそれぞれ示していた。

 

 

「でも、どうしてオレ達がここに来てるってわかったの?」

 

「ふふっ、それはトランクスの荷物に入れておいた発信器の反応をタイムマシンで……ってそうよ!タイムマシンは!?」

 

 

ブルマは慌てて視線でタイムマシンを探すがそれらしい物は見つからず、破片の一つも視界に飛び込んではこない。

だが海の真上でそれは見かけた。焦げ切ったタイムマシンが海の中へと沈んでいく光景を彼等は目にしたのだ。

 

 

「…し、沈んじゃいましたね。」

 

「これでオレ達が元の世界に帰る術を失ってしまったな…。」

 

「そうなんか!? まいったな~…こっからじゃ界王様の気も感じねえから瞬間移動も使えねえぞ。」

 

「ねえねえ、なんで帰れないの~?」

 

 

首を傾げる悟天、だが回答は誰も投げない。

 

 

「うるさい奴等だ、壊れたならまた作ればいいだけだろ。」

 

「なんですって! 元はと言えばあんたがハッチのスイッチを壊すからこうなったんじゃない!!それにタイムマシンは特殊なパーツが必要でそう簡単に作れないのよ!!」

 

「ま、ママ…落ち着いて!」

 

 

呆然と眺める悟空達、一人だけ五月蝿く騒ぐブルマに対してトランクスが落ち着かせようと説得する中、ヴィヴィオ達までもが半分放心状態で沈んでいくタイムマシンを見守っていた。

まったく話についていけない、ヴィヴィオ達からすれば悟空達がどのような手段でこの世界に辿り付いたのか。

そして彼等の反応もまた同様に。迂闊に口を挟むことも出来ずに状況認識に努力を費やすだけである。

 

 

 

 

 

『―――スバルさん、大変です…!!』

 

「シスターシャッハ……!?」

 

 

だがその雰囲気を瞬間的に断ち切られてしまう、それは誰もが予兆しなかった緊急事態。

 

 

『何者かが聖王教会を襲撃してきました…!! 爆発によって辺りは酷い事になっています……。』

 

「襲撃…!?」

 

 

空中にモニター画面が出現すると同時に映し出されたのはシスターシャッハ、突然の出来事に認識すら忘れてしまうような光景であった。

 

 

『っぐ……!!』

 

『なのはさん!? 大丈夫ですか、なのはさん…っ!!』

 

「―――なのは、ママ……?」

 

 

シスターシャッハは戦闘が起きている現場から離れた位置で通信しているようにも見えた、少なくてもスバルとティアナからはそう予想したのだ。

しかしなのはの悲痛に塗れた声がヴィヴィオの思考を急停止させた。それはスバルとティアナにも同様に思考回路を悪くさせる要素だ。

 

エースオブエースと呼ばれし存在が苦戦している。状況は思った以上に酷な印象を植えつける物だった。

 

 

(えっ? なのはって…まさか!?)

 

 

決して口にはしない声を抱える悟飯は深刻な表情へと成り代わる。それはあまりにも唐突だ。

 

 

「どうなってるんだよ…っ!!」

 

『今、高町一等空尉とフェイト執務官が現場に居合わせていますが、両方とも苦戦しています……。』

 

「フェイトママも……!?」

 

「ヴィヴィオ、大丈夫……?」

 

「…う、うん。大丈夫だよ!ありがとう、リオ!」

 

 

二人の母親が今戦っている。ヴィヴィオは胸が締め付けられるような痛みを感じながらもリオに明るい返事を口にしていた。

 

 

「あの二人が苦戦って、只事じゃないッス!」

 

「……二人の事はよくわかりませんが、すぐに聖王教会に行った方が…。」

 

『おーっと、こんな所に隠れて何をしているんだ?』

 

『天下のギニュー特戦隊から逃げられると思うな。』

 

『なっ……至急聖王教会までお願いします!では……っ。』

 

 

その耳障りな声を聞いた瞬間、全員は体を凍り付き一瞬の間沈黙が包み込んだ。

シャッハの声を最後にモニター画面が消えると不穏な空気だけがヴィヴィオ達や悟空達を包み込み、背筋に悪寒を走らせていた。

 

 

「―――お父さん! 今、ギニュー特戦隊って……。」

 

 

沈黙を打ち破ったのは悟飯の声、だがその発言はあの耳障りな男達の声の正体を知っているかのような口ぶりだ。

 

 

「あの方角から邪悪な気を複数感じる。恐らくそれが奴等なのだろう。」

 

「ちょっと待ってよ! 確かギニュー特戦隊って昔、孫くん達がやっつけちゃったんでしょ?なんでこの世界にいるわけ?」

 

「オラにもわからねえ…けど、死んだらあの世にいくはずなんだけどな…。」

 

「奴等が生きていようが関係ない。またオレがぶっ殺してやる…。」

 

 

物騒な言葉を並べる男にヴィヴィオやリオ、コロナは小さく震えてその様子を眺める。殺し合いは決して禁じられるべき行為なのだがその男は本気で殺しそうに思えた。

その様子を逃さずに目にするスバルとティアナは改めて口を開く。

 

 

「…とにかく私達は聖王教会へ向かいますが、危険地帯に民間人は連れて行けません。」

 

「止めておけ…お前達では殺されるぞ。」

 

 

まるで彼女達を見通したような視線を向ける男、外見からして人間ではないのは明確なほど異様な外見を持っていた。

貫くような眼光に言葉を失い呆然としてしまうスバルだが再び覇気を取り戻した彼女は迷いのない一言を呟く。

 

 

「……それでも、民間人を巻き込むわけにはいきません!」

 

「ノーヴェ、ヴィヴィオ達の事は任せたわ。」

 

「ああ、気をつけろよ…!ヴィヴィオ達を送り届けたらそっちにいくからな。」

 

「スバルさん、ティアナさん……ママ達のことお願い。」

 

 

スバルとティアナは同時に軽く頷けばヴィヴィオ達に背後を向けて走り出す。向かう先は勿論聖王教会、なのはとフェイト、シスターシャッハが戦う戦場。

不穏な空気だけが残されたヴィヴィオ達は気まずい空気をどうにか崩そうと必死に思考を繰り返した末に発言した。

 

 

「孫、どうするつもりだ。あの連中だと殺されるのは目に見えているぞ。」

 

「そうですよ。やっぱり引き止めに行った方が……。」

 

「だったらオラ達が聖王教会っちゅうとこに先回りして、あいつらがくる前にカタをつけるってのはどうだ?」

 

「なるほど、それなら犠牲者を出さなくてすむな…。」

 

 

ノーヴェや姉妹達はそれぞれ黙り込んだまま思考を続ける中で、悟空達は仲間内でしか聞こえない程の小声で会話をする。その内容はノーヴェ達の耳には入らない。

だが悟空達のすぐ近くにいたリオやコロナ、アインハルトとヴィヴィオの子供組には彼等の会話が聞こえており…。

 

 

「あの……もし聖王教会に行くならわたしも連れて行ってください!」

 

「ヴィヴィオちゃん…?」

 

「陛下……!?」

 

 

ヴィヴィオの迷いの無い瞳が彼等を貫くと同時に全員の視線を浴びる事となる、それぞれが驚いた表情を浮かべて沈黙が流れていた。

 

 

「あそこにはわたしのママや大切な人達がいるんです…わたしはその大事な人やママ達のこと助けたい!

悟天くんみたいに強くないけど、戦うことはできます。せめて足を引っ張らないようにしますから……お願いします!連れて行ってください!!」

 

「……私も、連れて行ってください。ヴィヴィオさん一人で行くには危険すぎると思いますので。…それにあなた方の強さも気になります。」

 

「アインハルトちゃんまで…。」

 

 

ヴィヴィオは二人の母親が自分を助けてくれたあの出来事を思い出しながら大きく声を張り上げた声と共に頭を深く下げる。

後に静かな声が降り注ぎヴィヴィオは見上げるように視線を向けた先には険しい表情で悟空達へと虹彩異色を向けるアインハルトの姿だった。

 

 

「気持ちは分かるけど、本当に危険なんだ。最悪死んでしまうことだって「それならボクも一緒に行くよ!」ご、悟天…。」

 

「お願い兄ちゃん!ボクがヴィヴィオちゃん達を守るから一緒に連れてってあげて!!」

 

 

次に名乗り出たのは悟天、小さな身体とは相反する決意の強さを晒しだす三人はギャップのような物を感じさせられる。

悟天は日常的にヴィヴィオやなのは、フェイト達にお世話になっているのだ。浴槽を破壊した事や自身の我侭を受け止めてくれる彼女達への恩返しをこの形で表そうとしていた。

 

 

「確かに悟天くんがいれば心強いとは思うけど……。」

 

「でも聖王教会を襲撃してる人達ってすごい強いんでしょ…!」

 

「ヴィヴィオとアインハルトさんだけじゃ危険だよ……。」

 

「陛下の身に危険な事があっては困ります。」

 

「だがあの二人が付いているのなら…。」

 

 

様々な反応を口にするリオとコロナ、姉妹達は混乱しているように見受けられる、だがノーヴェだけは一言も口にすることはなく場を見守るだけだ。

 

 

「トランクス、お前はどうするんだ?」

 

「…オレも行くよ、ヴィヴィオちゃんやアインハルトちゃんがムリしないように見張っとかないといけないしね。」

 

「ありがとうございます、トランクスさん。」

 

「トランクスくん…ありがとう!」

 

 

ノーヴェは静かに問いを投げれば回答が返ってくる。それはある意味、ノーヴェの予想通りの回答でもあった。

悟天とトランクスは強い。それは誰もが知っている事実だからこそリオとコロナ、姉妹達は言葉を失ってしまった。

連れて行ってほしいと頼むべきか行くなと止めるべきか――誰もが思考するが結果は出せない。

 

 

(でも、こんなに大勢で向かって大丈夫かな。もし他に敵がいてボク達がいない時に襲撃でもされたら…。)

 

 

一人だけ、若い青年は険しい表情を浮かべて黙り込んでいた。周辺を視線で見渡す等の動作を行う青年は明らかに何かを考えている。

 

 

「なら、オレは残ろう。此処にいる奴等も守らなければならんからな。」

 

「ピッコロさん!それならボクも……。」

 

「いや、オレ一人で問題ない。悟飯、お前はあいつらと聖王教会に向かえ。」

 

「で、ですが……わかりました。」

 

 

ピッコロの言葉に渋々承諾した悟飯の顔色には不満が残っていた。

 

 

「メンバーはオラと悟飯、悟天とトランクスにヴィヴィオとアインハルトだな。ベジータ、おめえはどうすんだ?」

 

「さっき言った筈だ。全員まとめてぶっ殺すとな…。」

 

「こらベジータ!子供達の前で物騒なこと言わないの!」

 

「ははっ。ピッコロ、ブルマやみんなのことを頼んだぞ。」

 

「ふん…お前達も過去に倒した敵とはいえ油断はするなよ。」

 

 

まるで聖王教会を襲撃した敵を知っているかのような口調、姉妹達は疑問に感じながらも事の経緯を見守りつつ。

 

 

「ほら、ヴィヴィオちゃん。」

 

「…えっ?」

 

「アインハルトちゃん、絶対に手を離しちゃダメだよ。」

 

「わかりましたが……これは…?」

 

 

首を捻らせてしまいがちな光景が唐突に出来上がってしまう、ヴィヴィオの片手を握る悟天は悟飯の片手を掴み、悟飯は悟空の肩へ手を置いていた。

そして片方の悟空の肩に乗せるベジータの片手。更にトランクスがベジータの手を握りもう一つの手はアインハルトの手。まるで悟空を中心とした独特な構図が完成していたのだ。

 

 

「じゃあ、ちょっと行ってくる!」

 

「「「消えた…!?」」」

 

 

そして悟空が二本の指を額に触れた瞬間、風景に溶けるように風切り音を奏でて、次の瞬間には彼等はその場から消失していたのだった。




悟空「オッス!オラ悟空!! 悟天達に会えたのはいいけど、タイムマシンがねえから帰れなくなったぞ。」

ブルマ「だから、アタシは行きたくなかったのよ~!あんた達と関わるとロクな目に合わないわ。」

ピッコロ「しかし、今はそれよりもやるべきことがあるだろう。」

ヴィヴィオ「待ってて!なのはママ、フェイトママ!!」

悟飯「……。」

悟空「次回ドラゴンボールViVid「蘇りし死者、復活のギニュー特戦隊!!」」

アインハルト「あれがギニュー特戦隊ですか…?」


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第12話 蘇りし死者、復活のギニュー特戦隊!!

陽が沈み始める頃、茜色の雲が宙を覆っていた。赤色と橙色の鮮やかなコントラストは絵に描いたような美しい光景である。

だが空を切り裂くように奏でる悲鳴と爆煙だけはその光景からあまりにも浮いていた。

 

 

「リクーム…―――キック!」

 

「ぐぅ……っ!!」

 

 

火に包まれた聖王教会は荒々しい強風が攻撃的な衝撃破と化して散乱し、麗々しい建物を瓦礫と化してしまっている。壁に亀裂が入り込み今も全壊しそうな状況下だ。

そして大勢の魔導師達は襲撃犯を食い止める為に武器を手に取って戦いを挑んでいたが虚しく地面に倒れ伏している。

 

立ち上がって戦う者は数える程の人数しかいない、当初の圧倒的な数は少数の襲撃犯によって『全滅』させられかけていた。

 

 

「もっとビシッ!とした技はないのか? これじゃつまらんぞ。」

 

「レヴァンテイン……こいつを必ず倒すぞ!」

 

『―――Schlangeform!!』

 

 

聖王教会周辺の上空を飛行するシグナムに対なす大男が其処にいる、不服そうに物足りないと言うような表情を浮かべる男の体は傷一つ付けられていない。

電子音声と共にシグナムが手にする武器は形状を変える―――片刃の長剣から蛇腹剣へとレヴァンテインは姿を変えた。

 

彼女の防護服は男と相反して傷だらけの衣服となっており、苦々しく歯を食い縛った表情を浮かべている。

 

 

「手加減してやってるんだからもう少し楽しませろよ~。」

 

(くっ、アギトが来るまで持ち堪えなければ……。)

 

 

紫色の魔方陣が浮上すると共に強風が伴いシグナムを中心として発動させ、紫色の火炎が華麗に舞い踊る中で鞭状に連結された刃身が蛇のように舞う姿は美しさをも表現していた。

目の前の立ち塞がる男への容赦ない敵意と迷いの無い決意が体現された彼女が繰り出すであろう必殺の一撃は剣技とは到底思えない大威力を秘めている。

 

 

「飛竜一閃――――ッッ!!!」

 

 

シグナムは上体を大きく逸らすと同時、紫色の火炎が螺旋状に描きながら男へと降り注ぐ。火炎の中から姿を現すのは蛇腹剣であり、それは無造作に男の身体を抉り取らんとばかりの一撃。

その光景は蛇が獲物に喰らい付く刹那が体現されている。そして直撃したのか強烈な爆発を生み出し、辺りを爆煙と火花で全てを埋め尽くす。

 

 

(倒したか……?)

 

 

もはや聖王教会は戦場と化し、シグナムの飛竜一閃による爆煙と火炎から零れ落ちる火花によって優雅な麗しき建物は姿を消していた。それは正しく戦場の傷跡とも呼ぶべき争いの痕跡しか残されていない。

手応えがあった様子を見せるシグナムは額に流れる冷や汗を傷だらけの片腕で払い除ける。自身の血液が額に付着するが気にする様子もなく苦々しい表情に何処か微かな光を見据えたように、男が居た場所を見つめたまま。

 

恐らく男も先程の攻撃を直撃すれば一溜まりも無いだろう、その思考がシグナムの脳内を駆け巡る。避けられたのならともかく、少なからず傷跡一つは残せただろうと最低限の結果を想定した上で彼女は煙の中に佇む一つの影に視線を射抜きながら考えていた。

 

 

「ヤッホー!」

 

 

清々しい声がシグナムの耳を通り抜ける、呆気に取られてしまうような声こそが絶望感を与えるのに充分すぎた。それはあまりにも不可解な光景。

 

 

「何…ッ!? あの攻撃を受けきって、傷が付いていないだと…!!」

 

 

回避された?シグナムは回避という思考をすぐに切り捨てた。なぜなら相手は確実に直撃した事を物語る証拠が残されている。

それは無残なボロボロの衣服――もはや衣服としての機能を備えていない、ただの屑切れ。男はそれを羽織っている。

 

 

「今の攻撃はなかなかよかったぞ。この調子でオレを楽しませてくれ。」

 

「化け物め……!!」

 

 

唯一、男の身体に残されていたのは埃だけだった。

 

 

 

 

 

 

―――鉄槌の騎士ヴィータはグルドと名乗る異様な生物と戦いを繰り広げている、だが其処には息を切らすヴィータと余裕を露にするグルドの姿。

何度も何度も幾度と無く強靭な破壊力を秘めたハンマーをヴィータは振り回す。狙いは勿論グルドであり、的確に狙いを定めた攻撃が何度も耐える事は無く降り注ぐ。

 

 

「くそっ、なんで当たらねぇーんだよっ!!」

 

「ガキの癖に…! 止まれ!!」

 

 

聖王教会の外庭、シグナムとまた別方面で戦闘が立て続けに行われている。

ヴィータの放った攻撃は熟と避けられ続け一向に当たる気配を見せない。絶対に避けられないであろう一撃でさえも必ず避けられる、その無限ループでヴィータを苦しめていた。

 

奇妙な事に太った緑色の生物グルドはヴィータの攻撃が当たる直前に姿を消すのだ。そして別の位置に移動している、更にその移動姿を目視する事すらできない。まるで瞬間移動しているように。

 

 

「ガキじゃねぇ!!つーか、いい加減当たれええええっ!!!」

 

『Schwalbefliegen!』

 

 

突如、ヴィータの片手は何かを放り投げる。同時に宙を舞うのは数個の鉄球だった、赤色の光を纏う鉄球を勢いよくハンマーで撃ち出す。

赤色の線を描きながらグルドへと目掛けて飛翔する鉄球は誘導制御という特性を併せ持っている。誘導制御とは何かの障害物にぶつからない限り敵に命中するまで追い掛け回す。

 

 

「止まれ!」

 

 

視界からグルドは消え伏せると同時に前方へと直進していた赤色の光を纏う鉄球は方向転移する、方角は何故かヴィータ自身へと。そして背後から感じる気配と地面に映る影。

ヴィータは理解する、何らかの方法によって瞬間移動したグルドは自身の背後にいると。故に手に持つ鉄で出来た武器(ハンマー)を回転するようにぶつけようとした。

 

 

(これ以上時間を止め続けたらオレのエネルギーが尽きてしまう。ちっ、こんなガキに使うのはシャクだが仕方ない…。)

 

 

咄嗟の判断はグルドを追い込むのに充分な効果を発揮している、何故ならグルドは徐々に余裕が削れつつあったのだ。息切れを引き起こすヴィータと同様にグルドもまた息が上がっていた。

それが何を意味するか、それは戦闘を持続させる為の体力が今も減っている。だからこそ彼は奥の手段を使うのだ―――!

 

 

「きえええええええーーーーーーーーーっ!!!」

 

「ッ…動かねぇ……!?」

 

 

グルドの奇声と共に動かなくなるヴィータの体とグラーフアイゼン、突然凍り付いた全身に戸惑いを露にすればヴィータの視界に接近し続ける鋼鉄の鉄球が頭に入り込む。

 

 

「くっくっく、どう料理してやるか。」

 

「畜生…!!」

 

 

このままでは衝突する、焦りから冷や汗が額から流れ出すヴィータは必死に身体を動かそうとするがビクともしない。原因不明の現象に襲われるヴィータは成す術がなく、悪意が込められた嘲笑い声が背後で広がっていた。

 

 

 

 

 

 

―――もはや数々の戦闘によって聖王教会は原型を留めていない、半壊した建物内部には瓦礫と倒れた兵士だけが散乱している。

だが兵士は決して命まで奪われていない、気絶しているだけだ。襲撃犯の兵士と時空管理局の魔導師が通路に次々と倒れていた。

 

そして聖王教会の中庭、シグナムやヴィータとはまた方角が違う別方面。其処には桜色に輝く光と金色に輝く光が交差している。

 

 

『Short Buster!』

 

『Plasma Lancer!』

 

 

事態は悪化を辿る一方であり、なのはの衣装もまた手加減無しのエクシーズモードで敵の侵攻を食い止めようとしていた。

 

 

「おせぇぜ!」

 

「あらよっと!」

 

 

膨大な魔力を秘めた桜色の砲撃と金色に煌く無数の弾体は牙を向くが次々と男達は避け続け、砲撃と無数の弾体は爆発を引き起こす。

余裕を持った速度は遊びという言葉を連想させるかのように軽々と二人は空中を泳ぎ回る。なのはとフェイトの攻撃は一向に当たる気配も見せなければ隙も無い。

 

圧倒的過ぎる程の実力が生み出す戦闘、茶番劇のように男達は飛び回っていた。当たらない苛立ちと相手の強さに対する焦りがなのはとフェイトを蝕んでいく。

 

 

「くっ、当たらない……!」

 

「このままじゃ魔力を無駄に消費するだけかな……フェイトちゃん、わたしはブラスターモードでいくよ。」

 

「な、なのは…!? あのモードを使ったらなのはが…!」

 

「言いたいことはわかるよ…でもみんなを助けないといけないから。」

 

 

穏やかな微笑を浮かべるなのはに対してフェイトは思わず言葉を失ってしまう。ゆりかごの一件がフェイトの脳裏を支配する中で桜色の粒子が出現する。

大量の桜色の粒子がなのはを包み込み、彼女の掛け声と共にそれは消失してしまう。外見上の変化が見受けられない彼女の姿に男達は疑問に感じたが一瞬でその感情は消えた。

 

 

 

「…ごめんねフェイトちゃん。けど心配しなくても大丈夫だから。」

 

「なのは…?」

 

「わたしが一瞬だけ隙を作る…だから、フェイトちゃんは急いでカリムさんとはやてちゃんの所に……!!」

 

 

強風と共に出現した彼女の雰囲気は以前と比べて威圧的な物へと変化しているようにフェイトは感じている、それは最もなのはと身近な関係だからこそ一層それを感じていたのだ。

 

 

「…わかったよ、なのは。でも無茶だけは絶対にしないで……。オーバードライブ――真・ソニックフォーム!」

 

『Sonic Drive.Riot Zamber.』

 

 

金色の文字が武器に埋め込まれた宝石に刻み込まれていく、そして唐突に広がったのは金色の光。光はフェイトを覆い隠して新たな姿へと変貌させた。

 

 

「うん、なるべく善処するよ……ありがとう。」

 

 

金色の光が消失し、強風と共に現れたのは露出度の高い防護服を着込むフェイトの姿、それは明らかに無防備極まりない紙一重のもの。一撃でも体に叩き込まれれば立てなくなるほど防御力を低下させている。

だが鎧を捨てた代償として彼女自身のスピードが大幅に上げられていた。一撃でも当たれば落ちるがその一撃を当てる事は至難の業であり、ハイリスクハイリターンな戦法を体現させたのがソニックフォームだろう。

 

金色の剣を両手に敵を見据え、フェイトは二人の男と睨み合う。

 

 

「おっ!戦闘力が上がったようだぜ。」

 

「これで少しは楽しめそうだな。」

 

 

男達は口角を上げて笑う、それはなのはの得体の知れない威圧感の正体に気付いているかのように。その男達の様子にフェイトは背筋に寒気を感じさせていた。

何故なら男達の態度をフェイトは理解できていない。理解できない敵の仕草は不気味な物にしか写らない、だがそれでもフェイトは相手から視線を逸らさずなのはが作る隙を待ち続けている。

 

 

(多分わたしの魔力じゃ叶わない…。)

 

 

なのはは既に気付いていた。自身の限界以上の力を引き出しても男達を打倒する程の力はない、それは決定的な実力の差が裏付けている。

しかし、それでも敵に立ち向かう術は残されているのだ。幾度の戦闘経験で積み上げられてきた才能と努力の結晶体を彼女は持っている。

 

 

(体内のエネルギーを魔力に変換して……。)

 

 

なのはの体内に存在するエネルギー、人が生きる事に必要な力を魔力へと性質を変化させていく。その技術自体はこの世界では異端の分類だ。

通常、魔力とは大気中に漫然している魔力素をリンカーコアが吸収し純粋な魔力として加工させる事で魔力を生み出す。

魔力を生み出すには魔力素が必要であり、その魔力素を代替した物が彼女の体内のエネルギーだ。

 

それはある異世界へと足を踏み入れた時になのはが独自に編み出した技術である。

 

 

「これで…! レインジングハート、いくよ……!!」

 

 

限界以上に引き出された大量の魔力を倍増させるかのように生み出される魔力と共になのは自身は桜色の光を纏い、太陽のように輝く姿には誰もが見惚れてしまうような風景を描き出していく。

槍状の杖を両手に男達を標的として捉えれば凄まじい破壊力を秘めた桜色の衝撃破が放たれ、空気を引き裂き其処にある物をすべて掻き乱すように貫いていく…!!

 

 

「なにっ…!?」

 

「ぐうぅ……っ!!」

 

「(す…凄い……)――――行こうバルディッシュ!!」

 

 

突発的に威力が倍増された攻撃に対して男達はその衝撃破を真正面から受け止める事になってしまう、想像以上の破壊力が男達を襲い腕や脚に傷を付け始める。

男達の反応を見計らってフェイトは二人の隙へ潜り込むように、彼等の後方へと通り過ぎていく。目指すははやてやカリムが居る場所へ、金色の閃光と化した彼女はとてつもない速度で向かっていくが―――。

 

 

 

「ちいっ、ナメたマネしやがって…。」

 

「遊びはここまでだ。ギニュー特戦隊の真の恐怖を見せてやるぜ!」

 

 

フェイトの行動を男達は見逃すはずもない、青い色の肌を持つ男は振り返って金の閃光を視界に捉えた直後にそれ以上の速度で衝撃波の中を突き進んで彼女を追い抜いてしまう。

 

 

「え…?」

 

 

瞬きもできない速度を持って男は瞬間的にフェイトの前方を取ってしまっていた、先程追い抜いた筈の男が瞬間移動でもしたかのように目の前に立ち憚る光景にフェイトは唖然の声を上げる。

能力的に最大限の速度を発揮できる状態であるフェイトは純粋な速度で追い抜いた男により彼女の一番の強みがたった一秒で潰されたといってもいいだろう。

 

何の効力も彼等の戦闘では僅かな勝機すら掴めない。フェイトの目の前に広がるのは敗北のみであり、実力の違いはなのはやフェイトが想像している以上の差が存在している。やがて男は容赦なくフェイトの腹部へと目視できぬ蹴りを入れた。

 

 

「ぐ、ああぁっ……!!」

 

「まだまだいくぜっ!」

 

 

苦痛な悲鳴を口にした瞬間、更に叩き込む拳と蹴り。無慈悲な攻撃が一つ一つ確実に装甲の薄いフェイトの体へと命中していく。

一発でも叩き込まれれば瀕死状態に追い込まれるにも関らず数え切れない重い一撃が次々と叩き込まれていく非情過ぎる光景だった。

 

 

「フェイトちゃん…っ!!」

 

「おっと、よそ見するなよ!」

 

 

力無く落下していくフェイトに気を取られている間が結果的に隙を見せる事になってしまう、その間に飛び込むのは赤い色の肌を持つ男。

 

 

「おらあっ!!」

 

「あ……ぐ…!」

 

 

突然、なのはの腹部から激痛が生じたのだ。戸惑いを覚えながら視線を腹へと向ければ男の持つ白髪が目に入り彼女は理解した、腹部に男の拳が滑り込んでいる事実に。

まるで瞬間移動したかのような動作になのはは焦りを感じつつ、悲痛に塗れた声を漏らす。無論、瞬間移動をした訳ではない。なのはの目では捉えられない速度で攻撃をしただけである。

 

腹部からの凄まじい衝撃になのはの体は耐え切れず、そのまま地面へと突き落とされるように体を叩き付けるのだった。

 

 

「くっくっく…さっきの威勢はどうしたんだ?」

 

「う、くぅ……。」

 

 

顔を歪ませ敵を睨み付けるが迫力は感じられない、だが嘲笑っていた男は何故かなのはから視線を外して周辺に目を向ける。それが奇妙な行動として写ったのかなのはは男を直視し続けていた。

 

 

「……ん? 誰か隠れていやがるな。」

 

 

男が呟いた声をなのはは完全に聞き取る事はできずにいる、何故なら微かに別の声が耳に入り込んでいたからだ。今にも消えそうな声に集中するようになのはは耳を澄ます。

 

 

「何者かが聖王教会を襲撃してきました…!! 爆発によって辺りは酷い事になっています……。」

 

「シスターシャッハ……?」

 

 

瓦礫に身を潜めているのか、姿はなのはの視点から確認できないが誰かと会話しているように聞こえた。

先程からシャッハが近くに身を潜めている事に気付いていなかったなのはは思わず目を見開いて声が聞こえる方角へと視線を向けて激痛に耐えながら体を起こそうとする。

 

 

「っぐ……!!」

 

「なのはさん!? 大丈夫ですか、なのはさん…っ!!」

 

「おーっと、こんな所に隠れて何をしているんだ?」

 

 

男の声に思わず凍り付くシャッハ、同時に微かに耳に届いたヴィヴィオの声になのはは上体を起こして戦闘体制を整えようとしていた。

 

 

「天下のギニュー特戦隊から逃げられると思うな。」

 

 

ようやくシャッハの姿を目視した頃には誰かと通信していたのか、モニター画面を切って青い色の肌を持つ男と睨み合う。

―――絶体絶命という言葉に相応しい絶望的な状況が展開される中で息を飲むシャッハ。このままでは、という思考が脳内を駆け巡っていた。

 

 

「ギニュー、特戦隊……?」

 

 

唐突に名乗り出た言葉に頭が回らない様子でシャッハは呟く、何かのチーム名のように感じられた名前に対して青色の肌を持つ男はきょとん、とした表情を見せて口を動かす。

 

 

「おいおい、ギニュー特戦隊を知らねえのかよ…。」

 

「ま、ここは異世界らしいからな。よーし!バータ、久しぶりにあの名乗りをするぜ。」

 

 

思わず両手に武器を手に取り構えを取るシャッハを無視して男達は一定の配置に付いた途端、奇妙なポーズを取り出す。

その光景はあまりにも戦場とはかけ離れた奇矯な行動になのはとシャッハは呆然と眺める事しかできなかった。

 

 

「ギニュー特戦隊の赤いマグマ! ジーーーース!!」

 

「ギニュー特戦隊の青いハリケーン! バーーーータ!!」

 

「………えっ、と。」

 

 

両手を広げて青い色の肌を持つ男はバータと名乗り、肩膝をつく赤色の肌を持った男はジースと名乗り出て可笑しなポーズを取る姿に二人は唖然とした表情を浮かべている。

 

 

「ふっふっふ、どうやらオレ達のファイティングポーズに見惚れて言葉が出ないようだな。」

 

「当然だろ。ギニュー隊長が直々に考えてくださったポーズなんだぜ。」

 

 

ギニュー隊長?シャッハとなのはは思考を続けていたが彼等の言葉に一時的なストップが掛かった。彼等はギニュー特戦隊と呼ばれるチームの一員、そしてリーダーがギニューと呼ばれる何者か。

だが二人が相手をした中でそれらしい人物は見付からずにいる。シグナムかヴィータが相手をしているという思考が浮かぶが何故か腑に落ちない思考でもあった。

 

 

「……フェイトちゃんに酷い事をしておいて、大勢の人を傷つけておきながら…よくそんなことができるね。」

 

「貴方達…そんなふざけたポーズを取って私達をバカにしてるの…!!」

 

 

だが笑って済ませられる訳もなく、二人は怒りを露にさせた言葉を言い放つ。しかしジースとバータも同じように激怒して言い放った。

 

 

「ふざけたポーズだと! てめえ等オレ達のファイティティングポーズをふざけたポーズと言いやがったな!! おい、ジース!!」

 

「ああ。殺すなという命令だったがオレ達のポーズをバカにされてはガマンならねえな。貴様等だけはこの世から消し去ってやる!」

 

 

ジースは空中を浮遊し、紅色に輝く球体を出現させる。唐突に出てきた彼等のむき出しの感情と殺意を直視する暇もなくジースは叫ぶ。

 

 

 

「クラッシャー……ボール!!」

 

『Protection EX!』

 

 

片手で直接当てる事で打ち出す球体、即座に反応したレイジングハートは防御魔法を発動させ桜色の障壁を形成させ球体と激突する。

だがジースの放った攻撃は今のなのはで防ぎ切る事はできずにいた、障壁を突き破ろうと障壁に滑りこむ球体に必死で防ぎ切ろうとレイジングハートとなのはは努力を重ねつつ。

 

 

 

(…っ…ぐ……もう、だめ……。)

 

 

 

足場に亀裂が入り込む、それはなのはの防御魔法―――障壁が突破される寸前という証拠だ。それを何より理解していたのはなのはとレイジングハート。

自身の限界を突破した力を出しても叶わない敵に歯を食いしばる、その様子を静観し続ける事しかできないシャッハは悔しそうに覚悟を決めた。

 

 

 

(ヴィヴィオ、フェイトちゃん…はやてちゃん、みんな……ごめんね。)

 

 

 

ガラスが破壊されるような音を奏でて障壁は木っ端微塵に破片と化してしまう。―――もはやなのはとシャッハを守る物は存在していない、このまま何も出来ずに呑まれるのを待つしかなかった。

 

 

 

 

「いくぞ悟天!」

 

「うん!」

 

 

幼い声が唐突に降り注いでシャッハとなのはは驚いてその声の主へと目を向けた。其処には地を駆ける二人が視界に入り込む。

あまりにも突然な出来事で二人の思考は状況を飲み込む事ができなかった、同時に生暖かい手や腕の感触が伝わって二人は一気に足場が疎かとなる。

 

 

「「いっせーの…せっ!!」」

 

「「なにいっ!?」」

 

 

そして飛来する少年達は互いに拳を突き出し紅色の球体に命中させて弾き返し、遥か何処の方角へと球体は吹き飛ばされてしまう。

男達は驚骸な声を上げてその二人の少年を睨み付ける。予測できない状況が眼前で目まぐるしく展開され理解不能に陥るなのはとシャッハの元へ不意に声が届いた。

 

 

「大丈夫ですか…?」

 

「え……えっ?」

 

「なのはママ、フェイトママ……っ!!」

 

 

改めてなのはは自分の状態を理解した瞬間、まるで絵に描いたような光景が広がっていたのだ。

一人の青年がなのはの膝を片手で抱えていた。それは横抱きと呼ばれる抱き方であり、お姫様抱っことも呼ばれる抱き方だ。

 

更になのはの視界に飛び込むのは自身の娘であるヴィヴィオだった、今にも泣きそうな表情で彼女を見つめている。

 

 

「お父さん!仙豆を二粒くれませんか。早くしないとこの人達が…!!」

 

「ああ、わかってる。ほれっ!」

 

 

冷静な思考回路になりつつあるなのはとは違い、シャッハは未だに混乱が残る様子で辺りを見回している。四方八方に伸びた黒髪の男に腕を掴まれている様子のシャッハは男が突然取り出した豆粒に視線を向けた。

青年の言動はなのはの容態を気に掛けた故の言動である。なのはは先程の戦闘による傷跡が酷く下手をすれば命にも関わるほどの致命傷であった、限界を突破した状態を持続させるだけでも体力の消耗は激しい。

それにも関らず、今の彼女の表情は苦しみに満ちた顔を浮かべる事もなく穏やかな表情を浮かべていた。その表情の真意はなのは自身にも理解する事はできずにいる。

 

 

(なんだか、懐かしい感じがする……。)

 

 

言葉では言い表せない複雑な気持ちが彼女の心を満たしていた、青年の手や顔付きは決して初めてではない。錯覚のような感覚が青年を見る度に思う。

 

 

「聞こえますか? これを食べてください。」

 

「………っ。」

 

 

小さな豆を片手に掴んだまま。静かに問い掛ける青年の声になのはは回答を返すわけもなく彼が手に取っている豆をなのはの口に含ませようとする。

なのははそれを口に含めばすぐに噛む。大した味が広がるわけもなく軽い歯応えだけが印象に残るのだった。

 

 

「悟天、仙豆をあの人の口の中に入れてくれ。気絶してるから飲み込ませないとダメみたいだ。」

 

「わかった! ヴィヴィオちゃん、手伝って。」

 

「う、うん…!」

 

 

青年はフェイトに目を向けるが気を失っているせいでなのはと同じような反応は期待できないと判断した様子である。

無邪気な声と共に青年から仙豆を受け取った悟天とヴィヴィオは今も倒れ伏しているフェイトの元へと駆け寄っていく。

間近で彼女を確認すれば酷い傷跡がより一層、明確に視界に飛び込んでくる。ヴィヴィオは倒れている彼女の体を少し浮かせ、悟天はフェイトの口元に豆を飲み込ませるように含ませた。

 

 

「おめえも食うか?」

 

「わ、私は大丈夫です。それよりも聖王教会の中に騎士カリム達が…!」

 

 

シャッハは慌てて燃え落ちていく半壊状態の聖王教会へと視線を向けて訴える、だがもはや聖王教会は瓦礫の一角となりつつある。

崩れ落ちていく聖王教会を目にした悟空はその建物を見据えて眉を潜める。

 

 

「あの家ん中に邪悪な気が集まってんな。悟飯、ベジータ。こっちはおめえ達に任せていいか?」

 

「あ、はい。構いませんよ。」

 

「こんなザコ共すぐに片付けてやる。」

 

「……あの、気をつけてください…。」

 

 

気を察知する能力に長けた彼等は相手の強さを測ることができる。故に、最も力が集中した地点は“此処”ではない。

シャッハが先程訴えた場所こそが最も力が集中する場所なのだ。身震いを覚えさせる邪悪な力の根源を悟空は追い求めて―――。

 

 

「サンキュー! そんじゃ、頼んだぞ。」

 

「なっ、飛んだ……!?」

 

 

シャッハにとっては予想外な出来事……いや、予想外な出来事は以前からも立て続けに起きており今更驚くのも野暮である。そんな風にシャッハは薄々と感じてしまった。

魔法を使っているわけもなく悟空は突然浮遊して空中を移動したのだ。何らかの術を使っているのは明白だがそれが魔法ではない。その事が彼女にとって驚きを与えるには充分すぎた。

 

この場を悟飯達に任せることにした悟空は背を向けて、火炎によって殆どが焼け落ちた教会へと飛び込んでいくのだった。

 

 

 

 

 

「えっと……あの、もう平気ですよ。立てるようになりましたので……。」

 

 

改めてなのはは声を上げて悟飯の腕から離れて地面に足が付く。命の危険が伴う致命傷はあっという間に見る影がなくなっており、何一つ傷が入っていない彼女が其処にいたのだ。

それは秒刻みで怪我が治療されていくという驚異的な回復力だった。悟飯がなのはに豆を食べさせた直後にその現象は現れ、あっという間に完治させたのだ。それは正に万能薬と言ってもいいだろう。

 

 

「なのはママ…よかった……。」

 

「ヴィヴィオ……うん、心配かけちゃってごめんね。」

 

 

ヴィヴィオは安静の一息を吐いた。なのはは内心、何故ヴィヴィオやその友達であるアインハルトが此処に居るのか今すぐにでも問いかけたかったのが本音だ。

だが彼女達の様子は明らかに普通ではない。相手の態度は自分を心配してくれている、それを理解したなのははその質問を口にするのを止めて今は穏やかな顔で答えるのだった。

 

 

「あ、あの…本当に大丈夫なんですか……?」

 

「うん……心配してくれてありがとう、アインハルトちゃん。」

 

 

誰もが先程の豆について問いただしたい気持ちになっている、だが異世界の産物についての質問はこの場では相応しくない。故に問いかける事はなくアインハルトとシャッハはなのはに心配した眼差しを向けているのだ。

この場で起きた疑問は、この事件が終わった後で答えを聞こう。その思想が彼女達の脳裏に共通した思考であった。

 

 

「フェイトさんの怪我が……!」

 

 

先程、豆を食べたフェイトにもなのはと同様の効果が現れている。シャッハはフェイトの急激な回復力に驚きながらも声を上げた。

 

 

「よかった…此処は危険ですので離れててください。」

 

「え……っ。」

 

 

静かに呟く悟飯の声、その返答に対して困ったように口を閉ざすなのは。敵の強さを直接目の当たりにした彼女は決して素直に頷く事はできなかった。

自分の力では彼等の強さに及ばない事を理解している、故に青年に託す事にも賛成できず口を閉ざしたままどう言うべきかと思考を繰り返す。

 

勿論それはシャッハにも言える事だ、彼女は「危険です…!!」と安易に賛成する事はなかった。

その様子を見ていたヴィヴィオは気絶しているフェイトの元から離れて彼女達の会話に参加する。

 

 

「…なのはママ、シャッハさん。たぶん大丈夫だと思うよ。」

 

「ヴィヴィオ……?」

 

「悟天くんやトランクスくんのお兄さんとお父さんだから…すごく強いと思うんだ、だからぜったい大丈夫だよ!」

 

 

屈託のない笑みを浮かべられ、なのはとシャッハは否定の言葉を口に出す事はできなくなってしまう。ヴィヴィオの言う事は確かに一理あるのだ。

少なからずなのはは悟天の強さを目にしている。ほんの数日間の生活でなのはが見た悟天を思い返し、そして白いワイシャツを着た青年を目にすれば――彼女は首を立てにする事を決めたのだった。

 

 

「そうだね…わたし達は此処から離れていた方がいいかもしれない。シャッハさんもそれでいいですか?」

 

「……なのはさんがそう言うのでしたら、わかりました。」

 

「なのはママ…!!」

 

「みなさん…あとはお願いします。」

 

 

最後にアインハルトが彼等へと視線を向けて頭を下げて言う。意向が決定した所でなのははフェイトを抱えようと倒れ付している彼女へと足を進める。

途中で彼女の視線が泳いで悟飯へと一瞬だけ目を向ければ暫く彼を見据えた跡にフェイトを抱えてヴィヴィオ達と共にその場から距離を取るようにして離れていく。

 

 

(あの人が悟天くんのお兄さんってことは……。)

 

 

彼女の視線に対して悟飯や他の者達は気付く事はなかったが、唯一悟天だけがその様子を視界におさめていた。

 

 

「バータ、なんでベジータ達がいるんだ。」

 

「お、オレが知るかよ。なに、今のオレ達はあの頃とは違うんだ…返り討ちにしてやろうぜ。」

 

 

顔見知りのような静かな口調で会話をする二人は目の前のベジータや悟飯達を見ては頭に疑問が浮かぶが特に気にする様子もなく見据える。

 

 

「こんな酷いことを…お前達がやったのか!」

 

 

周辺に倒れ付している大勢の魔導師達に目を配りながらも叫ぶ、血液が流れ怪我をしている魔導師達の存在は悟飯の怒りを誘う結果となっていた。

しかし殺されているわけではない、気絶している事から彼の怒りは最大極限にまで膨れ上がる事態は避けられていた。

 

 

「ああ、そうだ。この星の連中はザコばかりだから手加減するのに苦労したぜ。」

 

「フリーザ様の命令じゃなければあの建物ごと破壊して皆殺しにしてただろうけどな。」

 

「ひどい……。」

 

 

だが彼等の言葉を聞けば聞く程、怒りを感じざるをえないだろう。平然と語るバータとジースは周辺に転がるように倒れている魔導師に見向きもしない。

 

 

「ち…フリーザのヤロウも絡んでいやがったか…。」

 

「ベジータ!あの時に殺された恨みは忘れんぞ!! 今のオレ達は昔のフリーザ様に匹敵する力を持っているのだ。」

 

 

忌々しく殺意を向ける彼等の中に蘇るのは遠い昔の出来事。まるで映像のように思い出すその映像を回想していれば同時に怒りを表す。

過去の因縁が絡まり合うように再現した今の風景は奇妙な光景でもあった。

 

 

「ふん、オレはフリーザなどとうに超えている。くだらんお喋りはここまでだ…近くにいるグルド、リクームごとまとめて消し―――。」

 

「すみませんベジータさん…あの二人の相手はボクにやらせてください。」

 

 

静かに名乗り出た悟飯の主張に悟天やトランクスは驚いた表情を浮かべてベジータはすぐに反論を口にする。

 

 

「なんだと? 何故貴様が……―――!?」

 

「…兄ちゃんが怒ってる…。」

 

「悟飯さん……。」

 

 

彼等が見た先には怒りで震える悟飯の姿であり、無意識に歯を噛み締めてはジースとバータを睨みつけていた。

思わず悟天やトランクスはその態度を見て言葉を失ってしまうほどに悟飯は内心溜め込み続けていた怒りを静かに露にする。

 

 

 

「はああああ……っ!!!」

 

 

 

悟飯を中心に攻撃的な強風が荒れ狂い重量のある瓦礫が簡単に投げ飛ばされてしまう、地面に傷跡を入れては我武者羅な突風で乱暴に周囲へと撒き散らしていた。

なのは達は彼の突然出てきた激しい怒りにたじろぎながら強風によって吹き飛ばされないように踏ん張り続けている。

 

そして強風が治まり体内に眠る潜在能力を限界以上まで引き出した悟飯の姿は悟空と同じ山吹色の道着へと変わり、敵であるジースとバータに対して威圧的な眼光を向けていたのだった。




悟空「オッス!オラ悟空!! 悟飯のやつ本気で怒ってんな。」

ベジータ「あいつの持つ潜在能力は計り知れん…。」

悟天「やっぱり凄いや兄ちゃん!」

トランクス「ああ!オレ達も負けられないな。」

アインハルト「私もあんな風になれたら……。」

なのは「悟飯くん……。」

ヴィヴィオ「なんか、なのはママの様子が変かも…。」

悟空「次回ドラゴンボールViVid「ミッドチルダの戦い、悟飯の究極パワー炸裂!」

悟飯「勝てんぜお前は。」


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第13話 ミッドチルダの戦い、悟飯の究極パワー炸裂!

悟飯が放つ凄まじいエネルギー体が大地を震わせ、激しい地震を起こす引き金となっていた。それはギニュー特戦隊の運命を決したとも呼べる。

 

 

「ん~~? 何か起きたのか?」

 

「ぐっ………。」

 

 

額から血液を流し、片膝を地面に付くシグナム。突拍子もない地震が聖王教会を揺らしてリクームは疑問を感じていた、だがその疑問は地震に向けられた物ではない。

聖王教会に強烈な力の変動を感じ取った故の疑問なのだ、それは必然的にも悟飯の力に対して。だがリクームは彼が此処に来ている事実を知らない。

 

そして突然消え入りそうな足音が耳に入る、その足音を奏でる人物を目にしたリクームは一瞬驚きを見せるが、途端に上機嫌な表情を浮かべて口にした。

 

 

「ハーイ、ベジータちゃん。どうして此処にいるのかはわからないが、こいつを助けにきたんだろ…?」

 

「勘違いするな…オレは貴様に用があるだけだ。そいつがどうなろうが関係ない。」

 

「っ……?」

 

 

逆立った黒髪に鋭い目付きを持った男は気が付けばリクームの近くにまで歩み寄っており、シグナムはその男とリクームの場を見届ける事しかできずにいる。

だが二人の間柄は良好的な物ではないようにシグナムの瞳にはうつった、緊迫感に包まれ隙を見せない。ギクシャクとした冷たい何かがある。

 

 

「オレに用だと? ま、まさかギニュー特戦隊に入りたいなんていう気か!!」

 

「…死んだ筈の貴様等が何故ここにいる。地獄で異変でも起きたのか?」

 

(死んだ……!?)

