Golden Arrow (ibura)
しおりを挟む

プロローグ

観客の歓声が凄い。

それもそのはず、ジュニアユースチャンピオンのブラジルを相手に同点に追いついたのだから。

 

傑がくれたパスを俺がシュートしたけどキーパーに弾かれた。

だがそのクリアーボールがもう一度傑の足元にいってくれて助かった。

 

「サンキュー傑、助かったわ」

「お前があそこで止められるのは珍しいが、

 まぁあれはキーパーが上手かったな」

 

チームメートも観客もこのまま終われば勝つかのような勢いだ。

誰もが満足していた。

 

 

 

俺と傑以外は------

 

「あとワンプレーは最低でも残されてる。しかも相手(ブラジル)は1点を取ろうと攻めてくるはず」

「ボールを奪えれば絶好のカウンターチャンスか」

「前で待っとくよ、頼むぜ王様!!」

「今度は決めてくれよ、騎士様……フフッ」

「おい、笑いながら騎士に様つけんなよ」

 

俺と傑だけは勝つことしか考えてなかった。

 

 

――――――――――――――――

 

 

歳條(さいじょう)輝也(てるや)はイギリス・ロンドンのとある喫茶店である男に呼び出されてた。

 

「あの時はまさか本当に負けてしまうとはね。本当に驚いたよ、スグルとテルには」

 

オープンテラスの向かいの席で輝也と話している相手はレオナルド・シルバ。

 

「そりゃどーも、つかそこは日本って言ってくれよ。

 まーでもあの時はレオ以外のブラジルの選手が攻撃の意識ばっかでよかった」

 

「君のGolden Arrow(黄金の矢)には恐れ入ったよ」

 

輝也はフォワードだが、よくエリア外からもミドルシュートをうつことがある。

一度、ゴールまでの距離が35メートル辺りからのミドルシュートを弾丸でゴールマウスに突き刺したことがあった。

それを見ていたイギリス(こっち)の人が輝也のシュートをGolden Arrow――黄金の矢と呼ぶようになった。

 

「あの時は、キーパーが少し前に出てたからな」

 

あの試合はその後、ブラジルのリスタートで始まったボールを傑が奪って、すぐさま前線へパス。

そのパスを受けた輝也がペナルティーエリアの少し外からシュートを決めた。

試合はそのまま終わり、日本がジュニアユースチャンピオンから勝利を収めることができた。

 

 

「それで、今日はどうしたんだ?」

「一緒に日本に行ってくれないか」

 

目の前に座っているブラジルの至宝はまた突然こういうことを言ってくる。

 

「なんで?」

「見たいものがあってね、リトルウィッチに誘われたんだ」

「へー、お前ら連絡とってたんだ。何を誘われたんだよ」

「スグルが思い描いていた“エリアの騎士”の中学最後の大会の試合。

 負けたら中学でのサッカーは終わりになる試合だね」

「駆かー。でもあいつベンチ入ってんの?

 怪我治ってからサッカー辞める続けるで結構もめたって聞いたぜ」

「ベンチ入りはしてないけど、なんでもウィッチが勝手に選手登録するらしいよ」

「ブフッ」

 

飲んでいたカフェオレを盛大に吹き出してしまった。

 

「ハハハハッ…何それ最高じゃん……クククッ」

「それに弟君も弟君なりに練習はしてきたみたいだし、左も使えるようになったらしいよ」

 

それを聞いて輝也は笑うのをやめる。

 

「へー、それは楽しみだな。傑の求めていた騎士……か。それは見に行かないとな」

「そう言ってくれると思ったよ。正直、”あの”オファーのこともあるしね」

レオが何のことを言っているのかはすぐに分かった。

「レオにも届いたのか?」

「正式にオファーを出したのは僕とテルだけみたいだよ」

「”世界に通用する若手を養成する”……か」

 

東京蹴球学園、日本の若手を世界に通用するレベルまで育てることを目的として西東京に新しく設立される高校。そんな高校から先日オファーが届いていた。

 

「面白いアイデアだとは思うけどね」

「俺はともかくレオはロビィが許さないんじゃないのか?」

「当然反対されてるよ。だけど、関係ないさ。

 僕が行きたいと思ったらオファーは受けるさ」

 

今の発言をロビィが聞いたら発狂して暴れだしそうだと思う……。

 

「まあそれも日本に行って考えるか」

「私も一緒に行こうかなー♪」

 

突然後ろから聞きなれた声が聞こえてきた驚きで輝也は椅子から落ちそうになった。

 

「うわっ、びっくりした。

 なんだよ亜理紗来てたのかよ」

 

後ろを振り向くとそこには十倉(とくら)亜理紗(ありさ)が立っていた。

 

「やぁアリサ、久しぶりだね」

「レオ久しぶりー、こっち来てたんだ」

「昨日着いてね。でもすぐに日本に行くんだけど」

「亜理紗も行くって、孝明さん許してくれるのか?」

「輝と一緒だって言えば大丈夫でしょ。

 それに私だって逢沢傑の弟君は気になるし」

「そういう時だけ俺の名前使いやがって」

「じゃあ決まりだね、弟君の試合は1週間後だから」

「りょーかい」「はーい」

 

レオはそう言うと立ち上がり、帰ろうとした。

しかし、今回のオファーを受けて輝也は傑のある言葉を思い出した。

そのことについてレオと話したいと思っていた。

 

「なぁレオ、今日はまだ時間あるか?」

「? 大丈夫だけど」

「なら、晩飯食べに来ないか?」

 

傑から託された、ある言葉を――――

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

「ただいまー」

「あら、お帰りなさい輝也君。それにレオ君もいらっしゃい」

「おじゃまします。すいません祐子(ゆうこ)さん、いきなり押しかけてしまって」

「別に大丈夫よ。夕食を誘うことを言い出したのは私だから」

「ではお言葉に甘えてご馳走になります」

 

 

輝也は小学校の時にもっと高いレベルの環境でサッカーがしたくて、ヨーロッパに行きたいと考えていた。スペインを考えていたが、たまたまその時に日本でイングランドのプレミアリーグのチェルシーFCのトレーニングキャンプがあり、それに参加して最優秀選手に選ばれたのがきっかけで、下部組織の入団テストを受けることができ、見事合格することができた。

そうして、輝也は単身イギリスに乗り込んだわけだが、そんな時に助けてくれたのが、十倉夫妻だった。英語もろくに離せなかった輝也だが、イングランドに渡る前に当時所属していたチームのコーチに紹介してもらったのが十倉夫妻だったのだが、輝也を居候として快く迎えてくれた。

夫の十倉 孝明(たかあき)はイングランドのクラブチームでトレーナーをしていたため、イングランドのサッカーについてや、サッカー選手としての体のケアなどいろいろなことを教えてもらった。

妻の祐子さんには、生活での多くの面でサポートしてもらった。輝也が海外で大好きなサッカーをすることができたのはこの二人のサポートのおかげだった。

 

「ユウコさんの作る料理はやっぱりどれも美味しいです」

「あら、レオ君は相変わらず褒めるのが上手ね」

 

夕食後のそんな会話を輝也は何気なく聞いていた。

 

輝也とレオはイングランドに渡って、あまり日が経たない時に知り合った。

初めて一緒にプレーしたとき、輝也は傑と同じかそれ以上のセンスを持っていると感じ、すぐに仲良くなった。

それからレオがイギリスのほうに来るときは毎回会っている。

ジュニアの大会で傑とレオが知り合ってからは三人で会うことも多くなった。

 

 

「レオ君、今日は泊まっていくの?」

「そうしたいんですけど大丈夫ですか」

「大丈夫よ」

「ありがとうござます」

 

次々と話が決まっていくのはいつものことである。

 

「じゃあレオが泊まる部屋の準備してくるね」

 

そう言うと亜理紗は走って行ってしまった。

 

「アリサはいつも元気だね」

「輝也君のおかげよ。あの子が今、ああして笑っていられるのわ」

「俺はなにもしてないですよ。亜理紗が強かったんです」

 

亜理紗は元々はプレイヤーとしてサッカーをやっていた。ポジションはトップ下だったと輝也は聞いている。

しかし、中学入学前の試合中に大怪我をしてしまった。

日本の医療では選手としての復帰は難しかったためヨーロッパに来て治療をしていたが、選手としての復帰は不可能と言われたそうだ。

海外の最先端の医療技術だったため、亜理紗にはその現実は余計に重くのしかかっただろう。

輝也は孝明さんからこの話を教えてもらい、また亜理紗を支えてあげてほしいと言われた。支えるといっても何をしたらと思ったのだが、祐子さんは輝也に「そばにいてあげるだけでいいわ」と言った。そのためできる限りそばにいて、できるだけ話を聞けるようにつとめた。

そのおかげかどうかは分からないが、亜理紗は現実を受け入れることができ、元の明るい性格に戻った。

選手を諦めた亜理紗は、それでもサッカーには関わっていたいということで、父のように選手をサポートする立場になることを決めたそうだ。

亜理紗の明るい性格には輝也も助けられたことが多かった。

スタメン落ちしたり怪我をしてテンションが下がっていたときにはいつもそばにいてくれた。

 

(いつからだろうなー、…そばにいるはずが、そばにいてもらっていたのは)

 

 

 

 

 

「それじゃあ俺の部屋行こうぜ、レオ」

「ロビィに電話だけしてくるよ」

 

泊まってもいいかということをロビィに確認することもいつのまにかなくなっていた。

そのころ、ロビィがレオを探して回っていることを二人は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやく、新しく書き始めることができました。
初めは書きかけていた前作を基にします。
基本設定は同じつもりですが、変更箇所も少しあると思います。

前作を読んでくださっていた人にはお待たせしました。
相変わらず更新は遅いと思いますが、よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

約束

「おまたせ、テル」

「ロビィはなんだって?」

「ギャーギャーうるさかったから伝えることだけ伝えて電話切ってきたよ」

 

ロビィは可哀想だと輝也は最近思うようになってきた。

 

「それで、今日はどうしたんだ?」

「そんなに大した話じゃないんだけどさ、レオから見て今の日本サッカーはどう思う?」

 

輝也が一度ブラジルの至宝に聞いてみたいと思っていたこどだ。

 

「発展途中、としか言えないかな」

「やっぱりそう見えるよなぁ」

「いくらテルが世界でもトップレベルのフォワードでも、サッカーは1人では勝てない。せめて……」

「傑がいれば、か」

 

傑の死は、輝也とレオにも大きな衝撃をもたらした。

輝也もレオも海外にいたので、葬儀に出席することはできなかったため、輝也が一時帰国する際にレオとともに、墓参り行った。

輝也は、自分と傑がいればワールドカップで優勝するのも夢ではないと考えていた。

しかし、傑は事故によりこの世を去ってしまった。傑の死は日本サッカーにおいて大きな損失になっただろう。

 

「テルとスグルがいればワールドカップでの優勝も夢じゃない。

 ジュニアユースチャンピオンのブラジルに勝ったことがそれを証明していたよ」

「俺も傑もあの一勝で自信が持てたからな」

 

傑がいなくなって、傑の分も自分がやらなければと思った輝也は、今までイギリスで世界レベルの環境でプレイしてきた。

しかし、輝也は傑とのある”約束”を忘れていた。

 

「俺さ、傑に言われたことがあるんだ」

 

 

 

傑が事故に遭う1週間ほど前、傑から電話がかかってきた。

傑は以前から、よく夢を見てうなされるということを聞いていた。

輝也はカウンセラーの峰先生を紹介したが、あまり改善されなかったようだ。

それに加えて、弟の駆との関係でも悩んでいた。

駆とは小学生の時に、一緒にプレイしていたこともあり、輝也からしても弟のような存在だった。

傑は昔から駆に期待していた。周りから見たら完全なブラコンである(それを本人に言ったら怒られる)

そんな駆が自分も所属している中学の部活で、プレーヤーとしてではなくマネージャーとして活動をしていることも相談されたことがある。

駆は夜の公園で1人で練習をしているので、サッカーをやめてわけではないらしいが駆に期待していた傑としては複雑なのだろうと輝也は感じた。

そしてあの日の電話の最後に、傑が輝也にあることを言った。

 

”俺がダメになったら、

 

 

 

 

 

 

……日本のサッカーを頼む”

 

輝也は分かったと言って電話を切った。

結局それは、輝也が傑と交わした最後の会話となってしまった。

 

 

 

 

「それは初耳だね」

「当たり前だろ、誰にも言ったことないんだから」

 

このことを話したのは今、レオが初めてである。

 

「なぁレオ、俺は日本に帰るべきなんかな…」

 

蹴球学園からのオファーが届く前からずっと悩んでいたことだ。

このままイギリスでサッカーを続けるか、一度日本に帰りサッカーをするか。

 

「……僕は日本人じゃないから分からないね。そればっかりはテルが自分で考えないといけないよ」

「だよなー…」

 

予想していた通りの答えだった。

 

「でも…、僕は蹴球学園のオファーを受けるのもありだと思っているよ」

「それは、大金積まれたからか?」

「違う違う。さっきは発展途中といったけど、日本サッカーが最近レベルを上げてきてるのは確かだよ。そんな日本の中のトップレベルの選手を集めるらしいしね。そこに興味がないと言ったら嘘になるよ」

 

蹴球学園からのオファーの中で書類に書いてあったことで、輝也やレオといった世界レベルの選手を入れることに加えて、全国の中でも年代別代表に呼ばれるような選手を何人も集めて、さらにレベルアップを目指すらしい。輝也が知っている人も何人か入っていた。

 

イギリス(ここ)で考えても答えがでないんっだら、一度帰って考えるのもいいかもね」

「まぁそうかもな」

 

結局答えは出ないまま駆の試合を見に行くことにした。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

1週間後、輝也と亜理紗は日本のある墓地に来ていた。

 

「あれが傑さんの弟君?」

「そーだな、んで隣にいるのがリトルウィッチだな」

「美島奈々だよねー?」

「そっか、亜理紗は面識あったな」

「まーねー♪  でもいいの?駆君に声をかけなくて」

「試合終わってからだな」

「ふーん。あ、レオは話終わったみたい」

 

駆と奈々と話していたレオがこちらに近づいてくるのが分かった。

その顔は笑っていた。

 

「面白いやつだろ、駆は」

「本当にね、この僕に自分の試合を見に来いって言ってきたよ」

「それは俺の予想以上だな」

「日本に来てよかったねー」

3人で笑うのだった。

 

 

 

 

試合開始前「先に席を取っとくヨ」といったレオを輝也と亜理紗が探していた。

 

「どこいったーレオのやつ」

「あ、いたよ」

「あんなとこに…って、なんであいつ駆の真後ろに座ってんだよ」

「どーする輝?てか駆君はベンチ入ってないじゃん」

「奈々が勝手にって言ってたから監督すら知らないんだろ」

「なるほどねー、でもそれで試合出れるの?」

「それは知らねーよ。駆が自力で何とかするしかない。

 でも、レオにあんなこと言ったんだからまー出てくるだろ」

「出なかったら日本まで来た意味ないからねー」

「まーな、とりあえずちょっと離れたところに座っておこーぜ」

「そだね」

 

試合は駆のチームの劣勢のまま0-2で後半に入っていた。

 

「駆君のチームの2トップは駄目ね、あれじゃ満足にボールをもらうこともできない」

「トップ下の11番はそこそこやるけどパスの出しどころがなければ何もできないし、傑でも無理だろうな」

「だから騎士が必要なのね。輝がピッチにいたら状況は変わってる?」

「俺がいたら、前半で試合は決まってるだろーな。

 でもあの11番はトップ下じゃなくてボランチが向いていると思う」

「あ、それは私も思った。運動量も多いし視野も広い彼はボランチにあってる選手なのよね」

「敵の攻撃の芽をつんで、すぐさま自分達の攻撃の起点になることができる」

「でも今の状況じゃ、彼がボランチに下がったところでどうしようもないよね」

「今の二人とは違ったフォワードが必要だな。

 傑から聞いてた話だと駆のようなタイプが必要なんだけど…」

「ハーフタイムでベンチが何かもめてたいたいだけど結局駆君はまだスタンドだしね」

「そうなんだよな…」

二人でスタンドにいる駆を見るが駆は座ったままだ。

その後ろにレオが座っているが、女子と話していてあてにならない。

(レオはなにしてんだよ……、てか駆…そのタオルはなんだ……)

「ねぇ輝、さっきから11番君のパスミス多くない」

「確かに多いな、俺なら取れるけどあの2トップには無理だろうな」

「あ、変な髪形のサイドバックもミスした、…あのフォワードめっちゃ怒ってる」

「二人とも駆を見てるな………なるほど」

二人のやろうとしていることが分かり、少し関心してしまった。

「なになに?あの二人は何しようとしてるの?」

「なかなか面白いよ。あの二人はスタンドの駆を引きずり出そうとしてるんだ、あ、やばい追加点だ」

 

 

話しているうちに3点目を奪われてしまった。

 

「0-3か…敵はさらに守備を固めてくるだろうな」

「さらに状況が悪くなったわね、駆君の出番はあるのかしら」

「本人次第だろうな」

輝也が駆に声をかけるか悩んでいると急に駆が立ち上がり走って行った。

「あれ、駆君どっかいっちゃった。もしかして逃げた?」

「いや……」

 

しかし、輝也は駆の決意したような顔を見逃さなかった。

「とりあえずレオのところに行ってみようぜ」

「そうね」

 

輝也と亜理紗はレオの隣に移動した。

 

 

「あれ、二人ともどこに行っていたんだい?」

「ちょっと離れたところから見てたよ。なんでレオは駆の真後ろに座るんだよ」

「面白そうだったし、実際面白いこと聞けたし。」

 

二人してニヤけるのを見て隣の亜理紗が少し引いている。

 

「駆は腹くくったみたいだな」

「面白くしてくれそうだよ」

「ちょっと二人だけで話進めないでよ」

「そうだそうだ」

「ロビィは黙ってって」

ロビィは本当に黙ってしまった。

「見てたら分かるぜ(ドンマイロビィ…)」

 

ということでレオとロビィも一緒に4人で観戦することになった。

(ロビィは拗ねて黙ってるけど…)

試合は駆が入ったことでチャンスが生まれようとしていた。

 

「駆君が左サイドに流れてるわね」

「あのままクロスをあげたらマーカーにとられて手詰まりじゃないのか?」

(ロビィ……久しぶりに喋ったけど、それはないよ)

「スペースならあるさ、そうだろ、テル」

「まーな、亜理紗にも見えるだろ?ピッチに広がっているスペースが」

「うん♪」

「……俺だけ仲間はずれかよ」

またもロビィは拗ねてしまった。

「あとはピッチにいる騎士ないとが気づくかだな」

「おいおいテル、彼を騎士と決めていいのかい?」

「それはこの試合の出来によるかな」

 

その後駆は2点を決めて試合を1点差に縮めた。

しかし、時間はアディショナルタイムに入っていた。

 

「さっきのシステムチェンジといい今の指示といい、あの監督さん結構やるな」

「そうだね、僕たちの考えていたことを指示したのは大したことだと思うよ」

「駆君も2点決めたしねー」

と話していたら駆のトラップが少し大きくなった

 

 

 

 

 

――――――と普通の人は思うだろう

 

「トラップミスだ、点は取れても足元のテクニックがあれじゃな」

「あんたの目は節穴かい、ロビィ」

「ロビィ、そりゃないぜ」

「ロビィだめだめじゃん」

 

3人にダメだしされたロビィは今度こそいじけてしまった。

 

「あの駆の”ラン ウィズ ザ ボール”は俺が教えたんだよ」

「輝が人に教えるって珍しいねー」

「僕も何度かやられたことがあるよ、テルのあれには」

ロビィはもう心ここにあらずといった状態だ。

「まぁ、なんにしても駆が入ったことでチームの動きがよくなったな。」

「サッカーはたった1人の選手交代で流れが大きく変わるものだ。

 それが僕やテルのような選手ならなおさらね」

「……傑もそうだったな」

「そうだね」

 

試合はそのまま進みアディショナルタイムも残りわずかになった時、駆がボールをもったときにそれは起こった。

(?…駆?)

ボールを受けた駆はドリブルを開始した。

(あいつにあんなドリブルできたっけか!?)

