全然禪院 (全員禪院)
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1

妄想垂れ流し注意報


「もしもし、甚爾。久しぶりだな」

『ああ。久しぶりだな、直樹』

「お前から掛けてくるなんて珍しいな、どうしたんだ?」

『婿に入った。腹の中にガキもいる』

「……マジか!おめでとう!だが、何で俺に?」

『一応、連絡先も知ってたし、てめぇくらいになら、報告しといてもいいと思ってよ』

「まぁ……なんだ。幸せになれよ。禪院家からの干渉は可能な限り、俺が抑えとく。応援してるよ」

『ああ、急にすまなかったな。そんだけだ。……ああ、それと、名前とか……どうすりゃいいんだ?』

「そんくらい自分で考えろよ。お前のガキだろ?」

『……それもそうか。生まれたらまた連絡する。じゃあな』

「おう、じゃあな」

 

 それから、甚爾から連絡が来ることはなかった。

 

===

 あの連絡から1年後、親父から呼び出された。

 

「今更何の用だ、親父。俺は禪院家から追放されたんじゃなかったのか?」

「俺はお前を勘当した覚えはないぞ?直樹。まぁ、いい。お前に言っておきたいことがあるから呼び出しただけだ。それを聞いてから判断しろ」

 

 俺は顎をしゃくって続きを促す。

 

「甚爾に息子が生まれたことは知っているか?」

「なんでそれを……親父が知ってんだよ……」

「なんでも良いだろう。その息子を買った。数年後にうちに来ることになっている」

「……もう甚爾を解放してやってくれよ……親父……。アイツは自由になったんだよ……」

「……なんか勘違いをしとるようだが、この話を持ちかけて来たのはあやつだぞ?理由は聞いておらんがな」

 

 俺の頭の中が真っ白になる。あの無愛想な甚爾が、少し照れながらよこした結婚報告の連絡はなんだったのか。疑問が止まない。

 

「お前にこの話を通した理由は、教育係でも任せようかと思ったからだ。どうだ?禪院に戻ってこい、直樹。貴様はどこまでいっても禪院で……俺の息子だ」

「……禪院の奴らはは、齢8歳の俺の左目を奪った。その恨みを忘れたことはない。あの時家を出てシン・陰流に行ったことは、間違いなく正しい選択だったと確信している」

 

 親父が口を挟もうとするのを遮って次の言葉を紡ぐ。

 

「甚爾が何を考えているかは知らないが、契約が成立したのは確かなんだろう。……アイツの息子にまで、俺や甚爾と同じ思いはさせない」

「そうか、よかろう」

「俺は禪院家に戻る。アンタの息子としてじゃない。甚爾の親友として、アイツの息子を守ってやりたい」

 

 甚爾が何を考えているかは分からない。アイツと会って問い詰めてやりたい。だが、今禪院に戻らないと言えば、多分親父は2度と俺にこの話を持ってこないだろう。そういう性格の人だからな。

 

 こうして俺の13年に渡る家出は終了した。

 

 

 

===

「結局戻ってきたんや。おるとは聞かされとったけど、ずっと家におらんだから死んだと思っとったわ」

「お前……俺の弟か。名前は?」

「直哉。禪院直哉や。言うとくけど俺は自分より弱い奴を兄だなんて思わへんから、そのつもりでおってや。弟より弱い兄なんて存在意義ないんやから、当然やろ?」

「ああ、好きにしろ。直哉」

「直哉様やろ?口の利き方に気ィ付けェや?俺は"相伝の術式"持っとる"次期当主"やで?立場弁えとかんと、右目もなくなんで?」

「わかりましたよ。直哉"様"」

「ああ、せや。せっかく帰ってきたんやから、訓練にも顔出しや。シン・陰流を学んで、高専を卒業して1年で今は準1級術師やろ?さぞ優秀なんやろなぁ?」

 

 少し話しただけで分かった。この男、完全に禪院に染まっている。相伝の術式を持っている男となれば、それはそれは甘やかされて育ったのだろう。こんな男が主催する訓練。嫌な記憶が蘇る。

 

 

 躯倶留隊が訓練を行う道場にやってきた。

 

「今日は久しぶりに禪院家に帰ってきた禪院直樹が訓練をつけてくれるそうや。胸を借りるつもりで、みんな頑張りーや」

 

 躯倶留隊の中でも比較的若い者が揃っているようで、俺よりも年齢が上の者はいなさそうだ。

 

「まずは私が。よろしくお願いします」

 