 

 

シグナムの脳裏に衝撃が走る、相変わらずリクームのとぼけているのか真面目なのか受け取りづらい言動に対しベジータは華麗に無視してしまう。

だがシグナムとベジータは互いに通じる物があった、それはリクーム達…ギニュー特戦隊のこと。何故彼等は此処を襲撃したのか――目的がわからない。そして死んだ筈のリクームが現世に存在している事、例を上げればキリがないだろう。

 

 

「へっへっへ、そんなこと教えるわけないだろう。」

 

 

嘲りを含んだ笑い声を上げて否定の意を表せば、ベジータは彼に対する興味を失ったように呟いた。

 

 

「…そうか。なら、もう貴様に用はない。」

 

 

その言葉を口にした瞬間、衝撃が起こる。突然―――リクームは地面を這い蹲っていた。いや、そう言っても過言ではないほどの秒刻みの現象が起きたのだ。

シグナムがどう足掻いても傷一つすら付けられないリクームは不様に地面に這い蹲っては耐えがたい激痛を堪える姿となっていた。

 

 

「あぐ…っ!! ベ、ベジー……タ…。」

 

 

それはベジータが一般人には目視できない速度でリクームを攻撃したからに他ならない、その速度はシグナムやリクームでさえも目を通す事はできないのだ。

故に、まるで一般人やシグナムからすれば唐突に彼は地面に這い蹲っていたという異常現象を目の当たりにしてしまう結果となる。

 

 

「この程度の相手に苦戦するようでは、この星の奴等の戦闘力もたかが知れてるな…。」

 

「………。」

 

 

ベジータの攻撃によってリクームは殆ど動けない状態に追い込まれていた、その事実がシグナムの脳裏に突き刺さるような衝撃を与える事にもなる。

 

 

「何……!!」

 

「消えただと…! どうなっていやがる…。」

 

 

だが更に二人が驚くであろう光景が唐突に広がったのだ。蹲って堪える姿を見せるリクームの肉体は霧のように跡形もなく背景へと溶けていた。

その現象を明確に表現するのなら“霧散”。まるで彼は最初から存在しなかったように体は消えてなくなりこの世から姿を消している。

シグナムとベジータは互いに唖然とした表情を浮かべながら、リクームがいた場所を眺めていた―――。

 

 

 

 

 

 

「うおっ!? バータとジースのヤツ派手にやりすぎだ。こっちまでホコリがきてやがる。」

 

「くっそぉ……!!」

 

 

荒れ果てた大地から浮遊するグルド、未だに体が動かないヴィータは歯を噛み締めて彼を睨み付ける―――が、その荒んだ地上とは裏腹な幼い子供の声が響いたのだ。

 

 

「あ~あ、兄ちゃんの戦いみたかったなぁ…。」

 

「しょうがないだろ、悟飯さんに頼まれたんだから。まずは他の敵をやっつけるのが先だ!」

 

 

その暢気な会話を耳にしていたグルドは呆れて物が言えず、彼が目にした先には悟天やトランクスが何処かつまらなさそうに歩いている風景。そして後方にはアインハルトとヴィヴィオ。

 

 

「そうですね、これ以上怪我人は増やすべきではありません。」

 

「そうそう……ってなんでアインハルトちゃん達がいるんだよ!?」

 

「私があそこにいても戦闘の邪魔になるだけだと思ったからです。」

 

「それに、此処にいる人達は放っておけないから……。」

 

 

アインハルトは無表情を崩さずに述べる、だがその表情の裏には何処か悔しさを含んだ複雑な物だ。

そしてヴィヴィオの言葉に素直に共感を抱く二人。―――放っておけない、その気持ちだけは四人にとっての共通点である。

 

 

「おい、ガキ共! なにしにきやがった!!」

 

 

遥か遠くから声が聞こえてくるが全員、気付いていないのか見向きもしない。

 

 

「どうしよう、トランクスくん…。」

 

 

それよりも問題なのはアインハルトとヴィヴィオであった、悟天は途方にくれた視線をトランクスに向けて訴える。

 

 

「う~ん、来ちゃったものは仕方ないか…もし何かあったらオレ達で二人を守ればいいだけだしな。」

 

「いいえ……自分の身ぐらいは守りますのでお構いなく。」

 

「二人ともありがとう!わたしも足を引っ張らないように頑張るから。」

 

「こ、この野郎~~オレをムシしやがって…これでも食らえーーーっ!!!」

 

 

子供が四人、それはヴィータにとっても予想外の展開。グルドは怒りに身を任せて周辺の物体を超能力で浮遊させてしまう。

木の枝、ガラスの破片、瓦礫、小石、グルドは周辺に存在する物体を悪戯に浮遊させて武器として四人に投げ放つ―――!

 

 

「「危ないっ!!」」

 

「「きゃああああ!!」」

 

 

トランクスと悟天の声は重なり合う、アインハルトとヴィヴィオの背後に迫り来る凶器は高速を飛び越えて彼女達に襲い掛かっていた。

その速度は例え武器にはならない物体でさえも殺傷能力が芽生え武器へと変異させる速度。常人の反応速度では到底追い付く事はできない、いや攻撃されているという事実さえも気付けないだろう。

 

故に二人だけはその速度を目視し、トランクスはアインハルト、悟天はヴィヴィオへと互いに強引な腕力によって地面へと押し倒すように攻撃を避ける。

アインハルトとヴィヴィオは忽然(こつぜん)の攻撃に驚いた表情で二人を見上げていた。自身の状況が頭に入れば入るほど、顔面を紅色に染め上げていく。

 

 

「えっ、ええっ……えっと…!」

 

「は、離れてください…!!」

 

「あ、ごめんね。」

 

「……ッ…ごめん!!」

 

 

戸惑うヴィヴィオに拒否反応を見せるアインハルト、その構図がどういう物なのか。それが頭に入ったトランクスまでもが顔面を真っ赤にさせてすぐに離れる事になる。

一方で悟天は上手く頭に入っていない様子でヴィヴィオから体を放すように離れていた。ヴィヴィオの顔が紅色に染まっている理由は勿論理解できないまま。

 

まるで主役とヒロインのワンシーンを見せ付けられたグルドは更に怒りを溜め込む結果となってしまう、自分は眼中にない――そんな不愉快な構図が眼前で描かれているのだ。

 

 

「て、てめえらいい加減にしろーっ!!」

 

「うるさいな~…そんな大声出さなくても聞こえてるよ。」

 

 

アインハルトとヴィヴィオへの不意打ちを行った犯人に鋭い目付きを向けるトランクス、その視線には相手を威圧する敵意が込められている。

 

 

「トランクスくん、あいつが敵だよ!さっき見たのと同じ格好してるもん。」

 

 

ジースとバータが着ていた衣装、それは戦闘服。まったく同じ物をグルドは試着していた。

とはいえ体の形状はとてもジースとバータには似つかない、非常に小柄で全身は緑色という地球外生命体と思わせるような外見なのだ。

 

 

「だろうな。よーし、一気に終わらせるぞ!」

 

「オッケー!」

 

「ナメやがって…串刺しにしてやるーーっ!!」

 

 

再び念力によってグルドの視界に入る木を地面から引き抜けば真っ二つに引き千切ってしまう、強引な力で二つに千切れた木は刺々しい傷跡部分を二人に向ける。

武器として活用された木は超高速という速度に乗せられて飛来していく、飛来する通路周辺に風圧を撒き散らしながら目標地点へと放つ―――!

 

 

「なにっ!?」

 

 

二つの凶器は避けられる事はなかった、だが命中する事もない。その不可思議な光景を目の当たりにしたグルドは驚きの声を上げる。

無理もない、目の前には確かにトランクスと悟天の姿があるにも関らず攻撃は素通りされたのだ。それは残像のように、実物が存在してないような光景。

 

 

「こっちだよー。」

 

「があ…っ!」

 

 

幼い声がグルドの背後から飛来すると同時に彼の背後に強烈な衝撃が走る、それはグルドの予想を遥かに上回った計算外の足蹴りだった。

悟天とトランクスの行動、攻撃、全ての戦闘力はグルドの想像外だ。悟天に蹴り飛ばされた事実を飲み込めずにいるグルドは上空をロケットのように突き抜けていく、その先には―――。

 

 

「これって、もしかして……。」

 

「連携プレーですね…ヴィヴィオさん、私達もやりましょう。」

 

「はい…! ……クリス!!」

 

 

グルドの前方にはトランクスが待ち構えていた、この機会を狙っていたかのようにトランクスの拳は固く握り締められ今にも攻撃を放つ体制でいる。

―――そしてヴィヴィオとアインハルトは二人の行う行動の意図を読み取った様子で、ヴィヴィオは兎のぬいぐるみを握り締めた。

 

 

「でりゃあっ!!」

 

「ごおっ!」

 

 

瞬間的に拳は突き出され、グルドの体へと手加減なしの威力が叩き込まれる。やがてグルドは衝撃に操られヴィヴィオとアインハルトの方角へ。

 

 

「ヴィヴィオちゃん!」

 

「アインハルトちゃん!」

 

 

「やあああっ!!」

 

「はああぁっ!」

 

 

グルドが自身の状況を認識する間もなく、ようやく目を見開いて捉えた先には二つの拳と碧緑の髪を持つ女性と金色の髪を持つ女性。

それはヴィヴィオとアインハルトの大人の姿であり戦闘体制を示す姿でもあった。グルドの眼前には突き出された二つの拳。

 

 

「ぐおおおおお…っ!!」

 

 

グルドの顔面へと叩き込まれ、絶叫と共に地面を抉り取りながら叩きつけられてしまう。四人のコンビネーションによって決して隙を与えない攻撃が決まり、ヴィヴィオとアインハルトは互いに嬉しそうな笑みを向けていた。

 

 

「こいつ意外と弱かったな。オレ達、半分くらいの力しか出せないのに…。」

 

「もう大丈夫だよーー!!」

 

(…あたしがどうやっても倒せなかった奴を、たったあれだけで倒せた……?)

 

 

あっけなく倒れてしまったグルドを見下ろすような視線を向けるトランクス、背後では満面の笑顔を浮かべて声を掛ける悟天の姿。

だがそんなありえない状況下、口出す事はなく静観し続けた人物が一人―――先程からグルドの超能力によって身動きを取れずにいた少女は始めて口を開いたのだ。

 

 

「……なんで、ヴィヴィオが此処にいんだよ。」

 

「あ、ヴィータさん…! その、色々あって……それよりヴィータさん大丈夫ですか?」

 

「お怪我はありませんか…?」

 

 

信じられないとばかりに瞳が揺らぐ赤髪の少女はヴィヴィオよりも幼く、アインハルトよりも下に見える。だが彼女、ヴィータが放つ威圧感や風格はヴィヴィオ達の比ではない。

ヴィータは先程の光景をもう一度回想していた。グルドが瞬きする間に倒されていく光景はヴィータにとって信じがたい光景なのだ。

 

 

「…擦り傷だけだから心配すんな、んでそっちは……?」

 

「アインハルト…アインハルト・ストラトスと申します。」

 

「ボクは孫悟天だよ!」

 

「オレはトランクスだ!」

 

 

何処か荒々しく男のような口調でヴィータは言う、ほぼ無表情に近いアインハルトや元気な印象を与える無邪気な笑顔を振り撒く悟天とトランクスは名前を名乗っていく。

疑問が積もるヴィータはアインハルトやヴィヴィオから様々な説明を耳にしてもらう事となる。同時にヴィータは驚いた表情を見せながら時は一刻に過ぎ去っていく。

 

―――だが五人の視界にあるべき物がないことに気付く、それは極々単純で先程から目にしていた物だ。それは突然にして消えていた。

グルド、彼の姿が何故か周辺に存在していない。彼は完全に息の根が止まった訳ではない、先程の四人の攻撃によって気を失っているだけである。だがグルドはそこには存在していなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

暗闇だけが広がる視界に薄暗くぼんやりと入り込む風景と、見慣れた女性の顔。全てを包み込むような優しい青い眼と柔らかな茶色い髪を持つ彼女が、フェイトの視界に入り込んだ。

そして脳が覚醒すると同時にフラッシュバックを引き起こした。鮮明に描き出される青色の肌を持つ男との戦闘、「真・ソニックフォーム」、「行こうバルディッシュ」、そして「ギニュー特戦隊」――――。

 

 

「っ…! なのは……!!」

 

「ふぇ、フェイトちゃん…? 大丈夫…かな?」

 

「フェイトさん……よかったです。」

 

 

フェイトは此処に至るまでの記憶を一瞬にして全てを呼び覚ましていた、ギニュー特戦隊と名乗る謎の男達との戦闘によって惨めに敗北するまでの出来事を。

だがそれをかき消し包み込むような、なのはの穏やかな微笑とシャッハの安心した溜め息を目にしていれば自然と心は晴れていくような感覚を覚えていた。

 

 

「二人とも、ありがとう…私は大丈夫。ところであれからどうなったの?」

 

 

気が付けばフェイトの服装は真・ソニックフォーム時の衣装から変異している、先程までフェイトが思い出した敗北の過程が彼女のモードを解除させた原因だろう。

そして彼女の中で最も疑問視するべき内容を二人にぶつけた所、シャッハとなのはは困り果てた視線を互いに向けて口を閉ざす。

 

 

「そ、それが……。」

 

「どう言えばいいのかわからないけど…。」

 

 

なのはとシャッハは困り果てた視線を遠方へと向けた、その行動を理解する事ができないフェイトは怪訝な表情と共に彼女達と同様の行為を行う。

だがフェイトの中に飛び込んだ光景はとても理解しがたく現実離れした構図だ……一人の青年と向かい合わせに佇む二人の男――その一人は自身を敗北させた人物。

 

 

「…ちょっと言いづらいけど、わたし達じゃ力不足だからあの人に任せてるって感じだよ。」

 

「え……そんな、無謀だよなのは…!」

 

「でもわたし達三人で力を合わせるより…ずっとそれ以上に強いと思う。」

 

 

その話自体が信じがたい物である、この日の為にと必死に日々訓練してきた人間達が足を引いて無名の人物に任せるという出鱈目(でたらめ)な現象が発生していた。

出鱈目な現象を体現する一人の青年をフェイトは目を凝らしてその姿を鮮明に目視する。黒髪の青年は桁外れな風格や威圧感が異常な程に備わっているように彼女は感じた。

 

だがそれでも内心の「無謀過ぎる」という感情は捨てきれない、事の経緯を見守るようにフェイトやなのは、シャッハは静観し続けるのであった。

 

 

 

 

 

「な、なんだ…急にあのヤロウの雰囲気が変わりやがった……。」

 

「へっ!それなりのパワーアップをしたみてえだが、オレ達が相手では運が悪かったな!」

 

 

黒髪の青年、悟飯は一切表情を変化させず冷静すぎる態度を崩す事はなく、生死を左右する戦場内でも一切の揺らぎは見せない。それが恐ろしい威圧感となって降り注いでいる。

しかしバータは虚仮威(こけおど)しと言わんばかりに彼へと突っ込んでいく、前進していく!だが反してジースは目を見開いて声を大にして言う。

 

 

「――――待てバータ!!」

 

「くたばれーーーっ!!」

 

 

激声と共に拳が悟飯の顔面目掛けて突き出された、それは数秒もない出来事だがバータの拳は空振りで終わってしまう。

 

 

「なっ!? ば、バカな!オレは確かにヤツに攻撃をしたはずだ。」

 

 

バータ自身でさえ視界に収まらない速度を悟飯は持っている、身震いを覚えさせる光景にバータは額から冷や汗を流し途方もない程の「恐怖」と「畏怖」と「絶望」が襲い掛かっていた。

 

 

「どうした? オレは一歩も動いてないぞ。」

 

「う…うおおおおっ!!!」

 

 

がむしゃらに、力任せに、撃つ、撃つ撃つ撃つ!当たるまで滅茶苦茶に拳で殴り続けるバータ…数撃てば当たるという言葉通りに悟飯へと向け続けていく。

だがそれでも当たらない、全ての攻撃は全て避けられ一つも当たる事はなく避けられ続けている。それは悪夢のような光景だ。

 

 

「…す、すごいですねなのはさん……。」

 

「どうやって避けているのかわからない…一体何が……。」

 

「……多分、バータって人はあの人に当てる気がないんだと思う。」

 

 

なのはの言葉にシャッハとフェイトは目を点にさせて彼女の方へ目線を向ける、意味がわからない。

バータは悟飯を目掛けて殴り続けている、それが一つも当たらず無限ループしているだけに過ぎない光景はバータが悟飯を狙っていないからだと言う。

 

 

「あの人の威圧感で、バータって人は無意識に避けようとしてるような……。」

 

「そんな、馬鹿な……信じられません。」

 

「…………。」

 

 

もはや勝負は決着が付いたのだろうか?バータの根本的な何かは既に「敗北」している。

だが三人の視界には悟飯が動いたような動作は感じられない、それは単純に目視出来ないほどの速度かもしれないが彼女達の目には悟飯の僅かな動作さえも入ってこない。

 

 

「く、くそ!全然あたらねえ……。」

 

「バータ!二人でコンビネーション攻撃だ。地獄で編み出したオレ達の新技でヤツを仕留める!!」

 

「あ…ああ、わかった。」

 

 

なのはの言葉は真実性を物語るようにバータの攻撃は一切当たる事はなかった。代わりに足の震えや額に異常なほどの冷や汗を流しながら。

痺れを切らした様子でジースは叫ぶ、そしてバータはジースの隣まで戻れば彼等は構えを取り始める。同時に発生したの青色の光と赤色の光。

 

二つの光はまるで燃え盛るの炎のように揺らめき、地響きと共にジースとバータはく空中を飛来する!

 

 

 

 

「「パープルコメットクラッシュZ!!」」

 

 

 

 

青色の光と赤色の光は混ざり合い一筋の紫色の光と化す、炎のように不気味に襲い掛かる紫色の炎は周辺を一方的な暴力によって掻き毟っていく。

地面は抉り出され突拍子に衝撃破が荒れ狂い抉れた道筋を作り上げて標的である悟飯へと突進しながら無数の光弾を解き放つ。

 

 

「ふははは!貴様にこの攻撃が防げるか!!」

 

「粉々に吹き飛べーーーっ!!!」

 

 

強烈な威力を秘めた二人の合体技は並大抵の防御力では歯が立たないだろう、もはやなのは達は手も足も出ず悟飯を見守るしかないのだ。

 

 

「きゃ…っ!」

 

「ふぇ、フェイトちゃん大丈夫…!?」

 

「フェイトさん、なのはさん…! 此処にいるのは危険です、もう少し離れた方が―――ッ!?」

 

 

突如、襲い掛かる強風に身を崩しそうになるフェイト。なのはが支えた事によって崩す事はなかったものの、今にも吹き飛ばされるとばかりに地面へと足跡を刻み込む。

誰もが止められる筈もない、絶対的な破壊力が込められた光弾の雨に恐怖を抱いたシャッハは二人に逃げるように施すが…。

 

 

「――――かあっ!!」

 

 

彼女が見た先にはその一撃は消えていた。広がるのは何事もなかったかのように広がる瓦礫の山、いや先程の合体技による傷跡は確かに残されている。

だが悟飯の一声によって全てが無くなっていた。瞬間的に大気が震え暴風が渦を巻くように発生したが直後、紫色の光は風景に溶け短い悲鳴を奏でたのだ。

 

 

「うおおっ…!!」

 

「な、何が起きたんだ……や、ヤツがいねえ!?」

 

 

バータとジースは悟飯に接触する事はなく遥か後方まで吹き飛ばされていた、更に二人の眼前にいた筈の悟飯は姿を消している。

咄嗟の事態に目標も捉えられない二人は周辺を見渡す。だがそれでも悟飯は何処にもいない、気配を察知するという行動もできず二人は動揺を露にしていた。

 

 

「こっちだ。」

 

「――――!?」

 

 

背後へと振り向くバータ、その先には先程から探していた人物が不敵な笑みを浮かべて佇んでいたのだ。

そこには一切余裕が崩れていない不敵な笑みを浮かべた悟飯がバータを精神的に墜落させていく。

 

 

「ウスノロ…。」

 

「う、ウスノロ…宇宙一のスピードを誇るオレ様がウスノロだと!!」

 

 

それはバータが最も長所としていた部分であり、一つの誇りとして受け取っていた部分。だが悟飯は不敵な笑みと共にそれを汚した。

 

 

「ノロマの方がよかったか?」

 

 

挑発的な言葉を何度も投げかける、全ての言葉はバータの感情を剥き出しにさせるには充分すぎる。

その姿は戦闘が起きるまでの穏やかな青年と比較すれば今の青年、悟飯は何処か好戦的で酷く冷静なのだ。

 

なのはやフェイト、シャッハはその姿を見て戸惑いを覚えていた。先程までの青年の人格については勿論、バータとジースの合体技を簡単に打ち破って見せた彼の力に。

 

 

「…こんなこと、ありえません……!!」

 

 

苦々しく吐き捨てるように言い放つシャッハに少なからず共感を覚える二人。だがなのはだけは、力よりも悟飯の性格の変化に対して気に掛けていたのであった。

 

一向に動く気配を見せないバータとジース、いくら悟飯の挑発を浴びせられても彼の力の強さだけは頭から離れない。圧倒的な実力と精神力、どれを取っても彼等の比ではない。

よって生々しい感情だけが露になる。負け犬の遠吠えとも呼ぶべき二人の言葉だが―――。

 

 

「ヤツの実力は本物だ…ちくしょう! あの石のパワーを得られれば貴様なんかっ!!」

 

「あの石? 何を言っている…。」

 

 

聞き捨てならない言葉を唐突に口にする二人、もはや崖に立たされているような状況なのだ。

 

 

「とぼけるな! 望むだけで究極のパワーが手に入る石に決まってるだろ。今頃、隊長が奪いに向かってる!阻止しにきたつもりだろうが残念だったな。」

 

「それをフリーザ様が手にすれば再び宇宙の帝王へと君臨する……そして、そのおこぼれをオレ達に分け与えてくださるのだ。」

 

 

―――この場にフリーザが居る、だがそれはある意味では予想の範疇なのだ。この場に悟飯やベジータ達が姿を現した時点でそれらしき人物には検討が付いている。

だがフリーザ一味を知る者にとっては不可思議な現象なのだ、彼等は既に死んだ存在。それが今になって、異世界で彼等に出会うだなんて誰も予想はしなかっただろう。

 

照りつける夕日の光を吸収する悟飯の黒髪と瞳。だがその奥はフリーザの存在によって僅かに感情が揺れている。

 

 

(…なるほど、これで此処が襲撃された理由はわかった。そうなると、やはりあの邪悪な気の正体はフリーザ達か。だが、どうやってこの世界に……。)

 

「くっ…てめえの相手は後回しだ!まずはオレ達のポーズをバカにしたこいつ等からぶっ殺してやるぜ!!」

 

「…っ、こっちに来ます!」

 

「速い…!?」

 

 

瞬間、シャッハやなのは、フェイトは身の危険を感じて一気に張り詰めた表情へと追い込まれてしまう。一直線に向かってくるバータの本格的な殺気を浴びせられ体が動かず恐怖を心底感じ取り―――。

 

 

(怖い、たすけて…悟飯くん………。)

 

 

それは誰にも聞こえない、彼女(なのは)の心の叫び。それは決して誰にも届く事はなく耳にする事もなく消えていく儚い願いだが……。

 

 

 

「―――貴様等の相手はオレだと言ったはずだ。」

 

「なあっ!?」

 

「悟飯くん…!」

 

 

オレンジ色に塗りつぶされた瓦礫の山にいた筈の青年は何時の間にかなのは達とバータの間に立っており、彼の冷たい声が異常な精神的威圧を浴びせた。

バータは彼の声を聞くだけで呆気に取られてしまい全身が金縛りに合うような恐ろしい錯覚を覚えてしまうのだ。

 

 

「だあっ!」

 

「ぐえ―――っ!?」

 

「バータ…!?」

 

 

その錯覚を覚えていられるのは一瞬だけである、それらの感覚を吹き飛ばすような激痛がバータを襲う。彼の正面には腹部に肘打ちをする悟飯の姿。

抵抗する間もなく意識は朦朧とする、朧な視界内は必然的に強制遮断され暗闇だけが広がりその場に崩れ落ちた。

 

 

「あ…あああ……。」

 

「でやあっ!」

 

「がああ―――」

 

 

恐怖を抱くジースを睨み付けた悟飯は彼の背後を取り振り払うように手刀で首筋へと打つ、その動作は数秒という時間を必要としていない。その速度にジースでさえも気付く事すら叶わないのだ。

あまりにも圧倒的な戦力差、現実離れした戦場に呆然と見守り続けていた三人は勝敗が決着しても口を開く事はなくただその戦場を見据えている。

もはやベクトルが明後日の方角に疾走しているような、言葉にしづらい複雑な心境を持つだけであった。

 

 

「……終わったの?」

 

「い、一体彼は何を……?」

 

「突然、倒れたように見えるけど……。」

 

 

目に見える範囲に限定するなら、突然ジースが倒れたのだ。戦況を理解する為には脳の処理と現状を目視する事が必要だが彼女達は「現状を目視できなかった」。

だからこそ彼女達は突然彼が地面に倒れ付したように見える。そしてジースの背後に立ち尽くす悟飯の姿だけ。悟飯が何を行ったのか、ジースが何故倒れたのか、その原因が理解出来ない。

 

 

「もう大丈夫ですよ。」

 

 

地面に倒れた二人は動く気配も感じられない、だが命が絶たれた訳でもない。他の魔導師達と同様に気を失っているだけなのだ。そのまま彼等は静かに消えていく。

突然二人が消えた事に対して疑問を感じるが、脅威は去ったのでなのは達に微笑を浮かべる。その姿に思わずなのはは無意識に安静の笑みを露にしていたのだった。




悟天「こんにちは、悟天だよ!」

ヴィヴィオ「悟飯さんかっこよかったね!あっという間に倒しちゃったよ。」

フェイト「うん、悟天が強いのも頷けるね…。」

アインハルト「ですが、特戦隊はまだ一人残ってます。そして黒幕も…。」

なのは「はやてちゃん達が心配だな~。」

トランクス「次回DragonballVivid「フリーザ来襲!? 野望を打ち砕け孫悟空!」」

悟飯「お父さん!あとはお願いします!」


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第14話 フリーザ来襲!? 野望を打ち砕け孫悟空!

「いい加減石の在り処を答えろ!」

 

「……絶対に教えられません。」

 

 

瓦礫の山が作り上げられる中で一つの建物だけは半壊状態で済んでいた。その理由はこの建物がギニュー達にとって貴重な存在だからだ。

彼等が襲撃した理由は全て此処にある。目当ての品物を問いただすギニューだが一向に話は進められずにいた。

 

 

(……今は向こうが話し合いやからええけど、戦えばこっちが負ける。どうしたらええんやろ………。)

 

 

勝算が無い。はやての思考は確信が存在していた、魔導師達が一方的に倒れ付していくという要素は勿論だが目の前の男は彼女が今まで敵にしてきた中で一番に厄介だ。

反応を示さないなのはとフェイトは絶望的な状況である事が予測できた。外部からの激しい爆音や轟音はそれを物語っているのだ、「絶体絶命」――何度も経験してきたそれが今、目の前に広がっている。

 

 

「そうか…なら、特別サービスだ。今教えるならこのミルクキャラメルを3個やろう。」

 

「………は、はぁ…。」

 

(……はやくイクスの所に行かないとあかんのやけどな……。)

 

 

ベッドで眠り続けるイクス。何を口にすればいいのかわからず、戸惑うカリム。周辺に倒れているのは護衛役であるナンバーズの二人、殆ど勝ち目が無い。

はやては思考し続ける。この絶体絶命の現在を突破する逆転策を。とにかくこの場を突破できる何かが存在していれば、彼女の険しい表情は崩れる事がなかった。

 

 

「…なんで石が必要なんや……?」

 

 

はやての藍色に輝く瞳はギニューを見据える。襲撃犯は何らかの目標を持つ事はわかりきっていた事だが、聖王教会の襲撃はその目標へのステップでしかないようにはやては感じていた。

 

 

「その石は強い力を放っている。つまりそれをフリーザ様が手に入れれば究極のパワーをもった宇宙最強の帝王になられるのだ。」

 

「それは危険です!この石は、そう簡単に扱えるような物ではありません…!!」

 

 

突然カリムは感情を露にして声を張り上げる、その言葉は決してこの場を打開する為の脅迫等ではない――真実味のある言葉。

だがギニューは声を張り上げて警告するカリムに動揺することもなく鼻で笑う。

 

 

「ふん、そんな言葉を聞いて怖気づくとでも思ったか?早く渡さなければ……。」

 

「――――ギニューさん。まだアレは手に入らないのですか?」

 

 

唐突にその場に不釣合いな足音が響く、その足音を耳にしたギニューは顔色を一変させた。

カリムもはやてもまた、何か不釣合いな物が此処にいることを直感的に捉えており、二人は胸騒ぎを感じながら新たに姿を見せた"悪魔"を目にする……。

とても人間だと形容しづらい真っ白な生物が其処に、はやてとカリムの目の前に現れた直後に二人の動物的本能がひたすら警告を告げていた。

 

 

「フリーザ様!? も、申し訳ございません!こいつらが中々石の在り処を吐かなくて…。」

 

「フリーザ、やって……?」

 

 

表面上は冷静に振舞いながらも、白い生き物に対してはやてとカリムは確実に焦りを感じていた。

フリーザの視線には生々しい殺意を感じるのだ。言葉に言い表せない独特な威圧感に対して二人は息を飲んでいれば案の定……。

 

 

「どうやら、此処にはガンコな方が多いようですね。それでは、あなた方には死んでいただきましょうか。」

 

「……はやて…。」

 

「っ……。」

 

 

抗えない死が眼前にある、だが最悪自身が死んでも彼等が求める石の在り処はわからないだろう。

もはや二人は死を決意していた。目の前の死を、受け入れるべき死を。なのはやフェイト…仲間達の事を思い出しながら。

 

 

「し、しかし殺してしまったら石の在り処が……。」

 

「その心配には及びません。恐らく石はこの中の誰かが持っているはずです。辺りから強い力を感じますからね…それに、石さえ手に入れればこの惑星ごと消し飛ばす予定でしたので。」

 

「なんてことを……!!」

 

 

惑星ごと消し飛ばす、普通ならありえない事だがそんな無茶苦茶な事を成し遂げられる実力を彼等は持っている。そして冷酷にもフリーザは言葉を紡ぐ。

 

 

「ほっほっほ。大人しく石を渡してくださるのなら寿命がほんの少しだけ伸びますよ。そうですね…3秒だけ待ってさしあげましょう、ギニューさん、カウントをお願いします。」

 

「わかりました。いーーーち!」

 

 

未練は残るが、それでも生き残る術が思いつかない。こちらが死を覚悟でなのは達が倒せるようにフリーザとギニューに傷跡を付けるか?

いや、この二人はそれさえも許してくれないだろう。残された3秒間ではやてとカリムが成し遂げるのは不可能だ。

 

「2秒」、ギニューは言葉を投げる、それでも彼女達は決して石の事は口にしない。

 

 

「さーーーーん!」

 

「時間切れです、死になさい。」

 

 

死の宣告と共に指先を彼女達へと向ければ煌びやかな光が収束する、尋常ではない殺意が発すその威圧感はギニューでさえも恐怖を覚えさせる光景だった。

それを間近で浴びせられているはやてとカリムはほんの数秒の出来事が途方もなく長く感じている。二人の心臓の鼓動は大きく、自身の死が嫌というほど目の前に存在しているのだと実感させられるのだが―――。

 

 

「消えた!」

 

「なにっ!?」

 

 

あまりにも突発的な展開にフリーザは目を見開く、眼前に居た二人の女性が突然消えた。まるで瞬間移動でもしたかのように、風を切るような音と共に二人は其処にいない。

慌ててギニューは周辺を見回した先に見据えたのは黒髪の男。本来なら其処に居るという事がイレギュラーであり、緊急事態というレベルを超えた危機なのだ。

 

 

「ふう~~危機一髪ってところか。」

 

「きっ!貴様はっ!?」

 

 

それぞれの腕で抱えられているはやてとカリムは自身の状態に唖然としてしまう、何時の間にか彼女達は悟空に抱えられていた。その状況はあまりにも唐突過ぎて思考が一瞬フリーズしてしまう。

更に首元には幼い手があった、彼女達がそれを見上げるような視線を送った先には眠り続けるイクスの姿。ぞの穏やかな寝顔に思わず安心感を覚えると同時に何故彼女が男性に背負われているのかと困惑を浮かべる。

 

 

「イクス様……!?」

 

「失礼ですが、貴方は……?」

 

「オラか? オラは悟空、孫悟空だ。」

 

「孫悟空………?」

 

「何故イクス様を……。」

 

「こいつイクスって言うんだな。たまたま入った部屋が炎に包まれててそん中で寝てたこいつを起こそうとしたんだけど全然起きなくってよ、仕方ねえから連れてきたんだ。」

 

 

彼女達からすれば疑問を抱かざるをえない程の奇妙な話である、だからこそはやては口を開いた。

 

 

「その……一体、何処から入ってきたんですか?」

 

 

恐らくフリーザ達も彼の存在を知る事はできなかっただろう、ギニューも唖然とした表情を浮かべてこちらに視線を向けている。

はやての質問に彼はキョトンとした顔を浮かべた。その表情は質問の意図を理解していないように見え、どう返答しようかと彼は思考しているようにも見えるのだ。

 

 

「何処って…上からだ。」

 

「う、上……?」

 

 

ぴん、と悟空は人差し指を突き立てて天井の方を指差す。しかし今度ははやての方がキョトンとした顔を浮かべることになってしまう。その心境はカリムも同様に、悟空の言う事が理解できずにいた。

何故なら上から来れるはずがないのだ、上には当然のように天井。決して誰かが破壊して穴が空いているわけではなく、ごく普通に当たり前のように天井が存在している。其処からどのような手段を持ちえて上から移動するのだろうか。

 

 

「な、なぜ貴様がここに……。」

 

「よう、フリーザ。また悪さしてるみてえだな。」

 

「どうやって中に入ってきたんだ!外は他の隊員たちが見張りをしていた筈だ……!!」

 

「どうやってって、普通に瞬間移動で入っただけだぞ。邪悪な気がバラバラで此処まで来るのに時間がかかったけどな。」

 

「瞬間移動…?」

 

 

悟空の言葉から出た“瞬間移動”という単語にはやては首を傾げる。その一方でフリーザは苛立ちを募らせている様子だった。明らかにフリーザはこの男が出現してから様子が可笑しい、丁寧で冷静沈着な印象を受けたはやてとカリムはそんな彼のギャップに戸惑いを覚えている。

今のフリーザとギニューは焦っている事が明白であり、各事件を解決してきたはやての勘が告げているのだ、確実にこの男を目の前にしてから様子が一変していた。口調が変化したのもその一つだろう。

 

 

「ん? あぁーーーっ!おめえギニューじゃねえか!! ははっ、カエルから元に戻ったんだな。」

 

「今頃気づいたか。そうだ、オレこそが地獄から蘇ったギニュー特戦隊の隊長、ギニュー様だ!!」

 

「あの…そろそろ下ろしてくれませんか?」

 

「ああ、わりいわりい。」

 

「…………。」

 

 

決して調子が崩れない悟空に対して思い出したかのように言うはやて、あまりにも唐突な展開で今自分達がどういった体制なのか、ようやく頭に入ってきた様子で呆れを含んだ苦笑を浮かべて言う。

ポーズを取って名乗ったのに相手にされず複雑な心境を表すようにギニューは言葉を失っていた。数秒後、はやてとカリムは地面に着地している最中でイクスは安らかに悟空の背中の上で眠り続けている。

 

 

「っと、ありがとうございます。」

 

「…イクス様を助けてくださり、ありがとうございます。」

 

「フリーザ様。どうやら、残っているのは我々だけのようです。他の隊員たちも一緒に呼び出された部下達も反応がありません。」

 

「おのれサイヤ人め……!」

 

「どうやって生き返ったかは知らねえけど、また閻魔のおっちゃんのとこに戻ってもらうぞ!」

 

「フリーザ様!正直、今の我々では分が悪いかと。ここは一旦退却を……。」

 

 

悟空は睨みを利かせた視線を二人へとぶつける、悔しまみれにフリーザは歯をギリギリと噛み締めて怒りを膨らませながら悟空にその独特な眼光を向けていた。

だが現状はギニューの言う通り。彼等には勝ち目がなく、その僅かな勝機さえもない。悟空が此処に現れた時点で既に戦況は逆転されたのだ。

 

 

「うるさいっ!宇宙の帝王であるこのオレがたかがサル如きに逃げるだと? ふざけるな…!!」

 

「きゃ…!?」

 

 

怒声を浴びせると同時にフリーザを取り巻いていた気は突如轟音を響かせて大地は震える、聖王教会に瓦礫が入り込み天井に罅が刻まれていく。

その光景は悪夢としか言いようがない、悲鳴を上げたはやてとカリムは立つ事も間々ならず体制を崩して地面に這い蹲る。それでも尚、取り乱す事はなく冷静に装う悟空はただフリーザを見据えるだけだ。

 

やがて地面が崩れ落ちていくと、はやて達の仕業によって隠されていた蒼色の宝石が天井と共に宙を舞う。

 

 

「ロストロギアが………!」

 

「バレてもうた…!!」

 

「――――それはオレのものだ…っ!!」

 

「させません!!」

 

 

突如顔を出すのは小さな少女、いや小柄過ぎるその少女は身長が低い等とお世辞で言えるレベルではない。だからこそ悟空はその少女を見て驚いた表情を浮かべていた。

丁度両手で掴めるほどの、まるで小人のような彼女は勇敢にも空中を落下するロストロギアに向かって浮遊する。しかし邪魔をするように伸ばされたフリーザの手に収束する殺意を含んだ煌びやかな光。

 

 

「あぶねえっ!!」

 

「えっ…!」

 

 

掌から発射された光弾にリインフォースⅡが命中する直前、悟空は彼女を掴むと同時にもう一つの片手によって“パァン!”と甲高い音を撒き散らして光弾を弾き返してしまう。

勢いは止まる事なく光弾は後方の窓ガラスを突き破って遥か上空へと虚しく飛来する。だがそれらの一連がはやてを始めとしたリインフォースⅡ、カリムにはまったく視界に入らない、故に今何が起こったのか理解できずに居た。

 

フリーザの突き出された手から予想するに攻撃の類、唯一それだけを理解したリインフォースⅡは悟空へと顔を向ける。

 

 

「あ、ありがとうございますぅ……。」

 

「おめえ、ちっこいのにムチャすんな~。危ねえからオラん中に隠れとけ。」

 

「えっ、えっとまってくださ…ひゃあ!」

 

 

掴んだ彼女に拒否する暇も与えずそのまま懐へと仕舞うと同時に堪えるような笑い声が響いて全員の視線はフリーザへと向けられ、当の本人は握り締めた宝石を目にして笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

「くっくっく、ついに手に入れたぞ。これでオレは宇宙最強だ…!!」

 

「やりましたね、フリーザ様。お祝いに喜びのダンスを踊りましょう!」

 

「…………。」

 

 

悪どい笑みを浮かべるフリーザの傍でバレエのようなダンスを踊るギニュー。そんなギニューに対して何処か呆れを含むように呆然とした表情を見せるはやてとカリムにとっては彼等の事は理解できずにいる。

 

 

「あの石から強え力を感じるぞ……。」

 

「あれはロストロギアと言って、使い方次第で次元を消滅させるほどの危険な力を秘めた石なんです…!」

 

「この力を手に入れたからにはオレを呼び出したあの下等生物共と手を組む必要もない……後でじっくりと痛ぶって殺してやろう。」

 

 

掴み取った宝石はフリーザの手の中へと溶け込まれ、全身へとその力が吸収された途端―――突然変異でも起こったかのようにフリーザの気は膨れ上がっていく。

その異変に誰よりも先に気付いたのは悟空だった、眉がぴくりと動かし目を目開いてフリーザを見据える。

 

 

「とてつもねえ気だ…まだ増え続けている。」

 

「……悔しいけど、もう私達の力じゃどうにもならへん…!」

 

「きゃああっ!?」

 

 

フリーザの体内に存在する気は外へと溢れ出す、紫色の炎が凄まじい凶器となって地響きを引き起こし聖王教会を完全崩壊させてしまう、当然のように天井は落下し教会を形成していた柱や窓ガラスなどの部品は雨のように降り注ぐ。

その光景を目にした悟空は落下する寸前にはやてやカリム、イクスや聖王教会に残る者全てを一気に抱えて強引に上空を突破する。その脅威的な速度は数秒という次元ではない。

 

 

「うおおおおおおおお…っ!!!」

 

「ぐあああっ!!」

 

 

更に倍増する気は周辺に向けて衝撃破を激しく撒き散らし、未だにその惨事に気付かず踊り続けるギニューを遥か彼方へと軽々と吹き飛ばしてしまう。

やがて上空へと上り詰める悟空が見下ろして視界に入り込んだのは超絶的な大爆発。瓦礫の山を全て消滅させてツノや殻などの余計な器官を吹き飛ばしたフリーザは途方も無い殺意を剥き出しにしていた。

 

 

「やべえな…早くなんとかしねえとこの星のみんなが殺されちまう。」

 

「そんなこと……!」

 

「…どないしたらええんやろう、ロストロギアを取り込まれたらもう策はないで……。」

 

「なのはさん……フェイトさん…。」

 

 

決して口に出したくなかった諦観の言葉、はやての拳は力強く握り締められており悔しさに震えている。其処に恐怖が入り込んでいるのかどうかは誰が見てもわからないだろう。

その心境に近いカリムもまた大爆発を引き起こした張本人へと視線を向け、悟空の懐から顔を出すリインフォースはただ自身の仲間を思い浮かべ殺されるという悪夢が一瞬脳裏を掠めて振り払うように首を振るう。

 

―――このまま放置する訳にもいかない。ただ一人、悟空だけが冷静な態度を崩す事は無く純黒の瞳に悪魔を映し出していた。

 

 

「なんてパワーや………あかん、やっぱり放っておく事なんてできへん。」

 

「…そうですね、はやて。」

 

 

悟空達は聖王教会周辺に存在する森へと飛行し、地面に降下すると抱え込んでいたはやて達を解放させる。

 

 

「おめえ達、ここは危険だから安全なとこに……。」

 

「後ろから来ます!」

 

 

カリムの警告に思わず悟空は振り返って背後に迫る正体を見据えようとした直後、顔面に拳が埋まった。それだけで悟空は呆気なく吹き飛ばされ、悟空が吹き飛ぶ衝撃によって大量の木を破壊し尽くし地面に酷い傷跡を刻み込んでいく。

 

 

「がああっ!!」

 

 

だがフリーザの攻撃は終わる事なく、更に悟空の背後を奪い取って上空に向けた蹴りを背中へと叩き込む。悲痛な叫びと共に悟空は再び悪戯な腕力によって宙を舞う。

 

 

「くたばれええええ!!!」

 

「うわああああっ!!」

 

「きゃああああああぁぁぁぁ!!!」

 

「リインが……!」

 

 

今起きている現象を明確に把握する事も間々ならないはやて達にとって、突然木が破壊され地面が無残に抉り取られるという超常現象を目の当たりにしているような物だろう。

それでもその現象の原因ぐらいは予想が付く、異常なエネルギーの塊は衝撃破となって周辺を暴風の如く巻き取らしている。そして未だに悟空の懐に隠れ続けるリインフォースⅡに気付いて彼女は杖を握り締めた。

 

本来ならはやて達同様に降ろされる筈だったリインフォースⅡはフリーザの予期せぬ攻撃によってできなくなってしまっている。やがて数秒後…はやての足元に煌びやかな光と共に魔方陣が出現した。

 

 

「少しでも、あの人の援護になったらええんやけど…!」

 

「はやて、危険です!こちらに攻撃されるかもしれません……。」

 

「せやけど、このまま何もしなかったらもっと危険や!」

 

 

はやての言葉に押し黙ったカリムを差し置いて、はやては分厚い書物を開き魔法の言葉を復唱する。

 

 

「――――仄白き雪の王、銀の翼以て、眼下の大地を白銀に染めよ。来よ…氷結の息吹!」

 

 

上空に圧縮された気化氷結魔法…即ち複数の立方体が形成され、その力は増してく。彼女自身に存在する膨大な魔力が立方体に蓄積されるように発光体は照らし出す…。

 

 

 

 

 

「Atem des Eises(アーテム・デス・アイセス)……!!」

 

 

 

 

 

はやてが主に扱う魔法は広域攻撃魔法、文字通り広範囲に渡って攻撃が可能な魔法の事である。ある程度の詠唱も必要だが発動させれば一気に敵を大量殲滅する事が可能だ。

特に彼女が使用する魔法は桁外れであり、その圧倒的な魔力と攻撃性能は管理局内でも高い評価を得ている。その強大さは彼女自身も扱い切れない面が強い。

 

 

「はーはっはっは!あっけなかったな。それともオレが強くなりすぎてしまったか。」

 

 

彼女の発声が合図となり複数の立方体が高速飛来しフリーザの周辺へと着弾していく、派手な爆発音が支配する中で保たれていた熱が一気に消滅して極寒の地を作り上げる。

地面は蒼白色に塗り替えられ樹木は凍り付き、異常現象を体現させた環境はフリーザをも容赦なく氷結させようと絶対零度の牙が向く―――悟空を注視して高笑いしているフリーザは動作を引き起こす事が遅れ、彼の体温が急激に低下し蒼白の塊と化してしまう。

 

 

「凍った…やりましたね、はやて!」

 

「………っ!?」

 

 

蒼白の塊を見据えるはやては眉を顰めて張り詰めた表情を崩す事はなかった、そして数秒後…突然亀裂が氷を刻み込み耳障りな程の甲高い音を奏でてそれは木っ端微塵に砕け散ってしまう。

そしてその中身は邪悪なバイオレット色の炎をオーラのように身に纏うフリーザの姿があり、激しい電撃をその身で奏でながら不敵な笑みを露にはやて達の方角へと視線を向けていた。

 

 

「ふっふっふ、その程度の攻撃でこのフリーザを倒せるとでも思ったか。」

 

「っ……ちょっとだけでも傷、つけられると思ったんやけどな…。」

 

「はやての攻撃が、通用しない……!?」

 

 

氷点下の地上、手加減無しの一撃をフリーザに叩き込んだにも関らず当の本人は無傷。ただその攻撃は苛立ちを募らせるだけでまったく無意味に等しい。

やがてフリーザの片手をはやての方角へと突き出す、その動作が攻撃を予想させるのは容易ではやては杖を構えて戦闘体制を見せるが……。

 

 

「鬱陶しいハエ共だ…そんなに死にたければすぐに殺してやる!」

 

「なっ、体が……うごかへん…!?」

 

「はやて!!」

 

 

フリーザはただはやてに片手を突き出した、たったそれだけの動作に過ぎない。何か攻撃を仕掛けた訳でもないのに関らずはやては身動きを取る事ができずにいる。

 

 

「っくう、う……!!」

 

 

悲痛な声を漏らして顔を顰めてはフリーザを見据えるが全く意味は成さない、身体が浮遊しとてつもない激痛が彼女の体を蝕んでいた。

攻撃の正体が掴めない奇矯な不気味さと死の予感が合さりはやての意識は朦朧としていく。精神的、肉体的に限界は目の前である。

 

その光景を眺めつつフリーザは静かに手を握り締めようと力を強めようとした。

 

 

「くっくっく…――――うごおお…おお…!?」

 

 

――瞬間、彼の腹部に強烈な衝撃が入り込み、真っ白でシンプルな身体が宙を舞い蒼白の地面を抉り取る。何が起きたのか理解する事もできず無様な構図を晒したフリーザは殺気を放ち憎悪や苛立ち等に塗れて顔面に酷い青筋が浮き出ていた。

上半身を起き上がらせ、負の感情を与えた対象が視界に入り込んだ直後…抱えていた全ての感情は消し飛ばされフリーザは絶句する。

 

 

 

 

 

 

「――――フリーザ。おめえのスキにはさせねえぞ…!」

 

 

「な……!!」

 

 

 

逆立った金色の髪と透き通った碧眼、眼光を放つ悟空の姿に言葉が詰まるフリーザは圧倒されていた。驚愕とも称すべき目の前の現実に彼はただ唖然とした表情を向ける。

悟空の攻撃によって解放されたはやては地面に倒れ付し、朧な意識の海でその先を見据えて絶句していた。それはカリムも同様の心境で驚いた表情で彼を瞳に写す。

 

 

「なん、やろ……あれ…。」

 

「……黄金の、戦士―――まさか!」

 

 

蒼白色に煌く地面の真上から黄金の光を反射してより一層、幻想的な風景を描き出していた。この世の物とは思えない現実に圧倒されその場に居る者達は絶句する。

そしてカリムはある一つの予言が脳裏に映像となって回想していた。「聖地の国で古い結晶により異なる次元の死者蘇りし時、黄金の戦士が出現する」…誰もがハズれるであろうと予想した、最も可能生の低い予言。

金色のオーラに身を包む悟空の姿に場は騒然とし、ただ悟空の道着の懐に身を潜めるリインフォースⅡだけはキョトン、とした顔色で彼を見上げており……。

 

 

「ど、どうなってるんですかぁ……。」

 

 

こうして聖王教会襲撃事件は最終局面を向かえ、運命が記した予言通りの壮絶な決戦が始まろうとしていた―――――。




悟飯「こんにちは、悟飯です。石の力でパワーアップしたフリーザと超サイヤ人に変身したお父さん…。ナメック星での出来事を思い出しますね。」

なのは「にゃはは…わたし達とは次元が違いすぎて介入できないよ。」

フェイト「うん、だから今はあの人を応援しよう。」

ヴィヴィオ「悟天くんのお父さん頑張れーーっ!!」

リイン「悟空さん…。」

アインハルト「次回DragonballVivid『完全決着! 闇を切り裂け、光のスーパーかめはめ波!!』…です。」

悟空「終わりだ、フリーザ!!」


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第15話 完全決着! 闇を切り裂け、光のスーパーかめはめ波!!

