空は酷く澄んでいる (アールワイ)
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楽園のバッドエンド
初めまして先生


どうも、素人投稿者です。

他の人の作品に感化されました。
つまり見切り発車です。


ではどうぞ


 

 

 

「頼みがあります。」

 

 

 

「これが最後の、あなたにとっては始まりかもしれませんが。」

 

 

 

「……私より、あの人の方が正しかったんです。」

 

 

 

「私の選択では、あなたを──────。」

 

 

 

「いや、大丈夫です。あの人ならこの捻れて歪んだ終着点とは、また別の…………。」

 

 

 

「……あなたに言うことではなかったですね。」

 

 

 

「あなたのことだって、あの人は必ず違う未来へと導いてくれるはずです。」

 

 

 

「だからどうか、お願いします。」

 

 

 

「“先生”を、支えてあげてください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初に目に入ったのは、透き通った青い空。水面に伝う波紋のような円が幾つかある。

 次に異臭に顔を顰めて周りを見れば、そこは廃棄されたであろう物たちが山となって積まれている。自分には何なのかわからない機械ばかりだ。

 

 

(ここは……)

 

 

 此処は何処なのか、どうして此処に居るのか、自分は誰なのか、きっと普通なら疑問に思わないことが頭の中でぐるぐると回る。

 

 自分の服装は患者が着るような病衣。建物の影も見えないような青空の下に居るには些か不自然だけど、純白で傷んでない病衣は不思議と自然らしいと言えた。

 

 

 

 

 大空を見上げて手を伸ばす。

 

 

 

 

 何も掴めない筈の自分の手は、この綺麗な空を只只求めていた。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 空は薄く紺色になって、山積みの廃棄物は夜に溶けてく。その時、辺りを探索するでもなく空を見上げてた自分は、()()を見つけた。いや……見つかってしまった。

 

 紫の光が自分を覗くように射し込む。本能があまりの不吉を感じて背筋が凍り付く。回避しようにも、鈍重な自分は瓦礫に躓くことしかできない。

 

「……あ」

 

 ()()()内側に注ぎ込まれる。それは痛く苦しく熱く寒く……

 

「う……ぐっ……」

 

 気持ち悪くて胃液を吐き出す。不途、問答無用に自分は()()から干渉を”与えられる”。背中と頭が特に熱い。粘土を捏ねるようにぐちゃぐちゃに混ぜられ、伸ばされ、変形させられる。

 

 

『襍ヲ縺輔↑螢翫l諞弱>霑斐○

繧医¥謌代′鄙シ繧貞・ェ縺」縺溘↑

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

数年後

 

 

 

─コンコン。ガチャ。

 

「ただいま戻りました。リン首席行政官」

「お疲れ様です。ソレア」

「ええ、本当に……本っ当にお疲れ様です私!!」

「流石の手腕ですね。この短期間で2000%以上増加した不法流通の武器の七割を対処、これほど早く多い仕事をこなせるのはあなた以外に居ません」

「絶対私一人に任せることじゃあないでしょ!!!」

 

 ソファにドサッと座り込む。……うん、連邦の名は伊達じゃない、良いソファだ。市販の物とは手触りから違う。

 首席行政官殿の机の上で仕事が建造物になってるのを見て彼女の事情を察するも、愚痴を吐露せずにはいられない。

 

「いくら多少人より戦える自分だからといって、一人で数千以上の戦車やらヘリやらを潰して回るのはおかしいでしょ首席行政官殿。ヴァルキューレ警察学校やSRT特殊学園はどうしたんですか?」

「……SRT学園は閉鎖されたわ」

「……は?」

 

 流石に笑えん話がぶっ込んできた。あの連邦の懐刀であるSRTが? 何故閉鎖? もしかしなくても自分の仕事激増不可避?

 

「連邦生徒会長の失踪で責任を負う存在が不在となったことで、協議の結果として閉鎖されることになったわ」

「…………」

 

 アハ♪ リンちゃん冗談上手♪

 

「残念だけど本当のことよ。でも、あなたのお陰で大分少なくなった残りの不法流通した武器に関してはヴァルキューレ警察学校の方が引き継ぐから安心して」

「となると、私は……」

「ええ。連邦生徒会長の命令通り、『シャーレ』で先生の手助けをしてちょうだい」

 

 

 そう言ってリンは一枚の紙を渡してきた。『入部届け』と書かれたその紙を見て、自分は顎に手を当てる。

 シャーレは先生を迎え入れる為の受け皿的な存在。生徒の協力でこの学園都市全てで何のしがらみも無く活動出来るよう作られている。先生だけが選べる“選択”の為に。

 だから()()()が成せなかったことの障害を無くすべくこの様にしたのだろう。

 

 

「成程、これはかなり超法規的ですね」

「連邦生徒会長が何を考えていたのかはわからないけど、先生は悪い人じゃないわ。私が保証する」

 

 

 別に先生に対して発言したんじゃないんだけど。この様子だとリンは既に先生に解されたらしい。その証拠に、表情がいつもより柔らかい。あのピリピリしていた首席行政官が……ねえ?

 

 

「まあ、準備が出来次第向かいますよ。先生の噂はよく耳に入りましたからね。アビドスやミレニアムでも大活躍だったそうじゃないですか」

「そうね。そんな先生が居る『シャーレ』に連邦生徒会最強と名高いあなたが所属するんだもの。まさに鬼に金棒ね」

「いやいやそれは流石に……」

「別に謙遜しなくても」

「少なくとも戦車以上の戦力ですよ私は。金棒程度、一瞬で鉄ゴミに変えてみせます」

「……そう」

 

 若干呆れ顔で眼鏡を直すリン。所作一つ一つが凛としていて美しい。本当に自分と同い歳の人なのか疑いたくなる。

 

「あなたのことだから心配はしていないわ。先生は多忙だから、書類仕事も手伝ってあげて」

「はい」

「あとは、先生はその立場上、目立ち過ぎるから。あなたの()()()()の制限を無くすわ。連邦生徒会長の命令の中にこの制限解除は含まれている。これからは自己判断でお願いね」

「……はい」

 

 

 連邦生徒会長……。自分を拾い、導いてくれた人。ゲマトリアと激突した時も、自分が()()()()()時も、あなたを追いかけて此処まで来ました。だから…………

 

 

「先生は()()()()()()()()お護り致します」

 

 

――――――――――

 

 

 シャーレの執務室前で自分の姿を確認する。

 連邦生徒会の白い制服は自分好みに軍服要素を取り入れたオーダーメイド製。外套は腰下のマント部分が風に漂うよう長めにしており。腰に携えた二丁の回転式拳銃は機械ホルスターに収められて、即座に抜きやすく落ちづらい作りにした。

 片手には背丈を超える大きさの長方形型の白い箱。

 

 背中から生えてきた白い翼もきちんと整えられてる。頭の横から生えた二本の角は……うん、大丈夫。

 

 身支度に不足が無いことを再度確認し終えてから、シャーレの扉を叩いた。

 

 

─コンコン。

 

“どうぞ”

「失礼します」

 

 

 優しい声色だ。大人の余裕なのか、包容力も感じられて落ち着く。

 

“君は……?”

 

 そういえば自分は先生とは初対面だ。リンは自分のことを伝えてはいないと言っていたから、自分が誰なのかも知らないのだろう。

 でも、この人に懐かしいと感じてしまうのは何故だろう。

 

“えっと……”

 

 少し困った顔も、生徒に寄り添うその姿勢も、自分は初めてのはずだ。

 

“どうしたの?”

 

 自分の《未来》を変えてくれる人。この人がキヴォトスの救世主。直感は囁く。

 

「すみません。あなたのような大人に会うのは初めてなので、少し緊張してたみたいです」

“そっか、何か飲む?”

「じゃあ珈琲で」

“了解”

 

 

 慣れた手つきで珈琲を二杯、自分と先生の分をあっという間に淹れる。香り、味、これは良品の豆だ。流石は大人。カップを置いて、一息ついてから口を開く。

 

「では改めて、私は連邦生徒会所属」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白故(しろゆえ) ソレアです。これからよろしくお願いしますね。先生」






【生徒紹介】
白故ソレア

連邦生徒会所属、大きな白い翼を持つ何処かミステリアスな人です。

連邦生徒会最強の戦闘力を有し、主に首席行政官のリンさんから荒っぽい仕事を請け負っている。
連邦生徒会所属ではあるが、その存在はある理由で連邦生徒会の中でも秘匿されていた。
秘匿されてたわりに交流関係は広く、ミレニアムサイエンススクール、トリニティ総合学園やゲヘナ学園なんかに顔が広い。


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始まりは朝日と共に

ども、素人投稿者です。

各キャラの口調難しくない?
投稿ペース遅くて泣く

ではどうぞ


 

 

 

 

“じゃあ行ってくるね”

「はい、いってらっしゃい先生。こちらの仕事が片付き次第、そちらに向かいますね」

 

 

 先日、トリニティ総合学園のティーパーティーからの依頼で先生は補習授業部の顧問を引き受けた。

 エデン条約が目前となった今、この時期に新しく設立した部活の顧問なんてまともな理由な訳がない。

 

 依頼を出した彼女たちとは旧知の仲だけど、腐ってもトリニティのティーパーティー。荒々しくて拙いけど、策謀を張るのがお好きなようだ。

 

 

「ミカとナギサか、最近顔出せてないな……。先生も護衛の一人も付けずに行っちゃったし」

 

 

 キヴォトスの外から来た先生は自分達より脆く弱い。自分が護衛をすると言っても、大丈夫だからとやんわり断られた。何処に大丈夫なんて言える自信があるのか……。

 

 

「……嫌な予感がするなぁ」

 

 

 まだ()()()()()ないけど、胸の中の言いようの無い不安はこれからの行方が決して明るくはないと訴えていた。

 

 

――――――――――

 

 

 

 エデン条約。

 

 永年の因縁を持つトリニティ総合学園とゲヘナ学園間で結ばれる条約。それに綴られるのは、手を取り合って協力しましょう、仲良くしていきましょう。所謂、平和条約だ。

 

 犬猿の仲なんて目じゃないくらい険悪な両学園をくっつけるとか色々イカれてるが、平和の道も一歩から。勿論、そんな単純なものじゃない訳で……

 

 

 

(実際問題、こんな事になってる)

 

 先生からのモモトークを見て、案の定厄介事であることにため息が出る。

 

[補習授業部のことで助けてほしい]

 

 先生が溜めに溜めた書類仕事を代行していた時に来た通知。嗚呼、頭痛が痛い。

 

 

「正義実現委員会、ティーパーティー、アリウス分校……か」

 

 自分への依頼は明日行われる補習授業部の試験の妨害及び、ティーパーティーホストのナギサの暗殺の阻止。思ってたより大変な状況になってて頭を抱えた。幸いにも、ゲヘナが絡んでないことだけが良かった。

 

「了解です、っと」

 

 先生へのモモトークを返信して、準備する。二丁の回転式拳銃をホルスターに納め、白い箱を左手に持つ。期限の無い書類を連邦に持って行ってから、飛んで行けば日付が変わる頃にはトリニティに着けるはずだ。

 

「今行きますね、先生」

 

 

 背中から生えた白い翼を羽ばたかせて、シャーレから飛び立った。

 

 

――――――――――

 

 

 

 トリニティの適当な校舎に着地して、先生を探す。弾丸一つで致命傷なんだから、きっと安全な場所にいるはず。射線がきれる場所を中心に広い敷地を飛び回る。

 

「居た!」

“お疲れ様。ソレア”

「挨拶は不要です。状況は?」

“皆頑張ってくれてるけど、相手の数が多すぎる。少し減らしてあげて”

 

「了解」

 

 ゆっくりと先生から指示を受ける。補習授業部は巧く立ち回っているようだ、先生から切羽詰まった空気を感じない。

 

(先生は信じてるんだな……)

 

 箱を背負って、空いた両手で愛銃のカエルムとシグヌスを持つ。装弾数は10発、ある界隈でハンドキャノンと呼ばれるような逞しい銃身が火を吹けば、大抵の奴は一発で気絶させられる。

 その装弾数の少なさ故に、殲滅戦は得意としないけど、そこは腕の見せ所。

 

「とりあえず数を減らします。その後の処遇は先生の判決に任せます」

 

 

 翼を大きく羽ばたかせ、夜の空に溶け込む。アリウス…………あの子達は元気かな……。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 戦闘開始から半刻、校内のアリウス生が全滅し、補習授業部がナギサを保護したと先生から通信が来た。

 

 自分の任務は終了した、と銃を納めようとした時。自分の()()()()()()()()()()

 

「ッ!? ……は?」

 

 

《桃色の髪の少女がガスマスクを着けた部隊を率いている。その整った顔に指を当て、妖艶に笑った彼女は言う。「黒幕登場☆ってとこかな?」》

 

 

 ヘイローが止まって、意識が強制的に戻される。

 

「クソっ……。なんで今……」

 

 自分は使おうとしていない。初めて強制的に使われた“酷く限定的な未来感知”の能力。

 

『あなたのそれは、とても悲しいものです』

『悲しい……ですか?』

『はい。あなたのそれは、あなた自身のこれから起こること……《未来》を確定させてしまうものです。私が許可するまでは絶対に使わないで下さい』

 

 ()()()にそう言われ、今の今まで使ってこなかった能力が何故?

 

 答えは出なかった。目の前の増援のアリウス生を蹴散らしながら、先生の元に急ぐ。信じられない。信じたくない。どうして……どうして…………!!?

 

 

――――――――――

 

 

 

 先生のGPSに向かっていると、体育館の一つに辿り着く。入口を探す余裕すら無い自分は窓の破砕音を響かせながら内部に入る。どのルートで侵入してきたのか、アリウスの大隊が既に先生と補習授業部を囲んで鎮座していた。

 

 

 左右共に五発撃つ。アリウス生徒が10人倒れる。

 

 

 突然の乱入、空からの奇襲で戦場は掻き乱される。先生の元に向かいながら、脅威度の高い者から順に意識を刈り取った。

 

 

「先生! ご無事ですか?」

“うん、ありがとうソレア”

「ッ!? 新手か!?」

「待って、補習授業部!」

 

 白い髪の子が自分に銃口を向けるが、先生が止める。困惑している補習授業部に、銃を撃つ手は止めずに説明する。

 

 

「私はシャーレ所属の白故ソレア。先生からの要請により、あなた達を助けに来た」

「先生……」

 

 ピンク髪の子──浦和ハナコが先生に驚きの目を向ける。

 

“みんなの助けになればと思って……”

「いえ、助かります。先生が私達を信じてくれているのは伝わりますから」

 

 

「…………え?」

 

 

 銃声の中に、聞き覚えのある声が混じった。全弾撃ち尽くしてリロードを終えた自分は、ゆっくりと彼女と向き合う。

 

「久しぶりだね。ミカ」

「なんで……ソレアがここに?」

「シャーレに所属してるんだよね、私」

「そっか……。急にいなくなったから心配したよ」

「うん。私は元気だから、さっさとミカが此処に居る理由を教えて欲しいな」

「え? うーん……」

 

 

 心の何処かで、自分は期待してた。この訳のわからない能力なんて特にどうとも思ってなかった。だから、だから…………

 

 

「黒幕登場☆ってとこかな?」

 

 

 銃を持つ手に力が入る。《未来》はこうして自分に訪れたのだ。

 

 

「私はトリニティの現状に詳しくはないけど、これだけはわかる。ミカ……あなたの理想はこんなことで叶うことなの?」

「…………うん。私はもう、止まれない。ティーパーティーのホストになって、エデン条約なんてものはさせない」

「……ごめん」

「どうしてソレアが謝るの?」

 

 

 きっと違う《未来》があったはずだ。幸せな結末を迎えれたかもしれなかった。自分が《未来》を識るということは、不確定な《未来》の()を定義づけることに他ならない。

 

 つまり、ミカの()()を定めたのは自分だ。

 

 

「……先生。指揮をお願いします」

 

 

 ならばせめて、自分の手でこの物語を終わらせる(結末を変える)

 

 

――

 

 

 補習授業部と連携して、先生の指揮の元、行動を開始する。アリウスをたった4人で持ち堪えるどころか返り討ちにしてきた補習授業部は想定以上に強く、大隊規模のアリウス生はみるみるうちにその数を減らしていく。正直、自分が居なくてもこの子達ならこの危機を切り抜けられたと感じられるほど。

 

 

「ミカぁ!」

 

 周囲のアリウス生を薙ぎ倒し、ミカの額に銃口を叩き付ける。

 

「降参しろ。ミカを撃ちたくない」

「強くなったねソレア。……うん、降参、参ったよ。できればもっと早くに、君と再会したかったな…………。そしたら、何か変わってたかも?」

 

 銃を置いて両手を上げるミカ。完全に抵抗する気が見えなくなってから、銃口を離す。

 戦闘が終わったという安堵で、これからの結末に対する怒りを抑えられなくなる。

 

「こんな再会……私は望んでない! 何故っ!? 言ってくれミカ! 誰のせいだ! トリニティを……ナギサやセイアを裏切って何になる?!」

 

 貴女の瞳に映る自分は泣いているだろう。惨めで、我儘で、無力な姿が。

 

 

 

 

 

 

 喚きを遮る多くの足音に気付いて入口を見ると、武装状態のシスター姿をしたシスターフッドの軍団がいた。

 

「落ち着いて下さい、ソレアさん」

「サクラコ……」

 

 先頭に立つ歌住サクラコが自分の肩に手を置く。貴女とも、こんな再会をしたくなかった。

 

「一先ずこの場はシスターフッドに任せてくれませんか、先生?」

“わかった。じゃあお願いね”

 

 先生は補習授業部を連れて試験会場へと向かう。時計を見ると、もう明け方だった。

 

「ミカ……」

「何?」

 

 旧友の名を呼ぶ。

 

「セイアは生きている」

「……!?」

「傷は治ってないらしいけど、ミネが傍に付いてる。ミカは人殺しじゃないよ」

「そっか……。良かった……」

 

(アリウス分校……。本格的に探りを入れるなら今……か)

 

 セイアが無事だったのを知ってるのは救護騎士団の蒼森ミネから万が一の避難先として自分に連絡がきたから。シスターフッドの生徒に連行されるミカを見送って、サクラコと話す。

 

「サクラコ、エデン条約に関する情報を全てを教えて」

「……それはソレアさんがシスターフッドに入ってくださるということですか?」

「生憎と私は現在シャーレ所属。先生の理念に則って、贔屓をする気は無いよ。折角また会えたんだから、お茶でもしようよ」

「まあいいでしょう。私もソレアさんに聞きたいことが山ほどありますので」

 

 

 真面目な所も変わってないなと思いながらも、サクラコと体育館を出る。朝日が眩しくて目を瞑れば、ミカの顔が瞼の裏に見える。認めたくなかったから咄嗟に能力を使おうとして……辞めた。

 

 

 

 補習授業部のいざこざは、これにて終幕。でも、この物語はまだ()()を迎えてはいなかった。




白故ソレア

・容姿
白髪
オッドアイ 左眼:白 右眼: 蒼
ヘイロー:三重円 内の二つの円は規則的に回転している
特徴:白い翼と角

・武器
HG カエルム&シグヌス
詳細
ソレアが愛用する回転式二丁拳銃。

いつも持ち歩いてる白い箱について聞いても「また今度ね」とはぐらかされる。一体何が入っているのか。



良ければ高評価と感想お願いします!


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太陽に手を伸ばした(バッドエンド1)

ども、素人投稿者です。

軽いジャブです

ではどうぞ


 

 

 

 空を飛ぶ。高く、高く、何処までも、誰にも止められることなく飛び続ける。

 

 

 

 

 手を伸ばす。遠く、遠く、何処までも、()()()を遮るように。

 

 

 

 

 

 白い翼は燃え尽きて、白い角は砕け散って、爆炎がこの身を焦がす。左腕は千切れ、熱波が肺を潰し、衝撃は内臓をグチャグチャにする。

 

 

「護れた……護れたよ、私…………。あなたに託された人達を……みんなを……」

 

 

 無事な古聖堂を見届け、重くなった瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

「ハッ……ハァ……ハァ……」

 

 早朝の公園で竹刀を振っていた時、また勝手に発動した能力の反動に頭を抑える。嫌な汗が服とくっついて不快感が襲いかかってくる。

 

「クソっ……」

 

 二度目の能力の暴発。何時、何処で起きることなのかはわからない。得られた情報は自分が爆発に巻き込まれて死ぬすることだけ。一体何処にあんなミサイルがあったのか。

 

(アリウス……)

 

 エデン条約、トリニティ総合学園、ゲヘナ学園、実態の不明なアリウス分校の憎悪……。

 サクラコが共有してくれた情報からも、アリウスに()()がある可能性は高い。自分の居ない間に、あそこがどうなったのか。自分は知らない。

 

(エデン条約調印式は……明日……)

 

 恐らくミサイルが飛んで来るのは調印式当日。ゲヘナとトリニティのトップが集った時だろう。主犯はアリウス、目的はエデン条約を乗っ取ること、次いでゲヘナとトリニティの消滅……。

 

 

 日課の鍛錬を終えて、シャワーを浴びてからシャーレに向かう。白い制服を着て、白い愛銃と箱を持ったのを確認して家を出る。自分でも白一色な姿だと理解してるけど、何故か白色の必需品ばかり巡り会ってしまう。これも運命ですか……。

 

 

――――――――――

 

 

「おはようございます」

“おはようソレア”

「朝食を用意しますから、シャワーでも浴びて待ってて下さい」

 

 先生はかなりの仕事人だ。昨日も遅くまで仕事をして寝落ちしたのだろう。髪はボサボサで、硬い机で寝たから身体が痛そうだ。

 慣れた手つきで買ってきた食材を調理していく。今日の朝食は具沢山のポトフ。

 

“ソレア~。良い香り~”

「ではいただきましょうか」

 

 

 先生が仕事を忘れられるよう休憩室で手を合わせる。うん、これは傑作だ。美食研究会も黙らせられる自信がある。

 

“今日も美味しかったよ。ありがとうソレア”

「お粗末さまでした」

 

 食器を片付けて、執務室に戻って仕事を始める。先生も新しい環境に少しづつ慣れてきたのか、ペースがだんだんと速くなっている。自分としてはありがたいけど、また仕事にのめり込んでしまいそうで心配でもある。

 

 

「…………」

“…………”

 

 

 ペンが紙の上を走る音だけが部屋に響く。自分は当番の子と違いシャーレ専属の部員だから、毎日此処に通っている。何時もシャーレに居ると、久しい友人との再会の機会が多い。やれ何をしていただの、やれ何処に行っていただの、自分が愛されていることを感じて照れくさくなる。

 

 

(相談、すべきだよね……)

 

 

 今日、能力で得た古聖堂にミサイルが降ってくる情報は絶対共有した方がいい。そうすれば被害を減らしたり……

 

(相談……して良いのだろうか?)

 

 自分の《未来》は確定した。なら他の人は? 自分が軽々しく未来のことを広めて大丈夫なのだろうか? バタフライエフェクトのように歯車が狂って、もっと悲惨な結末が訪れるのではないのだろうか?

 

 

 

 

 

「ねえ、先生……」

“? どうしたのソレア?”

 

 無意識に声を出してた。ハッとして口を閉じる。先生の優しい視線に貫かれながら、自分は恐る恐る聞く。

 

「先生は……たとえ死ぬとわかってても生徒の為なら危険の中に飛び込める?」

 

 先生は少し考えた後、微笑んで答えてくれた。

 

“うん。私は先生だから、生徒達の為なら喜んで飛び込むと思うよ”

「………………そっか」

 

 良い大人、狂人、有能指揮官、人たらし、変態、変質者、性犯罪者予備軍、このキヴォトスでの先生の呼び名は日を増す事に増殖するが、自分から先生に対する評価は何一つ変わらない。

 

「先生は何があっても先生なんだね」

“そりゃ先生だからね”

「ふふ、そうだったね先生」

 

 揺るぎない信念を持った強い人。本性は何があっても善性であり、()()()()()()()()自分とは違う。

 

「じゃあ…………はい」

“これは?”

 

 だから自分は縋ってしまった。結局、怖かったんだ。どうしようもないと分かっていても、それでもと可能性を捨てきれなかった。

 

「私の羽根です。御守りにどうぞ」

“ありがとう。とても綺麗だね”

()()()をかけたんです。この世に二つと無い一点物ですよ」

 

 貼り付けた笑顔で先生に笑う。するべきことは決まった。

 

「用事があるのでこれで失礼します」

“うん、お疲れ様”

 

 執務室の扉は、いつもより固かった。

 

 

――――――――――

 

 

『ねえセイア。貴女の未来予知と私の未来感知、何が違うのかな?』

 

 昔、セイアとそんなことを話したことがある。

 

『ふむ……。どちらも未来を知る、という点に置いては共通している。私が予知夢、夢として未来のことを知るのに対して、君のそれは能動的なものだ』

『ねー。試したことは無いけど、私の《未来》とセイアの未来は同一のものなのかな?』

『私もソレアも狙った未来を見れないから難しいな』

 

 未来を語る宿命の二人。自分とセイアだけの秘密だった。真実を確かめる前にお別れがあって、それからセイアの顔は見てない。

 

 

 

 

「止まれ! ここら辺はワタシらのナワバリだ!」

「その制服……連邦生徒会!?」

 

 ゲヘナの自治区に入った途端、スケバン共に取り囲まれた。治安の悪さは相変わらずである。ヒナの仕事は未だに忙しそうだ。

 銃を抜いて構えると、複数の足音が近付いてきた。新手かと思ったが、知り合いの声に構えを解く。

 

 

「…………ソレア?」

「久しぶり、ヒナ」

 

 ゲヘナの治安維持に尽力する風紀委員会の長。自分の旧友の一人、空崎ヒナがいた。

 

「遊びに来ぐふぇ!」

 

 ……久しぶりの挨拶が過激なタックルとは、たまげたなあ。

 

 

――――――

 

 

「凄い仕事量だね。シャーレとそんな変わんないや」

 

 

 案内された風紀委員会の部室で、ヒナの机の上の書類を見て呟く。

 

 

「…………急に消えたと思ったら、急に現れて、何の用?」

「冷たいなー。さっきは熱烈なハグをしてきたのにこの変わりよう……。プライベートの時に来なかったのは謝るよ。休み時間を貰ったとでも思って許してくれない?」

「ちょっとあなた、委員長に対して馴れ馴れしくないですか?!」

 

 

 因みに、ヒナは自分の横っていうか真横っていうか……、密着して座っている。どっちかっていうと馴れ馴れしいのはヒナの方だと思うが。彼女は確か………………あ、行政官の天雨アコか。

 

「私はシャーレ所属の白故ソレア。本日は特に用事も無く、ただ遊びに来ただけですよ」

「はぁ……、用がないなら帰ってくれない? まだ仕事があるから……」

 

 自分に引っ付いてる人の発言とは思えない。あの、力強いですヒナさん。

 

「ヒナは気にならないの? 私が今まで何をしてたのか……とか?」

「……気になる」

 

 出された紅茶を一口飲んで、ムムっとなったヒナを見る。やっぱりヒナも昔と何一つ変わらない。一昔前は、よく二人で不良を制圧して回ったもんだ。

 

「長くなるよ~」

「やっぱりいい」

「そう、あれは今から36日……いや、もっと昔の出来事……」

「……聞きなさいよ」

 

 

~~~~~

 

 

「シャーレ所属ってことは、調印式には顔を出すの?」

「うん。先生の護衛として随伴する予定だよ」

「あなたが先生の護衛なら安心ね。さっきも見たけど、昔よりだいぶ強くなったみたいじゃない」

「ふふ、私がどれだけの修羅場を潜り抜けてきたと思ってるの?」

 

 他愛ない会話が今は何よりも幸福で、自分を納得させるだけの理由になった。

 

「……ねえヒナ。人は、何処まで飛んでいけると思う?」

「どういうこと? まあでも、飛べる翼を持つあなたなら何処まででも飛べるんじゃないの?」

「…………そうだね」

 

 もう下は見ない。自分は、上に飛び続けるだけ。ヒナのお陰で覚悟が出来た。

 

「じゃあそろそろ失礼するよ。明日に支障が出たら嫌だからね。ヒナも帰ってすぐにでも寝るんだよ。仕事なんて後からでも出来るからね」

「はいはい。早く帰って」

「つれないなあ」

 

 ソファから腰を上げて、制服を正す。

 

「じゃあ、またね」

 

 自分に次は無いと知っていても、明日があると求めずにはいられなかった。

 

「うん。またね」

 

 どうか願っていておくれ、何時かと信じておくれ。《未来》の中の真実から、希望の結末を望んでおくれ……。

 

 

 

――――――――――

 

 

“暇だ……”

「こういった大事な式典は始めるのに時間が必要なんですよ」

“ソレアが居てくれて良かったよ”

 

 

 調印式当日。身軽な先生は少し早めに会場入りし、場の最悪な空気から逃げるように古聖堂に移動した。あんなのは絶対平和条約を結ぶ空気じゃない。まさに一触即発、きっかけ一つでいつ戦闘が起きてもおかしくない。

 

“ソレア…………”

 

 先生は朝から難しい顔をしている。何か思い悩むような、決断に困っているような様子で自分に話しかける。

 でも、自分に会話している余裕は無い。能力を使って《未来》を見ても、何も変わってはいなかった。

 

“昨日言ったことだけど……”

「すみません先生」

“ソレア……?”

 

 

 ……タイムリミットだ。

 

 窓から外に出て屋根に登る。能力を使いながら翼を大きく広げ、空を翔る。碧天の美しさに包まれながら、高度をひたすら上げていく。

 

「権限認証、パージ!」

 

 白い箱が空中で分解される。中から現れたのは背丈をゆうに超える大太刀。銘は乖白刀(かいはくとう)()()()が別れ際にくれたオーバーテクノロジーウェポンだ。白い刀身は幽霊みたいに透明なのに、覗き込めば自分の顔が写るくらい光を反射している。それを両手でしっかりと握りながら、まだ高度を上げる。

 

(5……4……3……2……)

 

 《未来》と今が重なっていく。

 

(1……)

 

 彼方から光が迫ってくる。ステルス性を有しているのか、視認しづらい。

 

(……今!!)

 

 全力の一振が空を斬る。手応えが伝わってきた瞬間に身体を捻って大太刀を穿つ。

 

「はあああああああああああ!!!!!」

 

 これは《未来》を知ることによって辿り着く《未来》。このミサイルが何処から飛んできたのかなんて自分には関係ない。これが調印式に集まった全員に危害をもたらすことだけが解ればいい。

 

 

 

 

『“先生”を、支えてあげてください』

 

 

 

 ()()()に頼まれた。みんなを任せると、護ってとお願いされた。

 

 

(だから私は……)

 

 

 ミサイルに張り付くだけで精一杯だ。左腕に力を込めて突き出す。左腕はミサイルの表面を貫き、鋼鉄の板とより密着する。

 

 

(皆を、先生を…………)

 

 

「護…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

“はぁ……はぁ……”

「そんなに慌ててどうしたの先生?」

“ヒナ! ソレア見なかった?”

「見てないけど。どうし……」

 

──ドゴォォォォォォォ!!!

 

“うわっ!”

「先生!」

 

 轟音と共に古聖堂が大きく揺れる。突然の襲撃に、場は騒然となる。

 

 

「何が起きた!」

「きゃあ!」

「戦闘態勢をとれ!」

 

 周りの生徒達も慌ただしく走り回る。事態の対応に追われる生徒達を尻目にヒナは先生に駆け寄る。

 

 

 

「先生、大丈夫?!」

“う、うん。ヒナは?”

「私は大丈夫。それよりソレアは……」

“そうだ、ソレアが!”

「ソレアがどうしたの?」

 

 

 

「あ……あれは?」

 

 トリニティとゲヘナの生徒が入り乱れる中、その声に二人が窓の外を見る。

 紅く燃えたミサイルの破片……いや、もっと見覚えのあるもの。

 

 

“ソレア……?”

 

 先生の呟きにヒナは一瞬聞き間違いだと思いたかった。

 

「先生……ソレアってどういうこと?」

“ソレア!!”

「待って先生!」

 

 

~~~~~

 

 

 外に出た二人が見たのは、燃え焦げた何かが大きなクレーターを作っている景色だった。

 

「先生…………嘘よね?」

“ソ……レア……?”

