ガンダムブレイカー・シンフォニーRe:BREAK (さくらおにぎり)
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1話 Re:BREAK

 ――さて、今年で何年目の異世界転生になるだろうか。

 

 1000年目を越えた辺りでもう数えるのやめたしなぁ、もう何千年経ったかな?

 

『今年で2649年目ですよ』

 

 ふと、天界に還ってきた"俺"を、女神様が迎えに来てくれた。

 

「ハローこんにちは女神様。いや、グリニッジ標準時に合わせるとグッドモーニングおはようございますかな。ただいま」

 

『おかえりなさい。今回もまた、ありがとうございました』

 

「はいはい、ちゃんと"完結"させて、"回収"もしてきましたよ」

 

 "俺"は掌を女神様にかざし、いくつかの光の玉を顕現させると、それを女神様へと返還する。

 

 ――既に皆さんはご存知だから、敢えて説明する必要も無いだろうけど、"新規"の方のために一応は説明しておこう。

 

 "俺"は、普通の転生者じゃない。

 

 女神様からの命令を受け、いつまでも完結せずにほったからしにな――有体に言うと、エタ――っている世界へと異世界転生し、物語を人為的に"完結"させることによって、その転生者に与えられた転生特典のポイントを回収する……というのが、"俺"の役目だ。

 

 人の数だけ異世界がある――というのは誰が言ったか。

 

 いや、ほんとに。

 

 完結させずにエタらせている作品、どんだけあるんだってくらい、異世界転生してきたからなぁ。それこそ2649年も異世界転生しては天界に死に戻りを繰り返して来たから。

 

『それで、ですね。またこうしてあなたに厄介事を頼むのもなんだと思っているのですが、その……また私の管轄下の作品がエタったまま還って来なくなってしまいまして』

 

「あー、まぁ、それもいつものことですし、俺は気にしてませんよ。それよりも、女神様のポイントが素寒貧な方が心配なんですが」

 

 どこかの世界でストーリーが生まれて、転生者が異世界転生を楽しもうと、転生特典をもらうだけもらって転生して、エタったままその世界の中で止まった時の中で生き続けているとか、普通にある。

 そういう世界から特典ポイントを回収して、女神様へ返還するのが"俺"の役目だ。

 

「で……今度はどこの世界に異世界転生するんです?」

 

『ありがとうございます。今回あなたに転生していただくのは、『ガンダムブレイカー』の二次創作小説『ガンダムブレイカー・シンフォニー』の世界です』

 

 ふむ、ガンダム世界か。

 

 U.C.(ユニバーサル・センチュリー)の歴史改変や、C.E.(コズミック・イラ)のベストエンディング、P.D.(ポスト・ディザスター)の鉄華団大団円エンディング、A.S.(アド・ステラ)の学園無双など、何度か経験したことがある。

 

 だが、この、『ガンダムブレイカー』という作品は初めてだし、しかも二次創作?

 作者様の許可とかその辺りは大丈夫なんだろうか。

 

 女神様が言うには。

 

 このガンダムブレイカー・シンフォニーという世界は、主人公『オウサカ・リョウマ』という男子高校生が、ガンプラバトルをしながらヒロイン達とイチャイチャしたりする、まぁよくあるハーレム系だな。

 順調に連載されていたらしいのだが、しかし何があったのか、完結を目前に作者が突然エタりだし、それ以降の更新はされていないとのことだ。

 

 理由はともかく、この世界は止まったまま同じ時間を繰り返していることに変わりはない。

 

「で、俺はこの世界の……オウサカ・リョウマ君に転生して、ストーリーを完結させてほしいってわけですか」

 

『はい。完結させてほしいというのは間違いないのですが……あなたには、この世界を自由に生きてほしいのです』

 

「自由に生きてほしい?どういうことです?」

 

『えぇとですね……その、創造神様が、「いい加減そいつに頼る以外の方法を考えつけ」という、ありがたいありがたいお小言をいただきまして……つまり、今回で最後の異世界転生になるということです』

 

「最後……というと。最後の異世界転生くらいは、役目とか気にせずに、後腐れなく自由にやってくれと、そういうことですか」

 

 俺がそう訊ねると、女神様がちょっと悲しそうな顔をした。

 もう千年単位で世話になった方だからなぁ、"俺"もちょっと泣きそうだ。この世界にいる時に"俺"の肉体は無いので、泣きたくても泣けないのだが。

 

『そうです。この、『ガンダムブレイカー・シンフォニー』という世界を、自由に完結させてください。作者様との同意は既に得ています』

 

「了解。まぁ、最低でも適当にガンプラバトルでもしながら、のんびりやるとしましょ」

 

『では……次に会うときが本当に最期です』

 

 女神様はそっと手をかざすと、"俺"は淡い光に包まれる。

 

『あなたに、神のご加護がありますように』

 

「あいよ、ほんじゃ行ってきますわ」

 

 "いつも通り"、俺は天界から翔び立った。

 

 しかし……自由に完結させてほしい、か。

 

 まぁいい、行き当たりばったりには慣れてるし、どうとでもなるだろう。

 

 行くぜ。

 

 

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

【1話 始まりのプレリュード】:CLEAR

 

【2話 再会のワンステップ】:CLEAR

 

【3話 新人教育、始めました】:CLEAR

 

【4話 二頭龍と双子座と】:CLEAR

 

【5話 菫麗乱舞】:CLEAR

 

【6話 勃発!仁義なきガンプラバトル】:CLEAR

 

【7話 質実剛健のレジェンドガンダム】:CLEAR

 

【8話 事実は同人誌より奇なり】:CLEAR

 

【9話 汚いカミーユ、もしくは若かりし頃のウルベ】:CLEAR

 

【10話 ビルド!ビルド!ビルド!】:CLEAR

 

【11話 開幕!GBフェスタ】:CLE  ERRORERRORERRORERRORERRORERRORERRORERRORERRORERRORERROR……

 

 

 

 

 

 ――さぁ、もう一度壊そうか――

 

 

 

 

 

 ……

 

 …………

 

 ………………

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 ――長い夢を見ていたような気がする。

 

 内容は覚えていないが……なんだかものすごく胸糞悪い気分だ。

 

「ふ、あぁ……っと」

 

 っと、夢オチからのスタートか。

 

 えぇと、状況把握、状況把握……

 

 俺の名前は『オウサカ・リョウマ』。

 

 今年で十七歳になる、現役高校二年生です。

 

 ご家庭の都合から引っ越してきて、明日からは転入先である『創響(そうきょう)学園』に通うことになりました。

 

 両親は溜まった有給を消費するために、半年かそれくらい夫婦水入らずの海外旅行に出ています。

 

 その間、俺はこの家に一人暮らしなわけで。まぁ家事とかは得意なので、私生活に問題ないとして。

 

 で、さっきまで何をしていて……あぁそうそう、引っ越しの片付けも大体終わって、リビングのソファに腰をかけたら急に眠くなって……で、今に至るっと。

 

 時刻は18時前頃、そろそろ夕食時だ。

 

 しかし引っ越してきたばかりなので、冷蔵庫の中は空っぽだ。

 

 今晩は適当にコンビニ弁当でいいとして、明日の朝と昼の分の買い物もしないとなぁ……

 

 転生したてで上手く機能しない身体を駆動させつつ、俺は買い物バッグに財布とスマホを放り込んで、スーパーとコンビニへ向かうため、夕焼けに染まる街並みを行く。

 

 

 

 まずはスーパーから回って、明日の朝食や弁当の材料を買い込んで。

 

 その後でコンビニにも立ち寄って、これから食べる弁当を買って。

 

 さぁ帰宅しましょうという時だった。

 

「……ん?」

 

 コンビニを出てすぐ、ちょっと大通りからは陰になっている位置。

 壁を背にしている……いや、されている女子高校生――制服から見ても、創響学園のもの――と、なんかこう、見るからに人の話も聞かないし空気も読めなさそうな、下半身のチンチンをピラピラさせてるようなチンパンの組み合わせ。

 

 なんかもう百万回見たようなテンプレ展開だな、コレ。

 

 女の子の方は、水色のショートボブが可愛らしい美少女と言ってもいいくらいだな。あ、野郎の方に興味はありませんので眼中からフェードアウトです。

 

「あの、私急いでるんですけど」

 

「まぁまぁいいじゃないの、ちょっとそこまでだし」

 

 うん、野郎の方はナンパの仕方がなってないなぁ。

 相手の女の子、明らかに嫌がってると言うか機嫌悪そうだし。

 それで強く拒否したらしたで逆ギレして酷いことをする、と。

 ……ほんと、こういう世界のあぁいう人種は本気で脳が足りてないと言わざるを得ない。

 

 ……さて、見て見ぬ振りもここまでにするか。

 

 ――気配と足音を消してそっと近づいて、

 

「わたしメリーさん。今、あなたの後ろにいるの」

 

「え?」

 

 敢えて声をかけて、振り向くと同時に腕を掴んで足をかけて、合気術でポイッと。

 

「なっ、がっ!?」

 

 面白いくらいくるっと飛んでいった。

 女の子は何が起きたのかわかっていないのか、ポカンとしているが、それは尻目にしておいて。

 

「てめっ、何しやが……」

 

 起き上がろうとしたので、重心を崩してもう一度ポイッと。

 

「い、でぇ!?」

 

 仰向けに倒れたところを、顔を踏みつけようと足を振り上げれば、

 

「ひっ!?」

 

 チンパンは咄嗟に腕で顔を守ろうとしたけど、それは意に介さず、すぐ横の地面を、足音を立てるように踏みつける。

 

「……へ?」

 

 腕を解いて顔を晒したので、すかさず胸ぐらを掴んで強引に起き上がらせて、もう一回ポイッと。

 

「い、ぎっ!?ゲホッゴホッ……す、す、すいませんしたぁ!」

 

 咳き込みながら慌てて逃げていくチンパン。

 チンパンの背中に心の中で中指をおっ立てて、何も言わずに去ります。

 通りすがりの転生者はクールに行くぜ。学園で会ったらその時はその時だ。

 

 

 

 自宅に帰ったら、コンビニ弁当食べてーの、歯磨きしてーの、お風呂入りーの、明日の登校準備しーのして。

 

 あ、そうそう。

 

 デスクトップに飾っている、俺のガンプラなんだけども……こんな感じのガンプラだったっけ?

 

 ――もっとこう……もう少し小さくて、額にドクロレリーフをあしらってて、背中に骨の十字架を背負ってて……存在しない記憶か?

 

 マァいいやサァいくか。

 

 このガンプラは『GRX-78-2 オリジネイトガンダム』。

 

 皆さんご存知、鬼畜チート天パ(アムロ・レイ)が乗り回して、ジオンの皆さんを恐怖のどん底に叩き込んだ、あの"白い悪魔(ガンダム)"。それをベースにして完成させた、まぁそっくりさんだな。

 

 アムロが乗っていたガンダムのデータをベースに、無駄を省いて、より高性能を求めた、試作機……って設定だったかな。

 

 俺はこれからこのガンプラで、このストーリーを"完結"させるわけだ。

 

 さて、明日も早いし今日はもう寝ます!おやすみ!

 

 

 

 グッドモーニングおはようございます、転生生活一日半目のオウサカ・リョウマです。

 

 ワイ氏、卸したての制服に身を包んで、通学路を横行闊歩しとる件。

 

 そう言えば普通の学園生活って久しぶりな気がするなぁ。

 

 異世界転生の学園生活って言えば魔法学園が基本で、攻略対象である王族貴族の皆様方が親の七光りで威張り散らしてたりするし、主人公の女の子を何かにつけて襲って(自主規制)したり……

 A.S.のアスティカシア学園もスペーシアンによるアーシアンいじめが最新のトレンドだったり、メスガキテロリストに理解らされちゃうダブスタクソセキュリティーだし、お茶の間に百合婚正当化が放送されたりするし……

 

 ……異世界の学園クソばっかやんけ!?

 

 え、あ、ちょ、ちょっと待って、創響学園もアス高みたいな"場末"だったらどうしよう、転(校)生オリ主が騒動の中心に巻き込まれるのは挨拶代わりみたいなもんだしなぁ……。

 

 何だか不安になって来たけど、行かないわけにもいかないので、校門を潜ります。ブレイクスルー!

 

 

 

 しれっと職員室に入室して、担任の先生と顔合わせして、あーだこーだ話したら、いざ教室へ。

 2−1組の教室まで来ると、待機。

 

 入った瞬間、「クソスペーシアンがどのツラおっ下げて来てんだゴルァ!」とか言ってピンク色のノンキネティックポッドとかヒートクギバットが飛んで来たりしない?俺すっげぇ不安なんだけど。

 

「それじゃあオウサカ君、どうぞ」

 

 何食わぬ顔で内心ビクビクしながら入室。

 

「皆さん初めまして。本日よりこのクラスでお世話になります、オウサカ・リョウマと申します。不慣れでお見苦しいところも多々あるかと思いますが、何卒宜しくお願い致します」

 

 完璧な自己紹介やな!

 ふっ、2649年もの異世界転生を繰り返してきた、俺の処世術をなめるなよ……

 

「あっ……」

 

 って、なんか見たことあるライトブルーが見えたと思ったら、昨日の女の子じゃん。早速フラグが立ったかもしれないぞクォレワァ……

 

 むむっ、もう一人俺に熱視線を浴びせてくる奴がいるぞ。

 カーキ色の髪のポニテで、ギャルっぽい感じの……彼女も見たことがあるな。

 いやしかし昨日に擦れ違ったわけでもないし……アレか、"俺"じゃない、『オウサカ・リョウマ』としての記憶からか?

 

 そんな疑念は意識の隅に追いやりつつ、空席へ。

 

 

 

 ホームルームもパパッと済んだら、早速質問攻めだ。転校生は辛いぜ。

 

「オウサカだっけ、これからよろしくな!」

 

「どこから転校してきたの?」

 

 どこから来たとか彼女はいるのかとか訊かれては当たり障りなく答えていると、水色のショートボブの娘がやって来た。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「あの、昨夜はありがとう、えぇっと、メリーさん?」

 

 メリーさん?どゆこと?と周りの皆さんがざわめく。

 そうか、昨夜は俺、「わたしメリーさん」って名乗ってたな。

 

「どう致しまして。それと、俺はメリーさんじゃなくて、オウサカ・リョウマだよ」

 

「そ、それもそっか……わたしは『アサナギ・マユ』。今日からよろしくね、オウサカくん」

 

 マユちゃんと言うらしいアサナギさん。

 純情っぽくて大変可愛らしいです、萌え度高いよ。

 

「あーっ、やっぱりリョーじゃん!」

 

 するとマユちゃんの反対側からどたどたやって来るのは、先程のカーキ髪のギャル子ちゃんだ。

 リョー……ってのはあだ名か?

 でもなんだか懐かしい気がする呼び方だな。

 誰だろう、数年間音沙汰無かった幼馴染みちゃんだろうか。

 

「ほら、小四の頃まで一緒にいただろー?」

 

「ちょっと待って、今思い出してるから……」

 

 借り物の肉体にある記憶を辿り――見えた!つもり!

 

「あぁ、イツキ。『タツナミ・イツキ』だろ?」

 

「そうそう正解!やっば、マジおひさじゃん!」

 

 正解、というと。

 やっぱりこのイツキというタツナミさんは、『リョウマ』と昔馴染みらしい。

 

「イツキ、彼と知り合い?」

 

 マユちゃんがそう訊ねてきた。きっとみんなが気になった内容だろうな。

 

「知り合いってか、幼馴染み?腐れ縁?ま、そんな感じ!」

 

 俺という謎のメリーさん転校生は、マユちゃんの恩人兼イツキの幼馴染み、というレッテルが早くも貼られたようだ。モテる男は辛いぜ。

 

 

 

 長年……いや、永年ファンタジー異世界のあっちこっちに行ってきたせいで、現代日本の高校の授業が全然分からねぇ。

 いや、分からねぇこともなく、教科書読めば大体理解出来るんだけど、要予習復習だわコレ……魔法学とか魔術論とかなら得意なんだけどな!

 

 いや、あのね、転校生だから質問攻めに会うのは理解出来るんだけど、せめて教科書とノートの整理くらいさせてくれぇぇぇぇぇ!

 

 なんて泣き言はそっと胸にしまいこんで、マユちゃんやイツキと話を合わせつつ、授業と休み時間を過ごしてーの。

 

 

 

 昼休みだ!昼飯だ!

 

「マユー!リョー!昼ごはん食べよー!」

 

 やったら元気のいいイツキに誘われたので、お弁当を片手に席を立つ。

 

 マユちゃんも一緒に呼ばれて、二人のお気に入りの場所へ行くとのことだ。

 

 

 

 そうして案内されたのは、中庭の片隅。

 ベンチがあるし、日当たりもいい。

 

 この食事の席に着くのは、俺、マユちゃん、イツキの三人だ。

 

 いや、転校初日からいきなり女子二人に挟まれて昼食とか、なろう系かよ!

 

「オウサカくん、授業はどう?ついて行けそう?」

 

 マユちゃんが鞄から取り出したのは、こぢんまりとした可愛らしいデザインの弁当箱。

 ちなみにイツキは、登校途中で寄ったコンビニで買った惣菜パンで、今は自販機へ飲み物を買いに行っている。

 

「前の学校(王立魔法学園)とこっちとじゃ、授業内容が全然違ったから、授業中に予習復習しながら、どうにかこうにかって感じだな……」

 

「そ、それは大変そうだね……?もし分からないところがあったら、わたし……に訊いてもいいけど、ミカゲさんに訊いた方がいいかも」

 

「ミカゲさん?えーっと、女子?」

 

 さすがにまだクラス全員の名前と顔は一致してない。

 

「そうそう、『ミカゲ・トウカ』さん。あの、紫色のおさげが綺麗な人だよ」

 

「紫色のおさげ……あ、一番左後ろの席にいた人か」

 

 見覚えあり。

 俺という転校生に積極的に関わろうとせず、遠巻きに見ていただけの、これまた女子生徒だ。

 紫髪のおさげに、野暮った〜い瓶底眼鏡を掛けた、『THE・地味子ちゃん』とでも言わんばかりの容姿である。

 コレあれだよ、眼鏡外して髪下ろしたら、神降ろしが発生するヤツですよ、多分。

 

 アサナギ・マユに、タツナミ・イツキ、ミカゲ・トウカ、ね。初日から覚える名前が多いぜ。

 

「成績、いいのか?」

 

「多分、ウチのクラスのでも一番だと思う。体育は、ちょっと残念だけど……」

 

 なんかこう、見た目からして「運動苦手です」って感じだったなぁ。

 

「っと、お待たせー!」

 

 すると、イツキが帰還してきた。

 ビニール袋をガサガサ言わせつつ、戦利品を机に並べるイツキは、俺の弁当に目を向けてきた。

 

「リョーも弁当なんだな?」

 

「まぁ、今朝の朝飯のついでだけどな」

 

 おかずなんかも朝飯のそれとプラスアルファだから、かかる手間と言えば、弁当箱に詰め込むことと、その洗い物ぐらいかねぇ。

 

「え?それじゃリョー、今一人暮らし?マジで!?」

 

「うん。両親は一人息子をほったらかして、有給消化のついでにイチャイチャ海外旅行だよ」

 

「へー、すっげ!」

 

 すげーすげーと言いながら、イツキは購買のパンをムシャつく。

 

「アサナギさんの弁当も、自分で作ってるのか?」

 

 マユちゃんの弁当に視線を向けると、弁当箱のこぢんまりと可愛らしいデザインを裏切らない、中身もまたこぢんまりと可愛らしいラインナップ。

 

「うぅん、これはお母さんに作ってもらってるから……お家のことを全部自分一人でやってるオウサカくんが、すごいなって」

 

 よせやい照れるじゃねぇか。

 

「そんなすごいとか言われるようなことはしてないけどな」

 

 いつかの異世界転生だと、『執事付きアパート』の執事として、住民全員の炊事を請け負ったこともあるが、あれも始めてから三日くらいで慣れたんだよなぁ。

 

「うーん……」

 

 俺とマユちゃんが話してる側面から、イツキが俺の顔を覗き込んで来ている。イケメンかもしれないけど、多分普通の顔だと思うんだが。

 

「なんつーの?リョーの雰囲気がガラッと変わったって言うか、いや、顔はそんなに変わってないんだけど、なんか違う気がしてさ」

 

 ごめんなイツキ、俺は君が知ってる『リョー』じゃないんだ。

 いつか時が来たら本当のことは話しておこう、嘘をつき続けるのは心苦しいし。

 

「六、七年も経ったら、色々と変わるものだろ」

 

「そんなもんなんかなぁ……」

 

 神殿の聖なる剣を台座から抜いたら、気が付いたら七年経って大人になってたとかって経験もあるし。

 

「あっ、そうそう!リョーってさ、まだガンプラバトルやってるよな?」

 

 おっと、急にガンプラの話になったな。幼馴染みなら、ガンプラの話で盛り上がったこともあるか。

 

「ん、一応続けてはいるが……最近は頻度も減ったし、昔みたいに出来るかどうかは微妙だな」

 

 ほんとはバトルなんてしたことないんだよな。

 本物のMS戦なら結構な数をこなしたけど。

 

「そっか。でもまぁ、出来なくはないってことか……」

 

 うんうん、と頷くイツキ。

 

「んじゃさリョー、ガンプラバトル部に入ってくれよ!」

 

 あぁ、そういう展開か。

 と言うか、この世界はガンプラバトルが部活動として認められてるんだな。

 

「イツキ、まだオウサカくんはこの学園に慣れてないのに、いきなり勧誘なんて……」

 

「え?だってリョー、すっげーガンプラバトル強かったんだって!昔みたいに出来ないって言っても、感覚思い出せばすぐだし!」

 

「そうかもしれないけど、オウサカくんのことも考えて……」

 

 マユちゃんがイツキの勧誘を窘めている。

 なるほど、まぁこれからガンプラバトルしながら学園生活をエンジョイするってのが"原作"の筋書きらしいし、断る理由はないか。

 

「あぁいいよ、入ろうか」

 

「って即答!?オウサカくん、いいの……?」

 

「よっしゃ!さすがリョー!」

 

 戸惑うマユちゃんに、喜ぶイツキ。対照的だな。

 

「今から新しいことを始めるより、既にやり慣れてることを活かせる方がいいと思うからな」

 

 ほんとはガンプラバトルも初めてなんだけど。

 しかしマユちゃんが俺の入部を渋るのは何故だろうか。

 

「その……ね、オウサカくんがガンプラバトル部に入部してくれるのは嬉しいんだけど。ウチの学園のガンプラバトル部がどういう場所なのか、知ってる?」

 

「どういう場所なのかって……何かいけないことでもあるのか?」

 

 先輩による後輩イビリが最新のトレンドなら、力尽くでやめさせてもえぇんやで。

 

「ウチのガンプラバトル部なー。何ていうか、昔はそこそこ大きくて、賞とかも色々取ってたらしいんだけど、ここ数年で一気に弱小化したらしくてさ。今残ってる部員は、あたしとマユと他数人だけ。功績とか結果が出ないから部費も降りないし、今じゃすっかり同好会扱いってこと」

 

 参ったよなー、と苦笑するイツキ。苦笑してるけど、部費の予算が降りてこないって割りと深刻な問題じゃないのかそれ。

 

「だから色々と不便で、設備とか備品の維持も、ほとんどわたし達の自腹でやってるの。……正直転校生にあまり勧めたいとは、思えないよね」

 

 落ち込んでしまうマユちゃん。

 部の存続の危機を前に、困難に立ち向かう少年少女……いいね、そういう王道でアツい展開は大好きだよ。

 

「ようは、結果を出して見せれば、ガンプラバトル部は名ばかりの同好会じゃなくなるって話だろう?なら、俺が入らない理由にはならないよ」

 

 つまり、ガンプラバトルに勝ちまくって天辺取って、創響学園の名を天下に轟かせろっちゅーことやな!

 これが廃校レベルの話だったら、ガンプラバトルじゃなくてスクールアイドルになってたところだよ、サンラ○ズ的な意味で。

 

「よーし!リョーがいてくれれば百人力!今年は優勝待ったなしだ!」

 

「ありがとう……オウサカくん」

 

 二人の顔に喜色が灯る。

 うんうん、やっぱり女の子は笑顔じゃないとね。

 

 とかなんとか場の雰囲気が暖かいものになったと思ったら。

 

「……あっ」

 

「チッ……」

 

 急に、マユちゃんは何かに気付き、イツキは舌打ちした。

 気になって振り向いたら、なぁんかガラの悪そうな男子が一人。イツキが舌打ちした辺り、ガラ通りに頭も人柄も悪そうだな。

 

「よぉアサナギ、今日もこんな辺鄙なとこで昼飯か?」

 

 あぁー、なんかこう、ねちっこくてやーな感じだわコレ。声を聞いてるだけで大変不愉快だ。

 

「えぇそうですよ、ウマノ先輩。それが何か?」

 

 マユも嫌悪感を顕にして邪険な態度を見せている。

 先輩ということは、このウマノ先輩とやらは三年生か。

 

「今あたしら昼飯の途中なんで、話でしたら後にしてほしいんすけど?」

 

 イツキも同様に、嫌悪感どころか敵意すら剥き出しだ。

 

「ここじゃなくて、部室にしねぇか?ついでにそこでイイコトも……」

 

 おいおいこの先輩、学園内でヤらかす気ですよ?不純異性交遊は校則違反だぞ!いい加減にしろ!

 

「絶対嫌です!」

 

「先輩、いい加減しつけーんすけど!あんたマユから嫌われてるって分かんねーのかよ!?」

 

 拒絶感を強める二人。

 それに対してこのウマノ先輩とやらはさらに強気になって出てきた。

 

「はぁ?分かってねぇのはお前らだろ?誰のお陰で、ガンプラバトル部が、辛うじて部として認められてると思ってるわけ?」

 

 ん?このウマノ先輩、ガンプラバトル部なのか。

 ……あぁ、何となく展開が読めたな。

 この先輩が結果を出しているから、ガンプラバトル部はギリギリのラインに踏み留まっていて、それをダシにしてマユちゃんとの関係を迫ろうとしてる、と。

 よし。

 

「あー、えっと。とりあえず双方落ち着きません?俺、なにがなんだかサッパリなんですけど」

 

 まずは調停者を気取って、公平に平等に。

 

「あ?誰だてめぇ?」

 

「今日からこの学園のお世話になる、二年のオウサカ・リョウマです。で、この二人からガンプラバトル部に勧誘されたところでして。えーと、ウマノ先輩、でいいですか?」

 

「なんだ新入りか。オレは創響のガンプラバトル部を支える大黒柱、『ウマノ・ホネオ』だ。てめぇもガンプラバトル部に入るんなら覚えとけよ」

 

 ウマノ・ホネオって……『馬の骨』かよ!ちょっwwwネーミングど直球過ぎてwwwあかんwwwツボりそうwww

 

「よろしくお願いします。で、アサナギさんとイツキは、先輩のことを随分嫌ってるみたいですけど」

 

 笑いそうになるのを必死に堪えつつ。

 

「この人に関わらない方がいいよ、オウサカくん」

 

「そうそう。こいつ、マユが可愛いからって必死になってやんの」

 

 イツキが仮にも先輩相手に「こいつ」呼ばわりか、相当なクズ野郎なんだなぁ。

 

「タツナミてめぇ!顔がいいからって調子に乗りやがって!」

 

 あ、怒った。イツキを殴ろうとしてる。

 はい、インターセプト。ついでにポイッと。

 

「なっ、んがっ!?」

 

「女の子に手を上げるなんて紳士的とは言えませんね、先輩」

 

 まともに地面に落ちたのか、げほけぼと咳き込むクズ先輩。

 

「いっつつ……てめぇ、初対面の先輩に対する態度がそれか!?」

 

「俺は間違ったことはしてませんよ。今のは、先輩が勢い余って転んだだけですし」 

 

「この……!」

 

 クズ先輩の矛先が俺に向き直され、殴ろうとしてきたので、もう一回ポイッとな。

 

「こっ、がはっ!?」

 

「はぁー……いい加減やめませんか?見てるこっちが辛いので」

 

 さて……そろそろいいかな。

 

「あ、じゃぁこうしましょうか。放課後、俺とガンプラバトルをしましょう。先輩が勝ったら、俺はガンプラバトル部には入りませんし、マユやイツキにも二度と近付きません」

 

 マユちゃんとイツキが驚いてるけど、構わずに続ける。

 

「逆に俺が勝ったら、二度とマユやイツキに自分から話しかけない、必要以上に近づかない、と約束してもらいましょう。二人とも、それでいいよな?」

 

「ちょっ、リョー!何もそんな勝負しなくてもいいって!」

 

 慌ててイツキが止めようとするけど、

 

「……分かった、わたしはそれでいいよ」

 

 マユちゃんはそれに納得してくれた。

 

「マユ、いいのかよ!?」

 

「もし、オウサカくんが負けたら……ウマノ先輩の彼女でも、なんでもなる」

 

 おいおい何もそこまで賭けなくていいんだよ?

 俺がこんなのに負けるはず無いけど。

 

「……その話乗った!」

 

 そして、他ならぬクズ先輩が喰い付いた。勝ったらマユちゃんを彼女に出来るってのは、目を眩ませるには十分だな。

 

「今日の放課後に、ガンプラバトル部の部室に来い。逃げたら、オレの不戦勝だ」

 

「えぇ、もちろん。まぁ、負けるのが怖いなら先輩が逃げてもいいんですよ?」

 

「チッ……!」

 

 俺の最後のカウンターに、クズ先輩は大層不機嫌そうに去っていった。ドヤァ。

 

 と、思ったら、イツキに背中をどつかれた。痛い。

 

「バカ!あんな約束してどうすんだよ!?」

 

「大丈夫だって。しょせん、『辛うじて部として認められている程度の結果しか出してない』先輩なんだろう?」

 

「いや、そうかもだけど!あの先輩、あんなんだけどこの辺じゃ結構知られてるくらい強いんだよ!」

 

 は?この辺だけにしか知られてない、の間違いじゃないか?

 

「……その、もしオウサカくんが負けても、わたしは責めたりしないから……でも、あんな人の彼女なんて絶対嫌だから、お願い!」

 

 マユちゃんが真摯に頭を下げてきた。

 

「あ、あたしからもお願いする!絶対勝ってくれよ、リョー!」

 

 イツキも頭を下げてくる。

 

 ……ここまでされて期待に応えないなんて男が廃る。

 

「あぁ、任せてくれ」

 

 大言壮語はいらない。

 シンプルかつ力強く、「俺に任せろ」と、そう頷く。

 

 

 

 

 そんなわけで放課後。

 

 マユちゃんとイツキに案内されて、ガンプラバトル部の部室へ。

 

 最初にイツキが一人で入って、その後で呼ばれてから俺とマユちゃんも続く。

 

 部室内にいたのは、先程のクズ先輩ではない、少し雰囲気の軽い男子。彼も先輩だろうか。

 

「あー、なんつーか……悪いな、転校初日だってのにこんなことに巻き込んじまって」

 

 バツの悪そうに頭をかく先輩さん。

 溜息をひとつ挟んでから。

 

「ようこそ、ガンプラバトル部へ。部長の『サイキ・ケイスケ』だ」

 

「初めまして。二年のオウサカ・リョウマです」

 

「大体の話は、タツナミから聞いた。……俺がウマノの奴に、もうちっとガツンと言ってやれりゃ、アサナギに迷惑かけなくて済んだんだけどな」

 

 なんかこのサイキ先輩……苦労人してるなぁ。俺ちょっとこの人のこと無碍に出来ねぇわ。

 

「ガツンと言っても、聞かなかったの間違いでは?」

 

「……まぁ、そうなんだがな。アサナギに関しては心配すんな、もし負けたら、俺が身体張ってでもあいつを止めてやるから。だからオウサカは、気にせず思い切りやってくれ」

 

 いや、普通に考えたらあのクズ先輩が全面的に悪いんだけどな。

 マユちゃんご本人の口から「強引に迫られて困ってます」って警察に相談したら一発でしょっ引かれますよ、アレ。

 

「大丈夫ですよサイキ先輩。俺が負けなければいい話ですから」

 

「随分自信があるんだな……なら、頼んだぞ」

 

 

 

 もうちょっとだけ時間が経ってから、クズ先輩がやって来た。ちょっと遅くないですかね。

 

「へぇ?逃げずに来たのは褒めてやるよ」

 

「そりゃどうも。それじゃぁサイキ先輩、審判をお願いします」

 

 サイキ先輩が無言で頷くと、俺とクズ先輩との両者の間に立つ。

 

 えーっと、ガンプラバトルってのは……スマホのアプリからバナパスを読み込ませて、自分のガンプラ――オリジネイトガンダムをスキャナーにセットして、と。

 

 ホログラムで作られるフィールドは『サイド7』を選択。

 

 ――ここでジーンが先走ったことで、鬼畜チート天パがガンダムに乗り込むという(ジオンにとって)最悪の事態を引き起こし、ジオンの敗北が決定したと言ってもいいんだよなぁ。

 

 ゲートの中に、オリジネイトが生成される。

 

 で、発進は……音声入力か。

 

 さて……ガンプラバトルか。まぁ、命のやり取りをしないだけ、簡単だろう。

 

 深呼吸をして、すぅー……ふぅー……よし。

 

「オウサカ・リョウマ、オリジネイトガンダム、行きます!」

 

 俺の音声入力によって、オリジネイトがゲートから発進し、勢いよくサイド7のコロニーの空へ撃ち出される。

 

 のは、良かったんだが……

 

 

 

 マユは、リョウマのガンプラである、オリジネイトガンダムの完成度の高さに目を見張った。

 

「すごい……一見普通のファーストガンダムなのに、所々が確かに違う。それに、あの作り込み……」

 

「あぁ、ありゃぁ相当な手間暇をかけてるな。少なくとも、新品のキットをベースに一から十まで作ろうと思って作れるもんじゃない、何年も完成と再改造を繰り返したんだろうな……」

 

 ケイスケがマユの感想に補足を加える。

 それほどの完成度、恐らくはあれをそのまま出すだけで小さなコンテストくらいなら入賞するだろう。

 

「あれ、でも……なんか動きが変だ?」

 

 しかし、イツキの視点はそこではなく、オリジネイトガンダムの挙動に違和感を抱いた。

 ぎごちない挙動を見せたと思えば、急加速して慌てて減速したりを繰り返している。

 少なくとも、ガンプラバトルに慣れた者のそれではない。

 

『ギャハハハ!偉そうな口叩いた割には、ズブズブの素人かよ!』

 

 オリジネイトガンダムと対するのは、ホネオのガンプラ。

 

 真紅色を基調とした、鋭角なフォルムを持つ四肢に、頭頂部に大型のセンサーカメラを持つガンダム――『イージスガンダム』だ。

 異形とも言えるMA形態への可変機構が特徴の機体だが。

 

 ホネオがカスタムしたそれは、やけにゴテゴテした重装甲に、マニピュレーターに握るのは大型の両刃のバスターソードのみで、ビームライフルやシールドの類は見られない。

 可動部を妨げるほどの重装甲は、恐らく可変機構そのものをオミットしているのだろう。

 どことなく、"騎士"を思わせる外観ではあるが……

 

 それは――端的に言えば、『イージスガンダムの長所を全て殺している』機体だった。

 

『まぁ、逃げずに立ち向かおうとする相手に、ナメプなんて失礼だもんなァ!』

 

 イージスガンダムはバスターソードを構え直し、不安定な挙動や機動を繰り返しているオリジネイトガンダムへ迫る。

 

 一刀両断せんと振り降ろされるバスターソード、しかしオリジネイトガンダムは咄嗟にバックステップで躱す。

 

『ほらほら避けんなよ!仕留められねぇだろ!』

 

 オリジネイトガンダムに接近してはバスターソードを振り降ろしたり、薙ぎ払ったりするイージスガンダムだが、その重撃は一度も届いていない。

 

 そんなイタチごっこが幾度が繰り返されたが、とうとうオリジネイトガンダムが体勢を崩し、バーニア制御が不十分なせいで、背部から倒れてしまう。

 

「リョー!何やってんだよ!?」

 

「オウサカくん……!」

 

 イツキとマユの焦れるような声。

 しかし、ケイスケだけは戦闘中のホログラムではなく、筐体の前で猛烈な速度でキーを叩いているリョウマの姿を見ていた。

 

「(あいつ、まさか……!)」

 

 

 

 くぁー!なんっだこの死ぬっほど使いにくいコントローラー!?

 操縦しやすいつもりなんだろうけど、こんなん逆にやり辛いって!

 あぁもう、反応だっておっそい!ドノーマルの06(ザク)のコクピットの方がまだ反応早いわ!

 とりあえず、イージスの改造機っぽいクズ先輩の攻撃を躱しつつ早く操縦に慣れ……てる暇があると思ってんのか!

(いきなりぶっつけ本番とか)ないです。せめてチュートリアルくらいさせろ!?

 

 えーい落ち着け俺、「接地圧が逃げるなら合わせればいいんだろ」ってどこぞのスーパーコーディネイターだって言ってたんだ、なんとかなるやろ!

 

 クズ先輩の攻撃をなんとかかんとか躱しつつ、ホワチャチャチャーと設定を調整し……ってあァ!?『初期設定に戻す』ちゃうわ!まーた最初からやり直、あっ、やっべバーニア制御ミスった!?

 

『チッ、ヒラヒラヒラヒラウザッてぇな!勝負しろよ勝負!』

 

 ウザってぇのはあんたのボイスだよ……とツッコミを入れてる内に。

 

 

 

「よし、大体こんなもんか」

 

 

 

 調・整・完・了!

 さぁここからはずっと俺のターンです、覚悟しろぃ。

 

『いい加減に、死にやがれぇ!!』

 

 バスターソードを振りかぶって兜割りのごとく上段の構えから迫るクズ先輩のイージス。

 

「はいそこ」

 

 即座、ウェポンセレクターからビームライフルを選択と同時に射撃、イージスの右腕の関節を撃ち抜く。

 

『んなっ!?』

 

 急に片腕が無くなったせいでバランスが崩れ、イージスのバスターソードはグラリと傾いて俺のいない地表に叩き込まれる。

 

 敵の目の前で隙を曝すとか言う自殺行為を平然とやってるので、遠慮なくいきます。

 

 喰らえ、スラスター真空飛び膝蹴り!

 

 右膝を突き出しながらスラスターで突進し、イージスの頭部にブチ込む。

 

 CRITICAL HIT!!

 

 真空飛び膝蹴りが、イージスの頭部を粉砕!機体ごと吹っ飛ばす!決まったぜ。

 

『てめっ、この……!』

 

 おっと、イージスが姿勢制御しつつ、重そうなサイドスカートが開いたと思ったら、スカートの中から高出力のビーム砲を撃ってきた。

 あっぶねー、初見殺しだろそれ。

 俺じゃなきゃ見逃しちゃうね……まぁ躱せたからいいけどな。

 

 イージスは構わずに、距離を離した俺に向けて、サイドスカートのビーム砲を連射してくる。

 元がイージスなんだし、そんなビームバカスカ撃ちまくってならすぐエネルギー切れになるぞ。

 

 とはいえこの弾幕はバカにならんな、一旦距離を取って、と。

 

『バカが!』

 

 バカにバカって言われた!?訴訟だって辞さないぞ!?

 するとイージスの胸部が開き、その内側から正四角形状の砲門――高エネルギー砲の『スキュラ』だ。

 

『堕ちろォ!』

 

 蒼白紅のトリコロールカラーの熱プラズマが、一直線に放たれる。

 瞬間、俺はビームライフルを投げ捨てつつウェポンセレクターからビームサーベルを選択、ビーム刃を発振させると同時に振るい――スキュラの熱プラズマを真っ二つに斬り裂く。

 

『ハァ!?スキュラを正面から、サーベルで!?』

 

「こっちは"経験"が違うんだよ」

 

 理論上、ビームサーベルでビームは弾き返せるんだ。ちょっとでも受ける角度ズレたら一発アウトだけど。

 そして、イージスはスキュラの発射の反動で動けないのは織り込み済みだ。

 操縦桿を押し出して一気にオリジネイトを加速させ――

 

『ふ、ふ、ふざ、ふざけんな、この……!』

 

「俺の、勝ちだ」

 

 スキュラの砲門にビームサーベルを突き込み、すぐに飛び下がる。

 一拍を置いて、スキュラの砲門が誘爆、コクピットにまで及ぶ。

 

『クソがぁぁぁぁぁ!?』

 

 イージスガンダム、撃破。

 

『Battle ended!!』

 

 

 

 

 

 や っ た ぜ 

 

 初ガンプラバトルデビューがいきなり実戦だったけど、なんとか勝てたぜ。イェーイピースピース。

 

「よっしゃー!さっすがリョーだぜ!」

 

「良かった……!」

 

 イツキの喜ぶ声と、マユちゃんの安堵の声が聞こえる。

 その反対側では、サイキ先輩がクズ先輩に詰め寄っている。

 

「さて、ウマノ。約束はきっちり守ってもらおうか。タツナミとアサナギには自分から話しかけない、必要以上に近づかない。もし破ったら、学生会にも警察にもお前のことを細大漏らさず話してやっから、その時には……停学だけで済めばいいな?」

 

「ぐぐっ……クソッ!」

 

 一応納得はしたのか、クズ先輩はガンプラを回収すると、逃げるように部室から出て行った。ざまぁ。

 サイキ先輩は安心したように溜息をつくと、俺に向き直ってきた。

 

「これであいつも大人しくなるだろ。オウサカ、ガンプラバトル部の部長として、礼を言わせてくれ」

 

「いえいえ、お役に立てたなら何よりです」

 

 大人しくするだけじゃなくて、出来れば退部、最上なら退学してもらえると嬉しいんだがね。

 正直あんなのいらない子だし、マユちゃんやイツキにも迷惑かけてたんならまずはそこから謝罪しろやとか言いたいことは色々あるけど、とりあえずは放置でえぇやろ。

 

「それより、今日は仮入部ってことで……入部届は明日でもいいですか?」

 

「おぅ、いつでもいいぞ。顧問の先生には、俺から言っとくからな」

 

「ありがとうございます」

 

 そんな感じにサイキ先輩との事務的なお話を終えると。

 

「オウサカくん、さっきのガンプラ、見せてくれる?」

 

「あたしにも見せろー!」

 

 マユちゃんとイツキが、オリジネイトガンダムが見たいらしいので、見せてあげる。

 

 やれやれ、初日からドタバタ続きだったけど、最後の異世界転生は無事にスタートラインを切れたようだな――。




 今回登場のガンプラ『オリジネイトガンダム』の設定や画像はこちらになります。(ガンスタグラムへのURLです)

 https://gumpla.jp/hg/1617240


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2話 ホワイト・ヴァルキュリア

 創響学園 学生会室。

 

 広々とした部屋に、見苦しくない程度の調度品が飾られたその空間の、マボガニーのデスクの椅子に腰掛ける女子生徒――学生会長は、役員の生徒の報告を聞いて、疑問に目を細めた。

 

「あの馬鹿(バカ)……ウマノが、転入生にガンプラバトルで敗れた?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 凛とした佇まいに、琴を奏でたような声に、役員の生徒は声を上擦らせながら答える。

 

「はい。ガンプラバトル部部長のサイキ先輩が、審判として立ち会っていたことから、間違いありません」

 

 同じくその報告を横から聞いていた副会長――こちらも女子生徒は、愉快そうに微笑する。

 

「学生会の方からそろそろお咎めの一つでも……と思っていたけれど、ちょうどいいタイミングでお灸を据えられたようね」

 

「転入生……というと。確か二年の、オウサカ・リョウマという男子だったか」

 

 学生会長は転入生の学年と名前を確かめる。

 最近に追記された学生名簿に、『桜坂 遼馬(オウサカ・リョウマ)』というフルネームが記載されているのを目に通す。

 

「堕ちるところまで堕ちたとは言え、まさかこの学園でウマノに勝てるビルダーが他にいたとはな」

 

「気になっちゃう?」

 

 副会長が横から名簿を覗いてくる。

 

「気になる、か……そうだな」

 

「あらあら、アマネにもついに春が来たのかしら?」

 

「茶化すなトモエ」

 

 学生会長は名簿を閉じると、報告に来た役員の生徒に向き直る。

 

「それで、他には?」

 

「はい。負けた条件として、二年のアサナギ・マユさん、タツナミ・イツキさんの両名には、自分から話しかけない、必要以上に近付かない。とのことです」

 

 この結果に、副会長は当然とでも言うように苦笑する。

 

「ウマノくんはガンプラバトルで幅を利かせていた面もあるから、ぽっと出の転入生に負けたとなれば、鼻っ柱も真っ二つにされて、随分肩身の狭い思いをすることになるでしょうね。まぁ自業自得だけど」

 

「だが、おかげでイエローカードを切る手間が省けた。その意味では、このオウサカ・リョウマには感謝すべきだな」

 

 それに、と学生会長の視線がガラス張りの戸棚に向けられる。

 

「……久々に、面白いガンプラバトルが出来そうだ」

 

 その中に、美しいホワイトグレーのガンプラが静かに鎮座していた――。

 

 

 

 

 

 馬の骨(ウマノ・ホネオ)先輩に勝ち、マユちゃんの貞操の危機を守ってみせた俺、つまりオウサカ・リョウマ。

 仮入部から正式に入部届を提出して、晴れてガンプラバトル部の仲間入りだ。

 

 現在、ガンプラバトル部に所属しているのは、俺とマユちゃん、イツキ、ケイスケ先輩(彼とは下の名前で呼び合うことにした)の実質四人だけ。(馬の骨は今のところノーカン)

 

 実際のところは、今年の新一年生が何人か入部していたのだが、例によって例のごとく馬の骨が先輩風を吹かし、それに嫌気が差してやめていったらしい。

 あの馬の骨ホント余計なことしかしてねぇな!?

 

 いもしない人間のことを悪く言っても詮無きことだ。

 

 で、当面の問題は何かと言えば、

 

「多分、ウマノの奴は遠からず退部するだろうな」

 

 俺が正式にガンプラバトル部に入部したその日の放課後、ケイスケ先輩はそう言った。

 その懸念の意味に最初に気付いたのはマユちゃんだ。

 

「待ってくださいサイキ先輩。ウマノ先輩が退部したら、わたし達は……」

 

「そうだ。この場にいる四人だけになる。つまり、今まで少なくとも結果を残していたウマノの活躍も見込めなくなる。このままじゃ、本当に同好会になるってわけだ」

 

 ケイスケ先輩は事実を淡々と告げる。

 

「えぇっ、ヤバくないですかそれ!」

 

 事の重大さに気付いたイツキが声を上げる。

 

「せっかくリョーが入ってくれたのに、これじゃリョーがガンプラバトル部を潰したみたいに……!」

 

 そうなんだよなぁ。

 

 結果を残していた馬の骨を追い立てたのは俺だ。

 馬の骨の今後の活躍を期待されていたから、ガンプラバトル部は今までギリギリのラインで"お目溢し"をしてもらっていたのだ。

 それを俺が台無しにした今、ガンプラバトル部は何の結果も期待出来ない、学園からすればただの金食い虫なわけだ。

 

「あぁ、確かにヤバい。だが、まだ廃部が決まったわけじゃない」

 

 そこでケイスケ先輩は、机の引き出しから一枚のチラシを取り出した。

 

「地区大会。全国大会に比べれば小規模だけど、トロフィーのひとつでも持ち帰れれば、『ウマノ・ホネオがいなくても俺達はやれる』って言い訳も出来る」

 

 なるほど、何でもいいからとりあえず目に見える戦果を挙げろってね。

 それで地区大会の開催はいつ……一週間後か。

 

 ……ん?おい、これまさか?

 

「ケイスケ先輩。これ、バトル形式が『5on5』ってなってますけど。ウマノ先輩が退部する前提だとしたら、出場出来ませんよね?」

 

「そう、そこが一番の問題だ……」

 

 フー、とケイスケ先輩は大きな、幸せが逃げそうなくらい溜息をついた。

 

「地区大会まであと十日。数合わせでもなんでもいいから後一人部員を見つけて、その上で地区大会に優勝出来るくらいにまで強くなる。そうじゃなきゃ創響学園ガンプラバトル部はもれなく廃部だ」

 

「「「!!」」」

 

 俺、マユちゃん、イツキの三人に戦慄が走る。

 

 ――最後の異世界転生生活は、早くも波乱に呑まれつつあった。

 

 

 

 

 

 部員を後一人どうするって言われてもな。

 俺は昨日に転校してきたばっかりで、友達らしいのはここの部員三人だけである。

 やめていった一年生らももう違う部に入っているだろうし、今からどこかに入部しようなんて志そうとしている人など、そうそういるもんじゃない。

 さて、どうするかね。

 

 ……馬の骨を拉致って、徹底的に"調教"して俺の言うこと以外聞けなくしてやってもいいかもなぁ。

 

 っと、それは無し寄りの無し無し。そういうのが罷り通るのは異世界だけだ。

 

『あれ?オウサカくーん、どうしたのー?』

 

『おーいリョー、早く来いよー!』

 

 おっと、オープン回線でマユちゃんとイツキが呼んでいる。

 とりあえず今は、バトルだな。

 

「あぁ、悪い悪い。オウサカ・リョウマ、オリジネイトガンダム、行きます!」

 

 オリジネイトがゲートから飛び立つ。

 

 今回のフィールドは、『ビクトリア基地』

 A.C.(アフターコロニー)の戦場になった場所のひとつだ。

 

 コントローラーの調整はちゃんと終えてるからな、もう慌てて戦闘中に書き換えるなんてことはしなくてもいい。

 

 ビクトリア基地のアスファルトに着地すると、兵士の宿舎の方から飛び出してくる機影が二つ。

 

 一つはトリコロールカラーの、どこか女性的なフォルムを持つガンダム、『ガンダムエアリアル』。

 

 もう一つは同じくトリコロールカラーだが、古代中国の戦士を思わせる外観に、右腕には龍の頭に似た武装を備えたガンダム、『シェンロンガンダム』だ。

 

 見たところ、エアリアルがマユちゃんで、シェンロンがイツキってところかな。

 

『マユ、援護頼むぜ!』

 

 開幕、背部からビームの長刀『ビームグレイブ』を抜き放ち、ブンブン振り回しながら迫るシェンロン。

 

『当たらなくても牽制になれば……!』

 

 その後ろから、エアリアルがビームライフルで牽制射撃を行ってくる。

 

 ……そう、俺は今、マユちゃんとイツキの二人を同時に相手取っているのだ。

 俺、まだバトル通算二回目なんですけど!?

 初心者一人相手に経験者二人とかキツくないですかね!?

 

 なんて泣き言は表に出さずに、エアリアルからのビーム射撃を躱しつつ、ウェポンセレクターから60mmバルカンを選択し、オリジネイトの頭部のこめかみ辺りから銃弾を速射、シェンロンを牽制する。

 

『そんなん当たるか!』

 

 イツキのシェンロンはヒョイヒョイと飛び回ってバルカンの銃弾を躱しつつさらに接近してくる。

 うむ、さすがはガンダム05、素早いな。

 

 過去の異世界転生で、OZ(オズ)の一兵士としてリーオーで戦って、ビームサーベルで一撃喰らわせたことはあるけど、これっぽっちも効いてなくて、次の瞬間には右腕の龍頭――ドラゴンハングで頭部を『ブッピガン!』されて瞬殺だったからなぁ。

 いや、ガンダニュウム合金の強度とか頭おかしいわ。

 だって、ドーバーガンを何発も直撃させてようやく小破するかどうかってレベルなんだもん、レッド1(ヒイロ・ユイ)はどうやってリーオーのビームサーベルでビルゴをバッサバッサ倒してたんだか。

 まぁ、トーラスのビームライフル一丁だけでガンダニュウム並みに堅いネオ・チタニュウムで出来たサーペントを何十機も無力化してたプリベンター・ファイヤー(ルクレツィア・ノイン)はそれ以上に頭おかしい人だったけど。

 あの世界じゃ俺は名もなきモブ兵士の一人だったから、ガンダムには勝てなかったよ。

 

 ……とまぁ、思い出語りはこの辺にしてと。

 

 俺もオリジネイトの左マニピュレーターにビームサーベルを抜き放って、シェンロンのビームグレイブと打ち合う。

 

『とりゃりゃりゃりゃりゃー!』

 

 振り下ろし、目にも止まらぬ二連突き、大きく踏み込みながら薙ぎ払い。

 うーん、さすがに真っ向からの格闘戦はシェンロンの方に分があるか。

 機体性能だけではない、イツキの思い切りの良い連撃も侮れないな、彼女には白兵戦のセンスがあるのかもしれない。

 

 ビームグレイブの一撃をビームサーベルで受け、弾き返して、即座にシェンロンの腹部を蹴り飛ばす。

 その横合いからマユちゃんのエアリアルがビームライフルを撃ち込んで来たので、素早くオリジネイトを回避させて、エアリアルへ接近する。

 

『ガンビット!』

 

 すると、エアリアルのシールド『エスカッシャン』がプラットフォームから個々に分離すると、それぞれが意志を持ったかのように動き出し、縦横無尽にビームを放ってくる。

 たかがビットだけど、これがバカにならない。

 想像してみてくれよ、(七割まで出力を落とした)ビーム一発一発がディランザの重装甲を簡単に細切れにするくらい強いんだぞ?

 

 ――そう言えばA.S.の世界に異世界転生した時も、エアリアルの"中"には本当に意志が宿ってるとか、プロペラ仮面(プロスペラ・マーキュリー)から聞いた覚えがあったなぁ。

 ペイル社のゴルネリ四姉妹(で、合ってたっけ?)をハメて、"廃棄処分"寸前だった強化人士四号(エラン・ケレスの替え玉)を拉致った時も、「同じ顔の十一人の赤毛の幼女が笑いながら飛び回っていた」とかってとんでもないホラーを聞かされたし……

 

 今度、アニメの『水星の魔女』を観て勉強し直しておこう。俺が生きてきた異世界と、アニメとでは大きく異なる点もあるだろうし。

 

 そうそう、このビットステイヴが放つビームの雨を、デミトレーナーで避けるのは本当にムリゲーだった。

 

 しかも、遠近からビットステイヴがビームを撃ち込んでくる合間にもエアリアル本体のビームライフルも虎視眈々と狙ってきている。

 

 イツキとは逆、マユちゃんは射撃のセンスがある。

 ビームライフルじゃなくて、スナイパーライフルのような長射程の武装を使った方が強いかもな。

 

 四方八方からのビームを掻い潜りーの、隙が見えたら一気に加速して肉迫!