ジースとバータの体は既に消滅していた、悟飯の手によって。それは一時的に聖王教会周辺だけが安息を取り戻せた事に繋がる。

だが完璧に事態は収まったわけではない。気が抜けない状況は今も続いており、緊迫とした重々しい雰囲気がなのはとフェイト、シャッハと悟飯達を包み込んでいた。

 

 

「え、えっと、悟飯くん…だよね?」

 

「うん、久しぶりだねなのはちゃん。正直見違えたよ。」

 

「久しぶり悟飯くん…! わたしも、悟飯くんって聞いてすごく驚いたよ。なんだかかっこよくなったね…?」

 

 

重々しい空気が取り囲む中でなのはと悟飯、二人の再会に思わず両者は無意識の内に頬を緩ませて微笑を浮かべている。

それは無理もない。会う事はないと両者が互いに思っていた筈が、今起きている現状のようにあっさり破られてしまう事は二人にとって想定外だ。

 

先程までの雰囲気と反した二人の和やかな会話に目を丸くし、フェイトとシャッハは互いの顔を見て困惑を覚えた態度を見せていた。

 

 

「な、なのは?知り合いなの?」

 

「あ、うん……ほら、前に話した悟天くんのお兄さん。」

 

「はじめまして、悟天達がお世話になったみたいで…。」

 

 

軽く頭を下げる悟飯の行動には品を感じさせる、彼が語る言葉の調子は不思議と相手に好感を抱かせる不思議な何かが宿っているのだ。

その言動と仕草はジースとバータ、あの二人を圧倒した悟飯とフェイトやなのはに接する悟飯とではまるで裏表的な存在。初対面の印象が前者であるフェイトにとって現在の悟飯には奇妙なギャップを抱かせていた。

 

 

「い、いえ。こちらこそ…。」

 

「ところで悟飯くん、どうやってこの世界に来たの?」

 

「トランクスの荷物にあった発信器を頼りにタイムマシンでね……あ、そうだ! はいなのはちゃん。」

 

「え……これ…!」

 

 

衣服の懐から取り出した真っ白なリボンを差し出せばなのはは瞳を見開く。そのリボンは本来彼女の私物、決して戻る事のないリボン。

なのはが悟飯達の世界に訪れ元の世界に帰還する直前、形見代わりとして悟飯に渡した物だ。十数年前に築き上げた思い出が一気に溢れ出し、リボンを受け取る手が震え出していた。

 

 

「必ず再会するって約束したから。この世界にいるとは思ってなかったけど。」

 

「……ありがとう、悟飯くん。」

 

 

「それから」、と言葉を繋げればなのはの頬は赤色に染まっていく。何かを意に決したように息を吸い込んでは吐くという作業を繰り返す、そんな彼女の行動は悟飯にとっては奇矯に捉えていた。

疑問を感じて彼女が口にする言葉を待つ。だが一向になのはは口に出そうとしない、「ずっと前から…」と小さな声は辛うじて悟飯の耳に届く。背後からの軽快な足音も耳で確認しながら。

 

 

 

「兄ちゃーん、終わったよ!」

 

「ママー、わたし達で敵をやっつけたんだよ! ね、アインハルトさん?」

 

「はい……なんとか、ですが。」

 

「悟飯さん達の方も片付いたんだね。」

 

 

トランクスは周辺を確認した後に声を掛ける、実際見える範囲では敵の姿が見当たらない。あるのは傷跡とも呼ぶべき瓦礫となぎ倒された樹のみ。それらが散乱して、場所だけ視点を当てれば大惨事以外の何者でもない。

 

 

「あれ?ママ、どうして顔が赤いの…?」

 

「な、なんでもないよヴィヴィオ……それより、みんなお疲れ様かな。」

 

「こっちも、悟飯さんのおかげでなんとかなったからね…。」

 

「やっぱり兄ちゃんは凄いや!」

 

「ところでベジータさんは?」

 

「トランクスさんのお父様なら怪我をしたシグナムさんをヴィータさんの所に連れていった後、何処かへ飛び去ったと聞きました。」

 

 

アインハルトの話を聞いて納得したように全員は黙り込む、この世界に住む者は彼等と戦うにはあまりにも戦力が桁違いすぎるのだ。大怪我を負っていても何ら不自然な物はない。

 

 

「そういえば、なんで悟飯さんはオレ達みたいに気が減ってないの?」

 

 

サイヤ人の血を引いているからこそ理解できる気という重々しい何か、悟飯の体内で渦巻くそれはトランクスと悟天には不思議以外の何者でもなかった。

 

 

「え? なんでって言われても…ボクから見たら二人の気が大幅に減ってることが気になるな。」

 

 

疑問の真意を理解できていない様子で悟飯は首を傾ける、自身の気に異常が見られない事が逆にトランクス達にとっては異常に捉えつつある。

何故なら本来この世界に訪れた際にトランクスと悟天は気が減少した。即ち戦闘力の半滅、その異様な現象が悟飯自身に起きているようには見えないのだ。

 

戦闘力が半滅していない悟飯から見れば悟天とトランクスが異様な現象として写っている。

 

 

「…ボク達、この世界に来たら気が減っちゃったんだ。」

 

「この世界に来てから? それって……――――みんな離れろっ!?」

 

 

突然、聖王教会を崩壊させる程の爆発が巻き起こったのだ。轟音を響かせ高密度のエネルギーが凝縮されたそれは教会を中心として波紋のように瓦礫と樹が散乱する荒地を飲み込もうと膨張していく。

逸早く気付いた悟飯はなのはとフェイト、そしてシャッハを抱えて光景が線になるほどの猛スピードで戦線離脱する。あっという間の出来事になのはとフェイト、シャッハは声すら発する事はできずにいた。

 

 

「わっ、悟天くん…!!」

 

「っ……!?」

 

 

ヴィヴィオとアインハルトは瞬間的に身体を支配する浮遊感に戸惑いを覚えてそれの原因を目に捉える、悟天とトランクス――二人が彼女達をそれぞれ抱えて悟飯と同様に逃走を図っていたのだ。

他にも付近に居た傷だらけの魔導師達を二人の空いた手で抱えながら飛行は続く、やがて一定の地点に辿り着けば三人は降下して地面へと着地する。

 

 

「……聖王教会が、爆発したなんて。」

 

「なのはママ、あれ…!」

 

「あ、あれは一体…とても人間だとは思えません!」

 

「………っ、カリムさん、はやてちゃん、リイン、イクス…。」

 

 

俯き加減に名前を小さく呟くなのはの表情は読み取る事ができず、遠く離れた距離で破壊された聖王教会の跡地へと視線は注がれていく。

―――其処には真っ白な肌の怪物が居た、一見人間のような形状を持つ怪物だが手も足も顔も全てが人間とはかけ離れた生物だ。

 

そして崩壊した聖王教会の跡地に佇む怪物と向かい合わせに睨み合う逆立った金髪碧眼の男、後者の人物の正体に気づいた悟天は思わず身を乗りだし。

 

 

「あ、お父さんだ!!」 

 

「え? ですが、外見が全然違うと思うのですが……。」

 

「超サイヤ人になると、姿や雰囲気が少し変わるんです……。」

 

「そういえば、悟天くんの時も……。」

 

「ちょっと待って! 悟飯くんのお父さんは亡くなったって…。」

 

「いろいろあって生き返ったんだ。長くなるから後で話すよ。」

 

 

空中を浮遊し燃え盛る金色の炎を身に宿す悟空は真っ直ぐにフリーザへと眼光が貫いていた、その威風堂々とした姿に傷だらけの魔導師達は様々な事を口走り騒ぎ出す。

両者が何者なのかを、彼等は一体何処から?魔導師達にとっては回答が得られない動揺と混乱に満ちた会話ばかりが耳に響く中でなのはだけは過去に悟空が死んだ事を悟飯に聞かされてた為、眼前の光景に一番衝撃を受けていた。

 

 

「父さんと対峙しているのはフリーザか、前よりも邪悪な気が強くなってる…。」

 

「え? フリーザって…パパ達の故郷を破壊した……?」

 

「故郷を破壊……!?」

 

 

禍々しく輝き続けるオーラを宿すフリーザへと瞳を見開いてシャッハは見据える、残酷極まりない怪物は未だに動作を起こさず悟空と睨み合ったまま。

ただその場に居るだけで互いは途方もないプレッシャーを放ち続けており気が付けばシャッハは酷く冷や汗をかいていた。

 

 

「あれが、フリーザ……。」

 

「はやてちゃん達は、どうなってるの…!」

 

「大丈夫。父さん達の近くに複数気を感じるから生きてるよ。」

 

 

悟飯の言葉になのははほっと安心するように胸をなでおろす、アインハルトとヴィヴィオもまた暗い表情から目を見張って遠方の二人へと眼差しを向ける。

誰もが真剣な視線を注いで、行方のわからない勝負に対して不安を抱えているのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『穏やかな心を持ちながら、激しい怒りによって目覚めた伝説の戦士…。』

 

『星は壊せても、たった一人の人間は壊せないようだな。』

 

『オレは怒ったぞーーーっ!!フリーーーザーーーッ!!!』

 

 

 

フリーザの脳内で回想するのは忌々しい記憶の欠片、それが一つ一つ鮮明に映像として流れ出し額に青筋を浮かべて金髪碧眼の男へと鋭い眼光を向けている。

自身のプライドを蹂躙された屈辱、刹那に駆け抜けた全身の激痛、それ等がフリーザのプライドをズタズタに踏み潰すには充分すぎたのだ。

 

 

『これ以上、貴様と闘ってもムダだとオレは思い始めた…。』

 

『バカヤローーーーーッ!!!!』

 

 

恐怖と見下した感情が交差して、この世で恐れ見下していた人種…超サイヤ人に倒された出来事はフリーザが予想していた敗北の末路だった。

だからこそ防ぎ切れなかった悔しさ等の負の感情が目まぐるしく渦巻いて、フリーザを纏う邪悪な紫色の炎は更に激しさを増して地面に亀裂を刻み込んでいく。

 

 

「ふ、ふふふ…現れたなスーパーサイヤ人! これで誰が宇宙一なのかが決まる……。」

 

 

一方、悟空は自身の懐で唖然とした表情を浮かべるリインフォースⅡへと視線を落とす。状況を上手く理解できていない様子で目の前のフリーザへと視線を向けるだけの彼女に。

 

 

「おめえ、名前なんていうんだ?」

 

「ひゃい! り、リインはリインフォース・ツヴァイですぅ…。」

 

 

悟空の声に振り向いて見上げるような視線で、青い瞳に悟空を写しながら声を発す。穏やかな表情を浮かべる彼に不思議と安心感を覚えさせられながら。

 

 

「リインだな…。危ねえから舌噛まねえようにしっかり掴まっとけよ。」

 

「…はいです!」

 

「覚悟しろ!パワーアップしたオレの力で貴様を宇宙のチリにしてやる!!」

 

 

リインは悟空の忠告に従い懐へと自身の身を隠す、それはある種の危機意識が彼女の行動を増長させたに過ぎない。

目の前の真っ白な怪物は咆哮して真正面から悟空へと拳、脚を振り下ろし続ける。その一つ一つの動作だけで周辺へと凄まじい衝撃放を放ち地面や樹が次々と罅入りなぎ倒されては荒地を作り出していく。

 

視界に入らない速度で動く彼等を認識できない者からすれば突然地面が抉れ樹は破壊され、超常現象が引き起こされているかのように錯覚してしまう程だ。

ドゴォン!ドゴォン!と激しいぶつかり合いによって生じる強烈な轟音にはやて達は圧倒され口を開く事すらなくその現場を見据えていた。強風で舞い上がる髪を片手で抑えて、はやては言葉を紡ぐ。

 

 

 

「…一体、何がどうなっているんかわからへん。戦闘が目に見えないなんて、初めてや…。」

 

「そうですね……私も、これほどまでの戦闘を見た事がありません。」

 

「この戦い、なのはちゃん達も見てるんやろうな……どこかで。」

 

 

自身の経験と知識を凌駕した異常現象を体感する二人は現場を見据え事の成り行きが良くなるように願うしかない、なのはやフェイト達がこれを見た時…一体何を感じているのか、想像を膨らませながら。

 

 

「ハァ…ハァ……」

 

「どうしたフリーザ。息切れしてっぞ。」

 

「うるさいっ!」

 

 

戦況はフリーザの不利な状況が続いていた、というのも敵対する悟空は疲れた様子など欠片も感じさせていないのだ。涼しげで余裕を持つ相手の態度にフリーザは憎々しげに瞳を覗かせていた。

 

 

「くたばれええーーっ!!」

 

 

指先を悟空へと向けて、殺意と憎悪が混沌としながら紅色のエネルギーが凝縮される。瞬時に射出された光線――デスビームを悟空はまるで瞬間移動するかのように避け切ってしまう。

フリーザは諦めずに何度も何度もデスビームを放ち続けるが悟空は姿を消しては現れるという過程を繰り返し避け続ける。回避されたデスビームは遥か上空へと虚しく消えていくばかり。

 

 

「あの、リインは無事なんでしょうか…?」

 

「た、多分大丈夫やと思うけど……。」

 

 

攻撃が全く通用しない相手に痺れを切らしたフリーザは白い片手を広げて其処から巨大なエネルギー波を放出し、悟空へと襲い掛かる―――!

 

 

「………っ。」

 

「悟空さん、リイン、無事でいてや……!」

 

 

カリムは緊張感から息を飲む。何故なら光線は悟空と思わしき朧な影を飲み込んでいるのだ。薄っすらと浮かぶ人型のそれは確実に悟空へと命中した証拠である。

―――やがて視界に飛び込んできた光景はフリーザの期待を裏切る現象その物。手に汗が滲み、相手の姿にフリーザはある種の疑惑が生じていた。

 

 

「そ、そんなバカな…!! オレは宇宙一のパワーを手に入れた筈だ…それなのに………。」

 

 

全く傷一つ付いていない悟空の姿にフリーザは瞳孔を開き、全身に湧き上がる本能的な警告を感じ取っていた。先程までの攻撃は決して手加減した訳でもなければ油断した訳でもないのだ。

自身が持つ全ての力を注ぎ込んだ、故の結果はあまりにも惨めな現実。……だが一方で悟空は怪訝な表情を浮かべてフリーザを眺めていた。何かが可笑しい、と彼の瞳が語っている。

 

 

(どうなってんだ…急にフリーザの気が弱くなった。けど、まだとんでもねえ邪悪な気が消えてねえ……―――まさか!!)

 

 

奇妙な違和感を覚える悟空は眉を顰めてその原因を探る、それは極微量の違いから悟空は見つけ出す事ができたのだ。

フリーザの気とは異なったもう一つの何か。いや厳密にはフリーザとは異ならない、フリーザと全く同じ気を持つ誰か。そしてフリーザと近すぎる位置にその"誰か"が存在している。

全く同様の気を持つ点とフリーザとほぼ同じ位置に居る事が、正確な把握を狂わせた原因だがその正体不明の気は時間が経つにつれフリーザをも上回る気を蓄積していっているのだ。

 

 

「もう止めろフリーザ! おめえはその石にパワーを吸い取られてんだ!!」

 

「なんだと…!? ぐう!おおおお…っ!!」

 

 

突然悲痛な叫びを上げるフリーザの姿に全員は瞳を見開く。突如として起きた異変に誰もが疑問を抱いていた、片腕を押えて激痛に堪えるフリーザは先程までの態度と変わり痛々しい物へと成り代わっていた。

 

 

「なのはママ…どうなってるの?」

 

「わからないけど、フリーザに何かが起こったんだと思う……。」

 

「…もしかして、ロストロギアとか?」

 

「ロストロギア……ですか? どうしてロストロギアが…?」

 

「…なんていうか、フリーザの様子を見ていると……その。」

 

「フェイトちゃんの言う事…わかるかも、ロストロギアが反応してるようにも見えるよね。」

 

 

フリーザと悟空の周辺を旋回する桜色に輝く球体型の光はふよふよと浮遊する、その光はなのはが扱う魔法の一つ「エリアサーチ」である。

魔力で生成されたサーチャーと呼ばれる端末が球体内に組み込まれておりそれを通してサーチャーが認知した視覚情報を術者に送り込むという魔法。

この場合、術者はなのはとなるので遠くに居るフリーザと悟空の様子が端末を通してなのはに視覚情報として送信されているのだ。

 

 

「どういう事でしょうか……?」

 

 

なのはの言葉に不可解さを感じたシャッハは不安が入り混じったトーンの低い声で問いかける、理解できない事に少なからず不快な感情を覚えた様子で。

 

 

「…多分そのロストロギアにフリーザの気が吸い取られてるんだ。」

 

「気が吸い取られてる?」

 

「あ、だからあんなに苦しんでるんだね。」

 

「ねえねえ、ロストロギアってなーに?」

 

「ロストロギアはね、大昔に造られたすごく危ない遺産のこと…だよね?」

 

「うん、よく覚えてたねヴィヴィオ……あの石も、遺産の中の一つ。」

 

 

消滅してしまった世界、あるいは既に滅んでしまった技術の結晶―――それがロストロギアである。

今フリーザの手に塗り込んだ宝石は邪悪に煌いて力を無造作に吸い取り始めていた、その度にフリーザは悲痛な声を上げ忌々しく宝石が塗り込んだ手へと視線を落としながら。

 

 

「ふ…ふざけるな……!! オレは宇宙の帝王フリーザだ。こんな…こんな石ごときに……ぐおおおおっ!!!」

 

 

しかし現在に至るまでの経緯はフリーザにとって屈辱以外の何者でもない。故に怒りは頂点を越して眼前の相手へと牙を向いている。

極限にまで高められた負の感情は現状で最も必要とされる行動を無視してただ凶暴な特性を晒すばかり。フリーザは我武者羅に、紺色に染まった夜空へと飛翔していく。

 

 

「ど、何処に行ったんや……!」

 

「…嫌な予感がします。」

 

 

太陽の光は消え、真っ暗な空へと飛翔するフリーザの行動ははやて達にとって理解出来ない行動だった。なのは達もまた彼の行動が理解できない様子で目を離さずそれを見据えている。

だが時刻は夜を迎えて、暗闇が広がり視界が悪くなる中でフリーザの姿を視界に捉える事自体が難しくなりつつある。―――やがて遥か上空に到達したフリーザは暗闇の中で再び気を高めて邪悪な光を発す。その光は地上にいる者達からすれば一つの星空のようにも写るだろう。

 

 

「ハァ…ハァ……宇宙最強はこのオレだーーーーッッッ!!」

 

 

凄まじい怒気を孕んだ叫び声が宙を駆け抜ける、強引に気を高め続け歪な光が覆いながら、だがフリーザの行動を目にしても悟空の冷静さは崩れずその張り詰めた険しい表情からは彼の行動を見据えようと視線を向けていた。

フリーザは両手を天高く掲げて禍々しい光弾を形成する。それは夜を照らし出し異様な光を発して巨大化していく、同時に光弾を包み込む邪悪などす黒い光が更に増強させ鋭い牙を向き始める―――…その邪悪な光だけは、悟空の持つ記憶と相違が生じて眉を顰めながら。

 

 

「あの光はなんでしょうか……?」

 

「えっ、光?どこにあるの?」

 

「あそこだね……どんどん大きくなってる、凄い大きさだ…。」

 

 

地上から上空を見据えて、視界に入り込んだのは一つの光。それは夜空に浮かぶ星のように煌く物だったが徐々にそれは変化していく―――ハッキリと視認できる程のサイズになるそれは只の光ではない事が直感的に彼女達は理解していた。

 

 

「この星ごと消えて無くなれえええええーーーッッ!!!」

 

 

耳にするだけで不愉快さが伴うような、憎悪で塗り潰された咆哮と共に筋肉質な真っ白な手を振り下ろす。特大サイズを持つ光弾…別名デスボールはなのは達、はやて達が居る地上へと滑空する。

 

 

「あんなものが地面に直撃したらこの星そのものが破壊されてしまう……。」

 

「え……!?」

 

「うん、それぐらいの威力は持ってるね…。」

 

 

どす黒い光が覆い始め、更なる膨張を続ける巨大な光にアインハルトやヴィヴィオは不安な顔色を浮かべ始める。今視界に入り込んでいるそれは世界の終わりを告げる絶対的な存在。

夜空に浮かぶ星のような輝きを発していた光弾は徐々に地上に接近している事を示すように視界にくっきりとそれは写り込んでいく。同時に地面は悲鳴という名の暴風が荒れ狂いながら。

 

 

「大変だ! 急いで止めなきゃ…!!」

 

「いくぞ悟天!!」

 

「まて、悟天!トランクス! ここは父さんに任せるんだ。」

 

 

慌ててトランクスと悟天は宙を飛翔しようとした直前、降りかかる静止の声に思わず二人は悟飯へと目を向ける。その瞳は決して揺らぎを見せず、真剣な物である事に二人は立ち止まる事となった。

その間にもフリーザが形成した巨大な光弾は力を増していき、大気が震えるように強風が吹き荒れ地震が地上で襲い掛かり、世界の終焉を表すように形を成していく。

 

 

「こ、怖いですぅ…どうなっちゃうんですか……。」

 

「心配すんな。この星を消させはしねえ…。」

 

 

悟空の懐に身を隠すリインは巨大な光弾を目にして怯えた声を発す、目の前のそれは只の光弾ではない。異常な程に収束した力の集合体―――目にしただけで衝動的に不安を抱かせるそれは恐怖その物である。

見下ろして励ます言葉を投げかければ悟空は腰を低く上空のフリーザを見据えて攻撃態勢へと入り始めていく、その過程がリインにとって印象に残る行動故に瞳を見開ききょとんとした表情を露にさせながら。

 

――――腰付近に両手を落として構えを取る、同時に悟空自身の体内に持つ気を両手を通して収束させていけば一つの発光体が形成され、それは徐々に膨張して夜を照らし出す。

 

 

「かああああぁぁぁぁ…めええええぇぇぇぇ……。」

 

 

暗闇をかき消すが如く閃光は輝き続ける、膨大な気を凝縮し続け前方の敵に牙を向こうとそれは発光し続ける。だがフリーザが解き放った邪悪な光弾と比べればその大きさは圧倒的に小型な物。

 

 

「はああああぁぁぁぁ…めええええぇぇぇぇ……。」

 

 

掛け声と共に発光体は煌く、悟空自身は突如金色の炎を身に纏いそれを燃やし続ける。夜空に輝くそれ等の輝かしさにはやて達、なのは達…魔導師達は静かに見惚れていた。

同時に隕石並みかそれ以上の巨大さを誇る邪悪な光弾を覆うどす黒い光でより一層、フリーザが掲げる特大の光弾は威力が跳ね上がり核兵器とは比較にならない程の攻撃力を秘めて更に更に膨張し続けて全てを呑み込もうとするが。

 

 

 

「これで終わりだあああーーーーーーーッ!!!」

 

「――――波あああああああーーーーーーーっ!!!!」

 

 

 

悟空は両手を突き出し、暴風を巻き起こしながら前方の敵を撃ち貫くが如く特大の光線を射出。大気を切り裂いて撃ち放たれたそれはフリーザの強大な光弾に対抗する程の絶大な威力が兼ね備えられていた。

それはつまり、今悟空が居る世界――ミッドチルダを滅ぼす程の凶悪な破壊性能が秘めた巨大な光線。一秒よりも速く光の速度となって視界にも留まらずただ一直線に撃ち出す。

その圧倒的な威力を目の前にデスボール――いやフリーザが対抗する術は存在しない。勝敗など最初から決まっていたかのようにデスボールはかめはめ波に直撃した途端、衝撃に耐え切れず易々と押し退けてフリーザへと迫り行く。

 

 

「おおおお…ッ!? ちくしょう!! ちく…しょ…お…う………。」

 

 

悔しさに滲んだ声と共に呆気なく自身が撃ち放ったデスボールとかめはめ波に飲み込まれフリーザは塵も残らずに消滅する、惨めな末路を辿る彼に同情を抱く者は誰一人としておらず、直撃した風景を視界に入れた者は安心するように頬に緩みが生じながら。

――やがてかめはめ波とデスボールが遥か上空に消え伏せれば唯一残ったのは青白く輝き続けるロストロギア。ピキィン、と自ら光を発す宝石は先程の攻撃による衝撃からか罅が入り始め小さな欠片と化して穏やかに吹き抜ける風に流されながら地上へと落下していくのであった。

 

 

「ふうっ、もう大丈夫だ。」

 

「た、助かりましたぁ~!」

 

 

夜空に紛れながら、地上に居る者達の姿を確認すれば誰一人として怪我を負っていない事に不意に小さな笑みを浮かべた悟空はゆっくりと降下していく。途中で超サイヤ人から解除すれば元の黒髪黒目へと姿を変えて。

 

 

「リイン!怪我はないやんな…!?」

 

「お父さーーーん!!」

 

 

はやてとカリムは悟空達へと息を切らしながら走り寄っていく。同時に叫び声が駆け抜けてはやて達とは反対向きに走り寄ってきたのはなのは達。悟天は満面の笑顔を浮かべながら悟空を見上げていた。

 

 

「はいっ、悟空さんのおかげで助かりました!」

 

「はぁ、はぁ……やっと追いついた。二人とも大丈夫そうだよ、ママ!」

 

「騎士カリム! ご無事で…。」

 

「よかった……みんな生きてて。」

 

「正直どうなるかと思いましたが…何事もなくてよかったです。」

 

 

悟天の後から追いついてくるなのは達は現状に対して安心感を覚えるように緩やかな笑みを浮かべる、先程まで世界自体が危険に晒されていたにも関らず平和に何事もなかったかのような安息を取り戻した現状には非現実感さえも覚えさせられつつ。

そして地面を踏む沢山の足音に気付いた悟空達は目を丸くしてその張本人へと視線が注がれる、其処には見慣れた女性を初めとして大勢の武装した魔導師達の姿。聖王教会の悲惨な現実に対して眉を顰めるように彼等は直視しながらも、場を取り囲む和やかな雰囲気には疑問を抱いた様子で。

 

 

「なのはさん、フェイトさん、怪我は……え!? アインハルトに、ヴィヴィオ…?」

 

「どうして貴方達が此処に…!?」

 

「……どうやら終わったようだな。」

 

「シグナムーーーッ!!」

 

 

スバルとティアナは眼前の本来なら居ない筈の相手が何も不自然なくなのは達に溶け込んでいる様子に唖然とした表情を浮かべており、心境的には他の魔導師達と対して変わらない疑問が脳裏を支配していた。

直後に、背後から額や腕に包帯を巻いたシグナムが場の状況を察したように冷静な声で呟けばティアナ達と一緒にきたアギトが彼女の胸に飛び込む。そして彼女達の問いにハッと表情を一変させるヴィヴィオとアインハルト、悟空達は本来の目的の一つを思い出す。

 

 

「とりあえず話を伺いたいので管理局まで同行してください。」

 

「…私達も同行した方が宜しいのでしょうか?」

 

「でも、リオやコロナ達を待たせていますし……。」

 

 

―――それは時空管理局、特にスバルやティアナに干渉される前にフリーザ達を倒す事。ばったりと出会ってしまった現状は本来望まぬ形であり、スバルの言葉に友達や仲間を待たせているヴィヴィオ達の表情は難色を隠せず。

 

 

「わりい悟飯、オラこいつらを送り届けてくっから後は頼んだぞ!」

 

「え? お、お父さん!!」

 

「消えた…っ!?」

 

「ヴィヴィオ達だけじゃなく、悟天とトランクスもいなくなってる……。」

 

「ほんと不思議な人やな。」

 

「にゃはは、悟飯くん。大変だと思うけど色々とお話聞かせてね?」

 

 

二人の呟きが聞こえていた悟空はすぐにヴィヴィオとアインハルトの手を掴んで瞬間移動してしまう、その際に悟天とトランクスもどさくさに紛れて悟空と一緒に消えていたのだ。その結果、たった一人取り残された悟飯が彼女達に同行して説明する事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

白銀色に輝く球体は一筋の真っ白な線を残しながら宙をふわふわと飛行していた、その形状は俗に言う人魂と呼ばれる物に類似している。

ゆらゆらと輝き続ける人魂は光が通らない森の奥へ。何かに誘われるように道を突き進む。ある程度、範囲の広い地点へと到着した途端に地面に描かれた不気味な魔方陣へ吸い寄せられ吸収されてしまう。

 

魔方陣の外枠に佇むフードで身を包んだ男女が心底不愉快そうに、つまらなさそうに声を上げる。

 

 

「やっぱりこいつ裏切る気だったのね。」

 

「だろうな。だが、その結果が自己崩壊。アレを抑え込めるのは俺達"古の民"でなければ不可能だ。」

 

 

森の奥、比較的フリーザと悟空との戦闘で生じた被害が少ない其処は月光に照らされ森林独特の不穏な空気に包まれている。

フードで覆い隠された二名は聖王教会の様子を眺めて、続々と時空管理局の人間が集まっている風景を瞳で捉えていた。

 

 

「でも、アレは金髪の男が放ったエネルギーで消滅しちゃったんじゃないの?」

 

 

女性が口走る、表情が読み取れない茶色のフードで身を包んだ男に振り返りながら。彼女自身はロストロギアを脳裏に浮かべながら呟く。

 

 

「いや、石の反応は僅かだがまだ残ってる…欠片を全て集めればいま一度力が蘇るだろう。問題は金髪の男とその仲間だ…。」

 

「本当にあいつら何者なのよ。折角お父様から授かったロストロギアの力で負のエネルギーを持つ死者を蘇らせたのに、あんなあっさり倒されるなんて…こうなったら次はもっと強い奴を復活させてやるわ!」

 

 

悟空、悟飯、ベジータ、そして悟天とトランクスの事を思い出しては憎々しげに憎悪が入り混じった声で吐き捨てる。

彼等が居なければ、彼等がこの世界に存在していなければ確実に事はフードで覆い隠す男女の計画通りに進行していた。失敗など全くない、成功だけで綴られる未来が。

それを根底から覆した五人組は忌々しい程に女の記憶にこびり付いていた、だが反して男は女と違い平静を失わず彼を中心とした漆黒の魔方陣が展開される。

 

 

「……まずは欠片を集める事が優先だ。戻るぞ、ナナ。」

 

「はい、兄様!」

 

 

真っ黒な粒子が男女を取り囲むように浮遊して閃光が駆け抜ける。刹那に巻き起こった漆黒の光が彼等を別の場所へと転移させて、森は再び静寂を取り戻したかのように風が吹き抜け森の音を奏でていた。

 

 

「なるほど…奴等がフリーザ達を呼び出していたのか。すぐに片付けてやるつもりだったが、奴等が蘇らせた死者をブッ倒していくのも面白そうだ。くっくっく……せいぜい強い相手を呼び出すんだな。」

 

 

只一人、背中を樹に預けながら不適に口角を吊り上げてフードを被った男女の様子を静観していた男は愉快そうに声を上げる。これから巻き起こる未来を想像して堪えるように笑う。

不気味な未来だけが描かれながら、悟空達は無事フリーザ達を撃破して一時の安息と平和を取り戻すのであった――――。




悟空「オッス!オラ悟空!! あいつら何者なんだ? フリーザの魂が吸い込まれちまったぞ。」

ピッコロ「フリーザ達が蘇ったのは奴等の仕業と見て間違いなさそうだな。」

ベジータ「ふん、一度倒された奴等などオレの敵ではない。」

悟飯「ですが、フリーザ達がこっちに来たとなれば地球が少し心配ですね。」

トランクス「でも、帰れないんだよなぁ~。」

悟天「誰か迎えにきてくれればいいのにね。」

悟空「次回DragonballVivid「地獄に異変? 消える死者達」」

???「過去に来るのも久しぶりだな…。」


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第16話 地獄に異変? 消える死者達

悟空達が異世界に向かってから約一週間が経過しようとしていた。流石に此処まで戻るのが遅いと仲間達は不安の色を隠せない。仲間達の中には彼等は悟天とトランクスがいる世界とは別の世界に来てしまった、或いはその世界でトラブルに巻き込まれてしまったのではないかと考える者まで出てくる。

そんな中、クリリンはチチに夫の悟空、息子の悟飯、悟天を異世界に行って連れ戻してこいと無茶苦茶な頼みを涙ながらにせがまれた。結果、断れずに引き受ける事になったのだがドラゴンボールやタイムマシン以外で異世界に向かう方法等わかるわけもなく天界にいる地球の神デンデに相談に来ていたのだ。

 

 

「チチさんもムチャを言うよな~。そりゃ悟空達が心配だってのはわかるけど…。」

 

「仕方ないですよ。悟空さん達が出発してから一週間も経つのですから。」

 

「何か嫌な予感がする…。」

 

 

デンデの付き人である白いターバンを巻いた黒い肌の男、ミスターポポは下界を見下ろしながら呟く。

 

 

「えっ? 嫌な予感ってなんだよミスターポポ。」

 

「…わからない。でも、ポポ。ここまで嫌な予感を感じるの初めて。」

 

 

ミスターポポの発言にクリリンは思わず息を呑む。これまでサイヤ人の襲撃、人造人間、魔人ブウ、他にも何度か地球を脅かす出来事があった。その度に仲間であり親友の悟空を筆頭として悟飯、悟天、ベジータ、トランクス、ピッコロ達が強敵から地球を守ってきたのだ。

―――だが、彼等は今この世界にいない。もし、ポポの言う嫌な予感が的中して自分達よりも強い強敵が地球を襲撃しに来たら悟空達抜きで地球を守れるだろうか?多分、今より若くても無理だろうと確信していた。

 

 

「なあ、もし『お~~い!地球の神よ、聞こえておるか~~!!』な、なんだっ!?」

 

『この声は界王神様! はい、聞こえています。』

 

 

クリリンが口を開こうとした時、空から老人のような声が響き渡る。その声はデンデだけではなくクリリンやポポにも聞こえていた。すぐにデンデは声の正体に気づいて返事を返す。

 

 

『そうか。実はの…今、あの世の地獄では死者が突然消えたり現れたりするという異変が起こっておるのじゃ。しかも戻ってきた悪人は意味不明な言葉を呟くらしくてのう。

閻魔大王も原因がわからずさじを投げておる。それで調査をパイクーハンと一緒に悟空に頼むつもりだったのじゃが、何度呼びかけてもあやつ反応せんのじゃ。』

 

 

界王神の話はあの世の地獄で死んだ悪人達が突然消えてしまい、かと思えば時間を経て現れるという不思議な現象が起きてるというものだった。そして現れた悪人達は例外なく意味不明な言葉を呟くと謎を残している。

 

 

「それは奇妙な現象ですね。後、悟空さんが反応しないのはこの世界にいないからだと…。」

 

『この世界にいないじゃと? それはどういう意味じゃ。』

 

「あー今悟空達、ドラゴンボールで魔法の世界に向かった悟天とトランクスを連れ戻しに行ってるんすよ。」

 

『なっ!? なんじゃとーーーーーっ!!!!』

 

 

クリリンの返答を聞いた界王神は大声で驚いた反応を示す。天界全体に響く大声にクリリン達は耳を塞いだ。

 

 

『あのバカタレが! この非常事態に……しかもまたドラゴンボールを使っておるのか。』

 

『ご先祖様。魔法の世界ってもしかして……。』

 

「心当たりがあるのですか?」

 

 

老人の声とは違う青年の声が届く。デンデはその声の主が誰なのか知っている為、気にせずその声の主に聞き返す。

 

 

『いえ、戻ってきた死者の中に魔力を使いこなせればとか、もう一度魔法の世界に…とか発言していた者がいたので。』

 

『そういえば、あいつらさえ邪魔しなければ…とも言ってたのう。』

 

『今度こそあの憎っくきサル共を…とも言ってました。』

 

「あいつらさえ邪魔しなければ…憎っくきサル共……もしかして!?」

 

 

死者達の言葉を繰り返し呟いていたクリリンは何かわかったのか俯いていた顔を上げて声を張り上げる。

 

 

「なにかわかったのですか?」

 

「あ、えーと…その前に消えた死者の中にフリーザはいませんでした?」

 

『フリーザですか? はい、いましたけど。』

 

「やっぱり! 多分、フリーザ達が召喚された所は悟空達が向かった魔法の世界だと思いますよ。」

 

「えっ!? なんでわかったのですか?」

 

「それは…。」

 

 

驚いた表情で尋ねるデンデ。クリリンの話によると、フリーザがサルと呼ぶ相手はサイヤ人しかいないとのこと。それで幾つもの星を支配してきた宇宙の帝王を退けて尚且つ魔法の世界にいるサイヤ人を考えた末、該当したのが悟空達だったのだ。

 

「だから、フリーザ達は魔法の世界に召喚されたけど悟空達に倒されて戻ってきたんじゃないかって。」

 

『なるほど、おぬしの言う通りかもしれんぞ。』

 

「あっ! だから悟空さん達は戻ってこれないのでは…。」

 

デンデは悟空達が帰って来ないのは、魔法の世界に出現する死者達の対処をしているのではないかと推測する。もし、悪人達がその世界で暴れれば大変な事になる。更にフリーザのような惑星を破壊出来る程の実力を持った相手なら目も当てられない、そのような輩を放っておくことはできないだろう。特に正義感の強い悟飯ならば尚更。

 

 

「だとすれば、悟空達はこの騒動が終わるまで帰って来ないんだな。」

 

『じゃが、それが何時終わるのかわからん。今は落ち着いているようじゃが、この分だとまた召喚されるじゃろう。』

 

『そうですね。恐らく誰かがなんらかの方法で此方の世界の死者を召喚されているのでしょう。』

 

「でも、どうやって…。」

 

 

魔法の世界にいる誰かがなんらかの理由でクリリン達のいる世界の死者を召喚している事はわかったのだが、その方法までは考えが浮かばず頭を悩ます。

 

 

「この事、悟空達は知らないだろうな。」

 

「そうですね、なんとか伝えることができれば…。」

 

「でも、ドラゴンボールは使えない。」

 

『流石にわたしの瞬間移動も異次元世界までは届きませんし…。』

 

『う~む、困ったのう~~。』

 

 

全員でどうにか悟空達に知らせる方法がないか考えていると、白い炎を纏った何者かが天界に向かって飛行してくる。そして到着すると建物を目指して歩きだす、その足音に反応してクリリン達が振り向けば――――

 

 

 

「お久しぶりです!クリリンさん。」

 

「トランクス!?」

 

 

 

予想外の相手にクリリンは驚きの声を上げる。現れたのは黒いタンクトップの上に青いジャケットを身に着け背中に剣を装着した薄紫色の短髪の青年、この時代とは別の未来からやってきたトランクスだった。

 

 

「ははっ、久しぶりだな~。また背が伸びたんじゃないか?」

 

「そ、そうですか? クリリンさんも随分と変わりましたね…。」

 

 

クリリンの頭に視線を向けるトランクス。以前、彼がこの時代に来た時はクリリンには髪の毛が生えていなかったのだ。それ故に驚きを隠せない。

 

 

「そりゃあ10年も経てば変わるだろ。それより、今日はどうしたんだ?」

 

「はい。タイムマシンのエネルギーが溜まったので、たまには過去でのんびりしてきなさいと母さんに言われて……。」

 

「ブルマさんらしいな…って、そうだタイムマシンだ…!」

 

 

トランクスと他愛のない会話をしていたクリリンだったが、タイムマシンという言葉を聞いてトランクスが来る前に話していた内容を思い出してデンデに目を向ける。デンデもクリリンの意図がわかり小さく頷くも、今来たばかりのトランクスにはクリリンの発言が理解できず不思議そうな表情を浮かべていた。

 

 

「トランクス!お前のタイムマシンを貸してくれないか?」

 

「え? 別に構いませんが、なにがあったのですか…。」

 

 

急に真顔で尋ねるクリリンの表情にトランクスは驚きつつも返事を返すが理由が気になる。デンデとクリリンはドラゴンボールで異世界に向かった悟天達を連れ戻しに悟空達が魔法の世界に向かったこと、その魔法の世界に死んだ悪人達が召喚されているかもしれないという事情を簡潔に説明した。

 

 

「そういうことでしたか。どうりで父さんと母さんがいなかったわけだ。」

 

『それで、おぬしのタイムマシンを使って悟空達にこの事を知らせたいのじゃが。』

 

『ついでに、もし悟空さん達のタイムマシンが壊れていたら貴方のタイムマシンで連れ戻して欲しいのです。』

 

「―――!?」

 

「今の声は界王神様とその界王神様のご先祖様です。」

 

 

空から聞こえた声に反応するトランクスにデンデは彼等の正体を伝える。トランクスは二人の界王神に挨拶を交わしてから視線をクリリンへと戻した。

 

 

「…わかりました。オレが異世界に行って悟空さん達に伝えてきます。」

 

「ホントか!? ありがとなトランクス! あ、けど往復分のエネルギーが必要だからすぐには戻って来れないのか…。」

 

「それは大丈夫ですよ。未来の方も進化して新しいエネルギーが開発されたので後、2回分の移動が可能になりました。」

 

「そっか。じゃあ、異世界にも簡単に行けるんだな。」

 

「いえ、それはムリですが、母さんのコンピューターを調べれば新しいタイムマシンの設計が残ってると思うので、そのデータを使ってオレのタイムマシンを改造します。」

 

 

トランクスは自分のタイムマシンでは異世界に向かえないがブルマの残したデータを利用すれば改造する事が可能だと宣言する。そうあっさりと宣言する彼の言葉にクリリンは流石ブルマの息子だと実感した。

 

 

「新しいタイムマシンは何時頃完成するのですか?」

 

「改造するだけですので早ければ3日後くらいには。」

 

「3日後だな。あ、それとさ…邪魔じゃなければオレも一緒に行ってもいいか?」

 

「別に大丈夫ですよ。」

 

「やった! じゃあ、オレは心配してるみんなにこの事を知らせに行くから3日後にカプセルコーポレーションに集まろう。頼んだぜトランクス!」

 

「はいっ! では、3日後に。」

 

 

3日後にカプセルコーポレーションに集まる約束が決まると、クリリンとトランクスはそれぞれの方角に飛び去っていく。デンデとミスターポポは彼等を見送りながら今後の行方を考えていたのであった―――。




チチ「オッス!オラ、チチだ。悟天だけじゃなく悟飯や悟空さも帰ってこねえってどういうことだべ!」

クリリン「まあまあ、落ち着いてチチさん。悟空達はオレとトランクスが必ず連れ戻してくるから。」

老界王神「う~む、よしお前もクリリン達と一緒に行け。」

キビト神「えっ? 私がですか!?」

未来トランクス「次回DragonballVivid「悟空を追って、地球メンバー発進!」」

ヤムチャ「これはいいことを聞いたぜ…。」


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第17話 悟空を追って、地球メンバー発進!