 

 ヒナが穴の最深部に飛び込む。不安定な瓦礫を降りると鉄臭さと肉の焦げた臭いに眉を顰める。そっと赤黒い何かを抱き上げると、白い瞳がヒナを映した。

 

「あ……ヒナ……」

 

 左腕は断面もグチャグチャになるほど千切れ、美しかった白い翼は右翼が根元から先が無くなって、左翼がボロボロと焦げ落ちている。

 

「……!? 何があったの?! 敵は何処!?」

「すぐ……そこ……」

 

 ソレアの指した方向を見れば、ガスマスクを着けたアリウス生徒の大群がこちらに接近している。ヘイローがぎこちなく動くのを見て、ヒナは焦燥する。

 

「ヒナ……」

「喋らないで!! 今救急医学部を呼んだから、きっと治るから無理しないで!」

「ありがとう……」

「急に現れて、仲良くなったと思ったら急に消えて、また現れたと思ったら……死にかけてるなんて、いい加減にしてよ!!」

「はは……何も言い返せないや」

 

 

 

 

─ピシッ

 

 

 

「あ…………」

 

 ソレアのヘイローは時が止まったように動かなくて。ヘイローの円に亀裂が入る。

 

「先生……、駄目だよ」

“ッ!? ソレア!”

「そのカードは使っちゃ駄目」

“でも……”

「うん。私の道はここが終点。先生……私はあなたの生徒だよね?」

“もちろん”

「ふふ、嬉しいなあ。……ねえ先生、皆を護れたよ。あなたの生徒として……誇っていいよね?」

“ソレア?”

()()()との約束。ちゃんと果たせて良かった……」

 

“ソレア!!!”

 

 

「嫌……嫌嫌嫌嫌…………嫌だ!! 目を開けてよソレア! ソレアぁ!!!」

 

 目の光は無くなって、ヘイローも無くなって、左腕も無くなって、白い翼も角も脚も……。

 

 ヒナが抱き上げているのは、もう何者でもない焼死体だった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 キヴォトスは救われた。




1
最期に会いたかった旧友の手の中で最後の言葉を告げる。
大切だから……護りたい。
産まれるはずのなかった私に愛を教えてくれてありがとう。


高評価と感想待ってます。


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迷宮に堕ちる

ども、素人投稿者です。

本編始まったな。
先生ってぇ……素敵ですよねぇ?
優しくてぇ、頼りになってぇ、でも時々だらしなくってぇ、
…………あ!


ではどうぞ


 

 

 

「おや? おやおや……。こんにちは先生」

 

 

 黒いだけの空間で、目の前の異形は私に語りかけてくる。その独特な雰囲気には既視感があった。

 

“……お前、ゲマトリアか”

「流石です先生。近くとも遠からずと云った推測です。自己紹介をしましょう」

 

 合成音声で喋る機械のような男だ。見た目は精巧なアンドロイドだが、所々に獣毛や鉤爪が生えていたり、壊れていたりしていて不気味だ。生物なのか機械なのか判別がつかない。

 

「ワタシはドクトゥス。知者、観測者、予測者、記録者、記憶者。貴女の言う通り、ゲマトリアと関わりのある者です」

“何が目的だ”

「おや? ではでは……。貴女とワタシは初めましてですね? ええ、質問に答えましょう。」

 

 気色の悪い話し方をする奴だ。ドクトゥスに警戒しながらどうしてこんな場所に来たのか考える。

 

「ワタシは貴女が紡ぐ物語を楽しみにしています。それはもう大いに。ですが……貴女はこの結末に納得がいってないようだ。一言、ワタシは貴女に手を貸したい」

 

 何も思い出せない。キヴォトスやシャーレのことは覚えているのに、大切な……()()()()()()()()のことが何一つ思い出せない。

 

「おや? 混乱している様子。お考え下さい、それはもう大いに。ゲマトリアと彼らが呼んでいる繋がりの中に居た時期がありまして。ええ、ワタシは此処に来たので偶にしか会ってませんが」

 

 

「貴女が思い出したい生徒、白故ソレアと名付けられた人物について。ワタシは貴女に全て話せます」

“!?”

 

 ソレア……そうだ、全て思い出した。エデン条約調印式の日、巡航ミサイルから私達を護ってくれた私の大事な生徒のこと。

 

「おや? 思い出せたようで良かった。あの子も貴女のことをとても気に入っていたようだ。その招待状を渡すなんて、実は意外です」

 

 ドクトゥスが私の胸ポケットを指さす。その中には、ソレアから貰った白い羽根が入っている。

 

“お前……ソレアに何をしていた!”

 

 ソレア(死人)は何をしても帰ってこない。でも、こいつが他の生徒に手を出すのを止めることはできる。それが私に残されたあの子への贖罪だから。

 

「おや? 現実味を感じれて良かった。質問への本題といきましょう」

 

 壊れて錆びた機械の右腕と合成獣みたいに不成立な左腕を広げたドクトゥスは静かに話を始める。

 

 

「先ずは、白故ソレアについて。キヴォトス学園都市で最初に《色彩》と接触した存在」

 

“……は?”

 

「色彩を観測後、ワタシが回収。キヴォトスで唯一の外部から《崇高》を宿した人物として記録。後にゲマトリアの連中に存在が露見し、数々の実験を施されたと記憶。結果、白故ソレアは角と翼と飛行能力を獲得した」

 

“ま、待て……”

 

「ベアトリーチェによって《色彩》との回路を強制接続され、“酷く限定的な未来感知”能力を獲得。程なくして連邦生徒会長が直々に保護。その後……」

 

“待てと言っているだろ!!!”

 

「おや? 異議でもありましたか?」

 

“お前が何を言っているのか理解出来ない!”

 

「おやおや……。理解とは、ただ記憶することだけじゃありません。大まかながらでも要素を認識することが理解なのです。貴女は要素を知らないのです。理解など難しいことでしょう」

 

 

 つまり、ソレアは最初からあのシロコと同じ存在だった。キヴォトスを滅ぼそうとしたシロコと、みんなを護ろうとしたソレア。二人の間で違うのは何だ……。

 

 

「結論、白故ソレアはキヴォトスを滅ぼすべく《色彩》が創り出した化け物である」

 

“…………………………は??”

 

「おや? 何を驚かれているのですか先生? 宿命、と言いましょうか。貴女が助けた砂狼シロコと助けられなかった白故ソレアは《本質》が同じということです。《色彩》とは何とも恨めしいですね。ええ、大いに恨めしい。紡がれて続いていくはずのこの物語に何故終わりを強要するのか、全く理解出来ない」

 

 両手で壊れかけの頭を抑えながらドクトゥスは怒りに震える。

 

「……ええ、手を貸します。先生、此処は分岐点……乗換駅と云いましょうか。貴女が満足するまでじっくりと終着点をお選び下さい。ワタシは貴女の選択全てを大いに楽しみにしています。後、その羽根は絶対に失くさないでください」

 

 流暢に動いていたドクトゥスがギギギ、と急に油切れを起こしたように鈍くなる。

 

「おや? おやおや……。時間切れです、先生。また貴女に会えるのを、ワタシは楽しみにしています。それはもう大いに」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「……ぇぃ。せ……ぇい」

 

 懐かしい声が聞こえる。透き通っていて、決して雑音なんて思えないくらい幸せな音色。

 

「せん……せい。おき……ください」

 

 でもこの声を聞くと悲しくなるのは何故だろう。

 

「先生! 起きて下さい!」

“は、はい!”

「もう、机で寝落ちするのはやめてくださいって言いましたよね? 仕事を頑張ってくださるのは嬉しいですが、貴女の体は一人だけのものじゃないことを理解して下さい。私を含め、貴女を心配している生徒は居ます」

“ソレア?”

「はい。……どうかしましたか先生? 私の顔に何か付いてますか?」

“い、いや……”

 

 心配そうなソレアの顔が視界一杯に広がる。穢れの無い白髪、透明とも言い表せる白眼と蒼眼、純白って言葉がこれほど似合う子はいないだろう。

 

“何でもないよ”

「……乗り換えましたか?」

“……え?”

「いえ、独り言です。そんなことより、朝食できてますよ。冷めないうちに食べましょう」

“う……うん”

 

 

 ソレアに促されてベッドから起き上がる。先に行ってますよ、と一足先に部屋を出た後ろ姿を見て、

 

 

 

 私は、何かとんでもないことを仕出かした気がしてならなかった。

 

 

――――――――――

 

 

 日付を確認しようとして、予定表に書かれた文字に驚く。

 

 

『エデン条約調印式』

 

 

 ソレアが死んだ、キヴォトス最大の悪夢の日。ソレアが運転する車に乗って、まだ何処も壊れてない古聖堂に向かう。

 

“…………”

 

「先生、着きました」

 

 ソレアが車のドアを開けた音で我に返る。私には今の光景が夢に思えて仕方がなかった。

 

「先生? 顔色が悪いですね。救護騎士団か救急医学部に診てもらいましょうか」

“大丈夫。私は平気だよ”

「……そうですか」

 

 あの日と同じ会話、同じ景色、私はあの日を追体験している。

 

 

 

 

 険悪なゲヘナとトリニティの空気に耐え切れず古聖堂の中に入って、椅子に座って高ーい天井を見上げる。

 

“暇だ……”

「こういった大事な式典は始めるのに時間が必要なんですよ」

“ソレアが居てくれて良かったよ”

 

 口に出してからハッとなる。このままではあの日の二の舞だ。

 

“ソレア!”

 

 必死にソレアの袖を掴むと、ソレアは瞠目して驚いた。

 

「何ですか先生」

“行っちゃ駄目だ”

「!? …………もしかして先生」

「こんにちは、先生、ソレア」

「……ヒナ」

 

 白崎ヒナの声がソレアの言葉を遮った。流れる気まずい空気、ソレアは好機とみて離脱を謀るが、何とかソレアの袖を離さずに済んだ。

 

「二人で何してるの?」

“ヒナ、ソレアが逃げようとするから捕まえてて”

「えぇ……。わかった、大人しくしててソレア」

「ちょっ!」

 

 ヒナは慣れた手つきでソレアの両手に手錠をかける。当然のように出現した手錠に私とソレアは言葉を失った。

 

「ヒナ……これは?」

「? 手錠だけど」

「うん、聞き方が悪かったね。なんで手錠持ってるの? いつもはこんな物持ち歩いてなかったじゃん」

「? また突然居なくなるのが嫌だから」

「……………………」

 

 いつも通りの顔で笑うヒナ。けどその目は全然笑ってない。

 

「って、こんなことしてる場合じゃないんだ!」

“いいから何もしないでよ”

「っ……! 先生、貴女知ってるならなんで……!」

 

 

 

 

「なんで私───」

 

 

 

 

―ドゴォオォォォォォォ!!!!!

 

 

 

 

 次の瞬間、古聖堂が爆発した。巡航ミサイルは誰にも止められることなく、調印式に集まったゲヘナとトリニティの生徒を吹き飛ばした。

 

~~~~~

 

「先生…………、先生!」

 

 ヒナに体を揺らされて気が付く。ミサイルの衝撃に気絶したらしい。ヒナも頭から血を流し、右腕を痛そうに抑えている。

 

“大丈夫?”

「平気、それよりソレアが……」

“ソレアがどうしたの?”

 

 私達の近くに居たからあの日と同じことにはなっていないはずだ。それでも、私の不安は消えてはくれない。

 

「ソレアが変なの!」

 

 

――――――――――

 

 

(嗚呼……)

 

 《未来》は変わった。先生のあの様子、たぶん()()()が発動したのだろう。

 

(嗚呼…………)

 

 辺りを見回せば、重傷の生徒達、乱れた指揮系統、押し寄せるアリウス生徒。

 

(嗚呼………………)

 

 自分が焼かれれば、少なくともこの惨状は無かった。きっと先生は優しいから、自分を助ける為にこの状況を甘んじて受け入れたんだ。先生は良い大人だから……。

 

 

「襲撃だ!」

「ナギサ様は?!」

「わかりません! サクラコ様も同様に行方が……」

 

「トリニティの仕業か!?」

「忌まわしいトリニティ風情が!」

 

 

 満たされた憎悪が溢れるのは一瞬だ。戦場は一気に混戦へと変貌する。

 

「はぁ……」

 

 カエルムとシグヌスをホルスターから抜く。恐らく、アリウスの狙いは先生。この()()()()()生命、精々使い潰すしかない。

 

「ヒナ、先生を守ってて」

「ソレアは?」

「終わらせてくる」

 

 気絶している先生をヒナに託して戦場を駆け回る。撃つのはアリウス生徒だけ、トリニティとゲヘナに構うほど余裕は無い。先生が戦場に居る時間が長くなればなるほど先生が怪我する確率が高くなる。

 

 

 先生を中心に渦巻を描くように殲滅していく。

 

(練度はそこそこ……。痛ッ!?)

 

 全速力で走っているのを狙撃される。急所は外れたが、補足されたのは間違いない。強烈な痛みに悶えながら狙撃手に数発撃ち返す。弾は遮蔽物に命中して礫を撒き散らす。

 

「うわぁぁぁん! 命中したのにピンピンしてます……、もう終わりですぅ!」

 

 ピンピンはしてないけ……ど……。

 

「……ヒヨリ?」

「ふぇ?! ソレアさん?」

 

 アリウスの昔の知り合い、槌永ヒヨリ。彼女が居るなら必然的に…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソレア……か……?」

 

 自分がアリウス自治区に居た時の知り合い。アサルトライフルの銃口を自分に向けた錠前サオリが居た。

 




自分は望む、イグニスの翼を。
自分は覚えている、あの日の約束を。


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燃えず溶けた蝋燭(バッドエンド2)

ども、素人投稿者です。

忙し過ぎです。
周り体調崩しまくで心配ですね。大丈夫ですか?
自分はマイペースにやってきますよ。

ではどうぞ


 

 

 

「……引き金から指を離してくれない?」

「…………断る。私達を捨てたクセに、私に命令するな!」

「…………ごめん」

 

 サオリの言ったことは本当のことだし、今更仲間面するなんて図々しい真似は出来ない。

 自分は口を固く閉ざし、カエルムの銃口をサオリの顔に向ける。

 

「先生は、私が護る」

「…………ッ!」

 

 帽子とマスクで顔の大部分は見えないが、それでもサオリが驚いたのは伝わった。サオリは目を細めて自分に怒鳴る。

 

「私達を捨てるだけに飽き足らず、更に邪魔しようって言うのか?! 姫は、今でもお前のことを信じているのに!!」

「アツコが? ……そっか」

 

 次の瞬間、躊躇いのない弾丸が二人の間で交差する。サオリの髪が少量だけ宙を舞う。サオリの回避方向に腕を交差させてシグヌスで撃つ。

 

「ぐぅっ!」

「前にも言ったよね、サオリ」

 

 サオリの行動の後手後手に引き金を引く。サオリが拳銃をホルスターから抜くと感じて、グリップに弾丸を撃ち込む。サオリの手から離れた拳銃を足でどこかへ飛ばす。

 

「戦闘の基本は、現状対応じゃなくて優勢誘導だって」

 

 サオリのアサルトライフルを軽くさばいていく。普通の物より大きくとも自分の持つ物はハンドガン、アサルトライフルと近距離の取り回しが優位なのがどちらかなんて明白。でもサオリは鬼気迫る様子で自分に噛み付いてくる。

 

「……サオリ達が先生を狙う以上、私は貴女を撃たなくちゃいけない。サオリ、降参して?」

「こと……わる!!!」

 

 一足で後方に跳びながらアサルトライフルを構えるサオリ。自分はサオリが跳んだと同時に距離を詰める。翼で身体を浮かせて、回し蹴りでサオリの手ごとアサルトライフルを飛ばす。

 

「おやすみ、サオリ」

 

 自分を見上げるように尻もちを着いてるサオリに二つの銃口を向ける。カエルムとシグヌスならこの距離で気絶まで持っていくのは容易だ。自分は引き金を引こうと指を動かして、

 

「ここだよね? ヒヨリ」

 

 仰け反って右後方からの狙撃を躱す。狙撃地点を見ると、ヒヨリが短く叫ぶ。

 

「ヒッ!?」

「もうヒヨリからでいいや」

「うわぁぁぁん! ソレアさんが雑に処分しようとしてきますぅ!」

「待……がぁ!」

 

 サオリの両脚に一発ずつ撃ち込んでヒヨリの隠れた瓦礫に走る。ヒヨリも自分の接近に焦って移動を始めるが、自分の方が速い。

 

「うわぁぁぁん!」

「ごめんねヒヨリ」

 

 足元を撃ってヒヨリの動きを止める。射程圏内に入った所で、降り注がれる多弾頭ミサイルに遮られる。弾切れで全弾対処はできない、空を飛んで回避行動を取る。その隙に花型ドローンがサオリとヒヨリを回復させる。

 

「久しぶり、みんな」

「今更どの面下げて……」

 

 携帯式対空ミサイルを持つ戒野ミサキ、ドローンを操る秤アツコ。ハハ、とミサキの毒言に苦笑いする。これでアリウス時代に最も交流のあった全員と再会した。……気分は最悪だ。

 

―スっ、スっ。

(今まで何処行ってたの、か)

 

「色々……かな。心配かけてごめんねアツコ。私は皆に会えて嬉しいよ」

 

 リロードしながら状況を確認する。敵対してるのは三人、他にアリウスはいない。サオリが指揮してるのが見えたから、多分彼女たちは下っ端じゃない。

 

「改めて言うね。先生から手を引いて。そうすればあなた達を撃たなくて済む」

「……先生は殺す。それに、この状況でいつまでその余裕な表情を保てるかな?」

「何言って……」

 

 

 アツコの後ろから複数の幽霊のような人陰が自分に銃を構える。明らかに人では無いそれらに、自分は覚えがあった。

 

複製(ミメシス)か!?」

 

 旧いシスターの姿にガスマスク。恐らくこの古聖堂から目覚めた複製。こんな芸当ができるのは奴しか居ない。

 

(マエストロの仕業か)

 

 ベアトリーチェにマエストロ、二人のゲマトリアを相手取るのは流石にキツい。確かにサオリの言う通り余裕は無くなった。だから、本気を出す。

 背負っていた白い箱を地面に突き刺す。

 

「権限認識、パージ」

 

 箱が分解し、顕れた乖白刀を右手に取る。水と鏡を共鳴させたような音で地面からその刀身は一閃する。

 複製の数は数百から……。うん、数百以上は居るのがわかる。

 

 

「もう手加減無しでいくよ」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「ねえ、本当に降参してくれないの?」

 

 無限にも思われたユスティナ聖徒会の複製(ミメシス)は壊滅、増える数が斬られる数に追いついていない。スクワッド以外のアリウス生は全滅、ヒヨリとミサキは戦闘不可一歩手前まで負傷している。

 

「私も疲れてきたんだけど……。ねえ、聞いてるサオリ?」

 

 複製を片手間に斬り伏せるソレアのオッドアイが私を貫く。

 

「先生に危害を加えない、ただそれだけが私の望み。サオリ……お願いだよ」

 

 白い怪物。味方だった時はあんなにも頼もしかった人を相手にすると、こんなにも絶望するのか。

 そもそも、ソレアが相手に居る時点で私達に勝ち目なんて無かった。

 

(でも……家族を守る為に……)

 

 他人がどうなろうと関係ない。姫を……みんなを守る為に……先生を殺さなくてはいけない。

 

(…………ッ!?)

 

 手に何かが触れた。マダムが『必要があれば使いなさい』と言って渡してきた〈ヘイローを破壊する爆弾〉。

 そうだ、牽制するだけでいい。シャーレの先生は銃弾一発で死ぬらしいじゃないか。一瞬でもソレアの気を逸らせれば十分じゃないか。

 

“ソレア!”

「なっ!?」

 

 丁度その時、シャーレの先生が姿を現した。ソレアは完全に先生に意識を向けている。今しかない、そう思って、手に取った爆弾をソレアに投げ付けた。

 

「!!?」

 

 シャーレの先生に拳銃を撃とうとしたが、爆弾を視認したソレアは弾かれたように()()()()()()動き出す。

 

(やられる……!)

 

 もう抵抗する力も残っていない私は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

或る日、或る場所。

 

 

「ねえ、大丈夫?」

 

 貧民街の路地裏で、私はソレアと出会った。白い翼、白い角、白と蒼のオッドアイ。服装から、外から来たことはすぐに分かった。

 私を覗き込むその顔に、一瞬だが目を奪われる。

 

「私はソレア。ただのソレアだよ」

 

 にっ、と笑うソレア。私にはソレアの持つその輝きが嫌に眩しかった。

 

 

~~~~~

 

 

「ねえねえサオリ」

「どうしたソレア?」

「此処から出たら何したい?」

 

 最初は二人だけだったのに。気が付けばヒヨリとミサキ、姫と共に日々を過ごしていた。〔ヘイローを壊す訓練〕、人殺しにさせられていく毎日でも、ソレアは常に明るく《未来》を語っていた。

 

 

 

「……またそんなこと言って」

「ミサキ。生きることは苦しむことと同じくらい、幸せになるということなんだよ。虚しいだけなんて生きてる意味も理由も無いでしょ? だからいい加減自傷行為やめなよ。意味も理由も無いなら、私と一緒に探していこうよ」

「……考えとく」

 

 その日から、ミサキが自傷行為をしてるのを見なくなった。

 

「でも、こんなこと話してるのバレたら懲罰ですよね……。痛いですよね、苦しいですよね……」

「バレなきゃ大丈夫! ヒヨリだって美味しい物食べて、怯えることなく安らかに寝たいでしょ?」

「うわぁん! ならいっそのこと自由に雑誌も読みたいです……」

 

 その日から、ヒヨリはボソボソと欲望を呟くようになった。

 

―スっスっ。

「うん。また今度種を持ってくる。次はどんな花が咲くんだろうね? 楽しみ!」

 

 皆で一緒にソレアが何処からか持ってきた花を育てたこともあった。

 

 

「サオリ。いつもありがとう」

「何だ急に」

「リーダーとして、責任を負ってるでしょ? 私達にとって責任は慣れなくて重たいものだから。だからありがとう。感謝は伝えないと伝わらないからね」

「……そうか」

 

 お前が居れば……いつの日か…………。

 

