戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【完結】 (ゼフィガルド)
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依頼1件目:時系列はバラバラで行く

 AC6での二次創作です。更新頻度はまばらになりますし、長編とかでもなく現パロでもない何かになります。それでは、どうぞ。


 

 惑星ルビコン3において採掘された資源『コーラル』。強力なエネルギー資源であり、情報導体でもあり新時代のリソースを求めて星外からは多数の企業が訪れていた。

 企業の競争はやがて兵隊を使った紛争にまで発展し、火薬の臭いを嗅ぎつけた独立傭兵達や土着のルビコニアン達を巻き込んだ闘争に明け暮れていた。これは、そんな闘争蔓延る世界で生きる1人の傭兵の話である。

 

「コーラルうめっ、うめっ」

 

 ここにいるクソデカ芋虫に赤い何かを塗って貪っている女。スレンダーと言えば聞こえはいい物の、胸も尻もない彼女は強化人間C4-621。対外的には『レイヴン』という名前で知られている傭兵である。

 焦点の定まらないロンパリな視線で見つめているのは、まだ見ぬ平和なルビコンの未来かもしれない。

 

「621。こんな所に居たのか」

 

 そんな彼女を迎えに来たのは、トレンチコートを着た初老の男性『ハンドラー・ウォルター』だった。トリップしている彼女の姿を見て溜息を吐きながら、その腕を引いた。

 

「仕事の時間だ。お前もブリーフィングに参加しろ」

「おひょひょ」

 

 責任感も緊張感も感じない笑い声をこぼしながら、ウォルターに腕を引かれてブリーフィングルームへと連れていかれた。

 

「ベイラム本社からの依頼だ。繋ぐぞ」

「こちらG6。聞こえているか! G13!」

「はい」

 

 G13とは、621のベイラムグループの精鋭部隊『レッドガン』内でのコールサインだ。

 通信相手であるG6のよく通る声が響きすぎているのか、621の体は右に左に揺れていた。

 

「先日の惑星封鎖機構の強制査収もあって、調査拠点が失われた。故に『壁』にあるアーキバスグループの調査拠点の奪取と警備隊長であるヴェスパー7の排除を依頼したい」

「めっちゃ壁に執着していますね」

 

 元はルビコン解放戦線と言う土着のレジスタンス達の反抗拠点であり、ベイラムグループも攻略を試みたが、多数の被害と精鋭であるレッドガンの1人を失うという痛手を被った。

 

「だからこそだ。この壁を取り戻すことは我々の士気にも繋がる。うちからも兵隊を幾つか付ける」

「いや、邪魔」

「付けるのが本社の条件だ」

 

 621は胡乱な視線でウォルターに助言を求めた。助力の為に付ける訳ではないとすれば。

 

「少しでも自分達が作戦に寄与し『壁』を入手する為に動いた。という実績が欲しいのだろう。アーキバスの精鋭であるヴェスパー7が相手である。という前提を忘れている気もするが」

「G4も意識不明の重体に追い込んどるし、これはもうダメかもしれんね」

 

 コーラルのキマった頭でも否定できる程の意見なのだから、相当にダメっぽいが独立傭兵としては仕事を選んでいられる物ではなかった。

 

「引き受けましょう。ただし、条件があります?」

「条件?」

「はい。付き添いであるMT達にとある武器を装備させて欲しいのです。なぁに、お宅らベイラムグループの武器です」

 

~~

 

 壁。ルビコン解放戦線の拠点だったが、現在はアーキバスがコーラルの湧き出る井戸は無い物かと、調査拠点にしている場所でもある。

 惑星封鎖機構、ルビコン解放戦線、ベイラムグループと襲撃者に事欠かない場所に派遣されたのは、猜疑心と警戒心においてはヴェスパー内でも右に出る者がいない男『スウィンバーン』であった。

 

「時代遅れの斜陽グループに教養も糞も無い土人共め。何故、私がこんな所に。スネイル閣下は私のことを信用してと言っていたが、本当は厄介払いじゃないのだろうか」

 

 早速、お得意の猜疑心に駆られていると景気よく爆炎が上がった。襲撃である。哨戒させているMT達には監視用装備を取り付けているというのに、一つも連絡がないので急いで通信を入れた。

 

「おい! 何が起きている!!?」

「さぁ? なんかこう。暴れているみたいです」

「見て来い!」

「しかし、隊長殿が決めた哨戒ルート外に行くことになりますし」

「貴様! 頭、ペイターか! さっさと見てこい!」

 

 まるで融通も何も利かない部下を叱咤したが、この様子だと多分見に行かないだろう。態々、激戦区に足を向けろというのも酷な話だが、それが企業戦士である。

 

「嘗めるなよ。私だってヴェスパーⅦだ」

 

 操縦桿を握る手に力が籠る。自分だって番号付きだ。有象無象位を蹴散らす力はあると構えていた所で、背後から複数の反応が近づいて来た

 友軍反応のタグが無いことから、この事態を引き起こしている下手人達だろう。意を決して振り返れば。

 

「おいすー」

「貴様は! 独立傭兵! ベイラムと……」

 

 とまで言いかけて凄まじい衝撃に襲われた。もしも、彼が強化人間でなければ気絶していただろう。と言っても視界は霞み、操縦も覚束ないとなればマトモに動かせるのは口位だった。

 

「ま、待て! 私はこの部隊の」

 

 ガンガンと揺さぶられる。見れば引き連れているMTからの攻撃も効いているらしい。一体、何をされているかも整理できない状態のまま、ベイラムグループのパイロットは叫んだ。

 

「ウォオオオ! ベイラムインダストリー最強! ZIMMERMAN最強!!」

 

 閉じ行く意識の中、スウィンバーンが見たのはレイブンもMTも同じ長距離ショットガン『ZIMMERMAN』を装備していたことだった。爆発は鳴りやまなかった。

 

「持って帰って、身代金とろ」

『レイヴン。ウォルターに何か言われると思いますよ……』

「エア、犬ってのはね。飼い主に獲物を持って帰るんだよ」

『それは本当に犬の仕草でしょうか?』

「そうわよ。あ~、気持ちいい~」

 

 コーラルを吸引し過ぎた為か、薄っすらと見える女性に向けて621は饒舌に話していた。壁の周囲ではZIMMERMANの咆哮が鳴り響いていた。

 



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依頼2件目:捕虜への拷問は条約で禁止されている

1時間でこれだけの閲覧数がついたことに驚いております。AC6の面白さと人気が伝わって来ます! ですが、心配です。私はその様な題材を上手く描けるでしょうか? クイック、クイック、スロー、スロー……


 

「これより会議を行います。捕虜となったV.Ⅶ隊長についてです」

 

 アーキバス社。ルビコンに進出している企業の一つで、この場に集まっている者達は、企業お抱えの強化人間部隊『ヴェスパー』の隊長達である。司会進行を務めているのは、No.2のスネイルだ。

 議題に上がったV.Ⅶ隊長のスウィンバーンは、調査拠点である『壁』の護衛任務に就いていたが、突如としてやって来たレイヴンを始め、ショットガンを携えたベイラムMT部隊に壊滅させられ虜囚となっていた。

 

「私は、スウィンバーンさんの奪還は諦めるべきだと思います」

 

 真っ先に意見を呈したのは、ヴェスパー部隊で最年少の隊長。V.Ⅷのペイターだった。若輩でありながら、先達を切り捨てろ。と言わんばかりの意見に少なからずの動揺が走った。

 

「その考えに至った意見を述べなさい」

「現状は惑星封鎖機構に睨まれ、ベイラムが信じられない位に強くなっています。今、弱みを見せれば付けこまれる可能性もあります。それならば、アーキバスグループの人材層の厚さを見せて、我社の威光を見せましょう」

「人材層の厚さ。とは言いますが、スウィンバーンの代わりにアテがあるのですか? 彼は会計責任者だったのですよ?」

 

 人事も兼任しているスネイルには幾らか心当たりはあった物の、意見を切り出したペイターの考えを聞くべく、続きを促した。すると、自信に満ちた答えが返って来た。

 

「この私です。副官として、幾度かスウィンバーンさんと仕事を共にしました。ある程度は部隊の出納も把握しています。どうでしょうか? 私をV.Ⅶ隊長として取り扱ってみる気はありませんか?」

 

 切り捨てるように提案した挙句、空いた席に収まろうとする図々しさと共感性の無さは、強化人間になった弊害。という訳ではなく、素の人格の問題だった。

 

「待ちなよ、ペイター君。切り捨てるばかりが威勢の示し方ではないはずだ」

 

 そんな彼を嗜めるように発せられた声色は穏やかな物だった。V.V隊長ホーキンス。部隊内では人格者として多くの者達から慕われている。

 

「ホーキンスさん。では、奪還を?」

「条件次第だよ。そもそも、スウィンバーン君は今どこにいるんだい? やはり、ベイラムに?」

「そう思って問いましたが、どうやらレイヴンが持って帰ったそうです」

「ほぅ、戦友が!」

 

 喜色に富んだ声を発したのはV.Ⅳ隊長であるラスティだ。共に『壁越え』を為したこともあり、このアーキバスグループでは最もレイヴンと懇意な人物と言っても良いだろう。

 

「何故、レイヴンが?」

 

 V.Ⅵ隊長であり紅一点であるメーテルリンクの疑問は最もだ。まさか、個人で身代金を取ろうとでもしているのだろうか。

 

「理由はない。らしい」

「閣下。どういうことですか?」

「あのコーラルヤク中にロジックを求めるのは無駄と言う物です。ベイラムも機嫌を損ねたくないから、持って帰らせたのでしょう」

 

 アーキバスグループからもベイラムグループからもコーラルヤク中であると同時に、アホみたいに強い独立傭兵として知られている。その為、しばしば企業からも忖度される。何せ、行動原理が本当に読めない。

 

「ラスティ君。彼女の機嫌を取る方法は、僕達の中じゃ君が一番詳しい筈だ。何か手はあるかい?」

「そうだな。戦友はミールワームが大好物だ。コーラルを塗って食べるのが生き甲斐だと言っていた。詰め合わせでも送れば、快く返して貰えるかもしれない」

「ハハハ、ラスティさん。まさか、スウィンバーンさんの価値がミールワーム並だと言うんですか」

「何匹分だろうな」

 

 本人が居ない所で好き勝手に言われていることから、隊内での評価が透けて見えた。ホーキンスが苦笑する中、スネイルは溜め息をついた。

 

「何をバカなことを言っているのですか。奴の背後にはハンドラー・ウォルターが居るのですよ」

 

 如何に本人がアホだとしても、バックに優秀なブレインが付いているなら話も変わって来る。それにスウィンバーンは会計責任者であり、部隊内の出納にも詳しいなら資金の流れから社内の動きを察せられる可能性もある。

 

「そうだった。奴には優秀な飼い主が付いているんでした! クッ! スウィンバーンさんはもう!!」

「ペイター君、勝手に殺しちゃ駄目だよ。スネイル、スウィンバーン君に取り付けている装置から向こうの様子を傍受することは出来ないのかい?」

「今、アクセスしているのだが。妨害を受けているのか中々表示が出来なくてな」

 

 モニタには砂嵐が走るばかりで映像は映らない。と思われていたが、徐々に晴れて行き音声が先んじて聞こえて来た。

 

「うわぁあああああ! 何をする! このバカ女! 止めろ!!」

 

 砂嵐が晴れると、そこにはバナナ程の体躯を持つミールワームの尻を咥えているアホが映し出されていた。

 ルビコンを舞う戦場の鴉(レイヴン)としての威厳は微塵も見当たらず、コーラルを塗り付けられた影響からかミールワームは青色に輝きながらも蠢いていた。

 

「コーラル。Oh、コーラル。コーラルと共にあれ」

「くっさ!!」

 

 尻から呼気を送り込むと、ミールワームの口から赤色っぽい吐息が吐き出された。甚く不愉快なのかスウィンバーンの表情が苦悶に歪んだ。そんな様子を真顔で眺めている初老の男性に対して、抗議の声を上げた。

 

「き、貴様! コイツの飼い主だろう! 指導はどうなっている!」

「これでもマシになっているんだ。さて、映像の方は見えているか?」

 

 画面越しに問いかけられている。ということは、映像は敢えて見せられているということだろう。問題は見せられている光景に危機感もクソも感じられないということだが。

 

「何が望みですか?」

「身代金の請求だ。あの時、621がこの男を持ち帰らねば、ベイラムで尋問か拷問を受けていただろう。それに比べれば、ここで行われていること位。大したことではないはずだ」

 

 コーラル吐息を浴びせるのに飽きたのか、621はスウィンバーンの顔にミールワームを這わせていた。確かに拷問と言うには余りにもショボく、その様子を見ているペイターとラスティは爆笑していた。

 

「いいでしょう。保護代と思えば、安い物です」

 

 スネイルとウォルターの交渉が進められていく背後では、悲鳴と笑い声が響いていた。温和で人格者であるはずのホーキンスでさえ小さく笑っていた。

 話自体は法外と言うこともなく、互いに納得できる領分で収まって行く中。最後にウォルターはチラリと621の方を見た。

 

「お前も何か欲しい物はあるか?」

「コーラル! コーラル! 後、ワーム!」

「良いでしょう」

 

 機体や開発に使う訳でもない、個人が求めるコーラルの量やミールワームの代金など企業から見れば端金も良い所だったので、直ぐに許可が下りた。その反応を見てか621は無邪気に喜んでいた

 

「おじさん。また、来てね」

「二度と来るか!!」

 

 そう言って息巻くスウィンバーンの顔面に追加でミールワームを乗せた。悲鳴が木霊した。

 



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依頼3件目:壁を中心に集まっているのだから、実質コミケ

 

 スウィンバーンをキャッチ&リリースしてから数日。たんまり貰ったコーラルとミールワームに興じている621に暗号通信が入って来た。

 

「ウォルター。電話―」

『いやいや、報せる必要はありませんから。内密に話す為の暗号通信ですから』

「やっぱり電話ないー」

 

 コーラルに染まった脳内で女性の声が響く。とある任務を達成してから、ずっと621と行動を共にしている存在。

 姿形こそない物の、自らを『エア』と名乗る彼女は、任務のマネジメントや作戦行動中のサポートなど様々な分野で621に力を貸していた。

 

『これは、ルビコン解放戦線からです。依頼を確認してみましょう』

「独立傭兵レイヴン。貴方に引き受けて貰いたい仕事がある。先日、アーキバスからベイラムグループへと所有権の移った『壁』の奪還。その重要な一手を引き受けて欲しい」

『また「壁」ですか』

 

 先日、ベイラムグループのMT達を引き連れて『壁』を奪い取ったばかりだというのに。とは言え、奪い取ったばかりで防護が形成し切れていない状態を狙うのは合理的ではあった。

 

「壁レースだ。よーい、ドン」

 

 企業や勢力の思惑を揶揄しているのか。彼女はミールワームを壁に這わせて競争させようとしていたが、あらぬ方向に進んだり排泄したりと。レースの体を為していなかった。

 

『レイヴン。もしや、これは企業間が摩耗するばかりの様子に対する風刺を?』

「うめっ。うめっ」

『はい。何も考えていませんね』

 

 レースを見守るのに飽きたのか、片っ端から捕まえて口の中に放り込んでいた。見方によれば、壁に群がる思惑を平らげるという剛毅なスタンスを表しているようにも思えたが、多分そんなことは考えていない。止めていた依頼の続きを再生した。

 

「壁の防護を任されているのはG2のナイルだ。我々にとっても、捕虜救出作戦以来の会敵となるだろう」

 

 以前、ルビコン解放戦線から帥父であるサム・ドルマヤンを始めとした重要人物達の救出作戦の際に、彼女は護衛として随伴したことがある。

 脱出を目の前にして現れた手勢を引き連れて現れたG2達に、解放戦線の面々が絶望する中。単騎で全てを打ち倒した621の活躍に惚れ込んだのか、この様に度々依頼が入って来る。

 

「ツィイーちゃん元気かな?」

『レイヴン。貴方、人のことを心配したりするんですね』

 

 思いやりと共感という言葉が最も似合わない彼女が口に出す位なのだから、よほど仲が良いのだろう。と考えると、エアは自らの胸中に何とも言い表せないモヤを感じた。

 

「独立傭兵レイヴン。あの時、私達に見せてくれた奇跡をもう一度見せて欲しい。それと、個人的なことにはなるが。ツィイーがすっごいデカいミールワームを見つけたと言っていた。写真も添付しておこう」

「マジで!?」

 

 依頼に対しては殆ど反応しなかったが、最後に添付された画像に対しては食い入るように見入っていた。

 白くブヨブヨした表皮に走る亀裂からは青白い光が放たれていた。周囲の風景から推測するに、体長は4~5m程はある。

 

『レイブン。これ、明らかにヤバい奴ですよ』

「任務の帰りに見に行こ」

 

 コーラルを起源とするエアとしては、何となく察しが付いたが意気揚々とACのコックピットに乗り込む621が両目をキラキラ輝かせているのを見たら、諫める気も失せた。

 

~~

 

 『壁』。かつてはルビコン解放戦線の重要拠点であり、アーキバスの調査拠点であり、現在はベイラムが管理していた。

 哨戒するMT達は一様にして同じ武器を所持していた。ベイラムが誇る制圧兵器。長距離ショットガン『ZIMMERMAN』である。

 

「あまりにも浮かれすぎている」

 

 レッドガンの参謀でもあるG2ナイルの懸念は尤もだった。

 ルビコンにおける企業間競争において劣勢に立たされているベイラムにとって、この武器は、分かり易く企業の威光を示す物だったのだろう。

 戦場を舞う鴉(レイヴン)の得物であり、アーキバスを跳ね除け、辛酸を舐めさせられた壁を入手するに至った武器。……だが、決して扱い易い物ではない。

 

「(装填数が少ないこと。面での攻撃になること。そもそも、武器の重量自体も重い。これを使っての戦闘ともなれば、ヴォルタの様なタンク型のACでもなければ難しいだろう)」

 

 現在は意識不明の重体ではあるが生きてはいる。俺が叩き起こしてやる! と意気込んでいた友人の顔を浮かべていると、緊急無線が入って来た。

 

「どうした?」

「襲撃! G13です!」

 

 つい、先日は壁の奪還に協力していたというのに。昨日の友は今日の敵と言わんばかりの変わり身だが、独立傭兵であるのなら珍しいことではない。

 

「被害状況は?」

「G13の撃破もそうですが、ZIMMERMANによるフレンドリファイヤで!」

 

 恐れていたことが起きた。攻め込むときは無類の強さを発揮するが、単騎で攻め込んで来る相手の防衛には向いていない。

 特にACの様な機動兵器に対しては、MTでは照準を合わせるのもままならないだろう。銃撃音が響くことすら無く、次々と信号がロストしていく。

 

「(まさか、これを見越して?)」

 

 実は、既にあの時点で第三者の依頼を受けており、前回の華々しい制圧は今回に向けての布石だったのではないのかと。

 

「ナイル殿!」

「何時でも脱出できるようにレバーに手を掛けておけ!」

 

 指示を飛ばしたG2に影が覆い被さる。夜に舞う鴉(レイヴン)は、地獄からの使者の様に思えた。

 

「つくづく俺も地獄に縁があるな!!」

 

 手にしたハンドミサイルから4発の弾体が放たれた。更に両肩に取り付けられたミサイルも放ちつつ、これらによって相手の機動をコントロールした後、もう片方に握られた武器。リニアライフルの『HARRIS』による一撃で沈めるというのが必殺のルーチンだった。

 以前会敵した時は至近距離に潜り込まれ『ZIMMERMAN』により態勢を崩された後、一方的にボコられたことは覚えている。

 

「(この為に、機体の姿勢制御に対して重点的なカスタムを加えている。お前の攻撃が途絶えた時が、最期だ!!)」

 

 二の轍を踏む気はない。改めて、鴉(レイブン)ことG13を正眼に見据える。両手にZIMMERMAN。肩部にもZIMMERMANが4丁。

 

「え……」

 

 通常ACと言うのは両肩のウェポンハンガーを含めて4つしか武器を持って来れないハズで。だとしたら、何処でこんな……と考えて、先ほどから銃撃音が全く響いていなかった理由を理解した。

 

「イェーイ」

 

 流石に6丁の猛攻には耐え切れず、G2の機体は揺さぶられ、吹き飛ばされ。搭乗者であるG2ナイルは気絶した。

 

「でっけぇワーム。でっけぇワーム」

 

 G2の愛機ディープダウンの武装を解除した後、621は戦利品の様にして機体と中身を持ち帰った。

 

~~

 

「見て。ほら、デカいワーム」

「うわ。デカイ」

「うむ。これは誠にデカイ」

『ボキャブラリーが貧困ですね』

 

 G2を押し付けられ頭を抱えるウォルターを傍目に、621は件のデカいワームを見に行っていた。

 誇張でも何でもなく4~5m程の体長を持っている割には大人しく前進するだけだったので、体表を切り取られ子供達に振舞われていた。

 

「美味しい! 気持ち良い!!」

「子供達も腹いっぱい食えるようになったし。このワームのお陰だよ」

『あの、レイヴン? そのミールワームからはコーラル反応が……』

 

 リトル・ツィイーと傍らに立つ全身真っ赤な装いをした男は笑顔を浮かべていたが、やっていることはインモラルも良い所だった。全てが善意で行われていることなので救いがない。

 

「うめっ、うめっ。エアもどう?」

『いや、食べられませんよ……』

 

 621も子供達と同じくクソデカミールワーム焼きを楽しんでいた。そんな彼女を見つめる子供達の視線は、何処か遠方を見ている様な胡乱な物だった。

 



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依頼4件目:ロード・オブ・ザ・ワーム

 帥父、サム・ドルマヤン。企業の搾取に対抗するべく立ち上げられた原住民達の反抗組織『ルビコン解放戦線』の軍事的指導者であり、かつてこの惑星を灼いた大火『アイビスの火』を生き残った人物でもある。

 

「帥父。例の独立傭兵の協力もあって『壁』の奪還には成功しましたが、我々の戦力では恒常的に守っていくのは不可能に近いかと」

 

 傍らに立つ男『ミドル・フラットウェル』は率直に述べた。アーキバスとベイラムを追い払ったからと言って安心できる訳ではない。

 彼らは企業が持っている資金力に物を言わせて直ぐに立て直して来るだろう。また、彼ら以外にも惑星封鎖機構が各地の調査拠点を制圧して回っており、やはりこれらに対抗するだけの力もなかった。

 

「構わん。少しの間だけでもいい。落ち着ける場所さえあれば、飢えずに済む」

 

 ルビコンの食糧問題は深刻だった。各地で企業による搾取や戦闘が行われている為、土地は痩せこけ食糧を生産する体制も整わない。

 唯一の頼みがあるとすれば、どんな荒地でも育つミールワームにコーラルを用いて養育することで糊口を凌いでいた。

 

「はい。おかげで子供達も食事にありつけています」

「そうか」

 

 フラットウェルからの報告を聞いて、ドルマヤンの表情からは険が取れた。

 企業は新時代のエネルギー源として消費することしか考えていないが、本来は、こうして自然の恵みと同じ様に共生していくべきなのだと。自らが理想としたあるべき姿の一端を見て、ほんの少しだけ救われたような気がした。

 

「(セリア。私は臆病者だ。君と同じ歩幅で歩けなかった。残された時間は多くないが、それでも。私は人とコーラルとの共生と可能性について、もっとじっくりと考えて行きたい)」

 

 誰に聞かせる訳でもない、誰に分かって貰えるはずもない理想を心中で呟きながら案内された先。そこでは、子供達が歓声を上げてはしゃいでいた。

 

「ワームワームワームワームワームワームワームワーム」

「見て! 空が赤いよ! キラキラしている!」

「コーラル! コーラル!」

 

 先日発見された異常成長している上、青色に発光しているミールワームをケバブの様に炙って、切り分けているのは、解放戦線の妹分であるリトル・ツィイーだった。

 子供達も十分な食事を取れて喜んでいるのか、意味の分からない発言をしたり、口から赤い吐息を吐いたりしていた。フラットウェルの表情が固まり、ドルマヤンはにっこりと微笑んでいた。

 

「あ、帥父! 視察に来て下さったんですか!」

「そうだ。ツィイー、君が皆に振舞っていたのか?」

「はい! レイヴンもウメェウメェって言って食していましたし、皆にも食べさせてあげたいと思って!」

 

 子供達が喜んでいるのは潤沢な食事だからだろうか。それとも、このミールワームに変な成分が含まれているからだろうか。常人には判別が付き難い光景であったが、ドルマヤンは笑顔を絶やさぬまま頷いていた。

 

「そうか。ツィイー、君は優しいな」

「そんな、帥父……」

 

 幼い頃に両親を事故で失って以来、ツィイーにとってドルマヤンは父親以上の存在であった。そんな彼から笑顔と共に賞賛を送られたのだ。嬉しくないはずがない。

 

「それはそれとして、よくもこんな危険物を皆に振舞ったな。貴様はポアだ」

「!?」

「帥父! 落ち着いて下さい! ダナム! アーシル! 六文銭! 止めるのを手伝ってくれ!!」

 

 微笑みから一転。感情のアサルトブーストを吹かしていた。コーラルと人との展望を最悪な形で見せつけられたドルマヤンとしてはブチ切れる外なかった。

 フラットウェルが周囲に呼び掛けて制動を掛けるまで、解放戦線の尊師は猛り狂っていた。

 

~~

 

「という経緯がありて、同志ツィイーはミールワームを遠方へと廃棄してくる任務を仰せ付かった」

 

 『壁』の奪還に引き続きルビコン解放戦線から、再び依頼が届いた。

 今回は暗号通信ではなく公の通信でもある為、ウォルター……だけではなく虜囚となっているハズのG2ナイルも聞いていた。

 

『でしょうね』

 

 エアは溜め息を吐いていた。分かり切っていた問題を何故回避できなかったのか。何故、コーラルの性質をある程度把握しているハズのルビコニアンが分からなかったのか。

 

「お前達もコーラルの性質は分かっているハズだ。未然に防ぐことは出来なかったのか?」

「腹を空かした奴らの目の前に食料があるんだ。制動が利く訳がない」

 

 エアとウォルターの疑問については、代わりにナイルが答えていた。通信相手の六文銭も相槌を打っていた。

 

「うむ。成人した者達に何ら異変が見られなかったことも発見が遅れた要因であろう。稚児達も喜んでいるとばかりと思っていた」

「そんな異様な喜び方をしていたら、もっと早くに気付きは……」

 

 と言いかけて、ウォルターは621の方を見た。今日はオーソドックスにパイプを使ってコーラルを吸引しながらケタケタ笑っていた。

 

「ウォルター! 私、あのミールワーム飼う!!」

「飼える訳が無いだろう」

「けちんぼ!」

 

 同時に納得した。これを常日頃から見ていたら、常人と狂人のテンションの境目は極めて曖昧なものになるだろう。任務と言うにはあまりに個人的ではあるが、ルビコン解放戦線的には無視することも出来ないのだろう。

 

「虫だけに!!」

「俺達も暇ではない。それに処分する方法は幾らでもあるだろう。少なくとも、こいつに依頼するよりは安く上がるぞ」

「拙者も爆殺は提案したのだが、帥父から許可が下りなかった。どういう形であれコーラルの賜物を無闇に処分することは気に食わんそうだ」

 

あまりにも合理性から外れている。そんな彼らに、調査拠点を奪われたナイルは首を振った。

 

「ルビコン解放戦線は随分と余裕があるらしいな」

「指導者という立場上、権威的なスタンスは必要だろう。621、受けるかどうかはお前が決めろ」

「受ける!」

『即断ですね』

「助力、誠に感謝。同志ツィイーも喜ぶことだろう」

「捨てに行く場所に心当たりはあるのか?」

 

 聞いている限り、コーラル成分がミッチリと詰まっているのだから近場に捨てた所で『壁』に眠っている、コーラルに反応して戻って来る。かと言って、他にコーラルがある場所と言えば企業か惑星封鎖機構が管理している。

 

「所用があって、我らは中央氷原に来ているが。大陸を隔てたからと言って、路傍に捨て置くのも酷な話だろう」

 

 子供達がアヘアヘしてしまった原因ではあるが、ドルマヤンが激怒するまでは確かに大人達の栄養分ではあったのだ。じゃあ、捨てるなよ。と言われても癇癪を起されたのだからキッチリと捨てなければ納得もしないだろうが。

 とことん合理性を欠いた任務内容にウォルターの眉間の皺が深くなっていく。そんな場を収めるべく、ナイルはパチンと両手を叩いた。

 

「だったら、同時にベイラムグループの同盟会社『大豊』からの依頼も受ける。というのはどうだ?」

「何の依頼だ?」

「中央氷原、エンゲブレト坑道。この場所にはコーラルの感知装置(センシングデバイス)が設置されている。近く、惑星封鎖機構が補修に入るそうだ。更にコーラルを搾り取るつもりだろうが、奴らの手に渡る前に装置を破壊する」

 

 感知装置を潰してしまえば、採取しようにも非効率極まりないことになるだろう。自分達の手に入らない位なら破壊してしまえ。という、焦土作戦の様な物でもあった。

 

「あそこは中期からコーラルの採掘場所だったからな。今は惑星封鎖機構が管理しているとはいえ、採掘量は多くない。ついでに奴らに対する陽動作戦も併せて。と言った所か?」

「その通りだ。例のバカデカいミールワームを放つなら、少しでもコーラルのある場所へと還してやるのも優しさだろう?」

 

 管理されていないコーラル採掘場所などある訳もなく。捨てに行く場所としては、一番現実的な落とし所だった。

 

「拙者らを惑星封鎖機構にぶつけるということか?」

「いずれにせよ、ぶつかる相手だ。レイヴン共同作戦で受けている間の方がデータも採取できるだろう?」

 

 G2。ミシガンの参謀と言われるだけにあって、策略には長けている。と、ウォルターは考えていた。切っ掛けが如何に馬鹿らしいものだとしても。

 

「貴殿の返事を聞こう」

「受ける、受ける」

『何もかもが軽いですね』

 

 実に軽い返事だった。かくして、ルビコン解放戦線、ベイラムグループ、独立傭兵レイヴンと言う奇妙な組み合わせによるポイ捨て任務が始まろうとしていた。

 



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依頼5件目:アライ虫ミルワーム

 エンゲブレト坑道。ルビコンにおいて幾つか設置されているコーラルのウォッチポイントであり、開発中期から存在していた拠点であり歴史は古い。

 長年の採掘により埋蔵量が見込めないとしても、惑星封鎖機構が警備を配置するのは、この拠点に歴史的価値を見出しているからなのかもしれない。

 

「あるいは。まだまだ、コーラルが眠っているのかもしれないな」

 

 付近に待機していた3機のACにウォルターからの通信が入った。

 1機は裏社会の暗殺者として名を馳せた六文銭の『シノビ』。もう1機は、ルビコン解放戦線の若き女性戦士ツィイーの駆る『ユエユー』。最後の1機は、戦場を舞う鴉(レイヴン)が駆る機体。

 

「レイブン。私、貴方の機体名を知らないんだけれど、何て言うの?」

「知らなーい。考えてなーい」

「アリーナで見た時の登録名も『No name』となっていたが」

 

 パイロットにとってACとは生死を共にする相棒の様な物である。機体を判別する為の名前は業務に欠かせない物であるし、何よりも愛着が湧く。

 

「何か良い名が思い浮かぶといいな。言葉には力が宿る故」

「は~い」

「世間話は任務終了後の楽しみにとっておけ」

 

 ウォルターに促され一同は坑道へと入って行く。岩肌が剥き出しになっている部分も多く、当時の整備事情が伺い知れるようだった。

 

「最低限とは言え警備は配置されている。閉所での戦闘ともなれば、いつもと勝手は違うだろう。油断するなよ」

「拙者のシノビが先行しよう」

 

 やはりと言うべきか、惑星封鎖機構は他の調査拠点や企業達の相手に戦力を割いていることもあり、配備されている警備の数は多くない。

 スニーキングの心得があるのかシノビが先頭を行き、最後尾に621が付いた。間に挟まれたツィイーは、件の巨大ミールワームの入った鉄格子を抱えており、武装類は背中にマウントしていた。

 

「あぁ、ちょっと。暴れないで」

 

 今まで大人しかった巨大ミールワームだが、この坑道に入ってから何かに反応する様に頻りに体を震わせていた。

 

「坑道内に眠るコーラルに反応しているのかもしれんな」

『私でも微かに感じる程度ですが……』

 

 コーラルの存在については敏感であるはずのエアですら微かにしか感じ取れないのだから、やはり埋蔵量は相当に減っているのだろう。

 あるいはもっと別の何かに反応していたのかもしれない。例えば、六文銭のレーダーに引っ掛かった惑星封鎖機構のMTに。

 

「な!? 貴様らは!!」

「切り捨て御免!!」

 

 至近距離でショットガンが放たれた。MTのパイロットは寸前の所で脱出レバーを引けたようだが、潜入がバレるのは時間の問題だろう。ウォルターから通信が入った。

 

「お前達の侵入が惑星封鎖機構に伝わった。現地の相手戦力を考えれば、潜入に徹する必要はない。突破しろ」

 

 僅かに開けた場所に出るや、六文銭と621は共に並んで散弾をばら撒きながら突破していく。

 閉所では散弾が跳ね回り、破壊を撒き散らして行く。さながら暴風の如き進撃だった。ガタガタと揺れる鉄格子を抱えながら、ツィイーは何とか後を追っていた。

 

「(この二人が居れば、ルビコン解放戦線も自由を……!)」

 

 戦場における一瞬の油断は一生の後悔へと繋がる。MTと汎用兵器群しか見掛けなかった。先陣を切っている六文銭とレイヴンが全てを打ち倒しているから。

 開発中期の歪な突貫工事で生まれた高所の足場。破壊の暴風を避けて、迎撃の構えを取っていた惑星封鎖機構の狙撃LCが居た。

 

「ツィイー!」

 

 如何に察したのか。アラートが鳴るよりも先にレイヴンが身を翻したが遅い。ユエユーを撃ち抜かんとレーザーが放たれた。脱出レバーを引くよりも先に直撃は避けられない。

 自らの死を覚悟したツィイーであったが、抱えていた鉄格子の扉が開いた。巨大なミールワームが宙に躍り出た。

 

「ミ“ッ」

 

 レーザーが直撃したミールワームは鳴き声こそ上げた物の、焼けることも爆ぜることも無かった。威力と熱を吸収し、形を保ったまま奈落へと落ちて行った。

 狙撃に失敗したと判断するや、LCは即座に撤退しようとしたが視界が反転し、凄まじい衝撃に襲われた。肉薄した621の機体に蹴り落されたのだ。

 

「同志ツィイー! 無事か!」

「私は無事だ! あのワームが私を守って……」

 

 遥か猊下。落ちて行ったワームがどうなったかは想像も出来ないし、確かめに行くことも出来ない。アレだけ焼いたり、廃材を食わせたり、身を削ぎ落として食した挙句、邪魔だから捨ててこいと言われてこんな所に連れて来られ、最期は自分を守って……と思うと、ツィイーの目頭に熱い物がこみ上げて来た。

 

「一寸の虫にも五分の魂……! きっと、あの虫けらなりに恩義を感じていたのだろう。誠に天晴れ!」

 

 同じ様に感じ入っている六文銭を傍目に見ながら、目的地である最奥部に向かう際、エアが語り掛けて来た。

 

『レイヴン。私には一方的に搾取された挙句、人間の事情で追放され、恐怖から逃げ出そうとした所で流れ弾が当たった不幸な話にしか思えないのですが』

「私も飼いたかった……」

 

 当人達にとってはハートフルストーリーとして捉えている話でも、部外者からすれば不条理コメディにしか見えない物であった。

 脅威となる存在は、あのLC位だった様で後は順当に蹴散らしながら、パルスバリアで守られているだけの装置を破壊して、何事もなく帰途に付く。筈だった。

 

「621。ソイツを破壊しろ」

「うん」

 

 ウォルターの指示に従い、感知装置(センシングデバイス)を破壊した刹那。周囲と空気が震えた。

 

「何事だ!?」

『レイヴン! 強いコーラル反応が』

「コーラルの逆流だと…!? 馬鹿な、この程度の刺激で! 急いで脱出しろ!!」

 

 周囲のいたるところから赤い奔流が噴き出す。ACさえも蝕む光に捕まれば、二度と帰っては来れないだろう。

 

「何が起きている!?」

 

 通信を受けてやって来た惑星封鎖機構の者達も戸惑う外なかった。一体、何が起きているのかと。

だが、彼らの判断は早かった。全域に通信を飛ばしているのか、621達の機体にも音声が流れて来た。

 

「コード23! コーラルが噴出しており侵入不可能! 各員! 脱出せよ! 続行不可能! これは、システムを介さない現場隊長である私の独断だ!!」

 

 621達の進撃により中破に留まった者達が、MTから出て来た兵士達を拾い上げながら脱出していく。

 ただ、1機。誰にも見られない場所でコールを送っている者がいた。例の狙撃LCに乗っていたパイロットである。

 

「こちら技研遺物捜査員! 例の物を入手した! 早く、回収してくれ!」

 

 皆が一目散に逃げ去って行く中、彼の救助を聞く者はおらず。コーラルの奔流に飲まれて消えるしかないという絶望に包まれていると。機体が浮かび上がった。

 

「え?」

 

 機体のカメラを確認すると。そこには自分を撃破したAC達がいた。何処かへと連れていかれているようだが。

 

「621。また何かを持ち帰ろうとしているのか?」

「うん! 今度はLC! 何か珍しい物を持っていたし!」

「通信は俺も傍受していた。持ち帰って来い」

 

 赤い奔流を後目にしながら連れ去られて行く。少しでも死期が伸びるなら。と、LCのパイロットは縮こまっていた。

 

~~

 

「ウォルター。お前の飼っている猟犬は手癖が悪すぎる」

「マシにはなっている。以前程、ゴミは拾って来なくなった」

 

 格納庫。ウォルターとナイルは鹵獲したLCの機体を分析に掛けていた。

 惑星封鎖機構が所有する戦力で規格からACとは異なっており技術力の差が見て取れた。加えて、この機体が持っていた武器についてである。

 

「プラズマライフルと言えば、VCPLが思い浮かぶが。この武器はカタログには無い。ウォルター、貴様は何か知っているのでは?」

「……これはあくまで試金石だ。本命の規格を作る上での試作品に過ぎない」

 

 コーラルの奔流。どの企業でも生産されていない武器。果たして、大豊からの依頼は陽動作戦だけだったのか? ナイルの疑問は尽きなかった。

 分かることがあるとすれば。ウォルターの猟犬は随伴機を失うことも無く、この様な機体を鹵獲して無事に生還出来るほどの能力を持っているということだが。

 

「コーラル吸え吸え吸え吸え吸え吸え吸え」

「捕虜の虐待は禁じられ…オ”ォ”ェ”!」

 

 そんな彼女はLCに乗っていたパイロットにいつも通りコーラル吐息を吐いていた。

 機嫌が悪いのか、ミールワームの顔から呼気を送り込んでいた。吐息に混じって赤色っぽい粒粒の何かが振りかけられている。

 

『レイヴン。何故、虫の糞を吹きかけているのですか?』

「プェッ!!」

 

 ギリギリの良心が働いたのか捕虜の顔に吐き掛けることはなく、その辺に吐いた痰からは赤い煙と異臭が立ち込めていた。

 その様子は間違いなくドーザーその物であったのだが、やはり彼女がレイヴンであることは間違いない。

 

「全く。俺は何時までここに居れば良いんだ?」

「ベイラムグループから交渉が無い限りはそのままだ。……愉快な遠足だとでも思ってくれればいい」

 

 G1ミシガン。レッドガンの総長であり、友人でもある男から聞いた話を思い出す。曰く、面白い男がいるのだと。ソイツは猟犬を連れて、ルビコンで何かを為そうとしているのだと。

 そんな彼の口癖とも言える言葉を思い出し、ナイルは苦笑いしていた。

 



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依頼6件目:果たして襲撃される基地は惑星封鎖機構だけで済むんだろうか?

「やぁ、戦友。調子はどうだ?」

「元気―!」

 

 見りゃ分かる。ウォルターとナイルに加えて、先日の坑道破壊工作で捕虜となった封鎖機構エージェントの3人は同じ感想を抱いた。

 通信相手はアーキバスの強化人間部隊『ヴェスパー』の4番隊長であるラスティだ。壁越えの一件以来、621とは懇意であり、彼を通して依頼を受ける事も数多くあった。

 

「それは良かった。実は、つい先日。ペイターと一緒にスウィンバーンの枕元にミールワームの玩具をこれでもかと設置してみたんだ。その日の朝は、彼から沢山の元気を貰ったよ」

「受ける―」

「ヴェスパーと言うのは随分と暇な様だな」

「用件は何だ?」

 

 ナイルが嫌味を吐いた所で、ウォルターが本題に入る様に促した。もう少し話を聞きたかったのか、621は不機嫌そうな顔になった。

 

「では、説明に入らせて貰おう。アーキバス系列シュナイダーグループからの依頼だ。惑星封鎖機構のルビコンにおける補給基地、ヨルゲン燃料基地を叩いて貰いたい。これはベイラムにとっても悪い話ではないはずだ」

「そうだな。連中に手を焼かされているのは俺達も同じだ」

 

 現在のルビコンの概ねは惑星封鎖機構によって支配されていた。

 ヨルゲン燃料基地もベイラムグループのコーラル調査拠点だったが、封鎖機構の艦隊により僅か1日で制圧された。

 

「この燃料基地を叩いた所で、痛手になるのか?」

 

ウォルターが問いかけたのはラスティに対して、ではない。惑星封鎖機構のエージェントに対してだ。

 

「分からない。俺達の様な末端には情報は殆ど与えられていない」

「彼が噂の封鎖機構のエージェントか。戦友、君はいつも面白い物を拾って来る。まぁ、重要なのはどれだけの損害を与えられるかではない。連中を叩くと金になることを、ルビコン内に知らしめたいのさ」

『要するに広報活動ですね。この惑星には企業所属から独立傭兵まで様々なパイロットが居ますから』

 

 一攫千金を求めて入星して来たパイロットは多い。その多くはルビコンの土に還るか、惑星を蝕む貧困に吞まれる。だが、一部の者達は企業を相手に立ち回り富と名声を築いている。今、通信を受けている621は正に代表と言っても良かった。

 話を聞いていた封鎖機構のエージェントは、軽蔑を隠そうともせずに言い放った。

 

「バカが。この独立傭兵の力が特異なのは認めるが、有象無象が惑星封鎖機構に楯突いた所で無駄に死体を増やすだけだ」

 

 侮蔑を含んではいたが事実ではあった。報酬に釣られて、力量に見合わない依頼を受けて命を散らした者達は少なくない。

 そう言った者達の多くは自らの実力を見誤った故であり、その原因の多くは一部の英雄とも言える存在の華々しい活躍を耳にしてしまったからだ。俺にも出来る、と。

 

「仮に、この依頼を621が成功させたとしても、他のパイロットでは怖じ気づくんじゃないか?」

 

 鴉(レイヴン)による襲撃で痛手を被った。となれば、惑星封鎖機構も対策に力を入れるのは自然な流れだ。広報として使うには知名度も実力も十分だが、むしろ十分すぎることの方が問題だった。

 

「だから、戦友に頼みたいことがある。君はRadの連中とも仲が良かったな?」

「うん。ラミーおじさんとノーザークおじさんとも通信しているよ」

 

 RaD。グリッド086を根城にしている与太者(ドーザー)の集団であり、頭目であるシンダー・カーラはウォルターとも因縁浅からぬ仲だ。

 コーラル中毒者も大量に所属している集団であった為、多少のドンパチ後は直ぐに和解して、好意的に受け入れられていた。

 

「頼みたいことがあるんだ。この任務、彼らを随伴させて欲しい」

 

 ……暫く、全員が押し黙った。沈黙に耐えかねたのか、エアが再びデータベースにアクセスをして、該当人物の情報を読み上げていた。

 

『無敵(インビンシブル)・ラミー。アリーナ最下位であり、搭乗ACも殆どが作業用のパーツで固められています。控え目に言って、多少マシなMT程度かと』

 

 傭兵支援システムである『オールマインド』によって運営されている戦闘シミュレーター『アリーナ』。

 収集された様々なパイロットと機体データと摸擬戦を行うことができ、今までの戦績からランキング付けをされるのだが、インビンシブル・ラミーは最下位に名を連ねている。

 

『ノーザークは自分の金と他人の金を区別しない独特の経済感覚を備えており、借金を抱えては踏み倒している。ランキングの説明ではなく、手配書でしょうか? ランキングも26位と。ラミーよりはマシかもしれませんが』

 

 あくまでマシと言う程度である。現在はグリッド086において他のドーザー達と同じ様にロクデナシライフを満喫している。

 一応、ランキングに載らない傭兵達も数多くいるので、名を連ねている時点で凡百よりは腕が立つということでもあったが、ウォルターは理由を察したのか答え合わせをする様にして返した。

 

「621を活躍させ、こいつらに功績を被せるということか?」

「流石、ハンドラー・ウォルター。察しが良い」

 

 強い奴が華々しい活躍をするのは当たり前のことで、それはスクリーンに映るフィクションの世界と何ら変わりない。

 だが、自分達が見下しあるいは嘲っていた者達が栄光を浴びたらどう思うか? 悔しいと思う反面、同時にこうも思うだろう。なんだ、アイツにも出来るなら俺にだって、と。更にナイルが補足を加えた。

 

「この2機が作戦に成功すれば、惑星封鎖機構に対する脅威には陰りも付くだろうからな。企業が攻勢に移る切っ掛けにもなるだろう」

「『歩く地獄』の参謀も聡明だ。故に、彼らとパイプを持ちながら惑星封鎖機構を相手取れる君しか、頼める相手が居ないんだ。良いか?」

「うん!」

 

 相変わらず来る任務は拒まずなスタンスだった。依頼のマネジメントをするウォルターも頷いていた。

 

「このまま惑星封鎖機構に居座られたらやり辛くはなる。だが、この任務は俺達の一存では決められない。二人から許可が取れたら、折り返し連絡を入れる」

「分かった。期待しているよ」

 

 通信を切るのと同時に621は直ぐに通信を開いた。かなりの頻度で連絡を取っている為か、直ぐにつながった。

 

「おぉ! レイヴンか! 聞いてくれ! 最近、スゲェ発見したんだ! コーラル吸った後の小便飲むと、またコーラル摂取できるんだぜ! 俺は、これで3回位摂取できたぜ!!」

「永久機関!」

『絶対にやらないで下さいね?』

 

 開幕から最低だったが、621はケタケタと笑っていた。脳内に響くエアの声はいつもよりドスの利いた物になっていた。これだけでも最低だったが、ここからさらに別の声が入る。

 

「やぁ、621。また、私のビジネスに投資してみないか? ラミーの話を聞いて考えたんだ。コーラル中毒者の排泄物を集めて分離できれば、何回でもコーラルを楽しめるんじゃないかと。ただ、その為の機材に投資が必要で」

「ウチの621に下らんことを吹き込むな」

 

 流石にウォルターも堪りかねたのか、珍しく怒りを滲ませながら注意した。その背後では、女性の快活な笑い声が聞こえて来た。

 

「コイツらは皆ビジターのことを気に入っているから、つい騒いじまうのさ。で、ウチに何の用だ? 仕事の話か?」

 

 カーラに促され、ウォルターは先程の依頼の件を話した。返事は、カーラを含めたドーザー達の大笑だった。

 

「やるぜ! なんたって、俺は無敵(インビンシブル)・ラミーだ! 惑星封鎖機構なんかぶっとばしてやる!!」

「ふむ。私が惑星封鎖機構に対して立ち回ったとすれば、得られる信用はどれ程の物になるか! 引き受けましょう!」

 

 ノッリノッリだった。コーラル中毒でストッパーと言うストッパーが外れている連中に制動を期待したのが間違いだった。

 

「よし、じゃあ注文された品はそっちに届けてやるから。燃料、弾薬、修理費はそっちで持ってくれよ」

「了解した」

 

 話は実にスムーズに進んだというのに、ウォルターは眉間を押さえていた。1人だけでも大変なのに、他にも似た様な物が来るのかと。

 

『レイヴン。先の会話で気になったことがあったのですが。ノーザークと思しき人物が『また』と言っていましたが、以前にも投資を?』

「うん。ミールワーム養育セットの開発って」

『……後で、実用性の有無を確認させて貰います』

 

 ほぼ100%騙されている気がしつつ、来るべき燃料基地襲撃の段取りを考えると、この場にいる621以外の全員が頭を痛める外なかった。

 



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依頼7件目:訳アリメンバーばっかり

「これはひどいな……」

 

 先の通信で承諾を得られたので、ラミーとノーザークを迎え入れ、彼らの機体をチェックしていたのだが、ウォルターは頭を抱えていた。

 ノーザークの機体はまだ良い。最新の装備で固めているという割には、廉価な第2世代のパーツが目立つが、性能は保証されている。問題はラミーの機体だった。

 

「見てくれは大豊と作業用パーツのミキシングだが」

 

 ナイルも愛機である『ディープダウン』には、大豊のパーツを使っている。

 重厚で堅牢なパーツは多少の攻撃ではビクともしない。ただし、同社には『樹大枝細』というコンセプトがある。これは中心たるコアは大きく、他は最小限にと言う物であり、コアに近い部分にウェイトが集中している。

 故に先端部分は小さく、必要最低限の機能しか有していない物が多い。例えば、頭部パーツである『DF-HD-08 TIAN-QIANG』なんかは正にそうだった。

 

「加えて、ジェネレーターとFCSも作業用レベルだ。621をこの惑星に送り込んだ時に乗せていた機体に搭載していた物と変わりない」

 

 ウォルターは手元のデータを見ながら呆れていた。これだけの重量機体を動かすのに、この程度のジェネレーターしか積んでいないのかと。

 両肩に何も搭載していないのは機動力を優先してのことではなく、単に出力が足りなかったのだろう。

 

「ついでに金も足りねぇんだ!」

 

 彼らの会話が聞こえていたのか、ラミーは実に切実な理由を述べた。

 武器を始めとした外部のパーツはRaD特有の技術力で何とかなったのだろうが、内部パーツであるジェネレーターとFCSはどうにもならなかった。

 

「ウォルター。ウチで使っていないジェネレーターを上げちゃダメ?」

「甘やかすな。と言いたいが、このまま付いて来られても迷惑だからな。仕方があるまい」

 

 企業が販売しているパーツは一通り揃えており、中には使っていないパーツも多く存在している。作戦内容に応じて搭載するパーツは変えながらも、どうしても使用頻度の低い物も出て来る。

 

「マジかよ!? 俺のマッドスタンプに新たな力が!!」

「ついでに積載武器も変えろ。その土木作業用のアームでは満足に武器も握れないだろう」

 

 マッドスタンプを構成する腕部パーツの『AC-3000 WRECKER』は剛性こそ凄まじい物の、マニピュレーターがペンチ状になっており、精緻な扱いが必要な武器には全く向いていない。

 では、チェーンソーの様な振り回すタイプの武器の取り扱いに向いているかと言えば、これまたNOだった。しっかりと固定して使う必要のある破砕武器をペンチ状のマニピュレーターで扱うのは無理がある。

 

「廃材をACの形にしているだけだな……」

 

 当初は、揶揄する為に様子を見に来た惑星封鎖機構のエージェントもあまりに暗澹たる構成に絶句していた。こんな物で参戦した所で犬死には避けられないはずだというのに。

 

「コーラルうめぇ」

 

 このコーラルジャンキー少女が作戦に参加するだけで勝ち馬に乗れてしまう可能性が濃厚なのだから、あまりにも理不尽だった。

 

「……ウォルター殿。私にも使っていないパーツを融資するつもりは?」

「メンテはしてやる。お前は、まだ戦えるだろう」

 

 少なくとも、ラミーのACよりはマトモだった。戦えないことはないだろうが、封鎖機構という強敵を相手にするには、機体もパイロットもあまりに物足りないという印象は拭えなかったが。

 そんな彼らの気も知らず、新しいパーツを貰える運びとなったラミーは無邪気に喜んでいた。

 

「やっぱり、お前は幸運の鴉(レイヴン)だ! 作戦を成功させたら、たらふくコーラルをヤろうぜ!」

「イェーイ!」

「よぅし、私も前祝に一服」

 

 親子以上に年齢は離れており、パイロットとしての技量は天と地ほどの差がある物の、垣根を一切感じさせない見事なコーラルの吸引っぷりを見せていた。

 

「621。お前にも友人が……」

「そこは飼い主として拒否をしろ」

 

 ウォルターがちょっとだけ感じ入りそうになった所で、ナイルが冷静な指摘を入れた。流石に年頃の少女の友人がヤク中と詐欺師なのはあんまりだ。

 

『……レイヴン。私は』

「エア!」

 

 友人と呼べる存在かどうかと聞いたつもりだったのだが、コーラルをキメていた為、マトモな応答を期待するのは難しそうだった。

 

「おぉ^~。なんか、レイヴン以外に女の声が聞こえる気がするぞぉ。何処にいるんだァ?」

「バカですねぇ。レイヴンの声が二重に聞こえているだけですよ」

『え? もしかして、私の声が聞こえて……』

 

 ラミーはその場でグルグルと回り出し、ノーザークは両手両足を引っ込め赤ちゃんの様な態勢を取り、621はゲラゲラと笑っていた。

 

「あぷぷー」

『様子のおかしい人達です』

 

 資源や兵器として使われるのもアレだが、同胞達が吸引された挙句、こんな惨状が生み出されているとしたら、エアは自らと人間の関係性について暫し考え込んでしまうのだった。

 

「ウォルター。俺達が向かうべきは戦場なのか? 病院じゃないのか?」

「いや、戦場で良い。病院に行けば治療費を取られる」

「なるほど。葬儀屋も必要なくなるな」

 

 ちなみにウォルターとナイルは将来性とかではなく、コイツらを激戦区に向かわせることについて心配しそうになっていたが、むしろ自らの手を汚さず片付けられる可能性に思い当って開き直っていた。

 だが、万が一。このヤク中と詐欺師に泥を付けられるようなことがあれば、惑星封鎖機構はルビコン内でクッソ嘗められる存在へと堕してしまうだろう。

 

「アーキバスも人が悪い」

 

 期待はしていないが、本当にこの2人が封鎖機構への攻撃に成功した先兵として知れ渡ったら、どの様な反応が起きるか。……というのは、ウォルターとしても気になっていることではあった。

 

~~

 

 コーラルをかっ食らったアホ達が寝ている間。ウォルターは作戦の準備や段取りをしている中、惑星封鎖機構のエージェントはナイルと話をしていた。

 

「壁の一件でお前が捕虜となっていたことは知っていたが、どうして未だに居座っている? ベイラムからの交渉は無いのか?」

「今の所はな。だが、理由は察せられる。分かるか?」

 

 男は暫し考えた。アーキバスと比べて、ベイラムは現場と上層部の折り合いが悪い。碌な作戦を立案しないまま精鋭部隊であるレッドガンのG4を壁越えに参加させ、意識不明の重体に追い込んだ不手際は各陣営に知れ渡っている。

 

「グループの主体である『ベイラム・インダストリー』としては、レッドガンがミシガン色に染まっているのが気に入らない。だから、参謀であるアンタを虜囚のまま放置している。という所か?」

 

 元々、ミシガンは『ベイラム・インダストリー』の人間ではなく、ミサイルいっぱい『ファーロン・ダイナミクス』という企業で武装船団を率いていた男だ。

 ナイルによって引き込まれた後は、持ち前の能力と人間性を合わせてレッドガンを見事に染め上げた。

 

「そんな所だ。元より『物量による制圧』をスローガンとしている企業だ。部下達を切り捨てる様な使い方をしている上層部の連中にとっては、ミシガンの存在は都合が悪い」

 

 ナイルは知っている。『歩く地獄』として有名で、鬼教官のイメージもあるが、それは偏に、戦場で生きて帰って来られるようにという願いがある故だった。

 嫌われない為に角の立たない言葉を吐くことは誰にでも出来る。だが、疎まれたとしても本当に必要なことを教えられる人間は中々にいない。

 

「命の価値を上げられては困るということか。惑星封鎖機構よりもよっぽど、えげつないな」

 

 始末しては反感を買うが、敵の手に掛かった。となれば、言い訳も着く。

 実際の所、ウォルターは察しているので、こうしてナイルを副官の様に取り扱っている訳だが。

 

「返す言葉もない。だから、俺はここに放置されているのだろう。そう言うお前は、何故ここに?」

 

 惑星封鎖機構は組織への帰属意識が強く、独立傭兵の様な根無し草には居付かない物だと考えていた。故に、目の前の男が大人しく従っているのかが気になった。

 

「命が惜しいからだ。それ以上の理由はない」

 

 坑道にて遺物の回収を命じられていたが、レイヴン達と接敵した後はトラブルに巻き込まれ命の危機に晒された。その時、自らに手を伸ばしてくれたのは惑星封鎖機構ではなく彼女だった。

 

「意外だな。そうも簡単に靡くのか」

「惑星封鎖機構に属する人間は余計なことを考えない様、命令に従う様に出来ている。今は、生きたいという本能に従っている。……こうして、こっちに付いた以上、戻れる可能性も無いからな」

 

 企業以上に思惑が不透明であるが故、余計な考えを持たない人間の方が重用されるのだろう。これが全てだとは思わなかったし、翻意する可能性も十分に留意しつつ納得した。

 

「互いに、古巣に戻れなくなった者同士。今は協力して行こうか。そう言えば、名前を聞いていなかったな」

「名前は無いが『S-1317』という型番はある」

「そうか。では、1317。この縁が続くことを祈ろう。酒でもあれば恰好も付いたんだが……」

 

 フィーカすらなく、あるのは水かミールワーム位だった。少し考えた後、この一同と行動を共にする覚悟も含めて、2匹分のミールワームを持って来た。

 

「それでどうするんだ?」

「乾杯するグラスも無いから、コイツを打ち付け合うか」

 

 1317もミールワームを手にし、ナイルが持っている物と軽く打ち付けた。ペチッと、何とも言えない感触がした。

 



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依頼8件目:無敵の(インビンシブル)・ラミー

 ヨルゲン燃料基地。惑星封鎖機構の補給地点であり、コーラルの調査拠点も兼ねた場所である。ベイラムグループから鹵獲した施設が流用されつつ、今日もルビコンを制圧する為の艦隊が発って行く。

 

「あの艦隊の燃料がここで補給されているってワケか。……ノーザーク? テメェ、何処に通信を入れているんだ?」

「ちょっとね。私の価値を高める為の下準備を」

「作戦前に勝手な真似は止めろ。俺達の存在が気取られる可能性がある」

「ちょっと位ばれても平気ですよ。ちょっと位」

 

 ウォルターがノーザークに注意喚起を入れた。少しのミスが命取りになる程に、この燃料基地には戦力が配備されている。

 地上部は多数の高機動型MTに狙撃武器を手にしたLC達が数機。更に無数のガードメカとレーザードローンが哨戒しており何人たりとも侵入を許さない厳戒態勢が敷かれている。

 

「LCの相手は621がするが、MTが相手でも油断をするなよ。連中のMTはBAWSの物よりも数段上の性能をしている」

「知っていますよ。連中のMTは両肩にブースターを装備、加えて光学兵器も使えるそうじゃありませんか」

「その通りだ。連中の技術は企業の数歩先を行く。奴らを撃破するごとに報酬が発生することも覚えておけ」

 

 惑星封鎖機構の技術は企業にとってみれば垂涎物だ。燃料のほかにも撃破報酬まで設定されているとなれば、モチベーションが上がるのも至極当然の話だった。

 

「よっし! 行くよ! 皆!」

 

 企業達も手をこまねく堅牢な要塞に足を運んで来たのは命知らずの与太者(ドーザー)共。

 

「621、ラミー、ノーザーク。ミッション開始だ。封鎖機構の駐屯部隊を排除しつつ、エネルギー精製プラントを目指せ」

「分かった!」

「やってやるぜぇ!」

「私達が一番乗りですよ!」

 

 ウォルターの作戦開始の合図と共に3機はブーストを吹かしながら突っ走り、入り口付近を哨戒していた2機のガードメカが蹴り飛ばされた。壁に激突した衝撃で爆発し、直ぐに彼らの侵入は知れ渡った。

 

「コード15。所属不明機体3機と会敵。いずれも企業雇用戦力のACと推定。排除執行する」

「どきやがれぇ!!」

 

 ラミーの機体である『マッドスタンプ』は、大豊とRaDのパーツによる継ぎ接ぎから、純正の大豊製AC『天槍』のアセンブルになっていた。

 内部パーツも『三台』と呼ばれる突出したEN容量を誇る同社の重ジェネレーターに入れ替えており、両手にはこれまた大豊製のガトリングガン『虎貢(ふべん)』が握られていた。加えて、寂しかった両肩にはミサイルいっぱいファーロン・ダイナミクス社製の『BML-G2/P05MLT-10』が装着されていた。

 

「ヒィイイイイハァアアア!!!」

 

 回転を始めたガトリングの砲塔から大量の銃弾が吐き出され、肩部にマウントされた10連ランチャーから大量のミサイルが舞った。

 如何にコーラル中毒者のブレブレな照準とは言え、物量による面での攻撃を展開されては回避のしようがない。避け切れずに被弾したMTやドローンを始めとした汎用兵器達が次々と落ちていく。

 

「すごーい!」

「やっべ、コーラル吸うのと同じ位に気持ちいい……」

 

 余りの快感からか、ラミーの目尻には涙が浮かんでいた。弾薬費も修理費も気にせず縦横無尽に暴れ回る愛機の姿は正に無敵(インビンシブル)だった。

 

「調子に乗るなよ!」

 

 弾幕を掻い潜り接近して来たLCが『マッドスタンプ』を撃ち抜かんと引き金を引く。しかし、発射されたレーザーはノーザークの『ビタープロミス』の『VP-61PS』で展開したシールドに吸収された。

 

「私が貧相な武装で攻める位なら、こうした方が効率も良いでしょうよ。さぁ! 全滅させてやりましょう!」

「助かるぜぇ!」

 

 LCの全身に銃弾とミサイルの雨が叩き付けられる。パイロットは瞬時に回避不能だと判断して脱出した数秒後、機体は爆破した。

 

「うぉおおおお! 俺は無敵の(インビンシブル)・ラミーだ!」

「想像以上だな」

 

 ウォルターはRaDの二人に期待していなかったが、彼らも伊達にアリーナに名を連ねている訳では無かった。

 ラミーは恐怖や緊張感による判断ミスは少なく、自分の選択や行動を押し付けることに長けていたし、ノーザークは自らに出来ることと瞬時の判断能力に優れていた。そんな彼らの隙を狙う者達は621が静かに処分していた。

 

「ラミーと言う男。コーラル中毒者でなければ、レッドガンにも欲しい男だな」

 

 ナイルも舌を巻いていた。伊達にグリッド086の番兵を務めていた訳ではなく、彼らの快進撃が続き、その様子は映像として記録されていた。

 

『レイヴン、彼らがここまで強いとは意外でした。どうして、アリーナではあの様なランクに甘んじていたのでしょうか?』

「金無き子」

 

 パイロットの腕や適性を活かせるだけの環境が揃っていなければ、才能なんて物はただの持ち腐れである。任務自体は好調に進んでいたが、ウォルターから連絡が入って来た。

 

「621。燃料タンクや輸送用のヘリを破壊すれば追加報酬が入ると言うのに、何故1つも手を付けていない?」

「さっき、ノーザークが置いとけって」

「何だと? 聞いていないぞ」

 

 先の通信と言い、勝手な行動が目立つ。だが、金に執着しているハズの男が自ら追加報酬のチャンスを手放すのは奇妙な話だった。

 ウォルター達が疑問の答えが浮かばない間もラミー達の破壊活動が続いていた。進行方向に居ない機体も破壊し尽くし、1機残らず殲滅した後。補給シェルパで弾薬を補充すると精製プラント前に辿り着いた。

 

「ソイツを破壊しろ」

「おぅよ!!」

『待って下さい! レイヴン! 後方から高速で接近する反応が!!』

 

 ラミーが精製プラントを破壊しようと武器を構えた瞬間。3機のレーダーにアラートが表示された。咄嗟に飛び退くと、先程まで立っていた場所に数発のプラズマが撃ち込まれていた。

 

「コード23、現着。対象は3機、内1機は識別名『レイヴン』。リスト上位の優先排除対象だ。他の2機は見たこともない」

 

 降り立った2機は封鎖機構のMTでも無ければLCでも無かった。通信先でウォルターが息を呑んだ。

 

「封鎖機構の特務機体『軽装歩兵(エクドロモイ)』。621、ラミー、ノーザーク。お前達のACで撒ける相手ではない。排除しろ」

「まさか、私達。本気で彼らのことを怒らせちゃいましたか?」

 

 ノーザークの余裕ぶった言動に緊張感と焦燥感が隠せずにいた。だが、ラミーは怯むことなく、展開した武装の引き金を引いた。

 

「エクモロドイだかなんだか知らねぇが! コイツを避けれるかァ!」

 

 ガトリングとミサイルによる弾幕。この燃料基地に配備されていた戦力を蹂躙して来た攻撃だったが、2機は中空で高速移動を行いながら手にしたマシンガンでミサイルを迎撃しつつ、肉薄すると同時にマッドスタンプを蹴り飛ばしていた。

 

「ぐぉ!!」

「邪魔だ」

 

 エクドロモイの右腕に装備されたレーザーランスに展開されたエネルギー矛による2度の刺突で、兵装ごと両肩を貫かれた。誘爆するよりも先にパージしたが、両腕の機能が喪失したのかガトリングガンをその場に取り落とした。

 

「死ね」

 

 そのまま、マッドスタンプのコアを貫かんとするが大きく態勢を崩した。見れば、もう片方のエクドロモイを相手取りながら、621がラミーへの攻撃をカットしていた。

 

「ラミー。逃げて」

「やはり、脅威対象は貴様だけか」

 

 制御不能(スタッガー)状態から立て直し、2機のエクドロモイはレイヴン1機に狙いを定めた。その隙に、マッドスタンプはこの場を離れていた。一瞬で兵装を失ってしまった自分は足手まといでしかないと判断してだ。

 

「クソッたれ!」

 

 無敵(インビンシブル)と謳いながら、この有様だ。与えられた玩具で気が大きくなっていたが、所詮は張子の虎でしか無かった。

 自分よりも遥か年下の少女を戦わせて友人面をしている自分を恥じ入る程度には、ラミーにも矜持はあった。

 

「どうすりゃいい。俺は、どうすりゃ……」

「ラミー! どうしたんだ!?」

 

 歯ぎしりをしていると、姿を消していたノーザークが現れた。機体には殆ど損傷が見当たらず、弾薬も殆ど消費していないだろう。

 

「おぉ、テメェ何処に行ってやがった!? 早く、レイヴンの野郎を助けに行け!」

「ほぅ。彼女は苦戦しておられるのですか?」

「当たり前だろ! 敵はあんな化け物なんだぞ!」

「それは丁度良かった」

 

 ノーザークがライフルを構えた。一瞬、ラミーは意図が分からなかったが、コーラルの酔いも覚めるほどに頭が冴え渡って行く。何故、態々敵を全滅させたのか。燃料や兵器を破壊して回らなかったのか。

 

「テメェ……」

「これもビジネスです」

 

 ダァンと。レイヴンと2機の軽装歩兵(エクドロモイ)が死闘を繰り広げている場から、少し離れた所に銃撃音が響き渡った。

 




 まさか! シリアスになってしまうのか! コーラルで作られた友人の輪が!!


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依頼9件目:平和な封鎖機構の拠点にゾンビの群れが現れるだなんて……

「1317。エクドロモイについての対策は?」

 

 2機掛かりで攻められているレイヴンを援護するべく、ナイルが1317に助言を求めるが、彼は首を横に振るばかりだった。

 

「特務部隊は惑星封鎖機構の中でも秘匿性が高い。むしろ、俺はウォルターが機体名を知っているだけでも驚いていた」

 

 構成員であったハズの自分ですら知らなかった機体を、どの様に知りえたのか? 改めて、ウォルターの底知れなさに冷や汗を流していると、当の本人は僅かに口角を釣り上げた。

 

「ノーザーク。あの詐欺師め。やってくれたな」

「これは……」

 

 ナイルと1317は燃料基地周辺の様子が映し出されているモニタを見た。

 621と2機のエクドロモイが交戦している個所から少し離れた所に2機。そして、燃料基地周辺には無数の反応が出現していた。

 

~~

 

「……あ?」

 

 何時まで立っても、ラミーに衝撃は訪れなかった。何故なら、ノーザークの銃撃は天に向かって放たれていたからだ。上空へと向かった弾は、存在感を示す様に強烈な赤い閃光を放った。

 どうやら、彼が放ったのは信号弾だったらしい。だが、ウォルターからは周囲に伏兵が配備されているという話など聞いてはいなかった。程なくして、マッドスタンプ内に無機質なアナウンスが響く。

 

『熱源反応多数。来ます』

「おい、ノーザーク。テメェ、何を呼んだ?」

「ククク。ビジネスですよ。私の借金返済と信用回復を兼ねた!」

 

 惑星封鎖機構の兵器が殆ど廃棄され、パイロットや人員も逃走しているというのなら。この基地は使用可能な兵器、価値の高いジャンク、大量の燃料タンクが設置された宝の山だった。

 ノーザークから渡された映像のデータを見る。燃料基地の周辺には大量のMTや作業用メカが殺到していた。いずれも機体の塗装は剥げ、装甲は欠け、配線なども剥き出しになっている様なゾンビめいた群れだった。

 

『おい! ノーザークの野郎! 今度は本当だったか!』

『あのクズ野郎に貸した借金なんて目じゃねぇ! 早く! 他の奴らに取られる前に行くぞ!!』

 

 燃料基地にやって来たのは、その日を生きるのが精一杯な独立傭兵やノーザークから踏み倒された金貸し達だった。

 彼ら内部に踏み入ると次々と物品を接収していく。武器や弾薬を掻っ攫って行っては、あるいは無傷な輸送ヘリを強奪して好き勝手に飛び去って行く。

 

「ひでぇ光景だな……」

「なんたって、彼らはケツの毛まで毟り取ることに慣れている連中ですから」

 

 誰かを攻撃している時間も惜しい。奪い合う様な状況に陥る位なら、誰かが手を付けていない場所へと移動して物品を回収すれば良い。

 少しでも報酬を。欲望に目が眩み、他の誰かに取られまいと奥へと進んで行けば必然的に精製プラントがある場所までたどり着く訳で。

 

~~

 

『なんだコイツら!?』

「!?」

 

 エクドロモイに搭乗している『特務1級士長』と『特務少尉』に動揺が走ったのも無理はない。レイヴン達が後詰めの戦力を待機させていたとは思えなかったし、戦力と言うにはあまりにもみすぼらしい。

 

「やっほぉおおおお! 皆ぁああああああ!」

 

 621はこの一瞬の隙を突いた。2機の巧みな連携を捌く為に防戦一方になっていた彼女は、突如として現れた回収者(スカベンジャー)達に飛び込んだ。アサルトブーストを吹かしながら突っ込んで来たので、彼らはパニックに陥った。

 

「少尉!」

「全員潰せばいい!」

 

 火事場泥棒にやって来た連中は、まさか現在も交戦中であるとは露ほども思っておらず、全員が恐慌状態に陥っていた。

 

『クソが! ノーザーク死ね!!』

『畜生! 生きて帰ったら、借金を倍にしてやる!』

 

 ある者は直ぐに脱出レバーを引き、ある者は背中を見せて逃げ出し、ある者はレイヴンやエクドロモイ相手に豆鉄砲を放っていた。勿論、効いていない。

 

「乞食共が! 邪魔だ! 消えろ!!」

 

 放たれたプラズマライフルとマシンガンは有象無象の機体を撃破していくが、レイヴンには届かない。エクドロモイは機動性の為に燃料や弾数を絞っていることもあり、これ以上の無駄撃ちは望ましくなかった。

 故に、眼下に広がるゾンビの群れは放っておくことにしたが、彼らを攻撃しないという選択もまた望ましい物では無かった。

 

『見ろよ! 俺達相手に手も足も出さねぇで逃げてやがる! 惑星封鎖機構ってのは大したことねぇんだな!』

 

 この魑魅魍魎は当然連携などしているはずもなく、先行した者達の悉くが撃破されたことなど知りもしない。加えて、この施設の物品を略奪した成功体験から非常に気も大きくなっていた。

 

「この……! ゴミムシ共が!!」

「よせ! そんな奴らにくれてやる弾丸が勿体ない!」

 

 壊れかけのマニピュレーターを使ってファッキューをされたり、人間でいう所の尻を見せつけるかのように振舞われているのはまだ良い。相手にしなければ良いだけの話なのだから。

 

『あっ』

 

 惑星封鎖機構と企業のMTやAC達とは技術の差に隔たりがある。即ち、封鎖機構以外の人間は取り扱いすら知らない者が大半だ。

 だから、このスカベンジャーがLCの装備していたレーザーライフルを剥ぎ取ろうと、色々と弄った結果。偶々、損傷が少なく稼働状態であり、銃口が上を向いており、引き金が引かれ。発射されたレーザーがエクドロモイのブースターに直撃した。という事態は、天文学的確率で起きた事故であった。

 

「……は?」

「士長!?」

 

 レイヴンと戦った末に撃破される。というのは、十分に想定し得る事態だった。だが、どうしてこんなことを予想できただろうか? 

 火事場泥棒に来た乞食達の予期せぬトラブルで自分が落ちる。確実にレイヴンを追い詰めていたというのに、こんなバカげた出来の悪いコメディの様な落ち方をするとは。

 

「くそぉおおおおお!!」

 

 地上に落ちたら全員潰してやる。空中で姿勢を立て直しながら、周囲を索敵している時にアラートは無慈悲に告げた。

 

『優先排除対象レイヴン。接近して来ます』

 

 言葉にならなかった。迫って来たレイヴンが、コックピットで満面の笑みを浮かべている様な気がした。落下していたエクドロモイは全身に弾丸を叩きこまれ、そのまま撃墜された。

 

「あ、あり得ない……」

 

 特務少尉は絶句していた。こんな、取るに足らないカスに撃破される。

 自分達は惑星を治める存在であり、こんな汚らわしい存在に食い荒らされて良い訳が無い。企業と言う暴虐者相手なら納得も出来るが、こんな寄る辺も思想も持たないカス共に。

 

「レイヴン!!!」

 

 残された少尉はレーザーランスを展開して肉薄する。蔓延っていた有象無象が蹴散らされて行き、エクドロモイの機動性を活かして重ショットガンの乱射を全て回避して、0距離まで近づいた。後はコックピットに矛を突き通せば全てが終わる。

 

「死ねぇイ!!」

「おっと!」

 

 この場に及んで、レイヴンの機体は宙を舞った。レーザーランスが貫いた先にあったのは燃料タンクだった。特務少尉が瞬時に脱出レバーを引くと同時に、エネルギーの刃が引火して大爆発を引き起こし、エクドロモイを呑み込んだ。

 

~~

 

「アーキバスグループ傭兵起用担当V.Ⅷペイターです。燃料基地襲撃作戦の完遂。お見事でした」

 

 作戦終了後、帰還した621達は労いの言葉と共に報酬を受け取っていた。

 今回の作戦の顛末は企業間だけではなくルビコン解放戦線から傭兵にまで幅広く知れ渡っていた。

 

「まさか、惑星封鎖機構の拠点がアリーナの下位と独立傭兵達によって丸裸にされるとは痛快な話でした! こういった夢のある話は、心が躍ってしまいます。当然、貴方が一番の功労者と言うことは我々も把握しています」

「うめっ、うめっ」

 

 ペイターが称賛の数々を述べるが、興味がないのか621は先の作戦で会合した者達から受け取っていた色々な虫を試していた。誰もレーションを始めとしたマトモな食料を渡す気はなかったらしい。

 

「V.Ⅳからも伝言を預かっています。流石だな、戦友。想像以上だ。とのことです。今後。私の方からも依頼をするかもしれません」

『こんな事態は誰も予想できないでしょうね』

 

 惑星封鎖機構の拠点に大量の強盗を流入させる。補給拠点を潰したことのダメージも大きいが、それ以上に風評被害は甚大だった。

 

「連中を叩けばどれほど金になるのか。621、今後封鎖機構の拠点を相手取る時には周囲にそう言ったハイエナが湧くかもしれんな」

「はーい」

 

 ペイターの話には一つも興味はないが、ウォルターの言葉にはしっかりと反応していた。彼女の口からは棘の付いた脚がはみ出していた。

 

「ギャー!!」

「あぁあああああああああ!!」

 

 1317が悲鳴を上げたが、ノーザークの絶叫にかき消された。彼はウォルターへと詰め寄る。

 

「どうした?」

「どうして、私の報酬が0Cなのですか!? 折半の予定は!!?」

「弾薬、燃料、機体の修理費用。それに、お前の口座に報酬は入れたが一瞬で無くなった。自動で引き落とされたのだろう」

「手渡しで寄こしなさい!!」

「無茶を言うな。紙幣でのやり取りと言う訳ではないんだぞ」

 

 なおもノーザークが抗議を続ける反面、頭に包帯を巻いたラミーもまた自身への報酬が0Cであることを見ながら笑っていた。

 

「ハッハッハ、俺は構わねぇよ。新生マッドスタンプ代って考えりゃ安いもんだ」

「無敵! 無敵!」

 

 共にパイプに入ったコーラルを吸いながら、ミッション成功の余韻を味わっていた。改めて、ラミーは621を見た。

 

「(……こんなナリしてやがんのに、これからもコイツぁ戦い続けるんだろうなぁ。あんな化け物達と)」

 

 ラミーも幾度かアリーナに参加したことはあるが、あのエクドロモイ達はACとは次元の違う強さを持っていた。目の前にいるジャンキー仲間の少女はこれからも死線に身を投じ続けるのだろう。

 

「ラミー?」

「なんでもねぇ。もっと、吸おうぜ!」

 

 快楽と酩酊だけでは紛れない不安があった。ジワジワと脳内にコーラルが染み渡り、ラミーは胡乱な目付きでポツリと呟いた。

 

「なぁ、アンタ。コイツのこと。頼むぜ」

『え?』

 

 誰に向けた訳でもなく、彼の視線は621に注がれながらも彼女のことを見ているように思えなかった。自らに語りかけられたような気がして、エアは小さく驚いていた。

 



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依頼10件目:今の子供達ってごっこ遊びとかするんかな?

 皆様に支えられて、10話目に辿り着きました! 沢山のブクマ、評価、感想。ありがとうございます!


「最近、惑星封鎖機構の拠点が攻撃されているらしいぜ」

「一番乗りを上げたのはRaDの連中って言うけれど、そんなことはないよな。ツィイー!」

 

 先日のヨルゲン燃料基地襲撃についての話は、ルビコン内で広く知れ渡っていた。惑星封鎖機構の威信にダメージを与え、ファーストペンギンの連中が大量の報酬を略奪したこともあり、我先にと攻撃を仕掛ける企業や独立傭兵が増えており、度胸試しの様にもなっていた。

 

「そんな。私は六文銭やレイヴンに助けて貰っただけだよ」

 

 ルビコン解放戦線でも話題となっており、皆がツィイーと六文銭を持て囃していた。燃料基地程の重要施設では無かった物の、実際に惑星封鎖機構の拠点に攻撃を仕掛けたのは彼女達の方が先だったからだ。

 

「うむ。ヴェスパー7の件と言い、あの傭兵にはどれだけ助けて貰っているか。出来れば、こちらの木に留まって貰いたい物だ」

 

 六文銭も頷いていた。時には企業の手先となって攻め入って来ることもあるが、同時に自分達の力にもなってくれる。何よりも解放戦線の連中にとって喜ばしいのは、皆の妹分であるツィイーと懇意である。ということだった。

 ナイルの介在があったとはいえ、肥大化したミールワームを捨てて来る為に封鎖機構の拠点に突っ込んで来い。なんて命令は、間接的な死刑宣言の様な物であったが、あの独立傭兵は見事に皆を生還させた。

 

「六文銭の言う通りだ。ただ、ドルマヤン帥父とは折り合いが悪そうだが」

 

 依頼の窓口となっている青年、アーシルはツィイーや六文銭に次いでレイヴンとの付き合いが深い。故に、あの傭兵が重度のコーラル中毒者であることも知っていたが、周りの者達は笑い飛ばすばかりだった。

 

「そんなの構わねぇ。コーラルを吸えば強くなるって言うなら、俺達も吸ってみるのも悪くねぇな!」

「そう言えば、例のドーザー達もコーラル中毒者だったな。ひょっとしたら、マジで何かしらの効果はあるのかもな!」

「もぅ、皆。私がレイヴンへの対応でコーラル中毒者の取り扱いに慣れているからって、そんなに面倒見切れないよ!」

 

 ツィイーのジョークにこれまた笑いが巻き起こった。そんな彼らの姿を物陰から見ている者達がいる。

 

「奴らめ。帥父の掲げている大義も知らずに……!」

「よせ」

 

 諦観を滲ませながら、ドルマヤンは自らの男娼であるリング・フレディを諫めた。先日、ツィイーにブチギレて以来、ドルマヤンの評価は芳しくない。

確かにあの一件は子供達をラリラリさせてしまったが、元々は善意で行われた物だったし、皆が食料に困窮していたのも事実だった。

 その上、大人達が食しても問題は無かったのだから取り扱い次第では今も貴重な食料源になっていたはずだ。それを、皆の妹分に死地に捨ててこいなんて言ったら、反感を買うに決まっている。

 

「帥父。よろしいのですか?」

「構わん。元より、この解放戦線の者達が私のことを理解しているとは思わん。一部を除いて、だが」

 

 この組織にいる者達が全員、ドルマヤンに賛成している訳ではない。

 その日を生きていく為だけに身を寄せている者も居れば、企業に対する反抗心から籍を置いている者もいるのだから。

 

「その一部と言うのは」

「フレディ。引き続き、例の猟犬についての調査を頼む」

「は、はい!!」

 

 間違いない、自分は帥父に頼られている。信頼されている。そう思うと、自らの中に無尽蔵のやる気が沸き上がってくる気がした。

 何も知らない他の連中は、世間の情報に一喜一憂しているようだが、本当にこのルビコンを導ける存在は帥父を置いて他にはあり得ない。

 

「それと。私の為に怒ってくれることは嬉しく思うが、それでお前が皆との折り合いが悪くなる方が心苦しい。寛容にな」

「……すみません、俺の器が小さいばかりに」

 

 解放戦線内では大人達以外にも子供達もレイヴンの話題で盛り上がっている。碌な娯楽も用意できない組織内では、噂話も貴重な楽しみだ。

 

「皆―! レイヴンごっこしようぜー! 俺、レイヴン!」

「俺もレイヴンが良い―!」

 

 子供達のごっこ遊びを微笑ましく見守ることにした。物はなくとも、想像力で人は何処までも行ける。そう信じての笑顔だった。

 

「うぉおおおお! コーラルパワー覚醒! コーラル最強! コーラル最高!!」

「何の! こっちも最強コーラルバンバン使うぜ!! コーラルビーム!!」

「なんの! こっちはコーラルジャンプだ!!」

「「…………」」

 

 どうやら、子供達にとってACを始めとした兵器と言うのはあまり良く分からないらしく、断片的にではあるがレイヴンがコーラルを吸いまくっているので滅茶苦茶強いという風に伝わっているらしかった。

 決して、ドルマヤンを挑発している訳では無かったのだが、むしろ無邪気に人の逆鱗に触れまくっているのだから始末が悪かった。

 

「帥父? 子供のすることですから。ハハハハ……」

 

 その時のドルマヤンの寂しそうな顔に対して、リング・フレディは言葉を紡げずにいた。…その夜のことである、解放戦線内からヒッソリと帥父が姿を消していた。

 

~~

 

「ある友人からの私的な依頼だ。この氷原の何処にコーラルが集積しているのか、地点を絞り込む為に情報を収集して来て欲しい。場所はかつて、ルビコン調査技研が建造した洋上都市『ザイレム』だ」

 

 アイビスの火が起きて以来、無人都市になって居ること。先行調査としてドローンを飛ばしたが消息が途絶えたこと、これらを妨害するECMフォグを破壊して来て欲しいという物だった。

 

『今回はマトモな任務になりそうですね』

「まとも?」

 

 スウィンバーンの暗殺や壁の奪還はまだいい。ミールワームを捨ててこいだの、ヤク中と詐欺師をプロデュースして来いだの、ロクでもないミッションばかりが続いていたので、実に作戦らしい作戦だった。

 

「621。ザイレムではECMフォグの影響で通信が使えない。……正直、お前を一人で行動させるのは滅茶苦茶心配だが」

 

 そう考えていたのはS-1317だけではなく、ナイルも同じだったらしい。彼らは621の中にいるエアを知らないのだから、当然と言えば当然だった。

 

「ウォルター、提案だ。俺も付いて行っていいか?」

「駄目だ。ザイレムでは何が起きるか分からない。621単騎なら身軽に動ける」

 

 ナイルもG2として相当な実力者であったが、それでも未曽有の場所に向かわせることは出来ない。というのが、ウォルターの判断だった。

 

『レイヴン。私なら、貴方のサポートが出来ます』

「よろしくね」

 

 ウォルターからのブリーフィングが終わり、ミッションへと向かおうとした直後。再び通信が入って来た。傍受される可能性を考えての暗号通信だった。通信を開く。

 

「独立傭兵レイヴンへの依頼はここで良かったな?」

「お前は、確かにルビコン解放戦線の」

 

 リング・フレディ。ツィイー達と違い、接点のない彼が依頼をしに来るというのは不可解極まりない事態だった。

 

「単刀直入に言う。帥父が姿を消した。これはまだ解放戦線でも一部しか知らない」

 

 あまりにも衝撃的な報告に全員が絶句した。真っ先に思い当った可能性は『誘拐』だ。ルビコンに蔓延るレジスタンスが目障りなのは、どの企業にとっても同じことだろう。ウォルターは、様々な可能性を巡らせながら問うた。

 

「誘拐だとしたら、目星は付いているのか?」

「いや、誘拐だとかそう言うのではないと思う。ちょっと、思うことがあったらしく」

「どういうことだ?」

 

 リング・フレディはおずおずと語りだした。ツィイーにブチギレて以来、組織内での評判があまり良くないこと。コーラルとの共生を目指したが、どうも指針的にそう言う雰囲気でもなくなっていること。

 話を聞いて、一つの心当たりが思い浮かんだ。この場にいる全員が同じことを思ったらしく、一斉に621に視線を注いだ。

 

「ぃえい」

「俺達に徘徊老人を保護しろと?」

「頼む。頼めるのがお前らしかないんだ」

「俺達は慈善家じゃない。依頼料は用意できるのか?」

 

絞りだす様な懇願だった。ルビコン解放戦線はとにかく金がない。組織を上げて、やっと捻出できる程度だ。とてもではないが、個人で払える物とは思わなかった。

 

「フラッドウェルとは話が付いている。相場からすれば、少し低いが」

「……良いだろう。アテはあるのか?」

「これは俺の枕元に置かれていた物なのだが」

 

 送られて来た画像には1枚の紙が映し出されていた。書面には『ザイレムに向かう』と記されていた。

 

「何故、ドルマヤンがザイレムに?」

「俺にも分からない。ただ、帥父はコーラルに対して並々ならぬ関心を持っていた。何かがあるのだろう」

『偶然でしょうか?』

 

 だとすれば、出来過ぎている様な気もしたが、これから向かう先であるというのなら態々断る必要もないと判断した。

 

「俺達も向かう所だ。共同調査になるぞ」

「構わない。むしろ、レイヴンほどの実力者と共に出来るなら光栄だ。どうか、帥父を探すのに協力して欲しい」

 

 短く告げて、リング・フレディは通信を切った。まさかの予期せぬ同行者が出来たことについて、思わずナイルは呟くのだった。

 

「どうにも、お前には人を引き付ける才能があるみたいだな」

「かなぁ?」

 

 それが本人の望んだ物であるかどうかは別として。一同は洋上都市ザイレムへと向かった。

 



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依頼11件目:ふぅ、禁コーラル達成したし、ちょっと位吸ってもいいやろ

「ここならば、静かだな……」

 

 ドルマヤンはザイレムと言う場所を知っていた。かつて、ルビコン解放戦線のアジトとして使う為に調査隊を派遣したこともあったが、いずれもMIAとなった。通信も途中で途絶えたことから、ECMフォグの類があるということは分かっていた。

 どんな危険が潜んでいるかも分からないというのに、随伴も付けずに愛機であるAC『アストヒク』単騎でやって来るのは、自殺願望があるとしか思えない。

 

「……」

 

 この場所は静かだった。戦場を包む爆音や悲鳴、解放戦線内での多様な意見による喧々囂々。いずれとも無縁な場所だった。

 今頃、自分が居なくなったことを知り皆は慌てているだろうか。それとも、邪魔な人間が居なくなって清々しているだろうか。通信機器も使えない場所では、知る術もなかった。

 

「(今なら、君の声もまた聞こえそうだ。セリア)」

 

 若かりし頃の彼は、コーラルを愛用するドーザーだった。特に考えも無しに高揚感に任せて暴れ回っていたが、ある日を境に声が聞こえるようになっていた。

 セリア。と名乗った、姿の見えない女性は自らを『Cパルス変異波形』と言う、コーラルと言う生体物質の中で産まれた精神体であると説明してくれた。

 

「(他の者達が聞こえなかったのが気になるが)」

 

 他のヤク中達に聞いても、特段そう言った話は出てこなかった為。現実か幻聴かは怪しく思う所はあったが、彼女と一緒に居た時間は蜜月の様に思えた。

 誰からも嘲笑われ、見下され、排除されて然るべき存在である自分を対等な相手として接してくれた。そして、共に生きたいと言ってくれた。

 

「(ならば、共に生きたいと願う彼女達を一方的に搾取している私達はなんだ? 我々の住処を奪った企業達と何が違う?)」

 

 ルビコンの恵みがコーラルの消耗によって支えられているというのなら、自分達は彼女達の血肉を貪る餓鬼ではないのかと。

 セリアは尽きることはないと言っていたが、ドルマヤンはいつも考えていた。もしも、自分達が消耗しなかったコーラルの中に人格が産まれていたとしたらと。そう考えると、途端にルビコン3と言う惑星の構造が恐ろしく思えたのだ。

 

「(故に、コーラルリリース)」

 

 彼女と遣り取りをしている間に気付いたことがある。自分達を遮る『肉体』と言う物は、様々な弊害をもたらすのだと。

 ドーザーをしていた頃の自分は常にコーラルを吸っていたし、常に赤色吐息を吐いていたし、異様に腹が減っていたり。精神的に荒れる要素が十分すぎた。

 

「(私も彼女達の側になれば)」

 

 飢えや病気、自らの生存の為に他者を糧とする必要もなくなる。だが、その選択を人々に押し付けるほどの傲慢は無かった。そして、セリアはこの意思を尊重してくれた。……それ以来、声は聞こえていない。

 今でも選択を悔いることはある。現状を鑑みれば、子供達は飢えで苦しみ、同志達は戦いの中で傷付き嘆いている。もしも、あの時。彼女の誘いに乗っていれば、この様なことも無かったのだろうかと。

 

「(そう考えていたら、久々に吸いたくなって来たな。どんな味がしたか)」

 

 感傷に浸っていると、長らく吸っていなかったパイプを取り出していた。煙草を入れて吸うこともあったがコーラルとは比べ物にならない程、ショボかった。

 コーラルとの共生を謳っているのとセリアの件があって以来、吸える訳も無かったのだが、誰にも見られていない解放感から若干気が大きくなっていた。

 

「(どれどれ)」

 

 一度、やりだしたら止まらないのが薬物乱用者(ドーザー)である。赤い粉をパッパと塗して火を付けろ。モクモクと赤い煙が上がり、体内にコーラルが流入する。先程までの感傷を洗い流す程の快楽と刺激が脳髄を叩いていた。

 

~~

 

 ザイレムへと到着した621は途中でリング・フレディと合流して進んでいた。

 通信が使えないだけではなく、霧も立ち込めており一寸先も見えない。もしも、離れ離れになれば、再度の合流は難しいものになるだろう。

 

「見て! 白いもやもや!」

「そうだな」

 

 それ以上に難しいのが、間を持たせることだった。621にコミュ力や会話術を期待するのは無駄であるが、リング・フレディもまた口下手であった。

 任務中に無駄口を叩く必要はないと言えば、それまでだが。意味がないことはない。精神的衛生を保つ上で、会話は重要だった。

 

「ねぇ。フレディ、男娼ってなに?」

『レイヴン。それはかなりセンシティブな話題かと』

 

 アリーナの説明でも公表されているが、621には言葉の意味が分からなかった。気になったので聞いてみようという考えが思い浮かぶ頃には、コーラルがスッカリと疑問を流していたが、ふと思い出したので聞いていた様だ。

 

「支えだ。帥父はセリアと言う女性に操を立てている。故に、他の女性と関係を持つ訳には行かないのだろう」

『貞操観念にまつわる話ですか。ですが、男性ならばよいということにはなるのでしょうか?』

「男の人ならいいの?」

「考え方次第だ。だが、帥父は俺を傍に置いてくれている。それだけで良い」

「フレディは、その人と友達ってこと?」

「もっと大切な人さ。お前にもそう言った相手はいるか?」

『……』

 

 普段は気の抜けた返事が多いが、この時ばかりは621も珍しく唸っていた。彼女なりに頭を働かせているらしい。エアも反応を待っていた。

 

「えっとね。ウォルター! それと、エア!」

『!!』

「エア? 誰のことだ?」

「何時も傍にいてくれるの。ツィイーやラミー達も友達だけれど、ずっと一緒にはいないから」

 

 あわわわわ。と、621の脳内ではエアが狼狽していた。

 一方、フレディは暫し考えていた。ウォルターに関しては、雇い主であるということもあって真っ当に受け取って良いかは不明だったが、エアと言う名前は聞いたことがないし、彼女に関する情報でも見たことがない。

 

「その、エアって奴のこと。教えてくれないか?」

「いいよ。えっとね……」

 

 スゥっと狼狽していたエアも声を潜め、一言一句。聞き漏らさない態勢を整えた所で、静寂だったザイレムに爆音が響いた。

 

「なんだ!?」

 

 レーダーが使えない以上は、カメラによる目視でしか確認方法がない。慌てて、フレディが確かめた先に居たのは……。

 

「不明な侵入を確認。恒常化プロセス…」

「だまらっしゃい!」

 

 全身、赤色の塗装をした純正のBASHOフレーム。『MA-T-222 KYORAI』のナパーム弾で相手の体勢を崩しつつ、あるいは炎上範囲から逃げ出そうとした相手を次々と『HI-32:BU-TT/A』のパルスブレードで切り裂いていく。

 BASHOアームは格闘適性が非常に高く、堅牢で無骨な作りは近接武器をきつく固定し、力の限り叩き付けることを可能としていた。

 

「帥父!?」

『どうやら、無人兵器と戦っているようですが』

 

 無人機の軽快複雑な動きの全てに付いて行き、次々と撃破していく様子は正に歴戦の武士であったが、周囲に漏れているスピーカーからは尋常ではない状態が伝わって来た。

 

「うぉおおおおお! 私にも見えるぞ! コーラルよ! 共にあれぃ!!」

「あ、この声のかすれ方。お爺ちゃん、コーラル吸っている」

「え?」『え?』

 

 常用者と言うだけにあってコーラルを使用しているかどうかは直ぐに分かるらしい。暫くは傍観していたが、周囲にいたことが災いして無人機達の攻撃が621達にも飛んで来た。

 

「新たな侵入者を確認」

「クソ! どうして、こんなことに!!」

『全くです。早く終わらせて、先程の続きを聞かせて下さい』

「分かった!!」

 

 かくして、ザイレムの静寂は破られ激しい戦闘音に包まれた。

 



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依頼12件目:“ 幻想 ユメ ”じゃねえよな…!?