―――3日後。カプセルコーポレーションには大勢の悟空達の家族や仲間達が集まっていた。これほどの人数が集まるのは数年前のパーティー以来だろう。その中にはデンデや界王神まで混ざっている。

 

 

「…すまんトランクス。みんなに話したら一緒に異世界に連れていってほしいらしくて。」

 

「は、ははは…。」

 

 

申し訳なさそうに謝るクリリンに対してトランクスは苦笑するしかなかった。明らかに見送る側よりも一緒に同行する側の人数が多い。悟空の妻で悟飯と悟天の母親のチチ、ミスターサタンの娘で悟飯と同級生のビーデル、悟空やクリリン達の師匠で武術の達人と呼ばれた亀仙人、悟空やクリリンと同じ亀仙流で仲間のヤムチャ、たまたま地球に遊びに来ていたベジータの弟ターブル等。

 

 

「チチ~ここはクリリン達に任せてオラ達は待ってねえべか?」

 

「おっ父は黙ってけろ! オラが心配して待ってても悟空さ達は全然帰ってこねえ。きっと向こうで楽しく遊んでるだ!」

 

 

 

「ビーデル、やっぱ止めないか? パパはお前の事が心配で…。」

 

「もう! 何度も言ってるでしょ。私は絶対に異世界に行くの! 悟飯くん、今頃約束の女の子と再会して仲良くなっちゃってるかもしれないのよ。」

 

「だったらパパも「こなくていい!」ブウさ~~ん。」

 

「サタン、異世界の食い物ってウマイのか?」

 

 

 

「よーし、向こうで美人な彼女をゲットしてくるぜっ!」

 

「頑張ってくださいヤムチャ様!」

 

「どうせムリだろうけどな。」

 

 

 

「うひょ~~早くピチピチギャルに会いたいのう。」

 

「はぁ…天下の武天老師と言われたお方が…嘆かわしい。」

 

「海ガメも大変だぎゃな。オレは絶対にいかねーぎゃ。」

 

 

 

「界王神様もトランクスさん達と一緒に同行する予定なのですか?」

 

「はい。ご先祖様がなにかトラブルがあった時の為にお前も着いて行けと仰ったので…。」

 

 

同行する側の中には娘が心配で着いて行く者や上からの命令で同行する者もいる。だが、こんな大人数を連れていける程タイムマシンのスペースは広くない。

 

 

「これだけ希望者がいるならボクは行かない方がいいかな。」

 

「きっとお兄様なら無事よ。」

 

「すみませんターブル叔父さん。父さん達は責任持ってオレが連れ戻します。」

 

「うん。ありがとうトランクス。」

 

 

あまりの希望者の多さに同行を辞退するターブル。トランクスは自分の叔父に謝罪の言葉と同時に必ず異世界から連れ戻すと約束する。出会った当初はベジータに弟がいる事に衝撃を受け、どう接すればいいかわからなかったが今は家族のように親しく交流をしていた。

 

 

「で、結局誰を連れて行くんだ?」

 

 

壁に寄り掛かっていた黒い長髪の少年、17号の発言によって全員の視線はクリリンとトランクスに向けられる。自分の意志で同行を希望する者は自分を選べと、誰かに命じられて同行する者は自分を選ぶなとそれぞれ目で訴えかけていたのだ。

 

 

「オレとクリリンさんは決まっているので、連れて行けるのは残り3人ですね。」

 

「仕方ない、ここは公平にクジで決めるか。」

 

 

話し合いも考えたが、あのメンバーを見ると永遠に終わらなさそうに感じたので誰もが公平になれるようクジで決めることになった。見送り側は箱を用意して人数分のクジを作っていく。

 

 

「えー…今からみんなにはクジを引いてもらいます。それで当たりの玉が出たら一緒に同行するってことで。」

 

 

(チャーンス! ブウさん、頼みましたよ。)

 

(わかった。)

 

 

クジで決めるとわかった瞬間、サタンはブウにひそひそと小声で何かを伝える。そんなやり取りをしている間に希望者は順番にクジの玉を引いていく、そしてビーデルの番となった時、ピンクの太った魔人が指を軽く動かす。

 

 

「…やったーっ! 当たった!!」

 

「―――なにいっ!?」

 

 

当たりの玉を手にして喜ぶビーデル。だが、サタンはありえないような光景を目にした表情で驚いていた。そしてすぐにブウに視線を向ける。

 

 

「ブ、ブウさん!ビーデルが当たりの玉を持っていますよ。」

 

「ああ。オレが当たりの玉に変えた。」

 

「ええええっ!? なにやってるんですか!当たりを引かせちゃダメでしょ!!」

 

「違うのか?」

 

 

サタンが頼んだ事はブウの能力でビーデルが引く玉を外れの玉に変えてもらう事だったのだが、ブウは勘違いしてビーデルの引く玉を当たりの玉に変えてしまったのだ。予想外の出来事にサタンは頭を抱えながら項垂れた。

 

 

「おーい、後引いてないのはサタンとブウだけだぜ。」

 

 

既に全員がクジを引き終わっており、当たりの玉を持ったビーデルと界王神以外の希望者は外れの玉を持って落ち込んでいたり喜んでたりと様々な反応を見せていた。全員が引き終わって当たりが2人しか出ていない事実は、サタンかブウのどちらかが当たりの玉を引くことを示す。

 

 

「これで当たればビーデルと一緒にいられるがブウさんと離れてしまう。外れれば私一人だけになってしまう…。」

 

 

サタンにとっては当たっても外れてもブウと離れる結果となるのだ。出会ってから三年の間にサタンとブウのお互いの関係が親友にまで値する。

今でこそブウはサタンや他のメンバーと友好な関係を築いているが昔は悪の魔導師バビディに従い多くの人間を殺してきた。だが、サタンの活躍でブウは人を殺さなくなり善と悪の魔人と別れた後もサタンを守る為に戦ったのだ。悪の魔人ブウが倒された後、ドラゴンボールでブウに関しての記憶が関係者以外消され、魔人ブウはミスター・ブウとなったのである。

 

 

「そうだ! もし当たっても私とブウさんが辞退すれば! …あ、そしたらビーデルと……。」

 

 

仮に当たってから辞退すれば娘のビーデルと離れる事になる。どれを選んでも親しい者と別れてしまう運命。そんな真剣に悩んでいるサタンにブウは声をかける。

 

 

「サタン。オレ、いい方法を思いついた。」

 

「へっ?」

 

 

 

 

 

「ビーデルさん。必ず悟空さと悟飯と悟天を連れ戻してけろ。」

 

「はい! 悟飯くん達は私がぜーーーったいに連れ戻します!」

 

(悟飯も災難だな……。)

 

 

 

「界王神様、どうかお気をつけて。それとピッコロさん達のことを宜しくお願いします。」

 

「ありがとうございます。地球の方は頼みましたよ。」

 

 

 

「クリリン…絶対に生きて帰ってこいよ。死んだら絶対に許さないからな!」

 

「急になに言ってるんだよ18号。大丈夫だって、お前達を残して死んだりしないから。」

 

「クリリン、土産は頼んだぞ~。」

 

「わしはギャルの写真「老師様!」無事に帰ってこい。」

 

 

 

同行することが決まった者達はそれぞれの関係者に見送られてタイムマシンに搭乗していく。結局、メンバーはトランクス、クリリン、ビーデル、界王神、そしてブウに決まった。だが、見送る側にサタンの姿が見当たらない。それを疑問に感じたビーデルはブウに尋ねる。

 

 

「ねえ、ブウさん。パパはどうしたの?」

 

「サタンならここにいるぞ。」

 

 

そう言ってブウが指を差すのは自分の腹部。まさか父親を食べたのかと頭に浮かんだが仲のいい二人に限ってそれはないとすぐに考え直し、別れが辛くて顔を出せないのだろうと勝手に解釈してタイムマシンへと搭乗した。

やがて全員がタイムマシンへの搭乗を終えればトランクスは出発前の最終確認を行う。いよいよ出発の刻が近づくに連れて全員の緊張が高まっていく。

 

 

「よし、座標の方も問題ないな。それでは行ってきます!」

 

 

起動スイッチを押すと上部ハッチが閉じてタイムマシンは上空へと上昇していく。そして一瞬の内に見る影もなく姿を消した。

 

 

「ん? ヤムチャの姿が見えんぞ。」

 

「プーアルのやつもいないな。」

 

「二人ならブウさんと話しているのを見かけましたよ。」

 

「クリリンを頼んだよ……17号。」

 

 

こうしてトランクス達は異世界へと向かったのだが、果たして彼等は無事に悟空達と再会することができるのであろうか――――。




未来トランクス「こんにちは、トランクスです。過去以外の世界に行くのは初めてだから、ちょっと緊張するな…。」

クリリン「悟空達も心配だけど、やっぱ一番心配なのはブルマさんだよなぁ。」

ブウ「サタン、大丈夫か?」

キビト神「次回DragonballVivid「力を取り戻せ!チビ達のドタバタ合宿修行」」

ビーデル「待ってなさいよ悟飯くん!」


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波乱の合宿編
第18話 力を取り戻せ! チビ達のドタバタ合宿修行


―――聖王教会襲撃事件から数週間後、飛行機内部のような構造を持つ室内でヴィヴィオ、アインハルト、コロナ、リオ、そして悟天とトランクスは座席に腰をかけ向かい合っていた。

ヴィヴィオ達は現在ババ抜きの真っ最中であり六人の中心位置にあたるテーブルの上で散乱している数多くのトランプカードがゲームの進行具合を物語っている。

 

 

「あっ! ババ引いちゃった!」

 

「ダメだよ、悟天くん!自分でババ言ったら….。」

 

 

襲撃犯について、悟空達について、語るべき事情は山ほどあると同時に内容は深刻極まりない異常事態その物。故に重くなった口を開く相手も限られてくる。

あの事件の真相を語った相手はクロノ等の身内の者だけ。全ての事を公に曝け出してしまえば、悟天やトランクス達はこの先どうなるのか全く想像がつかない、はやて曰く好転はしないとの予想まで付けられる始末なのだ。故に襲撃事件の真相は多くの事情を隠蔽した上で説明する事になった。

 

 

「バーカ、ババ抜きでジョーカーをバラすなんてマヌケだな悟天は。」

 

「先程トランクスさんも同じ事をしていましたが。」

 

「ねえ、それ終わったら今度は七並べしようよ。」

 

「さんせーい!ババ抜きばかりだと飽きるしね。」

 

 

そして悟空達は世間に知れ渡っていない間にトランクスと悟天を連れて元の世界に帰ろうと考えたがタイムマシンは故障して動けないとブルマに告げられ彼等は手詰まり状態。

仕方なくタイムマシンが再起するまで、襲撃問題が解決するまでなのは達と行動を共にしよう、という結論を付けて現在に至る。

 

 

「悟空さんも一緒に来れたらよかったのにね…。」

 

 

わいわいと騒ぐ六人を見守るような温かな視線を送るなのはは悟空の姿を思い浮かべて残念そうに呟く。特に悟天は自身の父が来ないと聞いてガッカリしただろうと彼女は想像していた。

悟空は襲撃事件の際にその圧倒的な戦闘力が買われ暫くの間、カリム達のボディーガードとして任用されたのだ。リインと親しい間柄になりつつある事とお礼も重ねて現在はやての家に居候中。

 

 

「仕方ないよ。父さんはカリムさんのボディーガードがあるし、最近は弟子ができたみたいでザフィーラさんと毎日稽古をつけてるらしいから。」

 

「にゃはは、悟空さんらしいね。」

 

「そういえば悟空さん、リインがすごく懐いていたよね…なにかあったのかな。」

 

「ふーん…リインがねぇ。」

 

 

悟飯はなのはとヴィヴィオの家に居候していた、当初は別の住居にする予定だったがなのはの勧めと悟天の説得により結果的にこうなったのだ。そしてフェイトもまたなのはの負担を考慮し彼女の家に引き続き住み込むという形になる。

ブルマはトランクスと仲の良いアインハルトの家へ、一人暮らしと耳にしてほぼ強引に承諾させてしまっていた。更にブルマはタイムマシンのパーツ提供を条件として管理局の手伝いを行う事に。

アインハルト曰く家に帰る事が少なく実質一人暮らしの日々で殆ど生活自体に変化は無いのだとか。たまにアインハルトとトランクスの修行に役立つ便利グッズをプレゼントしてくれるらしい。

 

しかし只一人、ベジータだけが詳細不明だった。彼は気が付けば集団から外れて姿を消していたのだ。ブルマ曰く何時もの事らしいので然程気にする者はいない。

 

 

「あの、ピッコロさん…食べないんですか?」

 

「オレは水以外必要ない…。欲しいのならお前達にくれてやる。」

 

「そ、そうですか?じゃあ遠慮なく……!」

 

「スバル! でも、水があれば生きられるだなんて凄いですね…。」

 

 

また別の所ではティアナ、ピッコロ、そしてスバルの姿。ピッコロに差し出された鮮やかに盛り付けられた弁当に一切視線は向けられず、毅然とした態度にティアナは多少の戸惑いを覚えながら彼の言う言葉に信じられない、といった風に素直な関心を示していた。

ピッコロはこの世界にやってきてから誰かの家に居候する事も無く孤独に放浪する日々を続けている。殆どベジータと近い状態だが時折連絡を取って現在のように悟天達を修行させる為に同行する事もあった。

 

 

 

 

 

「さーて、みんな到着だよー。」

 

「わあ~…すごく綺麗!」

 

「此処が、無人世界カルナージ……。」

 

 

彼女達が訪れた場所は無人世界カルナージ、その名の通り元々は人が住んでおらず代わりに豊かな大自然に包まれた世界である。太陽の光に照らされた緑の大地に吹き抜ける風と花弁、戦いとは無縁の穏やかな世界だ。

 

 

「無人世界カルナージか…自然が多くてパオズ山を思い出すな~。」

 

「よーし、悟天。合宿所まで競争だ!」

 

「うん、いいよー!ほら、ヴィヴィオちゃんも。」

 

「わわっ、悟天くん!?」

 

 

トランクスの声を合図に悟天は隣に居たヴィヴィオの腕を引っ張って地面を駆け出す、唐突な行動と予想以上の走行速度の速さにヴィヴィオはバランスを崩しかけながら。そして彼等の後方では小さく微笑む大人組の光景があった。

 

 

「三人とも元気いっぱいだねー。」

 

「元気有り過ぎだと思うけど……。」

 

「でも、三人とも合宿所とは反対方向に行っちゃったよ。」

 

「追いかけた方がいいかな……。」

 

「ヴィヴィオもいますから大丈夫ですよ、あたし達は先に行きましょう。」

 

 

こうして数十分後、彼女達が行き着いた先にはにこにこと微笑む二人の少女と女性。その二人の顔立ちは親子のように特徴が似通っていた。故に初対面である悟飯は思わずぱちぱちと瞬きさせながら二人の顔を見比べている。

 

 

「みんないらっしゃ~い♪」

 

「こんにちはー。」

 

「お世話になりま~すっ。」

 

 

好印象を与えさせる二人の笑顔、言葉、声になのはとフェイトは同じようにして微笑む。彼女達の姿を目にした途端、なのは達は一気に表情を明るくさせたように見えた。

実際にスバルやティアナ、コロナは知り合いのようにすぐに話が弾みだしたのだ。ルーちゃんと呼ばれた紫色の髪を持つ少女はリオや悟飯達を改めて柔らかな眼差しを向ける。

 

 

「初めまして、ルーテシア・アルピーノ…ヴィヴィオの友達で14歳です。リオは直接会うのは初めてだよね。」

 

「今までモニターだったもんねー。」

 

 

うん、モニターで見るより可愛いと言いながらリオの頭を撫で下ろすルーテシア。それに対してほんのり紅くするリオ、その会話は親密さを感じさせ非常に微笑ましい雰囲気が彼女達を包み込んでいる。

 

 

「ところで…こちらは?」

 

「あ、ボクは孫悟飯です。」

 

「…ピッコロだ。」

 

「孫悟飯さんにピッコロさんね。」

 

「そして悟飯くんはわたしの旦那様なんだよ。」

 

「…え!?」

 

「なのはさん結婚したんですか!?」

 

「結婚かぁ~。」

 

「じゃあ、悟飯さんがヴィヴィオのお父さんになるのかな?」

 

「え、あ……いや、その……。」

 

 

自己紹介を終えた直後になのはの爆弾発言を聞くと、一瞬だけ間を置いてようやく理解できた悟飯は拍子抜けな声を上げた、同時に本気にしたスバルやリオとコロナの声を耳にしてはなのははくすくすと小さく笑う。

果たしてどう反応するべきか、彼の反応を面白がっているのかルーテシアはまじまじと見つめつつ。対して彼は誤魔化すように苦笑いをして。

 

 

「なのは、悟飯が困ってるよ……。」

 

「…スバル達まで勘違いしてますし。」

 

「にゃはは…ごめんね、さっきのは冗談だから。結婚もまだしてないよ。」

 

「あ、そ、そうなんですか……あははは。」

 

「うふふ、ルーテシアの母メガーヌ・アルピーノです。よろしくね、悟飯くん、ピッコロさん。」

 

「よろしくお願いします、メガーヌさん、ルーテシア。」

 

「それとお嬢、こっちが前に話をしていたアインハルトだ。」

 

「アインハルト・ストラトスです…。」

 

「アインハルトね、ヴィヴィオから話は聞いているよ。よろしくね……そういえば、ヴィヴィオが見えないけど…。」

 

「あ、ヴィヴィオは……。」

 

 

リオは歩いてきた道へと視線を向ければルーテシアは疑問符を浮かべてリオと同じように視線を向ける、其処には薪を両手で抱えるエリオとキャロの姿。

彼等はヴィヴィオ達の知り合いであり同時にはやてを先頭に機動六課に所属していたメンバーでもあるのだ。二人は懐かしいメンバーを目にして明るい笑顔を覗かせる、同時に二人の背後を追いかけるように姿を現す三人は―――。

 

 

「「おつかれさまでーす!」」

 

「エリオ、キャロ…!」

 

「な、なんとか戻ってこれたぁ~……。」

 

「ヴィヴィオ!」

 

 

フェイトはエリオとキャロの姿に笑顔を浮かべて、背後を追いかける悟天、トランクス、ヴィヴィオの姿に悟飯達は視線を注ぐ。

本来なら三人は此処とはまた違う方向へと走り出している、キャロ達と行動を共にしているのが妙な風景としてフェイトたちには写っていた。

 

 

「お前達、何処に行ってたんだ。」

 

「ははは…ちょっと道に迷っちゃって。」

 

「それでキャロさん達を見つけてここまで案内してもらったんです!」

 

「初めまして、エリオ・モンディアルです。」

 

「えっと、キャロ・ル・ルシエと飛竜のフリードです!」

 

 

何処かのファンタジーに出てきそうなフリードと呼ばれた真っ白な竜は嬉しそうに鳴き声を上げる。

 

 

「よろしくエリオ、キャロ。ボクは悟天の兄の孫悟飯、それと悟天達が迷惑をかけたみたいでごめんね。」

 

「あ、いえ。全然気にしてませんよ。」

 

「うわあっ!? ははは、くすぐったいよフリード~。」

 

 

自身の翼を羽ばたかせて小さな竜は宙を浮遊して悟天の頭の上へ、決して重くは無い体重が頭上に掛かって思わず悟天は笑い声を上げた。

悟飯の心配事の一部は今、目の前で起きている事であり予想通りの展開に何とも言えない気持ちを胸の中で滲ませている。

 

 

「ところでフェイトさん。こちらは…?」

 

「まだ紹介していなかったね? 彼女はヴィヴィオのお友達の……。」

 

「アインハルト・ストラトスです、よろしくお願いします。」

 

「ちなみに一人ちびっこがいるけど三人で同い年!」

 

「いっ、1.5cmも伸びましたよ!?」

 

「…………?」

 

 

わあわあと騒ぐ四人に囲まれたアインハルトは不意にそれ以外の気配に気が付く、脳を刺激する違和感にも似た何か。それを探るようにアインハルトは周りを見渡してその正体を探り始めていた。

だがそれは悟天とトランクスも同様に、その対象を探り出す。視界に留まる範囲内にそれは居ない、背後を振り返ってその先を見れば黒い人型の何かが―――。

 

 

「…ッ!?」

 

「あー!ごめんなさいっ、大丈夫です!!」

 

 

咄嗟に構えを取ったアインハルトを目にしたヴィヴィオは慌てながら論す、トランクスもまた彼女と同じ行為をやっていただけにヴィヴィオの言葉には目を丸くした。

黒い人型の何か、それはどんな生き物にも属さない異型の存在で静かに構えを取る三人を見据えている。不思議とその視線は敵意ではなく、寧ろ紳士的な穏やかさを感じさせるのだ。

 

 

「私の召還獣で大事な家族、ガリューっていうの。」

 

「し、失礼しました…!」

 

「え、え~と…ごめんなさい。」

 

「クリスも驚いてたよね?」

 

 

ガリューと呼ばれた召還獣をよく観察していれば背に大量の魚が入った籠を背負っていた、アインハルトはそれが改めて目に入った事もあり戸惑いと共にルーテシアへと深く頭を下げる。後にトランクスも続いて。

そんな中でどさくさに紛れて宙を浮遊する小さな兎もガリューを見て困惑しており、今は頭を下げ続けるその姿にヴィヴィオの苦笑と言葉を買っていた。

 

 

「ボクは孫悟天だよ。よろしくね、ガリュー!」

 

 

頭上にフリードを乗せる悟天は一歩近付いてガリューと挨拶を交す、邪気の無いその行動はガリューにも通じた様子で胸元に手を置いて軽く頭を下げた。

その行動は紳士的で同時に暖かさを感じ、外見との奇妙なギャップも相まって印象深い。悟天と逸早く打ち解けそうな対面でもあった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたしいっちばーん!!」

 

「あーリオ、ずるーいっ!」

 

「ボクもボクも~~!!」

 

 

水辺の音が響き渡るロッジ裏、だがアインハルトは困惑して途方にくれている。大人組はトレーニングがあるという事もあって別行動、子供組は川遊びという方向性で決まったものの各反応は十人十色。

リオが一番真っ先に水辺へと駆け出して追いかけるようにヴィヴィオと悟天は後を追う。コロナとルーテシアはそんな三人を微笑ましく一歩出遅れながら水辺へと走り出して、トランクスは呆れたように子供だなぁと口にして遠くから眺めている光景である。

 

 

「トランクスくーん!アインハルトさんー、二人とも来てくださ~い!!」

 

「ほれ、呼んでるぞ。」

 

 

水の中に入る四人は水掛け等をして遊び始める中、ノーヴェは二人が行くように施す。トランクスは面倒臭いと言わんばかりの表情で未だに目立った反応を見せないアインハルトへと声をかける。

 

 

「はいはい。いこ、アインハルトちゃん。」

 

「で、ですが私はできれば練習を……。」

 

 

アインハルトは遊びに来た訳ではない、修行を目的として足を運んだ彼女にとって川遊びをする必要性は全く感じられずしようとも思っていない様子だった。

困惑の色を深める彼女にノーヴェは口元を緩ませて言葉を投げる、それを耳にした彼女の顔色は困惑ではなくある種の期待に混じる不安という複雑なものへと変化していた。

 

 

「まあ準備運動だと思って遊んでやれよ。」

 

「あ、アインハルトさん!トランクスくん、どうぞー!」

 

「気持ちいいよ~。」

 

「で、ですが……。」

 

「それに、あのチビ達の水遊びは結構ハードだぜ?」

 

 

理解が出来ず反応に困った様子で、ヴィヴィオ達の誘いに断りを入れる訳にもいかずアインハルトは渋々羽織っていた上着を脱ぎ捨てて水辺へと足を運んだ。

ヴィヴィオ達の水遊びはハードだと言うノーヴェの言葉は果たして何を意味するのか、水中に体が触れてひんやりとした感触が伝わりながら彼女は進んでいく。

 

 

「トランクスくん! 向こう岸まで競争しようよ!」

 

「さっきの続きだな。いいぜ、負けたら昼飯のおかず一個よこせよな。」

 

「じゃあ向こう岸までの往復、みんなで競争ーッ!!」

 

「お~~~っっ!!」

 

 

コロナの言葉が合図となって一斉に向こう岸を目標として泳ぎ出す、水が無数に弾ける音が響いて見守るノーヴェを関心させた。始まったか…と声に出さない心境を抱きながら。

 

 

(あれ……みんな、早い…!?)

 

 

単純な経験差か、稀に見る才能の差か。アインハルトはヴィヴィオ達と段々と距離を離している事に気付いて彼女は泳ぐ速度を何とか速めようと体力を振り絞る。

しかし先頭に立つ二人だけはある意味で予想通り、圧倒的な速度を持って進んでいた。二人を中心に巨大な水柱を巻き起こして波紋が広がり波は荒れ始めている。

 

 

「……あいつ等は別だ。」

 

 

真っ先に向こう岸に辿り着いた二人を眺めてノーヴェは呆れたように呟く、だが反してアインハルトはヴィヴィオ達に違和感を抱いていた。それはただ単純にアインハルトが思っていた以上にヴィヴィオ達の泳ぎは速い、ただそれだけの事。

だがアインハルトがどう足掻いてもヴィヴィオとリオ、コロナの距離は縮まらない。寧ろ遠くなっているのではと感じさせる、想像以上の持久力と瞬発力を目の前に彼女は唖然とした心境で泳ぎ続ける。

 

 

(みなさん本当に……その…。)

 

 

トランクスと悟天は置いておくとしても残りの四人だけは理解する事が出来なかった、結果は二人が互角で後にルーテシアとヴィヴィオ、リオにコロナが続いていくという物。

彼女の努力も虚しく順位を覆す事が出来なかった悔しさと疑問が胸に溢れる。そして想像以上にアインハルトの体は疲労が蓄積している事に気付いたヴィヴィオの奨めで一度、岸に上って休憩する事にした。

 

 

「……元気、すぎる。」

 

「やっぱり水の中は慣れていなかったんだな。」

 

 

降り注いだ声の主を碧銀の髪を揺らして見上げるように振り替える、同時にクリスからタオルを渡され彼女はそれを受け取りつつ。

 

 

「体力には少しは自信があったのですが……。」

 

「いや、大したモンだと思うぜ。」

 

「……どういうことですか?」

 

「あたしも救助隊の訓練で知ったんだけど、水中で瞬発力を出すにはまた違った力の運用がいるんだよな。…いっておくがあいつ等は例外だ。」

 

 

納得するようにアインハルトは水飛沫が舞う水辺へと視線をうつす、先程の経験でそれを痛感した彼女にとってノーヴェの言葉はすぐに飲み込めたのだ。

 

 

「じゃあ、ヴィヴィオさん達は……。」

 

「なんだかんだで週二くらいか?プールで遊びながらトレーニングしてっからな…柔らかくて持久力のある筋肉が自然に出来てんだ。」

 

「…そういうことでしたか。」

 

「どーだい、ちょっと面白い経験だろ?何か役に立つ事があれば更にいい。」

 

「はい……。」

 

 

疑問が残るのは悟天とトランクスだが、彼等は元々人種が違えば暮らしてきた環境が違う。重力での修行を思い出せばそれは明白、改めて彼女は自身の世界の狭さを思い知らされる経験となっていた。

だが彼女の表情は一向に変化しない為に他者が内側の感情を読み取るには至難の業だろう、それでもノーヴェは臆する事も無ければ何か思い付いたように言葉を投げる。

 

 

「んじゃせっかくだから面白いモンを見せてやろう、ヴィヴィオー!リオ、コロナ!! ちょっと『水斬り』をやってみせてくれよ!」

 

「「「はぁーーーいッ!」」」

 

 

呆然とするアインハルトを前にコロナとリオ、そしてヴィヴィオは一旦体を静止させ構えを取る。拳を打ち出す直前―――水中は穏やかな波を取り戻して静けさが漂う。

 

 

「水斬り……?」

 

「ちょっとしたお遊びさ、おまけで打撃のチェックもできるんだけどな。」

 

「―――えいっ!!」

 

 

静寂を打ち破るようにリオは水中で拳を放つ、本来なら速度は落ち緩やかな衝撃しか持たない拳は力の運用一つでこうも変わるのかとアインハルトは目を見張った。

真っ直ぐに腕を突き放した先に巨大な水柱が発生したのだ、エネルギーが前方に集中している事がよくわかる光景で同様の行為をコロナもやって見せる。

 

 

「いきます!!」

 

 

腰を屈めてヴィヴィオの拳が一気に水中を打ち抜いて巨大な水柱が迸る、水飛沫と共に発生したそれは誰よりもエネルギーが一番に前進していた。

 

 

「アインハルトも格闘技強いんでしょ?試しにやってみる?」

 

「はい…!」

 

 

彼女に断る、迷うという感情は一切入っていない様子で頷く。その瞳には確かに明確な感情が込められ真剣そのものだ。

再び水中に入り冷たさが全身に伝わる、だが気にする様子も無く穏やかな水辺を歩いていく。トランクスと悟天も関心を寄せて視線が彼女を捉える。

 

 

(水中じゃ大きな踏み込みはできない……。)

 

 

緩やかな動作と共に水は小さく音を立てる、拳を突き出す体制一つ取るだけでもアインハルトを思考させた。通常の動作では上手くいかない事は明白なのだ。

彼女なりに思考して彼女なりの手法で行う。先程の水泳の事もあって具体的な力の運用はある程度把握している、それを持って―――。

 

 

(抵抗の少ない回転の力で、できるだけ柔らかく…!)

 

 

拳を打ち出す、水を斬る。やがて発生するのは巨大な水柱――だがアインハルトが起こした水柱は自身が想像した物と少し違っていた。

 

 

「あはは、すごい天然シャワー!」

 

「水柱、5メートルくらい上がりましたよ!」

 

「………あれ?」

 

 

水柱自体はヴィヴィオが起こした物以上、力が前方に集中している事は明白。だが今シャワーのように雨が降る光景は力が前進していない証拠、それをアインハルトは既に勘で理解している。

 

 

「お前のはちょいと初速が速すぎるんだな。」

 

 

水中へと足を運び始めたノーヴェの言葉が引っ掛かるようにアインハルトは虹彩異色の瞳を向ける、悟天とトランクスは好奇心を孕んだ瞳でノーヴェを見据えながら。

 

 

「初めはゆるっと脱力して、途中はゆっくり……。」

 

 

構えを取る、その構え方はアインハルトやヴィヴィオとは少し違うが確かな構えを取る。

それは足蹴りの類、一度決闘を申し込んだアインハルトにとって何処か見覚えのある構え方なのだ。

 

 

「―――インパクトに向けて鋭く加速!これを素早くパワーを入れてやると!」

 

 

水中で脚を蹴り上げる、水音を奏でた直後…巨大な噴水のように水柱が上空を突き抜け、地底が目に入る。これまで見てきた物の中で一番強烈な類だった。

再びアインハルトは姿勢を取って手本を脳裏に想像する。腰を低く出来るだけ全身の力を抜く、リラックスするように充分に力が抜けた瞬間を狙う。

 

 

(……構えは脱力…途中はゆっくりインパクトの瞬間だけ……。)

 

 

腕を曲げて前方を見据え、一気に腕を突き出す数秒間…先程まで抜けていた力を一気に蓄積させ前方へと集中させる、それはまるで…。

 

 

(―――撃ち抜く!)

 

 

撃ち抜くように放つ、掴めない水を斬る。先程とは違う確かな手応えが一気に前進に伝わって巻き起こす。

 

 

「すごい、さっきより凄く進みましたよ!!」

 

「思った以上だな、こりゃ。」

 

 

アインハルトが撃ち抜けた先には道が出来ていた、5メートル以上に迸る水柱と力が駆け抜けた痕跡が色濃く反映されており、自身の想像以上の出来にアインハルトは静かに見据える。

無邪気に感心するヴィヴィオと素直に驚いた感情を見せるノーヴェ。コツを掴んだ瞬間に一回目とは出来が違いすぎる、完璧に水斬りをアインハルトは習得していたのだ。

 

 

「面白そうだな! 悟天、オレ達もやってみようぜ!」

 

「うん!やろうやろう!!」

 

「ちょっ、まておい!お前等がやったら……。」

 

 

 

「「―――はあっ!!」」

 

 

―――非現実的な光景は稀だろう、だがそれが日常茶飯事のように巻き起こっている現状にノーヴェは思わず顔に手を当ててやっちまった…と頭を悩ませてしまった。

ヴィヴィオ、リオ、コロナ、そしてアインハルトは言葉に出ない様子で呆然とその現場を眺める事しか出来ず、いや対処する事も出来ないだろう。ルーテシアは寧ろ理解に苦しんでいる程だ。

 

撃ち下された悟天の拳と蹴り上げられたトランクスの脚が互いに集中作用して水辺だった其処は只の地面と化し、存在していた水は一気に天高く突き抜けていく――残されたのは無数の魚だけである。

 

 

 

「おい、今すぐ逃げるぞ!!」

 

「ふえぇぇぇ~~っ!?」

 

「悟天くん、トランクスくんやりすぎー!!」

 

「水が落ちてくるー!?」

 

「ルーテシアさん、早く…!」

 

「……えっ? あ、うん!」

 

 

天高く飛来するそれは滝のように地面に向けて落下し出す、それを見計らってノーヴェの指示と共に岸へと上がり始める中で悟天とトランクスは呆然と全員の反応を眺めているだけだった。

まるで意味が分からない、といった風に。突然騒ぎ出したノーヴェ達に悟天とトランクスは疑問を抱いた様子で一切動作を起こす事も無く…。

 

 

「あれ? 水がなくなっちゃった…。」

 

「なんでみんな慌ててるんだ?」

 

 

トランクスと悟天、二人の視点はノーヴェ達の視点と異なっている。ノーヴェ達の視点は悟天とトランクスの水斬りによって水が天高く上空を飛来する様を捉えているが二人は違う、水斬りをしたら水が無くなった。たったそれだけなのである。

故に影が濃くなりつつある光景を理解する事が出来ず、ふと上空を見上げてみれば滝が飛来する状況下であり悟天とトランクスはようやくそこでノーヴェの意図が理解できたのだ。

 

 

「二人とも、早く逃げて~~!!」

 

「「わわわわあっ!?」」

 

 

―――ヴィヴィオは叫ぶ。既に二人は化け物レベルで水斬りを習得していた、物事は何事もバランスであり度を越せば支障をきたす。そして数分後、二人がノーヴェにこっ酷く叱られたのは言う間でもない出来事である。

 

 

 

 

 

アスレチックフィールドの一角、晴天に包まれた其処でトレーニングの真っ最中といった風になのは達と悟飯は熱心に訓練を続けていた。

山麓に位置するせいか其処から見下ろす景色は絶景とまでは呼べないが殆どが視界に入る程だ――故になのはは其処で目にした光景を疑っている。

 

 

「……あれって。」

 

「な、何なんでしょうかあれ!?」

 

「あいつらめ……また何かやりやがったな。」

 

 

滝、しかもそれは遥か上空から流れ出て虹を描いており、あまりにも不可解な光景だった。なのはの隣に居るスバルはそれを目にして慌て出しピッコロは至って取り乱すことなく呟いている。

水斬りによって巻き起こされた現象は遠方に位置するアスレチックフィールドからも視認する事が可能だ。それ程に二人の水斬りのレベルが物語っている。

 

 

「ところでみんなは大丈夫ー? 休憩時間延ばそうかー?」

 

 

なのはは崖越しに覗いてみれば案の定、登り切れずに息を切らす他メンバーの姿が視界に入り込む。

疲労困憊で限界に近い様子を察して言葉を投げてみれば大丈夫でーすという精一杯な体力を振り絞って大声を発すティアナと息切れ気味にバテてなんかいないよ…と説得力の無い言葉を口にするフェイト。

 

 

「よっ、ほっ…と。」

 

「す、凄いね……そんな錘をつけて何週もできるなんて。」

 

「わたしじゃ絶対無理ですよ~…。」

 

「あはは、ホントにねぇ……。」

 

「悟飯さんを見てると僕も負けられないな……。」

 

 

悟飯は両腕に超重量の鋼鉄の腕輪を装着し、更に足首にも同様の腕輪を嵌めてロープを伝って何週も山を登っていた。

ジャージ姿の悟飯を見上げて関心するティアナ、フェイト、キャロは進むスピードも徐々に遅れ気味なのに対し悟飯に感化されたエリオはスピードを落とさず残り少ない体力で上り詰めようとしている、とはいえ三人と距離がそれほどある訳ではない。

 

 

「そういえば、悟飯さんが付けてる錘はどれくらい重いんですか?」

 

「全部で1トンだ。」

 

「…………ええっ!?」

 

「やっぱり凄いな、まだ体力があるみたいだし。」

 

 

登る速度も大して変化は無い、疲労の様子も見せない、まだ継続する気配さえ感じさせる。生き物なのかと疑う程の限界を突破した体力、人種の違いを思い知らされるそれは驚愕に値した。

その様子を眺めていたなのははハッと何か思い浮かんだように表情を一変させて丁度良く彼女が居合わせる地点にまで辿り着いた悟飯に早速足を運んで、一声かける。

 

 

「…悟飯くん、ちょっといい?」

 

「ん? どうしたの?なのはちゃん。」

 

 

それは将来を見据えて、隊員がどんな過酷な場面に遭遇しても折れないように、そんな策の一つを彼女は提案した。

 

 

「あとで気の使い方とかを皆に教えてくれないかな…色々と役に立つと思うし、必要な場面も多くなってくると思うからね。」

 

「わかった。ちょうど午後から悟天達と気の訓練をするからその時に…。」

 

「ありがとう、悟飯くん!わたしも手伝うから…!」

 

 

笑顔を覗かせてそれは約束される、そして再び訓練が続行され昼の時刻を指す頃合いになるまで穏やかな時が流れるのであった――――。




悟空「オッス!オラ悟空!! 悟天たち楽しそうだな。オラも行きたかったぞ~。」

シャッハ「悟空さんには騎士カリムのボディガードがありますからね。」

カリム「…すみません悟空さん。家族と過ごす時間を私の為に使わせてしまって。」

ザフィーラ「悟空、そろそろ時間だ。」

悟空「次回DragonballVivid「悟空も仰天? 弟子と宇宙海賊とマテリアル」」

???「師匠!稽古をお願いしますッ!」


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第19話 悟空も仰天? 弟子と宇宙海賊とマテリアル

―――悟天やヴィヴィオ達がカルナージへ向かった頃、午後からのカリムの護衛役を控える悟空はミウラに稽古を付ける為に道場へと出向いていた。

 

 

「たああぁーっ!!」

 

「いいぞ! 動きにムダがなくなってきた。」

 

 

八神はやてが主宰する八神家道場に通う一人の少女、ミウラ・リナルディという少女はザフィーラを師匠にインターミドルチャンピオンシップ、即ち格闘大会に向けて修行の日々を送っている。

他にも大勢の生徒が八神家道場に通っているが朝から早く顔を出していたのはミウラのみ、大会の件もあって気合の入る彼女を横から見ていた悟空は強くなる見込みを感じてその実力をもっと上へ伸ばそうと今に至るのだ。

 

 

 

「ジャン拳―――ッ!!」

 

 

 

よって、結果的に悟空の持つ技術をミウラが受け継ぐ事になる。その技術はミウラにとってどれを取っても新鮮な物ばかりで習得するのに時間を要する物だったが今はこうして行使する段階にまで上り詰めていた。

 

 

「パー!!」

 

「―――!?」

 

 

ミウラは腰を屈めて真正面から悟空に対峙する、声に出した言葉とは裏腹に動作は拳を握り締めて軽く跳躍して一直線に顔面へと狙いを定める。

故に、一瞬だけ悟空はミウラの言葉を鵜呑みにして誤認してしまうがそれでも攻撃は許さずミウラの拳を手で握るように受け止めてしまう、ミウラはこれ等の動作に少し自信があった為か防がれた事に驚き瞳を見開いてそれを見据えていた。

 

 

「あぶねえあぶねえ…もう少しで引っかかるところだった。」

 

「うう、これならいけると思ったのに……。」

 

「考えたなミウラ、今のはなかなかよかったぞ。」

 

 

悟空の技術を習得した上にアレンジを加え、完璧に応用できる形になった証拠が先程のフェイントである。ミウラは褒め言葉に満面の笑顔を覗かせた。

 

 

「はいっ、ありがとうございます師匠!」

 

「よし! じゃあ次は「…少しいいか?」ん? どうしたんだシグナム?」

 

 

凛とした聞き覚えのある声、出入り口へと二人が視線を向ければ財布と小さな用紙を片手に持つシグナムの姿だ。きょとん、と目を丸くして二人は彼女へと振り向く。

 

 

「邪魔して悪いな…すまないが、買い出しに行ってほしいのだが。」

 

「え? 買い出しははやてが行くんじゃねえのか?」

 

「主は仕事でな、私や他の者もどうしても外せない用事がある…。」

 

「あ、だからザフィーラ師匠は休みだったんですね。」

 

「わかった!このメモに書いてあるのを買ってくればいいんだな。」

 

「でもこんなに買うんですか?」

 

「ああ…たのんだぞ。」

 

 

今、はやて家の冷蔵庫は空っぽに等しい程、何も入っていない状態だ。昨晩、悟空が食べ尽くした事に他ならず皆が唖然とした顔色で悟空に注目していたのは最近の出来事である。

彼はミウラとの修行を切り上げて早速買出しへと出掛けていく。メモ用紙にはニンジン、ピーマン、ジャガイモ――という具合にスーパーに行けばよく目にするであろう名前が並んでいるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「わりいなミウラ。おめえまで付き合わせちまって。」

 

「全然大丈夫ですよ師匠! はやてさん達にはいつもお世話になってますんで!」

 

「そっかあ。でも、なんでリインまでいるんだ?」

 

「今日は休みだからですよ、それに前に悟空さんが買い過ぎたから見張ってるんですぅ!」

 

 

むっ、とした顔色で悟空の頭上で呟くリイン、以前に悟空はスーパーへ買い物に出向いた際に必要以上の商品…主に食品を購入し財布を空っぽにされ、はやてが頭を抱えたトラブルがあったのだ。

悟空の食事問題を元の世界ではどうしていたのか、彼の隣で歩くミウラは呆と思考を続けている。更に日頃から道着服を着込む悟空が珍しく私服を着込んでいる事に不自然さを感じてミウラは眺めるように悟空を見据えていた。

 

 

「いや、あん時ははやてがたくさん食いもん買ってこいって言ってたし…。」

 

「だからって財布が一円も無いのはどういうことですか! 言い訳は聞きたくありませんっ!」

 

 

言い合いが始まる二人を眺めてミウラは続けていた思考を切り離して苦笑を浮かべる。喧嘩するほど仲が良いという言葉を実感させられる風景―――だが彼女は唐突に表情を一変させた。

 

 

 

「……ば、爆発ーっ!?」

 

 

 

街中を襲う爆音、窓ガラスの破片が悟空達の目の前で飛び散り人々は騒ぎ出す。一気に騒然とした雰囲気に成り代わり戸惑いの顔色を浮かべてミウラは爆音が聞こえた方角へと視線を向ける。

 

 

「―――この気はフリーザ!?」

 

「ご、悟空さん!?」

 

 

張り詰めて険しい表情を見せたのも束の間、突然浮遊して直行する悟空に迷いは無かった。頭上のリインは引き離されないようにしっかりと掴まりながら驚いた声を上げる。

それは一瞬の出来事で気が付けば悟空が隣に居ないという事実にミウラが気付くまで数秒程の時間を要していた。

 

 

「フリーザ……って誰ですか? あ、待ってください師匠~~!!」

 

 

空を見上げて遠方を飛行する悟空が目に入りミウラは慌てて人ごみを避けながら走り出す。途中で怪物がいるぞー!等の奇妙な悲鳴を聞きながら彼女は悟空の後を追うのであった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「とぼけてもムダだよ。さあ、早くその欠片をボクに渡すんだ。」

 

「なんで僕達がこんな目に合わなきゃならないんだよ~!!」

 

 

追い詰められ成す術も無く眼前の怪物を睨み付ける青髪の少女と茶髪の少女と銀髪の少女、到底人間だとは言いにくい容姿の持ち主は口元を歪めて彼女達を見据えている。

人々は先程の爆発と怪物が原因で彼女達の周辺にはすっかりと消え伏せていた。だがそれが目に入る程、彼女達にも余裕は持っておらず眼前の危機的状況に冷や汗を流している。

 

 

「くっ、我等の最大魔力を持ってしても傷一つ付けられんとは…!」

 

「彼等は何者なのでしょうか…。」

 

 

―――焦りを滲ませ苦々しく表情をゆがめる闇統べる王(ロード・ディアーチェ)、そして彼女の隣に並ぶ星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)。後者は依然として表情は変化していないが心境は闇統べる王と同様だろう。

そして感情豊かに不満をぶつける青髪の少女、雷刃の襲撃者(レヴィ・ザ・スラッシャー)は眉を顰めて敵である怪物へとハイライトの無い紫色の瞳が射抜いていた。

 

 

「へっへっへ、死にたくなければ大人しく言う事を聞いた方がいいぜ。」

 

「欠片ヲ渡セ。」

 

「…わかりました、欠片をお渡しします。その代わりに私達を見逃して頂きたいのですが。」

 

「くぅぅ……!!」

 

 

このままでは怪物に殺されるのが関の山、星光(シュテル)は思考を走らせた結果を口にする。だがそれは王(ディアーチェ)にとっては屈辱と苦痛以外の何者でも無い様子で更に表情を歪ませる、プライドの高い彼女にとって現状は窮屈極まりない。

 

 

「うん、いいよ。欠片さえ渡せば君達を見逃してあげる。」

 

「では……。」

 

 

青紫の頬を緩ませ満面の笑顔を浮かべる怪物、チルド…彼は本来生きた世界に存在しない。

星光から受け取った欠片を見下ろし様にチルドは瞳に写す、煌びやかに輝く蒼色の光は宝石に引けを取らない程の美麗が伴っている。――そしてより一層、チルドは不気味に笑みを深めた。

 

 

「ふっふっふ、これで欠片が三つ揃ったね…もう君達は用済みだから死んでいいよ。」

 

 

無表情のままシュテルはたじろいで後退りする、不気味な程の笑顔は消えて途方もない殺気が彼女達へと放っている。

同時にチルドの部下が足を踏み出していく、彼女達の力量では戦闘に持ち込んだ所で勝てる見込みは殆ど無い。故に、死は間近に迫っている。

 

 

「そんなぁ~!!嘘つきぃぃ~~~ッッ!!!」

 

「先程の話と違います……!」

 

「おのれおのれおのれぇぇ…!! 此処で終わる訳にはいかぬ…!!」

 

「ひゃははは!じゃあね~。」

 

 

此処で彼女達が魔法を唱えた所で意味は無い。彼女達には魔法を唱える余裕も与えられない、抵抗と呼べるだけの動作や行動はチルド達に出会った事で既に封じられたような物である。

―――すまぬ、ユーリ…ディアーチェの言葉は心の中に留めて決して声にする事はなかった。やがて迫る攻撃を受け入れるのみ、そう意に決した直後だ。

 

 

 

 

 

「なんだお前は!」

 

「何処から現れた…!!」

 

「ま、間に合ってよかったですぅ…!」

 

 

彼女達に突然広がった光景―――、それは目の前に現れた黒髪の男が部下の攻撃を両拳で防ぎ切っていたのだ。

 

 

「えっ?」

 

「あなた方は………。」

 

「な、何が起きたのだ…!」

 

「皆さん、もう大丈夫ですよ!」

 

 

現状に至るまでの過程が一切視界に入らない王達は呆然とその状況を受け入れるしか対応できず、頭上に居るリインはそんな彼女達を振り返り様に見据えて笑顔を見せた。

だが一方で黒髪の男、孫悟空はチルドの顔を見て驚愕する。彼は人違いをしてたのだ、自身が想像した人物と共通点は多く類似した人物だがよく見てみればそんな事は無い。

 

 

(フリーザじゃねえ……けど、フリーザに似てる…。)

 

「おやおや、このボクに刃向うバカがまだいたとはね……なっ!?」

 

 

悟空と同様にチルドも男に驚愕していた、男の黒い髪と髪型、目付きや顔付きを忌まわしそうに表情を歪めていく。

それ等は部下にも、わかりやすい程に動揺という名の波紋が広がっていた。だがその原因を悟空達には知る由も無い。

 

 

「チルド様、こいつは…!!」

 

「まさか…バーダック……。」

 

「バーダック? 違う、オラは孫悟空だ。」

 

「孫悟空だと!? バーダックじゃないのか…。」

 

 

先程まで動揺を露にしていたチルド達は一変して冷静さを取り戻し安堵した様子で、傲慢な態度と共に口にした。

 

 

「どうやら別人みたいだね、よく見れば服装も違うようだし。」

 

「おめえ達は何者だ!!」

 

 

叫ぶように、威圧感の篭った声が響き渡る。それに対しチルドは意に介した様子も無くただ鼻で笑って見せた。口角を吊り上げて嘲りを含んだ視線を悟空達に浴びせれば彼は息を吸い込み、大声で豪語する。

 

 

「ボクは宇宙海賊のチルド様さ。さっきはよくも驚かしてくれたねえ。お礼に殺してあげるよっ!!」

 

 

途方も無い殺気を放ったのも束の間―――刹那にチルドは間合いを詰めて悟空の眼前に現れる、その動作は超人的速度であり視界に収められた者は誰一人として居ない。

チルドには疑い様の無い自信が根底にある、悟空達を圧倒できるという傲慢にも似た自信が存在するのだ。故に悟空へと放たれた拳による一撃が軽々と防がれた事実がどうしようもなく気に食わない。

 

本気の一撃という訳では無いが手を抜いた訳でも無い、だが微動に変化しない悟空の表情を目にしていれば不思議と背筋に悪寒が走る、チルドはこの一撃だけで冷や汗をかき始めていた。

 

 

「だだだだだだっ!!」

 

 

――――眼前の男は危険である、本能的警告を無視するように次々と無造作に撃ち出す拳。だがそれも余裕を持った様子でパシンッという軽快な音と共に全てが防がれていく。

現状が理解出来ない、といった風に攻撃を止めないチルドは精神的に追い詰めらていく気味の悪さも感じている。不気味極まりない眼前の存在、それがあの昔の記憶を呼び覚まして止まない、黒髪と目付きと顔付き…チルドにとっては忌々しい事この上無い。

 

 

「はぁ…はぁ…少しはやるようだね。」

 

「……今のでおめえの力量はわかった、おめえじゃオラには勝てねえ。」

 

 

悟空の一言でチルドの部下は騒然とした雰囲気となり次々と口走る。あのチルド様が…、信じられないと言いたげに騒めく。反してチルドは悟空の言葉に不愉快そうに眉を顰めて額に青筋を浮かび上がらせて言い放った。

 

 

「ボクが勝てないだと…ふざけるなっ! ボクは宇宙海賊チルド様だぞ!! こうなったらボクの本気を見せてやるっ!!」

 

 

不気味な悪寒も忌々しい記憶も、刹那に芽生えた相手への畏怖や戦慄も全て振り払うように宣言するチルド。だが悟空にとっては負け犬の遠吠え程度の取るに足らない宣言だ。

チルドは拳を握り締める、握り締めた物は先程シュテルから奪い取ったロストロギアの欠片。それ等を三つ、憤怒を巻き上がらせながら体内へと吸収していく。

体内に吸収された欠片は皮膚の表面に現れながらも―――チルドの持つ気は肥大していく。

 

 

(―――!? この邪悪な気はフリーザの時と同じだ…もしかしてあのカケラは…。)

 

「ご、悟空さん、大変ですぅ!」

 

 

背後のリインが慌てて声を上げる、悟空は視線だけを向けて彼女の言葉に耳を傾けた。

 

 

「もうすぐ管理局員が来ます…!」

 

 

表情は微動に変わらない、だが眉がぴくっと動いた様子を見逃す程リインは盲目ではない。未だに膨れ上がるチルドの気を静かに見据える悟空は先程の発言で余裕を失った様には見えない。

だからこそ、ディアーチェ達は彼の冷静さが不思議なのだ。気を感じ取れない彼女達でさえチルドには不吉な、邪悪な何かが宿っている事を理解するのは容易。―――やがて、チルドは虚勢を張るように笑い出す。

 

 

「ふっふっふ、待たせたね。これがボクの本当の力だ!」

 

「そうか。なら、オラもちょっとだけ本気でやらせてもらうぞ。」

 

 

突如金色の粒子が姿を現しては煌き輝く、悟空の周辺を中心にそれは漂い光輝し始める。昼の光がより一層照らし出しながら悟空の気は急激に上昇していく。

その異様な光景にチルドは瞳を見開いて驚愕していた、脳裏に流れる嫌悪と憎悪に満ちた映像がぶり返して目眩を覚えさせる――咆哮と共に激怒した金色の髪をした男の姿が、彼とあまりにも重なり過ぎているのだ。

 

 

「ば、バカな! 金色に変身しただと…!?」

 

「か…カッコイイぃぃ~~~ッ!!」

 

「何と、変身するとはな…!」

 

「先程と雰囲気が変わりましたね…。」

 

「悟空さん……!」

 

 

感激の声を上げはしゃぎ出すレヴィと驚きを隠せない様子でシュテルとディアーチェは口にする、少なくとも悟空は管理局員が来るまでロストロギアの力でパワーアップしたチルドを倒す必要がある。

時間は残り少ない、震え出すチルドを疑問視する暇も無く早々にミウラの所へ戻らなければならない。―――だが先に動き出したのはチルドだった。

 

 

 

「き、金色になったって…今はボクの方が上だーーーっ!!!」

 

 

 

自暴自棄のまま絶叫が木霊する、強風が波紋状に広がり周辺のテーブルや椅子、看板等を無作為に吹き飛ばして足元には罅が刻み付けられていく。

負の感情を込めて両手からエネルギー弾が何度も悟空目掛けて発射され幾度と無く爆発が巻き起こる。激しい騒音が鳴り響き爆煙を周囲を覆い込むように発生するが―――。

 

 

「そんな…無傷だと!?」

 

「はああっ!」

 

 

傷一つすら付けられない状況下、絶望が脳裏に過ぎる刹那――悟空は両拳を握り締めて自身の気を高めていく。同時に彼を纏う金色の光は反応するように光輝する。

今の悟空は危険極まりない存在へと化していた、故に悟空を中心に突風が吹き乱れそれ等が衝撃破となってチルドの部下達は悲鳴を上げた。

 

部下達は耐え切れずに宙を舞う、地面に叩き付けられ壁に激突して。戦況はチルドの敗北へと着実に進んでいく。

 

 

「認めない…認めないぞっ! ボクが宇宙一なんだ!!」

 

 

駄々をこねる子供のように叫ぶチルドは片手を前方に突き出す、気が前方へと集中すれば邪悪に満ちた力が収束し始める。

絶大な気が凝縮された膨大なエネルギー弾が形成される中でチルドの瞳は悟空を映し出す。それが過去の記憶と重なり合い、芽生えた殺意が理性を掻き乱していた。

やがて渾身の攻撃が悟空へと襲い掛かり―――。

 

 

「なにいっ…!?」

 

「すごーい!!」

 

「信じられませんね……。」

 

「奴は本当に人間か…?」

 

 

秒間の刹那にディアーチェとレヴィ、シュテル、そしてチルドは驚いた表情を見せる、悟空は自身に襲い掛かるエネルギー弾を片手であっさりと弾き返してチルド目掛けて飛翔する。

