一発芸でレベル7になった男。 (ひつまぶしEX)
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第一章
第一話。冒険者



悲劇を少なめに、たまにダンメモやドラマCDのイベントを挟みながら進行できたらなと考えています。
拙い文章ですが、どうか暇つぶし程度にお楽しみください。


 

度重なる咆哮が轟いていた。

地響きを伴う足音を立てる山羊のような角を持つモンスター───『フォモール』の大群が、怪物と称するにふさわしい巨躯を進撃させる。

 

「かかってこいやぁぁぁぁああああ!」

 

それに真っ向からぶつかるように、岩の巨人のような見た目をした何者かが群れの前に飛び出していく。

 

巨人とはいえ、その大きさは約3M。

一本の草木もない荒れ果てた大地を踏み荒らすモンスターの津波に飛び込むには少し心許ない。

 

だが、そんなことは関係ないと岩の巨人は大群に向かって巨石のようなタワーシールドを構えて殴りかかる。

 

「───ッ!」

 

無謀な突撃はモンスターたちに踏み潰され、その命を無為に散らす。

なにも知らない誰かが見ていれば想像したであろうそんな未来は訪れない。

 

「ふんぬ、ぎぎぎぎ…!」

 

驚くべきことに、その巨人は途切れることなく押し寄せ、立ち塞がる全てを押し流そうとするモンスターたちを真正面から受け止めていた。

 

さらに、彼の背後に控える仲間たちの方に向かってまっすぐ突進していた筈のモンスターたちが、急に足を止めて、まるで親の仇のように岩の巨人を狙い始める。

波がうねり、たった一つの岩に塞き止められているかのような光景を前に、彼の背後から見据えていた小人族(パルゥム)が、仲間に号令を下していく。

 

「前衛、密集陣形を崩すな!後衛組は攻撃を続行!盾も緩めるな!何匹かは抜けてくるぞ!」

 

敵を受け止める仲間ごと攻撃する指示に対して、誰もが躊躇うことなく行っていく。

 

「お前らあとで覚えてろよなー!?」

 

不思議なことに、モンスターに降り注ぐ矢や魔法は巨人を傷つけない。

それはそれとして自分に向かって背中から攻撃されることに文句を言う姿は、まさに道化。

というか、仲間からの容赦のない攻撃に、若干嬉しそうと言うか、テンションを上げているのはなんなのか。

 

ある意味で彼が契りを結んだ道化師の神にふさわしいと言えるだろう。

 

───いやいや。うちのは道化師(トリックスター)。それは道化師(ピエロ)やろ?全然違うもんやん!?お好み焼きともんじゃ焼きくらい違うで!?

 

という関西弁の神のツッコミが聞こえた気がするが、どうせ幻聴だ。

なにせここは何十もの階層を積み重ねた地底深く───『ダンジョン』なのだから。

それに彼らの主神は関西弁なだけで、極東の関西出身な訳ではないから、お好み焼きともんじゃ焼きの違いをたぶん知らない。

 

「ベート、ティオナ、ティオネ!左右から『ナズナ』を支援しろ!」

 

「援護の指示がおせーよ!俺を過労死させるつもりか!?」

 

モンスターにタコ殴りにされ、仲間からもバカスカ撃たれてなぜか少し嬉しそうな巨人の名前はナズナ・スカディ。

 

敵をスキルによって強制的に引き付け、仲間よりも前に出て攻撃を引き受ける絶対守護の盾。

ダンジョンに挑む冒険者たちの中でも、上澄みの上澄みであるレベル7であり、ちょっとあまりかっこよくない経験によってランクアップした、エルフのガチタンクである。

 

実は正式なファミリーネームは存在せず、ただのナズナではあるのだが、名字がない方が不便だとしてこの名前を名乗っていた。

 

スカディ。

意味は『傷付ける者』。

忌み嫌われる存在の蔑称として一族全体につけられたものではあるのだが、ナズナは過去に一族が受けた所業に対して特に思うところはない。

 

だが、これを名乗るたびに約1名物凄い勢いで顔を曇らせる誰かがいるから、わざわざ名乗りで口には出さないという本末転倒じみたことになっているので失敗したかなと反省はしている。

 

「あ~んっ、もう体がいくつあっても足りなーいっ!」

 

「ごちゃごちゃ言ってないで働きなさい」

 

「くっちゃべってんじゃネェぞ、バカゾネス共!」

 

指示を受けたアマゾネスの姉妹と、狼人(ウェアウルフ)の青年が疾走し、複数のモンスターを各々の武器で一瞬で葬り去る。

 

だが、ダンジョンから産み出され続けるモンスターの群れは一向に減る気配がない。

て言うか増える一方だ。

 

───ダンジョンは生きている、という言葉がある。

その言葉が真実なのなら、確かに今ダンジョンは明確な意思を持って彼らを殺そうとしているのだろう。

 

だが、それに抗うのが冒険者という生き物だ。

この場にいる誰一人、諦めるつもりはない。

 

「リヴェリア~ッ、まだぁー!?」

 

その悪夢のような光景を前にして、アマゾネスの姉妹の片割れ──ティオナが、陣営の中心で玲瓏な声で呪文を紡ぐ一人の美しいエルフに向かって助けを求める。

 

「【間もなく焰は放たれる】」

 

「そうだそうだ!早くしろばーさん!そんなんだから婚期も逃すんだよ!」

 

ティオナの声に便乗するように、とてもエルフとは思えない下品な野次をナズナが飛ばす。

瞬間的に、リヴェリアの傍に控えているエルフの魔道士たちからの魔法攻撃が殺到した。

 

「口を慎めこの不敬者!」

 

「呪われてあれ!呪われてあれ!」

 

「うるせー!売れ残り共!エルフなんて生娘気取ってるくせに50、40が当たり前の種族じゃねーか!全員じじいばばあだよ!高齢化社会まっしぐらの美男美女詐欺種族が!」

 

「言ってはならないことおおおおおお!」

 

「なんならあんたが私を嫁にとりなさいよ!」

 

『誤射ですが何か?』という澄まし顔で魔法を直に放つエルフもいれば、鬼のような形相で魔法を連射するエルフもいる。

そんな魔道士たちに対して、とあるスキルのお陰で無傷なナズナは元気よく中指を立て爆笑する。

 

「やれやれ…相変わらずベートと違う方面で口が悪い」

 

「構ってちゃんじゃからのう…」

 

団長として足並みを乱す言動に文句のひとつでも言おうかと思ったフィンは、モンスターの殲滅速度が上がったのを確認して一つの溜め息と共に諦める。

 

「【忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む】」

 

絶世の美貌を持つエルフは、バカの下品な野次とそれに引きずられて瞬間的に知能指数が下がっていく周りのエルフたちの会話に、その柳眉を逆立てながら、それでも力強く流麗な旋律を紡いでいく。

 

「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火】」

 

ナズナはあとでしばく。

そんな思いが強くこもった魔法が間もなく放たれると言うその直前。

 

『───オオオオオオオオオオオオオオオオオゥッッ!』

 

フォモールが命の危機を感じたのか、渾身のシャウトと共に仲間をも蹴散らしながら驀進し、盾を構える前衛を吹き飛ばした。

 

「ベート!」

 

「ちッ、何やってやがる!?」

 

フォモールによる決死の突撃によってこじ開けられた防衛線から、数匹のモンスターが侵入する。

 

それまで前衛に守られていた魔導士たちが青ざめるのと同時に、そのうちの一人のエルフの少女に向かって鈍器が振り下ろされる。

 

「レフィーヤ!?」

 

「───ぁ」

 

仲間の一人が彼女の名前を呼ぶも、少女は自身を見下ろす赤い目玉に射竦められ、回避が遅れる。

 

怪物が振り下ろす鈍器が、可憐な乙女の脳髄をぶちまけるその直前。

硬直したレフィーヤの目の前に迫るフォモールが、飛んできた巨石…もとい、大盾の一撃で逆にミンチになる。

 

まさに改心の一撃。

SMAAAASH!!という効果音がふさわしいその一撃は、臓物やらなんやらを撒き散らし、レフィーヤを血飛沫で真っ赤に染め上げる。

 

「はは…なんですかこれ?ダンジョンって赤い雨なんか降るんですねー…」

 

乙女に対するあまりにもあんまりな所業に、思わず助けに入ろうとしていたアイズさえもぎょっとした顔で立ち止まる。

 

「レ、レフィーヤ…?」

 

「うぼぁ…」

 

現実逃避に失敗したエルフの口から、諦観のこもった悲鳴が漏れる。

一瞬にしてレフィーヤの目から光が消えたが、くくりつけられていた鎖を引っ張ることで盾を自分の手元に戻した下手人は、『感謝しろよ!』と背中越しにサムズアップしているのが始末に負えない。

 

「兄さんのバカぁぁぁぁああああ!」

 

「【レア・ラーヴァテイン】!!」

 

少女の絶叫に重なるようにして、完成した広範囲殲滅魔法が、五十をも越すモンスターの大群とともにナズナを呑み込む。

無数の炎柱がフォモールたちを一掃し、世界を灼熱に包み込んだ。

 

「相変わらずバカみてぇな威力だ…」

 

魔法に巻き込まれておいて無傷。

どころか、暢気にこわ、と自分の肩を抱き寄せる岩の巨人を見て、冒険者たちは戦いの終わりを確信し、武器を静かに下ろすのだった。

 

「………ナズナ、話がある」

 

「あ、やっべ」

 

同時にこのあとのナズナの未来が暗いことを、ファミリアの副首領から放たれる漆黒の覇気を感じて確信した彼らは、功労者である彼へのお礼もそこそこに、首領であるフィンの指示にしたがって移動の準備を始めるのだった。

 

「あ、お前ら逃げるな!俺を助けろ!」

 

「ひぃ、巻き込まないでほしいッス!?」

 

「全員速やかに進軍!一気に50階層への連絡路まで走り抜ける!」

 

「我が名はアールヴ!」

 

「はいバリアー!味方からの攻撃はスキルで無効でぇぇぇす!」

 

「お主らも遊んでないで早くいかんか!」

 

───これは数多の英雄譚たちの横で繰り広げられる道化芝居。

 

タンクとか言う地味な役割のせいで見せ場の少ない、起伏の少ない物語である。

 

 





最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。
たぶんソード・オラトリアの4巻までは行きます。


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第二話。兄妹


本日二話目の投稿でございます。
少しだけ前世というかアルゴノゥトをほのめかす描写がありますが、あまり気にしなくて大丈夫です。
なんとなく作者自身がアルゴノゥトとフィーナの関係を神聖視している節があるので、その後ろめたさが出てしまっただけです。
本編には関係してきません。



 

 

「うーん。やっぱ俺あんたの兄になりてーな」

 

「決めた。次は俺が先に生まれて、先に助ける」

 

「あんたがいる閉じた世界を外からぶち破って」

 

「俺があんたの英雄になる」

 

それは男の嫉妬か、あるいは羨望か。

 

神が降りてくるよりもずっと前。

思い人(ハーフエルフ)の少女に肩車されてしまうほど小さくて幼い少年は、とある少女に誓ったとか誓っていないとか。

 

そんな喜劇にも記されなかった眉唾の話(前世)

 

 

 

 

 

 

 

ナズナはかつて使命に縛られた番犬だったが、とあるハイエルフの家出騒動の隙をついてアールヴの森を出た。

恩恵もなく、身を守る不出来な魔法一つでする旅は苦労の連続だったが、ロキに捕まるまでかなり自由に過ごしていた。

 

『うひょおおおお!お外楽しいいいいいい!エルフの森からの解放万歳!』

 

そんな旅の道中で訪れたとある場所。

そこはエルフの森にしては珍しく、大きく外に開かれていた。

名前を『ウィーシェの森』。

ちょうどナズナを兄と呼ぶレフィーヤの故郷だ。

20数年近く前なので当時レフィーヤは生まれていなかったが。

 

その森は大陸中部に広がる『森の大河』の中に存在する、大陸を行き来するための交通の要衝であり、多くの他種族の人間が里を出たり入ったりしている社交的なエルフの森。

 

ナズナを看病してくれた夫婦のエルフが言うには、なんでも里の名前になっている始祖、世界三大詩人の一人である『ウィーシェ』とかいうエルフの教えに基づく考え方が、その里のエルフたちに根づいているのが、このエルフにしては珍しい社交性の理由らしい。

 

『へーそうなんだ。すごいね!』

 

『話聞いてる?』

 

『聞いてる聞いてる。そんなことよりそこの蜂蜜クッキーとって』

 

そんな場所にナズナはしばらく身を寄せていた。

それは居心地がよかったのもあるが、何よりも森の近くで無理な戦闘が祟って旅の続行を一時断念しなくてはならなかったからだ。

 

『ショタエルフ取ったどー!』

 

そして、そんな療養中にロキに捕まり、半ば強制的にファミリアに入って数年。

ナズナは一つの都市外クエストを受けた。

 

行き先はウィーシェの森。

自分を看病してくれたウィーシェの森のエルフの一家に久しぶりに会いたかったのが一つ。

良いことがあるというなにか漠然とした予感があったのが一つ。

 

───ナズナはそこで一人の幼い少女に出会う。

 

それこそが当時まだ幼かったレフィーヤであり、自分を兄と慕う妹分との出会いだった。

 

『ふーん、チビスケが外に世界にねぇ。いきゃ良いじゃねえか』

 

『だれがチビですか!あなただってオトナにしてはずいぶんちいさいほうですよね!ていうかあなたはなんで私にかまうんですか!?』

 

『さぁ?強いて言うなら暇だから、一番反応がいいお前に構ってるんじゃないか?』

 

『あやふやすぎる…』

 

『それより───』

 

クエストをクリアするまでの期間、なんとなく構っていた当時幼女のレフィーヤから、いつの間にか()()()と呼ばれるようになっていた。

 

そして、クエストが完了する頃。

ちょうど学区と呼ばれる外の世界の切符が転がっていたからレフィーヤの背中を多少押しはしたが、外の話を彼女に語って聞かせた以外、なにかをした記憶はない。

 

『お久しぶりです、兄さん!今日から私もあなたと同じ冒険者です!』

 

だから、ロキファミリアで再会したレフィーヤが自分を未だに『兄さん』と呼んだことに困惑と面映ゆさを覚えたのを今も覚えている。

 

というか今も自分の中で違和感が燻っている。

 

なぜだろうか。

彼女の兄にふさわしいのは、もっと滑稽で笑顔の似合う誰かのような。

 

そんな、どこか後ろめたさを感じるのは。

 

───大丈夫サ。君は確かに彼女の兄にふさわしいとも!───

 

「幻聴か?」

 

耳を掠めた軽薄な声(風の音)に首をかしげなら、ナズナはキャンプ地周りの哨戒を手早く済ませるべく足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

「まったく、兄さんはまったく!非常識にもほどがあります!」

 

そんな似合わないシリアスをしている兄はさておいて、着々と準備が整えられていくキャンプ地では一人のエルフの少女がぶっかけられた血飛沫を落とすべく、仲間の魔法使いが出してくれた水を借りて身を清めていた。

ついでにぷりぷりと怒っていた。

まぁモンスターの返り血をぶっかけられたら誰でもそうなるが。

 

テントの影で着替え、体も清めたレフィーヤが出てきたところを、がばっ、と軽い衝撃とともに背後から捕まえられた。

 

「ひゃぁ!?」

 

「───レフィーヤ!」

 

レフィーヤが驚きながら首を少し動かすと、ティオナが背中に抱きついている。

その横には、フィンに小言をもらったのか少し落ち込んだ様子のアイズや、天幕の予備を片付けるために持ち運んでいるティオネもいる。

 

よりによってアイズさんに見られた!?と慌てるレフィーヤ(サイコレズ)を余所に、ティオナは明るく笑いながら質問を投げ掛けてきた。

 

「ねぇねぇ、なんとなく聞くタイミング逃してたんだけどさー?レフィーヤってなんでナズナのこと兄さんって呼ぶの?血は繋がってないんでしょ?」

 

「それは私も気になってたのよね。年上だからただそう呼んでるって訳でもなそうだし」

 

「うん、むしろ姉弟…」

 

「えーと、特に深い訳はないんですよね…」

 

落ち込んでいる反動なのか若干トゲのあるアイズの言葉をしれっとスルーして、レフィーヤは昔に思いを馳せるように目をつむった。

 

「兄さんがウィーシェの森に来たのは私が八歳の誕生日を迎えるちょっと前くらいでした。たった三ヶ月の滞在だったんですけど、幼い私に外のことをたくさん教えてくれて、私が学区へいく後押しをしてくれたんです。それに…」

 

「それに?」

 

『間に合った───ッ!…っべー、これ俺のせいか?俺が外の世界の興味を煽ったからか?っべー。………うおおおお!モンスター許せねえええええ!』

 

人はそれを責任転嫁という。

 

「興味本位で森の外へ出た私をモンスターから助けてくれたりもして、私があの人に懐くのはあっという間でした」

 

それに加えて、レフィーヤの両親が実の息子のようにナズナを可愛がっていたのもあるだろう。

自分を見て、本当に嬉しそうに微笑むナズナの顔がレフィーヤは好きだった。

 

「へー!」

 

語られるほんのり甘酸っぱい(気がする)思い出に、少女たちが盛り上がる。

 

「何よ、私と団長との出会いの方が劇的よ!」

 

「ティオネ空気読めてなーい」

 

「みなさーん食事の時間っすよ~」

 

「私と!団長との!思い出───」

 

結局ガールズトークは、ラウルが呼びに来るまで続くのだった。

 

 

 

 

大荒野(モイトラ)の戦いはご苦労だった。みんなの尽力があって今回も無事に50階層へとたどり着けた。ありがとう」

 

50階層。

ダンジョンのなかでも数層しか存在しない安全階層だ。

もっとも、この場を利用するのはロキ・ファミリア以外ならフレイヤ・ファミリアくらいだろう。

 

「いつも49階層越えるの一苦労だよねー。今日はフォモールの数も多かったし」

 

「バロールがいなかっただけマシでしょ」

 

ちなみに49階層は、先ほど話題に出たフレイヤ・ファミリアの団長オッタルの単独到達階層であり、バロールを半殺しにまで追い込んだという話を、ナズナは本人から聞いたことがある。

止めを刺せなかったのが相当悔しかったらしく、リベンジの機会を伺っていると聞いたが、果たしていつになるやら。

 

自由奔放な神フレイヤに振り回されるあのファミリアの団長に許された自由時間はそれほど多くない。

というか、いくらレベル7とはいえ、単独で来るのは頭がおかしい。

もっと団員と仲良くしろ。

 

「ははっ。とにもかくにも乾杯しよう。お酒はないけどね。それじゃあ───」

 

『乾杯!』

 

フィンの音頭に続くようにして、全員が唱和する。

ナズナもまた、自分のコップに入れた透明な液体を持ち上げる。

 

するとくん、と鼻のいいベートが顔をしかめる。

 

「おいてめえ、それ酒だろ」

 

「水だもん」

 

「おい!?」

 

「なんだよもー、ベートもほしいのか?しかたねーな。みんなには内緒だぜ?」

 

独り占めすることよりも、隠蔽することを選んだナズナがベートのグラスに()を注ぐ。

 

「おいおい、悪いやつだなお前」

 

「ふっふっふ、ベートもなぁ?」

 

ニヤニヤとほくそ笑む二人は、しかし最後まで笑うことはできなかった。

 

「あー!ナズナとベートがお酒飲んでる!」

 

「ばっかお前!そこは見逃すのがいい女ってもんだろ!?」

 

えーそんなの知らないよー、と口を尖らせるティオナの横からガレスが嬉々として近づいてくる。

 

「なんじゃお主ら。ワシに隠れて酒を飲むなんて許されると思っておるのか?」

 

「クソが!ドワーフは帰れ!貴重な酒を奪われてたまるか!」

 

「そう言われるとますます欲しくなるのう」

 

「おや、面白い話をしてるね。僕も混ぜてくれるかい?」

 

「あー!お客様困ります!あー!お客様!遠征中ずっとちびちび飲んでた俺の大事なお酒がぁ!」

 

結局、ナズナの酒は希望する全員へ一口ずつ注がれ、酒瓶はあっという間に空になった。

 

今回一番美味しい思いをしたのは、最初に気付いたお陰でコップに並々注いでもらえたベートと、無償でファミリア全体の士気を高められたフィンなのだろう。

 

ナズナは、ふて寝した。

 

 





最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。
次の投稿は一週間後です。


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第三話。防衛


初日からたくさんの方にお気に入り登録して頂けただけでなく評価までして頂けたことに、喜びとプレッシャーで吐きそうになっております。
本当にありがとうございます。
そんな感謝を込めて、一週間後に仕上げるつもりだった下書きを形にしてきました。


 

 

「暇だ…」

 

「そう言うな。拠点の防衛だって大事な仕事だ」

 

「そうは言うけどさぁ…」

 

まるでわがままを言う息子と親のような会話を繰り広げるのは、一人の美しいエルフと一人の幼い見た目をしたエルフだ。

幼い方のエルフは地面に寝そべり、乱雑に結ばれた山吹色の髪を掻きながら、あくびをかます。

言わずもがな、ナズナである。

 

とても王族(リヴェリア)の前で取る態度ではないし、他の同胞がいたらこの狼藉者は袋叩きにされるだろう。

もっとも、ナズナはそんなこと気にもとめないが。

 

だってレベル7だし。

オッタルより攻撃力あるやつでもない限り、自分のことは痛め付けられない。

エルフざまぁぁぁぁぁああああ!と、ナズナはさらに煽ることだろう。

というか実際に煽った。

ナズナの過去を考えれば多少仕方のないところではあるかもしれないが、シンプルに性格と口が悪い。

 

「なら私が子守唄でも歌ってやろうか?」

 

「おめー調子乗んなババー」

 

眠いからなのか。

いつもよりも遠慮なく、そしてノータイムで返された暴言に、リヴェリアの口角がひきつる。

そしてすん、と真顔になったかと思うと、杖を構え魔力を練り始めた。

 

「我が名は───」

 

「ああもう悪かった!悪かったですすいません!だから無駄に精神力の消費をするんじゃねーよ!?なんのためにここに残ってんだ!あと口に杖をねじ込もうとするな!内側から爆発しちゃうだろ…俺が!」

 

ぐいぐいと杖を口に押し付けてくるリヴェリアにすぐ謝る姿に、レベル7の貫禄はない。

レベルやステータスなど関係ない、純然たる上下関係がそこにはあった。

 

というか、普通にエルフに対して口が悪いのもあるが、身内相手のナズナは基本的に構ってほしくてやっている節がある。

怒られて喜ぶ困ったお子さま(アラサー)を前に、リヴェリアはとりあえず矛を納めた。

 

「…ふん、私はエルフだ。同胞の中じゃまだ若い」

 

「はいはい…」

 

99歳は普通にエルフでもばばあだろ、という言葉をのみこんで雑な対応をするナズナの顔を、リヴェリアが真顔で覗きこんだ。

 

「なにか言ったか?」

 

「いえなんでもないです」

 

さて。

魔法で産み出された岩の鎧。

ずんぐりとしながらもどこかゴツゴツとした鎧の中身の姿が、こんな物臭で生意気でチビなエルフという事実を知った人間の反応はおおよそ二つに分かれる。

 

一つはこんな弱そうなガキなら俺でもやれるぜ、俺は安全にランクアップしたいんだよ、と喧嘩を売ってくるパターン。

これはおおむね男性の冒険者たちに多い。

こうした喧嘩をナズナは嬉々として買っては暴れ回るので、フィンの頭を悩ませている。

 

とはいえ喧嘩と喧嘩と喧嘩は迷宮都市の華だ。

だから問題ない、とちっとも反省しない見た目の通り性格もクソガキなナズナは考えていた。

年齢は33だが。

いい加減大人になれよと言われてもおかしくない年齢でありながら、そのエルフらしい整った見た目からなんとなく許されるずるいエルフだと言えるだろう。

 

そう、喧嘩を売られるのとは別に、この生意気な合法ショタガキおじさんは、その少女にも間違われるあどけなさ全開の顔のお陰で一定数のファンがいるのだ。

 

伊達に誰が集計しているかもわからない冒険者順位(ランキング)において、『最可愛エルフ』『男性冒険者に≪お姉ちゃん≫って呼ばれたい』『女装してほしい上級冒険者』『交際したい冒険者(男性女性票共に)』『カワイイ男性冒険者』等々無駄にランキングの上位に居座り続けているだけある。

いや本当に、誰が集計しているのやら。

 

───閑話休題(話が逸れすぎた)

 

「おっせーなフィンたち。カドモスくらいガレスがささっと片付けて帰ってこいよなぁ」

 

現在、ナズナとリヴェリア以外の一級冒険者たちはとある冒険者依頼のために、少数精鋭で『カドモスの泉』へと向かっていた。

その泉の水を回収するためには、カドモスという力だけなら階層主のウダイオスよりも強いとも言われる泉の番人を倒さなくてはならない。

 

だが、いくらレベル6相当の強さがあろうと自分の仲間が負けるはずがないという、隠しきれない信頼にリヴェリアは口許に小さな笑みを浮かべる。

 

「ツンデレめ」

 

「…おいロキみたいなこと言うな。ツンデレはベートだ。俺は大概素直なんだよ!」

 

なお、構って欲しくて憎まれ口になる模様。

このまま穏やかに時間が流れる。

そんな油断が拠点に残った冒険者たちの間でうっすら流れ始めたそのとき、ナズナは見た。

 

50階層と51階層を繋ぐ、崖と遜色ない角度の坂道から黄緑の波が押し寄せてくるのを。

 

「あ?なんだあれ…」

 

「芋虫?」

 

巨大なモンスターだ。

リヴェリアの言う通り、まさに芋虫という風体のほとんどを占めるのは黄緑色だが、所々濃密な極彩色が刻まれているせいで異様に毒々しい。

高さは4Mといったところだろうか。

 

でかい虫はそれだけで普通に気持ち悪い。

ナズナに遅れてモンスターを発見した団員たちの、特に女性から悲鳴が上がる。

 

「あれは絶対毒・虫タイプだな…弱点は火」

 

無数の短い足をせっせか動かして崖を進軍してくるおそらく新種であるだろう芋虫型のモンスターを見下ろしながら、ナズナは呟く。

 

「とりあえずいつも通り行こう。盾置いてきたから誰か武器貸してくれ」

 

「お前は防衛をなんだと思ってるんだ?」

 

リヴェリアの小言に対して下手な口笛で誤魔化そうとするナズナを呆れたように見つめる団員たちのなかから、一人の黒髪の猫人(キャットピープル)が前に歩み出た。

 

「なら私の剣を使って。哨戒用の予備のやつだし」

 

「アナキティ…助かるにゃん」

 

「殺すわよ」

 

自分の種族の語尾を恥じて矯正した過去を持つアナキティ…通称アキは、ナズナの軽口に本気の殺意を返す。

 

その殺意にヘラフラとした笑みを浮かべ、ナズナは受け取った剣の調子を軽く確かめる。

 

「へへ怖い怖い。……ま、壊したらもっといいの買ってやるよ」

 

「あら、万年金欠男にそんな甲斐性あったなんて知らなかったわ」

 

「ひどくない?言うて最低限の貯金はあるからな?」

 

なお、合計50万ヴァリス。

本当に最低限すぎる。

あったらあるだけ、とまでは言わないが、最低限の貯蓄以外ほぼすべて使うナズナは、遠征の分け前は少し少なめにして渡されている。

これはフィンやガレス、リヴェリアの案であり、一応彼らの主神であるロキが差し引いた分を『ナズナ貯金』という形で溜め込んでいる。

その額5000万ヴァリス。

ナズナの知らない約20年分の蓄えだ。

 

「ラウルより貯金ないくせに。やめたら?賭博。あんた向いてないのよ」

 

「………」

 

アキによってぐうの音もでない正論でカウンターを決められたナズナは反論を思い付かず押し黙った。

弱い。

 

それを隠すように背を向けると、大きく息を吸い込んでからモンスターの群れに向かって崖を飛び降りた。

 

「そんなんだから顔がよくてモテるはずなのに恋人できねーんだよバーカ!」

 

「誉めてるの?貶してるの?」

 

 

 

 

 

 

「とりあえず死ね」

 

凡庸剣の先制攻撃だべ!と言わんばかりの容赦のなさで、接敵した勢いを殺すことなくアキから受け取った剣を叩き込む。

カウンター気味に芋虫型のモンスターから液体が放たれるが、岩の鎧がそれを完膚なきまでに遮断する。

 

「あーっ!?なぁにしてんだてめえええええええ!」

 

だが、剣はそうはいかなかったらしい。

モンスターの体を引き裂いた刃は跡形もない。

溶解したような跡を残す直剣の柄を眺めて、ナズナは冷や汗をだらだらと流す。

 

壊したら買ってやるよとはいったが、普通に壊すつもりはなかった。

当たり前だが。

 

二級冒険者の予備武装とはいえ50階層でも通用するものともなれば、容易く百万ヴァリスを越してくる。

自分の辞書に貯金という言葉のないナズナにとって、とてつもなく痛い出費だ。

というか僅かばかりの蓄えを使っても、借金確定だった。

 

やべー、どうしよ。

夢なら醒めてくれないかななどと考えながら、ナズナはその柄だけになった剣を岩の鎧に隙間を開けて懐にしまう。

そして、拳を構えながら砲声。

 

「かかってこいやぁぁぁぁああああ!全員ぶっ殺して、てめーらのドロップアイテムと魔石を借金のカタにしてやる!」

 

とりあえず自分が全てを引き受けないと酸で溶かされて物資が無くなるし怪我人も出ると覚悟を決め、本日二度目の雄叫びを上げながらナズナはスキルを全開にする。

 

ナズナのスキル【番犬注意(ハウンドエルフ)】。

細かい説明を抜きにするなら、要するにデコイスキルであり、精神力を消費することで効果を増減させることができる。

 

このスキルを使って最前線に出てモンスターを引きつける関係上、仲間からのフレンドリーファイアに悩まされそうなものだが、その問題をナズナのもう一つのスキルが解決していた。

 

名前は【家族愛鎖(サルビア・ハート)】。

小っ恥ずかしい名前のスキルではあるが、その効果は仲間からの遠距離攻撃で傷付かなくなるというもの。

ぶっ壊れスキルではないが、痒いところに手が届く優秀なスキルと言えるだろう。

 

……囮スキルは恩恵を授かった初めからあるのに、後者のスキルは入団して暫くしてから獲得したものだということを考えると、闇が深い。

 

「おらおら、生温い攻撃してんじゃねぇ!もっと本気でこい!そんでドロップアイテムおいてけ!」

 

芋虫の群れから放たれる腐蝕液を意に介すことなく暴れるナズナは、目を血走らせながらモンスターへと躍りかかった。

 





最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。
これが面白いか不安になりつつ、書きたいように書いていきます。

皆様の暇つぶしになれば幸いです。


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第四話。芋虫


たくさんの方にお気に入り登録して頂けて感謝しております。
寝起きで100超えてて目と心臓が飛び出るかと思いました。
頑張れば今日もう一話更新できるかと思われます。
でも平日は頑張れないので基本週末投稿になります。



 

「カスが効かねえんだよ!ははは!一方的にぼこぼこにしてやるよ!潰して潰して潰して、ハンバーグの完成だ!」

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け】」

 

腐食液をぶっかけられても気にすることなくナズナが暴れる光景を眼下に、いくつもの詠唱が折り重なる。

広大な一枚岩にある野営地の中でも、戦場を一望できる位置にエルフの団員を中心とした魔道士たちが集まり、一斉砲撃の準備を行う。

 

これが守る物資もなく、さらにはメンバーがエルフだけとかだったならば、リヴェリア以外のエルフたちが『妖精部隊(フェアリー・フォース)』と呼ぶ遊撃部隊となって、暴れまわっていた可能性もあるな、などと敵から集中砲火を受けるナズナは呑気に考える。

 

そんな風によそ見が可能なほどまでに、この戦場は一方的だった。

ナズナという最強の囮によって行われる威力偵察によって、死に際に爆発し腐食液を撒き散らすことや、攻撃手段として使われる腐食液の吐き出しの射程まで、全てが丸裸にされた芋虫型のモンスターに為す術はない。

 

初見こそが一番の脅威となるモンスターにとって、この状況はあまりにも不利。

あるいは閉所なら分かっていても対処が難しい類いの敵になるのだろうが、ここは大広間。

魔道士にたどり着けないのなら、それはもはやただの的である。

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬───我が名はアールヴ】!」

 

リヴェリアの詠唱が完成するのに続くようにして、魔道士達が続々と魔法を完成させていく。

 

魔力の高まりに反応して、芋虫達が進路を変えようとするがもう遅い。

ナズナが何匹かをまとめて投げ飛ばしながら、芋虫たちを押しととどめる。

 

「大人しくしとけ、な?誰かと一緒に魔法に飲まれるのも人生経験だぜ!」

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

リヴェリアの魔法をきっかけに、戦場が一瞬で地獄と化す。

氷、炎、雷。

多種の攻撃がぶつかり合い、混ざり合いながらモンスターたちへと殺到する。

 

砕け散ったモンスターたちから体液が撒き散らされるも、その体液すらも凍らされ、燃やされていく。

 

「ヒュー!相変わらず景気がいいねぇー!」

 

仲間の攻撃であるが故に無傷なナズナは、その地獄の中心で辺りを一望しながら満足気に笑う。

 

とりあえず拠点の防衛という任務は達成された。

もう一つの目的であるリヴェリアの精神力(マインド)の回復は達成できなかった上に、先程のモンスターの正体もわからないままだ。

この異常事態を前にフィンがどう判断することやら。

 

幸い物資は無事だし怪我人もいないが、ずっと50階層という自分達にとって有利なエリアで防衛するわけにもいかない。

 

それにあの腐食液も問題だ。

自分の魔法と…あとはたぶんアイズのエンチャントとは名ばかりのずるい魔法くらいでしか防げない上に武器を溶かすとなれば、他の前衛達が軒並みただの案山子になってしまう。

そうなると少数精鋭によるダンジョンアタックも難しく、撤退も視野に入ってくるが……。

 

後ろを見やれば、リヴェリアがなにやら指示を出しながらキャンプの片付けを進めている。

おそらく前進か後退か、そのどちらでもいいように最低限の整理をしておくのだろう。

 

「ま、難しいことは賢いやつにお任せ~ってなぁ」

 

そんなことよりもこの剣どうしよう。

ナズナは魔法の被害からしっかり守った、直剣の柄を眺めながら頭を悩ませるのだった。

 

「あ、ドロップアイテム…いや、どのみち死に際の腐食液のせいで無理か。はぁー…」

 

項垂れるナズナを慰めるように、一陣の風がナズナの頬を撫でた。

 

 

 

 

 

 

「別にいいわよそれくらい」

 

「マジで!?」

 

キャンプ地に戻って土下座するナズナに投げ掛けられたのは、アキからの優しい言葉だった。

弁償させられるどころか、他にも何か無理難題を吹っ掛けられると思っていたナズナは、思わず頭をあげる。

 

ついでにパンツが見えたが、それを正直に口にするほどナズナは愚かではない。

とりあえず気付かれないように脳内フォルダに保存しておく。

 

「あのねぇ…一番危険な役をやってくれてる仲間相手に弁償しろなんて、いくらなんでも言わないわよ」

 

「お、おお…アキってもしかしていい女?それともまさか俺に惚れ───おごっ」

 

「なにか?」

 

「すいません調子に乗ったのは謝るので足どけてください」

 

どけてくださいと言いつつ、しっかり喜んでいるこの男は本当にどうしようもなかった。

反応したら喜ばすだけだと分かっていたから無視していただけで、自分の下着をちゃっかり見られていたことにも気付いていたアキは、うんざりするように呟いた。

 

「はぁ…ほんとなんでこんなんがレベル7なのよ」

 

それは本当にそう。

すごい人なのにいまいち尊敬しきれない、みたいな顔で他のメンバーが頷いた。

 

「お前たち、もう少し緊張感を持て?」

 

唯一気を抜かずに回りを警戒しているリヴェリアは、その肉付きの薄い唇から小さなため息を吐き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

「───どうやら君たちだけで無事に対処できたようだね」

 

「団長!」

 

アキとナズナがバカなやり取りをしているところに、カドモスの泉に行っていたメンバーが帰還してきた。

キャンプに残っていた団員たちが、精鋭たちの帰還に喜びの声を上げ、ベートがそれを鬱陶しそうにあしらっている。

 

そんな中、声をかけてきたフィンに、土下座の姿勢でアキに頭を足でグリグリされてご満悦なナズナがサムズアップを返す。

 

「あたぼーよ。そっちも最低限命はあってなによりだ」

 

「まぁね」

 

全員無事とは言わないナズナの言葉に、フィンは少し後ろを見やる。

 

ガレスの肩にラウルが担がれているのは、腐食液にやられたのだろう。

 

それ以外の面々は特に問題無さそうだ。

いや、ティオナのウルガが半分ない。

こちらも腐食液でやられたか。

 

どうやら彼らも芋虫型のモンスターとやりあったらしい。

初見で、しかもほぼ前衛ばかりのパーティーでよくもまぁ負傷者一人で済んだもんだ。

 

やはり自分と同じ系統の魔法を持つアイズと、リヴェリアの後釜候補のレフィーヤのお陰だろうか。

 

「とりあえずラウルの治療をしよう。アキ頼めるかい?あとリヴェリア、情報の共有がしたいから話を聞かせてくれるかな」

 

「ああ、わかった。一応物資はすべてまとめてすぐに撤退できるようにしている。あとはお前の判断次第だ」

 

「わかりました!」

 

首領と副首領の会話が終わり、弛緩した空気が流れ始める。

 

「うーんやっぱり、腐食液が問題だね」

 

「そうだな。敵が真正面から来てくれるならいいが、横道なんかで強襲されると明確な対処法がない現状では厳しい」

 

「幸いアイズのお陰で不壊属性が有効なのはわかってるんじゃがのう」

 

真面目な顔をしている三首領の横でいつものように口喧嘩するティオナとベート、ラウルを治療するアキ、妹に折檻されるバカ。

 

「兄さん!アキさんに迷惑かけないでください!」

 

「おおおお!?ばっかレフィーヤ襟をつかんで揺らすな!俺の体が無事でも服が破けちゃうだろ!レベルを考えろ!」

 

そんな光景をアイズは口許を小さくほころばせながら眺めていた。

だが、その直後。

 

「──────!」

 

森を踏み潰すようにして、一体のモンスターが現れた。

 

 





最後まで読んでくださって誠に有難うございます。
一応感想を非ログインでもできるように変更しましたので、優しい感想をいただけると嬉しいです。
評価してもらえるともっと嬉しいです。
乞食ですいません。


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第五話。最硬


お気に入り登録、評価、感想をくださった皆様、本当にありがとうございます。
さっきランキングを覗いていたら、自分の作品がルーキー日間の末席を汚していてビビりました。
ハーメルンにおけるダンまちの人気の凄さを思い知っております。
見捨てられないよう、来週の週末か平日のどこかでまた似たり寄ったりなクオリティで投稿させて頂きますので、どうか暇つぶし程度にご利用ください。



 

 

「あれも下の階層から来たって言うの?」

 

「迷路を壊しながら進めば…なんとか?」

 

「バカ言わないでよ…」

 

半ば呆けたようなティオネとティオナの会話を笑い飛ばせる団員は一人もいなかった。

 

まだ遠方だが6M近くもある巨体は、離れているはずの拠点から見ても威圧感を放っている。

下位団員だけではない。

ベートやガレスたちでさえも思わず息を呑んだ。

 

「人型…?」

 

まるでエイのヒレのような二対四枚の腕に、どこか女性を連想させるシルエットの上半身。

下半身は芋虫を彷彿とさせる造形で、腹部には腐食液がたんまり溜め込まれているであろう巨大な膨らみがある。

 

芋虫型と同じ種類であることを示すような黄緑色の体躯にはやはり、極彩色が所々に散りばめられている。

それはつまり、芋虫たちと同じように死に際の汚い花火があるということであり、その場にいる全員が最悪の光景を思い浮かべた。

 

「あの巨体じゃと、魔石だけを狙うのも難しそうだのう」

 

「そもそもどこに埋まってんだよ」

 

「乳首じゃね」

 

「つまり魔石が二つ…!?」

 

ガレスとベートの真面目な会話が、一瞬でバカ二人によってふざけたものに塗り替えられる。

 

ベートが睨み付けるも、効果があったのはレフィーヤだけだ。

その兄貴分はへらへらした態度を崩さない。

その緊張感のない態度が、実力に裏打ちされたものであることを理解しているベートは舌打ちをひとつすると目線を、沈黙しているフィンへと向けた。

 

「総員、撤退だ」

 

ぱっと多くの目が振り返る中、アイズとナズナだけが互いを見る。

 

「速やかにキャンプを破棄、全ての物資をもってこの場から離脱する」

 

あるいはナズナがいなくて、キャンプに被害が出てでもいたら持ち帰れるのは最低限の物資で、仲間たちからの反発もあっただろう。

だが、ナズナのお陰で速やかで安全な処理が可能となり、リヴェリアが先んじて、速やかに撤退も前進も出来るように指示を出す余裕があったために、心の準備ができていた団員たちはフィンの指示に速やかに従った。

 

そして、アイズとナズナが互いの前に手を出し、振りかぶる。

 

「「じゃーんけーん───ぽんっ!」」

 

アイズがグー、ナズナがパー。

 

「はい俺の勝ちぃ!たかがじゃんけん、そう思ってるんじゃねえか?それなら次も俺が勝つぜ」

 

「むぅ…」

 

「ほな、頂きます。…おーいフィン、決まったぞ」

 

手をひらひらと振るナズナを少し恨めしげに見るアイズを特に振り返ることなく、ナズナはフィンへと声をかける。

 

「よし、殿(しんがり)はナズナに任せる。総員、行動開始」

 

フィンの言葉で二人が、天然さやバカさを発揮してじゃんけんしたのではなく、単に殿を決めるじゃんけんをしていたのだと団員たちは遅ればせながら気付き、納得する。

 

ただ。

フィンからの直接の指示がなくとも当たり前のように通じあっていた二人を、自称妹(クソレズ)狼人(ツンデレ)の二人が恨めしそうな目で見ていることには、ついぞ誰も気づかなかった。

 

 

 

 

「よぉ、散歩ならもっと下の階がおすすめだぜ」

 

地を這う多脚。

揺らめく複腕。

極彩色に彩られる怪物。

 

その足下に小柄な人影が降ってきたことで、女型のモンスターはその動きを止めた。

 

ガレスによる全力投擲で地面に突き刺さったナズナは、よっこいせと足を引き抜くと共に、一声。

 

「【エメス】」

 

超短文詠唱を引鉄に、魔法を発動させる。

 

「【マド・ドール】」

 

たった一言で岩の鎧が生まれた。

小柄な体を呑み込むように発生した岩が、ナズナを巨人へと仕立て上げる。

泥人形の名前の通り、ゴーレムを想起させるような見た目になるその魔法は、ナズナが唯一使える魔法だ。

体や武器に土の力を纏わせることによって対象を守り、防御力を上げる『岩』のエンチャント。

 

鎧の形を取ることが何よりも得意なこの付与魔法は、攻撃性能を高めるアイズの付与魔法【エアリアル】と違って、守りに寄った性能をしている。

この魔法によって付与される岩の強度はすべての補正を含めた『耐久』を参照し、物理・魔法のダメージを大きく減少させる。

これはつまり、鎧をまとったナズナに傷をつけようと思うのなら、実質的に防御特化のレベル7を二人分抜けないといけないということだ。

クソゲーかな?

 

「とりあえず、遊ぼうぜ」

 

ナズナの言葉を理解したわけではないのだろう。

だが、魔力と殺意を受け止めた女型のモンスターは体を大きく震わせる。

 

『──────ッ!』

 

のっぺらぼうに見えていた顔面部に亀裂が走った瞬間、その隙間から鉄砲水のごとき勢いで腐食液が撃ち出されるも、先程と違ってきちんと武装しているナズナはそれを大盾で受け止める。

 

アキの剣のようなミスはしない。

最初から盾に岩を纏わせることで、武器破壊を許さない。

借り物の時くらいちゃんと防御系のエンチャントしろと思うかもしれないが、レベル7の出力に耐えきれるほどの剣ではなかったのだから仕方がないのだ。

細かな出力を覚えろと言われればそれまでだが。

 

逆に武器要らなかったのでは?と聞かれれば、うるせぇ俺もたまには剣を使いたかったんだよ!とナズナは叫び返すだろう。

 

「はっ、温いな」

 

芋虫の腐食液を遥かに越える大質量を、一歩も引くことなく盾で受け止めたナズナは、鎧の中でそのあどけない顔を狂暴な笑みで彩る。

 

異形と異形の睨み合いはほんの僅か。

再び女型が動き、四枚の腕を広げ花粉のようなものを撒き散らす。

 

そして、爆散。

花粉の一粒一粒が爆弾となり、地面を砕いていく。

並みの冒険者、いや。

一級冒険者達ですらまともに食らえばただではすまない攻撃。

 

「そんなもんか?」

 

それを受けて尚、ナズナは無傷だった。

 

あまりにもデタラメな防御力。

ひたすらに防御偏重なスキルと魔法、ステータスをしたガチタンク。

都市最強のオッタルすら傷を与えることのできない鉄壁の耐久力。

あるいは絶対の守りだと、人に希望を見せる最硬の冒険者。

 

レベル1だった頃、たった一人でゴライアスの攻撃を引き受け、受け止め続け全員を生還させたことからついた二つ名は守護妖精(ローレライ)

 

ローレライとは岩にまつわる伝説で、歌と美貌で船頭を惑わせるとか、逆に見守っているとかそんな噂のある妖精の名前だ。

 

それだけ聞くとデコイスキルとか岩の鎧とかそれっぽいようにも思えるが、それっぽいだけで絶対思いつきだとナズナは密かに思っている。

 

常に歌ってるわけでもなければ、別に道行く人間を惑わせているわけでもない。

 

ナズナはただのタンクである。

 

───ナズナの硬さは、相性差を覆す。

 

もし真っ当な相性で語るなら、風で花粉も腐食液も吹き飛ばせるアイズの方がこのモンスターとの相性はいいと言えるだろう。

 

だが、そもそも相手の攻撃がナズナの防御力を上回らないのなら、敵にとってナズナは相性最悪の敵となるのだ。

 

自身の攻撃が悉く無傷で切り抜けられ、女型のモンスターが僅にたじろぐ。

対してナズナはなにかを待つように動かない。

デコイスキルのせいで離れられない女型が焦れたように何度も攻撃を繰り返すが、そのすべてが無意味。

 

そしてタイムリミットが来る。

女型の背後でドン、と遥か後方の上空に閃光が撃ち上がる。

 

「やっとか」

 

フィンからの撤退完了の合図を見て、ナズナは盾を構え直す。

 

要塞のような性能をしているナズナは、基本的に機動力にかけるし一級冒険者としては攻撃力も乏しい。

なにせ四つもあるスキルの全てがタンク用で、攻撃に補正のかかる物など一つもないからだ。

 

「それがどうした、ってな」

 

規格外の化物(レベル7)が動き出す。

鎖の巻き付いた大盾を天井へとぶん投げ、その鎖に引き上げられるようにナズナもまた空高く飛び上がる。

それは、自分の腕で自分を持ち上げるような物理法則の無視。

 

この光景を神々がみたのなら、お前は桃白白でも目指してるの?とでも聞かれるようなイカれた方法で空高く舞い上がっていくナズナを、腐食液や花粉が襲うも全て無視(ノーダメージ)

 

そして、着壁。

天井へとたどり着いた瞬間に用済みだと言わんばかりにぶん投げられた大盾と鎖が女型の顔面にクリーンヒットし、行き掛けの駄賃だと言わんばかりに鎖が首に巻き付き、下へと落ちていく盾の勢いで、その首をへし折る。

 

『──────ァァァ!?』

 

僅かに残った隙間を通って、女型のモンスターの喉の奥から、叫び声になれなかった掠れた悲鳴が漏れる。

 

姿勢が崩れ、首があらぬ方向へと折れ曲がった女型のモンスターをナズナは一瞬だけ見つめる。

そこに感情はない。

ただの照準の設定を終えたナズナは、一声。

 

「───あばよ」

 

爆散鍵(バースト)、とナズナが呟いた瞬間、鎧の脚部が爆発する。

魔力爆発による加速が、重力と合わさって凄まじい速度を叩き出す。

瞬間加速だけならベートやアイズなどのスピード自慢にも引けは取らない一瞬の輝き。

 

隕石と化したナズナは、そのまま女型の胸元へと突撃した。

 

そして、着弾と同時に今度は鎧の残った部分も爆発させる。

 

「メテオ、なんてな」

 

最後に自身の主神が名付けた技名を呟いたナズナの自爆は、桁外れの大爆発を引き起こし、周囲一体を吹き飛ばした。

 

 





最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。
キリのいいところまで辿り着けて安心しています。

もしよろしければ、お気に入り登録、感想や評価等して頂けるととても嬉しいです。


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第六話。帰還


平日は頑張らないつもりだったのですが、今朝見たらルーキー日間一位という身に余りすぎる結果を頂きましたので、頑張ってみました。
夢だったかもしれません。
お気に入り登録、感想、評価してくださった皆様本当にありがとうございます。
ただ、本当にクオリティは据え置きで、皆様の暇つぶし程度にしかなり得ない小説ですので過度な期待はしないでください。



 

 

「やーと帰ってきた」

 

ぽつぽつと魔石灯の明かりが照り始める薄暮れ時。

 

ダンジョンの入り口を塞ぐ蓋として建設されたバベルからぞろぞろと隊列をなして出てくる三十人規模の一団があった。

 

ロキ・ファミリアだ。

彼らは久しぶりの空に思い思いの表情を浮かべながら、自然と回りの冒険者たちに譲られて出来る道を悠然と進んでいく。

恐れられている、という状況にティオナが若干ぶーたれているが、ナズナとしてはそんなことどうでもいいからさっさと家に帰って寝たかった。

 

───あのあと、自爆攻撃をしたナズナはしこたま説教された。

 

別にあのモンスターを倒すだけなら別に自爆は必要なかった。

だけど、派手に爆発してスッキリしたかった。

別に反省もしてない。

 

と、口答えしたナズナに対する説教はさらに激しさを増した。

自業自得である。

だが、ほっぺをつままれ、うにょんうにょん引っ張られるナズナはとても嬉しそうだった。

 

それ以降は特になにもなく、強いて言うならミノタウロスが上層へと逃げ出したが、実に順調な帰還と言えるだろう。

敗走だということに目をつぶるのなら。

 

「ミノタウロスの件は普通に大事件ですよ…」

 

「怪我人ゼロだろ?むしろ上で燻ってるやつらにはいい刺激になったんじゃねーの」

 

『あ、逃げた』

 

『お、おいっ!?てめえ等、モンスターだろ!?』

 

『追え、お前たち!』

 

『遠征の帰りだってのに!?』

 

『あのあの、私、白兵戦は苦手で…!?』

 

『杖で殴り殺せんだろ!殺れっ!』

 

『は、はいぃぃ…!』

 

『───ほわああああああああああああ!?』

 

遠征終わりに必死の追いかけっこに参加させられたレフィーヤの疲れた声に、ナズナの返事はひどくあっさりしたものだった。

罪悪感がなければ、疲れもない。

これはレベル差による体力の問題とかではなく、単にナズナがサポーターたちの護衛と言う建前で追跡に参加していないからだ。

 

もちろんデコイスキルの使用という形で多少は働いた。

 

基本的にナズナは上層や下層の通常時ではデコイスキルを使わない。

それはもはや上層で仲間を守る必要がないからであり、同時に、便利なタンクに頼りっぱなしにされて緊張感を忘れられては困るからというフィンの指示でもある。

 

ナズナとしてはサボれるし、精神力の消費も無くなるし使わないことに異論はない。

だからといってそのような異常事態を目の前にして何もしないのかと言われれば、もちろん使う。

 

だが、ナズナのデコイスキルは敵意のある相手を引き付けるのであって、背を向けて逃げる相手など想定していない。

番犬時代に求められたのも、地の果てまで侵入者を追いたてることではなく、侵入者が森や同胞を傷つけないようにひたすらに注意を引いて的になることだったのだから。

 

『逃げるな!逃げるな卑怯者ぉぉぉおおおおお!』

 

と、叫んだところで逃げるやつは逃げる。

 

だから結局ナズナが出来たのは被害にあった冒険者諸君に、ドンマイドンマイ、そういうこともあるさ。明日からまたがんばれ♡がんばれ♡と労ってやることくらいなものだったのだ。

 

『優しさが恐ろしすぎて吐き気がしてきた』

『言葉が軽薄すぎて誠意を感じられない』

『ミノタウロスよりも異常事態』

『なんでわざわざ男を狙ってやるんだよバカ!』

『うわああ!俺はノーマル!ノーマルなんだぁ!』と、非難轟々だったけど。

可哀想(他人事)。

 

そんな雑談しているうちに、都市北部にあるロキ・ファミリアの本拠地、黄昏の館へとたどり着く。

 

「あー、疲れた。お肉たくさん頬張りたーい」

 

「私は早くシャワーを浴びたいわね」

 

家が見えて安心したのか、それともティオナの言葉に反応したのか。

何人かの腹が鳴る。

 

「今帰った、門を開けてくれ」

 

それを聞かなかった振りをして敬礼する門番の団員が、フィンの言葉を受け開門する。

 

「おっかえりぃぃぃぃぃいいい!」

 

そして、脚を踏み入れた瞬間、それを待っていたと言わんばかりの勢いで飛び込んでくる一人の女性が現れた。

彼女の名前はロキ。

年を取らず衰えない、全知全能を封印した超越存在。

 

「みんな無事やったかーっ!?うおーっ、寂しかったー!」

 

崇拝されてしかるべき都市最大派閥として名高いファミリアの主神の彼女は、両手を突き出した姿勢のまま、ひょいひょいと躱されていく。

どこかぞんざいな扱いを受けるロキは、結局誰もその両手で抱き締めることは出来ず、最後尾にいたナズナに抱き止められた。

 

「んふぅー、このサイズ感!たまらんなぁー」

 

「相変わらず胸がないなぁうちの主神は」

 

「こらー!誰が無乳や!」

 

戯れる二人に、フィンが声をかける。

 

「ロキ、今回の犠牲者はなしだ。到達階層も増やせなかったけどね。詳細は追って報告させてもらうよ」

 

「んんぅー、了解や。おかえりぃ、フィン」

 

「ああ。ただいまロキ」

 

ロキは、にへらっと心の底から自分の子達の息災を喜ぶ笑みを浮かべる。

その笑顔に、自分の家に帰ってきたのだと、誰もが疲労の滲む表情を自然と緩めるのだった。

 

 

 

 

 

全員が順繰りに風呂に入り、ロキの方針のもと全員が集まった食堂はかなりごった返している。

 

遠征直後というのもあって騒ぐ元気はないが、待望の酒食をむさぼる団員たちは絶えず賑やかだ。

 

「それで自分は新種に殺されかけて…」

 

「殺…!?」

 

居残り組に語る武勇伝なのか失敗談なのかよくわからない土産話など、とにかく会話のネタに困らない夕餉を皆楽しんでいた。

 

「くぅ~うめぇ!やっぱりお肉、油、お酒!からだに悪いものは美味しい!」

 

「うーむ真理じゃ。どうじゃ?久しぶりに飲み比べでもせんか」

 

「いいなぁそれ。待ってろガレス、確か厨房の棚の奥にロキ秘蔵の酒が…」

 

かくいうナズナもまた、久しぶりの肉と酒の旨味を存分に楽しんでいた。

ガレスと肩を組んでゲラゲラ笑う姿に品性の欠片もない。

 

お前ほんとにエルフ?みたいな姿を晒したところで、今さら何かをいってくるような者はファミリアにはいない。

多かれ少なかれナズナに助けられているのもあるし、どうせ言っても聞かないからだ。

 

「忘れとった。今日中に【ステイタス】更新したい子おったらうちの部屋まで来てなー。明日とかいっぺんにやるのも疲れるし。そうやなー、今晩は先着十人で!」

 

晩酌途中に思いだし、無計画に決める気まぐれな神のいい加減な連絡にも、今さら文句は上がらない。

これがロキ・ファミリアの日常だった。

 

「ガレスはどうする?」

 

「んー、ワシはどうせ大して伸びとらんじゃろうし、明日か明後日か。適当なタイミングにするかのう」

 

「あーまぁ、俺も別にランクアップはさすがにしてねーと思うけどよ」

 

珍しく言葉を濁すナズナに、ガレスは目を向けた。

 

「なんじゃ?気になることでもあるのか?」

 

「やー、うん。ロキに金借りようかと」

 

「む?」

 

 

 

 

夕食も終わった夜。

とうに夕焼けは消え、蒼い夜空に浮かぶ月が町を照らしている。

微かに街の方から聞こえてくる弦楽器の音色を、窓を開けた部屋で楽しんでいたナズナは、おもむろに体を持ち上げる。

 

「さすがにそろそろアイズとか他の連中の更新も終わっただろ」

 

誰よりも強さを求める少女。

詳しいことはさておき、その身に流れる血の成り立ちが近しい者同士、ナズナはちょっとだけ気にかけていた。

 

まぁ、気にかけているだけで、特にブレーキの代わりも親の代わりもなにもしていないのだが。

ナズナの気遣いなどその程度だ。

 

ナズナは軽く伸びをしたあと、寝心地に拘りに拘った寝具(リヴェリアの部屋から強奪した上等なやつ)から体を持ち上げ、棚も兼ねたサイドテーブルに置いていた水を飲む。

サイドテーブルにはコップと水瓶だけでなく、シンプルながら上品なアロマランプが置いてある。

 

これはナズナの趣味ではなく、レフィーヤに誕生日プレゼントとして押し付けられたものだ。

他にも座布団や鉢植え、羽ペン等々彼の趣味ではないものが数多く置いてあるが、どれもこれも貰い物だ。

 

口の悪さに反して、人からもらったものは大事にする。

そんなギャップが密かに受け、女性団員たちからプレゼントが定期的に送られていることを本人だけが知らない。

 

尚、ナズナの好みだけで部屋を彩った場合、先述した布団と冷蔵庫という魔石技術の産物、アコーディオン、自分の武装とその整備道具がおいてあるだけの無造作な部屋になる。

まあ趣味でなくても、家族からのプレゼントに囲まれている部屋ならナズナは満足だ。

 

────私たちがお前に痛みを強いるのは、家族だからだ。分かってくれるな?