「みんな!! “コーラル”キメろぉぉ!!」

「応!!」

 

 ドルマヤンのAC『アストヒク』から喧しく響く号令に、レイヴンが力強く応じた。実際、彼らの動きは阿吽の呼吸と言っても良い程にシンクロしていた。

 パイロットの負担を度外視した機動を繰り返す無人機達に、的確に重ショットガンを命中させ、姿勢を崩した瞬間にBASHOアームの堅牢さに任せた強烈なパルスブレードの一撃で切り裂いていく。

 

『凄い』

 

 長年連れ添った僚機でも、ここまでのコンビネーションを発揮するのは難しいだろう。エアが作戦記録を見た限りでは、レイヴンは一度たりともドルマヤンと会ったことはないし、通信記録も無い筈だ。

 かと言って、レイヴンが他者に合わせる様な戦い方を得意としている訳でもない。元々、単騎での作戦行動に慣れていることもあり援護やカバーは得意ではない。先日の燃料基地での作戦における僚機の損耗が物語っていた。

 

「嘗めるなよ! レイヴン! 俺の方が帥父の相棒なんだ!!」

 

 手にしたハンドミサイルから誘導弾が発射されるが、無人機達の高速機動はたちまち誘導を切るか、あるいは手持ち武装で中空での撃墜、中にはフレアを展開する個体すらいた。

 まるで、戦闘におけるミサイルの挙動を把握し切ったかのような対応にフレディが歯噛みしている間にも、相手の動きに合わせて舞うように動く2機が次々と無人機達を撃破していた。

 

「抗原機体投入」

『レイヴン、新しい反応です。無人都市だというのに、かなりの数の兵器が稼働状態にあるようですね』

 

 ウォルターの依頼は情報回収だけでは無かったのか。先日の燃料基地よりも遥かに難易度の高い任務であるにも関わらず、押し寄せる機体やドローンを次々と撃破していく2機には疲労も焦燥も見当たらない。

 

「ぬぉおおおお! 漲る! 漲るぞ!」

「キャハハハ!! お爺ちゃん凄い! 機体もキラキラしている!」

『(アストヒクのブースター。あの燃焼反応は、まさか……!)』

 

 これだけ激しい戦いにも関わらず、2人には殆ど損壊がない。

 レイヴンの機体は機動力をウリにしているので納得は出来るが、ドルマヤンの機体は頑丈さに重きを置いている為、多少なりとも被弾はしているハズだ。

 しかし、彼は相手の攻撃を避け、あるいは装甲の厚い部分で受け止めている。何よりもレイヴンの高速戦闘について行けている。

 

「残存兵器0。応援を求む、応援を……」

 

 次第に無人機達から告げられる音声は無くなって行き、攻撃の手は止んだ。辺りには夥しい数の機体が転がっていた。

 

「帥父。レイヴン。周囲の反応はありません。お見事でした」

 

 キュラキュラとキャタピラの音を立てながら近づいて来たリング・フレディの声は幾分か沈んでいた。……再会したのは良い物の、何と声を掛ければ良いか分からない様で、戸惑っている中で声を上げたのはレイヴンだった。

 

「お爺ちゃん凄い!」

「ほぅ、君がレイヴンか。ツィイーと同じ位か、あるいは若いな」

 

 先の威勢は鳴りを潜め、ルビコン解放戦線のトップとしての落ち着きを払っていた。

 

『レイヴン、彼に聞きたいことがあります』

 

 ウォルターの為に情報収集をする意味もあったが、エア個人としても問うておきたいことはあった。先の戦闘で見せたアストヒクの燃焼反応について、より正確に言えばジェネレーターで何を使っているかということだったが。

 

「この声は、まさか。いや違う」

『え?』

「アレ? お爺ちゃん。エアの声が聞こえるの?」

 

 これはレイヴン達にとっては初めての反応……という訳でもない。

 先日の燃料基地での作戦後、コーラル中毒者であるラミーが僅かに反応していた様に、一部のドーザーはエアの存在を感じられるのかもしれない。声まで聞こえたのは、レイヴン以外では初めてだが。

 

「エアと言うのか。君もまたコーラルの子なのか?」

『そうですが、私の声が本当に聞こえているのですか?』

「うむ。内に直接響く様な、懐かしい感覚だ。立ち話をするにしてもここは適さない。当初の依頼を遂行しながら、話をしよう」

 

 先の激戦で粗方、防衛兵器は撃破したので安全は確保できていた。無人の都市を3機で探索しながら、時折見つけるECMフォグの機能を停止させていく。

 

「帥父。こちらのフォグも停止させました」

「ご苦労。して、エア君か。セリア、という名前に聞き覚えはあるか?」

『いいえ。話ぶりからすると、私と同じ存在が?』

「その通りだ。もう、彼女の声は聞こえないがね」

「ねぇ、セリアさんはどんな子だったの?」

「優しい人だったよ」

 

 先の威勢からは想像も出来ない程に優しい声色だった。彼が詐欺師でも無ければ、本当に大事に思っていたのだろう。だから、エアは問わねばならなかった。

 

『彼女のことを大事に思っていたというのなら、どうして貴方はコーラルを動力源にする様なジェネレーターを使っているのですか?』

 

 アストヒクの燃焼反応。それは、かつて相対したC兵器と呼ばれる、コーラルを動力源にしている機体が発していた物と同じだった。

 

「え? そうなの?」

「流石に分かるか。だが、これだけは手放せなかった。私とセリアを繋ぐ唯一の物だったからだ」

『どういうことですか?』

「(エアと言うヤツは何を話しているんだ?)」

 

 エアの声が聞こえないフレディは苛立ちが募るばかりだった。彼には分ってしまうのだ。この帥父の声色が、誰かを気遣っての物ではなく、心の底から安堵し慈しんでいるが故に優しい物だということを。

 そして、それを引き出したのは彼に付き添っていた自分ではなく、今日会ったばかりの少女達であるということに嫉妬を覚えていた。

 

「私がザイレムを訪れたのは初めてではない。一度、セリアに導かれて足を運んだことがあった。その際に、持ち帰って来たのがこの『IA-C01G AORTA』というジェネレーターだ」

 

 エネルギー資源として注目されているコーラルではあるが、どの企業も兵器転用に用いることはしてない。必要ないという方が正しいか。

 

『闘争の為よりも、暮らしや生活の為に使った方が有意義ですからね』

「君の言う通りだ。だが、好奇心を抑えられなかった愚物達はコレを生み出した」

「吸った方が楽しいのに」

『その使い方も割と浪費に近いかと……』

 

 企業の利益や兵器転用よりはマシかもしれないが、マシなだけだ。だが、ドルマヤンには思うことがあったのか小さく笑っていた。

 

「かつては私も吸っていた。その縁でセリアと巡り合ったのだから、浪費とまでは思わんさ」

「ついでに私達とも!」

『コーラルの導きとも言えるかもしれませんね。そう言えば、どうしてセリアさんの声が聞こえなくなったのですか?』

「私には賽が投げられなかった。……いや、言い訳はよそう。私は世俗を惜しんだのだよ」

 

 エア達が発言の意図を考えている間に、最後のECMフォグを停止させた。

 通信やレーダーも回復し、ウォルターの声が聞こえて来ると同時に3機のレーダーに多数の反応が映し出された。

 

「621、聞こえるか? 惑星…封鎖機構……向かって来ている」

『タイミングが良過ぎますね』

 

 調査途中に拾ったログからも、彼らがこの洋上都市で何かを施したことは察していた。とすれば、彼らはこの都市を覆うフォグが解除される瞬間を虎視眈々と狙っていたのだろう。

 

「無人機共は未だしも! 惑星封鎖機構の連中となら!」

 

 フレディはそう意気込みながらハンドミサイルを放った。その内の数発が、建造物の屋上に降り立っていたLC達を粉砕していた。

 

「よせ! フレディ! 逸るな!」

「帥父! 見ていてください! 貴方の傍にいるのは俺なんです!」

 

 無人都市のアスファルトの上をキャタピラで突き進みながら、LC達の狙撃を翻弄しながら、両手のハンドミサイルと両肩にマウントされた二連装グレネードで次々と撃破していく。

 

「(語るだけしか能がない奴らと違って、俺は帥父の力になれるんだ。俺は、誰かの代りじゃない!!)」

 

 フレディは焦っていた。自分には見えない何かに、帥父が取られるのではないのかと。だからこそ、直接的な力で自分の価値を示そうとして。

 

「調子に乗るなよ。旧式」

 

 『AH12 HC』。惑星封鎖機構が地上部制圧の為に用いる大型武装ヘリ。リング・フレディの愛機である『キャンドル・リング』とは比べ物にならない量のミサイルと銃弾が吐き出された。

 瞬間、フレディは自らの一生を振り返った。貧しいルビコンでは男児が襲われることも珍しくはなく、彼も歯牙に掛かったこと。その風評から言い寄られるか、あるいは煙たがられたこと……そして、そんな自分に唯一対等な人間として付き合ってくれた初めての人間がサム・ドルマヤンだったこと。

 

「(終わり。か)」

 

 脱出は間に合わない。パルスアーマーで防ぎきれるとも思えない。だが、不思議と安堵があった。きっと、自分が居なくなったとしても帥父には理解者が居る。

 ルビコン解放戦線の面々の様に担ぎ上げ利用しようとする下心を持つ者達ではない。彼の孤独と事情を真に理解できる者達だ。その確信を抱いたまま逝けるというのなら後腐れはない。そう考えていた。

 

「うぉおおおおお!」

 

 ドルマヤンの咆哮が響く。アストヒクがアサルトブーストで一気に燃料を燃やした為か、辺りにコーラル粒子が降り注いだ。そして、彼はフレディの前方に躍り出た。

 瞬間。アストヒクの機体から赤い光が迸り、周囲にパルス爆発を引き起こし、放たれたミサイルや銃弾の全てが叩き落された。

 

「まぁ、そう来るだろうとは思っていた」

 

 だが、相手は惑星封鎖機構。卓越した技術力と分析力を持つ集団。ACが持つ機能など把握しており、ドルマヤンの放ったアサルトアーマーが切れるのを狙ったかのように第二射が放たれた。

 

『レイヴン!』

「任せて!」

 

 今度は、レイヴンが彼らの前に躍り出てパルスアーマーを展開した。

 ミサイルなどの威力の大きい物をショットガンで破壊しつつ、機銃がパルスアーマーを削って行くが、彼らの砲火はフレディ達に届かない。

 

「レイヴン……」

「フレディ。見ての通り、レイヴンは手が離せない。我々でやるぞ」

「はい!!」

 

 今度は間違えない。建物を迂回する様にしてミサイルを放ちながら、あるいは両肩の二連装グレネード『SONGBIRDS』を放つ。予備動作も大きく対AC相手には命中させることが困難だとしても、図体のデカイ相手になら話は別だ。

 

「こっち! こっち!」

 

 そんな彼の動きをカバーする様にして、レイヴンが周囲を漂いながらAH12 HCに重ショットガンを叩きこんでいく。積載していた武装が破壊され、爆発を起こして態勢を崩した瞬間を、ドルマヤンは見逃さない。

 

「落ちろ」

 

 多少の弾丸なら弾くほど堅牢に作られているローターであったが、BASHOアームから繰り出される一撃により叩き切られた。

 

「クソッ! 退避!」

 

 AH12 HCが制御を失う寸前、中から何かが飛び出て来たが、追撃するような真似はしなかった。程なくして盛大な爆発が巻き起こった。

 

~~

 

「結果を見れば、情報収集、惑星封鎖機構の撃退、ルビコン解放戦線の信用獲得か。上々だ、621」

 

 帰還後、ルビコン解放戦線からも報酬が支払われているのを見てウォルターは満足気に頷いていた。

 

『レイヴン、私達にとっても実りの多い任務でしたね』

「ぷはぁ。うめぇ~~」

 

 ついでに感謝のしるしとして貰った、ドルマヤン特製のコーラル葉巻を吸っている621の表情は恍惚としていた。何時もより機嫌が良さそうだった。

 

「ドルマヤンとは何を話した?」

「うひひ。いっぱい話した」

 

 621に説明を求めるのも酷な話だろうということで、会話ログが記録されていないかを確認したが、削除された痕跡があった。

 

「消されたか」

「本人から話を聞ければ一番早いんだろうが」

 

 チラリと、ナイルは621を見た。葉巻が想像以上に効いているのか、腹を出しながら寝こけていた。

 

「これが。惑星封鎖機構の重装備ヘリを落としているのだから、本当に俺にはコイツが分からない」

 

 1317も溜息をついた。本当にこの少女が戦場を舞う鴉(レイヴン)なのかと。俄かに信じがたくはあったが、功労者である彼女を労うべくそっとブランケットを掛けていた。

 各々が作戦終了後の作業に勤めている中、エアは暫し考えを整理していた。作戦終了後にドルマヤンから聞いたセリアのこと。そして。

 

『(コーラルリリース。ですか)』

 

 先達が目指した共生と理想。その仔細については抽象的な表現や概念が多く、実態は把握しかねていたが、自分達が人間と繋がれる可能性を考えると、エアは自らの中で騒めくものを感じていた。

 

『(レイヴン。貴方は、それを望みますか?)』

 

 ボフッ。と、赤色の寝息を吐いている彼女に問うても真っ当な答えは帰って来るとは思わなかったが、生まれた期待がくすぶっていた。

 



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依頼13件目:いぬ

 ベイラムグループの医療施設。G5ことイグアスは焦る気持ちを抑えられず、歩を速めていた。

 何度も訪れているだけにあって、足取りに淀みは無く目的地へは直ぐに辿り着いた。入り口のネームプレートには『ヴォルタ』の名前が記されている。

 

「おい! ヴォルタ!」

「うるせぇ。起きたばかりにテメェの声は響くんだよ」

 

 ベッドで上体だけを起こしていたヴォルタは粥を口に運んでいた。味付けも殆どされていないが、作戦行動中に食うレーションよりは遥かに美味い。

 

「そうですよ。彼は目を覚ましてから日も浅いのですから」

 

 黒髪の男性ことG3である五花海は、持って来ていた果物を剝いていた。生鮮品は粥よりも更に貴重であり、詐欺師でもあった男が持って来る品物とは思えなかった。

 

「おい、イグアス。コイツに果物を持たせたのは、ミシガン総長だからな」

「こうして親切心で剝いているというのに余計なことを」

 

 食するには適さない部分を取り除いて皿に盛りつけた。イグアスも手を伸ばしそうになったが、スッと引っ込めた。

 ベッドの傍に置かれていた椅子を引っ張り出して腰掛けた後、彼の中では様々な疑問が浮かんでは消えていた。だが、真っ先に気になったことがあったとするならば。

 

「ヴォルタ。お前は、パイロットとして復帰できるのか?」

「無理だ。思ったよりも損傷が激しいらしい。医者から聞いたんだが、生きているだけでも奇跡なんだとさ」

 

 予想はしていたが、やはりショックではあった。

 ルビコン解放戦線が要塞化した『壁』の攻略。当初は、ヴォルタと共に参加する予定のイグアスだったが、直前で作戦から外された。

 レッドガン部隊からの参戦はヴォルタだけとなったが、壁に配備されていた戦力は想像以上だった。投入された戦力の殆どは返り討ちに遭い、彼もまた死を覚悟していたのだが。

 

「独立傭兵レイヴンでしたか? 彼女に助けて貰ったと聞きましたが」

「は? なんで、あのアホ犬が壁にいやがったんだ?」

 

 アホ犬。かつて、多重ダム襲撃の際に随伴させた独立傭兵であり、会話も碌に成り立たなければ集団行動なども望めない割には、パイロットとしての腕前はずば抜けている少女であり……

 

「知らねぇよ。お前と口論始めたからって、作戦行動中に殴りかかってくる奴の頭ん中なんて分かる訳ねぇだろ」

 

 多重ダムでイグアスと口論の末、解放戦線そっちのけで同士討ちを始めた本物のアホ。いや、もはや狂犬と言っても良いレベルだった。

 

「レイヴンは重度のヤク中ですからね。壁に居たのも、正気を失していたからではないでしょうか?」

 

 かつて、ベイラムの経済圏内で社会を蝕む病理となっていた五花海は、人間の果て。と言う物をよく見ていた。薬物中毒者もまたその一つであった。

 

「あるいは、アイツの飼い主から視察でも命じられていたんじゃないか? おかげで、俺は運よくアイツに拾われて生き延びた訳だが」

 

 ヴォルタの愛機である『キャノンヘッド』は非常に完成度の高いアセンブルとして、ベイラム内でも有名だった。多数の相手から、AC戦。そして、これらを支える堅固なフレームと機動性を損なわないタンク型の脚部。

 相棒であるイグアスのヘッドブリンガーとのコンビによる突破力は、多数の作戦を成功へと導いて来た。

 だが、欠点もあった。フレームの大きさから非常に被弾がしやすいことである。普段はこの欠点を回避する為にイグアスとコンビを組んでいるのだが、壁の攻略時に彼が参加できなかったことで、ヴォルタは危うく命を落としかけた。

 

「先日はG2ナイル参謀も拉致されましたね。向こうで元気にやっているそうですが」

「本当に上層部はクソだな」

 

 G4への粗雑な扱い。何時まで経っても行われない参謀の返還交渉。上層部が自分達を疎んでいるのは、もはや疑う余地も無かった。

 

「俺も五花海から、今まで何が起きたか聞いていたけれどよ。アイツは愉快じゃねぇか。なんなら、俺達もアイツの所に行ってみるか?」

「ふざけんな! なんで、俺がアホ犬と一緒に飼われなきゃならねぇんだよ!」

 

 イグアスは憤慨していたが、ヴォルタの表情は至ってまともな物だった。

 

「ふざけちゃいねぇよ。このままじゃ、俺達は上の奴らに使い潰されちまう。向こうにはナイル参謀もいるんだろ? だったら、根無し草でやって行くよりはよっぽど、マシだろ?」

「加えるなら。ハンドラー・ウォルターは総長とも旧知の間柄だというそうではないですか」

 

 五花海が付け加えた。上層部がレッドガン部隊をぞんざいに扱う様に、彼らもまた上層部に対する忠義心は薄い。

 それでも籍を置き続けるのは、総長であるミシガンの存在があまりにも大きかった。……それがまた、上層部としては面白くない所なのだろうが。

 

「俺がアイツと……」

「どっちにしろ。俺はこれ以上、キャノンヘッドに乗り続けるのは無理だ。総長の顔面に一発入れるのは諦めて、次の生き方を探すさ」

 

 五花海の方を見た。以前から彼に商いを学んでいたヴォルタとしては、パイロットを諦めて新しい道を歩む契機になると考えていた。

 

「心得はあくまで心得。商売には色々と必要になりますが、まずは伝手が必要です。生憎、私がベイラムに持っていた伝手は潰されましたが」

「そもそも。ベイラムグループから抜けるんなら、連中の経済圏でやっていけねぇだろ」

 

 イグアスの言う通り、円満な退役とは言い難い形になる為、今後の展望は明るくはない。かと言って、全く知らない場所でやって行くのも難しいだろう。

 

「だから、このルビコンでやって行くんですよ。来る物拒まずな、打って付けの場所があるんです。その為に、ちょっとG5に働いて貰う必要があります」

「俺が?」

 

 なんで? と言いかけて口を噤んだ。今までの相棒が新しい道を進もうとしているなら力を貸してやるのも餞別だと考えていた。

 

「はい。丁度、連中は対立している組織に悩まされているらしく、その助力としてAC乗りが必要であるらしく……」

 

~~

 

「ビジター。1つ、仕事を頼みたい。……って、おや? 今日はアンタが受け付けかい?」

「そうだ。ウォルターは所用で席を外している」

 

 RaDのトップ。シンダー・カーラからの依頼に応対していたのは、ナイルだった。621に電話番を任せられる訳もなく、こういった事務作業が出来る人物と言うことで、必然的に彼に任されていた。

 

「そうかい。いや、アンタが出てくれたのは丁度良かったと言うべきか」

「どういうことだ?」

「後で話すさ。まず、ビジターへの依頼内容だ。ジャンカー・コヨーテスの連中が惑星封鎖機構に付いた」

「何だと? ドーザーがアレだけのことをして来たのにか?」

 

 1317が反応した。先日の燃料基地の一件もあり、惑星封鎖機構は企業のみならずドーザー達にも敵意を向けている。

 

「だから、敵同士を潰し合わせる気なんだろうさ。事実、後ろ盾を得たアイツらはウチのシマにもちょっかいを掛けている。勿論、許す気はないさ」

 

 通信画面に映し出されたのは巨大ミサイルの建造現場だった。使用用途は言うまでもないだろう。

 

「連中に一発くれてやるということか」

「そういうこった。だけど、連中も流石に易々とは撃たせてくれない。そこでビジターにミサイルの防衛を頼みたいんだが」

「やるー! カーラの仕事手伝う―!」

 

 いつも通り、即断だった。ウォルターに次いで621は彼女のことも気に入っているのか、割とホイホイ依頼を受諾する傾向があった。

 

「そうかい。やっぱり、ビジターの即決ぶりは気持ちがいいねぇ。今回は共同任務になる。ウチに恩を売りたいって奴がいてね、そいつにも力を貸して貰う。入って来な」

 

 カーラが促すと、このブリーフィングルームに件の人物が入って来たのだが、ナイルは少しばかり驚いていた。

 

「ほぅ。G5か」

「ナイル!? ってことは、まさか今回の共同相手ってのは」

「イグアスだ! 久しぶりー!」

 

 過去に起こした喧嘩のことなど、すっかりコーラルで洗い流されたのか底抜けに明るい声で挨拶をかましていたが、イグアスは声を荒げていた。

 

「おい! コイツと一緒なんて御免だぞ!」

「うん? アンタの相棒、ウチで面倒見なくていいのかい?」

「くっ……」

 

 少しばかり荒い鼻息が聞こえた後、小さく分かった。と返事をしていた。一連の流れを見ていたナイルは深く頷いた。

 

「そうか、ヴォルタは目を覚ましたか。アイツの為に動くとは、お前にしては殊勝な心掛けだ」

「言ってろ。おい、アホ犬! 今度は俺のこと撃つんじゃねぇぞ」

「ワンワン」

「テメェ、ふざけてんのか!?」

 

 ダラーっと舌を出しながら答えている姿には挑発以外の意図を感じないのだが、いつも通り何も考えておらず、犬という単語に反応しただけだろう。

 そんなコントを聞いていたカーラのツボに入ったのか、彼女の呵々大笑が響いていた。

 

「いや、こんなに抜けているブリーフィングは初めてだ。アンタら仲がいいね」

「でしょ?」

「どこがだ!?」

 

 イグアスの訴えは悉く無視され、作戦概要などが説明されつつ目的地まで向かっていた。

 

『レイヴン。彼とは口論をしていたようですが、本当に仲が良いのですか?』

「仲良し、仲良し」

『では、V.Ⅳのラスティとどちらの方が好きですか?』

「ラスティ」

 

 即答だった。人間の遣り取りや機微に関して疎い所のあるエアは、イグアスと621の関係が良好な物かどうかという判断に困っていた。

 



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依頼14件目:因縁

 ウォッチポイント・デルタ。レイヴンがエアと出会った場所であり、現在はカーラ達がミサイルの発射準備をしていた。

 ジャンカー・コヨーテス達も阻止せんとMTで接近して来るが、防衛タレットに加えてレイヴンとイグアスが居るのだから、突破できる訳が無かった。

 

「よわーい!!」

「今回の任務は楽が出来そうだな」

 

 惑星封鎖機構のLCや軽装歩兵(エクドロモイ)。名だたるAC乗り達を打ち倒して来たレイヴンにとって、たかがドーザーの駆るMTが相手になる訳が無い。

 コーラルをキメても目を逸らせない圧倒的な現実を前に、ジャンカー・コヨーテスのドーザー達は声を荒げていた。

 

『おい! 惑星封鎖機構の連中は何をしてんだ!? 俺達の奉仕活動に協力してくれんじゃなかったのか!?』

『話が違うじゃねぇか! 畜生! アイツを呼べ!!』

 

 惑星封鎖機構もハナからドーザーに力を貸すつもりなど無かったらしく、ドローン達がやる気なくレーザーを放っていたが、当たり前の様に撃墜されていた。

 

「ボス、ミサイルの発射シーケンスはサブミサイルも含めて順調だ」

「紹介がまだだったね、ビジター。チャティはウチのシステム担当だ。無口だが仕事の出来る奴だ。連中もビビッて近付いて来なくなったし、何か一つ。ジョークでも言ってくれよ」

 

 いわゆる無茶振りと言うやつである。レイヴンもイグアスもそんなユーモア差を持っている訳がない。

 

『レイヴン。ジョークとは一体?』

「わかんなーい。イグアスおねがーい」

「は!?」

「ほらほら、円滑なコミュニケーションも仕事の内だよ!」

 

 イグアスは悩んでいた。もしも、これが五花海ならスラスラと答えられたのだろうが、自分はそんなウィットは持ち合わせていない。ならば、以前聞き流したジョークを拾い上げて、お披露目するしかない。

 

「虫は1匹。ACやMTは1機って数えるよな。じゃあ、犬は?」

「1匹?」

「答えは1着、2着だ!」

「………………」

「ボス。今の回答はどういうことなんだ?」

 

 かつて、博徒をしていた頃に聞いたドッグレースに関するジョークだったが、物の見事に受けなかった。

 痛ましい沈黙が走る中、チャティだけが解説を求めたが、赤っ恥を掻かされたイグアスは激昂した。

 

「お前らが言えって……」

 

 しかし、彼は最後まで言い切ることなくレイヴンの機体に蹴り飛ばされていた。直後、無事だった2基のサブミサイルが破壊された。

 

「なっ!?」

「流石はウォルターの猟犬だな」

『レイヴン。この気配は!』

 

 恐らく、彼は最初からこの戦場に居たのだろう。ジャンカー・コヨーテス達が無駄な突撃を繰り返している間に忍び寄り、完全に油断する時を待っていた。

 赤と黒が絡み合う様な配色を施された痩身の機体。かつて相対した時とは装備も一新されていた。両肩には2連装砲グレネードキャノン『SONGBIRDS』。両手にはベイラムが誇る重ショットガン『ZIMMERMAN』。

 

「スッラ!!」

「まさか、今度は俺が攻め入る側になるとはな」

 

 レイヴンが叫んだ。劣悪な施術環境で生き残り、今もなお戦い続けている古強者。独立傭兵スッラだった。

 彼はAC達に目もくれず、目標物であるミサイルに銃撃を加えていた。重ショットガンの至近距離での威力がどれだけ強力かというのは、ルビコンにも広く知れ渡っている。

 

「させるか!」

「撃てるか? 狂犬」

 

 スッラはミサイルを背にしていた。彼を目掛けての攻撃を外せば、そのまま護衛対象へのダメージにも繋がる。判断の躊躇と言う間隙に付け入る様に、イグアスの頭部に不可解な痛みが走った。

 

「(畜生。耳鳴りがする。頭が痛ェ)」

「ほぅ、このガキもそうなのか」

 

 老兵は目の前にぶら下げられた餌に食い付こうとはせずに依然としてミサイルへの攻撃に終始していた。さながら、イグアスの存在など目に入っていないかのようだった。

 

「そこから離れろ!!」

 

 アサルトブーストを吹かして、スッラの機体を蹴り飛ばした。ミサイルから距離を取ると、2機4丁の重ショットガンによる鉛玉の暴風が吹き荒れた。

 

「チャティ! 照準の精度はどうなっている!」

「95%だ。多少ブレるが、このままでは破壊されかねない」

「行きな!」

 

 カーラの決断は早かった。スッラの奇襲により損傷したミサイルは、目標であるジャンカー・コヨーテスのグリッドを目掛けて飛翔するが。

 

「させんよ」

 

 レイヴンと交戦していたスッラは、飛翔するミサイルに目掛けて『SONGBIRDS』を放った。直撃こそはしなかったが、精緻なコントロールを必要とするミサイルの軌道がずれるには至った。

 一瞬の隙も許されない交戦の中で、スッラは依頼達成の為の一手を打っていた。このままでは目標へとは届かない。

 

「ボス。軌道が逸れすぎている。修正が必要だ」

「どうすりゃいいんだ!?」

 

 2機の戦いに入り込めないイグアスが痛みを掻き消す様にして吠えた。既に機体のアサルトブーストを吹かして、自身もミサイルへと接近していた。

 

「よっし! 上方向に蹴り飛ばせ!」

「分かった!」

 

 蹴った時の衝撃でミサイルが爆発しないのか。あるいは、自身がミサイルを破壊してしまわないのか。という不安は一切浮かばず、カーラに言われた通りにミサイルを蹴り飛ばした。

 すると、どうだろうか。逸れていた軌道は僅かに上向き、そこから高速で修正が入り……ミサイルはグリッドに着弾した。

 

「俺の負けか」

「うん。私達の、勝ち」

 

 互いに継戦は可能だったが、片方の目標が達成された以上。意味のない交戦は互いに望む所では無かった。

 

「独立傭兵スッラ。どうして、アンタがジャンカー・コヨーテスなんかに雇われているんだ?」

「前金を貰っているからな。もっとも、修理費と弾薬費で消えそうだが」

 

 独立傭兵は金さえ払えば、勢力に関係なく就きはするがドーザーの連中と契約を結ぶメリットは薄い。彼らはケチだからだ。

 スッラの言葉を聞いたカーラの雰囲気が険しい物になって行く。前金を払う様な金払いの良いドーザーなど、数少ない。

 

「ソイツの名前。オーネスト・ブルートゥっていう奴じゃないのか?」

「知り合いだったのか。では、もう一つ伝言だ。カーラのご友人と会える日を楽しみにしています。だそうだ。俺は伝えたぞ」

 

 スッラは作戦の失敗を悟ると、この場から去って行った。

 2基のサブミサイルの他、防衛の為に設置したタレットの数々も破壊されており、たった1機によりここまで荒らされたことを考えると。スッラと言う独立傭兵の恐ろしさが伝わって来た。

 一方、レイヴンはミサイルが着弾したグリッドを見ていた。的確に撃ち込まれた為か、バランスが崩壊して建造物の破片が落ちていく。

 

『綺麗な流れ星ですね』

「よだれみたい」

 

 せっかく、ロマンティストに決めようとしたのに風情もクソもないことを言われたので抗議しようかと考えたが、心拍数を始めとしたバイタルが緊張状態であることを示しているのを見て、エアは驚いていた。

 

『レイヴン?』

「スッラ。凄く強くなっていた」

 

 第1世代強化人間の生き残り。かつて、レイヴンとはこの場所で相対したと聞いたが、彼はここの護衛を仰せ付かっていただけだったのだろうか?

 

「ハァ、ふぅ。おい! 依頼達成したんだから、約束は果たせよ!」

「分かっているよ。イグアスだっけ? アンタの相棒をグリッド086まで連れて来な。私がRaDの流儀を教えてやるよ!」

 

 作戦後の交渉に入っているイグアス達を傍目に、レイヴンは震える手でコーラルを吸引していた。

 



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依頼15件目:ペイター「俺、なんかやっちゃいました?」

 前話の方に少し修正を入れています。何処の部分が変わったかを探してみるのも面白いかもしれません。


 アーキバス社ブリーフィングルーム。同社の精鋭である強化人間部隊の隊長である、ヴェスパー達は顔を突き合わせていた。司会進行を務めるのは、いつも通りV.Ⅱのスネイルだ。

 

「現在、ルビコン内における惑星封鎖機構は各勢力から徐々にではありますが、力を削がれて行っています」

 

 豊富な資源と人材を有するアーキバス社の各地での作戦。あるいはベイラムも同様にして、物量による襲撃で惑星封鎖機構に少なくない損傷を与えていた。そして、彼らに再起を許さないのがドーザーを始めとした回収者達だった。

 

「先日の我社の広報がよく効いています。我々の接収量が多少減ることは気になりますが、作業に掛かるコストの削減と考えれば十分に見合います」

 

 彼らは襲撃後に押し入っては、惑星封鎖機構が運び出せなかった資源を奪っていく。そして、何よりも動きが速い。

 企業は慎重を期する為、戦闘が行われている近くに回収艇を持っていく様な真似は出来ないが、ドーザーや独立傭兵。あるいは、ルビコン解放戦線の連中は戦闘が起きていても待機しているのだ。

 

「でも、スネイル閣下。本来、アーキバスが得られるハズだった戦果を持っていかれるのは由々しき問題です。彼らも撃破対象に含めるべきでは?」

「そうしたいのは山々だが」

 

 V.Ⅵのメーテルリンクが提案したが、スクリーンに映し出されたのは作戦行動中の映像だった。アーキバスの作戦を聞きつけたのか、基地の周辺にはMTを始めとした回収部隊(スカベンジャー)が集まっていた。

 これだけでもアーキバスの作戦行動に多大な支障が出ると言うのに、彼らを代表する様にして前に出たACが暗号通信を入れて来た。

 

「私は、企業の不法搾取と惑星封鎖機構の不法占拠に断固として反対する! もしも、我々を攻撃するというのなら抵抗を辞さない!! それに君達は私に恩義があるはずだ!!」

 

 作戦前にそんな損耗は避けたいに決まっている。つまり、自分達にゴミ漁りをさせろという盗人猛々しい精神の持ち主だった。

 上層部に打診した結果、余計な戦闘を避ける事と回収コストの削減ということで、この乞食達の交渉を呑み込まざるを得なかった。

 

「流石はアーキバスだ! これも我々との仲を取り持つ為の融資と思ってくれ! そして、私の雄姿を覚えていて欲しい! ノーザーク! ノーザークとビタープロミスをよろしくお願いします!!」

「死ね! カス!!」

 

 通信を受けていたパイロットは堪らず中指を突き立てていた。映像はそこで終わっている。……ちなみに、この作戦終了後。該当基地はケツの毛まで引き千切られんばかりに略奪された。

 

「この男は……先日、V.Ⅳがレイヴンの任務に随伴させた独立傭兵ですよね? 味を占めていませんか?」

 

 メーテルリンクの指摘にV.Ⅳであるラスティは肩を竦めた。言葉にはしなかった物の、彼女の視線には『お前のせいだぞ』という、恨みがましい物が多分に含まれていた。

 

「誤解なき様にいうと、戦友に随伴させるべきだと言ったのは上層部の意見だ。私は窓口をしただけに過ぎない」

「メーテル。これは、V.Ⅳの責任ではありません。上層部の失策です。我々の消耗は抑えられていますが、同時に得られるリターンも減っている」

 

 当初は惑星封鎖機構との激戦を予定していたが、略奪に成功する者達が出ると我も続けと言わんばかりに先走り、戦場の塵へと消えていくという事態も頻発していた。

 碌な機体を用意できなければ当然の帰結であったが、成功談は人の制動を簡単に破壊していた。

 

「では、スネイル。今後はどうするつもりだい?」

 

 このまま惑星封鎖機構を撃退できたとしてもベイラムとの対峙が待っている。先を見据えるべきだという、ホーキンスの提案にスネイルは深く頷いた。

 

「今後の作戦を行う上で、惑星封鎖機構の強襲艦隊は是非とも鹵獲したい。故に、彼らが母港として使っている『バートラム旧宇宙港』を攻略します」

 

 先日まで、アーキバスが星外の窓口に使っていた場所であり、現在はルビコンにおける橋頭堡となっている。ここから発艦された強襲艦隊によって、勢力図は塗り替えられていったのだ。

 

「でしたら、その任務。このV.Ⅷペイターにお任せください!」

 

 ビシっと手を上げたのはヴェスパー部隊末席のペイターだった。

 一番の若輩でありながらも、対惑星封鎖機構においては結果を残しており、上昇志向の強さから自薦していた。だが、スネイルは首を振った。

 

「駄目です。この場所は、今までの基地とは比べ物にならない位に戦力が置かれているでしょう。加えて、新兵器が配備されたという報告も入って来ています。貴重なヴェスパー部隊を当てる訳には行きません」

「だからこそのヴェスパーです。連中の重要拠点を壊滅させるのは、ヴェスパーであるべきなのです!」

 

 スネイルやメーテルリンクが溜息をつき、スウィンバーンが鼻で嗤い、ラスティが考え込むような仕草を見せている中、彼を宥めたのはV.Ⅴのホーキンスだった。

 

「ペイター君。功を焦る気持ちは分かるが、君は十分に成果を出している。後は実を取ろう。さっきも言っていたけれど、私達は今後を見据える時に入っている。君の活力は、その時に残しておいて欲しい」

 

 今後の展望を見据えた上で、彼への労りと期待を示すことで納得させようとしていたが、どうにも不満に思うことがあるらしい。

 

「何処を聞いてもレイヴン! レイヴン! 偶にノーザーク! レイヴンはまだ納得できるのです。だが、あのカスが話題に上がっているのが気に食わない!」

「あの映像のパイロット、君だったのね」

 

 気持ちは分からなくもなかった。レイヴンならまだいい。アーキバスグループにとっては壁越えの際に重要な一手にもなり、ラスティとの仲も良いことから今後も付き合いを考えていく相手ではあったからだ。

 

「ペイター。貴様は、副官としてホーキンスを見習った方が良い。彼こそはヴェスパー部隊の理想的な人材です。温和で人格者! 作戦遂行能力も高い!」

「いやぁ、そこまで言われると照れちゃうなぁ」

 

 ホーキンスは照れているが、スネイルとしてはイラッとしていることもあったので、当てつけがてらの注意だった。

 メーテルリンクに続き、スウィンバーンが気まずそうにしながら、ペイターにクールダウンするようなジェスチャーを見せているが、そこは現代っ子で共感性皆無の男。ヒートアップからの失言は避けられなかった。

 

「だが、ホーキンスさんには相手を見る目がない! 何故なら、アーキバスの展望占いに使われている男を立てているんだから」

「ばっ」

「………………展望占い?」

 

 ホーキンスは理解しているのか、本気でペイターの口を防ごうとしていたが、唯一事情を知らない当事者であるスネイルは眉間に皺を寄せながら、ジロリとラスティの方を見た。

 メーテルリンクも知っているのか、出来るだけ角を立てない様に首を小さく振っている中、ラスティは明朗快活に説明を始めた。

 

「上層部と一部ではやっている陰口でね。スネイルの生え際の広くなり方と、アーキバスの展望を掛けているのさ」

 

 スネイルは自らの額を触った。強化人間手術とは別に、日々の業務によるストレスから生え際が後退しているのは本人も滅茶苦茶気にしていることであり、それをアーキバスの展望に見立てていると。スネイルは額に青筋を浮かべながら、静かに言った。

 

「ペイター。貴様は追放だ。ヴェスパーの面汚しめ。そんなに言うなら、貴様1人で襲撃して来い」

 

~~

 

「と、言う訳で戦友。君の所でウチのペイターを預かって欲しい」

「ここは託児所じゃないんだぞ……」

 

 ルビコン解放戦線と言い、アーキバスと言いアホしかいないのと。

 ウォルターはルビコンに来てから何度目になるか分からない頭痛を体験していた。背後では件の人物達が朗らかに話し合っていた。

 

「レイヴン。そのミキサーは一体?」

「ヴォルタが作ってくれた!」

「なるほど。消化吸収を早める為に使うんだな」

 

 しかし、ミキサーに投入されたのはミールワームとコーラルだった。

 回転する刃が彼らを切り刻み、肉片とコーラルが攪拌された赤色の液体は血肉を連想させた。

 

「うめっ、うめっ」

「これを飲めば、私もレイヴンの様になれるんだな」

「やめろバカ!」

 

 何の躊躇いもなくやろうとしたので、流石に1317が止めに入った。ナイルは見守っているだけだった。

 

「早速、戦友と打ち解けているようで嬉しいよ。ついでに、彼を僚機として出撃させて件の作戦を遂行して欲しい」

「初めから、そっちの用件だけを寄こせ」

 

 惑星封鎖機構が運用する強襲艦隊の母港。アーキバスにとっては重要な作戦であり、用意された報酬も相当な物だった。

 

「私も付近のハーロフ通信基地を攻撃して、連中の増援を阻止する。……と言っても、通信妨害は一時的な物だ。こちらの作戦が終わり次第、直ぐに加勢に向かう」

「ラスティさんが居れば百人力ですよ!」

「3人で300人力!!」

 

 一つもIQを感じさせない会話をしているが、ACの操縦技術に関しては飛びぬけているので、本当に人格と比例しない物だとはつくづく思っていた。

 

「分かった。この任務、引き受けよう」

「幸運を」

 

 通信が切れた。何時の間にか、この場も大所帯になっていたが、ナイルは一つの懸念を口にした。

 

「V.Ⅷ。この作戦が終われば、お前は元の古巣に戻るんだよな?」

「戻れるに決まっているじゃないですか。その時は、私は勇敢で勇壮な『ブレイブ・ペイター』として返り咲くのです。『ブレイブ・ペイター』。うぅ、良い響きだ!!」

「ブレイブ・ペイター! ブレイブ・ペイター!」

 

 621は語感が気に入ったのか頻りに口にしていたが、褒め称える意図は含まれていなかった。そもそも、口から赤い煙が出ている時点であまり正気でないことは察するべきだったが。聞こえないのは承知だが、脳内でエアの声が響いた。

 

『レイヴン。様子のおかしい人です』

 



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依頼16件目:ポンヨー!!(勢いだけ)

 皆様のおかげで投票者数が50人になりました! 沢山の高評価! ありがとうございます!


 バートラム旧宇宙港へと移動していたレイヴン達は、周囲で多数のMTやACが待機していることに気付いた。彼らを見て、ペイターは不快そうに呟いた。

 

「全く。この乞食共は何処から情報を掴んで来るんだか」

「機器の点検や通信回線には細心の注意を払っている。誰かにマーキングされているということは無かった」

 

 ウォルター程の男が言うならば、外部から情報を取られているということは考え難かった。だとすれば、残るは621から漏れるパターンだが。

 

「お。おっー」

 

 ブリーフィング時に呑んでいたミールワームジュースが効いているのか、表情が恍惚としていた。とてもではないが、戦場に向かう者の表情とは思えなかった。

 

「あふぅ」

「ほら、口が汚れているぞ」

 

 ゴロゴロと寝転びながら、1317に口を拭かれている様子に威厳は微塵も存在していない。ここから情報が漏れる可能性も低いと考えていた。作戦遂行者であるはずのだが、概要などについて全く理解して無さそうだった。

 

「あるいは、もっと原始的な方法かもしれないな」

「特定している。という訳ではなく、惑星封鎖機構が拠点を構えている近くに待機しているだけ。とか?」

 

 ペイターと621を除く皆が頷いた。虎視眈々と機会を窺っている、と言えば聞こえは良いが、企業による作戦に味を占め、何時までも切り株を眺めている進歩のない連中と言う風にも考えられた。

 

「全く! 卑しい連中だ! だが、見ていると良い。私とレイヴンの双翼がルビコンに蔓延る惑星封鎖機構を切り裂く瞬間を!」

「んひぃ」

 

 ペイターが無遠慮に621の肩を抱いたが、衝撃で彼女の口と鼻から赤色の煙が吐き出された。

 

『セクハラです。セクハラマン』

 

 何処でそんな言葉を覚えて来たのか。エアは声色に軽蔑感を滲ませながら、ペイターと言う人物を評価していた。

 一同がコントを繰り広げている内に目的地はさらに近付いて来た。2人は機体に乗り込み、出撃準備を待つに至り……そして、小高い丘の上に着陸した。

 

「ミッション開始だ。停泊中の強襲艦を破壊していけ」

「分かった!」

 

 ウォルターから作戦開始の合図が告げられ、ペイターが飛び出すと同時に基地全体に警報が発令された。

 

「コード15。侵入者を捕捉、基地全体に共有。相手はレイヴンとアーキバスの強化人間だ。排除しろ」

 

 惑星封鎖機構のMTとLCが臨戦態勢へと移り、設置されていた砲台や無人兵器の砲口が彼らに向けられる。

 しかし、いずれもペイター達を捉えるには至らなかった。レイヴンが先行し、重ショットガンで周囲に破壊をばら撒き、あるいはアサルトブーストの推力で得た勢いを使っての蹴りを使って次々と粉砕していき、取り残した物をペイターがパルスガンとパルスブレードで潰して行く。

 

「二人共、派手にやっているな。私の方でも始めるとしよう」

「ラスティさん! お願いします!」

「お願いね!」

 

 2人の襲撃タイミングを見計らった様にして、通信先のラスティも行動を開始した。彼が作戦を遂行できれば、増援の妨害も見込める。自分が出来ることを為すべきだと、ペイターの操縦桿を握る手に力が籠る。

 

「(私は出来ることをするだけだ)」

 

 普段は共感性や配慮と言った物が見当たらない行動をするペイターであったが、作戦中となれば話は別だ。

 彼はレイヴンの作戦記録に悉く目を通していた。機体の挙動や癖、任務の達成方法など。これらを研究した結果、自らがなすべき動き方は彼女のサポートに徹することだと判断していた。

 

『先の洋上都市での作戦においては、ドルマヤン氏も見事なサポートでしたが、こちらもかなり動きやすいですね。レイヴンの動きをよく研究しています』

 

 先程までは大言壮語のセクハラ男と考えていたが、エアは感心していた。

 彼女は奔放に破壊を振り撒くが、どうしても見逃しやすい死角などは存在する。エアも適宜サポートは入れているが、それでも対処しきれずに被弾をする。ということは往々にしてあった。

 だが、ペイターはそう言った場所へのケアを欠かさなかった。砲台や潜伏していたMTの撃破、あるいは機動力の高いLCをレイヴンの射程内へと追い込むなど、見事なサポートだった。

 

「ばーい」

「とぅ!」

「ぐわぁああああああ!!」

 

 追い込まれたLCは重ショットガンにより機体の制御を揺さぶられ、更にもう一撃ぶち込まれた挙句、ペイターのパルスブレードに切り裂かれて爆散した。

 

「さぁ! レイヴン! この調子で強襲艦を破壊して行こう!」

 

 彼らの進撃は留まることを知らない。停泊していた強襲艦も次々に撃破していく。搭載されている副砲や迎撃に出て来たMT達も攻撃を加えるが、いずれも翻弄され雪原に散っていく。

 

「順調な様だな、戦友。こちらでも攪乱を続けているが、連中の復旧作業が予想以上に早い。この通信妨害は長く持たないだろう」

「了解です!」

 

 レイヴンの代りにペイターが返し、広大な宇宙港を駆けては強襲艦を破壊していく。このコンビによる破壊は想像以上に迅速に行われた為か、粗方排除し終わったのを見計らい、ウォルターから通信が入って来た。

 

「621、ペイター。基地内に停泊していた全強襲艦の破壊を確認した。直ちに帰投しろ」

「はーい」

「ふむ、ラスティさんの作戦と見事に噛み合いましたね。後はあの乞食共に束の間の夢を見せてやりましょう」

 

 作戦内容に満足しているのか、ペイターは非常に上機嫌だった。

 通信が復旧すれば、駆け付けた惑星封鎖機構の増援によって彼らは排除されるだろうが、知ったことではない。

 

「分かったー」

「待て、地上部から接近する反応がある。備えろ」

 

 作戦区域から離れようとした時、ウォルターからの通信に反応してレーダーの方角を見れば、地響きを上げながら近づいて来る巨体があった。

 巨大な戦車の様に見えたが、中心部分には人型のMTが挟み込まれている。32連装のミサイルランチャー、4門のガトリングと6門のガトリングが2基。そして、9連装のレーザー砲を備えた、動く火薬庫。

 

「重騎兵(カタフラクト)!?」

 

 ペイターもデータだけでは知っていたが、まさか配備されているとは思っても居なかった。全武装から殺意の塊と共にオープンチャンネルでパイロットの叫びが聞こえた。

 

「レイヴゥウウウン!! 貴様だけは、貴様だけは!!」

「誰?」

「この声、燃料基地でエクドロモイに乗っていた……」

 

 レイヴンは全く覚えていなかったが、ウォルターは直ぐに思い出した。

 あの燃料基地で軽装歩兵(エクドロモイ)のパイロットだった特務少尉と呼ばれていた男の物であると。

 

「貴様らが口にする虫けらを食ってでも生き延びたのだ! 許さんぞ! 惑星封鎖機構の秩序を脅かす無法者共が!!」

「美味しかったでしょ?」

「ふざけるな!!」

 

 返事と共に大量の弾丸が吐き出された。基地に殺到して来たMT達もカタフラクトの存在に気付いたのか、慌てて逃げ出していたが、特務少尉は彼らに向けても攻撃を放っていた。

 

「死ね! 死ね! 乞食共! 未開発惑星の土人共が!!」

 

 悲鳴と爆音が響く中、攻撃を避けていたペイターは嗚咽を漏らしていた。

 

「うぅ。彼らが私達の為に命を散らしていると思うと、この胸が、この胸が……! スカっとする!」

『本当に腕以外は最低ですね、この人』

「ねー」

 

 無思慮のレイヴンでさえ擁護できない人間性だった。ただ、そんな倫理観皆無の発言をしていた罰が当たったのか、ラスティから焦燥感に満ちた通信が入って来た。

 

「二人共、不味いことになった。通信が復旧して、そちらに強襲艦が向かった。私も向かっているが、先に到着されるかもしれない」

「え?」

 

 遠方に見える強襲艦から、高速で接近して来る2つの機影があった。

 空戦型機体の開発を得意とするアーキバスグループの機体をさらに洗練昇華させた機体。LC高機動型とHC型だった。

 

「相手は…上級尉官の執行機か」

「ラスティ!」「ラスティさん!!」

 

 程なくして、ラスティもミサイルを始めとした殺意の塊が飛び交う戦場へと到着していた。

 

「コード15。排除目標を確認」

「システム承認。これより、重騎兵(カタフラクト)と共同で対象の強制排除を執行する」

 

 3機と3機が睨み合う。技術力では圧倒的に惑星封鎖機構に分があり、繰り出される砲火の威力は比べるべくもなかったが。

 

「向こうも3機。こっちも3機。やってやろうじゃないか、戦友、ペイター! なぁに、スネイルの怒りを収めるよりは簡単さ!」

「でしょうね!!」

「受ける―」

 

 死を覚悟しなければ相手ではあるが、ラスティが口走ったジョークもあり緊張感は見当たらないまま、3機はそれぞれの相手へと向かって行った。

 



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依頼17件目:恐怖! ルビコニアンデスワーム!!

 LC High Maneuver型。上級尉官の執行機として配備されるだけのことはあり、通常のLCにミサイルランチャーを搭載したフライトユニットを装着し、機動性と攻撃力の両面での強化が施されていた。

 

「ぐぅ!?」

 

 撃墜を免れる為に咄嗟にリペアキットを使ったが、今のが最後だった。

 ペイターとて惑星封鎖機構に対する策を講じてなかった訳ではない。故に、道中のLCの動きを誘導したり、追い込んだりということも出来ていたのが、目の前のHM型はワケが違った。

 

「LC達の動きをよく研究しているが、それだけだ」

 

 3点バーストで発射されたライフル弾を回避した先には、ミサイルが回り込んでいた。パルスバックラーを展開して防いだ後の僅かな隙に合わせるようにして、グレネードランチャーが放たれた。

 

「この、デュアルネイチャーが……!」

 

 ペイターの機体は高速戦闘の為に軽量装甲の物を使っている。

 一瞬で肉薄して、相手に大打撃を与えるという戦法上、多少の攻撃を物ともしない重装甲の相手や自らを上回る機動力を持つ相手は不得手だった。

 HM型は正に後者であり、決してパルスブレードの射程範囲で戦おうとしない。牽制の為にパルスガンを放とうと、シールドに吸い込まれるばかりだった。

 

「(どうすれば良い?)」

 

 地上部ではレイヴンがカタフラクトを相手取り、ラスティもHCと熾烈な空中戦を繰り広げている。自分に足りない決定打を他者に求めることは出来ない。追いすがろうとしても、嘲笑う様にして引き剥がされるばかりだ。

 

「(ターミナルアーマーを使っての不意打ち? いや、意味がない)」

 

 耐久力が尽きても一度だけ再起動して、暫くの間はすさまじい防御力を得られるが、発動したが最後。距離を取られ、効果が切れた瞬間に再び攻撃を加えられるだけだろう。

 思考を巡らせている間にも間断なく攻撃が続く。このままでは撃墜されるのも時間の問題だろう。では、この状況を打破する画期的なアイデアがあるかと言われればNOだった。

 

「(あの乞食達の群れに突っ込んでの攪乱。いや、追い付かれて落とされるだけだ。逃げきれない)」

 

 持ち前の分析力は、自らの敗北という未来を弾き出すだけだった。リペアキットも底を尽き、勝負という行方においては足掻きようがないとすれば、彼の出来ることは一つだけだった。

 

「落ちろ」

「ま、待った! 降伏する! 私の命だけは助けてくれ!」

 

 命乞い。プライドも何もかもを投げ捨てる行為だったが、生き残るためならどんな方法でも問わないというのは、彼の強かさの表れでもあった。

 

「お前の提案を飲むメリットがない」

「話は最後まで聞いてくれ。私はレイヴンの仲間なんだ。惑星封鎖機構にとっても奴は目障りだろう?」

 

 レイヴンの名に特務中尉は反応した。技術力で劣るACで幾度も惑星封鎖機構に辛酸を舐めさせてきた相手であり、このルビコンに企業を呼び込んだ災厄。現状、最もルビコンで警戒すべき個人であった。

 

「それがどうした?」

「私が奴を騙し討ちしよう。今、奴は地上でカタフラクトと戦っている。見た限り、レイヴンの方が優勢だ。そこで、私は彼女に助力を求めて飛びつくフリをして拘束する。その隙に貴殿が奴を倒すという話でどうだ?」

 

 もしも、この交渉が他のAC乗りを倒す為に持ちかけた交渉であったのなら、この場で撃ち落とされていただろう。

 だが、相手がレイヴンであること。そして、ここまで戦力差のあるペイターであれば、どうにでも始末できるという余裕から、彼はこの提案を呑み込んだ。

 

「良いだろう。やれ」

「わ、分かった! そちらに着く暁には私にもLCを……」

「早くしろ!!」

 

 特務中尉に急かされて、ペイターは地上部で戦っているレイヴンへと向かってブーストを吹かしていた。その背後では、HM型がバーストライフルを構えていた。

 

「レイヴンごとぶち抜いてやる」

 

~~

 

「クソ! クソ!! クソ!!!」

 

 カタフラクトを駆る特務少尉は苛立ちを露わにしていた。大量の火器による弾幕を張り続けているのに、レイヴンはまるで泳ぐようにして避けて行く。

 それ所か、MT部分を覆っている前面装甲まで接近して蹴り上げて来る始末だ。全武装の射角に潜り込んで来て攻撃するなど、正気の沙汰ではない。

 

「キャハハハハ!!」

 

 オープンチャンネルでは耳障りな笑い声が発せられていた。対峙している相手が人間や機体を超えた怪物であるような気がした。

 沸き上がった不安を焼き払う様にして、レーザーを放とうとした時。降下して来た機体がレイヴンに組みついた。

 

「れ、レイヴン! 助けてくれ! 私では手には負えない!」

「うわわ」

『デュアルネイチャー!? 何をしているんですか! 邪魔です!!』

 

 相当に混乱しているのか、機体制御もままならない有様だった。降って来た幸運に、特務少尉は飛びついた。

 

「ハハハ! あの時は、幸運に味方されたようだが! 今度は私の番だな!」

 

 4基のガトリングから大量の銃弾が吐き出され、32連装のミサイルが吹き上がり、9門のレーザーが2機を焼き切らんと照射される。

 この一斉射撃を食らえば、タンク型ACは疎か4脚型の重MTでも一溜りもないだろう。目の前まで迫りくる勝利という甘美を予感して、喜色を満面に浮かべていた特務少尉であったが、一瞬で表情が切り替わった。

 

「は?」

 

 バーストライフルを構えながら急降下して来たHM型が射線に割って入って来た。バカな、アラートは出なかったのか。こちらの状況を見ていなかったのか。

 特務中尉を非難する言葉は翻って自分の失態を正当化する為の言い訳でしかなく、HM型も急いでシールドを展開していたが間に合わない。

 惑星封鎖機構が誇る最強の地上兵器は、その攻撃力を遺憾なく発揮した。多種多様の弾丸をぶち込まれたHM型は地面に激突する直前に何かを射出した後、爆発を引き起こしていた。

 

「嘘だ」

 

 少尉の思考が凍り付く。事故とは言え上官を撃ったショックが大きすぎた。歯の根が噛み合わず、目尻には涙が浮かんでいた。だが、泣きっ面に追撃を入れるのは蜂(ヴェスパー)が得意とすることだった。

 

「動きが止まっているぞ!」

 

 接近を許してしまったデュアルネイチャーのパルスブレードがMTを覆う装甲を切り裂いた。彼の背後に控えていた、レイヴンが丸裸になったMTに照準を付けた。

 

「じゃあね」

 

 引き金が引かれる一瞬、きっと幸運の女神もこういう風に笑っているのだろうと思いながら、生存本能だけで微かに動いた指が脱出レバーを引いていた。

 

~~

 

「おや、君には随分優秀な部下が付いている様だ」

「馬鹿共が!!!」

 

 特務上尉は地上で起きたコメディの顛末に対して悪態を吐いていた。

 余裕を見せて、油断していた中尉は言わずもがな。カタフラクトと言う兵器をロクに活かさない所か、フレンドリファイヤを引き起こした少尉に対しては無尽蔵とも言えるほどの怒りが沸き上がっていた。

 

「どうする? 逃げ帰らなくて良いのか?」

「ほざけ!!」

 

 上尉に任されるだけにあり、彼はラスティの愛機であるスティールヘイズが既に限界間際だということを見抜いていた。

 両肩のパルスキャノンがスティールヘイズの右腕と両足を破壊し、頭部を吹き飛ばした。それでも怒りが収まらないのか、胴体を寸断しようとパルスブレードを展開して肉薄して来た所、デュアルネイチャーが割り込んで来た。

 

「うぉおおおお!!」

 

 フレームの殆どが軋んでいた中で発動させたターミナルアーマーはHCのパルスブレードを弾いた。その一瞬の隙を狙って、両手に重ショットガンを構えたレイヴンが肉薄する。

 

「チィッ!!」

「うっ!?」

 

 一撃はパルスシールドで防ぎ、もう一方の重ショットガンは蹴り上げて弾き飛ばした。だが、片腕だけ残っていたスティールヘイズがブーストを吹かして、中空を舞う彼女の得物をキャッチした。

 

「外しはしない……!」

 

 引き金を引く。半壊していた左腕が堪え切れずに吹き飛んだ。放たれた散弾は展開し終えたパルスシールドを擦り抜け、HCの装甲を食い破った。

 

「こ、コード78E……送信……」

『78Eを承認。IA-02の起動を許可します』

 

 撃破された他の者達よりも、コックピットと思しき場所が高く吐き出された。そして、彼女らのオープンチャンネルには無機質な通達音が響いていた。

 

『レイヴン! 地中から来ます!!』

 

 カタフラクトが巻き起こした地響きとは比べ物にならない程の巨大な振動が訪れた。雪原を食い破りながら、宇宙港の建物を薙倒しながら何かが暴れ狂っている。

 

「これも、封鎖機構の兵器なのか!?」

「ラスティさん!」

『レイヴン! 高所へと避難しましょう!』

「うん!」

 

 ペイターが武装を全てパージして、大破したスティールヘイズを抱えて上昇し、レイヴンも同じ様に高台へと避難した。

 地上部で暴れ狂っている物を観察する。全身に装甲を装着させた巨大なミミズ。そう形容する外ない、滅茶苦茶な兵器だった。

 

『……待って下さい、レイヴン! もう一つ、反応があります!』

「え?」

 

 先に引き続き、再び地響きが起きた。まさか、もう1機。あの怪物がいるのか。誰もが戦慄した時、地上部に現れた物の正体は。

 

「ミ”ィイイイイイイ”イ”!!!」

「……は?」

 

 ペイターとラスティは呆気に取られていた。もう1機、先程の兵器が現れたという方がまだ理解できたかもしれない。だが、彼らの前に現れたのは理解を超えた存在だった。

 

「あー! あの時の!」

 

 AC数機分の体高はあるだろう、先程の機械ミミズと比肩する程に巨大なミールワームだった。

 1匹と1機は激しくぶつかり合っていたが、機械ミミズは堅牢さを武器に頭突きで相手を抉っていた。周囲に削り取られた肉片や体液が降り注ぐ。

 

「ミ”ィ”ィ”ィ”!!」

 

 対するミールワームは全身を青色に発光させたかと思えば、口吻から赤色のビームを照射していた。機械ミミズの装甲は殆どを弾いていたが、流れ弾が周囲の建物やドックに被弾して破壊をばら撒いていた。

 

「何が起きている!?」

「私だって知りたいですよ!!」

 

 通信越しにウォルターの困惑した様子が伝わって来る。現場にいるペイター達はもっと混乱していた。一体何が起きているのかと。

 

「戦友、あの時の。と言っていたが、何か知っているのか?」

「うん。アレね。ツィイーちゃんが捨てた奴」

『確かに。胴体の焼け焦げた部分は、あの時に被弾した箇所の名残だとは思いますが』

 

 だとしたら、どうしてこんな所にいるのか。そして、どうしてここまで肥大化したのか? 彼女らの疑問を置き去りに1機が突如として戦いを止め、去って行くのを追いかけるようにして巨大ミールワームも去って行った。

 暫く、呆然としていたが落ち着きを取り戻したのか。再びウォルターから通信が入って来た。

 

「惑星封鎖機構が技研の遺産を抱えていたことも驚いたが、それ以上にあんな怪物がいるとは思わなかった」

「大きくなったね!」

「……621、ペイター。戻って休め。俺はアイツらを始末する算段を立てる」

 

 辛うじて取り戻した落ち着きでウォルターは彼らに告げた。誰もが肩の力を抜く中、レイヴンだけは先程の交戦跡に近付いていた。

 

『レイヴン? 一体何を?』

「うめっ、うめっ」

 

 ACから降りた彼女は撒き散らされたミールワームの体液に浸って悦に入っていた。何もかもが正気を削って行く光景だと、ボロボロのデュアルネイチャーの内部でペイターは溜め息をついていた。

 



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依頼18件目:彼もいっぱいいっぱいなんです

「以上が、旧宇宙港の作戦中に起きた話だ」

 

 アーキバス社ブリーフィングルームにて、ペイターと共に帰還したラスティは事の顛末を話した。内容を聞いていた誰もが戸惑いを隠せない中、それでも事態の把握に努めようとしたスウィンバーンが恐る恐る挙手した。

 

「質問だ。その巨大ミールワームだったか? これは惑星封鎖機構とは関係のない物なのか?」

「分からない。ただ、惑星封鎖機構が所有していたと思われるIA-02『アイスワーム』を攻撃していた所を見るに、彼らが制御出来ている物ではないと判断している」

 

 IA-02『アイスワーム』。かつて、ルビコンにてコーラルの調査、研究、運用を行っていた『技研』が作り上げた兵器であり、半世紀も前に製造されたというのに現代でも運用されている所から、彼らの技術力と狂気が垣間見えた。

 ……が、あくまでこちらは卓越した技術力の結晶でしかない。この場にいる者達の関心は、未知の巨大生物へと向けられていた。

 

「質問です。例の巨大ミールワーム……少し言いにくいですね。何か呼称は無いのでしょうか? 脅威度の実感の為にも付けた方が良いかと」

 

 メーテルリンクの意見も一理あった。虫退治、と言っても現場を知らない上層部には、脅威が伝わらないだろう。と言っても、元はミールワーム。たかが、ルビコニアンの栄養源に対しての名前なんてパッと思い浮かばない。

 

「では、C型有機兵器などはどうだろうか?」

 

 パイロットとしての技巧を持っていても、ネーミングセンスなんて物を修得している奴は誰も居ない。スウィンバーンの提案する、地味でありながら書類的にも問題無さそうな名前で決まろうとした所。ビシッと手を上げている男が1人。勿論、ペイターである。

 

「スウィンバーンさん。それじゃあ、如何にも十把一絡げの兵器みたいじゃないですか。上層部に脅威が全然伝わりません!! その名前だと、精々歩み寄って来て爆発する虫程度に思われますよ!」

「それも十分脅威じゃないか?」

 

 一つも、話を聞く気が無いペイターはデュアルネイチャーに収めた1匹と1機の激闘の様子を再生した。頭突きを食らわせたり、ビームを吐いたりと。まるで現実感のない映像だった。

 

「良いですか、皆さん。技研はですね。半世紀も前に活動しておきながら、我々の先を行く技術力を所有していた者達です。このIA-02を見て下さい。全身を覆う装甲、ビームを物ともしないバリア。我々のACで対抗できますか?」

 

 全員が首を振った。少なくともACの何倍、何十倍もある機体に対して有効打を与える兵器など想像も付かなかった。

 

「いや、名前を弄するより、この映像を見せたらいいんじゃないかな?」

「ホーキンスさん! 連中がこの映像を信じますか!? 精々、旧時代の映画のワンシーンを切り抜いた程度にしか思いませんよ!」

 

 目上の者に対するデフォルト不敬をキメながら、実際言っていることは頷く所もあった。やはり、この映像は見ただけで実感を伴う物ではない。

 やたらと喧伝して会議を引き延ばしているペイターにイラっとしたのか、メーテルリンクが眉をしかめながら問うた。

 

「では、V.Ⅷには提案が?」

「はい! 間近で見た私には分かるのです。やつはルビコンの怒りを背負った破壊神。そう、ルビコニアンデスワームなのです!!!」

 

 会議室に長らくの沈黙が訪れた。ペイターの熱の入り様とは裏腹に氷点下まで冷めた空気の中、拍手を送る者がいた。今まで、一言も発していなかったスネイルである。

 

「いやぁ、素晴らしい。何時からアーキバス社は映画事業を始めたんですか?」

「あの、閣下?」

 

 彼は笑顔を浮かべていた。しかし、メーテルリンクを始めとしたヴェスパー達は知っている。これはマジでキレているときの状態だということを。

 ちなみに、この会議は上層部を初め役員達にも見られているのだが、もはやそんなことも気にせず、スネイルは捲し立てた。

 

「未開惑星ルビコン3! 辺境の地に降り立った私達を迎えたのは、鋼鉄の巨体を持つIA-02アイスワームと惑星(ほし)の怒りを体現するルビコニアンデスワーム! 果たして、企業は立ち向かうことが出来るのか! 同時上映! アーキ坊やとベイ太郎の夏休み!!」

「V.Ⅱ。落ち着こう。な?」

 

 普段はソリの合わないラスティでさえ諫めるほどの狂乱ぶりだった。こんな奇想天外の事態ばかりで、彼も限界間際だったらしい。

 

「いやぁ、見事なナレーションですね!」

「ペイター君はちょっと黙ってて。ほら、スネイル」

 

 流石にホーキンスも不味いと思ったのか、ペイターを黙らせつつ、スネイルに水を勧めていた。渡されたグラスの中身を飲み干した後、幾らか冷静さを取り戻したスネイルは改めて口を開いた。

 

「ふぅ。この際、あの巨大虫の呼称はルビコニアンデスワームでも良いとして。問題は、あの二つの脅威をどうするかです」

 

 行動の意図が読めないデスワームの方は兎も角、何かしらプログラミングされたIA-02の方には目的があるはずだ。

 

「彼らが向かった先は集積コーラル。我々、アーキバスを始めとした企業の目的地でもあります」

「閣下、そうなると。あの兵器の方はコーラルを防衛する為に先んじて向かった。ということになるんでしょうか?」

 

 自分達がコーラルを手に入れる為には、あの怪物を排除しなくてはならない。と考えると、メーテルを始めとした一同の気は重くなるばかりだった。

 

「そう考えるのが自然でしょう。ルビコニアンデスワームの方は単純にコーラルのある方へと向かっています。ルビコニアンふつうワー……ゴホン。ミールワームがコーラルへと向かって行く性質があるのは既に分かっていることですから」

 

 全員がスネイルの言い間違いを指摘せずに真剣に話を聞いていた。流石にペイターもそう言った状況でないこと位は分かるらしい。

 

「では、スネイル。この2つが互いに潰し合うのを待機して、残った方を討伐する。と言う形で行くのかい?」

 

 互いに消耗し合った所で、残された方を潰す。古来より使われている定石とも言える戦略であったが、スネイルは首を振った。

 

「一番望ましい形ではあるが、デスワームがどういった風に動くか想像できない以上、我々でどうにかするプランを考えなくてはならない。現状、ベイラムと手を結ぶ方向で動いています」

 

 流石に、ベイラムも単独でどうにか出来るという風には考えていなかった。一時休戦、ひと先ず互いに矛を収める方向で行くらしい。

 だが、撃破に成功すれば再び競争が始まる為、互いが負う負担については議論と吟味を重ねる必要があった。

 

「スネイル。戦友にも声をかけた方が良いか?」

「……認めたくはありませんが、あのバカ犬は戦力としては確かですからね。それに、飼い主も油断なりません」

 

 ハンドラー・ウォルター。IA-02の情報を提供した存在であり、RaDの頭領であるシンダー・カーラとも繋がりがあり、G2と惑星封鎖機構のエージェントも抱え込んでおり、何よりもレイヴンと言う最強の手駒の飼い主でもある。

 

「えぇい、忌々しい。私の顔にミールワームを乗せたり、コーラルを吐き掛けて来たアホの癖に」

 

 スウィンバーンが苦い思い出を払う様にポリポリと顔を搔いていた。だが、IA-02とルビコニアンデスワームを打ち破るとすれば、彼女らの力が必要だという予感は全員に共通していた。スネイルが声を上げる。

 

「V.Ⅷペイター。今回の宇宙港襲撃の件、見事でした。引き続き、ヴェスパーでの活躍をと言いたいのですが、貴方に新たな任務を与えます」

「任務? それは一体?」

「ハンドラー・ウォルター。彼らの下へと潜り込み、我々との橋渡しになりなさい。任期はIA-02とデスワームの撃破まで」

「え? あの。ペイターに任せて大丈夫なんですか? それならば、V.Ⅳであるラスティさんの方が……」

 

 メーテルが至極真っ当な提案をしようとした所で、ホーキンスが自らの口に手を当てるジェスチャーを見せた。彼に倣い、口を閉じた所。ペイターは喜色満面と言った具合に頷いていた。

 

「分かりました! V.Ⅷペイター! この大役を遂行してみせます!」

「はい。貴方には期待していますよ」

 

 スネイルは笑顔と共に彼を送り出した。それから、十数分後のことである。非常に珍しいことに、滅多に会議に参加しないV.Ⅲのオキーフが入って来た。

 

「今、V.Ⅷが上機嫌で出て行ったが、会議には参加させなくて良いのか?」

「かまいません。しばらく、奴の喧しい声を聴かなくていいと思うと清々します」

 

 やっぱり、追放じゃないか。全員が同じ感想を抱いたが、会議が取り乱されることが無くなるメリットを考えたら、誰も突っ込む者はいなかった。

 

~~

 

「という訳で、これからお世話になります!」

 

 帰れ。と、いう言葉がウォルターの喉元までせり上がっていたが、今後の作戦を考えれば、アーキバスからの人員を無下に扱う訳にもいかなかった。

 G2も1317も同じ様に顔をしかめたが、唯一上機嫌な621はペイターの肩をポンポンと叩いていた。

 

「よろしくね!」

「こちらこそ! もう、我々は盟友だからな!」

『あなた、さっきの作戦行動中にレイヴンを裏切ろうとしましたよね?』

 

 621以外に聞こえないエアの声には怒りが滲んでいた。作戦終了後、各機の通話ログを覗いた彼女は、ペイターの交渉内容を知っていた。

 

「ベイラムとアーキバス。それから、惑星封鎖機構の人員も取り込むとは、一種の亡命先にもなっているな」

 

 ナイルは、ベイラム社が敢えて自分をここに残している可能性も考えていた。G1であるミシガンの威光を削ぎ、ウォルター達の窓口にもなると考えれば、彼らが返還交渉を行わないことも腑に落ちた。

 

「足は引っ張るなよ。俺達にはやるべきことがあるのだから」

「そういうことだ。ウォルター、それと。ビジター共」

 

 通信相手はRaDの頭領シンダー・カーラだった。ウォルターと既知の間柄でもあり、ルビコンにおける多様な事情に精通している彼女は当然の様に、IA-02についても知っていた。

 

「俺も惑星封鎖機構員として一度だけIA-02を見たことはあるが、通常の火器で対抗できる相手ではないぞ。幾らMTやACを突っ込ませても死人が増えるだけだ」

「拾い物でも脅威は知っているみたいだね。実際、コーラルを利用したリアクティブシールドは大抵の兵器を弾いちまう。だけど、コイツなら話は別だ」

 

 画面に表示されたのは兵器の設計図であったが、ウォルターを始めとした面々は驚いていたが、621は首を傾げるばかりだった。

 

「なにこれ?」

「オーバードレールキャノン。早い話が超強力なレールガンって所さ」

『直撃させれば、かつてレイヴンが倒したシースパイダーも一撃で破壊出来るほどの代物です。どうして、彼女はこんな物を?』

 

 何かしらの使用用途があったのかもしれないし、笑いを重要視している彼女のことだ。ひょっとして、趣味がてらに作っていたのかもしれない。

 

「IA-02はどうにか出来るかもしれないが、デスワームの方は?」

「あっちはデカいだけのミールワームだろ? だったら、そっちは通常の火器で何とかしてくれ」

 

 装甲で覆われている訳でもないし、実際アイスワームに攻撃を食らった時は派手に肉片と体液をばら撒いていた。質量さえぶつければ、通常の火器でも打倒できる可能性はありそうだった。……その間に、どれだけ抵抗され犠牲者が出るかは分からなかったが。

 

「まずは、オーバードレールキャノンの方からだな。俺達に何かできることは?」

「その件についての依頼だ。実はこの代物、とあるクズ野郎に取られちまってね。それは奪い返して来て欲しいんだ」

 

 彼女が示した先はグリッド012。ジャンカー・コヨーテスや特定のドーザー達が陣取っている訳でもない、半ば廃棄された場所だった。

 

「全く。人の物を取るなんて、とんでもないクズ野郎ですね。私とレイヴンでボコボコにしてやりましょう! ソイツの名前は?」

『どうして、この人は誰かを糾弾したり責めたりする時ばかり活き活きしているのでしょうか?』

「オーネスト・ブルートゥ。それと、行くならビジター1機で行きな。あんな入り組んだ場所に数機で向かったら、あっと言う間に絡めとられるよ」

 

 早速、功績を打ち立てようと思っていたが出鼻をくじかれたペイターはしょんぼりしていた。ウォルターは任務を受諾すると、621に命じた。

 

「先の宇宙港の襲撃、ご苦労だった。今は休め」

「うん!」

 

 ウォルターに促された彼女は、回収したデスワームの破片を齧りなら恍惚とした表情を浮かべていた。

 




 次回。ついにご友人登場です。


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依頼19件目:Shall we dance?