渾身の攻撃が全く通用しない事に驚くのも束の間…悟空は空かさずチルドの間合いを詰めれば腹部へと肘打ちを素早く畳み掛けていく。

 

 

「―――だあっ!!」

 

「うごおお…っ!!」

 

 

形容しづらい激痛が滲み出す、急所を突かれ嘔吐感が体内で跳ね上がりチルドは口内から唾液と、ロストロギアの欠片――計三つが吐き出される。

 

 

「悟空さん、管理局員がこっちに来ます…!!」

 

「わかってる!!」

 

 

微かに、大勢の聞き慣れない声が耳に入り込んでいく。それを見逃さずに悟空は蒼色に輝くロストロギアへと視線を落として咄嗟にそれら全てを掴み取る。

焦りが悟空を駆り立て秒刻みの刹那でリインフォースの元へと飛翔する、咄嗟に彼女は彼の頭上へと戻れば度外れた速度を持って三人の少女の腕へと、掴む形で手が触れた。

 

――――ビシュン、という風切り音が軽快に紡ぐ。残されたのは地面に倒れたチルドの部下達だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠達どこいったんですかぁ~~!?」

 

 

財布を片手に嘆く桃色の髪を持つ少女、ミウラは途方にくれていた、先程から探している人物が見当たらず彼女一人だけ大通りで彷徨い歩いていたのだ。

街中であるにも関らず大通りを歩く人の姿は見受けられない。怪物騒ぎで大勢の一般人が避難しているのだ、大通りを虚しく不気味な雰囲気へと駆り立てている。

 

 

「此処は……?」

 

「あれ?場所が変わってる…!」

 

「な、何が起きたのだ!?」

 

 

大通りに人はミウラ以外に此処を通る者など誰一人として居ない。故に背後からの声と気配を認識するのに時間を要していた。

そして振り返れば三人の少女が各反応を示しながら戸惑いの顔色を浮かべて周辺を見回しているのだ、ミウラは呆然とその少女達を見据える事しかできなかったが…彼女達の中心にいる黒髪の男と小柄な少女の存在に気づく。

 

 

「なんとかギリギリ間に合ったな。」

 

「管理局員に見つからなくてよかったのですよ……。」

 

「し、師匠!! 何処に行ってたんですか!?」

 

「はは、急にいなくなって悪かったな。強え気を感じたからちょっと見て来たんだ。」

 

 

苦笑を浮かべる悟空と安堵のため息を吐くリイン、両方とも疲労が蓄積した様子である事にミウラは疑問に感じるが口にはしなかった。

 

 

「……ところで、この人達は誰ですか?」

 

「こいつらは…あり? なんではやてがいるんだ、しかもちっちゃくなってるぞ。」

 

「フェイトさんもいますね。でも随分と雰囲気が……。」

 

「我をあの子鴉と一緒にするな!」

 

「ヘイト? 違うよ!僕はオリジナルじゃないもん。」

 

 

八神はやて、フェイト・T・ハラオウンと類似した二人の少女は一斉に声を上げる。髪型は同じだが色や目、性格が彼女達と全く違う。

食い違う話に対して特に取り乱した様子を見せないシュテルは口を挟む、このメンバーの中で一番に理知的な彼女は静かな声で問いを投げたのだった。

 

 

「もし宜しければ、お話を聞かせて頂いてもいいですか?」

 

「はい、こちらも聞きたい事がありますので。」

 

 

―――話を聞けばディアーチェ達はミッドチルダとは違う異世界「エルトリア」に在住していたと言う、誰かに呼ばれたような錯覚に陥った直前気が付けば今居る世界へと足を踏み入れていたと彼女達は口を揃える。

その際にロストロギアの欠片を発見し手に入れた時、チルド達が襲ってきたのだと話す。

 

 

「つまりチルドがおめえ達を狙ったんはこのカケラが目的だったんだな。」

 

「うむ、確かにそれが目当てのようだったな。」

 

「悟空さん、この欠片は……。」

 

 

気掛かりに感じたリインは悟空の片手へと視線を落とす、握り締められたロストロギアの欠片が目に入り険しい表情へと変わっていく。

聖王教会が襲撃された際もフリーザはその欠片を目的としていた。今回も同様の行為で、その共通点に首を捻らざるをえない。

 

 

「ああ、間違いねえ。フリーザが吸収した石と同じやつだ。」

 

「後でこの石をカリムさんに調べてもらった方がいいのかもしれませんね…。」

 

「それで、おめえ達はこれからどうすんだ?」

 

 

悟空は改めて三人の少女へと目を向けて問いを投げる、同時に沈黙が彼女達を包み込む。返答に困った様子で口は開かれた。

 

 

「うーん、どうしよう…。」

 

「元の世界に戻る方法を探すしかなかろう?」

 

「ですがディアーチェ、何の手掛かりもない状態で探すのは難しいかと思います。」

 

「だが探さなければ我等は永遠に戻れないではないか。」

 

「ええっ、ユーリやキリエ達に一生会えないの~!?」

 

 

騒ぎ出すレヴィと主張が噛み合わない様子で口論を繰り返すディアーチェ、シュテル。一向に結論が出ない三人に対して悟空は何か思い付いたかのように表情を一変させた。

 

 

「なあ、行くとこがねえんならオラ達と一緒にこねえか?」

 

 

悟空が不意に思い付いた言葉を口にしてみれば数秒、沈黙が包み込む。

その沈黙はシュテルとディアーチェにとって予想外の提案で思わず無意識に思考を走らせていた故の結果である。ミウラとリインは唖然とした顔色を浮かべて、レヴィはきょとんとした表情でぱちぱちと瞬きを繰り返している。

 

 

「何言ってるんですか師匠!?」

 

「…でもいいかもしれませんね、はやてちゃん達を知ってるみたいですし。」

 

「えっ、いいの? じゃあ一緒に…。」

 

「断る! 我等だけで戻る方法を探す、助力などいらぬ!」

 

「そうですね…迷惑を掛ける訳にもいきませんので。」

 

「まあそう言うなって、またチルドみてえな奴等に襲われるかもしれねえだろ? それに、おめえ達を元の世界に戻してやれるかもしんねえ。」

 

 

その言葉に反応したシュテルが目線を向ける、彼女達の目的は元の世界への帰還――真剣な物へと変化した眼差しを持って言葉を彼女は投げた。

 

 

「…元の世界に戻れるのですか?」

 

「貴様、それは本当だろうな?」

 

「ああ、たぶんな。」

 

 

再び思考するシュテルとディアーチェを置いてリインは悟空の肩へと飛行する、何処か慌てた様子で。

 

 

「ご、悟空さん、多分って何か心当たりがあるんですか?」

 

「まあな。あとで教えてやるよ。」

 

 

不安が募るリインだったが彼女達を放っておく訳にもいかず、返す言葉も無く渋々頷くだけであった。

 

 

「おい貴様等、何を話しているのだ?」

 

「はは、ちょっとな。で、どうすんだ?」

 

「元の世界に戻れるのであればその提案、のみましょう。」

 

「但し、もし出来なかった時は我等が許さぬからな!」

 

 

一切表情に変化を見せないシュテルと威圧的な物言いで語るディアーチェ、それは彼女達が悟空と同行する事を受け入れるという意味である。

 

 

「そういやまだ名前聞いてなかったな。」

 

「僕はレヴィっていうんだ、それでこっちがシュテルんと王様!」

 

「シュテル・ザ・デストラクター…シュテルと呼んでください。」

 

「ロード・ディアーチェ、まあディアーチェと呼ばれるが王と呼んでもいいぞ?」

 

「レヴィにシュテルにディアーチェだな、オラは孫悟空だ!」

 

「ボクはミウラ・リナルディ! 八神家道場に通う悟空師匠の一番弟子です!」

 

「時空管理局所属のリインフォース・ツヴァイですぅ。」

 

「「「リインフォース!?」」」

 

 

リインフォース、その名前を耳にした瞬間三人の少女は驚いた表情を見せて彼女へと詰め寄っては質問を繰り返す。その質問はミウラにも投げられながら。

主な質問内容はフェイトやはやて、なのはの事ばかり―――只々リインは狼狽えてばかりであったが…。

 

 

「そういえば師匠達、買い物はどうしたんですか?」

 

「そ、そうでした! それにもうすぐお昼ですよ悟空さんっ!!」

 

「やべえっ! 遅刻したらまたシャッハとはやてに怒られちまうぞ!!」

 

 

方向転換した悟空とリインは突然走り出す、向かうべき行き先はスーパー。その途中で見知った人物からの通信には誰も予想していない。

 

 

『リイン、悟空さんと今買い物やんな? もうすぐお昼なんやけど何してるん?』

 

『リインフォース、悟空さんを知りませんか? そろそろ護衛の時間なのですが……。』

 

 

一気にシャッハとはやてから通信が入りモニター画面が表示される、その絶妙なタイミングにリインは驚いた表情を浮かべて視線を泳がしていた。

そして後にディアーチェ達が悟空とリインに追い付けばモニター画面の人物を目にして声を荒げはじめる。

 

 

「こっ、子鴉…!! 貴様等、これは一体どういう事だ!?」

 

「きちんとしたお話を伺いたいのですが…?」

 

「ゴクーッ!! 買い物するなら水色のまんまる買ってよー。」

 

「はやてちゃん、シャッハさん、すみませ…ってレヴィさん何してるんですか!?」

 

「師匠の背中に抱き付かないでくださいっ!!」

 

「ハラ減ったなあ~~。」

 

 

レヴィは力一杯に悟空の背に抱きつく、それを目にしたリインとミウラが叫ぶ。ディアーチェとシュテルはそんな二人に説明を求め、モニター画面に映るシャッハとはやては全く予想していない騒動を目にして言葉を失い絶句している。

―――この騒ぎはスーパーに到着しても尚、終息の気配を見せる事は無く大勢の客人や店員から悟空達は注目の的となるのであった……。

 

 

 

 

 

 

…意識は唐突に覚醒した、彼は全身が傷だらけで今にも死に絶える直前である事を認識するまでに時間を要しながら今其処に居る。

激痛で思考さえ覚束ない、眠気にも似た感覚に戸惑いを覚えながら這いずり回っていた。敗北した彼が思考する物とは即ち勝利、故に敗北の原因である。

 

 

「ハァ…ハァ……このボクが2度も金色のサイヤ人に負けるなんて……もっと、もっと欠片さえあれば……。」

 

 

大勢の人間の声が耳障りな程に響く、何があった?怪物だと?足音と共に囁かれる声は彼にとって不愉快極まりない。負の感情だけがメラメラと燃え散っている。

とある路地裏の一角、金色の戦士に敗北した怪物チルドは腹部に強烈な打撃を与えられた際の衝撃で遥か遠方に吹き飛ばされていたのだ。

 

 

「ちっ、カカロットのヤロウ…トドメを刺さなかったな。」

 

「誰だっ!?」

 

 

不吉な声と足音、眼前に影が映し出されチルドは恐怖が先行し心臓を高鳴らせながら振り返る。だが相手を上手く視認する事ができずチルドは目を凝らす、男である事は間違いは無いが具体的な所が視界に入らなかった。

 

 

「なんだ、もうオレのことを忘れたのか。てめえを地獄に送ってやったサイヤ人だ。」

 

 

漸く視認できた男の顔にチルドは強張った顔色を見せる、口元を緩めて不適な笑みを浮かべるその男をチルドが知らない筈が無いのだ。故に先行していた恐怖は現実の物へと化す。

映像のように蘇るフラッシュバック、男を取り巻く金色の粒子…残り少ない体力を振り絞って、激痛で揺らぐ視界を無視してチルドは動く。

 

 

「バーダック!? く、くるなあああーーーっ!!!」

 

「―――じゃあな、チルド。」

 

 

悟空の外見的特徴を隅から隅まで取り入れ、額に赤いバンダナを巻いた男は何の感傷も込めず淡々と呟く。四方八方に伸びた黒髪から金色の光を身に纏い逆立った金髪へと変化、片手をチルドへと突きつけエネルギーが前方へと収束し、一つの砲弾が形成されれば容赦なく撃ち出される。

 

 

 

「ちくしょおおおおおお―――ッッ!!!」

 

 

 

殺意と憎悪で塗り潰された絶叫が路地裏内を木霊した時にはもうチルドは消滅していた。死体も残らず消失した光景にはまるでチルドが最初から居なかったようにも感じさせられる。

バーダックは不意に空を見上げる、呆と空を眺めながら思考を繰り返す。不適な笑みは消えて張り詰めた険しい表情を見せながら彼は呟く。

 

 

「誰の仕業か知らねえが、勝手にオレを呼び出しやがって……覚悟しておけ。」

 

 

何処か憂鬱そうに、鬱陶しそうに、憎々しく語る。独り言をポツンと口にした後、バーダックは路地裏を後にして何処かへと飛び立つ。

その後、街中では金色の戦士という風の噂が流れるようになり、一種の都市伝説或いは怪談話として世間に大きく伝えられる事となるのであった…。




レヴィ「オッス!僕、レヴィ!! ゴクウの背中って暖かいよね。でも、チビクロハネとミウラが引き剥がそうとするんだ。」

リイン「当たりまえです! 悟空さんはレヴィさんのものじゃないのですよ。」

ミウラ「そうですよ、師匠に迷惑がかかります!」

シュテル「二人とも羨ましそうに見てましたが…。」

悟空「次回DragonballVivid「もっと高みへ! 悟飯となのはの魔導師パワーアップ計画」」

ディアーチェ「我にも暗黒のパワーを与えるのだ…!」


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第20話 もっと高みへ! 悟飯となのはの魔導師パワーアップ計画

「さー、お昼ですよーみんな集合~~!!」

 

 

―――昼食の時間、アスレチックフィールドで滞在するなのは達は昼食の準備を始める為に訓練を切り上げて合宿所に戻りつつある。

部屋にテーブルを並べて椅子を順番通りに揃え、調理を始めた頃にはノーヴェ達も水遊びが終わった様子で部屋に足を踏み入れていた。

 

 

「おかえりー。」

 

「いっぱい遊んできた?」

 

「もっちろん!」

 

 

笑顔でなのはが出迎えればスバルが問いを投げる、ルーテシアは文句なしと言わんばかりの満足した様子で人差し指をつんと突き立てて呟く。――だが全員、何処か疲れた様子を見せている事に気付いたのは少数の者のみだろう。

 

 

「体冷やさないように暖かい物、一杯用意したからねー。」

 

「「ありがとうございます!」」

 

 

人の良い笑顔を振り撒くメガーヌに感謝の言葉を投げるリオとコロナ、彼女の笑顔を目にするだけで無意識に疲れや緊張感が解かれる不思議な魅力が備わっていた。

やがてメガーヌは自身の手前に置かれた椅子に座るヴィヴィオとアインハルトの様子を見て思わず心配そうな視線を送っていた、彼女達の顔色は何故か暗い。それは精神的な物というより疲労的な意味合いでだ。

 

 

「あらあら…ヴィヴィオちゃん、アインハルトちゃん大丈夫?」

 

「いえ……あの…。」

 

「だ、だいじょうぶ、です…!」

 

 

不自然に体がぷるぷると震えている二人、ヴィヴィオの言葉には説得力の欠片も無い。メガーヌはそ、そう…?と相槌を打つような回答を投げる。彼女の瞳は更に心配の色を強めていた。

そんな会話を隣で覗き見していたノーヴェは小声でメガーヌに耳打ちするように言葉を投げてそれに対してかメガーヌは思わず苦笑する。

 

 

「あ、お肉の匂いだぁーっ!!」

 

「マジか!? よーし、たくさん食べるぞー!」

 

「お前等は元気あり余り過ぎだろ…。」

 

「ふふ、さすが男の子ね。」

 

 

その一方で、ヴィヴィオやアインハルト以上に水の中で遊んできた少年達はまったく疲れを見せておらず、そんな二人にノーヴェは呆れ返ってメガーヌは微笑んでいた。

 

 

「はい、おまたせー!」

 

「「わぁ~~~!!」」

 

 

スバルが皿を置けば目をきらきら輝かせるリオと感激の声を上げるコロナ、大量の串焼きが添えられた皿がテーブルに並べられ香ばしい匂いが鼻に付く。

料理が配られた事を確認したメガーヌは再び笑顔を浮かべて両手を合わせる。それに反応するようなのはやフェイト、ティアナにスバル達、全員が両手を合わせていく。

 

 

「じゃあ、今日の良き日に感謝を込めて……!」

 

 

 

「「「「「いただきます!!」」」」」

 

 

全員の声が重なり合い、食卓はわいわいと盛り上がりの様を見せる。全員が疲労を溜め込んでいるせいもあり食事が進む。

そして外ではフリードとガリューもまた食事を取っていた、木の実を集めそれを二人で分けて彼等は食事を取っている。

 

 

「おいしーい!!」

 

「ホントだ…味に奥行きがあるね。」

 

「ふふーん、アルピーノ家特製の自慢のソースです!」

 

「うん、こっちの味付けも悪くないな。」

 

「お母さんのと同じくらい美味しいよ!」

 

 

バーベキューを口にしたスバルとフェイトとキャロに対してルーテシアは自信満々そうに呟く、悟天とトランクスも美味しそうに食べながら感想を漏らす中で悟飯は不意に瞳をぱちぱちと瞬きさせながら周辺を見渡していた。

周りと比べて明らかに量が違う、その事に気が付いた悟飯は漸く声に出して呟く。

 

 

「あれ? ボクの分だけみんなよりも多いような…。」

 

「えっと…悟飯くんはいつも物足りなさそうに見えたから、ちょっと多くしておいたの。」

 

 

にこり、と悟飯の隣に居るなのはは微笑を深くして優しげな声と共に口にする。物足りないのは悟飯にとって嘘ではない、半分とはいえ戦闘民族の血を引いている彼は食事を多くとる必要があるのだ。悟飯は今まで隠し通し悟られる程の素振りを見せていないと思っていただけに驚きの声を上げる。

 

 

「えっ!? 別にそんなことは……。」

 

「だーめ、こういう時は無理しないことだよ。普段から我慢してるの知ってるんだからね?」

 

「それに午後は悟飯にがんばってほしいから。」

 

 

なのはの言葉と後押しするフェイトに仕方なく悟飯はしぶしぶ食べる事に、嬉しくない訳では無いが申し訳無さと感謝の気持ちが先立ち彼は食を進めるのだった。

だがそんな風景を偶然目にしたスバルは眉がぴくっと動けば首を捻り、脳裏で数秒思案した後にフェイトへ疑問を投げかけ…。

 

 

「フェイトさん…それってどういうことなんですか?」

 

「午後からは気っていうエネルギーを使った特訓をするの、その時に悟飯が監督役をしてくれるみたいなんだ。」

 

(気……!)

 

 

聞き覚えのある単語に黙々と食事を取り続けていたアインハルトが初めて彼女達へ目が向けられる、聞き耳を立てて彼女達の会話を聞こうとしたが入ってきたのは悟天の声。

 

 

「ええっ!? 午後からは兄ちゃんがボク達に気のコントロールを教えてくれるんじゃないの!」

 

「そうだよ! その為にオレ達は合宿に来たんだぜ。」

 

「それなんだけど、ボクの代わりにピッコロさんが教える事になったんだ。」

 

「安心しろ。オレがお前達をみっちりしごいてやる。」

 

「「えぇ~~っ!!」」

 

 

悟天とトランクスは嫌々そうに声が重なり合う。ピッコロの教育方針には俗に言う甘さが見受けられない、徹底的に行うという意味ではスパルタ式の方針だ。

故に悟飯が行う特訓とピッコロが行う特訓とでは良い意味でも悪い意味でも途方も無い差が存在している。彼等のやり取りになのはは苦笑して見せた。

 

 

「にゃはは……とにかく、気を使っての飛行とか学んでいくので、希望者はアスレチックフィールドに集合だよ。」

 

 

"わかりました"と、スバルやティアナ、そしてエリオ、キャロ達は声を合わせる。その話を聞いた子供組みは口を滑らせた。

 

 

「アインハルトさん、よかったら一緒に行きますか?」

 

「え……あ、はい!」

 

「コロナはどうするー?」

 

「うーん…どうしようかなぁ。」

 

 

午後からの修行の話題で昼食の時間は終わり、なのは達は再び午前の続きとしてアスレチックフィールドへと戻っていく。ヴィヴィオ達もまた夕方まで自由な一時を過ごすのであった―――。

 

 

 

 

 

 

 

桜色の砲弾と橙色の砲弾が炸裂し合い爆発音がアスレチックフィールドを支配する、スバルは巻き上がる爆煙を突き抜け疾走し拳をなのはに放つが魔方陣が甲高い音と共に受け止め防ぐ。彼女達は悟飯に手伝ってもらいながら訓練の一つである模擬戦の真っ最中である。

ヴィヴィオ達は自由時間を散歩に費やしていたがノーヴェの誘いもあり観戦しにアスレチックフィールドに出向いていた、その一部始終は目に入れるだけで胸を躍らせる物であった。

 

時間は過ぎ去って夕方の四時過ぎ、太陽が沈み始め空は紺色と橙色が中和し合う中でなのは達の居るアスレチックフィールドは人気を失う事はなく、更に人気は増していたのだ。

 

 

「悟飯さんまだかなぁ~。」

 

「もうそろそろ来るんじゃないかな?」

 

「なんだかワクワクしますね、アインハルトさん!」

 

「はい……楽しみですね。」

 

 

こうして話し声が途絶えない子供達は唐突に響く足音を耳にした直前、視線をその人物に向けられ声が降り注ぐ。

 

 

「みんなお待たせ、お待ちかねの悟飯先生の登場だよー! それでは悟飯先生、気についてご教授おねがいします。」

 

「ど、どうも……。」

 

 

半分冗談混じりのなのはの紹介とは裏腹に彼女の隣に居る悟飯は早々に緊張感を抱いていた、自身の予想以上の人数の多さに戸惑いを隠し切れず彼は無意識の内にぎこちない言葉になってしまっていた。

 

 

「悟飯さんの道着姿って珍しいー!」

 

「いつも私服だったもんね。」

 

 

悟飯の服装に着目したリオとコロナは周りに聞こえないように小声で呟く。紫色の道着服に赤色の帯、普段から悟飯は私服を着込んでいるだけあって道着姿は彼女達にとって見慣れない風景なのだ。

改めて悟飯は緊張感で胸を苛まれながらも凛とした声で全員に響き渡るように口にした。気についてどう説明するべきか脳裏で思考を繰り返しながら…。

 

 

「えーと、それでは気の使い方を教えますが、みなさんは気がどういうものか知っていますか?」

 

 

――――大多数の者が首を横に振れば悟飯は体内に隠されたエネルギー等、気についての説明を淡々と続ける、理屈はすぐに受け入れられた様子でそれを苦にする者は殆ど居ない様子だった。

 

 

「あの、気は魔力とは違うんですか?」

 

「魔力はリンカーコアを持って使えるけど、気は元々体の中にあるの。だから練習さえ繰り返せば誰でもできるようになる…って感じかな?」

 

「気が戦闘に活用できる事はわかりますが…他にもどんな事ができるのでしょうか?」

 

「他には相手に自分の気を分け与えたり相手の気の強さや居場所を感じる事ができます。

後、コントロールができれば自分の気を消して強さをカモフラージュすることも可能ですね。」

 

 

キャロとティアナの質問に対してなのはと悟飯は立て続けに回答を投げていく。その細かな作業を繰り返している内になのはは切りの良い所で呟いた。

 

 

「それじゃあ、そろそろ実際にやってみようか。」

 

 

 

 

 

―――理屈と実践は訳が違う、故に気を扱う練習へと進むが中々上手くいかず苦戦する者が大多数を占めている。

修行に向かった悟天とトランクスを除いた彼女達は草原に座り神経を集中させていた、だからこそ極自然に発生する沈黙は彼女達が真面目に取り組んでいる証拠なのだ。

 

 

「わっ、光った…!」

 

「私も少しですが光りました……。」

 

「もうできたの!? わたしの時はもっと時間がかかったのに。」

 

「すごいね、二人はこういう事に向いてるのかな?」

 

 

神経を集中させてから数十分程の時間が流れ、誰一人として成功しない中で唐突に朧な光がヴィヴィオとアインハルトから発せられる。

それはあまりにも突然で隣に居たフェイトやなのは、他の者達が二人に目を奪われる結果となりながら悟飯は彼女達に微笑み。

 

 

「それが気だよ、慣れれば簡単だから…。」

 

「いいなー、あたしもがんばらなきゃ!」

 

「でも全然上手くいかないよー…。」

 

 

再びヴィヴィオとアインハルトは神経を集中させる、両手を覆うような全員が取っている体制を保ちながら。―――次に発せられた光は先程より明確でハッキリとした物だった。

更に時間を重ねていけばスバルやノーヴェ、リオ等が相次いで光を発していく。より明確に、より精密に、自身の気を操る術を確立させる作業を彼女達はループさせ続けている。

 

 

「やっぱり格闘技系の人は上達が早いわね…。」

 

「まずは静かに落ち着いて、ゆっくりと自分の力を引き出すんだ。」

 

(集中…集中……!)

 

 

念じるように神経を集中をさせれば一瞬、エリオの両手から光が照り輝いてそれを目撃した者から感激の声を掛けられるのであった。

 

 

「あの…そろそろ、舞空術を教えてもらえませんか?」

 

 

更に上達した様子でアインハルトは悟飯に向けて言葉を向ける、地面に座るヴィヴィオもまた両手に出現する光は明確に目視できるレベルになりつつある。

悟飯は振り向いてその光景を目にして驚いた表情を露にさせた。二人は想像以上に成長速度が速い、それを裏付けるような光景故に。

 

 

「えっ!? あ、うん…わかった。なのはちゃん、そっちは任せてもいいかな?」

 

「大丈夫だよ、ヴィヴィオ達のことお願いねー。」

 

 

微笑を覗かせてなのはは回答を投げれば悟飯は頬に緩みが生じる、何処か安心した様子で彼は舞空術の説明を口にしていく。こうして修行は順調に進んでいくのであった―――。

 

 

 

 

 

 

 

「あまーーーいっ!!」

 

「「うわああっ!!!」」

 

 

―――アスレチックフィールドの山頂、其処からはなのは達を見下ろす事ができ程好い景色を堪能する事ができる。そんな中で悟天とトランクスは絶叫と共に崖から転がり落ちていく。

悟天とトランクス、二人は先程からピッコロ相手に数秒で何百発にも及ぶ拳と蹴りによる打撃攻撃を繰り返している。だが一つも命中する事は無く逆にピッコロの反撃を腹部に食らい二人は呆気なく吹き飛ばされていた。

 

 

「ちくしょ~~!なんでオレ達がこんな目にあわなきゃならないんだよー!」

 

「ヴィヴィオちゃん達が受けてる修行の方がよかったのに~。」

 

「バカモノ! お前達は何年修行してきたんだ!シロウトと同じでどうする!!」

 

 

山頂から聞き慣れた怒鳴り声と共にピッコロは落下した二人の方へ浮遊し、そして降下していく。

悟天とトランクスは互いに不満を持った様子で相変わらず怒鳴り散らすピッコロへと文句を垂れる。

 

 

「でも、こんなんで気をコントロールできると思えないよ~。」

 

「そうだよー。こんなのただの組手じゃん。」

 

「ふん、お前達の場合は実戦で学んだ方が伸びる。自然とカラダに感覚を身につけろ!」

 

「「そんなぁ~~。」」

 

 

ムッと互いに納得のいかない表情を浮かべて再び二人は立ち上がれば、偶然にも遠目から視界に入り込む金髪の少女と碧緑の髪を持つ少女…そしてスバルやノーヴェ、リオやエリオ達。

 

 

「あ、ヴィヴィオちゃん達だ!」

 

「もう舞空術の段階まで入ってるのか。」

 

 

全員一歩も動かず立ち尽くしたままの光景、舞空術を習得するには一度神経を集中させる為に体を動かさず静止した状態になる。それが現在の段階なのだと二人は予想していた。

同時に耳に入る悟飯の声、修行の真っ最中と言わんばかりの彼の言葉が明確に二人の耳へと届いてくる。

 

 

「そうそう、肩の力を抜いてカラダ全体に気を集中させてイメージするんだ……。」

 

 

風が通り抜ける中で意識は集中され静止した状態は続く、浮遊するイメージを脳裏で描きながら…吹き抜ける風に一層強さを全員が身に染みる中で、アインハルトは地面から足が離れた。

更にヴィヴィオも後に続いて静かに浮かび上がる。突然生じる浮遊感に二人は驚く事無く精神を集中させて…その光景には驚く者は多かった。

 

 

「す、すごい二人とも!」

 

「中々やるな…。」

 

「本当に魔法じゃない…!」

 

 

エリオは二人の光景に目を見張って口にする。―――魔方陣が存在しない、それがこの技術は魔法の類ではない事が明確に照明されている、即ちこれは正真正銘異世界の産物。

突然生じる浮遊感に対して動揺して落下する事無く寧ろ安定した感覚を二人は保ちつつあった。悟飯自身もその成長の早さには驚きを隠せずにいる。

 

 

「わっ、わわー!? わたし浮いてる…!」

 

「っ…! これが、舞空術……。」

 

 

ある程度浮かび上がった所で余裕を持つことができたヴィヴィオは目蓋を開き、地から足が離れている現状に喜びと驚きの入り混じった声を出す。

アインハルトも頬を強張らせ自身の状況を観察しながら心底驚いていた、そしてより一層自身が目指す強さへ近付けたという実感が少なからず胸に湧き上がっていた。周囲の様子には気づかないまま…。

 

 

「アインハルトちゃん、危ないよ!」

 

「あ、アインハルトさん~!!」

 

「………えっ?」

 

 

スバルとヴィヴィオの焦りの声が耳に入り込んだ頃には遅く、呆然とした顔を浮かべて突然アインハルトは上空から落下した。

彼女は思考する間に先程以上に上空へと浮遊して危険な位置にまで上り詰めていた、二人の掛け声と現状を理解した事で完全に意識は途切れた結果―――アインハルトは骨折しかねない距離で落下する。

 

 

「あぶないっ!」

 

「―――アインハルトちゃん!!」

 

 

アインハルトの体は身動きが取れないまま降下する、その現場が視界に飛び込んできた悟飯は咄嗟に助けようと飛翔する直前―――タイムラグは生じた。

遠方に位置するトランクスにもアインハルトの状況は目に見えて飛び込んでいた、彼女の事を考慮すればあの落下は只では済まないのは明白。

 

 

「きゃああぁぁっ!!」

 

 

故にトランクスは飛翔する、誰よりも早く宙を駆け抜けて、遠方に位置していたにも関らず悟飯の行動を追い抜いて。

 

 

「ふぅ~…間に合ったぁ~。」

 

「トランクスさん!? あ、あの、すみません……えっと、そのっ。」

 

 

滑り込んで、両手を伸ばして彼女を受け止めたトランクスは安堵のため息を漏らす。一方アインハルトはトランクスに助けられた事に驚きを隠せない様子で戸惑いの色を滲ませ言葉に詰まっていた。

頬は赤く染まり視線も泳がせてアインハルトは纏まりの無い思考をしながら次の言葉を考える。だが次の言葉を発したのはトランクスだった。

 

 

「ダメだよ気を抜いちゃ、まだ完全にコントロールできてないんだから。」

 

「は、はい……。」

 

「じゃあ、オレ戻るからね。」

 

 

すぐにアインハルトは立ち上がって体制を整えばトランクスも立ち上がり釘を打った後に悟天やピッコロの居る場所へと戻っていく。結局アインハルトが思い浮かんだ言葉は―――。

 

 

「…ありがとうございます。」

 

 

湧き上がる感情を堪えながら、未だに染まり上がった頬のままアインハルトは感謝の言葉を口にして見送る事にする。

後にピッコロは険しい眼光でトランクスを射抜いていた事を彼自身が知り、気分は憂鬱なものへと早代わりするのであった。

 

 

 

 

 

太陽は沈み切って空は紺色へと変化する瞬間、その手前―――…辺り一面は暗闇が蔓延り僅かな光でアスレチックフィールドは照らされている。

何時間にも渡る修行の成果は個人によって様々だが全体的に苦戦する者が多く舞空術まで習得できた者も数少ない。それを考えればヴィヴィオとアインハルトは珍しい存在だろう。

だが光を発するレベルにまでは全員が到達し、スバルやノーヴェに限っては実戦では活用できないが舞空術の段階にまで入っていた。

 

 

「悟飯くーん、もう遅いしそろそろ切り上げないー?」

 

「そうだね。なら、続きは明日にしようか。」

 

 

ヴィヴィオとアインハルトは一番成長が早く舞空術も殆ど扱えるようになっている。応用はまだ困難だが恐らく時間の問題だろう。

 

 

「じゃあ、みんな。午後のトレーニングは此処まで!」

 

「「「「お疲れ様でしたー!」」」」

 

 

整列する全員の前でなのはは髪を揺らし振り返り様に口にする、同時に全員が頭を下げて声が重なり合った。

こうして一日のトレーニングは無事終了、各メンバーの様々な成長ぶりが見られなのはは多少疲労が蓄積するも満足した様子で全員の背を見送る事になる。

 

そしてヴィヴィオ達は温泉へと期待を膨らませながら歩みを進めていくのだが。

 

 

「まて、お前達は居残りだ。これから悟飯と本格的な修行をつけてやる。」

 

「「いいっ!?」」

 

 

温泉へと進める足を阻止するような低い声に二人は硬直する、彼等の修行はまだ本格的に始まっていない。悟天とトランクスは嫌々そうに修行を重ねるのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

無人世界カルナージに到着した一つの臨行次元船、それはなのは達が此処に来る際に利用していた定期便。やがて扉が開けば温暖な風が花弁と共に吹き抜ける。

―――だが其処から出てきたのはなのは達のような人間ではなかった。緑の肌を持った大男とそれに付き添う比較的人間に似た生物、五人組の怪物が次元船から出てきたのだ。

 

 

「反応か強くなったか。やはりこの世界に他の欠片があるようだな。」

 

「ボージャック様、此処は私にお任せください。」

 

「いえ、私が必ず欠片を手に入れてきます。」

 

 

ターバンを頭に巻いた小柄な体格の持ち主、名はブージン。そして女性的な外見を持つザンギャは口にする。彼等は緑の肌を持つ大男、ボージャックをリーダーとした宇宙を荒らし続けていた銀河戦士達。

 

 

「ボージャック様、あの方角に強い戦闘力を感じられます。」

 

「オレが様子を見てきましょうか。」

 

 

腰に剣を抱え、紫色の鉢巻を額に巻いた男ゴクアはある一点の方角へと視線を向ける。ヒゲを生やした男ビドーが更にボージャックへ言う。

 

 

「…なら、ゴクアとビドーは其処へ向かえ。ブージンとザンギャはオレに着いてこい。」

 

「「「「わかりました。」」」」

 

 

方針が決まった様子でゴクアとビドーは飛翔しその方角へと突き進んでいく、吹き荒げる突風を巻き起こし彼等は其処へ向かう。

一方ボージャックとブージン、ザンギャも同様に飛翔し別方角へと進んでいく。―――不吉な予兆を感じさせるそれ等は果たして何が目的なのか、なのは達はまだその危険を知る術も無かった…。




悟空「オッス!オラ悟空!! あの二人やるな~~初めてなのにもう舞空術をマスターしちまったぞ。」

ザフィーラ「このままでは不味いな…。」

ヴィータ「ああ、あたし等も悟空から気を学ばねぇと…。」

シャマル「気で治せるなら私も学ぼうかしら?」

はやて「そないな事より、彼等は何者なんやろ…。」

シグナム「只者ではないですね…気をつけろ、テスタロッサ。」

悟空「次回DragonballVivid『悪の銀河戦士襲来!? 狙われた魔法少女』」

悟飯「あいつは…まさか…!?」


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第21話 悪の銀河戦士襲来!? 狙われた魔法少女

「「はぁ…はぁ…」」

 

 

あれから数時間程の時間が経過し夜空に月が浮かび始めた頃。息を切らして月光に照らされたトランクスと悟天は悟飯の指導の元で修行に励んでいた。二人が逃げ出さないようピッコロも背後で様子を眺めている。

 

 

「よーし、5分休憩したら次は二人で組手だ。」

 

「「えぇ~~っ!!」」

 

「みんなー、飲み物もってきたよ~。」

 

 

間の抜けた声は重なる、同時に足音が響いてトランクスと悟天、悟飯はそれに反応して振り向ればピッコロも横目を向けた。

四人の視界に入ったのはジャージ姿のなのはとフェイト、ペットボトルを片手に持つ二人は頬を緩めて笑みを浮かべて彼等に近付く。

 

 

「二人とも頑張ってるね?」

 

「わっ!つめたーい!」

 

「ありがとうフェイトさん!」

 

 

腰を屈めて悟天とトランクスにペットボトルを手渡すフェイト、なのはも悟飯にタオルを渡すが、ふと疑問を感じる。

 

 

「そういえば、悟天くんとトランクスくんは元々の気が減ってるのに、どうして悟飯くんとピッコロさんは大丈夫なの?」

 

「え? うーん、たぶん悟天達が生身で次元を超えてきたからだと思う。」

 

 

なのはからの疑問に悟飯は数秒思考した結果を述べる。次元を超える、それは膨大なエネルギーを必要とする一つの現象。何か対策を取らない限り何が起きても不思議ではない。

悟飯達に影響がなかったのはタイムマシンという専用機器が次元を超える上での一つの対策となって気の半滅から逃れる事が出来たのだと仮説する。

 

 

「神龍の力は他の世界に送る事は出来ても、その世界の中まで干渉する事はできないんだ。

だから、無理に次元を超えた影響で悟天達のカラダに副作用を起こしたんじゃないかな。」

 

「オレ達はタイムマシンに守られて副作用が表れなかったのだろう。」

 

 

故にタイムマシン炎上の原因は"無理に次元を超えた事"、それの副作用に対してタイムマシンが防御的役割を担った結果が炎上。

仮に元の世界に戻る事になってもこの現象は再び起きるかもしれない、無事に帰れるかどうか……不安が悟飯の胸に小さく灯った。

 

 

「だったら、最初からママにタイムマシンを作ってもらえばよかったぜ。」

 

「そうすれば気が減ったりしなかったのにね。」

 

「お前等、まったく反省する気がないな…。」

 

「二人とも、あとで温泉に入れるから…もうちょっとだけ頑張ろう?」

 

 

不満を呟き続ける二人を宥めるようにフェイトは口にする。仕方なく悟天とトランクスは頷き、その穏やかな様子に悟飯は苦笑した。

 

 

 

 

「ははは、それじゃ修行を再開……あぶないっ!」

 

 

暗闇を一方的に照らし出す閃光、それが刹那の合図となって悟飯の片腕が伸び光弾を弾き返す。光弾は虚しく宙を彷徨い爆音が弾け飛んだ。

咄嗟の動作に驚くのも束の間――彼女達が上空を見上げた先には鉢巻を額に巻く男とそれ以上の巨体を持った男。

 

 

「何者だ!」

 

「あれって、人……?」

 

 

見上げた先に居る男達は薄気味悪い笑い声を上げながら悟飯達を見下ろす、その意図は掴めず悟飯達には動揺が走っている。

 

 

「「フフフフ……」」

 

「お、お前達は…!?」

 

 

目の前にいる者達の正体が信じられないと言いたげに瞳を見開いて焦りを見せる悟飯の姿、只事ではない――そう感付かされるのは容易く、なのはとフェイトもまた警戒心を一層強めて睨む。

 

 

「バカな…なぜ生きているんだ……。」

 

「……生きている?」

 

 

険しい表情を見せるピッコロと悟飯、後者は兎も角――前者の反応ぶりになのはは戸惑いを覚えていた。

彼の性格は冷静沈着、大きく表情を変化させる事は滅多に無い。だが、今のピッコロは動揺を露にしている。

 

 

「…あいつ等は昔、地球を支配しにやってきたボージャック一味だ。」

 

「地球を支配……!?」

 

 

ボージャック一味、かつて地球を支配しにやってきた"ヘラー"一族。ピッコロが口にした言葉にフェイトは驚きの余り声を上げた。

彼等はその存在自体が危険極まりない、故に四人の界王達によって封印されていたという過去を持っている。しかし、それ以上に不可解なのは―――

 

 

「貴様等は悟飯とトランクスに倒されたはずだ!!」

 

 

ボージャック一味は一度死んでおり、本来はこの世にいない者。彼等が存在している事実は異常である。

 

 

「これから死ぬお前達には関係ない。」

 

「この星はボージャック様に支配されるのだ。」

 

「ボージャックだと!? ヤツもこの世界に来ているのか…。」

 

「ボージャック……。」

 

 

彼等の言葉を耳にした悟飯達は前回の事件が脳裏に映し出されていた、フリーザとギニュー特戦隊―――彼等もまた死んだ筈の存在。

ある種の共通性が不意に浮かび上がった所でボージャックという単語が耳に入り、彼等は思考を遮断させた。

 

 

「「はああっ!!」」

 

「気を付けろ! くるぞ!!」

 

「レイジングハート・エクセリオン!」

 

「バルディッシュ・アサルト!」

 

 

なのはとフェイトの声が重なり、宙を木霊した直後に"セーットアーップ!!"という合図が鳴り響き二つの光が舞うが、彼女達が防護服を展開させた時にはピッコロと悟飯は二人組の男――ゴクアとビドーに対して攻防戦を繰り広げていた。

視界に捉えられない戦闘が発生している事を物語るように衝撃音は甲高く鳴り響く、目で追えないフェイトにとっては不気味な構図でもある。

 

だが打撃音は瞬時にして止んだ。同時に独特な鈍い音が宙を駆け抜けた。

 

 

 

「―――悟飯くん、ピッコロさん!! そこから離れて!!」

 

 

 

真夜中の空になのはは居た、無数の桜色の球体が夜空を支配し星空のような輝きを放つ。暗闇が支配する悟飯達の居る場所は一気に彼女の魔法で照らし出される。

一種の太陽的な輝きに照らされたピッコロと悟飯は空を仰いで擬似的な星空を視界に捉えれば彼等は驚いた表情を浮かべて瞳を見開く。

 

 

「なんだあれは!」

 

「凄い……!」

 

 

機械的音声は魔法名を口ずさむ、槍形状の形態を取るレイジングハートをゴクアとビドーへと勢いよく振り下ろした。

 

 

 

 

「  ア ク セ ル ツ イ ン メ テ オ ッ ッ !!!  」

 

 

 

 

―――流星群、それを体現した砲弾の雨は強風を発生させ二人へと降下する。元々なのはが扱う魔法自体が破壊力に優れた物が多く、この技もまた例外ではない。更に今回は気を利用して魔力の資質と量を付加しているのだ。

膨大な魔力の塊とかした砲弾が次々と着弾しては爆発を繰り返していく、爆風と爆煙が舞い乱れ次第にゴクアとビドーの姿が視界に捉えられなくなっていく状況の中、只では済まないだろうとフェイトはその光景に注目した。

 

 

「すっげー!!」

 

「やったー!」

 

 

トランクスと悟天もまた、流星群の輝きと絶大な威力に見惚れ感激の声を上げてゴクアとビドーが居た場所へ視線を向ける。

爆煙で彼等の姿を見失う中で――――響き渡ったのは笑い声。聞き慣れた、不快感が伴う嘲笑。

 

 

「「くっくっく………。」」

 

 

怪我は愚か、埃しか身体には残されていない。全くの無傷でその場に佇み宙に浮かぶなのはを見上げては嘲笑が木霊する。

 

 

「え………?」

 

「そんな……あれだけの攻撃を受けたのに…!!」

 

 

圧倒的な実力の差が構図化された現実、それは前回の聖王教会襲撃事件にも重なる光景。彼女達は守ろうと立ち塞がったが一向に敵わず、生死を目前した刹那がフラッシュバックしていた。

フェイト自身もそれは痛感しており、現状は再び前回のような危機的状況下である事を理解した様子で険しい眼差しで彼等を射抜いている。なのはが敵わない、それは自身もまた歯が立たない事を暗示しているからだ。

 

 

「悟飯、あいつらは合宿所に避難させた方がいいだろう。此処にいれば巻き添えを受けかねん。」

 

「そうですね(そういえば、どうしてボージャックはこっちに来ないんだ。)

 

 

先程からボージャックを含めた複数の邪悪な気は感じるが此処に向かってくる気配はない、むしろ遠ざかっているようだ。合流する気はないのだろうか。逆にそれが不気味に思えて悟飯は強張った表情を見せ気を感じる方角に視線だけを向ければ。

 

 

「確かあの方角は………まずいっ!」

 

「「「えっ?」」」

 

 

重苦しい空気は一気に重圧を増して圧し掛かった、張り詰めた表情を見せる悟飯の口から唐突に響く言葉にピッコロを除く四人は戸惑いを露にする。

 

 

「ど、どうしたの悟飯くん。」

 

「なにが不味いの?」

 

「ボージャックが合宿所に近付いている……。」

 

「「「………ええええーーーっ!?」」」

 

 

ボージャックが近づいている合宿場には大勢のメンバーが滞在しており、だからこそ衝撃を隠せない。恐らく彼女達は昼間の練習で疲れた身体を癒すべく温泉等で楽しんでいるだろう、そんな中でもし襲われてもしたら―――

 

 

「ってことは…………。」

 

「――――ヴィヴィオちゃん達があぶないっ!?」

 

「おい、待て悟天!トランクス!」

 

 

途端に強風は巻き起こりピッコロの制止を無視して悟天とトランクスは衝撃音と共に暗闇の空へと飛び去っていった。

 

 

「なのは、私達も行こう……! 」

 

「そうだね……でも、悟飯くんとピッコロさんは?」

 

「オレ達は此処に残る。こいつらを放っておくわけにはいかんからな。」

 

「それが終わったらすぐに追いかけるから。なのはちゃん達はみんなを避難させて。」

 

「わかった、二人とも無理だけはしないでね。」

 

 

軽く頷いてなのはは振り返る、同時にピッコロは何か思い付いたように表情を変化させ懐から物を取り出す動作と共に声を上げる。

 

 

「なのは! 念の為にこいつを持って行け。」

 

「これって……ありがとうございます、ピッコロさん!」

 

 

巾着袋を手に取ったなのははその中身を確認する、視認できたのは豆。思わずぱっと笑顔を覗かせてなのはは空を仰ぐ。

―――突風が吹き荒ぶ、桜色の光と金色の光が舞い散り二人はトランクスと悟天の後を追った。

 

 

「悟飯…さっきはああ言ったが、既に他の連中が奴等と接触している可能性も考えられるぞ。」

 

 

最悪の状況下をピッコロは想定し表情は強張る。――彼女達との実力の差は明確、故に勝敗は考える間でも無い。顔を向けずに敵を見据える悟飯は静かに呟く。

 

 

「そうですね。もしそうなったら悟天達だけが頼りです。もちろん、あの二人が束になっても厳しいかもしれませんが、二人の力を一つにすれば勝機はあると思います。」

 

「二人の力を一つに……その手があったか。ならば、向こうはあいつらを信じてオレ達は目の前の敵を倒すぞ!」

 

「はい!」

 

 

心残りは無い。眼前の敵を打破する。改めてピッコロと悟飯の視線はゴクアとビドーを捉える。

 

 

「「はあああっ!!」」

 

 

新たな邪悪な気は悟天達に任せて彼等の思考回路は眼前の敵を倒す事に回転し始めた最中、ビドーとゴクアは二人の懐へと飛び込み、彼等も即座に対応する。両者の間に存在する距離は短く感じ取らせる程の秒間の出来事であった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

―――真夜中の時刻を指し示す頃、ヴィヴィオ達は訓練の疲れを取る為に天然温泉大浴場にて温泉を堪能していた。

途中、聖王教会から来たセインが騒動を起こすがリオの活躍とルーテシアとの交渉で事態は丸く収まり現在は彼女も加えて雑談を交わす。

 

 

「………ん?」

 

「どうしたのヴィヴィオ?」

 

 

ガリューから貰ったジュースを飲み干すとヴィヴィオは拍子抜けな声と共に思わず目を奪われる、リオがネックレス代わりに下げた欠片。それが目に止まっていた。

同様にコロナもヴィヴィオの様子に気付いて欠片へと視線をうつす、綺麗な欠片…見惚れながらコロナは小さく呟く。

 

 

「リオ、それ何処で買ったの?」

 

「えへへ~、綺麗でしょ? これは買ったんじゃなくて拾ったんだよ!」

 

 

楽しそうに口にするリオを傍から覗くヴィヴィオは引っ掛かりのような違和感を覚えていた。新鮮味の無い蒼色に輝く欠片、虹彩異色の瞳を丸くさせて記憶を手繰り寄せる。

 

 

(あれ? この石どこかで見たような……。)

 

 

思考し始めると徐々に違和感は真実味を増してより一層強く感じさせていた―――だがその思考は突然シャットアウトする。

唐突に、胸一杯に広がったのは負の感情。胸を抉る恐怖が気持ち悪い程に綯い交ぜになって彼女の視線を上空へと仰がせていた。

 

 

「―――小娘、その欠片を渡してもらおうか。」

 

「えっ……?」

 