 そう言って男が木刀を構える。それに対する俺も木刀を構えた。

 

 男が声を上げながら縦に切り掛かってくるが、それを木刀で逸らして受け流す。

 鉄芯でも入っているのだろうか。受けた感触はかなり重く感じた。受け流してなければちとまずかったなと考えながら口元の汗を拭う。

 

 その後も男の剣戟を受け流したり、避けたりしながらタイミングを測り、胴に一撃を入れた。

 

「なかなかやるやんか。次」

 

 その後も鉄芯の入った木刀を持った男たちが次々と挑んで来たが、その全てを切り伏せた。

 直哉は少しイラついているようだった。

 

「もうええ。俺がやる。お前ら弱すぎて話にならんわ」

 

 そう言って直哉が俺の前に立つ。

 

「俺は素手でいくわ。お前はシン・陰流やから、刀ないと話にならんやろ?気にせんと使ってええで?」

 

 明らかな挑発。だが、敢えて乗ることにした。木刀を横にいる者に預ける。

 

「訓練なのだから、同じ条件の方がいいだろう。俺も素手でいく」

「……へぇ。ほな、始めようか!」

 

 直哉はそう言ってすぐに投射呪法を用いて俺の左側に回り込んで拳を振り上げる。体を捻ってかわし、直哉の足元をはらうが、跳んで避けられた。

 執拗に左を狙い続ける直哉に対し、防戦一方になる。

 

「どうしたん?やっぱ刀ないとあかんの?カッコつけんと使っときゃよかつたんに!」

 

 直哉が投射呪法で俺の背後に回り込み、強力な蹴りを脇腹にもらい、思わずうめき声をあげる。

 

「はぁ、やっぱそんなもんか。もうええ。冷めたわ。期待はずれすぎて。甚爾くんの友達やったこともあるんやから、もうちょい強いと思ったったわ。準1級術師言うても大したことないな」

 

 その言葉に対する怒りをぐっと堪える。ここで力を見せすぎて警戒されるのは良くない。最低限力を示すことはできた。それに攻撃を捌ききれなかったのはひとえに俺の体術の練度不足だ。甘んじて受け入れよう。

 

「今日はこの辺で解散しよか。また訓練来てもええで?またボコるだけやから」

 

 俺は何も言わず礼だけをして、道場を後にした。

 

 

 自室への帰り道で、2人の女の子が歩いているのを見た。双子だろうか。苦労するだろうな。禪院家に生まれたばかりに。可哀想に。




なお五条悟によって甚爾は殺されるし恵も奪われる模様。
可哀想だなぁ笑笑。


2006年時点での年齢

直樹 23歳
甚爾 25歳
直哉 15歳

の設定で行きます。今話は2004年。
気分次第では続くかも。


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2

続いてしまったよ


 俺が禪院家に戻ってから2年が経った。その間に俺は1級術師へと昇格し、宙ぶらりんとなっていた立場も、炳の一員となることで落ち着いた。

 直哉との訓練はあれからもあったが、毎回俺が負けるようにしている。直哉は未だに俺の実力を誤認してくれているようだが、少なくとも炳の連中、親父や扇、甚壱には隠し通せていないだろう。まぁ次期当主の機嫌を損ねるわけにはいかないし、直哉も成長期でどんどん強くなっているので、本当に追い抜かされる日も近いかもしれない。

 禪院家の考え方には賛同しかねる部分が多いが、幼少期と違ってイジメられたりはしていないので、案外快適に過ごすことができている。扇の娘2人については心配だが、いくら禪院と言っても幼い女の子相手に、俺や甚爾に対してしたようなことはしないだろう。

 

 

 

 その年の暑い夏の日。一本の電話が俺にかかってきた。

 

「もしもし、どちら様?」

『禪院先輩ですか?私です。庵歌姫です』

「おお、歌姫か! 久しぶりだなぁ。元気してたか?」

 

 歌姫が俺が東京の呪術高専に通っていた時の、3つ下の後輩だ。何度か任務に同行したりして、良好な関係を築いていた。しかし俺が卒業してからは、連絡先は交換していたものの、疎遠となっていた。

 

『はい、おかげ様で……。あ、禪院先輩、遅くなりましたが、1級術師への昇格、おめでとうございます』

「ああ、ありがとう」

『それで、早速なんですが……禪院先輩にお願いがあるんです』

 

 歌姫のお願い……ああ、そういうことか。

 