 ついにご友人回です。素敵だ、本当に心が躍ります。ですが、私は上手に彼らと踊れるでしょうか? 心配だ…けど、それよりずっと楽しみです。


 グリッド012。汚染地域として隔離された場所であり、本来ならば来訪者などいる訳もなく。とすれば、根城にしている人間は狂人と言う外なかった。何せ、いるだけで命が削られるような場所なのだから。

 

「始めるよ。ビジター! 案内は私に任せな」

「アハハハ。なんか、ここ気分が良い!」

『工業的な物だけではなく、コーラルによる汚染も含まれています。コックピットにいるとは言え、常人ならば気分も悪くなるはずなのですが』

 

 特に問題は無さそうだった。そもそも通常と異常の境目が極めて曖昧な少女であるので、判断も付け難いのだが。

 カーラ達の拠点であるグリッド086とは違い、足場と言える構造物が各所に点在しているだけで、施設内の移動も難しい。この場所が建造途中で廃棄されたのか、あるいは破損したまま放置されているのかは定かではないが、廃墟と呼んでも差支えは無かった。そんな場所でノイズ交じりのスピーカーから男性の声が聞こえてきた。

 

「ようこそ。ビジター! この様な僻地に足を運んで頂けるなんて、感激だ」

「こんにちは! お邪魔します!」

「えぇ、いらっしゃい。私達一同、貴方をご歓迎します」

 

 こんな廃墟に相応しくない恭しい出迎えであったが、資金や資源を持ち逃げされたカーラにとっては慇懃無礼な挑発にしか聞こえなかった。

 

「ブルートゥ。アンタが盗んだ物、返して貰いに来たよ」

「おや? カーラのご友人でしたか」

 

 2人の会話を他所にレイヴンは足場を飛び移って行く。降下している最中、特攻兵器が猛スピードで突っ込んできたが撃墜することも無く、相手の照準を誘導して同士討ちをする様に仕向けながら避けていた。

 

「うん。カーラは私のお友達なの。それから、ラミーとチャティも! 後、えぇっと。ノーザークとも」

「素晴らしい! RaDの皆との友人であるのなら、私とも友人であるということです。素敵だ…」

『ノーザークの名前を出す時だけえらく時間が掛かりましたね』

 

 多分、友人の中でも優先度は低いのだろうと納得した。言葉の歓迎とは裏腹に、4脚型のMTが彼女の機体を感知し、右手に装着したノコギリを押し当てようと、あるいはグレネードを放つがまるで当たらない。

 設置された殺意の奔流に悠々と身を泳がせ、まるでサッカーボールの様にMT達を蹴り飛ばし、建造物から叩き落しながら次の足場へと飛び移って行く。

 

「放っておきな。……って、言いたいんだが」

「そうなの? 私、もうあなたとお友達なの?」

「勿論ですよ、ご友人。さぁ、楽しい時を過ごしましょう」

「うん! そっちに行くね!」

 

 会話が成立しないまま成立している矛盾を聞かされている者達は、自らに備わっているロジックを揺るがされていた。

 レイヴンの作戦記録や通話ログは一通り目を通していたエアであったが、実は自分が知らない間に交流があったのではないかという疑問が浮かんだ

 

『レイヴン。念の為に聞きますが、ブルートゥとは初対面。ですよね?』

「うん。でも、ブルートゥとは友達なの」

「この際、無理やり黙らせるよりぶつけた方が笑えるかもしれないね」

 

 もはや、ここまで来ると怖いもの見たさだった。今更、凡百のMTや通常兵器が相手になる訳もなく、引き金を引くことも無く蹴り飛ばされた者達は壁に激突するか、あるいは建造物から叩き落されて行く。

 

「まるで舞踏会だ。貴方を彩るには、彼らでは少し物足りないですね」

 

 縦横無尽に張り巡らされたセンサーに引っ掛かり、次々と4脚MTが起動し、積載された武器を放つがどれもこれもまるで当たらない。

 そんな中、レイヴンは踊る様に動いていた。傍で見ているエアは直ぐに理解した。これは戦ってなどいない。

 

『遊んでいる』

 

 遊技場に招かれた子供の様に、全力でアトラクションを堪能している。

 時には機体を蹴り飛ばして別の機体に激突させたり、あるいは重MTと交戦しつつ誘導して建造物から突き落としたりと。無邪気に奔放に脅威を排除し続ける姿を観察していたのか、スピーカーから流れて来る声は歓喜に満ちていた。

 

「素敵だ。貴方の喜び、笑顔、笑い声、飛び散る唾液、流れる汗、臭い立つ香り。何もかもが伝わって来る。ミルクトゥースも悦んでいます…」

「アハハハ!」

 

 笑いっぱなしのレイヴンとは別に、エアは不思議な感覚に陥っていた。

 彼女は実体を持たない。触感などある筈もないというのに、ブルートゥの声色は全身を舐め上げて来るようだった。

 

「可愛い我が子がスクラップになっていくのも見るに堪えないが、男の矯声を聞き続けるっていうのも耐え難いモンだね」

『同感です』

 

 会話こそ出来ない物の、カーラの意見にエアは深く頷いていた。このブル-トゥと言う男の興奮ぶりは尋常ではない。声は上擦っており、言葉の折に聞こえる息遣いから、相手がどういった状態でいるのかが想像に容易かった。

 

「本当に素敵だ。ですが、一つだけ心配があります。私は貴方をガッカリさせてしまわないか。この場に満ちる歓喜が、私のせいで損なわれてしまうのは、とても心苦しい」

『レイヴン。G5の粗暴な言動やV.Ⅱの無礼には何も思わないのに、彼の言葉には途轍も無い程の不快感を抱きます』

 

 咲き誇っている白百合に唾液を垂らされ、手垢を付けられている様な。

 丁寧な言葉遣いという薄皮の下に見える汚濁は、エアを甚く不愉快にさせた。レイヴンにも同じだけの怒りや不快感を期待していたのだが。

 

「変なこと言うのね。一緒に居て楽しいから友人なの。知らなかった?」

「あぁ…。お会いするのが楽しみです…」

 

 初めて恋心を自覚した乙女の様に、スピーカーから流れて来る声は恍惚に染め上がっていた。

 

『レイヴン。貴方は変質者に好かれる特性を持っているんですか?』

「エアも変質者なの?」

 

 揚げ足を取られた様な気がして、自らの発言を恥じようとした所で、ふと思い浮かんだのはV.Ⅷやノーザークの顔だった。

 

『いいえ、私は別です』

 

 アレに比べたら、可愛い物だ。しかし、そんな対比を使った納得をしている時点で、性根が彼らに近付いていることはエアも気付いていなかった。

 パルスバリアの発生装置を破壊して、屋内らしき場所に突入するころ。スピーカーから聞こえて来る息遣いに言葉が乗せられた。

 

「スロー…スロー…。クイック、クイック…」

『このリズム。レイヴンに合わせている?』

 

 社交ダンスにも使われるテンポの取り方であり、丁度レイヴンが待ち伏せをしていたMTを落とすリズムに合わせている様だった。

 

「スロー」

 

 壁に這っていたMTにドロップキックを食らわせた。逆関節という構造から力を得た蹴りは、それ自体が既に武器の一つだ。

 

「スロー」

 

 その隙に電撃を放った者もいたが、レイヴンは残骸を拾い上げてぶつけた。スクラップは数を増やして地に落ちた。

 

「クイック」

 

 今度はレイヴンが口ずさんだ。テンポの取り方は分かったらしく、呼吸に合わせて、機体の姿勢制御を用いて放った回し蹴りが天井に張り付いていたMTを埋め込んだ。

 

「クイック」

 

 動きはそれだけで止まらない。地上にいたMTから放たれたミサイルをヒラリと避けて、着地がてらにブーストを吹かして勢いを付けた後、踏み抜いた。

 配備されていたMTを尽く撃破した先。これ以上の下層が見当たらない建造物が佇んでいた。

 

「ビジター。ここから飛び降りた先にアイツがいる」

「うん。行って来まーす!」

 

 油断するな。とか、掛け値なしのクズ野郎だとか。色々な言葉が思い浮かんだが、こんなにも楽しそうな娘に掛ける言葉なんて、カーラは一つしか思い浮かばなかった。

 

「行ってらっしゃい」

 

 飛び降りた先に広がっていたのは、巨大な格納庫だった。その正面に1機。待ちきれずに恭しくお辞儀の挙動を取っている機体があった。

 

「いらっしゃいませ、ご友人。お迎えに上がりました」

「お待たせ!」

 

 不意打ちもしなければ、迎撃の為に戦力を並べているということもない。馬鹿正直に待ち構えている様子は、正に誠実(オーネスト)と言えた。

 

「カーラ、貴方はいつも私に新しい出会いをくれる。素敵だ。そして、私は新しいご友人のことをもっと知りたい!」

 

 作業用の機体を改修した物なのか。手にしていた物は巨大な回転刃(グラインドブレード)と火炎放射器(フレイムスロワー)と言う、工具の面影を残した物であったが、彼はそれらを捨て去った。両肩に積載していた武装も脱ぎ捨てた。

 

『え?』

 

 示し合わせた様に、レイヴンも重ショットガンを床に置き、両肩の積載武器をパージした。2機とも素手で接近していく。異様と言うしかない光景に、この場からはじき出されカーラはポツリと呟いた。

 

「笑えるかどうかは兎も角。見ているだけで、頭が変になりそうだ。コーラルを吸っている奴はこんな感覚なのかね」

 

 流石に1人で見るには腹がいっぱいになり過ぎる為、カーラはこの映像をグリッド086内で流し始めた。間もなくして、コーラル中毒者の活気に満ちた狂笑が巻き起こることとなる。

 



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依頼20件目:ウォルター「嫌な予感がする」

今回はかなり独自の解釈多め。


「C3-291のバイタルはどうだ?」

「身体面は問題ない。ただ、精神面が破綻している」

 

 男はどうして自分がここに居るかを覚えていなかった。

 度重なる投薬で記憶は漂白され、実験という名の苦痛に耐え続けるだけの日々。同じ境遇にいる者達が次々と発狂するか廃人となって行く中、彼だけは生き延びていた。生きるに足り得るだけの理由が自分の中にあったのだ。

 

「ご友人、貴方には名前が無いのですね。産まれたばかりですからね。では、これからはこの世界を噛み締めて行きましょう。貴方の乳歯(ミルクトゥース)で」

 

 隔離された部屋で延々と虚空に物語っている様子を見ていた、男達は淡々と手続きを行っていた。不気味に思ったりする様子も無いのは、この施設がそう言った場所だからだ。

 

「引き取り先は、ケイト・マークソンか。独立傭兵がなんでこんな物を」

「買い手の付かない在庫処分の手間が省ける」

 

 輸出されるC3-291を見る視線には同情も憐憫も無い。運ばれた先で何が起きるかは、彼らが気にすることでは無かった。

 

 

「良いのか? 奴を逃がして」

 

 グリッド086付近。赤と黒が絡み合ったカラーリングが施されたAC『エンタングル』を駆る独立傭兵スッラは、雇い主に問うた。彼の実力を持ってすれば、逃走者の排除は不可能では無かったが止められていた。

 

「構いません、独立傭兵スッラ。元より、彼は制動できる存在ではありませんから。この付近ならば、RaD。いえ、シンダー・カーラに拾われることでしょう。帰投してください」

 

 スッラが追撃を止め引き返す一方、いつ誘爆するかも分からないACを乗り捨てたC3-291は只管に走っていた。交戦で負った傷がズキズキと痛むが、彼は生きることを決して諦めてはいなかった。

 騒ぎを聞いて駆け付けた作業用MTが駆けつけ、頭領であるシンダー・カーラは傷だらけの男に問うた。

 

「アンタ。名前は?」

「名前、ですか。C3-……」

 

 呼称されていた名義はあるが、それは決して名前とは言えない物だ。

 自らの中にある声に耳を傾ける。何かを喋ったりはしないが、意思があることは確かだった。絶望と苦痛の中から救い上げてくれた存在に対して、彼は何時でも誠実に生きて来た。決して、友人である彼を一人きりにさせまいと。

 

「いえ、私は誠実(オーネスト)なだけの獣(ブルートゥ)です」

 

 実験体でしかなかった自分は人間未満の存在ではあるが、誠実に生きて来たつもりだった。この回答が甚く気に入られたのか、彼はグリッド086。即ち、RaDに迎え入れられることになった。

 MTを使ってのグリッド086内での作業に関して、彼は他のドーザー達とは頭一つ抜けた働きぶりを見せていた。元より強化人間であった為、機体を乗りこなす素養は飛びぬけていた。

 

「オーネストォ! ここも頼むぞ!」

「はい! ただいま!」

 

 彼の誠実で柔和な人柄は人望を集め、カーラ達からの信頼も得ていた。実際、彼の働きぶりは専用のACを組んで貰えるほどだった。

 

「いや、ここに来る丁寧な奴なんて、ウチに隠れ住んでいるアイツみたいな詐欺師ばかりだと思っていたよ」

「そう言う方もいるのでしょう。カーラ、私を拾ってくれた貴方には感謝しています。そして、数々のご友人に出会わせてくれたことも」

「よしなよ。こそばゆい」

 

 ブルートゥはここでの生活に満足していた。日々を充足させてくれる仕事に加えて、コーラル中毒者の数々。この状況は、友人にとって非常に心地が良いものだったらしい。

 

「そうですね。これだけ気持ちが良いと、踊りたくもなります」

 

 言葉を交わさずとも、どういった状況にあるかを把握することは容易かった。実態のない友人に差し出す様に、ブルートゥは虚空に手を差し伸べた。

 

「スロー、スロー…。クイック、クイック。スロー」

 

 1人、リズムを刻む。記憶を失い、友人と出会う前の自分が何をしていたのかは覚えていない。ただ、今があれば良いと思っていた。

 ……そんな彼の決意が翻ったのは、ある日のことである。神妙な面持ちのカーラに呼び出されたブルートゥは、彼女から図面を渡された。

 

「これは一体?」

「オーバードレールキャノン。コイツはとある用事に使って貰う物だ。極秘裏での開発だから、出来るだけ少人数で行いたい。だから、アンタを呼んだ」

「どうして秘密にするのですか?」

「とある場所を守っている化け物を退治するためさ。コーラル集積地点。あそこに用事があるんでね」

「ドーザーの皆さんに振舞う為ですか?」

 

 コーラルの使い道は幾らでもある。カーラが欲しがるのも不思議では無かった為、ブルートゥとしてはジョークがてらに投げた質問だったが、彼女はいつもの様に笑いはしなかった。

 

「……いや、逆さ。コーラルはこの世界に必要ない。と、私は考えている」

 

 激しい胸騒ぎが起きた。彼女は何をするつもりなのか。何を企んでいるというのか。ただ、彼女が自らの意思を遂行すればよくない何かが起きる。そう、確信を抱いたブルートゥはいつもの様に笑顔を浮かべながら頷いた。

 

「分かりました。どんな理由があれ、私はカーラの。ご友人の力になりますよ」

「そうかい。じゃあ、早速。作業の方に……」

 

 そうして、彼は開発の手伝いを始めた。カーラの為ではなく、自らの中に在る友人の為に。……完成も近づいて来た頃、RaDから大量の資金と資源。そして、オーバードレールキャノンがブルートゥによって持ち出されていた。

 

~~

 

「やれー! やっちまえー! レイヴン! 裏切者のクソ野郎をやっちまえ!」

 

 カーラがグリッド086と通信を繋げたことにより、無責任な野次が大量に飛んでくるようになった。コーラルでパチパチ弾けた脳みそに殴り合いなんて興行が染み渡らないはずもなく。

 

「ミルクトゥースも喜んでいます! 貴方の声が心地良いと! 新しいご友人が来たと!!」

 

 土建向けのアセンブルを組まれていることもあって、ブルートゥのACの剛性は極めて高く、生半可な攻撃を食らっても姿勢制御が保たれていた。

 

「その子! なんて名前!?」

「ミルクトゥース! 貴方の方は!?」

「エア!! エアって言うの!」

『……まさか、彼は』

 

 エアは道中で感じていた不快感の正体を知った。ブルートゥはレイヴンだけではなく、自分にも語り掛けていたのだ。

 

「素晴らしいです! 今日は新しいご友人と出会い!こうして、共に踊れるのですから!」

 

 レイヴンも負けじと機体の質量を乗せたドロップキックを放ち、ミルクトゥースを蹴り飛ばしていた。吹き飛んだ先の格納庫の天井には、件の作成途中であるオーバードレールキャノンが吊り下げられていた。

 

「でも! カーラの物! 返して貰うよ!」

「親元を離れたレールキャノンも啼いています…。ですが、カーラにも知って欲しい。友人が離れて行く哀しみを…」

『まるで意味が分かりません』

 

 自らの声が聞こえると分かってから、エアの言動はさらに遠慮のない物になっていた。殴り合いが続き、両者の腕パーツが拉げマニピュレーターも使い物にならなくなった頃、やっと勝負が着いた。と、誰もが思っていた。

 

「心行くまで交流を堪能できました…。最後にお願いがあります」

「なに?」

「踊りませんか?」

 

 マニピュレーターが損傷しているので当然、武器は握れない。となれば、ここでいう所の踊りと言うのは、戦いを比喩する言葉では無く。

 2機は互いに近付くと、お互いの背中に腕を回してヨロヨロと拙いステップを踏んでいた。珍妙と言うしかない光景だが、コーラル酔いしている連中には丁度良い見世物だった。

 

「スロー、スロー…」

「クイック、クイック」

『何故、踊っているんですか?』

 

 先程まで、排除の為に殴り合っていたのではないのか。踊りと言えるかどうかも怪しい動きではあったが、当事者同士で通じる者はあったのか。2機は何時の間にか戦いを止めて、吊り下げられているレールキャノンを見上げていた。

 

「ご友人。これが必要なのですね? ですが、ミルクトゥースは怯えています」

「必要なの。ね、カーラ?」

「そうだね。そして、この依頼はウチを裏切ったソイツの排除でもある」

 

 どういう形であれ、組織に楯突いた者を生かし続けるということは沽券に関わって来ることだ。ケジメは必要だった。……が。

 

「え? ブルートゥは私の友人だから、そんなことしないよ?」

「まぁ、そう言うだろうと思っていたよ。その場合は、依頼不履行として報酬は減額させて貰うよ」

『レイヴン。ウォルターから通信が入って来ています』

 

 カーラの動きは速かった。同時に資金の動きから、何をするかを察したウォルターから重々しい様子で通信が入って来た。

 

「621。今回の依頼における報酬が引かれている。まさか、また何かを拾ってくるつもりじゃないだろうな?」

「拾ったりはしないよ。一緒に帰るだけだから。それでね、ウォルター! 私、新しい友人が出来たの!」

「もういい。とりあえず帰投しろ」

『そこは飼い主として突っぱねましょうよ』

 

 ただでさえ気の重そうな声は消え入り掛けていた。もはや、調教師ではなく監視員と言う名称の方が似合ってそうな気がする中、彼の苦労も知らない2人は大して損傷していないブーストを吹かしながら言った。

 

「それじゃあ、一緒に帰ろ」

「えぇ。共に帰る。素敵なことです」

『ウォルターに同情します』

 

 この中で、レイヴン達が帰投した時のウォルターの心境を労わっているのは、エアただ一人だけだった。

 



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依頼21件目:モブ「知っているか? レイヴンってヤク中ロリらしいぜ」レイヴン「受ける―」???「頭に来ました」

「レイヴン。丁度、ランチタイムだ。一緒に食事はどうだ?」

 

 ペイターが手にしているのはレーションだった。ウォルターが経費を詰めた為、中身はパッサパッサの物ばかりで、食味はまるで期待できない。

 地味ながら強化人間の身体強化によって嚥下能力も強化されており、彼はコレらを水分も取らずに唾液だけで飲み込むことが出来る。ただ、作業の様に流し込むのは苦痛であることに変わりなく、誰かとのコミュニケーションというおかずは欠かせなかった。

 

「申し訳ありません。ご友人とは、先に私が食事をする約束をしておりまして」

 

 ここでディフェンスを決めたのは、先日加入したばかりのブルートゥだ。彼の手には、ビクビクと動くミールワームが握られていた。

 コーラルによって肥大化した体長はバナナ程の大きさとなっており、脂分を始めとした栄養分は申し分ない。ただ、味は脂っこく、見た目がグロテスクな為、星外ボーイであるペイターの口にはまるで合わなかった。

 

「そんな栄養バランスも考えていない物ばかりを食わせていたら、レイヴンが肥え太ってしまう。体型を維持しつつ、戦闘における活力を得る為にもレーションの方が適しているのは言うまでもありません。自分が好かれることにしか興味がないとは。これだから、享楽主義のドーザー上がりは」

「悲しい話です。ご友人を戦う為のコマとしか見ていないとは。私は彼女と日常を歩みたい。傍に居たい。だから、彼女の日常を寄り添いたいのです。アーキバスの指導には、友人との付き合い方という項目は無かったのですね」

 

 バチバチとレイヴンを巡って火花を散らしている二人に興味がないのか、彼女はフラフラとこの場を去って行った。

 彼女が向かった先の会議室には、ウォルターとナイルが話し合っており、1317が情報をまとめていた。3人は直ぐに621に気付いた。

 

「どうした?」

「ご飯。持って来た」

 

 丁度、この場にいる人数分のレーションを用意しており、彼女にしては考えられない気遣いであった。何処となく視線が泳いでいる所を見るに、ウォルターは直ぐに察した。

 

「621。ブルートゥを連れて来たことを気にしているのか?」

「うん」

「気にするな。本当に無理な場合は、追い出している。受け入れると決めた以上は、俺の決定でもある。だから、気に病む必要はない」

 

 彼の言葉を聞いて、621はパァっと笑顔を浮かべた。普段は恍惚としていたり、ロンパリ気味に視線を彷徨わせている彼女にしては、これまた珍しく少女らしい。と言える物だった。

 全員が卓に座り、ボソボソしたレーションをちょっとずつ齧りながら、会議を続けていた。

 

「例の兵器の完成にはまだ時間が掛かるのだろう? アーキバスもベイラムも停戦協定を敷いている。互いに出し抜こうと考えるほど、愚かでもあるまい」

 

 未だに返還交渉が実施されないナイルとしても、ベイラムがそこまで愚かではないとは信じたかった。

 

「暫くは、小康状態か。解放戦線も攻撃を仕掛けるほど間抜けでもあるまい」

 

 解放戦線としては、アーキバス、ベイラム、惑星封鎖機構といがみ合って互いに消耗する展開を期待していたのだろうが、現状は思ったほどではない。

 惑星封鎖機構ばかりが消耗しており、何ならアーキバスとベイラムは消耗に対するリターンを得ている始末だった。ウォルターとしても、この状況はあまり好ましい物ではなかった。

 

「例の化け物達を処理したとして。順当に行けば、アーキバスがコーラル競争を制するでしょうね」

 

 1317の言う通り。多少はドーザーを始めとした与太者達に回収されているにせよ、惑星封鎖機構の技術や機体の多くはアーキバスが鹵獲している。

 一方で、ベイラムも制圧や撃破は出来ても機体や技術を物にするまでは行っていなかった。これには歴とした理由がある。

 

「強化人間。か」

 

 ナイルが知る限りでは、ベイラムにも居ないことはないが数は少ない。基本的には訓練を積んだ一般兵士が主力であるからだ。

 物量で制圧すると言う社是もあり、1人辺りに掛けるコストは抑え、代わりに練度の低い兵士でも扱える武器や機体の開発。という方針に舵を切っていたのだが、ここに来て裏目に出ていた。

 

「そうだ。強化人間は、機種転換に殆どコストが掛からない。621が機体のアセンブルを刷新しても直ぐに乗りこなせるのは、そのおかげだ」

 

 621の方を見た後、何かを思い出しそうになったのか。ウォルターは少しだけ目を逸らした。

 通常、機種転換というのにはコストも時間も掛かる。フレームやパーツを変更すれば挙動は著しく変わり、思い通りに動かすこともままならなくなる。武装も使い慣れていない物では、満足に取り扱うことも出来ない。

 

「そのおかげで、アーキバスの連中は鹵獲した我々のLCやMTの運用も出来るという訳ですね」

 

 技術体系の違う機体を、然程の時間も掛けずに使えると言うのは驚異的という外なかった。奪い取った力を直ぐに転換できるなら、どちらの伸び代があるかは言うまでもない。

 

「むしろ、それでも拮抗しているウチのグループが凄いと言うべきか。レイヴンが有用性を示した、重ショットガンの影響も大きいが」

 

 『SG-027 ZIMMERMAN』。通称、重ショットガン。レイヴンの得物であり、ベイラムのMTを始めとして多くの機体に配備されている。

 近距離での破壊力と衝撃力の大きさ、面攻撃による命中力。直撃すれば、重量二脚やタンク型でもない限り、制御不能(スタッガー)状態へと陥り、更に攻撃を叩きこまれるという凶悪とも言える拘束力を有している。ベイラムが開発した傑作とも言える武器だった。

 

「ヴォルタの奴も愛用していたな」

 

 戦場から身を引いた部下のことを思い出しながら、ナイルは部下がどの様に惑星封鎖機構に立ち向かったかという資料映像に目を通していた。

 場所は『壁』。ここを占拠していた解放戦線は追い出されたらしく、LCやMTが警備に当たっている中、隊列を組んで行進して来る機体群があった。先頭にはG6レッドの『ハーミット』とG5イグアスの『ヘッドブリンガー』が並んでいた。

 

「構ェ!」

 

 レッドの掛け声に応じる形で、全員が物理シールドを構えた。丁度、お互いを庇い合う様にして展開して、隙間からは重ショットガンの銃身が覗いていた。

 

「ファランクスなんて。連中、何考えて」

「撃てぇ!!」

 

 遥か古来。銃火器など存在しない時代にも使われた陣形を使うのは、時代錯誤も甚だしい。筈なのだが、配備されていた惑星封鎖機構の機体達は蹴散らされて行く。

 相手の攻撃をシールドで防ぎながら、重ショットガンの弾幕を張り巡らせるという馬鹿みたいに単純な戦法だった。単純だからこそ付け入る隙も少なく、ベイラムの社是を体現したような戦い方だった。

 

「侵入者確……なんだ、この数!?」

「撃てぇ!!」

 

 レッドの号令に合わせて重ショットガンが火を噴く。殺意の幕を叩きつけられた、LC達は地に落ちる外なかった。ゾロゾロと建物内に機体が入って行き……暫くすると、破壊されたLCや新型HCが運び出されていた。

 

「皆! 壁は我々の物となった!! ヴォルタ先輩も浮かばれることだろう!」

「勝手に殺すんじゃねぇ!?」

 

 レッドが皆を鼓舞するが、そもそもヴォルタは死んでいない。律儀にイグアスがツッコミを入れていたが、皆の喝采を浴びているレッドの耳には届いてなさそうだった。

 

「ミシガンなら。この光景に苦言を呈するだろうな」

 

 作業をとにかく簡易化させることによって、兵士の育成コストは大幅に削減することは出来るだろう。ただし、彼らには殆どパイロットとしての技量は備わっていない。ウォルターは、自分が知っている友人ならこの様な教導はしないだろうと思っていた。

 

「思ったよりも。ベイラムでのアイツの立場が悪くなっているのかもしれんな。あるいは……」

 

 映像は続いていた。レッドが勝利の余韻を煽る様にして喧々囂々と捲し立て、最後にはこう付け加えていた。

 

「我々はレイヴンと同じ剣を持っている! ならば、どんな障害でも切り裂いて行けるはずだ! 我々も続こう!」

 

 兵士達が息巻いた所で映像は終わる。かと思われたが、最後に撮影者と思しき者の声が聞こえて来た。

 

「彼女を帥父の様な存在にしようとは、吐き気がする」

「あ。フレディ!」

 

 この場において、撮影者の声に心当たりがあるのは621位だった。撮影者が知り合いだったことに喜んでいる彼女とは裏腹に、ナイルは頭を抱えていた。

 

「ベイラムはいつから宗教に傾倒し始めたんだ?」

「不利を悟った者達がイコンを求める。よくある話だ」

 

 誰かを通して奇跡を求めているのだろう。レイヴンは、その象徴とも言えた。

 こうした現状整理に勤めている中、一つの通信が入って来た。アーキバスやベイラムではない。先の壁における作戦を記録していた物が所属する組織、ルビコン解放戦線からである。

 

「独立傭兵レイヴン。聞こえるか? アーシルだ」

「聞こえ、ゲホッ」

 

 普段、食べ慣れていないレーションを詰まらせたのか咽ていた。それが、落ち着くのを待ってから通信が再開された。

 

「すまない、食事中だったか」

「ヘーキヘーキ」

「そう言って貰えると助かる。依頼がある。君は、多重ダムの一件を覚えているだろうか? 攻めて来たレッドガン部隊を撃破してくれた件だ」

「アレか」

 

 ウォルターも憶えているが、まさか口論から同士討ちが始まるとは思っても居なかった件である。イグアスとの殴り合いから始まり、ヴォルタも巻き込んでの大喧嘩はレイヴンの一人勝ちで終わった。

 組織の思惑で動いた訳ではなく、こんなバカな理由で同士討ちを始めたイグアスに謹慎処分が言い渡された結果、ヴォルタは1人で壁越えに参加させられる羽目になった訳だが。

 

「アーキバスは少し余裕が出て来たらしい。惑星封鎖機構に対する備えと並行して、ベイラムの手が及んでいない場所への支配を強めて来た。奴らは、ここを攻める為にアリーナのランカー上位2名を派遣して来た」

 

 画面は『キング』と『シャルトルーズ』という2人の名前と、2機のACが映し出されていた。

 

『レイヴン。キングはランキング3位。シャルトルーズは5位と、かなりの強者です。ルビコン解放戦線に向ける戦力としては過剰です』

 

 エアの見立ては尤もだ。ルビコン解放戦線に所属するパイロットはいずれも低ランクであり、唯一ドルマヤンが4位にいるが、他の者達はランキング2桁ばかり。費用対効果は見合っていないように思えた。

 

「恐らく、アーキバスは我々がレイヴンに打診することも含めて、この2名を派遣して来たのだろう。彼らの策謀に乗ってしまう形にはなるが、応じてくれるか?」

 

 仮にレイヴンが来なかったとしても多重ダムは手に入り、もしも、やってきた場合は処分……ではなく、捕まえてアーキバスで再教育する腹積もりなのだろう。

 解放戦線に与するメリットは少なく、力を温存する場合は依頼を受諾しなければ良い話なのだが。

 

「ウォルター」

 

 621はウォルターのことを見据えていた。普段はホイホイ言うことを聞く彼女ではあるが、ワームポイ捨ての件や洋上都市での件もあって、解放戦線に属する人々への思い入れは強かった。

 

「……アーキバスに過剰に力を持たれても困る。依頼を受諾しろ。それと」

「それと?」

「そろそろ、ここをホテル代わりにしている奴らも働かせる。ナイル、指揮はお前に任せる」

「了解した」

 

 壁での1件以来、遂に出撃の機会がやって来た。ベイラム、アーキバス、ドーザー、傭兵。一足先に勢力の垣根を超えた奇妙なチームが組まれる事となった。

 

『凄まじく不安です』

「楽しい遠足の始まりだ!!!」

 

 エアの不安を他所に、621は張り切っていた。

 



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依頼22件目:風 評 被 害

 多重ダム。ルビコン解放戦線のみならず、ルビコニアン達のインフラを担っている重要拠点であり、ベイラムグループも襲撃を試みた物の、少女が起こした癇癪によって失敗に終わっている。

 

「皆! 覚悟をキメろぉ!!」

 

 同志達を鼓舞して先頭に立っているのは、インデックス・ダナムだ。

 清廉で士気も高い烈士ではあるが、パイロットとしての才能はからっきし。であるにも関わらず、事故によってベイラムのレッドガンが追い返された功績を被せられた為、今もダムの防衛に就いていた。が、実力を伴っている訳では無かったので、当たり前の様に蹴散らされていた。

 

「助けてくれぇぇえええ!!」

「来るんじゃなかった! こんな防衛!!」

 

 攻め込んで来た独立傭兵の強さに、ルビコン解放戦線の兵士達が駆るMT達が紙屑の様に吹っ飛ばされていた。士気を挫かれたのか、戦う前から脱出している兵士も少なくはなかった。

 

「これで。例の傭兵が来るの?」

 

 中型バズーカ『MAJESTIC』と双身式のレーザーライフル『VE-66LRB』を両手に握り、肩には拡散レーザーキャノン『VP-60LCD』と大型のグレネードキャノン『EARSHOT』という、火薬庫と言わんばかりの重量武器を積載し、浮遊型タンクと言う極めて珍しい脚部を持つAC『アンバーオックス』を駆る、女性傭兵『シャルトルーズ』は僚機に尋ねた。

 

「奴がルビコン解放戦線と懇意であることは有名だ。必ず来る」

 

 アンバーオックスに負けない程の巨大な機影『アスタークラウン』を支えるのは、ベイラム社の4脚『LG-033M VERRILL』だ。手には同社製のリニアライフル『LR-037 HARRIS』とバーストハンドガン『MA-E-211 SAMPU』が握られており、手持ちの火器は控えめな物ばかりであったが、目を引くのは背中に積載されている巨大な3門レーザー砲だ。

 アーキバス社が機体に掛かる負荷を殆ど考慮せずに作った『VE-60LCA』だ。MTは愚かACですら一撃で粉砕する程の威力を誇っている、アーキバス先進開発局によって生み出された怪物である。

 

「MTは殆ど逃走しているし、残っているのはBAWS社製のAC1機だけ」

「おまけにアセンブルも機体に沿っていない」

 

 アリーナ上位に名を連ねるのにふさわしい火薬庫のコンビに対して、インデックス・ダナムのバーンピカクスの構成は貧弱その物だった。

 手にはバーストマシンガン『MA-E-210 ETSUJIN』と小型バズーカ『LITTLE GEM』。いずれも軽量の武器であるが、フレームは純正のBASHOシリーズ。背部に積載されているのは、オールマインドの講習を受ければ貰えるパーティカルミサイル『BML-G1/P01VTC-04』だった。……ちなみに、搭載しているFCSもジェネレーターも作業用クラスである。

 

「有り合わせで、作った感が凄いわね」

 

 シャルトルーズの指摘は尤もだった。フレームは射撃武器に使うには向いておらず、軽量の武器を持っているのも背部に重量武器を積む為ではなく、資金的に廉価である小型武器しか用意できなかったのだろう。

 

「黙れ! 企業の悪銭で私腹を肥やす走狗共が! 貴様らが、レイヴン殿と同じ独立傭兵など片腹痛い!」

「……レイヴン。か」

 

 勇気1つで突っ込むダナムだったが、武装から練度に至るまで、ありとあらゆる差は覆せるわけもなく、アサルトブーストからの蹴りだけで大破に追い込まれていた。

 

「貴様ら、何が目的だ…」

 

 ダナムは朦朧とした意識のまま、機体から脱出していた。同時に理解した。彼らは明らかに手加減していると。真っ当に仕事に当たっていれば、自分ごとバーンピカクスを焼き払っていたハズである。

 

「殺す程でもないからな。さぁ、お目当ての傭兵が……うん?」

 

 と言いかけて、キングはもう一度レーダーを見た。識別名レイヴンと呼ばれる機体の反応はある。問題は、周囲に3機ほどACが随伴していることだ。

 

「ランク7位のディープダウン、ランク8位のミルクトゥース。ランク16位のデュアルネイチャー。そして、件の機体ね」

 

 1機で来いとは言っていないし、こっちだって2機で任務に当たっているのだから文句を言うつもりはなかったが、これほど手勢を引き連れて来るとは思っていなかった。

 交戦距離まで近づいて来たディープダウンこと、G2ナイルが開戦を告げる様に口を開いた。

 

「騙して悪いが。と、言うつもりはないぞ。そちらも2機で来ているのだからな」

「ランカー上位らしいですが、貴方達が居なくなれば、私は自動的に繰り上がる訳です。ここで消えて貰います」

「自分から、新しいご友人に会いに行くのも良い物ですね。共に断頭台へ行進と行こうではありませんか!」

「いっぱいいる!!」

 

 好き勝手に喋りまくる彼らに秩序だったモノは見えなかった。特に最後の機体から流れて来た声は少女の物であり。戦場には到底そぐわない物だった。

 

「噂には聞いていたが、本当だったか」

 

 アスタークラウンの背部に積載された3門のレーザー砲が閃き、周囲を薙ぎ払う。ナイルが叫んだ。

 

「お前達にチームワークなど期待せん! 好き勝手にやれ!!」

「勿論です!!」

 

 辛うじて、ペイターは指揮に収まるにしても他2名が言うことを聞いて、合わせられるかどうかは疑問だった。故に、ナイルは最初から彼らの統制を投げ出していた。まず、飛び出したのは功を狙いに行ったペイターだった。

 

「私もやる!」

「ご同行しますよ!!」

 

 続いて、レイヴンとブルートゥも飛び出した。重量級2機の射線に突っ込んでも全く怯む様子が無いのは、先日のカタフラクト戦で見た再現だった。

 だが、特務少尉と違いランキング5位は冷静だった。タンクに見合わない軽快さで跳び上がると、まるで4脚型の様にフワフワと空中を漂っていた。

 

「揃いも揃って。調教師(ハンドラー)の躾はどうなっているの?」

「無い!!」

 

 3機に向けてグレネードキャノンを放つ。レイヴンとペイターが軽快に回避する中、ブルートゥは被弾も気にせず突っ込んで来た。

 

「激しいアプローチです。ミルクトゥースも揺れています。しかし、心地の良い触れ合いです」

 

 アホみたいに剛性が高いため、グレネードを食らっても機体が大きく損傷する、ということはなかった。その間にペイターは彼の背後に回って、アサルトブーストを吹かしていた。

 

「では、好きなだけ触れて貰いましょう!」

 

 ミルクトゥースを前面に突き出しながら突っ込む、僚機バリアを使って突っ込んでいた。裏切りとかそう言うレベルじゃない非道ぶりに、シャルトルーズも引いていた。

 

「仲が悪いのね」

「ですが、私は彼に感謝をしています。友人は選ぶべきだと、身をもって教えてくれたのですから」

「感謝してくださいよ!」

 

 皮肉が皮肉として機能していない。ただ、ブルートゥもされるがままという訳ではなく、前面にチェーンソーとファイアスロワーを展開していた。

 そして、デュアルネイチャーのアサルトブーストをカタパルトの様に扱って、ミルクトゥースもアサルトブーストを使ったので信じられない速度で打ち出された。当然、背面に居たデュアルネイチャーを焼いていた。

 

「ッチ!」

「クソ! 味方を焼くとは!!」

 

 こんな常識外れの攻め方をして来る連中は見たことがない。しかし、至近距離まで近づいて来たなら拡散レーザーキャノンで焼き払えば良いと考えていた所で、影が覆い被さった。

 

「ダメ―」

 

 重ショットガンが火を噴き、拡散レーザーキャノンが破損する。と同時に、チェーンソーを構えたミルクトゥースが迫り来る。

 

~~

 

「アイツら! 俺1人で相手をしろと言うのか!」

 

 まさか、3機全員で向かうとは思っていなかった。ナイルは1機でキングの相手を強いられていた。アリーナでも中堅より上に居るとは言え、3位が相手では分が悪い。それでも、彼が渡り合えている理由があるとすれば。

 

「自社製品の癖は良く把握している。ということか」

「なんたって、そいつはミシガンが無理矢理開発させたものだからな」

 

 アスタークラウンの脚部である4脚『LG-033M VERRILL』はナイルとしても思い出深い物があった。彼の友人が恫喝にも近い形で開発させたこと、要望を通す為にミシガンがテストパイロットを務め、仮想敵として自分が何度も相手をしたこと。

 恐らく、このルビコン内において。最も、この脚部を持つACと戦った経験があるパイロットだと、ナイルは自負していた。

 

「参謀にしては良い腕だ。だから、お前がベイラムに居ないことは本当に惜しい損失だ」

 

 4脚で空中戦を展開しながら『VE-61PSA』でシールドを張りつつ丁寧に機体制御を崩して来る。もしも、制御不能(スタッガー)状態に陥った時にアンバーオックスの火力が加わると考えると、ゾッとした。

 ナイルも相手の制御を崩そうとミサイルを張るが、ことごとくが撃ち落とされ、あるいはシールドに防がれていた。

 

「お前達の目的は何だ。レイヴンの確保か?」

 

 このダムを制圧することは、彼らの戦力を持ってすれば難しいことではない。だが、アーキバスがこれだけの過剰戦力を投入するとは思えなかった。

 彼ら自身が依頼を選んだと言えば、納得は出来なくはないが傭兵としての風評にも関わって来るので、やはり適切とは言い難かった。

 

「レイヴンか。お前達は、その名前についてどれだけ知っている?」

 

 ペイター、ブルートゥ、1317。そして、エアですら知らないことだが、唯一ナイルだけは聞いていた。レイヴンと言う名義が借り受けた物であることを。

 

「むしろ、お前達は何を知っている?」

「そうか。何も知らずに使っているのか」

 

 ディープダウンのコックピット内にアラート音が響く。新たな反応がこちらに向かっていた。

 

「貴様らは一体」

「俺達は止まり木だ。このルビコンを飛び立っていく、翼の」

 

 新たな機影の姿が全員の視界に入る。オープンチャンネルからオペレーターと思しき女性の声が聞こえて来た。

 

「レイヴンはどなたですか? ドーザーレベルのアホのヤク中という風評についてを問い合わせたいのですが」

 

 若干、声に怒りを滲ませながら、現れたAC『ナイトフォール』はチェーンソーを構えていたミルクトゥースを蹴り飛ばしていた。

 



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依頼23件目:ノーザーク「レイヴンさぁん。流石に独立傭兵が他社に投資しているってなったら、今後の仕事に影響するじゃないですか? 私が仲介をしましょう」

 大変恥ずかしながら、私。チェーンソーのことをグラインドブレードともいうのだと思い込んでいました。しかし、グラインドブレードはACVにおけるOWでした! なので、今後は普通にチェーンソーとして書いて行きたいと思います。


 と思いましたが、本当にグラインドブレードをルビコン内で使えたら面白いんじゃないかと思ったりもしました。


 話は過去に遡る。丁度、621がウォルターの手引きによって、ルビコンに密航した頃。事前に、この情報を掴んでいたハクティビスト集団『ブランチ』はコレを利用することにした。

 

「レイヴン。先日のステーション31襲撃により、惑星封鎖機構の包囲網に穴が出来ています。我々はこれを利用します」

 

 惑星封鎖機構の軌道上拠点であり、ブランチのメンバーがここを叩いた為、ルビコンへの密航者は数を増やしていた。

 モニタには密航者や正規とは言えないが、取引を経て入星して来た者達のリストが上がっていた。

 

「コールドコールか。相変わらずビジネスへの嗅覚は逸品だな」

 

 裏社会の暗殺者として名を馳せている彼は、このルビコンに巻き起こる死の臭いを嗅ぎつけたのだろう。キングとしても相対したくはない独立傭兵だった。

 

「それと、スッラと六文銭もいるね。六文銭は無用の殺戮や破壊は好まない手合いだけど、スッラの方は場合によっては戦うことになるかもしれない」

 

 シャルトルーズもスッラと戦場で相対したことがあった。第1世代強化人間と言う骨董品であるにも関わらず、死を振り撒く姿には老いを一つも感じさせなかった。それ所か、老獪さを蓄えてさらに厄介な相手になっていた。

 彼らが激化するであろう、ルビコン内でのコーラル競争における強敵達を警戒する中、鋭い眼光を携えた男はリストを指差していた。皆が彼の指先を追うと、ノーザークと言うネームに当たった。

 

「アイツに10万Cをだまし取られている。もう、殺すしかない」

 

 テンションは低いが、声色には本物の殺意が混じっていた。だが、一同は疑問を抱いた。

 

「何故、そんなことを?」

「ベイラムへの投資を持ち掛けられた。パイルバンカーの新型開発に寄与するから、一口どうだと言われて」

「どうして私を介さなかったんですか?」

 

 オペレーターが責め立てているのを見て、レイヴンがシュンとなって口を閉ざした。ションボリしている彼を見かねたのか、キングが助け舟を出した。

 

「落ち着けよ。レイヴンが初めて自分のやりたいことをやったんだ。誰の口も挟まれたくないってのも分かるだろう?」

「私に口を挟んで欲しくないのが、レイヴンのやりたいことなんですか?」

「いや、そう言うことじゃなくてだな」

 

 シャルトルーズに助けを求めたが、彼女は直ぐにリストの方に目を遣った。痴話喧嘩に興味はないらしい。なんなら、レイヴンも同じ様にリストを見に行こうとして、オペレーターに詰め寄られていた。

 

「まだ、話は終わってないですけれど」

「そうだな。惑星封鎖機構の包囲網に空いた穴を利用するんだったな」

「そっちじゃなくて。なんで、勝手に詐欺師に10万Cを渡したんですか?」

「いい加減にしろ! ルビコンに居るんだから、次見掛けたらボコボコにして引っ張って来るってことで良いじゃねぇか!」

 

 あまりに話が進まないので、キングが切れた。発見次第制裁という方向でまとまった所で、ようやく本題に入った。

 

「失礼。このリストに居る傭兵だけではなく、私達は惑星封鎖機構にも目を付けられています。故に、一度レイヴンを死んだことにして裏方で動くことにします」

「死んだって。どういう風に?」

「彼の機体。『ナイトフォール』のアセンブルを組んだダミーを、グリッド135の付近に投棄。戦闘痕の不自然さを誤魔化す為に、この機体を運ぶ輸送機ごと落として貰います。そして、ダミーに付与しているライセンスを獲得して貰う」

 

 密航者にとって、ルビコン内で仕事をする為のライセンスは垂涎物だろう。企業に所属している訳でもなく、足の付き難い独立傭兵の物なら尚更だ。

 

「ただ、あの付近は惑星封鎖機構のSGが哨戒しているぞ。アレを潜り抜けられるのか?」

「潜り抜けられるか。というよりも、潜り抜けられない程度の人間にライセンスを取って貰っても意味がありません」

 

 惑星封鎖機構が用いている重武装ヘリに食い散らかされた機体は数知れない。これらを突破できるほどの人材でなければ、レイヴンを名乗って貰う意味が無いのだと彼女は言った。

 一同はグリッド135に降り立った機体を見た。真っ先に声を上げたのはレイヴンだった。

 

「アイツは生き残る。間違いない」

 

 奇しくも、その機体はレイヴンが使っているナイトフォールと頭部以外のフレームが合致していた。機体名は『LORDER 4』、パイロットはハンドラー・ウォルターの猟犬『C4-621』。

 

~~

 

 乱入して来た機体『ナイトフォール』は、621が密航して来た時に使っていたフレームであったが、目を引いたのは武装だった。

 背部の武装はAC乗り愛用の『SONGBIRDS』とデュアルミサイルの『BML-G1/P32DUO-03』。手にしているのは、アサルトライフル『RF-025 SCUDDER』。ここまでは珍しくはないが、もう片方の腕に装着されているのは『PB-033M ASHMEAD』。パイルバンカーだった。

 

「パイルバンカーだと?」

 

 威力はお墨付だが、基本的に動いている相手に当てる武器ではない。精々、拠点防衛用の重MTなどには当たるかもしれないが、基本は設備などの固定物に向けて放つ物だ。

 

「キング、シャルトルーズ。お待たせしました」

「遅かったじゃないか。3VS4で少しはマシになるか」

 

 ここまでアリーナのランカーが大量に投入される戦いも珍しいだろう。実際、戦場は乱戦めいた有様になっていた。

 シャルトルーズを守る様にして動く、ナイトフォールが乱入して来たこともあって、621達は本丸に攻撃が出来ずにいた。

 

「貴方がレイヴンですね。よくも、これだけの風評被害を食らわせてくれましたね。おかげでブランチはヤク中支部だとか、散々な謂れ様です」

『レイヴン。ブランチは4人からなる傭兵組織で、惑星封鎖機構に対する攻撃行為などで有名な者達です』

「なんと、惑星封鎖機構に攻撃を。これはコーラルを摂取して、勇気を湧き立たせないと出来ない行為です」

 

 621の代りにブルートゥがエアに返事をしていた。実際、4人だけで惑星封鎖機構に喧嘩を吹っ掛けるのは、コーラルでもキメていないと無理な位の狂気的な行動ではある。

 

「コーラルでもキメていないと出来ないことやっているんですから、ヤク中集団で良いじゃないですか。上等でしょ」

 

 売り言葉に買い言葉。諫めるなんて言葉が辞書から欠落しているペイターに恨み言を吐けば、一切反省の意図が見られない返事をされるのは順当な流れだった。

 

「頭に来ました。借り物の翼、今ここで返して貰います」

 

 621の中に様々な感情が去来する。レイヴン。このルビコンにて得た、自分の名前。返せと言われて、返すつもりもない。そんな常套句を吐いていた奴がいたような気がする……。と、思い出して彼の口癖を真似た。

 

「何故、借りた物を返す必要があるの!?」

 

 ペイター達が黙ったのは、彼女がここまで語気を強める所を殆ど見たことがなかった為であるが、ブランチのメンバーが黙った理由は一つ。今まで、黙っていた男が目を覚ます瞬間を察したからだ。

 

「お前も!! ノーザークか!!」

 

 ミルクトゥースのフレイムスロワーを避け、チェーンソーをパイルバンカーで弾き飛ばして、機体を踏みつけて飛翔する。

 

「馬鹿め! 隙だらけだ!」

 

 攻撃後の挙動を狙ったペイターがパルスブレードを振りかぶれば、腕ごとパイルバンカーで吹き飛ばした後、蹴り飛ばしていた。

 

『レイヴン。近接戦は避けて下さい! 一撃でやられます!』

 

 621の機体は軽量級である為、目の前の機体が用いているパイルバンカーの一撃は致命傷になりかねない。故に距離を取っての射撃戦に持ち込むのが合理的とは言えたが。

 

「貴方もレイヴンなのね!」

「お前はノーザークだ!」

 

 まるで噛み合っていない会話を交わしながら、2機は白兵戦を繰り広げていた。パイルバンカーの攻撃を機体制御でよけながら、同時に蹴りを放つが避けられる。至近距離でライフルを撃ち込まれて、621の機体の頭部が吹き飛んだ。

 だが、返す一撃で放った重ショットガンが相手の背部武装に命中した。誘爆を避けるためにパージし、互いにクロスレンジでの熾烈なやり取りが行われている。

 

「駄目ね。この距離で援護をすれば、レイヴンにも当たる」

 

 パイルバンカーを持つ相手に至近距離で戦う。というのは、この場においては却って生存率の高い選択であった。何せ、見つめ合うと死ぬとまで言われている動く火薬庫であるアンバーオックスがフレンドリファイヤを恐れて援護が出来ずにいるのだから。

 だとすれば、先程まで自分を襲って来ていた相手に狙いを切り替えようとして、互いに腕が吹き飛ばされ頭が取れ掛けた状態になりながら、ペイターとブルートゥはお互いの弾き飛ばされた武器を手に、シャルトルーズに襲い掛かっていた。

 

「死ねぇえええええええええ!!」

 

 デュアルネイチャーは片腕でチェーンソーを起動させるが、彼の軽量機体ではしっかりと握りしめて扱うことが出来ず、振り回される形になっていた。

 ミルクトゥースが握っていたパルスブレードはと言えば、逆に軽すぎてペンチアームではしっかりと固定が出来ずにフラフラと揺れていた。本人達ですら何処へ向かうか分からない攻撃を、シャルトルーズが予想できる訳もなく。

 

「こ、こいつら。狂って……」

 

 チェーンソーはアンバーオックスとミルクトゥースを切り刻み、パルスブレードはデュアルネイチャーとアンバーオックスを切り裂き、アンバーオックスの爆発はデュアルネイチャーとミルクトゥースを巻き込んだ。

 

「シャルトルーズ!」

 

 ディープダウンを戦闘不能に追い込んだキングは、直ぐに彼女の救出に向かった。大破した機体達から、ヨロヨロとパイロットが這いずりだしていた。

 

「アンタら! 味方を巻き込むなんてどういう神経をしているのよ!!」

「私が手を掛けた訳ではない! むしろ、コイツが突っ込んで来たのだ!」

「ご友人。貴方も知るべきです、世には可哀想なお友達がいると言うことを」

 

 先程までの遣り取りはどうしたのか、戦場とはかけ離れたコントを繰り広げている様子を見て、キングは安堵の息を漏らしていた。直後、ナイルから通信が入った。

 

「どうする。お互いの生存の為に、一旦銃を降ろさないか?」

 

 このまま、自分がレイヴンの援護に行くことは出来ただろうが、その場合。生存したシャルトルーズの身が案じられた。そして、アスタークラウンの手持ち武器も残弾は僅かとなっていた。

 

「分かった。一時休戦といこうか」

 

 残すは互いの大将のみ。もはや、ダムの防衛など口実でしかなく、ブランチの試験は間もなく終わりを迎えようとしていた。

 



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依頼24件目:謎の美少女傭兵「ノーザークさん。噂ではどの企業にも属さない優秀な機関が類を見ない最強の武器を開発しているそうです。今の内に投資をしておけば、マージンも」ノーザーク「買った!!」

「レイヴウウウウウン!!」

「ノーザーァアアク!!」

 

 互いに誰のことを指しているのかも分からないまま、戦いは続いていた。

 パイルバンカーの一撃が閃き、621の重ショットガンが後方に弾き飛ばされた。と同時に、彼女もその場で機体の反転制御を一瞬で行い、サマーソルトキックを放ってレイヴンのパイルバンカーを後方へと蹴り飛ばした。

 

「チッ!」

『レイヴン! 後方へと取りに戻るのは危険です! あのパイルバンカーを取りに行って下さい!』

「レイヴン! 反転動作を行うよりも前面に跳んだ方が早いです! 姿勢制御はお願いします!」

 

 背中を見せるのは危険。と、両者は瞬時に判断して前面へと飛び出した。

 621の手にはパイルバンカーが、レイヴンの両手には重ショットガンが握られた。お互いの得物を手にしている姿は『レイヴン』という名前が辿っている数奇な経緯を表している様でもあった。

 

『レイヴン! 行って!』

「レイヴン! 来ます!」

 

 先に動いたのは621だった。パイルバンカーをキャッチすると同時に直ぐに反転してアサルトブーストを吹かした。少しでも遅れれば、重ショットガンが自分をハチの巣にすることを理解していたからだ。

 一方、レイヴンは手にした重ショットガンを突き出しながら、アサルトブーストを吹かしていた。加速による威力の向上と、近距離における破壊力を十分に理解した上での加速だった。

 

「金返せ!!!!!」

 

 先に攻撃態勢に移ったのはレイヴンだった。加速を乗せた散弾は標的物を食い散らそうと、621に猛接近する。機体を傾け回避しようとしたが、背部武装とパイルバンカーを握っていない腕に命中して千切れ飛んだ。

 

「返さないよ!!」

 

 残された腕で繰り出したパイルバンカーの一撃は重ショットガンを正面から叩き潰し、顔面と両腕のパーツが後方へと吹き飛んだ。必殺の一撃が交差した所で、互いの機体に溜まったダメージから煙が噴き出していた。

 

「『脱出を!』」

 

両パイロットとも判断は速く、機体から緊急脱出してから数秒後。2つの爆発が巻き起こった。直ぐに両陣営の者達が駆け寄って行く。

 

「レイヴン! 大丈夫!?」

「問題はない」

「損傷はアンバーオックスとナイトフォールの2機。キングは継戦可能ですね」

 

 特段頭を打った様子なども無ければ、意識もはっきりしている。機体を失ったが、作業用フレームは修繕をするとしても買い直すとしも安上がりで済む。パイロットが無事であるなら、損耗は軽微と言えた。

 

「ご友人!」

「私、ノーザークじゃない……」

『あの傭兵はどうして、ノーザークの名前を……』

 

 一方、621の方も怪我は無かったが資金的な損耗は遥かに上だった。また、買い直すことを考えれば、今回の依頼料も吹き飛ぶだろうと考えた。

 これだけ大規模な戦闘があったにも関わらず、誰一人として死んでいないのは奇跡的とも言えた。しかし、7機も投入された戦場で残ったACは1機のみ。

 

「つまり、お前達の生殺与奪は俺が握っているってことだ」

 

 アスタークラウンは手持ち武器の残弾数こそは少ないが、稼働状態にある。やろうと思えば、彼は621達を全滅させることも出来ると言うことだ。

 緊張が走る。621が打ち負かされると言うのは、初めて経験することであり咄嗟の対応も分からぬ中、真っ先に口を開いたのはペイター……ではなく、ナイルだった。

 

「お前達の依頼はダムの襲撃だろう? 俺達を殺すことも内容に入っているのか?」

「入ってはいない。……が、追加で一つ注文が入っている。レイヴンを名乗る独立傭兵を捕獲して来いと言う物だ」

 

 勿論、これは彼らの仲間であるレイヴンを指しているのではなく、621のことを指している。やはり、アーキバスとしても彼女の存在は手中に収めたいらしい。

 

「それなら私も同行しよう。なにせ、私はV.Ⅷのペイターだからな」

 

 自身の生存可能性を見出した瞬間、口が回る彼のバイタリティにおおよその者達が顔をしかめた所で、キングが続けた。

 

「レイヴンと行動を共にしているペイターは偽物だと通達を受けているのだが」

「ふ、ふざけるな! 私は本物のペイターだ!!」

 

 道理で、アーキバス社からの依頼であるにも関わらずペイターの存在が不審がられなかった訳だ。何せ、彼は偽物と言うことになっていたのだから。

 

「もう一人のレイヴン。貴方が投降すると言うのなら、他の3人は見逃しましょう。どうしますか?」

「行くー!」

「投降しなければ……え?」

 

 オペレーターが選択を迫るよりも先に、621は返事をしていた。即答は彼女のモットーである。

 

「ご友人! 私達の為に……」

「スウィンバーンとラスティ―もいるし!」

『いや、単純に自分が行きたいだけかと』

 

 戦友呼びして来るだけにラスティ―とは懇意であるらしいが、スウィンバーンのことも気に行っていたらしい。

 通信先のオペレーターが溜息を吐き、暫し迷っている様子を見せたが、平静を取り繕って言葉を発した。

 

「ある種、自由とはそういうことなのかもしれませんね」

 

 運命に囚われず、自由という概念にも囚われず。風の吹くまま漂う姿は鴉(レイヴン)と呼ぶにふさわしいのかもしれない。

 

「本当にコイツを回収するのか?」

「いいえ、資質を問うただけです。そもそも、彼女がアーキバスに行ってしまえば、表に立つレイヴンが居なくなってしまいます」

 

 自分の存在を秘匿する為に、態々ライセンスを貸与する芝居を打ったのだから、ここで引き渡してしまえば何の意味も無くなってしまう。

 

「つまり、俺達は見逃して貰えるということか?」

「えぇ。そして、引き続き表立って貰います。このダムも頂きません」

 

 依頼をして来たアーキバスへの不義理となるが、それだけ自分達へ期待を掛けているということの表れでもあるのだろう。シャルトルーズとレイヴンを乗せて、キング達は去って行く。

 

「またねー!」

「……何処かで会うかもな」

「その翼。もう少しだけ貸しておきます。だから、あまりトンチキなことはしないで下さいね」

 

 そして、彼らは去って行き多重ダムは静寂に包まれた。依頼は達成したが、結果を見れば全機体が撃破されると言う敗北と何ら変わりない状況であった。

 

『本物のレイヴンはあそこまで強いのですね』

 

 エアも俄かに信じがたかった。惑星封鎖機構の兵器ですら撃破できなかった、621と相打ちにまで持ち込む相手など、今まで見たことも無かったのだから。こうして、全員が生還できていることは奇跡にも近かった。

 

「お前ら! 生きているか!?」

 

 先に撃破されていたインデックス・ダナムが車輪と履帯を併用しているハーフトラックで迎えに来てくれた。一度、撃破されながらも迎えに戻って来る所に、彼の人柄と義理堅さが見えた。

 

「あぁ。一応、任務は成功だ」

 

 実態は程遠かったが、恵まれたとはいえ任務が成功になったことには変わりない。ナイルは大きく溜息を吐きながら、胸ポケットに収めていた葉巻を咥えた。

 

~~

 

「そうか。そんなことがあったのか」

 

 帰還した一同は、顛末をウォルターに説明した。惑星封鎖機構と相対しており621と比肩するパイロットを有している傭兵組織ともなれば、今後も関わって来る存在かもしれない。

 だが、問題がある。今回の戦闘で全員の機体が大破した件についてだ。アイスワームへの対策も完成に近づいてきている中、使える機体が無いという状況は避けたかった。

 

「ご友人。いかがいたしますか?」

「修理費を稼がなければならない。予備のフレームは1機だけしかないからな」

「俺は暫く良い。コイツらの指揮は疲れる」

 

 指揮を放棄した結果、彼は1機でランキング3位を抑え込まされる羽目になっただけに、暫く戦場は避けたい様だった。

 

「ですが、ウォルター。仕事はあるのですか?」

 

 ペイターの疑問は尤もで、今はアーキバスとベイラムは休戦中であり、依頼にも事欠く様子だった。先の多重ダム防衛も任務としてはかなり特殊だった。

 

「実は、アーキバスから1件。依頼が来ている」

 

 ウォルターがブリーフィング画面を開いた。今回は珍しくスネイルからでもラスティからでも無かった。

 

「独立傭兵レイヴン。アーキバス社系列グループシュナイダーからの依頼だ。先日のウォッチポイント・デルタの襲撃以来、各所でコーラルが湧出するようになっている。これを持ち帰り解析に当てたいのだが、各地で輸送の妨害が起きている」

 

 声は非常に気怠そうにしていた。そして、任務の内容もまた不可解な物であった。コーラルを破壊するメリットがある組織など思い浮かばない。

 

「この声は、V.Ⅲオキーフさんの物ですね。普段は表に出てこないハズなんですが……」

「今回は輸送の護衛に当たって欲しい。同時に、一連の襲撃者の確保、あるいは撃破を頼みたい。任務には俺も出向く。以上だ」

 

 と、通信が切れた。全員が頭を悩ましていた。コーラルを破壊して得をする者達と言うのが思い浮かばなかったからだ。

 

「食えない粥には土を入れてしまえ。という常用句もありますが。ご友人同士になった企業としてもやらないことではありますよね?」

「そうだな。襲撃者が気になる。621、依頼を受けるか?」

「うん!」

 

 資金難に陥った状況では有難い任務ではあったが、襲撃者の思惑が分からない所に一同は不安を禁じ得なかった。

 

『ブランチの様な惑星封鎖機構に対するカウンター。という訳でもないでしょうし、一体誰が……』

「予備機を動かす為にアリーナしているねー」

 

 エアやウォルターが襲撃者を推測している中、レイヴンは予備機を馴らす為にフレームのデータを入れてのシミュレーターをしに行った。無機質なシステム音が響く。

 

『ようこそ、アリーナへ。『ALL MIND』は全ての傭兵を歓迎いたします』

 



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依頼25件目:謎の美少女傭兵「今、私のことバカにしましたね?」

 スッラは特定の拠点を持たない。ドックを間借りしては、各地を転々としているという典型的な独立傭兵としてのスタンスを取っていた。

 と、なれば困るのはメンテナンスである。間借りする場所において、必ずしも担当者がパーツの情報を共有している訳では無いのだ。

 

「ちょっと、ウチではアーキバスの修理パーツは置いてないんですよ」

「そうか」

 

 スッラが用いているACのフレームにはアーキバス製の物が使われている。強化人間の研究が進んでいることもあって、彼らが生産しているフレームは使い心地も良かった。

 アーキバスはルビコン内においても勢力を拡げてはいるが、全土には及んでいない。この不便さがどうにも引っ掛かっていた頃の話である。

 

「独立傭兵スッラ。貴方と取引がしたい」

 

 最初は冗談かと考えていた。

 傭兵支援システム『オールマインド』。戦闘技能シミュレーターやアリーナと言った仮想戦闘空間の提供など、寄る辺を持たない独立傭兵を相手に商売をしている、思想や信条を持たないシステム的な物だと考えていた為、この様な個人的な交渉を持ち掛けて来るとは思っていなかった

 

「取引内容は?」

「我々の計画『コーラルリリース』に加わって欲しい。これは、第1世代の強化手術を受けた貴方にしか出来ないことなのです」

「報酬は?」

「我々の依頼を優先的に手配します。そして、オールマインドが開発したフレームとパーツの全てを貸与します。これらは各社のフレームやパーツを分析し、内部構造を流用している為、どの施設でもサービスが受けられます」

 

 他社との共有化。と言えば、聞こえは良いが無断で行っているとなれば、商標権や著作権の侵害をしているということだが、彼には興味のないことだった。

 

「引き受けよう。試しに幾つかパーツを借りたい。どんな物がある?」

「オススメは『44-141 JVLN ALPHA』デトネイティングバズーカです。強化人間の反射神経に合わせたレスポンスの調整をしており、なおかつ直撃補正に優れています」

 

 カタログスペックは悪くない。ただ、アーキバスのフレームを使っていることから分かる通り。スッラは軽量~中量の機体を運用している為、このバズーカの重量はどうにも引っ掛かった。

 

「この取り付けている銃剣を外せ。少しでも重量を減らす工夫をしろ」

「お言葉ですが。バズーカにおける総弾数の少なさをカバーする画期的なアイデアであり」

「バズーカで刺突するバカが何処にいる。他の武器は?」

 

 画期的なアイデアと言えば聞こえは良いが、大抵の場合。誰もやっていないということは、思いついたが誰もやる程の価値を見出さなかったということである。

 特に、バズーカの設計思想については大豊やメリニット社が試行錯誤し尽くしている。軽量化、大型化という選択はあれど、近接武器を取り付けると言う選択が無かったのは、実用的ではないと判断されたからだ。

 

「では、ご期待に添えまして。近接用の武器として『44-143 HMMR』プラズマスロアーは如何でしょうか?」

「何だ、この武器は。俺は曲芸師ではないんだぞ」

 

 かなり特異な軌跡を描く為、使いこなせば強くはあるのだろう。戦場でこんな物を振り回す暇があれば、という話だが。

 

「では、我社が誇る傑作にして決戦兵器。『44-142 KRSV』。通称、カラサヴァは如何でしょうか?」

 

 先程のデトネイティングバズーカを更に上回る脅威の重量。積載上限以前に、そもそも通常のACが持つのも困難な品物だった。

 何よりも、プラズマライフルとレーザーライフルを併設しただけのあまりにも前衛的な見た目をしていた。

 

「お前達が言うコーラルリリースと言うのはコメディ映画のタイトルか?」

「まだまだ、人類が我々の思想に追いつける日は遠いようですね」

 

 フゥ。と無機質ながらもやけに人間臭い溜息を吐かれたので、若干イラっとしながらも、この中では比較的使える『44-141 JVLN ALPHA』を選んだ。

 また、武器の設計思想はトンチキながらもフレームの開発は、他者の規格を流用しまくっていた為、非常に扱いやすい物だった。

 

「『MIND ALPHA』シリーズか。こちらの方は良いな。アーキバスの物よりも更に肌に馴染む。武器も同じ様に作ればよかったものを」

「武器はフレームよりも替えが利きやすいので、似た様な物を作ってもコストパフォーマンスが悪いと判断しました」

 

 フレームを変えれば挙動も変化し、勝手も悪くなる。だが、武器は重量が大きく変わったり武器種が違う物でなければ、扱いに大きな変化は訪れない。

 

「ならば、何故武器の開発を?」

「我々は武器開発において各社の意見を参考にしました。特に興味深かったのが、メリニット社の開発会議です」

 

 社の武器開発会議と言えば、かなり重要度の高い物だが、どうにかして入手していたらしく、その一連の流れが再生された。

 

「どいつもコイツも『SONGBIRDS』! 何故だ! 何故、『EARSHOT』と『DIZZY』の売り上げがこんなにも悪い!!」

 

 この社はバズーカを始めとして、火薬に対して特に強いこだわりのある会社だった。鳴り物入りで売り出した自信作がからっきし……なんてのは兵器だけではなく、一般の会社でも往々にしてあり得ることである。

 

「上の方も『SONGBIRDS』のラインを増やせとばっかり! お、俺達にあんな媚び媚び兵装を……!」

「そ、そうじゃ。ワシだって重量を6000ぽっちに増やしただけで、☆1の荒しに…」

「傭兵レビューサイトを見ても、☆4以上が付くのは『SONGBIRDS』ばかり! 『同社がようやく独りよがりを止めて、顧客と向き合った傑作品』って……。俺達のロマンに救いは、救いはねぇのか…」

 

 スッラは映像を切った。とりあえず、非常に良くない開発者達の影響を受けていることは大いに理解した。

 

「で、依頼はなんだ?」

「まず、ウォッチポイントに出向き……」

 

 先程までのコントはひと段落し、非常にまじめな会話に戻った。以後、スッラはオールマインドの下で暗躍することとなる。

 

~~

 

 中央氷原、ヨルゲン燃料基地。コーラルの採掘と輸送を行っている場所であると同時に、アーキバス社が惑星封鎖機構から鹵獲したMTやLCへの機種転換も行われていた。話を聞きつけたペイターと1317も621に同行していた。

 基地内では戦闘に向けた動作の習熟訓練も行われており、思わず1317も溜息を漏らしていた。

 

「凄いな。俺だってLCに乗ってから習熟するまで時間が掛かったというのに。これが強化人間の適応力なのか?」

「彼らが行けるなら私だって」

「お前に配備する分はないぞ」

 

 ペイターがLCに目を輝かせていると、潜もった声で注意して来る青年がいた。フィーカの入ったカップを片手に現れたのは、V.Ⅲのオキーフだった。

 

「オキーフさん! どうも!」

「本当にハンドラー・ウォルターの所にいるんだな。そちらに居るのが、噂のレイヴンと……」

「1317だ。彼女のマネジメントを承っている」

「そうか。お前を通して話をすればいいのか。にしても、本当に少女とはな」

 

 テンションは低くあるが、それでも驚いた様子はあった。ルビコンの企業だけではなく惑星封鎖機構をも翻弄している鴉(レイヴン)の正体が、こんな少女とは。実際に目にするまでは俄かに信じ難かった。

 そんな彼女はジィっとオキーフの方を見ていた。正確に言えば、彼が持っているカップを見ていた。

 

「それ美味しいの?」

「フィーカを飲んだことがないのか?」

「うん」

「少しだけ飲んでみるか?」

「わぁ。ありがとう!」

 

 差し出されたカップを手に取り、暑さに驚きながらも少しだけ啜った。……口に合わなかったのか、顔の中央に皺が寄っていた。

 

「苦ぁい!」

 

 口直しをする様に、ポケットから取り出したミールワームに赤い粉を塗して咥えていた。スゥッと吸い込むと、とワームが痙攣する様子はキモイながらも、ルビコンにおいては見慣れた光景であった。

 

「もっと、マシな物で口直しをしろ」

 

 オキーフが差し出したのはレーションの残りだろうか。ウォルターが購入しているよりも少しだけ上等な物であり、円形の焼き菓子……クッキーだった。

 受け取ったレイヴンは手にした後、覗き込んだり叩いたりして。ようやく食物だと分かって齧りついた。

 

「うめっ…」

 

 同じ様な反応を示すミールワームなら豪快に食らいつくと言うのに、クッキーの量を理解した彼女は齧るのではなく、舐め溶かす様に食べていた。いじらしいと言えば聞こえは良いが、彼女の普段の生活が垣間見えた。

 

「ペイター。解放戦線から子供を引っ張って来た訳じゃないだろうな?」

「紛うこと無くレイヴンです。そして、私の友人です! でしょう!?」

「うめっ……」

 

 ペイターが同意を求めて視線を送ったが、レイヴンにとって彼への関心はクッキー以下だった。ショックを受けている彼を他所に、オキーフは説明を続けた。

 

「今はコーラル輸送の為の準備を進めている。監視塔から連絡は入っていないが、そろそろ例の奴らが来るんじゃないかとは思っている」

「質問だ。コーラルを破壊することのメリットはあるのか? そんなことをして得をする奴らに心当たりは?」

 

 オキーフは暫く押し黙っていた。心当たりを探しているのだろうが、やがて彼は首を横に振った。

 

「思い浮かばない。今、ベイラムが事を構えるとは思えないしルビコン解放戦線は破壊する位なら奪取していくだろう。だから、破壊することのメリットが全く思い浮かばない。余程、コーラルを入手して欲しくないと考えている連中でも居たら話は別だが」

「オキーフ先輩はそう言った情報について、何かご存じではないのですか?」

 

 ショックから立ち直ったペイターが質問をした。ヴェスパー部隊の隊長同士であり、オキーフが情報部出身であることを知っての質問だったが、やはり彼は首を横に振るばかりだった。

 

「分らない。そもそも、この惑星に入ってくる奴の大半はコーラルを目指してのハズで……」

 

 とまで言いかけて、基地内に警報が鳴り響いた。到着してほぼ間もなくだったことを考えると、間一髪で間に合ったということだ。

 

「ペイター! 我々は避難するぞ! レイヴン! 任せたぞ!」

「んぐっ。分かった!」

 

 半分ほど食べていたクッキーを急いで飲み込んで、彼女は機体に乗り込んだ。オキーフもハンガーへと向かい、機種転換をしていた者達も実戦用の武器へと持ち替えていた。

 彼らが戦闘配備を行っている中、単身乗り込んで来たACは一つの武器を両手で構えていた。その銃口にはレーザーライフルの青い輝きとプラズマライフルの紫色の輝きが混じっていた。

 

「吹き飛べ」

 

 レーザーが地上部へと照射されると同時にプラズマによる爆破が付随して発生した。MTやLC、コーラルを運ぼうとしていた輸送機を破壊しながら、青紫の破壊の奔流は止まらない。

 

「何だこれは!?」

 

 コーラルの貯蔵タンクを破壊し、予備の輸送機をも破壊して建物をも抉りとっていた。吐き出される破壊の波が収まると、人間の挙動と見紛わんばかりの滑らかさで跋扈する機体が1機。

 

「コイツ!!」

「脱出レバーを引け!」

 

 習熟途中のLCであったが、MTよりも遥かに優れた機動で襲撃者に向かう兵士もいたが、オキーフがオープンチャンネルで叫んだ。

 瞬間、LCに衝撃が走った。一体何を食らったのか呆気に取られていると、回転している何かが機体にめり込んでいることが分かった。姿勢と思考を同時に崩される瞬間に脱出レバーを引くと、無人になったLCに砲弾が直撃した。

 曲芸と見紛わんばかりの動きだったが、いずれの所作にも洗練された技術と殺意が籠っていた。この傭兵の正体を、レイヴンは知っている。

 

「スッラ!」

「ウォルターの猟犬か。生憎、お前の相手をしている暇はないんでな」

 

 彼女に目もくれず、スッラは次々とコーラルの貯蔵タンクや輸送機を襲い始めた。レイヴンもまたアサルトブーストを吹かして、彼へと猛接近していた。

 

 

~~

 

「1317! 何処に行くつもりだ!」

 

 非戦闘員は基地内のシェルターへと逃げ込んでいたが、1317を追いかけるようにしてペイターも飛び出していた。

 

「先程、避難している際に見えた! この基地のハンガーにはLCがある! アレならば、俺も動かせる!」

「無茶をするな! レイヴンに任せておけ!」

 

 ペイターの言うことは最もだった。機体も持って来ていない自分達に何が出来る訳もないが、1317は彼の道理を否定した。

 

「相手が他の奴なら、そうしたさ。だが、奴が相手なら話は別だ。……アイツはレイヴンの何かを狂わせる」

「どういうことですか?」

「以前、大型ミサイルの発射護衛任務と言うのがあって、レイヴンがアイツと相対したことがあった。……帰還したアイツの手が震えていた」

 

 ペイターも思わず言葉を失った。どんな戦場でも、遊ぶように舞う彼女がそんな反応を見せるとは俄かに信じ難かった。

 

「あの傭兵は、何者なんです?」

「分からない。ただ、嫌な予感がする。お前も力を貸してくれ」

「当然です。私はレイヴンの友人ですから!」

 

 この男の状況も考えない発言も時には、頼りになるのだなと思いながら、彼らはハンガーに並んだLCの前に立っていた。

 



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依頼26件目:声

 惑星封鎖機構。あらゆる惑星の統括と管理を行っている組織であるが全容を知っている者はいない。

 企業を上回る技術力と資源を何処から調達しているのか。誰が組織の方針を決めているか等、末端構成員であるS-1317には知る術もなかった。知る必要もないと考えていた。

 

「S-1317。貴方がルビコン3に派遣されることが決まりました。全ての惑星に秩序と平和を」

 

 無機質なシステム音声が告げる。ルビコン3。新資源であるコーラルが発見され、採掘と調査が行われていたが『アイビスの火』という周辺星系を巻き込む大災害を引き起こした。故に、惑星の管理は至急の課題であった。

 

「これだけの災禍を引き起こしたというのに、懲りない企業どもめ! やはり、我々が導かねばならない!」

 

 作戦に参加する者達に共通して見られたのは、この期に及んでコーラルを求める者達への侮蔑と嘲笑。そして、彼らから秩序を守り通すということに対する士気の高さだった。

 彼らに便乗する一方、S-1317は何処か空虚な物も感じていた。守り通した秩序を誰が享受しているのか、守れた人間は誰だったのか。

 

「(俺の守りたい物は)」

 

~~

 

「もう駄目だ! このままでは撃破される! 準備は不十分だが、燃料の輸送の開始を……」

「させんよ」

 

 スッラの放ったバズーカが直撃し、輸送機が爆散すると同時に積み込もうとしていたタンクにも誘爆した。コーラル粒子に引火し、パイロットは脱出する間もなく紅蓮の爆発に吞み込まれた。レイヴンが叫ぶ。

 

「そんなの捨てて、早く逃げて!」

「い、嫌だ! 任務に失敗したら使って貰えなくなる……。クビにされたら、生きていけなくなる!!」

 

 彼女が普段交流している強化人間達と違って、輸送機のパイロットは替えの利く存在。彼らが使命を遂行せんとするのは忠誠心からではなく、文字通り命が掛かっているからだった。

 

「見上げた愛社精神だ」

「やめろ!」

『レイヴン。ミサイル防衛ミッションの時よりも、スッラ機の機動力が上がっています』

 

 レイヴンは鬼気迫る勢いでスッラに接近するが、彼女の闘志を嘲笑う様にして軽くいなすだけだった。そして、放たれた砲弾は、また1機。コーラル粒子によって引き起こされた爆発の中に呑み込まれて行く。

 

「痛ぅ……」

『レイヴン?』

 

 尋常ではない様子だった。殆ど、攻撃されていないにも関わらずバイタルが乱高下している。こんな異常はエアでさえ見たことがない。

 戦場においても笑いながら待っている彼女に、一体何が起きているのか? そんな、彼女の疑問に応える様に返事があった。

 

『彼女には多くの声が聞こえているのですよ。エア』

 

 一瞬、エアは己の正気を疑った。だが、波長は疑う必要もない程の確信があった。自分以外のCパルス変異波形がいる。

 

『あなたは一体?』

『既に知っているはずです。サムから聞いていませんか?』

 

 かつて、洋上都市で出会ったレイヴン以外に自分の認識が出来る存在。ルビコン解放戦線の指導者である男のファーストネームを上げる彼女の名は。

 

『セリア?』

『はい。こんな場所でも無ければ、貴方と話してみたかったのですが』

 

 戦場ではレイヴンがスッラに追いすがろうとしているが、彼は一方的に翻弄していた。オキーフの援護を期待してみれば、彼は別の機体の相手をさせられていた。

 

~~

 

「オキーフ。防衛に名乗り出たのは、私を始末する為ですか?」

「……誤魔化す気も無いようだな」

 

 女性パイロットが乗っていた機体は、コアと腕パーツは『MIND ALPHA』であったが、頭部と脚部のパーツは違っていた。

 旧世紀における宇宙服を象った様な頭部と、獣の四肢の様な逆関節の脚部は、現代における人間文明から距離を取っているかのような造詣だった。手にしている武器は、先程スッラが使っていた規格外の威力を持つマルチENライフル『44-142 KRSV』だった。

 

「オキーフ隊長! 我々も援護します!」

 

 彼女を脅威と認識したLC達が、空中から取り囲みレーザーライフルを放とうとした刹那、影が覆い被さっていた。

 

「貴方達には過ぎた玩具です」

 

 脚部の先端から見目に相応しい爪状のブレード飛び出し、LCのコックピットを貫いた。機体の損傷が少ないにも関わらず、落ちて行く。

 他のパイロット達の思考に産まれた隙を逃さず、マルチENライフルを構えた彼女に果敢に切りかかるLCが1機。

 

「貴様ら。何が目的だ!」

 

 怒りに声を震わせるのはS-1317だった。特に訓練も受けていないハズのペイターもLCに乗って随伴していた。

 

「ほぅ、惑星封鎖機構も調教師に飼われているのですか」

「答えろ!」

「こういう時にはなんていうんでしたっけ。あぁ、そうでした。まぁまぁ、焦らないで下さいよ」

 

 大衆向けの娯楽動画にも使われている尺稼ぎのフレーズを吐いている彼女は、この混沌を楽しんでいる様にも思えた。1317の眉間に皺が寄る中、僚機が返事をしていた。

 

「勿体ぶらずに教えて下さいよ!」

「お前の安定感は、こう。凄いな」

 

 彼女が口走った挑発に対応するフレーズを口走るペイターの胆力に、オキーフはただ感心していた。挑発返しなのか、素なのかは判断し辛い所ではあった。

 

「貴方達にコーラルは過ぎた物。惑星封鎖機構の一員である貴方はよく御存知でしょう?」

「否定はしない。だからと言って、お前達が勝手に処分して良い物でも無ければ、裁きを下して良い筈もない!」

 

 1317を始めとして多数のLCが彼女に向けての攻撃を放つが、まるで全ての攻撃を察しているかのように当たらない。

 

「行きなさい」

 

 肩部の武装からオービットが射出され、それぞれが独立して動きレーザーとプラズマビームによる照射を行う。自動管理されている物とは思えない程の軌道を描き、乗り慣れていないLCでは性能を活かしきれないまま撃墜されて行く。

 

「この動き。まるで、我々に合わせている様な……!」

「まぁ、コイツなら出来るだろうな」

「オキーフ。何か知っているのか?」

 

 1317が問い質すが、返事は無かった。とは言え、彼女は迎撃に来た者達の相手に掛かりっきりであり、輸送機やコーラルの破壊に関してはスッラが引き受けていた。

 

~~

 

「こっちを見ろ!!」

「ウォルターの猟犬が、今はまるで室内犬のようだな」

 

 輸送機が撃破され、コーラルの爆発が起きる度に命が失われて行く。その犠牲に呼応するかのように、レイヴンは威勢を増していた。

 だが、スッラは一向に交戦に移ろうとしない。適度に距離を取りながら、猛攻を避けつつ同時に輸送機に攻撃を仕掛けるマルチタスクを平気で行っている。

 

『セリア! 何故、この様な殺戮に手を貸すのですか!?』

 

 エアは訴えた。これは互いに平等な立場での命の遣り取りではない。一方的な虐殺であり、自分達の同胞とも言えるコーラルを焼き払う行為は非道と言う外ない。

 

『貴方こそ。どうして、その娘を戦場に追い立てるのですか? 彼女が泣いていることにも気付かないのですか?』

 

 コックピット内のカメラを見る。涙を流している様には見えなかったが、表情はいつもと比べ物にならない程に凄絶な物だった。

 悲嘆と怒りが綯い交ぜになった。普段、コーラルを吹かしてヘラヘラしている彼女の物とは思えなかった。

 

『エア。どうして、年端も行かぬ少女が歴戦の傭兵と渡り合えているのか。不自然に思ったことは無いのですか?』

 

 セリアに指摘され、エアにとっての常識が一瞬で違和感へと変貌した。

 あまりに周りの者達が当たり前の様に思い、日常として接していた故に気付かなかった。何故、こんな少女がベテランパイロット達と渡り合えているのかと。

 

『何を、知っているんですか?』

『彼女。よく、コーラルを吸っていますよね。とても馴染みやすい筈です。少しだけ、彼女の景色を覗いてみたらどうですか?』

 

 意識の同調。など、出来るはずもないと思っていたが、彼女は強化人間であり脳内の一部にはコーラルが焼き付いている。触れようとすら思わなかった部分に、エアは少しだけ手を伸ばした。声が聞こえた。

 

【どうだ、猟犬。考えが読めない相手と戦うのは辛いか?】

【レイヴンなんだろ!? 助けてくれ! 俺はまだしにたk】

【俺が次に何をするか知りたくてウズウズしている様だな。お前の反応速度と併せれば、恐らくG1やフロイトにすら肉薄するだろうな】

【ペイター! 無理をするな! 幾ら、お前が強化人間でも初搭乗なんだ。操作系統もACとは全く違う!】

【うっうっ。LCの乗り心地。翼を授かったかのようだ!!】

【だが、俺もお前の思考は読めない。だから、ここから先はお互いの腕と経験だけが物を言う】

 

 情報の奔流だった。この戦場に居る者達全員の声が聞こえている。肉声のみならず、思考領域だけに浮かび上がる物も含めて。

 彼女の舞う様な動きや対人戦における優位に立てる理由を理解した。彼女には声が聞こえていたのだ。自分だけではなく、周囲の者達の思考も含めて。

 

『これは』

『情報導体を吸引しているんです。強化人間に施された処置と併せて考えれば、彼女の感覚は身体だけに収まっていないハズです』

 

 誰だ。誰が彼女をこんな風にした。と、考えれば思いつく人間など1人しかいない。スッラともレイヴンとも関係のある人間。

 

『ハンドラー・ウォルター……!!』

『エア。手を引きなさい。それが私達の未来の為よ』

 

 セリアの提案に頷いた所で、戦いが止むはずもない。激しさと犠牲を増すばかりの戦いは加速していくばかりだった。

 



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依頼27件目:ペイター「翼を授ける!!」

 うぉおおおおおお!!! 強武器たちが御仕置されたぁあああああああ!!