駆はそのままドリブルで相手選手をかわしてゴールに向かっている。

亜理紗も驚き、レオは立ち上がっている。

そのまま、キーパーもかわして同点シュートをはなったが、すでに試合は終わっていてノーゴールとなった。

 

「驚いたな、今のドリブル突破はまるで…、いやまぐれだろ」

 

ロビィが言いかけたことはその場の全員が感じていた。

 

(あれは…、あの足元に吸い付くようなドリブルは、傑のドリブルだ)

「日本に用事ができたな」

「……そうだな」

「答えは出たのか?」

 

 

「あぁ出たさ、俺は日本でやる」

「オファーを受けるのかい?」

「それは分からない。他にも高校はたくさんあるしな。

 でも、レオと同じところには行きたくないな」

「どうしてだい?」

「俺とレオが同じチームになったら、もうチートだろ」

「確かに2人が一緒になったら勝てるチームなさそうだよね。

 でも私は2人が一緒にプレイするところも見てみたいと思うけどなー」

「サッカーを続けていたらそのうち、実現するだろう」

「…そうだな」

 

3人はこの後同じような言葉を駆が言うとは思ってもみなかった。

 

 

 

 

 

 

「え、レオ…お前日本で…やるのか」

「うっさい、ロビィ!!今良い雰囲気なんだから」

「いや、しかし…」

 

ロビィの不幸は続いていく。

 

 

 




感想まってます!!

主人公はとりあえず、駆達が入学する前に江ノ高に転入して、選手権から試合出場する予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



すいません、お待たせしました。


レオたちと別れた後、輝也と亜理紗は駆に会うために奈々に教えてもらったお好み焼き屋に向かっていた。

 

「さっきは分からないって言ったけど…、輝は駆君と同じ高校に行こうかと考えてるんじゃない?」

「………な、なんで?」

図星だった。

「だってあんなドリブル見させられたら私だって凄い興味出るもん」

確かに試合終了間際に見せたあの駆のドリブルには輝也も驚いたし、レオも驚いていたようだ。

あのドリブルは何度も見たことがある、忘れることのできないドリブルだからだ。

「あのドリブルは傑のドリブルだよ。

 ずっとコンビ組んできた俺には分かる」

サッカーを始めた時も、小学生の時のクラブチームも、世代別の代表に初めて呼ばれた時も、飛び級で上の年代の代表に上がるときもずっと輝也と傑は一緒だった。

輝也にとっては、傑とプレーした時間は自分が一番長いという自信もあるほどだ。

だからこそ分かる……駆が見せたドリブルは傑のドリブルそのものだった。

「兄弟だからドリブルも瓜二つになるのかな?」

「いや、駆のドリブルは昔から傑のようなタイプじゃなくて俺みたいなタイプだった。だからこそラン ウィズ ザ ボールも俺が教えてものにすることができたし」

「じゃああれはなんだったんだろう?」

「……分からない」

そうこう話していたら目的地のお好み焼き屋に到着してしまった。

「まぁこの話は置いておいて、とりあえず駆と話そう。

 確か店の前で奈々が待っててくれてるはず…あ、いた」

店の前には連絡にあった通り、奈々が立っていた。

 

「あ、輝也さん!!お久しぶりです」

「よう奈々、久しぶり」

「奈々ちゃん久しぶりー」

「え、亜理紗ちゃん!?なんで輝也さんと一緒にいるの??」

「連れも一緒だからって言わなかったっけ?」

「それは聞いてましたけど、まさか亜理紗ちゃんだとは思わなくて」

「2年ぶりだねー」

「もうそんなに経つんだね。

 それで、なんで輝也さんと一緒にいるの?」

「まーいろいろあってさ、そのことはまたゆっくり話すよ」

「ふーん、とりあえず中に入ろう」

3人で店のの中に入っていた。

まずは駆を探そうと思って店内をきょろきょろしていたら、

「おいあれ」

「嘘だろ」

「なんでこんなとこに」

「いやいやこんなとこにいるわけないだろ」

「そっくりさんだろ絶対に」

「ドッペルゲンガーだ、ドッペルゲンガー!!」

「それちょっと意味違うくないか…」

周りの人間のひそひそ話にももういい加減慣れてきた。

そんなことをしていると、店の奥から歩いてくる駆をみつけた。

「…!おーい、駆!」

「え、輝兄!?なんでこんなところに??」

その瞬間、あたりが静まり返った。

次の瞬間いたるところから驚きの声があがった。

「やっぱり本物の歳條輝也ー!?」

「なんでU-17日本代表がこんなところに」

「確か海外のユースチームにいるんじゃなかったか」

「チェルシーのユースにいるって話聞いたことあるぞ」

「てか駆はなんで知り合いなんだよ」

この盛り上がりにはさすがに輝也も困惑していた。

「輝は有名人だねー」

「本当に、俺たちからは遠い人になっちゃったね。

 それで、どうしたの今日は?」

「ん?まー大した用事はないんだけどな、せっかく日本に来たし駆の試合の感想でも言ってやろうかと思ってさ」

「え、試合見に来てたの!?」

「変なタオルだったな」

恥ずかしいのか顔赤くしてしまってる。

「可愛い♪」

「おい亜理紗、余計に恥ずかしくしてやんなよ」

「駆、誰と話してんだ…って、歳條輝也!?」

駆が来た方向から、佐伯祐介がやってきた。

「やぁ佐伯君、今日の試合見てたよ。

 君とはこれから一緒にプレイする機会がありそうだ」

「あ、ありがとうございます」

「ねぇ輝~、とりあえず何か食べようよ」

「そーだな、俺も腹減ってるし」

 

その後食べながら駆と話をしようと思っていたのだが駆のチームメートの質問攻めにあってしまい、輝也は話どころかゆっくりと食べることさえ許してもらえなかった。亜理紗と駆、奈々は佐伯祐介やツンツン頭のサイドバックと仲良く食べていた。なんかべろんべろんのおっさんにも話しかけられたが、それが監督だということを後で知って驚いた。

その後亜理紗が作ってくれた一瞬のチャンスで駆とともに外に抜け出すことができた。

 

 

 

「こうやってゆっくり話すのは1年ぶりだな」

「そうだね」

「1年以上もたったんだな……あいつが死んでから」

「……そうだね」

 

しばらく無言で歩く二人。

 

「今日の試合、惜しかったな。

 俺の教えたラン ウィズ ザ ボールも少しは上達してたみたいだな。左足も使えてたし」

「怪我が治ってからはすごい練習してたからね

 輝兄のやってた練習をまねてずっと壁に向けてシュート練習してたからまた左足も使えるようになったよ」

駆は小学生の時に練習中にチームメートを怪我させてしまい、そのトラウマから左足でシュートを打てなくなっていた。

 

「よく乗り越えたよ、左足のトラウマも、2年間のブランクも……傑のことも」

「………うん」

 

傑は無事に弟がプレーヤーとして復帰してほっとしてるのかな。

そんなことをつい考えてしまった。

 

 

「実はさ、輝兄に話しておきたいことがあるんだ」

「ん、何の話?」

「俺と兄ちゃんが事故に遭った時に、心臓の手術を受けたっていうのは知ってるよね?」

「まぁ一応聞いたからな」

「あの時さ、俺胸に鉄パイプ刺さったんだ」

「……お前よく生きてたな」

「本当だよね」

当の本人が今、呑気に笑っていられるのは奇跡だと思う。

 

しかし

 

「でもさ輝兄、おかしいと思わない?」

「……何が?」

「鉄パイプなんてものが突き刺さったのに、"ただの"心臓手術で助かっただなんて」

「それはまぁ言われてみれば。…………まさか」

「うん、俺が受けた手術は心臓移植。

 兄ちゃんの心臓を俺に移植したんだ」

「…!?」

 

駆が何を言っているのか、輝也はなかなか理解できなかった。

しかし、今確かに駆は傑の心臓が自分に移植されたといった。

 

 

「と…いうことは傑の心臓は…」

「うん、兄ちゃんの、逢沢 傑の心臓は今もここにある」

 

そういって駆は自分の胸に手を当てた。

 

「兄の心臓を引き継いだ弟か…

 今日の試合は第一歩ってところだな」

「そうだね」

 

「この話を知ってるのは他に誰がいるんだ?」

「家族以外はセブンぐらいだよ」

「そうか」

(そこにいるんだな、傑)

 

やはりあのドリブルは傑だったのだろう。

俺の前で再びあの周りを魅了するプレイを見せてくれた。

これからの駆、そして駆の中にいる傑を見ていきたいと俺は思った。

 

 

「駆はさ、高校どうするんだ?」

「まだどこにするかは決めてないけど、鎌学は出るよ」

「そうか、また決まったら教えてくれ」

「いいけど、どうして?」

「俺も日本の高校でサッカーすることにしたから」

「えぇー!?輝兄日本に帰ってくるの!?」

「まぁ一応な。明日にはまたイギリスに戻るけど。

 まだ正式には決まってないからあんまり話広げるなよ」

「わ、分かった」

「じゃあとりあえず店に戻るか」

「うん」

 

 

 

 

店に戻り、駆のチームメートたちが解散したため俺と亜理紗も帰ることになった。

亜理紗は日本での俺の家、要は実家に泊まることになっていて前の日もそうしたのだがが。奈々の家に泊めてもらうことになった。

なので俺は1人で帰ることになった。

といっても歳條家と逢沢家とはとても近いため結局は亜理紗と奈々を送ってから、駆と一緒に帰った。

昔はよく傑の部屋に泊まり、夜中までサッカーの話題で逢沢兄弟と3人で語り合った。

そんなことなどもあって、俺の両親と駆の両親はとても仲が良かったりする。

 

「それじゃあな、駆。また高校決まったら教えてくれよ」

「分かった。輝兄も次帰ってくるときは連絡してよ」

「覚えてたらなー」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

駆と別れた後、輝也は自宅に帰った。

「ただいま母さん」

「あら、お帰りなさい。駆君はどうだった?試合には出れたの?」

「後半から出れたよ。試合は負けたけど2点決めてた」

「あら、よかったじゃない」

「まぁね。父さんは?」

「もうすぐ帰ってくるはずよ」

「分かった。自分の部屋にいるから父さんが帰ってきたら呼んで」

「別にいいけど、どうかしたの?」

「話したいことがあって」

 

 

とりあえず日本の高校でサッカーをやりたいっていうことは両親には言っておかなければいけない。

母さんが言った通り数分後に父さんが帰ってきた。

 

「あら、あなたお帰りなさい。そういえば、輝也が話したいことがあるらしいわよ」

「そうか、分かった」

「輝也を呼んでくるわ」

 

 

 

「それでどういう話だ、輝也?」

「実は……」

「いや待て、当ててやろう。

 ”日本でサッカーがしたい”だろ?」

「!?なんで?」

「あら、本当?」

「実は俺も今日の駆君の試合を生で見てね、あの最後のドリブルを見たお前ならこう言ってきそうな気がしていたんだよ」

全くその通りで返す言葉もなかった。

「でもいいの?向こうではトップチームにも昇格できるかもしれないんでしょ?」

「少し遅れるだけだよ、母さん。俺は今しかできないことをしたいんだ。それに、駆の成長を近くで見ていきたいと思う。……傑のためにも」

「ということは駆君と同じ高校に編入するつもりなのか?東京の高校からもすでにオファーが来ているんだろ?」

「多分あそこにはレオが入るだろうから。駆がどこに行くかだけど、今のところはそうするつもりだよ」

「あら、なら日本で輝也とレオ君の対決が見られるかもしれないのね」

自分の母親は実はレオナルド・シルバのファンだったりする。

一度、駆の妹の美都と共にレオのサインをねだられたこともある。

なにか複雑なものがあるものだ…

「お前が決めたことを否定するつもりはない。お前はそれで後悔しないんだな?」

「うん、ヨーロッパでやる前に日本でやるよ」

「なら輝也もこの家に帰ってくるのね」

「十倉さん達には話したのか?」

「まだ。電話で話すのもなんだから、明日イギリスに帰ってからゆっくり話すよ」

「そうか。まぁあれだ、やるからには全国優勝しろよ」

「当然!」

そんな感じに久しぶりの家族3人での話し合いは終わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私もいつでもテレビに出れるように心の準備しとかないと」

「気が早すぎるよ、母さん」

「それよりお前、サインの練習してるのか?」

「え、してないけど」

「これから書くことが増えるかもしれないんだ、自分のサインも考えとけよ」

 

どこか違うところのある家族間のやり取りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




輝也の父親はフリーのジャーナリストをしているという設定です。

感想などあればまってます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

親友

駆の試合の翌日、輝也はイギリスに帰った。

亜理紗はもっと日本にいたいと言っていたが、輝也が帰るのでしぶしぶ帰ってきた。

日本の高校でやることは決めたが、駆が高校に上がるまでにまだ半年以上ある。

夏の総体は出場したいので、編入生は半年間公式戦に出場できないことを考えると、年内には編入したい。

駆にもそのことは伝え、決まり次第連絡をもらうことになっている。

輝也自身でも調べてみるつもりだが、自宅のある神奈川県内にはしようと思っている。

(とりあえずは、駆が決めた高校を見に行ってみるか。そういえば、神奈川の高校って言ったらあの人が監督やってるところがあったな。最悪、そこにするかな)

飛行機の中で懐かしい顔を思い出しているうちに、イギリスに到着した。

現在所属しているチェルシーFCユースのスタッフやお世話になっている十倉夫妻にも、日本の高校でサッカーをやるということを話さなければいけない。

 

「久しぶりのイギリス!!」

「久しぶりって言っても、1週間も経ってないよ」

「日本でいろいろあったからなんか凄く久しぶりに帰ってきた気がするんだよ」

「そういえば、レオは?」

「レオは東京に行った。蹴球学園のオファーを受けるみたいだな」

「よくロビィが納得したね」

「意外だよなー」

(ロビィめ、大金積まれて折れたか。まぁ俺としてはラッキーだけど)

「ふ~ん、とりあえず家に帰ろ」

「そうだな」

 

 

そしてその日の夜

 

「どうしたの輝也君、私たちに大切な話って」

輝也は昼に帰った時に、今晩大切な話があるということを祐子さんに伝えた。

また、仕事から帰ってきた孝明さんにも同じように伝えて今に至る。

 

「まあそんなに急かさなくてもいいじゃないか。それより輝也君、久しぶりの日本はどうだった?」

「いろいろなことがありましたね。すごく充実した時間でした」

「それは、よかった。それに何か吹っ切れたという顔をしているね」

「そうなのよ。帰ってきた時から輝也君、何か悩みが無くなったみたいでいきいきとしているわ」

「そ、そうですかね?」

「答えは出たようだな。悩んでいたんだろ?イギリスでサッカーを続けるのか日本でサッカーをやるのかを」

「え?」

蹴球学園からのオファーを見て日本でやるかどうかを悩んできたが、そのことを相談したのはレオだけだ。

「だって輝也君、東京の高校からオファーがきてからよく黙り込んで考えてたのだもの」

「そんな時に日本に一度帰るなどと言われたらな。そのうえ理由があの傑君の弟の試合を見に行くときたら。悩んでいることは想像できたさ」

本当にこの人達には驚かされる。

「それで、どんな答えを出したんだい?」

そう聞いてくる孝明さんは”まぁ答えは分かっているんだが”と言いたげな顔だった。

 

「俺……日本で、日本の高校でサッカーをやります!!」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

十倉夫妻に日本でサッカーを続けることを告げてから3日がたった。

幸い十倉夫妻は俺の決断を支持し、応援してくれると言ってくれた。あの人達には1日に一度は感謝している気がする。

 

そうして輝也は、今在籍しているチェルシーFCユースの練習に久しぶりに参加するため、チームの練習場に来ていた。

「ここでボール蹴るのも久しぶりだな」

練習が始まる2時間早く来た俺は、1人で体を解していた。最近あまり練習をできていなかったため、念のため早めに来て自主練をしているのだ。

すると、練習場に1人のチームメイトが入ってきた。

「やっぱり来てたか、テル」

声を駆けてきたのは、アダム・デイヴィスだ。

アダムとはこのチームの中でも一番仲が良く、プレイ面でも相棒である。

長年やった傑との連携は俺の中では一番だが、アダムとの連携も日を重ねるごとにレベルを上げている。

傑亡き今、輝也にとっての相棒はアダムであることは間違いない。

「早いな、アダム。まだ練習まで1時間以上あるぜ」

「どうぜテルのことだから早く来て自主練してるかなと思ってさ」

「ということは付き合ってくれるのか?」

「そのつもりできたんだよ」

こうして輝也とアダムは練習が始まるまで2人でボールを蹴ることにした。

 

 

 

「久しぶりの母国はどうだったんだ?」

「なかなか面白かったよ」

「お目当ての選手はどうだったんだよ。あのスグル アイザワの弟は」

「見事に途中出場したよ」

「おぉぉ!!」

アダムには日本に帰る前に、駆のことを話してあった。ベンチには入れていないことも、監督に内緒で勝手に選手登録したことも。

「そして2点決めて見せたよ。試合には負けたけどな」

「そいつがスタメンで出てたら勝ってたかもな」

話をしながらも2人とも寸分の狂いもなく相手の足元に向けてボールを蹴り続ける。

「あのレオナルド・シルバとテルが注目する選手っていう時点で凄いよな。でもまだそいつ世代別の代表にもまだ呼ばれたことないんだろ?期待しすぎなんじゃないか?」

「俺の見立てだと高校で化けるかもよ。それに…」

傑の心臓もあるしな、何てことを言うわけにはいかない。

あのドリブルは凄いが、あれは本当の駆のプレイではないのだ。

輝也も傑も駆に期待しているのは、ドリブルではなくエリア内での仕事なのだから。

「いや、面白いやつだからよ。からかったら本当に面白いんだ」

「へぇー、また紹介してくれよ」

「機会があればな」

 

 

そうこうしていると他のチームメート達も集まり、その日の練習が始まった。

練習の中でのパートナーももちろんアダムである。

 

「そういえばテル、聞いてるか?」

「何を?」

「俺たち二人のトップ昇格の話が出ているらしいぜ」

「……まじで!?」

「あぁ。前線に怪我人が多くて、昇格は間近じゃないかって言われてる。

 特にフォワードはレギュラークラスが軒並み離脱してるから、こっちで実績残してるテルは可能 性が高いんじゃないかってのが最近の話だな。もしかしたら、今日にも監督から話が…」

「テル、アダム。練習終わったら監督のところに行ってくれ」

「ほらな」

「……お前の予想はよく当たるな」

 

 

 

 

そして輝也とアダムは今練習が終わり、監督室に向かっている。

「そういえばさアダム、言うの忘れてたけど」

「ん?」

ドリンクを飲みながら耳だけを傾けてくる親友。

「昇格の話があっても、俺断るから」

「ブフッ」

親友は変な音とともに飲んでいたドリンクを吹き出した。傾けてるのが耳だけでよかったと思う。

「は、お前何言ってんだよ。こんなチャンス滅多にないぞ」

「というか、一度日本に帰ることにしたんだ。日本の高校でサッカーを続けるために」

「はぁぁぁ!?」

まぁ驚くのが普通なんだろう。ヨーロッパでもトップレベルの実力のリーグであるイングランドのプレミアリーグの中でもこれまたトップレベルの実力を誇るチームのトップチームにこの歳で昇格できるのだ。

そんなビックチャンスを前にして、俺は世界でもそこまで発展しているわけではない日本の、しかも高校でのサッカーを選ぼうとしている。

そんなことを言われたら、誰だって目の前の親友のように飲んでいるドリンクを吹き出すこともあるだろう。

しかし、輝也は決めていた。

「悪いな、アダム。もう決めたことなんだ」

「……まぁそんな気はしてたんだけどな。スグル アイザワの弟の試合を見に日本に行くって聞いた時から。今回は嫌な予想が当たってしまったよ」

「ずっと迷っていたことなんだ。一度日本でプレイするかどうかを。でもまぁ今回の一時帰国で決断できたよ」

「後悔はしないんだな?」

「あぁ」

輝也の言葉に、アダムはどこか安心したような顔になった。

「そうか。さて、続きは後にしてとりあえずボスの話を聞こうぜ」

2人は監督室の前に到着していた。

 

 

予想していた通り、監督の話とはトップ昇格の件だった。なので俺は丁重にお断りした。

監督から「…なぜだ?」と睨まれながら聞かれた時は殴られるかとも思ったが、俺が話した理由を聞き終えた監督は一言、「成長して帰ってこい」と言ってもらえたので本当に安堵した。その場にいた他のコーチ陣も残念そうにしていたが、同じように「日本にお前の名前を刻んで来い」「強くなって来いよ」といったように背中を押してもらえた。その後、アダムとのトップ昇格の話に移るので、俺は監督室を出ていくことになった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