「1級への推薦か。いいぞ、任せろ。あ、でももう1人は自分でなんとかしろよ」

『あ、ありがとうございます! あと実は、もう1人の推薦ももう確約もらってるんですよ。冥冥さんから……』

「冥冥か……。冥冥だって⁈あの守銭奴の⁈本気で言ってるのか⁈いくらふっかけられたんだ⁈大丈夫だったか⁈」

『え、ええ。それに関しては特に何とも……。いや、貸し一つとは言ってましたかね?』

「それやばいやつじゃねぇの……?日下部くらいにしとけばよかったのに……。いや、あいつまだ準1級で止まってんだっけか。まぁいい。うん。推薦の件は任された。ああ、そうだな……2日後から3日ほど空いてるから、久しぶりに東京(そっち)行くわ。高専の様子も見たいし……、夜蛾先生にも会いたい。ついでだし冥冥や日下部も呼んで飲むか。歌姫も来るか?未成年だから飲めないけど」

『私はやめておきます。同期3人の間に混ざるのは、正直気まずいですし』

「おう、じゃあな。夜蛾先生にもよろしく伝えといてくれ」

 

 そう言って電話を切り、別の人物にかける。

 

『もしもし、日下部です』

「おう、日下部、久しぶり。俺だ、禪院直樹だ」

『げ、禪院か……。禪院に戻ったって聞いたが、うまくやってるか?』

「あ〜、まぁ、ぼちぼちだな。ところでよ、2日後から何日が東京行く予定があるんだが、どっかしらで会えねぇか?なんならどっかの店で飲もうぜ。冥冥も呼んで、同期3人で」

 

 悩んでいるのか、うんうん唸る声が電話口から聞こえる。

 

『ああ、いいぜ。2日後と3日後の夜なら空けられる。冥冥への連絡は……』

「俺がしとく。お前の奢りだって言ったら来るだろ」

『俺が奢るのか⁈』

「冗談だよ。俺が奢ってやる。禪院家に戻ったお陰で金は潤沢にあるからな」

『……フッ、楽しみにしておく』

「ああ、日程が決まったらメールするよ」

 

 電話を切って、次は冥冥にかける。

 忙しいのだろう。出なかったので、留守電にかけ直すよう残しておいた。

 そして数時間後、折り返しの電話が来る。

 

「もしもし、禪院だ」

『久しぶりだね、禪院君。正直君が禪院家に戻ったと聞いた時は驚いたよ。どうしてあんなに嫌っていた禪院家に戻ったんだい?』

「まぁ、色々事情があんだよ。で、留守電にも残しておいたが、2日後か3日後の夜、空いてそうか?」

『丁度2日後は任務が入っていないよ。君の奢りなら、喜んで馳せ参じよう』

「ハッ、仕方ねぇな。じゃあ、店の予約はしておく。寿司でいいよな?2日後の20時でいいよな?」

『ああ、構わないよ』

「じゃ、そういうことで頼む。またな」

『ああ、また』

 

 冥冥との通話が終わった後に、東京の寿司屋の予約を済ませ、その旨を日下部と冥冥にメールで伝えた。

 

 

 

===

2日後

 

 夜の19時に東京に到着した。まだ予約まで時間があるが、店までの移動時間も含めたら丁度だろう。

 

 店に着いたのは、20時少し前だった。引き戸を開け、暖簾をくぐる。

 

「らっしゃい」

「20時に3名で予約した禪院です」

「こちらの席へどうぞ」

 

 カウンターの端の席に案内された。

 座って少し待っていると、再び戸が開く。

 

「どうも……。あ、禪院」

「大将、連れです。もう1人ももうすぐ来るはずです」

 

 日下部が俺の隣に腰かけると、小さな声で、俺の耳に囁く。

 

「回らない寿司かよ……。本当にお前の奢りでいいのか?財布なら持ってきてるぞ」

「大丈夫だ。予算は青天井だからな」

 

 他愛もない話をしていると、冥冥も合流する。

 

「やぁ、こんな良いものを奢ってくれるとは……流石は御三家だ」

「お前なぁ……ちょっとは遠慮ってものを……」

「気にすんな、日下部。大将、生ジョッキ3つ!」

「あいよ」

 

 すぐにジョッキが三杯出される。

 

「じゃあ、乾杯」

 

 カチンと、3人のジョッキが合わさって鳴る。

 

「ぷはぁ。で、直樹。禪院家ってのは、どうなんだ?」

「割と上手くやれてるよ。今は炳に入って仕事してる。でもそれだけだと割と暇だから、俺は高専からも偶に依頼を受けてるよ。他の奴らはそれぞれ自己鍛錬の時間に充てたりしてるようだが」

