【本編完結】転生歌姫の舞台裏〜ゲームに酷似した異世界にTS憑依転生した俺/私は人気絶頂の歌姫冒険者となって歌声で世界を救う! (O.T.I)
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幕前
幕前 ある日、ある一座のある一幕


 眩い光が舞台を照らし出す。

 

 きらびやかな衣装を纏う男女が大仰な身振りで立ち回り、朗々とした声で台詞を口にする。

 本日の演目は、かつてこの大陸を恐怖に陥れた魔王に挑む若き英雄の物語。

 若者は故郷を旅立ち、仲間と出会い、悲しい別れがあり、苦難の旅路を経て成長していく。

 

 物語が佳境に入ると実戦さながらに迫力のある戦闘シーンが繰り広げられ、観客は大いに盛り上がる。

 

 旅芸人集団、ダードレイ一座の公演は本日も大盛況だ。

 この街に彼らは既に数カ月滞在し、公演も何度か行っていたが未だ客足は衰えず。

 数百人は入る観客席は、そのほとんどが埋まっていた。

 

 

(うんうん、今日も盛り上がってるね)

 

 私の名前はカティア。

 ダードレイ一座の歌姫だ。

 

 今は舞台袖から観客席の様子を窺っているところだ。

 舞台上の物語は既にクライマックスを迎えようとしている。

 やがて、若者は魔王を討ち取ることに成功するが、若者もまた大きな傷を負い、恋人に看取られて息を引き取ってしまう。

 残された恋人の悲しい慟哭が響き渡り、少しずつ幕が下り明かりが落とされて終幕となる。

 

 悲劇の余韻を残して静寂に包まれた会場。

 時おり、感極まったであろう観客から啜り上げる音がする。

 そして少しずつ拍手の音がし始め、疎らだったそれはあっという間に会場中に広がって、大きな歓声とともに演者達を称えた。

 

 再び幕が上がり、出演した全ての演者が舞台に勢揃いしてカーテンコールとなる。

 拍手の音は一際大きなものとなり、演者たちが舞台袖に引き上げてもしばらく鳴り止まなかった。

 

 さあ、次は私の出番だ。

 

 観客席が落ち着いた頃合に司会から次の演目がアナウンスされると、再び拍手の音が鳴り響く。

 

 私は拍手に迎えられながら舞台袖からゆっくりと歩き出す。

 反対の袖からはもう一人、リュートを携えた若い男性が歩いてくる。

 

 視線が合うと微かに微笑んでくれた。

 私も彼に微笑みを返す。

 それだけで想いが通じ合う気がした。

 今日もいい舞台になりそうだ。

 

 舞台の中央に立つ私。

 その少し後ろにリュートを携えた彼。

 ひと呼吸おくと、彼は指でトントントン、とリュートを軽く叩いてリズムをとってから伴奏を始める。

 そしてタイミングを合わせて、私は歌声を紡ぎ始めた。

 

 最初は囁くように静かに、徐々に感情を込めながら大きくなっていくその歌声は会場中に響き渡り、観客たちの心を掴んでいく。

 

 豊穣の女神に感謝を捧げる歌

 

 気まぐれな神と戯れる愉快な歌

 

 悲しき魂の安寧を願う鎮魂歌

 

 恋の女神に祈る悩める少女の歌

 

 そして、愛しい人への想いを伝える歌

 

 敬虔に、軽やかに、厳かに、悩ましげに、しっとりと、歌い上げる。

 

 やがて、全ての歌を歌い終わっても、観客は静まりかえったままだった。

 

 ふふ、彼らが余韻に浸っているだけだと言うことを私は知っている。

 歌手冥利に尽きると言うものだ。

 

 彼と視線を交わし、再び微笑み合う。

 不思議な気分だ。

 少し遅れて響き始めた拍手の音に包まれて、心地よい疲れと高揚感を抱きながら、私は今の私の始まりとなったあの出来事のことを思い浮かべるのだった。

 

 



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第一幕 転生歌姫のはじまり
第一幕 プロローグ1 『魂の領域』


 【俺】は、ふと気が付くと不思議な空間にいた。

 

 

 色とりどりの光が幾筋もの流れとなり、集まるその先には一際大きな光が見える。

 いや、目で見ていると言うよりも頭の中でイメージしている……それがより明瞭になったような感覚だ。

 

 他の感覚も曖昧で、重力も感じず自分が立っているのか寝ているのかも分からない。

 その割に思考ははっきりしていて、どうも夢を見ているわけではなさそう……だと思う。

 

 ……というか、これはアレか?

 いわゆる死後の世界……的な?

 

 

『それは、半分正解ですね』

 

『!?』

 

 唐突に誰かの【声】がしたと思えば、いつの間にか傍らには女性が佇んでいた。

 

 

『申し訳ありません、驚かせてしまいましたね』

 

 そう謝罪するその女性はこれまで見たことがないほどに整った顔立ちで、優しげに微笑む表情と相まってまるで女神のようだ。

 

 ……いや、こんな場所に現れるのだから実際そうなのかも知れない。

 

 緩やかに波打つ腰ほどまである長い髪は、金にも銀にも見える不思議な色合いで、美しい相貌を彩るその瞳は菫色。

 柔らかで艷やかな唇からは、耳に心地よい透き通った声が紡がれる。

 薄絹を幾重にも重ねた衣を纏ったその出で立ちは、まさに女神と呼ぶに相応しい神々しさだ。

 

 

『ふふ、ありがとうございます。そうですね、そう呼ばれることもありますが……まあ、私は神と言えるほど全知でも全能でもありません』

 

 女神様?

 ……って言うか、さっきから思考読んでません?

 

『ここは魂の領域、精神世界とも言うべきところです。意思、思考は言葉を介さずとも伝わってしまうのです。もし気にされるのであれば……基本的には意識を内面に向け、会話するときだけ開放すれば良いかと思います』

 

 なるほど……?

 良く分からないけど……やってみますか。

 こんな感じかな……

 

『……大丈夫みたいですね。慣れれば意識せずとも出来るようになります』

 

 よし、これでいいのか。

 なんとなく感覚が掴めた。

 では、気を取り直して……

 

 

『さきほど、半分正解……といってましたが、どういう事でしょうか?』

 

『死後の世界、と言うところですね。ここは魂が生まれ旅立つところであり、死後に帰ってくるところ。生きとし生けるもの全てはこれを繰り返しているのです』

 

『生と死を繰り返す……輪廻転生ってやつか』

 

 俺の家族もあの光の中にいるのだろうか……

 それとも、もう既に旅立っているのか。

 

 俺は事故で家族を失い天涯孤独の身となった。

 自分自身、一命は取り留めたものの……体の自由のほとんどを失って、病院での寝たきり生活となってしまった。

 

 そんな状態で何年も過ごしていて、容態は安定していたと思うが……まあ、死んでしまったこと自体は不思議ではないと思う。

 死の瞬間の記憶はないので、まだ実感は湧かないけど。

 

 

 

『それで、ええと……女神さま?俺はなんであの流れに乗らないでここにいるんでしょうか?あなたが俺をここに留めているんですか?』

 

『ああ、すみません、まだ名乗ってもいませんでしたね。私の名はエメリールといいます。』

 

『あ、俺は………………です』

 

 ん?

 エメリールって何か聞き覚えがあるな……

 

 

『ご質問についてですが、あなたの言うとおり私があなたをこの場に留めおいております。それは、あなたにお願いしたい事があるからです』

 

『お願い?もう死んでるのに?』

 

『このまま、あの流れの中に乗れば輪廻転生の理に従いあなたという個は全と一つとなり、また別の個として生まれ変わることになりましょう。私はその前に、今のあなたの力をお借りしたいのです』

 

『今の俺?』

 

『はい。簡潔に言えば、あなたには私が見守っている世界に転生をして頂きたいのです』

 

 ……異世界転生。

 少しだけ読んだことがあるが、その手の創作物が人気なのは知っている。

 まさか、自分が体験する事になろうとは思わなかったが。

 

 

『なぜ、俺なんです?そんな大層な力なんて、俺には無いですよ?』

 

『もちろん、あなたでなければならない理由があります。あなたの世界には、仮初の体を用いて仮初の世界を冒険する……と言う遊戯があるでしょう?』

 

『仮初の……あぁ、VRMMOのことですかね。俺も大分やり込んでました。「カルヴァード戦記」ってやつですけどね』

 

『はい、それです。そこに登場する世界と、私の見守る世界は非常に似ているのです』

 

『マジっすか……?』

 

 予想もしなかった話に、思わず素っ頓狂な言葉が漏れてしまった。

 

 ゲームに似た世界って……本当にそんな事があるのか?

 

 

『もちろん、作られた仮初の世界と現実の世界では異なる点も多いです。むしろ違うことのほうが多いのですが……歴史、人物、文化……様々な事柄について、何らかの相関があるとしか思えないくらいには類似しているのです』

 

『……あっ、そうだ思い出した!【エメリール】ってカルヴァード戦記に出てくる豊穣の女神の名前じゃないか!』

 

 名前しか出てこないけど、他の何柱かの神々とともに設定に出てくるし、ゲーム中でも神殿とかあって広く信仰されている描写があったんだ。

 

 

『ええ、まあ……私としては、大きな気候変動の兆候を事前に伝えるとか、助言程度の事しかしてないのですけどね』

 

『いや、それは十分すごいことでしょう……』

 

 人間が神様と崇めるには十分過ぎるんじゃないか?

 

 

『そうでしょうか……まあ、それはさておき。世界に類似点があるから因果が生まれたのか。因果があったから類似したのか。それは分かりませんが、因果を辿って私はあなたを見つけることができた』

 

『えっと、それはつまり……』

 

『はい、あなたと、正確にはあなたの仮初の体と類似した人間がその世界にもいます。私にとって大切な我が子のような存在なのです。私のお願いと言うのは、その人を救ってもらいたいというものです』

 

 自分が使っていたアバターは自分自身の外見データを元に弄って作ったものだ。

 ……ちょっと、いやだいぶ、願望込めてイケメンにしているが。

 原型は留めてると思う……多分。

 

 他に出来る趣味も無かったのでガッツリやり込んだ結果……ステータスは最強クラスだったし、イベントではランキング上位の常連だった。

 

 しかし、あれと同じ人物が現実にいるとして、その人を救うとは?

 

 

『その人は今、魂の大部分を損傷してしまい、魂の消滅の危機にあるのです』

 

『ええっ!?それって、こんなに悠長に話をしている場合なんですか!?』

 

 魂が消滅……って、どう考えても緊急事態だと思うけど!?

 

 

『それは大丈夫です。いま、こうして話をしていても、あちらの世界ではほんの刹那の時間も経過していません。そのようにこの場を設けています』

 

『はぁ~……やっぱり神様じゃないですか。……それで、俺がどうやってその人を救うんですか?』

 

『大きく魂を損傷してしまえば、通常であれば消滅を免れることはできません。しかし、失った部分を何らかの形で補うことができれば、残った部分を維持しつつ、少しづつ再生させることができるかもしれません』

 

『つまり、失った部分を補うと言うのが俺の役割?』

 

『そうです。そしてそれが、あなたでなくてはならない理由でもあるのです。魂はそれぞれ波長のようなものがあり、同じ波長の魂というのはまず存在しません。故に、他の魂で補うなどということは、通常はできないのです。しかし、因果が奇跡を手繰り寄せたのか、あなたの魂の波長は、かの者のそれと全く同じといえます』

 

 それは……確かに奇跡かもしれない。

 だから俺が選ばれたのか。

 

 

『……補う、と言うのは、具体的にどういう事なんです?そんな奇跡があって俺にできる事であれば、助けてあげたいとは思いますが……今のこの俺の意識はどうなるんです?』

 

『具体的には、かの者の肉体と残された魂に魔術的なインターフェイスを介してあなたの魂を接合します。あなたの意識は残るので、別の肉体に憑依……と言えば伝わるでしょうか?』

 

 なるほど……普通(?)の転生とは違うということか。

 憑依転生というのがちょっとイメージ湧きにくいけど。

 

『……ただ、肉体や、残された魂があなたの意識に影響を与える可能性もあります。また魂の再生が上手く行った場合、別の人格として独立するのか、あなたの意識と融合するのかも未知数です。あなたがそれを厭うのであれば、このまま輪廻の流れに戻る選択をしたとしても仕方ありませんし、その選択を尊重します』

 

 自分が変わってしまうと言うのは想像できないし、少し怖い気がするが……

 断ったとしても今の俺が保たれる訳でも無し。

 

 なら、少しでも人の助けになる事をしたい、と思う。

 だけど別の懸念もある。

 

 

『すみません、もう少し質問したいのですが、そもそも何故魂を損傷するような事態になってるのでしょうか?俺が力になったとしても、同じ事になったりはしませんか?』

 

 そう聞くと、彼女は思案するように少し間を置いてから答えた。

 

『……正直なところ、よく分かっていないのです。ただ、今現在そのような結果をもたらす何らかの脅威が周囲に存在しないことは確認できています」

 

 むむ……原因が分からないと言うのはちょっと気持ちが悪いな……

 

『実のところ、原因を探ると言うこともお願いしたかったのです。もちろん可能な範囲で……ですが。あるいは、肉体の記憶は残っているはずなので、憑依することで記憶が共有されれば何が起きたのかが分かるかもしれません』

 

『なるほど』

 

『後は……そうですね、あなたの懸念を少しでも減らせるように、私の力によって守りを施しましょう。原因が分からないので絶対という保証はできないのですが』

 

 

 リスクはある。

 だけど、聞いた限りではすぐさま同じことが起きる可能性は低そうにも思える。

 何より……彼女は真摯に、誠実に、俺の事も尊重した上で願っている。

 なら、それに応えたいと思う。

 

 ……よし!

 腹は決まった!

 

 

『分かりました。俺はあなたの願いに応えたいと思います』

 

『ありがとうございます!』

 

 そうお礼を言うと、彼女はとても嬉しそうに正に女神の如き微笑みを浮かべるのだった。

 

 



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第一幕 プロローグ2 『転生』

 

『さて、それではこれからあなたの魂を送り出そうと思いますが……その前に、もう少し聞きたいことはありませんか?』

 

『それじゃあ……ゲームに似た世界だって事ですが、何が同じで、何が違うのかっていうのが気になりますね』

 

 俺がそう質問すると、エメリール様はゲームと世界の類似点に関する色々な事を教えてくれた。

 具体的には以下の点に類似性があるという。

 

 ・大きな歴史上の出来事

 ・地形や主要都市などの地理、地勢

 ・国家元首などの重要人物

 ・食事や娯楽、建築様式などの文化

 ・動植物、魔物の生態系

 

 

 そうか……魔物が居るんだっけ。

 

 

『後は、魔法やスキルと言ったものも同じといえば同じですかね。細かい違いを挙げるときりがありませんが……ゲームでは主に戦闘に用いるもののようですが、現実世界ではもっと生活に密着した魔法の使い方があったりします』

 

 魔法!やっぱり異世界に転生するなら魔法は使ってみたいよな。

 わくわくするな!

 あ、でも……

 

『魔法って、俺にも使えるものなんです?』

 

『使えるはずですよ。肉体が持つ記憶が共有されれば、元々使えていた魔法の使い方は分かるはずです。あと、あなたの魂を接合するためのインターフェイスの一部は、ゲームのシステムも参考にしてるので、仮初のあなたが覚えていた魔法やスキルなどの能力も、全てではありませんがある程度は使えるかもしれません』

 

 マジか!

 やり込んどいて良かった!

 でも、全てではないのか……

 ま、そこは贅沢言ってもしょうがないな。

 

『世界の事についてはこれくらいでよろしいでしょうか。その他の、一般的な知識や言語なども記憶が共有されれば分かるはずなので、その点で困ることは無いと思います』

 

『あ、そうか。ありがとうございます』

 

 あとは、なにか聞くことは……

 

『あ、そうだ。確かゲームにはエメリール様以外の神様もいたのですが、それも同じなんですか?』

 

『ええ、私以外にも神として祀られている者は実在しています。基本的に直接地上に干渉する事はないのですが、皆それぞれに世界や人々の事を気にかけてます』

 

 やっぱり他の神様もいるんだね。

 

 うーん、もう他に聞くことはないかな?

 現地の細かい知識なんかは記憶の共有で補えるってことみたいだし。

 もう、いいか。

 

『ありがとうございます。あとは、もう他に特に聞きたいことはありません』

 

『そうですか。では、私からもう少しだけ……。転生先で記憶が共有されるとは言え、意識はあなたが主体であなた自身の記憶も残ります。慣れるまでは戸惑うこともあるでしょう』

 

 少し心配そうに彼女は言う。

 でも、その辺は実際に転生してみないと分からない感覚だろう。

 

 

『また、今後魂の再生が上手く進んだとして……あなたの意識にも影響を与え、その変化に恐れを抱くかもしれません。だけど、そんな時はどうかありのままの自分を見つめて認めてあげてください。もとより人というのは状況次第で多かれ少なかれ変化するものなのです』

 

『……大丈夫ですよ。俺、元々そんなに思い悩む方じゃないですし、基本、楽観的なんで。でも、心配してくれてありがとうございます』

 

『ふふ、そうですか。確かに……あなたなら大丈夫かもしれませんね』

 

 

 案ずるより産むが易し、ってね。

 思いがけず命拾い(?)したんだから、大抵のことは受け入れるつもりだ。

 

 

『では、最後に。あなたには、今回の事態の原因を可能な範囲で調べてもらいたいと言いましたが……それはついでに過ぎません。私の願いはあくまでも、あなたが平穏無事に過ごせることなのです。ですから、あなたも気楽に転生先の生活を楽しんでもらいたいのです』

 

『調査はついででいいんですか?』

 

『はい。あなたが命の危険にさらされることは本意ではありません。ただ、ちょっとした手がかりであっても何か分かれば教えていただきたいとは思います。ですが…これからあなたの魂を送り出してしまうと、基本的に私と直接連絡を取ることはできなくなってしまいます』

 

『じゃあ、どうすれば?何か方法があるんですよね』

 

『はい。各地に私を祀っている神殿があるのですが、そこであれば交信する事ができます。私のことを思い浮かべて、話をしたいと念じていただければ会話できるようになります。私はある程度大まかには世界の様子を見ることが出来ますが、細やかな情報までは把握できません。ですので、何か分かりましたら神殿を訪れて頂き、教えて頂きたいのです』

 

『なるほど、分かりました』

 

 確かゲームでもそこそこ大きな街なら神殿があったな。他の神を祀った神殿も。

 

『もちろん、それ以外の相談事や、ただ話がしたいだけでも来ていただいても構いませんよ。私もたまにはお話したいですし』

 

 うん、神様なのに本当に気さくで話しやすいし、また会えるのは純粋に嬉しいな。

 

『はい、これからもよろしくお願いします』

 

 

 

 

 

 

『さて……では、そろそろよろしいでしょうか』

 

『ええ、お願いします』

 

 いよいよ、異世界への旅立ちの時が来た。

 少し不安もあるが、ワクワク感の方が大きい。

 なにより、また自由に体を動かせるようになるのが嬉しい。

 

 新しい世界への期待を抱き待っていると、大きく強く、しかし優しげに輝いている光が目に留まる。

 

(……いつかまた、会える日が来る。だから俺はもう少し生きてみるよ)

 

 かつて失った家族に思いを馳せ、暫しの別れを告げる。

 

 徐々に意識が遠のいて行く。

 

(いつまでも、待ってるよ……)

 

 微かに、そんな声が聞こえた気がした。

 

 ……そして俺は新しい世界へと旅立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー エメリールと???の会話 ーー

 

 

『……行ったか』

 

『あら、いらしていたのですか』

 

『ああ』

 

 鍛え上げられた肉体と精悍な顔つきをした男が、いつの間にかそこに居た。

 どうやらエメリールとは顔見知りらしく、親しげに言葉を交わす。

 

『覗き見は感心しませんよ?』

 

『……気づいていたのだろう?』

 

『ふふ、そうですね。……気になりますか?』

 

『何せお前の(シギル)を宿す者など、久しく見ていなかったからな。興味はある』

 

『ええ、とても大切な私の愛し子。でも、それがあの子の重荷になるのでは……と、少し考えてしまいます。今回の事態もそう』

 

 愛おしそうな、それでいて悲しそうな複雑な表情で答えるエメリールに対して、男は聞いた。

 

『原因については濁していたな?』

 

『どれも可能性の話で、確証が得られてないですから。いたずらに不安がらせるのもどうかと思いますし……』

 

『そうか。だが、そんなにやわな奴では無さそうだったがな。自分の置かれた状況に取り乱すことなく終始落ち着いていたように見える』

 

『そうですね、少し話しただけでしたが、好ましい方だったと思います』

 

 ふむ、と男は思案してから切り出した。

 

『私の方でも気にかけておこう。何なら【加護】を与えても良いかもしれん。私も全く無関係という訳では無いしな』

 

『……良いのですか?』

 

『ああ。もう少し見極めてから、だがな。お前の考える「可能性」によっては、望む望まざるに関わらず事に巻き込まれることもあるかも知れん。もしそうなったら力を持っておくに越したことはないだろう』

 

『……そうならない事を願ってはいますが……ありがとうございます』

 

『いや、事によったら世界全体の問題になるかもしれんのだ。私のみならず、他の神々にとっても無関係ではあるまい』

 

『……神々、か。地上の人々からいくら神として崇められたとしても、地上を離れてしまった私達にできる事はたかがしれたもの。先の大戦が終結し、ようやく落ち着いた頃合いだと言うのに……ままならないものです』

 

『可能性というだけで、まだそうなると決まったわけではないのだろう。それに、人々が自らの足で歩むために我々は地上から身を引いたのだ。であれば、多少の手助けはしても、なるべく自分たちの手で解決してもらわねばなるまい』

 

『わかってますよ。ただ、やはり多くの命が失われてしまうのは悲しいものです』

 

『……私とてかつては人の世に身を置いていたのだ。気持ちは分かるが、お前は優しすぎる。まあ、そこがお前の良いところでもあるがな。少なくとも、またかつての大戦のような事態がおこるのであれば、我々も出来るだけのことはするつもりだ。お前が一人で抱え込む必要はない。それは覚えておくことだ』

 

『ええ、ありがとうございます。頼りにしてますよ』

 

 そう言って、少し気が晴れたようにエメリールは微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

『ところで……かの者は誤解したのではないか?』

 

『……?なんの事です?』

 

『いや、転生先となるお前の愛し子についてだ。かの者は男だった』

 

『ええ、それが?』

 

『かの者が「主に」使っていた仮初の体もそうだ』

 

『……あっ!?』

 

『やはり気付いてなかったのか。まあ、大きな問題ではあるまいよ(本人以外にはな)』

 

『……もしかして、私やっちゃいました?』

 

(本当に女神というのに相応しい心根なのだが、相変わらずどこかしら抜けてるのだな)

 

 彼は心の中でそっと嘆息するのだった。

 

 



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第一幕 1 『目覚め』

 優しい風が頬を撫でる。

 

 かすかな花の匂いが、鳥のさえずりが、春の柔らかな日差しが、目をつぶっていても感じられる。

 穏やかな自然の空気の感触を久しぶりに確かめながら、徐々に意識が浮上し【俺】は目覚めた。

 

 

 

「……うぅ、ん~」

 

 少し伸びをしながら、まだ幾分ぼぅっとする頭を軽く振り意識をはっきりさせる。

 辺りを見回すと、そこは踝程の丈の草花が一面を覆う平原だった。

 

 

「え……と?」

 

 

 だんだんと、思い出す。

 

 【俺】の魂の記憶と、この体にある【私】の記憶が呼び起こされ、しばしの間混乱が生じる。

 そして……

 

「えっ!?ウソだろ……?」

 

 

 

 【俺】はーーーー。

 

 何らかの原因で死んでしまい、女神エメリールの願いに応じて転生を果たした。

 

 転生先の世界は俺がどっぷりハマっていたVRMMOに酷似した世界で、転生先の体は俺が使っていたアバターにそっくりの人物で、それは男だった……はずだ。

 しかし、この体の持つ記憶は……

 

 

「……カティア?ああっ!?そっちか!?」

 

 

 【私】はカティア。

 

 記憶によれば……私はある旅芸人一座の歌姫であり、一座の仲間とともに冒険者としても活動する15歳の少女。

 

 そして、確かにーーーーのアバターでもあった。

 

 メインで使用していたのは、ゲーム開始から使っていた男性アバターだ。

 【俺】が転生先として思い浮かべていたのはこちらの方。

 

 そして、カティアは元々NPCとして登場したキャラだが、とあるイベントのクリア特典でアバターとして入手した。

 入手時点でメインのアバターが覚えていたスキルやクラスの一部を引き継いでいる上、このアバターでしか入手できないクラスやスキルを覚えられるので、カティアの方も合間に少しづつ育てていたのだ。

 

 

 

「はぁ~、マジか……女神さま教えて下さいよ……」

 

 いや、俺も聞かなかったのが悪いんだけどさ……

 

 ちょっと話しただけだけど、意地悪するような人……じゃなくて神様じゃないと思うし、多分うっかりなんだと思うけど……

 

「女神さま、初っ端から変化に戸惑う事態になってます……」

 

 意識の主体はあくまでも【俺】だし、やはり違和感が。

 う~ん……そのうち慣れるのだろうか?

 

 まあ、どうにもならないことで悩んでもしょうがない。

 そのうち慣れると信じるしかないだろう。

 

 

 それにしても、記憶によれば今のカティアの立場はNPCの設定とは大分違ってるような?

 全く同じわけでは無いと言っていたし、考えて分かるものでもないかな……

 

 

「そうだ、倒れる前の記憶は……?」

 

 そもそも、【俺】が転生するきっかけとなった、【私】の魂が損傷してしまった原因は?

 

 記憶を探ってみるが……

 ダメだ。

 その部分だけ何も覚えていない。

 

 朝一番でギルドで依頼を受け、その足ですぐにこの平原に向かい……

 そこからの記憶が途切れている。

 依頼自体はなんの変哲もない採取依頼だ。

 

 倒れていた周囲には特に変わった様子はない。

 この辺りは特に危険な魔物がいるわけでもないし……何らかの痕跡もない。

 やはり記憶が残っていないと原因はさっぱりわからない。

 

 

 はぁ……少しは何か分かるかとも思ったが、そう上手くはいかないか。

 

 太陽の高さを見ると、倒れていたのはそう長い時間ではなさそうだ。

 長くともせいぜい一時間は経っていないくらいだろう。

 

 

「……取り敢えず、依頼を片付けておきますか」

 

 今の街には数カ月滞在しており、何度か依頼を受けてるので、それなりに土地勘が出来ている。

 この草原で依頼のものは採取できるはずだ。

 

 さっさと終わらせてしまおう。

 早く街に戻って、落ち着いて色々考えたいし。

 

 

「あ、そうだ。確かあっちの方に……」

 

 ふと、思いつき記憶を頼りに向った先には小川があった。

 澄んだ水は流れも穏やかで、日の光を反射し鏡のようになっていた。

 

 自分の姿は【私】の記憶にあるが、実際にこの目で見てみようと思ったのだ。

 

 小川を覗き込んでみると……

 

「……」

 

 思わず絶句する。

 

 【私】自身は自分の容姿に対して特別思うところはなかったが、【俺】の意識で改めて客観的に見てみると……

 

 

 大きな瞳は菫色、すこし垂れ目で優しげな雰囲気。

 すっと通った小さな鼻梁は高すぎず低すぎず。

 唇は紅をささずとも艷やかな薄い桜色。

 

 冒険者として外の活動が多いはずなのに日に焼けてはおらず、色白だが血色がよいため健康的に見える。

 

 髪は腰までの長さを首の後ろでまとめており、その色は日の光のあたり方で金にも銀にも見える不思議な色合い。

 一本一本が絹糸のように細く滑らかであり、無造作にまとめてる割に癖ひとつなく、まっすぐサラサラの極上の手触りだ。

 

 それぞれのパーツが整ってる上に、それが理想的に配置され、幾分幼さを残すものの女性としての美をこれ以上ないくらいに体現している。

 

 

「……いや、NPCのわりに随分気合いの入ったデザインだと思ったけど、現実になると半端ないな……そう言えば、ちょっと女神さまに似ているような?もう少し大人になったら、もっと似てきそうだな。気にかけているってことだし、何か関係があるのかな?」

 

 神殿に行ったときに聞いてみるか。

 

 

 改めて、今度は全身を見てみる。

 身長は150~160cmくらいだろうか。

 記憶では同年代の女子と比べても大きな差は無かったはずだ。

 全体的に細いが、冒険者として鍛えられているためか適度に筋肉が付き、それでいて女性的なしなやかさ、柔らかさは損なわれていない。

 胸は……きっと、これから成長するのだろう……

 

 服装は膝丈半袖の若草色のワンピース。

 素材はよく分からないが、手触りは綿っぽい。

 下には、膝丈で脚にフィットする伸縮性のある素材の黒スパッツ……のようなものを履いている。

 

 靴は革製の焦茶のロングブーツ。

 運動性を損なわないように可動部は柔らかく、脛や足の甲の部分は硬めの革で補強されている。

 

 こちらも革製の白い胸当て。

 防御力は微妙なところだが、軽く、動きを妨げないし、デザインも凝っているので気に入っている。

 

 防寒と雨具を兼ねた膝まである紺色の外套。

 

 右肩から斜めにかけた鞄。

 実は魔道具で、見た目よりも大きな容量を持ち大体40リットルのリュックくらいの荷物が入る。

 高価ではあるが、中堅以上の冒険者ならば大抵は所持している。

 今回は日帰りの探索なのでそれ程荷物は入れておらず、水筒と携帯食、包帯や傷薬などの救命キット、その他細々とした道具類くらいだ。

 

 そして、腰に下げられたショートソード。

 使い込まれているが、よく手入れされている。

 【私】が冒険者になる際に、養父から贈られたものだ。

 特別高価な名剣という訳ではないが、腕の確かな鍛冶師によるものらしく品質はしっかりしている。

 

 全体的には女の子っぽい可愛らしさがあるが、冒険者の活動をするのに十分機能的であり、なかなかよく似合っている。

 センスの良いコーディネートではないだろうか。

 ……自画自賛になってしまうが。

 

 しかし、物凄い美少女なんだけど、それが自分だと言うのが何とも言えず複雑なところだ。

 

 

 

 

 

 さて、ちょっと寄り道してしまったが……依頼を済ませますか。

 

「確か、この辺に……あ!あった」

 

 依頼にあった透魔草を見つけて必要な数だけ採取する。

 これは魔素が浸透しやすい植物で、様々な魔法薬の素材となるものであるためそこそこ需要がある。

 しかし、詳しい生育条件が分かっていないため栽培ができず、頻繁に依頼が出ている。

 生育地は知られているので、採取はそれ程難しいものではない。

 

 特に時間もかからずに採取完了。

 

 

「じゃあ、帰りますか」

 

 ここから街までは休憩を入れて四~五時間くらいの道のりだ。

 この場所は街から東に伸びる街道を進み、途中から街道より離れて北にしばらく進んだ位置にある。

 

 今は多分、正午過ぎくらいだろう。

 日が落ちる前に十分帰れるはず。

 

 道すがらもう少し記憶の整理をしながら行こう。

 

 そう考えながら、まずは街道に出るべく南に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 三時間ほど歩き、もう少しで街道に出るという辺り、ふと不穏な気配を感じて立ち止まる。

 

(右側の森……魔物かな。こんなに街道近くに出るのは珍しいな。それにしてもこういう感覚って【私】の経験によるものみたいなんだけど、変わらず使えるようだ。【俺】も剣術はやってたし、ゲームでの戦闘経験はあるけど、リアルな実戦経験があるわけじゃないからな。ありがたい)

 

 そう思いながら、襲撃に備える。

 すると……

 

 

『グルルルルッ……!』

 

「来た!あれは……グレートハウンドか!」

 

 こちらが立ち止まったのを見計らったか……森から猛烈な勢いで飛び出してきたのは、体長2m程の大型の犬の魔物であるグレートハウンドだ。

 

 私からすれば単体ではそれほど脅威を感じる相手ではないけど、戦う術を持たない人にとってはかなり危険な魔物だ。

 こんな街道近くで放っておいて良い相手ではない。

 

 ただ、本来は群れでの行動が多いはずだが、幸いにも今回は単独行動のようだ。

 

 魔物は飛び出してきた勢いそのままに数十メートル程の距離を一気に駆け抜け、こちらまであとほんの2、3メートルのところまで来ると大きく跳躍し飛びかかって来た。

 

 私は特に慌てることもなく、タイミングを合わせて左に避けながら剣を抜き放ち、交差する瞬間に相手の勢いを利用しつつ軽く首を撫でるように切断する。

 

 魔物は断末魔をあげることもなく、切断面から大量に血を吹き出しながらあっさりと絶命する。

 

 

 

(……【俺】としては、初めての実戦で、生き物を殺すのも初めてなんだけど……特に動揺はないな。意識の主体は【俺】とは言え、【私】の経験も生きているという事か。先程の感覚もそうだけど、まあ助かった。)

 

(それにしても、【私】の剣技は養父に教わったものだけど、【俺】が教わった剣術にも随分似てるな?これも類似の一つってことだろうか……)

 

 

 

 

 さて、討伐の報告も必要になるし魔核を取り出すか。

 

 他の生物と魔物の違いはこの【魔核】にある。

 正確には普通の生物にも同じ役割の器官は存在し【核】と呼ばれているが、その大きさや機能に歴然とした差があり分別している。

核の機能とは魔素の貯蔵と制御だ。

 

 魔素と言うのは、簡単に言えば魔法を扱うために必要となるエネルギーのようなもの。

 魔物は魔核によって身体能力を増大させたり、高等な魔物になると魔法を操ったりもする。

 

 そして、人間にもこの核は存在するが……その機能については個人差が大きく、魔法の扱いに長けた人のそれは魔核に相当する。

 

 ゲームにはこのような細かい設定は無かったので、これは【私】の知識だ。

 

「グレートハウンドの魔核は確か……心臓の近くだったっけ?」

 

 他の臓器と異なり、核の場所は生物によって大きく異なる。

 一番多いのはこいつのように心臓の近く。

 人間の場合は脳の中だ。

 

「うーん……解体する方が早いけど、死体の焼却も必要だしな……せっかくだから魔法を試してみるか」

 

 グレートハウンドは食肉には向かないし、死体を放っておくと別の魔物や肉食獣を呼び寄せてしまうかもしれないので、冒険者の心得としても処分が必要となる。

 

 魔核は石のように硬く燃えにくいので、死体を燃やしても骨と一緒に残るため問題ない。

 なので、魔法で焼却してから魔核を採取する事にした。

 



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第一幕 2 『ブレゼンタムの街』

 この世界には魔法が存在する。

 

 もちろん、ゲームでも魔法は使えたが、理論などの細い設定などは特になかった。

 

 現実のこの世界においては古来より魔法に関する学術的な研究が行われており、ある程度理論的に発動過程が説明されている。

 

 この世界の魔法とは、簡単に言えば空気中にある【魔素】を体内に取り入れ制御する事で様々な事象を引き起こすこと……らしい。

 

 体内に取り込まれた魔素の事を【魔力】と呼ぶ。

 そして、魔法は【原初魔法】と【音声魔法】に大別される。

 

 前者は文字通り、遥か昔より存在する魔法であり発動手順や効果が定まっておらず、術者の感覚によって行使される。

 魔物が使うのはこちらであり、一部の先天的に優れた魔法の素養を持つ人間にも扱う者がいる。

 

 【音声魔法】は原初魔法の研究の結果生み出された魔法で、こちらも文字通り言葉を発することによって魔法の発動を行う。

 

 人間の【魔核】は脳内の発声・言語を司る部位の近傍に存在する事が影響し、魔力の操作とともにある特定の音声を発することで、一定の魔法的効果として制御できる事が長年の研究の末に発見された。

 

 この音声に紐付く魔法的効果から単語として意味を持たせ、これらを体系的にまとめて言語化したものが魔法語であり、これを用いて魔法を発動する。

 魔法語は発動起点、範囲、規模、効果などの様々な要素を示す単語を組み合わせることで目的の事象を引き起こすが、適切な組み合わせでなければ発動に失敗する。

 このため、一般的には既に効果が分かっている定形文を覚えることで使うことが多い。

 

 詠唱魔法を極めてくると、魔核の制御の感覚を覚えることで音声を発しなくても発動ができるようになる人もいる。

 これは特別に【無音声魔法】とか【無詠唱魔法】と呼ばれている。

 

 このように、長い歴史の中で研究が重ねられ体系化された事で魔法を扱える者は格段に増えたが、未だ使えない者も少なくないし、使える者であっても特定の魔法語に得手不得手があったりして、生まれ持った資質が大きく関わっている点は昔から変わっていない。

 

 

 ……以上が、【私】の記憶から得られた魔法に関する知識だ。

 ちなみに、魔法については一座の中でも特に魔法に詳しいメンバーに師事したらしい。

 

 

 と言う事で、実際に使ってみよう。

 

 簡単なものなら【私】も無音声で使えるが、今回はきちんと手順を踏んでやってみる。

 

 使うのは初歩的な火の魔法[灯火]。

 文字通り継続的に小規模な火を発生させて灯りにする魔法だ。

 着火用の種火としてはこれで十分だろう。

 

 

『此処に火精は集いて、小さき火を灯せ[灯火]』

 

 

 短い詠唱が終わると、立てた人差し指の少し先に、ぽっ、と握りこぶしよりも少し小さいくらいの火の玉が現れる。

 

 なお、最後の[灯火]は最終的に魔法を発動するためのトリガとして発声しているが、実は言葉自体は何でも良かったりする。

 撃つと言う意志が重要であって、なんなら魔法語じゃなくても良い。

 

 攻撃魔法などの場合は何の魔法を使うのかをなるべく相手に悟られないようにアレンジする人もいるが、大抵の場合、威力や精度が良くなると言われてるので今みたいに魔法名を発することが多い。

 

 予め集めておいた枯れ葉や枯れ枝で覆ったグレートハウンドの死体に火をつける。

 後は炎が燃え尽きるまで暫し休憩だ。

 

 

 

 

 

 そして数十分後……

 あらかた火は消えて、後には灰と煤けた骨が残るのみとなった。

 

 

「よし、もういいかな。魔核は……と。あった!」

 

 灰を木の枝で除けながら探すと、親指と人差し指で作る輪っかくらいの大きさの丸い石が見つかった。

 グレートハウンドの魔核は黒く艷やかな光沢を放ち、宝石のように綺麗なものだ。

 

 実際、より貴重でより美しい魔核であればそれこそ宝石と同等以上の価値がある。

 まあ、今回のものは特に珍しい物ではなく、討伐証明に用いる以外の価値はそれほど無いが。

 

 

 

「さて、そろそろ行きますか」

 

 多少足止めはされたが、特に大きな問題ではない。

 【俺】としては実戦経験が得られた上に魔法の検証もできたので、むしろちょうど良かった。

 

 あともう少しで街道に出て、その後は西に向って道なりに一時間ほどで街に帰れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく街道を歩いていると、辺りは徐々に農村のような雰囲気となって来た。

 このあたりは起伏の少ない地形で、かなりの規模の穀倉地帯となっており街道沿いには農家の集落が点在している。

 

 

 街に近づくにつれて行き交う人も増えてきた。

 時間的にはそろそろ帰路につく頃合いだろう。

 

 

 やがて、街道沿いの民家も増えてきて遠目に市街を囲む壁が見えてくる。

 あれが現在一座が滞在している街、イスパル王国ブレーゼン領の領都ブレゼンタムだ。

 

 市街を囲む防壁は一辺およそ2キロメートルほどの正方形で四つの角の部分には物見の塔が建てられている。

 各辺の中央付近にそれぞれ門が設けられており、平時は自由に出入りができる。

 

 防壁の外側周辺にも民家が立ち並び、壁の内外合わせておよそ3万人以上の人が暮らす。

 これは市民登録のある定住人口なので、うちの一座のような一時滞在者を含めればもっと多いだろう。

 この世界の基準ではなかなかの大都市といえる。

 

 

 

 日が傾き空が茜色に染まる頃に、私は東門を潜って市街に入った。

 

 【俺】の感覚で言えば古いヨーロッパの街並みといった感じだ。

 行ったことないので、あくまでもイメージだが。

 

 これから帰宅するであろう人や、夜の街に繰り出そうとしている人などで通りは昼間とは違った賑わいを見せている。

 

 

 ……さて。

 一先ずは依頼と魔物討伐の報告のためギルドに向かおうか。

 

 ギルドの正式名称は【請負人相互扶助組合】だが、誰も(職員ですら)その名称は使っていない。

 

 かつての戦乱の時代に、難民や戦災孤児、職を失った者たちなどの受け皿として、また戦災からの復興のための人材不足を解消する目的としてギルドは創設された。

 平穏な今の時代にあっても、重要な経済活動の一つとして既にこの世界に無くてはならないものとなっている。

 

 ギルドは依頼を通じてギルド員に仕事を斡旋することが主な役割だが、その他にも各都市の定住者以外の一時滞在者の管理、及び徴税を行うという重要な役割も持っている。

 

 ギルドが扱う依頼には、街の雑用から素材採取、魔物の討伐まで様々なものがある。

 それこそ所属するギルド員で対処可能と判断されれば何でも請負う。

 もちろん、法に触れず倫理的に問題ない限り……という前提だが。

 

 そして、ギルド員の中でも街の外で採取や討伐を中心とした活動を行う者は特に【冒険者】と呼ばれている。

 

 

 この街のギルドは市街の中心、中央広場に面した3階建ての建物で、大都市のギルドというだけあって、かなりの大きさだ。

 大きな扉は営業時間内は開け放たれており、中の喧騒が通りまで漏れ聞こえてくる。

 

 中に入ると、今日の仕事を終えて報告のために訪れたギルド員で賑わっており、併設された酒場につながる扉からは、一足先に報告を終えて食事や酒を愉しむ陽気な声が聞こえてくる。

 

 大量の報告を捌くため、この時間帯は職員総出で窓口対応にあたっているようだ。

 おかげで回転は良く、それ程待たずに順番が来るだろう。

 

 

 順番待ちの列に向うと、【私】のことを知っているらしき何人かの話し声が聞こえてきた。

 

 

(……おい、カティアちゃんだぞ。今日もかわいいなぁ……)

 

(……はあ、今度のチケット、取れなかったんだよな~、見に行きたかったのに……)

 

(……なあ、お前パーティーに勧誘して来いよ)

 

(無茶言うな、あの怖え親父に殺されるわ!大体あの子、ああ見えて確かBランクだったよな?戦闘技量上級も持ってたはずだぞ。俺らじゃ釣り合わねえよ)

 

 

 ……あんたら、噂話のつもりならもっと声を抑えなさいな。

 

 彼らの会話にあった通り、私の冒険者としてのランクはBだ。

 

 ギルドのランクは上からA~Hまでの8段階があり、【私】は上から二番目と言うことになる。

 Sランクなんてものもあるが、これは実質名誉称号のようなものらしい。

 

 ランクアップは依頼の達成数、率が規定に達し試験に合格することで上がり、飛び級などの特例は無い。

 ランクはあくまでもそれまでの実績、貢献度、信頼度を示すもので、地道な積み重ねの結果だが、高ランクほど高い実力を持つのは間違いない。

 

 

 それとは別に、技量認定制度と言うものがある。

 

 これは専門分野ごとにその技量の練度を試験で測り、初級・中級・上級・特級の4段階によってギルドがお墨付きを与えるものだ。

 

 登録したてで低ランクであっても前職の経験がある場合など、有能な人材を無駄にしないための制度であり、遂行能力があると見なされればランクに関わらず依頼を受けられる場合がある。

 

 【私】は戦闘分野で上級、こちらも上から二番目という事になる。

 

 

 それにしても……この街でも結構有名になったものだ。

 彼らの他にもこちらに注目する視線を感じる。

 

 まあ、これ程の容姿と冒険者としての実力、更には一座で歌姫として目立っているし、有名にならない方がおかしいか……

 

 などと考えてるうちに、順番が回ってきた。

 

 

 

「お疲れ様です、カティアさん。依頼の報告ですか?」

 

 受付の職員は、これまで何度かお世話になって顔見知りになっている女性だ。

 おそらく20歳くらいで黒髪黒目の落ち着いた感じの美人で、名前はスーリャさん。

 

「はい、採取依頼の納品と、あと依頼外の魔物討伐の報告です」

 

「かしこまりました、ではギルド証をお預かりします……はい、ありがとうございます。では、少々お待ち下さい」

 

 そう言って彼女は、受け取ったギルド証を、前世のタブレットのようなものにかざす。

 

 ちなみにギルド証は前世の免許証くらいの大きさの金属プレートでDランクまでは鉄、Cは銅、Bは銀、Aは金となる。

 

 

「確認できました。透魔草ですね。では納品お願いします」

 

「はい、こちらです」

 

 鞄から採取したものを取り出し、カウンターに置く。

 

「では、鑑定が終わりましたらこちらの番号札の番号でお呼びしますので、支払いカウンターにお越しください。それと……依頼外の魔物討伐、でしたか?」

 

「あ、はい。東の街道を一時間ほど進んで、少し街道から外れたところにある森でグレートハウンドに襲撃され、これを討伐しました。群れではなく単体。これが討伐証明の魔核です。たしか、この辺りの魔物分布図には載って無かったかと思い、念のため報告したほうが良いと思いまして……」

 

「なるほど……まだ表沙汰にはなっていないのですが、実は最近同様の報告が何件かされていまして……あ、魔核の方も鑑定に回しておきますね」

 

 納品の品と魔核を別の職員に渡してから、彼女はカウンターの中から領内の魔物分布図を取り出した。

 

「東の街道から一時間……この辺ですかね?」

 

「もう少し北側……この辺りだと思います」

 

 地図上の一点を指差す。

 

「グレートハウンドの生息域でここから一番近いのは……ここ。十数kmは離れてますね」

 

「他の似たような報告と言うのは?」

 

「この赤い丸印のところです」

 

 そう言って指差した場所には赤い丸印と魔物の種類が書き込まれている。

 同じような記載がおよそ十数カ所ほど。

 魔物の種類は様々だが、これは……

 

「これって……重なってますよね」

 

「分かりますか?そうです、これら赤丸のところで確認された魔物の殆どについて、本来の生息域は先ほどのグレートハウンドと同じくここ、スオージの大森林になります。恐らくこの森で何らかの異変が生じているとギルドでも判断しており、現在調査隊を派遣しているところです。しかし、今回のケースのような街道近くとなると、情報開示と注意喚起をしないとまずいですね……」

 

 あぁ、流石にこれだけ情報が揃っていればもうギルドは動いてるか。

 

 

「異変……と言うと、やはり上位個体の出現とかでしょうか?」

 

「その可能性は高いと思います。もしそうであった場合、脅威度にもよりますが恐らくC以上の高ランク冒険者の方には招集がかかるかもしれません。一座の方にも予めお伝え頂けると助かります」

 

「あ、分かりました伝えておきます」

 

 うち一座の主だったメンバーはBランク以上、あるいは戦闘技量上級以上なので、招集対象になる。

 養父に至ってはAランク、戦闘技量特級だ。

 

 それにしても、異変……か。

 【私】の身に起こったことも異変だ。

 倒れていた場所もスオージの森からそこまで離れていない。

 もしかしたら、何か関係があるのかもしれない。

 

 

 

「……あの、前から気になってたんですが、旅芸人一座のメンバーが揃いも揃って高位冒険者というのが、ちょっと意味不明なんですけど……」

 

 少しためらいがちにスーリャさんが聞いてきた。

 

「あぁ……なんか元々は腕利きの傭兵団だったらしくて、先の大戦終結で引退したメンバーが集まって結成したとかなんとか。私が生まれる前の話なんで詳しい経緯とか知りませんけど」

 

「そうなんですか。そう言えばダードレイ一座の劇は殺陣が実戦さながらで迫力があるってすごく評判ですけど、道理ですね」

 

「実戦さながらと言うか…あれは実戦なんですよ。なんせうちの連中が冒険者なんてやってるの『腕が鈍ると舞台で死んでしまう!』って理由らしいですし……」

 

「……」

 

 うん。やっぱり意味分かんないよね。

 



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第一幕 3 『指名依頼』

 依頼の報告も終わり、鑑定が終わるのを待ち合いスペースで待つ。

 

 そう言えば知り合いとの会話も特に問題なかったな。

 戦闘の時もそうだったけど、この体に染み付いた経験とか記憶に関することは特に意識しなくても大丈夫そうだ。

 知り合いにあって戸惑ったりしたら違和感持たれるかも……とちょっと心配だったけど、これなら安心だ。

 

 

 待っている間の暇潰しを兼ねて、依頼掲示板でも確認しておこうかな。

 

 依頼は推奨ランクごとに振り分けされて張り出されており、基本的には自分と同じランクのものを受けることが多い。

 だけど、異なるランクのものでも実績や技量認定資格などを加味して遂行可能と判断されれば受けることができる。

 

 ちなみに、今回報告した依頼は需要が高い薬草の採取、かつ採取地の危険度も低いので幅広い層に受けてもらいたいという意図から、特にランク指定のない常設依頼となっている。

 労力に対して報酬も悪くないので比較的割の良い依頼だ。

 

 さて、ざっとは見てみたが……

 朝に確認した時とあまり変わらないかな。

 一座の公演もあるからあまり長期のものは受けられないし、今慌てて受ける必要もないか。

 

 

 

「38番の方~、支払いカウンターまで起こしくださ~い」

 

 おっと、鑑定が終わったみたいだ。

 支払いカウンターに向い番号札を渡す。

 

「38番です」

 

「カティアさんですね。納品の品は特に問題ございませんでした。こちらが透魔草の報酬、銀貨12枚です。それと、グレートハウンドの討伐は半金貨1枚ですね。ご確認下さい」

 

「…はい、大丈夫です。ありがとうございます」

 

 報酬を受け取りお礼を言う。

 

 なお、報酬の支払い時には税金を引かれており、一時滞在者からも徴税するようになっている。

 税金を納めることで、その国にいる間は国民として扱われるし、ギルド証の提示により一部の住民サービスも受けられる。

 

 お金はこの大陸の殆どの国家で共通のものが流通しており、銅貨、半銀貨、銀貨、半金貨、金貨がある。

 銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚となる。

 半銀貨、半金貨はそれぞれ銀貨、金貨の半分の価値だ。

 この街でごく普通の食事をすると大体半銀貨1枚~銀貨1枚くらいかかるので一概に比較はできないが、大体銅貨1枚が前世の10円くらいになるだろうか。

 

 そうすると今回の報酬を換算した場合……

 銀貨12枚=12,000円、半金貨1枚=50,000円となる。

 

 採取依頼に比べて危険を伴う分、討伐報酬の方が高くなるのはまあ当然かな。

 一日の稼ぎとしては破格にも思えるが、毎日常に安定して稼げる訳ではないし、魔物の討伐なんかは相応のリスクを負う必要がある。

 

 とは言え、高位の魔物の討伐とかだとそれこそ何年も遊んで暮らせるだけの報酬が得られるので、一攫千金を夢見る者も多い。

 

 

 

 

 よし、依頼の報告も終わったし……今日はここで夕食をとっていこうかな。

 そう思い、ギルド併設の酒場兼食堂に向かうことにした。

 

 

 食堂に通じる扉を開けると、もとより漏れ聞こえていた喧騒が一層大きくなった。

 中に入るとお酒と美味しそうな料理の匂いが充満しており、空腹を実感する。

 少し早い時間にも関わらず、既に多くの客で席のほとんどは埋まっていた。

 

 

「いらっしゃい!お一人さん?」

 

 こちらを見つけた給仕の女の子が声をかけてきた。

 

「あ、はい一人で……」

 

 

「おーい!カティア、こっちだ!」

 

 給仕の娘に返事をしようとした時、私を呼ぶ声がした。

 この声は……

 

「あ、父さん!」

 

「おう、食べに来たんだろ?こっち空いてるぞ」

 

「うん、ありがとう!……知り合いがいたのであそこに行きますね」

 

「あ、よかった、相席をお願いするところだったのでちょうど良かったわ。後で注文に伺うわ」

 

 

 

 父さんがいる一角に向うと、他にも一座の何人かがいるみたいだ。

 あともう一人……って言うか、あなたこんなところで何してるんですか……

 

「父さんお疲れ。皆で依頼受けてたの?」

 

「いや、たまたま一緒になっただけだ。今日は稽古も無かったし、思い思いに過ごしてたはずなんだが、ここのメシは美味いからな。自然と集まっちまった」

 

「そうなんだ。ところで……」

 

 と、この場にいる一座の仲間ではない人物に目を向ける。

 

「よぉ嬢ちゃん。今日も別嬪さんだな」

 

「閣下……なぜここに?」

 

「なぜってお前ぇ、ここは食堂だぜ?美味い酒と美味い食事。それ以外に何の用があるってんだ?」

 

「いや、そうではなくて。なんで領主様ともあろうお方が、このような荒くれが集まるようなところで食事してるんですか……」

 

「固ぇこと言うなって。俺はここのメシを気に入ってるし、お前の親父にも話があったからな」

 

 そう、この人はここブレーゼン領の領主……アーダッド=ファルクス=ブレーゼンその人である。

 言動からは想像もつかないが、これでもれっきとした貴族……それも侯爵だ。

 

 金髪碧眼はいかにも貴族っぽい色合いだが、熊のような巨躯に髭だらけの厳つい容貌だ。

 両手剣とか戦斧とか持たせたらすごく似合いそう。

 はっきり言って、周りにいる荒くれ共と大差なく、この場にいても全く違和感が無い。

 

 ちなみに、全く似ていない娘さんがいる。

 一度だけお会いしたことがあるんだけど、まさに深窓の令嬢ってかんじの綺麗なお嬢様だった。

 間違いなく100%奥さんの血だ。

 閣下、あなたの遺伝子仕事してませんよ。

 

 

「今さらこいつにそんな事言うやつはいないぞ。ほら、どいつもこいつも完全にスルーだ」

 

 そう……別にお忍びとかじゃないんだ。

 皆ここに侯爵がいることを認識した上でスルーしてる。

 特に緊張感もなく慣れた感じである。

 仮にも上級貴族がそれで良いのだろうか……

 

 うちの父さんは、濃い茶色の髪に青い瞳、厳つくて男臭い風貌だ。

 荒っぽい喋り方は閣下とさして変わらないが、その物腰は落ち着いていて、まだこちらの方が貴族っぽい気がする。

 名前はダードレイ。

 

 我が一座の座長であり、かつては傭兵団でも団長を務めていたらしい。

 Aランクの冒険者として有名で、圧倒的な剣の腕前から【剛刃】などと大層な二つ名で呼ばれてたりする。

 ……本人は凄く嫌そうなんだけど、ギルドから正式に贈られた称号で拒否できないらしい。

 

 頼もしく面倒見の良い兄貴分って感じで一座の皆から慕われていて、かく言う【私】も血の繋がりはなくても実の父のように思っている。

 

 侯爵様とは昔からの知り合いらしく、口調も随分と親しげで遠慮がない。

 

 

 うちの一座の面々はいくつかの席に分かれてるが、相席にもう一人。

 

「カティア、注文は?」

 

 この人は副座長のティダ兄。

 すらっとした高身長で細身に見えるがしっかり鍛え上げられた細マッチョ。

 黒髪に琥珀色の瞳、物静かで涼やかな風貌でとても女性にモテるが本人は全く意に介さず奥さん一筋だ。

 

 傭兵団時代からの最古参メンバーの一人なので父さんと同じくらいの年のはずだが、若々しく30前後……下手したら20代でも通用しそうだ。

 なので【私】にとっては頼りになる兄さんみたいな感覚だ。

 本人としてはもう少し威厳が欲しいようだが。

 

 ちなみに、ティダ兄もAランクで【閃刃】って呼ばれてたりする。

 

 

 あ、注文しなきゃだね。

 

「すみませ~ん、注文お願いしま~す!」

 

 と、先ほどの給仕の娘を呼んで注文する。

 

「なんだ、酒は飲まないのか?」

 

「今日は止めとく」

 

 この国の成人は15歳なので、私がお酒を飲むのは問題ない。

 そもそも法律で年齢制限があるわけじゃないので、【私】も成人前から時々飲んでたみたいだ。

 と言っても酒精が少ない殆どジュースのようなものしか飲んだことはないが。

 今日はこのあと宿に帰ったらもう少し状況の整理とかしたいので、お酒は遠慮しておく。

 

 

 しばし歓談しながらやって来た料理に舌鼓を打つ。

 体が資本の冒険者向けらしくボリューム満点で、この体にはちょっと量が多いが、味も素晴らしいので残さず完食できそうだ。

 料理の美味しさは前世と比べても遜色なく、これは本当に良かったと思う。

 食が楽しめないのはキツイからね。

 

「何だ、そんなんじゃ胸に栄養が行かねーぞ?」

 

 こちらの食事を見た領主様が視線を少し下げて、見た目に違わずデリカシーのない事を言いやがった。

 

「余計なお世話ですっ!」

 

 ……【俺】の意識からすれば別に気にするような発言じゃ無いはずだが、何だか自然と怒りが湧き上がってきた。

 すると、父さんが意外そうな顔で言ってきた。

 

「何だ、気にしてるのか?大きけりゃいいってもんじゃないぞ?」

 

 うっさいわ!セクハラ親父共が!

 

 

 

 

「ところで領主様、父に話というのは?」

 

「ん?あぁ、あまり大きな声じゃ言えねぇんだが……近頃魔物の分布に異変が生じているって話が出てるんだが、知ってるか?」

 

 おっと、タイムリーな話だね。

 しかし、大きな声で言えない事をここで話して良いのかね?

 まあ、周りはうちの関係者しかいないし、この喧騒なら大丈夫か。

 

「……ちょうど今日、遭遇しました。さっき報告して、話も聞きましたよ。スオージの森でしょう?」

 

「おう、知ってるなら話は早ぇ。じゃあこいつも聞いたかもしれんが……いまギルドから調査隊を出してるんだが、帰還予定を過ぎてもまだ帰って来てねぇらしい。もちろん、普通は多少の予定変更は珍しくもねぇんだが、今回派遣したのは斥候スキルには定評のある信頼の置けるパーティーで……あぁ【鳶】ってんだがな。俺も何度か指名で依頼したことがあるんだが、今までこんな事はなくて、帰還予定はきっちり守る奴らなんだ。他の奴なら森で迷ってるってのも考えられるんだが、そんなヘマをやらかすような奴らでもねぇ。そんで、こいつぁ何かヤバいことが起きてるってな、ギルド長から俺んとこに報告があがったんだ」

 

「……調査が出てるところまでは聞きましたが、帰還予定になっても帰っていない、と言うのははじめて聞ききました。じゃあ、話というのは……」

 

「ああ、お前たちにそいつらの救出と調査を頼みてぇ。可能なら脅威の排除もだ。今この街にいる冒険者で一番の腕利きはお前たちだからな。あと数日もすれば正式にギルドから要請が出るだろうが、一座の公演も控えてるとありゃあ、あまり悠長にしてたらお前たちは動けなくなるだろ?だから、俺の権限で指名依頼にすりゃあすぐ動けると思ってな」

 

 侯爵様からの話を聞いて、父さんが答える。

 

「……街に危険が及ぶなら公演だなんだ言ってられないがな。早めに動けるならそれに越したことはない。……それにしても、うちの一座も随分と大きくなったもんだ……予定なんか昔ならどうとでもなったんだがな」

 

「もう旅芸人一座なんていうのも無理があんだろうよ。どっかに腰を落ち着けてもやってけるだろ?この街にももう半年近くいるわけだしよ。ウチなら歓迎だぞ?にしてもよ、歌って踊って戦う旅芸人一座?何だそれ?意味わからんわ」

 

「ほっとけ。まあ、腰を落ち着けるのはそのうちな。で、依頼の件だが……お前ら、どうだ?」

 

 と、周りで聞いていた一座の面々に確認する。

 

「おれらは構いませんよ。ここにいないやつも行くって言うんじゃないですか?」

 

 皆は乗り気のようだ。

 頼もしいけど、これ絶対面白そうとか思ってるな……

 

「ダード、流石にこんな大人数で行くわけには行かないだろう。リスクも未知数だし、うちの中でも精鋭に絞ったほうが良いと思うぞ」

 

 そう、ティダ兄が冷静に言うと、父さんは少し考えながら答える。

 

「そうさな……じゃあ前衛に俺とティダ、斥候のロウエン……「りょ~かいッス」、と魔法支援でアネッサ……はここにはいねぇか……まあ、大丈夫だろ。あとは、盾役のドルク」

 

「いや、今回は撤退もあり得るかも知れん。足の遅いドルクを入れるよりは行軍速度優先のほうが良くないか?」

 

「それもそうか……だが後一人は欲しいとこだな」

 

「はい!はい!私!ダメって言ってもついてくからね!」

 

 【私】に起きた異変に関連があるかもしれないし、ここは譲れないところだ。

 

「あ~……まぁ実力的には問題ない無い、か?」

 

「いいんじゃないか?こいつは何でもこなせるオールラウンダーだ。今回みたいな少数精鋭の場合は遊撃で動いてくれると助かる。若い奴特有の無鉄砲さとも無縁だしな。」

 

「流石ティダ兄、分かってる~」

 

 一座の皆が面白がって自分の持てる技術を私に伝授した結果だ。

 前衛、斥候、魔法支援、遊撃…盾役以外は何でもやるよ!

 

「はぁ……全くお転婆に育っちまいやがって。俺ぁこいつの母親に合わせる顔がねぇよ……」

 

「強くたくましく育って喜んでると思うよ?」

 

 【私】の実の母親は小さい頃に亡くなっていて記憶には無い。

 たまたま父さんが死を看取って、まだ赤ちゃんだった【私】を引き取って育ててくれた。

 孤児院に預けることも出来たのに、自分の娘として育ててくれたんだ。

 一座の皆と四苦八苦して子育てに奮闘する姿を想像すると何だかおかしいけど、凄く温かい気持ちになる。

 ちょっと荒っぽいところがあるけど皆優しくて、血の繋がりはないけど家族だと思っているんだ。

 

 そういう思いがこの体に残っていて、もう【俺】にとっても大切なものと感じる。

 ……改めて、救う事ができて良かった、と思う。

 

 後は、【私】の魂が癒やされて……そのあとどうなるかは分からないけど、たぶんこの思いは変わらないだろう。

 

 

 

「話はまとまったみてぇだな。Aが二人にBが3人とはなかなか豪勢だな。助かるぜ。よし、ギルドには俺の方から伝えておくから、お前らは準備でき次第現地に向かってくれ」

 

「それは構わんが……領軍は動かさないのか?」

 

「いや、念のため森の周辺で警戒に当たらせている。が、今の情報だけでそう大人数は動かせねぇし、森内部の探索に当たらせるには正直練度が心許ねぇ。そうじゃなきゃお前たちに話を持ってこねぇさ。平和なのは良いんだが、こういう時だと経験不足が仇になっちまう。同じ辺境でも国境が近えとこだとちったぁマシなんだろうがなぁ……」

 

「ま、それはしょうがないな。せいぜい訓練を厳しくしてやることだ。あと、報酬はどうなる?」

 

「おっと、そうだったな。今のところ金貨10枚。原因特定で10枚。脅威の排除はその度合いに応じて。その他諸々状況に応じて追加報酬を検討、ってとこだな」

 

「ほぉ?さすが領主様、随分と太っ腹だな」

 

「なに、これで安心が買えるなら安いもんだろ。それに、正式に依頼に出してもこれくらいになるだろうな。それだけ【鳶】ってなぁ信頼があったってことだ」

 

 もともとの調査依頼の報酬は分からないけど、相場的には金貨5枚にも満たないくらいじゃないかな?

 優秀なパーティーでも手に負えない状況、それだけのリスクがあると判断されているのだろう。

 

 そして、そのパーティーは……

 

 

「その【鳶】はどうなったと思います?」

 

「わからん。だが能力は確かだし、無茶なことはしねぇ慎重で堅実なやつらだ。たとえ高位の魔物がいても調査くらいは確実にこなせるはずだ。ところが実際はこの状況。生存はしてるが何らかのトラブルで帰れねぇだけなのか、そうじゃねえのか……まあ、そう簡単にくたばるような連中ではねぇんだがよ」

 

「そうですか……何とか生存していてほしいですね……。しかし仮に高位の魔物に……だとしたら、そいつの感知能力は熟練の斥候以上って事ですよね。あるいは隠形に優れてるか。どっちにしても不意打ちには警戒する必要があると思います」

 

「そうだな。警戒してしすぎるって事ぁねぇだろう。ヤバそうだったら無理しねぇで撤退しろよ。情報持ち帰ってくれるだけでもこっちはありがてぇんだ」

 

 侯爵様としても、これ以上の戦力の損失は痛いだろうね。

 純粋に心配してくれてる、と言うのもあるだろうけど。

 

 

 

「あとお前ら、パーティー名は何だったっけ?」

 

「あん?パーティー名?そんなの必要なのか?うちの奴らは基本、単独行動が多いがパーティー組んだときでも別に名前なんか付けたこと無いぞ?」

 

「俺の事務が楽になる。いや、依頼の手続きすんのに個人毎だとめんどくせぇんだよ。パーティー単位でまとめて処理してぇ」

 

 あぁ……事務処理は嫌いそうだよね、侯爵様。

 ほんとに貴族で領主なんだろうか……

 いや、今まで話を聞いてても段取りは良いし決断も早いし、上に立つものとして有能だと思うんだけどね。

 

「なんだそりゃ。お前の都合かよ」

 

「いや、ダードよ。パーティー名は決めておいた方が良いと思うぞ」

 

 と、ティダ兄がフォローする。

 別の理由があるみたいだけど。

 

「……何でだ?」

 

「アネッサから聞いたんだがな。パーティー全員にかけるような支援魔法を使うときに名前があった方が対象の認識がしやすくなって、僅かながら発動までの時間が短縮できるらしい」

 

 ……それは私も初耳だ。

 

 ゲームなら敵味方は自動で判別だけど、現実には全部マニュアルでやらなきゃいけない。

 対象選定一つとっても細かな技術があるってことなのか。

 

「そうなのか?初めて聞いたぞ。まあ、俺は魔法は不得手だから詳しくはないんだが……」

 

「アネッサも最近気づいた事らしい。効果が僅かだからあまり知られてないのだろう、との事だ」

 

「僅かだって戦闘時のロスはない方が良いに決まってる」

 

 その通りだ。

 命に関わるなら無視はできない。

 

「じゃあ、どうする?いきなりパーティー名ったって、急には浮かばんな」

 

「そうだな……『黒竜騎士団』なんてのはどうだ?」

 

「「「……」」」

 

 何故に黒竜?

 それに騎士じゃないでしょ、私達は。

 

「ん?ダメか?じゃあ……『白竜騎士団』は?かっこいいだろ?」

 

「「「……」」」

 

 黒が白になっただけじゃん!

 

 みんな絶句して突っ込めない……ティダ兄…ネーミングセンスはポンコツだったのか……

 

「ダードレイ一味とか、ダードレイ一家とかは?」

 

 ティダ兄が次の名前を出す前に領主様が提案したが、それも何だか……

 

「なんか悪党の集まりみたいだな……」

 

 だよね。

 

「……『エーデルワイス』は?うちのシンボルに使われてるでしょ?」

 

 と、私が提案してみる。

 

「あ~、いいんじゃねえか?傭兵団の頃から使ってる馴染みのある紋章だしな」

 

「では、『エーデルワイス騎士団』と言う事だな」

 

「「「だから、騎士じゃない(ねぇ)って!!」」」

 

 総ツッコミだよ……

 

「あ~、話が脱線しちまったが、他に何かあるか?」

 

 いや、話を振ったのはあなたですからね……

 

「森まで結構距離があるな。足が欲しい」

 

 父さんの言うとおり、歩くと四~五時間はかかる。

 先行パーティーの生存の可能性を考えると行動は出来るだけ早いほうがいいだろう。

 馬で移動できるなら随分短縮できる。

 

「ああ、それなら軍馬を手配しよう。話を通しとくから、出掛けに領軍の厩舎によってくれ。森の周辺にいくつか軍の宿営地があるから、森に入る時はそこに預ければ大丈夫だ」

 

「ああ、わかった。……カティア、お前もうそろそろ宿に帰って休んどけ。明日は早いぞ」

 

「父さんたちは?」

 

「俺たちもすぐ帰るさ。あと一杯飲んでからな」

 

「そう?程々にね」

 

 もともと宿で色々検証したかったし、素直に聞き入れて帰ることにする。

 ……なんか、遠ざけられてるような気がしないでもないが。

 内緒話でもあるのかな。

 

「カティア、帰ったらアネッサに今回の件伝えておいてくれないか?明日の予定は無かったはずだが、いきなりだしな」

 

「うん、分かった。じゃあお休みなさい」

 

 そう告げて、私はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー カティアが去ったあとのダードレイたち ーー

 

 

「なんだ、ダード?カティアに聞かせたくない話でもあるのか?」

 

 カティアをあえて帰らせたのを察したティダが問う。

 

「あぁ、なんて言うかな……あいつ、何か少し雰囲気が変わってなかったか?」

 

「……お前もそう感じたのか。気のせいかとも思ったのだがな」

 

「年ごろの娘なんだ。いろいろあるんじゃねぇのか?」

 

「いや、そう言うんじゃなくてだな……なんて言うか、今までに感じなかった『力』って言うか、オーラみたいなものを感じるんだ」

 

「あぁ、前よりも存在感が増したような気がする。神聖というか、清浄な気が溢れてるような…悪い感じじゃないし、問題はないだろうが」

 

「そうだな。まあ、少し様子を見ておくか」

 

 そう結論付けて、彼らは再び酒を酌み交わすのだった。

 



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第一幕 4 『ステータス』

 ギルドの食堂を後にして宿への帰路につく。

 すっかり日は落ちて、ときおり酒場かららしき喧騒も聞こえてくるが、人通りは疎らだ。

 

 この街は比較的治安は良いが、だからといって若い女の子が夜道を一人で歩くのは勧められたものではない。

 自衛はできるし父さんもそのへんの心配はしてないと思うが、変に絡まれても面倒と思い気持ち足早になる。

 

 

 しばらく歩き、やがて東門近くの宿に到着する。

 宿と言っても、長期滞在者向けに提供されてるどちらかというと賃貸アパートのようなものだ。

 普通の宿として短期の宿泊客もいるが、ある程度まとまった期間で契約することで普通に宿に泊まるよりもかなり割安になる。

 一座の皆はこういった宿のいくつかに分かれて泊まっている。

 

 扉を開け中に入ると、魔道具の灯りに照らされたそこそこ広いロビーが出迎える。

 何人かソファーに座って談笑しているようだ。

 

 

「あ、お姉ちゃん!おかえりなさい!」

 

「あら、カティアちゃん~。おかえりなさ~い。今日は、外で食べてきたのかしら~?」

 

 そう言って出迎えてくれたのは、元気いっぱいのちいさな女の子と、間延びした口調で話す綺麗なお姉さん。

 ティダ兄の娘のリィナと、奥さんのアネッサ姉さんだ。

 

 リィナは母親譲りの金髪をツインテールにして、こちらは父親譲りの琥珀色の瞳。

 人形みたいに愛らしい8歳の女の子だ。

 

 アネッサ姉さんは肩まである緩やかに波打つ金髪をおろし、藍色の瞳、おっとり系の美人さんだ。

 ティダ兄以上に年齢不詳で、リィナとは少し年の離れた姉妹と言われても違和感がない。

 どうなってんだこの夫婦。

 独特ののんびりした口調で話をしていると眠気に誘われることがある。

 こう見えて一座でも随一の魔法の使い手で、【私】の魔法の師匠でもある。

 

 

「リィナ、姉さん、ただいま。ギルドで食べてきたよ。父さんとティダ兄も一緒だった」

 

「あら~そうなのね~。もう、ティダったら言ってくれればいいのに~」

 

 ぷんすか、という感じなので一応フォローしておこう。

 

「侯爵様が来てたんで捕まったんだと思うよ」

 

「そうなんだ~、じゃあしょうがないわね~」

 

「あ、そうそう。その侯爵様から話があったんだけど…」

 

 と、先刻の話をかいつまんで伝える。

 ふむふむ~なるほど~、と聞いていた姉さんは話を聞き終えると

 

「わかったわ~。リィナ?明日からお留守番できるかしら~?」

 

「うん、大丈夫だよ!女将さんのお手伝いして待ってるよ!お母さんもお姉ちゃんも気をつけてね!」

 

「そっか、偉いわ~」

 

 姉さんが頭をナデナデすると、嬉しそうに目を細めている。

 かわいい。

 本当、しっかりした子だね。

 

 面倒を見てもらうかわりに宿の女将さんの手伝いをしているらしいんだけど、結構戦力になってるみたいで女将さんもすごく可愛がっている。

 最近ではすっかり宿の看板娘だ。

 

 

「と言うことで明日は早くなるから、私はもう部屋に戻って休むことにするわ」

 

「そうね、私達も戻るわ~」

 

「お姉ちゃん、お休みなさい!」

 

「うん、お休みなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宿の自室に戻り、荷物をおろして一息つく。

 借りている部屋はおよそ8畳くらいの広さ。

 部屋の中にはシングルベッドとデスクが置かれ、それとは別にクローゼット、簡単な自炊くらいは出来る小さなキッチン、トイレ、湯船は無いがシャワールームが付いている。

 この世界の基準で言えばかなり快適な方だ。

 前世の感覚でいうとビジネスホテルに近いだろうか。

 

 

「ふぅ、とりあえずシャワーでも浴びますか…」

 

 

 ……ん?シャワー?

 

 ……つまりそれは当然、裸になる訳で。

 【俺】の意識が罪悪感を感じる。

 しかし、これからは当たり前になるわけで……

 

 しばし葛藤し、自分に言い訳しながらも最終的には服を脱ぎシャワールームに入る……

 

 

 

 

 

 結論から言って、特に思うところは何もなかっった。

 あくまでも自分の体という認識しかない。

 

 それはそれで、もと男としては複雑で……

 でも、いちいち自分の裸で興奮するようなことが無くてよかったとするべきだろう。

 

 

 さて、一息ついたところで今日の出来事を整理してみる。

 

 まず、記憶の共有は思ったよりも違和感がなく、カティアとして暮らすのになんの支障もなさそうだ。

 女になったことの違和感も思ったよりなかった。

 まだ心情的には複雑だけど……

 

 戦闘も経験したが、これも危なげなかった。

 むしろ、元のカティアよりも強くなっていたような気がする。

 そういえば、たしかエメリール様は魂の接合のインターフェイスとしてゲームを参考にした、と言っていたな。

 能力もある程度引き継ぐ、とも。

 

 

 ん?

 ゲームのインターフェース?

 ……もしかして。

 

 

「……『オープン メニュー』」

 

 ふと気になって試しに呟いた言葉。

 すると、目の前に見覚えのあるゲームのウィンドウ表示のようなものが現れたではないか!

 

「……開いた。マジか……いや、これどうなってるの?」

 

 触れてみようと手を伸ばしたがウィンドウを突き抜けてしまった。

 どうやら実体は無いようだ。

 

 これ、他の人も見えたりするのかな?

 あまり人のいるところでは開かないほうが良いかも。

 

 閉じるには……

 

「……『クローズ』」

 

 閉じた。

 まんまゲームのシステムだ。

 

 

 もう一度開いてメニューの内容を見てみる。

 

「……【ステータス】以外はグレー表示……選べないってことかな?」

 

 グレー表示のところに触れてみるが何も起きない。

 

 今度は【ステータス】を選んで見る。

 指先でその部分に触れてみると、ウィンドウの枠が広がって表示内容が変わった。

 

=======================

【基本項目】

 名前 :カティア

 年齢 :15

 種族 :人間(?????)

 クラス:ディーヴァ

 レベル:36

 生命値:1,564 / 1,564

 魔力 :2,987 / 2,987

 筋力 :287

 体力 :185

 敏捷 :489

 器用 :255

 知力 :383

 

【魔法】 ▼

 

【スキル】▼

 

【賞罰】

 ■請負人相互扶助組合

 ランク:B

 技量認定(戦闘):上級

 技量認定(採取):中級

 

【特記】

 ■エメリールの加護(魂の守護)

 ■?????????

 

【装備】

 

=======================

 

 ゲームの時とはやや異なる項目。

 ギルドの鑑定の魔道具で見れる内容と同じみたいだ。

 

 まずツッコミたいのが、人間(?????)って何?

 『お前人間か?』って意味か?

 もしかして、これは【俺】の影響なのかなあ?

 

 まあ、考えても分からない。

 他のところを見てみよう。

 

 クラスのところ。

 ゲームではメインとサブの複数のクラスを設定できたが、こちらは一つだけ。

 また、取得したクラスを自由に付け替えられたが、それをするためのメニューがそもそも選択できない。

 

 数値面は、【私】の記憶にある、ギルドで確認したときのものと大きな差異は無いように見える。

 ゲームではもう少し高かったはずだけど、身体は変わってないのだからまあ納得だ。

 

 次に、魔法とスキルだが……これは【私】のものに加えて、一部ゲームで覚えていたものが加わっている。

 

 魔法の内容は数が多いので割愛。

 ざっと見た感じだと、これまでに【私】が使ったことのあるものが履歴として記録されているようだ。

 

 スキルについては戦闘関連のものから日常生活のものまで幅広く、確認するのも一苦労。

 [剣術8]とか[魔力制御7]のように、技能名とその熟練度(最大で10)が記載されている。

 

 熟練度は5もあれば十分一流と言える。

 最高の10ともなると人外レベルという感じだ。

 

 ステータスに記載されているスキルの内容を確認していくと、記憶にあるものから熟練度が変わってるものがある。

 例えば[剣術8]は……本来の【私】では6、ゲームでは10だった。

 もとのカティアより強くなってる、と言うのは気のせいではなかったようだ。

 [魔力制御7]や[察知4]などはゲームには無いスキルで熟練度は変わっていない。

 [乗馬4]はゲームでのみ所持で熟練度は8だった。

 

 これらのことから、両方で所持してた場合はその平均値、もとのカティアのみ所持の場合はそのまま、ゲームでのみ所持の場合は半分となってるようだ。

 

 しかし、これに当てはまらないものがいくつかある。

 [刀術6][歩法7][数学6][自然科学6]…など。

 これは恐らく【俺】のものだろう。

 

 これまでの3人(?)の経験が引き継がれ、こうして目に見える形で確かに存在すると思うと感慨深い。

 

 他に注目すべきスキルとして[絶唱★]がある。

 ★はクラス固有のスキルであることを示す。

 

 カティアのアバターはイベントクリア報酬で特別に入手したものだが、その時の初期クラス[ディーヴァ]と、スキル[絶唱]は他では入手出来ない固有のものだった。

 【私】のクラスは元々は[歌い手]で、[絶唱]も無かったはずだ。

 

 [絶唱]の効果は歌によって、その歌声が届く範囲の対象に特殊な魔法効果を及ぼすと言うものだ。

 ゲームでは、物理・魔法に関わらず攻撃力を上昇させるもの、自動回復効果のあるものなど様々な「歌」があった。

 実際に使えるかどうかは検証が必要だが、対象がいない事にはどうにもならない。

 

 賞罰はギルドの資格などが記載されている。

 これは見たままだ。

 

 特記にあるのはエメリール様の加護だ。

 これは転生する時に守りを与える、て言っていたものだろう。

 そしてまた「?????????」の表示。

 気にはなるが、分からないものはしょうがない。

 

 装備欄には何もない。

 別に裸じゃない。

 シャワーを浴びたあとに下着と寝間着は着ている。

 基準がよく分からないが、剣とか鎧とか、特殊な効果のあるアクセサリーなんかだと表示される。

 

 

 ふう、こんなところかな。

 魔法やスキルの検証はここでは出来ないし、明日は依頼があるし、追々かな。

 エメリール神殿に行くのも依頼から戻ってきてからになってしまうか。

 

 さて、明日は早いから荷物の準備して寝よう。

 

 

 こうして、転生一日目を終えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ん?

 ここは……?

 

 周囲はぼんやりと明るいが何も見えない。

 

 あれ?また死んでしまったのか?

 

「……ねぇ」

 

 うん?だれかの声がした?

 

「こっちだよ」

 

 声の方に振り向くと、とても可愛らしい小さな女の子がいた。

 ……はて、どこかで会ったような?

 

「えっと、キミは?」

 

「ん~とね~、なまえは『かてぃあ』って言うの」

 

「……えっ!?」

 

 カティア?

 

 言われてみれば、特徴的な髪の色や顔立ちにも面影があるが……

 

「えっとね、おにいちゃん、かてぃをたすけてくれてありがとう」

 

 お兄ちゃん?

 

 と、自分を見てみると顔は分からないが体は男のそれだった。

 おそらくこれは【俺】のものなのだろう。

 

 そうすると、この女の子はもとのカティアってことか?

 

「えーと、カティアちゃんは自分に起きた事を覚えているのかな?」

 

 何か覚えているなら、原因が分かるかも知れないのだが……

 

「……ん~?よくわかんない。でも、なにかこわいことがあって、おにいちゃんがたすけてくれたのはわかるの」

 

「そっか……」

 

 そんな都合よくいかないか。

 

 というか、これは夢……なんだろうか?

 

 たしかに頭に靄がかかったかのように意識がはっきりしない感じがするが、夢にしては明瞭な気もする。

 明晰夢というやつだろうか?

 

 ……分からない。

 でも、ただの夢ではないだろう。

 

 それに、この子。

 

 カティアは15歳の少女だ。

 だが、カティアと名乗るこの女の子はせいぜい3歳くらいだろう。

 俺のことを「助けてくれた」と言っていたことから、多分もとのカティア本人(?)だと思うのだが……

 

 魂を大きく損傷してしまった影響でこんな状態に?