監督やコーチ達といったスタッフにチームを退団することを伝えてから数週間後、駆から電話がかかってきた。

「輝兄、受ける高校決まったよ!!」

「どこだ?」

「江ノ島高校にしようと思うんだ」

「そうか、じゃあ俺もそこにするかな」

「そんなに簡単に決めちゃっていいの?」

「まぁ一応見に行ってみるけど、よっぽどのことがなかったらそこで大丈夫だろ。というか駆、俺がその江ノ島高校に編入するんだから落ちるなよ」

「分かってるよ。ちゃんと勉強するから」

「ならいいけど」

「ところでさ輝兄、荒木 竜一さんって知ってる?」

「竜一?知ってるけど。なんで?」

「いや、兄ちゃんの日記にその荒木って人の名前があってさ。“俺よりもパスセンスは上”って書いてあったから、どういう人なのか気になって」

「確かにそうかもな」

荒木 竜一とは一時期代表でともにプレイしたことがあるが、傑の言う通りパスセンスはいいものを持っていた。一緒にやって楽しい選手だったことを覚えている。

「っていうか駆、お前傑の日記勝手に見たのか?」

「あ…まぁ、うん」

「傑が生きてたら絶対に怒られるぞ」

「き、気を付けるよ」

「ったく。まぁいいや、俺今から練習だから切るぞ。またなんかあったら連絡くれ」

「分かった」

「ちゃんと勉強しとけよ」

「……分かった」

 

 

このとき俺は気が付いてなかった。

江ノ島高校とは、あの人が監督がしているということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の練習で

「そういえばさテル」

「どうしたアダム」

「前にどっちが先にトップに昇格するかで勝負するってことになってなかったか?」

「………」

「負けたほうが昼飯一回奢るんだったよな?」

「………」

 

決断してから初めて日本の高校でやることを後悔した瞬間だった。

 




予定変更、5月のインハイ予選から主人公は試合に出します。

感想など待ってます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

憧れ

輝也は今江ノ島の海水浴場に来ていた。

もうすぐ11月なのだから、当然海に入ることが目的なのではない。

そして、今輝也は”憧れの人”の姿を呆然と見ていた。

 

「……鉄さん」

 

 

 

 

 

 

話は一時間前に遡る。

輝也は駆の話した、江ノ島高校を見に行くことにした。

駆の電話後に思い出したことだが、江ノ島高校と言えば輝也にとっての憧れの選手がかつて在籍していた高校だった。

 

 

 

 

まだ小学生だった輝也は、父に連れられて見に行った選手権の会場で俺は、神懸ったプレーを見せる選手を見た。

 

岩城 鉄平――――

 

当時選手権監督としてピッチの中ですべてを支配するその姿を見て、輝也はいつかその人とサッカーがしたいと思った。

ちなみにその時から輝也は高校サッカーのファンになった。

フリーのジャーナリストだった輝也の父もそのプレーぶりを見てからは、他の記事を書きながらも、常にその天才を追い続けた。それは怪我をしてからも続いた。

そのことから父を経由して、輝也は鉄さんと知り合うことができた。

大学に進学してからも鉄さんの出る試合を輝也は何度も見にいった。

鉄さんも初めは戸惑っていたが、しつこく試合を観戦していくうちにいつしか輝也に対して弟のように接してくれるようになった。

 

 

 

 

そんな兄のような存在でもある鉄さんがいた江ノ島高校を駆が選んだことをどこか運命のように感じながら、輝也はサッカー部を見るために江ノ島高校に向かった…………が。

 

 

「サッカー部は今日は休み!?」

土曜日だったら練習しているだろうと思いグラウンドに足を運んだものの、サッカー部の姿はグラウンドにはなかった。

そこへ、とりあえず声をかけたた先ほどサッカー部が今日は休みだということを教えてくれた男子学生が、新たな情報を教えてくれた。

「SCは休みだけど、FCなら砂浜で練習していると思うよ」

SC?FC?砂浜?

引っかかることはあったが、ひとまず教えてくれた男子に感謝し輝也は砂浜に向かった。

そして、そこで練習をしているサッカー部を見つけた。

 

 

…さらには、そこで指示を出す鉄さんも。

 

 

「そっか。鉄さんが監督として江ノ島に戻ってたんだ」

 

とりあえず輝也は少し遠くからその練習風景を見ることにした。

そして分かった。

 

「さすが鉄さんのチーム。なかなか楽しそうじゃん」

 

地面が砂浜なので、かなりキツそうではあるがみんな楽しそうにサッカーをしている。

その中には、昔代表で一緒にやったことのある荒木の姿もあった。

そう思っていると、練習は中断し休憩に入ったようだった。

 

「さてと、鉄さんにあいさつでもしとくかな」

 

 

ちょうど一人になった鉄さんのところに向かい、後ろから声をかけた。

 

 

「鉄さん」

「!!?? 輝也か!」

「お久しぶりです」

「本当に久しぶりだな。今はイギリスじゃなかったのか?」

「ちょっと用事がありまして」

「そうか。今はまだ練習中だから後でゆっくり話そうか。

 向こうの話も聞いてみたいしな」

「それもそうなんですが、……ちょっとばかし大切な話がありまして」

「? 分かった」

 じゃあ俺は練習に戻るよ。よかったら見てってくれ」

「そのつもりですよ。そこらへんで待っておきm…」

「岩城ちゃん!!」

輝也が言い終わる前に、部員らしき金髪の見るからにヤンキーのような人物がやってきた。

 

「どうしました?兵藤君」

兵藤と呼ばれたその部員は、監督であるはずの鉄さんをちゃん付けで呼んだ。

「遠藤が足を痛めたらしくてさ」

「それは本当ですか!?」

「とりあえず今、淳平と紅林が保健室に連れて行ってるけど、今日の練習はもう無理っぽい」

「そうなると人数が奇数になってしまいますね、紅林君にどちらかのチームに入ってもらって私がキーパーをしてもいいんですけど…」

すると鉄さんは輝也のほうを見た。

(まさかとは思うが…)

「輝也」

「はいはい分かってますよ。やればいいんでしょ?」

「悪いな」

「別にいいですよ。さっきから見てるだけで退屈になってきてるところだったし、結構楽しそうだったんで」

「ならよかった」

そこで今まで輝也と鉄さんのやり取りを黙って聞いていた兵藤が口を開いた。

「なぁ岩城ちゃん。そこにいるのって、もしかしなくても…」

「はい、歳條 輝也くんです。U-17日本代表の」

「……その超天才児が今から俺らのビーチサッカーに参加するんですか?」

「そういうことですね」

「き、聞いてないっすよ」

「今決まりましたからね」

「…………」

兵藤はぎこちない動きのまま顔を輝也のほうへと動かしてきた。

「よろしく」

「お、おう。よろしく」

「じゃあ鉄さん、俺着替えてきますね」

「練習着持ってきてるのか?」

「まぁ一応念のためってことで持ってきてました」

「そうか」

 

兵藤はその場でたっぷり10秒間固まっていた。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「ということで、怪我の遠藤君に代わって残りの練習には歳條 輝也君に参加してもらうことになりました」

「よろしく」

「「「………」」」

全員が唖然としていた。

バカ騒ぎした駆のチームメートと比べると少しは大人だなあと思う。一学年しか違うのにこの違いは何なのだろうか…

が、一人だけ中学生と同じようなやつがいた。

「輝也じゃねーか?久しぶりだな。一年ぶりぐらいか?お前今イギリスじゃなかったのか??なんでこんなとこにいるんだよ???」

荒木だけは中学生のような反応だった。

「おぉ、久しぶりだな竜一。まぁちょっと鉄s、監督さんに用があってな」

「へぇー」

 

「てか監督、何で歳條のこと知ってるの?」

「それは、まぁ昔いろいろとあってね」

「いろいろ?」

「そ、そんなことはいいので練習を再開しましょう」

((あ、誤魔化した))

 

そんなこんなで練習に加わることになった。

この練習、”ビーチサッカー”の大体のルールはさっき鉄さんに教えてもらった。

ルールじたいは単純だが、なにせ地面が砂浜だ。さらにはゴールに向かって少し上り坂になっている。ボールは転がりにくいし、足にも相当負担が来るだろうな。

そんなことを考えながら、輝也はビブスを渡されビブスチームに入った。

荒木とは違うチームになったが、まぁそれはそうか。

 

「えっと、とりあえずみんな名前教えてくれるかな?あと学年と」

「1年の火野 淳平だ」

「1年の桜井 学」

「同じく1年の浜 雪蔵」

「2年の三上 信二だ」

同じチームになった他の部員の名前を聞き終わった俺は1つ思った。

「1年が多いんですね」

「FCにいる2年は俺も含めて二人だけなんだ」

そう答えたのは三上さん。

「1年ばっかって言っても俺らはレベル高いぜ。気を付けろよ天才君」

「はい」

 

「では後半、開始します」

鉄さんの言葉と笛の音とともにビーチサッカーが始まった。

 

そして始まって早々、輝也は思った。

(これは……思ったよりキツい)

砂浜のピッチがこれほどキツイとは思わなかった。

「火野!ボールくれ」

ボールを持った火野からパスを受ける。

「死ね死ね死ね死ね」

「っつ!?」

受けた瞬間おかっぱ頭の奴が物騒なことを連呼しながらスライディングで突っ込んできた。

それをギリギリ交わした輝也はドリブルを開始する。

するとそこに、

「勝負だぜ、輝!!」

目の前に荒木がきた。

が、輝也はあることに気付いた。

「竜一、お前ちょっと太ったか?」

「なっ!?」

俺の言葉に荒木は分かりやすく動揺した。後ろでは兵藤が爆笑してる。どうやら本当に太ったようだ。

「う、うるせぇ~」

キレた荒木がボールを奪おうとしてきた。

言葉では動揺しているが、ボールを奪おうとする動きは鋭い。

が、太ったせいかはどうかは分からないが、イギリスでやってきた輝也の相手ではなかった。

「太ったとはいえ、あの荒木があっさり抜かれた!?」

「いくら太ったとはいえ、あっさりすぎるだろ」

「太った太ったうるせぇー!!」

後ろにいた、兵藤も抜きゴール前まで到達しシュートを放つ。

が、シュートはキーパーに弾かれてしまった。

「チッ(砂浜のせいでコントロールが甘くなったか。キーパー正面だった)」

 

 

輝也の一連のプレーに周りは呆然としていた。

「な、なんだあのシュート」

「正面じゃなかったら、絶対入ってたぜ」

「す、すげー」

 

しかし輝也が驚いたのは、相手の守備だった。

(荒木はさすがに上手いけど動きが鈍くなってたな。けど、あのおかっぱ君のスライディングは予想以上だったな。さすが鉄さんのチームってところか)

練習前の雰囲気で少し舐めてたけど、いざゲームが始まるとみんな予想以上の動きを見せていた。

今も守備に回った味方の選手たちがボールを持った相手に詰めている。

 

「…結構楽しめそうじゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピッ

ピッ

ピー

「後半終了です」

鉄さんの笛の音と声により、ゲームが終わった。

結局あの後、輝也は3点を決めてハットトリックを達成した。

「さすが世代別代表の常連。レベルが違うぜ。おかげで今日のドリンク代払わずに済んだ」

「おー。俺も楽しめたわ」

ゲームの途中に火野から、負ければドリンク代全もちということを聞いて本気になったのは誰にも言わない。

 

「くっそー、また輝也に負けた」

そう言いながら荒木が近づいてきた。

そして近づけば近づくほど、太ったことがよくわかる。

「……竜一。お前なんでんなに太ってんだよ」

「そ、それを言うなー!!」

一応は本人は気にしているみたいだ。

「お前がそんなんじゃ、10番は俺がもらうぜ」

「うっせー!誰がお前なんかにとられるか!!大体お前はいつも9番だろうが!!!」

「というかまず歳條はうちのチームじゃないじゃん」

なるほど、確かにそれは正論だ。

鉄さんと話してからと思ってたけど、仕方ない。

 

 

「俺、江ノ島高校に編入するから」

 

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

全員沈黙

 

 

「「「えぇぇぇ!!!」」」

 

 

そして全員絶叫。

その場にいたすべての部員が、さらには鉄さんもそろっていた。

 

「輝也、それは本当か?」

「本当も何も今日はその話をしようと思ってここまで来たんですよ、鉄さん」

輝也の言葉に全員が驚いている。もちろん鉄さんもだ。

「分かった、その話は後でしよう。輝也はどこかで待っておいてくれ。とりあえず、今日の練習はもう終わりだから、連絡事項だけ話しておく――」

鉄さんが部の連絡をし始めたので、輝也は少し離れた場所から待っておくことにした。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

「待たせたな」

「いえ」

待つこと10分、部員たちを解散させたあとに鉄さんはゆっくりとこちらに近づいてきた。

「それで、どこから話そうか」

「そうですね…」

イギリスでやってた輝也が、いきなり日本の高校のサッカーでやらせてくれと言ってきたのだ。何から話せばいいのか困るのは当然のことになる。

「まずは、輝也は日本に帰っくるということで良いんだな?」

「はい。向こうのチームにももう言ってあります」

「しかし、勿体ないな。お前も向こうではフロント側からも大分期待されてきてたんだろ。

 いいのか?このままいけばトップチームへの昇格も夢じゃないだろ」

「そこはいいんです。上でやるのが少し遅くなるだけですから。それに俺だって高校サッカーで国立目指してみたいと思いますし。鉄さんなら知ってるでしょ、俺が高校サッカーの大ファンだってことを」

「そういえば…そうだったな。だが、なんでまたうちに来ようと思ったんだ?他にも有名どころがあっただろ」

たしかに神奈川だけでも、鷹さんがいる鎌倉学館であったり、亨さんのいる葉蔭学院など全国でも有名な高校がある。

「まぁそうなんですが……知り合いが来年江ノ島に入るみたいなんで。それに合わせようかと」

「ほぉ、天才・歳條輝也を連れてきてくれた新入生か。誰なんだ?」

「それは来年までの楽しみ、と言いたいところなんですけど。まぁ鉄さんには言っておきます。…逢沢駆です」

「逢沢?まさかあの逢沢傑の弟か?」

「その通りです」

「だが、逢沢傑は有名でも弟の駆君は世代別の代表にも呼ばれたことがなんじゃないか?そんな弟君のために輝也はうちに来るのか?」

「俺はあいつには期待しているんですよ。高校で化けたら、もしかしたら代表にも呼ばれだすかもしれないですね。まぁそれに駆だけが理由じゃないですよ」

「そうなのか?」

「俺が高校サッカーに魅了されたのは鉄さんのプレーを生で見たのが理由ですからね。俺をここまで高校サッカーの大ファンにした鉄さんにはきっちりと責任を取ってもらわないと」

輝也の言葉に鉄さんは嬉しさ半分、呆れ半分といった感じだった。

「分かったよ。お前の編入については手続しておくよ。半年は公式戦に出れないが今編入すれば、来年の総体の県予選には間に合うだろう」

「だから急いで帰ってきたんですよ」

「そうか」

「鉄さんが俺に高校サッカーの素晴らしさを教えてくれたんです。だから俺が鉄さんを全国優勝チームの監督にしてやりますよ」

「楽しみにしているよ」

 

 

 

 

”いつか俺も国立(ここ)でサッカーをしたい”

そして

岩城鉄平(あの人)と同じチームで、全国の頂点を目指したい”

 

 

 

10年前に鉄さんのプレーを見て抱いて2つの夢に向けて輝也はまず一歩、踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで鉄さん。俺の編入の件もなんですけど、駆が入学できなきゃ元も子もないので…」

「入学試験をなんとかしろと言いたいのか?」

「はい!!」

「……俺にはそんな権限なんてないから無理だな」

「そうですか……」

当然と言えば当然の答えだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




大学の授業とバイトで忙しくてあまり投稿できてないです………すみません。

感想などあればまってます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

王様

鉄さんに江ノ島への編入の話をしてから一週間後、輝也は江ノ島高校での編入の手続きを終えた。

鉄さんが、しっかりと準備をしてくれたおかげで何の問題もなく編入をすることができた。

担任となる近藤先生とも話したが、残念ながら近藤先生はSCの顧問ということが分かった。

 

 

 

あの日編入についての話をした後、輝也は鉄さんから江ノ島高校にある2つのサッカーチームについて教えてもらった。

公認の部である”SC”と同好会の”FC”の2チーム。

鉄さんが監督を務め、輝也が練習に参加したチームが同好会であるという事実に少し驚いたが、逆に鉄さんのチームらしいとも思った。

今いるメンバーは荒木をはじめ、鉄さんがクラブチームを回り熱心な勧誘を受けて入学・入部した人も多かった。

近藤先生からはSCに来ないかと言われたが、鉄さんがいるFCでやりたいし同好会でもSCに勝てば学校の代表として公式戦にも出場できるらしいので断った。

 

そうして輝也にとっての江ノ島高校での高校生活が始まった。

同じクラスにはFCの荒木や兵藤、紅林、堀川がいて、SCの10番であるらしい織田 涼真もいた。

当初の予定通りSCではなくFCに入部し、編入後から正式に練習に参加するようになった。

荒木とは代表でもやったことがあり知り合いだったが、練習を重ねるごとに他のメンバーとも仲良くなっていった。

普段はグラウンドは使えないが、ビーチサッカーでも十分に練習になり、逆に砂浜での練習のため強くて速いパスサッカーを習得することもできる。

鉄さんの掲げる”楽しいサッカー”に、輝也は強く惹かれた。

駆も無事に江ノ島高校に合格することができ、一番の不安も解消することができた。

 

 

 

そして月日は流れ、駆達が入学してくる2週間前になった。

これまで何度かSCの練習試合を見に行ったことがあるが、確かにSCは強かった。フィジカル中心の戦略はシンプルだが、その分脅威にもなると感じた。

荒木がいて勝てなかったらしが、実際に試合を見ることでそのことに納得できた。

だがSCは確かに強いが、駆が入部して輝也や荒木との連携の精度を高めれば俺たちFCにも十分勝てるチャンスがあるとFCのメンバーは思っていた…………しかし。

 

 

「なぁマコ、今日も竜一のやつは練習に来てないのか?」

「そうみたいだな、これで春休みに入ってから3日連続だぜ」

そう、荒木が練習に来なくなったのだ。

確かに荒木はマイペースな奴で、練習途中にサボることもあったが輝也が入部してから連絡もなく部活を休むことは一度もなかった。

「確かに最近、”辞めてやる”とか言ってたけど、まさか本気で辞めちまったのか」

最近の練習終わりに、荒木はよく「もう辞めてやる」ということを言っていた。

確かに1年間SCには一度も勝てず、公式戦には出場することができなかったが、まだチャンスは十分あると輝也は思っていた。

荒木も同じことを言っていたのだが、それが一転、最近では諦めてきてしまっていた。

「あいつのことだから、すぐ戻ってくるだろ」

「まぁ淳平の言う通りだな」

俺とマコの会話に淳平が言ってきた。

「まぁそうだな。それじゃあマイペースな王様はほっといて練習始めようぜ」

どうせ荒木のことだ。あと2、3日したら帰ってくるだろう。

そう思っていた。

そして3日後、荒木は練習に顔を出した。

 

 

 

しかしその体型はサッカー部ではなく、相撲部そのものだった。

 

「おい、竜一。お前なんだその腹は」

「あぁ、これな。運動やめたらいっきにこうなっちまった。昔から太りやすい体質だったけど、これには自分でも驚いてる」

は?運動をやめた?