 

~~~~~

 

 

「ソレアはあなた達を裏切って連邦生徒会に逃げました」

「………………は?」

「密かに計画を練っていたそうです」

「バカな! ソレアが裏切るわけない!」

「……私が嘘を言ってると?」

「……!?」

「ソレアはアリウスの裏切り者です。もし見つけたら、()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソレア!!」

「サオリ、それに皆……!?」

 

 カタコンベの入口でソレアをギリギリ見つけることが出来た。病衣なのが少し気になったが、そんなことよりソレアと話すことがある。

 

「何処に行く?」

「…………遠い、遠い《未来》がある場所」

「ッ?!」

 

 あの時見たソレアは、今まで私達が知っていたソレアと何かが違っていた。

 

「なら……なら! 私達も一緒に行く! 前から言っていたじゃないか、此処から出るって。今がその時なんじゃないのか!?」

 

 自分でもこの口から出た言葉が信じられなかった。ただ必死に、ソレアに置いていってほしくなくて。別れを告げるのが堪らなく嫌で……。

 周りの三人も驚いたが、すぐに同意するように頷いた。

 

 

「…………ごめん。一緒には行けない。でも、()()する。サオリ、ミサキ、ヒヨリ、アツコ……。皆が危機に晒された時、必ず助けに行く」

 

 

「だから…………」

 

 私達四人は見ていることしかできなかった。ソレアはゆっくりと大きな白い翼を羽ばたかせて飛び立つ。

 

 

 

 

 

 

「さようなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「サオリ!!!」

 

 ソレアの手には刀も銃も無かった。ただただ、必死になって私を突き飛ばす。さっきまで戦っていたのに、初めてソレアの顔をしっかり見た気がした。

 

 ソレアの綺麗な瞳は…………死人のようだった。

 

 

 私の手は無意識に起爆装置を押し、投げた爆弾が起動する。私は勝手にあの爆弾を手榴弾規模の爆発を起こす物と勘違いしていた。しかし、予想以上の爆発はソレアを飲み込む、私は突き飛ばされて無事だったが、ソレアは直撃した。

 

「ぁ……」

 

 〈ヘイローを破壊する爆弾〉、ヘイローが壊れることは、死を意味する。

 爆発の砂煙が消えた時、私が居た位置にあったのは、倒れたソレアだった。

 

 

「ソレア!」

 

 外傷は見当たらない。でも、抱き起こしても、呼び掛けても、生気を感じない。

 

「ソレア……ソレア!」

 

 何度も、何度も何度も何度も何度も何度も呼び掛ける。

 

「ソ……レ、ア?」

 

 半壊のヘイローがソレアに現れる。罅だらけで今にも壊れそうだ。もう……助からない。

 

「サオリ……無事?」

「どうして庇った!?」

「ふふ……、変な……こと聞くんだね」

 

 

 

 

「家族なんだから……当たり前なのに…………」

 

 家族……。そうだ、私達は家族だった。突然ソレアが来て、みんなに手を差し伸べて助け合って生きてきた。みんなで過ごした日々は……楽しかった。

 

「虚しくなんか……ない。そもそも……私は燃え堕ちる運命なんだ」

 

「だからね……サオリ……」

 

 まだ光が残ってる蒼い眼が私を見る。

 

「笑って…………」

 

 心臓の鼓動が痛い。まるで最期の言葉のように、穏やかな表情でソレアは言う。

 

“ソレア……!”

「先生…………頑張ってね…………」

 

 ソレアのヘイローが静かに砕けた。その事実が両腕にのしかかる。私は、殺したかったんじゃない。牽制だけでよかった。そもそも、さっさと降参すればよかった。

 

「先生。私は一体……どうすればいい?」

 

 自分で殺しておいて、私は先生に縋り付く。

 

「もう……何をすればいいのかわからない」

 

 家族を守る為に銃を取るのに、家族を殺す為に引き金を引いてしまった。

 

 

 

vanitas vanitatum. et omnia vanitas.

 

 全ては……虚しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

『虚しくなんか……ない』

 

 私にはもう何もわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなこと……望んでない。

 

 

――――――――――

 

 

 キヴォトスは救われた。




2
約束は守られた。必要だったのは一つの命と少しの勇気。
手を伸ばしたのは、誰かの手を求めていたから。
良かったことは、あなた達が無事なこと。
幸せでした……


気軽に高評価と感想お願いします。(感想はしっかり返信します)


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選択のその先

ども、素人投稿者です。

……投稿の、間隔と進捗は?

わ、わかんなピギィ!


ではどうぞ


 

 

 

「おや? おやおや……。こんにちは先生」

 

 気が付けばまたここに戻ってきていた。黒いだけの空間、私は力無く項垂れる。

 

“(また……救えなかった)”

 

 ソレアはまた死んだ。私のせいで死んだ。

 

「おや? その様子……。貴女とワタシは初めましてではないですね? 見ていましたよ、貴女の選択全てを」

 

 両腕を掲げ、ドクトゥスは舞台演技のように大袈裟にリアクションをとる。

 

「それで……。どうでした?」

 

“……どういう意味?”

 

「ワタシの推測では、貴女は二度目の先生ですよね? どうでしたか? 白故ソレアの二度目の死に方は。貴女の選択の結果として、満足する終着点でしたか?」

 

“そんな訳ない!”

 

 声を荒らげてドクトゥスの胸倉を掴む。どんなに睨みつけてもドクトゥスの表情は変わらない。そもそも、こいつに表情なんてものはないが。

 

 

“……お前は一体何がしたい。なにが目的だ?”

 

「おや? おやおや……。先生、解釈違いがあります」

 

 私に掴まれた体勢のまま、ドクトゥスは言う。

 

「貴女の目標は白故ソレアの死亡を防ぎ、まだ辿り着いていないエピローグを目指すこと。ワタシはその()()が見たいのです。正直に言います、ワタシは白故ソレアの生死に深い関心はありません」

 

“……”

 

「ですが、貴女が欲しい情報を話すことは出来ます。ワタシは知者、観測者、予測者、記録者、記憶者。今、聞きたいことはありますか?」

 

 こいつはゲマトリアだが、恐らく敵対してる訳ではない。でも決して味方と思ってはいけない。絶対的第三者、こいつと私の間に契約や信頼は無い。なら……

 

“ソレアを助ける方法は?”

 

「白故ソレアを助ける方法……ですか。申し上げましょう」

 

 生徒を……ソレアを助ける為なら。私は先生として、大人として、頭を下げる。ドクトゥスは一呼吸置いた後、無慈悲に私に言った。

 

「知りません」

 

“……は?”

 

()()辿()()()()()()()()、と言ったでしょう、先生。ワタシは見ていないのです。全ての奇跡の集まる物語は観測しても、()()()()()が叶えられた物語は見てません」

 

“…………”

 

「だから手を貸すのです、先生。貴女の唯一の叶えられない望み。白故ソレアの生存する物語に辿り着いて下さい。ワタシはそれを楽しみにしています。それはもう大いに」

 

 ドクトゥスの動きが鈍くなる。時間の合図だ。

 

「おや? おやおや……。時間切れです、先生。また貴女に会えるのを、ワタシは楽しみにしています。それはもう大いに」

 

 

――――――――――

 

 

“……ハッ!”

 

 シャーレの執務で目が覚める。急いで日付を確認すると、エデン条約調印式の日。また……繰り返されてる。

 

 

─コンコン。

 

「失礼します」

 

 扉が開いてソレアが入ってくる。昨日も会ったのに、酷く懐かしく感じる。

 

「おはようございます。先生」

“おはよう、ソレア”

 

 数秒ソレアの顔を見ていると、ソレアはムスッとした顔になって、私の机の上の物を片付け始めた。

 

「また寝落ちしたんですか? 朝食作っときますからシャワー浴びてきて下さい」

“う、うん。ありがとうソレア”

 

 また、一日が始まる。

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから、何度もあの日を繰り返した。

 ソレアが巡航ミサイルを防ぐのを止めても、止めなくても。ソレアは死んだ。

 

 巡航ミサイル、アリウススクワッド、複製(ミメシス)、アンブロジウス。どれかを回避すれば、別の脅威がソレアを襲う。血が流れて、四肢がもがれて、ヘイローが粉々になって、首だけになった時もあった。

 

 私は、ソレア自身を止めることもできなかった。

 

 

「先生、おはようございます」

「先生、顔色が優れませんね。今日は休みましょう」

「先生、今日の朝食は自信作ですよ」

「先生、おかわりありますから」

「先生、そろそろ行きましょう」

「先生……」

 

 

 

 先生、先生、先生、先生、先生、先生、先生、先生、先生、先生………………。繰り返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生、暇そうですね」

 

 時間まで予定の無い私は、椅子にもたれて天井を仰ぎ見る。初めて来たのに……もう見慣れた光景だ。

 

 

“ソレア”

 

「はい、どうしました先生?」

 

“私はソレアに生きて欲しい”

 

「……《未来》を知ったんですね。でも、止めないで下さい」

 

“ッ! ソレア!”

 

 

 ソレアの手を掴む。振り向いたソレアの顔は、無表情だった。

 

「先生。貴女が何度目かは知りません。でも、そんな上辺だけの言葉を使わないで下さい。正直、今の先生は先生であっても私達の先生じゃない」

 

 

 止められなかった。

 

 

 

「そんな中身の無い発言を先生がしないで下さい」

「先生……止める気がないなら最初から何もしないで下さい」

「押し付けないで下さい。先生らしくないです」

「軽々しく言わないでください!」

「……お願いです先生」

 

 

 

 

 助けられなかった。

 

「後は頼みます……」

「先生と過ごした日々は……楽しかったです」

「皆には……先生が必要なんです……」

「今まで、ありがとうございました……」

 

 

「さようなら……先生」

 

 

 

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返す。

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、先生」

 

 そして今日が始まる。感覚が狂っているのか、それとも前からなのか、身体が重たい。

 

“……ソレア”

 

「なんですか先生?」

 

“逃げよう。何処か遠くに……”

 

 数えるのを辞めてから何度目かの朝。私はソレアの肩を掴んで詰め寄る。

 

“そうすれば……ソレアは……”

 

「駄目ですよ。先生」

 

 ソレアの声が頭の中に入ると自然と心が落ち着く。ソレアは少し困った顔で、私の手に手を重ねる。何度この手の温かさと冷たさを感じたんだろう。

 

「貴女は先生です。大人としての責任があります。何より、救いを求めている生徒がこのキヴォトスには溢れています」

 

“でも……”

 

「まだ終わりが来た訳じゃないですよ。まだ……続いているんです。先生、『あなたにしかできない選択の数々』。『そこに繋がる選択肢は……きっと見つかるはずです』」

 

 瞳の中の光は眩しくて。和やかに笑う君は何処か儚くて。そこに居るはずなのに、手の届かない空の向こうに居る気がして。全てを悟った様子でソレアは私の手を離す。

 

「さ、朝食にしましょう、先生。今日はポトフですよ」

 

 いつだってそうだ。中途半端な私は、言葉だけで……ソレアを止められない。

 

 

――――――――――

 

 

「おや? おやおや……。こんにちは、先生。その様子……。ワタシと先生は初めましてではないですね? どうやらかなり参ってしまっている様子。此処に来たということは、また選択なさるのですね。このドクトゥス、貴女を敬服します。それはもう大いに。何か聞きたいことはありますか? 手を貸しますよ、先生」

 

“…………”

 

「おや? どうやら限界が近い様子。……ええ、手を貸します、先生。気付いてらっしゃらないようなので、白故ソレアの心情をお話ししましょう」

 

“?”

 

「先生が白故ソレアを止めようとした時、貴女の“生徒の為なら死に飛び込める”発言が引っかかっていたようです」

 

“!!!”

 

 ドクトゥスの発言に顔を上げる。…………確かに自分はそのようなことをソレアに言った。“先生”として、“大人“として、その時はそう答えたはずだ。

 

「生徒の為なら死をも恐れない貴女の姿勢が、白故ソレアの覚悟を作っていたようです」

 

“私の……”

 

「ああ、勘違いなさらないで下さい。貴女のその姿勢を否定するものじゃありません。白故ソレアはその姿勢を美しく感じているようです。それ故に、白故ソレアは貴女の言葉では止まらないのでしょう」

 

 息が苦しくなって膝から崩れ落ちる。私にとってその推測は、これまでの行いが全て無駄なものと言ってるようなものだ。私にソレアを止めることはできない。

 

 

“じゃあ、どうしようもないの?”

 

“ソレアは死ぬしかないの……?”

 

 

 心が折れそうだ。数え切れない程のあの日を過ごし、ソレアを殺し、見捨て、庇われ。私の精神は限界を迎えていた。

 

「貴女の“選択”ですよ。“先生”として、“大人”として、ソレアが本当に期待している言葉は貴女の中にのみ存在します。おや? ……そろそろ時間です、先生。ワタシは貴女の物語を楽しみにしています。それはもう大いに……」

 

 

 そして、私の意識は落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 朝日が優しく包み込む執務室の机で、私は眠気から目を背けた。ゆっくりと背もたれに体重を掛けると、キシキシと音を鳴らす。傍から見れば、清らかな目覚めのように見えるだろう。

 確かに、重たかった体は何故か軽い。思考もクリアになっている。この一日は、何処か違っていた。

 

 

─コン、コン。

 

 

 この穏やかな朝に、いつものノック音が響く。硝子のような声と共に扉が開かれる。白い連邦生徒会の制服を着こなし、上品な佇まいで部屋の中に入ってくるソレア。どうしてか、私は今見ている光景を美しいと思えた。

 

「先生、おはようございます。寝覚めは良さそうですね」

 

 ソレアは机の上の書類を整理しながら微笑む。その一挙一動が、今日は何だかよく見える。

 

「今日は調子が良さそうですね。さ、シャワー浴びて来てください」

 

 

 シャワーを浴びて、休憩室でポトフを食べる。このポトフも飽きるほど食べたのに、しっかり美味しい。

 ソレアが私に求めている言葉……。シャワーを浴びている時から考えてるけど見当もつかない。

 

「……顔に何か付いてます? そんなに見つめて、どうしたんですか?」

 

 目を逸らして少し恥じらいながらソレアはスプーンを置く。ソレアは大人びてるけど、偶にこうして幼い所を見せてくる。そしてこう思う、この子はちゃんと私の生徒なんだって。

 

“……ソレア”

 

「はい」

 

“いつの日か、君に言ったよね。生徒の為なら死ぬとわかっていても危険に飛び込むって”

 

「昨日のことですよ。はい、確かに先生は言いました」

 

 

 昨日のことか。自分の感覚が狂っていることに苦笑いする。頭は回らない、ただ思ったことを口にする。

 

“もし、ソレアが死ぬとわかってて危険に飛び込むなら。私は止める”

 

「……何故ですか? もし、私が危険に飛び込むとして。同じことをする先生に止める権利がありますか?」

 

“あるよ”

 

 

 間もなく答えるとソレアが顔を歪ませる。その目は、理解できないって言っている。限界な私の精神では、ソレアの言動にどうこう思考する余裕は無い。無理矢理でも自分のペースで口を動かす。

 

“私は先生だから。生徒が危険に飛び込むと知っていて、それを見逃す訳にはいかない”

 

「……無茶苦茶ですね。知ったなら理解したはずです。私の《未来》を、辿り着く運命を」

 

“知ってる。それはもう嫌なほどに”

 

「なら」

 

“でも!!”

 

 

 何度諦めようとしたか。もう十分頑張った、もう終わりでいいと何度思ったか。

 

 

“でも、私は望み続けたい。ソレアがこれからも生きていく《未来》を!”

 

「ッ!」

 

 

 ソレアの手を掴む。目線が定まらず、狼狽えるソレア。私は真っ直ぐにソレアを見る。白と蒼のオッドアイ、キヴォトスでも珍しいその瞳に自分の顔だけを写すくらい。次第に落ち着きを取り戻したソレアはゆっくりと瞬きをして、寂しげに、何処か期待の眼差しで私を見た。

 

 

「私が生きる《未来》……。ありますかね、そんなの」

 

“私はあると()()()()

 

「……ふふ。()()()、か」

 

“……変だった?

 

「いえ、先生らしくていいです」

 

 

 ニコリと笑った満足気な顔で、ソレアは食器を片付けて立ち上がる。

 

「さ、そろそろ行く準備しないと遅刻しますよ」

 

 今のソレアに感じていた危うい雰囲気はもう無い。これが《未来》にどう影響しているかは分からない。私は安堵しながら同じく立ち上がる。

 

“時間あるんだから、ゆっくり行ってもいいんじゃない?”

 

 軽口を言えるくらいまでは、今日は順調だった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 古聖堂にて、今回の選択の時が来た。

 

「先生、行ってきます」

 

 その大きな白い翼を広げてソレアは窓辺に手をかける。ソレアが向かおうとしているのは、ここ古聖堂目掛けて発射された巡航ミサイル。ヘイローを持つソレアでも簡単に命を落とす威力を有した兵器だ。今回こそ私は……

 

「信じて」

 

 何か言おうとして、ソレアの言葉に止められる。

 

「信じてください。私が戻ってくると」

 

 白と蒼の瞳が私を見る。そこには覚悟があった。

 

“(信じる……)”

 

 思い返せば、私はソレアの行動をどうにかしようと一辺倒に説得していた。ソレアにはソレアの考え、覚悟があるはずだ。“先生”として、“大人”として、私は……

 

 

 

 

 

 

 

“いってらっしゃい”

 

 

 

 それでも精一杯の想いを、私はソレアに伝えたい。

 

 

 

「いってきます」

 

 

 

 

 

 

 陶器のように艶やかな白い翼が、キヴォトスの空へと羽ばたいた。

 

 

 




次回から次章に入る……かも?


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神に宿る秘密

ども、素人投稿者です。

投稿ペース早めたいこの頃……


ではどうそ


 

 

 

 

 翼は大きく風を掴む。風切羽が推力を創り、体を上へ上へと昇らせる。人の姿をしていながら、自分は空を翔ける。

 

 

 自分の翼は片翼最大10mまで大きくなる。本来、科学的にこの大きさの翼で人の体重を浮かせることは不可能だ。だから、()()()ことが自分に発現した()()だと解った。

 

 

 

 

 自分はずっと、この空に焦がれていた。

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 気付いた時には自分は深い迷宮(鳥籠)の中に居た。そこでは、奇々怪々と接触する時間だけが流れる。そこに在ったのは不可解ではなかった。ただ曲解や歪曲された万象の片隅、深淵を覗こうとした所で深淵は自分達を認識しない。

 

 

 そう、あれは()()()()()()じゃない。

 

 

 ゲマトリアは自分の中に()()を求めた。それは泥の詰まった人形に水を入れるような、有った理論を薄めるような行為だ。確かにあった事実は輪郭を失った陽炎へと代わる。そんな中、愚かな一人の貴婦人が《光》への()()を試みた。

 

 ベアトリーチェが行った儀式は自分を依り代に《色彩》を降ろすものだった。ゲマトリアの誰にも悟られず、邪魔されないようアリウス自治区の秘匿された場所で行われたその儀式は、後に失敗と記録される。

 

『何故?! 全ては順調だったはず!』

 

 貴婦人は叫んだ。彼女の失態は、《色彩》に接触したことだ。己が《崇高》に至って()の存在に成ろうとしたこと自体は問題ない。ただし、あの光だけは例外だった。詳しい実態は省くが、あれは世界を滅ぼす性質を持っている。そんなものに触れようものなら命が最低二つ以上は必要だろう。

 貴婦人が至った末路は、《色彩》と繋がった自分に半殺しにされることだった。整えた式場も、蓄えた戦力も、全て自分に壊され、得られたのは精々消えかけの命と《色彩》の恐ろしさを知ったという経験のみだろう。

 

 

 

 

 あの後、自分はアリウスから離れた。《色彩》と繋がった瞬間、自分の頭の中に流れたのは、《色彩》が観測していたキヴォトスの万象(全て)。自分は《色彩》がずっと見ていた事実と、その破滅(目的)を知った。同時に、キヴォトスが()()存在することも知る。

 枝分かれで増えていく時間軸の全てが一度は自分の頭の中に流れた。ちゃんと憶えている。負荷による反動なのか、ベアトリーチェを半殺しにしたのは()()()()()した自分だ。そこで、自分は“神秘”と“恐怖”、“崇高”を理解した。

 

 

 

 だから助けを求めた。

 

 

 《未来》を感知して、自分は()()()()()()に会いに行った。最初は…………彼女を殺す為に。

 

 

 

 

 生えた翼でサンクトゥムタワーに行けば、自分を待っていたのは連邦生徒会長こと■■■。彼女は部下を使わず、その超人的な頭脳で自分を戦闘不能にした。結果、自分の殺人は未遂に終わる。

 

 

 

 すると■■■は、自分に■■■■■■■■を任せた。それからは■■■■■■■の抑制。■■■■■の計画の阻止。■■、■■■、■■■■■の調査。会長が■■■となった自分を■■■■■と■■してくれたり。振り回される日々だったけど、悪くはなかった。長くとも短い■■■だった。

 

 

 

 生徒会長と二人で仕事をしている時、彼女はよく嘆いていた。これで良いのか、もっと他に選択肢は無かったのか。彼女は優秀だった。優秀であるが故に、救うべきものが見えなくなることがあった。伸ばされた手を、払い除ける冷徹さがあった。

 彼女が吐露するのは後悔ばかりだった。それでも、彼女は生徒会長として統治が出来ていた……出来てしまっていた。彼女が色んなものに擦り切れていく様を自分は一番近くで見ているだけ。彼女にかけてやる言葉を、自分はとうとう持ち得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、最後の時(始まりの合図)が訪れる。

 

 

 

「頼みがあります」

 

 

 

「これが最後の、あなたにとっては始まりかもしれませんが」

 

 

 

「……私より、あの人の方が正しかったんです」

 

 

 

「私の選択では、あなたを──────」

 

 

 

「いや、大丈夫です。あの人ならこの捻れて歪んだ終着点とは、また別の…………」

 

 

 

「……あなたに言うことではなかったですね」

 

 

 

「あなたのことだって、あの人は必ず違う未来へと導いてくれるはずです」

 

 

 

「だからどうか、お願いします」

 

 

 

「“先生”を、支えてあげてください」

 

 

 

 彼女は()()した。自分に“先生”を託して、誰にも知らせず失踪した。揺れない“電車”の中で最後に交わした会話。血に塗れる■■■の対面の座席に座って、自分は■■を通して■■した。

 

 

「待■■■■■■。■■■の■■も、■■■■■■■■■」

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 何故、あの会話を思い出したんだろうか。心の奥底で、自分は■■■と会いたがっているのか。寂しいのだろうか。

 

 今一度集中して、目の前の巡航ミサイルを捉えながら自分は乖白刀を手に飛ぶ。接触まで後二秒。

 

(自分は、あなたを“信じます”)

 

 衝撃に備えて、刀を振りかぶる。

 

 

「はあああああああああ!!!」

 

 

~~~~~

 

 

 爆炎がこの身を包む。片腕が、翼が、角が、まるで溶けゆく蝋のように、自分が自分であった形は欠損していく。このまま目を閉じれば、自分は()()()()()燃え尽きる。

 

『“でも、私は望み続けたい。ソレアがこれからも生きていく《未来》を!”』

 

(本当に……罪深い……)

 

 

 燃え残った全てで、まだこの空に抗う。巡航ミサイルの威力はギリギリ致命傷じゃない。現在進行形で自由落下しているこの状況、飛行の推力で地面との追突時の被害を抑えればまだ…………蜘蛛の糸ほどの希望で生存する確率が存在する。

 

 

(貴女は…………本当に……)

 

 

 肉体とはくたびれる程繊細だ。例えば、小指一本失うだけでバランスがガラッと変わってしまうくらい。そんな面倒な肉体の片腕と片翼の欠損、重度の火傷は全身に杭を打つ痛みを与える。放り投げられた空中で必死に翼を動かすが、精々姿勢制御を辛うじてできるだけだ。

 

 何かクッションがあれば、まだマシだと判断する。心臓から遠くて、失ってもいい箇所……。

 

(左腕だな……)

 

 手首の下辺りから上がグチャりと無くなっている左腕を見て、覚悟を決める。

 

(はあ…………賭けだな)

 

 

 近付く地面から視線を逸らさず、左腕を下に自分は地面との強烈な再会を果たした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

“ソレア!”

 

 

 拭い切れない不安を胸に、私はソレアの元に走る。ソレアは()()()()()()その身を呈してミサイルから古聖堂を護った。最初の繰り返しだ。脳裏にあの光景がチラつく。ヒナの腕の中で、静かに息を引き取るソレア。それを胸に抱いて泣き叫ぶヒナ。

 

“(大丈夫。ソレアを信じてる)

 

 そうやって自分の不安を騙し騙ししながら走る。ソレアが落ちた場所に着いて目にしたのは、最初と同じように全身に火傷を負って、右翼が根元から無くなって。

 

 左腕は最初の時より酷くなっていた。左肩周辺に数本の骨が痛々しく突き出て、医療の素人でももう治ることが無いと確信できるくらいズタズタになっている。

 

“ソレア……?”

 

 体から血の気が引いていくのがわかる。クレーターの中に居るソレアに駆け寄ろうと不安定な瓦礫を踏んだ時。

 

「先生っ! ここはもう戦場になる。早く安全な場所に……」

 

“ヒナ!”

 

 ゲヘナ学園風紀委員長の空崎ヒナが後ろから声をかけてきた。

 

“今すぐに救急医学部を呼んで! 早く!”

 

 僅かな希望に賭けて指示を出す。何が起きているか理解が追い付いてないヒナ。でもクレーターの中心を見た瞬間、目を見開いて即座に行動を開始する。

 

「ソレアっ!」

 

 ヒナはひとっ飛びでソレアを抱えてクレーターから出る。また最初の光景と重なって、背筋に冷汗が流れる。

 

「ソレア、ソレアぁ!」

「………………ヒ……ナ?」

「ッ! 喋らないで。今救急医学部を呼んだから、気をしっかり持って!」

 

 ボロボロのヘイローが頭上に現れて、ソレアの目が開かれる。白と蒼の瞳には、まだ光が宿っていた。

 

「せん……せい……。私…………やりましたよ」

 

“ソレア……。お疲れ様”

 

「はい。……少し……休みます」

 

 ソレアは安心の笑みを見せてからゆっくりと目を閉じる。ヘイローは壊れなかったけど、一刻の猶予も許されない状態だ。救急医学部が早く来ることを……

 

 

 

 

「先生、伏せて!」

 

 複数の銃声とヒナの鋭い声が響く。ヒナが私の前に立つのと同時に鈍い衝撃音が鳴る。

 

「ぐっ……」

 

“ヒナ!”

 

「先生はソレアと安全な場所へ! 早く!」

 

“わ、わかった”

 

 

 ソレアを背負ってこの場から離れる。あのヒナがダメージを受けるほどの狙撃、相手は多分……。

 

 

「ど、どうしましょう……ミサイルは何故か不発。ヒナさんもピンピンしてますし……。要注意だと聞いてたのに、……辛いですね、苦しいですね……」

 

 

 アリウススクワッドの槌永ヒヨリ…………。

 