 

「さて、いきますかね」

 

ランプの明かりを消したナズナは、窓の施錠を確認して部屋を出る。

頭によぎったかつての家族(他人)の言葉を聞き流して、彼はロキの私室に向かってのんびりと歩き始めた。

 

 





最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。
正直こんなクソガキをたくさんの人にお見せしていいのか?と震えております。
いつか低評価の嵐になるのでは、などと考える一方で、高評価をくださっている皆様やお気に入り登録してくださっている皆様を見てニヤニヤしています。
これからも頑張ります。

心に優しい感想や評価して頂けるととても嬉しいです。


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第七話。恩恵


進歩のないクオリティで皆さまに暇つぶしに提供する「一発芸でレベル7になった男。」略して『一発男』の時間です。
お気に入り登録、感想、評価、誤字報告してくださっている皆様、本当にありがとうございます。
正直ここまで皆さんに読んで貰えるとは思っていませんでした。
ダンまちってすごい。

とりあえず息切れするまで投稿頑張ります。
今回はスキルとかの説明回ですので内容薄めです。


 

 

ファミリアの主神であるロキの部屋は、槍衾のようにいくつもの塔が集合したホームの中でも中央、さらにその最上階にある。

扉の前まできたナズナは、ここで待つのも帰るのもめんどくさいから他の団員がいませんようにと、思いながら扉をノックする。

 

「入ってええよー」

 

ロキの声に導かれるようにして、ナズナは扉を開けた。

 

「……相変わらず汚えな」

 

思わず漏れたナズナの呟きの通り、ロキの部屋は雑多な物品で溢れ返っていた。

 

まず目に入るのは大量の酒、そしてなにに使うのかわからないアイテム達だ。

七色のクリスタルや帽子に鞄、山積みになった分厚い書物に使いもしない短剣。

そして、容量オーバーで閉まらなくなっているクローゼットからは、ロキがいつか女性団員に着せたいと考えているバニー服や水着、ドレスなんかがシワにならないように配慮されながらも、溢れるくらい詰め込まれている。

 

途中で昔ロキに着せられた小さいメイド服が目に入ったナズナは、そこでロキの部屋の観察をやめた。

 

「今日の最後はナズナかぁ。アイズとかが終わるの見計らってたん?」

 

「別に??」

 

「またまたあ、そういうてあんまりアイズに腐っても一級冒険者である自分のステータスを見せて焦らせるのもな、とか思ってるんやろ?ん?ほれほれ、そこんとこどうなんや?んー?」

 

「だぁーっ肩を組むな、足を絡めるな、さりげなく尻を揉むな!…ああそうだよなんか最近思い詰めてるしちょっと気になってたよ!これで満足か!?」

 

赤面して涙目になるナズナを見て、ロキは相好を崩した。

うちの眷族チョッロ、という表情を隠そうともしない。

 

「いやぁ、ふひひ。ナズナはかわいいなぁ」

 

「うっさいなあ!?黙って更新してくれよもう!」

 

「ほいほい、任せてなー」

 

「…クソ、こいつがもう邪神だろ。誰か滅ぼしてくんないかなマジで」

 

神の前では嘘をつけない。

自身の不利を悟ったナズナはロキに一声かけてから、誤魔化すようにベッドでうつ伏せになった。

 

「……ロキの匂いがする」

 

「え、なに?そんなエロいこと言うなんて、うちのこと誘ってる?」

 

「違うんだよなぁ…」

 

顔をロキの枕に埋めたまま雑に対応するナズナが拗ねたように鼻を鳴らした辺りでテンションを落ち着けたロキは、一本の針を取り出す。

服を脱いだことで露になったナズナの傷だらけの背中に、針で浮かび上がらせた自分の血を一滴垂らし、ステータスの更新を開始するのだった。

 

 

 

 

「はい、終わりー。紙に書くから待っててな?」

 

「んぁー」

 

ほどなくしてステータスを更新し終えたロキは、再びロックを施し、さらさらと羊皮紙に共通語の文字でステイタスの概要を記していく。

これがアイズやベートなんかなら、早く見せろとせがむのかもしれないが、ナズナは特に急かす様子もない。

 

大人の余裕とか強者の余裕ではもちろんない。

そんなものナズナにはない。

眠気の限界だ。

うつらうつらとしながら、ロキの枕に頭を埋めたまま完全に脱力している姿は、まさに子供。

ナイトキャップでも被れば、さぞ似合うことだろう。

 

「ほい、できた」

 

寝そべった状態からのろのろと這うようにして体を起こし、ロキに後ろから抱き締められるような形で支えてもらいながらナズナは自分のステータスを確認する。

 

 

●ナズナ・グノーメン

Lv.7

 

力 C 643→651

耐久 A 878→889

器用 H 107→109

敏捷 E 435→441

魔力 C 654→662

 

魔防 E

耐異常 E

堅守 F

治力 G

精癒 H

 

 

 

「…うーんいつも通り」

 

耐久の伸びが一番よくて、力と魔力の部分が次に伸びている。

いつもより少しだけ敏捷の値が伸びているのは、たぶん50階層での流星アタックのお陰だろう。

レベル7にしては伸びている方だが、深層で新種のモンスター、それも大型のものとの戦闘ともなればある程度経験値も入るというもの。

 

予想通りの伸び方をしていたステータスを一通り見たナズナは、続いて魔法やスキルの方へと目を移す。

 

 

●魔法

 

・マド・ドール

付与魔法。

土属性。

付与される岩の強度はすべての補正を含めた『耐久』を参照し、物理・魔法のダメージを大きく減少させる。

鎧を形成するとき、発動速度と防御力に補正。

鎧は精神汚染、呪詛、異常魔法を遮断。

詠唱式【エメス】

爆散鍵【バースト】

 

 

●スキル

 

土霊血統(ノーム・ブラッド)

土精霊の魔法が使えるようになる。

精神力消費の効率化。

『耐久』に超高補正。

幼子の姿から成長しなくなる。

 

番犬注意(ハウンド・エルフ)

任意発動。

自身へ敵意を集中させる。

階位が高い相手ほど効果減少。

精神力を消費することで効果増大。

『耐久』に超高補正。

 

鉱石細胞(グルメ・ヒール)

鉱石を食べることで体力と精神力を回復する。

回復量は鉱石の質に依存。

『耐久』に超高補正。

 

家族愛鎖(サルビア・ハート)

デコイスキル発動中に同恩恵を持つ者の遠距離攻撃によって傷付かない。

スキルの効果範囲内にいる同恩恵を持つ者に対するあらゆる攻撃の威力を減衰させる。

『耐久』に超高補正。

 

 

 

「───こっちも変わらず、と…。今日も新しいスキルなしかぁ。可能性を引き出すとか言うなら俺のまだ見ぬ可能性も引き出してほしい」

 

攻撃系スキルとか。

 

「いやいや四つもあるって普通やないんやで?」

 

「そうは言うけど全部ほとんど同じみたいなもんだろ。全部に『耐久に超高補正』って書いてあるし」

 

そもそも超ってなんだよ超って。

具体的にどれくらいだよ、とゲンナリした顔を隠そうともしないナズナは、半裸でロキに後ろから抱き締められ、頭を撫でられているというのに自然体だ。

 

よく躾けられた飼い犬が飼い主の手を振りほどかないのと同じように。

彼は基本的にロキだけでなく、他の団員に触られていても大人しい。

 

「うちに言われてもなぁ」

 

ロキは、お触りし放題やうひょーという内心を多少隠しつつ、手つきは特に遠慮なく体をなで回している。

 

若干その手つきに感じるものがあったのか、甘えるようにロキに体を預けていたナズナが少し体を離す。

だが、首の下を撫でられた瞬間、体が弛緩し再びロキに抱えられる姿勢に戻った。

ナズナが自分が思っている以上に、ロキの手管に落ちているのをロキだけが知っている。

ナズナは抵抗を諦めたのか、ロキに抱き締められながら話を続けた。

 

「それにさぁ、フィンとかリヴェリアとかさ。なんか華があるだろ効果とか名前とか…!ああいうのが俺も欲しい!」

 

あえてファミリア内でも華のある二人を比較対象に選んでいるとはいえ、ナズナのスキルに比べれば二人のそれはまさに歴戦の冒険者といった格好のいいスキル達だ。

 

有り体にいうなら英雄っぽい。

 

「うんうん、わかるで?」

 

割りとナズナもチートやけどなぁ、とは愚痴る本人の手前口にはしないロキだったが、実際本当に完成されたスキル構成をしている。

 

味方から注意をそらし囮になるデコイスキルに、回復スキル、前衛なら誰もが欲しがる味方の遠距離攻撃に巻き込まれないスキル。

さらに、この土霊血統という亜人(エルフ)なのにヒューマン以外の血が混じっているレアな血筋のお陰で、ずるい魔法が使えるのだから、他の冒険者からすればナズナも大概チートである。

 

とはいえ、この血筋のせいで幼い頃は苦労することになったことを考えれば、素直に喜びづらいというナズナの気持ちもロキはしっかり理解していた。

 

「…ま、もうよっぽどのことがない限り変わらないか。そろそろ身長伸ばしたいんだけど」

 

「いやいやナズナは小さいからエエんやで?」

 

ノームの血が流れる体はいまだに小さいままだ。

エルフの血と混じった影響なのか、小さな老人ではなく、小さな子供の容姿で固定されているのは喜ぶべきか、悲しむべきか。

 

少し大きめの碧眼に、美しい山吹色の髪。

あどけないその顔は、少年よりも少女に見える愛くるしさだ。

少なくとも、ナズナがその手の愛好家が大歓喜する容姿なのは間違いない。

 

その顔をうんざりした表情で歪めながら、ナズナはロキへと口を尖らせた。

 

「そうかそうか、さすが小さいどころか無いやつはいうことがちげーな!」

 

「あんまり胸のこといじると無乳でしか興奮できひんようにするで?」

 

「こわ」

 

結局のところ、防御系のスキルオンリーなのはナズナの過去が原因だとロキは考えている。

他の何よりも防御系のものだけが彼の恩恵として引き出されるのは、それだけ彼が過去、傷つけられてきたということでもある。

だからこそ彼は、誰よりも硬さを求めている。

 

二度と傷つけられないように。

二度と誰かが傷つけられないように。

 

そんな健気な覚悟を持つ自分の眷属を、ロキは愛おしいものを見るような目で眺めながらナズナの話に付き合うのだった。

 

「ん、そうや。ガレスに聞いたで?なんかお金の話あるんやっけ?」

 

「あぁー、んー。その」

 

話が一段落したそのタイミングで聞かれたその質問に、ナズナは少しだけ躊躇するような素振りとともに、言葉を続けた。

 

「ロキって俺のこといくらで買う?」

 

「どぇへぇ!?」

 

 





最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

この小説は健全なのでなにも起こりません。
ただ、ナズナの名前の元ネタになった巨人のスカジはロキと一度関係を持ってたりします。

でもまぁやっぱりなにも起こりません。
絶対オラリオのどっかでは神にいいようにされてる眷族がいると思うんですけどね。

心に優しい感想や評価して頂けるととても嬉しいです。


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第八話。武装


お気に入り登録、感想、評価、誤字報告してくださっている皆様、本当にありがとうございます。
いつも同じ謝辞となってしまっていますが、本当に感謝しております。
誤字治らなくてほんとすいません。

プレッシャーで吐きそうだし、すでに若干息切れしている気がしますが、十話までは頑張ります。


 

 

遠征から帰還した次の日。

ロキ・ファミリアの面々は遠征の後処理を済ませることになった。

ダンジョンから持ち帰った物の換金や、消耗品の補充、武具の整備と再購入、ギルドへの報告等々やることは山積みだ。

 

「夜は打ち上げやからなー!遅れんようにー!」

 

フィンによって団員達が役割を振り分けられ、ロキに見送られるようにしてホームを出発した。

 

とりあえずギルド本部へと歩み進める一団の中で、ナズナは自分の財布を確認していた。

普段なら硬貨が数枚入っている程度の布切れがパンパンに膨らんでいることに気付いたレフィーヤが、ナズナに近づく。

 

「兄さんそのお金どうしたんですか?」

 

「もらったつーか、稼いだ?」

 

「?」

 

あやふやな言い方をするせいで疑問符を浮かべた妹分に、ナズナは事も無げに爆弾発言をかました。

 

「ロキに体売ったんだよ、昨日。ステータス更新のついでに」

 

「な…!?えええええええ!?」

 

周りで何となく聞き耳を立てていた団員たち、フィンすらもナズナの方をマジかお前みたいな顔で振り返る。

そして、何か事情を知っていそうなリヴェリアがため息をついて、何かを言おうとしたその直前。

レフィーヤが爆発した。

 

「ふっ、ふっ、不潔ぅ~~~~~~~~~!?」

 

顔を真っ赤にして絶叫上げる少女は、町全体の注目を集めるがそんなもの知ったことではないとナズナへと詰め寄る。

 

「な、な、なんで!?ドコマデ!?ああそんな!私だって…!うらやま…いや、ズルい!?ああ、これはロキを消し炭にしないと…でもでもその前にロキが兄さんと触れ合った部分の切開の準備…!?オペ‥お医者さんごっこ…?はっ、閃いた!」

 

「…落ち着けよ。別にやった訳じゃないって」

 

ナズナはいたって冷静に、もはや何をいっているのかもわからないくらい興奮しているレフィーヤの肩に手を置く。

 

「小遣いくれって頼んだら、眷族吸い?とやらをさせてほしいって言われてな。一晩抱き枕にされてただけだよ。500万ヴァリスで」

 

ぼったくりもいいところだったが、ロキ本人がむしろ金払う方が興奮するからオッケーや!と言っていたので、問題はないのだろう。

たぶん。

 

「…!?なら、私も…!」

 

「なんだって?」

 

「イエナンデモナイデス」

 

レフィーヤの言動に首をかしげるナズナとは対照的に、フィンやガレスは何か納得したような顔をしていた。

 

金の出所に気付いたのだ。

例のナズナ貯金である。

金遣いの荒いナズナ対策に、サラリーマンの手取りのごとく色々引かれて分け前を渡されているのを知らないナズナは、自分のために5000万近くの貯蓄があることを当然全く知らない。

 

そして、いざ真っ当な理由で金を欲していたらナズナにそれとなく理由をつけて渡すことになっており、今回のこともそれの一環なのだろう。

ナズナが仲間のために金を欲しがっていることを、ガレスが昨晩それとなくロキに伝えていた。

 

渡す理由付けがだいぶロキの趣味に偏っているのはもう諦めるしかない。

ナズナが貯金の存在を知ってしまえば、あっという間にギャンブルや酒に消えるのだから、むしろばれにくい理由という意味では正解なのかもしれなかった。

 

あと、本人だけが気付いていないが、ナズナは結構危ない状態だった。

寝起きの完全無防備なナズナを見て興奮したロキが、抱き枕以上のことをしようとしたタイミングで早起きしたリヴェリアが入室してきたから無事だっただけで。

 

『ぎゃー!それ以上のグリグリは勘弁してー!?うちが悪かった!うちが悪かったから!でも据え膳食わぬはとも言うやん!?それに抵抗しないからどこまで行けるかなーって気になるのは神が神たる所以なんや!あと猫吸いならぬ眷属吸いが神の間で流行っててうちもしたかったんやもん!うちは悪ない!むしろ添い寝なんてして明け方まで我慢したの誉められるべきやん!?』

 

『最初と最後で言ってることが変わってるぞロキ!あとナズナは私のものだ!』

 

危機感の欠如。

リヴェリアの補足を聞いた他の団員たちは、再びナズナの方を見る。

 

基本的にナズナは、心を許した相手を信じきっている。

それこそ悪意や軽口なら普通に反応はするものの、()()()()()には一切反応しない。

できない。

 

本人が回りに構ってもらうために憎まれ口を言っているのも相まって、好意を向けてくれるなら何されてもいいと思っているのも、この問題をややこしくしていた。

そんな話を聞いてそわそわする数人の女性団員に気づくことなく、ナズナはその話を終わらせるのだった。

 

───心を許した相手に対する驚きのチョロさ。

これは『家族愛鎖(サルビア・ハート)』というスキルに如実に現れていた。

家族愛と鎖。

ナズナは家族に縛り付けられるほど愛されたいと思っている潜在的なメンヘラマゾヒスト。

業の深い話だった。

 

 

 

 

 

街へと散っていく団員たちに混じって、ナズナもとある場所へと買い物に来ていた。

 

場所はバベルの6階。

ヘファイストス・ファミリアが売り場として場所をとっている4階から8階のうち、第二級冒険者向けの装備が売っているエリアだ。

 

目的は壊してしまったアキの剣。

本人は別にいいと言っていたが、基本物を大事にする方針のナズナとしては、どうにかしたいと思っていたのだ。

 

そんなときにちょうどお小遣いゲットのチャンスが転がってきたものだから、つい飛び付いてしまった。

反省反省、と全く反省していない調子でナズナは懐から出した財布を見てにやける。

ロキにもらった500万ヴァリス(ぼつたくり価格)に加えて、出掛ける前にほぼ空な金庫から取り出してきた50万ヴァリスを合わせれば、かなりちゃんとした物を買えるだろう。

 

「さて、剣の性能はどんなもんにしようか。一級でもないのに不壊属性(デュランダル)を持たせるのもなんかあれだし」

 

金はないが夢はある。

そんな典型的なダメ男なナズナは、一級冒険者であることをいいことに、定期的に金もないのに【ヘファイストス・ファミリア】の展示場に居座る日課があった。

万年金欠男であることを知っている何人かの店員が、『今日も来た…』と迷惑そうに見ていてもお構いなしな態度は、もはや清々しさすら覚える。

なんなら、いつも追い払う役目を押し付けられている店員を舌を出すことで煽ってからナズナは商品棚へと向き合った。

 

「お、これとかいいな。耐酸性加工ありで切れ味も申し分なし。どっちかっつーと切れ味よりも丈夫さを意識してるのも結構好き」

 

ナズナの目に留まったのは一対のファルシオンだ。

サイズ感もショートソードに近く、予備武装として主武装と一緒に持ち歩くのにも邪魔にならないだろう。

フィンが主要な前衛に不壊属性(デュランダル)の武器を手配するつもりなことを考えると、耐酸性程度では芋虫を相手取るのには不足ということなのだろうが、一発で溶けることはないはずだ。

たぶん。

 

値段は520万ヴァリス。

上等な特殊武装でもなければ、オーダーメイドでもないことを考えると上級冒険者の武装としては高い方だがかなり質はいい。

とはいえ必要なのは一本だしどうにか値下げ交渉を、とそこまで考えたナズナはぽん、と拳を手のひらに落とした。

 

「あ、いいこと考えた。残り一本はラウルにあげよ。ラウルのレベル4祝い渡しそびれてたし。…あれ、何年前だ?」

 

まいっか。

今思い出したし、と勝手に自己解決したナズナはその二本の剣を持ちあげる。

この一対をあの妙に息のあった二人に上げればちょうどいいだろう。

そんな贈り物の計画を立てながら、ナズナは会計カウンターへとたどり着いた。

 

「いらっしゃいませ!」

 

そこにいたのは幼女の女神だった。

幼女なのにバインバインで、ティオナやロキ辺りが見たらその胸囲の格差に打ちひしがれることになりそうだ。

紅色をしたエプロンタイプの制服を着てニコニコ笑うその女神は、ナズナが武器を購入しようとしているのに気付いたのか、親指を上に向けながら口を開いた。

 

「武器を買っていくのかい?武器や防具はもっているだけじゃダメだぜ!ちゃんと装備しないと効果がないからね! 」

 

「…?」

 

「おっとごめんよ。鍛冶屋の店員をやるなら是非とも言ってみたかったんだ」

 

「労働舐めてんのか?つーか、なんで他派閥の神がここで店員してんだ」

 

えへへ、と笑う幼女女神をナズナは呆れたような目線で()()()()

 

「バイトさ!ほんとは今日ジャガ丸くんの屋台のバイトが休みだから、1日だらだらするつもりだったんだけどね」

 

どうやら若干ぐーたらな気のある女神らしい。

 

「ヘファイストスに頼まれちゃったから1日だけ手伝うことにしたのさ。給料はいつものバイトよりはいいけど、やっぱここは忙しいし、今日限りにするよ」

 

「ほーん」

 

「なんだいその態度は。これでも神だぜ?」

 

「いや、他派閥の神のアルバイト事情とかクソどうでもいいなって…」

 

「なんだとー!?」

 

ヘスティア。

そう名乗る女神の笑顔を見て、ナズナは何となく。

本当に何となくだが、この女神は大量の借金をこさえて、ひーひーいいながらこの店で働いてそうだな、なんて思った。

 

「それにしても、お使いかい?ここの武器は結構高いぜ」

 

幼子をあやすような慈愛に満ちた笑みは、そのプロポーションや美貌も相まって多くの少年の性癖を歪めてきたのだろう。

 

だが、その笑み(ガキ扱い)が逆にナズナの逆鱗に触れた。

ぶち、とナズナの短い堪忍袋の緒が切れる。

 

「…うっせーな。見下ろしてんじゃねえぞドチビ」

 

「ど…ど、ど、ドチビ!?よりによって!?君のほうが小さいじゃないか!」

 

「なんだこら、やんのかおい。お?神ってことはとんでもない年増だよなあ!?その年で他派閥の神のところでバイトしてて恥ずかしくないんですかー!?」

 

「ぐぬぬ、なんなんだいこの失礼な子供は!?主神(おや)の顔が見てみたいよ!」

 

「うちの(ロキ)が言ってたぜ。お客様は神様なんだろ?なら立場は対等だよなぁ!」

 

「この子とんでもないクソ客だよ助けてへファイストス!」

 

「うるせー!神のくせに人を身長で判断してんじゃねーぞ。店長出せやこらぁ!」

 

───このあと騒ぎを聞きつけた神へファイストスによってリヴェリアが召喚され、ナズナはこっぴどく叱られることになる。

だが、その話を聞きつけたロキは大層機嫌を良くして、ナズナには特別ボーナスが振り込まれた。

 

これ以降、ヘスティアに喧嘩を売ればお小遣いを貰えることを覚えたナズナが、借金女神にちょっかいをかけに出かける姿が確認されるようになるのは完全な余談だろう。

さらに言うなら、ナズナのちょろさを見抜いたヘスティアによって餌付けが行われて、簡単に懐柔されることになるなんてことはあまりにもどうでもいいことだった。

 





最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。
次回ようやくタイトルの話が出ますが、本当に大した物ではないです。
期待外れでも石を投げないでくださいお願いします。

心に優しい感想や評価して頂けるととても嬉しいです。


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第九話。宴


お気に入り登録、感想、評価、誤字報告してくださってる皆様、本当にありがとうございます。
お待たせしました。
ようやくタイトル回収です。
ハードルの下を這いつくばって越えていきます。
石は投げないでください。


 

 

『一発芸、やります!』

 

という一言を、ナズナは二度と口にはしないだろう。

 

あれは忘れもしない、まだレベル6でステータスが頭打ちだったころ。

ナズナは遠征帰り兼自分の30歳祝いの宴会の場で、鍛冶屋で余ってるからと貰ったオリハルコン鉱石を数個取り出して叫んだ。

 

『一発芸やります!今からこの石を五個同時に頬張って噛み砕いてやるぜいえーい!』

 

『は?それの何が面白いんですか?』

 

『やったれナズナ!うちは信じてるで!』

 

店員のエルフが呆れ、酔っ払いが囃し立てる。

そんな観衆を前に、ナズナは手にしたその石を口へと放り込んだ。

 

オリハルコン。

世界最硬精製金属と知られるその石は、不壊属性の特殊武装を作るために用いられるほどに頑強だ。

あるいはそれを扉にしてしまえば、脱出不可能な空間を作ることも可能だろう。

 

『んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぐぐぐぐぐぐおおおおおおおおおお!(迫真の白目)』

 

幼い頃からいろいろ無茶をしてきたナズナからしても試したことのない挑戦の最中、ナズナは走馬灯のように過去を思い出していた。

まともな食事を貰えず、木の根より石の方がうめえ、などとほざいていたひもじい幼少期。

ナズナはそれが自分の身に流れるノームの血のせいだと思っていたが、そんなことはない。

彼らは宝を好むだけで、石を栄養にするような異常生物ではないと知ったナズナの驚愕は凄まじい物だった。

じゃあ俺はなんなんだよ!と空にむかって叫んだあの頃が懐かしい。

あの頃も今この瞬間と大差ないくらいしんどかったな。

いやどうだろ。

この一発芸の方が苦しくないか?

というかぶっちゃけこんな一発芸やるんじゃなかった。

なんだオリハルコンを食べるって。

バカじゃねーの?

 

そんなことを考えながらも、後に引けないナズナは頑張った。

よせば良いのに頑張った。

たぶん一発芸なんかじゃなくて、他のことを頑張っていたらもっと尊敬される冒険者になれていたことだろう。

 

『うわぁ…』

 

結局ナズナは周りを(主に酒場の店員を)ドン引きさせながら、その石をなんとか噛み砕いた。

だがその反動で気絶。

目が覚めたら都市に存在する二人目のレベル7の誕生である。

 

そのあまりの道化っぷりに神々は大爆笑。

 

『世界最硬精製金属より歯と顎が丈夫な男』

『えぇ!?自分の頑丈さの証明を一発芸で!?』

『できらぁ!』

『実際にやったんだよなぁ…』

『美味しくて強くなる』

『世界最硬精製金属はグリコ製品だった…?』

『一発芸でレベル7になった男』

『猛者といいレベル7になれるやつは頭がおかしい』

『お前たち、百点だ』

 

二つ名が変な名前に変更されることなく、守護妖精(ローレライ)のままで許されたのは偏に貴重なレベル7であることとロキのお陰だろう。

一発男(オリハルコン・ピエロ)とか道化の王(バカチャンプ)とかいう二つ名がついた日には外に出れなくなってしまっていた。

 

さて。

そんな因縁のある店がここ【豊穣の主人】である。

一度ここを出禁になり、現在は店内でないなら飲み食いしていいというところまで許されているナズナは、宴会の前だというのに黒歴史を思い出して重苦しいため息をはきだした。

 

「ミア母ちゃーん、来たでぇー!」

 

「お席は店内と、こちらのテラスの方になります。ご了承ください」

 

くそ真面目で礼儀正しいエルフの案内にフィンが了承を返し、酒場へと入る前に団員の半数をテラスへ座らせる。

 

「よぉ、リュー。果実酒ある?…なんだよ」

 

しれっとテラスに座らず店内へと入ろうとしたナズナは、そのエルフに道を阻まれた。

 

「申し訳ありませんが、ナズナ…様の入店は本日もお断りしています」

 

「やっぱりまだ?もうそろそろよくない?」

 

「やはり、ランクアップの件がありますので…」

 

「それもう三年前だろ!」

 

叫んだ瞬間、酒場のキッチンからとんでもない勢いでラム酒の瓶が飛んできた。

それを顔面で受け止めることになったナズナは、ひっくり返る。

 

「あんたは外!特に遠征帰りのあんたは中に入れないよ!」

 

「くそ、そろそろ普通に店にいれてくれよ!?…はぁ、ラウル席変わってくれ」

 

「了解っす」

 

とはいえ豊穣の女主人ではミア母さんが絶対。

それはレベル7であっても、神であっても変わらない。

 

すごすご引き下がったナズナは、リューという壁の突破を諦める。

これは別にリューの胸の発育の話ではない。

彼女は男装すらも着こなすエルフだが、むしろ極貧(ティオナ)虚無(ロキ)と比べるのが失礼なくらい立派なものをお持ちである。

 

「あ、そういばシルからあなたへの料理を預かっています。あとでお持ちしますね」

 

「え、俺店に入れない上に自分が食べたい物も食べれねーの?宴会なのに?」

 

そのあと、宣言通り豊穣の女主人の店員のシルが手ずから作ったという料理をリューが持ってきた。

 

───ナズナの記憶はそこで途切れる。

 

『えぇ!?リュー、あの料理もってっちゃったの!?』

 

『…?ええ。クラネルさんへの料理の練習台としてナズナへの料理を作っていたのですよね?』

 

『それは…そうだけど…!心の準備が!』

 

『???』

 

『もう、リューの鈍感!』

 

『雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ』

 

『団長!ナズナさんが倒れました!』

 

『えぇ!?』

 

『次から次へと…』

 

 

 

 

ナズナの寝室。

宴会のあったあの日から眠り続けるナズナの寝顔を、レフィーヤは覗き込んでいた。

 

通算5日。

毒を食らったわけでもない。

ただ不味い料理を食べただけで5日。

果たして耐異常があるレベル7を昏倒させる料理を作るあの酒場の店員はなんなのか。

 

「ふふっ」

 

だが、そんな疑問は些末なことだとレフィーヤは切って捨てる。

 

現在レフィーヤは妹ポジションをいいことに、ナズナの部屋に入り浸りその寝顔を独占していた。

今もナズナの布団に勝手に潜り込み、添い寝している。

にへら、と笑ったレフィーヤは直後、なにかを思い付いたのかその表情を蠱惑的なものへと変える。

そして、髪をかき上げると耳にかけ、指で自分の唇をなぞる。

 

「起きない兄さんが、悪いんですよ?」

 

静かに呼吸を繰り返すナズナの唇へ、自分の唇を落と───

 

「───はっ!?」

 

「ぐふ……っ」

 

そうと言うタイミングでナズナの目が見開かれ、勢いよく跳ね上がった小さな頭が不埒者(レフィーヤ)を撃墜する。

 

両者ともにノックアウト。

寝起きで混乱するナズナと、不意打ちを食らって床で転げ回るレフィーヤが落ち着くのに、しばらくの時間を要した。

 

「ぶふっ、ベートがそんなことをねぇ!あ〜勿体ねえ!見たかった!それめっちゃ見たかった!」

 

そんなこんなでベッドから起き上がり、食堂へと向かう道すがらナズナはあの日何が起こったのか話を聞いていた。

 

「それにしても5日ね、5日。5日?…なにそれ怖い」

 

やっぱあの店員は尋常じゃない。

普通に苦手意識のあるシルという少女を思い浮かべながら、ナズナはため息をついた。

 

「兄さん、お腹減ってませんか?5日も食べてませんから、最初はお粥とかの方がいいとは思いますけど…」

 

ナズナは一度自分のお腹をさすると、自分を気遣うような眼差しを向けているレフィーヤに震え声で返事をする。

 

「なぁ、レフィーヤ。俺、本当に5日も寝てた?」

 

「え?」

 

「なんかさ、お腹減ってないんだけど…」

 

ナズナに出された料理は、『腹持ちのいい』をコンセプトに作られた最強のメシマズ料理。

奇しくもその効果だけは本物だった。

 

 

 

 

 

 

「はー、タイムスリップでもした気分だぜ。まさかもう怪物祭(モンスターフィリア)の日になってるとは…」

 

フィリア祭。

年に一度闘技場で開かれる、【ガネーシャ・ファミリア】が主催するお祭りだ。

目玉である催しは、ガネーシャのとこの団員がモンスターを調教し、手懐けるまでの一連の流れを披露している。

 

この祭りに関しては様々な意見があるものの、ナズナとしては遊ぶ理由ができるならなんでもよかった。

 

「ほんとビックリだよねー」

 

都市東端に築き上げられた円形闘技場。

そこでため息をつくナズナの横で、ティオナが食い入るようにショーを見ながら適当な相槌を返す。

 

「やっぱりガネーシャのとこ、すごいなー」

 

「あんたねぇ…会話を放棄するのやめなさいよ」

 

ティオネが呆れたように妹をたしなめるが、ナズナは適当にひらひらと手を振って受け流す。

 

「気にすんな。もはや現実感が無さすぎて、むしろドッキリなんじゃないかと思ってるくらいだ」

 

「あはは…」

 

うんざりしたように顔をあげるナズナの視線の先では、テイマーが観客へとお辞儀をして見せた。

ムカつくくらい晴れ渡った青空へと、歓声が吸い込まれていくのを感じながら、せめて楽しもうとナズナは手元のジュースをストローで吸い込んだ。

 

「それにしても」

 

すっと、目を細めたティオネの視線の先にいるのは、大慌てで走り回るガネーシャ・ファミリアの団員たちだ。

 

「さっきからガネーシャのとこの連中が騒がしいわね」

 

「あ、やっぱりそう思う?」

 

「どうしますか?」

 

何故か沈黙したままのナズナを気にしつつ、レフィーヤがこの場で一番頼りになるティオネへと確認をとる。

 

「…とりあえず様子を見てきましょうか」

 

三人は観覧をやめて立ち上がると、事情を知ってそうな人間を探して歩き始めた。

ナズナは立ち上がらない。

 

「あれ、兄さん行かないんですか」

 

「行かない」

 

「いやいや、緊急事態なんじゃあ…」

 

「やだ」

 

ぷい、と顔を背けてついでに耳を塞ぐナズナに、ティオネがツカツカと歩み寄る。

 

「い、く、わ、よッ!」

 

「い、や、だ、よ!だってさあ、俺5日も寝てたんだぜ!あるかなあ!?病み上がりの俺が出張る理由あるかなぁ!?ねーよなぁ!?」

 

涙目で叫ぶ勢いに思わずティオネ達が怯むのを見て、ナズナは勝ち誇ったようにふんぞり返った。

 

「俺を動かしたかったら論理的な理由を提示してくださーい。出来ねえだろすぐキレる瞬間湯沸蛇女に絶壁破壊女め!知能が全部筋肉になっちゃってるんじゃないですかぁ!?はいはい論破論破、俺の勝ちぃー!……なんだよ。あ、こら!無言で俺を持ち上げるな!離せよ!……やめ、やめろお!俺のそばに近寄るなああああああ!」

 

───このあと、モンスターが脱走したり、見たこともない花のモンスターが出現したりしたが。

 

逃走ではなく()()()を追跡するように()()を滾らせるモンスターたちはナズナのスキルの餌食であり、アイズやティオネたちが揃った状況で何が起こるということもなく。

 

魔力に反応した食人花が魔法を詠唱していたレフィーヤに襲いかかるもナズナに防がれ、「いいこと思いついた!並行詠唱の練習しようぜ!」という悪魔の発想によって、レフィーヤが半泣きになりながら並行詠唱の訓練に挑むことになったりした。

 

『おーと、ここで花のモンスターの攻撃だー!しかし残念!紙一重で躱される!躱す躱す躱すぅ!彼女は本当に魔道士なのかぁ!?エルフの魔法なら自分のものとできる【千の妖精(サウザンド・エルフ)】の動きはまるでダンスだぁー!アイドルも夢じゃない!』

 

とりあえず詠唱はいいから躱す練習から、と始まったレフィーヤの訓練はモンスターフィリアの延長として披露され、通りすがりの愉快神(ヘルメス)の実況のせいでギャラリーが増えたことにレフィーヤは顔を真っ赤にしてキレながら躍り続けた。

 

それを気の毒そうに眺めるヘルメス・ファミリアの団長であるアスフィは、最低限怪我人がでないように辺りを警戒するも、街にも人にも特に傷跡が刻まれることなく騒動は幕を閉じた。

 

 

「───ぁああああああああああああああああ!」

 

そして、とある女神の信奉者たちによってとあるルーキーへの試練が別の場所でお膳立てされたりはしたが、こちらも自身の主神との絆パワーで力を振り絞った少年によって解決。

 

一番のヤツ(伴侶候補)金色のヤツ(団員候補)で優勝していくことにしていた女神は大満足。

横に侍らせたオッタルと、大変美味な食事を堪能するのだった。

 

 





最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。
以上がナズナのランクアップの真実になります。
そして、下書き段階で一番のやつと金色のやつというただそれだけのネタを思い付いたがために、ナズナの髪はとあるエルフとお揃いの黒髪から山吹色の髪に変更になりました。

心に優しい評価や感想頂けるととても嬉しいです。


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第十話。星々の記憶


お気に入り登録、評価、感想、誤字報告、ここ好きありがとうございます。

記念すべき10話として真面目な主人公を書こうかと思って仕上げました。
アストレア・レコードを全て書こうとするとちょっと洒落にならない話数になるので、だいぶはしょっています。
内容が気になった方はなんと!ダンメモをインストールするとストーリー回想から無料でエピソードを読めちまうので、そちらをご覧ください。



 

 

七年前。

それはかつて、悪が幅を利かせていた時代。

 

多くの者が犠牲になった。

多くの者が戦った。

多くの者が哭いた。

 

時代はまさに悪の最盛期。

 

そんな時代においても、ナズナは変わらずタンクをやっていた。

 

 

 

 

 

 

嵌められた、とその作戦に参加した冒険者全員が悟った。

 

作戦は磐石ではないが、勝機は確かに見えていたはずだった。

発見した敵の拠点に攻め入り、同時に罠の可能性も考慮して街にも戦力を残す。

あとは当たって砕けるか、食い破るか。

それでも全員が全力で挑めば、都市に平和をもたらせると誰もが信じていた。

 

だが。

ああ、だが。

悪はいつだって姑息で、卑怯で、悪辣だ。

 

「───かみさま」

 

自爆。

敵意も殺意もなく、正義も悪もなく。

幼子が装置と共に爆ぜた。

 

「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

絶望を後押しする悪の嘲笑は止まらない。

爆発は止まらない。

死兵が都市へと溢れかえる。

 

誰かは言った。

『黒く、厚い雲に覆われて星など見えない』と。

 

見えていたはずの勝機は幻だった。

悪によって、希望は絶望へと塗りつぶされる。

崩壊の音に、凶悪な土砂の旋律。

 

爆発が連鎖し、都市を燃やす。

地獄の釜が蓋を開けたように、おどろおどろしい爆炎の色に彩られる。

 

そんな状況を目の当たりにして、一番最初に動いたのはナズナだ。

彼は都市の誰よりも、今何が必要か理解していた。

同時に、間もなく悪の本命が来るという確信があった。

 

「ガレス、投げろ。行き先はバベルだ」

 

「あい分かった───ッ!」

 

決断は迅速。

返事は一つ。

 

「【吹雪け、三度の厳冬───我が名はアールヴ】」

 

だが、行動したのは二人だ。

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」

 

ナズナが背負う大盾に、速度重視で放たれた魔法が衝突。

ガレスに投げられた勢いを後押しして、小さな体をロケットのように吹き飛ばす。

 

行き先はバベル。

全てを終わらせることのできる女神のもとへ、最硬は着弾した。

 

「───神フレイヤっ!やるか、やらないか!どっちだッ!」

 

言葉は少ない。

説得に時間をかけてる暇はない。

だから委ねる。

 

主神ですらなく、普段から苦手だと公言して憚らない相手に対して、自分達の実力不足に本気の歯軋りをしながら。

 

「終わらせてくれとは言わねぇ!奴等の本命が来る前に!一瞬の足止めを!」

 

フレイヤは見た。

その魂の輝きを。

自分の愛しい子供たちに負けずとも劣らない、鮮烈な輝きを。

 

「───あんたは、あんたの眷族に代わって俺が守る!命に替えても、絶対にだ!」

 

「いいわ。行きましょう」

 

美の女神は微笑んだ。

果たして勝利の女神が微笑むかは、神ですらわからない。

 

 

 

 

 

『都市を襲う理由は、ただの失望の延長だ』

 

『失望こそが我々を再び英雄の都へと誘い、争乱を呼んだ』

 

『世界は雑音が多すぎる。ならば間引くしかあるまい』

 

『俺に喰われたくなければ、来い』

 

『神時代はもう終わる』

 

『故に果てろ、冒険者』

 

戦場という危険地帯で、美の女神として全力を遺憾なく力を発揮できたわけではないが、幹部クラス以外の闇派閥たちはすべて停止した。

美の女神が出てきた瞬間仕留めるつもりでバベルを狙っていた闇派閥からナズナは完璧に守って見せた。

鞍替えさせるほどではない、伝達速度重視の魅了だが、それでも都市を一つ沈黙させるのはさすがの一言だ。

 

そして、求められた仕事を完璧にこなしたフレイヤは傷はひとつつくことなく、再び安全な場所へといずれ都市最速となる猫人に連れられて移動した。

 

だが、その女神を守りきったナズナはもうボロボロだった。

 

「ぐぅぅぅぁぁぁぁぁああああ!」

 

それは一方的な蹂躙だった。

不条理で、暴虐で、絶望で、死そのものだった。

 

当たり前だ。

彼はまだレベル5。

頂点にはまだ遠い。

 

戦場のほとんどが敗北した。

ゼウス・ファミリアのザルドに。

ヘラ・ファミリアのアルフィアに。

闇派閥の妖魔に、殺帝に、神官に。

 

オラリオは致命的な敗北を喫した。

現オラリオ最強が、ハイエルフが、ドワーフが、白黒妖精が、正義の使者たちが敗北した。

 

「ナメんじゃねええええええええぞこの野郎!勝ち誇った顔で見下しやがって!」

 

それでも。

追い討ちをかけるように避難先の協会の上空に出現した三つの魔法を。

才禍の化物による暴虐を。

悪食なレベル7の不条理を。

 

ナズナはたった一人で引き受けていた。

 

守護妖精は倒れない。

オッタルがザルドに何度も敗北を繰り返し泥に沈んだように、ナズナもまた敗北を繰り返してきた。

それこそ静寂を相手に。

何度も、何度だって。

 

だから彼にとって、これはいつものことだ。

 

「英雄が、失望が、なんだって!?聞こえねぇなぁ!」

 

岩の鎧はすでに砕け、もはや残るはその小さな体躯のみ。

 

「チッ…これだからこのガキは!」

 

「こいつは喰いがいがありそうだ」

 

悪態をつく覇者を前に、ナズナは吠える。

石を食らい活力を取り戻したナズナが、限界を越える。

静寂の右腕から放たれる音の魔力を、オッタルをも吹き飛ばした大剣を。

その全てを受け止める。

 

もはや限界どころではなく、理屈を越えていた。

その場限りの大咆哮をあげる番犬が、英雄(絶対悪)と真っ向からぶつかり合う。

それは、意味のないただの時間稼ぎ。

敗北の先延ばしでしかない。

 

それでも───

 

「オラリオは負けねぇ!例え今日全員が膝をついても!」

 

戦場に、活力が戻る。

悪の嘲笑が鳴りを潜める。

 

「次は勝つ」

 

ただそれだけ。

敗北という結末は変わらない。

女神フレイヤが戦場に出たことで避難先は守られ、恩恵を失った冒険者たちが逃げる時間を得てなお、数多くの命が失われた。

 

───妖精は二人の絶対悪によって、ゴミのように吹き飛ばされた。

 

 

 

 

「まったく、ナズナの無茶にはいつも驚かされてばかりだ」

 

「良くも悪くもな」

 

あの敗北の日。

ナズナはオラリオの冒険者として意地を見せた。

自分達は抗えると、そう希望を見せた。

 

フレイヤの魅了による足止め、フレイヤの完璧な守護、避難所を襲おうとした魔法の妨害、士気のぶり返し。

彼の功績は計り知れない。

 

だが、ある意味で彼は頑張りすぎた。

戦えない生き残りの数が多すぎたのだ。

それこそもはや、いつ爆発してもおかしくないほどの数がオラリオという都市に閉じ込められていた。

 

闇派閥は現在わざとなにもしていない。

オラリオを包囲し、市壁の上に陣取り民衆へとプレッシャーを与え続けている。

 

そうなればどうなるか。

答えは簡単だ。

 

『何とかしなさいよ!あんたたち冒険者でしょう!?』

 

『みんな死んじまった!ふざけんな!』

 

『どうして俺たちだけこんな目に遭わないといけないんだ!』

 

感情は冒険者へと向けられる。

戦ってくれた、庇ってくれた相手を罵倒し、石を投げる民衆に、正義の使者たちは歯を喰い縛り、自分の子供を失った神々は鬱憤を募らせる。

 

「ハハハ!カスどもが騒いでやがる!狙い通り過ぎて笑えてくるぜ!」

 

冒険者へと当たり散らす民衆を見てヴァレッタは笑い転げる。

 

「民衆には、せいぜい冒険者達の足を引っ張って貰わねぇとなぁ~」

 

悪意は止まらない。

 

───次は勝つ

 

だが、まだ誰も諦めていなかった。

 

 

 

 

 

 

「殺せ!今すぐやつを仕留めろ!」

 

「む、無理です!止められない!あんなもの、誰にも───!」

 

オッタルは目を覚ました瞬間から、衝動の言いなりになっていた。

出くわす闇派閥の部隊を根こそぎ壊滅させる姿は、まさに手負いの獣。

その猛る姿は、敗北を喫したはずなのに悪を震えさせるだけの威容を持っていた。

 

「やられた腹いせに雑魚を甚振る。……情けねぇ、反吐が出るぜ」

 

そんな姿を傍観していた影が、戦闘に一段落ついたのを見計らってオッタルの前に現れる。

 

「アレン……!」

 

「仇敵だがなんだか知らねぇが本当にただの猪になるつもりか?」

 

「失せろっ!今の俺に余裕はないっ」

 

「だろうな。……お前が吹き飛んだ一撃に、お前よりも雑魚のはずのチビエルフは耐えきってやがった。フレイヤ様に傷ひとつつけなかった。俺だったら情けなくて死んでるぜ」

 

「なに───?」

 

それは王者のプライドか。

あるいは好敵手への驚愕か。

オッタルの脳裏に、山吹色のエルフの憎たらしい笑顔が浮かび上がる。

 

───あれあれ?おやおや?オッタルさんってば一撃でノックアウトですかそうですか!これは都市最強の座は俺のもんかなー?んー?

 

ぐ、と歯噛みするオッタルの前にフレイヤ・ファミリアの全幹部(エインヘリヤル)たちが現れる。

 

「無様だなオッタル」

 

「滑稽すぎて笑えもしない」

 

「だが、それはこちらも同じ」

 

「無様に敗北した僕たちを殺す。そして闇派閥の屑共を殺すための、より強い勇士となって甦る」

 

小人族の四兄弟が。

 

「闇派閥は必ず滅ぼす。あの愚劣極まる姉妹もろとも」

 

「オッタル…今までも本気だったけど、今日は『全力』だ」

 

白と黒の妖精魔法剣士が。

完全武装した状態で、オッタルの前で武器を構える。

 

「作戦ならあのいけ好かねぇ『勇者』が立てるだろう。その日まで俺達は殺し合う」

 

「!!」

 

「ここがもう一つの『戦いの野(フォールクヴァング)』だ。あの化物共を討つための『最強の勇士(エインヘリヤル)』を作り出す」

 

『戦いの野』。

それはフレイヤファミリアの眷族たちが日夜殺し合いを繰り広げる戦士達の聖域。

それを今、アレンたちは生み出そうというのだ。

『最強』に至るために。

 

オッタルは少しだけ感動してアレンへの感謝の言葉が溢れる。

 

「アレン、まさか…俺のために…?」

 

「ふざけんな!なにがてめえのためだ勘違いするんじゃねえ。全て『女神の意思』だ」

 

『次代の【英雄】を用意してちょうだい。ゼウスとヘラに借りを返しにいくわ』

 

オッタルの目が見開かれる。

 

『それとも、守護妖精の真似は難しいかしら───?』

 

そして、岩のような拳が有らん限りに握りしめられた。

 

「構えろ。吠えやがれ!行くぞ───ッ!」

 

「おおおおおおおおおおおおッ!」

 

剣撃と槍撃、無限の連携と白黒の魔法。

戦うことしかできない者達の遠吠えが、空を震わせた。

 

 

 

 

 

 

「敵の首魁捜索と並行して、廃墟から物資を確保します。食料、装備、なんでもいい!」

 

団長の死後、新たな団長を任された苦労人(アスフィ)が必死に指示を飛ばす。

 

「敵は都市を包囲するため、一度制圧した中央広場から撤退した。繁華街を中心に物資の収集を!これが後の命綱になる」

 

纏まらない思考を無理矢理落ち着かせ、出来ることと出来ないことを分別する。

 

「護衛は必須です。各隊四人一組でそれぞれの区画に散ってください!」

 

重圧に抗い、巡る意思へと手を伸ばす少女の声に従って冒険者たちは未来を手繰り寄せるために奔走する。

 

 

 

 

 

『俺達は負けない!』

 

『なぁに、ただの偽善者さ』

 

『止血を!早く!服でもなんでも構わない!清潔な布を!』

 

『巡り、受け継がれる英雄神話だけは途切れさせてはならん』

 

『つらくても恥ずかしくても、貴方にもできる正義がある。それを忘れないで』

 

 

「───音が聞こえる」

 

巨大な闇に身を委ねながら。

悪は静かに囁いた。

 

「あがく音だ」

 

唇に笑みを刻み、エレボスは噛み締めるように告げる。

 

「潰されまいと虫のようにもがき続ける───『正義』の音色」

 

 

───次は勝つ

 

 

───オラリオは負けねぇ!