「ちょっと待てよ荒木。運動をやめたってどういうことだよ」

マコも輝也と同じところに疑問を抱いたらしい。

「そのまんまだよ。俺はサッカー部をやめた。前から兼部してた漫研一本に絞ることにしたんだ」

「なっ」

輝也は絶句した。目の前の立っている王様は今、確かに言った。

サッカーを辞めたと。”辞める”ではなく”辞めた”と言ったのだ。

「おい、竜一。お前何寝ぼけたこと言ってんだよ」

「そうだぜ荒木。SC倒して国立行くんじゃなかったのかよ?」

「無理だ。あのチームに勝てるわけがない。あいつら、去年よりも完成されたチームになってるじゃねーか。いくら輝也が加わったからって、やっと11人そろうかどうかのFCじゃあいつらにはかなわない」

「もし、そうだとしてもさ。岩城ちゃんの言葉を忘れたのかよ?」

「………」

マコが言った鉄さんの言葉というのは、このチームの目指すもののことだ。

国立や選手権優勝を目標のすべてにするのではなく、ナショナルチームの代表としてワールドカップで優勝することを目標とする。

そんな鉄さんらしいスケールの大きい考え方のサッカーをこのチームはコンセプトにしている。

「確かに岩城ちゃんの考えは夢がある」

「ならっ!!」

「だが、それはただの理想論だ。現に俺らは結局砂浜でのビーチサッカーだけで1年間が終わっちまった。総体予選、選手権予選、神奈川リーグ…何もかも指をくわえて見てるだけだった。惨めだったよ」

「……竜一」

「公式戦にも出れないチームで、3年間ビーチサッカーをやるぐらいなら、いっそ辞めたほうがましだぜ」

 

 

そういって、荒木は帰って行った。

マコは追いかけに行こうとしたが、輝也は止めた。

「止めとけマコ。追いかけても今の竜一に説得は無理だ」

傑が認めるほどのパスセンスを持つ天才だが、昔から我が儘でマイペースで自己中心なやつだった。

そんな荒木には輝也も傑も手を焼いていた。

そして、昔からこうなると何を言っても無駄なことを輝也は知っている。

「だけどさぁ輝。あいつが本当に辞めたらSCに勝つのは厳しいぜ。いくらお前が目をつけてる新入生が入ってきても、あいつのパスがなかったらSCから点をとるのはキツイ」

確かにマコの言う通りだ。

輝也や駆がこのチームに入っても、あくまでも俺たちはフォワードだ。やはり王様のパスが必要となる。

このチームにはあの”ファンタジスタ”は必要なことは全員が分かっている。

 

さらにそれだけではない。

「それに、あいつが辞めたら。部員が10人になっちまう」

もう一つの問題が部員の人数が足りないということだ。

輝也が編入してくる前には11人いたチームだが、残っていた2人の三年生のうちの1人が春休みに入る前に辞めてしまった。

そんな中で荒木にまで辞められたら、駆が入ってくるとしても11人とギリギリになってしまう。

もし怪我人が出ても、控え選手がいないので10人で戦わなければいけなくなる。

やはり荒木の退部はチーム事情を考えてもかなり痛い。

「とりあえず、このことは俺から鉄さんに伝えとくよ。

 あいつのことだから、そのうちひょっこり帰ってくるだろ」

「そうだといいけどな…」

輝也の言葉にも、マコは不安そうだった。

輝也も内心は不安だったが、荒木を信じて待つしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、そのまま入学式の日まで荒木は練習に姿を見せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少し短いですけど、ここで区切ります。
次回から駆達も入学し、原作通りの流れになっていくと思います……たぶん。

感想などあれば待ってます、


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

入学

迎えた入学式当日、早速輝也たちFCのメンバーは新入部員を探すことにした。

昨日荒木が帰った後、遠藤も膝の古傷を痛めてしまいSCとの試合には間に合わないことになった。

そのため、輝也たちは2人以上の新入生を確保しなければならないことになった。

とりあえず、片っ端から声をかけて少しでも可能性がありそうなやつを見つけ、鉄さんの待機している部室まで連れていくことになっていたが、マコと紅林がこの前、ドン・○ホーテで買ってきたヅラを使って鉄さんにジダンのモノマネをさせようとしていたが、大丈夫だろうか……

 

輝也は部員集めは他の面子に任せて、正門で駆達を待つことにした。

 

「あ!おーい、輝兄!!」

すぐに駆達はやってきた。

「よー、駆…!?」

しかし、奈々が一緒にいるのは輝也は予想していたがもう一人、予想外の人物がいた。

「あ、亜理紗!?!?」

そこには、江ノ島の制服を着た亜理紗の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆と奈々と別れ、輝也は亜理紗と歩いていた。

本当は駆達を鉄さんたちの待つ部室まで送る予定だったが、予想外の亜理紗の登場があったので駆たちはマコに任せることにした。

”金髪のヤンキーみたいなやつ”がいるからと説明したが、伝わっただろうか。

 

「まさか亜理紗までこっちに帰ってきたとはな」

「ふふっ、驚いたでしょ」

「そりゃあ、まぁな。俺には一言も言わなかったし」

「輝を驚かせようと思って。だがら内緒にしての」

輝也は亜理紗の思惑にまんまと引っかかったということになった。

「それに日本に帰るかどうかは私も前から考えてはいたことだったからね」

「そうなのか?俺はてっきりイギリスでトレーナーの技術を学び続けるんだと思ってた」

「それもありかなぁと思ったけどね。でも日本でもトレーナーの勉強はできるから。

 それに……、輝が駆君の高校サッカーを見ておきたいように、私も輝の高校サッカーを見ておきたいって思ったんだ」

「……そっか。でもどこで暮らすんだ?孝明さんも祐子さんもまだイギリス(向こう)なんだろ?」

亜理紗が日本に帰ってくることはできても、クラブチームのトレーナーをしている孝明さんが簡単に日本に帰ってくることはできない(亜理紗も当然大変だっただろうが)はずだ。となると亜理紗は今どこで生活しているだろうか。

「あ、それなら大丈夫だよ。奈々ちゃんの家に居候させてもらってるから」

「なるほどな」

確かに奈々の家なら、江ノ高からもあまり距離はないし安心できる。しかし、亜理紗と奈々がそこまで仲が良かったことに輝也は驚いた。

「輝はサッカー部に入ってるんだよね?」

「ん?当然入ってる。まだ同好会のチームだけどな」

「えぇ!?それってどういうこと?」

「あぁ、この学校にはサッカーチームが――――」

輝也は説明を始めようと思ったが、その前に時計が目に入った。

「っと、もう時間がやばい。また後で説明するから」

「はーい」

 

 

そこで亜理紗と別れて自分も教室に向かった輝也だったが少し間に合わず、すでに担任である近藤先生が教室に来てしまっていた。

「ほぉ、歳條。新学期早々遅刻とはいい度胸だな」

この先生を怒らしてはいけないことを輝也はよく知っていた。

なぜなら、同じクラスにいる問題児の代表格(荒木 竜一)が怒られるのをこれまで何度も見たからだ。

荒木が怒られているはずなのに、その迫力によってクラスの多くの生徒が怯える。

にもかかわらず、毎日のように怒られる荒木は意味が分からない。

「い、いや、すいません近藤先生。迷っていた新入生を案内していたら遅れてしまいました」

輝也はなんとか恐怖の説教(処刑)から逃れようと言い訳をする。(まぁ半分はその通りなのだが)

「そうか、なら今回は見逃そう。だが、どさくさに紛れて今教室に入ってきた者は別だ」

近藤先生の視線の先には輝也が話している途中に後ろからこっそりと教室に入った荒木がいた。

だが、バレないはずもなく、その行動により余計に近藤先生の怒りに火をつけてしまった。

「荒木……廊下に出ていろ」

「は、はい」

近藤先生の言葉を聞いた荒木は廊下に出ていった。

一方近藤先生も、連絡事項だけ簡単に告げて荒木の待つ廊下へと向かった。

その後、廊下に近藤先生の怒鳴り声が響いたのは言うまでもない。

 

 

「おい輝、お前どこでサボってやがったんだ」

席に着いた輝也に向かって隣の席のマコが言った。

「悪い。別にサボってたわけじゃないんだけどな、ちょっと新入生に知り合いがいたから話してた」

「知り合いって、例の輝がこの高校を決めた理由っていう期待のルーキーのことか?」

駆達の入学のことを輝也はマコたちに話したが、名前だけは伏せておいた。

駆は昔から、自分が逢沢傑の弟であることを周りにあまり知られないようにしていたからだ。

「違うやつだよ。それより、マコ。収穫はどうだったんだ?」

「とりあえず部員とマネージャーを1人ずつだな」

「そうか(駆達のことだろうな)」

「あと1人、なとしても見つけよう」

そうして話していると廊下に連れていかれていた荒木も帰ってきて、体育館へと移動して入学式が行われた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

入学式、ホームルームが終わり放課後になり、輝也は亜理紗と待ち合わせをしていた。

「輝、お待たせ」

「おぉ、じゃあ部室行こうか」

亜理紗は駆や奈々、そして中塚公太(誰だっけ?)と同じクラスになったようだ。

さらにはそのクラスの担任は鉄さんだった。

「へえー、あの人が輝也の言ってた監督なんだ」

「そう。それで俺のクラスの担任の近藤先生がSCの監督」

「なに?SCって??」

「あぁそっか、亜理紗にはまだ説明してなかったな」

輝也は部室まで歩きながら亜理紗にFCとSCのことを説明した。

「ふーん。じゃあ輝はそのFCっていう同好会に入って、その監督が輝の言ってた岩城先生なんだ」

「そういうことです」

そう答えたのは輝也ではなく、後ろから聞こえた声だった。

「あ、先生」

「どうも、十倉さん」

声をかけてきたのはちょうど話に出ていた鉄さんだった。

「あれ、鉄さんまだ部室行ってなかったんですか?」

「ちょっと職員室で用事があったからな、今向かってたところだ。それよりも、まさか十倉さんと輝也が知り合いだったとはな」

「イギリスから付き合いです。こう見えて亜理紗はそこいらの監督よりもよっぽどうまくやりますよ」

「こう見えてもは余計だよ」

輝也が言ったように亜理紗のサッカーに関する知識の量は高校生とは考えられないほど豊富である。

さらには、チームの戦術面においても十分な知識を持っているため、指導者としても十分やっていけるほどである。

「なるほど。となると、マネージャーとしてチームに加わってもらえば、とても力強い味方となるわけですね」

「まぁそういうことです」

「それで、十倉さん。我が江ノ高FCに入部してくれますか?」

「輝がいるなら、私はFCに入ります」

「そうですか!!」

亜理紗の言葉に鉄さんは満面の笑みを浮かべた。

 

その後部室に移動すると、FCのメンバーの中で駆が土下座をしていた。

駆のその行動にマコは退部を許してしまったが、輝也と鉄さんの説得により駆はFCに残ることを決めてくれた。

さらには、SCの試験に落ちた新入生も1人入ったことで、SCとの代表決定戦に11人で挑むことができるようになった。

 

その後はいつものようにビーチサッカーでの練習に入った。

しかし、1年にとっていきなりのビーチサッカーはキツかったらしく(輝也は普通にこなしたが)練習が終わったころには駆も的場も完全にノビてしまっていた。

「おいおい大丈夫か、駆?」

「だらしないなー。輝也さんたちはもう1試合ぐらいできそうだよ」

ノビている駆に輝也と奈々が声をかける。

「信じられないよ、いくら慣れてるからって言っても…」

「その様子じゃ今夜の公園練習は無理そうだね」

奈々の言う公園練習とは、駆が中学生の時から続けているという夜に行う秘密の特訓(?)のことで、輝也も日本に帰ってきてからはよく行っている。

「もー無理、全然無理だよ」

相当キツかったらしく駆は即答で答えた。

「それじゃ今日は俺と奈々だけか?」

「私も今日から行くよ」

「あれ?亜理紗も公園練習のこと知ってたんだ」

「言ったじゃん、私奈々ちゃんの家に居候してるってこれまで奈々ちゃんが毎晩練習に行ってるのは知ってて私も行きたかったけど、行ったら日本に帰ってきてることが輝にバレルから我慢してた」

そこまでするぐらいならバレてもいいじゃん、と輝也は思ったが口には出さなかった。

「そんじゃあまた後で公園で」

「うん」

こうして駆は数日間、公園練習を休むことになり輝也と奈々、亜理紗で行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お待たせしました。

感想などあればまってます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再会

駆達が入学してから数日後、輝也と駆、亜理紗、奈々はSCと海浜学院の練習試合を見に来ていた。

海浜学院のアップを見ていて、駆が派手なプレースタイルだということに気づき、奈々がSCがFCを意識していると指摘した。

そう話していると、SCの選手達がやってきた。

「ゼッケンを見る限りでは一応全員レギュラーみたいね」

「うん。あ、公太もいる。荷物持たされてら」

駆の言葉に輝也は思い出した。

「あーそっか。中塚公太ってどっかで聞いたことあると思ったら、駆の中学の時のチームメートか。あの髪形見たら思い出したや」

「あ…輝、公太君のこと忘れてたんだ。それに髪形で思い出すって…。私でも覚えてるよ」

「そりゃ、亜理紗は同じクラスだからだろ。ま、まぁそれはいいとして。さっき奈々がSCは全員レギュラーって言ったけど、それは間違ってるぜ」

「そうなんですか?」

「SCは今、守備の要が怪我で離脱している。駆と奈々もよく知ってる人だぜ。探せばいるはず……」

そう言って輝也はSCが練習をしている周辺を見渡した

「輝兄、それって公太のこと?

 でも公太は怪我してないし……他にも知ってる人はいるけどみんな怪我してないし」

「またあの人サボってんのか。さっき試合見に行くって連絡したのに」

「だからわざわざこうして抜け出してきてやったんだろうが」

「「え………?」」

「あれ、隼さんいいんですか?こんなとこにいて」

「「隼さん!?!?」」

 

 

声をかけてきたのは、輝也の1つ上の先輩である金森(かなもり)(しゅん)だ。

隼は小学生の時に輝也や傑、駆、奈々と同じチームに在籍していて、傑の前にキャプテンマークを巻いていた。

ディフェンスとしての実力はもちろん、いざ試合となるとその圧倒的なカリスマ性を発揮して、どれほどピンチになっても、どれほどチームが浮き足立っても、どれほどチームが不安になっても、隼はチームのリーダーとして必ずチームを落ち着かせた。

前線の輝也や傑はその隼の姿によく救われていた。

そうして、誰が言い始めたのか、周りからは”鉄壁の要塞”と言われるようになった。

 

そんな隼の小学生最後の大会は全日本少年サッカー大会の決勝だった。

勝てば優勝だったが、その試合で輝也と傑を中心とした攻撃陣は1点も奪えず、逆に隼率いるディフェンス陣が最後の最後に隼のクリアミスから失点し0-1で負けて準優勝だった。

得点を奪えなかった輝也達にも責任はあったが、試合が終わった後隼はいつまでも謝り続けた。

誰も、隼を責めなかった。責めることなどできなかった。

チームが初めて全国大会に出れたことも、その大会で決勝にまでこれたことも、全ては隼のおかげだと全員が思っていた。

輝也と傑は必ず次の年に優勝することを隼と約束し隼は進学した。

そうして、隼は鎌倉学館の中等部に入学して輝也と傑はチームの最上級生に、傑はキャプテンとなりスタメンにも駆や奈々、日比野が入るようになった。

そんな時、隼が中学の練習試合で選手生命にもかかわる大怪我を負ったという話を知った。

そして、隼は治療のためドイツに渡った。

 

 

 

「よぉ、駆に奈々、それに亜理紗も。久しぶり」

「「「お、お久しぶりです」」」

「でもまさか、お前らまで江ノ高に入ってくるとはな」

「隼さんこそですよ。輝兄も知ってたの?」

「俺も知ったのは最近だよ。

 SCとの試合に向けて偵察に来てたら偶然出会ってな」

「俺は知ってたけどな、輝が江ノ高に編入してたことは。

 SCの中でもだいぶ噂になったからな。有名人になりやがって」

「どうもっす。それで、いいんですか?サボってたらまた近藤先生に怒られますよ」

「監督には言ってあるからいいんだよ」

 

輝也と隼が話している間も、駆と奈々は輝の言った”怪我”という言葉が気になっていた。

 

「えっと…、隼さん怪我してるんですか?」

「もしかして中学の時の……」

「あー違う違う。この前やった試合で削られた時に軽く捻っただけだ。あの時の怪我はもう完治してるよ。そこの2人のおかげでな」

そう言って、隼は輝也と亜理紗のほうを見た。

「「え?」」

 

隼はドイツに渡った当初は治療が思うように進まなくて、選手生命も諦めかけていた。

しかし、そのことを偶然再会した輝也に相談したところ、輝也は亜理紗に頼んで亜理紗の治療を行った世界的に有名な医師を紹介し、隼はその医師の治療を受けることになった。

その結果、隼の怪我は劇的に回復し、高校に進級するタイミングで日本に帰国し、リハビリ期間を経て選手として復帰を果たした。

 

「ほんと、治ってよかったですね」

「まぁな。そういや駆も大怪我したらしいな。大丈夫なのか?」

「もう大丈夫ですよ。怪我も治りましたし、選手としてもしっかりと復帰しました」

「そういやお前、中学入ったころはマネージャーなんかやってやがったんだな。心配かけやがって」

「す、すいません」

「まぁでも復帰したからいいや。今度の試合は俺もギリギリ間に合いそうだし、覚悟しておけよ」

「はい!」

「お、試合始まりそうだな。じゃあ俺戻るわ」

 

そういって隼はSCのメンバーの元へと戻って行き、海浜学院と江ノ島SCの練習試合が始まった。

 

 

 

 

試合は前半途中でお互い互角の状況が続いていた。

 

「海浜のやつら、やべぇな」

「え、どいうこと輝兄?海浜学院のほうがチャンス作ってるように見えるけど」

「よく見ておけよ駆。海浜のチャンスはSCのDFとMFのフィジカルで全部潰されてる。そんでもって、SCの攻撃だよ。あの14番ののっぽにロングボール供給してるだけの単調な攻撃に見えるが、あの身長があれば読んでも対策をすることは難しい。身長やらフィジカルやらを全面に使てくるSCのサッカーは中々手ごわいぜ」

 

輝也が説明している間にSCのFWがサイドからのクロスをヘディングで合わせて先制点を決めた。

 

「これで前半終了。こうなれば、もうSCのペースね」

「後半が怖いと思うな、私は」

 

後半の途中から荒木も加わり、五人で観戦を続けた。

亜理紗と奈々の言う通り、後半は海浜学院が攻撃に気を回したすきにカウンターを何度も受けてSCが追加点を決めていき、終わってみれば5-0よいうSCの圧勝で試合は終了した。

試合後、荒木は駆達に話しかけた。

 

「な?言っただろ。今年のSCは去年以上にまとまってる。あいつらは本気で全国狙おうとしてるチームだよ。俺は去年の試合でそれを思い知ったよ」

「どんな試合だったんですか?」

 

荒木の言葉に、奈々が疑問に思い問いかけた。

 

「前半は俺達FCのペースだったよ。だけど、後半に入って先制された後はさっきの海浜学院のように悪循環にはハマっちまって結果は1対4。海浜の連中を笑えねーよ」

 

荒木の言葉に何も言えず、四人とも黙っていた。

が、そこで駆が口を開いた。

 

「でも、1点取ったんですよね」

「あ?」

 

駆の言葉に荒木も反応した。

 

「1対4だったんでしょう?その1点は誰がどうやって取ったんですか?」

「…俺のミドルだよ。試合終了直前に俺が決めた」

「諦めなかったんじゃないですか、その時は」

「!?」

 

駆の予想外の言葉に、荒木だけじゃなく亜理紗や奈々も驚く。

 

「試合終了間際までゴール狙ってたんじゃないですか」

「……」

「なのにどうして今はあきらめようとしちゃうんで「分かったようなクチ聞いてんじゃねぇ」え?」

「今の試合みたいに引いてスペースを消されると何も出来ねぇ。探し続けても俺にはあいつらの守りを突き抜けるパスルートがどうしても見つけられなかったんだ…」

「見つからないなら創ればいい」

「なに?」

「あのチームの鉄壁を一瞬で崩す、幻のパスルートを!」

 

この駆の言葉にはさすがの輝也も驚かせた。

 

『2人で創るパスさ』

 

その駆の言葉は昔、傑から聞いた言葉を思い出すものだった。

そしてそれは荒木にも言えることであった。

 

「あ、ちょっと荒木さん、聞いてくださいよ」

「まぁ待て駆」

 

無言で立ち去る荒木を追いかけようとする駆を、輝也は呼び止めた。

 

「お前の気持ちは伝わったはずだ。あとはあいつ次第だな」

「……うん」

 

手に持っていたハンバーガーをゴミ箱に捨てる荒木の姿を、輝也は見逃さなかった。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

江ノ島FCの面々は、SCとの試合会場である市民競技場で練習をしている頃、輝也は江ノ島近くのとある飲食店にある男から呼び出されていた。

 

「よぉレオ、久しぶりだな。それにリッキーも。パティは初めましてかな」

「やぁテル」

「久びりだな、サイジョウ」

「会えてうれしいよ、サイジョウ」

 

輝也は、東京蹴球学園に入学したレオとリカルド・ベルナルディ、パトリック・ジェンパの3人に呼び出されていた。

 

