吾輩はアトラル・カである。アトラル・ネセトになる予定はまだ無い (美味しいラムネ)
しおりを挟む

吾輩は元人間である。今は蟷螂である。

初投稿です。
短編集になる予定です。


吾輩はアトラル・カである。アトラル・ネセトになる予定はまだ無い。

どこで生まれたのかはとんと見当がつかぬが、前世で人間をやっていた吾輩がここに()()()()()()()理由は多分這いよる混沌(ニャルラトホテプ)とか無貌の神(ナイアラルトホテプ)とか赤の女王(ニャルの化身)とかその辺の悪戯だろう。そうでなければいきなり一般成人日本人が異世界に転生するとは思えない。

 

自分が何年前に生まれたかさえ定かでは無いが、意識が浮上した時、自分は、荘厳華麗な城──しかし廃墟ではあった──の前に佇んでいたことは覚えている。

あたりには大樹と見紛うかのような大きさの珊瑚が聳え立ち、明らかに人間や害獣以上の大きさの生物を対象としている古び、朽ち果てた兵器の数々が放置された空間。

それらを視認した時、「ああ、吾輩は地球とは異なる世界に来てしまったのだなぁ、」というどこか他人事のような感想が湧いてきたのは今でも覚えている。意識が浮上した直後ということもあって、やはり脳が事態をうまく理解できていなかったのであろう。

そして、ふと違和感のある体を見て気づいた。

吾輩の体が異形のものと化していたのである。そう、前世で散々遊び倒したゲーム、その中に登場するモンスターの一体。

『アトラル・カ』のモノに。

 

アトラル・カ、それは大人気タイトルである『モンスターハンター』シリーズの作品の一つである『XX』の集会所ラスボスを務めた金色の大蟷螂。

甲虫種でありながらその高い知性を生かし、瓦礫で構成された巨大な墟城を操り、歯車や鉄骨、果ては人類の叡智の結晶たる撃龍槍までを攻撃手段として用いて、名だたる古龍を抑えてラスボスの座に君臨した最強の蟷螂。ドスヘラクレスより弱いとは言ってはいけない。

 

「おお、吾輩はモンスターハンターの世界に転生してしまったのか。……モンスターハンター!?嗚呼、無常也。吾輩はきっと通りすがりのイビルジョーに食われるか、突然空から降ってきたプロハンに解体されてしまうのだろうな」などと己の不幸を嘆きつつ、同時に自分は自身の置かれた環境に気づいた。

 

そう、今自分がいる場所。

この場所の名前は『龍宮砦跡』。数多くのハンターが、ここで雷神と激闘を繰り広げた由緒正しき場所である。

そして、この土地の中には、朽ちた撃龍槍やら、大砲、バリスタ、速射砲など、カムラの超技術で作られたものよりも高い威力を誇る兵器の数々が埋まっているのである。

 

吾輩は歓喜した。

 

アトラル・カ、それ自体は単体ではただのちょっと強いゲネル・セルタスでしか無いが、人工物を纏うことでその強さは際限なく強くなっていくのである。まるで人間のように。

そんなアトラル・カに生まれ変わった吾輩にとってこの土地は宝の山。

一応は強靭なモンスターとしての肉体と、金色の糸を使って朽ちた兵器群を取り出し、ついでに瓦礫を使って即席の装甲を作り上げ、その側面に兵器を取り付けていく。その姿はまるで重戦車、この世界風にいうなら『なんか大量に兵器が取り付けられたゲネル・セルタス』。

 

 

一応、このほかにも整備済みの撃龍槍や、破龍砲もあるが、これに手をつけたら流石に人間にバレて、プロハンやら猛き炎やらを送り込まれていきなり素材にされかねない。

背景の龍宮砦に手をつけるのも論外だ。吾輩の先輩であるXXのアトラル・カは、自身が出会った最強の存在である巨大な謎の龍を目指して装甲を巨大化して行っていたようだが、吾輩はそんなことはしない。

巨大化すれば破龍砲のいい的だし、エリアルスタイルのハンターや、翔蟲使いのハンターには容易に突破されてしまうだろう。

吾輩が目指すのは、高機動高火力の存在、つまりハンターなのである。

 