 もしそうだとすると、こうやって会話ができると言うことは、僅かでも彼女の意識が残っていると言うことなのだろうか?

 

 この子がもとのカティアだとして、気になったことを聞いてみる。

 

「カティアちゃんはさ、自分の中に【俺】がいるのは嫌じゃない?」

 

「うん、いやじゃないよ。おはなしできてうれしいな」

 

「そっか、よかった」

 

 子供の感覚だとちょっと違うのかもしれないけど、嫌に思ってないなら良かった。

 

 魂の修復が進んだら、この子も成長するのかな?

 そうなった時、俺との関係はどうなるのだろうか?

 エメリール様も分からないと言っていたし、なるようにしかならないか……

 

 それから、しばらく他愛ない話をしていたが……

 

「あ、おにいちゃん。そろそろおきるじかんみたい」

 

「ん?ああ…目が覚めるのか。今もこうして意識があるのに、なんか不思議な感じだな」

 

「また、おはなししようね」

 

「そうだね。またね」

 

「ばいばい!」

 

 

 そうして話を切り上げると、だんだん水中から浮上するような感覚がして、【俺】は目覚めた。



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第一幕 5 『出発』

 目が覚めると、昇りかけの太陽が街を赤く染めるような時間で、窓から光は差し込んでいるものの部屋はまだ薄暗かった。

 いつもの起床時間よりはかなり早いが、今日は依頼の約束があるのでそれほど余裕がある訳ではない。

 

 皆を待たせるわけにはいかないから、さっさと支度を済ませてしまおう。

 

 

 顔を洗い、口をゆすぎ、鏡を見ながら髪を整えて、着替える。

 母親の形見だというペンダントを身につける。

 そんな、毎朝やっていたであろうルーチンも問題なくこなす。

 まだカティアは日常的には化粧をしてないようだ。

 必要ないとも言えるが、【俺】の精神衛生的には助かる。

 

 

 それにしても、不思議な夢を見た。

 

 ……いや、あれは夢じゃなく実際にあった事なのかもしれない。

 そうであってほしいと思う。

 

 彼女がこれからどうなっていくのか分からないけど、また会えるのを楽しみにしている。

 

 

 

 

 

 早々に支度を終えて、宿の食堂に向った。

 まだかなり早い時間だが、早朝から活動する商人や冒険者たちのために既に営業を始めている。

 

 ただ、営業開始からはそれほど経っておらず、まだ食堂内は閑散としていた。

 数人が朝食をとっているだけで、ほとんどのテーブルは空いている。

 その中に父さんを見つけたので、給仕に注文をしてからそちらに向った。

 

 

「おはよう、父さん」

 

「おう、おはよう。だいぶ早いがよく眠れたか?」

 

「うん、大丈夫。他の皆はまだみたいね」

 

「そのうち来るだろ。アネッサには伝えてくれたんだよな」

 

「うん。今日はリィナも宿のお手伝いしながら留守番してるって」

 

「なら良かった。と、噂をすれば……来たな」

 

 ティダ兄とアネッサ姉さん、ロウエンさんも一緒だ。

 

 

「おはよう、リィナはまだ寝てるの?」

 

「おはよう~、ダードさん、カティアちゃん~。まだ流石に早いし起こすのも可愛そうだから~、そっと出てきたわ~」

 

 見送りたかった、とか後で拗そうだけど大丈夫かな……

 まあ、リィナはしっかりした子だから大丈夫か。

 

 ほかの皆とも朝の挨拶を交わして、給仕が持って来た朝食を食べ始める。

 

 

 

 

 

 

「よし、皆食べながらで良いから聞いてくれ」

 

 先に食べ終わっていた父さんが、これからの予定を話し始める。

 

「俺たちがこれから調査に向うスオージの大森林だが、昨日侯爵に聞いた通り何らかの異常……おそらく強力な魔物がいる可能性が高い。熟練の斥候を擁する調査の専門家とも言えるパーティーが行方不明になっている。俺らはどんな状況にも対応できるようにと、戦闘能力を買われて指名された訳だが……不意打ちを受ければ俺らだって危ねえ。うちのロウエンだって斥候として相当なもんだが、それに頼りきらずに各自最大限に警戒してくれ。そんな状況なんでな、単独行動は危険だ。だから今回は、効率は悪いがバラバラに散開しないで密集陣形でいくぞ」

 

「その行方不明のパーティーって~、どの程度の実力だったんです~?」

 

「ああ、一応捜索も兼ねてるんで侯爵に確認したんだが、なかなかのもんだ。5人パーティーでな、リーダーがBランクの剣士、後はCランクって……それだけ聞くと大したことないように聞こえるんだがな」

 

「あとは魔道士が一人と、斥候役が3人って変わった構成らしいッス。調査専門ってのは伊達じゃないッスね。スキルも聞いた限りじゃ斥候系のものは大体網羅していて熟練度も5~7、正直このパーティーの不意を打つなんて、たとえ高位の魔物でも限られるんじゃないッスかね?」

 

 アネッサ姉さんの疑問に、父さんとロウエンさんが答える。

 

「ねえ、ロウエンさん、限られるってことはある程度相手の目星は付くの?」

 

「うーん、そうッスねぇ……限られるっていっても魔物の種類は多いッスからねぇ……でも森林ってのを考慮すると、例えば脅威度Bランクのファントムウルフとか。こいつは隠形に優れる上に察知能力も高い。更に足の速さがハンパないんで、索敵範囲外から一気に接近されると熟練の斥候でも対処が難しいッス。あとは……同じくBランクのアサシンスパイダー。こいつはとにかく気配が掴みにくく相当に注意してないと奇襲を受けやすいッス。まあ、このあたりはオイラは察知できるし、万一奇襲されてもこの面子なら問題ないッス。そのほかだと霊体系のアンデッドとかも厄介ッスね。あとはAランクとかも考えられるッス」

 

 なるほど……今ある情報だけでは絞り込むのは難しそうだね。

 でも、ロウエンさんが挙げた魔物はどれも説得力があると思う。

 

「さすがロウエンさん、見た目も言動もチャラいけどこの手の知識はうちでも随一だよね」

 

「カティアちゃん、それ褒めてないッス」

 

「しかし、候補はそれなりにいるって事か。魔物が原因とも限らないしな。行ってみないとなんとも、か」

 

「ああ、ここで議論しててもしょうがねえ。皆メシは食い終わったな。じゃあ、そろそろ出発しよう」

 

 話をしているうちにいつの間にか皆食べ終わっており、いよいよ出発することになった。

 

 

 

 

 

 まずは馬を借りるため、東門の領軍詰所にある厩舎に向かうことになった。

 

 日はすっかり昇り、さわやかな朝の空気の中にパンの焼けるいい匂いが混じる。

 早くも職場に向かう人たちや、街の外に向かう同業者らしき人々、夜通し飲んでいたのかまだ酔いも覚めやらぬ様子で家路につく人など、まだ朝も早い時間だがそこそこ人通りがある。

 

 

 宿は東門の近くなので、程なく領軍詰所に到着した。

 門の前に立つ衛兵の一人に父さんが声をかける。

 

「すまない。我々は冒険者パーティーの……あ~『エーデルワイス』なんだが、侯爵閣下からこちらに話は行ってるだろうか?」

 

「はっ!エーデルワイスの皆さんですね。話は伺っております。厩舎の方にご案内いたしますので、こちらへどうぞ」

 

 そう言って、門の中に招き入れてくれる。

 中に案内されて歩いてる途中……ちょんちょん、と姉さんが突いてくる。

 なあに?

 

「エーデルワイスって~?」

 

「あ、そうか。まだ伝えてなかったっけ。昨日侯爵様にパーティー名は?って聞かれて急遽決めたの。姉さんもパーティー名はあった方が良いって言ってたって、ティダ兄から聞いたし。ほら、うちの一座のシンボルマークに使われてるじゃない?」

 

「あ~、あれね~。良いじゃない~。何だったら一座の名前もエーデルワイス歌劇団とかにすれば~?ダードレイ一座じゃなんだかダサいな~って思ってたのよね~」

 

 ……なんか、ナチュラルにディスってる気がするけど、それは父さんに言ってね。

 

 そんな話をしながら、案内されるまま歩いていく。

 詰所の建物には入らず脇を通り抜けて行くと、練兵場と思しき広場がありその奥の一角に厩舎があった。

 

「こちらです。今回お貸しするのは5頭でよろしかったでしょうか」

 

「ああ、ありがとう。5頭で問題な……っと。カティア、お前馬乗れたっけか?」

 

 ……乗れない。

 本来の【私】なら。

 

 一座で馬車は使うので御者はできるんだけど、何故か乗馬はしたことが無かったんだよね……

 でも、いまの私のスキルには[乗馬4]がある。

 

 ……うーん、これゲームから引き継いだものみたいなんだけど、実際に乗れるのだろうか?

 

「……多分、大丈夫だと思う…?」

 

「多分って……何で疑問形なんだ?別に誰かと相乗りでもいいんだぞ」

 

「ちょっと試してみる。すみません、1頭お借りしても?」

 

「え、ええ、構いませんが……」

 

 

 ちょっと不安だし、大人しそうな子がいいかな。

 馬房を巡り一頭一頭見ていく。

 

 よし、この子にしようかな。

 近づいて声をかけたら鼻を擦り寄せてきてくれて、とても懐っこい感じの栗毛の子。

 可愛い。

 

 馬房から外に出して馬具を付けてもらい……

 

「乗せてもらうね?」

 

「ヒヒンッ!」

 

 一声かけてから跨った。

 

 ……何となく走らせ方が分かるかな?

 最初は並足で、その後軽く駆け足で練兵場を走らせてみた。

 うん、大丈夫そうだ。

 

「よ~し、どうどう!……はい、ありがとうね」

 

「ぶるるっ!」

 

 首を撫でながらお礼を言うと、どういたしまして、と返事してくれたような気がする。

 

 うん!乗馬って楽しい!

 【私】も【俺】も経験ないことなのでとっても新鮮な気分だ。

 

「あぁ、どうやら大丈夫みたいだな」

 

 様子を見ていた父さんからも太鼓判をもらった。

 

 どうやら、本来の私が持っていなかったスキルでも、問題なくその技能を扱えることが分かった。

 

「しかし、いつの間に乗馬なんて覚えたんだ?」

 

「あ、あぁ、ほ、ほら冒険者の依頼で遠出することもあるし、できたほうが良いと思ってたまに練習してたのですことよ。オホホホ……」

 

「?……そうか。しかし、お前どっちが本職かますます分からなくなってきたな」

 

「それは皆そうでしょ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬を借り街を出た一行は、街道を一路東へ進む。

 昨日も通ったが街道は平和そのもので、なんのトラブルもなく順調に進む。

 

 やがて、街道から外れ北に向かって伸びる小道に入った。

 街道程では無いが、馬が2頭並んで走る程度には広く、移動スピードが落ちることはなく快調に進む。

 

 事前に確認した地図によれば、この道はスオージ大森林の近傍まで続いており、このまま進めば侯爵様に教えてもらった領軍の野営地の一つに辿り着くことができる。

 道の両側は草原になっており、ところどころに大小の森林が見える。この先に進むにつれて徐々に森が深くなっていくのだろう。

 

 

 小道に入ってしばらく進んだところでロウエンさんが警告を発した。

 

「大将!何かいるッス!多分、魔物が複数!」

 

「ちっ、面倒だな……振り切れねえか?」

 

「あそこの森の中、同じくらいのスピードで並走してるッス!」

 

 そう言って、進行方向右手側の少し離れたところで道と並行している森を指す。

 確かにこちらに合わせて森の中を走る複数の気配を感じる。

 

 

「父さん!ここで迎撃しよう!確かこの先は湿地で足場が悪くなるよ!」

 

「よし!馬を止めろ!各自迎撃態勢!」

 

「「「応!(は~い!)」」」

 

 父さんが号令をかけると、皆一斉に馬を止め下馬し迎撃態勢を整える。

 

「来るッス!」

 

 こちらが止まったのに合わせて森から一斉に飛び出してきた魔物、その数およそ三十匹程の……

 

「ブラッドウルフか!」

 

 血で染まったかのように赤い毛を纏った体長1.5m程の狼で、単独ではそれほど脅威ではないが、大体は十数匹程の群れで行動し、その場合は脅威度Bランク相当とされる魔物だ。

 その敏捷性を活かした連携を得意とし、並の冒険者ではかなり危険な相手だ。

 しかも、通常よりもかなり数が多い。

 だが……

 

「アネッサ!初撃頼む!」

 

「は~い、[氷弾・散]」

 

 姉さんの魔法により、空気中の水分を凝集して作られた氷の弾丸が広範囲にばら撒かれる。

 本来は単発のところ、散弾銃のようにアレンジしてる。

 威力よりも相手の出鼻を挫くために発動速度と効果範囲を優先したようだ。

 

 狙い通り、魔物たちの突撃の勢いは大きく削がれた。

 そのうちの何匹かは当たりどころが良かったようで一撃で仕留める事ができたみたいだ。

 そこに父さんとティダ兄が飛び込んでいく。

 

「ティダは右を頼んだ!ロウエンとカティアはアネッサと馬を守りつつ、抜けたやつを潰せ!」

 

「分かった」

 

「「了解!(ッス!)」」

 

 父さんは指示を出しつつ本来は両手で扱うはずの大剣を片手で軽々とふるい、一振りでまとめて4~5匹を倒す。

 ティダ兄は対照的に目にも止まらない双剣の連撃で次々とうち倒していく。

 

 それでもさすがに数が多いので二人で全てを相手にできるわけではなく、間を抜けた2匹がこちらにやって来た。

 

 左右から挟み込むように連携を取って迫ってくる相手をギリギリまで引きつける。

 そして、襲いかかってくるタイミングに合わせてバックステップ……紙一重で躱し、2匹が交錯するのに合わせて一太刀でまとめて首を斬り飛ばす。

 

 

 

 その後も、前衛二人は次から次へと屍を積み上げる。

 ときおり抜けてくるのも、私とロウエンさんで危なげなく討ち取っていく。

 

 瞬く間に数を減らしたブラッドウルフは、残り数匹になったところで逃げ出していった。

 

 

 

「よし、深追いはしなくていい。馬は大丈夫か?」

 

「ちょっと興奮してるけど~、大丈夫~。さすが良く訓練されてるわ~。よしよし、いい子ね~」

 

 突然の襲撃から始まった戦闘もさして時間もかからずに終了、こちらの被害は特に無し。

 流石は高ランク冒険者を擁するパーティーなだけに、全く危なげなかった。

 気心の知れた者同士なので連携も問題なし、と。

 

「しかし随分と数が多かったな。ブラッドウルフってのはあんなに群れるもんだったか?」

 

「いや、普通は多くても十数匹程度のはずッス。これも異変の影響ッスかね?」

 

「そうかもしれん。スオージの森から追い出されたいくつかの群れが合流したのかもな」

 

 しかし、あんなのが街道まで行ったら大変だ。

 何匹かは逃してしまったが、数を減らせてよかったよ。

 

 

「じゃあ、馬が落ち着いたらまた出発だ。あっと、その前に後始末頼む」

 

「分かったわ~、カティアちゃんもお願い~」

 

「うん。じゃあ私はこっちをやるね」

 

 死体の後始末を姉さんと手分けする。

 今回は時間も惜しいので小規模高火力の魔法で手早く焼却して、一応魔核も集めておく。

 

「終わったよ」

 

「こっちも~」

 

「よし、じゃあ行くか。領軍の野営地はあともうすぐでたどり着けるだろう」

 

 戦闘と後始末に少々時間は取られたが、特に問題なく直ぐに再出発した。

 

 



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第一幕 6 『スオージの大森林』

 魔物に襲われたところから道なりに進むことしばし。

 遠目には深く広大な森林が見えるようになり、やがて多数のテントが設営されている開けた場所に辿り着いた。

 ここが領軍の野営地なんだろう。

 

 何人かの兵士がいるが、テントの数の割には人数が少ない。

 もう寝てる時間でもないだろうし、おそらく巡回に出ているのだろう。

 こちらに気がついた兵士の中から一人やって来た。

 

「お前たちは…冒険者か。ここはブレーゼン領軍の野営地だが、何か用だろうか?」

 

「ああ、俺たちは『エーデルワイス』ってパーティーなんだが、ここの責任者はいるだろうか?」

 

「それなら、私がこの部隊の隊長のランドルだ」

 

「そうか、ちょうど良かった。これを」

 

「この手紙は?…ブレーゼン侯爵閣下の紋章!…拝見しても?」

 

「ああ、確認してくれ」

 

 父さんから手紙を受け取り、隊長はしばらく目を通していたが、読み終えるとこちらに向きなおり、さっと敬礼すると

 

「お努めご苦労さまです。閣下の指令確かに承りました。指令の通り調査の間はこちらで馬を預かります。また、できるだけ便宜を図るようにとのことですので、もし調査が長期に渡る場合はテントを一つ空けるのでご自由にお使い下さい。水や食料も補給して頂いて構いません」

 

「あ、ああ、助かる。何か随分至れり尽くせりだな…?」

 

 本当に。

 軍の人って、あまり冒険者に良い感情もってないと勝手に思ってたんだけど。

 なんか、手紙を読んだあとの隊長さんの目がキラキラしてるような…

 

「なんといっても、Aランク冒険者『剛刃』のダードレイといえば、戦いを生業とする者にとっては憧れの存在ですから!皆さんのお力になれるのはとても光栄です!」

 

「お、おぅ、そうか…」

 

 あ~、父さんのファンなんだ…

 二つ名があまり好きじゃないから戸惑ってるね。

 

「それに…そちらはダードレイ一座の歌姫、カティアさんですよね!」

 

 えっ、こっち来た!?

 

「え、ええ…」

 

「やっぱり!私も含めて、うちの連中皆あなたのファンなんですよ!…あの、すみません、握手してもらえますか?」

 

「あ、ハイ。…いつも応援ありがとうございます…?」

 

 勢いに飲まれて思わず了承したが、ちょっと怖いわ。

 今まで街で声をかけられたことはあったけど、ここまで熱心なのは初めてだ。

 

 すると、遠巻きに様子をうかがっていた他の兵士から非難の声が挙がって…

 

「あ、隊長!ずるいですよ!」

 

「そうだそうだ!」

 

「おれも!おれも握手お願いします!」

 

 ひぃ~っ!?

 皆すごい勢いで集まって来た!?

 

 結局、野営地に残っていた兵士全員と即席の握手会となってしまった…

 巡回中でほとんど出払っていて良かったよ…

 

 

「…大丈夫か?」

 

「…これからが本番なのに何だか疲れちゃったよ」

 

 ティダ兄が気遣って声をかけてくれる。

 最初は父さんのファンだって言ってたのに…ミーハーか。

 

「災難だったな。俺ぁ助かったが。だがファンは大切にしないといかんぞ」

 

 そりゃあね、ありがたいんだろうけど。

 だいたい、あんたら今任務中でしょーが。

 侯爵さまに言いつけるぞ。

 そんなんだから練度を心配されるんだよ。

 それから、何が「俺、一生手を洗わない」だよ。

 リアルに言う奴初めて見たわ。

 

「それにしても、ティダ兄だって父さんと同じくらい有名な冒険者なんじゃないの?」

 

「俺は目立たないからな」

 

 …そうかな~?

 

「ティダはね~、女の子からの人気が凄いからね~。群がる虫けらどもを追い払うのはそれはそれは大変なのよ~」

 

 あー、男からは嫉妬を買いそうだね。

 そして、姉さんはサラッと毒を吐いたね…

 ほんわか口調と発言内容がかけ離れてるよ…

 

「俺はアネッサ一筋だ」

 

「ティダ…」

 

「はいはい!お熱いのは結構ですけど、もう行こうよ!」

 

 この、バカップルが!

 

 

 さて、いろいろあったが野営地を後にして森に向かって進む。

 森はまだ先だが、徐々に道の周辺にも背の高い木が見られるようになり、緑の匂いが濃くなってきた。

 

 やがて、木々の間隔が狭まり天上は枝葉に覆われて、僅かな光が差し込むだけの薄暗く鬱蒼とした雰囲気となった。

 どうやら森林地帯に入ったようだ。

 

 

 スオージの大森林。

 

 ブレゼンタムの街の北東に広がるこの森は、スオージ山を中心とした直径300kmにも及ぶ円形に広がっており、その広大な面積のうち、僅かにある林道の周辺を除いて殆どが人跡未踏の地となっている。

 

 当然、この中の全てを調査する訳でもなく、ブレゼンタムにほど近い、森林全体から見ればごく僅かな範囲が調査対象となる。

 森の中心に近いほど人外魔境の様相を呈しており、そこから高位の魔物が時折やって来るのは何ら不思議な事ではなく、今回の件もそういう事なのではないか、と考えられている。

 

 

「大将」

 

「ああ、こりゃあ俺でも分かる。この凄まじい圧迫感、いるな」

 

 森に入って早々に、ロウエンさんが警告するまでもなく、まるで空気が重たくなったかのような圧迫感によって強大な力を持った何者かが存在する事をいやでも感じることができた。

 

「こうなると、行方不明のパーティーってのは不意打ちでやられた訳じゃなさそうだな?」

 

「ああ。恐らくこの段階で撤退すべきかどうか検討したはずだ。だが、調査のプロとしてはこのプレッシャーの出どころを確認しなければ、というのもあったかもしれん。確認するだけなら問題ないと言う自信もあったかもな。推測ではあるが」

 

「いや、的を射ているとは思う。どうする?この感じだと確実にAランクはあると思うが」

 

「…このメンバーなら十分対処可能だとは思うが。リーダーの判断に任せる」

 

 でも、この感じ。

 少し気持ち悪いと言うか、禍々しいと言うか…

 どこかで…?

 

「ロウエン、どれくらいの距離があるか分かるか?」

 

「そうッスね…ちょっと気配が強すぎて正確には分からないッスけど…少なくともあと1km以上はありそうッス。特に動いてる感じはしないので、多分こっちには気づいてないッス」

 

 何だろう…凄く不安に感じる。

 こいつに近づいてはいけない…

 そんな気がする…

 

「こう視界が悪いんじゃあ、どのみち近づかんと正体は探れんな。もう少し行ってみるか。方角はこっちで良いか?」

 

「多分もうちょっと東寄り…この方角ッスね」

 

「よし、行こう…どうした、カティア?顔色が悪いぞ、大丈夫か?」

 

「え?…ううん、大丈夫。ちょっとこの森に入ってから肌寒かったから…」

 

「カティアちゃん~、無理しちゃ駄目よ~?」

 

「ああ、体調悪いなら一旦野営地に引き返して待ってても良いんだぞ」

 

「ありがとう、大丈夫だよ。行こう」

 

 確かに嫌な予感がするのだが…

 それよりも、皆だけで行かせるのはもっとマズい、と私の中の何かが警告を出している気がしてならない。

 不安を押し殺して、重たくなった足を無理やり動かして何とか歩みを進める。

 

 

 そうして先に進むことしばし、プレッシャーは益々強くなり、ほとんど物理的な威力を伴ってるように感じる程だ。

 

「ダード、こいつは想像以上だぞ。事によるとSもありえる」

 

「あぁ、目視できたら即時撤退も考えねえとな…」

 

(しっ!大将、もうすぐそこッス。あの繁みの奥の方。なるべく姿勢を低くして…)

 

 ほとんど這うようにして繁みに近づき、そっと顔を出してその向こうを見ると…

 

 

(ロウエン、ありゃあ何だ?)

 

(…何スかね?オーガ…に見えましたけど。アレはヤバいッスね)

 

(あの黒い靄のようなものは何だ?ただのオーガじゃないだろう?)

 

(アンデッドの纏う瘴気みたいな感じがするけど~、それとも違うような~?)

 

 繁みから覗いて見えたのは、皆が言うとおり一匹のオーガだ。

 見た目は人間に近いが、下半身は獣毛に覆われ、額には尖った瘤状の角が生えている…いわゆる『鬼』だ。

 身の丈3メートルを超える巨躯とそれに見合った怪力を誇る魔物であり、驚異度はCランク相当だ。

 この森では決して珍しい存在ではない。

 

 しかし、ただのオーガではない事はその身に纏う禍々しい黒い靄を見れば一目瞭然だった。

 間違いなくアレが今回の異変の原因だろう。

 そして、あの黒い靄は【私】の記憶に微かにひっかかる。

 あれは恐らく…

 

 と、その時、ただでさえ強大なプレッシャーが更に膨れ上がった!

 

「ヤバい!気付かれたッス!」

 

「チッ!散開!!」

 

 ドゴォッ!!!

 

 一斉に皆が跳び退った直後、潜んでいた繁みごと地面を粉砕するような一撃が見舞われた!

 先程までいたところの地面が大きく抉れている…

 とんでもないスピードとパワーだ!

 

「うおっ、早いッス!」

 

「っ!なんてパワーだ…!」

 

「撤退するぞ!」

 

 即座に撤退の判断を下し、来た道を駆け戻る。

 

『ぐるるあっー!!!』

 

 しかし、相手は雄叫びをあげながらその巨体に似つかわしくないスピードで地響きをたてながら追ってくる。

 こっちの足のほうが若干早いようだが、木々を避けながらになるので真っ直ぐ進めないのに対して、むこうはパワーに物を言わせて木をなぎ倒しながら最短距離で迫ってきており、なかなか引き離すことができない…!

 

「くそっ!引離せねぇ!迎え撃つか!?」

 

「そうするにしても、場所が悪い!あのパワーだと木が何の障害にもならん!逆にこちらの方が動きが制限されて不利になる!」

 

「みんな~目くらましを撃つわ~!注意してね~、[閃光・留]!」

 

 カッ!

 

 攻撃力は皆無だが、強烈な光を放つ魔法だ。

 本来は一瞬で消えてしまうが、少しの間持続するようにアレンジされている。

 

 よし、私も一つ!

 

「[土壁石壁・重]!」

 

 周辺の土と石を集めて幅5メートル、高さ3メートル程の壁を作る魔法だ。

 アレンジして、それを三枚重ねる。

 木々をものともしないあのパワーだと大した足止めにはならないと思うけど、閃光と合わせればそこそこ時間が稼げるだろう。

 

 …そうして何とか魔物を引き離し、撤退に成功した。

 

 

「ふう、ヤバかったッスねぇ…」

 

「アネッサ、カティア、助かったぞ」

 

「圧はまだ感じるが…どうだ?」

 

「1~2km程は引き離したッスね。もう動いていないのでこちらを見失ったと見て大丈夫そうッス」

 

「魔物は確認できたな。アレが一連の異変の原因と見て間違いないだろう。…アレが結局何だったかは分からないが、調査の目的は最低限果たせたと言っても良いか?」

 

「ああ…そうだな。できればもう少し情報が欲しいところだが…無理して情報を持ち帰れないのが一番まずい。少なくとも原因と思しき魔物の特徴、居場所、能力の一端は確認できた。この情報はすぐに持ち帰ったほうが良いだろう。討伐するにしても、この人数でアレの相手をするのは少々骨だ。もっと大規模な討伐隊を組まないと」

 

「ねぇ、姉さん、あの黒い靄って何だったのかな?姉さんはアンデッドの瘴気に似てるって言ってたけど」

 

 あの黒い靄は、恐らく【私】の身に起こったことと何か関係がある。

 失われた記憶が刺激されている気がするんだ。

 

「そうね~、私[退魔]系統の魔法も使えるから~アンデッドの討伐依頼を頼まれることがあるんだけど~、高位のアンデッド、『レイス』とか『スペクター』とかになるとああ言う黒い靄みたいなのを纏ってるのよね~。さっきのオーガ?のやつは、それよりももっとうんと濃くしたような感じだったけど~」

 

「じゃあ、アレはアンデッドなのか?」

 

「ん~、ちょっと違う感じなのよね~。でも~、かなり近い感じはするかな~」

 

「すると、[退魔]系が効くかもしれん、てことか?」

 

「そうかもしれないけど~、わたしアレに効きそうな[退魔]系は無詠唱できないのよね~。そうじゃなければ試してたわ~」

 

「そうか、アレ相手に後衛を守りつつタゲ取って時間稼ぎはキツいな…せめて、もう何人かいねえとな」

 

 アンデッド…霊体…魂…やはり関連がありそうだ。

 街に戻ったら神殿に行ってエメリール様に報告すれば何か分かるかも。

 

「街に戻れば詳しいことを知ってるやつがいるかも知れん。ともかく、撤収だ」

 

 一応、調査の目的は果たせたので一旦撤収する事にする。

 ある意味依頼自体はスムーズにいったと言えなくもない。

 



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第一幕 7 『合流』

「……おかしいッスね」

 

 しばらく歩いていると、唐突にロウエンさんが疑念を口にした。

 

「どうした?」

 

「いや、もうとっくに外に出てもおかしくないはずなんスけど……」

 

「なんだ?方向間違えてんじゃねえのか?」

 

「いや、そんなはずは……」

 

「枝葉で見えにくいけど、太陽は確認できてるし私も方向は合ってると思うけど?」

 

 夜や屋内ならまだしも、そうそう方向を誤るはずもないはずだ。

 

「そうすると……どういう事なんだ?」

 

「うーん、分からないッス。それと、どうもアイツとの距離がさっきから変わっていないみたいなんスよ」

 

「はぁ?何だそりゃ?あっちも動いてるんじゃねえのか?」

 

「そういう感じでもなくて……同じところをぐるぐる巡ってるような?魔法のトラップでそんなのがあるッスよね?一度入ったら出られない的な……」

 

「あ~、あるわね~。結界魔法の一種ね~。ダンジョンとかでも使われてて結構厄介なのよね~」

 

 それが事実だとしたら、抜け出すためには確か……

 

「確か、魔法の起点になっている何かを破壊、あるいは術者を倒すなりしないといけないんだったか?」

 

「そうなるわね~。今回の場合は後者ね~」

 

「はあ~、勘弁してほしいぜ……」

 

 そう、あのオーガもどきが発動させてるのだろう。

 そうすると、アイツを倒すしかないという事だ。

 

「魔力切れは期待できないのか?」

 

「一旦発動すると本人の魔力は関係なくなるわ~。その場所の魔素を糧にして維持し続けるの~。ここは地脈から木々が魔素を吸い上げて大量に放出してるから~効果は半永久的かしら~。[解呪]って手もあると言えばあるんだけど~、これだけ広範囲だと私じゃ無理ね~」

 

「あ~分かった分かった。お前が無理なら誰だって無理だろ。腹ぁ括るしか無ぇって事か」

 

 いよいよ覚悟を決めなければ、と言うとき。

 

 

「ちょっと待つッス。何かこちらに来るッス」

 

 ロウエンさんが何かを察知したようだ。

 

「何だ?魔物か?」

 

「いや……これは人間っぽいッスね。向こうもこちらを察知してるみたいッス。動きに迷いがないッス」

 

「何?まさか……?」

 

 今この森にいる他の人間って、もしかして?

 

 

 念の為警戒しながら待ち構えていると、やがて姿を現したのは……

 

「ああ、やはり冒険者か!あんたたち、この森の調査に来たんだろう?」

 

 そう言って、こちらに声をかけてきたのは二十歳前後くらいの長身の男。

 茶褐色の髪と瞳に精悍で整った顔立ちの、なかなかの男前だ。

 どこか気品があるような感じもする。

 纏った鎧や腰に下げた長剣を見るに、前衛の剣士と思われる。

 

 

 その後ろには比較的軽装の斥候らしき三人。

 

 一人は長い黒髪を首の後で束ねた、鋭い雰囲気の細身の男性。

 

 一人は薄茶髪の中肉中背であまり特徴のない男性。

 

 一人は赤髪をショートボブにした、気が強そうだけど綺麗な女性。

 

 

 そして、もう一人。

 いかにも魔道士と思しき出で立ちの、私より少し年上くらいの女の子。

 紺色の髪をお下げにして、ちょっと野暮ったい眼鏡をかけている。

 顔立ちは可愛らしいのにもったいない感じだ。

 そして、多分ドジっ子だ。

 いや、雰囲気がそう主張してる気がして……

 

 

「あぁ。そう言うお前さんたちは『鳶』か?」

 

 剣士の彼の問に父さんが答え、逆に問いかける。

 パーティーの構成も聞いていた通りに見えるし、間違いないだろう。

 

「ああ、そうだ。俺はリーダーのカイトという。で、こいつらは……」

 

「レダだ」

 

「ザイルです」

 

「レイラよ。よろしく」

 

 黒髪の男、茶髪の男、赤髪の女、の順だ。

 そして、最後に魔道士の女の子が名乗る。

 

「あ、わ、私はリーゼですっ!よろしくお願いしまふっ!」

 

 ……噛んだ。

 

 ああ、赤くなってる。

 やはり見立ては間違っていないようだ。

 

 

「俺たちは『エーデルワイス』ってんだ。まあ、名前は昨日付けたんだがな。俺は一応リーダーのダードレイだ」

 

「ティダだ」

 

「ロウエン、ッス」

 

「アネッサよ~」

 

「カティアです」

 

 父さんの紹介に合わせて皆名乗る。

 

「ダードレイにティダ……もしかして『剛刃』『閃刃』の?」

 

「……自分で名乗ったことは無いんだがな。まあ、そうだ」

 

 ホントに嫌そうだね、その二つ名。

 

「それほどの大物が来てくれるとはありがたい……何とか粘った甲斐があるってもんだ」

 

「おぉ、そうだ。よくアレから生き延びられたもんだな?」

 

「あんたたちも既にアレに遭遇したんだな。まあ、俺たちは逃げ足が早いのが取り柄だから。森の中は幸か不幸かアレのおかげで他の魔物は居なくなってるし、水や食料の調達もできたし。あとはアレに見つからないように、ギルドが誰か派遣してくれるまで何とか粘ろう、ってな。知っての通り、アレの気配は俺でも察知できるくらいに強烈だから結構なんとかなった」

 

「まあ、何にせよ良かった。正直、状況から見て生存はあまり期待してなかったからな」

 

「ああ、そうだろうな。むしろこんなに早く来てくれるとは思わなかった」

 

「侯爵閣下が随分気にかけていたみたいでな。俺たちにも直接話を持ってきた」

 

「そうか……侯爵様には頭が上がらないな」

 

 うちのスケジュールを気にして……と言うのもあるんだけど、それは言わなくてもいいだろう。

 気にかけてた、というのもその通りだし。

 

 

 

 

 そして、父さんやカイトさんたち男性メンバーが少し離れて情報交換のため話し合いを始めた。

 

 

 その一方で、こちらは両パーティーの女性メンバーが集まっていた。

 

(ああ、すんなり女性の輪の中に入ってしまうのね……【俺】的には、ちょっと複雑だよ)

 

「ねぇ、あなた……カティアちゃんって、ダードレイ一座の歌姫さん?」

 

「あ、ハイ、そうですけど」

 

 『鳶』パーティーの一人、レイラさんが話しかけてきた。

 

「やっぱり!アタシ公演見に行ったのよ。あなたの歌にはそれはもう感動したわ!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 正面から手放しで褒められると、ちょっと照れるね。

 鼻息荒い男どもに囲まれて握手を求められるよりずっと良いけど。

 

「それにしても、遠目でもキレイな娘だと思ったけど、こうやって間近に見ると……ホント、綺麗だわぁ……」

 

 なんか目が怪しい感じになってるんだけど、大丈夫だろうか?

 

 あれ?

 あの男どもと大して変わらない?

 

 

「レイラさん、見に行ったんですね。いいなぁ」

 

 リーゼさんも話に入ってきた。

 父さんも言ってたし、ここはファンサービスしておくか?

 

「もし良かったら、チケット融通しましょうか?……ここを切り抜けてから、ですけど」

 

「いいの!?」

「いいんですか!?」

 

「え、ええ。これから皆さんの協力も必要になるでしょうし、そのお礼と言うか……」

 

「いや、協力をお願いする立場なのはこっちなんだけど。でも俄然やる気が出るわね!」

 

「は、はい、私も頑張ります!」

 

 凄い食いつきだね……

 やる気が出て何よりだけど。

 

 

 ちょっと落ち着いたところで、リーゼさんがアネッサ姉さんに話しかける。

 

「あ、あの~。アネッサさんとおっしゃいましたよね?」

 

「ええ~、そうよ~」

 

「もしかして、アスティカントの『学院』出身だったりしますか?」

 

「あら~、そうよ~。もしかしてあなたも~?」

 

「あ、はい!」

 

 どうやら、リーゼさんは姉さんのことを知っているらしい。

 アスティカントというのは、ここイスパル王国と、隣国であるレーヴェラント王国、カカロニア王国の計三カ国の国境に囲まれた共和制都市国家の事だ。

 

 そこにある『学院』とは、正式名称を『アスティカント総合学院』と言う。

 この世界でも特に高度な教育を受けることができ、あらゆる分野において最先端の研究が行われている総合教育機関……前世で言うところの高校と大学を合わせたような学校だ。

 

 学院は各国より多くの寄附が寄せられ、広く優秀な人材を集めている。

 そして、出身者は各国の政治の中枢を担うような高官となったり、大商会の経営者となったり……ここを卒業できれば将来は安泰と言われている。

 

 リーゼさんはそこの卒業生なのか。

 

 しかしそんな凄いところを出ているのに、何で冒険者なんてやってるんだろ?

 

 ……ちなみに姉さんはティダ兄に一目惚れして、卒業と同時に駆け落ち同然に付いて行った、って前に聞いた。

 

「在籍してたのは随分前の話なのに~、よく知ってるわね~?」

 

「それはもう、学院魔法科の伝説の人ですから!」

 

「伝説って、どんなのです?」

 

 ちょっと気になって聞いてみた。

 

「有名なところではアレですね。無理やり婚約を迫ったどこかの国の高位貴族の嫡男をボコボコにした挙げ句、素っ裸にして簀巻きにした上に時計塔から吊り下げた『全裸簀巻きの刑事件』、とか。」

 

「大げさね~時計塔になんか吊り下げないわよ~。大講堂の壇上に放置しただけよ~」

 

 簀巻きまでは合ってるんかい。

 

「あとはですね、野外演習の授業で想定外の魔物が出没した時に、教官も含めてパニック状態だったにもかかわらず単独で撃破。その時ついでに、予てからボコろうと計画していたセクハラ教官を巻き込んだ『どさくさ闇討ち事件』、とか」

 

「女の敵は滅ぶべきよね~」

 

 おいおい……

 

「ついた二つ名が、『天使の微笑みの悪魔』『暴虐の聖女』『最凶主席』などなど」

 

「姉さん……何やってんの……」

 

「あらあら~恥ずかしいわ~。若気の至りよね~」

 

 昔はやんちゃしてました、のノリですか?

 

 

 

 

 そんな感じで和気あいあい(?)と談笑してる間に、父さんたちの話合いが終わったようだ。

 

 

「よし、皆聞いてくれ。ここで『鳶』の連中と合流できたのは望外の幸運だ。これだけのメンツがいりゃあ、なんとかなるかも知れねえ。カイト、先ずはヤツに関する情報を説明してやってくれ」

 

「ああ、分かった。……俺たちはこの結界に囚われて以降、何とか状況を打破しようと試行錯誤したんだが、その過程でヤツとは3度ほど接敵してるんだ」

 

「ええ!?あんなのに3回も遭遇して、よくご無事でしたね?」

 

「ああ、倒すんじゃなくて情報収集に徹していたからな。言ったろ?うちは逃げ足には自信があるんだ」

 

「いや、それにしても……ですよ。閣下が言ってたとおり皆さん優秀な方なんですねぇ……」

 

「ああ、大したものだ」

 

「……いや、そこまで褒められると照れるんだが……んんっ!ともかく、それだけの機会があったんで、いろいろ分かった事もあるってことだ」

 

 そう言って、カイトさんはあのオーガもどきの説明を始めた。

 

「まず、アイツの索敵範囲だが……そこまで広くはないな。この森の中であれば、せいぜい数メートルから十数メートル程度だ。つまり、情報の殆どを目に頼ってるって事だ。まあ、聴覚も普通みたいだから音にも注意しとけば問題ないないだろう」

 

「そうッスね。初見ではそこまで細かいことはわからなかったッスけど、感覚的にはそんな感じだったッス」

 

「でも、いくらこっちの方が遠くから察知出来たって、攻撃するには結局視界に収めないといけないのはこっちも一緒でしょ?」

 

「いや、事前に気付かれないように包囲網を敷けるのは、初撃としちゃあ大きなアドバンテージだと思うぞ」

 

「ああ、その通りだ。直前まで潜んで、一斉に仕掛けりゃヤツは狙いを絞るのに迷いが出るはずだ。後はヤツが中心になるように囲みを維持して、一纏めに攻撃されないようにするのと、常にお互いがフォロー出来るようにしておくんだ」

 

 私の疑念を父さんが否定して、カイトさんが具体的な作戦を述べる。

 さすが、歴戦の強者。

 カイトさんも逃げ足だけ、なんて言ってるけど集団戦の経験値は相当なものみたいだ。

 これは小娘の出る幕じゃあないね。

 

「それで、ヤツの攻撃手段だが……確認できたものとしては、主に二つあるな」

 

「二つ?」

 

「ああ。一つは、あの圧倒的なパワーとスピードで繰り出される肉弾攻撃。この森の木々なんて、ヤツにとっては小枝みたいなもんだ。盾にもならん」

 

「ああ、ありゃあヤベぇな。一発でももらったらお陀仏だ」

 

「だが、単調だ。近づいて殴る。それだけだ。それも全力の大振りのみ。おそらく、フェイントとかそういう小細工をするアタマが無い。故に避けるだけなら実はそれほど難しくはない。」

 

「なるほどな。だが、こちらから近づいて攻撃、となると」

 

「ああ、格段にリスクが大きくなるな。リーチが長い上に攻撃が早い。近づくと被弾する可能性が跳ね上がる。だから、基本的に前衛はターゲット取ったら回避に専念することだ」

 

「攻撃するなら、大振りを躱してからのカウンター狙い、あるいは誰かが狙われた隙を突くって事か」

 

「そうなるな」

 

「もう一つの攻撃手段ってのは?」

 

「あの、全身に纏った黒い靄だ。あれを一箇所に集めて、槍みたいにして伸ばしてきた。射程は……そうだな、5~6メートルくらいか。もっとあるかも知れんが、この森の中で戦うなら関係ないだろう」

 

「それでも、結構な射程だな」

 

「だが、肉弾攻撃より避けるのは容易だ。スピードはそこそこだが、一度収束させると言う予備動作が入るからな」

 

「当たるとどうなるんだ?アレ、見たところガスとかそう言うんじゃなくて、実体はないんだろ?」

 

「分からない。だが、ろくな事にはならんだろう」

 

「ん~、多分、生命力を吸われるとか?高位アンデッドの黒い瘴気って~少しづつ体力奪われるでしょ~?あれに似てるんだし~同じような能力なのかも~。でも濃さが全然違うから~、一撃で昏倒しちゃうかも~?」

 

 昏倒……で済めばまだ良いけど。

 いや、それも十分マズいんだけど。

 アレは絶対に喰らっちゃダメだ。

 あの不吉な靄を見てから、ずっと記憶の隅を刺激される気がする。

 

 【私】の身に起きたことを考えれば、アレはおそらく……

 生命の根源、『魂』を喰らう。

 

「アレはだめ。……絶対にアレをくらっちゃダメ」

 

 湧き上がる焦燥感に突き動かされ、思わず呟く。

 

「何だカティア?何か知ってるのか?」

 

「……ううん。ただの勘」

 

「……そうか。どの道あんな不気味なもんくらうつもりは無え。皆もうっかり貰っちまわねえように注意しろよ」

 

「ま、これまで話したとおり、攻撃を躱すのは難しくない。あんまり固くならないほうが良いだろう。で、問題はこっちの攻撃手段なんだが……」

 

「見たところ、実体はあるんだ。物理は通るんだろ?」

 

「撤退中にナイフ飛ばして見たんだがな、全く痛痒を感じていないようだった」

 

 ……ティダ兄、いつの間に。

 あの撤退の最中にもしっかり情報収集しようとしてたんだね、さすが。

 

「そうだな。うちも大した攻撃ができないなりに何度かやってみたんだがな、物理は全く効いていないように見える。異常に回復が早いのか、それとも物理攻撃自体効かないのか?もう少し威力のある攻撃を当てられたら判断できたかも知れないが、避けながら…となるとな」

 

「……そういやアネッサ、あの靄はアンデッドのヤツに似てるって言ってたよな。だったらアレはアンデッドじゃねえのか?違うって言ってたが」

 

「ああ、そういやリーゼもそんな事いってたな?何か根拠があるのか?」

 

「う~ん、わたしの感覚的なものなので、明確な根拠がある訳じゃないんですけど……普通、アンデッドって、生者への恨みとか、生への執着とか、そういう負のオーラ、というか想念みたいなものをひしひしと感じるんです。それはもう『アンデッドです!』って主張してるんですよ。でも、アレにはそう言ったものを感じなかった。……いえ、何らかの想念のようなものは感じました。ただ、もっと根源的な渇望みたいな……」

 

「ん~、私も同じように感じたわ~。アンデッドにしては存在感も強すぎるし~」

 

「その辺は魔道士ならではの感覚なんだろうね、アタシには分かんなかったよ」

 

「オイラもッス」

 

「ふ~ん?よく分からんが、退魔系は効きそうなんだよな?」

 

「多分だけどね~」

 

「それならリーゼ、試してたよな?少し怯んだから多少効き目はありそうだと思ったんだが……」

 

「あ、はい。詠唱時間が取れなかったから、一番低級の[清光]ですけど。物理攻撃は全く意に介さなかったのに、確かに少し怯みましたね」

 

「そうすると、攻撃の望みは退魔系の魔法にあるって事か。アネッサ。アイツに効きそうな魔法は無詠唱じゃ使えねえって言ってたが、どんくらい時間がかかるんだ?」

 

「そうね~、私が使える中では最上級の~[神威]だと最低10秒くらいは欲しいわね~。それでも~、一撃で倒せるかは分からないわ~」

 

「アネッサ先輩、[神威]が使えるんですね!さすがです!」

 

「そお~?神殿ならそれなりに使い手も多いと思うけど~」

 

「それはその道のエキスパートですもん。冒険者でそこまで使える人なんて殆んどいないですよ!」

 

「でも、これって~、狙いがシビアなのよね~。同じ威力で広範囲の[極天光]もあるんだけど~、もっと詠唱時間必要だしね~」

 

 

(……先輩?)

 

 父さんがこそっと私に聞いてきた。

 

(あ、何か二人ともアスティカントの『学院』の卒業生なんだって)

 

(あぁ……そういう(あの変人の巣窟か……))

 

 

「カティアちゃんも~、確か退魔系統は使えたわよね~?」

 

「えっ?あっ、うん。つかえるよ。私は[退魔]まで。詠唱も必要で、5~6秒くらいかかるかな?」

 

「私も[退魔]までです。あ、もちろん詠唱は必要です。時間も大体そんなところですね」

 

 ……確かゲームでのカティアは、二つ上の[日輪華]まで覚えてたな。

 今の私でも使えるのかな?

 スキルは問題なかったし、行けそうな気がするけど。

 

 でも、高位の魔法は魔力消費がバカにならないからおいそれと試せないし、ぶっつけ本番も危険だし……

 確実に使えるものを使ったほうが良いか。

 

 なお、退魔系統は威力順に次のようになる。

 

 [清光]<[聖光]<[退魔]<[神威](=[極天光])<[日輪華]<[神炎]

 

 最もポピュラーなのが[退魔]なので退魔系と言われていて、神殿の聖職者に使い手が多い……と言うか半ば必須技能と言える。

 中級の[退魔]までなら冒険者にもそれなりに使い手はいるが、リーゼさんの言うとおり[神威]から上となると、相当珍しいと言える。

 

 退魔系魔法はアンデッドに対しては最も有効な攻撃手段である。

 それ以外だと……一部の攻撃魔法か、聖なる武器、魔物毎に異なる弱点を突く、などの対抗策が必要となる。

 

 

 

「となると、作戦は……?」

 

「前衛で囲んで引きつけて、攻撃は退魔系魔法を中心で。前衛は基本的に回避に専念だが……ダードレイさん、あんたヤツに大きな隙があったらその大剣叩きこんでもらえないか?再度撤退の可能性もあるから、なるべく情報収集もしておきたい」

 

「ああ分かった、何とかやってみよう」

 

「まあ、シンプルだがそれが一番手堅いか。配置は?」

 

「俺、ティダ、カイトが前衛でタゲ取りしつつ時間稼ぎ、無理に手は出さずに回避優先。ロウエン、レダ、ザイル、レイラは中衛で支援。前衛が抜かれそうになったら態勢立て直すまでタゲ取って後衛に行かねえようにしてくれ。あと、万が一撤退することになった場合は誘導もだ。アネッサ、カティア、リーゼは後衛で魔法攻撃に専念。確か退魔系はアンデッド以外には影響無かったよな?遠慮なくバンバン撃ってくれ」

 

「そんなに~連発はできないわよ~」

 

 

「ねえ、父さん。前衛3人だけで大丈夫なの?私も前の方が良くない?」

 

 アレ相手に3人で囲むのはキツくないかな?と、思い確認してみる。

 

「いや、退魔がどれくらい効果があるか分からんからな。今回は魔法攻撃に加わってくれ。こっちは何とかなんだろ」

 

「え?カティアちゃんて前衛もできるの?」

 

「ああ、これでも戦闘技量上級だからな。剣技だけなら俺やダードと遜色ない。こいつは前もやれるし、斥候みたいな事も出来るし、魔法もそこそこ行ける」

 

「その若さで上級……大したもんだ」

 

「は~、すごいんですね~」

 

「……そんな、器用貧乏なだけですよ」

 

「謙遜も過ぎると嫌味になるぞ?上級持っててそれはないだろう。才能があるってのは羨ましいな」

 

「まあ、コイツはちょっとおかしいんだよ。教えたら教えた分だけ全部吸収しちまう。そんなだからうちのメンバーも面白がって色々仕込んじまいやがって。ご覧の通りとんだじゃじゃ馬娘が出来上がっちまったよ」

 

「父さんひどい!?でも、カイトさんだって、情報分析も状況把握も的確だし、自分のできる事を最大限活かして、侯爵様の信頼を得るほどのパーティーのリーダー務めてるし、すごいと思いますよ!」

 

 ひどいことを言う父さんに非難の声を上げ、カイトさんにフォロー、と言うか素直な称賛の気持ちを伝える。

 何か出来る男って感じでカッコいいんだよね。

 私が女だったら惚れてるところだよ。

 

 ……あれ?

 

 

「あ、ああ、そう言ってもらえると嬉しいな」

 

 私の称賛にカイトさんは何だか顔を赤くして言った。

 

「あはは!カイト、こんなに可愛い子に褒められたものだから照れちゃって!顔赤いわよ」

 

 ちょっ!レイラさん、そういう事言わないでよ。

 こっちまで恥ずかしくなってくるじゃないか……

 

 

「からかうな。んんっ、ともかく!皆、作戦と役割は分かったな?……で、決行はどうする?」

 

「日没まではまだ余裕があるな。特に準備も無いし、皆の体力的に問題なければこのまま決行したいが……」

 

 特に異議は挙がらない。よし、これから作戦決行だ。

 

「後は、不測の事態が生じた場合は速やかに撤退すべきと思うんだか、ダードレイさんに判断と合図を任せても?」

 

「いや、合同チームのリーダーはカイト、お前がやってくれ」

 

「……俺はBランクなんだが」

 

「ランクなんざ関係ねえ。適任者がやるべきだ。ヤツとの戦闘経験、分析力、状況判断能力、どれをとってもお前が適任だろう」

 

「ああ、分かった。……ありがとう」

 

 ああ、これは多分……父さんなりの気遣いなんだね。

 

 もともと最初に調査依頼を受けてたのは『鳶』だ。

 今回は不測の事態だし、侯爵様もその点は汲んでくれるとは思うけど……なるべく失点にならないように実績をあげてもらおうって事なんだろう。

 そして、それはカイトさんも分かってるからお礼を言ったんだね。

 

 

 斥候組の誘導に従いヤツの元に向かう道すがら、父さんがカイトさんに声をかける。

 

「しかし、三度接敵したとはいえ……よくここまで情報収集できたもんだな?」

 

「ま、うちはそれが専門だからな。これくらい出来ないと調査のプロは名乗れんよ」

 

「いや、アレの攻撃を躱せるだけで戦闘能力も相当だと思うぞ」

 

「あ~、攻撃手段が貧弱なんだよ。俺は剣士だけどせいぜい戦闘技量中級程度だし、斥候の3人はうちのウリからすれば要だけど攻撃力は言わずもがな。一番火力があるのはリーゼの攻撃魔法だな。それだけはなかなかのもんだ」

 

 ……う~ん、そうかなぁ?

 

 何か謙遜してるけど……カイトさんって、父さんやティダ兄と同じぐらいの『強者』の匂いを感じるんだけどなぁ?

 

 隠してるのか、自己評価が低いだけなのか……

 父さんも分かってると思うけど、それ以上は触れないことにしたようだ。

 

 

「しかし、よく考えたものだな。普通だったらお前たちみたいなパーティー構成はバランスが悪いと言われる。それが一転、目的を限定すれば逆に非常に有能と言う事になる。斥候3人もそれぞれタイプが違うんだろう?」

 

「あぁ、そうですね。僕は気配察知が得意なんで早期警戒が主な役割です。レダは隠密行動が得意なんで単独行動での情報収集に優れてます。レイラはバランス型で弓矢が得意なんで戦闘時は後方支援もこなせますね。リーゼは魔法による支援全般とカイトが言うように火力が必要な時は一番頼りになる。で、集めた情報の分析はカイトが得意とするところ、というように上手いこと分担できてますね」

 

 斥候の一人、ザイルさんが解説する。

 偏ってるように見えるけど、改めて聞くと全体として非常に纏まりがあることが分かる。

 これからの作戦でも期待が持てそうだ。



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第一幕 8 『対峙』

 いよいよ敵目標まであと数百メートルというところで、いくつかのグループに分かれて目標を包囲するような配置に展開する。

 

 それぞれ、父さん、ロウエンさん、リーゼさんのチーム。

 ティダ兄、レダさん、ザイルさん、アネッサ姉さんのチーム。

 カイトさん、レイラさん、私のチームだ。

 

 ヤツに気取られないように、これからの行動は戦闘開始までの間は極力会話は抑えて、事前に取り決めたハンドサインでやり取りをする事になる。

 更に、大きな音を立てないように足元に[消音]の魔法を予め施しておく。

 

 

 残り十メートル程となったところで、茂みに身を隠して待機。

 突入のタイミングは、散開後ある程度時間がたってからリーダーであるカイトさんが号令を発することとなっている。

 

(レイラ、カティア、準備はいいか?)

 

 カイトさんがこちらに準備は大丈夫か?

 と確認するためサインを送ってくる。

 

(大丈夫よ)

 

(大丈夫です)

 

(よし、では手はず通りに。カウント5で突入する)

 

 

 ……5……4……3……2

 

 ……1!

 

 

「行くぞ!突撃!」

 

「了解っ!」

 

 号令を掛けるや否や、カイトさんが潜んでいた茂みから飛び出して行き、その後にレイラさんも続く。

 他の二箇所でも、それに合わせて掛け声を上げながら飛び出して行くのが目に入った。

 カイトさんが飛び出した直後から、私も[退魔]詠唱を開始する。

 

 さあ、戦闘開始だっ!

 

 

 父さん、ティダ兄、カイトさんが敵目標に急速接近、これを取り囲む。

 

「ぐるああっ!?」

 

 狙い通り、3方向から同時に迫ってくる敵に対して的を絞ることができず、ヤツはとまどって足を止めている。

 だが、こちらも自分からは攻撃は行わずに相手の様子を窺う。

 まず第一段階の陣形は問題なく整った。

 

 あとは前衛の皆がターゲットを維持しつつ回避に専念、攻撃は私達の退魔系魔法が主体となる。

 

 

「ほら、来いよデカブツ」

 

「うがあぁぁぁっっ!!」

 

 ドンッッ!!

 

 オーガもどきは挑発して手招きする父さんに向って、衝撃音が聞こえるほどの踏み込みでひと息に接近!

 大きく振りかぶった拳を叩きつける!!

 

 

「はっ!大振りすぎるぜっ!もらった!!」

 

 ざんっ!!

 

 父さんは大振りの攻撃をかいくぐるようにして避けながら、伸び切ったオーガもどきの腕に大剣の一撃を見舞う!

 下からすくい上げるような一撃が完全に入り、オーガもどきの腕が飛んだ!

 

 

「よしっ!やったか!?」

 

(あ、それフラグ……)

 

 

 オーガもどきの切り飛ばされた腕は、一瞬で黒い靄に変じて本体に吸収される。

 

 すると……あっという間に腕の断面からまた腕が再生されて元通りになってしまった!

 

 

(きっちり回収したね……だったら、これならどうだ!!……って、これもフラグかな?)

 

『『……[退魔]!』』

 

 カッ!

 

 どうやらリーゼさんも同じタイミングで詠唱が終わったらしく、二つの強烈な退魔の光が重なってオーガもどきに炸裂した。

 

「ぐがあああぁっっ!!!?」

 

 よしっ!こっちは効いている!(ほっ)

 

 

 

「ティダ!カイト!物理はダメだ!全く効かねえ!退魔はいける!」

 

「分かった!」

 

「了解!予定通り前衛はタゲ取りと回避に専念!」

 

「「応!」」

 

 

 これで物理が効かないのは確定。

 後は私たちの退魔系魔法にかかっている。

 果たして、さっきの二重[退魔]がどれだけ効いているものなのか?

 

 とにかく、倒すまでは何度も撃たなければならない……!

 

 長期戦になる事も覚悟して、次の詠唱を始める。

 

 

 

「ぐるぁああっっーーーっ!!!」

 

 ぶんっ!

 

 次の狙いはティダ兄だったみたいだが、残像すら見えるくらいの速度で危なげなく躱す。

 そのまま攻撃は加えず、回避に専念する。

 

「ごぉおおおっー!!」

 

 今度は黒い靄が収束して、槍のように伸びる!

 狙いはカイトさんだが、予備動作を見て既に回避行動に入っており、こちらも危なげなく回避。

 

 ……うん。

 やっぱり、ちょっと身のこなしを見ただけでも只者じゃないのが分かる。

 少なくとも戦闘技量中級に収まるものではないだろう。

 

 

 黒の槍は伸びるときと同じ速度で戻り、また黒い靄となる。

 

『……[神威]!』

 

 コウッ!!

 

 そこに、アネッサ姉さんが発動した退魔系上級魔法[神威]の眩い光の柱がヤツの足元から天に向って放たれる!

 

「ぐごおぉぉぉっっっ!!!!!!?」

 

 神聖な光の奔流に晒されて、オーガもどきは退魔2発を同時に受けたときよりも激しく叫びをあげる!

 

 だけど……斬撃では上げることがない悲鳴を上げていることから効いてはいると思うのだが、プレッシャーは一向に衰えない。

 

 

 

「ちっ、魔法は一巡したが、どんだけ効いてるのかが分からんな!」

 

「まだ想定内だ!集中を切らすなよっ!」

 

「ああ!分かってる!っよ、っと!」

 

 ドゴォっ!!

 

 会話しながらも前衛は流石の安定感がある。

 もはや攻撃は捨てて、完全にタゲ取りと回避に専念しているので尚更だ。

 こちらも続けて魔法を撃つために再度詠唱を開始する。

 

 ……戦闘は持久戦の様相を呈して来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘を開始してもう10分以上は経っただろうか?

 

 既に私達3人の魔法は何度もオーガもどきに当たっている。

 しかし膠着状態は変わらず、今もヤツの勢いに衰えは無い。

 流石に魔力消費も馬鹿にならなくなってきており、そろそろ撤退も考え始めないといけない頃合いだ……

 

 どうする?

 今なら前衛は安定してるし、あれを試してみるか……?

 時々前衛を抜けそうになる場面もあったが、中衛が上手いこといなしてくれて、今のところ後衛までその猛威は届いていない。

 やるなら今のうちだろう。

 

 

「このままじゃジリ貧だ!そろそろ、撤退を……!」

 

「カイトさん!もう少し待って!最後に大技を試してみるから!合図で後退してっ!」

 

 これから撃とうとしている魔法は味方にも影響があるため、発動前の後退をお願いする。

 

「何っ!?……分かった!それで駄目なら一度撤退だ!皆!聞いてたな!」

 

「「「了解!」」」

 

 よし!詠唱開始っ!

 

 

『天より零れ落ちたる日の欠片は神の気を纏て此処に集い……』

 

「えっ!?カティアちゃん~!それ、いけるの~!?」

 

「うそっ!?まさか、その詠唱は!?」

 

(おっと、まさかそのセリフがリアルに聞けるとは。いや!集中集中!)

 

 雑念を払い魔力制御と詠唱を続ける……

 

『日の輪の如き華となって遍く天地を照らせ……』

 

 詠唱とともに魔力が練り上げられ、力のカタチが定まる感覚がする。よしっいけそうだっ!

 

 

「後退してっ!!いくよっ!」

 

 これが、退魔系特級の……!

 

 

『[日輪華]っ!』

 

 

 バシュッ!!!

 

 

 皆が後退するのを確認してから引き金となる言葉を発した瞬間、ヤツがいたところにあたり一面を白く塗りつぶすほどに眩い小さな太陽が出現した!!

 

 

 アンデッド共通の弱点である陽光にも似た光を限界まで圧縮し聖なる気をまとわせて放つ、上位アンデッドをも一撃で葬り去る強烈な魔法だ。

 かなりの高熱も伴うため、退魔系でもこればかりは気軽には放てない。

 

 ヤツは悲鳴すら上げる暇もなくマトモに食らった。

 これで駄目なら撤退するしかないだろう。

 

 

「やったか!?」

 

(いや~っ!?だから父さん!フラグを立てるのはやめなさいって!)

 

 強烈な熱と光が徐々に引いていくと、そこにいたはずのオーガもどきの存在は跡形もなく消えていた

(ほっ)

 

 

「凄えっ!」

 

「おいっ、跡形もなくなっちまったぞ」

 

「討伐証明が面倒だな……」

 

「カティアちゃん~!凄いじゃない~!いつの間に[日輪華]なんて覚えたの~?」

 

「ああ……凄い威力じゃないか。何で最初から使わなかったんだ?」

 

 皆集まってきて、口々に私のことを称賛してくれる。

 

 ティダ兄ごめん、でもしょうがないでしょ。

 そして姉さんとカイトさんが不思議そうに聞いてくる。

 まあ、当然の疑問だよね。

 

「いままで一度も使ったことがなかったからですよ。本当に発動するかは分からないし、ぶっつけ本番じゃあリスクがありましたし。前衛が安定してたので、撤退するくらいなら試してみようと思いまして」

 

「はあ~、なるほどな……大したもんだ」

 

「ほんとっ!凄いですよ!神殿でも使える人は殆ど居ないですよ!」

 

 ん~、何かズルして使えるようになった気がして、あんまり褒められるとなんだか気まずいんだよな……

 仮初のカティアも私には違いないんだけど……

 

 

 

 

 

 

 強大な力を持つ敵を倒して、私達はほっと一息をつく……

 

 だがその時!!

 

 ゾワっとした感覚に、私は思わず後ろをばっ!と振り返る。

 そこは先程までオーガもどきが居たところ。

 

 そこに見たのは……

 

 

「なに?あれ……?黒い……穴?」

 

 空間にぽっかりと開いた余りにも不自然な黒い穴のようなもの。

 

 

 あれは……まずいっ!?

 

 

 その黒い穴……『闇』は突然爆発的に広がって、急速にこちらに押し寄せてくる!!

 

 だめだ!間に合わない!!

 

 そう思った時には、視界はなぜか闇の黒ではなく真っ白に染まって……

 

 

 

 私は意識を失った。

 



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第一幕 9 『神界』

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 

「よぅ。危なかったなぁ?つーか、オメーはエメリールのヤツの守りがあっから大丈夫だっただろーけどよ。他の連中はそうは行かねーだろうからな」

 

「えっ!?あれっ?こ、ここは……?」

 

 あ、あれ?

 

 たしか……あのオーガもどきから黒い闇が爆発的に広がって、皆飲み込まれる!と思った瞬間、意識が白く塗りつぶされ……

 

 次に気がついたらここにいた。

 

 

 あたり一面、色とりどりの草花に覆われた平原……

 すぐそこにはまるでギリシャの神殿のような荘厳な建物が見える。

 

 そして目の前には、石造りの柱の土台の様な場所に……

 なぜかヤンキー座りの、見た目もヤンキーっぽい特攻服のような服を着た、逆立つ紅い髪の男が話しかけてきたのだ。

 

 

 

「えっと?あなたは……?」

 

「あん?オレか?オレぁオキュパロスってぇもんだ」

 

「えっ!?オキュパロスってたしか……『気まぐれの神』とか『うつろいし神』とか言われている……?」

 

「おぅ、それだ、それ。かぁ~っ!オレぁいつだって地上の連中のことを気にかけてるってぇのによぉ、何だよ『気まぐれ』って!もうちょっとカッケー呼び名があんだろうがよ……まぁ、『うつろいし神』ってなぁちったぁ~イケてっけどよ」

 

「は、はあ……」

 

(何と言うか……変な人だな。いや神さまか)

 

 

「あっ!?そんなことよりっ!皆は!?」

 

 そうだ、いったいあれからどうなったんだ!?

 

「落ち着けって。大丈夫だ。あの瞬間、オメーの精神だけコッチに引っぱってきたんだ。あの場所は俺の管轄なうえに魔素が通常よりも相当に濃いから出来た芸当だな。今はオレしか『観測』してねーから、リンク切っときゃあの世界の時間はほとんど止まってるよーなもんだ」

 

「……よく分からないですけど、助けてくれたってことですね」

 

「そーいうこった。しかし退魔ってなぁ、いいセン行ってたんだがなァ……純粋に火力が足りなかったな。ガワ潰してからが本チャンだったんだが、[日輪華]だったらあと十発もありゃあ倒せてたろ。あと前衛にも神聖武器の一つでもありゃあなお良かったな」

 

 いや、あれで火力足りないと言われても……

 ていうか、あと十発も撃てないよ。

 神聖武器だってそう簡単に入手できるものじゃないし……

 

 

 ともかく、助けてもらったみたいだし、お礼しないと。

 

「えと、助けて頂きありがとうございます。でも、戻ったらピンチなのは変わらないんですよね……?」

 

「それも何とかしてやる。つーか、オメー自身で何とかできるようにすんだけどよ」

 

 私が?

 あの状況で?

 何とかできるのか?

 

 

「オメーはエメリールの眷族だろ?」

 

「エメリール様の……眷族?」

 

「あ?なんだ、聞いてねーのか?……ん?秘密なのか?……いや、意味ねーな。アイツはどっかしら抜けてっからな、忘れてるだけだろ」

 

 あー、やっぱりそうなんだ。

 転生先が女の子っていうのも教えてくれなかったし。

 

 しかし、同じ神様からもそういう評価なんだね、エメリールさま……

 

「それで……エメリール様の眷族ってどういう事なんです?私はただの人間だと思うのですけど……あっ!でも、ステータスの種族のところは『人間(?????)』ってなってたっけ。もしかして、それでなのか……?」

 

「ただの人間、ってこたぁねぇわな。オメーはエメリールの【(シギル)】を持ってるからな」

 

(シギル)?あの、王族とかの血筋にたまに現れる、神の加護を受けたものの証と言われている?」

 

「ああ、ソイツだな。ず~っと昔、まだオレらが地上で人間たちと暮らしてた時代の話だ。当時は今よりも人間の領域ってなあごく僅かでなぁ、そこかしこに魔境が広がって魔物が我が物顔で闊歩してたもんだ。そんな時代だからな、能力と人格に優れ、志のあるヤツに指導者となってもらうべく、オレらの力のほんの一端を分け与えたのさ。自分たちの力で道を切り拓いていけるようにってな。それが【(シギル)】だ。まあ、その後ぁいろいろゴタゴタがあって、オレらは地上を去って、ここでこうして隠居してるってわけなんだが」

 

 ああ、そういえばその時代の伝説をモチーフにした歌とかあるな。

 私の職業柄、その手の伝承は結構押さえている。

 

 ゲームの背景設定にも出てくる話だ。

 

 

 神々と人々は共に協力し魔境を切り拓き、神の力にも匹敵する古代の魔物を倒し、少しづつ人間の領域を広げていった。

 しかし、やがて人間たちは神々の力に頼きるようになり、或いは力を求め互いに争うようになり……

 それを嘆いた神々は、自分たちの力の一部を分け与えた指導者たちに人間たちの行く末を託して、天上の世界へと旅立った。

 

 その後、残された人々は自分たちの愚かな行いを反省し、神の力を託された指導者を王に戴いた。

 そして互いに手を取り合って人の手による新たな国々を興していったという。

 

 それが、今日まで続く大陸各国家の祖となっている。

 

 また、かつて自分たちを導き、今も天上の世界から見守ってくれる神々に感謝の意を伝え、その威光を長く後世に伝えるため、それぞれの神を祀る神殿が各地に建てられたのもそのころと言われている。

 

 

 ……と言うのが伝説で語られるこの大陸の古代の歴史なのだが、その神様本人からそれを聞くことになるとは。

 

 ただ、ゲームでは(シギル)と言うのは設定には存在したが、特にシステム的な要素にはなかったはずだ。

 後々実装されるのかもしれないが。

 

 

 

「まー、隠居した身ではあるんだがな、自分の(シギル)を受け継ぐ奴ってのは子孫みてぇなもんだ。だから気にはなるし、こうやってたまにお節介焼いてんのさ」

 

「そうすると、私もエメリール様の子孫みたいなものなんですか?……あれ?でも確か?」

 

「ああ、そうだ。エメリールの(シギル)を受け継ぐ王家は途絶えて久しいな」

 

 確か……三百年程前に存在したアルマ王国と言う大陸北部の国の王族に受け継がれていたんだっけ?

 だけど、東の蛮族を祖とするグラナ帝国の侵攻をきっかけとして勃発した大戦によってアルマ王家の血筋は途絶えてしまい……今となってはエメリール様の(シギル)は失われてしまった。

 ……と言うのが通説だったはずだ。

 

 

「だからよ、実は血筋が途絶えてなかったって分かったときのエメリールの喜びようと来たらよぅ、そりゃあ凄かったもんだ。そんでまたそれを失いそうになった時の取り乱しようと来たら、もう目も当てらねーくれぇ酷かったんだ。だもんでよ、なんとか奇跡的に助けることができて本当に良かったと思うぜ。アイツにとってはオメーは娘みてーなもんなんだ。アイツの古なじみの一人として、俺からも礼を言うぜ」

 

「あ、いえ、そんな……【俺】も救われたみたいなものですし」

 

「はっ、やっぱりアイツの眷属だな、お人好しなところがそっくりだぜ」

 

 エメリール様、そんなふうに思ってくれてるなんて……

 娘ってところに多少引っかからないでもないが。

 

 

「そんで、まぁ、オメーはその失われたはずのエメリールの【(シギル)】をもってるんで、『眷族』ってわけだ」

 

「じゃあその【(シギル)】の力があれば、あの状況をなんとかできるという事なんですか?」

 

「多分な。オメーあの『闇』が何なのか分かるか?」

 

「……いえ。でも、何となくアレに触れてしまうと『魂』を喰われる……ような気がして。多分本来のカティアの魂を損壊させたのがアイツで、その時の記憶が微かに残ってるのではないかと。でも、もしそうだとすると別の謎も出てくるんですけど……」

 

「あー、その辺の事ぁ俺も分からねぇな。小娘の仇があいつなのかどうかも分からねぇ。エメリールのヤツに情報伝えて聞いてみりゃ何か分かるんじゃねえか?」

 

「……そうですね、神殿に行けば話せるって聞きましたので今度相談してみます」

 

「そーしてくれや。で、あの『闇』なんだが、ありゃあな『異界の魂』だ。オーガの姿をしてたのは、肉体を得ようとして乗り移った先がたまたまソイツだったってだけだな」

 

「……異界の魂?それって【俺】もそうですよね?」

 

「いや、ちげーな。オメーのいた世界も、この世界も、同じ『命の根源たる世界』を根幹に持つ一つの世界と言える。転生する前に見たんだろ?魂が旅立ち、そして還る場所を。『異界の魂』ってなぁ、本当の意味で異なる世界からやってきた、全く異質なモノなのさ」

 

 全く異なる世界……

 そんなものがあるのか。

 確かに異質なものは感じた。

 全身が粟立つほどの不快感。

 コイツは……決して相容れない存在なんだと。

 

 でも、それ以上に感じたのは……

 そうだ、深い『悲しみ』。

 アイツを見た時なぜか、何とかしなければという使命感にも似た焦燥と、憐憫の情が湧いたのだ。

 

 

「……どうやら、何となく分かってるみてぇだな。アレは謂わば迷子なんだ。全く理の異なるこの世界に迷い込み、癒やし難い飢餓感で、この世界の魂を喰らわずにはいられねぇ。そうしねえと存在を保てねえんだ。いいか、今でこそ『豊穣の女神』なんて呼ばれてるが、かつて地上にいた時のエメリールのヤツは『魂の守護者』なんて呼ばれててな、その権能……と言うか役割の一つは『魂の救済』だった。死してなお強い想念によってさまよう魂を、アイツは導いて輪廻に送り還していった。しかし、異界の魂を元の世界に送り還すことはできなかったんだ。もちろん、この世界の輪廻に入れることも出来なかった。だから、せめてこの世界に迷い込んで苦しんでいる哀れな魂を安寧のうちに滅していた。アイツの【(シギル)】を受け継いだオメーにも、それができるはずだ。今なら仮初の肉体も失って本体が露出した状態だし楽勝だろ」

 

「……でも、【(シギル)】を持ってるなんて初めて知りましたし、どうすればその力が使えるのですか?」

 

「それは分からねぇ」

 

「……は?」

 

(シギル)の顕現の仕方は人それぞれでちげーのさ。エメリールなら教えられるのかもしれんが俺にゃ無理だ。だが、そうだな…オメーは他の奴らには無ぇ、何か特別なスキルを持ってたりしねぇか?」

 

「……特別な?う~ん……あっ!もしかして[絶唱]?」

 

「ふん?どんなスキルなんでぇ?」

 

「えと、歌に魔力を乗せることでそれを聞いた対象に色んな魔法効果を与えるっていう……」

 

「なるほど。ソイツだな。これ以上ねえくれえに相応しい」

 

「相応しい?何でです?」

 

「すげー歌ってのはよ、心を揺さぶるもんだろ?心ってなぁ、魂が根源だ。つまり、そのスキルは魂に作用してるってこった。」

 

「う~ん、何かこじつけのような……」

 

「いや、実際のところ、魔法効果を及ぼすってぇのも、その魂の揺さぶりを媒介にしてるんだろーよ」

 

「でも、元々のカティアはこのスキル持ってませんでしたよ?(シギル)の発動に必要と言うなら、それもおかしい気が……」

 

「それはただ単にまだ目覚めてなかっただけだろ。ああそうだ、歌がキモってんなら、いいもんがある。ちょっとツラ貸しな」

 

 

 ちょいちょい……と手招きされたので近づくと、オキュパロス様は、ちょんっ、と私の額に指を当てる。

 すると、何かが私の頭の中に入ってくる。

 これは……

 

「……歌?」

 

「おぅ、昔エメリールの奴が宴会芸で披露してた歌だ」

 

「宴会芸って……」

 

 つか、カミサマって宴会するんかい。

 ……いや、してたな、日本の神様も。

 

「実際にエメリールの奴が異界の魂を滅してたときに、せめて安らかに……と想いながら歌ったらしい。まぁ、子守歌みてえなもんだ。これなら効果バツグンだと思うぜ」

 

「しかし、ぶっつけ本番で大丈夫かな……」

 

「だったら、ここで試してみりゃいいじゃねえか」

 

「え?できるんですか?」

 

「たぶん、その[絶唱]ってなぁ、効果から見ても精神に付随するスキルだろ。だったら精神だけの今の状態でも使えるんじゃねえか?」

 

「う~ん?とにかく、やってみます」

 

「おう」

 

 

 ……とはいえ、やり方が分からないんだよな。

 

 とにかく、スキル発動を念じながらさっき教えてもらった『歌』を歌ってみれば良いか。

 

 舞台に立つように気持を切り替えて、歌声を紡ぎ始める……

 

 

 この歌の歌詞に使われているのは、大陸共通言語でも魔法語でもない言葉だ。

 これはかつて神々が人と共にあった時代……『神代』に神と神に近しい人が使っていた言葉で、今では僅かに神殿の儀式等で使われるのみだ。

 先程、歌と共に私の頭に知識として刷り込まれた。

 

 そして、紡いだ歌声に合わせて、私の髪色と同じ金とも銀ともつかないような不思議な色合いの光が放たれ始め、目の前には一対の翼を象ったような光り輝く印が現れたのだった。

 

 

 

「おお、見事な歌だな。まさに(シギル)を顕現するに相応しい女神の如き歌声ってぇやつだ」

 

「……これがエメリール様の【(シギル)】?」

 

「ああ、そうだ。な?ちゃんと顕現しただろ?」

 

「え、ええ。あっ!?でもこれって、発動までに時間がかかり過ぎじゃないですか!これじゃ(シギル)の力を使う前に皆が……」

 

「ああ、そこは俺が何とかしてやんよ。直接的な干渉は本来そこまで大したことは出来ねえんだが、今回は場所が良かったな。ただ、俺ぁ守りは専門じゃねぇから、せいぜい歌い終わるまでの間くれぇしか抑えられねぇぞ」

 

「あ、ありがとうございます!ああ……でも責任重大……」

 

 皆の命が私にかかってるだなんて……

 胃が痛い……

 

「なんだ、ビビってんのかぁ?情ねーな、キン○マ付いてんだろ」

 

「今は付いてないよ!?」

 

 

 

 

 

「そう言えば、今更なんですけどこの場所って何ですか?私が居た世界とは違うところなのは分かるんですけど」

 

「ここはあれだ、あ~っと……地上のヤツを呼んだことなんて無ぇから別に名前なんてつけてねーな。ま、『神界』とでも言っておくか。その名(いま決めた)の通り、オレたち神々が住む世界だ。オメーたちが住む世界と重なって存在するが、位相を異にするんで普通は相互に干渉しねーんだ。だけど時折オレたちは持ち回りで地上の様子を見るために、二つの世界をリンクさせて観測してんだ」

 

「へ~、じゃあエメリール様もこの世界にいらっしゃるんですか?」

 

「ああ。一応、ここに呼ぼうとしたんだがよ。なんか立て込んでるみてぇでな、連絡がつかねぇんだ」

 

そうなんだ、残念。

 

「あァ、そうだ。せっかくだから、オレの魔法覚えてくか?普通の人間にゃ使えんシロモノなんだが。(シギル)開放して神の眷族として目覚めた今なら、使えんじゃねーかな?」

 

「?……魔法ですか?」

 

「そうだ。[変転流転]ってな、なかなか便利だぜ?まァ、隠居ジジイからの餞別とでも思ってくれや」

 

「……それはまさか、『失伝魔法』とか『神代魔法』とか言われている魔法では……もはや効果も詠唱も伝わって無いと言う……」

 

「あ~、人間にゃ詠唱がいるんだったか。こいつぁ元々詠唱なんて無ぇんだ。ちょっと待っとけ。あ~……魔力の制御手順から逆引きで……そんでそいつを魔法語に置き換えて……するってぇとアレがこうなって……コレをあーすると……よし、できそうだな。しかしアレだな。人間の探究心ってなぁ凄えもんだ。俺らがいた時ぁまだ原初魔法の使い手が僅かにいるくらいで、ようやく本格的な魔法研究が始まったところだったんだがな。よくもここまで自力で積み重ねて理論を構築して体系立てたもんだ」

 

「確かにそうですね。先人たちの積み上げてきたもので今の時代があるんだな、と思います。でも、探究心にも良し悪しあると思いますけど」

 

「そりゃあーな。でもそれが人間って奴だ。……よし、逆詠唱化できたな。慣れりゃあそのうち無詠唱でもできるようになると思うけどよ。ほれ、オメーの頭ん中に叩き込んでやっから、こっちにツラぁ貸しな」

 

「あ、はい」

 

 先程『歌』を刷り込んだときのように額に指をあてて、今度は魔法の知識を送り込んでくれる。

 [変転流転]の概念、理論、そして詠唱内容が私の頭に刷り込まれた。

 

「これは……凄い!ありがとうございます!」

 

 頭に刷り込まれたた知識によると、この魔法の効果は『その物体の取りうる状態に、その過程と時間を無視して変化させる』というものだ。

 

 例えば、鉄の塊から剣を作ろうとすると、高熱を加えて叩いて伸ばして研いで……と長い時間と工程を経てようやく出来上がる。

 しかし、この魔法を使えば時間と工程をまるっと無視して、いきなり完成形の剣が出来上がる。

 鉄鉱石から鉄だけを取り出してインゴットにする事もできるし、一足飛びに剣にしてしまう事もできそうだ。

 

 細かい造形や高品質を得るためには相当緻密な制御と大きな魔力が必要となるが、それが出来て材料さえあれば何でも作れてしまうという事だ。

 

 もちろん制限もある。

 

 先ず、魔法が効果を発揮するのは無機物に限られる。

 つまり、動物や植物由来の物質には効果を発揮しない。

 

 また、消費魔力が膨大である上に詠唱時間……と言うか、魔力制御にかかる時間も相応に長いので、戦闘に応用することは難しいだろう。

 

 しかし、それらを差し引いて余りある極めて応用性の高いチート魔法だ。

 

 この世界では一般的なモノ造りにおいても魔法が活用されているため、前世と比較してもそれほど遜色ない品質のものが作られているが……この魔法はそれらと比べても一線を画すものだろう。

 

 無事に帰れたらいろいろ検証してみよう!