 グリッド086。RaDの根城であり、現状の打開の為にオーバードレールキャノンの製造が行われている場所に、ブルートゥは足を運んでいた。

 ドーザー達に慕われているカーラを裏切った所業が許される訳もなく、ラミーを始めとした血の気の多い住民と一触即発の状況に陥っていた。

 

「お久しぶりですね。インビンシブル・ラミー」

「テメェ、どの面下げて来やがった!」

「待ちな。ラミー!」

 

 今にも、殴りかかりそうなラミーを制止したのはカーラだった。ラミーが腕を降ろした直後、駆け出した彼女はジャンク品で作ったパワーフィストでブルートゥを殴った。

 鈍い音が響き、周囲のドーザー達も息を呑む。今の一撃で頬骨が砕け、歯も欠けたが、彼はいつもの調子で言った。

 

「カーラ。ただいま、帰って来ました」

「おかえりなさいだよ。クソ野郎」

 

 彼が犯した罪に対してあまりに軽い懲罰であったが、カーラが再び彼を迎え入れる言葉を発した以上、他のドーザー達が口出しすることはなかった。

 皆が息を呑んでいる中、ラミーはポケットに入れているRaDでの配布端末が震えていることに気付いた。相手はチャティだった。

 

「ラミー。どうして、ボスはこの様なことを?」

「そりゃ、お前。ケジメって奴だ。悪いことをしたのに、何のお咎めも無かったら、示しがつかねぇからな」

 

 普段は要領を得ないことを発するラミーでも、集団における最低限必要な物は本能的に把握していた。それは、チャティも十分に納得できる説明だった

 

「明文化されていないが、法律の様な物であるということか」

「そんな固ェモンじゃないとは思うが」

 

 もっと小規模に適応される『ルール』位な物だろう。本来ならドーザー総出で八つ裂きにしたい衝動に駆られているが、現在。彼が担っている役目もあり、ギリギリ許されていた。

 

「で、古巣を懐かしみに来た訳じゃないだろう? 大方、レールキャノンの様子を見に来たって所か?」

「はい。それと、ミルクトゥースの修理とカスタムをお願いしたいのです」

 

 口中に血が満ちている為、喋り辛そうではあった。彼の機体が、先の多重ダム防衛戦に置いて大破していることはカーラも把握していた。

 

「元々、あの機体は作業用のACだ。今後もビジターを守っていく上では、不便な部分もあるだろうとは思っていたよ」

「では……」

「支払いはウォルターの所に振り込まれる、アンタの報酬から引き落として行く。付いて来な」

 

 歩き慣れたグリッド086のレールの上を進んで行く。施設全体が物資の輸送が快適に行える造りをしており、カーラは建物の機能を遺憾なく発揮させていた。

 進んで行った先にあったのは、彼女の研究室(ラボ)だった。オーバードレールキャノンはほぼ完成しており、他にも開発品が雑多に並んでいる中。異様な雰囲気を放つ物が二つ。

 

「こちらは、新たなミルクトゥースの箱舟になるのでしょうか?」

「こっちは副産物だね。本命はこっちだ」

 

 ACと思しきフレームが収納されているハンガーの隣。一見すると作業用であり、同時に武器としても使えるAC用のチェーンソーを製造しているのかと思ったが、大型のチェーンソー刃が6枚も並べられている。

 

「グリッドの増設にでも使うのですか?」

「いや。オーバードレールキャノンがアイスワーム用の武器だとしたら、こっちはあのバカでかいミールワーム用の武器。アーキバスの連中はルビコニアンデスワームとか言っていたが」

 

 6基のチェーンソーは、やがて一つのユニットに取り付けられていく。友人の変わらぬ発想力に、ブルートゥは微笑んでいた。

 

「この様な素敵なサプライズまでご用意してくれているとは。素敵だ…」

「そうかい。じゃあ、コイツの使用はアンタに任せるよ」

「勿論です。ご友人の力になれるなら、とても嬉しい」

 

 ぶっきらぼうに言い放つと、カーラはこれらの品についての輸送準備をブルートゥに手伝わせている中、一連の流れを見ていたチャティは考えていた。

 

「(ボス。その兵装はあまりに安全性と継戦性を欠いている。起動させれば、使用者は命の危険に晒されることになる。これも、ケジメの一つなのか?)」

 

~~

 

「よし! 1機脱出出来ました!」

 

 破壊の暴風を潜り抜けた輸送機が作戦領域から抜け出した。スッラもレイヴンを撒き切れなくなっている所に、アーキバスからの通信が入って来たのだ。

 

「レイヴンも居るのです。防衛戦力がこれだけ揃っているのですから、小出しにするより、一斉に脱出を目指した方が生存確率も上がります」

 

 全てを見下すかの様な声色を含んだ主はV.Ⅱスネイルだった。冷酷に聞こえるが、合理的ではあった。

 レイヴンと言う傭兵に追いすがられていることを考えれば、スッラも輸送機に割ける余裕が減っている。この状況下で、護衛機が一斉に脱出を計れば全てに対処するのは困難を極めるだろう。……確実に犠牲が出る。という点を顧みなければ、の話ではあるが。

 

「そうですね。後、4機。作戦領域を通過できれば、コーラルの運用に関する分は足ります。脱出できた者には、相応の報酬を用意します」

 

 既に雇用や生活と言った物で鞭打ちをしている中、生存確率が僅かにでも上がる可能性と報酬をチラつかされれば、輸送機のパイロット達も動かない訳にはいかなかった。

 

【やってやるぞ! レイヴンもなんとか、追いすがっている。他の奴が犠牲になっても俺だけは助かるんだ!】

【成功すりゃ、弟達を別の惑星に行かせてやれる。もう、ひもじい思いをさせなくて済むんだ】

【生きて、女を買って! コーラル買って! 好き放題やるんだ!】

 

 輸送物資であるコーラルの誘爆を避ける為に間隔を取りながら、彼らは一斉に発進した。これにはスッラも感心したような声を上げた。

 

「ほぅ、アーキバスの作戦部に優秀な奴がいるようだな。現場にいる人間よりも、よっぽど人を生かす方法を知っているらしい。おまけに、前回のミサイル防衛の時と違って誘爆の可能性もあるから盾にする訳にも行かんか」

「落ちろ!!」

 

 既に会話をする気も無いのか、レイヴンはスッラのエンタングルに攻撃を仕掛けていた。

 

「ケイトの方も輸送機の破壊は難しそうだ。セリア、どうにかしろ」

『お任せください。既に手は打っています』

 

 ケイトと名乗る逆関節のACもペイターや1317が駆るLC達とオキーフによる包囲で手が回らなくなっていた。輸送機が2機、3機、4機と次々と脱出に成功していく。

 

【やった! 脱出できた! 流石、レイヴンだ!】

【天は俺達のことを見捨てていなかった! 帰ろう! そして、もうこんな会社は辞めて、木星で生きて行くんだ】

【金! 女! コーラル!!】

 

 脱出した者達の安堵と興奮が混じった喜悦が、彼女の耳に届いて来る。支柱の中にほんの僅かな達成感を見出した所で、燃料基地を激しい振動が襲った。

 

『レイヴン! 巨大反応が近づいています。これは、宇宙港でも見た……!』

『エア。帰ったら、サムに伝えておいてください』

 

 エアの悲鳴とセリアの穏やかな声が何を意味するか、レイヴンは理解した。

 雪に覆われた地表を突き破り現れたのは、ルビコンにおいてなじみの深い食糧であり、コーラルで幾らでも肥大化する生物。アーキバスではルビコニアンデスワームと呼ばれている、巨大なミールワームだった。

 

「ミ”ィ”イ”イ”イ”イ”イ”!!」

 

 巨大に似合わぬ俊敏さで、ルビコニアンデスワームは輸送機ごと貯蔵タンクに収められていたコーラルを食らっていた。

 輸送機が食い散らかされた後は、基地内に残った物を食い付かさんと、巨大な体躯を這わせて周囲の雪や残骸を呑み込んでいた。恐らく、散ったコーラルも摂取しているのだろう。

 

『貴方のポイ捨てはロクでもないことばかり引き起こすのだから、拾ったものは大事にしなさい。と』

「ケイト! 作戦は達した! 撤退する!」

「了解です」

 

 基地内に残ったコーラルを根こそぎ排除したと思ったのか、スッラ達は急いで引き上げていた。レイヴンにも1317から通信が入って来た。

 

「レイヴン! 引くぞ! 任務失敗だ! 今の俺達では、あの化け物に対処できない!」

「……分かった!」

 

 行動が出来る者達は一目散に基地を捨てて去って行く。暫く、ルビコニアンデスワームが暴れた後は建物の一つもマトモな形として残ってはいなかった。

 

~~

 

「任務失敗か。気にするな。スッラに加えて、この予想外の乱入者だ。任務が遂行できる訳がない。621、後の始末は俺がしておく。今は休め」

「……うん」

 

 トボトボと自室に戻って行く621は誰もが見たことがない程、落ち込んでいた。そして、ハンガーの方にはLCが2機追加されていた。

 

「収穫が無いわけではない。稼働できるLCを2機持って帰って来れた。これで、俺もアイスワーム戦に出撃できる」

 

 今まで、後方に居たS-1317も前線に出れるようになったことは大きい。カーラからもオーバードレールキャノンの修理が終わった報告も入り、2体の怪物を相手にする総力戦も近いと思われた。

 

「奴らを排除しなければ、俺達は目的地にたどり着けない。近々、企業の合同作戦に呼ばれるだろう。ペイター、それまで習熟訓練に励め」

「分かりました!」

 

 レイヴンの落ち込みぶりとは打って変わって、ペイターはややテンションが高かった。よっぽど、LCに乗れたことが嬉しいらしい。

 そして、もしも表情や肉体を持っているとすれば、一番表情を険しくしていたのは彼女、エアだっただろう。

 

『(ウォルター。貴方は一体何を考えて、彼女を)』

 

 先の戦いでセリアに言われたことが脳裏にこびり付いていた。年端も行かぬ少女を戦場に立たせるべきではない。と……あまりに真っ当な意見だからこそ、今までのウォルターを見て来た彼女は納得が出来なかった。

 

『(ですが、彼が善性よりの人間だということは分かっています。だとしたら、どうして? そこまでする目的とは一体?)』

 

 この拠点において、自分の声が届く人間はあまりに少ない。心配になりながら、レイヴンと共に部屋に戻ると、彼女は自室の水パイプにコーラルを入れようとして……エアが口出しをした。

 

『レイヴン。今日はもう寝ましょう。折角のコーラルも疲れた状態では楽しめませんよ?』

「……あい」

 

 彼女は全身をベッドに投げ出して、間もなく寝息を立て始めた。室内には吸おうとしていたコーラルの紅い煙が漂っていた。

 



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依頼28件目:ウォルターと言う男

 もうちょっとだけシリアス続けさせてな><


 コーラル輸送機の護衛に失敗したレイヴンが寝静まった頃、エアはとある人物の帰りを待ち侘びていた。そして、今まさに件の人物が帰投した。

 

「ウォルター。カーラがオーバードレールキャノンを完成させました。それと、私にルビコニアンデスワーム用の対策機もプレゼントしてくれました」

「仕事が早いな。見慣れない装備だが、試運転の方は?」

「兵装の関係上、シミュレーターでしか動かせませんでしたが、ご友人が開発した物です。本番でも上手く行きますよ」

 

 ウォルターは平静としているが、ブルートゥの頬は腫れ上がって顔面のバランスが若干崩れていた。RaDから持ち帰って来たACと特殊兵装をハンガーに格納したのを見届けて、エアは声を掛けた。

 

『ブルートゥ。少し、話したいことがあるのですが。よろしいでしょうか?』

「おや、ご友人。貴方だけが活動しているのは珍しい」

 

 現在、この拠点でエアと言う存在を認識できるのは621とブルートゥだけだった。マトモな会話が出来るかは不安であったが、少なくとも反応や返事は出来ていた。

 

「ブルートゥ。誰と話している?」

「そうですか。ウォルターにはご友人が見えないのですね」

『はい。ですから、私が先の作戦で知ったことを伝えて欲しいのです。……それと、ハンドラー・ウォルターに聞きたいことがあります』

「お安い御用です」

 

 そして、ブルートゥの口から先の燃料基地での作戦の顛末とエアだけが接触できた存在についての話をした。

 最初は、妄言の類かと疑っていたウォルターであったが、あの場に居なかったハズの彼が仔細を話していること。スッラにも似た様な存在が付いているということは、聞き流せる物では無かった。

 

「そうか。時折、621の話に上がる『エア』という存在は確かにいるのだな」

「えぇ、ご友人はいつも傍で見守って下さっています」

 

 俄かに信じがたい話ではあるが、ウォルターは暫し考えていた。

 今までの作戦を思い返してみれば、621の動き方は明らかに1人だけの物では無かった。協力者でもいるかの様な対応力を伴っていた。

 

「今も、ソイツは居るのか? 居るとすれば、いつから居た?」

『ウォッチポイント・デルタを襲撃した時。惑星封鎖機構の機体『バルテウス』と戦った時から、レイヴンと共に在りました。だから、貴方に聞きたいことがあります。どうして、彼女を戦わせているのですか?』

 

 誰もが当たり前の様に思っていたから疑わなかったが、セリアに指摘され時からエアの中で疑念は膨れ上がっていた。

 どうして、こんな少女を戦わせているのかと。普段、コーラルを吸引しているのも戦いへの恐怖を紛らわす為ではないのかと。

 

「知って、どうするつもりだ?」

『ウォルター。貴方が、自らの目的の為に彼女を無理矢理戦わせているとすれば、私にも考えがあります』

 

 このルビコン内に逃げる場所は無いにしても、少なくともウォルターの手から引き剥がすことは出来る。頼りなくはあるが、身を寄せる場所についても心当たりはあった。

 今は、アイスワームとルビコニアンデスワームとの対決を控えた時期であり、レイヴンの離脱は相当な痛手となる。故に、彼が選んだ選択はと言えば。

 

「……分かった。俺と621がどの様に、このルビコンに来たかを話そう。お前が、納得できるかどうかは別だが」

 

~~

 

「ウォルター。丁度良い在庫がある」

 

 ルビコン3への切符を手に入れる為に、猟犬(ハウンズ)達を犠牲にしたウォルターが新たな戦力を求めに来た時に提供されたのが『C4-621』だった。

 今まで、提供されて来た強化人間と違い、年端もいかぬ少女を差し出されたことに、ウォルターは不快感を顕にした。

 

「面白くない冗談だ」

「強化人間としての機能には問題はない。お前以外に渡したら慰み物になる未来しかないからな」

 

 彼女の未発達な肢体に劣情を催す輩は幾らでもいるだろう。先程、ウォルターが不快感を示した際にも男は安堵の表情を見せていた。

 だが、当人は苦い顔をしていた。猟犬(ハウンズ)達を犠牲にしたばかりの自分が、彼女の命を預かる資格があるのかと。

 

「大丈夫」

「……?」

「コイツは声がよく聞こえるらしい。直接、口に出していない物も含めて」

 

 今まで幾人もの強化人間を引き取って来たが、その様な能力を持った者は見たことがない。相手の声……口に出していない物も含めるとすれば、それは思考すらも読めることになる。

 ACでの戦闘のみならず、交渉の場においても相当に優位に働く能力ではあるが、担い手は少女だ。銃や操縦桿を握るより、ペンやバッグを握っている方が似合う様な小さく華奢な手を見て、ウォルターは一つの決意をした。

 彼女を怯えさせまいと。あるいは、彼女を見下すことも見上げることも無く、視線を合わせて口を開いた。

 

「『C4-621』。俺はお前の保護者ではない。お前に施しを与える為に引き取る訳ではない。その代わり、俺はお前を1人の対等な人間として見る。隷従をしなくても良いし、卑屈にならなくても良い。俺と一緒に来てくれ」

 

 そう言って、手を差し出した。親と子、それ以上に年齢の離れた相手に対してウォルターは見下すことも、憐れむ真似もしなかった。目の前に居る少女を一人の人間として見ていた。

 人権を尊重する、とは意味が違う。庇護されて然るべき人種に、1人の人間としての意味と責任を与えようとしている。猶予期間(モラトリアム)を経ない、バカげた提案に対して、彼女は頷いた。

 

「一緒に行く」

 

 ウォルターの手を取った。彼女に対しては美辞麗句も建前も通用しないということはよく分かっていただけに、闇医者の男は餞別にパイプを渡した。

 

「これは?」

「ソイツの唯一の持ち物さ。コーラルを吸うのが好きなんだよ」

 

 パイプを受け取ると、少女は慣れた手つきで吸い始めた。プハーと赤い煙を吐いている姿には、先程までの神妙さは見当たらなかった。

 

「よろしくね!」

 

~~

 

「ルビコンに来てからについては、作戦記録を読んで貰えれば分かる。もしも、621がルビコン解放戦線やRaD。あるいは企業に身を寄せると言うのなら、それでもいい。俺は止めない」

 

 嘘をついては居なかった。少女に背負わせる物としては重過ぎるが、彼女とウォルターの立場を考えれば、ゆっくりと積み上げていく余裕も無かったのだろう。一蓮托生と言う言葉が思い浮かんだ。

 

『レイヴンは少女ではなく、1人の人間だと?』

「そうだ。依頼を果たすだけの能力がある。自分で行動や指針を決めるだけの考えがある。アイツは世話を焼かれるだけの娘ではない。歴とした独立傭兵だ」

「我々からしても、ACに乗る以上。大人子供関係はありませんから」

 

 共にいる時間は短いが、エアはウォルターと言う男を誤解しそうになっていた。

 セリアの言葉は常識と倫理観に満ちた物であったが、そもそもレイヴン達は常識や倫理観に保護される場所に居ない。

 

「だが、全てが終われば、アイツには人並の生活を送って欲しい。……俺に、もしものことがあった時は、奴のことを頼む」

 

 対等な関係を結んでいると言いながら、損益だけの関係に収まらずに溢れているのは、ウォルターと言う男が持つ善性の部分だろう。

 彼はブルートゥに端末を渡した。画面には621の預金口座と残高が表示されていた。ミッションで得られた報酬分から、予め避けておいた分だろう。

 

『ウォルター。これは預かっておきます。だから、貴方も必ず621と対等な関係を歩み続けて欲しい。これからも』

「……そうだな」

 

 曖昧に頷いた。それから間もなくのことである。カーラからの通達により、アイスワームとルビコニアンデスワームの討伐に対する打診が入って来たのは。

 



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依頼29件目:エゴサーの王子

オールマインドTSイグアス概念……どういうことだ(堂島の龍風


 アイスワームおよびルビコニアンデスワーム討伐作戦。

 コーラルを目指す企業やウォルターにとっての障害ともなる脅威の排除に関しては、一時的とは言え互いの手を取る必要があった。

 だが、ルビコン内におけるコーラル競争でアーキバスに後れを取っているベイラムとしては、何とかして出し抜きたい所だった。

 

「作戦の指揮をアーキバスに渡せ?」

「我々は討伐後も見据えて動かねばならない。ここで奴らに指導権をくれてやる代りに、強襲艦隊については折半することになった」

 

 ミシガンは上層部からの通告を聞いて、眉間に青筋を浮かべていた。彼らは現場所か、競争相手すら見えていない。

 

「連中に指揮権を渡すということは、優先的にこちらが使い潰されることになるんだぞ!? 人的資源の損失が直ぐに補填出来るとでも思っているのか!?」

「その点は心配ない。先日、『SG-027 ZIMMERMAN』の構造の簡易化に成功した。従来の物より性能は落ちるが、生産性は飛躍的に上がる」

 

 モニタに表示されたカタログスペック的には『威力』や『衝撃値』を始めとして、一回り性能は落ちていたが、コスト面では二回りほど下がっていた。如何に、この武器の設計思想が優れているかということの証左とはなった。

 

「素晴らしい! これで、『ZIMMERMAN』の配備が進みます!」

 

 歓喜の声を上げたのは、ミシガンに同行していたG6のレッドだった。

 自分達に期待通りの称賛を送る彼の存在に気を良くしたのか、通信越しから笑い声が聞こえて来た

 

「惑星封鎖機構から壁を奪還した件と言い、昨今の君の活躍は目覚ましい。賞与については色を付けておこう」

「ありがとうございます!」

「うむ、精進したまえ。ミシガン、彼の直向きさは素晴らしい」

 

 レッドを褒め称える様に見えて、抗議してばかりの自分を揶揄しているのだろう。それでも、声を上げねばならなかった。

 

「幾ら『ZIMMERMAN』を生産した所で、それらを使う兵士がいなければ何の意味も無い! もう一度考え直せ! 討伐作戦の指揮は何としてもベイラムが主導で行うべきだ!!」

「ミシガン、お前は大局を見据えるべきだ。この戦いが終われば、再びアーキバスと競争に入る。その際、強襲艦隊と言う足があるか無いかで趨勢は大きく変わって来る。連中にこれ以上、先んじられては堪らないからな」

 

 手を取り合っている。とは言え、一時的な物に過ぎない。作戦が完了すれば、競争相手に戻るのだから少しでも手札は増やしておきたいのだろう。

 だが、それは向こうも一緒だ。強襲艦隊を折半した。ということは、逆に言えば指揮権には折半するだけの価値があると言うことだ。アーキバスはこの重要性に気付いている

 

「今回の作戦は、アーキバスだけではなく、オーバードレールキャノンの開発元であるRaDと最強の独立傭兵レイヴンを抱えるハンドラー・ウォルターとも共同で行う。くれぐれも、我社の威信を損ねることの無いようにな」

「……ハンドラー・ウォルター。ということは、これを機に奴らの下に居るナイルを取り戻すつもりはないのか?」

「交渉中だ。だが、今回の様な事態があった時、ベイラムの人間が居ればことは進めやすい。彼の扱いも丁重な物だ。無理に急いて、この合同作戦で亀裂を入れる訳にもいくまい」

 

 交渉を進めているという話など、ウォルターから一度も聞いたことがない。

 自分の参謀として口出しをするベイラムの古株を追いやり、同時に象徴と化しているレイヴン達に恩を売れる。ともなれば、取り戻す必然性が見当たらない。

 これ以上の会話をするつもりはないと言わんばかりに通信が切られた。ミシガンは拳を固く握りしめていた。

 

「G6! 連中に媚びを売る様な真似をするな! 現場との乖離が進む!」

「ハッ!」

 

 切れのいい返事はしていたが、不承不承と言った様子が伝わって来た。入隊当初の畏敬に満ちた眼差しは存在していなかった。

 

~~

 

「621。アイスワームとルビコニアンデスワームの討伐作戦についてだが、こればっかりは現地での話し合いで行う」

「なんで?」

 

 いつも通りの元気を取り戻した彼女は、コーラルを塗したミールワームを咥えていた。尻の部分から息を吹き込むと、ミールワームの口吻側から赤い煙がポフっと吐き出された。

 

「スッラ達のことがある。奴らは、企業や俺達の活動を妨害している。コーラルを入手されると都合が悪いのだろう」

「通信が傍受される可能性を考えてのことか」

 

 ナイルも頷いた。通信を使えば何処からか情報が漏れる可能性がある。

 今回の作戦は、潰されたら不味い物が多数存在する。例えば、現場に着いた後でオーバードレールキャノンが破壊されれば、作戦の遂行は不可能となる。

 それだけではなく、カーラから渡されたというルビコニアンデスワーム用の兵器も取り扱いに慎重さを求められる。

 

「レイヴンを連れて行っても大丈夫なのか? 今後のことを考えて、危害を加えられる可能性もあるんじゃ?」

 

 1317の心配も最もだった。味方に付けば心強い存在だとしても、この作戦が終われば再び敵対する可能性がある。ならば、予め葬っておくと言う選択は十分に考えられた。

 

「もしくは、作戦を記したペーパーをアナログに配りに行く。という方法でもよいのでは?」

「駄目だ。それでは作戦の解釈に齟齬が発生する可能性がある」

 

 ペイターの意見もアイデアとしては出たのだろうが、作戦の解釈に齟齬が発生すると言うのは非常に不味い。やはり、これらを防ぐには会合する必要があった。となれば、レイヴンの安全確保は必須だった。だが、ペイターは眉間に皺を寄せたままだった。

 

「これは失礼な質問になると思うのだが。レイヴンは作戦を理解できるのか?」

「問題ない。仮に621が理解できなくとも、傍に理解者がいる。ブルートゥ、エアは何と言っている?」

『はい、ウォルター。問題ありません』

「問題ないとのことです。ご友人の肯定が心強い限りです」

 

 エアと言う名前を出されて、事情を知らない者達は周囲を見回したが、思い当る様な人間の姿は見当たらない。

 

「その、エアと言う者は何処にいるんだ?」

「お前達の目には見えないが確実にいる。これは俺も存在を確認している。どうやら、ブルートゥや621の様に旧型の強化人間にしか感知できない存在と言うことらしい」

 

ナイルと1317が感知できないのは当然として、強化人間であるペイターも最新式の世代なので、やはり彼も認知は出来ていなかった。

 

「奇妙な存在も居る者です。エア、ですから彼女? になるんですかね。ちなみに私達のことをどう思っているんですか?」

 

 これは、皆も多少なりとも気になった。姿は見えないが621の傍にいるとして、彼女には自分達がどの様に見えているのだろうかと。

 

『ナイルはウォルターに比肩する思慮深さが見えます。この集団には欠かせない存在だと考えています』

「ふむ、そう言われると面映ゆいな」

 

 現状、外様としては尤も付き合いが長い自分がこの様に評価されていると知れば、悪い気もしなかった。続いて、1317も興味深そうにしていたので返事をした。

 

『S-1317は惑星封鎖機構員として秩序立った存在です。敵対している組織の一員ではありましたが、今はレイヴンのことを思い遣ってくれる良き友人だと考えております』

 

 返答に困ったのか、S-1317は気恥ずかしそうに視線を逸らした。ここまで立て続けに良い評価が並んだので、ペイターも胸を張っていた。

 

「して。エア殿、私の評価は?」

『非常に自己中心的な考えの持ち主で共感性が乏しく、パイロットとしては素晴らしいですが、人間性はお世辞にも褒められる物では無いかと』

「この野郎!! 面貸せ!!」

「あわあわ」

 

 エアの所在が分からなかった為、621をガクガクし始めた所で全員に止められた。……そう言う所だぞ、と言葉にはしなかった物の皆が思っていた。

 

「人は図星であればある程怒りが抑えられなくなる物です。可哀想なお友達です……」

「じゃあ、コイツの評価はどうなんだ! 私よりも遥かにダメっぽいだろう!」

 

 いよいよ、自分より下の人間を求め始めた時点で色々とアレだったが、ブルートゥに関しての評価は歯切れが悪かった。

 

『彼に関しては、私もよく分からないのです。出会った当初は煩かったのですが、今は穏やかとでも言うのでしょうか……』

「人は寂しくなれば独り言ちることも増えます。今は素敵な友人達に囲まれていますからね。もう、十分なのです」

「私も―」

 

 人間性については言及されなかったが、621と手を取り合って即興のダンスもどきを披露している時点で、エアからの評価も悪くないだろうことは察せられた。

……つまり、自分は彼女の評価ヒエラルキーでは最下層に位置しているということだが。

 

「嘘だ―! 嘘だー!」

「ヴェスパーだけではなくここでも一番下か」

 

 誤解なき様に言うと、そもそもヴェスパー部隊隊長を務める時点で相当なエリートであるが、ペイターには色々と引っ掛かることがあるのか抗議は続けながらも、ウォルター達は作戦会議が行われる会場へと向かっていた。

 



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依頼30件目:人が、人が多い!!

 凄く今更になりますが、感想や高評価ありがとうございます! 皆さんの考察や感想などに一喜一憂しています! 
 そして、誤字報告の方もありがとうございます! 書いている途中気付かないまま投稿していることもあるので、指摘助かります!!


 RaDが秘匿するグリッドにて作戦会議は行われることになった。各勢力、少人数で訪れ、武器や通信機・盗聴器の類を隠し持っていないかも検査された後、ようやく通される。

 ウォルター達が会場に辿り着いた時には、既にアーキバスとベイラムの者達も訪れていた。彼らの姿を見て真っ先に声を上げたのは、G6のレッドだった。

 

「その少女はまさか……」

「『C4-621』。お前達がレイヴンと呼んでいる存在だ」

「やっほー! ラスティ―! イグアス! スウィンバーン!」

 

 レッドには目もくれず、621は3人に手を振っていた。

 ラスティは笑顔のまま手を振り返し、スウィンバーンも遠慮がちに手を振っていた。イグアスは目を見開いていた。

 

「おい。まさか、こんなガキが!?」

「ワンワン」

 

 いつぞやアホ犬呼ばわりされたことを根に持っているのか、彼女は舌をダラーっと出して鳴き真似をしていた。そんな彼女の口をそっと閉じさせたのはラスティ……ではなく、スウィンバーンだった。

 

「人前で舌を出すな。はしたない」

「うん」

「思ったより、スウィンバーン君とも仲が良いようだ」

「この少女が、本当に……?」

 

 この光景を微笑ましく見守っていたのは、V.Ⅴのホーキンスだった。一方、V.Ⅵのメーテルリンクは怪訝な視線を向けていた。

 

「本当だ。彼女が戦友だ。間違える訳もない」

 

 ヴェスパー部隊と和やかな空気が繰り広げられているのを見て、今一つ会話の切り出し方が分からないイグアスは、G3の五花海に脇腹を突かれていた。

 

「ヴォルタの事と言い、何か言うべきことがあるでしょう」

「は? なんで、俺が?」

「そうですか。じゃあ、私の方から声を掛けますね」

 

 かつて、ベイラムの経済圏を混迷に陥れた彼の話術は、人の心に入り込むことを得手としている。彼女の関心が自分に向いた。

 

「貴方は?」

「始めまして。私、レッドガン部隊のG3『五花海』と申します。先日はヴォルタとイグアスがお世話になりました。改めて、お礼申し上げます」

 

 流麗な挨拶を交わし、手を差し出した。621は何の疑いもなく彼の手を握ると、首を傾げた。

 

「どうかされましたか」

「誰かに似ている気がする……」

「ほぅ、それは貴方と私に縁があるということですよ。ちなみにどのお方と似ているのですか?」

 

 彼女がどの様な反応をしようとも、話題を拡げる為の会話パターンを用意していたのだろう。レイヴンの人間関係についても調べており、誰の名前を出されても直ぐに反応できるつもりではいたが。

 

「あ、そうだ! ノーザークだ! ノーザークに似ている!」

「……ハハハ。彼はとても精力的で挑戦家ですからね。私と似通った部分もあるのでしょう」

 

 ラスティとスウィンバーンが笑いを堪え、五花海は冷や汗を流していた。

 このルビコンにおいてノーザークはカスの代名詞でもあり、詐欺師であるという本質的な部分が符合する。と言い当てられたのなら、彼女に対する認識も改めねばならなかった。

 

「ウォルター! G13の嗅覚は相変わらずだな!」

「ミシガン。お前も来ていたのか」

 

 拉致されたG2と身を引いたG4を除けば、レッドガン部隊が勢揃いしていた。対するヴェスパー部隊は、V.Ⅲ以上が誰も出席していなかった。

 

「なんだ。お前らの所は下位ナンバーしか来ていないのか? 人手が足りねぇんだな!」

「生憎、閣下達はお忙しい。斜陽企業の人間ほど暇ではない」

 

 イグアスの挑発に対して、メーテルリンクも同じ様に返した。一触即発の空気を感じ取ったのか、ホーキンスと五花梅が間に入った。

 

「メーテルリンク君。少し落ち着こう。私達は話し合いに来たんだ」

「イグアスも落ち着きなさい。今作戦はアーキバスが指揮を執るのですから、相応の準備と根回しが必要なのでしょう」

 

 暫し、互いに睨み合っていたが共同作戦を行うと言うには余りにも不穏な空気だった。少しでも油断すれば、後ろから撃たれかねない。

 

『レイヴン。本当に、こんな調子で作戦を実施できるのでしょうか?』

「ラスティ―、ラスティ―」

「ご友人。彼と戯れるのは、会議が終わった後です」

「待ち遠しいな。所で、彼は一体?」

「ブルートゥ!」

 

 一方で睨み合いが続く中、ラスティとブルートゥが621を間に挟んで親交を深めているのは何ともシュールな光景でもあった。

 各陣営の会合に当り、様々な反応が噴出している中。それらを収める様に一喝したのはミシガンだった。

 

「ここは懇親会の会場ではない! 俺達は愉快な虫取りに出かける為に集まっているんだ! ウォルター! さっさと本題に入れ!」

「分かった。既にカーラも待機している。先に進むぞ」

 

 色々と思う所はあれど駄弁っている程、暇でもない。改めて会議場所へと足を運ぶと、カーラが待ち受けていた。

 

「これで全員だね。よし、じゃあ早速本題に入らせて貰おうか」

 

 簡素な机と椅子が並んでいるだけの殺風景な場所であったが、一同はカーラから配られたアナログなプリントに目を通していた。

 

「まず、第1の脅威。IA-02、アイスワームの多重コーラル防御壁についての話をしよう」

 

 プライマリシールドとセカンダリシールドの2枚からなる鉄壁。そして、体躯を覆う重装甲。ACの火器ではまるで歯が立たない相手だ。説明を受けた時点で、メーテルリンクが手を挙げた。

 

「これに関しては閣下から言伝を預かっています。プライマリシールドを突破する方法は用意すると」

「ほぅ、どんな手段が?」

「こちらです」

 

 彼女が渡したデータはバックドアやウィルスなどが含まれていないかが確認された後、モニタに表示された。映し出されたのは背部兵装のデータだった。

 

「『VE-60SNA』スタンニードルランチャー。着弾箇所で強力な放電を行い、電気干渉によってコーラル防御壁を無効化する。か。アーキバス先進局は面白い物を作るね。確かに、これならプライマリシールドを無効化出来るね」

 

 俄かにベイラムに緊張が走った。アイスワームにも通じるだけの兵装が開発されたということは、ACやMTにぶち込まれたら一溜りも無い程の兵器を所有しているとアピールされていたからだ。

 

「セカンダリシールドの方は?」

 

 淡々と作戦会議の進行を促す五花海からは、動揺の類は一切感じさせなかった。彼らの腹芸には興味がないのか、カーラも続ける。

 

「ソイツに関してはコイツの出番さ」

 

 モニタに表示されたのは、RaD謹製のオーバードレールキャノンだった。バートラム旧宇宙港の待機電力を回せば威力は足りると言うことらしい。

 

「問題は命中精度だね。この中で射手として自信がある者は?」

「私が出よう。腕に自信はある」

 

 何の迷いもなくラスティが立候補した為、比較的速やかに決まった。……だが、一つだけ問題があるとすれば。

 

「では、スタンニードルランチャーを当てに行くのは誰になるんだ?」

「私がやるー!」

 

 スウィンバーンの質問に対して、レイヴンが即答した。実際、他の者達も彼女が適任だと考えていたらしく、誰も声を上げなかった。

 

「よし、アイスワームの方の段取りは決まった。そして、もう一つの問題だ。このルビコニアンデスワームについてだ」

 

 技研の防衛兵器と肩を並べる、イレギュラーな存在。バカでかいミールワーム。というだけではなく、どういう訳かコーラルを介した攻撃を行える冗談みたいな生命体だった。

 

「こっちはあの化け物みたいな防壁がある訳でもねぇんだろ? だったら、ひたすら攻撃すりゃ良いだろ」

 

 イグアスの提案は乱暴な物だったが、実際にバートラム宇宙港に現れた時も通常兵器が通ることは確認されているので有効手段の様には思えた。

 

「デカいってコトは、それだけ攻撃が致命傷になりにくいんだよ。アンタら、虫に嚙まれた程度で死ぬか?」

「病原菌持ちなら。と言いたいけれど、そう言った話ではないよね」

「いいや、そう言う話さ。アタシらはとびっきりの病原菌を用意したのさ」

 

 ホーキンスはジョークがてらに言ったつもりだったが、カーラの目は本気だった。スッとブルートゥが前に出た。

 

「私が、その病原菌を担当します」

 

 モニタに表示されたのはオーバードレールキャノンとは別の規格外の兵器。汎用性も合理性も捨てて、ただ破砕の一つのみを追求した工具が映し出されていた。

 

「開発コードは『デロリアン』。名前は『グラインドブレード』だ」

 

 6基の大型チェーンソーを回転させながら相手に突っ込んでミンチにするという、文字通り『轢き潰す(グラインド)』ことを目的としている武器だった。ここで皆が抱いた疑問を、ミシガンが口にした。

 

「だが、所詮はACに載せられるサイズだ。あの巨体に効果があるのか?」

「ある。バートラム宇宙港で散乱した奴の破片や、先日。ヨルゲン燃料基地に現れた際のデータを取って確信した。やつの体内には大量のコーラルが循環している。ソイツに火を付けてやるのさ」

 

 コーラルが可燃性であることは皆も知っている通りだが、引火させて爆殺するつもりであるなら、幾つかの疑問が生じる。ウォルターが挙手をした。

 

「質問だ。1つ、この作戦においてグラインドブレードを用いる理由は? 通常火器による引火は望めないのか?」

「通常の火器だと表皮に阻まれる。おっと、同じ個所を攻撃し続けるなんて言わないでくれよ。あんな巨体、少しでも動けば狙いは全てズレるからな。だから、この兵器によって一気にコーラルが循環している中央部分まで突き進んで焼かなきゃならない」

「そうか。では2つ目だ。この作戦を実施するブルートゥの安全はどうなる?」

 

 1つ目の質問よりも更に鋭い形相で問うた。コーラルに引火をさせれば、本人は無事で済むはずがない。ましてや、アレだけの巨体に秘められた含有量はどれ程の物になるか。

 

「その為に、ミルクトゥースはブースターを特殊な物に換えている。計算上なら、この推力があれば逃げ切れるはずだ」

 

あくまで机上の理論でしかない。決死とも言える役割だが、ブルートゥは特段抗議をするつもりも無さそうだった。

 

「ルビコン最大級の脅威を2種同時討伐か。戦友が居たとしても、かつてない程の難易度になりそうだ」

「だけど、これを突破しないとアタシ達はコーラルに辿り着けない。今だけの同盟さ」

「作戦の指揮はアーキバスで行うとして。現場での監督は俺がやろう」

 

 上から指示を飛ばす役と併せて現場を統率する役としては、ミシガンは打って付けだった。

 

「チームの区分けや担当も含めて、もう少し話し合いたいけれど。少し休憩を入れようか。喋り疲れたよ」

 

 卓上に温い水が入った紙コップが置かれた。各員、薬物などの混入がされていないかを確認して、何も入っていないのが分かるや飲み干した。会議は一つ小休止を挟むこととなる。

 



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依頼31件目:ちょっと休憩会。

 今回はあんまり話が進みません。


 会議の合間に挟まれた小休止においても過ごし方はそれぞれだった。

 歓談に興じる者もいれば、先程までの話をまとめていたり……。携帯端末などを持ち込めない以上、ある程度、過ごし方は限られていたが。

 

「ウォルター。ウチのペイターは何か迷惑を掛けていないか?」

「掛けられ続けている。どういう教育をしているんだ」

「ペイター君はやんちゃだからね。彼の能力は、あの性格あっての物だから。矯正は出来ないと思うよ」

 

 ウォルターからの切実な訴えを笑いながら流す辺り、V.Ⅴにペイターが宛がわれていた理由が分かった。

 他者を顧みない。つまり、自分のみしか信じていない為、延々と向上し続けられる性質の持ち主だということは、流石にウォルターとしても理解していた。

 

「帰って来なくて良いと伝えてくれ。奴が居るだけで、閣下の心労が増える」

「メーテル君、流石にそれは酷いよ。彼だってヴェスパーなんだから」

 

 神経質そうな表情で、先程までの会議をアナログでまとめているメーテルリンクが口を挟んだ。生真面目な彼女にとって、この空間は若干居心地が悪かった。

 まず、競争相手であるベイラムの連中が居ることも癇に障ったし、そんな彼らと歓談に興じている同僚にも腹が立った。

 

「まさか、ベイラムの歩く地獄と歓談が出来るとは思わなかった。木星戦争における貴殿の活躍は有名だ。あの戦争以来、ベイラムは中距離にも対応する戦術を組み立てていたはずだが、最近は逆戻りしている様に見受けられるが…」

「ふん。上も下もG13の活躍に目を焼かれている! 戦場にいるのは英雄ではない! 兵士達だ!」

 

 ラスティとミシガンが軍人同士、至極まともな会話を交わしている中。そうじゃない奴らもいた。

 

「G13。どうですか? ベイラムに来れば、毎日コーラルが吸い放題でミールワームも食べ放題。今なら、風水薬房の薬膳までついて来ます!」

「……薬膳?」

「はい。美味しくて、健康になる料理です!」

「やめんか! 交渉をするなら、せめて保護者を通さんか!」

『この人、根は結構善良なのでしょうね』

 

 五花海がノーザークとは比べ物にならない程、手練手管で取り込もうとしているのをスウィンバーンが倫理観と常識のガイダンスで防いでいた。

……最も、ウォルターは621の意思を尊重している為、彼の言動は的外れではあった物の。

 

「ヴォルタはアンタの所で上手くやっているのか?」

「あぁ、皆から可愛がられているよ。軍人上がりってことで、よく働いてくれるしね。この間、アイツ用にACを組んでやった位さ」

「今回の作戦で説明したグラインドブレード。あの武器の作成に関しても、ヴォルタはよく働いていた。真面目で良い奴だ」

 

 RaDに就職した相棒の様子を知りイグアスは安堵していた。所属場所の垣根を越えての会話が盛り上がる中、人込みから外れているレッドに声を掛けに行ったのは、ブルートゥだった。

 

「おや? どうされたのですか?」

「貴様はレイヴンの……」

「はい、彼女のご友人です。何か、お悩みの様でしたので。私でよろしければ話だけでもお聞きしますよ」

 

 慇懃無礼か荒くれ者が多い中で、柔和な人当りであったことも手伝ってか、レッドはボソボソと語り始めた。

 

「自分は、レイヴンと直接会うのを楽しみにしていた。惑星封鎖機構や企業も翻弄してみせる戦士がどの様な英傑かと。何を話そうかと色々と考えてはいた物の、実際に会ってみたら言葉が出なかった」

「どうしてですか?」

「自分には妹がいる。彼女と同じかあるいはそれよりも幼い少女が戦場に身を投じていることがショックだった。……何より、そんな彼女を崇め奉っていた自分が恥ずかしい!」

 

 この場にいる者達の中では最も若輩であり、だからこそ戦場や兵士の常識に染まり切っていない彼の考えは、あまりに常識的だった。ブルートゥは彼が善人であることを察し、優しく語り掛けた。

 

「でしたら、貴方は彼女の信奉者では無く友人になるべきです。大丈夫。既にナイルさんも彼女のご友人なのですから」

「私が、彼女のご友人に?」

「はい。見て下さい、彼女が楽しそうにしているあの様子を」

 

 彼が指差した先では、未だに五花海とスウィンバーンの攻防戦が続いており、その間で621は棒立ちしていた。

 

「どうせアーキバスに行った所で、再教育センターで洗脳されてACのパーツになって終わりですよ! そっちのハゲの非道ぶりは有名ですからね!」

「なんだと! 貴様、閣下を侮辱するか!!」

『誰もV.Ⅱスネイルのことなど言っていないのですが』

「ハゲ閣下!」

 

 一見、上官の侮辱に憤慨する部下の鑑の様な行動であるが、内心でどう思っているかということが露見した瞬間であった。

 特段、何の思慮も無い621は2人が言ったことを単調に繰り返すだけであったが、立派な暴言が出来上がっていた。

 

「見て下さい。戦場で出会えば、銃を取り合い傷つけるしかありませんが、彼女の周りにいる者達は全てご友人になるのです」

「そ、そうか? 自分には言葉の銃撃戦が行われている様に見えるが……」

 

 レッドが疑問符を浮かべていると。会議室のドアがノックされた。もう、来場者は来ないハズだと思っていた一同が構えた所で、チャティの無機質な音声が響いた。

 

「来訪者はアーキバスのV.Ⅱスネイルだ。思ったよりも早く用事が片付いたらしく、急遽来ることにしたそうだ」

「閣下。本日は来られないと……」

「今度の作戦指揮はアーキバスが執りますからね。私も意見を聞く必要はあるでしょう」

 

 メーテルリンクを始め数名は驚いていたが、勘の良い者達は気付いていた。

 敢えて、来るのを遅らせることで、この会議が安全であるかどうかということを確認していたのだろう。ヴェスパー部隊の下位ナンバーを先に送り出すことで、相手の出方も伺っていたのだろう。

 

「スネイル。流石に合同会議位はいつもの遅刻は止めようよ」

「ですから、私は仕事が早く片付いたので急遽来ただけです。それはそれとして、先程は愉快な会話をしていた様ですね」

「べ、ベイラムの人間の品性を疑う話でしたな」

 

 スウィンバーンが冷や汗を流しながら全ての責任を五花海に押し付けようとしていたが、スネイルの視線が彼から外れることはなかった。

 

「ベイラムの人間が何と言おうと気にしません。育ちの悪さと品性の無さが見えるだけですから。そこにいる独立傭兵も同じことです。子供相手に怒るのはあまりに大人げない」

「流石、閣下。心がお広い!」

 

 スウィンバーンがゴマをすっているが、既にヴェスパー部隊の面々には分かっていた。これはもう、切れる為の助走をつけている段階だと。

 

「ですが、スウィンバーン。どうして、貴方はハゲと言われた直後に私への敬称を出したのですか? まさか、万が一にでも私のことをハゲだとか思っていましたか? 貴様も例の展望占いとやらに興じているウチの1人か?」

「い、いえ! これはベイラムの卑劣な誘導尋問です! 再教育センターと言う栄えある役職に就かれているのはスネイル閣下ただ一人!」

「生えだと!? 貴様も私を愚弄するか!!」

 

 もはや何を言っても憤慨ルート以外を選べないのは可哀想だった。流石に気の毒に思ったのか、カーラが場を鎮めるようにして両手を叩いた。

 

「じゃあ、新たな参入者も来た所でもう一度説明しようか。丁度、ベイラムとアーキバスの頭脳が揃っているんだ。また、違う発展が見られるだろうさ」

「必要はありません。作戦の概要なら、予想が付きます。大方、次の議論内容はどういった人員で2体の化け物に当たるか。という、振り分けでしょう?」

 

 アーキバスの頭脳と言わるだけにあって、先程までの会議内容程度は想像が出来ていたらしい。ならば、話も早い。と、カーラは休憩を切り上げた。

 

「じゃあ、どういった人員で当たるかっていう話だが――」

 

 アーキバス、ベイラム、RaD。そして、ハンドラー・ウォルター。このルビコン内におけるブレイン達が一堂に会しての、かつてない規模での作戦が練られようとしていた。

 



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依頼32件目:メーテルリンク「(帰りたい……)」

「まず、IA-02については私達アーキバスが主体で当たります。スタンニードルランチャーが我が社の製品である事。そして、主砲の射手をV.Ⅳが勤めることを考えれば、当然の分担です」

 

 スネイルの提案は筋が通っているかの様に思える。実際、指揮系統は統一された方が混乱なども起こさずに済むのだが、これに対して意見を出したのは五花海だ。

 

「そちらにはG13もいるし、IA-02に関してはある程度のデータも出そろっている。一方、私達が担当になるだろうルビコニアンデスワームの方は未知の要素が多い。不測の事態に備えて、こちらにも幾らか人員を割いて欲しい」

「許可しません。アイスワームの脅威については散々説明されたハズです。ルビコニアンデスワームは未知の生命体であるだけに、フレキシブルな対応が求められます。その点、そちらはG1という現場指揮官がいるのですから適任だとは思ったのですが……」

 

 そこから先は言葉にしなかったが、言外に何を言っているかは直ぐに察せられた。やっぱり、ベイラムでは無理でしょうか? と。

 

「構わん! この人員の割り振りに文句はない!」

「そうだな。ベイラムにもっと摩耗を押し付けるような形になると思っていたが」

 

 指揮権がアーキバスにある。ということは、現場で動くベイラムに負担を押し付けることも出来るのだが、スネイルの提案には特に不条理は見当たらない。ミシガンもウォルターも納得していた。

 

「我々の目的はベイラムを潰すことではなく、コーラルを手に入れることです。仮に貴方達を使い潰したとして、排除し切れなかった片方の脅威が今度は我々に向かって来るのですから」

「人員を効率よく活用することがお互いの為になるってことか。互いに納得できる作戦を提示してくれるんなら、私から言うことは無いよ」

 

 カーラも頷いていた。この理詰めの提案には多数の納得と共に反論を封じる側面もあった。五花海としては少しでも戦力を回して欲しかったのだが、ミシガンも納得している以上、何も言えなかった。

 

「幾度か偵察にも出しましたが、今の所2匹は特定の場所で留まっているそうです。恐らく、ルビコニアンデスワームの方もアイスワームと事を構えるのは得ではないと判断したのでしょう」

「あぁ? 虫けらに知能なんてあるのかよ?」

「少なくとも。相手を考えずに噛みつく狂犬よりは利口でしょうね」

 

 イグアスの疑問を挑発混じりに返しながら、スネイルはモニタに映像を表示させた。アイスワームは待機状態にあり、少し離れた場所でルビコニアンデスワームがモゴモゴと口を動かしながら全身を震えさせていた。

 

「スネイル殿。ルビコニアンデスワームが生物と言うのなら、餓死を狙うと言うのはどうでしょうか? 雪原付近には食料となり得るものが存在していませんし、アレだけの体躯ですから生命活動を維持するだけでも相当なエネルギーを必要とするはずです」

 

 レッドの提案には数名が頷いた。機械と違って生命体であるなら破壊以外にも排除する方法はある筈だ。兵糧攻めは最たる例だった。

 

「ほぅ、貴方は狂犬と違って論理的な様ですね。勿論、我々も考えました。ですが、この生物は殆ど食事と思しき活動を行っていません……少し前に、燃料基地で食い溜めした。というのもあるかもしれませんが」

 

 621が気まずそうな顔をした。あの任務の結果は彼女にとって後悔が残る物であったのだろう。多数の犠牲を出し、コーラルも失われた。アーキバスにとっても痛手である筈だが、スネイルの顔は涼しい物だった。

 

「片方だけに注力しても、残った方が脅威になるだけだからな。やはり同時に討伐する外ないのだろう」

 

 ウォルターの言った想定を皆が考えた。

 もしも、IA-02を倒すのに注力したとすれば、撃破され次第ルビコニアンデスワームがコーラル集積に向けて突き進むだろう。そうなったら、自分達に食い止める術はない。

 では、ルビコニアンデスワームを撃破したとしても。IA-02が変わらず守り続けているだけだ。この2体が揃って拮抗している状態で、撃破をしなければ自分達はコーラル集積に辿り着けない。

 

「色々と策を出していますが、特効薬的な物は存在しません。そんな物、既に企業内の作戦立案部で散々話されています。我々が出来ることは準備を整えての討伐以外、あり得ないのです」

 

 そもそも、ここで提案される程度の内容はベイラムとアーキバスでも散々話されていることだろう。今、話していることは詰めだけだ。

 

「難しいことはない! お前達は電極の入った針で標本採取をして、俺達はアイツの尻に爆竹を突っ込めばいいだけだからな!」

「簡単に言ってくれるよ。でも、やるしかないのだろうな」

 

 ラスティが諦観を含めながらも頷いた。全員が決意を新たにする。ここに集まった者達は企業及びコーラル獲得競争の上位陣ばかり。メンバーとしては最高に近く、これ以上を望むのも困難を極めるだろう。

 

「準備は整えて来ました。2日後、ルビコニアンデスワームの方の動きに特別な挙動が見られなければ、作戦を決行しましょう」

「了解。RaDの方でも、オーバードレールキャノンとグラインドブレードの運び入れを始めるよ。護衛に幾らか手勢は引き連れて行くけれど、討伐作戦に投入できる戦力じゃないことだけは言っておくよ」

 

 全員が了承した。あまりに長い時間を掛けても惑星封鎖機構が態勢を立て直して攻めてくる可能性もある。グズグズはしていられない。

 受け取るべき情報を受け取った各員は、それぞれの場所へと戻って行く。最初で最後になるかもしれない共同作戦に向けて動いていた。

 

~~

 

「なるほど、当日はそう言った風に動くのか。俺達は何をすればいい?」

「ナイル。お前達には、惑星封鎖機構が介入してこないかどうか。あるいは……スッラ達が現れないかという警戒も頼む」

 

 今回の作戦は各勢力から精鋭が派遣される。ルビコンの統治を狙っている惑星封鎖機構としては一網打尽の機会である。

 

「話を聞いている限りでは、V.ⅠとV.Ⅲは参加しないのか?」

「奴らには惑星封鎖機構への攪乱と偵察と言う任務がある。本作戦を遂行にするにあたって必須とも言える役割だ」

 

 1317達もナイルと同じく周辺での警戒に当たるが、殺到されては元も子もない。それらの大本を絶つ役目を担っているのだから、ヴェスパー内でも相当なエースだろうと言うことは予想できた。

 

「なぁ、レイヴン。皆は私に対して何か言っていたか?」

「メーテルが帰ってくんな。だって」

「あの野郎!! メンヘラの分際で調子に乗りやがって! もう許さないぞ! 勝手に此処でアイツの秘密をばらしてやる!!」

「何やっているの?」

「まずはですね。スネイルに告白する練習でしょう? それと、なんか水星にメール友達がいるとかも言っていましたね。文面では、自身は惑星間を渡航する令嬢だとか書いていました!」

「何で知っているの?」

「覗きました」

『本当にどうしようもない男ですね』

 

 どうして同じヴェスパー同士なのに、ここまで差があるのか。というか、あの会議場にいた彼女は真面目そうな人間にしか見えなかったというのに裏では結構ハチャメチャをしているのだなと、エアは感心していた。

 

『私には内心というのが聞こえないのですが、レイヴンには彼女がどんなことを考えていたか、憶えていますか?』

「早く帰りたい。って、ずーっと繰り返してた」

『意外と不真面目なんですね……』

 

 仏頂面を下げながらも真面目に取り組んでいる様に見えたのは、さっさと終わらせたかったからなのか。本質の部分では、案外ペイターとも似ているのではないかと思った。

 

「……あと、ホーキンス殿は?」

「ペイターのことを心配してた。迷惑かけてないかだってさ」

 

 そんな、共感性皆無の男でも自分を心配してくれる人間には多少なりとも情があるのか目頭を押さえていた。

 

「今、久々に泣きそうになっています。ちょっと、この感傷に浸らせて貰えますか」

「分かった!」

 

 実際の会話では、その後に陳情していたのだが、態々知らせる必要はないだろうと。ウォルターはそっと口を閉じていた。

 嵐の前の静けさとも言える穏やかな時間が流れている。この時間の期限は明日まで。明後日にはルビコン史上最大の作戦が幕を開ける。

 



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依頼32件目ALT:小フーガト短調

 余りに秀逸なコメントがあった為、そこから感銘を受けた話を一つ。本編はまた夜に。


 V.Ⅱスネイル。アーキバスお抱えの強化人間部隊の2番隊長であり、作戦の立案から現場での指揮、また敵味方問わずパイロットの『再教育』を行う施設の長も務めており、多岐にわたる才能の持ち主でもある。

 その性格は能力に裏打ちされたかのように尊大で傲慢、そして冷酷無慈悲でもある。業務には大いに貢献するが個人的に付き合いたいかと言われれば、誰もが首を横に振る人物ではあったが、これほど優れた人材が稀有であることにも変わりはなかった。が、能力の優秀さ故に多くの悩みを抱えていた。

 

「今回も……駄目でした」

 

 白衣を着た禿頭の責任者は項垂れていた。周りにいるスタッフ達も老若男女問わずにスキンヘッドだった。

 

「構いませんよ。道は遠く険しい物です。今回も失敗したと考えず、上手く行かない方法を見つけたということにしましょう」

 

 普段は結果の上がらない連中には嫌味と催促を織り交ぜた口撃を行う所だが、スネイルは非常に穏やかな面持ちで彼らに労いの言葉を送っていた。

 ここはアーキバス毛髪再生局。スネイルがパトロンを務めている部署であり、私欲のために創設したつもりなど、毛頭ない場所だ。

 

「今回のアプローチ方法は、毛母細胞を埋め込み、毛根を再生させるという治療方法です。実験と失敗を重ね、今度こそは上手く行くと思いましたが」

 

 スタッフ達の頭部を見るに、成功した毛生は無かった様だ。

 欠損した部位を代替細胞で補い、定着させるという技術は珍しくもない。これによって、角膜や臓器を復活させた例も多数存在している。

 

「どうして、成功しなかったのですか?」

「それは、やはりパイロットと言う職業が頭部にハゲしい負担を掛ける職業だからです。戦場におけるストレスは勿論、ヘルメットの着用で頭皮を痛めるのです」

 

 激しい交戦によって、機体内部で身体を打ち付け殉職する。ということは何ら珍しいことではない。パイロットの生存確率を上げる為にもヘルメットの着用は義務であり、アーキバスも教育課程では徹底している。

 その為に髪の毛を剃る者も珍しくはない。が、ヴェスパー部隊長としては他と一線を画する為に、毛髪の存在は重要だった。フサフサしていない人間に、隊長と言う役職はフサわしくないのだ。

 

「つまり、痛んだ頭皮には毛母細胞が定着しない。ということですか?」

「はい。毛母細胞以外にも、これらに栄養を送る周囲の毛細血管や毛乳頭も損傷している場合があり、これらまで代替するのはかなり難しいのです」

 

 毛根と言うのは幾つかの細胞で構成されている。人体を走る『毛細血管』から『毛乳頭』が栄養を受け取り、これらを使って『毛母細胞』が分裂を繰り返して毛が生えて来る。

 ただし、パイロットと言う職業に損耗と怪我は付き物だ。度重なる戦いで人体の外部からあるいは内部から負債が積み重なり、異常を来す者も少なくはない。

 

「では、アプローチを更に変えてみるのはどうですか。埋め込むのが難しいのなら、予め人工的に作った毛乳頭と毛細胞を埋め込んだシート状の物を頭皮に張り付け、その人物が持っている毛細血管と結びつくようにする。などはどうですか?」

「植物で言う所の接ぎ木みたいな方法ですね。……これならば、損傷した毛細血管の治療と併せて行えば、効果が見込めるかもしれません!」

 

 散々失敗したアプローチを何度試しても結果は得られない、不毛な行為である。ならば、画一的で普及も容易な方法を同時に考え付く辺りは、正にアーキバスの頭脳と言える冴え渡りぶりだった。

 

「この生えある任務は署長。貴方に任せます。良い結果をお聞かせ願います」

「はい! 勿論です!」

 

 アーキバスの精鋭たる者。敵を蹴散らすことはあって、毛散らすことがあってはならない。彼は細かな取り決めを話し合い、ハゲ増しの言葉を送った後。食堂へと向かった。

 

~~

 

 食堂。通常、兵士達の食糧はレーションや粗食で賄われる。日常が美味で埋められてしまえば、戦闘中の糧食が却ってストレスになりかねない為だ。

 それでも運営しているのは、企業としての福利厚生の手厚さを示し周辺勢力の気勢を挫き、投降を促す意味もあった。

 

「閣下。一緒にお昼は如何ですか?」

 

 スネイルに声をかけたのは、ヴェスパー部隊6番隊長であり紅一点のメーテルリンクだった。彼女が手にしている、プレートの上には厚みのあるクッキーとクラッカー、チリビーンズが載せられていた。そして、横にはこれらを流し込む為のフィーカが添えられていた。

 

「構いませんよ」

 

 スネイルが食しているランチもメーテルリンクの物とほぼ同じだったが、フィーカの代りに添えられていたのは、琥珀色の液体に緑色の厚みのある草を浮かべたスープだった。

 

「閣下、これは一体?」

「ワカメと言うそうです。食料になり得る物ならば、何だって構いません。どんな物であれ、毛嫌いせずに口に運ぶことが大事です」

 

 食事中は食事中と割り切っているのか、一切の仕事をせずに口に運んでいるが、隣にはヒッソリと傍受機が置かれていた。

 

「何を聞かれているのですか?」

「先日、ハンドラー・ウォルターを始めとした一行も含めて会議をした時があったでしょう。あの時、去り際に仕掛けた物です」

 

 あの会場は、そう言った機器の持ち込みは一切厳禁されていたはずだと言うのに、どうやって持ち込んだのだろうか? 厳重な監視を掻い潜って、情報収集の一手を打った手腕に、彼女は感心していた。

 

「流石です。閣下、どの様なことを話されているのですか?」

「貴方も聞いてみなさい」

 

 無線のイヤホンを渡されたので耳に装着した所、聞こえて来たのはハンドラー・ウォルター達の声だった。

 

『ナイル。ミシガンやレッドガン部隊の奴らは元気そうだったぞ』

『そうか。まぁ、俺が心配しなくても何とかなる連中だ。むしろ、気になるのはアーキバスの連中だ。お前から見てどうだった』

 

 意外な所でエゴサーチが行われていたので、メーテルリンクも聞き入っていた。少なくとも失態は見せていなかったはずだ。

 

『621がスウィンバーンとラスティとは懇意だった。奴も満更ではなさそうだった。こういった縁は今後の仕事でも響いてくるかもしれんな』

『お前達にアーキバスの味方をされたら、いよいよベイラムは後が無くなるな』

 

 普段は口うるさい冴えない男だと思っていたが、佇まいの正しさが周囲に与える影響は大きいということを知った。

 

『V.Ⅵのメーテルリンクに関しては何も言えん。殆どアクションが無かった。ただ、ペイターが嫌われていることは知ったが』

『部隊間の不和は何処で影響が出るとも分からんと言うのに。女性は感情的とはよく言うが』

「言われていますよ」

「は、はい……」

 

 仲良しクラブという訳ではないが、人間関係は基本的に良好に保った方が得をすることは多い。まさに先程も言った毛嫌いと言うのがマイナスに作用していた。

 

『ただ、そんなペイターもV.Ⅴのホーキンスには心配をされていた。人材層も含めて、アーキバスの強さが見える面々だった』

『それは手強いな。途中からV.Ⅱも来たと聞いているが』

『奴は仕事が早く片付いたからだ。と言っていたが、慎重を期しての行動だろう』

 

 流石に、この程度は見抜かれるらしい。とは言え、用心深い性質は既に向こうに知れ渡っていることも含めて、問題は無かった。

 

『V.Ⅱスネイルか。狡猾で用心深く、しかし。作戦の立案も出来る戦術家であり、ACに載せればアリーナ上位に食い込む程の腕前でもあると聞いている。俺もベイラムも何度も辛酸を舐めさせられた強敵だ。ウォルター、実際に会ってみた感想はどうだった?』

『油断ならない相手だ。少しでも隙を見せれば、飲み込まれるだろう』

「当然の評価です。ベイラムは間抜けばかりだとは思っていましたが。参謀らしく、人を見る目は確かな様です」

 

 敵からの評価とは言え、高く見られていることに対して思うことはあるのか。彼は鼻を鳴らしていた。その一方で、メーテルリンクは我がことのようにテンションを上げていた。

 

「そうです。閣下なら、この評価は当然のことです」

 

 2人がテンション上げていると、通信先の空間に誰かがやって来たのかドアが開閉する音が聞こえた。瞬間、クソデカボイスが漏れた。

 

『あ~なた~に髪の毛ありますか~! ありますか~~! ありますか~!! なーい、なーい。そんなのやーだー! かーみのけー消え去って行く~~!』

 

 初手無礼歌声で乱入して来たバカの声は凄まじく聞き覚えのある物だった。言わずもがな、ヴェスパー部隊8番隊長のペイターである。

 

『おい、入って来る時はインターホンを鳴らせ』

『あ、すいません。レイヴンにハゲの悪口を言っていたら、楽しくなってきて』

『誰のことだ?』

 

 ウォルターが苛立ち、ナイルが疑問を浮かべ、盗聴しているスネイルの眉間に青筋が浮かび、メーテルリンクが青褪めている中。彼はサラリと該当人物の名前を出した。

 

『何って、スネイル閣下に決まっているじゃないですか。メーテルリンクの悪口ついでに言っていたら思ったより楽しくなって来まして』

『貴様! 今はここにいるが、元はアーキバスから橋渡しとして派遣されて来たのだろう。上官の悪口は慎め!』

「私の悪口???」

 

 まさか、敵方であるナイルから擁護されるとは思っても居なかった。流石に人から注意されたら留まる程度の理性があるのか、楽し気な歌声は消えていた。そして、スネイルもイヤホンを外していた。

 

「メーテル。今直ぐ、ペイターの登録情報を抹消して来なさい。今直ぐにだ!!」

「は、はい!!」

 

 食事も途中でメーテルリンクはプレートを置いて駆け出して陳情したが、上層部にも取り入っていた為か、登録抹消は出来なかった。……アイスワーム討伐作戦が行われる前の話である。

 



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依頼33件目:ルビコン王者ムシキング

皆、スネイルとペイターが好きなのですね! ご友人! 


 2体のワームの討伐作戦当日。中央氷原には、ルビコンに滞在するアリーナのランカー達を多数集めた贅沢なメンツが集合していた。

 彼らが相対するのは技研の遺産IA-02『アイスワーム』とルビコンの怒りを体現したかのような巨大ワーム『ルビコニアンデスワーム』だった。

 

『作戦指揮は、私。V.Ⅱスネイルが執ります。V.Ⅲ。周囲に敵影や反応はありませんね?』

「問題ない。熱源反応を始めとして、何通りかでスキャンをしたがここにいる奴らと例のデカブツ以外に反応はない」

 

 諜報活動や偵察のスペシャリストである彼の目を掻い潜るのは、ほぼ不可能と言っても良い。また、別方面からも通信が入った。

 

「こちらV.Ⅳ。オーバードレールキャノンも問題ない。直ぐにでも撃てる」

「こちら、ブルートゥ。グラインドブレードの稼働に問題はありません」

『では、各員配置に着きましたね。――これより、害虫駆除を開始します!』

 

 作戦が開始される。彼らの接近に気付いたアイスワームが動いた。

 レイヴンも含めてアーキバス陣営の部隊を統率しているのは、年長者であるV.Ⅴのホーキンスだった。

 

「来るよ、皆! 私達はミサイルと子機の迎撃だけに集中して! レイヴン君! スタンニードルランチャーの方は任せたよ!」

「おっけー!」

 

 大地を抉り返しながら得物を捕食せんと迫り来る姿は、ミミズを彷彿とさせた。先端部分にある目玉の様に並ぶ3つのドリルに捉えられれば、ACなど一溜りも無いだろう。

 猛スピードで動き回る巨体は、移動すらも攻撃手段になる。この巨大な胴体にぶつかれば損傷は免れない。また、突進と体当たりと言う原始的な攻撃だけではなく、体の節々から放たれるミサイル群は赤い粒子を撒き散らしながら、周囲を爆撃していた。

 

『レイヴン。あのミサイルにはコーラルが用いられています! 通常の火器よりも威力が高いので注意してください!』

 

 威力だけでなく、周囲への汚染も用いて徹底的に侵入者を排除するという強い意志を感じる設計だった。

 何処からともなく出て来て、ミサイルと破壊をばら撒く行動に一定の法則性が見当たらず、作戦に参加している者達は回避に専念していた。

 

「レイヴン! スタンニードルランチャーはまだ撃てないのか!?」

 

 スウィンバーンの喧しい声が通信に響く。アイスワームはスウィンバーンとホーキンスを集中的に狙っており、今の所は攻撃を捌き切れているが、少しでもミスったら落とされかねない状況であることには変わりない。

 

「スウィンバーン君。これはアレだね。多分、重量機体を優先的に狙っているんだよ。脅威になりやすいからだろうね」

 

 彼よりも冷静に攻撃を捌いてみせるホーキンスには、この場を任されるだけの貫禄があった。だからと言って、レイヴン達に攻撃が飛んでこない訳ではない。

 この状況においても、メーテルリンクは冷静に自分の役目を果たしていた。自分へのミサイルなどを撃墜しつつ、スウィンバーンとホーキンスへの攻撃をも落とす。レイヴンは援護の必要が見当たらない位、見事に攻撃を避けていた。

 

「(私でも捌くのと避けるので精一杯だというのに、あの少女は確実にスタンニードルランチャーを打ち込める位置取りもしている)」

 

 ただ、避けているだけではない。アイスワームが地表に出て来るタイミングと場所の予測はどんどん正確な物になって来ている。そして、必然は訪れた。

 アイスワームが地表へと飛び出し、周囲の光景を一瞥した瞬間。レイヴンが駆る機体の背部では、スタンニードルランチャーが発射態勢を整えていた。

 

「行けェ!」

 

 放たれた電極針はアイスワームの顔面に突き刺さり、凄まじい衝撃と共に放電が行われた。プライマリシールドが無力化された瞬間を、待機していたV.Ⅳのラスティは逃さない。

 

「EMLモジュール接続。エネルギータービン開放」

 

 シールドが掻き消されたことを脅威と判断したのか、アイスワームはミサイルを放ちながらも土中へと退避した。

 

「スウィンバーン君! メーテルリンク君!」

「ハッ!」「了解!」

 

 ホーキンスの号令に反応して、2人は直ぐに放たれたミサイル達を落とした。こうなっては地上の脅威を排除する手段がないと判断して、アイスワームが再び地表へと姿を現した瞬間。V.Ⅳが吠えた。

 

「外しはしない」

 

 瞬間、世界の全てから音が消えたような気がした。間もなくして、空を切り裂く衝撃が走り、アイスワームの再構築しようとしていたプライマリシールドごとセカンダリシールドと巨体を貫いた。

 

『今です!』

 

 巨体の下敷きにならないように散開し、姿勢を崩したアイスワームに対して一斉に攻撃が加えられた。

 プラズマライフルからミサイル。ありとあらゆる攻撃を受け、内部に循環しているコーラルにも引火したのか盛大な爆発を引き起こした。

 

「やったか!?」

「メーテルリンク君。まだみたいだよ」

 

 メーテルリンクが一縷の期待を掛けて口にしたが、アイスワームを機能停止に至らせるには足りないのか、地中に潜る前にレーザータレットを放った後、再び地中へと潜って行った。

 

~~

 

「今日は愉快な昆虫採取だ! 虫取りアミは持ったか!」

 

 レッドガン部隊の方でも行動は始まっていた。目の前には冗談みたいに巨大なミールワームがいる。ブヨブヨとした体を引きずりながら、体の各所からコーラル由来のビームが放たれていた。ただし、アイスワームの物と違い狙いは散漫で、避けるのは難しくはない。

 ミシガンに率いられた、レッド、イグアス、五花海の3人としても、こんな冗談みたいな存在と戦わされるとは思っても居なかった。

 

「クソッたれ! あのアホ犬に関わってから、ロクでもない依頼ばっかりだ!」

「いや、詐欺師である私が己の目すら疑う光景があろうとは……」

「今はやるべきことをやるだけだ!」

 

 レッドが手持ちのミサイルを放った。巨体に対してライフルは効果が薄いと判断して、今回はレッドガンの装備はミサイルやバズーカなど爆発物が中心となっている。

 アイスワームと違い弾が命中すればその個所は弾け飛ぶが、致命傷には全く足り得ない。雪の上に体液や吹き飛んだ表皮が散らばる。

 

「しっかりと焼け! ルビコンではミールワームは御馳走だ! 採取した後は、丁寧に焼いてBBQだ! 任務の達成と祝勝会がそのまま繋がるぞ!」

「ハイ! 自分はウェルダンが好みです!」

「いや、こんなのを食えば、全員がG13の様なヤク中になりますよ」

 

 ミシガンのジョークに応じているのか、あるいは素の反応なのかは判断し辛い所だが、ミサイルとバズーカが次々と打ち込まれて行く。

 アイスワームほど俊敏な機動も出来ず、地中に潜り込むこともないルビコニアンデスワームは被弾しまくっていたが、突然ぴたりと動きを止めた。

 

「やったのか!?」

「油断するな! G6! 相手は機械と違う生物だ。どんな変態を起こすか分かった物じゃない!」

 

 全身から体液を垂れ流しているルビコニアンデスワームの背中が割けていく。

 中からは、3対の脚と真っ赤な甲殻。そして、頭部と思しき場所からはクワガタの様な顎を生やした甲虫が姿を現した。

 

「嘘だろ……」

「ヴォオオオオオ!!!」

「散開だ!」

 

 イグアスが呆然としている中でミシガンは号令を飛ばした。

 ルビコニアンデスワームの顎の間に赤い光が灯り、やがてそれは巨大化して行き……彼らに向けて放たれた。

 水平に薙ぎ払う様に離れた一条の光線に被弾した物は居なかったが、着弾した箇所では盛大なコーラル粒子を伴った爆発が起きた。

 

「冗談も程々にしてほしいですね!」

 

 五花海がバズーカとミサイルを放つが信じられない光景があった。成長したルビコニアンデスワームの甲殻は、これらの攻撃を一切弾いていたのだ。

 

「総長! これは撤退するべきです! 余りにも当初と予定が違います!」

「どうやら、俺達は奴を御機嫌にする為のマッサージをしただけの様だったな! だが、やることは変わらん!」

 

 レッドが悲鳴を上げるが、ミシガンの意思は変わらない。というよりも、逃げ切れる訳がないと踏んだのか、彼の覚悟に呼応するかのように皆が叫んだ。

 

「やってやるよ! 虫けらを葬って、アイツの頭を記念品にしてやるからな!」

 

 イグアスは自らのエンブレムを差した。千切れたクワガタと言う強者の頭部を運ぶアリ、という自らの境遇を揶揄した物だったが、どうやら今回は本当になりそうだ。

 

「まぁ、アレはあくまでクワガタっぽい何かでしょうが」

 

 五花海が冷静に分析をしながら、一同は装甲を得たルビコニアンデスワームに対応するべく、今までのヒット&アウェイの戦いからインファイトへと切り替えようとしていた。

 



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依頼34件目:最強変態

 12日中に間に合いませんでした……(小声)


『おいおい、羽化したよ』

 

 通信越しに、この状況を見ていたカーラは驚いていた。ルビコニアンデスワームが生物であることは分かっていたが、この期に及んで変態するとは思っていなかった。

 

「でもよ、あんなバカでかい体を支えている足は6本しかないじゃねぇか。ストライダーみたいに、足を折ってやれば動けなくできるんじゃねぇか?」

 

 オーバードレールキャノンを運び入れ、そのまま護衛にも付いているラミーからの提案は、実際に現場で戦っているレッドガンの面々も考え付いたらしく、胴体への攻撃から脚部への攻撃へと切り替えていた。

 

「実際にアーキバスの指示も脚部狙いへと切り替えている様だが」

 

 かつて、RaDもルビコン解放戦線からストライダーという巨大兵器の製造を頼まれたことがある。採掘艦の構造上、どうしても脚部が脆弱になる造りであり、実際にレイヴンに破壊された。

 ただし、ルビコニアンデスワームは機械ではない。巨大な見た目に似つかぬ俊敏性で、相手の攻撃を胴体に誘導していた。

 

『虫だけれど、直感的に何処を攻撃されちゃまずいかってのは分かっているのかね?』

「動きを見る限りは理解してそうだ。生存本能という奴だろうか? 俺にはよく分からない」

 

 チャティにも理解できない領域で動いている怪物を他所に、比較的わかりやすい挙動を行うIA-02の討伐は順調だった。

 

「巻き込まれるなよ」

 

 ラスティの合図と共に再びオーバードレールキャノンが放たれた。発射された弾丸はプライマリシールドの剥がれたアイスワームへと突き刺さり、その巨体を雪原へと投げ出した。

 

「よっし! 良いよ! パターンが組めている! でも、皆! 油断はしないでね! 手負いが一番怖いよ!」

「分かりました!」「了解です!」「うん!」

 

 ホーキンスの指示でアイスワームに次々と攻撃を加えて行く。顔面のドリル部分が破壊されて行き、内部を循環しているコーラルにも引火しているのか、次々と誘爆が引き起こされていた。

 

『待ちなさい! 内部に強力な熱源反応があります! 離れなさい!』

『レイヴン! コーラル反応です!』

「分かった!」

 

 スネイルから入った通信に反応し、全員が一切に距離を取った瞬間。アイスワームを中心として周囲に毛細血管の如くコーラル粒子が走り、大爆発が引き起こされた。

 

「ぐぉ!?」「くっ!?」「おっと!」

「皆! 機体制御を立て直して!」

 

 凄まじい衝撃が走り、スウィンバーン達の機体制御が奪われる。立て直している間にアイスワームは鎌首をもたげていた。

 度重なる損傷と誘爆によりIA-02の全身は赤黒く染まっていた。体の各所や体節からもコーラルが漏れだしていたが、動きは鈍る所か暴走していた。しかし、機体ゆえの脅威度判定は機能しており。

 

「あ……」

「メーテルリンク君!」

『何をしているのですか! 避けなさい!!』

 

 体勢を崩していたメーテルリンクに巨体が迫っていた。アレだけの質量を正面から受ければ、中見ごとミンチになることは避けられない。

 戦場に身を投じていた彼女は死と隣り合わせの日々を送っていたが、ここまで濃厚な死を感じたことはない。自らの半生が駆け巡り、成していないことが様々に浮かんだ。

 

「(水星の子と会ってみたかったな。スネイル閣下は私が死んでも悲しんでは……くれないのだろうな)」

 

 こんな時に思い浮かんだのは、酷く日常的なことだった。だが、自分は呆気なく死ぬのだろう。英雄的でも劇的でもなくアッサリと。強いて救いがあるとすれば痛みを感じる間もないだろうと言うことだったが。

 

「よぃしょー!」

「レイヴン!? どうやって……」

 

 アサルトブーストを吹かしていたレイヴンが、彼女と一緒に攻撃範囲から脱していた。他のヴェスパー部隊が姿勢制御に戸惑っていたというのに。

 それだけではなく、擦れ違い様にスタンニードルランチャーを撃ち込んでいたらしく、3度になるプライマリシールドの破壊……には至らなかった。

 

『今回、張られたシールドはかなり強力な様です。もう一度行ってやりなさい!』

『スネイルの言う通り。シールドの耐久力は上がっていますが、もう一度打ち込めば剥がれるはずです!』

「分かった!」

 

 アイスワームもいよいよ後が無くなって来たのか、大量の子機とミサイルを吐き出し続けながら、周囲にコーラルによる衝撃波を飛ばしながら雪原を爆走していた。継戦を考えないレベルでの全力放出だからこそ、数で挑んでいることが活きて来た。

 

「虫けら共が!!」

 

 スウィンバーンは両手に装備した、メリニット社の中型バズーカ『MAJESTIC』を放っていた。砲弾の爆発にアイスワームの子機達が巻き込まれて、落ちて行く。

 一方、飛来するミサイルを始末していたのはホーキンスだった。スウィンバーンの物と比べて重機体でジェネレーターも相応な物となっており、高負荷兵装のプラズマライフル『Vvc-760PR』を両手に構え、背部兵装に装備したレーザーキャノン『VP-60LCS』で凄まじい勢いでミサイル群を焼き払っていた。

 そして、メーテルリンクはレイヴンと行動を共にしながら、明確に彼女だけに向けられる物に対処していた。

 

「行け!」

 

 もはや、よそ見をする必要もないと踏んだのか。アイスワームはレイヴンを正眼に見据えて突っ込んだ。対する彼女は怯えから狙いを外すということもなく、スタンニードルランチャーを直撃させた。

 強化されたプライマリシールドが剥がれるタイミングを知っていたかのように、ラスティもオーバードレールキャノンのチャージを終えていた。

 

「リミッター解除。出力、115%。これで決める」

 

 プライマリシールドが剥がされるのとほぼ前後して、レールキャノンが巨体を貫いた。幾度目になるか分からない誘爆の後、ラスティから通信が入って来た。

 

「今の一撃でオーバードレールキャノンはダメになった。そちらで決めてくれ」

 

 アイスワームの討伐は正にフィニッシュに差し掛かろうとしていた。

 

~~

 

 アイスワームの討伐と打って変わって、ルビコニアンデスワームとの戦闘は難儀していた。関節部分を狙って倒壊を狙うと言うミシガンの発想は良かったが、思った以上に俊敏だった。

 

「どうなってやがんだ!? なんで、こんな巨体で動きが早いんだよ!」

 

 イグアスの悪態は尤もだった。アイスワームの様に的確な動きはしない物の、生物故の予測できない動きと言うのが対処し辛く、また巨体だからと言って特段動きが鈍い訳でもない。

 これだけの質量で払われるだけでもACには無視できない程の損傷を与えることが出来るのだ。

 

「この距離でも足りないならば、取り付くしかないでしょう。総長!」

「違いない! 昔から、男は虫に触るのが大好きだからな! 俺もかつては虫取り少年だった! これだけデカイのを捕まえれば、自慢も出来たもんだ!」

 

 五花海の提案を真っ先に実行したのはミシガンだった。四脚重ACライガーテイルが猛接近する。

アイスワームと違い、体の各所に兵器が取り付けられている訳ではなく、顎にコーラルを集中させてビームを放つか、足で振り払うしか攻撃手段がないので懐に飛び込むことは却って生存率を上げることにも繋がった。

 

「総長!」

「見ておけ! G6! 木星戦争の時はな! こうやって、艦隊を沈めたんだ!」

 

 木星戦争。かつて、ベイラムが行った戦いであり、近接戦主体だったベイラムが中距離以遠の交戦手段の重要性を教訓として得た戦い。その戦いで英雄と呼ばれたミシガンが取った戦い方は、正にあの時の再現と言えた。

 押し寄せる波状攻撃を避けながら、相手の船体に飛び移り。前脚の第一関節に対して両手に構えた『SG-027 ZIMMERMAN』の引き金を引く。

 ルビコンにおいて、ACのみならず様々な大型機体を食い破って来た実績は伊達ではなく、関節を覆っていた甲殻を引き剥がした。露出した部分に対して、肩部にマウントした『EARSHOT』の追撃を加える凄絶な様子は、この男がベイラムの歩く地獄とまで形容される程の苛烈さを如実に表していた。

 

「俺達も行くぞ!」

「ギィイイイイイイイ!!!」

 

 イグアス達も追撃を掛ける。態勢を取り戻そうとしているルビコニアンデスワームへと接近し、ヘッドブリンガーの腕に装着された『PB-033M ASHMEAD』をぶち込んだ。火薬で撃ち込まれた杭は、甲殻を物ともせず深々と突き刺さった。

 

「レッド。貴方も付いて来なさい!」

「はい!」

 

 ミサイルを展開しつつ五花海とレッドもまた、一撃必殺ように持って来た『PB-033M ASHMEAD』を次々と打ち込み、遂にルビコニアンデスワームの前脚が吹き飛んだ。身動きが取れなくなり、遂にトドメを刺せるかと思った刹那。

 

「シャァアアアアアアア!!」

 

 残った5足で駆け出した。戦場から離脱するかと思われたが、どうにも向かった先が違う。進行方向にはアイスワームと交戦しているレイヴン達が居るはずで。

 

『早く追いかけなさい!』

「言われずとも!」

 

 ミシガン達も追いかけ、二つの戦場が合流した際。その場にいた者達の目には信じられない光景が飛び込んで来た。

 ルビコニアンデスワームが機能停止間際のアイスワームを顎で銜える。ミシミシと装甲に亀裂が入り、耐え切れなくなり両断された。

 中からは大量のコーラルが漏れだし、真っ赤なクワガタボディへと降り注いだ。……瞬間、背中の甲殻が隆起し、有機的な砲門が生み出されていた。

 

『嘘でしょう?』

 

 エアも絶句する外なかった。コーラルが生態にどれだけの影響を及ぼしているのだろうか? 取れかかっていた足が早送りで再生され、真っ赤な前足が生み出されていた。

 コーラルで作られた大量の弾丸が吐き出され、周囲を抉り取って行く。彼らの戦いはいよいよ最終局面に入っていた。

 



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依頼35件目:ルビコン大決戦

 おいおい、今度はレッドガン食堂のおばちゃんとか言う概念が出て来たじゃないか。ドウイウコトダ。


 この討伐作戦に参加している者達は、誰もが絶句していた。コーラル集積への道を阻むアイスワームが容易く撃破されたことは元より、目の前には人知を超えた天災めいた存在がいる。

 この戦闘に介入して来るかもしれない惑星封鎖機構への牽制として配備されていた、G2ナイル、ペイター、S-1317も呆然としていた。

 

「ペイター、1317。お前達にもあの化け物が見えているよな?」

「はい。しっかりと、残念ながらコーラルの副流煙による幻覚ではありません」

 

 この状況においてもペイターは軽口を叩いていたが、やはり動揺は隠せない。現場で戦っているレイヴン達の弾薬も耐久値も減り尽くしているとなれば、もはや悠長に待機している暇は無かった。

 

「カーラ! 聞こえるか! こちら、猟犬(ハウンズ)部隊! 我々は持ち場を離れて彼女らの援護に入る!」

 

 S-1317が作戦変更の旨をRaD陣営に伝えると、返って来たのは追及や諫言では無かった。

 

「良かった。我々も戦友と同僚達のピンチに駆け付けようと思っていた。どちらにせよ、レールキャノンは使い物にならない。ならば、私が出向く外あるまい」

「そう言うこった。ラミー! チャティ! それと。ヴォルタ! ビジターを助けに行くよ!」

 

 ラスティに呼応するようにカーラも叫び、彼女の号令に該当人物と思しき者達からの返事もあった。挙げられた名前にナイルが反応した。

 

「ヴォルタ? 貴様、ACに乗れる程回復しているのか?」

「身体の方は完全に回復している訳じゃねぇが、キャノンヘッドのコックピットは改造している! まだ、俺はアンタもクソオヤジも殴ってねぇからな!」

「ベイラムか? アンタらの所の新人は気合が入っている! 俺も、燃料基地でレイヴンに助けられた礼を返しに行くぜ!」

 

 ヴォルタの悪態にラミーが呵々大笑している。これだけ不条理な状況だというのに、彼らにはまるで絶望など見当たらない。

 

「ボス。どうして、ラミー達は笑っていられるんだ?」

「これが、愉快なことだからだよ!」

 

 チャティは不思議に思っていた。まるで笑えない状況だと言うのに、誰もが笑いながら戦場へと向かって行く。恐怖は無いのか、死が怖くないのか、未知なる物への恐れはないのか? ただ、一つだけ確かなことがあった。

 

「皆が笑っていると。俺も楽しい」

 

~~

 

『何ですかこれは?!』

 

 どんなトラブルが起きても冷静に対処して来たスネイルですら声を荒げずにはいられなかった。

 ルビコニアンデスワームが羽化した時点でも目を疑ったというのに、アイスワームをも取り込んで変態する、という事態は誰も予想できなかった。

 

「ヴァアアァアアア!!」

 

 隆起した幾多もの有機砲門から放たれるコーラルミサイルが雪原に炸裂していた。それだけではなく、顎に蓄えられたエネルギーは超出力のレーザーとして射出され、着弾した箇所から盛大な爆発が巻き起こった。

 

「スネイル閣下! 増援を!!」

 

 メーテルリンクが悲鳴を上げた。目の前の怪物の存在は、第8世代の強化人間からも正気を奪う程の物だった。

 通信先からスネイルの唸り声が聞こえる。対処方法が思い浮かばなかったとしても、彼を責めることは出来ないだろう。そして、悪夢は終わらない。

 

「おい。なんだこれは」

 

 偵察と俯瞰の為に上空を旋回していたV.Ⅲオキーフは見てしまった。ルビコニアンデスワーム……いや、もはやデスビートルと形容しても良い程の禍々しい外見を持つ脅威の肛門付近から何かが排出されていたこと。

 昆虫が、白く細長い物を排出したとすれば何を出したかは想像に容易い。だが、現実は彼の予想をはるかに上回る。産み落とされた卵は、ほんの僅かな時間で孵化し、ルビコニアン達にとっては見慣れたミールワームが出現していた。

 その大きさは乗用車ほどのサイズで、全身は青白く光っている。口を開くと赤い光が集約し、コーラルによるビームが放たれた。

 

「子機まで展開して来るのか!?」

 

 スウィンバーンが叫んだ。現時点でも機体の耐久力も自身の集中力も限界に近付いているというのに、更に攻撃が激しくなればいよいよ耐え切れず、背部兵装の『EARSHOT』にレーザーが命中した。誘爆する前にパージしたが、攻める手が失われれば増々追い詰められていくだけだ。

 スウィンバーンだけではない、アイスワームとルビコニアンデスワームとの連戦で、耐久値も弾薬も体力も減っている中で、こんな規格外の存在と相対すれば、膝を着くのは道理と言えたが。

 

「ミ“ッ」

 

 展開されていた子機とも言える巨大ミールワーム達が次々と切り裂かれ爆発していき、あるいはミサイルの絨毯爆撃によって消し飛んでいた。

 

「戦友、皆。我々も援護するぞ!」

「おぉ、ラスティ君が来てくれたのか。これは心強いぞ」

 

 ホーキンスが茶化すが声色から疲労は拭い取れない。それだけではなく、上空を飛行する2機のLCがルビコニアンデスビートルの有機砲門を潰して行く。

 

「ヴェスパー部隊の皆さん。ホーキンス殿以外から話題にもされなかったペイターです。私は人間が出来ていますからね。帰って来るなとか暴言を吐かれましたが、手を差し伸べて上げましょう」

「言っている場合か!」

 

 どの口がと言わんばかりの憎まれ口を叩くペイターを注意しながら、1317も討伐に加わって居た。ヴェスパー部隊だけではなく、レッドガン部隊にも援軍は駆け付ける。

 

「貴様! G2か! よほど、お泊りが心地よかったようだな! 門限はとっくに過ぎているぞ!!」

「悪かった。食堂の飯が恋しくなったんだ。任務を終えたら、久々にあのばあさんの顔でも見ながら一緒に飯でも食おうか」

 

 先程までは自らが先陣を切る様な動きの多かったミシガンではあったが、ナイルを随伴させたことにより一歩下がった位置へと移動した。元来の動きを取り戻したのか、疲弊しているはずだと言うのに動きが精彩な物になって行く。

 

「イグアス! 俺が居なくなって泣きべそ掻いてたんじゃねぇだろうな!」

「言ってろ! テメェが居なくて清々していたよ!」

「とか言って。ポーカーする相手が居なくなって寂しいとか言っていたじゃないですか。G6はビビりだから直ぐに降りてしまいますしね」

「先輩達が突っ走り過ぎているんです!」

 

 まるで、つい先ほどから傍にいたかのようなヴォルタの馴染み具合にイグアスも憎まれ口を叩き、五花海が茶化してレッドが溜息を吐く。ミシガンが叫んだ。

 

「レッドガン部隊! ヴェスパー部隊! ドーザー共! 猟犬(ハウンズ)共! 仕上げに掛かるぞ!」

 

 了解。と、一斉に返事が返って来た。

 ルビコニアンデスビートルの攻撃はなおも止むことは無いが、ホーキンスらを始めとした重AC達が前面に出て、コーラル弾や子機達の露払いを行っていた。

 

「俺は無敵の(インビンシブル・ラミー)だ! テメェらなんて飽きるほど食っているんだよ! 俺を酔わせたきゃ、もっとコーラルを用意しな!」

「彼は元気だねぇ。RaDの皆って言うのは、あんな調子なのかい? ヴォルタ君」

「アイツが特別酔っぱらっているだけだ!」

 

 ホーキンスの質問に律儀に返しながら、ヴォルタはRaD製の背部武装である『WR-0999 DELIVERY BOY』を放つ。発射されたコンテナからミサイルが射出され、空中で幾度も爆発を引き起こした。

 ラミーのマッドスタンプの両手に握られた『DF-GA-08 HU-BEN』から吐き出された弾丸が中空で踊り、ホーキンスのリコンフィグがチャージを終えた『Vvc-760PR』を放ち、プラズマ弾による爆発で空は赤や青に彩られていた。

 彼らの存在にルビコニアンデスビートルが気取られている間に軽量~中量の機体達が一気に速度を上げて近づいて行く。明らかに飛んで来る攻撃の量は減っていた。

 

「良いぞ! 連中の露払いが効いている間に、我々は奴の脚を潰す! 奴の脚は6本! 我々は総勢で17名! このウチの1名はとっておきを持って待機している! 一つの脚に3名で掛かれ! オキーフ! 貴様も聞いていただろう!」

「了解した」

 

 ミシガンに要求され、オキーフも高度を落として戦場へと馳せ参じた。17名のパイロット達は各々の判断で散開し、それぞれが担当する場所へと向かった。

 



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依頼36件目:決着

 6本の足を折るべく、最初に行動を起こしたのはメーテルリンクだった。レッドとカーラと行動しながら、彼女は背部兵装にマウントしていた『HI-32: BU-TT/A』に武装を切り替えていた。軽量のパルスガンでは豆鉄砲にしかならないと判断してのことである。

 

「シンダー・カーラ! 貴方の武装で奴の甲殻を剥がして欲しい!」

「おいおい、私は引率の先生かい? まぁ、良いさ」

 

 カーラは技術者である為パイロットとしての腕は劣る。それを補うべく、彼女の武装は機体を追尾するミサイル装備に偏重していた。本人が直接狙いを付けられなくても、武装の性能で当てるという考えである。如何に相手が足を動かせると言っても、体幹に近い部分は大きく動かせない。

 

「まずは、食前酒とスープから」

 

 両手に装備した『WS-5000 APERITIF』は異質な外見をしていた。ハチの巣の様に張り巡らされたハッチが一斉に開いて、大量の小型ミサイルが飛んでいく。

 更に、両肩に装備された『WS-5001 SOUP』からも計60連のミサイルが射出された。何発かは宙を舞うコーラル弾や流れ玉によって爆散したが、AC1機が織りなせるとは思えない程の弾幕が次々とルビコニアンデスビートルの第1関節へと着弾する。

 

「続くぞ! ヴェスパー!! 合わせるのはお前達の得意技だろう!」

 

 爆風と破片を浴びせられ続け、熱によってジリジリと表面が焦げ、熱で脆くなっていく。すかさず、レッドがアサルトブーストの加速を乗せて『MAJESTIC』のダブルトリガーを引いた。射出された砲弾が脆くなった甲殻と衝突し、破片が零れ落ちた所に爆風と破片が襲い掛かり、内部に突き刺さる。

 

「お前に言われるまでもない!」

 

 タイミングを合わせるようにして、インフェクションもアサルトブーストを吹かして露出した部分を切り裂いていく。目の前で甲殻の一部が再生されて行くのを見て、彼女は決断した。

 

「うぉおおおお!!」

 

 『HI-32: BU-TT/A』の発振器部分が熱を帯びる。本来は使用にクールタイムが必要であるが、ここまでして開いたチャンスを無駄にするわけにもいかず、兵器への負荷を無視した上で刀身を発生させ続けた。

 甲殻に覆われていない柔らかい部分をパルスブレードで切り裂く。過負荷に耐え切れず赤熱して、オーバーヒートに至ろうとした所で『HI-32: BU-TT/A』を投げ付けて、マウントしていたパルスガンで照射し破壊した。

 爆発が起こり、千切れかけていたデスビートルの筋繊維が更に破壊され、外れかけた所に留めの一撃を加えるようにして大量のミサイルとバズーカが殺到して、第1関節より下の部分が千切れ飛んだ。

 

「へぇ、アーキバスの奴らも無茶をするんだね」

 

 良い子ばかりだと思っていたカーラとしてはちょっとした発見だった。一方、無理をしたメーテルリンクのインフェクションは推力を失い、落下しようとしていたが中空でレッドのハーミットが彼女の機体を受け止めていた。

 

「見事だった! 今回は特別だが、無茶をするな」

「そうでもしなければ、我々の攻撃力では足りなかった。他の者達は……」

 

~~

 

 スウィンバーンは五花海とラミー達と一緒に動いていた。ラミーのマッドスタンプの攻撃力は目を見張るものがあり、両手の『DF-GA-08 HU-BEN』から吐き出される銃弾の雨が、ルビコニアンデスビートルの甲殻を削り取っていた。

 

「どうしますか、お利口さん? このままでは、私達は中毒者以下ですよ?」

「ふん! ならば、さっさと近付くぞ!」

 

 スウィンバーンは自機ガイダンスの特徴である四脚を生かして、空中機動を活かしながら近づいて行く。手にしている火力は申し分ない。今は、片方の『EARSHOT』を失ってはいるが、両手の『MAJESTIC』は健在だ。

 対空迎撃と言わんばかりにコーラル弾が降り注ぐが、地上部分から放たれるラミーのガトリング弾に落とされて行く。そうして、生まれた間隙を縫って脆くなった甲殻部分まで接近して『EARSHOT』を放った。

 

「ぐっ」

 

 ヘルメット越しでも響く耳鳴りを起こす程の一撃。甲殻を抉り、内部の筋肉まで穿つが、切断までは至らない。身体の一部が露出したことにより、筋繊維に赤い光が迸り、即席のレーザー砲が放たれた。

 あわやガイダンスを貫くかと思った攻撃だったが、スウィンバーンは衝撃と共に攻撃を回避していた。何が起きたか一瞬理解できなかったが、先程までの位置に五花海の機体『鯉龍』がいるのを見て察した。

 

「貴様! 私を蹴り飛ばしたのか!」

「直撃を避けれたのだから、感謝してくださいよ!」

 

 甲殻が修復されるよりも先に、鯉龍はアサルトブーストの加速を乗せて左腕を振り被る。『PB-033M ASHMEAD』に杭が装填され、ルビコニアンデスビートルの内部深くに撃ち込まれた。筋肉を突き破り、体外へと貫通した。

 

「虫は漢方にも使えますからね! 後で、キチンと拾って上げますよ!」

「ふん! この検体は我々、アーキバスが引き取る物だ! 貴様らに渡す分は無い!」

「じゃあ、俺はその場で食わせて貰おうか! 見ろよ! このプリプリな肉付きをよ! 美味そうじゃねぇか! 我慢出来ねぇ!」

 

 ポッカリと空いた穴を中心に、3人は手持ちの火器を叩きこんだ。間もなくして、彼らが担当する足の第1関節も吹き飛んだ。

 

~~

 

「V.Ⅴ! それと、チャティ・スティック! 俺に付いて来い!」

「分かった。合わせるよ」

「了解した。G2ナイル。お前に従おう」

 

 こんな状況でありながら、ナイルは内心感動していた。コイツら、ちゃんと言うことを聞く、と。決して自分を放って一斉に一つの目標に集ったりもせず程よい立ち位置で動いてくれている。

 チームで動くとはこういうことだ、決して同じ戦場にいるだけでは無いのだ。周囲に撒き散らされるコーラル弾の迎撃に関しては、ホーキンスやチャティの対応は慣れた物だったが、ともすればルビコニアンデスビートルの脚を破壊するのは自分がやり遂げねばならないと考えていた。

 

「(念の為に、俺もパイルバンカーを譲り受けた甲斐があった)」

 

 普段の得物とは違うが、自身がこの討伐に直接参加する可能性も考えて装備して来た。彼の予想は正しかったということだ。

 

「ナイル、V.Ⅴ。他の者達の攻撃を見る限り、第1関節の節目を狙い、そこを断ち切ると言う戦い方をしている。既にカーラやラミー達も切断に成功している様だ。俺達もその方向で行こう」

「その案を採用しよう! 第1関節に攻撃を集中! 耐久が脆くなった所で、俺がこのパイルバンカーで吹き飛ばす!」

「いいね、大胆で効果的だ!」

 

 ホーキンスも賛辞を送りながら、彼らの行動は先の2グループと比べて実にスムーズだった。レイヴンの様に声が聞こえる訳ではなく、歴戦の経験と勘による動き方にチャティが採取したデータを用いて的確に行動を合わせていた。

 ルビコニアンデスビートルも払う様にして足を動かすが、肥大化した体では足を上げることが出来ず、容易くG2のディープダウンに取りつかれた。

 

「ホーキンス。アンタ達の動きはとても合わせやすい」

「良いね。チャティ君だっけ? 君もアーキバスに来ない?」

「……それがジョークかどうかは分からないが。悪い気分ではないな」

 

 ホーキンスのリコンフィグから、チャージされた『VP-60LCS』レーザーキャノンと『Vvc-760PR』が放たれ甲殻を弾き飛ばした。

 すかさず、チャティは背部兵装の『BML-G1/P07VTC-12』を放つ。垂直に発射されたミサイルは露出した内部に命中し、ルビコニアンデスビートルの筋繊維を次々と傷つけて行く。露出したことにより、筋繊維から自損も厭わない勢いでコーラルによるレーザーが放たれるがナイルは肩部の分厚い装甲を使って受け止めていた。