「うまくやれているようで何よりだよ、禪院君。だが、前も聞いたんだが、何故急に禪院家に戻ったんだい?その左目、見えるようになったわけじゃあないんだろう?」

「別に、あいつらへの恨みを忘れたわけじゃない。今だってあの家は嫌いだ。だが、俺個人の感情より大事なことができたんだよ。それ以上は……聞かないでくれ」

 

 そうこう話をしていると、大将が握った寿司がカウンターに置かれていく。

 

「最初は鯛か……。うん、美味い。回らないだけはある」

「ネタは当然として、シャリも格別だね。温度、固さ、サイズ、全てが完璧だ」

 

 日下部は目を閉じて、寿司の味を噛みしめている。

 

「そうだ。冥冥、歌姫の昇級のことだが……」

「ああ、安心していい。可愛い後輩に対して法外な値段を要求したりなどしないさ。あくまで貸し一つ。それだけさ」

「お前のそういう所が1番こえーんだよ、冥冥。てか、歌姫の昇級って……まさか知らなかったの俺だけか⁈」

「お前は準1級だから、歌姫も推薦の話持っていってないんだろ。当然っちゃ当然じゃね?」

「ああ!そういや、俺らの中でまだ1級になってないの俺だけじゃねぇか!まずいな、1人だけ置いて行かれた気分だぜ……」

「日下部、君ならすぐに昇級できるよ。術式なしでそこまでできるのは君くらいだ。禪院君だって、シン・陰流はあくまで術式の補助として使っているんだし」

「そうだな。純粋にシン・陰流としての力だけでお前と戦ったら、多分俺が負ける。そんくらいの実力がお前にはある。自信を持て、日下部」

 

 少し頬を赤く染めた日下部は、耳の裏をぽりぽりとかきながら言う。

 

「き、急に褒めやがって。まぁ、なんだ。ありがとよ、慰めてくれて」

 

 そうして、ビールを飲んで、美味い寿司を食って、最後には日本酒も飲んで締めた俺たちは、店を後にした。

 

「ふぅ、ありがとよ、禪院。美味かったぜ、寿司」

「ああ、私からも礼を言うよ。ありがとう」

「気にすんな。学生時代は散々迷惑かけたしな……」

「じゃ、そいつもこれでチャラだ。ところでよ、なーんか飲みたりねぇ気がしねぇか?」

「……実は、な」

「俺の部屋に大量に酒のアテが置いてある。狭い部屋だし、高級寿司とは比べもんにならなぁと思うが……来るか?」

「ああ、お邪魔させてもらおう。冥冥はどうする」

「……仕方ない、私も邪魔するとしよう」

「そうと決まったら行こうか。タクシーでいいよな?家の近くの酒屋に降ろしてもらう」

「ああ、タクシー代は俺が……」

「いや、さっきの寿司でこれまでお前がかけた迷惑はぜーんぶチャラだ。だから今度は俺がお前らにかけた迷惑を返す」

「……禪院君のかけた迷惑は高級寿司で、君のかけた迷惑はタクシー代、か。値段に差が大きすぎやしないかい?」

「……うるせぇ」

 

 呼んだタクシーには日下部が真っ先に乗り込んだ。タクシー代はちゃんと日下部が払っていた。




なお現在甚爾は……勘のいい人なら気づいてるよネ☆

年齢考察
冥冥は日下部を呼び捨てするので、冥冥≧日下部

冥冥は歌姫より先輩なので、冥冥>歌姫

ということで、原作開始時点(2018年)での冥冥、日下部の年齢を35歳とすることで、歌姫との年齢差を3学年差に設定しました。直樹と甚爾の年齢を近づけてつつ、歌姫と先輩後輩関係にするための雑設定です。さらに雑に全員東京校にブチ込んでやりました。


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3

書いてたらなんか急に全部消えて萎えたけど頑張った。


「あ"ーー、頭いてぇ……」

 

 昨日はその後日下部の家で一晩中飲み続けて、気づいたら朝になっていた。日下部も冥冥もまだ寝ているようだ。

 ふと携帯を確認すると、もう10時過ぎだ。てか、留守電が入ってる!誰だ……夜蛾先生⁈慌ててかけ直す。

 