生まれ変わっていきなり強力な兵器を獲得できた幸運に歓喜しながら、吾輩は龍宮砦跡を去る。

仮にこの作業を目撃されていたら確実に討伐隊が派遣されるであろうからな。

 

しかし、この場所は『RISE』本編開始前、つまりナルハタタヒメがやってくるまでは海の底に沈んでいたはずである。

まぁ、そんな細かいことを気にしても仕方がないか。

 

「ピギャァアアア!」

 

天に輝く太陽に向けて叫び、装甲を繰りながら金色の大蟷螂が大地を軽快に駆ける。

 

さて、ひとまずは龍歴院にバレないように気を使いながら、世界を気ままに一人旅とでも洒落込もうか。

砂原で熱帯イチゴは食べてみたいし、あの幻想的な龍結晶の地は一度見てみたい。1人の元プレイヤーとして、一度でいいからシュレイド城の空気を肌で感じてみたい。まぁ地雷の塊みたいな場所だから、行くとしてもそれは人生最後の時だろうが。

そうだ、発掘装備を集めて、擬似王の財宝をやってもいいかもしれない。なんなら鎧を操って擬似ハンターを作って武器にしてもいいかもしれないな。モンスターの素材を集めて竜型の人形を作って代わりに戦わせてもいいかもしれない。

 

最初はこの世界に絶望しかけたが、こんなに恵まれた肉体(ラスボスボディ)を手に入れたのだ。楽しまなきゃ損である。

アトラル・カの糸操作能力に、人間の知恵が合わされば古龍にも負けない。俺がその気になれば、バルファルクだってぶっ飛ばせる!

 

そういえば、砂原で採れるイチゴは灼熱イチゴだったか?吾輩、そこまで記憶力よく無いからなぁ。プロハンってほどやり込んだわけでも無いのである。

 

そのアトラル・カの脳内には、希望に溢れた明日が広がっていた。

 

 

なお、この男……いや、雌個体の多いアトラル・カの特徴に漏れず、雌に転生した元男。アトラル・カ自体は外装がなければ生態系のヒエラルキーでは下位の方であることだとか、竜の人形を作るというコンセプトはまんま竜機兵に被ってるから下手すりゃ黒龍が飛んでくるかもしれないことだとか、それ以前に自分が雌であることにすら気づいていないのである。

こんな始末では、龍歴院にバレるのも時間の問題だろう。大体、アトラル・カの金色の肉体は、砂漠地帯でもなければ滅茶苦茶目立つ。

 

…というか、もうバレかけているのである。

 

そんなことにも気づかず、アトラル・カは、今日も呑気にその辺を出歩いているのである。

今なんか、ほんの数時間前に上空を探査船が通過したことにも気づかずに特産キノコなんか齧ってやがるのである。あーあ。

 




勿論、危険度はXX基準なら★8、サンブレイク基準なら★10である。人類に対する危険度としてはこれぐらいが妥当である。だからといって同じ危険度のモンスターと同じぐらい強いかと言われればそうではない。転生特典込みでも勝てないものは勝てないのである。

ちなみに転生特典は、『他の生物の言わんとしてることがなんとなくわかる』『雑食』『アイテムボックス』
である。アイテムボックスとはいっても物の射出はできないし生物には干渉できないし内部の時は普通に進むしただのでかい倉庫である。

続くかは吾輩にも分からない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吾輩、アトラル・カさん。今古龍に襲われているの。

初投稿です。思いの外反応があったので続きました。
前話の大体一年後の話。


雷を纏いし白き幻獣が嘶くと、瓦礫を纏いし女王へ雨のように雷が降り注ぐ。

木々が薙ぎ倒され、地面は抉れ、広場のようになった密林の中心。

 

地面には何十もの武具が突き刺さり、辺りには折れ曲がった鉄骨や、瓦礫が散乱している。

 

「ピギャァアアアッ!!」

 

アトラル・カは、装甲に取り付けられた三門の大砲と速射砲から弾丸を放ちつつ、瓦礫を雪崩の如く解き放つ。

同時に、金色の糸に操られた3体の人形が、その手に持った太刀、双剣、ハンマーで幻獣へ果敢に襲いかかる。

 