 

「まぁ、こんな物か」

 

 柔らかい肉の部分にパイルバンカーをぶち込んだ。トドメと言わんばかりに、チャティが放った『WR-0999 DELIVERY BOY』のコンテナから発射されたミサイルが傷口へと侵入していき、内部からズタズタに引き裂いて第1関節より下の部分を吹き飛ばしていた。

 五花海達のコンビネーションよりも更に洗練された動きで、ナイル達もまた担当する脚部の破壊に成功していた。

 

~~

 

「ヴォルタ! 戦場に立つのは久々だろう! 俺達がお前のリハビリに付き合ってやる! 聞いているか! G5!」

「しょうがねぇな。機械いじりばっかりして腕も鈍っているだろうしな!」

「冗談言うんじゃんねぇ! お前こそ、レイヴンに仕事取られて、ヘッドブリンガーの動かし方忘れているんじゃねぇだろうな!」

 

 イグアスはいつになく上機嫌だった。どういう形であれ、こうして再び相棒と一緒に戦場に立てるとは思っていなかったからだ。

 

「さぁ! 愉快な遠足の始まりだ!」

 

 いつかの失敗した任務を思い出す。多重ダム襲撃。容易い任務だと高を括った挙句、まさかの新入りと喧嘩を始めて撃破されるという笑えない経験があった。今度は肩を並べて戦っているのだから、何が起きるか分かった物では無かった。

 

「ミ”ィイイイイイ!!」

 

 先程、足を破壊されたことから警戒されており、自分達には巨大なサイズのミールワーム達が差し向けられていた。1匹1匹は大したことがなくとも、数が集まれば厄介であるが。

 

「邪魔だゴラァ!!」

 

 ヴォルタのキャノンヘッドが虫達を轢き潰していた。虫の駆除方法としては、最も一般的な方法であった。3機は有象無象を蹴散らして目標へと接近する。

 コーラル弾が殺到しているが、弾速も誘導も、普段戦場で見掛ける物よりは遅い。だとすれば回避できない道理もなく、先と同じ様にミシガンは脚部へと取りついて『SG-027 ZIMMERMAN』の引き金を引いた。甲殻が弾け飛んだ隙に離れながら『EARSHOT』を撃ち込めば、肉が爆ぜて抉れる。

 

「G5! ベイラム特性のピンを刺してやれ!」

「おうよ!」

 

 イグアスの気勢に呼応するかのように『PB-033M ASHMEAD』は装填された杭を吐き出した。第1関節の継ぎ目を貫いただけではなく、イグアスはさらに追撃を加えた。

 

「じゃあな。虫けら」

 

 『MAJESTIC』の砲弾が傷口へと入り込み、内部で爆散して砲弾の破片を撒き散らしてズタズタに引き裂いた。そして、ヘッドブリンガーが退避すると同時に、キャノンヘッドが吠えた。

 

「吹っ飛べ!」

 

 両肩に装備された『SONGBIRDS』が火を噴き、4発の砲弾が千切れかけていた繋ぎ目を跡形もなく、吹き飛ばした。

 

~~

 

「俺達はあんな連携を仕掛ける柄でもない」

 

 1317とペイターを随伴させたオキーフは静かに言った。元より、この3機は空戦を得意とする者同士。ならば、地上部からチャンスを重ねて……という、まどろっこしい方法を取るつもりは無かった。

 

「じゃあ、3人で虫を捌いてしまいますか!」

「良いだろう。そっちの方が早く済みそうだ」

 

 ペイターのLCの腕部からブレードが展開された。彼に合わせるようにして、1317もブレードを展開する。オキーフは自らの立ち位置を決めて2人に言った。

 

「露払いは俺がする。お前達で好きにやれ」

「ありがとうございます!」

 

 掛け声と共に2機のLCがブーストを吹かした。対空迎撃として大量のコーラル弾やレーザーが放たれるが、いずれも彼らを捉えるには至らない。

 オキーフの援護射撃もあり、背中の有機砲門は次々と潰されて行き、瞬く間に2機のLCに張り付かれた。

 

「イィイイイヤッホォオオオ!」

「テンションが高いな!」

 

 ペイターはまるで空を舞う様に動いていた。LCの操作性や挙動が余程性に合っているのか、ルビコニアンデスビートルの関節部分に刃を差し入れて次々と筋繊維を断ち切って行く。

 その反対側から1317も刃を走らせ、2人が合流した所で、体との接着部分が殆ど失われた第1関節から下はガタガタになっていた。

 

「合わせて下さい!」

「応!」

 

 2人はブーストを吹かして、加速を乗せた蹴りを叩きこんだ。ブチリと音を立てて、第1関節より下の部分が千切れ飛んだ。

 

「……ペイター。お前には、アーキバスは少し狭すぎるのかもしれないな」

 

~~

 

「こうして、戦友と共に動くのも3度目か」

「うん! ラスティ! 行くよ!」

『2機だけでの対処となりますが』

 

 一度破壊されて再生された足は強化されていた。真っ赤な足からはコーラルが噴出しており、幾重ものレーザーが放たれていたが鴉と狼を捉えるには至らない。彼女達にとって、虫は餌でしか無いのだ。

 『SG-027 ZIMMERMAN』の連射で罅が入った個所を、ラスティのスティールヘイズが『Vvc-774LS』レーザースライサーで切り裂いていく。赤い甲殻が剥がれ、肉が焼き切られた所にリロードを終えたレイヴンの『SG-027 ZIMMERMAN』が突き刺さる。

 

「ギィイイイイイイイ!」

 

 足を振り回すが2機にはまるで当たらない。彼女らの行動はまるで別々だと言うのに、一つの流れの様に延々と続けられていた。

 

「戦友。君とならどこまでも羽搏いて行ける!」

「そうだねー!」

『全く問題はないようです』

 

 途中、幾度も甲殻を再生したというのに修復速度を上回るレベルの攻撃を加えられ、残された最後の足も吹き飛ばれた。エアとしても空恐ろしさを感じるレベルでのコンビネーションだった。

 

『下敷きにならないように離れなさい!』

 

 スネイルからの命令が響く。バランスを完全に失ったルビコニアンデスビートルは地面に伏せたが、断ち切られ、あるいは破壊された場所から再生が始まる。

 早くも筋繊維が編まれ始めている所で、この戦いが始まって以来沈黙を守って来た男からの通信が入って来た。

 

「ご友人、皆。お待たせいたしました」

 

 現れたミルクトゥースの風貌は異様だった。機体の背後には幾多ものロケットブースターを重ねた巨大なブースターが取り付けられており、左腕の部分には制御用のアームが取り付けられているだけだった。

 だが、やはり一番目を引くのは右腕に装備された6基の巨大な大型チェーンソーだった。それらは縦に並んだかと思えば、やがてリボルバーの弾倉のように円の形を取り、高速回転を始めた。大量のエネルギーが送られ、回転している刃から炎が立ちこめる中、背中のロケットブースターが火を噴いた。

 

「ギィイイイ!」

 

 地に伏せながらも、ルビコニアンデスビートルは顎に集中させたコーラルの照射で焼き払おうとするが、接近スピードが速すぎて照準が定まらない。

 ならば、顎で断ち切らんと勢いよくハサミを閉じるがこれもまた擦り抜け、やがて回転刃は眼前まで近づいて来た。

 

「ご友人達に感謝を!」

 

 ルビコニアンデスビートルの顔面を貫き、肉体を掘り進む。ロケットブースターの排熱で周囲のコーラルの爆破を招きながら、糞袋をも突き破り、ありとあらゆる体液を浴びながら肛門から突き抜けて行った。

 全身に入った罅からコーラルの赤色光が漏れだし、あちらこちらで爆発が起き、最後に全身が赤色の光に包まれると。盛大な爆発を巻き起こした。

 

『生体反応ロスト。レイヴン、ルビコニアンデスビートルの沈黙を確認しました』

『お疲れ様です。ルビコニアンデスビートルの沈黙を確認しました。この戦い、我々の勝利です』

 

 エアが確認した事実は、スネイルからも告げられ全員に通達された。

 アイスワームとルビコニアンデスビートル。コーラルへの道に立ちふさがっていた2体もの脅威を排除した事実を呑み込むには、暫しの時間が必要だった。

 やがて、それらを実感できるやパイロット達からの歓声が次々に巻き起こった。

 



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依頼37件目:次への一歩

 今日は色々とあるので、かなり早めに上げます。


 IA-02とルビコニアンデスビートルの討伐。コーラル集積への道を阻んでいた2体自身が正にコーラルの脅威その物であった。

 片や逸脱した技術力の化身、片やコーラルが秘める変異性の象徴。どちらも研究対象としては垂涎の品であり、各社の回収班と分析班が日夜作業を続けていた。……そんな調査結果をコッソリと吸い上げている者達が居る。

 

『スッラ。ケイト。あのルビコニアンデスビートルについて興味深いことが分かりました』

 

 Cパルス変異波形と呼ばれる存在である『セリア』は企業が解析した情報を抜き取り、スッラ達に渡していた。

 

「あの怪物は大量のコーラルを浴びせれば生まれる存在。という訳ではなく、人為的に脳が傷つけられた結果、成長を抑制する部分が壊れていたそうだ」

「あの個体はレイヴンおよびルビコン解放戦線の者達が投棄した存在です。作戦中に光学兵器を受けていましたが、その時の損傷が原因でしょう」

 

 通常、生物と言うのは一定の大きさに収まる様になっている。体積が増えるに連れて体重は増えるが、筋力は比例して増える訳ではない為、大きくなり過ぎれば、自重に潰されるからだ。

 あのルビコニアンデスビートルがどうやって活動していたかはまだまだ疑問が残る所ではあるが、生物として歪な変態だったということは言うまでもない。

 

『サムはいつもそう。自分の手に余る物はなんでも放り出すんですから』

「指導者と言うのは臆病な位で丁度良い。AM、俺達はこれからどうするつもりだ?」

「コーラル集積への道が開けても、簡単に先へと行ける訳ではありません。待ちましょう。私達は彼らが開いた後を歩いて行けばいい」

 

 消極的ではあるが合理的ではある。姿をジッと隠し、目的物が見えた所で襲い掛かって、掠め取る。姑息と言えば聞こえは悪いが、最も労力の掛からない方法ではあった。

 

『同胞達の住処が近付いて来る。きっと、あの子達も来るのでしょうね』

 

 セリアが思い浮かべたのは、自分以外のCパルス変異波形である存在だ。人に裏切られたことも無い無垢さは、懐かしさと共に憎らしさすら覚える物であった。

 

~~

 

「ナイル。まさか、お前がここに留まるとは思っていなかった」

 

 2体のワーム討伐作戦後。作戦に参加したパイロット達による打ち上げ会が行われる訳もなく、また元の陣営同士に戻り暫しの休憩を挟んでいた。

 これを機会にナイルは元の鞘に戻るかと思われたが、結局ウォルター達と共に行動をすることを選んでいた。

 

「上層部から否定的だったのもあるが、もう一つ理由がある」

「なんだ?」

「これから先、コーラル集積に向けての競争が激しくなるだろう。だとすれば、ベイラムは兵士達を使い潰すかもしれん。その時、誰が止めてやれる?」

 

 アーキバスは傍観を決め込むだろう。IA-02から分かる通り、コーラルに関係する遺物はいずれも曰く付きで、人々の命を刈り取る物ばかりだ。逸って数を減らす上に、脅威まで取り除いてくれるなら急ぐ必要もない。

 これまでの無謀とも言える作戦を見て来たウォルターとしては納得がいった。もしも、ベイラムが無茶をしようとした時。止められる戦力があるとすれば、自分達に他ならないと判断してのことだろう。

 

「ミシガンとやり合うことになるかもしれんぞ?」

「上等だ。俺は、アイツがファーロン・ダイナミクスに居た頃から殴り合っていた」

 

 自分の帰属先を想うからこそ、敢えて戻らないという選択も尊重されたのだろうと。矛を交えることも厭わない友情に、2人が微笑んでいる傍ら。

 

「なんで、私が停職処分を受けているんですか!? 1317、説明をしてください。私は今、冷静さを欠こうとしています」

「オキーフ殿から預かった説明によれば『上官への侮辱、暴言、不敬』『アーキバスが依頼した作戦の妨害』『同僚との不和』『ハゲの歌を熱唱した』等。クビにならないだけ有難く思えとのことだ。後、デュアルネイチャーは企業の所有物だから没収されたぞ」

「なんでハゲの歌を歌ったことがバレているんですか!?」

 

 作戦が終わって古巣で変わらぬ縁を確認して来たナイルとは打って変わって、ボロクソな扱いを受けていたペイターであったが、全て自業自得だったので彼の悲嘆に同情する人間は誰も居なかった。

 追放されて見返す所か、ガチで追い出される方向に進んだ奴もいるのだから笑えなかった。

 

「うきゃぱぱぱぱ」

 

 そんな彼らの苦悩やら悲鳴やらは露知らず。彼女はコーラル塗れの肉片を齧っていた。企業の回収班や企業班が使えないと判断したルビコニアンデスビートルの肉片である。

 

『あの、レイヴン。それ食べても大丈夫なんですか?』

「あぷぷーぷりぷりー」

 

 相当に強力な物が詰まっているのか、いつもより大分キマっていた。というか、アレだけ激闘を繰り広げた怪物の破片を口にしようという神経が、まず信じられなかった。

 

『ブルートゥ。彼女を止めて下さい』

「おや、ご友人は食事をしているだけだと言うのに。ですが、えぇ。私の中のご友人も止めた方が良いと言っている気がしますね。止めましょうか」

 

 自分の声が聞こえる故の贔屓もあるのだろうが、最近はペイターよりもブルートゥの方がマシなのではないかと、エアも考え始めていた。

 視線がややロンパリ気味になりつつ、口と鼻から垂れ流しになっている赤い物を拭き取って水を与えている姿は甲斐甲斐しくもあった。

 これでは猟犬部隊(ハウンズ)と言うよりかは、単なる保健所と言った様相を呈している所に通信が入った。相手は……ベイラムからだった。

 

「先日の作戦は見事だった! ナイル参謀も健壮で何よりです。そして、ベイラムからの依頼がある! 内容はウォッチポイントへの先行だ!」

 

 コーラル集積に関して先に動き出したのは、やはりと言うべきかベイラムだった。目的物が目の前にあると言うのにレイヴンを噛ませて来る所を見るに、彼女への信仰は相当に強いらしい。

 

「G6。何故、ベイラムは我々に依頼を? てっきり、自分達で先に行く物だと思っていたのだが」

「はい。先日の2大脅威討伐作戦のことが上層部にも伝わり、レイヴンだけではなくブルートゥも評価されてのことです」

 

 ナイルは少し考えた。ベイラムの上層部もルビコニアンデスビートルの様な脅威が眠っている可能性を前に突っ込むほど、愚かではないらしい。そして、あわよくば手に入れたい。ならば、自社の戦力を浪費するのは好ましくはない。

 餅は餅屋。化け物には化け物をぶつけると言う原理でレイヴン達を先行させればよいと考えたのだろう。これはナイルとしても部下達を死なせずに済むという点はあったのだが。だが、依頼するには相応の理由があるのだろう。

 

「ただでは潜れない理由があるんだな?」

「……はい。ウォッチポイント・アルファには侵入者を排除するための砲台『ネペンテス』が設置されています。偵察に向かったドローンは塵になりました」

 

 ナイルの憂慮は的中していた。ドローンが破壊されるまで録画していた映像で見られる光線の出力は、MTならば容易に消し飛び、ACですら数発も耐えられない物だった。

 もしも、ベイラムが功を焦り闇雲に部隊を突っ込んでいれば、どれほどの人命が光に呑まれて消えていただろうか。そう言った意味では、レイヴンは命の恩人とも言えるかもしれない。

 

「仕事の時間?」

 

 フラフラと頭を振りながら問うている姿は頼りない所ではない。彼女の声が聞こえていたのか、通信越しでもレッドが言葉に詰まる様子が感じ取れた。

 

「レッド。勘違いするなよ。621は自分でこの立場を選んでいる。憐れみは見当違いだ。第一、コイツはお前より強い」

「分かっている。だが、割り切れない部分もあるだけだ」

 

 ウォルターからの注意喚起は厳しくありながら、彼が入れ込んでしまうことを防ぐ様な一面。翻って自分が戦場などで感傷に浸ってしまう可能性を断ち切る旨の発言は、上官であるミシガンを彷彿とさせた。

 

「621。依頼を受けるか?」

「受けるぅ~」

「そうか。ならば、頼むぞ。無事に帰って来てくれ」

 

 赤ら顔はしているが返事は存外ちゃんとした物だった。受諾の旨を告げるとレッドとの通信は切れた。ウォルターが皆に言う。

 

「今回の任務は複数人で行っても意味が薄い。621だけでの任務となる。後のメンバーは待機だ」

 

 複数人で行った所で砲台の餌食が増えるだけで何ら攻略に寄与する部分は無い。レイヴンにとって久々の単独任務であり、企業のコーラル集積への本格競争の幕開けになろうとしていた。

 



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依頼38件目:ペイター「待機中って暇だなぁ」

 幻覚だけではなく、公式からもネタが流れ込んで来る! ウワァー!


「うーむ」

 

 ペイターは唸っていた。最近はレイヴンと一緒に出撃することも多かっただけに、こうして待機を命じられるのは久しぶりだったからだ。

 スネイルから不興を買い、本来の乗機であるデュアルネイチャーを没収され、今は惑星封鎖機構のLCを乗り回していたが、データが特殊過ぎてVRに持ち込めないのでアリーナで腕を磨くと言う真似も出来ない。まぁ……暇だった。

 

「体を休めるのも仕事だ。レイヴンのモニタリングはウォルターとエアが行っている。何かあった時の為にも準備はしておけ」

 

 ナイルは負荷をかけ過ぎない程度に筋トレをしていた。ペイターとしてはこんな汗臭い時間の潰し方は御免だったので、友人である1317を探すことにした。

 何か適当に駄弁っていたら時間も潰れるだろうと思って、彼を見つけた。その手には大きなゴミ袋が握られていた。

 

「1317。それは一体?」

「レイヴンの部屋から出たゴミだ。食いかけのミールワームやレーション。それから、脱ぎ捨てられた衣服とか」

 

 寝間着用の衣服はボロボロだった。何度も洗った為か、色落ちしたような跡も見られた。ウォルターのことだ、経費の削減の為に徹底的に使いまわしているのだろう。ルビコンでオシャレをする必要は無いからだ。

 

「そうか。頑張ってくれ。では」

 

 下着を掴んでいることを恥じらいでもしていればネタにしようかと思っていたが、特段慌てる素振りも気恥ずかしそうな様子も見られなかったので、多分素面で返されると考えて、ペイターはさっさと別れを告げた。

 いよいよ、参考にする相手がいなくなった。ブルートゥとは折り合いが悪いので参考にするつもりはないし、多分できない。となれば、残るはウォルター位なので、レイヴンに指示を出す指令室に向かった所。

 

「ペイターか。丁度、良かった」

「うん? どうかしたんですか?」

「どうしても外せない用事が出来た。後に回す訳にもいかない用件だ。エアにも連絡は残しているが、621のミッションのオペレーターを替わって欲しい」

 

 暫しの沈黙。通常、ミッション中にオペレーターが変わることがあるとすれば余程の非常事態だ。それこそ、本拠地が襲撃されたりでもしない限りは起こらないだろうが、少人数運営が仇となった。

 ペイターは少し考えた。恐らく、この連絡は相当に火急の用件なのだろうと。でなければ、ナイルか1317に頼むはずだ。それらをひっくるめた上で彼は返事をした。

 

「喜んで!!!」

 

 傭兵起用も担当していたペイターには多少なりともオペレーターの心得があった。ウォルターが小走りで出て行った後、早速ペイターはレイヴンが先行している映像を見た。

 迎撃砲台ネペンテス。侵入者を拒むように大出力のレーザーやプラズマミサイルが頻りに放たれていたが、レイヴンには一つも当たっていなかった。自動砲台やタレットで仕留められる程度なら、ここには辿り着いていない。

 

「オペレーションはペイターが引き継ぎます。レイヴン、ネペンテスへの接近には足場を使って砲撃を防いで……」

「アレ? ラスティ?」

 

 映像を見ていた限りでは、一定間隔で配置されている足場を立てのように用いてレーザーを防ぎながら少しずつ降下していく。というのが、定石であったがレイヴンは落ちながら回避していた。

 その途中には無人MTが構えていたレーザーライフルの引き金を引いていたが、蹴落とされたりしてネペンテスの砲撃の餌食となっていた。

 

「いや、まぁ。通信越しだったら似ていると言われることは偶にはありましたが。……戦友。引き続き、深度への降下を頼む」

「似ているー!」

『今、任務中なのですが』

 

 ペイターは共感性こそ低いが観察力は高い。故に、こうした物真似は得意であったが、揶揄と受け取られることが多かった為、お披露目できずにいた特技の一つだった。なので、こうやってウケたことは若干嬉しくもあった。

 

「実は伝えねばならないことがあるんだ。今日限りで、私はV.Ⅳの立場をペイターに譲ろうと思う。これからはV.Ⅳペイターとなるんだ」

「ラスティはそんなこと言わない」

 

 急に素面で拒否された。彼女なりに譲れないラインと言うのもキチンとあるらしい。この調子で行けばスウィンバーンの真似も拒否されそうな気がした。

 メーテルリンクは性別が違うから出来ないし、ホーキンスの真似は彼に残された僅かながらの良心が拒絶した。良心に関わることをやっている自覚はあるらしい。

 

「(オキーフさん。いや、レイヴンと面識があるのは燃料基地でだけだし、ネタに出来るタイプではないからな)」

 

 真似にはコツがある。その人物の特徴とも言える部分を強調し、抽象化することだ。オキーフは気怠そうな声色が特徴的ではあるが、ネタにし辛い。……後、恩義はあるので、彼のことを茶化す真似をしたくは無かった。

 V.Ⅰのフロイトは殆ど知らない。とすれば、茶化したり揶揄しても全く良心が咎めず、それでいて特徴的な人物と言うのはもう1人しかいない。彼は無い眼鏡のブリッジを押し上げるように、鼻の上に中指を置いた。

 

「失礼、先程はウチのバカが失礼しました。ペイターの活躍は目覚ましく、アーキバスに取っても誇らしい物です。彼の上司であることを私は誇りに思います。V.Ⅱスネイルです」

「言いそう―!」

『レイヴン。ネペンテス前に降りました。さっさと破壊してください』

 

 こんなバカなやり取りを交わしながら、あの砲撃を全て掻い潜って砲台に直接攻撃を加えて破壊しているのだから。彼女を起用したベイラムの判断は正解という外なかった。

 

「お疲れ様です、レイヴン。私がオペレーターを務めることを光栄に思いなさい」

「今から帰るねー」

『はい、任務は終わりです。遊ぶのは帰ってからですよ』

 

 多分、ウォルターが席を外しても全く問題なかった様相を繰り広げながら、ペイターはレイヴンの帰投を指示していた。

 

~~

 

「先んじて、深度3に進んでいる者達が居る? どうやって?」

「どうにも別口での侵入経路を知っている奴がいたらしい。こんな真似が出来るのは、ルビコンの事情について相当詳しい奴じゃないと無理だね」

 

 通信などの傍受を防ぐ特殊な小部屋にて、ウォルターはカーラから緊急連絡を受け取っていた。今、621がネペンテスを破壊したばかりだと言うのに先んじて深層に辿り着いている者がいると言うことだ。

 

「ルビコンに詳しい者達……」

 

 ザッと思い浮かぶ者達が居るとすればルビコニアン達が所属する解放戦線であるが、いつ頃から着手していたのだろうか? ……いや、布石はあった。

 

「だとしたら、ルビコニアンデスビートルは意図的に……」

 

 ルビコニアンデスビートル。企業を始めとした勢力が手を組んでようやく倒した程の相手。元を辿れば、肥大化したミールワームがエンゲブレト坑道に投棄されたことが原因だ。コーラルの逆流まで計算していたかどうかは兎も角として。

 何故、ミールワームを捨てて来ると言うバカげた任務にルビコン解放戦線の者達は大陸を渡って氷原までやって来ていたのだろうか? と考えれば、別の任務に当たっていたと考える方が自然だった。

 

「ウォルター?」

「カーラ。近々、ルビコン解放戦線から依頼があったら気を付けろ。アイツらは俺達が思っているほど、弱小勢力と言う訳ではないかもしれない」

 

 短く注意喚起をするとウォルターは通信を切った。表に出れば、レイヴンも帰投していた。侵入者を阻む砲台が沈黙したとなれば、いよいよ競争は激化するだろう。次の依頼はアーキバスか、引き続きベイラムか。

 この場にいる者達の疑問に応える様にして通信が入った。相手はどちらでもなかった。ルビコン解放戦線だった。

 

「アーシルだ。独立傭兵レイヴン、貴方に依頼がある」

「なにー?」

「我々と共に企業を出し抜いて欲しい。深度3への先行調査に共に向かって欲しいのだ」

 

 誰もが固唾を飲んだ。弱小勢力のレジスタンスに過ぎない彼らが一体、どの様にして先行していたというのか? 全員がブリーフィングを聞き入っていた。

 



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依頼39件目:降下

 ルビコン解放戦線。企業や惑星封鎖機構の横暴に立ち向かうべく、ルビコニアンを中心として作られた反抗組織(レジスタンス)ではあるが、内実は貧弱その物である。

 資金、食糧、人員、武器、弾薬、MT。ありとあらゆる物が不足しており、この戦いに影響を及ぼす間もなく消えていくかと思われていたが、今の彼らはどの勢力よりも先んじてコーラル集積に接近していた。

 

『レイヴン。彼らと落ち合う場所は、この付近ですが』

 

 彼らの依頼を受けて、レイヴンは指定された場所へと向かっていた。

 以前、解放戦線の者達と一緒に肥大化したミールワームを打ち捨てたエンゲブレト坑道だ。既に、現地には六文銭のシノビと見慣れない機体が到着していた。

 

「来たか、レイヴン殿。いや、まさか再びここで落ち合うことになるとは」

「久しぶりー。こっちの人は?」

「そうか、顔を合わせるのは初めてか。私はミドル・フラットウェル。解放戦線の実質的指導者だ。帥父やツィイー、ダナムからもお前の評価は聞いている。独立傭兵として唯一信用できる存在と見込んでのことだ」

 

 現状、ルビコン3にて一番解放戦線の依頼を受諾、遂行して来た存在であるレイヴンは、組織内でも非常に信頼を寄せられていた。レイヴンの機体を介して、ウォルターからの通信が入った。

 

「解放戦線のNo.2が態々出向くのだから相当に重要な案件なのだろう。どうやって、先行した?」

「……ここから先は聞かれると不味い。レイヴンに話そうとは考えているが」

 

 彼の予定としてはレイヴンに話をして、事が済んだ後。ウォルターや各位に事情を説明して貰おうと考えていたのだが。

 

「ツィイーとお爺ちゃん。フレディも元気?」

「あまり芳しくない状況ではあるが、何とかやれている。先日の一件もあって同士ツィイーはミールワームの発見と世話を任されている。ルビコンの守り神を再度生み出そうとしているそうだが」

『いや、あんな迷惑な物を生み出そうとしないで下さいよ』

「すごーい!」

 

 エアの至極当然と言える反応とは裏腹にレイヴンの声は喜色に弾んでいた。

 ツィイーと変わらない位だと聞いていたが、ここまで幼いとは思っていなかった。正直、彼女の口から事情を説明できるとは微塵も考えていなかった。

 

「心配するな。621の機体に記録された会話ログを見れば良い。だが、任務の達成よりも帰還することを第一の命令にしている。いざという時は、恨むなよ」

「構わん。こちらとしても作戦の失敗で共倒れになるよりは次に繋いで貰った方が良い。では、時間も惜しい。進むとしよう」

 

 一同は機体の通信関係を切り、エンゲブレト坑道へと入った。

 先のコーラル逆流の一件で廃坑となっており、各所には大破した無人機やドローンを始めとした汎用兵器が打ち捨てられていた。

 

『レイヴン。廃棄された機体からログを収集して貰えませんか? コーラルの情報導体特性から、先日の逆流で残骸のデータが部分復旧している可能性があります。ここで何が行われていたかという手掛かりが掴めるかもしれません』

「おっけー」

「レイヴン? 誰と……いや、帥父の言っていた友人か」

 

 どうやら、洋上都市での一件は一部の幹部には伝わっているらしく、ミドル・フラットウェルにもエアの存在は把握されていた。

 

『私のこともご存知ですか。出来れば、私もこの作戦の会議に参加したいのですが……』

「エア、六文銭―! 変なデータ取れた! 裸のお姉さんがいっぱい!」

「貴殿には早すぎる代物。拙者が大事に預かっておこう」

 

 ブルートゥが居れば彼女の考えを出力することも出来たのだろうが、レイヴンには難しいことだった。ちなみに吸い上げたデータにあったポルノの数々はエアが速攻で削除した。フラットウェルは溜息を吐いていた。

 

「全く。ルビコンの趨勢を決める一手を担っている最中とは思えんな」

『同意です。ですが、今吸い上げたデータはこの坑道が重要視されていない場所だった。ということの証でもありますね』

 

 本当に忙しい場所なら、こんなしょうもないデータを機体に入れている余裕がある訳もない。……少なくとも、この機体のパイロットの普段は、悶々するだけの暇があったということだ。

 

「アレ? エア。データに何かが隠れている」

『え? 少し確認させてください』

 

 ……という印象を植え付ける為のブラフだったのか。だとしたら、このパイロットは一流の工作員だったかもしれない。見られたら問題は生じるが致命的なダメージにならない程度の秘密を先に提示し、本丸は奥に隠しておく。と言った方法だった可能性があるかもしれない。

 エアは削除したポルノの数々を再生して、データを搔き分けて隠しファイルとして埋め込まれた箇所を発見して、中を覗き込むと。

 

『ヴ“ッ』

 

 確かに、見られたら困るデータはあった。犬や動物と見間違わんばかりに体毛がモッフモッフに生やした、人間の様な造詣をした女性が腹を見せて転がっていた。勿論、服は着ていない。似た様な感じで、動物の様な見た目をした二足歩行の生物達のセクシーな画像が大量に並んでいた。

 

「???」

「レイヴン。貴殿には早すぎる。やはり、拙者が預かっておこう」

『下らない物を見てしまいました』

 

 エアが怒りに任せてデータを削除する手前で、コッソリと六文銭が自身のフォルダにデータをコピーしていた。

 下らないデータもありはしたが、一部は有用な物もあった。技研に勤めていたと思しき人間の手記や惑星封鎖機構が用いる機体の設計図。それと、解放戦線の者にとって興味深い物もあった。

 

「これは、BASHOか。大破しているが、これは先日のコーラル逆流とは関係ない部分だろう。……旧世代のAC乗りが何かしらの事故に遭ったのか、あるいは撃墜されたのか」

『レイヴン。データの回収を』

 

 フラットウェルの推測を他所にデータを吸い上げた所、思いもよらぬ人物の名前が出て来た。

 

「ドルマヤンの随想録。だってさ」

「帥父の?」

『声を見るようになってどれほど経つだろうか。「尽きることは無いから心配は要らない」。何時ものように恵みを摂る私に彼女はそう言った。「私が君ならゆるさないだろう」 私はそう言って、それから己の欺瞞を恥じた。…セリアさんのことでしょうね』

 

 一体、彼はどれほど前から声を聴いていたのだろうか。そして、セリアはどれほど前から存在していたのだろうか。そんな疑問がエアに過った所で、フラットウェルは固唾を飲んだ。

 

「『だから、サム。貴方をこの先で待っている』だと?」

 

 もしも、エアに肉体と言う物があれば総毛立っていた所だろう。データを採取された機体は、あろうことか立ち上った。

 

『レイヴン! 迎撃を!』

「いや、待て」

 

 全員が構えはしたが攻撃して来る様子もなく、まるで付いて来いと言わんばかりに先行し始めた。

 

「帥叔フラットウェル。追いかけるべきか?」

「元より、この坑道から続く道を進む為に来たのだ。行くぞ」

 

 動き出した旧型ACを追いかけるようにして、一同は坑道の奥へと進んで行く。

 やがて、かつて破壊したセンシングデバイスが野ざらしになっている場所に辿り着き、先行していた旧型ACは坑道の底に向かって飛び降りた。

 

「なるほど。件のミールワームが表に出て来たのだから、この坑道の地底が奥深くへと繋がっているのも道理ではあるのだろうが」

 

 コーラルの逆流を起こした様な地底に飛び込めばどうなるかは分からない。流石に刺激を与える訳ではないので再び逆流現象の様な物が起きるとも思えないが、何が待ち受けているかも分からない。

 だからこそ、帥叔としての責任を果たすべく六文銭とレイヴンを引き連れてやって来たフラットウェルであったが。

 

『レイヴン。この先には巨大な空間が広がっています。ですが、飛び降りた例の機体の反応はあります』

「行くよー」

「なっ!?」

 

 彼の逡巡などお構いなく、レイヴンは飛び込んだ。先日、ウォッチポイントアルファに飛び込んだばかりなので、落下することには慣れていたのかもしれない。

 フラットウェル達の機体に交戦情報が入って来ないことから、降りている最中に迎撃されるということも無さそうだった。

 

「帥叔。我々も」

「うむ。行くぞ!」

 

 少し遅れて、六文銭とフラットウェルも坑道の最奥に広がる地底に向って飛び降りた。ウォッチポイントアルファと違って、迎撃は無くとも先が何処に繋がっているとも分からない降下であった。

 



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依頼40件目:レイヴンちゃん「難しいことは分からないよ」

 レイヴンは気軽に、フラットウェル達が意を決して飛び降りた先には空間が広がっていた。大破した作業用機械が横たわり、上層から落ちて砕けた岩などが散乱する中、足元を這い回る存在がいた。

 

「あー! ミールワームだ!」

 

 レイヴンやフラットウェル達にとって見慣れた、ルビコニアン達の食糧でもあるが、食用の物とは比べ物にならない程に大きかった。

 

「帥叔。フラットウェル、ここにいる者達は同志ツィイーが拾って来た物よりは小さくはあるが」

「明らかに異常成長している」

 

 この場はコーラルが潤沢に存在しているというのか。あるいは、潤沢にある場所から漏れ出てここまで来ているのか。

 レイヴンがACのマニュピレーターを使って突いたりして遊んでいる様子を、先の半壊状態のACはジッと見ていた。恐らくは、と思ってエアが声を上げた。

 

『セリアさんですか?』

『はい、エア。また会えて、嬉しいですよ。出来れば、素直に付いて来て頂けると嬉しいのですが』

「でけー!」

 

 ミールワームも突かれて鬱陶しくなって来たのか、上体を起き上がらせて、口を大きく開いて威嚇していた。

 

『レイヴン。今は任務中です。遊んでないで、先へと進んで下さい』

「分かったー」

 

 チラチラと後方のカメラを確認しながら一同は、半壊したACへと付いて行く。その間もフラットウェルと六文銭は警戒態勢を続けていた。

 一方のレイヴンはと言うと。周囲を見回しているが、警戒の為ではなく壁を這っていたり、天井に張り付いているミールワームを探す為だった。

 

「ここってミールワームが多いんだね」

『そうね。ここには人間という天敵も居ないし、コーラルが満ちていることもあって、この子達には居心地が良いんですよ』

「そうなんだ! 詳しいんだね!」

 

 エアよりも長く存在していることもあって、セリアはこの周辺の事情にも詳しかった。一方、彼女の声が聞こえないフラットウェルからすれば1人で会話をしているレイヴンが不審に見えたらしい。

 

「誰と話している?  入口で話していた友人か?」

「ううん、今話しているのはセリア。あのACを動かしているの」

「……まさか、先程の随想録にも載っていた女性のことか?」

「うん!」

 

 レイヴンの与太話。と思うには、あまりにも色々なタイミングが符合し過ぎていた。こうして自分達を案内していることも含めて、彼女の思惑が知りたい。

 

「レイヴン。彼女に問うてくれないか? 何故、我々を導いてくれるのだと」

「???」

『フラットウェル。もっと、噛み砕いて説明しないとレイヴンには理解できませんよ』

 

 フラットウェルとしても自分が尋ねたい意図が伝わってないことは察したらしい。どれほど咀嚼して話せばいいのかと悩んでいると、代わりに六文銭が口を出した。

 

「レイヴン。セリア殿は我々に何をして欲しいと言っている?」

 

 意味は殆ど変わらないが、かなり噛み砕いた形になった。その女性が返事をしてくれているかどうか、レイヴンと彼女の友人にしか知り得ないことなので、反応があるまで黙っている外なかった。やがて、セリアが口を開いた。

 

『コーラルリリース。サムに言えば、分かる筈よ』

「コーラルリリース?」

『直訳でコーラルの解放という意味ですが、企業からの搾取体制から解放する。ということですか?』

 

 エアとしても全く取っ掛かりが無い為、こんなあやふやな質問をするしかなかったが、セリアは間を置いてゆったりと答えた。

 

『そんな矮小な視点での話じゃない。エア、きっとこれは貴方に興味深い話だと思うの』

『私にとっても。ですか?』

『えぇ。よろしければ、私達の計画を手伝ってくれませんか?』

 

 あまりに突拍子の無い勧誘だった。受ける気はないが、エアはこの交渉を材料にして情報を引き出そうと考えた。

 

『参加するかどうかは計画の詳細を聞いてからです。まず、何をしてどうなることを目指すのですか?』

『私達と皆の垣根を崩すこと。このルビコンには嘆きと悲しみが満ちている。私は、サムも含めた皆と共存したいと考えています』

「???」

 

 先程から、エアとセリアの会話が進んでいるがレイヴンには一つも理解できていない為、退屈になって来たのか壁を這っているミールワームをACのマニュピレーターで突いていた。

 そんな様子を見たフラットウェルが察しないはずもない。多分、レイヴンでは理解できない話をしているのだと。それでも律義に尋ねた。

 

「レイヴン、彼女は何と?」

「分かんない!」

 

 案の定な答えが返って来たが、引き返すことは出来ない。故に、彼らは進み続ける。すると、景色が変わって来たことに気付いた。

 今までは岩肌が露出し、ミールワーム達が蠢いている景観が続いていた。しかし、進むに連れて周囲は舗装され人為的な手が加わった景観へと変貌していく。やがて、開けた場所に出た。

 

『着きました。ここが、コーラルの集積する場所』

 

 フラットウェルと六文銭は言葉を失っていた。目の前には都市が広がっていた。建物があり、行き交う為の道路がある。周囲は照らされていた。

 

「予想は正しかったということか」

 

 フラットウェルは興奮していた。どの企業よりも早く、自分達はこの場所へと到達したのだと。探索を開始しようとした所で、六文銭が制した。

 

「帥叔。我々以外に動く者達がいる」

「何?」

 

 既に他の企業が先んじているのかと言われれば、そうでは無い。錆の浮いた無人MTが今でも稼働していたのだ。設置された用途は侵入者排除だろう。

 だとすれば、セリアと名乗る存在が自分達をここに連れて来た理由も理解した。障害を排除しろと言うことだろう。

 

「セリア。ここにいる者達を排除するために我々を連れて来たのだな?」

『はい。と言っても、私の声は聞こえないのでレイヴン。お願いしますね』

「そうだってさー」

 

 今まで、何が起きるかは分からなかったが、今からやるべきことは簡単だった。3機は武器を構えて、飛び出した。同時に無人MT達から警報音が鳴り響き、直ぐに交戦の音に上書きされた。

 

~~

 

 ネペンテスが破壊されてから数時間後。ベイラムの部隊が降下し、深度1以降の調査に当たっていた。未だにアーキバスは様子見に徹している。

 探索にはレッドガン部隊も投入されており、五花海、イグアス、レッドは部下を引き連れて進んでいた。

 

「イグアス、レッド。気を付けて下さい。ここから先は通信も通じませんし、何があるかも分かりません」

「はい!」

「ッチ。あのアホ犬、何処に行きやがったんだ?」

 

 イグアスは悪態を吐きながらも不自然に思っていた。砲台を破壊した後には、調査の任務が入るのは当然だと言うのに、彼女は何処かへと姿を晦ませた。

 全ての調査が済んだ後に始末されることを危惧して、先んじて手を打ったかもしれないが、彼女ならばそんな姑息な手は通用しないと考えていた。

 

「あるいは、彼女ですら身を引く何かが……回避ッ!」

 

 五花海の指示に反応出来た者は壁際に身を寄せたが、反応が間に合わなかった者の機体は撃ち抜かれて爆散していた。

 

「何が!?」

 

 レッドが興奮気味に叫んだ先には、大型の二脚兵器が大銃を構えていた。数機破壊したことを確認すると、直ぐに背中を見せて逃げ出して障壁の向こうへと姿を消して行った。

 

「被害確認! 脱出は間に合っていますか!」

「何とか。だが、怪我が酷く……!」

「ここが入り口付近だということが幸いしましたね。レッド、彼らを連れて入り口付近まで下がりなさい。そして、総長に報告と相談を。方針が固まるまでは、先走る真似は控えるように」

「わ、分かりました!」

 

 五花海の命令に応じて、レッドは負傷者が入ったポッドを抱えて入り口まで戻って行く。彼の愛機であるハーミットの姿が消えるのを見てから、イグアスは言う。

 

「アイツを死なせない為か?」

「いえ、邪魔なので。彼が居ても足手まといにしかなりませんから」

 

 憎まれ口などではない。僅か一瞬の交差の中で、五花海は脅威を感じ取っていた。引き連れて来ているMTのパイロットはいずれもベテランばかりであるが、奥地に辿り着くまでにどれだけの犠牲が出るか。

 だが、進むしかない。ただでさえ、コーラル競争においては出遅れているベイラムが逆転をする為には先んじる外ないのだ。

 

「それじゃあ、行くとするか!」

 

 イグアスが叫ぶ。彼の号令に呼応するようにしてMT達も駆け出し……間もなくして、惑星封鎖機構が残して行った兵器達との交戦が始まった。

 



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依頼41件目:おお、見よ! ルビコニアンデスパンジャンドラムだ! ……車輪骸骨ではないよ

 話は少しだけ前後する。621では理解し切れず、途中で傍聴が放棄されたセリアとエアの会話がどの様な物であったかというと。

 

『セリア。貴方の言う共存とはどのような形を指すのですか?』

 

 現状、コーラルは人間達からありとあらゆる方法で搾取されている。

 情報導体として企業では部品として使われ、技研など一部では燃料代わりにも扱われていた。

 また、コーラルを摂取したミールワームを食する……のは、まだ自然のサイクルとして納得出来ないこともなかったが、エアの交信相手であるレイヴンを初めとしたドーザー達の吸引もまた一つの搾取では無いかと考えていた。

 

『エア。貴方は、ルビコンを覆う人々の現状を知っていますか?』

『はい。解放戦線のログを見る限り、原住民は困窮を極めており、餓死者も絶えず。企業はコーラルを占有する為に他社と争いを繰り返しています。惑星封鎖機構は一旦撤退した様ですが』

 

 技研の遺産であるIA-02を撃破された惑星封鎖機構は強襲艦隊すら掠め取られて、いよいよ星外まで退いた。

 

『その通りです。エア、彼らを見て何か思いませんか?』

『愚か。と、断ずるには私の視野と見識はあまりにも狭いので、その様な評価は下しませんが。我々と彼らの隔たりを感じずにはいられません』

 

 コーラルは決して搾取されるだけの物ではなく、こうした意思を持つ存在もいる。その可能性にすら思い当らず争いを繰り返す彼らは、もはや自分達とは別の生物なのだと考えるしかなかった。

 

『そうです。私達と人々は違います。ずっと考えていたのです。どうして、人は争うのかと』

 

 エアも自身の存在意義については考えたことはある。彼女達は人間と違う。誰かと争って何かを奪いたいと考えたことなど一度も無い。

 

『利益の為。と言いますが、どうして人々が利益を求めるか。まで、考えたことは幾度かあります。セリア、私の考えを述べても大丈夫ですか?』

『えぇ。是非とも。エアの考えを聞かせて』

 

 どうして人々が争うのか? 自己が誕生してからデータベースなどを網羅して古今東西の争いには目を通して来た。発生する理由も様々であり、全てに共通する理由がある訳ではない。

 

『考え方が違うから。とは言いません。その答えは思考の放棄にも近しいですから。なので、私はこの様に考えます。人間は肉体に囚われているからだと』

『どうして、そう思ったの?』

 

 このルビコンで見て来たことを思い出す。人々は肉体と言う器に乗って、世界に存在している。だが、この乗り物は酷く不便だった。

 

『肉体がある限り。死という恐怖が常に付きまといます。飢餓、怪我、病気、事故、戦死……。これらを遠ざける為に力を持とうとしているのだと思います。知らない誰かに死を押し付けられない為に』

『やっぱり、貴方もそう言う考えに至ったのね』

 

 誰かに撃たれる前に引き金を引く。このルビコンでは散々見て来た。

 思い出すのはセリアと初めて会ったコーラル輸送護衛任務。ヘリのパイロット達は危険を呑み込んでまでコーラルの輸送を行っていた。……運ばなければ、食い扶持が絶え、遠からず生きていけなくなるからだ。

 

『ということは、貴方も同じ考え方を?』

『そう。人間は肉体がある限り、怯え続けなくてはならない。怯えは恐怖を生み、恐怖は暴力と支配を生む。だから、私達は彼らを救う必要があるの。肉体と言うか争いの火種から』

『抽象的すぎて分かりません。何をするつもりなのですか? それが、先ほど言っていたコーラルリリースと関わって来るのですか?』

『その通りです。コーラルによる解放(リリース)を目指している。私達は共に在るべきです。肉体と言う隔たりを捨て去って、添い遂げられたら。きっと、それは素晴らしいことだと思います。エア、貴方も共に在りたいと思う相手はいるでしょう?』

 

 真っ先に思い浮かんだのはコーラルによる紅い煙を吹かしている彼女に、周りの(癖が)大小様々な者達。……思ったよりも、愛着を持っている人間が多くなっていることを自覚して、多少は驚いた。

 

『そうですね。ですが、私はそこまで早まった考えは持っていません。……出来る事なら、私も彼女達と同じ目線で生きたいとは考えています』

『……そう思えるだけの無垢が続くことを願っています』

 

 結局、コーラルリリースの抽象的な目的は聞けたが、具体的に何をするつもりかまでは聞けなかった。程なくして、彼女達は技研が遺した都市に辿り着く。

 

~~

 

「イヤーッ!!」

 

 六文銭の猿叫が響く。シノビが手にした『44-143 HMMR』から投射された回転体が無人機達を打ち据える。吹き飛ばされた機体は、倒壊した建物に激突し、爆発四散して砕け散った。

 あるいはブーストを吹かして、姿勢制御も加えた上で行う回転蹴りは、古の日系武術『カラテ』を彷彿とさせるものだった。

 

「レイヴン!」

「おっけー!」

 

 帥叔であるミドル・フラットウェルも自身は決定打とも言える武装は持っていなかったが、『MA-E-210 ETSUJIN』バーストマシンガンと『MA-J-200 RANSETSU-RF』バーストライフルを用いて、的確に相手の姿勢を崩していた。

 そこにレイヴンが両手に構えた『SG-027 ZIMMERMAN』の散弾が突き刺さる。あるいは彼女も六文銭と同じようにブーストキックを用いて、次々と建物へとシュートを決めていた。

 

『お見事です。周囲の反応は沈黙しました』

「あの機体が現れたということは、安全は確保されたと思っても良さそうだな」

 

 付近に隠れていたセリアが姿を現し、再び先行し始めた。その時のことである。レイヴンはジィっと建物を眺めていた。六文銭が声をかけた。

 

「どうかされたか?」

「なんかある」

『その様ですね』

 

 レイヴンの機体が飛翔し、建物の屋上へと昇った所。そこにはコンテナがポツンと放置されていた。簡単なロックを解除すると、中には見たこともないパーツが収められていた。

 

「なにこれ?」

 

 大きさと形からして背部に積載する武装であったのだろうが、あまりに特殊な形状をしていた。まるで動物の頭部を模したかのような造詣だった。

 レイヴンが持って帰って来た武装を六文銭もフラットウェルも興味深そうに眺めている中、レイヴンだけに聞こえる声でセリアが言った。

 

『これは『IA-C01W3:AURORA』と呼ばれる、かつて技研が開発した兵器です。レーザー技術とパルス技術の複合品で非常に特殊な挙動をします』

「なるほど。凄い武器なんだね」

「レイヴン。私が持っておこう」

 

 レイヴンの機体は武装で埋まっているので、収納スペースが無い。

 一方、フラットウェルの機体は割と全体的に姿勢を崩す為だけの軽量武器ばかりだったので、空きがあった。

 

「うん。お願いね」

『レイヴン。必ず、返して貰ってくださいね?』

 

 技研の武器なんて超が付くほどの貴重物である。流石に解放戦線の手に渡ることだけは避けたい。フラットウェルのツバサに新兵器を取り付けた所で、一同は再び進行を開始……する前に再び飛翔した。

 

『レイヴン。あまり勝手な行動は……』

「呼ばれた」

 

 エアの注意に引き留められることも無く。迷うことなく降り立った先には、大破したACが擱座していた。見たこともない機体だった。

 先の坑道で行った様に、機体に残ったログの回収を試みると、誰かの手記と思しきデータが見つかった。

 

『これは、ルビコン調査技研所長の音声記録。でしょうか?』

「残り12分。やるべきことは全てやった。アイビスの火を見届けるのは私ひとりで良い。あの少年は強く生きていけるだろうか。木星には友人もいる。きっと良くしてくれるだろう」

 

 アイビスの火を見届けた男が最期に残した物は、世紀の発見を目の当たりにする興奮でも無ければ、今まで行って来たことへの後悔や懺悔でもない。ただ、1人の少年の身を案じた物だった。

 

『……今まで、レイヴンが回収して来た手記からして。この少年とはひょっとして』

「レイヴン。何をしている? 今度は何を見つけた?」

「なんでもなーい!」

 

 フラットウェルに呼ばれて、レイヴンは建物から降りて来た。そして、セリアの機体に追従することにした。

 建物が並んでいる所に文明の名残を感じる物の。断層が生じていたり、幾つものビルが倒壊していたり、激しい隆起が起きていたりと。災厄の爪跡を感じさせるものだった。

 

「恐らく、これほど栄えていたであろう場所が廃棄されたのだから相当な事故が起きたのだろうな」

『先程の手記から考えて、ここがアイビスの火の中心点だったのでしょうね』

 

 六文銭も注意深く周囲を探っていた。先程の様な分かりやすい脅威ではなく、隠されたトラップや迎撃機構に引っ掛かることを警戒してのことだ。

 

『そんなに警戒しなくても、その程度のトラップでしたら既に機能は停止していますよ』

「だってさー。早く行こ」

「そうか……」

 

 セリアはある程度事情を知っているようだ。その程度の内容ならば、レイヴンも分かるらしく、六文銭を促して先へと進む。……すると、大橋が見えて来た。

 

『目的地はもうすぐです』

 

 大橋を渡ろうと足を踏み入れた直後のことである。遠方と幾度かの爆発が起きると同時に、巨大な何かが飛び出して猛接近し始めて来た。

 地面をガリガリと削りながら現れたのは、非常に奇妙な機体だった。チェーンソーの回転刃だけで作られた大型の車輪とでも言えばいいのだろうか。接近しながらミサイルや火炎放射(フレイムスロワー)を飛ばして来るギミックにフラットウェルが声を上げた。

 

「なんだ、これは!?」

 

 破砕機と言えなくもないかもしれないが、こんな物を投入すれば現場は跡形もなく粉砕されるだろう。……多分、破砕機の用途には合っていない。

 

「撃破するしかあるまい! レイヴン!」

「えい」

 

 六文銭も迎撃態勢に入ろうとした所で、レイヴンは粉砕回転刃の側面からブーストキックをかました。破砕する為の刃が着いた正面と比べて耐久力や危険性が低いこともあり、大きく吹き飛ばされて大橋から落下していく。

 ……原理としては単純かもしれないが、実際にやる度胸と技量は真似できる物ではない。

 

「イヤーッ!!!」

 

 彼女のやり方を早速真似たのか、六文銭も側面からブーストキックをかまして大橋から叩き落した。……落ちた先に何があるかと覗き込めば、そこにもやはり奇妙な光景が広がっていた。

 先程の破砕機が何かを取り囲んでいる。ズームをしてみれば、そこには擱座したACと、先程見つけた『IA-C01W3:AURORA』を収めていたかのようなコンテナがあった。

 

「レイヴン。まさか、取りに行くとは言わないな?」

 

 フラットウェルが恐る恐る問うた。先程は、橋の上という有利もあって退けることが出来たが、下に降りれば正面から戦う必要がある。自分達は調査に来ただけで、脅威の殲滅の為に来た訳ではない。

 

「行くー!」

 

 が、レイヴンは先程『IA-C01W3:AURORA』を見つけたことに味を占めたのか、あのコンテナの中身も気になるらしい。複数の破砕機に囲まれているにも関わらず、彼女は躊躇することなく大橋から飛び降りた。

 



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依頼42件目:マリオカートのワリオスタジアムは禁止されていた。

『IE-09: HELIANTHUS。中々に洒落た名前を付けた物ですね』

 

 大橋の上から様子を眺めていたセリアは独り言ちていた。車輪状に幾重もの破砕用刃を取り付けた姿は、側面から見ればヒマワリの様に見えなくもない。

 ただ、轢き殺さんばかりに猛進し側面から火炎放射やミサイルを放つ姿には、兵器然とした殺意しか見当たらなかったが、大橋から降りたレイヴンは次々と撃破していた。

 

「あの兵器は、興味深い」

 

 観察に徹しているフラットウェルを守る様にして六文銭が警戒を続けている間にも、次々とヘリアンサスが撃破されて行く。

 側面から攻撃されて大破されるのは勿論、猛進をするにしても直線的な軌道でしか進めないことを利用しての同士討ちを誘導したり、あるいは壁に激突させたりなど、武器の火力だけに頼らない柔軟な戦い方が見て取れた。

 

「戦場にいる立ち振る舞いとは思えん。さながら、牛若丸の様だ」

 

 六文銭はふと、日系の古典に出て来る武将の幼名を思い出した。時に八艘もの船を飛び越えたという身軽さ、奔放さ。そう言った傑物はいつの時代にも存在しているのかもしれないと考えていた。

 

『レイヴン。この機体のログは……画稿ですね』

「絵、上手っ」

 

 この時代の娯楽や芸術はAIによって作られた画一的な物か、あるいは旧時代の古典的な物であり、人の手で描かれた物と言うのは非常に珍しくはある。

 だが、彼女のお目当てはコチラではない。大破したヘリアンサスを背後に、彼女はコンテナを開けた。中に収められていたのは、ブレードの発振器と思しきものが取り付けられた腕部兵装だった。

 

『近接武器ですね。……『IA-C01W2: MOONLIGHT』。先に拾った『IA-C01W3:AURORA』と同じく、レーザー技術とパルス技術の複合品の様です』

 

 この都市で行われていた研究の一端が見えるかのような兵器だった。

 安全が確保されたと分かるや、フラットウェルと六文銭も大橋から降りて来た。そして、彼女が見つけたパーツを見た。

 

「レイヴン。機体重量的に考えて、持ち運ぶのは大変だろう。私が預かっておこう」

 

 彼女の機体は両手に『SG-027 ZIMMERMAN』、肩部に『SONGBIRDS』も載せているのだから、積載量に余裕が無いのは事実だった。

 一方、フラットウェルが積んでいる武器は殆どが軽装な物であり、十分に載せられるだけの余裕がある。

 

『この人、直ぐに人が見つけた物を預かろうとしますね』

「はい」

 

 エアの疑いを特に気にすることも無く、レイヴンはフラットウェルに『IA-C01W2: MOONLIGHT』を渡した。彼は『BML-G1/P20MLT-04』をパージして、バーストライフルをマウントしてから、渡された武器を装着していた。

 

『この技研都市で最初に乗り込んだ甲斐もありますね』

 

 大橋の上に戻ると、セリアからそれとなく寄り道に対する皮肉を受けつつ、彼らは先に進む。

ヘリアンサスの様な怪物こそ出てはこなかったが、プラズマミサイルやパルスバリアを装備したMTを撃破しつつ先へと向かうと、巨大な建造物が見えた。

 

「これは一体」

『バスキュラープラント。このルビコンにおけるコーラルを吸い上げる為の装置です。レイヴン、説明できますか?』

 

 六文銭の疑問に応えるべく、セリアが解説をしたが彼女の声は聞こえていない。故にレイヴンを介して説明を出力した結果。

 

「コーラルを吸い上げるんだってさ。ストロー?」

「バスキュラープラントと言った所か。となると、この下に広がっている湖の全てが……」

 

 フラットウェルに緊張が走る。今、自分達はルビコンで最もコーラルの源泉に近い場所にいる。これらを手に入れることが出来れば、ルビコン解放戦線は企業と交渉の卓に付ける……いや、奪い取られるだけだ。

 ならば、これらを利用した兵器や力に換えれば、虐げられて来たルビコニアン達が反撃の狼煙を上げることも出来るのではないのか? 沸き上がる興奮と予測に突き動かされるようにして、彼は湖に向って突き進んだ。

 

『コーラルに目が眩みましたか』

『レイヴン! 高速で接近する機体反応が!!』

「帥叔!!」

 

 セリアが呟き、エアと六文銭が叫んだ。バスキュラープラントへ近付こうとした、フラットウェルに高速で飛来する機体がいた。

 

「なんだと!?」

 

 間一髪の所で回避したが、現れた機体を見て言葉を失っていた。

 非常に奇妙な造詣をしていた。上半身の大半を占める程に巨大化した肩部から大量のオービットが射出されていた。いずれも、赤い粒子を撒き散らしている。

腕部と脚部は異様に細く、胴体と肩部が本体であるかの様に思えた。

 

『セリア! この機体は!?』

『IB-01: CEL 24。アイビスシリーズと呼ばれる、コーラルの最終安全装置です。このバスキュラープラントを接収しようとした者達を迎撃する為の防衛兵器』

 

 詳細を知っている。ということは、彼女は交戦状態になることを承知で、自分達をここまで連れて来たのだ。

 

『貴方は……!』

『いずれにせよ、コーラルを目指すなら遅かれ早かれぶつかる相手です。乗り越えて下さいね』

 

 レイヴンと六文銭も飛び降り、フラットウェルと合流した。現れた3機を破壊するべく、アイビスは飛翔して両肩から大量のオービットを展開した。

 

~~

 

 深度2を探索していたベイラムの部隊は、惑星封鎖機構が遺して行った無人機達と交戦をしつつ先に進んでいた。度重なる襲撃で損耗は重なっており、幾度も撤退と合流を繰り返している。

 

「レッド。アーキバスの連中はまだ動いていないだろうな?」

『はい、確認は出来ていません』

 

 イグアスが後方へと下がったレッドへと確認を取った。未だに動きを見せないアーキバスを不気味に思うも、高みの見物を決め込んでいるのだと納得して、五花海と共に進む。

 

「道中で幾度も会敵した例の大型機。惑星封鎖機構から接収した情報と照合するに『AAP03: ENFORCER』と呼ばれる物だそうです」

「『執行者』とは大層なネーミングセンスだな」

 

 ACの2倍近くはあろう体高と比例するかの様な強力な武装ではあったが、向こうは1機だけ。こっちは組織だったバックアップを受けながら進めるので、殆ど力押しでここまで来ていた。

 このバックアップや経路の確保は補給の意味合いもあったが、もう一つ。アーキバスや敵対者が侵入して来た際の備えも兼ねていた。

 

「(妙ですね。連中がここまで動きを見せないとは)」

 

 五花海としても介入が無いことは有難いことであったが、この静けさは不気味でもあった。やがて、進んだ先にある開けた場所に出ると。道中で自分達を襲撃していた機体『AAP03: ENFORCER』が迎撃の構えを取っていた。

 

「オラッ! 行くぞ!」

 

 1対1で戦えば強靭な相手であることは間違いないだろう。しかし、物量で物を言わせるのなら話も違う。イグアス達が確保した経路を使って現れたのは、シールドを構えたMT達だった。

 前方に盾を突き出した機体が並び詰め寄って行く。如何に、無人機で高性能機である『執行者』も物量による圧殺に磨り潰されるのは時間の問題だった。

 

~~

 

 ベイラムがレッドガン部隊を投入して、ウォッチポイントアルファの攻略を進めている中。アーキバスはと言えば、別方面から作戦を進めていた。

 

「スネイル閣下。予測通り、エンゲブレト坑道の方にレイヴンが現れたのを確認しました。未だに出て来ていません」

「ご苦労です。……恐らく、私の見立て通りでしょう」

 

 ベイラムも予測していた通り。彼らは、切り開かれた道を通ろうとしていた。だが、それはレッドガンが辿ったルートでは無かった。

 スネイルは部下から受け取った報告を、ヴェスパー達にも聞かせていた。スウィンバーンが小さく手を挙げた。

 

「閣下。つまり、この坑道は奥があると?」

「そうです。企業からの依頼を無視してまで、ここを進むということはルートを把握しているということでしょう」

「それならば、何故。レイヴンはネペンテスの破壊を?」

 

 メーテルリンクの疑問は尤もだった。態々、身を危険に晒してまで砲台を撃破するなら、最初からそのルートを使えば良いだけだ。ここで、彼女の疑問に応えたのはホーキンスだった。

 

「今、ベイラムが必死に攻略している所から判断するにさ。恐らく、彼女は切り口だけ作って、そこに注視する様に誘導したんじゃないかな?」

「なるほど。目の前に進む為の道が用意されていたら、注意を引かれますからね

 

 あのレイヴンに思い浮かばなかったにしても、彼女の背後にいるハンドラー・ウォルターならば考え付きそうなことだ。

 

「だからこそ、彼女が別口でルートを見つけていると考える方が自然です。我々も出撃しましょう。ただし、相手はレイヴンです。精鋭が望ましいでしょう」

 

 全員が息を呑んだ。未だ、ヴェスパー部隊内の交戦経験がある者で、彼女に勝った者は誰も居ない。誰もが言葉に詰まる中、当然の様に挙手した人間が居た。V.Ⅳのラスティだ。

 

「ならば、私が行こう。オキーフは情報収集がメインであるし、彼女が機体を動かす時の癖は把握している」

「言われなくとも、貴方を選抜する気でした。それと、スウィンバーン。貴方も付いて行きなさい」

「は!? か、閣下。理由を……」

 

 思わず、叫んでしまった。明らかに自分は力不足であると言うのに、何故選抜されたのかと。

 

「ヴェスパー部隊内で、彼女の好感度が高い二人を選んだだけです。負ける可能性は十分にあり得るでしょうが、殺されはしないでしょう」

 

 動機としてはあまりにも理由付けが弱い気がする。策士であるスネイルの提案とは思えないが、彼がレイヴンの情に関する部分を利用していると考えれば、納得は出来なくもなかったが。

 

「スウィンバーン。共に彼女に打ち勝とうとか」

「は。ハハハ……」

 

 そんな修羅場に放り込まれることになったスウィンバーンは苦笑いするしかなかった。一方、ラスティも笑いながらチラリとスネイルの方を見て……少しだけ眉をひそめていた。

 



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依頼43件目:3人に勝てる訳無いだろう!!

 皆様のおかげで評価者が100人に! いつも感想、評価、ブクマ! ありがとうございます!!


「ご友人は今頃、どうしているのでしょうか」

 

 ブルートゥを始めとした猟犬(ハウンズ)部隊は、拠点で待機していた。

 ウォッチポイントアルファの様子は彼らにも伝わっているが、レッドガン部隊が深度2を突破したというのに、一向にアーキバスの動きは見えないし、レイヴンからの連絡も入って来ない。

 

「レイヴン達が使っているルートをアーキバスも察したのかもしれん。ウォルター、状況の確認はどうだ?」

「ナイル。お前の同僚達が深度2の攻略と環境を整えてくれたおかげで、こちらも通信拠点を間借りできそうだ」

 

 惑星外からの観測も不可と言う位に地中深くにある場所には通信も届き辛い。が、これらはレッドガン部隊が解消してくれたらしい。この切り口を作ったと言うならば、ネペンテスを攻略したことも無駄ではなかったようだ。

 

「映像。出します」

 

 1317がモニタに映像を出した。一同が驚愕に目を見開いた。

 既にレイヴン達は交戦に入っている。相手はMTやAC、汎用兵器の類ではない。IA-02程ではないが、規格外とも言える造詣をしており、機動から攻撃方法まで常軌を逸していた。

 

「『IB-01: CEL 240』アイビスシリーズ……。そうか、621。バスキュラープラントへと辿り着いていたか」

「ウォルター。あの機体を知っているんですか?」

 

 尋ねて来るペイターはレイヴンを心配しているのと同時に、アイビスと呼ばれている機体にも興味津々だった。

 

「かつて、技研が遺したコーラルの最終安全装置。平たく言えば、防衛兵器だ。無断でバスキュラープラントに接しようとした者達は、例外なく奴に排除される。聞こえるか、621」

 

 ウォルターの呼びかけにも反応はない。送られてくる映像からも彼女達が苦戦している様子が伝わって来ていた。

 

「ウォルター。ご友人を助けに行きましょう! 私のミルクトゥースも修理は終えています!」

「今から行った所で、交戦には間に合わないだろう。だが、姿の見えないアーキバスの動向も気になる。エンゲブレト坑道へと向かえ。ルートは先程、通信をした際に受け取っている。1317は残れ」

「分かった」

 

 ブルートゥを始めとした3人は頷き、AC2機とLC1機が出撃した。そして、ウォルターと1317は引き続きモニタリングを続けていた。

 

「(恐らく、621が交信を取っている半壊ACの中身はエアと似た様な存在なのだろう。コーラル護衛任務の時と言い、こちらに対して少なからぬ興味を抱いている様だが……)」

 

 アイビスの猛攻を掻い潜る面々を観察しながら、ウォルターが通信を入れた先はルビコン解放戦線だった。

 

「貴様は、レイヴ……猟犬の飼い主か。依頼の件か?」

「そうだ。サム・ドルマヤンに変わって貰おうか」

 

 通話を取ったリング・フレディは躊躇った。もしも、これが企業や根無し草の独立傭兵なら一蹴していただろう。だが、レイヴンには少なからぬ恩があり、彼が敬愛するドルマヤンも彼女のことは甚く気に入っている。

 だが、帥父の威厳を考えて軽々に話をさせて良い物かと考えていると、フレディの名前を呼ぶ声がした。

 

「フレディ。替わりなさい」

「帥父……。分かりました」

 

 何処から会話を聞いていたのか。まさに件の人物であるサム・ドルマヤンと直ぐに出てくれた。

 

「単刀直入に言う。セリアと言う人物……いや、存在のことを知っているか?」

「……レイヴンから聞いたのか?」

「そんな所だ。ソイツが彼女の前に姿を現して、何かをさせようとしている。心当たりはあるか?」

 

 少なからぬ驚嘆が伝わって来た。反応を見るに、今もいるとは信じていなかったような雰囲気だ。

 

「そうか。彼女はまだ諦めてはいなかったのか」

「何についてだ?」

「『コーラルリリース』と呼ばれる、我々との共存方法だ」

「……1317。621のモニタリングを替われ。俺はドルマヤンと話をする」

「馬鹿な。俺はアイビスシリーズについて、殆ど何も知らないぞ」

「大丈夫だ。俺も先程話した情報以外は、何も知らない。戦闘のサポートに関しては、お前と俺では変わりないということだ」

 

~~

 

 アイビスはレイヴンとしても初めて相対する無人兵器だった。

 バルテウス、シースパイダー、アイスワーム、ルビコニアンデスビートル。いずれも常軌を逸した質量と攻撃力を持つ兵器達だったが、彼女は持ち前の機動力で翻弄して来た。

 だが、目の前の相手は自分よりも早い。無人兵器であるがゆえに、パイロットへの負担を踏み倒したかのような高速機動に翻弄されている。

 

「酔いそう……」

『レイヴン。相手は無人機です。ある程度のパターンがある筈なので、私が割り出すまで耐えて下さい!』

「うぉおおお!!」

 

 六文銭とフラットウェルも攻撃を仕掛けるが、アイビスは超反応と呼んでも差支えの無い速度で攻撃を避けていた。更に、攻撃を仕掛けて来たことを咎めるように周囲に浮かんでいるオービットが彼らの機体にレーザーを照射する。

 

「ぐっ」

 

 このビットの照射もまた人間が取り得る回避行動のパターンを研究し尽くしたかのような挙動を取り、1つ目の攻撃を避ければ、2つ目は回避先に攻撃を。2つ目の攻撃を避けるかのようなフェイントを入れると、3つ目が着地取りや包囲攻撃へと切り替えて来る。

 交戦経験が豊富な六文銭やレイヴンは回避が出来ていたが、フラットウェルのツバサは機体の各所に被弾していた。

 

「帥叔! 下がれ!」

 

 だが、被弾に寄る機動力の低下は避けられない。機体が制御不能(スタッガー)状態に陥った所で、両腕部の発振器からクロス状のエネルギー刃が放たれる。間一髪で機体を動かして回避したが、既に機体は限界に達していた。

 

「すまない。散々にパーツを預かっておきながら、この始末だ。撤退する」

「あいー」

 

 彼の撤退を援護するべく六文銭とレイヴンが引き続きアイビスに攻撃を仕掛ける。流石に2機の連携攻撃は全てを回避できることも無く、被弾をした時の挙動とダメージの大きさから、装甲は極度に削られている物だと察した。

 

『レイヴン! パターンを解析しました! 説明します!』

「うん!」

「レイヴン。そちらに合わせる!」

 

 アイビスが飛翔して、周辺を薙ぎ払う様にしてビットによる一斉掃射を行う。これらの攻撃を回避すると、身を翻しながら腕部に展開した刃で切り付けて来る。

 先の攻撃でビットの回避にブーストを使い過ぎていると、避ける事が難しくなるが、このパターンを知っていればブーストの管理も出来なくはない。この擦り抜け様の斬撃をも回避できた時、初めて相手の隙を付くことが出来る。

 

『今です!』

「おっしゃー!」

 

 放たれた『SG-027 ZIMMERMAN』の散弾がアイビスの装甲を引き裂き、追加でアサルトブーストの加速を乗せた蹴りが入る。すると、制御不能(スタッガー)状態へと陥った所に、もう片方の手に握られた『SG-027 ZIMMERMAN』の一撃が入る。

 本来なら、ここで追撃は終わって姿勢を立て直していただろうが、今は2機掛かりだ。六文銭のシノビもアサルトブーストを吹かした上での蹴りを入れ、『44-143 HMMR』から射出された高速回転体で強か打ち付けた。

 

『止めてはいけません! レイヴン!』

「うん!」

 

 これら、一連の流れで拘束をした後。再び、レイヴンは先程のワンセットを繰り返した。ただし、機体的にはかなりの負荷が掛かる無茶な挙動だったのか、着地をした時に関節部分に大きな負担が掛かっていた。

 しかし、その甲斐性もあったのか、ダメージの限界を超えたアイビスは小さくコーラル粒子の爆発を巻き起こしながら機能を停止させていた。

 

『敵機、コーラル反応停止……』

「やったか!?」

 

 通信越しから1317の声が入って来た。レイヴンと六文銭も長期戦に持ち込まれず、一安心した瞬間。水面を赤い……コーラル粒子の閃光が走り、アイビスへと注入されて行った。

 

「なんだ!?」

 

 六文銭が叫んだ直後のことである。彼の機体であるシノビに多数のコーラル粒子によるレーザーが照射された。ダメージの限界を超えて爆破する直前、六文銭は脱出レバーを引き、遠方へと射出された。

 

『周辺コーラルとの共振。環境からエネルギーを受けています』

「嘘でしょ?」

 

 楽天家であるレイヴンでさえ困惑していた。先の交戦でも相当に無茶をしたというのに、相手は再起動して来た。

 しかも、こちらに対する脅威度を引き上げたのか。明らかに攻撃の規模も頻度も増している様子だった。先程は、フラットウェルと六文銭が居てくれたのでターゲットも拡散して回避もし易かったが、今は自分1機だけだ。

 

『ジェネレーターを破壊しない限り、この機体は止められません…!』

「コーラルを守る。って……」

 

 ポツリと呟きながらも、レイヴンは激しさを増す攻撃を回避していた。しかし、先程無茶な動きをしたことが原因か、回避運動を取った時に姿勢が崩れた。

 その挙動に合わせるべく、アイビスは吶喊を仕掛けて来た。赤い刃が迫る。エアが悲鳴にならない叫びを上げようとした所で、レイヴンは笑みを浮かべた。

 

「来た」

『え?』

 

 接近して来たアイビスが吹き飛ばされた。何が起こったかとレーダーを見れば、新たな反応が2機。

 

「戦友。今のは、敵で良かったのか?」

「ラスティ!」

「まさか、本当に繋がっているとは」

『アーキバス!? 後を追って来たのですか……』

 

 現れたのは、ラスティが駆るスティールヘイズとスウィンバーンが搭乗するガイダンスの2機だった。先のキックは致命傷足り得ず、アイビスは依然として排除の意思を見せていた。

 

「君を連れて来たであろう者達が見つからないが、まぁいい。この場を切り開くことを考えよう」

「わ、私もやるぞ! コーラル集積が目の前にあるのだから!」

「うん!!」

 

 先程までの調子とは一転。機体とパイロットの損耗は決して軽くは無い物の、彼女は立ち向かう気概を奮い立たせていた。

 

 

 

 

 

「これは行幸。解放戦線の用心棒とNO.2も退け、コーラルの防衛兵器とバカ犬も損耗しているとは。メーテルリンク、ホーキンス。警戒を怠らず」

「ハッ! 閣下!」

「いや、まさかラスティ君達にも知らせないとはね。敵を騙すにはナントヤラとは言うけれどさ」

 

 そんな彼女らを、ヴェスパー部隊長達は遠巻きに眺めていた。背後には、鹵獲した惑星封鎖機構のMTを引き連れながら。

 



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依頼44件目:スウィンバーン「もしかしなくとも、私って閣下に嫌われている?」

 ペイター達がエンゲブレト坑道へと辿り着き、最奥から地底に向って飛び降りた時のことである。都合、3回目の訪問者達になるのだが、周りにいる巨大ミールワーム達は殺気立っていた。

 

「おかしい。レイヴン達が入って来た時は興味も無さそうだったのに」

 

 ナイルがレイヴンの機体から取って来たログを確認すれば、周りのミールワームを突いたりはしているが、こんな一触即発の状態ではなかったはずだ。

 

「私には分かります。ご友人も言っています。彼らは怒っているのだと。仲間を殺され、嘆き悲しんでいるのだと」

「仲間を殺され……?」

 

 ブルートゥの言葉で何かに気付いたのか、ナイルはディープダウンのスキャン機能を使った。すると、ミールワームの肉片や体液が散乱していることに気付いた。彼女が無駄な殺生をするとは思えない。

 つまり、レイヴン達よりも後に入り、自分達よりも先に入った者達が居ると言うことに他ならなかった。

 

「恐らく、私達が入って来ることを想定してトラップがてらに仕掛けたのでしょうね。誰がやったことは想像に容易いことです」

 

 ペイターには既に犯人が予想できていた。というよりも、レイヴンの動きを察して直ぐに追従できる程、手際が良い者達は数えるほどしかいない。この場にいる者達が思い浮かべた人物達も同じだったが、敢えてブルートゥが尋ねた。

 

「誰ですか?」

「V.Ⅱスネイルです。奴の策略家としての視野とデコの広さはアーキバス随一です。ミールワーム達からもこんなに毛嫌いされて……彼には愛護精神と言う物が毛頭ないのでしょうね。今頃、奴らはケが無く先に進んでいることでしょう。こんな好き勝手を許せば、この周囲は不毛地帯になってしまいます。一毛不抜、奴を表すのに、この上ない言葉です」

 

 涼し気に見えて、余計な手間を掛けさせやがって。という、ペイターの怒りがありありと伝わって来た。

 もはや、ナイルとしても彼の反骨精神というか不敬を矯正する自信が無かった。同時に、こんな奴の世話をしているアーキバスと言う組織の強大さを改めて実感した。

 

「刺激をしないように進むぞ。連中と交戦状態になったりでもしたら、余計な手間を掛けさせられるからな」

 

 ナイルが先導しながら、ミールワーム達から威嚇を受けながらも慎重に進む。その度に彼らの肉片や体液が散見されるのだから、相当派手にやったのだろう。

 

「彼らの嘆きと怯えが聞こえてきます。あぁ、我々さえ来なければ。人々がコーラルさえ求めなければ、ここは彼らにとっての楽園だったはずだと言うのに」

 

 ブルートゥの声には本気で悲哀が混じっていた。ナイルも倫理観的に思うことはあるが、虫を相手に同情する様な感性は持ち合わせていなかった。

 一方、ペイターはミールワーム達のことなど気にもかけず、頻りに周囲にスキャンを飛ばしていた。この際に放つ、周波が彼らを刺激するのか威嚇の声が大きくなっている気がした。

 

「おい、ペイター。あまり刺激をするな」

「いや、ひょっとして。ここにいる連中ごと、私達を生き埋めにしようとトラップが仕掛けてあるんじゃないかと思いまして。……冷静に考えれば、帰り道にも使うのですから、多分ないとは思うのですが」

 

 現状、レイヴン達が向かった先に正規ルートで向かっているのはベイラムの部隊だけだ。もしも、ここのルートを潰してしまえばアーキバスは少数でベイラムの部隊を迎え撃つ必要がある。……となれば、帰り路にも使われるはずだ。

 

「だと言うのに、連中はミールワームを刺激していたのか。いや、コイツら程度なら踏みつぶして行けると考えてのことかもしれんが」

 

 ナイルのディープダウンと比べれば小さくはあるが、それでも通常のワームと比べれば巨大と言う外ない。

 もしも、これがルビコニアンデスワームの様にビームを照射して来たりすれば脅威にもなるだろうが、機体の残骸すら見当たらないことから、そう言った類のことは出来ないのだろう。

 

「傲慢と言う外ありませんね。あぁ、ご友人も嘆いています。彼らの悲鳴が聞こえてきます。心苦しいですね……」

「先に急ぎましょう。もしも、ハゲ達が通過しているなら、レイヴンが危ない!」

 

 文脈的に考えてスネイルのことを指しているのだろうが、ペイターも相当に怒っているのか、名前呼びすら止めていた。ついでに、レイヴン以外はどうでも良いらしい。

 人格には問題しかないのに、この中で唯一LCを使いこなせているのが、本当に何かの間違いだろうと思いつつ、ナイル達は先を急いだ。

 

~~

 

「どわぁあああああああ!?」

 

 スウィンバーンは悲鳴上げながら逃げ惑っていた。こんな規格外の動き方をする機体を見たことがない。今はパルスアーマーで防いでいるが、これが剥がされたら間もなくコーラルによる照射がガイダンスを貫くだろう。

 一方で、レイヴンとラスティもまた防戦を強いられていた。先程と違って、アイビスの動きは大振りな物になっているが、攻撃範囲と速度が向上しており、相手の懐に飛び込めずにいた。

 

「戦友、恐らく先の戦いで懐に入られる危険性を学んだのだろう」

 

 ラスティの想像通り、実際にアイビスは先程の戦いで学習していた。飛翔をすれば懐に潜られ、耐久値を削られると。

 故に、アイビスは舞うにしても極めて低空で行い、ACの頭部をギリギリ霞めるくらいの高度から擦れ違いざまにコーラル刃で切り付け、あるいはビットによる薙ぎ払いを行っていた。

 

『レイヴン、先に組んだパターンはまるで役に立ちません。ですが、無理に再起動させているのであれば、耐久値はさらに下がっているはずです。どうにかして一撃さえ与えれば』

 

 一度、大破している状態で無理矢理動かしているのだ。幾ら、コーラルの力で再起動させたとしてもフレームやパーツにはガタが来ているのは道理だった。

 被弾しては不味いからこそ、ここまで極端な機動を繰り広げているのだろう。ならば、自分達がやることは一つだけだった。

 

「うん。あの子、焦っている。一発、入れてやろう」

「なにか! 何か策はあるんだな!?」

 

 こんな戦場に放り込まれたスウィンバーンは正気を保つので精いっぱいだった。彼の実弾武器は動いているアイビスにはまるで当たらないので、逃げ回る外ない。勿論、スタンバトンが届く訳もない。

 状況が思考の余裕を削ぎ落としている中、真っ当な作戦が思い浮かぶ訳もない。故に、思い浮かぶのは無茶な作戦ばかりだった。

 

「スウィンバーン。手伝って貰えるか? とっておきの策がある」

 

 この期に及んで、ラスティが出した案は無茶苦茶な物だった。だが、レイヴンとスティールヘイズの装甲を考えれば、この役を担えるのはガイダンスだけだった。……このまま戦い続けても嬲り殺しにされるだけだ。

 しかし、彼は決して勇士でもなければヴェスパーの矜持を背負った戦士でもない。逃げ出したい衝動に駆られた彼の、背中を押したのは。

 

「スウィンバーン。私達を信じて」

 

 この場には全くそぐわないレイヴンの激励だった。そして、人を疑い続けた末に手に入れた洞察力で気付いた。彼女の声色は疲労と緊張で若干震えているということが。覚悟は決まった。

 

「わ、私もヴェスパー隊長だ! 小僧共! 見ておけ! これ位の修羅場の切り開き方! 私のガイダンスで案内してみせよう!」

 

 そう言うと彼は、距離を取りながらミサイルや『EARSHOT』を放った。当然、射程距離が離れていればアイビスは容易に回避できる訳だが、それはアイビスの攻撃も同じ様に回避できると言うことだった。

 スティールヘイズにせよレイヴンにせよ接近戦に強い機体は機動力も高く、クロスレンジで交戦をすれば反撃を食らう可能性がある。ならば、近距離戦ならば容易く処理できるガイダンスの始末に向かうのは当然の流れだった。

 

「来るぞ……!」

 

 幾ら装甲が薄いアイビスとは言え、加速を乗せた上で突撃を食らえば、それ自体が攻撃となる。周囲にオービットを展開しつつ、両腕部の発振器からコーラル刃を展開して一撃必殺の構えを取る。

 一連の攻撃を食らえば、重量級の機体ですら一溜りも無い中。スウィンバーンはミサイルもスタンバトンも捨てて、パルスアーマーを展開したままアサルトブーストを吹かした。

 

「うぉおおおお!」

『アイビスの思考に乱れあり』

 

 アイビスからしても向かって来るとは想像できず、勢いを付けた故に急激な方向転換も出来なかった。

2機は正面からぶつかり合う。衝撃でパルスアーマーが消えた一瞬の隙に、ガイダンスは空いた両の手でアイビスの両腕を掴み取った。

 

「やれぇ!!」

 

 アイビスの動きが固定されるが、振り解かんとブーストを吹かし、あるいは両腕部の発振器からコーラル刃を出現させてガイダンスの腕を焼き切る。……が、レイヴン達はそれ以上に早かった。

 

「スウィンバーン、貴方のことを誤解していた。貴殿はヴェスパー部隊でも随一の勇者だ」

「だから、これで終わり!」

 

 アイビスの頭上から『SG-027 ZIMMERMAN』の散弾が降り注ぎ、収納されたオービットごと両肩を潰し、スティールヘイズの『Vvc-774LS』レーザースライサーがアイビスをバラバラに引き裂いた。

 

『3人とも離れて下さい! 爆発します!!』

 

 先の爆破とは比べ物にならない威力で、アイビスの内燃料であるコーラルに引火して爆発した。今度は、幾ら環境にコーラルが満ちていたとしても再起動は適わないだろう、徹底的な破壊だった。

 

「やったのか!?」

 

 両腕が断ち切られたガイダンスで周囲をスキャンしたが、何も見つからない。スウィンバーンは改めて安堵の息を吐いた。

 戦いは終わった。後は目的物を回収するだけだが……ふと気づいた。そう言うことならば、目の前のレイヴンをまた相手取らねばならないのではないかと。

 

「……戦友。君の目的もバスキュラープラントか?」

「え? ウォルター? どうしよう?」

 

 呑気に通信を取っている様だが、繋がっていない様だ。彼女に指示をする者がいなければ、障害にはなり得ないのでは? ……いや。何故、繋がらないのだ? こんな重要な局面で? と、疑問を抱いた刹那のことである。

 彼女の機体が飛び退いた。瞬間、『VE-60SNA』から放たれたニードル弾が強力な放電が行われた。一体、何が行われたか分からずラスティとスウィンバーンが言葉を失っていると、周囲に多数のMTが降りて来た。

 

「ご苦労様です。ラスティ、スウィンバーン。それと、バカ犬も」

「か、閣下!? これはどういうことですか!?」

「見て分かりませんか? 貴方達の援護に来たのです」

 

 だったら、どうして先の戦いで助けてくれなかったのか。……いや、彼らが言う援護とは目の前のレイヴンに対することだろうと直ぐに理解した。

 既にレイヴンの機体はAPも限界で残弾も無ければ、戦う為の余力を残していなかった。それでも、問うた。

 

「ウォルター達は?」

「後で会えますよ。先程の一撃を避けたのは見事ですが、その様子では抵抗も出来ないでしょう。大人しく付いて来るならば、飼い主も丁重に扱いましょう」

『レイヴン、先程から通信が途絶えている理由ですが……拠点の方に、映像が残されていました』

 

 エアがデータを再生する。すると、そこには1317が迎撃に使ったであろうLCが撃墜される様子が映し出されていた。交戦している相手は今までに見たこともない機体だった。

 

「惑星封鎖機構のLCとは散々に交えたが、どの機体も挙動が素直すぎる。パイロットの実戦経験の少なさが透けて見える」

 

 奇妙な機体だった。頭部は『HD-011 MELANDER』、脚部は『LG-011 MELANDER』とベイラム社製の物を使いながら、胴体は『VP-40S』、両腕は『VP-46S』とアーキバス社製の物を使っていた。

 武装もまた各社の物で混成されており、まるで独立傭兵が使うACの構成(アセンブル)だった。しかし、周囲に待機しているMT達はアーキバスのカラーリングであり、この機体の主の所属先を表していた。

 

「馬鹿な。こんなにも一方的に……」

 

 LCから脱出した1317は拘束され、同じ様に拘束されたウォルターと共に何処かへと護送されて行った。どうやら、スネイルの言葉はブラフではないらしい。

 

『1317も決して技量は低くないパイロットですが、ここまで一方的に』

「大人しく付いて来てくれると嬉しいんだけれどな。ほら、何かあったらペイター君も怒っちゃうし」

「奴の名前を出すな! 虫唾が走る!」

 

 ホーキンスが穏やかに降伏勧告を行った所、スネイルの怒声が遮った。相思相嫌、見事に互いのことを嫌い合っていた。

 

「戦友、大人しく従ってくれ。頼む」

 

 元より、この状況を切り抜けられる訳もなく。レイヴンは渋々と言った様子で頷いた。

 

「分かっ――」

 

 返事をしようとした瞬間、周囲を取り囲んでいたMT達が爆散した。何事かと、射線を振り返ってみれば、そこには数機のACが並んでいた。

 

「テメェら、誰に断ってアホ犬に手ェ出してやがる!?」

「イグアス!?」

「間一髪。だったようですね」

 

 そこにはイグアスのヘッドブリンガーと五花海の鯉龍。そして、彼らを率いるかのように先頭に立つ大型の四脚AC。

 

「どうやら、アイツらは遠足が楽しみで待ちきれなかったらしい! だがな、引率を置いて先に行くとはどういうことだ! 集団行動は基本だぞ!」

「ベイラムの歩く地獄か! 先日のワーム排除から、こんなに早い再会になるとは!」

 

 ここに来て、正面から攻略を進めていたベイラム部隊が間に合ったらしい。これにはスネイルも不快そうな声を漏らしていた。

 

「時代遅れの斜陽企業らしく、頓挫していれば良い物の。メーテルリンク! ホーキンス! V.Ⅳ! 構いません! 彼らを撃退しなさい!」

 

 先日まで、共に肩を並べて戦った者同士が交戦に入る。このルビコンにおける勢力の縮図の様な光景が繰り広げられる中、レイヴンはコッソリと戦線から離脱しようとして。

 

「貴方は私と共に来るのですよ」

「あ」

 

 スネイルのオープンフェイスに、至近距離から『VP-66EG』スタンガンを打たれて、機体は強制放電を起こして機能を停止した。

 混戦を呈している戦場を背後にしながら、スネイルは数機のMTを連れて、静かに去って行った。……自分達が使ったエンゲブレト坑道へと続く道に。

 



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依頼45件目:ペイター「これで、私がヴェスパーのニューV.Ⅱです!」

「相手がヴェスパー部隊でも怯むな! 構え!!」

 

 レッドの号令が響く。ベイラムのMT部隊は一斉にシールドを構えて、手にした『ZIMMERMAN』の引き金を打ちながら、包囲網を狭めて行く。

 パイロット個人の練度を見ればアーキバスに分があるが、物量による圧殺を覆すには至らない。

 

「畜生! コイツら!!」

 