 

 エアリアルもビームライフルのバレルからビームブレイドを発振させて応戦してくる。

 打ち付け合うピンクと青のサーベル。

 長々と鍔迫り合いしてたらビットステイヴやシェンロンが後ろから来るので、エアリアルのビームブレイドを弾き返し、ショルダータックルで吹き飛ばす。

 

『喰らえ!』

 

 すると背後から迫ってきていたイツキのシェンロンが、ドラゴンハングを伸ばしてきている。

 

 なので、俺は敢えてオリジネイトをシェンロンに向かって前進させ――寸前で機体を屈ませて、ドラゴンハングの真下を潜り抜ける。

 

『んなっ!?』

 

 ドラゴンハングは確かに脅威だ。まともに咬み付かれたら、オリジネイトの装甲なんぞ簡単に粉砕、もしくはゼロ距離の火炎放射で一瞬で焼き払われるだろう。

 だが、ドラゴンハングの伸ばされた"首"は無防備だ。

 懐に潜り込んでしまえば、ビームグレイブもそのリーチの長さが却って仇になる。

 

「そこは、バルカンも織り交ぜて牽制しておくべきだぞ、イツキ」

 

 がら空きのシェンロンの脇腹へ、ビームライフルのゼロ距離射撃。

 バイタルパートへの直撃に、撃墜判定を受けたシェンロンは崩れ落ちる。

 

『あーくそっ、ごめんマユ!』

 

 シェンロンガンダム、撃破。

 

『ガンビットが通じないなら……ビットオンフォーム!』

 

 すると、ビットステイヴの群れが今度はエアリアル本体とビームライフルのバレルに接続される。

 

 ――あの形態になると、火力と機動力が上がる。

 

 とは言っても、出力はダリルバルデには及ばないし、機動性や飛行力もファラクトの方が上、総合力で見てもようやくミカエリスを少し上回るくらいか?

 エアリアルって革新的ではあるけど、あくまでも既存技術の延長線に過ぎないし、どうしても器用貧乏感が否めないんだよなぁ……

 

 スピードアップしたエアリアルが、ビットステイヴの接続によって高出力化したビームライフルを連射してくるものの、慌てずにオリジネイトに回避運動をさせる。

 

 正確な射撃だな、それ故に避けやすい。ってどこぞの青い巨星も言っていた通りだ。

 

 マユちゃんの射撃は正確なんだけど正直過ぎるんだよな。

 

 連射されるビームを最低限のモーションで躱しつつ、一息にエアリアルに再接近。

 ビットオンフォーム時のビームライフルは、ビームブレイドを使うことが出来ないのは知っている。

 

『っ!』

 

 エアリアルは慌てて左マニピュレーターにバックパックのビームサーベルへ伸ばそうとするが、そこでそれは悪手だ。

 背中へ手を伸ばす瞬間、懐がガラ空きになってしまう。

 そこを文字通りビームサーベルで突く。

 

 バイタルパートを貫かれ、エアリアルは小爆発と共に崩れ落ちた。

 

 ガンダムエアリアル、撃破。

 

『Battle ended!!』

 

 

 

 リザルト画面を見流しつつ、オリジネイトをスキャナーから回収していると、

 

「おぅ、お疲れさん。やっぱリョウマ一人でも余裕だったな」

 

 観戦していたケイスケ先輩がそう声を掛けてきた。

 彼の手元には、『ジム・キャノンII』のパーツの他、バズーカなども見える辺り、地区大会に向けた砲撃戦仕様の機体を作ってるらしい。

 

「で、お前から見ても、二人はどうよ?」

 

「そうですね……イツキは接近戦に強く、アサナギさんは逆に射撃戦に強い。この二人が互いの役割をより理解して、連携を密にして来られたら、厳しかったかもしれません」

 

 俺なりの忌憚のない意見だ。

 あの二人が単体ずつなら、(今のところ)あの馬の骨に劣っているかもしれないが、逆に自身の得意な土俵に引き摺り込めれば、勝てる可能性が高まるというわけだ。

 

「なるほどな。聞いたか二人とも、リョウマのお眼鏡にかなったぞ」

 

 ふとケイスケ先輩は、俺の向かい側で悔しがったり落ち込んでいたりする二人に呼び掛ける。

 

「とりあえずはリョーに認めてもらえたってとこか……でも、こんくらいであたしは諦めねーぞ。地区大会までに絶対一回はリョーに勝ってやるからな」

 

 ふんすふんすとやる気を見せるイツキ。

 

「わたしはまだちょっと自信無いけど……イツキが頑張るなら、わたしもっ」

 

 少し弱気ながらも、マユちゃんもやる気を見せている。

 やる気があるのはいいことだ。

 

 

 

 それから、下校時間が近くなるまでは何度かバトルを行ったところで、今日の活動はここまでだ。

 最後に、ケイスケ先輩の言葉で締め括りだ。

 

「地区大会に出場するには、最低でも後一人部員を確保しなきゃならねぇ。俺の方でもアテはあるから、ダメ元で頼んでみるけど、期待はすんなよ?各人で、積極的に部員確保に動いてくれ。以上、解散!」

 

「「「お疲れ様でしたー!」」」

 

 各々の荷物を担いで、部室を出る。

 

「マユー、帰りに"ダヤマ電機"寄らねー?あたし、買いたいもんあるんだけど」

 

「いいよイツキ。オウサカくんは?」

 

 イツキがマユちゃんを、ダヤマ電機なる場所――家電製品店か?――に行こうぜと誘っていると、マユちゃんからも誘ってきた。

 

「あぁ、いいよ」

 

 この町の地理に関してはまだ詳しくないからな、二人に同行するついでに、ダヤマ電機周辺の町並みを覚えておこう。

 

「寄り道すんなとは言わねぇけど、なるべく早く帰るんだぞー?」

 

 ケイスケ先輩はジム・キャノンⅡのパーツを持ち帰っている辺り、自宅に帰ってからも手を付けるようだ。

 

 ふーむ、俺もオリジネイトに何か手を加えるべきかな?

 

 イツキがダヤマ電機とやらに何の買い物をしに行くかは分からないが、そのついでにホビーのコーナーにも寄らせてもらおう。というか、二人ともそこが目当てかもしれないな。

 

 校門前でケイスケ先輩と別れて、俺、マユちゃん、イツキの三人はそのまま繁華街の方へ向かう。

 

 

 

 ケータイのコーナーや、美容に関連したコーナーを一通り見て回ったところで、ホビーのガンプラ売り場へ。どうやらイツキの来店目的は、最初からここだったらしい。

 

「イツキは何を買うの?」

 

「んー、改造のパーツとか色々。今日、リョーとバトルしててさ、これじゃ絶対勝てねーじゃん、って思って、さっきから色々改造案が浮かんでるんだよ。で、実物を見てどうしよっかなーって」

 

 ほうほう、イツキは既に改造のプランがいくつか浮かんでいると。

 

「マユはエアリアルをどうするかとか、考えてんの?」

 

「うーん……同じGUND-ARMのファラクトとかシュバルゼッテとかをミキシングして、強化出来ないかなって考えてはいるんだけど……」

 

 ふむふむ、マユちゃんは同じ系列のキットとミキシング……Mixing?あぁ、混ぜ合わせて作るってことか。

 

 しかし、こうして見るとガンプラってものすごい種類があるのな。

 

 ――ん?なんかこう、品揃えがどうのこうのって不満が無かったっけ……これも存在しない記憶か?

 

 まぁいいか、誰かの身体に憑依するタイプの異世界転移だとよくあることだ、気にしないでおこう。

 

 それよりも、オリジネイトをどう改造するか……いや、さらにそれよりもだな。

 

 "俺"、実はプラモデルを作ったことが無いのである。

 

 当然と言えば当然なのだが、剣と魔法のハイファンタジー世界にはプラスチックモデルなんてものはない。木製や紙製の船や城の模型なら存在するけど、あれはそもそも『組み立てて楽しむもの』でない、完成品の状態で売られているものが大半だ。

 ガンダム世界に転生した時も、基本的に戦ってばっかりだったから、プラモデルなんて触る暇もない。

 

「俺はどうするかな……」

 

 ぼんやりそう呟きつつ、とりあえずHGのコーナーを見て回る。

 ぶっちゃけるとあのオリジネイト、元々の完成度が素人目に見ても高いから、下手に手を加えると却って性能が下がる可能性も否めない。

 

 まずは俺自身がガンプラ作りを上手くならなければならないってことだな。

 

 よし、この『ジム』を買おう。安いし作りやすそうだし。

 それにしてもRGM-79か、懐かしいなぁ……

 

 ――こいつでジオン脅威のMAどもをバッサバッサと薙ぎ払った、あの地獄の一年戦争が、まるで遥か昔のことのようだ。……実際、俺の中では1000年以上の時が経っているんだけど。

 

「オウサカくんは……ジム?」

 

 ジムのパッケージを手にしていた俺の様子を、マユちゃんが横合いから覗いてくる。

 

「オリジネイトは出来るだけ今の状態を維持しておきたいから、このジムをテストベッドにして改造してみるよ」

 

 下手にオリジネイトを改造しようとして、いざ地区大会の日がやって来たらバラバラになってました、では話にならないので、どういった改造プランとするかの組み立てを、ジムで行うのだ。

 

 つまり俺の中では、最初からこのジムは捨て石にして、地区大会は今のオリジネイトで勝ち抜こうと思っている。

 首尾よくオリジネイトを改造可能な状況が作れれば、それも行うつもりではあるが。

 

「そうなんだ。ジムは簡単なキットだから、参考になるよね」

 

 マユちゃんはニコニコしてて楽しそうだ。

 

 イツキが買うものを決めたところで、俺もそれに着いていってお会計を済ませる。

 

 

 

 ダヤマ電機を出る頃には、辺りはもうけっこう暗い。時刻は19時くらいだろうか。

 三人並んで歩き、途中でマユちゃんと別れる。

 

「それじゃぁまた明日ね、イツキ、オウサカくん」

 

「うん、また明日」

 

「じゃーなー、マユ」

 

 マユちゃんと別れた後は、イツキとふたりで帰る。

 

 小学四年の頃までは同じ学校に通っていたから当然と言えば当然か、イツキとはお互いに自宅が近いのだ。

 

「うーん、部員を後一人なぁ……」

 

 イツキが難しそうな顔をして悩んでいる。

 

「イツキの友達から誘えそうな人はいないのか?」

 

 数日同じクラスメートとして過ごして分かったが、少し異性に対して苦手意識のあるマユちゃんとは反対に、イツキは気さくで男勝りな性格で、男女別け隔てなく接し、おまけに顔やスタイルもいいため、男子の友達も多いが、それよりも女子から好かれる。

 暇してそうな奴が一人か二人くらいいそうなものだが、

 

「いやー、あたしが誘えそうな友達はみんな部活やってるし。リョーは……転入してきたばっかりだもんなぁ」

 

 そう。俺はまだイツキとマユちゃんくらいしか友達らしい友達がいない。

 イツキですら誘えそうな人がいないとなると、ケイスケ先輩のアテを頼りにするしかないかもしれない。

 

「そうか……」

 

「あーぁ、その辺にリョーくらいガンプラバトルが強くて性格もいい奴、転がってないかなー」

 

 人を石ころみたいに言うな。ほんとにいたらびっくりするわ。

 うだうだとしょーもないことを話しつつも、そろそろイツキの家が近くなってきた。

 

「んじゃ、また明日なーリョー」

 

「じゃぁな、イツキ」

 

 互いに手を振り合って、俺も自宅への帰路を取る。

 今日の晩飯は何作ろっかなー。

 

 

 

 

 

 たかが後一人、されど後一人。

 いざこうなると、なかなか見つからないものである。

 

 俺も、とりあえず自分のクラスメート達に挨拶代わりに片っ端から声を掛けてみたが、大抵はもう既に他の部に入っているか、家庭の事情やアルバイトに忙しかったり、そもそもガンプラに興味が無いと言う人ばかりだ。

 

 今日のところは、何の成果も挙げられませんでした!ということですごすごとガンプラバトル部の活動に勤しむとしよう。

 

 イツキとマユちゃんは昨日にダヤマ電機で購入したものを使って、改造パーツの作成やらなんやらしてるし、ケイスケ先輩もジム・キャノンⅡの改造に忙しいようだし……俺はどうしようかな?

 

 昨日に買ったジムは昨夜にとりあえず作ってみてそのまま部屋のデスクの上に転がってるし、ソロプレイでもして練習しよう。

 

 というわけで、筐体を立ち上げてミッションモードを選択しようとしたところで、コンコンと部室のドアがノックされる。

 

「はいよ、どなたですかいっと……」

 

 あーらよっと、と席から立ってケイスケ先輩がドアを開けると。

 

「失礼する」

 

「お忙しいところにごめんなさいね、サイキくん」

 

 二人組の女子生徒が入って来た。

 片方は黒髪ロングが素晴らしい美人さんと、もう片方も赤茶髪のセミロングを揺らした美人さん。

 

 ……この学園の美少女偏差値高過ぎませんか?女優目指してる人がこの学園に来たらあまりのレベルの違いに涙流して絶望しそう。

 

「ん?ゴジョウイン会長に、シノミヤ副会長じゃないか。……まさか、ウマノの奴がまたなんかやらかしたか?」

 

 ふむふむ、この美人双璧は学生会長と副会長か。

 馬の骨がなんかやらかしたから、そのお咎め……いや、まさかいきなり廃部の決定を言い渡しに来たとか?

 

「いえいえ、そうではないのよ。本来なら、そのウマノくんにそろそろお咎めのひとつでも……と思っていたのだけど、そこの彼のおかげで必要無くなっちゃったから」

 

 シノミヤ副会長が、「そこの彼」と言って俺に視線を向けてきたので、手を止めて話に混ざるとしよう。

 

「俺のことですか?」

 

「そうそう、あなたとは初対面だったわね。私は『シノミヤ・トモエ』。この学園の学生会の副会長をさせていただいているわ」

 

「最近に転入してきました、二年のオウサカ・リョウマです。まぁ確かにあの馬のほn……ウマノ先輩にはガンプラバトルには勝ちましたが」

 

 すると、ゴジョウイン会長の方も俺に視線を向けた。

 

「やはり本当だったか。君が、あのウマノをいとも容易く倒したというのは」

 

 あの、って言う辺りあの馬の骨、やっぱりそこそこ有名だったんだろうか。全然そんな人には見えないし見えなかったし見ようとも思わないけど。

 

「いいだろう。オウサカ・リョウマ、君にガンプラバトルを申し込む」

 

「へ?」

 

 えっ、何この急展開。

 というかこのゴジョウイン会長、ガンプラバトルしてる人なの?

 

「実はね、オウサカくんがウマノくんを打ち負かしたって聞いてからというもの、アマネは興味津々なのよ」

 

「は、はぁ……」

 

 なんであの馬の骨を倒しただけで、この美人会長に目を付けられるんですかね、やっぱりこの世界ご都合主義過ぎんだろ!?

 俺が困惑してる間にも、ゴジョウイン会長はしれっと筐体を立ち上げてセッティングしてらっしゃる。

 

「それで、俺にはこれから『ゴジョウイン・アマネ』会長とバトルをしてほしいと」

 

「そうなの。美人のお姉さんのお願いだと思って、ね♪」

 

 茶目っ気たっぷりにウインクしてくれるシノミヤ副会長。

 普通の男子ならコロッとオチたかもしれないが、しかし俺は騙されないぞ。

 

「えーっと……俺が負けたら退学になるとか、これはそういうアレですか?」

 

「……いや、さすがにそんな世紀末なことはしないわよ?ペナルティとかは無いから、アマネのわがままに付き合ってあげて、ってこと」

 

「あ、良かった。ならいいですよ」

 

 ペナルティ無しなら安いもんだよ、負けたら死ぬとか異世界では普通にあるから。

 

「ふふっ、ありがとう。あと、ひとつ言っておくと……アマネは、『白の戦乙女(ホワイト・ヴァルキュリア)』って異名があってね。ウマノくんとは比べものにならないくらい強いから、頑張ってね」

 

「トモエ、余計なことを言うな」

 

 ぴしゃりとゴジョウイン会長からのお言葉。

 うん、そんな感じはしてたよ。なんかもう、気配というかプレッシャーが馬の骨と比較できんレベル――戦場のど真ん中で、エースパイロットの乗った高性能機と遭遇した時のソレに近い。

 

 つまりこのゴジョウイン会長、ガンプラバトルに限ってかもしれないが、"本物のエース"だ。……生まれた時代が時代なら、若くして佐官クラスになった超エリート士官だったかもしれないと思うくらいには。

 

 俺の尻目で、マユちゃんとイツキがなんかあわあわしてるけど、気にすることも無いだろう。

 

 ただひとつ言いたいことがあるとすれば――俺、まだガンプラバトルをするのこれで三回目なんですけどー!?

 実戦二回目で、マザコンシスコンロリコン変態仮面(シャア・アズナブル)の相手をすることになる鬼畜チート天パよりはマシかもしれんけど。

 

 

 

 ランダムフィールドセレクトは、『サイド6外宙域』

 

 ここは確か……コンスコンがリック・ドム12機を引っ提げてきたけど、『あまりにも相手が悪過ぎた』戦場だな。

 南極条約やら何やらに色々と抵触するという前提を抜きにして言えば、ここでホワイトベース隊を壊滅させるには千載一遇の好機だったのだ。

 

 ただ、『あまりにも相手が悪過ぎた』の一言に尽きる。

 

 戦闘単位やキルレシオをMS換算で考えれば、『単騎でMS九機を一方的に撃墜する』など"本来なら"有り得ないことだし、自軍戦力の逐次投入という戦術における愚を犯さず、手数の多さによる短期決戦を即断即決した点においては、コンスコンはむしろ有能だろう。

 

 本当にしつこく言うが、『あまりにも相手が悪過ぎた』としか言いようがない。

 

 それはさておき……宇宙でのバトルか。

 下方向へのベクトルを気にしないでいいぶん、宇宙の方が楽といえば楽なんだよなぁ。

 

 ローディングとコンディションのオールグリーンを確認してから、音声入力。

 

「オウサカ・リョウマ、オリジネイトガンダム、行きます!」

 

 ゲートから勢いよく発進!

 

 

 

 背景にコロニーやホワイトベース、チベなんかも見える辺り、なかなか凝ったホログラムだな。

 っと、索敵索敵……シンプルな宇宙ステージっぽいから、障害物とかは無いはず。

 

 すると、2時方向に感あり。

 

 遥か彼方から、宇宙を切り裂くかのような白い機影が見えた。

 

 あれは……『スタイン01(シナンジュ・スタイン)』か?

 いや、それにしてやけに生物的な外観だし、スラスターの光も蒼炎のそれじゃなくて、紫色をした昆虫の翅のようで……

 

 えーっと、ザンスカールのMSだったっけ?あー、マニピュレーターの形状が左右対称だから違うな。

 

 モニターが捉えた機体名は――『ゼイドラ・スタイン』

 

 ゼイドラ……あぁ思い出した!A.G.(アドバンスド・ジェネレーション)のヴェイガンのMSだ!

 あの世界への異世界転生は一度しか無かったから、すっかり忘れとったわ。

 

『君のその実力、私に見せてみろ』

 

 不意にオープン回線にて、ゴジョウイン会長の試すような声が届く。

 まだガンプラバトルにおける宇宙戦闘には慣れてないからさぁ、

 

「お手柔らかにお願いしますよ、ゴジョウイン会長」

 

『行くぞ』

 

 ……聞いてないですねちくしょう。

 

 とかなんとか言ってる内にも、ゼイドラ・スタインは右腕に保持したビームライフル――『ゼイドライフル』を連射してくる。

 慌てずに回避……三発に一発くらいの割合で予測射撃で回避先にビームを"置く"のやめてくれませんかね!?今装甲の先っちょ部分掠めたんだが!

 

「くっ……!」

 

 こっちも頭部バルカンとビームライフルを伴射して反撃するけど、ゼイドラ・スタインの機動性も高いわ、ゴジョウイン会長の反応速度も早いわでまるで当たらねぇ。

 

 予測射撃する先すら読んで回避取ってるなこの人……「戦いとは常に二手三手先を考えて行うものだ」ってどこぞのマザコンシスコンロリコン変態仮面も言ってた通りのことを実践してるってのか。

 

 戦場なんて水物、二手三手先を考えることは出来ても、0.5秒後には誰か死んだか、それとも自分が死んでるか分からないものだぞ。

 

 60mmの銃弾とメガ粒子を掻い潜って、ゼイドラ・スタインが左腕に尾部の実体剣――『ゼイドラソード』を抜いて一気に迫ってくるのを目視、即座にウェポンセレクターからビームサーベルを選択し、向こうと同じく左マニピュレーターにビームサーベルを抜き放ち様に、ゼイドラソードに打ち込む。

 

 一撃、二撃と弾き返し合い――ここで後手に回らず反撃に出る!

 

 すかさずビームライフルをガンマンの早撃ちのごとく構え撃つが、ゼイドラ・スタインはその場で上昇して回避、同時に胸部のクリアグリーンのパーツが輝きを増す。

 

 確かあれってメガ粒子砲、っていうかビームバスターってジェネレーター直結型の内蔵火器だったはず……急速回避。

 

 0.5秒の瞬間、オリジネイトがいた空間を、ビームバスターの激しい閃光が通過していった。

 

 あんなもんシールドで受けたりしたら、そのまま貫通されて一発アウトだ。

 

『やるな』

 

「ゴジョウイン会長こそ……」

 

 言葉を交わしている内にも、ゼイドラ・スタインはゼイドライフルをリアスカート部に納めて、空いた右マニピュレーターの掌部のビームバルカンの銃口からビームサーベルを発振させて斬り掛かってくる。

 そうそう、ヴェイガン系の機体って、掌にビームバルカン兼ビームサーベルを装備してるんだったよな。

 

 ゼイドラソードとビームサーベルの二刀流には、こっちもビームサーベルを両手に持っての二刀流で対抗する。

 

 一撃、二撃、三撃、四撃、五撃と斬り結びながらも、ヒットアンドアウェイとそれに対する肉迫が繰り出される。

 

 やはり、強い……!

 

 

 

 

 

 リョウマのオリジネイトガンダムと、アマネのゼイドラ・スタインが、サイド6の宇宙(そら)に激しく交錯する。

 

「オウサカくん、あのゴジョウイン会長と互角に渡り合ってる……!」

 

 マユは感嘆を口にする。

白の戦乙女(ホワイト・ヴァルキュリア)』と言えば、全国大会の個人戦の部でベスト8を飾るほどの猛者だ。

 

「やっぱリョーはすげーぜ!」

 

 イツキも、アマネがガンプラバトルにおける一角の人物であることは知っている。

 それほどの実力を持つアマネに、喰らいついているリョウマの実力もまたそれに比例していると言っていいだろう。

 

 二年生二人がリョウマの実力を称えている一方で、ケイスケとトモエの三年生二人はというと。

 

「サイキくんから見て、このバトルはどう見えるかしら?」

 

 ふと、トモエがケイスケの意見を募る。

 

「そうだな……確かに互角だけど、リョウマの防戦状態が長く続いている。攻めに転じようにも、ゴジョウイン会長の攻撃が激しい。今はリョウマも対応出来てっけど、……長くは、保たねぇかもな」

 

 ケイスケの言う通り、ゼイドラ・スタインの攻撃に対して、オリジネイトガンダムが後出しで対応している、という状態が続いているが、オリジネイトガンダムの損傷が僅かながら重なりつつある。

 

「この膠着状態が続くようなら、いずれジリ貧でリョウマが負ける」

 

 彼の見立て通りの結果となるか、あるいは。

 

 

 

 

 

 ゼイドラ・スタインの右マニピュレーターからビームバルカンが連射される。

 こう迎撃されると直進は出来ず、迂回してビームバルカンのビーム弾を躱しながら接近せざるを得ないが、迂回している内にゼイドラ・スタインが逆サイドから回り込んでゼイドラソードで斬り掛かってくる。

 

 ってか……マジで洒落にならんレベルで強いぞこの人!?

 

 こっちが接近したいタイミングで上手く対応されるし、こっちが近付かれたくないタイミングで待ってましたとばかり斬り込んでくるし……まずい、相手のペースに乗せられているな。

 

 地形を利用しようにもこのステージには何もないし、後ろに下がってイニシアティブを取り直そうにも、向こうの方が速い。

 

 タイム連打も……これポーズ画面とか出来ないから意味が無い。

 

 なんか違うゲームのことが思い浮かんだけど、それどころじゃねぇ!

 

 ……あれ、この状況割りと詰んでないか?

 

『隙あり!』

 

 意識を別のことに割いた瞬間、ゼイドラ・スタインのゼイドラソードが一閃、オリジネイトの左腕を斬り飛ばされてしまった。

 

「しまっ……!」

 

『もらったぞ!』

 

 すかさずバイタルパートに突き出されるゼイドラソード。

 

 ――これしかない!

 

 俺は咄嗟に操縦桿を捻り、上体を左上へズラす。

 直後、突き出されたゼイドラソードの刃が、オリジネイトのボディの右脇腹を斬り裂き抉る。

 だがそれだけだ、撃墜には至っていない。

 すぐに右の脇を締めて、ゼイドラソードごとゼイドラ・スタインの左腕を右脇の下に挟み込む。

 

『むっ?』

 

 これでこいつの動きは封じられた。

 さぁ、ここからは肉弾戦だ。

 

「喰らえ!」

 

 ゼイドラ・スタインの頭部――コクピットを頭突き、からのゼロ距離でバルカンの撃ちまくr

 

『くっ!?なめる、なッ!』

 

 しかし、ゴジョウイン会長の次の手も早い、ゼイドラ・スタインの右マニピュレーターにオリジネイトの頭部を掴まれ、ゼロ距離でビームサーベルを発振、頭部を破壊されてしまった。

 

 ガンダムファイトならこれで俺の負けだが、これはガンプラバトルだ、まだ負けてはいない!

 

 右脇を緩めてゼイドラ・スタインへの拘束を緩め――同時にリアスカートのハイパーバズーカを懸架するラックを切り離し――てその場でスピンするようにゼイドラ・スタインとの間合いを取って、

 

「そらよっ!」

 

 ラックから切り離したハイパーバズーカを蹴り飛ばす。

 ゼイドラ・スタインは当然、ゼイドラソードでハイパーバズーカを斬り捨て――一発も撃っていないロケット弾が引火して、大爆発を起こす。

 

『チィッ!?』

 

 直撃ではないが、ロケット弾の爆風に巻き込まれれば、それなりのダメージと、爆風によって体勢が崩れるはずだ。

 ロケット弾の爆煙の中へ突っ込む!

 

 煙を突き抜けた先は――ゼイドラ・スタインの頭部。

 そこへビームサーベルを突き立てて頭部のコクピットを破壊すれば――

 

 瞬間、画面が真っ白になったと思ったら真っ暗になり、【LOSE】の赤文字が横切った。

 

 オリジネイトガンダム、撃破。

 

 え?……あぁ、今のは胸部のビームバスターにやられたのか。

 勝ちに焦って、敵の状態を見過ごすとは、俺も鈍ったか……?

 

『Battle ended!!』

 

 

 

 

 

「フゥッ、フゥッ……久しぶりに、肝が冷えたな……」

 

 ホログラムが消失すると、対面していたゴジョウイン会長は少し息が荒くなっていた。紅潮した頬に小刻みな吐息……美人がそれをすると艶かしくて大変理性に悪いです。

 

「お疲れ様でした。シノミヤ副会長が言っていた通り、強いですね」

 

 しれっと意識を切り替える。

 負けたものはしゃーない、死ななかっただけ遥かにマシだ。

 

「こちらこそ……いいバトルだった、ありがとう」

 

 ゴジョウイン会長が手を差し出してきたので、俺もそれに応じて握手する。

 背も高くて凛々しい人だけど、女の子の手って感じだ。ガッチリ握られたけど。

 

「ウマノの代わりに君がいれば、地区大会も勝ち抜けるだろう」

 

「あまり買い被られても困りますが……やるからには全力を尽くします」

 

「ふふっ、いい返事だ。活躍を期待しているぞ」

 

 やだ、イケメンだわこの人……

 

「アマネ、オウサカくん、お疲れ様ー」

 

「お疲れ。いやー、すげぇバトルだった。久々にいいもの見れたわ」

 

「すみませんケイスケ先輩、負けました」

 

 出来れば勝ちたかったけど、ダメでした。サーセン。

 

「いやいや、ゴジョウイン会長相手にあそこまで食い下がれる奴はそうそういねぇって。実質、引き分けみたいなもんだろ」

 

 引き分けと言ってくれるけど、最後の最後でビームバスターの存在が頭から抜け落ちていたのは俺のミスだ。

 うーん、勝てたはずの勝負で勝機を逃してしまったな、悔しい。

 

「それじゃぁアマネ、そろそろ学生会室に戻りましょうか」

 

「うむ。忙しいところに押しかけさせてくれて感謝する。では、また」

 

 一礼してから、ゴジョウイン会長とシノミヤ副会長は部室を後にしていく。

 学生会の双璧が退室した後、マユちゃんとイツキが気遣わしげに声を掛けてきた。

 

「オウサカくん、お疲れさま」

 

「うーん、さすがのリョーも会長には勝てなかったかー……」

 

 そりゃガンプラバトル通算三回目の男が、いきなり全国レベルの人に勝てたらご都合主義過ぎるだろうよ。

 

「負けて悔しいのは悔しい。でも、全国にはゴジョウイン会長みたいなのがゴロゴロいるわけだ。今回のバトルは、全国のレベルの高さを知る、いい機会だったよ」

 

 強がりじゃないぞ、異世界転生だからって簡単に無双させてくれると思ったら大間違いだと、自戒することが出来た。

 

「リョーは前向きだなー……よしっ、あたしも頑張るぜ!」

 

「わたしも頑張らないと!」

 

 俺のバトルを観たおかげか、二人のやる気が出たようだ。

 

「ところでケイスケ先輩、部員のアテの方はどうでした?」

 

「あー……今のゴジョウイン会長がそのアテだったんだが、今朝に頼み込んでも、断られちまってな」

 

 ケイスケ先輩が言うには、ゴジョウイン会長は学生会の業務だけでなく、父が創響学園の理事長で、その理事長補佐の仕事も兼ねているとのことで、一学生でありながら相当に多忙を極めているらしい。

 その上でプロのビルダーとしても活躍を期待されていると。

 極めつけはゴジョウイン会長がかなりの美少女であることだ、天から一物も二物も与えられる人って本当にいるようだ。

 

 ケイスケ先輩は、地区大会の前後だけでも入部してくれないかと頼み込んだが、それも出来ないとのことだ。仕方ないね。

 

「まぁ、結局は草の根から頑張れってことですね」

 

 地区大会まであと八日。

 なんとかしないとなぁ……




 今回登場のガンプラ、『ゼイドラ・スタイン』の画像や詳細設定はこちらです。↓(ガンスタグラムへのジャンプです)

https://gumpla.jp/hg/1634418


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3話 知的なあの子と野生女児

 ガンプラバトル部が部員集めに奔走している間にも、日常生活は関係無く進む。

 

 今日も今日とて、俺はヒーコラ言いながら日々の授業を受けながら予習復習をしているのである。

 いや、ほんとにもう、異世界の魔法学園じゃ(次席と大きく差をつけて)首席だった俺の学力も、この現代日本じゃ中卒以下なんだもの。

 しかもこの創響学園って結構偏差値が高い高校だから、油断してると一気に置いていかれる。

 

 しかもこの数学の授業の、テストに出すぞと公言するくらいいやらしい応用問題が分からない。

 教師の話を聞きながら片手間で予習復習してるから、ひとつ聞き逃したら追いつくのが大変大変。

 

 ってもう授業終わりじゃん!?

 やばい、ここ分からないまま次回に持ち越しとか大変よろしくないぞ。

 俺が慌てておたおたしてる間にも週番の号令、きりーつ、れーい、ありがとごじゃしたー。

 

 昼休みだけど、この応用問題が分かるまでご飯なんて食べてる場合じゃない。

 

 勉強で困った時は誰に頼るといいってマユちゃん言ってたっけ?

 

 えーっとえーっと、確か紫色のおさげが綺麗な人……そうそう、ミカゲ・トウカさん! 

 

「リョー、中庭のベンチ行こうぜー」

 

 あぁ、イツキからのお誘いは嬉しいんだけど!

 

「ごめんイツキ、俺今日はちょっと無理かもしれない」

 

「無理って?」

 

「さっきの授業で分からないところあってさ。悪いけど今日は二人で行っててくれ」

 

「ふーん、大変だなー。そんじゃマユと二人で行くなー」

 

 他人事のように言ってのけて、イツキはマユちゃんと教室を後にしていく。

 それを見送ってから、出入り口から一番遠い左端の席にいる女子生徒――ミカゲ・トウカさんは、まだゆっくり教材を片付けている途中だった。セーーーーーフ!

 

「ミカゲさん、ちょっといいかな?」

 

「……オウサカくん、だったかしら?」

 

 知的感溢れる瓶底眼鏡の内側に秘めるラベンダーの瞳から、ちょっと訝しげな視線。

 ミカゲさんからすれば、今話題の転入生アゲアゲでヤベーワンチャンある俺が話しかける理由なんて無さそうだもんな。

 

「そうそう、オウサカ・リョウマな。さっきの授業の応用問題で、分からないところがあるんだけど、教えてくれないか?昼飯時で申し訳ない」

 

「……構わないわ、別に急がないし。それで、どこ?」

 

 良かった、ここで「……別に私じゃなくて、アサナギさんに教えてもらえばいいでしょう?」とか言われなくて良かった。

 

「えーっとな、教科書の18ページの……」

 

 

 

 ミカゲさんの説明は懇切丁寧かつ分かりやすく、俺ですらすぐに理解出来た。

 

「助かった……ありがとうな、ミカゲさん」

 

「……どういたしまして」

 

 終始眉一つ動かすことなく淡々と教えてくれたミカゲさん。

 そう言えば、昼食は別に急がないと言っていたけど、一緒に食べる友達は……いなさそうかも?

 

「ミカゲさんは、弁当派なのか?」

 

「……そうだけど?」

 

「あー、その。一緒に食べる約束してる友達とかいたんじゃないかなって」

 

「……いないわよ」

 

 即答だった。地雷踏んじゃったよテヘペロン。

 

「そ、そうか……ごめん」

 

「……別に謝らなくていいわ。こんな地味子ちゃんに話しかける男子なんて、オウサカくんくらいのものだし」

 

 おいおい、自分で自分のこと「地味子ちゃん」って言ってるよ……

 落ち着け、逆に考えるんだ。『俺くらいしかいない』んじゃなくて、『俺以外に前例がない』んだ。

 

「よし、それなら俺が最初ってことだな」

 

「……最初?」

 

「ミカゲさんと一緒にお昼を食べた最初の男子ってことだよ」

 

「……何、それ。自分に対する不名誉?」

 

 ひっでぇ。

 この娘、口を開けば実は毒舌キャラってやつだな!?

 

「いやいや、むしろ名誉だよ。ミカゲさんみたいにかわいい女子と二人きりで勉強教えてもらった上から一緒にお昼とか、ご褒美もいいところだってこと」

 

「……そういうのは、アサナギさんとか、タツナミさんに言ってあげれば?」

 

 自己評価低くないですかね……もうちょっとこう、照れてくれてもいいかと。

 

「言われてみれば、かわいいって面と向かって言ったのはミカゲさんが初めてかもしれないな」

 

「……変な人」

 

 はっはっはっ、奇人変人人外魔境、時にはスライムに転生したこともあるから、なんでもござれだよ。

 

「ま、いいか。とりあえず一緒に食べようか」

 

「……別にいいけど」

 

 その辺の空席を勝手に拝借して、ミカゲさんの席と向かい合わせに配置する。

 

 互いに弁当を広げて、いざいただきます。

 

「……………」

 

「…………」

 

「「……」」

 

 咀嚼する音だけが俺とミカゲさんとの間にある効果音だ。

 

 会話が……会話が無い……!

 

 コミュ力なんて不必要と言わんばかりの沈黙を貫くミカゲさんに、どうやって話しかければいいのやら……

 

 あっ、そうだ(名案)

 

「そういえばミカゲさんって、部活とか入ってるのか?」

 

「……入ってないわ。帰宅部ね」

 

 キタコレ!!

 ヤベー、ワンチャンあるわー。

 よし、善は急がば回らず突き進め。

 

「俺やアサナギさん、イツキが入ってるガンプラバトル部なんだけど、来週から始まる地区大会に出場するには後一人足りなくて、部員を探してるところなんだ。ミカゲさんさえ良ければ、俺達と一緒に戦ってくれないか?」

 

「……私、ガンプラなんてこれっぽっちも知らないのだけど?別にその地区大会にこだわらずに、次の大会に備えればいいと思うけど」

 

「その地区大会で結果を出さないと廃部の線が濃厚という、デッドラインギリギリの境目にいます」

 

「……それ、素人一人を今からどうこうするより、外部から人を頼った方が良いんじゃないかしら?」

 

「外部から助っ人も厳しくてね……声を掛けられそうな人にはもうほとんど声を掛けたし、ミカゲさんぐらいしか望みが無いんだ」

 

 頼む、と『お願い』と『打算』と『期待』を含ませて頭を下げる。

 

 打算?『頭を下げて誠意を見せる』ほど安くて対費用効果が出るものはないよね。それが出来る人間くらい普通なんだが、実はそんなにいないんだけど。

 

 全く、どうして何の謂われも無ければしょーもないトンチンカンな"被害妄想による誤解"で殴りかかってきておいて、それでなんで『殴られた側が譲歩してやる』必要があるのかね。

 しかもこっちが誠意と譲歩と妥協を見せているというのに向こうは間者越しに「二度と関わるな」の機械的リピートな返答しかしないとか、何それ新手のヤンツン系?

 さらに質が悪いのは、殴りかかる前に相手に悟られないように外堀を埋めて周囲への根回しも万全(感情に訴えかけて理論を挟ませないという杜撰にもほどがある)という、正気の沙汰とも狂気の沙汰とも思えない陰謀だったよ。

 Xデーの前後で周囲の人間の不自然さと違和感に気付いて無きゃ、そのまま何が起こったのか分からないまま殺されるとこだったね。

 極めつけは、旗色が悪くなるや否や証拠隠滅を図って、誤解していたことへの謝罪も無く、何ごとも無かったかのように振る舞っている始末。

「誤解していました、ごめんなさい」で済むはずだし、俺も低頭平身で謝る人に必要以上に責めるつもりも無いんだけど、後腐れするような幕引きをしてくれやがったからなぁ、『吐き気を催す邪悪』って言うのは、こういうことなんだって思い知ったよ。

 

 ……おっと、話が逸れたな。今は政治屋同士の足の引っ張り合い濡れ衣の着せ合い揚げ足の取り合いに興じている場合じゃない。

 

 

「……はぁ。そこまで真摯に頭を下げられて、「どうしても無理です」とは言えないか。……いいわ、入ってあげる」

 

 っしゃあ!アズナブル!

 

「ありがとう、ミカゲさん。これで地区大会に出場出来るよ」

 

 心の中でガッツポーズ。

 

「……それはいいのだけど、私、ガンプラどころかプラモデルを作ったことすら無いから。ガンプラバトルの戦力としてアテにされても困るわ。やるからには、真面目にやるつもりだけど」

 

「真面目にやってくれるならそれだけで十分だ。アサナギさんやイツキも喜んでくれるさ」

 

 腕と実力はあっても、馬の骨みたいに人格がアウトでは論外だしな。

 

「……それで、地区大会には私も出るのよね?意味もなく足手まといになりたくはないから、やれることはやっておきたい」

 

 やる気満々だな、嬉しい限りだ。

 

「とりあえずは、ガンプラ作りから始めた方がいいか。今日のところは部長に挨拶と、普段何してるのかって言うのを見学かな。ガンプラを買いに行くのは……ミカゲさん、明日明後日は土日だけど、どっちか空いてる日はある?」

 

「……言いそびれていたけど。私、家業の手伝いもしなければならないの。どっちかは空けられるから、オウサカくんの都合のいい方で構わないわ」

 

 ふむ、家業の手伝いもあるのか。その辺りのことは、ケイスケ先輩にも教えておこう。

 

「なら、早速明日でいいか?出来れば、アサナギさんやイツキも誘うよ」

 

「……ん、分かった。今日のところは、部の見学ということね」

 

 よし、なんとか当たり障りないように勧誘することが出来たぞ。

 戦力としては頼りないかもしれないが、少なくともガンプラバトル部に入って後悔しないようにしてあげよう。

 

「これからよろしくな、ミカゲさん」

 

「……よろしく」

 

 

 

 五限目の授業が終わった休み時間で、マユちゃんとイツキに、ミカゲさんのことを話すと、驚いたけど喜んでくれた。

 ケイスケ先輩には先んじて『RINE(ライン)』でミカゲさんの入部のことは伝えている。

 

 で、六限目の授業も終わって放課後。

 今日はミカゲさんも含めた四人でガンプラバトル部の部室に向かう。

 

「いやー、まさかリョーがミカゲちゃんを連れてくるとは思わなかったなー」

 

 向かう途中で、イツキが背伸びしながらそう言ってきた。

 

「でも、本当に良かったよ。ミカゲさんが入ってくれるおかげで、地区大会にも出られるし」

 

 マユちゃんも頷いている。

 

「……私もまさか、転入して間もない男子から勧誘されて、それに了承する日が来るとは思っていなかったわ」

 

 いや、まぁ、俺もダメ元だったけど、取り敢えず頭を下げてみる価値はあるもんだわ。

 

「何にせよ、これで首の皮一枚繋がった。あとは来週の地区大会までに、出来ることをやるだけだ」

 

 創響学園ガンプラバトル部はこの日、新たなスタートを切ることが出来た。

 

 ――のは、いいんだがこの後で一悶着起きるなんて誰が予想したよ?

 

 

 

「……オウサカくんに誘われて来ました、二年一組のミカゲ・トウカです」

 

「ご丁寧にどうも。ようこそ、ガンプラバトル部へ。部長のサイキ・ケイスケだ。やる気がある奴なら、誰でも歓迎するぜ」

 

 まずは、新入部員たるミカゲさんと、ケイスケ先輩の事務的な挨拶から。

 

「とはいえリョウマ、こちらのお嬢さんは、全くの初心者なんだってな?」

 

「はい。今日のところは、ガンプラバトル部がどういうことをしているのかって見学と、明日にイツキとアサナギさんも含めた、四人でガンプラを見繕いに行く約束をしてます」

 

「手回しが早ぇなー……ま、そういうことなら心配は無いか」

 

 よし、とケイスケ先輩は頷く。

 

「ここ、ガンプラバトル部での活動は大きく分けて二つ。一つはガンプラの製作。もうひとつは、部の名の通りガンプラバトルの練習だ。まず、ガンプラバトルってのはどんなもんかを見てもらうとすっか……リョウマ、相手してくれ」

 

「ん、バトルをしてみせればいいんですね」

 

 デモンストレーションってやつね。

 よしいいだろう、ようやくガンプラバトルにも慣れてきたからな、ここらでいっちょケイスケ先輩にも俺の(過去の異世界転生のリアルMS戦で培われた)対MS戦闘を見せてやろう。

 

「あ、そうそう。リョウマはオリジネイトじゃなくて、違うガンプラでやってくれ。初心者に対して見せるデモンストレーションだから、尖った性能がない機体の方がいい」

 

 あぁなるほど、複雑な機構や特殊な武装のない、オーソドックスでベーシックなバトルをするから。

 

「分かりました、そこのショーケースから借りてもいいですね?」

 

「おぅ、お好きなのをどーぞ」

 

 そう言いつつも、ケイスケ先輩は濃淡二色のグレーにパープルの差し色を加えた機体、『ハインドリー・シュトルム』を手に取っている。

 A.S.のグラスレー・ディフェンス・システムズが開発した、『ハインドリー』の実戦仕様機だ。

 こいつの頭部形状やゴーグルフェイスといい、バックパックのキャノンといい、どうも宇宙世紀の『ジム・キャノン』にそっくりなんだよなぁ。

 

 で、対する俺はどれを使おうかね。

 ショーケースの中には多種多様なガンプラが多数陳列されている。

 

「これにするか」

 

 数巡の末に選んだのは、『Gエグゼス』。

 こちらはA.G.のマッドーナ工房製の『シャルドール』をベースとした、ウルフ・エニアクルの特注機で、彼の異名『白い狼』に肖ってか、側頭部のアンテナが犬耳のような形状をしている。

 武装もオーソドックスなビームライフルとシールド、バックパックにビームサーベルが二丁に頭部バルカンに加えて、両サイドスカートにはグレネードランチャー二発、合計で四発仕込まれている。

 

 どちらも比較的スタンダードな機体だが、ビームキャノンの有無もあってハインドリー・シュトルムの方が火力は上だが、機動力ならGエグゼスの方が上、ってところか。

 

 細かい説明をしてもミカゲさんにはちんぷんかんぷんだろうから、手っ取り早く進めていく。

 スマホのアプリからバナパスを読み込ませ、スキャナーにガンプラをセット、読み込ませてデータを生成。

 

 フィールドは手動選択で『グリーン・ノア1』に決定。

 

 ジェリド・メサの「なんだ男か」の一言を発したのが全ての大失態、ガンダムMK-Ⅱが三機もエゥーゴに奪われた原因となり、カミーユ・ビダンというエースパイロットの卵がエゥーゴ入りし、究極的にはティターンズの壊滅を引き起こしたんだっけなぁ……口はグリプス戦役(わざわい)の元だってハッキリ分かんだね。

 

『んじゃぁ行くぞ。サイキ・ケイスケ、ハインドリー・シュトルム、出るぞ!』

 

「了解。オウサカ・リョウマ、Gエグゼス、行きます!」

 

 

 

 グリーン・ノア1内部に進入、地表に着陸してほどなく、前方よりハインドリー・シュトルムを捕捉する。

 

『ガンプラバトルと言っても、ようするに普通のゲームとそんなに変わらない。敵の攻撃を躱して、ライフルやサーベルで攻撃。そうして相手の機体を撃破すれば勝ちだ。HPの概念が無いのが、普通と少し違う点だな』

 

 ミカゲさんのために説明を交えつつ戦って見せるケイスケ先輩。説明上手な人だ。

 

 ハインドリー・シュトルムが、バックパックのビームキャノンで遠距離から射撃してくるが、こちらはまだ射程外だ、ステップを踏んでビームを躱す。

 

 射程に踏み込んだところで、こちらもビームライフルを撃ち返し、ハインドリー・シュトルムも回避に動き出す。

 

『スラスターを使ったジャンプや飛行で、高く飛んだり、素早く動くことは出来る。ただし、スラスターにはゲージがあって、ゲージが無くなると、オーバーヒートを起こし、放熱が完了するまでスラスターが使えなくなる』

 

 互いにビームライフルを撃ち、躱し、交錯する。

 

 ウェポンセレクターをビームライフルからビームサーベルに切り替え、抜刀、ついでに頭部のバルカンで牽制しつつ、ハインドリー・シュトルムへ接近を試みる。

 

『後ろに下がって射撃戦に持ち込むか、前に出て格闘戦に持ち込むかは、戦い方次第だ。ガンプラの特徴や、相手との相性、あるいはフィールドによって、それは左右される』

 

 対するハインドリー・シュトルムもビームサーベルを抜き放って、真っ向から向かってくる。

 

 蛍光ピンクの光刃が衝突し、迸るスパークが両者を眩く照らし付ける。

 弾き返し、すかさず右脚を振るってハインドリー・シュトルムの腹部を蹴り飛ばす。

 

『ぐっ……接近戦と一口に言っても、サーベルでチャンバラするばかりじゃない、このようにキックやパンチも駆使することもある』

 

 そのまま追撃に、サイドスカートのグレネードランチャーを全弾発射するが、ハインドリー・シュトルムは姿勢制御しつつ胸部のビームバルカンを速射、弾幕を形成してグレネードランチャーを撃ち落としていく。

 

『射撃か、格闘か。この二つを上手く見極めて攻めることが、勝利のカギのひとつだ』

 

 グレネードランチャーを撃ち落としたら、ビームバルカンはそのまま連射しつつ、ビームライフルとビームキャノンと併用してくる。

 

 ライフルとキャノンは回避し、ビームバルカンはシールドで受けつつ、さらに接近。

 

 フェイントを織り混ぜた機動で射角をズラさせ、サーベルの間合いに飛び込んで、一閃。

 

 ハインドリー・シュトルムの肩口からボディを斬り裂き、爆散させた。

 

 ハインドリー・シュトルム、撃墜。

 

『Battle ended!!』

 

 

 

「まぁ、俺が負けちまったけど……ガンプラバトルの大凡の流れは分かってくれたか?」

 

「……なんとなくは分かりました」

 

 デモンストレーションバトルが終わり、ミカゲさんの反応も悪く無さそうだ。

 

「よし、それじゃぁこのハインドリー・シュトルムを使って、ミカゲにも操縦体験を……」

 

 とケイスケ先輩が言おうとしたら、即座にコンコンッと勢いのあるドアノックに出鼻をくじかれてしまった。

 

「おっと……はいはい、どなたー?」

 

 ケイスケ先輩が声で入室を許可すると、ノックに続いて勢いよくガチャリとドアを空けられる。

 

「失礼しまっす!最近転入してきた、二年生のオウサカ・リョウマ先輩はどちらっすか!」

 

 やたらと元気のいい挨拶と共に部室に入ってきたのは、創響学園の制服とは異なる、セーラータイプの制服を着用した女子生徒。

 体躯を見ても、小柄なマユちゃんよりもさらに一回り小さいな、小学校から上がりたての中学生だろうか。

 濃紺のウルフカットの短髪や、琥珀色をした気の強そうな瞳を見る限り、活発そうな娘だ。

 それにしても、『最近転入してきた、二年生のオウサカ・リョウマ先輩』ってのは誰のことだ?

 

 ……俺のことじゃん。

 

「はい。最近転入してきた、二年生のオウサカ・リョウマ先輩はこちらですが何か?」

 

 素直に応じると、中学生ちゃんは挑戦的な目を向けてきた。

 

「ウチは『ウマノ・チユキ』っす。突然っすけど、オウサカ先輩にバトルを申し込みますっす!」

 

 ……おいおい、これまた突然だな。

 この世界は見も知らない相手でも目が合ったらいきなり勝負をすることになるルールでもあるのか?ポケットなモンスターのマスターかよ。

 

「おーっとその前にだお嬢さん。そちらさんはどちらさんかな?」

 

 出会って五秒で即バトル……の前に、ケイスケ先輩が割って入ってくれた。お手数おかけしてすいません。

 

「というか君、その制服、隣の『師寺江洲(しじえす)中』か。いや、それより……ウマノ、というと」

 

「はいっす。ウチのバカ兄貴……ウマノ・ホネオがいつもお世話になってますっす」

 

 バカ兄貴?

 

 あっ、この娘、あの馬の骨の妹ちゃんか!?

 嘘やん、全っ然似てねぇ。

 

「それでですね、バカ兄貴から「卑怯な騙し討ちでボロ負けさせられた挙句、部から追放された」って聞きまして……ウチが代わりに御礼参りに来たってわけっす!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……卑怯な騙し討ち?」

 

 ケイスケ先輩が目を丸くして首を傾げてらっしゃる。

 その"卑怯な騙し討ち"をしたってのは、俺のことですよね?