 

 

ほんの少しだ。

本当にごく僅か。

彼がいなくてもオラリオは息を吹き返した。

だが。

少年の咆哮が、冒険者たちの背中を少しだけ早く前へと進めたのは間違いない。

 

 

「さぁ、産声をあげましょう!」

 

「今、ここで!都市のみんなにも聞かせてあげるの!」

 

「絶望を切り裂く光の歌を!」

 

「希望をもたらす、『正義』の雄叫びを!」

 

「───使命を果たせ!天秤を正せ!いつか星となるその日まで!」

 

「秩序の砦、清廉の王冠、破邪の灯火!友を守り、希望を繋げ、願いを託せ!正義は巡る!」

 

「たとえ闇が空を塞ごうとも、忘れるな!星光は常に天上に在ることを!」

 

「女神の名のもとに!天空を駆けるが如く、この大地に星の足跡を綴る!」

 

『正義と剣と翼に誓って!』

 

 

正義の讃歌を歌う少女たち。

重なる声が都市を震わせる。

人々が上げる希望への歓声は、どこまでも鳴り響いていた。

 

 

『おはよう世界。体がクソ痛ぇ以外は素晴らしい目覚めだ』

 

『それで、なぁんで誰もいないんですかね』

 

『普通こういう時ってベットサイドに俺の手を握ったまま寝てる女の子とかいるもんじゃないの?つーか医者は?』

 

『あぁ?神フレイヤからの差し入れ?…って媚薬じゃねえか!要らねぇよ!あと誰だ!俺の枕元に鉢植えおいてるやつは!なめてんのか!?』

 

同時に、バカも目覚めた。

そして、その日の夜、新たなレベル6が産声を上げた。

 

 

───大抗争と呼ばれる物語は、最後は正義が勝利して終わる。

文章にしてしまえば、たったそれだけ。

 

絶対悪として君臨することを選んだ英雄と神がいた。

正義は巡ると信じた正義の使者達がいた。

次代の英雄になると宣言した勇者がいた。

 

彼らはきっと全員が星だった。

 

語り継がれるその戦いの名は『正邪決戦』。

未来への意思は確かに引き継がれた。

 

冒険者は進む。

『黒き終末』を乗り越えるために。

未来を掴むために。

 

正義は未だ理想に至ってはいない。

 

それでも。

 

星々は、今なお空に輝いている────

 





今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

投稿開始してから一週間、無事毎日投稿することが出来ました。
ここまで頑張れたのは読んでくださっている皆様のお陰です。
正直ここまでの方に読んで頂けるとは想像もしていませんでした。
投稿した次の日の朝には感想がある、評価してもらえる、自分で気に入っているところにここすきが貰えるというのがとても嬉しかったです。

そして、キリがいいので数日休んでからまた投稿を再開させて頂こうと考えています。
忘れられないうちに戻ってきます。
本当にありがとうございました。


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第十一話。調査


お気に入り登録、感想、評価、ここすき、誤字報告ありがとうございます。

そして、お待たせしました。
今後は2、3日間隔で更新していきます。

今回はドラマCDネタがあります。


 

意外かもしれないが、ナズナは基本的に訓練や遠征でもない限りダンジョンアタックに誘われることがほとんどない。

 

いつもの憎まれ口がたたったわけでも、嫌われているわけではないし、その実力も信頼されている。

だが、ナズナは少しタンクとして完成度が高すぎた。

 

ナズナの盾に打ちのめされたモンスターがぐらついた瞬間を逃さず、切り刻むか魔法を打ち込むだけ。

それだけでモンスターを倒せてしまう。

ナズナと組めば、隙を自分で作る必要も窺う必要もない。

後衛職なら、自分が狙われる恐怖もない。

 

もちろん自力でモンスターを倒さなくてはいけないのだが、そのモンスターすべてが親の仇のようにナズナ一人を狙うからそれも容易い。

 

『ナズナとの冒険は安全が保証されるが、冒険にはならない』

 

誰が言い出したかもうわからないが、ナズナのタンクとしての実力は畏怖と安心感、そしてある種の皮肉を込めてそう評価されていた。

 

「なーにが冒険にはならないだ!あーやだやだ、これだからタンクは報われねぇんだ」

 

そんなもの頼りきりにならなければいい話だし、何よりもそんだけ皮肉るくせに、ファミリアの団員たちのレベリングのために歯応えのない上層で引率をさせられるのが我慢ならない。

 

いや、それは百歩譲ってもいい。

めんどくさかったら代わってくれる人間は何人かいるわけだし。

だが、ナズナのお陰でランクアップしたものまで誘ってくれないのはなんなのか。

 

『ナズナさんに守られてばかりは嫌ッス!』

『頼りになりすぎるってのも考えものよね』

『私。あなたのように、ベートさん(大好きな人)の隣に立ちたいんです』

 

「…ちぇ、恩知らず共め」

 

見た目同様精神年齢もお子様なおっさんは、フィンやらアイズやらが仲良くダンジョンへ行ったのを思い出し、寂寥感を滲ませながら薄暗い部屋で()()()()()()()()()毛布にくるまった。

 

ナズナが今いるのは自室ではない。

ここは『懺悔室』。

まぁ懺悔室というよりは、仲間に面と向かってできない相談を、衝立越しに話すお悩み相談室だ。

元々はロキが言い出したことだったが、悪用されないようにリヴェリアが担当している。

もちろん、相談相手がリヴェリアとわかっていては相談しやすいわけがない。

 

故に彼女は『プリティーシスター・アールヴちゃん』と名乗り、衝立で見えないのを良いことに真顔(死んだ目)で『キャハ☆今日もバッチリみんなの悩みを聞いちちゃうゾ!』とか『キュピピピーン☆』とか、『キャピるーん☆』とか、心を殺して業務に当たっている。

 

正直そんな闇抱えるくらいならやめたらいいのにと思うし、その名前は正気か?隠す気ないだろ…と思わないでもないが、生来の生真面目さなのだろう。

彼女は定期的にお悩み相談室を開催しては、疲れた老人のような目で世を儚んでいる。

 

ただ、彼女とて癒しは必要だ。

そこで登場するのがナズナである。

リヴェリアはナズナを密かに相談室へと呼びつけ、好物の甘味やお小遣いによって膝枕を強要した。

 

ナズナが膝を貸す側ではなく、眠る側なのがなんとも言いがたい。

 

さらに加えて、ナズナが眠る際包まる毛布と言うのが、リヴェリアが十年近く使っている毛布だ。

癒しのためとはいえ、まるで犬に匂いを覚えさせるがごとくナズナに使用を強要し、匂いを刷り込み、寝顔を堪能するその姿はもはや歪みだ。

ついでに、何がなくとも毎朝自分の毛布をこの一室に持ち込み、ナズナが自分の毛布のところへ昼寝に来ているとニヤニヤ笑っていると言うのだから、ばっきばっきに複雑骨折した行き遅れ生娘(ヴィンテージ・エルフ)の性癖は、もはや手遅れ。

 

夕暮れ時、相談室からは不気味な笑い声が聞こえてくると言う噂が出てきているレベルだった。

 

「んー、落ち着く…」

 

ロキといいリヴェリアといい。

好きな人(家族)の匂いを嗅いで安心するナズナは、自分を取り巻く女性陣の危ない眼差しには一切気づかない。

 

それは果たして幸せなのか、不幸なのか。

呑気に夢を見るナズナにはわかるはずもないことだった。

 

 

 

 

不貞寝が本格的な午睡となり、夢の中で好物のはちみつクッキーを口に運ぼうとしたところで、ナズナは蹴り起こされた。

 

「んあ…?」

 

「起きろチビ。ロキのお守りの時間だ」

 

「あんだって?」

 

ケツを蹴られ、別に大したダメージもないくせにいたた、と腰をさそるナズナは伸びをしてから下手人を見る。

そこにいたのは不機嫌さを隠そうともしないベートだ。

 

「俺は巻き込まれるのはごめんだ。昼寝するくらい暇なら代われ」

 

彼の言葉を、半分まだ寝ている頭でなんとなく理解したナズナは、手を口元に当てて笑う。

 

「…どうせベートも暇なくせに。ダンジョン探索に置いてかれた者同士仲良くしようぜ!」

 

「うるせぇ!俺は置いてかれたわけじゃねえよ!」

 

「おやおやおやぁ?キレるのは図星の証かぁ?」

 

「このクソチビが!」

 

ベートのセリフに、一瞬ナズナの顔から表情が消える。

 

「おいおいおい、お前それフィンにも同じこと言えんのか?あいつ俺よりちっちぇぞ」

 

なお1c差。

フィンが119Cでナズナが120Cだ。

 

「はっ、さすが小さいやつは器が小せえな?下を見て安心するとか惰弱だぜ!」

 

「お、惰弱なんて難しい言葉知ってて偉いでちゅねー?下のやつってのはなぁ!多大なる安心感を与えられる貴重な人材なんだよ!ティオナを見ろ!あいつロキの胸見てたまにものすごく安心したような顔を───」

 

ごとり、と。

まるでバカな会話を続ける二人を咎めるように、懺悔室の天井の煉瓦が二つ頭に落ちてくる。

二人とも急な心霊現象に黙り混み、互いの顔を見やる。

 

「ここは貧乳の間か?まぁ確かにリヴェリアも案外小───」

 

懲りずに口を開いたナズナの頭へと煉瓦のお代わりが振り下ろされる。

ちなみに、リヴェリアはレフィーヤをしてお胸がお着痩せになる、と言わしめるほどのものを一応持ち合わせているので貧ではない。

 

まるで意思があるかのような現象に、いよいよもって肝を冷やしたノンデリ男二人は、すごすごと部屋を出るのだった。

 

「なんだよこの部屋。こえーよ…」

 

「俺は二度と来ねェからな!?」

 

 

 

 

「調べ物ねぇ」

 

本当にお守りを押し付けて消えたベートと別れ、ロキと合流したナズナは、めんどくさそうな顔を隠さずに呟いた。

 

「そ、調べものや」

 

それとは真逆に上機嫌なロキは、中天にかかる太陽のように眩しい笑顔を浮かべている。

 

「実は昨日から、うちなりに調べて回っててなぁ…今は見逃したところがないか、詰めとるところ」

 

ロキは怪物祭からの二日間、独自に東のメインストリートを調査していたことをナズナに語って聞かせる。

そんな話を耳をほじりながら適当に聞き流すナズナとロキはやがて、メインストリートを外れ、薄暗い道を進んでいく。

豪奢なホテルから安宿へ、さらには怪しげな宿へと移り変わっていく中、ロキの足が止まった。

 

「街中はあらかた調べたし、残るはここしかないなぁ」

 

二人の視線の先にあるのは、下水道へと繋がる小さな小屋だ。

率先して扉を開けようとするロキを制して、ナズナが扉の取っ手へと手をかける。

 

「…開いてるな」

 

ダンジョン内からではなく外からとはいえ、モンスターが入り込んでいることが確認されている下水道。

そこと繋がる扉の鍵が開いてるというのは、あまりにも無用心が過ぎた。

 

「とりあえず降りよか」

 

「はぁ…なんて暗い休日なんだ」

 

「まあまあ。後でご褒美もちゃーんと用意したるから、な?」

 

階段を下り、下水道へと出た二人を出迎えるのは今にも寿命がつきそうな小さな魔石灯の明かりと、水流の音。

そんな音を聞きながら、ナズナは先程の午睡を思い出して、リクエストすることにした。

 

「ならお酒より甘いのがいい」

 

「んー?ナズナはうちとの甘いキスがお望みかぁ?」

 

「………」

 

「ちょお!?無視はやめぇや!」

 

賑やかしい二人組は、やがて広い主水路へと出た。

ロキが手に持つ携行用の魔石灯の光が照らし出す道の両端には通路がある。

 

「よっと」

 

「……なにそれあざと!?え、なになに?ナズナってばそんなあざといことどこで覚えてきたん!?」

 

「うるせー!振り落とすぞ!?」

 

会話の邪魔になる程度には激しい水流から守るように、ロキをお姫様抱っこしたナズナは、ニマニマとからかってくるロキを手放すか一瞬迷うも、結局そのまま進んでいく。

 

途中魚のモンスター『レイダーフィッシュ』が襲いかかってくるも、危なげなく撃退されたり、しっかり水しぶきがロキにかからないように足の部分に鎧を展開して高さを稼いでいたり。

自分を配慮してくれるレベル7の腕の中という、世界で一番の安全圏に確保されたロキはご機嫌そのものだ。

 

横路に階段に橋。

下水道にしては入り組んだ下水道を慣れたようにナズナは探索していく。

この程度ならダンジョンと比べるまでもない。

 

「おっ?」

 

「こっから先は旧い方だろうな。新しくつくって放棄したって話を、どっかで聞いたし」

 

範囲を絞りながらも、あらかた探索して最後にたどり着いたのは、大きな錠前によって閉じられた下水道の扉よりも厳重な鉄扉だ。

糸目を薄く開いたロキは、ポツリと呟く。

 

「なんか臭うなぁ?」

 

「そうか?この下水道魔石製品の浄水柱のお陰で綺麗なもんだろ?飲めるらしいじゃねえか。俺は飲みたくないけど」

 

「ちゃうちゃう!怪しいって話や!そんなベッタベタなボケせんといてーな!?」

 

浄水柱。

紫紺の煌めきを放つそれは、等間隔で並ぶ柱の間をすり抜ける汚水を清潔な水へと変える浄化装置だ。

ナズナにその仕組みがわかるはずもないが、この技術がとんでもなく高度なものだということは理解していた。

 

「はいはい…」

 

突っ込んであげたのにその態度はなんやー!と叫ぶロキをしっかり抱き寄せると、ナズナは顔を錠前へと近付ける。

そして、躊躇なく口へ含んだ。

間を置かず、口の中からばりばりごりごりと、まるで煎餅を食べるような音が鳴り、あっさりと飲み込んだ。

 

「…へっ、オリハルコン製にしないのが悪い」

 

「うーん、この理不尽」

 

「さ、いこうぜ。とりあえずなんかあるだろ」

 

ロキを持ち直したナズナは、鉄扉の奥に広がる闇の中へと踏み出した。

 

 





今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

2巻はたぶん短くなります。
出したいキャラがいたのと、ナズナのキャラの掘り下げにちょうどいいので地上でお留守番です。
次回番犬時代の話が少し出ます。

心に優しい評価や感想頂けるととても嬉しいです。


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第十二話。番犬


お気に入り登録、評価、感想、ここすき、誤字報告ありがとうございます。
今回はナズナの昔の話が少しだけ登場します。
詳しくやるのは15話になります。

※なんとなくAI画像生成アプリをポチポチしてたら思ったよりイメージに近いのが出てきたので、多少加筆してあらすじに貼っときます。
別になんてことはないただのショタエルフです。


 

彼らの使う魔法は森を傷付ける。

そんな言いがかりのせいで、『傷つける者(スカジ)の一族』と呼ばれるようになった血筋があった。

 

百年くらい前。

王家によってそんな事実はないと認められ信じているエルフは少なくなったが、それでも根強い偏見というのはなかなか消えないものだ。

 

だから両親がいなくなり、スカジの一族の最後の生き残りとされるナズナは、古い考えの大人のエルフたちに都合のいいように利用されていた。

 

役割は番犬。

エルフの森の番犬に求められるのは、地の果てまで追いかけることではない。

敵の気を引き、攻撃の的になることだ。

彼らの命は森の中で何よりも安い。

 

逆らえば電流の流れる首輪をはめられ、森への侵入者の気を引き標的になるのがお仕事の最底階層の住人。

侵入者を追いかけ足止めして、あるいはエルフの趣味の狩りに駆り出されてモンスター寄せの道具となり、最後は自分もろともエルフたちに魔法を打たれる。

出されるご飯は最低限、寝床は土の上。

傷を癒してくれるのは、ナズナだけが知る秘密の泉だけだった。

 

有り体に言えば同胞として扱われてこなかったナズナは、過去に一族が受けてきた所業はどうでもいいが、自分が受けた所業への反動で基本的にエルフに対して口が悪い。

 

もちろんすべてのエルフが自分を虐げてきた連中と同じような者たちではないとわかっているし、嫌いなわけではない。

リヴェリアやレフィーヤなどの同ファミリアのエルフたちのように、むしろ大好きな部類のエルフたちだって普通にいる。

 

シンプルに、ナズナの中でエルフは煽っていい相手なのだ。

バカにしてると言っても過言ではない。

殴られたから殴り返していい。

ブラック企業死すべし慈悲はない。

ナズナの思考なんてその程度だ。

 

心優しくすべてを許し受け入れるとか、憎しみの連鎖を断ち切るとか、そんなことができる高潔さはナズナにはない。

そうだとしても、憎悪を募らせ復讐に走るとかそんなテンプレじみた闇落ちをしていない辺り、だいぶ心優しいと言えなくもないのだが。

 

ロキ・ファミリアのエルフたちはスカジの一族の汚名が晴らされて以降に生まれているナズナが、そんな扱いを受けていたのを知らないので、ただの同胞として扱っているのもいい方向に働いているのだろう。

若干一名、自分の森でそんな扱いをナズナが受けていたのを自分が森を出るタイミングで知ったハイ・エルフが、スカディの名前を聞く度に曇るのだが。

 

さて。

そんな風に番犬をしていた過去のあるナズナは、なんだかんだ探索が上手だ。

獣人のような鋭い嗅覚や聴覚もなければ、小人族のように鋭い視覚もない。

 

それでも追跡や調査、地図作成等探索と呼ばれる行為に関してロキ・ファミリアの中でも1、2を争う熟練度なのは、過去の経験が今もナズナのなかに根付いているからなのだろう。

必要なら、ナズナは時に弓すら熟す。

 

 

 

 

 

 

ナズナとロキは鉄扉の奥へと進んでいた。

 

水浸しの水路だ。

廃棄された下水道とは思えないほどの水流に逆らうようにして、二人は足を動かす。

ナズナが足の底上げしたことで一段と高くなった視線となったロキは、注意深く辺りを見回す。

 

「フィリア祭のあと、ギルドはここまで調べたんかなー」

 

「んー、冒険者は来てそうだな。魔力残ってるし。それも最近のやつ」

 

「なら要警戒やな」

 

魔力の扱いに長けたエルフの瞳が、空気中に残る僅かな魔法の痕跡を見つけ出す。

それはつまり何者かが戦闘を行ったということであり、それが周知されていないということは秘密裏に行われたということだ。

 

「あと鍵も最近何回か開けられたんだろうな。門には油が差してあったし、鍵は最近作られたやつだ」

 

「え、何でそんなわかるん?」

 

「食べたから」

 

「…レベル7ってすごいなぁ」

 

ナズナの言葉に、ロキは深く考えるのをやめた。

神々は下界の者達の嘘を見抜けるが、ナズナから嘘の気配が一つもしない。

つまりこいつは本当に食べたから、人の出入りがあったことを確信したのだ。

 

いくら人間やめてる強さのオッタルやレオンでも、こんな変態と一緒にされるのはごめんだろう。

だが、そんなこと現実逃避するロキには関係なかった。

 

───水の流れに逆らうように道を辿っていく中、やがてその穴は現れた。

 

「派手にやられとるなぁ」

 

大きく壊れた壁面から水が流れ込み、旧地下水路の水を満たしている。

 

「これは当たりか?」

 

「らしいけど、ちょっと体勢変えさせて」

 

「ん?ええで…って、ちょぉ!?」

 

ナズナは、いわゆる駅弁と呼ばれる格好のようにロキを抱え直す。

慌てるロキに構わず、ナズナは魔法展開した。

 

「【エメス───マド・ドール】」

 

腕に抱えられているわけではないのに完全密着し、互いの息がかかるような距離感。

材質を工夫してくれたのか、ロキの背中は鎧の中だというのに痛みはない。

だが、それはそれとして。

 

「これ…あかんやつや。これあかんやつやでナズナ!なってるってうちらが!エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!」

 

「ここでは下界の言葉で喋れ?なに言ってんのかわかんねーよ」

 

「ちょ、特殊(マイナー)性癖過ぎるで!?ナズナ、恐ろしい子!」

 

まるで着ぐるみの中で致してるような構図にも、ナズナは一切動じない。

もはやロキの言葉を理解することは諦めたらしいナズナは、ロキから手を離して自由になった両手の鎧を歪な剣の形へと変形させる。

ノコギリのような刃型をした手刀が、闇の中で鈍く光る。

 

『───オオオオオオオオ!』

 

直後、破鐘の叫喚が放たれ、魔力に反応した食人花が殺到した。

計四体。

まるで視線誘導をするように迫る目の前の三体と、背後から奇襲をかける四体目。

 

それらに怖じ気づくことなく踏み込んだナズナの、剣と化した両手が蔦を切り飛ばす。

刃渡りも手刀程しかないし、切れ味はそこまでの物ではないが、前回アキの剣を買い直した時に思い付いた新技だ。

金もかからないし、打撃に偏りがちだったナズナが手にした貴重な斬撃属性の武器。

 

「新技悪くねぇな」

 

「ちょ、なになに!?うちはどうすればいいんや!?」

 

「しっかり抱きついてろよロキ。神様が大好きな未知を体験させてやるよ!」

 

「おっけーや!うひょー!ナズナに頬擦りしほうだいやぁ!」

 

蔦がなくなった食人花の口へと、ノコギリのような切れ味の手刀を突き刺すと、無理矢理引き裂く。

体を縦に割かれ、顕になった魔石を踏み砕いて空中へ撒き散らすと、他の食人花たちがそこへと殺到する。

だがそれも、ナズナがちょっと魔力を垂れ流せばすぐに標的がナズナへと移る。

 

それをナズナが空気穴も兼ねて開けていた穴から見ていたロキとナズナは、その様子をつぶさに観察していく。

 

「魔力、魔石、人ってとこか優先順位は。前のと差はねえな」

 

「んー、四体が同じ性質なら、個体差とかではないか」

 

「たぶんな」

 

前回レフィーヤの公開処刑(訓練)の際に、アスフィの協力の元いろいろ実験したが、その個体と今目の前にいる三体の動きに大差はない。

 

『くっ、オラリオに帰ってきて早々仕事とか嘗めてるんですか!?』

 

『頼むよアスフィ。今度栄養剤差し入れするからサ』

 

『そんなものより休みをくださいよ!』

 

…なんだかあまりにも不憫だったので、今度スイーツでも奢ろう。

ナズナは、自身の主神に振り回され瞳をどろどろと濁らせるアスフィを見て、そんなことを思った。

 

「鎖くらいは持ってくるべきだったかなー」

 

三体から繰り出される攻撃をすべて無視して、一匹ずつ処理していくナズナはめんどくささからため息をつく。

攻撃はおそらく、鎧がなくても余裕で無傷でやり過ごせるレベルのものだろう。

だが、ティオナやティオネの拳すら余裕で耐える打撃に強い硬皮が鬱陶しい。

 

有効な武器が手刀ならぬ手鋸しかないナズナでは、一匹ずつしか相手取れないのが鬱陶しかった。

 

「とりあえずさっさと死ね」

 

踏みつけ食人花の動きを封じたナズナは、モンスターから中心が極彩色に染まった魔石を奪い取る。

だん、と灰になったモンスターを踏み抜くと、ナズナは残りの二匹に向き直るのだった。

 

 

 

 

「収穫はあったけど、犯人の手がかりになりそうなものはなかったなー」

 

「まぁ俺としては新技の試し切りもできたし別にいいけど」

 

ぽんぽんぽん、と手の中で魔石をお手玉しながらロキはぼやく。

手に入れた魔石の数は合計三つ。

前回の食人花の魔石はヘルメスがもらっていったので、ロキが実物をまじまじと見るのは初めてだ。

 

中心が極彩色に染まり、通常の魔石よりも毒々しい光沢を放つ魔石は、厄介事の臭いをぷんぷんさせている。

 

「そういやティオネが50階層でも同じ魔石を見たって言ってたけど聞いてた?」

 

「ああ、例の芋虫のやつ?」

 

「そうそう。あいつ素手でぶち抜いたらしいぜ。フィンが珍しく怒ってた」

 

ぷーくすくす、いい気味だぜ、と笑うナズナとロキは調査を打ち切り旧地下水路を抜け、主水路の通路を歩いていた。

食人花のいた貯水槽をざっと見て回ったものの特に目ぼしいものはなかった。

 

これ以上体密着させて全身擦り付けあってたらうちの新しい扉を開いてまう!つーかこれが限界。というロキの言葉の意味はわからなかったが、ナズナとしても非戦闘員を連れて歩くより、ファミリア内のある程度レベルのある誰かと探索した方がいいというのは賛成だった。

 

階段を昇り、小屋から出れば青い空が二人を出迎えてくれる。

太陽に向かってうおおおーっ、と体を伸ばすロキの横で、ナズナは護衛を無事終わらせることが出来たことにほっと胸を撫で下ろした。

 

「んんー、疲れた。いや~最近調査頑張ったから肩こってるわぁ」

 

「へー。死後硬直?」

 

「生きながらにして?」

 

調査で頭を使うことに疲れたからか、ナズナから返ってくる返事はいつもより遠慮がない。

 

「つーか不変の神がなに言ってんだ。成長性ない代わりに無敵の肉体なんじゃねーの?」

 

「なわけないやん?あと成長性はあるからな?」

 

無言で疑わしげな目を向けるナズナに向かって、ロキはない胸をはった。

 

「なんたって八百屋のおばあちゃんはいつも私の成長性に驚きを隠せないんやからな!」

 

「あの人誰にでも同じこといってるよ」

 

現に身長の伸びないナズナも言われたことがある。

 

「八百屋のおばあちゃんをビッチ呼ばわりするなんて、うちが許さん!」

 

「ビッチ呼ばわりは『大きくなったね~』の意味が変わってくるだろ!」

 

ロキと愚にもつかない会話をしながら自分も体を伸ばし、大通りの方へ進んでいく。

狭い路地から多くの宿が並ぶ街路へ。

賑わいの声や人の足音などが増え、ようやく帰れる、とナズナが気を緩めたときだった。

ロキが足を止め、一人の神に声をかけたのは。

 

「ん?ディオニュソスか?」

 

「ロキ…?」

 

 





今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。
最後の方の死後硬直と成長性の下りはギャグ漫画の『スナックバス江』にあるやりとり二つをほぼそのまま組み合わせただけです、すいません。
どうしてもロキとこの会話をさせたかったんです。

心に優しい評価や感想頂けるととても嬉しいです。


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第十三話。死妖精


お気に入り登録、評価、感想、ここすき、誤字報告ありがとうございます。

ソード・オラトリアを12巻まで読んでらっしゃる方は今回の話で「ん?」となるかもしれませんが、念のため直接的なネタバレはお控えください。
まあ二次創作小説なので、問題はないと思いますが。
逆に12巻までの内容を知らないという方は、今話ではありませんが今後ネタバレがあることにご注意ください。

※あらすじにAI生成したものに加筆したイメージ画像貼ってあります。


 

そこにいたのは一人の知り合いのエルフと見たこともない男神だ。

ロキにディオニュソスと呼ばれたその神は、微笑めば異性が思わずとろけてしまうような甘い美顔(マスク)と柔らかい金髪の持ち主。

有り体に言えば、いけすかねータイプの男神だった。

 

「…ぺっ」

 

ナズナはイケメンの登場に露骨に顔をしかめ、流れるように地面へ唾を吐き捨てる。

 

「おい!?」

 

それを見咎めるように叫ぶエルフに、ナズナは親しげに手をあげた。

 

「よぉフィルヴィス。元気そうだな」

 

「あ、あぁ。あなたのお陰で私は今日も生きている…じゃなくて!私の主神にその態度はやめてくれ!」

 

「えー、俺イケメン嫌いなんだけど…」

 

「確かにディオニュソス様はカッコいいが!」

 

「うわ惚気だよ」

 

ファミリア以外のエルフには構ってほしさの憎まれ口とかではない、ごく普通の罵倒を繰り返すナズナではあるが、数人だけ仲のいいエルフがいる。

 

そのうちの一人が、目の前にいるフィルヴィス・シャリア。

白巫女(マイナデス)】の二つ名を持つLv.3のエルフの冒険者だ。

宝石のような赤緋の瞳と白い肌、濡れ羽色の美しい髪という実に美しい容姿をしている。

 

「ナズナの知り合い?こんな美人と浮気か?リヴェリアに言いつけるで!?」

 

「急に興奮するなよ、情緒不安定か?」

 

人よんで死妖精(バンシー)

ローレライと同じく、有名な伝承のある妖精であり、『死を予言する』という言い伝えがある。

バンシーが泣くのは死が訪れる人間が素晴らしい人物だったときに限るらしいが、残念。

この名前につけられた不吉な印象がどうにもついて回っていた。

 

本来なら人々を惑わせ死に至らしめるローレライとはまるで真逆だ。

ナズナは生存の象徴として、あるいはモンスターへの絶望として冒険者からは有り難がられている。

逆だったかもしれねぇ…、なんて冗談はさすがに口には出さないが。

 

なにかと対極な二人が知り合ったのは6年前。

 

27階層の悪夢と呼ばれる事件の最中だ。

闇派閥の連中が捨て身の怪物進呈(パス・パレード)によって有力派閥のパーティーを27階層で纏めて嵌め殺した事件。

階層中のモンスター、果ては階層主まで巻き込んだ敵味方入り乱れての混戦は地獄絵図と化した。

 

鮮血が染み込んだ赤黒い灰の海と、敵味方区別のつかない死体の山。

それを咀嚼するモンスターたち。

そんな光景が27階層で至るところで目撃されたという。

 

フィン曰く、この騒動は単なる隠れ蓑。

彼らは死を偽装するためだけにこれだけのことをしでかした。

()()()()()、今の闇派閥の本拠地は手薄。

もう間に合わない27階層への救援ではなく、敵への襲撃を行う。

それこそがすでに死んでいった仲間たちへの弔いであり、現在も闇派閥に襲われている誰かを助けることにも繋がると。

 

───ナズナ。君だけを27階層に送り込む。すでに間に合わないとしても、まだ助かる命はあるだろうからね

 

ナズナはそれを二つ返事で了承した。

そしてフィンたちは神々の協力のもと、見事『邪神』と呼ばれていた闇派閥の神々を数多く送還させ、闇派閥は肝を冷やすことになる。

ダンジョン内で恩恵を封印され、あの階層にいた誰よりも弱い存在となった彼らの多くは無様にモンスターに食われることになった。

 

そんな状況でナズナは。

 

『よぉ。あんた白巫女だろ?生きてるようで何よりだ』

 

『ああ、そう。仲間を助けに戻る?いいね、そういうの嫌いじゃない』

 

『パーティーは全員瀕死、目の前にあるのは気持ち悪い緑の肉』

 

『縦穴で27階層に落ちてきてみれば、まさか早々にこんな場面に出会っちまうとはな』

 

『俺の目の前に、悲劇は要らねぇ』

 

『さっさと死ね』

 

彼は、27階層で当時まだ生存していた冒険者をすべて救出して見せた。

フィルヴィスも瀕死の仲間を助けるべく、緑の肉へ立ち向かおうとしたところでその()()()()()()()()()()()()ナズナに救出されている。

 

「私は。いいや、私たちはあの時確かに救われたのです」

 

「そんなこともあったようななかったような…」

 

フィルヴィスの語る過去に、ナズナはどこか居心地の悪そうな顔をする。

フィンの無慈悲とも言えなくもない判断もそうだし、あまり真正面から持ち上げられるのにも慣れていない。

 

「つまりあん時から、闇派閥は緑の化物を飼い慣らしてたっちゅー話やな」

 

「んー、言われてみると似てる気はするけど。どうだろうな」

 

当時のナズナは、あの緑肉を爆発で消滅させたあとあの時瀕死のパーティーに持ち込んだエリクサーをぶっかけ、他の冒険者の救助に向かったりと忙しかったのだ。

約一名、ディオニュソス・ファミリアの全員を置いて逃亡したという彼らの仲間は見つけられなかったが、動くモンスターをすべて殺戮し、襲われていた冒険者たちにエリクサーをぶっかけて回っていたので、それのうちの誰かなのだろう。

後日フィルヴィスに無事だったと聞いているし。

 

以来フィルヴィスのパーティーが死にかける事件が頻発したが、幸いなことにそのすべてにナズナが間に合っている。

 

まるで()()()()()()()()()()フィルヴィスが誰かに恨まれているようだ、と感じたナズナはしばらく気にかけていたが、最近はそれも落ち着いている。

その誰かが忙しくなったのか。

あるいはただの気のせいか。

 

真相は闇の中だ。

 

 

 

 

 

話がひと段落したところでナズナが唐突に両手を打った。

 

「ああ、思い出した。あれフィルヴィスの魔法のあとか」

 

「……なんだ、あなたもあそこに行ったのか?」

 

「んー、まぁ。今さっきな」

 

訝しげな目線を向けるロキと、若干気まずそうな顔をするディオニュソスに気づかない眷族二人は、会話を続ける。

 

「お前が先に足運んでたなら処理しといてくれてもよかったんたぜ」

 

「どうやらあのモンスターは魔力に反応するらしくてな…。いくら私が魔法剣士と言えど、多勢に無勢では分が悪い」

 

「そんなもんか?」

 

どんどんと鋭くなっていくロキの目線に、観念したように肩をすくめたディオニュソスはフィルヴィスへと声をかけた。

 

「フィルヴィス。そろそろ()()の紹介もしてくれるかい?あと、ロキの目線も怖くなってきたから、事情を話すためにも移動したい」

 

「は、はいっ。()はナズナ・スカディ。何度かダンジョンで助けてもらいました。恩人です」

 

「どーも、神ディオニュソス。お初にお目にかかります」

 

都合四度。

ナズナはフィルヴィスがパーティー全滅一歩手前の危機に陥ってるところに出くわし、そのすべてを生還させている。

故にフィルヴィスは死妖精などと呼ばれているのだ。

 

彼女はあまりにも死を呼びすぎる。

それも、不自然なくらい。

 

「ああ君があの守護妖精(ローレライ)か。あまりにも可憐な乙女だったからさっきの話を聞いても気づけなかった」

 

「…男ですけど」

 

「なんだって?」

 

まじで?みたいな顔で自身の眷族の方へ振り向くディオニュソスに、フィルヴィスは頷く。

本当にこの男は見た目だけはいい。

多くの冒険者が詐欺だと叫ぶ容姿はどうやら神すらも惑わすらしい。

 

「すまない。まさか私としたことが花と見間違うとは」

 

「酔ってるんすかね?」

 

「ははは、これは手厳しい」

 

軽く頭を下げるディオニュソス相手に鼻をならすナズナは、別に冗談を言ったわけではない。

 

「いや、普通に葡萄酒の匂いが」

 

「え?」

 

ぎくり、と固まるディオニュソスに構わずナズナは匂いから記憶をたどるように目をつぶった。

 

「…ん?しかもこれは、あの歓楽街から昼間出稼ぎに来てる娼婦たちが経営する伝説の───「おおっと!私としたことが!先ほどつい豊潤な香りに誘われて、つい!葡萄酒だけ!葡萄酒だけを口にしてすぐ立ち去ったつもりだったのだが!まさか自分の衣装に香りが移っていたとは!見抜けなかった、この神の目をもってしても!HAHAHAHA!」……そっすか」

 

だらだらと冷や汗を流し、早口で捲し立てる姿に初見時の貴族然とした余裕はない。

 

それもそのはず、先ほどまで和やかに談笑していたフィルヴィスからとてつもない怒気が発せられているのだ。

その瞳にはどす黒い感情が渦巻き、拳を作ったその手が、ミシッ!と細い指に似つかわしくない音を立てる。

 

「落ち着いてくれ、フィルヴィス…」

 

「言葉は慎重に選んでくださいディオニュソス様。今、私は冷静さを欠こうとしています」

 

神の矜持で声を震えさせまいとする主神に、フィルヴィスは淡々と返す。

 

「私が、あなたの。あ、な、た、の!命令で調査としてこの路地街を奔走している間にご自身は趣味を堪能していたのですか?」

 

いや違った。

冷静な振りをできたのは最初だけだったらしい。

 

よく見ればフィルヴィスの靴に泥が跳ねたあとがある。

…たぶん走り回ったんだろうな、とナズナはフィルヴィスの苦労を悟った。

 

「い、いやぁそれはどうだろう。そうとも言えるしそうでもないとも言える。真実は見るものによって姿を変える、世の中そういうものだと思わないか?」

 

だから、のらりくらりと追求を躱そうとするイケメンに嫌がらせをしたいナズナが、さらに火に油を注ぐために口を開く。

 

「ちなみにそこ、顔がよくないと入れてもらえなくて、酒をいっぱい頼んだらいっぱいやらせてくれるって言う素敵な店で…」

 

「…ディオニュソス様?」

 

「まぁまぁ。男なら誰だってあの誘い文句には抗えねーよ。むしろプラスに考えたらどうだ?あんたの主神も下界を楽しんで「あなたは黙っていてください!私の苦労も知らずに!」…はい」

 

なんだかこちらに飛び火しそうな気配を感じたナズナは大人しく黙る。

口を閉じ、静かに合掌するナズナにロキが尋ねた。

 

「なぁなぁ、あとでその店教えて?」

 

「いいけど女神が相手してもらえんのか知らねーぞ 」

 

「フィルヴィス…あの、フィルヴィスさん!?ああっ、そんな綺麗なフォームの拳で!?───ぐはぁぁぁぁ!?だ、誰か!ていうかそこでのんきに見てるお二人さん助けてぇ!」

 

「「……」」

 

ロキとナズナは互いの顔を無言で見つめ合い、一度怒髪天をついたフィルヴィスを見て、流れるように空を見上げた。

 

「今日はええ天気やなぁ!」

 

「うん、太陽が眩しい!」

 

レベル7や神でも怖いものはある。

触らぬ神に祟りなし。

現実逃避万歳。

 

ロキとナズナは、とりあえずしばらく心を無にして空を眺めることにするのだった。

 

 





今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。
必要だから飛ばせないけど中身は薄くなる回でした。
すいません。

心に優しい評価や感想頂けるととても嬉しいです。


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第十四話。宿屋


お気に入り登録、感想、評価、ここすき、誤字報告ありがとうございます。

まず、お詫びがあります。
なんと作者は神ディオニュソスの名前をデュオニソスと勘違いしてました。
感想返信含めてまさかの全誤字。
神ディオニュソスのファンの皆様、本当に申し訳ありませんでした。
でも一件も誤字報告がなかったのにはちょっと笑いました。

そして、今回はド下ネタありです。
再三言いますがロキがヒロインになることはないです。
影響はかなり与えていますが。


 

折檻のダメージから立ち上がれるくらいには回復し、ぼろぼろになったディオニュソスとロキは現在、赤煉瓦のホテルの一室で密談中だ。

一応床下から天井、その隣接する各部屋、その他部屋に仕掛けられた小細工がないかを確認して、隣室にフィルヴィスとナズナが待機している形だ。

 

故に密談の内容が外に漏れることはなく、漏れたとしたらどちらかの神が意図的に漏らしたということに他ならない。

そんな暗黙の牽制はさておいて、神々の腹の探り合いに参加しない眷族二人は暇なものだった。

 

「フィルヴィスこれ食べる?」

 

「あ、ああ……頂こう」

 

ホテルの従業員に頼んで持ってきてもらった茶菓子と紅茶を前に、甘味全般が好きなナズナと少女らしくスイーツ巡りを休日とかに密かに楽しんでいるフィルヴィスは相好を崩す。

ちなみにこの洋菓子たちはロキのポケットマネーから出ている。

調査のご褒美だった。

 

「それにしても良かったのか?私までご相伴に預かってしまって…」

 

「別に。ロキだって美少女の知り合いが増えれば嬉しいだろうし」

 

「美少女!?私が!?」

 

ごく自然にベッドに肩を並べる二人のうち、顔を赤らめているのは一人だけだ。

小さい方はもはや隣の美女など眼中にないが、少女の方はそうはいかない。

下手を打てば容易く不審者(ストーカー)予備軍と化すエルフの生娘において、フィルヴィスはまだまともな方だ。

 

ともすれば『男女の結ぶ純情とは誰もいない夜の森で、二人の永遠の愛を月に誓うものだ』とか、『愛とは貞淑、操を捧げるのは生涯一人で十分。いちゃいちゃなど不要』とかいっちゃうどこぞのポンコツ酒場エルフに比べれば、格段に。

 

とはいえ、純白を基調とした服で露出を極力減らすくらいには、エルフの潔癖性を持ち合わせている。

男と触れあったこともない彼女にとって、ホテルの一室。男女でベッド。肩が触れあう距離というのはあまりにもハードルが高かった。

しかも恩人で、憎からず思っている男が相手だ。

 

「にしても、物騒だな。まさか都市のすぐ下にモンスターなんて」

 

「ああ。敵の姿がいまだに見えないのも不気味だ。私のところの団員の仇も取らねばならないというのに…」

 

「ま、調べてりゃあいずれたどり着くだろうよ。うちのフィンは頭いいからな」

 

「うむ」

 

いやうむじゃないが。ああ、どうしよう会話を止めてしまった!と内心慌てるフィルヴィスを余所に、ナズナの興味はすぐに菓子に戻る。

 

こいつの危機感なんてそんなもんだ。

街角インタビューで事件の概要聞いて、へー物騒だなぁ怖いなぁと言いながら、別にたいした感想もない、典型的なダメ人間。

 

そんなまるでダメなおっさん。

略してマダオは、並べられた洋菓子のうちショートケーキに手をかける。

 

「おー!これはなかなか。ふわふわの甘さ。クリームとスポンジ生地の完璧なコラボ。イチゴの酸味が加わることで、くどさを感じさせない。使い古された食レポだが、これはまさに王道…!うまい!」

 

「そ、そんなにか?」

 

「ああ!ほら、フィルヴィスも!あーん」

 

「はうわ!?」

 

満面の笑みで自分が一口食べたショートケーキのうち、口をつけてない部分をスプーンで削り取り、ナズナがケーキを差し出してくる。

ケーキでは気を使うのに、自分が使ったスプーンはそのまま使うという辺りに、いかにも適当な性格が現れていた。

 

「い、いや…これはその!間接キスになってしまうのでは!?」

 

「?」

 

「いやわかるだろう?わかると言ってくれお願いだから!あなたの感覚でも羞恥は感じる筈だ!?」

 

「ええー?別にこれくらい普通だろ。ダンジョンでポーション節約のために回し飲みしたりするし」

 

「それは…!そうだが…いや、わたしはしたことないのだがな!?やはりエルフの私にはハードルが高い!というかあまりにもおそれ多いというか、いや、役得ではあるのだが、それでもやはり引退した先輩方や他のみなを差し置いて私だけというのは、ああでもこんな機会もう二度と来ないかも…いやいややはり私は───」

 

「えい」

 

もはや話を聞く気すらないナズナが、言い訳を続けるフィルヴィスの口へとスプーンを無理矢理ねじ込む。

 

「美味いだろ?」

 

「ん…ふぁ…れろ…」

 

感想を求めるナズナに、フィルヴィスは答える余裕はない。

最初こそ赤面していたが、やがて観念したように目をつぶると、スプーンに乗ったケーキを味わい始める。

何故か妙に舐めるような音が多い気がするが、それだけ美味しいと言うことだろう。

自分のおすすめを喜んでくれるフィルヴィスを見て上機嫌なナズナは、そのままスプーンを口から引き抜く。

 

その際、フィルヴィスの舌がまるで追いかけるように口の外へ出てきたり、唾液の橋がスプーンとの間に出来ていたりと。

何で頬染めてんの?明らかになにか別のものを想像しながら味わってなかったか?と思わないでもない色気を醸し出していたが、ナズナは触れなかった。

なんだかやぶ蛇になる気がしたのだ。

 

 

 

 

 

「うーんナズナが聞いたのもそんなもんか」

 

「ま、互いに情報はなしってことだろうな」

 

ロキとナズナがディオニュソスやフィルヴィスから得られた情報は、闇派閥の関与の可能性や、ディオニュソス・ファミリアのところのレベル2がやられるくらいの実力者が敵にいるということくらいだった。

闇派閥に関してはぶっちゃけまぁそうだろうなと言った感じだし、レベル2を倒す実力というのも、レフィーヤに重傷を追わせかねないあの攻撃力を見ているので、はいはいそうねとしか思わない。

 

地下水路の調査はむしろナズナたちの方がしっかりできていて、どちらにせよ真新しいものはなにもなかった。

辛うじて新しい情報と言えるのは、ギルドが怪しいかもしれないという、ひどくあやふやなもの。

正直闇派閥に比べればギルドなんて真っ白だとは思うが、神も色々あるらしい。

 

ナズナとロキは現在ホテルの部屋で2人きりで向かいあっていた。

 

「んー…せっかくホテルにおるんやし出る前にやることやってく?」

 

目を細め指を抜き差しするジェスチャーをするロキは、動作が完全にセクハラ親父のそれである。

神ディオニュソスやフィルヴィスがいなくなって、部屋に呼ばれてみればこれだ。

こいつ懲りねえな、とナズナは内心でため息をついた。

 

「最近セクハラのブレーキ緩くなってきてるんじゃないか?つーかこないだリヴェリアに怒られてただろ。反省しろ」

 

ナズナはかなり際どい格好でこちらを見るロキに向かって、脱ぎ散らした服を投げつけた。

 

だが、そんな乱雑な対応を受けたとしてもロキはめげない。

しょげないし、泣きもしない。

諦めの悪いセクハラ親父ほど手に負えないものもなかなかないが、ロキはアイズや他の団員よりも遠慮なくナズナへとセクハラをかましていた。

 

「ぬふふ、うちで童貞捨てたくせに」

 

「無理矢理貪り食ったっていうんだよあれは」

 

「でも下界の子らじゃできひん極上の快楽やったやろ?顔もあんなにとろけさせてたしなぁ」

 

以前、ナズナがした爆弾発言(体を売った)に関するリヴェリアの補足は、間違ってはいないが情報が足りていない。

確かにナズナは好意の暴走であれば何されても受け入れるし、喜ぶ。

だが、もっと大前提として約20年前にナズナはロキと関係を持ったことがあるから、もはや何されても普通に受け入れているのだ。

 

いくら普段の言動がオヤジ臭くても女神は女神。

抜きん出た美の女神でなくとも、その容姿は人間離れしたものだ。

もちろんそれは、その身体でさえも人間のそれとは比較にならない。

 

初めて酒を飲まされたその日、ナズナはロキの部屋で美味しく頂かれてしまった。

他の団員とは別に関係を持っていないというし、あれ以来一度も強引に食われるということもなかった。

一体あの日ナズナの何がロキの琴線に触れたのか、それとも神らしい気まぐれか。

なんにせよ超越存在の女体という禁断の果実の味を無理矢理覚えさせられ、仕込まれたような気分のナズナとしては、捨てたとかそんなまるでこちらが悪いみたいな言い方はやめてほしいと心底思うのだった。

 

ちなみに、一晩中捕食されていたその日の朝から何も変わらずに接している神と神レベルのバカの態度のせいで、その事実に勘づいている人間はファミリア内に誰一人としていない。

あのフィンさえもが、体を売った発言に驚愕していたくらいなのだから。

 

さらにちなむとするのなら、そこで一度ナズナの女性観とか性に関する情緒とかが完全に破壊されていたりするのだが、少なくとも日常生活に支障は出ていたりはしていないから問題はないのだろう。

 

本当に?

たぶん。

今のところは。

ただちに影響はないと思われている。

 

 

…。

……。

………。

 

 

「とりあえず、ここでまた待っててな?うちが一時間帰らなかったら何かあったつもりで動いていいから」

 

「あいあい」

 

満腹気味なナズナは、ギルド前で軽くあくびをしながら調査へと向かうロキを見送る。

 

結局、今回の調査では大きな進展というのはなかった。

話が進展するのは、ダンジョン探索に行っていたフィンたちがいわゆる食人花の調教師と思われる人物と食人花やら女型のモンスターに襲撃されたという話を聞いてからだ。

 





今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

小説の時系列ではなにもありませんが過去にはありました。
初期からあった設定ですので、まあこのままでいいかと投稿しました。
ロキもナズナも別に互いに恋愛感情はありません。
ただ人生初のお酒で酔って、ふにゃふにゃ笑うナズナを前にムラッとしたロキが普通に食べただけです。

次回はナズナの過去についてまるまる一話使って行います。


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第十五話。家族


お気に入り登録、感想、評価、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます。

アストレアレコード編に引き続き、誰に需要があるかもわからない作者の書きたいだけシリーズ二つ目。
なんだか思っていたよりも重くなりましたが、ナズナの過去と出会い編です。



 

目の前にある茂みを掻き分けるようにして男は必死に逃げていた。

 

「クソ、クソ、クソっ!エルフってのは間抜けじゃなかったのかよ!」

 

男は、それなりに名の通った盗賊だった。

小国の路地裏で生まれ、今まで他人を踏み台にしてのしあがってきた。

欲望を我慢せず、殺し奪う。

そうして生きてきた男の欲は、自分でコントロールできないところまで膨らんできていた。

 

男の背中に刃を突き立てるのは常套手段。

老人から大金を騙しとることになんの罪悪感も覚えない。

泣きわめく女子供を蹴りあげるとき、その鈍い音に絶頂すら覚える。

 

男は分かりやすく屑だった。

 

そんな男が、エルフと言う種族に目をつけたのもその強欲さ故だ。

あるいは、ただの人間の自分が見下されているなどという被害妄想から出た、身勝手な義憤だったかもしれない。

 

エルフは頭でっかちで、傲慢な間抜け。

そんなイメージを持っていた男にとって、今回の盗みは容易いはずだった。

頭の悪い下っ端を何人か引き連れて、意気揚々とエルフの森へと足を踏み入れた彼は今、体に擦り傷を作りながら必死に逃亡していた。

 

五人はいた手下はもういない。

既に番犬の餌食になった。

 

「ハァ…ハァ…ッ!ゲホっ」

 

背の高い雑草を踏みつけ、男は走行を中断した。

息を整えるために大木に背を預ける。

身を屈め、いつでも走り出せるようにしつつ辺りを油断なく見回している。

 

「──────!」

 

「ひっ……!」

 

直後、音もなく男の顔の横に矢が生える。

無音の狙撃。

避けれたのは一重にむせて頭が下がったお陰だ。

 

「逃げないでくんないかなぁ…あんたがエルフ共に追いつかれると、俺が痛い思いするんだけど」

 

まだ声変わりもしていない、気だるげな幼い声が男へと投げ掛けられた。

声がした方へ顔を向ければ、木の枝の上に立つ少年がこちらへ矢を向けていた。

 

「うるさい!ガキの癖に、俺に指図するな!」

 

男は矢が放たれると同時に、前へと転がり再び走り出す。

 

「……めんどくさ」

 

少年は弓を背中に仕舞うと、鎖を使って森を移動し始めた。

 

 

───男は再び追い付かれていた。

 

 

だが、今度男を狙うのは少年だけではない。

複数の身綺麗で騎士のようなエルフが魔法を詠唱しながら後ろに控えている。

 

その中でも特別眉目秀麗な一人の男が、死んだ目をしている少年へと指示を出した。

 

「やれ、番犬」

 

「はいはい……」

 

せめて一太刀浴びせてやる、と構える盗賊の男に向かって鎖が伸び、男の後ろ。

少年と男を繋ぐ延長線上にある木へと巻き付く。

その鎖がぐん、と引っ張られ一気に距離を詰める。

 

一直線に近づいてくる少年を盗賊は容易く切り払うが、それは致命的な隙だ。

剣を振り抜いた姿勢で固まる盗賊と、血を流しながら地に伏せる番犬。

 

───そんな二人をまとめてエルフの魔法が焼き払った。

 

「あー痛い……」

 

ナズナ五歳。

職業番犬。

早熟なエルフの幼子は、今日も今日とて逆らえば電流の流れる首輪を嵌められながら、ぼろ雑巾になっていた。

 

 

 

 

 

───私たちがお前に痛みを強いるのは、家族だからだ。わかってくれるな?