 

~~~~~

 

 

“ハァ……ハァ……”

 

 

 古聖堂から抜け出て、とにかく走る。救急医学部か救護騎士団にソレアを治療してもらわないと……手遅れになる。

 

「先生!」

 

“アズサ?”

 

 補習授業部の白州アズサだ。元アリウス生の彼女でもこのことは知らなかったようで、かなり焦った様子で私達の所まで走ってくる。

 

「無事……か……」

 

 安否を聞こうとしたアズサの目線は私の背中のソレアに移り、言葉が途切れる。

 

「先生、それ……」

 

“詳しく説明してる暇は無いんだ”

 

 

 

 

「見つけたぞ」

 

 

 重々しい足音と銃火器の金属音が迫り来る。錠前サオリが率いるアリウスの部隊だ。その更に後ろにはユスティナ聖徒会の複製の軍。

 アズサも戦闘態勢に入って銃を構える。

 

 

「アズサか……。そしてシャーレの…………っ!」

 

 

 サオリもアズサ同様、ソレアを見て固まった。これまでの繰り返しの中でサオリとソレアが旧知の仲であることはわかっている。こんな所で戦ってる場合じゃない。ソレアは生死の合間を彷徨っている。

 

 

“サオリ! ソレアが巡航ミサイルを受けて瀕死なんだ”

 

「どうして私の名前を……」

 

“事態は一刻を争う。だから……”

 

「……断る」

 

“な……”

 

「……私はそんな奴知らない。大人しく死んでくれ、先生」

 

 

 サオリは銃口を私に向ける。でも彼女の銃を握る手は、震えているように見えた。

 

 

─キキィ!

 

「先生! こちらに!」

 

 一触即発の戦場に、一台の救急車が横切る。救急医学部のセナが駆けつけてくれたとわかって、急いで車に乗る。

 

「逃がすか!」

 

 サオリの銃口から弾丸が数発放たれる。私はシッテムの箱が守ってくれるけど、ソレアは別だ。まずいと思ってソレアを隠すように盾になろうとしたら、翼が私に向かう弾丸を弾いた。

 

“ソレア?”

 

 背負っているソレアを確認するが、まだ眠っている。無意識でも、ソレアは私を守ってくれた。

 

「先生、早く!」

 

 セナの呼ぶ声にハッとして、車に乗り込む。ソレアを下ろして、アズサもと目を向けると、決意をした目で私を見ていた。

 

 

「サオリは任せて」

 

“お願いアズサ!”

 

 

 セナにゴーサインを出して、車は一目散に戦場から離脱した。

 

 

 




身体欠損だよやったね


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教義は乖離し白と壊れる

ども、素人投稿者です。

前回より早いペースで嬉しい。
この章は今回で終わりです。

ではどうぞ


 

 

 

 

 

 

七つの古則

ジェリコは嘆く

 

箱舟の中

証明は成される

崇高は与えられた

畏怖と教義は完成する

 

見放された者

羽を拾いて翼を得たり

壊した礫で角を得たり

翼は空を飛ぶ、傲慢にも高く、神と思いて

角は破壊する、光悦として、獰猛とした悪

飛んだ先に太陽を見た、近付けば、羽を失い焼け落ちた

破壊尽くした末、振り返れば何も無かった、大切も全て

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「んぅ……」

 

 目を開けると、何処かの病室だった。どうやら、自分は生き延びたらしい。身体を起こすと、誰かに手を握られているのに気付く。

 

「先生……」

 

 髪もボサボサで、服は汚れてて、それでもこの人はずっと此処にいたんだと確信できる。疲れているのか、かなりぐっすり眠っている。

 

「ありがとう、先生」

 

 自分の《未来》の可能性、それを信じられなかったらきっとあの時自分は死んでた。先生が自分を信じたから、自分も信じられた。生きていたいと思えた。

 

「調印式にミサイルが飛んでくるなんて異常事態以外の何物でもない。裏で誰かが動いてる」

 

 未来感知をして、目を細める。

 

(主犯はアリウスか……)

 

 恐らく、自分がミサイルを阻止したのがだいぶ効いたのだろう。調印式の被害は奴の想定より遥かに少ない。複製を手にしたとはいえ、現在衰退中。ゲヘナとトリニティ、特にトリニティに混乱を誘いたかったんだろうけど、ナギサやサクラコが無事なお陰で統制は崩れてない。ただ、これを機に宣戦布告を望む動きが激しくなっている。

 

(ナギサとサクラコが居るから心配はいらないな)

 

 でも、アリウスは動いてくる。次は[教義]を使ってくるだろう。マエストロの奴め、面倒なことをしてくれる。

 

「早く制圧して……」

 

“ソレア!!”

 

「おはようございます。先生」

 

 先生が泣きそうな、いや泣きながら抱き着いてくる。

 

“よ"か"……よ"か"っだぁ”

 

「ちょ、……はあ、心配かけてすみません」

 

 ようやく落ち着いた先生を離して向き合う。まだ騒動は終わってない。シャーレとして、速やかに解決しなくては。

 

「事態は何となく把握しました。これからアリウススクワッドを止めます」

 

 そう言ってベッドから立ち上がると、バランスが取れなくて転けそうになる。見れば、グチャグチャだった左腕は肩までがスッパリ切断されてて、右翼も結構根元辺りから無くなってた。角は……罅が凄い。よく生きてるな自分。全身包帯でグルグルだ。

 

“無理しちゃ駄目だよ。今は安静に……”

 

「いえ、事が大事になる前に可能ならシャーレだけで収めたいです」

 

 まだ、まだアリウスもティーパーティーも救える。シャーレ所属の自分と先生だけでなら、後始末や隠蔽も容易い。

 

“でも、ソレアはボロボロじゃないか”

 

「戦闘に関しては大丈夫です。片手と両足があればいけます」

 

 片腕と片翼を失ったのは痛いが、足が残ってるのは幸いだ。まだ……まだ自分は戦える。

 

「新しい《未来》を見ました。下手するとキヴォトスからトリニティとゲヘナが消えかねません。私一人でも戦線に復帰します」

 

「駄目です」

 

 氷室セナが言いながら病室に入ってきた。鉄面皮な彼女だが、その表情は明らかな不満が書かれてる。

 

「あなたはまだ回復してません。それに、…………腕と翼を失ったのです。……もうあなたが戦う必要はありません」

「久しぶりだねセナ。ごめんだけどそれは聞けないかな」

「…………」

「私がやらないと」

「あなたは変わりませんね。そうやって自分だけ背負って。……重体のあなたを見た私の心中がわかりますか? 大切だと思ってる人が血を流して死にかけている。あなたの死体だけは見たくないです。あなたが傷だらけの姿もです。…………これ以上、私に心配をかけさせないでください」

「無理だ」

「っ! どうして!? どうしてあなたはいつも……。もう十分戦った! なら、後は他の人に任せていいはず!」

 

 感情を剥き出しにしたセナに胸倉を掴まれる。セナの気持ちも分からなくもない。でも、これは自分が処理することだ。助けがなくとも……

 

『ソレア』

 

 脳裏に■■■の姿が過ぎる。……そうか、自分は貴女と同じことをしようとしていたのか。駄目だな、多分血を失い過ぎて頭が回ってない。

 

“ソレア”

 

 そうだよな。自分一人で出来ることなんてたかが知れてる。いつから思い上がってたんだ。■■■の傍に居たからよくわかる。こういう人種は大変だって、学習は学生の本領なのに、生徒失格だな。

 

「……やっぱり頼ろうかな」

 

“ソレア!”

 

「……どうしても、ですか? どうしても戦うって言うんですか?」

「うん。次の戦闘、私は絶対に必要になる」

「先生、あなたからも何か……」

 

“? ソレアが言ってるから大丈夫でしょ”

 

「え……」

 

“ソレアがまだ生きてる。だから大丈夫”

 

 ……先生の様子に少し違和感を感じる。()()()()()()なら言わない台詞だ。

 

「先生、声掛けれる所に要請をお願いしていいですか」

 

“うん、わかった”

 

 

「……行くんですね」

「セナの前で完治してないのに行くのは気が引けるけど、行かなきゃ」

「どうせあなたは止めても行くのでしょう」

「よくわかってるね。それで、ヒナは?」

「実は行方が……」

「あー、わかった。私が行くよ」

 

 自分は残ったセナに身体を支えてもらいながら歩き始める。

 

「セナ、ちなみに此処は?」

「トリニティの救命騎士団に部屋を借りてます」

「…………車の運転お願い」

「はい」

 

 時間的猶予は……あまり無い。

 

 

――――――――――

 

 

 セナの運転する車に揺らされて自分が向かったのは、ヒナの自宅だ。インターフォンを鳴らして扉が僅かに開いて、少しやさぐれたヒナが顔を覗かせた。

 

「やあ、ヒナ」

「っ、ソレア……」

「少し話したくて……上がっていい?」

 

 

 中に招かれて、懐かしさと悲しさを感じながら座る。

 

「…………その腕」

「ああ、もう手遅れだったから、綺麗に切ってもらった。翼も同じかな」

「……そう」

 

 普段から起伏のないヒナだけど、今は特に元気が無い。

 

「それで、話って?」

「いや、そんな大それたもんじゃないよ。ただ、お礼と報告だけさ」

 

 本当は一緒に戦って欲しかったけど、今のヒナにそんなこと言えない。戦いたくないなら、戦わなくていい。その為に自分がいるのだから。

 

「私が倒れてる時、先生と私を守ってくれてたんだって? ありがとう」

「気にしなくていい……。それが私のやるべきことだから」

 

 やるべきこと……ヒナも同じだったんだ。責任感が強くて、寂しがり屋のヒナ、自分と同じだ。

 

「ヒナは頑張った。それはもうとっても」

「……っ!」

 

 誰かに褒めて欲しかった。誰かに甘えたかった。自分達は似た者同士だ。

 

「もう休んでていいんだ。後は私が終わらせてくるから」

「ま、待って……。………私は……小鳥遊ホシノみたいには、なれない」

「ホシノ?」

「私はあの、アビドスの副会長みたいな……強い人じゃない……。アビドスの生徒会長……その遺体を発見したのは、小鳥遊ホシノだった。すごく、ものすごく大切な人だったはずなのに……。」

「…………」

「あれだけの苦しみを味わっておきながら、彼女はまだアビドスで戦ってる……私には、そんなことできない……」

 

 

 

「ヒナ」

 

 そっと彼女を抱きしめる。自分よりも体躯は小さいけれど、大きな責任と義務が彼女を苦しめていた。

 

「お疲れ様、ヒナ。よく頑張ったね」

「……うぁ」

 

 静かに涙するヒナ。しばらく抱きしめ続けてた後、ゆっくりと顔を上げた。

 

「ありがとうソレア。もう大丈夫」

「そっか、じゃあもう行くよ」

「待って」

 

 服を摘まれて止められる。ヒナの顔はいつもの風紀委員長に戻っていた。

 

「私も行く。あなたのことだもん、どうせそんな重傷でも戦いに行くんでしょ」

「全部お見通しって訳か」

「私がどんだけあなたのこと見てたと思ってるのよ」

 

 笑いながら、自分らは部屋から飛び出す。これ程心強い人が傍に居ること、とても感謝している。

 

 

――――――――――

 

 

 アリウススクワッドは予測通り。古聖堂の地下に姿を現した。……アズサが単独行動してるのは先生から聞いてたけど、独りでスクワッドと戦ってたのか。

 

 

 風紀委員会、正義実現委員会、対策委員会の包囲網は配置済み。アリウススクワッドは袋の鼠。……と、皆は思ってるだろう。

 

 

 

「私たちの、青い青春(ブルーアーカイブ)を」

 

 

 阿慈谷ヒフミ、自称平凡な補習授業部部長。ブラックマーケットに頻繁に出入りし、水着覆面団のリーダーであるファウストの一面を持つ。モモフレンズのペロロが絡むと狂人のような行動をとる。……こいつが平凡とか詐欺じゃん。

 

“ここに宣言する”

 

 ヒフミら補習授業部がアズサを救出して、先生が声高らかに宣言する。

 

“私たちが、新しいエデン条約機構(ETO)

 

 先生が出した結論は、アリウスと同じことをやり返すこと。解釈を歪曲し、連邦生徒会をシャーレが代行してエデン条約を締結する。これによりエデン条約機構が二つ存在した。戒律であるユスティナ聖徒会の複製はその定義から不安定になる。

 

“生徒たちの夢を……その実現を助けるのは、大人の義務だから”

 

“私は生徒たちが願う夢を信じて、それを支える”

 

“生徒たち自身が心から願う夢を”

 

 

 無線で先生の言葉を聞いて、自分も準備を終える。

 

「権限認証」

 

 片腕で大太刀である乖白刀を扱うのはきつい。肩に装甲板を着けたから、担ぐ格好で移動することになる。腰の後ろと右にカエルムとシグヌスを、リロードするための弾帯を腰と足に付けてる。

 

 

(例え、この命を燃やし尽くしても……)

 

 

 刀を握る力が強くなってるのに気付いて冷静になる。今の思考はかなり危なかった。

 

(はぁ、まだ本調子じゃないな)

 

 先生と相談した結果、自分は単独行動となった。これまで単独での任務が多かったから、正直一人の方が強い。刀を地面から抜いて移動を開始、作戦を決行する。

 

 

 

~~~~~

 

 

 複製とアンブロジウスを片っ端から殲滅していく。オーバーテクノロジーウェポンである乖白刀は不可解である複製に対して神威で優位をとる。つまり、片腕だろうと一振で消せる。ユスティナ聖徒会の複製(たかがこの程度の雑魚)で戦況をどうにかできると考えてるなんて、サオリも鈍ってるに違いない。

 

(今ある手札は潰した)

 

 他の皆も、上手く制圧していってる。後は地下の()()だけだ。

 

(さあ、終わらせよう)

 

 

 覚悟を決め、地下に踏み込んだ。

 

 

~~~~~

 

 

 自分が地下に着いた時、丁度アズサとサオリの決着が着いた頃だった。

 

「う、くっ……。アズ、サ……」

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 

 軍配が上がったのは先生が居るアズサか。いや、殆ど相討ちに近い。

 

「よく頑張ったなアズサ」

「あ、えっと……」

「会うのは二度目……、いや、あの時助けてくれたから三度目になるのかな」

 

「ソレア……」

 

 サオリは自分の登場に酷く動揺する。苦しそうに歪ませた顔は真っ青だ。

 

「久しぶりサオリ」

「生きてたのか……」

「無事ではないけどね」

「……すまない」

 

 腕と翼があった場所を見て、絞り出すように謝ってくる。銃も持たず、ただ裁きを待つ罪人のように項垂れる。

 

─カツ、カツ。

 

 新しい足音が近付いてくると、音の方に視線が集中する。争う気がないことをアピールするように両手を上げた秤アツコだ。常時着けるようにされた仮面は半壊して、隠されていた素顔が見えている。

 

「……」

「アツコ……」

「姫、どうして逃げなかった……」

「私たちの負けだよ、アズサ」

 

 

 

 

 

「……サオリ、アツコ、私と一緒に来てよ」

 

 連邦生徒会長の隣に居た頃、■■■■■(カタコンベ)を調査してもアリウスへの戻り道はわからなかった。……言い訳は辞めよう。自分はあの時、サオリ達を捨てたようなものだ。あの時……サオリ達には自分と一緒に行くと言っていた。その勇気を振り払って自分勝手に飛び立った自分に、今更と言われても仕方ない。罵詈雑言の限りを浴びされても受け入れたい。でも、今はシャーレがあって、先生が居る。

 

「シャーレに来てよ。そろそろ仕事が回らなくなってきたんだ」

「ソレア……」

 

 無責任に希望だの何だと説いた癖に、中途半端に放り投げた。でも、でも……それでも自分はみんなに手を伸ばしたい。

 

 

 

――――――――――

 

 

「素晴らしい……」

 

 ソレア達の居る場所から離れた小さな空間。木製の人形の異形が呟く。ギギギとぎこちなく動く姿はまさに怪異だ。

 

「知性と品格、礼儀と信念、そして培ってきた経験と知恵……」

 

「先生……そなたならば、私の[崇高]を理解してくれるに違いない……!」

 

 ゲマトリアの一人、芸術家のマエストロは先生と……アリウススクワッドに手を伸ばすソレアを見て激しく昂る。特にソレアには、長い間探していたのもあって感極まっている。

 

「それに……完全なる“崇高”よ。そなたが理解してくれるのは承知している。なら、そなたは他の[崇高]を一体どのように解釈してくれよう!」

 

 

――――――――――

 

 

 突然に地下空間が震える。突如として出現した強烈な威圧感に、サオリ達は立ち竦んでしまっている。

 

「[教義]が来る。先生、サオリ達を頼んだ」

 

 乖白刀を構えて自分は迫ってくる[教義]から庇うように立つ。あれを()()()のは自分だけだ。本調子じゃない今の状態では……よくて片足、悪くて相討ちか。

 

「皆は下がってて。あれは……私の相手だ」

 

 ヘイローが忙しなく回転し、能力もフルに使用する。常時流れ込む《未来》に脳が悲鳴をあげるが、使用中は相手の攻撃を完全に知っているから被弾を無くせる。問題は、超短期決戦でしか脳が負荷に耐えられないこと。

 

(鼻血か……早いな)

 

 血を垂れ流しながら、一歩、まだ一歩と進んで行く。

 

 [教義]……詳しい名称は不明だが、四本の腕、後光を表してそうな装飾、ラテン神父のような亡霊……いや複製(ミメシス)。あのマエストロの所業にしてはあまりにも不完全だが、確かにマエストロの複製だ。顕現したのが地下でよかった。あれを地上に放てば、キヴォトスは近年最大の危機に襲われていた。決して見逃しては置けない。

 

“待って”

 

 疾走しようと踏み出しかけたその時、先生の手が自分を静止させる。先生はいつもの優しい笑顔で、その内に確かな怒りを宿して懐から一枚のカードを取り出した。

 

「先生、それは駄目だ」

 

“いや、今だよソレア。今しかないんだ”

 

「待──」

 

 見ていない《未来》に戸惑いながらも、先生が大人のカードを使うのを止めようと手を伸ばす。しかし先生の手のカードは既に光を発して、(かたち)を創っていく。■■■に聞いた話では、あのカードは先生の時間を代価にあらゆる万物事象を生み出す代物。他の生徒は知らなくても、知っている自分だけでもその使用は阻止しなくてはいけない。

 

 

(……なっ!)

 

 

 先生がカードを使った瞬間、《未来》が急速に不安定になっていく。()()()()()()がだだっ広く広がっていく。先生の意図しなかった急激な負荷に目を細める。

 

“みんな、頼んだよ!”

 

 呼び出された光の塊とも影ともとれる部隊が先生の指揮の元、行動を開始する。よく見れば、呼び出された六人に何処か見覚えのあるものを感じる。恐らく、シッテムの箱に記録された生徒の情報を元にした戦闘媒体。マエストロの複製とは似て非なるもの。

 激しい頭痛を堪えながら先生の隣に移動して、自分も指揮下に入る。

 

「先生、私も行きます」

 

“……もう十分だよ”

 

 先生の目には暗闇のトンネルから出口をやっと見つけたかのような安堵、漸く終わるという安心があった。

 

“後は先生に任せて”

 

「無理です。戦闘に参加します」

 

 先生が召喚した部隊の攻撃はあれに有効に見える。でも、自分はあれを()()しなくてはいけない。最後の一太刀は、自分でなくてはいけない。それが“崇高”である自分の責務であり、■■■と交わした■■だから。

 

「後でめいいっぱい説教して下さい」

 

“あ、待って!”

 

 先生の静止も聞かずに走り出す。先生の部隊は既に戦闘を開始しており、その邪魔をしないよう隙間を縫って[教義]に接近する。流石は先生、この短時間で[教義]は既に手負い、丁度自分の一太刀で終わりそうだ。最後の抵抗なのか、[教義]が杖を着くとユスティナ聖徒会の複製が出現する。

 

「シッ……」

 

 一息で自分の進路上の複製だけ斬り捨てていく。片翼と片腕が無いから姿勢制御が大変だ。重心だって狂ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからどうした?

 

 

 

 

 腕が上がらなくなるまで戦った。翼が一ミリも動かなくなるまで戦った。銃身が熱で歪むまで戦った。視界がぼやけるまで戦った。立つことすら難しくなるまで戦った。

 

 潜り抜けてきた修羅場の数々が自分を強くした。この程度、ハンデにもならない。それに……

 

 

“ソレアの援護を!”

 

 先生が守ってくれる。だから自分は()()()いける。何の障害もなく、ただ真っ直ぐに[教義]の懐に入り込んで、乖白刀を握りしめた。

 

 

「はああああぁぁぁぁ!!!」

 

 

 会心の一撃。[教義]を()()し、その贋作の“崇高”を抹消する。()()()()()ように()()()()()()()()[教義]を見収めて、刀を手放す。

 

 

“ソレア!”

 

「大丈夫……ちょっと無理しただけだから」

 

“よかった……”

 

 

 

 目尻に涙を零しながら先生は自分に駆け寄ってくる。心配してくれるのは嬉しいけど、その……強く抱き締めないで、傷が開く。

 

 周囲を見渡しても、サオリとアツコの姿は無かった。あの様子ならアリウスに戻ってはないと思う。自分の手を取って欲しかったけど、まだ彼女たちにあの時のことを許してもらえてないんだ。まずはそこから、何処に行っても必ず見つけて償い続けてみる。()()に見つからないことを願うばかりだ。

 

 残った二人の泣き喚く声と、身体疲労と脳疲労のため息だけが、謎で満ちた地下空間に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、早く来なさい。私の“崇高”」




楽園のバッドエンド編 END

バッドエンドが2つだけで物足りない? 大丈夫、次章は最低4つは用意してます。ソレアの秘密に関しても次章で開示できそう。


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賛歌のバッドエンド
科学の過信は燃え尽きるまで


ども、素人投稿者です。

新章ですね。

突如として現れたヤンデレタグ
つまりそういうことです(?)

ではどうぞ


 

 

 

 

 

 

「最初からわかっていたことでしょう、ソレア?」

 

 白いドレスを纏う赤い貴婦人は言う。自分の手元に銃は無く、至聖所の硬い地面に倒れ伏している。

 

「あなたに幸せな結末なんて訪れない。精々その()()を私に捧げて死ね」

 

 

 体から出た血液は赤い水溜まりを作って、ステンドガラスから漏れ差す光にテラテラと輝く。仰向けに倒れた自分の腹部と左脚は表面が抉り取られて骨や臓器が顔を覗かせる。肺が呼吸を求めても、血が器官に溜まって苦しい。

 

 

(ヒマリ、リオ、ウタハ、チヒロ、ヒナ、セナ、ミカ、ナギサ、セイア、サクラコ、ミネ……ごめん)

 

 

 旧友たちの名に一人一人謝る。

 

 

(リン、■■■…………)

 

 

 

 

 

 

「先生……」

 

 

 まだ残ってる右手、羽がボサボサの左翼、右足に杭を打たれて磔にされる。赤い茨が刺さるように巻き付いて、十字架と首が離れないよう絞め付けてくる。絞められて漏れる息もなくて、口端から血が重力に引かれて地面に染みを作る。

 

 

 

「───! ─────────!!」

 

 

 サオリが何か叫んでいるけど、もう何も聞こえない。目も見えない、痛みも感じなくなってきた。

 

 

 

(■■■■■■■■■■■……)

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「っはぁ!」

 

 運ぼうと持っていた書類を落とす。留めてなかった書類が空気抵抗で左右に揺られて落ちるのを羽と錯覚して猛烈な吐き気が込み上げてくる。

 

「うぇ……」

 

 急いでトイレに駆け込んで胃袋の中身をぶちまける。胃酸の苦くてヒリヒリする感覚が喉を支配して、不快感に満たされて吐く。出てくる物が無くなっても、暫くの間自分は便器に顔を突っ込んでいた。

 

 

 

 

「……最悪」

 

 

 三度目の能力の暴走。今回のは過去一で最悪だ。いくら自分のとはいえ、骨や臓器が剥き出しの光景は耐えられなかった。不意打ちに頭の中に流れてくるから余計クる。

 

“ソレア、大丈夫?!”

 

 口を濯いでトイレから出ると、先生に背中をさすられる。ソファに誘導されて腰を下ろすと、上質な反発が気怠い体を支えてくれる。

 

“何を見たの?”

 

 まだ少し動いている自分のヘイローを見て先生は優しく訊ねてくる。自分から先生にこのことを言ったことはないけど、彼女が自分の“酷く限定的な未来感知”のことを知っているのはわかってるから自分は感知した《未来》を伝えた。

 

「まだアリウス関係の騒動は終わってない。トリニティのカタコンベの奥深くにあるアリウス自治区で、ゲマトリアのベアトリーチェが動く。サオリ達が危ない」

 

 それに、()()()()()()その先……。最悪キヴォトスが滅びることになるかもしれない。他ならない()()()()()()()()

 

 先生は自分の隣に腰掛けて、そっと抱き締めてくれた。先生の体温がじんわりと浸透して、このままでいたいと感じさせる安心感が自分の不安な気持ちを落ち着かせる。

 

“震え、止まったね”

 

「え?」

 

 そんな自覚はなくとも、先生が言うならそうなのだろう。そもそも、自分が《未来》で死を予感しても震えることは無かった。

 《未来》を知るのは怖いことだ。例え知るのが良い事でも悪い事でも、そうして辿っただけの結末を進む自分は生きていると言えるのか。毎夜自分は考えている。そして答えの無い答えを抱いて、眠りにつく。

 

 今更自分が《未来》に怯えてるなんて、自分でも驚いてる。

 

“ソレアのことは先生が必ず救けるから”

 

 先生は自分の手を両手で包み込んで花のように微笑む。傍から見れば、それは優しく先生だ。

 

 

 でも、あの日から先生は少し変わった。元々世話焼きな所もあったけど、今の彼女は自分に……その……過保護だ。キヴォトスでは当たり前の小さな危険も『“危ない!”』『“大丈夫、必ず守るから”』と護衛対象である先生が自ら身を呈して自分を守ろうとしてくる。

 

 この前なんて、紙で指を切ってしまった時には。

 

『“ソレア! 血が!”』

『あー、大丈夫です』

『“いや……やだよソレア。死なないで……”』

『待って待って待って、死にません。死にませんから』

『“……死なない?”』

『絶対大丈夫です』

『“……なら、よかった”』

 

 

 

 …………個人的にはかなーりアウトだと思うのだが。先生みたいに身体が脆いのなら兎も角、腕と翼を欠損して死ななかった自分が指からの出血で死ぬなんて有り得ない。

 自分が先生に辛い思いをさせてしまったのもあって、自分からじゃ過保護を拒めないっていうか。先生がこうなった責任が自分にあるっていうか。…………急募、先生を元に戻す方法。

 

 

「先生、そういえばミレニアムがどうとか言ってませんでしたか?」

 

 

 身の危険を感じて無理矢理話題を変える。消えかかったハイライトが戻ったのを見て安心したのも束の間、先生の一言は自分をどん底へと突き落とした。

 

“ソレアの義手をエンジニア部に依頼したんだ。もうできたらしいから本人が取りに来てくれって”

 

 

――――――――――

 

 

 ミレニアムサイエンススクール。〈千年難題〉と呼ばれる7つの難題に立ち向かう研究者が集まって、研究機関が増えた結果誕生した生粋の技術学校だ。ミレニアム学園とも称される本校は、キヴォトスにおいて最先端、最新鋭の多くを生み出している。その影響力はトリニティとゲヘナにも引けを取らず、キヴォトス三大学園の一角を担っている。

 

 

 そんな凄い学園の如何にもな部室の前で、自分は深ーいため息をつく。

 

(……先生が依頼したってことは、もうこの怪我のことが伝わってるってこと)

 

 もう何もかも諦めて扉を開ける。油と金属の独特な匂いがする工房には、エンジニア部三人の顔が揃っていた。豊見コトリと猫塚ヒビキ、後は……

 

「やあ、遅かったじゃないか」

 

 エンジニア部の部長、白石ウタハ。自分のミレニアムの旧友であり、自分が愛用しているシグヌスとカエルムの試作機の製作者だ。

 

 

「……久しぶり」

「久しぶり? ああ、確かに君にとってはそうだろうさ。私は君と過ごした日々を昨日のように思い出せる。あれだけ楽しかった開発が、君が急に居なくなってからの時間は苦痛で仕方なかった。捜索依頼は何故か揉み消され、君が残していったこのハンカチを見る度に私は君の無事を祈っていたよ。何もかも捨てて探しに行こうと何度考えたことか。君に見つけて貰う為に賞を沢山取ったよ。毎夜君と研究をして過ごした光景が目に浮かぶんだ、思い返せば君はいつも笑ってた、それなのに何故急に消えたりしたんだい? 私には理由がわからなかったよ。何かに巻き込まれたのか? それにこの夥しい火傷の痕と腕と翼はどうしたんだい? 何があった? 誰にやられた? 私のソレアに手を出すなんて許せない。教えてよソレア?」

 

 

 最初はあったハイライトがものの数秒でさよならしていった。捲し立てるように話すウタハ。最後に名前を呼んでくるあたり普通にブレーキ壊れてる。助けて先生……いや先生も駄目だった。

 

「落ち着いてよウタハ。急に居なくなったのは本当にごめん。でも何があったかは言えない……ごめん」

「…………ソレアがそこまで言うなら追求はしないよ。()()はあったみたいだからね」

「そうだね。ところで義手は?」

「はい、ソレアさん」

 

 モフモフ可愛い犬耳のヒビキが義手を渡してくれる。義手の見た目は人の腕というよりガントレットのような金属調のゴツめの義手だ。

 

「装着は?」

「ここを接続部に当てると勝手に始まるよ」

 

 ヒビキの言う通りに義手を左肩に付けると、液状に見える金属が右肩まで肩甲骨や首周りを覆うように広がる。すると、神経が通ったみたいに義手が動き出した。

 

「これまた……」

「説明しましょう! これはナノテクノロジーを活用した義手──」

「あ、説明ありがとう。もういいよ」

「アッハイ」

 

 コトリの説明は要らない情報までついてくるらしいから早々に切り上げる。義手を弄ってると、ウタハが悔しそうな目で自分の右翼を見つめていた。

 

「すまない。義翼は無理だった。耐久性と重量を考えると、現代の技術では作れない」

「ありがとうウタハ、でも大丈夫。飛べなくなるのは悲しいけど、後悔は無いから。にしても凄いね。サイズもピッタリだし……」

 

 

 ここで白故ソレア、違和感に気付く。義肢は本来、型を取って何度も修正をして製造する物のはず。それをどうやってここまでピッタリのサイズを? 義手本体の方にナノテクノロジーは使われていない。耐久性を上げる為に装甲を重ねてるから自動サイズ調整なんて機能が作動した様子は無い。つまり、最低でもエンジニア部は自分の腕のサイズを知ってることになる。先生が教えた? いや、口頭は無理だしデータとして持ってる訳ない。ということは……?

 

「ウタハ……」

「どうしたんだい?」

「私の腕のサイズ、よくわかったね」

「ああ、それは──」

 

 

「この超天才清楚系病弱美少女ハッカーの手にかかれば容易いことです」

 

 

 車椅子で工房に入ってきたのは、ミレニアム史上三人しかいない学位『全知』を獲得した正真正銘の天才、明星ヒマリ。

 ふふん、と自慢気に自分とウタハに近付くと、サラッと衝撃の一言を言う。

 

 

「あなたの情報は常日頃から見ていますので、腕のサイズを知るくらい。簡単なことです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……『全知』って凄い。自分の記録情報は連邦生徒会の一番セキュリティの強固なデータサーバーにあるはずだが、それを彼女は常日頃からぶち破ってるらしい。

 

「ヒマリも久しぶり」

「あら? ちゃーんと私のことも覚えててくれたんですね。あまりにもミレニアムに戻ってくる気配が無いから、てっきり記憶喪失だと思ってたんですが……」

「……色々あってね」

「あなたは()()()()なんですから。早く帰って来てください」

 

 

 おっと、ヒマリさんよハイライトは何処に……。

 

 

「ヒマリ? ソレアは()()()()なんだ。私の隣がソレアの居場所だよ」

「ふーん……?」

 

 

 二人の間に流れる不穏な空気。……もう駄目みたいですね。助けてヒビキ、コトリ……って居ない!?

 

 

(どうしてこうなった……)

 

 何が彼女達をそうさせるのか。何を間違えてしまったのか。自分の中に答えは……いや無いかも、わかんない。わかっているのはウタハとヒマリが険悪なムードを醸し出していること。何故か胃がキリキリしてきた。

 

 

「やめなさい二人とも。ソレアの前で情けないと思わないの?」

 

 

 二人目の乱入者。誰かこの場を収めてくれと思いながら振り向くと、ミレニアムの生徒会であるセミナーの会長、調月リオが靴音を鳴らして入室する。

 

 

「久しぶりねソレア。少し痩せたかしら?」

 

(これは……どっちだ?)

 

 リオとの交流はウタハやヒマリほど深い繋がりでは無かった(と思い込んでる)。ならばこの空気に改革を齎してくれるのは彼女しかいない!

 

「全く、二人してソレアを困らせたら駄目じゃない」

 

(よし、そうやって二人を……)

 

「ソレア、はい」

 

─カチャリ。

 

 

 

「カチャリ?」

 

 

 何の違和感もない自然な手つきで何かを首に嵌められる。それはチョーカーと呼ぶにはあまりにも大きすぎた。大きく、分厚く、重く、そして繊細すぎる首輪だった。

 

「リオ?」

「やっと見つけた」

「リオ?」

「もう離さない」

 

 

 リオのハイライトがいつの間にか消えていた。怖いよリオ、綺麗な顔が台な……いや美人は怒っても美人だな。

 

「GPSと心拍数計測と健康診断の機能が付いた首輪よ」

「待って」

「1分毎に計測された位置情報とデータが私達の元に届くようプログラムされてるわ」

「待って」

「何かの間違いで外れないよう、外部からの衝撃では絶対にロックが解かれない仕組みにしたわ」

「待って待って」

 

 

「自信作だよ」

「私も協力しました」

 

 ミレニアムの天才三人の合作。確かにこれは素晴らしい物なのだろう。自分の首に着いてなければな!

 

 力ずくでも外そうと首輪を手にかけた瞬間、リオが自分の胸に手を当ててそのまま押し倒される。リオの柔和な肉体の重みが全て自分の肌に乗せられる。顔を擦り付けて指で火傷の痕をなぞられ、擽ったさとリオの細くしなやかな指の冷たさに一瞬反応するのと、揶揄うかのような笑みを浮かべてリオは更に顔を近付けた。

 

「こんなに怪我をして……痛かったでしょう? もう大丈夫、私達がずっとあなたを守ってあげる」

「……誰かに守られるほど私はヤワじゃない」

「ならこの傷はどう説明するのかしら?」

「…………」

「あなたが連邦生徒会の一員でシャーレ所属なのは知ってるわ。でも、だからといってあなたが傷付くのは到底看過できないことなの」

 

 真紅の瞳は哀しそうに自分を見続ける。自分はやるべき事をした、その結果がこの怪我なら自分は後悔はない。でも、この怪我で傷付く誰かがいるのは……少し悲しい。自分に生きる価値が無いとか卑屈な考えはしていないけど、リオの顔を見ると嫌でもこう思う。

 

 

最善は尽くされたのか?

 

 

 先生は《未来》を変えることが出来た。自分はどうだろうか、それは抗えないものだと諦めていたのではないのだろうか。

 

 

「約束してソレア。もう何処にも行かないって、ずっと私の傍に居てくれるって。あなたは()()()()()、誰にも渡さない」

()()()()、これからはずっと一緒です」

()()()()、これでもう離れることはないね」

 

 

 

 

 

 ……誰かこの状況の最善を教えてはくれないだろうか?

 

 

 

 

 なんやかんやで無事(?)シャーレに帰還したソレアであった。





《》で義手が無い?
妙だな……


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信頼と約束の裏表

ども、素人投稿者です。

ソレアを死なせるRTA、はっじまるよー!


ではどうぞ


 

 

 

「クックック……、まさか先生の方から来てくれるとは思いませんでした」

 

“御託はいい。さっさと本題に入れ”

 

「……あなたとはもっと話をしたいのですが。仕方ありません」

 

 

 ソレアをミレニアムに行かせて、やっと一人になることが出来た私は黒服の元に尋問しに来ている。

 

“お前もソレアのことを知っているんだろ?”

 

「白故ソレア……。ああ、『嘆のイカロス』ですか。それがどうして……」

 

 知らない単語を口にしながら、黒服は訝しげに手を組んだ。

 

「まさかとは思いますが、『嘆のイカロス』が居るのですか? 先生のすぐ近くに?」

 

“ソレアはソレア、ソレアは私の大切な生徒だ『嘆のイカロス』なんて名前じゃない”

 

 苛立ちを隠さずにそう言うと、黒服は一層冷たい雰囲気で私にはっきりとした口調で語った。

 

「悪いことは言いません、一刻も早く白故ソレアから離れて下さい。あれは先生が思っているような生徒とは根本から違います。先生に危機が及ぶどころか、下手したらこのキヴォトスが滅びかねません。『嘆のイカロス』は先生が思うほど善良ではありません、キヴォトスを()()()()()()()()()()()()です」

 

 前の飄々とした態度とは違い、真剣一色で黒服は言う。怪物だの化け物だの、黒服もドクトゥスと同じことを言う。

 

“ドクトゥスも同じことを言ってた”

 

「ドクトゥス……?」

 

“あれ? あいつは元ゲマトリアだと言っていたけど、面識無いの?”

 

「ドクトゥス……知りません。いや、この感覚……、もしや……。有り得てしまうのか?」

 

 顔に手を当て、何かを考え込む黒服。こんなに真剣な黒服は私が大人のカードをチラつかせた時だけだったから珍しい。

 

「……先生、本日はお帰り下さい。こちらで確かめなくてはいけないことができました」

 

“そ、そう。じゃ、失礼するよ”

 

 

――――――――――

 

 

 

 アリウススクワッドのことは早急に対応しなくてはいけない事案だが、自分の《未来》は“酷く限定的な”能力故に訪れる正確な時刻はわからない。景色に時計等の物があれば即座に時刻がわかるが、絶対に時計が見えないのには作意的なものを感じる。

 

 

「お越し下さりありがとうございます、先生。しばらくぶりのトリニティ訪問となりますね」

 

 かと言って何もしない訳にもいかず。自分は先生と共にトリニティへと訪問に来ている。

 

“こんにちはナギサ、みんな”

「またお会いしましたね、先生。先日はお世話になりました」

「……はじめまして。救護騎士団の団長を務めております、ミネと申します」

 

 ナギサじゃないけどもう胃に違和感が来た。先生は通常運転だが、ナギサのカップを持つ手が微動している。今回、先生がトリニティを訪れたのはエデン条約以降の顛末と事件の後始末について話し合う為……だったが。きかん坊なシスターフッドと救護騎士団のリーダーが出席している。見ろ、ナギサがストレスでさっきから紅茶を飲む手が止まらないぞ。自分もこんな空気は嫌いだ、早く退席したい。

 

「今、ティーパーティーには外部の助けが必要です」

 

 ミネが何故ティーパーティーではなく彼女たちが、という先生の疑問に答える。

 

「エデン条約の前後に、ティーパーティーの一員がホストを攻撃する事件が起こり、その結果、監獄に入れられるという前代未聞の事態となりました。まさか、セイア様を攻撃するよう命じたのがミカ様だったなんて……」

「……」

「……」

「……」

 

 本人は真面目に騎士団の長として言っているつもりだとわかっていても、癪に障らずにはいられなかった。無意識にシグヌスに伸びた手を止めて、自身の激情を抑える。

 

「セイア様の治療に当たったのは周知の通り、私です。そのため、私も自分なりにこの事件を調べてまいりました。み ミカ様は結果的にアリウスに利用された形ではありますが……だからといってご本人の罪が消えるわけではありません。そして、現ホストであるナギサ様は「シャーレ」という超法規的組織を利用し、無辜の生徒を退学に追い込もうとしました。被害を受けた生徒たちに謝罪し、およそ丸く収まったとは聞いておりますが……。それでも、ナギサ様の行為が無かったことになるわけではありません」

「……」

「……」

「セイア様は幸い学園に復帰することができましたが……以前より体調が悪化してしまい、自室から出られない体となっております。そのため、現在不安定な「ティーパーティー」には外部の手助けが必要だというのが私の判断です」

 

 もうミネが全部言ってくれた通り。エデン条約の事件でティーパーティーは不安定になっている。被害は自分が限りなく抑えたとはいえ、それでも波紋のように揺らぎはその脆い所から崩れていく。

 

 この一連の事件の黒幕として、三人の結論はアリウス分校だと考えている。それは間違いでは無い。実行犯は確実にアリウスの者であるし、結果としてアリウスは複製(ミメシス)を得た。

 しかし、それだけだと疑問が残る。何故アリウス……いや、ベアトリーチェはエデン条約の妨害と複製の確保を秘匿されていたアリウス分校の存在を露見させてまで実行したのか。仮説としては、自分にやられた損害を複製で補いたかった、エデン条約を妨害することで目的の状況を作りたかった。1つ目の仮説はアリウスの露見と釣り合うのか怪しい、2つ目に関してはその目的が不明だから何とも言えない。

 

 

 何にしても、アリウスが表舞台に出てきたことで必然とベアトリーチェも舞台上に引きずり出される。さっさと処理して、アリウスの解体及びトリニティとの併合の為に時間を割きたい。

 

 

「ソレアさん……聞いていますか」

 

 腕を組んで考え事をしているとナギサが声をかけてきた。この場の全員と仲が良い自分が居ても気まずい空間から退席したい一心でも、一応はちゃんと会話に参加しなくては。

 

「大丈夫、ちゃんと聞いてるよ。カタコンベに関しては私も調査してるけど、今現在全貌を把握できてない。アリウス自治区に繋がる通路でさえ推定のものが多くて絞りきれない。突撃を仕掛けるのは当分厳しい。スクワッドって呼んでるんだっけ? サオリ達は自治区に帰ってないとはいえ、彼女らは隠密のプロ、見つけるのは困難だ」

 

 情報が足りない、このままだと後手後手に回るしかなさそうだ。自分だけで片をつけれたらいいけど能力の調子もこの頃頗る悪い。全体的に靄がかかっていて、正直使い物にならない。

 

 

「スクワッド以外にも一人、通路を熟知している生徒がいるのではありませんか?」

 

 義手を着けても、火傷の傷は深い。どこまで勝負を持ち込めるのか考えてると、サクラコの発言に眉を顰める。

 

「ミカのこと?」

「ええ、彼女は長い間アリウスと内通してきました。それなのにアリウスの位置を知らないという言葉を信じるのですか?」

「……たしか、ミカ様はアリウス生徒に補給品を手渡した記録が残っています。クーデターを起こすため、アリウスの支援を得るために……そう考えるのが自然でしょう」

「……」

 

 サクラコにミネも乗っかった。ナギサの手が震えてる。ずっと一緒だった幼馴染に糾弾されれば当然そうなる。怒り、悲しみ、困惑、疑問、ナギサは苦しい思いを押し殺して耐え忍んでいる。

 

「ですが……ミカさんは……」

「これまでのミカ様の評判と行動はあまりに模範的とは言えません。ナギサ様はよくご存知だと思いますが……ミカ様はティーパーティーに所属している事を盾に、多くの過失や問題を誤魔化してきました。今現在、学園で発生しているミカ様に対しての糾弾と騒動──こういった世論もまた、彼女のこれまでの振る舞いと無関係とはいえません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黙れ

 

 自分でも吃驚するくらい低い声が出た。ミネもサクラコもナギサも、先生でさえ驚きの目で自分を見ている。

 

 

「サクラコ、ミカが嘘をついてるって言いたいの?」

「……そういうこともあるかもしれないという─」

「何故? 客観的にミカの現状で嘘をつく理由が何処にある? サクラコの言うミカだったら知ってたらさっさと吐いて罰を軽くするのが自然だ」

 

「ミネ、ミカへの糾弾や騒動については私もそう思う。それは仕方ない、過去は変えられない。やんちゃなミカの性格もね。でもミネにはミカが計算高いタイプに見える? やらかしを繰り返して、ティーパーティーの権力で誤魔化してきたミカが急にアリウスからの信用とか考えると本気で思ってんの?」

 

 

 

「何より! ()()()()()の私から見てもアリウス側が利用する予定のミカに位置を教えるわけない! 私はミカの言葉を信じるし、信じるに値する裏付けがある」

「ソレアさん……」

「ナギサも、信じたいならもっと頭回して理由を捻り出さないと。聴聞会でミカを弁護するんでしょ?」

 

 

 三人とも押し黙ってしまった。お通夜みたいな空気に耐えられなくて、自分はやけくそ気味に声を荒らげた。

 

「もう疲れた! 今日はお開き! 解散!」

 

 

 

 本当……こんなのはゴメンだね。

 

 

――――――――――

 

 

 サクラコとミネが退室して、先生がナギサにミカの事をお願いした後、自分だけ呼び止められた。

 

「ソレアさん……」

「どうしたのナギサ」

 

 顔を合わせ、無我夢中に抱き締められる。胸に顔を埋めて、涙目になるナギサ。

 

「心配……したんですよ。腕も……翼も……こんな酷い怪我をして」

「……心配してくれてありがとうナギサ。ナギサが無事だったから栄誉の負傷かな」

「っ! 冗談でもそのようなこと言わないで! 傷だらけで死人のように眠るあなたを見て、とても苦しかった。私の手の届かない場所まで行ってしまって……そのままふと消えてしまいそうで。正直……あなたが銃を持っているだけで不安になります。変ですよね……キヴォトスでは当たり前なのに、その当たり前があなたに似合って欲しくないと願うなんて」

 

 それに……、とナギサは自分の首輪に手を当てる。抱きしめ直したから顔が後ろにあるから表情が見えないけど、若干の寒気を感じた。

 

「こんな邪魔物を着けさせるくらい優しいあなたです。これから私がすることも、受け入れてくれますよね?」

 

 そう言ってなし崩しに押し倒される。妖艶に笑う彼女は、普段のイメージとはかけ離れていた。

 

 

 

「私の不安を……埋めて…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 なんやかんやあって、先生に発信元不明のメールが届き、そこに行こうと言う先生の護衛で外に出ている。

 

(確実に罠だ)

 

 自然と銃を握る手に力が入る。微かに聞こえた物音の方向に反射的に銃口を向け、先生を背中に隠す。

 

「先生、危険を感じたら振り向かずに逃げて。……そこのお前、ゆっくりと姿を見せろ」

 

 

 物陰から現れた人物に、自分は目を見開いた。汚れてボロボロのサオリだ。あれからずっと逃げ続けてきたんだろう。自分たちの前まで歩いて、力無く座り込んでしまった。

 

「……ソレア、先生。アツコが……連れて行かれた」

「なっ……」

「他の仲間もアリウスの襲撃に遭って、散り散りに……生死も不明だ……。あれから何日も……逃げてきたが……。私では彼女を止められなかった……。このままでは……アツコは……姫は、死んでしまう……。明日の朝……夜明けと共に「彼女」に殺されてしまう」

 

 先生を見る。ソレアのしたいように、そう言ってる気がした。自分も膝を着いて、サオリと同じ目線になって肩に手を置く。雨と泥で連邦生徒会の制服が汚れるけど気にならない。

 

「わかった」

 

 顔を上げたサオリの目に少し光が宿った。最低でもタイムリミットは明日の朝……、それまででもベアトリーチェに《儀式》を進めさせたらアウト。迅速且つ的確な行動が求められる。

 

「先生」

 

“うん、任せて”

 

 そう言って、カタコンベに向けて歩き出す。

 

「ま、待ってくれ。これを……」

 

 サオリは見たことない爆弾を取り出し、先生に差し出す。普通の爆弾じゃない、ゲマトリアの手で生み出された物だ。

 

「《ヘイローを破壊する爆弾》だ。この起爆装置でしか起爆しない。信用できなくなったらいつでも起爆してくれ……」

「はいはい」

 

 無言で横から起爆装置を奪って誤爆しないよう丁寧に壊す。

 

「行くよサオリ。()()を助けに行くんでしょ?」

「……っ、ああ」

 

 

 

 アリウススクワッド救出作戦、開始。

 





絶対にソレアを殺したいベアトリーチェ
vs
絶対にソレアを救いたい先生
vs
何もしなくても勝手に死ぬソレア
vs
曇るアリウススクワッド

ファイ!


感想と高評価お願いします


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歯車のイデア(バッドエンド3)

ども、素人投稿者です。

評価赤圧倒的感謝!
我一層曇作品投稿奮励!


ではどうぞ


 

 

 

「だ、誰だ……ぐわ!」

「応戦を……がぁ!」

「ひ、ひぃ!」

 

 

 先生の護衛をサオリに託して、カタコンベまで一直線にアリウス生を掃討していく。ベアトリーチェに勘づかれる前にできるだけ進みたいから、無線で報告される前に一瞬で意識を刈り取る。義手での実戦は初だが、流石はエンジニア部、かなりの高性能だ。ウタハは昔から機能を付け足す癖があったが、この義手にはそれらしい(余計な)機能は見当たらない。彼女も義手に手を加える気にはなれなかったか。

 

(ありがたい限りだよ)

 

 義手で撃つと勿論精度が落ちるが、近接用と考えればさほど支障はない。ゲリラ戦を仕掛ける身なら動作音だけが少し気になるが、些細な事だ。音を聞かれても、それは白い怪物の落ちる合図だ。

 

(あらかた片付いたな)

 

 先生とサオリはヒヨリの救出に向かった。なら自分はミサキの救出に行く。こんな状況だ、ミサキの場所は検討がつく。ここら近辺で高くて、確実に死ねる場所。

 

 

(待ってて……ミサキ)

 

 