 

「別にオウサカくんは、卑怯なことなんて何もしてないよね?」

 

 横から聞いていたマユちゃんもキョトンとしてるし、イツキも同じような顔をしている。

 

「よく分からないが、あの人の中では、俺は『卑怯な騙し討ちをした』という"設定"になっているらしい。『あの人の中ではな』」

 

 それで負けた腹いせに妹さんをけしかけるとか……どんだけ救いようが無いんだあの馬の骨。

 

「とにかく!チユとバトルしてもらいますよオウサカ先輩!」

 

 えぇ……(困惑)

 

「なら、ちょうど良かった。デモンストレーションじゃなくて、"ガチのガンプラバトル"をミカゲに見せる、いい機会だ。頑張れよ、リョウマ」

 

 頑張れよって言われてもな。

 

「いーじゃん!リョーは卑怯なことなんかしてないって、バトルで教えてやりゃいいし!」

 

 お前もかイツキェ……

 

 いや、このチユキちゃんが言うところの"卑怯な騙し討ち"のアウトラインが分からないんだけど。

 飛び道具なぞ使ってんじゃねぇと言わんばかりの肉弾戦をやれっていうのか?どこのASW-G-08(バルバトス)だそれは。

 

 とかなんとか思考が錯綜している内にも、ケイスケ先輩が筐体を立ち上げてセッティングしてる。

 

 ……やるしかないかぁ。

 

 

 

 ランダムフィールドセレクトは『タクラマカン砂漠』。

 一年戦争中において、ホワイトベース隊とランバ・ラル隊が激突し、アムロのガンダムがラルのグフを撃破してみせた戦場だ。

 

 砂漠地帯か……慎重に立ち回らないと、砂に足を取られる可能性があるな。

 それに……ビームライフルだと砂塵の影響を受けて射程が低下するかもしれない。ハイパーバズーカを主体に立ち回るか。

 

 オールグリーン確認、出撃準備完了。

 

「オウサカ・リョウマ、オリジネイトガンダム、行きます!」

 

 音声入力と共にゲートから飛び立つオリジネイト。

 

 

 

 おぉぅ……ホログラムとはいえ、強い陽射しと陽炎がなかなかリアルだな、見ているだけで汗をかきそうだ。

 っと、汗をかいている場合じゃないな、ウェポンセレクターを、ビームライフルからハイパーバズーカに切り替えて、と。

 オリジネイトのリアスカートからハイパーバズーカが取り出され、空いたスペースにビームライフルを納める。

 ハイパーバズーカを右肩に担いで、急いで索敵。

 

 すると陽炎の向こう側から、砂煙を蹴立てながら迫る物体を捉える。

 

 砂煙に混じった装甲は緋色、しかし機体の全高はやけに低い……

 

「あれは……フラウロスか。いや、フラウロスにしてはやけに軽装だな?」

 

 俺が知る限りなら、その機体は『ガンダムフラウロス』と呼ばれるガンダムフレームで、長距離レールガンによる砲撃戦を旨とする機体だ。

 だが、チユキちゃんのガンプラらしいあのフラウロスは、特徴的なレールガンは搭載されておらず、一対のマシンガンの他には、砲撃モード時に機首となる背部ユニットの内側に、連結されたダブルブレードが装備されている。

 どちらかと言えば、

 

「……ザフトの四足歩行型MSみたいだな」

 

『その通りっす!これがチユのガンプラ……『ガンダムフラウロスベスティア』っす!』

 

 その通り、と当のチユキちゃんが言ったように、フラウロスベスティアと言うらしいあのフラウロスは、犬や猫のように素早く砂地を駆け回りながら、一対のマシンガンをばら撒いてくる。

 

 なるほどな、フラウロスにザフト四足歩行型MSのコンセプトを組み込んだってわけか。ガンプラバトルならではの改造だな。

 

 っとマシンガンを撃ってきた。

 銃弾を避けつつ、こちらも頭部バルカンで牽制返しだ。

 しかしフラウロスベスティアは、砂地の不安定な足場でも簡単に急制動を掛け、バルカンの銃弾を躱してみせる。

 

 そうそう、四足歩行型MSの何が厄介って、こういう悪路でも機敏な動きが可能なんだよなぁ。

 

『ほらほら!こういうフィールドはチユの庭同然っす!』

 

 四足歩行型MSを相手に砂漠戦……少し"引き"が弱かったか。

 

 それに、あの機体はあくまでもガンダムフレーム、つまり、ビームに対して強い耐性を持つ『ナノラミネートアーマー』を持っている。

 

 ただでさえ砂塵でメガ粒子が減衰する上に、敵機は素早くて当てにくい、さらにビームライフルでは豆鉄砲にすらならん装甲と来ると……思 っ た よ り 不 利 な 状 況 だ な ?

 

「やりようはあるさ」

 

 撃ち返されてきたマシンガンをシールドで防ぎつつ、ハイパーバズーカ……は、普通に撃っても当たらないから、

 

「こういう使い方もある!」

 

 発射。

 ロケット弾はフラウロスベスティアへの直撃コースではなく、その足元近くに着弾、炸裂すれば爆風が砂丘をめくり上げる。

 すると、だ。

 

『おわぁっ!?』

 

 急に足元がひっくり返るんだ、これに即座に対応出来るのは本物の猫科の動物くらいのものだろうさ。

 案の状、フラウロスベスティアは砂を転がって転倒する。

 構造上、人間で言うところの"腕"が無いから、一度転倒してしまうと起き上がるのに時間が掛かるんだ。

 この追撃にハイパーバズーカを撃ち込もうと考えていたのだが、

 

『なんっ、の!』

 

 フラウロスベスティアはすぐさま下半身をぐるんと回転させ、アームカバーも格納させると、『MS形態に変形して』すぐに起き上がった。

 

 ……ほうほう、MS形態への変形はそうやって使うのか。

 

 起き上がって、すぐにまた四足歩行形態に変形してくる。

 

 こうなるとあとはもう接近戦で仕留めるしかないな。

 ウェポンセレクターを入力、ビームライフルをマウントラッチから切り離し、ハイパーバズーカをそこへ戻して、空いた右マニピュレーターでランドセルからビームサーベルを抜き放つ。

 

『接近戦ならチユの得意分野っすよー!』

 

 マシンガンを撃ちながらジグザグに、なおかつ不規則なステップを踏みながら迫りくるフラウロスベスティア。

 どのタイミングで踏み込めば良いのか、あるいはどのタイミングで向こうが踏み込んでくるのか、分かりにくいな……

 

 マシンガンの銃弾を織り交ぜながら不意に飛びかかってこられると、カウンターを仕掛けるのも難しい。

 

 すれ違いざまのダブルブレードの一撃が、オリジネイトの脇腹を掠め、すぐに反転しつつビームサーベルを振るっても、既に間合いから遠のいている。

 

 機体の性能だけじゃない、チユキちゃんの反応も早いな、野生の勘って奴か。

 

 ……地上戦なら向こうの方が千日手、とまではいかないが、決め手に欠けることに変わりはない。

 だが、想定外への反応にはそこまで早くないのは、先程の足元を揺るがす攻撃で確認済みだ。

 

 であれば、"出し抜く"までだ。

 

 

 

 

 

 チユキのガンダムフラウロスベスティアの、機敏な四足歩行によるヒットアンドアウェイ戦法に、リョウマのオリジネイトガンダムは翻弄されている……ように見えるがその実、的確かつ最小限のダメージで攻撃を凌いでいる。

 

 互いに決め手に欠け、膠着状態へ縺れ込む。

 

「砲撃型のフラウロスを敢えて軽装にして機動力を高め、なおかつ四足歩行本来の利点に回帰する、か」

 

 ケイスケは、砂塵を蹴立ててオリジネイトガンダムに攻め立てるガンダムフラウロスベスティアを評する。

 イツキも同じく、ガンダムフラウロスベスティアの各部を注意深く見やる。

 

「よく見たら、前脚のアームカバーの尖端……あれ多分、ルプスレクスの爪と同じじゃないすか?」

 

 それは、高硬度レアアロイよりもさらに高い強度を誇る、金色に輝く特殊合金製の武装だ。

 研ぎ澄まされたそれは、レアアロイの装甲すら物理的に斬り裂くほど鋭い斬れ味を持つ。

 ただのクローと侮れば手痛いダメージを受けるだろう。

 

 ガンダムバルバトスルプスレクスが、人型からやや離れた姿として完成されたことも鑑みれば、ガンダムフラウロスが四足歩行を用いて戦闘を行うそれは、人の技術の革新か、あるいは獣性への原点回帰か。

 

「ウマノ先輩、自分より妹さんの方がずっと強いんじゃ……?」

 

 マユは、見た目ばかりに比重を置いているホネオのガンプラよりも、得意なバトルスタイルのために的確なベース機とその改造が施せるチユキの方がビルダーとしてもファイターとしても優れているのではないかと勘繰る。

 

 だが、意外にもその勘繰りを「違うな」と言ったのはケイスケだった。

 

「ウマノの奴は今でこそ"あぁ"だが、一年の頃はもっと真面目でストイックだったんだ。俺も負けてられない、と思うくらいにはな」

 

「じゃぁ、わたしやイツキが入部した時には、どうしてあんな風になっていたんですか?」

 

「一年の間で着実に結果を残して、学園からもその活躍を期待されているのを、何か勘違いしちまったんだろうな。そこからは、坂を転げ落ちるように傲慢になっていった……あいつの態度がどこかおかしくなったと思った時には、もう遅かった。そういう意味じゃ、あいつの傲慢さに歯止めを掛けられなかった、俺の責任でもあるんだがな」

 

 だから、とケイスケはチユキの集中した横顔を見やる。

 

「妹さんは、卑怯なことをしたらしいリョウマが許せないくらい、兄貴が好きだったんだろう、ってな」

 

 まぁなんか勘違いしてるみたいだが、とケイスケの語る言葉を、隣りにいたトウカも黙って聞いていた。

 

 ふと、膠着した戦況が再び動き出したようだ。

 

 

 

 

 

 

 マシンガンの銃弾をばら撒きつつ、ダブルブレードや前腕部クローによるすれ違いざまの斬撃によるヒットアンドアウェイは、殊の外厄介だ。

 加えてこちらは砂地という不安定な足場も気にしなくてはならないため、一方的に不利と言わざるを得ない。

 

 ハイパーバズーカの残弾は一発、バルカンもあと数発しか残っていない。

 

 問題は……あるが、焦ることもない。

 今は我慢の時だ。

 

『なぁに企んでるか知りませんけど、来ないならウチから行くっすよ!』

 

 フラウロスベスティアはこれまでと同じように、マシンガンで弾幕を張りつつ接近を試みようとしてくる。

 が、しょせんは手持ちの銃火器で予備の弾倉なんてものは無いだろう。

 

 だから、そう早くない内にその時は起きる。

 

 俺の目論見通り、勢いよくマシンガンを撃ちまくっていたフラウロスベスティアだが、不意にマシンガンが沈黙――弾切れだ。

 

「ようやく弾切れだな」

 

『だから何っすか、このままチユのペースのまま……』

 

「いいや、それもここまでだ」

 

 俺にとってはマシンガンの弾幕こそが厄介なのであって、ここからは俺のターンだ。

 

 最後のハイパーバズーカを発射、してすぐにバルカンを速射、撃ち出されたばかりのロケット弾を撃ち抜き、爆発、前方視界が爆煙に覆われる。

 

『ただの目くらまし!』

 

 フラウロスベスティアは爆煙の中に突っ込んで来るつもりのようだ。

 よし、いい子だ。

 

 無用になったハイパーバズーカを捨てて素手になると、俺もオリジネイトを爆煙の中へ突っ込ませる。

 

 瞬間、爆煙を切り裂いて互いのフェイスがドアップで現れる。

 読み通りだ!

 

 すかさず操縦桿を跳ね上げて、オリジネイトは両手を伸ばし、フラウロスベスティアの機首を掴み上げる。

 

『んなっ!?』

 

 このダブルブレードはバクゥやラゴゥのそれと違ってビームサーベルではないから、接触するだけならダメージは少ない。

 

「悪いが、そっちのオーダー通りに戦わせてもらうぞ、ズルも卑怯も無い、ち、か、ら、わ、ざ、でな!」

 

 さらに操縦桿を押し上げ、フラウロスベスティアの上半身を持ち上げる。

 

『うっ、嘘っ、なんつーパワーして……!?』

 

 フラウロスベスティアは前脚をバタつかせるが、機首が前方に長いのが災いして、前腕部クローも届かない。

 

 機首を抱え込んで押さえつけ、そのまま真上へ上昇、フラウロスベスティアもろとも上空へ連れて行く。

 オリジネイトの完成度は高い、こいつのバーニア出力ならばMS二機分の重量くらい軽々と持ち上げられる。

 

『ちょっ、ちょっ!?な、何する気っすか!?』

 

 ちょうど、フラウロスベスティアの機首は下方、地面を向いている状態だ。

 雲スレスレの高度まで上昇したところで、バーニアのベクトルをやや斜め下に向けつつ、高速回転――したまま落下開始!

 

「ちょっと地獄(そこ)まで付き合ってもらおうか。喰らえっ、スクリュードライバァァァァァァァァァァ!!」

 

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐると錐揉み回転しながら落下していくオリジネイトとフラウロスベスティア。

 

『ぎゃーーーーーーーーーー!?!?!?!?!?』

 

 さすがのガンダムフレームと言えども、高度数千mから地表に激突すれば耐え切れるもんじゃないだろうさ。

 数秒間たっぷりと遠心力と落下速度を加えたベクトルと共に、フラウロスベスティアを地表にぶち込む!

 

 激突。

 

 その拍子にオリジネイトは弾かれてしまうものの、すぐにバーニア制御で立ち上がる。

 一方のフラウロスベスティアは……上半身と下半身が見事に真っ二つになっていた。

 むしろ砂地だからこの程度で済んだんだろうな、市街地のコンクリートだったらこんなもんじゃなかったかもしれん。

 

 ガンダムフラウロスベスティア、撃墜。

 

『Battle ended!!』

 

 

 

 YOU WIN!!

 

 というテロップが画面の前に出てきそうな結末だったけど、勝ちは勝ちである。

 

「ふぅ、思ったより手強かったな」

 

 安堵に一息つきつつ、オリジネイトをスキャナーから回収する。

 さて、チユキちゃんの反応は如何かな?

 

「ガ、ガンプラでプロレス技をするなんて、なんちゅぅ人っすか……」

 

 わなわなと震えているチユキちゃん。

 なんちゅぅ人っすかと言われてもな。

 

「君の言う「卑怯な不意討ち」の定義がよく分からなかったから、小細工なしの肉弾戦に持ち込ませてもらったけど……それで、俺は『卑怯な男』だったかな?」

 

 あるいは、あの馬の骨の悪いところを見習っているかもしれないしなぁ。「自分が負けたのは相手が卑怯な手を使った(根拠なし)から」って思い込むかも。

 

「い、いえ!すいませんっした!」

 

 すると、チユキちゃんは勢いよく頭を下げてきた。

 

「よく考えたらウチ、バカ兄貴の言ってた『卑怯な不意討ち』がどんな手だったのか知らなくて……それに、卑怯な不意討ちで勝ったような人が、他の先輩方から認められるわけがないって思い直しまして……」

 

 あぁ、この娘、あんまり人を疑わないタイプだな。

 真っ直ぐ過ぎたがために、あの馬の骨の言葉を真に受けて、ここまで突っ走ってきたと。

 

「とりあえず、帰ったらあのバカ兄貴シメときますんで」

 

 うんうん、こんなしょーもないことを引き起こした兄貴はみっちり絞ってやってくれ。

 

「まぁそれはそれとしてだ。誤解が解けたようで何よりだよ」

 

 変な噂が流れても困るし、早めに禍根を取り除けたからまぁ良しとしよう。

 

「そう言ってもらえるとありがたいっす。他の先輩方も、ウチのバカ兄貴がすいませんした!失礼します!」

 

 チユキちゃんは他の部員に頭を下げて謝罪の意を示し、フラウロスベスティアを引っ掴んで部室を駆け出していった。

 部室のドアが閉じられるのを見て、ケイスケ先輩は溜息をついた。

 

「やれやれ、とんだお転婆ちゃんだったな」

 

「でもまさか、ウマノ先輩にあんなにかわいい妹さんがいるなんて思わなかったよ」

 

 マユちゃんの言う通りだ、父母で遺伝子違いすぎんだろ。

 

「それなー。おまけにバトルもけっこう強いし、あたしもやってみたかったなー」

 

 イツキ、君は今シェンロンの改造中だろうに。

 

「……そう言えばあの娘、中学生なのよね?入校許可は取っていたのかしら」

 

 ふと、ミカゲさんが誰も気付いていなかった疑問を呟く。

 

「あの様子だと、無許可で入って来たのかもしれないなぁ」

 

 ――あとで聞いた話だが、チユキちゃんを見掛けたシノミヤ副会長が事情を聞いて、ガンプラバトル部の部室の場所を教えて上げたのだとかなんとか――

 

 予想外の珍客に慌ただしく時間が過ぎてしまったが、まぁ慌てることもない。

 来週の地区大会に必要な頭数は揃っているから、じっくり鍛えてから臨めばいいのだから。

 

 

 

 その後は、プラクティスステージでミカゲさんに操縦体験をさせたり、ガンプラを製作中のマユちゃんやイツキに意見を求められたり、ケイスケ先輩と再度模擬戦をしたりと過ごして、下校時間だ。

 

「えーっと、明日は俺、アサナギさん、イツキ、ミカゲさんの四人で、ミカゲさんのガンプラを見繕いにガンダムベースに行く、って感じだったよな」

 

 下校前に、明日の予定を女子三人と照らし合わせる。

 

「うん。朝の九時に、駅前広場で待ち合わせだね」

 

 マユちゃんが待ち合わせ場所と時間を復唱してくれる。

 

「向こうでバトルとかもするよな?なら、あたしは別のガンプラ持ってくる」

 

 イツキは向こうでもシェンロンの改造をするだろう。そのついでのバトルでは違うガンプラを持ってくるらしい。マユちゃんも同じかな。

 

「……ガンプラって、どのくらいの値段?あんまり高いのは、お財布に辛いのだけど」

 

 ミカゲさんはガンプラの価格について心配しているので、答えてあげよう。

 

「普通のHG……俺達が普段使っている、1/144スケールなら、2000円もあれば大体一つは買えるし、安いものなら二つ買える」

 

「……意外と安いのね」

 

 とはいえ、新しいシリーズになればなるほど素組みの完成度が高いから、それに伴って価格も高くなるのは已む無しか。

 

「中には高いものもあるけど、普通のものを買うぶんならお財布にも優しいから、大丈夫だよ」

 

 マユちゃんもフォローしてくれる。

 

「そういや、ケイスケ先輩は来れないんすか?」

 

 ふとイツキが、ケイスケ先輩が話に反応していないことに気付いて声をかけるが、

 

「あー、俺明日は野暮用があってな。悪ぃけど欠席させてもらうわ」

 

「わっかりましたー」

 

 ふむ、ケイスケ先輩は野暮用につき欠席か。何の野暮用かは知らないが、そこで訊くのはそれこそ野暮というものだ。

 

「よーし、部室閉めんぞー。みんな、今日もお疲れさん」

 

 お疲れさんっしたー。

 

 明日は九時に駅前広場だな、寝坊しないようにいつも通りの時間で起きるとしよう。




今回登場のガンプラ『ガンダムフラウロスベスティア』の詳細設定や画像はこちらです↓(ガンスタグラムへのジャンプです)

https://gumpla.jp/hg/1651018


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4話 ミステリアス・グレモリー

 馬の骨の妹さんこと、チユキちゃんとのバトルを行ったその翌日。

 

 休日でも今朝の俺は早い。

 朝起き抜けに洗濯やら朝食やらを終えたら、手早くお出かけの準備。

 

 今日はマユちゃん、イツキ、ミカゲさんの女子三人と、最寄りのガンダムベースにお出かけするのだ。

 

 休日に、クラスメートの女の子三人とお出かけ。なおかつ男子は俺一人だけ……完全にギャルゲーじゃん!

 きっとこの辺りから選択肢が出てきて、ヒロインとの好感度のアップダウンが発生するんだろうなぁ……という妄想は閑話休題(さておく)として。

 

 待ち合わせは、午前九時に駅前広場だったな。

 

 向こうでガンプラバトルもするから、オリジネイトも忘れずに用意して、と。

 

 さぁそろそろ良い時間だし、出るとしよう。今日も元気に……

 

 リョウマ、行きまーす!

 

 

 

 駅前広場についた頃には、時刻は8:45。

 完璧な十五分前行動やな。意識高い系男子だよ、俺。

 しかしまだ誰も来ていないな?

 ならばここは、彼女を待つリア充彼氏の気分を味わいながら待つとしよう。

 

「おーっす、リョー!」

 

 と思った矢先に、ビバチーンと背中を叩かれて、彼女を待つリア充彼氏の気分を台無しにされてしまった。

 

 気配を殺して背後から一撃とは……どこのどいつだシュバルツ・ブルーダー!

 

 って、イツキじゃないか。むしろどこのチャイナだったわ、シェンロンガンダム的な意味で。

 だからって私服がチャイナドレスじゃなくて良かった、普通の可愛らしくも、動きやすそうなイツキらしい私服だ。

 

「挨拶代わりに背中を叩くなよイツキ。俺が心臓を悪くしてたらどうするんだ」

 

「え?リョーって心臓弱かったっけ?」

 

 真顔で返すなよ、答えにくいじゃないか。

 

「いや、健常だけど」

 

「じゃぁいーじゃん!あ、はよーっす」

 

 えぇんかい。いや、あんまり良くないけど。

 

「うん、おはよう。アサナギさんとミカゲさんは……一緒じゃないのか」

 

 てっきりイツキと一緒に来ると思ってたから、ちょっと意外だった。

 

「マユは時間にしっかりしてるから大丈夫、ミカゲちゃんはどうか分かんねーけど、普段遅刻はしてねーし大丈夫っしょ」

 

 なるほど、普段から学園に遅刻してなければ、待ち合わせ時間の心配はしなくていいわけか。

 

「そっか」

 

 まぁ、待ち合わせ時間の九時まではまだ10分以上あるんだ、焦ることも無かろうさ。

 

「なんか久しぶりだなー、リョーとこうして休みの日に遊びに行くとかさ」

 

 ……うん、"俺"は初めてだけどな。

 

「七年間会ってなかったもんなぁ、そりゃ久々にもなるか」

 

 このオウサカ・リョウマの肉体としての記憶では、小学四年の一学期に転校し、それ以降は会っていない……ということになっている。

 

 ――でも、なんか引っ掛かるんだよな。

 

 イツキってこんなギャルギャルしい感じの娘だっけ?

 

 もっと髪とか雰囲気もふわふわしてて、むしろマユちゃんの雰囲気に近かったような、そもそも名前もなんか違――

 

 ■カ■・チ■

 

 ズキンッ と突然、頭の奥が痛みだし、記憶の掘り返しを拒否した。

 

「うぐっ……」

 

「リョ、リョー?大丈夫か?」

 

 痛覚に思わずこめかみを抑えたら、イツキに心配されてしまった。

 

「いや、大丈夫。来る前にコンビニで冷凍スムージー飲んでて、頭キーンがぶり返したみたいだ」

 

「なーんだ、慌てん坊だなぁ」

 

 心配して損した、とイツキはおかしそうに笑う。

 咄嗟の嘘にしてはよく出来た。

 

「あっ……オウサカくーん、イツキー」

 

 おっと、マユちゃんが来たか。

 彼女の雰囲気にマッチした、清楚なチョイスだなぁ。

 周囲の野郎の皆さんの視線を向けさせてるし、やっぱり美少女だ。

 

「おはよう、アサナギさん」

 

「マユはよーっす!」

 

 イツキ、マユちゃんと来て、残るはミカゲさんだけだ。

 

「ミカゲさんはまだなのかな?」

 

「まだ待ち合わせ時間まで少しある。五分前になってもこなかったら連絡してみようか」

 

 ミカゲさんとの連絡先は、昨日の時点でガンプラバトル部の中で共有されている。

 だから、もしも急用が入ってドタキャンする必要があったとしても、すぐに連絡の一つくらいは寄越してくれるはずだろう。

 ならば慌てずに待つとしよう。

 来ないなら、来るまで待とう、ミカゲさん。

 

 織田信長なら殺しちゃうじゃないか、とかいらんことを考えていたら。

 

「ごめんなさい、待たせたわね」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 イツキやマユちゃんとも違う方向からやって来た、神秘的な紫色のロングストレートヘアの美少女。

 

 ……え?誰、この人?

 

 いや、声色はなんとなーく聞き覚えはあるんだけど。

 俺と同じことを考えているのか、マユちゃんとイツキも互いに顔を見合わせて戸惑っている。

 そんな俺達の様子を見かねてか、美少女はため息をついた。

 

「ハァ……こうなるとは思ってたのよ。ミカゲよ。ミカゲ・トウカ」

 

 ミカゲ・トウカ……あ、ウチのクラスメートで……そう、ガンプラバトル部の部員だね。

 

 ……嘘だと言ってよバーニィ。

 

「「「えぇーーーーーっ!?」」」

 

 この人、ミカゲさんかよ!?

 完ッ全に別人じゃねぇか!!

 

 

 

 予定時刻の電車が近付いてきたので、とりあえず切符を購入して、電車に乗り込んでから。

 

「……ほ、本当にミカゲさんだよね?」

 

 未だに信じられないのか、マユちゃんは恐る恐るミカゲさんに本人確認する。

 

「残念ながら本人よ。信じられないのも、分からないでもないけど」

 

 他ならぬ本人がそう言っているのだから、間違いないだろう。

 

「いや、でもさ……学園の時と全っ然違うじゃん?なんで普段から、今見たいなすげーキレイな感じにしねーの?」

 

 イツキもまだ混乱している。

 そりゃそうだろう、学園では髪を結って瓶底眼鏡でちょっと猫背気味で、「アイアム地味子ちゃん、話しかけないでね」って感じの雰囲気なのに。

 今俺達と同じ車両にいるミステリアス系美少女が、それと同一人物だと言う方が信じられない。

 心做しか、口調も普段よりハキハキしてるし。

 

「まぁ、その……自分で自分のことをこういうのもなんだけど。今の私って、結構人目を引くでしょう?一年の頃に、大変……えぇ、ほんっとうに大変面倒な目に何度も遭ってね。そういう面倒事を避けるために、わざわざ"地味子ちゃん"を演じてるのよ」

 

 これだから色眼鏡を通さなきゃ人を見れないお猿さんは、とミカゲさんは心底から忌々しげに吐き捨てる。

 

 つまり、ミカゲさんは一年の頃にモテモテ過ぎて、硬く伸び切ったチンチンをピラピラさせたイエローモンキーチェリーボーイズにアンなことやコンなことをサれそうになったことが何度もあったということか。

 

「……え、ちょっと待って?じゃぁミカゲさん、もしかして俺はいない方が良かったりするのか?」

 

 男嫌いなら、俺がいたらむしろマズイのでは?そもそも話しかけた時点で地雷の上でハンドスラップしてないか?

 

「オウサカくんは、単に私に勉強を教えて欲しいって話しかけただけでしょう?いつの間にかガンプラバトル部に勧誘されてたけど」

 

「でも、まぁ、ガンプラバトル部に人出が欲しかったのは本当だったし、ミカゲさんが入ってくれたのは単純に嬉しかったわけで」

 

「何か勘違いしてるようだけど、私は別に男の人が嫌いなわけじゃないのよ?人の皮被ったお猿さんは嫌いだけど」

 

「あぁ、それなら良かった」

 

 うん、本当に良かった。

 まぁようするに、サ↑ル↓からエロい目で見られるのが嫌なだけで、普通に接する分には問題ないと。

 

「じゃぁミカゲさん、今はコンタクトしてるの?」

 

 マユちゃんは、ミカゲさんがいつもの瓶底眼鏡をしていないことに目を向けた。

 確かに、眼鏡かけて髪をおさげにしているのが、(俺達三人から見た)ミカゲさんのトレードマークみたいなものだったし。

 

「いいえ、裸眼よ。私、視力は悪くないもの。あんな瓶底眼鏡だって伊達だから度は入っていないし、カモフラージュの一貫ね」

 

 わざわざ輪郭をぼかすほどの分厚い眼鏡をかけているのも、"地味子ちゃん"を演じるためのものか、用意周到だな。

 

「なんつーか、モテるくらいならいいけど、モテ過ぎると逆に大変だなー……」

 

 イツキは苦笑しているが、やけに共感しているようにも見える。

 マユちゃんやミカゲさんとはまた違うタイプの美少女だしなぁ、当然、サ↑ル↓みたいなのに興奮されたこともあるんだろう。

 

「モテる女って辛いわ、で済むならどれだけ良かったことか……ハァ、めんどくさい女でごめんなさいね」

 

 幸せが逃げそうなくらいの溜息をつくミカゲさん。

 

 あぁ……なんか分からんでもないなぁ。

 乙女ゲーの世界の主人公に異世界転生した時も、共通ルートの時点で攻略対象全員に一発ヤられたこともあるし、美少女を前にした男の八割はそうなるもんなのかなぁって思ったことはあるわ。

 

 尤も、性別が逆でも同じことが言えて、あまりにもイケメン過ぎると、イケメンを狙ったハエのような女が延々纏わりつくものだ。

 

 男にせよ女にせよ、モテるのは程々でいいってことだな。

 

 そういえば、人は異性を見て0.5秒で性的対象かどうか判断出来るってなんか聞いた覚えがあるな。"一目惚れ"のメカニズムだとかナンとか。

 

「ミカゲさん、何か辛いことがあったらわたし達に頼っていいからね。力になるから」

 

「マユの言う通りだ、あたしらはもう友達だもんな!」

 

 ミカゲさんは「友達がいない」って言ってたけど、「作れない」んじゃなくて、そもそも「作らせてくれない」環境にいたんだ。自己防衛のために。

 

 俺の口からは言わないけど、せめてガンプラバトル部が、ミカゲさんにとって警戒しなくてもいい居場所になるようにしないとな。

 

 っと、次が降車駅だ。

 

 

 

 日本各地に点在するガンダムベースには、地域ごとに違う歴代主人公ガンダム立像が建造されており、この地には『ガンダムエクシア』が聳え立つ。暗くなると、GNコンデンサーやGNドライヴが発光する仕組みらしい。

 

 開店前から、老若男女問わず多くの顧客に満ち溢れてごった返している。

 

「まだ開店もしていないのに、賑わっているのね」

 

 長蛇の列の最後尾に足を踏み入れると、ミカゲさんが物珍しそうに辺りを見回している。

 

「休みの日はいつも大体こんな感じだよ」

 

「新作の発売日とかは、もっとすげーことになるぞ?」

 

 ミカゲさんを気遣ってのことか、マユちゃんとイツキは積極的に話しかけている。

 俺も、空気にならない程度には話に混ざっておこう。

 

「開いたら一気に列が動くから、三人とも気をつけるんだぞ」

 

 中には列の中に強引に割って入ってくる人もいるからなぁ。

 

『本日も朝早くからご来店の皆様、大変長らくお待たせしました。ガンダムベース、ただいまより開店致します』

 

 アナウンスが流れると、列が動き出した。

 

 

 

 人の流れに沿うように、物販コーナーへ流れ着く俺達四人。

 

 さて、今日はミカゲさんがバトルに使うガンプラを見繕いに来たわけだが。

 ミカゲさん自身は、昨日にケイスケ先輩の指導の元、ハインドリー・シュトルムを一度触っただけだ。

 

「ガンダムには色んなシリーズがあるっていうのは知っているけど、よくまぁ、こんなにあるものね……」

 

 陳列棚にズラリと並ぶ、ガンプラ、ガンプラ、ガンプラに、ミカゲは視線を左右させる。

 こんなにあると、どれがどれか分からないだろうなぁ。ザクやジムだけでも何十種類もあるわけだし。

 

「どれでも好きなのを、って言いたいけど、ある程度は俺達がチョイスするべきだろうな」

 

 俺がそういうと、マユちゃんとイツキも頷いている。

 すると。

 

「みんなやサイキ先輩が使っているガンプラってどれ?って訊いてもいいかしら?」

 

 まずはそこから訊いてきた。

 ミカゲさんなりの考えがあるのだろう、手分けしてファーストガンダム、ガンダムエアリアル、シェンロンガンダム、ジム・キャノンⅡを集めてくる。ケイスケ先輩は恐らくジム・キャノンⅡをベースにした改造機を使うだろう。

 

 ついでに、俺がファーストガンダム、マユちゃんがエアリアル、イツキがシェンロン、ケイスケ先輩がジム・キャノンⅡをそれぞれ使うことを教える。

 

 この四つのパッケージを見て、しばし考え込むミカゲさん。

 

「来週の地区大会は、チーム戦で行われるのよね?」

 

「そうだな、5on5の集団戦になる」

 

「ガンプラの特徴を見た感じ、オウサカくんとタツナミさんが前衛で、アサナギさんとサイキ先輩が後衛……で、合ってる?」

 

 ファーストガンダムは確かに白兵戦用MSだし、シェンロンは格闘戦が得意なガンダム、エアリアルはガンビットを自在に操る辺り射撃戦に長けているし、ジム・キャノンⅡは見たまんまの砲撃型。

 厳密に言えば、ファーストガンダムとエアリアルは射撃・格闘をバランスよくこなせるから、前衛・後衛をハッキリ別けなくともいい。

 

「大体そんな感じだ。……そう考えると、俺達って意外と遠近のバランスが取れたチームだよな」

 

「そうなると……私に出来そうな役割は、防御力の高いガンプラで、相手チームの注意を引く……ぐらいかしら」

 

 なるほど。

 チーム全体のバランスを鑑みても、遠近での攻撃力に過不足は無いから、代わりに相手からの攻撃を引き受ける防御・陽動役をすべきと考えたのか。

 

「一々要求して申し訳ないけど、防御力の高いガンプラはどういうものがある?」

 

「防御力ひとつを取っても、意味合いは色々ある。フルアーマーだったり、装甲が特殊だったり、バリアを装備していたり、あるいは受け流すことに特化したガンプラもある。それらを踏まえるなら……」

 

 俺が過去の異世界転生で「堅くて厄介な奴」を脳裏に列挙していく中、マユちゃんとイツキは迅速に動く。

 

TP(トランスフェイズ)装甲とゲシュマイディッヒ・パンツァーを備えた、フォビドゥンかな?」

 

「プラネイトディフェンサーのメリクリウス……は、プレバンだからここじゃ買えないか。旧キットならあるけど、塗り分けが大変だしなー」

 

 フォビドゥンにメリクリウス。

 

 前者はレールガンに曲射可能なビーム砲、腕部機関砲に長柄の実体鎌を装備した重武装の機体だけど、複数ある武器の使い分けや、ビームを歪曲させるゲシュマイディッヒ・パンツァーを使いこなせないと、ただの重くてエネルギー効率の悪い機体でしかない。

 

 後者のプラネイトディフェンサーは長距離ビームなども防ぎ切るほどの防御力を持つし、攻防一体のクラッシュシールドもあるが、複数のプラネイトディフェンサーを上手く配分して防御力と範囲を調整する必要があるため、これもまた扱いの難しい機体だ。

 

 素人が作っても安定した防御力を発揮できる機体、というと。

 

 ハイペリオンは防御可能な時間が極端に短いし、グシオンは装甲が重過ぎて小回りが効かないしそもそも地上戦じゃ役に立たない。

 

 何かあったっけ……装甲が重過ぎない程度で、強い耐性を持つ機体……

 

 ミカゲさんはスマートフォンを素早くタップして、スライドを何度も繰り返して、

 

「これとかどうかしら?」

 

 画面を見せてきた。

 それは、濃紺やガルグレーのカラーに、外套を被ったような外観、半分欠けた錨のような武器を持つ、『ガンダムグレモリー』というガンプラだった。

 

「あっ、グレモリーがあったね」

 

「しまったぁ、月鋼のこと忘れてた!」

 

 マユちゃんは納得がいき、イツキは失念していたと軽く自分の頭を叩く。

 

 ガンダムグレモリー……あぁ!アナルホルン……ゲフンゲフン、ギャラルホルンのナディラ家のガンダムフレームか!

 確か、素のナノラミネートアーマーの上から、さらにその上位互換である、ナノラミネートコートを持った機体だ。

 錨――バトルアンカーの半分は厄祭戦中に欠損したままになって、まるで死神の鎌みたいな見た目になったんだっけ。

 

 なるほど、確かにこれなら素組みで作っても、システム上ではかなり高い防御力を発揮するだろう。

 

 射撃武装が腕部機関砲しかないのがネックだが……まぁ、何かしら武装を追加すれば一応は解決出来るか。

 

「ガンダムグレモリーだな、取ってくる」

 

 HGIBOのコーナーからガンダムグレモリーを持ってきて、ミカゲさんにそれを手渡す。

 ミカゲさんはパッケージをくるくると見回して、

 

「これにするわ」

 

 購入決定。

 

 

 

 初めてのガンプラがガンダムグレモリーですって方は、日本中探してもミカゲさんくらいのものだろう。

 物販コーナーでガンダムグレモリーを購入してからは、製作ブースに移動して、各々がやりたいことをする。

 

 イツキはシェンロンの改造の続きだ。何やら『ガンダムナタク(アルトロンガンダム【EW】)』のパーツなども用意している。

 

 マユちゃんはミカゲさんの隣について、プラモ作りのレクチャーをしてあげている。

 

 俺は先程にHGCEの『エールストライクガンダム』を購入したので、その製作だ。これもガンプラ作りの練習です。

 

「ランナーの状態から直接切るんじゃなくて、少しだけ残して切るの。そうやってランナーからパーツを切り離してから、もう一度。で、その後で紙ヤスリで表面を整える。これを、"ゲート処理"っていうの」

 

「ふむ」

 

 マユちゃんとミカゲさんの席と向かい合う形を取りつつ、マユちゃんの製作技術を盗み見る。

 丁寧で優しい作り方だ。

 

 盗み見た技術を、自分の中に咀嚼し、このエールストライクの製作で実践だ。

 

 にしても、ストライクかぁ……

 

 過去の異世界転生で、ヘリオポリスからアークエンジェルに乗り込んで戦い続けていた時も、ドミニオンのローエングリン砲からアークエンジェルを守ったムウさん、ノーマルスーツのヘルメット吹っ飛んでたけどよく生きてたよなぁ。

 宇宙空間でノーマルスーツのヘルメットが無くなる=死 も同然だからな。

 もしMSから投げ出されても、ノーマルスーツの気密が保たれていれば仮死状態で救助される可能性も十分にあるが、ヘルメットが無くなった状態で宇宙に放り出されたら、(個人差はあるにせよ)ほんの十数秒で窒息死する。

 故にムウさんの生存は見込めないも同然だったから、ファントムペインのネオ・ロアノークとして生きていたことにはびっくりだった。

 そりゃマリューさんだって泣くし、最愛の男から「俺、あんたのこと知りませんけど?」って真顔で言われたらショックだろうよ。

 後々になって、ミネルバのタンホイザーからアークエンジェルを守るためにアカツキのヤタノカガミで正面から受けた際に、"ムウ"としての記憶が蘇ったと聞いた時は何かの因果を感じたね、まさに『不可能を可能にする男』だ。

 

 ――後で知ったことだが、アニメの『SEED』がリアルタイムで放映されていた頃と、DVDとでは内容が若干異なり、ムウ・ラ・フラガのヘルメットが宇宙に漂っている場面が、大破したストライクの頭部に差し替えられていたので、リアルタイム放映中は、『ムウは本当に戦死する予定だった』という裏話(SEED〜SEED DESTINYのリアタイ放映中では急な予定変更が頻繁にあったらしい)があるのだとか――。

 

 まぁそれはそれとして、ストライク作ろーっと。

 キャプリケーション取りつつゼロモーメントポイントを再設定(略

 

 

 

 俺がエールストライクを完成させ、ついでだからとスミ入れペンを買ってきてスミ入れをしている頃には、ミカゲさんのグレモリーも完成、イツキのシェンロン――というかほぼアルトロン――も完成間近といったところまで来る。

 

「ふぅ……複雑そうな見た目してる割には、意外と簡単に作れるのね」

 

 無事に初ガンプラであるグレモリーを完成させ、ミカゲさんが一息ついている。

 

「お疲れさま。初めてだけど、ちゃんとよく組み立てられてるよ」

 

 マユちゃんがグレモリーの出来を見て褒めている。褒めて伸ばすタイプだなぁ。

 

「イツキー、そろそろお昼ごはんにしよっか」

 

 その向かい側、俺の隣席にいたイツキはというと。

 

「あー、もうそんな時間か。ま、あとは帰ってからやるかー」

 

 もう少しで完成といったところで切り上げなければならないので、渋々ながらもパーツを片付けていく。

 

「おっ、リョーのストライクもいい感じに出来てるな」

 

「スミ入れしただけだよ。せめて、エールストライカーの主翼ぐらいは部分塗装したかったなぁ」

 

 これ、シールだけじゃ黒部分を全部隠せないんだよな。どっかははみ出る。

 

 

 

 ガンダムベース内のガンダムカフェで食事をしつつ休憩、それも済んだあとは、お待ちかねのバトルだ。

 

 今回はミカゲさんのグレモリーの習熟がメインだが、同時にマユちゃんの新しいエアリアルのお披露目でもある。俺は今回はエールストライク、イツキもシェンロンとは違うガンプラでバトルだ。

 

 バトルブースに移動して、四人分の筐体を確保。

 

「ミッションモードでやろっか」

 

 マユちゃんがそう提案してくれた。

 ミッションモードと言うのは、ガンダム作品の劇中での戦闘を追体験するモードらしい。

 

 乱入を受け付けないように設定し、ミッションを選択。

 

「ミカゲちゃんのことも考えると、あんま難しいのはダメだよな」

 

「そうだね、だったら……これはどう?」

 

 イツキとマユちゃんが検討した結果、選ばれたミッションは『ジャブローに散る!【連邦軍シナリオ】』というタイトルだ。

 

 ジャブローの戦い、それも連邦軍サイドか。

 ちょいと敵の数が多そうだが……まぁ四人いるし、クリア出来んことはなかろうて。

 決定。

 

 バナパスを読み込ませ、ガンプラをスキャン、ゲートの中にスキャニングされたガンプラのデータが反映されていく。

 

 さすがにスミ入れしただけのエールストライクと、完成されたオリジネイトとじゃ性能差もある、勝手の違いに混乱しないように気を付けないと。

 

 出撃だ。

 

「オウサカ・リョウマ、エールストライクガンダム、行きます!」

 

「タツナミ・イツキ、『ドラゴンガンダム』、行っくぞー!」

 

「ミカゲ・トウカ、ガンダムグレモリー、出るわ」

 

「アサナギ・マユ、『ガンダムファラリアル』、決心解放(フィックスリリース)!」

 

 

 

 ゲートより発進し、広大な密林の中へ着陸する。

 

 イツキは……今回はドラゴンガンダムか。シェンロンといいドラゴンガンダムといい、ドラゴン好っきゃなー。

 

 ミカゲさんは先程に完成したグレモリー。

 

 そして、マユちゃんの、明るいカラーリングに塗装された新たなエアリアル――ガンダムファラリアル。

 ……なるほど、ファラクトの『ブラストブースター』とロングライフルの『ビームアルケビュース』を装備している辺り、機動性と射撃能力に特化させたカスタムだな。

 

「おぉー、マユの新しいエアリアル、なんかかわいいな!」

 

 イツキがファラリアルを見て、早速称賛している。

 

「えへへ、ありがと」

 

 マユちゃんとイツキがキャッキャウフフしているのを尻目に、ミカゲさんが通信を繋いでくる。

 

「敵はどこから?」

 

「まずは空から来るはずだ。輸送機に搭載されたMSが降りてくるんだ」

 

 ほら来たぞ、ガウ攻撃空母やらファット・アンクルやらが大量に。

 

 ジオンのMSが降下を開始していくが、何機かはジャブローの防空システムに迎撃され、撃ち落とされていく。

 

 そして、ザクⅡやグフ、ドム、それらの派生機やら何やらが、着陸――その数、30機くらいか。

 

「これ……ちょっと初心者にはキツくないかしら?」

 

 多数の敵対反応を見て、ミカゲさんが気後れしている。

 

「多いと言っても、大半は量産型だ。油断しなきゃそうそうやられないさ」

 

 マユちゃんとイツキにも通信を共有し、

 

「ミカゲさんのフォローは俺がやるよ。アサナギさんとイツキは思いきりやってくれ」

 

「分かった、頑張るね」

 

「ちゃんとミカゲちゃんを守ってやれよー?」

 

 マユちゃんは素直に頷き、イツキは意地悪そうに笑う。

 

「はいはい。ほら、来るぞ」

 

 木々の隙間からモノアイがいくつも現れる。

 

「よーし、行くぜー!」

 

 早速、イツキのドラゴンガンダムはビームフラッグ『フェイロンフラッグ』を抜き放って突っ込み、

 

「あ、ちょっとイツキ、待ってよ!」

 

 その後を慌ててマユちゃんのファラリアルが追う。

 

 さて、こっちはこっちでやるか。

 

 っと、こっちにはザクⅡが二機と、ジャイアントバズを装備したグフの一個小隊だな。

 

「俺がフォローに回るから、ミカゲさんは自由に戦っていい」

 

「自由にと言われてもね。じゃぁ、本当に自由にやるわよ?」

 

 するとグレモリーはバトルアンカーを肩越しに構えて突撃していく。

 ジャイアントバズの砲弾やザクマシンガンの銃弾を正面から受けながらも、全く怯まない。

 

「ふっ!」

 

 正面から突っ込み、大きく袈裟懸けにバトルアンカーを一閃、グフを左肩口から粉砕する。

 

 グフ、撃墜。

 

 残るザクⅡ二機も必死にザクマシンガンを撃ちまくっているが、ほとんどノーダメージ。百単位ある耐久値で、どう攻撃しても1ダメージしか入らないって感じだ。

 

 回避することもなくザクマシンガンを受け切り、接近してバトルアンカーで叩き潰す。まさに「突撃あるのみ」だな。

 

「やるじゃないか、ミカゲさん。俺のフォローもいらないくらいだな」

 

「こっちは必死にやってるつもりなんだけど……まぁ、難易度低めなら、これくらいなのかしら」

 

「まぁ、エース級はまだ出てきてないし、強い奴が出てきたら俺が対処するが」

 

 強いって言っても、シャアの赤いズゴックくらいだな。

 

 別の世界線だと、空からアプサラスⅢとアプサラスⅡが二機、合計で三機のアプサラスが、メガ粒子砲をバカスカ撃ってきてジャブローが地獄絵図になっていたからな……

 

 

 

 一方のマユとイツキの二人もまた奮戦していた。

 

「とりゃぁー!」

 

 ザクマシンガンの銃弾を掻い潜るドラゴンガンダムがフェイロンフラッグを一閃し、ザクⅡのボディを斬り裂く。

 

 ザクⅡ、撃墜。

 

 その横合いから、ドムがジャイアントバズを向けようとするが、上空からのビームにジャイアントバズを撃ち抜かれ、爆発する。

 

「狙い撃つ!」

 

 マユのガンダムファラリアルの、ビームアルケビュースを用いた狙撃だ。

 慌てて距離を取ろうとするドムだが、間髪無くもう一射、ドムの重装甲を正確に撃ち抜く。

 

 ドム、撃墜。

 

「リョーとミカゲちゃんの方は順調っぽいな」

 

 新手のゾゴックにはドラゴンクローを伸ばして噛み付き、ゼロ距離のドラゴンファイヤーで焼き払うイツキは、自分達とは反対側のエリアの敵対反応が着実に消えていくのを見て、マユにそう通信を繋ぐ。

 

「うん、向こうの心配はしなくていいかも。……ガンビット!」

 

 エスカッシャンをプラットフォームから分離射出、上陸してきたゴッグに無数のビームを浴びせつけて、河へ沈め返すマユ。

 

 リョウマのフォローのおかげもあるかもしれないが、トウカも善戦しているのだろう。彼女を勧誘しようと思ったリョウマは、実は慧眼の持ち主かもしれない。

 

 二人合わせて15機ほど撃破したところで、不意に通信が届く。

 ホワイトベース隊の一員という設定なのか、オペレーターの『フラウ・ボゥ』のボイスと顔画像が表示される。

 

『敵モビルスーツが、ジャブローの内部に侵入しています!至急、内部に侵入した敵機を撃破してください!』

 

 どうやら後半戦に移行するようだ。

 

「今度は内部だなー、シャアのズゴックが出てきそうだ」

 

「ジャブローに散る!の名シーンが見られるかも」

 

 迎撃に現れたジムを、シャアの赤いズゴックが瞬時に接近し、アイアンネイルの一撃で貫いて撃破、爆発と共に立ち上がり、それを見ていたアムロ・レイが戦慄するシーンのことだ。

 

 ともかくはプレイ進行に従って、マユとイツキはそれぞれガンダムファラリアルとドラゴンガンダムを反転させ、ジャブローの"入り江"に進入していく。

 

 

 

 フラウ・ボゥから「戻って来て」と言われたので、すごすごとジャブローの軍港に戻って来ている俺のエールストライクと、ミカゲさんのグレモリー。

 

 ナノラミネートコートの防御力に頼りながらも、ミカゲさんは難なくジオンの水陸両用機を薙ぎ倒していくので、俺はチマチマとビームライフルでザクⅡやドムを掃除していた。

 

 すると、NPCらしいジムが、ビームライフルを片手に勇躍し――その先に、『赤いズゴック』がいる。

 

 あっ……(察)

 

 お察しの通り、ジムの射撃を潜り抜け、アイアンネイルで一撃。

 

「赤い機体……パイロットは確か、アカイ・シュウイチだったかしら?」

 

「……シャア・アズナブルな。それは別の世界の別人だ」

 

 確かに担当声優は同じだけどさ。

 600m強の長距離にある小型盗聴器を正確にスナイピングしたり、1.2km離れた対岸で投擲された手榴弾を撃ち抜いたり、あの人もある意味人間の枠を超えてたなぁ。

 

 なんて余計なことを考えていたら、シャアのズゴックが躍り出て、腕部からメガ粒子砲を連射してきたので、エールストライカーの推力と合わせてジャンプして躱し、即座にこちらもビームライフルを撃ち返す。

 

『さらに出来るようになったな、ガンダム!』

 

 ビームを掻い潜るズゴックに、ミカゲさんのグレモリーが挑みかかる。

 

「えぇいッ!」

 

 しかし、大振りなバトルアンカーの一撃はひらりと躱され、ズゴックはすぐさま反撃に頭部のロケット砲を連射してきた。

 

「ぐっ、うっ……!」

 

 何発もの爆発を受けて、グレモリーが吹き飛ばされてしまう。

 

「ミカゲさんは一度下がってくれ!近くにゾック……緑色のデカい奴がいるはずだ!そっちを頼む!」

 

「りょ、了解……!」

 

 グレモリーは一度その場から離脱し、代わりに俺がズゴックの前に立ち、エールストライカーからビームサーベルを抜き放つ。

 メガ粒子砲を織り混ぜつつ接近してくるシャアのズゴックに、こちらもバルカン砲の『イーゲルシュテルン』で牽制、回避と防御で的確にメガ粒子砲を防ぐ。

 すかさず突き出されるアイアンネイルは、その場で右脚を振り上げて蹴飛ばし、間を置かずビームサーベルで斬り飛ばす。

 

『チィッ!』

 

 けれどシャアのズゴックは加速してそのまま頭突きを敢行してきた。

 

「くっ……!」

 

 腹部を強打し、機体が吹き飛ばされてしまうが、エールストライカーのスラスターを偏向させてすぐに体勢を立て直し、間髪なく襲いかかるメガ粒子砲をホバーするように躱す。

 シャアも迂闊に近付いてこないのか、頭部のロケット砲も駆使して射撃戦に持ち込もうとしている。

 

 さすれば!

 

 ロケット砲を躱し、そのまま壁際まで飛び下がると、エールストライカーの大推力と壁キックを用いた三角跳びで、壁、天井と跳び、一気にズゴックの正面に飛び込む。

 

『なんとっ!?』

 

 怯むシャアのズゴック。

 ここで素早くビームサーベルを突き出……

 

『ジオンめ!ジャブローから出ていけ!!』

 

 ホバークラフトのファンファン?

 っておぉいウッディ大尉ィ!?

 ちょっおまっ、今来んな、あっ……

 

 無謀にも突っ込んできたウッディ大尉のファンファンが、ビームサーベルを突き出そうとしたその合間に飛んできて、止められずに焼き貫いてしまった。

 

 ふ ざ け ん な !?

 

『冗談ではない!』

 

 冗談ではない!はこっちの台詞じゃこのマザコンシスコンロリコン変態仮面!!俺は悪くねぇ!原作通りに突っ込んできたウッディ大尉ご自身のせいです!!そもそもMS同士がドンパチやってる最中にファンファンで飛んで来んなし!!