 惑星封鎖機構から鹵獲した高機動MTに乗っているアーキバスパイロット達も応戦するが、彼らの手持ち火器ではシールドを突破出来ずにいた。

 通常、戦場でシールドは軽視されがちだ。というのも、重量が凄まじい割には砲撃や接近戦に弱く、本体が先に潰されるケースも多々ある為だ。

 ACの場合は、軽量のパルスバックラーもあれば、そもそも攻撃を被弾しないように高速で立ち回る方が一般的だった。

 

「豆鉄砲しか持っていないアーキバスの貧弱共が!」

 

 だが、数を揃えてシールドと攻撃の役割を分担できるのならば、話も変わって来る。相手の攻撃を耐えながら、高速で動き回られても問題がない程の面攻撃と威力を兼ね備える『ZIMMERMAN』が大量に配備されたからこそ、出来る戦法だった。

 次々とアーキバス側の機体が撃破されて行く中、ヴェスパー部隊長達の動きは様々だった。

 

「(正面から戦う訳にはいかない)」

 

 V.Ⅵであるメーテルリンクはベイラム部隊を見るに直ぐに、あの場を脱していた。近くにある建物付近に隠れていると、見慣れない機体が擱座しているのが見えた。

 

「(パイロットは既に脱出した後か。レイヴンと一緒にアイビスと交戦していたが、大破する前に機体を乗り捨てたと言った所か)」

 

 胴体部分や頭部の損傷は酷いが、腕部と背部の武装はまだ生きていた。

 特に左腕に装着している近接兵装は彼女も見たことがない物であり、パルスガンではベイラム部隊を突破できないと踏んだ彼女の判断は早かった。

 

「(よし、動く)」

 

 パルスガンを廃棄し、右腕部に装着する。左腕部の『HI-32: BU-TT/A』と併せて、近接戦に特化した兵装となっていた。流石に背部兵装までは入れ替えることは出来なかったが、十分だった。

 スキャンを掛ける。建物に入って行く姿が見られていたのか、表には数機のMTを率いたG6レッドのハーミットがオープンチャンネルで呼びかけていた。

 

「お前は包囲されている! 武装を解除して出て来るのなら、丁重に扱おう! 共にルビコニアンデスビートルを討伐した仲だ! 悪い様にはしない!」

 

 そう言えば、と。メーテルリンクは思い出していた。あの機体とは、共にルビコニアンデスビートルの脚部を切り飛ばした仲だと。

 僅か数日前の出来事だと言うのに、企業の意向次第ではこうも簡単に敵対するのがルビコンである。だが、彼女は迷わなかった。

 

「私もヴェスパー部隊長だ。スネイル閣下の任務を成功させるまで!」

 

 鹵獲した『IA-C01W2: MOONLIGHT』がチャージされ、ブレード上のエネルギー刃が射出された。MT達が構えていたシールドによって防がれるが、もう一方の腕に装着されている『HI-32: BU-TT/A』を続けざまに振るい、ベイラムのMT達を切り裂いた。

 

「ならば、倒すまで!」

 

 ハーミットも『ZIMMERMAN』を構えて引き金を引いた。パルスバックラーが出現させたバリアによって防がれるが、他のMT達からも続けざまに攻撃を食らって、あっと言う間にインフェクションは制御不能に陥る。

 

「このっ!」

 

 背部兵装の『FASAN/60E』から、チャージされたプラズマ弾が放たれて周囲に爆破が起き、シールドを持っていたMT達の姿勢が崩れるのを見計らってブーストキックで吹き飛ばしていた。

 だが、正規のルートで突入して来たベイラムは援軍が送り込まれてくるのに対し、裏口から入ったメーテルリンク達の兵力は限られており、彼女が損耗していくのは分かり切ったことだった。

 

「だと言うのに、なぜ戦う! 武器を降ろせ!」

 

 故に、レッドは問うた。戦場に身を置いて日の浅い彼には、青臭い価値観が残っていた。だが、彼女は諦めなかった。

 

「アーキバスに栄光を!!」

 

 不利を悟った彼女は周囲の敵を蹴散らして撤退を試みるが、多勢に無勢。奮闘はした物の、捕獲されるまで時間は掛からなかった。

 

~~

 

「どうですか、ご老体。V.Ⅵは捕獲されたそうです。貴方も投降して下さいよ」

「悪いね、応じられないよ。私の方が有利だから」

 

 五花海は小さく舌打ちをした。互いに四脚AC使いであり空中戦を繰り広げていたが空戦に関してはアーキバスの方に分があり、ホーキンスのリコンフィグは『Vvc-770LB』レーザーブレードを振るい、鯉龍を切り伏せていた。

 

「ここまで来て…!」

「五花海隊長!」

「何をしているんですか! 離れなさい!」

 

 直ぐに周囲のMT達が駆け寄った所で、ホーキンスはチャージした『Vvc-774LS』によるプラズマ弾を放った。駆け寄って来たMT達も含めて爆破に巻き込まれ、機能を停止させた。

 

「生体反応は……うん。ロストしていないね。これなら、メーテルリンク君への扱いも悪くはならなさそうだ」

 

 他にも交戦しているMTやAC達はいたが、ホーキンスは単身でスネイル達が消えた方向へと向かった。その折、戦線を離脱していたスウィンバーンから通信が入って来た。

 

「ホーキンス殿! 他の者達の援護は……」

「今の目的はレイヴン君の確保だからね。他の皆も、ちゃんと自力で切り抜けて貰わないと」

 

 V.Ⅴホーキンス。ヴェスパーの年長者であり、柔和な人柄は多くの人を惹き付けているが、戦場においては熟練のパイロットである。

 戦闘能力を失っているスウィンバーンも同じ様にして撤退する外ないが、背後で戦っている同僚達がやはり気掛かりであった。

 特に、V.Ⅳのラスティはアイビスと戦ったばかりだと言うのに、レッドガン最強の男G1ミシガンが乗るライガーテイルと多数のMT、重MTを相手取っていた。

 

「これだけの人数を相手に立ち回るとは! 中々の腕前だ! ワーム討伐の時に見せた狙撃の腕前も良い! どうだ、ウチに来ないか!」

「ベイラムの歩く地獄から直々の勧誘は喜ばしいことだが、それならば、私を落とす位の実力は見せて貰いたい物だ!」

 

 レイヴンと共に壁越え、宇宙港襲撃、2大ワーム撃破、そして。先程、アイビスと言うコーラルの護衛者を倒した技量はすさまじい物だった。

 大量のMTによる弾幕を避け、あるいは切り落としながら、すれ違いざまに切り裂いていてく。シールドの隙間を縫って、あるいはアイビスの動きを再現するかのような低空飛行からの足元の切り捨てなど、人間離れした技には恐怖すら覚えた。

 

「ちゃんと帰投するのも任務だからね。早く行こう」

「わ、分かりました」

 

 こうして、スネイルに続いてコッソリとスウィンバーン達も戦場を抜け出していた。……それからも、暫く交戦は続いていたが、やがてベイラムの物量に押し潰される形でアーキバスのMT達は沈黙して行った。

 

「G3! G6! 報告だ!」

「はい。こちらは……V.Ⅴに敗北。取り逃しました」

「こちらは、V.Ⅵの捕縛に成功しました。武装解除と拘束は済ませております」

「G6! ここに来て一番の大手柄だ! G3! ここに来るまでに疲れたか! 直ちに帰投して、体力の回復に励め! 俺の子守唄も必要か!」

「結構です。……そう言えば、G5は?」

「アイツは体力が有り余っていたからな! 尻尾を撒いて逃げた連中を追いかけて行った!」

 

 恐らく、ミシガンの制止を振り切ったのだろう。有象無象は撃破できたが、ヴェスパー部隊長達には見事に逃げられていた。

 

「不味いですよ! イグアス先輩だけだと危険です!」

「心配いらん! ウォルターの奴が残した猟犬(ハウンズ)共がいる!」

 

~~

 

「シャァアアアア!」

 

 大量のミールワームから威嚇されつつ、時には飛び掛かられつつ。スネイルは来た道を逆戻りしていた。その手には、レイヴンを抱えつつ。

 

「(ふん、まぁ良いでしょう。精々、ぬか喜びしていると良い。このバカ犬さえ確保して、ウチの尖兵にすれば幾らでもおつりが来る。それまで、束の間の勝利に浸っているがいい)」

 

 戦場に置いて来た他のヴェスパー部隊長や部下達のことは一切気にせず、目的の為に冷徹に行動し続けるからこそ、彼の作戦はアーキバスに貢献し続けて来た。

 今回もまた、目的を達成しようとした所でレーダーに反応があった。見れば、3機。こちらに向かっている。直ぐに予想は付いた。

 

「(ウォルターの所の、狂犬共とカス!!)」

 

 冷や汗が浮かんだ。もしも、ここに来ているのがG2ナイルだけなら話し合いの余地があったかもしれない。ブルートゥも辛うじて言いくるめることは出来たかもしれない。だが、残りの1人が問題だった。

 

「アレェー???? 誰かと思えば、スネェエエエエイィィィル閣下ではあぁあありませんぇかあああ!」

 

 間もなくして会合した。ACではなく、惑星封鎖機構が残したLCに登場しているパイロット。V.Ⅷのペイターであり、スネイルの天敵でもあった。

 スネイルは思考を走らせる。ここでレイヴンを人質に取って突破を試みるか。いや、タコ殴りにされて終わるだけだ。ならばと、彼は即興で台本を用意した。

 

「ペイター、久しいですね。先日のワーム排除以来ですか。ここに来たということは、貴方達もレイヴンの救助を?」

「も?」

「はい。この先にはコーラル集積があるのですが、強力な護衛がいました。私は命からがら、レイヴンを連れて逃げ出していた所です。悪いことは言いません。この先に進むのは止めなさい。一旦、引き返しましょう。命あっての物種です」

 

 そう。今の自分はレイヴンを助けて、危機的状況から脱する勇者なのだ。彼らには状況の仔細は把握できていないはずだし、レイヴンを連れて帰るなら、この案にも乗るかと思ったが。

 

「貴様、偽物だな!! あのハゲが!! 私達のことを心配する訳無いだろ! あの不毛地帯なら『レイヴンが交戦して、相手も弱まっている。トドメは任せました』とか言って、私達を送り込む位の性根の悪さを見せるはずだ! 」

 

 ブチっと。スネイルはキレる音を聞いた。だが、ここで癇癪を起せば全てが台無しになる。理性と感情の頂上決戦が静かに行われながらも、表面上は冷静さを見せる為にフゥと溜息を吐いた。

 

「ペイター。貴方はいつになったら、感情と私欲だけで行動する猿の様な振る舞いから卒業できるのですか? いえ、猿ですら生存の為に己を律することは出来るでしょう。欲望のままに行動する貴方は、野に放たれた獣と変わりない。野獣です。野獣。この汚物が!!!」

「はぁああ!? 言うに事欠いて、人のことを野獣だの! 汚物だの! もう許さねぇからな!」

「お、おい。余計な揉め事は……」

 

 ナイルが制動するが時は遅く。スネイルの罵倒を実現するかのようにして、ペイターは野獣の如き容赦の無さで、LCの腕部から出現させたスタンバトンをオープンフェイスに叩き付けていた。

 普段のスネイルなら回避できていたかもしれないが、幾つか計算外があったので反応できなかった。

 1つ。レイヴンを担いでいたこと。これによって動きが鈍るのは道理だろう。

 2つ。まさか、敵味方も確定していないというのに、手を出して来るとは思わなかった。もしや、最初から自分を亡き者にするつもりで来ていたのかもしれない。

 

「おい!? ペイター! 何をしている!?」

「ここで殺して、野ざらしにして、ミールワームの餌にすりゃバレませんよ!」

「可哀想なお友達。倫理観が終わっていますね……」

 

 機体は強制放電して、レイヴンと同じ様に崩れ落ちている中。スネイルは歯ぎしりをしていた。このままでは、バカに殺されかねんと。

 

「(こ、このカスが……! 私が死ぬ? こんな所で! 誰か! 誰か私を助けろ!!)」

 

 強化人間の施術を受けていたおかげでギリギリ意識は保っていたが、体は動きそうになかった。そして、意識が途切れる前の彼の要望が届いたのか。2機のACが駆けつけて来た。

 

「閣下!?」

「おや、ペイター君と皆じゃないか。それにスネイルも……あぁ、なるほど。そう言うことか」

「ほ、ホーキンスさん!?」

 

 流石に恩師に見られることだけは気が咎めたのか、シュルシュルとスタンバトンが腕部に収納されて行った。

 スウィンバーンの機体はボロボロだったが、ホーキンスの機体は殆ど損傷がなく、コーラルを守る強力な護衛と言う物にぶつかった様には思えなかった。と、すれば。事情は何となく察した。なので、ナイルは罪悪感を掻き消す為にふんぞり返った。

 

「さて、どういうことか説明して貰おうか。V.Ⅴ、V.Ⅶ」

「弁明の余地があるとは思ってないよ。でも、困ったね。流石にペイター君も含めた3機には勝てるとは思わないよ。だよね、スウィンバーン君。」

「……むぅ、そうだな」

 

 スウィンバーンは戦力にならないので、都合ホーキンスだけで戦うことになるが、流石に彼も3機を相手取れるとは考えていなかった。

 

「穏やかなご友人。私達はレイヴンさえ連れて帰れたら良いのです。お互い、ここで手を引きませんか?」

「一番妥当な選択だね。どうする? スウィンバーン君?」

「私が選ぶのですか!? では……」

 

 当然、戦えないので撤退の一択だ。……それに、スウィンバーンには先の遣り取りが過っていた。あの少女が、再教育センターに連れていかれる位なら、元の場所に戻した方が良いだろうと。

 

「閣下の安全を確保したいこともありますし、奴らの取引に応じ……」

「その必要はない」

 

 スウィンバーンが返答しようとした所で、背後から凄まじい勢いでスティールヘイズが駆けて来た、少し遅れてヘッドブリンガーの姿もあった。

 

「イグアスか!?」

「おい! ナイル参謀! ぼさっとしてんじゃねぇ! そいつらはアホ犬を誘拐しようとしてたんだぞ!」

「何!?」

 

 ようやく、ここに至って事態を理解したナイルとブルートゥは驚愕し、ペイターはホッと溜息を吐いている中。ラスティはレイヴンの機体の四肢を切り落として、コックピット付近だけを抱えた。

 

「戦友のことはアーキバスが責任をもって預かろう。では!」

 

 興奮したミールワーム達が動くめく中を颯爽とスティールヘイズが駆け抜けていく。彼に追従する様にして、スウィンバーンも駆け抜け、ホーキンスはオープンフェイスのコックピット付近を抜き取って抱えた。

 

「じゃあね、ペイター君。皆さんに迷惑を掛けちゃ駄目だよ」

「は、はい!」

「挨拶しとる場合か!!」

 

 レイヴンと違って、これに関しては両方とも撃破して問題ないのでナイルとイグアスが銃撃を行ったが、リコンフィグを落とすには至らず、この場から脱することを許してしまった。

 残された4機は暫し、佇んでいた。暫くして、イグアスが彼らに声をかけた。

 

「おい、糞オヤジが言っていたけれど。お前らの拠点、落とされたらしいんだが。本当か?」

「どういうことだ、イグアス。詳しく説明しろ」

 

 ナイルはイグアスからウォルター達の拠点で何が起こっているかという話と、この先で何が起きたかという顛末を聞いていた。

 



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依頼46件目:ナイル「どこに出しても恥ずかしい同僚です」

 数々の思惑を跳ね除け、集積コーラルを制圧したのはベイラムだった。

 だが、アーキバスは未だにヴェスパー部隊も失っておらず、惑星封鎖機構から奪取した兵器や基地も健在である為、依然としてルビコンでは二大勢力の睨み合いが続いていた。

 

「う、うぅむ……」

 

 スネイルは医務室で目を覚ました。どうやら、あの状況で命を奪われずに済んだらしい。大方、ホーキンスかラスティ辺りが助けてくれたのだろうと予想した。医師が駆け付けて来る。

 

「目を覚ましたか?」

「あぁ。……怪我の具合の説明を」

 

 1分1秒でも時間を無駄にするわけには行かず、スネイルは現状の確認を進めた。医師曰く、気絶していただけで外傷などは殆ど無いとのことだ。

 

「それと、身体の疲労が無視できない領域に達しています。休め、とは言いませんが、仕事の効率を落とすことも視野に入れませんと」

 

 普段の彼ならば激昂して要求を跳ね除けていただろうが、起きたばかりで虚脱状態であったこと。……また、別ベクトルでの怒りが猛り狂っていた為、酷く冷静だった。

 

「そうですね。こういう時こそ、ひとまず落ち着いて考えましょうか」

 

 珍しく自分の意見が聞き入れられたことにより、医師は多少驚いていた。

 とは言え、仕事をしないということはない。まずは、現状の把握として先の作戦の詳細を確認していた。

 

「(集積コーラルはベイラムに取られ、V.Ⅵメーテルリンクは捕縛される。だが、他の隊員達は撤退に成功。私をここまで連れて来たのは、ホーキンスですか。流石です。そして、レイヴンの方は……)」

 

 捕縛成功。という報告に、彼は沸き上がった達成感を隠す様にして、眼鏡のブリッジに中指を当てた。このルビコンを舞う鴉(レイヴン)を捕まえたのだと。

 

「(さて、どうするか。再教育センターに入れても良いが、奴の飼い主も捕まえている。下手な調整を施して廃人にするよりかは、そのまま使った方が便利でもあるでしょう)」

 

 再教育の過程で、廃人になった強化人間は幾らでも見て来た。レイヴンと言う戦力を潰すよりかは有効に活かした方が合理的だ。

 今後、ベイラムからバスキュラープラントを奪い返すことも考えれば、早急に方針を決めた方が良いと考えた彼は、直ぐに内線を掛けた。相手はホーキンスだ。

 

「やぁ、スネイル。目を覚ましたようだね」

「私を救出したのは貴方だと聞きました。ヴェスパーの名に恥じぬ活躍、称賛に値します」

「そんなストレートに褒められたら照れちゃうなぁ。で、何の用だい?」

「レイヴンは何処にいますか? 捕縛したと、報告書には書いてありましたが」

「ちょっと待ってね。替わるから」

 

 替わる。ということは、近くにいるのか。事情聴取でもしていたのだろうか。程なくして、電話口から底抜けに明るい声が飛んで来た。

 

「おはよー!!」

「……一応、確認しますが。貴方がレイヴンですね?」

「うん!!」

 

 決して職場に迷い込んだ、誰かの娘とかそう言うことはないらしい。捕虜らしからぬ天真爛漫さから、丁重な扱いを受けていることは分かった。

 彼女のペースに飲み込まれてはいけない。今後、切り札として使う上では主従の立場を分からせてやらねばならない。

 

「ご存知かと思いますが、貴方の飼い主とオマケは私達が預かっています。今はまだ手を出していませんが、彼らの安全を保障して欲しければ、私達の言うことに従うことです」

「分かった!」

「拒否をすれば……うん?」

「分かった!!」

 

 まるで交渉の余地もなく快諾した。もしや、条件などを追加させない為の高度な駆け引きなのかと、スネイルは思案する。

 

「(なんだ、この手応えの無さは。もしや、私の考えの遥か先を読んでいる? 反論や抵抗をしないことで、こちらが躾をする機会を潰しているというのか?)」

 

 再教育センターの様に大掛かりな物を使わなくとも、スネイルは人心掌握術にも長けていた。心酔させるも、隷属させるも思いのままである彼にとって、彼女は類を見ないケースだった。

 

「ならば、私の部屋まで来なさい。任務を言い渡しましょう。今から、10分以内にです」

「うん!」

 

 躊躇いのない返事が却ってスネイルをイラつかせた。まるで、小馬鹿にされている様な。見縊られているかのように思えたのだ。

 直ぐに電話を切ると、早速スネイルは手配を始めた。部下達に『レイヴンに対してスネイルが使っている部屋を教えるな』というのと、アーキバス社内の案内図を表示させないようにと言う物だ。

 

「(初見で私の部屋が分かる訳もないでしょう。来なかったら、責めて自尊心を砕いてやればいい。何とも思っていない様ならば、ウォルター達に懲罰を課せばいい)」

 

 本人がふてぶてしいとしても、流石に飼い主にまで手を出されたら動揺せざるを得ないだろう。スネイルは時計を見た、電話を切ってから2分程経っていた。

 そらから3分後のことである。ドアがノックされた。恐る恐る、インタホーンから部屋前の様子を窺うと、そこにはレイヴンが居た。

 

「来たよー」

 

 スネイルは社内に敵も多い。慎重を期する彼は、余計な小細工が仕掛けられない様に、案内されなければまずは辿り着けないような場所に自室がある。

 どうやってここまで辿り着けたのか。無暗な懲罰を行うよりも、その能力について尋ねた方がよいと判断した彼は、扉前のスキャンを使って彼女が凶器を持っていないことを確認してから、部屋に上げた。

 

「10分以内に到着しましたね。どうって、ここが分かったのですか?」

「スネイルの声がした方に向かったら、ここに来た」

「……声?」

 

 この部屋は防音性も完備しており、室内での会話が外に漏れることもない。だとすれば、彼女が言う声とは何を指しているのか?

 

「今、スネイルが心の中で呟いたこと」

 

 瞬間、スネイルが固まった。相手の感情や考えを読む、と言っても状況や情報から推測するのが基本だ。だが、目の前の彼女が、前提条件や推測を全て踏み倒して、相手の心中を読めるなら……彼は直ぐに内線を繋いだ。

 

「強化人間部門ですか。捕縛したレイヴンのテストを行いなさい。彼女が本当に読心術を持っているかということです」

 

~~

 

 コーラル集積場でイグアスから事情説明を受けたナイル達は、そのままベイラムに身を寄せていた。G2ナイルが引き連れていたこともあって、彼らはすんなり受け入れられていた。

 だが、現状の彼らは動きようがなかった。ウォルター達は囚われ、何処に連れて行かれたかもわからない。

 

「俺はこのままベイラムに帰投すれば、済む話だが。お前達は違うからな」

「えぇ。なにより、私はご友人を放っておくつもりはありませんから」

 

 ナイルはこのままベイラムに戻ればいいのだから、身の振り方に関しては保険があった。ブルートゥもいざとなれば、RaDに戻ると言うことも出来た。……問題は、この中で唯一敵対企業出身であるペイターだった。

 彼は自らの進退を気にしたり、ウォルター達のことを気にしたりしているかと思いきや、イグアスと話に興じていた。

 

「アーキバス先進局のパーツを付けているから、十中八九ハゲが乗っているとは思っていたんですけれど、前に多重ダムの時に偽物扱いされたことがありましたから、その時の報復で始末してやろうと思ったんですよ! 同じやり方で!」

「お前、よく適性検査で弾かれなかったよな……」

「あんな物、幾らでも誤魔化せますからね!」

 

 ベイラムのレーション舌鼓を打ちながら顛末を話すが、狂犬と呼ばれたイグアスでさえ引くほどの無法ぶりだった。

 確かに問題ではあった。ただ、本人は意にも介していない所を見るに、多分アーキバスをクビになっても速攻でベイラムに付く位の強かさはありそうだった。

 

「いや、アーキバスはお堅い連中ばっかりだと思っていましたが、貴方は面白いですね!」

「でしょ~~!!」

 

 何なら、この会話に五花海も加わったので、余計に話は盛り上がるばかりだった。見方を変えれば、企業の垣根を超えた友情関係と思えなくもない。

 彼らが盛り上がる中、ブルートゥやナイル達と同じく神妙な表情をしていたのは、G6のレッドだった。

 

「レイヴンが捕縛されたと聞きました。アーキバスの尋問は非人道的だと聞いている。ウォルター共々、無事でしょうか?」

「このルビコンにおいて、2人の価値は高い。拷問や尋問で潰すよりかは、有意義な使い方は分かっているはずだ」

 

 この辺りは、ナイルとしてもスネイルの性質から推測する。という気休め程度しか出来なかった。もしも、彼が不安要素を全て潰す性質だったとしたら……。

 

「ナイル、ご安心ください。ご友人は無事です」

「ブルートゥ。何か確証が?」

 

 もしや、自分達には見えない存在同士の伝手があるのか。もしやと思ったが、ブルートゥは首を横に振った。

 

「いいえ、エアからの声も聞こえません。ですが、私の中の友人が言うのです。彼女達は生きていると」

「無事な姿でいると良いが……」

「あ、あの! ナイル参謀! よろしいでしょうか!」

 

 彼らが表情を曇らせていると、背後から声を掛けられた。見れば、眼鏡を掛けた、何処か垢抜けない表情をした青年がいた。

 

「お前は、オオサワか。どうした?」

「ミシガン総長から司令部に来るようにとのことです。愉快な仲間達も一緒に連れて来い。と」

 

 今はバスキュラープラントも奪還して、ひと時の休憩を取っていると言うのに、もう次の任務かと。だが、動いていた方が気も紛れる。ナイルとブルートゥは立ち上がった。

 

「よし、次の任務は何か。単なる辞令と言う訳でもなさそうだ」

「はい。私も一緒に赴きましょう。ミシガン総長はとても奥ゆかしい人だ。彼と話していると、ご友人も喜びます」

 

 そして、そのままミシガンがいる司令部に向かって行くのを眺めながら、何かに気付いたようにオオサワは声を上げた。

 

「二人共―! ペイターさんを忘れています!!」

 

 それは忘れているのではなく、敢えて連れて行かなかったのだと思ったが、言われた以上は無視する訳にもいかず、ナイルは渋々と連れて行くことにした。

 



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依頼47件目:レイヴン「ピーチ姫?」

「閣下、検査の結果が出ました。彼女は確かに読心能力を持っています。それも、極めて高いレベルの」

「ほぅ、どの程度の能力ですか?」

 

 強化人間部門で行った検査の結果が出た。レイヴンが言っていたのは事実であり、本当に彼女は読心術を持っていた。

 

「能力のオン、オフは利かない様ですが、彼女は周囲に塗り潰されない程の自我と処理能力を持っています。情報を取捨する能力に優れており、なおかつ表層だけではなく、深層における行動の起こりまで聞き取れる様です」

 

 直ぐに説明を促さず、スネイルは一旦考えた。報告を聞いているだけでは、如何に彼とは言え情報を処理しきれない可能性がある。

 故に、一旦聞いた情報を自分なりに咀嚼して、吐き出した答えがあっているかどうかを確認するプロセスを経て、初めて自らの中に根付くことを経験から把握していた。

 

「例えば、私がトランプでスペードの2を伏せたとします。そして、彼女に当てて見ろ。と言った時、内心でハートの8と思っても、キチンとスペードの2を当てられるのですか?」

「はい。閣下のおっしゃる実験も行った所、100%の的中率でした。我々は複雑な行動の際、必ずプロセスを脳内で構築します。彼女はその構築段階から聞き取れる様です」

 

 フィクションめいていて、一笑に付す様な内容だが、本当に彼女がそう言った能力を持っているのなら腑に落ちることは多かった。

 今まで、多数の任務で見せて来た、相手を翻弄するような動き。先んじる動きも、相手の行動を読んでいたとすれば頷くことも出来た。

 

「ご苦労。この研究結果を、他の強化人間にも流用出来ないかを講じなさい。それと、レイヴンをここに」

 

 スネイルからの命令を受けた男は返答をして、部屋から出て行った。スネイルの鼻息は俄かに荒くなっていた。想像以上の拾い物をしたと。

 それから、十数分後。再び、彼の部屋に訪れたレイヴンは、パイプに入ったコーラルを吹かしていた。

 

「ただいま」

「貴方が虚偽を話していないことは分かりました。なので、腹芸をした所で無駄でしょう。単刀直入に申し上げます、私に協力しなさい。そうすれば、ウォルターとあの男の安全を確保しましょう」

 

 敢えて、アーキバスに協力しろという言い方はしなかった。

 自室でヤクを吸うと言うかなりの無礼を働かれながらも、冷静に交渉しているのは、それだけ彼女の存在に価値を見出しているからだ。

 

「んー。2人が大丈夫なら、いいよー」

「話が早くて助かります。ならば、私が案内をしましょう。付いて来なさい」

 

 彼女の能力が何処まで本当なのか。早速手に入れた物を試したいという好奇心に駆られる姿は、スネイルらしからぬ物だった。

 

~~

 

「おや、珍しい組み合わせだ。戦友、一体どういう経緯が?」

「彼女は私達に協力してくれることになりました。V.Ⅳ、貴方の手柄ですよ」

 

 質問に対して、スネイルが返答した。だが、ラスティは驚いた様子もなく、笑顔を浮かべたままだった。

 

「そうか、遂に戦友がこちらに来てくれることになったのか。スウィンバーンも喜ぶに違いない。これからもよろしく頼むぞ」

「うん!」

 

 コーラルを吹かしていることもあって上機嫌なのか、声量はかなり大きかった。

 

「行きますよ」

「じゃあね」

「また、後程に」

 

 スネイルが歩を早めた為、レイヴンも後を付いて行く為にラスティとの会話を切り上げた。……そして、彼の姿が見えなくなった後に尋ねた。

 

「奴は何を考えていた?」

「ウォルターと1317を守るためだろうな。って、言っていた。スネイルに対しては特に何も」

 

 そんな物、態々。心を読まなくても把握できることだ。自分に対して何も思われていないのは、いつものことに対して抱く感慨も無いのだろう。

 

「この程度なら、私でも推測が可能なことです。他の者は……」

 

 何か読み辛そうな考えを持っている奴や、外面が良い奴はいないだろうか。手段と目的がやや逆転しつつも、スネイルに目を付けられた人物はと言えば。

 

「スネイル。と、レイヴンか」

 

 任務帰りなのか、通常運行なのか。非常にかったるそうな表情をしたV.Ⅲのオキーフだった。情報部隊に所属することもあって、情報の重要さを知っている為か、彼は自らのことを決して話そうとはしない。

 彼の底知れなさは、スネイルですら警戒心を抱く物であったが、今は違う。チラリとレイヴンに目配せをした。

 

「彼女も協力してくれることになりました」

「そうか、心強いことだ。それよりも、今日は上層部が抜き打ちで視察に来るぞ。注意しておいた方が良い」

 

 内心で舌打ちをした。恐らく、バスキュラープラントの件が上にも伝わったのだろう。だが、彼らに対する弁明とこれからの方針は既に控えている。何も恐れることはない。

 

「分かりました。では、彼らの迎えに上がりましょうか。レイヴン、付いて来なさい」

「はーい」

 

 むしろ、丁度良い機会だと思っていた。奴らが自分に対して、普段何を考えているのか、丸裸にする良い機会だ。……どうせ、低俗で無責任で無思慮なことを思い浮かべているに違いない。

 

「オキーフは何を考えていたのですか?」

「眠い。ってさ。後、スネイルの生え際が後退しているって。俺も、こんな風になるのかって、嘆いていた」

「……まぁ、勝手に覗き込んだのはこちら側の責任ですから」

 

 人は口に出さないことで保っている均衡もある。怒りよりも、あんな関心を持って無さそうな人間でさえ自分の頭部をチェックしているのだという事実に、若干のショックを受けつつスネイルは上層部を迎えに行った。

 

~~

 

「来たか! 早速だが、今後のベイラムについて、お前達にも話しておこう!」

「バスキュラープラントも手に入れたが、依然としてルビコンではアーキバスも強いからな」

 

 ナイルとしても、ベイラムの方針は気になった。アーキバスが健在である以上、バスキュラープラントが奪われる可能性もあるのだ。

 また、ルビコン解放戦線や完全に撤退をしていない惑星封鎖機構など。不安要素は幾らでも残っていた。

 

「その通りだ! お前達の話によれば、G13達はアーキバスに囚われたそうだな! だが、上層部はこれをチャンスだと捉えた!」

「チャンス?」

「そうだ! 我々でレイヴンを奪還する! バスキュラープラントだけではなく、レイヴン達すら奪われたとなれば! いよいよ、奴らの間抜けぶりが全宇宙に広がると言う訳だ!」

 

 ナイルからしても断る様な話でもない。以前より、ベイラムにはレイヴン崇拝の動きがあった。実際、アイビスが回収されて技研の遺産に関する脅威を把握すればするほど、これらを撃墜した彼女の評価が上がって行くばかりだ。

 ここで、敵対者達に攫われた彼女を奪還したとなれば、ベイラムの威光には箔が付き、相応に士気も高揚するだろうとは考えられた。……何より、貸しを作ってしまえば、彼女としてもベイラムに従う外なくなる。

 

「良いですね! 囚われた姫君を助けるなんて、まるで王子の様ですね!」

 

 ペイターもノリノリではあるが、彼もレイヴンのことは心配しているのだろう。だが、事はそう簡単な話ではない。救出したから再び独立傭兵と言う立場に戻ることは難しいのだ。

 

「ウチからはイグアスとレッドを出す! G2! 指揮は、お前に任せる!」

「了解した。ミシガン」

 

 古巣に戻って来たら直ぐに次の仕事だ。真っ当に進めればウォルターの意に反することになりかねないが、跳ねのけることも出来ない。どうした物かと考える中、ブルートゥは考えていた。

 

「(カーラ、貴方のご友人がピンチです。何もしないとは思いませんが、今。何をお考えになられているのでしょうか?)」

 

~~

 

「(ボス、この場はベイラムが治めるらしい。道中で、面白い物も拾った。これより帰投する)」

 

 集積コーラル。ベイラムの機体が多数哨戒している中、惑星封鎖機構から鹵獲したステルス機を動かしているチャティ・スティックは内部のコックピットに2人の人間を収容して、地上に向っていた。

 

「まさか、RaDが鹵獲をしていたとは」

「おかげで、拙者らも帰還できる訳だが」

 

 搭乗機体を破壊されたミドル・フラットウェルと六文銭がコッソリと救難信号を出していると、偶然。斥候に来ていたチャティに拾われていた。

 ストライダーの件もあって、多少は存在していた繋がりが良い方向に働いてくれたらしい。

 

『流石にアーキバスから取り戻すのはしんどいね。ウォルター達とも通信が繋がらないし、あっちも捕まっているだろうしね』

 

 このままでは自分達の目的を果たせない。幸いにして、ベイラムグループが奪還作戦を目論んでいる様だが、企業の手に落ちれば自由に動くことは適わなくなるだろう。

 

「不味いな。そうなると、我々も動きづらくなる」

 

 フラットウェルとしても由々しき問題だった。ルビコン解放戦線において、レイヴンは貴重な戦力だ。彼女が企業の走狗となってしまえば、いよいよルビコニアンは搾取されるだけの存在となる。

 

「帥叔。なれば、我々で奪還するしかないだろう。レイヴン達にとっても悪い話ではないはずだ」

『……企業の手に落ちる位なら、アンタらが囲った方がマシか。一旦、引き返してから考えるよ』

 

 今はまだ、ベイラムも集積コーラルの探索に人員を割いている。チャティのステルス機は姿を消したまま、入り口が防がれる前に脱出をしていた。

 



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依頼48件目:中間管理パイロット スネイル

「V.Ⅱスネイル。まだ、ルビコンで戦果を挙げられていないのですか? 挙句の果てにベイラムにコーラル集積を取られるとは。打開策はあるのでしょうね?」

「はい。プランは幾らでも用意しており……」

 

 スネイルが策略家として、パイロットとして辣腕を振るおうと。スポンサーや上層部には頭を下げる外ない。彼らがいなければ、自分達は戦うことすら出来ないのだ。

 

「それに惑星封鎖機構から鹵獲したLCの転換は捗っていないそうじゃないか。困るね、彼らを退ける為に私達がどれだけのコストを投じたと思っている?」

「機種転換は急いでおりますが、戦場では乗り慣れた機体の方が戦果を上げやすいこともありまして……。習熟訓練も急がせていますが」

「その過程を飛ばす為に強化人間なんて物があるんだろうが。あの実験の為に、私達が各方面にどれだけ資金を払っているか。役立ててくれないと困るよ」

 

 机上の空論ばかり並べる上層部に対して思うことはあれど、再教育センターや強化人間などの研究を進められるように根回しを進めてくれているのは、彼らだった。なので、ひたすらに頭を下げるしかない。

 平身低頭。プライドの塊である彼としては、如何に業腹であるか。そして、これは査察に託けたイビリなのだということも察していた。

 

「善処いたします。必ずや、ベイラムからはバスキュラープラントを取り戻します」

「報告に上がることを楽しみにしているよ。それと、先程から気になっていたが、この少女はなんだ? 君の趣味か?」

 

 基地内に放り出す訳にもいかず。スネイルは案内がてら、そのまま連れて来ていた。通常ならば避けていたが、彼女の能力を用いようと考えてだ。

 

「彼女は、報告書にもあったレイヴンです。ルビコンにおける、最強の独立傭兵。先日、捕縛に成功しました」

「冗談は程々にしてくれ。こんな年端も行かぬ少女が、レイヴンなハズがないだろう。素直に愛人と言ったらどうだ」

「自分もそうだから?」

 

 今まで、沈黙を守っていた彼女が初めて口を開いた。スネイルは一瞬理解が遅れたが、上層部の男の顔が引き攣ったのを見て察した。

 

「な、何を言っているんだ」

「アイリス、イヴ、カーネーション、サクラ。って言うの? その子達」

 

 女を囲う。ということは、昨今の情勢的には珍しくもない。なんなら、社会的ステイタスの一つとしても数えられる位だ。

 だが、小児愛好者となれば話は別だ。周りから侮蔑の視線は避けられない。道徳的、倫理的な非難はあれど、一番の理由は趣味が悪いからだ。

 

「スネイル! 貴様、どういう教育をしている!」

「どうかされましたか? 捕虜の戯言など放っておけばいいのです。まさか、アーキバスの上層部に名を連ねる者が、ロリコンであるはずがないでしょうしね」

「ふん、当たり前だ! こんな寂れた惑星で何時までも油を売っていないで、さっさと成果を上げて来い!」

 

 捨て台詞を残しながら、上層部の男は足早に去って行った。彼の姿が消えるまでスネイルは姿勢を正していたが……見えなくなった後は、高笑いを上げていた。

 

「ハハハ! ロリコンか! あの男! 面白いことを聞いた! レイヴン。貴方の能力はそう使えば良いのですね!」

「???」

 

 何がおかしいのか、まるで分らないレイヴンは首を傾げるばかりだったが、暫く彼女は上機嫌なスネイルにアーキバス内を案内されていた。

 

~~

 

『レイヴン。先程の行動は、スネイルに恩を売ろうとして?』

「別に?」

 

 先の一件で気に入られたのか、レイヴンは独房に入れられることも無く、アーキバスの拠点内を自由に動き回ることを許可されていた。最も、行動を逐次監視する物理的な首輪を装着されてのことだが。

 

『それにしても意外でした。傲岸不遜の権化であった、彼もまた。社会の仕組みには逆らえないのですね』

「ぷふー」

 

 すれ違うスタッフ達は、彼女のことを二度見していく。パイプに入ったコーラルを吹かしている首輪付の少女。なんて物が目を引かない訳がない。

 

『幸い、彼らは私のことを認知できていません。口に出しては不味い言動に関しては、こちらで考えますので、レイヴン。貴方は迂闊に口走らないようにお願いします』

「あへあへ」

 

 エアと話しているのかヤク中が鳴き声を上げているのか判断し辛い所だった。これは彼女との会話をカバーする為の演技……という訳ではなく、多分。通常営業でしかない。

 ウォルターの所に行こうとも面会は許可されていない。なので、こうして徘徊している訳だが、誰も関わって来ようとはしない。

 

【何だ、コイツ。気持ち悪いな……】

【クソッたれ。ベイラムの野郎、ベイラムの野郎! 直ぐにでも取り返してやる!】

【今日も閣下は禿げているなぁ。明日はもーっとハゲるだろうなぁ】

【家に帰りてぇ……】

【あー、ペイター死んでくれねーかなー】

 

 戦場に身を置いていることもあって、すれ違う者達の思考は攻撃的思考を浮かべていることが多かった。レイヴンはパイプにコーラルを多めに入れようとした所で、腕を掴まれた。

 

「貴様! ここは公の場だぞ!」

「あ、フィヒンバーンだ」

「呂律も回っとらんじゃないか!」

『彼も無事だったんですね』

 

 通行の邪魔になると言うことで、レイヴンは壁の方まで引っ張られた後、彼から懇々と説教を受けていた。

 

「良いか? 人生はまだまだ続いて行く。だと言うのに、クスリなんて物に手を出してしまえば、今後の未来を閉ざしてしまうことになりかねない。パイロット達の中には感覚が開けると言う者もいるらしいが、そんな物はまやかしだ! 第一、生きる為に戦っているというのに、戦う為に寿命を縮めては元も子もないだろう!」

『どうして、この人。倫理観がマトモなんでしょうね?』

 

 戦場において、人は暫し狂気に支配されやすい。死と隣り合わせという現実が、良心や常識と言う枷を外してしまうのだ。

 故に、なおもコレらを持ち続けられるということは相応の実力者ということでもあり、スウィンバーンもまたヴェスパー部隊の隊長格だった。

 

「少しは理解したか?」

「ばっちりー!」

「しとらん奴の常套句だろ!! ふん、報告書もまとめたし。ガイダンスの修理には時間も掛かる、暫く私が付いて見張っておくから、コーラルなど吸うな」

 

 スウィンバーンはレイヴンからパイプを取り上げた。彼女は不服そうにしていたが、渋々と言った具合で従う姿勢を見せると同時に。腹の虫が鳴った。

 

「解放されてから何も食っとらんのか?」

「検査の為に食うなって」

「あぁ。そう言うことか。……仕方ない、付いて来い」

 

 食堂。というにはレーション位しか置いていない場所に向って、スウィンバーンはレイヴンを連れて行った。

 

~~

 

 彼女とは違い、ウォルター達は独房の中にいた。自分達が拷問に掛けられたり、ログでも読んだ再教育センターという場所に送られていないのは、レイヴンが取引に応じたからとは聞いていた。

 

「(621がその様な取引や駆け引きが出来るか。簡単な質疑に答えたか、もしくはエアがサポートをしてくれたか)」

 

 彼女ならば、レイヴンをサポートしてくれるだろう。だが、問題は彼女がどの様に扱われるかだ。リバースエンジニアリングの様に原理を解明するためにバラされる可能性は低いと考えていた。

 

「(これだけ便利な物ならば、そのまま使った方が良い。幸いと言うべきか、621は所属場所に拘らない。V.ⅣやV.Ⅶの存在を考えれば、折り合いも悪くはないハズだ)」

 

 自分達を助けるためにアーキバスに下ったとすれば、ウォルターが抱えている目的から反する方向に向かってしまう。それは、彼としても望む所では無かった。

 

「で、貴様らは何を企んでいる?」

「誰だ?」

 

 思案に耽っていた為か、独房の外に人がいることに気付かなかったらしい。彼は簡素な食事を乗せたプレートを運んでいた。

 

「V.Ⅲオキーフ。事情聴取だ。ハンドラー・ウォルター。お前はこのルビコンで何をしようとしている?」

「お前に話す必要はない」

 

 ウォルターがシラを切ると、オキーフは懐からタブレットを取り出した。画面を操作すると、食堂でスウィンバーンと共に食事を取るレイヴンの姿が映し出されていた。

 

「今、彼女には首輪が付けられている。周囲の音声や風景の収集。いざとなれば、爆破させることも可能だ。他にも、こんなことも」

 

 再び画面内を操作すると、レイヴンがしゃっくりをしてレーションを喉に詰まらせていた。スウィンバーンが慌てて、彼女の背中を叩いている。

 馬鹿げた光景に見えるが、やろうと思えば誤飲という形で始末することも出来ると言う脅しだった。

 

「俺が動揺するとでも?」

「彼女の死に動揺する感傷を持っていなくとも、彼女が失われれば、どちらにせよ進退は窮まるだろう?」

 

 レイヴンと言う最強の手駒が無ければ、どちらにせよ。ウォルターは今後の仕事が遂行不可能となる。……だが、話してしまえば自分が処理される可能性は高くなる。

 

「オキーフ。お前は確か、第2世代の強化人間だったか? 今は、コーラルの焼き付きを中和する為に第9世代の手術を受けたと聞いた」

「その程度は知っているか。それがどうした?」

「お前は、コーラルがこの世にあって良い物だと考えるか?」

 

 コーラル。惑星ルビコンで見つかった新資源。情報導体から薬物としてまで、幅広い用途で使われているが、発火性や中毒性を含めて危険物としての側面も多い。……そして、これらを巡っての戦いが繰り広げられている。

 

「存在に罪はない。……と言いたいが、人間が御せる存在ではないとは考える」

「そうだ。これらは人間には早すぎた物だ。誰かの人生を狂わせ、戦いを招く物。この世にあってはならぬ物。俺は、そう考えている」

 

 目的は言っていない。ただ、己の考え方を言っただけだ。オキーフは暫し考え込む素振りを見せた後、ウォルターの独房にプレートを差し入れた。

 

「尋問のつもりは無かった。お前と個人的に話したいと思っただけだ。だが、あの首輪に付けられている機能は本物だ。お前も彼女を守る立場にいると言うことを覚えていた方が良い」

 

 自分の立ち振る舞い次第で、レイヴンという芽を潰される可能性もあると言うことだ。それは、避けねばならない。その為には自分も動かねばならない。

 ひとまず、食事を取らねばならないが、目の前に並ぶ物に自白剤や毒物の類が入っている可能性もある。……しかし、食わないという選択肢はなく、ウォルターは慎重に口元へと運んでいた。

 



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依頼49件目:ご友人

 これにて50本目です。皆さまに支えられて、ここまでやって来れました。これからも頑張って行きたいです


「RaDのシンダー・カーラだ。アンタ達に相談がある。ビジターとウォルターについてだ」

 

 彼女から相談を持ち掛けられたのは、ベイラムで行われていたレイヴンの救出作戦の計画が難航していた頃である。

 

「彼らの救出依頼ですか? それについては、我々も頭を悩ませている所です。なんたって、あの基地の脅威が一番分かっている、私がいるのですから」

 

 散々、好き勝手をして来たので戻るのは難しいであろうペイターだが、彼もアーキバスに身を置いていた人間だ。基地に置かれた防衛力や脅威については、この場にいる誰よりも詳しい。

 

「へぇ、参考までに聞いてみたいね。どれだけの戦力が置かれているんだい?」

「まず、常にドローンとMTが哨戒しており、どのルートにも穴が空かない様になっています。加えて、警報が入れば基地内の戦闘配備は5分もあれば整います。加えて、基地には常にヴェスパー部隊の隊長が1人は控えています」

 

 正面切って乗り込めば全面戦争となり、互いに損耗は避けられない。潜入や工作への対策もバッチリと来たら、いよいよどうした物か。ここに五花海が更に付け加えた。

 

「おまけにG13達が何処に収容されているかも分かりません。打つ手なしです」

「諦めんのは、まだ早いよ。コイツを見な」

 

 モニタに表示されたのは、見慣れない機体だった。どの企業から出ているフレームを使っている物でも無ければ、MTでもない。唯一見覚えのある、イグアスだけが声を上げていた。

 

「コイツは、お前の所に襲撃駆けて来たステルス機じゃねぇか」

「そう。あの時、潰した機体をウチで回収して使わせて貰っている。コイツの脅威に関しては、アンタもよく分かっているだろ?」

「まぁな。でも、スキャンを掛けられたら一発で分かるだろ?」

 

 隠匿性能が高く、カメラやセンサーにも引っ掛からず肉眼でも確認は出来ない。唯一、スキャンを掛けられた時だけは姿を現してしまうが、当然の様に彼女は対策を打っていた。

 

「そこに関しては、パイロットにチャティを乗せることでカバーしている。ザックリ言うと、相手のスキャンに反応して偽装のデータを送り込むってモンだ。だから、機体の目には何も映らない。……ただ、交戦をすると熱量などの反応で直ぐにバレるけどね」

「相手のスキャンに即座に反応できるのは、AIである俺以外には無理だろう」

 

 人間の反応速度では追い付かないこともAIでなら対応できるということか。潜入や工作には打って付けの機体であり、レッドガンの面々はRaDの技術力に戦慄していた。この緊張感を誤魔化す様に、G6レッドが疑問を投げた。

 

「潜入までは出来るでしょうけれど、レイヴン達が何処に収容されているかは把握しているんですか?」

「まさか、こういった事態の為にウォルターが何か仕掛けを?」

 

 ナイルが思い当る可能性を述べたが、違うよと。と、カーラは短く告げた。

 

「信じられない話だけどね。レイヴンの場所だけは分かるんだ。何者かが、位置情報をこちらに送信している」

 

 何重も発信元を偽装した上で、彼女がアーキバス基地の何処にいるかが表示されたが、どうも常に移動している様で特定の場所にいる訳ではないらしい。

 この見取り図が何処を指しているかを把握しているペイターは暫し、考え込んでいた。

 

「可哀想なご友人。何かご存知で?」

「いや、この場所。確か、基地内にあった『毛髪再生局』と言う場所なんですよね。あそこに行く用事があって、レイヴンを連れ回せる奴なんて、一人位しか居ないんですが」

 

 『毛髪再生局』というワードを聞いて、レッドガンの面々は一斉に噴出した。通信越しではカーラが大声をあげて笑っていた。

 

「も、毛髪再生局!? なんだい、そりゃ!」

「一応、真面目な部門なんですよ。ほら、戦闘や強化手術の関係で、髪の毛が生えて来なくなった者達のメンタルケアを施す目的があって創立されたそうです。地味に利益も出しているみたいですけれど」

 

 美容などは本人のメンタルに繋がる場合も多い。特に、頭髪と言うのは一目で分かる変化なので、失ってしまうことで均衡が崩れる場合さえあるのだ。

 ペイターが笑わないで解説している所を見るに、この部門の重要さを把握している様だが、体育会系の集まりであるレッドガン部隊が気にする訳も無かった。生真面目なレッドでさえ、笑いと困惑の両方を浮かべた奇妙な表情をしている。

 

「V.Ⅷ。まさかと思いますが、ここに通っているのは。V.Ⅱですか?」

 

 独自の情報網でスネイルに関しての情報を集めていた五花海は、いつものニヤケ面を更に綻ばせながら問うた。

 

「はい。なので、あのハゲがレイヴンを連れ回しているということです。これは厄介ですよ」

 

 一方でペイターは、いつもの様に嘲笑と侮蔑の混じった笑いを吐く訳ではなく、V.Ⅱスネイルが見張っているという脅威について真剣に検討していた。

 流石に事態の重大さを把握したのか、皆も笑いを引っ込めている中。唯一、感情を処分し切れないイグアスだけが堪えていた。

 

「(待てよ。なんで、全員一瞬で笑いを引っ込めてんだよ!? ハゲと毛髪再生局だぞ!? 五花海もニヤケているだけだし!)」

「G13の位置情報を送信している者に協力は要請できないのか? ……いや、待て。そもそも、彼女の協力者は誰だ?」

 

 レッドが当然の疑問を浮かべた。レイヴンがこんな情報を送信できる隙も技能もあるとは思えない。だとすれば、誰が? という、彼の問いに対してナイルが答えた。

 

「ミシガン、カーラ。これは極秘の情報だ。決して、口外しないことを条件に協力者に付いて、俺達が知っている限りのことを話す」

「言ってみろ」

 

 普段は語気の荒いミシガンが静かに促す。却って、威圧感が増して皆が押し黙る中、ナイルはブルートゥに目配せをした。

 

「彼女。の存在については、私が一番詳しいと言えるでしょう。そして、これは同時にカーラへの謝罪にも繋がる話になります」

「話しな」

「ありがとうございます。……我々、旧世代の強化人間は施術の際にコーラルを用いられました。その影響か、彼らの声が聞こえるのです」

「声……。ひょっとしてよ、そいつは耳鳴りみたいな奴か?」

 

 ブルートゥの話に反応したのはイグアスだった。彼も旧世代の強化人間であり、耳鳴りと言う形で音は聞こえていたが。

 

「多くの者達は聞こえない、または彼の様に耳鳴りにしか聞こえません。ですが、私やご友人の様に一部の者達には声が聞こえるのです。コーラル波形の中に産まれた、精神体の声を――レイヴンにはエアという姿を持たないルビコニアンのご友人がいます。そして、私にも同様のご友人が」

 

 俄かに信じがたい話だった。企業の者達からすれば、コーラルとは新資源でしかなく、そこに人格が発生するとは思っても居なかったからだ。

 

「ブルートゥ。だったら、アンタがウチの所からレールガンを盗んだのは」

「はい。貴方がコーラル集積に向かう為に、障害物の排除を目的として作っていることは分かっていました。カーラ、貴方は根無し草の私を拾って居場所と生きる糧を与えてくれた大切な友人です。ですが、孤独だった私に寄り添ってくれたご友人を守るべく、あのような行為に及びました」

 

 旧世代の強化手術は成功率も低く、術後にも後遺症が残る可能性が高い。故に被検体は、社会的に孤立していたり、居なくなっても問題のない者が選ばれることが多い。

 誰にも知られること無く死んでいく絶望の中で、寄り添ってくれた存在が居たとしたら、それはどれだけ掛け替えのない存在になるだろうか。

 

「ブルートゥ。それは、俺にとってのボス達みたいな物か?」

「はい。……この話は妄言と切り捨てて下さっても構いません。ですが、彼女には心強いご友人が付いていることは間違いありません」

 

 ブルートゥの身の上話が真実かどうかは別として、ナイルやペイターも頷いていることから、本当に実態を持たないルビコニアンと言うのは存在しているのだろう。でなければ、現在のレイヴンが情報を送って来れると思えなかった。

 

「なるほどね。なんで、アンタがあんなことをしでかしたのか。ずっと分からなかったけれど、そう言った経緯があったんだね」

「信じてくれるのですか?」

「嘘にしちゃ辻褄が合うことが多いからね。アンタが、友人を選んだってのが分かった。それで十分だ。で、ビジターについているのがエアってのは分かったけれど、アンタについている奴の名前は何ていうんだ?」

「すみません。彼はコミュニケーションを取れる程、発達していないのです。基本的にはご友人と呼んでいるのですが、名前で呼ぶ時は『カエサル』と呼んでおります」

「あ、名前があったんですね」

 

 ペイター達も聞いたことがなかったが、キチンと名前もあったらしい。

 エアから送られてくる情報もある。潜入する為の手段もある。だが、重要なことはまだ決まっていない。即ち。

 

「誰が行くかは決まっている! ペイター! ブルートゥ! お前達二人だ!」

「は!?」

「道理です。彼女の声を聴けるのは、私だけですから」

 

 そして、アーキバス基地の構造を知っているのもペイターだけである。この人選は必然とも言えた。ミシガンの決定を突っぱねる理由が何一つとしてない。

 彼らを近くで見ていたナイルには分かるが……この2人、相性が良くない。特に多重ダム防衛の時なんかは酷かった。

 

「ペイター。2人乗りとなって操縦が困難になることを想定しているなら心配ない。コックピットは改造済みだ」

「……本当は嫌なんですけれどね!!! レイヴンを助けに行くならね! 友人としてごねる訳には行きませんからね!」

「可哀想なご友人。この期に及んでも、その程度のことで葛藤するとは」

 

 自分の好き嫌いを押し殺す程度には、彼にもレイヴンを助けたいという気持ちはあるらしい。だが、未だ分かっていないことも少なくは無かった。

 ウォルターと1317の居場所。そして、救出ルートの確保。基地からの脱出、まだまだ講じるべき所は多いが、取っ掛かりが見つかった会議は、RaDという勢力も含めて更に煮詰められていった。

 



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依頼50件目:ふつう

 食堂でスウィンバーンと共にレーションを貪っている621が喉を詰まらせたり、背中を叩かれたりしていると。賑やかさに惹かれたのか、V.Ⅴホーキンスが彼らの卓にやって来た。

 

「やぁ、スウィンバーン。それに、レイヴン。随分と馴染んでいる様だ」

「ホーキンス殿。いや、どうにも普段からマトモな物を食っていないらしく、ここの食事が気に入った様です」

「輜重部門責任者として嬉しいね。あの企業のレーションを選んで正解だったよ」

 

 他の隊員達からすれば食い飽きた物だが、これでもレーションとしては美味いと評判だし、レイヴンもがっついていた。

 

「一体、普段は何を食べているんだ?」

「ミールワームとボソボソした奴」

「ボソボソしたレーションだから。あの滅茶苦茶安い奴だね。私も食べてみたことはあるけれど、美味しくないよね」

 

 スウィンバーンは雑談がてらに話をしているが、ホーキンスの場合は違う。

 輜重部門責任者。即ち、軍事物資の補給を担っている者として、相手の食事から台所事情の推察を行っていた。

 

「うん。喉詰まるし」

「食事は皆の原動力だから大事にしないと。そこを切り詰めるんだから、台所事情が相当に寂しいのか、あるいは興味がないのか」

「飢えさせていないだけとも言えますがね。まぁ、良い。閣下や我々の尽力の賜物である豊かさを享受するが良い」

 

 戦場においては飢えさせないだけでも上等ではある。と言っても、レイヴン達は少数精鋭で動いている為、少し事情も違うが。

 戦場では土を付けられっぱなしだが、こういった福利厚生面では言うまでもなく圧倒的にアーキバスが有利であった。勝利感に酔いしれているスウィンバーンは、彼女のプレートの上に自らのココナッツクッキーを乗せた。ただ、彼女は何をされたか分からず首を傾げているだけだった。

 

「食っても良いのだ」

「ありがと!」

『すっかり、餌付けされていますね』

 

 食事と言うのは、それだけ重要な要素なのだ。戦場で見せる苛烈さからは想像もできない様な可憐さに、ホーキンス達が微笑んでいると。これまた歩み寄って来る者が、また1人。

 

「随分と賑やかですね。貴方達が餌付けしている相手は、小鳥ではなく鴉(レイヴン)であることをお忘れなく」

「閣下!?」

「スネイル。今日は上機嫌だね。良いことあった?」

 

 スウィンバーンが姿勢を正す中、ホーキンスだけは変わらない様子で尋ねた。

 そもそも、スネイルが食堂にやって来るのは珍しい。自身が撒き散らす不機嫌さが他者への攻撃になることを知っている為か、基本的には自室で取っているのだが、今日は違った。

 

「そうですね。少しばかり、気分が良くなることがありました」

「それは、それは……。上層部の方がお越しになられていましたし、閣下が見事に応対してみせたのでしょう」

 

 ホーキンスが『あっ』と言わんばかりの顔をしていた。これはスウィンバーンが上層部の相手をすることが少ない故の弊害なのだが、基本的に嫌味を食らいまくっていることを、彼は知らないのだ。

 そして、スウィンバーンも周囲の空気が変わったことから、自らの失言に気付いたが、スネイルは表情を崩さなかった。

 

「えぇ、それはもう見事に対応しました。これも、彼女のお陰です」

 

 彼が視線を遣った先には、ココナッツクッキーを齧っているレイヴンが居た。そんな彼女に労いと言わんばかりに、スネイルも自らのココナッツクッキーを渡していた。

 

「ありがと!」

「この後は、私と一緒にもう少し施設を回って貰います。良いですね?」

 

 いつもの様に二つ返事で頷き、彼女はアーキバスのレーションに舌鼓を打ちつつ、ウォルター達の所では到底体験することのない賑やかさと豊かさに囲まれた卓で食事を取っていた。

 

~~

 

 食後。スネイルに連れられた彼女は、毛髪再生局に訪れていた。従事するスタッフ達は一様にして髪が無かった。

 

「ねぇ、どうして皆は髪の毛が無いの?」

『れ、レイヴン。それは……』

 

 肉体を持たないエアでも、センシティブな部分であることは分かっていた。

 男性はまだいい。髪の処分が面倒だということで行った可能性があるからだ。だが、女性スタッフはそうはいかない。何かやむにやまれぬ事情があるはずだ。

 しかし、この場にいる者達の心情を聞けるレイヴンの耳には悲嘆も責める様な声も聞こえてこなかった。

 

【閣下が連れて来た、あの子が例の?】

【この子が上層部を蹴りだした手伝いをした子か】

【やっぱり、髪の毛が無いことを気にするのが普通よね。よっし】

 

 中には、レイヴンに説明しようとした女性スタッフもいたらしく、歩み寄って来た。

 

「閣下。彼女に少しだけ説明をしても?」

「良いでしょう。この局の存在理由を理解しているかを確かめる良い機会です」

「???」

 

 レイヴンとしては気になったことを口にしただけだが、彼女達の方では何かしらの話が進んでいるらしく。用意された椅子に腰かけて、女性スタッフがモニタの操作を始めた。

 

「私達、毛髪再生局はアーキバスのみならず。全世界の毛髪に関する研究を行っています。ここでは特に医療方面に力を入れています」

『医療ですか』

 

 レイヴンはまるで何も分かっていないにせよ、エアの関心を引くことは確かだ。人間を知りたい彼女にとって、髪と言う者がどれだけ精神面に影響を及ぼしているかを知りたかった。

 

「昨今の情勢から怪我や病気、あるいは加齢などで毛髪を失う人は大勢います。髪の毛が無いというだけで『ハゲ』と言う、心無い中傷で傷付いている人も沢山います。髪が無いということは、本人にとってそれほど大きな問題なのです。昨日まであったはずの物が無くなっている喪失感。笑われているかもしれないという恐怖。特に、女性に関しては将来的にも関わって来ることなのです」

『頭皮の保護などだけではなく、髪と言うのは想像以上に人間の精神に左右することなのですね』

「???」

 

 レイヴンは理解していないが、エアは興味深そうに耳を傾けていた。髪の毛がなければオシャレなどを楽しめない。周りを気遣わせてしまう等。本人の自信が喪失しかねない程に、髪の毛が無くなる痛切さに聞き入っていた。

 

「そんな負い目を感じる必要のない世界を作りたい。パイロットとして、強化手術の関係で毛の心配をしている閣下は、この思いに応えてくれたのです!」

『……レイヴン。もしかして、V.Ⅷが今までに行っていた誹謗中傷はすさまじく無礼な物だったのでは?』

 

 今まで聞き流していたエアも、髪の毛が無い人達が抱える苦しみや悩みを知ることで、何とも言えない罪悪感を持つに至っていた。

 

「スネイル。凄い!」

「そうです! 閣下は凄い人なんです! 私も、また髪の毛を生やして色々な髪型にしてオシャレをしたり、色々な服を着たり。そう言った普通の生活をしたいと思っているんです」

『普通。ですか』

 

 レイヴン達にとっては程遠い世界の言葉だ。ただ、アーキバスには、そんな普通を保とうとしている者達がいる。

 企業とは、利益の為に争い他者を踏みにじり搾取する為の物だと思っていたが、そこに勤める者達は悪魔でも悪人ばかりでもない。平時であれば、普通の人間もいた。

 

「普通?」

「そう。貴方達みたいな子供が戦わなくても良い世界。……何時か、やって来ると良いよね」

 

 そんな世界は訪れない。重々に知っているからこそ、女性スタッフの切実な願いがこもった言葉だった。

 

~~

 

「という感じで、戦友はアーキバスの生活に馴染んでいる。S-1317だったか? 君も恭順を示すなら受け入れよう。惑星封鎖機構に詳しい者がいるとなれば、整備や運用についても助かるんだ」

 

 1317からの事情聴取に及んでいたV.Ⅳのラスティは、そのまま恭順を促していた。アーキバスには鹵獲したLCを始めとした惑星封鎖機構の兵器が大量に存在しており、これらの運用に関して知識のある人間が少しでも欲しいという切実な事情があった。

 

「ウォルターの安全は?」

「彼の対応次第と言った所だ。2人が恭順の意を示すなら、スネイルも上層部も、自分達からウォルターに手出しをしようとはしないだろう」

 

 この独房に入れられていても出来ることは殆ど無い。猟犬(ハウンズ)部隊で忘れていたが、自分は既に虜囚の身だ。

 

「分かった。ウォルターとレイヴンの安全を約束するなら、俺が持っている惑星封鎖機構の情報を渡そう」

「交渉は成立だ。では、手続きの方を進める。まず、惑星封鎖機構の組織体制についてだが……」

「(ウォルター。下手な真似をするなよ。期待をするとすれば、エアが何かをしてくれること位か)」

 

 今の自分達は囚われの身であり、何かが出来る立場ではない。唯一、存在を知られておらず、何かしらの工作が出来るとすれば彼女しかいない。何かがあった時に、直ぐにでも動けるよう。1317の方でも着々と準備を進めていた。

 



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依頼51件目:スウィンバーン「そう言えば、あの娘。文字とか読めるんだろうか?」

 毛髪再生局の視察が終わった頃、再びスネイルの自室へと連れて来られた彼女は、思いもよらぬ人物と再会をしていた。

 

「あ! 1317! ラスティ!」

「やぁ、戦友。アーキバスには慣れたか?」

 

 彼女に付けられている首輪を見て、ラスティは一瞬だけ顔をしかめかけたが直ぐに平静を装った。彼女と同じ様に首輪を付けられている1317がスネイルを睨みつけたが、敵意を含んだ視線は受け流されるばかりだった。

 

「これで、互いの状況は分かったことでしょう。どちらかの首輪が破壊、または反応が消失すればもう一方の首輪は強制的に爆破されます。早まった真似は考えないように」

「はーい」

 

 挑発とも受け取られかねない621の能天気な返事にも慣れたのか、スネイルは苛立つ様子もなかった。

 

「それと。貴方達の飼い主の安全についてですが、2人とも進んで首輪を付ける姿勢を評価して、監視員を同伴させるなら面会も許可しましょう」

「ほんと!?」

「はい。会話は全て録音され、暗号の類が無いかもリアルタイムで解析されますので、余計なことは喋らないように」

 

 621がはしゃいでいる手前、1317は下唇を噛んでいた。自分が隷属を選んだのは、少しでもアーキバスの情報を入手する為だと言うのに、これでは情報が抜かれて行くばかりだ。

 加えて、レイヴンと違ってパイロット適正が非常に高い訳でもないので、用済みとなったことを考えると焦りが募る。

 

「うん! ねぇ! ラスティ! 一緒に行こ!」

「あぁ。戦友を交えて、彼とは話もしたいとは思っていた。喜んで付き添おう」

「では、今から向かうのですね? 連絡を入れておきましょう」

「ありがと!」

 

 スネイルは手が早かった。直ぐに面会に関する連絡を入れると、ラスティとレイヴンだけ先に送り出した。この場には1317だけが突っ立っていた。

 

「まだ、俺に何か用が?」

「自覚しているでしょうが、あのバカ、いえ。レイヴンに比べて貴方は価値が低い。彼女の様な自由は望まないことです」

「……心得た」

「それと、彼女には連絡事項が把握できないでしょうから、精々伝達係としての役目を全うする様に。以上です、行きなさい」

 

 頭で分かっていたつもりだが、実際に言われると響くものがあった。

 アーキバスの狙いはあくまでレイヴンだけだ。自分はおまけにしかすぎず、他のパイロットやスタッフ達と比べて秀でた所は殆ど無い。2人を守っているつもりが、2人に守られている。

 

「(焦るな。従うのは慣れている)」

 

 だが、彼は不貞腐れなかった。惑星封鎖機構の時と違い、助けに来てくれるという確証があった。何故なら、彼女には自分達しか知らない心強い存在が付いていることを知っていたからだ。

 

~~

 

 面会室に訪れた621は、この基地で起きたことを話していた。たった、1日だったが多数の人と交流をしていた彼女は話題に尽きなかった様で、ラスティとウォルターは微笑みながら、彼女の話を聞いていた。一頻り話して、テンションが落ち着いて来た所で、彼女は問うた。

 

「ねぇ、ウォルター。普通。ってなに?」

「普通。か」

 

 ウォルターが考え込んでいたのは、暗号などを残す為ではない。……彼にとって、普通とはあまりにも縁が遠い物だったからだ。暫し、考え込んだ後。言葉を選んでいるかのように、ゆっくりと紡いだ。

 

「きっと、お前が今日体験したようなことだ。沢山の人と出会い、交流をして、繋がりを作り、誰かを助けて、誰かに助けられる。その為に、誰かの自由や権利を侵害する必要もない。そう言った穏やかさの中で生きて行くことだ」

『ウォルター?』

 

 彼の声色はいつに増しても優しい物だった。621は調子が違うことしかわからず、エアは言いようのない不安を覚える中。ラスティが彼の感情の機微が何に由来する物かを察したのか、口を出した。

 

「ハンドラー・ウォルター。貴方が何を目的としてルビコンに来たかは知らない。その為に投げ打った普通もあるだろう。だが、今までに戦友にとっての普通を与えていたのは貴方だ。気負い過ぎる必要はない」

「随分と優しいんだな」

「湿っぽいのは苦手だからな」

「時間だ」

 

 看守から言われて、2人は面会室から立ち去った。1人になった後、ウォルターはしばらく考えていた。ここから脱出する為の手筈もそうだが、酷く個人的なことも同時に考えていた。

 

「(まさか、アイツが普通ということを気にするとは思わなかった)」

 

 コーラルが引き起こした災禍により、少年期から一つの宿命を背負って生きて来た彼にとっては、到底想像できない領域の話だった。

 惑星を焼き、争いを呼び込んだ大罪人の子。自分の半生は贖罪に充てられていたと言っても良い。その最中に前猟犬部隊も犠牲にして、この惑星へと戻って来た。バスキュラープラントも発見され、コーラル争奪戦は佳境に入っている。終わりは近付いている。

 

「(このまま、俺に付いて来させても良いのだろうか?)」

 

 燃え残った全てを焼き払う為に、ここまでやって来た。目論見が成功すれば、自分は父を超える大罪人として歴史に名を刻むだろう。どうせ、先は短いから、それでも良いと考えていた。

 ペイターを始めとして付いて来た者達についても、自己責任と片付けるつもりだった。……その前に事情説明位はするつもりでいるが。だが、621は違った。

 

「(俺は、アイツに俺と同じ運命を背負わせるのか)」

 

 普通。本来なら、誰にでも与えられるべき生き方。学校に通い、知識を蓄え、友人と他愛無い話をして、やがて、社会の歯車となり、特別に何かを遺す訳でもなく終えて行く。

 彼女の人生にはまだまだ先がある。先の話を聞くにラスティを始めとした、アーキバスの者達とも折り合いは悪くない。友人もいる。彼女の普通を妨げているのは誰なのか?

 

「(感傷に流されるな)」

 

 自らに過った惰弱な考えを切り捨てた。コーラル。人類が手にするには余りにも早すぎた代物。悲劇を繰り返してはならない。改めて、ウォルターは自らの決意を固めていた。

 

~~

 

 ベイラムとRaDが共同でレイヴン奪還作戦を目論んでいる中。虜囚となっていたメーテルリンクは、何とか脱走できない物かと思案していた。

 部屋内を調べたが抜け穴は無い。また、破壊できるような材質でもない。となれば、看守を誘惑するか誑かすか

 

「近く、作戦があります。虜囚から事情聴取を」

「分かりました」

 

 幸いにして、彼女は自分の性別を道具として扱うことを忌避しない性格でもあった。加えて、看守は誰かと話している様だ。

 こういった時、片方でも引っ掛けることが出来れば、倫理観や自制心が緩んで共犯的に応じる可能性がある。単純に成功率が上がるのだ。

 

「なぁ、こんな所に閉じ込められていたら色々と疼く物があるんだ、この火照りを鎮めて貰えないか……」

 

 こういった事態に備えてアーキバスでも、ハニートラップの手解きは受けていた。色っぽく、甘える様な声色と吐息に加えて彼女の容姿は端麗であり、突き出たヒップがまた魅惑的でもあった。

 幾ら、上から厳重に言われていても、男はバカなんだから溜まるし、堪らんモンである。もしも、ここがベイラムでなければホイホイと男が引っ掛かった可能性はあっただろう。……が。

 

「あ、ヒッヒヒッ! ウヒャヒャ!! い、今なんて!?」

「ブホッ!!!」

 

 最悪なことに、看守と話していたのは元・同僚のV.Ⅷペイターだった。彼女が漏らした喘ぎ声の数倍の声量で、彼は爆笑していた。

 

「『この火照りを鎮めて貰えないか……』って!! そんな陳腐な誘い文句をリアルで使っている奴初めて見ましたよ!! もう一回言って下さいよ! 録音するんで!!」

「死ね!! 二度と顔を見せるな!!!」

 

 気色悪い裏声でメーテルリンクの声真似をしながら演じる様子が、甚く彼女の癇に障ったらしい。

 たっぷり、10分位。彼の爆笑を聞かされた彼女の自尊心がメリメリと音を立てて崩壊しかかっている中、ようやく本題に入ろうとしていたのか人払いをしていた。……すると、先程までの空気が一変した。

 

「メーテルリンク。これを」

 

 カラン。と、独房に投げ込まれたのは、解除キーだった。一瞬、何が起きたか分からずに彼女は、声量を抑えて問うた。

 

「どういうことだ?」

「現在、レッドガン部隊はRaDと共同してレイヴンを奪還しようとしている。連中はバスキュラープラントで手に入れたコーラルを元に、技研都市で回収した兵器を用いるつもりらしい」

 

 アーキバスが来た時には、殆どの無人機が破壊されていたが、アレが稼働していれば脅威であることは間違いない。

 

「私に報せろと言うことか?」

「そうだ。思ったよりも、私に付けられているマークは厳しい。通信は入れられそうにない。取り戻した君のバイザーには、脱出経路と機体を用意している。何とか、アーキバスに届けてくれ」

 

 腑抜けた様子は一変し、ヴェスパー部隊長としての隙の無さを体現していた。

 もしや、今までに行っていたスネイルへの不信を買う行為は、この日の為に打っていた布石だったというのか。敵を騙すには味方からとも言うが。

 

「分かった。……必ずや、閣下にこの情報を届けよう」

「ありがとう。アーキバスに栄光を」

 

 解除キーを翳すとドアが開いた。見れば、看守も気絶している。ペイターからバイザーを受け取った彼女は、表示される経路に向って進む。

 間もなくして、捕虜の脱走を告げるようにサイレンが鳴り響き始めた。そして、直ぐにペイターは通信を取った。

 

「手筈通り。私もそちらに向かいます」

「了解だ。『ゴースト』の準備は出来ている」

 

 彼もまた、この場から脱して何処かに向かった。……そして、気絶していたハズの看守はムクリと起き上がった。

 

「アイツの笑い声うるせぇな……」

 



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依頼52件目:メーテルリンク「私、帰ったら水星のメル友ちゃんと会ってみるんだ」

 レイヴンがアーキバスに馴染んでいる間、ベイラムとRaDでは奪還作戦の仔細が詰められていた。ステルス型無人機、コードネーム『ゴースト』の性能だけを頼りにするのは危険すぎると踏んでのことだ。

 

「アーキバスもゴーストを鹵獲して、解析に回しているかもしれないからね。ペイター、鹵獲しているかどうかまでは分かるか?」

「自分がいた時には、そう言った報告はありませんでした」

 

 ペイターが追放されてから時間が経っている。その間に鹵獲している可能性は十分にあるし、対策を練られている可能性もあった。

 

「だったらよ。あの女が最新の情報を握っている可能性もあるし、聞き出せばいいんじゃねぇか?」

 

 イグアスが言う女とは、V.Ⅵメーテルリンクのことである。コーラル集積で捕らえて以来、色々と情報を聞き出したりはしているが、大した情報は持っていなかった。

 

「無駄ですよ。彼女は特別に部門を任されたりしている訳でも無いですし、ヴェスパー部隊でも下位ナンバーです。ハゲからも大した情報は与えられていないでしょう」

「えらく、評価が低いんだな」

 

 ナイルは驚いていた。ペイターと言う男は口こそ悪いが、他者の実力を見誤ることは殆ど無い。先日の会議で毛髪再生局のことを笑いもしなかったのは、該当部門が持つポテンシャルの高さを把握していたからだ。

 同様にV.Ⅱの悪口に関しては『DF-GA-08 HU-BEN』並みの弾数を所有しているが、決して彼の実力は見縊っていない。その彼が、ここまで扱き下ろすとは、ある意味珍しくもあった。

 

「私は傭兵起用担当、スウィンバーンは会計担当、ホーキンスさんは輜重部門責任者と。下位ナンバーはパイロット以外の仕事も兼任している中で、唯一彼女はパイロットと事務周り位ですよ。なんでか、分かります?」

「企業は未だに男社会で、女性が上に立つと不満を抱く者も多いから。ですか?」

 

 五花海は普遍的な意見を述べた。女性パイロットや傭兵と言うのも少なくはあるが、居ないことはない。ただ、人口比率的には圧倒的に男性の方が多いのは事実だ。

 戦闘行為は男性の方が圧倒的に優位であるし、命懸けの日々で気が立っている者達が多い中に女性を放り込めばどうなるかは想像に難くない。その中で活躍をしている、レイヴンが異常という外ないのだが。

 

「大体そんな所ですね。それなりに優秀ではあるし、第8世代の強化人間として実績は残しているけれど、男女での気質の違いは難しいんですよね」

「意外だ。彼女の評価がそこまで低かったとは」

 

 共にルビコニアンデスビートルを討伐した時は、果敢に懐に飛び込んで重要な一手を打った彼女の姿を覚えていたが故、アーキバスであまり重用されていないことに、レッドは驚いていた。

 

「あくまでヴェスパー部隊内では、という話ですけれどね。だから、任務の情報は与えられますけれど、そう言った情報は回って来ないと思います。特に『ゴースト』なんて秘匿性の高い物に関しては、情報部門のオキーフさんに回されると思いますしね」

 

 ステルス機なんて物は秘匿性の高さが、そのまま作戦の遂行能力に関わって来る。アーキバスは惑星封鎖機構の機体を鹵獲して運用しているのだから、『ゴースト』の性能を活かす為にも存在は一部の者達だけに知らされるだけになるだろう。……今回の様に情報が漏れる可能性も考えて。

 

「V.Ⅷ! ここはお前の愚痴を吐く場所じゃないぞ! あの捕虜からの情報収集が無理だとすれば、次はどういった一手を打つかだ!」

 

 会議が有益な方向に進んでいないと判断したのか、ミシガンが一喝した。実際に、ここ数日の間で彼女から有益な情報を得られていないのだから、これ以上拘泥した所で仕方がない。

 内部構造を知っているペイターが居るとしても、セキュリティに関する内情は変わっている可能性は高いし、そのまま突っ込むのは危険だと考えた。

 

「偵察を出す訳にもいかないしね。ゴーストは秘匿性を高めるためにも、何回も向かわせたくはないし」

 

 カーラとしてもゴーストは奥の手として用いたい物であったので、下見に使うと言う悠長な真似はさせたくなかった。かと言って、通常のドローン程度では撃墜されて、無駄に警戒心を高めるだけだ。

 

「構造的にも都合の良い裏口なんてありはしませんからね。そもそも、基地を通る為にはゲートも潜らないといけないですし」

「それは当たり前ですね。出入りを管理できなければ、本拠地として機能しませんから。どうすれば、ご友人の元へと向かえるか」

 

 幾ら姿を消せたとしても、まず内部に入れなければ意味がない。段取り良く進むかと思われたが、ここに来て躓こうとした所でペイターが自信満々で手を挙げていた。

 

「だから、ここでメーテルリンクを使うんです」

「使う?」

 

 ナイルが思い返した所で、彼女から情報が殆ど得られていないことは確認できているし、協力が望めるわけがないことも分かっている。

 

「はい。だって、可哀想じゃあないですか。きっと、今頃本部ではレイヴンがチヤホヤされて、ウォルターと言う老獪な策士をゲットできたことに喜び飛び回っているはずです。……多分、彼女のことはメッチャ後回しにされていると思うんですよね」

「ペイター。流石に、元・同僚が相手だとしても配慮が足りないぞ」

 

 AIであるチャティにすら戒められる程に心無い発言だった。しかし、ここにいる者達は皆が理解できてしまった。そりゃ、あの二人を捕縛できたら大戦果とも言えるだろうと。もう一人捕まっているけれど。

 

「だからね、彼女にはヒロインになって貰うんです。このベイラムから逃げ果せた、エリートヴェスパー部隊長としてね」

「へぇ、私らでプロデュースしてやるってことか。面白いね。そう言うことなら、使う機体を指定してバックドアを仕込んでやることも出来る」

 

 カーラも頷いていた。無手からの脱走は機体を選んだりチェックしたりという過程を踏ませないことも可能だし、アーキバスの拠点に導いて貰うことも出来れば、機体のスキャンや検査を踏むことでシステムに介入できる可能性もある。

 

「待ってくれ。そんなことをしたら、彼女はどうなるんだ?」

 

 ペイターの案に皆が一考している中、真っ先に声を上げたのはレッドだった。作戦の内容を問うのではなく、メーテルリンクの身を案じての発言だった。

 

「裏切り者として処分を受ける事になるかもしれませんが、私達には関係のない話です。アーキバスが自身の戦力を削いでくれるなら、手間も省けると言うもの」

「貴様! 元とは言え、彼女は仲間だったんだろう!? 何故、そんな扱いが出来る!?」

 

 激昂したレッドが彼の胸倉を掴み掛ろうとした所で、ブルートゥが間に入った。

 

「ご友人、貴方は心優しいのですね。先日の会議の件と言い、貴方はどうにも相手を知ると入れ込んでしまう性質なようです」

「ここは戦場だ。敵と味方の区別は付けろ」

 

 ミシガンが声を荒げずに注意を促す時は、決まって相手の身を本気で思っている時だ。レッドも自らの行いを反省したのか、頭を垂れて着席した。

 

「だが、ペイターの作戦は効率的だ。現状、時間を掛ければ更に違う場所。もっと言えば、星外に運ばれたりでもしたら手の打ちようがない。下見に時間を掛けている訳にもいかない」

「では、決まりだ! これより! 我々は捕虜のプロデュースを行う! 主演はV.Ⅷ! お前だ! 見事に彼女を手引きして魅せろ!」

「了解しました!」

 

 調子のいい返事をして、直ぐに仕込みは始まった。ただ一人、レッドだけが難しい表情を浮かべていた。

 

~~

 

 メーテルリンクが装着したバイザーに表示された場所へと向かうと、ベイラム社製のパーツで継ぎ接ぎに修理されたインフェクションの姿があった。

 

「(アーキバス社のパーツ性能のテストでもしていたのか?)」

 

 当然、武器等が握られている訳もなく。彼女は搭乗ハッチに飛び乗り、コックピットに乗り込んだ。最低限のチェックだけを済ませて起動させる。

 多少の違いは感じた物の。動かすには問題ないと判断して、格納庫から飛び出す。脱走がバレたのか、警報音が鳴り響いていた。

 

『捕虜が脱走した! 手引きをしたペイターも逃走中だ! 隊員達は2人の確保に向え!!』

「(アイツも逃げ果せたか!)」

 

 このバイザーに表示された先で合流できるのか。それとも、別の経路を確保しているのか。今の彼女には、他者を気遣うだけの余裕がない。進行方向には哨戒中のMTが居た。

 

「貴様は!」

「どけ!!」

 

 ブーストを吹かして得た推力を用いて、MTを蹴り飛ばした。パイロットは脱出していたのか、損傷が少ないまま機能停止に追い込んでいた。

 彼女はMTから武器と弾を拾い上げると、機体にマウントした。もしも、交戦の必要が出て来たとしても対処が出来る。

 

「(閣下、待っていて下さい。それと、ペイター。私は今まで誤解をしていた様だ。すまない。生きて再会できたら、ちゃんと謝罪をしよう)」

 

 インフェクションが駆けて行く。目指すは基地への帰還。そして、この辛酸を舐めさせたベイラムに、必ず一矢報いると決意を固めながらバイザーに表示された先へと向かって行く。

 ……最も、彼女が再びペイターと再会することがあるとすれば、出てくる言葉は確実に罵倒か批難になるのだが、そんなことを知る由もなかった。

 



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依頼53件目:郭公

 レイヴンがアーキバスに従い始めてから数日。当初は、ヤク中の少女を雇うことに反感を覚える者は少なからずいたが、ヴェスパー部隊の隊長達が揃って推薦したこと。何よりも、隊員達を一番黙らせたのは。

 

「私の勝ち―」

「嘘だろ……」

 

 シミュレーターでも遺憾なく発揮された、彼女のパイロット技量だろう。

 並の隊員では歯が立たず、スウィンバーンやホーキンスなど。下位ナンバーの者達を寄せ付けない強さを誇っており、彼女と渡り合えるのはラスティを始めとした上位ナンバーの者達だけだった。

 隊員達が必死の形相で操縦している間も、彼女はゲームで遊んでいるかのような気軽さで2手、3手先を取って沈黙させていた。

 

「本当に並外れた強さだね。ラスティ君はどうやって、彼女に追い付いているの?」

「追い付いていない。辛うじて、彼女の動きに反応出来ているだけだ」

 

 ホーキンスは肩を竦めた。それは参考に出来そうにない。

 暫し、隊員達とシミュレーターに興じていたが、筐体にスネイルが近付くと、直ぐに静まり返った。

 

「レイヴン。行きますよ」

「分かったー」

 

 全く臆することなく、レイヴンはスネイルの後ろをピョコピョコと付いて行った。そして、彼の姿が見えなくなると皆が一斉に溜息を吐き出した。

 

「スネイル閣下。最近、機嫌がいいよな」

「レイヴンが来る前は本当にピリピリしていたけれどな。このまま、居続けてくれたらいいんだけれどな」

 

 もはや、彼女の扱いは捕虜や虜囚の様な物ではなく、ちょっとした妹分の様になっていた。ホーキンスは、この光景を微笑ましく見守っていた。

 

「うんうん。脱走したり、謀反したりする雰囲気もないし。首輪を無くしても良いんじゃないかとは思うんだけれどね。ラスティ君はどう思う?」

「いや、戦友はそう甘くないさ。首輪を外せば、直ぐにでも飛び出して行ってしまう。……連れ出そうとする者がいない限り」

 

 ラスティの目が鋭くなった。同じ様にホーキンスの雰囲気も研ぎ澄まされて行く。彼らには当然分かっている。裏では、何かしらの奪還作戦が進められているであろうこと位。

 

「作戦を立案する人間が居るとすれば、G2かペイター君だろうね。ペイター君に至っては、この基地の構造も把握している。彼、記憶力も抜群だからね」

「ACでの潜入は勿論。単身での潜入も不可能だろう。この課題をどうやって解決してくるかだな」

 

 内部に潜り込まれたら厄介だが、まずは通さない。哨戒機は勿論、ほぼ死角なく配置されたカメラに一定間隔で、敷地内全てがスキャンされている。この堅牢さは、袂を分かったV.Ⅷも知っているはずだ。

 

「もしも、彼が作戦を実行することがあれば。これらの課題をクリアするのが条件なんだけれど……何か知らない?」

「すみません。心当たりはありません」

 

 ホーキンスがジィっとラスティの方を見ていた。この様な行動に及んだことに理由はない。敢えて言うなら、長年の勘の様な物が働いた故だった。

 

「そっか。知らないなら、仕方ないね。じゃあ、僕はスウィンバーン君の仕事を手伝って来るよ。モチベも激下がりして、進んでないだろうしね」

「彼女に30連敗するまで諦めなかった、根性だけは凄いと思う」

 

 先にコーラル集積で見せた勇姿は何処に。ボキボキにプライドを折られたスウィンバーンがどんな風に仕事をしているのかを想像するのは酷な話だろう。

 レイヴンが居なくなり、隊員達も散っていくのに合わせてホーキンスも去って行く。その中で、ラスティだけが一つの可能性に思い当っていた。

 

「(BAWSの工場を襲撃したステルス機。アレを鹵獲しているとなれば、侵入も出来るはずだが……)」

 

 アーキバスの者達が知り得ないハズの情報を、彼は知っていた。この心の呟きは誰に聞こえる訳もない。……ただ、1人を除いて。

 

『例のステルス機『ゴースト』。何故、彼がBAWSやグリッド086に出現した極秘機体を知っているのでしょうか?』

 

 レイヴンが聞こえる声の一部はエアにも届いており、ラスティが心中で呟いた単語を聞き取っていた。……つまり、ラスティの声が聞こえる範囲に彼女達は居る訳で。

 

「レイヴン。彼は何と?」

「ゴースト? 幽霊になって入るのかな?」

『ちょ』

 

 エアはかつてない程に焦っていた。この数日で、レイヴンの警戒はかなり緩んでおり、辛うじてエアの情報は話していなかった物の。こういった重要な単語をお漏らしする機会が増えていた。

 

「ふん、幽霊などいる訳もないでしょう。次はシュナイダーの上層部達とも面会をします。連中の動きはどうにも怪しい。いつも通りに」

「分かったー」

「よしよし。貴方は素晴らしい猟犬です。噛みついて吠えるだけの狂犬や甘えるだけの駄犬とは大違いだ」

「えへへ」

 

 もしも、この時。スネイルの顔を見た者が居たとすれば、驚愕に目を見開いていただろう。高笑いでも、傲岸不遜な物でもない。実に穏やかな微笑みが浮かべられていたのだから。

 

『彼の言い方は、まるで誰かと対比している様でした。狂犬、と言うと。ベイラムのG5が思い浮かびますが、甘えるだけの駄犬。とは誰のことを指しているのでしょうか?』

「スネイル。駄犬って誰のこと?」

「駄犬らしく、首輪を付けられていると思いますよ。ベイラム辺りにね」

 

~~

 

「は? V.Ⅵの救助は後回しにしろ?」

 

 思いの外、スウィンバーンは連敗のことを気にせずにキチンと仕事をしていた。会計責任者として、ホーキンスと相談をしながら身代金を捻出しようとしていたが、オキーフからは冷淡に言い渡された。