~~~~~

 

 

 雨上がりで夜風が冷たくて、月が儚く照らされている。自分を通り抜ける風に靡く外套は純白から薄く汚れていて、月明かりに照らされる翼は堕天したみたいに黒く焦げている。

 

 数十メートル下の水面を見つめて、大河に架かる橋の柵に身を乗り出すミサキ。

 

「……」

「アツコを助けに行くよ、ミサキ」

「なるほど……リーダーはそっちを選択したんだ」

「私にとってもアツコは家族だし。何より……」

「……?」

「いや、なんでもない。行こう」

「…………あなたはいつもそうだったね」

 

 

 柵に腰掛け、ミサキは呆れ声で呟く。近付こうとすれば、ミサキは手で自分を止めた。

 

「?」

「ねえ、私がこのまま死にたいって言えばどうする?」

「止める」

「そう「止めてから痛みのないように殺してあげる」……!?」

 

 驚いて目を見開いたミサキ。ゆっくりと近付いてもミサキは自分を止めない。

 

「……あなたは変わったね」

「そうかな?」

「うん、色々……あの時、アリウスから私達を置いて出て行った時から変わったよ」

「私は変わってないよ。()()私はこうだっただけ」

「でも、昔のあなたならそんなこと言わなかった」

「そう?」

「あなたは……誰?」

「白故ソレアだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 話してるうちに自分はミサキの前まで来た。もう飛び降りるつもりがないミサキを柵から下ろして軽く泥を叩く。よし、と顔を見ると何処か青ざめている気がした。

 

「行こうミサキ。アツコを助けて、幸せな瞬間が訪れるのを待とうよ。ミサキなら生きる理由も意味も見つけられるからさ」

「……え?」

 

 

 

“ソレアー”

 

 

 ミサキが何かを言おうとしたのを先生の声が遮る。先生とサオリの後ろには助けに行ったヒヨリの姿がある。救出は上手くいったようだ。

 

 

「ミサキは無事、カタコンベまでのルートの敵も排除済みだよ」

「わかった。あと90分で入口が変わる、急ぐぞ」

「やっぱり入口変わってたんだね。どうりでアリウス自治区が見つからなかったわけだ」

 

 

 一人足りないアリウススクワッドと先生と共に、アリウス自治区に急ぐ。全てはアツコを助け、幸せな《未来(エンド)》に向かう為に。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「残り」

「30だ」

 

 先生より早くサオリと自分を先頭にカタコンベ内を制圧していく。残り時間は30分、このペースなら追いついてきた先生も含めて突入できる。

 

 

──キィィィィ。

 

 ヘイローを回転させる。自分のヘイローは三重円。三重の円はネイタル、トランシット、プログレスを意味する。これは()()()、自分に()()()()()()()()()()()()()()()だ。自分がどう生き、どう死に、何を成すのか。全ては()()の望みのままに決められている。

 

《「私が失った分だけ、あなた達も失ってよ。そうじゃないと──不公平でしょう?」》

 

「ぁ……あぁ……、クソ……」

 

 やはり事はそう簡単じゃない。ノイズがかかっていて顔は見えないけどミカだ。ミカがアリウススクワッドを襲いに来る。

 

「急げサオリ、ミサキ、ヒヨリ、先生は私がそっちに送る。だから─」

「やっほー☆」

 

 ヒヨリが銃弾の雨を喰らう。全弾命中、暫くは戦闘不能だろう。サオリ達が警戒する中、壁があった穴から砂煙を払いながら一人の大天使が姿を見せる。此処に居るはずのない、聖園ミカ。

 

 

「ミカ……」

「ってあれ? どうしてソレアがスクワッドと一緒に居るの?」

「待ってくれミカ」

「え、あ……、こんな姿……見せたくなかったのに」

 

 

 

“みんな……”

 

「スクワッド! 先生抱えて急げ!!」

 

 追いついた先生をサオリ達に託して指示を飛ばす。もうボロボロのサオリ達じゃミカの相手にならない。優先順位はアツコの救出が一番、我儘お姫様に構ってる暇なんかない。

 

「逃がすと思ってるの?」

 

 ミカもそんな隙だらけなスクワッドに銃弾を放つ。気が撹乱してるのか、あのままだと先生にも直撃してしまう。勿論、そんなこと自分が許すわけが無いが。

 

 翼を広げて先生達を庇う。自分の翼は片翼だけでも10mはある、本気を出せば通路を塞ぐなんて造作もないことだ。弾を防がれたミカの表情はより暗くなり、堕ちた雰囲気が濃くなる。

 

「ソレア、どうしてあんな奴ら庇うの?」

「家族だから」

「違うでしょ、ソレアは孤児だもん。もし仮に家族だとして、あいつらはミサイルを落としたんだよ。ソレアの腕と翼を奪ったのはあいつらなんだよ。そんな奴ら家族なんて呼べるの?」

「サオリ達は何があっても私の家族だ。それにミサイルを撃ったのは彼女たちじゃない。銃を下ろしてミカ」

 

 

 ミカは力無く銃と顔を下ろす。しかし、ブツブツと独り言が増えていき、目の濁りも渦巻いていく。

 

 

「どうして? ねえどうしてよ。……全部燃やされちゃったの、ソレアやナギちゃんとの思い出も、大切にしてた物全部。セイアちゃんも私のせいで……」

(セイアが?)

「私が《魔女》だから、だから全部私のせい。私が受け入れなきゃいけないの。じゃあ彼女たちは? サオリのせいで私は全部失ったのに、なんであいつはまだ」

「ミカ!」

 

 ようやく焦点が合ったミカと目が合うと、背筋が凍った。

 

「……ねえ、その首輪は何? 誰に着けられたの? ソレアまで誰かに奪われるの? ……それだけは絶対にダメ」

 

 ミカの姿が消えるのと同時に上体を反らす。ミカの爪が首輪をかすって小さな火花が発生した。ミカの目から光が完全に消え、深淵の如き暗闇だけが残っている。

 

「なんで避けるの? ダメだよソレア、早くあの女の物を失わせなきゃいけないんだから。……でも、ソレアがあの女の家族なら、……ソレア」

 

 

「私に復讐させて(殺されて)?」

 

 その瞳には、ドス黒い狂気が宿っていた。

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「ソーレアー」

「今日も元気だね、ミカ」

「ミカさん、少しは落ち着いて下さい。あなたは次期ティーパーティーなんですから、周りの目をですね……」

「もー、今は他に誰もいないんだからいいじゃんね」

「ソレア、君が甘やかすからだぞ」

「え、私の責任なの?」

 

 

 煌びやかなテラスで絢爛なティータイムを過ごした過去。ここトリニティの地ではあるが、四人の間に腹の探り合いはない。純粋に会話と茶を楽しむ友人の睦まじい姿があった。

 

 

「ねえ、ソレアはまだ見つからないの?」

「……できる限りの事はしてますが、まだ……」

「もっと規模を大きくして隈無く探そうよ。なんで隠れてコソコソと探さなきゃいけないわけ?」

「……ミカ、私達はもうティーパーティーなんだ。トリニティのトップたる私達が一個人に学園の総出で探すとなれば、他の者が黙ってはいないだろう」

「わかんないよ! 行方不明になった友達を探すだけじゃんか!」

 

 

 三人になった茶会の顔ぶれはティーパーティーと呼ばれ、されど茶はいつもより不味くてかなわなかった。人々を導く天使はその役目を果たしながらも、空席の四席目、そこに座っていた大切な白い人、其の者の帰還を願う。

 

 

 

 

 歯車が狂い始めたのは何時だったか。もしくは歯車は最初から狂っていたのか。正しい歯車を知る者は誰もいない、最初から狂っている歯車を狂っていると誰が言えるのだろうか。

 

 

 

「誰も望んでなくても、結末は必ず訪れる。例えそれが凄惨で、残酷で、救いの無い、そんなバッドエンドだとしても……」

 

 

 

――――――――――

 

 

「アハハ!」

「あー、もう!」

 

 二人の戦闘は激しさを増す一方、距離も近くなっていく。1.75メートルの間合い、ティーパーティーでありながら異様な強さを持つ聖園ミカと、キヴォトスの全行政を担う連邦生徒会が隠し続けてきた連邦生徒会最強の白故ソレア。二人のインファイトが始まる。

 

 銃が日常のキヴォトスでは珍しく体術の心得があるソレアにミカは怪力と頑丈で対抗する。周りの建造物を破壊しながらアリウス自治区を移動する二人。実力が拮抗してるように見えるが、ソレアには考えがあった。

 

(ミカをベアトリーチェにぶつければだいぶ楽になる)

 

 カエルムで撃ちながらバシリカの位置を確認する。

 

「こんな時に考えごと?」

「ッ!?」

 

 ミカの渾身のストレートを咄嗟にクロスガードで受けるが、衝撃で回廊まで飛ばされる。更に今ので義手が逝かれた。義手ありでギリギリだった戦況が、ひっくり返った。

 

(不味いな……)

「ソレアっ!」

 

 此処はバシリカに繋がる地下回廊、先生と疲労したアリウススクワッドだったら丁度ここを通るタイミングだったのだ。

 

「不味い、逃げろサオリ!」

 

 気付くと同時に走り出す。ソレアがサオリを庇うのと、銃声が回廊に響くのはほぼ同時だった。殴打による衝撃でまともに動くことすら出来ない義手は、瓦解するようにバラバラになって壊れていく。

 

 

「あーあ、退いてよソレア」

「無理だよミカ」

 

 片腕は失っても相手は五体満足。正に絶対絶命だ。

 

「いい加減わかってよ」

「いい加減目を覚まして」

「わからず屋だね」

「我儘なのは変わってないね」

 

 

 

 

―ドゴォ!

 

(サオリを……!)

 

 

 ミカの標的は完全にサオリに切り替わった。轟音を上げてサオリに急接近するミカにソレアは挟まるように身を乗り出す。残った右腕で精一杯の防御体勢を取り、迫る衝撃を待った。

 

「アハ」

(まず……)

 

 まんまと釣られたソレアの首輪をガッチリと掴んだミカは笑顔を歪ませて、ソレアを地面に叩きつけた。深く深くめり込んだソレアは朦朧としてきた意識で脱出しようにも、ミカが上乗りになってそれを防ぐ。

 

 

「ねえソレア。私にサオリの大切なもの奪わせて?」

「何を…………」

 

 

 サオリがへたりこんで見ている中、ミカは呪詛のように繰り返す。

 

「許せない、許さないよ。本当に許せない。だから……」

 

 

 首輪が砕かれる。顕になったソレアの首に、ミカの細くしなやかな指が包むように絡む。

 

 

「や、やめ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歯車が狂った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─ゴキ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……。あああぁぁああああア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」

「……やっちゃった。サオリ、あなたのせいだよ? あなたのせいでソレアが………………………………………………………………」

 

 

 

 

 

「あれ? どうして私……ソレアを……」

 

 

 

 虚ろに眺めるミカの手に、舞い散った羽が落ちた。

 

――――――――――

 

 

キヴォトスは救われた。





歪んだパーツが検知されました。速やかに交換をして下さい。



頭真っ白に暴れた結果、やってしまったのが大切な人って気付くまでのタイムラグ程素晴らしい時間は無い。その曇りは一生晴れなくて、何度も自殺を行おうとするんだけど周りが絶対に阻止してきて、壊れて本物の魔女になって欲しい。そして、何かを壊す度に自分が魔女であることに傷付いて欲しい。


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破壊の始まり、飛行の終わり

ども、素人投稿者です。

こっからソレアのカミングアウトが続きます。

感想下さい(願望)


 

 

 

 

「──────────え?」

 

 

 刹那、脳内に流れる()()()()記憶。首を折り、取り返しのつかないことをしてしまった大切な人。光の無い白と蒼の瞳が訴えるように此方を見ていたのを憶えている。白く透き通った肌が、溢れ落ちる熱が冷たくなって……。

 

 

「やめろぉ!!」

 

 サオリのタックルを食らって後ろに倒れる。背中を打った痛みなんかより、今しがた見た記憶のことが気がかりだった。

 

「なんで……私……」

 

 

 

「大丈夫かソレア? ソレア!?」

 

 確かにこの手で、この両手でソレアの首を折った。ソレアの柔らかくて滑らかな肌を絞めて、その尊い命を奪った。

 

「ソレア! おい、しっかりしろソレア!」

「……サオリ、逃げろ」

「お前を置いて行けるか! 私達は家族なんだろ?!」

 

 ……ソレアはまだ生きている。まだ私は《人殺しの魔女》じゃない。私は……ソレアを……殺そうとした?