 

「はー、ほんとクソ。クソだなクソ。クソしか出ねぇ~。いや、うんこしてるわけじゃなくて。まぁ、エルフなんてうんこだけど。じゃあ一緒かぁ!あっはっはっは!」

 

はぁ…と、空元気をやめたナズナは、木の洞に隠れた小さな泉から這い出る。

 

「今日のは特別きつかったなぁ…また傷が増えたし、魔法の出力も遠慮なくなってきたし」

 

最低限清潔にしたぼろ布を纏い直し、弓と鎖を肩に背負う。

そして、雨風をしのげるいつもの洞穴(ねぐら)に帰ろうとしたその時、ナズナは一人のエルフに話しかけられた。

 

「───あなたは?」

 

「……お目汚し、申し訳ありません。何卒ご容赦を」

 

あーあ、エルフにばれた。

この泉取り上げられるんだろうなぁ。

ここ使えなくなるのか。

入ると傷がちょっとは癒えて助かってたんだけどなぁ。

そんなことを思いながら、ナズナは五歳とは思えないほどの礼節をもって頭を下げる。

 

ナズナの頭はそれほど良くない。

だから痛みを伴う経験を持ってしても覚えれたのは謝罪の言葉だけだ。

それでも、それ以外の礼節をナズナは使ったことがないから別にいいと思っていた。

 

一方、頭を下げられた方のエルフは混乱していた。

彼女の名前はアイナ・リンドール。

始祖(アールヴ)を名乗ることこそ許されていないが、ハイエルフと同じ先祖の血を引く傍系であり、ハイエルフのリヴェリア専属の侍従だ。

翡翠色の髪が僅かに風にたなびき、生来の穏和さと優しさが滲み出たその顔が、僅かに曇る。

 

なぜ子供が一人でこんなところにいるのか、城で見たことのない人間がどうして森にいるのか。

そもそも、その血の臭いが強く染み付いた体でどこに行こうというのか。

たまたま通りかかっただけのアイナはなにもわからない。

 

「えっと……もう行っていいか?」

 

「ダメです」

 

「はぁ…?」

 

だが、そんな疑問を全て蹴飛ばすようにして、アイナはその少年の手を取った。

 

「まずは治療!そのあとに事情聴取です!」

 

 

 

 

 

 

 

「リヴェリア様、お話があります」

 

アイナは、父に呼び出され不満を溜めるリヴェリアが口を開くよりも早く、頭を下げた。

 

「……なんだ?」

 

『慎みを持て』

『外の世界に興味など持つな。あそこは穢れた地だ』

などと、自分の外への憧れを否定され、アイナに思いの丈を聞いてもらおうと思っていたリヴェリアは、その怒りを全て飲み込んだ。

 

「この森を出るのにご協力ください」

 

「え」

 

あるいは、別の世界線でなら自分が言い出したであろうことを普段は穏和なアイナが言い出したことに驚いて、リヴェリアから思わず間抜けな声が出る。

 

「リヴェリア様は『スカジの一族』を覚えてらっしゃいますか?」

 

「あ、あぁ。迷信に踊らされた愚かなエルフ達の被害者だ。だが、それこそ父上が百年前にそんなものは事実ではないと切って捨てたのだろう?彼らは穏やかに暮らしていると「───違いますッ」」

 

王族の言葉を遮ってまで、アイナは感情を爆発させる。

 

「彼らは。いいえ、彼は。今なお虐げられています。親をなくし、頼る者もない彼は、未だに偏見を捨てられないエルフ達にひどい扱いを……!」

 

涙がこぼれそうになるほど悲しむアイナをリヴェリアはそっと抱き寄せる。

 

「詳しく聞かせてくれ」

 

 

 

 

 

リヴェリア達の作戦は、そう複雑なものではなかった。

自分達が本気の逃走を行うことで、森中の注意を引き付ける。

そして、その間にナズナには首輪の鍵が保管されている場所へと行ってもらって、一人で森を出てもらう。

そうすれば彼はついにエルフと言う種族から解放され、自由を手に入れる。

 

そんな机上論は、露と消えた。

 

「嘘……」

 

「…!おい、しっかりしろ!やめろっ、死ぬなッ!?」

 

計画は途中まで順調だった。

だが、彼女達は見誤った。

ナズナの花言葉通りな献身性を。

 

───彼は、逃げなかった。

 

ナズナは追い付かれそうなリヴェリアたちを降り注ぐ魔法から庇い、アイナへと振るわれた槍に貫かれた。

 

心臓ではないが、肩を貫通し地面に崩れ落ちるナズナへと思わず駆け寄るアイナたちは、他ならぬナズナに突き飛ばされる。

 

「なぜっ、私たちなんかを…!」

 

「なんでだろうなぁ。……たぶん、嬉しかったんだ。俺みたいなのに優しくしてくれた人がいたのが。ああ、世界もまだ捨てたもんじゃないって、思えたから」

 

「このっ、番犬風情がぁ!」

 

「行けよ、お二人さん。俺はきっと大丈夫だから」

 

にこり、と笑うナズナは激昂した騎士団長の剣をするりと躱す。

 

「それにほら、首輪も取れた」

 

つんのめった騎士団長を、どんと蹴るとナズナは宙返りをして地面へと着地する。

その手に、騎士団長から奪い取った宝剣を携えて。

 

「今度会ったら、もっといい首輪をくれ。あんたらからのなら、痛くなさそうだ」

 

リヴェリアとアイナは自分たちの無力さを噛み締め、走り出した。

 

「ほらほらどうしたぁ!?飼い犬に手を噛まれたので助けてくださぁいって、王族(パパ)に泣きついたらどうだ、ゴミカスエルフども!」

 

拙い嘲笑は敵を引き付ける。

今はまだ囮となって守りたい誰かを逃がすことしかできないが、いずれは盾になれたらいいのになんて。

つい昨日までの自分なら絶対思いもしないだろうその気持ちに、ナズナは薄く笑った。

 

「え、く、す、かりばー!って叫んだらビームとか出ないの?出ない?えぇ…役立たずの鈍らかよしょうもねぇ」

 

「貴様ッ!我らが誇りを愚弄するか!」

 

「そんなの知りませぇーん。べろべろばー!」

 

───この事件のあと王族に事の次第が発覚し、騎士団が処断されるのだが、始祖の森で差別があったことは公表されていない。

なぜなら、彼女たちの門出に水を差したくなかったナズナが断ったからだ。

 

リヴェリアとナズナが再会するのは約一年後。

 

『ショタエルフ取ったどー!』

 

纏うのではなく、『()()()()()()()()()()()』という体質に合わない魔法の行使で休養中の隙を、ロキに捕獲されるというサプライズで果たされる。

 

『家族だから痛みを強いて当たり前?』

 

『ふざけたことを抜かすな!』

 

『家族はそんな一方的な関係で成り立つものではない!』

 

『…私は魔導士だ』

 

『お前が身を呈して私たちを守ると言うなら、お前を私が助ける』

 

『覚悟しておけ!?お前が嫌と言うほど、私が愛してやる!』

 

一年後、ナズナに家族愛鎖が発現する。

 

ナズナは家族を得た。

一人じゃなくなった。

 

だから、ナズナは幸せだった。

 

「んー……」

 

隣で眠るリヴェリアの体温を感じながら、ナズナはより深い眠りへと落ちていった。

 





今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

リヴェリアたちが逃げた先では概ね原作通りの展開が行われていました。
強いて違う点を言うならナズナが無事森を出たという王様からの言伝が、数日後リヴェリアたちへ届けられたくらいでしょうか。

なぜナズナがリヴェリアの寝床にいたかは次回ということで。


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第十六話。神酒

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ハッピーハロウィン!(断末魔)
なんのイベント性もない、いつも通りの平日でしたが作者は元気です。


 

「ん…朝か。起きろナズナ」

 

「うえええ…あと一時間………いや、二時間」

 

「伸ばすな」

 

朝チュン。

同じベッドで横になる男女。

それだけ聞くと色気のある話に見えるが、残念ながら今のところそんな雰囲気はなかった。

 

…少なくともナズナの視点では。

ナズナはただ、昨晩アイナへの手紙を書くからと呼び出され、そのままリヴェリアの思い出話をひたすら聞かされて寝落ちしただけだ。

そのせいで昔の夢を見る羽目になったが、まぁそう忘れられるものでもないので仕方がない。

 

妙につやつやしているし、自分の唇を撫でてニヤケるリヴェリアに気付くことなく、微睡みに浸るナズナはその危機感のない顔を枕に埋めたままだ。

 

「今日は買い物に付き合ってもらうぞ」

 

「やだ」

 

「付き合ってくれるのなら、なにか酒を」

 

「んー、今日は休肝日だし」

 

「なに…?」

 

「最近酒飲まない日つくってんだよ」

 

ちなみに、最近とは三年前からである。

神ほどではないにしても、エルフという長命種からすれば三年はあっという間だ。

時間感覚がじじいばばあじゃねえか、という鋭い意見もあるかもしれないが、ナズナからすればそれは当たり前のことだった。

エルフは化石。

 

「なら、メインストリートのあの…アレだ。焼き菓子のうまい……なんと言ったか」

 

必死に思い出そうとして、頭を悩ませるリヴェリアの方を目線だけ動かして確認したナズナは、ぼそりと一言呟いた。

 

「寝ぼけてんのか?それとも普通にボケ───ぐふぅ」

 

「なにか?」

 

「なんでもないでーす」

 

拗ねたように布団に潜り込むナズナは、リヴェリアに殴られたとて大したダメージでもないので、気にすることなく睡眠に戻る。

その態度に本気で買い物に付き合うつもりがないことを悟ったリヴェリアは、最後の手段を切ることにした。

 

「仕方ない…なら付き合ってくれたら私の処じ───「言わせねぇよ!こえーよ!重たいよ!たかが買い物だろ!?」…ふっ、なんだ?買い物に付き合ってくれる気になったのか?」

 

布団から飛び起きたナズナは、愉しげに笑うリヴェリアの顔を見て、疲れたようにため息をついた。

 

「はいはい降参。わかりました行きます。行きますよ。行けばいいんだろ?あーあ、今日は一日寝るつもりだったのに……」

 

「顔がにやけてるぞ?」

 

「老眼だろ」

 

 

 

 

「お、たこ焼きの匂い」

 

「待て、そっちは横道だっ」

 

「あむ、はふ…っ。…なぁリヴェリア。たこ焼きとイカ焼きって名前似てるのになんであんなに見た目ちげーの?」

 

「はぁ…はぁ…そんなこと、私が知るか…!」

 

「え、なに?次は焼きそば?ハイエルフ様ってば食いしん坊だなー」

 

「言ってないだろうそんなこと!?」

 

穏やかな陽気に包まれるメインストリートを歩くリヴェリアは、すぐ出店に釣られて横道にそれるナズナの首をつかみ、時に取り逃がし、目的地へと向かっていく。

 

「やっと着いた…」

 

そうして、まるで言うことを聞かない犬の散歩のような振り回され方をしたリヴェリアは、店につく頃には疲労困憊になっていた。

 

着いた先は冒険者通りに面する敷地にある二階建ての道具屋『リーテイル』。

アイテム、と言っても色々あるがリーテイルはそれこそなんでもある。

ポーションに解毒薬、エリクサーなどを各商業系のファミリアから仕入れて似た効果でも微細な違いを持つ商品が多数仕入れられてたり、食料雑貨と銘打って酒の類いが置いてあったり。

アクセサリーや小物、食器類。

 

冒険者が買うものならなんでも揃えるという店側の心意気を感じる品揃えだ。

もちろん、冒険者用のアイテムは専用のファミリアの出している店に出向く方がより質のいい物が手にはいるが、普段使いの安価なものであれば、メインストリートに面したこちらの店で購入する、という冒険者が多いのは事実だった。

 

とりあえずなんか面白いものないか見てくる!とリヴェリアに告げたナズナはもう見えない。

店内の娯楽雑貨のある二階へと消えていった。

 

「…エイナか?」

 

「えっ」

 

そんな品揃えのいい店で、目的のポーションの類いが置いてある棚を見ていたところ、リヴェリアは知り合いの姿を見かけた。

知り合いと言っても、会ったのは十数年前で、それも相手がかなり幼かった時の話だ。

あの頃はまだリヴェリアのレベルもそこまで高くなかったことから、都市からの外出許可も今より降りやすかった。

会いに行っていた本命はリヴェリアと共に森を出た従者のアイナだったが、その娘であるエイナとも何度か顔を合わせていた。

 

都市最強の魔道師になってしまった最近ではもうろくに外出許可が降りず、手紙のやり取りがメインとなってしまっているが。

 

「リヴェリア様!?」

 

「やはりお前か。久しいな、少し見ないうちに随分と綺麗になった。見違えたぞ」

 

少し(十数年前)。

ナズナがその場にいたのなら、呆れられるか、からかわれていただろう。

もっともそんな自覚本人にはないのだが。

 

「お久しぶりです。ご連絡しようとは思っていたのですが、ギルドに入ってしまったのでそう易々とは…」

 

「気にするな。元気そうで何よりだ。私もこの都市に身を置いてからはダンジョンにもぐる毎日だ。ずるずると後回しにしてしまう気持ちはわかる」

 

恐縮しながらも、エイナからは過度な堅苦しさは感じない。

それを嬉しく思いながらも、同時に少しばかり疑問に思ったリヴェリアは、素直に尋ねることにした。

 

「しかしその程よい砕け具合。誰かにレクチャーでも受けたのか?その者には是非とも他のエルフにも啓蒙活動してもらいたいものだな」

 

「ええと、その。……ナズナさんに仕事中に他の冒険者と接するのと同じような感じでいいと」

 

「あいつか…」

 

あははは、と笑って誤魔化すエイナの顔には冷や汗が一つ。

エイナの脳内には、たまに顔を見せにやって来ては妙に自分の母と意味深に見つめ会う瞬間のあるナズナの呑気なサムズアップが浮かんでいて、今更ながらに後悔していた。

思い返せばどうしてあんなろくでなしのアドバイスを聞こうと思ったのか。

ハイエルフへの尊敬はないし、自分の父をキャバクラへと誘うし、酒にも時間にもだらしない典型的な冒険者。

 

『お母さんー?エイナねー、大きくなったらナズナと結婚するの!』

 

『あらあら』

 

『なぁおっさん。妻子持ちだと息も詰まるだろ?そこでどうだ、ここにみんな大好きおっぱいを拝める素敵なチケットが2枚ある』

 

『みんな大好き…』

 

『おっぱいだ。別に悪いことをするわけじゃねえ。ただ魔法のチケットを消費するだけだ』

 

『なるほど、頭いいな君!』

 

『あなた?』

 

昔あれに憧れを感じていたという過去を消し去りたい。

現状のエイナの好み(白兎)のことを考えれば、ナズナの爪痕(ショタ性癖)が見えないこともないのだが、エイナにとってナズナはもはや自分の恥ずかしい過去を知るうざい親戚のおじさんのようなポジションになっていた。

 

「すいません失礼でしたよね……」

 

「ん?なに、気にするな。実際その尊敬と気安さの同居した距離感は私が好むところではある。そのままでいい」

 

なんとなくナズナにしてやられたような気がするから若干思うところがあるだけで、エイナとの距離感に心地よさを感じているのは事実だった。

ナズナほど遠慮なくとは言わないが、こういうのでいいんだよこういうので。とリヴェリアは内心でごちる。

 

「リヴェリア様はどうしてここに?」

 

「私は冒険者らしくアイテムの補充だ。荷物持ちにナズナも連れてきたんだが、あいつは今二階にいる。エイナの方はどうした?」

 

「その。少しソーマ・ファミリアのお酒について勉強したいと思いまして」

 

ちらり、と目線が確認するのは一つの酒瓶だ。

透明なガラス瓶で白紙のラベルにただ『ソーマ』と書かれているだけの酒だが、他のに比べて明らかに売れ行きがいい。

お値段なんと六万ヴァリス。

飲んだこともないお酒にそれだけのお金を払えるほど、エイナは飲兵衛ではなかった。

 

「ほう、この酒か。私のファミリアでも愛好している者は多いな」

 

「……このお酒を嗜んでいる方で、依存症とか、少し普通じゃない症状を引き起こしている方はいらっしゃいますか?」

 

エイナが少し、迷うようなそぶりをしながら踏み込んだ質問をしてくる。

そこにリヴェリアは何らかの意図を感じながらも、思い当たった答えを告げてやる。

どうせ身内の恥だ。

リヴェリアの恥ではない。

本人にとっては休肝日を作るくらいには黒歴史らしいが、いい薬だ。

 

「一人、ランクアップしたな」

 

「え?」

 

「いやなに。ナズナの話だ。あいつはとある酒場で出されたこの酒でべろんべろんになり、常軌を逸した行動によってレベル7になった。……だが、エイナが聞きたいのはそういうことではないのだろう?」

 

片目をつぶり、エイナを見つめるリヴェリアを前に、観念したように彼女は白状した。

 

「うっ、はい。その、担当している冒険者がソーマ・ファミリアの方とパーティーを組んでいて。他の団員の方の様子を見ているとつい、なにかトラブルに巻き込まれてしまうのではないかと……」

 

その少女の献身に、リヴェリアはギルドの職員としての領分を越えている、という小言を引っ込めた。

これが若さか、と少し眩しいものを見るように目を細めながら、リヴェリアは微笑んだ。

 

「まぁいい。生憎私は詳しくないが、あの派閥の事情に少なからず精通している人物なら心当たりがある」

 

「えっ?」

 

「付いてくるか?私たちの【ファミリア】のホームに」

 

 

───このあと、ソーマの匂いにつられたロキからソーマ・ファミリアの実態が語られたり、妙に落ち込んでいたアイズがランクアップしてレベル6になったりしたが何事もなく一日は過ぎていった。

 

ナズナは黒歴史を思い出して悶えた。

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。 
3巻が始まりました。
この巻は大事なイベントが多いので頑張ります。
ただ、導入の回なので少し内容が薄くなって申し訳ありません。

お慈悲で心に優しい感想や評価を頂けるととても嬉しいです。



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第十七話。交差

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せっかくの三連休なので1日一話は投稿したいなと思っています。

そして、今回は原作主人公が登場します。
するだけですが。
ベルとナズナが会話をする日は来るのか、作者にはわかりません。
たぶんベルが光属性すぎて、汚れ主人公が消し飛ぶイメージしかできないせいです。


 

「なぁー俺ついてくる必要あった?別に一人でよくねぇ?」

 

「前の遠征の帰りの時。じゃんけんに勝った分、ダンジョン探索に付き合うって」

 

「言っ……たな。うん。めっちゃ言った記憶あるわ」

 

ダンジョンへと続くメインストリート。

活気のある大通りとは裏腹に、景気の悪い顔をした男女が一組。

片や何やら落ち込んでおり、もう片方は駄々を捏ねていた。

 

通りを進んでいく冒険者や商人が思わず見惚れる美形の二人組は、アイズとナズナだ。

2人は今日、連れ立ってというよりはナズナが引きずられるようにして黄昏の館を出発していた。

自分の布団で微睡んでいたところを叩き起こされたナズナは、とりあえず盾と鎖、アイテムポーチを引っ掴んできたので深層でも余裕だろう。

ついでにアイズから渡されたサポータ用のバッグを背負っていたが、今のところ中身がないのでぺちゃんこだった。

 

「それにナズナとなら、下れる階層も増える」

 

ロキ・ファミリアにおいて単独での探索の許可が出る階層というのはレベル毎に決まっている。

だが、フィン、リヴェリア、ガレス、ナズナが同伴する場合において、その階層はより深くなり、ナズナの場合だと深層すら許可が出る。

 

「でもあれ俺がタンクする前提のルールなんだけど」

 

「ナズナは手を出さないで」

 

「いや、だから」

 

「ナズナは、手を出さないで」

 

「……」

 

危なくなったら止めよう。

落ち込んでる反動なのか、モンスターに八つ当たりする気満々のアイズとの会話を切り上げたナズナは、ため息をついた。

このパターンはどうせいっても聞かない。

ナズナの経験則がそう言っていた。

 

リヴェリアなら、目を離したら確実に爆発するから目の届くところで、みたいなウダイオスの時のように特殊な事情でもない限り許可はしないだろう。

フィンなら理論と感情論を組み合わせて誘導してくる。

ガレスは許可を出さない代わりに組手をしてくれる。

 

ならナズナはどうか。

その答えがそこにはあった。

要するに、ナズナはアイズにとって都合のいい男なのだ。

潜れる階層も増えるし、アイズを止めないし、荷物も持ってくれるし。

神々風に言うならアッシー君だ。

 

家族に頼られて嬉しいナズナと、ダンジョン探索に行きたいアイズ。

Win-Winで対等。

何も問題はなかった。

 

ちなみに、このことがリヴェリアに知られると両方に雷が落ちる。

 

『アイズを甘やかすな。あの子に悪知恵がついてきたのはお前のせいではないのか?これだからお前は───』

 

子供の育成方針に悩む夫婦喧嘩のような会話が繰り広げられることになるのがお約束なのだが、バカと天然は反省した試しがない。

 

 

 

 

「───ナズナさん!」

 

「うおっ、って。エイナじゃん。昨日ぶり」

 

勢いよく駆け寄ってきた受付嬢に向かって、呑気に手をひらひら振るナズナに向かってエイナは掴みかかりそうな勢いで、詰め寄った。

 

「助けてください!」

 

「あん?」

 

「……!あ、す、すいません。無礼を承知の上で申し上げます。私の担当冒険者を、ベル・クラネルを助けてください」

 

ナズナの訝しげな視線に、エイナはすぐに我を取り戻すと、今度は深々と頭を下げた。

 

「…特徴は?あと、ついでに最高到達階層も教えてくれ」

 

「えっと、白髪で赤目のヒューマンの少年です。こないだ7階層に到達したって…」

 

「ん、なら最悪中層まではいってねーな」

 

「それにイレギュラーなモンスターによる問題というわけでもないので緊急性はそこまで高くはないと思います」

 

「ソーマ・ファミリアねぇ」

 

ソーマ・ファミリア。

悪巧み。

巻き込まれつつある少年とそのサポーター。

エイナから情報を聞き出していたナズナの横からアイズが、おずおずと顔をだした。

 

「あの」

 

「あ、ヴァレンシュタイン氏。すいません、挨拶が遅れました」

 

「大丈夫です。それよりその子、ミノタウロスに襲われてた……?」

 

「は、はいっ。先日は私の担当冒険者を救って頂いてありがとうございました!」

 

「そいつ、隠しアビリティ【不幸】とか持ってんの?」

 

笑顔を浮かべるエイナに対して、アイズの首は折れる。

それこそ重力を感じさせるほど。

 

「……私、怖がられてないですか?」

 

「え、えぇ……?」

 

「こいつ、その冒険者に何度も逃げられてるんだと。初対面でミノタウロスの血をぶっかけたからなんじゃないかって、落ちこんでんだよ」

 

膝枕とか。

アイズなりに歩み寄ろうとして、その全てに失敗しているらしい。

聞けば最近落ち込んでるのもそれが原因だった。

 

困惑するエイナにナズナは説明をしながら、アイズの首根っこを掴む。

 

「とりあえず先にその厄介事をどうにかしてからだ。助けが必要なのか、ただの杞憂なのかも含めてな」

 

「うん……」

 

「あの、ヴァレンシュタイン氏!ベル君は、ベル・クラネルは、貴方に助けてもらったことを本当に感謝していました!」

 

落ち込んでいる姿が見てられなかったのか、エイナの伝えたその言葉にずるずると引きずられているアイズは軽く目を見張り。

そして確かに、その目元を和らげ、小さく微笑んだ。

 

「いや、自分で歩けよ」

 

「うん、私もそう思ってた。ナズナちっちゃいし」

 

「は……?」

 

 

 

 

 

「……ん、まぁ。危なげないか見てたが、問題なかったなぁ」

 

いらない心配、余計なお世話。

いろいろ言葉は浮かぶが、とりあえず漢を見せた少年の邪魔にならないようにナズナは退散することにした。

 

聞き込みをして彼女の担当冒険者だという少年を探し、10階層でピンチになっていた彼を助け、とりあえずこのあとダンジョン探索をするつもりのアイズをその場に残し、ナズナはお礼もそこそこに駆け出した少年のあとを追った。

 

その先で見たのは、一人の少女のために奮闘する少年の戦い。

なんだかタンクとして自分の原風景(誰かを守ること)を改めて思い出させてくれるような戦いを見たナズナは今、機嫌が良かった。

 

「離せっ!離しやがれ!このクソガキがぁ!」

 

よっこいせと、鎖でがんじがらめにした悪人4名をまとめて背負う。

彼らはキラー・アントを使って殺人と恐喝の罪を犯していたが、普通にナズナに逃げるところを見つかり捕獲されていた。

捕縛のきっかけは、彼らが得意気に一部始終を話していたからだ。

バカかな?

 

「うるせえなぁ…」

 

彼らに一瞥もくれることなく、ナズナは彼らから剥いだ身ぐるみをとりあえず、涙を流す少女と白髪の冒険者のいるルームの一つしかない出入り口に置いておく。

魔剣や金時計に鍵、その他アイテムに加えて、男物の装備や下着が四つずつ。

汚くて臭い衣装だが、売れば10ヴァリス(ぞうきん)くらいにはなるだろう。

 

ついでにポーションも二つ置いておく。

 

「すいませんせめてパンツを履かせてくださいませんかお願いします!」

 

「やだね。ついでにお前らの罪状は幼児強姦未遂罪だ。俺がお前達を人気者にしてやるよ、ロリコンノーパンマンとしてなぁ!?」

 

「嘘だろ!?それならまだ強盗とか殺人未遂の方がいいんだが!?」

 

「いいわけねーだろ舐めてんのか」

 

「まじだよこの人。マジもんの目だ!社会的に死ぬぅ!」

 

口々に言い募ってくる全裸の悪党四人組を適当にあしらいながら、ナズナはギルドへ報告しに戻るのだった。

 

「おい、誰だ興奮してるやつ!俺の尻に硬いのがあたってんだよ!」

 

「へへ、ゲドの旦那。すいませんね」

 

「すいませんじゃねえよ!」

 

後日、露出狂のロリコンを排出したソーマ・ファミリアはギルドからペナルティを食らうのだが、このファミリアが心を入れ換えるのはもう少し先のはなしだ。

あと、ロリコン扱いされる彼らが【リリルカ・アーデ】の生存を団長に伝えたりしたが、普通に信用がなくなっていたので行方不明(死亡済み)として扱われることになる。

 

『これ…リリの荷物?え、男物のパンツ?』

 

『違います!ああいや、違わないんですけど!誰ですかこんなゴミを置いていったバカは!親切さと迷惑さがレベル7なんですよ!』

 

 

 

 

「おーいアイズ、とりあえず一通り終わったぞ」

 

「うん…」

 

「どうかしたか?」

 

「あの、冒険者依頼(クエスト)受けちゃって……」

 

「????」

 

ダンジョンの中で?

しかも目を離したちょっとの間に?

 

意味がわからない、という顔をするナズナを前にアイズはばつの悪そうな顔をする。

 

「その、例の『宝玉』と関係あるかもしれないって」

 

宝玉。

それについてもちろんナズナは聞き覚えがあった。

確か、リヴィラの街でフィンたちを襲撃した人物が探していたものであり、モンスターを変異させる効果もあったとか。

それにアイズの母親とも何らかの関係があるとかないとか。

 

それと関連性のある事件が、現在24階層で起こっているらしい。

 

「そういやなんか上の方で冒険者がぼやいてたな。24階層で大量発生がどうのって」

 

アイズの所に早く帰りたくて、エイナに犯罪者を預けたあとさっさとダンジョンへと戻ったから、詳しくはわからないが。

 

「ま、行くか」

 

「え?」

 

「つーかもう受けちゃったんだろ?ならいちゃもんつけられないように行くしかねーだろ」

 

どうせここで止めたところでナズナを置いて一人で行くに違いない。

 

「良かった。ロキへの伝言にナズナも一緒にいきますって書いちゃったから……どうやって説得しようかなって、考えてた」

 

「この天然ちゃんめ」

 

アイズといるといつもこうだ。

なぜ俺が保護者みたいな真似を、とぶつぶつ呟きながら、ナズナとアイズは協力者がいるという18階層へと向かうのだった。

 

 

 

 

「黄金の穴蔵亭?知ってるけどますますうさんくせーな」

 

アイズが集合場所だと言う黄金の穴蔵亭は知る人ぞ知るアングラな酒場だ。

人気のない裏道にあり、リヴィラを長年利用していても存在に気付いていない冒険者だって数多くいる。

逆にここに酒を飲みに来るやつを『通だ』とかいうやつは、だいたい後ろ暗いことをしている連中だ。

 

この酒場はドワーフが店主をやっていて、たまにご禁制の品の取引やら違法なレートの賭博が行われていたりする、治安のある意味でいい場所だ。

誰も彼も、ここでは滅多に騒ぎは起こさない。

ダンジョンで貴重な酒を飲めるこの場から、誰も出禁にされたくはないのだ。

 

「よぉ店主。久しぶり」

 

「おう、お前か。なにも問題起こさないでくれよ」

 

「あれは俺に喧嘩売ってきたあいつがわりーんだよ」

 

それは遠征よりも少し前くらいの頃。

ナズナは18階層に最近たどり着けるようになったばかりのお上りさんに絡まれたことがある。

 

『あ?パルゥムの癖に何上等な酒飲んでんだ?』

 

『エルフパンチ!』

 

『ゲボァ!?』

 

『だーれが小人じゃ、目ん玉ついてんのか!?そこまで節穴ならその目についてるのはなんだ?ビー玉か?なら俺にくれよ!壁に叩きつけて砕く遊びに使うからよおおおおおおお!』

 

『ちょ、もうやめてやれって!そいつ最初の一撃で気絶してるから!やめ……、やめろって!もうやめろって!!』

 

『うるせええええええ!冒険者のくせに舐めてかかった相手にボコされて文句あるやついる!?いねえよなぁ!?金玉潰すゾ!』

 

『誰かレベル7より強い人呼んでー!』

 

そんな騒ぎを起こしておきながら慣れたように挨拶を交わすナズナの後ろから、アイズが興味深そうに回りを見渡している。

 

「んん?あれっ、剣姫じゃないか!こんなところで奇遇だな!」

 

「ルルネ、さん?」

 

アイズに親しげに話しかけてくるファミリア外の人物というのに大変興味の引かれるナズナだったが、とりあえず店内を軽く見渡す。

 

そして、一人の冒険者を見つけるとニヤニヤと近づいていく。

 

「───お前か。協力者ってのは」

 

「……お久しぶりです。最近は縁がありますね?」

 

「声震えてんぞ」

 

「放っておいてください!」

 

水色の滑らかな髪の一房が白く染まっている。

銀製の眼鏡は知的な印象を与えるが、そのレンズの奥にある髪色に近い碧眼には、疲れが滲み出ていた。

 

アスフィ・アンドロメダ。

怪物祭の際にレフィーヤの並行詠唱の訓練の実況をしていた神ヘルメスが率いるファミリアの団長であり、オラリオに五人もいない『神秘』というレアアビリティの持ち主。

万能者(ペルセウス)】の二つ名を持つ稀代の魔道具作成者。

 

「ああもうっ。ヘルメス様の我が儘だけでも面倒は十分だというのに、こんな厄介事まで……!」

 

そんな彼女は、アイズと俺がいて苦戦するクエストなんてそうねーだろと楽観するナズナの横で頭を抱え込んだ。

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

今日から三日間がんばりますので、心に優しい評価や感想頂けるととても嬉しいです。


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第十八話。食料庫


本日2話目の投稿です。
よろしくお願いします。


 

アイズとナズナが、アスフィたちと18階層を降りた頃。

地上ではひとつのパーティーがダンジョンへと足を踏み入れようとしていた。

 

「きょ、今日はいい天気ですねー?」

 

「これからダンジョンに入んのに天気も糞もあるか」

 

「…………」

 

レフィーヤにベート、フィルヴィス。

主神同士の話し合いの場に来たアイズからの伝言をきっかけに、24階層へと向かうことになった冒険者たちだ。

 

「うう……」

 

レフィーヤは、気まずい思いを押し退けて必死に話題を振ったのに、と顔をうつむかせる。

 

「あ、ああ。すまない、少し周囲を警戒していただけだ。別に私はお前を嫌っているわけでは…!」

 

「本当ですか!?」

 

慌てたようにフォローをしてくれるフィルヴィスにレフィーヤが顔をぱあっと輝かせるが、ベートが吐き捨てるように鼻で笑った。

 

「んなもんどーでもいいからさっさといくぞ。仲良しこよしになる必要がどこにある」

 

「私も貴様と馴れ合うつもりは毛頭ない。ただ、私とダンジョンに潜る以上、トラブルは起こる腹積もりでいておいてくれ」

 

あァ?とベートが怪訝な顔を向ける横をすり抜けるように、フィルヴィスはダンジョンへと足を踏み入れた。

 

「私は呪われてるからな。死妖精(バンシー)とダンジョンに潜る覚悟はいいか?」

 

「はっ、上等だ。せいぜいモンスター相手に魔法(うた)でも歌ってろ」

 

「ベートさんっ」

 

くるり、と二人へと振り返り挑発的な笑みを浮かべるフィルヴィス。

フィルヴィスの挑発を前に、凶悪な笑みを浮かべて戦意を滾らせるベート。

失礼ですよっ!と苦言を呈しながら追いかけるレフィーヤ。

 

三人の少数精鋭パーティーは存外和やかに(当社比)ダンジョンの奥へと進んでいった。

 

 

 

 

 

24階層への正規ルートをナズナたちが進むこと暫し。

レベル7とレベル6が揃って、危なくなる場面というのが存在するわけもなく。

なんならほとんどの場面においてナズナが手を出すまでもなくアイズが全てを惨殺した。

 

「おらおら道を開けろモンスター共!レベル7とレベル6のお通りだ!」

 

「待ってくださいさすがにドラゴンは無茶ですよ!?」

 

「うるせぇ、行こう!」

 

「そんな雑な台詞で説得されてたまりますか!そういうのはもっと貫禄と好感度を積み上げてからですよ!」

 

「ヒャッハー!略奪の時間だ!突撃ー!」

 

「話を聞け!」

 

途中ナズナがホワイリーフ(金目のもの)欲しさにパーティーを離れてモンスターに囲まれたり、青や赤の美しい宝石を宿す金のなる木『宝石樹』を前にナズナが木竜(グリーンドラゴン)へと突撃したりするというハプニングはあったものの、それもやはりアイズとナズナが簡単に討伐した。

 

───ナズナとの冒険は安全が保証されるが、冒険にはならない

 

何時だったかナズナの情報を収集した時に、ロキ・ファミリアの団員たちが口を揃えて言ったその言葉の意味をアスフィは今ようやく、本当の意味で理解した。

ダンジョンの進行速度を重視するために本気を出したナズナのスキルのお陰で、アイズ(第一級)やアスフィたちが横から全力の攻撃をしたところでナズナ以外が狙われるようなことはなかった。

中層とはいえ、ドラゴンの範囲攻撃すら封じてしまうナズナの囮性能はやはりイカれている。

 

「もう全部彼らだけでいいんじゃないですか……?」

 

「帰っちゃう?」

 

あまりにも一方的な戦いを目にしたヘルメス・ファミリアの面々の目が死んでいく。

そんな愚痴を地獄耳を持つナズナが聞き逃すはずもなく、彼女たちへと叫んだ。

 

「おいそこの目をどろどろ濁らせてる二人!帰るってんならこの宝石はいらねぇよなぁ!?」

 

「なにやってるんですかルルネ、行きますよ!」

 

「アスフィお前……」

 

「なんですか、やるってんですか!うちのファミリアはこないだヘルメス様がやらかしたせいで財政難なんですよ!」

 

その言葉に、なにかを思い出したヘルメス・ファミリアの面々はうんざりした顔をしてから、アスフィのあとに続く。

彼らは、娯楽好きの神々なら絶対流行る!と豪語した主神の思い付きで、現在地上にRPG系体験型アトラクション『ダンジョンハウス』なるものを作らされていた。

『神々でも冒険できる迷宮アトラクショオン!』が売り文句のそのエセダンジョンは、ファミリアのほぼ全財産が吹き飛ぶレベルの規模になってきている。

なお売り上げはまだない模様。

 

主神のわがままに振り回されるのが眷族たちの常ではあるのだが、ヘルメス・ファミリアはたぶん一回くらい主神を殴っても許される。

 

 

 

 

 

「なっ……」

 

そんな安全な冒険も終わりを告げる。

 

「か、壁が……」

 

「……植物?」

 

ナズナたちの前に現れたのは、通路を塞ぐ巨大な大壁だった。

不気味な光沢とぶよぶよと膨れ上がる表面。

気色の悪い緑色の肉壁はアイズたちの前に立ちはだかり、進路を見事に遮っている。

 

「うーわきっしょ」

 

「ルルネ、この道で確かなのですか」

 

「ま、間違いないよっ!私は食料庫に繋がる道を選んできたんだ、こんな障害物は存在しない……筈なんだ」

 

慌てて地図を見直すルルネだったが、ナズナが口を開く。

 

「合ってるよ。まぁ、食料庫に向かう道は他にも何本かあるが、ここが一番近道だな」

 

「わかるのですか?」

 

「そりゃまあ、これでも地形把握に探索は一通りできるんだぜ」

 

ナズナの意外な一面にアスフィが目を見開く。

 

「うん。ナズナは案外出来る子……」

 

「お前俺の方が年上なの忘れてないか?」

 

とはいえ、剣姫のフォローもあり、信じることにしたようだ。

それにナズナが適当を言っていたところで、ルルネや他のメンバーできちんと裏を取れば良いだけだ。

 

「一先ず、他の経路も調べます。異常があった場合は直ちに戻ってきなさい」

 

というアスフィの指示が出て散っていった他の冒険者たちによる報告をまとめると、やはり他の経路も同一の肉壁によって塞がれてしまっているらしい。

 

食料庫に行かせたくない、という何者かの隠すつもりのない意図がばりばり醸し出されていた。

 

「どうやら、あのモンスターの大群は大量発生ではなく、大移動ということのようですね」

 

「よくわかんねーけどこの先にいるやつボコせば解決だろ?」

 

「まぁそうなんですけどね」

 

「斬りますか?」

 

地道な調査に飽きてきたらしいナズナとアイズはもう正面突破する気満々だった。

思わぬところで脳筋二人の手綱を握ることになってしまったアスフィは、誰でも良いから変わってくれないかなと他のメンバーに目を向ける。

 

「…………」

 

その目線に気付かない振りをして、各々武器の手入れとか土いじりを始めるのを見て諦めたアスフィは、ややあって口を開いた。

 

「……はぁ。情報が欲しいので斬るのは待ってください。魔法を試します、メリル」

 

大きなとんがり帽子の小人族の少女が魔法を詠唱をするのを見ながら、ナズナは保存食の一つを鞄から取り出して、口に放り込んだ。

 

「チョコ味うまー」

 

 

 

 

食料庫。

モンスターの栄養源となる液体を生む水晶の大柱があるダンジョンのエリアの一つ。

平時なら水晶が緑光を放ち、神秘的な雰囲気を醸し出している給養の間。

 

ナズナやアスフィたちが壁と通路を越えてたどり着き、見たのは通常の食料庫とはかけ離れた景色だった。

戦闘中にアイズとは分断されたが、ナズナは特に心配していなかった。

家族と分断されたことにキレてはいたが。

 

「宿り木?」

 

ここまでの道のりと同じように緑の肉壁に侵食された広大な空間を、特大の石英(クオーツ)が赤く照らしており、その石英の大柱には巨大なモンスターが寄生している。

 

その数三体。

食人花と酷似しているものの、そのサイズは十倍近く大きく、花の数も三輪だ。

その色合いから蔦にも見える触手を絡み付かせ、柱の表面にくまなく行き届かせている。

そして、そんなモンスターに取りつかれる柱の根本にナズナたちが『宝玉』と呼んでいる、胎児を内包した緑色の球体が取りついていた。

 

「養分を吸ってんのか、あのきしょいの」

 

何かを吸い上げるような奇音に眉を潜めるナズナは、すぐに意識を切り替える。

その寄生虫のごとき胎児を守るように、ひとつの集団が現れたからだ。

そのローブ姿の集団に、ナズナの目がスッと細くなる。

 

「侵入者を生きて帰すなぁ!」

 

「まーた闇派閥か」

 

彼らが名乗った訳ではない。

だが、ナズナはその集団の目を知っていた。

昔と纏う雰囲気だって変わっていない。

ナズナはこないだまですっかり忘れていたが緑肉を闇派閥の27階層の作戦時に見たという話もある。

元から共闘関係にあるのか、それともあの地獄で共闘関係になったのか。

 

そんなことナズナの頭では予想もつかないが、少なくとも彼らが闇派閥であるということは一目で理解した。

 

「おい、あいつらやる気満々だぞ!」

 

「応戦します。こちらとしても彼等がここで何をしているのか聞き出さなくては行けませんからね」

 

戦意を滾らせる闇派閥に負けじと、ヘルメス・ファミリアの面々も武器を構える。

だが、それよりも早くナズナが動いた。

 

「───殺せ!」

 

彼等が飛びかかるよりも早く振るわれた付与魔法つきの鎖は、まとめて闇派閥の首をハネる。

まるでゴム毬のように目以外全てを頭巾で覆った頭部が宙を舞い、鈍い音を立てながら躯が地面へと落ちる。

 

「うるさい。お前たちに割く尺なんて存在しねえんだよ」

 

がり、と魔力を補給するためにアダマンタイト鉱石を噛み砕くナズナの視線はすでに無駄死にした闇派閥の残党にはなく、その奥。

 

争いを静観する白ずくめの男へと向けられていた。

 

「それについては同意させてもらおう。神に縛られる愚者共、という意味では貴様も同じだがな?」

 

「はっ、そんなちょっとおしゃれな原始人みたいな格好の男に言われてもな」

 

「なんだと?」

 

白色で体型が浮かび上がるくらいかなり薄手の布(タイツ)でお腹と太ももを覆い、腰布と肩回りの布切れ一枚という格好をした男は、どうやらこのシリアスな空気で服装について言及されると思っていなかったらしい。

 

だが、物心着いたときからエルフの森で侵入者を狩ってきたナズナには、人を殺すことへの抵抗感なんて一切ない。

平時と変わらぬ調子でナズナは笑う。

なんなら石を補給して活力を取り戻したナズナは、いつもより元気ピンピンだった。

 

「もしかして極東のふんどし履くの失敗した?下着垂れてますよ」

 

ぶふ、とヘルメス・ファミリアの数人が吹き出す。

それが気にさわったのか、白タイツ男は声を荒げる。

 

「ええい笑うな!私はお尋ね者なんだから仕方ないだろう!服だって選べる立場じゃないんだ!」

 

「え、もしかしてそれ人に選んでもらったの?もしかしてかーちゃんか?かーちゃんコーデか?だはははは!その年で!母親コーデ!もしかしてサイズがピチピチなの試着してないからなのか!?うひひひ、だせー!まだ闇派閥の方がまともな格好してんぜおい!」

 

「うるさい!ほっとけ!あと母親ではない!仲間の一人だ!……まぁ、あいつの服のセンスがあまり良くはないのは確かなんだが…」

 

「男ならてめえの下着と服くらい自分で決めな!デートで幻滅されても知らねぇぜ?」

 

「ほざけ!食人花(ヴィオラス)っ!」

 

男が叫ぶとと同時に、大空洞中のモンスターが一斉に首をもたげた。

 

「うわマジ切れか?図星をさされて顔真っ赤にするとは恥ずかしい奴め!」

 

「貴様は必ず殺すっ!」

 

「私たちで花をやります!全員構えなさい!」

 

───食料庫の大広間での第二ラウンドが始まった。

 

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

明日も投稿できたらいいなぁと思っています。
出来ることなら心に優しい感想や評価が欲しいですが、めんどくせぇ!って方はここすきしてください(強欲)。


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第十九話。白髪鬼

お気に入り登録、感想、評価、ここすき、誤字報告ありがとうございます。

毎日投稿2日目です。
今日の更新が一話だけなのは、ハルヒ二次とかいうあまりにもニッチで無謀すぎる更新の止まった過去作をなんとかしようとしていたからです。
どうにもなりませんでした。


 

ナズナと白ずくめの男との戦闘は、それほどの激戦にはならなかった。

硬さが端から比べ物にもならないからだ。

 

「くそがぁ!」

 

「くそなのはお前のファッションセンスだろ」

 

「こいつほんとむかつく!」

 

ナズナは脳筋で、バカだ。

なんなら戦いのセンスなんて欠片もない。

典型的なステータス頼りの上級冒険者だと言えるだろう。

 

技術や駆け引きを大事にするフィンたちがトップなロキ・ファミリアにおいてあまりにも異端な冒険者だ。

だが別に、ナズナはそれでいいと思っている。

ナズナの目指すのは戦える人間ではなく、誰かの盾になる人間なのだから。

 

確かにナズナに駆け引きなんてものはほぼない。

だからこそ、そんなものがなくてもナズナは強くあれるように鍛えたのだ。

得意の戦法である回避不可のカウンターを成立させているのだって、技術ではなく硬さありきのものだ。

 

攻撃と同時に防御は出来ない。

だから、殴られた瞬間に殴り返せば攻撃は必ず当たる。

コンマ0のずれなく、防御を抜けなかった相手へと振るわれる拳。

都市最速のアレンすら離脱が間に合わないそのカウンターに対応できるのは今頃海上にいるであろうレオンと付き合いの長いフィンだけだ。

ガレスとオッタルは気にせず殴ってくる。

 

つまりナズナを倒すには鎧を展開される前に喉を潰す必要があるのだが、ナズナの首にはきちんと防具が嵌めてある。

 

───チョーカーとは名ばかりの首輪が。

 

アイズのデスペレートと同じ不壊属性。

リヴェリアの独占欲がゴリゴリに出た、ちょっと重たすぎるその首輪をナズナは十数年つけっぱなしにしている。

 

それがなくとも、レベル7の盾術を抜けて攻撃を当てるのが至難の業なのだ。

ぶっちゃけクソゲーである。

 

駆け引きを成立させないぐらいに硬く。

誰よりも前に出て、誰よりも強くなるために。

それはまるでつぶれた豆がより皮膚を硬くするように、ナズナは誰よりも傷つき誰よりもその皮を破ってきた。

 

その結果が、ロキ・ファミリア唯一のレベル7。

恐らく、きっかけがあればナズナは一発芸なしでレベル7になっていたことだろう。

酔いに任せた一発芸だけでたどり着けるほどレベル7は安くない。

外聞は悪いけど。

それにオリハルコン喰いも安くないけど。

 

「ぶっ飛ばして行くぜべいべ!」

 

バカは誰よりも自由に空を飛ぶ。

 

テンションに任せたナズナが、自爆して相手を吹き飛ばすのと同時に、一条の雷鳴が大空洞に響き渡る。

白ずくめの男が爆風に吹き飛ばされるその直前に見たのは、暴れまわる狼人と杖を構える二人のエルフだった。

 

 

 

 

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】ッ!!」

 

白タイツを完封して自爆で吹き飛ばしたナズナと、追いついてきたレフィーヤの魔法が食人花を焼き払い、場は一時的な平穏を取り戻す。

壁や天井を埋め尽くす蕾が花開くと食人花が生まれるという状況ではあるが、大空洞にいた食人花の群れももういない。

 

ベートは場が安定したのを確認してからアイズを加勢しにいった。

あの俊足と鼻なら、すぐにアイズを見つけることが出来るだろう。

 

「相変わらずふざけた男だ。だが、まだ死んでないぞ私は───ッ!!」

 

そんな束の間の平穏を切り裂くように男の叫びが食糧庫に響き渡り、自爆による衝撃で瓦礫に押し潰された筈の白ずくめが、隙間から這い出てくる。

傷ついた体が回復していき、その全貌が顕になる。

 

ナズナはそれを見て、目を見開いた。

 

「ちっちぇな……」

 

「おい、見るべきはそこじゃないだろ!」

 

「え?ああごめん。ダサい服を交換する大義名分できてよかったな?」

 

「服でもなぁい!」

 

くすんだ色の長い白髪をかきむしる全裸の男を見て、ナズナはようやく思い出した。

 

「ああ、オリヴァス・アクト。生きてたんだ。久しぶり?」

 

「兄さん、知り合いですか?」

 

ナズナといると平時よりIQが下がるレフィーヤは、驚愕するヘルメス・ファミリアの反応を見て、心の底から不思議そうな顔をする。

 

「知り合いって言えば知り合いかな。通りすがりで殺した仲だけど」

 

「へー!」

 

「い、いや。ウィルディス?へーじゃないぞ、ここでの反応は。大丈夫か?急に頭悪くなってないか?」

 

オリヴァス・アクト。

通称白髪鬼(ヴェンデッタ)

既に主神は天界に送還されていますが、過去の推定レベルは3。

27階層の悪夢の首謀者でもあります、というアスフィのありがたい解説はレフィーヤには聞こえていないらしい。

 

「くっ、やはり冒険者などクソだ!」

 

そう叫ぶオリヴァスの二本の足は、食人花の体皮と似た黄緑色に染まっている。

 

「おいおい、白タイツの下に緑色のタイツはもはやセンスが崩壊してんだろ。お前の服を用意した女はタイツ専門店しか知らねーのか?」

 

「なわけあるか!これは自前だ」

 

「自前の緑ももひき?だとしたらお似合いだぜ」

 

「ちがぁぁぁああう!いいか!?私の話を聞け!」

 

どこまでもなめ腐った態度のナズナの言葉を遮るようにして、オリヴァスは語り始めた。

 

「守護妖精!貴様に体を鎖で真っ二つにされた私は二つ目の命を授かったのだ!他ならない『彼女』から!」

 

 

 

 

彼はずっと語りたかったのだろう。

典型的なナルシストだな、とナズナは内心で吐き捨てる。

 

「私は人とモンスターの力を兼ね備えた至上の存在だ!」

 

「凄まじい回復力!最強のタフネス!そして美貌!」

 

「私はもう神に踊らされる人形ではない!」

 

「なに?ここで何をしていたか?」

 

「いいだろう教えてやる!ここは苗花(プラント)だ」

 

「食料庫に巨大花を寄生させ、食人花を生産させる。『深層』のモンスターを浅い階層で増殖させ、地上へ運び出すための中継地点」

 

「食人花も私も、全て『彼女』という起源を同じくする同胞。『彼女』の代行者として、私の意思にモンスター共は従うのだ!」

 

「私は!私たちは!この都市を滅ぼす!『彼女』の願いを叶えるために!」

 

「『彼女』は空を見たいと言った!なら、私はその願いに殉じて見せよう!!」

 

「地中深くで眠る『彼女』が空を見るにはこの都市は邪魔だ!愚かな人類と無能な神々に代わって!『彼女』こそが地上に君臨するべきなのだ!」

 

────さらに言葉を続けようとして、オリヴァスはナズナに殴り飛ばされた。

 

「なげええええええええええええよ!俺の頭でも理解できるようにしゃべれ!ほんとに頭いいやつってのはバカにでもわかるような言葉に噛み砕いて説明できるやつのことを言うんだよ!だからテメーはバカだ!あとお前に美貌はねえよ!普通のおっさんだよ!ああ!?」

 

情報の洪水で頭が混乱しているナズナは、怒りに任せてオリヴァスのマウントをとってぼこぼこにし始める。

力的には勝っているはずなのに、実質的な敗北宣言のような状態になっていた。

 

「ぐおおお、このクソガキがぁ!ヒーローの変身タイムと悪役の口上は待つというお約束のわからんやつめ!やれ、巨大花(ヴィスクム)ッ!!!!」

 

オリヴァスが口を開くと同時に、柱から一匹の巨大花が落ちてくる。

だが、着地した瞬間。

ナズナの鎖にその頭を絡め取られ、地に伏せる。

 

「座ってろデカブツが!やれ、フィルヴィスッ!」

 

そして、巨大花に絡みついた鎖の端とは反対側のそれをオリヴァスの首にくくりつけ、大盾をオリヴァスの腰に突き刺す。

磔にされたオリヴァスは巨大花が暴れる度に首が絞まり、だが、制止の指示を出そうにも喉がつぶれて声がでない。

 

巨大花も身動きがとれずに、ただ地面でもがくだけだ。

あるいはオリヴァスがただの冒険者なら、首が千切れて巨大花はすぐに自由になっただろう。

だが、オリヴァスの普通ではない頑丈さと回復力が、巨大花を戒める一助となる。

 

「【ディオ・テュルソス】!!!」

 

あっという間に処理された巨大花を見て、驚愕に身を焦がすオリヴァスは巨大花が灰となったことで自由になった喉を、なんとか動かそうとする。

 

だが。

それよりも早く、何処からか飛来した短剣がオリヴァスの魔石を破壊した。

同時に、魔法を放った直後のフィルヴィスは突如横合いから奇襲を受ける。

 

『!』

 

()の外套、そして不気味な紋様の仮面。

一体どこに潜んでいたのか、おそらくオリヴァスを殺したであろう謎の刺客からの攻撃に、なんとか反応できたフィルヴィスは咄嗟に短杖で受け止めていた。

だが、凄まじい『力』のアビリティが杖の上から衝撃を貫通させる。

 

「フィルヴィスさん!?」

 

あえなく怪人の振るった()()に吹き飛ばされるフィルヴィスに、レフィーヤが慌てて駆け寄るも、彼女は無事を伝えるように軽く手を振った。

 

「……白髪鬼ガ死ンダカ…。ダガヤツハ、怪人ノ中デモ最弱」

 

フィルヴィスを追うことなく、その人物は胎児へと歩み寄る。

そして、そのまま取りついている大主柱から強引に引き剥がした。

 

「フム、完全デハナイガ十分カ」

 

「逃がすかよ仮面野郎!あと死んだか…じゃねえだろ!てめえがやったくせに!」

 

好き放題して立ち去ろうとした仮面の人物は、ナズナの拳を避ける。

ふわり、と紅の外套が怪人の動きに合わせて揺れ、それが一瞬ナズナの視界を遮る。

 

直後、ナズナは相手を完全に見失った。

 

「は?」

 

居なくなったのではない。

転移や消失という感覚はない。

なぜならまだ気配がある。

ただ、()()()()()()()

 

ナズナが視界から消えても気配を感じ取っていることを察したのか、気配が遠ざかっていく。

 

『───ヤハリ、オ前ハ危険ダナ。ココデ死ニ果テロ』

 

声だけが大空洞に響く。

 

『産ミ続ケロ!枯レ果テルマデ、力ヲ絞リ尽クセ!』

 

瞬間、大空洞が鳴動した。

大主柱に張り付く巨大花が震え、吸い上げるような奇音が下品なほど大きくなる。

ビキリ、と結晶の柱にいくつものひび割れが走った直後。

 

天井、壁面、床。

大空洞に存在する蕾が一斉に開花した。

 

「──────」

 

すべての食人花が花開く。

逆に巨大花は急速に色素を失い、枯れていく。

過去見たことがないくらいの規模の怪物の宴(モンスター・パーティー)を前に、フィルヴィスやヘルメス・ファミリアの面々が青ざめる。

 

「無理無理無理っ、無理だってぇ!」

 

「離れるな、潰されるぞ!?」

 

だが、冷静な人間が二人いた。

 

ナズナとレフィーヤである。

二人は互いの顔を見合わせて笑うと、軽い調子でナズナが前に出た。

 

「いつも通り行きましょう、兄さん」

 

「ああ、俺が守って」

 

「私が倒します」

 

タンクと魔導師。

前衛と後衛。

古来より繰り返されてきたその組み合わせ(タッグ)が、理不尽の前に立ち塞がった。

 

千の妖精と守護妖精。

この二人が揃って倒せない相手など存在しない。

 

 

───この日、24階層の食料庫は崩落した。

二匹の巨大花に養分を吸われ限界を迎えていた大主柱がレフィーヤの魔法に耐えきれなかったからだ。

だが、別の場所で戦っていたアイズやベート含め、冒険者たちは全員生還した。

 

「なんで俺には報酬が出ねーんだよ、おかしいだろ!」

 

『君は契約の場に居なかっただろう?それにまだ借金の一千万ヴァリスを返してもらっていないしな。むしろ金を返せ』

 

「巻き込んどいてその理屈が通るか!ふざけんなばーかっ!悪徳詐欺師!!陰鬱マント!エセ死神!鎌でも持ってろ!痛々しい中二病みたいな格好しやがって!」

 

『そこまで言われることか!?もういい!私は帰るからな!』

 

フィンたちが行っていた地下水路での調査の方は空振りだったが、今回の件でアイズたちが持ち帰った情報によって少しは敵の輪郭も見えてきた。

 

だが、未だ敵の正体には届かない。

 

「あ、うそうそ。ごめん。ごめんって!待ってくれ!じゃあ百万でいい!百万でいいから!こないだギャンブルでやらかしたんだよ頼む!五十万ならどうだ!?……あれ、いない?ほんとに帰った?」

 

もはや怪人とか宝玉のことなんて忘れて駄々をこねるナズナのことを、青ざめた月が見下ろしていた。

 

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

明日投稿する予定の話は完全に息抜き用というか、話数調整のための中身空っぽシリアスゼロ話です。
明日もがんばります。


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第二十話。一角獣


お気に入り登録、評価、感想、ここすき、誤字報告ありがとうございます。

毎日投稿三日目です。
昨日は台詞の抜け漏れというミスでお騒がせしてすいません。
なによりフェルズさんごめんなさい。
最後の下りで『それにまだ借金の一千万ヴァリスを返してもらっていないしな。むしろ金を返せ』という台詞が抜けてました。
報酬ないのはナズナの自業自得だったんですね。
つまり逆ギレしてただけです。
はい。
本当にすいません。
抜けた理由は借金の額をいくらにするかでその辺りをいじってたからです。



 

空が青く晴れ渡る、うららかな昼下がりのことだった。

24階層の激闘を終え、骨折したベートや精神疲弊(マインド・ダウン)でぶっ倒れたレフィーヤも治療院から帰ってきてようやくひと安心。

そんな空気の漂う黄昏の館に、来客が訪れた。

 

「ふはははっ!ロキ、冒険者依頼(クエスト)を持ってきてやったぞぉおおおおおおお!!」

 

「お邪魔します」

 

「なんで偉そうなんや、コイツ」

 

背後に丁寧なお辞儀をする銀髪の少女アミッドを従えるのは、彼女の主神のディアンケヒトだ。

金にがめつく性格も悪いが、その経営の手腕と知識は都市でも有力な治療と製薬を司るファミリアの主神として間違いない。

 

「先日、儂のファミリアは貴様の団員に随分と金を巻き上げられたらしいからな!その腹いせだ!ふっははははははっ、まさか断らんよなぁ!?」

 

「……ティオネ」

 

アミッドが訪れたということで様子を見に来ていたアイズやティオナ、レフィーヤはロキと共にティオネの顔を見た。

ティオネは以前というか、ミノタウロス事件のあった遠征後に、タダ同然で手に入れたドロップアイテムを、アミッドに高値で売り付けたことがある。

 

ことの原因であるティオネは、「な、なによっ!私は悪くないわっ」とアイズたちの視線から顔を背ける。

背けた先で、日だまりで器用に丸まって眠るナズナが視界に入り、いらっとした彼女は、つかつかと歩み寄るとナズナの真横にパラソルを突き刺した。

日向から一転、日陰になったことにナズナが居心地の悪そうな顔をしてうなされ始める。

 

「……まぁクエスト受ける受けないはさておき、話だけは聞こか。せっかくやしな」

 

「ふんっ、いいだろう!アミッド!……アミッド?」

 

いつもならすぐに返事が返ってくるところなのだが、珍しく間の空いたことでディアンケヒトがアミッドの方を振り替える。

 

「あ、あぁ。すいません、只今」

 

「アミッドちゃんどうかしたん?」

 

「え、ええと。その、すいません。アイズさんはなぜメイド服を?」

 

「うん、と……」

 

そう、アミッドの指摘の通りアイズは現在メイド服姿を披露していた。

フリルとレースをふんだんにあしらった服を恥じてか、アイズは歯切れの悪い声を返すばかりだ。

そんなアイズの代わりに、彼女を後ろから抱き締めるティオナが笑顔で解説する。

 

「アイズはねー今、罰ゲーム中なんだー」

 

「罰ゲーム?」

 

「そう!こないだちょっと無茶をしたから!ほら、あれだよ。ベートとかレフィーヤでお世話になった一件で!」

 

「なるほど……」

 

なんで罰ゲームがメイド服になるのかはわからないが、少なくとも彼女が趣味で着ているとかそういうわけではないらしい。

疑問が氷解したアミッドは話の腰を折ってしまったことを謝罪してから、改めて説明を開始した。

 

「最近、このオラリオ郊外に野生の『ユニコーン』が一頭、姿を現しているそうです」

 

「ユニコーンがいんのか!?」

 

「え、ええと、はい」

 

アイズたちはアミッドの言葉よりも先に、寝ていて筈のナズナが急に大声をあげたことに驚いた。

 

「つまり…ぶっ殺せばいいんだな!?」

 

「違います」

 

「なるほど、生かしたまま痛め付けるのか。アミッドって【戦場の聖女】なんて二つ名の割りに、結構ドSなんだな?」

 

「……それも、違います」

 

「なんだ。じゃあただの捕獲かぁ」

 

アミッドはだんだん疲れてきていた。

自分のせいでもあるのだが話が全然進まない。

それにしても露骨にガッカリするナズナは、なぜそうもユニコーンへの嫌悪を示すのか。

ユニコーンはモンスターでありながら、『聖獣』とまで呼ばれる、純白の毛並みを持つ一角獣だ。

迷宮の稀少種の一匹であり、全くといっていいほど遭遇しない。

なにか因縁が?