「だ、誰………!!」

 

「……敵のようですね。」

 

 

困惑に満ちた顔色を浮かべるリオとヴィヴィオはアインハルトの冷静な一言が張り詰めた表情へと変化させる。

紺色の空には三人組のシルエット、威圧感を孕む声の主は明確な敵意と殺意が存在していた。ヴィヴィオ以外の者達も三人組へと視線を注ぐ。

 

 

「ふっふっふ……大人しく渡さないと痛い目に合うわよ。」

 

「此処で欠片を渡すのならお前達を奴隷として使ってやろう。」

 

「……ど、どど、奴隷…!?」

 

 

悪意に満ちた低い声が室内で反響する、月光が照らす大男の名はボージャック――彼の左右に位置する二人組みはブージンとザンギャ。彼等の見下ろす視線には背筋を凍らすような気味の悪さが伴っていた。

だが彼等が邪悪な存在である事を誰よりも理解していたのはアインハルトとヴィヴィオ。気の修行の成果が大きく出ている二人は彼等が何者であるかは愚問に等しい。

 

 

「…渡しちゃ駄目だからね、リオ。」

 

「誰だか知らねぇが、お前等にやるモンなんて一つもねーよ。」

 

「全くその通りね…。」

 

 

毅然とした、凛とした、声の主達は由々しく立ち上がる。スバルとノーヴェ、ティアナは上空へと強い眼差しで三人組を射抜く。

キャロやルーテシア…そしてセインも続いて立ち上がればヴィヴィオ達も不安そうに互いに顔を見合わせる。

 

 

「どうやら実力の差がわかってないようだな。ザンギャ、遊んでやれ。」

 

「――はっ!」

 

 

既に展開は予想済み、ボージャックとザンギャの一言は驚くに値しない。後のスバルの言葉が戦いの合図と化す。

 

 

「……みんな、いくよ!」

 

「「「「セーーーーットアーーーーップ!!!」」」」

 

 

凛とした透き通る声がキーワードを紡いで重なり合う、光輝する粒子は光と化してスバル達は専用の防護服を着用する。

 

 

「ウイングロード( エアライナー )ッ!!」

 

「「ブーステッドイリュージョン――……!!!」」

 

 

彼女達の足元に形成された魔方陣、殆ど同時に空中を螺旋状に展開する光の道。後者は空間を制圧するように入り混じり複雑な展開をしている。

やがて数秒も経たない内に出現する無数のティアナの幻影と橙色の弾丸、元々はティアナの幻術魔法でキャロの強化魔法によって幻影の精度は増している為、肉眼での判別は不可能だろう。

 

―――だが、ザンギャの放つ一撃が全てを終結させた。

 

 

「はあぁぁっ!!」

 

 

迫り来るスバルとノーヴェ、数々の弾丸を視界に捉えれば両手を左右に突き放ち波紋状に広がる衝撃破を撃ち放つ。

衝撃で湯が音を立てて空中を舞い台風の如く突風が荒れ狂う、想像以上の威力にヴィヴィオ達は言葉を失っていた。

 

 

「きゃあああぁぁぁぁあああっ!!!」

 

「うわあああああぁぁッッ!!」

 

 

スバルとノーヴェ、さらに後方支援のティアナとキャロは問答無用で壁を突き破り室外へと放り出された挙句に地面へと全身を強打させる。

変身魔法は強制解除して元の姿と化した傷だらけの彼女達にルーテシアとセインは怒りに表情を歪めていた。

 

 

「……もう終わり? 手加減してあげたのに大した事ないわね。」

 

「よくも、みんなを…うわあああぁぁっ!!」

 

「っ…! トーデス・ドルヒ……!!」

 

「ま、待って二人とも!!」

 

 

ヴィヴィオが声を上げた頃にはセインはザンギャに向かって走り出す、怒りに身を任せるようにルーテシアも魔法名を口挟み漆黒の短剣を次々と出現させる。

だがそれ等を妨害するように無数の糸がセインとルーテシアの身体を一気に縛り付けた、発光し続けるそれに驚愕し目を見開きすぐに解こうと全身に力を入れるが―――。

 

 

「これっ、解けない……!!」

 

「力が………。」

 

「ホホホホ…無駄だ。オレの生み出した結界でお前達のパワーは封じられた。」

 

 

嘲笑が響く、縛り付けられたルーテシアとセインは身動きを取る事すら間々ならず体力が結界を通じてブージンに吸い取られていく。

 

 

「もがけばもがくほどパワーが減っていくわよ。」

 

「ちっくしょう……!! お嬢、セイン………ッッ!!!」

 

 

苦痛に歪む二人は変身が解除されぐったりと項垂れる、ノーヴェの苦々しく吐き出す声に気付く素振りも無く二人は動かない。

――あっという間に危機的状況下に置かれ、現実感が沸かないヴィヴィオ達は呆然と立ち尽くして倒れた者達に目を配っていた。

 

 

「そん、な………っ。」

 

「お遊びは終わりだ。さあ、欠片をよこせ。」

 

 

勝ち目は一切無い、身を震わせて出す言葉が精一杯そうにコロナは後退りする。ボージャックが一歩踏み出すがリオ達は恐怖で膠着していた。

恐怖を押し殺し必死に思考を働かせるが目の前の現実が霞んで思考は纏まらない―――そんな中でヴィヴィオは一歩、ボージャックの前に出る。

 

 

「なんのつもりだ小娘。」

 

「っ…リオには、手出しさせません……!!」

 

 

両手を広げ、虹彩異色の瞳がボージャックを射抜いて立ち塞がれば兎のぬいぐるみも同様の行動を起こす。彼女の行動に表情を一変させるリオ達。

――"セットアップ"と小さく消えそうな声と共に光を纏い、ヴィヴィオは大人の姿へと変化する。それは即ち、宣戦布告。

 

 

「ほう、このオレを前にして抵抗する意志があるのは褒めてやろう。」

 

 

ボージャックは腕を彼女の背中に回して腹部に引き寄せるとヴィヴィオを締め付け始める、悪戯な腕力がヴィヴィオの背骨に降り掛かり骨を砕く勢いで力は増していく。

逃れようとヴィヴィオ自身も力を込めるが一向に動く気配が無い、途方も無い激痛と共に絶望が広がりヴィヴィオは悲痛の声を漏らした。

 

 

「うっ、あ……ぐ…ッ!!」

 

「くっくっく、いつまで耐えられるか見物だな。」

 

 

耐え切れない激痛に視界が霞み思考は乱れ始める、ヴィヴィオの意識は激痛で朦朧として目眩が過ぎり始める。歪む表情にリオ達の顔色は青ざめていく。

 

 

「ヴィヴィオ…!!」

 

「―――ヴィヴィオさんッ!!」

 

 

凛とした声が甲高く空間に反響する、物静かな彼女が珍しく叫ぶ光景だった。―――武装形態、小さく発した言葉の次にリオ達の視界に入り込んだのは碧銀の髪を持つ女性。

しかしボージャック目掛けて拳を叩き込む直前で発光する糸が彼女の動作以上の速度を持って絡み付く。一気に拘束されたアインハルトは構う事無く腕に力を入れるが異常な程の疲労感に戸惑いの色を見せ始めていた。

 

 

「ああああああああああぁぁぁぁっ!!!」

 

「ぐうッ! ヴィヴィ…オ…さん……。」

 

 

不自然に体力が奪われ意識を翻弄される中で耳に入るヴィヴィオの悲鳴、耳障りな不協和音が不快感と化して胸を抉る。故に、リオは叫んだ。

 

 

「…か、欠片……渡すよ!だから皆を放して!!」

 

「り、リオ………ッ、うあああぁっ……ぐぅっ…!!」

 

 

恐怖が胸一杯に支配する中の敗北宣言を口にするリオ、僅かに霞んだ声で自身の名前を呼ばれた彼女は泣きそうな顔でボージャックを見上げていた。

 

 

「もちろん欠片はいただく。このガキを始末した後にな。」

 

「う、あああぁぁああ、ぁぁああ…………。」

 

「もう止めてーーーッ!!」

 

「これで楽にしてやる…。」

 

 

唖然とするリオ達に悲鳴は殆ど耳に入っていない、視界に映り込む光景が絶望で渦巻き現実の喪失感を覚えさせる。

死が眼前に、絶望が眼前に、自身の親友が死に絶える悪夢は途方も無く長い。

 

 

 

(なのはママぁ……フェイト、ママ………。)

 

 

 

ヴィヴィオは再び子供の姿に戻る。この状況下を打ち破る術など無い、全て手遅れだと彼女達はそう思っていたが―――――。

 

 

 

 

「やめろおおおおおおーーーーーーっ!!」

 

「―――があああッ!!」

 

 

視界に入らない超速度は音が空気に震動する以上に速い、それは正真正銘の異常な速度。

故にリオ達の目の前に広がったのは突然ボージャックが吹き飛ばされた絵図。何が起きたのかわからずリオとコロナは呆然としてしまう。

 

 

「ボージャック様!!」

 

「でりゃああっ!!」

 

「ぐっ…!」

 

 

ボージャックの顔面に何者かの拳が叩き込まれた。ザンギャは驚いて目を見開き、ブージンは即座に迫り来るキックに対し両腕を交差させる形で耐え凌ぐ。

地面に傷跡を残し鈍い音を響かせて後退したブージンの目が捉えた物は、超サイヤ人化したトランクスの姿だった。――金色の髪に蒼色の瞳を持つ彼はリオ達が知る彼とは異なった雰囲気を持っている。

 

 

「と、トランクスくん……それに、悟天くんも…!」

 

「……ヴィヴィオッ!アインハルトさんっ!」

 

 

ボージャックの顔面に拳を叩き込んだのは遠方で着地する悟天の仕業だ、トランクスと同様逆立った金色の髪と碧眼の姿となっている。やがてブージンが体制を崩した事で結界は解かれ力を失ったアインハルトはぐったりと地面に倒れ込む。

心配そうにコロナが駆け寄っていく中でボージャックから解放されたヴィヴィオは悟天によって横抱きで担がれ優しげな声が耳に届く。

 

 

「あとはボク達に任せて…。」

 

「ご、てん…くん………。」

 

「オレ達がすぐにやっつけてやるから。」

 

「うっ……ぐ…はい………。」

 

「リオちゃん、コロナちゃん、みんなを連れて遠くに離れて。」

 

 

シャットアウト仕掛けの、朧な視界に写り込んだ悟天の顔、頼り気のない子供っぽい顔付きとは違う彼の表情を見据えて頷けば安堵感を抱いてヴィヴィオの意識は暗闇へと落ちる。

トランクスもアインハルトに一言告げ、振り向き様にリオ達へ言葉を投げれば彼女達は力強く頷く、後に悟天は瀕死状態のヴィヴィオをコロナに預け早々に浴場から姿を消す。

 

 

「なんだあのガキ共は…。」

 

 

ひりひりと傷付いた箇所が痛む中でボージャックは怪訝な表情を浮かべて立ち上がる。明らかに先程までの者達とは格が違う、故にボージャック達は警戒心が沸き上がっていた。

そして吹き飛ばされたスバル達もまた悟天達の行動を静観し続けている、傷付いた身体を魔法で癒しながら―――。

 

 

「とは言ったけど、相手は3人……しかもオレ達より強そうだよなぁ。」

 

「トランクスくん!フュージョンだ!!」

 

「……フュー、ジョン…?」

 

 

明るい声が響き渡る、彼等の言動にスバル達は思わず首を傾げていた。それはボージャック達も例外ではない、やがて後に取る行動がより一層謎を深くする。

 

 

「フュージョン……その手があったか! よーし、いくぞ悟天!」

 

「…あのチビッコども、何をする気だ?」

 

 

トランクスの掛け声を合図として左右対照に並んだ二人はダンスのように奇妙な行動を取り始める。ぽかん、と口を開けてスバル達は目をぱちぱちと瞬きさせて眺めていた。

 

 

「「フュー……ジョン!」」

 

 

空中に舞い上がっていた湯が降下し波紋が広がるが、二人の掛け声で瞬時に止むと同時に轟音が鳴り響く。

 

 

「「はあっ!!」」

 

 

――幼き声と指が重なった直後、暴風は突発的に発生する。悪戯に物体を吹き飛ばして湯を宙へ浮上させながら力は収束していく。

空間自体に負担が掛かるように膨大なエネルギーが二人を中心に収束して蒼白に輝く閃光が花火の如く刹那に発光しているのだ。

 

 

 

 

「ジャジャーン!正義の死神、スーパーゴテンクスだーーっ!!」

 

 

 

静寂を取り戻した先に爽快に現れたのは奇妙な衣装を身に着けた一人の少年。ゴテンクスと名乗る声は悟天とトランクスを重ね合わせた物である事にスバル達は驚愕する。

黄金に照り輝く炎を猛らせて出現した彼の登場によって戦況は劇的に移り変わろうとしていた―――。




悟空「オッス!オラ悟空!! ついにチビ達がフュージョンしたな、ボージャック達に負けんじゃねえぞ。」

リイン「わわぁっ!ユニゾンデバイスなしで融合しちゃいましたぁ~。」

ミウラ「わぁ~~カッコイイですッ!」

レヴィ「すっごーい! ねえねえ、後で僕達もフュージョンやろう!」

ディアーチェ「断る! 死んでもあんなみっともないポーズなどするか。」

シュテル「王に同感です。流石にあのポーズは恥ずかしくてできません…。」

アギト「ルールー達、大丈夫かなぁ。」

悟空「DragonballVivid「主役のお出ましだ! 融合戦士ゴテンクス!!」

ゴテンクス「へっへーん、誰がこの世で一番強いか教えてやるぜ!」


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第22話 主役のお出ましだ! 融合戦士ゴテンクス

「さっきの轟音は……!?」

 

「わからないけど、もう何か起きてるのかもしれない……。」

 

「なのはさん、フェイトさん、急ぎましょう!」

 

 

―――なのはとフェイトは悟天達に出遅れて合宿所に到着後、エリオとガリューに鉢合わせしていた。

早々に二人が口を揃えて言う事は温泉所が騒がしい事と念話が出来ない事、明らかに温泉所で異変が起きている事は明白でありなのは達の表情は雲っていく。

 

 

「皆、だいじょ―――……ッ!?」

 

 

廊下を走り抜け温泉所に辿り着いた途端、彼女達は絶句する。広大な浴室は浴室としての機能を失い既に損壊状態だった。

散らばる木屑、様々な部品の断片が地面に散乱する光景には混乱が伴う、故に彼女達が見通した光景も頭に入ってこない。

 

 

「…フェイトさん、なのはさん……?」

 

「エ……リオ、くんに、ガリュー……まで……。」

 

「スバルさん、ティアナさん……ッ!? 一体何が……!」

 

 

額から血液を流し傷だらけのスバル達と全く動きを見せないコロナに抱かれたヴィヴィオの姿―――フェイト達は急いで彼女達の下へ駆け寄っていく。

 

 

「ヴィヴィオ……っっ!!」

 

 

真っ先になのはは巾着袋を取り出すと一向に反応が無いヴィヴィオの口に仙豆を少々強引に飲み込ませる。

 

 

「ぅ、く……なのは、ママ…?」

 

「ヴィヴィオ、間に合ってよかった……!!」

 

 

急激に引いていく激痛に内心不思議そうに感じつつヴィヴィオは目を開ける、先にはなのはの顔。突然抱き締められ状況が把握できずヴィヴィオは呆然としていた。

 

 

「すごい、怪我がすぐに治った!!」

 

「不思議……!」

 

「なのはさん、アインハルトさんや他のみんなにも!!」

 

 

更に倒れているスバル達に次々と残りの仙豆を飲み込ませていく、怪我が目に見える形で癒えていく姿にフェイト達は驚愕の色を隠せない。

 

 

「あ、ありがとうございます……。」

 

「ところで、一体何が起きたの…?」

 

 

フェイトの問いにスバル達は顔を見合わせ視線は一定の方角へと示される、なのは達は反射的に彼女達が向ける方角へと視線を向け疑問符を浮かべた。

見知らぬ少年が襲撃したと思われる大男達と対峙している、その奇妙な構図に頭が即座に理解できずなのははスバルに説明を求めた。

 

 

「実はボージャックと言う大男とその仲間が突然襲ってきて…それで、対抗したんですがあたし達じゃ全然歯が立たなくて。そんな時、トランクスくんと悟天くんが駆けつけて…。」

 

「悟天くんとトランクスくんが戦ったの?」

 

「でも、二人の姿が見えないよ。」

 

 

なのはとフェイトより先に二人が温泉所へ到着した事は明確である故に姿がないことに疑問を感じる。そして次に紡がれた言葉が疑問を深める事となった。

 

 

「あ、いえ。その後、フュージョン……って言いながら不思議な踊りをして指を重ねたら二人があの姿になったんです。」

 

「「フュージョン…?」」

 

 

スバルが続けて口にした言葉になのはとフェイトは理解出来ず言葉に詰まってしまう、それはスバル達も同様の心境、故に困り果てた顔色を浮かべる。

悟天とトランクス――まるで二人を重ね合わせたような少年を目の前に彼女達は呆然と立ち尽くすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「さーて、どの技にしようかな~。」

 

 

険しい表情でボージャックの鋭い眼差しが金髪の少年へと射抜く、フュージョン―――そのキーワードが彼の脳内でグルグルと回転し続けている。

だが当の本人はその眼差しを完全無視してその場に座り込んで胡坐をかいては腕を組んで考え事をしていた。

 

 

「どうせならみんながビックリするようなのがいいし…迷っちゃうぜ~~。」

 

「………あのガキを殺せ。」

 

「はっ。」

 

「おい! ゴテンクスッ!!」

 

「危ない…!!」

 

「ごてん、くす……?」

 

 

悪意に塗れた低い声とコロナとノーヴェの叫び声が交差、消え入りそうなヴィヴィオの声を耳にした者は誰もいない。

駆け抜ける刹那にザンギャが跳躍して座り込んだままのゴテンクス目掛けて一蹴を仕掛ける。

 

 

「え? うわあっ!?」

 

「ちっ……。」

 

 

すぐにゴテンクスは体制を整え大きく飛び退く、結果的にザンギャの攻撃を回避して地面に着地。ホッとノーヴェ達は胸を撫で下ろし安心のため息を吐く等の各反応を見せる中で…。

 

 

「コラーーッ!!いきなり攻撃するなんて卑怯だぞ!!」

 

「ひ、卑怯って………。」

 

「…………。」

 

 

張り詰めた重圧な空気をぶち壊す一言だった、呆れた物言いで呟くティアナに同調する者は多い。拍子抜けな言葉を投げられたザンギャ自身は押し黙ったまま、ゴテンクスは続ける。

 

 

「オレさっきから考えてたんだからさ~、ちゃんと空気よんでよね。」

 

「……アイツ、バカだろ。」

 

「あの、アインハルトさん。あの人は誰なんですか? それに悟天くんとトランクスくんは?」

 

 

目が覚めれば見知らぬ少年の姿があり、逆に最後に見た悟天とトランクスの姿が何処にもなくヴィヴィオは疑問を口に出す。

 

 

「ヴィヴィオさん、信じられないと思いますがあの人は悟天さんとトランクスさんが融合した姿です。」

 

「……え? えええええぇぇっ!? ゆ、融合?」

 

「まぁ、そんな反応するわよね。」

 

「ゴテンクスくん、またくるよ!!」

 

 

慌てて声を上げるスバルの言葉が合図となり、ゴテンクスの眼前に現れたザンギャは拳と蹴りを幾度と無く繰り返す――だが一発も彼には命中しない。

おどけた態度に反する実力の持ち主、それが彼を印象強く際立たせボージャック達に焦りや戸惑いが走り抜けていた。

 

 

「わわっ!」

 

「ちいっ、チョコマカと…。」

 

 

軽々と避け続けるゴテンクスに苛立ちを募らせたザンギャは舌打ちと共に口を開く、対しゴテンクスは意に介した様子も無い―――少年特有の幼き声が響いた。

 

 

「こんにゃろ~~オバサン!もう泣いて謝っても許さないからね。」

 

「お、オバ…サン………っっ!!」

 

 

ゴテンクスに指をさされたザンギャは呆気な声を上げる、無性に込み上げる怒りに顔を歪ませわなわなと拳を震わせ眼前の少年へ大人気なく睨み付ける。

その険しい表層にヴィヴィオ達は身震いする最中、再びゴテンクスは奇妙な指示を口にした。

 

 

「おーい、みんなー!巻き込まれたくなかったら目を瞑っててーーーっ!!」

 

 

大声で叫んだ言葉は室内に何度も反響、疑問符を浮かべるなのは達はゴテンクスの意図を察する事が出来ない様子で一先ず目を瞑り始めた直後――。

 

 

「いっくぞー!天津飯さん直伝!!」

 

「はあああああああッッ!!」

 

 

ザンギャは咄嗟に疾走、地面を蹴り一気にゴテンクスとの間合いを詰める。絶叫と共に大気を突き抜けて彼女の拳は猛威を振るおうとするが、目前で対峙するゴテンクスの全身は刹那に照り輝く。

 

 

 

「太陽拳―――ッ!!!」

 

 

 

開いた両手を額に添えて自身も目を瞑る、意図が不可解な動作にザンギャを含めボージャック達にも動揺が駆け抜けて一瞬の隙を生んだ。

ゴテンクスの全身は発光し、まるで太陽のように輝き全体を巻き込む。突然の出来事に対応できずザンギャはその光に包まれていく。

 

 

「うおおおおお……ッッ!!」

 

 

―――苦痛で塗れた呻き声が零れ出す。両手を顔に覆い表情を歪ませ呻き声は木霊する、その後、光が消失し閉じた瞳を見開いたなのは達は目を疑った。

 

 

「目があぁ……!」

 

「ひっひっひ~。ほらほらー、こっちだよ~~ベロベロベー。」

 

「ど、どうなってるの………?」

 

 

心底満足そうに満面の笑顔を浮かべ舌を出してはしゃぎ出すゴテンクスの姿、一方的に苦しみ出し身動きが取れずに居るザンギャの姿。

ヒステリックな甲高い雑音が共鳴し合う最中でフェイトは困惑した声を上げる。ゴテンクスの指示通り目を瞑り、顛末を見損なった彼女達に状況は理解出来ない。

 

 

「バカなヤツめ………。」

 

 

苦しみ悶えるザンギャの姿にボージャックは吐き捨てる、ブージンと共にゴテンクスの指示を聞き逃さなかった彼等は太陽拳を見事に防いでいた。

――それは数秒の出来事、真っ暗な視界の中でザンギャは拳を、脚を、宙で振るう。ゴテンクスの気を認知して次々と殴る、蹴る、殴る、蹴る、殴る、だが一つも命中しない。

 

「こ、この…っ!」

 

「おっにさーんこちらー手のなーる―――ぐあっ!?」

 

 

上機嫌な幼い声と共に軽々しく、華麗に避け切るゴテンクスだがその隙を付いて糸が飛ぶ。避け切るゴテンクスを縛り付け確実に捕獲したブージンは嘲笑。

 

 

「ホホホホ……。」

 

「アイツ、何やってんだよ…!」

 

「な、なんか調子にのりやすいみたいだね………。」

 

「でも、このままじゃ…!」

 

 

スバルとノーヴェを含めて各反応を示す女性陣、ブージンが駆使する糸の効力を身に染みた彼女達にとって現状は危険以外の何者でもない。

 

 

「しまったー!ぐぎぎぎ…力が出ない~~……。」

 

「ホホホホ。」

 

「なーんちゃって。」

 

「………え?」

 

 

腕や脚に力を込めるが身動きが取れず焦りを見せるゴテンクスの表情には不釣合いな笑み、気味の悪さにブージンは目を丸くして、 ゴテンクスは動作を起こす。

 

 

「ほいっと!」

 

「―――なっ!?」

 

 

間抜けな声と引き千切れた声は重なる、赤い紐状の発光体は無残に空中分解して地面に転げ落ちて消滅。ゴテンクスがほんの少し、ほんの僅か、力を加えただけで。

あっという間の出来事にブージンは唖然として全身を引き攣らせる、なのは達も圧倒的な実力差に形容すべき言葉が見当たらず静観するのみ。

 

 

「だーはっはっはー! バーカ、そんな技オレには通じないぜっ!」

 

「す、すごい……!!」

 

 

反則及の実力を前にリオは感激の言葉と共にゴテンクスを見据える、爽快な笑い声を上げる彼に敵は居ない。勝敗は既に結果が見えているのだ。

 

 

「さてと、そろそろ飽きてきたし終わりにしてやるよ。」

 

「くうっ…。」

 

「ボージャック様……っ。」

 

 

それを身に染みたザンギャとブージンがゴテンクスに勝つ術は存在しない、敗北が前提下の戦い。彼等が敗北したのは幼い子供一人、身に染みる屈辱感に苛立ちを募らせてザンギャは後方を振り返る。

 

 

 

「銀河戦士の恥さらしめ、消えろ!」

 

 

 

二人が振り返った先にはボージャックと発光体―――消えろ、死の宣告は冷酷に響く。迫り来る発光体は二人の視界一杯に広がり出す。

動揺で身体が膠着し更に近距離の状況下で、発光体を回避する手立てが浮かばなければ"回避する"という思考も、彼等には無い。

 

 

「があああああああぁぁっ!!!」

 

「そんな…また裏切られ……いやああああああぁぁぁっ!!!」

 

 

轟音、悲鳴、爆煙――なのは達は一連の出来事に瞳孔を開いて目にした光景を疑う。信じられない、彼女達はその一言に尽きる。

 

 

「げげっ!? 仲間を殺しやがった…。」

 

「ひど、い……っ!!」

 

「自分の仲間を手に掛けるなんて…!」

 

「なんて奴………。」

 

 

煙が晴れた先にザンギャとブージンの姿は無い、ボージャック――想像以上の悪意を目の当たりにしてなのは達は息を飲んだ。非情、冷酷、残虐、それ等の言葉無しで彼を語る事は出来ないだろう。

 

 

「小僧! 貴様の実力は認めてやる。だが、それもここまでだ。」

 

 

低い声、不愉快さで胸を抉る彼の声。ボージャックが懐から取り出したのは蒼色の欠片、合計四つ。それ等を目視するなのは達は疑問符を浮かべた。

ボージャックの意図を読むのはなのは達にとって困難である―――突然、禍々しい膨大な気を体外へ放出し雄叫びを上げ出す彼に圧倒され立ち尽くすのみ。

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 

 

 

 

大気が震え地盤に亀裂が刻み込む、温泉所は忽ち崩壊の一途を辿る中で容赦無くボージャックが放つ気は周囲を掻き乱す。

暴力の渦、其れは無作為に存在する物体や障壁を破壊し尽くす所か更に肥大化して悪化し続けていく。地震、台風――人為的な自然現象は天変地異か何かだと錯覚を抱かされる光景だった。

 

 

「な、何が起きてるんだ…!?」

 

「っく……怪物じゃないの………。」

 

「みんな、吹き飛ばされないように気を付けて。」

 

「うわぁっ!石が……。」

 

 

リオは軽く悲鳴を上げて蒼色の欠片を見据える、照り輝く宝石を目の前に彼女は立ち尽くしたまま、膨れ上がる邪悪な気はより一層濃度を増すのであった―――。




悟空「オッス!オラ悟空!! 今度のボージャックは手強いぞ、油断するなゴテンクス!」

リイン「あっさりと仲間を殺してしまうなんて怖いですぅ…。」

アギト「まるで悪魔だ。」

ザフィーラ「戦局が再び傾きだしたな。」

シャマル「みんなの事が心配だわ。」

ヴィータ「ちくしょーっ!あたしが駆けつけられれば…。」

シグナム「無理だ。我々と奴では次元そのものが違う。」

はやて「今はゴテンクスくんを信じるんや!」

悟空「次回ドラゴンボールViVid『ぶっちぎりの頂上決戦! 超ボージャックVS超ゴテンクス』」

ゴテンクス「かんっぜんに怒った!」


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第23話 ぶっちぎりの頂上決戦! 超ボージャックVS超ゴテンクス

今回で連続投稿は終了です。次からは不定期更新となります。


突然、空中を浮上し眩い光を発す宝石の美麗さに目を奪われたなのは達は呆然とそれを眺め続ける。同時に不気味さも感じて安堵は出来ない、そんな中でアインハルトは不意にボージャックと宝石を見比べる。

 

 

「石がボージャックに反応しているのでしょうか…?」

 

「……どちらかというと持っていた石に反応してるんじゃないかな。」

 

 

轟音を上げて肥大化する渦は終息、静寂が包み込みその中心軸は改めて姿を晒す。赤髪に緑色の肌、更に両腕両足に宝石が埋め込まれた彼の眼光はなのは達へと射抜く。

 

 

「へへっ、いよいよ親玉の出番か。これで少しは楽しめそうだぜ!」

 

「この感じ……聖王教会の時と似てる。」

 

「うん…この禍々しい魔力はフリーザの時と一緒だね。」

 

「じゃあ、あの欠片は……。」

 

 

口角を歪めるゴテンクス、張り詰めた顔色を示すヴィヴィオ、自身の力に驚愕してボージャックは変貌した腕や手を眺めて、徐々に彼の表情には笑みを見せ始める。

 

 

「フハハハ、パワーが満ち溢れるぞ!」

 

 

宙を木霊する不気味な高笑の張本人を見上げて呆然とするスバル達、彼女達には勝ち目が無い事は周知の事実。――刹那、高笑が途切れる鋭い風切り音。

咄嗟に大気を突き抜けてゴテンクスはボージャックの眼前に現れる、そして瞬間移動したかのような速度を持って高らかに宣言する。

 

 

「スキありーーっ!! ダイナマイトローリングサンダーパーーーンチ!!」

 

 

小細工を凝らした訳でも有り余る力を注いだ訳でもない、即ち文字通り只のパンチ。せめて避けられないように空かさず殴っただけ。沈黙が場を包み込んだ。

 

 

「………。」

 

「あれ?」

 

 

腹部に塗り込んだ拳は的確に命中した事を示している、視認出来る範囲でそれは真実。関らず目を点に見上げるゴテンクスの視界に写るボージャックの顔は余裕に満ち溢れた物。

その程度か、と言わんばかりの彼の顔にゴテンクスは戸惑う。先程と違い過ぎる態度に誰もが驚かざるをえない、一先ずぐっと足元へと力を込める。

 

 

「それなら、スーパーデリシャスミラクルキーーーック!!」

 

 

突き出す脚、余りある力を悪戯に込めて大気を貫くソレは名前通り手加減無しのパワーだ。腹部に塗り込む手応えと同時にゴテンクスはニヤッ、とボージャックを見上げた。

 

 

「ゴテンクスさん……また遊んでるのでしょうか?」

 

「そ、そんな風には見えないけど…。」

 

 

断言出来ず曖昧な言い方をするスバルと上空を仰ぎ目を細めるアインハルト、彼女達の疑問は無理も無い。原因は全てゴテンクスにある。

微動だにせず立ち尽くすボージャックを目の前に引き攣った顔色でゴテンクスは思索した。可笑しい、何かが可笑しい、脳内で訴えるシグナルに耳を傾けても回答には辿り着けない。

 

手加減無しの力を込めた、間違いなく命中した、この二点の映像が突き刺さり冷や汗が額から滲み出す。―――ボージャック、彼に何が起きたのか?

 

 

(あ、あいつ顔には出してないけど相当やせ我慢してるな、きっと内心はオレにビビッてるはず…。)

 

「何か様子が可笑しいわね……。」

 

「コラーッ!!真面目に戦えーーーっ!!」

 

 

ザンギャやブージンの時と同様ふざけているように思えたのか地上からのノーヴェの罵声が空中まで響き渡った。

 

 

「もう終わりか?」

 

 

嘲笑する笑みと共に挑発文句、だがゴテンクスはまともに反応出来る程の余裕は既に無い、瞬時に間合いを取り拳を再び突き出す。

 

 

「…へ、へへん。今までのは準備運動だ、ここから本気でいくぜ!!」

 

 

刹那、何度も何度も拳を全身全力でぶつける際に叫んだゴテンクスの言葉にヴィヴィオ達は思考を停止、零れたのは失笑。

 

 

「スーパーミラクルショートケーキッッ!! ウルトラギャラクティックパフェ!! バーニングサンダーミルフィーユ!!! グレートハリケーンモンブラン!!」

 

 

動じる事無く涼しい顔色で見下ろすボージャック、ゴテンクスの一人騒ぎでしかない光景にリオは多少声を荒げて――。

 

 

「………結局遊んでるんじゃん~!」

 

「い、一応殴ってはいるけど……。」

 

「聞いてられないぜ………。」

 

 

心底呆れ返った声を上げる中でゴテンクスは最後の拳を放った後に弾みを付け間合いを確保する、息切れを起こしながら見上げた先に写るボージャックの顔―――不適切な笑み。

それを直視した途端に思考は完全凍結、心臓が五月蝿く鼓動を上げる中で確実にゴテンクスの胸中には動揺が走り抜けた。

 

 

「ふっふっふ……。」

 

「いいっ!? 全然効いてなかったり?」

 

 

ゴテンクスの予想を裏切ったボージャックは底知れぬ悪意を孕んだ嘲笑と共に両腕を組んで見据える、その構図は蛇に睨まれた蛙。

額に冷や汗を滲ませ現状の危機感がピークに達しかける刹那、ゴテンクスは何とも言えない引き攣った表情でボージャックを見据えていた。

 

 

「ねえ、ゴテンクスは本当にふざけてると思う?」

 

「うーん、わからなくなってきたかも。」

 

「でも、さっきはあんなに強かったのにあいつにはビクともしないのっておかしいよ。」

 

 

―――全く通用していない、ほんの僅かに浮かび上がる問いの回答にセインは無意識に額から冷や汗が滲み出る。

半信半疑で口にするルーテシアとキャロ自身さえ、その回答は違うと断言は出来ず押し黙る事しか出来ずにいた。

 

 

「やっぱりあの欠片の影響でボージャックの力が上回ったのかもしれない。」

 

「ゴテンクス、大丈夫かな…。」

 

 

不安げな顔色を見せて呟くフェイトとなのは自身さえセイン達に向ける言葉が見当たらず困惑の一色で瞳は揺れる。

 

 

「気が済んだか?」

 

 

低い声が響いてゴテンクスは言葉を詰まらせる、悪意を秘めた嘲笑を目の前に思わず彼は苦笑、返す言葉が見付からないのだ。

先程の攻撃は手加減無しの一撃、その一つ一つに渾身の力を込めて放った拳は全て効かないというデタラメな状況下、改めてそれを認識したゴテンクスは―――。

 

 

「あ、あははは……ちょっとターーーイム!」

 

 

バッ、と片手を突き出して抗議の声、背を向けて焦りを色濃く見せる彼に余裕は一欠けらも存在しない。だがその猶予も与えずに甲高い叫び声が鼓膜を揺らす。

 

 

「あぶない、ゴテンクスくん!!」

 

「ふんっ!!」

 

 

背を向けた直前に出来上がる月光を遮る巨大な人影、嫌な程に見覚えのあるシルエットを視認する以上に早く……。

 

 

 

 

「――がああああっ!!!」

 

 

 

 

幼い少年の背中に衝撃が駆け抜ける、視界内が浮動して吐き気が込み上がる中で成す術も無くゴテンクスは地面へと強風を巻き起こして急降下。

衝撃波が波紋丈に広がる中心部でゴテンクスは咄嗟に見上げる、幾度と無く続く甲高い発射音が鼓膜を揺らすと同時に視界に飛び込む無数の光弾――ゴテンクスの、瞳孔は大きく開く。

 

 

「はあああっ!!」

 

「ゴテンクスさん……!!」

 

「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」

 

 

アインハルトは思わず顔を背ける、誰もが目にし辛い光景が其処に広がる――幾度と無く無残な爆発音が宙を駆け巡って地面は酷い傷跡を残して尚も光弾の雨が降り注ぐ。

五月蝿く鳴り響く爆発音と爆煙が周囲を取り囲んで彼を視認する事は出来ず、又誰もがそれを食い止める事が出来ず呆然と立ち尽くしたまま時間は流れ続ける。

 

 

「あ…悪魔だ……。」

 

 

絶叫は轟音でかき消され爆煙でゴテンクスの姿は見えず、ひたすら膨大なエネルギーを凝縮した光弾が滑空する中でエリオに次いでキャロやスバル、リオ達も感想を漏らす。

 

 

「ひどい………!!」

 

「いくらなんでもやり過ぎだよ……。」

 

「ゴテンクスくんが死んじゃう!!」

 

 

ヴィヴィオは咄嗟にクリスを掴みそれを掲げ、アインハルトは魔方陣を足元に浮上させ始める、突発的な動作になのは達は目を奪われながらもそれ等は光り輝き始める。

 

 

「……もう我慢できないッ!セイグリッドハート!!」

 

「武装形態―――。」

 

 

甲高い掛け声と凛とした声が交差して光の粒子が空中上に次々と形成されていき、空中を漂う粒子は彼女達を包み込んでいく。

バリアジャケットへと衣装を変化させた途端に大人モードの二人の姿が現れ宙を駆け抜けていく―――舞空術、つい最近習得した術によって彼女達を空中へと駆け上がらせる。

 

 

「ダメッ、二人とも……!!」

 

 

虹色の魔方陣が夜空を照らし出す中でヴィヴィオは真正面の敵を射抜く、湧き上がる激情を込めて自身の眼前に魔方陣を出現させ激情と共に魔力は其処へ一点集中していく――。

アインハルトも同様に先程の悲惨な映像が脳内でループし続ける中で拳に全てが込められ始める、二人が狙うのは言うまでも無く彼女等、彼等をほくそ笑んだボージャック。

 

 

「一閃必中!ディバイン…バスタぁぁぁぁーーーッッッ!!」

 

「覇王、空破衝ッッ―――!!!」

 

 

ヴィヴィオの拳とアインハルトの拳が双方に突き出す、轟音が轟くと共に虹色の砲撃が暗闇を突き抜いて、衝撃破が大気を震感させてボージャックへと放たれる、が――。

 

 

「ジャマだ!」

 

 

手の平を広げ邪悪に光輝するエネルギー弾、なのは達が視界に収める事さえ出来ない速度でそれは出現して真っ向から二人へ鋭い発射音を響かせ打ち放たれる。

―――両者の攻撃が衝突する瞬間、だがヴィヴィオとアインハルトの一斉攻撃は互角にボージャクと渡り合う事すら叶わずあっさりとエネルギー弾が砲撃と衝撃破を掻き消していく。

 

 

「ヴィヴィオ…ッ!」

 

「アインハルトさん!!」

 

 

呆然と目を見開き、驚愕が勝った様子で二人は迫り来るエネルギー弾を見据える、リオとコロナの叫び声すら二人には届いていない。

脳内からの危険信号故に冷や汗が滲み始める、しかし二人は目の前の攻撃以上の速度で動く事も出来なければその反射神経も持ち合わせていない。

それは抗えない死が迫っている事を暗示している。死ぬ、死ぬ、死、死、死――瞳孔を開き死を受け入れる間近―――にも関らず、それ等の思考を全てシャットアウトさせる程の絶叫が木霊した。

 

 

「―――だあああああっ!!」

 

 

シルエット、幼い少年の形をしたシルエットがエネルギー弾内で映し出される、それは蹴る動作と共にエネルギー弾が方角を変えて虚しく宙を再び滑空する。

 

 

「なんだと!?」

 

 

大地が震え上がる程の爆発が後に響く、ボージャックは目の前で起きた光景を受け入れることが出来ず呆然とその先のヴィヴィオとアインハルト達の前に佇む少年を見据えていた。

だがそれはほんの数秒の出来事である、再び落ち着きを取り戻したボージャックの思考はその少年を知る事になる。――ゴテンクス、彼が再びボージャックの前に佇んでいるのだ。

 

 

「あいつ子供相手に大人気ないよなぁ~~。」

 

「ゴテンクスくん……ッ!!」

 

「無事だったのですね。」

 

 

金色の髪を腰まで伸ばし姿を変えて現れた少年ゴテンクスは不満を零しながらボージャックを見据える、安堵の溜め息を漏らすヴィヴィオとアインハルトには自然と笑みが浮かび上がっていく。

ゴテンクスは地上に居るなのは達へ視線をおくれば二人と共に其処へ降り立つ、それを見たなのは達は緊張の糸が切れたように和やかな雰囲気になって三人へ駆け寄る。

 

 

「ヴィヴィオ、アインハルト…!!」

 

「ふぇ、フェイトママ…!?」

 

「…あ、あの、えっと……。」

 

 

真っ先にフェイトは二人に駆け寄って抱き寄せる、驚くヴィヴィオと戸惑いの色を顔に浮かべるアインハルト。

 

 

「二人とも怪我が無くてよかった……。」

 

「本当にどうなる事かと思ったわ。」

 

「バカヤロー、心配かけさせやがって……ん、お前ゴテンクスか?」

 

 

キャロとティアナは二人の姿を確認すると同時に胸を撫で下ろしたり安堵の溜め息を漏らす等の各反応を示す、その中で後方に佇む見慣れない少年を目にしたノーヴェは数秒考えた上で浮かんだ名前を口にする。―――ゴテンクス、彼女達が知る姿とかけ離れた容姿の少年になのはは首を捻る、その気持ちは他の皆も同様の物である。

 

 

「なんだか、さっきと姿が変わってるような気が……。」

 

「姿だけじゃないぜ。今のオレは―――」

 

「―――みんな無事か!!」

 

 

ゴテンクスの言葉を遮る突風、突然突風を撒き散らすそれは空中を浮かぶ二人の男による物。なのは達は上空を見上げてその本人を視界に留めると思わずなのはの顔が綻ぶ。

 

 

「悟飯くん!ピッコロさん!!」

 

 

悟飯とピッコロ、彼等は静かに地へ降り立って遥か先の前方にいるボージャクへと視線は向けられる。

それをまじまじと見据えた後に二人の顔色は良くない物へ、眉を下げて目を細める顔は明らかに状況の異常さを察した物だ。なのは達は思わず息を飲んで彼等を見守る。

 

 

「…あれがボージャックか、以前よりも遥かにパワーが増している。」

 

(ボージャックから感じる邪悪な気…間違いない、あの時のフリーザと同じだ。だとしたら―――。)

 

 

顔を顰め始める二人、同時にゆっくりとボージャックは悟飯達へと歩み寄っていく。緊迫とした雰囲気と化して嫌な汗が額から流れる中でボージャックは静寂を切る。

 

 

「悟飯……まさか貴様はあの時の小僧か…。」

 

「そうだ。ボージャック、お前の仲間はボク達が倒した。」

 

「残ったのは貴様だけだ。」

 

 

静かな声、それでいてプレッシャーが圧し掛かる邪悪な声。―――不意にボージャックから飛び出るあの時の小僧、その言葉の真意をなのは達は理解できず疑問符が浮かぶが今は其処に構うほどの余裕も無い。

生か死か、叩き付けられる選択肢を前に嫌な心臓がドクドクと鼓動する。計り知れない緊張感と不穏さがなのは達を渦巻く中で、ボージャックは不敵に口元を緩ませて――。

 

 

「ふっふっふ…面白い、貴様にはあの時の恨みを返さなければならん…――簡単には死なさんぞ!!」

 

 

宣戦布告、互いに睨み付ける両者の間に戦意や殺意がぶつかり合う直前に、場にそぐわぬ幼い声が鼓膜を揺らした。

 

 

「おい、オッサン! オレのことを忘れるなよ。」

 

「オ、オッサンって……。」

 

 

ボージャックは金色の髪を持つ少年、ゴテンクスへと視線を向ける。それは見下すような視線で、思わずなのは達は今までの緊張感が途切れたような呆れ返った様子でゴテンクスを見る。

 

 

「あれだけ痛め付けられたのによくそんな事が言えたモンねぇ……。」

 

「ゴテンクスくんって怖い物知らずだよね…。」

 

「あはは、ある意味凄いとは思うけど…。」

 

「そこっ、褒めたり関心するトコじゃない!」

 

 

物怖じせず睨み付けるゴテンクスを前に呆れて見ていられない風に口にするティアナの隣でキャロとエリオは苦笑、更に横のルーテシアが咎める。

そんな生死の境目とは思えぬ会話に思わず苦笑を漏らすなのは達の注目の的はピッコロと悟飯へ振り返り、きっぱり口に出して言う。

 

 

「そういうわけだから兄ちゃんとピッコロさんはヴィヴィオちゃん達と見学してて。」

 

「お前、何勝手なことを…!」

 

 

怒り心頭の様子でピッコロは怒鳴り付ける勢いでゴテンクスと対峙する、その横で悟飯は一歩前に出て静かな声を響かせる。

 

 

「…勝算はあるのか?」

 

 

戦いにおいて最も重要な要素、それを投げ掛けた直後にゴテンクスの頬は緩み緩んでいく、何か言いたげに大きく息を吸い込み、そして―――。

 

 

「トーゼン!1分…いや、30秒でケリをつけてやるぜっ!!」

 

「「「「30秒!?」」」」

 

 

大胆に宣言した30秒宣告、ふざけてる、誰もがそう感じたなのは達の声は重なる。ヒソヒソと耳打ちする声とざわつきがそれを尚更物語っていた。

 

 

「あんなに苦戦してたのに30秒で倒すなんて無理だよ…。」

 

「やっぱり悟飯さんに任せた方が……。」

 

 

不安げに顔を見合わせて小声で喋り続ける一同、これで負けたりすればゴテンクスの命が奪われる。安易な選択は出来ない、お茶らけたゴテンクスを見れば見るほど不安は募っていく。

視線の的はやがて悟飯へ、今一番に期待されている人物は険しい顔付きで考え込みながらゴテンクスを見下ろす。決断、それが迫られている故に彼は口を開く。

 

 

「わかった、ここはゴテンクスに任せる…。」

 

「……仕方あるまい。だが、危険だと判断したらすぐに悟飯と交代だ。」

 

 

悟飯とピッコロの言葉を聞くと一同は黙り込む、静寂が再びなのは達を包み込む中で意を決したように互いに顔を見合わせては最終的にゴテンクスへと。

 

 

「ゴテンクスくん、絶対に死なないでね!」

 

「死んだら許しません……。」

 

 

ヴィヴィオとアインハルトの声に続いて次々とキャロやエリオ、スバルやルーテシア、なのはとフェイトと次々と声が続いていく。頑張って、油断したらダメだよ、無理ならすぐに引き換えしてね、そんな直向な言葉が飛び交いゴテンクスはニカッと少年らしい笑顔を向けて。

 

 

「サンキュー! みんなの声援受け取ったぜ!」

 

 

全員の声援を送られ改めてゴテンクスはボージャックへと振り返る。先程の話を一通り耳にしていたボージャック自身は不愉快そうに眉を顰めていた。30秒宣告は自身が舐められている証拠であり気に触る発言でもある。

だが其処で怒り狂い吠えるほどボージャックという男は器の小さい男ではない。ボージャックも相応の自信がある、己の強さに。敵の30秒宣告は自分を舐めていたと認識させてやればいい、それだけの事。故にボージャックは自分にゆっくりとした足取りで近付く少年に無闇に吠える事は無かった。

 

 

「30秒でオレを倒すだと? ふん、くだらんハッタリだな。」

 

「ハッタリかどうか見せてやるよ…―――これがオレのフルパワーだ!!」

 

 

罵る言葉を言い返せば突然ゴテンクスの全身から金色のオーラが放たれる、青色の稲妻と共に迸るオーラは甲高い音を鳴り響かせ大地を抉り取り始める、轟音、耳障りな轟音が少年らしからぬゴテンクスの力強さを語る。

金色の髪が空中を漂い始めボージャックも同様に戦闘体制を取る、異様な雰囲気に包まれる両者は突然にして地面を蹴り、蹴られた地面は一気に陥没して、二人の異様さを表す。

 

 

「「はあああああああああっ!!!」」

 

 

叫び声が鼓膜を揺らす直前には二人はぶつかり合う、だがそれは残像に等しくそれが目に見えた直後であちこちに勃発する衝撃破と衝突音、目に見える二人の姿は其処に居る訳ではなく其処に居たという過去を現す物。

視界に収める事も出来ない超人的スピードを目の前にスバル達は呆気に取られるしか無くその見えない光景を見るばかり、甲高い衝撃破が地面を抉り取って突風を巻き起こす。突風は暴風となり衝撃破となり有り得ない破壊力を持って、ゴテンクスとボージャックの周辺物を全て破壊していく。

 

 

 

「ふわぁ~……。」

 

「凄い、戦いだね……。」

 

「僕達とはレベルが違い過ぎる…。」

 

「どっちもバケモノじゃない…。」

 

「リオ、見える?」

 

「見えるわけないよー!」

 

 

空中で次々と連鎖的に巻き起こす轟音――、キャロ達は空いた口が塞がらない様子でぽかーんと目を点にそれを眺めるばかり。

 

 

「うおおおおおおおおっ!!!」

 

「だだだだだだだだだっ!!!」

 

 

互いにエネルギー弾を両手から次々と発射し続けその両者の間で爆発を幾度と無く繰り返し続け、地面が抉れ強風が襲い掛かる中で突然として爆発は止んでしまう。

その爆煙の中から姿を現すボージャックは酷く体力を消耗した様子で肩で息をしながらゴテンクスを睨む。歯を食い縛り、何か理解できないような、怪訝な顔色を浮かべながら。

 

 

「はぁ…はぁ……なぜだ。急に力が……。」

 

 

やがてボージャックは表情を一変させて上空へと顔を上げる、その先には両腕をクロスするゴテンクスの姿。

 

 

「これでトドメだ! スーパーゴーストカミカゼアターック!!」

 

 

腕を解き顔を真上に仰げば口から次々と無数に飛び出す白い何か、それは顔面がゴテンクスの顔で出来た物体でそれを見たヴィヴィオ達はぽかーんと何を言えばいいかわからず立ち尽くしており。

 

 

『『『『ひっひ~、オバケだぞ~怖いぞ~~。』』』』

 

 

オバケ、とも言える白い物体が次々と姿を現してなのは一同は再び互いに顔を見合す、魔法とはかけ離れた技に何と言えばいいかわからないといった風に。

 

 

「な、なにあれ…。」

 

「ゴテンクスくんの顔をしたオバケがいっぱい出てきた!」

 

 

複雑そうに眉を下げて見つめるルーテシアの隣でヴィヴィオは叫ぶように口にする、ゴテンクスの顔を持つ白い物体は次々とゴテンクスの指示を受けて逃げ道を塞ぐようにボージャックを取り囲んでいく。

一方、ボージャックは気を溜めることで必死になりながら目の前に襲い掛かる白い物体が近付く事に気付いて悔し塗れに拳を強く強く握り締め――。

 

 

「あいつ本当に30秒で倒すかもしれんぞ…。」

 

「決めろゴテンクス!」

 

 

迫り来る白い物体、数え切れない程の沢山の物体を前にボージャックは憎々しげに睨み付けて腕を構えて戦闘体勢へと戻る。

 

 

「みんなが受けた痛みを思い知れ!」

 

(悟天くん…!)