「もしもし、夜蛾先生?禪院です。何の御用でしょうか?」

『ああ、直樹か。少し頼みたいことがあってな。高専まで来て欲しいんだ。丁度歌姫から東京に来ていると聞いていたから、かけてみたんだが……都合が悪かったか?』

「いえ、全然大丈夫ですよ。昨日ちょっと飲み過ぎて寝てただけですから」

『日下部と冥冥か。まぁ、それほど急がなくてもいい。いつなら都合がつく?』

「今日で大丈夫ですよ。12時ごろからなら向かえます。それで、要件は何ですか?」

『……電話で話すのは少し都合が悪いな。高専に着いたら伝える。12時に迎えを寄越すので良いか?』

「ええ、大丈夫ですよ。では、また後ほど」

『ああ、じゃあな』

 

 高専まで来させるってことは任務って感じでもなさそうだ。まぁ歌姫の推薦のために高専までは行く予定だったし、丁度いいか。

 

 とりあえず飯を作ろう。味噌汁と米さえありゃ十分か。そんなに大量に食える状態じゃないしな。

 

 雑に置いてある鍋に水道水を注ぎ湯を沸かす。冷蔵庫の中を確認すると、顆粒出汁と合わせ味噌があったので、最低限味噌汁は作れるなと安心する。具も豆腐があるので、なんとかなるだろう。豆腐を手の上で切り分け、沸いてきた湯の中に出汁と一緒に放り込む。

 

 レンチンご飯を求めて引き出しを開けると、乾燥わかめもあったのでそいつも鍋に入れて、ご飯3つをレンジに突っ込みチンする。頃合いを見計らって味噌をお玉で入れて、味噌汁をかき混ぜる。よし、完成だ。

 

「おい、お前ら起きろ。何時だと思ってんだ?」

 

 絨毯の上に寝転がる日下部と、小さなソファーに身を縮めて寝る冥冥の体をゆすって起こす。

 

「……頭いてぇ」

「む……もう朝か……」

 

 2人が同時に大きな欠伸をしながら体を伸ばす。

 

「最低限の飯作っといてやったから、酔い覚ましに食え」

「ああ、ありがとよ……って勝手に食材使いやがったな⁈」

「味噌汁しか作ってねぇよ。安心しろ」

「お、おう。すまんな。ありがとう」

「気にすんな。あ、よそうのは自分でやれよ。米はチンしてある」

 

 冥冥は既に立ち上がって味噌汁をよそっているようだ。俺は丼に米を移し替えて、その上から味噌汁をかける。

 

「相変わらずそういうの好きだよな、お前」

「実際これが1番美味いからな」

「……君が作ったものだからね。文句は言うまい」

「流石に他人の作ったやつにこれはしねぇよ。失礼だからな」

 

 各々が味噌汁と米を食べ始める。

 

「あ、そうだ冥冥。今日高専行くことになったんだけど、お前も来るか?」

「ああ、歌姫の推薦か。私はいいよ。今日は何かをする気にはなれない」

「そか、じゃ、俺の分は先に済ませとくわ。ご馳走様でした」

 

 食べ終わった丼をシンクに持って行き水に浸ける。

 

「洗うのは2人のどっちかがやっといてくれ。俺はもう行く」

「おう、達者でな」

「また奢ってくれるなら、いつでも呼んでいいよ。じゃあね、禪院君」

「じゃあな、お前ら。日下部は次会う時は1級になってろよ?」

「うるせぇよ」

 

 俺は日下部の家を後にした。

 

===

 その後は迎えの補助監督と合流し、車内で寝ていたらすぐに高専に着いた。

 

「久しぶりだな、直樹」

「お久しぶりです、夜蛾先生」

 

 差し出してきた手に対して、握手で返す。

 

「それで、用件なんだが……」

「あ、その前に歌姫の推薦書出してもいいですか?もう一枚は冥冥が出すことになってます」

 

 カバンの中からファイルを取り出し、夜蛾先生に渡すと、先生はその場でザッと目を通す。

 

「……よし、不備はなさそうだな。責任を持って上に提出しておく」

「ありがとうございます。これで、用件に移ってもらって大丈夫ですよ」

「ああ、歩きながら話そう」

 

 俺と夜蛾先生は横に並んで歩く。

 

「話というのはな、襲撃者の身元確認だ」

「と、言うと?」

「実はうちの生徒が受けたある任務で、呪詛師の襲撃を受けたんだ。その呪詛師は悟……五条悟が撃退したんだよ」

「ええ。それで?」

「戦闘中に、悟がその呪詛師が禪院の関係者だと思ったらしくてな。丁度直樹が来ていることを思い出して、ダメ元で身元の確認を依頼しようと思ったんだ」

「なるほど。でも俺は長い間禪院家を離れていたので、あまりその筋の者

に詳しくはありませんよ?」

「ああ、構わないよ。ダメで元々だ。別に大した問題じゃあない。……着いたな。ここに呪詛師の遺体がある」

 