 

「いーや、あいつは性獣だぞ!!」

 

「…彼のモンスターを巡って冒険者たちは狩りに繰り出しています。狙いは当然『ユニコーンの角』でしょうが……我々もこれを入手したいと考えています」

 

ナズナに構っていては話が進まない。

そう判断したアミッドは、黙殺することにした。

 

「まぁ、いかなる毒素も浄化するって言われてるあの角なら、あなたのところなら是が非でも確保しときたいわよね」

 

「ええ。そして、件のユニコーンを殺さずに、もとの住み処へ帰してあげたいのです」

 

「それは……」

 

ナズナの予想が当たっていたらしい。

ユニコーンは現在霊峰の奥やエルフの森などで群れをなしている。

地上からの絶滅を避けるためにもアミッドは彼の一角獣を守りたいと考えているのだ。

 

「まぁ、面白そうではあるなぁ」

 

明らかに厄介なクエストだというのに、他人事のようにロキが口を開く。

えっ、とおそらくこのあと駆り出されることになるであろう少女たちから視線が寄せられるのにも構わず、アミッドへと質問を投じた。

 

「クエストちゅうからには、うちらもおこぼれに与れるんやろう?」

 

「勿論です。『ユニコーンの角』を入手した暁には、きちんと分け前を提供します」

 

「ふひひっ、オッケーや。それ、受けたる!」

 

「ちょっとっ!」

 

「ロキぃ~っ」

 

貴重な品には目がないロキが勝手に承諾してしまったことに、顰蹙の声が上がるが取り合わない。

 

「……ところで、あの。兄さんは?」

 

「え?」

 

レフィーヤの言葉に反応してその場にいた全員があたりを見回すも、そこにナズナはいない。

驚く女性陣に向かって、ディアンケヒトが口を開いた。

 

「いや、あのガキならさっき普通に出ていったが?なんだ、見てなかったのか?」

 

 

 

 

 

ユニコーンの目撃情報は都市の真北、ベオル山地の麓の森と隣接する草原地帯に集中していた。

 

そんな場所に向けて、様々な手続きを済ませたアイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤ、アミッドの五人娘は向かっている。

彼女たちはユニコーンの処女を好むという嗜好を利用して捕獲するべく編成された、言うなれば【生娘部隊】。

彼女たちは索敵をしながら、時折道を阻むハンターを退けながら道を進んでいく。

 

「あ───み、みなさん!」

 

途中行く手を阻むハンターたちを撃退しながら、小高い丘にたどり着いたところでレフィーヤが指を差す。

その先にいるのは、もちろんユニコーンだ。

 

白く輝く馬の体躯。

しなやかな肢体から尻尾の先まで包む白い毛並みは処女雪のようだ。

顔から伸びた一本の長い角は根本から緩やかに螺旋が刻まれ、鋭く尖った先端へと繋がっていく。

草原を進むその姿は清らかで美しく、まさに『聖獣』だ。

 

「うわぁ、初めて見た」

 

「綺麗ね、本当に……。モンスターのクセに」

 

アイズもわずかに目を細め、視線の先のユニコーンをしばし眺めた。

 

と、モンスターが相手ということで警戒をしていたアイズの目が、一人の人物?を捉える。

よく目を凝らして見ると、その人影らしきものは自分の体に大量の葉っぱを装飾し、植物になりきっているらしい。

その手には弓と矢。

 

音もなく、静かに引き絞られる弓を構える姿は歴戦の狩人だ。

 

「あれは……?」

 

というかもっとよく見ればナズナだった。

目を血走らせ、まさに矢を放とうとしたその瞬間、アイズは持ってきていた捕獲用のとりもちボールをぶん投げる。

 

「狙い、撃つぜ───ぶほっ」

 

鎧がなければ、防御力はあってもタフネスは格段に落ちる。

小柄な体が顔面をぶち抜いた球によってひっくり返り、白くベタつく何かで顔をべちゃべちゃにしながら森の奥へと転がっていく。

狙いが外れた矢は、幸いなことに音が鳴らないように工夫されていたのだろう。

ユニコーンに気付かれることなく空へと消えていった。

 

やり過ぎちゃったかも、と焦るアイズと、遅ればせながらナズナの存在に気付いた残りの少女たちはナズナの本気にドン引きだ。

植物への擬態に音の鳴らない矢。

まさに熟練の狩人の用意をして見せたナズナは、森の番人時代の全力を出してきていた。

 

「え、えっと!とりあえずユニコーンのところに行きませんか?」

 

「じゃあまず誰が行く?」

 

「え、皆さんで行かないんですか?」

 

「そうですね…複数で近づくと警戒される可能性はあります」

 

「とりあえず一人はナズナ警戒係、一人がユニコーン係でどう?」

 

そういうことになった。

 

 

 

 

予定調和のように全員が失敗し、翌日。

今日こそはと意気込むアイズたちのやる気に反して、ユニコーンは姿を見せなかった。

 

「正直ここまで来ると、『角』を手に入れてかつユニコーンも逃がすってのは正直厳しいんじゃないの、アミッド?」

 

「……かもしれません」

 

「まぁこれだけ露骨に警戒されるとね~」

 

表情を曇らせるアミッドは、顔をうつむかせる。

だがそこからさらに次の日、木々が開けた青い小川のほとりでユニコーンはすぐに見つかった。

 

「───だぁぁあああから嫌いなんだっ、てめえらはよおおおおおおおお!」

 

「うわぁ……」

 

アイズたちが見つけたユニコーンは興奮しており、ナズナの両手首を蹄で押さえ込み、虚空に向かって腰を振っている。

 

処女好き(性別は問わない)。

ただの面食いで幼児性癖な性獣の嘶きを掻き消すように、ナズナが涙目になりながらもがく。

 

必死にもがくナズナはアイズたちに気付いていないようだった。

 

「ああくそ!あいつらが失敗してるの見て、殺害より捕獲した方が煽れるんじゃ?と思ったのが間違いだった!くそが!あの初手で殺せてればなぁ!アイズめぇ!いつもいつも、ユニコーンはよぉ!あの森でもそうだったよなぁ!?」

 

もはや言葉は支離滅裂だったが、キレすぎて魔法を使うことすら忘れているらしい。

ナズナがユニコーン嫌いな理由をなんとなく察した彼女たちはそっと、目頭をぬぐう。

 

「───ここにいたか」

 

そんな地獄を終わらせるためではないのだろうが、一人の人物が現れた。

 

「リヴェリア……」

 

アイズたちにはリヴェリアに後光がさしてるようにすら見えた。

 

「ロキに言われて来てみれば。またナズナはユニコーンに発情されているのか」

 

「また、なんですね……」

 

リヴェリアの呟きに、天を見上げるアミッドは両手で顔を覆った。

 

「そ、そうだ!俺を解放してくれたらとびっきりの処女を紹介してやる!リヴェリアって言って、一世紀近く貞操を守ってきた熟練の生むす「当て身」」

 

リヴェリアは容易くユニコーンを懐柔すると、角をゲットし、彼のユニコーンを群れのもとへと返した。

リヴェリアに引き連れられて遠のくユニコーンが何度も気絶したナズナの方を振り替えるので、アイズたちは見送りも早々にナズナを家へと連れ帰った。

 

後日、アミッドからユニコーンの角を使った泥水でも毒水でも、全て清浄なものに変える、という純白の杯が届くのだが、その杯はロキへと押し付けられ、ナズナの前で使わないように厳命されることになるのだった。

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

掌編集2からのエピソードを改編した話でした。
頭を使いたくなかった、などと作者は供述しており……。
はい。
お目汚ししてすいませんでした。


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第二一話。遠征前


毎日投稿三日目、本日二話目の投稿です。

ようやく一話からの目標であった四巻に入れました。
導入話なので、中身が薄いです。
というかたぶん四巻の大半は結末に向けた前振りになると思われます。
よろしくお願いします。



 

チビと巨漢。

エルフと獣人。

脳筋と武人。

ロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリア。

 

レベル7という共通点以外は何もかもが正反対な二人は、多くの人間が行き交うメインストリートにおいて、とてつもない存在感を放っていた。

 

「んー今日も良い天気だ…」

 

「ふ…そうだな」

 

この二人は、なんだかんだ仲が良い。

同じレベル7としてファミリアの枠を超えてロイマンから緊急クエストを任されたりするのもあるし、単純に大事な人の為なら何処までも無茶できる二人は馬が合うからだ。

 

ナズナの見た目のせいで下手すればオッタルが通報されそうな絵面ではあるものの、オッタルの強面を恐れて誰も通報しないのでギリギリ問題なかった。

 

「それで、どうしたんだよ。俺に相談なんて」

 

「ああ、フレイヤ様にある冒険者への試練を用意しろと言われてな」

 

「すればいいじゃん」

 

さて、今日は何をするか。

 

仮にも派閥を越えた友情を育んだ相手の悩み相談を切って捨てたナズナは、一日の予定について考え始める。

最近何やらガレスと励んでいるベートのコソ練を冷やかしに行くか、それとも必死にダンジョンで鍛練するラウルたちに差し入れを持っていくか。

最近行けていないカジノもいい。

 

一日の予定を立て始めたナズナの頭の中から、オッタルという存在はあっという間にたち消える。

そのいつも通りと言えばいつも通りな対応に眉をしかめたオッタルは、容易く奥の手を切った。

 

「よし、フレイヤ様と会わせてやろう」

 

「───それで?なんだっけ。試練だろ?もちろん一緒に考えてやるよ!友達、だろ?」

 

無駄にキメ顔で友達、と言った辺りで肩に手が届かないことに気付いたのか、ナズナはオッタルの固い腹筋に握りこぶしを当てる。

熱い手のひら返しにオッタルはなにか言うでもなく、その拳を軽く叩き落とした。

 

「だからお前も神フレイヤと会わせるなんて恐ろしいこと言うんじゃねえ」

 

「ああ、わかっている」

 

ナズナは美の女神であるフレイヤについて貶すことはない。

女神に心酔して日々殺し会うオッタルたちにだって理解を示しているし、家族をないがしろにする戦車やひたすらに相性の悪いインテリエルフとは仲が悪いものの、友情を育んでいるメンバーだって何人かいる。

ヘグニとか、アルフリッグとか。

 

それにフレイヤ自身も『大抗争』で輝きを見てから、気に入っている。

伴侶候補ではなく、団員候補として。

 

でもナズナはフレイヤのことが苦手だった。

だって怖いし。

魅了されて家族裏切りたくないし。

正直女神フレイヤの見た目がタイプじゃない男なんて存在しないのは分かっているが、だからこそナズナは近づこうとしなかった。

 

「…まぁ、オッタルが立ちふさがればいいんじゃねーか」

 

「人の心とかないのか?」

 

「なんでだよ。これが一番手っ取り早いだろ!」

 

「だが、駆け出し相手に俺の本気はあまりにも無謀が過ぎる。殺してしまうのは本意ではない」

 

「それを先に言え!相手が駆け出しとか聞いてねーんだよ!つーか試練なのに本気を出す前提はなんなんだよ!相手を試せよ!殺すな!」

 

そうだったか?などと惚けたことを言う武人を前に、ナズナはため息をついた。

 

「なら、そいつに因縁のあるモンスターでも適当に調教して差し向けりゃいいんじゃね」

 

「なるほど。やはりそれがいいか」

 

「何がやはりだテメー。ぶっ飛ばすぞ。思い付いてたなら俺に聞かず普通にやれ!」

 

「いや、お前が我々フレイヤ・ファミリアと協力したと言う実績を解除しておこうかと思ってな」

 

オッタルらしからぬ発言にしばらく沈黙したナズナは、ややあって口を開いた。

 

「…………ヘディンか」

 

「ああ」

 

あの陰険メガネクソエルフが!次会ったらメガネをパーティーグッズに変えてやる!と騒ぐナズナは、その『とある冒険者』とやらが誰かについて考えることはなかった。

これ以上フレイヤ・ファミリアに深入りしたくなかったからだ。

それにまさか、いくら美神に頭を焼かれた彼らといえど、駆け出しにミノタウロスをぶつけるなんて想像もしていなかったのだ。

 

というか普通しない。

するならするでもっと成長を待て。

我慢強さが足りねーよ。

 

後日アイズたちにどういうことだと詰められるナズナは、オッタルにキレた。

 

 

 

 

 

 

遠征当日。

ここ数日で誰もができる全力を出して、自分の牙を研ぎ澄ませていた。

 

アイズは白兎と戯れ、レフィーヤはフィルヴィスと百合の花を咲かせ、ナズナはギャンブルで敗けを取り返そうとして大負けした(いつもの)

ベートはガレスと密室で二人きりで何度もぶつかり合って汗をかいていたし、ティオナとティオネは互いを殴り合っていた。

あと一部の団員がラブ・サバトとかいうイカれた催しに参加したりしていたが、それを知るのはナズナの他には当事者だけだ。

 

そんなわけで、全員の士気は万全だ。

青く晴れ渡る空に向かって、ナズナは一つ大きな伸びをする。

 

今頃フィンは架空の女神(原点)に向かって祈りを捧げたり、付き合いの長い古株三人で拳を合わせたりしているのだろう。

ナズナがそこに参加することはない。

別に意思確認をするまでもなく、ナズナは変わらないからだ。

 

ただ前に出て仲間を守る。

これまでもそうだったし、これからもそうだ。

 

「足を横に出して胸の運動~」

 

拠点の中庭。

全員が緊張感を高める中。

ナズナは一人、ロキに身長が伸びると言われて信じこんだラジオ体操をのんきに続けていた。

 

その内側に、未知の領域への好奇心を滾らせながら。

 

 

 

 

快晴の空から陽光が中央広場に降り注ぐ。

 

広大な空間を持つ都市中央の広場とはいえ、装備品や食料などの物資を積んだ大型のカーゴを何台も伴い一角を占拠するロキ・ファミリアに向けて迷惑そうな目や好機の視線が集まっている。

それらを跳ね返すように、道化師(トリックスター)のエンブレムが刻まれた団旗が翻った。

 

「んー、最近快晴続きで最高だな」

 

「ですねー。遠征前に洋服の虫干しも出来ましたし」

 

「ちゃんとアマゾネスのやつとかガレスとオソロのやつ(頌閃妖精衣装)もやったか?」

 

「…し、しましたよ?」

 

ああこいつしてないな、と誰でもわかるほどバタフライしているレフィーヤの目を見てナズナは半目になった。

 

まぁ実際レフィーヤは衣装持ちなので、選別は必要なのだろう。

服は基本貰い物。

戦闘衣はその辺で売ってる適当なやつというナズナのタンスは場所が余っているくらいなので、服が多くて起こる大変さは想像するしかないが。

最近ロキからメイド服やら白バニーやら押し付けられたが、それらは箱に閉まってベッドの下に押し込んである。

一度着せられたからといって、もう一度着たい服ではない。

 

「おう、剣姫!全くもって久しいな、壮健であったか?」

 

「椿さん…」

 

アイズが鍛冶師の椿に絡まれてるのをぼーっと会話しながら見ていたナズナとレフィーヤの傍に駆け寄るひとつの影があった。

 

「ナズナさん、レフィーヤ。間に合ってよかった」

 

「あ、フィルヴィスさんっ。おはようご…ざいます?」

 

「おー、おはよう。…朝からすごい格好してんのな、お前な」

 

聞き覚えのある声に二人が振り返った先にいたのは、フィルヴィスだ。

だが、ただのフィルヴィスではない。

 

猫耳和服ミニスカブーツ(猫々偶像衣装)

猫耳和服ミニスカブーツである。

 

本人としても恥ずかしいのか顔を赤らめているが、それが却って回りからの目線を集めていた。

 

「こ、これはそのっ。遠征に出るナズナさんやレフィーヤを見送りにいくと言ったらディオニュソス様がこれを来ていけと無理矢理っ!?」

 

「かわいいですっ!」

 

言い訳をするフィルヴィスを見て目を輝かせ感激するレフィーヤの横で、とりあえずナズナは荷物の中から予備の精霊の護布を勝手に取り出していた。

 

「ほれ、眼福だけど羞恥心に殺される前に貰っとけ」

 

「あ、ああ助かる。つまらないものを見せてしまってすまない…」

 

「いや普通に垂涎ものだったけど、ほら。なんかあれだろ?あんまり人に見せるのも恥ずかしいだろ」

 

何かを誤魔化すようにナズナがほら、と隣を指差せば涎を垂らして慌てて口を拭うレフィーヤがいた。

ナズナからの誉め言葉に喜べばいいのか、新たな友人のちょっとアレな一面に引けばいいのか、そんな複雑な顔をしながらフィルヴィスはいそいそと精霊の護布を上から羽織った。

 

「…おほん。それで、その。二人にエルフに伝わるお守りを作ってみたんだ。受け取ってはもらえないだろうか?」

 

「ぐふ、ぐへへへ……はっ!?」

 

フィルヴィスが取り出したのは、木製のタリスマンだ。

首から下げられるように組紐が通されており、その美しい白色の木片の表には大聖樹を模した絵図が手彫りされている。

 

「おう。まぁ安心しろ。なにせ俺がいるんだからな!全員よゆーで帰ってきてやるよ」

 

「はいっ、大切にします!絶対みんなで生きて帰ってきますから!」

 

それを受けとり、ナズナとレフィーヤはタリスマンを首へとかける。

 

ナズナたちだけではない。

ロキ・ファミリアの面々と個人的に親交のある冒険者たちが声をかけ、ある者は笑顔と一緒に激励を送っていく。

 

「総員、これより遠征を開始する!」

 

自身も何人かの馴染みの冒険者からの激励を受けながら、間もなく部隊の正面でフィンが声を張り上げた。

 

「階層を進むに当たって今回も部隊を二つに分ける!最初に出る一班は僕とリヴェリアが、二班はガレスとナズナが指揮を執る!18階層で合流した後に一気に50階層へ移動!僕らの目標は他でもない、未到達領域───59階層!」

 

フィンの力強い声が、この場にいる全ての冒険者たちの耳朶を震わせる。

 

「犠牲の上になりたつ偽りの栄誉は要らない!全員、この地上の光に誓ってもらう!───必ず、生きて帰ると」

 

その言葉に、ナズナとフィンの目線が絡み合う。

互いにニヤリと笑い合い、フィンは頭上に広がる青空へと暫しの別れを告げるように号令を放った。

 

「遠征隊、出発だ!!」

 

ナズナたち団員は、フィンの号令をかき消すように雄叫びをあげる。

 

 

─────【ロキ・ファミリア】、遠征開始。

 

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

ミスがあったりはしましたが、なんとか三連休毎日投稿を達成することができました。
三日間お付き合い頂きまして、本当にありがとうございました。


【妖精のタリスマン】
大聖樹の木片を使用した、エルフの伝統的なお守り。
なんの効果もないただの木片のはずだが、込められた純粋な祈りは時に傷を癒すという。

組紐には大聖樹の繊維と乙女の髪が使われるのが一般的であるとされている。


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第二二話。大乱闘

お気に入り登録、感想、評価、ここすき、誤字報告ありがとうございます。

今日でこの小説の投稿を始めて一ヶ月になりました。
タイトル釣りの凡作でありながら、これほどたくさんの方に興味をもって頂けたこと、本当に感謝しております。



 

 

20階層。

 

「うりゃああああああ───っ!!」

 

25階層。

 

「がるぁああああああ───っ!!」

 

30階層。

 

「このおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

40階層。

 

「「邪魔だぁああああああああああああああああああああっ!?」」

 

以上、遠征に突入してから4日目までのダイジェストである。

18階層で合流した下位構成員たちはなんでこんなにもベートたちが張り切っているのかわからず、なんなら怯えてすらいた。

戸惑う彼らと同じく後発隊だったナズナにも事情はわからなかったが、見てるだけでいいから楽でいいやとほったらかしにしていた。

 

興奮していたティオナの支離滅裂な話から言葉を拾った感じ、なんかすごい冒険を見たらしい。

知らんがな、とナズナは思った。

家族が家族や自分以外を誉めるのは面白くない、と頬を膨らませるナズナは完全にへそを曲げる子供だった。

あまりにも精神年齢が低すぎる。

 

「お、この新作のジャガ丸君意外とふまいな。抹茶クリーム味って聞いたときは、ついに神ヘスティアの頭がイカれたかと思ったけど」

 

ジャガ丸君とコーラを楽しむナズナは完全に見せ物気分で後ろから眺めている。

 

このジャガ丸は遠征前に寄った屋台でヘスティアにもらったものだ。

なんか自分の所の眷族(こども)が他所のファミリアの異性にメロメロ(死語)らしいという相談をされたナズナはこないだ、アドバイスをあげたのだ。

酔わせて食えば?という実体験に基づくアドバイスは却下されたので、偶然を装って覗けば?というこれまた実体験に基づくアドバイスが採用された。

 

『酔わせて食べる。ナズナ君、それは“アリ”だ』

 

『だけど僕は処女神だからね?もっと他にないのかい?』

 

『ふむふむ、うーん。…いやぁ君の悪知恵もたまには役に立つじゃないか!というか割と親身に相談に乗ってくれるよね、君ってば。でも今のアドバイス聞いてると君の恋愛観がちょっと心配になるぜ?』

 

『人生色々ある?…本当に大丈夫なんだろうね?いつでも相談に乗るからね?』

 

そんなどうでもいい一幕はさておいて、出番を奪われる第二級以下の団員達はその迫力と形相に気圧され汗を流すばかりだが、ナズナは一応仕事はしていた。

フィンからスキルの使用は制限するように言われているので、あくまで軽い発動ではあるがデコイとして食料などの物資を積んだカーゴの上で寝転んでいた。

 

「おーい、ベトティナー?」

 

「なんだっ!?」

 

「なにっ!?ていうか略さないでよ!」

 

「あっちでティオネが一人で暴れてるけどそんなもんで満足か?」

 

「「ああぁ─────────っ!?」」

 

「───ばらしてんじゃねええええええ!!」

 

「行ってらっしゃーい」

 

血を滾らせているアマゾネスの姿に、ティオナ達がやらすかとばかりに戦場へ突貫した。

それを見送るナズナは、呑気にその後ろ姿に手を振る。

そこに怪我や敗北の心配はない。

ナズナは家族が張り切っていればそのまま背中を押すタイプの人間だった。

時にそれで怪我をしても経験だろうと思っている節もあるし、どうせ家族に何かしたやつはぶっ殺すしなという物騒な思考のせいでもある。

 

「……これでアイズが加わったら、どうなってしまうんじゃ」

 

「一応、負担と言えるのはティオナ達だけにとどまっているが…」

 

「ンー…頭が痛い」

 

ともあれそんな感想を抱いているのはナズナだけで、遠征など関係ないとひたすら戦い続けているベートたちを見て、そこから更に目線をずらすとうずうずたたずんでいるアイズを目に入るという状況に首脳陣は頭を痛めていた。

 

嘆息する彼らを上から見下ろしながら、椿に飽きたジャガ丸君を押し付けるナズナは、平和だなーとあくびをひとつするのだった。

 

 

 

 

野営を準備する喧騒が響いている。

 

指示を掛け合う団員たちの声が飛び、周囲を走り回るブーツの足音がその間を縫う。

地面に撃ち込まれた鉄杭に縄が巻かれ、天幕が次々と完成していた。

 

現在ダンジョン50階層。

以前芋虫や女型のモンスターに襲われたその場所で、ロキ・ファミリアはベースキャンプを設営していた。

前回よりも遥かに短い6日間という期間でここまでたどり着いたのは、一重にベートたちのお陰である。

 

「どうしたんスか、ベートさんたち…」

 

「こっちが聞きたいわよ…」

 

「みなさん、いつにも増して荒々しいです…」

 

「うーん…発情期ですかね?」

 

「レフィーヤ?学区から来たばかりの頃の真面目なあなたはどこ行ったの?」

 

ラウルを筆頭にアキやリーネなど、第二級以下の派閥構成員達は時折及び腰になりながらひそひそと話を交わしていた。

 

彼らの視線の先では、大双刃(ウルガ)をしまいもせず唸りながら熊のように行ったり来たりしているティオナや、湾短刀(ククリナイフ)をくるくる回しては時折思い出したように振り下ろすティオネ、その鋭い剣幕でヘファイストス・ファミリアのハイ・スミス達を怯えさせるベートなど、落ち着きのない第一級冒険者達がいる。

 

彼らの雰囲気に狼狽え、本営の側で指示を出しているフィン達も若い第一級冒険者たちに嘆息していた。

 

「だはははは!ウケるー!」

 

「ウケませんよ!いいから酒瓶から手を離してください!飲み過ぎです!」

 

「んにゃー、なぁー…ほら。見てろアリシア、俺渾身のベートの真似を!『雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ…』…どう!似てない!?」

 

「似てますね!?声音も声色もそっくり!あの時ナズナさんはいなかったのに!」

 

「エルフィは黙ってて!」

 

「そりゃお前、愛する家族の真似だぜ?想像だけでもざっとこんなもんよ!」

 

そしてナズナは酔っぱらっていた。

こいつは途中でコーラが尽きたあと、当たり前のように持ち込んでいた酒を取り出していた。

とても冒険者のしていい行動ではないが、置物に徹するためには酒が必要だったのだ。

娯楽がないのにじっとしてられるほどナズナは大人しくないし、眠るにはカーゴの上はバランスが悪すぎる。

 

だからこその酒。

ワインに火酒にラム、日本酒。

それだけの酒を開けながらも、時折近づいてくるモンスターたちからカーゴを運ぶ団員たちと荷物を守っているせいで、文句を言いづらいという厄介な酔っぱらい。

前回の遠征では皆に隠れるように飲んでいたというのに、とある事情(ラブ・サバト)で機嫌の良かったロキからのお許しが出たのと、アラサーの本気の駄々こねにフィンが押し負けたせいで、酒専用のバックパックを背負って来ていた。

 

「おい、ナズナ。ほどほどにしておけ?」

 

「んあー?にゃぁ~、酔ってにゃいにゃぁ~?んぐ、んぐ、んぐ、ぷはー!」

 

「それは酔っぱらいの常套句でしょうがっ!」

 

リヴェリアのフォローもむなしく、一升瓶を片手にゲラゲラ笑う見た目幼女とかいう凄まじい犯罪臭のするバカの相手をさせられるアリシアは、キャンプに響き渡るほどの声で叫ぶのだった。

 

 

 

 

「最後の打ち合わせを始めよう」

 

野営地の準備と食事、酔っぱらいの処理を済ませたロキ・ファミリアの団員達は、フィンを中心に今後の最終確認を始めた。

調理器具を片付け、輪になったまま団員達が耳を傾ける。

 

「事前に伝えてある通り、51階層からは選抜したパーティーで進攻(アタック)を仕掛ける。残りの者たちはキャンプの防衛だ」

 

メンバーが発表される中、ナズナはリヴェリアの膝の上に頭を乗せて眠っているが、さすがにその辺は事前に聞いて頭に入っている。

 

それに、ナズナのその醜態に誰かが何かを言うことはない。

ダンジョンにおけるナズナへの信頼は、酔いつぶれている程度で揺るがないからだ。

あと、ナズナの常備薬である酔いざまし(ウコンの力)への信頼も。

 

ついでにナズナを膝枕中のリヴェリアへの提言も地雷であることをファミリアの面々はよく理解していた。

本人は真面目な顔をして話に耳を傾けているつもりなのだろうが、時折顔が崩れてしまっている。

それを羨ましそうに見るレフィーヤも、リヴェリア(師匠)相手ではさすがに分が悪い。

 

結果として酔いつぶれているバカと、それを愛でるハイエルフの2人の周りだけ、凄まじい温度差を生じていた。

 

「キャンプに残る者達は、例の新種のモンスターが出現した場合、『魔剣』及び『魔法』で遠距離から対応するんだ。接近を許さないよう見張りは気を抜くな。指揮はアキ、君に任せる」

 

「はい」

 

その他『不壊属性(デュランダル)』が配られたり、緊急時の対応などの説明が続いていき、やがてミーティングは解散となった。

 

フィンは長槍、ガレスは大戦斧、ベートは双剣、ティオナは大剣、ティオネは斧槍。

それぞれが新たに配られた椿の新作、《ローラン》シリーズの感触を確かめるなかで、ナズナはリヴェリアによってテントへと運ばれていく。

 

鈍い光沢を放つ椿が作った武器はもちろんナズナには配られない。

不壊属性以外の芋虫対策を自分でできるというのと、ナズナの盾が不壊属性の特殊武装でもないのにバカほど頑丈というのが理由である。

 

狼が牙を研ぎ澄ませ、剣の姫が鞘の中で解き放たれるその瞬間を今か今かと待ち望む。

一人の少女が目に焼き付けた希望(英雄)を尊び、その姉と疲れを残さない程度に組手を行う。

血の繋がりのない兄妹は、互いに身を預けるようにして眠りにつく。

 

 

───そして、日は昇らず暮れもしない迷宮の奥で、時計の針が明朝の到来を告げた。

 

剣が、杖が、大双刃が、湾刀が、銀靴が、大盾が、長杖が、大戦斧が、槍が。

輝きを放つ数々の武器が、多くの冒険者に見つめられている。

 

本営に立つ団旗の道化師(トリックスター)の滑稽な笑みに見守られる中、フィンが口を開いた。

 

「出発する」

 

静かな号令と共に、フィンが率いる【ロキ・ファミリア】精鋭パーティーは野営地を発つ。

戦闘員八、サポーター五、鍛冶師一、総勢十四名のパーティー。

 

前衛にベートとティオナ、中衛にはアイズとティオネ、フィン。

後衛にはリヴェリアとガレスがつき、そのさらに後ろにナズナという布陣だ。

サポーターがナズナ以外の前中後の位置へとそれぞれつき、整備士兼客人の椿がフィンの横へ。

 

タンクのナズナが最後衛なのは、今回の進攻が速度重視ゆえだ。

前で敵を受け止めるよりも、後ろから崩される方が問題なのだ。

 

それにナズナは鎖と爆散鍵によって、いつでも前に出てこれる最低限の機動力は持ち合わせているので、ある意味どこにいても関係ない。

後ろにいれば背後からの奇襲を防げ、前にいれば全体に余裕を持たせることができるのだから、ほんとに便利な囮役だった。

 

やがて一行は大穴へとたどり着く。

階層西端の壁面に空いた、50階層と51階層を繋ぐ連絡路。

階下には既にいくつものモンスターの眼光が浮かび上がっている。

 

「───行け、ベート、ティオナ」

 

冒険者たちは、未到達領域への進攻を開始した。

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

投稿開始して一ヶ月で貴重な10評価を頂けたり、5以上という高い評価を貰えて、毎度感想まで貰えたりするなんて、こんなによくしてもらえていいんでしょうか。
夢か?
と思う作者です。
四巻の一区切り目指してがんばります。


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第二三話。竜の壺

お気に入り登録、評価、感想、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます。

今日はポッキーの日らしいですね。
なので一人でポッキー一箱食べてました。
美味しかったです。



 

「集団から振り落とされるでないぞっ、お主等!」

 

深層では珍しい迷路構造をした階層を、フィン達は駆け抜けていく。

初心に立ち返るような『上層』と同じ構造。

しかし規模と広さは桁違いなダンジョンの中で、走行の勢いを緩めないパーティーに向かって、ガレスは後衛の位置からフィンの指示をかき消さない程度の音量で声をかける。

 

「俺に追い付かれたら男女平等にケツ蹴りあげるからな!二つに割れねえように気を付けろ!?」

 

「下品ですよナズナさんっ」

 

「馬鹿言え!俺はお上品だろうが!本当に下品なやつってのは×××××して、☆★☆★☆したり、※※※※※※するやつなんだからな!」

 

「さすが兄さん!アリシアさんのあんな真っ赤な顔を初めて見ました!」

 

「この兄妹はっ!?」

 

ダンジョンが咆哮をあげていた。

だが、それを上回るような声量でナズナが最後尾から口数の少ないサポーターたちの肩の力をほぐしていく。

 

「ほらほらクルスっ!今度とある店の人気の子紹介してやるから気張れよ!」

 

「ほんとですか!?」

 

「ああ、リヴィラで一番人気のオカマバーだ!!!」

 

「なめんな」

 

横道から、十字路の先から、天井から、壁面から。

既階層とは全く比べ物にならないほどの頻度で黒犀(ブラックノイス)巨大蜘蛛(デフォルミス・スパイダー)が来襲する。

 

途切れないモンスターとの交戦に、しかしパーティーは怯まない。

 

「るぁああああああああああああああああ!!」

 

立ちはだかるモンスター達を正面に、飛び出したベートが蹴撃の一閃と続く回し蹴りで根こそぎ絶命させる。

崩れ落ちる死骸にも目もくれず【凶狼(ヴァナルガンド)】は更なる敵を食い荒らすべく進撃する。

 

パーティーの上空を鎖が薙ぎ、天井から生まれ落ちたモンスターを一掃する。

血しぶきが落ちる頃には、パーティーは既にそこにいない。

 

前へ。

前衛の二人と最後尾の一人が切り開く道の先へと彼らは進み続ける。

 

「ナルヴィ、大双刃(ウルガ)ちょうだい!」

 

「はい!」

 

「ありがと!…せえっっのおおぉ─────ッ!」

 

全身を用いた回転斬りが進路上にいたモンスター達をすべて両断にするが、今度は開けた通路の奥とさらには横道から黄緑色の津波が訪れる。

 

「隊列変更!ティオナ、下がれ!」

 

新種の登場にフィンから素早く指示が放たれ、後退するティオナと阿吽の呼吸で入れ替わるようにアイズが飛び出す。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

「【呑み込め(エメス)】」

 

2人の付与魔法使いが魔法を発動し、前方は風を分け与えられたベートとアイズが、横道はナズナが引き受ける。

 

そして、腐食液による射撃を風と岩の鎧が遮断し、不壊属性の武器と岩を纏った鎖が芋虫達を鏖殺していく。

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬───我が名はアールヴ】」

 

「【帯びよ炎、森の灯火。撃ち放て、妖精の火矢。雨の如く降り注ぎ、蛮族どもを焼き払え】」

 

「総員退避!」

 

リヴェリアとレフィーヤの並行詠唱が終了し、フィンの声と共に部隊が散開する。

直後、2人のエルフによって魔法が放たれた。

 

氷と炎。

二つの属性の魔法が正面と真横へと突き進み、壁を凍りつかせ、あるいは修復が必要な焦げ跡をつけて見せる。

 

壁が傷つけられれば、修復が優先されモンスターはしばらく生まれない。

上層から変わらないダンジョンの特性によって、ナズナ達はあっさりと下部階層へと続く階段にたどり着いた。

 

「行くぞ」

 

ここまで無傷でたどり着いたパーティーを見回すと、フィンが短い号令を出す。

 

「戦闘は出来るだけ回避しろ!モンスターは弾き返すだけでいい!」

 

51階層とはうって変わった指示に、椿が怪訝そうな顔をする。

そして、サポーターとして戦闘には参加していないラウルへと質問を投げ掛けた。

 

「手前はここまで深い階層に来たことがない、何かあるのか?」

 

「狙撃されるっす……!?」

 

その質問に、ラウルは顔から脂汗を散らしながら答えた。

 

「狙撃…?」

 

頭の中に疑問符を浮かべる椿の耳が、一つの声を聞いた。

それは、地の底から昇ってきたかのような禍々しい雄叫び。

 

「竜の、遠吠え?」

 

声がするのに敵の姿が見えないと、椿が辺りを見回すのと同時に、フィンはポツリと口を開いた。

 

「───捕捉された」

 

「うし」

 

フィンの碧眼が細められ、ついでその言葉に対してあまりにも軽い言葉が続く。

 

「行ってくる」

 

パーティーの最後方にいたナズナが走りだし、そのあとを追うように回りにいたモンスターたちも追いすがっていく。

温存しろと言われていたスキルを全力で行使しているのは明らかであり、モンスターの横やりがなくなったパーティーの移動速度が一気に跳ね上がる。

 

そして。

 

「───来る」

 

中衛部にいたアイズが、攻撃の予兆を感じ取った次の瞬間。

 

「───────────────」

 

地面が爆砕した。

迷宮の階層をぶち抜くというデタラメな攻撃が、フィンたちの視界を紅蓮に染め上げる。

 

「ハハハハハハハ!ジャックポット!モンスターの全滅気持ちいいぃぃぃぃいいいい!」

 

同時に、ナズナと共にモンスター達がすべて火に呑まれ、蒸発させられる。

ナズナも当然無事ではすまないが、それでも鎧の一部の表面が赤熱を帯びただけだ。

 

火炎のうねりがそのままの勢いで天井を突き破るのを見て、押し寄せる爆風に耐えていたサポーター達が口内で悲鳴を上げる。

 

この状況を楽しんでいるのは、今まさに火に呑まれながら、本物の魔法使い(リヴェリア)になれたみたいだぜ。テンション上がるなぁなどと考えているバカだけだろう。

 

───『階層無視』というデタラメをも誘導する、規格外のデコイスキル。

 

かつて、迷宮都市に君臨していた【ゼウス・ファミリア】が名付けたこの層域の名は『竜の壺』。

今まさに追撃を放とうとする狙撃の下手人もまさに竜であり、全長10Mの巨躯を持つ砲竜『ヴァルガング・ドラゴン』達による第二波が放たれた。

 

「よ、ほ、ここだな?じゃあな諸君!またあとで会おう!一番乗りは貰ってくぜ!」

 

それを後続の進路がなくならないように誘導していたナズナは、今なお熱波が残る大火球の通り道。

58階層まで続く縦穴に向かって、躊躇なく飛び込んだ。

 

「アイルッ!ビィィィィ!バアッックッッッッッッ!!」

 

「レフィーヤ、ベート、ティオナ、ティオネ、アイズ。ナズナに続けっ!」

 

ロキに仕込まれたサムズアップのポーズと共に落ちていくバカによる作戦にない行動を見て、正直予想できていたフィンが鋭く指示を飛ばす。

 

「他は正規ルートで58階層を目指す!ガレスを先頭に変更!全員遅れるな」

 

激しいフィンの指示にパーティーが導かれる。

 

「ん、わかった」

 

「何やってるんですか兄さん!」

 

「あのクソチビに先越されてたまるか!」

 

「またすぐに会いましょう団長」

 

「いっっくよおおおおぉ───!」

 

冒険はまだ終わらない。

二つに別れたパーティーは、それぞれの全力をつくし、竜の壺の底へと進み始めた。

 

 

 

 

元気よく紐なしバンジーをした若者(一人を除く)たちと別れたパーティー本隊は、先程と変わらない速度で52階層を移動していた。

 

「全員目の前の敵に集中しろ!ナズナのお陰で狙撃は来ない!走れ!」

 

疾走を続けながらフィン自らが槍を振るい、先頭にいるガレスの援護、あるいは彼の斧が捉えきれないモンスターを撃破していく。

途中新種が現れても殿を勤めるリヴェリアが魔力を使って誘導し、ガレスやフィンが押し返し、リヴェリアの魔法が道を作る。

最古参の三人による連携によって、足の速さが自慢の前衛がいなくなってからも変わらない速度での移動を可能としていた。

 

そこにレベル5の椿も加わり、サポーターを中心にしてそれを囲むような隊列は、目の前に立ちふさがるモンスター達を屠りながら、最短経路で進んでいく。

 

本来なら縦穴から来たであろう飛竜(ワイバーン)すらこの階層に上がってこないことを考えると、ナズナは相当本気でデコイスキルを使っていることになる。

 

───ナズナは、家族を危険にさらさないために、当たり前のように一人になる。

 

自分の体を大事にしていないわけではない。

戦闘後のケアは怠らないし、飲みすぎた翌日にはちゃんと身体に優しい食事を取ったりもしている。

それでも、まるで何かに急き立てられるようにナズナは家族の為に身を切り、酒を飲む。

ギャンブルで借金を作る。

ただ家族が大好きだからなのか、それとも何か他に理由があるのか。

唯一ナズナの根っこの部分まで理解しているロキ以外で、その理由を知っている者はいない。

 

だが、理由は関係ない。

いくら回復できて頑丈とはいえ、仲間にいつまでも負担を強いる方針をフィンは取るつもりはなかった。

 

「53階層…!」

 

階段を発見し、そこへ飛び込むようにして駆け降りた先で待ち構えていたのは、モンスターだけではなかった。

 

「人、なのか…?」

 

芋虫型のモンスターの群れの上に立つ人影。

紅のローブが揺らめいており、その背中には銀色の大剣を吊り下げている。

 

にらみ合いをする事暫し、高まる緊張感を切り払うように紅のローブの人物が右腕をつき出した。

 

『…アリアはいないか。なら用はない。───殺レ』

 

「転身!横穴へ飛び込め!」

 

津波と見紛うほど大量の腐食液が放たれる寸前に、フィンの指示が出る。

全員が一糸乱れることなくフィンの声に従い、最後尾のリヴェリアが横道に飛び込んだ直後、腐食液の波が通路を蹂躙する。

 

「な、ダンジョンが溶けた…!?」

 

「走れ、止まるな!」

 

「盾を寄越せ!」

 

ダンジョンの天井や壁が溶け、焼けるような音と鼻を突き刺す異臭、膨大な煙を発生させる攻撃にラウルが思わず悲鳴を上げるも、フィンもガレスも止まらない。

すぐにそれぞれが指示を出し、パーティーは急かされるように走り出す。

 

「誘導されている…!」

 

というよりも、ダンジョンが腐食液の一斉射撃によって溶かされるという背後の光景のせいでパーティーは走るしかない。

 

まさかの戦術比べを前に、フィンは走りながら自分の親指を一舐めして、思考を巡らせる。

これまでの情報から敵の目的がアイズの生け捕りである可能性がフィンの頭によぎり、相手を逆に生け捕りにするべくオラリオ随一の頭脳が策を弾き出した。

 

「ガレス」

 

「うむ」

 

交わされた言葉は互いに短い。

だが、ファミリア結成時からずっと時間を共にしてきた二人にとって、やり取りはそれだけで十分だった。

 

くるり、とフィンの手元で槍が回され、ガレスがサポーターから受け取っていた大盾をぶん投げる。

 

「ぬぅん!」

 

突き抜けた『力』の能力値(アビリティ)、そして力を強化するドワーフ特有のスキルの恩恵をもってして投げられた大盾は、進路上のモンスターたちを悉く一掃する。

 

シールドバッシュ(投擲)。

ナズナの十八番であり、同時に耐久バカよりも恵まれた攻撃力によって放たれる威力は、ナズナのそれを大きく上回る。

 

巨蟲(ヴィルガ)!?』

 

盾とすべきモンスター達が、逆に盾によって引き潰されていく光景に怪人が思わず悲鳴を上げる。

 

第一級冒険者、ガレス・ランドロック。

都市最強のオッタルとオラリオ一、二を争える力のアビリティと、ナズナには劣るものの、これまた都市最強のオッタルと争える耐久のアビリティ。

生まれながらの前衛アタッカーであり、正直タンクまでされたら俺の立場がなくない?とナズナが愚痴る程タンクも熟せる超前衛特化型。

 

重傑(エルガレム)】と呼ばれるに足る大戦士は、盾に気を取られる怪人を見て獰猛に笑った。

 

「手間取らせてもらったよ」

 

『!?』

 

直線的な盾を回避した怪人は、その盾の影から繰り出された長槍を大剣でなんとか弾き返した。

 

馬鹿なっ、と怪人から思わず呟きが漏れるのにお構い無く、フィンは近接戦を繰り広げる。

何てことはない。

フィンはただ超前傾姿勢で、モンスターを粉砕しながら突き進む大盾と同時に死地を駆け抜けてきただけだ。

 

ガレスへの信頼と前へと進む勇気。

それがなければなし得ない勇者の奇襲を前に、防戦一方になる怪人は、食人花を呼び寄せようとするも強攻撃によって体勢が崩される。

追撃を恐れ、防御姿勢となる怪人は見た。

 

フィンが自分から目をそらすことなく離れていくところを。

 

『【ウィン・フィンブルヴェトル】ッ!』

 

なにを?と思う怪人が次の行動に移る前に、逃走を続けながら並行詠唱によって呪文を完成させるという離れ業を行っていたリヴェリアによって、三条の吹雪が放たれる。

 

通路の突き当たりまで横穴ごと凍てつかせる氷結魔法。

蒼氷世界と化した通路を前に、ようやく戦闘が終わったと全員が胸を撫で下ろすのだった。

 

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

いよいよ一区切りが見えてきました。
ロキ・ファミリアの、中でも三巨頭の戦闘シーンはどうしても力が入ってしまいます。
もっとかっこよく書きたい。 

そして、ナズナの行動や神ヘスティアや神ディオニュソス、ユニコーンのナズナの性別や年齢への勘違いにはちゃんと理由があったりします。
つまりただギャグでやってた訳ではないんですね。
そこまでたどり着けるかはわかりませんが。

おそらくあと二話でとりあえず一区切りです。


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第二四話。穢れた精霊

お気に入り登録、評価、感想、ここすき、誤字報告ありがとうございます。

いよいよクライマックスです。
今回でようやく長い前振りが終わりますので、次回はちゃんと見せ場があります。
たぶん。
もっと移動パートでも面白くかける文才がほしいです。



 

「逃げられたぁ?何やってんだよフィン」

 

「やれやれ…そもそも君が縦穴に落ちていかなかったら早かったんだけどね。魔剣の代わりに君の誘導で砲竜で殲滅していくつもりだったんだから」

 

「まぁまぁ。こやつだって自分がパーティーの近くにいたら砲撃とモンスターの物量でアイテムも装備も取りこぼした前回のようなことになると思ったんじゃろ」

 

リヴェリアの魔法によって壁に氷付けにされた怪人は、その四肢を魔力で爆発させて氷の拘束を振りほどくと、まるで最初からそこにいなかったように忽然と姿を消したらしい。

 

とはいえそれを追うには情報が足りなすぎる。

深追いは危険と判断し、とりあえず合流したフィン達は、先に58階層に降りていたメンバーと協力し瞬く間に敵を殲滅。

出現し続けていたモンスター達は長い産出幕間(インターバル)に入ったのか、周囲で何かが動く気配はない。

そして、冒険者たちに目に見えた消耗はない。

ナズナというデコイを使った殲滅という手法は、深層でも通用するという証だった。

 

「はっ、余計なお世話だ。初見じゃなきゃどうにでもなるっての」

 

「一回ナズナがデコイ緩めたとき、本気でゼェゼェ言ってたくせにー」

 

「そりゃテメェのことだろう!?」

 

じゃれるベートとティオナを中心にパーティーには弛緩した空気が流れ、各々回復薬と精神回復薬や携行食などを補給していく。

 

「……」

 

「団長、どうかしました?」

 

「ンー…」

 

アイズ達が息つく中、一人休むパーティーに背を向けて次の階層へと続く大穴を見据えるフィンに向かってティオネが話しかけるも、反応が芳しくない。

それに心配そうな顔をするティオネに向かって、ナズナが訳知り顔で口を開いた。

 

「ティオネ、フィンだってエチケットのために時間を要することもあるんだぜ?」

 

「エチケットってなによ」

 

「わかんねーのか?チンポj「違うからね?」」

 

「団長の団長…!?ふふっ、ふふふふふふふ!」

 

「なら、チャックにチン毛でも挟んだか?」

 

「【ゼウス・ファミリア】が残した記録によれば、59階層から先は『氷河の領域』の筈だ」

 

トリップしだしたバーサーカーと茶々を入れてくるバカを放置して、フィンは話を続ける。

 

「至るところに氷河湖の水流が流れ、進みづらく、極寒の冷気が体の動きを鈍らせる、そんな記録があったな」

 

「サ、火精霊の護布(サラマンダー・ウール)は準備済みっす。他派閥に頼んで譲ってもらったものもあるっすけど、サポーターも入れて人数分どころか予備もしっかり」

 

防火と防寒ができる優れものであり、微精霊や中級の精霊の協力の元作られる防具だ。

それをバックパックから取り出すラウルへと一瞥をくれたフィンは、その碧眼を細める。

 

「第一級冒険者の動きを凍てつかせるほどの恐ろしい寒気……なら、その階層を目前にしている僕たちの元に、どうして冷気が伝わってこない?」

 

フィンの推測を前に、アイズたちも異変に気づき各々の武器を握りしめ、立ち上がる。

 

「…ラウル。火精霊の護布(サラマンダー・ウール)を配ってくれ。防寒対策には意味がないだろうけど、それでも上質な装備を重ねておくのは無駄じゃないはずだ。…総員、三分後に出発する」

 

そして、連絡路を越えた先。

未到達階層の59階層。

 

「──────」

 

視界に広がった光景に、誰もが言葉を忘れた。

そこに氷河などありはしない。

高くそびえる氷山や蒼水の流れなど存在しない。

 

不気味な植物と草木が群生する、変わり果てた景色だった。

 

「密林…?」

 

「これって、24階層の?」

 

巨大花に寄生され変貌した食料庫と酷似した光景に、あの場にいた数人が眉をしかめる。

時折緑一色に染まった樹や蔦の向こうから、なにかを咀嚼しては、何かが崩れ、さらには何かが震えるような細く甲高い声音が聞こえてくる。

 

「前進」

 

フィンの声に全員が従い、密林を越えた。

 

「……なに、あれ」

 

樹林が姿を消し、灰色の大地が広がる大空間。

荒野と見紛う階層の中心には、夥しい量の芋虫と食人花。

吐き気を催すほどの大群は、巨大植物の下半身を持つ女体型のモンスターを囲んでいる。

 

「『宝玉』のモンスターか…」

 

「寄生したのはタイタン・アルム、なのか?」

 

リヴェリアが名前を出したモンスターは、同胞だろうが冒険者だろうが手当たり次第補食する『死体の王花』である。

その性質は残っているようで、芋虫と食人花から捧げられる魔石を片っ端から貪っている。

 

その光景から、冒険者歴の特に長い者達が目の前の光景について理解する。

 

───自分たちが今踏みしめる大地が、尋常ではない数のモンスター達が灰へと果てた死骸そのものだと言うことを。

 

「ベヒーモスとは真逆だな。あれは自分の死体一つで死の大地に変えていたが、こいつは自分が食ったモンスターの死骸でこの景色を作ったってことだ」

 

「強化種か…嫌になるね」

 

「ああ。本当にな。貢がせ嬢ってやつはほんとにたちが悪い。あいつら金払えば払うほどみたいな期待感煽っといて、意外となんもねーんだよ…おぇ…」

 

「ナズナ?」

 

「いや、悪い。ちょっと吐きそう。なんか喋ってないとしんどい」

 

珍しくナズナが弱音をこぼし、アイズが目を見開いたそのタイミングで変化は起こった。

 

『──ァ』

 

女体型の上半身が、蠕動のごとく打ち震える。

 

『──ァァ』

 

醜い上半身が蠢くように震え続け、一気に肉が盛り上がっていく。

そして、蛹から羽化するように、美しい体の線を持った『女』が産まれた。

 

『──ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』

 

歓喜の喜びが迸り、女は天を仰ぐ。

緑色の光沢のある髪に緑色のみずみずしい肌。

まさに天女といった風体へと変化した上半身に反して、下半身は巨大な花弁や無数の触手を出現させた怪物の物へと変容する。

 

『アリア───アリア!!』

 

「『精霊』!?」

 

アイズの言葉を聞いた瞬間、ナズナは吐いた。

 

「ナズナ!?」

 

魔法が解除され、吐瀉物をぶち撒ける。

その急激な変化に、リヴェリアが思わず悲鳴をあげるが、ナズナは地面にうずくまったままだ。

まさかナズナの身に流れる精霊の血のせいか!?と焦るリヴェリアを押し退けフィンが慌てて駆け寄った。

 

「き…」

 

「き?なんだ!?」

 

「……急に二日酔いが…!」

 

「は?」

 

「なんて恐ろしいモンスターだ…!相手を二日酔いにする能力者とはな…!つーかシンプルに高音が頭に響く!うるせぇ!」

 

いくらウコンの力とはいえ、急激な温度の変化と高音には勝てなかったらしい。

血を吐くように叫ぶナズナへ、白けた視線が集まっていく。

 

「ちょっと!心配かけさせないでよ!」

 

「そうですよ兄さん!心臓止まるかと思ったんですから!」

 

「こんなときにふざけてんじゃねエ!」

 

「お?なんだテメーら!そんなに蹴っても俺が喜ぶだけだぞ!つーか新種のモンスターを前にしてんだから集中しろ!」

 

「それはてめえだろうがあああ!」

 

「ご褒美です!ご褒美です!」

 

ゲシゲシとティオナを筆頭に若者たちから蹴りが入り、最後にティオネが頭に拳を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

「総員戦闘準備!敵は推定精霊のモンスター!魔法も来るぞ覚悟しておけ!!」

 