凡百の(ワイバーン)であればあっという間に肉塊へと変わり果てるであろう強烈な破壊力の解放。

神々しさまで感じる幻想的な龍、人間から『キリン』と呼ばれるそれは、一際強く嘶くと、天から下ろした雷を束ね、迫り来る瓦礫目掛けて叩きつける。

解き放たれた雷のエネルギーは、瞬く間に辺りを蹂躙し、瓦礫の全ては悉く灰と化し、古代の武具に身を包んでいたはずの人形は、その体を保てなくなり、崩壊する。

 

「ピギャァアアア!」

 

隙を見せたな、と言わんばかりに、大技を放った後の一瞬の硬直に合わせて、女王『アトラル・カ』は、ドボルベルクの死体を加工して作った小山かと見紛うほどの大きさのハンマーを投擲する。

 

「────!」

 

その類稀なる身体能力を生かし、無理やりそれを避けようとするが、足が絡まり、体勢を崩してしまう。

キリンは気づく。いつの間にやら、自身の足には何重にも金色の糸が巻き付けられていた。

 

いつやられた、そう思案し、気づく。

ついさっきだ。自身が放った豪雷。あの光に紛れるようにして奴は私の足に糸を絡めたのだ。

 

流石の古龍といえども、あの攻撃を喰らえば流石に軽傷では済まない。

キリンは死を覚悟し、アトラル・カは勝利を確信した。

しかし、決着は訪れなかった。

 

世界が霜に包まれる。

 

地面より突き出した氷の柱。それがドボルベルクの軌道を逸らしたのだ。

蹄を鳴らしながら現れたのは、キリンの純白の毛皮とは対照的な、漆黒の毛皮を持つ幻獣。

冷気を操る古龍『キリン亜種』。

彼は、キリンの身を気遣うそぶりを見せながら、自身の能力で生み出した冷気を、アトラル・カ目掛けて解き放った────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

自身を無敵だと勘違いした転生者の寿命は短い。

どうやら、吾輩は少し調子に乗ってしまっていたようだ。

 

 

 

「ピギャァアアア!(畜生、まだ5分も経ってないのにもうナルガクルガ人形とナルガクルガ亜種人形壊されやがった!まだキリンから逃れてないのに!)」

 

目の前にいる2体の幻獣。

殺意を漲らせたその瞳に睨まれ、思わず意識が遠くなる。

 

あぁ、これが走馬灯というものか……

 

この世界で目覚め、はや一年。前世では得難い多くの体験をしてきた。

拾った肉焼きセットでモンハンプレイヤーなら一度はしてみたい肉焼きをしたし、マグロの中のマグロと呼ばれるキングカジキの一本釣りもした。

火山へ行って、バサルモスと一緒に鉱物の食べ比べをしたし、世界各地で発掘武器の収集もした。廃墟から兵器を拝借したりもした。

時には大型モンスターと戦うこともあった。

そして、その全てに勝利を収めてきた。空はリオレウス、海はラギアクルス。火山へ行けばブラキディオスと殴り合い、果ては古龍級生物であるラージャンにさえ勝利を収めた。その時には初代外装を破壊されてしまったが。

 

ハンターと出会うこともなく、順調に旅を出来ていたからだろうか、「なんだ、大自然って実は大したことが無いのだろうか…?」などと思い始めていた矢先のことである。

 

吾輩は突然大自然の洗礼を食らった。

なんかやけに静電気がパチパチするな、それにやけに寒いな、密林の中のはずなのに。そう思った時にさっさと逃げるべきだったのである。

嫌な予感がして立ち止まった瞬間、視界の外からいきなり古龍がダイナミックエントリーしてきた。

 

キリンである。古龍である。ふざけんな。

いくらなんでもあんまりでは無いか!?一生に一度出会えたら幸運とさえ呼ばれるほどの超希少生物である古龍、それが散歩中にいきなりダイナミックエントリーしてくるとかどんな確率だよ!