 

 

 

 

 

「よし、そろそろオメーをもとの世界に送り返してもいいか?」

 

「はい。オキュパロス様、何から何までありがとうございました。後は何とかしてみます。あ、皆の守りはお願いします」

 

「おう、達者でな。久しぶりに人間と話ができて、オレもなかなか楽しかったぜ。まあ、生き延びてりゃあ、また会うこともあんだろ。てか、アイツがまためんどくせぇ事になるから、死ぬんじゃねーぞ。あと子供も早く作っとけ」

 

「こここ、子供って!?」

 

 まだ女になった事の折り合いも付いてないってのに!

 てか、【俺】の意識が主体なのに、男とそんな事になったりするのか!?

 

 ああ……でもエメリール様は悲しませたくはないし……

 ええい!保留だ!保留っ!

 

 

 

「じゃあ、リンク再開と同時にオメーの精神をもとに戻す。そっから、すぐ(シギル)開放だ」

 

「はい!お願いします!」

 

 こうして……神々が一柱、オキュパロス様との邂逅は終わりを告げ、舞台は決戦の場へと戻る。

 

 

 

 よし!

 今度こそ決着を付けてやるぞ!!

 



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第一幕 10 『決着』

 私の意識は再びこの世界に戻ってきた。

 

 いま、目の前にはあの『闇』が急激に迫りつつある。

 皆は既にアイツを倒したと思って戦闘態勢を解いていたため、反応が一拍遅れてしまっている。

 

 そんな中、近くにいたカイトさんが私の前に飛び出し庇おうとしてくれているのが視界の端に見えた。

 

 もう皆、闇に飲み込まれるしかないと思われたその瞬間……パァッ!と煌めく紅い光がドーム状に私たちを覆って闇から護ってくれた。

 

 

 オキュパロス様の護りの結界!!

 

 

 よし!

 今のうちに!

 

 

 スキル[絶唱]を発動すべく、逸る気持ちを落ち着かせて、私は目の前の『異界の魂』の哀しみに想いを馳せながら、ゆっくりと神代の歌を紡ぎ出す。

 

 

 

 

 

 

  ああ いと悲しき魂よ 哀れなる魂よ

 

  眠れ眠れ迷い子よ

   あなたが帰る道は既にない

 

  眠れ眠れ安らかに

   ただ あなたが安寧でありますように

 

  眠れ眠れ永久(とこしえ)

   わたしはあなたの哀しみを忘れない…

 

  いつまでも…いつまでも…

 

 

 

 

 

 

 かつてエメリールさまが、遠く異界の地で消えゆく哀しい迷い子を想い、せめて安らかにと捧げた『子守歌』。

 

 私の前には翼を象ったような光り輝く印が現れ、響く歌声とともにあの不思議な色合いの光が波となって広がり、目前まで迫っていた闇を優しく包み込んでいく。

 まるで、泣きじゃくる子供を母親が抱きしめるように……

 

 

 そして、闇は少しずつ光に溶けるように消えていく。

 

『アァ……カナシイ……カナシイ……カエリタイ……カエリタイ……』

 

 

 初めて、闇の心から溢れ出る声を聞いた。

 なんて哀しく寂しいのだろう……

 心が千千に引き裂かれるかのようだ。

 

 しかし。

 どんなに同情しようとも、彼らを送り還してあげることはできない。

 この世界の魂として受け入れることもできない。

 

 ただ……せめて穏やかに、優しく滅するのみ。

 

 

「……ごめんなさい。でも、あなたの居場所はここには無い。もとの世界に還してあげることもできない。だから、せめて安らかに……」

 

 そうして全ての闇を光が飲み込み、あとには静寂とやりきれない哀しみだけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふう~~、終わったぁ!何とかなったよ……」

 

 完全に闇が祓われたのを見届けて、私はようやく息をつく。

 

 心に去来する虚しさと切なさを誤魔化すように、努めて明るく終わりを告げる。

 

「今のは……」

 

 唖然とした様子でカイトさんが呟く。

 

「いまの歌って~もしかして神代語じゃない~?神殿の儀式で使われる祝詞の言葉に似ていたわ~。と言う事は、あれは神代の魔法なの~?」

 

「何がなんだかわけが分からん。カティア、説明してくれ」

 

「あ~、うん、そうだよね。ええと、何と言って良いものか……」

 

 当然説明を求められるのだが、全部話して良いものなのか……

 

 まあ、別に隠す必要もないか。

 信じてもらえるかは別として。

 

 そう思って、あの瞬間に起きたことを話すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、大まかにはそういう事です」

 

「「「……」」」

 

 あ、あれ?

 反応がない?

 

「……は~、何から突っ込めばよいのか。まずは、何だ?神界でオキュパロス様に会っただぁ?」

 

「あ、うん。面白い人……じゃない、神様だったよ。凄く荒っぽい口調で見た目も恐そうなんだけど、とても親切で……いろいろ教えてくれたんだ。見た目は若者なのに、自分では『お節介な隠居老人』なんて言ってたけど、ほんとそんな感じ」

 

「……俄には信じ難いが、この目で見たことは否定できん。カティアが嘘をつくとも思わんしな。それで、あの紅い結界はオキュパロス様が護ってくれたと?」

 

「そう。私のスキルが効果を発揮するのに時間がかかるから、それまで護ってもらうようにお願いしたの」

 

「多分、何らかの魔法結界だったと思うんだけど~凄い力を感じたわ~。きっとあれも神代の魔法なんでしょうね~」

 

「何にせよあれのお陰で助かったってこった。こりゃあ、神殿にお礼参りをしねえとな。で、あの『闇』は『異界の魂』だと?」

 

「うん、そう聞いたよ。私達が住むこの世界とは異なる世界から偶然迷い込んだ魂だって。自分の存在を維持するためにこの世界の魂を喰らうんだって」

 

「魂を喰らう……そんな恐ろしいものだったんスね。カティアちゃんがいなかったら、オイラたちは今ごろ……ひえ~っ!」

 

「そうですよ!カティアさんが私達を救ってくれたんです!ありがとうございました!」

 

「いえ、たまたまですよ。オキュパロス様が助けてくれなかったらどうにもならなかったですし、そもそも私が[日輪華]を使わなければ今ごろ撤退できてましたし」

 

「だが、その場合は未だ結界に囚われたままだったろう。皆、感謝してるんだ、素直に受け取っておけばいいさ」

 

「……はい!そうだ。カイトさん、あの時私を庇おうとしてくれましたよね?ありがとうございます!」

 

 そうだ、あの状況で咄嗟に庇おうとしてくれたんだ、こっちこそお礼を言っておかないと。

 

「え?あぁ……咄嗟にな。意味はなかったが」

 

「そんなことないですよ!助けようとしてくれたお気持ちが嬉しいです!」

 

「あ、ああ……」

 

 

「「「(ニヤニヤ)」」」

 

 はっ!?

 な、なに?

 そのニヤニヤ笑いはっ!?

 

 全く、そういうんじゃないよ!

 【俺】は男と恋愛する気なんて無いんだからな!

 無視だ、無視っ!

 

 

「え、ええと、それで……あとは……」

 

「おう、そうだ。俺ぁお前が【(シギル)】持ちってのに一番驚いたんだが。しかもそれが失われたはずのエメリール様のだってんだからな」

 

「そうよ~!途絶えたはずの王家の血筋が、実は連綿と受け継がれていたなんて~、歴史的大発見よ~!」

 

「う~ん、私としてはあまり公にして騒がれたくはないかなぁ……」

 

「お前が秘密にしときたいってんなら、それでいいんじゃねえか?王家の血筋ったって、もう何百年も昔の話だ。今更王国を再興なんてのも無えだろ。別に今と何が変わるもんでも無えしな」

 

「父さん……」

 

「俺たちも秘密は守ると約束しよう。依頼で知り得た情報は口外しないってのがプロの矜持だ。なあ、みんな?」

 

「当然だ」

 

「当然ですね」

 

「カティアちゃんを裏切ったりしないわよ」

 

「は、はい!……でも、やっぱりカティアさんは凄いひとだったんですね!」

 

「みなさん、ありがとうございます!」

 

 みんなホントに良い人たちだなぁ……

 

「だが、依頼主の侯爵には報告する義務があるな。まあ、ヤツなら大丈夫だろ」

 

 そっか、侯爵様には事の経緯の説明は必要だからね。

 私の事も説明しない訳にはいかないか。

 まあ、侯爵様は信頼できる方だし、父さんの言う通り秘密は守って下さると思う。

 

 

「しかし、そうなると死んだ母親が王家の血を引いてたのか、それとも父親なのか……?確かに母親はどこかの王族と言われてもおかしくは無い感じだったが……」

 

「ん?あんたの娘なんじゃないのか?」

 

「あぁ……カティアは養子だ。実の娘じゃねえ。大戦の末期、まだ傭兵をやってた時だな、たまたま死にかけのコイツの母親を見つけてな。抱いていたまだ赤ん坊だったコイツを託されたんだ」

 

「そうだったのか……すまない、変な事聞いてしまったな」

 

「ああ、いえ。私も覚えていないことですし、全然気になりませんよ」

 

 

 大戦か……【私】の知識によると、どうもゲームのイベントに似てるんだよな。そして、それは【俺】がカティアのアバターを入手したときのものだ。

 

 大きく異なるのは、カティアというのは元々NPCで、そのイベントでも重要キャラクターとして登場していた。

 今のカティアは旅芸人一座の歌姫。

 

 立場の違いもそうだが、そもそも生きている年代が違う。

 大戦末期の時点で、まだ私は赤ん坊だったのだ。

 

 まあ、ゲームと類似した世界と言っても、結構違いも大きいし、あまり気にしなくてもいいだろう。

 

 

 

「で~、カティアちゃん~?あの歌はなんだったの~?やっぱりあれは神代語~?」

 

 姉さんはそこが一番気になるらしい。

 

「うん、そうみたい。昔エメリールさまが(宴会芸で)歌ったんだって。(シギル)の発動に使えるだろうって教えていただいたの。(シギル)の発動方法は人それぞれ違ってて、私の場合は固有スキル[絶唱]……歌で魔法を発動するスキルなんだけど、それがトリガーだったみたい」

 

「ほう、流石は我が一座が誇る歌姫だな。そんなスキルまで持っていたとは驚きだ。……まさか今までもそのスキルで[魅了]とかかけてないよな?」

 

「しないよ!?そんな事!?……このスキルに気づいたのも最近……と言うか昨日だし」

 

ティダ兄は私を何だと思ってるのか……

 

 

「昨日……それで合点がいった」

 

「え?何が?」

 

「ティダとも話てたんだがな、昨日ギルドで会った時から、妙にお前の気配、というか存在感みたいなものが増したような感じがしてたんだ。思えばそれは女神の眷族として目覚める兆候だったんだろうな」

 

 ぎくっ。

 

 それはまた話が違うと思うのだが……

 多分それは、【俺】が入ったことによる影響だと思う。

 

 まあ、それは言わなくていっか。心配かけちゃうし。

 

「おほほほ、そうね~、そうだと思うわ~」

 

「?」

 

 

 

「ん~、整理すると~、あの歌自体には特に魔法的効果がある訳じゃなくって~、あくまでも【(シギル)】を発動させるためのもので~、闇を祓ったのは【(シギル)】の効果の一つってことなのね~?そうすると~、あれは神代魔法では無かったのね~」

 

「そういう事だよ。あ、でも、神代魔法なら一つオキュパロス様から教わったよ。せっかくだから覚えていけって」

 

「ええ~っ!?」

 

「うそっ!?ほんとですか!?何の魔法です!?」

 

 リーゼさん怖っ!?

 

 ずざっ!と、凄い勢いで食いついてきた!それに引きつつも答える。

 

「あ、えっと、[変転流転]ってやつ……」

 

「それは!!『神代記』に記載されてるだけでどのような魔法なのか全くの謎だったもの!!いったいどう言う魔法なんですかっ!?詠唱は!?それから……ぐえぇ~っ!?」

 

「はいはい~、リーゼちゃん~。気持ちは分かるけど~、落ち着きましょうね~」

 

 物凄い剣幕で詰め寄ってまくし立てるリーゼさんの首根っこを引っ張って、姉さんがどうにか(物理的に)落ち着かせてくれた。

 

 なんか、グキッて言ったけど……

 乙女が出してはいけない悲鳴だったし。

 

 

「……すまんな、リーゼのやつ重度の魔法オタクなんだ」

 

「そのようですね……」

 

「げほっ!ごほっ!……はっ!すみません、取り乱してしまいました。でも、凄い事ですよ!(シギル)もそうでしたが、歴史的大発見です!」

 

「そうよね~。カティアちゃん、ここで使うことはできるの~?」

 

「え~と……うん、大丈夫そう。そこそこ魔力消費が大きいから帰ってから検証してみようと思ったけど……もう結構回復したから問題ないかな。ここ、魔素が濃いから回復も早いよね。う~ん、試して分かりやすいのは……これかな?」

 

 ごそごそ、と鞄の中を漁って、取り出したのは…

 

「……石?」

 

「ミスリル鉱石。前に依頼で納品したやつの余り。鞄に入れたままになってたの」

 

「……それをどうするの~?」

 

「ちょっと見ててね」

 

 そう言って、詠唱をはじめる。

 詠唱そのものは長くはないのだが、魔力制御が難解で緻密であるため、非常にゆっくりとしたものとなる。

 

『世に常なるもの無し。万物は流転しうつろうものなり。ならば、今この一時に於いて我が望むかたちをここに示し変転せよ』

 

 詠唱が終わると、パァッ!と手に持った鉱石が光に包まれて……

 光が収まったときには綺麗な薄緑色の金属光沢を放つ小振りのナイフが現れた。

 ミスリル以外の部分はさらさらと細かい砂になって零れ落ちる。

 

「「「……は?」」」

 

「ねっ、凄いでしょ。まあ私も初めて見たんだけど。この魔法はね、モノの状態、形を自由に変えることができるんだよ」

 

 えへん、という感じで魔法の効果を伝える。

 

「……もう何でもアリだな、お前」

 

「あ、もちろん制限もあるよ。生き物やそれに由来するモノには効かないよ。木とか革とか」

 

「……なんであんなに短い詠唱でこれ程劇的な効果を生み出せるの?完全に最適化されている?だとしても余りにも……いくつか知らない単語があったけどそれの寄与が大きいのかしら?そうすると……」

 

 リーゼさん、今度はブツブツ独り言を言い始めた。

 コレはこれで怖いな……

 

「もうああなるとしばらく戻ってこないぞ。まあ、休息も必要だし放っておけ」

 

「冒険者なんてしてる割には研究肌なのね~。で、カティアちゃん~、これは秘密じゃなくて良いの~?」

 

「ん~……私の事を伏せてくれれば魔法自体は別に……オキュパロス様も気にされないでしょうし。そもそも普通の人間には使えないって言ってたよ。(シギル)持ちなら使えるだろうって教えてくれたものだし」

 

「あら~、残念~。じゃあ私には使えないわね~」

 

「でもでも、未発見の単語とか非常に有用です!これを研究すれば、また新たな発見が得られるかも!ああ、帰ったら早速論文を……発見者のカティアさんの名前は伏せるとして……でも実証ができないと……なんとか学院から(シギル)持ちの王族の方に繋ぎをとってもらって……」

 

 あ、戻ってきた。

 と思ったらまた……

 

「……やっぱ、学院の出身者は変人ばっかだな」

 

「ちょっと~。ダードさん~、聞き捨てならないわ~」

 

「ハァ……お前も自覚したほうがいいと思うがな……」

 

「アネッサは変人なんかじゃない」

 

「ティダ……」

 

「アネッサ……」

 

 

 

「……こっちもほっといて休憩しましょ」

 

「ああ、そうだな」

 

「いつもの事ッス」

 

 魔法の解析に没頭するリーゼさんと、二人の世界に入ってしまったティダ兄とアネッサ姉さんを置いて、休息の準備をするのであった。

 

 



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第一幕 11 『帰還』

 さて……小一時間ほどの休息を終えて、私達は街に戻ることにした。

 今は太陽の位置から見るに、とうに正午は過ぎている。

 だが夕暮れまではまだ余裕があるだろう。

 

 森を出て領軍の野営地に寄って馬を回収し……そこから寄り道せずに帰れば、何とか日が落ちる前には街に辿り着けるはずだ。

 

 

 『鳶』の人達は徒歩で来ているので、報告のために同行するカイトさん以外は少し遅れての帰還になる。

 街に帰るまでに日が落ちてしまうので、徒歩組を領軍の野営地で一泊させてもらえるようにお願いする予定だ。

 

 

「さて、これで結界消えてなかったら、いやッスね」

 

「……シャレにならん事言うな」

 

 全くだ。

 しかし、ロウエンさんのその心配は杞憂に終わり、木々が徐々に疎らとなり始める。

 どうやら森林地帯は抜け出せたようだ。

 

 

「ふぅ、何とか抜けられたな」

 

「ああ、ようやく出られたわ!早く街に帰ってお風呂に入りたい~」

 

「そうですね、[清浄]だけだとキレイになった気がしませんものね」

 

「俺はとにかく酒と美味いものが欲しい。ここ数日は保存食と山菜ばかりだったからな」

 

「同じく。せめて果物でも生えてれば良かったですけどねぇ…」

 

 数日振りに森から開放された『鳶』の面々が、開放感から早くも街に帰ってやりたいことを口々に訴える。

 

「お前たち、街に帰るまでが依頼だからな。余り気を抜くなよ。まだ原因を取り除いたばかりだから周辺の生態系の乱れはまだ戻ってないんだ」

 

「もう~、いいじゃない。カイトは夕方には戻れるだろうけど、私達はまだもう一泊あるのよ。少しくらい気も抜きたくなるわよ」

 

「まあまあ、そうは言っても皆さんなら油断もないでしょうし大丈夫ですよ」

 

「そうよ。カイトだってカティアちゃんと一緒だからって浮かれるんじゃないわよ~?」

 

「はぁ……まだそういうことを言うか。カティアも困ってるだろうが」

 

「あ、いえ、その、大丈夫です」

 

 確かに反応に困るけど……

 

 

「ん?何だ?カティアに気があるのか?……ふむ、ここは『娘が欲しければ俺を倒してからにしろ!』と言うところか?」

 

「洒落にならんからやめとけ」

 

「大将、それだとカティアちゃん一生嫁に行けないッスよ」

 

「……まったくダードレイさんまで。今日はじめて会ったばかりなのに、何でそう言う話になるんだか……」

 

「そうですよね、皆してからかって楽しんでるだけですよ。無視です、無視」

 

 もう。ほんとに何なんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

ーー アネッサとレイラの内緒話 ーー

 

(カティアちゃんてば~、恥ずかしがっちゃって~。カイトくんと話してるとき凄く楽しそうなんだけど~、自分では気づかないものかしらね~。カイトくんの方はよく分からないけど~、満更でも無いと思うのよね~。カティアちゃんはホント美人だし~、良い子だものね~。お似合いだと思うわ~。まあ~、カティアちゃんもまだ恋と言う程のものでは無いみたいだし~、様子見かしらね~。好みのタイプって事だとは思うんだけど~。あ、ダードさんはやめさせないとね~。ホントにいき遅れるわ~)

 

 

「ねえねえ~、レイラちゃん~?」

 

「はい?何です?」

 

「カイトくんって、どうなの~?」

 

「?ああ、カティアちゃんのことです?」

 

「そうよ~、私の見たところ、カティアちゃんの方は結構気になってるように見えるのよね~。うちの一座以外であんなふうに楽しそうに男の人と話してるの、初めて見るもの~。ましてや初対面で~」

 

「……カイトもですね。あの朴念仁にしては珍しく気にしてるようにも見えますし、これはもしかして……って感じですかねぇ」

 

「なるほどなるほど~。だけど~、二人とも奥手っぽいし~」

 

「……周りが世話してやらないとですねぇ」

 

「「ぐふふふ~」」

 

 ……などとアネッサたちが話してることなど、カティアには知る由もないのであった…

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、野営地に戻ってきました。

 

 また群がられるのでは……と心配したが、そんな事もなく普通に出迎えてくれた。

 巡回から戻ってきてる人達もいるみたいなので、人数的に洒落にならないから助かった。

 

 『鳶』の面々の宿泊についても快諾してくれ、テントを一棟まるまる開放してくれた。

 そして、馬たちを回収してすぐに出発となる。

 

 

「では、道中お気を付けて。侯爵閣下にも宜しくお伝えください」

 

「ああ、協力感謝する。まだ生態系が戻ってないから暫くは警戒が必要だろうが、原因は取り除いたんだ。そう時間がかからずにあんた達も戻れるようになるだろ。それまでは監視の方頼む」

 

「はっ!お任せください!」

 

 なんか、父さんが上官みたいだね。

 

 

 ともかく、これから馬で帰還なのだが……元々うちの人数分しか借りてない。

 なので、カイトさんは誰かと相乗りと言う事になるのだけど……結局、私の馬に同乗する事になった。

 

 父さんやティダ兄、ロウエンさんとじゃ体重的に馬が大変だし、絵面的にも何か嫌だし、アネッサ姉さんだとティダ兄が嫌がるし。

 自然とそうなるのは仕方ない。

 

 何らかの意図が働いた訳では無い。

 無いったら無い。

 大体、何で【俺】が意識しなけりゃならないのか……

 何度もからかわれたから変に意識しちゃうんだよ。

 

 身体は女でも意識は男の【俺】が主体なんだ。

 そう、男相手にどうこうなる訳が無い。

 

 

(……ここにも軍の馬が居るんだから、あと一頭くらいは借りられたと思うんだけど~。そこには気が回らないのね~。何だかんだ意識してるのよね~、二人とも~。皆も何も言わないし~、そういうの好きよね~)

 

 などとアネッサ姉さんが考えてることなど、やっぱり分からなかった……

 

 

「ではすまないが、宜しく頼む」

 

「は、はい。では手綱はお願いします」

 

 ……そうだよね。

 身長的に私が前になるよな、そりゃ。

 いや、前に乗られてもそれはそれで困るんだけど。

 

 

 ああ……しかしこんなに密着するとは。

 あっ!?私、汗臭くないかな!?

 [清浄]しとけばよかった!

 

 って、そりゃ完全に女の思考じゃんか!

 しっかりしろ、【俺】!

 落ち着け、落ち着くんだ!

 

 羊が一匹、羊が二匹……って違う!

 寝てどうする!

 え~い、色即是空空即是色……

 

 

 そんなふうに、内心パニック状態だった事を除けば、道中は特に何事もなく無事に街まで辿り着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブレゼンタムの街に帰ってきた私達は、馬を返すため領軍詰所に向かい馬をゆっくりと進ませる。

 

「お~し、帰ってきたぞ」

 

「ああ、中々濃い一日だったな」

 

「あ~、もうヘトヘトッス」

 

「あら~ロウエンくん、だらしがないのね~」

 

「まあ、そう言ってやるな。今日は斥候としてずっと気を張ってただろうからな」

 

「そうッスよ!労って欲しいッス」

 

「はいはい~、頑張ったわね~」

 

「ぞんざいッス!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、カイトさん?」

 

「ん?どうした?」

 

「今日はありがとうございました。カイトさん達がいなかったらまだ今頃は……」

 

 まだ解決の糸口を掴めず森を彷徨ってたかも知れない。

 事前の情報収集と分析に随分助けられたと思う。

 

 そう思って改めてお礼を言ったのだが……

 

「いや、それはこっちのセリフだな。お前たちが来てくれたおかげでこうして無事に帰ってこられた。感謝してもし足りないな」

 

 反対にお礼を言われてしまった。

 それじゃあ……

 

「ではお互い様、と言う事で」

 

「ふ、そうだな」

 

 

 

 

(な~んか、いい雰囲気ッスねぇ)

 

(よくわからん)

 

(同じく)

 

(あなた達は鈍感すぎよね~)

 

 もちろん、彼らがコソコソ話してることには気づかなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 詰所に到着し、厩舎に馬を返す。

 

「お疲れ様。乗せてくれてありがとうね。今日はたくさん走って疲れたでしょう?ゆっくり休んでね」

 

「ひひんっ!ぶるるる!」

 

 うんうん、元気でね。

 

 

 う~ん、ずっと背中にカイトさんが密着してたから、何だか背中がすーすーするような気が……

 

「……先程まで背中に感じていた逞しい男の熱量がなくなってしまい~、彼女はそれを寂しく感じるのであった~」

 

「……姉さん、勝手なナレーションを入れないで」

 

「あら~、違ったかしら~」

 

「違うよ。背中がすーすーするな、とは思ったけど」

 

「あら~?」

 

「あら~?じゃないでしょ。何でそんなにくっつけようとしてるの?」

 

 ほんと、それが不思議だよ。

 

「う~ん、やっぱり自分じゃ気付かないのかしらね~。カティアちゃん、カイトくんと話してる時って~、凄く嬉しそうなのよ~?」

 

 ……なん、だと!?

 

「そ、それは、確かにカイトさん話しやすいし話てて楽しいと思ったけど、だからって別に……」

 

 どうも、【私】の好みのタイプなんだろうか。

 感情がそっちに引きずられてる気がする。

 ……でも、この先もずっと女として生きていくのだし、その方がいいのかも知れない。

 

 【俺】の意識が主体だとして、じゃあ女の子が恋愛対象なのかというと……どうも、違うみたいだ。

 

 姉さんは身内みたいなものだから別として、例えば今日会ったレイラさんとか美人だし、リーゼさんは可愛らしい感じだ。

 性格だって好ましい感じがした。

 以前の【俺】なら、異性として意識していたはず。

 でも、そんな事は全く感じなかった。

 

 よくよく考えれば、恋愛と言うのは子孫を残すためにある感情なのだろうから、身体の方に強く依存するものなのかもしれない。

 

 もっと、自分の感じるまま、素直にそれを受け入れていいのかもしれない。

 

 でも、まあ焦る必要はない。

 そう、女神さまも言ってたじゃないか。

 ありのままの自分を認めてあげなさい、って。

 

 

 

 でも、やっぱりからかわれるのは勘弁願いたい。

 だから、姉さん。

 そのニヤニヤはやめて。

 



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第一幕 12 『報告』

 領軍詰所を後にしてギルドに向かう途中、私達が泊まっている宿の前でリィナに会った。

 

「あっ!?お父さん!お母さん!おかえりなさい!もうお仕事おわったの?」

 

「リィナ、ただいま~」

 

「ああ、これからギルドに報告に行って、それで終わりだな。リィナは女将さんの手伝いか?」

 

「うん!いまねぇ、お買い物から帰ってきたところ!」

 

 そう言って大きな買い物かごを持ち上げて見せてくれる。

 

「そっか~、ちゃんとお手伝いできてえらいわね~」

 

「えへへ…あ!お姉ちゃんも、おかえりなさい!」

 

「うん、リィナ、ただいま。そのかご随分大きいけど大丈夫?」

 

「大丈夫だよ!そんなに重くないし。あれ、そっちのお兄さんは?」

 

「ああ、依頼で一緒になったカイトさん。カイトさん、この子はティダ兄とアネッサ姉さんの娘でリィナって言うの」

 

「カイトお兄さん、始めまして!」

 

「ああ、始めまして」

 

 カイトさんは屈んでリィナと目線を合わせて優しそうな笑顔で挨拶する。

 

「カイトさん達のパーティーが居なかったらまだ帰ってこれなかったんだよ」

 

「そうなんだ~!カイトお兄さん、お父さんたちを助けてくれてありがとう!」

 

「はは、俺たちもきみのお父さん達には助けられたからね。『お互い様』ってやつだ。な?」

 

「(ドキッ)え、ええ、そうですね」

 

 リィナに見せていた優しい笑顔のまま、こっちを向いて同意を求めるカイトさんをみて不意にドキッとさせられる。

 

 …むぅ。素敵な笑顔じゃないか。

 

 ふん、この人ホントは女たらしなんじゃないの?

 【私】も気をつけなきゃいかんぞ!

 そして姉さんの方は見ないぞ!

 

「じゃ、じゃあリィナ、私達まだギルドに報告があるから、もうちょっとお留守番お願いね」

 

「?は~い、まってるね~!」

 

 リィナに一旦の別れを告げてギルドに向かった。

 

 

 今は夕暮れ時。

 昨日と同じくギルドの中は多くの冒険者たちで賑わいを見せていた。

 

 私達が中に入ってすぐに声をかけてくる大男が一人…

 

「おぅっ!お前ぇら、帰ってきたか!カイトも無事で何よりだ」

 

「閣下?」

 

「何だ?侯爵サマ。随分タイミングがいいじゃないか?」

 

「ああ、門兵から連絡が来たんでな。公務をサボっ…切り上げてすっ飛んで来たよ」

 

「…相変わらずフットワークが軽いな」

 

 サボっ…と言うのは聞かなかったことにする。

 

 門をくぐってからそんなに経ってないのに、本当に腰が軽いというか…こっちは手間が省けて助かるけど。

 

「まあな。ギルド長にもナシつけてっから、報告は別室で聞こう」

 

「根回しもよいことで」

 

「おうよ。スーリャ、案内頼む」

 

「はい。皆さま、こちらへどうぞ」

 

 いつの間にか閣下の横に控えていたスーリャさんに案内され、冒険者が列を成しているのを横目にカウンターの裏に周って、奥の階段から二階の部屋の一つに通される。

 と言うか大貴族の領主様がいちギルド職員の名前を知ってるって、どんだけ入り浸ってるんだか。

 

「失礼します。侯爵閣下と冒険者の皆さまがお見えになりました」

 

 中に入ると、長机が『コ』の字に配置された会議室のような部屋で、一番奥に座っていた貫禄のある初老の男性が立ち上がって挨拶をする。

 

「閣下、このような場所にご足労頂き恐縮です。皆もご苦労だったな」

 

 ギルド長のガルガさんだ。

 

 私はこの街でCランクからBランクへの昇格試験を受けているが、その際にお会いしている。

 父さんたちはAランク冒険者として直接ギルド長から依頼されたりするので、こちらも面識がある。

 カイトさんも同じだろう。

 

 入室しながら銘々に挨拶する。

 

「おし、挨拶はそんくらいにして、まあ適当に座れや」

 

 侯爵様が促してそれぞれ席につく。

 しかし、侯爵様は勝手知ったる…て感じだね。

 

 そして侯爵様はまず、カイトさんに声をかける。

 

「あ~、まずはカイト。無事で何よりだぜ。お前ぇに何かあったら親父さんに申し訳が立たねぇ」

 

「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。また、早急なご支援に感謝いたします。…それと、父の話はここでは…」

 

 カイトさんのお父さんが何なんだろ?

 どうも侯爵様とは前からのお知り合いみたいだね。

 

「あっと、そうだったな、すまねぇ。他の連中も怪我は無ぇんだよな?」

 

「ええ、野営地で一泊してから戻ってくる予定です。私だけ報告のため彼らに同行させてもらいました」

 

「そうか、そいつぁ良かった。じゃあ、早速だが報告を頼まァ。野営地からの早鳥の報告で『鳶』の連中が生存してた事と、原因の排除に成功した事くれぇは抑えてんだがよ」

 

 そうして、先ずはカイトさんから報告を始める。

 概ね森の中で聞いた話と同じだ。

 あのオーガもどきに遭遇し、今回の異変の原因であると断定。

 情報を持ち帰るべく撤退するも、結界に阻まれて帰還することが叶わず。

 その後は出来るだけ情報を収集すべく、数度に渡り接敵を敢行。

 それが、その後の合同パーティーによる魔物撃破に大きく貢献する事になった。

 

 うちと合流してからの話は、私達も報告に加わって、オキュパロス様の助力や私の【(シギル)】についても余さず報告することになった。

 

 最後まで聞き終わった侯爵様はしばし無言で頭を抱え…

 

「…なんつーか、話が大きすぎて理解が追いつかねぇ…俄には信じらんねぇ事ばっかだな…」

 

「気持ちは分かるが、事実だ」

 

「別に疑っちゃぁいねぇよ。どっからいくか…先ずはオキュパロス様に会ったってぇ事だが、それはカティアの嬢ちゃんだけなんだよな?」

 

「え、ええ。証明は出来ませんけど…」

 

「あら~、あの結界魔法はどう見ても人間が扱えるものではなかったわよ~」

 

「ああ、さっきも言ったが別に疑ってんじゃねぇ。ただなぁ?神代より後、神様に直接会ったってぇ人間は聞いたことがねぇ。時折神託が降りることはあってもな。もし神殿の連中に知られるとめんどくせぇ事になるんじゃねぇか?」

 

 実はエメリール様にも直接会ってるんだけど…

 

「…面倒なことと言うと?」

 

 何となく想像がついたけど…

 

「あァ、囲いこまれて崇められて一生飼殺しか…」

 

「…か?」

 

「神の名を騙る不届きものとして弾劾されるかだな」

 

 ひぇ~~っ!?

 両極端すぎるっ!?

 

「まあ、後者はエメリール様の(シギル)を持ってんなら大丈夫だろ」

 

 いや、飼殺しもやだよ。

 

「随分神殿のイメージが悪いんだな?」

 

「あ~、どの神殿も行き過ぎた信仰心を持ってるやつが一定数いっからなぁ。上層部ほどそんなのが多いんだよ。領主として話す機会もそれなりにあるんだがな、まあ疲れることよ」

 

 狂信者って事だよね。

 そんな人たちには知られたくないなぁ…

 

「…(シギル)の件も含めてここだけの話にしてください…」

 

「まあ、それがいいだろ。ギルド長も頼まぁ」

 

「ええ、もとより業務で知り得たことには守秘義務がありますから。誓って口外することはありません。有能なギルド員をみすみす失いたくもありませんし」

 

「あぁ、頼んだぞ。だがなぁカティアの嬢ちゃんよ、俺の立場からすっと、(シギル)の件も含めて陛下の耳には入れとかんとならねぇんだ。それは承知しておいてくれ」

 

「国王陛下…ですか?」

 

「ああ、オキュパロス様に会ったってぇのはともかく、(シギル)ってなぁ神の力の一端だ。ヘタに扱えば国家間のパワーバランスが崩れかねん。なんで国としては常に情報を押さえておく必要がある」

 

「…常に押さえておくって…」

 

「ああ、別に監視が付くとかって話じゃねぇ。ただ、今どの街に滞在してる、とかが把握されるくらいだろう。陛下は民を蔑ろにするような方ではないからな、悪いようにはなさらんさ」

 

う~ん、それくらいならまぁ…

 

「…分かりました」

 

「カイトんところも秘密にするよう言っておいてくれや」

 

「ええ、既に口外しないことを約束しております。…なんなら[宣誓]で縛ったほうが良いですかね?」

 

「ええっ!?そんな、良いですよ!カイトさんたちは信頼できますから!」

 

「何だ、短え間に随分と信頼関係を築いたみてぇだな?」

 

「そうですね~、特にカティアちゃんとカイトくんはね~うふふ~」

 

「ん?あぁ、そういうことか。カイト、お前ぇもずいぶんと手が早えな?」

 

「「違います!」」

 

「息ぴったりね~」

 

 姉さんうっさい!

 

「もうっ!閣下!話を戻してください!」

 

「お、おぅ(怖えな)、じゃあ後は…『異界の魂』だったか。ギルド長、知ってるか?」

 

「…魂を喰らう、と言うことであれば高位アンデッドの中にもそのような魔物は存在しますが、聞いた話から思うに何百年かの周期で現れると言われている『ソウルイーター』と言う魔物が恐らくそれだったのではないかと。黒い靄、魂を食らった相手の身体を支配する、と言った特徴が一致します。直近では約三百年前の記録が残ってますね」

 

「三百年前ってぇと…」

 

「暗黒時代ですな。一説によれば、そのソウルイーターと言われる魔物が当時のグラナ皇帝を依り代にする事で自我と強大な力を得て魔王となり、大陸中の全ての国家に宣戦した、と言われてます」

 

「あぁ、その話なら知ってんな。魔物云々てなぁただのお伽噺かと思ってたが…今回の話を聞くと事実だったのかもな。その大戦の最中にエメリール様の(シギル)を受け継ぐ血筋が途絶えちまった…はずだったが、今回カティアの嬢ちゃんがそれを顕現させた事で否定された、と。はぁ~、すげぇ話だなぁ、オイ」

 

「自分ではピンとこないですけど…」

 

 その時代の伝説には多くのエピソードがあって、劇にもなっている。

確か、うちの一座でも演じたことがあったと思う。

 

「ともかく、今回の件でそいつぁ滅びたんだ、もう心配は無ぇかな?」

 

「それはどうですかね…三百年前は魔王となったもの以外にも何体も確認されていて、その時はまだエメリール様の(シギル)を持つ当時のアルマ王国の王子が生き残っていたので、彼が滅していったとされています。その王子も結局、魔王と相打ちとなってしまったため、血筋が途絶えてしまったと思われてたのですが」

 

「…今回も、他にもいるかもしれん、てぇ事か」

 

「少なくとも、記録や伝承によれば、九百年前、六百年前、三百年前、と言うように三百年周期で訪れるある特定の時期、数年間に渡って出現する事が確認されているのです。今後、他にも現れると考えたほうがよろしいでしょうな」

 

 三百年毎に異界の魂が迷い込みやすくなる、何らかの要因があるという事なのだろうか?

 

「そうだな…それも陛下に報告だ。しかし対抗できるのがカティアだけってぇのがな…」

 

「あ、一応、退魔系の魔法は効くらしいですよ?あと、神聖武器も有効みたいなので、たぶんアンデッド対策は有効なんじゃないですかね?」

 

「なに?本当か?なら、対抗手段はあるな」

 

「ただ、[日輪華]でも十数発必要みたいですけど…」

 

「…マジか。いや、それでも人数揃えられりゃ何とかなるってこった。手段が無ぇよりはマシだ。各神殿も巻き込まんとな。各国にも共有しとかねぇとだし…ああ、こりゃ陛下には直接話したほうが良いかな…丸投げしてぇ…」

 

「なんかスミマセン」

 

 何だかずいぶん大きな話になっちゃったな。

 私のせいじゃないけど、上の人は大変そうだね。

 

「あ~、別にお前ぇのせぇじゃねぇだろ。むしろ早めに情報と対抗策も入手できたんだ。ありがてぇってもんだ。ああ、そうだ、ギルドの方でも情報共有しておいてくれ。今回の状況や魔物の特徴を伝えて、似たような事例があったら迂闊に手ぇ出さねぇで国に報告、てな。ああ、カティアの名前は伏せとけよ」

 

「はい、心得てますよ。この後すぐにでも取り掛かりましょう」

 

「頼んだ。…よし!報告の件はこんくれぇでいいか?あとは報酬の話だが」

 

「よしきた。正直小難しい話は飽きてたところだ」

 

「お前ぇなぁ…」

 

 あくびかいてたよね、父さんは。

 

「今回の『鳶』の連中の報酬だが…期日までに帰還できなかったとはいえ不可抗力だったってぇのは今回の報告でよく分かった。だから俺としちゃあ成功扱いで構わねえと思うんだが…ギルド長、それでいいよな?」

 

「ええ、もちろんです。彼らの果たした役割は大きいでしょう」

 

「ってぇ事だ。カイト、それで良いか?」

 

「ご配慮痛み入ります。ありがとうございます」

 

 う~ん、私としてはちょっと納得できないとこがあるかな?

 

 正直、『鳶』の貢献度はかなりのものだと思う。

 追加報酬があっても良いくらいだ。

 

 ちょいちょい。

 

「ねぇ、父さん」

 

「ん?何だ?」

 

「今回の私達の報酬って『鳶』の報酬よりもかなり高額よね?」

 

「そうだったな。あ~、納得がいかんのか」

 

「うん。正直今回の件って貢献度は『鳶』も私達も同じくらいでしょう?だったら全部の報酬合わせて折半した方が平等じゃない?人数も一緒だし」

 

「まあ、今回一番の功労者のお前がそう言うんだったら、俺ぁ構わねぇが。お前らはどうだ?」

 

「カティアの言う通りだ。異論は無い」

 

「同じく~(愛よね~)」

 

「オイラも問題ないッス」

 

 何か姉さんから聞こえた気がするが…キニシナイ。

 

「ありがとう、皆!」

 

「って事で侯爵サマよ、そういうふうに取り計らってくれ」

 

「待ってくれダードレイさん、気持ちは有り難いが満額成功扱いになるだけでもこっちは望外のことなんだ。それに助けられた身としては…」

 

「カイトさん、『お互い様』ですよ!」

 

「!」

 

 ニッコリ笑って辞退しようとするのを遮って言うと、彼は驚いて呆気にとられたような顔をした。

 

「はっはっは!いいじゃねえか!好意は素直に受け取っときな!お前らの力が無けりゃ早期解決もなかったんだ。自分たちの成した仕事をもっと誇っとけ」

 

 そうそう、侯爵様はいい事を言うね。

 プロにはその仕事に相応しい報酬が必要だよ。

 

「しかし、カティアの嬢ちゃんは男を立てることを知ってるイイ女じゃねえか。なぁ、ダードよ」

 

「ああ、少しは女らしいとこがあって安心したぞ」

 

 はっ!?にゃんですと!?

 ち、違うよ!

 これは【俺】のこと無かれ主義の賜物であって、決してそのような…

 そ、それに、そう言う考えは古いと思いますよ!

 

「カティア」

 

「はひっ!」

 

「ありがとう」

 

「い、いえ!」

 

「ふふ…お前はいい女だよ」

 

「!?きゅう…」

 

 ばたんっ。オヤスミナサイ。

 

「お、おい!?」

 

「あら~恥ずかしさで限界のところに~止めを刺されたわね~」

 

 

 

「若えってなぁ羨ましぃねぇ…」

 

「全くですな」

 

「オイラも嫁さんが欲しいッス」

 



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第一幕 13 『宿にて』

 なんか気を失ってたみたい。

 

 全く、いきなりあんな事言うから…!

 

 はぁ…一体どうしたって言うんだ【俺】は。

 さっきは焦る必要ないなんて思ってたが、転生二日目にして激変し過ぎだよ。

 いくら何でも心の処理が追いつかない。

 

 …エメリール様は心のカウンセリングもしてくれるのかな…

 

 いや、そもそもこれは恋愛感情何だろうか?

 周りに囃したてられて盛り上がってるだけなんじゃ?

 いい大人が小学生のノリなんだよな…

 思春期の女の子じゃあるまいし。

 

 …はっ!?

 なんてこった…

 いま気付いたが、私は今思春期の女の子だったわ…

 

 …惹かれているのだろうか?

 何となくだけど【私】の好みなんだろうな~。

 どストライクってやつだ。

 脳は【私】のものなんだ、引きずられるのは当たり前なのかも…

 

 ともかく、明日の予定は無いし今度こそ神殿に行ってみよう。

 報告もあるし、こんな相談もしてみても良いかもしれない。

 エメリール様なら親身に話を聞いてくれるだろうし。

 

 あ、オキュパロス様の神殿にもお礼に行かないとだね。

 

 と、そんな事を考えてるうちに報酬の話は終わったみたいだ。

 提案した通り、全部の報酬を合わせて両パーティーの全員で平等に山分け。

 シンプルで良いね。

 

 あと、ギルドの貢献度(ランクアップに必要なポイント)についても報酬と同じく均等割だ。

 

 依頼の細かい査定についてはギルドの方でこれから行うことになるが、大きな依頼となったため報酬の支払いも貢献度の加算も後日となり、報告はこれで終了。

 宿に引き上げることになった。

 

 

 宿に帰ってきたときには、もうすっかり日は落ちていた。

 

 父さんたちも今回は流石に疲れたのか、ギルドで飲んでいくこともなく一緒に帰ってきた。

 カイトさんはさっきまで一緒だったが別の宿なので途中で別れた。

 なんか凄く心配されたけど、アナタのせいですからね。

 

 明日『鳶』の他のメンバーも帰ってきたら、打ち上げしようって帰り際に約束した。

 

 そういえば、侯爵様も今回の件を労うために晩餐会を催すから来いって言ってた。

 父さんは面倒臭いなんて失礼なこと言ってたけど、美味しいものに釣られて承諾してたよ。

 私はあんまり堅苦しいのは苦手なんだけど、あの侯爵様ならそこまで気にしなくても大丈夫だろう。

 むしろ、単なる飲み会にしかならない気がする。

 

 

 

「あ!ダード、帰ってきたね!」

 

「げ…ババァ…」

 

「聞いたよ!ずいぶん危険な依頼だったらしいじゃないかい!?まったく、うちの看板スターたちを皆連れて行っちまって…何かあったらどうするんだい!?…まあ、ロウエンはどうでもいいけどさ」

 

「酷いッス!?」

 

(無事に帰ってきたんだからいいじゃねぇかよ…)

 

「ああん!?何か言ったかい!?」

 

「何でもねぇよ(地獄耳め…)」

 

「まあまあ、ミディット婆ちゃん、今回は放って置くわけにもいかなかったよ。街にも危険が及んだら公演どころじゃないでしょ?」

 

「…そうかい?まあ、カティアがそう言うならしょうがないねぇ」

 

「何でこのババァ、カティアには甘ぇんだか…」

 

「ああっ!?」

 

 宿の扉をくぐって早々に、父さんに詰め寄ってまくし立ててきたのは、一座の裏ボス…もとい、会計やマネージャーのような事をしているミディットさん。

 

 恰幅のよいお婆さんで、年齢の割にバイタリティ溢れる人だ。

 傭兵団のころから雑用係をしており、父さんも含めて誰も頭が上がらない。

 荒くれ共に負けない腕っぷしを誇り、かつて傭兵団の留守を盗賊に狙われた際にフライパンを片手にこれを全滅させたという猛者だったりする。

 

 だけど私をはじめ、一座の子どもたちには甘く、まるで孫のように可愛がってくれる。

 私はもう子供ではないんだけども。

 

「あんたたち、明日は稽古さぼんじゃないよ!ホール借りるのもただじゃないんだからね!」

 

「あ、婆ちゃんごめんなさい、私明日もお休みが欲しいの」

 

 明日は二つの神殿をお参りして、その後も少し街をゆっくり散策したい。夕方はカイトさん達と打ち上げの予定だ。

 

「ああ、カティアは疲れたろう、ゆっくり休みな」

 

「…この落差よ」

 

 

「ああそうだ、アネッサ?」

 

「なんですか~?ミディットさん~」

 

「シクスティンとロゼッタが用があるみたいだったよ。何か演出がどうとか…」

 

と、婆ちゃんが言いかけたとき、突然ロビーに高笑いが響き渡り、一人の女性が乱入して来た。

 

「おぉ~~っほっほっほっほっほっ…ごほっ!げほっ!!…ふぅ…帰ってきたようね、アネッサ!心配しましたわ!まぁ貴女がいなくとも、ワタクシさえいれば観客は満足するでしょうけども!」

 

「あら~、ロゼッタ、ごきげんよう~。今日も無駄にテンション高いわね~」

 

「もう~、ロゼおばさんったら、すごく心配してたくせに」

 

「こら、リィナ!おばさんは止めなさいっていつも言ってるでしょう!お姉さまと呼びなさい!お姉さまと!」

 

「あっ、リィナ。さっき振り。いま帰ったよ」

 

「おかえりなさい、お姉ちゃん。お父さんたちも!」

 

 姉さんの言う無駄に高いテンションで登場したおば…(ギロッ!)お姉さまはロゼッタさん。

 大きく波打つ金髪に翠色の瞳、ボンッ、キュッ、ボンッとメリハリのある体型をしたゴージャス系の美人だ。

 うちの一座では珍しく舞台女優に専念している。

 年齢は、(ジロっ!)…秘密だって。

 まあ、アネッサ姉さんと同年代と言っておこう。

 

 アネッサ姉さんが清楚なユリ、ロゼッタ『お姉さま』は大輪のバラと例えられる…らしい。

 

「シクスティンは一緒じゃないの~?お話があるんでしょう~?」

 

「そうよ!このワタクシと、ライバルたるあなたが出るからには、常に最高の舞台でなくてはならないのよ!さあ、そのためにもこれから演技と演出の打ち合わせをするわよ!あ、疲れは大丈夫かしら!?」

 

「打ち合わせくらいは大丈夫よ~。でも~、ご飯は食べさせて欲しいかな~?」

 

「はっ!?ワタクシとしたことが…気が利かなかったわ!食後に改めてシクスティンのとこに来て頂戴!では後ほど!」

 

 そう言って立ち去っていった…

 相変わらず嵐のような人だな…

 

 舞台のテンションそのままなので、話をしてるとちょっと疲れるんだよな。

 でも、何だかんだ気遣いは出来るいい人なんだよね。

 

 因みにシクスティンさんと言うのは舞台の演技指導や演出を手掛けるスタッフさんで、ロゼッタさんの旦那さんでもある。

 この人も専任だ。

 

 何でも昔、まだ荒削りだった一座の演技に将来性を見出して一座の一員となったとか。

 そのおかげもあって飛躍的に舞台の完成度は高まり、人気と名声は徐々に高まっていって現在に至るというわけだ。

 

 私はシクスティンさんからは『大根役者』と評されており舞台に上がらせてもらえない。

 

 ふん、私は歌姫として人気なんだから別にいいんだもんね。

 

「相変わらずやかましい奴だな…」

 

「まったく騒がしい子だね。じゃあ、あたしはまだ仕事があるからこれで失礼するよ!」

 

「じゃあねー、婆ちゃん」

 

 忙しそうにミディット婆ちゃんは宿を出ていった。

 他の宿に泊まっているメンバーにも用事があるのだろう。

 お疲れ様です。

 

「何だかどっと疲れちまったな…さあ、メシだメシだ」

 

そう、父さんは言って宿の食堂に向かう。

 

「あ、お食事ですね、ご案内しま~す!こちらへどうぞ~」

 

「あら~、リィナ~。給仕のお手伝いもしてるの~?」

 

「ふ…婆さんと派手女の後だといっそう癒やされるな」

 

「あ~、ティダ兄、そんなこと言って!」

 

 可愛らしい給仕さんに案内されて、皆でガヤガヤと食堂に向かうのだった。

 

今日は一日お疲れ様でした!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆と食事を取ったあと、私は部屋に戻ってきた。

父さんたちはまだ飲んでいくようだった。

 結局飲む場所が変わっただけだね。

 アネッサ姉さんは私より一足先に食事を終わらせて、シクスティンさんとロゼッタお姉さまの待つロビーを訪ねていった。

 

 

「ふぅ…今日は色々あって疲れたな…」

 

 お風呂から上がって一息つく。

 

 転生二日目にして非常に濃い一日だった。

 

 果たして、あの『異界の魂』こそが【私】の魂を傷付けた原因なのだろうか?

 実は、色々考えているうちに私の中では既に答えが出ている。

 オキュパロス様にも話したように、もしアイツが原因だとすると謎が残るのだ。

 

 その一つは、私が倒れていたときの状況。

 私が目を覚ましたとき、周囲の様子に不審な点は無かった。

 アイツと戦闘になったのなら、何らかの痕跡があった筈だ。

 何しろあれだけ強烈な気配を放つ相手だ。

 不意を突かれて一方的にやられたとは思えない。

 

 周囲に不審な点が無いこと、それが逆に不自然なのだ。

 あの暴虐性からして、身体が全く無傷だったのもおかしい。

 

 もう一つが、私が倒れていた場所だ。

 そもそも、アイツは数日前に『鳶』のパーティーが遭遇した時点で森の中にいたのだ。

 昨日、私が倒れていた場所からは相当な距離がある。

 そして、『鳶』はアイツの結界に囚われていてずっと森にいたのだ。

 その間も何度か接敵しているし、アイツはずっと森の中から動いていない事になる。

 

 

 つまり結論としては、あの森で遭遇した『異界の魂』は、私の魂を傷付けた直接的な原因では無いと考えられる。

 だが、その特性を考えると全くの無関係ではないだろう。

 

 ギルドで話に出た三百年毎に現れる『ソウルイーター』と呼ばれる魔物。

 記録や伝承が伝えるその魔物の特徴は『異界の魂』と一致する。

 エメリール様の(シギル)持ちが滅したと言う話からも、ソウルイーターと『異界の魂』は、同一の存在であることは間違いないと思われる。

 

 そうすると、これもギルドで言っていた通り『異界の魂』は他にも存在し、恐らくその中に【私】の魂を傷付けた相手がいるのだろう。

 

 もし、その相手を見つけて倒すことが出来れば、失われた魂はこの身体に戻ることが出来るのだろうか?

 

 もし、それが出来たならば、魂が癒えるのを待つこともなく【私】の意識は復活するのだろうか?

 

 その時【俺】の意識はどうなるのか?

 

 エメリール様には、推論の答え合わせとともに、それも聞かなければならないだろう。

 

 

「…あ、そうだ、ステータスも確認しておこう。色々あったし、何か情報が変わってるかも…」

 

=======================

【基本項目】

名前 :カティア

年齢 :15

種族 :人間(女神の眷族)

クラス:ディーヴァ

レベル:37

生命値:1,608 / 1,608

魔力 :3,076 / 3,076

筋力 :292

体力 :188

敏捷 :499

器用 :262

知力 :395

 

【魔法】 ▼

 

【スキル】▼

 

【賞罰】

 ■請負人相互扶助組合

  ランク:B

  技量認定(戦闘):上級

  技量認定(採取):中級

 

【特記】

 ■エメリールの加護(魂の守護)

 ■エメリールの(シギル)

  ※発動時全ステータス +300

 

【装備】

 

=======================

 

 

「あ~、前に『???~』ってなってたのが『女神の眷族』『エメリールの(シギル)』になったね。(シギル)を初めて発動したからかな?あとは…あ、レベルが上がってる」

 

 しかし、このステータスも謎だよね。

 現実のこの世界でもこれだけはゲームみたいで…

 普通は自分のステータスは見れないんだけど、ギルドなどにある魔道具を用いて測定することが出来る。

 だけど、数値とかスキルの習熟度がどのように算出されているのかは謎だ。

 どうもその魔道具は神代の遺物(アーティファクト)の術式を模倣して作られているらしいのだが、研究はされてるものの細かい理論等は不明らしい。

 

 あと、数値自体も謎だ。

 一般的な成人男性の平均値がおよそ100前後と言われているのだが、例えば私の筋力はその平均の三倍近い。

 でも、見た目は全然そんなふうには見えない。

 普通の女の子の体型だ(一部除く)。

 腕を見ても適度に筋肉は付いているのだが、柔らかな女性の細腕その物である。

 一説によると最大魔力量が影響していると言われており、それが大きければ同じ筋肉量でも出力が大きくなると言われている。

 ただし、魔力量が大きいからと言って必ずしも筋力が大きくなるわけではない。

 魔力量が大きい人が身体を鍛えると、筋肉が増える前に筋肉量当たりの出力がまず増えていくのだそうだ。

 そういう訳で、優れた前衛職は魔力も大きいことが多かったりする。

 うちの父さんとかも魔法は使わないが魔力自体はそこそこ大きいらしい。

 

 私の場合は(シギル)がステータス面に影響してるのかも。

 あるいは逆で、能力値が高いので(シギル)を受け継ぐことができたのか。

 …それにしても、(シギル)発動時のステータス増がヤバい。

 プラス三百って…

 でも、前回発動した時は直ぐに消えちゃったんだよな。

 それだと、あまり意味がないかなあ…

 

「確認はこれくらいでいいかな…ふわぁ~、もう寝よう…」

 

 いろいろと考え事をしていたら、いつの間にかもう遅い時間になっていた。

 心地よい疲れに身を委ねゆっくりと眠りに落ちていく。

 

 転生二日目はこうして終了するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 …あ、またこの夢?

 いや、夢じゃなかったか…?

 

「あ、お兄ちゃん。こんにちは!」

 

「…あ。こんにちは。え?…カティアちゃん?なんだか昨日より大きくなってない?」

 

 昨日会った時は確か3歳くらいだったと思う。

 いま目の前にいる彼女はそれよりも大きくなっていて…

 大体5歳くらいだろうか?

 喋り方も舌足らずだったのが随分しっかりした口調になってる。

 これは、彼女の魂の修復が少し進んだと言うことなのだろうか?

 

「?あのね、カティア、お兄ちゃんたちがこわいお化けをやっつけたのを見て、思い出したの」

 

「え~と、こわいおばけって、黒いモヤモヤを出していたオニのことかな?」

 

「うん、そう」

 

「何を思い出したのかな?」

 

「えっとね、カティア、あの黒いモヤモヤと同じお化けに食べられちゃったんだ」

 

「!…そっか、それはこわかったよね」

 

「…うん。でも、今はお兄ちゃんがいるから大丈夫だよ!こんどあのお化けがきても、やっつけてくれるよね?」

 

「ああ、そうだね。女神さまも守ってくれてるしね」

 

 …やはり、カティアの魂を傷付けたのは別の『異界の魂』と言うことなのだろう。

 アレを初めて見た時、忘れていた記憶を刺激するような感覚を覚えたが、それでこの小さいカティアも少しだけ思い出したということなのだろうか。

 

 これで一つ裏付けが取れた…のか?

 この夢の事はまだよく分からない。

 この夢もまた女神様に相談する事の一つだ。

 

「ねえねえ、お兄ちゃん?」

 

「ん?なんだい?」

 

 カティアちゃんは何だか赤くなってもじもじしながら、衝撃的なことを言った。

 

「あのカイトってお兄ちゃん、カッコいいね!わたし、およめさんになりたいな」

 

「!?」

 

 な、なんですと?

 

「え、え~と?カティアちゃんはカイトさんが好きなの?」

 

「うん!カッコいいし、優しいし!」

 

「そ、そっか。えと、俺とかは?」

 

「ふぇ?お兄ちゃんはわたしでしょ?ん?わたしがお兄ちゃん?」

 

 

 …ええいっ!カイトぉ!

 【私】が欲しくば【俺】を倒してからにしろ!

 心の中(?)で血涙を流しながら叫ぶのだった。

 



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第一幕 14 『ブレゼンタムの休日 神殿参り』

 …また、あの不思議な夢を見た。

 

 そして、重要なことが分かった。

 小さいカティアはカイトさんのことが好き。

 つまり【私】はカイトさんが好き。

 ファイナルアンサー。

 

 いや、それも重要なのかも知れないけど…そうじゃなくて。

 カティアの魂を傷付けたのはやはり『異界の魂』であろう事が、小さいカティアの証言で明らかになった。

 今日はエメリール神殿に行って報告するつもりなので、その前に重要な情報が得られて良かった。

 

 今日は一日お休みにしたので、昨日よりは遅めに起床し、ゆっくりと支度をする。

 依頼も受ける予定がないので、普通の町娘風の格好に着替える。

 

 【私】はそれほど多くの服を持っているわけではないが、そこは年頃の娘らしくお洒落にはそこそこ拘っている。

 父さんにはお転婆娘だのと言われているが、十分に女の子らしいと思うぞ。

 

 今日のコーディネートは春らしくまとめてみた。

 若草色のワンピースにオフホワイトのカーディガンを羽織る。

 冒険者として活動するときは纏めていた髪は真っ直ぐに下ろし、頭には大きめの麦わら帽子。

 編み上げのロングブーツ、色は焦げ茶色。

 肩から斜め掛けに下げるポーチ。

 

 部屋に備え付けの姿見で、身だしなみをチェックする。

 うん、良く似合っている。

 などと、自画自賛な事を思いながら、最後に母の形見のペンダントを付ける。

 

 …そう言えば、母は王家の血筋と言われても不思議ではない感じだったって父さんは言っていたよね。

 このペンダントもそう言われて見てみると、由緒正しいものに見えてくる。

 実際、ペンダントトップは非常に精緻な細工が施された銀色に輝く台座に、美しい青い宝石がはめ込まれていて、とても高価そうな物だ。

 宝石の中には複雑な紋章のようなものが浮かび上がっている。

 

(…「王家の証」みたいなありがちなヤツだったり?実際、かつてのアルマ王国王家の血を引いてるのかも知れないわけだし…飛○石だったりして。そう言えば色も似てるな…)

 

「…バ○ス」

 

 …何も起きない。

 当たり前だ。

 って言うかその呪文は選択的にまずい。

 危うく何かが滅ぶとこだったわ。

 

「ま、考えたって分かるもんじゃないね。バカ言ってないでもう行こう」

 

 ああ、今日もいい天気だ。

 

 

 宿で少し遅めの朝食を取り外に出ると、大通りには既に多くの人が行き交っている。

 東門にほど近いこの辺りは商店が大きな割合を占めているので、買い物客などで賑わいを見せている。

 

 この街の中心である中央広場の周辺と東西南の門の辺りまでは主に商業地区、広場から北門までの間は領主邸を含む住宅地となっている。

 中央広場に面する地区には、ギルドや政庁舎などの公的機関、今回の目的である神殿などが集まっている。

 

 この大陸で信仰されている神々は数多いので、一つの街に全ての神の神殿を作る訳にもいかない。

 そのため、大抵の街には全ての神々を祀る統合神殿と呼ばれるものがある。

 それ以外には、その土地に特に縁のある神の神殿が建てられる事がある。

 この街は大規模な穀倉地帯を抱えているため、豊穣神として信仰されているエメリール様の神殿と、この国の王族にシギルを与えた、国の守護神ともいうべきディザール様の神殿が建てられており、ディザール神殿内の一画が統合神殿を兼ねている。

 今日はエメリール神殿のほかに、オキュパロス様にもお礼のお参りをしたいのでディザール神殿にも行こうと思う。

 

 

 という事でやってきましたエメリール神殿。

 

 石造りの建物で前世の教会などと比べると華美な装飾などはほとんど無く質素な感じだが、それがかえって神聖な雰囲気を醸し出している。

 入り口の大きな扉から真っ直ぐに行ったその先には、祭壇とエメリール様の神像があり、さすがにこれは建物の質素な雰囲気とは異って、なかなかに荘厳なものである。

 入り口の両側にはカーブを描く階段が設けられ、それを登ると壁に沿って一階を見下ろせるように回廊が巡らされている。

 壁にはいくつかの扉があり、時折神官らしき人たちが出入りしている。

 壁の上の方には明り取りの窓が並び、そこから斜めに光が差し込んで、より一層神秘的に見える。

 

(さて…エメリール様とお話するにはどうすればいいのかな…?まずは作法通りお参りしてみますか)

 

 神殿の中には他にも沢山の人がお参りに訪れており、神像の前に跪き両手を組んで祈りを捧げている。

 私もそれに倣うべく神像の前まで進み、神像を見上げてみる。

 

(ん~、凄く綺麗な造形で美術品としてはすごいんだろうけど…あまり本人には似てないかな。もう少し、こう、優しさとか温かみが欲しいところだね)

 

 などと、心の中で失礼な批評をしてから、他の人と同じように跪いて祈りを捧げる。

 

(エメリール様、ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。お陰様で無事に転生することができました。あれから色々な事が分かりましたので、ご報告してもよろしいでしょうか?)

 

 心の中で語りかけると、不意に意識が引っ張られるような感じがして…

 

(あ、これはオキュパロス様の時と同じような感覚だ…)

 

 視界が白く染まっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく来てくれました、カティア」

 

 気がつくと、森の中の広場のようなところに立っていた。

 色とりどりの花々が一面に咲き誇り、柔らかな陽射しが枝葉の間から優しく降り注いでいる。

 広場の一角には質素だが、どこか可愛らしい感じのする木造の一軒家が立っている。

 目の前にはテーブルセットの椅子に腰掛け、柔らかな笑みを浮かべるエメリール様が。

 まるで至高の画家が描いた一幅の絵画のように神秘的で美しい光景に、しばし呆けてしまう。

 

「…あ、エメリール様、こんにちは。ここは、神界…ですか?」

 

「ええ、オキュパロスがそのように名付けたらしいですね。さあ、そちらに座ってくださいな。ゆっくりお話しましょう」

 

「あ、はい、失礼します」

 

 促されてエメリールさまの向かいに着席する。

 

「さ、お茶をどうぞ。お口に合うと良いのだけど」

 

 そう言って、良い香りが立ち上る紅茶のようなものを勧めてくれる。

 ん?今の私は精神体なんだよね?

 

「あ、ありがとうございます。えっと、今の私って飲めるのですか?」

 

「ふふ、香りも感じられるでしょう?目で見ているのもそうです。ここでは擬似的な五感があると思って頂ければ」

 

「あ、そう言えば。…じゃあ、頂きますね。…ああ、美味しいです」

 

 これは紅茶だね。

 詳しくはないけど、良い香りと程よい苦味、甘みが口の中に広がって、とても美味しく感じる。

 

「ふふ、良かったわ。…あなたには謝らなくてはなりませんね」

 

 そう言って申し訳なさそうな顔をしてエメリール様は言った。

 

「?…何のことです?」

 

「もともと男性のあなたの転生先が女の子だと言うことを伝え忘れていたことです。ごめんなさいね…」

 

「あ~、その事ですか。いえ、確かに吃驚しましたが、記憶の共有もありましたし特に困ったことは…まぁないことも無いですけど…」

 

 もとのカティアの記憶や経験によって、普段の生活は全く問題ない。

 困ってるのは、自分の性的アイデンティティがどこにあるのかと言うか…ぶっちゃけ恋愛関連の事だ。

 相談はしたいが、それは報告の後だ。

 

「まあ、やっぱり何か困り事が?」

 

「あ~、困り事と言うか悩み事と言うか…えと、それはまた後ほど…まずは報告をさせてもらっても?あ、オキュパロス様にはお聞きしてるのですよね?」

 

「ええ、ごめんなさいね、オキュパロスからの着信に気が付かなくて…」

 

(着信って…)

 

「いえ、オキュパロス様に助けて頂きまして、こうして無事に帰ってこれましたし。それで、転生直後は私の身に何が起きたのかは覚えていなかったのですが、『異界の魂』を間近に見たことで記憶を思い出した、と言うか不思議な夢を見たのです」

 

 そうして私は転生してからのこと、不思議な夢を見たこと、自分の推測したことを報告するのだった。

 

 

 

 

「…なるほど、あなたの推測通り『異界の魂』が原因だった可能性は高そうですね」

 

「断定はできませんか?」

 

「…一つ気になる点がありまして。『異界の魂』がこの世界の生物の魂を取り込んだ場合、通常はそのまま魂を失ってしまった肉体に憑依して支配してしまうのです。あなたが対峙したオーガもそうだったでしょう?しかし、カティアはそうなっていない。そもそも魂を喰らい尽くさずに離れる理由が分からないのです…もしかしたら私の(シギル)を持っていたことが関係するのかもしれませんが…」

 

「そう言えば…エメリール様は他にどんな要因があると思うのですか?」

 

「異界の魂も可能性の一つとして考えていましたが、その他にも、高位アンデッド、特定の魔法、呪いの類…などいくつか想定しておりました」

 

「そんなに色んな可能性があるとは…」

 

「ですが、あなたの推測や夢の話を聞くに、やはり異界の魂が原因である可能性が最も大きいと思います。あなたが見た夢に出てきた子供のカティアは、僅かな意識の残滓が夢という形で語りかけてきたのではないでしょうか」

 

「やっぱりそうですよね…あの、エメリール様、異界の魂に取り込まれた魂はどうなるのでしょうか?異界の魂を滅すればカティアの失われた魂も元に戻ってくるのでしょうか?」

 

「…残念ながら、異界の魂に取り込まれてしまった魂はもはや戻ってくることはありません。少なくとも、私にも他の神々にも救う術は無いのです。ですから、せめてこれ以上犠牲者を出さないためにも、出来るだけ速やかに滅しなければなりません」

 

 そうか…残念だな。

 やはり、少しずつ魂が癒えるのを待つしかないのか。

 そして、エメリール様が言うように早く他の異界の魂も見つけて何とかしないと…

 

「今回の件で国とギルドには情報が共有されましたので、もし見つかれば退魔系魔法の使い手を中心とした討伐隊が組まれると思います。その時、私が近くにいれば参加することもできるでしょう」

 

「…出来れば、あなたには危険な事をして欲しくは無いのですが、致し方ありませんね。ですが、無茶はしないで下さいね」

 

「はい、私も転生したばかりですぐに死にたくはありませんし、無茶はしません。心配して下さってありがとうございます」

 

 自分を犠牲にしてまで、なんて殊勝な心掛けは無いけど、出来るだけの事はしようと思う。

 

 

「しかし、前回の魔王の時代より、もう三百年の時が流れたのですね…」

 

「その時のグラナ皇帝に異界の魂が取り憑いたのですよね?」

 

「ええ。彼はもともと支配欲が強く領土拡大の野心が強かったらしいのですが、異界の魂が肉体を支配するとその欲望は妄執と言うべきほどまでに増大され、同時に得た強大な力を以て大陸全土を巻き込む大戦を開始したのです。グラナ帝国のルーツである東の民族では異界の魂は『黒き神』として信仰されていて、黒き神を人の身に降ろす事で人智を超えた力が得られると信じられていました。そのため、彼は自らの意思で黒き神にその身を捧げたと言われています」

 

「…そんな信仰があるとは知りませんでした。しかし、それはただの迷信などではなく、実際に強大な力を得てしまった、て事ですね。そして、その力と言うのは伝説によれば…」

 

「ええ、魔物を支配する力ですね。そして彼はその力を用いて大陸全土で戦端を開けるほどの強大な魔物の軍勢を作り上げた。…異界の魂がこの世界の生物の魂を喰らい肉体を支配すると、異能の力を得るのです」

 

「…もしかして、あのオーガの結界も?」

 

「そうですね。あのオーガは異界の魂に支配されることで、その暴虐性が増大され、獲物を取り逃さないように、とあの様な異能を得たのではないでしょうか。異能の力は支配された個体がもともと持っている欲望や妄執に関係した能力を得るようです。そして、その欲望が大きければ大きいほど強力なものになる。特に、人間のように自我が強い生き物が支配されてしまうと、先の魔王の様に強大な力を持つものが生まれてしまうことがあるのです」

 

 はあ…結局、前世の世界もこの世界も人の欲望が戦争を引き起こすというのは変わらないんだよな…

 

 それにしても、グラナ帝国か…三百年前の大戦で魔王を倒したあとも、版図は縮小したものの帝国自体は今に至るまで存在し続けている。

 そして、ゲームのイベントにもあった十五年前の大戦もグラナ帝国の侵攻によって引き起こされたものだ。

 全く、迷惑な国だな…

 

 

「さて、報告いただく話はこれくらいでしょうか?」

 

「あ、そうですね。また何か分かったらお話させてもらいますね」

 

「はい、お願いします。では、カティアの悩み事というのを聞かせてもらいましょうか?」

 

 …そうだった。う~ん、改めてとなると気恥ずかしいな…

 

「え~と、なんと言うか。私って前世は男だったじゃないですか?でも、今の身体は女な訳で…性的アイデンティティと言うか、恋愛と言うか、よく分からなくなってしまって…」

 

 と、早くも転生二日目にして頭を悩ませていた事について相談するのだった。

 

 

「なるほど、そうですか…すみません、どうも私は男女の恋愛というか、機微には疎いので…転生前にも伝えました通り、私に言えるのはありのままの自分を自分自身が認めてあげてください、としか。でも、そうですね、せっかく相談してくれたのですから、私よりも適任者に聞いてもらいましょうか」

 

「適任者?」

 

「ええ、私の妹のエメリナの方が良いアドバイスをしてくれるかもしれません」

 

「エメリナ様と言うと、『生命の女神』と言われている…」

 

「ええ、あとは『恋愛の女神』とも。あの子ならあなたの悩みにも、答えてくれるのではないかと。ちょっと待ってくださいね」

 

 と言ってどこからともなく取り出したのは…スマホ?

 

「…あ、もしもし?リナ?いま大丈夫かしら?…いま私の大切なお客様が来ているのだけど…そうよ、私の(シギル)を受け継いでいる子…それで、その子の相談に乗っていたのだけど、私だとあまり良いアドバイスができなくて…え?ええ、そうよ恋愛関連の…え?すぐ行く?あなたも相変わらずそう言う話好きよね…じゃあよろしくね、待ってるわ」

 

 と言って通話を終えた。

 

「…あの、エメリール様、それは…?」

 

「あ、これですか?任意の相手と通話するための魔道具ですよ。神々の一柱、技巧神オーディマが趣味で作った『ゴッドフォン』と言います。あなたの前世の世界にも似た物があったでしょう?[念話]でも良いのですけど、相手の都合も関係なく声が届いてしまいますからね。重宝してるんです」

 

 ゴッドフォン…ですか。何だかイメージが崩れるなぁ…

 

 なお、[念話]は神代魔法だ。音の伝播を制御する[伝声]とか[拡声]などは普通に使われているが、思念を直接相手に伝える[念話]はその存在や効果が知られているのみで、詠唱などは失伝してしまっている。

 

 

「リルおね~ちゃ~ん!来~た~よ~!」

 

 女の子が突然、シュンッ!と現れて、元気な声をかけてきた。

 エメリール様や私と同じような、光の加減によって金にも銀にも見える不思議な色合いの髪をツインテールにした、年のころは私と同じくらいのとても可愛い女の子。

 顔立ちはエメリール様をもう少し子供っぽくした感じ…と言うか私に似ている気がする。

 瞳の色もエメリール様や私と同じ菫色。

 エメリール様とエメリナ様は姉妹なんだから似てるのは当然なのだが、私も含めて三姉妹に見える。

 

「リナ、早かったのね」

 

「そりゃあもう、面白そうな話だったからね!…あ!あなたがカティアね!私はエメリナ。エメリールお姉ちゃんの妹よ!」

 

「あ、初めまして、カティアです。よろしくお願いします、エメリナ様」

 

 エメリナ様の勢いにちょっと圧倒されながらも挨拶を返す。

 

「あら、エメリナ様だなんて何だか他人行儀だわ。お姉ちゃんの眷族なら私にとっても身内のようなものなんだから、リナって呼んでね!言葉遣いももっと砕けても良いと思うわ」

 

「ふふ、そうね。私も様付けじゃなくてリルとか、何でしたらお姉ちゃん、て呼んでくれたら嬉しいわ」

 

「あ、それいいね!じゃあ私はリナお姉ちゃん、で」

 

 むむ、神様に馴れ馴れしい口調で話すのはいささか抵抗があるのだけど…でも、身内って言ってくれるのだから…

 

「うん、わかったよ。でも、『お姉ちゃん』はちょっと恥ずかしいから…リル姉さん、リナ姉さん、これからもよろしくね」

 

「うんうん、よろしく~!」

 

「ええ、よろしくね」

 

 

 

「それで?恋愛の相談だって聞いたのだけど?」

 

「う、うん。実は…」

 

 先ほどリル姉さんに話したことをもう一度説明する。

 うう…二度も話すのは恥ずかしいなぁ…

 

 

「ふむふむ、なるほどなるほど。まあ、あなたの場合はなかなか複雑な事情だものねぇ…悩むのは仕方ないと思うわ」

 

 話を聞き終えたリナ姉さんはそう言ってくれる。

 事情を汲んで同意してくれるだけでも嬉しいと思う。

 

「そうね~、基本的にはお姉ちゃんと同じで、自分自身の思いを否定しない事が大事だと思うのだけど、そうは言っても急には無理よね。恋愛って結局のところ子孫を残すために必要な感情なのよ。もちろん、それだけじゃないけどね。だから、もとのカティアの体に感情が引っ張られるのは仕方がないの。でもあなたは前世の記憶もあるのだから、それに違和感を感じるのも当たり前なのよ」

 

 うん、それは自分で気持ちを整理してみて思ったことだ。

 でも、それを他人の言葉で肯定されると気持ちが楽になる。

 

「あとは、そうね。『恐れ』を抱いてるのかしらね」

 

「…恐れ?」

 

「そう。自分が変わることへの恐れ。自分の前世を否定されるような恐れ。あとは、その彼に前世が男であるという事を知られるのが怖い、とか」

 

 …どうなんだろう?

 自分が変わることに対する恐れと言うのは、転生するときにも言われたものだ。

 正直そこまで深く考えたことはないし、そんな恐れを抱いているとも思えない。

 どこまでいっても、あくまでも自分は自分であるという思いしかない。

 

 そうだよ、自分自身を肯定するなんてことはとっくにできている。

 じゃあ、もしカイトさんに自分の前世を知られたとしたら?

 もしかしたら、気持ち悪いと思われるかもしれない。

 嫌われてしまうかもしれない。

 それを想像するのはとても怖い…嫌だ、そんなのは。

 

 ああ、だから自分が傷つくのを恐れて、彼に惹かれていることを否定するのか。

 

「私は、前世のことを知られてあの人に嫌われるのが怖い…んだと思う」

 

「そう、整理がついたのね。ふふ、でもその心配は杞憂よ?あなたがそうだったなんて、知りようがないもの」

 

「でも、何か騙している気が…」

 

「何言ってるの。別に何もかもを明らかにする必要なんて無いのよ?人間、知られたくない秘密なんて誰にでもあるものでしょ」

 

「うん…そうだね、それも、あまり深く考えないことにするよ」

 

「まあ、いろいろ言ったけど、あせる必要は無いのよ?まずはお友達から始めましょ!でも良いのだし。相手のこともよく知っていかないとだしね?」

 

「…そうだね。自分らしく気楽に、自分のペースで行くよ。周りに盛り上げられてるだけで、これが恋愛感情なのかも良く分かって無いんだし。そもそも、昨日初めて出会ったばかりなのに…」

 

「あら?恋に落ちるのに時間なんて関係ないわ。あ~、それにしても初々しいわ!最近神殿に来る人の悩みってドロドロしたのが多くてねぇ…癒やされるわ~。ほんと、カティアちゃんてば可愛い!」

 

 と言ってリナ姉さんは突然抱きついてきた。

 

「わわっ!?ちょっ、急に抱きつかないで~」

 

「どお?こ~んな美少女に抱きつかれて、男としてドキドキしちゃう?」

 

「え?…う~ん、特に何も…」

 

「ほら、男の記憶があっても、あなたはもう女の子なのよ。何も心配することはないわ」

 

 そう言って微笑むリナ姉さんは見た目は私とおなじくらいだけど、本当の姉のように見えるのだった。

 

 

 その後も三人で他愛のない話をしたが、そろそろお別れの時間だ。

 

「リル姉さん、リナ姉さん、今日はありがとう」

 

「ふふ、私も楽しかったわ。報告とかじゃ無くても、また遊びに来てね」

 

「私も楽しかったよ!あ、そうだ。今度はリリア姉さんも呼ぼうよ」

 

「リリア姉さん…と言うと、もしかして…」

 

「ええ、私達の長姉のエメリリアよ。そうね、今度は姉さんも呼びましょうか。今日の話を知ったら拗ねてしまいそうね」

 

「あはは!あり得るわね!ちゃんと宥めないとダメね」

 

 この二人のお姉さんなら、きっと素敵な人に違いないだろう。

 会えるのが楽しみだな。

 

 

 

「では、またお会いしましょうね」

 

「またね~!」

 

「はい、また今度、さようなら!」

 

 こうして、私の意識は神界を離れて現実世界に戻るのだった。

 



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第一幕 15 『ブレゼンタムの休日 買い物』

 意識が現実世界に戻ってきた。

 

 神界に呼ばれる前と同じく祈りを捧げる姿勢のまま、ほんの一瞬も経っていないようだった。

 周りの人から見ると一瞬で祈りが終わるのも変だと思い、しばらくそのまま祈りを捧げてから、神殿を後にする。

 

 さて、次はオキュパロスさまへのお礼参りだね。

 …ヤンキーみたいな神様にお礼参りって別の意味に聞こえるな…

 

 この街にはオキュパロス様だけを祀る神殿はないので、ディザール神殿内の統合神殿を訪ねる。

 エメリール神殿と同じく中央広場に面している…と言うか隣なので直ぐに到着。

 造りや雰囲気はエメリール神殿とそれほど変わらない。

 まずはディザール様の祭壇にて祈りを捧げてから、統合神殿の方でオキュパロス様に祈りを捧げ、心の中でお礼を述べる。

 

(…オキュパロス様、その節はどうもありがとうございました。おかげで無事に帰ってくることができました。『異界の魂』は他にもまだ存在するみたいですが、(シギル)も覚醒できましたし、私のできる範囲で何とかしてみようと思います…)

 

 祈りを捧げ終わったが、今回はとくに神界に招かれることは無かった。

 少し残念に思いながら神殿を後にした。

 

 

 今日の目的はこれで終わった。

 リル姉さんへの報告が実質的に全く時間がかからなかったので、結構時間が余ったよ。

 せっかく今日一日お休みにしたんだから楽しまないと。

 

 そうだな…服でも見に行こうかな。

 服飾店は中央広場から南側に集まってたと思うのでそちらに向かって歩き出した。

 

 南地区の商店街をぶらぶら歩いて、ときおり立ち止まってショーウィンドウを眺める。

 この世界にもガラスは普通に存在していて、一般家庭にまで普及している。

 流石に前世のように巨大で均一な一枚板のものは見たことはないが、透明度も平滑性も前世のものと遜色ないように見える。

 きっと、これも魔法が活用されてるのだろう。

 

 

 しばらくそうしてウィンドウショッピングに興じていると、【私】のセンスに刺さった一軒の店に入る。

 

「いらっしゃいませ~」

 

 店に入ると店員のお姉さんの声が掛かる。

 

 店の中はゆったりしたスペースに様々な服がハンガーに掛けて吊るされていたり、マネキンに着せられていたりしていて、前世のアパレルショップの雰囲気に近い。

 

 カティアはおしゃれ好きだった。

 それは今の私にもしっかり受け継がれていて、可愛い服の数々を物色していると気分が上がってくる。

 すっかり女子の感覚に染まっているが気にしない事にする。

 

 店員のお姉さんはすぐに声を掛けることなく、ニコニコしながらこちらを伺っている。

 うん、すぐに声を掛けてこないのは私的には好感触だ。

 まだろくに見ていないのに、あれこれお節介されるのは苦手なので助かる。

 そうして、一通り店内を見て回ったちょうど良いタイミングでお姉さんが声を掛けてくる。

 

「何か気になるものはございましたか?」

 

「あ、はい。ショーウィンドウに飾ってあったベージュのケープが…」

 

 このお店に入ろうと思ったきっかけになったやつだ。やっぱりそれが一番気になった。

 

「ああ、あちらですね。いまお召しのワンピースにもよく合うと思いますよ。ご試着なさいます?」

 

「お願いします」

 

 そう、私も似合いそうと思ってたので、専門家にそう言ってもらえると嬉しいね。

 もちろん試着させてもらいます!