精霊の血の流れる人材を二人も抱えるファミリアの長として、精霊に対する知識を当たり前のように頭に叩きこんでいるフィンは、ナズナのお陰で混乱から回復したティオナたちに向かって号令を上げる。

 

正直賭けだ。

フィンとナズナは長い付き合いだ。

だからこそ理解した、その違い。

周りを不安にさせないために、ナズナの誤魔化しに言及しなかったが、あの倒れかたは確実に()()()()()()()()()()

そうでなければリヴェリアは取り乱したりしないし、フィンもわざわざ隊列を無視して駆け寄ったりしない。

ナズナの出生に関わるものなのか、それとももっと別の理由か。

分かっているのは、ファミリアの最硬戦力が現状使い物にならない可能性があると言うことであり、何よりこれからナズナへ無茶を強いることになるということでもある。

 

ちらりと目線をやれば、相変わらず顔色は優れないもののナズナは気にすんなと手を振って見せる。

 

撤退だって視野に入れている。

だが、今ここで敵の情報を少しでも多く持ち帰らなければ手遅れになるという確信と、ここで自分達が退けば次に犠牲になるのはこのモンスターが上がってきたときに出会った何も知らない冒険者たちだという現実がフィンが退くのを許さない。

 

───冒険の時間だ。

 

フィンは、遠征の途中で見た白髪の彼の勇姿を脳裏に浮かべ、眦を決した。

 

「モンスターなのに詠唱するの!?」

 

「どうせいつもとやることは変わらねぇ、ブッ殺すッ!!」

 

アハッ、と戦意を滾らせる冒険者たちに向かって『彼女』が笑う。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

破鐘の吠声を響かせ五十を優に超える芋虫型と食人花が進撃してくる。

押し寄せる黄緑の津波を前に、ガレスもまた前に出た。

 

「リヴェリアは結界魔法の用意!レフィーヤはヴェール・ブレスを!ラウルたちサポーター組は前衛の援護を魔剣で行うんだ!ナズナはその場で待機!敵の雑兵は押し返すだけでいい!全員離れるな!」

 

「わかりました!」

 

「はいっす!?」

 

対階層主と同等の精度で指示を飛ばすフィンに、後衛組は行動を開始する。

そして、押し返すだけとはいえ何匹かを前衛組が屠り、あるいは行動を不能にすることで後続の妨害をしながら防衛戦を維持していく。

 

『フフッ』

 

雑兵(モンスター)達が倒されていくなかでも、生まれ変わった女体型の余裕は変わらない。

なにせ()()からすれば、結局彼らは自分の手足でしかないのだ。

心というものが彼女にあるかはさておき、少なくとも彼女にとってなにか影響のある状況ではなかった。

 

そして、そんな道具ではなく自分と遊べと言わんばかりに、彼女は下半身からその巨体に見合った柱とも見紛うほどの触手を眼前に掲げ、恐ろしい速度で撃ち出した。

 

「うりゃぁぁあああーっ!」

 

「この…っ、なめないでよねッ!!!!」

 

迫り来る長大な触手郡に対し、ティオナとティオネが疾走し、迎撃する。

切り払う触手に傷は一つもつかないが、狙いの的となっているアイズから逸れ、勢いを失ったその触手をガレスの大戦斧とベートの銀靴が破壊する。

 

「魔剣、放てっ!!」

 

その触手の再生が始めるより早く、ラウルたちの魔剣が傷を焼き、再生を許さない。

そうやって敵へのダメージを少しずつ蓄積していく彼らは、そこに喜ぶでも油断するでもなく、間違いなくこのあと来る本命への警戒を高めていく。

 

自分に向かって小さな牙を振り下ろす冒険者に向かって、『彼女』は微笑んだ。

 

『【火ヨ、来タレ───】』

 

そして、フィンの予想通り呪文(うた)が奏でられ始める。

 

「ナズナ───」

 

「───任せとけ」

 

ナズナはタンクだ。

だが、ナズナに自分の身の丈を超える範囲攻撃を防ぐ手段はない。

そのため、普段はそもそも誰よりも前に出て範囲攻撃をさせないという方法を取っている。

 

しかし、今回のような敵までの距離がある場合その手段は取れない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『【猛ヨ猛ヨ猛ヨ炎ノ渦ヨ紅蓮ノ壁ヨ業火ノ咆哮ヨ突風ノ力ヲ借リ世界ヲ閉ザセ燃エル空燃エル大地燃エル海燃エル泉燃エル山燃エル命全テヲ焦土ト変エ怒リト嘆キノ号咆ヲ我ガ愛セシ英雄ノ命ノ代償ヲ───】』

 

「【大いなる森光の障壁となって我等を守れ───我が名はアールヴ】」

 

「魔剣斉射!ナズナ以外全員下がれ!」

 

結界魔法を発動する用意をしていたリヴェリアが落ち着いて魔法を完成させる。

その直前サポーターたちによる魔剣の斉射によって食人花や芋虫といった黄緑の津波を一時的に押し返す。

 

そして、ナズナは杖を構えるリヴェリアの前で、クラウチングスタートの構えを取った。

 

「【ヴィア・シルヘイム】」

 

『【代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ火精霊炎ノ化身炎ノ女王───ファイアーストーム】』

 

結界が展開され、それに遅れるように敵の魔法が放たれる。

その瞬間に、ナズナは走り出した。

 

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

今日はもう一話投稿します。
次が最終回(仮)です。
ラストバトルです。
正直見せ場の少ない移動パートは全カットしたかったのですが、いきなりラストバトル始まるのもそれはそれでなぁと頑張って書き上げました。


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第二五話。家族愛鎖


本日二話目の投稿です。

第一章の最終回です。
途中で投げ出したりせずにここまでたどり着けたのは読者の皆様のお陰です。
本当にありがとうございました。

最終回(仮)なので、神BGMである英雄願望を流しながら読んでいただくと名作に見えるかもしれません。


 

世界が紅に染まった。

 

「─────────」

 

火炎の精霊を彷彿とさせる、極大の炎の嵐。

前方から吹き寄せるのは炎の津波だ。

紅の熱波が、黄緑色の波を呑み込んでリヴェリアの視界に押し寄せる。

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!?」

 

結界と炎の衝突音。

そして杖を両手で支えるリヴェリアの苦鳴。

それでも、リヴェリアは決して負けるつもりはなかった。

 

───その地獄を突き進む家族に報いるためにも。

 

「温ぃぃぃんだよ!テメェの魔法はぁぁぁぁあああッ!!」

 

ナズナは焔の中を疾走する。

そこに速さはない。

存在する距離を無意味にするような俊足を、彼は持ち合わせない。

 

だが、止まらない。

世界で一番硬い冒険者は、本調子ではない故に岩の鎧を熱で溶解させながら、それに構わず前へと進み続ける。

 

「タンクを使い潰すやつは負けるんだぜ!大事にしろよ壁役は!地味だけどな!」

 

先程まで眼前で壁となっていた食人花や芋虫はもういない。

守るべき主の魔法で既に焼き付くされた。

 

味方すら生かさない絶死の地獄を、ナズナは鎧をボロボロにしながら最短距離で突破する。

 

『アハッ、()()()ガ喋ッテル!』

 

「さすが腐っても精霊!俺の正体もお見通しってかァ!?」

 

そして、飛んだ。

走り幅跳びの要領で浮かび上がる壊れかけの巨人を、女体型のモンスターはその触手で打ち落とそうとするが失敗する。

自分が想定していたよりも、触手の長さが足りていなかったらしい。

普段なら既に再生している傷がまだ残っていたことに、『彼女』は不思議そうな表情を浮かべる。

 

先程の攻防で家族がつけた爪痕に、ナズナは心の底から嬉しそうに笑った。

 

「プレゼントだ、先輩!」

 

空中で大きく振りかぶり、唯一残っていた鎧の腕の部分が爆発させながら、盾が放たれる。

まるでパイルのように歪ながら鋭い殻を纏った盾が、女体型を守る花弁の装甲を真正面から破壊していく。

喉を潰そうと投げられたその盾は、その衝突で狙いが逸れ、女体型の片腕を潰しただけに止まった。

 

だがそれでも、その衝撃で魔法が終わり世界は緋色以外の色を取り戻す。

 

『デモ、オシマイ』

 

無垢な嘲笑が、ナズナを見据える。

盾を失い、渾身の技を放ち無防備なナズナを今度こそ触手が捉えた。

 

鎧はもうない。

下に着込んでいた火精霊の護布(サラマンダー・ウール)すらずだずたに引き裂かれ、ナズナは地面へと叩きつけられた。

その小さすぎる体で女体型の攻撃を諸に受け止めたナズナは地面に叩きつけられた状態で動かない。

流れ出る血の量は、死がもう間近に迫っていることを示していた。 

リヴェリアたちもまた、ナズナが魔法を止める寸前に吹き飛ばされている。

 

『アナタハ独リココデ死ヌ!結局アナタハタダノ捨テ駒!身ノ程ヲ知レ()()()()()()()()()()()()!死ネ()()()()()!アハハハ!アハハハハハハハハハ!』

 

そこに追い討ちをかけるように、女体型は嘲笑を浴びせかけ、人間のように腹を抱えて笑う。

モンスターに食べられたことでその性質を反転させた『彼女』は、まるで人間側に居場所があるナズナ(精霊の血)を心の底から許せないと言うように、溢れ出る悪意を浴びせかける。

 

どす黒い魔力の籠った言霊は呪詛となり、精神を蝕む。

 

「───お前、俺の家族舐めすぎだぜ」

 

その呪詛()を前に、ナズナは笑った。

 

腕はひしゃげ、片目も失い、立つのもやっと。

這うようにして立ち上がり、喋るだけで血を吐くナズナに、もう何か出来るような力が残っているとは思えない。

それでも、女体型はその笑みに確かに恐怖を覚えた。

 

そこでようやく、女体型は自分の目の前にいる豆粒から何かが延びていることに気付く。

だがもう遅い。

彼女がなにか行動を移すよりも早く、ナズナは一本背負いのような動きで()()を振り上げた。

 

───鎖だ。

 

その先にはガレスが、アイズが、ベートが、フィンが、リヴェリアが、レフィーヤが、ティオナが、ティオネが、ラウル達がしがみついている。

家族を痛め付けて悦に浸る怪物を睨み付けながら、フインは檄を飛ばす。

 

「全員、絶対その手を離すな。必ずあの怪物を討つ!!」

 

『アリアドネ』。

名前に反して、ミスリル製である以外なにも特徴のない鎖。

レベル7祝いに、ファミリア全員がお金を出し合って送られたもの。

 

英雄神話のアルゴノゥトに登場する姫か、あるいは道化を姫の元へ導いた一本の糸か。

始まりの喜劇において重要な役割を持つ銘を冠する鎖は、今日もただの鎖として所有者の無茶に振り回されている。

 

だが、この鎖の手入れはいつだって完璧だ。

所有者と家族を繋ぐ絆の証は、色褪せない。

何度だって、その輝きを取り戻す。

 

「僕達は神ロキと契りを交わした迷宮都市(オラリオ)で最も強く、誇り高い偉大な眷族(ファミリア)の冒険者だ!意地を見せろ!何がなんでも家族(ナズナ)の下へたどり着くぞッ!!!!」

 

そして、今。

ただの鎖は、怪物の心の臓を貫く冒険者たち(銀の矢)を放つ弦となった。

 

彼らとて既にボロボロだ。

魔法が途中で終わったとはいえ、リヴェリアの結界魔法を破るほどの魔法に全員吹き飛ばされた。

それでも、気絶しそうになりながらも鎖を手放さなかったガレスに続くように、全員が歯を食いしばっている。

 

「アイズ、力を溜めろ!全力の一撃で決めてもらう!」

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

スキルの効果範囲内にいる同恩恵を持つ者に対するあらゆる攻撃の威力を減衰させるナズナのスキル【家族愛鎖(サルビア・ハート)】。

レフィーヤのヴェール・ブレス。

リヴェリアの結界魔法。

そして、火精霊の護布(サラマンダー・ウール)

 

三重の想いと一つの装備に守られた冒険者が諦めるなんてあり得ない。

それに何より。

誰よりも前に出て傷つく仲間に報いなくて、何が家族だ。

 

『ラァァァ───』

 

そんな気迫を、女体型は下半身に存在する蕾を開花することで迎え撃つ。

花開いた巨大な極彩色の大輪に、階層中に漂っていた火の粉のような赤い粒子が吸い寄せられていく。

回復と同時に魔力の再蓄積(リチャージ)を進める姿は、まさに死神。

 

だが、そこにノイズが走った。

 

「俺たちだって…俺たちだってあの人の助けにッ!!」

 

ラウル達サポーター組が二人一組となり、一人が鎖ともう一人を掴み、両手が自由になったもう一人が鎖に足を絡めながら魔剣を振り下ろす。

普段ならただ盲目的にフィンに従う彼らの見せた()()()()()()()()()()()に、ベートやティオナが目を見開く。

 

そして、笑った。

 

「雑魚に負けてられっかッッ」

 

「いっくよおおおおおおお───!」

 

「上等……!!!!」

 

ベートが鎖へと噛みつき、天井を走る。

自分以外の12人という重みをものともしない加速に、全員が引っ張られるように前へ。

そこに振るわれる触手をティオナの大剣とティオネの斧槍が叩き落とし、さらに前へ。

 

「おらああああああああああああ!!家族愛に満ちたこの身体を舐めんじゃねええええええええええ!瀕死の傷がなんだってんだ!」

 

家族の奮闘に応えるようにナズナが吠え、最後の力を振り絞るように鎖を引っ張る。

食人花や芋虫の大軍が再び産み出され、ナズナへと襲いかかるも、全て無視(食いしばる)

鎧すらない瀕死の守護妖精は、血反吐をぶち撒けながら凄絶な笑みを浮かべた。

 

「俺は…!レベル7だぞ!」

 

そんなナズナに寄り添うように、フィルヴィスのお守りが僅かに白い光を帯びる。

純粋な祈りの込められたお守りが、ナズナの傷を僅かに癒す。

 

『【突キ進メ雷鳴ノ槍代行者タル我ガ名ハ雷精霊雷の化身雷ノ女王───】』

 

「【盾となれ、破邪の聖杯───ディオ・グレイル】!!」

 

『【サンダー・レイ】』

 

豪雷の大牙。

直前にレフィーヤが展開した純白の円形障壁がそれを阻むも、すぐに打ち破られそうになる。

 

「ふんばれえええええええい──────ッ!!!」

 

しかし、その障壁へ内側から斧が振り下ろされた。

気合一閃。

巻き起こる閃光(スパーク)に目が眩みそうになるも、全員が鎖を握りしめる。

 

そして、レフィーヤの首にかけられたお守りもまた、ナズナのそれと同じように光りを帯びる。

効果は僅か。

それでもその(約束)がくれる暖かさは、レフィーヤとナズナへと何倍もの力を与えてくれる。

 

「ぁぁぁああああああ!生きて、みんなでッ!!!帰るんだから!!!!」

 

「よゆーなんだよ、この野郎おおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

それに後押しされるように、レフィーヤとナズナが叫び───相殺する。

 

雷の奔流が雲散し、遅れて魔法の盾がその役割を終えて砕ける。

火花を散らすその空間を切り裂くようにナズナに引っ張られて、全員がさらに前へ。

 

「【焼き尽くせ、スルトの剣───我が名はアールヴ】!!」

 

冒険者達、眼下に広がるモンスターの大軍、そして『穢れた精霊』、ナズナ。

全ての者たちの視界に翡翠の輝きが広がった。

愛する家族たちを傷つけられたことへの激情を薪に焚べ、リヴェリアは高らかに魔法名を告げる。

 

「【レア・ラーヴァテイン】」

 

巨炎が生まれる。

それはまるで、先程の地獄の再現だ。

魔法円から放たれる無数の炎の柱が、階層を呑み込み、獄炎のうねりが世界を紅に染め上げる。

 

違うのは、盾役(仲間)が無事なこと。

 

『ァァァァアアアア!』

 

苛烈で、過剰で、暖かい。

世界最強の魔道士の全力全開が、ナズナにさらに力を与えてくれる。

 

射出されること十度、計十柱の業火が女体型の巨躯を揺るがした。

触手が残り一本となり、花弁や食人花といった守りを失った自分を見据えて吠える冒険者たちを前に、女体型は初めて笑みを消す。

そして、『彼女』の甲高い呼び掛けに応えるように、下部階層から緑槍が打ち出された。

 

鎖がしなり、全員が振り落とされそうになるも、その程度で彼らが諦めるのだと思ったらそれは大間違いだ。

 

「邪魔だぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

「いい加減しつこいわああああああ!!!!」

 

「道を開けろ────────っ!!」

 

目の前に出現した新たな壁に向かって、いつの間にか()()()()()()()()()()ベートの蹴りや双剣と、ガレスの斧、理性を捨てたフィンの槍が振るわれる。

炎の大顎が、豪胆な一撃による風圧が、幾重にも重なる鋭い銀閃が壁を細切れにする。

 

鋭い先端を失いただの丸太になった緑槍を足場に全員が駆け抜け、ついに道が開けた。

 

「「「行け!」」」

 

ならばと唯一残った自前の触手を振るおうとした穢れた精霊は、それすらも失敗する。

道が開けたことで鎖を手放したナズナが、触手に噛み付いていたからだ。

オリハルコンより柔らかい防御など、ナズナの顎と歯に通用するはずもない。

限界間近だとしても、ナズナのレベル7たる所以はまだ残っている。

喰らいつき、ぼろぼろの身体で踏ん張る怨敵に穢れた精霊は激昂した。

 

『離レロ!!』

 

その雄叫びに従うように、再び産まれた食人花がナズナへと殺到するが、全てが灰になる。

 

「ふん、斬り甲斐のない奴らめ。ただ従うだけのお前らが、至高の頂きに届くわけもなかろう」

 

道が開けた瞬間に、眼前の巨大なモンスターに見向きもせず、誰よりも早く地上へと飛び降りた椿が刀を肩に乗せながら吐き捨てる。

彼女は穢れた精霊への討伐の協力ではなく、ナズナを優先するようにフィンから頼まれていた。

片手でエリクサーをナズナへとぶっかけながら、背中から抜いた槍で、斧で、剣で次々と灰を生み出していく。

唯一ロキ・ファミリアではない冒険者。

否、鍛冶師。

試し斬りだけでレベル5へと上り詰めた鍛冶師は、鬼神の如き強さを振るっていた。

 

そんな光景を眼下に収め、宙に浮いたまま穢れた精霊を睨みつけるティオナとティオネの二人は、右と左。

それぞれの拳が重なるように腕を引き絞った。

それを支えるように、元緑槍の丸太へと足をつけたラウルたちが大盾を構え姉妹の足場となる。

 

(───私は『アリア』じゃない)

 

今や暴風と化した魔法(エアリアル)を纏いながら、アイズは家族の拳に足を乗せる。

 

(───私は貴方のことを知らない)

 

アイズの金の瞳と、冒険者たちを見上げる女体型の金色の瞳が視線を絡める。

膝を曲げ、アイズは眦を吊り上げた。

 

(───でも、貴方はいちゃいけない)

 

「「行っけえええええええええ!」」

 

渾身の力で振り抜かれた姉妹の拳に押されるようにアイズが跳ぶのと、レフィーヤの魔法が放たれるのは同時だった。

 

「【アルクス・レイ】!!!」

 

「リル・ラファーガ」

 

猛り狂う風を追い越し、妖精の一矢が穢れた精霊の顔面にぶち当たる。

上半身ごと大きくのけ反り、彼女は天を仰いだ。

 

───彼女は空を見たいと言っている!

 

不意に、レフィーヤの脳内に食料庫で聞いた言葉が過る。

あの男の言っていた彼女が、目の前の彼女なのかはレフィーヤにはわからない。

それでも、それは確かに切望に見えた。

 

「さようなら」

 

焦がれるように空へと手を伸ばす穢れた精霊を、神風(アイズ)が貫いた。

 

 

 

 

 

 

59階層に勝鬨に似た歓声が響く。

『冒険』を越えた冒険者たちは声を、数々の武器は光沢を放った。

 

「いやはや、すごいものを拝ませてもらった」

 

喜び合うロキ・ファミリアを見守るように立つ椿は、左目の眼帯を一撫でする。

彼女の足下では、ナズナが気絶している。

 

「さて、連れていってやるとするか」

 

椿は襤褸布と化しているナズナの服の上から自分の火精霊の護布(サラマンダー・ウール)をかけてやり、担ぎ上げる。

 

灰に埋もれるように地面に突き刺さっていた大盾をなんとか持ち上げ、必死な顔をしてナズナへと走ってくるリヴェリアを見て、子供のように椿は笑った。

 

 

 

───これは数多の英雄譚たちの横で繰り広げられる道化芝居。

 

タンクとか言う地味な役割のせいで見せ場の少ない、起伏の少ない物語である。

 

 

だがいつか。

英雄譚として語られるかもしれない物語だ。

 

主人公の名前はナズナ・スカディ。

 

息を吐くように九魔姫を行き遅れ呼ばわりし、怒れる他のエルフの女性陣に中指をたてる口の悪いアラサーエルフ。

見た目も性格もただのクソガキ。

家族大好きガチタン隠れマゾ合法ショタエルフという属性過多な冒険者。

 

それがロキ・ファミリアのレベル7。

 

 

一発芸で頂点に手をかけた男だ。

 

 




思いの外綺麗にまとめれたので一度ここで一区切りとさせていただきますが、まだ回収できていない設定や書きたい話は残っていますので、おそらく続く予定です。
ギャグっぽいなにかをやって下ネタやって過去編やってバトルやってと、好き放題書いてるのでもしかしたらこれ以上は蛇足でここで終わった方がいいのかなと言う不安もあります。
少しだけ更新の間は開くことになりますが、もしまた再開したときは暖かい言葉を頂けると嬉しいです。

本当にありがとうございました。


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断章
断章の一。真夏の夜の恋宴・上


お気に入り登録、評価、感想、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます。

しばらく週一投稿です。
しかも続編ではなく番外編です。
いろいろすいません。

今回の話は、『第二一話。遠征前』で名前だけが登場していたダンメモのギャグイベント【ミッドナイト・ラブ・サバト】からになります。


 

 

夏なんだから恋がしたぁーい!と、同僚であり学区の頃からの友人であるミィシャがさまざまな本を購入していたのが一週間前。

そして、そのミィシャが仕事に来なくなったのが2日前。

これはなんだかおかしいゾ、とエイナが思い調べ始めたのが昨日のこと。

 

友人が何かに巻き込まれてるなら必ず助ける。

そう、例えどんな目に遭ったとしても。

 

「そう思っていた時期が、私にもありました…」

 

「何か言ったか?」

 

「いえ何でもありません…」

 

エイナは現在、水着とも下着ともとれるスケスケな、というかぶっちゃけドスケベな衣装を身に纏うことになったことを後悔していた。

 

「ぶふ、とても…っ、お似合いの…んふ、格好ですね?…ぶふふーっ」

 

「あなたの格好も大概ですよね!?」

 

エイナはわざとらしい敬語で煽ってくる隣の金髪ロングの絶壁娘に向かって叫びながら、どうしてこうなったのかについて思いを馳せた。

人はそれを、現実逃避という。

 

 

 

 

エイナが調査を始めた次の日のお昼。

『モテたい』『恋がしたい』等の言葉に絞って聞き込みをしていたところ、何やら怪しげな集会にミィシャが通っていたことを突き止めていた。

が、結果としてエイナにナンパされたと勘違いしたらしい男に絡まれることになっていた。

 

薄暗い路地裏。

美しい少女。

強面のハゲ。

 

これ程ありがちな展開もそうないだろう。

己の迂闊さを呪いながら、エイナはハゲの方ではなくじりじりと表通りの光の方へと移動していく。

 

「ぐへへ、おい姉ちゃん。恋がしてえなら俺が教えてやるよ」

 

「あ…」

 

だがどうやらその必要はなくなったらしい。

エイナは、絡んできた男の背後から近づいてきたその人物に思わず安堵の声を漏らした。

 

その人物は、無言かつ無音で男の後ろに回り込むと、袖を捲り上げてナニを掴み上げた。

 

「───よぉ、俺にも教えてくれよ。髪だけじゃなくタマも無くなった後でなぁ!?」

 

「ぐ、ぐわぁぁぁああああ!ま、待ってくれ。俺はただ、恋について教えようとしただけの善良な市民で…!」

 

「ぐへへが鳴き声で路地裏に生息するハゲが善良なわけねええええんだよなあああ!」

 

「ん、んほおおおおお!お、女の子になりゅぅぅううううううん!」

 

「う、うわぁ…」

 

助けてもらったのはありがたいけどもっと他に助け方はなったのだろうか。

あとそれはだいぶ偏見では?

いや、自分もそう思うけども。

エイナはそっと目線を反らしながら、絡んできた男の汚い悲鳴を無心で聞き流した。

 

 

 

 

とりあえずあの場を離れ、手洗い場を借りられる喫茶店に来た二人。

男のタマを潰し、返り汁で汚れた手を洗ったナズナは、用事があるとかで即帰宅しようとしていたが、エイナの奢りという言葉に負けて今は大人しく席に座っている。

 

「あの、改めて危ないところを助けてくださってありがとうございました!」

 

「…で」

 

「え?」

 

「いや、何してんのかなって。恋がしたいとか、モテたいとか聞こえたし、ナンパしてたんなら俺も立ち去るけど。なんなら男でも紹介するか?一応身元は確かだぜ?ベートって言うんだけど」

 

「ち、違います!私はそんなつもりじゃ…あとベート・ローガ氏を巻き込むのもやめてください!話が拗れる未来しか、というか私がこっぴどく振られる未来しか見えませんっ」

 

「えー?うーん、まぁ確かにベートと付き合うにはいろいろハードルがあるかもしれないけど、恋って障害が多い方がいいんだろ?」

 

「あってるけどなにかが違うんですよ!それに私はちゃんと好きな人と恋愛したいんです、ナンパとか誰かの紹介とかは今は遠慮しておきます」

 

「ほーん」

 

エイナの言葉に、初恋の相手(過去の男)であるナズナは心底どうでも良さそうに返事を返した。

というか、店員が運んでくるパフェに目を奪われていた。

 

「むむ…!」

 

「なんだよ?」

 

「別にー?なんでもありませんけどー?」

 

今のエイナの好きな人ではないし、今好きな人は別にいるが(無自覚)、興味なしと真っ向から態度を出されるとそれはそれで複雑、みたいな乙女心を察する能力をナズナが持っているはずもない。

それにそもそも、ナズナからすればエイナは恩人の娘であり、立ち位置的には保護者だ。

保護者らしいことをしているかはさておき、そんな姪っ子的な少女相手になにかしたり思ったりするほど、ナズナは良識を捨ててはいなかった。

 

「ん~~んまい!…はぁ、とりあえずむくれてないで話せよ。パフェ食べ終わるまでなら聞いてやる」

 

だが、最低限保護者らしくというか、エイナの奢りで運ばれてきたパフェに舌鼓を打ちながらではあるが話を聞いてくれるらしい。

目はパフェに釘付けだし、顔は甘味にめちゃくちゃほころんでいるが。

弾ける笑顔がとても眩しい。

 

「…おほん。あの、ナズナさん。恋の夜宴(ラブ・サバト)という名前を知っていますか?」

 

「知ってるよ」

 

「ほんとですか!?実はこのあとナズナさんの所に伺おうかと思ってたんです!こんな頭の悪そうな単語なら、きっとバカチャンプを名乗れるあなたが知ってるんじゃないかって!…あ」

 

1日半の調査の疲れと親友への心配。

先程のピンチから救出された気の緩みと、長い付き合いのナズナを前にした安心感。

それらが合わさって、いつもなら絶対に飛び出ることのないとんでもない暴言(保護者の影響)がエイナの口から飛び出した。

ヤバイと思ったときにはもう遅い。

額に青筋を浮かべたナズナは、パフェの器を持ったまま立ち上がる。

 

「帰っていいか?いいんだな?俺は帰るぞ!」

 

「あー!待ってください。嘘です冗談です!あ、ほら!この、ジャンボパフェってやつ奢りますからお願いします!」

 

「追いパフェ!?さすがに食えねーよ!あ、こらズボンを引っ張るな!わかったよ手伝うよ!だからそれ以上はやめろ!やめ、離せっ!…ズボン脱げちゃう!」

 

「あの、お客様?仲がいいのは大変結構ですが、周りの他のお客様への迷惑になりますし、何より私がムカつくのでお静かにお願いしますね?…チッ、モテない私への当てつけですか?」

 

「「ひえっ、すいません」」

 

 

 

恋の夜宴(ラブ・サバト)

階層主よりも恐ろしい怒気をまとった店員に涙目になったナズナが語ったところによれば、最近水面下で流行している闇の儀式らしい。

もっともなにか問題を起こしているわけではないので、ギルドやガネーシャ・ファミリアは動けていない。

 

その儀式の目的が下らないというのもあるのだろう。

いや、その儀式の目的は下らないときって捨てるには切実で、だが同時に多くの人にとってはそこまで必死になる必要のないものなのだ。

 

人間は恋をする生き物だ。

そんな人間に生まれたからには、誰でも一生のうち一度は夢見る「恋愛最強」。

恋の夜宴(ラブ・サバト)ととは、そんな恋愛強者(モテモテ女子)を目指して【恋の邪神】の力を借りようとする非モテたちの集会なのである…!

 

「も、もて…?」

 

「かまととぶんなムッツリエルフ。お前は呪詛(カース)を理由に担当冒険者とあんなことやそんなことをするタイプのエロフだろ」

 

「ありもしない事実で罵倒するのはやめてください!」

 

なお、そういう世界線もあった模様(真夏の恋の冒険譚)

 

「とりあえずその儀式をやってるつー場所に行くぞ。俺も用があんだよ」

 

そして、エイナが連れていかれたのはオラリオでも人通りがほぼ皆無な水路の集合地点。

そのすぐ近くにある古ぼけた城の前だった。

 

「いいか?会場に潜入するためにはモテない女にならなくちゃいけねぇ」

 

「そうですね…」

 

「だが、エルフは見た目がいい。普通ならモテない方が不自然だ。ほんとに。なんか知り合いは非モテばっかだけど。ぶっちゃけエイナも非モテ審査は大丈夫だろうが…」

 

「どういう意味ですか?」

 

「ま、見てろ。いいか?話しかけられても私はモテたいです!でごり押せ。頭もできるだけ悪くしろ」

 

フードを目深に被ったナズナは、困惑するエイナを置いてその城の前にたつ、門番らしき女性二人へと近づいていく。

 

「なんだ?ここは子供が来る場所ではないぞ。というかここがどんな場所かわかっているのか?安心しろ、その年ならまだ間に合う。人生に絶望するにはまだ早い」

 

「そうだぞ!本当の絶望は我々のように恋人いない歴=年齢をかなり積み重ねてからで…ふふ。なんだこれ、自分で言ってて悲しくなってきた…」

 

ナズナのエルフ耳と背丈から子供と判断したのだろう。

女性二人は優しいんだか虚しいんだか反応に困る自虐をしながら、やんわりとナズナへと帰るように伝えている。

 

そんな二人の言葉を無視して、近くまでたどり着いたナズナは、子供扱いにキレたのか。

それとも考えるのがめんどくさくなったのか。

とんでもない発言を繰り出した。

 

「なぁあんたら、一発やらせてやるから中に入れてくれ」

 

「は?」

 

「なに言ってんだこいつ…?」

 

「あ、もちろん中っていうのは俺の中って意味じゃなくて「アウトオオオオオオオオオオオ!」」

 

エイナはナズナの口を塞ぐべく、慌てて走り出した。

 

 

 

 

「それで、なんなんだお前たちは。というか特に()()()()!」

 

「ええっと、この子は…」

 

「俺は女が大好きなだけのナズーだ。よろしくな!」

 

「やめろ、よろしくするつもりはない!私たちは男にモテたいんだ!女にいったら帰ってこれないと聞くぞ!」

 

「そうだそうだ!女ならせめて情熱的に口説いて生涯幸せにしろ!」

 

ナズナへの警戒心を高める二人だったが、ナズナの性別には気付かない。

金髪ロングのウィッグを装着し、目元に化粧を施せば、どこにでもはいないごく普通以上の美少女になるからだ。

 

「というか、本当になにしに来たんだ!?冷やかしなら帰ってくれ!」

 

「冷やかしじゃねーよ?俺はただの付き添いだ。ほら、このエイナって女、モテたいんだと」

 

ひとしきりからかって満足したのか、ナズナはエイナの肩を押す。

それを見る門番は、眉をしかめた。

 

「解せんな…我らの門戸はモテない全ての女子に開かれている。だが、エルフで参加を希望するのは()()()

 

「…ッ!」

 

「容姿端麗故の約束されしモテ。生まれながらのモテモテ種族である貴様らが何故ここに?」

 

「そりゃお前…エルフっつってもいろいろいるんだぜ?ずーっと生娘で男じゃなくてユニコーンにモテるタイプのやつもいる」

 

「そ、そうです!エルフでも…いや、エルフだからこそこじらせてしまっているモテないエルフもいるんです!」

 

内心泣きながら、エイナはナズナのフォローに全力で乗っかる。

ここに親友がいるのならば、必ず助けなくてはいけない。

自分の傷ついた乙女心は今度自分の担当冒険者に癒してもらえばいい。

 

「ふむ…確かにお前からは我らと同じ匂いがそこはかとなく香る…」

 

「え?」

 

その必死さが伝わったのか、門番からの警戒心が解ける。

同時に凄まじいボディブローが安堵したエイナへと突き刺さった。

 

「異性への耐性が無さすぎて男がいないのだろうなという空気はバリバリ伝わるし…」

 

「ッッ!?」

 

「いざ恋の相手を見つけても対応が壊滅的すぎて、恥じらっているうちに別の女に横からかっさわれたりしそうだ」

 

「ぐふぅ!?」

 

「ぶふっ」

 

崩れ落ちるエイナを見て、ナズナは普通に吹き出した。

 

「…ふむ、確かに同士たる資格は持っているようだな。そこのガキはさておき…」

 

「ほんとですか!?」

 

「ああ、とはいえ同士であるからには相応の格好というものをしてもらわねばならん。そこのガキはさておき…」

 

チラ、チラ、とどう扱っていいのかわからない自分の方を見る門番たちに向かって、ナズナは懐からなにかを取り出しながら微笑んだ。

 

「ああはい。なら賄賂やるよ」

 

「なに?我々はモテない女同士で結ばれた固い友情のもとここの門番を任されているのだ!そうやすやすと中にいれるわけには…!」

 

「これ、あの勇者が気に入って使ってる香水(めっちゃお高いやつ)(大嘘)」

 

「「どうぞ中へお入りください!」」

 

なお、ナズナが渡したのはその辺の出店で買った安物だ。

だが後にナズナの正体に気づいた二人は、思い出を糧にその香水を愛用するようになる。

さらに言うなら、この香水を使えば守護妖精から夜の誘いが来る!という噂も流れて、何人かのエルフが大人買いをしたりするのだが、ここまでいくともう完全なる余談だろう。

 

 

 

 

「回想が終わっても何一つわからない…!どうして私がこんな格好を!?」

 

「こっちの方がエロくてカッコよくて夜宴(サバト)っぽいだろう?」

 

「…じゃあ俺の服は誰の意図で、どういう趣味だよ。エロしかねーだろこれは」

 

頭を抱えるエイナを一先ず放置して門番に向かって口を開いたナズナの格好もまたとんでもない。

 

「それは、神々に聞いた男受け間違いないしの最強衣装だな」

 

「…ほんとにぃ?」

 

ちなみに、神々は『ぜかまし』という謎の言葉を意味深に呟いていたらしいが、下界の人間達にはわかるはずもない。

 

サイズが合うのがそれしかなかったという理由でウサミミのような大きいカチューシャ、へそだし袖なしセーラー服、白長手袋、短すぎる上に鼠蹊部丸出しローライズのプリーツスカートに赤白の縞ニーソというあまりにも際どい衣装を着ている女装合法ショタエルフは、自分の格好を見下ろして一言。

 

「これはさすがにちょっと恥ずいな…」

 

ぽしょりと呟かれたナズナの独り言は、誰かに聞かれることもなく闇に消えた。

 

 

───続く。

 

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

本当にいつも感想やここすき、評価ありがとうございます。
何回も読み返したり見返したりしてます。
誤字もなくならなくてすいません。


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断章の二。真夏の夜の恋宴・下

今回はこの小説における過去最多文字数の怪文書となっております。

前回からの続きです。
メンバーが違うこのイベントの結末はどうなるのか。
ナズナは今回どんな目に合うのか。
そして明かされる意外な黒幕とは…?

みたいな。
はい。
たぶんダンメモから本家を見るほうが面白いですが、どうぞお付き合いください。


 

 

「ああっ、もうすぐよ…もうすぐあなたは私のものになるの!嗚呼っ、ジョ~ン!だいすきぃぃ~~~~~~~~!!」

 

「早くモテまくりのモテ祭りになりたい!そして、ありとあらゆるイケメンを侍らせたいいいいいい!来たれ、黄金の日々ぃ~!」

 

「モテるやつ爆発しろモテるやつ爆発しろモテるやつ爆発しろモテるやつ爆発しろモテるやつ全員爆発して消えろ…」

 

潜入したナズナとエイナは、城内に満ちた高純度のモテないオーラとも呼べる雰囲気に、思わずたじろいだ。

 

なにせ多少異性からの好意に鈍感なところのあるこの二人は、それでも言い寄ってくる相手に困ったことがない。

ここまで負のオーラを溜め込んだことないある意味健全な二人にとって、この場はあまりにも異常な空間だった。

 

「どうにか潜入できましたね…」

 

「よっ、演技派!ほんとはいろんな冒険者から声かけられてるのに非モテとはひでぇ詐欺もあったもんだぜ」

 

「それを言うならナズナさんなんてそもそも性別が違うじゃないですか!」

 

「見抜けねえ方が悪い」

 

そんな城の内部の隅。

信者達のいる広間からは少し離れた位置に、エイナとナズナはいた。

メンタルがかなり消耗して疲れ果てているエイナと違い、いつも通りふてぶてしいようにエイナには見えているが、実際のところナズナもまたかなり羞恥を圧し殺して疲弊していた。

へっ、と舐め腐ったような笑みを浮かべたナズナは、城の内部を見回すように背伸びをした。

 

…疲労のせいでやけにナズナが化粧含めて女装慣れしていることに疑問を覚え損ねたエイナは後日かなり頭を悩ませることになるのだが、それは今ではない。

 

恋の夜宴(ラブ・サバト)

ざっと見回すだけでも百人は超えており、一週間前から始まっていることを考えると、いかにオラリオに切羽詰まった非モテがいるのかという…この話はここでやめておこう。

 

男性経験がなく、男運に恵まれないだけでモテ女側に立つエイナはそんな思考を打ち切ると、そっと疲れたようなため息をついた。

 

「おいエイナ。ドン引きするのは勝手だけど今の俺たちも端から見れば同じ穴の狢だからな?」

 

「…うっ、そうですよね。は、早く調査を始めましょう。誰かにこんな姿を見られる前に───あ」

 

「お前そんなこと言うとフラグが立つんだぞ。具体的に言うなら今の地獄みたいな状況を知り合いに見られるとか───あ?」

 

「は、はわわ…」

 

エイナとナズナ。

間抜けな顔をして固まる二人の目線の先にいるのは赤と黒の際っ際の水着を着こなしたアリシアだった。

 

───その時、空気が凍った。

 

エイナは見覚えがありすぎる最大派閥(ロキ・ファミリア)の冒険者に、アリシアはギルドの窓口でよく見かける受付嬢に目が釘付けになっている。

 

逆にナズナにはアリシアは一切気が付かない。

何せ今のナズナは完全に美少女だし、そもそもこの衣装を考案した神々ではない下界の人間にとって、衣装が斬新すぎて(スケベすぎて)、顔よりも先に服装に意識が持っていかれるのだ。

だから、いくら同じファミリアで割りと仲のいいアリシアでも気付かないのは責められる謂れはない。

それなのに、見られるのは恥ずかしいけど気づいてもらえないのはそれはそれで不満というわがままで膨れっ面になるナズナは、面倒が臭すぎた。

 

そんなナズナはさておいて、痴態どころか末代までの恥を目撃された乙女達の行動は迅速だった。

 

「「違いますからっ!!」」

 

「私は自分がモテたいという浅ましい理由でここにいるのではなく!親友がここに通いつめているという噂を聞いて…!」

 

「どうか弁明を!私は信者となった仲間を連れ戻すためにやって来ただけでっっっっ!」

 

「「…………え?」」

 

顔を真っ赤にして互いに詰め寄る二人のポンコツエルフの首根っこを掴みながら、頬を膨らませたナズナは移動を開始した。

 

「とりあえず秘密の相談するならもっと隅によらないか?つーかアリシア、いくら女装してても気付けよ俺に」

 

「な、ナズナさん!?何故そのような格好を!?」

 

「お前と同じだよ、たぶんな。それともなんだ?アリシアはモテたくてきたのか?だったらまずは家族にすぐ気付けるくらいの目は養った方がいいんじゃないかなー!」

 

「ちょ、ナズナさんっ。あんまりその格好で纏わり付かないでください!み、見え…!」

 

「なんだよ、目線を逸らすなよ!こっちを見ろ!そんで謝れ!麗しの先輩にすぐ気づけなくてごめんなさいってな!」

 

───エルフで参加を希望するのは()()()

 

あれってフォレストライト氏のことだったかぁ…。

門番の言葉を思い出しながら、エイナはとりあえず、動く度に中が見えてしまいそうな絶対領域やら、思わず生唾を飲み込みそうになる白い首すじやら脇を惜しげもなく晒しながらアリシアに絡むナズナの機嫌を、二人掛かりでなんとか取るのだった。

 

 

 

 

 

互いの事情を話し合ったナズナとエイナとアリシア。

 

アリシアの目的は、同じファミリア内で信者となった団員が出てしまったので連れ戻しに来た、というもの。

…同じロキ・ファミリアのナズナの目的は違うが。

そして、この集会が呪詛のこもったとあるファミリアの遺物によって引き起こされているということ。

この集会に参加した人間は「絶対モテる!」「必ずモテる!」「明日にでもモテる!」「もう既にモテてきてる気がする!」と口を開けばそればかり言うようになること。

教祖様なるものが存在するということ。

昼間は礼拝が行われていて、ディープな信者は1日中この城にこもっているということ。

 

そんな有益なんだが、下らないんだかわからないような情報共有を済ませたナズナ達一行は、いよいよその儀式へと突入していた。

 

「教祖様!教祖様!教祖様ぁぁぁ!!」

 

儀式が行われるという祭壇風の場所では、分厚いカーテンに向かって際どい水着を着た信者たちが熱狂的なコールを繰り返し、異様な熱気を産み出していた。

 

どこを見渡しても女、女、女。

そんな空間を興味深そうに辺りを見渡しているナズナは、一人の女性に目を止める。

 

「うひょー、オラリオってこんなに非モテがいたのか。んあ?あれは神ヘルメスのところのローリエじゃねーか。今度からかいに行こ」

 

「ちょっとナズナさん、ここで見たものは絶対外に出しちゃダメですよ!人には人の事情があるんです!」

 

ローリエ・スワル。

彼女はヘルメス・ファミリアに所属するエルフの少女であり、都市外での調査を担当するレベル2の冒険者だ。

そして、オラリオに意外と存在しているナズナのファンの一人だ。

ファンになったきっかけが、ダンジョンで助けられたというありがちなものでありながら、まるで白馬の王子様に助けられたかのような錯覚をしてしまっている怪物奥手エルフ。

その年上なのにあどけない容姿、可愛らしさとは裏腹の口の悪さやタンクとしての頼り甲斐というギャップのせいでうっかり惚れてしまってからは、日夜ナズナの情報収集に勤しむストーカー予備軍と化した哀れな少女でもある。

哀れ…?

 

そんな少女を見て最低なことを言うナズナをすかさずエイナが嗜めるも、暖簾に腕押し、馬の耳に念仏だ。

反省するどころか、ニヤニヤした笑みでエイナの肩に手を置く姿は、紛うことなきクソガキだった。

 

「エイナ…お前なに乙女代表みたいなこと言ってんの?お前も共犯だからな」

 

「私を巻き込むのはやめてください」

 

「安心しろって。ただちょっと『汝、秘密を守って欲しくば最近開店した超高級和菓子店のどら焼きを奢るのが吉。もし断るというのならとんでもない不幸がその身に訪れることだろう!』って、今回の一件をネタに預言者ごっこするだけだから」

 

「最低すぎる!」

 

なお、その場合二個でも三個でもローリエは奢ってくれることだろう。

その代わり、そのどら焼きには万能者印のお薬が混入されることになるし、ナズナは空っぽになる(最大限配慮された表現)。

幸いなことに無邪気に狼の顎の中に足を踏み入れるバカな羊は、からかいにいこうと思ったことも忘れるので、今回はなにも起こらないが、このバカは自覚がないだけで普段からかなり危ない橋を渡っていた。

 

「うう…外は涼しかったのにこの広間だけ熱い…!これだけの人数を熱狂させる教祖様とは一体どんな───」

 

そして、熱狂する女達を見下ろすような形で、カーテンが開きその向こうから一人の人物が現れる。

 

「───太陽に恋い焦がれ、月が儚く欠けている。今宵はいい夜ね」

 

「きゃああああああああああ!」

 

自分の登場に歓声を上げる信者達に悠然と手を振り返すその人物は、手元の本から発生する黒い霧のようなもので顔やシルエットが隠れているものの、信者達と似たような格好をしているのだけは伝わってきた。

つまりは水着だ。

わずかに霧の隙間から見える、水着が食い込むボディラインが、妙に生々しい。

 

「『恋愛弱者(持たざる者)』達よ、恋に飢えているかしら?」

 

「「「飢えています!!」」」

 

「喪を際めし健気な子羊どもよ、愛を乞うているかしら?」

 

「「「乞うています!!!」」」

 

「ならば、この世のすべてを統べる絶対強者───『恋愛強者(モテ女)』になりたいかしら?」

 

「「「なりたいです!!!」」」

 

信者達の小気味いい返事に気をよくしたのだろう。

教祖が霧の向こうでニヤリと笑ったような気がした。

 

「ならば願いなさい!叫びなさい!己の欲望の赴くままに!『かー、男欲しぃー、モテてぇー』という魂の衝動に火をつけるのよ!」

 

教祖はそこで一度言葉を切ると、高々と拳を振り上げ、叫んだ。

 

「そう、燃やしなさい!さすれば与えられん!!らぁぁぁぶ・あんど・ふぁいあぁぁぁぁ!」

 

「「「らぁぁぁぶ・あんど・ふぁいあぁぁぁぁ!」」」

 

らぁぁぁぶ・あんど・ふぁいあぁぁぁぁ!と、ノリノリで叫ぶナズナの横で、おふざけ耐性のない真面目なアリシアはよろよろと後ずさった。

 

「こ、この熱気…!そして狂気!!思わず仰け反って魂まで汚染されてしまいそうです!有り体に言えばイタイ!」

 

「あ、見ろよアリシア。あそこにいんのエルフィじゃね?」

 

ナズナが指を指した先。

その先にいたのは、確かにアリシアの探し人であるエルフィだった。

 

「教祖様あああああぁぁぁぁ!私を見て!私をモテモテにしてくださぁいいいいい!他派閥の女友達に『ロキ・ファミリアの人って可愛いし綺麗だけど男いないよねプークスクス』とかもう言われたくないんですぅぅぅ!」

 

他の信者の例に漏れず、黒い際どい水着を着て、教祖様に向かって目を血走らせ必死に叫ぶ彼女は、有り体に言えば悲惨だった。

彼女を心配し、連れ戻そうとしていたアリシアすらも思わず目をそらしてしまいそうになるほどの切実さが込められている叫びに、ナズナも沈黙する。

 

「とる!私はこの夏、マウントをとる!!だからお願い教祖様ぁぁぁぁ!私のお願い聞いてええええええええ!」

 

「エ、エ、エルフィ……。な、なんて無様……!」

 

仲間の姿に悲鳴をあげるアリシアは直後、後ろのエイナから言葉のナイフで貫かれる。

 

「え、あの目を背けたくなる生物がフォレストライト氏の後輩…?───あっ……(察し)」

 

「心の距離を取らないで!!!違うっ、私は違う!あのような人種じゃない!!!」

 

「人はみんな同じことを言います。大丈夫、私だけは貴方のことをわかっていますから……」

 

「ヤメテ!変な同情の仕方しないで!!もう嫌ぁ!エルフィのバカぁー!」

 

「ほらエイナ。お仲間だぞー?」

 

そして、そんなエイナもまたナズナの指が指す先を見てしまってから後悔することになる。

 

「きゃああああああ!教祖様あああああ!私に一夏の思い出をくださああああい!夏、海、イケメン!『あばんちゅーる』の女王に私はなる!」

 

「うええええええええ!?ミィシャぁ!?」

 

「え、エイナさん?あの方が厳正で公正なことを求められるギルドの受付嬢…?───あ……(察し)」

 

「勘違いっ、勘違いですから!彼女は本来あのような人物ではない…とも、言い切れませんが!仕事を休んでまでこんな集会にのめり込むような子じゃありません!あとさりげなく距離を取らないでください!」

 

そんな漫才のような天丼を繰り返す二人を他所に、会場の熱気で都合のいいオーラがだんだんと薄れていく。

 

そして、その霧の向こうから姿を現したのは───!