 

 などと無駄に逆ギレしてると、

 

『私にプレッシャーを与えさせるとは、一体何者なのだ……?』

 

 シャアのズゴックが反転し、メガ粒子砲で岩盤を崩しながら撤退していく。

 

 チッ、ウッディ大尉が邪魔しなきゃシャアを討ち取れたものを……

 

 それを尻目に、シャアの援護に現れようとしたゾックに、ミカゲさんのグレモリーが容赦無く襲いかかる。

 

『シャア大佐はやらせん!ウオォォォォォーーーーーッ!!』

 

 ボラスキニフがゾックの持てる火力全てをグレモリーに向けて撃ちまくるものの、残念ながらビーム兵器である以上、ナノラミネートコートの前には全くの無力だ。

 

「NPCのボイスも本格的よね、臨場感がある」

 

 対するミカゲさんも慣れてきたようで、冷酷無比にバトルアンカーを振り下ろし、ゾックの前後対称の巨体を一撃の元に叩き斬る。

 

 ゾック、撃墜。

 

 ……ふぅ、シャアも撤退したし、あとは残存戦力の掃討だな。

 

 

 

 マユちゃんとイツキの二人とも合流し、抵抗を続けるジオンのMSを次々討ち取り、無事にミッションクリアだ。

 

「よーしっ、クリア!みんなお疲れー!」

 

 リザルト画面を前に、イツキが喜ぶ。

 

「うん、ファラリアルもいい感じだし、これで完成かな」

 

 マユちゃんもファラリアルの出来を確認して、それも良い結果になったようだ。

 

「初めてにしては、まぁまぁ戦えた方かしら」

 

 ミカゲさんも達成感のある顔をしている。

 

(俺がウッディ大尉を撃墜しなければ)上々の結果だろう。

 

 

 

 その後は、もういくつかミッションモードをクリアし、そろそろ夕暮れ時が近付いて来るを見計らって、今日はお開きだ。

 

 ガンダムベースを出て帰りの電車に乗り、夕陽が差し込む車内をガタンゴトンと。

 

「今日はどうだった?ミカゲさん」

 

 マユちゃんがミカゲさんに話しかける。

 一緒にグレモリーを作ったり、バトルでコミュニケーションを取ったり、今日でだいぶ打ち解けたのだろう。

 

「ふぅ……慣れないことの連続でちょっと疲れたけど、楽しかったわ。ありがとうね、アサナギさん」

 

 ゴシゴシとミカゲさんは瞼を擦っている。

 プラモ作りそのものも初めてで、アーケードゲームを嗜んでいるような人でもなさそうだし、今日は未知の体験に溢れた一日になったかもしれない。

 

「バトルもけっこう戦ってたし、これなら来週の地区大会も楽勝だな!」

 

 シェンロンの改造に集中し、バトルを何度もやったのに、イツキはまだ元気だ。みんな若いなぁ……今世の俺もまだピッチピチのDKなんだけど、この差はなんなんだ。

 

「素人に期待されても困るのだけど……あ、そうそう、みんなに言っておかないとならないことがあるの」

 

 ふと、ミカゲさんは何かを思い出したのか、俺達三人に向き直る。

 

「今の私のことは、学園では内緒にしておいてほしいの。「創響学園二年のミカゲ・トウカは地味子ちゃん」ってイメージを保っていたいから」

 

 行きの電車に乗っていた時に言っていたことの続きだ。

 今日にミカゲさんがお出かけしていた時も、彼女は『地味子ちゃん』のままにしておきたいのだと言うのだ。

 

「つまり、今日のミカゲさんと、学園でのミカゲさんは別人。そういうことだな」

 

 何もそこまでこだわる必要も無いとは思うが、ミカゲさんとしてはそうしたいと言っている以上、その意志を尊重すべきだろう。

 

「うん、分かった」

 

「いつも通りにしてればいいってことだろ?」

 

 マユちゃんとイツキも了承。

 

「サイキ先輩には、この事を話した方がいいかな?」

 

 マユちゃんは懸念点を挙げ、ケイスケ先輩にも共有すべきかと訊ねる。

 

「いや、今は言わなくていいだろう。その時が来たら、俺達から説明すればいい」

 

 ケイスケ先輩になら話してもいいとは思うが、どこから噂が漏洩するか分からない以上、こちらから話す必要はないだろう。

 もしそのことを問われたら、きちんと説明すれば分かってくれるはずだ。

 

「そっか」

 

「ありがとう、助かるわ。はぁー……、高校生になってから、初めて友達と遊んだわ」

 

 ……今、なんか聞いちゃいけないことを聞いた気がする。

 

「その、今日は私のガンプラを見繕いに行くって理由があったけど。これからは、特に理由が無くてもどこかに遊びに行く予定があったら……私も誘ってくれると、嬉しい」

 

 ちょっと恥ずかしそうに、視線を逸しながらはにかむミカゲさん。

 

「「!!」」

 

 それを見て、マユちゃんとイツキが驚愕している。俺もちょっとドキッときました。

 

「ミカゲさん、やっと笑ってくれた」

 

「すっげーかわいい!マジかわいーんですけど!」

 

「え……えっ?私、今日そんなに笑ってなかったの?」

 

 今日のミカゲさん、ずっと取り繕ったような顔しかしてなかったの、自覚無かったのか。

 

 まぁ、他者とのコミュニケーションを避けようと思えば、自然と表情筋も仕事しなくなるよな。

 だがその分、笑ってくれた時の破壊力は抜群だ。こんな美少女にこんな笑顔を見せられたら、男なら誰だって勘違いするだろう。

 

 マユちゃんとイツキから、かわいいかわいいと連呼されて戸惑っているミカゲさんを眺めつつ、最寄り駅の到着を待つのだった。




 今回登場のガンプラ、『ガンダムファラリアル』の画像や詳細設定はこちらです。ガンスタグラムへのジャンプです↓

https://gumpla.jp/hg/1668337


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5話 チーム・ビルドシンフォニー

 マユちゃん、イツキ、ミカゲさんとの三人と一緒にガンダムベースでお買い物したりバトルしたりした、その週明け月曜日。

 

 さてさて、残るところあと六日。

 今週日曜日に開催される地区大会で、目に見える結果を出してみせなければ、ガンプラバトル部は廃部になるかもしれない。

 

 だが慌てたところで何にもならん、幸いにも頭数は揃って出場は出来るのだから、あとはガンプラバトルにおける腕前や、チームの連携力を高めていくだけだ。

 イツキのシェンロンや、ケイスケ先輩のジム・キャノンIIも完成間近、明日明後日にも本格的な練習が始まるだろう。

 

 道は開けた、あとは進むだけだ。

 

 その一分後に突然黒服達が現れて銃撃され、ケイスケ先輩が撃たれて「だからよ……止まるんじゃねぇぞ……」なことにならなければいいのだが。

 もしそんなことが起きたら、マユちゃんのファラリアルが「や め な さい!!」とマニピュレーターを振り下ろして黒服達をプチっと潰し、美味しそうなトマトケチャップ()を作ってくれるだろう。

 

 いかん危ない危ない……考えがちょっと過激になっちゃった。

 

 そんなわけで、我々創響学園ガンプラバトル部は今日も今日とて楽しく粛々と活動していたのだが……

 

「おーっす、今帰ったぞー」

 

 ガラガラとスライドドアを開けて、部長会から帰ってきたケイスケ先輩。

 

「あ、おかえりなさい、サイキ先輩」

 

「お疲れさまでーっす!」

 

「……お疲れさまです」

 

 マユちゃん、イツキ、ミカゲさん(地味子ちゃんモード)が順に応じる。

 

 そして、

 

「どもっす、サイキセンパイ!」

 

 チユキちゃんまでもがガンプラバトル部の部室に居座っているのである。

 

「お、ウマノの妹さんか。今日はどうした、またリョウマに喧嘩でも売りに来たか?」

 

「失礼な!今日は普通にお邪魔しに来ただけっすよ!」

 

 よその中学生が高校の部活動にしれっと混じっているのもどうかと思うんだが……この分だと、チユキちゃんはこれからも頻繁にここに遊びに来るかもしれないな。

 

「まぁ、ガンプラバトル部の部長として、ダメとは言わねぇけど、先生方に見つかって怒られても自己責任だからな?」

 

「はーい」

 

 黙認。

 もしチユキちゃんのことで咎められたとしても、注意ぐらいで済むだろう。

 

「お疲れさまですケイスケ先輩。早かったですね?」

 

「まぁ、部長会って言っても大したこと話すわけでもねぇし、今のガンプラバトル部は特に注目されるようなこともしてねぇしな」

 

 気楽なもんだよ、とケイスケ先輩は部室を見渡す。

 

「アサナギにタツナミ、ミカゲ、チユキちゃん……いやー、それぞれタイプの異なる美少女が揃ってて、いい目の保養になるなぁ」

 

「おいみんな気を付けろ、ケイスケ先輩が野獣の目になっているぞ」

 

「待て待て待て、冗談だって。むさ苦しい男だけよりは、女の子もいた方が華があっていいのは本当だけどな」

 

 まぁそれはさておきだ、とケイスケ先輩は手を鳴らして注目させる。

 

「いよいよ、地区大会も目前に迫ってきているわけだが、俺達は今、一番重要なことを忘れていた」

 

「一番重要なこと、ですか?」

 

 マユちゃんがオウム返しに訊き返す。

 

「え?ミカゲちゃんが入ったから人数は揃ってるし、一昨日ガンプラ作ったし、なんも問題無くないすか?」

 

 イツキも心当たりが無いのか、小首をかしげる。

 

「……本当に重要なことなら、部室に来てすぐに伝えるべきでは?」

 

 ミカゲさんも『地味子ちゃんモード』のため、声のトーンを落として応じる。

 

「そこまで深刻な問題じゃねぇんだけど、チームとしては大事なことなんだよ」

 

「あー、そう言えばウチ、チーム名とか決まって無かったですね。その話ですか?」

 

 俺は何の気無しにそう言ったのだが、

 

「……お前な、そこは分かってても言わないのがお約束な」

 

 本当にその通りだったのか、ケイスケ先輩は肩を落として項垂れた。マジかよ。

 

「ったく、リョウマがネタバレしてくれやがったせいで全部台無しだ……はいはい、そんじゃ今からチーム名決めんぞー」

 

 急にやる気が無くなったな、ケイスケ先輩……

 

 

 

 とりあえずみんなでテーブルを囲んで、チーム名会議。

 

「チーム名、かぁ……どうしよっか」

 

 マユちゃんが真面目な思案顔で考える。美少女はどんな顔しててもかわいいなぁ。

 

「えー?ウチの学園の運動部ってどんなチーム名してたっけ?」

 

 イツキは既存の名前から流用するつもりらしいが、俺も知らないぞ、何せまだ転校してきて一週間しか経ってないんだから。

 

「……確か、サッカー部なら『創響ライオンズ』って名前だったけど、よその部と同じだとややこしくないかしら」

 

 けれどミカゲさんが冷静に切り捨てる。まぁ確かにライオンズって一括りにされてサッカー部と間違えられても困るしな。

 

「チユは正式な部員じゃないんで、チユが決めるのも……」

 

 チユキちゃんはあくまでもお客さんだ、部外者が旗の名前を決めるわけにはいかないだろう。

 

 うーん……過去の異世界転生における、魔法学園の対抗試合戦の時も、チーム名とか決めてたよな。でもアレって造語が多いから、現代日本で見たら「どゆこと?」ってなりそうだし……無難に考えるか。

 

「んーじゃ、せめてキーワードから決めようぜ?ゴージャスとか、ジャスティスとか」

 

 おいケイスケ先輩、なんだその、"カビ臭い"ネーミングは。

 

「ウチは貧乏だし、ゴージャスじゃないよなー」

 

 速攻でイツキが難を示した。

 

「ジャスティスは、ジャスティスガンダムと被りますよね?」

 

 マユちゃんも続く。

 

「おぉぅ……ド正論過ぎて文句も言えねぇ……」

 

 敢え無く撃沈するケイスケ先輩。

 

 ウチは創響学園だから、創、響……"創る"と"響く"か。

 ……安直過ぎるか?いや、とりあえずこれを挙げてみるか。

 

「創り響き合う……『ビルドシンフォニー』」

 

「創り響き合う?オウサカくん、学園名から取ったの?」

 

「安直過ぎるとは思ったんだが、俺はこれがいいと思う。アサナギさんはどうだ?」

 

「ビルドシンフォニー……うんっ、いいと思う」

 

 よし、マユちゃんから一票入りましたよ。

 

「あたしも一賛成だ!」

 

 間髪なくイツキからも一票。

 

「……悪くないと思うわ」

 

 うむ、ミカゲさんも一票。

 

「チユも一票入れますよ!」

 

 有効かどうかは微妙だがチユキちゃんも一票。

 

「よし、賛成多数で可決だな。俺達は、『チーム・ビルドシンフォニー』だ!」

 

 最後にケイスケ先輩が締めてくれた。

 

「んじゃ、このチーム名で地区大会に出場登録すっから、ちょっくら行ってくるわ」

 

 そう言って、ケイスケ先輩は部室を出た。

 部長会に行ったりチーム登録に行ったり忙しい人だな、ガンプラの完成は間に合うんだろうか?

 

「ビルドシンフォニーか……へへっ、なんか響きもカッコいいし、いいチーム名考えたよな、リョー」

 

 チーム名が決まってか、イツキは嬉しそうにはにかむ。なんだよかわいいなちくしょう。

 

「学園の名前を英読みにして繋げただけだって、そんな小難しいことを考えて思い付いたんじゃない」

 

「変に難しくないからいいんだろー?」

 

 まぁ確かに、やたらと長いと覚えてもらいにくいって言うのもあるんだけどさ。

 

「……喜んでいるところ申し訳ないけど。タツナミさん、あなたのガンプラは完成したの?」

 

 ふとミカゲさんが、俺も気にしていたことを訊ねてくれた。

 

「おぅよ!昨日、ちょうど完成したんだぜ!おかげで寝不足だけどなー……」

 

「だから今日はずっと授業中に船漕いでたんだね?」

 

 マユちゃんがツッコミを入れた。

 

 そう言えばイツキ、今日は頭がフラフラしてるなーって思ってたが、あれ寝そうになってたのか。

 

「今夜はちゃんと寝るんだぞ、イツキ」

 

「分かってるってば。ふぁふ……」

 

 言ってるそばから欠伸してらっしゃる。

 ちょっと待ってろよー、とイツキは鞄からケースを取り出してみせる。

 

「こいつがあたしのガンプラ、『ドラゴニックガンダム』だ」

 

 ケースの中から現れて、机の上に立つのは、濃淡二色の赤色が映えるカラーリング。

 

 代名詞とも言えるドラゴンハングは腕部からバックパックに移され、形状も大きく変わっている。

 具体的に言うと、アルトロンガンダム【EW】のドラゴンハングを背負っている形だ。

 アルトロンガンダムとしての面影は残しつつも、どこかネオチャイナ系の意匠も見られる。

 だからネーミングも『〇〇シェンロンガンダム』や『シェンロンガンダム〇〇』じゃない、オリジナルの機体名にしたのか。

 

「すごい、これもう全く別のガンプラだね」

 

 マユちゃんが真っ先にそう評する。

 

「へへーん、だろだろ?パーツも色々組み替えてさ、バランスを取るのも大変だったんだよ」

 

 確かに、脚部の形状はX100系――ストライクやデュエル、バスターの―フレームのそれに酷似しているし、腕部はガンダムフレームのパーツも使っているな。

 

「それで、早速試運転か?」

 

「うーん、そうしようと思ったんだけどなー……」

 

 すると、イツキは眠そうに目を擦る。本当に眠そうだな。

 

「……タツナミさん、少しでもいいから仮眠取ったら?」

 

 それを見兼ねたのか、ミカゲさんが助け舟を出した。

 

「あー、うん、ちょっと寝よっかな。30分くらい経ったら起こしてー……」

 

 そう言ってイツキは、椅子に座ってテーブルに上体を俯せると、

 

「くー……すー……くー……」

 

 即座に寝息を立て始めた。どこぞの射的と家出が得意なメガネ少年もびっくりな早さだ。

 

「え、もう寝ちゃったの?っていうか、熟睡してない?」

 

 イツキの寝付きの早さに、マユちゃんが驚愕している。

 

「このまま下校時間まで寝かせといてやろうか」

 

 下手な短時間で起こしても、却って身体が鈍くなるだけだ。

 よって、このまま部活終了まで寝かせることにして、俺は上着を脱いで、それをイツキの肩に掛けてやる。

 

 ケイスケ先輩にはRINEで、『イツキが寝ているので、帰ってくる時は気を付けてください』と伝えておく。

 

 さて、今日はバトルじゃなくて製作に費やすとしよう。

 

 

 

「ん……く、あぁ〜〜〜〜〜……っと」

 

 17時半頃になって、イツキはようやく起きてきた。

 

「おはよう、イツキ」

 

「あー……リョー?今、何時……?」

 

「17時半だな」

 

「えっ、一時間も寝てた!?なんだよー、30分くらいで起こしてって言っただろー?」

 

 ブーたれるイツキに、マユちゃんが苦笑しながら答えてくれた。

 

「だってイツキ、すごい気持ち良さそうに寝てたから、起こすのもなんだかなぁって」

 

「……おかげで私も、アサナギさんにスミ入れと艶消し処理を教えてもらえたわ」

 

 マユちゃんの隣の席から、ミカゲさんも頷いている。

 彼女のグレモリーは、アサナギさんのレクチャーによって、艶消しクリアーとスミ入れをされて、より完成度が増している。

 

 ちなみにチユキちゃんは、遅くまでいさせるわけにはいかないので、17時なった辺りで帰らせている。

 

「おぅ、ようやく起きたな」

 

 少し前に部室に帰ってきたケイスケ先輩も呆れている。

 

「タツナミも起きたところで、今日は解散だな」

 

「あー……もしかして、あたし待ちでした?」

 

「そゆこった。んじゃみんな、今日もお疲れさん」

 

 お疲れ様でしたー。

 

 

 

 ケイスケ先輩とミカゲさんとは校門前で別れ、マユちゃんとイツキとの三人で途中まで一緒に下校だ。

 

 いつもの地点でマユちゃんと別れるのだが、今日は少しだけ違った。

 

「わたし、この後で商店街の方に寄るところがあるから、今日はここで」

 

 今日のマユちゃんは寄り道の予定があるそうだ。

 

「そっか。んじゃ、また明日なー」

 

「アサナギさん、また明日」

 

「うん、ばいばい」

 

 互いに軽く手を振り合って、最後にイツキと二人で。

 

 そうしてしばらく歩いていたら、

 

「あっ」

 

 ふと、何かを思い出したのかイツキが足を止めた。

 

「そーいや昨夜使い切った塗料があったから、買い足そうと思ってたの忘れてた……リョー、今からダヤマ電機だ!」

 

「突然急にどうした。っていうか、今日は早く帰って寝るんじゃなかったのか」

 

 というか、さっき寝てたからそれで忘れてたのか。

 

「パッと買うだけだって。ほら行こーぜ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 イツキに手を引かれて進路変更、そのままダヤマ電機へ向かうことに。やれやれだぜ。

 

 

 

 ダヤマ電機に到着し、他のコーナーには脇目も振らずにホビーコーナーへ直行。

 イツキがお目当ての塗料を手に取って、早いところレジに向かおうとしたのだが、

 

「んん?なぁリョー、あれってシノミヤ副会長じゃね?」

 

「シノミヤ副会長?」

 

 不意にイツキが明後日の方向に目を向けたので、そちらへ倣ってみると。

 

 ケータイのコーナーの付近に、確かにシノミヤ副会長がいるが、なんか困ってそうな様子が。

 そして、それと対するのは三名ほどの、チンチンピラピラしたバカチンがいる。

 

 うむ、さすが主人公(おれ)、ヒロインのピンチに都合良く出くわしてしまう。

 

「副会長って美人だもんなー、あんな風に絡まれるのも無理もないか」

 

「学園でも色々苦労してそうだな」

 

 イツキは苦笑しているものの、こんな店内で堂々とヤろうってのか、いい度胸してんなー、あのトリオ。

 あ、その内の一人が距離を詰め始めた。

 

「お、おい、あれちょっとしつこくね?」

 

 周りの従業員の方々は見て見ぬふりをしてるし……俺の『困っている人をほっとけない病』が再発症してしまうじゃないか。

 仕方ない、ここはしれっと行くとしよう。

 

 のっそりのんびりと歩み寄って、

 

「グッドイブニングこんばんは、シノミヤ副会長。お買い物ですか?」

 

 アイアム通りすがりの転生者です。キリッ。

 

「あら……オウサカくん?」

 

「あ?誰お前」

 

 その場の四人の視線が俺に向けられますけど、その内の三人はスルッとスルーです、アウトオブ眼中。

 

「今日も学生会の業務ですか?こんな時間までお疲れさまです」

 

 俺と親しげな仲を見せるフリをしてください、と目線で訴えると、すぐに応じてくれた。

 

「えぇ、そうよ。学生会室の備品の買い出しに出ていたところなの。これからまた学園に戻るんだけど、荷物持ちしてくれるかしら?美人の先輩からの、お・ね・が・い♡」

 

 ばちこん、とウインクまでしてきた。

 あざとい!演技とは言え、なんちゅーあざとさだこの人!?

 

「ははっ、シノミヤ副会長のお願いじゃ、断れないですねぇ」

 

 さぁさぁ、「こいつら付き合ってんじゃね?」って勘違いしろ、そしてどこかへ失せろ可及的速やかに。

 

「おいてめぇ、何さっきから無視してんだ、あぁ?」

 

 ……そうは問屋が降ろさないかー。

 

「え?……あぁ、すみません副会長、先客でしたか?」

 

 驚いたようにバカチントリオに振り返って見せて、すぐにシノミヤ副会長に視線を戻す。

 

「彼らはお客様じゃないわ。それに全然私の好みじゃないもの。私の好みは……そう!オウサカくんのような優しい人よ」

 

 オゥッフ……演技でもそのお言葉は嬉しいけど、この状況じゃ奴らの下半身(意味深)を逆撫でするようなものです。

 

「ということであなた達、私にはお付きのナイト様がいるので、ご用はありません。補導される前に、早くお家に帰りなさい」

 

 早くお家に帰りなさいとか、完全に小学生低学年扱いである。

 

「こんのアマッ、黙って聞いてりゃ調子に乗んなやぁ!」

 

 あーもー、すぐ暴力でお話しようとするのは、『ざまぁ・もう遅い』される婚約破棄者のすることだぞぅ?

 とりあえずシノミヤ副会長に手を出そうとしてる奴をインターセプトし……

 

 と、思ったらその手を何者かが止めた。

 

「何 を し て い る」

 

 暴力の拳を取り押さえていたのは、黒髪ロングの美しい学生会長、ゴジョウイン会長だった。

 

「何すんだこ……いぎっ!?」

 

 ゴジョウイン会長の手が、バカチンの手首を握り締めているだけだが、相当な握力が加えられているのだろう。

 

「貴様、今私の大事な副会長に何をしようとした?今すぐ答えるならそちらの学校経由で親御さんに苦情の電話一本くらいで済ませてやらんでもない」

 

「ごっ、がっぁ!お、お、折れるっ、折れるぅっ!?」

 

「答えんと言うならそれでもいいぞ?喧嘩でもなんでも買ってやろう」

 

 アハハwアハハハハハwww

 ざまぁwwwもうwおwそwいwww

 心の中では草を生やしつつ、とりあえず調停者を気取っておこう。

 

「会長会長、その辺にしときましょうよ。店の中で騒ぎになったらまずいですし」

 

「うむ、君の言う通りだな。全く、手首を掴まれたぐらいで泣き喚くなどだらしない」

 

 ピーピー喚いてるバカチンをぽいっと放ってやるゴジョウイン会長。

 

「いやー、アマネの握力おばけは相変わらずね。リンゴどころか、そろそろカボチャくらい割れるんじゃない?」

 

「トモエ、余計なことを言うな」

 

 カボチャ割れる握力ってすげぇっすね?プロレスラーかな?

 

「け、喧嘩でもなんでもいいんだな?なら、ガンプラバトルでケリつけてやろうじゃねぇか!」

 

「「「は?」」」

 

 バカチンがワケワカメなことを言い出したので、思わず俺とシノミヤ副会長とゴジョウイン会長の声がシンクロしちまった。

 

「て、てめぇがさっき言ったんだろ、怪力女!喧嘩でもなんでもかっ、買ってやろうってな!」

 

 この状況で強気に出れるとか、マジでいい度胸してるわ、地味に称賛に値する。声上擦ってるけど。

 

「……ハァ、素直に普通の喧嘩にした方がまだ勝ち目はあったろうに」

 

 頭が痛い、とでも言うようにゴジョウイン会長は右手で額を押さえる。

 

「すまんトモエ、少しだけ待っていてくれ。すぐに"処理"する」

 

 あぁ、この人にとってこの程度のバカチンとのバトルは、『ガンプラバトルですらない』のか。

 だがまぁ乗りかかった船だ、首を突っ込んだ以上は最後まで付き合うとしよう。

 

「さすがに三対一じゃフェアじゃないでしょう、俺も加勢しますよ。イツキはどうだ?」

 

 事の推移を見ていたイツキにも声を掛けてやる。

 

「ぅえ?あたしも?」

 

「ほら、ちょうどいい"初陣"だろ?」

 

 初陣、と聞いて合点の入ったイツキは、ニッと力強い笑みを見せてくれた。

 

 というわけで、このお店のバトルブースを使ってガンプラバトルだ。

 

 

 

 バトル形式は3on3の殲滅戦。

 俺はオリジネイト、ゴジョウイン会長はゼイドラ・スタイン、そしてイツキは先程に見せたドラゴニックだ。

 

 ランダムフィールドセレクトは『ケネディポート』

 

 ここは確か……エゥーゴが戦力の一部を宇宙へ打ち上げるためのシャトルを発進させようとしたところで、連邦軍のブラン・ブルタークが襲撃を掛けてくるんだったな。

 ロベルト中尉……あの人の戦死は本当に残念だった。

 

 海に囲まれた港に、聳え立つシャトルが障害物になるフィールドになるようだな。

 

 出撃スタンバイ。

 

「オウサカ・リョウマ、オリジネイトガンダム、行きます!」

 

「ゴジョウイン・アマネ、ゼイドラ・スタイン、出るぞ」

 

「タツナミ・イツキ、ドラゴニックガンダム、行っくぞー!」

 

 

 

 アウドムラから出撃ということは、エゥーゴサイドだな。

 ここから、スードリから発進してくるバカチントリオのガンプラを迎え撃つ、と。

 

 着陸して間もなく、前方から敵対反応が急速に近付く。

 

 えーと、何々……エゥーゴカラーの『ガンダムMK-II』に、『ダブルオーライザー』に、『フォースインパルスガンダム』だな。

 エゥーゴカラーのガンダムMK-IIがシャトルを攻める側か、皮肉を感じざるを得ないな。

 

 と、言うか……なんか完成度が妙に高いな?

 

「あれは……全員RG(リアルグレード)か」

 

 ふと、ゴジョウイン会長がそう口にした。

 りあるぐれーど?

 あぁ、ガンプラのスケールの話か。

 ニュアンスを聞くところ、同じ1/144スケールでも色々と違うみたいだな。

 

「何が相手でも関係ないですって!会長とリョーとあたし、この三人なら無敵だー!」

 

 そう言うなり、イツキのドラゴニックは三叉のビームの双頭槍『ツインビームトライデント』を抜き放って、ガンダムMK-IIへ挑みかかる。

 

「あ、こらイツキ、一人で突っ込むな!すみません会長、彼女の援護に回ります」

 

 ウチの相方がすいません。

 

「構わない、好きにやってくれ」

 

 ゴジョウイン会長も特に気にすることもなく、ゼイドラ・スタインを加速させてダブルオーライザーへ向かう。

 となると、俺の相手はフォースインパルスか。

 

 向こうの三機も、一斉にビームライフルやらソードライフルを連射してくるが、牽制射撃だ、そう当たりはすまい。

 

 ロックオンマーカーをフォースインパルスに照準、こちらもビームライフルで応戦する。

 

 ……ん?ゴジョウイン会長のゼイドラ・スタイン、なんか動きが妙だな。

 

 右腕が動いてないというか、機体の挙動が左に傾いているというか。

 まさか?

 

「ゴジョウイン会長?まさかと思いますが、()()()()()()()()()()()()()?」

 

「あぁ、その通りだ」

 

 ゴジョウイン会長は敢えて向こうにも聞こえるようにオープン回線で応じてきた。

 

「向こうの一人、「右手を痛めているから負けた」と言い訳をする可能性がある。ならばこちらも右手を使わずに戦ってやれば対等だろう」

 

 機体の右半分を動かさずともダブルオーライザーを圧倒しているのはさすがと言うべきなのか。

 

「私のことは心配するな、そちらの相手に集中してくれ」

 

 左マニピュレーターにゼイドラソードを抜き、GNソードIIIを弾き返した拍子にそれを破壊しているので、こちらの援護は必要無さそうだ。

 

「了解しました」

 

『よそ見してんじゃねぇ!』

 

 おっと、フォースインパルスがビームライフルを納めて、フォースシルエットからビームサーベルを抜いて接近してきた。

 はいはいっと、こちらもビームサーベルで格闘戦に……してやるもんかよ。

 フォースインパルスがビームサーベルを振り上げた瞬間に、操縦桿を押し上げてオリジネイトを急加速させ、シールドからタックルを仕掛けて弾き返す。

 そこですぐに反撃せずに、回り込んで背後からビームライフル射撃、奴の機動力の要であるフォースシルエットを撃ち抜いて破壊する。

 

 本物のインパルスなら、シルエット装備を失っても、何なら五体が無くなっても、コアスプレンダーさえ生きていればすぐに母艦のミネルバから新しい装備が射出されて換装、そのまま継戦可能だが、残念ながらこれはガンプラバトルだ、途中で装備を換えるということは、少なくともこのルールのバトルなら出来ない。

 

 さて、フォースシルエットを破壊してただのインパルスになったので、慌てずにサクッと倒すとしよう。

 

 イツキの方は……

 

「おりゃおりゃおりゃぁー!!」

 

 ドラゴニックはツインビームトライデントを振り回して、ガンダムMK-IIに果敢に攻め立てている。

 敵のガンダムMK-IIもビームサーベルを抜いて応戦しているが、単純出力ならともかく、リーチや手数なら、ツインビームトライデントの方が上だ。

 その上からドラゴニックのバックパックから一対のドラゴンハングが縦横無尽に放たれる。

 あ、ドラゴンハングがガンダムMK-IIのシールドに咬み付いて粉砕した。

 

『クソッ、こいつら思ったより強ぇ!』

 

『こうなりゃ、アレを使うぞ!』

 

 おや?何だかインパルスの様子が変わったな。

 機体がなんとなく輝いて見える。

 

 見やれば、ガンダムMK-IIやダブルオーライザーにも同じような現象が。

 少なくともトランザムの類ではないな、なんだ?

 

「うっそ!?まさか、覚醒システム!?」

 

 ガンダムMK-IIを追い詰めていたイツキが何やら驚いている。

 

「覚醒システム?……違うな、擬似的なものを違法に組み込んだものか」

 

 ゴジョウイン会長がそう零した。

 覚醒システムとやらが何のことかは知らないが、どうやらバカチントリオのガンプラは、本来なら(恐らくレアケースだろうが)合法として存在するものを非合法な形にしてインストールさせているのだろう。

 

『さぁ、反撃といこうじゃねぇか!』

 

 残されたビームライフルとビームサーベルを手に、インパルスが襲い掛かってきた。

 ふむ、機体性能が上がっているらしい、先程よりも素早い。

 

 でもね。

 

「合法だろうが非合法だろうが、使い手が性能を引き出せなければな!」

 

 慌てずにビームライフルを躱し、ビームサーベルで斬り掛かろうとしてきたら、左マニピュレーターにハイパーバズーカを脇に抱えるように持ち、発射。

 放たれるロケット弾はその直前でビームサーベルで斬り落とされ、爆風を撒き散らす。

 まぁどのみち、VPS装甲に守られたインパルスにバズーカはあんまり有効じゃないんだが、爆煙で視界を妨げるのが俺の目論見だ。

 爆煙の中へ即座にビームライフルで狙い撃つ。

 

 しかし、バイタルパートへの直撃にも関わらず、インパルスのボディには被弾痕こそ見られるが撃破には至らなかった。

 

「ん?直撃したはず……」

 

『んなもんが効くかよ!』

 

 いや、効いてるでしょ。ダメージがちょっと通りにくいだけだ。

 接近してきたインパルスの斬撃を躱して真上を取ると、

 

「そうか。なら……」

 

 やることはひとつ。

 

「効くまで叩き込むだけだ」

 

 一発じゃ無理なら何発でも叩き込めばいいじゃない。

 インパルスの頭上からビームライフルとハイパーバズーカ、その上から頭部バルカンも連続で撃ち込む。

 

 砲弾、銃弾、ビームの雨に、さすがに違法強化されたインパルスと言えども耐えられるものではなく、粉々に爆散していった。

 

 インパルスガンダム、撃墜。

 

 さて、こっちは片付いたので、イツキのフォローに回るか。

 

 ゴジョウイン会長が相手していたダブルオーライザーは、どうやらトランザムも併用しているが、それでもなお会長は左腕だけで操縦しているようだ。

 

 一見、ダブルオーライザーがGNソードIIを両手に一方的に攻め立てているように見えるが、ゼイドラ・スタインはそれら攻撃を全て危なげ無く受け流している。

 

 するとやがてトランザムの限界時間を迎え、ダブルオーライザーはトランザム特有の赤い輝きを消失させ、挙動を鈍らせた。

 

「座興はもう終わりか?」

 

 そして、その時を待っていたと言わんばかりにゼイドラ・スタインは反撃を仕掛け、斜め上方から踏み付けるような飛び蹴りを繰り出す。

 ダブルオーライザーを仰向けに蹴り倒し、頭部を踏み潰すと、

 

「まぁ、何一つ面白く無かったが」

 

『あっ、あっ、や、やめ』

 

 何の容赦もなくゼイドラソードをバイタルパートへ突き込み、念入りに刳り抜いた。

 リアルだったらパイロットはミンチよりひでぇことになってるけど、違法なシステム使ってるっぽいし、下手すると復活とかも有り得るから、しっかり息の根を絶殺しておくのはある意味正しいか。

 

 ダブルオーライザー、撃墜。

 

 残るイツキはというと。

 

『ホラホラどうしたァ!』

 

「くっそっ、急に動きが……!」

 

 先程とは一転し、ガンダムMK-IIが攻め立て、ドラゴニックが防戦一方になっている。

 殊の外苦戦しているようだ。

 急いで援護に向かおうとするが、ゴジョウイン会長に「待て」と制止させられてしまった。

 

「任せてやろう。彼女が倒されたとしても、君か私で処理すればいい」

 

 なるほど、どの道もう勝ちは決まっているようなものだから、イツキが奴を倒せるかどうかを見てもいいわけか。

 

 負けるなよイツキ、この程度の"卑怯者"に遅れを取るお前じゃないはずだろう?

 

 

 

 ガンダムMK-IIが振り翳すビームサーベルの一撃をツインビームトライデントで受けるドラゴニックガンダムだが、機体出力も上がっているらしいそれは容易く弾き飛ばす。

 

「なんっ、だよ!インチキなことして!」

 

『インチキだろうがなんだろうが、勝ちゃいいんだよ!』

 

 勝てば官軍負ければ賊軍。

 なるほどそう言った意味では、インチキも正当な手段に成り代わるだろう。

 

 ――同じインチキな手段を用いた僚機が既に撃破されていて、負け戦同然の"詰み"状態なことには果たして気付いているのか――

 

 続けて放たれるガンダムMK-IIからのビームライフルに、ドラゴニックガンダムは回避しつつも左腕のシールドで受けるものの、違法強化された出力のビームは容易く装甲を破り、左腕もろとも突き破る。

 

 焦るイツキ。

 苦し紛れに右のドラゴンハングを放つが、それもビームサーベルによって斬り捨てられてしまう。

 飛び下がって距離を置こうとするが、その背後には発進準備中のシャトルがあり、ぶつかってしまった。

 

「ヤ、ヤバッ……!?」

 

『こいつで終わりだ!』

 

 突き出されるガンダムMK-IIのビームサーベル。

 ドラゴニックガンダムは咄嗟にツインビームトライデントを差し向けて受けようとしたが、やはりパワー差が大きく、ツインビームトライデントが弾き飛ばされてしまい――それはすぐ背後にあるシャトルに突き刺さり、シャトルは大爆発を起こす。

 

「うわぁっ!?」

 

『うおぉっ!?』

 

 ――このケネディポートの戦いが本物なら、シャトルを破壊された時点でエゥーゴの負けだが――

 

 シャトルの爆発がドラゴニックガンダムとガンダムMK-IIの両者を吹き飛ばす。

 

 吹き飛ばされながらも、イツキは姿勢制御してドラゴニックガンダムを立て直すが、

 

「(トライデントも無いし、ドラゴンハングも片方しか無い、どうすりゃいい……!?)」

 

 真っ当な攻撃では通じないのは、先程からの戦闘でも理解せざる得ない。

 そうこうしている間にも、ガンダムMK-IIも体勢を立て直したか、爆煙の向こう側から現れる。

 

『今度こそもらったァ!』

 

 迫るガンダムMK-II。

 

「(そうだっ、普通じゃ効かないなら……)」

 

 イツキの脳裏が閃く。

 閃くと同時に、残る左のドラゴンハングを放ち――しかしビームサーベルによってこれも斬り捨てられるが、

 

「そら今だ!」

 

 ドラゴンハングは囮、ガンダムMK-IIにビームサーベルを振らせ、僅かに生じた隙に、ドラゴニックガンダムは加速して跳躍、フライングボディプレスをするようにガンダムMK-IIへ飛び掛かり、押し倒す。

 

『このやろっ、無駄なあがき……!』

 

「そ、れ、をっ、よこせ!」

 

 ドラゴニックガンダムは右マニピュレーターをガンダムMK-IIのバックパック、正確にはそこにマウントされているビームサーベルを奪い取り、即座にビーム刃を発振、ガンダムMK-IIの肩口からボディへ押し付けた。

 

「自分の武器なら、効くだろ!!」

 

 違法強化された機体の、違法強化された武器ならば効くだろう、というイツキの目論見は、成功したのだ。

 

 ガンダムMK-II、撃墜。

 

『Battle ended!!』

 

 

 

 途中でイツキが苦戦したけど、結果としては俺達の完勝。

 

 いつの間にか筐体の周囲にはギャラリーが囲っており、勝った側の俺達三人に喝采を浴びせてくれる。

 官軍賊軍に関係無く、そもそも一方的な逆恨みでバトルをけしかけたバカチンどもにはブーイングすらも無く、バカチンどもは悔しげに逃げて行った。ざまぁ。

 

「はー……あっぶねー。なんとか勝てた……」

 

 ギリギリの辛勝に、イツキは脱力するように息を吐いた。

 

「お疲れさん。勝てたから良かったじゃないか」

 

「リョーと会長は余裕だったじゃん。なんかあたしだけ足引っ張ったみたいだー」

 

 ブーたれるイツキ。

 その隣では、シノミヤ副会長がゴジョウイン会長の勝利を称えている。

 

「お疲れさま、アマネ」

 

「すまんトモエ、本来ならもう20秒は早く処理出来たはずだった」

 

「利き手封印で、しかも相手は反則技でしょう?」

 

「それでもだ。オウサカと共に戦えると思って、少し浮かれてしまったな」

 

 そうそう、その、"反則技"について知りたかったんだ。

 ゴ"ジョウイン会長なら知ってるかもしれない。

 

「ゴジョウイン会長、さっきのアレ、何かご存知ですか?」

 

 そう訊ねてみると、ゴジョウイン会長は難しそうに眉をひそめて、言葉を選ぶような間を置いてから答えてくれた。

 

「ガンプラバトルシミュレーターには、『覚醒システム』というものがある。曰く付きだが、一時的にガンプラの性能を飛躍的に高めるというものだ」

 

 何それ、公式が認めたチートじゃん。

 

「けれど、誰にでも簡単に使えるものではない、と?」

 

「そうだ。覚醒システムは、ごく限られた、"システムに選ばれた者"しか使うことが出来ないし、その選ばれる資格や理由なども全く不明。言うなれば、システムのブラックボックスそのものだ」

 

 ……アレかな、『主人公』の"ご都合主義"のために作られた"設定"だろうな。

 

「だが、先程の奴等のガンプラに、それと酷似した状態が見られた。奴等が"選ばれた者"とは思えない以上、考えられるケースは、不正なシステムを使った違法強化だろう。私も、個人戦の部の全国大会でそういった輩と戦ったことがある」

 

 尤も、そのような反則技を使ったその相手は直後に失格、以降の大会参加が不可能になったのだとか。

 

「はぇー……そんなのがいるんすねー」

 

 隣で聞いていたイツキが、目をパチクリさせている。

 

「勿論、あくまでも違法なものだ。オリジナルの覚醒システムほどの恩恵は得られないとされているが、私達の間ではそういった違法強化状態のことを『疑似覚醒システム』と呼称している」

 

 ようするに公式が認めたチートのパチモンってことね。

 

「君達も、見知らぬ相手とバトルをする際に、そういったこともあるということを覚えておいてほしい」

 

 ほーい。

 

「っと、すっかり遅くなっちゃったわね。アマネ、そろそろ帰りましょうか」

 

「そうだな。オウサカ、タツナミ、巻き込んでしまってすまなかったな」

 

 そう言えば学生会室の備品の買い出しに来てるって言ってたな。

 

「お気になさらず。俺達も帰りますけど、先輩たちもお気を付けて」

 

「お疲れさまっした!」

 

 忘れそうになってたけど、イツキも買おうとしていた塗料を改めて購入して、改めて帰宅だ。

 

 

 

 その日の夜。

 

 RINEのグループトークの、『ビルドシンフォニー』のグループでは、俺とイツキ、ゴジョウイン会長のバトルについての話題で一喜一憂している。

 メンバーさんは、リョウマ(俺)、マユ(マユちゃん)、イツキ、トウカ(ミカゲさん)、ケイスケ(ケイスケ先輩)の五人だ。

 

 

 

 ケイスケ:なるほど、俺も噂程度には聞いてたけど、知り合いが被害に遭ったのは初めてだな

 

 マユ:サイキ先輩は知っていたんですか?

 

 ケイスケ:噂程度な。ガセか何かと思ってたよ

 

 イツキ:でも、今日はマジでそんなんがいたんだよ。チートごときに負けてて、ビルドシンフォニーのメンバーが務まるかってんだ

 

 トウカ:ゲームってそういうチートとかが横行するってよく聞くけど、本当に実在するのね。

 

 リョウマ:今回のは単なる性能強化だけだったけど、もしかするとこの先、もっと質が悪い疑似覚醒システムが出てくるかもしれない

 

 マユ:なんか怖いね……そんなのが近くにいるとか

 

 イツキ:大丈夫、その時はあたしがマユを守ってやるぜ

 

 ケイスケ:タツナミが男前でイケメン過ぎるwww

 

 イツキ:誰が男前ですかい!!

 

 マユ:www

 

 トウカ:草。

 

 リョウマ:除草剤推奨

 

 ケイスケ:そんじゃそろそろ夜も遅いし、そろそろ寝るんだぞー

 

 マユ:おやすみなさーい

 

 イツキ:(寝落ち)

 

 トウカ:お疲れさまでした、おやすみなさい。

 

 リョウマ:おやすみなさい

 

 

 

 トークも終了したところで、俺もそろそろ寝るとしよう。

 

 しかし、疑似覚醒システムか。なんとも物騒だな。

 そういうものを蔓延させている組織があって、それを根絶するために戦う……みたいな展開がありがちだけど、今世くらいはそんなドンパチとは無縁でいたいなぁ。

 

 いや、それよりも目前に迫る地区大会だな。

 

 俺はオリジネイト、マユちゃんはファラリアル、イツキはドラゴニック、ミカゲさんはグレモリーと来て、残るはケイスケ先輩のジム・キャノンIIだけだ。

 

 けっこう時間を掛けて改造してるみたいだし、期待してもいいかもな。

 

 ぼんやりと眠気が来たので、大人しく眠りについた――。




 今回登場のガンプラ『ドラゴニックガンダム』の画像や詳細設定はこちらです(ガンスタグラムへのジャンプです)↓

https://gumpla.jp/hg/1683776


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6話 開幕、地区大会

 イツキのドラゴニックガンダムが完成してから。

 今週日曜日に開催される地区大会に備え、俺達チーム・ビルドシンフォニーは地道な練習を繰り返していた。

 ある日いきなり突然強くなるなんてのは未来世紀のガンダムファイターぐらいにしてほしい。

 

 まぁそんなわけでケイスケ先輩のガンプラも無事に完成し、五人チームでチーム戦の練習をしたりもしたわけで……

 

 そしていよいよ、地区大会の日がやって来た。

 

 駅前広場で一度集合してから会場に向かうため、最初に俺とイツキが二人で到着し、その後でマユちゃん、ミカゲさん(美少女モード)と続き、残るはケイスケ先輩だけだ。

 

「ついにこの日が来たね……」

 

 マユちゃんは緊張しながらそう呟く。

 

「そんな気張らなくたっていいだろー?やることはやった!あとはぶつかるだけだ!」

 

 反対にイツキは気合十分だ。

 

「緊張し過ぎても、気合が入り過ぎても、最後まで保たないわよ」

 

 どちらでもない、ミカゲさんは至極冷静だ。

 この一週間で、ミカゲさんの実力は見違えるほどに高まっている。

 具体的には、模擬戦でイツキと真っ向から接近戦になっても長時間粘り、回数は少ないながらも勝利しているのだ。

 防御力の高いグレモリーに、冷静な性格のミカゲさんの性質は、予想以上にマッチしているようだ。

 

「まぁ、やること自体はいつもと同じだからな」

 

 俺も気負わない言葉を口にしておく。

 大丈夫大丈夫、これから寡兵で大軍相手に戦うようなムリゲーをしに行くわけじゃないから、余裕余裕、超余裕。

 

 集合時間の余裕は十分にあるので、のんべんだらりとケイスケ先輩を待つこと数分ほど。

 

「っと、もう来てたか。待たせたなっと」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 最後に、引率者かつリーダーのケイスケ先輩が来た。

 四人でおはようございますの挨拶を交わして。

 

「いやー、とうとうこの日が来たな。……ところで、このお嬢さんは

どちらさん?」

 

 ケイスケ先輩はミカゲさんを見てそう訊ねた。

 ……あ、そういえばケイスケ先輩の知ってるミカゲさんは、地味子ちゃんモードの時だけか。

 

「サイキ先輩、ミカゲさんですよ、ミカゲ・トウカさん」

 

 マユちゃんがそっと教えてくれる。

 

「え?いやいや、ミカゲってもっと……、……はぁ!?マジ!?」

 

 予想通りの反応をしてくれた。

 

 ミカゲさんの"諸事情"について説明すると、ケイスケ先輩は「あー……まぁ、それならしゃーねぇか?」と納得してくれた。

 

 人間、ちゃんと話せば分かるのに、張り合うことばかり考えて、話を聞こうともしないから、拳で語り合うしかないってハッキリ分かんだね。

 

 

 

 電車に揺られること十数分。

 地区大会の会場に到着し、手続きやら何やら通して、会場内へ。

 いいね、こういう「これから戦いが始まるぞ」って感じのピリついた空気感。

 

「オウサカくん、あんまり緊張してないね?」

 

 ふと、マユちゃんが俺に話しかけてきた。

 

「ん?俺としては適度な緊張は保っているつもりだぞ?ミカゲさんも言っていたが、張り詰め過ぎても疲れるし、だからってヘラヘラしてるものも、相手はともかく身内のみんなには不快だしな」

 

 変にチャラくして、周囲から「治安の悪そうな破落戸集団」とか思われるのも嫌だしなぁ。

 

「適度な緊張感かぁ……わたし、こういう大会に出るのって初めてだから、気を抜いたら膝が震えそう」

 

 よく見ると、肩に力が入り過ぎているし、顔もどことなく強張っているように見える。

 軍隊とかなら、「縮こまっとるぞぉ、しっかりせい」って言いながら股間を握って緊張を解してやれるんだが、さすがに女の子にそれをやったらセクハラモノだ、警備員のお世話になりかねん。

 

「大丈夫だ、俺達ならやれる。イツキなんか見てみろ、これからガンダムファイトでも始めるのかってくらい自信満々だぞ?だからアサナギさんも、もっと自分に自信を持って良いんだ」

 

 うーん、もっと気の利いたことを言えればいいんだが、生憎俺は演技は出来ても、口はあまり上手い方じゃないんだよなぁ。

 それでもマユちゃんにはそれなりに効果があったらしく、彼女の顔の強張りが弱まっている。

 

「オウサカくん……うん、ありがと。おかげで、気が楽になったかも」

 

「どういたしまして」

 

 まぁなんでもいい。マユちゃんの戦意が保たれるなら、俺の下手くそな言葉も意味があったというものだ。

 

 

 

 抽選によるトーナメント表が決められ、創響学園チーム・ビルドシンフォニーと最初に当たるチームを確認する。

 

「公立定丹瑞(ていたんず)高校『チーム・タイタンズ』。毎年地区大会の優勝候補の一角と数えられるエリートチームだな。こりゃいきなり強敵と当たっちまったか」

 

 抽選を受けたケイスケ先輩は苦々しそうに眉をしかめる。

 エリートチームねぇ。どのくらいのレベルかは分からないが、優勝候補の一角ともなればそれなりに強いだろうな。

 ケイスケ先輩がちらりと向けた視線の先には、濃紺の制服に黄色い『T』の字を鳥のようにあしらった校章が目立つ、(なんか見覚えのある)やたらとキャラの濃い集団が見える。……つーか、あの人らほんとに高校生?

 

「ここが汚名挽回のチャンスってな!」

 

 特徴的な金髪をした、向こうのチームの一人がそう宣っているが、汚名を返上するんじゃなくて挽回するのか。ご苦労なことだな……

 

 

 

 開会式を終えれば、いよいよトーナメントの開始だ。

 

『創響学園チーム・ビルドシンフォニー、定丹瑞高校チーム・タイタンズ、両チームは、第三バトルブースで準備をお願いします』

 

 アナウンスが流れ、ぞろぞろと第三バトルブースへ向かう。

 始まる直前に円陣を組み、ケイスケ先輩が部長らしく檄を飛ばす。

 

「いよいよ俺達の初陣だ。勝ち抜かなきゃ廃部になるかもしれねぇが、何も気負うことはない。俺達なら勝てる、そんだけだ」

 

「「「「はい!」」」」

 

「よぉし、んじゃぁ行くか!」

 

 気合十分、俺達は勇ましく筐体へ向かう。

 

 

 

 ランダムフィールドセレクトは『ドルトコロニー宙域』

 

 ここは、P.D.(ポスト・ディザスター)のコロニー群のひとつだな。

 労働者のデモ隊とアナルホルン……ギャラルホルンとの武力衝突(とは名ばかりのアリアンロッドとノブリス・ゴルドンによるマッチポンプ、つまりは虐殺)で市街地がドンパチやってる真っ最中に、フミタン・アドモスを説得させてそのままクーデリアと一緒に脱出するのは本当にクソゲーだった。

 なんだって自殺願望のある人を抱えながらMW(モビルワーカー)が対人火器ブッパしてる中を潜り抜けて、そこから抜け出してもノブリス(金満ヒットマン)の刺客が狙撃しまくってくるとか生きた心地しなかったんだけど、ここでフミタンを生存させておくことで、彼女を操っていたノブリスを逆にコントロールし、クーデリアにも余裕が生まれてより強かになるんだよな。

 

 ガンプラバトル上ではテレビ局の宇宙船が障害物として存在する以外では、シンプルな宇宙フィールドのようだ。

 

 バナパス読み込ませてーの、ガンプラスキャンしてーの。

 

 さぁ、行くぜ。

 

「オウサカ・リョウマ、オリジネイトガンダム!」

 

「アサナギ・マユ、ガンダムファラリアル!」

 

「タツナミ・イツキ、ドラゴニックガンダム!」

 

「ミカゲ・トウカ、ガンダムグレモリー」

 

「サイキ・ケイスケ、『ジムカラミティ』!チーム・ビルドシンフォニー、出るぞ!!」

 

 

 

 ゲートから順に出撃してきて、まずはフォーメーションを組む。

 

 俺、イツキ、ミカゲさんの三人が前に出て、その後ろをマユちゃんとケイスケ先輩が後押しする形だ。

 

「牽制射撃します」

 

 早速、マユちゃんのファラリアルはビームアルケビュースを構えて、前方へ狙い撃つ。

 宇宙の彼方へビームのが吸い込まれ――しかし撃墜反応はない。

 

 その即座に、前方より敵対反応が多数接近。

 

 ジ・Oにパラス・アテネ、バウンド・ドック、ハンブラビ、ガブスレイ……見事にティターンズ系ばっかだな!