「で?試合が目前に迫ってて練習に参加したいところを無理やり呼び出した要件は何だ?」

「そう言うなよテル。今回正式にオファーを受けて入学したから挨拶しておこうと思っただけさ。他の2人も紹介しときたかったし。わざわざ俺たちが東京から神奈川まで来たんじゃないか」

「…まぁいいけどさ」

 

いかにも機嫌が悪そうな輝也を何とかレオは宥める。

横にいたパティは輝也に話しかけた。

 

「レオから話は聞いたぜ、サイジョウ。何でもお前らの学校は公式戦の出場チームを決める試合をやるらしいな。日本のハイスクールは面白いことをするぜ」

「まぁこんなことするのは俺らだけだろうがな」

「それで、その試合は勝てそうなのかい?」

「まぁ大丈夫だろう。駆も無事に入学してくれたし」

「負けてくれるなよ。俺はお前にリベンジしたくて日本に来たんだから」

 

リッキーは以前、輝也と傑が率いるU-15日本代表の前に煮え湯を飲まされた経験があるため、輝也にリベンジをしたいと考えている。蹴球学園のオファーを受けたのも、輝也と再戦ができると思ったからである。

 

「分かってるさリッキー。俺もお前との勝負がついたとは思ってないからな。今度こそお前との個人的な勝負にも勝ってやるさ」

「何だと!?いいぜ、やれるもんならやってみろよ。今度は俺らから点を奪えると思うなよ」

「リッキーはアイザワとサイジョウの話になったら熱くなるよな」

「まぁそういってやるなパティ、こいつは試合になったらこういう感情を力に変える男だからな」

 

熱くなって宣言するリッキーを見てやれやれと呆れるパティと、それをフォローするレオ。

そんな会話をその後10分程度続けた後、レオ達は東京に帰っていき、輝也も帰宅することにした。

 

 

 

 

 

 

その帰り道、岩城監督から連絡が入り遠藤が以前痛めた箇所を今日の練習で再び痛め、今度の試合には出場できないということが分かった。その結果FCは控え選手が1人もいない状況で試合に臨むことになった。




本当に、本当にお待たせしました。

隼さんは岩城先生の学生時代のチームメイトでプロになってる金森拓馬の弟です。
あまりにも隼のイメージが金森さんに似ていたので、家族にしてみました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

苦戦

チェルシーの順位が上がらない。
これ以上下がらないってぐらいテンションが落ちている今日この頃……


結局荒木が戻ってくることはなく、FCとSCの代表決定戦の日がやってきた。

荒木はこの2週間、練習はもちろん学校にすら姿を見せず、家族によると家からも姿を消したらしい。

 

(本当に南の島にでもいったのかもな)

「おい、聞いているのか輝也!」

「おっと、悪いマコ」

 

輝也が荒木のことを考えているうちに試合前の最終ミーティングが始まっていたようだ。

 

「おいおいしっかりしてくれよー、今日の試合はお前次第なんだから」

「分かってるよ、マコ」

「スタメンは昨日言った通りでいきましょう。歳條君はトップ下でゲームメイクを、左サイドのマコ君はそのサポートを」

「「了解」」

「火野君がサイドに流れた場合は歳條君か駆君が空いたスペースを使っていき、流動的に動いてポジションチェンジを織り交ぜつつ、相手の守備を崩していきましょう」

「「「「はい」」」」

 

こうして最後の戦術確認を終え、FCの面々は整列のためにピッチに向かった。

 

『えー、いよいよ今年も夏の総体予選に向けての代表決定戦が始まります』

「うわ、実況までつくのかよこの試合」

 

輝也は実況がいることに驚きつつ、両チームのスタメンを確認した。

 

 

FC

 

監督:岩城鉄平

 

      11 火野淳平  12 逢沢 駆

 

 

⑧ 兵藤 誠    9 歳條輝也     7 的場 薫  

      

      

       6 桜井 学  5 浜 雪蔵

 

 

2 三上信二               3 錦織 豊

          4 堀川明人

 

          

          1 紅林礼生

 

 

SC

 

監督:近藤正勝

 

       9 工藤健哉  14 高瀬道郎

 

 

7 中村一馬     ⑪ 沢村優司     6 八雲高次

 

 

       5 坂元修二  10 織田涼真

 

 

4 不動健児               2 海王寺豪

          3 金森 隼

 

 

          1 藤堂慎太郎

 

 

(隼さんもスタメン入ってるんだよなー。個人的に対戦できるのは嬉しいけどチームとしてはキツイな)

 

本格的なSCのスタメン紹介と明らかに手抜きなFCのスタメン紹介を聞き流しつつ輝也は考えた。

 

(駆と薫はマコがいい感じに話しかけてくれて緊張はとれてるな。あとはやれることをやるだけか。まぁ、)

 

 

 

 

 

 

一方SC側では隼がFCのスタメンを確認していた。

 

(荒木は戻って来なかったか。まぁそれはいいとして、ちょっと予想外なのは輝也のトップ下かな。兵藤がトップ下に入ると思ってたんだけどなぁ。まぁ全く想定してなかったわけではないし何とかなるだろう。まぁ、)

 

そして、

 

ピィーーー!

 

((俺たちが勝つ!!))

 

江ノ島高校サッカー部伝統の、代表決定戦がキックオフした。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

試合はFCボールでキックオフされ、まず輝也のもとにボールが渡った。

 

(さてさて、どう攻めていくかなぁ。……つかトップ下とか久しぶりだな)

 

輝也はストライカーではあるが、状況を見て中盤の位置まで下がり攻撃の組み立てに参加することも多かったため、フォワードとしては劣るもののトップ下としても十分な実力を持っていた。

ボールをもってパスを出す選手を探しながらゆっくりとドリブルしていく輝也のもとに、SCのキャプテン沢村がプレスをかけてきた。

 

「お前がトップ下とはな。荒木は帰って来なかったようだな」

「心配いりませんよ沢村さん。荒木がいなくても、」

 

輝也は左サイドからフォローに来たマコとのワンツーで沢村を抜く。

 

「なっ!?」

「ウチの戦力は、これまでとは段違いっすから」

 

ボールを受け取った輝也は前線の駆へとパスを送るが、パスルートをふさがれる。

しかし、パスルートに入った的場がヒールで方向を変え、左サイドに開いた火野へとパスがつながる。

火野はそのままサイドをドリブルして突破しようとするが、SCのよせは早いため、後ろのマコに下げる。

 

 

(さすがにサイドへの寄せは早いな。お、これはちょっとやばそう)

 

ボールを受け取ったマコはエリア内に飛び込む駆にクロスをあげたが、隼にクリアされ、さらにそのクリアボールはSC10番の織田の足元にこぼれた。

 

「やべぇ」

 

織田はそのままクリア――――――と見せかけて前線の高瀬へのローグパスを送った。

 

「ナイス織田さん」

 

 

『織田のローグパスが前線の高瀬に向かっている。SCいきなりチャンスか!?――いや、クリア!クリアです。なんとFCの歳條が189㎝の高瀬との競り合いを制しました!!』

 

輝也の身長は185㎝とチームトップとなっている。さらには、イギリスのクラブユースでのフィジカルトレーニングを経験したため、空中戦は得意となっている。

輝也がクリアしたボールはSCのボランチが拾い、サイドへ展開される。そのままドリブルで突破されクロスをあげられた。輝也はそのまま高瀬をマークしていたが、クロスは高瀬を超え、走りこんでいた工藤がシュートを打つ。紅林がなんとか反応し、ゴールラインを割る前に戻っていた駆がクリアした。

 

「マコ!!」

 

輝也は前線に戻りながら近くにいたマコに声をかけた。

 

「これからシンプルなクロスは極力控えよう、隼さんにヘディングで織田に繋がれてカウンター喰らったらそのうち失点する」

「り、了解」

 

(なんとか崩していかないとな…)

 

しかし、その後も攻め込んではボールを奪われ、カウンターを喰らうというパターンが何度も繰り返されるようになる。何とか輝也が高瀬との競り合いを互角の勝負に持ち込むが、セカンドボールを相手に奪われてピンチが続いた。

(コーナーキックも厳しいな。こっちが身長はボロ負けだし)

高瀬のマークは輝也がついているが、それでも100%勝てるわけではなく、さらには他の選手もFCより身長が高い選手が多い。

マークについても身長差は歴然としていた。

 

「駆!隼さんしっかり見とけよ」

「うん!」

「火野は坂元マーク、沢村さんはマコがつけ!!」

「「おぉ!!」」

 

『さぁSCのコーナーキックです。織田は誰を使ってくるか』

 

織田が蹴る瞬間、隼が駆のマークを外してエリアから遠ざかっていくのを輝也は見逃さなかった。

 

「!?駆!隼さん外すな!!!」

「え!?」

 

織田が蹴ったボールはゴールとは反対の方向へとカーブしていきそれを隼は体を反転させながらのボレーシュートをゴールへと叩き込んだ。

 

「くそったれ、完璧なボレーっすよ…隼さん」

「そいつはどうも」

 

『ゴ、ゴール!!!目の覚めるような強烈なボレーシュートが決まりました!SC先制!!』

 

 

試合はその後、駆のボールロストからカウンターを喰らい、輝也が戻り切れずに高瀬にヘディングで追加点を決められ、0-2で前半を終了した。

さらにDFの三上が最後の高瀬との競り合いで肩を負傷してしまった。

 

「三上さん大丈夫っすか?」

「肩の脱臼ですね。交代するしかないでしょう」

「となると後半は10人でやるしかないか…」

「「「………」」」

 

(やべぇな、空気がheavy)

 

海外での経験から場慣れしている輝也を除いた選手達の表情は冴えない。

1人少なくなるというアドバンテージにチームの雰囲気は暗くなる。

特に失点に絡んでしまった駆のテンションは、試合前からかなり落ちてしまっている。

 

「どうしたよ、みんな。もうギブアップなのか?公式戦でも退場者がでたら10人でやることなんてよくあることだぜ」

「歳條君の言う通りです。前半までで、もう諦めてしまうのですか?そして、FCはそんなに心の弱いチームだったんですか?」

「すいません、俺のせいです。俺のミスで2点も……」

「駆」

 

駆の言葉に座って聞いていた輝也が立ち上がり、駆に向けて言った。

 

「言い訳はするな。ミスをしたんなら自分で取り返せ。……答えはゴールで出せよ」

「…っ!?」

 

輝也の言葉はかつて、傑が駆に向けて言った言葉だった。

 

(まぁあとは奈々にフォローしといてもらうかな)

 

「そうだぜ駆。”答えはゴールで出す”って言ってその通りにキメてみせたあの時のお前はどこにいっちまったんだよ!駆!」

 

輝也がそう思っているときツンツン頭の選手が声をかけてきた。

 

「公太!?」

「……誰だっけ?」

「……輝ってなんで公太君のことすぐに忘れちゃうの…?」

「…分からん」←(誰かということは思い出したが、苗字は思い出せない)

 

亜理紗の呆れた言葉に輝也は目をそらし、奈々は苦笑するしかなかった。

 

「い、いいの公太?SCの先輩たちがすっごいこっち見てるけど」

「やめた」

「え?」

「SCはつまんねーからやめたっ!」

「………」

 

公太の爆弾発言に駆はもちろん輝也や岩城監督も含めた全員が固まった。

 

「そんで今からFCに入れてもらう。いいっすよね?岩城センセ」

「えぇもちろん大歓迎ですよ、中塚公太君。ちょうどDFが1人欠けてしまったところでした」

「サイコーだぜお前」

「へへ、よろしくっす」

「あ、そうだ中塚だ」

「…輝、今思い出したんだ」

「あ、あんまりだぁぁぁぁぁ」

 

輝也のあんまりな言葉に中塚は泣き叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




好きな選手と聞かれたらイブラヒモビッチと答え、
好きなチームと聞かれたらチェルシーと答えてきました。

チャンピオンズリーグでパリサンジェルマン対チェルシーとかいう組み合わせなった時は本当にどっち応援するか悩んだ…。
……結果はイブラが退場したパリが勝つっていう筆者にとっては一番最悪な結末で一週間テンション下がってました。

イブラがチェルシーに移籍するかもしれなというスポーツニュースを見た瞬間、まだ可能性にもかかわらず飛び跳ねて喜んだりしたし。

まぁ……チェルシーに順位見てまたテンション落とすけどさ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

復帰

最近ギルティクラウンにはまってる。

綾瀬とツグミ可愛い。


後半、FCは本職がDFの浜を一列後ろに下げ、新しく入った中塚を左SBとした4-4-2のフォーメーションで臨むことになり、輝也は前半と同じトップ下での出場となった。

 

(駆も鉄さんからアドバイス受けてたみたいだしな。最初のチャンスで1点返したいとこか)

 

SCボールでキックオフされたボールはサイドに展開され、新加入の中塚がいるサイドを攻めてきた。

実況は相変わらずFCの紹介は雑で、テキトーに紹介されてキレた?中塚がスライディングでディフェンスするもファールをとられてSCボールのフリーキックとなった。

 

SCのキッカーはもちろん織田。FCのピンチではるが、輝也はここでマコと紅林に視線で合図する。

 

(レオ、マコ!頼んだぜ)

((OK))

 

輝也は上がってきた隼を、火野は坂元をマークし、高瀬には堀川と錦織の2人がつく。

 

「いいのか?高瀬をマークしなくて」

「先制点決めた人が何言ってるんすか。隼さんのが脅威っすよ」

(こ、こいつ……織田さん!!)

 

輝也と隼の会話を聞いていた高瀬は、自分が優先的にマークされなかったことに苛立ちを覚える。そして視線で織田にボールを要求した。

 

織田は高瀬のマークがミスマッチということに気づき、その高瀬にピンポイントで合わせる精度の高いボールをあげてきた。しかし…

 

「な!?」

「お前がくるって分かっていりゃセーブは楽勝だぜデクの坊。いけぇ歳條!!」

 

『あーっとFC、これはSCのお株を奪うカウンター攻撃!』

 

高瀬に合わせてくることを読んだ紅林がジャンプしてボールをキャッチしてすぐさま輝也にパスを送った。

ボールを持った輝也はドリブルで持ち上がるが、SCの戻りも早い。

隼も戻りながらボールを持つ輝也にプレスをかける。

 

「フリーキックを餌に俺らを前におびき寄せてのカウンターか、考えたな。でも攻撃の駒不足のお前らのカウンターなんて怖くないぜ輝也」

「それはどうすっかね」

 

そう言って左サイドを上がってきたマコにパスを送る。

さらにボールはサイドに流れてきた火野へと繋がった。

 

(やはり兵藤・火野の左サイド突破狙いか)

 

しかし、先ほど交代で守備固めをしていたSCの右サイドはすぐさまボールへとプレスをかける。

 

「ここまでだぜ、火野」

「…どうかな?」

 

火野はさらに外側、左サイドのタッチラインの方向へとボールを蹴りだした。

 

「バカが、マイボールだ」

 

SCの選手はボールはラインを割ってマイボールのスローインになると判断し、ボールを追わなかった。だがその時…

 

「どけどけどけどけぇぇ!!」

「な、さらに左だと!?」

 

左SBの中塚が超強引なオーバーラップで火野を追い越しサイドを突破した。

中塚の加入はFCにとって大きく、これでチーム内でフィジカルの強い輝也と火野がエリア内で勝負できるようになった。

 

「この裏切りもんがぁぁぁぁ!!!!」

「お、俺の仕事はここまでだな。あとはよろしゅー」

 

ものすごい形相で中塚の後ろを追いかけていたSCのDFに迫られ、中塚はクロスを上げた、が

 

「おい新人、どこ上げてんだよ!!」

「精度低すぎるだろ!!」

 

中塚のあげたクロスはニアに走りこんだ火野とファーに走りこんだ輝也の間へと落ち、混戦となった。

精度の低いボールではあるが、その分守る側であるSCにも難しいボールとなり完全にクリアしきれなかった。

 

『ここに的場だぁ!!!』

 

こぼれたボールを的場がシュートするが、SCの選手が体を張ってブロックしエリア内に再度こぼれる。そしてこれを、

 

『歳條が拾った!!角度のない場所ではありますがこの人なら決められるぞ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

ーー何分間消えていたっていい

 

 

ゴールラインを割りそうなところを輝也が拾うが、隼がマークにつきシュートコースを防ぐ。

 

「シュートは打たせないぜ輝也」

「もともと打つつもりはないっすよ隼さん」

「なに?」

 

 

 

 

 

 

ーー最後に確実に決めるのがストライカーだ

 

 

 

 

輝也はキーパーの背後、ファーへマイナス気味のパスを送った。

 

「なに!?そこには誰も…!?」

 

 

 

 

 

ーーだからこそ、このチャンスはものにする

 

 

『逢沢が決めたぁ!!!この時間帯ずっと消えていたFWの逢沢が歳條のパスに反応してゴールに流し込みました』

 

 

後半が始まってからずっと消えていた駆がDFとGKの背後をとって輝也の完璧なラストパスに合わせ、FCは1点を返した。チームメイトたちはゴールを決めた駆、アシストをした輝也の元へと集まった。

 

「やりやっがたなこいつら」

「凄いよ、駆君!」

「ありがとう」

「輝也も完璧なラストパスだったな」

「我ながら完璧だったと思うわ」

「「「調子に乗るな!!」」」

「それにしても、輝也のパスはともかく亜理紗ちゃんの立てた作戦通りにいったな」

「ともかくって……まぁいいけどさ」

「え?作戦って??」

 

後半が始まる直前、亜理紗は駆を除くFCの攻撃陣に新加入の中塚を使ったサイド攻撃の作戦を伝えていた。駆にも伝えようとしたが、岩城監督からのアドバイスを受け集中している様子だったため、伝えなかった。

 

 

一方ベンチでは、

 

「上手くいきましたね、十倉さん」

「選手たちが、おおむね作戦通りにやってくれましからね。……中塚君のクロスの精度の低さには驚かされましたけど。本当はクロスボールを輝がワンタッチで駆君に落としてもらう予定だったんですけど、まぁ結果オーライです」

「公太君は、昔からクロスの精度があがらいのよねぇ」

「これからみっちり練習させるしかないわね」

「そ、そうですね」

(しかし……高校生の、しかも女子がこんな作戦を思いつくとはな。もう彼女が監督でいいんじゃないか)

 

鉄平は亜理紗の立てた作戦に驚きながらも、彼女がチームに加入してくれたことを心の中で改めて喜んでいた。

 

 

 

 

 

ピッチではこの得点の中で、駆のマークをはずしてしまったSCのDFは近藤監督から交代を言い渡されていた。

 

「相変わらず厳しいな、近藤先生は」

「俺や火野もあの厳しさにうんざりしてFCに移ったからな」

「まぁ俺らは、交代する選手がいないしな。何はともあれ、これで1点差だ。この流れのまま追いついて逆転すんぞ!!」

「「「おぉ!!!」」」

 

試合は、再開直後もペースはFCで、技術(テクニック)とアイデアを生かした目まぐるしいパス回しでチャンスを作った。しかし、駆、輝也のシュートをキーパーが弾いたボールは火野との競り合いを制した織田のもとへと渡った。

 

「あがれー!!」

「まずい!!上がり過ぎていてまだ戻り切れていない」

 

織田が得意のロングフィードを前線に送りSCのカウンターとなるが、FCは前がかりになっていて戻りが遅れてしまう。左サイドの中塚も上がり過ぎていて戻り切れなかったため、開いた左サイドをSCの工藤に使われ、中塚が後ろを追う形になってしまった。そして、工藤のあげたクロスは高瀬へと向かっていくが、その高瀬は輝也がマークにつき、ゴールに背を向かせ、シュートを打たせないようにしていた。

 

「これでお前はシュート打てないぜ」

「打つつもりないっすから」

「な!?(飛ばないだと!?)」

 

高瀬はセンタリングに合わせてシュートを打つのではなく、つま先にボールを当て一旦後ろに戻した。

 

『このボールに再び織田だぁ!!!』

 

「打たせない!!」

「! うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

ザシュ

 

『ゴール!!SC追加点、3対1ーーーっ!!!』

 

最後、シュートを打とうとする織田の前を駆がスライディングでブロックしようとするが、わずかに間に合わず、織田のミドルシュートが決まり再びSCが2点差とした。

 

「立て駆!!まだ20分ある。まずは追いつくぞ!」

「うん!!」

 

 

 

 

 

 

その後はSC、FCどちらのペースとも言えず、一進一退の状態が続いた。

 

 

「マコ!!俺もエリア内入っていくからお前がゲームの組み立てやってくれ。火野、お前は左サイドに流れろ」

「「おぉ!!」」

 

(やべぇな。俺が1列上がったとしても今度は、隼さんのマークにあう。何とかマコがチャンスを作ってくれればいいが……)

 

輝也が頭を悩ませているとき、試合が一度止まり、岩城監督が指示を出した。

 

 

「6番桜井に代わって10番ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 荒木竜一!!」

 

 

「な!?」

『あーっと荒木だ!FC不動の10番、荒木竜一が帰ってきたー!!』

 

荒木の登場に、観客席からはだい歓声がおこる。また、FCの中で荒木の復帰を知っていたのは岩城監督と、前半途中で観客席に座っている姿を見つけた輝也以外にいなかったため、同様に驚きの声が上がっていた。

 

「っつたく今頃ノコノコ来やがって」

「心配かけたな、マコ」

「頼むぜ王様!!」

 

そして、荒木は最後に輝也に声をかけた。

 

「お前がいながら何でこんなスコアなんだよ」

「うっせぇ。今までどっか言ってたデブが上からもの言ってんじゃねぇよ」

「誰がデブだ!!ちゃんと痩せて戻ってきたじゃねぇか。それに聞こえるだろ、女子の声が!!俺は痩せるとモテるんだよ」

「知るか!!…今まで黙ってみてたんだ。最後までやれんだろうな?」

「当たり前だろうが、何のために我慢してたと思ってんだ。パス出してやっから前で待ってろ」

「まぁほどほどに期待しとくわ」

 

 

こうして荒木が復帰しトップ下に、輝也は2トップの左に、火野は左サイドのMF、マコはボランチへとそれぞれポジションを変更した。

 

 

 

 

        9 歳條輝也  12 逢沢 駆

 

 

11 火野淳平    10 荒木竜一      7 的場 薫  

      

          ⑧ 兵藤 誠

 

 

22 中塚公太               3 錦織 豊

       4 堀川明人 5 浜 雪蔵

          

          1 紅林礼生

 

 

 

 

 

 

 

 




今年もチェルシー対イブラ……
広島も負けたなぁ……


感想お待ちしてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

反撃

ようやく時間ができた……

ちょっとずつ投稿していきます。


『お聞きください、この歓声!