 

 そうして、持ってきてもらったものを羽織らせてもらう。

 フォーマルなケープコートではなく、丈の短いカジュアルなものだ。

 白の精緻なレースで縁取りされていて比較的シンプルでありながらも高級感がある。

 姿見で全身を確認、うん、イメージ通りよく似合ってる。

 

「まあ、本当によくお似合いですね!…少々よろしいでしょうか」

 

 そういってお姉さんは私の髪を髪留めで手早く後ろに纏める。

 

「いかがでしょうか?トップがやや重たい感じになるので髪は纏めた方がバランスが良くなると思うのですが」

 

「あ、本当ですね。こっちの方がいい感じ。う~ん、決めちゃおうかな~?あの、これっておいくらですか?」

 

 モノはとっても良いと思うので、あとはお値段次第かな。

 そう思って聞いたのだが、お姉さんから告げられたそのお値段は…

 

「はい、こちちらですが…金貨ニ枚となります」

 

 …ふぁっ!?

 えっ?ここってそんな高級店だっけ?

 前世の金額換算でおよそ二十万円。

 にじゅうまんえん。

 

 私が思わず絶句していると、お姉さんが高額である理由を教えてくれた。

 

「申し訳ありません、最初にお伝えすれば良かったですね。実は…こちら、魔道具になっていまして」

 

「え?魔道具?これが?付与ではなく?」

 

 魔道具というのは特定の魔法効果を発動する事ができる道具のことだ。

 魔道具自体が空気中の魔素を取り込んで魔力として蓄積しておき、発動するときは、使用者の魔力を僅かに流したり、特定のキーワードをトリガにしたりする。

 詠唱も必要ないので即時発動のメリットもある。

 あと、空間拡張の鞄みたいに常時魔法効果が常駐するタイプもある。

 

 付与というのは、それが施された対象の持つ特性を永続的に強化させる魔法による加工技術のこと。

 付与であれば、服飾品とかでもやや割高になるが割と一般的で、生地を丈夫にするとか、匂いが付きにくくなるとかの効果が付与されたりする。

 

 魔道具は使える魔法にもよるが…例えば照明の魔道具などは庶民にも普及してるくらいだが、大抵は高価なものとなる。

 

 …これが魔道具なら、値段にも納得なんだけど…

 

「どんな効果があるんです?」

 

「はい、[霞鏡]と同等の効果を発揮できますね。あと、付与もされていて、防刃防塵防臭完備です。ちなみにミラージュケープと言います」

 

「…あれ?ここってふつーの服飾店でしたよね?」

 

 思わず確認してしまう。

 どう考えても戦闘向きなのだが…

 [霞鏡]は周囲に霧…のようなものを発生させ、自分の姿と気配を投影して敵を幻惑する魔法だ。

 付与も防刃とか付いてるし…

 私の疑問にお姉さんは苦笑して答えてくれる。

 

「ええ、この店は基本的には普通の服を取り扱ってるのですが…身内に冒険者の方向けの魔道具を扱う店を営む者がおりまして。このような服飾品の魔道具の一部をこちらでも扱ってるのです」

 

「へえ~、そんなお店があったんですねぇ…あ、私も冒険者してるんですよ」

 

「あ、はい、存じ上げております。カティアさんですよね?」

 

「え?私のこと知ってるのですか?」

 

「ふふ、この街では有名ですから。美貌の歌姫としても、一流の冒険者としても。私もダードレイ一座の公演は観に行きました」

 

「あ、そうなんですね。観に来ていただきありがとうございます」

 

 この街ではもう数カ月ほど過ごしていて、公演も何度も行っている。

 自分が思ったより有名人になってるのを改めて実感した。

 そのうち変装とかしないと表を歩けなくなったりして…

 

 

 さて、このケープ、どうしよう?

 服としたら相当高額なんだけど、魔道具とすればむしろ…

 

「…あの。これって、お聞きした効果を考えると、逆にずいぶんお安い気がするんですけど?」

 

「そうですね、定価はもう少しします。ただ、せっかくですからお似合いの方にお使いいただきたいと思いまして、少しサービスさせていただこうかと。冒険者をされてるカティアさんなら有効にお使いいただけるでしょうし。それに、正直なところ、この店にいらっしゃるような方には需要がなくて…なかなか売れなかったのですよ。同じ魔道具の品でも、あちらに置いてあるブローチなどは、そこそこ売れていくんですけどね」

 

 なるほど、在庫処分セール品ってことね。

 う~ん、買っちゃおうかなぁ。

 ただの服だったら到底出せる価格じゃないけど、魔道具とすればかなりおトクだ。

 それに、私はこう見えても結構稼いでるのだ。

 昨日の依頼の収入もかなり期待できるし…

 

「うん、決めました。コレください!」

 

「ありがとうごさいます。では、念の為、問題なく効果が発動するか確認いたしましょう。こちらへどうぞ」

 

 と言われて案内されたのは、かなり広めのフィッティングルーム…なのだろうか?

 

「こちらは壁に防魔処理が施されてますので、魔法効果が外に広がらないようになっています。発動方法はキーワード型で、『霧に惑え』です。蓄積された魔力が無くなるか、『霧散せよ』のキーワードで効果が切れます」

 

 

 説明を受けてから部屋の中に入って扉を閉める。

 キーワード型ね。直接手に持つものじゃないから妥当だと思う。

 

「どれどれ?『霧に惑え』…おおっ!」

 

 ぶわっ、と急速に部屋の中が霧で満たされていく。

 そして部屋中のそこかしこに人影と気配が生まれる。

 この魔法って術者からは視界が損なわれない程度の霧にしか見えないけど、被術者にとってはもっと濃い霧に見えるんだよね。

 私は使ったことが無かったけど、中々に使い勝手が良さそうだ。

 

「え~と、終わらせるには…『霧散せよ』。よし、消えたね」

 

 終了のキーワードで、さぁっ、と霧が晴れる。

 効果は問題なさそうだ。

 確認が終ったので扉を開けて部屋の外に出る。

 

「ご確認ありがとうございます。問題無かったでしょうか?」

 

「はい、ちゃんと発動できました」

 

「問題なさそうですね。あと注意点なのですが、釦の一つ一つがそれぞれ魔力を蓄積するようになってます。またこちらのレースの部分には魔法陣が組み込まれています。ですので、多少の傷くらいは大丈夫ですが、これらの部分を損傷すると魔法効果を発揮できなくなるのでご注意くださいね」

 

「あ、はい、分かりました。それにしても、レースが魔法陣になってるだなんて…そんな方法があるんですねぇ」

 

「そうですね。ただ、違和感なくデザインに溶け込ませるのにかなり試行錯誤したとか」

 

 そうだろうなぁ…そういうところも値段が高くなる要因なんだろうね。

 

 

 その後、支払いを済ませ、最近の流行りの傾向を聞いたり、もう少しだけ店内を見回ってから店を出ることにする。

 お姉さんの身内がやってるという魔道具店の場所も聞いておいた。

 

「いろいろありがとうございました、さようなら~」

 

「ありがとうございました~、またお越しくださいね~」

 

 挨拶をしながら外に出る。

 ちなみにケープは試着のあとも着たままで、髪留めはサービスで頂いてしまった。

 

 お姉さんも話しやすかったし、品揃えも好みのものが多くてすごく気に入ったよこのお店。

 今度また来よっと。

 

 

 さて、思いがけず高価なものを衝動買いしてしまったが、次はどうしようかな。

 このケープって冒険者活動にも使えるとなると、今度はこれに似合うような防具とか欲しくなっちゃうなぁ…

 さっきのお店で聞いた魔道具店も気になるし…

 いや!我慢我慢。

 いくら稼いでるからって、これ以上の散財はやめておこう。

 

 そうするとお昼にはまだ早いし…などと、これからどうしようかを考えていると、街ゆく人の流れの中に見知った顔を見つけた。

 

「あ!カイトさ~ん!」

 

 私が声をかけると、一瞬訝しげな表情を見せたが、すぐに笑顔を見せて応えてくれる。

 

「ん?…ああ、カティアじゃないか。大分雰囲気が違うから一瞬分からなかったぞ」

 

 うんうん、そうでしょうとも。

 

「えへへ~、似合います?父さん達はお転婆だのじゃじゃ馬だの言ってくれますが、こう見えてオシャレには気を使ってるんですよ」

 

「ああ、よく似合ってるな。可愛いと思うぞ」

 

 ストレートに褒められた。

 …どうしよう、すごく嬉しい。

 そして急に気恥ずかしくなってきた。

 くぅ~、なんだかドキドキしてきた。

 

 ああ、やっぱり好きなのかな?でも、それでいいんだ。

 それが自然に湧き上がる気持ちなら。

 リナ姉さんも言っていたし、まずは、もっとこの人のことを知るところから始めなくちゃね?

 【俺】はまだ違和感も感じてしまうけど、いつかは…

 

 

「えと、カイトさんは何してるんです?私は今日はのんびりとお買い物でもしようかと街をぶらぶらしてました」

 

 彼は昨日と似たような冒険者の格好をしている。

 依頼を受けるにはずいぶん遅い時間だと思うのだが…

 

「俺はさっき武具店に行ってきてな。剣を研ぎに出してきたところだ」

 

「そうなんですね。パーティーの皆さんはまだ?」

 

「まだだな。多分向こうを早朝に出発しても、ここに着くのは昼過ぎにはなるだろう」

 

「あー、徒歩だとそれくらいかかりますかね。カイトさんはこれからどうするんです?」

 

「ああ、ギルドに行って訓練でもしようかと思ってな…そうだ、カティア、付き合ってくれないか?」

 

「へ?つ、つつつ付き合うっ!?」

 

「手合わせをしてくれる相手がいる方が訓練になるしな。…いや、その格好では無理か」

 

 …何だ、びっくりした。

 全く紛らわしい!

 …いや、会話の流れからすると勘違いする要素なんか無いのだけど。

 自分の乙女力が恐ろしい…

 

「いえ、大丈夫ですよ?ここに戦闘装備一式常備してます!」

 

 と、肩掛けポーチを叩いて言う。

 ええ、これも魔道具の鞄ですとも。

 いざというときに装備一式入ってますよ。

 

「…そうか」

 

 あれ!?

 何か呆れられてる!?

 いや、常在戦場の心構えですよ!

 ダメですか?

 そうですか…

 くっ、自分の乙女力の無さが恐ろしい…

 

 結局、カイトさんに付き合ってギルドに行く事にした。

 再び中央広場の方に向かいながら話をする。

 

「そういえば、カイトさんっておいくつなんですか?」

 

 ちょっと気になったので聞いてみる。

 見た目は二十歳前後に見えるんだけど、落ち着いてるし、ティダ兄の例もあるし、もっと歳上なのかもしれない。

 

「ん?俺か?十八だ」

 

「えっ!?私と三つしか違わないんですか!?」

 

 予想に反して意外と若くてビックリした。

 いや、その若さでその落ち着きようとは。

 

「ん?何だ?老けて見えるのか?」

 

「だって、すごく落ち着いてるし、有力パーティーのリーダーだし、冒険者の経験も豊富そうでしたし、頼りがいがあるし…」

 

 というか、前世の【俺】よりも相当年下なのに大人の男って感じがするよ?

 自分が凄く幼稚に感じてしまうよ…

 

「ふふ、褒め言葉と受け取っておくよ」

 

「もちろん、褒め言葉ですよ!あ、私は十五です!」

 

「ああ、カティアは年相応に見えるな」

 

 ちょっと【俺】にダメージ。

 まあ、いいです。

 肉体に精神が引っ張られてるんだから、しょうがないんだよ。

 

 そんな、取り留めのない話をしているうちにギルドに到着した。

 



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第一幕 16 『ブレゼンタムの休日 手合わせ』

 という事でやってきましたギルド。

 今の時間帯は比較的閑散としており、普段訪れるときとは違ってとても静かなものだ。

 ロビーも広々と感じる。

 カウンターの職員も暇そうにしている…という事も無く、書類仕事をこの隙にせっせと片付けているようだ。

 

 カイトさんが訓練場の利用申請のため、何人かいる職員のうちの一人のところに向かう。

 って、あれはスーリャさんだね。

 

「あ、カイトさんにカティアさん。昨日の報酬の件ですか?…申し訳ありません、まだ手続きが完了しておらず…かなり重要な案件になったので、本部の裁可が必要になってしまい時間がかかってるんです」

 

 そんな大事になってるんだ。

 まあ、それはそうか。

 三百年ぶりの強力な魔物の出現。

 それがまだ現れるかもしれないのだから。

 

「いえ、その件ではありません。時間がかかるのは承知してます。今日は訓練場を使わせてもらおうかと思いまして」

 

「あ、そうなんですね。今の時間なら使ってる人は少ないので大丈夫ですよ。こちらに記帳をお願いします。カティアさんもですか?」

 

「はい。あ、更衣室を使わせてもらいたいです」

 

「ええ、ご自由に使っていただいて大丈夫ですよ。貴重品の管理は各自にお願いしてますのでご了承ください」

 

「はい、分かりました」

 

 

 記帳を終えて地下の訓練場に向かう…前に私は着替えるために更衣室によっていく。

 ポーチから運動しやすい紺色の綿の上下ジャージ…のようなものを着て革鎧を身に着ける。

 

 …しまった。

 可愛くないなコレ。

 まあ、しょうがないか…

 

 ケープはどうしようかな?

 ちょっと不格好だけど…

 実戦で使うためにも訓練で試しておきたいし、これも装備しておくことにする。

 

 剣は訓練場の木剣を使用するので必要ない。

 

 

 着替え終わって訓練場に向かうと、先に来ていたカイトさんは準備運動をしていた。

 他にも数人が訓練している。

 

 訓練場は大体前世の小学校の体育館くらいの広さだろうか。

 天井もそこそこ高いので圧迫感も少なく、とても地下室とは思えない。

 

「すみませんカイトさん、お待たせしました!」

 

「いや、それほど待ってないさ。カティアも準備運動しておくんだぞ」

 

「は~い」

 

 軽く柔軟して訓練場の外周を一走りする。

 準備運動はこれくらいでいいだろう。

 準備運動の合間にカイトさんが木剣を素振りしているのを横目で盗み見たが…その型は洗練されていて、振りも鋭い。

 自己流じゃなくて何らかの流派の剣術をしっかり学んだような感じがする。

 でも、それだけじゃなくて、スオージの森での臨機応変な戦い方を見るに、相当な実戦経験も積んでいると思う。

 やっぱり前に感じた通り、相当な強者の様な気がする。

 少なくとも戦闘技量中級に留まるものではないだろう。

 

「よし、そろそろいいか?」

 

「はい、大丈夫ですよ。よろしくお願いしますね」

 

「ん?そういえばそのケープは着たままでいのか?」

 

「あ、これですか?ふふ、これは今日買ったばかりの秘密兵器なんですよ?」

 

「ほう…なるほど、実戦投入する前に試してみるということか」

 

「そうですね。だからカイトさんに声を掛けてもらったのはちょうど良かったんです。ふふ、実験に付き合ってもらいますよ?」

 

「ふ、何だか怖そうだな。お手柔らかに頼む」

 

 そんなやり取りをしながらも、カイトさんと私は少し距離を置いて対峙し、戦闘の準備を整える。

 

 彼の構えは、木剣を持った右手をだらんと下げ身体も余分な力を抜いて、一見してただ棒立ちしているだけの様に見える。

 

(あれって『無形の位』だよね…厄介そうだなぁ…まあ、訓練なんだし気負わずいこうか)

 

「じゃあ、行きますよ!」

 

「ああ、いつでもいいぞ」

 

 

 カイトさんの了承の声を聞くや否や、一気に距離を詰めるべく飛び出す。

 先手必勝っ!

 

 ドンっ!!

 

 「シッ!!」

 

 地面を蹴る音と裂帛の気合と共に突きを放つ!

 

 様子見とかそんなものは頭に無い。

 相手は自分と同等かそれ以上の実力を持っているはずだ。

 最初から全開で行かせてもらうよ!

 

「フッ!」

 

 カンッ!

 

 カイトさんは身体を僅かに捻りながら一瞬で到達した私の突きを横合いから叩いて弾く。

 

 躱されるのは織り込み済みだ!

 弾かれた剣は無理に引き留めず、それを追うようにしてサイドステップ、素早く体勢を整えると間髪入れず今度は首を狙って真一文字に斬撃を放つ!

 

「セイッ!」

 

「ハッ!」

 

 ガキィッ!

 

 剣を立てて防がれる。

 しかしそのまま交差する剣を支点にして、くるんと身体を反転させながら相手の背後に回りつつ剣を持っていない方の手で手刀を繰り出す!

 

 しかし、死角から襲ったはずのそれもあっさりと身体を沈ませることで躱されてしまう。

 

「うわっ!?っとぉ!」

 

 躱されただけでなく、身体の後ろに向かって剣を脇から通すように反撃してきた!

 予想外の攻撃に驚きながらもバク転して蹴りを放ちながら後ろに飛び退る。

 苦し紛れの蹴りはあっさり躱された。

 

 そこで一旦間合いを取り直した。

 

(想像以上だね…最後のは奥義の一つなんだけどな~)

 

 【俺】が祖父から伝授された古流剣術の技の一つで『舞睦』と言う。

 鍔迫り合いに意識を誘導してから、本来は手刀じゃなく小太刀の斬撃を死角から繰り出す二刀流の技だ。

 

 

「ふ、随分と殺意が高い攻撃だな」

 

「いや~、だってカイトさんにはこれくらいじゃ無いと訓練にならないでしょう?」

 

「買いかぶり過ぎだと思うがな」

 

「いやいや、そんな言葉には騙されませんよ?じゃあ、次は実験に付き合ってもらいますね。『霧に惑え』!」

 

 私が発動のキーワードを発すると、ケープの魔法効果がすぐさま発動し、ぶわっ、と一気に霧が広がって私の姿をあちこちに投影する。

 

「!?これは…[霞鏡]か!」

 

 正解。

 結構マイナーな魔法だと思うのだけど知ってるんだね。

 でも、効果を知っていても厄介なのは変わらないだろう。

 この魔法は幻影にも気配があるように感じられるので、鋭敏な感覚を持った相手ほど惑わすことが出来る。

 

 初手と同じように一気に間合いを詰めて地面からすくい上げる様な斬撃を放つ。

 私の動きに呼応して幻影たちも殺気すら伴いながら一斉にカイトさんに飛びかかる。

 

 カッ!

 

 しかし、彼は幻影の攻撃は意にも介さず、本命の私の一撃に対してのみ上段から振り下ろす様にして防いでしまう。

 

 一旦後ろに下がって幻影達と位置をシャッフルするように動いてから、再度幻影達と一緒にアタック!

 っとぉ!?

 

「うひゃあっ!?」

 

 こっそり背後から迫った私に向き直ったかと思うと、向こうから距離を詰めてきて袈裟に切りかかってきた!

 

 辛うじて身体を捻って斬撃をやり過ごすと、彼と身体を入れ替えるようにしてから間合いを引き離す。

 

 う~ん、ダメだ。

 全然通じないよ。

 なんで分かるんだろ?

 

 その後も何度か幻影と連携して攻撃するが、幻影は全く無視されて正確に私を迎撃してくる。

 やはり完璧に見切られているようだ。

 

「…『霧散せよ』」

 

 終わりのキーワードを告げると、さぁっ、と霧が晴れていく。

 

「何だ?もう終わりか?」

 

「だって、全然通用しないんだもの…何で分かるんです?」

 

「ああ、気配をも投影するとは言え、本体と全く同じと言うわけではなかったからな」

 

「…そんな微妙な差異は普通分からないと思いますけど…」

 

「そうだな。だからかなり有効な手だと思うぞ」

 

 いや、全く通用しなかった人に言われても説得力がないよ…

 

 そんなに気配に敏感なら、この人自身が斥候もやれそうだ。

 まあ、斥候って言うのはそれだけじゃないんだけども。

 

「ああ…あとは匂いは誤魔化せないみたいだな」

 

「ふぇっ!?に、匂い!?えっ?私匂います?」

 

 クンクンと自分の匂いを嗅いで見る。

 別に臭くないよなぁ…

 お前臭うぞなんて言われたら女子として立ち直れないぞ?

 

「いや、そうじゃなくて。何か香水みたいなものをつけてるだろう?」

 

「へっ?ああ、そうでした。てへへ」

 

 今日は依頼も受けるつもりもなかったから、微かに香る程度の香水をつけてたわ。

 

「まあ、依頼のときは香水なんてしませんから。でも、匂いか~。鼻の効く魔物相手には通用しないかもしれないという事ですね」

 

「そうだな、過信しないほうがいいだろう」

 

「はい!それが分かっただけでも収穫です、ありがとうございます!では、仕切り直しで…」

 

 そう言って再び構えを取る。

 

 

 さて、今までお互いに有効打は無し。

 いや、どちらかと言うと何度かヒヤリとさせられた私のほうが劣勢かな。

 

 カイトさんは逃げ足が取り柄だなんて言っていたが…

 もちろん私はそれを額面通りには受け取っていなかったのだけど、ただ謙遜してるだけじゃなくて、そう言う戦闘スタイルなんだって事が分かった。

 つまり、受けの剣。

 守りの剣。

 そしてそれは難攻不落の要塞の如し。

 

 あの守りを突破するには並大抵の攻撃では無理だ。

 魔法を絡めるという手もあるけど…

 せっかくだから剣だけで攻略したいなぁ…

 よし!

 

 私は右足を少しだけ前に出して半身になり剣は左の腰溜めに構える。

 呼吸を整え集中力を高める。

 頭の天辺からつま先まで感覚を研ぎ澄ましていく。

 

 そして、ひゅっ!と鋭い呼気と共に、上半身はほとんど動かさずに足の運びだけで瞬時に間合いを詰め、間合いに入った瞬間に剣を薙ぎ払う!

 

「!?くっ!!」

 

 バキィッ!!

 

 辛うじて防御に間に合ったと思われたカイトさんの剣は、音をたてて圧し折れた。

 ああ!?私の剣も折られてる!?

 

 く~、相打ちかぁ…

 

「何だ?今のは?スピード自体はこれまでと変わらないように見えたのに、突然目の前に現れた様な感じがしたぞ…」

 

 ふふふ、そうでしょうとも。

 これぞ、【俺】の最大の奥義、絶招歩法『閃疾歩』だ!

 

 要するに無拍子とか呼ばれる技術で、予備動作を極力廃することで相手の反応を遅らせて不意をつくことができる…

 はずなんだけど、防がれたねぇ…

 まあ、相打ちなので引き分けですかね。

 

 技の要点を説明すると、カイトさんはしきりに感心してくれた。

 

「なるほど…理にかなってるな。危うく一撃貰うところだったぞ」

 

「もう、どういう反射神経してるんですか。あれまで防がれたら打つ手無しですよ」

 

「いや、引き分けだろう?それに、カティアは魔法も攻撃に組み込めるだろうしな。それをされてたら、果たしてどうなってたものか」

 

「…魔法とのコンビネーションは一人だと連携が途絶えがちになりますし、カイトさんには剣一本でラッシュした方がまだ可能性がありそうですけど」

 

「そうか?…しかし、カティアは随分と変わった剣技を使うんだな。それもダードレイさんから教わったのか?」

 

「えっ?いや~、父さんじゃなくて、え~っと、自己流なんですよ!あははっ」

 

 いきなり聞かれて動揺してしまった。

 まあ、この世界の人間に教わったわけではないので自己流と言っておいても問題ないだろう。

 

 

 ふと気付いて周りを見ると、先に居た数人の冒険者たちは訓練の手を止めてすっかりギャラリーと化していた。

 

 そのうちの一人がこちらにやって来て声をかけてきた。

 何かチャラい感じだ。

 およそ真面目に訓練するような輩には見えないんだけど…

 

「よお、カイト。こんなガキ相手に引き分けたぁ、情けねぇなぁ?」

 

「…」

 

 カチン。

 何だコイツ?

 ボコるか?

 しかしカイトさんは無視している。

 一先ず我慢しておこう。

 

「けっ!無視かよ。…おお!よく見たらめちゃマブいじゃねーか!よぉ、ねーチャン。こんなやつほっといて、俺とイイことしねえか?」

 

 なんかナンパしてきた。

 ぞぞぞっ、と背中に怖気が走る。

 ってか『マブい』って…いつの時代だよ!?

 ふざけんな一昨日来やがれ、と言いたいが、まだ我慢。

 と、思ったらカイトさんが割り込んできた。

 

「やめろ。馬鹿が伝染る」

 

「ア\"ァッ!?テメェ、今なんつった?…何だァ?もしかして、この嬢ちゃんはテメェのスケだってぇのか?」

 

「…そうだ」

 

 うにゃっ!?

 にゃにゃにゃんですと!?

 

 あ、いや、なんか目配せして来てる。

 話を合わせとけと、そういう事ですね!

 分かりますとも!

 デキる女ですから!

 

「けっ!こんな男のどこがいいんだか。調査しか出来ねぇ腰抜けなのによぉ?」

 

 …ぶちっ。

 

「…おいお前、今なんて言った?」

 

「お?なんだねーチャン、カレシをバカにされて怒ってんのか?」

 

「黙れ、このゴミムシが。息が臭いんだよ、口を閉じろ」

 

「あ?」

 

「お、おい、カティア。何かキャラが変わってるぞ」

 

「カイトさんは黙ってて下さい。ちょっと身の程知らずのゴキブリをプチッと潰してやるだけですから」

 

「おお?やろうってのか?俺はこう見えても戦闘技量中級持ちなんだぜ?」

 

 売り言葉に買い言葉の一触即発の状況にギャラリーがざわついているが、ブチ切れ中の私には届かない。

 

 

(おい、アイツ馬鹿じゃねーか?あの手合わせ見てなかったのか?)

 

(馬鹿だから見てても実力の違いが分からないんだろ?)

 

(もしかしてアイツ強えーのか?)

 

(いや、いつも誰彼構わず喧嘩ふっかけてボコられてるぞ)

 

(何それ、馬鹿なのか?)

 

(だから馬鹿だって言ってんだろ)

 

(おい、どっちが勝つか賭けるか?)

 

(そんなの成立しねーだろ)

 

(あれカティアちゃんだよな?…怒ったところもイイな…)

 

(大見得切って中級とか(笑)相手は上級だぞ)

 

 

「ゴチャゴチャ御託を並べてないでさっさとかかってきなさいよ。ボコボコにしてあげるわ」

 

「ああ!?いい度胸だ!あとで泣きべそかくんじゃねぇぞ!」

 

 頭にすっかり血が昇った私は、カイトさんが額に手を当てて天を仰ぎため息を付いているのには気付かないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

ーー只今ボコってますので少々お待ちくださいーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、スッキリした」

 

「…見事な飽和攻撃だったな…相当頭に血が昇ってるみたいだったから大怪我させないかと心配したんだが」

 

 視線の先には所々焦げたり凍りついたりしてるゴミが。

 大きな怪我は負ってないはずだ。

 大怪我させたら流石に問題になるが、この程度なら訓練に付き物の怪我の範疇だろう。

 

 近づくのも面倒だったので[氷弾]とか[炎弾]とかを散弾みたいにアレンジして、シューティングゲームよろしく適当にばら撒いただけだ。

 威力も相当抑えたし。

 

「で、何だったんですか?アレ?」

 

ときどきピクピクしているぼろ雑巾を指差して聞く。

 

「ああ、何かと絡んでくる奴なんだがな…うるさいだけで無視しておけば実害は無い」

 

「でも!あんな事言うなんて!カイトさんはすごい人なのに…許せません!…あ、何だかまたムカムカしてきた。ちょっとトドメを指してきても良いですか?」

 

「やめとけって」

 

 そう言って私の頭をポンポンする。

 むっ、子供扱い。

 でも何だか嬉しくなってふにゃあ~と力が抜ける。

 

「ふふ、俺のために怒ってくれてありがとうな。だが…アレはまあ、ただの馬鹿なので問題ないが、あまり迂闊に手を出さないようにな。相手によっては後々面倒なことになるかもしれんしな」

 

「う…は、はい。すみませんでした…」

 

 シュン、となって項垂れる。

 ああ、本当に感情に引っ張られるな…

 【俺】はもう少し分別がある大人だったはずなのに…

 沸点低すぎだろ、カティア。

 まあ、アレをボコったこと自体は気にしてないが。

 

「あと、すまなかったな」

 

「へ?何がです?」

 

「いや…アレに『お前の女なのか』と聞かれただろ?ああいう手合はしつこいからな。少しでも虫除けになればと思って、ついな…」

 

「いえいえいえ!すぐに意図が分かりましたし!むしろ…」

 

「むしろ?」

 

「っ!?いえっ、何でもないです!!」

 

 危ない。

 思わず口が滑りそうになった。

 

 

 その後、折れた木剣を交換してもう少し手合わせをしてから訓練は終了となった。

 

 

 

 

ーー その後のギャラリーの会話 ーー

 

 

「しかし、カイトのやつあんなに強えだなんて知らなかったぜ」

 

「ああ、ヤツのパーティーは調査専門ってぇから、剣の腕は大したことないと思ってたんだがなあ…」

 

「あいつ、戦闘技量中級らしいが、全然上級行けるだろ?」

 

「そらそうだろうよ。上級のカティアちゃんと引き分けるんだからな」

 

「…まあ、速すぎて何がなんだかサッパリだったんだが」

 

「ああ、俺なんか最初の胴薙ぎでやられてたわ」

 

「え?面じゃなかったか?」

 

「ばか、突きだっただろーが」

 

 

「なあ、そこの馬鹿どうすんだ?」

 

「ほっとけよ。大した怪我もしてねーし、そのうち目ぇ覚めんだろ」

 

「ちっとは大人しくなればいいけどな」

 

「無理だろ、馬鹿だし。飯食って寝たら忘れんだろ」

 

「まあ、ある意味ではここの名物だよな…」

 

「…嫌な名物だな…」

 

「まあ、傍から見てる分には笑えるしな」

 

 

「ところでよ、あいつ等デキてんのか?」

 

「う~ん?違うみたいな話をしてたけど…」

 

「いや、どう見てもデキてんだろ」

 

「「だよな~」」

 

「少なくともカティアちゃんはホの字でしょ。見ただけで分かるわ」

 

「いや、カイトもだろ。あの朴念仁が随分と楽しそうな顔しやがって」

 

「相思相愛ってことか」

 

「「だよな~」」

 

「ぐあ~、あんな美少女に惚れられるたぁ、羨ましいこった!」

 

「こちとら真面目に訓練してんのにイチャつくんじゃねーよっ、爆発しろっ!」

 

「「だよな~」」

 

 

 カティアは自分が「リア充爆発しろっ」などと言われてるとは夢にも思わず…

 そうして、二人の噂話は急速に広がって行くのだった。

 



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第一幕 17 『ブレゼンタムの休日 デート?』

 訓練を終えてギルドを出た私とカイトさんは一緒に昼食を取ることにした。

 ギルド併設の食堂でも良かったのだが、カイトさんが気を利かせて外で食べようと誘ってくれた。

 

 訓練で少し汗をかいたが、更衣室にシャワールームもあったので軽く汗を流してから着替えたので問題ない。

 …訓練中に匂いが、とか言い出すから気になっちゃったんだよ。

 

 やってきたのは東の大通り沿いにあるオープンカフェのようなお店。

 通りに面したところがテラスになっていて、なかなかオシャレな雰囲気だ。

 

 昼時と言うこともあって混雑していたが、タイミング良く席が空いたのですぐに入店できた。

 

「カイトさんはこのお店に良く来るんですか?私は初めて入りました。前から気にはなってたんですが…ちょっと一人では入りづらかったんで楽しみです」

 

「俺も初めてだな。レイラとリーゼがよく来ているらしいんだが、なかなか美味しいと聞いてたし、あいつら好みならカティアにも合うかと思ってな」

 

 うんうん、気遣いのできる男って感じですな。

 うちの一座の男連中は見習ったほうが良いと思う。

 とにかく肉肉肉で味よりもボリューム優先の連中にこんなオシャレなお店に誘うなんて芸当は出来まい。

 

 席につくとすぐにやってきた給仕のお姉さんに、それぞれ注文してしばらくお喋りしながら料理を待つ。

 それほど待たずに料理がやってきた。

 湯気とともに美味しそうな匂いが立ち昇る。

 

「うわ~、美味しそう~!」

 

 私が頼んだのは野菜と魚介をふんだんに使った米料理で、前世で言うパエリアのような料理だ。

 お米はこの世界にも普通に存在する。

 和食っぽい料理もあるみたいなので【俺】としては嬉しい限りだ。

 

「ああ、こちらもなかなか美味そうだ」

 

 カイトさんが頼んだのは厚みのある塊肉をじっくり煮込んでたっぷりとソースがかかった肉料理をメインに、いくつかの小皿料理とパンがセットになったものだ。

 中々ボリュームがあって男性のニーズにもしっかり答えているようだ。

 

「いただきま~す!」

 

「ん?何だそれは?」

 

 おっと、思わず前世の習慣が。

 不思議そうにしてるカイトさんに説明する。

 

「えっと、食べ物って命を頂くって事でしょう?だから、有り難く感謝して食べます、て言う挨拶です。え~と、どこかの地域の風習だったと思います」

 

「ああ、流石に旅芸人だな。色々な地域のことを知ってそうだ。しかし、その挨拶の心掛けには感心するな。では俺も…『頂きます』」

 

 カイトさんも私の真似をして、食前の挨拶をしてから食べ始めた。私も一緒に食べ始める。

 

「ん~!おいし~!」

 

「ああ、こっちも美味いな」

 

 野菜と魚介の旨味がたっぷり染み込んだトマトベースの味が、良い香りとともに口いっぱいに広がる。

 お米も硬すぎず柔らかすぎず絶妙な炊き加減で食感も素晴らしい。

 味付けも濃すぎず、それぞれの素材の味が活きていて、それらが複雑に絡み合って調和している。

 …などと食レポしてしまうくらいに美味しい。

 

 その後は会話もそこそこにどんどん食べ進めていって、二人ともあっという間に食べ終わってしまった。

 

「あ~、美味しかった~!お腹もいっぱい!ご馳走様でした!」

 

「ああ、それは食後の挨拶か?『ご馳走様でした』」

 

 カイトさんは最後も私の真似をして食後の挨拶をしてくれた。

 

「ほんと、凄く美味しかったです。もっと早く来ればよかったな~」

 

「ふふ、誘ったかいがあったな。いい食べっぷりだったぞ」

 

「…それはあまり女の子に言う言葉じゃないですよ?」

 

 ジト目で睨んで突っ込む。

 全く、そんなにガツガツ食べてないよ。

 

「はは、すまんすまん。だがいいじゃないか、目の前で美味しそうに食べてるのを見たら、こっちも楽しくなるからな」

 

「ふふ、楽しんでもらえて何よりです」

 

 そんなふうに食後の会話を楽しんでいると…

 

「あ~!カイト!カティアちゃんとデートしてる~!」

 

 聞いたことのある声がして振り返ると、大通りを歩いてくるレイラさんを見つけた。

 他の『鳶』のメンバーも一緒だ。

 

 それにしても、デートだなんて…ただ一緒に食事をしてるだけじゃないか。

 大袈裟な…

 

「ああ、戻ってきたか」

 

「あ、皆さん!おかえりなさい!道中問題ありませんでしたか?」

 

「ただいま、カティアちゃん。ついでにカイトも。問題は無かったわよ。一度魔物に襲われたけど、アタシらだけで何とかなる相手だったし」

 

「魔物が出たのか。相手は?」

 

「ブラッドウルフだ。数匹程度だったから特に問題なかったな」

 

レダさんがそう答えたが…それはもしかして。

 

「それって、軍の野営地に向かう途中の、道に沿って森が続くところですか?」

 

「ええ、そうよ。良くわかったわね?」

 

「あ~、やっぱり。昨日私達が通った時も襲われたんです。三十匹くらいの群れだったかな?大体は倒したんですけど、数匹逃げられてしまいまして。多分その残党だったのではないかと」

 

「うわっ…カイト抜きで三十はキツいわ…またカティアちゃん達に助けられたみたいね」

 

「本当だな。助かったぞ、ありがとうな」

 

「いえいえ、たまたまですよ。でもタイミングがよくて良かったです」

 

「ところで、リーゼは随分大人しいがどうしたんだ?」

 

「…ブツブツ」

 

「お、おい?」

 

「あ~、いま頭の中で論文考えてるみたいで、ずっとこんな調子ですよ」

 

「…昨日の神代魔法か?まだやってるのか…」

 

 ほんと、凄い集中力だね…

 熱中出来る事があるのは良い事だと思うんだけど、私は何でも程々が良いかな…

 

「ま、リーゼは放っておくとして…あんたたちは何してたの?デート?カティアちゃん随分オシャレしてるし。カイトはもうちょっと格好に気を遣いなさいよ」

 

「たまたま街中でばったり会っただけだ。折角だから、と、さっきまで訓練に付き合ってもらってたがな」

 

「…全く、色気のない話ねぇ…そうだ、カティアちゃん、コイツ凄かったでしょう?」

 

「はい!凄かったです!私の攻撃が全く通用しなくて、驚きました!」

 

 正直、私の攻撃力は冒険者の中でもトップクラスであるという自負がある。

 その攻撃を全部捌ききるのだから、やはりカイトさんは只者じゃなかった。

 

「いや、正直ギリギリだったぞ。剣も折られたしな」

 

「へえ、カイトの剣を折るとは…そんなヤツ見たことないな。凄いじゃないか」

 

「あ、いえ。私の剣も折られたので相打ちでしたよ。木剣じゃなかったら私の方が負けてたかも」

 

 ザイルさんが感心して褒めてくれたが、あれは引き分けだったので訂正しておく。

 

「相打ちでも大したものよ。コイツ、自分の剣は守りの剣だから、とか言いながら上級受けてないけど、それくらいの腕は普通にあるのよねぇ」

 

「あ、それは初めて会った時から何となく察してました。父さん達と同じような、なんていうか強者の雰囲気みたいなものを感じましたし」

 

「へえ~、アタシらは職業柄、気配には敏感な方だけど、そう言うのは分からないわねぇ…」

 

 私も何となくなので説明は難しいのだけどね。

 

「ああ、そうだ。今日の夕方な、『エーデルワイス』の皆と今回の打ち上げをする約束をしたんだが、大丈夫だよな?」

 

「あ、そうなの?アタシは大丈夫よ。それまで宿でお風呂入ってゆっくり休むことにするわ」

 

「俺も問題ない」

 

「僕もです」

 

「…ブツブツ」

 

「…ま、まあ、リーゼも連れて行くわよ」

 

 …苦労しますね、レイラさん…

 

「じゃあ、ちょっと早いが俺も宿に戻るか…」

 

 じゃあカイトさんとはここで一旦お別れか…

 

「何言ってるのよ、暇なら最後までカティアちゃんのエスコートしなさいよ。ほら、カティアちゃん寂しそうな顔してるじゃない」

 

 えっ!?

 いや、確かに少し寂しいと思ったけど、そんな顔に出るほどでは…

 でも、折角だからこの後も買い物に付き合ってもらおうかな。

 

「カイトさん、私このあと冒険者向けの魔法具店とか武器防具店を見てみようと思ってたんですが一緒にどうです?」

 

(あら、ワタワタしないのね?何か吹っ切れた感じ…でも、そのチョイスはどうなのよ…デートって感じじゃ無いわよねぇ…まあ、この朴念仁にはお似合いといえばそうなのかしら?)

 

 あれ?

 何だかレイラさんが残念なものを見るような目をしている気が…

 と思ったら妙に納得したように頷いてる?

 ま、まあ良いか、気にしないでおこう。

 

「冒険者向けの魔道具店?そんなものがあったのか?」

 

「あ、はい、このケープを買ったお店で聞いたんです。もともとこのケープもそのお店の人が作ったらしいですよ」

 

「ほう…そのケープのか。面白そうだな」

 

「でしょう?」

 

 カイトさんも興味を示してきた。そうでしょう、気になるよね。

 

「はいはい、ごゆっくりー。じゃあ私達は一旦帰るからね」

 

「ああ、じゃあまた後で、いつもの『金の麦穂亭』な」

 

「「「了解」」」

 

「…ブツブツ」

 

 …リーゼさんはいつまでその状態なんだろう…

 

 

 『鳶』の面々と別れ、私達もお店を出た。

 

 さて、服飾店のお姉さんに聞いた魔道具店の場所だが…

 以外にも商店が立ち並ぶ東西南地区ではなく、北地区にあるらしい。

 北地区にも商店が無い訳じゃないが、ほとんどは住宅地のはずだ。

 

「あ、侯爵邸だ。…あの閣下の邸宅とは思えない程立派ですよねぇ…」

 

「ふふ、閣下は貴族らしくない気さくな方だからな。だが、これでも最低限の貴族としての体面を保ってるだけで、普通は侯爵邸ともなればこれの倍は広かったりするぞ」

 

「へえ~、じゃあやっぱり閣下らしいってことですね」

 

「ああ、『広すぎて管理が面倒だ』とか『そんなに部屋数増やして何に使うんだ?』とか言っていたしな」

 

 う~ん、やっぱりカイトさんて、昔からの閣下の知り合いっぽいよね。

 それも、ただの冒険者と依頼人て関係じゃないと思う。

 でも、報告の時の会話から察するに余り詮索はして欲しくなさそうだったよね。

 まあ、親しくなれば教えてくれるかも知れないし、今はあまり触れないでおこう。

 

 侯爵邸も通り過ぎて北門の近くまで来た。

 お姉さんに教えてもらった場所は、たしかこの辺りのはずだ。

 

「あ、あそこかな?看板が出てる。え~と、『プルシア魔道具店』。間違いないですね」

 

「だいぶ外れにあるんだな。あまり商売っ気を感じない」

 

 そうだね…あのお姉さんの身内ならヘンな店じゃ無いと思うけど。

 とにかく中に入ってみよう。

 

 カランカラン~、とドアベルを鳴らしながらお店の中に入ると、大小様々な品物が所狭しと陳列された棚がずらりと並んでいた。

 店内はそれほど広くないが、きちんと整理されているので、取り扱う品物から受ける雑多な印象よりはすっきりしている。

 

「は~い、いらっしゃ~い!」

 

 ベルの音を聞きつけた店員らしきお姉さんが店の奥から現れた。

 服飾店のお姉さんの身内と言っていたが、確かに雰囲気は似ている。

 挨拶はこっちのお姉さんの方がより砕けた感じだ。

 

「あ!?そのケープ!そっか~、姉さんからうちの事を聞いたんだね?」

 

 お姉さんは私の方を見るなりそう言った。

 そうだよね、このお店で作った物ってことなんだから分かるよね。

 

「え?あ、はい。身内に魔道具店をされている方がいると聞いて…妹さんだったんですね」

 

「ええ、そうよ。わたしはプルシア。姉はユリシアっていうの。よろしくね」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。あ、私はカティアって言います」

 

「カティアちゃんね。あれ?カティア?どこかで…」

 

 ああ、お姉さんも公演見に来てくれたって言ってたし、多分プルシアさんも一緒だったんだろう。

 

「…もしかして、お姉さんと一緒に公演を見に来てくださいました?」

 

「公演?…ああ!ダードレイ一座の!そっか~、あの可愛い歌姫さん!…間近で見ると、ホント凄い美人さんねぇ~…」

 

「あ、いえ、そんな…あ、ありがとうございます…」

 

 正面からストレートに褒められると凄く照れる…顔が赤くなってそうだ。

 

「あら、照れちゃって、ホント可愛らしいわ~。で、そちらはカレシさん?」

 

「あ、いや、俺は…」

 

 ふふ、なんかプルシアさんのペースに巻き込まれてタジタジになってる。

 ちょっと珍しいかも。

 

「あ、この人は冒険者仲間で…カイトさんって言います。冒険者向けの魔道具店があるっていったら興味を持ってくれたみたいで」

 

「あら、そうなの?凄くお似合いのカップルと思ったんだけど。あ、ごめんなさいね、一人でベラベラ喋っっちゃって。私は奥のカウンターにいるから、ゆっくり見ていってね。魔道具の用途とかは棚に説明書きが貼ってあるからそれを見てちょうだい。分かりにくいやつとかあったら聞いてね」

 

 といって、プルシアさんは奥のカウンターに引っ込んで言った。

 …お似合いって言われちゃった。

 

「…なんか押しが強そうな人だな。じゃあ、店内見てみるか。何か面白そうなものはあるかな…」

 

 そう言ってカイトさんは品物を見始めた。

 私も見て回ろうっと。

 

 う~ん、これは何だろ?

 見た目は魔核のような丸い石だが。

 なになに、『閃光石』?

 へえ、[閃光]の魔法が発動するのか。

 地面に叩きつけると発動…使い捨てなんだね。

 銀貨二枚。

 魔道具としてはお手頃価格だが、使い捨てとしたらそこそこ良いお値段かな。

 こういった使い捨てのものは他にもたくさん種類があるみたい。

 値段もだいたい同じだ。

 

 こっちは…『火炎筒』。

 [炎弾]の魔法が打ち出せるんだね。

 魔力フル充填で十発撃てて、連射もできる、と。

 銃みたいな感じだね。

 半金貨一枚。

 使い勝手の割に良心的な価格だと思う。

 

 ん~、ただこの辺は無詠唱で使えるからなぁ…

 私にはいらないかな。

 他には…

 

 お、これは…

 『結界の指輪』…[障壁]と[魔壁]を選択起動可能か。

 同時起動させるのは難しいのかな?

 結界系統って私は無詠唱で使えるものは少ないから、これはこれで便利そうだ。

 金貨一枚。

 

 『隠者のローブ』は私のケープと同じ服飾系の魔道具だね。

 [隠遁]が発動する、と、斥候向きだ。

 『鳶』パーティーには有用じゃないかな?

 これは金貨二枚。

 

 あ!これいいかも!

 なかなか凝ったデザインの髪留め。

 常時発動で、微弱な回復魔法と[清浄]の効果で髪や肌を綺麗に保つですって。

 『美容の髪留め』…そのまんまだな。

 女性冒険者にオススメかぁ…

 お値段は…金貨一枚。

 普通にアクセサリーとしてもオシャレだし、とりあえずキープかな。

 いろいろなデザインがあるうちの一つを手に取った。

 

 その後も一通り見て回る。

 もっと高額で効果もすごそうななものもあるが、今回はパス。折を見てカイトさんに声をかけた。

 

「カイトさんは何か良いものありました?」

 

「そうだな…いろいろ面白いものがあったが、俺としてはこれが気になるな」

 

 と手に持ってるものを見せてくれた。

 シンプルな銀の腕輪に見える。

 無骨なデザインなので男性向けっぽい。

 

「それはどういうものなんです?」

 

「『結界の腕輪』というらしい。[障壁]と[魔壁]を選択起動可能とのことだ」

 

 さっき私が見てたやつの腕輪版だね。

 それにしても…

 

「カイトさん、唯でさえ鉄壁なのに、これ以上防御力上げるつもりなんですか…」

 

「冒険者は命有っての物種だからな。備え過ぎということもないだろ」

 

「まあ、それもそうですけど。それ買うんですか?」

 

「ああ、そうしようと思う。カティアは?」

 

「私はこれです」

 

「髪留めか?どういう効果があるんだ」

 

「へへ~、髪とお肌を綺麗に保つんですって」

 

「…それこそお前には必要なさそうに見えるが…髪も肌も十分すぎるほど綺麗だと思うぞ」

 

 くっ、サラッと褒めて来るとは…

 前世の【俺】には到底出来ない芸当だよ…

 嬉しいけど。

 

「で、でもほら、何日もかかるような依頼だとやっぱり痛みますし、睡眠が不規則になったりしてお肌も荒れたりしますし。女子には必携の品ですよ!デザインも素敵だし」

 

「そうか。効果はともかく、お前の髪によく似合いそうではあるな」

 

「へへ~、そうでしょう?」

 

 カイトさんにも似合うって言われたし、コレ買っちゃおうか。

 …今日だけで金貨三枚の出費になるのには目を瞑る事にする。

 

 

「あら、決まったのかしら?」

 

 こちらの雰囲気を察したプルシアさんが声をかけてくる。

 

「はい!私はこれを…」

 

「ああ、それね。女性冒険者には結構人気で売れ筋なのよね~。デザインもいろいろあるけど…うん、あなたにはそれがよく似合いそうね。で、カレシさんは?」

 

 …カレシでは無いってば。

 でもカイトさんは特に気にした風でもなく、手にした腕輪を見せる。

 …そんなふうに思われたら迷惑じゃないのかな…?

 

「俺はこれを」

 

「うんうん、それもなかなかの売れ筋商品よ。前衛職にはもってこいよね」

 

「ああ。支援魔法をかけてもらう手間が省けるからな。その分攻撃に回ってもらったり、パーティーの戦力アップにも繋がる」

 

 ああ、なるほど。流石はリーダーだね。

 個人の装備もパーティーの事をちゃんと考えてチョイスするんだ。

 …何だか自分が小さな人間に思えるよ…

 わ、私はソロ活動が中心だから、と心の中で言い訳をしておく。

 

「どっちも金貨一枚ね。あ、そうだわ。お値段同じだし、折角だからお互いにプレゼントしたらど~お?」

 

「え?プレゼント?」

 

「そう。誰かに贈って貰ったもののほうが愛着が湧いて大事にしようって思うでしょ?」

 

「え、えっと、確かにそうですけど…」

 

 私が少し困ってチラッとカイトさんを見ると…

 

「ふふ、じゃあ、この髪留めは俺がプレゼントしよう。カティアはこの腕輪を俺に」

 

 そういって私の手から髪留めをひょい、と取り上げて自分が持っていた腕輪を渡してくる。

 

 …こういう事をサラッとやっちゃうんだよね。

 やっぱりタラシなんじゃないだろーか?

 まあ、嬉しいけど…

 

「はい、決まりね。ありがとうございま~す」

 

 と言うことで、お互いにプレゼントするために購入。

 別に自分で買うのと変わらないんだけど、まあ、気分は大事だよね。

 

 で、お互いに買ったものを渡すのだけど…

 プルシアさんがただ渡すんじゃなくて身に着けてあげなさい、なんて言うもんだから…

 

「えと、お願いします…」

 

 今まで身につけていた髪留めを外して、後ろを向く。

 カイトさんの手が私の髪を束ねて髪留めを着けてくれるんだけど…

 うう…何だか恥ずかしいなぁ…

 

「ああ…よし、これでいいか?」

 

「あ、ありがとうございます、大丈夫です」

 

 で、今度は私がカイトさんに…

 差し出された腕を取って腕輪を着けてあげる。

 

(逞しくて大きな手…私とこんなに大きさが違うんだ)

 

 自分との大きな違いに、また一つ自分が女であること自覚する。

 はたして、かつての【俺】の手はどんなだったのか。

 まだ数日しか経っていないというのに、はっきりと思い出せない事に少し戸惑う。

 でも、嫌な気分ではない。

 

 …と言うか、意識し始めると何だかドキドキしてきた。

 

「え、えと。これでいいかな…」

 

「ああ、ありがとう。大事に使おう」

 

「はい…私も…」

 

 うう、恥ずかしくて顔が見れない…

 

 

「また来てね~」

 

 プルシアさんの挨拶を背に私達は店を後にした。

 

 

 その後も街を巡り、いくつかのお店を一緒に見て回って日が暮れる前にカイトさんとは一旦別れた。

 

 

ーー 魔道具店店主プルシアの回想 ーー

 

 

 いや、あなたたち絶対デキてるでしょ?

 

 あの娘は冒険者仲間とか言っていたが、お互い惹かれ合っているのは初対面の私でも丸分かりだった。

 自分で煽っておいて何だが、先程まで目の前で繰り広げられた甘酸っぱい空気は正直勘弁してください、って思ってしまった。

 

 それにしても…あのふたり相当腕が立つわね…

 冒険者向けと銘打ってるだけあって、私は色んな冒険者を見てきた。

 だからなのか、上手く説明はできないけど何となく雰囲気で、ある程度その人の強さが分かる。

 

 その私から見て、今まで見て来た冒険者の中でも群を抜いてる…と思う。

 特に女の子、カティアちゃんは強いだけじゃなく、何か不思議な力を感じる。

 それが何なのかは分からないけど、きっと何か大きな事を成し遂げる、そんな予感がした。

 

 ふふ、見た目はただの恋する女の子にしか見えなかったけどね。

 いや、あれ程の美貌で人気の歌姫でもあるんだから、『ただの女の子』じゃないか。

 

 これからお得意さんになってくれたら嬉しいね。

 

 



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第一幕 エピローグ 『再び始まる…』

 カイトさんと別れた私は一旦宿に帰ってきた。

 

 打ち上げの時間までまだ少し時間があるけど、さすがに歩き疲れたからちょっと休憩。

 服は…そのままでいいか。

 

 約束の時間が近づくまで部屋でのんびりした。

 

 

「え~と、『金の麦穂亭』だっけ…たしか、この辺りのはず」

 

 約束の時間も目前となり、私は宿を出て南地区の飲食店や酒場が多く集まる地域で目的のお店を探している。

 

「お~い、カティアちゃん!」

 

 声をかけられ振り向くと、『鳶』の面々が。

 カイトさんも一緒だ。

 

「あ、皆さん、さっきぶりです」

 

「カティアさん、昼は挨拶もせず済みませんでした…」

 

「あ、リーゼさん。復活されましたか」

 

「ええ…済みません。どうも魔法の事となると周りが見えなくなってしまいまして…」

 

「あはは…でも、熱中できる事があるのは羨ましいです」

 

「そう言ってもらえると…あ、ところであの[変転流転]なんですけど、ちょっと詠唱で分からないところがありまぐえっ!?」

 

 あ、デジャヴュ…

 

「はいはいダメよ、リーゼ。せっかくもとに戻ったのに、また手間をかけさせないでちょ~だい」

 

「ちょっ…レイラ…さん、く、苦しい…」

 

 レイラさんに首根っこを掴まれて引きずられて行った…

 …後で話を聞いてあげようかな。

 

 

 みんなと一緒にお店の前まで来ると、うちの父さん達もちょうど到着したところだった。

 

「おう、カティア。『鳶』の連中も一緒か」

 

「うん、ちょうどそこで一緒になったの」

 

「あら~?カティアちゃんは~、カイトくんとデートしてたんでしょう~?」

 

「なっ!?なぜそれを!?」

 

「…あらあら~?冗談のつもりだったのだけど~本当に~?」

 

 し、しまった!

 ハメられた!?(※自爆です)

 

「そういえば~、そのケープ見たことないわ~。もしかして~プレゼントかしら~?」

 

「ち、違うよ、これは自分で買ったんだよっ!」

 

「『これは』~?」

 

 い、いかん、喋れば喋るほど墓穴を掘ってしまう!

 ここは戦略的撤退を…!

 

「まあまあアネッサさん、そのくらいにしてあげて下さい」

 

 と、レイラさんが根掘り葉掘り聞こうと迫ってくる姉さんを止めてくれた。

 おお!救いの神はここにいたか!

 

「お店の前で立ち話も何ですし、中でじっくりたっぷり根掘り葉掘り聞かせてもらいましょう?」

 

「あら~、それもそうね~」

 

 どうやら救いの神はいなかったらしい…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店内には他のお客さんもいたが、隅の一角が予約席になっていた。

 

 皆着席してそれぞれ飲み物を注文する。

 そして、皆の飲み物が出揃ったタイミングで、父さんが乾杯の音頭を取る。

 

「そんじゃあ飲物はみんな回ったか?…よし。では、依頼の成功と、新しい出会いを祝して。乾杯!」

 

「「「かんぱ~い!(ッス)」」」

 

 父さんの掛け声に合わせて、それぞれ手にしたコップを掲げたあと、お互いに軽くぶつけあってカツン、と打ち鳴らす。

 私はコップに口を付けて、なみなみと注がれたビールをぐびぐび、と一気に半分ほど飲み干す。

 ぷはぁ!

 う~ん、美味しい!

 

 【私】は今まで殆ど酒精の無いものしか飲んだことが無かったけど、【俺】は結構お酒は好きな方だったので、久し振りに飲めて嬉しいな。

 味わいも前世と比べて大きな違いはない。

 もちろん、前世の方が洗練されてると思うけど、これはこれでクラフトビールみたいな感じでとても美味しいと思う。

 

 一杯目は早々に飲み終わり、早くも二杯目を注文した。

 

「…おい、カティア。そんな一気に飲んで大丈夫か?あまり強いのは飲んだ事ないだろ?」

 

 と、ティダ兄さんが心配そうに聞いてくるけど、大袈裟だな~。

 

「大丈夫だよ、ビールなんて大して強くもないでしょう?」

 

「…そうか?なら、いいんだが…」

 

 

 

 

 

 

ーー 五分後 ーー

 

「それれ~、カイろさんわ~ろうなんれすぅ~?こいびろとかって~いるんれすか~?」

 

 あはは~、何か気分いい~。

 

 あれ?

 何でカイトさんはそんなにドン引きしてるのかしらん?

 

(なぁ…あいつあんなに酒に弱かったか?)

 

(…普段飲んでるのはジュースみたいなもんだったからな)

 

(あら~、だからティダも言ってたのに~。でもこれはこれで面白いわ~)

 

(カティアちゃんにも、意外な弱点があったッスね~)

 

 

「…なあ、そろそろやめておいたらどうだ?大分酔ってるぞ?」

 

 酔ってないですって、【俺】はお酒に強かったんだから~。

 

「なにいっれるんれすか~、ビールなんかれ酔うわけないじゃないれすか~。れ?ろうなんれす?」

 

「…いや、いないが…」

 

「そうれすか~。奇遇れすね~、わらしもいないんれすよ~。『お互い様』れすね~?」

 

 そっか~、いないんだ~。

 良かった~。

 

「…そうだな…」

 

「じゃあ~、わらしのことっれ~、どうおもいまふ~?」

 

「あ、ああ、可愛いと思うぞ」

 

「やっら~!じゃあ~、ちゅう~しれくらさい~」

 

「何でそうなるっ!?」

 

「え~い!ひざまくりゃっ!きゃははっ!」

 

「お、おいっ!?…もう、無茶苦茶だ…」

 

 

「…アネッサ。[解毒]頼む。流石にこれ以上は忍びない…」

 

「そうね~。もう少し見たい気もするけど~、カイト君もドン引きしてるし~。…はい、[解毒]っと」

 

 

 

 

 

「…はっ!?…あ、あれ?私はいったい何を…?」

 

 …二杯目のビールに口を付けたところまでは覚えてるんだけど?

 取り敢えず謎なのは…

 

「…何でカイトさんに膝枕されてるんです?」

 

「…覚えてないのか?」

 

「…全く」

 

 いつまでも膝枕してるわけにもいかないので身体を起こすと、皆がこちらに注目していた。

 うう…恥ずかしい。

 いったい私は何をしたんだ!?

 

「カイト君を口説いてたわね~」

 

「!?」

 

「こんな可愛い子にゴロゴロにゃんにゃんすり寄られて役得ね。でもだめね、カイト。女の子に恥をかかせるものじゃないわ」

 

 ゴロゴロにゃんにゃん!?

 ほんと何してたのっ!?

 

「…カイトさん」

 

「あ、ああ、何だ?」

 

「忘れてください」

 

「…善処しよう」

 

「カティア。お前、酒はやめておけ」

 

「そうね~。カイト君と二人きりの時に~しておきなさい~」

 

「…いや、俺の前でも困るんだが…」

 

 そ、そんな~!?

 お酒が飲めないなんて~…

 

 くっ、初めて転生のデメリットを感じたわ…

 

 そしてカイトさん、ごめんなさいね!?

 そんなにドン引きされると、私、泣きます!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は~い、じゃあカティアちゃんはこちらへ~」

 

「ささっ、どうぞどうぞ!」

 

「ううっ…お手柔らかに…って、リーゼさんもですか?」

 

「ふふ、私だって女の子ですからね。魔法にだけ興味があるわけじゃないんですよ?」

 

 そうですか…

 あなたは魔法オタクを貫き通してくれても良いのですよ?

 

「…でも、別にそんな大した話はないですよ?」

 

「それじゃあ~、そんなに恥ずかしがることはないわね~」

 

「ですね。さあ、洗いざらい吐きなさい!」

 

 そして、朝偶然出会って手合わせしたことから、一緒に買い物したことまで、事細かに報告させられた。

 

「へえ~、プレゼントし合うだなんて。カイトもなかなかやるわね~」

 

「うふふ~、店員さんナイスよ~」

 

「…冒険者向けの魔道具店。そんなお店があったんですね。後で場所教えて下さいね」

 

 うう…大したこと無いって言ったけど、やっぱり恥ずかしかったよ。

 と言うか、手合わせはともかく、その後は傍から見たら完全にデートにしか見えなかったね…

 もう、【俺】の意識の葛藤とか関係なく普通に楽しんでたよ。

 

 そしてリーゼさんは『私も女の子だから』と言ってた割に、やっぱり興味があるのはそっちなんだね…

 

 

 

 

 

 そんなこんなで賑やかで楽しい時間が過ぎていく。

 

 そんな中、ほろ酔いでご機嫌になった父さんが、何か余興をやれ、とロウエンさんに振る。

 

「おう、ロウエン。お前、なんか面白ぇことやれや」

 

「また、無茶振りッスねぇ…まあ、オイラにできるのはこれくらいッスね…」

 

 無茶振りと言いつつ、ロウエンさんは立ち上がって…余っていたコップを回収して重ねていく。

 

 十個くらいあるかな?

 

 そして、重ねたコップを空中に投げる。

 バラけながら落ちてくるそれを左右の手で交互に掴んでは投げ掴んでは投げ、と繰り返す。

 

 だんだんとスピードを上げていき、それが限界に達すると…

 最後に一つコップを掴んだと思うと、全てのコップがそこに次々と重なって行って、終了。

 

 見事なジャグリングに周りで観ていた他の客からも喝采が上がった。

 だが、父さんのコメントは辛辣だ。

 

「それは見飽きたぞ」

 

「オイラに一体何を求めてるんスか…」

 

 まあ、一座では見慣れてるからねぇ…

 

「いや、凄かったですよ!うちも何か出来ればいいんですけど。…あ、そうだ、カイト!あなた確かリュート弾けるでしょ?私お店から借りてくるわ!」

 

 と言って、レイラさんがお店の人にリュートを借りに行った。

 

 このお店、端の方にオルガンみたいな物もあって、これらの楽器は借りられるらしい。

 即興で演奏会とか行われたりするそうだ。

 それって、凄く楽しそう!

 

「カイト、借りてきたわよ!」

 

「まったく、強引だな…」

 

 そう文句を言いつつも、リュートを構えてじゃらん、と軽く音を出して調子を確かめる姿がとても様になっていて格好いい。

 

「リクエストは?」

 

「そうねぇ、何がいいかしら?」

 

「あ、じゃああれはどうです?『気まぐれな神』とか。今回はオキュパロスさまにご縁が有りましたし」

 

 と、リーゼさんが提案する。

 そうだね、今回オキュパロス様の助力が無かったら、こうして打ち上げする事も出来なかった。

 

 …あまりその呼び名は好きじゃ無いらしいことは黙っておこう。

 

「ああ、わかった」

 

 じゃら~ん、と掻き鳴らすと店内の注目が集まる。

 

 

 

 巧みな指さばきで弦を弾き、軽快なリズムの、どこかユーモラスな曲が流れ始めた。

 オキュパロス様の様々な逸話を面白おかしく歌にしたもので、他の神々をモチーフにした楽曲と共に広く大衆に親しまれている。

 

 店内は大いに盛り上がり、たくさんの人々が手拍子でリズムを取り始めた。

 

「おお、こいつぁ凄えな!玄人はだしってもんだ。おい、ロウエン、お前負けてんぞ」

 

「切なくなるんでここで比較に出さないで欲しいッス…」

 

 

 本当、素敵な演奏…

 私は手拍子に加わることもなく、じっくりと聞き惚れていた。

 

 やがて曲はクライマックスを迎え、ジャンッ!と小気味良い音と共に終了した。

 

 店内中は拍手喝采の嵐。

 大いに盛り上がる。

 

 

 

 

「凄い凄い!カイトさん!カッコ良かったです!」

 

「ふふ、ありがとう」

 

「全く大したもんだ。おい、カティア!ここで負けてちゃあ、一座の名折れだ。つぎはお前が歌って、度肝を抜いてやんな!」

 

「あ、だったら!私カイトさんの演奏で歌ってみたいな!」

 

「ああ、いいぞ。俺も楽しみだな」

 

「あら~、素敵じゃない~(初めての共同作業ね~)」

 

「やった!カティアちゃんの歌が聞けるなんて、ラッキー!」

 

「ふふ、楽しみですね」

 

 

 

 

 

 

 

 そうして開かれた即興の音楽会。

 お店の人の好意もあって簡易な舞台が整えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 即席の舞台に立つ私。

 その少し後ろにリュートを携えた彼。

 

 私が視線を向けると彼は微かに微笑んで頷く。

 

 ひと呼吸おくと、彼は指でトントントン、とリュートを軽く叩いてリズムをとってから、伴奏を始める。

 そしてタイミングを合わせて、私は歌声を紡ぎ始めた。

 

 最初は囁くように静かに、徐々に感情を込めながら大きくなっていくその歌声は店中に響き渡り…

 

 

 そうして、楽しいひとときが過ぎていく。

 

 

 

 楽しい仲間たち。

 新しい出会い。

 まだ厄介事もありそうだけど、きっと何とかなる。

 

 【俺】も【私】も同じ私。

 まだ色々と悩むかもしれないけど、きっと何とかなる。

 

 数奇な運命に導かれ、再び始まった人生。

 

 めいっぱい楽しまないと損だよね。

 

 よし!また明日も頑張ろう!

 

 

 

 

 

ーー 第一幕 転生歌姫のはじまり 閉幕 ーー




これにて第一幕終了です。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
次回、幕間を挟んで第二幕となります。

まだまだ先は長いですが、最後までお付き合い頂ければ幸いです。


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幕間
幕間1 『ダードレイ』


 アネッサのヤツが言うには、俺の娘は恋をしているらしい。

 

 あのお転婆娘がそんじょそこいらの男にそう安々と惚れるもんかねぇ?

 ましてや昨日今日会ったばかりの男になんて。

 

 まあ、俺には乙女心なんて複雑怪奇なものはサッパリ理解出来ねえんだが。

 

 ともかく、血が繋がっていないとは言え大事な一人娘には違い無え。

 あいつを悲しませる様なヤツには娘はやれん。

 父親としてしっかりと見定めなければならねえ。

 

 

 だが、そう意気込んではみたものの、その相手、カイトの野郎はなかなか大した奴だと思う。

 

 剣の腕もさる事ながら、あの若さであの胆力。

 リーダーとしての資質も十分だし、状況把握や情報分析の手際を見るに頭もキレる。

 パーティーの良好な雰囲気から、性格も悪くないことが伺える。

 ちょいと真面目すぎるような気もするがな。

 

 それに、あの剣の型、鳶というパーティー名。

 もしかしたら…

 

 まあ、結局のところ、俺はあまり口出ししない方がいいか、て結論に至っている。

 

 

 

 俺の娘、カティアは不思議なやつだ。

 

 教えれば教えただけ何でも吸収しちまう才能の塊。

 それに奢らず何時だって一生懸命だし、気さくで人当たりがよく誰からも好かれる。

 とんでもねぇ美貌なのに、本人にあまり自覚が無えから危なっかしいところでもあるんだがな。

 

 ともかく、カティアは自慢の娘ってやつだ。

 こう言うのを親馬鹿って言うのかねえ…

 

 そんな自慢の娘だが、ある日急に雰囲気、と言うか存在感が変わった。

 ティダの奴は神聖な雰囲気に感じたなんて言っていたが、まさにその通りだった。

 

 なんと、あの失われたはずのエメリール様の(シギル)を受け継いでいるってんだから驚きだ。

 (シギル)持ちって言やぁ大抵は王族の血筋に現れるもんだが、エメリール様の(シギル)を受け継ぐ王家の血筋は途絶えて久しい。

 アネッサが随分興奮していたが、正に歴史的発見ってやつだ。

 

 だが、失われた王家の血筋だろうが何だろうが、あいつが俺の娘である事に変わりは無え。

 

 あいつは騒がれることを嫌って秘密にして欲しいって言ってたが、もしその秘密のせいで厄介事に巻き込まれるのであれば、俺は父親としてあいつを守るだけだ。

 

 

 俺はあいつに感謝してるんだ。

 

 十五年前、俺は傭兵として戦乱の世を渡り歩き、戦いに明け暮れる人生にすっかり心が荒んでいた。

 

 そんなときに、まだ赤ん坊だったあいつに出会ったんだ。

 

 瀕死の母親から託された、まだ赤ん坊だったあいつをその手に抱いたとき、その小さな命の暖かさに俺の心は救われた。

 命を奪う事しかできなかった血塗られた手でも、救える命がある。

 優しさとか愛情とか、人として当たり前のものを取り戻したんだ。

 

 その時から、カティアを守り育て、幸せにすることが俺の使命となった。

 

 

 他の連中も似たようなもんだろう。

 

 俺がカティアを連れて、傭兵団を辞めるって言ったとき、殆どのやつが付いてきやがった。

 大の大人がまだ小さい赤ん坊に救いを求めるなんざ情けねえ限りじゃねえか。

 

 やれ乳だ、やれオムツだ右往左往する光景は滑稽そのものだったぜ。

 何人か女性団員も居たはずなんだが、男以上に男らしいヤツばかりで役に立たねえのは俺らと大して変わらなかった。

 ババアが居てくれたから良かったが、その時に力関係が出来上がっちまったのは誤算だった。

 おかげで未だに誰も頭が上がらねえ。

 

 傭兵を辞めた俺達はその後もどうにかして食い繋がなけりゃならなかった。

 多少の貯えはあるもののそれだって何も稼ぎが無けりゃああっと言う間に尽きちまう。

 

 誰かが劇はどうかなんて言ってきた。

 最初は何言ってんだ?なんて思ったが、ちょうど大戦も終結し、戦乱で荒んだ人たちを楽しませるのも悪くないとも思った。

 もちろん、ずぶの素人が最初からそう上手く出来るはずも無え。

 だが、傭兵仕込の殺陣なんかは結構ウケたし、だんだんと様になってきて少しづつ客も集まるようになってきた。

 ロウエンのジャグリングみてえに、一芸を持ってるやつは合間に披露したりなんかして、そんなふうに試行錯誤しながらも、途中シクスティンのやつも加わって軌道に乗ってくると、確かな手応えを感じるようになってきた。

 

 俺の、いや一座の大事な娘であるカティアもすくすくと成長していき、いつの頃からかあいつも舞台に立つようになった。

 そして、その神がかった歌声は観客を虜にし、あっと言う間に一座の看板スターになっちまった。

 演技はからっきしだったが。

 

 

 

 俺にはサッパリ分からねえが、アネッサが言うにはカイトとはいい雰囲気らしい。

 いずれ俺の手を離れて行く時が来るのも近いのかも知れねえな。

 

 だが、それまでは俺の娘として守らなければならねえ。

 

 いつかその役割を、あいつが選んだ男に託すその時まで。

 



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幕間2 『カイト』

 初めて会ったとき、その不思議な色合いの美しい髪に目を奪われた。

 

 

 

 その日、依頼のため訪れた森の中でこれまで見たことの無い魔物に遭遇し、しばらくの間その森の中に囚われることになってしまった。

 

 情報を少しでも得ようと何度か接敵するも打倒するための糸口は掴めず、時間だけが過ぎ去りとうに帰還予定は過ぎてしまった。

 

 だが、生き延びていれば何れ他の冒険者がやって来るはず。そう自分に言い聞かせ、パーティーの面々も鼓舞する。

 その間に件の魔物には三度接敵を敢行し、ある程度の情報は得る事ができた。

 

 あとは人数さえ揃えば、と考え始めたその時、斥候の一人であるザイルが人の気配を感じると言ってきた。

 待ち侘びたその情報に逸る気持ちを抑えながら合流すべく向かったその先には、何れもが強者の雰囲気を身にまとう数人のパーティーが俺たちを迎えるのだった。

 

 その中にその場には一見場違いとも思える一人の美しい少女がいた。

 まず目についたのは、森の薄闇の中でも光り輝くかのような金にも銀にも見える不思議な色合いの長い髪。

 次いで意思の強そうな大きな菫色の瞳。

 

 カティアと名乗ったその少女の美貌にしばし見惚れそうになるが、不自然にならないように何とか取繕えたと思う。

 

 

 その後、彼らと魔物を倒すための作戦を練ってそれを実行するも、打倒には至らず再度の撤退を余儀なくされる…と思われたが、彼女の特級魔法が炸裂して…

 その後は怒涛の展開だ。

 

 倒したと思った魔物がいた辺りから突然闇が大きく広がって俺達を飲み込もうとした。

 彼女の前に飛び出して庇おうとしたのは、自分でも思いがけない行動だった。

 

 そして、突如として現れた紅い結界に護られながら彼女は歌い出す。

 物悲しくも優しく美しい歌声が響くと、彼女から光が放たれて闇を包み込むように祓っていく。

 その慈母の如き神々しい表情に、今度こそ見惚れた。

 

 街に帰還するときには馬に同乗したが、腕の中にすっぽりと収まる小さな身体の暖かさと、髪から香る仄かな甘い匂いに、冷静でいるのが大変だった。

 

 

 無事に街まで戻り、事の次第を侯爵閣下に報告したが、不測の事態によって期日までに帰還が叶わなかった事についてはその正当性が認められ、俺達パーティーの失態とは見做されなかったのは幸いだった。

 

 侯爵閣下にはかなり心配をかけてしまった。

 もし俺に何かあったとしても、父は侯爵閣下を責めたりすることは無かったとは思うが、何らかのわだかまりは残してしまったかもしれない。

 

 そういった意味でもカティアたちには感謝してもし足りない。

 

 そう思っていたのだが、彼女は俺達パーティーの功績を主張して報酬は皆で折半すべきだと言ってくれた。

 

 当然俺はそれを辞退しようとしたが、それを遮って『お互い様』と言って晴れやかに笑う彼女にまたもや見惚れて何も言えなくなってしまった。

 

 侯爵閣下の言う通り、本当に『いい女』だ。

 

 そう、素直に伝えたら何故か気を失ってしまったのには焦ってしまった。

 

 

 翌日、剣をメンテナンスに出した後、パーティーの連中が戻って来るまでの間の暇つぶしも兼ねてギルドに訓練に向かう途中で彼女に声をかけられた。

 

 昨日とは異なる、年頃の女の子らしい装いにドキッとさせられた。

 一瞬誰か分からなかったなどと誤魔化したが、彼女の鈴を転がすような美しい声と、その特徴的な色合いの髪を見粉うはずもない。

 

 思いがけず出会ったその後は、彼女の実力に純粋な興味もあって、訓練に誘ってみることにした。

 

 快諾してくれた彼女とともにギルドに向かい訓練場で手合わせを行う。

 

 

 そうして始まった手合わせ。

 

 彼女の実力は想像以上のものだった。

 

 その可憐な容姿に似合わない、苛烈な攻撃。

 その細腕のどこにそんな力があるのか、受け止めた攻撃の重さに舌を巻く。

 

 変幻自在で息をもつかせぬ連撃は防ぐので精いっぱいで、何とか隙を見て行った反撃は意表を突いたものの、あっさりとかわされた。

 

 魔道具による幻惑も、最後は偉そうに指摘したが言葉ほどに余裕があったわけではない。

 ただ、彼女が放つその存在感は魔道具で完全に模倣できるような物では無かっただけだ。

 もちろん、彼女に伝えた通り僅かな差異ではあるので魔道具の有用性を否定するものではなかったが。

 

 そして、なんと言っても最後の一撃。

 彼女が一瞬揺れたように見え…気がついた時には間合いに入られていた。

 辛うじて防御が間に合ったものの、見事に剣が折られてしまった。

 彼女の剣も折れたので何とか引き分けに持ち込む事ができたのは俺にとっては僥倖だっただろう。

 もし、これが木剣じゃなかったら…結果は違っていたはずだ。

 

 

 溢れんばかりの才能。

 俺は、そんな彼女の横に並び立てる男でありたいと思った。

 

 

 その後も彼女に誘われて街を巡り、楽しいひと時を過した。

 

 

 神秘的な容姿は黙っていると近寄りがたいほどの神々しい美しさなのに、普通の女の子のように、時には少年のように、ころころと変わる表情は正に天真爛漫と言った感じで好ましく思う。

 

 打ち上げで酔った彼女にすり寄られたときは、取り繕う余裕も無くなってしまい、正直アネッサさんに何とかしてもらわなければどうなっていた事やら…

 

 打ち上げの最後には即席の音楽会となって大いに盛り上がった。

 

 俺の演奏に合わせて、彼女の可憐な唇から紡がれる人々を魅了する歌声。

 いつまでもこうしていたいと思ったが、楽しい時間はあっと言う間に過ぎ去った。

 

 

 

 ああ、この想いは何だろうか。

 いや、自問するまでもなくそれは分かっている。

 

 出会ったばかりの少女にこんな想いを抱く事になるなんて。

 こんなにも、その眩しい笑顔に惹かれるなんて。

 自分でも不思議だった。

 

 自惚れで無いのであれば、多分彼女も同じ気持ちを抱いてくれていると思う。

 

 だが、まだこの想いを伝えることは出来ない。

 俺の抱える厄介な問題がそれを許さない。

 

 もし、本気で彼女を欲するのならば…

 今まで逃げ回ってきたその問題に立ち向かわなければならないだろう。

 

 今はまだ、その覚悟は出来ていない。

 

 

 だが、いつの日かきっと…

 

 



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設定集(第一幕終了時点)

登場人物

 

・【俺】

 本作の主人公。

 事故で家族を失い、自身も体の自由の殆どを失ってしまう。

 以降、病院での寝たきり生活を余儀なくされるが、医療向けに開発されたVR機器を用いて仕事を行ったり、趣味のゲームに興じていた。

 とくにVRMMO「カルヴァード戦記」では暇に任せて膨大な時間を費しやり込んでおり、VR機器の高性能と、亡き祖父に師事した古流の剣術を活用したプレイヤースキルによって有名プレイヤーの一人となっていた。

 前向きかつ楽天的で細かいことはあまり気にしないたち。

 中肉中背、容姿は自己評価が低く特別優れてるわけではないがそこそこ整っている方。

 学生時代は親の仕事の都合で転校が多く特別親しい友人は出来なかったが、コミュ力は高め。

 

・エメリール

 カルヴァード大陸で信仰されている神々のうちの一柱である豊穣の女神。

 本人は神と呼ばれることに抵抗があるようだが、人々の安寧を願い戦乱や災害によって多くの命が失われることに心を痛める、女神と呼ぶに相応しい心根の持ち主。

 …なのだが、少々抜けたところのある、うっかりさん。

 

・???

 エメリールの知己。神々の一柱と思われる。

 鍛え上げられた肉体と精悍な顔つきをした美丈夫。落ち着いた物腰で、見た目によらず細かい気遣いのできるナイスガイ。

 

・カティア(【私】)

 【俺】が転生した先の15歳の少女。

 何らかの原因によって『魂』に重大な損傷を負った。

 旅芸人一座の歌姫にして優秀な冒険者でもある。

 

・スーリャ

 ギルド職員の女性。

 侯爵がギルドに来ると、彼の秘書のようになる。

 

・ダードレイ

 旅芸人一座の座長にして、凄腕冒険者【剛刃】。

 カティアの養父。

 豪放磊落なアニキ気質で一座の皆から慕われている。

 義娘がお転婆に育っているのが悩みの種。

 

・アーダッド=ファルクス=ブレーゼン

 イスパル王国の貴族で侯爵位を持つ。

 ブレーゼン領の領主。

 見た目はとても貴族に見えず言動も粗野だが、領主としての手腕は確か。

 面倒見がよく、その貴族らしからぬ気さくな態度で領民からの人気は高い。

 彼の遺伝子は仕事をしない。

 

・ティダ

 旅芸人一座の副座長。

 ダードレイに比肩する凄腕冒険者【閃刃】。

 ダードレイと同年代のはずだが、せいぜい二十代後半から三十代前半くらいにしか見えない。

 女性に非常にモテるが、妻のアネッサ一筋の愛妻家。

 ネーミングセンスが壊滅的。

 

・ロウエン

 旅芸人一座の一員。

 冒険者としては斥候を担当する。

 見た目も言動もチャラい、とはカティアの談。

 語尾がそう思わせるだけで、実際は割と常識人。

 

・アネッサ

 旅芸人一座の一員にして非常に優秀な魔道士。

 ティダの妻。

 独特ののんびりした口調で、おっとりした印象だが時折黒い面を見せる。

 アスティカントの学院出身で学生時代には様々な伝説を残し、最凶の名をほしいままにした。

 他人の恋愛には世話焼きおばさんと化す。

 

・ドルク

 旅芸人一座の一員。

 冒険者としては盾役を担う、らしい。

 足が遅いせいで登場機会を逸してしまった。

 

・リィナ

 ティダとアネッサの娘。

 8歳。

 年齢の割にしっかりした良い子。

 宿の女将さんにも孫のように気に入られており、お手伝いをしているうちにすっかり看板娘のようになっている。

 

・ランドル

 ブレーゼン領軍所属の兵士。

 スオージ大森林の警戒任務に当たっている一部隊の隊長。

 ダードレイのファン。

 カティアの大ファン。

 

・カイト

 調査任務専門パーティー『鳶』のリーダーでBランク冒険者。

 本人は逃げ足が取り柄と謙遜してるが、剣の腕も相当なもの。

 情報分析とそれに基づく作戦立案に優れリーダーシップも備える万能型。

 何かと周りがカティアとくっつけようするのに辟易してるが、その胸のうちは…?