 しかしその内の三機は可変機か、意外と機動力の高いチームだ。

 これらの編成を前に、ケイスケ先輩はすぐに指示を飛ばしてくれる。

 

「アサナギは回り込んでパラス・アテネをマーク!タツナミとミカゲは手当った奴に張り付け!リョウマ、遊撃は任せるぞ!」

 

 指示を飛ばした後、ケイスケ先輩のジムカラミティは、バックパックの大型ビームキャノンを前方へ向けて発射、突撃してくる可変機三機を散開させる。

 

「よーっし、行っくぜー!」

 

 イツキのドラゴニックは左サイドスカートからツインビームトライデントを抜き放ち、プロペラのごとくブンブン振り回しながら突撃、ハンブラビへ迫る。

 

「なら私は……あの虫のような機体を」

 

 一方のミカゲさんのグレモリーは虫のような機体――MA形態のガブスレイをマーク、接近を試みている。

 となると、俺はバウンド・ドックだな。

 中距離からビームライフルで牽制、しかしMA形態のバウンド・ドックは素早い機動でビームを掻い潜りつつも、向こうもビームライフルを撃ち返してくる。

 

『そんなことじゃ、このバウンド・ドックは墜ちないぜ!』

 

 この声……さっきの汚名挽回くんだな。

 バウンド・ドックはMS形態へと変形、MA形態のそれとは打って変わった左右非対称の異形と化す。

 ……こうしてみると、バウンド・ドックってけっこうでかいな。確かグリプス戦役中じゃトップクラスの全高、27mくらいはあるんだっけか。

 

 あちらはビームサーベルを左マニピュレーターに抜いて迫ってきたので、こちらも同じく左マニピュレーターにビームサーベルを抜いて対抗だ。

 

 メガ粒子のサーベル同士が斬り合い、弾き返す。

 

 ――しかしなんだろうな、バウンド・ドックの姿を見ていると、奇妙な既視感を覚える。

 なんかこう、以前にもこうして戦ったことがあるような……あの時俺が使っていたのはガンダムAGE-2だっけ?……違うな、SDのガンダムアルテミー?いやこれも違う……

 

 まぁいいか、憑依する前のこの身体の記憶だろう、気にすることもない。

 それより今はバトルに集中しよう。

 

 

 

 ケイスケのジムカラミティは、敵リーダー機らしいジ・Oとパラス・アテネの両方に砲撃を行っていた。

 ビームキャノンを大型化し、ジムライフルの代わりにハイパーバズーカを装備、シールド裏に二門のビームガン、さらには胴体部のチョバムアーマーにはメガ粒子砲を内蔵したそれは、カラーリングも相まって、機体名の通り、『カラミティガンダム』を思わせる姿だ。

 多数のビーム砲を搭載したそれらは、火力重視のカスタムであり、単騎で複数の敵機を同時に砲撃可能な機体でもある。

 

「喰らいやがれ!」

 

『墜ちろ、カトンボ!』

 

 対するジ・Oは、重厚な見た目に反した素早い機動で多数のビームを掻い潜りつつ、ジムカラミティへ接近する。

 そのジ・Oの後ろからも、パラス・アテネが連装ビームガンで支援射撃を重ねて来る。

 しかし援護を行ってくれる存在がいるのはケイスケも同じだ。

 

「ガンビット!」

 

 マユのガンダムファラリアルは、エスカッシャンを分離させた多数のビーム砲を自身の周囲に展開、手数で対抗する。

 

 濃密な弾幕に、さすがのジ・Oも迂闊に近付けずに一度距離を取りつつビームライフルを撃ち返してくる。

 

 互いに距離を話しつつの中距離射撃戦へ縺れ込む。

 

 しかしパラス・アテネの火力は脅威であり、肩部の拡散ビーム砲や、シールドミサイル、さらに背部には大型ミサイルも備えている、歩く武器庫とも言うべき武装群。

 正面火力のぶつけ合いならば、ジムカラミティと言えども引けを取らざるを得ない。

 故に、ケイスケとマユは少しずつ押されつつある……『ように見せかけていた』

 

「サイキ先輩」

 

「おぅ、タイミングは任せるわ」

 

 そっと接触通信でコンタクト。

 近くに、テレビ局の宇宙船が浮かんでいるそこまで後退……という"誘い込み"。

 

『敵は及び腰……一気に押し込む!』

 

 パラス・アテネは持てる火力を的確に使い分けつつ、ジムカラミティとガンダムファラリアルへ距離を詰めていく。

 そのグラスグリーンの巨躯がテレビ局の宇宙船の近くを通過しようとした時、

 

『ムッ、いかん!そこから離れろ!』

 

 同じように追い込もうとしていたジ・O、しかし不意にパラス・アテネに制止を呼び掛けるが、

 

 それは既に遅かった。

 

「今っ、コラキ!」

 

 すると、宇宙船の陰から突然、多数の円盤状の物体が飛び出し、パラス・アテネの周囲を取り囲むと、一斉に赤いレーザーを照射する。

 

 途端、パラス・アテネはその動きを止めてしまい、棒立ちになってしまう。

 

 ガンダムファラクト特有のガンビット――コラキが放つレーザーは、装甲を破壊するほどの出力を持たない代わりに、レーザーの接触部位の機能を一時的に遮断する効果を持つ。

 

 マユはジ・Oとパラス・アテネと交戦する前に、テレビ局の宇宙船にコラキを隠しておき、敵機がそこへ近付いて来たところをコラキで取り囲ませたのだ。

 

 最初にエスカッシャンによる派手なビーム射撃を連発していたのは、エスカッシャンに注意を向かせて警戒させ、ここぞというところで潜ませていたコラキが牙を剥く、というもの。

 

 二種類のガンビットを使い分ける、マユの策。

 残念ながらジ・Oの使い手は寸前に罠に気付いてしまったようだが、これでパラス・アテネは確実に撃破出来る。

 

「よーくやった、アサナギ!」

 

 マユの策に、予め腹部のメガ粒子砲のチャージを完了させていたケイスケは、すぐさま砲口をパラス・アテネへ向けて、発射。

 ジェネレーターに直結している火器のため、連射は効かないもののその分単発の破壊力は随一、動けないパラス・アテネのボディを確実にぶち抜いてみせた。

 

『男たちって、ガンプラバトルばかりで……だからあたしは!』

 

 パラス・アテネ、撃墜。

 

 

 

 バウンド・ドックを相手に、一進一退の攻防を繰り広げる俺、つまりオウサカ・リョウマ。

 

『墜ちろォ!』

 

 距離を取ったと思えば、バウンド・ドックは右腕のアームカバーの砲口から拡散メガ粒子砲を放ってくる。

 これはさすがに潜り抜けられない、一度引けを取るしか。

 

「オウサカくんっ、ごめん抜けられた!」

 

 不意にミカゲさんの焦る声が通信に届き、瞬時に状況把握。

 

 どうやら、ミカゲさんと戦っていたガブスレイがこちらに向かってきている。 

 

『やらせはしない!』

 

 MA形態のガブスレイの速度に、グレモリーでは追い付けない、瞬く間に距離を離している。

 

 ふむ、バウンド・ドックと挟み打ちだな、ガブスレイもフェダーインライフルを撃ちまくって来ている。

 前後からのビームを躱しつつーの、と。

 

 ガブスレイは俺を通過すると、そのままバウンド・ドックと並んでMS形態へと変形、すぐさま連携を固めてくる。

 

 一歩遅れて、ミカゲさんのグレモリーが到着。ガブスレイとの戦闘で少し損傷しているが、問題なさそうだ。

 

「ミカゲさん、イツキは?」

 

「タツナミさんなら、向こうで善戦しているわ」

 

 見やれば、猛攻を掛けるハンブラビに、なんとか喰らいついているドラゴニックだが、このまま任せっきりはまずいだろう。

 なら、まずはバウンド・ドックとガブスレイをなんとかするか、っと、向こうから撃ってきた。

 素早くグレモリーが前に出て、ナノラミネートコートで弾き返してくれる。

 

「よしっ、ミカゲさん、突っ込んでくれ」

 

「了解」

 

 そのまま、グレモリーを盾にするように一緒に突撃。

 向こうのバウンド・ドックが前に、ガブスレイが一歩後ろにつく。

 そう来るなら……

 

 ギリギリまで接近し、バウンド・ドックの右腕のクローアームがグレモリーに襲い掛かる。

 そうだろうよ、バウンド・ドックの武装でナノラミネートコートを破るにはそれしか無い。

 

 だからこそ、

 

「今だ!」

 

 瞬間、操縦桿を跳ね上げて、グレモリーのナノラミネートコートを踏み台にするようにして跳躍、バウンド・ドックの真上を取る。

 同時に、俺が踏み蹴ったことでグレモリーもバウンド・ドックのクローアームから逃れる。

 

『何っ!?』

 

 オリジネイトとグレモリー、どちらに意識を向けるかに一瞬でも判断に迷うだろう。それが俺の狙いだ。

 ビームライフルを手放し、ビームサーベルを両手で握りしめ、喰らえっ、一・刀・両・断ッ!!

 

 振り降ろすビームサーベルは、バウンド・ドックの頭部からスカートまでを真っ二つに斬り裂いた。

 

『貴様はっ、俺のォォォォォ……ッ!!』

 

 俺の……なんだよ、何もしてないだろうが。

 

 バウンド・ドック、撃墜。

 

『よくも!』

 

 バウンド・ドックの撃破に、ガブスレイがフェダーインライフルの銃床からビームサーベルを発振させて突撃してくるが、

 

「させないわよ」

 

 その前にミカゲさんのグレモリーが俺との間に割って入ってインターセプト、機体ごと突進してナノラミネートコートで銃剣ビームサーベルを弾き返す。パワープレイだなぁ。

 仰け反ったガブスレイに、容赦なくバトルアンカーをボディに叩き込んだ。

 

『守ってみせるって、言ったのに……』

 

 ガブスレイ、撃墜。

 

「ナイスだ、ミカゲさん」

 

「どういたしまして……次はどうすればいい?」

 

「なら、イツキの援護に向かってくれ。俺は先輩とアサナギさんの方に行く」

 

「分かった」

 

 ミカゲさんにハンブラビの方へ向かってもらい、俺はジ・Oの方へ急ぐ。向こうの指揮官機はかなり強いようで、二人がかりでも苦戦している。

 

 

 

 

 

 イツキのドラゴニックガンダムは、ハンブラビの狡猾で執拗な猛攻に善戦していたものの、形勢が傾きつつあった。

 

「くっそーっ、このっ、強い!」

 

『ふははははは!墜としがいのありそうな奴だ!』

 

 ハンブラビのビームサーベルに対して、ツインビームトライデントで対抗し、弾き返してすぐに反撃するものの、ハンブラビは流れるようにMA形態へ変形して、即座にドラゴニックガンダムから逃れると、すぐに反転、背部一対のビームライフルを連射してくる。

 これに対してドラゴニックガンダムは、その場でツインビームトライデントを高速回転させ、ディフェンスロッドのごとくビームを弾き返してみせる。

 ビームを凌ぎ、すぐさまバックパックのドラゴンハングを伸ばし、ハンブラビを捕らえんと文字通り牙を剥く。

 しかしハンブラビはその場で蜻蛉返りをするようにドラゴンハングを躱すと同時にMS形態へと変形、左マニピュレーターに握っていた橙色のソレを射出、ワイヤーに繋がれたソレは伸び切ったドラゴンハングのアームブロックに巻き付く。

 

『そぉら、海ヘビを喰らえぃ!』

 

 瞬間、巻き付いたソレ――海ヘビは高圧電流を発し、瞬く間にドラゴンハングを通じてドラゴニックガンダムへと電撃を喰らわせる。

 

「うわわっ……!」

 

 ガタガタと震動するモニターと操縦桿。

 しかし、この程度で怯むイツキでは無かった。

 

「だから、どうしたぁッ!」

 

 電撃を浴びせられながらも強引にドラゴンハングを引き戻し、海ヘビもろともハンブラビを引き寄せる。

 

『ぬぉっ!?』

 

「喰らえ!」

 

 引き込んだハンブラビの尖った頭頂部を掴み、その距離でバルカンとマシンキャノンを一斉射、ハンブラビの装甲を穴だらけにしていく。

 

 ハンブラビもあがいてその場を離れようとするが、

 

「逃さない」

 

 ガブスレイを撃破した、トウカのガンダムグレモリーがハンブラビの背後に回り込み、腕部機関砲を撃ち込んでいく。

 

『バカなっ、このガンプラの弱点を知っているのか!?』

 

 前後からの銃弾に挟まれ、やがて装甲の耐久に限界が訪れてハンブラビは沈黙した。

 

 ハンブラビ、撃墜。

 

 同時に、ドラゴニックガンダムを襲う電流も止まったが、イツキのコンソールには『危険』を示すレッドランプが埋め尽くしていた。

 

「はー、やっと倒せたぁ……」

 

「タツナミさん、大丈夫?」

 

 ガンダムグレモリーが近付いて、接触通信を行う。

 

「うーん、ドラゴニックはもうダメだなー……あと一機だろ?なんとかしてくれるっしょ」

 

 これ以上の戦闘続行は不可能として、イツキは操縦桿から手を離す。

 

「なら、私は後詰めに向かうわ」

 

 トウカはガンダムグレモリーを反転させ、残る一機――ジ・Oの方へ向かう。

 

 

 

 

 

 リーダー機らしきジ・Oは想像以上の強敵らしい、ケイスケ先輩とマユちゃんが二人がかりでも押されている。

 

 だが、俺が来たからにはこれ以上はさせん。

 ビームライフルを撃ち込みながらジ・Oへ接近を試みる。

 

「リョウマか!助かった!」

 

「先輩は距離を取ってください!アサナギさん、援護を頼む!」

 

「分かった!」

 

 ビームキャノンやハイパーバズーカを破壊されて攻撃力の落ちたジムカラミティには一度下がってもらい、マユちゃんとの二人で仕切り直しだ。

 

 対するジ・Oもビームライフルを撃ち返してきながら、俺を迎え撃つべくビームソードを振るう。

 こちらもビームライフルを納めてビームサーベルを抜刀、ビームソードと打ち合う。

 

 すかさずジ・Oがフロントスカートの内側から"隠し腕"を展開、ビームソードを振り上げてくるが、それは予習済みだ、弾くようにオリジネイトを飛び下がらせる。

 

「そこ!」

 

 側面に回り込んだファラリアルがビームアルケビュースで狙撃してくれるが、ジ・Oの反応も早く、隠し腕のビームソード二丁をクロスさせてビームを弾いてしまう。

 マユちゃんに反撃はさせん、奴に張り付く。

 ビームサーベルで一当てしつつ、ヒットアンドアウェイ。

 

『常にガンプラバトルを動かしてきたのは、一握りの天才だ!』

 

「なるほど。つまり、あんたはそれに当て嵌まらないようだ」

 

『えぇぃっ、俗人が!』

 

 自分は天才だーみたいなことを言ってきたのでちょっと煽ってやったら即座に俺に注意を向けて近付いて来た。

 煽り耐性ひっくいなー、この自称天才さん。

 

「この程度の挑発に乗せられるか、あんたの言う"一握りの天才"の基準とやらは随分と敷居が低いようだな!」

 

『勝てると思うな、小僧ォッ!!』

 

 プライドだけは山ほど高い割に、その中味はスカスカだな。

 

 挑発に乗ってきたジ・Oのビームライフルとビームソードの猛攻を凌げば凌ぐほど、奴の攻撃が雑になっていく。

 雑になれば雑になるほど、

 

「遅い」

 

 隙が出来るんだよ。

 逆袈裟一閃、隠し腕を両方とも斬り飛ばす。

 反撃の左手のビームソードは、敢えてシールドで受けつつジョイントを切り離し、『肉を切らせて骨を断つ』戦法で間髪無くジ・Oの左腕をビームサーベルで斬り落とす。

 

『くっ……これでは戦いに勝てん……!』

 

 ジ・Oは慌てて距離を取ってビームライフルを連射するが、焦った『数撃ちゃ当たる』なんてただの無駄撃ちだよ。

「数を撃てば良いというものではない、よく狙って撃て」とドレン大尉も言っていたからな。

 

 オリジネイトを真っ直ぐ突っ込ませて、

 

「終わりだ」

 

 全身でぶつかるように、ジ・Oのボディへビームサーベルを突き込む。

 

『ムンッ!?ぐわあぁぁぁぁぁ!!』

 

 ……致命傷は与えたはずだが、撃墜判定には至ってないな、若干外れたかな?

 すると、ガシッとジ・Oの右腕がオリジネイトを掴んだ。

 道連れにするつもりか?

 

『私だけが、負けるわけがない……貴様も一緒に連れ……』

 

「させないよ」

 

 ファラリアルのビットステイヴが飛来すると、銃口からビームサーベルを発振させて、ジ・Oの右腕を破壊し、続いてボディへ殺到した。

 それ以上の言葉は無く、ジ・Oは爆散していった。

 

 ジ・O、撃墜。

 

『Battle endnd!winner.Build symfony!!』

 

 俺達の勝ちだ。

 

 

 

 歓声に包まれる中、次に利用する人のためにそそくさと後にする。

 

 少し離れたところで。

 

「よっしゃ!みんなお疲れさん!俺達の初勝利だ!」

 

 率先して、ケイスケ先輩が勝利を喜んでみせる。

 

「勝てましたね……!」

 

 マユちゃんも緊張を解きつつ、顔を綻ばせる。

 

「やったなリョー!」

 

 イツキはバシバシと俺の背中を叩いてくる。痛いです痛い。

 

「優勝候補チームを相手に、それなりに戦えた方だと思うわ」

 

 ミカゲさんもホッとしている。

 

「まだ一回戦だから、浮かれるのは程々にしよう。でも、この調子で行けば優勝出来るはずだ」

 

 そう、これで優勝ではないのだ。

 今からもう二回勝ち抜いて、その先の決勝戦を制してようやく優勝だ。

 勝ちは勝ちとして喜んで、気は抜き過ぎない程度にね。

 

「っと、リョウマの言う通りだ。俺達はまだここから勝ち抜いていかなきゃならねぇからな」

 

 最後にケイスケ先輩が締めて、次の二回戦を待つ。

 

 

 

 各所で順調にバトルが進むに連れて、俺達チーム・ビルドシンフォニーもトーナメントを勝ち進んでいく。

 優勝候補の一角と最初に戦ったおかげで、二回戦、準決勝ともそれほど苦戦せずに勝ち抜くことが出来た。

 

 一度戦えば緊張感にも慣れたのか、マユちゃんの操縦の固さも抜けた。

 

 初戦ではあまり良いところを見せられなかった、と言っていたイツキも奮戦し、先程の準決勝では一人で三機も撃破していた。

 

 ミカゲさんもグレモリーの性能を活かし、攻防に渡って忙しなく活躍してくれている。

 

 我らが指揮官のケイスケ先輩も、何が相手でも変わらず冷静に指示を出しながら、自らも積極的に砲撃を行ってくれていた。

 

 もちろん、俺もみんなに負けない活躍を見せつけたけどな。

 

 

 

 準決勝を勝ち抜いたので、次の決勝戦で戦うチーム同士の試合を見る。

 

 えーと、何々……私立二宮高校チーム・『ブラウシュヴェルト』と、公立梁山(りょうさん)高専チーム・『プロト』か。

 

「サイキ先輩、あの2チーム、どっちが勝つと思いますか?」

 

 マユちゃんがケイスケ先輩に両チームの勝敗について訊ねる。

 

「梁山高専は、定丹瑞高校と同じ、優勝候補の一角だ。去年もベスト4まで残っていたからな」

 

 けど、と反対側のチームの様子も見やるケイスケ先輩。

 

「向こうの二宮高校は、確か弱小だったはずだけどな?いや、俺も正確に覚えてるわけじゃねぇけど……」

 

 ふむふむ、片や優勝候補、片やダークホースってところか。

 ダークホースの方も、以前は弱小だったらしいが、準決勝まで勝ち残ってくるくらいだ、実力の過小評価にはまだ早い、実際のところを見てみないことにはな。

 

『ただいまより、準決勝第二試合、私立二宮高校チーム・ブラウシュヴェルト対、公立梁山高専チーム・プロトの試合を開始します。両チームは、スタンバイしてください』

 

 程なくして、両チームのバトルが開始される。

 

 ランダムフィールドセレクトは『南米フォルタレザ』

 

 ……どこだっけ?

 確か……C.E.73のブレイク・ザ・ワールド事件の直後に、なんかジン……の、インサージェントタイプがいたような。

 

 

 

 バトルスタート、出撃完了したところでまずは両チームの戦力評価からだ。

 

 チーム・プロトは……ブレイズザクファントムに、アロウズ仕様のジンクスⅢが二機、グレイズが二機か。いずれも量産型で、ザクファントムが指揮官機ってところか。

 

 もう一方のチーム・ブラウシュヴェルトは……エゥーゴカラーのガンダムMK-II、ウイングガンダムゼロ、ガンダムヴィダール、エールストライクガンダムと、あと……あれはイフリート・ナハトか?

 どうやら改造機らしい改造機は紺色のイフリート・ナハトだけで、機体名も『イフリート・ラピート』というらしい。

 シュツルムファウストを二丁装備しているのは、火力の増強か。

 

 さて、肝心の戦闘の方はというと。

 

 プロトの方は小綺麗なフォーメーションを組んでいるのに対して、ブラウシュヴェルトはてんでバラバラだな。

 あ、ネオバードモードに変形して突出したせいでウイングゼロが向こうの一斉射撃で墜ちた。

 

 ウイングガンダムゼロ、撃墜。

 

 エールストライクとガンダムMK-IIが並んで射撃して、そこにヴィダールがバーストサーベルを手に接近戦を試みているけど、向こうのザクファントムの指示か、プロトの方は二手に分かれると素早くランス装備のジンクスIIIとグレイズがヴィダールを取り押さえて、ランスとバトルアックスの攻撃で撃破する。

 

 ガンダムヴィダール、撃墜。

 

 残るエールストライクとガンダムMK-IIは、数的不利になって動揺しているようだが、もう一機……イフリート・ラピートの動きだけが他と違う。

 あのイフリート・ラピートのファイター、相当な手練ているようだな。

 

 夜陰に紛れるように市街地の隙間を素早く駆け抜けて、捕捉の遅れたグレイズの死角に回り込んで、忍刀――ナハトブレードを一閃。

 

 グレイズ、撃墜。

 

 確かあの機体の基……イフリート・ナハトは、ステルス性の高い機体だったはずだ。

 恐らくは目視で姿を確認出来るような距離でなければ、レーダーに反応は無いだろう。

 

 イフリート・ラピートの夜襲によって動揺しているのか、せっかくのフォーメーションが崩れている。

 続いてイフリート・ラピートが投げ放ったコールドクナイが、ジンクスIIIの頭部に突き刺さり、メインカメラを失って狼狽えているところを瞬時に接近、すれ違いざまにナハトブレードを一閃、真っ二つに斬り捨てる。

 

 ジンクスIII、撃墜。

 

 これで、数的不利は奪回。

 エールストライクとガンダムMK-IIも戦意を取り戻したか、拙いながらも健気な援護射撃を行い、もう一機のジンクスIIIを牽制する。

 

 数を減らされて、残るザクファントム、ジンクスIII、グレイズの三機は一度合流して体勢を立て直そうとするが、そこへ好機とばかりイフリート・ラピートがビルの隙間から飛び出し、手にした実弾のライフル――百錬のライフルカノンの改造品か――を連射しながら襲い掛かる。

 ザクファントムは背部のブレイズウィザードのハッチを開き、ミサイルポッド『ファイヤビー』を一斉発射、イフリート・ラピートを阻むように弾幕を展開する。

 これに対して、イフリート・ラピートはその場から跳躍し――なんとビルの壁面にピタリと張り付いて静止してみせた。

 

 まるでどこぞのハリウッド映画の蜘蛛男だな……

 

 静止して一拍を置くと、イフリート・ラピートはすぐにまたそこから離脱、追尾してきたファイヤビーはビルに炸裂するのみ。

 

 遅れてガンダムMK-IIとエールストライクも到着し、ビームライフルによる援護射撃が加わり、追い詰めていたはずが逆に追い詰められていくチーム・プロト。

 

 指揮官が慌てたらチームはそこで終わりだ、モノアイをギョロギョロと右往左往させているザクファントムに、イフリート・ラピートは電影のごとく迫る。

 

 苦し紛れにビームトマホークを抜いて接近戦に対応しようとするが、イフリート・ラピートはフッと姿勢を低くして懐へ飛び込むと、右腕を振り上げて、ビームトマホークを握るザクファントムの左腕をカチ上げてみせる。

 当然、ザクファントムは脇がガラ空きだ、そこへイフリート・ラピートは左腕の三連ガトリング砲を押し付けて接射……程なくしてザクファントムはモノアイの光を消して力尽きる。

 

 ブレイズザクファントム、撃墜。

 

 指揮官機を失えば、残るは烏合の衆も同然だ。特に、作戦通りにしか動けないようなチームではな。

 

 ジンクスIIIはガンダムMK-IIとエールストライクの連携射撃に撃破され、残ったグレイズもイフリート・ラピートのナハトブレードの錆に変えられた。

 

 ジンクスIII、グレイズ、撃墜。

 

『Battle endnd!』

 

 

 

 これで、チーム・ビルドシンフォニーの決勝戦の相手は、チーム・ブラウシュヴェルトに決まった。

 

「すげーな、あの紺色のイフリート。ほっとんど一人で倒してたじゃん」

 

 イツキは、この勝利の立役者たるイフリート・ラピートの強さを認めている。

 

「開幕に二機も墜された状態から、ほぼワンマンで逆転したんだ。油断するつもりはないが、油断していると当たり負けるな」

 

 ステルス性を活かした奇襲戦法に、瞬時に敵機を破壊する攻撃の手管、射撃もそこそこに上手いとなると、奴との疑似タイマンになったらかなり厳しい戦いになるかもしれないな。

 

「あのイフリート?とか言う紺色のガンプラ、刀とクナイが主な武器?グレモリーのナノラミネートコートで受け切れるかしら……」

 

 ミカゲさんは、イフリート・ラピートの武器や戦法から、グレモリーの防御力で受け切れるかを推し量っている。

 

「一撃で破壊されはしないだろうが、無防備に受けていいわけでもないだろうな」

 

 今回のバトルでは使っていなかったが、シュツルムファウストもあるのだ、まともに喰らえばグレモリーとて無傷ではいられまい。

 

「っても、あのイフリート以外はそこまで芸達者なファイターでもねぇみたいだがな。あいつの実力だけが頭一つ抜けてんのか、周りが素人ばかりなのかは分からねぇけと」

 

 恐らくは両方だろうな、とケイスケ先輩はそう評する。

 

「周りの僚機を出来るだけ早く倒して、数的有利の状態を維持しつつ、ですね」

 

 マユちゃんもあのイフリート・ラピートの強さを肌身に感じているようで、作戦の算段を考えている。

 

 ブラウシュヴェルトの面々を見やれば、イフリート・ラピートのファイターらしい、やや長めの黒髪を束ねた小柄な少年が、周りのメンバー達に褒め称えられている。

 

「すげぇよ『シオン』!次はもう決勝だ、俺達ももっと頑張らねぇと!」

 

「なあに、先輩達が踏ん張ってくれるから、俺も頑張れるんですよ。次の決勝、みんなで必ず勝ちましょうや」

 

 弱小校が途端にダークホース化する……となれば、あの、シオンと言うらしい彼がこのチームをダークホースにしたのかもしれないな。

 

 いいなぁ、あぁいう気持ちいいやり取り。

 

 ……とは、真反対なのが、向かい側にいるチーム・プロトの面々だな。

 

「何をやっていた!?二宮なんて無名の学校に負けるなど、私に恥をかかせるつもりか!」

 

 顧問か、監督らしいおじさんが負けたメンバーさん達を怒鳴り散らしている。

 クドクド、クドクドと、ご愁傷さまだなー。

 

「あれだけ有利な状態からあっさりやられてからに!それも、あんなふざけた髪型をした奴一人に翻弄されて……!」

 

 

 

「――テメェ今この髪型のことなんつったァ!?」

 

 

 

 鋭い怒声が会場を切り裂くと、彼――シオンがチーム・プロトの監督に駆け寄り、思い切り胸倉を掴み上げて額に額を打ち付けた。

 

「な、何だね君っ、いきなり……」

 

「ザケんなよテメェ!顧問監督はよその学生の髪をバカにしていいってのか!あ"ァ"!?」

 

 ありゃりゃ、思わぬ逆鱗に触れたみたいだな。

 梁山高専の面々もオロオロしてるし、二宮高校の先輩方も慌てて止めに行っているが……

 

 しゃーない、ちょっとお節介しにいこうかね。

 

 今にも殴りかからんとしている彼と、狼狽えている監督との間に、スマートに割って入る。

 

「はい、そこまでだ。ちょっと落ち着こうか」

 

「あ!?……ちっ」

 

 矛先がこっちに向くかと思ったけど、とりあえず矛を納めてくれた、ホッ。

 梁山高専の監督に向き直って、

 

「こちらの彼の怒りは尤もでしょう。容姿に関する悪口を言われて我慢ならない人もいます。まずは先程の失言を謝罪すべきです。そうですね?」

 

「容姿がどうのこうのと言われたぐらいで怒るなど、理解出来んな。二宮高校の校風に問題があるとしか思……」

 

 はい、ダメー。

 

「問題があるのは平然と人の悪口を言うような指導者が跋扈するような高等教育機関でしょう名誉毀損として裁判沙汰にしましょうか?こんなしょーもない裁判では弁護士も匙を投げますよ?それでどうします?素直にごめんなさいの一言で穏便に済ませますか?それとも敗訴して払わなくて済むはずの慰謝料でも払いますか?俺は第三者ですから裁判には関わりませんしどちらでも構いませんよ?賢明かつ大人の対応を取ることをお勧め致しますよ」

 

「ぐっ、ぐぐぐっ……!」

 

 レスバの基本は相手に反撃の隙を与えさせずに正論で丸め込む、だ。

 渋々、本当に渋々と監督さんはシオンに頭を下げて全く持って不本意だろう謝罪の言葉を吐き捨ててから、逃げるように会場を後にしていった。

 ざぁーこざぁーこ♪レスバクソザコおじさん♪

 

「あー……何と言うか、言いたいこと全部言ってくれたから、なあんか安心したわ。ありがとうな?」

 

 クソザコおじさんの背中にメスガキムーブかましていると、当の本人たるシオンが申し訳無さそうな顔をしていた。

 

「余計なことして悪かったな。でも、暴力沙汰起こして失格なんて嫌だろう?」

 

 こっちも余計な茶々を入れたからな、形だけでも謝罪はしておこう。

 

「そう言えばあんた、創響学園の……チーム・ビルドシンフォニーだろう?この後の決勝戦の。戦う前だって言うのに、カッコ悪いとこ見せちまった」

 

 苦笑してみせるシオン。

 

「……けど、人の髪のことバカにする奴はどうしても許せなくてさあ」

 

「それな。分かるよ、『単に自分が気に入らなかっただけでその人のことを悪く言うような奴』は許せないって」

 

 ほんとにね。

 

「だよなあ……っと、申し遅れた。俺は『タチバナ・シオン』。二宮高校の、チーム・ブラウシュヴェルトのメンバーだ」

 

 名乗ってくれたので、こっちも挨拶を返す。

 

「創響学園チーム・ビルドシンフォニー、オウサカ・リョウマだ。これ以上は、ガンプラバトルで話すとしようか」

 

「あぁ、あんたと戦うのが楽しみだよ」

 

 互いに視線をぶつけ合い――敵意のそれではない昂り。

 

 ――これは、"熱く"なりそうだ。

 




今回登場のガンプラ『ジムカラミティ』の画像や詳細設定はこちらです↓(ガンスタグラムへのジャンプです)

https://gumpla.jp/hg/1702708


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7話 譲れないものがあるのなら

『ただいまより、決勝戦を開始します。創響学園チーム・ビルドシンフォニー、二宮高校チーム・ブラウシュヴェルト、両チームはスタンバイしてください』

 

 決勝戦開始のアナウンスが流れ、会場はにわかに騒がしくなる。

 

 向こうのエースファイター――タチバナ・シオンの一件でちょっと一悶着あったけど、とりあえず丸く収まったので良しとしよう。

 

 お節介を焼いたところで、チームのみんなの所へ戻る。

 

「オウサカくん、なんか喧嘩の仲裁してたみたいだったけど……大丈夫?」

 

 戻って来て最初に、マユちゃんが心配してくれた。優しい娘だなぁ。

 

「大丈夫だ。向こうの監督さんも"大人の対応"を取ってくれたから、ペナルティとかは無いはずだ」

 

 訳:レスバクソザコおじさん、ざまぁ過ぎてクッソワロタwww

 

「ってかリョウマお前、あんなキレ散らかしてる奴によく止めにいったな?普通は手を出したくねぇもんだぞ?」

 

 ケイスケ先輩にも心配させちまったか。

 

「そこはまぁほら、荒事には慣れてるので」

 

 過去の異世界転生じゃ、軍人崩れの破落戸の相手だってしたことあるから、ただのチンピラの暴力なんて子どものわがままみたいなもんだよ。

 

「大人相手にも食って掛かれるくらい強気な相手ね……簡単には倒せないでしょうけど」

 

「まぁまぁ、何も起こらなかったんだし、いいじゃん!」

 

 シオンのことを警戒しているミカゲさんだが、もう終わったことなんだし、とイツキは話を切り替えようとしてくれる。

 

 そうそう、これから決勝戦だからな。気を引き締めていくとしよう。

 

 

 

 ランダムフィールドセレクトは、『アザディスタン王国 太陽光送電設備』

 

 ここは確か、西暦は西暦でも、西暦2312年……ソレスタルビーイングが存在していた頃の時代で、アザディスタン王国内の内紛に対する武力介入だったかな。

 それにしても夜か。

 あのシオンのイフリート・ラピートにとっては、絶好のフィールドだろうな。

 

 そう言えば、"ラピート"って確かドイツ語で『速い』って意味だったよな……なんか南海電鉄の新幹線がそんな感じの名前だった気がするけど、うーん、鉄道知識には疎いんだよなぁ。

 

 ――なんか急にたこ焼きが食べたくなってきたな……?

 

 まぁいいか、あとでみんなで一緒にたこ焼き買って食べるか。

 

 出撃準備。

 

「オウサカ・リョウマ、オリジネイトガンダム、行きます!」

 

「アサナギ・マユ、ガンダムファラリアル、決心解放(フィックスリリース)!」

 

「タツナミ・イツキ、ドラゴニックガンダム、行くっぞー!」

 

「ミカゲ・トウカ、ガンダムグレモリー、出るわ」

 

「サイキ・ケイスケ、ジムカラミティ!チーム・ビルドシンフォニー、出るぞ!!」

 

 一方の、チーム・ブラウシュヴェルトのシオンからも。

 

『タチバナ・シオン、イフリート・ラピート、任務遂行!』

 

 

 

 

 

 ゲートより出撃完了して、着陸。

 すぐにケイスケ先輩から通信が届く。

 

「よーし、全員聞こえるな?ブラウシュヴェルトの奴らだが、あのイフリート以外はそこまで強いわけじゃねぇから、向こうはイフリートの奇襲に頼る必要があるはずだ」

 

 ケイスケ先輩がそう言うように、あのチームの勝ち点はシオンのスタンドプレーによる奇襲戦法が肝だ。

 彼を抑え込めれば良いんだが、それはそう簡単させてくれる相手ではないし、さっきの様子を見る限りなら、彼の先輩達も、シオンがピンチなら一も二も無く救援に駆け付けるだろう。

 個々の実力にバラつきはあるにせよ、チームとしては強い結束力がある。

 

「だから、ここは逆に『奇襲を誘い込む』。リョウマは前線に出ずに、俺と並んで射撃戦を展開してくれ。で、イフリートが俺を狙って奇襲してきたら、頼むぞ」

 

「了解、後衛に回ってくれってことですね」

 

 司令塔たるケイスケ先輩のガードを逆に薄くすることで、シオンの奇襲をコントロールするってことね。

 

「アサナギ、タツナミ、ミカゲは残りの四機を相手してくれ。途中から数的不利になるが、お前らなら大丈夫だ」

 

 こっちがシオンのイフリート・ラピートを抑えている内に、残りの女子三人は前線で敵の数を減らしていく、と。

 

「了解です」

 

「オッケーでーっす!」

 

「分かりました」

 

 マユちゃん、イツキ、ミカゲさんの応答を確認したところで、作戦開始……と、同時に前方から高熱源が迫ってくる。

 ウイングゼロのツインバスターライフルか?

 

 素早く散開し、一方は俺とケイスケ先輩、もう一方は女子三人にそれぞれ別れて、行動開始。

 

 やはり先程の準決勝と同じように、イフリート・ラピート以外の四機は、散発的な動きで近づいて来ると、各々のライフルで射撃を仕掛けてくる。

 

 よし、前線は三人に任せて、こっちはケイスケ先輩と並んで砲撃だ。

 ビームライフルとハイパーバズーカを両手に、景気よくドンドンいくぜ。

 

 

 

 ケイスケの作戦通り、いつもは前線にいるリョウマのオリジネイトは、今回は後方援護(のフリをした、敵エース機の抑え役)だ。

 イツキとトウカの二人が接近戦を仕掛け、マユは二人の援護に回る。

 今はケイスケからの砲撃も助けてくれるが、それも長く続かない、そこから先は自力で倒していくしかない。

 少し心細さを感じていたマユだが、イツキとトウカが奮戦するのを見て、自分も腕を奮わねばと意識を切り換える。

 

 空中に陣取るガンダムファラリアルは、同じく空中のウイングガンダムゼロに向けてエスカッシャンを射出、多数のガンビットとなってウイングガンダムゼロを取り囲もうとするが、ウイングガンダムゼロはすぐにネオバードモードへ変形し、ガンビットの包囲から抜け出すと、旋回しつつバスターライフルを撃ち返してくる。

 しかしあまり正確な射撃ではないようで、マユは慌てずに回避し、ガンビットをプラットフォームに呼び戻しつつ、すばやくビームアルケビュースを構え、狙い撃つ。

 

「当てて、みせる!」

 

 直撃こそ出来なかったものの、ウイングガンダムゼロの左翼スラスターを破壊することに成功し、バランスの崩れたウイングガンダムゼロは慌ててMS形態に変形して不時着する。

 

『くそっ、やられた!』

 

 そこへ追い撃ちを掛けようとビームアルケビュースを狙い直すが、そこへエールストライクガンダムが割り込み、シールドでビームを防ぐものの、一撃でそれを貫通し、エールストライクガンダムの左腕もろとも撃ち抜く。

 

『まだだ!まだ粘るんだよ!』

 

 左腕を失いながらも、エールストライクガンダムはビームライフルを撃ち返す。

 

 ブラストブースターを逆噴射させて距離を取りつつ、イツキとトウカの状況を見やる。

 

 イツキのドラゴニックガンダムはガンダムMK-IIを追い込み、トウカのガンダムグレモリーも、ガンダムヴィダールに喰らいついている。

 

 敵エースのイフリート・ラピートが見当たらないのは、ケイスケのジムカラミティに奇襲を仕掛けるためだろう。

 

 ならば自分はこのエールストライクガンダムの相手をするべき、とマユはガンビットを自機の周囲に展開して、手数で対抗する。

 

 

 

 一方でトウカは、ガンダムヴィダールを相手に善戦している。

 

「同じガンダムフレーム……注意すべきなのは、あの細い剣くらいね」

 

 ナノラミネートコートに有効打を与えられるのは、細い剣――バーストサーベルくらいのものだろう。

 ガンダムヴィダールの方もそれを分かっているようで、バーストサーベルによる刺突を積極的に狙ってくるが、トウカは大振りなバトルアンカーを巧妙に振るい、次々にバーストサーベルを弾き返し、隙あらば反撃してガンダムヴィダールの装甲を削り取っていく。

 このまま追い込めば、仕留められる。

 トウカのその見立ては間違っていなかった。

 

 が、眼前の敵機に集中し過ぎてしまったのが仇となり――命取りになった。

 

 途端、死角からのアラートにトウカのコンソールががなり立てる。

 

「後ろっ!?」

 

 自分の後ろにいるのはオリジネイトガンダムとジムカラミティだけのはず……

 思わず振り返ろうとするが、それは叶わない。

 

 何故なら、ガンダムグレモリーの両膝のフレームが斬り裂かれており、脚の支えを失った上半身は地面を転がってしまう。

 

「あの紺色のっ、……まずいっ」

 

 このままではイツキも危険だ、そう判断したトウカだが、ガンダムグレモリーは脚部を失ってしまって起き上がれない。

 そこへガンダムヴィダールが迫り、バーストサーベルを突き立てようと振り上げていた。

 

「……ッ!」

 

『こいつを、喰らえ!』

 

 バイタルパートにバーストサーベルを突き込まれ、カキンッとバーストサーベルの刀身と柄が切り離されると――刀身が炸裂した。

 バーストサーベルの異質な特徴――それは、刀身の内部は炸薬で出来ていることだ。

 装甲に穴を空けられ、その内部を直接爆破されたのでは、如何にナノラミネートコートの防御力があろうと無関係だった。

 

 ガンダムグレモリー、撃墜。

 

 

 

 

 

「……んっ!?ミカゲがやられた!?」

 

 爆発の方向と、ミカゲさんの撃墜通知を見て、ケイスケ先輩は声を上擦らせた。

 

「ミカゲさんが奴らに遅れを取った?」

 

 一瞬信じられなかったが――そういうことか――即座に思い当たる節があった。

 

「ケイスケ先輩!敵エース機の狙いはこっちじゃない!『裏をかかれた』!」

 

「裏をかかれた?……やべぇっ、すぐに戦線を上げるぞ!」

 

 つまりどういうことかと言えば。

 

 敵エース機……タチバナ・シオンのイフリート・ラピートは、夜陰に紛れて真っ先にケイスケ先輩を狙ってくる、とこちらは考えていたのだが、『その考えを読まれた』のだ。

 遊撃手たる俺が後方に回っていたせいで、シオンは女子三人の死角に回り込むことに成功し、恐らくはミカゲさんのグレモリーを撃破したか、あるいは味方と連携したか。

 

 そうしてミカゲさんを倒したとなれば、あいつの次の狙いは……

 

「気を付けろイツキっ、イフリートが狙ってくるぞ!」

 

 イツキに注意喚起を飛ばしつつ、俺は操縦桿を押し出して、オリジネイトを一気に加速させる。

 

 

 

 

 

 ドラゴニックガンダムはガンダムMK-IIに接近戦を仕掛け、ツインビームトライデントによる連撃で追い込みつつドラゴンハングを放ち、ガンダムMK-IIのボディを噛み砕いてみせた。

 

『こんな、ところで……!』

 

 ガンダムMK-II、撃墜。

 

「よっしゃ、一機げ……」

 

「気を付けろイツキっ、イフリートが狙ってくるぞ!」

 

 敵機撃破を告げようとしたイツキだが、それはリョウマからの怒鳴るような声に遮られた。

 

「え?イフリート……」

 

 無意識にドラゴニックガンダムを振り向かせ――イフリート・ラピートのモノアイが残光を引きながら迫り来ていた。

 

「うっ、うわぁっ!?」

 

 首を刎ねる忍刀――ラピートブレードの一閃に、イツキは咄嗟にツインビームトライデントの柄で受け止めてみせる。

 

『チッ、気付かれたか……けどなあっ!』

 

 イフリート・ラピートはそこで力比べにせず、即座に弾かれるように左脚を一歩引き、その引いた脚を軸足にぐるりと機体を回転させ――鋭い右の回し蹴りを放ち、ツインビームトライデントを蹴り飛ばした。

 

「このっ……なめんな!」

 

 ツインビームトライデントを失いながらも、ドラゴニックガンダムはバルカン砲とマシンキャノンを斉射するが、イフリート・ラピートはその場からバック宙するように飛び下がりつつ、左マニピュレーターにライフルカノンを持たせて連射する。

 銃弾に対し、ドラゴニックガンダムは左腕のシールドで防ぐが、別方向からも銃弾が飛んでくる。

 

 ガンダムグレモリーを撃破したガンダムヴィダールが、左マニピュレーターに握ったハンドガンを撃ちながら近づいて来ているのだ。

 

「邪魔……すんなしっ!」

 

 反撃にドラゴンハングを放ち、ガンダムヴィダールのバーストサーベルごと右腕を噛み砕く。

 

『……まだだぁぁぁぁぁ!』

 

 弾を撃ち尽くしたハンドガンを捨てて、ガンダムヴィダールはフルスロットルで突進、左肩からドラゴニックガンダムへショルダータックルを喰らわせ、そのまま縺れ合う。

 

「うわわっ……!」

 

 押し転がされるドラゴニックガンダムに、ガンダムヴィダールは左マニピュレーターを伸ばし、ドラゴニックガンダムの頭部を掴み、引きちぎろうとする。

 

『せ、せめて、頭だけでも……!』

 

 しかし、それは横合いから放たれたロケット弾の炸裂によって妨げられ、ガンダムヴィダールは吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされ、即座に押し倒され、ビームサーベルをバイタルパートに押し付けられ、ナノラミネートアーマーを焼き斬られた。

 

『クソ!クソォォォォォ!!』

 

 ガンダムヴィダール、撃墜。

 

 

 

 

 

 フーッ、間一髪間一髪。

 

 ヴィダールがイツキのドラゴニックに悪あがきしようとしていたので、ハイパーバズーカで吹っ飛ばして、吹っ飛んだところをビームサーベルを押し当ててナノラミネートアーマーごとフレームを焼き斬ってやった。

 

 残ってるのは、マユちゃんと、その彼女を援護するために急行するケイスケ先輩が戦っているストライクとウイングゼロと、イフリート・ラピート。

 

「助かったぁ。あんがとな、リョー」

 

「どういたしまして……俺はウイングゼロを追う。イツキはストライクの方に向かってくれ」

 

 イフリート・ラピートは夜陰に紛れて見えなくなってしまった、乱戦の中に奇襲してくるのを迎え撃つしか無いか。

 

「オッケー!」

 

 俺は一足先にオリジネイトを飛ばし、ウイングゼロの撃破に向かう。

 イツキのドラゴニックも、蹴り飛ばされたツインビームトライデントを拾いに行くのを見送り……

 

「あっ!?リョー!イフリートがこっ……」

 

 途端、イツキの撃墜通知がコンソールが流れた。

 

 ドラゴニックガンダム、撃墜。

 

「なっ……あいつ、俺がイツキから離れた瞬間を狙っていたのか!?」

 

 しまった、これはしてやられた。

 俺という脅威が離れるのを待ってから、イツキが一人になるところに再奇襲を掛けたのか。

 狡猾だな、だがそれを実行に移せる力と度胸は認めざるを得ない。

 

 ……急ぐか。マユちゃんとケイスケ先輩と一緒に固まって動けば、あいつもどこかで仕掛けてくるはずだ。

 

 ファラリアルが空からビットステイヴで弾幕を、ジムカラミティが地上から砲撃を行っているそこへ急ぐ。

 

 向こうのストライクとウイングゼロも満身創痍だが、まだ倒し切れていない。

 

「おっ、来たかリョウマ!あいつら結構根性あって、手こずってたところだ」

 

「すいません先輩、イフリートを見失いました。多分、すぐにまた奇襲が来ます」

 

「おぅ、分かった!」

 

 ジムカラミティのハイパーバズーカがストライクに直撃、吹き飛ばすがしかしPS装甲によって撃破には至らなかったが、今のでPSダウンを起こし、トリコロールカラーの装甲がスチールグレイに染まっていく。

 

 悪いがそこは狙わせてもらう、倒れたストライクにビームライフルで狙い撃t……

 

「……ってそこか!」

 

 ほぼ勘だ。

 寸前でターゲットロックを切り替えて、背部へ向けてビームライフルを放てば、ジムカラミティの死角からイフリート・ラピートが斬りかかろうとしていた。

 残念ながらそれも躱されてしまったが。

 

『おっと、鋭いなあ!』

 

「そう何度も好きにさせるか」

 

 もう逃さんぞ、レーダーの範囲外に逃げられる前に追撃だ。

 

「先輩はアサナギさんを!こいつは俺が追います!」

 

「うっし、任せるぞ!」

 

 ジムカラミティはその場からホバー機動で移動し、マユちゃんのファラリアルの元へ急ぐ。これで向こうの二機は倒してくれるはず。

 後背の憂いは無くなった、俺はシオンの相手に集中しよう。

 

 すると、イフリート・ラピートはそこで逃げようとせずに踏み止まると、ライフルカノンを捨てて、ラピートブレードも鞘に納めた。何のつもりだ?

 

『あんたには生半じゃあ勝てない。俺も本気で行かせてもらう』

 

 すると、温存していたシュツルムファウストを、ん?

 イフリート・ラピートが取り出した二丁のシュツルムファウストだが、何故か柄尻がチェーンに繋がれ、その間にもう一本棒が繋がっている。

 

 そう、それは……シュツルムファウストで作られた……

 

「……"三節棍"だと?」

 

 確か、琉球武術だったか?

 ヌンチャクの派生だとかなんとか……三節棍をガンプラバトルで使ってくるなんて、こいつくらいのものだろう。

 

『さあ、俺の本気を受けてもらおうじゃあないか!』

 

 ドンッ、と踏み込んでくると勢いよく三節棍が振り抜かれる。

 咄嗟にシールドで受けるが、恐らくは先端部分にウェイトが集中しているのか、遠心力と合わさったそれは思いの外重く、この一撃でシールドの表面がへしゃげる。

 

 接近戦じゃ分が悪いか?

 しかし距離を離せばこいつはすぐにケイスケ先輩かマユちゃんを狙うだろうし、『俺がそう考えることも恐らく読み切っている』に違いない。

 

 こいつ……めちゃくちゃ強かでクレバーな奴だ。

 

 だがこの接近戦、敢えて乗ってやろう。

 

 飛び下がり、へしゃげたシールドを切り離し、ビームライフルも捨てると、ビームサーベルを右のマニピュレーターに抜き放ち、瞬時に加速。

 ビームサーベルを振り抜くが、イフリート・ラピートは三節棍をクロスさせてビームサーベルを防ぎ、弾き返される。

 表面には耐ビームコーティングか!

 

『そらっ!』

 

 イフリート・ラピートは反撃に三節棍を突き出してくるが、そうはいくか。

 何のために左手を空けてると思ってるんだ?

 すかさずその左マニピュレーターで、突き出された三節棍の柄を掴み上げ、間髪無く引き込み、引き寄せた勢いで膝蹴りをイフリート・ラピートの腹部に叩き込む。

 

 蹈鞴を踏みながらも体勢を維持しようとするイフリート・ラピートに、即座にビームサーベルで追い撃ちを掛けるが、横っ飛びされて躱されてしまう。

 

『ははっ、やるねえ!』

 

 横っ飛びしながら側転し、着地すると素早く左腕の三連ガトリング砲を連射してくるイフリート・ラピート。

 

 ガトリングシールドよりも小口径のくせにたった数発で量産型ガンタンクを破壊するような威力だ、まともに喰ら――ったところでオリジネイトに効くわきゃねぇだろうが!

 

 左腕装甲を盾に頭部を守りつつ、正面から突撃。

 

「逃がすか」

 

 ビームサーベルの間合いに踏み込むなり、突き。

 斬る、薙ぐような動作では三節棍に弾かれる。

 しかし突き出したビームサーベルに、イフリート・ラピートは右脇に潜らせるようにやり過ごし、

 

『こっちの台詞!』

 

 即座にカウンターとして三節棍を振るい――オリジネイトのボディに打ち込まれた。

 

「チッ……!」

 

 激しく震動し、損傷度をがなり立てるモニターとコンソール。

 コクピット周りに直撃したか……!

 

 ――追撃が来る。

 

 返す刀で逆の三節棍を振るうイフリート・ラピートに、俺は即座に左の操縦桿を跳ね上げ、オリジネイトはそれに応じて左マニピュレーターで拳を握り――

 

「っらァ!」

 

 パンチ!!

 

 突き出された拳は三節棍と衝突し――単純な膂力はオリジネイトの方が上だ、三節棍もろともイフリート・ラピートを弾き返す。

 

『おぉっと!?』

 

 思わぬ力任せな反撃だったのだろう、吹っ飛んだイフリート・ラピートは背中から転倒し、すぐに起き上がろうとするが、そうはさせん、瞬時に接近してビームサーベルを振り降ろす。

 するとイフリート・ラピートは三節棍で防ぐが、これは想定済みだ。

 

「こっちにもある!」

 

 接近する前に予めランドセルから抜いていた左のビームサーベルにアイドリングリミットを掛けておき、後ろ手に隠していたものを振るう。

 

『ちっ!』

 

 だがシオンの反応も早い、これも三節棍で防がれた。

 

「やるっ!」

 

 しかしこれも想定の内だ、間髪無くこの距離で頭部バルカン砲を速射、イフリート・ラピートの装甲を穿っていく。

 

『なめんな!』

 

 このまま押し切れるとは思っていなかったが、イフリート・ラピートのハイキックにボディを蹴り飛ばされる。

 

「クッ……」

 

 蹴り飛ばされて、瞬時に姿勢制御――っと、三連ガトリングが飛んできたのでこれは躱す。

 

『そこォ!』

 

 躱した先に回り込むように、イフリート・ラピートが放ったコールドクナイが飛んで来た、ビームサーベルで斬り弾いて――これは次への布石!

 

『お命頂戴、ってなあ!』

 

 接近してきたイフリート・ラピートは三節棍を素早く振り回しながら迫りくる。

 

 右が左か、どっちが先に来る?

 

 いやそうじゃない、どっちが先に来るかを『待つんじゃない』。

 

 先に仕掛ける!

 

 その場で、左のビームサーベルを投げ付ければ、これは左の三節棍で弾き返され――

 

「行けェ!」

 

 操縦桿を押し上げて一気に加速。

 

『だと思った!』

 

 間髪なく勢いのついた三節棍を横薙ぎに振るうイフリート・ラピート。

 このままではビームサーベルの切っ先が届くより先に横殴りの一撃を喰らう――視えた!!

 

 

 

「翔べっ、ガンダム!!」

 

 

 

 ――誰にも追い付けないスピードで、地面蹴り上げ空を舞う――

 

 と、同時にオリジネイトをジャンプさせ、三節棍の一撃をギリギリのところで躱す。

 

『は!?なんっつう、瞬発力!?』

 

 バーニアに頼らない、両脚各部のサスペンションを駆使した、"跳躍"だ。

 そのまま空中でグルンと回転して、

 

「喰らっとけ!」

 

 必殺、空中踵落とし!!