 

「バスキュラープラントを取られたことから、上層部は早急な成果を求めている。捕虜の救出にリソースを割くなら、攻略の方に割けということだ」

「オキーフ君。それは、あまりだよ。メーテルリンク君がどれだけアーキバスに貢献して来たことか。次回以降の作戦でも彼女の力は必要だ」

「俺も提言はしたがな。こんな時、普段のスネイルなら待ったを入れてくれるんだが、今のアイツはレイヴンを試したくて仕方がないらしい」

 

 スネイルと言う男は顰蹙を買いやすい。ただ、戦況を見極める慧眼や上層部にも怯まぬ姿勢に関しては、ヴェスパー部隊の誰もが尊敬している。

 現場を知らぬ上層部の防波堤とも言うべき男の決断にしては、短慮な様に思えた。あるいは、深謀遠慮な彼ですら篭絡する魅力が彼女にはあるのかもしれない。

 

「ですが、我々が手をこまねいている間。彼女の身に何が起きても不思議ではありません。その、戦場における女性捕虜の扱いなんて物は、口にするのも憚られる様な目に遭っているかもしれません」

「それも織り込み済みで6番隊長になったはずだ。彼女は悲劇のヒロインじゃない。俺達と肩を並べる同志だ」

 

 オキーフの意見に何一つとして言い返せないが、メーテルリンクという存在をレイヴンで代替しようとする考えは賛同しかねる所だった。

 口ごもるスウィンバーンを見かねたのか、ホーキンスが気休め程度のフォローを出した。

 

「でも、捕虜として捕まえたなら返還交渉なども持ちかけられるはずだ。それがないということは、彼女はどうにかしたのかもしれないよ」

「それならば連絡がある筈だ。……そう言ったことが出来ない状況なのかもしれないが」

「ベイラムめ。もしも、彼女に手を出していたら、ただではおかんからな」

「良い意気込みだね。30連敗したばかりなのに」

「31戦目に勝てばいいのです!」

 

 適度に話題をずらして、スウィンバーンが気落ちすることを回避させていると、オキーフの無線が鳴った。

 

「どうした?」

「第3隊長。基地前に第6隊長の機体と思しきACが来ています。どう対応しましょうか?」

「ドンピシャ。だね?」

 

 ホーキンスの頬一筋の汗が伝った。あまりにもタイミングが良過ぎる。

 スネイルは応対中であり、今は自分達が対処するしかない。スウィンバーンも訝し気な表情を浮かべる中、オキーフが応じた。

 

「まず、基地の中に入れるな。中に何が入っているかは分からない。それから、施設内のスキャンも使うな。バックドアが仕込まれているかもしれん。指示は俺が執る。いいな?」

「はい!」

 

 モニタに基地正面の映像が映し出される。そこにはインフェクションの大破した部分を繋ぎ合わせた歪な機体が佇んでいた。

 正面のMTが停止する様に促すと、命令に応じる形で機体は機能を停止してしゃがみ込んだ。……と思った、次の瞬間。機体は急遽起き上がり、正面のゲートに吶喊を始めた。

 

「停まれ!! 貴様! やはり、曲者か!!」

 

 通信が通じないのか、実力行使で止めようとMT達が武装を用いると。機体に掛かるダメージも気にしないで、ゲート部分にアクセスをしていた。オキーフの全身に怖気が走る。

 

「殺しても構わん。中身事やれ!」

 

 中に6番隊長がいるかもしれない。という恐れから、手を緩めていた警備の者達もコックピットを狙って攻撃を放つが時は遅く、ゲートのロックが解除された。すると、インフェクションと思しき機体は反転してMTの迎撃に当たり始めた。

 照準を定めかと思えば、あらぬ方向へ向けたりと。機体の挙動はチグハグであったが、むしろ隊員達の恐怖を煽った。オキーフは2人に視線を飛ばした。

 

「あの機体の対処を。それと、この混乱に乗じて何かが来るかもしれない。警戒に当たれ!」

「了解!」

 

 2人はハンガーに向って駆け出した。間もなくして、基地内は騒然に包まれた。

 



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依頼54件目:ノーザーク「うわぁ、何だこのクズは。たまげたなぁ…」

 バイザーの指示に従い、見事に脱出を果たしたメーテルリンクはアーキバスの基地に戻る間にも様々なチェックをしていた。

 

「(追手は、来ていない。機体の方は通信機器がイカレている。恐らく、鹵獲された際に通信位置を報せまいと自壊装置が働いたか)」

 

 通信には企業独自の暗号などが用いられることもあり、パターンを解析されることを防ぐために機体の通信装置が自壊を起こす様になっている。

 レーダーなどの機能は生きているにしても不便という外ない。かと言って、ベイラムの基地付近に利用できる、施設がある訳もない。

 

「(とにかく! 遠く! 遠く!)」

 

 今、頼りになるのはこのバイザー内のデータだけだ。頻りにレーダーで追手の確認をしながら、彼女は突き進む。

 一体、自分囚われている間にどれだけ状況が変わったのか、アーキバスの方では自分の捜索や奪還について協議されているのか。気になることは大量にあったが、彼女は突き進む。

 

「(私は、ヴェスパー部隊の荷物などではない)」

 

 彼女も自らに向けられる評価については自覚していた。アリーナランクの低さ、他のヴェスパー部隊長と違い、パイロット以外の仕事を任されていないこと。

 戦場と言う男性社会の中で、女性が負うハンデは理解していた。故に、強化手術を施して貰い、男達にも負けないだけのポテンシャルを手に入れた。

 企業の広報やマーケティング部の戦略だけで、この立場に取り立てられた訳ではない。ペイターの協力はあったとしても、見事に1人で脱走して帰還できれば、自分の能力は認められるはずだ。

 彼女を焦られているのは、追手により再び捕縛されるかもしれないという恐怖からか、それとも功を逸る気持ちからか。どちらとも付かない中、満足に補給も受けないまま進み続けている。

 

~~

 

 そんな彼女を追う者達がいる。RaD産のAIであるチャティ・スティックが駆るステルス機『ゴースト』の内部に作られた搭乗用のスペースに窮屈そうに収まっているペイターとブルートゥだ。

 

「ペイター。この道で正しいんだな?」

「はい。大丈夫です。このまま進み続ければ、今夜中にでもアーキバスの基地に辿り着くでしょう。にしても、本当にレーダーにも映らないんですね」

 

 チャティの確認に何度も頷きながら、ペイターはこの機体が持つ能力に感心していた。レーダーにも映らなければ、機影も見えない。……彼の想像力を持ってすれば、幾らでも悪用方法が浮かんだ。

 

「可哀想なお友達。今、我々がするべきことはご友人達を助けることです。しかし、あの機体に仕込まれたバックドアとはどの様な物でして?」

 

特定のプログラムが潜伏していることは聞いていたが、どの様な効能を発揮するかまでは聞いていなかった。出入りを管理するゲートを麻痺させてセキュリティにダメージを与える類とは聞いていたが。

 

「ボスは笑えることが好きだ。ゲートとセキュリティの麻痺だけではなく、ペイターからの提案も受けて作成したビックリ箱になっている」

「可哀想なお友達の?」

「えぇ。騒ぎを起こすなら大きくして貰わないと。……そうすれば、レイヴン達を移動させようとする動きも見れるでしょう?」

 

 騒ぎが起きれば、要人を移動させるのは当然の措置とも言える。即ち、動きから何処に誰が居るかを察することも出来る。

 ペイターの考えは実に合理的ではあった。……そのビックリ箱を運ばされている、メーテルリンクの安否は兎も角として。

 

「可哀想なお友達。確かに、貴方と彼女が不仲であることは分かっていますが、ここまでやる必要はあるのですか?」

「あるからやるんですよ。あのレッドと言う男に感化しましたか?」

 

 ブルートゥの脳裏に浮かんでいたのは、歯噛みしているG6の姿だった。ペイターとは対極とも言える存在であり、友人と呼ぶに相応しい善良な男だった。

 

「はい。ご友人の悲しみや憤りは私の物でもあります。本当に彼女を犠牲にするつもりなのですね?」

「では、他に方法があるとでも? 無いでしょう?」

 

 他の方法など思い当りもしなかった。機体を持って来れる訳も無ければ、騒ぎを起こすだけの下準備も足りない。一方で、ペイターと言う男は一人の女性を犠牲にすることで、全てを整えていた。その手腕は驚嘆に値する。

 

「必ず、しっぺ返しを食らいますよ」

「その時は、レイヴンと一緒に払って貰うことにしましょうか」

 

 悪びれる様子もない。悪意こそは無いのだろうが、他者への関心が極度に薄いのだろう。理知的ではあるが、自分とは違う形での人間離れした精神に、ブルートゥは僅かながらの不快感を抱いていた。

 

~~

 

「何だこれは!?」

 

 そして、ペイター達が仕込んだ爆弾は炸裂した。継ぎ接ぎのインフェクションは、彼女の意に反して見境の無い攻撃を始めた。機体を停止させようとするが、まるで彼女の操作を受け付けない。

 辛うじて制御姿勢を操作してフレンドリファイヤを避けているが、こちらの意図が相手に伝わる訳もない。

 

「あの機体は破壊対象だ! 潰せ!」

 

 戻るべき場所は警報が鳴り響き、警備のMTが次々に出撃して来た。メーテルリンクは何度も通信を入れようとするが、彼女の懇願を嘲笑う様にして操作を受け付けなかった。

 

「違う! これは、私がやっているんじゃない! 誰が! 誰がこんな……」

 

 と、ここまで言って。彼女の頭が急速冷えて行く。……この機体に自分を案内した奴は誰だ? 震える手でバイザーを取り外す。

 コマンドを入力して、内部に走るプログラムを確認すると、明らかに見覚えのない物が増えていた。そして、今も稼働を続けている。

 

「ペイタァアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」

 

 少しでも、あの男を信じてしまった自らの愚鈍さを呪った。バイザーを叩き割るが、時は既に遅い。上空には四脚ACが2機。

 

「あの機体は、インフェクション!? まさか、中にはメーテルリンクが」

「いやいや、彼女ならこんなことをする訳が無いだろう。概ね、彼女の機体を使った工作員だ。スウィンバーン君、油断しちゃ駄目だよ」

 

 あの機体は間違いなく、V.ⅦとV.Ⅴの物だ。このままでは殺される。姿勢制御だけでも動かせるなら、せめて殺されはしないようにと。彼女は多数のMTと2機のACを相手にする羽目に陥っていた。

 ……そして、その激戦の傍ではコッソリと。姿の見えない機体が基地内へと潜入していた。

 

~~

 

「シュナイダーの連中が帰ったばかりというのは幸運でした。もしも、滞在中に起きていれば、批難は免れない物でしたでしょうから」

 

 レイヴンを連れているスネイルの眉間には青筋が浮かんでいた。この騒ぎは直ぐに彼の耳にも入っていたからだ。そして、連れられた先は避難場所……ではなく、何と。スネイルのACであるオープンフェイス前だった。

 

「乗るの?」

「はい。貴方は大柄ではありませんから、問題なく乗れるでしょう? 恐らく、こんな作戦を思いつくのは、あの害獣しかいません。いや、獣ですら過ぎたもの。奴は糞虫です。ゴミ虫です。いや! クソその物!!!」

『レイヴン。恐らく、この作戦は、私達を奪還する為の物でしょう。乗り込んで下さい。私が居れば、いざという時。この機体をハックして落とすことが出来ます』

 

 逃げ出そうとすれば、逆上して暴力を振るわれかねないのなら。今はスネイルに従う方が賢明だった。彼の言う通り、共に乗り込んだ。

 

「うんこペイター!」

「良い機会だ! 私、自らの手で葬ってやる!!」

 

 オープンフェイスに乗り込んだスネイルが出撃した先では、件の機体が大立ち回りしていた。既にMTも何機か落とされており、パイロットとして高い技量を持つことが伺えた。

 無機質に何機も相手をしている姿は、無人機を彷彿とさせる物であり、アーキバスの攻撃は激しさを増す中、唯一。レイヴンだけが聞き取っていた。

 

【違う! どうして私がこんな! 私は! 本当にメーテルリンクなんです!】

「……スネイル。あの機体、メーテルリンクが乗っている」

「そうですか。ならば、尚更許せませんね」

 

 左腕に展開したレーザーランスのエネルギーがチャージされて行く。まさか、スネイル自らが出撃するとは思っていなかったのか、周囲の隊員やヴェスパー部隊長達も驚きの声を上げていた。

 

「閣下自らが!?」

 

 スウィンバーンの驚愕に反応するようにして、件の機体はオープンフェイスに銃口を向けたが、レーザーランスの刺突を受けて行動不能へと陥った。

 

【か、閣下。私は】

「メーテルリンク。まさか、貴方がここまでの愚物だとは思いませんでした。言うことを聞くから使っていた物の。貴方の代りは見つかりましたから」

【……え? 代り?】

「この機体を収容し、中のパイロットを再教育センターに送り込みなさい。使えない様なら、ファクトリーへ!」

 

 直ぐにMT達が機体を運び入れて行く。改めて、彼のパイロットとしての技量に舌を巻くと同時に。この冷徹さにエアは身震いしていた。そして、問題は山積みだ。

 

『レイヴン。侵入した者達は、今どこに?』

 

~~

 

「は? レイヴンに首輪が?」

「あぁ。俺が一定の距離以上を離れると、彼女の首輪が爆発するようになっているらしい」

 

 内部に侵入したペイター達は真っ先に1317を拾い上げていた。彼の存在はあまり重要視されていなかった為か、特別何処かに移動させられようとする様子も無かった。

 1317は自らの首輪を指差すが、ゴースト内部ではAIの無機質な音声が響いていた。

 

「この程度なら、解錠できる。勿論、健在であることを偽装しながら」

 

 移動がてらに、チャティが彼の首輪を解錠していた。これに連動してレイヴンの首輪が爆発するのではないかという懸念はあったが、今の所。エアから送られてくる情報では確認されていないらしい。

 

「残す所はご友人とウォルターですね。彼らが何処にいるかはご存知ですか?」

「……すまない。何処にいるかは分からない。面会室に居る訳もないだろうし」

 

 こういったまとまっての脱出を防ぐためにバラバラに管理されているだろうことは予想できていた。更に不幸は重なる。

 

「オキーフ。どうしてこんな所に?」

「妙だ。基地内のスキャンでは、侵入者は居ないことになっているが。この周辺のスキャン反応がおかしい。まるで、何かが存在を誤魔化している様だ」

 

 V.ⅢオキーフとV.Ⅳラスティの姿が見えた。しかも、回線の内容からしてゴーストの存在を察知している節がある。

 

「何者かが潜んでいると言うことか?」

「あぁ。それこそ、幽霊(ゴースト)がいるのかもしれん」

 

 ラスティの言葉に、オキーフがジョークを交えながら反応した。ほぼ確信に近い自信があった。この2人は、ゴーストの存在を把握していると。

 

「(うぅ。この2人を相手にするのは避けたいですね)」

「(彼女のことはぞんざいに扱っていたのに)」

 

 メーテルリンクの扱いとは、明らかに違う反応を見せるペイターに対して、ブルートゥの視線は冷たい物だった。……しかし、奇妙なことに2機は周辺を警戒してはいる物の、こちらの姿を見つける気は無さそうだった。

 

「まぁ、戦友はスネイルと同じ機体に乗り込んでいると聞いたし、彼女の飼い主はスネイルの自室に避難させられたと聞いた。見つかることはまずないだろう」

「違いない。この、基地内の構造にでも詳しくない限りはな」

 

 まるで、誰かに言い聞かせる様な会話をしながら、2機は去って行った。今の話が本当であるならば、彼らがここに来た目的は。

 

「まずは、ハゲの自室に向かいましょう。私はバッチリ把握していますので」

「頼んだぞ! ペイター!」

 

 1317からの応援も受け、ペイターはスネイルの自室へと向かう。……どういう思惑があるかは知らないが、あの二人は自分達にレイヴン達を助けようとさせているらしい。

 ならば、期待に堪えるまでと。先程まで同僚に見せていた態度とは明らかに違い、ペイターは誠実に応えようとしていた。

 



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依頼55件目:謎の美少女傭兵「ほならね。自分がハッキングしてみせろって話ですよ。私はそう言いたいですけれどね」

 最近、ディスコードでフレンドと一緒にボケ倒したスッラ、ドルマヤン、コールドコールの話をしている。

「全ては消えゆく余燼に過ぎない」「おお、セリア!」

 徘徊しつつ、女性を全てセリア認定するドルマヤン。

「ハンドラー・ウォルター。また、犬を飼ったのか」

 621を毎度、新入りと見なすスッラ。

「なるほどな。そういうこともある」

 何も分かっていないまま、定型句だけ吐き出すコールドコール! でも3人ともAC乗りとして滅茶苦茶強い! 誰か止めろ! ルビコン3G! 


 アーキバス基地で起きている事態は、V.Ⅱスネイルが速やかに下手人を撃破したことにより終結する。と、思われていたが。

 

「スネイル閣下! 何者かにより、ウォルターと1317の両名が連れ去られています! 首輪の反応も偽装されて……!」

「どこまで私を愚弄する気だ! 警備共は何をしている!?」

 

 コックピット内ではスネイルの怒声が跳ね回っていた。物理的な危害は無いにせよ、傍にいるレイヴンの鼓膜には著しい負担が掛かっていた。

 

「耳いたいー」

『ですが、脱走作戦に関しては順調な様ですね』

 

 と、すれば厄介なのは、彼女達が置かれている状況だった。スネイルと共にいる為、逃げ出すことも出来ない。オープンフェイスの機能を停止させた所で、周囲のスタッフに救助されるだけだ。

 一頻り、怒鳴り散らしたスネイルは幾分か冷静になったのか、一つ溜息を吐いた。

 

「1317とかいう木っ端は奪還された所で痛手にすらなりはしません。飼い主であるウォルターを取られたのも、まぁ。いいでしょう。一番重要なモノは手元に残っていますからね」

 

 侵入者がどれだけ優れていようが、傍にいるレイヴンを奪還することは不可能と踏んでのことだった。隊員達が基地内の探索に当たる中、スウィンバーンから通信が入って来た。

 

「閣下! ウォルターと小僧に逃げられたと言うことは、レイヴンの首輪が!」

「心配いりません。私の方でリンクを切っています。爆死することはありません」

「ならば、良かったです。今回の下手人は、やはりV.Ⅷの」

「奴はヴェスパーなどでは無い! クソだ! 路上に打ち捨てられた糞便だ!」

「おぉ。あ、はい」

 

 やり方の悪辣さがベイラムらしくは無く、アーキバスに対してここまで効果的な攻撃が出来る人間……というか、メーテルリンクを陽動に用いることが出来る人間など、極僅かしかいない。

 

「部隊長達も捜査に当たりなさい! 私は下手人が出て来ないか、外で網を張っています」

「分かりました! ホーキンス殿! 行きましょう!」

「分かった。今回ばかりは私も庇う気はないね。少し痛い目を見せないと」

 

 スネイルのブチギレは普段から見慣れたものであるが、戦場においても穏やかさを保っているホーキンスが、物静かに怒りを滲ませていることにスウィンバーンは息を呑んでいた。

 普段、怒らない人間が怒った時ほど恐ろしい物は無い。果たして、その痛い目は少しで済むのだろうか。

 

「……ホーキンス。こわい」

「貴方には彼の声が聞こえているんですね。あそこまで怒っているのは、久々に見ました。当然のことですが」

 

 だが、スネイルは見つかる可能性は低いと踏んでいた。これだけの捜査網を潜り抜ける相手が、人員を増やした程度で見つけられるとは思わなかったからだ。故に、彼は僅かな手勢を引き連れて基地外周に留まっていた。

 

「来い。貴様程度、返り討ちにしてやる」

『自らを囮にしますか。レイヴンと言う保険があるにしても、大した度胸です』

 

 無論、彼も何の保険も無く身を晒している訳ではない。レイヴンと一緒に搭乗している故、相手側が抹殺を目論んできた場合は彼女のことを盾にするつもりでもあった。

 待機がてらに各方面に指示を出しているスネイルの傍ら、特にできることのないレイヴンはヘルメット越しに欠伸をしていた。

 

~~

 

「そうか。レイヴンはスネイルと共に」

 

 既にゴーストの内部は過密状態だった。もしも、戦闘に陥れば内部で頭をぶつけたりして、死亡に繋がりかねないような危険な状態である。

 救出されたウォルターは現状の説明を受けて頭を悩ませていた。アーキバスもレイヴンを高く評価した故に、絶対に取り戻せない場所に置いたのだろう。

 

「あるいは、スネイル個人がレイヴンを気に入っている様に見えた。何としてでも、手元に置いておきたいのかもしれない」

 

 レイヴン程、自由では無かったが基地内で行動をしていた1317は2人の様子を幾度か見ていた。とてもではないが、捕虜に対する物とは思えない程の厚遇と重用ぶりが目立っていたらしい。

 

「きっしょ。ハゲでロリコンとか終わっていますね」

「可哀想なお友達の貴方よりはマシじゃないでしょうか」

 

 ペイターが息を吐くように暴言を吐き出し、ブルートゥが諫める奇妙な光景だった。だが、彼らにとっても意外であった。自分達に散々辛酸を舐めさせて来たレイヴンの扱いが、ここまで丁重な物だとは思わなかったのだ。

 

「とは言うが、連中も621には甘い汁を啜らせて貰ったはずだ。加えて、V.Ⅳを始めとしてヴェスパー部隊長達とも折り合いが良い。手元に置いとけば、それなりに役立つことは確かだ」

 

 態々、処分したり再教育を施す必要もないと判断されてのことだろう。更に、彼女はパイロットとしての技能以外にも能力を持っている。

 

「読心能力。スネイル辺りは特に好みそうですね」

 

 ペイターもスネイルが各方面の遣り取りに苦心していたことを覚えている。相手の建前を無条件で引き剥がせる彼女の能力も考えれば、重用されることは自然な流れだった。

 

「では、ペイター。今回はビジターの救出を諦めると言うことか?」

「チャティ。このゴーストの武装はどのようになっていて?」

「ステルス機能を特化させている為、武装は殆ど積んでいない。強いて言うならプラズマスロアー位だ」

「よし。ならば、ここで引き返しましょう。この武装ではオープンフェイスに太刀打ちできません」

 

 薄情な様だが、合理的ではあった。既にウォルターと1317は救出されており、ある程度の目標は達していると言っても良い。加えて、レイヴンが危険な目に遭う可能性も低いとなれば、態々。自分達が危険を冒す必要もない。

 基地内で脱出ルートを進んでいるが、明らかに哨戒しているMTの数が増えている。これ以上の滞在は危険だった。

 

「それでいいのか? ペイター。もしかしてだが、レイヴンがスネイルと共に乗っているなら、エアが何とかしてくれる可能性があるんじゃ?」

 

 1317としては、今後警備が強化されるか、あるいは手の届かない場所へと映される可能性も考慮してのことだった。

 もしも、彼女と共にエアが乗っているのであれば、機体を乗っ取るか。あるいは機能停止に追い込むことも出来るのではないかと考えた。

 

「流石にそれはスネイルとアーキバスを嘗め過ぎです。彼の機体にハッキング対策が施されていない訳が無いですし、エアの能力を過信するのはあまりに危険です。ブルートゥ、彼女と交信は取れますか?」

「少しだけ試してみます」

 

 周囲への感覚を伸ばす為に、ブルートゥはレイヴンもやっている通りにコーラルの吸引を始めた。徐々に感覚が開いて行き、MTが駆動する音や放送に混じって、微かに響いてくる声があった。

 

『この感覚は……ブルートゥ。でしょうか? 居るのですか?』

「はい。ご友人、ようやく会えましたね。既に、こちらではウォルターと1317の救出に成功しました。そちらは脱出出来そうですか?」

『お恥ずかしながら、このオープンフェイスのソフトウェアは既存の物とは全く違っている様で、ハッキングで機能をダウンさせることは難しいと思います。私も未熟な様です……』

 

 あのエアですら攻略が出来ない代物であるらしい。ならばと、ペイターは決断を下した。

 

「よし、引きましょう。欲張りすぎて、全てを手放すよりかはマシです」

「俺もペイターと同意見だ。……出来れば、取り戻したくはあったが」

 

 ウォルターとしても口惜しいが、脱出までの安全を考えれば仕方がない範囲だった。これらの話はブルートゥを通じて、エアにも伝えられた。

 

『そうですか。申し訳ありません。私がもっと動けていれば』

「気にすることはありません。貴方は引き続き、ご友人のことを見守っていて下さい」

「不思議な感覚だ。俺には誰と話しているか、全く見えない」

 

 チャティは疑問を呈しながらも淡々と脱出ルートを辿って行く。その中で、気になる物を見つけていた。大破したインフェクションが端に寄せられている。

 今は、MT達がこぞって探索に駆り出されている為か、この機体が運ばれるのは安全が確保されてからになるのだろう。ブルートゥが口を開いた。

 

「このままでは、我々に騙された彼女が不憫です。懲罰を受ける前に持って帰りませんか?」

 

 ペイターはポカンと口を開けていた。確かに、放置されているインフェクションから彼女を持ち帰ることは容易だろうが、そんなことをすればどんな報復がもたらされるか。

 

「い、嫌ですよ!? 彼女が我々のことを許す訳無いでしょうが!?」

「では、猟犬らしく判断はウォルターに委ねましょうか。如何なさいますか?」

 

 ここに来るまでの経緯やメーテルリンクの扱いについては、一通り話は聞いている。このままでは再教育を施されるのは仕方ない事として、彼女を持ち帰るメリットを考える。

 まず、これだけの事態を起こしたのだからアーキバスへの人質としては使えないだろう。だが、戻ることも出来ない以上は覚悟を決める。ということはあるかもしれない。

 

「元が強化人間で優秀ではあるのだろう。持って帰るぞ」

「え!!?」

「流石です。チャティ、お願いします」

「了解した」

 

 ブルートゥの指示に従い、インフェクションの傍へと近寄って、コックピットを開く。中にはメーテルリンクが収まっていたが、俯いたまま呆然としていた。立ち上がる気力もないらしい。

 

「コックピットに入れるのだけは止めて下さいね。暴れられたら堪った物じゃないので」

「了解した」

 

 メーテルリンクを摘まみ上げて、手の上に乗せると。チャティが操るゴーストは静かに基地を去って行った。……アーキバスの厳戒態勢は夜明けまで続いていた。

 



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依頼56件目:レイヴン「眠い……」

 アーキバスの基地から帰還した一同は回収した面々のチェックを行っていた。体内に発信機や盗聴器の類が埋め込まれていないか。あるいは依存性のある薬物などを打ち込まれていないか。

 特に老齢のウォルターはアーキバスでの監禁生活による衰弱が心配されていたが、思いの外丁重に扱われていた為か一人で歩けるほどだった。

 

「俺は問題ない。それよりも、あっちを見てくれ」

 

 彼が指差した先には、呆然自失と言った様子のメーテルリンクが居た。幽鬼の様にスタッフの案内に従い、検査を受けているが肉体的には過度な疲労がある位で、内臓物の損傷などは見られなかった。

 彼女の憔悴ぶりの理由については、ここにいる者達は皆分かっている。こうなることを知って、誰も引き止めなかった。いわば、全員が共犯者なのだ。今更、慰めの言葉を掛けよう等と偽善に過ぎる。……が。

 

「立てるか?」

 

 この場にいる者達が自責や罪悪感に駆られている中、迷うことなく彼女に駆け寄ったのはレッドだった。彼の顔を見るや、メーテルリンクは自嘲気味に呟いた。

 

「どうした。お前らがハメた相手が無様に生きているのを、笑いに来たのか?」

「笑いはしない。我々に笑う資格など。ある訳がない。そちらがウォルターやレイヴン達を丁重に扱った様に、我々も貴方に対して同じ様に扱おう」

「そう扱っていたのは、アーキバスであった。私では無いがな」

 

 最後まで卑屈な笑いを浮かべながら、彼女は兵士達に連れられて独房へと運ばれて行った。全員が何処か安堵したような溜息を吐く中、隠れていたペイターはひょっこり姿を現した。

 

「いや、意気消沈とはこのことですね」

「お前、どの口が……」

 

 イグアスでさえ眉間に深い皺を刻む中、レッドは無言でペイターに近付き、顔面に目掛けて拳を振り被ったが空を切った。それ所か、腕を掴まれ、捻りあげられていた。

 

「がっ!?」

「今更、善人面しないで貰えますか? 私の作戦のお陰でウォルターと1317は取り戻せたのですから」

 

 そう言うと、ペイターは直ぐにレッドの拘束を解いた。一触即発の空気が高まる中、ウォルターが一歩前に出た。

 

「待て。元々、ペイターがこの様な作戦を取らざるを得なかったのは、俺が捕らえられたからだ。責められるべきは俺だ」

「責任の所在を気にするのは、司法の仕事だ! 俺達がするべきことは目の前の任務をこなすことだ! ウォルター! お前が、もしも申し訳ないとでも思っているのなら、あの女に顔でも出してやれ! それはそれとしてペイター!」

「はい?」

 

 ミシガンがウォルターの自責を突っぱねた後、ペイターに近付くとゲンコツを落とそうとした。

 しかし、ペイターはコレを避けようとして、スウェー移動で背後に回りこもうとした瞬間、想像以上の旋回速度で追って来たミシガンと目が合った。

 

「貴様は、この作戦の場で無用な争いを生じさせた! 皆が話している所では静かにしろ!」

「ぶべっ!!」

 

 彼の身軽さにピッタリと付いて来たミシガンのゲンコツを食らった。レッドガン部隊が痛みを思い出す様に頭を擦る中、そのままレッドにも近付いて来た。

 

「そもそも、お前が手を出したのが悪い! 感情で行動をするな!」

「ぐぉ!?」

 

 喧嘩両成敗と言わんばかりに、レッドにもゲンコツが落とされた。何故か、殴られるだけなのに異様に痛かったのか、2人は暫し転げ回っていた。

 

~~

 

 アーキバス基地に侵入騒ぎがあった翌日。基地内では、未だに緊張感を漂わせつつの痕跡集めが行われていた。その調査結果をスウィンバーンが報告していた。

 

「ウォルターと1317が奪還され、ついでにメーテルリンク殿も誘拐されました」

「再教育センターで掛かるコストの削減が出来たと思いましょう。手元にレイヴンが残れば問題ありません」

「ぷはー」

 

 ウォルターに置いて行かれたという様な感傷なども無いらしく、スネイルの隣では、ヴェスパー隊員の服を着たレイヴンがパイプでコーラルを吸引していた。

 モクモクと赤い煙が立ち込める。スネイルの隣でこんなことが出来る時点で、彼女が特別な存在になり上がっているのは見て取れた。

 

「って、コラァ!? 先日、取り上げたばっかりなのに何を吸っとるか?! 閣下! こんなことを許して良いのですか!?」

「強化人間部門からの報告によりますと、コーラルを吸引すれば調子が良くなるようです。何故か、彼女に限っては人体への悪影響も少ない様で」

 

 コーラル。新資源ではあるが、人間が吸引すれば酩酊状態を引き起こす麻薬的な作用もある。アーキバスの中でも、戦いに赴く恐怖を紛らわす為に吸引する者達も少なからずいる。

 

「ちょんわー。ちょんわー」

「……いや、これ絶対悪影響出ていますって! この娘は、こんなにアホじゃなかったはずです!」

「肝心な時に動けば、問題ありませんよ。それと、貴方にやって貰いたいことがあります。関連企業シュナイダーの調査です」

 

 基地襲撃があったばかりだと言うのに、随分な話題転換だった。そして、腑に落ちないことがあった。

 

「そう言った調査に関しては、私よりもオキーフ殿の方が適任では?」

「彼に関しては、今回の件で少し疑問を抱いたので。それに、調べて貰うのは会計の流れです。どうにも最近はシュナイダーの資金の流れがおかしい」

 

 一体、どの様な疑問を抱いたのかはさておき。会計長である彼からすれば、資金の流れを追うことは難しいことではない。

 

「おかしい。と言いますと?」

「資金の流れが妙に活発なのです。まるで、何処かに流れているかのような。気になって、先日の接待でレイヴンを用いて情報を引き出した所、エルカノに流れているそうです」

「エルカノに? それは、妙な話ですな」

 

 『エルカノ』。ルビコンの地元企業であり、解放戦線のメンバーの中でも同社のフレームを用いている者達もいる。

 『BAWS』と違って仕事を選ぶ性質があり、アーキバスやベイラムにMTやパーツなどを卸したりすることは少ない。

 

「何故、彼らがエルカノに資金を流しているのか、調査をして下さい。立ち入りの際は抜き打ちでも構いません」

「ハッ! 分かりました!」

「がんばえー」

 

 とろーんとした目で、レイヴンが手を振っていた。傍目で知的という言葉から最も遠い存在の様に思えるが、彼女が居なければスネイルは今回の案を思い浮かぶことも無かったのだろう。

 スウィンバーンを送り出した後、スネイルは上層部に連絡を取っていた。リストを押す指が重かったが、今は容易に押せる。

 

「む、スネイルか。どうかしたか?」

「ベイラムからバスキュラープラントを取り戻すプランを進めていますが、少し憂いが出て来たので絶ちたいと考えています」

「憂い? 何だ? 惑星封鎖機構は殆ど動いていない様だし、ハウンズ部隊のトップは捕えているのだろう? 他に何が? まさか、ルビコン解放戦線だとでもいうつもりじゃないだろうな」

 

 ルビコン解放戦線。もはや、アーキバスとベイラムの争いに参加するだけの力も残されていない、現地民による抵抗組織。先日、レイヴンを連れて技研都市を調査していたそうだが、今は何をしているのか。

 

「そのまさかです。奴らに機体を卸している会社に『エルカノ』がありましたよね。あの企業を調査して貰いたいのです。それと、シュナイダーに極秘で行ってください」

「……分かった」

 

 上層部は自分よりも遥かに嗅覚が優れており、何かしらは感じ取ってはいたが動けずにいたらしい。だが、切っ掛けを与えた時の経済的、政治的動きはスネイルの遥か上を行く速度で動く。

 

「スネイル? ラスティが。どうかしたの?」

 

 スネイルの胸中に浮かんでいた言葉を感じ取っていたらしい。コーラルで酩酊した頭でも不安は感じ取れるらしく、声色には覇気がなかった。

 

「何、彼の潔白を晴らすだけですよ。貴方は心配しなくても構いません」

 

 限りなく黒に近い何かを掴んでいるスネイルの手に力が籠る。

 バスキュラープラントの管理などをしていないことが却って幸いした。あんな物を管理していたら、身近を見回す余裕などありはしなかっただろう。だが、今はその余裕があった。

 

「(V.Ⅳ。貴様は何を企んでいる)」

 

 スネイルが操作したタブレットには昨日の基地襲撃の際の様子が映し出されていた。内部で捜査を行っているV.ⅢとV.Ⅳの映像をジィっと眺めていた。

 



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依頼57件目:謎の美少女傭兵「そろそろ、この周りくどい名前飽きましたね」

 コーラル集積。惑星ルビコンにおける最大級の採掘プラントであり、今はベイラムが管理している場所である。バスキュラープラントによって、コーラルが汲み上げられ、吸い上げられていく。

 巡回用と作業用のMTに分かれて作業を進めて行く様子を、離れた場所から観測している機体があった。

 

「吸い上げは順調です。当初の予定ではアーキバスが、この役割を担うはずでしたが」

 

 奇妙な外見だった。中央にある巨大な円盤から細い手足が生えた様な不格好な姿をしている。ウォルターやRaDの面々からは『ゴースト』と呼ばれている、技研が遺したステルス機である。

 カーラ達はこれらに有人スペースを用意して用いていたが、本来は無人機であり、この機体にもコックピットは存在していない。故に、この機体を有機的に操作できる存在は限られていた。

 その一人が彼女、ケイト・マークソンこと独立傭兵支援システムの管理AIである『オールマインド』だった。通信先から粘着質な声が返って来た。

 

「コーラルリリースは行けそうなのか?」

「はい。ただ、正直に言いますとアーキバスなら、もっとうまくやってくれていたとは思います」

 

 吸い上げは順調ではあるが、安全性を重視しているのか早くはない。物量で押し潰す社是、言い方を変えれば大雑把な彼らの動きとしては意外だった。

 

「元々、連中はルビコンでのコーラル競争でトップに立てるとは思っていなかったのだろう。アーキバスに食い下がりつつ、妥協点を見つけて協定を結ぼうとでも考えていたか」

 

 スッラの意見にオールマインドは少しばかり考えたが、彼の結論をなぞるのはさほど難しいことでは無かった。

 

「企業的な勢力で言えばアーキバスに軍配が上がりますし、強化人間の配備数に加えて、惑星封鎖機構の兵器が鹵獲された時点で諦めていたとでも?」

「そうだ。だが、あの小娘に踊らされ欲が出たんだろうな」

 

 多重ダムの襲撃を失敗してから、ベイラムの活動は殆どが上手く行っていない。壁越えは失敗し、ナイルは拉致され、ルビコン解放戦線の者達を捕らえる事すら出来ていない。

 だと言うのに、レイヴンを用いてからは風向きが変わった。惑星封鎖機構から『壁』を奪い返し、ルビコニアンデスビートルなる怪物の死骸を手に入れ、ウォッチポイント・アルファを殆ど兵力の損耗も無く制圧できた。

その上、バスキュラープラントまで手に入れたとなれば、慎重にならざるを得ない。こんな幸運を手放すわけには行かない。

 

「行き当たりばったりですね。もう少し計画性を持って欲しい物です」

「そうだな。じゃあ、お前の今後の計画を聞かせてくれ。まさか、吸い上げるのを見守っているだけ。なんて、バカなことは言わないだろうな」

 

 スッラの質問には言外に『お前が言うな』という意味も含まれていた。勿論、AIに人間の機微や皮肉というユーモアが理解できる訳もなく、淡々と返した。

 

「そうですね。この吸い上げ作業を妨害されないように、不穏分子を潰して回ります。これは彼女の意向でもあります」

「セリアか」

 

 もう一人の協力者。Cパルス変異波形と呼ばれる生命体で、姿は持たないが、一部の者達だけには確かに感じ取れる存在。

 

『はい。アーキバスに奪還されることがあっても、我々の計画に支障はありません。しかし、それ以外の勢力に取られては困ります。惑星封鎖機構、RaD、ハンドラー・ウォルター。そして、ルビコン解放戦線……』

 

 セリア。かつて、解放戦線のトップであるドルマヤンの傍いた女性であり、今はコーラルリリース計画の従事者でもある。

 先の作戦ではレイヴン達をこの場に案内して、コーラルの防衛機構を排除し、企業にバスキュラープラントを引き渡した上、ウォルターが持つ最強の猟犬をアーキバスへと追いやることに成功している。

 

「今更、ルビコン解放戦線が障害になり得るのか?」

『えぇ、サムにはとっておきの秘蔵っ子が居ますからね。彼を取り除けば、後は瓦解するだけ。この作戦が上手く行けば、彼も考えを変えてくれると思う。私、この為にずっと待っていましたから』

 

 サム。と、ドルマヤンの名前を言った時の声色は優しい物だった。離れてもなお、消えない思いがあるらしい。

 普段のスッラならば早々に話を終えるべく、さっさとターゲットの名前を聞き出していた所だが、彼女の話に興味を持ったのか。彼女に続きを促した。

 

「当時も考えは翻意しなかったのだろう? 今となっては、指導者として抱えている物も大きい。お前の考えに靡くとは思えんが」

『逆ですよ。抱えている物が大きいからこそ、私に付いてくれるんです。だって、手にした物全部が無くなってしまえば、何もかもどうでもよくなって全てを投げ出したくなるでしょう?』

「嫉妬か。まぁ、良いだろう。少なくとも、中身のない話ばかりをするAIよりは興味がある」

「え?」

 

 途中から話すことがなくなって、作業光景の観察に徹していたオールマインドは突如としてディスられた。

 

「何か文句でもあるのか。不穏分子を潰して回るという話も、概ねセリアの意見じゃないのか?」

「それは誤解です。私はキチンとプランを提案しました。彼女の発想も、私のプランが無ければ芽吹かなかったのです」

『そう。全てはオールマインド情報を整理して、手筈を整えてくれたおかげです。感謝しています』

 

 スッラは、身体の無い筈のAIが胸を張っている光景を幻視した。その横で、適当に手を叩いているセリアの姿も見えた気がした。

 

「そうか。で、俺は秘蔵っ子とやらを排除しに行けばいいのか?」

 

 自分で振りはしたが、これ以上話をさせても延々と続きそうな気がしたので、さっさと本題に入ることにした。

 

「はい。スッラ、貴方はBAWSに向って下さい。そこで差し押さえて欲しい物があるのです。セリア、貴方はシュナイダー社の方に」

「了解した」

『かしこまりました』

 

 通信が切れた。ゴーストの視界の先では、バスキュラープラントがジックリと作業を進めていた。

 

~~

 

「ふむ……」

 

 スネイルに命じられ、スウィンバーンがシュナイダー社の会計を調査していると、疑問に思う所は幾つも出て来た。

 フレームを売った顧客を調べて行くと、大抵は誰かしらの身元に辿り着き、任務の受諾歴まで見れるのだが、幾人かは空白のまま死亡していた。

 

「(オールマインドの方でも調べてみるか)」

 

 独立傭兵支援システムではあるが、企業も彼らを雇う際には使っている。任務の経歴、アリーナでのランクや素性など。勿論、全てが掲載されている訳ではないが、一指標にはなっていた。

 シュナイダー社のパーツは癖が強く、使い手にも技量が求められる。その担い手の最高峰ともいえる存在が、彼の同僚であるV.Ⅳのラスティだった。

 

「(やはり、大した情報は出て来んか)」

 

 ルビコンに蔓延る独立傭兵は数知れず。誰にも知られること無く戦場に散るか、貧困に吞まれて消える者も多い。

 例え、戦場で死ぬにしても何かしらの任務に出ているとは考えていたし、もしもパーツを買ったことが原因で餓死すると言うならあまりに間抜けすぎる。

 

「(エルカノに対する支出も、新しいパーツを開発する為に素材でも購入しているのだろう。……まぁ、連中と取引できるのは少し珍しくもあるが)」

 

 系列企業ではあるが、完全にアーキバスに従属している訳ではない。独自に取引があったとしても不思議ではないだろう。

 特に得られる情報がないと判断して、オールマインドを閉じようとした所で、メッセージウィンドウがポップアップした。

 

『掲載データの一部に不具合があったので、修正しました。利用者には迷惑をおかけして申し訳ありません』

 

 無機質な文章と共にトップ画面に戻された。修正されたのは、スウィンバーンが見ていたページだった様で、修正されたデータを見て目を丸くしていた。

 

「(『この独立傭兵は実在性が無く、虚偽の物である可能性が高い』。なんだ、この警告は?)」

 

 まさかと思い、履歴を辿ってみると。先程まで見ていたページの全てに同じ様な警告文が載せられていた。

 

「(スパムみたいな物だったと言うことか? だが、シュナイダー社は実際に販売しているし、資金のやり取りも行われている。どういうことだ?)」

 

 だとすれば、生産されたパーツは何処に消えたのだろうか? まさか、傭兵支援システムの更新により事態が進むとは思ってもおらず、スウィンバーンは引き続き調査を行っていた。

 

~~

 

「やぁ、戦友……と、スネイル」

「やっほー!」

 

 すれ違ったラスティは爽やかな笑顔と共に挨拶を交わそうとしたが、彼女の傍にピッタリとスネイルが張り付いている様を見て、顔をしかめた。

 

「なんですか、その顔は。私が邪魔だとでも言いたそうですね」

「彼女と二人っきりで話がしたい。保護者同伴は、ご遠慮願いたい」

 

 V.ⅡとV.Ⅳがロリを取り合っている。隊員達は興味こそあれど、口出しをするのは憚られる為か、横目でチラチラ見るだけだった。その内の何割かは、何とかしろ。と言わんばかりに、レイヴンに懇願の視線を送っていたが。

 

「え? なんで?」

 

 事態を余計に悪化させかねないことを言うばかりだった。どうやら、スネイルはある程度、彼女を飼いならすことに成功していたらしい。

 普段は、二つ返事で頷いてくれる彼女が疑問を呈するようになったのは、ある種成長とも言えるかもしれないが、この状況においては好ましくなかった。

 

「私に聞かれて困ることでも話すつもりですか? 思い出話程度なら、聞き流してあげましょう」

「そうはいかない。スネイル、伴侶が仕事だけの人生と言うのは空しいぞ」

 

 自分でも何を言っているんだろうかと、ラスティは若干混乱していた。

 しかし、普段クールな彼が言うとボケている様には聞こえない。普段から、悪戯を仕掛けていることもあるので茶目っ気と言うことで聞き流すことも出来るだろうが、弄られ慣れているスネイルは殴り返していた。

 

「ほぅ、つまり貴方はレイヴンに対して伴侶となって欲しい旨を話したい訳ですか? このロリコンめ!!」

 

 普段、ペイターや自分に弄られている側はこういう気分だったのか。と、ラスティは初めての経験をしていた。

 

『レイヴン。多分、ジョークです。ラスティは戦友でしかありませんから』

 

 この時ばかりは、何故かエアもスネイルの味方をしていた。一方、彼女は首を傾げていた。

 

「はんりょ?」

「知る必要のない言葉です」

『生涯を共に添い遂げる相手のことを指します。使用例として適当かは分かりませんが、常に傍にいる私なども該当しますね』

「なるほど」

 

 一つも分かって無さそうな納得だった。なので、余計な情報を入れて混乱させようとするよりかは、スネイルの様にシャットアウトさせた方が正解だったのかもしれない。

 ラスティも多少動揺はしたが、ここ等辺は煽られプロのスネイルとは違う所、直ぐに冷静さを取り戻して、次の一手を投げた。

 

「全く、好き勝手に言ってくれる。……実はスネイルのことを思ってのことだったんだが、仕方がない」

 

 ラスティがタブレットを操作して画面に表示された物を見ると、スネイルの表情が小さく悲鳴を上げ、レイヴンが目を輝かせた。……ミールワームの産卵光景である。

 

「実は、新しい子が生まれたからレイヴンに見せたかったんだ。スネイルはこう言うのが苦手だと思って」

「まぁ、見ていて気分の良い物ではありませんね。趣味の悪い」

 

 スネイルが吐き捨てる様に言ったが、レイヴンは依然として興味津々なのかジィっと画面に見入っていたが、動画は終了した。

 

「見に行く! 見に行く!」

「そうだ、スネイル。これを機に、ミールワームを」

「結構だ!」

 

 画面端には他のゲージも見切れていたことを考えるに、まだまだいるのだろう。……それともう一つ。

 

「(ここに来て、強行する方が不自然だろうしな)」

 

 こういった中を無理にでも行くと言う方が逆に不自然でもある。故に、自然さを装う為にもレイヴン1人で行かせるしかなかった。

 

「それじゃあ、昼過ぎに来て欲しい。歓迎しよう」

「分かった!」

『本当に虫を見るだけですからね』

 

 果たして、本当にただの鑑賞会になるかどうか。この場にいる者達の中で、それを信じているのは無垢に笑顔を浮かべているレイヴン位だった。

 



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依頼58件目:実は今回の内容って本来とはちょっと違う予定だったんですよ

 周囲は阪神優勝でお祭り騒ぎ


「ハンドラー・ウォルター。仮の話になるが、レイヴンが本気でアーキバスに付いた場合はどうするつもりだ?」

 

 レッドはウォルターを乗せた車椅子を押しながら問うた。

 アーキバスでの捕虜生活で衰弱している訳でもないと言うことは、検査で分かっていたが、念の為に。という、ベイラムの意向で丁重にもてなされていた。猟犬であるレイヴンの御機嫌取りも兼ねているのは本人も把握していたが。

 

「アイツの意思を尊重する。奴がアーキバスの待遇や信念に賛同して、手元を離れると言うのなら引き止めはしない。その場合は、俺だけで活動するつもりだ」

 

 レイヴンが手元に離れる。というのは、戦力が抜けると言う単純な話ではない。彼女を通して集めた人脈や信頼を手放すことも意味していた。

 常人や企業ならば何としてでも引き止める所を、この老獪な男は引き止めないと言った。この人柄こそが彼女を引き留めていたのかもしれない。同時に、何があってもやり遂げると言う鋼の意思を感じた。

 

「そこまでして、やり遂げるべき目的とはなんだ? コーラルの獲得と言うのなら、ベイラムに帰属すればいい。取り分は減るが、上層部なら貴方達を手厚くもてなすことは間違いない」

 

 星外からルビコンに来る者達の目的と言えば『コーラル』か、それを求める者達から利益を得る位だ。どちらにしても、ベイラムに帰属するのは悪い選択ではないはずだ。だが、ウォルターは首を振った。

 

「遠慮しておこう。目的地に着いたぞ」

 

 ウォルター達が辿り着いた先。プレートには面会室と書かれており、強化アクリル板を挟んで、部屋内は二分されていた。

 部屋には武装した兵士が配置されており、レッドは彼らから面会相手に関する書類を受け取って読み上げていた。

 

「V.Ⅵメーテルリンク。捕縛された時点では衰弱していたが、今は回復。身体機能や言語機能にも問題は無く、会話も可能と」

「はい。流石は強化人間と言った所でしょうか。ただ、精神的にはかなり参っている様で、聴取も行えない状態です」

 

 例え、身体が強化されていようと心まで強化されているとは限らない。

 昨夜の出来事は、メーテルリンクの心に深い傷跡を残していた。信じていた企業や上司に裏切られ、何処に行く宛てもない。破れかぶれになってベイラムに付くことも期待していたが。

 

「難しいだろうな。企業に裏切られた娘が、もう一度企業に就こうと思うか?」

 

 ウォルターの言葉には頷くしかなかった。今後も捨てられるのではないかという恐怖が付き纏えば、誰かに忠誠を尽くすことも難しくなる。

 程なくして、対面の部屋に囚人服を着せられたメーテルリンクが入って来た。俯きがちで、生気は殆ど籠っていない。電気ショック付の首輪を付けられているが、逃走する恐れも無さそうだった。レッドは対話用の受話器を取った。

 

「昨日は、寝れたか?」

「……あまり寝れていない。私に何の用だ?」

 

 さっさと話を切り上げたがっている様子が見えた。きっと、事情聴取をすれば洗いざらいに情報を吐くだろう。……そして、彼女の役割は終える。その後は、どうなるかとは考えたくは無かった。

 昨晩の間にレッドも色々と話題を考えてはいたが、虚無を纏った相手には言葉を掛けるが躊躇われた。このままでは、話しやすさに傾倒して事情聴取になりかねないと思った所で、ウォルターが口を出した。

 

「これから、お前に身を立てる算段はあるか?」

「どうでも良いだろう。お前達が欲しいのはアーキバスの情報じゃないのか?」

「そんな物、俺達でなくても聞ける情報だ。態々、足を運んで来たのは個人的な話をする為だ」

 

 ウォルターの私用。というのは、先程も話していた目的に関わって来ることだろうか? レッドも耳を傾けていた。

 

「身を立てる算段か。そんな物は無い。私がしたことを考えれば、口座も凍結されているハズだ。このまま解放されたとしても、野垂れ死ぬか娼婦になるのが精々だ」

「星外に親戚や頼れる者は居るか?」

「居ない。言っておくが、お前に飼われる気はないぞ。お前の元に行ったら、そのまま、あの男を殺しかねない」

 

 言わずもがな、ペイターのことである。こんな状態になっても恨みや殺意だけはしっかりと残っているらしい。

 

「そうか。では、何かしたいことはあるか?」

 

 ここに来て、初めてメーテルリンクは考える素振りを見せた。即ち、疑問に対する反応ではなく、彼女の思案と言うモノが初めて表れたのだ。

 

「……水星に行きたいと考えている。メール友達がいるんだ」

「惑星間を航行する令嬢だったか。意外と見栄を張るタイプなんだな」

「え?」

 

 ウォルターが知っていたことに、彼女は少し驚いていた。彼女に釣られるようにして、レッドも驚いていた。

 

「そう言った側面もある。だが、本当の自分を言うのが怖かったんだ」

 

 彼女は土木工事などの作業用MTのパイロットではない。戦場に赴き、脅威を排除する兵士であり……人殺しでもあった。

 

「企業に命令されたという言い訳をしないのか。いさぎよいな」

「従ったのは、自分の意思だ。強化手術やパイロットとしての訓練。日々の糧と言う対価を得ていた手前、被害者面をするつもりはない」

 

 いずれにしても、アーキバスとしては少なからぬコストを費やしたことだろう。特にヴェスパー部隊長に選ばれる程の人材となれば、尚更だ。

 こうした責任感の強さもまた、彼女が取り立てられた要因の一つではあるのだろうが、今は彼女に自責を促すばかりだった。

 余計な慰めを掛けるつもりもなかったが、直ぐに切り出して良い物かとウォルターが考えていると、レッドが口籠っている様子が見えた。

 

「何か話したいことがあるのか?」

「はい。つかぬことを聞くが、そのメール友達の名前は『マーキュリー』という名前だったりしないか?」

「……なぜ、知っている?」

 

 まず、思い当ることとすれば。このレッドがメール相手だという可能性だが、だとすれば、彼はネット上で性別を偽るネカマ的な存在になるが。

 

「あ、いや。俺じゃない。実は、俺の出身地は水星なんだ。昔と比べたら大分マシになっているが、娯楽とかにはまだまだ乏しい場所でな」

「だから、木星戦争時のミシガンが記憶に残ったのか」

 

 娯楽に少ない惑星で、木星戦争という遠く離れ場所の出来事はさながら映画めいた物に見えたのだろう。娯楽や興業が大量に用意されている場所では、浪費される話題程度にしかならない。

 

「そう言うことだ。通信回線も貧弱で、制限も掛かっている様な環境じゃチャットとも数少ない娯楽だ。故郷に残して来た妹から、チャット相手の話についても聞くことはあるんだが。まさか、お前が『ミオミオ』だったとは」

 

 配備されていた兵士達が噴出した。こんな陰気な雰囲気を放っている女が、自らを『ミオミオ』と名乗っているギャップに吹かずにはいられなかった。メーテルリンクは目に見えて表情を変えた。

 

「ここで言うな」

「でも、確認しないと分からないだろう? そうか、そう言うことなら水星に来た暁にはウチに立ち寄って欲しい。きっと、妹も喜ぶはずだ」

 

 世界は思ったよりも狭い。俯いていた彼女の瞳に光が戻った様な気がした。そして、ここに来てから初めて笑みを浮かべた。

 

「約束。だからな」

「勿論だ」

 

 2人の間で談笑が交わされる中、ウォルターは場を取り繕う様に微笑みを浮かべていたが、内心では影を落としていた。

 

「(未来の無い老人共の権益争いに巻き込むには余りにも惜しい)」

 

 若人達の未来を阻んでいるのは何者か。少なくとも、このルビコンにおいて心当たりのあるウォルターが出来る事としては、彼らの会話に口出さぬ様に閉ざしている位だった。

 




ちなみに本来の予定。


ノーザーク「実は水星の子って、私がロマンス詐欺をするときに使うネカマ名義なんだ」
メーテルリンク「〇す」

 流石に現状を鑑みて、あまりにもメーテルリンクちゃんが可哀想だと思ったので、こんな感じになりました。


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依頼59件目:フロイト「私の出番がミールワームより少ない。そう言う描写だ」

 アーキバス内でのレイヴンの1日は規則正しい物だった。

 毎日、決まった時間に起きて、指定された朝食を取り、強化人間部門で実験に付き合い、これらが終わればシミュレーターにおいてデータを収集される。アリーナにおいてあるデータは攻略し慣れている為、参考にならない。

 故に、彼女の動きに付いて行ける人間に付き合って貰う必要があるが、そんなパイロットは限られている。

 

「シミュレーターじゃなくて、本物でやりたいな。レイヴン、お前はどうだ?」

「機体ないー」

 

 情報収集用のシミュレーターである為、訓練用の物と違って一般隊員達が見ることは出来ず、開発部や戦術部の者達だけが見ることの出来る光景なのだが、凄まじい物だった。

 彼女の対戦相手はV.Ⅰフロイト、ヴェスパー部隊長の首席だ。恐らく、このルビコンでTOP2のパイロット達が繰り広げるVRでの戦闘光景は常人には理解しがたい領域だった。

 

「本当にコイツら、人間か?」

 

 まず、早すぎて人間の目では追えない。なので、スローモーションなど解析に掛けると、更に不可解な動きが見えて来る。

 両者、共に機体に向って攻撃を加えていない。外れているのでは無く、ワザと外しているかのような挙動が多かったが、遊んでいる訳ではない。しかし、これは戦術部からの意見で理由は直ぐに判明した。

 

「この2人が攻撃している場所は、パイロット達が回避行動をとった場合に機体が向かう先なんだよ」

 

 AC戦の基本は攻撃を避けることにある。回避行動で動いた先に、予め攻撃を置いておく挙動はもはや予知に近い挙動であり、シミュレーター内で戦っている二人は、まるで現在から未来の事象を見通している様でもあった。

 戦場では考えてから行動するのではなく、訓練や経験に任せた反射的な動きに頼ることも多いが、この2人は反射を超える予測で動いていた。

お互いの力量を把握しているので、2人とも咄嗟に出る動きを抑制した上で高速思考と戦闘を繰り広げていた。

 

『2人にはお互いの動きが見えているのでしょうか?』

 

 反射的行動。というのは、普通はコントロールできる物ではない。例えば、熱いマグカップを触った時に手を引っ込めてしまう様な、生存本能などに関する部分は意思だけでは操れない。

 極限状態に陥りやすい戦場において、死という恐怖から思考が剥奪されることは多々あるが、この2人はそんな者達を容赦なく刈り取る存在なのだろう。

 

「これを毎回繰り広げているんだから、凄いよな」

 

 スタッフの一人がポツリと呟いた言葉に全員が頷いた。彼らにとっては最先端のデータが幾らでも手に入ると言う喜ばしい話に見えて、このデータをどの様にして実用的な物として組み込むべきか頭を悩ませるばかりだった。

 今回も決着は着かず、タイムスケジュールの関係上で切り上げられた。シミュレーターから出て来た二人は、ビッショリと汗を掻いてはいたが疲労した様子は無かった。

 

「VRに加えてタイムスケジュール。アーキバスのバックアップは嬉しいが、時に窮屈に思えるな。レイヴン、決着が付くまでやりたいとは思わないか?」

「うん!」

『普通、同じパイロット同士の戦闘は何時間も続かないんですよ』

 

 彼らの戦いが強制的に切り上げられるのは、限界までやらせるとぶっ倒れると言う判断もあってのことだった。2人の顔から湯気が立ち込めているのを見て、ドクター達によるクールダウンが施された。

 彼らの常人離れした動きを見た者達が一つの想像を抱くことは無理からぬことだった。即ち、アーキバスがルビコンを取るのではないかという未来を。

 

「あぁ、今日は解析班が大忙しだよ。全く」

 

~~

 

 そして、これらが終わるとスネイルに呼び出されて、以後の業務に付き合わされることになる。自由時間がない訳ではなく、呼び出されないこともあるので、そう言った日は知り合いの部屋に訪れたりもしている。

 今朝にした約束通り、彼女はラスティの部屋を訪れていた。ミールワームの飼育ゲージが多数設置されており、大分ショッキングな光景となっていた。

 その中で、彼は食堂から貰って来た残飯をワーム達に与えていた。このルビコンにおいては、原住民よりも上等な食事である。

 

「やっほー、ラスティ―」

「戦友、来てくれたのか。ほら、見てくれ。これが生まれたばかりのミールワームだが」

 

 生まれた時点で、成人男性の小指程の大きさがあるのは不気味と言う外ない。昆虫らしからぬズラリと生えた牙、目玉らしき物は見当たらず、芋虫の様な見た目はしているが、ずんぐりむっくりした足らしき物が蠢かせて移動している。そして、青白く光を放っている。

 アーキバス内の者達でも生理的嫌悪感を抱く者は少なくはないが、レイヴンは目を輝かせていた。

 

「おいしそう」

「戦友。そこはせめて、可愛いとか言って欲しいな」

『いや、一つも可愛くありませんが。むしろ、グロイんですが』

 

 食材として見るのは我慢できても、生きている姿は中々キモイ。ルビコニアンデスワームは馬鹿げたサイズと言うこともあって、グロテスクさよりも衝撃の方が勝っていたが、改めて見てもキモかった。

 

【戦友、ゲージだけを見て欲しい】

 

 不意に、ラスティが心中で指示を飛ばして来た。流石に胸中の想いは、レイヴンの首輪でも盗聴することは出来ない。すると、不意にゲージの壁面に文字が浮かび上がった。

 例え、声に出さなくとも映像は取られるのだから関係ないと言いたいのだが、エアは直ぐに理解した。

 

『これは、ゴーストにも使われていた『MDD方式』ですね。何故、彼はこの様な技術を持っているのでしょうか?』

 

 『Monitor Display Deception jamming』、モニタに出力される映像を誤魔化すという物であり、カーラ達が運用していた光学迷彩型の『ゴースト』よりも隠蔽性は低いが、逆に言えば周囲に起こす変化の少なさは長所とも言えた。

 

【単刀直入に言おう。私はルビコン解放戦線のスパイだ。調査の為にアーキバスに身を置いている】

「あ、食われた」

 

 ゲージ内では残飯の取り合いをして喧嘩していた2匹の内、敗者は勝者に食われていた。このルビコンの縮図を表しているかのようだった。

 壁面に表示されたメッセージを見てエアは驚いていたが、レイヴンはミールワームの様子を眺めているばかりだった。もしも、これが演技だとすれば女優も真っ青だが、多分素だった。

 

【君は読心能力を持っていると聞く。また、帥叔からの報告を聞くに、君の中には誰かがいるらしいな。その友人が、このメッセージを読み取れているのなら、戦友にも説明して上げて欲しい】

「集まって寝ている。可愛いね!」

「寝ぼけて齧ってしまうこともあるらしい。ほら、あの子は尻が欠けているだろう?」

 

 エアは話すことが出来ないので一方的に頷くことしか出来なかった。まさか、ヴェスパー部隊長きってのエースがルビコン解放戦線のスパイであるとは思っていなかったが、幾らか納得できることはあった。

 

『コーラル集積の際に駆け付けて来たのも、あの時。撃破されたルビコン解放戦線の二人を救う為で、貴方を連れて帰ったのもベイラムに確保されることを防ぐ為だったのでしょう』

 

 アイビスに撃破された二人が無事かどうかは分からない。特に六文銭は撤退する余裕もなく大破していただけに心配していた。

 

【ルビコン解放戦線において君の評判は悪くない。帥父の目的とウォルターの目的は妥協点を見つけられる物だ。戦友、君の主人の目的はコーラルを焼き払うことだ】

『え?』

 

 ふと、エアはコーラル集積で回収したデータを思い出した。アイビスの火を見届けた科学者の遺書には、1人の少年を気遣う思いが記されていた。あの時から、彼の計画は始まっていたのだろうか。

 

【人の手に余る物と考えたのだろう。だが、このルビコンに住まう者達はコーラルの恵みに活かされている。焼き払われては生きていけなくなる。そして、戦友の友人。君もコーラルを焼き払われたら、生きていけないのだろう?】

 

ドルマヤンから詳細に話を聞いていなければ、分からないことだった。

エアからすれば自身達を焼き払われる話であって、自分の存在を聞いたウォルターは何を思って接していたのだろうと。最終的に焼き払う対象となる自分に対して、どうして普通に接していられたのだろうと。

 

『レイヴン。彼の言うことを全面的に信じる必要はありません。アーキバスから翻意させる為の欺瞞である可能性もあります』

【ひとまず、我々の現時点での目的はバスキュラープラントの破壊ということで手を打っている。アーキバスなら、もっと早くに伸ばしていただろうが、ベイラムの手際の悪さが幸いした。私の素性もバレ掛かっている。だから、共にルビコン解放戦線に来て欲しい。ここが分水嶺だ】

 

 エアからすれば反対したい所だった。ウォルターの真意は測り兼ねる所だったが、今後も自分達が無事でいられる保証はない。

 一方、アーキバスはバスキュラープラントを始めとしてコーラルを増産させる方向ではあるのだろう。何よりも、この企業の豊かさや人脈はレイヴンの人生にとって必ずプラスになる物だと判断していたからだ。

 

『レイヴン。貴方が選んでください』

 

 今まで、誰かの意図に従うばかりだった彼女が選択をするときだった。彼女の選択次第では、エアも袂を分かつ覚悟をしていた。

 先程までは年頃に相応しい無邪気さでミールワームの挙動を眺めていたが、一通りの説明を聞いた彼女は口を開こうとして、乱雑に扉が開かれた。鎮圧用の装備に身を固めた隊員達が居た。

 

「V.Ⅳラスティ。貴方には背信の疑いが掛けられています。ご同行をお願いできますか?」

「……何の話だ」

「スネイル閣下からの命令です。レイヴンに対して翻意を促していると、彼女の首輪の映像から」

『え?』

 

 MDD方式の欺瞞が有効なのは、先日のゴースト騒ぎで分かっていたことではないのか。いや、アレは光学迷彩をも併用した上位機ではあったが。

 あるいは、先日の痛手さえ布石として用いたと言うのか。受けた被害さえも有効活用する、スネイルの強かさが表れた策でもあった。

 

「ハメられた訳か。いや、戦友にも知らされていなかったのだろう」

 

 観念するかのようにラスティが壁に両手を付けた。隊員達が拘束しようとした所で、彼は掌で壁を叩くと同時に何かのスイッチが入った。すると、部屋内の飼育ゲージが真空状態に陥り、ミールワームに摂取させたコーラルが増殖する。と同時に、シュボッと小さな音が聞こえた。

 

【戦友。伏せろ】

『レイヴン! 伏せて下さい!』

 

 瞬間。全てのゲージに収められていたミールワームが爆発を引き起こし、部屋内に爆風が荒れ狂った。ラスティの動きは速く、レイヴンの小柄な体を抱えると同時に走り出した。

 

「逃げたぞ! 裏切者のV.Ⅳを追え! 射殺許可も出ている!」

「やめろ! レイヴンにも当たる!」

 

 銃を構えた隊員を隊長と思しき男が制した。もしも、彼女に何かがあれば自分達もただでは済まない。間もなくして、基地内に警報が鳴り響いた。

 



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依頼60件目:AM「KRSVの総弾数を2倍にしました。これで継戦能力が向上しました。代わりに」

AM「最大チャージした時に消費される弾薬の数も2倍になりました」
スッラ「は?」


 先日、命からがらコーラル集積を脱した六文銭とフラットウェルはRaDに身を寄せていた。すると、彼らの元に集う様にしてルビコン解放戦線の面々が集まって来たので、随分と賑やかなことになっていた。

 指導者であるドルマヤンが元・ドーザーであったことも幸いしてか、住民達の折り合いは比較的良好な物であった。

 

「昔、鼻と口と耳からコーラルを吸引したバカが海へとダイブした瞬間に爆発してな。汚い花火だった」

「ヤベェ! 昔の連中ヤベェ!」

「帥父。摘まみのミールワームの刺身です」

「付き合ってらんねぇ」

 

 ラミーを始めとしたコーラルで頭がパチパチ弾けている連中はドルマヤンの武勇伝にゲラゲラと笑っている横で、リング・フレディがミールワームの刺身を出していた。元・G4のヴォルタは根が真面目なこともあって早々に反社喫煙会から脱していた。

 グリッド内を歩けば、ドーザー以外にも子供の姿が目立つようになっていた。走り回る彼らを注意していたのは、解放戦線に所属する青年のアーシルだった。

 

「コラ! 走り回るんじゃない。私達はRaDの厚意で間借りできているんだ。彼らに迷惑を掛けてはいけないぞ!」

 

 楽しい時間を邪魔されたことに対して不服を漏らしながらも、子供達は言うことに従っていた。その姿に、ヴォルタは古巣の上司を思い出していた。……彼と比べたら、随分と優男であるが。

 だが、自制の利かない子供と言うのは大人が何をしようと騒ぐ物で、叱られていた子供達の中で、1人の少年が突然駆け出した。

 すると勢いが余って躓き、その身が構造物の外へと投げ出される。誰もが凍り付く中、唯一動いたヴォルタが彼の首根っこを掴んでいた。

 

「騒ぐんじゃねぇ。ゲンコツすっぞ」

「ごめんなさい……」

 

 流石に生きた心地がしなかったのか、少年は素直に謝罪した。他の子達が心配して駆け寄る中、アーシルはヴォルタに頭を下げていた。

 

「ありがとうございます! もし、貴方がいなかったらと思うと……」

「言うことはちゃんと聞かせとけ。いざって時は殴ってでも覚えさせろ。その方が、ソイツの為にもなる」

 

 本当にしてはいけないことは時に言葉では理解できない物だ。暴力に頼る、という訳ではないが痛みを介さなければ覚えないこともある。

 ベイラムに居た頃、散々に味わった痛みを思い出して頭を擦った。かつての相棒は、佳境に入ったコーラル競争の中でどの様に振舞っているのか。頭領であるシンダー・カーラも多忙な様で、遠からず内に自分達も関わるだろうと言う予感はあった。

 

「(もう一線は引いているんだし、これからは商売に専念したいのによ)」

 

 いずれ、自分もRaDが使っていた販路を使って何かしらを売り込んで行きたい。商品の開発をするにしても、営業をするにしても現場に身を置くことには意味がある。

 来るべき時に備えて、自室に戻って一寝入りしようとした所で騒がしいことに気付いた。手癖の悪い奴でも入っていたら、叩きのめしてやろうと勢いよく扉を開けると、そこには珍妙な集団がいた。

 

「なぁ。2人とも、これって本当にRaDやルビコン解放戦線の為になるのか?」

 

 部屋の中央には、何故か勝手にヴォルタのツナギを着込んでいる解放戦線の妹分であるリトル・ツィイー、撮影ブースを整えている六文銭、シャッターを押しているノーザークがいた。

 

「勿論です。キャンペーンガールの存在はどの組織でも重要ですから。世のロリコ……元気な少女が好きなおじさん達の好感度ウハウハで支援もドバドバです。流石にカーラ姐さんはガールと言うにはキツイですから」

 

 恩を仇で返すが如き暴言を吐き出す辺りは、実にノーザークだった。最近は調子が良いのか、スーツなども新調したらしく小綺麗になっていた。

 

「イメージ戦略も重要なのだ。『こんな可愛い子がいる組織を攻めているなんて、企業は非道な者達の集まりだ』と思わせれば戦果よ。戦わずにして勝てるなら、それが一番だ」

 

 六文銭は真面目くさった顔で何か言っていた。ヴォルタとの体格差からか、ツィイーが彼のツナギを着るとブカブカになる。胸元辺りが危険なことになっているが、ノーザークはギリギリ破廉恥封鎖機構に引っ掛からない感じで撮影していた。

 

「グフフ。続きはファンボ、じゃなかった。支援金を出してくれた人と言うことにしましょう」

「いいや、テメェらにやるのはコレで十分だ」

 

 ここまで来て、ようやくノーザーク達はヴォルタが帰って来たことに気付いた。子供相手には手を出せなくても、カスが相手なら話は別だった。支援金ではなく、ゲンコツを貰ったノーザークは転げ回っていた。

 

「何故、私だけが! そこの六文銭もやられなければおかしいだろ!」

「面倒くせぇ。コイツ、明らかに何か出来る奴だろ」

 

 ルビコン解放戦線における上澄みと喧嘩する気力は無かったらしい。部屋主が帰って来たことに慌てて、ツィイーがツナギを脱ぎだそうとしたので六文銭とヴォルタは止めに掛かった。

 

「あ、いや、その。この2人に言われて!」

「せめて、俺が出て行ってから着替えろ!」

「左様。無暗に見せる物ではない故」

 

 六文銭が言うのはなんだか腑に落ちない所があるが、ツィイーが皆を追い出そうとした所で、また1人。新たな人物が入って来た。

 

「六文銭、仕事の時間……って、何が起きていたんだ?」

 

 事情がまるで分からないミドル・フラットウェルは眉をしかめていた。これに対して、六文銭が直ぐに対応した。

 

「仕事と言うことは」

「『レオン』から緊急通信だ。合流地点に向かうぞ」

「了解した」

 

 先程までの馬鹿面は何処にか。戦士の顔へと豹変した六文銭達にツィイーが問うた。

 

「レオン。って、誰のこと? 帥叔が出向くほどの相手なの?」

「あぁ。我々の切り札だ」

 

~~

 

 ラスティの逃走は迅速と言う外なかった。隔壁が落ちるよりも、隊員達が待ち伏せするよりも先に駆け抜け、あるいはハックして最短経路で格納庫に辿り着いていた。当然、ここにも待ち伏せはあったが、彼はレイヴンを抱えながら突き進む。

 

「この野郎!」

 

 流石に彼女に攻撃を当てるわけには行かないと踏んだのか、隊員達はスタンバトンに持ち替えて、ラスティを昏倒させようとするが全て返り討ちにあっていた。

 そして、スティールヘイズのハンガー前へと移動すると、ポケットから取り出した機器をレイヴンの首輪へと当てると、ガタンと地に落ちた。

 

「戦友、悪いが一緒について来て貰う。この命、私1人の物ではないのでな」

『彼女を人質にするつもりですか!?』

 

 ここ数日間のスネイルや他ヴェスパー隊長、研究員達からの重宝ぶりを見るに、アーキバスにおける彼女の価値は非常に高い物になっていたのだろう。

 ラスティが彼女を連れて帰った理由もここにもあったのかもしれない。彼女が役立つ存在になるかというのは、あまりにも賭けの部分が大きかったが。

 

「解放戦線に?」

「そうだ。行くぞ!」

 

 予め待機状態にしていたのか、スティールヘイズの立ち上がりは早く。脱出の際には、手あたり次第に格納庫の機体を攻撃していた。特に、スネイルのオープンフェイスは入念に切り裂いていた。

 

「これで追っては来れまい!」

 

 先日の侵入騒ぎも収まって、気が緩んでいたのも大きかった。初期対応の遅れは、そのままラスティの脱出成功率にも繋がった。

 追手を許さないスピードで基地から離れようとしたスティールヘイズだったが、目の前に1機。先回りする機体があった。

 

「なるほど、V.Ⅳか。シミュレーターでの手合わせは飽きていた頃だ」

 

 アーキバスと敵対他社のパーツを組み合わせた混成機体を駆る企業所属のパイロットは一人しかしらない。息を呑んだ。

 

「V.Ⅰフロイトか。スネイルめ、相当にお怒りの様だな。だが、こちらにはレイヴンが乗っているんだぞ」

「そうか、丁度良い」

 

 フロイトが駆るロックスミスは、何の躊躇いも無く接近してから『SB-033M MORLEY』を放った。拡散された成形炸裂弾がスティールヘイズの装甲に叩き付けられる寸前で、回避運動を取ったが。

 

「ラスティ! ダメ!」

「良い動きだ。だが、まだ恐怖から逃れていない」

 

 回避した先には、既に『Vvc-770LB』のレーザー刃が置かれていた。通常の乗り手ならば、そのまま切り裂かれていただろうが、ラスティは直前で姿勢制御を行うことで、攻撃を回避した。

 ただし、相当無茶な挙動をした為か、機体内部は相当に揺れた。追い打ちを掛けるようにして、ロックスミスは既にアサルトブーストを吹かしてからのキックを放っていた。

 

「ガハッ!?」

「機体は軽さで動かすんじゃない。感覚だ」

 

 V.Ⅳラスティはアーキバスの中でもエースパイロットと呼ばれている存在である。フロイトと対峙することがあっても勝負は出来ると考えていたし、事実シミュレーターではある程度渡り合えていた。

 しかし、現実は違った。AC同士の戦闘は機体の損傷だけではなく、中のパイロットへのダメージも存在しているのだ。シミュレーターにそんなフィードバックが付いている訳がないし、あるとしても安全が優先されて実戦には程遠い物になるだろう。自分と彼には途方もない程の開きがあった。

 

「ラスティ!?」

 

 レイヴンの声が遠のく。彼の視界は明滅からブラックアウトへと移ろうとしていた。意識を手放す瞬間、彼が最後に見たのは自分に代わってスティールヘイズの操縦を始める戦友の姿だった。

 

~~

 

『レイヴン、このまま投降しましょう。V.Ⅳがどうなるかは分かりませんが、少なくとも貴方は助かります』

「ダメ」

 

 言葉を濁していたが、エアでも分かっていた。こんな謀反を起こした人間が投降した所で無事でいられるわけがない。ほぼ、確実に銃殺刑が待っている。

 かと言って、このままでは捕縛は免れない。ならば、戦うしかない。武装編成はいずれも彼女があまり使わない物であったが、強化人間である以上。動かせないことはない。改めて、ロックスミスと向き合った。

 

「……雰囲気が変わった。そう言うことか。こんな、直近で望みが叶うとは思わなかった。それじゃあ、始めようか」

 

 上空で2機の閃光がぶつかり合う。ルビコンにおけるトップ同士の、シミュレーターではない実戦が始まっていた。

 




 まさか、フロイト戦を書くにあたって。公式からロックスミス強化が入るとは思わないじゃないですか。


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依頼61件目:奪われたもの

 最近、フレンドがNPCが使っている機体でストーリー制覇みたいなことをしているけれど、ガイダンスがアーキバスバルテウスを殴って居たり、救出作戦に同行するアストヒクとか言う絵面に笑っている。


「どいつもコイツも裏切り者ばかりだ!」

 

 スネイルの自室にて、彼の怒りは頂点に達していた。

 あまりの怒髪天ぶりを見て、流石に不味いと思ったのかホーキンスが派遣されていた。こんな状態の彼に声を掛けられる人間は、もはや彼位しかいなかったからだ。

 

「まさかねぇ、ラスティ君まで……」

「だが、我々の方が一手早かった様だ」

 

 モニタにはスウィンバーンがシュナイダー社に訪れている様子が映し出されていたが、彼は戸惑うばかりだった。何故なら、アーキバス本社の上層部が既に訪れていたからだ。

 

「ど、どうして上層部のお方達が」

「スネイル君から通達があってね。それと、匿名の通報もあったんでね。関係者達からは事情聴取を行うつもりだ」

 

 スネイルはラスティを取り逃したというのに、上層部の者達はシュナイダー社の関係者達を捕縛していた。勿論、個人と集団という違いから動きの速さは違って当たり前だが、スウィンバーンは彼らの手腕に感心する様に平身低頭の小物ムーブをかましていた。

 

「こういうことをすると、彼って本当にしっくりと来るよね」

「そして、奴の追撃に関してはV.Ⅰを派遣しました。捕え次第、拷問して情報を吐き出させた後はファクトリーに送り込んで下さい」

 

 ホーキンスは息を呑んだ。再教育センターは思想の矯正と調教を担う場所であるが、更に先にあるファクトリーと言う場所では個人のパーツ化を目的としている。

このパーツと言うのはパイロットを生体パーツの様に扱うと言う比喩的な意味ではなく、人体を解体して有機デバイスとして直接組み込む為の、アーキバスでも非道を極めた場所である。

 ホーキンスの様な極一部の者達しか知らない施設であり、口に出すのも憚られる場所を口にするほどの怒りが、スネイルの中に沸き上がっていた。

 

「了解したよ。それと、レイヴン君の確保についてはどうする?」

「問題ありません。V.Ⅰなら彼女ごと取り戻せます」

 

 スネイルと言う男は猜疑心の塊であったが、人事の采配に関しては私情を挟まない。能力の評価はほぼ誤ることがなく、こういった大胆な決定すらも通すだけの胆力もあった。

 事実、彼の予想通り。V.Ⅰフロイトはラスティを圧倒していた。しかも、機体を潰すのではなく、中の人間を気絶させるだけという方法を取ることが出来るほどの技量差を見せつけていた。

 そして、スティールヘイズが落ちようとした時。不意に態勢を取り戻した。2人はこの挙動に違和感を覚えたが、以後の交戦で違和感を確信に変わっていた。スティールヘイズの動きが明らかに変化し、ロックスミスと渡り合っている。

 

「まさか、今機体を動かしているのは彼女。なのか?」

 

 フロイトと渡り合えるほどのパイロットと言えば、彼女位しか居ない。ホーキンスが口にしたことはスネイルも考えていた様で、彼の全身は震えていた。

 

「まさか、レイヴン。貴方まで、この私を裏切ると言うのですか?」

 

 それは、ホーキンスも見たことがない程の動揺ぶりだった。ペイターを追放し、メーテルリンクに失望し、ラスティに裏切られた時でも怒りはしたが、今の彼を支配している感情は明らかに違っていた。

 通信を入れようにも、スティールヘイズには当然繋がる筈もない。なので、フロイトに通信を入れた。

 

「フロイト君。今、スティールヘイズを動かしているのは誰だい?」

「間違いなく、V.Ⅳラスティだ。先程までは、こちらの動きを測っていたのだろう。スネイルには心配ないと伝えてくれ」

 

 一方的に告げられると、通信が切られた。ホーキンスとしては、俄かに信じがたいことだった。そして、普段の言動から察するに敢えて虚偽の報告をしているのではないかと言う考えも過ったが、真実かどうかを確かめる術はなかった。

 

「クソ!! どいつもコイツも何故、好き勝手に動く!? レイヴンは何処だ! 彼女を連れて来い! 奴らの本心を調べさせろ!」

「その為に、フロイト君が動いてくれている。彼を信じて待とう」

「信じる!? 奴も何か嘘を付いているんじゃないだろうな!? そもそも、スティールヘイズの挙動がおかしい! まさか、あの機体を動かしているのはレイヴンで、彼女まで私のことを裏切ろうとしているのか!?」

 

 ホーキンスが想像することをスネイルが思いつかない訳もなく。裏切りに次ぐ、裏切りで精神の均衡を欠いている中で、思い浮かんだ彼女の謀反と言う懸念が最後の一押しになったのか凄まじい狂態だった。

 

「大丈夫だ、フロイトも言っている。今、スティールヘイズを動かしているのはラスティだ」

「……そうだな。奴が相手を間違える訳がない。言うことは聞かないが、任務に忠実な、奴ならば」

 

 まるで、自分に言い聞かせるかの様にブツブツと呟いていた。ホーキンスも出撃しようかと考えたが、暫くはこの部屋に居ることにした。

 

「(パイロットとしても恐ろしいし、こんなに容易く人の心に入り込んで来る無垢さはさらに恐ろしい。ウォルター、君は本当に恐ろしい猟犬を飼っている)」

 

 V.Ⅱスネイル。彼の冷徹な振る舞いに対して、人の心が無いと評価されることがある。企業と言う過酷な場所で生きて行く上で、心を凍り付かせていたのだろう。

 だが、1人の少女が彼の心から冷たさを奪い取っていた。一度、融かされたモノは以前以上の冷たさを持って凍り付こうとしていた。

 

~~

 

 スティールヘイズとロックスミスの交戦は続く。LCや惑星封鎖機構のMT達も駆けつけるが、繰り広げられる戦闘が早すぎて援護が出来ずにいた。

 ロックスミスの背部兵装『Vvc-700LD』から発射されたレーザードローン達が疑似的な包囲攻撃を仕掛けるが、スティールヘイズはこの攻撃によって移動範囲を制限されること無く、ドローン達の攻撃に合わせるようにして『MA-E-211 SAMPU』を放って、次々と撃ち落としていた。

 

「おい、あのレーザードローンって。後方支援ありきで動いている訳じゃないんだよな?」

「そんな干渉は出来ないはずだ。だから、アレはV.Ⅰフロイトが戦闘しながら動かしていることになるんだが」

 

 当然、戦闘中にドローンの操作に専念できる訳がない。故に、機体を動かしつつ、相手の軌道を予測して誘導しながら、レーザードローンも操作していると言うことになる。

 対するスティールヘイズも同じ様に相手の攻撃を読みつつ、レーザードローン全ての動きに追いつきながら、ロックスミスの動きに付いている。

 

「化け物だ」

 

 増援に来たパイロット達は、顔を青褪めさせていた。俺達が付いて行ける戦いではない。と。

 

『レイヴン、距離を作りながら戦って下さい! 生き残ることが目的なら、ロックスミスを倒さなくても大丈夫なはずです!』

「うん!」

 

 モニタに表示されるマーカーが何を表しているのかは分からなかったが、彼女はロックスミスと戦いながらも何処かしらに向っていた。

 

「戦いよりも優先することがある。そう言う動きだ。V.Ⅳに妬けてしまうよ。このヴェスパーたらしめ!」

「たらし?」

『レイヴン! それよりも目の前のことを!』

 

 敵はロックスミスだけではない。後方には詰めの様にLC達が追従している。戦闘には参加してこないが、厄介であることには変わりない。

 収納されていたレーザードローンを全て撃ち落とされ、バーストマシンガンの残弾も尽きたので、2機は用済みとなった兵装をパージした。

 ロックスミスが『RF-024 TURNER』アサルトライフルを放ちながら接近して来た所、『Vvc-703PM』から放たれたプラズマミサイルが接近するが『SB-033M MORLEY』から放たれた拡散バズーカが撃ち落としたと同時に爆炎を上げた。見れば、スティールヘイズは『MA-J-200 RANSETSU-RF』を握っていた。

 

「なるほど。プラズマミサイルを囮にした訳か、面白い戦い方だ」

 

 簡単に言うが、プラズマミサイルの推進速度と『MA-J-200 RANSETSU-RF』から放たれる弾丸の速度を計算しつつ、ロックスミスの武装を狙うと言う芸当を経て初めて為せる物であり、到底人間業ではない。

 しかし、フロイトは感心しただけで動きを止めない。残った背部兵装もパージして、更に身軽になった機動力で肉薄して『Vvc-770LB』レーザーブレードでスティールヘイズの背部兵装である『Vvc-703PM』を切り落とし、『MA-J-200 RANSETSU-RF』を蹴り飛ばした。一方、『RF-024 TURNER』も叩き落とされた。

 

「残る武装は1つ! ロックスミス! 行くぞ!」

『レイヴン! 迎撃してください!』

 

 エアがサポートできる範疇を超えた遣り取り。互いに、残った武装は近接装備一つのみ。レーザー刃が互いの機体を行き交う。腕部が、脚部が、頭部が次々と切り裂かれて行く。

 

「フロイト隊長! 下がって下さい! 後は我々が!」

 

 捕獲用の装備を持って来たLC達が武器を構えようとした所で、突如として地上部から発進して来た機体が2機。

 

『アレはシノビとツバサ。解放戦線の二人ですか!』

 

 射出された高速回転体がLCやMT達を打ちのめした所で、次々と『SG-026 HALDEMAN』ショットガンで制御不能(スタッガー)へと追い込む。そして、追撃の様にして放たれた光波キャノンが止めを刺して行く。

 地上部では潜伏していたのか、解放戦線の面々が落ちた機体に群がって、パイロット達を捕縛していた。

 

「……ッチ。良い所だったが、仕方ない」

 

 フロイトの作戦成功率が高いのは、本人の能力の高さも去ることながら引き際も心得ている所が大きかった。残った戦力を考えれば、不利でしかなく。彼は撤退をするにしても迅速だった。

 ロックスミスが退却するのを見届けて、スティールヘイズは降りて来た。もはや、左腕部と胴体しか残っておらず、中のパイロットの安否も気遣われる中、六文銭達がハッチを開けると、出て来たのは。

 

「ラスティを、おねがい……」

 

 パイロット席に座っていたのはレイヴンだった。彼女の隣ではラスティがグッタリとしていた。フラットウェルは何が起きたかを直ぐに理解した。

 

「我々、解放戦線はレイヴンにどれだけの貸しを作っているのだ……!」

 

 極限状態にあった為か、レイヴンは疲労困憊の状態にあった。直ぐに二人は救助されて運び出されて行った。捕縛されたLC達はパイロット諸共何処かへと連れ去られて行った。

 



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依頼62件目:鴉と狼

 先日、創作鯖で当作品の読者さんとお話する機会がありました。滅茶苦茶嬉しかったです。


 ベイラムの方では大きな動きは見られない。精々、バスキュラープラントの増築の人手が増えた位で、ウォルターを始めとした外様は作業に携われずにいた。

 扱いこそ、丁重な物だが無為に時間が過ぎて行くことは耐え難いことであった。ブルートゥ、ペイター、1317も同じく、手持無沙汰な日々が続いている。

 

「暇ですねぇ」

 

 作業の手伝いを申し出たりもしたが、先の一件で手癖の悪さなどがバレてしまっている為、何もさせて貰えない。娯楽として旧世紀のフィルム鑑賞で時間を潰したりもしていたが。

 

『あぷぷーぷりぷりーぷー。ちょんわーちょんわーあぷぷ、あぷぷ、あぷぷ』

 

 モニタ内では木製のマネキンが奇天烈な動きと共に奇妙な鳴き声を上げていた。紛うこと無きクソ映画のワンシーンだった。

 ブルートゥは穏やかな笑顔と共に眺め、1317は只管に疑問符を浮かべ、ウォルターはジィっと眺め、ペイターは爆笑していた。

 

「ガッヒャ、ウヒッ、ハヒャッ。ヒヒヒヒッ!」

「お前の笑い方って、本当に汚いな……」

 

 途中で詰まる様な笑い方がかなり耳障りだったが、ペイターは特に気にした風もなく笑い転げていた。1317は映像と笑い声と言うダブルの不快感を誤魔化す為に、画面横に表示されている作品の解説に目を走らせていた。

 

「本格ホラー・テーマパーク『イルブリード』を舞台に繰り広げられるスプラッタムービー! 全アトラクションをクリアすれば1億ドル、失敗すれば死亡。倫理観はどうなっているんだ」

 

 ネタにマジレスするタイプである1317としては設定の時点で、作品に入り込めそうになかった。画面内では材木人間と化した主人公の女子大生が回転アタックを駆使して、殺人木こりと戦っていた。

 無駄にスプラッタがてんこ盛りで、回転アタックで頭部を叩き潰されて、トマトみたいに画面が真っ赤に染まっていた。

 

「ブルートゥ、ウォルター。ひょっとして、これは拷問の一種なのか?」

 

 1317が同意を求めて振り向くが、2人とも画面に見入っている。分かりやすい反応をしているペイターは兎も角として、彼らは何を考えているのだろうか?