 

とはいえ所詮はキリン。ラージャンのおやつにされる古龍の面汚し風情に負けるわけがない。

そう思っていた時期が私にもありました。

いやぁ、流石は古龍。滅茶苦茶に強い。どう考えてもラージャンがおやつにできる強さでは無い。間違いなく今まで出会ってきた存在の中で最強である。

まず、兵器による攻撃が当たらん。速射砲の弾幕による飽和攻撃ですらまともに当たらん。十丁の鬼ヶ島による弾幕射撃も発砲したのを見てから避けられるし、大砲による範囲攻撃も軽快なステップで避けられる。誰だケルビステップとかいったの、こんなケルビがいてたまるか。

 

とはいえ、機動力なら吾輩も負けてはいない。大樹に糸を引っ掛け、超高速での立体軌道により、キリンのスピードに追いすがりつつ、なんとか攻撃を与え続けた。

「これならいけるのでは?」と思った次の瞬間、奴はとんでも無いことをしやがった。

周囲の木々を片っ端から破壊しやがったのである。畜生め、機動力を封じて来やがった、流石は古龍、知能が高い!

またもや振り出しに戻されたのである。また攻撃が当たらなくなってしまった。

 

とはいえ、攻撃が当たらない相手は想定済み。ナルガクルガとの戦闘で既に吾輩は学んでいる。

防御力に特化した外装、『バサルモス型装甲』の中にこもり、その中からひたすら全方位射撃を続け、近寄らせなければいいだけである。

 

初めは上手くいきそうであった。だめだった。相手が着地した瞬間を狙って全方位射撃を繰り返すことで徐々にダメージを蓄積させることはできた。しかし、何発も雷を喰らううちに、ジンオウガの超帯電攻撃さえ防ぎ切った外装が崩れ始めたのを見て「あ、これ死ぬ奴だ」と思い脱出した瞬間、外装が爆散したのを見て「次は我が身か」と思い知らされた。なんだよこの威力、実はコラボ先から活性源石でも持ち込んでないか?

 

あの雷を耐えられる素材はこの世界に存在するのだろうか。

何故フルフルの皮を貫通する。何故コスモライト鉱石の装甲を溶かす。

 

しかもだ、途中でキリン『亜種』まで乱入して来やがった。確実に世界が吾輩を殺しにかかっている。

何故原種と亜種が番を成している。何故古龍が2体もこの場所にいる。

 

なんとかモンスターの死骸の肉を全て金糸に置き換えたお手製のモンスター人形を使うことで亜種を引き剥がすことには成功したが、大分厳しい。脳の数割はモンスター人形の操作に割かれるし、なんならキリンは怒り状態へ移行してもう手がつけられない。

 

ここは虎の子のハンター人形、それも数個しか手に入らなかった『封じられし装備』産の装備をきた手持ち最強の駒を使うしか…!

あっだめだぁ、弓使いが一瞬でやられた。

 

そんなこんなで冒頭に至るのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

「ピィ…(どうしたものか…)」

 

大氷柱による攻撃と、降り注ぐ豪雷を、瓦礫を束ねて作った盾で受け止める。

古龍の攻撃を何発も受け止めたことで、盾にはヒビが入り、今にも砕け散りそうだ。

 

己の全てを出し切ってなお、まだ届かない。

白と黒の幻獣は、たとえ苦戦しようとも、吾輩に負けるとは微塵も思っていない様子だ。

そう、それは正しい。

吾輩はまだ一切の傷を負っておらず、それに対して目の前の古龍の身には致命傷には程遠いとはいえ、傷が刻まれている。一見吾輩が有利に見えるな。

しかし、吾輩の手札は次々と消費されていくのに対し、傷を与える速度はあまりにも遅い。

仮に外装が完全に破壊されれば生身の吾輩など、一撃だろう。

それに対して、目の前の幻獣はどうだ。現に、数回だけ攻撃を直撃させたが、まだ倒れる様子はない。それどころか、戦闘が続くにつれて攻撃が当たらなくなってゆく。

 

これが俺流のエリアルスタイルだ、と言わんばかりに飛びかかった双剣持ちの人形は撃墜され、受け流しを狙った太刀持ちの人形は破壊される。

アオアシラ人形の連撃と、ランス持ちの人形の挟撃はキリン亜種の肉体にわずかな傷を刻んだが、勿論致命傷には程遠く、逃げる隙を作ることすら叶わない。

 

「ピギャァアアア!!!」

 

破れかぶれになったかのように、熱を放ったディノバルドの尾剣を回転切りの要領で振るう。

当たり前のようにそれらは飛んで避けられ、反撃として放たれた雷が盾を貫く。

 