 

「フハハハハハハハ!そうよ!燃やしなさい、飢えるがいいわ!来るわよ千年王国、我等の都おおおおおお!」

 

「「いや誰えええええええええ!?」」

 

なんか女言葉を使う、妙に内股でハゲた強面のおっさんだった。

胸筋や臀部に女性用水着が食い込み、会場の熱気に当てられて浮かぶ汗が、妙なテラテラ感を演出している。 

教祖様(漢女)が動く度に全身から滴る汗が飛び散り、宙に星座を描く。

 

この流れで知らない人が出てくると思っていなかったアリシアとエイナが思わず叫ぶが、そんなハゲを見て唯一ナズナだけが反応する。

 

「あ、あれは…!」

 

「知っているのですかナズナさん!?」

 

「あれは、たぶん昼間エイナのことナンパしてたモブのハゲおじさん…!その証拠に見ろ!タマが潰れている!」

 

「え、つまりあれはナンパじゃなくて勧誘…!?」

 

「そんなバカな話がありますか!?」

 

「───お前達、心して聞きなさい。恋の邪神が残していった我らが教典(バイブル)。そこにはこう書かれているわ」

 

容姿(ルックス)体型(プロポーション)、包容力、甘えに自立に気配りや母性他にもいっぱい───そんなものはクソ食らえ!!!』

 

「「「クソ食らえ!!!」」」

 

『そんなの身に付けられたら苦労しないし、面倒なこともしたくない!そもそも男のハードル高ぇから!!』

 

「「「高ぇからー!!!」」」

 

『そこで使うのが些末なモテ要素など関係ない最強の【恋愛強者道具(モテ女グッズ)】!』

 

「「「それはー!?」」」

 

『それこそが───【惚れ薬】である!!!』

 

「惚れ薬ぃ?」

 

ナズナの胡乱げな呟きは、うおおおおおおおお!と歓声をあげる信者達の声にかき消された。

 

 

 

 

「あーひでぇ目にあった…」

 

時は飛んで日の出前。

ナズナはあのあと、

 

『自分磨きを怠るどころか勇気を出さず楽をしたいと甘える…そんなもの、真のモテではないというのに!』

 

『好みの異性が降ってわくなんて虚構!都合のいい男も幻想!待ちは愚策、進めよ乙女!女とは、すなわち『戦い』!』

 

などと沸き立つエルフ二人をなだめ、

 

『さぁ、お前達。今こそ逆襲の時!男の象徴をなくして真の意味で女の子になった私は無敵!今宵我等はこの秘薬を手にし、全ての女子の頂点に立つわよ!』

 

と叫ぶ教祖を殴り倒し、貰うものを貰ってそのままその場から逃亡。

エイナもその探し人であるギルドの受付嬢も置いてきてしまったが、まぁ、アリシアと正気を取り戻したエルフィがいるのだから無事だろう。

 

どのみち呪詛のこもった本に惚れ薬はナズナが奪ったのだから、ナズナと一緒にいるよりは安全だ。

たぶん。

 

───そして現在。

 

ナズナはフェルズの部屋で、事の顛末を語って聞かせていた。

 

今回ナズナはギルドは動けないが邪な力を感じ取ったフェルズの依頼で動いていたのだ。

内容は、怪しげな集会の原因の究明と場合によっては解決。

 

結果は上々と言えるだろう。

 

「なるほど、早期解決していなかったらと思うとゾッとするな」

 

ナズナから受け取ったピンク色の液体の入った小瓶を持ち上げ、光を透かすように覗き見るフェルズは、骨なので分かりにくいが苦悶の表情を浮かべているらしい。

 

「本物なのか?ソレ」

 

「軽く鑑定してみた感じ本物だろうな…惚れ薬的な効果だけでなく、強力な媚薬効果もあるらしい。感度三千倍くらいだな…。ふぅ、頭が痛い。どうやって処理したものか…」

 

「神ウラノスに飲ませようぜ」

 

「頭世界の敵か?」

 

「いやぁ、感度三千倍ウラノスを見たいってちょうどこないだロキが言ってたからつい…なんでも、タイマニンって言ってその身を犠牲に悪と戦うヒーローらしくて、ぴったりだと思わないか?」

 

「む…それは確かに…。だがまぁ、見たくはないな。なぜか知らないが。それに飲ませる必要は普通にないだろう?」 

 

「タイマニンと危ないお薬はセットらしいぜ。知らないけど」

 

ナズナとフェルズの頭の中になぜかピチピチの全身紫タイツ姿の神ウラノスが思い浮かび、同時に吐き気を噛みしめるような渋い顔をした。

名誉毀損で訴えられるレベルの想像(対魔忍ウラノス)はさておき、今回の一件は

『チョーかっこいい男をゲットして、マジ死ぬほどイチャイチャしたかったのに』

『一人もカレシできないとかありえなくない?マジこの世クソじゃない?許せなくない?』

そんな想いが呪いになった、未曾有の大災害一歩手前だったのだ。

今回回収した本がもし持たざる者たちの想いを吸収してより力をつけていたとしてら、オラリオは恋愛強者(笑)たちで溢れ返り滅んでいたことだろう。

 

そして世界は黒龍が倒せずに終わる。

 

「つまり俺は世界を救った勇者ってことで前回のぶんと合わせて借金返済ということにならないか?」

 

「そこまでの代物ではない!精々、君のところの怒蛇のような女性が惚れ薬を取り合ってちょっと都市に壊滅的な傷跡ができていたくらいだろう。…だから前回の報酬と合わせても残りは五百万だ」

 

「チッ」

 

「これでもかなり破格の報酬なんだが…」

 

通常クエストの報酬はどれだけ高くても百万ヴァリスは越えてこない。

だというのに命の危険があるとはいえ、二つ受けるだけで五百万はあまりにも破格だといえるだろう。

フェルズの優しさだった。

 

「というか借金の経緯的に君はもっと殊勝な態度をとるべきでは!?」

 

「あー!あー!聞こえませーん!」

 

「クッ、このクソガキ!」

 

ナズナの借金は完全に自業自得だ。

深い事情も大した事情もない。

犯罪組織が経営しているという噂のあるカジノに潜入していたフェルズに、賭け麻雀中の酔っ払ったナズナが絡み、黙らせるために軽く金を貸していたら、大敗け。

 

『チンポにゃ!』

 

『ちょ、それはどう見てもダメなやつ…!』

 

1500万ヴァリスという負債を叩きだし、場の流れという理不尽な展開によってフェルズが代わりに支払うことになった。

ついでにそのカジノはなんの問題もない真っ白だった。

 

無駄足に無駄金まで持っていかれたフェルズは、以来借金を盾にナズナを定期的にこき使うようになった。

利子もなく、現金ではなく労働で返してくれたらいいという良心的な借金でありながら、ナズナは毎度逆ギレして罵倒を繰り返すのだから、フェルズはキレていい。

 

とはいえ、キレてぶっぱなした魔砲手(マジック・イーター)をなんなく躱すナズナのことをフェルズは人間的にも戦力的にもそれなりに気に入っているし、別に死ぬまでに返してくれたらそれでいいと考えている辺り、どこか長命種特有のズレが生じていた。

 

「じゃーな、ホラーマン!次はちゃんと報酬くれよ!」

 

ナズナは、フェルズの小言を耳を塞ぐことでシャットアウトすると、部屋を抜けて意気揚々と走り出す。

朝日が昇る前には帰れるだろう。

今日は良い事したし、借金も減ったし、日の当たる場所でゆっくり眠ろう。

きっといい夢が見れる。

 

『期間限定コラボピックアップ最高レアリティ来た───ッ!』

 

『げっ、ロキ…!』

 

だが、そんな呑気な事を考えていたナズナは、このあと自分の格好を忘れてホームに戻ったせいで、ロキにその姿を見られることになる。

 

『ぬふふ、つーかまえたっ。さ、部屋に行こか。嫌嫌しても期待してるのバレバレやで?抵抗する振り可愛いなぁ。ちゃーんと、空っぽになるまで食べたるからな!』

 

食事の時間になればロキは食堂に向かうので、その間に身動きがとれないくらい息も絶え絶えなナズナはロキのベッドで体力を回復。

ロキに無理矢理飲まされた栄養剤のせいで空腹を感じることがないナズナは、結局次の朝日が昇るその時まで貪られ続けたのだった。

 

 

───遠征前のこの事件はこうして、幕を閉じる。

この騒動に巻き込まれた数人に、少なくない心の傷を刻み付けながら。

 

 




今回も最後まで読んでくださってありがとうございます。

本家が面白すぎてこれ二次創作にするの恥ずかしいな、となりながらも最後まで書ききりました。
しかもこんな話がこの作品での最多文字数を更新してすいません。
でも全体的に書いてて楽しかったです。
お気に入りは対魔忍ウラノスです。


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断章の三。腐れ縁

お気に入り登録、評価、感想、ここすき、誤字報告ありがとうございます。

今回はダンメモのリヴェリアさんのふれあいストーリーからです。
そして、22話~24話まで話の展開に変化はありませんが、早足で書いていた部分を少し加筆しました。
ここすきしてくださった皆様、文章がずれてしまったので別の部分にここすきがずれていたりしています。
本当にすいません。


 

エイナがソーマ・ファミリアの情報を求めてホームに来たり、ナズナがソーマの酒を見て黒歴史を思い出して悶えたり、アイズがレベル6になったり。

多少のハプニングは起こりつつも、穏やかに一日が終わる……とはならなかった。

 

───事は、その日の夜に起きた。

 

アイズのレベルアップを祝して、というには小規模な。

どちらかと言えば親のように面倒を見てきたフィンやガレス、リヴェリアが感慨に耽るためのささやかなもの。

こんな祝い事でもなければ三人一緒に食事を取るということもないのだから、というロキの言葉に乗っかるようにして用意された食事会。

 

最古参のフィンたちがオラリオにつく前に入ったナズナも会に呼ばれはしたが、ナズナは嫌そうな顔で掻き込むようにして食事を食べていた。

 

「なんじゃ?珍しく食い意地張っておるの」

 

「張ってるっていうか、なんつーか」

 

ガレスの言葉にナズナはなんとも微妙な顔をする。

いつもよりはしゃいでる最古参の幹部三人が集まる、しかもホームを出る前の様子からしてフィンだけが遅刻してくる。

そんなもの、面倒なことになるに決まっている。

 

長い付き合いでそれを察しているナズナは、とりあえず目の前の美味しい料理を口に詰め込んでいく。

普段ならもっと味わうのに、という後悔をにじませながら。

 

「おう、リヴェリア、やっときおったか!」

 

「なんだ、もう飲み始めていたのか?」

 

ガレスが声をあげたことに釣られたナズナの目線の先には、他の席に座る冒険者に極力触れないようにしながら席へと近づいてくるリヴェリアの姿が見える。

その格好は酒場に来るにはあまりにも似合わないというか、ぶっちゃけ未亡人みたいな格好だった。

普段ならハイエルフ様はドレスコードをご存じない!?とか煽るところだが、リヴェリアが来たことでタイムリミット迫っていることを悟ったナズナにそんな余裕はない。

 

「がはは、酒が目の前にあるんじゃ。固いことは言うな。それよりフィンはまだ仕事が終わらんのか?」

 

「だいぶ立て込んでいるらしい。なにせランクアップした方法がウダイオスの単独討伐だからな…」

 

今ごろギルド職員への説明のための文章に苦労していることだろう。

ギルドは基本的に、他の冒険者にもランクアップしてもらうために、誰かしらがランクアップしたときの偉業は公開する方針をとっている。

とはいえナズナの時(ダーウィン賞もの)のように、無謀な挑戦へと駆り立てるわけもいかないので、その辺の説明の仕方が難しい。

無茶すぎる方法でランクアップした冒険者の偉業は、公開できないということすらあり得る。

ナズナの場合はよりによってレベル7になったせいで秘密に出来ず、全世界にオラリオの恥部をぶちまけることになったのだが。

ついでにナズナの真似をして無謀な一発芸に挑戦しては治療院に運ばれる冒険者も急増し、アミッドはキレた。

 

普通に冒険して、普通にパーティー組んで、普通にすごいモンスターを討伐してランクアップしました、という普通の冒険者がギルドの理想とするところなのだ。

そんなお行儀のいいやついないけど。

またロイマンの胃が死ぬんだろうな御愁傷、と問題児筆頭(オリハルコン食い)のナズナは心の中で合掌した。

 

「そんな無茶、よく許可したのう…まぁ、お前も座って付き合わんか。酒だけでなく、食い物も出ておるからの」

 

「ああ、そうしよう」

 

ガレスの言葉に、まぁフィンも先に食べていいと言っていたしな、とリヴェリアが席につく。

 

「うん、こりゃ美味いのう!しかし、わしらがこうして共に飯を食うなど、昔じゃ考えられんかったわい」

 

「ああ、本当に。不思議なものだ」

 

───気心の知れた仲間による和やかな団欒ムードだったのはここまでだ。

 

「お前は気取っていていけすかなくてのう。本当に嫌なやつじゃったからな。まぁもっとも、その性格は変わっておらんが。がっはっはっは!」

 

「……おい、ガレス。さっきから肉汁やスープがこっちに跳ねてくる。もっと行儀よく食べられないのか」

 

ほうら始まったぞ、とナズナは食事のラストスパートをかけながらうんざりする。

ガレスが豪快に食べ、リヴェリアが小言を言う。

この完成されたコンボは始まってしまえば止まらない。

手札誘発も、速攻魔法も無意味。

ずっと俺のターン!

空気は死ぬ。

 

「……おお!すまんすまん!ちいとばかり、酔っておったかの」

 

「そういうところは変わらないな。作法というのは、相手への思いやりの表現だぞ。ナズナも、もっと落ち着いて食べろ。飛び散らせてはいないとはいえ、掻き込むのははしたないぞ?」

 

「はいはい」

 

「はいは一回だ」

 

「はーい」

 

適当に流すナズナと違って、ガレスは一瞬だけまるで苛立ちを押さえ込むように口を噤んだ。

 

「……まぁ、これが昔だったら大喧嘩になっていただろうな!わっはっはっは!」

 

「ふふっ、そうだったかもな」

 

ちなみに、ファミリアで二番目に彼らと付き合いの長いナズナから言わせてもらえば今も昔も大差はない。

それぞれが大人として落ち着きを得た今でも、この三人の関係は全く変わっていないのだ。

 

「それにしてもここの飯は美味い!ナズナのせいで豊穣の女主人の方では食事会ができんかったが、悪くないのう!」

 

「……おいガレス、食べ滓が飛んでくる。大声で喋りながら食べないでくれ」

 

「おおすまんすまん!久々にお前たちと飲むとなって、少し興奮しとるのかもしれん」

 

「まったく、これだからドワーフは……」

 

はい、確定演出頂きました。

ナズナは巻き込まれないように、店員に食べきった食事の皿を下げてもらい、メニューで顔を隠す。

 

「……まぁ?これも?昔じゃったら……」

 

「それから、油ものの皿と生野菜の皿を重ねるんじゃない。結局両方に油がついてしまうだろう?」

 

「………」

 

「あとで食い散らかした食器を洗う者の身にもなってやるべきだと思うぞ。食器だけでなくテーブルクロスの洗濯も……」

 

今回は多少ガレスが頑張ったようだが、繰り返すようにこれは確定演出。

食卓の空気をぶち壊す確定されたコンボなのだ。

 

フィンかロキ。

このコンボの発動を阻止したければ、空気の流れを上手いことコントロールするやつか、空気を読まないやつが必要になる。

特にロキはいるだけで場を乱すので、喧嘩になりにくい。

あるいは思い出話を語らせるとかで、彼らを大人しくさせることだろう。

 

ナズナ?

ナズナはこの三人の関係に口は出さない。

本気の仲違いならまだしも、家族が仲良くじゃれてるだけ(ナズナ視点)の時は、にこにこして見守るだけだ。

まぁそれでも食事中には巻き込まれたくはないので、ご飯は掻き込むのだが。

 

「ええいっ!もう勘弁ならん!この口うるさいエルフめ!冒険者の酒の席に細かい作法など持ち出すんじゃない!飯が不味くなるわい!」

 

「それはこちらの台詞だ!恥を知れ!」

 

「表へ出ろ!」

 

「受けて立とうではないか!」

 

「この高慢ちきなエルフがっ!」

 

「野蛮なドワーフめ!」

 

「すいませーん、このデザートの一覧全部お願いします」

 

いきり立つドワーフとエルフが仲良く表へと駆け出していくのを見計らい、安全地帯と化したテーブルにナズナは好物を広げていく。

 

「少し、遅くなりすぎたかな?」

 

そして、子供みたいな言い合いをしながら店の外へと飛び出していった二人と入れ替わるようにフィンがやって来る。

 

「まぁな。どーせスッキリしたらそのうち帰ってくるだろ。いつものことだ」

 

それを歓迎するのかしないのか。

適当にフィンの分の料理と酒を注文するナズナに、フィンは呆れたように笑いかけた。

 

「相変わらず君はマイペースだね」

 

「マイペースぅ?今日は酒も飲めねーし食わなきゃやってらんねーだけだよ!しっかり手綱を握ってくれよ、団長殿!」

 

「ははは、それは無理だろうね。僕もリヴェリアも、ガレスだって。なんだかんだ今の関係が嫌いではないんだ」

 

「……さいで」

 

あーやだやだ。

これだからうちの三巨頭は。

そんなに発散する場が欲しいなら、大人の振りをやめればいいのに。

 

ナズナはそんな言葉を、運ばれてきたデザートと一緒に飲み込むのだった。

 

「ところで君はどっちにかける?」

 

「んーガレス。この店の前の通りは狭いし魔法は使えないだろ」

 

「なら僕はリヴェリアかな。その空になったジョッキを見るに今日のガレスは一段とペースが早かったと見た」

 

ガレスとリヴェリアのじゃれ合いがいつものことなら、にやにやと、仲間の喧嘩を止めるでなく賭けの対象にするのもまたいつもの流れだった。

 

『我が名はアールヴッ!』

 

『温いわぁ!』

 

ちなみに、エルフとドワーフの喧嘩の結果はドロー。

店先で、仲良くクロスカウンター気味に放たれた拳で気絶している二人を見てナズナとフィンは無言になった。

 

「おいおい、いい年した大人がなにやってんだ。置いてこーぜ」

 

「ンー、ガレスはまだしもリヴェリアを外に放置していくのはね。まさか手を出す度胸のある誰かしらがいるとは思えないけど」

 

「むしろ誰かもう貰ってやれよ。手を出すやつがいたらそいつに責任吹っ掛けてさ。その方がみんな幸せだって」

 

「本当にそう思うかい?世界中のエルフと戦争になっても後悔しないって言うなら、僕もいいけどね。それに結局君が一番怒り狂うことになるだろう?」

 

「ソ、ソンナコトナイニョ…?」

 

再びの無言。

二人はわかっていた。

自分たちの1.5倍くらいの身長のあるリヴェリアをホームに連れて帰るという大変さを。

お前がいけよ…、という目線が互いに突き刺さり、すぐに揃って両手を振り上げる。

 

「一発勝負でいいかい?」

 

「ああ。俺はパーを出すぞ」

 

「なるほどね…」

 

フィンは酔っていた。

ついでに久しぶりに団長ではなく、一冒険者として過ごしていたからか気も緩んでいた。

 

(これはおそらくブラフ。まさかナズナが頭脳戦を挑んでくるとは思わなかったけど、甘い。僕がその程度で動揺すると思ったら大違いだ)

 

(早く帰って寝てーな)

 

(おそらく僕が素直にチョキを出すと。グーを出せば勝ったと、ナズナは思っているだろう。だから、ここで出すべきはパー!…と、ここで安直に出すのは悪手。おそらくナズナもそう考えてるから、僕はその裏をついてグーを出す…!)

 

「「じゃーんけーん───ぽんっ」」

 

小さな拳で交わされるじゃんけんの結果はナズナの勝ち。

 

「何…!?」

 

「あれ、勝っちゃった」

 

自分が出したパーを見て、不思議そうな顔をしていたナズナは、次第にニヤニヤし始める。

 

「あれあれ、もしかして俺勇者様に頭脳戦で勝っちゃった?あーあー!がっかりだよ。本当がっかり!せっかく出す手を教えてあげたのに勝てないじゃんけん雑魚勇者だったとは!それとももしかしてリヴェリアのことそんなにもって帰りたかったのぉ!?やーい助平!助平勇者!」

 

「く、殴りたい…!」

 

「ナーハッハッハ!ナーズナズナズ!いやー!今日が休肝日じゃなけりゃ二軒目に突入してたぜおい!最高だなぁ!?」

 

騒がしい一晩は、あっという間に過ぎ去っていく。

 

翌日。

フィンがアイズのランクアップ報告をした際に、ギルドから苦情が来たのは言うまでもない。

 

 




今回も最後まで読んでくださって、誠にありがとうございます。

思ったより中身がなくてすいません。
ナズナとフィンたちとの仲の良さを描写したくなったんです。
あとフィンの知能指数を下げてみたかったんです。
楽しかったです。

また、ナズナの失った右目をどうするか決まったので、話の整理をするための間を開けながら、第二章の更新していきます。


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第二章
第一話。出会い


お気に入り登録、評価、感想、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます。

いよいよ蛇足編である第二章開始です。
ちょうど2ヶ月目の7日に投稿する予定でしたが、お漏らししたのでこのまま置いておきます。
プロローグは中身がないことに定評のある本作を今後もよろしくお願いします。


 

これは夢だと、ナズナはすぐに理解した。

なぜならそれは、自分にとってもう取り返しのつかない過去だったから。

 

───ねぇ。僕は死ぬのかな

 

それは夢なのに、いつも通り鮮明だった。

 

───そっか…。残念だなぁ…

 

血の匂いと死の予感。

 

───ふふ…ねえ、兄さん。お願いがあるんだ。僕が死んだら───

 

自分の無力さをナズナに突きつけるその過去()は、今なおナズナの根深いところに刻まれている。

 

───大丈夫だよ、兄さんなら。きっと、家族ができるよ

 

そんな懐かしい夢をナズナは見ていた。

あるいはあの日からずっとナズナは一歩も進んでいなくて、ずっと人の生という夢を見ている蝶なのか。

 

それを知る術をナズナは持っていない。

 

だから今日も夢を見る。

 

醒めない夢を、ずっと。

 

 

 

 

 

「はぁぁ、なんでこうなったかねぇ…」

 

ナズナは現在、18階層にいた。

というかロキ・ファミリアが18階層にいた。

 

彼らはあの穢れた精霊を討伐したあと、地上を目指していたが、途中毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の大量発生に遭遇。

上級冒険者の耐異常すら容易く貫通する劇毒によって、多くのものが毒の状態異常を受け行動不能になってしまった。

 

そんな異常事態に際して、タンクであるナズナは何をしていたかといえば、普通に寝ていた。

無茶に無茶を重ねたナズナはあの戦い以来ずっと眠りにつき、ここまでガレスに背負われていたのだ。

ナズナが起きていればこの事態は防げたかもしれないが、同時に後のことを考えると18階層にすらたどり着けなかった可能性もあったので、呑気に寝ていたバカを責めるのは難しい。

 

そして、解毒薬のためにベートが単独で地上へ帰還したり、とある冒険者たちが命からがら18階層にたどり着き保護されたり、神々がダンジョンへと転がり込んできたり、そんな色々なイベントが落ち着いた翌日にナズナは目覚めた。

 

何も問題ない筈だった。

穢れた精霊に地面へと叩きつけられたあの一撃で、ナズナは右目から左脚にかけて大きな傷を負っていたが、ナズナ自身が回復スキルと発展アビリティの治癒を持っていること、腐ってもオラリオで突き抜けた耐久の持ち主であったこと、比較的すぐに万能薬をかけられたこと、回復魔法持ちがいたこと。

それらのお陰で傷自体は痕が残らないほど完璧に塞がっていた。 

 

だから今回の遠征は大変な苦労はあったし、今も行動不能になっている仲間もいるけど、それでも無事乗り越えたんだと全員が思っていた。

 

そう、ナズナが起きるまでは。

 

『あ?なんで右目に目隠ししてんだ?おいおい、誰のいたずらだよしょうもねぇな』

 

『は?』

 

『え?』

 

───ナズナの右目は光を移さなくなっていた。

 

当の本人はちょっとだけ申し訳無さを滲ませながらも、冒険者を続けていればそういうこともあると切り替えていた。

傷が残ったり、四肢を失ったわけではない。

左目だって残っているし、右目だって表面上は綺麗なものだ。

ナズナの右目が完全に元通りにならなかったのは誰のせいでもない。

むしろ潰れた右目が形を取り戻しただけでも奇跡なのだ。

それにこの失明は穢れた精霊を相手に体調を崩した自分の責任であり、他の誰かのせいにするつもりはなかった。

 

大いに取り乱したのは周りだ。

特にリヴェリアの反応は劇的だった。

 

『また、私は間に合わなかったのか…!ああ…ナズナ…!すまない…!』

 

『いやいや何言ってんだ。つーか虚空に向かって泣くな。俺生きてるからな?死んだみたいなリアクションするじゃん』

 

『お前は黙っていろ!』

 

『俺の話なのに!?』

 

『…うん、とりあえず誰かリヴェリアを休ませてやってくれ。僕らには少し頭を冷やす時間が必要だ』

 

『えぇ?いや、えぇ…?』

 

もちろん、ナズナとて家族が失明して取り乱さない自信はない。

むしろそれが誰かの悪意によって与えられた傷によるものなら、その相手を生まれてきたことを心底後悔させに行くだろう。

だが、相手は会話ができて魔法も詠唱ができたとはいえモンスターで、冒険者の片目の傷なんて珍しくもない。

今ロキ・ファミリアがいる18階層で有名な冒険者ならボールスがいるし、なんなら同行者の椿だってそうだ。

 

だからいくら家族大好きなナズナでも、そんな葬式みたいな空気にはならない。

というのがナズナの感想だった。

 

なお、実際は光を失った家族の右目のお墓を立てて線香を上げるくらい取り乱すし、顔面ぐちゃぐちゃになるくらい泣き喚きながら『千の風になって(ロキのうろ覚えVer.)』を熱唱する。

とはいえ、すぐに切り替えるのは確かだった。

 

───そして時は戻って現在。

 

ナズナがケロリとしているお陰で、一部の者以外はそこまで深刻な顔をしなくなったロキ・ファミリアのキャンプから少し離れた湖。

ナズナはそこの水辺に目隠しされて、座らされていた。

 

「ひゃっほー!」

 

「だからっ、いきなり飛び込むな馬鹿ティオナ!?」

 

目隠しされたナズナの耳には、女性陣がはしゃぐ声が聞こえてくるが、もちろん覗きではない。

暗闇の向こうには裸体の美女たちがいるというのに、ナズナの表情はどこか退屈を訴えるようなものになっていた。

 

「ふんっっ、ボクの圧勝だな!」

 

「何を勝ち誇ってるんですかヘスティア様?」

 

家族の好意からの暴走なら受け入れるナズナではあるが、今回のはそうではない。

リヴェリアが今のナズナから目を離したくないと駄々をこねた結果の監視だ。

構ってもらえるでもなく、ただ水辺に座る時間を楽しめるなら、ナズナはダンジョンで酒を飲まない。

それに家族が辛気臭い顔をしているのは嫌いだ。

 

だから。

つまり。

 

「逃げるか」

 

じっとしていることに飽きたナズナは、自分と同じサイズの岩を生み出して身代わりにすると、頭上に感じた気配に向かって鎖を伸ばす。

ついでにナズナの脳内では『逃げる→リヴェリアキレる→説教開始→リヴェリア元気になる→HAPPY END!』という馬鹿な図式が浮かんていた。

 

「それに、逃げたほうが構ってもらえそうだし」

 

ナズナは目隠しを完全に取り払い、どう接していいかわからない、そんな顔をして遠くから見るだけのリヴェリアに手を振った。

 

鎖を引っ張り、宙へと舞い上がったナズナを、力の抜けたリヴェリアの手が迷子のように一瞬伸び、また力無く降ろされる。

 

「まっ───」

 

リヴェリアの声にならない言葉も手も、ナズナには届かない。 

 

 

 

 

 

「あ、あの…ヘルメス様?何をしようとしてるんですか?」

 

「何をわからないふりをしているんだベル君。ここまで来たら分かるだろう?───覗きだよ」

 

ベル・クラネルは困惑した。

とりあえず、隣の神ヘルメスから逃げなければならないということだけは分かっていた。

ベルには人の悪意がわからない。

ベルは、前途有望な未来に夢見るただの冒険者だ。 

ベルは祖父の言葉に影響されて出会いとハーレムを求め、前代未聞のレアスキルを引っ提げて日夜冒険に励んできた。

 

「女の子達が水浴びしてるんだぜ?そりゃ覗くに決まってるだろう?」

 

「決まってませんよ!?」

 

「今更恥ずかしがるなよベル君。どうせいつもヘスティアと背中の流しっこしてるんだろう?」

 

「してますけど…!」

 

「なんだしてな…ん?今してるって言った?」

 

「はい?」

 

「あのヘスティアが?もしかして誰かの入れ知恵か…?いや、うーん…まさかからかうつもりがカウンターを食らうことになるとは…」

 

赤くなったり、青くなったり。

とにかく今自分が一歩間違えれば殺されるという危機的状況にだけは敏感だった。

その敏感さのお陰で今まで生き残ってきたと言っても過言ではないベルは、それでもどうにもならない状況があるというのをまざまざと体験していた。

 

18階層までの決死行の時は仲間がいた。

仲間がいれば、ベルは限界を超えていける。

だが今、ベルは一人で危機に立ち向かわないといけない状況に追い込まれていた。

 

「ヘルメス様、ヘルメス様っ、駄目ですっ、殺されちゃいます……!?」

 

「情けないなぁ、ベル君。覗きは男の浪漫だぜ?君とは美味い酒が飲めると思っていたのに……君の育ての親は一体何を、いやナニを教えてきたんだ」

 

肩を組まれ、下から聞こえる楽しそうな声に目を向けるように誘惑する神の言葉。

というか明らかに愉しそうな声音で下ネタを言わないでほしい、と神に対してしっかり尊敬の念のあるベルは言えずにいた。

 

もはや自分の力ではどうにもならない。

でも溺れる人間を助けてくれるはずの神は、むしろ自分を試練に陥れようとする側だ。

誰か助けて!と心で叫ぶベルは見た。

 

「え?」

 

自分とヘルメスがいる太めの枝に向かって、鎖が伸びてくるのを。

 

「鎖?」

 

そして、直後真下からクソチビエルフがかっ飛んできた。

そのぐんぐん大きくなる小さい姿にヘルメスは呻き、同時に自分の死を悟った。

 

「まさか、バレたのか!?」

 

「ひいいいい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!でも全部ヘルメス様が悪いんです!」 

 

「ベル君!?」

 

即座に謝罪を開始するベルに、彼を身代わりにすることも考えていたヘルメスは思わず悲鳴を上げる。

 

そんな二人に構わず枝に着地したナズナは、神ヘルメスを見てニコリと笑う。

いや、ニコリという表現は正しくないかもしれない。

笑顔は本来攻撃的なものであるということを思い出した、というありふれた表現が似合うほどに、ナズナはキレていた。

 

まぁ当たり前だが。

だって神ヘルメスが今いる木の下にいるのはナズナの家族で、それを覗くことをナズナが許すはずもない。

有罪確定だった。

 

「よお、神ヘルメス。挨拶が遅くなって悪いな」

 

「い、いやぁ…ハハ。そんなに急いでこなくても良かったんだぜ?怪我もしたんだろう?」

 

「おいおい、水臭いな。神様ならふんぞり返ってろよ。ちゃんとプレゼントも用意したんだぜ?」

 

「ハハハハ、ウレシイナー。ナンダロウナー全然ワカラナイナー」

 

もはや沈黙したベルの頭の上で、殺意が膨れ上がる。

ナズナは先程まで自分にはめられていた目隠しを、冷や汗をかく神ヘルメスの頭に手早く巻き付けると、ケツをけりあげた。

 

「囮役、頼むわ」

 

「うおおおおおおお!?相変わらず神に容赦ないな!?死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!アスフィ、着地任せたぁばぁ!?」

 

「ヘルメス様ぁ!?」

 

頭から無様に落ちていく諸悪の根源を満足気に見送るナズナの横で、善性の塊のベルがたまらずに叫ぶも、神に救いはない。

神は救う側だ。

 

顔面から水面に叩きつけられ、即座に女性陣にぼこぼこにされている。

中でもアスフィが鬼の形相で殴りかかっているのを見るついでに、しっかり全員の裸体も脳内フォルダに激写して保存してから、ナズナは手を叩いて爆笑した。

 

「だはははっ、いい気味だぜ!ざまぁないなおい!やっぱ神が慌てる姿は最高だよなぁ!?いつも俺達をおもちゃにしてるツケだこの野郎!ひゃーはっはっは!」

 

「この状況で爆笑!?ヘルメス様のこと助けなくていいんですか!?」

 

「いいだろ別に。神は死んだ」

 

「不敬すぎるっ!?」

 

「俺は基本神は敬わねえよ。主神はまぁ…うん、嫌いじゃないけど?あとは大体遊び相手くらいの認識だし」

 

状況を最悪手前から、地獄へと変えた本人が何事もなかったように(いっちょ前に照れながら)立ち去ろうとするも、ベルがなんとか引き留めようと縋り付く。

 

それにうんざりしたような顔をするナズナは、そこでようやくベルの顔を思い出した。

 

「ああ、というか誰かと思えばお前かベル・クラネル。むしろお前はここで何してんの?こないだソーマ・ファミリアにはめられかけてたルーキーだろ?」

 

「え、なんで知って…」

 

「…お前、まさかアイズしか覚えてねえのか」

 

エイナに助けを求められ、ベルとリリルカ・アーデを助けたのはアイズとナズナだ。

なんなら働いた度合いで言えば、悪人を捕まえて引き渡しまでしたナズナの方が働いている。

 

だがどうやら、英雄願望持ちの思春期爆発少年(憧憬一途)は、脳内から男を削除していたらしい。

そんなことを思ったナズナは珍しく素直に傷ついた。

 

まぁ、実際。

あの事件の後アイズがベルの落とし物を渡そうとして強引な接触をして、教導の真似事のようなことをしていたことを考えると、その場限りのナズナより想い人のほうが記憶に残るのはしょうがない。

それにそもそもお礼を言うのもそこそこに必死に走っていたベルは助けてくれた人の人数も知らなければ、ちらっとしか見ていない。

キラーアントの群れの処理の後なんか荷物をおいていってくれて人がいたなくらいは覚えていたが。

それもアイズだと思っていたのだ。

 

「い、いやいやいや!そんなことは…あります…すいません」

 

ただの行き違いというか、アイズの伝え忘れではあるのだが、心の底から申し訳無さそうにするベルに毒気を抜かれたナズナは、とりあえず本来の目的である逃亡を開始することにした。

 

「まぁいいけどよ、とりあえず付き合え。ここにいると追いつかれる」

 

「逃げてるんですか?」

 

「うん、俺が怪我したからな。要監視なんだと」

 

この人めちゃくちゃだ。

ベルはそんな感想を抱いたが、もう叫ぶ気力も残っていなかったので、大人しくナズナに担がれて移動を開始するのだった。

 

───この出会いは運命か、それとも偶然か。

ナズナとベル。

マダオと少年。 

タンクとアタッカー。

レベル7と未完の英雄。

 

何かと反対な二人は、ついに。

ようやく。

ほんと今さらながら、しっかりと互いを認識するようになったのだった。

 

この出会いが何をもたらすのか。

別に何も起こらないのか。

 

 

それは神にすらわからない。

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

第二章ではナズナの血筋の話とか、怪人や穢れた精霊の話とかをしていけたらなとは思っています。
でもシリアスはほとんどしませんたぶん。
結果として7〜12巻どうしようかなぁとはなっていますが、ぼちぼちやっていきます。

今後も書きたいことをゆっくり書いていきますので、どうぞ暇つぶし程度にご利用ください。


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第二話。疾風

お気に入り登録、評価、感想、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます。

前回はお漏らし(早出し)してしまって申し訳ありません。
ちょうど二ヶ月目に第二章を始める予定でしたが、まぁそんなものを気にするのは作者くらいなので問題ないのかもしれません。

今回は珍しく外伝ではなくがっつり原作エピソード側の話です。



 

自分の気配と痕跡を消しながら森を歩き、途中森の中に隠していたという酒を回収したナズナと、その慣れた様子の森歩きに先輩冒険者の技術を勉強できる良い機会だと話を聞いたり観察したりするベルは、やがて森の開けた場所にたどり着いた。

 

「───何者だ!」

 

直後、ナズナの方向に向かって小太刀が勢いよく飛んでくる。

幸いなことに、ナズナの本気の隠形のせいで正確な位置まで把握できていなかったのだろう。

その小太刀は、ナズナではなくその後ろ。

ベルの顔の真横にぶっ刺さった。

 

「残念ハズレ」

 

「ひいいいい!?」

 

2人分の気配を消しながら歩くナズナのせいで、何か異常な存在が近づいてきているのかと警戒を高めていたその人物は、どうやらさっきまで水浴びをしていたらしい。

服こそ整えられているが、髪が少し濡れている。

 

「よお、酒場エルフ」

 

リューだ。

 

「ナズナですか…よりによって今日あなたに巡り合うとは」

 

さておき、小太刀を投擲する相手に物怖じすることなく近づいていくナズナは、清水の香りが漂う女性相手であることを気にすることもしない。

ついでに、リューの言葉に一瞬疑問符を浮かべるもすぐに納得した表情になる。

 

ベルは自分の真横に突き刺さった白刃に目をひん剥いていた。

よく見れば髪の毛が数本舞っている辺り、掠めたらしい。

小太刀を目で追えていたナズナはもちろんはたき落とせていたが、別に後ろのベルに当たるような軌道にも見えなかったので見逃していた。

まさか髪の毛とは言え当たるとは。

運のねえやつ、とナズナは自分の責任を棚に上げてそんな事を思った。

 

「…あーね。たぶん呼ばれてるのは俺じゃねえよ。だって俺、アイツラに嫌われてたし。特にアリーゼとかできる限りお前に近づくなって」

 

「そんなことは…ない、とも言い切れませんが。少なくとも感謝はしていたはずです」

 

リューの脳裏にはあの正邪決戦でのナズナの活躍が頭に思い浮かんでいるのだろうが、ナズナは知っている。

尊敬と軽蔑は同居できる感情なのだと。

 

「いや、『あなたはリューに悪い影響を与えちゃうから近づいちゃだめよ!たまにならいいけどね?』『いい人なのになんでこうもひねくれてるのかしら。とりあえず、あなたとずっといるとよほどの頑固者じゃない限りエルフはあっという間に影響される気がするわ!』『え、根拠?勘よ?私、人を見る目はあるつもりだからね。ふふーん!』ってアリーゼが」

 

「無駄に器用な真似を…」

 

「モノマネ得意なんだよ俺は」

 

ナズナの割と似ている物真似はさておき、根本的に正義の味方とナズナは相容れない。

殺人という手段に躊躇いを覚えず、悪人をぶちのめすことに爽快感を覚えるタイプのナズナは、高潔さとは程遠い。

そもそも、自分の手は生まれからして血塗られたものだと思っているナズナは、ヒーローごっこはしても、ヒーローになるつもりはない。

 

あとアリーゼが正しかったことは、レフィーヤが証明している。

エルフは特にナズナからの影響を受けやすい。

それはエルフの同族意識の強さゆえかどうか、別に心の専門家でないナズナはわからない。

興味もない。

 

「ま、とりあえずアイツラが会いたいなら俺じゃなくてこいつだな」

 

「え、僕ですか?」

 

「まぁたしかに、ナズナよりクラネルさんの方が可能性は高い」

 

「え?え?」

 

話を飲み込めずに混乱するベルがとりあえず飲み込めたのは、目の前の二人が知り合いらしいということくらいだった。

 

「あの、ナズナさんってなんでリューさんのこと名前で呼ばないんですか?」

 

「え、なんとなく。昔は別のあだ名(疾風)って呼んでたんだけど、ちょっと呼びにくくなったからな。わかりやすいだろ?」

 

「うーん…?」

 

「まぁ、気にすんな。俺にとっての程よい距離感ってだけだよ」

 

昔を知らないベルに、ナズナは多くは語らない。

誤魔化すためにも、ナズナはベルの肩に手を置こうとして失敗する。

 

「おっと」

 

「ナズナさん?」

 

片目を失ったことによる遠近感と左右差の違いに、いまだ馴染まないせいで空振った手をしばらく見つめていたナズナは、所在なさげにそれを下ろす。

 

「───その目…」

 

「ああまぁ、お前なら気づくか」

 

そして、これまでの立ち振舞から、リューはナズナの喪失に気付く。

その困惑した視線すらも受け流して、ナズナはリューに向かって先ほどまで後生大事に抱えていた酒瓶を放り投げた。

 

「とりあえず用事済ませに行ってこいよ。俺はいいや。代わりにこの酒でも持ってってくれ」

 

「…分かりました。ではクラネルさん、どうかついてきてくれますか?あなたには、話したいこともある」

 

「…?はい!」

 

話を全く理解していないくせに、信頼する人物の言葉に素直に頷く。

こいついつか痛い目見そうだなと、ナズナは森の奥へと消えていく二人を見送りながらそんなことを思った。

 

 

 

 

 

 

道中助けに来てもらったお礼を改めて伝えながら、ベルが連れてこられたのは墓場だ。

 

「ここ、は…」

 

僅かばかりの空間が開けており、周囲は細い木立と水晶に囲まれている。

頭上から差し込む一筋の光の下、木の一部を紐で結ばれた十字の墓がいくつも並んでいる。

 

「……彼女達に花を手向けるために、時折ミア母さんから暇をもらっています」

 

リューが十以上ある墓の一つ一つに白い花を添えていき、次いで、先ほどナズナから受け取ったお酒を特定の墓に順々に飲ませていった。

そして、注ぎ終わったあとに瓶の底に『激辛♡度数99』と書いてあるのを見て動きを止めた。

 

……。

だが、それを咎めることをリューはしなかった。

ナズナは彼女たちが生きていたころも、こうしたいたずらを繰り返していたし、彼にとって彼女たちの関係が今なお変わっていないということに、少し口元を綻ばせた。

 

同時に、リューの脳内でアリーゼやライラ、輝夜が『いひゃいいひゃい!口が火傷しちゃう!』『あんのクソガキエルフが!祟るぞ、こら!』『コロス』と悶え苦しむ姿が思い浮かんだが、きっと気の所為だろう。

 

「リューさん、これって───」

 

「私が所属していた【ファミリア】の仲間たちの墓です」

 

そうして、語られたリューの過去はベルの想像を超えていた。

ギルドの要注意人物一覧に乗っていること。

闇討ち、奇襲、罠。

手段を問わない一人のエルフの手によって、闇派閥という組織が壊滅したこと。

時折、誰かに助けられたような場面があったと、ナズナのいる方を見るリューさんの勘はきっとあっているのだろうと、今日がほぼ初対面のベルは思った。

 

「……その後はどうなったんですか?」

 

「力尽きました。全ての者に報復した後、誰もいない暗い路地裏で」

 

そして、死を受け入れ、生を手放そうとした彼女の手を、温かい手が掴み取った。

 

───大丈夫?

 

「耳を汚す話をしてしまってすいません。私は自分の行いを恥じているし、自分へも失望しています。それでも最近は、自分の過去を少し受け入れてきているのです」

 

「過去を受け入れる…」

 

「はい。私の手を取ってくれる人が、握る人がいたからだ。…貴方のことですよ?」

 

「は、はいっ!?」

 

「私が最初に手を振り払わなかったのは貴方で3人目です」

 

一人目はアリーゼだ。

自分たち以外のものを認めずに汚らわしいと見下す同胞の姿に、見た目麗しいエルフこそがその実、一番醜いのではと思ってしまったリューは、故郷を出てオラリオにたどり着いた。

 

だが、尊敬し合える仲間に出会うどころか、リューは『エルフらしさ』と呼ばれる潔癖性のせいで、結局自分こそがその醜い同胞と同じように他者を見下しているのではないか、と傷つくことになる。

 

だが、アリーゼはなんてことないようにその手を取った。

 

『なに、全然平気じゃない。拍子抜けだわ』

 

二人目はシルだ。

彼女の献身は、リューを再び陽の光の当たる場所へと運んでくれた。

 

そして、三人目。

 

『ありがとうッッ!本っ当にっ、ありがとうございますっ!!』

 

とあるパルゥムの少女のおいた(黒歴史)のせいで失った自身のナイフ(二億ヴァリス)を取り戻したリューへの感謝が極まった、目の前の真っ白な少年だ。

 

「クラネルさん。貴方は、尊敬に値するヒューマンだ」

 

リューは、本命がいる初心な少年にはあまりにも凶悪な微笑みを浮かべるのだった。

 

 

ちなみにだが。

ナズナはわざわざピリピリしている同族に近づくようなことはしない。

どうせ話しかけてもスカジの一族のことを言われるだけだし、家族以外のエルフでわざわざ面倒くさそうな相手をしたいとは思わなかったのだ。

 

だから、ナズナがリューと絡むようになったのは、彼女がアストレア・ファミリアに入り、多少角が取れてからだ。

闇派閥をナズナがボコボコにしている所に、遅れてリューとライラがたどり着いたときに、ようやく邂逅した。

 

『待て、やり過ぎだ!』

 

『あ?誰だよ。うるせーな。こいつはうちのファミリアに手を出した。まだ殺してねーのは、痛めつけるためだけだ。邪魔すんな』

 

『うわ、ブチギレモードかめんどくせぇ。勇者サマは何やってんだ?』

 

『だからと言って甚振っては同じ穴の狢だ』

 

『でもスッキリするぜ。それに俺の家族に手を出しといて、ただで済むと思ってるのがまずおかしいよな。だから恐怖を植え付けんだよ。二度とこいつの仲間が歯向かってこないように、二度と俺の家族に手を出さないように。丁寧に、徹底的に刻む。偉そうに尖ったエルフ耳は削ぐし、歯は折るし、爪も剥がすし、喉にこいつのち◯ち◯も詰める。話はそれからだ』

 

『ちん───?』

 

『おいおい、エルフの森はついに性教育もやめたのか?滅亡まっしぐらの超少子高齢化種族のくせに!?ははっ、相変わらずすぐ自分たちの首を絞めるなお前らは!』

 

『まるで自分はエルフではないかのように言う───!』

 

『はん、そう言ってんだよ。邪魔するならお前から死ね』

 

返り血で全身を真っ赤に染め上げ、キレすぎて番犬時代まで剣呑さが戻っている小さな鬼に怯むことなく挑んだリューはあえなく返り討ちに合うも、ライラが連れてきたフィンによってなんとかその場は収まった。

 

以来度々ぶつかり、ナズナとリューは今の関係に落ち着いた。

つまりは互いに干渉せず、会ったら適当に近況報告をする程度の知り合いという関係に。

そして、同じ死者を悼む同胞として。

 

ナズナとリューは、結局互いに歩調が合うことはないのだ。

これまでも、これからも。

 

ただ少しだけ、どんな過去があっても生きたいように生きるナズナの影響がリューに出ていたりはするが、誤差の範囲だろう。

きっと。

たぶん。

 

どこぞの自称妹に比べれば。

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

なんかキレてるナズナを描写していると、当たり前のように下ネタが出てきてビビります。
とはいえそれなりに意図的に設定に準じた台詞もあるので、キャラがぶれないようにがんばります。


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第三話。女王の帳

お気に入り登録、評価、感想、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます。

話の整合性というか丁寧な展開を重視するあまり、面白くない1話が完成したので消し去りました。
ベルとの珍道中は全カットです。



 

賭け事をしたり、酒を飲んだり。

全く関係ない喧嘩に乱入してみたり。

地上で金になる迷宮の楽園(アンダーリゾート)の水晶の場所や、(比較的)良心的な店や、穴場の宿屋を案内したり。

リューと別れたあとのベルは、ナズナの案内で安全階層である18階層。

水晶と大自然に満たされた地下世界。

別名迷宮の楽園(アンダーリゾート)に居を構えるリヴィラの街を見て回っていた。

 

悪い大人筆頭のナズナの観光案内は、ベルやリリが昨日アイズたちに案内された時には分からなかったリヴィラの街の別の顔が見えてくる。

そんな裏見学とも呼べるナズナとの逃避行を、ベルもなんだかんだ楽しんでいた。

 

「あー遊んだ遊んだ。今日はサイコロの機嫌も良かったし悪くない一日だったな」

 

「最後に全部消えましたけどね…」

 

ナズナは流れるように街を歩いていた冒険者に絡んでぼこぼこにして巻き上げた金を、幸運の女神を口説き落としたかのようなレベルの豪運で勝ち続けて十倍にし、最後の最後で調子に乗って全ツッパし0へと変換した。

もはやそういう星の下に生まれたとしか思えないほどの負けっぷりに、ディーラーも苦笑い。

とはいえ元より家族が元気を取り戻すまでの時間つぶしでしかないのだ。

ナズナのメンタルにはなんの影響もなかった。

負けるのはいつものことだし。

 

「いいんだよどうせ泡銭だし。汚い金は長持ちしない。勉強になったろ?」

 

「それはほんとに。悪いことはするもんじゃないなって」

 

「悪いやつにしか悪い事してないからセーフ」

 

悪いやつ(主観)。

今回ナズナに絡まれた冒険者は、ベートのことを弱いやつに良く吠え強いやつには噛みつかない犬っころだと言った過去がある。

その時のナズナは、怪我をしたリーネを地上へと運ぶのに忙しくて鎖でぶっ飛ばすくらいしかできなかったが、怪我をして自分が死にそうになっていることよりも、想い人を侮辱され自分がなにもできないことに涙するリーネを見て、いつか懲らしめると心に決めていたのだ。

 

ベートのことは別に心配していない。

ベートは何を言われようが強くなるために、そして弱者が一人でも無謀と勇気を履き違えないように、吠え続けるだけだからだ。

彼は陰口を言うしかできない負け犬程度にどうこうできるような犬っころではない。

誇り高い冒険者の一人だ。

ナズナの大切な家族だ。

 

そんな家族のこと侮辱して生きていることに感謝してほしいくらいだ、とナズナは思うが口にはしなかった。

 

「それにお金は派手に使うほうが楽しいだろ」

 

「でもそんな考え方だから万年金欠なんですよね?」

 

「おっと。お前今日一日でだいぶ辛辣になったな」

 

そんな風にベルを引き連れて仲良く会話をしながらキャンプへと帰ってきたナズナは、強烈なプレッシャーを感じて足を止める。

 

それは、普段からとある女神のせいで視線に敏感なベルも同じだった。 

心臓を鷲掴みにする重圧にベルの喉が、ひゅ、と壊れた笛のように鳴る。

顔を恐怖で歪めるベルとは対象的に、ナズナは嬉しくて仕方がないという顔を必死に堪えていた。

 

二人が揃ってそちらを向いた瞬間目に入ったのは、幾人かの妖精の姿だ。

レフィーヤとなぜかいるフィルヴィス、アリシアにその他モブエルフが数名。

 

───そして、リヴェリア。

 

周りとの温度差で居心地の悪そうなフィルヴィス以外の全員が暗黒の瘴気を両肩に背負い、無言でうつむいている。

 

「ははっ」

 

夜闇すら塗りつぶす怒気を前に、ナズナは今度こそ笑った。

辛気臭い顔をしていた家族が、いつもの調子に戻ったとこを心の底から喜んだ。

 

だから、あとは逃げるだけだ。

家族が元気になったのはいいが、これは流石に元気になりすぎだ。

この様子のこの人数にマジの説教と折檻されたらさすがのナズナも普通にしんどい。

 

「…さて、ベル・クラネル。足に自信はあるか?なけりゃ神に祈れ」

 

神、と言われてベルが見たのはズタボロになり虫の息の神ヘルメスだ。

彼はまるで食人族の生贄かなにかのように丸太へと磔にされ、足元の焚き火で熱されている。

火が少し小さくなる度に、アスフィが無言で薪を焚べるせいで、常に火が自分の靴すれすれにあるのは恐怖しかないだろう。

とても神にしていい所業ではない。

 

それに悲鳴を上げるベルに構わず、ナズナはエルフたちに手を振った。

 

「よぉ…お前ら!元気そうだな。揃いも揃ってヤンデレごっこか?暇なんだな。俺は遊び足りねぇから、こいつともっかい街に繰り出してくるぜ!」

 

「巻き込まれた!?」

 

視線を慌ててナズナへとベルが戻すももう手遅れだ。

自分の肩へと回された腕が、万力のように締め上げてくるのを感じてベルもまた覚悟を決める。

 

なぜなら、エルフたちの後ろに髪の毛をまるでおとぎ話のメデューサのように揺らめかせる神ヘスティアが見えたからだ。

あとめちゃくちゃ笑顔のリリも。

 

「ナズナ…」

 

そして、そんな怒れる女性陣の中からリヴェリアが前へと出てきた。

再びナズナが逃げ出さないようにという心遣いなのだろう。

口の端を怒りで引きつらせながらも、笑顔を作ろとするのはさすが大木の心の持ち主。

 

「もう帰ってこい。私たちも別に怒ってるわけじゃないんだ。だから、な?」

 

「何が怒ってるわけじゃないだ。怒ってるやつの常套句を信用するわけねーだろ。ちったぁ頭使え?それともなんだ寝不足か。なら早く寝たほうがいいんじゃないですかねえおばあちゃん!」

 

「イラッ☆」

 

が、ダメ。

家族がいつもの様子に戻ってテンションの上がっているナズナの容赦無い口撃を前に、大木の心は容易く折れた。

 

同時に怒りで拳が握りしめられ、その衝撃で空気が爆ぜたことで、本当になぜかこの場にいるフィルヴィスが震えだした。

 

だが、ナズナはむしろ嬉しそうだった。

むしろ愛を感じるので、もっと感情を向けてほしい。

でも説教は勘弁な!というどこまでいっても自分本位なナズナが目線を移せば、目からハイライトを消し去ったレフィーヤがフィルヴィスにしがみついているのが見えた。

そして、目があったことに気付いたフィルヴィスは、冷や汗を流しながらなんとか口を開く。

 

「その、なんだ…ナズナさんもあまり家族に心配をかけるものじゃないと思うぞ…?」

 

「兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん…」 

 

「隣のぶっ壊れた妹のほうが心配だよ俺は」

 

「いやそれは本当にそうなんだが…!ひぇ、レフィーヤ、落ち着け!私は敵じゃない!私は別に泥棒猫ではない!ただ話しているだけだ!だからその振りかぶった杖をおろしてくれ!とても怖い!」

 

いちゃいちゃしている(ナズナ視点)フィルヴィスとレフィーヤは問題ないだろう。

いつもの発作だ。

これは別に右目は関係ない。

だって水浴びのときとか目隠しをするナズナを見て恍惚の笑みを浮かべていたし。

 

というより問題なのは、ベルの方にレフィーヤから矢印が出ていることだろう。

 

「許セナイ、許サナイ、許サレナイ…アイズさんに特訓をつけてもらうだけじゃなく、兄さんと夜遊び?二人きりで?ああ!ほんと!うらやま…妬ましい!」

 

「なんかものすごい恨まれてませんか僕!」

 

「な。かわいいよな」

 

「だめだこの人早くなんとかしないと!」

 

いやぁ愛をビシバシ感じるなぁ説教は勘弁だけど、と笑うナズナの横でベルは頭を抱える。

 

「ナズナさん!あなた───「うるせーアリシア!お前はラブサバトとかいういかがわしいイベントに行ってたくせに俺になんか言えると思ってんのか!この破廉恥娘!エロ担当!そろそろ若くねーぞ!お前こそあのイベントで彼氏ゲットする方法学ぶべきだったんじゃねーか!?」…私に対する当たりが思ってたより強い!まだ女装に気付けなかったこと気にしてるんですか!?」

 

さて、そんな風に相手を挑発しながらナズナは逃走を図るための準備を整えていた。

黒霧(ブラック・ミスト)

こないだフェルズの部屋から無断でかっぱらってきた目眩まし用の魔道具だ。

挑発をしながら流れるように懐に手を伸ばしたナズナは、ベル君!ヘルメスに聞いたよ!君も木の上にいたんだって!?ひええ、許してください神様ぁ!というやり取りをするベルの手を取ると、その小さな魔道具を地面へと叩きつけた。

 

「なんだ…!?」

 

「ははははは!あばよ!朝には帰るぜ!多分な!そこのハイエルフ様の怒りが落ち着いてたらだけど!」

 

「…我が名はアールヴ!」

 

「リヴェリア様流石にそれは隣の少年が死にます!」

 

「チッ…!待て、ナズナ!貴様は尻叩きの刑からの抱き枕の刑だからな!覚悟しておけ!」

 

「聞こえませーん!べろべろばー!」

 

「ちょ、走りながら振り向かないでください!追いつかれちゃいますよ!」

 

このあと森へと逃げた二人は闇派閥に遭遇したり、リューと共闘して撃退したり、紅のローブの怪人が証拠隠滅のために自爆装置ごと魔剣で辺り一帯を焼き払ったり。

良くわからないアイテムをリューが拾ったりしたが、要するに。

 

普通に逃げてるどころじゃなくなったナズナはあえなく捕まり、説教をされて尻を叩かれ。

一晩リヴェリアの抱き枕になるのだった。

 

「ナズナ…私はお前を───」

 

自分を抱き枕にするリヴェリアの表情が、以前より官能的な色を帯びたことには一切気づかないまま。

 

 

 

 

自分にとって、ナズナとはどんな存在か。

リヴェリアはその答えを持ち合わせていないことを自覚していた。

親子、恋人、仲間。

どれもしっくりこないくせに、人一倍執着心を向けている。

 

きっかけは何だっただろう。

森を出る時に自分を身を挺してかばってくれた時だろうか。

それとも、同じファミリアとなってから何度も危機を乗り越えてきたからだろうか。

いつだって自分の前にその小さな頼りがいのある背中があって、リヴェリアはその背中に守られながら数多の敵を屠ってきた。

 

彼との冒険は痛快だった。

誰よりも前に出て、誰よりも悲劇を笑い飛ばして彼は前へと進み続ける。

そんな彼が好きだった。

 

だが、そうしてナズナとの過去を思い返しても、明確なきっかけは思いつかなかった。

 

ナズナと最初に出会い、一番最初に優しさを教えたのはアイナだ。

ナズナの家族には見せたがらない秘密や内面を知っているのはロキで、家族としての関係を一番築いているのはレフィーヤだ。

 

彼女たちと比較して、自分はなんて中途半端なのだろうと劣等感すら覚える。

二番目に出会い、秘密を知るために踏み込みきれず、家族としての立ち位置を見つけられない。

理由を作って、立場を利用してナズナの隣に居座る傲慢な王。

 

あるのはただ、誰よりも醜い所有欲だけ。

 

───だが、もういい。

もう深く考えるのはやめだ。

片目から光を失い、それでも笑うナズナを見て、リヴェリアは理由にこだわることを辞めることにした。

うじうじ悩んでいては、ナズナはいつか死んでしまう。 

それも、誰かを守ってだ。

リヴェリアを守ってならまだいいが、もしナズナが他の誰かをかばって死んだとしたら、リヴェリアは嫉妬に狂うだろう。

 

「お前の死に、私が関わってないと思うとゾッとするな…。どうせ死ぬなら私のために死んでくれよ?それともいっそお前を殺して、永遠にその死体を私の物にした方が幸せか…?」

 

リヴェリア・リヨス・アールヴはナズナが欲しい。

誰にも渡したくない。

彼にどんな秘密や肉体関係があったとしても関係ない。

 

ただ、この男を自分のものにしたい。

征服し、支配し、服従させたい。

笑う顔が見たい。

怒る顔が見たい。

泣く顔が見たい。

快楽に蕩け、自分しか目に入らないようにしたい。

というかもう、生意気な口を塞いで分からせたい。

 