 

 三節棍を振り抜いて隙が出来ていた、イフリート・ラピートの頭部を蹴り潰す。

 

『ぐわあぁっ!?』

 

 この直撃は効いたらしい、頭部がへしゃげ、イフリート・ラピートがうつ伏せに倒れる。

 

「これで!」

 

 すぐにビームサーベルを振り降ろしてイフリート・ラピートの背中に突き立てようとするが、ほぼ咄嗟の回避か、うつ伏せたままスラスターで強引にその場から逃げられた。

 

『メインカメラが死んだかあ……けど、まだ!』

 

 立ち上がって三節棍を構え直すイフリート・ラピート。

 へしゃげ潰れた頭部からスパークが漏れているが、その威容はむしろ強まっている。

 

「上等……ッ!」

 

 メインカメラが死んだくらいで狼狽えられては困る。

 本物のMS戦闘は、メインカメラが死んでからが本番みたいなもんだからな。

 

 再三再四に渡り、三節棍を振るうイフリート・ラピートを迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 マユのガンダムファラリアルのビットステイヴと、ビームアルケビュースによる狙撃を受けたウイングガンダムゼロは満身創痍、もはや戦える状態では無い。

 けれど、ウイングガンダムゼロのファイターはまだ諦めてはいなかった。

 もうこの機体ではガンダムファラリアルは倒せまい、しかし残弾僅かのマシンキャノンと、片方しか残っていないバスターライフルを撃ちまくる。

 

『最後に、一矢でも報いる!』

 

 銃弾とビームを回避するガンダムファラリアル。

 すぐにバスターライフルを捨てたウイングガンダムゼロは、左肩からビームサーベルを抜き放ち、上空にいるガンダムファラリアルへ飛び上がる。

 メインスラスターの片方を失ったその飛行は不安定でフラついているが、その不安定さはむしろマユの予測射撃を惑わせる。

 ついに間合いに踏み込まれ、ウイングガンダムゼロのビームサーベルが、ビームアルケビュースを斬り裂く。

 

『これが俺の意地だぁぁぁぁぁ!』

 

 続けざま、ビームサーベルをガンダムファラリアルへ振り翳す。

 

「ッ!」

 

 ガンダムファラリアルはエスカッシャンを振り上げると――シールドの形を保ったまま、ビットステイヴの砲口からビームサーベルを発振させた。

 ガンビットを集約させた出力でビームサーベルの形状を伸ばし、ウイングガンダムゼロがビームサーベルを振り下ろすよりも先に、貫かせたのだ。

 

『ここまでか……すまん』

 

 ウイングガンダムゼロ、撃墜。

 

 

 

 もう一方、既にPSダウンし、エールストライカーも失ったストライクガンダムも、残された最後の武器である対装甲ナイフ――アーマーシュナイダーを手に、ケイスケのジムカラミティの砲撃を掻い潜っていた。

 

「いい加減しぶてぇなー……」

 

『まだだ、まだ終わらんよ!』

 

 クワトロ・バジーナの名言を口走るストライクガンダム。

 ジムカラミティも、弾数の少ないハイパーバズーカや、エネルギーを消耗しやすいメガ粒子砲などは使わず、バルカン砲やシールドビームガンで追い込んでいるのだが、これがなかなかどうして当たらない。

 

「しゃーねぇ、接近戦してやるか!」

 

 ハイパーバズーカを捨てると、左腕装甲からビームサーベルを抜き放ち、ストライクガンダムへ迫るジムカラミティ。

 

『そっちから来るなら!』

 

 アーマーシュナイダーの間合いで戦える、とストライクガンダムは突進、一気に距離を詰める。

 最初に仕掛けるのはジムカラミティの方だ、ビームサーベルを横薙ぎに振るうが、ストライクガンダムは不意にその場で急に姿勢を低くし、フットボールのタックルで相手選手を転倒させるように、ジムカラミティの腹下へ飛び込む。

 

『うおぉぉぉぉぉ!』

 

「おっとっ、ゼフィランサスタックルか!」

 

 組み付かれ、仰向けに倒されてしまうジムカラミティ。

 

『これ、で!』

 

 振り翳したアーマーシュナイダーを、ジムカラミティのバイタルパートへ突き立てようとするが、

 

「悪ぃな、それ読んでんだわ」

 

 ケイスケはウェポンセレクターでメガ粒子砲を選択、既にチャージが完了されているそれを撃ち放った。

 アーマーシュナイダーを突き立てようとしていたストライクは、高出力のメガ粒子を直撃、上半身を吹き飛ばされてしまった。

 

『シオン……あとは、頼む』

 

 ストライクガンダム、撃墜。

 

 

 

 

 

 メガ粒子の剣と、耐ビームコーティングの三節棍が、激しく打ち合う。

 頭部を破壊されて視界もまともでないだろうに、イフリート・ラピート……シオンは喰らいついてくる。

 

 それを同じくして、ケイスケ先輩とマユちゃんがそれぞれストライクとウイングゼロを仕留めたらしい。

 残るはエースのこいつだけだ。

 

『先輩達はみんなやられちまったかあ……でも、あんたさえ倒せれば勝てる!』

 

 瞬間、イフリート・ラピートは真っ直ぐに突撃してくる。

 ここで勝負を決めるつもりだな。

 

「随分俺を過大評価してくれているな、過分な期待に応えるのも大変だ!」

 

 ならばこちらも正面から迎え撃つまでだ。

 

 衝突するビームサーベルと三節棍。メガ粒子と耐ビームコーティングがせめぎあい、スパークが乱れ迸る。

 

「侮っていたつもりはないが……予想以上に、しぶとい!」

 

 弾き返し、返す刀でボディを狙うが、イフリート・ラピートはバク転するように飛び下がり、すぐに軸足を入れ替えて三節棍を振り下ろしてきた。

 これは避けられない、脳天を砕く一撃に、オリジネイトの頭部の上半分がへしゃげる。

 

『生憎としぶとさが取柄なもんでねえ!あんたに勝つまでは、粘らせてもらおうじゃあないか!』

 

 だがメインカメラが死んだわけではない、即座に左操縦桿を捻り、三節棍のチェーンを掴み上げ、引き寄せてヤクザキックでイフリート・ラピートのボディを蹴っ飛ばす。

 

「スカしたこと言う割には、なかなかどうして泥臭い!」

 

『ッ……泥臭くて結構!本人の体格差なんて関係ない、製作も、バトルも、実力が全て!』

 

 イフリート・ラピートは三節棍から手を離して飛び下がり、先程鞘に納めたラピートブレードを抜き放つ。

 

『だからこそ、ガンプラバトルは楽しいんじゃあないか!』

 

 再三再四の、突撃。

 

 奪い取った三節棍を捨てて、ビームサーベルを構え直す。

 

 そろそろオリジネイトも十全な性能を発揮できなくなるな、今度こそ決めてやる。

 

「……そうだろうさ、ガンプラバトルは何も関係ない。例えそれが、『異世界転生した誰かさん』でもな!」

 

 だとしても、と踏み込みと共にバーニアを炸裂、真正面からイフリート・ラピートへ突っ込む。

 

 

 

「『勝つのはっ、俺だァァァァァぁぁぁぁぁ!!」』

 

 

 

 迷わん、ビームサーベルを真っ直ぐに突き出す。

 

 ビームサーベルの切っ先がイフリート・ラピートのバイタルパートを貫き、一拍遅れてラピートブレードの切っ先にボディを突き破られた。

 

 損傷甚大――だが、辛うじて生きていた。多分、現実だったらコクピット抉られてキンケドゥみたいなことになってたかも。

 

 もう一方、ビームサーベルにまともに貫かれたイフリート・ラピートは、モノアイの蛍光ピンクの輝きを弱々しく点滅させ、

 

『お見事……ッ!』

 

 フッと消えた。

 

 イフリート・ラピート、撃墜。

 

『Battle ended!Winner.Build symfony!!』

 

 

 

 

 決着と同時に、会場内に爆発的な歓声が響き渡る。

 

「ふぅ……勝てたかぁ」

 

 いやー、強かった。

 これがガンプラバトルだったから良かったけど、もしリアルMS戦だったらこんな綱渡り二度とやりたくねぇわ……

 

 筐体からオリジネイトを回収すると、

 

「やったなリョー!」

 

 真っ先にイツキが飛びっきりの笑顔で飛び込んで来た。おぉぅ、近い近い。

 

「ありがとう、オウサカくん!」

 

 マユちゃんもイツキに負けないくらいの素敵な笑顔を見せてくれる。かわいい。

 

「よくやったなリョウマ、これでウチのガンプラバトル部は存続だ!」

 

「私はあまり役に立てなかったけど……ナイスファイト、ね」

 

 ケイスケ先輩は部の存続という危機が去って安堵の表情を浮かべ、ミカゲさんも俺の勝利を称えてくれている。

 

 ……そうだったな、この勝利を以て俺達は地区大会を優勝、トロフィーを持ち帰って、ガンプラバトル部は存続になるはずだ。

 鎬の削り合いに夢中で、当の目的なんかすっかり忘れてた。

 

「俺だけじゃない。この勝利はみんなで勝ち取ったものだよ」

 

 いぇーいいぇーいと身を寄せてくるイツキを往なしつつ、ってこら、無意識なんだろうけど、お胸様を押し付けるのはやめなさい、ドコとは言わないが反応しちまうだろ。

 

 そして向こう側からも、シオンと、その一歩後ろに彼の先輩達が待ってくれていた。

 

「負けちまったけど……こんなに清々しく負けたのは初めてだ。ありがとさん」

 

 シオンの方から右手を差し出してきた。握手しようぜってことだな。

 

「こちらこそだ」

 

 こちらからも握手を返して、互いにグッと握り合う。

 確かに背は低いが、その手は確かに"戦士"の手をしていた。

 

 俺とシオンの握手によって、会場はさらに沸き立つ。

 

 あ、そうだそうだ。

 

「よしシオン、たこ焼き食べるか!」

 

「へ?たこ焼き?」

 

「ん?たこ焼きって知らないか?小麦粉を出汁で溶いた生地に……」

 

「いやいや、それは知ってる。なんでたこ焼き?」

 

 俺が「たこ焼き食おうぜ!お前タコな!」って言ったら「何言ってんだこのタコ」みたいな顔をされた。

 

「バトル中に、なんか急にたこ焼きが食べたくなったんだよ」

 

「なんだそりゃあ……」

 

 困惑してるシオンを尻目に、ケイスケ先輩達に向き直る。

 

「ケイスケ先輩、今日の昼飯はたこ焼きにしましょう」

 

「たこ焼きか。確か会場にフードコーナーがあったが、たこ焼きってあったか?」

 

「ありましたよ。だからたこ焼きにしましょう」

 

「突然のたこ焼き推しだな……みんなもたこ焼きでいいか?」

 

 ケイスケ先輩が女子三人にも意見を訊くと、

 

「たこ焼き!いいっすね、あたしは賛成だ!」とイツキ。

 

「わ、わたしはたこ焼きで構わないけど……」とマユちゃん。

 

「たこ焼きなんて何年ぶりかしら」とミカゲさん。

 

 よし、賛成多数につき、たこ焼きで決定だな。

 

 二宮高校の人らも、俺達とたこ焼き会食することに抵抗は無いようなので、このあとの3位決定戦と表彰式、閉会式が終わったらフードコーナーへ向かうとしよう。

 

 

 

 

 3位決定戦も滞り無く決着、順位が決定されて、続いて表彰式へと移る。

 優勝は、創響学園チーム・ビルドシンフォニー。

 部長であるケイスケが、金メッキのハロを象られたトロフィーカップを受け取るその様子――厳密には、そのケイスケの後ろで並ぶリョウマの姿を、遠くから見ている者がいた。

 

 ――イレギュラー1、確認。

 

 ――イレギュラー1は、オウサカ・リョウマの姿に憑依している模様。

 

 ――イレギュラー1、コードN.T.への断片的な記憶を所持。

 

 ――原作への侵食率……79%。

 

 ――可及的速やかな排除を推奨。

 

 ――否定。イレギュラー1はサンクチュアリへのアクセス権を持つため、運命決定による排除は不可。

 

 ――・・・了承。疑似覚醒システムのアップデートを急務とする。

 

 表彰式を見届けた後、何者かは踵を返して静かに去っていった。

 

 

 

 

 

 閉会式を終えたら、ぞろぞろとフードコーナーへ向かう。

 

 昼飯時が近いので少し混雑しつつあったけど、閉会式終了、解散の直後真っ先に来たおかげで、どうにか席を確保することが出来た。

 人数が人数だけあって、ちょっとしたパーティーだ。

 ……なるほど、これが『タコパ』ってやつだな。

 

 皆さん揃って飲み物の紙カップを手にしたところで、ケイスケ先輩が音頭を取る。

 

「えー……それでは、我々創響学園チーム・ビルドシンフォニーと、二宮高校チーム・ブラウシュヴェルト、互いの敢闘を祝して……」

 

「「「「「かんぱーい!!」」」」」

 

 紙カップ同士をパスパスと擦り鳴らす音と共に、ゴクリと一口。

 

 自然な形と言うべきか、俺とシオンは相席だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「まさか、バトルをした相手とこうして一緒に飯を食う日が来るとはなあ」

 

 思いもしなかった、とシオンは苦笑しつつたこ焼きを一口。

 

「にしても、数あるメニューのなかで、なあんでたこ焼きがチョイスされたんだ?」

 

 なんでと言われてもなぁ……説明が難しい。

 

「ほら、シオンのイフリートって、名前にラピートって付いてるだろ?濃紺の色もそうだから、南海電鉄の新幹線を思い出してさ」

 

「まあ確かに、俺のイフリート・ラピートはそれをイメージして塗装はしたけど。それで、そこからどうやってたこ焼きに繋がった?」

 

 それはそうだ、と周りのメンバーさん達も耳を傾けている。

 

「んーーーーーとな……なんか、『昔の新幹線ロボットで、南海ラピートをモチーフにした忍者の関西弁キャラクターがいて、そいつがたこ焼き屋をやってた』から?」

 

「それ、ヒカ○アンじゃあないか?電光超特急の」

 

「おぉーそうそう、それだ。よく知ってるな」

 

 この話題は俺とシオンにしか通じないのか、周りの皆さんはたこ焼きを食べるのに意識を戻したり、マユちゃん達に話しかけたりしている。

 

「で、だ。話題は変わるんだけどよお」

 

 ヒカリ○ンについて粗方話し終えたところで、シオンが話題を変更してきた。

 

「ぶっちゃけ、誰狙いだ?」

 

「誰狙い?」

 

「そりゃあ、女の子についての話題だ。あれだけかわいい女子が三人もいて、誰にも興味無いなあんてことは無いだろ?」

 

 昔のアニメの話から急転したな……ふむ、マユちゃん、イツキ、ミカゲさんの三人のことを指しているようだな。

 シオンが身近な話題を口にしたことで、急に周りのみんなの視線が集まる。

 恋バナだもんなぁ、気になりもするか。

 

「そうだなぁ……」

 

 俺がこの時、誰の名前を挙げたのか。

 

 それはまた別の話として語るとしよう――。

 




 今回登場のガンプラ、『イフリート・ラピート』の画像や詳細設定はこちら。↓(ガンスタグラムへのジャンプです)

https://gumpla.jp/hg/1718985


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8話 これってやっぱりギャルゲーじゃね?

 決勝戦にて、チーム・ブラウシュヴェルトを破り、見事優勝してみせた、俺達チーム・ビルドシンフォニー。

 

 優勝トロフィーを手に学園に凱旋したガンプラバトル部は、確かにその結果を手にしたとして、もう存続か廃部かの境目を彷徨うことは無くなったと見てもいいだろう。

 

 ふぅ、ここまでちょっと慌ただしかったけど、ようやく一息つける。

 

 地区大会を終えた、翌日の週明け月曜日。

 

 今日の活動は休みにする、とケイスケ先輩から昨夜の内に連絡を受けているので、さて今日はどうしようかと、俺、マユちゃん、イツキ、ミカゲさんの四人で昼休みの屋上に集まって、昼飯も兼ねて放課後の予定について談議だ。

 

「ケーキバイキング行こーぜ!」

 

 開口一番、イツキがそう意見を挙げた。

 

「ケーキバイキング?あ、繁華街のあそこのケーキカフェの?」

 

 美味しいスイーツの穴場は女の子特有のテリトリーなのか、マユちゃんがどこのケーキバイキングかを読み取っている。

 

「そうそう、あそこ今、格安でケーキバイキングしてるからさ、改めてそこで祝勝会しよう!」

 

「……祝勝会ね。遅くならない限りなら問題ないわ」

 

 ミカゲさん(地味子ちゃんモード)も頷いて応じている。

 

「わたしも賛成。オウサカくんは?」

 

 女子三人はケーキバイキング行き確定か。

 しかし、今日の俺の放課後は予定があるのだ。

 

「あー……悪い。今日はスーパーで特売日やってるから、そっちを逃したくない」

 

「えぇー?祝勝会の後じゃダメかー?」

 

 イツキはちょっと不満そうだが、そうはいかん、俺とて譲れないものがあるのだ。

 

「それに、ケーキカフェに男がいるっていうのも不自然だろう?俺のことはいいから、三人で楽しんでくれ」

 

「……そう言えば、オウサカくんは一人暮らしなのよね。値引きとかセールに敏感になるのも、分からないでもないわ」

 

 ミカゲさんが理解を示してくれた。

 親からの仕送りがあるとはいえ、節約出来るところは節約したいのだ。

 

「そっかー、まぁいっか。よしっ、それじゃぁ女子三人で祝勝会だな!」

 

 俺が欠席すると分かるや否や即決するイツキ、早いな。

 放課後の予定は滞りなく決まり、その後はくっちゃべって過ごす。

 あぁ、学園生活してるって感じだ。

 

 イツキが話題を用意して、マユちゃんがそれに応じて、場合によってはミカゲさんが鋭くツッコむ、というのがこの三人の基本形だ。

 俺は完全に蚊帳の外だけど。

 

「でさ、夏休み入ったらさ、ここ行ってみたい!」

 

 イツキが雑誌を片手にある誌面を指差して俺達に見せてくる。

 

「あ、ここって屋内プール場の『マーキュリーワン』?」

 

 知っているらしいマユちゃんが、施設名を挙げてくれる。

 

「そうそう、ここ一回行ってみたくてさー」

 

 俺も掲載されている写真を見てみる。

 

 写真には、施設の全貌や、各所各所では水着を着た、ピンク髪をツーサイドアップにしたモデルさんがリアクションを取りながら撮影されているページが並ぶ。

 そのモデルさんだが、かなり若い。

 加えて、水着を着たそのスタイルは大変素晴らしく、青年誌の表紙を飾っていてもおかしくないレベルだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 多分だが、俺達と同じくらいだろう。読者モデルだろうか。

 

 名前は……『星川 奈々(ホシカワ・ナナ)』か。

 

「リョーがナナちゃんに釘付けになってるー」

 

「へ?」

 

 イツキのからかうような声に、思わず間抜けな反応しちまった。

 

「だってリョー、ガン見してたし?」

 

 おいなんだその、エロ本慌てて隠してる奴を見かけたような顔は。

 

「ホシカワさん……だっけ。確か、ウチの学園の学生会で、書紀をやってるって聞いたことあるけど」

 

 スタイルいいなぁ……とマユちゃんが写真のホシカワさんを見て羨んでいる。

 この学園の生徒だったのか。それも学生会メンバーとな。

 

「……今年の一年生よね?去年の私みたいなことにならなければいいのだけど」

 

 ミカゲさんは自身に覚えがあるのか、やけに実感のこもった深い溜息をつく。

 読者モデルやってますって人が同じく学園にいたら、そりゃ目立つだろうし、"お近付き"になりたいのも必ず出てくるだろうなぁ。

 

「へぇ、この学園にいるんだな。……そう言えば、時々校門近くでナンパしてる奴を見かけるけど、あれがそうなのか」

 

 登下校時に校門通る時に「アイアムナンパーマン、オレとイチャイチャ(意味深)しようぜ」って輩を何人か見たことあるんだけど、あれってホシカワさん目当てだったのかもしれないな。

 ……まぁ、俺にはあまり関係無いか。

 

 

 

 放課後。

 マユちゃん、イツキ、ミカゲさんの三人は予定通り繁華街のケーキカフェへ向かい、俺はスーパーの特売セールへ突撃する。

 

 しかし。

 

「………………よもや、全滅とは」

 

 俺の目当ての品は全て吹き飛ばされてしまっていた。

 当然と言えば当然なのだが、特売日だと分かっていれば主婦の方々が揃って「一番乗りィ!」と言わんばかりに赴いて来るものだ。

 夕方頃の一人暮らしの学生がフラフラ来たところで、残り物しか残ってないわけで。

 まぁ仕方無い、今日のところは退散するとしよう。人生、諦めも肝心だ。

 

 ふらーっと出入口に向かってほっつき歩いていると、雑誌のコーナーが目に付き――ちょうど、イツキが昼休みに持っていたタウン誌だ。

 イツキってこういうのも普段読んでるんだなぁ、今日のケーキバイキングについての情報にも詳しかったようだし。

 ペラペラと捲ってみて、そう言えばタウン誌とかまともに読んだこと無かったなーと思いつつも、先程の屋内プール場『マーキュリーワン』の特集に。

 

 一面を飾る読者モデルで、ウチの学園の一年生で、学生会役員の……なんて名前だっけ。

 

 誌面を見回して、『星川 奈々』の名前を発見。

 

「そうそう、ホシカワ・ナナ……」

 

「あ、はい、なんでしょうか?」

 

「……え?」

 

 俺の独り言になんか反応してくれた人がいたから、思わず振り返ったら……

 

「今、わたしのこと呼びましたよね?」

 

 目の前にいるのは、創響学園の制服を着た、ピンク髪をツーサイドアップにした女子生徒。

 しかもその容姿は、俺の手元にあるタウン誌の一面を飾るモデルさんにそっくりで……

 

 っていうか、

 

「うわっ、まさかの本人!?」

 

「本人も何も、わたしはホシカワ・ナナですよ?その雑誌にいるのもわたしですけど」

 

 おいおいおい、まさかご本人とエンカウントするとは思わなんだ、さすがの俺も予想してなかったぜ。

 

「……わたしの水着、見てたんですか?」

 

「ん?まぁその通りだが、可愛く撮れているなーと」

 

「お褒めいただきありがとうございます♪でもダメですよ、下校中に寄り道なんてしちゃ。学生会書紀として、注意させていただきます。……って言いましたけど、皆さん普通に道草ムシャムシャしてますから、校則も有名無実化してるのが現状なのですが!」

 

 あははー、と笑うホシカワさん。

 

「ってかウチの学園、寄り道禁止だったのか」

 

「校則の上では、ですけどね。一応、形だけでも注意はしておきませんと」

 

 ぺこりと頭を下げるホシカワさん。

 

「なるほど、すいません」

 

 校則を突きつけられては、素直に低頭平身になるしかあるまい。

 俺達学生は、学校という規則に守られているから学生をさせてもらっているのだから。

 

「あ、もしかして、センパイさんですか?」

 

「うん、俺は二年だな。……というかその俺を注意したホシカワさんも寄り道真っ最中では」

 

「わたしは学生会の買い物ですから、ご心配なくです」

 

 そう頷くホシカワさんの足元には、エコバッグに詰め込まれた2リットルのペットボトルが三本ずつ、計六本が置かれている。

 これを買い出しに来てたわけか。

 しかしこの量は結構重いだろう、それも女子一人が運ぶにはキツいかもしれない。

 

「……それ、手伝うよ」

 

「え、あっ」

 

 ホシカワさんの了承を待たず、エコバッグに詰め込まれたそれらを持ち上げる。

 

「でもでも、すっごく重いですよ?」

 

「だったらなおさら放っておけないな。俺の『困ってそうな人をほっとけない病』が再発してしまう」

 

 つーか普通に重いな。

 今世の俺は軍人や少年兵、ガンダムファイターじゃないから、身体を鍛えているわけではない、普通の男子高校生だ。

 

「あ……ありがとうございます。なら代わりに、わたしがセンパイの鞄をお持ちします」

 

 そう言って、ホシカワさんが俺の鞄を手に取ってくれる。

 普通に持つと重いが、肩に掛ければ少しはマシだな、あーらよっと。

 さぁ、学園へ蜻蛉返りだ。

 

 

 

 そうして学園へ蜻蛉返りしている間、ホシカワさんとのんべんだらりとお話する。

 

「ほうほう、あのタウン誌の編集長が従兄なのか」

 

「モデル役がいないからって、今年の春から頼まれちゃったんです。一応、来年の三月……一年だけの契約なので、それまでは頑張ろうかなって思ってます」

 

 その従兄さんにとっての幸運は、従妹が美少女だったことか。読者モデルなんて普通は願っても叶わないだろうに。

 

「でも身内だからって、薄給で扱き使うんですよ?ひどくないですか?」

 

「薄給?」

 

 実際、雑誌のモデルさんのギャラってどのくらいの金額なんだろうか。

 

「いくら素人の学生でも、モデル料が一日千円だなんて、学生のアルバイトの時給でももうちょっと貰えてますよ」 

 

「一日千円!?……モデルって撮影に時間とかかかるものだよな?」

 

 仮に三時間程度のアルバイトで最低賃金でも、二千五百円くらいは貰えるはずだけどなぁ、一日千円はどう考えても割に合ってないどころか、コストを度外視してるぞ。逆の意味で。

 

「普通に丸一日拘束されます。だから、休日が無くなることも多いんですぅ」

 

「学生のアルバイトでも、それだけ働けば五、六千円は普通にもらえるぞ?賃上げ要求すべきだ」

 

 それはいくらなんばでもブラック過ぎる、ドスブラックだ。

 

「撮影ついでにタダで美味しいもの食べられたり、色んなところへ行けたりするんですけどね」

 

「いやいや、それは業務内容の一部だろう。報酬は報酬としてちゃんと支払われるべきだ」

 

 従兄さん、訴えられたりしないか心配になるんだけど。

 

「ですよね!?よしっ、次からは二千円くらいにはしてもらいます!」

 

「……時給換算で最低賃金プラスアルファくらいは要求していいと思うぞ。手数料と手間賃、さらに心的苦労も含めればもっと要求されてしかるべきだ」

 

 すると、「よくぞ聞いてくれました!」と言わんばかりにホシカワさんがズズイッと顔を近づけて来る。

 

「そうなんです!苦労してます!」

 

 おぅふ、近い近い。

 

「一番困ってるのはナンパです。校門前で待ち伏せしてる人とか、数少ない貴重な休日に限ってしつこく声かけてくる人とかっ!」

 

 あー、やっぱりそういうのもあるんだな。ミカゲさんの苦労がなんとなく分かった気がする。

 

「そ、そのなんだ、ホシカワさんも大変だな……」

 

「とにかくしつこくて最低最悪です!わたし、ぐいぐい来られるの大嫌いなんです。なんであぁ言う人達って、相手の気持ちとか心情とかそういうのを汲み取ろうとしないんですかね!?」

 

 ふぁっきんしーっと、と女の子が発したら良くないことを吐き出すホシカワさん。ストレス溜まってそうだなぁ……

 

「なんとなく分かるよ」

 

 お断りしますって言ってるのに、ハエのように集りにくるのは俺も勘弁だな。ハエならハエらしく汚物に集れば良いものを。

 

「彼氏にするんだったら、普通に優しい感じの人がいいんですけど。例えば……さりげなく重い荷物を持ってくれる人とか、ですっ」

 

「なるほど。そういう点では、俺もホシカワさんのお眼鏡に掠める程度は叶っているわけか。それは光栄だ」

 

「あははっ、センパイって面白いですね♪」

 

 今のがどう面白かったのかは分からんが、喜んでくれたならまぁいいか。

 

 

 

 ホシカワさん並んで校門を潜り、学生会室へ向かう。

 

「あ、そういえばセンパイのお名前、聞いてなかったです」

 

「ん、名乗ってなかったか。俺はオウサカ・リョウマだよ。二週間くらい前に転校して来たんだが」

 

「オウサカ・リョウマ……あっ、もしかして、ガンプラバトル部のウマノセンパイを叩きのめしたって言う、"あの"オウサカセンパイですか?」

 

「知ってたのか」

 

「そうですそうです。わたし、入学したての頃にあの人にもしつこく言い寄られてまして……もうほんっと嫌でした」

 

 ハァ、と幸せが逃げそうなくらいの溜息。

 マジかよぁんの馬の骨、マユちゃんだけに飽き足らずホシカワさんにまで手を出そうとしてたのか。

 いや、マユちゃんのガードが堅いから、気分を変えてホシカワさんを狙ったとも言えるか。どちらにせよ度し難いが。

 

「それで、二年の転入生がウマノセンパイをガンプラバトルで叩きのめしたって言うのを風の噂で聞きまして……それが、オウサカセンパイだったんですね」

 

 むむ、俺の勇名……勇名?は下級生たちにも知れ渡っていたか。

 

「まぁ確かにあの馬の骨を押しやる形で、ガンプラバトル部に入部はしたけども」

 

 というか転入初日からこの二週間で色々あったな、なかなか濃密な二週間だった。

 

「今となってはあのセンパイも大人しくしてるって聞いてますから。懲らしめてくれてありがとうございます、オウサカセンパイ」

 

「別に懲らしめたわけじゃないんだが、まぁいいか」

 

 俺に負けたからって勝手に身を退いただけなんだがな。

 

「それで、ですね。わたしの呼び方についてですが……ホシカワさん、じゃなくて、違う呼び方がいいなーと……」

 

「となると、下の名前の方がいいと。じゃぁ、ナナちゃんでいいか?」

 

「はいっ。以後はそれでお願いします、オウサカセンパイ♪」

 

 オケー理解した。

 

 こうして、俺とホシカワさん――もとい、ナナちゃんとのファーストコンタクトは滞りなく済んだ。

 

 

 

 学生会室へ到着。

 学生会室ってことは、ゴジョウイン会長とか、シノミヤ副会長がいるんだよな。

 

「失礼しまーす、ホシカワでーす」

 

 ナナちゃんがノックしてからドアを開けてくれるので、俺もそそくさと続く。

 

 ほーん、この学園の学生会室ってこんな感じなんだな。

 とは言え室内にいるのはゴジョウイン会長とシノミヤ副会長だけのようだが。

 

「あら、ナナちゃんおかえりー。……と、オウサカくん?」

 

 最初にシノミヤ副会長が出迎えてくれた。

 

「ハローこんにちはシノミヤ副会長、こちらのホシカワさ……じゃない、ナナちゃんの手伝いをしていました」

 

「そうなんですよ、トモエセンパイ。このオウサカセンパイが、すっごい優しくて親切なんです♪」

 

 ナナちゃんが評価高めに俺をそう言ってくれる。

 

「そうなの?わざわざありがとうね、オウサカくん」

 

「どういたしまして。冷蔵庫は……あぁ、そこですね」

 

 見えやすい位置に冷蔵庫があったので、そこへペットボトルを運び込んで、ドコドコと入れていく。

 

「ほぅ、男嫌いのホシカワにそこまで言わせるか。オウサカ、君もなかなかやるようだな」

 

 すると、会長専用の高そうなデスクから、ゴジョウイン会長が顔を覗かせてきた。

 

「男嫌い、ですか?」

 

 男嫌いとな?

 冷蔵庫の戸を閉じてから、オウム返しに訊き返す。

 

「あぁ。ホシカワが雑誌のモデルをやっているのは知っているだろう?そのせいでやけに目立つようでな、毎日ラブレターやお近付きになりたい男子が絶えんそうだ」

 

「それはまた」

 

 実際に起こり得るんだな、ロッカー開けたらラブレターの山積みとか。

 

「ラブレターばっかりでも無いですけどねー。大抵はイメージアップを狙った部活の勧誘とか、知らない女の子からの挑戦状とか、脅迫状とか、不幸の手紙とか……」

 

 ナナちゃんがまた溜息をこぼしたけど、その内容がちょっと笑えない。

 

「え、なにそれ怖い」

 

 挑戦状とか脅迫状とか不幸の手紙って、ヤバくないかそれ?

 

「だから、そういうのに対する自衛も含めて、学生会にいるんですよ。ここならトモエセンパイもいますし、アマネセンパイに喧嘩を吹っ掛ける人もいませんし、万々歳です!」

 

 なるほどな、学生会の傘下に入って庇護を受けてもらっているわけだ。

 学生会員なら男子でもナナちゃんに色目は使っても、手を出すまでには至らないだろうし、仮にもしそんなことが発覚すれば即座にゴジョウイン会長とシノミヤ副会長という、学生会のツイン重鎮の耳に入るわけで。

 さらに言えば、腕っ節でねじ伏せようにも、そのトップが武闘派の側面も持ち合わせているとも来れば、まともで真っ当な理由以外でナナちゃんに手出しは出来まい。

 

「ナナちゃんは役員としても優秀だし、私もアマネも助かっているわ。加えて、合法的に学生会のイメージアップにも繋がっているし、まさにWin-Winよ」

 

 それもそうか。

 ナナちゃんにとってのきっかけは自衛のためだとしても、学生会に所属するならデスクワークも出来ないと話にならないわけだが、それも心配無く、だからといってナナちゃん目当てで、学園の規範と模範となるべくの組織に入りたがるバカタレもいないわけで。

 まさに理想的な環境だ。

 

「……さて、俺の任務も完了したんで、そろそろお暇しますね」

 

 無関係な生徒がいつまでも学生会室にいるわけにもいかない、用が済んだなら早いところ退室だ。

 

「あ、ちょっと待ってオウサカくん」

 

 ……と、思ったんだが、シノミヤ副会長に引き止められた。

 

「せっかくここに来たのだし、乗り掛かった船だと思って、ここで私達の仕事を手伝ってみる気は無いかしら?」

 

「トモエ、彼にも都合があるだろう」

 

 俺を引き止めたいシノミヤ副会長と、それを止めるゴジョウイン会長。

 

「えー?でもせっかくちょうどいいタイミングで、優秀な人材が転がってきてくれたのよ?このチャンスを逃したくないわ」

 

「そんな言い方で人にものを頼む奴があるかと言っているんだ」

 

「つまり、言い方を変えればそれも吝かではないと」

 

「……訂正する。自分の都合で他人を振り回すような真似をするなと言っている」

 

「あら、アマネの都合でもあるし、ナナちゃんの都合でもあるし、間接的に会全体の都合でもあるわ」

 

「〜〜〜〜〜……………」

 

 なにこの漫才コンビ面白い。

 ようするに仕事を手伝ってくださいやがれってことやな。

 

「あの、オウサカセンパイ。ほんとに無理して手伝ってくれなくてもいいですからね?ちょっと気を許すとすーぐ人を振り回したがるのがトモエセンパイの悪いところですし……」

 

「ちょっと、今のは聞き捨てならないわナナちゃん。人を振り回すにしても、ちゃんと相手くらいは選んでいるわ」

 

 人を振り回したがること自体は否定しないんですね。

 

「まぁ、立てていた予定も無くなってしまったんで、手伝うくらいなら」

 

 たまにはデスクワークの真似事くらいは良かろうて。

 

「ありがとう、オウサカくん。それじゃぁ早速、こっちの書類を……」

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

「えーと、こんなもんでどうでしょう。一応チェックをお願いします」

 

「あら、もう終わったの?早いわね」

 

 シノミヤ副会長から頼まれた書類の書き込みに一区切りがついたので、不備が無いかをチェックしてもらう。

 

「ふむふむ……よし、よし、これもよし……うんっ、完璧よ。さすがはオウサカくんね」

 

 褒められてしまった。よせやい照れるじゃねぇか。

 

「そんな難しいことでも無いですし」

 

「難しいことでも無いから、油断して不備が起きやすいのよ。正直、正規の役員よりも優秀だわ」

 

 マジか、そんなにか。

 まぁ、過去の異世界転生で兵站管理やら予算会計やら作戦参謀やら、尻で椅子を磨いて温める仕事には慣れてるし。

 

「どうでしょう、間違えちゃならんと思って緊張しながらやってたんですが」

 

「緊張感……なるほどね。確かに緊張感は大切だわ。でも、ピリピリして空気が張り詰め過ぎるのも良くないのよ。アマネみたいに四六時中緊張感を保つなんて無理だし」

 

「トモエ、余計なことを言うな。それに私もオフの時くらいは抜いているつもりだ」

 

 ゴジョウイン会長からツッコミいただきました。

 

「だが、不備なく仕事をこなせる役員が、思いの外少ないのも事実だ。本音を言えば、私もオウサカに学生会員になってほしいところだ」

 

「……すごいわ、学生会関連の仕事で、アマネが人を褒めた。今夜は何が降って来るのかしら」

 

 そんなに驚くことなのか、シノミヤ副会長が心底意外そうな顔をした。槍とか血の雨じゃなくて、何が降って来るか分からない辺りが怖い。

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 そうして、シノミヤ副会長から与えられるミッションを一つずつこなしていくと。

 

「オウサカくんのおかげで、今日の業務も随分早く済んだわ。ありがとうね」

 

「どういたしまして。特別、何かすごいことをやったわけでも無いですけど」

 

 俺が業務を手伝ったおかげで、今日のノルマが想定よりも遥かに早く済んだらしい。

 

「いや、すごいですよ!他の役員さんなら、大体二、三回はダメ出しが入るのに、オウサカセンパイは全部一発で通してるんですから!」

 

 ナナちゃんはすごいすごいと言ってくれるけど……そんな毎回ダメ出されるとか、ちょっと杜撰すぎないか?

 

「私からも礼を言わせてくれ、ありがとう」

 

 ゴジョウイン会長からも感謝の言葉をいただきました。

 

 さて、現在の時刻は17時が過ぎた頃。

 さすがにそろそろお暇しないとな。いくら業務を手伝ったとはいえ、部外者がいつまでも学生会室に居座るわけにもいかんし。

 

「じゃぁトモエセンパイ、バトルシミュレーター使っていいですか?」

 

「あら、構わないわよ」

 

 ん?バトルシミュレーター?ガンプラバトルのか?

 学生会室にそんなものあるのか?

 

「やった!オウサカセンパイ、今日はガンプラを持って来てますか?」

 

「ん?あるけど……まさか、この学生会室でやるのか?」

 

 というか、なんでシミュレーターが学生会室にあるのか……

 

「そうですよー、なんでもゴジョウインセンパイが私物として持ち込んだとか、なんとか」

 

「会長の私物!?」

 

 思わずその会長の方に目を向けると。

 

「うむ。私は学生会の立場上、ガンプラバトル部に居座るわけにはいかんからな。仕事が終わった後などは、ここで自己鍛錬もしている」

 

 本人がそう言うからには間違いないか。

 まぁ、実績の他には家柄とか権力とかで押し込んだんだろうなぁ……

 

「というか、ナナちゃんもガンプラバトルをしているのか」

 

 それよりも気になるのはそっちだ。

 ナナちゃんからはそんなイメージが全然無かったから、意外と言えば意外だ。

 

「はい。って言っても、これもモデルの仕事の一貫みたいなものでして……」

 

「モデルの仕事の一貫?」

 

 オウム返しに訊き返すと。

 

「ウチの従兄ちゃん、ガンプラ関連でもわたしを売り出そうとか考えてるみたいでして……なので、そのガンプラバトルを始めたのも今月くらいからなんです」

 

 まだまだ練習中です、と言うナナちゃん。

 

「それはまた……なんだかガンプラアイドルみたいだな」

 

「歌って踊るわけじゃないので、厳密にはアイドルでは無いんですけど。さぁ、時間もあんまりありませんし、早速やりましょうセンパイ!とりあえずミッションモードでいいですよね?」

 

 俺の承諾を得るよりも先にバトルシミュレーターを並べて電源を入れていくナナちゃん。まぁいいけどな。

 

 

 

 ミッションモードで選択し、さて何のミッションにするのかね。

 

「じゃぁオウサカセンパイ、これ、いいですか?」

 

 どれどれ、どんなミッションかなー。

 

 ミッション名は『ラプラスの亡霊』

 

 指定されるフィールドは『旧首相官邸ラプラス』

 

 ふむ、ここは確か……U.C.0096頃に、『ラプラスの箱』を巡る戦いの中で、"箱の鍵"であるRX-0(ユニコーンガンダム)に仕組まれたLa+システムの座標が示した、最初の場所……だったかな。

 

 いやー、あの時代に転生した時は、バナージと一緒に連邦と袖付きを行ったり来たりして大変だったなぁ。

 

 達成条件は『敵機の全機撃破』か。シンプルでいいな。

 

「よし、じゃぁやろうか」

 

「はい!」

 

 バナパスを読み込ませてーの、ガンプラをスキャニングさせてーの。

 

「オウサカ・リョウマ、オリジネイトガンダム、行きます!」

 

「ホシカワ・ナナ、『ティエレンパイタォ』、行っきまーす!」

 

 

 

 ゲートより発進して、すぐにナナちゃんのガンプラと合流。

 

 目に映える淡いピンク色の装甲……だが、その装甲形状はゴツゴツして分厚い。

 人型と言うよりは、『四肢を持った戦車』とも言うべきそれは、

 

「ティエレンの改造機なんだな」

 

 A.D.歴の人類革新連盟(人革連)の主力機なんだけど、ユニオンのフラッグや、AEUのイナクトに比べるとどことなく古臭い機体なんだよな。

 

「はい、正確には、"タオツー"の方ですけど……これがわたしのガンプラ、ティエレンパイタォです!」

 

 なるほど、白桃(パイタォ)か。

 それに……完成度もなかなか高い。

 滑腔砲やショルダーシールド、プロペラントタンクを外している代わりに、手持ちのライフル――非太陽炉対応型ビームライフルかな――などを装備している。

 肩にあるのは、シェンロンガンダムのシェンロンシールド、それも左右両方に付いているな。

 

「すごいな、ガンプラを始めて間もない初心者とは思えない完成度だ」

 

「いやいやっ、オウサカセンパイのガンダムの方がやばいくらい強そうじゃないですか!なんか、恥ずかしいです」

 

「恥ずかしがることなんてない。仕事の一貫だとしても、そのティエレンはナナちゃんが真摯に取り組んだ結果だ。誰だって簡単に出来ることじゃない」

 

「センパイ……嬉しいお言葉、ありがとうございますっ♪」

 

 あれ?なんか好感度が上がった気がするぞ。

 まぁいいか、とりあえずミッションに集中しよう。

 

 まずは官邸の近くに移動して、少し待つ。

 

『――地球に住む全ての方々へ……』

 

 そして始まる、リカルド・マーセナス初代首相による演説。

 そうそう、これで危機を察知したバナージが、

 

 ――『オウサカ・リョウマ……初出場で俺の前に立ったこと、それは褒めてやる』――

 

「――えっ?」

 

 ……なんだ、今の声は?

 聞き覚えの無い声が、俺の名前を呼んだ。

 いや……違う、俺はこの声を知っている。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()声?

 

「オウサカセンパイ?どうかしましたか?」

 

「あ、あぁ、大丈夫だコノミちゃん。心配ない」

 

 

 

「……あの、センパイ?"コノミちゃん"って誰ですか?」

 

 

 

「え?何言ってるんだ、コノミちゃんはコノミちゃ……あ、あれ?」

 

 俺は誰のことを言ったんだ?

 

 お、落ち着け。今俺と一緒にバトルしているのは、ホシカワ・ナナちゃんだ。

 使っているガンプラはティエレンパイタォ。

 デュナメスの改造機じゃない、はずだ。

 

 ……デュナメス?どうして今、デュナメスの機体名が思い浮かんだんだ?

 

「えっと……大丈夫ですか?」

 

「あー、あー……すまん、きっと俺のオリジネイトに搭載されているLa+システムが反応したせいで妙な電波を受信したみたいだ」

 

 咄嗟にそんな冗談で誤魔化そうとする。

 

「それより、そろそろ敵が来る頃だな」

 

「あ、あっはい」

 

 これは嘘ではない、官邸の反対側に潜んでいた、親衛隊を含むギラ・ズールが四機と、アンジェロ・ザウパー専用の隊長機が飛び出し、一斉に襲いかかってきた。

 

 その中でも、一般機仕様で高出力バックパックを備えたのがギルボアさんの機体、親衛隊仕様で両腕にギラ・ドーガのシールドを備えたのがキュアロン中尉の機体だな。

 

 ランゲ・ブルーノ砲改やビームマシンガンによる射撃を回避しつつーの、こちらもビームライフルを撃ち返せば、ナナちゃんのティエレンパイタォもビームライフルを合わせてくれる。

 

 だが、フル・フロンタルに追従するエリートで構成された親衛隊と、叩き上げかつ腕利き揃いのガランシェール隊だ、素早く散開してこちらの反撃を躱してくる。

 

 双方の射撃が交錯するものの、どちらもダメージらしいダメージかを与えられないまま膠着状態へと縺れ込む。

 

「当たらないです……!」

 

 ナナちゃんは焦れたようにビームライフルを連射している。ちょっと冷静さが足りないな。

 

「落ち着いて、ナナちゃん。慌てずに、俺に動きを合わせるんだ」

 

「は、はい!」

 

 俺の一声に、ナナちゃんはすぐに反応し、オリジネイトの背後についてくる。

 よし、いい子だ。

 

 幾度目の一斉射撃を躱し――親衛隊の一機が僅かに連携を遅らせる。

 

「そこ!」

 

 即座にビームライフルを発射、俺の射撃がギラ・ズールの頭部を撃ち抜き、動きを止めたところをすぐにティエレンパイタォがビームライフルで重ねがけし、親衛隊ギラ・ズールを撃ち抜いた。

 

 ギラ・ズール【親衛隊仕様】、撃墜。

 

「や、やりました!」

 

「ナイス援護だ、ナナちゃん」

 

 ビギナーですと言う割には、反応が早い。もしかしたらこういうFPSのゲームは得意なのかもしれないな。

 とにかくまずは一機。

 

『手筈通りだキュアロン、やれ!』

 

 すると、アンジェロの指示を受け、キュアロン機の動きに変化が見られた。

 キュアロン機が前に出て、ビームマシンガンを連射し、さらに両腕のシールドからシュツルムファウストを次々に発射してくる。

 その後方からもアンジェロ機がランゲ・ブルーノ砲改を撃ち込んでくる。

 

「ナナちゃん、前のギラ・ズールは任せる。俺は後ろのアンジェロ機をやる」

 

「了解ですセンパイ!」

 

 キュアロン機をスルーし、そのままアンジェロ機のギラ・ズールへ突撃。

 ガランシェール隊のギラ・ズールが横合いから援護射撃を仕掛けてくるが、こちらは既に加速済みだ、そうそう当たるまい。

 アンジェロ機からもランゲ・ブルーノ砲改を撃ちまくってくるが、これも問題ない、最小限の挙動で躱して肉迫。

 

『化け物め……私のギラ・ズールを舐めるなよ!』

 

 アンジェロ機はビームトマホークを抜いて斬り掛かって来るものの、こちらはそれよりも早く左マニピュレーターにビームサーベルを抜いている、加速の勢いのままギラ・ズールのボディを突き立て、蹴り飛ばす。

 

『大佐!離脱してください!貴方を失うわけには……!』

 

 ギラ・ズール【アンジェロ機】、撃墜。

 

 すぐに反転してナナちゃんの元へ向かえば、接近戦を持ち込んだキュアロン機を相手に喰らいついて粘っている。

 振り抜かれるビームトマホークに、ビームサーベルで対抗しているが……ビームサーベルに非太陽炉対応型ってあったっけ?まぁどっちでもいいか。

 

 ビームライフルでキュアロン機の横合いから一発。

 

 ギラ・ズール【キュアロン機】、撃墜。

 

「助かりました!ありがとうございます!」

 

「よく堪えてくれた。あと二機だ」

 

 残るはガランシェール隊の二機だ。

 

 

 

 数さえ減らせばこちらのものだ、残り二機のギラ・ズールも苦戦すること無く撃破し、無事にミッションクリア。

 

「ふぃー……お疲れ様でした、オウサカセンパイ。さすが、ガンプラバトル部のエースだけありますね」

 

「ナナちゃんもお疲れさん、なかなかやるじゃないか」

 

 互いの健闘を称え合いつつ、スキャナーからガンプラを回収。

 

「二人ともお疲れ様。そろそろ戸締まりするから、片付けてちょうだいね」

 

 シノミヤ副会長が、この学生会室の鍵を片手に待ってくれていた。すいませんね。

 

 ナナちゃんと手分けして、手早くバトルシミュレーターを片付けていく。

 

「そう言えば、ナナちゃんのティエレンって改造していたけど、あれもナナちゃんが自分で?」

 

「あぁ、あれはですね、ティエレンタオツーじゃないパーツは、実は従兄ちゃんが持ってたパーツを使っているんですよ。ティエレンパイタォに付けるための改造とか、一部は従兄ちゃんにやってもらいましたけど、パーツのチョイスとか、塗装とかは自分で頑張りました!」

 

「なるほどな」

 

 オリジナルのビームライフルやビームサーベル、シェンロンシールドを二枚も装備していたのは、あれは従兄さんのジャンクパーツから選んだのか。

 

「従妹に無理難題を押し付けるんですから、これくらいの融通はきいてもらわないと!」

 

「無理難題とか言いながらも、それでもきちんとやろうとするナナちゃんは凄いな」

 

「そうですか?えへへ、オウサカセンパイに褒められちゃいました♪」

 

 実際、世辞を抜きにしても凄いと思う。

 

 

 

 戸締まりを終えて、四人で校門を潜る。

 それぞれタイプの異なる美少女三人と一緒に下校……あれこれなんかデジャヴ?

 

 ……あっそうか(閃き)。

 

 マユちゃん、イツキ、ミカゲさんと三人を攻略可能な『ガンプラバトル部ルート』と、

 

 ゴジョウイン会長、シノミヤ副会長、ナナちゃんの三人を攻略可能な『学生会ルート』の2ルートに分岐していて、

 

 どっちのルートにも入らないと、ケイスケ先輩との『友情エンド』で終わると。

 

 ……ってやっぱりギャルゲー世界じゃねぇか!!

 

「……あぁそうだ。オウサカ、君に教えておくことがある」

 

 この学園ラブコメ世界の仕組みについてツッコミを入れていると、不意にゴジョウイン会長が話しかけてきた。

 

「なんでしょう?」

 

「六月の末頃に、個人戦の部の選手権大会がある。こちらはオープンクラスでレベルは高いが、君なら勝ち抜けるはずだ」

 

 六月の末頃……今が六月上旬だから、大体三週間後。

 参加するかどうかは自由だけど、今後の展開的には参加すべきだろうな。

 

「オープンクラスの個人戦の部ですか。せっかくですし、挑戦してみます」

 

「よし、よく言ってくれた。これで張り合いが出来ると言うものだ」

 

 満足気に頷くゴジョウイン会長。

 

「張り合い?もしかして、ゴジョウイン会長も参加するんですか?」

 

「そうだ。君とはもう一度戦いたいと思っていてな。つまり当日は、私と君はライバル同士になるというわけだ」

 

 ははぁ……そういうことか、だから俺を誘ったんだな。

 

「お手柔らかにお願いしますよ」

 

「無論だ。お手柔らかに、全力で倒すと約束しよう」

 

 お手柔らかに全力で倒すって、すんごい器用なことをするな?

 

 まぁともかく、今月末に個人戦の選手権大会が控えてますということで、今度はそれに備えるってことか。やれやれ、なかなか忙しないスケジュールだな。

 すると、隣からシノミヤ副会長がくすくす笑う。

 

「アマネったら、オウサカくんとバトルするの、すっごい楽しみにしてるのよ。最近なんか、「自己鍛錬などより、オウサカとバトルする方が充実感があるな」とか言い出してるし」

 

「当然だ」

 

 むふん、とドヤ顔。なんですか、ちょっとかわいいとか思っちゃったじゃないか。

 

「アマネセンパイにそこまで認められているなんて、やっぱりオウサカセンパイはただ者じゃなかったんですね……!」

 

 その反対側から、ナナちゃんが戦慄している。

 ただ者じゃない……うん、『異世界転生でこの世界に来た』って言う意味なら、ただ者ではないかな。

 

「うむ、今後も連絡を取り合うこともあるだろう。連絡先の交換をしておくとしよう」

 

「あ、はい。RINEでいいですか?」

 

「構わない」

 

 ゴジョウイン会長がスマホを取り出すのを見て、俺も懐からスマホを取り出す。

 

「あーっ、アマネセンパイずるいです!わたしも交換したいです!」

 

「そうねぇ、それなら私も交換してもらおうかしら」

 

 それを見て、ナナちゃんとシノミヤ副会長も続いてきた。

 

 ゴジョウイン・アマネ

 ホシカワ・ナナ

 シノミヤ・トモエ

 

 今日だけで女子の連絡先が三つも増えてしまった。

 これは本格的にギャルゲーだな、夜に誰に連絡するとかで好感度アップに繋がりそう。

 




 今回登場のガンプラ、『ティエレンパイタォ』の画像や詳細設定はこちらへ↓(ガンスタグラムへのジャンプです)

https://gumpla.jp/hg/1739260


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9話 白と黒の双璧

 学生会室で業務を手伝ったその日の晩、早速メッセージが投げ掛けられた。

 メッセージがあったのは、シノミヤ先輩からだ。

 ちなみに、ゴジョウイン先輩、シノミヤ先輩、ナナちゃんの三人のグループトークにも参加させてもらっている。

 

 はいはい、なんでございましょう。

 

 

 

 トモエ:今、時間は大丈夫?

 

 リョウマ:大丈夫ですよ。なんでございましょう?

 

 トモエ:今週末の日曜、アマネとナナちゃんと遊びに行く予定なのだけど、オウサカくんも一緒にどうかしら?