 

(嘘、嘘嘘嘘嘘……)

 

 頭に昇っていた血が急速に引いていく。胸の奥が重く動悸して、冷静になろうと必死になる。サオリに助けられるソレアはまだ意識が朧気なのか、体が動かせないみたい。

 

(……あっ)

 

 見たくないのに、目を逸らしたいのに、ソレアを見ていると目が合ってしまう。白と蒼の双眸に映る何かに怯えながらも、視線を逸らすことなんてできなかった。もし……、もしソレアに嫌われるなら、私は…………。

 

 

――――――――――

 

 

 朦朧とした意識の中で、とても懐かしい記憶を見た。

 ベアトリーチェに拐われてアリウスに連れてこられた日、丁度何かのパレードがあった。そこで、ロイヤルブラッドのアツコと出会った。綺麗に着飾って、守られて、それは物語に登場するお姫様そのものだった。

 

 ベアトリーチェの前に二人並べられて、彼女は仮面を自分達に渡した。黒服の技術を用いて作られた〈死を回避する仮面〉。彼女のことをベアトリーチェは()()だと言っていた。花よ蝶よと保護され、贄として〈儀式〉の準備ができるまで浪費される生命と知っても、アツコは気高く強かだった。

 

 ゲマトリアに居た時より一層過激になる実験の数々、区切りがついた時に自分は施設から飛び出した。廃れた自治区を見て回り、貧民街……スラムの路地裏に蹲った一人の少女を見つけた。

 

「ねえ、大丈夫?」

 

 何となく声をかけてみた。アツコ以外の、それも歳の近そうな子だったのもあったかもしれない。子供と接触するのはこれで二人目だ。アツコとは隔離されて話すことも出来なかった自分は話し相手に飢えていたのだろう。

 

「……」

 

 顔を上げた少女の青白磁の瞳に、自分は希望を見た。こんな環境でも、明日の姿が見えなくとも、必死に生きようとする力強さと諦めない執念の心を見た。自分にはそれが初めてで、羨ましくなった。だって、それはとても()()()()()と言えるものだったから。

 

「お前は……?」

「私はソレア。ただのソレアだよ」

 

 

~~~~~

 

 

 それから自分は時を見計らってはサオリ達に会いに行った。ベアトリーチェはその行いを咎めることはしなかったが、釘を刺された。

 

「あなたがそこら辺の誰と関わってても興味ありませんが、何かあればその者達の命の保障はないと思いなさい」

 

 明らかな脅迫だった。それでも自分はサオリ達に会いに行った。人として成長していく時間は、自分にとってかけがえのないものだった。それは訓練を課された後も同じで、アツコも一緒に今のアリウススクワッドと短い時間を過ごした。自分の家族は間違いなく彼女たちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから……

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「ミカ……」

 

 はっきりとしてきた視界で怯えたミカを見る。どうやら落ち着いてくれたようだ。被害は……義手だけか。軽い脳震盪だったから身体に異常は無い、戦闘継続可能だ。

 

「ミカ」

「あ……ご、ごめん。いや、あの……」

「……いいよ」

 

 トリニティの有象無象がミカを責めても、思い出の物が燃やされても、もしもナギサとセイアに見限られたとしても、自分は最期までミカの味方でいる。この世界の全ての人がミカを害するなら、自分だけで守り抜く。トリニティで最初に手を差し伸べてくれたミカに、自分は最期まで手を差し伸べたい。

 

 

「大丈夫だから、ミカ。ミカは魔女じゃない、ミカは私のお姫様だよ。だから泣かないで。私が居るから。素直で不器用で我儘でお転婆なミカのこと、絶対嫌いにならないから。聴聞会だって、退学になる必要なんてない。チャンスはまだまだあるよ」

 

 

 片腕と片翼でそっと抱き締める。両腕で抱き締めてやれないのが今は悔しい。

 

「でも、でも……私…………」

「いいよ。大丈夫だよミカ。私はミカの味方だから」

 

 ぽろぽろと涙を流すミカの背中をさする。大丈夫、自分は決してミカの敵になったりしないよ。だから安心してほしい。

 

 サオリの方を向くと、少し不服そうにサオリは此方を見ていた。ミカの攻撃で分断されたとはいえ、少し迂回すれば先生たちと合流できるだろう。

 

「サオリ、早く先生と先へ」

「だが……」

 

 

『茶番はもう終わりですか?』

 

 不快になる声を発してベアトリーチェのホログラムが現れる。咄嗟にホログラムに撃とうとして止まる。憎き全ての元凶の出現に怒りを隠しきれない。サオリは恐怖しているが、奴を知らないミカは状況が掴めずにいる。

 

『尽く上手くいかないのはやはりお前のせいでしたか、ソレア』

 

 一抹の不安だったベアトリーチェの目的が不明なこと。奴が今、その姿を見せつけてきたこと、それに嫌な予感がした。

 

『ふふ、ハハハハハハハ! よくぞ此処に帰ってきましたねソレア。これでようやく〈儀式〉を始められます』

 

 ベアトリーチェが出した画面に映っていたのは磔にされたアツコ。あの赤い茨に付けられたであろう傷が所々に見えている。

 

「あ、アツコ……!」

(やっぱりバレてたか)

 

『そろそろ幕引きとしましょう。さあ、ユスティナの聖女バルバラ。全部殺してやりなさい』

 

 

 複製(複製)のユスティナ聖徒会とその聖女、サオリじゃ手に余る相手だ。

 

 背負っていた白い箱を地面に突き刺す。

 

「権限認証、パージ」

 

 手に取る乖白刀がいつもより重く感じる。片手なのもあるが、身体の疲弊が激しい。でも、それは敵を斬らない理由にはならない。

 

「サオリ、急いでアツコを助けに行って。残り時間は約25分。アツコの命はそれが限界だ!」

「ソレアはどうする?」

「私はコイツらを引きつける。早く!」

「……わかった」

 

 至聖所に走るサオリの後ろ姿を見届ける。さてさて、複製の全滅は理論上不可能。サオリ達がどんなに早くベアトリーチェを倒しても数百から数千の複製は確実に残る。乖白刀を一振りして間合いを確かめる。

 

「ミカ、手を貸してくれる? 私一人ではちょっと時間かかりそうだからさ」

「…………ううん、ここは私に任せて」

「ミカ……?」

 

 ヒールを鳴らしてゆっくりと、ミカは複製の群れに近づいていく。

 

「ほら、私はさ……ワガママなお姫様じゃん? だから……、苦難を乗り越える主人公たちの舞台には上がれないの」

 

 そう言って振り向いたミカはあの時と同じく指を口に当てて妖艶に笑う。

 

「行って、ソレア。あなたの大切な家族の為に」

 

 もしかすると、この時《未来》を変えることが出来たのかもしれない。《魔女》の彼女はもういない、憑き物が落ちたようなミカに促されるまま自分はサオリの後を追うように走り出す。

 

「また後で」

「いってらっしゃい……ソレア」

 

 

――――――――――

 

 

 

「変だ……」

 

 サオリの後を追っているはずなのに道中の敵が異様に多い。サオリ達はもうベアトリーチェとの戦闘が始まってる。

 

「邪魔だ!」

 

 勢いの侭、斬り捨てていく。《未来》はきっと、願い叶う場所だから。

 

 

~~~~~

 

 

「よくも……よくもやってくれましたね、先生」

 

“私は、お前を絶対に許さない”

 

 

 

「先生! みんな!」

 

 辿り着いた至聖所には先生とサオリ達に倒されたベアトリーチェ。アツコの神秘を得ていながら、まともな運用方法を知らない愚者はただ悪戯にエネルギーを放出することしか出来ていない。〈儀式〉を行えたとしても、低脳であることは昔から変わってなかった。

 

 萎んだ枯れ木のようなベアトリーチェは自分が至聖所に入ってくると先程とは打って変わって嬉々として笑い始めた。

 

「来た! 私の()()!! やりなさいあなた達!!!」

 

(何を……)

 

 

 

 

 

 ベアトリーチェの叫びに呼応して建物の至る所から飛び出して来た人影に銃口を向けて、止まる。

 

 

「助けて……」

「死にたくない……」

「う、あああ……」

 

 

 体に《ヘイローを破壊する爆弾》を着けられたアリウスの生徒だった。涙目になりながら銃も持たずに特攻している彼女達の手にはこのキヴォトスでは見慣れないナイフを持っていた。

 

 生命を脅した特攻策。人を使い捨ての武器みたいに粗末に扱うベアトリーチェに自分の怒りは爆発した。

 

「ベアトリーチェぇ!」

「待てソレア! 罠だ! くっ……」

 

 

 無数のアリウス生徒が先生達を取り囲む。爆弾がある以上下手に撃てない。乖白刀では肉体ごと斬ってしまう。手を出さなくても起爆装置はベアトリーチェが持っている。解決策は起爆される前にベアトリーチェを倒す……

 

 

「ふふ……フハハハハハハハ!!」

(こいつまだ力が残ってるのか)

 

 

 アリウス生に気を取られると、赤い根に手足を拘束される。無理やりにシグヌスの銃口を向けた瞬間、赤いエネルギーの爆発が自分を襲う。その衝撃で銃と刀が飛ばされた。

 

「なんの」

「うわぁぁぁぁ!!」

 

 

 

―ドスッ。

 

 

 背中を押されたような衝撃が走った。ジワジワと熱くなっていく傷口には、ナイフが根元まで刺さっている。自分を刺したアリウス生は恐怖に満ちた顔で逃げて行った。

 

「ようやく……ようやくこの時が……」

 

 力が抜けていく、神秘を持つ者にとってこの程度の傷ならすぐ治って当然なのに。食道から上がってきた血を吐きながらナイフを確認して、それがゴルコンダの作品であることに気付く。

 

(血が……止まらない!)

 

“ソレア!”

 

 先生の声が聞こえる。手足の拘束を解かれて地面に倒れそうになって、また何かが爆発した。普通なら熱くて痛いで済む爆発が、今回は腹部と左脚を深々く抉り焼いた。

 

 

 

 

 

「最初からわかっていたことでしょう、ソレア?」

 

 白いドレスを纏う赤い貴婦人は言う。自分の手元に銃は無く、至聖所の硬い地面に倒れ伏している。

 

「あなたに幸せな結末なんて訪れない。精々その()()を私に捧げて死ね」

 

 

 体から出た血液は赤い水溜まりを作って、ステンドガラスから漏れ差す光にテラテラと輝く。仰向けに倒れた自分の腹部と左脚は表面が抉り取られて骨や臓器が顔を覗かせる。肺が呼吸を求めても、血が器官に溜まって苦しい。

 

 

(ヒマリ、リオ、ウタハ、チヒロ、ヒナ、セナ、ミカ、ナギサ、セイア、サクラコ、ミネ……ごめん)

 

 

 旧友たちの名に一人一人謝る。

 

 

(リン、■■■…………)

 

 

 

 

 

 

「先生……」

 

 

 まだ残ってる右手、羽がボサボサの左翼、右足に杭を打たれて磔にされる。赤い茨が刺さるように巻き付いて、十字架と首が離れないよう絞め付けてくる。絞められて漏れる息もなくて、口端から血が重力に引かれて地面に染みを作る。

 

 

 

「───! ─────────!!」

 

 

 サオリが何か叫んでいるけど、もう何も聞こえない。目も見えない、痛みも感じなくなってきた。

 

 

 

(全て燃えて壊れてしまえ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

キヴォトスは謨代o繧後k螢翫&繧後k

 

 





ソレアの影響で原作以上の外道になったベアトリーチェ。
この先は世界観の独自解釈が混じります、一応予告を。
地獄が好きなら大丈夫です。


高評価とっても嬉しいです。
感想下さい()


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認可せざる未来変革(バッドエンド4)

ども、素人投稿者です。

一瞬ランキング載ったらしくて少し伸びましたね。
別に気にしてないけど高評価と感想下さい。


ではどうぞ


 

 

 

 

 

 

──ドゴオオォォォォォォォ!!!!

 

 

 ソレアが磔にされた後、突如として至聖所全体を大爆発が被った。化け物に変態したベアトリーチェの赤い爆発なんて比にならない威力と規模の爆発に、アロナに保護された私たち以外の全てが破壊され尽くされる。煙が晴れて見えたベアトリーチェは瀕死の重体となっていた。

 

「ぐっ……、何故前回より強大に? こんなはずでは……」

 

 その視線の先には、磔にされていたソレア……()()()()()

 

 

「襍ヲ縺輔↑螢翫l諞弱>霑斐○

繧医¥謌代′鄙シ繧貞・ェ縺」縺溘↑」

 

 

 欠損した腕と翼が治っていて、()()の翼を大きく広げたソレアの面影があるモノ。翼と角は機械になって、全身に機械装甲を纏っている。物物しい雰囲気の中()()()()()()()()()()は咆哮すると、翼と角が黒く燃え始めた。

 

『白故ソレアはキヴォトスを滅ぼすべく《色彩》が創り出した化け物である』

『キヴォトスを()()()()()()()()()()()()です』

 

 

 黒服とドクトゥスが言っていたことを思い出した。あの時は馬鹿げた話と突き放していたが、現実として目の当たりすると後悔が募る。

 

 

「さあ、行きなさい! その《神秘を希釈するナイフ》を刺せば、あの()()が私の物に……」

 

 

 悲鳴をあげながら私たちを囲んでいたアリウス生までもが突撃する。彼女たちの持つナイフが特別な物で、それがソレアを苦しめようとしているなら。

 

(私が止めないと)

 

 アツコを救出したアリウスの子達は限界を超えている。ソレアを助けるのは、自分の役目。絶対に……死なせはしない。

 

 

“大人のカードを使う”

 

 

――――――――――

 

 

「嗚呼、やはり素晴らしい()()。白故ソレア……いやソレア! 最も強大な()()を持ち、《色彩》と唯一渡り合える存在よ。先生の物語でお前は何を綴ってくれるのか」

 

 興奮する知者は狂気観覧と記録していく。純白だった灰色、陽を帯びた黒が覗き、渾沌に苦しむ崇高の権化。

 

「神秘を希釈された影響で恐怖の比率が大きくなってますが……」

 

 灰色の怪物自身も燃やす漆黒の炎。それは傲慢にも太陽に近付こうとした罰の炎。白い技術()で黒い欲望(堕落)を辿ったよくある話。

 人は人でなくてはならない、神と驕ってはならないのだ。日々発展していくテクノロジーはいつか必ず身を滅ぼす、神は人間には戒めが必要と説いた。

 

「神秘とは宿る物、恐怖とは与えられる物、崇高とは森羅に生じた万象を形容しようとした物。神の崇高は神秘と恐怖、主に二つに分割でき、神の性質に由来する。ソレアは()()()()()()()では無いが、《色彩》が介入したことでソレアの物語は()()()()()へと昇華された」

 

 

 《色彩》は神秘を恐怖に()()させることができる。一度恐怖してしまったものは神秘のように崇高なものとして見れない。つまり、同時に崇高の概念も崩れる、これが反転を不可逆としている。無名の司祭どもは恐怖を崇高と呼ぶが、ワタシから言わせればナンセンス極まりない。崇高とは、神秘と恐怖のバランスが大事なのだ。

 

「ソレアの神秘は飛行……いや、()()()()。それが恐怖の破滅、()()()()に中途半端に反転した結果、ソレアは()()()()と成った。空想と堕落、人の業を植え付けられた憐れな子よ。現存したどの書に記されなかった真の名無し神よ。嗚呼……、先生、貴女はこの物語をどう紡いでいくのですか? ソレア(孤独)に貴女は何を望むのですか? 実に楽しみだ、それはもう大いに。ハッハッハッハッ!」

 

 

 知者は高らかに笑う。観測し、予測し、記録し、記憶する者。目的も野望も見せない彼は、まだ何もせず物語が紡がれるのを見ていた。

 

 

――――――――――

 

 

「蜉ゥ縺代※」

 

 灰色の怪物が唸ると、大きな機械翼が変形して数門の砲門が顕れる。視界いっぱいにマズルフラッシュが閃いた瞬間、鼓膜が破れると思うぐらいの轟音と爆風が襲いかかって来る。

 

“みんな!”

 

 大人のカードで呼び出した生徒達が一撃で撤退を余儀なくされる。至聖所は廃墟と呼べるまで壊れて、複製は1つ残らず消された。ベアトリーチェが呼んだアリウス生も影すら見つからない。

 

[先生、これ以上は力が……]

 

 アロナの力も限界、アレを止めないと私だけじゃなくアリウススクワッドやトリニティ……キヴォトス全土の危機になる。

 

 

「闍ヲ縺励>」

 

 静かになったかと思えば辺り一帯を破壊し尽くした灰色の怪物の砲門が爆発する。オーバーヒートのように高負荷に耐えられなくなって起きた爆発に灰色の怪物は悲鳴をあげている。

 抑えられない破壊衝動に駆られ、その果てに自身を傷付けていく。きっと何もしなかったら灰色の怪物はキヴォトスの全てを破壊し尽くして……最後は自分も殺してしまうだろう。

 

 

“どうすれば……”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蟇ゅ@……蟄、……蜀キ縺溘>……」

 

 

 灰色の機械仮面の隙間から赤い液体が流れた。ソレアが、私の生徒が泣いている。助けてと救いを求めている。

 

“私は先生だ……”

“大人として子供に手を差し伸べるのが”

 

“私の役目だ!!”

 

 

 

 大人のカードを再度使おうとして──

 

[『先生、提案があります』]

 

 アロナの声……、普段の機械調な声じゃない。抑揚のある人の声だ。

 

[『1つだけ、あの子を救ける方法があります』]

 

 誰だ、とシッテムの箱のアロナを見る。映っていたのは、見覚えのある彼女だった。

 

(■■■?)

 

 髪は長く、背丈も伸びたアロナに驚いているとアロナはこっちの気も知らずに続けて言う。

 

[『その為には先生がソレアに触れる必要があります。触れる直前は私の防護無しですが、いけますか?』]

 

 突拍子の無い話だ。あの弾幕を掻い潜ってソレアに接近するなんて、キヴォトスの外から来た私には危険過ぎる。

 

“わかった”

 

 考えるより先に口が動いていた。アロナはわかってたと言わんばかりの顔をして、ナビゲートを開始する。

 

[『先生、私の言う通り行動してください』]

 

“頼んだよアロナ”

 

[『先ずは、カタコンベまで逃げて下さい』]

 

 アロナに応えて一目散にカタコンベ目掛けて走り出す。数秒はその場で弾幕を撒き散らしていたソレアも、私に食い付いて来た。

 

[『全力で走って下さい! 一度でも足を止めると捕まります!』]

 

“了……解!”

 

 

~~~~~

 

 

 手足を必死に動かして走る。運動不足の一般人の私と翼を持つソレアでは移動速度に差がありすぎる。後ろでゆっくりと羽ばたいてる音が聞こえるけど、もう既に追いつかれてる気がしてならない。

 

[『信じて前だけ向いて!』]

 

 

~~~~~

 

 アリウス自治区の地理に詳しくなんてないから来た道を頑張って思い出しながら走る。狭い路地も回廊も後ろで破砕音が鳴り続ける。

 

[『もっと速く!』]

 

“もう限界だし怖いし無理ー!”

 

 

~~~~~

 

 

“見えた!”

 

[『あ、ちょっと!』]

 

 

 カタコンベが見えた所で気を弛めてしまった。直後、背後スレスレに冷たい物を感じて青ざめる。

 

[『先生!』]

 

 

 

「證励>」

 

“(やば……)”

 

 音も無く真後ろに現れたソレアは腕の装甲を鋭い爪に変形させる。接近してはいるからアロナが守ってくれてるか分からない。いやこれ防げる? 無理そう死……。

 

「先生に何すんの!!」

 

 私の顔目掛けて突き出される爪を横やりの弾丸が弾く。この隙にソレアに触れようとしたけど、一瞬のうちに距離を取られてしまう。

 

“ミカ、どうしてここに!?”

 

「急にあの厄介な幽霊が居なくなったと思えば、爆発があったから。ソレアと先生に何かあったと思って……。先生、一応聞くけど……ソレアは?」

 

“……アレだよ”

 

 ミカの握る力が強くなって銃が少し形を変えてる。ミカからすれば知らない所でソレアが大変なことになってたんだ、私だったら凄い悔しい。

 

[『……間に合いましたか』]

 

『この状況を説明してくれないかしら、先生』

 

 私たちを守るように前に出て来た多数のドローンから、黒髪の子がホログラム通信してくきた。

 

[『先生、説明を』]

 

“え、うん”

 

 アロナに促されるまま端的に説明すると、その子は簡潔に言う。

 

『協力するわ。ソレアの攻撃はこちらで何とかする。その隙に先生がソレアに触れて。確認したけど、ソレアはもう限界よ』

 

 

 

 ソレアを見ると、燃える黒い炎が角や翼だけじゃなく体全体に広がっている。私たちがこうして話してる間に攻撃がなかったのは、あの子が今も苦しんでいるからだ。

 

 

 全身の罅から漏れ零れる赤い液体に引火して、ソレアの周りを地獄に変えている。黒く淀んで血を垂れさせて苦しみに悶えるソレア。

 

[『絶対に助けます』]

 

“(もう……ソレアを失いたくない)”

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が起きた……?」

 

 気絶から意識を取り戻して頭を抑える。

 

 ベアトリーチェを倒して、アツコを助けて、そして……、

 

「ソレアが来て……それから……」

 

 

 思い出した、ナイフを持ったアリウス生に囲まれて、それでソレアが……、

 

「そうだ、爆発があって……」

 

 至聖所を吹き飛ばす威力だったのに、アツコを含めたスクワッドのみんなは無事だ。

 

「先生……ソレア……?」

 

 

 見える限り瓦礫の山。人影ひとつ見えやしない光景に、不安が募る。頭が冴えてくると遠くから爆発音が聞こえる。頻度と激しさからまだ戦闘が行われていると推測できた。

 

(行かないと……)

 

 他のみんなはまだ眠っている。みんなはここに来るまで頑張った、起こさず休ませてやりたい。アツコを助けて、後は全員揃って帰るだけだ。先生とソレアを見つけて、全員無事に……

 

 

 

~~~~~

 

 

 音を頼りに瓦礫の上を歩く。時折不安定な足場に転けそうになったが、重い体を奮い立たせて持ち直す。カタコンベへの通路が近くなった辺りだろうか、パタンと音が鳴り止んだ。

 

(音が……)

 

 

 

 立ち起こる土煙が晴れた時、目の前には聖園ミカが居た。服が破けて傷だらけになって、虚ろな目で地面を眺めてる。

 

「ミカ、先生は?」

「………………サオリ」

 

 ミカが指さした方向には、先生と…………

 

「ソレア」

 

 瓦礫の天辺で先生は白いものを抱えている。それがソレアだと理解するのにさほど時間はかからなかった。足元に気をつけながらより近づいてみる。

 

“う……ぁぁ……サオリ……”

 

 先生が私に気付いて、私も先生が泣いてるのに気付く。彼女の手の中では、()()()()()()()()()()()()()()

 

「先生?」

 

“うぅ……ごめん、ごめんね”

 

 その謝罪が私に対するものなのかソレアに対するものなのかは定かではないが。一つだけ、ただ一つの事実があった。

 

 

 首筋に触れると、氷を触ったようにひんやりと冷たい。頬に触れると、安らかに寝ている。腰に触れると、血で手が汚れた。

 

 

 

 

 

 

 私の家族(ソレア)が、死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あそこから記憶が無い。気付くと私は一人で膝を着いていた。

 

 私の手の中に、ソレアの白い羽があった。

 

 

 

「ぁ……あぁあああぁぁぁぁ!!!」

 

 認めない……絶対に認めてたまるか。アツコを助けても、お前が死んでは意味無いじゃないか! 全員で、無事に帰る為に……。

 

「ソレアぁ……ソレアァ”!」

 

 止まらない嗚咽に嫌気がさす。私はソレアに何もしてやれなかった。ソレアから享受されるのに慣れて甘えて、受け取った分も返せてない。もし()があるなら、もう一度()()()()()()()()()()()()……。

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

キヴォトスは救われた





イレギュラーが発生.イレギュラーが発.イレギュラーが.イレギュラー.イレギュラ.イレギュ.イレギ.イレ.i……


はい、ということで、ソレアの元ネタについて解説を。
ソレアのモチーフは作中にも出た通りイカロスですが、容姿はイカロスの翼、ユニコーンの角が元です。(クソデカ伏線)

神秘と反転に関しては独自の考察なのであんま真に受けないでくださいね。


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或る日の約束と崇高の心核(バッドエンド5)

どうも、素人投稿者です。

投稿ペース遅すぎワロエナイ。
もっと短くしようかな……


 

 

 

 

 《未来》とは、定められてなければならないものである。そこに人為が交わることは決して許されない。神々の結末は物語として既に最後まで書き記されているのだ。

 

 

「理解できぬ」

「理解できぬ」

「理解できぬ」

 

 

 司祭は思考擬きを試行する。あの異物はなんだ? 何故()()そこにいる? 

 

 

「何が起きている」

 

 

 あの者は既に()()()()()()はず。その崇高を証明し、このキヴォトスを()()()姿()に戻すはずなのに。

 

 

「お前の仕業か……■■■」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 気絶から意識を取り戻して頭を抑える。

 

 

「これは……」

 

 

 理解するよりも体が動き出す。カタコンベへと真っ直ぐ全速力で走る。傷の痛みも疲労も感じない、今の私にあるのは使命感だけだ。

 

 

「絶対助ける!」

 

 

――――――――――

 

 

 リオとミカの手を借りても、先生はソレアに近付けない。ソレアは10メートルを超える大翼から無数の破壊兵器を生み出して先生達を襲う。焦土と化したアリウスの一角で行われる死闘は片方の命を文字通り燃やしながら激しさを増していく。

 

「先生、このままじゃやられる!」

『ドローンの攻撃も効きません。増援を送ります』

 

“大人のカードを使う”

 

 

 何度カードを使っても数秒後には撤退させられる。ジリ貧なんてもんじゃない。

 

[『先生、カードの使用は控えてください』]

 

“でも……”

 

[『本来、貴女はここでカードを酷使することはありません。まだ見ぬ脅威の為にご自愛して下さい』]

 

 

 身を守ることで精一杯だ。でも、このまま悪戯に時間を無駄にすればソレアが自死してしまう。調印式を乗り越えたのに、また死なせるものか。しかし気持ちが奮い立たない。ソレアの強さは圧倒的で、弾幕の厚さと威力に絶望する。

 心のどこかで諦めかけた時、カタコンベから数え切れないドローン軍団が現れる。手も足も出なくても、これだけ数があれば何とかなるはず。

 

 

『増援が到着しました。これで隙を……』

 

 

 

 

 

「譚・繧九↑」

 

 希望的観測はソレアの前じゃ無に等しかった。ソレア は対の角から電流は発生させると、衝撃波と共にドローンは全機機能を停止した。雷が落ちたような音でソレア自身も焼かれている。

 

『電磁パルス─!──駄目…─回線が───』

 

 

 リオの通信も切れ、電磁波を放った角は今度は蒼いエネルギーを角に集束させる。エネルギーが球体になってくにつれドローンや瓦礫が空中に浮かび上がり、ソレアの方に引き寄せられていく。

 蒼いエネルギーは無機物を粒子状物質へ変換されて何かを創り出す。それは『箱舟』が有する物質変換システムと同じ現象であり、そして創られた兵器もまた同じく《名もなき神の遺物》だった。

 

 

 

 創られた銃の(かたち)をした無数の黒い筒は蒼く輝くと、射線上を溶かす光線を放った。

 

「先生避けて!」

 

 ソレア単体だけでギリギリ持ち堪えられなかったのに、無差別に攻撃する兵器の光線はシッテムの箱の防護を貫通して肌が痛みを感じる。避けれ無かった私を担いだミカも酷い火傷を負っている。

 

[『マズイですね……』]

 

“どうにかできないの?”

 

[『ソレアの力が想定より強力です。あの状態だと間もなく自身の力で自壊します。自壊する直前、ソレアの力が急速に壊れる瞬間を狙うしかありません』]

 

 

 

 

「蜈育函」

 

 

 あの子が私を呼んでいる。今のソレアに自我があるかなんてわかんないけど、ソレアはこうなることを望んでない。流す涙も血も黒く燃えて苦しんでいる。

 

[『チャンスは一瞬です。ソレアから漏れ出すエネルギーを演算して誘導します。絶対に他のことに気を取られないでください。貴女が死ねばキヴォトスが滅びます。行きますよ!』]

 

 合図と共に走り出す。ソレアは動かないが、光線は途切れることなく熱を発している。ジリジリと肉を焼かれる感覚を味わいながら足を必死に動かす。

 

 

「ぇ……セン……」

 

 

 

 

 

 

「タスケテ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───先生!!」

 

 

“うん、必ず助ける”

 

 自我が戻ってきたソレアが絶叫しながら身体を抑え込む。角の電撃と鋭く変形した翼に串刺しにされながらも、私を傷つけまいと力を抑えている。後数メートルの距離、数秒にも満たない距離が遠くてもどかしく感じる。

 

[『左に五歩、前に三歩、一歩下がって右斜めに十三歩』]

「先生、行って!」

 

 ソレアに少しづつ確実に近づいている。宙に浮かんでいる兵器をミカが頑張って壊してくれてる。

 

 

―残り、5メートル。

 

[『飛びついて!』]

 

 

“届……けぇ!”

 

 

 シッテムの箱の防護の無い、命を懸けたダイビングヘッド。刹那、黒い炎が消えて仮面が剥がれ落ちる。ソレアは気を失って倒れ、生み出された兵器も落下していく。世界から音が消えたような静寂を感じて、私はほんの少しだけ……安堵してしまった。

 

―カチャ……。

 

 まだ蒼い光を纏っている至近距離に現れた銃口が私の頭を正確に狙い済ましていた。多分、私がソレアに触れるよりも前にこの銃口は私を殺す。成功したと一瞬でも慢心した私の心に死が迫る恐怖と、結局ソレアを助けられなかった後悔があった。

 

「先生!」

 

 ミカではない声と弾丸が銃口を破壊する。背中越しに銃を向けてるサオリに感謝しながら、私の心は再び奮い立った。ソレアの命が燃え尽きる直前、伸ばした私の手がソレアに触れる。

 

[『接触を確認。』]

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─或る日。

 

 白い制服に身を包んだ二人の生徒はサンクトゥムタワーの特別な一室、生徒会長室にて書類の山を片している。

 

 

「《約束》をしましょう!」

 

 

 やってもやっても終わらない仕事の前で、青髪の少女は思い付きに目を輝かせて机を叩いた。

 

 

「……約束?」

 

「はい!」

 

「口より手を動かして下さい」

 

「……」

 

「……」

 

「…………………………」

 

「ああもうやります! やりますから無言で近付かないで下さい!」

 

 

 青髪の少女に鼻先スレスレまで顔を近づけられた白髪の■■は降参を意味して両手を上げる。

 

 

「フッフッフ、計画通り」

 

「はいはい早くして、この瞬間にも書類は増殖してますから」

 

「これも仕事と言えば立派な仕事です。私がそう言えばそうなんです。それに、これはあなたを守る為のもの」

 

「……私の?」

 

「はい、あなたの力が暴走した時のことを覚えてますか?」

 

「忘れたくても忘れられません」

 

「あの時、私があなたと結んだのは、あなたの力を私が管理する代わりに、あなたに自由と私の生殺与奪の権利を捧げる《協約》でした。今回は《誓約》です」

 

「約束……か」

 

「キヴォトスで《約束》は確固たる力を持ちます。現に今、ソレアと私はまだ生きている」

 

「違う、私はあなたに生かされただけだ。キヴォトスを想ってあそこであなたに殺されても──」

 

「だからこその《約束》です」

 

「……なるほど。でも()()()()()んですか?」

 

()()()ならきっと」

 

 

 片目の隠れた青眼に映る純白の■■。キヴォトスの統治者、その眼には確信に近いものがあった。

 

 

「何を約束する?」

 

「私が《行方不明》になった時、ソレアに掛けていた制限を全て解除する。ソレアに再三の暴走が発生した際、■■■の接触をもって力の再封印を施される」

 

「よし、私はそれを《約束》しよう」

 

 

 別に何も無かった或る日、二人で固く誓った。特段それは語るべきものでは無い、ただ……そんな日常が存在していただけだ。

 

 

――――――――――

 

 

 ソレアが光に包まれた後、私の目の前に居たのは純白の──いつものソレアだった。翼と腕は治ったままで、疲れた顔をしている。

 

“ソレア?”