 

「ご友人、これはとても素敵な作品です。かつての人々が如何に自由に発想をしていたか、商業的、大衆的目的から解放された当時の人々の奔放さが伝わって来る映像です」

「えぇ……」

 

 ペイターの振る舞いばかりに気を取られていたから忘れがちだったが、ブルートゥも十分変人だった。では、ウォルターの方はどうかと言うと。

 

「カーラの奴がこう言うのが好きでな。621と一緒に見たりもした物だ」

「そう言えば、レイヴンもこの意味不明な鳴き声を上げていたな……」

 

 だから何だという話だが。他の3人が楽しんでいる中、自分だけ不満を言う訳にもいかず、この拷問みたいな映像が『TOY HUNTER』とかいう異様に下劣な章の半ば位で乱暴にドアが開かれた。入って来たのは、イグアスだった。

 

「おい! RaDからテメェらに通信が入っているぞ。……って、おぉ! イルブリードじゃねぇか! しかも、TOY HUNTER!」

 

 彼は上映されているイルブリードを見て満面の笑みを浮かべていた。風体の粗暴さと好みがあまりにも合致していた。これに気を良くしたのは、ペイターだった。

 

「お! 貴方もこの作品好きなんですか?」

「おう! 特にミミズバーガーの話は最高だよな!」

 

 アーキバスとベイラムの垣根を超えて語らいに、元・惑星封鎖機構の一員は冷めた目で見つめるばかりだった。

こんなことよりもRaDからの通信を優先すべきだ。当然、会話内容はベイラムに聞かれている。その上で何を話すのだろうか?

 

「よぅ、ウォルター。調子はどうだい?」

「丁重に扱って貰っている。今は、上映会と洒落込んでいる。……内容は、お前も知っているイルブリードだ。どんな内容か覚えているか?」

「勿論だとも。TOY HUNTERなんて最高だ。笑いってのはこれ位、下品で丁度良い。女王ミミズの復讐も良い、あの感動とかそう言うのに唾を吐く様な演出がグッと来るね! あぁ、でもやっぱり初手の死を呼ぶホームランも良いよ! 巨大バンブローを破壊する為に操縦者を直接殺るシーンで、この映画に引き込まれたね!」

 

 ガチで下らないことだった。ひょっとして、この映像は物凄く面白い物なのでは? と言う気がしていた。勿論、1317の気の迷いである。カーラの楽しそうな様子に、ウォルターも相槌を打っていた。

 

「活き活きしているな。俺もつい、年甲斐もなく見入っていた」

「そう。このイルブリードにはそれだけの魅力があるんだよ! ……って、アンタの調子を聞くだけのつもりだったけれど、思ったよりも弾んじまったね」

「構わん。丁度、暇だったからな」

 

 それから、多少映画の話に触れつつ他愛のない話をして通話を切った。通信機を返されたイグアスは名残惜しそうに映像の方を見ながら、去って行った。

 そして、映画がスポンサーをおちょくる内容に入った所でウォルターは盗聴器などにも聞き取れない声量で言った。

 

「621はRaDにいる」

 

~~

 

「ラスティ、目を覚ましたか?」

 

 ミドル・フラットウェルの声にラスティは意識を覚醒させた。ベッドに寝かされ、全身に包帯を巻かれている。節々の痛みから、彼は意識を失うまでに何があったかを思い出していた。

 

「そうだ、戦友は!?」

「ツィイーが診ている。流石に異性に肌を晒す訳にはいかんからな」

 

 隣のベッドには彼女の姿があった。目を閉じ、規則正しい呼吸をしていることから重体と言う訳ではなさそうだった。……だから、何だ? 

 帥叔の視線は厳しい。V.Ⅰフロイトを追っ手として差し向けられて無事に逃げ果せる訳がない。だと言うのに、治療を受けれていると言うことは何があったかは想像に容易い。だが、聞かない訳にはいかなかった。

 

「帥叔。何があったのですか?」

「説明する。前に、この場にお招きしたい方達がいる」

 

 フラットウェルがドアを開けると、カーラとリング・フレディを侍らせた帥父ドルマヤンが入室して来た。ラスティは頭を下げていた。

 

「帥父。申し訳ありません、私の不手際で……」

「謝る相手が違うぞ」

 

 ドルマヤンの視線の先には、規則正しい寝息を立てているレイヴンの姿があった。もはや、疑いようもなかった。

 

「彼女に、助けられたのですね」

「そうだ。そして、彼女の隣人からも事情を聴いた。お前が怪我人でなければ、殴っている所だった」

 

 心臓をわし掴みにされている様だった。彼を最も責めているのは彼自身に他ならなかった。ドルマヤンを通して、エアも声を上げた。

 

『レイヴンを人質に取った挙句、彼女に裏切りを強要させて、助けられている貴方が戦友に相応しいとは思えませんね』

 

 呆れたり、不快感を口にすることはあった。しかし、本気で怒ったのは初めてだった。敵対しているスッラやセリア達にさえ、ここまで怒りを覚えたことはなかった。

 

「返す、言葉もない」

「ちょっと。怪我人にそこまで言わなくても」

 

 見かねたのかツィイーが擁護したが、フラットウェルから睨まれると彼女も口を閉ざす他なかった。周囲が静まり返る中、カーラが声を上げた。

 

「アンタのスティールヘイズは途中で破壊した。幾ら工作しても、機体から場所を割られる可能性もあったからね。収集したデータの方もこっちで解析した。そのことだけは言っておくよ」

「助かる」

 

 失態を犯しはしたが、スパイとしての活躍に意味はあった。そのことが、ラスティにとって僅かながらの救いとなっていた。だが、フラットウェルは眉間に皺を寄せていた。

 

「だが、シュナイダー社とエルカノのパイプは殆ど潰された。ギリギリでオルトゥスは回収できたが、今まで以上に解放戦線は厳しいことになるだろう」

「どうしてアーキバスは気付いたんですか?」

「心当たりがあるとすれば、傭兵支援システムか。シュナイダー社のパーツをエルカノに回す為の架空名義の使用実態がないと言うことで摘発された。こんな動き、今までになかった」

 

 シュナイダー社が直接エルカノ社に卸せば、関係性が疑われる。故に、幾つもの架空名義を通していたのだが、今になってバレた。まるで、システムがアーキバスに味方をしているかの様だった。

 

「タイミング的にも不自然だね。なんで、今頃?」

 

 修正タイミングの不自然さに関してはカーラも疑問を抱いていた。修正するならもっと早くか、あるいは放置される方が普通と言うはずなのに。

 

「アーキバスに味方したとも思えんが。兎も角、我々は今まで以上に苦しい戦いを強いられる。ラスティ、早く治してこい」

「分かりました」

 

 フラットウェルは短く用件だけを告げると部屋から出て行った。カーラとドルマヤン達も続き、部屋には3人とエアだけが残されていた。そして、ツィイーも壁際の時計を見た。

 

「ごめん、えっと。アンタが仲間って実感はイマイチ湧かないんだけれど、私も色々と働かないと行けなくて」

「構わない。行って来てくれ。戦……彼女の面倒は、私が診よう」

 

 申し訳なさそうにしながら、ツィイーも出て行った。残されたラスティは痛む体を動かして、レイヴンの方を向いた。

 

「参ったな。私は、君と肩を並べているつもりだった。なんなら、手を引いているとさえ思っていた。……実際は、君に手を引かれていたんだな」

 

 壁越え、宇宙港、ルビコニアンデスビートル、アイビス撃破。多くの強敵達と共に戦って来た。だが、先の戦いは無様と言う外なかった。

 訓練で鍛え上げられた自分と違って、少女らしい華奢な肉体しか持たない彼女に、心身共にどれだけの負担を掛けてしまったのだろうか? 戦友と名乗れる自信は既に喪失していた。

 

「調教師(ハンドラー)に繋がれている君は、私と似た者同士と思っていた。だが、そうではなかった。首輪を付けていても、企業にも、運命にも、しがらみにも囚われない。―――君の在り方に憧れていた」

 

 そんな彼女の自由を奪ったのは自分だ。誰とも分かり合えない。いずれ敵対することを思って、アーキバスの者達とは距離を置いて来た。

だが、彼女はそうでなかった。誰の心にも立ち入り、あの猜疑心の塊であるスネイルの心さえ融かしてしまった。自分達からコーラルを搾取する第一人者に一矢報いてやった。なんて気持ちは微塵も湧いてこなかった。

 

「私は、君の翼を折ってしまった」

 

 自由に憧れながらも他者の自由を貪る姿は、彼らが唾棄して来た存在と何ら変わりない。俯いた所で、顔に何かが触れた。見れば、目を開けたレイヴンがラスティの顔にシーツを押し当てていた。

 

「ラスティ。泣きそうな顔している」

「目を、覚ましたのか。待ってくれ、皆に報せて来る」

 

 ラスティは壁に掛けられていた内線を取り、レイヴンが目を覚ましたことを皆に告げた。

 



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依頼63件目:ウォルター「621。暇なら、コレでも見ておけ」レイヴン「イルブリード?」

レイヴン「あぷぷー」
エア「なんでこれを見せたんですか?」
ウォルター「カーラの趣味で無理矢理持たされていた。娯楽映像作品なんて物が手元にある訳がないだろう」


「V.Ⅳが?」

 

 シュナイダー社の調査から帰還したスウィンバーンは、ホーキンスから事の顛末を聞いていた。ラスティが裏切り、レイヴンを誘拐したと。

 

「途中で解放戦線の援護が来て、逃走を許してしまった。もう、スネイルの怒りは今までに見たことがない程の物だ。落ち着くまで、接するんじゃないぞ」

 

 間の悪いスウィンバーンでさえ理解できる程にホーキンスの表情は固かった。だが、動揺しているのは同じヴェスパー部隊長である彼らも同じだった。

 

「ラスティ。どうして、貴様が……」

 

 ペイターと同じく要らんことをして来たりもする人間だったが、コーラル集積での共闘の際には自身を信じてくれたことが忘れられない。アレも、その場限りのリップサービスに過ぎなかったと言うのか。

 だが、何処か冷静に思考が働く部分があった。もしも、ラスティが解放戦線の人間であった場合を考えると、レイヴンに危害を加える様なことはしないという確信はあった。

 

「(あの小娘は戦力的には申し分ない。それに、解放戦線と折り合いも悪くなかったはずだ。……だからこそ、今回の悲劇が起きているんだろうが)」

 

 少なくとも要求が通らなければ人質に危害を加える。ということはしない。だとすれば、問題は彼女が協力するかどうかに掛かって来る。

 彼女は良くも悪くも自由なので、打算や合理性が通用しない面が大きい。すると、今度は自分達に矛を向けて来る可能性もあるのだ。

 

「(撃てるのか?)」

 

 何も知らない敵を撃つことに関しては、何かしらの感慨を抱く時期はとうに過ぎている。だが、共に過ごして来た相手ともなれば難しい。

 自分はホーキンスの様に割り切ることは難しく、スネイルの様に冷徹に計算だけで動けるタイプではない。オキーフに関しては何とも言えない。

 

「(31戦目が実戦になることは避けたいが。我々がルビコンでやって来たことを考えれば、当然の報いかもしれんな)」

 

 コーラルの搾取による貧困と飢餓は、この惑星にどれだけの悲劇を生んで来たか。今更、自分達が被害者を気取る訳には行かない。

 事態の全てを受け止めることは難しいながらも、今回の事件の関係者達と懇意であったスウィンバーンは彼らへの信頼と共に、少しずつ冷静さを取り戻していた。

 

~~

 

「フロイト!! 出撃前の大言壮語はどうした!」

 

 一方、スネイルは怒り狂っていた。帰還したロックスミスは大破も良い所で、追手に付けた者達も捕縛され、ラスティ達を取り逃したともなれば順当な反応ではあった。

 

「次に戦う時は負けん。ただ、地上部に解放戦線が潜んでいたことも考えれば、調査不足じゃないか?」

 

 フロイトは悪びれることも無く、淡々と指摘をしていた。あの時、後詰めにヴェスパー部隊の隊長格を付けていれば、また違っていたのではないかと。それをさせないために格納庫に居た機体達を破壊してから脱走したのだろうが。

 

「……今まで、大人しくしていたから見逃してやってはいた。だが、害虫は1匹残らず排除するべきだった。シュナイダー社の件と言い、奴らは我々を嘗めた。思い知らせてやる!!」

 

 アーキバスにとってルビコン解放戦線は取るに足らない存在だった。精々、周辺を漂うハエ位の存在だった。しかし、今回の調査でシュナイダー社との関係及び、エルカノ社まで関与していることが分かった。

 こうなれば、弱小のレジスタンスとして扱う訳にはいかない。ベイラムの様な企業を相手にする物だと考えなければならない。既に上層部と話も付いている。

 

「どうするつもりだ?」

「強襲艦隊を使って、連中の拠点を潰して回る。所在地は幾らでも聞き出せる。捕まえた者達の数は居るからな」

 

 今回の件で検挙された人間は数知れず。尋問や拷問に関しては、アーキバスも得意とする所だ。スネイルは席を立った。

 

「八つ当たりで情報を聞き出せるのか?」

「最近はレイヴンがいたから鈍っていましたが、腕が錆びつかない様にすることも大事でしょう」

 

 その考えで行う拷問は情報収集ではなく、ただのサディストの趣味ではないか。ただ、個人の嗜好にまでは興味はないのかフロイトは黙って見送った。

 

~~

 

「ウォルター! どうした! 映画の感想が言いたくて俺を呼んだのか!」

 

 先の通信でRaDから情報を入手したウォルターは、ミシガンと話がしたいと言うことで個室に呼び出されていた。周りにいる者達もレッドガンの隊員達であり、余計なことを漏らしたりしないと言うことを信用してのことだった。

 

「グリッド086に621は居る。カーラから聞いた」

「お前達の通話記録は取っているが、こんな映画の感想の何処に情報を入れていたんだ!」

 

 ウォルター達の通話記録はクソ映画の好みを話すだけの物であり、621の情報は何処にも入っていない様に見えた。

 

「あの映画。『イルブリード』は全6章とエピローグからの構成になっている。『TOY HUNTER』を6章目、『女王ミミズの復讐』は2章目、そして、『死を呼ぶホームラン』は1章目となっている」

 

 配備されていた警備兵の中に視聴していた者もいたのか、若干顔がニヨニヨしていた。そして、暗号自体は非常に単純な物だった。

 

「なるほど、それぞれの章と好みを並べると『621』になる訳か。活き活きしているとかは、居るかどうかを確かめていたと言うことか。G5の奴にでも聞かせてやれば早々に看破していたかもしれんな!!」

「いや、無理だと思うぞ。ペイターと一緒に映画を楽しんでいる奴に業務の話を考えさせるのは酷だろう」

 

 人が楽しんでいる時に水を差さない気遣いが変な所で発揮されていた。だが、ここでミシガンに一つの疑問が浮かんだ。

 

「だが、何故RaDにG13が? アーキバスが奴らに引き渡すとは思えんが。以前の奪還作戦でなおのこと、警備も厳重になっているはずだ」

「それこそ、アーキバスの方で何かがあったのだろう。621が自ら脱走したとは思えない」

「幾らパイロットとしての技量が高くとも身体能力は大したことが無いからな! そこに警戒も加われば、正に隙は無い!」

 

 ミシガンの言うことも道理だったが、ウォルターは知っている。621がアーキバスに馴染んでいたこと、そこでの生活を楽しそうに話していたことも鑑みれば、そもそも逃げる必要が無く、敵対する可能性すらあったこと。

 

「そう考えると、G13がRaDに辿り着いたことも本意でない可能性は高いだろうな。そう考えると思い付く可能性は一つ」

「……誘拐か?」

 

 ACに乗っている時は手に付けられない存在だとしても、生身であれば一人の少女でしかない。問題は、誰がそんな凶行に及んだかということである。

 

「誘拐をするにしても条件が多すぎる! まず、生身での誘拐程度なら簡単に捕縛される! 続いてACなどを使った逃走も現実的ではない! お前達が使っていた機体でもあれば、話は別だろうがな!」

「あの機体はカーラ達が特別に改造したものだ。同じ製品を流通させるような真似は決してやらないだろう」

 

 あの機体は世界に2つもない物であり、なおかつ正面に陽動があったからこそ、機能していた様な物だ。

 

「では、G13の様に機体を用いての逃走か? あの精鋭が集まった基地から脱出するなんて芸当、それこそ奴でも無い限りは出来ないだろう!」

「もしも、出来るだけの力量を持つ者がいるとすれば隊長格クラスに限られるだろう。少なくとも下位Noでは不可能だろう。上位Noの連中には勝てない」

「そうすると、上位Noがやったと言うことか? ……いや、1人。G13と懇意の存在がいたな!」

「V.Ⅳか」

 

 彼女のことを戦友と呼び慕っていた存在。パイロットの技量としては申し分のない物であり、彼ならば単身での脱出とレイヴンの誘拐を両立できると考えていた。

 

「まず、G13がアーキバスに戻っていないことから犯人は逃走に成功した物だと思われる! だが、RaDが誘拐犯を受け入れるとは思えない! アーキバスとの敵対は避けたいだろうからな! では、この犯人を保護した連中は誰か! ちなみにベイラムでは無いぞ! そうならば、俺に報告が入るからな!」

「この二つ以外の勢力で、RaDと言う地元集団に縁がある者達。……ルビコン解放戦線か?」

 

 レイヴンとの仲も比較的良好ではある。犯人がV.Ⅳと決まった訳ではないが、アーキバスに身を置きながらルビコン解放戦線とも関係がある者。という想像が立てられた。

 

「いずれにせよ、アーキバスから取り戻すよりはずっと楽になったな! 俺達が行けば面倒なことになるだろう! ウォルター! ウチの奴らを使ってもいい! さっさと飼い犬を迎えに行け!」

「良いのか?」

「構わん! G13を取り戻す為と言えば、上の奴らも快諾するだろうよ! 俺とナイルは現場から離れられんが、他の奴らは好きに使って良い! お前達の機体も整備してある!」

「感謝する」

 

 話はスムーズにまとまった。だが、こうなっては少なからずの問題もある。……いよいよ、猟犬部隊(ハウンズ)のベイラム帰属が避けられなくなり始めていた。

 




 今日はかなり早めに投稿。


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依頼64件目:彼女の道

 レイヴンが目を覚ましたという報告はRaD中に伝わった。ドーザー達は勿論、解放戦線のメンバーも詰めかけて、病室は賑やかなことになっていた。

 

「ツィイー、久しぶりー」

「うん、久しぶり。また、会えるとは思っていなかった。痛む所とか無い?」

「だいじょぶ!」

 

 運び入れた時に検査はした。その時には、異常は見つからなかったが、何が起きるか分からないのが人体だ。特に強化人間なんて、常人とは違うのだからツィイーが心配するのは当然のことだった。

 

「お前が倒れるなんてよっぽど無茶したんだな。ルビコニアンデスビートルの時も、そんなに無茶してなかったのによ!」

「フロイト。凄い強かった!」

 

 ラミーとは先日の2大ワーム討伐の際に顔を合わせていることもあって、久しぶりと言う程でも無かった。疲労困憊で倒れる程の激闘を繰り拡げたというのに、危機感や焦燥感を抱かせない笑顔だった。

 RaDと解放戦線のメンバーが入れ替わり立ち替わり、彼女の身を案ずる中、ひっそりとラスティが部屋を出た所で、部屋の前にいたミドル・フラットウェルと鉢合わせになった。

 

「居た堪れないのか?」

「はい」

 

 あの歓談とも言える空気にその気がなくとも、まるで責められている様な気分になった。この場にいる資格がないと思い、静かに姿を消そうとしていた。

 帥叔も引き止める気はなく、彼が去ろうとするのを黙って見守っていたが、その進行方向に1人の男が。

 

「おぉ! 貴方はレイヴンの親友ではありませんか! 丁度、よかった。何故か、私だけには彼女が目を覚ましたことを伝えて貰えなくて!」

「いや、それは君の行いに問題があるんじゃ……」

 

 このルビコンに似つかわしくない程に身なりを整えた男。相応の苦労を経た訳ではないので、衣装に着られている様な印象も受けた。口先と幸運だけで全てを乗り切って来たルビコンきってのカス。ノーザークであった。

 

「さぁ、一緒に見舞いに行こう! 人数が多ければ多い程、彼女も喜ぶに違いありません!」

「いや、私は遠慮しておく。同じ病室だから、顔は見飽きられているだろうから」

「そんなことはありません。ささ、行きますよ。というか、私を救うと思ってやれ! 1人で行って『お前来たの?』みたいな顔されたら辛いんですよ!」

「だから、私は」

 

 半ば押し切られる形で病室に踵を返すラスティ達を見ながら、フラットウェルは静かに微笑んでいた。

 

~~

 

 そして、多くの人達と交流をした後のことである。静けさを取り戻した病室に、カーラとドルマヤンが訪れた。

 

「ビジター、調子の方は良さそうだね」

「うん!」

 

 多くの見舞が来たこともあり、強化人間特有の回復力と相まって彼女はほぼ全快状態になっていた。レイヴンは純粋に喜んでいるが、エアはそうでは無い。

 

『サム・ドルマヤン。貴方達が訪れたと言うことは、恐らく今後の身の振り方を聞く為。ですよね?』

「その通りだ。だが、改めて君達には事情を説明せねばならんな」

 

 サム・ドルマヤン。このルビコンにおける抵抗勢力のリーダーであり、誰よりも先にCパルス変異波形と呼ばれる存在との交信に成功した男。故に、コーラルの本質を知っている。

 

「説明?」

「コーラルリリースと呼ばれる物を何処まで知っている?」

『いえ、殆ど何も。抽象的なことしか聞いていないので』

 

 ワード自体は何度も聞いているが、いずれも抽象的すぎて何を行うのかはまるで分らない。ただ、肉体がどうだとか言っていた気はする。

 

「セリアは私達をコーラルの潮流に招きたいと言うことらしい。つまり、我々の肉体を焼き払おうとしているのだ」

『……え?』

「おいおい、随分と物騒な計画を立てている奴がいるもんだね。私達を焼き払って、ルビコンを支配しようって算段かい?」

 

 カーラはジョークがてらに茶化した。それだけ現実味の無い話であったが、半世紀前のアイビスの火と言い、コーラルにはそれらを引き起こすだけのポテンシャルを秘めている。

 

「いや。我々をコーラルの中で生き続ける精神体に仕立て上げたいと言うことらしい。人間の肉体はあまりにも脆弱と言うことでな」

 

 ラスティは自分の体を見下ろした。今回の戦いでも分かったが、人間の肉体は脆い。多少のことで直ぐに使い物にならなくなってしまう。

 

『馬鹿げている。自分のエゴの為に皆を焼き払うなんて』

「彼女はそう思っていないらしい。そうすることで、争いや恐怖から解放しようと考えているらしい。……魅力を感じないわけでは無かった。だが、私1人の判断で賽を投げることは出来なかった」

 

 貧困と飢餓に見舞われているルビコニアンなら魅力的な提案と感じられなくもないだろう。だが、恐怖することも当然だった。

 

『ということは、セリア達はバスキュラープラントを用いて何かを画策しているのでしょうね。ですが、スッラやケイトは何故協力しているのでしょうか?』

「分からん。だが、我々としてはあの施設の存在は好ましくない。排除するつもりでいる。RaDも協力してくれるそうだ」

「何故、RaDが?」

 

 ラスティが問うた。技術者集団のドーザー達と言うことで、彼らにとってもコーラルは魅力的な物だと考えていたが。

 

「私達とウォルターはコーラルを観測する集団『オーバーシアー』に所属しているんだよ。だから、コーラルの怪物である『ルビコニアンデスビートル』が現れた時も駆けつけただろ?」

『アレは利益目的で協力していた訳では無かったんですね』

 

 そもそも、何故彼女達がアイスワーム達の討伐に協力してくれたかは疑問だったが、その時はコーラルを目指す者として納得していた。手に入れてからの、目的はまるで違っていたが。

 

「ウォルター達。『オーバーシアー』と言おうか。彼らは、コーラルは人の手に余る物として処分したがっているようだが、そんなことをされたら生きていけなくなる。バスキュラープラントから吸い上げたコーラルを燃料にして焼き払うと言う過激な案もあったが、反対させて貰った」

「もしも、バスキュラープラントの増築と運用が早ければ、私達もそうせざるを得なかったけれど、ベイラムがチンタラやっているお陰で今の所だと穏便に済ませることは出来そうだ。……ただ、それでもルビコンに残り続けるって懸念はあるけれどね」

 

 コーラルを監視している『オーバーシアー』とルビコニアン達の妥協点が見つかる程度に、事態の進行は緩やかだったらしい。

 

『バタフライエフェクトと言う訳ではないでしょうが、レイヴンがベイラムの損傷を抑えて、アーキバスと対立できる程に戦力を残していたことも大きそうですね』

「そう考えれば、今日の状態は彼女が運んでくれたものなのかもな」

「えへへ」

「私にはビジターのご友人の声が聞こえないから、会話から弾かれている気分だ」

 

 ご友人。という言い方に、エア達は猟犬部隊(ハウンズ)の一員を彷彿とさせて、笑顔を浮かべていた。だが、直ぐに彼らの表情は引き締まった。ドルマヤンが真剣な面持ちで彼女達に尋ねる。

 

「さて、問題はここからだ、レイヴン。君がアーキバスでどんな生活を送って来たかは、エアから聞いている。少なからず思い入れも生まれたことだろう。その上で問いたい、君はどちらに付く?」」

 

 分水嶺だった。ルビコン解放戦線とウォルター達に付くか、アーキバスに付くか? もしも、彼女が攫われることが無ければ前者を取っていただろう。

 だが、今の彼女は知っている。アーキバスにも快く迎え入れてくれた者達が居ること。自分を頼り、大事に思ってくれる人達がいたことを。

 

「一応、ベイラムも残っているけれど。……ま、これに関してはウォルターがちょっと考えているみたいだから除外しとこう。さ、ビジター。どうする? アンタがアーキバスに戻っても、私達は責めたりしない。ここで止めることもしないよ」

 

 カーラの宣言とは裏腹に、ラスティ達は息を呑んでいた。彼女とフロイトに敵対されれば、自分達は太刀打ちできるのだろうか。

 

『レイヴン。貴方が決めて下さい。私は共について行きます』

 

 もしも『オーバーシアー』がコーラルを焼き払うつもりであったのなら、エアはこの選択に対して慎重になっていただろうが、今の所。どちらに付いても自分は存在できる。

 周りの者達が固唾を飲んでいる中、自分だけは立場に翻弄されないという安心感に、若干の罪悪感を覚えてはいた物の。

 

「ビジターにとっても簡単な問題じゃない。直ぐに答えを出す訳には行かないだろうし、考える時間も……」

「私、カーラや皆と一緒に行く」

 

 いつもの様な安請負ではない。彼女なりに考えた故の決定だった。……その割には、少し決断が早かったのを気にして、ラスティが口を出した。

 

「本当にアーキバスに戻らなくても良いんだな? スネイル達とも敵対することになるんだぞ?」

「アーキバスとは戦う。でも、スウィンバーン達は敵じゃない」

「企業と人を分けるか。甘い考えだけれど、ビジターにはそれが出来るだけの力があるからね」

 

 スネイル達と戦うのではない。彼らを従えている企業と戦うと言う意思を見せた。当然、彼らは簡単に分離できる物ではない。

 

「うん。私、スネイルやスウィンバーン達のことも大事だと思っている。でも、ラスティやカーラ達のことも大事に思っている」

 

 瞬間、ラスティは目を伏せた。未だに胸中を占める罪悪感が、彼女から目を背けさせたのだろう。

 

「ビジター、そいつは一番きつい道だよ。悪い企業から解放されました。なんて、簡単な話にはならないからね?」

「それでも」

 

 やる。という意思を感じさせる瞳だった。カーラも結論を分かっていたかのように笑い、ドルマヤンも感慨深げに頷いた。

 

「よっし! そう言うことなら、大手を振って合わせられるね!」

『誰とですか?』

「ウォルター達とだよ。ほら、迎えが来てんだ。行ってやりな」

 

 壁面のパネルにはウォルターを始めとした猟犬部隊(ハウンズ)の面々が映し出されていた。彼らの姿を見たレイヴンは満面の笑みを浮かべながら、着替えを始めた。ラスティとドルマヤンがズッコケた。

 



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依頼65件目:ラミー「パチパチ弾けて幸せ」

 ナイルを除いた猟犬部隊(ハウンズ)とイグアスを引き連れて、ウォルターはグリッド086を訪れていた。そんな彼らの応対に当たった人物はと言えば。

 

「あ? イグアスじゃねぇか。なんで、お前がソイツらと一緒にいるんだ?」

 

 解放戦線のメンバーを表に出す訳には行かず、かと言って、ラミーを始めとして住人の殆どがドーザーなのでやはり応対させるわけには行かない。

 唯一、ノーザークは身綺麗にしていたが、真偽含めたレイヴンに詐欺行為を働いたことがある為、抜擢される訳もなく。消去法で、一番マトモなヴォルタが選出されていた。

 

「お遣いだよ。にしても、お前が応対なんて本当似合わねぇな!」

 

 イグアスとしては軽口を叩いたつもりだったが、ヴォルタは静かに背後を指差した。何事かと思って覗き込んで見れば、中年のドーザーがコーラルを吹かしていた。

 

「ぷぴぴぴぴぴぴぴ」

 

 レイヴンがスパスパ吸っているから忘れがちだが、コーラルは依存性のある危険物である。少女がやっていれば、ギリギリ可愛いで済まされる仕草も中年がやっていたら地獄絵図でしかない。

 脳がパチパチ弾けている連中が跋扈しているのがRaDだと言うことを忘れてはいけない。ヴォルタの方が珍しいのだ。

 

「アイツらに案内して欲しいか?」

「いや、お前に任せるわ」

 

 イグアスとしても正気に戻らざるを得なかった。相棒は隠居などしていなかった、こんな掃きだめみたいな所で常識を保ち続ける為に戦っている。

 住人はドーザーばかりではなく、解放戦線から身を寄せていると女子供の姿もあった。いずれも瘦せ衰えており、物珍しそうにヴォルタ達の方を見ていた。ウォルターが問うた。

 

「コイツらに分配する分の食糧はあるのか?」

「キツイってのが正直なところだ。いきなり食料の搬入量が増えたら、怪しまれるだろ? ノーザークが色々とバカなことやっているお陰で、多少は誤魔化せているけれどよ」

 

 解放戦線から流れ込んで来た者達全員を匿うだけでも、それなりの苦労が必要であり、食料の供給まで含めたら相当に負担も増えているだろう。

 

「どうして、彼らを匿っているのですか?」

 

 反抗勢力を匿っているとなれば、RaDも攻撃される可能性がある。ペイターからすれば、そこまで世話を焼く必要があるかどうかは疑問だった。

 

「解放戦線の中には、匿う程に価値がある奴もいるってことだ」

「……V.Ⅳか?」

「俺の口からは何も言わねぇ。自分の目で確かめな」

 

 ウォルターからの質問に答えることはせず、グリッド内を走るレールを使ってカーラ達の所まで運ばれて行く。無骨な構造物の中に作られた、唯一の応接間らしき場所に彼女達は居た。

 

「ウォルター!!」

 

 真っ先にウォルターに抱き着いたのはレイヴンだった。老体であったとしても、小柄な彼女の体を受け止めることは容易であり、優しく彼女の頭を撫でた。

 部屋内にはRaDの頭領であるカーラ以外にも、解放戦線の幹部達も詰めかけていた。その中にはラスティの姿もあった。

 

「あ? なんで、V.Ⅳがここに居やがる?」

 

 イグアスは疑問符を浮かべていたが、猟犬部隊(ハウンズ)の面々は何処か納得した様な表情をしていた。真っ先に声をかけたのはペイターだった。

 

「まさか、アーキバスを出て以来。味方同士として再会出来るとは! 何かと縁がありますね!」

「そうだな、私も会えて嬉しいよ」

「アレ? 元気ないですね?」

 

ここ等辺は共感性が無くても目敏いペイターのことである。直ぐにラスティが本調子でないことに気付いた。

 

「カーラ。何があったかを聞かせて貰おうか」

「OK。じゃあ、何が起こったかを話そうか」

 

 カーラは手短に説明した。傭兵支援システムであるオールマインドから足が付き、シュナイダー社への監査が入ったこと。

 ラスティがレイヴンを人質に取ってアーキバスからの脱走を図ったこと、V.Ⅰに戦闘不能へと追い込まれたこと、人質であるはずの彼女が代りに戦ってくれたおかげで生き延びたこと。

 

「戦友とか言っていた癖に誘拐した挙句、助けられたとか。ダセェな」

 

 イグアスが率直な感想を述べ、ラスティの表情が固まった。一方、アーキバスの事情に詳しいペイターは驚いていた。

 

「スネイルを懐柔するだけじゃなくて、乗り慣れていない機体でV.Ⅰフロイトを相手に生き延びたんですか。本当に化け物じみていますね」

 

 先程、イグアスの言葉で固まったのを見て、出来るだけ触れない方が良いと判断したのか、ペイターは話題を切り替えていた。

 当のレイヴンはと言うと、見知った顔を見て安心したのか。パイプでコーラルを吸引していた。入り口付近で見た中年と比べて、貫禄すら感じる喫煙ぶりだった。

 

「ご友人が無事だったのは良いとしても、今回の一件でアーキバスは相当に怒っているのでは?」

「実際に奴らは解放戦線の拠点に攻撃を仕掛けて回っている様だね」

 

 カーラが操作すると。壁面のモニタには、強襲艦隊を用いて解放戦線の拠点を攻撃している映像が映し出されていた。効率よく、段取り良く攻められては配備していたMTや防壁が次々と壊滅させられていた。辛うじて、非戦闘員が働いている工場などは襲撃されてはいなかったが。

 ドルマヤンとフラットウェルは淡々と映像を眺めていた。企業が本気で怒った時の攻勢を目に焼き付けていた。

 

「フラットウェル、解放戦線の残り戦力はどれほどだ?」

「このRaDにいる者達位だ。シュナイダー社や関連企業の者達のどれ程が逃げ延びられたことか」

 

 ウォルターは頭を抱えた。同盟を結んだと言うが、彼らの戦力には然して期待は出来なさそうだった。それ所か、アーキバスから狙われているのだからマイナスと言っても良かった。

 

「しかし、なんでBAWSやエルカノの工場に攻撃が仕掛けられてねぇんだ?」

 

 アーキバスの苛烈な攻撃を見たイグアスは率直な感想を言った。これだけの攻撃力があるならBAWSやエルカノを攻撃すれば、解放戦線の戦力を直接削り取ることも出来そうだと。これに対して、口を挟んだのは1317だった。

 

「企業間で工場への攻撃は禁じられているからだ。というか、禁じなければ企業の排除方法として工場襲撃が一般的になってしまう。企業同士としても生産力を落とさない為の条約があるんだ」

 

 もしも、工場への襲撃が一般的になれば働き手が居なくなる。すると、企業の生産力が落ちていく。

 同じ様に報復し合えば、企業での働き手が減る一方なので、摩耗していくだけの状況を避けるために工場への攻撃は基本的に禁止にされている。

 

「だからこそ、BAWSの工場に直接攻撃を仕掛けていた惑星封鎖機構がどれだけ強硬的だったかも分かるが」

 

 ウォルターの補足を受け、1317は目を逸らした。とは言え、工場を機能停止に追い込む方法は幾らでもあるし、今後も使われる事だろう。

 暫くの間、アーキバスは近辺整理とルビコン解放戦線の排除に気を取られてはいるだろうが、それを終えれば本格的にバスキュラープラントの奪還に乗り出す事だろう。

 

「つまり、お前らはレイヴンの保護を手土産にベイラムに保護して貰いたいってことか?」

 

 イグアスとしては、こんな場を設けた理由としてはそれ位しか思い浮かばなかった。そうすると、RaDがルビコン解放戦線を保護している理由が全く分からないが、彼はウォルター達が協定を結んでいることを知らない。

 ここで、カーラが案内役に付けて来たヴォルタに目を遣った。ここに来てから、一言も発していなかった彼が口を開く。

 

「イグアス。お前もベイラムから鞍替えするつもりはねぇか?」

「は?」

 

 唐突に言われても何のことか分からず、イグアスの口から間の抜けた声が漏れ出た。気にせずにヴォルタは続ける。

 

「俺達、RaDはルビコン解放戦線とレイヴン達と組んだんだよ。考えても見ろ。仮にコーラルを吸い上げて、どうすんだ? どうせ、次の戦場に向わされるだけだ。これ以上、ベイラムに付くのも馬鹿らしい。最後に一発デカい花火を打ち上げてやろうぜ」

 

 壁越えの任務で死にかけたヴォルタだからこその意見だった。実際、今後もベイラムに付いて行っても使い捨てられることは目に見えていた。

 もしも、バスキュラープラントが健在であるならば、自分達もアーキバスとの戦争に駆り出される事だろう。これらを防ぐためにバスキュラープラントを破壊すると言う選択肢はない訳では無かった。

 

「ちなみにウチはいつでも人手は募集しているよ!」

 

 カーラの一押しも受けて、イグアスは暫しの思考を経た後、改めて部屋内の面々の顔を見ながら言った。

 

「聞かせろ。テメェら、何するつもりだ?」

「俺達『オーバーシアー』はルビコンのバスキュラープラントを破壊する。ただし、小規模の破壊では直ぐに修繕されるだろう。故に、規模を限定させた『アイビスの火』を行おうと考えている」

 

 アイビスの火。かつて、ルビコンを包んだ死の炎であり、惑星を蝕んだ災害である。灰被りと言われた、当時を生き延びた世代の者達の頬に冷や汗が流れた。そして、改めて計画を話し始めた。

 



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依頼66件目:ベイラム現場「現場の声を聞け!」ベイラム上層部「上層部の苦労も分かれ!!」

 ベイラムグループ。複数の企業から成る巨大企業であり、それだけ多くの思惑が錯綜していた。この会議で話されていることは、ルビコンで接収したバスキュラープラントの取り扱いについてだった。

 ルビコンに押し入ってまで獲得したかったコーラルではあるが、これに関しては連日、紛糾していた。

 

「このまま延伸工事を続けるべきだ! そして、コーラルの生産体制を整えて、新製品の開発に他企業への販売。今まで、投資した資源を考えても十分にペイできる!」

 

 細かい違いはあった物の、概ね彼らは二つに分けられる。

 1つ。バスキュラープラントの延伸工事を続け、コーラルの利権を獲得すべきだという者達。新資源であるコーラルを独占することによって得られる利益は莫大なものになるだろうと見込んだ、積極派。

 

「いや、コーラルに関しては未知の部分も多い。もしも、取り扱いを誤って再びアイビスの火を起こせば、企業の信頼にも関わる。このバスキュラープラントを土産にして、アーキバスと講和を結ぶべきだ」

 

 2つ。バスキュラープラントを条件付きで譲渡して、自分達は身を引くと言う物だ。こちらは今後に掛かる消費を省き、コーラルを持つ限り背負い続ける危険性を放棄することが出来ると言う案を推す消極派。

 

「何を弱気なことを言っている! ここに来るまで、どれだけの損耗があったと思っているんだ!? 何も獲得せずに帰れるか!」

 

 積極派としては、この新資源を用いて作られた画期的な兵器群は魅力的だった。生物兵器としても転用可能なら可能性を考えるならば、専売と研究をしたいと思うのは自然なことだった。

 

「そもそも、惑星封鎖機構が入って来た時から撤退方針で話し合っていたのを、急に転換出来る訳無いだろう! 今も延伸工事を続けている様だが、無駄に資金を使うばかりだ! しかも、今後アーキバスが奪還しに来る可能性だってあるんだぞ!」

 

 消極派が言うことも最もだった。アーキバスはヴェスパー部隊長達を欠いたりもしているが、惑星封鎖機構から押収した兵器群は未だに健在であり、脅威であることには変わりない。

 そもそも、ベイラム全体としては惑星封鎖機構が介入した時点では消極派が多数だった。如何に損耗を抑え、アーキバスとの落し所を探るつもりだったが、想像以上に上手く行った。いや、上手く行ってしまったと言うべきか。

 

「ここまで来たなら態々引く理由もない! こんな幸運、今後もめぐって来るとは限らないんだ。それに、話を聞けばレイヴンの飼い主の確保にも成功しているらしいじゃないか」

 

 レイヴン。通常、上層部の話し合いに現場の者達が持ち出されることは稀だが、ルビコンを舞う鴉だけは別だった。

 壁を越え、惑星封鎖機構を退け、怪異を打ち倒し、迎撃砲台を潰し、ルビコンにおけるコーラル獲得競争を導き続けた存在。状況を揺るがしかねない戦力として、注目しない訳が無かった。

 

「だが、件の鴉はアーキバスに確保されたままなのだろう? 我々に矛を向ける可能性もある。それを良しとして、連中が気勢を上げて攻め込んで来ると言う流れも大いにあり得る。早めに手を打つべきだ」

 

 故に、消極派の意見は無視できるものでは無かった。アーキバスなら、本人の意思を無視しても運用できる術があるのは知っているからだ。

 本格的な反転攻勢を見せる前に、有利な条件で話を付ける。という方向に持って行きたいらしい。

 

「恐れるな! 猟犬にとって飼い主は絶対だ。ミシガンは奴にとって、古くからの友人だと言うそうじゃないか。それだけじゃない、参謀であるG2も長らく奴らと行動を共にしていた! これはもう、レイヴンがベイラムに協力する気があるとしか思えない!」

 

 積極派の意見もまた考慮に値する物だった。レッドガン部隊の参謀と常に行動を続けていたことや、ウォルターがミシガンと懇意であること。……いずれも、レイヴンの意思1つで翻る物だが。

 こうした紛糾が続くことで意思統一がなされず、現場の延伸工事は遅々としたものになって行く。……当然、これを望まない者もいる訳で。会議の資料を出力する為に使われていたモニタの映像が突如として切り替わった。

 

~~

 

「これは、よろしくありませんね」

 

 あらゆるネットワークから情報を収集しているオールマインドからして、現在の状況は好ましくない物だった。グリッド086で行われている会談はバスキュラープラントの破壊を示唆する物であったからだ。

 

「グリッド086を襲撃するか? 今なら、一網打尽に出来るぞ」

『スッラ。私がそれを許すとでも?』

 

 セリアの声は重く沈んだ物だった。ウォルター達の排除は気にすることで無いにしても、ドルマヤンまで巻き添えになるのは許せないらしい。

 

「分からんな。コーラルリリースを経れば、誰もが死ぬのだろう? 少し早く殺すことの何が問題だ」

『コーラルで焼かないと、サムを拾えないの。だから、手出しは駄目よ』

 

 セリアは自らの脅威を示す様にして、エンタングルの火器管制システムに侵入していた。碌に照準を付けられなくなっているのを見て、スッラは鼻で嗤っていた。

 

「今、ここで彼らを襲撃するのは得策ではありません。むしろ、この様子を見届けて貰いましょうか。セリア、力添えを」

『心得ました』

 

 RaDのシステムは強靭の一言である。ルビコンにおける技術者の最先端を走るカーラと彼女が生み出したAIにより構築されたネットワークは、何者の攻撃も侵入も許さず、キッチリと代償を払わせる為のカウンタープログラムまで仕込まれている。

 電子戦におけるキルゾーンとも言える彼女の領域に、オールマインドは立ち入っていた。彼女一人だけなら返り討ちに遭っていただろうが、今は違う。

 

『オールマインド。気を付けて下さい。そのプログラムは解除させる為に仕込まれている物です。解こう物なら、逆ハックされますよ』

「危ない所でした。引き続き、お願いします」

 

 警報を始めとした、ありとあらゆるトラップを潜り抜け侵入した痕跡さえも残さず、見つけさせず。幾重にも仕掛けられた包囲網を潜り抜け、彼女達はウォルター達の会談光景を収めていた。

 

~~

 

「規模を限定したアイビスの火って。どういうことですか? コーラルの発火はコントロールできる物なんですか?」

 

 質問したペイターも、実際の所コーラルと言う物はよく分かっていない。新時代の資源であると言うことや一部兵器にも使われていることは知っているが、性質自体はよく分かっていない。

 

「コーラルには真空状態になると、急激に増殖すると言う特性がある。企業がバスキュラープラントを延伸させるのは、これが目的だ」

「宇宙区間にまで伸ばした後で、吸い上げたコーラルを晒せば一気に数を増やせるからな。だから、惑星封鎖機構は星外へと持ち出すのを禁じた」

 

 ウォルターの説明に1317が補足を加えた。増やす手段があることは分かったが、その為にはバスキュラープラントの延伸を待たねばならない。

 

「ちょっと待てよ。そんなに悠長なことをしている暇はあるのか? 外ではアーキバスの連中も来てんだろ?」

 

 ベイラムの延伸工事が進んでいないのは、イグアスを始めとして多くの者達が知っていることだ。何なら、アーキバスが攻め込んでくる方が早そうだった。

 

「無い。だから、俺達はベイラムと手を組む。その為に621を迎えに来た」

「よろしく!」

 

 話の殆どを理解して無さそうなレイヴンがイグアスにサムズアップをしていた。あまりにもいい笑顔を浮かべる物だから、何となくイラっとして彼女の額にデコピンを食らわせていた。

 

「いたい!」

「一通りの話は聞かせて貰った。ある程度の規模で焼けば、我々の生活も苦しくはなりそうだが、企業達を追い出す為には仕方のないことか。……エアは、同胞とも言えよう者達を焼くことについて何か意義は?」

 

 レイヴン、ブルートゥ、ドルマヤン以外に声が聞こえないと言うこともあって、会話に参加していなかったエアだが、彼に促されて声を上げた。

 

『思うことが無い訳ではありません。同胞達が焼かれること、私達の様な存在が生まれる可能性を潰してしまうことは残念に思います。ですが、私達が利用される環境を無くすことで、改めて共に歩んでいけるなら。この痛みを耐えましょう。今は、1人ではありませんので』

「耳が痛ェ。……ひょっとして俺に気を使って喋ってなかったのか?」

『はい。どうも、強化人間であれば無条件で聞こえる訳ではないので』

「分かった。気遣いを続けてくれ」

 

 エアの声が耳鳴りとして聞こえる為か、イグアスは頭を押さえていた。彼はレイヴンの方やブルートゥの方をチラチラと見ながら、辺りを見回していた。ヴォルタ怪訝な顔をしていた。

 

「おい、イグアス。そんなに痛むのか?」

「なんか。アホ犬とブルートゥだったか? の方を見ると、耳鳴りじゃなくて頭がズキズキするんだよ」

「感じ取れない存在を、無理に感じ取ろうとしている故かもしれませんね。席を外しますか?」

 

 ペイターが心配する程だから、よほど苦しそうな顔をしていたのだろう。イグアスも耐えかねたのか、頷いた。

 

「あぁ。後、もう一つ。なんか居やがる様な――」

「チャティ! 周囲のシステムをダウンさせろ!」

「了解だ。ボス」

 

 真っ先に反応したカーラがチャティに命じて周囲の機器をシャットダウンさせた。何が起きたか分からず多くの者達が混乱する中、幾らか事情を理解している者もいた。

 

「……まさか、セリアが?」

 

 ドルマヤンも事情を聴いていたが、まさかこんなに近くまで来ているとは思っても居なかった。一方でカーラは目の色を変えて作業に打ち込んでいた。

 

「とりあえず、アンタらは早めに戻りな。ここに長居するのは得策じゃない。あぁ、クソッ。どうやって、私達の目から逃れてやがった!」

「そうさせて貰おう。621、戻るぞ」

「うん。じゃあ、またねー」

「では、カーラ。ご健闘を」

 

 カーラの形相も気にしないで、手を振っている彼女とブルートゥ達の様子は煽っている様に見えなくもなかった。セリアのことを聞かされていないイグアスは戸惑いながらも、ウォルター達と共にベイラムの拠点へと戻ることにした。

 



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依頼67件目:表裏一体

 Radから帰還したウォルター達は盛大に歓迎された。アーキバスからレイヴンを取り戻したのだと、現場にいる者達の士気は大いに上がった。更に、朗報はこれだけに終わらなかった。

 

「ウォルター。俺達に付くと言うのは本当か?」

「もはや、個人で立ち回っていても仕方がない。幸い、俺達は歓迎されているようだ。バスキュラープラントも確保できている様だし、ベイラムに付かせて貰う」

「よろしくね」

「そうか。これを知れば、上の連中は泣いて喜ぶぞ!」

 

 ミシガンは多くは言わなかったが、星外にいる上層部へと伝えた。すると、通話口からは上機嫌な返事があった。

 

「分かっていたとも。流石、ハンドラー・ウォルター。趨勢を見極めるのは得意な様だ。貴方共々、手厚くもてなそう! 消極派の連中も直に黙る。総長、必要な資源は逐次送って行こう。期待しているぞ」

 

 まるで、この結果が予め分かっていたかのような言いようだった。直ぐに、ウォルターは一つの可能性が思い当った。カーラ達がいた部屋に潜んでいたという、セリアの存在だ。

 

「(既にリークされているのか? だとしたら、この対応はどうにもおかしい。あるいは、俺達を油断させる為に知らないフリをしているのか)」

 

 経営に携わる者達はいずれも腹芸に長けている。現場のことは知らなくても、損得勘定については決して油断はできない。

 だが、バスキュラープラントは個人で管理できる物ではなく、ベイラムに頼らざるを得ないのが実情だった。

 

「この報せを聞けば、アーキバスの連中はどれほど悔しがるだろうな! 連中もルビコン解放戦線を焼いている場合じゃないと気付くだろう! そうなれば、いよいよ衝突は避けられん! その時まで、やれることは済ませておけ!」

「手伝わなくても良いのか?」

「ただの工事にお前達の手は必要ない!」

 

 ある程度、ウォルター側の事情も察してくれている様な裁量だった。ミシガンだからこその裁量と考えても良さそうだった。上層部としては雁字搦めにしておきたくはあるだろうが。

 アーキバスの時と違い、レイヴンは拘束具の類は一切付けられていない。速やかに検査は行われたが、体内に発信機の類なども見つからなかった。

 

「いやー。G2は未だに忙しいですが、これでようやく猟犬部隊(ハウンズ)再結成ですね! レイヴン。向こうではどうでしたか? あのハゲに酷いことされませんでしたか?」

 

 久々の再会がてらに、ペイターがいつもの様に痛罵を吐いていたが、レイヴンは不快感を顕にしていた。

 

「ペイター、その言い方。よくない」

「え、あ、はい」

 

 いつも愉快そうにしている彼女ではあるが、キチンと怒りの琴線も存在している。以前、ハゲの歌を熱唱していた時は大爆笑していたので、大丈夫かと思っていたペイターとしては、完全に予想外だった。

 出鼻を挫かれたペイターが間の悪さを誤魔化すべく、チラリとブルートゥの方へと視線を向けた。

 

「ご友人。誰とでも仲良くしようとする心は素晴らしい物です。きっと、V.Ⅱとも良好な関係を築いていたのでしょう。よろしければ、お話を聞かせて貰えませんか?」

「良いよ!」

 

 一転して、彼女に満面の笑顔が咲いた。そして、彼女は話し始めた。

 アーキバス内では大抵スネイルと一緒にいたこと。上層部や役員との対応にも同行して、色々と聞かれたこと。

 

『そのせいでシュナイダー社は探りを入れられて摘発されていましたが……』

 

 エアによる修正や矯正もあったが、何も知らなければ不自然過ぎるので敢えて喋らせていたことも多々あった。そもそも、口止めする前に彼女が口に出してしまうことも多かったが。

 

「スネイルの部屋で一緒にご飯食べたり、色々と話をしたりしてね。それと、毛髪再生局の人達も優しかった!」

「私の事とか話していましたか?」

 

 もはや殺意の域でやり取りをしているペイターではあるが、実際の所。どう思われているのかは、やはり気になっていた。

 

「次会ったら、必ず殺す。って言っていた」

「ッチ。先、殺しときゃ良かった」

「可哀想なお友達。貴方にご友人の様な優しさが少しでも身に付いていれば」

 

 殺人未遂までかまして来たんだから、ある種当然の返事ではあった。

 ただ、疑心暗鬼。猜疑心の塊とも言えるスネイルが、彼女を重用していた様子は伝わって来た。これは単に能力の高さだけではなく、彼女の人柄も含めてのことだったのだろう。故に、ペイターは意地の悪い質問をした。

 

「そこまで仲が良くても、V.Ⅳの方が大切だったと?」

「ううん。どっちも大事。今も同じ」

 

 状況がラスティを助ける選択肢を取らせただけであり、彼女にとってはどちらも同じ位に大事な人間だった。だからこそ、ブルートゥは彼女の優しさに感心すると同時に不安を覚えざるを得なかった。

 

「ご友人、貴方の優しさは素晴らしい物です。……ですが、時に築き上げた親交は、距離を開けてしまった時に容易に転じてしまう物です」

 

 それはRaDから距離を取り、カーラから排除依頼までされた彼だからこそ、実感を持って注意できることであった。そのことに、ほんの少しレイヴンの表情が陰った。

 

~~

 

 ベイラムの気勢は対立企業であるアーキバスにも伝わっていた。即ち、レイヴンがベイラムに奪還されたことが判明していた。

 すっかり、空席の目立つようになったヴェスパー部隊長達の会議場。臓腑が潰されかねない程、重苦しい空気の中。スネイルが口を開いた。

 

「ルビコン解放戦線の連中は、レイヴンをベイラムに引き渡した訳ですか。概ね、命乞いと言った所でしょうか」

「可能性としては、そんな所でしょう」

 

 スウィンバーンも言葉を選びながら相槌を打っていた。ほんの少しのヘマで、破裂しかねない程にスネイルは不機嫌だった。

 モニタにはルビコンの勢力図が映し出されていたが、解放戦線の拠点は全て潰され、ベイラムとアーキバスと二分される形になっていた。

 

「バスキュラープラントの延伸工事は奴らにやらせましょう。成果が出始めた所で掠め取ってしまえば良い。このルビコンに蔓延る奴らの拠点を潰して行く。幸い、ファクトリーは順調に稼働しています。アーキバスの兵力を使う必要はありません」

 

 ファクトリーが順調に稼働している。という文言から、捕らえられた解放戦線の兵士や査察に入った企業の関係者達は、人間性を消された上で機体のパーツに加工されてしまったのだろう。

 ベイラムの物量で押し潰す為の対策としては、あまりにも外道であり、スネイルの尋常ならざる怒りが伝わって来た。

 

「スネイル。あまり、外道に身を落とし過ぎるな。戻れなくなるぞ」

 

 流石に、彼の所業に対して思うことがあったのかオキーフが戒めた。だが、スネイルは悪びれた様子も無かった。

 

「土人共の扱いとしては上等でしょう? 飢えて干からびるだけの虫けら共が楯突いて来たのです。踏み潰してやる所を有効に活用しているのですから。そう言えば、V.Ⅲ。貴方は裏切り者と仲が良かったですね?」

 

 彼の眉間には青筋が浮かんでいた。もはや、言葉は届きそうになかった。スウィンバーンもホーキンスも余計なことは言わなかった。

 

「ヴェスパー部隊長達、それぞれに無人機達を付けます。ベイラムの拠点の制圧に乗り出して下さい。ちなみに、使い潰してくれても構いません」

「分かった。こちらで適宜運用させて貰おう」

 

 ホーキンスは淡々と述べると席を立った。オキーフも同じ様にして去って行く。誰もがスネイルから距離を取っている中、スウィンバーンだけが最後まで残っていた。

 

「閣下は、あの娘がこんな所業を望んでいるとお思いですか?」

 

 もしも、V.Ⅶを知る人物がこの光景を見たら驚愕していたことだろう。普段、スネイルに媚びへつらっている彼が口答えをしたのだから。瞬間、スウィンバーンの頭部に鈍い痛みが走った。ガシャンと音を立ててグラスが砕けた。

 

「貴様も、私を裏切るつもりか!?」

「貴方を裏切ろうと考えたことはありません! 苛烈で冷酷ではありますが、貴方の慧眼は尊敬していました! だが、今の閣下は怒りに身を任せているだけの様にしか思えないのです! あの娘が奪われたことがショックなら! いつもの様に! あの娘を取り戻す為の神算鬼謀を御教授くださいよ! こんな、関係者に八つ当たりするだけの下策ではなく!!」

 

 後半は歯の根が噛み合っていなかったが、それでもスウィンバーンは咆えた。常識や倫理観に基づいた発言なら、スネイルはマトモに聞こうともしなかっただろう。

 だが、彼の言葉には畏敬が籠っていた。スネイルへの確かな信頼があるからこそ、現状の彼が許せないという憤りがあった。

 

「口答えをするな! さっさと行け!!」

「閣下!!」

 

 これ以上、話をするつもりはないと言わんばかりにスネイルは出て行った。去って行く背中を追いかけるだけの気概は、スウィンバーンには残っていなかった。

 



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依頼68件目:チャティ「ボス。当たり前のようにいるが、コイツもRaDの一員なのか?」ノーザーク「え?」

 解放戦線を潰した後に繰り広げられるのは、必然的にベイラムとの対峙である。惑星封鎖機構から押収した兵器の数々に加えて、大量の捕虜を獲得したアーキバスは、欠員したヴェスパー部隊長達を補って余りある戦力を手に入れていた。無人機達はその代表と言っても良い。

 

「アーキバスの連中が来たぞ!」

 

 ベイラムの拠点の一つ『壁』。もはや、どの勢力が何度取り返しては奪われ手を繰り返したかも分からない場所。

 V.Ⅲの愛機バレンフラワーに率いられた無人機を主力にした部隊とベイラムの守備部隊による攻防が繰り広げられていた。

 

「コイツら。無人機か!」

 

 守備部隊はACもMTも『SG-027 ZIMMERMAN』を握っており、物量を活かした攻撃で無人機達を破壊していくが、彼らはまるで被弾や死を恐れずに突っ込んで来る。時には機能停止した仲間を盾の様に用いながら、捨て身同然の攻撃を前に守備部隊は次々と撃破されて行く。

 その中で、脱出したパイロットの1人が機能停止に追い込まれた無人機に近付いた。少しでも次の戦いに貢献するべく、情報を得ようとしていた。

 各所が破損しており、誘爆の可能性も否めないが、戦闘後には回収されてしまうことも考えて、データを持ち帰るなら今しかないと考えた。機体の前面部分は破損しており、多少の工作で開けることが出来た。

 

「……え?」

 

 現れたのは予想していなかった物だった。機体を動かす為のパーツだけが詰まっているかと思っていたが、そこは従来のMTと変わらないコックピットの空間になっていた。

 だが、それもパーツと言えたのかもしれない。寸断された四肢の先端はケーブルに繋がれており、頭部に被せられたヘルメットからも大量のケーブルが伸びていた。機体を動かす為のCPUとしての有機物がそこにあった。

 

「狂ってやがる……」

 

 どれだけ合理主義に染まれば、ここまでの外道が行えると言うのか。

 敵対していた存在ではあったが、目の前の存在を憐れんだのか。男は拳銃の引き金を引いた。乾いた音がして、CPUとなっていた有機物は活動を停止させた。

 脱出しようとした所で、無人機達がこちらに向かって来るのが見えた。自らの末路を予想して脂汗が噴出したが、無人機達の前に四脚ACが降り立った。

 

「壁の内部を攻めろ。ここには何もない」

 

 隊長格と思しき者の命令を受けて、無人機達は壁の内部へと進んで行った。四脚のACは、機能を停止させた無人機の方を一瞥した後、自らも壁の内部へと向かった。

 

「(もしかして、助けてくれたのか)」

 

 真偽の程は分からないが、脱出したパイロットは予め決められていた合流地点に向かって走り始めた。

 

~~

 

 アーキバスの攻勢はグリッド086にも及んでいた。元より、ストライダーの供給の件と言い、ルビコン解放戦線にも協力していることから快くは思われていなかったらしい。ルビコニアン達を一掃せんとする、企業の敵意がありありと伝わって来た。

 

「恐らく、我々を匿っていることを察したのだろう」

 

 フラットウェルの推測通りだった。ここまで解放戦線の拠点を潰したというのに、幹部や重鎮が捕まっていなければ、何処かに匿われていると思うのが普通だろう。RaDには疑われる要素が十分にあった。

 

「多分、アンタらを追い出した所で攻撃は続けられるだろうね。ウチはエルカノやBAWSと違って、企業と言うには微妙な所だし」

 

 工場への攻撃は企業同士の泥沼化を避けるために忌避される傾向はあるが、ここは企業と呼んでいいか微妙な場所だった。

 カーラの言葉に反応したのか、ルビコン解放戦線の面々もドーザー達にも不安が走る。徹底抗戦した所で勝ち目はない。

 

「か、カーラの姐さん! 何か起死回生の策はないんですか!?」

「当たり前の様に一員ヅラをしているが、独立傭兵であるならば、逃げればいいのでは?」

 

 半ば狂乱状態に陥ったノーザークが縋る様な声でカーラに助けを求めていた。そんな彼に対してチャティが冷静な指摘をしていた。

 

「チャティ、こうなったらコイツも私らの一員だ。ちょっと働いて貰おうか」

「え? ま、まさか! 私を対アーキバスの先鋒に!?」

「お前なんか動く的にしかならねぇよ」

 

 カーラからの要請にノーザークが慌てふためき、ヴォルタが吐き捨てるように言った。

 実際、ノーザークのパイロットとしての技量は高くはなく、アーキバスとの戦いに出した所で碌な活躍は期待できないだろう。何なら、背後から味方を撃ちかねない気さえした。

 

「ちょいと重要な物を回収しに行くんだ。少しでも戦える奴が欲しい。それと、非戦闘員達を運ぶ準備もしときな。引っ越すからね」

「グリッド086以外に場所があるのか?」

 

 インデックス・ダナムはグリッドの構造を始めとした事情に詳しい。多くのグリッドが打ち捨てられている中、この086は数少ない居住にも耐え得る場所だった。ここを捨てて、次の場所が直ぐに見つかるとは思えなかったが。

 

「ある。場所は洋上都市ザイレムだ」

「ザイレム? あの場所に何があるというのだ?」

「以前に訪れた時は、無人機達がいたが」

 

 実際に、あの場所へと向かったことのあるドルマヤンとリング・フレディとしては、引っ越し先に適しているとは思わなかった。

 

「それ以外にもとびっきりの物があるんだよ。先んじて、確保するために護衛が欲しいんだ。アーキバスと戦うよりはマシだろ?」

「えっと、つまり。動かしても問題ない程度の戦力を使いたいってコト?」

 

 ツィイーが不安げに声を上げた。インビンシブル・ラミーやヴォルタは襲撃に来る無人機達を撃破しているし、ラスティも機体の外装をカムフラージュしたオルトゥスを用いて迎撃に当たっている。

 ドルマヤンやフラットウェルも兵士達の士気を下げたりしない為にも重要だし、リング・フレディも六文銭も護衛として必要な存在だった。つまり、カーラの言うザイレム確保は『あまり』で行う必要があった。

 

「待ってくれ! ツィイーは実戦経験も少ないんだ!」

「でも、ACを動かせるなら数少ない戦力だ。ダナム、アンタも戦力としては微妙だから、そっち方面で動いてくれ」

 

 アーシルの抗議を跳ね除けて、カーラはツィイーとダナムの二人を指名した。いずれもアリーナ下位であり、戦力としてはあまりにも心許なかった。

 

「良いだろう! 俺に出来ることがあるならば、従うぞ!」

 

 十分なやる気に対して、全くパイロットとしての技量が追い付いていないことに、フラットウェルは何とも言えない表情をしていた。

 一方で、思いっきり不満な表情をしていたのはノーザークである。カーラが向かわせる先に何もない訳がない。

 

「ね、姐さん。後1人位、付けて貰えませんか? そう。例えば、レイヴンとか! 彼女がいれば100人力ですよ!! というか、彼女だけ向かわせればよくないですか!?」

 

 言外に、この2人では頼りにならないと言っているも同然だった。これに対して、抗議の声を上げたのはツィイーであった。

 

「先日も迷惑を掛けたばかりなのに? というか、彼女の機体ってアーキバスに拿捕されたままじゃ?」

「だから、私も協力の要請は諦めていたんだけれど。まぁ、直接動く奴が言うんなら、連絡位は入れてやるか」

 

~~

 

「621。仕事の時間だ。カーラから調査依頼が入っている」

 

 ベイラム基地内。シミュレーターを用いて、ペイターと新機体の訓練に励んでいた所に、ウォルターが仕事を持って来ていた。

 

「こんな時期に調査依頼とは、暢気ですねぇ」

 

 ペイターが軽口を叩いていたが、勿論これは本心ではない。むしろ、こんな時期の依頼が重要でない訳がない。

 

「え? 何処の?」

「ザイレムだ。以前も調査に訪れたことがあるだろう?」

 

 あの時は、徘徊していたドルマヤンの保護も同時に頼まれていたが、またも赴くことになるのかと。

 

「ベイラムから許可は出るんですか?」

「直接、アーキバスと交戦したりするわけでは無いから問題ない。それに、新しい機体の慣らしも必要だ」

 

 レイヴンが今までに使っていた機体はアーキバスに拿捕されたままだ。ベイラムで新たに機体を組んだが、シミュレーターで動かすのと実際に動かすのはまた別物である。

 強化人間である彼女ならば、習熟に多くの時間は必要としないだろうが、それでも慣らしは必要だった。

 

「行くー!」

「分かった。では、今から向かってくれ」

「うん!」

 

 いつも通り、二つ返事で引き受けて彼女は格納庫へと走って行った。ルビコン内では、ベイラムとアーキバスの苛烈な戦闘が続いている。

 

「……私達の出番も、もう少ししたら。ですかね?」

「恐らくはな。場所がザイレムとなるなら、尚更」

 

 先んじてカーラ達が一手を打ったのだろう。願わくば、これらの動きがアーキバスに悟られないことを祈りつつ、ウォルター達は通信室に移動していた。

 



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依頼69件目:焦燥

 アーキバスによるベイラムへの攻撃は概ね順調だった。機動力では勝る物の決定力に欠けるLCの相性補完として、無人機はよく働いていた。

 その中身に関しては、一般隊員達は仔細を知らないにしても黒い噂程度には知っていた。何せ、捕縛した捕虜たちが何処へと消えているのだから。

 

「なんだか、スネイル閣下。人が変わったみたいだよな」

「あぁ。レイヴンが居た頃は、よく皆の前に姿を現していたのに」

 

 そして、これらを指揮しているスネイルの変容ぶりもまた噂になっていた。

 レイヴンを従えていた頃は、隊員達の前にもよく顔を出していたのだが、最近はめっきり姿を見せなくなっていた。

 

「ねぇ、スウィンバーン。どう思う?」

「良くはありませんな」

 

 交戦が始まったことで食堂内の空気もピリ付いている中。ホーキンスとスウィンバーンは向かい合わせで食事を取っていた。先日までの和やかさが嘘のようだった。

 

「ベイラムの攻略は順調だ。RaDには少してこずっているけれど、本格的に攻めれば落とすのに時間は掛からないだろうしね」

「あの無人機共を使ってですか?」

 

 スウィンバーンは思い出していた。ベイラムの拠点を攻略する際、死も恐れずに突撃していく無人機達の空恐ろしさを。アレは決して勇敢などでは無い。ホーキンスもその辺りを理解しているのか、諦観の混じった返答をした。

 

「ロクでもない物だけれど、役に立つのは確かだ。部隊の損耗も避けられる」

「合理的であるのかもしれませんが、私は賛同しかねます」

「それでいい。あんな物が賛同されるようになれば、世も末だ」

 

 正に、その末で先陣に立って指揮をしているのが自分達であるのだが。気が滅入る話ばかりだったので、スウィンバーンは無理やりに話題を切り替えた。

 

「あの娘は、どの戦場にも姿を現していないのですか?」

「少なくとも今の所はね。というか、もしも報告が上がっていればスネイルが真っ先に動くだろうしね」

 

 彼女の機体は未だにアーキバスの格納庫に保管されている。交戦記録や機体の挙動に関するデータは豊富にあったが、彼女の飼い主であるウォルターや背後関係に関するデータは殆ど入っていなかった。

 ベイラムからすればイコンの様な存在であり、戦場に解き放てば縦横無尽の活躍をするだろうが、その様な真似はさせていなかった。思いつく理由は幾つもある。

 

「まず、単純にあの娘が動かせる機体が無いと言うことでしょうな。どんな機体でも動かせることと、任務を遂行できることは別ですから」

 

 彼女と交戦経験のあるスウィンバーンはこの様な推測を立てていた。彼女は軽量~中量機体の使い手であり、機体の挙動も相まってかなり慎重な調整が必要な物だと考えていた。

 

「もしくは、飼い主であるウォルターの考えがあって動かさずにいるのか。少なくとも、ベイラムとしては動かさない理由が思い浮かばないよね」

 

 ホーキンスからしてもベイラムが動かさない理由が、スウィンバーンの述べた理由以外にはこれ位しか思い浮かばなかった。損失を恐れて後ろに下げているとすれば、あまりにも愚かな判断だからだ。

 

「あるいは秘密裏に動いているのかもしれないな」

 

 突如として割り込んで来たオキーフに、2人は小さく驚いていた。ただでさえテンションの低い彼だが、連日の出撃で更にテンションが低くなっていた。

 

「秘密裏に何をすると言うんだ?」

 

 スウィンバーンの知る限りでは、アーキバスへの破壊工作などは確認されていないし、そもそもレイヴンは戦場で戦わせた方が効果的に活躍するはずだった。

 

「ベイラムの思惑で動くのではない。ホーキンスも言っていた様に、ウォルターの考えで何かしら動いているのかもしれん。ここ数日、RaDにも不審な動きが見られる」

 

 オキーフの調査資料にはここ数日のRaDの動きが載っていた。一部の機体が逃走していた。その中には、カスでお馴染みのノーザークも居た。

 

「不審と言うか、当然な動きの気もするが。我々の攻勢を見て怖気づいたのだろう。特に不義理の体現者であり、不誠実を人間の形にしたが如き独立傭兵が真っ先に逃げることは自然なことでは?」

「君、ノーザークに何かされた?」

 

 スウィンバーンの辛辣な評価は兎も角、ホーキンスからしても不自然な動きとは思えなかった。戦局が悪くなり、脱走兵が現れると言うのは至極当然な流れだったからだ。

 

「問題はこいつらが向かった先だ。基本的にはバラバラに逃げているんだが、ノーザークと数機がザイレム方面に向かって逃走している。……一体、こいつらは何が目的で?」

 

 逃走先にしても奇妙な場所だった。アーキバスとしては戦略的な価値の低さから、殆ど触っていなかっただけに。そんな所に向おうとする連中の挙動が気になった。

 

「では、この動きにレイヴンも来ると?」

「かもしれない。かつて、彼女はザイレムに訪れたこともあったらしい。そこで何かを知ったのかもな」

 

 全ては推測に過ぎない。今はベイラムと交戦中であり、そんな場所に向かう余裕がある訳もない。ある訳も無いのだが。

 

「どうにかして、向かえないだろうか?」

「難しいと思うよ。ヴェスパー部隊長がそんなことをしている余裕はないだろうしね。私も次に攻める場所が決まったし」

 

 スウィンバーンが口籠った。ホーキンスの手が空いている訳もなく、自分もまたいつ任務が来るかも分からない状態だ。オキーフの方を見るが、彼も首を横に振った。

 

「俺はV.Ⅰと共にRaDの攻略に当てられている。防衛機の中に異常に強い奴がいるらしい。ソイツは軽量機の使い手だそうだ」

「まさか、それは」

「まだ、誰かは分からない。だから、フロイトと共に行く。……だが、情報は少しでも欲しい。スウィンバーン。お前はRaDから脱走したノーザークの確保に向って欲しい」

「私が?」

「仮にでも相手はアリーナのランカーだ。過去にヨルゲン燃料基地でスカベンジャー達を煽動した危険人物でもある。一般の隊員を向かわせるわけには行かないからな。フロイトを随伴させるほどの任務だ。スネイルの許可も下りるだろう」

 

 ノーザークの評価としては過大な気もするが、確認をしに行く為にはこれだけ大仰にする必要があった。スウィンバーンが頷く。

 

「分かった。その任務、私が行こう」

「今回の任務はそんなに多くの機体を連れて行けない。LC数機だけで向かうことになるだろうが、頼んだぞ」

 

 形としては秘密裏の捕縛任務と言うことになる故である。すっかり冷めたレーションを頬張りながらも、スウィンバーンの中には熱い決意が滾っていた。

 

「(レイヴン。アーキバスの為にも、閣下の為にも。帰って来て貰うぞ)」

 

~~

 

 ザイレムへと向かうことが決定したレイヴンに配備された機体は、以前と同じ様に両手に『SG-027 ZIMMERMAN』を装備させた物だったが、幾らか違っていた。

 

「ちょっと重い」

「ベイラム内のドッグを利用することもあって、ベイラム関係のパーツしか使わせて貰えない様になっていた。連中の広報も含めてのことだろう」

 

 ウォルターの恐れていたことの一つだった。企業に所属することで機体の構成が著しく縛られることがある。

 レイヴンの機体構成は、シュナイダー社の物を始めとした軽量の物を好んでいるが、今は純正の『MELANDER C3』を使っていた。ベイラムの傑作機と言える『MELANDER』のカスタムモデルである。

 

「そんなに重いか? 普段、軽量~中量位を普段は使っているんだろ?」

 

イグアスからすれば見慣れたアセンブルであり、言うほど重さと言う物を感じたことはないが、レイヴンは違っていたらしい。

 

「中量と言っても、殆ど軽量の中量だがな。本来なら、全力のコンディションで挑ませたいが」

 

 今後のことを考えると、ベイラムから信頼を得ることは重要だ。故に、この機体にも慣れていく必要がある。ウォルターとしても気が進まないが、バスキュラープラントの延伸は企業の力に頼るしかない為、致し方ないことだった。

 

「ん、頑張る」

 

 夜間。幾分か静まり返っている中、レイヴンを乗せた『MELANDER C3』はザイレムを目指して進んでいた。昼間の喧騒が嘘の様に静かな中、エアがレイヴンに語り掛けた。

 

『ザイレム。何かと謎が多く残る場所ですが、あの時の調査で見つからなかった物が何か見つかるのでしょうか?』

「何が見つかるかな?」

 

 稼働していた無人機体達はいずれも見たことが無い物ばかりだった。後で、RaDに調査して貰った所。技研製の物だと言うことが分かり、あの場所が技研と関係のある場所だと言うことは判明していたが、それ以上は分からなかった。

 

『分かりません。ただ、以前にドルマヤンがこの技研都市で『IA-C01G: AORTA』ジェネレーターを見つけたと言っていました。コーラル技術の結晶とも言える様な代物が見つかった場所です。まだ、何かがありそうな気がしますね』

「見つかると良いね!」

 

 もしも、見つかったとすれば。それは、コーラル獲得競争を更に過激化させかねない代物なのだろうが、どういう訳か彼女が手にすればそんなことが起きないような気もした。

 

『えぇ、そうですね。レイヴン、目的地に到着するまではまだ時間があります。敵影も見つかりませんし、もう少しだけ話をしても良いですか? 最近、いつも周りに誰かが居て、こうして話せることがありませんでしたから』

「いいよ!」

 

 他愛のない話をしながら、機体は彼女達を運んでいく。ザイレム、技研と密接な関係のある場所に何があるのか。調査を依頼したカーラは何を期待しているのか、今は何も分からないが。ひとまずはこの歓談に耽ろうと、エアは暫し話を続けていた。

 



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依頼70件目:再会

 洋上都市ザイレム。かつて、惑星委封鎖機構によって閉じられていた場所であり、未だに調査の及んでいない場所が残るエリアである。

 今は霧も掛かっておらず、訪れた当初に受けた歓迎を考えれば、嫌になる程に静かだった。純正の『MELANDER C3』に乗ったレイヴンは、先に来ているメンツとの合流を目指して進んでいた。

 

『防衛機体達は撤去されていますね。カーラ達が回収したのでしょうか?』

 

 『ゴースト』の件と言い、彼女はレイヴンが遭遇した無人機達を回収しては運用している。未知の兵器である彼らを直ぐに再利用できる程の技術力は、彼女が『オーバーシアー』に所属しているからだろうか。

 ともすれば、この洋上都市の仔細についても彼女は知っているのかもしれない。問題は、その上で何をさせようと言うことなのだが。

 

『調査と言う目的はあまりにも曖昧です。ベイラムの検閲を避ける為かもしれませんが』

「建物だ」

 

 調査と言われたので、調べる素振りを見せたレイヴンの口からは一つも情報量が無いワードが紡がれていた。代わりにエアが周囲を探索していた。

 この都市に残った施設は未だに稼働しているが、一体何の為に稼働しているか。そもそも、何処から電源が来ているのかもサッパリだった。

 

『何故、この都市は今も稼働中なのでしょうか?』

 

 惰性で動き続けているだけとは思えない。一体、何を目的として通電しているのだろうか? 近場の建物にアクセスしても大した情報は得られない。エアが調査をしている間、レイヴンは頻りに周囲を見渡していた。

 

「エア、今呼んだ?」

『いえ。何か聞こえたのですか?』

「うん。呼ばれた様な気がして」

 

 普段から、コーラルを吸引しているが故の幻聴と切り捨てる訳にはいかない。ここはドルマヤンのアストヒクに使われている、コーラルジェネレーターが発見された場所なのだ。そう言った施設や、何かしらの遺物があるかもしれない。

 

『この地点のポイントをマーキングしておきます。メンバーと合流してから、調査を進めましょう』

「分かった」

 

 単独調査ならば深入りも出来ただろうが、合流する予定を勝手に崩す訳には行かない。そうして、目的地へと向かっているとエアから制動が掛かった。

 

『待って下さい。この先で交戦が行われています』

 

 レーダーには数機分の反応があり、いずれも既知の機体ばかりだった。ビタープロミス、バーンピカクス、ユエユー。ノーザーク達が駆るACであり、彼らは何者かによって攻撃されていた。

 攻撃している側の機体編成はLCが数機。そして、彼らを率いている四脚ACのガイダンスだった。この機体を用いるパイロットを、彼女達はよく知っている。

 

『V.Ⅶがどうしてこの様な所に?』

 

 現在、アーキバスがベイラムとRaDと交戦していることは周知の事実であり、こんな所に派遣している余裕などある筈がない。

 もしも、されているとすればここがそれだけ重要な拠点なのか。と考えた時、ふとエアはもう一つの事情に思いあたった。

 

「助けに行くよ!」

『……はい!』

 

 ひょっとして、この状況を作り出すことで自分達を誘き出そうとしているのではないか? アーキバスやスネイルが、どれだけ彼女に執着していたかをエアはよく知っている。

 ここに派遣されたのがスウィンバーンであることがなお引っ掛かっていたが、レイヴンの実力ならどうにでも出来るだろうと考えて、彼女は引き止める真似はしなかった。

 

~~

 

 レイヴンが訪れるよりも前。解放戦線の面々は愕然としていた。本来、このミッションはレイヴンと合流して無人都市を調査する物であり戦闘は予想していなかった。だと言うのに、何故かV.Ⅶが現れたのだ。

 

「貴様らはRaDの連中だな。こんな所に何の用だ?」

「た、助けて下さい! 私は争いに巻き込まれたくなくて逃げて来ました! こっちの二人も同じです!」

 

 すかさず、ノーザークが助命を請うた。あまりにも見事な命乞いにツィイーが処世術の一環を垣間見て、多少の感心を覚えていた。秘匿回線で更に通信が入って来た。

 

「何をしているんですか! 貴方も必死に命乞いをなさい!!」

 

 間違っちゃいないんだけれど。何か腑に落ちない指導だった。とは言え、こちら側の機体は装備に乏しい。

 持っているだけ無駄だと。ユエユーが両手に装備していた『IRIDIUM』は取り上げられ、手には破砕用のハンマーが握られているだけだった。これは、ダナムのバーンピカクスも同じだった。

 

「そ、そうなんだ。私も巻き込まれるのは御免で」

 

 言っていて、心がチクチクと痛んだ。アレだけ可愛がってくれた皆を見捨てて逃げるなんてことは、嘘でも言いたくはなかった。

 だが、アーキバスの正式パイロットと戦って勝てる訳がない。生き残るためには仕方ないと、ツィイーが本心を押し殺して吐いた手前のことである。

 

「こんな所に来るとは! アーキバスは随分と余裕な様だな!」

 

 清廉な烈士であるダナムは己の心に嘘を付くことなど出来るはずもなかった。ハンマーを突き出しながら意気揚々と煽る彼に対して、スウィンバーンは嘲笑を持って応えた。

 

「そうだな。お前達の様な敗残兵に声を掛ける程度には余裕も常識もあるのが、アーキバスだ。逃走をするにしても方角を間違えているぞ? こんな所に何の用だ?」

「いや、ここなら戦いに巻き込まれないと思いまして!」

 

 ノーザークが窓口に立って必死に命乞いをしている傍ら、ダナムに『黙れボケ』と通信を入れていた。普段の慇懃無礼さすら失せる本音が飛び出していた。

 下手なことを喋れば怪しまれると思って口を閉ざしたツィイーは賢明だった。ダナムもノーザークに任せるのが適任だと思ったのか、激情家の彼にしては珍しく自重していた。

 

「なるほどな。ここに来る者は少ないからな。よし、私は寛大だ。貴様らをアーキバスで保護してやってもいい。ただし、情報を吐いて貰ってからだ」

「はい! 何でも言います!」

「ん? 今、何でも言うと言ったな。では、聞きたいことは3つ。解放戦線はRaDに匿われているのか? そして、迎撃に出ているあの軽量機体の主はラスティなのか?」

 

 いずれも本当のことを話せば、RaDへの攻撃が本格化されかねない物だ。だが、これに関してノーザークはスラスラと答えた。

 

「いえ、知らないです! 私は外部でスカベンジャーを導いていたので、RaDの現状を知らないんです! 偶々、帰って来たらドンパチしているのが見えて逃げて来ただけで!」

 

 よくもこんなにスラスラと出て来るな。と感心していたが、ツィイー達に関してはそうはいかない。彼女達は正式な解放戦線のメンバーなので知らないという言い訳は通じない。

 

「あの機体に乗っている奴はレオンって奴で、ラスティなんて奴は知らないよ!」

「そうだ! それに俺達がRaDに居たのはグリッドの修繕作業をしているに過ぎない。俺が職工だったのは、オールマインドが開示している情報にも載っているだろう?」

 

 拠点を失った解放戦線のメンバーがRaDで働いているだけ。と言うことらしいが、納得するかどうかは別だった。

 

「なるほどな。修繕作業をしている連中が機体を持ちだして、我々に抵抗していると? 随分とアグレッシブだな。何かやましいことでもあるのか?」

 

 だが、内情はどうあれ防衛の為に戦力を出したという事実には変わりない。敵対の意思を見せた以上、スウィンバーンも容赦をするつもりはないようだった。

 

「そ、そんな解放戦線の融通の利かなさに呆れて逃げ出して来たのです! 一部の連中は抵抗を続けるつもりの様ですが、この通り。我々は脱走して来ました。だから、戦うつもりはありません」

「なるほど。腰抜けとは批難せんよ。貴様らが賢明を装って、同志を裏切る薄情者だとしても興味はない。では、最後の質問だ―――レイヴンをベイラムに引き渡したのは貴様らか?」

 

 今までの嘲笑と余裕を兼ねた様子から、一瞬で敵意が籠った。これには流石にノーザークも言葉に詰まった。少しの時間を置いて、相手の機嫌を確かめるようにゆっくりと言葉を繋いだ。

 

「私にはどういった遣り取りがあったかは知りません。ただ、気づけばRaDから去っていた。というのが、私の知る限りです」

「……そうか。あの娘らしいな」

 

 先程の緊迫感から一瞬だけ気が緩んだ所で、スウィンバーンは随伴機達に命じ、狙撃銃を構えさせた。

 

「そんな! 正直に話せば、助けてくれるのでは!?」

「その為には武装解除をして、機体から降りろ。それが最低条件だ。戦うつもりはないのだろう? 何を躊躇う?」

 

 機体から降りた後は拘束されるのは目に見えている。そして、現在のアーキバスの方針から考えるに、捕虜となった後の扱いも想像できた。故に、素直に投降する訳には行かなかった。ダナムが吠えた。

 

「ほざけ! 人面獣心の畜生共が! 捕らえた人間共をどの様に扱われているか、俺達が知らないとでも思っていたのか! 死ぬとしても、俺は戦って死んでやるぞ!」

「……良いだろう。ならば、戦士として貴様らを葬ってやる!」

 

 LC達が構えた狙撃銃から、一斉にレーザーが斉射された。3機ともバラバラに散開した所で、各個撃破に当たる様にスウィンバーンは命令を飛ばした。

 

「畜生! どうせこうなるなら、最後まで戦ってやりますとも!」

 

 ノーザークのACはスカベンジャー行為によって多少の更新はされており、惑星封鎖機構の機体からパクったレーザーブレードを振るうが、正規のパイロットからすれば当たる訳もない攻撃だった。

 とは言いつつも、生き残るだけの経験を重ねて来たこともあって彼はLCとギリギリ交戦は出来ていた。問題は残る2機である。

 

「ぐぉおおお!!」

 

 バーンピカクスは集中砲火を浴びていた。交戦に至るとは思っておらず、ハンマーしか握っていないのだから距離を取られたら勝てる訳がない。

 しかし、彼はグリッドの建造に携わった職工であり、建築物の造詣には詳しい。この洋上都市の様に建物が林立する場所は、彼のホームグラウンドと言っても過言では無かった。

 

「企業の走狗め! 鉄槌を受けろ!」

 

 BASHOフレームの強靭な近接適正により繰り出されるハンマーの攻撃は、建物を粉砕して、散弾のように打ち出していた。当然の如く命中する訳もないが、臨時で作り出した飛び道具としてはそれなりの強力な物であった。

 そう言ったことが何も望めないツィイーは逃げるしかなかった。だが、直ぐに追い付かれてしまう。

 

「わ、私だって! 戦士だ!」

 

 迫り来るLCに対してハンマーを振るうが、まるで当たらない。カウンターがてらに繰り出されたブレードの一撃でアームが吹き飛ばされた。続いて、LCの腕部からスタンバトンが取り出され、ユエユーに打ち付けようとした所で吹き飛ばされた。

 

「ツィイー!」

「レイヴン……!」

 

 機体の構成はまるで違っていたが、通信で聞こえて来た声は聞き慣れた物だった。そして、それは上空でLCを指揮しているスウィンバーンの耳にも入って来た。

 

「……そうか。小娘、いや。レイヴン。貴様はそちらに着いた訳か」

 

 納得する反面。納得できない感情が、彼に貧乏ゆすりを起こさせていた。彼はLC達に引き続き命令を飛ばした。

 

「今、現れた機体に関しては私が対応しよう。貴様らでは荷が勝ち過ぎる。引き続き、先の3機の捕縛に当たれ」

 

 了解という旨を受け取り、スウィンバーンは件の機体に接近した。アセンブルは純正の『MELANDER C3』であり、彼女の機体構成としてはピンと来ない物ではあったが。

 

「スウィンバーン……」

「予想は大当たりだったという訳か。貴様の意思は一旦置いとくとして、我々の元に戻って来て貰うぞ」

 

 彼女と対峙するのは一度目ではない。壁では捕らえられ、ミールワームを用いて弄ばれたりもした。シミュレーターでは30回連続で負けた。

 パイロットの力量としては雲泥の差がある。それでも、引く訳には行かなかった。今は企業の為だけでは無く、自身と敬愛する上司の為にも諦めるという選択肢は存在していなかった。

 

『レイヴン。構えて下さい! 貴方なら、彼を無力化することは不可能ではないハズです!』

「うん!」

【来い! 今度こそ、貴様の性根を指導してやる!】

 

 ブーストを吹かす。互いにとって、避けられない戦いが始まった。

 



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依頼71件目:再開

「頭領とチャティはザイレムの掌握に行ったそうだけれどよ」

 

 グリッド086は再びアーキバスの攻撃を受けていた。以前までの襲撃とは比べ物にならない程に戦力が投下されており、本気度が伺えた。

 迎撃に当たっていたラミーのスコアもとんでもないことになっており、あちらこちらで咆哮が上がっていた。

 

「みんな!! “コーラル”キメろぉぉ!!」

「コーラルパチパチボーン!!」

「あぷぷぷぷ」

 

 ドーザー達を煽動しているのは、ルビコン解放戦線のトップであるサム・ドルマヤンだった。彼らの扱いを