そんな我欲に身を任せよう。

美しい恋ではなく、深い愛でもない。

浅ましい欲に私は身を委ねよう。

 

文句があるならかかってこい。

ナズナを手に入れるためなら世界最高の魔法使いとしてだけじゃない、嫌っていた自分の立場だって利用してみせる。

逃がすものか。

 

私がエルフの女王だ。

どんな汚名も成果と権威で洗い流せる。

 

とりあえず手始めに、この男の首筋に私の物だという証をつけよう。

 

話はそれからだ。

 

───酷薄に笑う一人の女を、魔石灯の光が淡く照らし出していた。

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

右目を失明させたのは今後の展開を変えるのに都合が良かったからです。
今後少しずつこの右目が色々に効いてくる…と予定はしていますが毎度のごとく予定は未定です。
誰かさんが前より重くなったり、誰かさんの考え方に影響が現れたり、イベントのタイミングがずれたり。
期待とハードルは下げてお待ち下さい。


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第四話。傷痕

お気に入り登録、評価、感想、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます。

今回が5巻の最後です。
右肩下がりのクオリティで駆け抜けた蛇足編第二章の第一節、いかがだったでしょうか。
暇つぶし程度に機能していれば幸いです。
でも正直一発ネタをダラダラ続けてもしょうがないなという気持ちがあります。


 

 

朝。

なんか疲れたような負けたような顔をするリヴェリアと一緒にテントの外に出たナズナは、顔を洗いに行くといってキャンプを離れる。

もう監視をしようとする誰かはいない。

 

済んだ空気に、爽やかな朝日(結晶の光)。

それを満足気に全身で受け止めるナズナは、這うようにしてテントから出てきたベルと目があった。

 

「何してんの?」

 

「あ、おはようございます!その、神様が寝ぼけちゃって僕の方のテントに…」

 

「ああそう。よくあることだな」

 

「よくあるんですか!?」

 

「神なんてそんなもんだろ。人間への夜這い大好きだからな。神タケミカヅチだって神ミアハだってやってるよ」

 

「えぇ!?」

 

し、知らなかった。

神様ってそーなんだ…と簡単に騙されるベルを前に、ナズナはまるで飼い主の激臭靴下を嗅いだ犬のように顔をしかめた。

 

「嘘に決まってんだろ舐めてんのか?」

 

「理不尽が過ぎる!」

 

ちなみに。

昨晩ナズナと一緒に捕まったベルの方はと言えば、いつも通りの軽さで事を終えていた。

 

『ベル君、座るんだ』

 

『はい…』

 

『今日だけで覗きにギャンブルにキャバクラに。ずいぶん悪い遊びを覚えたみたいじゃないか』

 

『え、いや、僕は連れ回されてただけで…はい、すいませんでした…っ』

 

『ボクは悲しいよ、ベル君。自分の眷族()が覗きなんて…ああ、とてもとても悲しい』

 

『神様…』

 

『悲しくて、悲しくて…悔しくてっ。くそうっ!そんなにヴァレン何某の体が見たかったのか、ええ!?幼女神(ボク)なんて覗き見るに値しないだって!?あの子のアドバイスを採用して始めた背中の流しっこでも、君は目隠しを一度も外さなかったくせに!』

 

『神様何言ってるんですか!?』

 

『ええいっ、うるさい!罰として君は今日からボクと背中の流しっこをする時は目隠し禁止だァ!!』

 

『リ、リリーッ、ヴェルフー!?言動がおかしくなるくらい神様に高熱がーっっ!?』

 

『こらぁー!話の途中だぞっ、ボクだけを見ろぉおおおおおおおおお!!』

 

『ちょ、うああああああああああああああああああっ!?』

 

 

『おい、リトル・ルーキーがヘスティア様に押し倒されたぞ』

 

『どうせリリスケ辺りが助けるだろ』

 

ナズナの首筋に跡をつけようとして、自分が嵌めた不壊属性の首輪のせいでつけれないとかいうアホなことをしているリヴェリアたちとは違い、ヘスティア・ファミリアかなり健全だった。

 

「あ…その傷」

 

さて、そんな余談は置いておくとして。

ナズナの右頬にある真新しい傷を見て、ベルが思わずと言った風に口を開く。

 

「あ?なんだよ。別に普通だろ冒険者やってりゃよ」

 

「でもその傷は…」

 

「お前をかばったからできた傷だからなんだってんだ。どっちかっつーと、この傷は魔法なしとは言え俺に血を出させた相手を褒めるべきところだぜ」

 

ナズナには真新しい傷が一つ増えていた。

これは昨日の夜、逃げた先で遭遇した闇派閥との戦闘の際にできたものだ。

正確には倒した闇派閥を尋問中に現れた紅のローブの怪人に襲撃されたときに出来た傷だ。

大剣による強襲はベルの首を狙ったものであり、それを庇ったナズナの頬に傷を残した。

どうやらその大剣には相手の血を奪い取る呪詛が込められていたらしく、魔法でもポーションでも治らなかった。

 

またこいつ傷作ってるよぉ〜という野暮なツッコミはともかく、新しい情報がなにもなかったわけではない。

とりあえずなんか奴らは十八階層に、自爆してでも隠蔽したい情報があるという情報は、今後のことを考えればかなり重要だと言えるだろう。

 

まぁそんな言い訳は聞いてもらえるわけもなく、説教は倍になったわけだが。

 

「…ナズナさんもアイズさんも、僕たちよりも先に地上へと帰られるんですよね」

 

「そうだな。別に今は支障ないけど呪詛は早めに解いておきたいし」

 

「ありがとうございました。庇ってくれたことだけじゃなくて、その、色々教えてくださって」

 

「良いってことよ」

 

とりあえず。

色々濃い1日だった昨日に比べて、地上に戻る日はかなり穏やかに時間が過ぎていった。

ついでに長い長いロキ・ファミリアの遠征も、ようやく終わる。

 

 

 

 

 

18階層の森の中。 

最早おなじみとなったその場所で、向かい合う一組の人影があった。

 

「朝から呼び出されるとはね」

 

「んー、まぁ。別に誰でも良かったんだけど」

 

向かい合うのは槍を構えるフィンと、腕に岩を纏わせて構えるナズナだ。

言葉とは裏腹にかなりの怒気を纏うナズナを前に、フィンの喉が思わず鳴る。

 

いつぶりだろうか。

ナズナが家族に対してここまで怒りを向けるのは。

だが、それも仕方のないことだとフィンは気持ちを切り替える。

 

なぜなら自分は、己の迂闊な判断でナズナの大切なものを奪ったのだから───

 

「難しいこと抜きにしてリハビリ付き合ってくよ。なぁ?勇者様!」

 

「ああ、いいとも───!」

 

そして、静から動へ。

オラリオでも上から数えた方が早い二人の実力者によるリハビリという名の喧嘩が始まった。

 

「く、相変わらず訓練でも容赦ないな!」

 

「はいざこー!勇者雑魚ー!チンパンパンチ!チンパンキック!ちんちんぱんぱん!」

 

ぼっ、という空気が爆ぜる音とともに放たれた自分の体を掠めるナズナの股間狙いの拳に、フィンは盛大に肝を冷やす。

 

対するナズナは一切の表情を消し去り、瞳孔の開ききった左目と光のない右目でフィンを捉え続けており、そのくせ下ネタを言っているのが非常に恐ろしい。

 

レベル7基準で攻撃性能が低い。

典型的なステータス頼りの冒険者。

ナズナを評価するその言葉に嘘はないが、レベル7のステータスはゴリ押しの効く破壊力を秘めているのもまた事実だった。

 

つまり最強のステータスでチンパンが最強。

右目という死角から槍を叩き込んでいるというのに、当たり前のように腕一本でガードして見せる理不尽の権化を前に、フィンの頭にはそんなバカ丸出しの言葉がよぎった。

 

訓練用の刃の潰された槍で足を払う。

その瞬間に放たれるカウンターを、異常な冴えで避けて見せるフィンも、自分が理不尽側であるという自覚が足りていない。

ナズナの得意技である相手の攻撃にドンピシャに合わせてくる、硬さに物を言わせたカウンターを回避できるのは今のところ世界に二人だけだということを忘れてはならない。

 

「───俺が荷物に隠してたタルト食ったのはてめえだなこらぁぁああああああ!」

 

「私怨剥き出しじゃないか!誰でも良かったって言ったくせに!」

 

「うるせええええええ!なんか失明のせいで落ち込んでんのかなとか思ってた俺の時間を返せ!ばーか!はいそこ隙ありぃ!」

 

「危ないな…!はは、地上で新しいのを買うからそれで手打ちにしてくれないかな…!」

 

「俺は!今!食いたいんだよ!」

 

「悪かったよ。後で感想文を原稿用紙三枚くらいにしたためてプレゼントしようか!?」

 

「盗み食いして開き直りとは偉いもんだな勇者様は!神々が言うところの勇者行為ってやつか!?舐めんなこら!」

 

しょうもない理由で、繰り広げられる二人の戦いはより高度に、より激しさを増していく。

朝の静寂を甲高い衝突音が引き裂き、周りの木々を訓練用の刃の潰された槍と拳が破壊していく。

鈍器による破壊のせいで、ダンジョンが悲鳴を上げていた。

 

『…うん、とりあえず誰かリヴェリアを休ませてやってくれ。僕らには少し頭を冷やす時間が必要だ』

 

あの言葉は、別にナズナの失明に対してフィンまでもが取り乱したというわけではない。

いやもちろん、フィンの胸のうちには確かな傷跡が残ったが、それでもリヴェリアみたいに闇落ちするほどではない。

 

「というか君が失明したせいでしょうもないことの謝罪を言いにくくなったんだけどねぇ!」

 

「そんなもん、俺が知るかああああああ!」

 

身長とか理由とか規模とか。

色んな意味で小さい嵐と化した二人の頭を、大きな握りこぶしが殴りつける。

 

「やめんか二人共!」

 

「ってぇ!?」

 

「おっと、止めてくれて感謝するよガレス」

 

面白いように地面に突き刺さり思わず声が出たナズナと、意地で涼しい顔をするフィンの二人をガレスは呆れたように見つめているがナズナもフィンもお構いなしだ。

だんだんフィンの方も、心配かけたくせに家族を元気にするためとかいう意味のわからない理由で家出したり傷増やしてきたりするナズナへの怒りが湧いてきたからだ。

 

「おいおいおい、足がふらついてんぞ。涼しい顔して大ダメージかぁ?」

 

「ナズナの方こそ少し縮んだんじゃないかい?」

 

「あ?」

 

「は?」

 

「もう一発いっとくか?」

 

「「結構です!」」

 

とはいえ二発目を受けたいわけではないので二人は慌てて矛を収める。

極まった力から繰り出される技巧派の一撃は、都市最大派閥の首領と都市最硬でもかなり痛いのだ。

 

「まぁいい。お前の焦った顔が見れてスッキリしたし」

 

「…ふぅ…それは良かったよ」

 

さーて解散解散、と地面から抜けて伸びをするナズナの背中に、フィンは声をかけようとしてやめる。

そして、飲み込んだ言葉とは真逆の言葉を口にした。

 

「ナズナ。僕は後悔してないよ」

 

「当たり前だろ。お前はフィン・ディムナだ。後悔したなんて言ってたらガレスと一緒にパンチだコノヤロー」

 

ナズナの言葉に、フィンは虚をつかれたような顔をする。

そんなフィンを見ながら、ガレスもまた破顔した。

 

「ガハハハ!そうじゃのう!好き勝手振る舞う小僧(パルゥム)に殊勝な態度を取られたらたまったもんじゃないわ!」

 

フィンの内に秘めた傷跡など、腐れ縁二人からすれば丸見えだ。

ただでさえ、時には大のために小を切り捨てることを決断せざるを得ない立場のフィンだ。

仲間が生きているのなら、わざわざそんな傷跡つける必要がないとナズナとガレスは心の底から思っていた。

 

「…でも、そうだな。それでも実は強がってるだけで本当は後悔してるってーなら」

 

ナズナはそこで一度言葉を止めて、その光を写さない右目を撫でながらフィンの方へと振り返る。

 

「タルトでも奢れよ。お前の指示は完璧だった。お前は変わらず俺達がついていきたいリーダーだった。だから下手な罪悪感なんてその程度で捨てちまえ」

 

「…ああ、そうさせてもらうよ」

 

その不器用な気遣いに、フィンもまた笑顔を返す。

18階層をロキ・ファミリアが後にしたのは、その1時間ほど後の話だ。

 

 

 

「やっと帰ってきた…」

 

都市北部。

目抜き通りから外れた街路沿い。

周囲一帯の建物と比べて群を抜いて高い、本拠地である『黄昏の館』を前にして、ティオナがしみじみと呟いた。

 

ゴライアスの討伐に、後続隊にベル・クラネルたちが合流してこなかったこと、地上へ戻る前に感じた不審な揺れ等細かなイベントはあったものの、18階層からの家路に問題らしい問題はなかった。

 

とはいえ、地上へ出てきた時に見た夕焼けは何物にも代えがたい感動を感じるくらいには長い遠征だったわけで、全員が疲労しているのは間違いない。

 

「今帰った。門を開けてくれ」

 

「おっかえりぃぃぃぃいいいいいい!」

 

フィンの言葉で門番が開いた門の先。

居残りの団員たちで溢れかえった前庭の先頭から人影が飛び出してくる。

 

「みんな大丈夫やったかーっ!?感動の再会やーっ、うおおおおおおおお!」

 

助走から一気に飛んだその人影…といかロキを、全員が華麗に回避し、最後尾にいたナズナが受け止める。

 

前の遠征のときよりも強く。

全力で抱きしめてくるロキの硬い胸にナズナは顔をしかめながらも、特に口答えはしない。

 

「無事で良かった…ほんまに…」

 

「大げさだよなぁうちの主神はよぉ」

 

しばらくひたすらナズナを抱きしめ、その小さな体を堪能したロキはしゅたっと、離れにへらっと笑う。

 

「溜まっとる問題は山ほどあるんやけど、とりあえず今は…」

 

フィン、リヴェリア、ガレス、ティオナ、ティオネ、ベート、レフィーヤ、ラウル達他団員、そしてアイズとナズナ。

全ての者の顔を一人一人見つめた後、ロキは相好を崩した。

 

「おかえりぃ、みんな」  

 

ロキに続くように、前庭にいた居残り組の団員達も諸手を挙げて一斉に唱和する。

 

自分たちを迎える家族を前に、ナズナたちは笑い返した。

 

「ただいま!」

 

中央塔に立つ道化師(トリックスター)の旗が、穏やかな風にあおられ、茜色に輝く。

ロキ・ファミリアの長い遠征が今日、終わった。

 

 

 

 

「…ああ、彼の血が一滴交じるだけで安酒も美酒になるな。彼の血を取ってきてくれて感謝するよ、トラゴス」

 

その人物は真っ青な三日月に向かって杯を掲げ、その香りを堪能する。

その傍らで侍らせた女を愛でながら、それでも何よりもその酒…否。 

その酒に混じった血を愛でる様は少々気色が悪い。

 

「…本当に。混ざりもの故か。それとも紛い物故か。彼は我々神々にとってあまりにも極上な果実だな」

 

ほう…と。

一口飲んではその葡萄酒に交じる血の持ち主に陶酔する。

激情を仄めかせ、悲劇を夢想する。

その人物は、自分の輪郭を見失うほど酩酊を漂っていた。

 

「ああ、ローレライ。君こそが悲劇の歌姫にこそ相応しい。世界終わらせるシナリオで、君が!君だけが!都市の破壊者たり得るともッ!」

 

芝居がかったその言葉は、横に侍らされた女すら理解できない。

 

だが、あるいは。

その感情を向けられている彼だけは。

 

その言葉に込められた意味を理解できるのかもしれなかった。

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

たぶん次回は短編集みたいな、一話として出すには短いけど差し込む場所にも困るみたいな話のまとめです。


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第五話。正義を運ぶ風

お気に入り登録、評価、感想、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます。

今回は2つほど1話として出すには短いけど差し込む場所も難しいみたいな話を、ぶつ切りで繋げたなんちゃって短編集みたいなものです。


 

●憧憬は交わらず

 

 

それは、リューが復讐を果たしきった直後の話。

 

「私はどこに…」

 

復讐は遂げられた。

だが、得たものは虚無感だけだ。

達成感もなければ、何時ぞや()が言っていたようにスッキリもしない。

 

思い返せば、彼はいつだって仲間を失う前に報復を行っていた。

必ず仲間を守りきって、それから敵を殲滅する。

見せしめのように痛めつけてから殺し、闇派閥の目につくように派手に放置する。

 

そのやり方に苦言を呈してきたリューだったが、彼は仲間を失わず、自分は失ったという結果が、自分が間違っていたのではという思考へとリューを誘導してしまう。

 

「───お前こんなところでなにしてんの?」

 

そんな事を考えていたからか、死に体のリューは一番会いたくなかった相手と出会ってしまった。

雨に打たれ、路地裏で体を引きずるリューを見て顔を顰めるナズナはいつも通りだ。

 

いつも通りギャンブルに負け、身ぐるみを剥がされたのだろう。

 

───彼は、トランクス一枚だった。

 

シリアスぶち壊しのその男は、眼の前のリューよりも過去を後悔しているような顔をしている。

こんな状況でも、戦闘中でもない限りシリアスにならないのがナズナという人間だった。

 

だが、絶賛シリアスしているリューには関係なかった。

というか疲労のせいで思考がストップしていて、視野狭窄に陥っているせいでそこまで気が回っていなかった。

 

「ナズナですか…私を笑いに来ましたか?」

 

「え、ごめん。何の話?」

 

かつて彼が悪人を甚振っていた時に立ち向かい、何度もそのあり方を否定してきたくせに。

今自分がしていることはなんだ?

 

取り返しのつかないミスをしておきながら、それを認めなくて命を奪うなど、彼と同じどころか、私の行為は彼よりもよほど醜い。

 

いつもと変わらぬナズナの様子を見てそんな風に考えるリューではあったが、暗黒期の最中でありながらギャンブルに勤しむバカはそもそも、状況の理解がまだ出来ていなかった。

 

パンツ一丁のショタと路地裏で美女が二人。

シチュエーションとしては、あまりにもシリアスがそぐわないのに話は進む。

 

「散々悪人を嬲る貴方を咎めておいて、結局私は自分の中の復讐心を止められなかった…。私は醜い…。私は、私が嫌いだ!正義を成すと息巻いて、結局なせず。死んでいったアリーゼたちに顔向けも出来ないこの愚かさ!巡るはずの正義は、私が自分の手で壊してしまった…!」

 

その慟哭は、リューが初めてナズナの前で見せた彼女の弱音だった。

その弱音を黙って受けとめるナズナに縋るように、リューは腕を絡める。

彼なら。

正義も悪もなく、ただ守りたいもののために敵を殺し、生きる彼ならば。

過去を受け止め、それでも鳥のように自由に生きる彼ならば。

正義で無くなった自分のことも…そんな心の声に、今のリューは抗えない。

 

まるで男に手を伸ばす娼婦のようだ、と僅かに残った理性が吐き捨てるも、もうリューは自分のことを止められなかった。

 

こうなる予感があったから、ナズナとは会わないようにしていたのだ。

時たま闇派閥との戦闘中に遠くから助けられたと気付いていても、振り向かないようにしていたのに。

 

「私がずっと心の何処かで憧れていたあなたなら、私を受け止めてくれますか。私にはもう貴方しかいない。いないんです…。一番でなくていい。慰み者としてでも構わない。どうか私を側に置いてください。貴方のそばにいるだけで、私はそれで───」

 

王道な物語なら、男が女を抱きしめて光落ちしてハッピーエンドにもなれただろう。

あるいは二人揃って閉じた世界へ逃げていくこともあるかもしれない。

 

だが、ナズナに王道はあまりにも向いていない。

つーかパンイチの男に悲劇的なラブコメができるわけがない。

彼は自分に回された腕を真顔ではたき落とすと、叫んだ。

 

「うるせー!知るか!こっちは今フィンたちになんて言い訳するか考えてんだよ!つーかやべーよ!フィンの魔剣も売っちまった!どうしよ!?どうすればいい!?」

 

「え、ちょ」

 

「はんっ!ここからあまーく囁いて一緒に落ちていってくれると思ったか?やだね!お断りだ!俺ルートは課金専用追加コンテンツだよ!それともなんだ?今金を恵んでくれるってか!?」

 

「いや、え?えええ…?」

 

「慰めて抱きしめれば満足か!?お前に都合のいい言葉がお望みか!こっから先、お前をおぶってきれいな景色だけ見せたらいいのか!」

 

ナズナは困惑するリューを置いてけぼりにして、リューに向かって叫ぶ。

 

「甘えんじゃねえ!お前は!!リュー・リオンだろ!」

 

その言葉は、ナズナがリューへと抱いていた憧憬の発露だ。 

パンツ一丁だけど。

 

「正義の味方、清廉潔白、正義は巡ると信じて生きるうざってーほど甘ったるい理想主義者!そんなお前が俺と一緒になる?バカかよ。そんな勿体ねーことあるか!」

 

生まれからして血にまみれた自分では到底なれない、その在り方。

それに憧れるナズナは、リューを突き放す。

すべてを諦め、自分と同じになるというリューを光の世界へと蹴り返す。

 

ナズナは誰よりも、リュー・リオンという女を信じていたから。

再び正義を胸に抱いて、かつての彼女の仲間が託した物を背負い直し、再び立ち上がると信じていたから。

 

あとついでに、自分たちの根っこの部分の相容れなさのせいで、共依存的な関係性が続かないことをよくわかっていたから。

 

根本的に、ナズナは今のリューに共感できない。

家族を殺されたナズナは、敵を簡単に殲滅したりせずに一日一人捕獲し、嗤いながら拷問にかける。

そして死体をぐちゃぐちゃに潰してジュースにして、次のやつに飲ませたり、ケツからぶち込んで逆流(メントスコーラ)させて爆笑することだろう。

その残虐性は止まることなく、大いなる悪意と愉悦を持って、悪意を向けてきた人間たちを滅ぼしにかかることになるのは間違いない。

そして、殲滅すれば天に向かって仇をとったとガッツポーズする。

 

だから、弱っているリューをここでナズナが受け止めたところで上手くいくはずもないのだ。

仮にうまくいくなら、それはもうリュー・リオンではない。

そんな見ず知らずの女と生きていくなんて、ナズナはゴメンだった。

 

「お前に俺なんかいらねーよ。てめえにはまだ動く足がある。藻掻くための腕があるっ。まだ死にたくないと叫ぶ心臓がある!」

 

───僕は死ぬのかな

 

───そんな風に生きてみたかった…

 

頭に過った後悔を踏み越えるように、ナズナは叫ぶ。

 

「死んでねえなら、その心のままに生きりゃいい。過去がなんだ。ちょっとした黒歴史なんて誰にでもあるわ!たった一度の過ちでお前の綺麗さが損なわれると思ったら大間違いだ!」

 

パンイチのくせに言うことはいっちょ前のナズナは、混乱が抜けきらないリューに向かって、ようやく微笑んだ。

 

「死にそうなら助けてやるよ。でも、そうじゃねえなら話は終わりだ。挫けてもいい。逃げたらいい。もう一度羽ばたけるようになるまで休んでりゃいい。

 

だから。

二度とこっちに来ようなんて思うな。

次下に落ちてこようとしたらまた何度でも蹴り返すからな。

 

血に塗れて、正義も悪も無くなった俺の側になんて…誰もいないほうがいいんだから。

 

そう、誰もな───」

 

その初めて見せる泣きそうな微笑みを最後にリューは眠る。

 

次に目覚めた時、彼女は運命の出会いをする。

 

───大丈夫?

 

彼に寝ている間に担ぎ込まれたその新しい居場所となる酒場の名前は『豊穣の女主人』。

どんなに強い冒険者も、無法者も、悪党も裸足で逃げ出していく怖い店。どんな過去がある少女達も、ここでは馬車馬のように働かされ、美味い飯と酒を振る舞って、多くの客と笑みを分かち合う───豊穣の酒場。

 

数日後、とある少女の献身でリューに笑顔が戻る。

 

とはいえ。 

彼女が過去を完全に受け入れて、再び歩み始めるのはもう少し先の話だ。

 

 

ナズナはリュー・リオンの正義に理想を見て。

リューはナズナ・スカディの自由に夢を見た。

互いの憧憬は、相容れないからこそのもの。

絶対自分のようにはならないという相手への信頼があってこそのものだ。

 

二人の道が交わることは、ありえない。

 

 

●理解力カンスト女神

 

 

それはかつての日常。

 

「待て!クソガキエルフ!」

 

正義を司るアストレア・ファミリアにちょっかいをかける人間はそれなりに多くいたが、闇派閥よりも彼女たちの頭を悩ませる襲撃者がいた。

 

「はははは!待つかバーカ!クソチビ!知識と知恵が売り?何回俺のブービートラップに引っかかってんだよ恥ずかしくないんですかー!?」

 

「だぁぁあ!ムカつく!」

 

ナズナだ。

彼は定期的にアストレア・ファミリアのホームに忍び込んでは悪戯を仕掛けていた。

時には調味料をすべてタバスコと入れ替えていたり、ブーブークッションを仕込んだり、寝てる間に寝室に潜り込んで顔に落書きをしたり、トイレの出入り口を接着剤で固めて誰も入れないようにしたり、真冬の風呂のお湯を魔剣で凍結させたりと。

しょうもないものから、手の込んだものまで。

 

28歳のアラサーとは思えないほどの幼稚なクソガキっぷりは、最近ではアストレア・ファミリアのホームでの名物になりつつあった。

現にライラの声を聞いた一部の団員たちが呑気に見学している。

 

「死ねぇぇえぇぇえええええええ!」

 

「ふぁめえよ」

 

ナズナの動きを誘導するように追いかけていたライラがニヤリと笑った瞬間に、曲がり角に潜んでいた一人の女性から放たれた本気の居合い。

それを口で受け止めると、ナズナは心の底からバカにしたようなムカツク表情(ニジウラセブン)で煽る。

 

「大和撫子の夢をぶち壊す鬼め!黒髪和服美人へのあこがれを返せ!返せないなら猫耳つけてニャンとか、メイド服きて『お帰りなさいませ御主人様』とか言ってみろよ、おら!」

 

「いい度胸だ。その首今日こそ落とす!」

 

「やってみろよ、その鈍らで切れるのなんてまな板の上の野菜くらいだろ!バーカ!」

 

そして、そのまま逃げおおせるべく走り出そうとして、直後急ブレーキをかけた。

 

「おはようナズナ。朝から元気なのはいいことだけど、あまりこの子達をいじめないであげてね?」

 

目の前に、一柱の女神が飛び出してきたからだ。

 

「どーもおはようございます。神アストレア。でもなー、いじめられてるのは俺だからなぁ」

 

ナズナがなぜこんな事をしているか。

それは子供がヒーローに憧れるのに近しい感覚だと言って理解できる人間はいないだろう。

バカの思考回路は複雑怪奇。

あるいは単純すぎて意味がわからない。

要は好きな人にちょっかいをかける的な、そんな不合理な行動原理を理解できるのはそれこそ神くらいなものだ。

 

そして、眼の前の胡桃色の長髪を背中に流す美しく清らかな女神はそれはもうナズナのことをよく理解していた。

 

ナズナが来るのは決まって、アストレア・ファミリアの面々が精神的な疲労を抱えるような事件を解決した直後だ。

つまりは心配してここに来て、素直じゃないから悪戯をするというお前いい大人だろ何やってんだみたいなことをナズナがしてるというのを、よく理解していた。

 

「なら、こういうのはどう───?」

 

だから、女神アストレアはこの都合の良い経験値アイテムを、自分の子たちのために利用することにした。

 

以降、ナズナの悪戯は頻度を少し減らし、代わりに『ナズナが攻撃をしてはいけない』という縛りで、時間内にアストレア・ファミリアの面々から一撃入れられたら負けという鬼畜なゲームに参加させられるようになる。

要は体の良いサンドバックである。

 

「はははは!はいダメー!目で追えない?なら先に防御を置いとくだけなんだよ!理想嫌いのくせに意外と狙い所は素直か?かわいいでちゅねー!」

 

「コロス!お前はなんとしても殺す!その生意気な口を絶対、黙らせる!」

 

「キスでもしたいのか?だったら、押し倒さないとなぁ!?」

 

「こら、セクハラはだめよ!私の正義の拳をくらっときなさい!」

 

「おっと、同じ付与魔法使いとしてはその派手さが羨ましくもなるけどよ───」

 

「ちょ、そんな躱し方ある!?ダンスやってるんじゃないのよ!?」

 

「当たらなければどうということはない!防御だけが俺の売りと思ったら大間違いだぜ」

 

「人を踏み台にすんじゃねえよ!」

 

「うるせーチビ!俺より小さいのが悪い!」

 

「お前ほんと…!一発殴らせろ!」

 

「ああいいぜ?できるもんならなぁぁぁぁああああ!?できないよなあ!?ざーこ♡ざこざこ♡俺の勝ちぃ!」

 

それはもう煽る煽る。

憧れのヒーローに構ってもらえてテンション爆上げなナズナは煽りまくる。

それにぶち切れる彼女たちは、冷静さを欠いて仕留められない。

 

「…うーん、彼に頼んで正解だったわね。みんなめきめきと実力が伸びていってる」

 

そんなじゃれ合いを、スパルタ女神はにこやかに眺めていた。

 

「ああ、どうかこのまま。平和なままで───」

 

もしかしたら、この祈りは儚く消えるものなのかもしれない。

彼女たちを待ち受ける悪意と苦難は、彼女たちを容易く飲み込んでしまうかもしれない。

 

それでもきっと、この願いはいずれ風が未来へと運んでくれる。

女神アストレアはそう信じていた。

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

リュールート未然阻止、アストレア・ファミリアとのじゃれ合いの2本セットでお送りしました。
ヒロインみたいだぁ…。
次は第六巻ですが、たぶん書くことがないのでばっさりカットするかもしれません。


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第六話。叩扉

お気に入り登録、評価、感想、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます。

とりあえず外伝6巻と7巻がカットになりました。
そして、そろそろ敵目線でレベル7が一人増えてることへの変化がじわじわ効いてきます。



 

「うぬぬぬ…!」

 

レフィーヤは震えていた。

 

「私だってその気になればLv.4に、別に悔しくなんか…!いえ嘘です腹立たしいくらい嘘です、そんなこと言ってる場合じゃありませんっ、このままじゃああっという間に……負けてられない……!!」

 

「まぁ落ち着けよ」

 

それを落ち着かせるナズナは、ここ最近の出来事を振り返っていた。

 

ここ最近色々あった。

色々あったが、別に特筆すべきことはない。

ただちょっと港街メレンにロキ・ファミリアの女性陣に混じって女装してついて行ったり、そこでカーリー・ファミリアとイシュタル・ファミリアと揉めたり、レフィーヤを攫おうとしたアマゾネスをぼこぼこにして、ティオナとティオネに手を出そうとしたアマゾネスをぼこぼこにして、ついでに食人花もぼこぼこにして、街を散歩してたらアポロン・ファミリアの連中の狩りに遭遇してとりあえずでぼこぼこにしたりしていただけだ。

つまりはいつもどおり喧嘩三昧だった。

 

そしてアポロン・ファミリアはナズナに絡まれた後ヘスティア・ファミリアと戦争遊戯をして、負けた。

ベル・クラネルがランクアップするための見事なまでの踏み台っぷりは神々の爆笑を誘い、同時にベル・クラネルへの注目度を上げることになっていた。

現在レフィーヤがぷるぷる震えながら見ている紙面にも、件の戦争遊戯についてというか、一躍時の人となったベル・クラネルについてつらつらと記されている。

 

白髪赤目。

種族はヒューマン。

所属はヘスティア・ファミリア。

ランクアップ所要期間は一ヶ月。

尊敬する冒険者はアイズ・ヴァレンシュタイン。

チャームポイントは初心なところ。

好きな食べ物は…。

 

ナズナはどうでもいいというか、記者の主観で適当なことが書かれ始めた辺りで読むのをやめた。

 

ベル・クラネルは戦争遊戯の際に助けを求めてロキ・ファミリアの門戸を叩き、団員たちからの顰蹙を買った。

とはいえアイズやティオナといった一部のメンバーが手助けをしたらしいが、ナズナは特に手助けをしていない。

 

『美味しいヤミー!感謝感謝!またいっぱい食べたいな!デリシャッ!シャ‼️ シャ‼️ シャ‼️ シャ‼️ シャ‼️ シャッッ‼ハッピースマイル!』

 

『…なにそれ?』

 

『なんやナズナ知らないんか?これはな、神々で今最も熱いコールやで!』

 

『嘘をつくな嘘を』

 

ナズナが戦争遊戯の際したことと言えば、ロキと一緒に騒ぎに便乗してソーマ・ファミリアの倉庫に忍込み、全ての酒樽を空にしたくらいだ。

気づけば他の神々も集まってきて、ソーマ・ファミリアの面々が事態を把握する頃には、彼らの本拠地は完全に宴会場へと変貌していた。

そして、戦争遊戯が終わり覚悟を決めて神ソーマに会いに来たリリルカ・アーデは、ソーマ・ファミリアに数日居座りべろんべろんに酔いながら爆笑するナズナに絡まれる。

 

『だははははは!美味ー!』

 

『なんですかこの惨状は!?』

 

『なんだぁ!リリちゃんじゃーん!ウェーイやってる?元気ないじゃんどうした?話聞こか?』

 

『酒くさ!つーかノリうざ!』

 

『めんご☆で、で?ベル・クラネルとはうまくいってんの?もちろん恋愛的な意味で!』

 

『な、な、な、なぜそれを───!』

 

───そんな訳で(強引な軌道修正)、港街メレンはダンジョンへの別の出入り口とは関係なかった。

 

ダンジョンへの別の出入り口とは?という話をあえてわざわざするとしたら、闇派閥の動き的にどう考えてもモンスターを地上に運ぶための入口があるという見解に至ったのだ。

少なくとも食人花を外に出すには、バベルの所にある入口からでは無理なのだから。

 

そして、その出入り口は見つからなかったものの港街メレンでは収穫もあった。

それは今回の一件にイシュタル・ファミリアが絡んでいるということであり、出入り口があるのはもう残すところ『ダイダロス通り』であるということ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、イシュタル・ファミリアへ探りをいれるという話になった。

あるいはナズナ(レベル7)がいなければ誘い込んで殺すという方法も相手が取ってきたかもしれないが、罠を身一つで突破してくる理不尽を本拠地に誘い込めるほど闇派閥にも余裕はない。

ナズナの前にトラップは無意味。

呪詛も届かない。

そして、ナズナがいればモンスターによる分断も難しい。

 

現状闇派閥側に、本拠地に誘い込むメリットがなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

さて。

そんな訳でイシュタル・ファミリアを調査するという話になり、ナズナがまずやってきたのは、知り合いのところだった。

 

「お~いオッタル!娼館行こうぜ娼館!」

 

「………」

 

「正気とは思えない」

 

「それはいつものことだろ」

 

「それな」

 

「というかそもそも僕たちの全力の攻撃を鼻ほじりながら受け止めるのをやめろ!」

 

「頭ハッピーセットなくせに傷一つ付けられないのもはやバグだろ…!」

 

場所は『戦いの野(フォールクヴァング)』。

日夜生き残りを賭けて本気の殺し合いが行われている、フレイヤ・ファミリアの血の歴史が色濃く刻まれた原野。

主神の美しさに脳を焼かれたバカたちの、バカたちのための、バカたちによる儀式場。

 

そんな原野に土足で踏み込み、真っ先にヒーラーを潰して、順繰りに戦士たちを気絶させていくナズナはどう考えても迷惑な訪問者だった。

 

しかも理由が娼館への誘い。

それもよりによってあのオッタルを。

 

現在生き残っている幹部やそれに準ずる冒険者たちは、脱力感と下らねえことでかき乱してんじゃねえよという怒りで、情緒がめちゃくちゃだった。

 

ちなみにヘディンとアレンは一番最初に沈んでいる。

ヒーラーよりも先に不意打ち気味に襲われ、執拗に股間を蹴られて彼らは気絶した。

泡を吹いて倒れる都市最速とフレイヤ・ファミリアの頭脳という絵面に、全員が冷や汗をかいたのは数分前だというのに、もはや遠い記憶のような気すらしてくる。

 

いくら攻撃しても鎧には傷一つつかない。

なのに気付けば、アレンとヘディンを除き、戦う力が弱い順に半数が気絶させられている。

ヘディンがいるか、ナズナの体調が悪くて鎧の強度がいつもより低いとかでない限り、ナズナの鎧は崩せない。

攻撃が通らない以上、あとに待つのはただのジリ貧だ。

 

Q,百人に囲まれました。あなたはどうしますか?

 

A,一対一を百回繰り返す。

 

それがナズナの答え。

攻撃力は高くない。

それでも隔絶した防御力というのは、時には理不尽をすべて凌駕する。

 

オッタルがレベル6が混じるパーティーとやり合うとしたら、ナズナのように弱い順に狙うとかではなく、真正面から傷を負いながらも今まで誰よりも真剣に練り上げてきた武技で勝つだろう。

数多の強敵をまとめて吹き飛ばし、何度も何度だって立ち上がって勝ってみせるだろう。

あるいは思いの強さで負け、膝をつくことくらいならあるかもしれない。

 

だが、ナズナは無傷で勝つ。

神々からクソゲー乙と言われる所以だった。

 

そのくらいしぶといというより、それだけ絶望的な状況に叩き込まれたフレイヤ・ファミリアの面々は、団長ー!早くきてくれー!と心のなかで悲鳴を上げる。

オッタルが待ち望まれるくらい戦士たちの心を折るという珍事は、もはや偉業としてカウントされてもおかしくないレベルだった。

 

「───ナズナ」

 

「おー!オッタル!」

 

ずん、という足音ともに原野に降り立つ巨大な影。

というかオッタル。

 

その顔には僅かな困惑と、濃い疲労が刻まれているがナズナは構うことはない。

 

「風俗、行こうぜ!」

 

鎧で見えないが弾けるような笑顔なのが伝わってくる声音で親指を立てるナズナに、戦いの野(フォールクヴァング)に広がる惨状に対する罪悪感なんてかけらもない。

 

「おい本当に言ったよ」 

「やっぱバカだろこいつ」

「そのバカに勝てない僕達はいったい…」

「う…死にたくなってきた…」

 

ざわつく周囲とナズナの眩しい笑顔を、鋼の精神で抑え込んだオッタルは重々しく口を開いた。

 

「…フレイヤ様がお呼びだ。付いて来い」

 

「いいけどそのあと風俗な」

 

「………」

 

オッタル沈黙。

そして、脳内で言葉の意味を咀嚼し、考える。

 

───つまり、こいつは俺を風俗に誘うためだけにこの惨状を引き起こしたのか…?

 

戦争遊戯。

派閥のつぶしあい。

そんな物騒な言葉に繋がりかねない起爆装置を、たかが風俗のためにうきうきで押す男。

それがナズナ・スカディだった。

最近は遠征に行ったりして落ち着きがあったから忘れていたが、この男は時々本当にバカになる。

それを思い出したオッタルは、深い深いため息を吐き出した。

 

目的のために手段を選ばない?

違う。

目的のための手段が途中から楽しくなって、手段のために目的を選ばなくなるだけだ。

 

「…行くわけ無いだろう」

 

「なら帰るかぁ。主神のお願いを達成できないなんて可哀想だなぁ」

 

「………」

 

白々しく言い放つナズナを前に、オッタルの頬を冷や汗が一つ流れおちていく。

ここまでされて主神の命令を果たせないとなれば、それはもはや切腹ものの失態だ。

風俗には行きたくない。

だが、本気で抵抗するナズナを捕獲するのはいくらオッタルでも3日はかかる。

それでは、今すぐ呼んでこいという主神直々の願いを達成できない。

 

───どうする?

 

「…なら、とりあえず風俗の入口まではついていく。そのあと再び話し合い…これでどうだ?」

 

「えー、まぁいいけどさぁ。3件くらいは付き合えよな」

 

「バカなのか?」

 

なぜ風俗のハシゴに自分がつきあわされるのか。

オッタルは本気で理解できずに頭を抱える。

 

オッタルは知らないことだが、一応これはイシュタル・ファミリアの調査のためにイシュタル・ファミリアと一番の敵対派閥のトップの協力を得ようという話なのだ。

もちろんナズナが風俗に行くのだって、聞き込みのためだ。

ナズナの提案を受けいれれば、フレイヤ・ファミリアにとっては定期的に絡んでくるイシュタル・ファミリアを潰せて、ナズナ的には行き詰まっている調査が前進する。

 

だが、その辺を説明していないせいでオッタルからすれは突然団員をボコボコにした上に風俗に誘ってくる厄介なバカでしかないのが問題だった。

 

「…ああもうなんでもいいから来い!このバカ!」

 

「あ~れ~」

 

襟首を掴まれて、特に抵抗することなく連れてかれるナズナを見て、ようやく台風が去ったことを理解し、生き残った面々は脱力する。

そして、あたりを見回して一言。

 

「「「これはひどい」」」

 

あとにも先にも、フレイヤ・ファミリアの団員たちの心が一致したのはこのときだけだったという。

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

1話で2回も他のファミリアの本拠地に攻め込む主人公がいるらしい。
というのはさておくとして、飽きられきる前にこの話を畳みたい、と最近思う作者です。
とはいえレベル7が一人増えてることで嫌でも話の展開は早まります。
どう足掻いてもピンチにならねえなこいつら、と思いながら色々こねくり回してますので、今後も暇つぶし程度にご利用ください。


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第七話。美神

お気に入り登録、評価、感想、ここすき、誤字報告本当にありがとうございます。

そして、年が明けました。
相変わらずクオリティに進歩はありませんが、今年もがんばります。


 

「はぁ…どうするべきなのかしらね」

 

フレイヤは悩んでいた。

普段退屈な顔をすることが多い女神にしては珍しい、拗ねたような、それでいて熱に浮かされたような乙女的な表情。

狂信的な信者たちが見れば鼻血を出してぶっ倒れていただろう。

あるいはその顔が自分に向けられていないことに嫉妬して、血の涙を流すかもしれない。

 

兎にも角にも、大事なのはフレイヤが悩んでいるということだ。

その悩みとは、

 

───最近自分の今欲しいものランキング堂々1位のベルの人気が凄まじい。

 

というもの。

アポロンはまぁいい。

あいつは気持ち悪かったが、ベルの成長のための踏み台になったし、都市を追放されたから問題はない。

それにあいつが書いてオラリオ内に秘密裏にばら撒いている『発情兎はヒヤシンスに抱かれる』という、ドS御曹司×平社員のドキドキ禁断の恋愛模様を描いた漫画はなかなか面白い。

フレイヤが自分で好みの展開に書き換えた(二次創作神フレイヤ)ところ、あまりの自分の絵心のなさにうちのめされたりはしたが。

そんな話をナズナにしたら、『美の女神って、美術の心得はないんですねぷすすすー!』と爆笑され、こいつほんま…魅了してぐちゃぐちゃに食ってやろうかと暴れかけたのはいまではいい思い出だ。

 

───アポロンが都市追放されてからの事なのでつい最近の話なのだが、長寿二人による時間感覚では三日くらい前の話でも思い出になる。

 

では、誰が問題か。

 

まずはロキ・ファミリアのアイズ・ヴァレンシュタイン。

彼女は添い寝したり、後方師匠面したり、ダンスを踊ったりと、ヒロインアピールに余念がない卑しい女だ。

彼女が微笑むだけでベルが天にも昇るような喜びを覚えるのが腹ただしい。

最近はナズナのアドバイスのせいで、ご褒美デート(ただの買い物)まで済ませている。

実に要注意な女だ。

 

次に女神ヘスティア。

彼女は処女神故に、いくら距離が近くても問題ないだろうと放置していたら、気づけばヒロインレースのトップに躍り出ている。

添い寝したり、一緒に歯磨きしたり、当たり前のようにデートしたり、お風呂覗いたり。

フレイヤが意識しないと出せない自然な可愛さを息をするのと同じように当たり前に出せるあざとさがある。

しかも最近はナズナのアドバイスのせいで、お風呂で背中の流しあいっこもしている。

実に要注意な女だ。

 

他にもリリルカ・アーデやティオナ・ヒュリテ、エイナ・チュールにリュー・リオン。

どいつもこいつもあのバカのアイデアのせいで距離を詰めている辺り…やはり魅了してぐちゃぐちゃに…。

いろいろと頭を悩ませるフレイヤは、段々と思考が物騒な方向へと傾いていく。

 

そんなときだ。

神フレイヤの下へ、とある侍女頭からの一報が届いたのは。

 

「フレイヤ様。ナズナが()()に来てます」

 

「そう…。ちょうどいいわ。オッタルにつれてこさせて」

 

「はい」

 

自分の眷族がボコボコにされていても遊びで済ませるのは、ナズナが誰も殺してないからであり、どのみち普段ナズナにされてるものよりも過激な殺し合いを彼ら彼女らがしているからだ。

 

そして、ただ殺し合いを重ねる眷族たちよりも、ナズナの方が強い。

それならば、貴重な経験値を与えてくれたと感謝こそすれ、少なくとも排除はしない。

負けた眷族たちも、悔しさをバネに本気の殺意とともにさらに強くなっていくだろうし。

 

そんな納得をできるのは、ナズナとかなり親密な交流のあるオッタル、とある料理の毒見被害者仲間のヘルン、理詰めするせいでナズナから嫌われているがめちゃくちゃナズナのことを理解しているヘディン、普通に仲の良いヘグニとアルフレッドくらいのものなのだが。

 

女王たるフレイヤにとっては、嫉妬で頑張るうちの子たちかわいいくらいしか思わない、至極どうでもいいことだった。

 

 

 

 

ナズナが通されたのはフレイヤ・ファミリアの本拠最上階の神室の前。

しかめっ面のオッタルと、最上階で待ち構えていた侍女頭。

そして肩車してくれているオッタルの頭をペシペシはたくナズナという三人衆は、扉の前で1列に並ぶ。

 

「ほら、降りろ」

 

「えーめんどくさ」

 

「………」

 

オッタルの太い腕が並の冒険者では目で追うことも出来ない速度で伸ばされるも、ナズナはオッタルの肩の上にまたがったまま器用に避ける。

そんな攻防を続けることしばし、肩の上から振り落とすことを完全に諦めたオッタルを見下ろすナズナは、今度は侍女頭であるヘルンへと絡み始めた。

 

「なーヘルン。オッタルがせっかく俺が(調査のために)風俗誘ってるのにきてくれねーんだよ!酷くないか?」

 

「貴方の頭の中がですか?」

 

「お前何言ってんの?ついにお前もバカの仲間入りかぁ。フレイヤ・ファミリアの中じゃまともだと思ってたのにぁ…」

 

はーやれやれ、と首をふるナズナを見て、こいつ死ねばいいのに、という顔をしながら沈黙するヘルン。

相変わらず()の中を言わないせいでややこしい事になっているのは、もはや狙ってやってると言われても仕方のない頭の悪さだった。

 

「別にコントを見たくて呼んだわけじゃないの。早く入りなさい」

 

「ほら降りろほら。マジで頼むから」

 

「オッタル号発進!…ぐぇ」

 

「───入ります」

 

イノシシの上でじゃれるクソガキの襟首を掴み引きずり下ろしたヘルンは、一言断ってから主の部屋へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

フレイヤとロキの間には一つの約束事があった。

それは、ナズナの前に顔を見せず、声だけで会話をするというものだ。 

これを破った時、ロキ・ファミリアはフレイヤ・ファミリアに攻め込むという続きもあるが、ようするに。

 

『うちのナズナに手ぇ出したら殺すかならな』

 

という、ロキの本気の脅しでもあった。

なぜフレイヤがこんな一方的な約束を飲んだかと言えば、ナズナのチョロさを見抜いていたからに他ならず、接している内に勝手になつくと思っていたからだ。

 

ちなみにそのチョロさはヘスティアが証明している。

出会い方が最悪で、ロキからの小遣い目当てに何度も喧嘩を売りに行っていた筈が、今では仲の良い飲み友である。

 

『僕たちズッ友だぜ!』

 

『いえーい!』

 

では。

ヘスティアとナズナがバカみたいな相性の良さを発揮してあっという間に仲良くなったのなら、フレイヤとナズナの仲の良さはどうなのか。

 

答えはダメダメだ。

フレイヤはまったく、これっぽっちも仲を深めることは出来ておらず、心の底から警戒されていた。

 

───見た目はドタイプだけど、中身がちょっと…。

という、割と正直な感想はフレイヤの鋼のような硬さを誇る自己肯定感を容易く傷付けた。

 

同時に、そのせいでおもしれー男認定されてますます団員候補として目をつけられているのだが、ナズナの知ったことではない。

 

ここまで物にならないと伴侶候補になりそうなものだが、フレイヤにとってナズナはあくまでも犬。

なかなか懐かない野良犬と仲良くなりたい少女のような感情を向けている彼女にとって、ナズナは伴侶足り得ない。

 

───は?伴侶?いや、犬と結婚はしないでしょう?つーか誰が男として欲しいのこんなクソガキ

 

という、あまりにも人間扱いされていない言葉はナズナの図太さをもってしても耐えきれない切れ味を持っており…。

 

とまぁようするに。

この二人の相性は恋愛的な側面を見ると致命的に悪かった。

 

「来たわね」

 

部屋の真ん中に据えられた寝椅子に腰掛けるフレイヤを見て、オッタルとヘルンに連れてこられたナズナは顔をしかめた。

 

「うわ…今日は神ガネーシャの仮面かよ…帰っていい?俺これからオッタルと風俗行くんだけど…」

 

ガネーシャのお面を被った絶世の美女という絵面に、一瞬脳内に女体化ガネーシャという言葉が浮かび、ついでに吐き気をもよおしたナズナはその想像を頭をふることで消し去る。

 

「オッタル?」

 

「いや違うんですよフレイヤ様!これはこいつが勝手にいってるだけで…!」

 

そんなナズナに構うことなく、オッタルが風俗に行くと聞いて反応するフレイヤ(ガネーシャ仮面)に向かって、ナズナは中指を立てながら嘲笑する。

 

「おいおいなんだよなんですかぁ?自分の団員なんて時たましか愛でねーくせに、自分の団員には常に私を愛していて欲しいのーってか?男なんてなぁ!毎日違うオカズでシコってんだよ!毎日肉じゃなくてたまには魚も食べたい。そんな生き物なんだよ!」

 

「いやシコってないが…」

 

「オッタル?シコってないわけ無いでしょう。あなたほどの獣人が、私を思って発散せずに平常でいられるわけないわ。ていうかしてなかったら許さないわ」

 

「フレイヤ様?」

 

「この淫獣!穢らわしい…!恥を知りなさい!」

 

「ヘルン、お前もか…」

 

仲は悪かったが、別にノリが合わないということもないので、割と頻繁に会う二人。

そこにピュアすぎる女が加わることで、この世で一番愛と忠誠を捧げている相手のいる部屋が、オッタルにとって苦痛でしかない空間へと変貌した。

 

ナズナは言うまでもなく、ガネーシャ仮面と化したフレイヤも、ものすごくいい笑顔でオッタルをいじっている。

ヘルンは心の底から見下した目を向けてくるし、オッタルはかつてない居心地の悪さを感じていた。

 

ホームなのにアウェーになる男。

団長の姿か?これが…。

 

「…フレイヤ様。ナズナを呼んだわけは?」

 

「ふふ…ええ。そうね?んふ、くく…」

 

「フレイヤ様…」

 

オッタルの拗ねたような顔に機嫌を良くしたフレイヤは、そこで一旦話を本筋に戻すことにしたらしい。

いよいよもって、ナズナの方へと向き直った。

 

「あはは、ごめんなさいね?少しからかいすぎたわ。…ええ、そうね。ナズナ」

 

「なに?」

 

「アイデアを寄越しなさい。最近ベルの周りの女性関係を引っかきまわしてるのは貴方でしょう?」

 

「知らん…なにそれ…こわ…」

 

「ここでとぼける必要ある?」

 

「ええー?いや、だって俺が協力するメリットがねえよ。アイズは大事な家族だし、神ヘスティアはズッ友だし、リリルカ・アーデはパンツのお詫びもあるし…」

 

「パンツ?」

 

「ああいやこっちの話。こっちの話ってもちろんあれだぜ?えっちな話じゃないぜ?」

 

「黙りなさい」

 

ちなみにパンツとは、リリルカ・アーデのパンツを盗んだとかではなく、以前エイナの頼みでベルをソーマ・ファミリアから助けに行った際に、カヌゥとかから剥いたやつを、リリルカ・アーデの荷物に置いていった件である。

もちろんこれはあくまで雑巾くらいの値段にはなるだろという善意からの行動だったのだが、自分が男物の使い古したパンツを4枚も持ち歩いてる変態だと一瞬勘違いされたことにいたく腹を立てたリリルカ・アーデに、ナズナは一度だけの約束で協力していた。

 

『いいですか!?別に私はベル様とどうこうなりたいとかではなく、単に普段のお礼をしたいだけといいますか…!あの方がどこぞの変な女に騙されないように経験をしてもらうためであって…!』

 

『はいはい』

 

『きー!なんですかその態度は!』

 

『なぁ屋台のおっちゃん、俺帰っていいかな?』

 

『え?あ、はぁ…いいんじゃねーですか?』

 

『いいわけねーだろぶっ飛ばすぞ』

 

『超理不尽!』

 

仮面越しにもわかる本気の殺意にうんざりした顔をしたナズナは、しばらく沈黙してから口を開く。

 

「なら───」

 

後にベル・クラネルはお忍びで鳥籠から外への興味を抑えきれずに飛び出して来た(という設定の)女神様と、彼女を連れ戻そうとする屈強な戦士たちから守りながら、1日オラリオ観光という名のデートを繰り広げることになり、芋づる式的に様々な女性に絡まれたりすることになるのだが…。

それが起こる頃には発案者(元凶)のナズナはもう今日のことを忘れていたし、別に元から興味もなかった。

 

とりあえず、フレイヤを満足させる事ができたし、ナズナがオッタルをなぜそんなに頑なに風俗へと誘っていたかも判明し、結果としてオッタルは歓楽街行く羽目になったので。

 

いよいよイシュタル・ファミリアの調査が始まった。

 

本当に、やっと。

 

ようやくだ。

 




今回も最後まで読んでくださって誠にありがとうございます。

今回何も話が進展していなくてすいません。
どうでもいい話はいくらでも思い浮かぶ駄目作者ですが書いてて楽しかったです。
とりあえず蛇足編では書きたい話を書いていきます。
多少の暇つぶし程度になっていれば幸いです。


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