 

・レダ

 調査任務専門パーティー『鳶』所属のCランク冒険者。

 隠密行動に長けた斥候職。

 

・ザイル

 調査任務専門パーティー『鳶』所属のCランク冒険者。

 早期警戒スキルに優れた斥候職。

 

・レイラ

 調査任務専門パーティー『鳶』所属のCランク冒険者。

 バランスの良い斥候職。

 アネッサと共謀して、カティアとカイトをくっつけようと暗躍する。

 

・リーゼ

 調査任務専門パーティー『鳶』所属のCランク冒険者。

 優秀な魔道士で様々な魔法で調査の支援を行うのみならず、パーティー随一の火力を誇る。

 カティアからドジっ子を疑われてる。

 没頭すると周りが見えなくなる程の重度の魔法オタク。

 

・オキュパロス

 『気まぐれの神』『うつろいし神』と呼ばれる、神々の一柱。

 見た目も言動もヤンキー。

 だが、地上の人々のことをいつも気にかけてくれていて、カティアを助けてくれた、良いヤンキー。

 

・ガルガ

 請負人相互扶助組合ブレゼンタム支部長。

 だが誰もその役職名では呼ばず、単にギルド長と呼ぶ。

 侯爵のせいで影が薄い。

 

・ミディット

 一座の会計兼マネージャー。

 豪傑バァさん。

 裏ボス。

 

・ロゼッタ

 一座の看板女優の一人。

 ゴージャス系美人。

 常にテンション高めのオバ(ギロッ)…お姉さま。

 年齢は(キッ)…ヒミツ。

 

・シクスティン

 一座専属の演出家。

 彼のカティアの演技に対する評価は最底辺である。

 

・ディザール

 神々が一柱。

 イスパル王家の祖先にシギルを授けた。

 

・エメリナ

 神々が一柱。

 エメリールの妹で『生命の女神』。

 『恋愛の女神』とも言われていて、恋バナ大好き。

 

・エメリリア

 神々が一柱。

 エメリールとエメリナの姉。

 

・ユリシア

 服飾店のお姉さん。

 

・プルシア

 魔道具店のお姉さん。ユリシアの妹。

 

 

 

 

地勢

 

・イスパル王国

 カルヴァード大陸南西部に位置する大国。

 

・ブレーゼン領

 イスパル王国南西部の辺境にある侯爵領。

 大規模な穀倉地帯を抱える豊かな大領地。

 

・ブレゼンタム

 ブレーゼン領領都。

 人口3万人程の都市だが、交易も盛んで非定住人口を加えると、実質的には5万人以上の人がいる。

 

・レーヴェラント王国

 イスパル王国北東の隣国。

 

・カカロニア王国

 イスパル王国東の隣国。

 

・グラナ帝国

 カルヴァード大陸北東部の国。

 15年前に大陸南部へ侵攻を図り、大戦を引き起こした。

 

 

 

 

魔法

 

・灯火

 小さな火を起こして明かりにする。

 着火用の種火にも使用可。

 

・氷弾

 拳大の氷の塊を撃ち出す攻撃魔法。

 散弾状にアレンジして広範囲にばら撒く事も出来る。

 

・閃光

 一瞬の閃光を放って目をくらます魔法。

 アレンジによって滞留時間を伸ばすことができる。

 

・土壁石壁

 石混じりの土壁を構築する防御魔法。

 アレンジで何枚も重ねることができる。

 

・退魔

 対アンデッドに特化した光の攻撃魔法。

 この系統では最も難易度と効果のバランスが良い。

 このため、この系統は退魔系と呼ばれる。

 同系統内では中級の位置付け。

 

・清光

 退魔系低級魔法。

 効果は気休め程度。

 

・神威

 退魔系上級魔法。

 冒険者には使い手はほとんどおらず、神殿でも限られる。

 非常に強力だが、詠唱時間がかかる。

 

・極天光

 神威の広範囲版。

 詠唱時間はさらに必要となる。

 

・聖光

 退魔系低級魔法。

 清光よりは実用的。

 ゾンビやスケルトンくらいならこれで倒せる。

 

・日輪華

 退魔系特級魔法。

 神威をも凌駕する絶大な威力を誇る。

 他の退魔系統と異なり超高熱を発するため、対アンデッドだけで無く通常の攻撃魔法としてもかなりの威力を持つ。

 

・神炎

 退魔系の奥義。

 伝説で語られるのみで現在では使い手は存在しないと言われている。

 

・消音

 効果対象の周囲で発生する音の伝播を阻害する。

 足にかければ足音を消すことができる。

 

・変転流転

 神々が一柱、オキュパロスが伝える神代魔法。

 神代の出来事を綴ったと言われる書物『神代記』に、かの神がそれを用いる描写が確認されているが、具体的な魔法の効果は謎とされてきた。

 

・清浄

 身体や衣類の汚れを落す魔法。

 

・伝声

 ある二点間に音の通り道を作り出す魔法。

 

・拡声

 音を大きくして広範囲に拡散する魔法。

 

・霞鏡

 霧を発生させて気配を伴う幻影を投影して敵を撹乱する魔法。

 カティアの事が気になってしょうがないカイトには通用しない。

 

・炎弾

 氷弾の炎バージョン。

 馬鹿をボコるのに最適。

 

・障壁

 自分の周囲に不可視の防壁を発生させる魔法。

 

・魔壁

 自分の周囲に魔法を防ぐ壁を発生させる魔法。

 

・隠遁

 他者から認識されにくくする魔法。

 

・解毒

 血中の毒素を分解・中和する魔法。

 アルコールも対象なので、酔っぱらいもコレでイチコロ。

 



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第二幕 転生歌姫と古代遺跡
第二幕 プロローグ 『公演』


 『異界の魂』の事件解決から数日後。

 私達一座は予定通りこの街での第5回公演を開催する運びとなった。

 

 公演が行われているのは中央広場に面する一画に立つ、前世で言うところの市民ホールのような建物だ。

 様々な催しや式典が行われるところで、本当であれば賃料はかなり高額なものになるらしいが、侯爵様のご厚意で割安で借りられたらしい。

 何でも、領民に娯楽を提供するのも領主の務め、であるとか。

 

 

 本日はそのブレゼンタム第5回公演の初日。

 この街では既に何度も公演しているので知名度も高まり、客足も上々だ。

 今はメインの出し物の一つの演劇が行われているところで、私はそれを舞台袖奥から眺めている。

 

 これから数日間は私も連日舞台に立ち、忙しい毎日となる。

 とは言っても、私の出番は歌だけなんだけど。

 ええ、ええ、大根役者なもんで演劇には出してもらえないんです。

 くっ…今に見てなさいよ、シクスティンめ!

 

「…カティアさん、劇に出たいなら少なくとも棒読みはやめましょうね。はぁ…せっかく舞台映えする容姿してるのに…勿体ないなぁ。なんで歌はあんなに表現力豊かなのに、それを演技に活かせないのでしょうかねぇ…」

 

 と、残念な物を見るような目でこちらを見て、ため息付きながら話しかけてきたのは当のシクスティンさんだ。

 私の心の声が聞こえたのだろうか?

 

「殺陣なら完璧だと思うんですけど」

 

「…あなたみたいに目立つ人が戦闘シーンにだけいきなり出てきたら違和感ありすぎでしょう…」

 

「じゃあ、セリフが無い役を考えてくださいよ」

 

「だから。あなたほど目立つ人が一言も喋らないなんて違和感しかないんですって…」

 

「セリフ覚えるのは得意なんですけどね」

 

「はぁ、つくづく勿体ない…」

 

 

 そんな会話をしているうちに、舞台上では物語が進み、観客は盛り上がりを見せている。

 

 派手な真紅の衣装に身を包んだロゼッタさんが高笑いを上げながら高らかにセリフを発する。

 

『お〜〜っほっほっほっ!あなたのような小娘が彼の婚約者になるだなんて、笑わせてくれますわね!彼には公爵家令嬢たるこのワタクシこそが相応しくてよ!』

 

 今回の彼女の役は、ヒロインをいじめ倒す悪役令嬢。

 …なんと言うハマり役。

 と言うか、普段の言動とあまり変わらない気がする。

 しかし、令嬢と言うにはちょっと年が…(ゾクっ)…おっと、何か悪寒がするのでこれくらいにしておこう。

 

『私は…彼を愛しています!例え身分違いの恋だとしても、諦めることなんて出来ません!』

 

 そして、ヒロイン役はアネッサ姉さん…ではなく、期待の新人ハンナちゃん(13)。

 薄い茶色の髪に茶色の瞳と、目立つ容姿ではないものの、庇護欲を掻き立てるような可愛らしい女の子だ。

 

 なんと、今回は彼女の主演デビューとなる舞台なのだ。

 今回のストーリーは、うちの出し物としては珍しく学園恋愛物なのだが、それも彼女の初々しい魅力を最大限アピールする狙いもあっての事だ。

 

 とある街での公演の際に、孤児院の子供たちを招待した事があったのだが、その時その孤児院にいた彼女はうちの一座の劇にいたく感動したらしく、雑用でもいいから雇ってくれと押しかけてきたんだ。

 

 根性があると一座の面々にも気に入られて下積みを経験して行き、ついに本日のデビューとなったのである。

 

 私とも年が近いので仲良くしている。

 

 …私の方が芸歴は長いのに、演劇デビューの先を越されたのは別に悔しくない。

 

 ちなみにアネッサ姉さんは、ヒロインの親友役で出ている。

 

 

「ハンナちゃん、いい感じですね」

 

「ええ、そうですね。彼女は才能があると思いますよ。これからが楽しみですね」

 

 そうだね。

 世代交代も考えなくちゃならないしね。

 姉さんもロゼッタさんも、いつまでもヒロインやるような年でも…ゲフンゲフン。

 

 

 さて、劇の方はクライマックスを迎えていた。

 恋愛ものとはいえ、うちのウリである戦闘シーンもしっかり盛り込んで(半ば無理やりストーリーにねじ込んでる)、観客の盛り上がりが最高潮のまま終了となった。

 ちなみにロゼッタさんこと悪役令嬢は、しっかり『ざまぁ』されてました。

 

「さて、そろそろ私の出番だね」

 

「ええ、頑張ってください。演劇と並ぶ我が一座の売りですからね、お客さんの心をがっちり掴んできてください」

 

 シクスティンさんに激励されて、歌姫モードに意識を切り替えていく。

 そう言えば、【俺】が転生してからは初めての舞台だけど…

 うん、特に問題はないかな。

 【私】がこれまでやってきたことが、私の中に確かに息づいてるのが分かるから。

 

 程よい緊張感で気が引き締まっていく。

 

 さあ、張り切って行こう!

 

 

 

 …ああ、でも。

 

 この間の打ち上げで、カイトさんの演奏に合わせて歌うのはとても楽しかった。

 こんな大舞台で、彼と一緒に出来たらな…

 

 そう言えば、『鳶』の面々にはチケット渡してたんだっけ。

 もしかしたら、今日見に来てくれてるかな?

 

 だったら、嬉しいな。

 

 

 

 

 

 

 そうして、私の舞台の幕があがった。



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第二幕 1 『夜会』

 公演初日は好評のうちに終った。

 今頃はまだホールの方で本日の反省と明日以降に向けての打ち合わせが行われているはずだが、私を含む一部のメンバーは一足先に宿に戻ってきていた。

 

 本日夜に侯爵家主催の夜会が催され、それに出席するための準備があるからだ。

 

 …ぶっちゃけ、あの侯爵閣下が主催される夜会にそんな大層な準備が必要なのかな?などと失礼な事も思ったりしてたが、そこはやはり大貴族相手だし、他の招待客もいるみたいなのでそれなりの準備は必要らしい。

 

「ねえ、姉さん。このドレスってどうしたの?わたしもフォーマルな服くらい持ってるけど?」

 

 これまでも貴族の方に挨拶したりお呼ばれした事はあるからね。

 そのためのフォーマルな装いは私も一応は持ってるんだけど。

 今はそれではなくて、姉さんが持ってきたドレスに着替えさせられているところだ。

 

 私の瞳と同じような菫色で襟元や裾に白のレースで縁取られている。

 手触りは非常に滑らかで上品な光沢もあり、多分シルクだと思う。

 

 とても素敵なんだけど、どう見ても高級品だ。

 一体どうしたのか、非常に気になる。

 

「閣下の奥様が〜、カティアちゃんに是非に、ですって〜」

 

「奥様が?何で?」

 

「この街に初めて来たときに〜ご挨拶に伺ったでしょう〜?その時にカティアちゃんを見て〜、アレコレ服を着せてみたいと思ったんですって〜。ほら〜、カティアちゃんて〜信じられないくらいキレイじゃない〜?その気持ち分かるわ〜」

 

「そ、そんな事…。でも、こんな高価そうなもの頂けないよ」

 

「いいのよ〜。あなたは皆の力だって言ってくれたけど〜、この間の事件の解決は〜、やっぱりあなたが居てこそだったし〜、閣下も個人的にお礼がしたかったみたいだし〜。報いたいって言う気持ちには〜応えてあげないとね〜」

 

「そ、そういう事なら…このドレス素敵だし、嬉しいかも…」

 

 【私】は着道楽なところがあるしね。

 ふへへ、と顔が緩んでしまう。

 

 今日お会いしたら、しっかりお礼しておかないと。

 

「じゃあ〜髪をまとめるわよ〜。うふふ〜、カイト君からもらった髪留めもしないとね〜」

 

 むむ…これはいつものからかいモードだな。

 ふっ、もうそれくらいでは動じないよ、姉さん。

 

「そうだね、カイトさんにも会うんだし、せっかく買ってもらったものを着けないなんて、失礼だしね」

 

「あら〜冷静なのね〜。でも〜顔が赤いわよ〜?」

 

 うぐっ…

 私もまだまだのようだ。

 

 

 

 

 会場となる侯爵邸はそこまで遠くないので徒歩で十分なのだけど、宿まで馬車が迎えに来た。

 確かにこの格好で街中を歩くのはちょっとね…

 

「『エーデルワイス』の皆様ですね。私は侯爵家で使用人をしております、バトラーと申します。此度は我が侯爵家主催の夜会にご出席頂き、誠にありがとうございます。これより、皆様を会場となる侯爵邸までご案内させていただきます」

 

 馬車から降りてきた如何にも貴族の使用人って感じのおじ様から丁寧な挨拶を受ける。

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 父さんも慣れたもので、鷹揚に返事をしてから躊躇うこともなく馬車に乗り込み、私達もそれに続いて乗り込む。

 かなり大型のもので、5人が乗っても余裕があった。

 

「ふえ〜、流石は侯爵家の馬車だね〜。随分立派で大きいな〜」

 

「普段のアイツを見てると貴族だって事を忘れちまいそうになるがな。しかし、すぐそこだってぇのに大仰なこった」

 

「あはっ、私はあの侯爵様の事だからてっきりギルドの食堂でも借り切ってやるんじゃないか、とか思ってたよ」

 

「流石にそれは無いだろう…」

 

「うふふ〜、でもそういうイメージよねぇ〜」

 

「うう…オイラはその方が良かったッスよ。大将たちは慣れてるでしょうけど、オイラは貴族邸に招かれるなんてことは普段は無いッスから…緊張するッス」

 

「そんな緊張するような相手じゃねえだろ」

 

「いや、侯爵閣下はそうッスけど…他の貴族とか官僚の人も呼ばれてるんスよね?」

 

「ああ、そうらしいな。と言うか、招待のメインはそっちの方で領政議会の後の夜会って事らしい。俺らは論功行賞ってぇ名目だが、まあオマケだよ。アイツの事だから、面倒くせぇってんで纏めたんじゃねえか?」

 

「オマケッスか。じゃあオイラはひたすらメシでも食ってるッス」

 

「…まあ、ヤツも美味い飯でも食ってけって言ってたし、それでいいだろ」

 

「じゃあ、私もそれで。あ、流石に閣下や奥様には挨拶しないとだけど」

 

「あ〜、お前はあちこち引っ張り出されるんじゃねえか?」

 

 え、何でよ?

 私も美味しいお料理食べたいよ。

 

「今日の公演、侯爵が枠を押さえて今日招待されてる貴族たちに融通してたからな。多分お前と話をしたがるだろ」

 

「何で私だけなのさ」

 

「お前が圧倒的に目立つからだな。今回アネッサは脇役だったし」

 

「え〜…めんどくさい…あれ?このドレスってまさか…」

 

 奥様が好意で贈ってくれたのは本当だろうけど、もしかして閣下の思惑も絡んでたりして。

 あの人、見た目山賊なわりにちゃんと貴族してるしなぁ…

 

「カティアちゃん〜、変な虫が寄って来ないように〜なるべくカイト君の近くにいなさいね〜」

 

 いつものからかいかと思いきや、これは純粋に心配してくれてるみたいだ。

 

「でも、迷惑かかるし…」

 

「なに言ってるのよ〜、彼なら喜んで引き受けてくれるわよ〜」

 

 そうだろうか?

 彼が私の事をどう思っているのかも分からないのだし…

 嫌われてはいないと思うけど。

 

 いや、そもそも自分はどうなんだ?

 【私】…小さいカティアは彼の事を好きらしいし、それに引っ張られてると思うけど、【俺】との折り合いがついてる訳じゃない。

 自分の気持ちすら整理がついてないのに、そんな事を頼むのは気が引けるんだよね…

 

 などと思い悩んでいるうちに侯爵邸に到着してしまった。

 

 …ま、いいや。

 なるようになるでしょ。

 

 

 

 侯爵邸を訪問するのはこの街に来たとき以来だ。

 

 カイトさんは侯爵邸としては広いほうじゃないって言っていたけど、私からすれば十分すぎるくらい広く感じる。

 

 邸の中に入ると、玄関ホールは3階くらいの高さまで吹き抜けになっており、左右には曲線を描く階段、天井には豪奢なシャンデリアが吊り下げられている。

 如何にも貴族の邸宅というイメージそのものだ。

 

 まだ開宴には時間があるらしく、私達は控えの間の方に通された。

 

「あ!みなさん、こんばんは。先にいらしてたのですね」

 

 通された控えの間には、既に『鳶』の面々が待機していた。

 

「カティアちゃん!それに皆さんも、こんばんは。それにしても…素敵なドレスねぇ…」

 

「あ、ありがとうございます。レイラさんにリーゼさんも、とても素敵ですよ」

 

「ふふ、ありがとう。でもやっぱりカティアちゃんには敵わないわ〜」

 

「そうですよね〜、私なんて地味ですし。憧れますよ」

 

「皆の注目の的になるわよ。ねぇ、カイト?」

 

「!…あ、ああ。そうだな、よく似合ってるよ」

 

「あ、ありがとうございます…カイトさんも素敵です」

 

 カイトさんも正装しているのだけど、とても様になっていて格好いい。

 いつもの冒険者のラフな格好だと精悍でワイルドな感じなんだけど、正装すると貴公子然としていて印象がガラリと変わる。

 貴族と言われても違和感が全くないだろう。

 

 それにしても…

 さっき、エスコートしてもらえって話をしてたからか、何だか無性に恥ずかしく感じるよ…

 そう言えば、いつもは化粧してないんだけど、今日は流石に正装なので薄っすらとだけど化粧してるんだよね。

 どう見えてるのかな…?

 お、おかしくないかな?

 

「ねえ〜、カイトくん〜。カティアちゃんのエスコートを〜お願いできないかしら〜?」

 

 はうっ!?

 姉さん、そんな、いきなりっ!

 

「俺がですか?そこは父親のダードさんなんじゃあ?」

 

「いやね〜、こんな厳ついオジサンよりも〜若くて凛々しい殿方の方が〜お似合いじゃない〜」

 

「…悪かったな、厳ついオジサンで」

 

「それとも〜、レイラちゃんかリーゼちゃんに決まってるのかしら〜?」

 

「あ、アタシはレダに頼んでます」

 

「私はザイルさんにお願いしてます」

 

「じゃあ〜、問題ないわね〜」

 

「…分かりました。俺で良ければ。と言うか、カティアはそれでいいのか?」

 

「は、はひっ、よろしくお願いしまふ!」

 

 噛んだ。

 

 もう、姉さんは強引なんだから…

 

 

 

 

 

 

 さて、もうすぐ開宴の時間という頃合いになり、使用人が控えの間にやって来て会場まで案内してくれる。

 

 私はカイトさんが差し出した肘に腕を回してエスコートされながら会場に向かう。

 

「カイトさん、すみません姉さんが急にこんな事を頼んで…」

 

「いや、かの有名な歌姫のエスコートができるとは、光栄なことだよ。ふふ、今日の公演、凄く良かったぞ」

 

「あ、見に来てくれたんですね!」

 

「ああ、うちの連中と一緒にな。レイラやリーゼなんか感激しきりだったぞ」

 

「楽しんでもらえて良かったです」

 

 今日みんな見に来てくれたんだね。

 嬉しいな〜、歌姫冥利に尽きるね!

 

 そんな話をしながら会場入りした。

 

 

 閣下は、招待客も身内みたいなものだし略式だからあまり儀礼とかは気にするなって言ってたけど、やっぱり少し緊張するね。

 

 高い天井から下がるシャンデリアは玄関ホールにあったものよりも豪奢なもので、会場を明るく照らしている。

 テーブルには様々な料理が既に準備されていて、美味しそうな匂いが漂っている。

 

 どうやら立食のバイキング形式みたいだ。

 これならあまり肩肘張らずに楽しめるかな。

 流石に自分で更に取るのではなく、それぞれの料理のところで待機してる給仕にお願いするみたいだけど。

 

「えと、いまいち立ち位置が分からないですね…」

 

「ああ、これなら席次とかもあまり関係ないし、この辺に居れば問題ないだろう」

 

「カイトさんは何だか慣れてますね?」

 

「ん?…まぁ、色々とな…」

 

 ふむ。

 あまり触れない方が良さそうだ。

 

 

 給仕の人がドリンクを運んで来てくれたので、ワインを…

 

「カティアちゃんは〜お酒はダメよ〜」

 

 …ジュースを手に取った。

 むぅ…

 

「私もお酒飲みたかった」

 

「まあ、懸命な判断だと思うぞ」

 

「カイトはちょっと残念かしらね?」

 

「…勘弁してくれ」

 

 レイラさんにそう返す彼は本当に勘弁してくれって感じで、カティアちゃん凹みます。

 やっぱりお酒は怖いね…

 

 私達以外の招待客も次々に会場入りしてきており、会場のざわめきが大きくなってきた。

 

 

 そして、侯爵様が奥様とお嬢様を伴って会場に入ってきた。

 

 いつもは粗野な雰囲気でとても貴族に見えないが、正装して堂々と入場する様は威厳に溢れて大貴族の風格を漂わせているのだから不思議なものだ。

 

 

「おう、楽にしてくれ。皆、領政議会はご苦労だったな。おかげで実りある議論が交わせたと思う。まだ議会は続くが、今夜はもう仕事の事はさっさと忘れて気楽に楽しんでいってくれ」

 

 普段私達と話すよりは幾分丁寧な感じだが、貴族の夜会の挨拶にしては随分と砕けた調子で挨拶をする。

 ちょっと安心した。

 

「ああ、それから…今日の議会でも話に上がっていたスオージの森の件。今日は、あの件を解決した冒険者のパーティー『エーデルワイス』と『鳶』の連中も招待している。現場の声を聞く機会もなかなか無いだろうし、是非とも交流を深めてくれ」

 

 え、めんどくさ。

 と思ったのは秘密だ。

 

 さ〜て、閣下の挨拶も終わったし、ご飯ご飯〜。

 いずれ挨拶には行かないとだけど、私達は下っ端のオマケだもんね。

 しばらくは美味しい料理を堪能させてもらいますよ!

 

 

 

 …と、思ったんだけど。

 何で閣下たち、こっちに向かって来るんですかね〜?

 こんな時までフットワークの軽さを発揮しなくても。

 

「おう、お前ぇら、よく来たな」

 

「何だ?いきなりこっち来ていいのか?」

 

「別に構わねぇよ。今日の招待客は馴染みの奴らばかりだしな。俺に顔繋ぎしてぇやつもいねぇし、まあ議会後の打ち上げみてえなもんだ。お前らも堅苦しい儀礼なんざ気にしねぇで美味いもんでもたらふく食って行きな」

 

「もとよりそのつもりだ」

 

「ふふふ、ダードは相変わらずなのね」

 

「おうよ。お前さんはすっかり侯爵夫人が板についてるじゃないか、リファーナ」

 

 あれ?父さんて、奥様とも知り合いなんだ?

 

 閣下とは大戦で一緒に戦ったとかとかなんとか。

 何で一傭兵なんかが貴族と肩を並べて戦ったのかは良くわかんないけど。

 

 リファーナ様は、艷やかな黒髪をアップに結い上げて、華美ではないが上品な雰囲気の紺色のドレスに身を包んでいる。

 穏やかな笑みを浮かべるその瞳の色は黒で、【俺】としては見慣れた色彩であるためか何となく親近感が湧く。

 

 あ、そうだ奥様にお礼しないと。

 

「奥様、ご無沙汰しております。…あの、このドレスありがとうございます。とっても素敵で感激しました」

 

「カティアちゃんご機嫌よう。ふふ、思ったとおり。とっても似合ってて素敵よ。ほら、周り見てご覧なさい。殿方の視線を釘付けにしてるわよ」

 

「いえ、そんな……あ、ルシェーラ様もお久しぶりです」

 

「カティアさんご機嫌よう。またお会いできて嬉しいわ。今日の公演もとっても素敵でしたわよ。本当に素晴らしい歌で、私、感激のあまり涙が出ましたわ」

 

「あ、ありがとうございます。そこまで仰って頂けるとは、歌手冥利に尽きると言うものです」

 

 ルシェーラ様は閣下のお嬢さん。

 お会いするのは二度目だが…やっぱり似ていない。

 いや、碧眼は閣下と同じなので『遺伝子が仕事してない』は言いすぎなんだけど…

 それ以外に閣下の要素はどこにも無いぞ。

 艷やかな黒髪と顔の造作は完全に奥様の遺伝だろう。

 

「そう言えば、奥様も以前から父のことをご存知なんですか?」

 

「あら?ダードから聞いてないのかしら?」

 

「んあ?…別にわざわざ話すようなことでも無いだろ?」

 

「はぁ…全く。あのね、うちの人とダードが大戦で一緒に戦ったと言うのは知ってるのよね?」

 

「あ、はい。それは聞いたことがあります」

 

「ふふ、そのとき私も一緒だったのよ。と言うか、ダードと同じ傭兵団だったのよ?更に言うと、ダードと私は従兄妹なの」

 

「えええっ!!?」

 

 マジか…

 どう見ても貴族の奥方って感じで、たおやかで、儚げな雰囲気は戦いとは全く無縁に思える。

 それが傭兵だった?

 信じられない…

 

 ていうか、従兄妹って…

 じゃあ、閣下と父さんて親戚ってことじゃないか!

 

 いろいろ設定盛り込み過ぎで理解が追いつかないよ。

 

「くくっ、信じらんねぇだろうがな、昔はそれはもう勇ましくてよ、戦場の死女神(しにめがみ)だ何だと言われててな。こんな細腕で大剣片手に暴れ回ってたんだぜ。俺もその姿にすっかり惚れ込んじまってなぁ。周りの反対を押し切って何とか妻に迎えたんだ」

 

 大剣を片手で振り回すのはうちの父さんくらいだと思ったよ。

 それに閣下の惚れるポイントがおかしい。

 

「ふふふ、昔の話よ。今ではすっかり鈍ってしまって…たまには運動し(あばれ)たいのだけどねぇ」

 

 ジョギングみたいなノリですね…

 

 

 

 

「ご歓談中失礼します。閣下、そちらの方達はもしかして…」

 

 そう言って、老紳士という感じの男性が私達の会話が切れたタイミングで話しかけてきた。

 

「ああ、そうだ。『エーデルワイス』の連中はかのダードレイ一座のメンバーでもある」

 

「おお!やはりでしたか。今日の公演は私も観覧させて頂き、感銘を受けました。…あ、申し遅れました、私はこのブレゼンタムの街で執政官の長をしております、マーキス=ブレッセと申します。畏れ多くも国王陛下より男爵位を賜っております」

 

「これはこれはご丁寧に。俺…私は一座の座長を務めておりますダードレイと申します。以後よしなに」

 

 何それ、気持ち悪っ。

 父さん似合わないよ。

 

「何だ気持ち悪ぃな…お前ぇずいぶん俺と態度が違うじゃねぇか」

 

「何を仰いますやら?私如き平民風情が侯爵閣下に無礼な態度など取るはずもないではないですか」

 

「やめねぇか、白々しい…」

 

「ほっほっほ、面白い御仁ですなぁ。閣下のご友人であらせられるのですから、私如きに畏まっていただく必要などございませんよ」

 

 へえ、ずいぶん理解がある方だねぇ。

 貴族の中には平民をあからさまに見下してる人も多いんだけど、閣下が身内って言うくらいだし、ここに来てる人は気さくな人が多いのかも。

 

「そうですかい?じゃあお言葉に甘えて。しかし侯爵サマよ。俺だってこれまで貴族サマ相手に挨拶やら接待やら対応してるんだぜ?気持ち悪ぃはねえだろが」

 

「似合わねぇんだよ」

 

 そうだよねぇ…

 似合わないものは似合わないよね。

 それに、貴族の対応は大体ティダ兄がしてた気がするし。

 

 

 

 

 

「そうそう、そちらのお嬢様は歌姫のカティアさんでしたかな」

 

「あ、はい。そうです。公演にお越しいただきありがとうございました」

 

「いえ、こちらも大変楽しませていただきました。特にカティアさんの歌は素晴らしく、大変感動いたしましたよ。それに、舞台上でも輝いておられましたが、何ともお美しい」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「なんだマーキス、年甲斐もなくナンパか?」

 

「ほっほっほ、私が後十年も若かったら放っておかないのですがね。それに、私だけこうして独り占めするのも気が引けますな。どうですかな、あちらの方で皆にお話を聞かせてやっていただけませんでしょうか?」

 

 あ、来ましたか。

 まあしょうがないか。

 これもファンサービスって事で…

 

「え、ええ、私でよろしけれは…」

 

 こうして、私はドナドナされて行った…

 

 うう、ご飯が…

 

 



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第二幕 2 『嫉妬』

 ドナドナされて行った先でいろいろな人を紹介され、入れ代わり立ち代わり挨拶したりされたり。

 

 奥様が一緒に付いてきてくれて、色々とフォローしてくださったので大変助かった。

 

 中には遠回しに私を口説いてくるような人もいて辟易したが、奥様がやんわりと牽制してくれた。

 …いや、もと傭兵なんてウソでしょ?なんて思ったよ。

 

 そんなこんなで一通り挨拶も終えたので、皆がいるところまで戻ることにした。

 

 ああ、やっと料理が食べられるよ…

 

 

 

 

 皆がいた辺りに戻って来ると…

 

 

 父さんは閣下と、他数人の招待客と話し込んでいる。

 ちょっと父さんは退屈そうだ。

 あくびなんかしないでよね。

 

 

 ティダ兄とアネッサ姉さんは二人きりの世界になってる。

 あ、何か『あ〜ん』とかやってる。

 桃色結界に阻まれて誰も近づけないだろう。

 …程々にね。

 

 

 ロウエンさんは料理に夢中だ。

 ふむ、私もそっちに加わろうかな。

 

 

 『鳶』の面々は料理を片手に集まって談笑してる。

 

 

 …あれ?カイトさんがいないな。

 どこに…

 あ、いた。

 一緒にいるのは…ルシェーラ様?

 

 

 

 カイトさんは優しげな笑顔で、時おり頷きながらお嬢様の話を聞いているようだ。

 お嬢様も凄く楽しそうで、それに何だか随分と親しげだ。

 美男美女が楽しく話をしている様子はとてもお似合いで、まるて恋人が語らうかのように見えた。

 

 (ズキン…)

 何だろう…

 胸が苦しい…

 楽しそうに談笑してる二人を見ると無性に悲しくなってしまった。

 

 その時、ルシェーラ様がこちらに気づいて、笑顔を向けてきた。

 何だろう、その微笑みは…

 私は何だかいたたまれなくなってしまい、気付かないふりをしてその場をあとにしてしまった。

 

 

 

 

ーー カイトとルシェーラの会話 ーー

 

「カイトさま、お久しぶりですわね」

 

「ああ、そうだな。元気だったか?」

 

「ええ、カイトさまもお変わり無いようで。お国にはまだ戻られないのですか?」

 

「…それは何とも言えない。積極的に戻るつもりもないしな」

 

「そうですか…ふふ、積極的に戻りたくない理由ができたのでしょう?」

 

「?何の事だ?」

 

「カティアさんの事ですよ。好きなんでしょう?彼女の事が」

 

「…はぁ、閣下か。困ったものだ」

 

「あら、お父様に聞くまでもなく、少し見ただけで分かりますわよ」

 

「…」

 

「どうなんですの?実際のところは?」

 

「…そうだな、惹かれている…とは思う。だが…」

 

「その気持ちだけで十分だと思いますわよ。あとは自分の気持ちに素直に、ですわ」

 

「…ふ、お前には敵わんな。全く、そう言うところ閣下にそっくりだぞ。いや、奥方様の方かな?」

 

「それは、二人の娘ですもの。あ…噂をすれば、カティアさんが戻って来られましたわね」

 

「ああ、やっと開放されたのか。奥方さまがついて行かれたから問題なかったと思うが」

 

「…あら、いやですわ」

 

「?どうした」

 

「なんだか誤解されたようで…ちょっと行ってきますわね」

 

「お、おい!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「はぁ、何で逃げて来ちゃったんだろ…」

 

 自分でも訳がわからず自問する。

 

 あの二人お似合いだよね。

 カイトさんと閣下って前からの知り合いみたいだし。

 お嬢様ともお付き合いがあっても不思議じゃないか…

 

 あ、そうか…

 嫉妬してるんだ、私。

 

 変なの。

 別に付き合ってる訳でもないのに。

 自分の中で、【俺】の意識の折り合いだって付いてないのに。

 馬鹿みたいだ。

 

 

 

「カティアさん、お待ちになって」

 

「へ?あ、お嬢様…」

 

 ちょっと一人になりたいと思ってたところに、お嬢様が話しかけてきた。

 カイトさん放っておいていいのかな?

 

「どうしたのですか?元気がありませんよ?」

 

「あ、いえ。何でもないんです」

 

「ふふ、私とカイトさまの事が気になってらしたのでしょう?」

 

「!い、いえ、あの、とっても素敵なお二人だなって…邪魔しちゃ悪いかと思いまして…」

 

「あら?どういう関係に見えたのかしら?」

 

「!…えと、お二人は恋人…とか?」

 

「…ぷっ!うふふふっ!あはははっ!」

 

 …笑われた。

 と言うか、正に深窓の令嬢って感じのお嬢様がお腹を抱えて笑ってるのがシュールだよ…

 

「ご、ごめんなさい…ふふ、カ、カティアさんが、あまりにも可愛らしくて…つい…ふふふ」

 

 まだ笑ってる。

 何なのさ、もう…

 

「はぁ…ふぅ、本当にごめんなさいね?あまりにも可愛らしい勘違いをされてるので、ついついからかってしまいましたわ」

 

「勘違い、ですか」

 

 ていうか、息が切れるほど笑わなくても。

 何かイメージが閣下に近づいてきたぞ?

 

 

「ええ、カイトさまは…そうですわね、私にとっては幼馴染のようなものですわ」

 

「幼馴染…」

 

「そう、それに私には婚約者がいるんですのよ?他の殿方に懸想してるなどと思われるのは些か問題ですわ」

 

「えっ?あ、あの、すみません…」

 

「ふふ、謝るのはこちらの方ですわ。からかってしまってごめんなさいね?」

 

「そ、そんな。勝手に勘違いしたのは私ですし…」

 

 ほんと、どうしてそんな勘違いしたのか…

 ちょっと冷静さを失ってたみたいだ。

 

「カイトさまの事、好きなのね」

 

「!…その、自分でもよく分からないんです。多分、好きという気持ちもあると思うんですけど…それを素直に認められない自分も居て…」

 

「そう…複雑な乙女心ですわね」

 

 いや、どっちかというと男心が問題なんです。

 最近めっきり萎んできてる気もするけど…

 

「まあ、これ以上他人がとやかく言うものでは無いですわね。でも、二人のことは応援してますわ」

 

「えと、ありがとうございます?」

 

 何か、お嬢様ってもっとこう、物静かで大人しいイメージだったんだけど、すっかり印象が変わったな。

 やっぱりあの閣下の娘さんなんだし、ただの大人しいだけのお嬢様じゃないって事だよね。

 

 …まさか、この人も大剣を片手で振り回したりしないよね?

 

 

 

「カティア、大丈夫だったか?」

 

「あ、カイトさん。うん、奥様も一緒だったし、皆さん親切だったし問題なかったですよ」

 

「そうか、良かった」

 

 現金なもので、先程の沈んだ気持ちはすっかりどこかに行ってしまった。

 

「うふふ、お邪魔虫は退散いたしますわ。ご機嫌よう〜(お母様に報告ですわ〜)」

 

「あ、ルシェーラ様…行っちゃった…」

 

「何を話してたんだ?」

 

「え?いや、大した事は…あの、今日の公演について、とか」

 

「そうか。何だか深刻そうな雰囲気だったから、何かあったのかと心配したぞ」

 

「ふふ、大丈夫ですよ」

 

 そっか〜、心配してくれたんだ、えへへ。

 

「あ、そうだ。カイトさん、閣下だけじゃなくてお嬢様ともお知り合いだったんですね。幼馴染って聞きましたよ」

 

「ん?幼馴染…まあ、そうだな。俺の父と閣下が親しくてな。それで昔から付き合いがあったんだ」

 

 おや?少し自分のこと教えてくれたね。

 そうやって、少しずつでも教えてくれたら嬉しいな…

 

 

 

「ふぅ、それにしてもお喋りしすぎて喉が渇いちゃいました。あ、すみません、飲み物頂けます?」

 

 結構知らない人と話すのに緊張してたのか、喉がからからだよ。

 ちょうと通りがかった給仕の人から飲み物を受け取る。

 

「ありがとうございます。…ゴクゴク。うん!美味しい、この()()()!」

 

 喉を潤すため、一息でグラスを空けてしまった。

 ちょっとはしたなかったかな?

 …ん?ワイン?

 あっ!?

 

「お、おい!?カティア、それは…!」

 

 ま、まずい!

 意識が!?

 ああ…薄れて…い、く…

 

 

 

 

ーーただいま暴走中のためしばらくお待ちくださいーー

 

 

 

「はっ!?」

 

「…正気に戻ったか?」

 

 えと?

 

 あ〜、そうだ、確か思わずワインを飲んでしまって…

 

 

 …やっちゃったかな?

 

 …やっちゃったね。

 

 今回は何故かカイトさんにお姫様だっこされてるわ…

 

 とりあえず床に立たせてもらって…

 

「またご迷惑をおかけしてしまったようで…申し訳ございません」

 

「…いや、俺も不注意だった。すまない」

 

「今回は〜何をしてたのか聞く〜?」

 

「いやっ!?聞きたくない!!」

 

 今回も[解毒]してくれたらしい姉さんが面白そうに聞いてきたが、断固拒否だ!

 黒歴史は封印するのだ!

 

「でも〜カティアちゃんが覚えてなくても〜私達はバッチリ覚えてるわ〜」

 

「いや〜っっ!!忘れてぇっっ!!」

 

 ああっ!?

 何か知らない人たちからも生暖かい目を向けられてるっ!

 

 

 

 くぅ〜、もう絶対にお酒は飲まないぞっっ!

 

 その日、またしても黒歴史を積み重ねたのであった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ん?

 あぁ、例の夢だな、これは。

 

「お兄ちゃん、こんにちは」

 

 やっぱり。

 

 声に振り向くと、予想に違わず小さなカティアがそこにいた。

 

 前回あった時は5歳くらいだっただろうか?

 今回も少しだけ大きくなってるみたいだ。

 

 

「こんにちは、カティアちゃん」

 

「あれ?お兄ちゃん…?ん〜?…お姉ちゃん?」

 

 ん?

 お姉ちゃん?

 

 カティアちゃんの言葉に違和感を覚えて自分の手を見る…

 

「あ、あれ?なんだこれ?ダブって見える…?」

 

「うん。お兄ちゃんと、お姉ちゃんが重なって見えるよ?」

 

「…う〜ん?どういう事だろ?」

 

「わかんな〜い」

 

 まぁ、そうだよね。

 

 でも、これはどういう状態なんだろ?

 

 

 …もしかして、【俺】自体がカティアの体と魂に影響を受けてきている…とか。

 

 …何となくそういう事のような気がする。

 今日だって変な誤解して嫉妬したりなんかしてるし……

 

 それは、良いことなのか悪いことなのか…

 

 いや、悪いことじゃないと思うけど、複雑ではあるな…

 

 

「お兄ちゃんでもお姉ちゃんでもいいや。今日もお話ししよ?」

 

 

「うん、そうだね。そうだ、いま公演をやっててね…」

 

 

 そうして、いつものように私が起きるまで話をするのだった。

 

 

 

 



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第二幕 3 『報酬』

 黒歴史となった夜会からはや数日。

 公演はその日程の殆どを消化し、明日の休演日を挟んで残るはあと三日を残すのみとなった。

 

 今日の公演を終えたあと、例の『異界の魂』の件でパーティーを組んだ皆とギルドを訪れる事になった。

 

 思いがけず重要案件となったため時間がかかっていた査定が、ようやく終わったとの連絡が入ったのだ。

 

 

「随分と時間がかかったね、父さん」

 

「そうだな。これほどかかるのはそうそう無い事だ。まあ、俺らが了承したというのもあるが、情報共有とか事後処理諸々を優先したってのもあるだろうな」

 

「そうだね。あんなのがまだ他にも現れるかもしれないのだから、早く共有しておかないと。侯爵様も大変みたいだね」

 

「ああ、何でも近々王都に行って直接報告することにしたらしいぜ。もちろん事前に報告は上げてるんだろうが、どのみち国の上層部も交えて対策練らなきゃならんだとさ。社交シーズンでもねぇのにめんどくせぇ、なんて愚痴ってたよ」

 

「ふふ、面倒くさいなんて言ってても、結構細やかな気配りされるよね、閣下って」

 

「顔に似合わずな」

 

 褒めてるのか貶してるのかよく分からない会話をしながら歩いていると、ギルドに到着した。

 

 

 

 今日は午前午後と公演があって、終わってからも後片付けやミーティングなどをしていたため既に夕暮れ時だ。

 

 ギルドとしては一番忙しい時間帯だが、特殊な案件の応対と言うことでカウンターには並ばずに別室での対応となるみたい。

 何だか他の人たちに悪いね。

 

 

 中に入ると、こちらに気づいたスーリャさんがやって来た。

 

「皆さん、ようこそいらっしゃいました。今回はお待たせしてしまって申し訳ありませんでした」

 

「あ、いえ。私達は別に急ぎじゃないですし。皆さんの方こそ大変だったのでは?」

 

「ふふ、大丈夫ですよ。確かにやるべきことは色々ありましたが、侯爵閣下やギルド長が的確な指示をしてくださいましたから。さあ、ご案内致しますね、こちらへどうぞ」

 

 そう言って案内されたのは、前回報告した時と同じ部屋だ。

 中に入ると既に侯爵閣下とギルド長のガルガさん、『鳶』の面々が待機していた。

 

 …というか、また閣下もいらしてるんだ。

 

「おう、来たかお前ら」

 

「あん?何でまた侯爵サマが来てるんだ?」

 

「今回はたまたまだ。例の件で俺ぁ王都に行かなきゃならんからな。後事のことを各所に根回ししてるところだ。まあ、せっかくだから査定の結果を聞かせてもらおうとな」

 

 そんなに忙しいのにマメだよねぇ…

 

「では、皆揃ったようだし査定結果を報告するとしよう。まず、報酬金額だが…『鳶』『エーデルワイス』双方の報酬を合算して両パーティーの人数で按分という事だったな。それはいいな?」

 

「ああ、問題ない」

 

「ええ、その認識で合ってます」

 

「では報酬の内訳だが、もともとの『鳶』への調査依頼報酬が金貨5枚、侯爵閣下の指名依頼分で50枚、更に国からの報奨金が出ている。これが金貨20枚。すべて合わせて75枚。…一人あたり金貨7枚と半金貨1枚だな」

 

 わぉ!かなりの額になったね。

 

 それにしても、閣下の指名依頼分が凄い額だ。

 基本額が金貨10枚だったのに…

 相当高く評価してくれたんだね。

 閣下には感謝しないと。

 

 それと、国からも報奨金があるのか。

 まあ、今後発生するであろう驚異に対して、有用な情報提供と対策の道筋がついたのだから、そういうのがあってもおかしくないか。

 

 

「そんなに…これはカティアちゃんに感謝しないとだね」

 

「何を言ってるんですか、今回無事に解決できたのは皆の力があってこそですよ!」

 

「その通りだ。確かに最後の決め手はカティアだっただろうが、そこに至るまでの道筋において皆が持てる力を最大限活かしたからこその結果だろう。侯爵閣下も仰っていたが、自分の成した仕事を誇るといい」

 

「「「はいっ!」」」

 

 そうそう、仮に最初から(シギル)の力に目覚めてたとしても、私一人の力じゃどうにもならなかったんだし。

 

「うむ。では次に貢献度の方だが、これも全員で均等に按分という事だったな。では手続きをするのでギルド証をいったん預けてもらえるか。スーリャ、頼む」

 

「はい。では皆様、お預かりしますね」

 

 そう言ってスーリャさんが皆からギルド証を回収して、部屋から出ていった。

 

「よし、そこまで時間はかからんだろうから少し待っててくれ。それから今回の貢献度の加算によって、カイト以外の『鳶』のメンバーはBランクへの昇級資格を得ることになるはずだ」

 

「え!本当ですか?やった〜っ!」

 

「もちろん昇級するには試験を受けてもらう必要があるが、まあお前たちなら問題あるまい。近日中に昇級試験を受けるのなら、このあと下で手続きしていってくれ」

 

 

 おお、これでここにいる面子は全員がBランク以上って事になるんだね。

 私はこの間Bに昇級したばかりなので、次の昇級は相当先の話だろう。

 Aランクは実質的な最高ランクだから、そこまで昇級するのは並大抵の道のりではない。

 

「ああ、あとアネッサとロウエンはAの昇級試験は受けないのか?大分前から昇級資格自体はあるみたいだが…」

 

 そう。

 実は姉さんとロウエンさんはとっくにAに上がれるはずなんだけど、試験受けてないんだよね。

 

「う〜ん、正直昇級のメリットをあまり感じないんスよねぇ…」

 

「同じく〜。変な二つ名付けられるのも嫌だし〜。うちとしてはダードさんとティダが居れば十分なのよね〜」

 

 二人はそう言っているが、もちろんメリットは色々ある。

 受けられる依頼はほぼ制限が無くなるし、ギルドが保有する資料などの閲覧権限も殆ど無制限となる。

 あと、Cランク以上のギルド員が引退すると、その功績に応じて手当…退職金みたいなものが貰えるんだけど、Aともなればその金額も相当なものになるはずだ。

 その他にも細々したメリットがある。

 

 むしろデメリットはほとんど無いのだから、資格を得たら試験を受けるのが普通だ。

 

 まあ、うちは兼業だからね、それほどメリットを感じないというのは分からなくもない。

 姉さんが言うように身内に既に二人もいるし…て事なんだろう。

 

 後は…二つ名ね。

 父さんの『剛刃』とか、ティダ兄の『閃刃』とか。

 父さんは大分嫌みたいだけど、姉さんもそんなに嫌なんだ…

 厨二病みたいで恥ずかしい、って感覚はこの世界にもあるみたいだね。

 

「姉さんに仮に二つ名を付けるとしたらどう言うのになるのかな?」

 

 思わず私が呟くと…

 

「『超絶可憐な一輪花』とか」

 

「もう〜ティダったら〜恥ずかしいわ〜」

 

「「「…」」」

 

 ティダ兄のぶっ飛んだネーミングに、いやんいやん、と姉さんが恥ずかしがるが、とても嬉しそうである。

 それで良いのか…

 

 

 

 そんな馬鹿話をしているうちに、スーリャさんが戻ってきた。

 

「お待たせした。全員分の手続きが完了しました。今回の貢献度の加算により、レダさん、ザイルさん、レイラさん、リーゼさんはBランクへの昇級資格を得ています」

 

 ガルガさんが言っていた通り、『鳶』の4人が正式に昇級資格を得たようだ。

 

 

「よし、これで今回の件は全て片付いたな。まぁ、俺ぁまだいろいろあるんだがよ」

 

「閣下はいつ王都に向かわれるんです?」

 

「5日後だ。俺一人だけなら飛竜でも手配してさっさと出発しちまうんだがな。流石にそうもいかねぇ」

 

 迅速果断の閣下らしいけど、侯爵ともあろうお方が供も連れずに、と言うのはありえないだろう。

 まあ、街中で見かけるときは、供なんかいたためしがないんだけども。

 

 ブレーゼン領はイスパル王国の西の辺境であり、王都までは数週間はかかるだろう。

 

「そうですか…道中お気を付け下さいね」

 

「おう、ありがとうよ。まあ街道を行く分には問題ねえさ。近辺の生態系も戻りつつあるしな」

 

「せいぜい大人しく護られている事だな」

 

「全く、事務仕事ばかりで体がすっかり鈍っちまってるぜ…」

 

「ははっ、手合わせならいつでも受けて立つぞ」

 

「お前ぇの馬鹿力にゃ、もうついてけねぇよ。…さて、そろそろ俺ぁ戻るかね。…あぁ、そうだ。カイト、カティア、明日時間取れるか?」

 

「ええ、特に予定はありませんが…」

 

「私も。明日は休演日なので大丈夫です」

 

「そうか、良かった。ルシェーラが話があるって言ってたんだ。時間があるならうちに来てくんねぇか」

 

「承知しましたが…どのような話なのでしょうか?」

 

「いや、それが俺には教えてくれねぇんだよ…」

 

 …閣下にはナイショの話?

 なんだろ?

 まあ、行ってみれば分かるか。

 

「分かりました。いつ頃お伺いすれば良いのですか?」

 

「何時でもいいと言ってたから、お前ぇらの都合で構わねぇだろ」

 

「じゃあカイトさん、待ち合わせして行きましょうか」

 

「ああ、そうだな」

 

 と言うことで、明日はカイトさんと侯爵邸に伺うこととなった。

 

 

 

「それじゃあ、俺達も帰るか。そうだ、カイト達、一緒に飯食ってかねぇか?」

 

「ああ、いいですね。下の食堂ですか?」

 

 父さんの誘いに、カイトさんと、『鳶』の他の皆も了承の意を返す。

 

「そのつもりだ。お前らはどうする?」

 

「あ、私も一緒に食べてくよ」

 

「同じくッス」

 

「すまん、俺とアネッサはリィナが待ってるから帰らせてもらう」

 

 あ、それはそうだ。

 リィナ放って食べて行く訳にはいかないね。

 

「そりゃそうか。じゃあ、ティダとアネッサ以外は行くってことで。じゃあ、ギルド長。俺らもこれで失礼するぜ」

 

「ああ。では、またな」

 

 そうして、私達はギルド長の前を辞して階下の食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!?解散…ですか?」

 

 ギルド併設の食堂で食べながら話をしていたのだが、驚くべき話を聞いた。

 

「ああ、『鳶』は今回の件の完了をもって解散することになった」

 

 そう。

 カイトさん達のパーティー、『鳶』を解散するというのだ。

 カイトさん以外のメンバーも頷いていることから、突然今になって出た話ではないみたいだ。

 

「えっと…何でですか?それぞれの役割が明確で、パーティーとして凄く完成されてると思うのですけど…皆さん仲も良いですし」

 

「ああ、別に不満があって、という訳じゃないんだ。以前からそう言う話はしてたんだ。全員Bランクになったら解散するってね。まあ、試験受けた訳じゃないからまだ昇格はしてないんだけど。多分大丈夫だと思うよ」

 

 私の疑問にザイルさんが答えてくれた。

 喧嘩別れじゃないのは安心したけど、なんでうまく行ってるパーティーを解散させるのかはよく分からない。

 

「今カティアちゃんが言った通り、うちのパーティーって一人ひとり役割が明確なんだけど…それってつまり、いつも自分がやる事が決まってるって事なのよ」

 

「でも、それこそがパーティーが目指すべきかたちなんじゃ…」

 

「カティア、こいつらはな、現状に満足するのでは無くより高みを目指すって言ってるんだよ。確かにパーティーとしては完成されてるかもしれねえがな。個人の成長としては頭打ちになっちまう…そう考えてんだろ?」

 

「ええ、そういう事です。お互いの成長のためにそれぞれ別の道を歩む。その先でまた一緒に組むこともあるかもしれないですけどね」

 

「そっかぁ…皆さんそこまで考えてるんですね。すごいなぁ…」

 

「ふふ、カティアちゃんみたいに何でも高レベルでこなせるのが理想的だけど、流石にそれは高望みね」

 

 みんな向上心があるよね。

 私も見習わないと。

 

「それで、皆さんもう次のパーティーは決まってるんですか?」

 

「いや、解散するのを決めたのは今日だからな。掲示板のパーティー募集とかを見てこれから検討だな」

 

「あ、私は一度『学院』に行こうかな、と」

 

「学院…?ああ、神代魔法の件ですか?」

 

「はい。カティアさんからヒアリングさせて頂いて色々と整理がついたので、本格的に論文にしようかと思いまして」

 

「そう言えば、リーゼさんは何で冒険者をしていたのですか?」

 

「そうですね…そこまで深い理由はないんですけど。私って魔法が好きなので、それを実践で活かしてみたいと思ったんです。あとは、冒険者をやってると遺跡とかダンジョンとか行く機会があるじゃないですか。そうしたところで新たな発見が得られるかも、とか夢見たりしてたんですよ。実際、冒険者をしてたからカティアさんに出会って、神代魔法の一つが明らかになりましたし」

 

「お役に立てて良かったです。まあ、私はオキュパロス様に教わっただけですけど」

 

「いえ、そもそも神々と直接話ができる事自体が稀有な事ですから…」

 

「でも、せっかくお知り合いになれたのに、寂しくなりますね…」

 

「ふふ、番号も交換しましたし、お手紙のやり取りはできますよ。それに、私の実家はブレーゼン領なのでまた戻ってくるつもりですし」

 

 リーゼさんが言う『番号』というのは、各ギルド員が持つ固有の番号の事で、この番号さえ分かれば特定の居住地を持たなくてもギルドを通じて手紙や伝言などのやり取りが可能なのである。

 

「そうですか。じゃあまたお会いできる日を楽しみにしてます」

 

「ええ、私も。研究で何か成果が出たらカティアさんにもお知らせしますね」

 

 うん、楽しみに待ってます。

 

 

 

 

「よし、ここは『鳶』の連中の再出発を祝して俺が奢ろうじゃないか!」

 

「やった!父さん太っ腹!」

 

「何便乗してんだ、お前は自腹だ」

 

「ちぇ〜っ」

 

 ちゃっかり便乗しようと思ったけど、あっさり却下されてしまった。

 

「ダードさん、そんな…報酬だって融通してもらったのに」

 

「何言ってる、ありゃあ正当な分け前って話だろ。遠慮すんな」

 

「そうだよ、カイトさん。遠慮しないでじゃんじゃん頼んでね」

 

「お前えが言うな」

 

「「あははは!」」

 

 

 

 そうしてまた、楽しいひと時が過ぎて行くのだった。

 



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第二幕 4 『侯爵令嬢の依頼』

 今日は休演日だ。

 

 昨日侯爵様から話があったように、ルシェーラ様を尋ねるためにカイトさんと待ち合わせして朝から侯爵邸を訪れている。

 

 現在はカイトさんとともに部屋に通されてお嬢様がいらっしゃるのを待っているところだ。

 

「お嬢様の話って何ですかね?」

 

「さあ…何だろうな?俺とカティアに、と言うのがよくわからないな」

 

 私とカイトさん…

 う〜ん、夜会のときにあんな話をしてたけど、何か関係あるのかなぁ?

 

 

 

 そうして待つことしばし、私達が待つ部屋のドアがノックされ、お嬢様がいらっしゃった。

 

「失礼しますわ。カイトさま、カティアさん、お待たせしてしまって申し訳ありません。それに、突然お呼び立てしてしまって…」

 

 と、開口一番に謝られた。

 侯爵家のお嬢様なのに平民の私に対しても丁寧で、分け隔てが無いのは閣下と同じだね。

 

 …口調は真逆だけど。

 

「あ、いえ。大丈夫ですよ、ちょうど今日は休演で予定もありませんでしたし」

 

「ああ、俺も特に予定は無かったから大丈夫だ」

 

「そう言ってもらえると助かります」

 

「それで、話というのは?」

 

 カイトさんが早速用件を尋ねる。

 幼馴染と言うだけあって、閣下に対するより随分と気安い感じだ。

 

「はい、実はお二人にお願いがありまして。その…私を冒険者の活動に連れて行ってほしいのですわ」

 

「…は?」

 

 思わず素で聞き返してしまった。

 

 え?何で?

 

「…また突拍子もないことを」

 

「ちゃんと理由はありましてよ?…わが家は代々武勇で名を馳せていますから、私も少しでも実戦経験を積みたいのです。お父様も先の大戦の功績で昇爵しましたし。それに、今は平和ですが、またいつグラナが侵攻してくるかも知れません。もしそうなった時、私とて貴族の責務として戦場に立つかもしれませんから」

 

「そういう事は兄上の役目だろう。それに、冒険者の活動…この場合お前が求めてるのは魔物とか盗賊の討伐だろうが、それと戦場では全然勝手が違うだろう」

 

 あ、お兄さんがいるんだ。

 でも、ブレゼンタムでお会いしたことはないし、遠くにいらっしゃるのかな?

 

 それにしても、戦争か…

 そうだよね、今は確かに平和だけど先の大戦もグラナ帝国は撤退しただけだから、また侵攻してくるかも…

 

「それはそうですけど、現状では戦場を経験することなんてできませんし、実戦経験なんて魔物討伐くらいしかありませんわ」

 

「はぁ…貴族が戦場に立つと言ったって指揮官としてであって、普通は直接戦闘なんてしないだろ」

 

「心構えの問題ですわ。それに、お父様はダードレイおじ様と肩を並べて戦ったって仰っていましたわ」

 

「閣下は特殊だろ…」

 

(それに、カイトさまだって…)

 

 ん?よく聞こえなかったけど…?

 

「んんっ!…まあ、お前の話は分かった。だが、閣下の許可が無ければ了承はできかねるな」

 

 そうだよねぇ…

 お嬢様が大怪我でもしたら大問題だろうし、責任取れないよ。

 

「…お母様の許可はもらってますわ」

 

「いや、閣下の許可が無ければ俺達が安心できん」

 

 コクコク。

 同調して頷いておく。

 

「うっ…わ、分かりましたわ。何とかお父様の許可も頂いて見せますわ。そうしたら受けてくださいます?」

 

 何だか無理やりにでも許可を取り付けそうな気が…

 だが、それよりも…

 

「あの〜…失礼ですが、そもそもお嬢様って戦えるんですか?」

 

 いかにも深窓の令嬢ってイメージのルシェーラ様が戦うところが想像つかない。

 でも、奥様の例もあるしなぁ…

 

「もちろんですわ。これでもお母様に手解きを受けているのですわよ」

 

「…こう見えてなかなかのもんだぞ。実力は俺も保証する。まあそうだな、もし閣下の許可が取れたならば俺は受けても構わん」

 

 へえ…カイトさんが保証するなら問題ないかな。

 

「じゃあ、私もいいですよ。でも明日からまた公演があるので、その後になりますけど」

 

「分かりましたわ!お父様が王都に発つ前に何としてでも許可を取り付けますわ!」

 

 そう言って、お嬢様は両手の拳を握って、むんっ!て感じで気合を入れるのだった。

 

 ホントに大丈夫なのかなぁ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 お嬢様の話を聞いたあと、少しお話したりお茶を頂いたりしてからお昼前に侯爵邸を後にした。

 

「何かおかしなことになりましたね?」

 

「そうだな…全く、一度言い出したら聞かないからな。閣下も苦労されるよ。それに、何だかんだ理由をつけてたが、あれは単に冒険に出たいだけだな」

 

「いかにもお嬢様ってイメージだったから、大分印象が変わりましたよ」

 

「ふ、見た目はあんなだが、中身は間違いなく閣下と奥方様の気性を受け継いでるよ」

 

「そうみたいですね…今日これからどうします?」

 

「そうだな…ギルドに行っておあつらえ向きの依頼が無いか見ておくか?」

 

「ああ、何だかんだで許可取っちゃいそうですしね…」

 

 

 

 

 

 

 

 と言う事で、ギルドにやってきました。

 

 今は昼間なので人はそんなにいない。

 

 二人で依頼掲示板の方に向う。

 さて、何か良い依頼はあるかな?

 

「討伐依頼ですよね…何があるかな?」

 

「そこそこ歯応えがないと、あいつは納得しなさそうだな…」

 

 そこそこ、ねぇ…

 

 定期駆除とかだとあまり手応えはないかな…

 それ以外だと、そもそも討伐依頼って比較的緊急性が高いことが多いからこの時間に来てもあまり残って無いんだよね…

 

「依頼受けるにしても数日後だから、通常の討伐依頼を見てもあまり意味はないですかね…」

 

「そうだな…ん?これなんかどうだ?」

 

 と、カイトさんが一つの依頼を指差す。

 どれどれ…?

 

「ブレゼンタム東の地下遺跡内の魔物駆除。期間は一ヶ月以内。魔物の脅威度はCランク程度の想定…ふむふむ、良さそうですね」

 

 内容的にはちょうど良さそうに思える。

 

 しかし、ブレゼンタムから東の遺跡…もしかしてアレかな?

 ゲームにもあった、その名もズバリ『ブレゼンタム東部遺跡』

 【俺】がプレイしてた頃は、特にイベントとか強力な魔物がいるとかでもなく、規模もそれほど大きくなかったと思う。

 

 お嬢様の実力は分からないけど、カイトさんが保証するくらいなら脅威度Cは問題にならないかな?

 

「コレ、受注します?期限も長いですし」

 

「そうだな…他に適当なものもないし、これにするか」

 

 そう言って、カイトさんは依頼票を掲示板から剥がした。

 そして二人でカウンターの方に向う。

 今は人が少ないので、すぐに受付できそうだ。

 毎度お馴染みのスーリャさんが受付にいたので、そちらに向かった。

 

「スーリャさん、こんにちは!」

 

「こんにちは、カイトさん、カティアさん。本日は依頼の受注ですか?」

 

「ええ、そうです、こちらを…」

 

 カイトさんが先程掲示板から剥がした依頼票を渡す。

 スーリャさんはそれを確認しながら、タブレットのようなものを操作する。

 

 …そう言えばあのタブレットみたいなやつって魔道具なんだろうけど、どうなってるんだろ?

 この世界って所々で結構ハイテクなんだよな…

 

「ブレゼンタム東の地下遺跡…先日発見されたばかりの古代遺跡ですね。調査隊が組織されているのですが、安全確保のための駆除依頼と言うことです。特に受注条件はありませんし、お二人であれば戦闘技能も問題ありませんので受注可能です。では、手続きいたしますので、ギルド証のご提示をお願いします」

 

 ふ〜ん…先日発見されたばかり、か。

 ゲームの時はそこまで価値がある場所とは思ってなかったけど、現実には考古学的・学術的な価値とか色々あるんだろうな。

 

「あ、そうだ、スーリャさん。今回の依頼ですが、俺たち以外の同行者もいるんですけど、それは問題ないですか?」

 

 あ、そうだ。

 肝心なとこだね、それは。

 何か規則とかに抵触するかもしれないし、ちゃんと確認しないとね。

 

「同行者…ですか?まあ、ギルド員以外の方に協力を仰ぐケースもありますし、特に問題にはならないはずですけど…人脈を駆使して問題解決を図るというのも資質の一つとみなされてますし。ちなみに、どのような方なんですか?」

 

「…あ〜、まぁ、その。閣下の関係者と言うかなんと言うか」

 

「…もしかして、ルシェーラ様ですか」

 

「えっ!?どうして…?」

 

 濁したのにピタリと言い当てられた。

 

「以前、冒険者登録をお願いされたのですよ。閣下に見つかって却下されてましたけど」

 

「あはは…」

 

 私達に依頼する前に自分で何とかしようとしてたんだね…

 閣下に似てフットワーク軽いんだろうな…

 

「でも、大丈夫なんですか?お嬢様を連れ出すなんて…」 

 

「ええ。だから、条件として閣下の許可がもらえたら、と言うことにしています。まあ、許可が出なかったら俺達だけで向かいますよ」

 

「なるほど、分かりました。では、このまま手続き進めますね」

 

 

 

「そうだ、スーリャさん。その遺跡の詳しい場所を教えてもらえます?」

 

 ゲームで存在を知っていても、現実のこの世界では縮尺も違うし、正確な場所が分かるわけではない。

 

「はい、少々お待ちください」

 

 そう言ってスーリャさんはカウンターの下から地図を取り出した。

 ブレゼンタムの周辺地図だ。

 それを広げて説明をしてくれる。

 

「ブレゼンタムの東の街道を進んで、一時間ほど進んだところから北に入って…この辺りですね」

 

 あれ?

 たしか、そのあたりは…

 そうだ。

 魂を損傷した【私】が倒れていた平原だ。

 

「この辺りに小さな川が流れてるのですが、それを辿って上流の方に進むと古代の街の遺跡があります。この遺跡自体は以前から知られているのですが、先日発見されたと言うのは地下に通じる入り口の事ですね。街の一番大きな通りを進んでいくと突き当りに神殿跡地のような場所があり、そこに地下への入り口があります。神殿跡地には調査隊が滞在してるとの事ですので、詳しくはそちらで確認してください」

 

 うん、確かにあの草原には小川が流れていたね。

 その上流域にある、と。

 

「ありがとうございます。その辺りならこの間採取で行きましたから分かると思います」

 

「ああ、そうなのか。じゃあ案内はカティアに頼めるな」

 

「ええ、お任せください」

 

 

 

「はい、では依頼の受注手続きが完了しました。期限は一ヶ月以内ですので、それまでに対応と報告をお願いします」

 

「ありがとうございます。では、私達はこれで失礼しますね」

 

 依頼を受注した私達はギルドを後にした。

 

 

 

 

 

「じゃあ、あとはお嬢様の連絡待ちですかね?」

 

 ギルドを出たところでカイトさんに確認する。

 

「ああ。出発はカティアの公演が終わってからだな」

 

「そうですね。あ、そうだ。日帰りで行けますかね?」

 

「どうだろう?徒歩だと片道4〜5時間くらいか。その遺跡の規模によっては野営も考えないとだが…しまったな、聞いておけば良かったよ。全く、調査専門だったのにそんな初歩的な情報収集を怠るとはな…」

 

「あ、確か地下5階層で1階辺りの広さもそこまで広くなかったと思いますよ」

 

「何だ、知ってるのか?」

 

 あ、まずっ。

 思わずゲームの知識から答えちゃった。

 現実とはズレがあるかもしれないのに。

 

「あ、えっと、噂でそんな話を聞きまして!でも、ちゃんとスーリャさんに聞いておいたほうが良いですね!」

 

「あ、ああ、そうだな。じゃあ聞いてくるよ」

 

「あ、一緒に行きますよ。それにもうお昼だし、どこかで食べてきましょうよ」

 

「そうだな、昼にはちょうどいい時間だな」

 

 再びギルドに入って遺跡のことをもう少し確認してから、今度こそギルドを後にした。

 

 そして、以前行ったオープンカフェで一緒に食事をしてからカイトさんとは分かれた。

 



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第二幕 5 『千秋楽』

 さて、ブレゼンタムでの第5回公演は盛況のうちに千秋楽を迎えることとなった。

 

 この街は辺境近くとは言え人口規模はそこそこ多いし、東西南北に街道が伸びる交易都市でもあるから外から訪れる人も多い。

 だから、これまで何回か公演を行っているが、未だ客足は衰えていない。

 

 色々なところを旅するのも好きだけど、この街にも愛着が湧いてきてるし、以前侯爵閣下が仰っていたようにこの街に腰を落ち着けるのも良いのかも。

 父さんもそう思ってるかもしれない。

 

 

 

 

 

 そして、全ての演目が無事に終わり、今はメンバー一同が舞台上に上がって最後の挨拶をしている。

 喋るのは、座長である父さんや、ティダ兄やアネッサ姉さんなどの人気のあるメンバーで、私もその中に入ってる。

 

 

 何人か挨拶していき、やがてロゼッタさんから集音拡声の魔道具(マイク)を受け取ってハンナちゃんが前に出ると一際大きな歓声が上がる。

 おお、凄い人気だね!

 デビュー早々、順調な滑り出しでお姉ちゃんも嬉しいよ…(ホロリ)

 

 ハンナちゃんは大きな歓声にビクッとなって、少し緊張している様子。

 がんばれっ!

 

『え、え〜と…皆様、本日は私達の公演にお越し下さいまして、本当にありがとうございます!わ、私は今回が初めての出演で、拙いところがあったかもしれませんが、一生懸命演じさせていただきました!最後まで頑張れたのは、皆さんの暖かい声援があったからこそだと思っております!これからも応援よろしくお願いします!ありがとうございました!』

 

「「ハンナちゃ〜んっ!!!」」

「「がんばれ〜っ!!」」

 

 うんうん、素晴らしい挨拶だね。

 

 っと、次は私か。

 

 どぉっ!とハンナちゃんに負けないくらいの歓声が上った。

 ふふふ、まだまだ負けませんことよ!

 

『え〜、皆様。本日はご来演頂きましてありがとうございました。わが一座の公演はいかがでしたでしょうか?』

 

「「最高だったぞ〜!!」」

「「カティアちゃ〜んっ!!」」

 

『ありがとうございます!皆さんの声援が何よりの力となります!今回の公演は本日をもって終了となりますが、また皆様とお会いできる日を楽しみにしております。今日は本当にありがとうございました!』

 

「「カティア〜っ!!!」」

「「またやってくれよ〜っ!!」」

「結婚してくれ〜っ!!」

 

 …何か変なのが聞こえた。

 あ、ボコられてる…

 

 

 と、ともかく、千秋楽も無事に終えて、これで一段落したね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千秋楽の打ち上げが『金の麦穂亭』を貸し切って行われている。

 

 …何か最近やたらと打ち上げとかやってる気がするな。

 

 

 私はもちろんお酒は禁止です。

 ハンナちゃんと一緒にジュースです。

 ちぇっ…

 

 あとは、リィナや一座の他の年少組も一緒のテーブルだ。

 私は成人してるけど、一座の面々にしたら子供であることは変わらないからね。

 年少組リーダーって事らしい。

 

 

「ハンナちゃん、お疲れ様〜」

 

「カティアお姉ちゃんも、お疲れ様です〜」

 

「お姉ちゃんたち、お疲れさま〜」

 

 皆でコップをカツン、と打ち鳴らして乾杯する。

 

「いや〜、今回はなんと言ってもハンナちゃんだよね〜」

 

「うん、ハンナお姉ちゃん素敵だったよ〜」

 

「そ、そんなこと…カティアお姉ちゃんなんていつも素敵だし…」

 

「ふふ、ありがと。でも、やっぱり今回はハンナちゃんが一番輝いてたよ。今回がデビューとは思えなかったよ。シクスティンさんも今後が楽しみだって褒めてたよ」

 

「えへへ〜、ありがとう、お姉ちゃん。でも、すっごく緊張したけど、お客さんに喜んでもらえたのが嬉しいな」

 

「そう、その気持ちがあるなら今後も頑張れそうだね」

 

「うん、一座に入れてもらって本当に良かったと思う。みんな優しいし、家族みたいに思ってるよ」

 

「そうだね、私もハンナちゃんの事は妹みたいに思ってるよ」

 

「私も、お姉ちゃんが二人もいて嬉しいな」

 

 うんうん、仲良きことは美しきかな。

 

 

「ちぇ〜、いいなぁ、姉ちゃんたちは。俺も早く大人になりたいな〜」

 

 と、ちょっと不満げに話すのはアルベルトくん(9歳)だ。

 一座のメンバーを両親に持ち、早く舞台に上がりたい…と言うか、どちらかと言うと冒険者になりたいらしい。

 

「アルくんは冒険者になりたいんでしょ?」

 

「うん!やっぱ男は冒険だよな!とーちゃんやダードおじさんたちから色々教わってるんだぜ!スジがいいって褒められたんだ!」

 

 まあ、ある意味サラブレッドだもんね。

 …脳筋役者にならなきゃいいけど。

 

 

「リィナは?舞台に上がってみたいって思うの?」

 

「うん!私、カティアお姉ちゃんみたいに歌を歌いたいな!」

 

「お、嬉しいこと言ってくれるね。お母さんと一緒に演劇に出るのは?」

 

「それもやりたい!」

 

「そっか〜、リィナは頑張り屋さんだから、きっとなれると思うよ」

 

「そうそう、リィナがデビューしたら私なんかよりよっぽど人気が出ると思うわ」

 

「そんな事ないよ、ハンナお姉ちゃん。凄く素敵だったし、私、劇に出るならハンナお姉ちゃんみたいになりたいって思ったもん」

 

「そ、そぉ?えへへ〜、嬉しいな〜」

 

 この二人と一緒に舞台に上がる日が来るのが楽しみだね。

 …私は越えられない壁(シクスティン)があるんだけど。

 うう…リィナにも演劇デビュー抜かれるかも…

 

 

「ねえねえ、カティアお姉ちゃんって、何歳の時に舞台に上がったの?」

 

 と、ハンナちゃんが聞いてきた。

 

 え〜っと、確かあれは…

 

「おや、お前たち、随分と懐かしい話をしてるじゃないか」

 

「あ、ミディットばあちゃん!お疲れさま〜」

 

 会場の後片付けや何やらで遅れて来ることになってたばあちゃんがいつの間にか私達のテーブルまで来ていた。

 

「ああ、ありがとうよ、カティア。ハンナもお疲れさまだったねぇ」

 

「おばあちゃんもお疲れさま。ごめんなさい、手伝いもしないで」

 

「いいんだよいいんだよ、あたしゃあ裏方しか出来ないんだし、それが仕事なんだからねぇ。それよりも、カティアが初めて舞台に立ったのは何歳だって話だったかい?」

 

「あ、そうそう。カティアお姉ちゃんって私とそんなに歳も離れてないのに、凄いベテランって感じだから気になって…」

 

「そりゃあねぇ、年季が違うだろうさね。あれはもう…10年くらいにはなるかねぇ?」

 

「うん、そうだね。確か5歳ごろだったと思うし」

 

「5歳!?」

 

「ふぇ〜っ、お姉ちゃん凄い!」

 

「まじか!ねーちゃん、すげーっ!」

 

 皆驚くけど…

 そのころと今では一座の規模も大分違うしねぇ…

 

「あの頃はまだ、あんな大きいホール借り切って、なんてことも無かったし、ほんとに唯の旅芸人一座って感じだったし。子供が一生懸命歌ってるってだけでもウケたんだよ」

 

「はははっ!それは謙遜ってもんさね。確かにあんたの歌は今では神がかってすらいるけどねぇ。当時だってすでに完成の域にあったと、あたしゃあ思ってたよ」

 

「そんな、大袈裟な…」

 

「大袈裟な事はあるもんかい。うちの一座がここまで大きくなったのは、あんたの歌も要因のひとつさね」

 

「お〜〜っほっほっほっ!確かに!ワタクシのこの美貌と演技力と同じくらい、カティアの歌が素晴らしいことはワタクシも認めるところよ!」

 

「うわっ!ロゼッタおば(キッ!)…お姉さま、びっくりしたよ!」

 

「全く、声がデカイんだよアンタは!舞台じゃ無いんだよ、ここは!」

 

 いつの間にかロゼッタさんもこっちに来てた。

 あ、旦那(シクスティン)さんも一緒だった。

 ロゼッタさんのインパクトが強すぎるから、二人一緒にいると目立たないんだよね…

 

「ああ、お邪魔するよ。ハンナ、お疲れさま。今回は凄く良かったよ。今後も色々演技の幅を広げて頑張って行こうじゃないか」

 

「そうですわ!今回あなたは私のライバルとして相応しい力を示したのです!これからはお互い仲間として、ライバルとして切磋琢磨していくのですわ!」

 

 …ほんと、無駄にテンション高いのを除けば、いい人なのよねぇ…

 

「あ、ありがとうございます、シクスティンさん、ロゼッタおば「お姉さま!」…お姉さま。これからも頑張ります!」

 

 

 二人が言葉を掛けてきたのを皮切りに、次々に他の面々もハンナちゃんを労うためにやって来た。

 

 やっぱり、皆の愛されキャラだね。

 

 

 

 

 

 

「ところで、カティア」

 

「ん?なあに、ばあちゃん?」

 

「お前、付き合ってる男がいるんだって?」

 

「ぶふっ!?げほっ!ごほっ!…な、何を言ってるの?」

 

 飲んでる途中で変なこと言うから吹き出しちゃったよ!

 

 え?

 付き合ってるってなに?

 

「だ、だれがそんな事を…」

 

「アネッサ達がそんなような話をしてたんだけど…違うのかい?」

 

「ち、違うよ…私とカイトさんは別に付き合ってなんか…」

 

「ほう、カイトってぇのかい。…ふむ。付き合ってはいないけど、好いてるんだね」

 

 あ、思わずカイトさんの事を喋ってしまった…

 

「え?あ〜、いや…き、嫌いじゃないけど。えと、好きなのかな?あはは…」

 

「あ〜!お姉ちゃん、カイトさんてこの間のカッコいい人だよねぇ?あの人のこと好きなんだ〜」

 

 い、いや、まあ、そうかもだけど…

 

「ほぅ、リィナは知ってるのかい?」

 

「うん!一度だけあったけど、凄くカッコよくて優しそうな人だったよ!」

 

「ほうほう。うちの男どもよりは見込みがありそうなんかねぇ?…まあ、ともかくカティア?」

 

「は、はいっ!?」

 

 な、何か知らないけど、父さんたちを相手にするような迫力が…

 ブルブル…

 

「もしそいつと付き合おうっていうのなら、一度連れてきな。アタシがお前に相応しい男なのか見極めてやるさね」

 

「わ、私に相応しいって…そんな大層なものでは…」

 

「ふ、お前は自分のことが分かってないねぇ。ともかく、うちの大事な娘を変な男にやるわけには行かないからねぇ」

 

 …もしかして、厄介な人に目を付けられたのかしらん?

 

 

 

 

 

 

 

「おう、邪魔するぜ」

 

 からん〜、とドアベルの音を立てて誰かが入って来た。

 …ていうかこの声は…

 

「閣下!」

 

「よお、嬢ちゃん。公演お疲れさん。無事に終わって何よりだ」

 

「あ、ありがとうございます。…なぜこちらに?確か明日から王都に発たれるんでしたよね」

 

「まあ、先ずは差し入れだな。おう、おめぇら!うちの秘蔵の酒を持ってきてやったぞ!好きなだけかっくらいな!」

 

「はっ、流石侯爵サマ、太っ腹じゃねぇか。おう、お前ら、閣下に感謝していただくんだぞ!」

 

「「おお〜っ!!」」

 

「「閣下!あっざ〜っす!!」」

 

 まるっきりどこぞの野盗のノリだよ…

 

 

「で、本題は嬢ちゃんにだな」

 

「私に?あ、もしかして?」

 

 このタイミングで私に用事があるとしたら、一つしか思い当たらない。

 

「ああ、ルシェーラの件だ。面倒かけて悪ぃんだが、あいつの事よろしく頼まぁ」

 

「え、ええ、それは別に構わないんですけど…随分あっさりと許可を出されるんですね?」

 

 そう。

 あまり渋っている感じがしないんだよね。

 

「ん?あ〜、あいつも何か勘違いしてたみてぇだが、別に実戦経験を積むのは止めやしねえよ。うちは代々武名で鳴らしてるんだからな」

 

「あれ?でも、冒険者登録は止められてたって、スーリャさんに聞きましたけど?」

 

「そりゃあお前ぇ、あいつが冒険者登録なんかしたら好き勝手にどこぞの馬の骨とも知れん連中とパーティー組んで、ほいほい外に出てっちまうだろが。流石にそれは看過できんわ」

 

 …え?

 お嬢様ってそんな感じなの…?