 

「おはようございます先生」

 

 ソレアを苦しめ、滅びを齎す黒がドロリと落ちて純白だけが残った。何が起きたのか、ソレアが一体何者なのか私にはわからない。シッテムの箱を見てもアロナが寝ていて■■■らしき姿は無い。

 

「先生……どうして私を止められたんですか?」

 

“うーん、なんと言えば……”

 

 アツコを救出するはずが、奇妙なことが立て続けに起きた。全ての事の発端はベアトリーチェだが、そういえばアイツは何処に……

 

 

「アハハハハハハハ!!」

「グッ!」

 

“なっ……!”

 

 やられた。不意打ちで木の根のようなものがソレアの腹部を貫く。狂響とした笑い声が響いて、蔓で手足を拘束する。赤く芽吹いたベアトリーチェは最後の力で怪物へと変態して、私たちの油断をついた。体の端が崩壊し始めてながら笑うベアトリーチェに恐怖を感じる。

 

“ベアトリーチェ? 何を!?”

 

 ソレアはまだ本調子じゃないのか抵抗してる素振りが見えない。

 

「ソレアを離せ」

 

 サオリが引き金を引くも、弾切れの銃から弾丸は放たれない。ミカは満身創痍で座り込んで動かない。この子達は十分頑張った。後は私が……、あと少しで全て解決する。私はカードを取り出す。

 

 

“大人のカードを使う”

 

 

 私の生徒達がベアトリーチェへ攻撃を始める。もう私の頭の中に代償とか考える余裕は無かった。

 

 

 

「もう遅いんですよ!」

「ぁがっ!」

 

 ベアトリーチェの鋭い枝が胸を貫く。ソレアのヘイローが欠けて点滅が始まる。

 

「アハっ、アハハハハハ!」

 

 胸に穴を開けて、胸骨を砕いて、肋骨を折る。腹部の穴と胸部の穴から二、三本の長い指を入れる。ぐち……ぐち……と音を鳴らしながら肉を掻き混ぜる。玩具箱から目当ての物を探す赤ん坊のような、嬉々として肉体を弄ぶ。貫かれた時に切れた腸が垂れ出ている。真っ赤な血がベアトリーチェを伝って数滴の雫が滲み出る。

 

 

「ヒュ……」

 

 

 誰か……、私かミカかサオリか……。息が喉を鳴らした。黒から白、白から赤になったソレアにヘイローはもう無い。ベアトリーチェが畝る度にビクンと跳ねる。

 

 

「あった……」

 

 内臓を引きづり出しながらソレアの体から出て来たのは、黒とも紫ともとれる《色彩》に汚染された心臓。禍々しく鼓動を打ち、ドス黒い液体を吐き出す心臓をベアトリーチェは愛おしそうに持つ。

 

「これが……これこそ《色彩の心核》!! 崇高を生み出し続ける神の力の源!」

 

 オーロラがベアトリーチェを囲み、傷が癒えていく。依り代を失った剥き出しの核は力の奔流が始まる。新たな依り代に取り憑き、その存在を無理矢理《崇高》へと押し上げる。

 巨大化が止まらないベアトリーチェは自身に起きることを把握しきれずともその稚拙な予測で笑みを浮かべる。

 

「さあ、私をより上位の存在へ! 《崇高》をこの手に──」

 

─パァン!

 

 

 最初にベアトリーチェの腕が木っ端微塵に弾けた。次に胴体、最後に頭が。

 簡単な結末だった。膨大な力に器が耐えられなかった。愚者と名付けるに相応しい結末。道連れに一人の生徒を殺して……。

 

 

 

 

 

 ベアトリーチェの消滅に三人は唖然とする。

 

 取り敢えず私の生徒──凄惨な死体となったソレアを見る。内臓と呼べるものはあらかた無くなった空洞には虚無が詰まってる。ソレアは強い、キヴォトスの色んな生徒を見てきたけど単純な戦闘力では一番強い。膂力と再生能力もあるのに呆気なく殺されたのは多分あのナイフの効果がまだ残ってたからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

“次はどうしよう……”

 

 

 羽を握る。

 

 

――――――――――

 

キヴォトスは救われた

 

 




人が死ぬのは簡単だ。死の証明は生の証明より簡単だ。羽ばたき一つ解釈が多元に渡る。小さなと表現されるべき事象の影響は測れるべきか。結末、これは本来有り得るものであったのか。


ベアトリーチェにソレアグチャグチャにして欲しかったから書いた。



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エピローグのバッドエンド

6

ども、素人投稿者です。

これにてエデン条約編、終幕です。


 

 

何故?

 

何故、繰り返すことができるのか?

 

何故、繰り返すことができるのか、物語の結末はそうであったはずなのに?

 

何故、繰り返すことができるのか、物語の結末はそうであったはずなのに、傲慢にも望んでいるのか?

 

何故、繰り返すことができるのか、物語の結末はそうであったはずなのに、傲慢にも望んでいるのか、切り取られては繋げられて伸ばされる命は生きていると言えるのか?

 

 

 

――――――――――

 

 

「おや? おやおや……。こんにちは先生」

 

 今回は長く進めることができた。ここさえ乗り切れば《色彩の襲来》までは安心できる。

 

“早くしてくれ”

 

「おや? ……なるほど、そこまで来たのですね先生。どうやらワタシはもう殆ど語り尽くしたらしい。ですがワタシは何時でも手を貸します。先生が紡ぐ選択……その先にある物語を楽しみにしています。それはもう大いに」

 

 

 相も変わらず変な奴だ。何がしたいのかよく分からない上、この空間と言い不可解な力を持っているのは確か。元ゲマトリアと名乗っていながら私に対しては協力的で、実際そのお陰でソレアが生存する世界線が確立しつつある。

 

 

“お前の目的は何だ?”

 

「………………嫌ですな。言わばワタシが貴女の物語を観測することです。貴女の懸念するようなことは存在しません」

 

 どうだか、口ではどうとでも言える。態とらしい態度が癪に障るが、しかし今は疑う以上のことが出来ない。大人しく時間切れを待つ。

 

「暇を持て余してるので、ではお送りしましょう。またお会い出来るのを楽しみにしてます。それはもう大いに」

 

 意識が暗転して来た。またいつもと同じく逆行した時点で覚醒するだろうが、意識が落ち切る前……ドクトゥスは笑っていたような気がした。

 

 

――――――――――

 

 

「おはようございます先生」

 

 一瞬、調印式の日まで戻ったと思って吃驚する。疲労の目を見て、ソレアが純白に戻った直近だと気付く。

 

「先生……どうして私を止められたんですか?」

 

 答えようともせずにソレアの腕を引いて退る。居た場所から鋭利な根が突き出るも、私の意図を察したソレアが私を咄嗟に抱えて回避した。

 

「……何故分かりました?」

 

“ソレアはやらせない”

 

 キメ顔で言ってみたが、抱えられたままじゃカッコつかないな。でも、不意打ちは防いだ。

 

「ですが貴女の生徒は満身創痍。貴女もカードを使うのが厳しいほど消耗している。大人しく崇高を差し出しなさい。私の敵対者」

 

 

「嘗めるなよ?」

 

 蒼い雷が迸り、瞬きの間にソレアの手に白い大太刀が現れる。刹那に閃き刀を振るえば、ベアトリーチェは四肢を失い達磨になる。隻腕片翼から五体満足に戻ったソレアは万全ではないとはいえ連邦生徒会最強の白故ソレアだ。

 

「は? ……ハア?」

「不意打ちが成功するなら兎も角、真正面から私と対峙したんだ。覚悟はいいか?」

「ま、待ちなさい。私は─」

 

“もういいよソレア。そこまでだ”

 

 正直ベアトリーチェの処遇なんてどうでもいい。でもソレアの手がベアトリーチェで汚れるのは嫌だ。汚いしそんなことする意味無いからね。

 

「止めて下さりありがとうございます、先生」

 

 首無しコートの杖を持った紳士服と、手に持つ顔の額縁がどこからともなく声をかけた。

 

「デカルマニーと……ゴルコンダか」

「お元気そうでなによりですメトニミー」

「黙れ、私を記号で見るな」

 

“ゲマトリアか”

 

「おや、私のことをご存知でしたか。どうやら以前お会いしたようだ。私は戦いに来たのではありません。マダムを連れ戻しに来ました」

 

 

 ゴルコンダを睨みながらソレアはベアトリーチェの首に切先を立てる。

 

「いや、ベアトリーチェはここで処刑する。私は此奴を処刑できる権限を所有している。此奴はやりすぎた」

「その主張は尤もです。しかし、私共も一応の仲間である彼女を見捨てることはできかねます」

 

“いいよゴルコンダ。連れてって”

 

「……先生?」

 

“大丈夫、何かあってもなんとかするから”

 

 私はこれ以降ベアトリーチェがキヴォトスに危害を与えることがないことを知ってる。ソレアを制してベアトリーチェが連れてかれるのを見てると、ゴルコンダとデカルマニーは礼儀正しく礼をした。

 

「この舞台装置(マクガフィン)は私達にお任せ下さい。先生……貴女が介入してしまうと、全ての概念が変わってしまいます。元々この物語の結末はこうではなかったはずなのです。白故ソレアも、もっと文学的なテクストだったのですが……」

 

“いいから早く行け”

 

「ええ、そうします。〈ヘイローを破壊する爆弾〉も、〈神秘を希釈するナイフ〉も、実験としては成功しましたから。ですが、残りは廃棄にします。白故ソレアに露見した以上、私の手元にあれば殺されてしまいそうですからね。マダム、帰りましょう」

「ゴルコンダ……」

「失礼しました、先生。それでは、また」

 

 

 何処かに消えていく二人を見届けて、この物語は本当の終幕を果たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「助けて先生」

 

 病室でもみくちゃにされてるソレアは半泣きになりながら助けを求めてくる。

 

“……ドンマイ”

 

「あ、いや、待って! ちょっと何処触ってんの?! や、やめ!」

 

 トリニティ総合学園を混沌に陥れた事件は無事に解決された。ミカはティーパーティの権利を剥奪されたが、退学になることはなかった。アリウス分校は正式にトリニティ総合学園と併合することになり、ベアトリーチェを失って行き場がなかったアリウス生徒を受け入れることに。アリウスとトリニティの溝はゲヘナと同じくらいあるが、時間が緩和してくれるのを待つしかないだろう。

 

「駄目だって! ちょ、聞いてる皆さん?!」

 

 ソレアは失った腕と翼が戻り、これまで通り生活できるようになった。

 

「いや、まだ何処かに怪我があるかもしれない。もっと詳しく見るべきだ」

「医者ァ! もう救護騎士団にも救命医学部にも診てもらったから! 恥ずかしいくらい隅々まで見られたから!」

「ふふ、照れてる? ほらここ、こんなにしちゃって……」

「アツコはもっと下心隠せ!」

「ねえ、もう何処にも行かないで……」

「暑いから包帯巻かないでミサキ! もう十分巻かれてるから! あ、ちょっとその巻き方身動き取れないから!」

「えへへ、これからはソレアさんと一緒ですね♪」

「うん、もう苦しくないよヒヨリ!!」

 

 

 病室だというのにこの盛り上がりよう。ソレアも変なテンションになってる。

 アリウススクワッドはソレアの要求でシャーレに来ることになった。最初はみんな自分達のような犯罪者は……とか言ってたが、ソレアが軒並み黙らせた。先の戦いで酷い怪我を負ったみんなは入院、見た目は怪我が無くても一応でソレアも入院することになった。それからというもの、ミカ、ナギサ、セイア、ヒナ、リオ、ヒマリ、ウタハ、チヒロ、……等など、入れ替わるでもみくちゃにされてる。誰か来なくてもスクワッドにもみくちゃにされる。……なんかもうご愁傷様。

 

“ご、ごゆっくりー”

 

「ちょっと先生? 見捨てるんですか先生? 先生ー!」

 

 私は何も聞いてない。うん、ナニモキイテナイ。

 

 

――――――――――

 

 

 月が綺麗に照らされる宵。漸くと落ち着き静寂が訪れた病室。不意に眠気から醒めた。

 便所は何処だったか、と思いながらスリッパのカサカサと乾いた音を鳴らして扉を開ける。廊下はとうに消灯しており、非常灯だけが淡くその周りを明瞭にしている。

 

(思い返せば、シャーレに来て初めての大仕事だったな)

 

 帰ればきっと溜まりに溜まった書類が待ち構えている。サオリ達には早急に仕事を覚えてもらう必要がありそうだ。

 

「先生は凄いな」

 

 あの人は《未来》を変える力を持ってる。()()()は確実に発動しているが、それでも《未来》を変えることなんて普通はできない。星の動きが決められているように、辿り着くべき《未来》は定まっている。先生がしたのは天体──世界そのものの解釈を丸ごと変えることだ。

 

(起こり得てしまったよ■■■)

 

 いつの日か結んだ約束が自分をまだ自分にしてくれている。力の全権限は自分にあるが、《恐怖》のものは封印されて暴走する気配がない。もう《未来感知》の暴走も無いと断言できるし、絡まっていたコードが整理されたような感覚で前より動きやすい。この調子なら明後日には退院できるだろう。そして……

 

 いつか必ず訪れるキヴォトスの終焉。先生なら……。

 

(■■■も同じこと考えたりしたんだろうな)

 

 自分や■■■じゃ絶対出来なかったこと。キヴォトスの安寧を守り抜くことがどれほど困難なことか、自分はよく分かっている。

 

「ん?」

 

 暗い廊下の向こう側から人らしき影が歩いてる。自分と同じここの患者だろうと思い、その人も同じく便所に行ってたんだと勝手に勘違いした。

 

「こんばんは」

 

 すれ違い様に軽い挨拶を試みるも、その人は顔が見えないくらい俯いたまま無言で通り過ぎて行った。病院だしそんな人もいるだろうと気にもせずにそのまま便所に向かおうとして、膝を着く。

 

「……?」

 

 疲れが出たのかな、と立ち上がろうとして……また倒れる。病衣が濡れた感覚に手をあてると、何かの液体が横腹に付いていた。暗くて分からなかったそれを目を凝らして見ると、血?のような……。

 

「死ねよ」

 

 すれ違ったさっきの人がマウントポジションになる。手には見たことがある気がするナイフ。

 

「死ねよ!」

 

 躊躇なく振り下ろされたナイフは自分の肉を裂いて内臓を潰す。

 

「死ね、死ね!」

 

 ナイフは普通、物を切る為だけにある物だ。部隊装備のナイフはあるがそれはサバイバル用、殺傷能力は期待されてない。だって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から。

 

「死ね!!」

 

 衝撃が体を押し潰す度、痛い。入院時に貧血気味って言われたのに……。流れた血は、肉体の機能を維持することが出来なくなる量を超えている。

 

「……ぁ…………」

 

 助けを呼ぼうとするが出ていくのは血ばかり。呆気なく、簡単に、自分は死んだ。

 

 

 

――――――――――

 

 

 今日は、朝から病院全体が騒がしかった。何があったのか看護師に聞いても病室から出ないでの一点張り。先生とソレアに半分強制的に入院させられて元気な私は、好奇心から廊下に出てしまった。

 

「……?」

 

 誰かが倒れてた。白い翼に白い角、白髪の人。私の知るその人によく似ていた。

 

「??」

 

 ソレアだ、ソレアが倒れている。大きな血痕の真ん中に倒れてる。もっと近くで見ないと……見間違いかもしれない。

 

「すみません、ここは現在閉鎖されてまして」

「……関係あるよ」

「え?」

 

 何処ともしれない誰かが私を止める。数人の白い制服を着た人がソレアを隠そうとする。

 

「あ、ちょっと聞いてますか!」

「通して」

 

 邪魔な障害を掻き分けて、ソレアに近寄る。見間違いじゃなかった。ソレアが死んでる。なんで?

 多数の刺傷と失血による生命停止。争った形跡は無し。

 

「ねえ、なんで?」

 

 翼に触れると、表面張力の膜が溶けたみたいに崩壊していく。

 

「え…………」

 

 大切な人が全部消えてしまう。止めたくても翼は砂になって崩れて、角も同様に崩れた。翼と角が無くなったソレアは髪色が茶色に変色する。崩壊は止まらず足からも始まった。

 

「誰か、誰か止めて!」

 

 私の最初の家族、私の…………大好きな人、愛してる人。

 恐る恐る抱き抱えて、せめてもと口付けをする。死体なのに羽のように軽い……もう頭しか残ってないからか。

 

「姫!」

「サオリ……?」

 

 ああ、もう全部消えちゃった。全部砂になっちゃった。

 

「ソレアが……」

「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!! また救えなかった? どうして私は……私は」

 

 ブツブツと独り言をして、サオリも壊れちゃった。全部終わったのに、ソレアの全部無くなっちゃった。

 

「集めないと」

 

 ソレアを手で集める、まるで砂遊びみたい。全部集めないと無くしちゃいそう。

 

「また花を育てよう。何がいいかな? ピンクのセザンカ、アイビー、黄色いスイセンもいいね。きっと綺麗に咲くよ」

 

 

 

 この結末に、救いは無い。

 

 

――――――――――

 

 

「おや? ……おやおや、これは想定外でしたね。仕方ありません、今回は特別ですよ。先生」

 





まだ砂が残ってて良かったね。肥料にすればきっと綺麗に咲くよ。エンジニア部が頑張ればクローンくらい作れるかもね。ティーパーティーは思い出の品を大事に抱えて眠って……あ、ミカのは燃やされちゃったんだっけ?ヒナとサオリは一生曇ってて♪リンちゃんは犯人探し頑張ってね。


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希望のバッドエンド
終わりは夜陽と共に


ども、素人投稿者です。

遅くなって申し訳ありませんでしたぁ!
最終編開幕!

最終編は曇らせ少なめです。
終わったら沢山しますんで容赦して下さい。


 

 

 

 

「……私の我儘でした。」

 

 

 

「私の《未来》、そしてそれによって招かれたこの全ての惨状。」

 

 

 

「結局、この結果に辿り着いて初めて、私の方が間違ってたことを悟るだなんて……。」

 

 

 

「今更かもしれませんが、お願いします。」

 

 

 

「先生。」

 

 

 

「私のことは■■てしまうでしょうが、もう大丈夫です。」

 

 

 

「これからも貴女は、あなたの選択でこのキヴォトス()を最善に向かわすでしょうから……。」

 

 

 

「ですから……大事なのは願望ではなく、選択。」

 

 

 

「あなたにしかできない選択の数々。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「命をかけることについて、話したことがありましたね。」

 

 

 

「信じることであの時の私はそれで一命を取り留めましたが、今ならこう言います」

 

 

 

「《未来》への恐怖と信頼。そして、その水面下にあった、あなたの奮闘。」

 

 

 

「それが意味する結末も。」

 

 

 

「……」

 

 

 

「ですから、先生。」

 

 

 

「私と■■■が信じられた大人である、あなたなら、」

 

 

 

「いつの日か訪れる正しい形をした終着点とは、また別の意味を……。」

 

 

 

「そこへ繋がる選択肢は……あなたの中にあるはずです。」

 

 

 

 

「だから、どうか……──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

最終編

あらゆる希望の終着点

 

――――――――――

 

 

―ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ。

 

 

 まだ眠い眼を擦って視野を確保する。ゆっくりと体を起こしながらアラームを切る。しっかりとした作りのベッドが重力に反発しているのを感じて、硬い机で寝ていたのが懐かしいと思う。あの頃は大変だったなー、と感慨にふけるのも程々に、寝巻きを着替えていく。

 扉から鳴るノック音に返事をすると、綺麗な声が失礼しますと部屋の中に入り込んだ。

 

「起きましたか、先生」

 

 カーテンの間から射し込む陽光に白髪を輝かされ、白い制服を着こなすシャーレ専属の生徒。

 

「……着替え中なら言ってください。見ちゃったじゃないですか」

 

“えー、別に減るんもんじゃないし……役得でしょ?”

 

「寝ぼけてないでさっさと着替えてください!」

 

 カーテンを勢いよく開けながらソレアは言う。急増した光量に目を細めると、ソレアの耳が赤くなってるのに気付いた。大人びたソレアでもまだまだ子供なんだ。着替えを終わらせて、休憩室に入ると優しい甘い香りが漂う。

 

「はい、パンケーキです」

 

 淡々と皿を並べたソレアが紅茶を淹れて椅子に座る。蜂蜜を垂らしたパンケーキはまだ焼きたてで、紅茶の湯気と一緒に私を肌から温めてくれる。

 

「……どうしました?」

 

 こういうの……なんて言うんだろう。

 

“幸せだなー、って”

 

「はあ……」

 

“もうソレアなしじゃ生きていけないよ”

 

「はいはい」

 

 いつまでもこの日常が続きますように。

 

 

――――――――――

 

 

「終焉……ですか?」

「うん、先生と百合園セイアが予知夢として確認してる。私の未来感知とも相違がないから間違いないね」

 

 リンは自分の報告に信じられずに険しい顔になる。

 

「前例の記録は残されてないから探しても無駄。正確な時期はわからないけど、リンちゃんには出来うる限り統制を強化してほしい」

「……はあ」

「仕事で頭いっぱいなリンちゃんの為に言っとくけど、生徒会長代行としてもっと連邦生徒会を見ていた方がいい」

「あなたが帰ってきたら解決するのでは?」

「私はこっちに来れない。シャーレが忙しいってのもあるけど、そういう約束だからね」

 

 そう言うとリンは溜息をつきながら眉間を抑える。それもそのはず、実質リンは自分と■■■の分の仕事もこなしている。■■■が行方不明になる前でも幾つかの仕事をリンに任せてたのに今じゃあその5倍くらい忙しいはずだ。本当に申し訳ない。

 それに最近の連邦生徒会はかなり腐敗している。■■■1人消えるだけでこうまで仕事が出来なくなるのは■■■の統制不足か、そもそも連邦の生徒が無能なだけか。何にしろこのままじゃ最悪リンちゃんが潰れる。終焉が最優先だけどリンちゃんも大事だ。

 

「……でも最悪私は連邦に戻ることも考えとく。リンちゃんは各生徒会との連携準備をお願いね」

「はい、わかりました。あなたも無理はしないで下さいね」

「ちょっと承諾しかねるなぁ」

 

 睨んでくるリンちゃんが怖い。しょうがないじゃん、終焉だよ? 最悪先生守る為に私死ねるよ? あー待って詰め寄らないで。

 

「私があなたの事を心配していないとでも思ってるんですか? 入院したと聞いた時も仕事のせいで行けない私の気持ちがわかりますか? あなたまで居なくなったら……そんなに私を一人にしたいんですか?」

「……っ」

 

 頭を自分に預け、胸の紋章を握られる。連邦の生徒であることを表す紋章。それを誰にも見えないように隠される。

 震えるリンに戸惑うも、背中に手を回す。少し震えが治まった気がした。

 

「…………ごめん」

 

 自分にはそんな言葉しかなかった。リンを傷付けたとしても、()()()()()()()()()()の為に、自分は先生にこの全てを捧げる。

 可能性──IFの世界があったとして……自分は必ず誰かを独りにする。それが旧友の誰かなのか、これから出会うかもしれない誰かなのか。確かなのは自分は誰かを残して消えることだけ。

 

 

 

 この日、空はどんよりと曇っていた。

 

 

――――――――――

 

 

 

『キヴォトス全域で、超高濃度のエネルギー体がいくつか観測された』

 

 その知らせが来たのはリンと話した数日後だった。

 

「これから私は連邦生徒会に行ってくる。私が留守の間、先生を頼んだ」

「任せてくれ」

 

 サオリ達にシャーレと先生を任せて翼で羽ばたく。先生には連絡可能な生徒会全てに連邦への要請容認を促してもらい、自分はサンクトゥムタワーに向かう。

 

(アビドス砂漠、D.U.近郊の廃墟化した遊園地、ミレニアム郊外の閉鎖地域、トリニティとゲヘナの境界付近、ミレニアム近郊の新しい都市と……サンクトゥムタワーか)

 

 終焉が《色彩》だとすれば前者五地点の原因は解る。しかし、サンクトゥムタワーか……。

 

(楔を埋める気だな)

 

 虚妄のサンクトゥムタワー、キヴォトスを終わらせるなら有効。よりによって連携が重要な奴だ。連邦は役立たずだから先生が指揮権を得る必要があるな、と考えてるうちにリンが居る部屋に辿り着く。

 

 

「あなたが代行になったのは、統括室の「行政官」だったからであって、あなたの能力が認められたのではなく、あくまで必要だったからに過ぎない」

 

 この声は扇喜アオイか。数少ない連邦のマトモ枠、それがどうしてリンを弾糾する? 入ると部屋の全員が自分を見る。

 

「リンは認められて「代行」に位置にいる。アオイ、文句は■■■に言え。必要だから能力で選んだ。態々使えない代行を選ぶわけないだろ」

「あなたは……」

「一時的に私は連邦に席を移す。()()()()()()()()()として、リンのサポートに入る。短い間だけどよろしくね」

「責任はあなたが取るということでいいのよね?」

「勿論、今起きてることに対処しないとキヴォトス滅ぶからね。野次は全て終わってから好きなだけどうぞ」

「…………そう、わかったわ」

 

 半分納得した顔でアオイが退室するのを見届けてからリンに向き直る。

 

「さあ、仕事だ連邦生徒会会長代行」

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

“それで、ソレアはなんて?”