 

(トランクスさん…!)

 

「くっそおおおおおーーーーーーーっ!! 」

 

「オバケ全員まとめて突撃ーーーーーーーーーッ!!!!」

 

「「「「いっけええええーーーーーーー!!!!」」」」

 

 

無数の白い物体がボージャックに狙いを定める目前、ヴィヴィオ達はその現場を見て声援を送りながらそれは迫り行く―――!

咄嗟にボージャックは声を荒げながら両手から強大な威力を誇るエネルギー弾を発射、滑空するエネルギー弾は白い物体とぶつかり合い爆発を繰り返していく、が。

圧倒的な数の不利、全てを相殺し切る事は出来ず爆煙の中から姿を現す白い物体は酷く体力を消耗したボージャックへと臆する事無く降り掛かり――。

 

 

 

 

「―――ぐ、おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

 

 

 

着弾、爆発、その現象が次々と数え切れないほどループする中で轟音に紛れて絶叫が響き渡り…最後に姿を現したのは、キラキラと照り輝いた数個の蒼い欠片だった。

 

 

 

 

 

「この欠片……やっぱりあの時のロストロギアだよね。」

 

「だとしたら他にも散らばっているかもしれない。」

 

「帰ったら欠片の探索をせねばな。」

 

 

 

なのは達はボージャックが消滅して地面に落ちた複数の蒼い欠片を拾うと、すぐに其れがフリーザが吸収したロストロギアと同一の物だと判断し、確認を行って貰う為にカリムに報告する。

又、戦闘を終えたゴテンクスは、ボージャックを倒した直後に悟天とトランクスへと分離。ピッコロの話だと彼等の気がまだ不安定な為、互いのバランスが崩れて短い時間でフュージョンが解けてしまったのではないかとの事。

 

 

「へへっ。ま、こんなもんかな。」

 

「ヴィヴィオちゃーん! 敵やっつけたよ~~!!」

 

「うん! 本当に凄かったよッ!」

 

「あ、ダメです!ヴィヴィオさん…!」

 

 

 

元の二人に戻った事にヴィヴィオ達は安堵の笑みを浮かべて駆け寄る。ヴィヴィオも二人の元に駆け寄ろうとするがアインハルトに腕を掴まれ此処が温泉で自分達がタオル一枚しか身に着けてない事を指摘されれば、顔を真っ赤に染めて悟天とトランクスを追い出す始末。

 

――――こうして悪夢の夜は終わり、いつもの穏やかな日常が戻ってくるのであった…。



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過去からの復讐編
第24話 親子の団欒、超戦士と魔導師の休日


どうもお久しぶりです。色々あって更新が遅れてしまいました。
とりあえず、知り合いからの意見で文体を自分なりに柔らかくしてみました。
その為、描写も若干薄っぺらくなってるかもしれません。それについてはまたおいおい治していこうかと。

さて、今回から新章に入ります。それに伴い登場キャラが更に増加。
誰が登場するかはその目で確かめてください。それでは本編にどうぞ~!




「また失敗したのか…。」

 

「あいつら自分勝手すぎるのよ!折角生き返らせてあげたのに。」

 

 

薄暗い廃墟の中、不穏な空気に包まれながらフードを被った男女が呟く。彼等は聖王教会襲撃事件後、人が近寄らないであろう廃墟となったビルの中を拠点として活動しており球体状の玉からゴテンクス達の戦いを一部覗いていた。

 

 

「それにしても、フュージョンというものは厄介だな。二人の子供が一人になるだけであれだけの力が発揮されるとは…いや、元々二人の子供のスペックが高かったのか。」

 

「うぅ~~でも生意気すぎて見てるだけで腹が立ってくるわ。」

 

 

彼等の着眼は“フュージョン”に向けられていた。聖王教会では悟空や悟飯と比べてそれほど脅威と思えなかった悟天とトランクスだが、フュージョン後は魔導師達を苦しめたブージンとザンギャを軽くあしらい、欠片を吸収してパワーアップしたボージャックを遥かに凌ぐパワーとスピードと技で圧倒…もはや二人の実力を認めざるを得ない。

 

 

「…どちらにしろ我々は他の欠片を集める事が最優先だ。奴等が持つ欠片を奪うのはその後でも遅くない。」

 

「ええ、向こうはまだ半分も集まってはいないだろうし。今度は血の気がない奴を呼び出しましょ。と言ってもどんな奴が出るのかは運任せだけど…。」

 

「ならば、できるだけ大勢の死者を復活させた方がいいだろう。」

 

「わかったわ兄様。―――ナナ・クリスターの名の元に…さあ、蘇りなさい!」

 

 

女性の発声と共に杖に付属された真紅の宝石が光を放つ、すると複数の魔法陣が出現し邪気を持った死者達が現世へと形を成すのだった。

 

 

 

 

―――ボージャック一味の襲撃から早くも時の流れが加速する。あの悪夢の夜以降、悟飯達は新たな敵が狙って来る可能性を考え常に警戒しながら過ごしていたが、結局敵の襲撃は一度もなく多少日程が狂うも無事に“一週間”の合宿を終えてミッドチルダへと帰還した。

 

 

「これと、これ…あとそれも…っ!」

 

「うわぁ~凄い気迫だな……。」

 

「ねえねえ、まだ終わらないの?」

 

「あの様子だともう少しかかりそうかも…。」

 

 

それから数日後、悟飯達はデパートへ買い物に来ていた。食材、衣類、家具、雑貨と購入するものが多く悟飯の両手は包装紙にラッピングされた箱の山で埋もれ、悟天の両手にも大量の紙袋が握られている。

その原因を作らせたなのはは現在も“安売りセール”と書かれたエリアで他の客達と衣服の争奪戦を繰り広げており、そんな母親の姿にヴィヴィオは苦笑を浮かべながら戻ってくるのを待っていたのだ。

 

 

「悟飯くん、これお願いッ!!」

 

「わあっ!とととと……。」

 

「「「「おおおおぉーーっ!!」」」」

 

 

なのはが投げ渡した箱をバランスよくタワー状に積まれた箱の上に乗せると周りの客達からパチパチと拍手が送られる。

 

 

「うーん、あまり良いのがなかったかな

…。」

 

「お帰りなのはママ!」

 

「ははは、また今度来た時に買えばいいよ。」

 

 

会計を済ませて戻ってきたなのはを笑顔で出迎えるヴィヴィオ、悟飯も少し疲れた様子で彼女に言葉を投げ掛けつつ内心では買い物が終わった事にほっと安堵していたが―――

 

 

「じゃあ、次はフェイトちゃんの下着と服だね。」

 

「いいっ!? まだ買うの!」

 

「ボクお腹空いたぁ~。」

 

 

なのはの発言に思わず声を上げて驚けば荷物を抱えたままバランスを崩しそうになる。悟天はぐったりした表情でその場に座り込む、空腹の音を周囲に響かせながら。

最終的には次の買い物が最後で終わったら昼食にすると言うなのはの一言で二人に気力が戻る――――が全ての買い物が終了したのは今から数時間後の事であった。

 

 

 

 

 

 

「だからさぁ~こっちのカレー屋に行こうよ!」

 

「いいえ! あっちのハンバーグ屋さんに行くんですッ!」

 

「てめーら!!いつまで揉めてんだよ!」

 

 

買い物を終えたなのは達がレストラン階に向かうと人だかりに溢れており、何事かと思えば幼い少女達の声が耳に届く。

 

 

「あれ? 今の声って。」

 

「どこかで聞いた事あるような……。」

 

「兄ちゃん、この気…。」

 

「うん、間違いないだろうな。」

 

 

少女達の声に聞き覚えがあるなのはとヴィヴィオは気になって人込みをかきわけながら前へと進んでいく、悟飯と悟天も人だかりの奥に感じる気の正体にきづき彼女達の後を追う。その先には言い合いを行う青い髪を二つに分けた少女と桃色に近い短髪の少女、二人の間で青筋を立てて苛立ちを露にする赤髪の三つ編みの少女、そして四方八方に伸ばした黒髪の男性が困った表情で二人に目を配らせていた。

 

 

「ゴクウもカレーの方がいいよね?今なら水色ソーダがつくんだよ。」

 

「師匠! ハンバーグ屋さんだとスイーツ食べ放題なんですよ。」

 

「オラ、メシさえ食えりゃどっちでも構わねえんだけどな~。」

 

言い合いを行っていた少女達は互いに男性の腕を掴んでぐいぐいと引っ張りだす。痺れを切らした赤髪の少女は再び口を開こうとした時…。

 

 

「ヴィータちゃん!」

 

「と、ちっちゃいフェイトママ…?」

 

「やっぱりお父さんだったんですね。」

 

「お父さん!!」

 

 

名前を呼ばれた彼女が振り向けば見知った人物達が視界に入り込み目を見開く。言い合いを続けていた二人の少女達も声に反応して騒ヴィータと同じ行動を取る中、黒髪の男性は嬉しそうに彼等に歩み寄り。

 

 

「よう! 悟飯、悟天。おめえ達も来てたんか。」

 

「なのは!? なんでお前等が此処に……。」

 

「僕はオリジナルじゃない!レヴィ・ザ・スラッシャーだ!!」

 

「え、えっと…どちらさまですか?」

 

 

悟空、ヴィータ、レヴィ、ミウラの四人はそれぞれ四者四用の対応で返すのだった。

 

 

 

 

 

 

なのは達と遭遇した事で騒動が沈静化し周囲のギャラリーも買い物へと戻る、悟空とヴィータは悟飯となのはに現在に至るまでの経緯を説明し状況を読み込めたなのはがそれなら二つの料理が食べられる店ならどうか?との提案で彼等はファミリーレストランで落ち着く事になったのだ。

 

 

「「「ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ!!!」」」

 

「パクパクパクパク!!」

 

「み、みなさん凄い食べっぷりですね。」

 

「見てるだけでお腹いっぱいになりそう…。」

 

 

軽快な音と共に積まれる皿の山、その速度は異常とも言える程で皿を回収しに来た店員及び周囲の客達までも目を丸くしていた。その対象の一人に入るレヴィは10皿目を平らげた所に対し、悟空、悟飯、悟天の孫親子は更に数十倍の皿を天井に届くかと思われる程積み上げていく。

 

 

「ふぅ~なのはがいてくれて助かったぜ。」

 

「にゃはは…貰った物なんだけど役に立ててよかったよ。」

 

 

ヴィータはなのは達と出会えた事に胸を撫で下ろす。ミウラ達の騒動ですっかり悟空が大食いだと言う事を忘れていたのだ、それでも彼女達が余裕を持って食事ができるのはなのはが持っていた「無料食事券」のお陰である。もし、彼女達と出会わずにこのまま店に入っていたら間違いなく会計がとんでもない額に達していただろう。

 

 

「悟天くん、口元にご飯粒ついてるよ?取ってあげる。」

 

「ん、ありがとうヴィヴィオちゃん。」

 

「味は悪くねえけど、やっぱはやてやディアーチェが作るメシの方がうめえな。」

 

「トーゼンだよ!王様が作る料理は世界一だからね。」

 

「ボクもたくさん食べれば師匠みたいに強くなれるかなぁ。」

 

「止めとけ。腹壊すし、絶対太るだろ。」

 

「でも、悟飯くん達は何故か太らないんだよね~。」

 

「んんっ!な、なに…?」

 

 

女性の悩みの一つである体重、スタイルを気にしてるのか比較的ヘルシーな料理しか食べてないなのはが呟けばミウラとヴィータとヴィヴィオは男性陣の体系に目を凝らす。

今までも何度か大量の料理を口に運ぶ様を目撃してきたが体系は変わらず。あれだけの量を食べているのに全く太らないのは反則だと言わんばかりに女性陣は恨めしそうに彼等を眺めていたのだった。

 

 

 

 

 

「あーん、また負けちゃったぁ~。」

 

「さ、三人がかりでも相手にならないなんて…流石、師匠の息子さんですね。」

 

「うー……もーいっかい!もーいっかい勝負だゴテン!!」

 

「いいよー。何処からでもかかってこーい。」

 

 

食事を終えた一行は屋上にある広場へと移動していた。悟天、ヴィヴィオ、ミウラ、レヴィの子供組は食事の際に交流を深めて現在はフリースペースで格闘戦を行っており、大人組は少し離れたベンチから子供達を見守る形で此処最近起こった出来事について話し合う。

 

 

「セインが言ってたぞ。合宿先でボージャック達に襲われたんだってな。」

 

「はい、リオちゃんが持ってた欠片を狙ってきました。けど、まさかボク達がいない間にミッドチルダにも現れていたなんて……。」

 

「ロストロギアの欠片でパワーアップか。はやてから聞いてたけど相当ヤバイ事になってるな。」

 

「カリムさんの話だとそのロストロギアには普通の物とは違うとんでもない力を秘めてるみたいなの。」

 

 

話題の中心となるのは地獄から蘇った死者。ミッドチルダではチルド達が、カルナージではボージャック一味が公に姿を見せたのだ―――何れも欠片を求めて。

 

 

「もしあの世の死人が全員蘇っちまったら大変な事になるんじゃねえか?」

 

「だから、そうならないようにピッコロさんが死者を蘇らせている黒幕を探しています。」

 

「黒幕さえ抑えておけばこれ以上死者が蘇る事はないだろうって。」

 

「なるほどな、そういう事ならあたしも協力するぜ。人数が多い方が探す手間も省けるだろ。」

 

「本当!? ありがとうヴィータちゃん!」

 

 

このまま放っておけば次々と新たな死者が蘇るだろう、いや既に現世に現れているかもしれない。どちらにしても黒幕を見つけ出して死者の介入を封じなければミッドチルダに安息の時は戻らないのだ。

ヴィータの協力の申し出になのはは頬を緩ませて軽く抱きしめる。彼女の行動に驚いたヴィータがじたばたと暴れて抵抗する様子を悟飯は苦笑を漏らして見守る隣で、悟空は腕を組み疑問の言葉を口に出す。

 

 

「でもよ、なんでフリーザ達は石の在り処を知ってたんだ?」

 

「え?それは黒幕から聞いてたんじゃ……。」

 

「…待って!カリムさんはあのロストロギアの存在は教会の一部の関係者にしか教えてないって言ってた。」

 

「おいおい、じゃあまさか――」

 

 

考えてみれば簡単な事だった。異世界の住人であるフリーザ達がロストロギアの存在と在り処を知っていたのは黒幕から聞かされた事でまず間違いない、この時点で黒幕は“なのは達の住む世界の住人”だと確証される。そして悟空の発言でなのはとヴィータの脳裏に一つの可能性が描かれようとしていたが――――

 

 

「な、なんだ!?」

 

「地震…!?」

 

「大気が震えている…。」

 

「なにかくるぞ!!」

 

 

彼女達の思考を中断させる出来事が発生する。突然、悟飯達のいる屋上に揺れが生じたのだ。その揺れが強かった為かなのはとヴィータは地震だと認識する中、悟空と悟飯は険しい顔付きで空を見上げる。

―――刹那、ドスンと響き渡る音と共に巨大な玉が落下。それは一つだけで終わらず、続々と音を響かせて落下していく…まるで隕石が降り注ぐかのように。

 

 

「レイジングハート・エクセリオン!」

 

「グラーフアイゼン!」

 

 

セットアップの掛け声と共に防護服を纏うなのはとヴィータはパニックに陥り悲鳴を上げる客達を出口へと誘導する、悟空と悟飯も分散して飛び散った瓦礫に巻き込まれて動けない客達を救助しつつ謎の球体を警戒していたが未だ何の変化も起きず。

 

 

「よし、これで屋上にいる客達は全員避難させたな。」

 

「そうだね。……あれ?ヴィヴィオ達がいない!?」

 

 

ずっと広場で遊んでいるとばかり思っていただけにヴィヴィオを始めとした子供組の姿が見当たらなければ、なのはは瞳孔を開き慌てふためいた様子で辺りを見渡す、暫くして救助活動を終えて戻ってきた悟空と悟飯にヴィヴィオ達がいなくなった事を伝えるのだが。

 

 

「ああ、悟天達ならさっき泣いてる子供連れて中に入ってったぞ。」

 

「……ええっ!? 悟空さん!なんでそれを早く言ってくれなかったんですか!!」

 

「泣いてる子供? 迷子ですかね……。」

 

「逆にあいつらが迷子になるんじゃねーか?。」

 

「と、とりあえずもうすぐ武装部隊が来ると思うから此処は任せてヴィヴィオ達の所に急こうッ!」

 

「おい、待てなのは!」

 

 

此処が首都クラナガンである以上、今回の騒動は早急に地上本部にも届くだろう。念の為にスバル達にも連絡を入れると自分達の役目は終了し、後は彼女等に引き継いでもらう事にしたなのははデパート内へと戻ったヴィヴィオ達が気掛かりなのか焦った様子で出入り口の方へと踵を返し、ヴィータも慌ててなのはを追いかけようとした足を踏み出した時……。

 

 

 

「―――あぶないっ!」

 

「つかまれ!!」

 

「「きゃっ…!」」

 

 

今まで沈黙を保ち続けていた巨大な球体が浮遊しなのは達へと襲い掛かる、咄嗟に悟空と悟飯は反応に遅れたなのはとヴィータの腕を掴んで空中へ避難するが球体は迂回して再び彼等目掛けて突き進む。

正面、背後、斜め、上下左右と多方面から勢いを増して迫りくる球体に大体の者は混乱、或いは行動を移すまでに時間が掛かるのだが、この場にいるのは幾千もの修羅場を潜り抜けてきた強者達。

 

 

「だりゃあっ!」

 

「はああっ!」

 

 

掠る事も許さず冷静な対応で全ての攻撃を回避し続けると即座に反撃を行う。悟空は拳を、悟飯は脚をそれぞれ球体の正面と背後に浴びせればバチバチと火花が散ってその場で小爆発を引き起こす。

 

 

「…っ、凄い爆発……。」

 

「あたし等はサポートに回った方がいいな。」

 

 

爆風の威力は高く建物にまで被害を与えかねないと判断したヴィータとなのはは防御魔法で被害を軽減させその間に残りの球体を悟空と悟飯が次々と撃破していく、そしてとうとう残り一つとなった。

 

 

「あと一つだね。」

 

「けど、なんかあっけなさすぎるきが……。」

 

 

大きさはあったものの球体の行動はただ突撃するだけ。自分達の力が圧倒的だったと言えばそれまでだが、悟飯は何処か納得できず疑問を感じていた―――本当にこれで終わりなのだろうかと。

 

 

「いいっ!?また空から降ってきたぞ!」

 

「しかもさっきより数が増えてやがる…。」

 

 

 

疑問の答えはすぐに出た。風を切るかの如く勢いが増して無数の球体が空から急降下してきたのだ。彼等の額から汗が滲み出る、回避しても球体の動作は止まらず幾度も幾度も執念深く追尾してくる。恐らくあの謎の物体は獲物を仕留めるまで止まらないだろう。

 

 

「たぶん、ここで倒してもまた増える可能性が高いです。」

 

「こりゃあキリがねえな。」

 

「空から降ってきたって事は上空になにかあるんじゃねーか?」

 

「調べてみる。お願い、レイジングハート。」

 

 

ヴィータは球体が空から降ってくる事から上空になにかあるのではないかと推測し、なのははエリアサーチを発動させ無数の端末を周辺に飛ばす、すると直ぐに映像が映し出されて。

 

 

「見つけた!遥か上空に黒い物体が浮いてるよ。でも強力な結界が張られてこれ以上は近づけないかな…。」

 

「結界か…だったらあたしの出番だな。なのは、こっちは任せた。」

 

 

ヴィータの考えが読めたなのはは小さく頷くも不安が残る、彼女がこれから行おうとする事は十中八九“結界の破壊”。しかしヴィータは回避に集中している悟空の手を引っ張り。

 

 

「悟空!お前の馬鹿力であたしを上空に思いっきりぶん投げてくれ。」

 

「ヴィータちゃん?」

 

「変な事言ってるだろうけど、飛んで移動するよりそっちの方が速い気がするんだ。」

 

 

普通なら到底無理な事だが自分達と異なる世界から来た彼等の人間離れした力はさっきの出来事も含めて既に何度も見せつけられており、特にミッドチルダを破壊する程のエネルギーを跳ね返す光線を放った悟空の姿は今でも印象に残っている。

故にヴィータは自分達が不可能だと思う事でも彼等ならできてしまうのではないかと結論にいたり悟空に頼む。

 

 

「わかった、思いっきり投げりゃいいんだな?」

 

「だ、ダメですよ!お父さんが本気で投げたら宇宙まで飛ばされちゃいます!」

 

「それは流石に……あり得るかも。」

 

 

人間離れしているからこそその可能性は捨てきれない、何より息子の悟飯が慌てて忠告しているのが事実で想像するだけでヴィータの顔は徐々に青ざめ。

 

 

「……悪い、やっぱり軽く投げてくれ。」

 

「軽くだな。よっと…じゃ、いくぞ!」

 

 

悟空は片手でヴィータの背中を支えながら持ち上げると「そりゃ!」と天高く放り投げる。投げられたヴィータの体は一気に急上昇していき彼女の予測を超えるスピードであっという間に雲の中へと突入するのであった。




(次回予告)

悟空「オッス!オラ悟空!! なんなんだありゃ? 倒してもまた増えちまうぞ。」

悟飯「なにか策略的な物を感じますね。」

なのは「なんだろうこの胸騒ぎ…ヴィータちゃん大丈夫かな。」

フェイト「ヴィヴィオ達も心配だよ。やっぱり休みを取ればよかったかな。」

シグナム「悟空、みんなを守ってくれ。」

悟空「次回ドラゴンボールVivid「仕組まれた罠、魔導師絶対絶命の危機!?」」

ヴィータ「ち、ちくしょう……。」


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第25話 仕組まれた罠、魔導師絶対絶命の危機!?

はい、続けて連続投稿となります。今回の話で次の敵は大体予想できるかと。
ちなみにこの章「過去からの復讐編」が自分の中ではメインストーリーとなっています。
ついでにイメージソングは「僕達は天使だった」で(

それでは本編にどうぞ!


「はぁ…はぁ…や、やっと着いたぞ。」

 

「王、無理はなさらないでください。」

 

 

デパートの入り口前では全身に汗を流して肩で息を吐く銀髪の少女と無表情で少女にタオルを差し出す茶髪の少女――ロード・オブ・ディアーチェとシュテル・ザ・デストラクターの姿が見られた。

 

彼女達は一足先にデパートに向かった悟空一行を追いかけてきたのである。

 

 

「レヴィのやつめ、一人だけ抜け駆けしおって。」

 

「抜け駆けも何もジャンケンで決まったのですから仕方ないと思うのですが…。」

 

 

元々はインターミドルに出場するミウラのトレーニングウェアを購入する目的でザフィーラと二人でデパートに向かう予定だったのだが、急遽ザフィーラに用事が入り代わりに手の空いていたヴィータと聖王教会から戻ってきた悟空に同行するようはやてが頼んだのだ。

だがその会話を聞いていたマテリアル三人組が自分達も行きたいと駄々をこねた為、仕方なくはやてはジャンケンで買った一人が一緒に行けると告げる、その結果レヴィが同行する事に決まった。

 

 

「ぐぬぬ、だとしても我が鴉の為に働くなど死んでもできぬ!」

 

「帰ったらまた叱られますね。」

 

 

そして残ったディアーチェとシュテルに自分達の手伝いをするよう伝えた途端、ディアーチェが憤怒し八神家から飛び出す形となりシュテルも彼女を追いかけて此処に至る。

 

 

「しかし、この“でぱーと”という所には人がゴミのように集まっておるな。」

 

「食材、家具、雑貨などあらゆる物資が揃っているようです。」

 

「なんと!? む、あそこにおるのはレヴィではないか!」

 

 

シュテルの説明を受けたディアーチェが珍しそうに周囲を見渡していると隅っこの階段付近で水色の髪の少女を目撃、他にも数人の少女と少年の姿が片手に紙袋を持って楽しそうに会話していた。

 

 

「何を楽しそうに話しておるのだ?」

 

「どうやら、迷子になった子供の母親が見つかった事とそのお礼に菓子を貰えた事に喜んでいるようですね。それと今からナノハ達のいる屋上に戻るみたいです。」

 

「くくく、ならば先回りして驚かしてやろう。」

 

 

階段を上って屋上に向かうレヴィ達に含みのある笑みを浮かべるディアーチェは先回りしようとエレベーターへと足を踏み出した刹那、ガタガタと強い揺れが生じてバランスを崩して尻餅をつく。

 

揺れは数秒ほどで収まりその間も微動だにせず立っていたシュテルはディアーチェに手を差し出し。

 

 

「怪我はありませんか?」

 

「ふん、この程度で我が怪我など――――ぬおおおおおっ!!?」

 

 

シュテルの手を掴み起き上がったと同時、正面のエレベーターが開き大勢の客達がパニックを起こした状態で悲鳴を上げながら一斉に駆け出す、その人波にシュテルとディアーチェは巻き込まれ最終的にはデパートの外まで流されるのであった。

 

 

 

 

 

(…っぐ! あのバカ!これで軽くなのかよ。目を開けていられるのがやっとだ。

けど、この勢いがあれば魔力だけに集中できる………頼むぜ、グラーフアイゼン!)

 

 

雲を突き抜けた先にある禍々しい雰囲気を晒し出す漆黒の物質が視界に入るとヴィータの足元に真紅の光と共に逆三角形のベルカ式魔法陣が出現。

 

 

『Gigantform』

 

「轟天爆砕…!」

 

 

更に彼女の持つデバイスが変形、ミニハンマーから彼女の身の丈ほどの角柱状のものへと変わる、だがそれだけでは終わらず魔力を込める事で質量とサイズが増大。最終的にハンマーは10倍以上に増長したのだ、そしてヴィータは超巨大化したハンマーを構えて……。

 

 

 

「――――ギガントシュラーク……ッ!!!!」

 

 

 

一気に振り下ろす。たったそれだけのシンプルな工程なのだがその破壊力は抜群。鈍い音が響き渡れば漆黒の物質を取り囲んでいた結界から徐々に亀裂が入り、多方面から光が解き放たれてガラスのように砕け散る。正に破壊の鉄槌と呼ぶに相応しい一撃だ。

 

そのまま勢いを殺さずに本体の物質へ直撃させると盛大な爆発音が高鳴り煙を撒き散らす。

 

 

「ハァ…ハァ……やったか。」

 

 

手応えはあった、感触も残っている。その証拠に物体の欠片が散開しているのだが不安は消えず、その不安は現実となる。

周辺から煙が浮かび出すと目にも止まらぬ速さで集結、その先に映るのは全くの無傷で聳え立つ漆黒の物体。球体へと形は変わっていたが纏う雰囲気は同じ不気味さを漂わせていた。

 

 

「マジ…かよ…だったらリミットブレイクで……。」

 

 

ほとんどの魔力を使用したにも関わらず再び魔力を溜めようとした刹那――ヴィータの体に異変が起こる。

 

 

「ぐ、うう……ッ!!」

 

 

突然、体に違和感を覚えては脱力感を抱き身体がよろめく。それでも体制を持ち直して魔力を行使しようとするがすぐに魔法陣が消失し、片手に持つアイゼンも通常サイズのミニハンマーに戻っていた。

 

 

(魔力が…吸い取られてるのか……。)

 

 

それだけでは終わらず体全体から魔法陣と同じ色の真紅の光が漏れ出して漆黒の物体へと吸い込まれるように向かって行く。この光景を見てヴィータは自分の魔力が奪われているのだと確信するも、力の源を奪われては行動に移すこともできず。

そんな中で追い打ちをかけるように漆黒の物体から小さな球体が複数飛び出し、一斉に解き放たれターゲットを狙う。もはやヴィータに今の状況を覆す術はなく全ての球体が着弾する―――筈だった。

 

 

 

「「ディバインバスターーーーッ!!」」

 

 

 

周囲が明るく照らされたかと思えば桜色と虹色の光の砲撃が彼女の横を通り過ぎる、そのまま対面から向かってくる球体を一つ残らず打ち消す。直後、ヴィータを包む光が消失し左右には紺色掛かった茶髪の女性と金髪の女性が同じポニーテールの髪を揺らしながら並ぶように降り立つ。

 

 

 

「なのは!ヴィヴィオ!!」

 

「にゃはは、なんとか間に合ったかな。」

 

「みんなで救援に来ました!」

 

 

「みんな?」とヴィータが小首を傾げていると物体に淡い光が宿り物凄い勢いで3人に迫りくる、その大きさは屋上を襲撃した球体よりも面積が広く直撃すれば一溜りもない…あくまで直撃すれば。

 

 

「――真・空牙!」

 

 

ドゴォン!と鈍い音が響き渡れば巨大な球体は斜め上空へと方向転換されて浮上していく。球体がなくなると其処には蹴り上げるモーションを起こした桃色掛かった短髪の少女――ミウラ・リナルディの姿が映し出され。

 

 

「レヴィさん!後はお願いします!!」

 

「オッケー!」

 

ミウラが球体が上昇していった方角に叫ぶと、その先には青いマントを靡かせた水色の髪の少女が彼女の髪と同じ魔力光の魔法陣を展開させて待機しており。

 

 

「いっくぞーっ!パワー極限!!」

 

 

水色の髪の少女…レヴィが自らのデバイス“バルフィニカス”を頭上に掲げれば周囲に複数の雷の光球が発生し、幾つもの剣に変わって巨大な球体へと突き刺さる。

 

 

「雷刃封殺爆滅剣―――ッ!!」

 

 

そして片手を前に突き出すと突き刺さった剣が照り輝き膨大な爆発を引き起こしたのだ。

爆発の起きた跡地には煙だけが漂い物体の影や形は見えず、消滅を確認すると満面の笑顔でポーズを決めてからミウラの元まで駆け寄った。

 

 

「やったー! やっぱり僕って強くて凄くてカッコイィーッ!」

 

「やりましたねレヴィさん。」

 

「うん!ミウラが協力してくれたお陰だよ。ありがとうッ!」

 

(まったく…喧嘩するほど仲がいいってやつか……。)

 

 

なのは達が来るまではずっと喧嘩していたミウラとレヴィが息のあった見事なコンビネーションを繰り出して、今は互いに抱き合って喜んでいる光景にヴィータは苦笑を漏らす。

デパートでの件で少し心配だったが、二人の様子を見てそれが杞憂だと分かり彼女達の元へと歩む。

 

 

「あ、ヴィータさん!ご無事でよかったです。」

 

「僕達に感謝しろよ。」

 

「ああ、ありがとな…。」

 

 

そっぽを向いて呟くように礼を述べるヴィータに遠目から見ていたなのはくすっと小さく笑う。一方でなのはの隣にいた大人モードのヴィヴィオは我慢できなくなり目をキラキラと輝かせながら少女達の会話に入り込み。

 

 

 

「二人ともほんとーっに凄かったですよ!ミウラさん、舞空術が使えるんですね。」

 

「はい、悟空師匠から教わりました!」

 

「僕だってゴクウに色々教わったもん。」

 

「で、その悟空は何処にいるんだ?」

 

「悟空さん達ならまだ地上で闘って―――」

 

 

なのはが答えようとした刹那、透き通った煙が大量発生すると彼女達を取り囲む。先程と同じ嫌な感覚を覚えたヴィータは直ぐに正体を見抜き彼女達に伝えようとするが時既に遅し、体から各々のリンカーコアを通じて魔力が湯気のように具現化し拡散していく。

 

 

「っぐ、力が…抜ける……。」

 

「…あれを見て!」  

 

「ええっ! なんで!?」

 

 

なのはの声に反応したレヴィが真上を見上げれば驚いた声で叫ぶ、頭上には確かに破壊した筈の物体が浮いていたのだ。漆黒の物体は魔力を吸収する度に膨張し、胴体が伸び手足が生えて巨大な三頭身のロボットへと変貌。

 

 

「ろ…ロボット!?」

 

「復活するなんて反則だよ~ッ!」

 

「なんか強そうですね……。」

 

「くそっ、最初からあたし等を誘き出す為の罠だったのか…。」

 

 

屋上での襲撃、結界の設置、全ては自分達“魔導師”を此処に誘き寄せる為に仕組まれた罠、この物体は魔力攻撃で破壊される事で初めて能力を発現するものだったのだ。一度目の破壊で気づくべきだったとヴィータは心中で後悔する。

誘き出した理由は恐らく強力な魔力を手に入れる為、より多くの魔力が必要で何度も魔導師達に破壊させ魔力を奪い取り得た魔力を同源にしロボットを起動させた。

 

更にロボットの腹部が開き射出口が出現すると闇色の光が収束し角ばったエネルギーを充電させていく。だが照準が向けられた先はヴィータ達ではなく雲の真下。

 

 

「まさかこのまま街を消し飛ばす気かっ!」

 

「そんなぁ~!シュテるんと王様が死んじゃうよぉ~。」

 

「わたし達の魔力でみんなが……。」

 

「ど、どどどどうしましょう……!?」

 

 

ロボットから溢れる魔力がビリビリと肌で感じ取れる、吸収した魔力量はなのは達の“リミットブレイク”をも圧倒的に上回り、街一つ消し飛ばす事も容易いであろう。それでも尚彼女達から魔力を奪い続けていた。

気を取得したヴィヴィオやミウラ達も体内に宿されたリンカーコアを犯されては力を集中させる事ができず意識が落ちるのも時間の問題だ。自分達の魔力で街を壊滅させ大切な家族や友人を失う。そんな最悪なシナリオが余計に不安を駆り立てられる中…。

 

 

「…大丈夫、まだ希望は残ってるよ。」

 

「なのはママ!」

 

「なのは!?お前…!」

 

 

ただ一人、なのはだけは恐怖に怯える事もなく真っ直ぐな瞳で言葉を投げ掛けた――桜色の光を全身で発光させながら。その光は無数の線となってヴィータ達の体に入り込んでいく、彼女は気で生み出した防御膜を張ってリンカーコアへの侵入を防ぎその一方で自身の魔力をヴィヴィオ達に分け与えるという荒業を行っていたのだ。ヴィータが止めるように叫ぶがなのはは聞く耳持たず僅かな魔力を流し続ける。

 

だが防御膜を張っている間は動くことができず、そんな現状で魔力を分け与えるのは自殺行為であり、恐らくこの場にいる誰よりも苦しい状況だろう。既に何滴もの汗が垂れ落ちているが未だに彼女の瞳から光が消える事はない。

 

 

「わたし達も…街の人達も…絶対に助かる。だから諦めないで……。」

 

 

息切れを起こしながらも全員を励ます母親の姿にヴィヴィオは涙を堪えて言葉を聞く。そしてその意図を理解すると口を大きく開き。

 

 

「そうだよ! ピンチになってもわたし達のヒーローが絶対なんとかしてくれる。」

 

「「ヒーロー?」」

 

 

“ヒーロー”と言う単語が耳に入り、レヴィとミウラの脳裏に様々な人物の姿が映し出される、仲間、家族、友達……だが何れもヒーローとまでは至らずそのビジョンが消失するかと思いきや一人の男性のシルエットが具現化する。

大食いだけど明るくて、強くて優しく、いざって時は其処にいるだけで頼りになる山吹色の道着を着込んだ戦士。

 

その人物の姿が思い描かれると諦めかけていた少女達にも希望が湧いてくるが、無情にもロボットの充電は完了してしまい地上に狙いを定めて闇色の光線が轟音と共に放出される。

 

 

 

 

 

「「「波ああああああああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」」」

 

 

 

 

 

―――瞬間、大気が震え出すと轟音と共に雲を突き抜け其処から三本の光の矢が飛び出す。

その光の矢は螺旋の如く絡まり一つに重なり合い極太の巨大な青白い光の柱となって暴風を巻き起こしながら視界に入らない速度で一直線に伸び、闇色の光線ごと巨大ロボットを呑みこむ。

煌く光を輝かせる其れは邪悪な輝きを打ち消しロボットの欠片一つ残さず粉微塵に破壊、再生すらも許さない圧倒的な威力によって完全消滅したのだった。

 

 

「僕達…助かったの?」

 

「ああ、一時はどうなるかと思ったけどな。」

 

「あ、雲がなくなっています!」

 

 

勝利を祝福するかのように周囲に漂う雲が全て消失して一面青空へと変わっていたのだ。

ふと見下ろすとお揃いの山吹色の道着を着用した男性と青年と少年が此方に飛んできて。

 

 

「おめえ達、無事だったか?」

 

「ゴクウーーッ!!」

 

「師匠ぉ…っ!!」

 

 

悟空が視界に入るとレヴィとミウラは一斉に飛びついて抱き付き「怖かった」と嗚咽を漏らす。此処に来たばかりで状況が分からず戸惑う悟空だったが、泣きじゃくるミウラとレヴィの心境が伝わってきたのかゆっくりと手を伸ばしポンと少女達の頭に手を置く、大きな手を置かれた二人は暖かさを感じ安息に浸っていた。

 

 

「地上にいた丸っこいのはボクと兄ちゃんとお父さんで全部やっつけたよ。」

 

「すっごーい!」

 

 

迷子の子供の母親を見つけた悟天達は屋上に戻るとすぐに二手に分かれて行動したのだ。ヴィヴィオ達はなのはと一緒に戻ってこないヴィータの救援に、悟天は悟空達と球体の迎撃を行っていたのだが球体が増えてしまう事を考えて積極的に攻撃はせず守りに徹していた。

暫くその状態が続いたのだが、上空から禍々しい邪悪な気を感じとり闇色の光線を目撃。その対象が地上へ向けられている事と破壊力の危険性を察知し、親子三人同時にかめはめ波を撃ったのである。

 

尚、無数の球体も光線に巻き込まれて破壊されロボットが消滅した事で復活する事もなかった。

 

 

「お疲れさま悟天くん。あと、わたし達の街を守ってくれてありがとう!」

 

「えへへ、どういたし――んんっ!?むぐむぐ……。」

 

 

ヴィヴィオは満面の笑顔で嬉しそうに悟天を抱きしめる、大人モードの姿のままで……。

その結果、胸元に顔が埋まる形となり悟天は苦しそうにじたばた抵抗するがヴィヴィオは未だ自分の姿に気付いてないのかじゃれあうように更にむぎゅうっと強く抱きしめてしまう始末、そんな二人のやり取りをクリスは黙って見守っていた。

 

 

「遅れてごめん、また怖い思いさせちゃったかな。」

 

「ううん、きっと悟飯くん達が助けてくれるって信じてたから…。」

 

 

悟飯となのはは向かい合って互いに無事なのを確認すれば頬を緩ませ自然と微笑む。

励ましの言葉を投げ掛けた時に口にしたなのはの希望―――それこそが悟飯達“異世界から来た超戦士”で彼等の存在が大きかったからこそ絶望的状況に立たされても決して弱音を吐かず、最後まで粘り続けていたのだ。

 

 

「ありがとう、わたしのヒーローさん…。」

 

「えっ!?な、なのはちゃん!」

 

 

なのはの頬は若干赤く染まりお礼の言葉を呟くように口にすると悟飯の胸板に頭を添える形で目を閉じる、小さな寝息を立てながら。彼女の体はとうに限界を超えていたのだがヴィヴィオ達に心配をかけまいと無理に意識を保っていたのだ。それも悟飯と再会した事で一気に解放されそのまま疲労と眠気に襲われたのである。

事情を知らない悟飯は突発的な彼女の行動に慌てて呼びかけ戸惑いを隠せなかったが、ヴィータから説明を受けると彼女を起こさないようにと優しく背中に背負い地上へと降下。

 

他のメンバーも次々と降下していく中、ヴィータは一人空中に留まり何処か腑に落ちない表情を浮かべ先程破壊されたロボットについて思考する。

 

 

(最後に出てきたロボット…なんとなくガジェットに似てたな。ピンポイントであたし等を狙ってきたのも気になる、それに複数の魔力を吸収して一つの力に変換とか余程高等な技術を持ってなきゃ普通できねーぜ。もし、あんなものを作れる奴がいるとすれば………。)

 

 

そこで彼女の脳裏に一人の男が思い浮かぶ。過去に管理局を揺るがす大事件を引き起した天才科学者でありながら狂気を宿す次元犯罪者の姿が―――

 

 

(いや、あいつは今も牢にぶち込まれているだろうし脱獄する力も持ってねぇ…どっちにしても今回の件はははやてに報告しねーとな。と、その前に局員への説明が先か。)

 

 

いくら天才科学者といえどミッドチルダ司法の最高拘置施設に投獄されては脱獄は不可能。

故にその考えを振り払い、ロボットが消滅した箇所を一瞥した後、局員達に説明する為に地上へ降下する悟空達を追いかけるのだった。

 

 

 

 

―――それから数分後、黒い輝きと共に四つのシルエットが展開されていく。

 

 

「ふふふ、ははははは!素晴らしいッ!実に興味深いッ!!これが戦闘民族サイヤ人か、まさか私の自信作達をこうもあっさりと撃破されるとは思わなかったよ。」

 

「ふん、白々しい口を吐きおって。初めから奴等のデータを得る為の捨て駒にする目的だったのだろう。だがこれで理解した筈だ、我々が奴等を警戒する理由がな。」

 

「憎っくきサイヤ人め。我等ツフルの恨み…。」

 

 

異常と感じさせる程の高笑いを響かせる白衣の男に赤いリボンのマークのついた帽子を被る白髪の老人が額に皺を寄せて吐き捨てる。その老人の隣では胡坐をかく体制で青い肌を持つ左右異なる赤目白目の老人がモニター越しから彼等を見据えて呟く。

 

 

「他の者はどうでもいいが、高町なのはと孫悟飯…この二人だけは私が始末する!」

 

 

四人の中で唯一顔が見えない人物、野太い声を発する事から男だとわかるがその外見は一部を除いて全身包帯で巻かれその上から黒いローブを羽織った姿、他の三人と比べて明らかに浮いており一般人が見ても確実に不審者と思われるだろう。

そしてその男から出た言葉は“孫悟飯”と“高町なのは”。二人の名前を口に出すと激昂し体に魔力の炎を昂らせていた――まるで長年からの深い憎しみを抱くかのように。

 

 

「落ち着け!そいつらとは何れ戦わせてやる。それよりも今は……。」

 

「――究極の人造魔力生命体を完成させる…だろ?」

 

「そうだ、その為に貴様を脱獄させてやったのだからな。コンピューターが貴様の科学者としての能力を選んだのだ。」

 

「その件については感謝するよ、みんなも喜んでいたからね。」

 

 

そう言って白衣の男がポケットから取り出したのは複数の蒼い欠片、それを円盤状の窪みへパズルのように嵌めこみベンダント状にしたものを老人へと差し出す。

 

 

「一応これだけでオーバーSSランクの魔力はある筈さ。それでも彼等を相手するにはまだ心許ないだろうけど。」

 

「今はそれだけあれば充分だ。纏めて詰め込みすぎると暴走を起こしかねんからな。」

 

「残りの欠片も直に揃うだろう。」

 

「だが、肝心の媒体はどうするつもりだ?」

 

「それも既に手筈は済んでいる。」

 

 

冷静さを取り戻した包帯の男が尋ねると白衣の男は機械を操作して巨大なモニターを出現させる、映し出されたのは細長いカプセル容器の中で寝かされている背中まで伸ばした金色の髪に白衣の衣装を纏う少女。

 

 

「紹介しよう、彼女こそが私が設計したプロジェクトFの遺産であるフェイト・テスタロッサのオリジナル―――アリシア・テスタロッサだ!」

 

 

再び高笑いと共に浮かべる狡猾な笑み、今ミッドチルダに新たな危機が訪れようとしていたのであった。




(次回予告)

悟空「オッス!オラ悟空!! ミウラとレヴィのやつよっぽど疲れてたんだな。ぐっすり眠っちまったぞ。」

ヴィータ「傍目から見るとお前等親子に見えるぜ。」

ヴィヴィオ「ママも気持ちよさそうに眠ってる。」

悟天「うぅ~荷物たくさんあって前が見えないよ~。」

リイン「むぅ~、レヴィさんとミウラだけズルいですぅ!」

アギト「しょうがねぇだろ、あたし等にはやる事があるんだから。」

はやて「みんなでアインハルトちゃんのデバイス完成させるんや。」

ちびトランクス「いいな~オレもデバイス欲しいなぁ…。」

アインハルト「そういえば、トランクスさんのお父様がTVに映ってましたね。」

ザフィーラ「ディアーチェと一緒にな。」

悟空「次回ドラゴンボールViVid「「ベジータが指名手配? ミッドに渦巻く黒い影」」

ブルマ「あいつなにやってんのよ。」


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特別編
全員集合! みんなでパーティー


オッス!オラ作者!! 今回投稿すんのは特別編だ。予定では5話か6話くらいかかるかもな。それと色々ネタバレがあるかもしれないからそれがイヤだったら見ないほうがいいぞ?
あと特別編出てくる敵?の設定はオリジナルだけど、容姿は原作者が画いたものだから半オリジナルになるぞ。誰だかわかるかな?