 着いたのは高専の遺体安置所だ。先生がドアを開けて、中を進んでいく。

 

「こいつだ」

 

 先生が示したのは、筋骨隆々の男の遺体だった。ただその遺体は、左半身の殆どが削れてなくなっていた。顔には白い布が被せられている。

 

「開けるぞ」

「……はい、よろしくお願いします」

 

 俺は震える声で言う。

 禪院家筋の、呪詛師の男。それだけで少し嫌な予感がしていた。そんなはずはない、と否定したい気持ちと、もしやという気持ちがせめぎ合っていた。

 

 安置所の中に入っても、先生が向かって行った先に呪力が感じられなかった。嫌な予感がする。

 

 遺体を見た瞬間確信した。呪力がない遺体。筋骨隆々の身体。

 

 先生が布を取り払った瞬間、息を呑む。

 

 

 

「…………どうだ?」

「……確かに、禪院の人間ですね。随分前に、家を出ていますが」

「名前は?」

「……禪院甚爾、俺の……従兄です」

 

 もう禪院じゃねぇ。

 

 そんな声が聞こえた気がした。

 

===

 どのくらい経っただろう。5分、10分、いや、数瞬かもしれない。息が、脳が止まったような気がした。

 

「仲は、どうだった?」

「小さい頃に一度、会ったきりです。彼は呪力がないせいで、家中では迫害されていましたから。喋ったことも、ありませんよ」

 

 声が震えてはいないだろうか。ちゃんと嘘を吐けているだろうか。

 その後も淡々と先生の質問に答えていく。

 

「よし、このくらいで充分だな。協力、感謝する」

「……いえ、とんでもない。ああ、そうだ。彼は呪具を使っていたんですよね?」

 

 これだけは譲りたくない。

 

「ああ、禪院の物が混ざっている可能性か。今は生徒の1人が管理している。話を通しておくから、確認していけ」

「ありがとうごさいます」

 

 

 

===

「これで、全部ですね」

「ありがとう、夏油。俺が禪院家で見たことがあるのは……これだけかな」

 

 嘘だ。どれも見たことなんかない。

 

「わかりました。これはお返ししますね」

 

 夏油が一振りの刀を俺に渡す。

 銘は……釈魂刀か。

 

「特級呪具釈魂刀、確かに返してもらった。対価は後で夜蛾先生に渡しておく。重ねて、ありがとう、夏油」

「いえ、とんでもない……。ところで、一つ、先輩に相談してもいいですか?」

「……なんだい?」

「詳細は言えませんけど、この任務を通して、少し……呪術師であることに、疲れたというか……」

「……上層部となんかあったのか?」

「いえ……そういうのでは、ないんですが……」

「……呪術師なんてそんなもんだよ。まともであればある程精神はすり減っていく。そういう在り方に疲れて、どうしようもなくなる時だってある。それでも俺たちは、守るべきものの為に、魂を削るんだ。そういう仕事だよ。まぁ、なんだ。頑張れよ、夏油」

「……そうですね。ありがとうございました」

 

 そんな会話をして、俺は高専を後にした。

 

 甚爾の死はショックだった。だが、だからこそ、俺は決意を新たにする。奴の息子は俺が守る。禪院家の中でも生きられるように、育ててやる。

 

 甚爾の刀を、彼の息子に渡そう。俺が、甚爾の代わりになってやるんだ。

 

「チクショウ。何死んでんだよ、バカが」

 

 

 共に過ごした時間は短くとも、奴は間違いなく、俺の親友だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

===2年後

「おい、どういう事だよ、親父」

「どうもこうもない。伏黒恵は、五条悟が引き取ることになった。貴様には話を通しておかねばならんと思ってな。それだけだ。下がっていいぞ」

 

 

 頭が回らない。世界が歪んで見える。

 

 

 俺の中で、何かが切れた気がした。




夏油に対して九十九由基に次ぐくらい最悪のコミュニケーションを取る男。まぁ直樹は事情なんて知らんから、とりあえず悩める後輩を激励しといただけ。実は鬱の人に頑張れって言っちゃダメなんだよね。

とりあえず次でひと段落かなぁ。実際ここが書けただけで満足感はあるけど。


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