 まるっきり閣下じゃないか。

 外見は閣下の要素ほぼ無いけど、中身はほぼ閣下と同じだな…

 

「その点、カイトとカティアなら安心して任せられるからな」

 

「信頼してくださるのは嬉しいのですが…心配ではないのですか?」

 

「別にそんな厄介な魔物討伐に行くつもりでもねぇんだろ?それに、あいつは実戦経験こそ無ぇが、腕は立つからな。そこまで心配はしてねぇよ」

 

 カイトさんと同じで、閣下も実力は認めてるのか。

 これは、お嬢様の力がどんなものなのか楽しみだね。

 

「そうですね、既に依頼は見繕ってあるんですけど、脅威度Cランク程度らしいです。東の方で最近発見された遺跡内部の魔物駆除っていう依頼です」

 

「あぁ、アレか」

 

「ご存知なんですか?」

 

「そりゃあな。遺跡ってなぁ基本的には国の管理下にあるもんだ。その依頼の発行元もウチだしな」

 

「あ、そうだったんですね」

 

 遺跡は国の管理下…そりゃそうか。

 その辺は前世と一緒だ。

 

「俺ぁ知っての通り明日から不在になるんだが、帰ってくる頃には調査の方も進んでそうだな」

 

 いや、ほんとに侯爵閣下の仕事は多岐に渡るんだねぇ…

 もちろん専門の担当もいるんだろうけど、しっかり状況を把握してるところがすごいと思うよ。

 

 

 

 

 

「じゃあ、俺は戻るぜ。俺も参加していきてぇとこだが、流石に明日から移動があるからな。…次にオメェらに会うのはしばらく先だな」

 

 用事を済ませた閣下は早々に帰るみたいだ。 

 ていうか、これくらいの用事なんか使用人使えばいいのに自分でやって来るんだから、やっぱりフットワークが軽い。

 

 …そっか、これで閣下とはしばらく会えないんだね。

 それも、ちょっと寂しいかも。

 

 そう思うくらいにはこの街にも愛着があるしね。

 

「おう、気を付けてな。お前が帰ってくる頃には俺らも別の街に移ってるかもしれんがな」

 

「何だ?もう決めたのか?」

 

「いや、そういうわけじゃ無いんだが…前にお前が言ってた通り、何処かに落ち着くのも良いかも知れねぇとも思うし、どうしたもんか悩んでるところだ」

 

「そうか。まあ、ウチに落ち着くんなら歓迎するぜ」

 

「まあ、考えておく」

 

「ああ、じゃあな」

 

 そう、別れを告げて閣下は帰っていった。

 

 

 この街から旅立つ、というのは最近あまり考えてなかったな…

 

 そうだよね、これまでもそうして来たんだし、それが普通だったんだもの。

 

 

 でも、そうなったら私は…

 

 

 

 カイトさん…

 

 

 

 

 

 その後も、みんな楽しくワイワイやっていたが、何だか私はしんみりとしてしまうのだった…

 

 

 



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第二幕 6 『遺跡へ』

 千秋楽から二日後。

 

 私とカイトさんは再び侯爵邸に向かっていた。

 早朝、まだ日が出てからそれほど経っていないような時間だ。

 

 貴族の家に訪問するには非常識な時間だが、今日の目的を考えれば妥当であると言える。

 

 先方もそれを了承してるので問題はない。

 

 私はいつもの冒険者装備に、この間新しく購入したミラージュケープを装備している。

 同日にカイトさんに買ってもらった髪留めももちろん身につけてる。

 

 カイトさんも初めてあった時のような冒険者の出で立ちだ。

 変わったのは、私が贈った腕輪くらいかな。

 

 

 お嬢様には昨日のうちに依頼の内容を説明している。

 

 侯爵閣下を見送りに東門まで行ったときにお会いしたのだ。

 その際に今日の待ち合わせについても確認した。

 

 

 そして、今回の同行者はもう二人…

 

「すみません、ロウエンさん、リーゼさん。急にこんなことお願いしちゃって…」

 

 そう、うちのロウエンさんと、もと『鳶』パーティーのメンバーであるリーゼさんに助っ人をお願いしたのだ。

 

 なぜ二人に頼んだかと言えば…

 

「いいッスよ、別になんの予定も無かったッスから。それに、まだ探索しきっていない遺跡ならば斥候を入れたほうがいいって言うカイトの判断は正しいッスよ」

 

「私も、アスティカントまでの路銀をもう少し稼いでおきたいと思ってたので…声をかけてもらってちょうど良かったです。それに、古代遺跡にも興味がありますし。魔法トラップの感知はお任せくださいね」

 

 そういう事だ。

 

 【俺】の記憶によれば、東の遺跡には大したトラップは無かったはず。

 

 しかし、それはあくまでもゲームでの話でしかない。

 

 一応、スーリャさんに聞いた情報によれば、遺跡の構造自体は大体記憶していたものと一致していた。

 ただ、一層あたりの広さが大きく異なっていて、現実のこの世界の遺跡の方がかなり広いようだった。

 更には、全階層探索されてるわけではないとのこと。

 想定では数階層程度と予測されているが、それよりも規模が大きければ5階層対応すれば依頼としては成功扱いになるらしい。

 

 現実世界との乖離があるかもしれないし、侯爵家のお嬢様がいるのだから万全を期すべきと言うカイトさんの意見も尤もだと思ったので二人に声をかけたのだ。

 

 もと『鳶』の他のメンバーにも声をかけようとしたんだけど、もう新しいパーティーで活動してるみたいだったので諦めた。

 

 

 遺跡の規模が思ったよりも大きそうなので、今回の依頼については野営を行う可能性も考えているが、それは閣下もお嬢様も承知している。

 

 

 

 そうして歩くことしばし、私達は侯爵邸に到着した。

 

 ん?

 門のところに誰か…

 って、お嬢様?

 

 …護衛も付けずに何してんすか。

 お嬢様が一人にならないように、わざわざ迎えに来たのに…

 

 普段のヒラヒラしたドレス姿ではなく、私達と並んでも違和感が無いような冒険者風の出で立ちだ。

 ちょっと安心した。

 

 いや、まさかキンキラの鎧とかを想像したわけじゃないけど、生粋のお嬢様だし。

 でも、中身は閣下と同じか。

 

 艷やかな黒い髪は後ろでまとめてポニーテールのようにしている。

 シンプルな黒いシャツにズボン、その上に装備する白銀のブレストプレートだけは高級な感じがする。

 焦げ茶色の外套を羽織り、貴族のお嬢様とは思えないくらいに地味な色合いのコーデだが、本人のオーラというか雰囲気がそうさせるのか、そこはかとなく気品が漂っているのは流石だ。

 

 しかし、何よりも目を引くのはその手にした得物だろう。

 

 

「おはようございます、お嬢様。今日はよろしくお願いしますね」

 

「おはようございます、カティアさん。私の我儘を聞いて下さりありがとうございます。こちらこそよろしくお願いしますわ。カイトさま…それに、ロウエンさんにリーゼさんも」

 

「ああ。特に大きな依頼もなかったしな。別に構わんさ」

 

「よろしくお願いしますッス」

 

「ルシェーラさま、よろしくお願いします」

 

 ロウエンさんもリーゼさんも、夜会のときに挨拶して面識はあるらしい。

 

 

「ところで…お嬢様の武器はそちらですか…?」

 

 と、先程から気になっている、お嬢様が手に持っている武器について聞く。

 

「ええ。変ですか?」

 

 変ではない。

 武器としては別に珍しいものでは無いだろう。

 ただ、お嬢様の得物としては些か不釣り合いに見えるのだ。

 

 なんせ…いかにもたおやかな細腕で手にしているのは、自分の背丈をゆうに超える槍戦斧(ハルバード)だったのだから。

 長さは2メートル以上はあるだろうか。

 槍の部分は肉厚幅広長大で、両刃になっている斧の部分も戦斧と変わらないくらい大きなもの。

 普通のハルバードよりも、その重量は相当なものであると思われる。

 

 てっきり、レイピアとかの刺突剣とか、せいぜい片手剣くらいを想像してたのだけど…

 でも、そう言えば奥様も両手剣を使ってたって言ってたなぁ…

 

「いえ、変ではないのですが、ちょっとイメージと違ったので…」

 

「ふふ、ちゃんと扱えるので心配はございませんわ」

 

 いや、それは心配してない。

 絵面が気になっただけだ。

 

 

「じゃあ、みんな揃ったし行こうか」

 

「そうですね、行きましょう」

 

「東の街道ッスよね」

 

「どんな遺跡なのか楽しみです」

 

「ふふふ、ワクワクしますわ」

 

 わいわいと話しながら私達一行は東門へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 東門より街道に出て、これから徒歩で休憩も含めて4〜5時間の行程となる。

 

 一時間ほど進んだところで、街道を外れて草原を進んでいく事になる。

 

「確か、この辺りから街道を外れて北に向えば良いはずです」

 

「ああ、カティア案内を頼む」

 

「はい!任せてください!」

 

 ここから先は私が先導して草原を進んでいく。

 道らしい道は無いものの、草花の背丈もそれ程高くはなく平坦なので歩き難いと言う事はない。

 

「のどかなところですわね。何だかピクニックに来ているみたいですわ」

 

「そうですね、この辺りは普段は危険な魔物もいないですし…でも、この間のスオージの森の異変の影響で本来この近辺では出現しない筈の魔物に遭遇する可能性もありますから油断はしないで下さいね。私も以前、ちょうどこの辺でグレートハウンドに遭遇しましたし」

 

「ええ、もちろん油断など致しませんわ」

 

 

「っと、噂をすればってやつッスかね?何かいるみたいッス。前方の、あの茂みが濃くなってるところッスね」

 

 と、ロウエンさんが警告を発する。

 

「むむ…またか。今度は何だろ?」

 

 茂みのところ…

 言われてみれば気配があるな。

 

 あそこに隠れてるならそんなに大きくないと思うけど…

 

 と、注意して見ていたら、のっそりと姿を現してきた。

 

「ロックリザード、か」

 

 体長3メートルを超える巨大なトカゲだ。

 その名の通り岩の様にゴツゴツした鱗を持ち、その見た目通り非常に頑強である。

 力も巨体に見合ったものがあり、噛みつかれたらただじゃ済まない。

 スピードはそれほど早くはないが、瞬間的には侮れないものがある。

 脅威度はDランクだ。

 

「街道もまだ近いし、放ってはおけないか…」

 

「では、せっかくですから私が相手をしますわ」

 

 ルシェーラ様がそう言うが…

 ちら、とカイトさんを伺うと、コクリと頷いて…

 

「そうだな。準備運動としては妥当だろう。頼んでいいか?」

 

「お任せくださいませ」

 

 そう言ってルシェーラ様は前に出ていく。

 特に気負うこともなく自然な感じだ。

 

「え?お嬢様一人で大丈夫なんですか?支援とかは…」

 

「まあ、大丈夫だ。あの程度の魔物ならなんの問題もない」

 

 リーゼさんの不安そうな言葉に、カイトさんは事も無げに言う。

 

 そう言ってるうちにルシェーラ様はロックリザードの目前まで迫り…

 

 様子を窺っていたロックリザードが、それまでの緩慢な動きから想像できないほどの俊敏な動きでルシェーラ様に襲いかかる!

 

 巨体にも関わらず意外な俊敏さで、噛み付こうと襲いかかってきたロックリザードを、ルシェーラ様は軽くサイドステップで避ける。

 

 間髪入れず振るわれた尻尾の一撃も、僅かに屈んでこれも危なげなく躱す。

 

 そして、再び頭から襲いかかろうとしたロックリザードに向かって…

 

「せぇーーいっ!!」

 

 気合一閃!

 ハルバードを大きく薙ぎ払う!

 

 狙い違わずその太い首に斧の部分が吸い込まれ…岩の如き頑強な鱗をものともせずに断ち切ってしまった。

 

「…脅威度Dとは言え、あの頑強なロックリザードを一撃ッスか。あのゴツい得物は伊達じゃないって事ッスねぇ」

 

 そうだね。

 重量武器の威力を遺憾なく発揮してると思う。

 

 それにしても…長柄かつ重量級のあのハルバードを軽々と振り回してるのに、豪快と言うより華麗って感じだった。

 いや、カイトさんが保証してたし、実力を疑ってる訳じゃなかったけど実際に目の当たりにすると驚きだね。

 

「お嬢様、ホントに実戦経験ないんですか?凄く落ち着いて手慣れた感じでしたよ」

 

「あら、そう言って頂けるなんて嬉しいですわ。間違いなく実戦は初めてですし、これでも緊張してたのですわよ」

 

「それであれだけやれるなら、大したものですよ」

 

「ふふ、ありがとうございます。ところで、あの魔物はどうするんですの?」

 

 ロックリザードかぁ…

 魔核はそれほどでもないけど、確か食肉として結構高値になるんじゃなかったかな?

 

「ロックリザードは肉が美味いッス。丸々一匹なら結構な金額になるッス」

 

「う〜ん、でもこの巨体だし、依頼に何日かかるか分からないし…」

 

 ちょっと解体して手分けしてもかなり嵩張るし、日持ちもしないしねぇ…

 

「それでしたら、私の収納倉庫(ストレージ)に丸ごと入れてしまいましょうか」

 

 と、あっさりした様子でルシェーラ様が言う。

 

「え?これを?って、収納倉庫(ストレージ)!?」

 

「ええ。この指輪が魔道具になってまして…」

 

収納倉庫(ストレージ)の指輪って!?神代遺物(アーティファクト)じゃないですか!!」

 

 あ、リーゼさんが食いついた。

 

 私の拡張鞄くらいのものだったらそれほど珍しくはないんだけど…

 収納倉庫(ストレージ)というのはそれとは比べ物にならない程の大容量を持っていて、それを作り出せるのは神代魔法のみ。

 さらに、収納した物は時間経過しないと言われている。

 

 神代魔法が使える指輪なんて当然神代遺物(アーティファクト)しかありえないだろう。

 

「我が家に代々伝わっている秘宝ですわ。今回冒険者の活動をするにあたってお母様が持たせてくれたのです」

 

 …流石は侯爵家。

 大貴族は伊達じゃないね。

 

「み、見せてくださいぎゃっ!?(ぐきっ!)」

 

 リーゼさんが我を忘れてお嬢様に飛びかかるのを、思わず首根っこを掴んで止める。

 

 今回この人の暴走を止めるのは私の役割かぁ…

 

「リーゼさん、落ち着いて下さいね。相手はお嬢様ですよ?」

 

「はっ!?し、失礼しました…つ、つい我を忘れてしまいました」

 

 毎回思うけど、首は大丈夫なのかしらん?

 

「ふふふ、大丈夫ですわ。見せるくらいは構いませんが、今は依頼中ですし、野営とかで時間があるときにしてくださいね」

 

「うう、スミマセン…では、後で見せてもらえますか?」

 

 謝りつつも約束するあたり、リーゼさんも結構逞しいね…

 

 

「じゃあ、ルシェーラ、頼めるか」

 

「ええ、『ここに扉を開け』」

 

 あ、発動キーワードは神代語なんだ。

 まあ、それもそうか。

 

 キーワードによって指輪から光が溢れ…その光はリング状になってロックリザードを囲む。

 そして、リングが小さく閉じていくとロックリザードの巨体はすっかり消え失せてしまった。

 

「凄いッス。跡形も無くなっちまったッス」

 

「これが収納倉庫(ストレージ)…初めて見ました。一体どういう魔力の制御が行われてるのか。魔道具だから詠唱は分からないけど、発現事象から考えると…」

 

 ああ!?

 考察が始まってしまった!

 リーゼさんお願いだから戻ってきて!

 

 

 

 

 

 

 

 

 お嬢様にロックリザードを収納してもらい、リーゼさんを何とか現実に引き戻して、私達は再度歩き始める。

 

 そして、他の魔物に遭遇することもなく3時間ほど歩くと…

 そこは、かつて【私】が倒れていた草原だった。

 

 倒れた私が目覚めたときに、自分の顔を確認した小川の方に向う。

 

 軽くジャンプすれば飛び越せるくらいの小川がそこにある。

 あの日と変わらず流れは穏やかで、水は澄み切っていた。

 

「なんとも穏やかな風景ですわね。本当にピクニックに来ているみたいですわ」

 

「そうだな。この川に沿って上流に向えば良いんだよな?」

 

「ええ、そのはずです」

 

「そうか、分かった。…さて、ずっと歩き通しだったし、せっかく絵になるような場所なんだ。休憩していくか?まだ少し早いが、昼食をとってしまっても良いかもしれん」

 

「あ、良いですね、そうしましょうか」

 

 

 と言うことで、ここで少し休憩していく事になった。

 

 



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第二幕 7 『古代遺跡』

 小川が流れる草原で小一時間ほどの休憩を取った後、再び歩みを進める。

 

 川に沿って上流に歩いていくとやがて草花は疎らになっていき、硬い地面に大小の石が転がる荒れ地となってきた。

 

 そして更に進むと…

 

「これは…遺跡…街の跡地らしき場所。ここですね」

 

 崩壊して僅かに壁の一部が残る家の跡らしきものや、割れてボロボロになっているが石畳が敷き詰められていたであろう街路などの遺構は、まさしく『街』があった名残りと思われる。

 

 【俺】の記憶にあるゲームで見た風景とも一致する。

 

「ええ、この街の遺構自体は以前から知られていて、調査もされ尽くされていると思われていたのですが、先日大規模な地下施設への入り口が発見されたのです。そこが今回の依頼の目的地ですわね」

 

 その辺の情報はスーリャさんに聞いたとおりだね。

 

「すごい…これはいつの時代のものなんでしょうね?ちょっと調べてみたい気も…」

 

 リーゼさんはしきりに辺りを見回して感心している様子。

 

「はっきりとは分かっておりませんが、おそらく神代のものではないか?と言われておりますわ」

 

「神代の…!これは益々楽しみです」

 

 やる気が出るのは良いんだけど、依頼はあくまでも魔物駆除ですからね…

 

 

「たしか、一番大きな通りを突き当たりまで進んでいくとあるんでしたよね」

 

「そうだな。さっき街の門の跡らしきものがあったから、この街路がメイン通りなんじゃないかな?」

 

「じゃあ、取り敢えずこの道をまっすぐ進むッス」

 

 そして、メイン通りと思しき街路をまっすぐ進んでいく。

 

 およそ10分くらい歩いたところで突き当りに至り、情報通り目の前には神殿跡らしき遺構があった。

 およそ5メートルほどの高さの基礎が築かれていて、十数メートルほどの幅の階段が設けられている。

 本屋は完全に崩壊してしまっているらしく、壁や柱の一部が僅かに残るのみで、殆ど瓦礫となって積み重なっているようだ。

 

 そして、その神殿跡の前には大型のテントが設営されている。

 ここに調査隊が滞在しているのだろう。

 

 

 

 と、テントから何人か出てきた。

 

 そのうちの一人がこちらに気付いて向かってくる。

 キャメル色のいかにも探検隊、て感じの服装をした中年男性。

 黒い短髪に無精髭を生やしているが、なんかワイルドな雰囲気でむしろそれが似合っている。

 

「あ〜、君たちはもしかして…」

 

「はい、依頼で遺跡内の魔物を駆除するためにやって参りました。私はカイトと申します。Bランクの冒険者です」

 

「はじめまして、カティアと申します。私もBランクです」

 

「ロウエンッス。同じくBランクッス」

 

「リーゼです。私もBランクです」

 

 と、一通り自己紹介する。

 

 あ、お嬢様はどうしようか、と思っていたら…

 

「こんにちは、ジョーンズさん。調査は順調ですか?」

 

「へ?あ!お、お嬢様!?な、なぜこのような場所に!」

 

「ふふ、偶々ですわ。今回はカイト様にお願いして冒険者活動に参加させてもらってるのです。あ、もちろんお父様の許可は取ってますわよ」

 

「は、はぁ…さいですか…」

 

 どうやらお嬢様は彼のことを知っているらしい。

 

「お嬢様、そちらの方をご存知なんですか?」

 

「ええ、彼はこの遺跡の調査隊の責任者でジョーンズさんと申しますのよ。私もお父様の政務の補佐をする事があるのですが、調査報告の場などでお会いしたことがあるのです」

 

「ええ、閣下とお嬢様にはいつもお世話になっております。それで、調査状況なんですが…正直芳しくないですな。何とか1階層は粗方確認出来たのですが、2階層以降はやはり魔物を何とかしないとまともな調査は出来ませんね」

 

「事前に聞いた話だと脅威度はCランク程度…スライム系とか、蜘蛛系とかが確認されているとの事ですが?」

 

「はい、確認出来たのは3層くらいまで、ですが。私も単独ならCくらいは対処できるのですけど、流石に無理はできないので…」

 

「そうですか…まぁ、私達が来たからには何とかしてみせますわ。ねぇ、皆さん?」

 

「あ、はい。それが依頼ですからね。お任せください」

 

「よろしく頼みます。…冒険者が来たら私も同行するつもりだったのですが、お嬢様がいらっしゃるならそれも不要ですかね」

 

「…?どういうことです?」

 

「ああ、無断で宝物遺物を持ち出されたりするのを見張るためですか」

 

 あ、そうか。

 そうだよね、何か発見したらくすねる人も居るだろうし、監視は必要か。

 

「ええ、まぁ…失礼かも知れませんが…」

 

「いえいえ、必要な事だと思いますよ。そっか、依頼元の侯爵家のお嬢様が同行されるからそれも心配無いってことですね」

 

「ふふ、カイトさま達がそのような事をなさる筈はありませんけどね。じゃあ、ジョーンズさん、早速ですが遺跡の中に入らせて頂きますね」

 

「分かりました。では入口までご案内します」

 

 

 

 案内されて階段を登って行くと、下からは分からなかったが一部の瓦礫が撤去されて通路のようなものが奥まで続いている。

 

 うん、やっぱりこのあたりもゲームと同じだな。

 

 

「これが地下への入り口です」

 

 瓦礫が撤去されて出来た通路を進んでいくと、地下へ続く階段があった。

 

 思いのほか大きな入り口で、5人横に並んでも悠々下っていけるほどの幅がある。

 

「あれ?なんだか階段の先が思ったより明るくないですか?」

 

「ええ、どうやら壁面の石材そのものが淡く発光しているらしいのです。石材自体に照明の魔法が付与されているのではないか?と今のところ推測しております」

 

「ふむ…照明の魔道具は現代にもありますけど…常時照らし出すとなるとなかなか難しいのでは…そうか、光量を抑えれば魔素の補充と消費魔力の釣り合いは取れるのか…そもそも通路を照らす程度ならそれほど明るくなくても良い訳だし…しかし石材そのものに付与とは一体どのようにして…」

 

 あ、また始まった。

 この調子だと何か見るたびに没頭してしまいそうだな…

 大丈夫かなぁ…?

 

「…まあ、リーゼは切り替えれば大丈夫だ。やる時はやってくれる。…はずだ」

 

 そこは言い切りましょうよ。

 

「ともかく、降りてみよう。リーゼ!行くぞ、切り変えろよ!」

 

「はっ!す、すみません!大丈夫です、行きます!」

 

「では、みなさんお気をつけください!」

 

 そうして一行はジョーンズさんに見送られて、地下への階段を降りていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…広い、ですね」

 

「ああ、想像以上だな」

 

 降りてきた先の通路は地下遺跡とは思えないほどの広さで、入り口の階段と同じく、5人が両手を広げて横並びになってもまだ余裕があるくらいだ。

 天井も高く、3〜4メートルくらいはあろうか。

 

「これならお嬢様の武器でも問題ないですね」

 

「ええ、私もそこは気になったので事前に確認はしてましたわ。念の為取り回しが良いサブウェポンも持ってきてますし」

 

 あ、そうなんだ、流石だな…

 そう言う準備がしっかりしているところはやっぱり閣下の娘さんなだけはあるね。

 

 そして、やっぱりゲームのときよりも大分規模が大きい感じだ。

 依頼としては最大でも5層対応すれば良いのだけど、それでも大分時間がかかりそうだ。

 やはり野営の準備をしてきて正解だったと思う。

 

 

「さて。確か第一層は問題ないんだよな」

 

「そうですね。構造も単純で中央のメイン通路と両側にいくつか部屋のようなものがあるだけ、だったはずです。二層への階段へはまっすぐ進むだけですね」

 

「わかった。じゃあ寄り道せずにさっさと二層に進んでしまおう」

 

 そうして一行は降りてきたところから通路をまっすぐ進む。

 

 上で言っていた通り、石造りの壁や天井全体が淡く青白い光を放っているようだ。

 若干薄暗いものの探索するには十分な光量だろう。

 その色合いも相まって、神秘的な雰囲気を醸し出している。

 

 両側の壁には所々に扉がある。

 その扉も石造りであろうか?

 随分重厚そうで、開けるには一苦労しそうな感じがする。

 

 

 4〜5百メートルほど歩いただろうか?

 第二層への階段が見つかった。

 通路の幅そのままに階段へと繋がっている。

 

「よし。ここから先は魔物が出るらしいから注意していこう。ロウエンさん、先頭お願いします」

 

「任せるッス!」

 

 斥候のロウエンさんを先頭にして私達は第二層へと降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二層におりるとすぐにロウエンさんが警告を発する。

 

「おっと、早速何かいるみたいッス。…げ、あれは!?まずいっ!カティアちゃん、見ちゃだめッス!」

 

 その警告は少し遅かった。

 私は通路の先でカサカサ動く不吉な黒い影をバッチリ捉えてしまった。

 あの動き、本能的に感じる嫌悪感。

 間違いない、ヤツだ!!

 

「ぎゃ〜〜〜っ!!!??出たぁ〜〜っっ!!」

 

 私の魂からの絶叫に皆がギョッとするが、そんな事には構ってられない。

 ほんの数メートル先には、ありえないくらい巨大な"G"が!

 

 いやっ!?

 何アレ!?

 50センチくらいあるんですけどっ!!

 それが何十匹も群れで…

 

 プツンっ!

 私の中のナニカが切れた。

 

「おのれっ、人類の天敵めっ!滅びろぉっ![灼渦]っ!」

 

「ちょっ!?それは大袈裟だろっ!?」

 

 私が発動した魔法によって、前方の床が灼熱の溶岩の渦と化す。

 またたく間に巻き込まれたヤツらは成すすべもなく、跡形も無く燃え尽きていく。

 

 グラグラと煮えたぎる溶岩はしばらくすると冷え固まってきたが、圧倒的な熱量がもたらした輻射熱によって通路は蒸し風呂のような暑さになっていた。

 

 我に返って落ち着いた私は、何事もなかったように…

 

「…[冷却]。ふぅ、悪は滅びた!」

 

「「「いやいやいや…」」」

 

「…私は[灼渦]を無詠唱で放てるのに驚きました」

 

「あ、普段は無詠唱できませんよ?あれは、まぁ、火事場の馬鹿力というか…」

 

「あ〜、カティアちゃんの天敵ッスからねぇ…きゃーきゃー逃げ回るだけなら可愛げがあるんスけど、とんでもない攻撃魔法をぶっ放したりするのはやめて欲しいッス」

 

 そうなのだ。

 【私】は死ぬほどあの黒い悪魔が大嫌いなのだ。

 私の中の【私】の魂がそうさせたのだ。

 【俺】だって好きじゃないけど、あれほどではない。

 

「…一応、家の中とかは手加減してるよ?少なくとも火系統は使わないし」

 

「いや、いくら火じゃないからって[絶凍気流]とか全然手加減になって無いッスよ…」

 

「だって、下手に手加減なんかしたらヤツらに逃げられちゃうじゃない。物陰に潜まれた日にはおちおち寝ることもできなくなるし。と言うことで、ヤツには広範囲殲滅こそが最も効果的な一手なんです!」

 

 熱湯?

 生ぬるいわ!!

 

「だめだこりゃ、ッス」

 

「…ロウエンさん、なるべく早く察知をお願いします。カティアが察知する前になんとかしましょう」

 

「そうッスね…なんとかやってみるッス」

 

「あ、確実にサーチアンドデストロイ、G・即・斬でお願いしますね!」

 

「なんだかカティアさんのイメージが変わりましたわ…」

 

「あははは…」

 

 なんだか皆呆れているような気がするけど、こればっかりは譲れないんです!

 

 

 

 

 そんな感じで第二層の探索が始まった。



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第二幕 8 『古代遺跡 第2階層』

 憎き黒い悪魔を殲滅して、気を取り直して第2階層の探索を開始する。

 

 …遺跡を破壊するような魔法は使わないようにとのお達しが出ました。

 って言うか怒られた。

 ゴメンナサイ…

 

 次出たら冷気系か雷撃系にします、て言ったけど却下された。

 

 でもでも、ホント頼みますよ!

 ヤツが出たら逃さず殲滅して下さいね!?

 

 

 と、一抹の不安を残しながらも第2階層を見て回る。

 

 第1階層と同じように、階段を降りたところから真っ直ぐ進めば第3階層に続く階段があるが、今回の目的は魔物の殲滅なのでくまなく探索する必要がある。

 

 第1階層と異なるのは、階段と階段を繋ぐメイン通りの他にも、碁盤目状にいくつもの通路がある点だ。

 

 そして、通路で区切られた区画のそれぞれに部屋があるので、それらも万遍なく見て回る必要がある。

 

 事前に聞いた情報によれば、この階層の広さは一辺が5百メートルほどの正方形となっているらしい。

 相当な広さになるので、この階層だけでもかなり時間がかかるだろう。

 

 とにかく、メイン通りに交差する通路を手前から順番に探索して全ての部屋を確認してまわるのだ。

 

 第1階層と異なり、部屋の扉は木製だったらしく、すっかり朽ち果てて残骸が散らばるのみとなっていた。

 

 

「しかし、これだけの広さの空間が神殿の地下にあるのは何でなんだろうな?」

 

「そうですね…居住空間、と言うよりは地下都市と言っても良いくらいの規模ですよね…」

 

 いくつか部屋を覗いてみたところ、朽ち果てた机や椅子、ベッドなどと思しき残骸や、水回りらしき遺構が確認できたので、おそらく居住スペースであったと思われる。

 一つ一つの部屋の大きさは私達5人が入っても狭く感じないくらいであり、ちょっと広めのワンルームマンションのような感じだ。

 

 そして、一層の広さや部屋数など、規模こそ違うものの【俺】の記憶にあるゲームでの光景とも一致する。

 やはり、ゲームで出てきた『ブレゼンタム東部遺跡』と同じものと考えて良いだろう。

 

 そうすると、この遺跡は第5階層までと言う事になる。

 第3階層まではこのような地下都市のような感じだったはずだ。

 

 

 

 

「しっ!…この部屋、何かいるッス」

 

 何らかの気配を感じたロウエンさんが警告する。

 

「あ…この感じ…」

 

「お、そう言えばリーゼちゃんは分かるんスね。そう、多分アンデッドッスね」

 

「そうですね。そこまで高位のものでは無いと思いますが」

 

 そう言えばリーゼさんやアネッサ姉さんはアンデッドのオーラみたいなものが分かるって言ってたっけ。

 霊感みたいなものかな…

 

 それを確かめるべく、そっと入り口から中を窺うと…

 

「ありゃ、ゴーストっスか。これはカティアちゃんかリーゼちゃんの出番スね」

 

 ロウエンさんの言うとおり、部屋の中には半透明の人影…低位の霊体系魔物、ゴーストが3体佇んでいた。

 

 脅威度はDランクだ。

 物理攻撃は効かないが、向こうの攻撃手段も念力のようなもので物を飛ばしてくるくらいなのでそれほど危険な相手ではない。

 

 魔物の定義は魔核を持つということだが、実体を持たない霊体系の魔物は例外だ。

 ただ、実体は伴わないものの魔核に相当する部分はあるらしい。

 これは特別に霊核と呼ばれている。

 

 霊体系には神聖武器以外の物理攻撃は効果がないが、魔法であれば霊核に攻撃を当てる事でダメージを与えられる。

 ただし、高位になればなるほど通常の魔法は効きにくくなるので、退魔系の魔法が必要になってくるのだ。

 

 

「待って下さいまし。あれなら私も対処できますわ」

 

「え?お嬢様、魔法も使えるんですか?」

 

「あ、いえ。私は魔法の素養は殆どありませんわ。ただ、このハルバードは神聖武器でもあるので…魔法は極力温存したほうがよろしいでしょう?」

 

「…まじっすか」

 

 思わずロウエンさんみたいになっちゃったよ。

 

 あ、リーゼさんが獲物を見つめる鷹の様な目で見てる。

 流石に大声を上げて詰め寄るような事はしないだけの分別はあるみたいで安心(?)したよ。

 

「そうだな…また頼めるか?」

 

「はい、お任せくださいな。霊核は確か頭部でしたわよね」

 

 そう言ってお嬢様は躊躇いなく軽い足取りで部屋に入っていく。

 

 こちらに気付いたゴースト達は、部屋に散乱している家具の残骸やら瓦礫やらを飛ばして攻撃してくるが、お嬢様はひょいひょい、と僅かに身体をずらすだけで造作も無く躱していき…

 

「せいっ!はあっ!」

 

 と、軽く一振りして2体同時に霊核を薙ぎ払い、返す槍でもう一体も仕留める。

 すると、あっけなくゴーストは霧散してしまった。

 

「お見事」

 

「…いまいち手応えがありませんわね」

 

「まあ、Dランクだしな。まだ序盤だからこんなもんだろ。だが、油断はするなよ」

 

「ええ、もちろんですわ」

 

 ホントにこの人、今日が初めての実戦なのかな…?

 ロックリザードの時も思ったけど、随分戦い慣れてる感じなんだよなぁ…

 奥様、どんな鍛え方してるんだろ?

 

 でも、ゴーストはDランクとは言え、倒す手段が限られるので調査隊の人からすれば厄介だっただろうね。

 

 因みに私が速攻で葬り去ったあの黒い悪魔はFランク…最低レベルだ。

 そんな奴らに上級攻撃魔法を使ったらそりゃ怒られるか…

 

 ともかく、まだ大した相手には遭遇しておらず、序盤戦というのはその通りだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第2階層の探索を半分くらい消化したところで、そいつに遭遇した。

 

「今度はジャイアントスパイダーっスね。Cランクっス」

 

 通路の半分ほどを塞いでしまうくらいに巨大な蜘蛛の魔物だ。

 こちらを獲物と定めたらしく、あれ程の巨体にも関わらず音も立てずに素早く近づいてくる。

 

「ルシェーラ、今度は連携も試してみようか?」

 

「そうですわね。カイトさま、ターゲット取りはお願いしますわ」

 

「ああ、任せろ。カティアとリーゼは魔法で支援を頼む。ロウエンさんは後衛の守りを」

 

「「「了解!(ッス!)」」」

 

 カイトさんが皆に指示をすると、皆素早くそれぞれの配置に付く。

 

 カイトさんは最前列に飛び出し相手の注意を引く。

 お嬢様はその背後に控えて、隙を見て長柄武器のリーチを活かして攻撃。

 私とリーゼさんは連発が効く魔法で牽制。

 ロウエンさんは万が一後衛に攻撃が来ないように私達の守りだ。

 

 正直、私達からすればそこまでカッチリとフォーメーションを組む必要は無い相手だろうけど、今回はお嬢様の実戦訓練も兼ねてるから、連携の経験も重要だとカイトさんが判断したのだろう。

 

 

 もう目前まで迫った巨大蜘蛛は、鋭い爪が生える脚をカイトさんに向かって振り降ろす!

 

 ガキィッ!!

 

カイトさんは蜘蛛の攻撃を剣で反らしながら、私達後衛を庇うような位置取りをする。

 

「「[炎弾]!」」

 

 私とリーゼさんが同時に魔法を放ち、敵を牽制。

 そして脚が止まったところを、カイトさんの後から飛び出したルシェーラ様がハルバードを大きく振りかぶり…

 

「せぇーーいっ!!」

 

 ザシュッ!!

 

 大きく振るわれたハルバードによって、蜘蛛の脚はまとめて数本が切り飛ばされ、青い血液を撒き散らす。

 そして、バランスを崩した蜘蛛の頭部に向かって間髪入れずにカイトさんが剣を突き刺す!

 

 ズブッ!

 

 それが止めとなり巨大蜘蛛はビクン、と一度痙攣したあと沈黙した。

 

「よし。連携も問題なさそうだな」

 

「はい。初めてにしては上手く合わせられたと思いますわ」

 

 うん、飛び出すタイミングもバッチリだったと思う。

 攻撃力の高さは言わずもがな。

 

「もう十分冒険者としてやっていけそうですね」

 

「そう仰って頂くのはありがたいですけど、まだまだ経験が足りませんわ」

 

「そうだな。これまでの敵は経験が無くとも実力的には全く問題ない相手ばかりだ。不測の事態が起きたときこそ経験が活きてくるのだが…まあ、今回の案件的にそこまで求められるシチュエーションが発生するかは分からんな」

 

「まだ確認されてない階層がどうなってるのか、ですかね」

 

 【俺】の記憶にある遺跡と同じなら、そこまでの波乱は発生しないだろう。

 

 

 

 

 引き続き2階層を見て回る。

 

 その後も何度か接敵したが、何れも苦もなく撃退することができた。

 

 魔物としては、ジャイアントスパイダー、スライムの群れ、体長2メートルほどの大ムカデ、ゴースト、などなどだ。

 幸いな事に、あの黒いヤツはもう現れなかった。

 

 そうして、2階層を一通り見て回り、この階層の魔物は全て駆除し終わったと思われる。

 

 

「よし、2階層はもうこれくらいかな。次に進もうかと思うが…時間はどれほどだろうか?」

 

「そうッスね…大体15時〜16時くらいじゃないッスかね?」

 

「あ、でしたら少々お待ちを…」

 

 と言って、お嬢様が自分の鞄を探って取り出したのは、鎖がついた厚みのある円盤状のもの…懐中時計のようだ。

 

「え〜と、今は15時35分ですわ」

 

「おお…流石は侯爵家のご令嬢ッスね。そんな高価なものをお持ちとは」

 

 時計はこの世界にもあって、置き時計くらいなら裕福な庶民とかでも持っていたりするが、お嬢様の懐中時計のように精密な技術が必要になる小型のものは非常に高価であり、持っているのは大商人か貴族くらいだろう。

 

「今回の依頼は地下遺跡とお聞きましたので、正確な時間が分かったほうが良いと思ってお父様の書斎から拝借してきたのですわ」

 

 準備が良いのは流石なんだけど、話しぶりからすると閣下に無断なんだろうなぁ…

 

「その判断は正しいし助かるんだが…無断で借りてきたのか?」

 

「大丈夫です。今お父様は不在ですし、元に戻しておけば問題ありませんわ」

 

「…そうか」

 

 あ、カイトさん、深く突っ込むのはやめたらしい。

 それが賢明だね。

 

 

「よし。まだ時間もあるし、少し休憩したら第3階層に行こうか」

 

「そうですね。でも第3階層より先がある場合は野営が必要だと思うんですけど、場所はどうします?」

 

「そうだな…雨風の心配がないし安全確保した階層で野営する、でも良いんだが、ジョーンズさんが心配するから一旦地上に出た方が良いかも知れんな」

 

「まあ、進むも戻るも一直線ですからね。そうしましょうか」

 

「第3階層の魔物を駆除したら、下への階段を一時的にでも封鎖できないかな?せっかく安全確保したのに、下の階層から紛れ込んできても厄介だろう?」

 

「う〜ん、そうですねぇ…[土壁石壁]は周りに土砂が無いと使えないし…他の結界系魔法はそこまで長時間維持できないし…」

 

「あっ、それなら良いものがありますよ!」

 

 そう言ってリーゼさんが鞄から取り出したのは、複雑な紋様が描かれ、四隅に宝玉が埋め込まれた金属プレート。

 ギルド証よりひと回り大きいサイズだ。

 

「それは?」

 

「これは、『代行の魔符』と言います。持続維持したい魔法の行使を代行してくれるんです。宝玉に蓄積された魔力を用いるのですが、周囲の魔素も取り込んで魔力を回復させながらなので、かなりの時間維持できるはずです。この遺跡は魔素の濃度もかなり高いようですし」

 

「へえ〜、凄い便利じゃないですか!」

 

「ふふ、カティアさんに教えてもらった魔道具店で買ったんですよ。野営用に、と購入したんですけど」

 

「あ、プルシアさんのお店かぁ〜。そんなものがあったんだ…」

 

「新商品で発売したばかり、て言ってましたから、カティアさんが見たときには無かったのかも知れませんね」

 

 そっか〜、今度また見に行ってみようかな。

 

「リーゼ、助かる。では、第3階層に進むか」

 

 

 そうして、私達は第2階層の探索を終え、第3階層へ続く階段へと向かうのだった。

 

 

 



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第二幕 9 『古代遺跡 第3階層』

 第3階層にやって来た。

 【俺】の記憶が正しければ、ここは第2階層と似たような構造のはずだ。

 

「さて、第2階層と似たような感じだな。同じように見て回れば良いか」

 

 まあ、虱潰しに確認してくしかないからね。

 

 

 

 

 そうして第2階層と同じように部屋を一つ一つ確認していくが…そのうちの一つでそれを見つけた。

 

「きゃっ!?あ、あれは…骸骨?」

 

「スケルトン…では無いか?」

 

「ええ、アンデッドのオーラは感じませんね」

 

 第2階層の部屋には骸骨のような人の痕跡は無かったが、この人はなぜここで死んだのだろうか?

 

 骨は床に散らばっているが、椅子の上にも見られるので元々は座ったまま亡くなったように見える。

 

「机の上に何か手紙のようなものがあるな」

 

 確かに、未だ原型を留めている机の上に、今にも風化しそうであるが辛うじてその形を保っている紙片が置いてある。

 

「これ、触らないほうが良いですよね。触ったら崩れそうだし…」

 

「そうですわね、調査隊の皆さんにお任せしましょう。でも、触らなくも文面は読み取れそうですわね。神代語のようですわ。……友……神々……旅……所々単語は拾えますが、私の知識程度では読めませんわね」

 

「…ちょっと見せていただけますか?…『友人より手紙が来た。ついに神々は地上を離れ旅立つことになったらしい。最後まで悩んでらしたエメリール様も決断をなされたようだ。それも致し方ないことだろう。我々は余りにも神々の力に頼りすぎたのだ。これから我々人間たちは自分の力で歩んでいかなくてはならない。神の威光を失ってしまったこの街もお終いだろう。既に殆どの住民は近隣のミュルグレイヒに移転してしまった。この街は魔境にほど近いからそれが賢明だろう。だが、私は病に侵されどうせ長くない命だ。せめて神代の終わりを、神の依代が眠るこの地で迎えようと思う』…だそうです。遺言みたいな感じですね」

 

「「「……」」」

 

 し〜ん?

 

「カ、カティアさん、神代語が読めるんですの?そんなにスラスラと…」

 

「ああ…そう言えばオキュパロス様に知識を刷り込まれたって言ってたか…」

 

「…カティアさんがオキュパロス様にお会いしたことは私もお父様から聞いてはおりましたが…そんな知識まで与えられるとは…」

 

 そう。

 エメリール様の子守歌を教えてもらうときに一緒に神代語の知識も刷り込まれました。

 なので神代語で読み書き会話が出来ます。

 

「そ、それよりも…何かすごい話じゃないですか!神代の終わりに生きた人の手記なんて、大発見ですよ!」

 

「そうですわね。それに、ミュルグレイヒというのはブレゼンタムの遥か昔の呼び名ですわ。街の来歴を伝える重要な証拠にもなりえます」

 

「神の依代、とは一体何でしょうか?『この地』がこの遺跡のことなら、ここに眠っているって事なんでしょうかね?」

 

 そう。

 それが気になった。

 ゲームの時にはそのようなものは無かったはずだ。

 もしかしたら、後々に何らかのイベントが起きたのかもしれないが…

 

「このまま探索を進めれば何か見つかるかもしれんな。だが、それは調査隊の仕事だ。興味は尽きないが、俺達は俺達の仕事を完遂させよう」

 

「そうですね。でも気になるので調査結果が分かりましたら教えて下さいね、お嬢様」

 

「ええ、良いですよ。それにしても、この遺跡は思ったよりもかなり学術的価値が高そうですわね。調査隊の皆さんもやる気が出ると思いますわ」

 

「ああ…私も調査に加わりたい…」

 

 リーゼさんがそう呟く。

 

「もし、本気で調査隊に加わりたいのであれば、口添えいたしますわよ?」

 

「むむ…それも魅力的…悩みますね…」

 

「ああ、そう言うのは後で悩んでくれ…そろそろ行くぞ」

 

 

 大発見はあったが、その調査は専門家にお任せという事で、私達は再び魔物駆除のための探索を再開するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大体半分くらい見て回ったところで、これまで出現した魔物は第2階層と大きく変わらない陣容だった。

 

 しかし、代わり映えしない相手ばかりで少しばかり気が緩んでいた頃に、そいつに遭遇した。

 

「しっ!…そこの右の角を曲がったところに何かいるッス。ちょっと気配がこれまでと違うッスね」

 

 ロウエンさんが警告を発するが、私もすでに察知している。

 

 この気配の強さから察するに、これまでの相手とは一線を画す相手のようだ。

 

 やや緩んでいた気持ちが一気に引き締まる。

 

 そして、角からぬっ、と現れたのは…

 

「ジャイアント!?」

 

 それは身の丈3メートルはあろうかという巨人だった。

 

 この遺跡の天井はかなり高いはずなのだが、巨人の頭はその天井にもう少しで届いてしまうくらいだ。

 

「え?いったい何処から…?」

 

 この遺跡の入口は最近まで瓦礫で塞がれていたはずだ。

 これほどの巨体が一体どこからどうやって遺跡内部に侵入したのか…?

 そもそも、この近辺に現れるような魔物でもない。

 

「考えるのは後だ!今はコイツを何とかするのが先決だぞ!」

 

 そうだ。

 今までの相手とは違い、コイツの脅威度はBランク相当だ。

 私達なら十分対処可能だが、他に気を取られていられるほど余裕があるわけではない。

 

「これほどの巨体だと、俺一人でターゲット取るのは厳しい!カティア、ルシェーラも前衛で頼む!」

 

「「はいっ!!」」

 

「オイラはリーゼちゃんの守りと、飛び道具で牽制するッス!」

 

 ロウエンさんはいつの間にか短剣から弓矢に持ち替えてる。

 

「デバフかけます![砕牙]!」

 

 リーゼさんが初撃で弱体化の魔法を放つ!

 [砕牙]は対象の筋力を下げて攻撃力などを落とす魔法だ。

 

「『障壁』!」

 

 カイトさんは結界の腕輪で[障壁]を展開したようだ。

 

 それじゃあ私も。

 

「『霧に惑え』!」

 

 ミラージュケープの[霞鏡]を発動させる。

 この魔法で生み出す霧は被術者以外の視界は遮らないのでパーティー戦でも使いやすい。

 

「うがぁ!?」

 

 ぶんっ!!

 

 霧に囚われた巨人は困惑の声を上げて、幻影に向かって拳を振るうが、当然それは空を切る。

 

 

「それ!ッス」

 

 ひゅんっ、とすっ!

 

「ぐぎゃあっ!!」

 

 空振りして動きが止まったところを狙って、ロウエンさんが放った矢が巨人の目に突き刺さった!

 

「はあーっ!!」

 

 すかさず、ルシェーラ様が怯んだ巨人の脚にハルバードを叩き込む!

 

 ガツッ!!

 

「があっ!?」

 

「くうっ!硬いですわ!」

 

 ロックリザードの強固な守りすら軽々と突破したハルバードの一撃でも、巨人に対しては決め手にならないようだ。

 

「ぐごぉっーー!!!」

 

 ぶんっ!ぶぉんっ!どごぉっ!!!

 

 怒り狂った巨人は幻影に惑わされながらも、腕をめちゃくちゃに振り回して攻撃してくる!

 

「おっと!こうめちゃくちゃに振り回されると狙いが定めにくいな…せいっ!!」

 

 そうは言いながらも、カイトは振り回された腕をかいくぐって脇腹に一撃を叩き込む!

 

 ガキィッ!!

 

「くっ!やはり硬いな!」

 

 ルシェーラ様の攻撃と同様、やはり決定的なダメージを与えるには至らない。

 

「…[灼天]!」

 

 カイトさんが離れた直後にリーゼさんの火炎系上級攻撃魔法が放たれる!

 ぶわっ、と巻き起こる灼熱の炎が渦巻いて巨人に炸裂する!

 

「があああっーー!!」

 

 顔面を直撃した炎はすぐに消え去ることなく、巨人は熱と呼吸困難によってもがき苦しんでいる。

 

 そして、巨人の頭が下がった。

 よし!今だっ!

 

「せやぁーーっ!!」

 

 私は、巨人の頭が下がったところでその首をめがけて強烈な突きを放った!

 

 ズシュッ!!

 

 私の放った突きにより、剣は頚椎をも貫いて首の後まで貫通した。

 

 そして、突き刺した剣を抜きながら、巨人の胸板を蹴って後方に離脱する。

 

 ブシューーッ!

 

 巨人は首から大量の血飛沫を上げながら、ゆっくりと後に倒れて行く。

 

 ズズンッ!

 

 重たい音を立てて、ついに巨人は地面に倒れ伏した。

 

 

 

 

 

「ふう…何とか倒しましたね」

 

「流石はBランクと言ったところだな。なかなか骨だったぞ」

 

「本当ですわ。私のハルバードであの程度しかダメージが与えられないとは…カティアさんの突きは見事でしたわね」

 

「お二人の攻撃を見て、斬撃よりは効果的と思いまして。それに、直前にリーゼさんの攻撃魔法で頭が下がったので狙うことができました」

 

「お役に立てて良かったです。それにしても…こんな魔物が出るなんて解せませんね」

 

「そうッス。この遺跡の入口は塞がれてたはずッスからね。これまで遭遇したやつらは、隙間から入り込んだり、この中で成長したり繁殖したりと考えられるんスけど…ジャイアントはおかしいッス」

 

「うん。それにこの地域に出るような魔物じゃないはずだよ。そうすると考えられるのは…あ、ほら!」

 

 私達が話をしていると、倒れていた巨人の死体が徐々に薄れていって…ついには消え去ってしまった。

 

「…ダンジョン化か」

 

「…そうみたいです。こうなると虱潰しに駆除していっても意味がないですね…」

 

 ダンジョンとは、こうした遺跡や洞窟などの構造体そのものが魔物化したものである。

 

 それはまさしくゲームのダンジョンそのもので、魔物は際限なく出現(ポップ)し、倒した魔物の死体は消えてしまう。

 これもゲームよろしく、アイテムを落とす(ドロップする)事もある。

 更には構造自体が変化して成長することもあったりする、らしい。

 

 発生する仕組みは明らかになっていないが、ダンジョン化は『魔物化』なので、どこかに魔核が存在するはず。

 そして、それを破壊すれば元に戻るはずだ。

 

「今まで倒してきた魔物は普通のやつだったよな?」

 

「そうですね…私達が探索してる間にダンジョン化したのかも知れません」

 

「何と言う奇跡なんだか…」

 

「どうします、お嬢様?今回の依頼を達成するには何処かにある魔核を探し出して破壊する必要がありますが…ダンジョンって資源でもありますし…」

 

「そうですわね…ただ、何れにせよ魔核の所在は突き止めておきたいです」

 

「何れにせよ、今日は時間も頃合いだし、一旦地上に引き上げてジョーンズさんにも状況報告した方が良いだろうな」

 

「あ、だったらさっき見つけた手記みたいなやつは持ち帰ったほうが良いのでは?調査隊が入れるようになるのか分かりませんし…」

 

「…そうですわね。収納倉庫(ストレージ)を使えば手を触れずとも回収できますし、そうしましょうか」

 

 

 

 

 そうして、私達は一旦地上に引き上げることとなった。

 

 まさか、ダンジョン攻略することになろうとは…



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第二幕 10 『星空の約束』

「ダンジョン化っ!?」

 

 地上に引き上げて来た私達は、調査隊の大型テントの中で早速ジョーンズさんに遺跡内部の現状を報告した。

 その報告に、ジョーンズさんは目を見開いて驚きの声を上げる。

 

「ええ。本来いるはずのない魔物。そしてそれを倒した後、跡形も無く消え去るところを確認しました。間違いなくダンジョンの魔物の特徴です」

 

「ああ…なんてこった…せっかく調査の目処が付くと思った矢先に…」

 

 すっかり落ち込んでしまった。

 それも仕方がないか…

 

「ジョーンズさん、しっかりしてくださいまし。魔核を探しだせば対処は出来るのですから」

 

「…しかしお嬢様、ダンジョンは資源になり得ます。例え魔核を発見しても早々に潰すという判断も出来ないのでは?お父上にも確認が必要でしょうし」

 

「…いえ、もしこのダンジョンが小規模のものだったら潰してしまいましょう。この遺跡そのものの価値の方が高いとお父様も判断なさるはず。…ジョーンズさん、これを」

 

 お嬢様はそう言って、収納倉庫(ストレージ)から例の資料を取り出してジョーンズさんに見せる。

 

「これは…?」

 

「第3階層の部屋の一つで見つけました。発見当初は現状維持を優先したのですけど、ダンジョン化が判明してからは魔物に荒らされる可能性も考慮して回収したのですわ」

 

「おお、それはありがたいです。どれどれ…」

 

 お嬢様が机の上に置いたそれをジョーンズさんが確認しはじめる。

 

 

 

「…これは!この遺跡の出自を裏付ける極めて重要な資料ですよ!」

 

 資料を読んだジョーンズさんは、少し興奮した様子だ。

 それにしても、流石は古代遺跡の調査を任されるだけあって、問題なく神代語は読めるんだね。

 

「そうでしょう?短い文面でも色々なことが分かると思います」

 

「ええ、神代の終焉を迎えるまさにその時を生きた人の率直な思いが読み取れますし、ここに記されている『神の依代』こそがこの遺跡の存在意義なのかもしれません。それに、ミュルグレイヒ、とあるのは現在のブレゼンタムのことですね。少なくともあの街は神代の頃から存在しているという証拠にもなります」

 

「ええ、そう思いますわ。たったこれだけの資料ですら計り知れない価値がある。魔物退治優先の中でたまたま目についたのがこれだったのですが、他にも貴重なものが見つかる可能性は高いと思いますわ」

 

「そうですな。これは是が非でも魔核をなんとかして頂きたいところです。…しかし、流石はお嬢様ですな。神代語にも通じてらっしゃるとは…」

 

「ああ、私が読み解いた訳ではありませんわ。こちらのカティアさんが読んで下さったのです」

 

「そちらのお嬢さんが?これはまたお若いのに大したものです」

 

「い、いえ…」

 

 う…地道に勉強したわけじゃなく、オキュパロスさまに直接頭に刷り込んでもらったお手軽学習なのでちょっと後ろめたい気がする。

 そんな私の気持ちを察したのか、カイトさんが苦笑しているよ。

 

「ああ、魔核がなんとかなったら、アスティカントにも協力を仰いでもっと大規模な調査をしないとだな…」

 

「アスティカントの考古学部門と言うと、バレンガ教授のところですね」

 

 アスティカントという言葉にリーゼさんが反応する。

 リーゼさんは学院の出身だからね。

 

「おや?君は先生の事をご存知で?」

 

「あ、はい。私は学院の魔法学部門の出身なんです。専門は違いますけど、魔法学でも考古学は無関係ではないですからね。バレンガ教授の授業は受けたことがあります」

 

「ほう、では君は私の後輩ということか。私は学院の考古学部門の出なのでね。バレンガ先生にはお世話になったんだよ。それにしても、流石はお嬢様のパーティーですね、優秀な方がそろっておられる」

 

「ふふ、そうでしょう。優秀な上に信頼ができる方たちですわ。…という事でカイトさま。優秀で信頼の置ける皆様に、新たな依頼を受けていただきたいのですが……もちろん先の依頼は完遂と言う扱いで、それとは別の依頼という形にしますわ」

 

「ダンジョン魔核(コア)の捜索と破壊か。報酬は?」

 

「そうですわね、もともとの依頼の倍額で如何でしょう?」

 

「…皆はどうだ?」

 

「私は構いませんよ。なんか中途半端で終わるのも嫌ですし」

 

「オイラもそれで良いッスよ」

 

「ええ、私も。遺跡の調査は継続して頂きたいですし」

 

 皆それぞれに了承の意を伝える。

 ここまで来たら何とかしたいというのは皆一緒だろうしね。

 

「よし、それでは新たな依頼として受けよう…と、言いたいところだが、遺跡の規模が想定よりも大きい場合や、脅威度Aのヤツが出てきたりしたら、流石に仕切り直さないとマズイと思うが?」

 

「確かにその場合は私の独断で動ける範疇では無いですわね…では、それで撤退した場合でも半額は保証で完遂扱い、で如何です?」

 

「ああ、それなら良いかな」

 

 とくに反対意見もないので、改めて新しい依頼として請け負う事になった。

 

 

 

 

 だが、既に時間は夕刻近く、これからダンジョンに潜るには遅い時間であるので、今日の探索は終了してこれから野営となる。

 

 ジョーンズさんが調査隊の大テントを使っても良いと言ってくれたが、流石に全員が寝泊まりするほどの広さは無く、調査隊の皆さんを追い出すわけには行かないのでそれは辞退した。

 

 お嬢様を野営させるなんて、などと恐縮しきりだったが、むしろお嬢様はワクワクした感じで野営に乗り気ですらある。

 

「ふふふ、ちょっと楽しみにしてたんですのよ?」

 

「そんな良いもんじゃないぞ?」

 

「あ、でも、私も普段はソロで日帰り可能な依頼しか受けないので、気持ち分かります」

 

 そんな話をしながら準備を進める。

 と言っても大した事をする訳ではない。

 

 

 野営場所は調査隊のテントも設営されている神殿前の広場のような場所。

 平坦で見通しがよく、仮に魔物の襲撃があったとしても直ちに気付いて対処が可能だろう。

 

 カイトさんは竈作り、ロウエンさんは薪を集めに、リーゼさんは魔物避けの結界の準備だ。

 

 

 私とお嬢様は、と言うと…

 

「カティアさん、これはどうします?」

 

「あ、それはスープにいれるので、そっちの鍋に入れてもらえますか」

 

「はい、分かりました。それにしても、カティアさんは料理も得意なんですね」

 

「ふふ、まだその評価は早いですよ?まだ下拵えなんですから」

 

「でも、手際の良さを見れば分かりますわ」

 

 そう、今はお嬢様と一緒に料理の下拵えなんかしてたりする。

 

 【私】は元々料理は得意だ。

 【俺】も寝たきりになる前は普通に出来た。

 

 しかし、それよりもだ。

 今の私は[料理8]を持っている。

 ゲームのカティアは料理スキルをマスターしていたのでその影響だ。

 

 ゲームにおける料理とは、一時的なステータス上昇などの効果をもたらす料理(アイテム)を素材から作り出すものだった。

 もちろん、現実のこの世界ではそんな怪しげな料理は作れないが、普通に料理が上手くなっている。

 分量や手順などが何となく分かるのだ。

 う〜ん、何と言うチート。

 

 

 普通は野営でこんな手の混んだ料理をすることなんて無い。

 携帯食、保存食で済ませるのが当たり前だ。

 せいぜい干し肉や塩で味付けしたスープぐらいが関の山だろう。

 

 では、なんで今ちゃんとした料理を作っているかと言えば…

 

 お嬢様が収納倉庫(ストレージ)にしこたま食材と調理器具を入れてきていたからだ。

 

 ちょっと一般との感覚がずれてる気がしないでもないが、美味しい料理が食べられる方が良いに決まってる。

 

 食材はたっぷりあるし、折角だから調査隊の皆さんにも振る舞おうって事で、結構な分量を作ることになったのだ。

 

「お嬢様も何だか包丁さばきが慣れた感じなんですけど…普段料理されるのですか?」

 

 大貴族のお嬢様とは思えないほどの手付きで包丁を扱うさまを見ると、普段から料理をしているとしか思えない。

 まあ、ブレーゼン家は他の貴族とはちょっと感覚が違うみたいだからなぁ…

 

「週に何度かは作ってますわ。生活全般のことは何でも一人でできるように、と言うのが我が家の教育方針でしたの」

 

「へえ…そうなんですね。閣下らしいです」

 

 

 そんな話をしながら下拵えを進めていると、いつの間にか竈と薪の準備が終わって火が起こされていた。

 そして、下拵えも終わって本格的に調理を行っていく。

 

 やがてあたりには良い匂いが漂い始め、日が沈む頃には食事の用意が整った。

 途中、結界を張り終えたリーゼさんもいろいろ手伝ってくれたので、思ったよりも時間がかからずに完成した。

 

 私達の調理中、カイトさんとロウエンさんは簡易テント(タープ)の設営をしてくれていた。

 

 何だか前世のキャンプみたいで楽しい。

 

 

 

 

「…まさか野営でこんな本格的な料理が食べられるとはな。ああ、いい匂いだ、すっかり腹が減ってしまったよ」

 

「本当ッスねぇ…もともとは干し肉とうっすい塩スープを覚悟してたんスけど。凄く美味しそうッス。カティアちゃん、腕を上げたんじゃないッスか?」

 

 一座の皆に料理を振る舞ったこともあるので、私が料理出来ることを知っているロウエンさんはそう評価してくれた。

 

「へへ〜、皆で頑張ったからね、なかなか美味しくできたと思うよ!」

 

「すみません、我々も呼んでいただけるなんて…」

 

「ふふ、大勢で食べた方が楽しいですから。遠慮なく食べてくださいね」

 

「ありがとうございます」

 

 調査隊の皆さんは恐縮しきりだったが、最近はまともな食事が取れてなかったらしく嬉しそうでもあった。

 美味しく食べてもらえれば作った甲斐があるというものだ。

 

「では、頂きま〜す!」

 

「頂きます」

 

 私とカイトさんが食前の挨拶をすると、みんな不思議そうにしていた。

 

「なんですの?それは?」

 

 私が説明すると、お嬢様は感心したようだ。

 

「あら、良い心掛けですわね。我が家にも取り入れましょうか。頂きますわ」

 

「「「頂きます(ッス)」」」

 

 お嬢様に続いて皆も挨拶してから食べ始める。

 …ブレゼンタムで流行ったりして。

 

 

「美味いッス!」

 

「本当、美味しいですね!」

 

「ああ、野営中の食事とは思えん。カティアもルシェーラも料理が上手なんだな」

 

「えへへ〜、ありがとうございます!おかわりも沢山ありますからね!」

 

「ふふ、ありがとうございます。レシピはカティアさんに教えて頂きましたわ」

 

 皆に褒められると気分が上がるね。

 

 調査隊の皆さんも美味い美味いと言って食べてくれる。

 お嬢様の手料理に感激してる人も居るみたいだ。

 良かったね。

 

 おかわりも沢山してあっと言う間に作ったものは全て無くなってしまった。

 お粗末様でした。

 

 

 

 食事を終えて、今は食後の紅茶を楽しんでる。

 …ええ、これもお嬢様の荷物に入ってましたよ。

 

 なんだろう、このまったり感は?

 すっかりレジャーキャンプになってる。

 

 まあ、楽しいから良いか。

 

 

「リーゼ、結界ってどんなやつだ?」

 

 と、カイトさんが尋ねる。

 私達はすっかり寛いでしまってるけど、ここは魔物が出る地域だし気になるよね。

 

「[界絶]を触媒の砂を使って大体100メートルくらいの円になるように効果範囲を広げてます。調査隊の大テントまで全部覆ってますよ。あと、『代行の魔符』で維持持続もバッチリです。Cランク程度の魔物なら入ってこれないはずですね」

 

 [界絶]は定置型の中級結界魔法で物理的な攻撃を防ぐ障壁を張るものだ。

 本来はせいぜい10〜20メートルくらいの円形だが、触媒…今回は魔法の効果範囲を補助するための魔力を通す特殊な砂で魔法円を描いて範囲を広げたのだろう。

 そして、遺跡の中で見せてもらった魔道具で効果時間を伸ばしているらしい。

 

 う〜ん、便利だな…

 やっぱり私も買おうかな?

 

「助かる。この辺りの魔物なら大丈夫そうだな」

 

「はい。万が一破られた場合は大きな音がするはずなので不意に奇襲を受ける心配も少ないと思います」

 

「それなら不寝番は要らないッスかね?まあ、オイラは外だと眠りが浅いので異常があれば即座に覚醒できるッス」

 

「ああ、それは俺も同じですね。じゃあ、特に交代での見張りは不要ということで」

 

 助かる。

 私の身体はまだお子様なので十分な睡眠が必要なんです。

 それに睡眠不足は美容の天敵だよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …?

 ふと、夜中に目が覚めた。

 

 今回、不寝番は置いてないので皆すっかり寝静まっている。

 

 …いや、誰か起きてる?

 

 月明かりと、それに照らされた神殿の白い石材が反射する淡い光で思いの外明るい。

 

 そんな神秘的ですらある光景の中で、誰かが立って空を見上げている。

 

 あれは…

 カイトさん?

 

 私は皆を起こさないようにそっと起き上がり、カイトさんの方に歩いていく。

 

「…カティアか。すまない、起こしてしまったか?」

 

「あ、いえ。何となく目が覚めてしまったんです。…カイトさんは眠れないのですか?」

 

「いや、俺も途中で目が覚めてしまってな。…ほら、見てみろ」

 

 そう言って再びカイトさんは天を仰ぐ。

 私もそれに倣って空を見上げると…

 

「…うわぁ、すごい…」

 

 そこには満点の星空が広がっていた。

 前世ではとても見られないような圧巻のものだ。

 星の光がこんなにも明るいだなんて…

 余りにも壮大で神秘的な光景に、まるで吸い込まれて自分が溶けてしまうような感覚にとらわれる。

 

 そう言えば【私】の記憶でも、こんなふうに夜空を見上げたことはあまり無かったかも。

 こっちの世界では夜活動することがそれほど無いからね。

 

「凄いだろう?こんな光景を見てると自分がいかにちっぽけな存在に感じてな。小さな悩みなんて吹き飛んでしまう気がするんだ」

 

「…悩みがあるんですか?」

 

「そりゃあな。多かれ少なかれ、人は何らかの悩みを持っているもんじゃないか?」

 

「それはそうですね。私もありますよ。差し当たっては明日のダンジョン探索ですかね。次の公演の事とか。…気になる人のこととか。で、でも、嫌な悩みごとはないかも」

 

 何か雰囲気に流されて変なことを口走ったかも。

 ちょっと顔が熱くなる。

 

「ふふ、カティアは前向きだからな。そういうところは好ましいと思うぞ」

 

「私の取り柄ですから。カイトさんの悩みは…私で良かったらいつでも相談に乗りますよ?もっとカイトさんの事聞かせてほしいです」

 

「…そうだな。いつかは相談させてもらおうか。ふふ、頼りにしているぞ」

 

「はい!約束ですよ!」

 

 なんだか雰囲気に流されたのか、手が触れるか触れないかの距離まで、私はカイトさんにそっと寄り添った。

 

 そして、二人で無言でいつまでも星空を眺めるのだった。

 

 

 

 

ーー ロウエン、ルシェーラ、リーゼのコソコソ話 ーー

 

 

(う〜ん、何かいい雰囲気ッスねぇ…)

 

(そうですわね。でも、もどかしいですわ…もっと、こう、ズバッとして欲しいです)

 

(おっと、お嬢さん。起きてらしたんで?)

 

(ええ、カティアさんが起きる気配がしたので、何かな、と思いまして)

 

(へえ、ほんと冒険者に向いてるっぽいッスねぇ…)

 

(そうですか?ふふ、やっぱり冒険者登録しようかしら?)

 

(あ、カティアさんがカイトさんに寄り添いましたよ)

 

(ありゃ、リーゼちゃんも起きてたんスか)

 

(そこで手を繋ぐのです!…ああ、もう!じれったいですわ!)

 

(…あの二人も大変ッスねぇ)

 

 

ーーーーーーーー

 



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第二幕 11 『ダンジョン』

 野営の翌朝。

 日の出とともに起床、身支度を整え朝食を取ったら早速ダンジョン攻略に向かう。

 

「みんな準備はいいか?…じゃあ行こうか。目標はダンジョン魔核(コア)。通常であれば最深部にあるはずだから、途中の探索は跳ばして一気に最深部に向かおう」

 

 カイトさんの言うとおり、ダンジョン魔核(コア)は普通はダンジョンの最深部にあることが多い。

 効率的に攻略することだけ考えるならば、途中の階層は無視して最深部を目指すのが一番の近道だろう。

 稀に最深部よりも浅い所にある場合もあるが、そうなると虱潰しに見て回るしかない。

 

 ただ…

 昨日途中まで探索していた時はただの遺跡だったが、ダンジョン化したことによって探索済みの場所でも改変が起きてるかもしれない。

 魔物以外の一番の懸念はトラップの存在だ。

 

 昨日の探索時は一つもトラップの類は無かったが…

 実はゲームの時はいくつかのトラップが存在したのだ。

 

 記憶を元に注意深く見ていたのだけど特に見つからなかったが、ダンジョン化した今となってはもう一度注意しておく必要があるだろう。

 まあ、ロウエンさんもいるし、それほど心配する必要はないが。

 でも、念の為伝えておく。

 

「ロウエンさん、ダンジョン化したら昨日は無かったトラップがあるかも?」

 

「ああ、そうッスね。油断はしないようにするッス」

 

 

 

 という事で、再び地下遺跡にやって来た。

 まだダンジョン化したばかりなら構造の変化は殆ど無いはず。

 なので一気に最深部に向かうなら、第3階層まではとにかく真っ直ぐ進めば良いのは昨日と同じだ。

 

 第1階層は特に魔物に遭遇することも、トラップが仕掛けられてることもなくあっさりと通過。

 

 そして、第2階層だが…

 

「ロウエンさん、あそこ怪しくない?」

 

 と、少し先にある床の一部を指差してロウエンさんに確認する。

 【俺】の記憶では第2階層からトラップがあったと思い、記憶を頼りに注意して見ていたら、床の一部が周りと色が異なることに気がついたのだ。

 

「そうッスね。やはり昨日とは違うみたいッス。昨日の帰り道も無かったんで、ダンジョン化が進行してるんスかね」

 

 と言いながらロウエンさんは石をひょいっ、と怪しそうな床に向かって投げつける。

 

 すると…

 

 バガンッ!

 という音がして床が開く。

 

「落とし穴ッスか。単純だけど厄介な罠ッスね。…深さはそれほどでもないので死にはしないと思うッスけど、慎重に行かないとッス」

 

「良く気が付きましたわね、カティアさん」

 

「ロウエンさん仕込の斥候術です。ロウエンさん程ではないですけど、ポイントを押さえればある程度は分かりますよ」

 

「本当に何でも出来るのですわね…」

 

「専門家には及びませんよ。でも、私ってソロ活動の方が多いので一座の皆から色々な事を教えてもらってるんです」

 

 まあ、器用貧乏とも言う。

 でも、一人で何でもこなせるに越したことはないだろう。

 

 

 トラップに注意しつつも第2階層のメイン通路を進んでいく。

 記憶通りなら、もうこの先には無いはずだが、油断は禁物だ。

 

 そして、慎重になりながらも迅速に進んでいって、第3階層へと続く階段までやって来た。

 

 途中、魔物にも遭遇した。

 Cランクの蜘蛛の魔物、ヴェノムスパイダー。

 この周辺地域には存在しないダンジョン産の魔物だ。

 

 同じくCランクのジャイアントスパイダーよりも小ぶりで攻撃力も劣るが、その代わり致死性の毒を持ち危険度はこちらの方が上だ。

 だが、それも難なく倒すことができた。

 

 このパーティーならCランクは全く問題にならないだろう。

 

 

 

 そして第3階層にやって来た。

 昨日はこの階層でBランクに遭遇したのだ。

 つまり、このダンジョンでは最低でもBランクまでの魔物は出現するという事だ。

 

 

「っと、早速お出ましッス。ランドドレイク。Bランクっスね」

 

 階段を降りてすぐに魔物と遭遇する。

 ランドドレイクは巨大な蜥蜴とか、小型のドラゴンとでも言うべき魔物で、体長は10メートル近くある。

 

 ドラゴンぽく見えるが、ブレスを吐いたりすることはない。

 しかし、その巨体に見合うだけの絶大な攻撃力と、意外なほどの俊敏さを持つ強敵だ。

 

「カイトさん、蜥蜴なら上級の冷凍魔法で一気にカタを付けちゃいます。詠唱時間を稼いでもらえます?」

 

「ああ、頼んだ」

 

 カイトさんに時間稼ぎを頼んで詠唱に入る。

 

 ルシェーラ様はカイトさんとともに前衛、ロウエンさんは弓矢で撹乱、リーゼさんは味方にバフをかけてから連射の効く魔法で牽制してくれる。

 

 前衛が攻撃を凌いでる隙に10秒ほどかかって詠唱を完了させ…

 

「いきます!後退してください!…[絶凍気流]!!」

 

 前衛の二人が後退するタイミングに合わせて魔法を放つ!

 空気をも凍てつかせる極低温の猛烈な凍気が一気に敵に襲いかかる。

 かつて"G"退治に使ったのと違って手加減なしの全力だよ!

 

 凍気はあっと言う間にランドドレイクの巨体を飲み込んで、ほんの一瞬のうちにカチコチに冷凍してしまった。

 

 私が使える魔法の中でも特に攻撃力の高いものの一つだ。

 例えBランクといえども、魔法耐性の低い相手なら一撃で倒せる。

 ソロだと詠唱時間が稼げないので使いどころが難しい…と言うか正直使えない魔法だけど、パーティー戦なら前衛が凌いでくれればこの通りだ。

 

 と言うか、カイトさんが鉄壁なので安心して詠唱できるのだ。

 あれ程の巨体相手でも相変わらずの安定感。

 普通に考えればあの巨体で突進でもされれば防ぎきれるものじゃ無いはずだけど、そう言う兆候を見逃さずに機先を制して封じてしまうのが凄い。

 

 

「…あんなのをゴキ○リ退治に使うのか…」

 

 あ、そのカイトさんがドン引きしてる…

 こ、ここは言い訳しておかないと!

 

「い、いえ、もちろんGに放つときは抑えてますよ!今回は全力全開でしたが…」

 

「それでも暫くは一面銀世界になったッス」

 

 そこっ!

 余計なことは言わないっ!!

 

「でも本当、頼もしいですよ。私は炎系なら上級も使えますけど、冷気系統は苦手なんですよね…カティアさんて苦手な系統あるんですか?退魔も炎も冷気も使ってますし…」

 

「もちろん有りますよ。結界系統はそれほど得意じゃないです。バフデバフもそんなには…そのへんはリーゼさんが得意ですよね?」

 

「ええ、攻撃魔法よりはそちらの方が得意です。そう考えると、私達は二人でバランスが取れてるって事ですね」

 

 そう、お互いを補完できるのがパーティーを組む最大のメリットだ。

 そういう意味では前回の『エーデルワイス』並に今回のパーティーも非常にバランスが良いと思う。

 いや、『エーデルワイス』はどちらかと言うと攻撃力に特化した感じだったので、守備力もある今回のパーティーの方がよりバランスが取れてるかも。

 

 

 

 初っ端からBランクに遭遇したが、その後はそれほど強い魔物に遭遇することもなく進んでいく。

 

 この階層も真っ直ぐ進むだけなので、さほど時間もかからずに第4階層へと続く階段に辿り着いた。

 

 

 

 さあ、いよいよこれからは未知の領域に踏み込むことになる。

 階下に降り立つと、これまでは一直線に先に続いていた通路は少し先のところでT字路になっている。

 

 どうやらこの階層も【俺】の記憶にある構造と同じようだ。

 さり気なく最短ルートに誘導したいが…どうしようかな?

 

「どうやらこれまでの階層とは勝手が違うようだな」

 

「そうみたいッスね。さて、先ずはどっちに進むべきか?」

 

「左に行きましょう」

 

 記憶を頼りに正解と思しきルートを示す。

 

「ん?やけにハッキリしてるな。何かあるのか?」

 

「勘です!」

 

 理由なんて思いつかないので、勘ということでごり押しすることにした。

 …いけるかな?

 

「…まあ、他に判断出来る要素もないしそれでいいか。何だかカティアの勘なら合ってそうな気もするしな。リーゼ、マッピング頼むぞ」

 

「あ、はい。分かりました」

 

 実はこれまでの階層も念の為リーゼさんがマッピングしていたりする。

 この階層は今までよりも重要だろう。

 

 

 そうやって、分岐点を『勘』で行く先を決めながら進んでいくと、何度目かの分岐を過ぎたところで新たな魔物に遭遇した。

 

「あの曲がり角の先に複数の気配があるッス。多分これは…」

 

「アンデッドですね。この禍々しさ…上位かもしれません」

 

 確かに曲がり角の先に微かな気配を感じるが、私にはどの程度の魔物かは判断がつかない。

 リーゼさんによると上位アンデッドかもしれないと言うことだが…

 

「『清浄なる気よ、此処に集いて聖なる衣となり、我らが清廉なる魂を守り給え』…[聖套]!」

 

 リーゼさんが詠唱すると、青緑色の淡い光が私達を纏う。

 上位アンデッドのライフドレインを防ぎ、精神系の攻撃からも守ってくれる上級結界魔法だ。

 

「念の為[聖套]をかけました。これである程度上位のアンデッドでも対応できるはずです」

 

「ああ、助かる。…来るぞ!」

 

 角から姿を現したのは…

 

「レイス!…3体いるッス」

 

「Bランクが3体か…なかなか厄介な。『魔壁』!」

 

 レイスは確か魔法攻撃が主体だ。

 使用してくるのは中級程度までだったと思うけど、3体同時に攻撃されると危険だ。

 

「ルシェーラ、一体は頼む!」

 

「はい!任せてくださいまし!」

 

『…[氷葬]』

 

 っと、早速攻撃して来た!

 敵の魔法発動とともに床が光って冷気が吹き上がり、次いで氷塊が現れた。

 標的にされたのはロウエンさんだけど、魔法発動の兆候を察知して難なく回避する。

 

「ちっ!前衛後衛関係なしッスね!」

 

 ロウエンさんの言うとおり、あまりこちらの隊列には関係なく攻撃して来る。

 動きも早く不規則なのでお嬢様も狙いが定めにくいようだ。

 

 ああもう!鬱陶しいな!

 

 「…『退魔』!」

 

 相手の攻撃に注意を払いつつも詠唱を完了させたリーゼさんが魔法を放つが、退魔の光は縦横無尽に動き回るレイスを捉えることなく躱されてしまった。

 

 もっとも厄介な攻撃は聖套で防いでくれるけど、あの動きを何とかしないと…

 

 そうだ!

 確か[絶唱]の歌の一つにアンデッドに効果がある聖歌があったはずだ。

 

 ゲームの時は実際に歌ったりすることは無くて、単なるエフェクトで表現していただけだが、現実のこの世界でスキルを発動させるにはちゃんと歌う必要がある。

 そして、この間(シギル)を発動してから、何となく対応する歌が分かるようになったのだ。

 

 

「みんな!敵の動きを止めるからその隙に!」

 

 私は祈りを捧げるように両手を組んで歌い始める…

 

 歌うのはこの世界でも一般的な鎮魂歌。

 葬儀の際に歌われる、魂を輪廻に導くための歌だ。

 

 シギル発動の時と異なり、歌い始めてすぐに[絶唱]効果が現れるのを感じる。

 

「!動きが鈍くなりましたわ!これなら…せやぁーっっ!!」

 

 お嬢様が相手をしていた一体を仕留めたようだ。

 

「もう一体!はぁっ!!」

 

 次いで、もう一体をも仕留める。

 

「…[退魔]!」

 

 コゥッ!

 

 リーゼさんが放った退魔の光がついに最後の一体を捉えて消滅させた。

 

 皆がレイスを全て倒したのを見届けて、私も歌い終える。

 

 

「ふう…何とかなりましたわ。カティアさんのおかげですわね。今の歌は…?」

 

「あ、私のスキルで[絶唱]っていいます。歌を歌うことで色々な効果が発現できるんです」

 

「ああ、そう言えばお父様から聞きいてましたわ。何でも(シギル)を発動させるのにもそのスキルを使うとか」

 

「歌姫のカティアならではのスキルだな。何にせよ助かったよ。同じBランクとは言え厄介さはそれぞれ異なるな。パーティーとの相性が顕著に現れる」

 

「そうですわね。まだ対処出来てますけど、状況によっては撤退も考えないとですわね」

 

「そうだな。侯爵令嬢を過度な危険に晒すわけにもいかんしな」

 

「あら?私の事は自己責任ですわ。パーティー全体のことを考えてくださいまし」

 

 お嬢様はちょっと拗ねているようだ。

 自分を理由にされるのは納得行かないんだろうけど、でもやっぱりねぇ?

 

「ああ、すまない。言い方が悪かったな。何れにせよ危険と判断したら撤退する」

 

 再び方針を確認してから、探索を再開する。

 

 

 その後何度か接敵したが、レイス程には苦戦する相手も無く順調に進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次は…右で!」

 

 多分これが最後の分岐だ。

 角を曲がってしばらく進んでいくと…第5階層へと続く階段が見つかった。

 

「…まじッスか。一体どう言う勘をしてるんスかね?」

 

「…本当に勘なのか?」

 

 ぎくっ!

 だが、ここは勘で押し通すしかない!

 

「い、いや〜、自分でもビックリです!凄いな〜私の勘って」

 

 じと〜っ、と、お嬢様が怪しげな目で見ているが気にしない!

 ここで目を合わせてはいけないのだ!

 

「はぁ、何か怪しいですけど…まあ、迅速に進めましたし助かりましたわ」

 

 よし!勝った!(何が?)