さぁギャグ有り恋愛有りバトル有りのドラVIVI特別編の始まりだ!((


――寒い冬の季節は過ぎ去り、暖かな陽気の春となる。此処、無人世界カルナージも緑の大自然の中に満開の桜が咲き誇っていた。

 

 

「ティア、そっち何人分できた?」

 

「まだ30人分です。ギンガさんの方は?」

 

「くっ、何故我までこんな事をしなければならぬのだ。」

 

「ふふ、はやてちゃんの分まで頼りにしてますよ、王様。」

 

「しかし材料は足りるのか?」

 

 

ロッジハウスの中では慌ただしい雰囲気を漂わせながらも調理をする女性陣。彼女達は午後から行われる歓迎会も込めた“お花見パーティー”に参加するメンバー全員分のお弁当を作っているのだ。

尚、当初は女性陣全員で作る予定だったのだが、流石に大人数で調理場に入るのは厳しいという理由から抽選で決める事となった。選ばれたメンバーはギンガ、ティアナ、ディアーチェ、シャマル、シグナム、そして―――

 

 

「孫くんだけでも100人前は食べるわよ。」

 

「ですよね。なんとか悟空さん達が来るまでに作り終えませんと……。」

 

「みんなで分担すればきっと間に合うわ。」

 

「あ、ブルマさん!こっちは20人分終わりました。」

 

「待て!貴様、砂糖を入れ過ぎだ。分量を弁えろ」

 

「む、難しいな……。」

 

 

異世界メンバー唯一の女性であるブルマの指示に従い、女性メンバーは役割を分担し次々と弁当を作り上げていく。その光景を傍目から眺めていたメガーヌはこの先の事を考えて楽しくなりそうだと微笑んでいた。

 

 

一方、隣の別室ではデザート作りに励むエプロン姿のヴィヴィオ達と彼女達を指導するはやて達と彼女達の様子を見学するナカジマ家の姉妹達の姿があった。

 

 

「ここにイチゴを乗せて…っと。できたーっ!」

 

「おっ、いい感じに仕上がってるじゃん。」

 

「流石やなヴィヴィオ。ほとんどわたしらは手伝ってへんのに。」

 

「ヴィヴィオの作ったケーキ美味しそう~っ。」

 

「私も負けられません!」

 

「あたしだって負けないもん!」

 

 

少女達ははやてが作った見本を元に桜をモチーフとしたケーキを作っているのだが、工程が難しく他の少女達が苦戦する中、ただ一人ヴィヴィオだけが見本通りのケーキを完成させていたのだ。

 

 

「えへへ、ママ達から色々教わりましたから。」

 

「そういえば、なのはちゃんの実家は喫茶店を経営してたんやっけな。」

 

「あれ?けど、このケーキだけおかしくねぇか?」

 

「そうッスね。確かにこれだけ豪華に見えるッス。」

 

 

ヴィヴィオが作った複数のケーキを眺めていたヴィータとウェンディが疑問を口にすると、はやてやコロナ達もそのケーキに目を向ける。

 

 

「ほんとだ、ハートマークのチョコが乗ってる。」

 

「フルーツもたくさん盛ってあるし……。」

 

「なんだか豪華に見えますね。」

 

「ヴィヴィオ、なんでこのケーキだけ他のと違うんだ?」

 

 

視線をケーキからヴィヴィオに戻してアギトは問いかけるが、ヴィヴィオは頬を淡く染めながら「そ、それは……。」と目を泳がせて明らかに動揺した態度を見せており。

 

 

「わかった!これ、悟天くんの分でしょ?」

 

「え!? そうなのヴィヴィオ?」

 

「あ、あうぅ~~。」

 

 

リオの予想がずばり的中したかのようにヴィヴィオの顔はみるみる真っ赤に染まり、コロナが尋ねると恥ずかしいのか俯いてしまう。そんな彼女の反応にはやてはニヤニヤと含みのある笑みを浮かべて。

 

 

「なるほどなぁ~ヴィヴィオにも春がきたんやな。」

 

「春…?あ、それって恋の季節って事?」

 

「恋か……あたしにはよくわかんねぇな。」

 

「あたしも姉御と同意見だな。」

 

「恋……私だって……。」

 

「あらら~キャロも乙女モードに入っちゃったわね。でも、私も素敵な男性と恋がしたいかも。」

 

「「あはは……。」」

 

 

はやてとディエチの発言にヴィヴィオは「違いますーーっ!!」と更に顔を真っ赤に染めて慌てふためく。対してヴィータとアギトは特に興味を示さず、キャロに至っては頬を染めながら急にぶつぶつと呟き始め、ルーテシアは目を輝かせて自分の世界に入り込む。この光景にヴィヴィオの親友である二人の少女はただ苦笑を漏らし、クリスは不思議そうに首を傾げていた。

 

 

 

 

「わぁ~速いはやーーーい!!」

 

「キュクル~~!!」

 

 

満開に咲く桜の木の上空で響く少年の声。現在、悟天はキャロの魔法で巨大化した召喚竜“フリードリヒ”の背中に乗って大空を舞い上がっていた、純白の雲を見下ろしながら。

 

 

「フリード!もっとスピードあげてよ。」

 

「駄目だよ悟天。これ以上はフリードも疲れちゃうし、落ちたりしたら危ないよ?」

 

 

遮る風によって金色の髪を抑えながらフェイトは悟天の肩に片手を置いて優しく注意する。

悟天がフリードに乗りたいと言った時、ちょうどキャロはヴィヴィオ達とデザート作りを行う為にロッジハウスへと向かい、エリオもピッコロに修行をつけて貰うべくその場におらず。少し悩んだ結果、途中で落下する危険を考慮して自分も一緒に搭乗する事にしたのだ。

 

 

「そうなの? 無理を言ってごめんねフリード。」

 

「キュクル~~。」

 

 

素直に自分の忠告を受け入れてフリードに謝る悟天に「いい子だね」とフェイトは微笑みかけて頭を軽く撫でれば、ふと最近のヴィヴィオの様子を思い出す。

 

 

「そういえば、悟天は誰か好きな人とかいるの?」

 

 

ヴィヴィオが悟天に淡い恋心を抱いてる事を知っていた為、自分もできる範囲で協力してあげようとそれとなく悟天に問いかけてみるが……。

 

 

「いるよ!兄ちゃんとお父さんとお母さんとトランクスくんと……。」

 

「あ、あははは……いっぱいいるんだね。」

 

 

次々と家族や友達の名前を出す悟天からの返答は彼の純粋無垢な性格から予想していなかった訳ではないが、実際に彼の口から聞くとどうしても苦笑を浮かべてしまう。

が、今回はそれで話を終わらせる事はせずフェイトは回りくどい表現は捨てて再度悟天に問いを投げ掛ける。

 

 

「えーっと、じゃあヴィヴィオのことは好き?」

 

「ヴィヴィオちゃん?うん、スキだよ。」

 

「ヴィオヴィオといて楽しい?」

 

「楽しいよ。今度一緒に遊園地に行くんだ~。」

 

「それって二人だけで?」

 

「うん。本当は兄ちゃんとなのはさんも行く予定だったんだけど、その日に用事が出来ちゃったんだって。」

 

 

「兄ちゃん達も一緒がよかったなぁ」と呟く悟天にフェイトはなのは達の意図に気づく。恐らくなのは達はヴィヴィオが悟天に恋心を抱いてる事を知っててそう言ったのだろう――ヴィヴィオに告白のチャンスを与える為に。

 

 

「そうだ!フェイトさんも一緒に行こうよ!いいでしょ?」

 

「え!?わ、私も!?」

 

 

まさか誘われるとは思わなかった為、悟天の言葉にフェイトは戸惑いの表情を浮かべる。確かに二人だけだと心配な面もあり普段なら同行しても構わないのだが、それではなのは達が断った意味がなくヴィヴィオの告白の機会も失われてしまう。

又、以前なのはや悟飯から甘やかしすぎだと指摘された事がある、主に一緒に風呂に入る事や寝る事について。自覚はあったが子供だから甘えさせても問題ないと思っていた。しかし、もし仮に二人が付き合う事になれば何れは二人だけの力で乗り越えなければならない障害も度々出てくるだろう。

 

 

「誘ってくれるのは嬉しいんだけど、私もその日は用事があるから行けないんだ。」

 

「そっか……それなら仕方ないね。」

 

 

残念そうな表情を顔に出す悟天に「ごめんね」と謝る。悟天とヴィヴィオの事を考えて出た言葉だが純粋無垢な子供を騙してしまった事に罪悪感を抱いていた。

 

暫くすると小さな建物が視界に入り込み、その建物がトレーニング用に作られたアスレチックフィールドだと認識する。

 

 

「あ、ピッコロさんだ!」

 

「ほんとだ。エリオ達も一緒みたいだね。」

 

 

そしてその建物の一角では白いターバンとマントを羽織った男に青年と女性が攻撃を仕掛けている光景が映し出され、その様子を二人は空から眺めていた。

 

 

「だああああっ!!!」

 

「はああああっ!!!」

 

 

甲高い声と共に巻き起こる轟音、エリオとスバルは白いバリアジャケットを身に纏い無数の拳を連打。相手に休む暇も与えぬほど何度も何度も連続で拳を繰り出していく。

気を取得した二人は以前よりも確実にパワーアップしており、並の達人程度なら簡単にノックアウトできる力は持っているだろう。

 

しかし彼等の攻撃対象であるピッコロは全く動じた様子を見せずに二人の手数を片手だけで受け止め続ける、それでもエリオとスバルは休まずに乱打を繰り出していくが……。

 

 

「――かああっ!」

 

「きゃあああぁぁぁっっ!!」

 

「うあああぁぁぁ……ッ!」

 

 

全身から気合を込めたピッコロの衝撃波によって二人は軽々と吹き飛ばされる。そのまま落下して地面に叩きつけられるかと思いきや、スバルは受け身を取ってダメージを軽減し、エリオは途中の建物を足場にして体制を立て直し地面に着地した。

 

 

「いったたた……。」

 

「大丈夫ですかスバルさん?」

 

「ふん、少しはマシになったようだな。」

 

 

腕を組んで降り立つピッコロは少し口元を緩めながら告げる。ボージャック一味襲撃事件以降、エリオとスバルは今のままでは駄目だと思いピッコロに修行をつけてもらうよう頼み込んだのだ。

最初は自分の修行は厳しくて彼等では着いて行けないだろうと断ったピッコロも「大切な者を守る為に強くなりたい!」と熱意を込めた二人の真っ直ぐな想いに折れて時間がある時に二人を鍛え上げていた。

 

 

「「ありがとうございます!」」

 

「だがこの程度で満足するな。次はもっと厳しくいくぞ!」

 

「「はいっ!!」」

 

 

喝を入れるピッコロに元気よく返事を返すスバルとエリオ。そんな彼等の元に茶髪で無表情の少女と銀髪で眼帯をした少女がタオルとペットボトルの入った袋を持って近寄り。

 

 

「お疲れさまです……。」

 

「差し入れを持ってきてやったぞ。」

 

「差し入れ!? ありがとう!もう喉がカラカラだったんだよ。」

 

「あ、スバルさん! どうしましょうピッコロさん……。」

 

 

差し入れと聞くや否やスバルは目を輝かせてチンクの持つ袋からペットボトルを取り出して一気飲みをする。彼女の行動にエリオはどう対応すればいいか分からず困った視線をピッコロに向ければ、ピッコロは5分間だけ休憩の時間を与えると告げて近くの木に背を預けた。

 

 

「……どうぞ。」

 

「すまんな……。」

 

 

シュテルから水の入ったペットボトルを受け取ると一口だけ口にし、反対側に聳え立つ山の方角を見据える。

 

 

「どうかしましたか?」

 

「悟飯達の姿が見えないのが気になってな。そろそろ到着してもいい頃なのだが……。」

 

「それでしたら、先程ナノハから伝言を預かりました。ちょっとした事件に巻き込まれたから遅れるそうです……。」

 

 

既に悟飯達が到着してる時間帯だったにも関わらず一向に彼等の姿はおろか気すら感じない事が内心気掛かりだったのだ。シュテルの伝言を耳にすると「なんだと!」と思わず振り向くが、事件自体は軽い物だと聞けば安堵した様子で静かに彼等の到着を待つことにした。

 

 

「「「「―――!?」」」」

 

 

――刹那、前触れもなく爆発が発生。木の枝に止まっていた鳥達は驚いて飛び去り地面は衝撃によって振動し、休んでいたスバルやエリオも鼓膜に響く程の轟音に反応し何事かと周囲に目を配る。空から観戦していた悟天とフェイトもただ事ではないと察知して上空から爆発の発生源を探せば下流の川辺に倒れている人物が二人の視界に入り込み。

 

 

「ザフィーラ!ノーヴェ!?」

 

「ミウラちゃん!」

 

 

すぐに川辺へと移動すると倒れてる三人の元に駆け寄る。怪我はしているものの命に別状はなくザフィーラとノーヴェは気絶してるだけのようだ。ミウラは意識は保っているが動くことはできず呻き声を漏らす。

 

 

「う、ぐうう……。」

 

「大丈夫!?何があったの?」

 

「と、とつぜん…襲われて………。」

 

「襲われた!? 誰に襲われたの!」

 

 

フェイトが再度問いかけるがミウラは指を頭上に掲げるとそのまま意識を落とした。

その後、ピッコロとエリオとスバル、シュテルとチンクも川辺へと到着する。

 

 

「フェイトさん!これは一体……。」

 

「ノーヴェ!? 誰がこんなことを……。」

 

「それはわからない。とにかく、このことをはやて達に知らせて!それと気絶した三人を安全なところに!」

 

「「わかりました!」」

 

 

緊急事態となった状況の中、フェイトの指示を受けてスバルとエリオとチンクは気絶した三人をフリードの背中に乗せてロッジハウスへ。

その場に残ったのはフェイトとピッコロとシュテルと悟天の四人だけとなった。

 

 

「あれ?トランクスくんとアインハルトちゃんは?」

 

 

三人が手掛かりを探そうと模索する間、悟天はロッジハウスで別れるまで共に行動していたトランクスの姿が見えない事に気づく。彼は荷物を置いてすぐにアインハルトとミウラの修行に付き合うようにとノーヴェとザフィーラによって強引に連れて行かれたのだ。故に彼等と行動していた二人がいない事に頭を悩ませる。

 

 

「うわああああああああぁぁぁっ!!!!」

 

「あああああぁぁぁッッ!!!」

 

 

―――直後、上空から幼き少年と女性の声が木霊し地面へと急降下。

 

 

「トランクスくん!アインハルトちゃん!!」

 

 

それがトランクスとアインハルトのものだとわかると悟天は身を乗りだし地面に激突する前に二人の体を受け止める。そしてゆっくりと地面へと足をつけようとした――――瞬間。

 

 

「ビックバンアターーーック!!!!」

 

「―――まずいっ!?」

 

 

凶暴な破壊力が込められた巨大なエネルギーが暴風を巻き起こしながら大気を切り裂きその場にいる者達を呑み込もうとする。そのエネルギーの危険性を理解していたピッコロは咄嗟にシュテルとフェイトを抱えて遥か上空へと高速で回避。悟天も同じ動作でピッコロの後へと続く。

地上では壮大な轟音が高鳴り、川辺全域が爆煙に包まれていた。

 

やがて雲を突き抜けると彼等は信じられない光景を目にする―――

 

 

「ベジータ!?」

 

「くっくっく……。」

 

 

その先にいたのは青いスーツに戦闘ジャケットを着込んだ逆立った黒髪の男―――ベジータだった。

彼は不敵な笑みを浮かべながら前方に手を伸ばしており掌から漆黒の光が収束されていく。

 

 

「ベジータ!なぜ貴様が……「ピッコロ!」くっ!」

 

 

ピッコロが問い掛けようとした時に悪意を持った光弾が襲い掛かるがシュテルの呼び掛けに反応して襲いくる光弾を片腕で斜めへと弾き、弾かれた光弾は明後日の方向へと消えていく。

 

今の攻撃でピッコロの予想は確信へと変わり、フェイトも彼と同じ思考に到達し。

 

 

「まさか、三人を襲ったのはベジー―――」

 

「違う!あいつはパパじゃないっ!!」

 

 

背後からの少年の叫びがフェイトの言葉を遮る、少女の姿に戻った女性も肩に猫のようなぬいぐるみを乗せたまま体を起こし。

 

 

「あの方はトランクスさんのお父様に化けた偽物です……。」

 

「にゃあっ!」

 

 

悟天から離れるとトランクスとアインハルトは鋭い視線をベジータに向ける、ベジータは両手を広げると不気味な笑みを浮かべつつ漆黒の炎を身に纏いながら徐々にその姿を変えていくのであった。




(オマケ/その頃の彼等/その一)

悟飯(GS)「まいったな。すぐにみんなに追いつく予定だったのに、すっかり遅くなっちゃった……。」
なのは「にゃはは、でも軽い事件でよかったよ。まだ悟空さん達は来てないみたいだね。」
レヴィ「あ、変質者だ!」
リイン「レヴィさん、初対面の人にそれは失礼ですよ。」
悟飯(GS)「へ、変質者……違う!わたしは正義を愛するグレーーーーートサイヤマンだーーっ!!」
レヴィ「………かっこわる~~い」
リイン「変なポーズですぅ。」
悟飯(GS)「………。」
なのは「そ、そんな事ないよ!わたしはすっごくカッコイイと思うから!」
悟飯(GS)「本当!? じゃあ、後でなのはちゃんの分もブルマさんに頼んであげるよ。」
なのは「ええっ!?た……楽しみにしてるね……。」


(オマケ/その頃の彼等/その二)

悟空「よう、悟飯!なのは!待たせちまって悪かったな。」
悟飯(GS)「大丈夫ですよ、ボク達も今来たところなので。」
カリム「え?悟飯さんだったんですか!?ず、随分と個性的な衣装ですね……。」
なのは「こんにちは、カリムさんとシャッハさんもお花見に参加してくれるのですか?」
シャッハ「いえ、参加するのは騎士カリムだけです。私はすることがあるので今回は見送りに。」
レヴィ「ゴクウ~早く行こうよ~!僕お腹空いちゃった。」
リイン「はやてちゃん達も待ってるですよ!」
悟空「いっちちち……わ、わかったから腕と髪引っ張んねえでくれ。」
カリム「二人とも手を離してあげなさい。悟空さんが困っていますよ?」
なのは「にゃはは、なんだか家族みたいだね。」


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新たな魔人 その名はオゾット

ようやく中編の更新です。今回も色々ネタバレがあるので、観覧する時は注意してください(特に映画関連)


「ん……此処は?」

 

目を覚ましたヴィヴィオは大自然に囲まれた森の中の大木に凭れ掛かっていた。

 

 

「そっか、わたし疲れて寝ちゃってたんだ……。」

 

 

ほんやりとだが記憶が蘇る。しつこく追及してくるはやて達から逃れる為にロッジハウスを抜け出してきたまではよかったが、全力で走っていた為か途中で疲労が溜まりそのままま大木に寄り掛かる形で眠ってしまったのだ。

 

直ぐに上体を起こして立ち上がるとロッジハウスでのやり取りを思い出す。

 

 

「どうして悟天くんの事になるとあんなにムキになるんだろう……。」

 

 

当初ヴィヴィオから見た悟天のイメージは“甘えん坊で自分達よりも幼く見える純粋な男の子”だった。しかし高町家での生活を始め、アインハルトとの再戦、聖王教会襲撃事件、カルナージでの合宿で少しずつ彼への印象が変化していく。

 

最大のキッカケはボージャック一味が襲撃した夜の事、圧倒的な力で仲間達が倒され自身も死の淵まで追い込まれた刹那――金色の炎を纏った幼き少年の拳がボージャックを殴り飛ばして気が付けば自分を抱き抱えていたのだ。その時の悟天の逞しい姿は今でも鮮明に覚えており、この時初めて少年を一人の男性として意識するようになった。

 

 

「やっぱりわたし悟天くんのことが好きなのかな……。」

 

 

前に読んだ恋愛小説では主人公の少女が同い年の少年に恋して胸を締め付けられる気持ちとなっていたが、まさか自分が主人公の少女の立場になるとは思いもしなかった。今まで同年代の男子と話して好意はあったがそれはあくまでクラスメイトとしてであり、こんなに胸がドキドキしたのは生まれて初めてである。

 

 

「ふぅ~……そろそろ戻ろ…ん?どうしたのクリス?」

 

 

ようやく気持ちが落ち着いてロッジハウスに戻ろうとしたが、ふいに彼女の愛機であるクリスに肩を叩かれて首を傾げる。クリスはふよふよと浮きながらヴィヴィオを誘導し森の奥まで来ると立ち止まり。

 

 

「何処まで行くの…――あっ!なにか落ちてる!!」

 

 

ヴィヴィオが目にしたのは金色に照り輝く指輪。金色のメッキで染められた指輪が地面に転がっていたのだ。手に取って見ると重さはそれほど感じず先程までの輝きは何時の間にか消失していた。

 

 

「わぁ~綺麗な指輪。誰かが落としたのかな?」

 

 

以前、カルナージに来た時は此処に指輪はなかった。だとしたらこの指輪はパーティーの準備に来た誰かの落し物かもしれない、もしくはロストロギアの可能性だって考えられる。何れにしてもはやて達に報告した方がいいだろう。

 

宝石をポケットに入れると踵を返して今度こそロッジハウスへと足を踏み出した――時だった。

 

 

「――きゃっ!」

 

 

“ドゴオォン!”と鼓膜まで響き渡る鈍い音が地面を振動させたかと思えば砂煙が舞い込む。それが幾度が続いた後に砂煙が薄まっていけば。

 

 

「フェイトママ!ピッコロさん!」

 

 

其処にはピクリとも動かずに長い金髪の女性と緑色の肌を持つ男性がうつ伏せに倒れていた。女性の黒衣の衣装は破けて露出した肌には痛々しい傷痣を残らせ、男性に至っては腕や足の傷口から紫色の血液が流れていた。その悲惨な光景にヴィヴィオは目を見開き呆然となるが新たに空中から地面へと足をつけた人物を目にすると直ぐに放心状態が解けて。

 

 

「なのはママ!」

 

 

白い防護服に身を包み、純白のリボンで一つに束ねた長い髪を揺らす女性。今、自分にとってもっとも頼りになり安心できる自慢の母親―――“高町なのは”の姿に歓喜の声を上げた。

 

 

「なのはママ、フェイトママ達が……。」

 

「………。」

 

 

傷を負って地面に倒れているフェイト達の事を伝えるがなのはは無言のままで口を開く事もなければその場から動く動作も見当たらない。

 

 

「なのはママ?」

 

 

聞こえてないのかと思いヴィヴィオはなのはの手前まで近づく。なのはの表情は俯いているのか前髪で隠れて見えず、何処か不自然さを感じながらも恐る恐るもう一度呼びかけてみる。

 

 

「どうしたの?なのはま…――うぐッ!?」

 

「ミツケタ……。」

 

 

ヴィヴィオが母親の手を掴もうとした刹那、突然なのはの腕が伸びてきて首筋を掴みとる。そのままゆっくりと持ち上げられていくと初めてなのはの表情が露となったがその素顔は歪んでおり、口角を吊り上げながら漆黒に染められた瞳が不気味さを物語っていた。

 

 

「うッ!んぐ……。」

 

「ふっふっふ、“ゴッドリング”を渡してもらおうか。」

 

 

首を掴む力が強く込められてもがき苦しむヴィヴィオ。じたばたと暴れ抵抗するが構わずになのはは彼女のスカートのポケットに手を入れて金色に輝く指輪を強引に取り出す。

 

 

「あとは指輪に魔力を与えれば、わたしは神の力を手に入れて魔人を超えた最強の魔神に生まれ変わるのだ!」

 

(最強の……魔神…?)

 

 

意識が遠のいていく中でなのはの言葉が耳に入る。“最強の魔神”それが何を意味するのかはわからないが、目の前にいる母親は自分の知る母親ではないと確信していた。

 

早速なのははその指輪を嵌めようと指を近づけた一瞬、ヴィヴィオの真上から飛び出たクリスがなのはの指にしがみ付く。

 

 

「っ、んあぁ……クリ…ス……。」

 

「邪魔だよ。」

 

 

しかし腕を強く払いのけてクリスを振りほどき、更にヴィヴィオを空中へと放り出す。

そして片手を前に突き出すと桜色に染められたエネルギーが収束し始めて邪悪な輝きを生み出し。

 

 

「バイバイ。」

 

 

宙を舞うヴィヴィオとクリス目掛けて放出する。一直線に伸びていく砲撃は呑みこまれればまず跡形もなく消し飛ばされるだろう。それ程までに凶暴な破壊力を持っていたのだ。

まさに絶体絶命の危機。なのはと同じ顔と声を持つ人物を見つめながらヴィヴィオは恐怖に打ち震えていた。

 

 

「――波ああああぁぁぁっ!!」

 

 

だが彼女達の前に現れた影が壁となって遮り、その影から放たれた青白い光の矢が邪悪さを持った桜色のエネルギーと衝突し、膨張した互いの光が消失。

 

 

「だあああっ!!」

 

「――があああぁぁっ!!」

 

 

更に横からなのはの顔面にめり込まれる足。純粋な力によって彼女の体は後方へ吹き飛ばされ幾度か大木へ衝突して貫いた後、地面へと背中を叩きつけられる。その拍子に金色のリングが零れ落ち草陰まで転がっていく。

 

 

「ヴィヴィオさん!」

 

「ア…アインハルト…さん……。」

 

「にゃあ。」

 

 

落下したヴィヴィオは地面へ激突する事はなく、翠色の髪を持つ女性によって受け止められる。クリスもアインハルトと共にいる豹柄の猫のようなぬいぐるみに支えられていた。

 

 

「大丈夫!?ヴィヴィオちゃん!」

 

 

空中から降下した悟天はアインハルトに抱えられたヴィヴィオの元まで近寄り心配そうに声をかける。この時、ヴィヴィオはさっきの青白い光は悟天が放ったものだと気づき大丈夫だと答えると「助けてくれてありがとう」と悟天とアインハルトに感謝の言葉を含めた笑みを浮かべる。

 

 

「くそっ!間に合わなかったか……。」

 

 

なのはを蹴り飛ばしたトランクスはフェイト達の安否を確認していた。ヴィヴィオが駆け寄った時は怪我を負った状態で倒れていたが、現在はそれに加えて頭から足まで灰色に塗り潰されて固くなり――石化していたのだ。

変わり果てた彼女達の姿を目に焼き付けるとトランクスはすぐに視線を倒された大木…なのはが吹き飛んだ方角へと鋭い眼差しを凝らして。

 

 

「アインハルトちゃん!ヴィヴィオちゃんを連れて今すぐ遠くに避難して!!」

 

「ですが、トランクスさんは……。」

 

「オレは悟天と此処でヤツを食い止める!これ以上、あいつのスキにさせるかっ!」

 

「うん!もうボク達しか残ってないからね。」

 

「え?それってどういう……。」

 

 

焦るトランクスを心配するアインハルト。食い止めると言うのは母親の姿に擬態した“ナニカ”に対してだとはわかるが、悟天の言葉の意味は理解できずヴィヴィオは頭を悩ませる。もしや、ロッジハウスにいる仲間達に何か起きたのだろうかとヴィヴィオは彼等に問いかけようとするも、再び起きた爆発によってそれは中断された。

 

 

「急いでアインハルトちゃん!」

 

「……ッ。ヴィヴィオさん此方です。」

 

 

アインハルトは唇を強く噛み占めるも自分達がいては足手纏いになる事も自覚しており、トランクスの指示に従い状況の掴めてないヴィヴィオを抱えたまま彼等に背を向けて走り出す。彼女の隣で浮遊していたクリスは草陰に転がった指輪を発見するとそれを掴んでヴィヴィオの肩に乗る。

――直後、背後から感じる邪悪な気と魔力。一度だけヴィヴィオが振り向いた先には色素の薄い赤い肌、龍のような長い尻尾、漆黒に染められた鋭利な二角、紫の鎧が身を包み、三つの真紅の瞳を持った異端な“悪魔”の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ……。」

 

「アインハルトさん……。」

 

 

トランクス達の足止めが成功したのか無事に森を抜け出したアインハルトとヴィヴィオは以前、遊びや訓練で使用した川辺に来ていた。

ヴィヴィオは未だ戸惑った様子でアインハルトを見つめる。その瞳は純粋に彼女の心配と何故このような状況になったのか理由を知りたいと。それに応えるようにアインハルトは息を整えると静かに語り始める。

 

 

「ヴィヴィオさんのお母様に化けていたのはあの怪物です。本人は“魔人オゾット”と名乗っていました。」

 

「魔人オゾット?」

 

「オゾットはヴィヴィオさんのお母様だけでなく、トランクスさんのお父様、管理局の関係者、トランクスさんのいた世界の死者の姿にも化けられます。最初に襲われたのはノーヴェさん、ザフィーラさん、ミウラさんで、私が遭遇した時はトランクスさんのお父様の姿でした。その後、フェイトさんやはやてさん達が駆けつけて一緒に戦ったのですが実力に差が有るだけではなくはやてさん達とゆかりの深い人物に化けて精神的に揺さぶりをかけられ……。」

 

「まさか、みんなやられちゃったのですか!」

 

「……はい。倒されたみなさんは全員石化してしまいました。最後まで残ったのは私と悟天さんとトランクスさん…それとピッコロさんとフェイトさんでしたが、フュージョンしたゴテンクスさんは幾度も姿を変えるオゾットに翻弄されてフュージョンが解けてしまい、フェイトさんとピッコロさんは私を逃がす為に囮になって……。」

 

「そんな……。」

 

 

アインハルトの説明を聞き終えてようやく悟天の言葉の意味を理解すると同時に後悔する。

何故あの時、自分はロッジハウスを出て行ってしまったのか。その場に残っていれば仲間のピンチを知る事ができて、はやて達と一緒に助けに向かえた。せめて眠りさえしなければ違う展開を作れたかもしれないと拳を震わせていたが、ふと一つ気になった事が頭に浮かびあがり。

 

 

「あの、なのはママや悟飯さん達はどうなったのですか? やっぱりオゾットに倒されて……。」

 

「……いえ、ヴィヴィオさんのお母様達はまだこの世界に到着していません。襲撃を受けた際にはやてさんが通信を送ったのですが繋がらないらしく……此処に向かっている事は確かな筈ですが。」

 

「え!?だ、だったらまだ希望はありますよ! 此処に向かってるならママや悟飯さんや悟天くんのお父さんがきっと助けにきてくれますッ!」

 

「……そうですね。あの方達ならこの状況を覆してくれるかもしれません。それまで私達は逃げ延びましょう。」

 

 

トランクス達が稼いでくれた時間を無駄にするわけにはいかない。なんとしてでも自分達は逃げ延びなければならないのだ―――最後の希望が到着するまでは。

 

 

「ところで先程から気になっていたのですが…それは?」

 

「あ、これは森の奥に落ちてて……。」

 

 

アインハルトの目線に入ったのはクリスが持つ金色の指輪。ヴィヴィオは指輪について知る限りの情報を伝える。発見した時は森の奥地で金色に輝いていた事、指輪の名前はゴッドリングでオゾットは神の力だと言っていた事から指輪には不思議な力が隠されているのかもしれない。

 

 

「ゴッドリング……もしかして、オゾットはその指輪を手に入れる為にこの世界に来たのでは!」

 

「じゃ、じゃあノーヴェ達を襲った理由は……。」

 

 

二人が導き出した結論――それはオゾットは指輪を探しにこの世界へと訪れたが、一向に見つからず探索していた時に偶然居合わせたノーヴェ達が指輪を所持していると思い込み襲い掛かって奪おうとした。つまり指輪を所持している可能性があると思われる人物を片っ端から襲撃したのだ。

 

――その時、彼女達がいる水辺に波紋が浮かび渦潮となって水流が天へと伸びていく。

やがて垂直に湧き上がる水流が二つに割れ、中から黒髪の少年と紫色の髪を持つ少年を左右の手で抱えた悪しき魔人の姿が。魔人はヴィヴィオとアインハルトを見下ろすと少年達を水面へと叩きつけるように投げ飛ばす。

 

 

「悟天くん!」

 

「トランクスさん!」

 

「ふっふっふ、逃げられなくて残念だったね。」

 

 

水中に沈んでいく悟天とトランクスを助けに向かおうとした少女達の道を阻むようにオゾットは現れる、不敵な笑みを浮かべながら。

 

 

「くっ、覇王空破――「無駄だよ」がっ!」

 

「アインハルトさん!?」

 

 

守るようにヴィヴィオの前に出て構えを取って拳を突き出そうとした瞬間、アインハルトの動作が停止する。身体を動かそうとしても彼女の意志を無視して硬直したまま。まるで金縛りにあったかのように……。

 

 

「これで邪魔者はいなくなった。さぁ、指輪を渡せ。」

 

「ヴィヴィオさん!逃げてくださいっ!」

 

「にゃあ、にゃあ。」

 

「あ、あああ……。」

 

 

背筋が凍りそうな威圧を放ちながらアインハルトの横を通り過ぎて迫りくるオゾット。女性の肩に乗ってた猫はオゾットに飛びつこうとするも簡単に振り払われる。必死にアインハルトが叫ぶが眼前で圧倒的な強さを見せつけられたヴィヴィオは戦意を喪失しガタガタと体を震わせるだけで声は届かず。そんな中でクリスは金色の指輪をヴィヴィオの薬指に嵌めこんでいき。

 

 

「指輪をよこせええええええっ!!!」

 

「いやああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

幼き魔法少女の悲鳴が響き渡った時、彼女の指に嵌めこまれた金色の指輪が輝きを取り戻す。

それは森の奥地で見た時と同じ光景。全体を覆う程の虹色の光にオゾットも思わず目を眩まして苦しむ。

 

 

「う、おおおお…ッ!!」

 

「これは…―――ヴィヴィオさんの魔力!」

 

 

金縛りが解けたのか自由に体を動かせるようになったアインハルトは虹色の光の正体に気づく。虹色に輝く光の正体は“ヴィヴィオの持つ魔力”だったのだ。恐らく嵌め込まれた指輪に無意識の内に魔力を込めたのだろう。

 

そのまま虹色の光は極太の光線と化し指輪を通じて一直線に水中へ伸びていくと水面を光が覆い尽くし―――

 

 

「なにか出てきます!」

 

「あ、あれは……っ!!」

 

 

輝く水面の中央から何者かが浮かび上がっていく。その人物は四方八方に伸びた赤髪、真紅の瞳に黒い瞳孔、やせ細った肉体に山吹色の道着を着込んだ青年。周囲には黄金の輝きが入り交ざった赤い炎のような闘気を身に纏っていたのだった。




(オマケ)

なのは「はーい、よい子のドラViVi講座の時間だよ。今回は魔人オゾットについて教えるね。それでは悟飯先生お願いします!」

悟飯(メガネ)「えー……コホン。では説明します。まず魔人オゾットは原作、アニメ、映画には登場していません。」

なのは「え?じゃあ、この小説の為に作者さんが考えた完全オリジナルキャラって事?」

悟飯(メガネ)「ううん、魔人オゾットはジャンプマルチワールドというイベントの為に原作者が画いたキャラなんだ。「ドラゴンボールZ V.R.V.S」ってアーケードゲーム用にね。だから姿と口調とかはそのままだよ。」

なのは「じゃあ、わたしやベジータさんに化けてたのは?」

悟飯(メガネ)「あれは半分オリジナルかな。ゲームでは実際ボクやお父さんやベジータさんに化けてたし技も使えたから他の人物にも化けられるんじゃないかって。強さは魔人ってつくくらいだからダーブラより上だと思ってる。もしかしたら暗黒魔界の住人だという噂もあるし。」

なのは「そっかぁ~。ところで最後に水面から現れたのって……。」

悟飯(メガネ)「それはまた今度! 以上、ドラViVi講座でした。」

なのは「バイバーイ!」


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奇跡を起こせ! 未来を担う超戦士と超魔導師

はい、大変長らくお待たせしました!そして申し訳ございません。自分の力量不足で次の話を持ってこの小説を打ち切りにさせていただきます。詳しい事は日記に書かせていただきますので。
尚、今回はDBHからあるキャラを登場させます。超バーダックはOVAで知ったので。たぶん、DBHからは初だと思います。因みに作者はやった事がありません!それではっ!


「アインハルトさん、今出てきたのって……。」

 

「悟天さんのお父様に似てましたね。一瞬でしたのではっきりと確認はできなかったですが。」

 

 

目が慣れて空を見上げた二人の視界に映ったのは赤い炎に黄金の輝きを宿した人物。姿を捉えたのは虹色の湖から現れた一瞬だったが、その容姿は悟天の父親の孫悟空に酷似していた。

 

しかし悟空に似た男性は上昇している途中で色が薄れて最終的に消えてしまう。

 

 

「き、消えちゃいましたね……。」

 

「さっきのはなんだったのでしょうか。」

 

「さあ……あ、アインハルトさん! 湖が!」

 

 

先程出てきた男性は何なのかと疑問を感じる二人だったが、ふと湖へと視線を変えると何時の間にか虹色の輝きを放っていた湖は普通の湖へと戻っていたのだ。

 

 

「とりあえず、これから……きゃっ! どうしたのクリス?」

 

「にゃあ!にゃあ!」

 

「ティオ、あなたもですか?」

 

 

突然腕を引っ張られ身振り手振りを行うクリスにヴィヴィオは首を傾げる。アインハルトもティオの動作に同様の反応を起こすが慌ててる様子からすぐに何かを伝えたいのだと理解し背後を振り向くと気が付く―――闇色の空に溶け込んで飛翔してくる魔人の存在に。

 

 

「ゴッドリングを渡せえええええええええええっっ!!!!!!!」

 

「オゾット!?」

 

「こっちに向かってきます!」

 

 

邪悪なる炎を身に纏い鬼気迫った形相で接近するオゾット。狙いは間違いなくヴィヴィオが持つ金色の指輪。何故あそこまで指輪に執着するのか理解できないが、素直に指輪を差し出せば無事でいられる保証はなく、むしろ更なる危機に陥る可能性の方が高いだろう。

 

だからこそ絶対死守しなければならないとアインハルトはヴィヴィオを守るように前に立とうとするが……。

 

 

「邪魔をするなあああぁーーーーーっ!!」

 

「――きゃああああぁぁぁっ!!」

 

「アインハルトさん!? ティオ!クリス!」

 

 

オゾットが腕を振るうと風圧が放たれアインハルトと肩に乗ってたティオとクリスまで巻き込まれて湖の方角へと吹き飛ばされてしまう。

 

 

「あ、あああ……。」

 

 

既に手が届く所まで迫っていたオゾットは彼女の腕を掴みとろうと手を伸ばす中、残されたのが自分一人だけという絶望的な状況に追い込まれたヴィヴィオは恐怖でまともに声が出せず、反射的に目を瞑る。

 

 

「これでゴッドリングはわたしの……――なにっ!?」

 

「……え?」

 

 

が、掴まれる感触はなくヴィヴィオは不思議に思って目を開けると伸ばされたオゾットの腕は目の前で止まっていた――彼等の間に立つ青年の手によって。

 

 

「だあっ!」

 

「がああぁぁっ!!」

 

 

そして青年が拳を振るうとオゾットの顔面に減り込み低空飛行で後方へと吹き飛んで地面に深く叩きつけられる。

 

 

「ふうっ、大丈夫ヴィヴィオちゃん?」

 

「ふえっ!? あ、はい。助けてくれてありがとうございます!」

 

 

振り向いた黒髪の青年に声を掛けられたヴィヴィオは慌ててペコッと頭を下げて礼を述べるが、ふと名前を呼ばれた事に疑問を感じて青年を見上げる。

 

 

「あ、あの~どうしてわたしの名前を知ってるんですか? 何処かでお会いしましたっけ?」

 

「え? 何処かって毎日会ってるじゃないか。ボクの事忘れちゃったの?」

 

 

不安そうな表情を浮かべる青年の顔をじっと見つめれば、やがて一人の人物を連想する。顔立ちや口調、そして青年から感じられる気が自分の想い人でもある無邪気な少年と重なり――

 

 

「……も、もしかして悟天くん!?」

 

「そうだよ。よかった、思い出してくれたんだね。」

 

 

名前を呼んでくれた事に青年は元気よく返事を返して微笑む。だがヴィヴィオは未だに驚きを隠せずにいた。原因は悟天の外見が変わっていた事、身長だけではなく容姿も子供の彼と異なっていたのだ。髪型は父親と同じ四方八方に伸びておらず肩に掛かる程度に降ろした黒髪、服装も道着ではなくラフな服装だった為、気を察知できなければ気づくのにもっと時間が掛かっていただろう。

 

 

「おーい! ごてーーん!!」

 

 

続いて真上から聞こえた声に反応して二人が空を見上げると此方へ向かって青年が飛翔してくる……アインハルトを抱き抱えた状態で。

 

 

「あ、トランクスくーん!」

 

「アインハルトさん! 無事だった……え!?トランクスくん!?」

 

 

ヴィヴィオはアインハルトの無事な姿を確認して喜ぶが、悟天の口から聞こえた言葉を聞き驚いて青年へと目を向ける。青年の髪型や髪の色は確かに彼女の知る年上の少年と同じもので、目付きも非常に似ていた。悟天同様身長が伸びて服装も変わっていたが、それでもトランクスの面影は残っている。

 

 

「ほら、もう出てきていいよ。」

 

「にゃあ!」

 

「………。」

 

「――クリス!」

 

 

そしてトランクスが降下すると同時に彼の懐からクリスとティオが飛び出てヴィヴィオは嬉しそうにクリスをぎゅっと抱きしめる。

 

 

「トランクスくんが助けてくれたんだね。」

 

「ああ、悟天を追いかけようとした時にちょうどアインハルトちゃん達がこっちに落ちてきたんだ。いきなりだったから驚いたぜ。」

 

「そうだったんだ。よかったですねアインハルトさん。」

 

 

トランクスから事情を聞いてヴィヴィオはアインハルトに声を掛けるが、アインハルトは何も答えずただ俯くのみ。もしかして聞こえてなかったのかと思い彼女の顔が見える位置まで接近してみると。

 

 

「あれ? アインハルトさん、顔が赤いですよ?」

 

「……ッ!? 私なら大丈夫です。それよりトランクスさん……その、そろそろ降ろして頂けませんか……。」

 

「へ? ご、ゴメン! すぐに降ろすから!!」

 

 

トランクスに降ろされてようやく自分の足を地につけるアインハルト。だが未だに頬を染めたままでトランクスも同様の反応を起こし互いに目を逸らす。そんな二人の様子に疑問を感じる悟天とヴィヴィオ。それからトランクスとアインハルトが普段通りに戻ると本題へと入る。

 

 

「でも、どうして二人とも大人の姿になってるの?」

 

「それがオレ達にもわからないんだ。気が付いたらこの姿になってて……。」

 

「そういえば、目が覚めた時カラダが光ってたよね。」

 

「そうそう、虹色っぽかったよなぁ。それで光が消えるとさっきまでの痛みがなくなっててカラダが成長してたんだ。」

 

 

その後にオゾットの強い気を感じて湖から飛び出したのだと説明を続ける中、黙って話を聞くアインハルトは彼等の言葉に気になる点があった。

 

 

(虹色っぽい光……ゴッドリング……まさか!)

 

 

虹色の湖を思い出す、ああなった原因はヴィヴィオの持つ金色の指輪から光が放たれた為。そして、湖から姿を変えて出てきた悟天とトランクス……――間違いなく指輪との関連性はあるだろう。

 

 

「恐らくですが、悟天さんとトランクスさんの姿が変わった原因はヴィヴィオさんの魔力を媒介にしたゴッドリングの光を浴びたからかと……。」

 

「ヴィヴィオちゃんの魔力? ……あっ!」

 

 

一度ヴィヴィオに目を向けてから悟天とトランクスは思い出す。彼女の魔力光が虹色だった事に。

 

 

「じゃあ、オレ達ヴィヴィオちゃんに助けられたんだな。」

 

「ありがとうヴィヴィオちゃん!」

 

「え? にゃ、にゃはは……どういたしまして。」

 

 

いきなりお礼を言われてヴィヴィオは苦笑を浮かべる。あの時は助けるどころか目の前の敵に怯えていた為、どうやって発動したのか覚えてなかった。

一つだけわかるのはゴッドリングの力が自身の魔力だけで魔力を持たない悟天とトランクスを大人の姿に変えてしまう程強大なものだという事。かと言って二人に魔力がついた訳でもなく、大人モードとはまた違う形で飛躍的にレベルアップしているのだと理解できる。

 

 

「これ程までの力があるならオゾットが指輪を狙うのも頷けます。」

 

「そういえばオゾットはどうしたんだ?」

 

「オゾットならさっき悟天くんが吹き飛ばしてあそこに……いない!?」

 

 

先程悟天が吹き飛ばした方角へと顔を向けるが其処には地面が削れた跡だけが残りオゾットの姿は何処にも見当たらず。

 

 

「おっかしいな~もしかして逃げちゃっ……た。」

 

 

悟天が周囲に目を配ると途中で視線が止まる。視線の先にいたのはオゾット。だが、その表情は明らかに怒りを露にして鋭利な牙を剥き出しにし、鋭い眼光で四人を睨み付け手には小さな欠片を握りしめていた。

 

 

「「「「オゾット!?」」」」

 

「貴様等……許さん……絶対に許さんぞおおおおおおおおぉぉぉーーーーーーっ!!」」

 

 

刹那、大気が震え地面に亀裂が入ると咄嗟に近くにいた悟天達は空中へと回避。その間にも周囲の木々は吹き飛び地面は真っ二つに割れて地形を崩壊させていく。つい先程まで満開に咲いていた桜も暴風によって無残に散り、緑の大地は一瞬の内に荒野に変わり果ててしまう。

 

 

「あぶなかったぁ~。みんな大丈夫?」

 

「わたしは大丈夫だけど……あ、あれを見て!」

 

 

ヴィヴィオが指を差した前方には漆黒のオーラを身に纏う魔人の姿。だがその身体は隣に聳え立つ山に並び立つ程大きくなっており、胸元には見覚えのある碧い欠片が複数嵌めこまれていた。

 

 

「ロストロギアの欠片で巨大化したのでしょうか。」

 

「それはわからないけど、さっきより強い気を感じる。けどこれで攻撃を当てやすくなった…―――いくぞ悟天!」

 

 

巨大化したオゾットを見上げる。明らかにパワーアップを果たして威圧感が増しているのを感じながらもチャンスだと思い悟天とトランクスは積極的に攻撃しようと魔人に立ち向かっていく。

 

 

「はああーっ!!」

 

「だああーっ!!」

 

 

左から悟天が右からトランクスが回り込んでオゾットの顔まで接近するとパンチとキックを繰り出そうとするが……。

 

 

「「―――っ!?」」

 

 

攻撃が当たる直前にオゾットの姿が消えてしまう。そして振り向いた瞬間、背後から巨大な手に掴まってしまい、更に掌から生み出された禍々しい漆黒のエネルギーが背中に放たれると地上へと急降下していく。

 

 

「「うわあああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!」」

 

「悟天くん!」

 

「トランクスさん!」

 

 

地面に叩きつけられた衝撃で砂煙が巻き起こる中、ヴィヴィオとアインハルトは二人が落下した地点へと駆け出す。其処には子供の姿に戻った悟天とトランクスが倒れていたのだ。

 

 

「トランクスさん!大丈夫ですか!」

 

「悟天くん!しっかりして!」

 

「ふっふっふ、ようやく邪魔者はいなくなった。さぁ、今度こそゴッドリングをいただくぞ。」

 

 

倒れた悟天とトランクスを見下ろせば、オゾットは足音を響かせながらゆっくりとヴィヴィオ達の元へと歩み出す。

 

 

「うっ、ぐ……オゾットがくる……。」

 

「にげて……ヴィヴィオちゃん……。」

 

 

徐々に迫りくるオゾットに気付いた悟天とトランクスは二人に危険が及ぶ前に逃げるよう告げるが、さっき受けた攻撃のダメージで動けない。

そんな中、少年二人の無事を確認したヴィヴィオとアインハルトは静かに立ち上がり、オゾットの方へと顔を向ける。

 

 

「ううん、逃げないよ。怖くないと言ったら嘘になるけど、それで逃げたらまた大切な人を失うかもしれないから。だから、わたしは戦う……わたしの大切な人達を守る為に!」

 

「私もヴィヴィオさんと同じ意見です。確かに手強い相手ですが、諦めるつもりはありません。私達を守ってくれた人達の為にも、そして覇王の名に恥じない為にも此処で貴方を倒します!」

 

 

もはや迷いはない。大切な者を守る為に少女達は戦う覚悟を決意する。それがどれだけ強大な相手だろうと、どれだけ力の差があろうと、決して屈せずに闘志を燃やしていく。

 

そして少女達の鮮烈な想いは―――再び奇跡を呼び起こす。

 

 

「えっ!?」

 

「あの光は……!」

 

 

突如ヴィヴィオの指から金色の指輪が勝手に抜けると宙へと上昇し、ヴィヴィオとアインハルトの意志とは関係なく彼女達の魔力が指輪に集まり黄金の光へと変化して倒れた少年達を呑み込む。

 

 

「な、なんだ! カラダの中からパワーが溢れてくるぞ!!」

 

「わぁ~~力がみなぎってきた!!」

 

 

ボロボロだった悟天とトランクスの傷が癒え、黄金の光を身に纏ったまま立ち上がればヴィヴィオとアインハルトの前に立ち左右対称に並んで両腕を伸ばす。少年達の動作を見て互いに頷いた少女達も頭上に手を掲げると、クリスとティオがそれぞれの主の手中へと収まり。

 

 

「セイクリッドハート!」

 

「アスティオン!」

 

「「フュー……ジョン!」」

 

「「セーーーットアーーーップ!!」」

 

「「はあっ!!」」

 

 

少年達の指が重なり、少女達の足元に魔法陣が浮き出たのと同時、黄金の指輪から太陽の如く眩しい光が発生し周囲全体を包み込む。オゾットも例外ではなく咄嗟に両腕で顔を覆い隠し、光が治まった頃を見計らい少しずつ腕を引いて改めて正面に視界を向けては―――

 

 

「ば、バカな!? こんなことが……。」

 

 

オゾットが見た光景は変わり果てた荒野ではなく一面の緑に包まれた平野。背後には満開に咲き誇る桜の木が幾つも聳え立ち、風に流されて舞い散る桜吹雪が消えると三つの人影が立ち塞がる。

 

 

「―――さぁ、正義の時間だ。」

 

 

左右に並び立つのは金色と翠色の長い髪を靡かせる二人の女性。そして中央に立つのは黒と紫が入り混じった逆立った髪の青年。子供から大人へと成長した次世代の超戦士と魔導師は何をもたらすのだろうか、空前絶後の大事件はいよいよ最終局面へと突入するのだった。




(オマケ/NGシーン)

ヴィヴィオ&アインハルト「「セーーットアーーップ!」」

悟天&トランクス「「はあっ!」」

(変身後)

融合戦士(デブ)「さぁ、正義の時間だ」

聖王「………(決まってないよ)」

覇王「………(決まってないですね)」


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