 

 リョウマ:特に予定も無いですし、お呼ばれします

 

 トモエ:さすがはオウサカくん、レディの扱いに慣れているわね

 

 リョウマ:慣れているつもりは無いんですが、普段から女子率の高い部にいるからでしょうか

 

 トモエ:なるほど、それなら納得だわ

 

 トモエ:アマネとナナちゃんには、私から伝えておくわね

 

 リョウマ:よろしくお願いします

 

 トモエ:夜分遅くにごめんなさいね、おやすみなさい

 

 リョウマ:おやすみなさい

 

 

 

 互いに『おやすみなさい』のスタンプを貼り合って、トークは終了。

 

 ふむ、今週日曜は学生会の三人と遊びに行く、と。

 忘れない内にスケジュールアプリに書き込んでおくとしよう、カキコカキコ。

 

 しかし遊びに行くとな。

 シノミヤ先輩とナナちゃんはなんとなく想像出来る。

 

 けれど、ゴジョウイン先輩が遊ぶ姿と言うのが今ひとつイメージ出来ない……というかあの人、ガンプラバトル以外でプライベートの時間は何やってるんだろうか。

 

 うーん、握力でカボチャを潰せそうなくらい鍛えているようだし、トレーニング?朝起きたら30分はランニングしてそう。

 いや、あぁ言う凛々しい系女子に限って、実は部屋はかわいいぬいぐるみだらけでもふもふしてたりするのが鉄板だし……うん、なんかその方がしっくり来るな。

 でも直接訊くのはやめておこう、きっと隠しておきたい趣味だと思うし。

 

 想像ばかりが先走ってしまったが、まぁその日にさりげなく訊けばいいだろう。

 

 ともかく、今週日曜日の予定は決まったところで、今日のところは寝るとしよう。おやすみー。

 

 

 

 

 

 というわけでやって来た週末日曜日。

 

 ゴジョウイン先輩からは、現地でガンプラバトルもする予定だからガンプラも持ってくるようにと言われているので、オリジネイトガンダムも忘れずに持ち運ぶ。

 

 待ち合わせ場所は、10時に駅前広場。

 

 以前にガンダムベースにミカゲさんのガンプラを見繕いに行った時と同じように、15分前には到着しておき、意識高い系男子をアピールしておくぜ。

 

 ……と思ったんだが、事態は俺の予想を見事に裏切ってくれた。

 

「あっ、オウサカセンパーイ!こっちですー!」

 

「なんだ、思ったより早かったな」

 

「あら、時間前行動が出来るなんて紳士的じゃない」

 

 俺が着くよりも先に、御三方が既に待ってくれているではありませんか。

 うん、皆さん制服じゃなくて私服だから、新鮮だなー。

 

 とりあえず朝のおはようございますを告げてから。

 

「遅くなってすみません、15分前に待っていればいいと思ってたんですが、三人とも早いですね?」

 

「いいや、私達も今来てすぐのところだ。待つと言うほど待ってはいない」

 

 ゴジョウイン先輩がそう言うからには、待ち始めて間もないのだろう。この人は基本的に忌憚のない物言いをするから。

 

「少し早いけど、むしろ時間に余裕が出来たと思えばいいわ」

 

「ですです!」

 

 時間ギリギリよりは余裕がある方がいい、まさにその通りだ。

 

「それで、今日はどこに行くんです?」

 

 ガンプラバトルもする、という以外は、どこに遊びに行くかは聞いていない。遠出するわけでも無さそうだが。

 

「まずは映画館に行く予定です。コミックの実写化作品なんですけど、評価ポイントがけっこう高くて、レビューでも評判いいらしいんですよ」

 

 ナナちゃんが最初の予定を教えてくれた。

 映画か、デートでも定番コースだな、

 

「あぁ、マンガやアニメの実写映画化って最近多いな」

 

 あれって当たり外れが激しいって、過去の異世界転生でもよく聞いたけど、この世界ではどうなんだろう。

 

「ジャンルは何なんだ?」

 

「イセコイ……つまり、異世界の恋愛ものです」

 

 それもなんだか最近よく聞くなぁ、悪役令嬢だの、婚約破棄だの、追放だの、溺愛だの、ざまぁ・もう遅いだの、そういう世界には何回も異世界転生したわ。

 

 あらゆる先の展開を実経験済みの"俺"としてはあまり楽しめないかもしれないな……

 

 まぁ、評価ポイントが高くてレビュー件数も多いということは、少なくともそれなりに完成度のある作品か。

 

「それじゃぁ、早速行きましょうか」

 

 シノミヤ先輩に先導されるように、開館前のショッピングモールへ向かう。

 

 

 

 

 

『私は彼女に真実の愛を見つけた!ゆえに、お前との婚約を破棄させてもらう!』

 

 冒頭十秒、最初のセリフがコレである。

 こういうスタートも多いなー、と白けた目で見る。

 

 婚約破棄、濡れ衣、国外追放、三点揃ってお得なセット。

 まさに「テメーの頭はハッピーセットかよ」である。

 

 追放後、ご都合主義的展開で隣国の王子に拾われ、発揮しても認められなかった才能を正当に評価され、次々に隣国を良い方向へ変えて行くヒロイン。

 これも定番だなー、無能に見えて実は超有能な聖女とか、何百パターンもあるわ。

 

 やがてヒロインは隣国王子に見初められてめでたく婚約。そのヒロインを追放した国は、ヒロインを追放してから急に雲行きが怪しくなり、凋落の一途を辿っていく……と。

 展開そのものはありふれているし、ストーリーも陳腐だが、俳優さんの演技は見事なものだ。高評価を得ているのはストーリーやキャラではなく、キャストのおかげだと思う。

 

 それにしても、こういう創作物における"真実の愛"に対する解釈はひどいなぁ、王族が政務をほったらかして女に夢中になる……"傾国の美女"と言う言葉があるけど、こういうのが原点なのかもしれん。 

 

 

 

 

 

 なんやかんやあって頭ハッピーセット……ではなく、ハッピーエンドで終わったので、お決まりの昼食ついでの映画の感想だ。

 ファミレスに入店して、各々メニューをオーダーしたら。

 

「テンプレでした」

 

「テンプレでしたねぇ」

 

「テンプレだったな」

 

「テンプレだったわねぇ」

 

 俺、ナナちゃん、ゴジョウイン先輩、シノミヤ先輩の順にこれである。

 

「キャスティングとサウンドは良いと思うのだけど、ストーリーが如何せん陳腐ね」

 

 あぁ、やっぱりシノミヤ先輩も同じこと考えてたか。

 

「なんかもう最近のイセコイは、とりあえず婚約破棄とざまぁをしておけばいい、みたいな風潮がありますし」

 

 ナナちゃんも低温評価だ。

 婚約破棄をした側が「はははははっ、ざまぁないぜ!」ってカミーユしてたら気が付いたら逆に「はははははっ、ざまぁないぜ!」カミーユされるまでがざまぁの定義みたいなものだし。

 

「今回の実写化は"ハズレ"だったな。原作のコミックでは面白いのかもしれないが……」

 

 ゴジョウイン先輩は溜息混じりに紅茶を啜っている。

 

「原作がどのくらいの期間を連載していたのかは分かりませんけど、映画にするに当たってカットされたシーンも多いでしょうね」

 

 俺の総評としては、『レビュー件数の割には微妙と言わざるを得ない』と言ったところか。

 

 映画の感想会も早々に終わったところで、この後の予定について。

 

「この後はどういう予定ですか?」

 

「ブティックや雑貨屋をいくつか見て回るつもりだったけど、オウサカくんにはちょっと退屈になるでしょうし、今回は見送って先にガンプラバトルにしてもいいかと思っていたのよ」

 

 シノミヤ先輩がそう応じてくれる。

 女の子の服とか小物アクセサリに対する熱意は並々ならぬからなぁ。比べるのは失礼かもしれないが、アニヲタのアニメに対する熱意に似通ったものがある。

 

(今世では)男子である俺には退屈だろうと思って、シノミヤ先輩は気遣ってくれているのだ。

 人を振り回したがるとかナナちゃんは言うが、……いや実際その通りかもしれないが、こういった気遣いが出来る人なのだ。

 が、そこで「すみません」と頭を下げる俺ではない!

 

「俺のことならお気になさらず。むしろ、美少女三人が着飾るのをタダで見られるんですから、そこで退屈だなんて思ったら罰が当たりますよ」

 

「そうなの?無理して私達に合わせなくてもいいのよ?」

 

「無理してるつもりはないですよ」

 

「なら、ここはオウサカくんの紳士ぶりに甘えちゃおうかしら。アマネとナナちゃんもそれでいい?」

 

 一応、ゴジョウイン先輩とナナちゃんの同意も確認。

 

「私が、というより、服のことになると長いのはトモエの方だからな」

 

「わ、わたしもちょっと長くなりそうなので……今日はほどほどにしておきます」

 

 ゴジョウイン先輩はともかく、ナナちゃんにも少し気を遣わせてしまうか。

 ほんとに気にしなくていいんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

 昼食をのんびりいただいたら、御三方の当初の予定通り、ブティック巡りと、雑貨屋さんでアレやコレやと。

 ゴジョウイン先輩はあまり物欲が無いのか、いくつか物を手にとって、すぐに終えてしまった。

 ナナちゃんとシノミヤ先輩はやはり、あれもこれも試着しては俺やゴジョウイン先輩に意見を求めたりしてきた。

 

 退屈はしないけど、ちょっと手持ち無沙汰だ。

 よし、ゴジョウイン先輩も手持ち無沙汰そうだし、ちょうどいいタイミングだ。

 

「ゴジョウイン先輩、つかぬことを訊いても?」

 

「くだらんことならその場で叩き伏せてやろう。……というのは冗談だが、つかぬこととは?」

 

 あかん、これ迂闊なこと言ったらマジでこの店の床のシミにされそう。

 

「先輩って、ガンプラバトル以外だとどういう趣味があるのかなぁと思いまして」

 

 当たり障りないはずだ、多分。

 

「お菓子作りだ、と言ったら意外か?」

 

「……それは、予想していなかったですね」

 

 ぬいぐるみ集めに匹敵するくらいのファンシーかつキュートな趣味だったわ。

 

「私の趣味がお菓子作りだと言うと、周りは揃って信じられんものでも見たような反応をする……そんなにおかしいのか?」

 

 もう慣れたものだか、とゴジョウイン先輩は溜息をつく。

 

「確かに意外でしたけど、別におかしくは無いでしょう。ごく普通のことです」

 

 ゴジョウイン先輩が、黒髪ロングを束ねてエプロン姿でクッキーを焼く姿……うん、かわいい。

 

 なんて妄想をしていたら、今度はゴジョウイン先輩が意外そうに目を丸くしている。

 

「……私の趣味を聞いてそういうことを言ってくれたのは、トモエ以外なら君が初めてだ」

 

 ふふっ、と柔らかい笑みを浮かべてくれた。

 

「機会があれば、君にもぜひ私の桜餅を味わってもらいたいものだな」

 

「……ぜひとも」

 

 そ っ ち か ! ?

 

 お菓子はお菓子でも、和菓子の方とは思わんかったわ!!

 

 ま、まぁいいか、その時が来たら美味しくいただこう。

 

「あのアマネが、オウサカくん相手とは言え笑ってるわ……!?」

 

「一体どんなナンパテクニックを披露したんでしょうか……!?」

 

 試着室のカーテンのむこう側からそんな視線と声が聞こえて来たけど、気にしない気にしない。

 

 

 

 

 

 さて、シノミヤ先輩とナナちゃんの気が済むまでブティックを巡った後は、お待ちかねのガンプラバトルの時間です。

 

 俺とゴジョウイン先輩、ナナちゃんの三人でミッションモードでもやるのかと思っていたが、

 

「チーム分けはどうするの?」

 

 ゲームセンターに移動している内に、シノミヤ先輩がそう言った。

 

「チーム分け?……あれ、もしかして、シノミヤ先輩もバトルするんですか?」

 

 それはきいてないぞ。

 

「あら、知らなかった?……そう言えば、私がオウサカくんにガンプラバトルの話をしたことは無かったわね」

 

「はい、今初めて聞くことになります」

 

 マジか、ゴジョウイン先輩の和菓子作りの趣味ほどじゃないが、これもなかなか意外だ。

 

「トモエセンパイもすっごく強いです。前に一回だけ一緒にミッションモードをやりましたけど、なんかもう、すっごく強いです!」

 

 ナナちゃんが二回も「すっごく強い」と言うくらいだ。恐らく、ゴジョウイン先輩には一歩譲るが、それでも全国レベルで見れば上から数えたほうが早いくらいには実力があると見てもいいかもしれないな。

 

「強い強いって言うけど、アマネやオウサカくんの方がずっと強いわよ?」

 

「トモエはこう言っているが、確かな実力があるのは間違いない。私が保証出来る」

 

 ゴジョウイン先輩がこう言うくらいか、もしバトルすることになったら気を引き締めなければ。

 

 

 

 ゲームセンター内に併設型されている、ガンプラバトル専門のスペースに移動し、四基分のシミュレーターを確保する。

 

 ゴジョウイン先輩が部屋を作り、その後から俺、ナナちゃん、シノミヤ先輩も入る。

 

 チーム組み合わせは、シャッフルで設定され……

 

 Aチーム:アマネ ナナ

 

 Bチーム:トモエ リョウマ

 

「あら、オウサカくんとね」

 

 ふむ、シノミヤ先輩と組むことになったか。

 

「頼りにしてるわね」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「期待を裏切らない程度には頑張りますよ」

 

 そして対するはゴジョウイン先輩とナナちゃんのコンビか。

 

「アマネセンパイ……足手まといにはなるかもしれませんけど、頑張ります!」

 

「足手まといなものか。全力を尽くせば良い」

 

 ゴジョウイン先輩はいつも通り余裕に満ちているなぁ。

 強者の余裕ってやつか。

 

 ランダムフィールドセレクトは『アスティカシア学園 第11戦術試験区域』

 

 A.S.(アド・ステラ)のアスティカシア学園内において、スレッタ・マーキュリーとグエル・ジェタークの二度目の決闘が行われる際に選ばれた場所だな。

 

 ローディング中にシノミヤ先輩と通信を繋いで、短い作戦会議だ。

 

「私のガンプラは砲撃戦仕様の機体だから、前衛はオウサカくんに任せていいかしら?」

 

「いいですよ。ナイスな援護、期待してますよ」

 

 ほう、シノミヤ先輩のガンプラは射撃特化機なのか。

 ゴジョウイン先輩が認めるほどの猛者の機体だ、ちょっと楽しみだ。

 

 ローディング完了、出撃開始だ。

 

「オウサカ・リョウマ、オリジネイトガンダム、行きます!」

 

「シノミヤ・トモエ、『フルコマンドガンダムMK-II』、行くわよ!」

 

『ゴジョウイン・アマネ、ゼイドラ・スタイン、出るぞ』

 

『ホシカワ・ナナ、ティエレンパイタォ、行っきまーす!』

 

 

 

 

 

 四者四様に出撃して、まずはシノミヤ先輩と合流だ。

 さて、先輩のガンプラは……お、おぉ?

 

「シノミヤ先輩の機体、見るからに火力高そうですね?」

 

「えぇ、これが私のガンプラ、フルコマンドガンダムMK-IIよ」

 

 素体はティターンズカラーのガンダムMK-IIだが、バックパックから大きく横に広がるように大型ウイングを展開し、そのパイロンにはガトリングガンやら大量のミサイルポッドやらで武装している。

 手持ちの武器も原典のガンダムMK-IIとは異なるライフルを両手に備えているところ、かなりの重武装だ。

 しかも、それでいて完成度も高いから、恐らくは機動性も高いと見ていいだろう。

 まさに、空飛ぶ弾薬庫だ。

 

 ――そういえば過去の異世界転生で、ダブルオーガンダムの『趙雲』があんな感じの装備を引っ提げてたなぁ。

 

「なるほど、それなら俺に前衛を頼むのも頷けますね」

 

「そういうことよ、美人で頼りになる先輩からの、お・ね・が・い♪」

 

「了解です」

 

「……しれっと返されたわ、さすがはオウサカくんね」

 

 何がどう"さすが"なのかは知らんけども。

 

「おしゃべりはこの辺にしておきましょうか、来ますよ」

 

 戦術試験区域の森林を切り裂く白い閃光――ゴジョウイン先輩のゼイドラ・スタインが猛スピードで突出してきている。

 

『ホシカワの援護もあるとは言え、トモエとオウサカの二人を同時にか。油断は出来んな』

 

 バババッとゼイドライフルを連射してくるゼイドラ・スタインだが……いやもう相変わらず先読むのが上手いなこの人、リアルシャアかよ!機体のカラーリングはどっちかと言うとゾルタンの方に近いけど。

 四苦八苦しつつビームを躱し、こちらもビームライフルを撃ち返せば、

 

「今日は勝たせてもらうわよ、アマネ!」

 

 俺の後方上空からフルコマンドガンダムMK-IIが、大型ミサイルポッドのハッチを開き、両側部のガトリングガンと共に一斉発射。

 すんごい弾幕だ、正面からカチ合ったら俺でも避けきれないかもしれん。

 しかもただの弾幕じゃない、ミサイルの追尾機能に複数のパターンがあるのか、ゼイドラ・スタインの逃げ場を潰すように取り囲みながら迫り、その上からガトリングガンが正確に追い掛け、ミサイルの先へ誘導させるように撃ち込んでいる。

 

『チッ、これだからトモエの弾幕は厄介でならん!』

 

 すると、ゼイドラ・スタインが後方へ飛び下がりつつ、左掌からビームバルカンを連射してミサイルを撃ち落としている。

 ゴジョウイン先輩を後手に回らせるって、やはりシノミヤ先輩も相当な実力者だ。

 

「なら、シノミヤ先輩の弾幕が厄介な内に墜させてもらいますよ」

 

 見ているばかりじゃいられない、ゴジョウイン先輩が後手に回っている内に攻めるとしよう。

 ビームライフルを撃ち込みつつ、バルカンで牽制。

 

『アマネセンパイ!』

 

 ゼイドラ・スタインの後方から、遅れてやってきたナナちゃんのティエレンパイタォがビームライフルを撃ち返してくる。

 っと、援護役だろうナナちゃんを早めに墜して、ゴジョウイン先輩の方に集中したいところだが、狙われていると悟ってかティエレンパイタォはすぐに回避を取る。

 背部にあるのはミラソウル社製フライトユニットの改造品だ、ティエレンのような重量級の機体でも、単独飛行は無理でも高機動は可能らしい。

 そうしてティエレンパイタォに気を取られそうになると、ゼイドラ・スタインがその隙を虎視眈々と狙ってくる。

 

 今は、フルコマンドガンダムMK-IIの弾幕火力のおかげでゼイドラ・スタインは自由に動けないが、問題はその火力の弾切れが起きた時だ。

 だからこそ短期決戦を望みたいところだが、それはゴジョウイン先輩も承知の上だろう、向こうはシノミヤ先輩が弾切れを起こすその時を待っているはずだ。

 

 であれば、ウェポンセレクターを開き、ビームライフルとハイパーバズーカをダブルセレクト、ハイパーバズーカはティエレンパイタォに向けて撃ちながらも、ビームライフルはゼイドラ・スタインへ放つ。

 すると、オリジネイトの両手が塞がっている――即ち、咄嗟にビームサーベルを抜刀出来ない状態を見て、ゼイドラ・スタインは左マニピュレーターにゼイドラソードを抜いて猛然と迫りくる……が、これは読めている、その場から飛び下がって距離を取るものの見る内にゼイドラ・スタインとの距離が縮まっていく。

 

 けれど、ゼイドラ・スタインが自ら近付いてくるなら、そこはシノミヤ先輩の出番だ、フルコマンドガンダムMK-IIから放たれる大量のミサイルとガトリングガン、ビームライフルによる重厚な弾幕が諸手を挙げて歓迎、殺到する。

 

 それら弾幕を盾にするように回り込み、ハイパーバズーカを納めてビームサーベルを抜刀、弾幕を回避しているゼイドラ・スタインへ接近する。

 

「シノミヤ先輩、ナナちゃんの足止め頼みますよ!」

 

「了解よ」

 

 俺がゼイドラ・スタインに接近戦を持ち込んでいる間は、シノミヤ先輩にティエレンパイタォの足止めをお願いしてもらう。

 

 間合いに踏み込みビームサーベルを横薙ぎに振るえば、ゼイドラ・スタインもすぐに反応し、ゼイドラソードで弾き返してくる。

 だが弾き返されるのは想定済みだ、ゼイドラソードを振り抜いたその隙を、ビームライフルの近距離射撃で、

 

『甘いな!』

 

 ゼイドラソードを振り抜いた直後に隙が出来ると予想していたが、ほぼノーモーションでサマーソルトキックを仕掛けてきた!? 

 

「ちっ!?」

 

 そのサマーソルトキックでビームライフルを蹴り飛ばされてしまった。

 恐らくは俺がビームサーベルを弾き返された直後にビームライフルを撃つことも読んでいただろう。

 宇宙でも地上でも、アクロバティックな機動力は変わらないな、さすがと言うべきか。

 

『もらったぞ!』

 

 サマーソルトキックからさらに流れるようにゼイドラソードを突き出して来るゼイドラ・スタイン。

 咄嗟にシールドを構えて受け流すが、受け流してなおゼイドラソードの刃はシールドの表面を深く斬り裂いていた。……つか、前にバトルした時よりもなんか斬れ味上がってないか?

 

 シールドはもう使い物にならないが構わん、即座にカウンターにビームサーベルを斬り返すが、これは回避され、イニシアティブを取り直される。

 

 

 

 一方、トモエのフルコマンドガンダムMK-IIは、リョウマの頼み通り、ナナのティエレンパイタォの足止めを行っていた。

 足止め、と言っても可能であれば撃墜しても構わないだろうとトモエは思っていたのだが、

 

「ナナちゃんもなかなかやるようになったわね」

 

『お褒めいただきありがとうございます!オウサカセンパイに置いてかれないようにっ、必死に練習してましたからね!』

 

 なかなかどうして倒し切れないでいた。

 

 確かに対アマネのために、フルコマンドMK-IIの弾薬は撃ち尽くさない程度に温存し、両マニピュレーターのビームライフル二丁でティエレンパイタォを攻め立てていたが、それだけでは仕留めきれそうにないほどに、ナナの操縦技術は大きく向上している。

 

 少なくとも、リョウマと一緒にミッションモードをプレイした時よりも、全体的に挙動が素早い。

 不安定だった機動もしっかりした動きになり、フルコマンドガンダムMK-IIの動き無駄が見えない。

 あの日から、アマネやトモエが見ていないところでも操縦技術を磨いていたのだろう、なるほど確かに練習は嘘をつかない。

 

 そして少しでもトモエの攻撃の手が緩めば、すぐに反撃を仕掛けてくる。

 フルコマンドガンダムMK-IIの左右のビームライフルの連射を凌ぎ、すぐさまビームライフルを撃ち返すティエレンパイタォ。

 対するフルコマンドガンダムMK-IIだが、重武装を背負っているとは思えないほどの機動性を以てビームを躱す。

 

 重い機体を飛ばすためにバーニアを増設したりすることで補う。

 単純に思えるが、何かを増設するということは、それだけで全備重量が増え、制御が煩雑になるのだ。

 トモエのフルコマンドガンダムMK-IIの完成度の高さもあるが、それを支えるための、彼女自身の操縦技術によるバーニアの扱いも巧みだ。

 

「よし、ナナちゃんのために、ここは接近戦にしてあげましょう」

 

 トモエはウェポンセレクターを切り替え、ビームライフルを背部の重武装付きウイング――『フルコマンドブースター』のマウントラッチに納めて、代わりにガンダムMK-II本来のビームサーベルを両手に抜き放って、ティエレンパイタォへ猛スピードで迫る。

 

『わ、わたしのため!?やっ、真正面からぶつかるのはちょっとご勘弁をっ……!』

 

 ご勘弁を、も言いつつも、ティエレンパイタォの左マニピュレーターにはビームサーベルを抜き、接近戦に対応しようとしている。

 

 瞬間、双方のビームサーベルが衝突し、メガ粒子と疑似GN粒子が干渉の余波を撒き散らす。

 弾き返し合い、ティエレンパイタォはすぐにビームサーベルを突き出そうとするが、それよりも先にフルコマンドガンダムMK-IIが急加速し、ビームサーベルを飛び越えるように飛び蹴りでティエレンパイタォを蹴り飛ばす。

 

「ナナちゃんはまだ手足の使い方が甘いわね。せっかく重量級の機体なんだから、機体ごとぶつける体当たりだけでもそれなりのダメージにはなるわ」

 

『そんな背中に爆撃機背負ってるようなガンプラ使ってる人に言われても説得力ないですー!』

 

 原作設定通りのガンダムMK-IIとティエレンであれば、(チタニウム合金とEカーボンという材質の違いはさておくとしても)双方の機体重量は二倍近い差がある。

 だが、フルコマンドガンダムMK-IIとティエレンパイタォであれば、全備重量の関係もあって、前者の方が重い上に推進力も桁違いである。

 

 蹴り飛ばされたティエレンパイタォだが、すぐにフライトユニットのスラスターを吹かし、姿勢制御して着地、直後そこへフルコマンドブースターのガトリングガンがすぐさま襲い掛かり、銃弾の嵐が戦術試験区域の地面を砕き飛ばしてくる。

 

『うわわっ……』

 

 これには思わずナナも引けを取り、ティエレンパイタォをバックホバーさせてガトリングガンを躱す。

 

「そろそろオウサカくんの援護に戻るべきかしら」

 

 リョウマがアマネに遅れを取るなど早々起こり得ないはずだが、苦戦はしているかもしれない。

 ティエレンパイタォが遠ざかるのを見つつ、トモエは操縦桿を捻り返してフルコマンドガンダムMK-IIを反転させ、オリジネイトガンダムの元へ急行する。

 

 そのモニターが捉える先には、まるで稲妻がぶつかり合っているかのごとき戦いが繰り広げられている。

 

 

 

 技量でも機動力でも、一日の長と言うべきなのか、やはりにゴジョウイン先輩に分がある。

 

 苛烈鮮烈に攻め立ててくるゼイドラ・スタインの猛攻。

 瞬き一つでもすればその瞬間にゼイドラソードに首を飛ばされるか、掌のビームサーベルにコクピットを貫かれるかもしれない……そんなギリギリの均衡の元に、俺は喰らいつけている。過去の異世界転生でリアルMS戦を経験してこなければ、こうはならなかっただろう。

 

 互いに決め手に欠け、しかしこの均衡も長くは続かない。

 

 これでは埒が明かない、けれどどうしたものかと考えさせてくれる余裕もない。

 

『ふふっ、やはり君とこうして正面から斬り合うのは、実に楽しく有意義だ!』

 

「そいつはどーも……ッ!」

 

 ゴジョウイン先輩は楽しそうだなぁ、今その御尊顔を拝められるなら、ツヤツヤでイキイキしてそうだ。

 

 ゼイドラ・スタインの左マニピュレーターのビームサーベルを斬り返し、返す刀でビームサーベルを突き出せばゼイドラソードに防がれ、弾き返し合えば即座に蹴りが飛んでくる。

 これは右肩をぶつけるようにして蹴りを受け、すぐさまフルスロットルで操縦桿を押し出して、ショルダータックルで弾き飛ばす。

 

 一瞬でも体勢を崩すゼイドラ・スタイン、そこへ瞬時に加速させて右のビームサーベルを突き出す。

 

『甘いな』

 

 突き出されたビームサーベルから飛び退くゼイドラ・スタイン。

 

 ――そう、そうすれば躱されるのはもう知ってる。

 

 だから、すぐに次の攻めに移れる。

 ビームサーベルを突き出した姿勢のまま、飛び退いたゼイドラ・スタインの回避運動に、バーニア出力だけで強引に追従してみせる。

 

『なんと!?』

 

 ここで付いてこられるとは予想していなかったのか、ゼイドラ・スタインの挙動が僅かに乱れた。

 

「ここっ!」

 

 瞬時、オリジネイトの軸足を入れ替えて、機体ごと回転させながら左のビームサーベルを薙ぐ。狙いはコクピット――ゼイドラ・スタインの頭部だ。

 

『くっ!』

 

 だが、ビームサーベルがゼイドラ・スタインの頭部へ届くよりも先に、

 

「なっ!?」

 

 ゼイドラ・スタインは海老反りをするように機体を傾けさせ、ビーム刃はゼイドラ・スタインの額を掠めただけだった。

 

 この人、なんちゅー回避のしかたしよるか!?

 

 内心で舌を巻いている内にも、ゼイドラ・スタインは海老反り姿勢のまま返す刀のゼイドラソードを振るい、左腕を斬り飛ばされてしまった。

 

『今のはさすがに肝が冷えたぞ……!』

 

「そんな避け方を見せられたこっちの肝も冷えますよ……!」

 

 とは言えいつまでも肝を冷やしている場合ではない、こちらは片腕を失ってしまったのだ、これでは接近戦で大きく不利になる。

 

 一度後退して、シノミヤ先輩と合流すべきか……と思ったら、上空からゼイドラ・スタインに向けたミサイルのシャワーが降り注いできた。

 

「オウサカくん、まだ生きてるわね?」

 

 シノミヤ先輩、あなたは神ですか?

 

「助かりました、シノミヤ先輩。片腕無くなったんで、危うく墜されるところでした」

 

「アマネにオトされるオウサカくん……なんだかえっちな響きね」

 

「あのすいません、今ちょっと下ネタに反応出来るほど余裕ないんで」

 

 いや、ほんとに。

 シノミヤ先輩の援護が無かったら、次の瞬間にはゼイドラ・スタインに斬り捨てられるかもしれないから。

 

『すみませんアマネセンパイ、抜かれちゃいました!』

 

『問題ない、すぐに合流してくれ』

 

 程なくして、そのシノミヤ先輩に足止めされていたナナちゃんのティエレンパイタォも、ゼイドラ・スタインに合流。

 

 これで再び2on2の体制になった。

 

「対アマネ用にミサイルは温存しておいたけど、次の一斉射でミサイルは打ち止め。そこから先はお願いね」

 

「了解です」

 

 ミサイル弾幕は次で最後か、こっちも左腕が無いし、ここで勝負を決めないとな。

 

『トモエのミサイルは次で最後のはずだ。ホシカワ、しくじるなよ』

 

『分かりました……!』

 

 向こうも身構えている辺り、こっちが勝負を掛けようとしているのを見抜かれているか。

 

 初動、フルコマンドガンダムMK-IIが飛び上がり、戦術試験場のホログラムの天井スレスレまで上昇すると、

 

「避けれるものなら……避けてみなさい!」

 

 残るミサイルとガトリング全弾と、ビームライフルも撃ちまくる。

 

 ミサイル、銃弾、ビームがスコールのようにゼイドラ・スタインとティエレンパイタォに降り注ぐ。

 弾幕でありながら、それでいて正確に逃げ場を潰している。

 

『こ、これは避けれませんよ!?』

 

『気合で避けろ』

 

『そんなご無体な!』

 

 気合で避けろって、とんでもない脳筋思考だな?頭の悪いシューティングゲームの攻略本かな。

 フルコマンドガンダムMK-IIから最後のミサイルが発射されるのを見計らって、俺は操縦桿を押し出し、ゼイドラ・スタインへ特攻を掛ける。

 

『ちょっ、むっ、無理っ無理っ無理、あ』

 

 すると、弾幕を避け切れなかったティエレンパイタォにミサイルが殺到し、粉々に吹き飛ばしていった。

 

 ティエレンパイタォ、撃墜。

 

『気合で避けろと言ったろうに……』

 

 気合で避けろと言われてそれを実行出来るのはあなたくらいですよ、ゴジョウイン先輩。

 ミサイルを凌ぎ、躱していくゼイドラ・スタインの隙を虎視眈々と狙う。

 

 だが、ある程度の数のミサイルを躱したところで、

 

『ここだ!』

 

 ゼイドラ・スタインは胸部のビームバスターを『地面に向けて照射した』。

 高出力のビームが戦術試験場の地面を砕き飛ばし、土砂の津波が発生する。

 

 土砂津波がミサイルを呑み込んで爆破させていく。

 それに巻き込まれないように、俺はオリジネイトを一旦停止して距離を置こうとしたが、

 

 当のゼイドラ・スタインは、土砂津波を自ら突き破って正面から近付いて来た。

 

「なっ!?」

 

 さすがの俺もびっくりだ、下手すれば自機が土砂津波に呑まれて一発アウトだろうに、その土砂津波を敢えて突破してくるとは思わなんだ。

 そのびっくりで反応が遅れ――オリジネイトのバイタルパートがゼイドラソードに貫かれるのを黙って見てしまった。

 

 オリジネイトガンダム、撃墜。

 

 

 

 結果としてはAチーム――ゴジョウイン先輩とナナちゃんのコンビの勝利だった。

 

 ミサイルを撃ち尽くしたシノミヤ先輩は、悪あがきに残弾僅かのビームライフルとバルカンポッドを撃ちまくり、ビームサーベルで接近戦を仕掛けたものの、やはり剣の間合いであればゴジョウイン先輩の方が一枚上手だ、続けてフルコマンドガンダムMK-IIも撃破して、ゴジョウイン先輩の勝利だ。

 

「ふぅ、いいバトルだった」

 

「やっぱり気合じゃどうにもならないですよー……」

 

 少し汗ばんで色気が増した笑顔のゴジョウイン先輩と、げんなりしたナナちゃん。

 

「うーん、オウサカくんの力を借りても倒せないとは。さすがアマネね、なんともないわ」

 

 シノミヤ先輩は曲げて悔しがるどころか、自分を打ち負かしたゴジョウイン先輩を当然のように称えている。

 この二人、学園では学生会の会長と副会長の座に就いているけど、実際はもっと付き合いの長い関係なのだろうな。

 

 

 

 

 

 もう数回バトルをやって(ちなみにゴジョウイン先輩に割り振られたチームは全勝だった)、その後は各々が見て回りたいところを回れば、もう空は夕方の茜色に染まりつつあった。

 駅前広場まで戻って来たところで、解散だ。

 

「う〜ん、いっぱい遊びましたねぇ」

 

 ナナちゃんが夕陽に目を細めつつ背伸びする。

 

「今日は楽しかったわ。付き合ってくれてありがとうね、オウサカくん」

 

 シノミヤ先輩のニコリとした柔らかい笑み。こんな美人さんに微笑まれたら、勘違いする男子が後を絶たないのも頷ける話だ。

 

「俺も楽しかったです、誘ってくれてありがとうございました」

 

 こちらも感謝の言葉を返しておく。

 

「では、今日はここでお開きだな。また明日、学園でな」

 

 ゴジョウイン先輩の言葉を締め括りにして、それぞれの帰路へ辿る。

 

 

 

 ――さて、次の目標は地区のオープンクラスの個人戦だったな。




 今回登場のガンプラ、『フルコマンドガンダムMK-II』の画像や詳細設定はこちらです↓(ガンスタグラムへのジャンプです)

https://gumpla.jp/hg/1759016


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10話 交錯する思惑

 ゴジョウイン先輩、シノミヤ先輩、ナナちゃんの学生会員三人と遊びに出かけた日から。

 

 今月末に、オープンクラスの個人戦の選手権が控えているので、それに向けてバトルの練習を繰り返したり、時折ガンプラを製作していたりするわけだが。

 

「どりゃぁぁぁぁぁー!」

 

「なんのっ、負けねーっす!」

 

 今、ガンプラバトル部のシミュレーターでバトルしているのは、イツキとチユキちゃんだ。

 

 フィールドは『ネオホンコン特設リング』。

 

 第13回ガンダムファイトの決勝リーグの開催地であるネオホンコン内における、ガンダムファイトのリングだ。

 

 あまり広いとは言えない平坦な地形に、周囲には四角形状に展開されたビームロープと、それらを繋ぐコーナーポストで構成されたそこは、逃げ場のないガチンコ勝負は必至。

 

 イツキのドラゴニックと、チユキちゃんのフラウロスベスティア、どちらも格闘戦仕様の機体だから、真正面からのどつき合い上等だ。

 

 ドラゴニックの左右からのドラゴンハングの乱打に、フラウロスベスティアは……おぉ?『上半身だけを変形させている』ぞ?まるで立ち上がった熊みたいだな。

 

 その獣人モード(?)の状態でブレードや前腕クローを振るい、ドラゴンハングを弾き返して応戦している。

 

 まさに竜虎相搏つ……いや、フラウロスは豹だから、竜豹相搏つ?語呂が悪いな。

 

 ガッチンガッチンと打ち合う両機の様を、マユちゃんと並んで観戦する。

 

「そう言えばオウサカくん」

 

「ん、どうしたアサナギさん?」

 

「オープンクラスの個人戦、来週の日曜日だったっけ」

 

「あぁ、ゴジョウイン先輩に招待されたからな」

 

 そのゴジョウイン先輩は、俺と公的な場で戦いたいがために巻き込んだようなもんだろうけど、この大会でも優勝……は厳しいだろうが、良い結果を残せば、ガンプラバトル部の覚えも良くなるだろう。

 

「オープンクラスってことは、大学生とか社会人とかも参加してくるんだよね。でも、オウサカくんならきっと勝ち抜けると思うから、頑張ってね」

 

 俺が勝ち抜くって信じて応援してくれる、マユちゃんの優しさが身に沁みるなぁ。

 なんだかんだとマユちゃんは、「言われて嬉しいこと」を言ってくれるから、素直に嬉しく思うよ。

 

「頑張るよ」

 

 必ず優勝してみせる、とは言えないのがちょっとカッコ付かないな。

 まぁ、出せる力は全て出し尽くして戦うまでだ。

 

「……大言壮語にしないのが、オウサカくんらしいわね」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 マユちゃんとは反対側の席でバトルを観戦しているのはミカゲさん(地味子ちゃんモード)だ。

 

「あまり偉そうにするのは得意じゃないからな」

 

 立派なのは口先だけで、やってることは大したことない、とか思われたくないし。

 他人との貶し合いばかりが得意で、肝心の自分はそれらしいことを並べ立てて逃げるだけの奴に限って、そういうのが多いのだから困ったものだ。

 

「……そうね、偉そうに踏ん反り返ったオウサカくんとか、想像出来ないし」

 

「オウサカくんはそう言うキャラじゃないもんね」

 

 お、おぉ、褒められてるのか?

 少なくとも貶されているわけでは無さそうだな。

 

「よっしゃー!チユの勝ちっすー!」

 

「くそーっ、もうちょっとだったのに!」

 

 いつの間にか勝負が着いていた。反応を見たところ、チユキちゃんの勝ちのようだが。

 

 

 

 そして、週末日曜、六月の最終週末の時がやって来た。

 

 実際に出場するのは俺とゴジョウイン先輩の二人だけだが、応援のためにガンプラバトル部の部員や、シノミヤ先輩、ナナちゃんも一緒に来てくれることになった。

 

 俺を含めて、合計八人か、結構な大所帯だな。

 

 一度校門前に集合して、会場に向かうために電車に乗ってガタンゴトンと揺られる中、

 

「しかしなんだ、リョウマ。お前も隅に置けねぇのな」

 

 不意にケイスケ先輩がそんなことを言い出した。

 

「急にどうしたんです、ケイスケ先輩」

 

「どうしたも何もお前、いつの間に学生会役員になってたんだ?」

 

「……俺としては、役員に所属した覚えは無いんですけど」

 

 いやまぁ、確かにここ最近になって、学生会室に出入りすることが増えたが……何故かって?ゴジョウイン先輩とシノミヤ先輩のツイン重鎮に気に入られているのか、昼休みとかにも学生会の仕事を手伝ってほしいと頼まれるからである。

 ついでに、ナナちゃんも「オウサカセンパイがいてくれると安心します♪」と喜んでくれるのも加速している。

 

「アサナギにタツナミ、ミカゲだけに留まらず、ゴジョウインやシノミヤのお気に入りに認定され、極めつけはホシカワまで……お前、モテの絶頂期じゃねぇか!」

 

「モテの絶頂期とは一体。そんなこと言い出したら、この場にいるケイスケ先輩だって似たようなもんでしょう」

 

 よくよく考えたら、この八人中で、男子は俺とケイスケ先輩の二人しかいないわけだが。

 なぁ、と女子部員三人に同意を求めようとしたら。

 

「サイキ先輩は何ていうか、近所の親切なお兄さんって感じだよね」とマユちゃん。

 

「あれだよな、みんなの兄貴分ってやつだ!」とイツキ。

 

「男子の先輩の割にまともな方だとは思うわ」とミカゲさん(美少女モード)。

 

 ミカゲさんの男子に対する「まとも」な判定基準はとてつもなく厳しいので除外するにしても、マユちゃんとイツキからは兄貴分としか見られてないようだ。

 

「あー……まぁ、悪く思われてねぇだけ良しとするかぁ」

 

 現実は厳しいぜー、としょんぼり顔をするケイスケ先輩。

 ケイスケ先輩、どちらかといえば善人寄りだし、面倒見も良いし、なんだかんだ言ってもイケメンだし、なんでモテないのかちょっと不思議だ。

 

 女子部員三人の反対側からは、

 

「だが、オウサカが正規の役員以上に戦力になっているのも確かなことだ。能力、人格のどちらも申し分ない」

 

「本当にねぇ。実際、私やアマネの負担が減っているから、ガンプラバトル部に入って無ければ、無理矢理にでも学生会にねじ込みたいくらいよ」

 

 ゴジョウイン先輩とシノミヤ先輩から見た俺の総評だ。

 もし、転入初日にイツキからガンプラバトル部に勧誘されてなかったら、俺も"正規の"学生会役員の一人になっていたかもしれないな。

 

「ついでに、オウサカセンパイってルックスもいいから、センパイがいるだけでナンパが減るんです!」

 

 ナナちゃんがこう言うように、(ルックスの良し悪しは別にしても)俺が学生会室に出入りするようになって、ナンパの回数が減っているのだそうだ。まことしやかな噂では、俺がナナちゃんの彼氏だと思い込んでいる奴も中にはいるそうだが……まぁ、ナナちゃんや、その彼女のご家族の方々が迷惑で無ければ現状維持で良かろうて。

 

 さて、次が最寄り駅だな。

 

 

 

 会場に着いたら、俺とゴジョウイン先輩だけが受付に行き、他の六人は飲み物を買ったりしてから観客席へ移動している。

 ふむ、オープンクラスというだけあって、大人が多いな。

 中には、俺達と同じような中高生グループもいるが、それも少数派だ。

 

 今大会の形式はトーナメント制で、出場選手64名が1〜8ブロックに割り振られた中でバトルを勝ち抜き、各ブロックを勝ち抜いたベスト8で決勝トーナメントを行う、というものだ。

 優勝するには予選で三回、決勝トーナメントで三回、合計で六回勝ち抜く必要があるわけだ、なかなかハードな連戦になりそうだ。

 

 俺は第七ブロック、ゴジョウイン先輩は第五ブロックにそれぞれ割り振られた。

 

 開会式の後、俺とゴジョウイン先輩は互いに勝ち抜いてくることを約束しあう。

 

「うむ、では私は第五ブロックのブースに行くとしよう。オウサカ、決勝トーナメントでな」

 

「ゴジョウイン先輩も、勝ち抜いて来てくださいね」

 

「ふっ、私を誰だと思っている」

 

 自信に満ちて凛然としているなぁ、ゴジョウイン先輩が男子よりも女子の方にモテるのも頷ける。

 

 さぁて、それじゃぁ俺も第七ブロックの方で暴れてくるとしますか!

 

 

 

 

 第五ブロックでは、必然と言えば必然のように、アマネが悠々堂々と勝ち抜いていた。

 予選、準決勝の相手を鎧袖一触同然に降し、そして待ち受ける第五ブロック決勝戦。

 

 アマネは別段構えることなく、出撃準備を整える。

 

 その彼女と対するのは、長い銀髪を束ねた、威風堂々たる武人然とした男性。

 

「我々の真実のバトルを、後の世に伝えるために!!」

 

 捲土重来のために三年間雌伏の時を過ごしていたのだろうか。

 

 ランダムフィールドセレクトは『虎牢関の戦い』

 

 原典作品は『SDガンダム三国伝』からであり、三国志の史実・演義に則った、董卓ザクの大軍と、曹操ガンダムDX・袁紹バウが中心となった反董卓連合軍との戦いと同じ構図を取り、洛陽の都を守る要衝、汜水関・虎牢関の二関での戦いだ。

 

 出撃開始。

 

「ゴジョウイン・アマネ、ゼイドラ・スタイン、出るぞ」

 

 

 

 雪風を切り裂きながら、華雄ザンネックが守っていた汜水関を通過するゼイドラ・スタイン。

 

 呂布トールギスが待ち受ける虎牢関の前に現れたのは、ザクIを思わせる――この場合なら、張遼ゲルググと言うべきか――カラーリングのガンダム試作2号機――サイサリス。

 アトミックバズーカの代わりに、リック・ドム用のビームバズーカを担いだカスタム機のようだ。

 

「相手が何であろうと構わん、ただ蹴散らして進むまで!」

 

 撃墜も狙った牽制にゼイドライフルを連射するゼイドラ・スタインに対し、サイサリスは滑るようなホバー機動と、巨大なラジエーターシールドによる防御を駆使してゼイドライフルによる射撃を凌ぐ。

 

『散っていった者達のために、我々は負けられん!』

 

 頭部のバルカン砲で牽制しつつも、ビームバズーカで射撃を行うサイサリス。

 対するゼイドラ・スタインは最小限の動作でビームを回避すると、その場から大きくジャンプし、左マニュピレーターにゼイドラソードを抜きつつ、サイサリスの斜め前方から急速接近する。

 サイサリスはビームバズーカをその場で放棄すると、サイドスカートからビームサーベルを抜き放ち、ライトグリーンのビーム刃を顕現させ、ゼイドラソードと打ちつける。

 

 一撃、二撃、と打ち合い、ゼイドラ・スタインはその間合いから早撃ちのようにゼイドライフルによる近距離射撃を放とうとするが、それよりもサイサリスは、重厚なフォルムとは思えぬほど軽やかにふわりと機体を浮かせて、ゼイドライフルを蹴り飛ばす。

 

『温い!風邪をひく!』

 

「なるほど。ではお望み通り熱くしてみせよう、その身が焦げるほどに!」

 

 サイサリスからの挑発に、アマネはウェポンセレクターを切り替え、右腕の武装をゼイドライフルのそれからビームサーベルへ切り替えると、一気呵成に攻め立てる。

 

 右のビームサーベル、左のゼイドラソード、時には脚部からの蹴りが合わさる乱舞は、余裕を保った立ち回りを継続していたサイサリスの挙動を後手に回わさせていく。

 

 そしてついにゼイドラソードの一閃が、核爆発の爆風を受けることすら想定しているラジエーターシールドを真っ二つに斬り裂いてみせる。

 

『クッ……やってくれる!』

 

 サイサリスは対核シールドを放棄しつつ一度大きく飛び下がると、空いた左腕にもビームサーベルを抜き放ち、両方のビームサーベルの出力を上げ、バチバチとスパークを迸らせる。

 本来ならばこの状態のビームサーベルはデバイスに大きな負荷をかけることになるため、ものの数分で破損してしまう。

 それを両方のビームサーベルで行うともなれば、短期決戦を仕掛けてくるのは明白。

 

『粉骨砕身!』

 

 瞬間、両肩のフレキシブルスラスターバインダーを炸裂させてサイサリスが真っ向から突撃してくる。

 

「真っ向勝負……受けて立つ!」

 

 対するアマネも操縦桿を押し込んで、ゼイドラ・スタインを正面から突撃させる。

 

 ゼイドラソードとビームサーベル、スパークを迸らせた両のビームサーベルが激しく打ち合われ、虎牢関に降り頻る雪を吹き飛ばしていく。

 出力を上げたビームサーベルに加え、サイサリス自体のパワーも合わさった白兵戦は、さすがのアマネと言えどもそう容易く御せる相手では無かった。

 

 しかし、

 

「そこ!」

 

 ゼイドラ・スタインは飛び下がると同時に、左腕に装着していたゼイドラソードをサイサリスへ向けて、ビームバルカンの砲口から勢いよく射出するように切り離した。

 

『小賢しい!』

 

 サイサリスはビームサーベルを振るって、放たれたゼイドラソードを弾き飛ばすが、一瞬とはいえゼイドラソードに注意を向けたことで、ゼイドラ・スタインの姿を見失ってしまう。

 

『ぬっ、彼奴はどこに!?』

 

 フッ、とサイサリスの視界が翳ったと思った時には、

 

「もらったぞ!」

 

 両ビームバルカンの砲口からビームサーベルを発振させたゼイドラ・スタインが強襲、振り降ろされたビームサーベルがサイサリスの両腕を斬り落とす。

 両腕という攻撃手段を失ったサイサリスは、悪足掻きに残された脚部で蹴り飛ばそうとするが、それよりも先にゼイドラ・スタインが踏み込み、右腕のビームサーベルをボディに突き込んでいた。

 

『――南無三!!』

 

 サイサリス、撃墜。

 

『Battle ended!!』

 

 

 

 第五ブロック決勝戦の決着が着き、ブースに歓声が上がる。

 

「きゃー!アマネセンパーイ!」

 

「さすがアマネね、なんともないわ」

 

 アマネを応援していたナナは黄色い声を上げ、トモエはベルファスト基地の機雷に接触しても無傷のゴッグのように彼女の勝利を称える。

 

 第五ブロック優勝者:ゴジョウイン・アマネ

 

 

 

 ……という感じで、ゴジョウイン先輩は順調にブロックを勝ち進んでいると思われるので、俺というオウサカ・リョウマも、負けじと第七ブロックを勝ち進んでいく。

 オープンクラスと言うだけあって、この前の地区大会の学生よりも強い相手であったが、あのチーム・ブラウシュベルトとのエース、タチバナ・シオンほどでも無い。というか彼もこの大会に参加していれば、余裕でブロック優勝していただろうな。

 

 予選、準決勝と勝ち抜き、いよいよ第七ブロックの決勝戦だ。油断せずに行くぜ。

 

 相手は、独特な形状の鈍色の髪で、毛先は墨汁を浸けた毛筆のようになっている、目つきの鋭い麻呂眉の女性のようだが……

 

 何故か彼女の周囲には金髪碧眼の美青年達が固めている。いやすまん、あの集団は一体なんぞや?

 

「我ら、地球外縁軌道統制統合組合!」

 

「「「「「面壁九年!堅牢堅固!!」」」」」

 

「右から二番目少し遅い!」

 

「ハッ、申し訳ありません!」

 

 ……よく分からんが、規律に厳しい企業ということにしておこう。

 

 ランダムフィールドセレクトは『ククルス・ドアンの島』

 

 確かここは、ジオンからの逃亡兵『ククルス・ドアン』と、親を失った子ども達が密かに暮らしている島だったな。それにしてもドアンのザクは、モノコックボディフレームとは思えない、それこそモビルトレースシステムでも積んでんのかってくらい、ヌルヌルした有機的な挙動をしてたってけなぁ。

 

 まぁ、相手がF型のザクⅡを使ってくるとは限らないとして、出撃だ。

 

「オウサカ・リョウマ、オリジネイトガンダム、行きます!」

 

 

 

 出撃すると同時に滝壺を切り裂き、水飛沫を上げながら着地。

 どうやらドアンのザクが滝の洞窟に隠していたことの再現だな。

 

 さて急いで索敵し……すぐに見つかった。

 

 海岸線にいるらしいその姿は、『グレイズリッター』

 トサカのようなブレードアンテナや、赤いラインの入った大型の肩装甲から見ても、指揮官機である"肩付き"だな。

 

 ……ただ、ナイトブレードを砂浜に突き立てて、威風堂々とつっ立っている。

 エレガントだが……撃っていいんだよな?

 

 よし、撃とう。

 

 ビームライフルを捨てて、ハイパーバズーカを持たせて、

 

『フッ、ガンダムか。相手にとって不足は無……』

 

 発射。

 するとグレイズリッターは無抵抗のままロケット弾を直撃してすっ飛んだ。

 まぁ、ナノラミネートアーマーがあるから致命打は与えられんだろうけど。

 

『なっ……なんと……無作法な!!』

 

「いや、無作法とか言われましても」

 

 これはニチアサじゃなくてガンプラバトルやで、おばさん。

 

『えぇぃ、戦いの礼節も知らん子どもが!鉄の裁きを下す!』

 

 するとグレイズリッターはすぐに起き上がって、ナイトブレードを左マニュピレーターに持たせ直すと、リアスカートからグレイズのライフルを右マニュピレーターに持たせて突撃してくる。

 

 戦いの礼節ねぇ。

 そう言うのは身内だけでやってくれっちゅー話だ。

 

 こちらもバルカンとハイパーバズーカを撃ち分けて迎撃するが、バズーカのロケット弾は躱され、バルカンの銃弾は肩装甲で受けつつも接近してくる。

 あんなんでも決勝戦まで勝ち抜いて来てるだけあるってか。

 

『アハァッ、踏み潰してあげるわ!』

 

 接近戦の間合いにまで踏み込まれ、グレイズリッターはナイトブレードを腰溜めに構えつつ吶喊してくる。

 速度はそれなりにあるが、しょせんは猪突猛進だな。

 ナイトブレードの切っ先がボディを貫く寸前にジャンプ、

 

「よっと」

 

 そのまま背中を逆に"踏み潰してあげる"。

 

『があぁぁぁっ!?』

 

 背部を踏みつけて、グレイズリッターをうつ伏せに踏み倒す。

 すぐにハイパーバズーカを背部にぶち込もうとしたが、グレイズリッターはすぐにスラスターを使った加速で振り払って急速離脱した。

 

 イニシアティブを取って仕切り直し……なんてさせるかよ、即座に操縦桿を押し込んで加速、追撃。

 

 グレイズリッターは反射的にナイトブレードを振るってくるが、これはシールドで受け流して空振りさせて、

 

「ふっ!」

 

 右手に持ったハイパーバズーカを振りかぶって、鈍器のようにして殴り付ける!

 

 バガャァンッ、という鈍い軋轢音と共にグレイズリッターの左肩装甲がへしゃげるが、同時にハイパーバズーカの砲身も折れ曲がった。

 うーん、チユキちゃんのフラウロスベスティアと戦った時もそうだったが、今のオリジネイトだとナノラミネートアーマー持ちの相手に対して有効打を与えられる武器が少ないなぁ。

 今度、ガンダムハンマーとか使う練習もしないと。

 

『バ、バズーカを鈍器にだと!?なんと野蛮な!』

 

 野蛮な、って言われてもな。

 グレイズリッターはへしゃげた左肩装甲を切り離しつつ、すぐにナイトブレードで反撃を仕掛けてくるが、これは回避、急速バックホバー。

 そのまま森林地帯まで下がると、その辺に生えている樹木を引きちぎる。

 RPGで言うところの、サイクロプスの棍棒みたいなものだも思ってくれればよろしいかと。

 

『ふんっ、そんなもので倒せるとでも!』

 

 ライフルで射撃してくるグレイズリッター。

 120mmの銃弾を躱しつつ、棍棒で殴りかかる。

 こんなもので奴を倒せるとは俺も思っていない。

 

 だから、この攻撃は陽動というか、次への布石。

 

 棍棒で殴りかかると見せかけて、そのままグレイズリッターの頭部目掛けてぶん投げる。

 トビア・アロナクスが地球で死の旋風(デス・ゲイルズ)の三機と戦った時も、その辺にある燃える木を投げ付けていたしな。

 あれは確かに対MSでは無力だったが、体勢を崩すくらいの効果はある。

 

 投げ付けた棍棒に対して当然、グレイズリッターはナイトブレードを振るって棍棒を斬り飛ばそうとするが、それこそが俺の狙い。

 棍棒を斬り飛ばすためにナイトブレードを振るい――棍棒をブラインドにしてその隙を突く。

 

 振り抜いたナイトブレードを持つ腕を押さえ付け、

 

「ちょっと借りますよ」

 

 そのままナイトブレードを奪い取る。

 

『なっ、貴様!私の剣を……』

 

「ほいっと」

 

 奪い取ったその手で一閃、グレイズリッターの胴体と右肩を繋ぐフレームの隙間に滑り込ませて斬り落とす。

 

『くっ……私は戦いたかった……正々堂々と、戦いたかった!』

 

「正々堂々?」

 

 なんだ、この人もチユキちゃん(正確には兄貴の馬の骨)と同じようなこと言うつもりか?