 

 何とか無理やり誤魔化して、私達は第5階層へと降りていった。

 

 



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第二幕 12 『ダンジョン最深部』

 さて、【俺】の記憶によればこの第5階層が最後のはずだ。

 広さこそ違ったものの、構造自体は記憶と一致していたのでこのダンジョンもこの階層で最後である可能性は高いだろう。

 

 そして、記憶と同じならば、この階にはおそらく…

 

 

「カティア、また『勘』で行けるか?」

 

「え?ええ、私の『勘』にお任せください!」

 

 もう、勘でいいやって感じの空気。

 いいね、ゴリ押しの勝利だ。

 

「それでは…あそこの分岐は左で!」

 

 どんどん行くよっ!

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜、こりゃまた…どうするッスか?」

 

「…絵面だけ見ると間抜けなんだが…厄介なことには違いない」

 

 ロウエンさんとカイトさんが困惑しているのは、目の前の魔物だ。

 

 Bランクの大陸亀(ランドタートル)なのだが…

 通路一杯を塞ぐ形で、でん!と鎮座している。

 どう見てもオマエも身動き取れんだろ?って感じだ。

 

 今は頭も手足も甲羅の中に引っ込めていて、こうなると物理も魔法も殆ど効果がない。

 

「う〜ん?じゃあ迂回します?…って私の勘が言ってます!」

 

「…そうするか」

 

「絶対勘じゃないですわ…」

 

 聞こえませ〜ん!

 

 という事で別の通路から行く事になった。

 まだ迂回可能なところでよかったよ。

 

 …しかし、あの亀さんは一生ああなんだろうか…

 ダンジョン魔核(コア)を破壊すれば消えるのかな?

 

 

 

 

 

 

 そうしてまた進むことしばし。 

 思わぬ妨害にあったが、迂回してからは魔物の対処も順調でサクサク進んでると思う。

 

 そして今、目の前にはこれまでに見られなかった大きな両開きの扉が。

 

「いかにも、って感じッスねー」

 

「ボス部屋…か?」

 

「それで?カティアさんの『勘』だと、ここには何がいるんですの?」

 

「えと、多分ミノタウロスとか…?あはは…でも、あくまでも勘ですよ?」

 

 【俺】の記憶通りなら、なので、現実との差異はあるかもしれない。

 

 

「Aランクっスね…カイト、どうするッス?」

 

「…物理攻撃のみのパワーファイターならAと言えどもこのパーティーなら十分対処可能とは思いますが…」

 

 と、カイトさんは言葉を濁してチラッとお嬢様を見る。

 

「ふふ、腕がなりますわね!」

 

「はぁ…すっかりやる気だな。Aが出たら撤退とか言うのはどうしたんだ」

 

「あら、ボス戦なら多少のリスクはしょうが無いですわ。それにこのパーティーなら相性は良いのではないですか?」

 

「まあ、そうかも知れんが…分かった。ではやるとするか」

 

「あ、でもミノタウロスって言うのは勘ですからね!相手は見極めましょうね!」

 

 いきなりSランクとかは勘弁だ。

 

 

 

「じゃあ、陣形だが…脳筋相手なら俺がターゲット取るとして、ルシェーラは物理アタッカー、ロウエンさんは弓で牽制しつつ後衛の護衛。ミノタウロスは魔法防御は薄いよな?リーゼは多少詠唱に時間がかかってもなるべく威力のある魔法攻撃を当ててくれ」

 

「あれ?私は?」

 

「カティアは遊撃で自由に動いてくれ。役割固定するより臨機応変に動くほうがやりやすいだろ?」

 

「分かりました!」

 

「じゃあ、そろそろ行くか?」

 

「あ、その前にできるだけバフかけてきません?ご丁寧にこちらが来るのを待ち構えてるんだし」

 

「それもそうだな。リーゼ頼めるか?」

 

「はい、分かりました」

 

 

 という事で、前衛には筋力を増強する[豪腕]と、物理攻撃を軽減する[金剛盾]を。

 パーティー全員に敏捷性を向上させる[瞬閃]をかけてくれた。

 

 

「あ、じゃあ私からも!」

 

 と言って、私は歌を歌い始める。

 

 今回歌うのは、勇ましい行進曲だ。

 効果は対象全員の身体能力全般の底上げと精神強化。

 

 歌い始めると同時に紅い光が皆を包み込み、歌い終わると光は身体に吸い込まれるように消えた。

 

「これは…力が漲る感じがしますわ…これも[絶唱]の効果ですの?」

 

「はい。効果は身体能力全般と精神力の向上です。普通の支援魔法(バフ)とは違うので干渉せずに上乗せできるのが利点ですね」

 

「こうやって事前準備できる状況ならかなり有用だな。よし、効果があるうちに行こうか」

 

 そう言ってカイトさんは扉に手をかけて…

 

 ギィ…

 

 重厚な見た目とは裏腹に、やや高い軋んだ音を立てて徐々に開いていく。

 

 

 

 中にいるのは果たして。

 

 身の丈3メートルはあろうかと言う巨大な人型のシルエット。

 だが、その頭の両側からは湾曲した角が生えており、その相貌は牛そのもの。

 

 そこには【俺】の記憶に違わずミノタウロスが待ち構えていた。

 

 『ぶふぅ〜っ!!』

 

 侵入者を見咎め、激しい鼻息をたてながら手にした長柄戦斧(ポールアクス)を構える。

 

 『ぐおおーっっ!!!』

 

 そして、ひとたび猛烈な雄叫びを上げると、周囲の空気がビリビリと震えるほどの強烈なプレッシャーが放たれる!

 

「流石はAランクと言ったところか。凄まじいプレッシャーだな。いつかのオーガもどき程ではないが。よし!前衛出るぞ!」

 

「了解ですわ!」

 

 カイトさんが先頭を切って飛び出し、ルシェーラ様がそれに続く。

 

「取り敢えず先制ッス!」

 

 と、ロウエンさんが弓で先制の矢を放つ!

 

 ぶおんっ!!

 

 立て続けに3連射された矢はしかし、斧の一振りで打ち払われる。

 

 しかしその大振りをかいくぐってカイトさんが懐に飛び込み、脇腹に長剣の一撃を見舞う!

 

 ザシュッ!!

 

『ぶもぉーーっ!?』

 

 ミノタウロスは悲鳴をあげ、傷口からは血飛沫が舞う!

 だが致命傷には程遠いようだ。

 

「ちっ!浅いか!?」

 

「せいやあーーっっ!!」

 

 ぶんっ!!

 

 ガキィッ!!!

 

 カイトさんに続いて、ルシェーラ様が遠心力をたっぷりと乗せてハルバードを叩き込むが、これはポールアクスによって防がれてしまう。

 

 ルシェーラ様は防がれたと分かった瞬間にすぐ様跳び退り、カイトさんと位置を入れ替える。

 

「…[灼天]!!」

 

 その間に詠唱が完了したリーゼさんの上級魔法攻撃が炸裂する!

 燃え盛る灼熱の炎が渦を巻いて巨体を飲み込んだ。

 

『ぐおおおーーーっっ!!!』

 

 ぶんっ!!ぶんっ!!ぶおんっ!!

 

 猛烈な炎に焼かれながらも、何度も斧を振り回して炎を振り払う。

 そしてその勢いのまま、大上段に構えた斧をカイトさんに向かって叩き下ろす!

 

 ぶんっ!!ドゴォッッ!!!!

 

 圧倒的なパワーで叩きこまれるそれを、カイトさんはもちろんまともに受けることはせずに左に跳んで躱す。

 

 渾身の一撃は目標を取り逃したもののその破壊力は凄まじく、床を砕いて陥没させ辺りに勢いよく破片を撒き散らす!

 

()っ!!」

 

 攻撃は回避したものの飛礫が当たったらしく、カイトさんは思わず声を漏らす。

 

「はあっ!!」

 

 大振りの攻撃によって硬直した瞬間を狙い、ルシェーラ様がハルバードを突き出す!

 

 ズブッ!!!

 

『ぐがああっ!!!』

 

 カイトさんの初撃と反対側の脇腹に槍穂が突き刺さる!

 しかし、これも致命傷には及ばず、敵はすぐさま反撃の斧を振るってくる。

 

 ぶおんっ!!

 

「くっ!なかなかタフですわね!!」

 

 紙一重で躱しながらルシェーラ様は再び後退する。

 

 何度か良い攻撃が入るものの倒し切るには至らず、いつの間にか傷口も塞がってしまっている。

 圧倒的なパワー、巨体に見合ったタフネスさのみならず、自然治癒能力も備えているらしく、まさにAランクに相応しい強さと言えるだろう。

 

 

 こちらが一旦間合いを取ったのを見計らったミノタウロスは身体を大きく捻って腰だめに斧を構えた。

 

『ぶふぉーーっ!!』

 

 そして、裂帛の気合を込めて力を溜め始める。

 それに合わせて周囲の空気がビリビリと震える。

 

 来たっ!!

 

 ただでさえ圧倒的なパワーを誇るミノタウロスが、さらに渾身の力を限界まで蓄積して一気に解き放つ必殺の技。

 それが今まさに解き放たれようとしている。

 

「まずいっ!みんな避けろ!!」

 

 カイトさんが警告を発するが、私はこの瞬間を待っていたんだ!

 

 どんっ!と言う衝撃音とともに、ミノタウロスが突進を開始した…その瞬間!

 

「[落地]!!」

 

 勢いよく踏み出した先にある床が、私の魔法によってボコォッ!と陥没した!

 突然予想外のところで足を取られたミノタウロスは、突進の勢いそのままに頭から地面にダイブする。

 

「今がチャンスです!さあ、一斉に攻撃(ボコボコに)してください!」

 

 完全に無防備状態となったミノタウロスに対して、全員が一斉に自身の最大威力の攻撃を見舞う!

 

 これには流石のタフネスを誇るミノタウロスであっても大ダメージは必至で、ようやく立ち上がる頃にはボロボロになっていた。

 

「さあ、トドメです![雷蛇]!!」

 

 バチバチバチッ!!

 

『がぁーーっっ!?』

 

 私が放った雷撃魔法によって全身に雷の蛇が這い回り、ミノタウロスは苦悶の悲鳴を上げる。

 

 雷撃が収まる頃には、あれだけの猛威を奮った巨体もついに完全に沈黙する。

 そして、ゆっくりとその巨体が傾いていき…

 ズズンッ!と地響きを立てて地面に倒れ伏した。

 

 いや〜、ゲームの時の必勝パターンがハマって良かったよ。

 

 

「ふぅ…倒したか。流石はAランクなだけはあったな。カティアの機転がなかったらもっと苦労してるところだった」

 

「カティアさんはずっとあれを狙ってたんですのね」

 

「ええ、あれをまともに食らうのは流石にマズいですからね。出鼻を挫くのと、最大のチャンスを作り出すためです。あ、それよりもカイトさん。さっきミノタウロスの攻撃を避けたとき飛礫を浴びてましたが大丈夫ですか?見せてください」

 

「あ、ああ、大したことはない。掠っただけだ」

 

「…でも、額から血が出てますね。…[快癒]。はい、これでよし!…どうしました?」

 

「ああ、いや…ありがとう。…治癒も使えるんだな」

 

 ああ、治癒の魔法の使い手って凄く少ないんだよね。

 もともとは【私】も使えない。

 ゲームでは回復魔法なんて基本的な魔法で当然使えてたからその辺の感覚を失念していたよ。

 アネッサ姉さんも使えるし。

 

「ええ、まあ。…あ、見て下さい、ミノタウロスが消えていきます」

 

 誤魔化すように話題をそらす。

 

 私の視線の先には倒したミノタウロスの身体が徐々に薄くなって消え去ろうとしているところだった。

 

 そして、消え去ったその後には…

 虹色に輝く拳大の球体が残った。

 

「あ、あれダンジョン魔核(コア)じゃないですか?」

 

 話に聞く特徴と一致する。

 すると、これを砕けばダンジョン化は解けるという事だ。

 う〜ん、こんなにキレイなのに破壊するのは何だか勿体ない気がするなぁ。

 

「これを壊せばダンジョン化が解けるんですよね?」

 

「ええ、そのはずです」

 

「何だかもったいないですね…」

 

「あ、確か破壊しなくてもダンジョンの外に持ち出せばダンジョン化は解けるはずッスよ。お嬢様の収納倉庫(ストレージ)に入れてしまえばいいんじゃないッスかね?」

 

「あ、そうなんですね。そう言えば稀に高値で取引される事があると聞いたことがありますわね。では、早速…」

 

 そう言ってお嬢様は収納倉庫(ストレージ)にダンジョン魔核(コア)を収納した。

 

「…特に変化はないけど、これで元に戻ったのかな?」

 

「まあ、帰り道に分かるんじゃないッスかね?」

 

「元々ここに住み着いていた魔物がいるかも知れませんから、5階層、4階層は帰り際に探索して行きますか?」

 

「そうだな。折角だし安全確保はしておくか」

 

「そうして頂けると助かりますわ」

 

 

 

 こうして、私達はダンジョン攻略を果たしたのだった。

 



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第二幕 13 『隠し部屋と謎の女の子』

 ダンジョンのボスであるミノタウロスを倒し、ダンジョン魔核(コア)の確保に成功した私達は、ボス部屋で休憩を取っていた。

 

 そんなとき、周囲を調べていたリーゼさんが何かに気付いて私に話しかけてきた。

 

「カティアさん!ちょっとこちらに来ていただけますか?」

 

 そう言われて向ったのは、ボス部屋の扉から入って真正面、部屋の一番奥にある壁のところだ。

 

「何ですか?リーゼさん。何かありましたか?」

 

 休憩していた他の皆も集まってくる。

 

「ここ、見て下さい。これって(シギル)じゃないですか?」

 

 そう言われて見てみると、戦闘中は気付かなかったけど、確かにいくつかの印が円を描くように配置されているのが確認できた。

 これは【俺】の記憶には無いものだ。

 ここまで来て現実世界との相違があるとは…

 

 

「…確かに、(シギル)みたいですね。これ、エメリール様のものと同じ形です」

 

 一対の翼を象ったような印は以前私が発動したときのものと同じものだ。

 

「他にも…全部で12種類?」

 

「この大陸の王家の祖に(シギル)を与えた神々が確か12柱でしたわ。…これはイスパル王家に伝わるディザール様の(シギル)ですわね」

 

「ああ、こっちはレーヴェラントに伝わるリヴェティアラ様のものだ」

 

 各王家の祖先に(シギル)を与えた12柱の神々…

 その印が何故ここに?

 一つ思い当たるのは、あの手記に書かれていた『神の依代』か。

 

 何となく、そっとリル姉さんの(シギル)に指先で触れる…

 

 すると、突然印が輝き出した…!

 

「え!?ひ、光った!?」

 

 ごめんなさいっ!?

 私、何もしてません!!(嘘)

 

 と、内心混乱していると、印の光は石材の継目を伝って壁全体に広がった。

 そして、少しずつ壁の中心が音も立てずに左右に開いていく…

 

「壁が…」

 

「これは…隠し通路ッスか…カティアちゃんの(シギル)に反応したんスかね」

 

 そうして、完全に壁が開き切ると光が収まり、奥へと続く通路が現れたのだった。

 

「…行ってみましょうか?」

 

「…そうだな」

 

「これは、ワクワクしますわね!」

 

「そうですね!また何か大発見が期待できそうです!」

 

「あの手記にあった『神の依代』があるんスかね?」

 

 そんな話をしながら皆で通路を進んでいく。

 そして10メートルくらい進んだところで再び大きな部屋にたどり着いた。

 

 部屋の中央には、四阿のように屋根に覆われた祭壇のようなものがあった。

 

 さらにその奥には、よく分からない構造物が。

 大きな石造りの…石碑のようなもの。

 

 

 ひとまず祭壇?の方に向うと…

 

「…えっ!?お、女の子!?」

 

 興奮を抑えきれず一人先行していたリーゼさんが、祭壇の上を確認したとたん驚愕の声を上げる。

 

 そう、祭壇の上には小さな女の子が背中を丸めて横たわっていたのだった。

 

 皆も驚いて声も出ない様子。

 私ももちろん驚いている。

 

 しかし、私が驚いているのは、こんなところに小さな女の子がいるという事だけではない。

 

 髪の毛は光の加減によって金にも銀にも見える不思議な色合い。

 私の髪色に似ているが、やや暗い色合いのように見える。

 

 そして、その顔は…

 夢で見た小さいカティアと瓜二つだった。

 一番最初に見たときの3歳くらいの姿だ。

 

 他の皆も、私にそっくりであることに気付いたようだ。

 

「…え〜と?娘さんですか?」

 

「そんな訳ないでしょう!?」

 

 リーゼさんのボケに思わずツッコミを入れる。

 

「でも、本当にカティアさんにそっくりですわ…娘は無いにしても、何らかの血の繋がりがあるのでは?」

 

「小さい頃のカティアちゃんにそっくりッス。大将が見たらビックリするッスよ」

 

「そもそも何故こんなところに?偶然迷い込むような場所じゃないだろ?」

 

「その子、生きてるんスよね?」

 

「あ、呼吸はしてるみたいです。寝てるのか気を失ってるのかは分かりませんけど…もしかして、この子が『神の依代』なんですかね?」

 

「う〜ん?…でも、ただの女の子がこんなところにいる方が不自然だし、その方が納得はできるかも?私に似ているのは良く分からないです」

 

 と、色々話をするが、結局この子が何なのか結論は出ない。

 

 これはリル姉さんに相談かな?

 

「それで、この子どうしましょう?このままにしておく訳にもいかないでしょうし」

 

「そうだな、流石に放ってはおけないか」

 

 少なくとも、小さい子供をこんなところにおいていく訳にもいかないので連れて帰ることになった。

 

 見た目は私そっくりで気になるので、他の人に任せるのも躊躇われ、私は女の子をそっと抱き上げる…

 と、彼女に触れた瞬間に何だか不思議な感覚がした。

 何だろう…自分の身体の中に、何か暖かなものが流れ込むような感じ。

 

「カティア、大丈夫か?俺が背負っていくぞ?」

 

「!い、いえ、大丈夫ですよ。この子軽いですし、全然苦になりませんよ」

 

 少しぼぅっとしてしまったのか、カイトさんが心配して声をかけてくれたところでハッと我に返る。

 何だか急にこの子の事が愛おしく感じて、他の人には渡したくないと思ってしまった。

 

 実際、女の子はお人形のように非常に愛らしく、腕の中に抱えた小さな身体は暖かで、とても庇護欲を掻き立てる。

 

 

「…私も抱っこしたいですわ…」

 

「私も…ほんと、可愛いですねぇ…」

 

 女性二人はやっぱり愛くるしい女の子を抱っこしたいようだ。

 

「じゃあ、後で交代しましょうか」

 

「「ぜひ!」」

 

 本当は渡したくないんだけど、独り占めは良くないよね…

 

 

 

 

「そう言えば、こっちの石碑?は何なんスかね?」

 

 ロウエンさんが部屋の奥にある石碑のようなものを指差して言う。

 

「何かは分からないですけど、何らかの魔法装置に見えますね。ほら、床に魔法陣の様なものが描かれてます」

 

 リーゼさんの言うとおり、石碑を中心として直径3メートルくらいの魔法陣の様なものが描かれている。

 

「カティアさんが触れたらまた起動するのではないですか?」

 

 と、ルシェーラ様が言うので、女の子を抱っこしたまま石碑に触れてみるが…

 

「…特に何も起きませんね」

 

「残念ですわね。まあ、調査の方は専門家にお願いいたしましょうか」

 

 

 特にこれ以上得られるものはないと判断して、私達は隠し部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 帰還しながら第5階層、第4階層のまだ探索していないところを巡っていくが、魔物に遭遇することはなかった。

 ところどころで魔物の死骸が散乱していて、おそらくダンジョン産の魔物に淘汰されたのだろう。

 こちらとしては手間が省けて助かったよ。

 

 

 女の子はまだ目を覚まさない。

 呼吸は穏やかで単に眠っているようにしか見えないけど、ちょっと心配だ。

 約束通りお嬢様やリーゼさんと交代で抱っこしている。

 

「ふわぁ〜、かわいいですわ〜。ほっぺプニプニ〜」

 

「本当に。髪の毛もふわふわサラサラです。カティアさんって今も凄く美人ですけど、子供の頃もこんなに可愛かったんですねぇ…」

 

 ほっぺをつんつんされたり、頭をナデナデされてもやはり目を覚まさない。

 

「う〜ん、ちゃんと目を覚ますのか心配だなぁ…」

 

「大丈夫ですわ。だってこんなに可愛いんですもの!」

 

 ああ…お嬢様がポンコツになってる。

 

 

 

 その後も退路は特に問題もなく、地上に戻ってくることができた。

 早朝から探索を開始して、今は昼過ぎくらいだろうか?

 しばらく薄暗い地下にいたので、日差しがとても眩しい。

 

 ちょうど地下遺跡の入り口付近にジョーンズさんが来ていたので、早速報告に向う。

 

「ジョーンズさん!ただいま戻りましたわ!」

 

「あ、お嬢様!ご無事で何よりです!」

 

「無事にダンジョン魔核(コア)を確保し、中の安全も確認できました。詳細を報告させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「おお!本当ですか、助かります!では、報告はテントの方でお伺いしましょうか」

 

 という事で、皆で調査隊の大テントに移動する。

 

「…ところで、その女の子は?何だかカティアさんに似ているように見えるのですが…」

 

 …ですよね。

 

「遺跡の最深部で保護したのですが、この通り眠っているので詳しい事は何も…」

 

「…ふむ、不思議ですね。ああ、どうぞ中に入ってください。散らかっていて申し訳ありませんが…」

 

 ジョーンズさんに促されてテントの中に入ると、思ったよりも中は広々としていて意外と快適そうだ。

 

 奥の方には簡易的な寝台がいくつか。

 個人の荷物や発掘用と思しき機材が端の方に寄せられていて、言うほど散らかってはいない。

 入り口すぐのところに事務机とちょうど人数分の椅子があって、私達はそこに着席する。

 私は女の子を抱っこしたままだ。

 

 それぞれ席に着いたあと、カイトさんとお嬢様が中心となって報告を始める。

 

 ダンジョン魔核(コア)を確保して、遺跡のダンジョン化を解除した事。

 一通り内部を見て回って、魔物の脅威が無いことを確認した事。

 隠し部屋の事。

 

 隠し部屋の事を話すときには、お嬢様がジョーンズさんに口止めをした上で、私がリル姉さんの(シギル)を持つことを伝えると唖然としていた。

 

 そして、私にそっくりな女の子の事。

 

 

「…なるほど、内部でのお話しについては分かりました。魔物もいなくなった事ですし、しっかり調査して謎を解き明かしていきたいと思います。それにしても…カティアさんの事が一番驚きましたよ」

 

「くれぐれも口外しないようにお願いしますわ」

 

「ええ、承知しております。あとはその女の子ですか…『神の依代』というのがその子のことかもしれない、と言うのは可能性の一つとして考えられなくもないとは思いますが…それを裏付けられるものが無いと何とも…」

 

「目を覚ましてくれれば何か分かるかも知れませんが…でも、こんなに小さな子供ですからね。あまり期待は出来ないかも…」

 

 と、私は答えながら、女の子の頭をナデナデする。

 う〜ん、本当にいい手触り。

 癖になりそう。

 

「しかし、目を覚ましたとしてこの子どうしましょう?あんな場所にいたのだから、身寄りなんて無いですよね?」

 

「それでしたら、うちで預かりますわ。お父様に養女にしてもらって…そしたら私の妹という事に。うふふふふ…」

 

 …何かお嬢様が怪しげに笑ってる。

 そうしてもらうのが一番なのかもしれないけど、なんか離れ難いんだよなぁ…

 自分でも不思議なくらいこの子に対して愛情が湧き上がってくるんだ。

 

 

 

「…ん〜…んみゅぅ…」

 

 その時、女の子が身動ぎをして声を上げた。

 

「あ!?目が覚めたみたい!」

 

 女の子の瞼がピクピクと震え、私の腕の中で精一杯伸びをして…

 

「ふわぁ…」

 

 と、可愛らしくあくびをした。

 そして、寝ぼけた様子で目を両手でコシコシとこすってから、ぱっちりと開いた彼女の瞳が私を捉え、口を開いた。

 

「…ママ!」

 

 ふぁっ!?

 何ですと!!??

 

 

 

 衝撃の一言に、その場が凍りつくのだった。

 



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第二幕 14 『隠し子騒動』

「…え?ママ?」

 

 え?

 誰が?

 私?

 どゆこと?

 

「カティアさん…お子さんがいらしたんですね…」

 

「そんな訳無いでしょう!?」

 

 2回目!!

 天丼はいらないよ!

 

「ママ〜!むふ〜」

 

 そう言って女の子は私の胸にグリグリと頭を押し付ける。

 埋めるほどには大きく無いよ…って、うっさいわ!

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 取り敢えず女の子を胸から引き剥がして向き直る。

 

「うにゅぅ?」

 

「え〜と、まずは…あなたのお名前はなあに?」

 

「ん〜?なまえ?…かてぃあっ!」

 

 …なんでやねん。

 

 いや、小さいカティアと見た目同じなんだけど、まさかあの子が現実世界に現れた訳じゃないよね…

 

 

「…この子もカティアって言うんスか」

 

「紛らわしいですわね」

 

「…一体どういう事なんだ?」

 

 それは私が知りたい。

 

 

「え〜と、ママって言うのは…?」

 

「ん〜?ママはママなの」

 

「あ、あのね、私もカティアって言うんだけど…」

 

「ママとおんなじ?おそろいだ〜!」

 

 …だ、だめだ。

 どうやら見た目通りの幼女ということみたい。

 

「え〜と、できればママはやめてくれないかな〜?」

 

「え?ママ、ダメ?…ふぇ…」

 

 ああ!泣いてしまう!

 

「ああ〜!!大丈夫だよ!うん、私がママですよ〜!」

 

 泣く子には勝てるはずもなく、仕方なく了承する…

 

 

「ええと、カティアちゃん?は、寝る前のことは覚えてる?」

 

 と、リーゼさんがかがんで目線を合わせてカティア?に尋ねる。

 

「ぐすっ、ねるまえ?…ん〜、わかんない」

 

 だめか…

 覚えていないのではしょうが無い。

 

 状況的にただの女の子ではないと思うのだが、振る舞いは年相応の女の子そのもの。

 他にもいろいろ質問してみるが、やはり目覚める前のことは何も覚えていないようだ。

 

 

「覚えていないのでは仕方ありませんわね…カティアさん?」

 

「何ですか?」

 

「な〜に〜?」

 

「…う、やりにくいですわね…えっと、ママの方のカティアさん?」

 

「…いろいろ言いたいことはありますが。何でしょうか?」

 

「最初はうちの養女とも考えましたが、カティアさんの方でこの子の保護をできませんか?これほど懐いてるのに引き離すのも可哀想ですし…非常に残念ですけど」

 

 残念なんだ…

 

「…私も、ママと言うのはともかく、他人とは思えませんしそれは構いませんけど…」

 

 そこそこ稼ぎもあるから、女の子一人養うくらいはできる。

 それに、不思議なくらいこの子に対して愛情を感じるので、正直お嬢様がそう言わなければ私の方からお願いしてたと思う。

 

「じゃあ、お願いしますわ。…ジョーンズさん、遺跡調査中にもしこの子の手掛かりのようなものがありましたら教えてくださいますか?」

 

「あ、はい。それはもちろんです」

 

「お願いしますわね。…しかし、二人とも名前がカティアじゃ何かと不便ですわね」

 

「ちっこい方は別の名前を考えてあげたほうが良さそうッス」

 

「うにゅ?」

 

 それはその通りだ。

 私と一緒にいるなら別の名前を考えてあげたほうがいいだろう。

 

 でも、どんな名前がいいだろう?

 

「名前…ですか」

 

「ちびカティア、で『チビティア』って言うのはどうッスか?」

 

 なにそれ?

 可愛くないよ。

 ティダ兄って呼ぶぞ。

 

「却下」

 

「きゃっか〜!」

 

「がっくし…ッス」

 

「じゃあ、ミニカティアでミニティアとか?」

 

 う〜ん、響きは良くなったけど。

 もう一ひねり欲しいところだ。

 ミニ、ティア…ミニティア…ミー…

 

「…もう少し捻って、ミーティア、はどうかな?」

 

「あら、良いですわね」

 

「あなたはどう?」

 

「うにゅ?」

 

「あなたのお名前だよ、私と同じ名前じゃ皆が呼びにくいでしょ?ミーティアって可愛い名前じゃない?」

 

「みーてぃあ?…うん、わたしのなまえは、みーてぃあ!」

 

「ふふ、気に入ってくれたみたいだね」

 

「うん!ありがとう、ママ!」

 

「あ、あのね?ママっていうのはちょっと…せめてお姉ちゃんとか…」

 

 再びチャレンジ…

 

「…ダメなの?(うるうる)」

 

「くっ…ま、ママでいいよ…」

 

「わ〜い!」

 

 拝啓、前世の父さん母さん。

 転生したら女になったばかりか、未婚の母になってしまいました…

 

「ふふ、大変だなカティア」

 

「もう、他人事だと思って…」

 

「あ!パパ〜!」

 

「「!!??」」

 

「あら?カイト様…やはりお二人の…?」

 

「「そんな訳無いでしょう(だろ)!?」」

 

 もう、それはいいって!

 

 

 

 

 

 

 ひと通りジョーンズさんへの報告を終えた私達は、日が沈む前までに街に帰ることにした。

 

 小さいカティア改めミーティアは、すっかり懐いたパパことカイトさんに肩車してもらってご満悦だ。

 

 最初は戸惑っていたものの、小さな子供に懐かれるのはまんざらでもないようで、優しく面倒を見る様子は本当に父親のようだった。

 その微笑ましい光景に思わずほっこりする。

 

「ママ〜!見て見て、ちょうちょ〜!」

 

「はいはい…って、ヴァンパイアモスじゃない!」

 

 ミーティアが指差す先には、体長50センチ程もある巨大な蛾の群れが。

 ちょうちょなんて可愛らしいものじゃない。

 脅威度Eランクの吸血蛾…魔物だ。

 

「ミーティア、ちょっとおめめを瞑っててね〜。…リーゼさんお願いします(コソッ)」

 

 私がそう言うと、カイトさんはミーティアを肩から降ろして魔物が見えないように抱っこしなおす。

 

 さすがに目の前で倒すのも気が引けたのだ…

 

「分かりました…[炎弾・散]」

 

 リーゼさんの放った魔法でサクッと殲滅。

 そして、ミーティアに魔物の残骸を見せないように急いで先に進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ〜…ママ!おうちがいっぱいだよ!」

 

 遠目に、夕日に染まるブレゼンタムの街が見えてくると、ミーティアはキラキラと目を輝かせて報告してきた。

 

「ええ、私達はこれからあそこに帰るんだよ」

 

「ふ〜ん、ひともたくさん?」

 

「そうだね。とっても賑やかな街だよ」

 

 

 ミーティアに街のことをいろいろ教えてあげながら歩いていくと、やがて街の東門に辿り着いた。

 

 街の近くまで来たところでミーティアを降ろして、私とカイトさんが手をつないで一緒に歩いているのだが…(ミーティアにお願いされて断りきれなかった…)

 

「何だか注目されてますね…カティアさんが」

 

「まあ、もともと有名人な上にミーティアを連れてますから当然ですわね」

 

 く、しまった…

 私、有名人だったよ。

 何か顔を隠せるものがあればいいんだけど、フード付の外套とか持ってないし…

 もう今更な気もするが。

 

 と、注目を浴びながら報告のためギルドに向う。

 

 

 

 ギルドにやって来たが、当然ここでも注目の的だ。

 宿でミーティアを姉さんとかに預ければ良かったと気付いたが遅かった。

 

(おい、カティアちゃんが連れてる子、だれだ?)

 

(分からんが、そっくりだぞ)

 

(何か「ママ」とか言ってるぞ!?)

 

(まさか、カティアちゃんの娘だって!?)

 

(今度はカイトのことを「パパ」って呼んでる!?)

 

(((何だとぉっ!!?)))

 

 ヤバい…

 めちゃ噂になってるぅっ!

 

 何でカイトさんは平然と…

 と思ったら、何やら額から汗が…

 そりゃあそうだ。

 

 もう今更どうしようもない、と開き直って報告のためカウンターに並ぼう…としたろころで、毎度お馴染みのスーリャさんがやって来た。

 

「お嬢様、別室を用意致しましたのでこちらへどうぞ」

 

「あまり特別扱いは…と思ったのですが、その方が良いですわね。ものすごく目立ってますし…カティアさんが」

 

「何かスミマセン」

 

「いいえ、お気になさらず」

 

 取り敢えずスーリャさんはミーティアの事はスルーしてくれるようだ。

 …実際のところどう思ってるんだろ?

 

 

 そして、私達は以前にも報告のために訪れた部屋へと通された。

 今回は侯爵様もギルド長もいない。

 お嬢様に配慮したのと混乱を避けるのが目的で、報告自体は下で行うのと変わらない。

 

「さて、報告を頂く前に…その子はカティアさんの娘さんですか?」

 

「…違います」

 

「ママはママなの」

 

 ああ、もう!話をややこしくしないで!

 

「ミーティアちゃん?ママとお姉ちゃんのお話が終わるまで、あっちで遊んでようか?」

 

「うん!わかった!」

 

「ふふ、いい子ね」

 

 ああ、ありがとうございますリーゼさん。

 助かります…

 

 気を取り直して、今回の依頼の顛末を報告する。

 

 

 

 

 

「そのような事が…それで、カティアさんが保護することになったんですね」

 

 一通りの報告を終え、ミーティアの事も説明をした。

 

「はい。見た目が似ているという事だけじゃなく、どうも他人とは思えませんし…」

 

「スーリャさん、あの子が遺跡にいた事は一応内密にしてくださいます?色々と謎が多いですし、変な憶測が流れても困りますから。…もう、別の意味の憶測は止められそうにありませんけど」

 

 ああ、諦めないで!?

 

「はい、それはもちろんです。では、今回の依頼は満了ということで手続きさせて頂きますね。あとは追加の依頼との事ですが…」

 

「たしか事後契約の実績はあったと記憶しておりますが」

 

「あ、はい。あまり一般的ではありませんが、身分の確かな方の保証があれば可能です。今回はお嬢様が直接依頼されてらっしゃるので問題ないかと思います。そちらの方の手続きも合わせて行いますね。少々お時間を頂けますか?」

 

「はい、お願いしますわ」

 

 

 

 追加依頼の手続きもあったので、多少時間はかかったが、こうして依頼は無事完了となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、父さんたちはいるかな…」

 

 無事依頼完了の手続きが終わり、報酬も受け取ったところでギルド併設の食堂に顔を出す。

 ミーティアの事を父さんに知らせる必要があるのだが、もしかしたら食堂にいるかとしれないと思ったのだ。

 

 入り口から顔を出して店内を確認すると。

 やっぱりここにいたか…

 父さんと、何人か一座の面々が食事と酒を楽しんでいた。

 

「父さん!」

 

「ん?おお、カティアか。もう依頼は終わった………」

 

 私が声をかけると、こちらを振り返りながら返事をするが、ミーティアを連れた私を目にすると段々と驚愕が顔に現れる。

 

 ほかの一座の面々も同じだ。

 みんな私の子供の頃を知ってるもんね。

 そういう反応になるよね。

 

「…カティア」

 

「…何?」

 

「…父さんは悲しいぞ…そんなふしだらな娘だったとは」

 

「〜〜〜!!そんな訳ないでしょっ!!私は処女ですっ!!」

 

「お、おぅ…そ、そうか…」

 

 はっ!?

 今、変なことを口走ったような…?

 

 

(…カティアちゃんって、そうなんだな…)

 

(当たり前だろ!あの娘はそんな子じゃないよ!)

 

(そっかー、おじさん安心したよ)

 

(ていうか、カイトのやつまだ手を出してないんだ…ヘタレだな)

 

(じゃあ、あの女の子は誰なんだ?)

 

(さあ?親戚の子じゃ無いか?)

 

 

 私の声を聞いた周りのお客さんたちがコソコソ話をしているのが聞こえてきた…

 そして、私がいったい何を口走ってしまったのかを思い出した。

 

「…い、いやぁ〜〜っ!!??」

 

 そうして、私はまた一つ黒歴史を積み上げたのだった。

 

 

 

 

ーー ブレゼンタムに流れた噂 ーー

 

 その日、ブレゼンタムの街に激震が走った。

 かの有名なダードレイ一座の歌姫に隠し子がいたというのだ。

 

 彼女が自分にそっくりな子供を連れ歩いているのが目撃され、お相手は最近噂になっていた冒険者だと言う。

 

 そのスキャンダラスな噂はまたたく間に街中を駆け巡り、彼女のファンは血涙を流したという。

 

 一部の噂では、彼女自らが自分は純潔だと声高に宣言したとの話もあり、混乱に拍車をかけている。

 

 

 その後、事態を重く見たダードレイ一座から正式にその噂は事実ではない旨が公表された。

 親戚の子供を預かっているだけだという事だったが、噂の沈静化にはかなりの時間がかかったという…

 



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第二幕 15 『カミングアウト』

「…落ち着いたか?」

 

「…何とか」

 

 私の黒歴史の1ページを記したあの発言からようやく私は立ち直って(?)、改めて父さんと話をする。

 

「おう、ルシェーラの嬢ちゃんもいるのか。邸に帰らないで大丈夫なのか?」

 

「ええ大丈夫ですわ、ダードおじさま。もともと野営も予定してたくらいですし、多少時間が遅いくらいは」

 

「そうか(行動がまるっきり親父と一緒だな)」

 

「…なにか?」

 

「いや、何でもない。…で、カティア?そっちのちびちゃんは何者なんだ?」

 

「うにゅ?おじちゃんだあれ?」

 

「ああ、この人は私のお父さんなんだよ」

 

「ママのおとうさん?じゃあおじいちゃん?」

 

「…おいおい。いきなり爺さんにされるとはな…説明頼む」

 

「実は…」

 

 今回の依頼の顛末を父さんに説明する。

 一通り聞き終わった父さんは、面白そうに…

 

「何だ。また随分と面白いことになってんな?」

 

「…面白く無いよ。おかげで私の変な噂が流れそうだよ」

 

 さっきの黒歴史発言とともにね…

 私の噂って凄い速さで伝わるんだから…尾ひれ付きで!

 この間なんて、カイトさんと私が…いや、それはいい。

 姉さんが「外堀から埋める作戦なのね〜」なんて言ってたけど、そんな訳あるか。

 

「まあ、今度取材に来るだろうから、一座として明確に否定しときゃそのうち沈静化すんだろ」

 

「取材…?」

 

「あ?何だ、知らねえのか?ブレゼンタム日報。公演の告知やら宣伝やらでこれまでも何度か一座に取材が来てんだぞ。まあ、対応してんのはババアとかティダなんだが。個別取材はNGにしてるからお前んとこには行ってないとは思うけどな」

 

「知らなかった…」

 

 そんなことしてたんだ…

 いや、よく考えれば当たり前か。

 告知も宣伝も無くあんなに人が集まるわけがないね。

 

「全く。少しは運営の方にも興味を持ってくれや。まあ、それはいい。それで?こいつはお前が面倒見んのか?お〜、よしよし。ほれ、ジュースでも飲むか?」

 

「わ〜!ありがとう、おじいちゃん!」

 

 …いつの間にかミーティアは父さんの膝の上に乗っている。

 この短時間ですっかり懐いたもので、やり取りが完全に孫とお爺ちゃんだ。

 

「…うん、私が面倒をみるよ。多分、この子とは何らかの繋がりがあるんだろうし…」

 

「そうさなぁ…多少髪色が違うだけで、本当にお前が子供の頃と瓜二つだ。遺跡に居たってのはよく分からんが、お前と無関係って事ぁないだろうな」

 

「やはり、エメリール様の(シギル)に関係があるのでしょうか?」

 

「そうかも知れないけど…とにかく、今度エメリール様に聞いてみる」

 

「「「…え?」」」

 

「…エメリール様と話が出来んのか?」

 

「うん、神殿で」

 

「…初耳だが?」

 

「言ってなかったからね」

 

 まあ、オキュパロスさまともお会いしてるし、今更かと思いさらっとカミングアウトした。

 あ、因みにリーゼさんに遮音結界を張ってもらってるので、関係ない人に会話を聞かれる心配はない。

 

「…いつから?」

 

「ああ、例の事件の後に神殿にいったらオキュパロス様の時みたいに神界にお呼ばれしたんだよ。因みにエメリナ様にもその時お会いしました」

 

 転生前に会ったことは伏せておく。

 そこはさすがに話せない。

 

「…ああ、俺の娘はいったいどこに向かうのやら…」

 

「あ、そうそう、私のこの髪の色ってエメリール様やエメリナ様と同じなんだよね」

 

「…珍しい色だとは思ってましたけど、女神様と同じだとは」

 

「すると、こっちのチビちゃんもやはり神サマの関係者なのか?少し色合いは違うみたいだが…」

 

「そうだね。やっぱりキーワードは『神の依代』かな。あの遺跡…と言うか街は神々と交流があったみたいだし、エメリール様が何か知っている可能性は高いと思うよ」

 

「では、何か分かりましたら私達にも教えてくださいまし」

 

「ええ、分かりました」

 

 全部を教えられるかは分かりませんけどね…

 それは心の中だけに留めておく。

 

「では、そろそろ私は帰ることにしますわ」

 

「ああ、それじゃあ送っていこう」

 

 さすがにお嬢様を一人だけで歩かすわけには行かないものね。

 

「あら、良いんですの?」

 

「…何が?」

 

「カティアさんと噂になってるのに、私と二人きりのところを見られたらまた何を噂されるのやら…」

 

「…」

 

「あ、それじゃあ私も行きますよ。父さんに話ができましたし、候爵邸からそのまま宿に帰ります。…これ以上変な噂を流されてたまるものですか!」

 

 という事で、お嬢様をお邸まで送っていくことにした。

 ロウエンさんはここで父さんたちと飲んでいくことにしたようだ。

 リーゼさんは宿に帰るとのこと。

 ミーティアはまた私が抱っこする。

 

 あ、リーゼさんはまだしばらくはこの街に滞在するらしい。

 出発の日程を決めたら事前に教えてくれるって。

 

「じゃあ、父さん飲みすぎないでね。リーゼさん、今回は協力ありがとうございました」

 

「いえ、また何かありましたらお声掛けくださいね」

 

「それでは皆さん、ごきげんよう」

 

「ダードさん、お邪魔しました。リーゼもありがとうな」

 

 みんなそれぞれに別れの挨拶をして食堂を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 …そして、候爵邸前。

 私達が到着したところで使用人が門前に現れた。

 以前私達を夜会に案内してくれた人だ。

 たしか、バトラーさんだっけ?

 というか、タイミングが良すぎる…

 

「お嬢様、おかえりなさいませ」

 

「ええ、ただいま戻りましたわ。お出迎えご苦労さまです」

 

「皆様も、お嬢様のお相手をして頂き誠にありがとうございました」

 

「あ、いえ。むしろ普通にパーティーメンバーとして助けていただきました」

 

「左様ですか。それは良うございました」

 

 …お嬢様がこれだけアクティブだと、使用人は苦労してるんだろうなぁ…

 

「では、カイトさま、カティアさん。今回はお付き合い頂きありがとうございました。今度は私も冒険者登録しておきますわ」

 

「…また行く気か」

 

「ええ、お父さまも反対では無いとのことなので。お二人がご迷惑でなければ、またお願いしたいですわ」

 

「迷惑だなんて…お嬢様と一緒で凄く楽しかったです!」

 

 それは紛れもなく私の本心だ。

 実戦経験がないだなんて微塵も感じさせないくらいで、むしろ重要戦力ですらあったと思う。

 

「ふふ、ありがとうございます。私もカティアさんと一緒に冒険できて楽しかったですわ」

 

「まあ、許可があるならまた付き合っても良いか。それじゃあな」

 

「お嬢様、失礼しますね」

 

「ええ、ではまた。ごきげんよう。ミーティアちゃんもさようなら」

 

「お姉ちゃん、ばいば〜い」

 

 そうして、お嬢様と別れた。

 

 

 

 

 

 

 

「パパ…いっしょじゃないの…?ぐすっ…やだあ…」

 

 …現在、ぐずるミーティアをなだめているところです。

 

 カイトさんは私と別の宿なので、当然途中で分かれることになるのだが、ずっと一緒だと思ってたミーティアは別れるのを嫌がってぐずっているのだ。

 

 ああ、困ったな、どうしようか…?

 

「…しょうがない。カティア、お前の泊まってる宿は空きはあるのか?」

 

「へ?あ、ああ…確かまだ何部屋かは空いていたと思いますけど…」

 

「じゃあ、今の宿を引き払って、そっちに行くか…」

 

「え?…良いんですか?と言うか、そんな簡単に移動できるんですか?」

 

「ああ。俺は長期契約してる訳じゃないからな。『鳶』も解散してるし、荷物もそんなに無いし割と身軽に動ける。まあ、泣く子には勝てんよ」

 

 と、苦笑して答えてくれる。

 何だか悪い気がするけど、そうしてくれるなら助かるのでお言葉に甘える事にする。

 

「それじゃあ、私は宿の女将さんに話を通しておきますね」

 

「ああ、頼む。俺は荷物を纏めたらすぐにそっちに行く」

 

「…パパ、いっしよ?」

 

「ああ。いったん荷物を取りに行くが、すぐにまた会えるぞ」

 

「わ〜い!」

 

 ふふ、さっきまでメソメソしてたのに…すぐにご機嫌になっちゃって。

 ああ…本当に、この子の笑顔がこんなにも愛おしく感じるのが不思議だ…

 我が子に対する愛情って、こんな感じなのかな…

 

「じゃあ、カティア、ミーティア、また後でな」

 

「あ、はい。お待ちしてます」

 

「パパ〜、すぐきてね〜」

 

 

 こうして、カイトさんと一旦別れた私達は宿への帰路につくのだった。

 



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第二幕 16 『カティア』

 カイトさんと一旦別れた私達は宿泊している宿に帰ってきた。

 

「さあ着いたよ。ここが私が泊まっている宿だよ」

 

「ママのおうち?」

 

「ううん、私の家じゃないよ。え〜と、お金を払ってお部屋をかりてるの」

 

「ふ〜ん、そうなんだ〜」

 

 

 ミーティアの手を引いて宿の中に入る。

 

 ロビーの中には結構人がいて、ソファに座ったりして思い思いに寛いでいる。

 

 その中にはティダ兄、アネッサ姉さん、リィナの一家が仲良く談笑しているのも見えた。

 あ、ミディット婆ちゃんもいるね。

 

 

 

 

「みんな、ただいま〜」

 

「あ、お姉ちゃん!お帰りなさ……その子だれ?」

 

「…カティア、その子は一体…?」

 

「あら〜、カティアちゃんにそっくりだわ〜」

 

「…カティア、どう言う事だい?」

 

 ミーティアを見たみんなの反応はそれぞれだが、特に私の子供の頃を知っているティダ兄と婆ちゃんの驚きは相当らしく、半ば呆然としている。

 

「あ、ごめんなさい。先に女将さんに話をして来るから詳しくは後で。ちょっとこの子見ててくれない?…ミーティア、ちょっと向こうでお話ししてくるから、このお姉さんたちと待っててくれる?」

 

「は〜い、ママ!」

 

「「「「ママ!?」」」」

 

 あちゃあ…

 

「えと、誤解はしないようにね…今日の依頼に関係してるんだよ。ちょっと待っててね!」

 

 と、逃げるように宿の受付の方に向かった。

 

 

 

 

 

 

 宿の女将さんには問題なく話を通すことができた。

 あとはカイトさんが来たら手続きをしてもらえば良い。

 ミーティアを私の部屋に泊めることも伝えた。

 部屋単位の契約なので特に問題は無いはずだけど、一応伝えておこうと思ったのだ。

 

 女将さんとの話が終わったので、みんなのところへと戻る。

 

 ミーティアは婆ちゃんの膝の上で抱っこされている。

 …婆ちゃんはデレデレだ…

 

「みんな、お待たせ。ミーティアを見ててくれてありがとうね」

 

「女将さんには何を話してたの〜?」

 

「ああ、一応ミーティアを私の部屋に泊めることと…あと、カイトさんがこっちの宿に来るので話を通しておこうかと思って」

 

「カイトくんが〜?あら〜、とうとう同棲するのね〜」

 

「違うよっ!?別の部屋だから!」

 

「…ほう、カイトとやらが来るのかい?ふむ、ちょうどいい機会だ紹介しておくれ(しっかり見定めてやろうじゃないか)」

 

 と、ミディット婆ちゃんが言うが、なんだか雰囲気が怖いよ…

 

「あ、後でね…それよりもミーティアの、と言うか今回私が受けた依頼のことなんだけど…」

 

 と、今回のいきさつを皆に説明していく。

 

 

 

 

 

 

「…何と言うか。不思議な話だな?」

 

「ほんとに〜。ミーティアちゃんは何も覚えてないのよね〜」

 

「うん。だから明日にでも神殿に行ってエメリール様が何かご存知か聞いてみようと思って」

 

「それも凄い話よね〜」

 

「ああ。(シギル)持ちと判って以降、まあ次から次へと驚かされるな」

 

「やっぱりカティアは女神様に愛された特別な子なんだねぇ…これはますますそこいらの男にはやれないね」

 

 ああ!?

 何かよく分からないけどハードルが上がった!?

 

 

「で〜?カイトくんが来るというのはどういう事なの〜?」

 

「あ〜、え〜と、ミーティアがね…」

 

 ちょうどそのときドアベルが鳴って、誰かが入ってきた。

 あ、噂をすれば…

 

「あ!パパ〜!」

 

 と、リィナに遊んでもらっていたミーティアが、宿に入ってきたカイトさんをいち早く見つけて大きな声を上げる。

 もちろん注目の的だ。

 

「…あ〜そういうこと〜。やっぱり同棲なのね〜」

 

「カティア、婚前の男女が寝所を共にするのは許さないよ」

 

「もう…ミーティアがそう呼んでるだけだってば。カイトさんがこっち来てくれたのも、別れたくないってミーティアがぐずったからだよ。ちょっと私受付まで案内してくるね」

 

 

 

 

 

 そして、カイトさんの手続きも終わり、荷物も部屋に運び込んでから再び皆のところにやって来た。

 

「カイトくん、こんばんは~」

 

「ああ、アネッサさん、ティダさん、リィナも。こんばんは」

 

「ああ。よく来たな」

 

「お兄ちゃんこんばんは~」

 

「そちらの方はお初にお目にかかりますね。私はカイトと言います。いつも一座の皆さんにはお世話になっております」

 

 と、カイトさんは初めて会うミディット婆ちゃんに丁寧に挨拶する。

 

「ああ、カティア達から話は聞いてるよ。私しゃミディットって言うんだ。一座の裏方さね。こちらこそうちの連中が世話になったって聞いてるよ。しかし、なかなか礼儀正しいじゃないかい。うちの連中にも見習ってほしいとこだねぇ」

 

 お、なんだか好感触。

 さすがに本人を目の前にして値踏みするような態度は婆ちゃんも取ってないけど、さっきまでの話を思い出すと私のほうが緊張するよ…

 

 

「パパ〜、だっこ」

 

「なんだ、随分と甘えん坊だな?」

 

 と言いながらも自分の膝の上に乗せてあげる。

 今日出会ったばかりだというのに、本当の親子みたいだ。

 

「でも、甘えるのはしょうがないよね。こんな小さな子供が、記憶もなくて縋ることができるのは私達だけなんだから…」

 

 と、ミーティアの頭を優しくなでながら私は言う。

 この子は不安とか感じてないのかな…?

 まだ小さいからよく分かってないのかな…?

 

 とにかく、私が預かると決めた以上はちゃんと育てないと。

 例えこの子が何者であっても。

 

 と私が決意を新たにしていると…

 

「…そうしていると、本当の親子みたいだな。お前たち」

 

「本当にね〜幸せ家族って感じよ〜」

 

「ああ、まだカティアには所帯を持つのは早いと思ったんだが…存外悪くないのかもねぇ」

 

「ななななな何を言ってるのかなっ!?」

 

「もう〜恥ずかしがっちゃって〜。満更でもないくせに〜」

 

「そそそそそそんな事はっ!?」

 

 で、でも、まあこう言うのも悪くないと、ちょっとは思ったり…

 カイトさんはどう思ってるのだろうか…

 

 

 

 その後もカイトさんを交えて色々な話で盛り上がった。

 主に私の幼少時代の話だ…

 ちょっと恥ずかしかった。

 

 

 

「さて、そろそろミーティアも眠そうだし、部屋に戻ろうかな」

 

「うみゅ〜…」

 

 さっきから目がシパシパしてきており、そろそろおねむのようだ。

 そっと抱き上げると、胸に顔を埋め…るほどは無いので押し付けてくる。

 くっ、謎の敗北感が…

 

「じゃあ、みんなおやすみなさい」

 

「パパも〜」

 

「パパは別の部屋だからまた明日ね」

 

「や!パパもいっしょにねるの〜!」

 

 い、いや、さすがにそれはマズいでしょ…

 

 う〜ん、困ったぞ…

 

 しょ、しょうがない…

 

(…カイトさん、ミーティアが寝るまで側に居てやってくれませんか?)

 

(…いや、いいのか?宿の部屋とはいえ、年頃の娘の部屋に入るのはさすがに…)

 

(し、仕方ありませんよ。私は大丈夫なのでお願いします)

 

(…分かった。ミーティアが寝たら直ぐに出ていく)

 

 

 …という事で、仕方なくミーティアが寝るまでカイトさんを部屋に入れることにした。

 

 もちろん姉さん達にも説明したよ。

 もちろん姉さんはニヤニヤしていたよ…

 ミディット婆ちゃんも一応許可してくれた。

 

 という事で私の部屋の前まで来たのだが…

 

「ちょっと待っててくださいね!」

 

「あ、ああ…」

 

「は〜い!」

 

 中に入って急いで片付けしないと!

 下着とか出しっぱなしじゃ無いよね!?

 

 …まあ、普段からこまめに掃除はしてるし、少し整理するくらいで大丈夫かな。

 

 …よしっ!

 

 

「ど、どうぞ〜」

 

「…入るぞ」

 

「わ〜、ここがママのおへや?」

 

 一人だと十分な広さだけど、3人入ると流石に狭く感じる。

 

 ベッドはシングルサイズなので、ミーティアはともかくカイトさんも一緒に横になるのは無理がある。

 …いや、もちろんそんな事はしないけどさ。

 ちょっと想像してしまい顔が熱くなってきた。

 いやいや、何を考えてるのさ…

 

「じゃあ、ミーティア。一緒に寝ようか」

 

「うん!」

 

 二人でベッドに横になる。

 ミーティアが寝たらお風呂入って着替えないと…

 流石にカイトさんの前で寝間着になるのは恥ずかしすぎる。

 

 ミーティアは朝入れればいいか。

 不思議と身奇麗なんだよね…

 

「パパは?」

 

「あ、ああ、さすがにこのベッドに俺まで横になるのは難しいからな。ここで手を繋いでてやるよ」

 

「うん!」

 

 取り敢えず、それで納得してくれた。

 ほっ。

 

 

 

 

 

 

 そして、横になってからそれほど経たずに可愛らしい寝息が聞こえ始めてきた。

 

「すー…すー…」

 

(…眠ったみたいですね)

 

 起こさないように小声で話をする。

 

(ああ、やはり疲れてたんだろう。遺跡から街まで結構距離があったからな)

 

 ほとんど抱っこされてたとはいえ、それでも長時間揺られてるのは小さい子にとっては負担だろうしね。

 

(…やっぱり普通の女の子にしか見えないなぁ)

 

(そうだな。神殿は明日行くのか?)

 

(はい、そのつもりです)

 

(では、俺も一緒に行こう。特に予定もないしな)

 

(はい、お願いしますね)

 

 

 

(じゃあ、俺はもう行くぞ。おやすみ)

 

(はい、ありがとうございました。おやすみなさい…)

 

 おやすみの挨拶をして、カイトさんは部屋から出ていった。

 

 さて、私もお風呂に入って休みますか…

 

 

 

 と、その前に。

 久々にステータスを見ておこうかな。

 

=======================

 

【基本項目】

名前 :カティア

年齢 :15

種族 :人間(女神の眷族)

クラス:ディーヴァ

 

レベル:39

 

生命値:1,624 / 1,624

魔力 :3,103 / 3,103

筋力 :295

体力 :191

敏捷 :506

器用 :268

知力 :400

 

【魔法】 ▼

 

【スキル】▼

 

【賞罰】

 ■請負人相互扶助組合

  ランク:B

  技量認定(戦闘):上級

  技量認定(採取):中級

 

【特記】

 ■エメリールの加護(魂の守護)

 ■エメリールの(シギル)

  ※発動時全ステータス +300

  ※常駐時全ステータス +100

 

【装備】

  ミラージュケープ

 

=======================

 

 レベルが2つ上がった以外は大きな変化は…あった。

 (シギル)の常駐時と言うのが増えてる。

 

 え、常駐できるの?

 どうやって?

 というか、何で増えたの?

 …分からない。

 

 これも、リル姉さんに聞いてみるか…

 

 

 あとは…

 まだ着替えていないのでこの前と違って装備欄に記載がある。

 剣や外套、革鎧なんかはもちろん外してるのでミラージュケープだけだが。

 

 

 ステータスの確認はこんなところか。

 

 

 さあ、今度こそお風呂に入って休もう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、この感じは。

 例の『夢』だね。

 

「お姉ちゃん、こんにちは」

 

 と、さっそくカティアちゃんが声をかけて来たのだが…

 なんだか前よりも声が落ち着いた感じだ。

 振り向いてみると…

 

「えっ!?カティアちゃん…?」

 

「うん、そうだよ。ふふ、驚いた?」

 

 そりゃ驚くよ。

 前回会ったときは5〜6歳くらいだったのが、今回は12歳くらいの大きさになっていた。

 

「ず、ずいぶん大きくなったんだね」

 

「うん。ミーティアに最初に触れたとき、何か暖かなものが流れ込む感じがしたでしょ?そのときに【私】の魂の修復が一気に進んだみたい」

 

 確かに、ミーティアに最初に触れたときにそんな感覚があった。

 

「…ミーティアは一体何者なんだろう?」

 

「それは分からないけど、この話も含めてリル姉さんに聞けば何か分かるんじゃないかな」

 

「…そうだね。それにしても…もうほとんど今の私と変わらない感じだね」

 

「うん、記憶も結構戻ってきたし。黒い靄に襲われた記憶も…」

 

「!!…そう、やはりそういう事なんだね。でも、身体が乗っ取られなかったから、こうして生き長らえることができた」

 

「お姉ちゃんが助けてくれたからだよ」

 

「…そうだ。さっきはスルーしたけど、お姉ちゃんって…」

 

 と、自分の手を見る。

 前回はだぶって見えていたが、今はそんなこともなく。

 紛れもない少女の細腕だ。

 

「もう、お姉ちゃんの意識は殆ど変わってるんだよ」

 

「そう…それなら、それでいいよ。別に【俺】が消えて無くなるわけじゃない」

 

「ふふ、やっぱり私達って似てるね?前向きで、楽天的」

 

「そうだね。それが取り柄だもの」

 

「「ぷっ、ふふ、あははは!」」

 

 二人顔を見合わせて笑ってしまった。

 

 

「…こうして、ここでお話しするのもあと何回も無いかもね」

 

「え?」

 

「私の魂の修復が進むにつれて、お姉ちゃんの魂とも混ざり合ってきてるんだよ」

 

「そうなの?」

 

「なんとなくだけどね。でも、【私】の意識に引っ張られるって思うことがあるでしょ?カイトさんの事とか」

 

「…そうだね。それに最近はあまり違和感を感じなくなってきてるよ」

 

「うん。だから、私達はそのうち完全に一つになって、こうして会話をする事もなくなると思うの」

 

「それは…何だか寂しいね」

 

「大丈夫!これから本当の意味で生まれ変わるんだよ。だから、さよならじゃなくて…」

 

「…これからもよろしく?」

 

「そう!よろしくね!…まあ、もう少し先だと思うけど」

 

 

 そうか。

 【私】も【俺】も完全に一人の(カティア)になるんだ。

 そうなった時、私は本当の意味で新しい一歩を踏み出せる。

 真にこの世界の一員として。

 

 

 だから、いつか訪れるその時を楽しみにしていよう。

 



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第二幕 17 『正体』

 例の『夢』から覚めたとき、窓からは既に朝日が差し込んでいた。

 起床するにはちょうどよい時間のようだ。

 

 ミーティアは私の腕を枕にして、すぴー、すぴーと寝息を立てている。

 すぐに起こすのも可愛そうだし、私が支度をしている間は寝かしておくか…

 

 そ〜っと、起こさないように腕を外そうとするが…

 

「うにゅぅ…ママ…」

 

 逆に、ぎゅっと腕を抱きこまれてしまった。

 むむ、これはなかなか難易度が…

 

 何とか少しづつ腕を外してなんとか脱出に成功した。

 

 

 そうして、ミーティアをベッドに残したまま、毎朝のルーチンをこなしていく。

 

 あ〜、そう言えばミーティアの服とか下着とかいろいろ揃えないとだね…

 ミーティアの今の服装は発見当初のシンプルなワンピースのままだ。

 

 せっかく可愛い女の子なんだから、もっとオシャレさせてあげたい。

 

 神殿に行くついでに、カイトさんに買い物にも付き合ってもらおうかな。

 ふふ、パパなんだからね。

 

 

 

 よし、私の支度は終わったから、ミーティアを起こそうかな。

 

 ベッドに近づいて、彼女の肩を揺らしながら声をかける。

 

「ミーティア、朝だよ。起きなさい?」

 

「うみゅ……ふわあ〜…あふ」

 

 大きなあくびをしながら、それでもちゃんと身体を起こして大きく伸びをする。

 寝ぼけ眼を両手で擦りながら目をぱちぱちさせて、ようやく表情がはっきりしてくる。

 

「…おはよ〜、ママ」

 

「うん、おはよう。ちゃんと起きられて偉いね〜」

 

「えへへ〜」

 

 頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細める。

 …可愛い。

 

「じゃあ、支度しましょうか。先ずは歯を磨いて、顔を洗いましょう」

 

 よく分からないだろうから、一つづつ教えながら支度をさせていく。

 髪を梳かしてあげるが、寝癖など付いておらず櫛の通りも滑らかで殆ど手入れが必要ない感じだ。

 私の髪もそうなんだけど、これは楽で良いね。

 

 髪型は…最近は気温も高くなってるし纏めてあげたほうがいいかな。

 シンプルに首の後ろのところで留めればいっか。

 以前ユリシアさんのお店で貰った髪留めを付けてあげる。

 

「これでよしっ、と。本当は着替えもしたいんだけど、まだお洋服が無いからね。今日買いに行きましょうね」

 

 たしか、ユリシアさんのお店には子供の服も置いてあったと思う。

 

「おようふく?」

 

「そう。あなたは可愛いのだから、ちゃんとオシャレしないと」

 

 【私】のオシャレ好きの血が騒ぐぞ。

 

「うん、みーてぃあ、おしゃれするっ!」

 

「うんうん、たくさんお買い物しましょうね」

 

 ふふふ、ちょっと楽しみになってきた。

 

 

 

 

 

 

 宿のロビーでちょうどカイトさんに会ったので、一緒に朝食を取ってから神殿に向かう。

 

 

「エメリール様の神殿には行ったことはあります?」

 

「ああ、この間の事件の後にな」

 

「そうなんですね。私も事件の後に初めて行ったのですけど、そこで神界に招かれまして」

 

 神殿に向かう道すがら、リル姉さん達と会ったときの話をする。

 …もちろん恋愛相談したのは内緒だ。

 

 ミーティアは私と手を繋いでとてとて歩いている。

 もう、今更コソコソしてもしょうがない、と開き直ってます。

 

 気温も暖かで外套来てフード被ってるほうが不審者みたいで余計目立つし…

 

 

 そして、中央広場に面したエメリール神殿にやって来た。

 

 中に入り祭壇の前まで進んで、早速祈りを捧げる。

 隣でカイトさんも同じように片膝をついて祈る。

 

(リル姉さん、今日はお話したいんだけど、大丈夫かな?)

 

 心の中で呼びかけるようにすると…意識が引っ張られるような感じがして、視界が白く染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは、カティア。よく来たわね」

 

 前回と同じように、森の中に開けた広場のような場所で、リル姉さんがテーブルセットの椅子に座って優雅に微笑んでいる。

 相変わらず絵になるなぁ…

 

「こんにちは、リル姉さん」

 

「うにゅ〜?ママ、ここどこ〜?」

 

 !?

 って、ミーティアも来たの!?

 

「こんにちは小さなお嬢さん」

 

「ふわ〜、おねえちゃんきれ〜。ママのおともだち?」

 

「ふふ、ありがとう。そうね、カティアのお姉さんみたいなものよ」

 

「ふ〜ん、そうなんだ〜」

 

 あ、何か二人とも普通に会話し始めてる…

 

「えっと、リル姉さん?この子はミーティアって言うんだけど、何でここにいるのかな?」

 

「今日は彼女の事を聞きに来たんでしょう?」

 

「うん、そうなんだけど…」

 

「ここにいるのは…あなたとこの子の魂の波長が殆ど同質のものだったので、おそらくカティアと一緒に引っぱってこられたのよ」

 

「え…?魂が…同質?どういう事?」

 

「わからない?…彼女こそが、あなたの魂に損傷を負わせた『異界の魂』なのよ」

 

 …え?

 

「ええーーーっっ!!!???」

 

 え?

 うそ?

 なんで?

 衝撃の事実を聞かされて頭の中は大混乱に陥る。

 ちらっとミーティアを見ると、本人はよくわかってないみたい。

 ペタペタさわって、ほっぺをむに〜、とする。

 ん〜、もちもち(現実逃避)

 

「むに〜?」

 

「え?…こんなに可愛いのに?…え?」

 

 未だ混乱中。

 

「え?でも、大丈夫なの?この世界の魂を糧にしないとって…」

 

 昨日ギルドの食堂で普通にご飯食べてたけど…

 

「…いったい何がどうなったのかまでは分からないけど、彼女の魂はもとのカティアの魂を核にして完全にこの世界の魂として定着してるわ。これならこの世界で普通に暮らすのは問題ないでしょうね。こんな事はこれまでに無かったことよ。…あるいは、やはり(シギル)が良い方向に作用したのかも」

 

「ふぇ〜…じゃあ、私の事を『ママ』って呼ぶのは…」

 

 …本人はいつの間にか椅子に座ってジュースをちゅ〜ちゅ〜飲んでる。

 キミの話をしてるんだぞ。

 

「本能的に自分に近しい存在であることを理解したんでしょうね」

 

 近しい、と言うか同じ魂を持つわけだからね…

 

「…じゃあ、カイトさんを『パパ』と呼ぶのは…?」

 

「…あなたが彼を好きだという感情を感じ取ったんでしょう」

 

 うわぁ〜っ!

 は、恥ずかしい!

 そ、そんなハッキリと言われると…

 

 羞恥に身悶えするが、リル姉さんは微笑ましげな目を向ける。

 

 

 あ、あれ?

 そう言えば…

 ふと、疑問が生じる。

 

「ねえ、リル姉さん?ミーティアはなんで実体を持ってるの?私の身体を乗っ取らないで、いったいどうやって…」

 

「あの古代遺跡よ。あなた達が探索しているところをたまたま見ていたんだけど…」

 

 そうだ、ミーティアはあそこにいたんだ。

 (シギル)で封印された隠し部屋。

 その件もあってリル姉さんに聞こうと思ったんだ。

 そっか、リル姉さん見てたんだね。

 

「あの遺跡はいったい何なの?『神の依代』って?」

 

「あなたが見たとおり、『神の依代』を奉じるための神殿ね。神の依代とは、私達神々が地上を去るという事になった時に、それを憂いた一部の人間がいつの日か私達が再び地上に戻る事を願って創り出した…人造人間(ホムンクルス)よ」

 

人造人間(ホムンクルス)…?」

 

「そう。私達の魔法や技術を学んだ天才魔道士が生み出した、生きた神代遺物(アーティファクト)。中に入る魂によって様々な姿をとるわ。ミーティアの魂はこの世界の魂として定着したけど、ある意味生まれたてだから精神は幼く、それを反映した姿になったのね」

 

「そんなものが…」

 

 当の本人はジュースを飲みきってお菓子に手を出している。

 …さっきから、いったいどこから出てくるんだ?

 

「あむあむ…ママ、これおいし〜」

 

「ああ、ほら、食べかすがついてるよ」

 

 

 そんな私達のやり取りを複雑そうな表情で見ていたリル姉さんが聞いてくる。

 

「…カティアは、この話を聞いてどう思うの?この子の事を恨んだり嫌ったりはしないの?」

 

「え?…う〜ん、別に何とも。恨みも無いかな…もともと異界の魂に対しては可哀想って気持ちが強いし、今私はこうして生きているし。それに、ミーティアは可愛いし。こうしてこの世界で生きていけるなら、良かったんじゃないかな」

 

 と、ミーティアの頭をナデナデする。

 

「むふ〜」

 

 猫の様に目を細めて気持ち良さそうだ。

 可愛い。

 この姿を見て嫌う事ができる人なんていないでしょ。

 

「そう、良かったわ。ふふ、本当にお人好しなのね」

 

「そうかなぁ〜?」

 

 普通だと思うよ。

 

 

 

 

 

「さて、今回の話はこれくらいかしら?」

 

「うん、そうだね」

 

「じゃあ、リナとリリア姉さんを呼びましょうか」

 

 と言って、リナ姉さんはどこからともなく神様電話(ゴッドフォン)を取り出して二人に連絡を取り始める。

 …神々しい女神様がスマホで通話する姿はやっぱりシュールだ。

 

 

 

 

 

「来〜た〜よ〜!こんにちは、カティアちゃん!」

 

 今日も元気なリナ姉さんが、シュッ、と登場。

 

 そして…

 

「リル、来たぞ。ほう、その娘がカティアか。ん?もう一人ちっこいのがいるな?」

 

 リナ姉さんと一緒に現れたのは、髪と瞳の色は私達と同じだが、凛々しい雰囲気でカッコいいという表現がピッタリの美女。

 髪はポニーテールにして、白銀のいわゆるドレスアーマーを身に纏ってる。

 見た目は完全に姫騎士、口調も格好も勇ましい感じだ。

 

「あ!ホントだ!何、この子!?凄く可愛い!!」

 

 ムギュっ、とミーティアに抱きついてほっぺをスリスリ。

 ミーティアは目を白黒させてビックリしている。

 

「え〜と、始めまして…エメリリア様ですよね?」

 

「ああ、そうだ。リリア、でいいぞ。妹達と同じように気軽に接してくれ」

 

「あ、うん…じゃあリリア姉さんで。よろしくお願いしますね」

 

「ああ、よろしくな。で、あっちのちびっ子は誰なんだい?」

 

「あ、この子はミーティアって言って…」

 

 と、リル姉さんと話した内容を伝える。

 

 

 

 

「ほう、そんな事が…確かに、あの『異界の魂』特有の相容れない感じはしないし、危険は無さそうだな」

 

「大丈夫よ!だってこんなに可愛いんだもの!」

 

 冷静に判断するリリア姉さんと、さっきの私みたいにポンコツな発言をするリナ姉さん。

 

「それにしても、あの人造人間(ホムンクルス)を見たときは随分と未練がましいものだと思ったが、世の中何が役に立つのか分からんな。まあ、奇跡的に色々な要因が複雑に絡み合って起きた特殊事例だ。応用できればよいのだが、まさか他の(シギル)持ちを実験台にする訳にもいかん」

 

「同じようなことが起きるとは限らないからね」

 

 あ、リナ姉さんがミーティアを膝に乗っけてお菓子で餌付けを始めた。

 あまり食べさせないでくださいね…

 

 

 

 

 そして、新たに加わった二人を交えて暫し談笑する。

 ミーティアはお菓子に満足したのか、今度は草原で元気に走り回ってる。

 

 

「そうだ、カティアちゃんって、オキュパロスから魔法を教わったのよね?」

 

「え?う、うん。[変転流転]って魔法を教わったよ」

 

「むむ。これは姉として負けてられないわね…よし!私は加護をあげるわ!」

 

「え!?…いいの?」

 

「もちろんよ!って言うかオキュパロスが教えたのに、私達が何もしないなんて、姉の名折れよ!」

 

 何?その対抗意識は…

 

「ふむ、そういう事なら私からも加護を与えよう。これで我ら三姉妹の加護が揃うな」

 

「『生命の女神』たる私の加護は、治癒系魔法の効果を極限まで高めるわよ!」

 

「『勝利の女神』たる私の加護は、自分自身のほか、仲間と認識した対象の能力全般を増強するぞ。お前の[絶唱]と重ねればかなりの効果が期待できるんじゃないかな」

 

「あ、ありがとう!姉さんたち!」

 

 もともと転生の際にリナ姉さんからは対『異界の魂』用に加護を貰っていたが、これは即死系攻撃全般の完全無効化らしい。

 どれも物凄く強力な効果だ。

 有効に使わせてもらいますね。

 

 

 

 

 

 

「そうそう、その後、カレとはどうなの?」

 

 と、唐突にリナ姉さんが切り出してきた。

 

「!…え、え〜と、とくに進展は、無いかな…あはは…」

 

「そう、まだ悩みが解消しきれないのかしら?」

 

「う〜ん、そっちはもうあまり気にならなくなってきたと言うか…」

 

 と、昨日見た夢のことを話す。

 私の魂、意識は混ざり始め、一人のカティアとなりつつある事を。

 

「そう…そういう形になるのね。カティアはそれで大丈夫?」

 

 リル姉さんが聞いてくる。

 転生前に、どうなるかは未知数と言っていたので、気にしているのだろう。

 

「うん、大丈夫。一番いい形だと思うよ」

 

「そう、良かったわ」

 

「じゃあ、そのへんの悩みは解消されつつあるとして…告っちゃえば?」

 

「!?こ、告っ…」

 

「まあ、いきなりは無理か。あなた奥手そうだものね」

 

 そうだよ。

 焦らなくていいって前も言ってたじゃない…

 

 それに、カイトさんってまだ私から一歩引いてるような感じがするんだよね。

 まだ時期じゃないというか…

 何かを抱えてるというか…

 

 と言うようなことを話すと…

 

「ふ〜ん?カイトって言ったっけ?どんな人なんだろ」

 

「ああ、それなら今現実のカティアの隣に居るわよ」

 

「あ、ほんと?どれどれ?」

 

 どうやら、現実世界の様子を見てるらしい。

 うう、恋愛相談してる対象を見られるのは何だか恥ずかしいぞ?

 

「ほぉ〜、なかなかのイケメンじゃない。誠実そうだし。…あれ?この感じ…何でここに…?…ああなる程、そういう事。ま、人間いろいろあるよねぇ」

 

 観察しながら独り言を呟くリナ姉さん。

 …凄く気になるんですけど。

 

「ふむ、私も…む?これは…」

 

 と言ってリリア姉さんも観察し始めるが、やはり何かが気になるようだ。

 カイトさんがどうしたんだろう?

 凄く気になる!

 

「二人ともどうしたの?」

 

「なに?リルお姉ちゃん、気づいてなかったの?相変わらずのうっかりさんなんだから」

 

「そ、そんな事は。…もう、なんだと言うの……あ、ああ、そういう事…それに、これはまさか…」

 

 と、リル姉さんも何かに気付いたらしい。

 そして、妹からもうっかりさんと思われてるんだね…

 

「ね、ねえ?カイトさんに何かあるの?」

 

 私は急に不安になって皆に尋ねる。

 

「…う〜ん、ちょっと私からは…彼、秘密にしてるでしょうし」

 

 そ、そんなあ〜…

 あれだけ思わせぶりなことを言っておいて、それはないよ。

 

「大丈夫よ、そんな泣きそうな顔しなくても。別に悪い話じゃないし、いずれ彼から話してくれると思うわよ」

 

「そう、ですか…?」

 

「ええ、きっと。あなた達の巡り合わせは運命でしょうから」

 

 そう、リル姉さんも言ってくれるけど、運命って…?

 

「お姉ちゃん…?」

 

「だから、あなたは焦らず自然体でいればいいのよ。今まで通りにね」

 

「…分かりました。いつかカイトさんが教えてくれるのを楽しみにしてます」

 

 結局、私がやることは変わらない。

 これまでと同じように、少しづつ彼のことを知っていこう。

 

 

 

 そして、その後も少し話をしてから私とミーティアは神界を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー その後の三女神の会話 ーー

 

「ねえ、お姉ちゃん。どういう事?運命って。あのカイトって人、………って以外になにかあるの?」

 

「私も今回始めて気が付いたのよ。あの二人の巡り合わせは正に運命という他ないわ」

 

「…なる程。魂の守護者たるお前が、巡り合わせと言うからには…」

 

「…ああ、そういう事?つまり、あの二人は前世から浅からぬ縁がある?」

 

「ええ。前世で果たせなかった想いの強さが、再び彼らを巡り合わせた。そう思えるの」

 

「いいね〜、ロマンチックだわ〜」

 

「…どうか、今世では幸せでありますように…」

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 



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第二幕 18 『着せ替え人形』

 私達は神界を離れ現実世界へと戻ってきた。

 前回同様、ほんの一瞬も経過していないようだ。

 

「あれ〜?」

 

「どうした?ミーティア」

 

 あ、状況を理解していないミーティアが混乱してる。

 カイトさんは、私達がもう神界に行ってきたことは分からないよね。

 

「ミーティア、し〜っ、ね?」

 

「うん。し〜っ!」

 

 ミーティアを静かにさせて、もう少し祈りを捧げるふりをする。

 

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

「…もう話は出来たのか?」

 

「ええ、こっちでは一瞬ですからね。詳しい話は外に出てから…」

 

 あ、そう言えばなんて説明しようか…

 う〜ん、『神の依代』、人造人間(ホムンクルス)である事は話すとして、魂云々の話は私の事情も絡んでくるからなぁ…

 

 よし、誤魔化そう。

 リル姉さんの(シギル)を持つ私の影響を受けた、とかなんとか。

 完全に嘘ではないのがミソだね。

 

 そして、私達は神殿の外に出て、中央広場にある噴水の縁に腰掛けて神界での出来事を話す事にした。

 

 

 

 

 

「…と言う事らしいです」

 

 神界で姉さん達と話した内容を一部誤魔化しながら伝える。

 ミーティアは噴水が気になるみたいで、手を水に突っ込んでじゃぼじゃぼ掻き回して遊んでいる。

 …そのお水大丈夫かな?

 

「神の依代、人造人間(ホムンクルス)…それで、お前のことを母と慕うのか。俺が父なのは何でなんだ…?」

 

「え?そ、それはよく分からないですね〜」

 

「ふむ?…しかし、人造人間(ホムンクルス)というのは成長はするのか?ずっと子供のままという事は無いのか?」

 

「ああ、それなら大丈夫みたいですよ。精神の成長…いろんな経験をさせることで、肉体もそれに合わせて成長するらしいです。普通の人間よりむしろ成長は早いかもしれませんね。あと、寿命が長かったり、普通の人間の身体よりスペックは高かったりするみたいですが、身体の構造自体は普通の人間とそれほど変わらないそうです」

 

「そうか、安心したよ。まあ、普通に接していけば良いんだよな」

 

「はい、それでいいと思います。一人の人間として、成長を見守ってあげたいです」

 

 ある意味、もう一人の私。

 そりゃあ愛情も湧くというものだ。

 

 …ああっ!?

 

「こらっ!ミーティア!そこに入っちゃダメっ!濡れちゃうよ!」

 

 もう、お転婆なんだから。

 誰に似たのやら…

 

 

 

 

「さて、私達はミーティアの服を買いに行こうと思うんですけど、カイトさん付き合ってもらえません?」

 

「ああ、構わない」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

 向かうのは、以前ミラージュケープを購入したユリシアさんの服飾店。

 あそこならミーティアに似合う可愛い服がたくさん揃ってるはずだ。

 今から楽しみだ。

 

 

 

 

「ああ、ここです」

 

「ふわぁ〜、おようふくがたくさんだね〜」

 

「…ちょっと俺は入りにくいな」

 

「大丈夫ですよ!さあ、中に入りましょう」

 

 まあ、その気持ちは分かるけどね。

 外でポツンと立ってるのも変でしょ。

 

 

 カランカラン〜、とドアベルの音を立てて中に入る。

 

「いらっしゃいませ〜。あ、カティアさんこんにちは」

 

「こんにちは〜」

 

「にちわ〜!」

 

「…こんにちは」

 

「あら、ご一家で…」

 

「ち、違います、この子は…親戚の子で、こちらは…ぼ、冒険者仲間です」

 

 どもりながら答える…

 いや、カイトさんが冒険者仲間なのはその通りだし。

 

「今日はこの子の服を見ようと思いまして」

 

「そうですか。では、子供服はこちらになります」

 

 案内された子供服コーナーにはシンプルなものからフリルたっぷりのものまで、色とりどりの洋服が。

 さすがの品揃えに目移りしちゃうね。

 

「うわ〜、きれいなふくがいっぱいだよ、ママ〜!」

 

「そうだね〜、ミーティアの好きなお洋服を選んでね」

 

 たくさんの洋服に目をキラキラさせている。

 ちっちゃくても女の子だね。

 まあ、元が私の魂って言うのもあるんだろうけど。

 

「ママ!これがいい!」

 

「どれどれ。…へぇ〜、いいセンスしてるじゃない」

 

 子供が好きそうなふりふりのフリル付とか選ぶと思ったら、比較的シンプルな若草色のワンピースを選んできた。

 

「ママといっしょ!」

 

「ん?ああ、そうだね」

 

 確かに私とお揃いに見えなくもないかな。

 う〜ん、なんて可愛い子なのかしら!