 昨年の代表決定戦で魔法のようなプレーで江ノ高生を魅了した荒木竜一が、この時間帯に満を持して登場!!』

 

試合が再開後、SCは戦術通りに無理せず後ろでパスを繋ぎ、それをFCが追うという展開となった。

SCのキャプテンの沢村がボールを持った時に荒木は上手く沢村の行動を読みボールをカットした。

 

(何だかんだ言いつつもああいうところは上手いよな)

 

輝也はそう考えつつ、ポストプレイも裏への抜け出しも出来るようなポジションをとりつつも、まぁどうせドリブルだろうと考えていた。

 

そんな時に荒木は手であるサインを出した。

 

「!?」

 

驚いた輝也は駆の方を見るが駆も驚いたようで、それでも自信を持ったようにうなづいてきた。

 

(まぁ荒木の技術ならあのトリックプレーも出来るか)

 

輝也は昔、傑と共に考えついたトリックプレーを行うということを理解し、荒木ならその再現も可能だと判断した。

 

「じゃあ俺がマーク引きつけるから駆が合わせろ」

「分かった」

 

輝也は左サイドに流れならSCのディフェンダーを引きつける。駆はギリギリオフサイドにならないポジショニングで裏に抜け出そうとしている。

 

「12番は囮だ!9番チェック、絶対にフリーにさせるなよ」

 

隼はそう指示を出すが、自身はどちらに来ても対応できる位置どりを取る。

 

(隼さんまで引っ張ってこれないか、まぁあとはあいつらの演技力に任せるか)

 

輝也は隼を引きつけられなかったことを後悔するが、それでも3人の選手を引きつけていることで合格点とする。いくら隼でもこのトリックプレーの仕組みを瞬時に悟り、防ぐことは難しいだろうと考えた。

 

 

そして荒木はドリブルでSCの選手を躱しながら、持ち上がってきた。

 

「ライン上げろ!それで12番はオフサイドだ!!」

 

隼はディフェンダーに指示を出し、駆をオフサイドにする。

 

(今だ!)

 

しかし、駆は自らオフサイドポジションに飛び出し、そして荒木はその駆に向けてパスを出した。

 

 

「なっ!?自らオフサイドポジションに飛び出しただと!?明らかにオフサイドだ」

 

キーパーを含めた全てのSCの選手は駆がオフサイドであると判断し、プレーを止めるが駆はなおも走り続ける。

 

(これは決まったな)

 

輝也をはじめとするFCの選手たちがそう確信する中、SCの中でいち早くこのトリックプレーを理解したのは隼だった。

 

「っ!? 藤堂!オフサイドじゃない!ボールを出せ!!」

 

駆の足元でバウンドし軌道の変わったボールはまっすぐゴールへ向かっている。藤堂は隼の言葉に驚きながらも、信じて何とかボールに触れようとする。しかし、軌道の変わったボールに対して反応するのが精一杯で中途半端なクリアとなってしまった。

 

「お返しっすよ」

 

そのボールをエリアから少し外の位置にいた輝也が、前半の隼のシュートに対抗するような美しいボレーシュートを放つ。

 

「くっ」

 

一連のプレーに気を取られていた隼も輝也に一歩届かず、シュートを打たせてしまい。

 

ザシュッッッ!!!!

 

『歳條の強烈なボレーシュートが決まったぁぁぁ!!!FC1点を返しました』

 

FCはゴールを決めた輝也の元に集まるが、SCの選手たちは駆の位置がオフサイドポジションだったと審判に抗議している。それは監督の近藤先生も同じであり、SCの中で冷静に切り替えているのは隼だけだった。

 

「やめろお前ら、次に切換えろ」

「でも隼さん!!今の12番の位置は明らかにオフサイドポジションだったはずですよ!」

「あぁ、確かにオフサイドだったよ」

「ならオフサイドで俺たちボールのフリーキックで再開じゃないんですか!?何で審判はゴールを認めたんですか!?」

「確かに一見、今のプレーはオフサイドに見える。だがそれは12番がプレーに関与していた場合だけだ」

「なっ!?まさか…」

 

ここでSCの中でも頭のキレる織田もトリックプレーの真相に気づく。

 

「織田は気づいたか……。いいかお前ら、さっきのプレーに12番は関与していない。あいつはただゴールに向かって走っていただけだ。まぁ荒木の野郎がスピンボールなんて使いやがったからいかにも駆がシュートを打ったように見えたが、俺や審判の位置からはよく分かった」

 

隼の言葉にSCの選手たちは驚き、そして悔しんだ。

 

「藤堂が何とか反応してくれたが、俺が輝也にシュートを打たせてしまった。すまない、俺のミスだ」

「隼さんだけの責任じゃありません!!隼さんがいなかったら全員見逃して、そのままゴールを決められてました」

 

織田の言葉に周りのSCの選手達も頷く。

 

「まだ時間は残ってるが俺たちが勝ってるんだ。このまま逃げ切るぞ!」

「はい!!!」

 

 

隼の言葉で切り替えたSCの選手たちは、それぞれのポジションへと散らばっていく。

 

 

『ただいま情報が入ってまいりました。先ほどの得点の直前のシーンなのですが、逢沢のシュートではなく荒木によるロングシュートだったようです。入ったばかりの荒木によるトリックシュートでチャンスを作り、エースの歳條がゴールを決めました!!』

 

「くそぉ、美味しいとこもっていきやがって」

「決めきらないお前が悪いんだよ」

「で、でも凄いです。まさかスピンまでかけるなんて思いませんでした」

 

 

駆が驚いているように、トリックプレーの中で見せた荒木のスピンボールには輝也も内心驚いていた。傑と輝也が考えたこのトリックプレーは、MF()が、前線のFW(輝也)のオフサイドを囮として直接ゴールを狙うというものであったが、スピンをかけてFWの足元でボールの軌道を変えるということまでは、当時の2人は考えていなかった。

しかし、結果的には軌道が変わったことによって得点に繋げることができた。もしもスピンをかけずにそのまま直線の軌道だった場合、相手のキーパーにキャッチされていただろう。

 

「しかし、まさかプレーの中で気づかれるとは思わなかったぜ。正直、駆の足元で軌道が変わった時点で決まったと思った。やっぱりあの人はすげーや」

 

荒木が言うように、輝也が一番驚いたのは一連のトリックプレーの最中で隼がそれを見破ったことだ。いきなりこのプレーをやろうとした荒木と駆に、輝也は初めこそ不安があったがその内容は完璧であった。普通であれば決まっていただろうが、やはりそこは隼が凄いということだろう。改めて隼の凄さを見せつけられた輝也は気を引き締めた。

 

「それだけ凄いってことだよ、隼さんは。あの人からあと2点取らないといけないんだ、集中しろよ」

「わ、分かってるよ」

「ふん、2点なんか楽勝だぜ」

 

荒木の言葉に言い返したいこともあったが時間もないので輝也は一言だけ残してポジションに戻って行った。

 

 

 

「今度はお前らで点取ってくれよ、舞台を作るのには俺も協力してやるから」

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

「さすが荒木さん、的確に指示出してる」

 

ベンチでピッチを見ていた亜理紗は思わず呟いてしまった。

まるで、試合が始まった時から一緒にプレーしていたかのように荒木は仲間の選手へと適切な指示をしていた。

 

「そういう十倉さんも、荒木君と同じような指示は出せるんじゃないですか?」

「まぁあれくらいは普通です」

 

 

しれっと言う亜理紗に岩城監督は苦笑するしかなかった。

試合は再び再開し、FCの選手が前線から積極的にプレスをかけてボールを奪おうとしていた。

 

 

「あれでいい!我々FCのサッカーはボール支配率(ポゼッション)を高めながらゲームを組み立てていく。そのためには積極的に前線からボールを奪いにいかなければいけない」

「王様が帰ってきてみんな調子が出てきましたね」

「あとは得点を奪って同点、逆転するだけですね。あ、取れる!」

 

奈々の言った直後に、マコがインターセプトをしてボールを奪うと、すぐさまパスを通してサイドチェンジを行う。

 

「あれ?なんで駆君あんなに低い位置でボールもらうんだろう?いつもだったらスルーパスをもらうか、エリア内でもらうかしてシュートに繋げるのに」

「確かに、何でだろう?」

 

亜理紗の疑問に、奈々も同意する。

ボールを受け取った駆はトラップで2人を抜き、SCのDFがプレスをかけてくる前にエリアの外からミドルシュートを打った。

 

「うわっ、駆君ってあんなシュートも打てるんだ。さすがに輝とまではいかないけど、ちょっと予想外かな」

「駆って身体の線は細いように見えるけど昔からキック力はあったんだよね。あと輝也さんと比べるのはさすがに駆が可哀想かな」

「やっぱり?ごめんね駆君」

 

亜理紗はぺろっと舌を出して、駆に謝った。

前半で負傷し治療を受けて戻ってきた三上がベンチの隅でそのやり取りを見て、顔を赤らめていた。

 

試合はその後も、駆と荒木が立て続けにミドルシュートを狙い、そして――

 

 

『お、惜しいぃぃ!!!歳條の物凄い威力の超ロングシュートは惜しくもクロスバーを叩きました。いまだにゴールマウスが揺れています』

 

 

輝也もミドルシュートを狙ってきたことから、SCのキーパーはゴールに張り付かざるを得なくなった。

 

「ねぇ亜理紗ちゃん、この作戦上手くいくと思う?」

「う~ん、荒木さんと駆君しだいなんじゃない?輝は完全に脇役体制だしね。まぁさっきのは本気で狙ったシュートだったと思うから、凄い悔しがってると思うけど」

「…確かに」

 

(この2人はさすがだな。彼らの意図にベンチから気づくとは……)

 

「残り12分、機は熟してきましたね」

「駆なら決めてくれます!」

「怖いのは隼さんですけど、輝が上手く引き付けていますし大丈夫でしょう」

 

 

ピッチでは再びエリアから離れたところで輝也がボールを受け取ったところだった。

そこへ隼がシュートを打たせないためにプレスをかける。

先ほどの惜しいシュート以降、隼が輝也のマークに付き輝也を自由にしないようにしていた。

輝也は前を向けないものの、ボールをキープして周りの上がりを待つ。

しかし、同時にSCのDFラインも"釣り出されていた"。

 

 

「ここよ!!」

 

亜理紗の言葉と、輝也の荒木へのパスはほぼ同時だった。

そして――

 

「っ!?12番チェックだ!!!」

「え?」

 

 

隼が気づいて仲間に指示を出すが、反応が遅れる。

荒木はボールを受け取り、すぐさまフェイントでプレスをかけてくるSCの選手を躱す。

ストライカー()パサー(荒木)の意思が完璧に一致した。

 

「ミドルを警戒して前がかりになったDFラインと、ロングを恐れてゴールに張り付いたキーパー。その間に大きなスペースが生まれました」

「舞台は作られたわ。後はストライカーの仕事よ」

 

荒木がDFを振り切って裏え抜け出す駆へとパスを送る。

 

(時が、止まる)

 

 

 

『抜けた抜けた――っ!!!会心のキラーパスがピッチを切り裂く!そしてこれを受けるのは1年生ストライカー、逢沢駆だぁーー!!』

 

「させるか!!」

「それはこっちの台詞っすよ」

「なっ!?」

 

抜け出した駆に隼が詰めようとするが、輝也が身体を挟みブロックする。

 

「上手い!さすが輝!!」

「駆もああいうゴール前での競り合いなら負けないわ」

 

駆のもとには一歩遅れて織田が詰めるが、トラップで置き去りにしてシュートを打った。

 

 

 

『ゴォーーーーーーールっ!!!

 ついについに3対3、同点ーーーっ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





亜理紗のキャライメージは狼と香辛料のホロですねぇ。
イメージであって似てるかは知らないですけど。
容姿とかの外見はホロを想像してもらえたらと思います。

輝也のイメージはホイッスルの藤代誠二です。
これも容姿のイメージと考えてもらえれば。

隼はもう金森さんの学生のころそのまんまで笑
ただ、髪の毛は隼のほうが短めかな。




レスターぱねぇ笑
チェルシーが13位という現実から目をそらすしかない………
チャンピオンズリーグ勝ち残れれば作者のテンションも上がって、この作品も投稿頻度が上がりそうなんだけど……



ギルティクラウンの次はアスタリスクにハマってる。
好きなのがころころ変わる癖を変えたいと思う今日この頃。

エリアの騎士は変わらず、読み続けてるし読み続けていくだろうけど笑


ちなみに作者が好きなキャラとしては、
アリサ・イリーニチナ・アミエーラ(GOD EATER)
更識楯無(インフィニットストラトス)
ホロ(狼と香辛料)
などですね。

好きな作品、キャラが定期的に変わる作者ですがこの3人だけは変わらないです笑



感想その他もろもろお待ちしてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決着

(くそっ…こいつらの狙いは分かっていたのに……)

 

 

隼は荒木や駆、輝也の狙いには気づいていた。他のDFにも駆のチェックを離さないように指示を出していた。しかし、輝也という存在によってそれどころではなくなってしまった。輝也がエリア外からのシュートも得意としているという情報は当然SCも掴んでいた。だが、分かっていたからこそ隼も含めたSCのDFラインは前へと釣り出されてしまった。結果的に、隼は輝也への対応に追われてしまい、ラインの司令塔を失ったSCは駆の裏への抜け出しと、荒木のスルーパスを許してしまった。

 

「やられたな金森」

「全くだ。輝也の存在感がここまで大きいとは思わなかった…」

「まだ時間はある。気持ちを切り替えよう」

「いや、切り替えるのは気持ちだけでは駄目だ」

「え?」

 

隼は周りにいる選手にも聞こえるように少し声を張り上げて言った。

 

「今までの引いて守るリトリートDFでは、FCの速いパス回しやトリッキーなプレーに対応出来なくなっているんだ。だからこそ3失点して同点に追いつかれてしまった。これまでとは違うサッカーをしなければ、あっという間に逆転されてしまう」

「し、しかしこれが近藤監督のやり方だ。勝手に戦術を変えるわけには……」

 

隼の言葉に沢村は反論するが、そこに織田も言葉を挟む。

 

「俺も隼さんと同じ考えです」

「織田まで!?」

「俺は悔いを残したくない。このままあいつらに負けたくはないです。そうですよね、隼さん」

 

織田の言葉に隼はうなづく。

周りの選手たちも織田と隼の考えを理解し、納得していく。

 

「よし、お前ら。取られたらすぐに守備だ。取り返さなければ、FCの押し込まれる。攻撃陣は前線守備でいこう!!」

「「「おぉぉぉ!!!」」」

 

隼の言葉に全員が返答し、それぞれのポジションに散っていく。

 

(残り10分、悔いは残さねぇ。このまま終わらせはしないぞ、輝也!!)

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

試合は再開し、SCボールで再開するがFCは荒木と輝也が的確な指示を送り、SCのボールを持つ選手のパスコースを限定してボールを奪いマイボールとする。すると、SCは隼や織田の指示によってフォアチェックを仕掛けてきた。それを見た近藤監督は声を荒らげていたが、SCの面々は前線からの積極的な守備を行ってきた。

 

(明らかにサッカーを変えてきたな、そうでなくっちゃな)

 

輝也はいち早くそのことに気付き、冷静に周りの選手へと指示を出した。試合はボールの持ち主が頻繁に入れ替わる、テンポの早い試合となっていた。

 

「よし、マイボールだ」

 

FCの的場がボールをカットしFCボールとすると、すぐさま攻守を切り替えて攻撃陣が攻め上がる。ボールを持った的場はすぐさま中央の荒木にパスを送ると同時に輝也はパスを受けれる位置に動く。的場から荒木、荒木から輝也へとパスがつながり輝也は前を向くがすぐさま隼がプレスをかけてきた。

 

『これは!!!この試合初めてと言って良いでしょう、両チームのエースの一騎打ちだぁ!!!!』

 

「 お前と公式試合で一対一やるのは初めてかもな」

「確かにそうっすね」

 

会話をしながらも、お互いに全く隙がなく対峙していた。

そんな中、均衡状態を破ったのは輝也の仕掛けだった。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ亜理紗ちゃん、輝也さんのドリブルってどんな感じだっけ?あんまり一対一で仕掛けるイメージがないんだけど」

「うーん、輝はねぇ……特に得意な技とかはないんだけど」

「けど?」

 

 

 

 

 

 

輝也はボールを隼との間の中途半端なところに蹴り出した。

 

(クソっ、ラン・ウィズ・ザ・ボールか)

 

隼が反応し足を伸ばすが、輝也のほうが一瞬早く、輝也が抜け出そうとする。しかし、隼も完全に抜かれる訳ではなく輝也からボールを奪おうとする。

 

 

 

 

 

 

 

「輝はドリブルの技は何でも出来るんだよね。輝也の強みを言うのなら、"その場、その状況で最適な行動をとることが出来る"ってことかな。まぁそれはドリブルに限った話じゃなくシュートとかでもそうだけど。だから、輝の強みを一言で言ったら判断力が凄いって感じかな」

 

 

 

 

 

(クソがぁぁ!!)

 

輝也はルーレットで追い縋る隼を振り切ろうとするがなおも隼は何とか反応する。

 

(さすが隼さん、まだ付いてくるか。でもこれで…)

「な!?」

「終わりっすよ」

 

輝也はエラシコで今度こそ隼を振り切った。

 

 

 

 

 

輝也は得意な技がないが苦手な技もない。ドリブルで1人で突破もできれば味方とのワンツーで抜け出すこともできる。エリア内からコースを狙った正確なシュートも打てれば、エリア外から強烈なミドルシュートも打てる。その場にあった最適な選択をとるのである。それが輝也が海外で活躍することができた一番の要因であり、輝也が最もサッカーにおいて重要視していることでもあった。

 

 

 

『振り切ったぁぁ!!!エース対決は歳條の勝利、そしてキーパーと一対一になる!!!!』

 

輝也は飛び出してきたキーパーを冷静に躱してシュートを決めた。

 

『決めたぁ!!FCのカウンターから歳條が個人技を魅せてくれました。これで4対3、FCが逆転!!!!そして時間は残り5分とアディショナルタイムです!!』

 

 

「こいつ!!1人で決めちがいやがって」

「ちょっとは俺らにも打たせてやろうとか思わないのかよ」

 

得点を決めた輝也に向かって荒木と火野の前線の2人が不満を言うが、その顔は笑顔だった。

 

「じゃあ次はパス出してやるよ」

「絶対だからな!!忘れんじゃねえぞ!!」

 

 

輝也の答えに、今度は自分が決めてやろうとFCの攻撃陣は散っていった。

一方で、絶対的な存在の隼が輝也に抜かれ経とう事実は、SCの面々には精神的なダメージが大きなものとなっていた。

 

「やっぱり、流石だなあいつは。簡単に持っていかれちまった」

 

その中でも隼はどこか満足そうな、嬉しそうな表情でFCの面々を見ていた。

 

「隼さん、切り替えましょう」

「分かってよ織田。まだ時間は残ってる、あと2点取って勝つぞ」

「もちろんです!」

 

 

 

 

この1点は両チームにとっても大きなものとなり、残り時間が僅かなところで形勢を逆転させるものとなった。SCは残り時間で何とか追いつくために攻め込むが、FCの全員による守備によって崩しきることは出来なかった。そして、アディショナルタイムに入ったとき……

 

 

 

ザシュッッッッ!!!!!