あたりもしないのに、無数の武器や、小石のような塊を辺りにはばら撒く。

先の尖った石柱を放ち、鉄骨を投げつける。

 

まるで理性を失ったかのようにも見える行動。

もはや目の前の竜に撃つ手はない、キリンたちはそう思ったであろう。

 

「(だが…吾輩を舐めるなよ、幻獣!)」

 

どこからか拾ってきた廃墟と化したログハウスをそのまま投擲し、それをキリンが破壊する。

木片が中を舞い、灰が視界を塞ぐ。

 

「ピギャアアアアアアアアアア!(今っ!)」

 

アトラル・カから、勢いよく金色の糸が辺り一面にばらまかれる。

それは、地面に突き刺さった柱や鉄骨を伝い、広場全体を糸の結界で封じる。

 

もちろん、幻獣たちの体も例外ではない。

一瞬の油断、その隙に次々と糸が体を絡め取る。

 

「────────────!」

 

キリンは嘶き、糸から逃れようともがく。

 

「ピギャ(あのアトラル・ネセトを支える強度の糸だ、それをわざわざ時間をかけて縄状に編んだんだ、お陰で時間はかかったが、そう簡単には切れんぞ!)」

 

同時に、金色の糸が先程放った小石のような塊を貫く。

中から煙が溢れ出す。先程放った小石は全てけむり玉と毒けむり玉。

空間が煙で満たされる。

 

(そして、──いまなら当たる!)

 

取り出したのは、8本の撃龍槍。

この瞬間まで一度も使わなかった、アトラル・カ最大の切り札。

それが8方向から同時にキリン目掛けて放たれる。

 

その瞬間、ぶちぶち、と嫌な音を立てて糸が切れる。

 

(糸が切れたか…だがいい、吾輩の目的は、勝つことではない!撃龍槍の対処にキリンが追われ、亜種は未だ糸の中。今なら()()()()()!)

 

瓦礫を数個、全力で宙へ放り投げる。

そしてそれらに糸を繋ぎ、勢いよく自身の体を空へと打ち上げる。

それを何度も繰り返して、空へと跳ぶ。

 

(古龍とはいえ、キリンは地上の生き物、まさか空までは追ってこれまい。……うっそだろオイ!)

 

吾輩は目を疑った。

撃龍槍が掠ったのだろう。体から血を流しながらも、吾輩が放り投げた瓦礫を足場に、キリンは吾輩のいる天空まで上がって来やがった。

 

全身からバチバチと電気を迸らせ、キリンはこちらを睨みつける。

ここで貴様の命を刈り取る、そう決意した眼だ。

 

逃亡すら叶わない?否ッ!

吾輩がそれを少しでも予想しなかったと思ったか!

 

 

「ピギャアアアアアアアアアア!(なぁ、ダラアマデュラ亜種って知ってるか?)

 

 

吾輩は、足場とする瓦礫を放り投げる側、片腕がもげそうになりながらもより大きな岩を投げていた。

それは、超巨大な火薬岩。

天高く投げられたそれを、糸で引き寄せ、隕石の如く引き寄せる。

 

これは、吾輩なりにダラアマデュラ亜種のメテオを再現した技。本家の、本物の隕石を引き寄せるそれと比べればあまりにもお粗末ではあるが、その威力は折り紙付。

 

この空中で身動きの取りにくい状況では、回避は不能とキリンは判断する。

誘い込まれたか──ならば、食い破るまで!

 

全身全霊を込めた豪雷が、隕石を貫く。

そして、キリンに当たる前の上空で、隕石は爆散する。

 

「ピギャアア(その体勢から隕石を破壊するのは流石だが…)」

 

「ピギャァアアア!(そりゃ悪手だろ、ドスケルビ)」

 

空中で体勢を崩したキリンはそのまま大地へと落下する。

流石に落下して死ぬことはなかったようだが、キリンにはもはや天空へ跳ぶ手段がない。

 

「ピギャ………」

 

 

 

「ピギャアアアアアアアアアア(生き残った!吾輩は生き残ったぞおおおおおおお!)」

 

そのまま瓦礫を出しては糸を放ち、天空を駆け回り、キリンから全力で逃げる。ちゃっかり、回収可能範囲外に出る前に武具を回収しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なるほど、たしかにこの蟷螂は生き残った。