 

「旗色が悪くなれば、」

 

 一閃、左腕を斬り飛ばし、

 

「相手のことを否定するって、」

 

 二閃、左脚を膝から断ち斬り、

 

「随分と都合のいい話ですよね」

 

 仰向けに踏み付けて、頭部のセンサーアイにナイトブレードをぶっ込んで。

 

「それで、どうします?」

 

 ダメ押しにビームサーベルを抜いて、バイタルパートに突き付ける。

 

『……!』

 

 程なくして、相手方からリタイアが宣告された。

 

 グレイズリッター、リタイア。

 

『Battle ended!!』

 

 

 

 第七ブロック優勝者:オウサカ・リョウマ

 

 無事、麻呂眉おばさんを降して第七ブロックを優勝だ。

 

 一度観客席まで戻ってみんなと合流する。

 

「お疲れさま、オウサカくん」

 

「さっすがリョーだぜ!」

 

 最初に出迎えてくれたのはマユちゃんとイツキ。

 

「ここまでは楽に勝てたけど、次の決勝トーナメントからは一気に厳しくなるだろうなぁ」

 

 各ブロックを優勝してきた者達だ、面構えが違う……とまでは言わないが、少なくともゴジョウイン先輩よりも強い奴らばかり、と言うわけでは無いだろう。

 

「ゴジョウインもリョウマもさすがだな、オープンクラスでもものともしねぇか」

 

「けど、ここからが本番でしょう?油断……を、するほどオウサカくんは迂闊ではないでしょうけど」

 

 ケイスケ先輩は褒め称え、ミカゲさんは釘を刺してくれる。

 

「まぁ、負けるまでは油断せずに行きますよ」

 

 さて、そろそろ第八ブロックの決勝戦だ、観戦するとしよう。

 

 なになに……

 

「お?あいつ確か、『聖ディセンベル学園』ガンプラバトル部にいたやつだな」

 

 顔を知っているらしいケイスケ先輩が向けた視線の先には、灰色の髪を首筋辺りに束ねたイケメン。あの人、高校生なんだな。

 

 名前を確認すると、『アサクラ・ハルヤ』と言うらしい。

 

 システムが起動し、ランダムフィールドセレクトは『宇宙要塞アルテミス』が選択される。

 

 C.E.(コズミック・イラ)の地球連合軍、その派閥のひとつのユーラシア連邦が保有する要塞だな。

 確かここは、"傘"と呼ばれるリフレクターの防御力がウリで、そのおかげでザフトを寄せ付けなかったんだが、そのザフトに奪われた"G"の一機、ブリッツのミラージュコロイドを活かした潜入によって内部から"傘"を破壊されてしまい、大損害を被った場所だ。

 それにしてもあのハゲ……ガルシア司令官はどうしようもないクズだったなぁ、馬の骨といい勝負してるよ。

 

 まぁそれはさておくとして。

 

 バトルが開始され、アサクラ先輩とやらのガンプラが姿を現す。

 

 銀色をベースに、メタリックブルーの差し色が加えられたきらびやかな装甲、頭頂部に頂く金色のトサカ状のブレードアンテナ。

 スラリと長い手脚に、騎士然としたそのフォルムは。

 

「『ミカエリス』の改造機だね」

 

 俺の隣席にいるマユちゃんが、ベースとなった機体名を挙げてくれた。

 ミカエリス……あぁ、A.S.(アド・ステラ)のグラスレー・ディフェンス・システムズの最新鋭機で、あのパツキンヘラチャラヘタレ王子――シャディク・ゼネリの機体だったな。

 けどあれって確か、右腕そのものを多目的兵装(ビームブレイザー)に改造されている、左右非対称(アシンメトリー)の機体じゃなかったっけ?

 

「ありゃ両腕をベギルペンデの物に取り替えて、左右対称の機体に仕立て直してるんだな」

 

 俺の浮かべた疑問符に応えるようにそう言ってくれるケイスケ先輩。

 

「ビームライフルと背中の装備は、ハインドリー・シュトルムの物よね?」

 

 自分も使ったことがあるからか、ミカゲさんもその特徴を言い当てている。

 

 ミカエリス、ベギルペンデ、ハインドリー・シュトルム……なるほど、同じグラスレー系の機体のパーツで統一したカスタム機ってところか。

 機体名も『べギルエリス』という、べギル系とミカエリスを混ぜ合わせたようなものだし。

 ただ、あの装備構成だと、グラスレー系の特徴のひとつである、アンチドートの類は装備していないようだな。

 

 とは言え、ガンプラバトルにおけるアンチドートは、『GUND-ARMに属する機体の性能を大幅に下げる』というものだ。

 実際のアンチドートみたいに、パーメットスコア4以上には効果が無い、なんてことはないのだが、それでも効果を与えられる相手は限定的なため、ガンプラバトル上では取り外してしまう方が軽くなっていい、というのも理解出来る。

 

 そのべギルエリスと対するのは、ツートンのグリーンカラーに、一対のポッドを背負ったガンダム――アレは、『カオスガンダム』だな。

 この宇宙空間、カオス本来のコンセプトを鑑みれば、性能をフルに発揮できる戦場だ。

 

 開幕一番、カオスは背部のポッド――機動兵装ポッドを射出し、ポッドから銃口を引き出すと、それぞれが自立機動し、さらにカオスからも高エネルギービームライフルの射撃という変則的な波状射撃がべギルエリスに襲いかかる。

 

 しかし対するべギルエリスは、宇宙空間を切り裂くような鋭い機動で、多方向からのビームを躱しつつ、ビームライフルを撃ち返しながらカオスへ迫る。

 機動兵装ポッドから先に堕とすのではなく、それよりも早く本体(カオス)を狙いに行くか。

 こうなるとカオスも、機動兵装ポッドを自身に向けて誤射する恐れもあって迂闊に射撃は出来ない。

 

 カオスは機動兵装ポッドを呼び戻しつつも、高エネルギービームライフルを連射、迫りくるべギルエリスを牽制しつつ、左マニュピレーターにはヴァジュラ・ビームサーベルを抜いている。

 べギルエリスはビームライフルを納めると、バックパックからビームサーベルを抜き、斬り掛かる。

 

 ビームサーベル同士が衝突し、アルテミスの宙域に閃光が迸る。

 

 弾き返し合い、即座にカオスは右脚からビームクロウを発振させての"蹴り斬り"を繰り出すが、べギルエリスはさらに左腕のシールドからもビームサーベルを発振させてそれを斬り返す。

 そうそう、あのシールドってビームサーベルが内蔵されてるんだっけな。

 返す刀で右のビームサーベルを突き出すべギルエリスだが、これはカオスのシールドに防がれる。

 

 両機とも激しい攻防だ、見ていて熱くなってくる。

 

 カオスは飛び下がりつつ、背部に呼び戻した一対の機動兵装ポッドからミサイル『ファイヤーフライ』を一斉発射、弾幕を張る。

 ファイヤーフライの弾幕に、べギルエリスは一度後退し、被弾の危険のあるミサイルを左右のビームサーベルで斬り落として爆破させていく。

 そのままカオスはMA形態へ変形、再度機動兵装ポッドを射出しながらも、機首部からビーム砲『カリドゥス』と高エネルギービームライフルを同時発射、さらにタイミングをズラした上で機動兵装ポッドらもビームが放たれる。

 べギルエリスはカリドゥスと高エネルギービームライフルは回避し、機動兵装ポッドからのビームはビームサーベルで斬り弾きながらもビームキャノンを撃ち返して、カオスへ追い縋る。

 べギルエリスのビームキャノンが機動兵装ポッドのひとつを撃ち抜き、カオスの波状射撃が弱まる。

 機動兵装ポッドのひとつを破壊されてカオスの挙動に動揺が見られるや否や、べギルエリスはすぐに反転、もう片方の機動兵装ポッドをビームサーベルで叩き斬る。

 これでカオスの最たる特徴である機動兵装ポッドは打ち止めだ。

 

 破れかぶれのつもりか、カオスはMA形態でべギルエリスへ突撃、ビームクロウによる格闘戦を行おうとするが、MS形態のそれと比べても小回りの効きにくいそれでは攻撃範囲が狭く、べギルエリスにひらりと躱され、

 

 刹那、べギルエリスがカオスをすれ違い様に、左右のビームサーベルでX字に斬り抜けた。

 

 ボディを中心にX字の斬撃痕を付けられたカオスは、その場で爆散する。

 

 カオスガンダム、撃墜。

 

『Battle ended!!』

 

 

 

 

 第八ブロック優勝者:アサクラ・ハルヤ

 

 ブースが声援に包まれる中、アサクラ・ハルヤの名前が決勝ベスト8に加わる。

 

「リョウマ、お前はあいつをどう見る?」

 

 ケイスケ先輩が「どう」と聞いてきたので、素直に答えるとしよう。

 

「尖った特徴も無ければ、弱点らしい弱点も見当たらない。『特徴が無いのが特徴』……なんてジム・カスタムみたいなことを言いますけど、故に付け入れる隙がない。こりゃもし当たったら、思うよりも苦戦するかもですね」

 

 あのべギルエリスの基本性能、数値化するならば恐らく平均水準が高く、バランスの良い結果が出るだろう。

 基本性能の安定した高さだけではない、あのアサクラ・ハルヤの操縦技術も見事なものだ。

 

 シオンのような武術の使い手でない分、『ガンプラそのものに対する造詣が深い』のだろう。

 

 これは強敵、明らかな強敵。

 

 となると、正面からぶつかる単純勝負と、策を用いた搦め手と、状況に合わせて使い分けなければ厳しいバトルになりそうだ。

 

「まぁ、それはそれとして、午後からの決勝トーナメントに備えて昼ごはん食べに行きましょうか。腹が減っては(ガンプラバトル)はできぬって昔の偉い武士も言ってましたし」

 

「その偉い武士がいた頃の昔にガンプラはねぇだろ」

 

 ナイスツッコミです、ケイスケ先輩。

 

 

 

 みんなでフードコーナーに移動して、ごはんの時間です。

 

 前にこういうところで食べた時は、みんな(シオン達も一緒に巻き込んだ上)でたこ焼きパーティーにしたっけなぁ。

 

 さすがに今回は「今日は○○の気分だからみんなでこれにしましょう」というのは自重しとこう。

 

「何にしよっかなー、リョーは何すんだ?」

 

 食券販売機の前で財布をこねくり回しているイツキに、何を食べるのかを訊ねられた。

 そうだなぁ……

 

「なら、ここは験担ぎも兼ねて、カツ丼にするか」

 

「おっ、いいなそれ!あたしもカツ丼にする!」

 

「イツキがバトルするわけじゃないだろ?」

 

「いいじゃん!リョーのカツ丼とあたしのカツ丼、二人合わせればカツカツ丼丼……どんどん勝つ勝つってやつだ!」

 

「なんだそりゃ」

 

 言いたいことは分かるけど、言葉の意味は俺ちょっと分かんない。

 

「まぁとにかく、俺はカツ丼にするよ」

 

「あたしもカツ丼!」

 

 なんだかんだ言いつつも、俺のことを応援してくれてるんだよな。

 その気持ち、しかと受け取ろう。

 

 それにしても昼時だから混んできたな、席が埋まらない内に確保なければ。

 

 食券をカウンターのおばちゃんに渡して、受取口の前でちょっと待ってから、カツ丼いっちょ!早いな。

 

 さて、八人纏まって座れる場所はまだあるか……

 

「あっ、オウサカセンパーイ!こっちですー!」

 

 お、ナナちゃんが四席を2テーブル確保してくれているじゃないか。

 

「ありがとうナナちゃん。ナナちゃんは注文まだなのか」

 

「先に席を確保してってトモエセンパイからお願いされまして。ではでは、ここはオウサカセンパイに任せて、わたしも注文しに行きまーす」

 

「はいはい、いってらっしゃい」

 

 席を立って食券販売機へ向かうナナちゃんを見送りつつ、八人分の席をキープする。ディーフェンス!ディーフェンス!

 

「失礼、そこの席は空いているか?」

 

 席をディーフェンスディーフェンスしてたら、声を掛けられたので、

 ってこのイケメン、さっきのアサクラ・ハルヤ先輩じゃないか。

 

「あー、すみません。ここ、八人座るので」

 

「そうか。……ところで君は、確か第七ブロックの優勝者だったか?」

 

「はい。創響学園のオウサカ・リョウマです」

 

「聖アプリリウス学園の、アサクラ・ハルヤだ。知っているとは思うが、第八ブロックを優勝している」

 

「さっきのバトルも観戦させてもらいました。見事な戦いぶりです」

 

「君の戦いぶりも見た。型に嵌らない戦い方、油断させてくれなさそうだ」

 

「それはどうも……」

 

 ジリジリと、互いを値踏みするようなやり取り。

 俺に心理戦を挑むつもりか?なめんなよ、こっちはトランプで『わざと表情を見せて相手を罠にはめる』ことだって慣れてるぞ?

 

「……まぁ、戦う前からギスギスし合ってはやりにくいだろう。君とのバトル、楽しみにしている」

 

「へ?あ、はい」

 

 オロ?レスバのひとつでもかましてやろうと思ったけど、この人にそんなつもりは無かったか。

 

「では、失礼する」

 

 アサクラ先輩は会釈すると、別の席に移動していき、それと入れ替わるようにみんながトレイを手にやって来た。

 

 ふぅ、ちょっと緊張したぜ。

 

 

 

 ……と思ったら、アサクラ先輩の視線が、ゴジョウイン先輩に向けられた。

 

「なんだ、君も勝ち抜いてきたのか、アサクラ」

 

「当然だ、『白の戦乙女(ホワイト・ヴァルキュリア)』」

 

 どうやらこの二人、顔見知りの間柄のようだが、両者の間にはどこか冷めた――冷戦的な空気があった。

 

「突然ディセンベルから姿を消したと思ったら、姉妹校の『聖アプリリウス学園』の方にいたとはな。今でも、自分を追放した連中が憎いか?」

 

「今の俺がどこで何をしていようと、お前には関係無いだろう」

 

「あぁ、そうだろうとも。『いつまでも些事に振り回されているような男』に構っていられるほど、私は暇では無いし、そんな男に負けてやる理由もないからな」

 

「……相変わらず、ズケズケした物言いをする。今年こそは必ずお前を倒す、俺と当たるまで負けるなど許さんぞ」

 

「期待はしないでおこう」

 

「フン……」

 

 それだけ言葉を吹っ掛け合うと、アサクラ先輩は俺達から離れた位置の席を探しに行った。

 

 皆さん揃って席について。

 

「ゴジョウイン先輩、アサクラ先輩とは知り合いですか?」

 

 その気になる関係を訊いてみる。もちろん色恋のそれじゃないぞ?

 

「知り合いと呼ぶほどのことではないがな。ただ、去年の春のオープンクラスの、3on3のチーム戦の大会で当たっただけのことだ」

 

「あ、ちなみにその時は私と、もう一人助っ人さんとチームを組んで出場してたわ」

 

 シノミヤ先輩も一緒に出場していたのか。学生会のツイン重鎮二人から認められるほどの実力者らしいもう一人の助っ人さんとやらがちょっと気になるが、まぁそれはいいか。

 

「あのアサクラの実力が頭一つ抜けていた以外は、それほど大したチームでは無かったのだがな。私達のチームに負けたその直後、随分喧嘩になっていたようでな。それから一年間、聖ディセンベル学園のアサクラ・ハルヤの名前はすっかり見聞きしなくなったが……いつの間にか、姉妹校のアプリリウス学園の方に転入していたらしいな」

 

「アサクラくんのことは私も少しは知っていたわ。ディセンベルにいる友達からの話だと、ガンプラバトル部の中でひどい内部分裂があっって」

 

 なるほど、話が読めてきたな。

 去年に負けたのが原因で、転校までして環境を変えたかったと。

 

 ……シオンの時とは真逆だな。

 ついこの間だってそうだ、俺達とバトルして負けた時も、シオンの先輩達も彼を責めたりしなかったし、別れ際の時だって「また次の大会で勝てばいいんだよ」って笑い合っていた。

 

「そんな些事に振り回されているような男だ。オウサカ、奴と当たっても負けるなよ」

 

「負けるつもりで戦うつもりはありませんから、ご安心を」

 

 まだ決勝トーナメントのトーナメント表は発表されていないが、ゴジョウイン先輩が先に当たっても負けはしないだろう。

 俺が先に当たったら、その時は全力を尽くして倒すだけだ。

 

 そのためには腹ごしらえだ。

 

 いただきます。

 




 今回登場のガンプラ、『べギルエリス』の画像や詳細設定はこちら↓(ガンスタグラムへのジャンプです)

 https://gumpla.jp/hg/1779916


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11話 オールラウンダーVSオールラウンダー

 ちょっとした一悶着がありつつも昼食を終えれば、早速午後の部……つまりは決勝トーナメントだ。

 

 ギャラリーも観客席に着き直したところで、大々的に発表されるトーナメント表。

 

 ふむ……ちょうど、ゴジョウイン先輩とは決勝に、先程のアサクラ先輩とは準決勝で当たる組み合わせだな。

 

 そして俺は第一試合からスタートだ、このあとすぐに準備しなければ。

 

 ……ん?

 なんかトーナメント表の名前に一つだけ違和感が。

 

『Zero master』

 

 ゼロマスター?

 

 †ゼロ・マスター†か。

 

 本名ではないのは分かるし、恐らくは通り名か渾名だろうが……他にもうちょっと無かったのか、この†ゼロ・マスター†は厨学生なのだろうか。

 中学生でも厨学生でもなんでもいいが、決勝トーナメントまで勝ち上がって来ている以上、それ相応の実力はあるのだろう。

 まぁ、予選で勝ったとしても準決勝でゴジョウイン先輩と当たるのでご愁傷様ですとしか言えないのだが。

 

「準決勝でアサクラと当たるようだな、オウサカ」

 

 隣りにいたゴジョウイン先輩もトーナメント表を確認してそう言った。

 

「決勝でゴジョウイン先輩と当たるなんて、ドラマチックですね」

 

「つまり……私と君は、運命の赤い糸で結ばれていた、ということになるな」

 

 済まし顔でそんなことを言っちゃうゴジョウイン先輩。

 運命の赤い糸って……ちょっと意識しちゃったじゃないか。

 

「詩的な表現ですね」

 

「ふふっ……では、その運命の赤い糸が切れないように、私も勝ち抜くとしようか」

 

 やだ、この人ステキ過ぎる。

 

 よし、俺もバトルに備えて準備するとしよう。

 

「頑張ってね、オウサカくん」

 

「リョーなら余裕っしょ!」

 

「健闘を祈るわ」

 

「ま、気負わずに行ってこい」

 

 マユちゃん、イツキ、ミカゲさん、ケイスケ先輩から見送りの言葉をいただく。

 

「んじゃ、行ってきます」

 

 行ってきまーす。

 

 

 

 決勝トーナメント第一試合。

 

 さてさて俺の相手は……浅黒い肌に、筋骨隆々とした肉体に、筋肉を見せつけるように両腕を露出させ、フィンガーレスグローブにマントを翻す男。世紀末な世界に登場する人かな?

 

 ランダムフィールドセレクトは『フォン・ブラウン』

 

 宇宙世紀における月面都市、その周辺だ。

 U.C.(ユニバーサル・センチュリー)0083なら、アルビオン隊とケリィ・レズナーのヴァル・ヴァロとの戦闘になり、0087ならティターンズのコロニー落とし『アポロ作戦』の標的になった場所だな。

 

 月面戦闘は初めてじゃないが、地球のおよそ1/6の重力下だ、地味に下方向へベクトルを引っ張られるので、スラスターを使ったジャンプなどは注意して調節しなければ。

 

 さぁ出撃だ。

 

「オウサカ・リョウマ、オリジネイトガンダム、行きます!」

 

 

 

 フォン・ブラウン市の宇宙港から発進した俺。

 月面の重力感覚は久し振りだな。

 

 さて、相手は……と思ったら、フォン・ブラウンの制宙圏内の外から結構な出力のビームが飛んで来たので素早く躱す。

 んー、今のは宇宙世紀系のビームか?メガ粒子のパルス形状を見ても、かなりの大出力タイプのようだが。

 向こうの射程はかなり長いが、ビームが放たれた方向を見やれば、月面の陰からターコイズグリーンの姿が見えた。

 

 アレは……ネオ・ジオンの『ドーベン・ウルフ』か。

 胴体部の連装メガ粒子砲にビームライフルを連結させている辺り、さっきのビームはメガランチャーによるそれだな。

 

『そこォ!』

 

 互いに捕捉し合うなり、ドーベン・ウルフは再びメガランチャーを放ち、薙ぎ払うように照射してくる。

 とは言え距離は開いているので問題なく躱し――って危ねーな!回避先にインコムのビームが置かれてたぞ!?

 一発目は陽動……というか、メガランチャーの存在を見せつけて、脅威のメガランチャーを回避して安心したところを本命のインコムを回り込ませて被弾させる算段か。

 

 なるほど、世紀末な見た目とは反してなかなかトリッキーな男でもあるようだ。

 

『生意気ィ!』

 

 メガランチャーとインコムの合せ技を避けられてか、ドーベン・ウルフの攻撃が本格化してきた。

 背部からミサイルをばら撒き、連装メガ粒子砲から切り離したビームライフルに加えて、背部バインダーのビームキャノンを連射してくる。

 弾幕目的の砲撃に見えるが、めっちゃ正確な射撃だわ、さすがの俺もちょっと集中しないと避けきれない。

 

 ミサイルとビームを掻い潜りつつ、こちらもビームライフルを撃ち返し、一射、二射、三射、インコム二つと右ビームキャノンを破壊する

 

『チッ……なめるなよ、小僧が!』

 

 ドーベン・ウルフはビームライフルを納め、両腕にビームサーベルを抜き放ちつつ、連装メガ粒子砲を拡散させるように発射、すぐに距離を詰めながらも、ビームサーベルを持ったまま両腕を切り離して斬り掛かってくる。

 

 拡散ビームを躱しつつーの、どうしても回避できないのはシールドで受けーの、ビームライフルを納めてこちらもビームサーベルを二刀流で抜き放ちーの、

 

「はっ!」

 

 必殺、砂岩(サンドロック)二刀流!

 

 上段から『()』の記号を描くような流麗な太刀筋で、ドーベン・ウルフの有線ビームハンドを斬り捨てる。

 

 ガンダム04(サンドロック)のパイロットの『カトル・ラバーバ・ウィナー』が、サンドロックの二刀のヒートショーテルで何でもかんでもブッピガンブッピガン言わせながら斬り裂いていたけど、サンクキングダム仕様のトーラスに乗っていた時も、ビームサーベルで同じことやってたなぁ。

 

『なんの光!?』

 

 なんの光って……あんたの両腕が爆散した光だよ。もしくは俺のビームサーベルの太刀筋か?

 

 これでドーベン・ウルフの両腕は封じたとは言えまだ楽観視は出来ない、奴の両腕の内部にはさらに隠し腕ビームサーベルが控えているし、本体の火力もまだまだ有り余っている。

 とは言え、

 

「ここで墜とす!」

 

 なんの光かと動揺している今が好機だ、一気にオリジネイトを加速させて接近戦に持ち込む。

 

『えぇぃっ、墜ちろォ!』

 

 動揺していたのも一瞬、ドーベン・ウルフはすぐに後退しつつ、再び連装メガ粒子砲とビームキャノン、さらには頭部のバルカンも撃ちまくってくる。

 ビームは躱しつつ、バルカンの銃弾は装甲で受けて、肉迫。

 ドーベン・ウルフはすぐさま隠し腕のビームサーベルで斬り払おうとするが、それは読めているんだよ。

 急制動をかけて隠し腕ビームサーベルを空振りさせたところを、こちらのビームサーベルで反撃、両肩を斬り落として、両脇からビームサーベルを挟み込むように振るう。

 

『バカな……こんな子どもに、敗れるというのか……!?』

 

 ドーベン・ウルフの胴体を両断、爆散させる。

 

 ドーベン・ウルフ、撃墜。

 

『Battle ended!!』

 

 

 

 決着と同時に沸き上がる歓声。

 ふぅ、さすがにちょっと手こずったぜ。

 手こずったが勝ちは勝ちだ、一度観客席に戻って、第三試合――ゴジョウイン先輩の試合を観戦しながら休憩しよう。

 

 ちなみに、第二試合と第四試合は、第二バトルブースで行われるそうだが、第二試合の勝者はアサクラ先輩になるだろう。

 

 俺が観客席に戻って来た時には、既にゴジョウイン先輩が席を立っていた。

 

「まずは予選突破だな、オウサカ」

 

「ゴジョウイン先輩も、勝ち抜いてきてくださいね」

 

「もちろんだ」

 

 颯爽と第三試合に赴くゴジョウイン先輩の黒髪ロングを見送る。

 

 というわけで、ゴジョウイン先輩が立ったことで空いた席に座ると、ちょうどシノミヤ先輩とナナちゃんとの間に挟まる形になった。

 ……百合の間に挟まろうと思ったわけじゃないぞ?

 

「オウサカセンパイ、お疲れ様です♪」

 

「さすがはオウサカくんね」

 

 先後輩の女子二人から手放しに褒められる。よせやい照れるじゃねぇか。

 

「準決勝で当たるのは、多分あのアサクラ先輩になりそうですね」

 

 シノミヤ先輩に向けてそう零す。

 

「そうね、恐らくそうなると思うわ」

 

 それとだけど、とシノミヤ先輩は続ける。

 

「アマネは、アサクラくんのことを「些事に振り回されているだけの男」と言っていたけど、それでも実力の下地は確かにあるし、この一年でそれにも磨きが掛かっている。特に今回は、打倒アマネを目標に掲げているくらいだもの、オウサカくんにとっては、かなりの強敵になることは間違いないわ」

 

 だろうな。

 些事に振り回されていると言うが、逆に言えば些事に振り回されてもなお、それほどの実力を持っているということでもあるんだ。

 

「そうですね。それに、あのガンプラ……べギルエリスの機体特性を客観的に見ても、"単純に強い機体"。隙の突けない、地道な鎬の削り合いになりそうです」

 

 加えて、あのアサクラ先輩からは、直感ではあるが何か"執念"のようなものを感じられた。

 人の執念は、時に常識を逸脱した行動すら行わせる。

 最後の最後でどんでん返しを喰らうことのないよう、向こうのありとあらゆる勝ち目や勝ち筋を潰していかねば。

 

「でもでも、オウサカセンパイならきっと勝てます!だから、頑張ってください!」

 

 ナナちゃんも応援してくれているんだ、カッコ悪いところは見せたくないな。

 

「あぁ。……っと、そろそろ第三試合が始まるな」

 

 

 

 決勝トーナメント第三試合。

 

 ゴジョウイン先輩の相手は、赤く癖っ毛のある男だが……なんとなくアホの子っぽい匂いがするのは何故だろうか?

 

「よっしゃー!見ていてください大佐ァ!」

 

 ……うむ、やっぱりアホの子だったわ。あと、多分なんか不死身かもしれない。

 観客席の反対側から「准将だ!何度間違えれば気が済む!」という女性の怒鳴り声が聞こえてきた。階級間違えるとか大変失礼だぞ。

 

 ランダムフィールドセレクトは『ゲンガナム』

 

 ここは確か、正歴の月の都市で、黒歴史と称した、宇宙世紀や未来世紀、A.C.(アフターコロニー)、A.W.(アフターウォー)の戦いの記録が納められていた場所だな。

 市街地だって言うのに、空気を読まないメタボケーキマン……スエッソン・ステロのマヒロー部隊と交戦したっけな。

 

 

 

「ゴジョウイン・アマネ、ゼイドラ・スタイン、出るぞ」

 

 悠々堂々と出撃するアマネのゼイドラ・スタイン。

 

 対する相手のガンプラは『GN-X(ジンクス)』のそれだが、カラーリングはAEUイナクト(デモカラー)のそれに塗装されている。

 

『イィーヤッホォーーーーーゥッ!大佐のキッスはいただきだぁー!!』

 

 ジンクスはGNビームライフルを連射しながら猛然とゼイドラ・スタインに襲い掛かるが、アマネは慌てずに回避しつつ、ゼイドライフルを撃ち返す。

 互いのライフルから放たれるビー厶が交錯すること十数秒、双方決め手を与えられない膠着状態に縺れ込む。

 

『どこの学生か知らねぇが、このスペシャルで2000回のエース様の前に立つんだ、タダで済むわけねぇよなぁ!?』

 

 するとジンクスの方から膠着を破り、左マニュピレーターにGNビームサーベルを抜き放って迫りくる。

 ゼイドラ・スタインも左マニュピレーターのビームバルカンの砲口からビームサーベルを発振させ、真っ向から迎え撃つ。

 

 ビームサーベル同士の衝突と干渉が繰り返される中。

 

『ガンプラの性能が同じなら、スペシャルで2000回の俺様が、負けるわけねぇんだよォ!』

 

 GNビームサーベルを振るうと見せかけて、回し蹴りを放つジンクス。

 これに対してゼイドラ・スタインは、素早くゼイドライフルを手放し、右の脇を閉めるようにして防御の構えを取り、ジンクスの回し蹴りを弾き返し、間髪なくゼイドラソードを抜刀、ジンクスを斬り裂こうとするが、ギリギリのところで躱されたのか、ジンクスのGNビームサーベルを持った左のマニュピレーターを斬り飛ばすだけに留まる。

 

『……テメェ!分かってねぇだろ!?俺は!』

 

 ジンクスは即座にGNビームライフルを発射するが、

 

『スペシャルで!』

 

 ゼイドラ・スタインはくるりとその場で回転するように粒子ビームをやり過ごしつつゼイドラソードを一閃、ジンクスの右腕を斬り飛ばし、

 

『2000回で!』

 

 返す刀でもう一閃、ジンクスのボディを斬り裂こうとするが、ジンクスは左腕のGNビームシールドで防ぐ……が、ゼイドラソードの破壊力はビームシールドごと腕を粉砕し、

 

『模擬戦なんだよォ!』

 

 ジンクスの体勢が崩れたところを踏みつけるようにして地面に縫い付け、首関節にゼイドラソードの切っ先を突き付ける。

 

「スペシャルで2000回も模擬戦に勝ったところで、それで勝負に勝てるかはまた別の話だがな?」

 

『――大佐のキッスはお預けかぁー!!』

 

 ジンクス、リタイア。

 

『Battle ended!!』

 

 

 

 ゴジョウイン先輩が見事アホの子を降し、予選を突破。

 

 まぁこれは予定調和なので良しとしよう。

 

 同じ頃合いに第二ブースの方で第四試合も終わった頃だ。

 

 勝ち残ったのは、

 

 

 

 ・オウサカ・リョウマ

 

 ・アサクラ・ハルヤ

 

 

 

 ・ゴジョウイン・アマネ

 

 ・ゼロ・マスター

 

 

 

 の四名だ。ってかあの†ゼロ・マスター†が勝ち残ったのか。

 どちらにせよゴジョウイン先輩と当たるので、俺にはあまり関係ないが。

 

 さて準決勝だ。きっちり勝ち抜いて、ゴジョウイン先輩と決勝で戦わないとな。

 

『ただいまより、決勝トーナメント準決勝第一試合を開始致します。オウサカ選手、アサクラ選手の両名は、出撃準備をお願いします』

 

 アナウンスが流れ、まずは俺とアサクラ先輩とのバトルだ。

 

「あのアサクラって先輩、けっこう強そうだけど……でも、リョーなら楽勝だろ?」

 

 席を立とうとした時、イツキが声を掛けてくれた。

 

「楽勝……とはいかないだろうが、全力を以て当たらないと負ける相手に変わりはない」

 

 オリジネイトもべギルエリスも、同じくバランスタイプの機体だろうが、総合性能なら負けてないはず。

 ならば勝敗を分つ条件は、99%の実力と、1%の運だ。

 

 俺とアサクラ先輩とでは、確かにガンプラバトルの経験値量が違うだろう。

 何せ俺はガンプラバトルを始めてまだ一ヶ月少し、素人(トーシロ)のペーペーもいいところだ。

 それに対するアサクラ先輩は、いつからガンプラバトルに手を付けていたかは知らないが、少なくとも高校入学から逆算した、三年の重みがあるだろう。

 

 だが、俺には他のビルダーに無いものがある……というか、(この世界の基準で考えれば)普通なら絶対に有り得ないものを備えてしまっている――チートスキルのようなもの。

 

 それは、過去の異世界転生で培った『本物のMS戦技術』だ。

 

 遊びでもアニメでもない、難易度ルナティックすら生温い、負け=死 の中で磨き上げて研ぎ澄ませた、戦いの才覚(センス)

 それとついでに、死の0.1歩手前で踏み止まれる、強運。

 

 正直、これが無ければ地区大会優勝どころか、あの馬の骨にすら負けていた可能性極大である。

 

 ……厳密に言えばスキルとかではなく、半強制的な『経験値の持ち越し』みたいなものだ。

 

 まぁ表面から見ただけ――それこそ俺が「俺は過去の異世界転生でMS戦を経験してます」って公言しない限り――では誰にも分からない(と言うか俺の口から言っても誰も信じないだろう)から、「なんかおかしくね?」と疑われることはまず無いので、ありがたくこの恩恵に預かるまでだが。

 

「リョーは真面目だなー。でも、負けんな、よっ!」

 

 ベチン、と背中を叩かれる。いてぇ。

 

「背中叩くなよ。……行ってくる」

 

 よし、イツキに気合入れてもらったし、これで勝つる。

 

 

 

 ランダムフィールドセレクトは『タイガーバウム』を選択。

 

 ここあれやん、ドスケベエロオヤジ――スタンパ・ハロイの面白MS博物館コロニーじゃん。

 あの時はジュドーとイーノが女装してて笑ったなー。

 しかも、そのスタンパの好みがまさかの変装したハマーンっていうな。

 

 MS戦として考えるなら、市街地での戦闘になりそうだな。

 

「オウサカ・リョウマ、オリジネイトガンダム、行きます!」

 

『アサクラ・ハルヤ、べギルエリス、出るぞ!』

 

 

 

 タイガーバウムのコロニー内部へと進入、市街地へ着地。

 

 周囲には、スタンパの趣味なのかか知らんけど、和風な装飾が装備が施された水陸両用MS達がそこかしこに並んでいる。

 見ているだけで変な笑いが込み上げて来そうな光景だが、笑っている場合ではない。

 

 すぐ正面から堂々と、アサクラ先輩のべギルエリスが向かって来ている。

 

白の戦乙女(ホワイト・ヴァルキュリア)が決勝で待っているのでな、決めさせてもらう!』

 

 言うや否や、ビームライフルとビームキャノンを交互に発射してくる。

 

「ゴジョウイン先輩とのデートは俺の方が先約ですから、ここは譲ってくれると嬉しいんですがね!」

 

 放たれるビームを躱しつつ、こっちもビームライフルを撃ち返す。

 

『なら、横紙破りをすれば済む話だ!』

 

 そんな堂々と横紙破りをするって宣言するか、ある意味すげぇな。

 だが、横紙破りなんてそんな筋の通らないことを押し通させるほど、このオウサカ・リョウマ、甘くは無いのだよ。

 

 ビームライフル同士の応酬が続いたと思えば、べギルエリスは左腕のシールドからビームサーベルを発振させて距離を詰めて来るので、こちらも左マニュピレーターにビームサーベルを抜き放って対抗だ。

 

 衝突、メガ粒子とパーメット粒子のビーム刃が干渉し合い、スパークを撒き散らす。

 

 弾き返し、一撃、二撃とビームサーベルが交錯し、べギルエリスがゼロ距離からビームキャノンを撃とうとしてきたが、それよりも先にこっちの右肩のショルダータックルで弾き飛ばす。

 

『チッ!』

 

 ビームキャノンは明後日の方向へ放たれ、すぐさま追撃にビームライフルを撃つものの、べギルエリスは地面を蹴ってサイドステップしてビームを躱し、そのままバックホバー、一旦イニシアティブを取り直す。

 

「下がってくれるなら!」

 

 今度はこちらからアプローチだ、左マニュピレーターのビームサーベルを一度ランドセルに納めると、そのままハイパーバズーカを取り出し、回り込むように迂回しながらビームライフルとハイパーバズーカを交互に発射、合間にバルカンの速射を織り交ぜて射撃戦に持ち込む。

 

 向こうもビームライフルとビームキャノンで応酬し、互いの火線が交錯する。

 

『……思ったりより手強い。あの白の戦乙女(ホワイト・ヴァルキュリア)が認めるだけはあるということか』

 

「そいつはどーも……」

 

 さて……どうやってこの隙のない強敵を攻略すべきか。

 

 

 

 オリジネイトガンダムとべギルエリス。

 互いに性能バランスの取れた万能型である両機の戦いは、端から見ている分には地味で膠着しているように見える。

 

「膠着しているわね」

 

 トウカは、射撃には射撃、格闘には格闘、という正面衝突の繰り返しを繰り広げる両機を見て、そう零す。

 

「膠着もあるだろうが……どっちかっつーと、ありゃぁお互い様子見だな」

 

 ケイスケは、トウカの「膠着している」と言う言葉を補足した。

 

「様子見、ですか?」

 

 そのように見えるというケイスケに、マユは疑問符を浮かべる。

 

「あのべギルエリス、際立った特徴がねぇだろ?だから、弱点らしい弱点も見当たらない。強いて言うんなら、コクピット周りが少し脆いかどうか、だろうな」

 

 原典の『水星の魔女』においても、ミカエリスは他社の第五世代機(ダリルバルデなど)とは異なり、コクピットのキャノピーが剥き出しになっているという点がある。

 これは恐らく、アスティカシア学園の"決闘"上において『ブレードアンテナを破壊することで決着する』というルールに則ったものだろう。

 実際、決闘内のレギュレーションとして、決闘に参戦する機体は、コクピット周りにはロックオン出来ないセーフティが掛けられているため、そう言う意味では、バイタルパート(狙われない部位)に当たる装甲を取り外して軽量化すると言うメリットはある。

 

 尤もこれは、アスティカシア学園の決闘内での事であり、ガンプラバトルにおいては、心臓部が無防備など自殺行為に等しい(決闘においても流れ弾の被弾や障害物との衝突などでもバイタルパートを損傷させる可能性は十分有り得るので、コクピットを保護しないこと自体がそもそも自殺行為だが)。

 故にだろう、べギルエリスは原典のミカエリスと比べても、コクピット周りを覆うように増加装甲が施されている。

 増加したものとは言え、簡単に壊れるように作られてはいないだろうが、ケイスケが言うところの「強いて言えば」他の部位よりも装甲強度が弱いかもしれない。

 

「いいじゃないすか」

 

 イツキの視線は、オリジネイトガンダムに注がれたままだ。

 

「ただ単純に、強い方が勝つってことっしょ?シンプルで分かりやすいし!」

 

 けれどその瞳は、リョウマの勝利を何一つ疑っていない。

 

 

 

 射撃と射撃、格闘と格闘……

 まるで、ジャンケンの"あいこでしょ"が続くような戦いだ。

 まぁ、こっちとしては隙を窺っているから積極的に攻勢を掛けていないだけだが……それは向こうも同じのようだな。

 

 互いに隙を見せるのを窺っているのなら……『敢えて隙を見せて誘い込む』までだ。

 

 コロニー内の川の近くに追い込まれるように後退しつつ、背後に川があることに気付いてないフリをする。

 ビームライフルとビームキャノンを回避し、イニシアティブを取ろうとして、左脚を川へ踏み外して見せる。

 

「うわ、しまった」

 

『迂闊だな、もらったぞ!』

 

 すると俺の誘い通り、左脚を踏み外してなんとか踏ん張ろうとしているところへ、べギルエリスがビームライフルを納め、バックパックからビームサーベルを抜き放つと同時に距離を詰めて来る。

 

 かかった。

 

 右のビームサーベルを振り抜いてくるべギルエリス。

 この体勢から……左脚のバーニアをフルスロットルで点火!

 

 アンバランスなバーニア制御によって、オリジネイトが宙を舞いながら姿勢が崩れてしまうが問題ない。

 

『なんとっ!?』

 

 川の手前でビームサーベルを空振りしたべギルエリスへ、ビームライフルを放つ。

 だが、不安定な姿勢のままの射撃では軸がブレてしまったか、ビームはべギルエリスのボディではなく、左肩の装甲を吹き飛ばしただけだった。

 

 ……そうか、あの肩部はP.D.(ポストディザスター)のガンダムフレームみたいに、フレームと装甲がそれぞれ別々に分割されているのか。

 その気になれば、破損した装甲を自らパージすることさえ出来るだろう。

 

「外したか……っ」

 

『誘い込みとは、小賢しい真似を……!』

 

 べギルエリスが構え直すのを見ながらバーニア制御を整えつつ着地して、と。

 

 本当なら今のでバトルが決まっていたかもしれない、絶好のタイミングだった……決め手をひとつ、自ら潰してしまったのだ。

 

 相手を出し抜くための奇策珍策もこの一手だけではないが、そう何度も出せる手ではない。さっきの踏み外しもフリだと見抜かれている以上、同じ手は二度も通用すまい。

 

 こうなると再び隙の探り合いだ、さてどうしたもんかね……

 

 しかしべギルエリスはビームサーベル二刀流のまま急速接近してくる。

 あくまで格闘戦がお望みか。

 ならばこちらも二刀流で対抗だ、ハイパーバズーカを捨てて、ビームライフルを納め、ビームサーベルを二本とも抜き放つ。

 

『おぉぉぉぉぉッ!』

 

 アサクラ先輩の裂帛と共に、べギルエリスのビームサーベル二刀流の乱舞が襲いかかる。

 

 斬り弾き、躱し、斬り弾き、躱し、斬り弾き、躱し……演武のような斬り合いだが、こちとら必死である。

 

 つーかこの人、ビームサーベルの当て方がすげぇ上手いんだよ。

 

 右のビームサーベルはマニュピレーターに握っているから、ハンドスナップを効かせた"打ち込む"ような斬撃で、左のビームサーベルはシールド内蔵型だから、徒手空拳の延長のような斬撃。

 

 単なる二刀流による手数頼みの攻撃ではない、両方の特性を理解した千変万化の斬舞は、少しずつ、しかし確実にオリジネイトの装甲を焼傷を刻み付けていく。

 だが、それと同じくらい俺の攻撃もべギルエリスを損傷させている。

 一進一退、と言えば聞こえは良いが……『先に一退しているのは俺の方だ』。

 つまり、後出しからの切り返しでなんとか対応しているわけだが、一手打ち間違えたら途端に劣勢になるだろう、綱渡りだ。

 

 ……どれ、ここらでひとつ心理戦でも仕掛けてみるか。

 

「――随分と情熱的ですね!そんなにゴジョウイン先輩のことが好きですか!」

 

『バトルの最中に何を!』

 

 とか言いつつも攻撃の手を止めないアサクラ先輩。

 向こうからすれば、俺が苦し紛れなことをしているに過ぎないとでも思っているだろうが構わん、これで反撃の糸口のひとつでも掴めれば儲けものである。

 

「ゴジョウイン先輩が相手にしたいのは俺で!ゴジョウイン先輩の相手をしたいのがアサクラ先輩!こうして見ると面白い三角関係だとは思いませんか!」

 

『戯言を!』

 

「そう!戯言ですよ!」

 

 振り降ろされる右のビームサーベルに対して、ハイキックで腕を蹴り飛ばす。

 そこをビームサーベルで突こうとするが、左腕のビームサーベルで防がれ、鍔迫り合いへ。

 

「そう言えばあなたが以前に所属していたチーム、ゴジョウイン先輩のチームに負けたそうですね!それも、チームメイトがボカをやらかしたから負けたのに、それを全部あなたのせいにしたとか!」

 

『だから……なんだと言う!』

 

 鍔迫り合いを弾き返され、互いに一歩引き、睨み合う。

 おや、俺に喋らせていいのかな?なら遠慮なく心理戦で攻めさせてもらおうか。

 

「自分の弱さすら認められないような雑魚(ザコ)の"戯言"に聞く耳を持つ必要など無いでしょう!それなのにあなたは自分に責任を感じて、転校までした!それってつまり、『そんな雑魚に負けた』んですよ、あなたは!」

 

『ッ……!?』

 

 お、息遣いが動揺した。

 それならもう一ダメ押しだ。

 

「ガンプラバトルですらない、ただの"戯言"に!なるほど、ゴジョウイン先輩があなたのことを『些事に振り回されているだけの男』と評するのも頷ける!」

 

『貴様ァッ!!』

 

 怒りのあまり、べギルエリスが仕掛けてきた。

 迷いなく急所へ突き出されるビームサーベルを弾き返し、返す刀の左腕のシールドのビームサーベルは機体を捻らせて躱す。

 挙動が感情的になって来たな。

 だが、まだだ。

 もっと決定的な隙を見せるまでは防戦しつつレスバだ。

 

「戯言などに負けて!些事に振り回されているばかり!そんな今のあなたを見て、今のチームメイトはどう思っているんでしょうねぇ!」

 

『貴様が!貴様ごときに!何が分かる!』

 

 ブンブンブンブンと激しく両のビームサーベルを振り回しながら肉迫してくるべギルエリス。

 

 もっとだ、もっと、もっと来い!

 

「はぁん?分かるわけ無いでしょう!雑魚に(こうべ)を垂れる理由も!些事に振り回される意味も!そんな"小さい"男に、俺が負ける理屈もね!」

 

 受け身に徹している内に、ビームサーベルの打ち込みに乱れが出てきた。

 

 よぉし、今が好機だ。

 

 怒りに任せた右のビームサーベルの一撃を受け流して空振りさせ、ヤクザキックで蹴っ飛ばす。

 

『チィッ!?』

 

 蹴っ飛ばされて体勢が崩れたところに一気に攻めかかる。

 はい、ここからは俺のターンです。

 

「いやはや!準決勝の相手があなたで良かった!こんなくだらない言葉の応酬で簡単に崩れる相手、他にいませんし!おかげで楽に勝てそうだ!」

 

 右から左から、ビームサーベルのラッシュ!ラッシュ!!ラッシュ!!!

 

『グッ……なめるなァッ!!』

 

 左右のビームサーベル同士が打ち付けられ、力比べに縺れ込む。

 

『昔の俺にとっては、ただ楽しんで想いを形にして、偶に戦って勝つ、それで良かった!けど今は!俺の強さを!揺るぎない実力を示すために俺はガンプラで戦い続ける!今度こそ、誰からも見捨てられないために!!』

 

「……それが本音でしたか」

 

 ズンッ、と互いに踏ん張り合い、脚部がコロニーのアスファルトに沈み込む。

 だが、単純な出力やパワーならオリジネイトの方が上のようだ、ジリジリとべギルエリスを押し込んでいく。

 

『パワー負けしているか……!』

 

「誰からも見捨てられないために、と言いましたか。『自惚れるのも大概にした方がいいですよ』、アサクラ先輩」

 

『なに……自惚れだと!?』

 

 強引に弾き返したべギルエリスは、飛び下がって二刀のビームサーベルを構え直す。

 こちらもビームサーベル二刀流を崩さずにジリジリと。

 

「一度や二度の敗北がなんです、戦争やってんじゃないんですから、負けたって死ぬわけでもなし、何度だってやり直せる」

 

『だが……』

 

「だがもヒートダガーもスローターダガーもないです。ンなこと気にしてたら、こんな"遊び"やってられませんよ」

 

『"遊び"……』

 

「"遊び"だからこそ本気になれる……それはそうとして。けど、だからと言って『人生を左右されろ』とは誰も言っていないでしょう?」

 

 真っ直ぐにオリジネイトを加速させ、ビームサーベルを振るう。

 べギルエリスも右のビームサーベルを寝かせるように構え、受け止める。

 

「たかが"遊び"に、人生まで左右されちゃたまりませんよ。況してや、人間関係も」

 

 鍔迫り合い、即座にべギルエリスは左腕シールドのビームサーベルを振り上げてくるが、それよりも先にこちらも左マニュピレーターのビームサーベルで押さえ込む。

 

「遊びでやってんだから、そんな"しょーもない"都合を持ち込むなって言ってるんです、よ!」

 

 受け流し、返す刀の回し蹴りハイキックでべギルエリスの頭部を蹴り飛ばす。――ブレードアンテナが半ばから折れたが、これは決闘ではないガンプラバトルなので、まだ俺の勝ちではない。

 

『……それは、すまなかった』

 

 すると、べギルエリスは一度飛び下がった。が、ここは追撃しない。

 

『俺は、囚われていたのだな。恥や外聞を気にするあまり、ガンプラバトルが何なのかを、理解していなかった』

 

「ちょっと見失っていただけですよ、気にしないでください」

 

『そうか……ではオウサカ・リョウマ、改めてこのアサクラ・ハルヤと戦ってもらおう』

 

 っと……べギルエリスの挙動に強張りが消えた。

 ここからがクライマックスだな。

 

「もちろんです」

 

『ならば、行くぞ!』

 

 ドンッ、とべギルエリスが加速、真っ直ぐに向かって来る。

 

 

 

 一撃、二撃、三撃、四撃、五撃……勢いが強い、こちらからも攻めないと当たり負ける!

 

 

 

 斬り結び、弾き返し、逆手に構えた左のビームサーベルでべギルエリスの胴体を斬り付けるが、

 

「浅いかっ」

 

 コクピットには届かない、増加装甲の厚さに遮られたか。

 

『させんっ!』

 

 するとべギルエリスは右脚を振り上げてオリジネイトの左腕を蹴り飛ばし……てない、捕まえられた!?

 そうか、あのフットはベギルシリーズ特有の鉤爪状の脚部、あれで量産型ルブリスやザウォートの装甲を捩じ切っていたっけな……

 ってことは、

 

 ギチギチギチギチと嫌な軋轢音の直後、オリジネイトの左腕が半ばから挟み潰された。

 

「――だからどうしたァ!」

 

 たかが左腕が無くなっただけだ、あのアムロ・レイは片腕とメインカメラが吹っ飛んでもなお戦い続けられるんだ、これくらい!

 

 反撃に振るったビームサーベルで、べギルエリスの左腕を斬り落とす、これでおあいこだ。

 

『チイィッ!』

 

 双方、残った右のビームサーベルで斬り合う。

 

 まだビームライフルもビームキャノンも健在だと言うのに、やけにビームサーベルによる格闘戦にこだわるな。

 

 俺との正面勝負がお望み?

 

 いや違う、恐らくアサクラ先輩の狙いは……

 

 何十合と打ち合った斬り合い。

 それは、オリジネイトの一閃がべギルエリスのビームサーベルを弾き飛ばしたことで終わりを告げる、が、

 

『もらったぞ!』

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ビームサーベルで打ち負ける、『俺が勝ったと確信しかける』、その瞬間を狙っていた!

 オリジネイトがビームサーベル振り切った時には既に、べギルエリスのバックパックのビームキャノンの砲口が、オリジネイトのボディへ向けられていた。

 回避は不可能。

 

「ッ――」

 

 俺はほぼ咄嗟――賭けに出て、『左脚のバランサーを切った』。

 途端、膝カックンをされたようにオリジネイトが若干左寄りの前のめりに倒れ――刹那、ビームキャノンのビームが放たれ、――姿勢が低くなったことで、オリジネイトのボディではなく、頭部を撃ち抜いた。

 

『なんっ……!?』

 

 ――賭けに、勝った!

 

「俺の、勝ちです……ッ!!」

 

 迷いなくビームサーベルを突き出せば、その切っ先はべギルエリスのコクピットを確かに貫いてみせた。

 

『負けた、か……』

 

 制御を失ったべギルエリスは、ガクリと力無く前のめりに倒れた。

 

 べギルエリス、撃墜。

 

『Battle ended!!』

 

 

 

 瞬間、会場に爆発的な歓声が轟いた。

 

 ふぅ、なんとか勝てたぜ。

 正直、途中でレスバ挟んで無かったら負けてたかも。

 読み込ませていたオリジネイトを回収したところで、アサクラ先輩が目の前に立っていた。

 

 お?なんだ?バーチャファイトからリアルファイトに派生か?俺は別にバーチャルでもリアルでもどっちでもえぇんやで。

 

「良いバトルだった、ありがとう」

 

 と、思ったら握手を求められた。

 

「こちらこそ、ありがとうございました」

 

 握手には握手で返す。

 万国共通の礼儀だ。

 

「俺は、己の弱さを認めようとしていなかった。君とここで当たっていなければ、俺はまた同じ過ちを繰り還すところだった」

 

「あぁ、フル・フロンタルも言っていましたね。「過ちを気に病むことはない。ただ認めて次への糧にすれば良い。それが大人の特権だ」って。俺達はまだ子どもですけど」

 

「ふっ……だが、いずれ大人になるのなら、過ちを認める練習くらいは必要だろうな」

 

 握手の手を離して。

 

「今回は君に譲る。だが、俺はいつか、白の戦乙女(ホワイト・ヴァルキュリア)を倒してみせよう」

 

「あなたなら出来ますよ。人は、やろうと思えばどこまでも賢くて強くなれるし、どこまでも愚かで弱くもなれますから」

 

「後半部分が不吉だな……否定出来んのが何とも言えん」

 

 おっと、過去の異世界転生で"人の愚かさ"を何度も見てきた俺の悪い癖だな。

 

「では、いずれまた会おう」

 

 互いに会釈しあって、さいなら。

 

 さて、ゴジョウイン先輩も勝ち進んできているだろうし、俺もみんなの元へ戻るとしよう。

 

 

 

 観客席に戻ったら、最初にマユちゃんが出迎えてくれた。

 

「オウサカくん、お疲れさま。さっきのバトル、すごかったね」

 

「あぁ、想像してたよりずっと強かった」

 

 でも、とアサクラ先輩が去って行った方へ目を向ける。

 

「次会った時には、さらに強くなってるだろうなぁ」

 

 自分の殻を破ったというか、己を縛る鎖を引きちぎったと言うべきか。

 何にせよ、あの人にとって俺とのバトルは、変わるきっかけになった一戦になるだろう。

 

「おー!リョーおかえり!」

 

「お疲れさま」

 

「いいバトルだった、よくやったぞリョウマ」

 

 イツキ、ミカゲさん、ケイスケ先輩も、俺を労ったり称えてくれたりしてくれる、へへっ。

 

 さっきの昼休憩の時に勝ったスポドリを飲みつつ、一息。ふぅ。

 

「次はいよいよ、ゴジョウイン先輩との決勝だね」

 

 席を空けてくれたマユちゃんが、その隣に座る。

 

「ん、この間戦った時は負けたが、今日こそは勝ってみせる」

 

 あの時はまだ通算三回目のバトルだったからな。

 だが今の俺は違う、地区大会を勝ち抜き、こうして決勝まで勝ち抜いてきた自負と、それに比例する実力もある。

 

 それでも死力を尽くして勝てるかどうかだが、まぁなんとかなるやろ。

 

 って余裕ぶっこいてるフリをしていたら、

 

「センパイ!オウサカセンパイ!大変です!」

 

 隣のブースで、シノミヤ先輩と一緒にいたはずのナナちゃんが駆け寄って来た。

 

「大変?どうしたんだ、ナナちゃん」

 

 

 

「ゴジョウイン先輩が、負けちゃったんです!」

 

 

 

「「「「「!?」」」」」 

 

 ゴジョウイン・アマネが負けた。

 

 その事実に、俺達は驚愕するしかなかった。



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