 

『歳條がシュートを突き刺したぁ!!!ゴールから30メートルは離れているかという位置から、強烈なロングシュートが決め、FCがダメ押しとなる追加点をあげました。残り時間わずかというところで試合は5対3となりました!!!ただ今の得点で、FCの歳條はハットトリックとなりました!』

 

輝也がダメ押しとなる5点目を決め、ハットトリックを達成した。

 

 

「輝也てめぇ!!」

「今度はパス出すって言っただろうが!!」

「なんでお前が決めてんだよ!!!」

「いや、悪い…つい、な?」

「「「ついじゃねぇよ!!!」」」

 

輝也に対して荒木や火野、マコが食って掛かるが、駆と的場の1年生2人は輝也の弾丸シュートを目の当たりにして、驚きを隠せなかった。

 

「す、凄かったねさっきのシュート」

「うん、僕も輝兄のあんなシュート生で見たのは初めてだよ」

「今更だけど、凄い人がチームメイトにいるんだね」

「輝兄が味方でよかったって改めて思ったよ」

 

 

一方ベンチでは――

 

 

「やっぱり輝也さん、あのロングシュートが決まらなかったのが悔しかったみたいね」

「……そうだね。普段ならあそこから打つことはそんなにないからね。強引に決めちゃったよ」

「でもそこをきちんと決めるあたりは流石だね」

「まぁね」

 

(本当に輝也がこのチームに来てくれてよかった)

 

岩城監督も輝也の存在感を改めて感じていた。

 

 

 

試合再開後も、SCのメンバーは諦めずに攻め続けてなんとか同点にしようとするも、時間が残されておらず――

 

 

ピッ 

ピッ

ピーーー

 

『ここでホイッスル、試合終了!!結果は5対3でFCの勝利となりましたが、素晴らしい試合、素晴らしい戦いでした』

 

 

そのまま試合は終了し、5対3というスコアで代表決定戦はFCの勝利で幕を閉じた。試合が終わったあとは荒木が空腹で倒れたことを境に、両チームのメンバーが和んだ雰囲気の中で会話していた。輝也は荒木をからかって満足したあと、隼に話しかけた。

 

「初対決は俺の勝ちっすね、隼さん」

「あぁ、俺の完敗だよ、全く」

「じゃあ試合も終わりましたし、昨日メールした通りお願いします。多分俺よりも隼さんの方がキツいと思うんで」

「分かってるよ。正直俺も考えていたことだからな」

 

2人はそう話して、まだ選手たちが騒いでいるピッチを離れた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

試合終了後、FCとSCの両監督はグラウンドから少し離れたところにいた。

 

「何だね岩城君、試合が終わったばかりだというのにこんなところに連れてきて話とは?」

「近藤先生、お願いがあるんです」

「…お願い?」

 

そこで岩城監督は、頭を下げていった。

 

「FCの生徒をSCに引き取ってもらえないでしょうか?」

「なに?」

「僕は江ノ高FCを今日限りで解散しようと思います」

 

岩城監督の言葉に近藤先生は驚いていた。

そこへ――

 

「ありゃ、監督に先に言われてしまったみたいっすね」

「みたいだな、まぁ俺たちの仕事が無くなったってことだな」

「お前たち!?」

 

両監督が話しているところに、輝也と隼が合流した。

 

「近藤先生、俺たちも岩城監督の考えには賛成ですよ」

「……どういうことだ、金森?」

「いえ、先日ある情報を輝也に教えてもらいましてね?」

「情報?」

「その話は私も初耳だな。私たちにも教えてもらえるのかな、輝也」

 

近藤先生に続き、岩城監督も輝也と隼へと視線を移す。

 

「まぁ先生方には教えておきますよ。今の江ノ高ではFCでもSCでも全国優勝することはかなり困難です」

「なぜ、そんなことが言える?」

 

近藤先生はあくまでも冷静に輝也へと聞き返した。

 

「簡単な話です。――レオナルド・シルバが日本の高校に入学しました」

「な!?」

「輝也、それは本当か!?」

「えぇ、事実です。本人から宣戦布告されましたしね」

「……」

 

輝也から告げられた衝撃の事実に両監督は驚く。

 

「近藤先生、僕はもう指導者の意地で彼ら選手たちの才能をつぶすような真似はしたくない。だからお願いです。FCの選手たちを引き取ってもらえないでしょうか?」

 

そう言って、岩城監督は再び頭を下げた。

 

「いや、違うな」

「え?」

「SCも今日で解散だ。そして新たなチームが生まれる、江ノ島高校唯一のサッカーチームがな」

「近藤先生…」

「監督は岩城君、君がやれ。……それが君という才能をつまらん指導者の意地で潰してしまったことへの、せめてもの罪滅ぼしだよ」

「あ、ありがとうございます、近藤先生!!」

 

岩城監督は再び頭を下げた。

 

 

「金森、歳條」

「はい?」

「何でしょうか?」

 

近藤先生は輝也と隼のほうに振り返り声をかけた。

 

「お前らもこのことを進言しに来たのか?」

「まぁそうですね」

「それぞれの監督を説得しようということでしたから、必要なかったみたいですけど」

「ならば聞くが、全国優勝できるか?」

 

近藤先生はまるで試すかのように2人に問いかけた。聞かれた2人は顔を見合わせて、笑って答えた。

 

「もちろんです」

「俺たちが組んだら敵なしです」

「頼もしい限りだな」

「えぇ、全くです」

 

 

こうして、江ノ島高校サッカー部が誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやく代表決定戦が終わった。
2話くらいにおさめるつもりだったのにどうしてこうなった……

輝也が隼を抜いた時のドリブルはこの前ウィイレで出来たやつですね。
まぁ3人の敵選手に対してですけど。

感想など、待ってます!!




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

合宿

代表決定戦のあと、FCとSCのそれぞれの監督は選手たちにチームを解散することを告げ、正式に江ノ島高校サッカー部が発足した。監督は岩城監督が務めることとなり、近藤先生は顧問として指導していくこととなった。当初は、元SCの数人の選手が岩城監督の考え方ややり方に不満を持つこともあったが、隼や近藤先生の説得によってそれも解消された。また、別の問題として、再び姿を消していた荒木がリバウンドして元のだらしない姿で戻ってきてしまったが、亜理紗・奈々の2人が徹底的に食生活を管理していくことで、この問題もひとまずは落ち着くこととなった。

 

そして、江ノ島高校サッカー部の面々は、公式戦を一週間前に控えてベンチ入りメンバーの発表を兼ねたミーティングを行っていた。

 

「さて、江ノ高サッカー部としての戦略をどうするか、ということは私や近藤先生も頭を悩ませました。何とかして、SCの電光石火のカウンターやFCの左右のポジションチェンジによる攻撃といった長所を活かすことはできないか、案が煮詰まっていた我々教師陣でしたが……そこへ十倉さんが素晴らしいアイデアを出してくれました」

 

岩城監督の言葉に選手達は驚き、一様に亜理紗に視線を移す。亜里沙は一同から注目された恥ずかしさから顔を赤くしながらもぺこりとお辞儀をした。亜理紗のサッカーの知識の豊富さは元SCのメンバーからもすぐに認められた。練習の合間合間に様々な選手に適切なアドバイスを送っていく姿は、マネージャーと言うよりもコーチと言った方がしっくりくると感じた選手は多かった。

 

「十倉さんのアイデアを取り入れて、私と近藤先生、さらには十倉さんも含めて話し合った結論が、このフォーメーションです」

「「「な!?」」」

「なるほどな」

「面白そうじゃん」

「思い切ったね、岩城ちゃん」

「本気ですか!?」

 

輝也に隼、荒木、織田がそれぞれの率直な感想を口にする。彼らだけでなく、その他の部員も、その見たことも無いようなフォーメーションに驚き、周りの選手達と話している。

 

「それでは、このフォーメーションを基にした、公式戦のベンチ入りメンバーを発表します」

 

岩城監督はそう言い、ポジション別にベンチ入りメンバーの名前を発表していった。

 

 

GK

紅林礼央

藤堂慎太郎

李秋俊

 

DF

金森隼 キャプテン

浜雪蔵

海王寺豪

堀川明人

 

MF

沢村優司

織田涼真 副キャプテン

坂元修司

桜井学

荒木竜一

兵藤誠  副キャプテン

八雲高次

中塚公太

 

FW

歳條輝也

火野淳平

的場薫

高瀬道郎

逢沢駆

 

 

 

 

 

 

 

 

メンバー発表から数日後、総体地区予選を目前に控えた江ノ高サッカー部のベンチ入りメンバー20人は1泊2日の合宿のために、静岡を訪れた。

 

「集合ーーーって、おい!!!」

 

到着早々、キャプテンとなった隼の言葉もむなしく各々が自由に行動していた。

怒り狂う織田に、頭を抱える隼と沢村を見て輝也は苦笑した。

 

「おい輝也、いますぐキャプテン変われ」

「嫌っすよ。変わるんなら同じ3年の沢村さんでしょ」

「おい歳條、俺に振るなよ。俺だってやりたくない。こんな個性の強い連中をまとめるのはごめんだ」

「やっぱり隼さんにしかできないですって」

「お前らな……」

 

隼は仕方なく、走って行ったメンバーを追いかけに行った。

この後、連れ戻されてきたメンバーの怯えた表情を見た輝也は、隼は怒らせてはいけない存在であったということを再認識した。

 

 

 

キャプテンの怒りを目の当たりにした江ノ高サッカー部の面々は、その後は団体行動をきちんとこなしながら、合宿1日目の練習試合を消化していった。

 

 

「えーというわけで、今回の合宿に控え組49名と学校に残って彼らの練習を見てくださっている近藤先生のためにも明日の練習試合も精一杯頑張ってください」

 

1日目のメニューを消化した一同は、宿舎に戻り夕食をとっていた。

 

「飯だ飯!!」

「はい輝、普段と同じ量でいいんだよね?」

「お、サンキュー亜理紗。全然大丈夫だ」

 

輝也が亜理紗から受け取った夕食は、丼に山盛りに盛られたご飯に、同じように山盛りのおかずが乗せられたお盆だった。

 

「乗り切らなかったお盆二つあるの。後で取りに来て」

「了解」

 

一つ目のお盆を自分の席に持っていく輝也を見て隼は呆れながら、声をかけた。

 

「昔からよく食うなって思ってたけど……食う量増えてないか?」

イギリス(向こう)に行ってから増やしたんですよ。体デカくしないと競り合い勝てないんで」

「食べた分、体に表れてるんだな。いい意味で」

 

隼はそういいながら、後ろを見た。輝也もつられてそちらを見ると、仏壇のお供えほどの量しかない夕食を渡されて、奈々に向かって文句を言っている荒木(デブ)がいた。

 

「悪い意味で表れてるやつはあそこにいますね」

「あいつは何も考えないで食べるからあぁなるんだ」

「それはありますね。俺は祐子さんがいろいろ考えてくれたメニュー食べてたからよかったです」

 

亜理紗の母親である祐子さんはフードマイスターの資格を取得していて、輝也がイギリスにいた頃は、食生活の面において、栄養のバランスなどを考えた食事を用意してもらっていた。ちなみに輝也の母親と祐子さんはフードマイスターの資格を取得した時に知り合い、それ以来の付き合いとなっている。

 

「ほんと羨ましいよ」

「最近では亜理紗も勉強してるみたいですね。今回のメニューもあいつが考えたみたいですし」

「戦術の話と言い、あいつって何者だよ……」

「本人曰く、”ただのマネージャー”だそうです」

「……」

 

奈々と一緒になって文句を言ってくる荒木をあしらっている敏腕マネージャーを見て、隼は苦笑するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

夕食後、各々自由なことをして過ごす時間、隼はまず風呂に入ってさっぱりした後、自分の部屋へと向かっていた。すると、前から1年マネージャー2人が歩いてきた。

 

「なぁ、輝也見なかったか?」

「輝也さんですか?私は見てないですけど…」

「あぁ、輝ならきっと走りに行ってますよ」

 

亜理紗の言葉に隼は驚いた。

今日は合宿ということもあり、午前午後と数試合の練習試合を行った。さらには輝也と駆、隼にキーパーの李を含めた4人で居残りのシュート練習も行った。さすがの隼もこれだけ動いた1日だったためにそこそこの疲労は感じている。今も風呂に入った後は古傷を中心にかなり念入りにストレッチとマッサージを行ってきたところである。そんな中で輝也は今も外に走りに行っていると聞けば、驚かずにはいられなかった。

 

「おいおい、あいつオーバーワークじゃねぇのか」

「いえ、輝はいつもこのぐらいですよ。本人曰くいつもと同じことをしないと夜眠れないらしいです。前に、”枕が変わったら眠れなくなる”のと同じようなものだって言われました」

 

亜理紗の言葉に隼は呆れて言葉も出ない、横にいる奈々も同じような表情だった。

 

「まぁでもさすがに輝も疲れてるみたいだし、いつもの半分ぐらいで切り上げてくると思います」

「そのストイックさをうちの王様にも見習ってほしいな」

「ほんと、そうですよね。さっきジュースって言って漢方の便秘薬渡したらごくごく飲んでました」

「あいつがギャーギャー騒いでたのはそれでか…」

 

あっさり信じて飲んだ荒木も荒木であれだが、それを分かっていながら便秘薬を渡した1年女子の黒さに隼は言葉が出ずに顔を引きつらせるしかなかった。

この2人を敵に回してはいけないということを、隼は認識した。

 

「じゃあ俺ちょっと様子見てくるわ」

「あ、じゃあこれ輝に渡してもらえませんか?」

 

そういって亜理紗は手に持っていたスポーツドリンクを隼に手渡した。

 

「はいよ。あぁお前ら、この後風呂入るんだったら”除き”気を付けろよ」

「……まさか、ないでしょ」

「そうですよ。子どもじゃあるまいし」

「いや、荒木だったら『さっきの仕返しじゃぁ!!』とか言ってやりそうだ…」

「……確かに」

「……想像できますね」

「まぁ俺からも釘はさしとくから」

「「お願いします」」

 

この後隼の注意も効果がなく、バカな野郎共が実際にやることを三人はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、いたいた」

 

野郎共に釘をさし終えた隼は、輝也を探しに旅館の外に出た。すると外を走っていた輝也がちょうどいいタイミングで旅館の玄関付近まで走ってきた。

 

「おーい輝也」

「あぁ、隼さん」

「お前明日も1日試合あるんだからそろそろ休め」

「うっす。まぁ俺ももう切り上げようと思ってました」

「まぁそれならいいが…。ほら、亜理紗からだ」

「あざっす」

 

隼は亜理紗から受け取ったドリンクを輝也に差し出し、自分もついでに買ったドリンクを開けて口に運ぶ。

 

「隼さんは、このチームどうなると思います??」

「また突然だな。どうなるってのはインハイでどこまで勝ち上がれるかってことか?」

「まぁそれもですし、選手権も含めてこのチームがどこまで化けるのかってことです」

「それは俺にも分からない。けど…」

「けど?」

「面白いチームになることは確かだろうぜ」

「……」

 

隼の答えにも、輝也の反応はすっきりしたものじゃなかった。しかし、隼は輝也が何を考えているかが分かっていた。

 

 

「お前が一番気にしてるのは蹴球学園だろう」

「あ、隼さんも知ってたんですか」

「この前雑誌で見たんだ。確かにレオナルド・シルバに勝つにはチームの完成度がかなりなもんじゃないと厳しいな。」

「レオだけじゃなく、リッキーとパティもいますからねぇ。全く、とんでもないチームになってくれましたよ」

「そうだな……。でも、俺らは目の前の試合をまずは勝たなくちゃいけないからな。それは忘れるなよ」

「分かってますよ」

「じゃあ俺は部屋に戻る。お前もとっとと風呂入って休めよ」

「うっす。お疲れ様です」

 

この後、走り去っていく野郎共を目撃し、織田の叫びを聞いた隼はその対応をするはめになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いつものことですけど、今回も遅くなりました。

亜理紗は怪我がなく選手として続けられていたら、奈々よりも実力は上です。もう敏腕コーチですね笑



一応はこれからも投稿は続けていくつもりですけど、完全に気まぐれになると思います、すみません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

初戦

待っていてくれた人がいるのなら、お待たせしました。

就活が始まって忙しいのに、なぜかやる気が出てきてます。


静岡での合宿を終えた一週間後、江ノ島高校サッカー部の面々は、幕を開けた高校総体神奈川予選の初戦当日を迎え、試合会場となる慶早大付属湘南高校のグラウンドへと向かっていた。

 

「よぉ、久しぶりだな輝也、金森」

「お久しぶりです、タカさん」

「あぁ、久しぶり」

 

試合を目前に控えた輝也と瞬は鎌倉学館のキャプテン、鷹匠 瑛(たかじょう あきら)に呼び出されていた。

 

「ったく、日本に帰ってくるんだったら何で鎌倉学館(うち)に来なかったんだ、輝也」

「まぁ…いろいろとありまして」

「いろいろだぁ?」

 

鷹匠は輝也の言葉に含まれる人物に見当をつけ、ため息をついた。

 

「祐介といいお前といい、傑の弟がそんなに気になるのか?」

「別に駆だけが理由じゃないですけど、まぁ気にはかけてますよ」

「……まぁいい。その弟も含めて今日の試合は見させてもらうぜ。情けねぇところ見せるなよ」

「誰に向かって言ってるんですか」

 

そう言って輝也はチームメイトのもとへと向かった。残った隼は黙って鷹匠を見ていた。

 

「お前との決着もつけなくちゃな、金森」

「そうだな、鷹匠」

「俺らと当たるまで転けるんじゃねぇぞ」

「分かってるさ、あいつをそう簡単に負けさせるわけにはいかない」

「………当然だ」

 

待っていた亜理紗とともに歩いていく輝也の後ろ姿を2人は見つめた。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

慶早との試合前、整列している両チーム、主に慶早側に黄色い声援が飛んでいた。その声に慶早の主力2人、中島と島谷が応えさらに応援の声はます。このことに織田といった江ノ高の真面目組は当然怒りを見せていたが、もう1人意外な人物が静かに、しかし確実にキレていた。

 

「お、おい輝也、何イライラしてんだよ」

「……別に」

 

チームの1番端に立つ輝也に向かって、その隣に立つ荒木が声をかける。輝也は口では否定するが、その雰囲気は明らかにイライラしていた。

 

「ただちょっと…昔からあいつらが気に入らないだけだ」

「あいつらって中島と島谷のことか」

「あぁ」

 

輝也はイギリスへ向かう前に、県のトレセンで中島と島谷と面識があった。その時から輝也はこの2人には才能があると感じていたが当時から練習に対するストイックさが足りないと考えていた。

 

「才能があるのに努力しない奴が俺は大っ嫌いなんでね」

「………」

 

試合前の円陣を組み終わり、それぞれのポジションへと向かっていく中、荒木は輝也が呟いた言葉が自分にも向けられているように感じ、その威圧感から冷や汗を流す。

 

「お前もあいつらみたいになって俺を失望させてくれるなよ」

「あぁ分かってるよ」

「まぁまずは痩せないと話になんねーけどな」

「う、うっせー!!これでも痩せてきてはいるんだぞ」

「ならいいけど。まぁとにかくこの試合だ、勝つぞ」

「当たり前だ」

 

そういって2人はお互いのポジションへと移動した。

 

 

 

 

 

江ノ高スターティングメンバ―

 

    歳條 9

火野11    的場 7

 

  兵藤 8 荒木10

沢村 5 織田 4 八雲 6

  金森 ⓷ 海王寺 2

    紅林 1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輝也はCFの位置に移動すると、慶早ボールのキックオフのため中島と島谷がセンターサークルの中に立っていた。

 

「2人とも、久しぶりですね」

「まさかU-18日本代表にこんなところで会うとはな」

「なんでお前こんな無名校にいるんだよ」

「別に俺がどこのチームに所属しようが勝手でしょう」

 

島谷の言葉に、あっけらかんとした態度で輝也は返答する。その輝也の態度に2人は反応する。

 

「お前ほんっと生意気だよな」

「そんなことないですよ」

「…チッ」

 

これ以上反応したら輝也の思うツボだと判断した2人は何も言わなくなった。

 

「まぁお前は昔からそうだからいいとしてだ…」

「お前らのそのフォーメーションはなんだ?俺たちを舐めてるのか」

 

輝也に話しかけられる前から2人で話していたことを輝也に聞く。

 

「別に舐めてないですよ。勝つための戦術です」

「勝つためって言うんなら何でDFが2人しかいねーんだよ!!」

 

江ノ校のスターティングメンバーはDFが2人の2-5-3というフォーメーションだった。客観的に見て異常な超攻撃的フォーメーションに中島と島谷が自分達が舐められていると考えるのはおかしくない。

 

「チッ……試合始まって後悔しても遅いぜ」

「前半で試合きめてやる」

「できるもんならやってみてください」

「「…クソが!!」」

 

再び輝也が舐めた態度を取って、2人のイライラはピークに達している状態で試合は始まっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--おかしい

--どうしてだ

--意味がわからない

 

前半が終わった時、中島と島谷は揃って困惑していた。

格下の馬鹿みたいな超攻撃的なチームと思い臨んだ前半は、予想していなかったようなスコアとなった。

 

「……0-2かよ…クソがっ」

「まぁでもカラクリは分かった」

 

DFが手薄だと思い込み空いているスペースを狙って中央から攻めれば、いつの間にかDFとボランチに囲まれてボールを失い、ならばとサイドを突破しようとすると予想以上に敵がいる。

ボールを失い江ノ校(相手)の攻撃になれば、パスを繋がれあっという間に自陣のゴール前まで攻め込まれ、デブの10番はその身体からは考えられないようなドリブルで突破され、最後は憎たらしい後輩に決められた。

 

「だがあの戦術だと運動量はかなり多くなる」

「両サイドはかなり走ってたしあのデブも前半終わり前にはだいぶバテてた」

「足が止まったところで一気にひっくり返す!!」.