 

「連邦生徒会に呼ばれたら私たちを護衛にして来てくれ、と」

 

“よし、じゃあ行こうか”

 

 

「失礼します。お迎えに上がりました、先生」

 

 ノックも無しにズカズカと入り込んで来た者を見る。見た目は……ヴァルキューレか。

 

「サッちゃん……」

「ああ……」

 

 私だけでなく、みんなが違和感を感じた。先生を後ろに隠しながら4人で壁になる。

 

「迎え……とは?」

「先生はこのキヴォトスにおいて重要な存在です。連邦生徒会から迎えを寄越すよう言われましたので、先生は我々と共に来てもらいます」

 

 ……きな臭い。彼女の言うことは最もらしいが、ソレアが態々()()()()護衛を頼んだんだ。連邦の遣いではなくヴァルキューレなのも不自然。私は銃口を向ける。

 

「ッ!? 何の真似だ!」

「お前達、本当に先生を連邦生徒会に連れていくんだろうな?」

「そ、そうだ! 邪魔をするなら、連邦生徒会に楯突くことになるぞ!」

「関係ないな……行くぞ!」

 

 アリウススクワッドが戦闘を開始する。スモークグレネードを合図に、出口までの経路を確保すべく各々銃を構えた。

 

 

――――――――

 

 

 

 リンは非常対策委員会を招集。各校の代表を集めた連携の取り決めることとなった。最初に部屋に招くのは、ゲヘナ学園の万魔殿とトリニティ総合学園のティーパーティーを始めシスターフッドと救護騎士団の長。先生の到着を待たずに行うことになるが、まだ自分が橋渡し役ができる面子だ。

 

「リン……なんで二校を向き合わせるの?」

「連携をとる以上この2校が軸になるからです。私一人でしたら無理ですが、あなたがいるから安心できます」

 

 対立するような構図で全員が席に着き、会議が始まる。緊迫した空気は非常事態に対したものではなく、目の前の永年の怨敵に対するもの。

 

 

 

~~~~~

 

 

 一先ずの説明は無事に終わり。リンが協力を要請する。なんとも言えない緊張感の中言葉を発したのはシスターフッドの歌住サクラコ。

 

「あの、先生はどちらにいらっしゃるのでしょうか? この非常対策委員会に参加すると伺ったのですが」

「そ、それは……」

「現在、先生と連絡が取れない状態です。護衛につけた者からも連絡が無いことから何かしら切羽詰まった状況、襲撃を受けた可能性があります」

 

 代表者だけでなく、後ろの控えたちにも衝撃が走る。予め自分の話を聞いていたリンも顔に力が入る。

 

「襲撃ですか?」

「はい、襲撃者はカイザーでしょう。なので到着まで時間がかかります。シャーレへの報告なら自分が受け付けますよ」

「何故……そんなに落ち着いてるのですか?」

「信頼できる者を護衛にしてますので。最悪、緊急信号で私が向かいます」

 

 これで納得してくれただろうか。しかし不安は拭えていないようだ。

 

 

 

───キィィィィィィィ!!!

 

 

 ヘイローが回転を始める。その速度は能力使用時の比ではなく、自分自身も今は能力を使用していない。暴走ともまた違うそれに、室内の全員が注目する。

 

「ソレア……?」

 

 隣のリンが自分の胸部を見ている。頬に赤い水滴が付いてるよ。

 

 

 

「あ?」

 

 胸から何かが飛び出てる。黒い……刀か? 珍しい、書に記された武具ではないか。

 

(あれ?)

 

 引き抜かれた刀の跡から血が出ていく。ああいけない、このままでは死んでしまう。

 

 

「罪過、奸邪、曲悪、全ては汝だ」

 

 

 倒れて横目で後ろの者を見た。其の者の顔はよく似ていた。鏡に映る……他ならない自分に。

 驚きは無い。でも疑問はある。

 

 

(何があった…………()()()()()

 

 

 

――――――――――

 

 

 その場の全員が何が起きたのか分からなかった。ソレアの背中に出現した黒い炎がソレアを穿っている。空間を白と黒の羽が舞い散る。何も無い所から現れたのは、黒い翼と角、白と蒼のオッドアイ。黒いボロ布を纏うソレアだ。

 

「ソレア……?」

 

 引き抜かれた大太刀の穴から噴き出す鮮血がビシャリと血溜まりとなる。一番早くに行動したのは聖園ミカ。握り拳を振りかぶり、虚に突き出す。陽炎が消えるみたいに黒い炎が燃え尽き、血と羽を残してソレアは居なくなる。

 

「…………え?」

 

 唖然として呼吸を忘れる。心臓の音だけがうるさくなっていき、視野がぼやける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 最期にでも…………また会いたかった。

 





https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=305982&uid=389560
活動報告にて最終編終了後リクエストのキャラを曇らせます。好きな子をどうぞ。リクエストなくても勝手に曇らせます。


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あらゆる希望の終着点

ども、素人投稿者です。

頑張りました。現場からは以上となります。


 

 

 

「ソレア先輩、それはダメ」

「どけシロコ。今殺す、絶対に殺す」

 

 ゆっくりと目を開けると、もう一人の自分が血眼になって刀を手に剣先を自分に向けている。自分を庇ってるのは……多分シロコ。黒いドレスを着てこっちのよりスタイル抜群だけど、シロコだ。彼女の頭の上に浮かぶヘイローは変色して欠けている。変色は反転、欠けたのは《色彩》と触れた影響だろう。

 

「おい起きたぞ。殺す」

「ん、絶対にダメ」

 

 もう一人の自分が起きたのに気付いて大太刀を振りかぶる。もう一人の自分が自分を殺そうとするのは分かる。でも恐怖のシロコが自分を庇うのは何故だ?

 

「シロコ、なんで私を庇ってるの?」

「……この状況で私に聞くの?」

「私が私を殺そうとするのは分かるからね」

 

 そう、()()()のだ。命を粗末に扱う訳じゃないけど、自分の周りに誰も居なかったら自殺くらいする。いや死にたいんじゃなくて、生きててもしょうがないから。

 

「変な先輩……」

「どけシロコ。殺すから」

「殺し合う? キヴォトス救った後ならいいよ」

 

 乖白刀を手に立ち上がると、自分が斬り掛かる。もう一人の自分が持ってる黒い大太刀はやっぱり乖白刀の色違いじゃない。書に記された、言わば空想の武器。

 

「待てもできないの?」

「先生とシロコだけは……絶対に守る!」

「は?」

 

 鍔迫り合いから距離を取り、刀を降ろす。終焉が《色彩》であるのは確定している。どうしてそこで先生が……。いや、()()とシロコが恐怖(テラー)に反転していても会話出来てるってことは。

 

「先生が嚮導者……なの?」

「…………」

「…………」

 

 二人の沈黙はそうだ、と言っている。戦意も消え、興も乗らない自分は腰を下ろし、二人を見る。

 

「話してくれない?」

 

 

――――――――――

 

 

 意外にも会話は成立して、シロコらはここまでの経緯を教えてくれた。()()した世界線……と表せばいいのか。そんな希望も何も無い世界線での自分はアビドスに保護されてたらしい。連邦生徒会には入っていたが、頻繁にアビドスに顔を出し、援助を求めて連邦に直談判していたそうだ。

 何をかけ違えたのだろう。その結末が正しいものなのかはどうでもいいが、《色彩》が自分だけでなくシロコも接触していたのが理解できない。

 

「私は本来此処にいるはずのない存在だ。本来此処に立つのはシロコだけのはずだったんだ」

「……なるほど」

 

 つまり、自分が今まで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。シロコは()()()()()()の影響で反転させられた訳だ。そのせいでシロコは死の神としてキヴォトスを滅ぼし、先生に()()()()()()()

 

「私のせいで……ごめん、ソレア先輩……」

「謝らないでシロコ。シロコが銃を取るなら私が撃つ前に斬るから。みんな居なくなっても私だけは……私と先生だけは何時までも一緒だよ。最期まで一緒に居て」

「……二人の関係は?」

 

 二人の距離の近さに気になったことを聞く。こっちのシロコとは知り合い程度の関係だが、あっちの自分はかなり親密のようだ。

 

「私に残った最後の大切な人」

「終わりまでの共犯者」

 

 もう一人の自分のシロコに対する感情の重さに若干引く。自分がこんなにクソ重感情を持てるんだという発見と、自分は重くないという謎の自己防衛を経て、話をまとめる。

 

「事情は分かった。存在のパラドックスを避ける為に私を殺す。でも此処は多元解釈が機能するアトラ・ハシースの箱舟なんでしょ? こっちのシロコも連れて来てるみたいだし、まだ大丈夫でしょ」

「先生が何とかする……って?」

「まあそうだね。言葉にするまでも無い」

「駄目だ、()()()の先生が何とかしてもらうと困る」

 

 黒い炎からこれまた空想の中に存在した銃を生み出したもう一人の自分は銃口を自分の顔に向ける。自分同士に余計な言葉は要らない。乖白刀とカエルムを構える。

 

「なら、やることは一つ」

「シロコは侵入者に備えて。横槍は不要だ」

 

 

 

「「此方と其方、生存を賭けた戦いだ」」

 

 二つの銃口から放たれた弾丸は、両者の間で混じり、潰れ、弾けた。

 

 

――――――――――

 

 

 多くの生徒たちの手を借りて、アトラ・ハシースの箱舟まで来た。シロコを見つけて、ウトナピシュティムをハッキングしている場所にシロコと向かう。

 

“私とシロコがハッキングを止めてみる。後のことは、お願い”

 

 通信先から驚く声、安全を心配する声、私を信じてる声が聞こえる。まだ、ソレアは見つかってない。シロコに聞いても見ていないと言うけど、絶対にここに居るって分かる。生きているとも思ってる。リンちゃんに聞いた話じゃ刀で胸を貫かれたらしいけど、それを聞いても私の心は冷静だった。私しか知らないけど、()が反応してないからまだ生きてる。

 悔しそうにソレアの羽を握るリンちゃんを元気付けて、アリウススクワッドやSRT、今まで紡いできたことが折り重なるように辿り着いた管制室。私は()()の戦いを見届ける。

 

 

『“……我々は望む、ジェリコの嘆きを”』

『“……我々は覚えている、七つの古則を”』

 

 引き金を引いたシロコの銃弾は一つも命中することは無かった。奴が持っているタブレットは……まさか……。

 

“下がってシロコ”

 

 

『先生の生体認証、完了。この「シッテムの箱」に常駐しているシステム管理者であり、メインOS──A.R.O.N.A、命令待機中』

 

“アロナ……?”

 

 

 

 パスワードを唱えた後、アロナに瓜二つな少女が現れる。タブレットの中の存在であるはずのシステム管理者が実体化しているのは、何かしらの難しい事象が起きているからだ。

 

「定められた運命に抗うことはできない。キヴォトスは終焉を迎える」

「あれは……私?」

 

 嚮導者の空間からシロコが出てくる。もう一人の自分にシロコは驚いた空いた口も塞がらない。

 

 

──ドゴォン!

 

 

 轟音と共に管制室の壁が砕かれ、黒い影が反対側の壁に衝突した。

 

「あれ? 先生」

 

 砕かれた方の壁から砂煙を払いながら白故ソレアが室内に入ってくる。埃一つ無い真っ白な制服に大太刀と拳銃。本気の臨戦態勢だ。

 

“無事でよかった”

 

「いやあ、心配させて申し訳ありません」

「……ハァ!」

 

 こっちを見たまま、ソレアは自身に迫る凶刃を大太刀で防ぐ。刀を振ったのはシロコと同じようによく似た黒いソレア。リンちゃんから聞いた通り本当にそっくり……いや本人なのか。

 

 

 

 私はシロコが攫われるのも、《色彩》が襲いかかるのも()()()()()。一度はこれの終わりまで来ている。プレナパテスが別時間軸の自分なのも、別時間軸のシロコが辛いことを経験していることも。全部知ってた。違うのは、〈ソレアが生きてること〉だけ。対策を何もしてなかった訳じゃない。私に出来る限りのことはしてきた、でも《色彩》の襲撃時期の大きなズレでシロコ誘拐を許し、ソレアの奇襲も防げなかった。これはもう私の知る《始発点》じゃない。

 

 

「何故……何でお前はこんなに強い?」

「■■■に扱かれたからかな。■■■■■■■(デカグラマトン)の抑制。ミレニアムの■■(廃墟)、ヒノム火山の■■■(アビス)、トリニティの■■■■■(カタコンベ)と色々調査。■■■(ダアト)になった私を■■■■■(白故ソレア)■■(定義)してくれたりとお世話になったよ」

「連邦生徒会会長が? 巫山戯るな! 私達を救わなかったくせに……そっちでは私を扱いていただと?」

「少し……ほんの少しだけ何かが違ってただけなんだよ」

「その()()がアビドスのみんなを殺したんだぞ!」

 

 剣戟が鳴り響いて、二人はそれぞれの“先生”側に傍まで離れる。

 

「先輩……」

「シロコ、彼奴は私が殺す。あっちのシロコは任せる」

 

「えっと……」

「先生、指揮を。シロコを軸に食らいついて来て下さい」

 

 黒いソレアは炎からハルペーとスコヴヌングを生み出し、白いソレアは両手で乖白刀を構えて待ち受ける。ソレアの駆け出しと共にシロコ同士も戦闘を開始する。

 

「第二ラウンドだ」

「いや、最終戦だ」

 

 キヴォトスでは珍しい近接武器が火花を散らし、目では追えない駆け引きの数々が行われる。黒いソレアはダインスレイヴやティルウィングと次々に剣を生み出してはソレアの乖白刀に砕かれる。

 

 

~~~~~

 

 

 シロコ同士の戦いは黒いシロコが、ソレア同士の戦いは白いソレアがそれぞれ相手を鎮静化させた。黒いシロコと白いソレアはお互い戦う気はないみたいで、戦闘は一時停止の状態となる。

 

「そういえば聞いてなかった。ねえ私、どうしてそっちでは《崇高》が二つ存在できたの?」

「ハア……ハア……」

 

 息も絶え絶えに黒いソレアは私を睨みながら舌打ちすると、ゆっくりと喋り始めた。

 

「知ってる通り、世界を終焉に導く《崇高》は一つの世界に一つまでしか存在できない。二つ目以降は、世界が強度を保てずにすぐさま消滅するが、既に終焉の《崇高》だった私が無理矢理に恐怖に反転した。《生きてるはずがなかった私》と《これから世界を滅ぼすシロコ》の二つの《崇高》が私の世界に存在する前に、《恐怖に堕ちた私》と《世界を滅ぼす運命を奪われたシロコ》に変えた」

「驚いた。神秘を全て反転させるなんて、下手すれば即死だぞ。巻き込まれて反転したんじゃなかったのか」

「私がシロコを独りにする訳ないだろ。避けられない運命なら……一緒に背負おうと決めたんだ」

 

「そっか。……そっちのシロコはどうして私を撃たないの?」

「撃てる……わけが無い。別の時間軸だとしても、先輩は先輩……だから」

 

 

 

『……警告。「アトラ・ハシースの箱舟」の「自爆シーケンス」が準備中。当該シーケンスが起動した場合、爆発後の船内における生存確率は0.0003%以下です。砂狼シロコ、砂狼シロコ、白故ソレア、白故ソレア、先生。全員死亡と予測します。至急、対処法の設計が必要──』

 

 A.R.O.N.Aが無機質な声で告げたことに私と白いシロコ以外が驚愕する。みんなは上手くやってくれたようだ。追い詰めたぞ、プレナパテス。

 

「……そっか。そう……時間稼ぎ。──みんながやり遂げるって信じてたんだ」

 

“みんなを信じてるからね”

 

「そう、私が勝てなくても構わない。()()()で勝てばいいから」

 

 

「……え? じ、自爆? 待って待って先生、自爆シーケンスって何ですか?」

「シロコ? え? 何それ知らなかったんだけどシロコさん?」

 

 置いてけぼりのソレア(白黒)が私とシロコに詰め寄る。頼りになるのに、こういう一面があるから守ってあげたくなるんだよな、と思いながら一連の流れを簡潔に説明する。

 

「先輩がずっと戦ってる間に私が頑張った。先生を始末すれば、何度でもまたやり直せる」

「……分かった。()()を殺して、世界を滅ぼす。A.R.O.N.A、戦闘支援モード。全力で殺す」

 

『……指示を確認。「シッテムの箱」の演算支援を中止。戦闘支援モードに切り替えます』

 

 

 場所が切り替わり、風景がガラリと変わる。最終決戦だ。私が“カード”を取り出すと、プレナパテスも“カード”を取り出す。

 

“さあ、どちらの「カード」が勝つか勝負だ”

 

「私も応戦します。先生、指揮を」

 

 黒いソレアは動く気配が無い。完全に戦闘不能になっている。シロコとプレナパテスを止めて、キヴォトスの終焉を退ける。シグヌスとカエルムを構えたソレアが先手必勝とばかりに発砲した。

 

 

“聞かせてもらうよ。そっちで「何が」あったのかを”

 

 

 




曇らせは少ないと言ったな。あれは嘘だ。
次から2連続で曇らせになります。


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砂狼シロコの独白

ども、素人投稿者です。

やっとこさ休み入ったんで投稿ペース上がる幻覚を見てます。


 

 

「マフラー……どこにやったっけ?」

 

 寒くて、お腹へってて、なんでここにいるのかも、わからなくって……。

 

 こうなると分かっていたら、貰うべきじゃなかった。

 

 みんな……死んだ。

 

 私のせいで死んだ。

 

 

 あたたかかったから、さむくなって、──でも、もらわなかったら、みんなは、生きてたかもしれなくて。

 

 

「ごめんなさい」

 

 

――――――――――

 

 

 気付けば私は名前だけを持ってここに居た。ずっと独りで、寒くて、お腹へって、何もせずに何も見ずに私は積もる雪の中に居た。

 

「大丈夫?」

 

 私を見つけた人は声をかけてきた。一部が黒く濁った白い翼と、片方が折れている角を持った人だった。()()()()()()()()瞳で私を映し、手を差し伸べる。その黒い手袋は私になんの反応も無いことを知ると、鞄の中から()()()()()()を取り出す。

 

「あげるよ」

 

 そして、私の首にマフラーを巻いた。初めて受け取った誰かの熱に、分からない感情が湧き出た。

 

「名前はある?」

「……砂狼……シロコ」

「いい名前だね」

「……何を…………」

 

 その人は何も聞かずに私を背負うと、ゆっくりと歩き出した。抵抗する気もない私はされるまま連れてかれる。定期的に揺れる温かい背中にウトウトしてしまい、初めて安心して眠った。

 

「君は救われてね、シロコ」

 

 上手く聞き取れなかったけど、意識が落ちる寸前にそんなことを聞いた気がした。

 

 

~~~~~

 

 

「ようこそアビドス高等学校へ」

 

 次の日、その人は私を学校に連れて来た。

 

「シロコ。此処で君は意味を見つけてね」

 

 その人は用事があってすぐ居なくなっちゃったけど、ホシノ先輩やみんなは私を受け入れてくれた。その人に私は、温かくて、満たされる居場所を貰った。

 

 

「白故、ソレア……先輩」

 

 何の気もなしに呟いたその人の名前が、とても愛おしく感じた。

 

 

――――――――――

 

 

「先生について?」

「ん、ソレア先輩はどう思う?」

 

 連邦生徒会の会長が行方不明になって、入れ替わるように先生が来たらしい。その人なら助けてくれるかも、とアヤネが言ってたし、連邦生徒会で直接会ってる先輩の意見も聞きたかった。

 

「能力と人格は立派だよ。会長が呼んだだけはある。でも信用できても信頼はできないかな」

「どういうこと?」

()()が悪い。先生が動かせる人がいないから折角の解決能力が発揮されてない。アビドスに関しては期待できないかな」

 

 その先生はシャーレって部活の顧問に就任して、このキヴォトスで活動してるらしい。

 

「一応要請書は提出しておいた。アビドスに来た時に私は居ないかもだからみんなに言っといて」

 

 

 その後、先生はその手腕を用いてアビドスの問題を()()()にだが解決した。ソレア先輩はその場に居なかったけど、シャーレの当番でたまたま会ったりして頭を撫でながら褒めてくれた。やっぱりこの人と一緒に居ると安心する、そう思った。

 

 

――――――――――

 

 

 先生が意識不明の重体になったというニュースは、もう見慣れた。アビドスの借金返済の為に奮闘しても、雀の涙ほどの効果しかない。この日もアルバイトに明け暮れて、月が出てきた頃に学校に帰ってきた。

 

「まだ、借金がこんなに……」

 

 机の上に広げられたカイザーとの明細書を見て落胆する。

 

「……ぅ」

「……先輩?」

 

 隣の教室で、ソレア先輩が泣いていた。先輩は連邦の生徒会長が行方不明になって忙しくてアビドスに帰って来れなかった。先生が重体になってから、みんな居なくなった後で、先輩は連邦を辞めてアビドスに帰ってきた。

 

「みんなぁ……」

「先輩…………」

 

 ソレア先輩は今でもカイザーと戦っている。借金の大元であるカイザーが無くなれば、確かに借金は返さなくてよくなるかもしれない。でも、それはみんなの頑張りを否定するみたいで乗り気になれなかった。

 

「ソレア先輩」

「シロコか。……ごめん……ごめんね」

 

 ソレア先輩は私に力強く抱き着いた。見れば、翼がまた黒くなってきてる。傷が増える一方の背中に手を回すと、あの日と同じで温かかった。

 

「シロコだけは、私が守るから」

 

 

 前より広くなった教室で、この日は二人で泣きじゃくった。

 

 

――――――――――

 

 

「ねえソレア先輩」

「なに?」

「私たち、このまま終わるのかな」

 

 教室で二人、身を寄せ合って互いの体温で暖を取る。カイザーは潰れたが物資は底を尽き、二人で命が終わるのをただ待っている。

 

「ホシノ先輩、セリカ、アヤネ、ノノミ。みんな……助けられたのかな?」

「わからない。そんな()()()もあったんだろうけど、もう無理だよ」

 

 顔を合わせる。手で前髪をのけると、蒼色の目に光は無かった。

 

「片目が見えなくなったのはいつからだっけ。シロコの顔も、霞んでしまってるよ」

 

 頬に添えられた手に頬擦りをして甘えてみる。少し笑った先輩は眠たそうだ。

 

「独りにしないよシロコ。ずっと……終わりの果てが来ても、私がそばに居る」

 

 先輩の脚は()()()()()()()()()。返り血じゃない先輩から流れ出た血。もう、治療する道具も気力も無い。

 

(うん、寂しいのは嫌。寒いのは嫌)

 

 どうして、私は存在したんだろう。先輩の体が冷たくなってきたのを感じる。

 

(そっか)

 

「みんな……苦しむために、生まれてきたんだ」

 

 

 その瞬間、紫の光が私を包んだ。

 

 

――――――――――

 

 

「先生」

 

「これで……全部終わるはずだから」

 

 先生のタブレットを壊した。銃口を向けて引き金を引けば終わる。それが私の《役割》。先生……ごめんなさい。

 

「繧キ繝ュ繧ウ?」

 

 突然現れた気配に振り返ると、全身が黒い先輩がいた。ヘイローは真っ黒に粉々になって、身体は完全に機械になってしまっている。罅から赤い液体を撒き散らして、表情も見えないけど一目で先輩だって分かった。

 

「先輩……?」

「シ……ロコ」

 

 先輩が私に触れると、煩わしかった司祭の声が消えた。

 

「ヒト……リ、し……ナい。コレハ……共、はン。先……セイも」

「え? あ…………」

 

 私たちが先生を殺してしまう前に、《色彩》は先生に接触した。ソレア先輩が私から奪った《嚮導者》という役割、それをまた……

 

「ごめんなさい先生。あなたはまた……背負ってしまうのですね」

 

 流暢に喋った先輩の言葉を聞いて、疲れた私は気絶してしまう。

 

 

“これは、『大人』である私の責任だ”

 

 

――――――――――

 

 

「ごめんなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「謝らないで、シロコ」

 

 そう言ってくれた先輩が、どうしてなのか死んでいる。傀儡になった先輩はもう一人の先輩から心臓をもぎ取る。機械の男は笑った。全員が銃を構えると、先輩は自身を削って爆発する。全ては一瞬の出来事だった。

 

「やだ」

 

 空間の歪みに消えてく先輩に手を伸ばす。私から先輩を奪わないで。先輩はもう生きてない。例え掴めたとしてもそれは中身の入ってない屍だ。

 

「やだ……」

 

 独りは……、寂しいのは……、寒いのは……

 

「やめろぉぉぉぉ!!!」

 

 男の後に続いて、愛する人が次元の境界に入っていく。先生の“カード”も間に合わない。世界をかけた決戦は、目的を果たした男の一人勝ちで終わる。

 

 

 

「私って何なの? なんでみんな……、ソレア先輩……嫌だよ、独りに……しないでよ。寂しいよ。また抱き締めてよ。優しく笑ってよ。頭を撫でてよ。私に愛を……囁いてよ。冷たくなったこの手を温めてよ」

 

 

 脱出シーケンスが起動して地上に転送される。()()()()()()()()のを、私は見て見ぬふりをする。この世界に私の居場所なんかない。

 

「許さない」

 

 不意打ちで先輩を殺して、更に傀儡にした張本人。傀儡の先輩ともう一人の先輩の心臓を手に入れて、高々に笑った忌々しい大人。

 

 

 

「絶対に殺す」

 

 

 皮肉にも、シロコに必要だった生きる為の糧は、ソレアを失うことでしか手に入らなかった。

 

 

――――――――――

キヴォトスは救われた。




シロコ(クロコ)はどんだけ重く曇らせてもええんすわ。ソースは公式。


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ソレア*テラー

もう無理書けん


 

 カタコンベで見つけたガラクタの荷車を引いて歩く。荷車に乗っているのは四つの死体。死体を運ぶ自分はさながら死神である。じゅくじゅくと胸の中を蝕む痛みに体が強ばる。誰も知らない場所を探して、一歩、一歩と進んでいく。

 

『皆が危機に晒された時、必ず助けに行く』

 

 そんな言葉を発した自分の無責任さが苛立たせてくる。つまらなくも呆気ない最期を迎えたであろう四つの未来(結末)。赦されるならヘイローを粉々にしてしまいたくなった。

 

「ごめんなさい……」

 

 カタコンベの外はもう陽が昇っていた。明るさに慣れてきた視界に広がる空は、この世界が正常で平和でなんの問題も起きてないと何食わぬ顔をしているみたいに澄んでいる。

 

 

――――――――――

 

 

 風はなだらかに、丘の上に四つの御影石が立つ。

 

 何もする気が起きない。腹は絶えず空腹であると主張してくるが、だからなんだと思考を放棄する。眠気だけに身を任せて雨風に晒されているもんだから、自分の身なりは決して綺麗とは言えないだろう。

 一向に訪れる気配のない自分の死を、長いこと待ち続けた。色彩の無いモノクロのような世界で、独り結末を望む。

 

「君……誰?」

 

 ある日、一人の生徒が自分に声をかけた。その子はピンクのショートヘアとオッドアイで、アビドスの生徒証を持っていた。

 

「私……誰なんだろうね」

 

 その子の目は自分と同じだった。何があったのかなんて興味はないけど、彼女と自分は似たような形に傷付いたことは分かった。二人はお互いの空いた穴を舐め合うように堕ちていった。共依存で生を肯定し、相手の体温を感じることで安心を得た。

 

 アビドスに後輩が入る頃には、()()を取り繕えるまでになった。自分は連邦生徒会に、ホシノは対策委員会にそれぞれしたいように活動した。

 

「ソレアー、おじさんと一緒に昼寝でもしよーよ」

「うん、ホシノ」

 

 ホシノは少し変わった。髪を伸ばして口調もゆったりとして、別人になりきったみたいに。それでも、自分とホシノが三年になった今でも自分達の関係は変わらなかった。

 

「みんな……」

「ユメ先輩……」

 

 抱きしめ合って、同じ悲しみを擦り付ける。世界に一人だけの、お互いを慰め合う人。理解者とまで言わないが必要な人()()()()()

 

 

――――――――――

 

 

 シロコから聞いた時はそれこそ耳を疑った。殺せなかった連邦生徒会長の失踪に伴うキヴォトスの混乱の沈静化。忙殺されていたなんて言い訳に過ぎないのは自分自身よく知っていた。

 

「先輩」

 

 結果、アビドスはシロコだけが残った。カイザーは依然と土地を奪い。連邦による救済もない。やって来た先生も何もできやしなかった。

 

 

 ホシノを失った自分は、その代わりをシロコに求めた。より一層依存し、過保護に、脅威の可能性全てを()で消し去った。最期に温もりを感じれるなら、きっと幸せな最期だと思っていたんだ。

 

 

 翼は飛ぶことを忘れ、蒼い目は色素が薄れ、純白は濁りに濁りきった。()()()()()()()()を、シロコは心配してくれたが、これは《シロコの死期》に合わせて死ねるようにしたから。

 

 

 

(もう眠い。やっと……死ねる)

 

 

 

 だから、《色彩》の襲来なんて予想外だった。

 

 

~~~~~

 

 

 反転した自分は、世界(キヴォトス)を破壊し尽くした。シロコがやったことなんて、精々建物の破壊のみ。この方舟にあった命という生命は、全て自分が枯らした。

 罪悪感なんてない。もうどうでもよかった。いつか来る終わりが思ったより早く、誰も望まない形で訪れただけだから。シロコは死の神に、先生は嚮導者に、自分は堕落の神に成って世界を滅ぼした。

 

 自分の手が赤く汚れてるのに気付く。それを服で拭いとると手は綺麗になった。血で穢れた自分を気にもせず、手が綺麗だと錯覚した自分は満足して水溜まりと屍を踏んだ。

 

 

――――――――――

回想終わり

 

 

 

 

 

 

 最後の決戦。この世界の先生は自分達の世界が零してきた奇跡を全て紡いでいる。アビドスから始まり、ミレニアム、トリニティ、SRT。先生に救われた生徒が今、持ちうる力を掛け合わせて世界の危機に立ち向かっている。

 

「もういいよ。シロコ」

 

 やっぱり、シロコは敗けた。先生のサポートがあっても力及ばなかった。無論、シロコを責めるつもりはない。敗北という事実を受け入れよう。

 

「私たちの敗けだ」

「先輩……」

「さあ、先生。この世界の勝利だ。私たちの処遇を好きに決めるといい。命を絶つも嬲るもご自由に」

 

 

「ただし」

 

 振り絞る力で刀を作って刀先を突きつける。

 

「シロコに酷いことはさせない」

 

 シロコを庇う形だけの抵抗。先生がそんなことすると微塵も思ってないけど、生徒は別。ここでシロコの裁権は先生にあると周知させたかった。

 

“大丈夫、そんなことはしない”

 

 嗚呼、良かった。シロコのこれからが少なくとも悪い方向に向かわないことに安堵して、刀を下ろす。

 

 

──パチパチパチ。

 

 

 拍手の乾いた音が広々とした空間に響き渡る。観測者は次元の穴を見せつけるかのようにゆっくりと、その奇怪な異形の姿を曝け出す。

 

「ドクトゥス!?」

「おやおや……、待ち焦がれましたよ」

 

 表情の無い鉄の仮面がケタケタと笑う。今目の前で不快に笑ってるのは自分の怨敵。欺き、唆し、()()()()()()()()()()()()敵だ。

 金属と毛の掌を自分に向け、確信めいた態度で奴はほくそ笑む。

 

「漸く……この時が……」

 

 心臓が跳ねたと思うと猛烈な頭痛が襲う。普段の平衡感覚が乱れ、覚束ない足取りで頭を抑える。

 

「こっちのソレアには細工が効いてますね。すぐに記憶は消去され器だけになるでしょう」

 

“ドクトゥス!!”

 

 先生の叫ぶ声と、地面を蹴る音が聞こえた。プレナパテスと先生はカードを構え、あっちのソレアが発砲しながら自分を背に走ってる。先生らとあっちのソレアだけが動けた。

 

「さあ、運命の傀儡よ。《崇高》を証明し、計画を次のステージに移行させましょう」

 

 忌々しい声だけが脳へと伝達。自律した精神を失った自分は、自分を守るもう一人の自分の心臓目掛けて手を伸ばした。

 硬い背骨を無理やりズラし、肉を裂きつつ臓を掴む。管を引きちぎって血が漏れる。神経も絶たれた心臓はそれでも独りでに鼓動を続け、心拍と共に光沢する。《色彩》に汚染された心臓。《崇高》の《心核》を手に取る。

 

 

“ソレア! どうして?!”

 

 

 先生──無責任な大人。私は……あなたが……

 

 

 

 

 

 

 

 

大嫌いでした。




何とか終わらして単品の曇らせします。


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