 

「じゃあ、それは後で試着するとして…他にも選びましょう」

 

 一着だけじゃ足りないからね。

 3〜4着くらいは欲しいところだ。

 

 そうしていくつか気に入ったものをキープして、試着タイムとなる。

 

 その間、カイトさんは居心地悪そうにしていた。

 まあ、女の子の買い物になかなか口出しはできないか。

 何だかごめんなさいね…

 

「じゃあ、試着しよっか」

 

「は〜い!」

 

 そして、試着室に入ってとっかえひっかえミーティアを着替えさせていくのだが…

 結局、あれもこれもとキープした服は10着にも及ぶ。

 だってどれも可愛いんだもの。

 

「きゃー!可愛い〜!」

 

「こっちも、凄く似合ってますよ」

 

「こっちはどうかな!?」

 

「うにゃ〜!?」

 

 次から次へと、着せ替え人形の如く着替えさせられて、ミーティアは目を白黒させている。

 ごめんね〜、でもママ止まらないのよ〜。

 

 ユリシアさんも一緒になって楽しんでるふうだ。

 

 そんな時、ふとユリシアさんがなにかに気づいたように呟く。

 

「あら?…これって…」

 

 ユリシアさんの方を見ると、もともとミーティアが着ていた服を皺にならないように畳んでいるところだった。

 

「どうしました?」

 

「あ、いえ。ミーティアちゃんが着ていたこの服、それにその靴も。もしかして魔道具ですか?」

 

「へ?魔道具?」

 

 一見なんの変哲もないシンプルなワンピースに革の靴。

 …でも、そう言われて改めて見てみると…

 

「あ…魔力が…?」

 

「そうなんですよ。どのような効果は分かりませんが…もしかしたら妹なら分かるかもしれません」

 

「ああ、プルシアさんですか」

 

「ええ。お店には行かれたそうですね」

 

「はい。面白いお店でした」

 

 しかし、この服が魔道具かもしれないとは…

 

 …しかし、よく考えてみれば中に入る魂によって様々な姿になる人造人間(ホムンクルス)がサイズピッタリの服を着ているのは不自然だ…

 多分、そのあたりが関係してるんだろう。

 

「ちょっと気になりますね。このあとプルシアさんのお店にも行ってみます。欲しいものもありますし」

 

 そう結論付けて、再びミーティアの着せ替えを再開する。

 

「ママ!?もうおわり〜!」

 

「あとちょっとだから!ねっ!?」

 

 

 

 

 

 

「…大丈夫か?ミーティア?」

 

「ママが…こわかったの…」

 

「あはは…ごめんね〜。どれもこれも可愛いかったからつい…」

 

 散々着替えさせられてミーティアはお疲れだ。

 …ちょっとやり過ぎたかも。

 

 彼女は今、一番最初に自分で選んだ若草色のワンピースを着ている。

 他に購入した物は私の拡張鞄に全部入ってる。

 

 結局何度も着せ替えて悩みながら選んだのは6着。

 そのほかに下着や靴下などの小物なども纏めて購入した。

 

 結構な散財だったが、ユリシアさんの好意でかなり値引きしてもらったので助かった。

 

「さて。一応用事は終わったけど。ミーティアの着ていた服のことも気になるし、プルシア魔道具店に行ってみようかな?」

 

「ああ、その前に武具店に行ってもいいか?すぐそこだから…いや、その前に昼ごはんかな?」

 

「ごはん!おなかすいた〜」

 

「そうだね、ちょうどいい時間か。じゃあどこか近場で食べてから武具店ということで」

 

 ということで、今日このあとの行動が決まった。

 



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第二幕 19 『業物』

 昼食を済ませた私達は、カイトさんの希望通り武具店に向かっている。

 ミーティアはお腹いっぱいになったら眠くなったらしく、私がおんぶしている。

 うつらうつらとしてるので、揺られてるうちに眠ってしまいそうだ。

 

「ところで、武具店に何の用事なんです?」

 

「ああ、コイツをメンテナンスに出そうと思ってな」

 

 と言って、腰に下げた長剣を軽く叩く。

 

「あれ?この間も研ぎに出してませんでしたっけ?」

 

「ああ。最近どうもガタが来やすくなっていてな。もう限界かもしれない。買い換えるか、打ち直すかしたほうが良いかもしれんな…」

 

 命を預ける大事な物だからね…

 使ったあとの手入れは欠かせないし、消耗してきたら致命的な事態が起きる前に買い替えなどの判断が必要だ。

 

 私の剣も父さんから貰ったやつなので相当年季が入ってるが、一度打ち直ししてるのでまだまだ現役だ。

 それでも何れ限界は訪れるから、いつかは買い替えが必要になるのは変らない。

 

 と、ひとつ思いついたことがある。

 

「あ、でしたら私に任せてもらえません?」

 

「ん?どういう事だ?」

 

「ほら、オキュパロス様から教えていただいた魔法」

 

「…ああ、[変転流転]だったか。なる程、その魔法で打ち直しみたいな事ができるということか」

 

「満足のいく物が出来るかどうか分かりませんけど、どうせ買い替えたり打ち直しするくらいなら試してみません?あ、なんならこの間試したミスリルも混ぜて合金にしても良いかも」

 

「…そうだな。どうせ限界が来てるのなら、試してみるか。頼めるか?」

 

「ええ!お任せください!…あ、でも、どこか目立たない場所はありますかね?」

 

「それなら、そこの路地裏がちょうど良いかもしれん。袋小路になってるから誰も来ないし、俺が入り口に立っていれば中で何をしてるかは分からんだろう」

 

 うん、店舗と店舗の間に何だか怪しげな路地があるね。

 袋小路になってるなら、確かに誰も来ないだろう。

 

 背中に背負っていたミーティアはカイトさんに抱っこして貰って、私はカイトさんの長剣を鞘から抜き取る。

 拡張鞄から、何故か持ってきていたミスリルナイフを取り出し、長剣と重ねるようにして持つ。

 

 そして、完成後の剣をイメージする。

 大まかな形状は今のものと大きく変わらず。

 ミスリルが均一に混ざって合金化。

 剣身は硬さとしなやかさ、粘りとコシが両立するように。

 刃の部分は硬く鋭く。

 

 イメージを固めたら、詠唱を開始する。

 

『世に常なるもの無し。万物は流転しうつろうものなり。ならば、今この一時に於いて我が望むかたちをここに示し変転せよ』

 

 詠唱とともに手にした剣とナイフが光に包まれ…

 光が消えると、薄っすらと緑がかった刀身の長剣となっていた。

 

 …見た感じは良さそうに思えるが、どうだろうか?

 

「取り敢えず出来たみたいですけど、どうでしょうかね?」

 

 カイトさんに完成した長剣を渡して、再びミーティアを受け取った。

 

 カイトさんは受け取った長剣をためすがめつ眺めて確認している。

 

「…なかなかのものに見えるな。だが、細かくは専門家に見てもらうか」

 

「あ、そうですね。その方が安心できます」

 

「じゃあ行ってみるか。もう、すぐそこだ」

 

 路地を出て、少しだけ歩く。

 

 ミーティアはすっかり眠ってしまった。

 寝る子は育つ。

 しっかり大きくなってね。

 

 

 

 

「ここだ」

 

「『ガザック武具店』…ですか」

 

 店舗兼工房となっているらしく、トンテンカンテン、と金属を叩く複数の音が中から聞こえている。

 

 店の中に入ると、所狭しと数々の武器が棚に陳列され、金臭い匂いが鼻をつく。

 

「いらっしゃいっ!…って、カイトか。何だ?また研ぎか?だからいい加減買い替え時だって言ったろ?」

 

「こんにちは、ガザックさん」

 

「こんにちは…」

 

 ちょっと勢いに飲まれて小声で挨拶する。

 

「お?なんだ、お前のコレか?」

 

 と小指を立てて聞いてくる。

 …て言うか、そのジェスチャーって前世と同じなんだね。

 

「いえ、彼女は冒険者仲間で…」

 

「カティアと言います。よろしくお願いします」

 

「ああ、よろしくな。何だ?背中のおちびちゃんは眠っちまってるのか」

 

「あ、はい。この子は親戚の子供でミーティアと言います」

 

「はははっ!子守か、大変だな!…で?用件は何だい?いい加減買い替えか?」

 

「いえ、この剣を見てもらおうと思って」

 

 と、カイトさんは先ほど私の魔法で生まれ変わった剣を見せる。

 すると、長剣を見たガザックさんの目が鋭くなる。

 

 長剣を手にとって仔細にチェックをする間、終始無言で何だかこっちが緊張する。

 あらかた見終えたのか、顔を上げてカイトさんに質問する。

 

「カイト、この剣どうしたんだ?」

 

「先日の依頼で入手したんです。どうですか?」

 

 …さらっとぼやかしたね。

 おいそれと神代魔法の話をするわけにも行かないか。

 

「…今のままじゃあ使い物にならんな」

 

 え〜、失敗かぁ…

 と、思ったが、話には続きがあるようだ。

 

「だが、剣身自体はしっかりしてるし刃の部分も悪くない。足りないのは研ぎだ。しっかり研いであげれば、相当な業物になるぞ。しかし、ミスリルを混ぜているみたいだが…こんなに均一に合金化できるとは…」

 

 どうやら、上手いこと出来ていたみたいだ。

 流石に魔法で研ぎまで細かく制御するのは難しいか。

 

「それでは、その剣を研いでもらっても良いですか?」

 

「ああ、任せろ!こんな業物扱えるなんて、こっちが頼みたいくらいだ。うちの工房の連中の刺激にもなるな!」

 

 え?そんなに?

 どうやら思ったよりもチート魔法だったみたいだ。

 

「では、お願いします」

 

 剣を預けて武具店を後にした。

 

 

 

 

「どうやら大成功みたいですね」

 

「ああ、ありがとうカティア。おかげで良い武器が手に入りそうだ。そうだ、代金を支払わないとな」

 

「いや、良いですよ。もともとカイトさんの剣なんだし、私は魔法の検証が出来ましたし」

 

「いや、そういう訳にはいかないだろう」

 

「本当に良いですって」

 

「…では、ミスリル分くらいは支払わせてくれないか」

 

「…分かりました。カイトさんには気兼ねなく使ってもらいたいですしね」

 

 正直余り物で使いみちも無かったから別にお金なんて要らないんだけど、確かに気になるか。

 

「ああ、ありがとう。大事に使わせてもらうよ」

 

「コツは掴めたのでガンガン使ってもらって大丈夫ですよ。ガタが来たらまた魔法で打ち直します」

 

 これで、私の剣もいつでも打ち直しができるし、検証が出来て良かったよ。

 

 

 

 

 

「さて、次はプルシアさんのお店に行きますか」

 

「ミーティアの服の事と…もともと何か買いたいものがあるんだったか?」

 

「ええ。ほら、リーゼさんが使ってた『代行の魔符』。あれ凄く便利だったじゃないですか。私も欲しいな、と思いまして」

 

「ああ、あれか。確かに使い勝手は良さそうだった」

 

 効果が一定時間継続するタイプの魔法に使えるんだよね。

 結界系の他、支援魔法や継続型の回復魔法とか。

 いろいろと応用が効きそうだ。

 

 でも、買うかどうかはお値段次第かな。

 いくらだったのかリーゼさんに聞きそびれてしまった。

 

 

「う…みゅぅ…」

 

 あ、背中でもぞもぞしだした。

 もう起きるのかな?

 

「あふ…ふわあ〜。…ママ?」

 

「おはよう、ミーティア」

 

「…おはよ〜。ここどこ〜?」

 

「まだ、お買い物の途中だよ。次で最後かな。ミーティア、歩ける?」

 

「うん!じぶんであるく〜」

 

 すっかり目が覚めたみたいなので地面に降ろす。

 

「パパ、おてて」

 

「ああ、ほら」

 

 ずっと私がおぶっていたから、今度はパパがいいみたい。

 

 そうなふうに、微笑ましい家族みたいに仲良く街を歩いていくのだった。

 

 



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第二幕 エピローグ 『娘』

 ガザック武具店を出た私達は、今度は北地区の住宅街にあるプルシア魔道具店に向かっていた。

 

 

「あ、ママ〜。おねえちゃんち!」

 

「そうだね〜。大きいお家だね〜」

 

「うん!おねえちゃんはおひめさまなの?」

 

「う〜ん?似たようなものかな…」

 

 まあ、高位貴族のご令嬢はお姫様と言えばそうだろう。

 例え槍戦斧(ハルバード)を振り回すような人でも…

 

「ママもおひめさまみたいだよね」

 

「ん?そ、そお…?ありがとうね。ミーティアもお姫様みたいに可愛いよ」

 

「えへへ〜」

 

 そんなほっこりする会話をしながら、北地区のメインストリートを進んでいき、やがて北門近くのプルシア魔道具店に到着した。

 

 カランカラン…

 ドアベルの音を響かせて店内に入る。

 

「は〜い、いらっしゃいませ〜」

 

 と、店の奥から店主のプルシアさんが顔を出す。

 

「こんにちは〜」

 

「あら、あなたたち!…あらやだ、もうそんなに大きな子供ができたの?」

 

「そんなわけ無いでしょう!?」

 

  もう!毎回毎回!

 

「…この子は親戚の子です。私の事を母の様に慕ってくれてます」

 

「あ、そうなんだ、残念」

 

 …何で残念なのさ。

 

「それで、今日は何か入り用で?」

 

「はい。新商品があると聞きまして。『代行の魔符』と言うのを見に来ました」

 

「ああ、あれね。もしかして、リーゼって子に聞いたのかしら?カティアちゃんがこの店を紹介してくれたんでしょう?」

 

「あ、そうです。リーゼさんが使ってるところを見て、凄く便利そうだと思いまして」

 

「うんうん、あれは自信作なのよね〜。それにしても、あの子おもしろいよね〜。すっかり話し込んじゃって、いろいろインスピレーションが湧いたわ」

 

 確かに二人とも気が合いそうな感じがする。

 …誰かストッパーがいないと延々と議論してそう。

 

 なお、ミーティアはアレ何?コレ何?と好奇心の赴くままカイトさんを質問攻めにしているところだ。

 

 

「でも、ちょうどよいタイミングだったわね。なかなかの人気ぶりでね、もう在庫が一つだけなのよ。まあ、もともとそんなに大量生産できるものでもないしね」

 

「おお、やっぱり人気商品なんですね!…それで、お値段は如何程で…?」

 

「金貨3枚…と言いたいところだけど、お店の宣伝してくれたみたいだし、2枚でいいわよ」

 

「え、いいんですか?」

 

「いいのいいの。カティアちゃんが使ってくれればいい宣伝にもなりそうだしね」

 

 パチッとウィンクしながらそう言ってくれる。

 ここは有り難くお言葉に甘えさせてもらいますか。

 

「じゃあ、購入させてもらいます!…と、一応リーゼさんには聞きましたが、たしか継続型の魔法の代行をしてくれるんですよね」

 

 念の為、詳しい説明は聞いたほうが良いだろう。

 

「その通りよ。一応、攻撃魔法とかの単発のものにも使えない訳じゃないんだけど…単純な繰り返しになるだけで、狙いもつけにくいし使い勝手がイマイチなのよね。だから、結界とか支援魔法の効果維持が主な用途かしらね。使い方次第では他にも応用できるかもだけど」

 

 へえ、攻撃魔法とかでも使えることは使えるんだ。

 同じ場所に向かって繰り返し攻撃するようなシチュエーションがあれば使えるってことか。

 

「使い方は、予め『反唱』のキーワードで起動させておいてから、この魔符を持ちながら魔法を使用するだけね。後は、内在する魔力を使い切るか、『停止』のキーワードで終了ね。使用中も周囲の魔素を取り込むので、使用魔法にもよるけど結構な時間もつと思うわ」

 

 うん。

 そのへんは大体リーゼさんに聞いたとおりだね。

 

 と、一通り説明も聞いたので、予定通り購入しました。

 

「お買い上げありがとうございま〜す」

 

 金貨2枚はそこそこ高額だが、前回の依頼の実入りが結構あったのと、ダンジョン魔核(コア)の売却利益の一部を分配してもらえることになっており、かなりの収入が期待できるので懐的にはかなり余裕がある。

 

 

「あ、そうだ。プルシアさんに見てもらいたいものがあるんです」

 

「見てもらいたいもの?私にって事は魔道具かしら?」

 

「多分、そうだと思うのですが…」

 

 そう言って、ミーティアが元々着ていた服を取り出してプルシアさんに見せる。

 

「あ、わたしのおようふくだ〜」

 

「あら、ちびちゃんの服なの?…確かに魔力を帯びているわね。どれどれ…」

 

 そう言いながらプルシアさんは単眼鏡(モノクル)のような物を付けてミーティアの服を調べ始めた。

 

「あ、これ?これはね、魔力の流れを見たり魔道具に刻まれた魔術陣を見たりできるのよ。ウチって発掘品の魔道具の鑑定依頼も受けたりするんでね。…ふむふむ、ここの織りに魔術的な意味をもたせてるわね…糸も普通の物では無さそう…蜘蛛系の魔物の糸かしら?ははあ、これはこうなってるのか…う〜ん?そうすると、効果は…」

 

 …私達への説明もそこそこに調査に没頭し始める。

 

「…リーゼと気が合うわけだな」

 

「ママ〜、おねえちゃんどうしたの?」

 

「ちょっとね、一生懸命調べてくれてるのよ。少しの間静かにして邪魔しないようにしましょうね」

 

「うん、し〜っ!だね」

 

 う〜ん、何ていい子なんだろう。

 ナデナデ。

 

 しかし、これはいつまで続くのだろうか?

 と思った矢先、プルシアさんは、がばっと顔を上げて興奮した面持ちで私達に向き直る。

 

「カティアちゃん!」

 

「は、はいっ!?」

 

「これ、しばらく私に預けてくれないかしら!?」

 

「えっ、どういう事です?」

 

「多分、これ神代遺物(アーティファクト)よ。おそらく、効果としてはサイズの自動調整だと思うのだけど、もう少し調べれば術式が明らかにできるかも!そうすれば服飾系とか指輪なんかの魔道具はサイズを作り分けなくて済むようになるから、結果としてコストダウンが図れるかも…!」

 

 ミーティア自身が生きた神代遺物(アーティファクト)と言うくらいだから、多分そうかも?という気はしていた。

 

 しかし、サイズの自動調整か。

 納得の効果だ。

 人造人間(ホムンクルス)の姿に合わせて調整できるようになってたんだ。

 

「それは構いませんが…それって、普通の服に後付で施したりは出来るんですか?」

 

 今日買った服とかに付けられたら、成長しても着られるかな〜、と思って聞いてみる。

 

「いや、素材が魔力を通すものでないと無理かな。糸素材で魔力を通すものはごく限られるから、一般の服に施すことは出来ないわ」

 

「そっか〜。ミーティアの服に付けられたら買い替えが楽になるかな〜って思ったんですけど」

 

「ああ、そうしたら、試作第一号はミーティアちゃんの洋服にして、完成したら進呈するわよ」

 

「あ、本当ですか?」

 

「もちろん、それくらいは謝礼としてさせて欲しいわ」

 

 これは嬉しいぞ。

 ミラージュケープとかを見てもデザインセンスも優れてるし、きっとミーティアによく似合う服を作ってくれるに違いない。

 

「ありがとうございます。じゃあ、お願いしますね」

 

「こちらこそ、お礼を言いたいわ。新たな技術を習得する滅多にないチャンスですもの」

 

 と言う訳で、ミーティアの着ていた服をプルシアさんに預けて、私達はお店を後にした。

 

 

 

 

 

 

「プルシアさんの洋服、楽しみね〜」

 

「ね〜」

 

「もの凄い気合の入れようだったな。とんでもない物が出来そうだ…」

 

 2〜3週間ほどは欲しいとのことだったけど、むしろそんなに早く出来るものなんだろうか。

 何か没頭しすぎて無理しなければ良いんだけど…

 

 

「じゃあ、用事も済んだし、少し散歩して帰りましょうか」

 

「おさんぽ?」

 

「ああ、だったらあっちに公園があったな」

 

「へえ、知りませんでした」

 

「遊具なんかもあったから、ミーティアも楽しめると思うぞ」

 

 この世界にも前世にあったような滑り台とかブランコのような遊具があったりするんだよね。

 ああいうものがあるなら、ミーティアも楽しめるだろうね。

 

 そして、カイトさんに案内されて公園にやって来た。

 小さな池を囲むように遊歩道が整備されていて、所々に木々が生い茂っている。

 木陰にはいくつかベンチがあって、恋人らしき男女が語り合ったり、散歩中らしき老夫婦が休んだりしている。

 

 子どもたちのはしゃぐ声が聞こえる方に目を向けると、芝生に覆われた広場があり、そこにいくつか遊具らしきものが見えた。

 

「ママ〜!あれ!あそこに行きたい!」

 

 早速遊具を見つけたミーティアが興奮気味に私の手を引っ張りながら言う。

 

「はいはい、そんなに慌てなくても大丈夫だよ」

 

 連れてこられた先には、小さな子供たちで賑わうブランコや滑り台などのほか、少し大きい子向けなのかなかなか本格的なアスレチックのような物があった。

 

 ミーティアはと言えば、小さい子向けの遊具など目もくれず、一直線にアスレチックに向かう。

 

「ママ〜、これやりたい!」

 

「え?ちょっとミーティアには早いんじゃないかな…」

 

 大人でもちょっと苦労しそうなのに、危ないんじゃないかなぁ…

 

「え〜、やりたい〜!」

 

「まあ、落ちないように補助してやれば大丈夫だろう」

 

「わ〜い、パパだいすき〜」

 

 む…ポイントを稼ぎましたね。

 

 

 

 そんなこんなでアスレチックに挑戦するミーティアだったのだが…

 

「…うそ?」

 

「…これは驚いたな」

 

 私達の視線の先には、小さい体のハンデなどものともせず、ひょいひょいっ、と難関を次から次へとクリアしていくミーティアの姿が。

 

 最初こそ、私達が補助に付いていたものの、あっという間に要領を掴んで止める間もなく驚異的なスピードで攻略し始めたのだ。

 

 不安定な足場でも全く危なげない。

 

「普通の人間よりもスペックが高いと聞きましたが、わずか3歳くらいの姿でこれ程とは…」

 

「…そうだな。身のこなしだけなら大人と遜色ないどころか凌駕してそうだ」

 

 本当に。

 流石、『神の依代』と言われるだけはある。

 

 

「お〜い!ママ〜!パパ〜!」

 

「…ああ、あんな高いところに(オロオロ)」

 

「だ、大丈夫だ。足を滑らせて落ちても受け止める」

 

 周囲の家族連れも驚異的な幼女の運動神経に興味津々で非常に目立っている。

 ああ…ミーティアがこっち見てママ、パパとか言うから私達も注目を浴びてる…

 またおかしな噂が流れなきゃいいけど…

 

 

 

 さて、そうこうしているうちにあたりはすっかり夕日に染まり、そろそろ帰る頃合いとなった。

 

 アスレチックを完全攻略したあとも、いくつかの遊具で遊んでミーティアは上機嫌だ。

 しかし、もう帰ろうと言っても、もう少し遊びたいと駄々をこねる。

 カイトさんと二人で何とかミーティアを宥めて、ようやく宿への帰路に付くことができた。

 

 

 

 ミーティアの驚愕の正体判明に始まった一日はこうして終わりを告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然の出会いから不思議な縁で結ばれたもう一人の【私】。

 

 例え最初の出会いで私の魂を傷つけた相手だとしても。

 

 あの、哀しい世界の迷い子が、こうして幸せそうに笑顔を振りまいていることが、これ以上無いくらいに嬉しい。

 

 その眩しい笑顔がたまらなく愛おしい。

 

 

 あの子が望む母親役なんて、ちゃんと出来るのか分からないけど。

 

 きっと幸せにしよう。

 そう、心の中で誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

ーー 第ニ幕 転生歌姫と古代遺跡 閉幕 ーー



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幕間
幕間3 『王都にて』


 ブレーゼン侯爵が領都ブレゼンタムを出立してはや数週間。

 侯爵が乗った馬車はようやく王都アクサレナ近郊の衛星都市の一つに到達していた。

 夕刻には王都の別邸に到着できるだろう。

 

 

「閣下。お嬢様からのお手紙が届きました」

 

 御者台に通じる窓をノックされ手紙を渡される。

 

「あん?早鳥か?大抵の政務はリファーナとルシェーラに代行許可を出してるんだが…あ〜、もしかして遺跡の方で何かあったのか?」

 

 と、独り言ちながら手紙の封を切る。

 

 小さな文字は、揺れる馬車の中で読むには老眼が始まりつつある目に辛いところだが、何とか読み進めていく。

 

 その表情がだんだんと呆れのそれになっていく。

 

「…まあ、次から次へと忙しいこった。って、他人事じゃねぇな。全く、まだ王都に着いてもいねぇってのに報告のネタばかり増えてくな」

 

 手紙の内容はこうだった。

 

 先ず、予てより調査中のあの遺跡はやはり神代のものとの事。

 既に貴重な資料も発見され、かなり価値の高いものだと言う。

 一時ダンジョン化したが、考古学的価値を鑑みこれを解除。

 

「まあ、妥当な判断だな」

 

 お飾りの令嬢ではなく、ちゃんと自分で考えて判断が出来る事に嬉しく思う。

 

 

 そして、遺跡最奥部にてカティアの(シギル)に反応して隠し部屋が発見され、そこで謎の幼女を保護したと言う。

 遺跡内で発見した資料によれば、彼女こそが『神の依代』では無いかと目されていた。

 そして、カティアがエメリール様に確認したところによれば、その正体は古代の魔道士が生み出した人造人間(ホムンクルス)だと言う。

 今はカティアが保護しているということだ。

 

「って言うかエメリール様とも直接話ができるとか、嬢ちゃんどんだけなんだよ」

 

 

 真面目な報告はそこまで。

 しかし、それと同じくらいの分量で書かれた続きには…

 

 カイトとカティアの進展具合?が事細かに報告されていた。

 

 曰く、野営の夜にいい雰囲気だった。

 曰く、しかし二人とも奥手で非常にもどかしい。

 曰く、保護した幼女からは父母として非常に慕われており、まるで本当の親子のようだが、それが逆に二人の仲が進展しない要因にならないか心配。

 

「…はあ、俺にこれを報告してどうしろってんだ。…しかし、カイトよ。いよいよ覚悟を決めるつもりか…?それならそれで俺も協力は惜しまんつもりだがな」

 

 

 

 王都到着まであと数刻。

 真面目な好青年の行く末に思いを馳せながら、馬車の揺れに身を任せしばしの休息を取ることにした。

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさいませ旦那様。長旅でお疲れでしょう。湯も食事も準備できておりますのでお申し付け下さい」

 

「ああ、社交シーズンでもねぇのにすまねぇな。取り敢えずメシでも食いながら今後の予定を確認させてくれ」

 

「畏まりました」

 

「取り敢えず、陛下との謁見予定は?」

 

「はい。到着次第すぐにでも、とのご指示でしたので、明日一番を押さえております」

 

「ああ、助かる。それから、資料はいろいろ送っといたが、会議用の纏めはどうなってる?」

 

「すべて滞りなく。あとは閣下の裁可が頂ければ」

 

「分かった。メシの後にすぐ確認する」

 

 到着早々に次々と確認、指示を行うさまは、粗野な風貌や言動とは裏腹にやり手の政治家と言った風情だ。

 

 到着後もゆっくりする暇もなく、結局就寝できたのは深夜になってからの事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王都到着の翌日、侯爵は長旅の疲れもそのままに、その日一番の謁見に臨んでいた。

 

「ブレーゼン侯爵家ご当主、アーダッド=ファルクス=ブレーゼン侯爵様ご入場!」

 

 謁見の間への入場の許可が降り、赤い絨毯が敷かれた謁見の間に入場する。

 謁見の間の両側には何人かの文官や護衛の近衛騎士が控える。

 

 玉座に座すのはイスパル王国の国王、ユリウス=イスパルその人である。

 金髪碧眼の美丈夫で、壮年といった年代に思われるが生気に溢れる様子はそれよりも若々しい印象を与え、鍛え上げられた肉体は横に控える護衛騎士にも劣らぬほどである。

 

 その隣には王妃のカーシャ=イスパルが柔和な笑みを浮かべて控えている。

 夫である国王より少し若く、美しいと言うよりは可憐で可愛らしいと言ったほうが相応しい。

 

 代々のイスパル王家直系の血筋は王妃が引いているため、本来であればユリウスは王婿にあたるはずであるが、彼女は一歩退いた立場を望み、彼女から全権を譲られたユリウスが国王となったのだ。

 

 

 侯爵は玉座に座る国王の目前、決められた位置まで進み出て跪き口上を述べる。

 流石にこの場においては口調も貴族のそれらしく、普段の彼を知るものから見たら「誰?」となるに違いない。

 

「面を上げて楽にせよ」

 

「はっ!」

 

「遠路遥々ご苦労だったな」

 

「勿体ないお言葉です」

 

「…ああ、すまんが、人払いを頼む」

 

 国王のその言葉で、両側に控えていた者たちが退室していく。

 ある程度予想していたのか幾分慣れた感じである。

 

 そしてその場に残ったのは国王と王妃、侯爵の他は宰相やごく僅かな護衛の近衛騎士のみとなった。

 

 

 

「相変わらず、笑いをこらえるのが大変だったぞ」

 

 人払いされたのを確認した国王は、さっきまでの威厳に満ちた話しぶりとは異なり砕けた口調で話しかける

 

「そりゃないでしょう。こちとら真面目にやってるてぇのに…それに、そりゃあお互い様ってもんですぜ」

 

 侯爵も普段から比べれば幾分かは丁寧だが、王が態度を変えたのに合わせて口調を切り替える。

 

「ははっ、違いない。まあ、よく来てくれたな。手土産は厄介事だが」

 

「俺だって好きで来た訳じゃ無いんですがね。いっそ陛下に丸投げしても良いんですぜ?」

 

「あなた、そんな風に言うものじゃないわ。せっかくアーダッド様が重要な情報を報告して下さったのですから」

 

「ああ、もう、悪かったって。だが、厄介事には違いないだろ。報告には一通り目は通したがな。暗黒時代の再来なんてごめんだぞ」

 

「そうさせないためにも、国内のみならず諸国とも連携して警戒しなけりゃならんのですよ。グラナの動きも注視しとかにゃならねぇし」

 

「ああ、分かってるさ。詳細は会議で揉むとして、だ。俺がこの場で聞きたかったのは例の娘の事なんだが…」

 

 そう切り出した王の言葉に、侯爵は思わずこの場に残っている面々を確認する。

 

「ああ、大丈夫だ。この場にいるのは側近中の側近。軽々しく情報を漏らすような奴らではない」

 

「…まあ、俺も嬢ちゃんと約束しちまったもんで…頼みますよ」

 

「分かってる。だが、正直なところ目の届く範囲にいてくれた方が…とも思うんだよな。ブレゼンタムは遠すぎる」

 

「…嬢ちゃんを何か利用しようってんで?」

 

「逆だ。何かのきっかけで情報が漏れるとも限らん。そうした時に良からぬ連中が良からぬ事を企んでも、近くにいなければフォローしたくともできないかもしれんだろう?」

 

「そりゃそうかも知れませんが…」

 

「何も無理やりって事じゃない。自然と王都に居てくれるような理由さえあればな」

 

 と、そこまで黙って二人の話を聞いていた宰相が始めて会話に入ってくる。

 今は人払もして、ある程度無礼講な感じだ。

 いちいち発言の許可を取ってから、と言うこともない。

 

「侯爵殿、確かその娘は旅芸人一座の者という事でしたな」

 

「ああ。もはや旅芸人一座なんて規模じゃ無いけどな」

 

「ええ。更には非常に人気だとも聞いてます」

 

「そうだな。半年ほどウチに滞在してるが、客足が衰える気配はないな。それが?」

 

「陛下、確か王都の国立劇場の稼働率が低いのが以前より問題となったおりましたな」

 

「ああ、なるほど。そこを本拠地にしてもらえれば、という事か」

 

「はい。それほど人気の一座であれば、民からも歓迎されるでしょう」

 

「あら、素敵ですわね」

 

「あ〜、確かにダードの奴もそろそろどこかに落ち着く事も考えてたみてぇだから、ちょうどいい話かもしれねぇ」

 

「『剛刃』のダードレイだったか。先の大戦の功績から叙爵の話もあったんだがな」

 

「そう言うのには全く興味が無い奴なんですよ。周りの連中も含めてね。まあ、俺も奴らのそういうところが気に入ってんですがね」

 

「そうか。一度会ってみたいものだ。…よし、では打診してみようではないか」

 

「はっ。そうすると、滞在先の確保なども必要でしょうな。そのほか、招致に必要な事項を整理して計画案を提出いたします」

 

「ああ、頼んだぞ。細かい話はそれができてからだな」

 

 

 一座の話はそれで一旦終了し、残りの時間はブレーゼン領の近況報告などを行なって、その日の謁見は終了した。

 

 

 侯爵の仕事の本番はこれから先に行われる会議や諸々の調整などであり、これからしばらくは王都に滞在することになる。

 

 



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設定集(第二幕終了時点)

登場人物

 

・カティア

 本作の主人公。

 弱点が次々と明らかに。

 対G戦限定で使用可能なあらゆる魔法を無詠唱で放てるという意味不明な能力も判明。

 黒歴史も次々と積み上げる。

 いきなり娘ができました。

 

・エメリール

 ひとまずカティアの魂を傷付けた原因が分かって一安心。

 妹からもうっかり認定されてるらしい。

 

・スーリャ

 ギルド職員の女性。

 さりげない気遣いがありがたい。

 

・ダードレイ

 旅芸人一座の座長にして、凄腕冒険者【剛刃】。

 いきなりお爺ちゃんになってしまった。

 

・アーダッド=ファルクス=ブレーゼン

 イスパル王国の貴族で侯爵位を持つ。

 ブレーゼン領の領主。

 しばらく王都に出張することに。

 

・ティダ

 旅芸人一座の副座長。ダードレイに比肩する凄腕冒険者【閃刃】。

 カティアに酒を飲ませてはならぬと決意する。

 

・ロウエン

 旅芸人一座の一員。冒険者としては斥候を担当する。

 役割は地味だがパーティーへの貢献度は高い。

 

・アネッサ

 旅芸人一座の一員にして非常に優秀な魔道士。

 ティダの妻。

 カティアに母親としてのアドバイスをしなければ、と思ってる。

 

・リィナ

 ティダとアネッサの娘。

 自分よりも小さな女の子がやってきてとても嬉しい。

 ミーティアの姉ポジションを狙ってる。

 

・カイト

 調査任務専門パーティー『鳶』のリーダーでBランク冒険者。

 『鳶』解散とともに、基本的にソロで活動するように。

 今回からカティアとひとつ屋根の下で暮らすことになった。

 彼女に気があるのは誰の目からも明らかなのだが、自分から一歩を踏み込むような素振りは見せない。

 一部からはヘタレとも。

 

・レダ

 もと調査任務専門パーティー『鳶』所属の冒険者。

 『鳶』解散に伴い別パーティーに加入した。

 

・ザイル

 もと調査任務専門パーティー『鳶』所属の冒険者。

 『鳶』解散に伴い別パーティーに加入した。

 

・レイラ

 もと調査任務専門パーティー『鳶』所属の冒険者。

 『鳶』解散に伴い別パーティーに加入した。

 

・リーゼ

 もと調査任務専門パーティー『鳶』所属の冒険者。

 Bランクに昇格したようだ。

 『鳶』解散後はアスティカントに行くつもりだったが、路銀を稼ぐためにカティア達と依頼を受ける事に。

 まだしばらくはブレゼンタムに滞在するらしい。

 

・ミディット

 カティアの幼少時代を彷彿とさせるミーティアにメロメロ。

 お婆ちゃんポジションを狙ってる。

 

・ロゼッタ

 悪役令嬢役がとてもハマっている。

 後輩を激励するよいオバ…お姉さまなのだが、声がデカイのが玉に瑕。

 

・シクスティン

 カティアが越えねばならない大きな壁。

 果たして打倒する日はやって来るのか…?

 

・エメリナ

 神々が一柱。エメリールの妹で『生命の女神』。『恋愛の女神』とも言われていて、恋バナ大好き。

 ミーティアを餌付けする。

 

・エメリリア

 神々が一柱。エメリールとエメリナの姉。

 凛々しいお姉さま。

 

・ハンナ

 ダードレイ一座の期待の新人。

 初々しさがウケてファンが急増中。

 

・バトラー

 侯爵家の使用人。

 

・リファーナ

 侯爵夫人。

 昔は戦場で大暴れしていたらしい。

 

・ルシェーラ

 侯爵令嬢。

 まさに深窓の令嬢といった感じだが、中身は父親と同じ。

 初めての実戦に手応えを感じ、本格的に冒険者登録しようと画策中。

 

・マーキス=ブレッセ

 ブレゼンタムの執政官長。

 男爵位を持つ貴族だが、平民に対しても丁寧で人当たりが良い。

 

・アルベルト

 ダードレイ一座のメンバーを両親に持つ9歳の男の子。

 早く大人になって冒険者になりたいらしい。

 

・ジョーンズ

 ブレゼンタム東部遺跡の調査隊の責任者。

 ワイルドな中年。

 

・ミーティア

 古代遺跡で出会った謎の幼女。

 カティアの幼少時代にそっくりだが、髪色はやや暗め。

 ミニカティアをもじって命名された。

 カティアを母、カイトを父として慕っている。

 

・ガザック

 武具店店主。

 目利きは確か。

 

・ユリウス=イスパル

 イスパル王国の国王。

 金髪碧眼の美丈夫。

 

・カーシャ=イスパル

 イスパル王国の王妃。

 代々の王家の血を受け継ぐ。

 

 

 

 

地勢

 

・ブレゼンタム東部遺跡

 神代の街の跡地で見つかった地下遺跡。

 入り口は瓦礫で塞がれていたが、僅かな隙間から入り込んだものが成長したのか、内部には魔物が蔓延っている。

 

・アクサレナ

 イスパル王国王都。

 かつての都は国の中央部にある古都イスパルナであったが、数百年前に遷都した。

 イスパル王国の東寄りにあり、ブレゼンタムよりも隣国レーヴェラントの王都などのほうが近かったりする。

 

 

 

魔法

 

・灼渦

 地面を溶岩の渦と化す強力な攻撃魔法。

 間違っても"G"退治に使うようなものではない。

 

・冷却

 あたりの空気を冷やす魔法。

 

・絶凍気流

 強烈な冷気で対象を瞬時に凍らせる強力な攻撃魔法。

 間違っても"G"退治に使うようなものではない。

 

・砕牙

 対象の筋力を減退させて攻撃力を低下させる魔法。

 

・灼天

 渦巻く炎を巻き起こして攻撃する炎系上級魔法。

 

・界絶

 定置型の結界魔法。

 脅威度C程度の魔物では突破出来ないくらいの強度がある。

 

・聖套

 アンデッドのライフドレインや精神攻撃から身を守る上級結界魔法。

 

・氷葬

 冷気系中級魔法。

 

・落地

 地面を陥没させて落とし穴を作る魔法。

 

・雷蛇

 雷を対象にまとわりつかせる雷撃系の中級魔法。

 

 

 

 

魔道具

 

・空間拡張鞄

 鞄内部の空間を拡張して見た目よりも多くの物が入り、重さもある程度軽減される。

 高価だが中級クラスの冒険者でも購入できる程度。

 

・照明器具

 最も一般的に普及している魔道具の一つ。

 

・ミラージュケープ

 [霞鏡]を使うことができる、オシャレなケープ。

 防刃防塵防臭完備で冒険者活動にも耐えうる逸品。

 

・閃光石

 強い衝撃を与えることによって[閃光]が発動する、使い捨ての魔道具。

 

・火炎筒

 [炎弾]の魔法が打ち出せる。

 魔力フル充填で十発撃てて、連射も可能。

 

・結界の指輪、腕輪

 [障壁]と[魔壁]を選択起動可能。

 

・隠者のローブ

 [隠遁]を発動できる。

 

・美容の髪留め

 微弱な回復魔法と[清浄]の効果で髪や肌を綺麗に保つ、女性冒険者に大人気の魔道具。

 

収納倉庫の指輪(ストレージ・リング)

 空間拡張鞄とは比べ物にならないほどの容量を持つ神代遺物(アーティファクト)

 

・代行の魔符

 継続型の魔法の行使を代行してくれる魔道具。

 起動中も周囲の魔素を取り込んで魔力回復させながら発動できるので、環境や使用魔法によるがかなりの長時間維持することができる優れもの。

 

 



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第三幕 転生歌姫の新たなる旅立ち
第三幕 プロローグ 『王都への誘い』


 ミーティアに出会ってから早数週間。

 一座の皆にもすっかり慣れて、最初は私やカイトさんから離れたがらなかった彼女も徐々に他の人に預けられるようになって来た。

 

 特に歳の近いリィナとは仲がよく、「おねえちゃん」と慕っていて、リィナも妹が出来たみたいで喜んでいるようだ。

 

 その様子を見ていたティダ兄とアネッサ姉さんは、二人目を…なんて話をしてるのを聞いた。

 …私としては、いつも隙あらばイチャイチャしてるのに、何で二人目三人目が出来ないんだと思ってたが。

 まあ、一座の事を考えてくれてたんだと思う。

 今はハンナちゃんとか、若手も成長してきたからね。

 

 そのアネッサ姉さんは何かと母親としてのアドバイスをしてくれる。

 …自分的には母親と言うよりは歳の離れた姉とかのつもりなんだけど。

 

 目下の悩みは、一座の面々が昔私にそうしたように、自分の持てる技を伝授しようと私の目が届かないところで教え込んでるらしいと言う事だ。

 まだ早いでしょ、と思うのだが、見た目によらず優れた身体能力を発揮してどんどん吸収するもんだから、教える方も楽しくて仕方ないらしい。

 身を守る術はあった方が良いのは確かだから、最近は黙認している。

 

 

 そんなふうに、最近うちの一座はすっかりお姫様(ミーティア)を中心に動いてるのだが、まだ次回の公演予定は決まっていない。

 

 なので最近はミーティアを預けて冒険者の依頼を請負うのが主な仕事となっている。

 基本はソロだが、カイトさんと一緒に活動することもあるし、危険度の少ない採取依頼なんかはピクニックがてらミーティアと一緒に出かけることもあった。

 

 ああ、そう言えば、父さんが言っていた通り取材が来たので、正式に噂を否定するコメントを出しておいた。

 そのおかげか、好奇の目を向けられることも少なくなり、ミーティアを連れて街を歩くのもあまり気にならなくなってきた。

 

 

 

 

 そうやって日々を過ごしていたのだが、変化の訪れは父さんがある知らせを受けた事から始まった。

 

 宿のロビーに私、父さん、ティダ兄が集まって話をしている。

 

「…王都に?」

 

「ああ、国立劇場を本拠として活動しないか?ってな誘いだな」

 

「凄いじゃない!」

 

「ああ、またとない話ではある。正直ウチもかなり大きくなったし、どこかに拠点を持って落ち着くか、って思い始めていたところだしな。ブレゼンタムも候補に考えたんだが、やはり人口規模的にこの先いつまでも客が入るかと言われれば…何れ先細りしてくだろう」

 

「その点、王都の人口はブレゼンタムとは比較にならないし、拠点にできるならこれ以上は考えられないな」

 

 ティダ兄の言う通り、王都の人口はブレゼンタムの数倍、約二十万人ほどの人口を抱え、更には数千人規模の衛星都市も都市圏として抱えていると言う。

 

「そうだ。しかもだ。国立劇場は特別に使用料を格安にしてくれる上に、俺達の住む場所も確保してくれるらしい」

 

「ふぇ〜、ずいぶんと至れり尽くせりだねぇ?」

 

「…美味すぎる話で逆に怪しいな?」

 

「ああ、これは俺の推測なんだが…このタイミングでこの話が来たのは、おそらく侯爵が絡んでるだろうな」

 

「侯爵様が?何で?確かにタイミングとしては合ってるかもしれないけど…」

 

「分からねえか?多分、国王がお前を近場に置いておきてえんじゃねえかな?」

 

「…ああ、そんな話もあったね…(シギル)持ちの私の動向は押さえておきたいとか何とか」

 

「そうだ。まあ、それも分からんでもないし、ヤツが信頼してる相手ならばそうおかしな事にはならないとは思うがな。ただ、それも単なる憶測だ。実際のところ、ウチの評判を聞いて純粋に招致しようとしてるだけかも知れんしな」

 

「…そうだね。それにまたとないチャンスだと思うし…受けるんでしょ?」

 

 私の事にしたって、別に気になるものでもないし…

 

「お前が良ければな」

 

「良いに決まってるじゃない。私の我儘でせっかくのチャンスをふいにはできないよ」

 

「そうか。まあお前ならそう言うと思ったがな。一応確認はしときたかったんだ」

 

「私だけじゃなくて皆にも聞いてよね」

 

「それはもちろんだ」

 

「…しかし、カティアよ。カイトのことはどうするんだ?」

 

「あ…」

 

 ティダ兄が気遣うように聞いてくる。

 

 そうだ。

 私達が王都に行ってしまえば、カイトさんとはそれでお別れになるかもしれない。

 

 もちろん、連絡は取れると思うし、これっきり今生の別れってわけでも無い。

 でも、この街から王都までは数週間かかるほど距離が離れている。

 

 もう会えないかも知れないと思うと、急に胸が締め付けられるように苦しくなる…

 

「…だったら、カイトも誘ったらどうだ?」

 

「えっ?」

 

「アイツだって別にこの街に根を下ろしてるわけでもねぇだろ?」

 

 どうだろう?

 侯爵様にご縁があるからここにいるのだと思ってたんだけど…

 

「で、でも、別に私達は付き合ってるって訳でもないし…」

 

「…まだそんな事言ってんのか」

 

 と、呆れたように父さんに言われてしまう。

 

「だ、だって…」

 

 私自身、かなり【私】と【俺】の人格の統合が進んだ事もあって気持ちの整理は大分ついている…と思う。

 だけど、それとは別に一歩踏み出すには勇気がいるのだ。

 

 それに…カイトさんも何かを抱えて一定距離以上には踏み込まないようにしてる気がするのも躊躇う理由の一つだ。

 

「はぁ、魔物相手するみたいに果敢に突撃しときゃ良いだろうに」

 

「いや、それとこれとは全然違うでしょ…」

 

 それじゃ私が脳筋みたいじゃない…

 

「まあ、もう少し先の話だ。それまでに何とかすりゃいいさ」

 

「う、うん。そうするよ…」

 

 

 

 

 

 でも…

 そろそろ私達の関係もハッキリさせないとね…

 



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第三幕 1 『懊悩』

 モヤモヤとしたものを抱えながらも時間は過ぎ去っていく。

 

 何度かカイトさんには話をしようとしたが、いざ彼を目の前にすると緊張で言葉が出て来ない。

 そんな私の様子に彼は心配してくれたが、曖昧に誤魔化すことしかできなかった。

 

 

 そんなふうに懊悩する日々を過ごしていたのだが、プルシアさんからミーティアの服が完成したとの連絡が宿の方に入り、少しだけ気分が上向きになった。

 

 連絡を受けて早速お店に向かうことにした。

 

 

 

「ママ〜?げんきないの?」

 

「えっ?う、ううん大丈夫だよ!お洋服楽しみだね〜」

 

 いけないいけない。

 ミーティアにまで心配されるほどだとは。

 取り敢えず今はその事は忘れよう。

 

 

 

 気持ちを切り替えて歩くことしばし。

 私達はプルシア魔道具店にやって来た。

 

 カランカランとドアベルを鳴らして中に入る。

 

「あ、いらっしゃい!カティアちゃん、ミーティアちゃん。待ってたわ!」

 

「こんにちは〜、プルシアさん」

 

「おねえちゃん、こんにちは!」

 

「さあ、早速だけど見てちょうだい!私の傑作を!」

 

 挨拶もそこそこに、プルシアさんは興奮した様子でまくし立ててくる。

 お、落ち着いて…

 

「これよ!」

 

 そう言って取り出したのは、桐箱?のような物。

 蓋を開けると丁寧に畳まれた服が入っていた。

 

「さあ、手にとって確認してみて」

 

「は、はい…」

 

 箱から取り出して広げてみる。

 

 濃紺色の半袖のワンピースだ。

 ミーティアが着るとおそらく膝くらいまであるだろう。

 裾や袖、襟元には純白のレースで縁取りされており、高級感が漂う。

 

 手触りは絹のように滑らかで光沢があるが、絹のような繊細さと言うよりも丈夫でしなやかな感じがする。

 

 襟や袖にはいくつかの宝石のようなものが散りばめられており、おそらく魔力貯蔵の役割を持たせているのだろう。

 

「どう?今回はサイズ自動調整を付けてるからね、デザイン的には大人になっても違和感がないように落ち着いたものにしているわ」

 

「はい…とても素敵です!色もミーティアの髪が映えそうな感じですし、凄く似合いそう」

 

「おねえちゃん、きてみてもいい?」

 

「もちろんよ!あっちに試着室があるわ」

 

 といって案内された試着室でミーティアを着替えさせる。

 

 

 

「おお、予想通り…いや、それ以上だわ!」

 

「本当に…よく似合ってるよ、ミーティア」

 

「えへへ〜」

 

 ミーティアも私達に目一杯褒められてご満悦のようだ。

 

「ところで、これってどんな機能があるんですか?」

 

「え〜と、サイズ自動調整の他は…身体能力向上、温度調整、物理魔法結界の発動、継続回復、自動補修…てところね。あ、防刃防汚防臭ももちろん完備よ!まさに私の最高傑作と呼ぶに相応しい仕上がりよ!」

 

 うわあ…

 やりすぎじゃない?

 

「そ、そんなに付けて大丈夫なんですか…?」

 

「まあ、一般販売するにはやり過ぎだと思うけど、一点物だからね。あの預かった服の術式って、サイズ調整以外にも効率的な魔力制御とかすごく参考になったからこれだけいろいろ付けられたのもあるかな」

 

「う〜ん、こんな凄いものをただで頂くなんて…」

 

「何言ってるの!むしろ私がお金を払いたいくらいよ」

 

「そ、そうですか…では、有り難く使わせて貰いますね」

 

「おねえちゃん、ありがとう!」

 

「うんうん、どういたしまして。私も技術向上が出来たからね。こちらこそありがとうね」

 

 まあ、お互いwin-winという事で、良かったかな?

 

 

 そうして私達はプルシアさんに別れを告げて店を後にした。

 

 ミーティアはもとの服に着替えたりせずに、新しい服を着たままだ。

 相当気に入ってくれたみたいで良かったよ。

 

 

 

 

 

 

「ママ、もうおうちかえるの?」

 

「う〜ん、そうね…ギルドにでも寄ってこうかな?」

 

「おそといくの?」

 

「ちょうどいい依頼があればね」

 

 私も少し気分転換したいし。

 いつまでも先送りしちゃいけないのは分かってるんだけどね…

 

 

 

 

 という事でやって来たギルドの依頼掲示板。

 

 もうピークは過ぎてるし、何度かミーティアも連れてきてるので殊更に注目を浴びるようなこともない。

 一時期はそこかしこでヒソヒソと噂話が展開されていた物だがそれも大分落ち着いたようだ。

 

 何か近場の採取とかあるかな?

 

「おい」

 

「…う〜ん、これはちょっと場所が遠いかな…」

 

「おいこら」

 

「…こっちは?魔物の生息域かー。ミーティア連れてるからパス」

 

「おいっつってんだろ!!」

 

「へっ?…私?」

 

 さっきからうるさいな〜、と思ったら私に話しかけてたのか。

 なんだろ?

 知らない人だけど。

 いかにも粗野な感じの冒険者と言った風体の男。

 脳筋ぽい感じ。

 

「おう、おめえ!ガキがガキ連れてこんなとこ来てんじゃねぇよ。ここは遊び場じゃねぇんだぞ!」

 

 …驚いたな。

 ここに出入りするようになってから結構経つんだけど、こんなふうに絡まれたのは初めてだ。

 

 これはあれだ、テンプレってやつだろうか。

 

 と、内心ちょっとだけ感動していると、男はますますヒートアップする。

 やだなあ…カルシウム足りないんじゃない?

 私は寛大なのでそんな事くらいでは怒らないけど。

 どうやって穏便に済ませようかな…

 

「てめえ!!無視するんじゃねえ!!」

 

「ひっ!!ま、ママ、こわいよぉ…」

 

 !?

 おのれ…

 可愛い可愛いミーティアを怖がらせるとは…

 万死に値する!!(即ギレ0.5秒)

 

「黙れクソザコが」

 

「あ?」

 

「キサマ、うちの可愛いミーティアを怖がらせておいてタダで済むと思うなよ」

 

「お?なんだ、やろうってのか?」

 

 

 

(おい、また馬鹿が一人現れたぞ)

 

(カティアちゃんにケンカふっかけるなんて、余所者だな)

 

(この間の馬鹿よりはやるみたいだが…)

 

(…賭けるか?)

 

(カティアちゃんに金貨一枚!)

 

(同じく)

 

(同じく)

 

(…やっぱり成立しねえじゃねぇか)

 

(…あ、流石に職員が止めに入るようだぞ)

 

 

 

「待ちなさい!ギルド内では喧嘩はご法度ですよ!」

 

「あ、スーリャさん、こんにちは(ちょっと落ち着いた)」

 

「うるせえ!こいつに身の程ってもんを教えてやんだよ!」

 

「やるなら訓練場でやりなさい!」

 

(((止めねえのかよ!?)))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、依頼も受けたしお外に行きましょうか」

 

「うん!」

 

 決闘?

 終わったよ?

 

 見た目通りの脳筋だったから大振り躱したところで、思い切りビンタしたら5メートルくらい吹っ飛んでった。

 一応生きてるので問題ない。

 

 全く時間の無駄だったよ。

 

 いや、ミーティアから「ママ、つよ〜い!」と喜んでもらえたので良しとする。

 ちょっとスッキリもしたし。

 

 子供の教育に悪い?

 いや、前世ならそうかもしれないけど、この世界だとある程度の力は誇示しなければ理不尽な目にあうからね。

 

 

 

 それよりも、スーリャさんが気になることを言っていた。

 

 何でも、カイトさんが近々この街を離れてしばらく帰ってこないような事を言っていたと言うのだ。

 

 …どういう事だろう?

 

 私、勝手にカイトさんも同じ気持ちと思って、ちゃんと話をすれば王都にも来てくれると考えてたけど、そんなことないのかも知れない。

 

 どうしよう…ますます話をするのが怖くなってきた…

 

 前向きで楽天的が私の取り柄なんて言ってたけど、全然ダメだ。

 こと恋愛に関しては臆病過ぎてどうしたらいいのか分からないよ…

 

 

「ママ?だいじょうぶ?」

 

 はっ!?

 いけない、またミーティアを心配させてしまった。

 

「あ、ご、ごめんね。ちょっと考え事してただけだよ。じゃあ、行こうか?」

 

「うん!」

 

 

 取り敢えず今日は近場で対応可能な採取依頼を受けることにした。

 

 気分転換のつもりだったけど、余計モヤモヤしてしまったよ。

 でも、これ以上ミーティアに心配かけるのも母親として情けないし、悩むのはあとあと!

 

 

 

 と、無理やり意識を切り替えて街の外に向かうのだった。

 



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第三幕 2 『幼女無双』

 気分を切り替えて、依頼を遂行するために街の外に出た。

 

 今回は北門から出て小一時間くらい歩いたところにある小さな森へとやって来た。

 スオージの大森林のように鬱蒼としたものではなく、木漏れ日が心地よい、ピクニックにはうってつけの森だ。

 街を出る前にお弁当を買ってきたので、ここで食べてもいいかな。

 

 

「ママ〜、たくさんおはながさいてるよ」

 

「うん、そうだね〜。そうそう、青いお花を見つけたら教えてね?」

 

「わかった!」

 

 今回の依頼の品は『藍玉草』という、美しい青い花を咲かせる植物だ。

 日当たりが良すぎても悪すぎても生育できないので、このようにある程度の木漏れ日が差すような森で見つけることができる。

 

 根は胃腸の薬、葉は虫除け、未熟果は香水の原料になるらしい。

 今回必要なのは根との事だが、丸ごと確保すれば良いだろう。

 

 

「あ、ママ!あったよ、あおいおはな!」

 

「どれどれ?うん、これだね!よく見つけたね〜」

 

 ナデナデ。

 にへら〜。

 

「えへへ」

 

「もう少し必要だから、この調子でもっと探そうね!」

 

「うん!」

 

 

 

 

 その後、森の中を30分ほど歩き回って必要な分だけ採取する事が出来た。

 ほとんどミーティアが見つけてくれたのだが、他の草花に混じっていても即座に判別するあたり相当目が良いのだろう。

 これもスペックの高さの現れか。

 

「よし、必要な分だけ集まったし、ここでお昼ごはんにしようか?」

 

「わ〜い!ごはんっ!」

 

 ミーティアは食いしん坊だ。

 隙あらば誰かしらに餌付けされてる。

 誰か知らない人に連れてかれやしないかと、ママは心配だよ…

 

 鞄からレジャーシートを取り出して準備しようとしたその時…

 

 

「!…何かいるね」

 

 木々の向こう側に何らかの気配を感じた。

 それも複数。

 

「まもの?」

 

「この辺りは魔物の生息域からは結構距離が離れてるはずなんだけど…」

 

 だが、その情報とて完全とは限らない。

 例の事件のときも大きく生息分布図が変わったのだから、今回も何らかの要因によって…と言う事もあり得る。

 

 

 気配のする方を警戒していると、それはだんだんと近づいてきて…やがてそいつは姿を現した。

 

 人型で身長は成人男性くらい。

 でっぷりと肥え太った体躯は、腰蓑を身に着けただけで殆ど裸だ。

 潰れた鼻、赤く濁った目、垂れた耳…その顔は豚によく似ていた。

 

「オークね。いち、にぃ、さん…全部で6体か」

 

 脅威度はD。

 人型で、ある程度の知能があり独自の文化を持ってたりするが、人語は解さず意思の疎通は取れない。

 雌が存在せず、他種族を孕ませることで繁殖するという。

 

 …どうやら私をその相手と見定めたらしい。

 腰蓑の一部が盛り上がっているのが見えてしまった。

 

 ゾゾゾッ!と、鳥肌が立った。

 おのれ!

 女の敵め!

 焼豚にしてくれる!!

 

 

 しかし、一匹一匹は大したことはないが、6体ともなると少し厄介だ。

 私一人ならどうにでもなるけど、今回はミーティアを護りながら戦わなければならない。

 魔法でまとめて殲滅しても良いけど、ソロでは詠唱時間が取りにくい。

 

 しょうがない、囲まれないようにミーティアを護りつつ近づいてきたところを一匹ずつ仕留めるか。

 

 そう方針を固めて私が身構えたその時…

 

「[ひょうそ〜う]!」

 

 少し間延びした可愛らしい声が響くと、オークの群れの中心に氷塊が出現し、鋭い槍となってオーク達を襲った!

 

 ザシュッ!!

 

「「「ギャッ!!」」」

 

 あっという間に3体を貫いて仕留める。

 

「へっ!?」

 

 突然の出来事に思わず間抜けな声を漏らしてしまう。

 

「み、ミーティア?」

 

「ママをへんなめでみるまものは、やっつけるの![らいじゃ〜]!」

 

 バチバチバチッ!!!

 

 残った3体のうち、2体に雷の蛇が這い回り、悲鳴を上げる間もなく倒してしまう。

 

「えいっ!」

 

 ざんっ!

 

 残る一体も、いつの間にか敵に接近したミーティアが振るった剣の一撃で簡単に首が飛んだ。

 

 

 瞬く間の出来事だった。

 

 えっ?

 この子強すぎじゃない?

 皆どんだけ教えてるの?

 と言うか、魔法を教えたのは…姉さん、あんたもか!?

 それに、その剣…

 

「み、ミーティア…その剣どうしたの…?」

 

「うにゅ?おじいちゃんにもらったよ?」

 

 父さんんっ!?

 幼気な女の子になんてものを渡すのっ!?

 いや、そもそもどこから出したの!?

 ママ、ツッコミが追いつかないよ!

 

「ママ!まものぜんぶやっつけたよ!」

 

「え、ええ…ありがとう…で、でも、あんまり危ないことはしないでね?」

 

 い、いけない。

 こんな小さなうちから命のやりとりをさせるなんて…

 これは早急に情操教育が必要だわ!!

 

 

 と、とにかく。

 魔物の死体は早々に処理してここから離れよう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 オークに遭遇した場所から引き返して森の入り口まで戻ってきた。

 取り敢えずここにレジャーシートを敷いてお昼ごはんにしよう。

 

 しかし、あのオークたち…なんでこんなところに現れたんだろ?

 また何か良くないことが起きなければいいけど…

 

 

 

「うわ〜、おいしそうっ!」

 

「いっぱいあるから、たくさん食べてね」

 

「うんっ!いただきま〜す!」

 

 お食事の挨拶をしてミーティアは早速お弁当を食べ始める。

 とっても幸せそうに食べるので、こっちも幸せな気持ちになる。

 

 それにしても、本当に食べるのが好きだよねぇ…

 夢中になって食べる姿は、まるで生の喜びを精一杯表現しているかのようだ。

 本来であればこうやって普通に食事する事もできないはずだったんだものね…その反動なのかも。

 

 

 あっ!?

 ぼんやり見てたら私の分が無くなっちゃう!

 もう、本当に食いしん坊なんだから…

 

 

 

 

「ごちそうさまでした!おなかいっぱい!」

 

「ふふ、よく食べたね。大きくなってね」

 

 ナデナデ。

 にぱ〜。

 

 

「少し食休みしたら帰りましょうか」

 

「うんっ!」

 

 あれだけたくさん食べたら、もう寝ちゃうかもしれないな。

 帰りはおんぶかな?

 

 

 

 そして、しばらく休んでいると、予想通りミーティアは寝息を立て始めた。

 

「やっぱり、どんなに強くてもまだまだ小さな子供だからね。…父さんたちにはよくオハナシしておかないとね?」

 

 街に帰ったら皆説教だ、と思いながらミーティアを起こさないように抱き上げて、街へ帰るべくその場を後にした。

 



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第三幕 3 『魔軍襲来』

 街に戻ったら依頼の品を納品するついでに、予想外の場所で魔物に遭遇した事を報告することにした。

 

 

 ギルドにやってきた私達は、今日も毎度お馴染みスーリャさんに報告をする。

 

 …この人、いつもギルドにいる気がするなぁ?

 ちゃんと休んでるのか心配だよ。

 

 ともあれ、納品も終って魔物のことを聞いてみる。

 

「スーリャさん、最近また魔物の分布がおかしいなんて話あります?」

 

「いえ、特にそういう話は…。何かあったんですか?」

 

「実は…」

 

 北の森でオークに遭遇したことを報告した。

 

 

 

「なる程…ただ、その情報だけで直ちに異常が発生しているとは断定出来ませんね。獣や昆虫などの魔物はある程度生息域が決まってますが、オークなどの人型の魔物ははっきりした生息域が定まってない場合がありますからね」

 

 そうなんだよね。

 人型は割と環境適応力があるから明確な生息域はあまり決まってなかったりする。

 

 

「最近、女性が行方不明になってるとかは?」

 

「特にこちらに情報は無いですね。しかし、一度に6体と遭遇と言うのは気になります…近場に集落でも作られてるかも知れないですし、上には報告を上げておきます」

 

 そうだね、こう言う情報は異変の前触れって可能性もあるからちゃんと共有しておいてほしいところだ。

 

「それにしても、オーク6体を一人で相手にして無傷とは流石ですね」

 

 …いや、ミーティアが瞬殺したんだけど。

 流石にそれは言えないよなぁ…

 

 とにかく、報告すべきことは報告したので今日のお仕事はこれでおしまい。

 まだ少し早いけど、宿に帰ってまったりと過ごすことにした。

 

 

 この時の報告が後にブレゼンタムを揺るがす大事件に発展するとは、この時はまだ想像する事もできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーク遭遇の報告をしてから三日後の夕方、ブレゼンタム滞在のDランク以上の中〜高位冒険者に対して緊急の招集がかかった。

 招集がかかった全ての人が来ているわけでは無いだろうが、かなり広いはずのギルドのロビーが手狭に感じるほどの人数が集まっている。

 

 うちの一座のメンバーで冒険者やってる人は殆ど招集対象だ。

 父さん、ティダ兄、アネッサ姉さん、ロウエンさんももちろん呼ばれている。

 だから今回ミーティアは、ばあちゃんに預けてきた。

 

 カイトさんや、レイラさんたち元『鳶』のメンバーも来ている。

 

 このような緊急招集には特別な理由がない限りは応じる義務があり、応じない場合は相応のペナルティがある。

 

 ちなみに、どのようにして招集を知らせるかと言うと、ギルド証が赤く発光するのだ。

 特殊な魔力信号を受けて…みたいなことらしいけど、詳しい仕組みは知らない。

 

 

 そして、皆が集まった頃合いになるとギルド長が私達の前に現れ、今回の招集についての説明が行われた。

 

「『軍団(レギオン)』だと?」

 

「そうだ。三日前にブレゼンタム近郊でオークとの遭遇事例が確認され、念の為調査隊を派遣したところ、大規模な魔物の軍団が確認された。軍団(レギオン)を構成するのは、ゴブリン、オーク、トロール、オーガなどが確認されている。進軍速度は遅いものの、どうやらこの街に向かっているようで、あと2日もあれば街まで到達すると見込まれる」

 

 あのオークたちは先遣隊ということだったんだろうね。

 そこまで組織だって行動してるとなると、相当強力な個体がいるのではないだろうか。

 

「…規模は?」

 

「およそ5千」

 

 その数の多さにギルド内がざわめき立つ。

 しかし、ベテランが多いだけあって比較的落ち着いており、大きな混乱は生じていないのは流石だ。

 

 

「異種族混成…てことは、王種(キング)じゃ無く皇帝種(エンペラー)って事だよな」

 

「ゴブリンならまだマシだが、それ以外の皇帝種(エンペラー)だとS相当だぞ」

 

「うわ〜、マジかよ。俺のランクじゃせいぜい雑魚を相手するので精一杯だぞ」

 

 

「ギルド長、こっちの戦力は?当然領軍は動くんだよな?」

 

「ああ、それは…」

 

「もちろんですわ!」

 

 ギルド長が問に答えようとしたその時、入り口の扉がバーンッ!と開かれてルシェーラ様が颯爽と登場した!

 

 ああ…最初の頃の深窓の令嬢のイメージは遥か彼方へ…

 

 そしてお嬢様に続いてリファーナ様もいらっしゃった。

 閣下と違って流石に護衛を伴ってる。

 

 

「ギルド長さん、お邪魔するわ。ごめんなさいね話の腰を折って」

 

「おお、リファーナ様!こちらにいらっしゃったと言う事は…」

 

「ええ、ブレーゼン領軍およそ三千。何とか動かせる目処がついたわ」

 

「…それでもまだ戦力差がありますな」

 

「ごめんなさいね。常備兵以外も呼集してようやく、と言うところなの。街の守備にもある程度残さないといけないし」

 

「大群相手なら広域殲滅魔法で先制すれば良いのですわ。カティアさん?あなた達でしたら使えるのではないですか?」

 

 と、お嬢様が私に話を振ってきて、みんなの注目を浴びる。

 私は自分が使えるであろう魔法の中から期待に答えられそうなものを考えてみる。

 

 

「う〜ん、そうですね…[轟天雷]が一番広範囲かつ高威力かなぁ。一発撃ったら魔力スッカラカンになると思いますけど、特別魔法耐性がある相手でも無いみたいですから相当数削れるとは思います」

 

 以前使った[日輪華]と同様に、本来の【私】では使えないけど、ゲームのカティアでは使うことのできた魔法だ。

 ゲームで使えたものが使えるようになってるのはいくつか実証出来てるので問題ないはず。

 

「私は触媒さえ用意できれば[灼天龍]が使えます。一撃でお終いなのは同じですね」

 

 と、リーゼさん。

 炎系統の特級魔法だね。

 自力では行使できなくても、魔法触媒などの事前準備をすれば使用できるケースはある。

 

「私は[氷葬烈破]かしら〜。リーゼちゃんと干渉しないように注意しないとね〜。私も一発撃ったらお終いね〜」

 

 アネッサ姉さんは得意の冷気系統の特級魔法だ。

 

 雷撃、炎、冷気の特級魔法三重奏だ。

 相当数削ることが出来るんじゃないかな?

 

 

(…全部特級じゃねぇか)

 

(地形が変わるぞ)

 

(何でこいつら冒険者なんかやってるんだ…宮廷魔導師レベルだろ)

 

(リーゼって確か『鳶』のメンバーだったんだよな?…めちゃくちゃ火力あるじゃねぇか。調査専門とは一体…)

 

(…あれ?もしかして楽勝じゃね?)

 

 いやいやいや、それでも相当数残るだろうから、あなた達も頑張りなさいな。

 

 

「…想定以上でしたわね」

 

「では、先制攻撃はカティアちゃん達三人にお任せします。リーゼさんの触媒の方はこちらで手配しましょう。特級魔法三発もあれば相当削れるとは思いますが、それでもニ〜三千くらいは残りましょうか」

 

「そうですな、それでようやく数としては互角と言ったところですか」

 

「ええ。何とか群れを率いる…おそらく皇帝種(エンペラー)を倒せば瓦解するとは思いますが…」

 

「領軍の指揮はお母様が執りますが、正直なところS相当の魔物の相手が出来るほど個々の力が優れてるわけではありません。そこで、皆さんの中でも高位ランクの実力者の方を選別していただき、私とともに遊撃隊として動いて頂きたいのです。他の方にも、上級種を見つけたら可能な限り対処をお願いしたいところですわ」

 

「えっ!?お嬢様自ら最前線に出られるのですか?」

 

 私はびっくりして、思わず大きな声を上げてしまう。

 

「ええ、もちろんです。ブレゼンタムの危機なのに、我が侯爵家の者が先陣を切らないなど武門の名家としての名折れですから。それに、カティアさんなら私の実力もご存知でしょう?…ふふ、実戦経験を積んでおいて良かったですわ」

 

 あ〜、確かにタイミングが良いというか…

 戦いの心構えの面ではこの間の依頼は無駄にはならなかったね。

 そして、その実力も私やカイトさんも認めるところだ。

 

「本当は私が出てひと暴れしたいところですが、ここは娘に譲ります。領軍の立ち回りとしては大将を討ち取るまでは街の防衛と被害を最小に抑えることを優先にして指揮を執ります」

 

 …奥様も奥様で、見た目とセリフのギャップが酷い。

 娘を心配するどころか、しょうがないから譲ってやるみたいな感じだ。

 

 

「分かりました。こと戦闘面で上位の者といえばやはりダードレイ一座の者たちと、あとは何人かB〜Aの中から選別でしょうな」

 

「…ルシェーラ嬢ちゃん、遊撃隊ってことは少数精鋭ってことか」

 

「ええ、ダードおじさま。雑魚は無視して一気に大将を目指すつもりですので、囲まれても対処できるくらい単独での戦闘能力が優れた方で組織したいところです。最終的にSを相手にする事を考えると、10名くらいは欲しいですわね」

 

 大将の周りにも上位のヤツがいるかもしれないから、それくらいは必要だろうね。

 

「じゃあ、うちからは俺、ティダ、ドルク…は遊撃に向かんか」

 

「ハスラム、デビッド、クライフあたりか」

 

「そうだな。魔導師も欲しいところだが…アネッサは一発撃って終わりか」

 

「そうね〜、中級程度ならまだ撃てるとは思うけど、S相手は厳しいわね〜」

 

「私、魔法は厳しいけど前衛戦力としてなら動けるよ」

 

「あ、カティアさんには頼みたい事がありますわ」

 

 といって、ちょいちょいと手招きされる。

 そして、周りの人に聞こえないように小声で話しかけられる。

 

(カティアさん、あの[絶唱]って秘密にされてるんですの?)

 

(いえ、特には。…ああ、戦力の底上げって事ですね)

 

(ええ、出来ればお願いしたいと。効果範囲はどうでしょう?全軍にかけられれば良いのですが…)

 

(私が味方と認識する相手で歌声が聞こえる範囲であれば…[拡声]と併用すれば全軍対象も不可能ではないと思いますが)

 

(そうですか!ではお願いしますわ!)

 

 私のスキルで犠牲を少なくできるならもちろん協力は惜しまないところだ。

 あと私にはリリア姉さんの加護もあるからね。

 かなりのブーストが期待できるだろう。

 

 

 お嬢様とお話している間に、遊撃隊の選出もできたようだ。

 うちの一座からは先程名前が上がった5名、Aランクの前衛職の人が一人、魔導師はアネッサ姉さんには及ばないものの、上級攻撃魔法が使えるBランクの人から2名、あとはカイトさんだ。

 そこにお嬢様も入れて10名となる。

 

 

 

「よし、これでこちらの陣容は決まりましたかな?」

 

「そうですね。あとは戦端を開く場所ですが…穀倉地帯が荒らされるのは避けたいところです。そうすると直ちに進軍を開始するとして接敵するのに妥当な場所といえば…」

 

「ブレゼア平原…ですね」

 

 私達がオークに遭遇した森よりも更に先。

 徒歩であれば数時間といったところだろう。

 

 

「はい。とにかく我々領軍はこれより早急に進撃準備を整えて進撃を開始。ブレゼア平原に陣を敷いて迎え撃つ体制を整えます。冒険者の方たちは我々よりは身軽でしょうが、明朝早くには出立して我々と合流して下さい」

 

「分かりました。みんな聞いたな?各自準備を整え、明朝の出立に備えてくれ。何か質問事項はあるか?」

 

「緊急招集とは言え、報酬は出るんだよな?」

 

「ああ、それはそうだな。今回の作戦に参加したものには……」

 

 その質問を皮切りに、質疑応答が行われ、それらが全て終わるとこの場は解散となった。

 

 



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第三幕 4 『開戦』

 一旦解散となったが、今回の作戦の要となるメンバーはもう少し作戦を詰めるためその場に残った。

 

 リファーナ様は今回の作戦全体の指揮を執る、いわば総司令官としての役割だ。

 

 私、アネッサ姉さん、リーゼさんは開戦と同時に広域殲滅魔法で先制攻撃を行い、とにかく可能な限り数を減らすことに専念する。

 

 ルシェーラ様率いる遊撃部隊には、父さんを筆頭に一座の面々5人と、カイトさん、Aランクの…確かフランツさん、Bランクの魔導師二人。

 フランツさんは直接話をしたことはないけど、この街では数少ない最高ランクの冒険者の一人だから顔と名前くらいは知っていた。

 あとのBランクの魔導師二人は面識がない。

 

 

「さて、まずは改めてお礼を。今回の作戦へ参加頂きありがとうございます。不在の夫に代わり感謝申し上げます」

 

「なに。俺らもこの街には世話になったからな。放っておくことなんざ出来やしねえよ。しかし、侯爵サマはタイミングが悪かったな。せっかく運動不足を解消する機会だってのによ」

 

「ふふ、その代わり久々に私が大暴れさせてもらうわ」

 

「いや、お前は総指揮官だろうが」

 

「もちろん、あなた達が大将首を討ち取って趨勢が決したあとの話よ。散り散りに敗走していくだろうけど、できるだけ刈り取っておかないと。美味しいところはルシェーラに譲るわ」

 

 …全然悲観していないのが凄いよ。

 微塵も負けることなんて考えてない。

 

「でも、Sランクを相手するのは心配じゃないんですか?」

 

「もちろん、心配はしているわ。でも、それほど柔な鍛え方はしてないわよ。それに、Sと言っても軍団(レギオン)を指揮する能力こそ恐ろしいものの、個体の能力としてはAとそれ程変わるものではないからね」

 

 それは確かに。

 Sランクといっても様々で、今回であれば相手は恐らくゴブリンエンペラーかオーガエンペラー。

 奥様が言う通り、Sランク指定の最大の理由は軍団(レギオン)を指揮するという点である。

 個体の能力だけでS指定されてる竜種などを相手にするよりは全然楽だろう。

 

「それだけではありませんわ。今回は強力な広域魔法で先制してかなり数を削れる見込みがありますし、なんと言ってもカティアさんの[絶唱]があります。犠牲を全く出さずに、と言うのは無理でも、負ける要素は無いと思いますわ」

 

 犠牲…

 そうだよね、これだけの規模の戦闘で味方の被害を全く出さないなんて不可能だ。

 出来る事なら誰にも死んで欲しくなんてないけど…

 

 

「何だ?カティア殿の[絶唱]と言うのは?」

 

 と、疑問を口にしたのはフランツさん。

 武士とか侍みたいな雰囲気の渋いオジサマだ。

 腰に下げるのも少し反りがある刀みたいな長剣なので、余計にそう見える。

 

「ああ、私のスキルで…簡単に言うと歌に魔法効果を乗せるというものです。敵の能力を下げたり、味方の能力を向上させたりできますね。今回は[拡声]と併用して全軍の能力を底上げしようと」

 

 あと、リリア姉さんの加護の効果も上乗せされるはずだが、それは秘密。

 これで少しでも犠牲が少なくなれば良いけど。

 

「ほう、そんな事ができるのか…これは頼もしいな。よろしく頼む」

 

「あ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします。一番危険な任務なので気を付けて下さいね」

 

「あらあら~?カティアちゃんはカイトくんが一番心配なんじゃないの~?」

 

「え!?そ、そりゃあ、カイトさんだけじゃなくて皆のこと心配してるよ。それに、私は安全なところで後方支援って言うのも何だか申し訳ないし…」

 

 姉さんがまたからかってきたので、さらっと誤魔化す。

 最近、例の話を切りだそうとして、それが出来なくて…ちょっと話しにくいんだよなぁ…

 

 私のそんな複雑そうな心情を汲んでくれたのか、それ以上突っ込んでくることも無かった。

 

「申し訳無いなんて思う必要はないだろう。カティアのスキルで被害が大分抑えられるんだ、感謝こそすれ文句言うやつなどいないだろう」

 

「はい…そうですね。私は私のできる事を精一杯やります。…カイトさんも気を付けて下さいね」

 

 カイトさんがそう言ってくれる。

 そうだ。

 私ができる事をちゃんとやれば味方の被害は抑えられるかもしれないんだ。

 

 そう考えると責任重大だな…

 

 

 

 その後、それぞれの立ち回りに関して細かな打ち合わせを行い、私達も解散となった。

 

 あとは万全を期して明日の決戦に望むだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ~、壮観だねぇ…」

 

 私達冒険者チームは明朝早くにブレゼンタムの街を出立して、ブレゼア平原に陣を張る領軍に合流した。

 

 三千人の兵士が隊列を組んで整然と並ぶ様は圧巻で、侯爵様は練度が低いなどと言っていたが、なかなかどうして、その勇壮なさまは市民から見れば頼りになるのではないだろうか。

 

 

「懐かしい空気だな。もう戦場とは縁が無いと思っていた」

 

「人間相手じゃないぶん気は楽だがな」

 

「ちげえねぇ。魔物相手なら存分に暴れてやるさ」

 

 父さん達は元傭兵で戦場の経験があるからね。

 もともとそれに嫌気がさして辞めたので、今回は幾分か思うところがあるらしい。

 

「ダードレイ殿達は元傭兵だったとか」

 

 と聞いてくるのはフランツさん。

 既に遊撃部隊の面々はこの場に揃っている。

 

「ああ。もう15年も昔の話だがな」

 

「大戦の英雄の一人、ダードレイの名は私も聞いたことがある。今回肩を並べて戦える事、光栄に思う」

 

「そんな大層なもんじゃねえけどな。あんたこそ『無剣』の名がずいぶんと轟いてるじゃないか」

 

 ニヤっと笑って父さんが答える。

 Aランクは漏れなく二つ名が付けられてるのだが…

 

「…その名はあまり好きではないのだがな」

 

 と、フランツさんは苦虫を噛み潰したような表情になる。

 あなたも二つ名が嫌いなんですね。

 

 

 今回、父さん達は遊撃部隊として動くが、それ以外の冒険者達も各自の判断で動いて一般兵では手こずる上位種を相手にすることになっているため、冒険者達は全員が遊撃要員と言える。

 

 

 

「皆さん」

 

「おう、ルシェーラ嬢ちゃん、よろしく頼む」

 

「私の方こそ、よろしくお願いしますわ」

 

「遊撃隊の行軍指揮は嬢ちゃんが執るって事でいいんだよな」

 

「はい。昨日話した通り、進軍や撤退などの大局的な判断は私の方で行います。接敵した際の細かな戦闘指示はおじさまにお願いいたしますわ」

 

 実際の戦闘指揮は経験豊富な父さんが行うという事だ。

 そこは妥当な判断だろう。

 侯爵家の者が先陣を切るという事を重要視してはいるが、それだけに拘泥せず最適な判断をするのは流石だね。

 

 

「お嬢様、あとどれくらいで開戦になりそうですか?」

 

「斥候の報告によればあと2~3時間ほどではないか、とのことです」

 

「分かりました。開戦の合図…魔法を放つタイミングは?」

 

「ある程度引きつけてからお母様が号令を発しますので、そのタイミングで詠唱を開始してください」

 

 念の