 

 

しかし2人は気づいていなかった。

輝也がまだ本気を出していないということに。

その事に気づいていたのは江ノ校の面々は当然だがもう1人、スタンドで観戦する中にもいた。

 

 

 

 

 

「え、鷹匠さんそれホントですか?」

「あぁ、間違いない。輝也は前半は本気じゃなかった」

 

スタンドで観戦していた鎌倉学館の面々の中で佐伯祐介と鷹匠は話していた。

 

「でも前半ですでに2ゴールですよ」

「あれは両方とも半分は荒木の得点だ。1点目は荒木のスルーパスで決まっていたし、2点目もあいつのミドルのこぼれを輝也が決めただけだ」

「まぁ、確かにそうですね……」

 

鷹匠の言う通りではあるのだが、その2点ともがかなりレベルの高いシュートだったと祐介は感じた。

 

「まぁ、俺は代表での本気のプレーを直に見てるからな。お前もそのうち見れるさ」

 

いつか祐介(こいつ)も代表で輝也にパスを出すのだろうか---

そんなことを考えながら、鷹匠は後半が始まるのを待った。

 

 

 

 

江ノ校ベンチではタオルで汗を拭く輝也に亜里沙がドリンクを渡していた。

 

「前半終わって2-0か」

「早く全力でやりたいって感じだね」

「当たり前だろ亜里沙、鉄さんとお前に頼まれてなかった前半で試合終わらしてた」

 

輝也は試合前、監督と亜里沙から後半途中までは全力は出さずにチームの連携重視でプレーするよう頼まれていた。

 

「本気出してたらあと2点は取れてたな」

「あと1点は取ってあげてもよかったかもね。岩城監督が駆君と公太君に3点目が入ったら試合に出すって言ってたから」

「……だからハーフタイム入った時にあんな必死に頼み込んでたのか」

 

前半が終わり、ベンチへと引き上げた際に懇願してきたベンチメンバーの姿を思い出して輝也は苦笑した。

輝也としては正直、簡単に試合を終わらしてしまってもいいが、チームの成長なども考え、監督の指示待ちという状況であった。

 

「まぁチームの成長が優先だからな。鉄さんからの合図が出るまでは我慢するさ」

「うん、期待してる♪」

 

ベンチメンバーの声援を聞きながら、輝也は後半のピッチに向かっていった。

 

(どうせ竜一がすぐにバテるだろう)

 

ハーフタイムが終わったにもかかわらず未だに肩で息をしている王様を見て、輝也は監督からの合図は早いだろうと思っていた。

 

 

――――――――――――――――

 

 

(鉄さん鬼だな……)

 

荒木やサイドの八雲といった前半からかなりの運動量だった選手の疲労が目立ち始めた後半戦は、前半とはうって変わって一進一退の攻防が続いていた。そんな中で、八雲が突破された流れから1点を返されて2-1となった段階で、輝也は荒木・八雲が交代となり、自分に自由が与えられるのだろうと考えていた。

しかし、実際に交代したのは八雲と前線の選手で、荒木はピッチに残った。さらに、輝也の両サイドには得点に飢えている1年生FWが入ってくるという、さらに荒木に負担のかかる状況となった。

 

(まぁ確かに竜一の心肺機能の欠点を克服するっていうのは重要ことだけど)

 

荒木が元々心肺機能の不足を欠点としていることは、輝也は知っていた。その欠点を克服するために現在の太った体のままでプレーさせているということは岩城監督と亜理紗から聞いていた。そのため、荒木を残して攻撃的な選手を3人も投入した意図は分かった。しかし、点差がわずか1点という試合状況で、この選手交代は輝也にも予想外であった。

 

(まぁその分俺がフォローしろってことなんだろうけど)

 

未だに監督からの合図がこないことにストレスを感じながらも、輝也は点を取りたくて仕方がないといった様子の1年FWのフォローにまわった。

 

試合はその後、途中出場の駆が荒木のパスから抜け出してネットを揺らし3-1と江ノ高がリードを広げ、試合時間は残り10分となった。

 

「さて、そろそろ輝也に自由にやってもらうか」

「さっきから輝がベンチしか見てないですしね」

「…何か凄いオーラ出てる」

 

試合終了が近づくにつれ、輝也が纏う雰囲気が変わってきていることに気付いたベンチは、輝也に自由にプレーしてもいいという合図を送る。

 

「…!!」

 

その合図を見た輝也はすぐさまボールをもらい、相手ゴールに向けてドリブルを開始した。

そのまま相手DFを抜き去り、前に飛び出したGKの頭越しにループシュートを決めた。

 

「ヒャッホォォォイィィ!!!」

 

ゴールを決めた輝也は雄叫びを上げ喜びを爆発させ、いつもとのギャップに周りの選手たちは少し引いていた。

それを見ていたベンチも同じように少し引いていて、これまで見たことがない輝也の姿に困惑した奈々は亜理紗に問いかけた。

 

「ねぇ亜理紗ちゃん……輝也さん変なスイッチ入ってない?」

「大丈夫、たまにあぁなるだけだから。あと何点か決めたら元に戻るよ」

「そ、そうなんだ」

 

リスタートし、敵からボールを奪って再び相手ゴールへと突っ込んでいく輝也を見ながら、相手チームが可哀想だと奈々は思った。

 

その後、笑顔を浮かべながら猛然とゴールを目指す輝也(後に狂戦士(バーサーカー)状態(モード)と名付けられた)が2点を奪い、終了間際には冷静になった輝也のお膳立てから高瀬が決めて、試合は6-1で江ノ高が初戦突破を決めた。

試合後岩城監督は、これから試合中は輝也にはできるだけストレスを与えないようにしようと心に決めたのだった。

 

 

 

 

 

 




あれ、中島と島谷って3年で良かったっけ……。

とりあえずこれからも時間見つけて書いていきます。
気長に待っていただけたら幸いです。
感想、評価等待ってます。




コンテ最高!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

驚愕

お久しぶりです。


総体(インターハイ)予選の初戦を突破した江ノ高サッカー部は、次の日に行われた3回戦も勝利した。

 

前日の試合でスタメンだった輝也・火野を温存し、駆・高瀬をスタメンで起用したが、前半は得点が奪えずにスコアレスで折り返した。0-0で迎えた後半に駆のボールロストから先制点を奪われたタイミングで温存していた輝也と火野を前線に投入する。すると流れは江ノ校となり、全て荒木のアシストから途中から入った2人がそれぞれ2ゴールをあげ、結果的には4-1の快勝となった。

輝也は、自分のミスから失点に繋がった駆を心配していたが岩城監督がフォローしていたと亜里沙に教えてもらったことで安心することができた。

駆が最近何かを試そうとしていることに輝也は気付いていた。最近は駆と奈々、亜里沙の1年組で行なっている夜間練習で覚えて練習しているらしいフェイントを使えるようにしようとしているが、失敗してボールロスト、そのままチームのピンチとなるケースもちらほら見られた。現に先ほどの試合はそのケースからの失点であった。だが、それでも挑戦し続ける駆の"エゴ"に輝也は嬉しく感じた。

 

「亜里沙は駆のあのフェイントが何なのか知ってるんだよな?」

「うん、そういう輝也もだいたいは予想してるんじゃないの?」

「まぁあれかなーっていうのは思い当たるな。やろうとするタイミングとか考えたら多分あれだろうな」

「……成功してるとこまだ見てないのに分かるのが凄いよね」

「亜里沙だって分かったと思うけどな」

 

(俺もあの動画見て試しにやってみたよなぁ。俺のタイプには合わなかったけど)

 

 

亜里沙と話しながら輝也は、昔亜里沙と一緒に動画で見たフェイントを思い出していた。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

3回戦を終えた江ノ高サッカー部の面々は、スタンドへと移動し次に行われる湘南大付属の試合を観ていた。

 

 

 

今大会の優勝候補である湘南大付属――

一言で表せば守りのチームであり、「4本の矢(フォーアローズ)」と呼ばれる4バックの守備陣は、ここ5年間の総体(インターハイ)、選手権を通じて10失点しかしていない。5年前の選手権で湘南大付属が県優勝を果たして以来、伝統の4バックが「4本の矢(フォーアローズ)」と呼ばれるようになった。  

 

「妙だな」

「確かに5年間メンバーが変わり続ける中で守備力に変化がないのはおかしいよね」

「何かからくりがあるんだろうな」

 

 

岩城監督の説明を聞く中で荒木が呟き、それに亜理紗と輝也も同意する。

その後、岩城監督が今大会での4本の矢(フォーアローズ)のメンバーを紹介するの中で、輝也はその中に知っている名前があることに気付いた。  

 

「日比野じゃん、あいつ帰ってきてたんだな」

「俺も最近雑誌で読んで気づいたよ。欧州(向こう)では何度か会ったがまさか帰ってきてたとわな」

 

小学生の時にチームメイトだった日比野が湘南大付属に所属していることに、輝也と隼は気づいた。

 

「あいつ怪我してたんだよな、駆?」

「え…あ、うん」

「…?」

 

輝也は妙にぎこちない返事を返してくる駆に違和感を覚えてが、その理由がすぐに分かった。

 

「駆、"あれ"は事故だったんだろ?」

「……うん」

「なら、お前が気にしても仕方ないだろ」

 

輝也がイギリスに行った後、練習中の駆との交錯で日比野が大怪我を負ったと言う話を当時輝也は傑から聞いたことがある。日比野は親の仕事の都合で欧州に引っ越したらしいが輝也はその後の日比野のことを知らなかった。

 

「隼さんあいつの怪我のこと何か知ってるんですか?」

 

駆に聞こえないように、輝也は日比野と欧州と面識がある隼に尋ねた。

 

「……俺もそこまで詳しくは聞いてないけど、切れた靭帯はそのままみたいだな。手術しても無理だったって話は聞いた」

「え、じゃあもしかして…」

 

輝也と隼は試合中の日比野を見た。

試合はペナルティエリアから少し離れた位置からの湘南大附属ボールのフリーキックの場面だった。そして、日比野はキッカーの位置に立っていた。

 

「嫌な位置ですね」

「日比野が蹴るのか」

 

DFである日比野がフリーキックを蹴ることに疑問を抱いていると、マコがあることに気づいた。

 

「なぁ、壁作ってるやつらなんかビビってね?」

「確かに、泣きそうな顔してるな」

 

荒木の表現はどうかと思いながらも隼も疑問を感じた。

しかし、輝也はあることに気づいた。

 

「たかがフリーキックであんなビビるか?」

「いや、ビビりますよ隼さん」

「なに?」

 

次の瞬間、日比野が雄叫びをあげ何かを叫びながらフリーキックを蹴った。

 

「なっ!?」

 

そして、とんでもない威力のシュートがゴールに突き刺さった。

 

「キッカーのキック力が化け物だったら壁もビビりますよ。俺もよくあんな顔されます」

「……なるほどな」

 

隼同様、江ノ高の面々も日比野のフリーキックに驚愕していた。

 

「おいおい、輝也といい勝負なんじゃねーか?」

「…冗談じゃないぜ」

 

岩城監督の話では、日比野のあのフリーキックが攻撃力不足だった湘南大附属を一気に優勝候補にしたらしい。

 

「面白いじゃん、俺も対抗して長距離フリーキック狙ってみようかな」

「…お前なら本当に決めれそうで怖いよ」

 

輝也が試合でフリーキックで無理矢理ゴールにねじ込むす姿を想像して、隼は苦笑した。

 

「まぁこれではっきりしましたね。あいつの膝の靭帯は切れたままで…」

「筋肉でカバーしてプレーしてるんだろうな。元日本代表の城さんみたいに」

 

日比野を見ながら複雑そうな顔をしている駆を見て、輝也は不安を感じた。

 

試合は日比野のあげた1点を守り抜いた湘南大附属の勝利となった。その後、荒木の一言から次の試合は見ずに帰って練習をするということに決まり、近藤先生と奈々、亜里沙が残って試合を録画しておくことになった。

 

輝也は岩城監督が次の試合を気にかけていることに疑問を感じたが、試合前のアップを行なっている辻堂学園のベンチを見てその理由が分かった。

 

「鉄さん、あれって…」

「あぁ、瓜生だ」

「なるほど、鉄さんが次の試合気にする理由が分かりましたよ」

「考え過ぎかもしれないがな、さぁ帰るぞ」

 

岩城監督の声で帰る準備を始める部員の中で輝也は用事を思い出し、ビデオカメラを設定している奈々に声をかけた。

 

「奈々、お前今夜何か予定あるか?」

「今夜ですか?特にはないですけど」

「お前に話があるって人がいるから今夜その人連れてお前の家行くわ」

「…?分かりました」

「じゃあまた時間とか連絡するから」

 

そう言って輝也は他の部員と共に学校に戻っていった。

 

「……亜里沙ちゃん、何か聞いてる?」

「うん、一応ね」

「私に話があるのって誰なの?」

「うーん……あんまり大きい声で言えないから、後で言うね」

「ふーん」

 

亜里沙の言葉に疑問を感じつつも、奈々は目の前の試合の録画に集中することにした。その試合が終わる頃にはその疑問など忘れるほどに驚いているとは、この時の奈々は考えてもみなかった。

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

その夜、輝也は自宅で父とある人物達を待っていた。

 

「帰ったぞぉ」

「お邪魔します」

 

程なくして父が帰宅し、輝也が用のある、というよりも輝也に用がある人物が自宅にやってきた。

 

「やぁ、輝也くん。久しぶりだね」

「お久しぶりです、五島さん」

「いやぁあの時の子供が今や、世界が注目する逸材になるとは夢にも思わなかったよ、活躍は聞いているよ」

「ありがとうございます。まぁあの頃はまだボール蹴ってたぐらいですからね」

 

輝也を訪ねてきて、これから奈々に紹介する人物は現女子サッカー日本代表監督の五島監督だった。そしてもう1人――

 

「一色さんは初めましてですね」

「あら、私のことも知ってるのね」

「父の影響で色々と詳しいんですよ。なでしこジャパンの現エースだって当然知ってます」

「なるほどね」

 

五島監督と一緒に来ていた女性、現なでしこジャパンのキャプテンである一色 (いっしき)妙子(たえこ)は輝也の言葉に納得した。

 

「それじゃああまり遅くなってもあれなんで、行きましょうか」

 

輝也は奈々に連絡を入れ、今から向かうことを伝えた。

 

 

 

 

五島監督と一色を奈々の家まで送り届けた輝也は、家の外で話が終わるのを亜理紗と一緒に待っていた。

 

「奈々ちゃんもついになでしこジャパンの一員か」

「まぁ実力的には全然やっていけるだろうけどな」

 

アメリカでの奈々のプレーを見たことがある輝也と亜理紗は、何も不安に感じていなかった。

 

「そういえば輝、あの後の試合どうなったか知ってる?」

「知らないけど、もしかして辻堂が勝った?」

「正解!!何で分かったの!?」

 

輝也の答えが予想外なもので亜里沙は驚く。実際に試合を見ていた奈々と亜里沙は、終始驚きの連続の試合だったのだ。

 

「辻堂の監督がさ、鉄さんの高校の時のチームメイトなんだよ」

「へー、そうなんだ」

「それで鉄さんは、念のため録画を頼んだんだろうな。ちなみにスコアは?」

「4ー0」

「はぁ!?」

 

今度は輝也が驚愕した。辻堂の番狂わせはある程度予想していた輝也だったが、そこまでスコアに差が出るとは思っていなかった。

 

「あ、スコアは予想外だった?」

「当たり前だろ、せいぜい2点差だと思ってた」

「まぁ明日の放課後ビデオ見せるから。正直あれは見てもらった方が早い」

「………そんなにか?」

「うん、あれはある意味画期的だったよ。出来る人がいればの話だけど」

「気になるなぁ……」

 

そう話していると、奈々と話していた五島監督と一色が家の外に出てきた。

 

「あれ、もういいんですか?」

「えぇ、発破かけたから。あとはあの子しだいよ」

「ほんと、これで来てくれなかったら、なでしこジャパンにとっては痛手だぞ」

 

不敵に笑う一色と、胃のあたりを抑えながらそう言う五島監督。輝也と亜里沙は五島監督が心配になった。

 

「では我々は失礼するよ」

「あ、送っていきますよ」

「大丈夫よ。道は覚えてるから帰れるわ」

「そうですか、分かりました。明日の試合頑張ってください」

「ありがとう」

 

2人が去って、しばらくして奈々が出て来た。

 

「あれ、奈々ちゃん公園行くの?」

「うん、この時間からまだ駆やってるかなと思って」

「なら、俺も行こうかな」

「「輝(輝也さん)は駄目!!」」

「……えぇ」

 

最近、輝也は夜の練習に行こうとしても、このように2人に止められていた。

 

「駆が試合であのフェイント成功させるまではだめです」

「何でだよ…」

「輝を驚かせたいから」

「………」

 

亜里沙の返答に輝也は言葉を失う。

 

「大体、それはいつ成功するんだよ」

「あとはタイミングだけなんですよね」

「練習では成功率あがってきてるしね」

 

そう言われて輝也は考える。確かに輝也の予想通りならそのフェイントはタイミングが重要だった。

 

「まぁ分かったよ」

「じゃあ私達は行こうか」

「うん」

「奈々」

 

公園に向かおうとする奈々を、輝也は呼び止めた

 

「明日の試合、頑張れよ」

「………はい」

 

返答に少し迷いが感じられたが、そこは亜里沙が上手くやるだろうと輝也はさほど心配しなった。

 

「俺は、お前がなでしこのユニフォーム着てる姿も見てみたかったけどな………」

 

歩いて行く亜里沙を見ながら輝也が呟いた言葉は誰にも聞こえなかった。

 

 

 

思い出すのは小学5年の全国大会決勝、輝也のサッカーを変えたのは自分より一学年下の選手のプレーだった。

隼が1人の選手のパスだけで翻弄されるのを、輝也は初めて見た。

 

 

輝也がサッカーをやってきて最もパスを受けてみたいと思えた選手は、選手としてピッチに戻ることを許されなかった。

 

 

 

 




感想、評価等お願いします。

イブラ、チェルシー来ないかなぁ……。
……無いか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。