しかし、この蟷螂は気づいていない。仮に空を金色の蟷螂が変態軌道で移動していたらめちゃくちゃ目立つことに。

 

 

そして翌朝、龍暦院にとある報告がなされた。

密林で、マスターランク相当の歴戦王個体のキリン2頭と激闘を繰り広げたアトラル・カが、意味のわからない軌道で空を飛んでいた、という報告が。

同時に、「この個体はハンターの武器を操る」という特徴も。

 

あーあ、龍暦院にばれてしまいました。

 

そんなことはつゆ知らず、この蟷螂、呑気に「どうやって地面に降りよう…」なんか考えているのである。

 

 








大型モンスターには勝てるが、流石に古龍には勝てないぐらいのアトラル・カ(転生者の姿)。
戦ってきた個体は下位相当のものもいれば上位〜G級相当までまちまち。

アイテムボックスの範囲内は、基本的には体に触れてている物だけだが、一度アイテムボックスに入れたことがあるものなら、糸で触れていれば視界内なら回収可能。っていう設定です。

ハンターにバレてしまいましたね。あーあ。
ちなみに主人公はそこそこ運が悪いので何かの間違いでそのまま成層圏近くまで飛び上がってたら運悪くシャンティエンに撃墜されてたし、変なタイミングで地上に降りたらイビルジョーに襲われていました。危ない危ない。


感想、評価、誤字報告などありがとうございます。大変感謝しています。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吾輩はアトラル・カ。精神的に向上心がないと大自然に殺されてしまいそうである。

初投稿です。
前話から大体半年後のお話。不規則に世界旅行するおかげで、龍暦院やらハンターズギルドやらの追跡は撒けている、そんな半年後です。
本人は撒いていることにさえ気づいていませんが。


 

 

 

 

 

 

「え?例のアトラル・カの話が聞きてえって?あぁ、いいぞ。つっても信じてもらえるかは分からないがな。」

 

険しい山々の間に切り開かれた街、ドンドルマ。

その立地上、古龍という名の大災害に度々見舞われながらも、それに打ち勝ってきた強き人間たちの街。

そんな街の中。ハンターが集う酒場にて、1人の男が語る。

 

「あれは丁度──1ヶ月前のことだったかな?ハンターズギルドと龍暦院の合同で、近隣で存在を捕捉したアトラル・カ、名称未定の特殊個体の観察を依頼されたんだ。そう、狩猟でも捕獲でも撃退でもなく観察。」

 

どん、とエールの注がれたジョッキを机に置く。

 

「あまり聞かない種類の依頼だが、まぁ、一応俺は元研究者でもあるからな。そういうこともあって俺に回ってきたんだろう。特に訝しむこともなく受託したが…、まぁ、後悔したな。あのアトラル・カを見た瞬間、恐ろしさを感じたよ。」

 

「先輩、それは昔出会ったっていう、テオ・テスカトルよりもっすか?」

 

ペッコシリーズに身を包んだ少女が、男に不思議そうに問いかける。

イビルジョーを狩った証であるバンギス装備に身を包んだ、いかにも歴戦の戦士といった装いの大男。それが、少し珍しいだけの甲虫種に恐れをなしているのが不思議でならないと言った様子だ。

 

「不思議か?…だろうな。俺ぁこれでもそこそこ長くやってるハンターだ。古龍と出会ったこともあるが…古龍みたいな圧倒的存在を見た時の恐ろしさとは違うな。何というか、得体の知れない恐ろしさを感じたよ。」

 

男は、過去を回想する。

あれは、依頼書に書かれていたエリアに到着して数刻。見晴らしの良い場所に陣取って、双眼鏡片手に件のアトラル・カを探していた時のことだったか──

 

 

 

 

 

 

支給品として出発前に貸し出された、新大陸から取り寄せたという隠れ身の装衣。

それを被り、さらに木々の中に自らの身を隠しながら、双眼鏡越しにアトラル・カの姿を探す。

丁度、崖の上となっているここからは、眼下に広がる大森林を見渡すことができるのだ。

 

(情報によると、古龍に匹敵するほどの高い知能を誇り、またモンスターの死骸や文明の痕跡、果てはハンターの武器まで使う、か…まるで御伽噺に出てくる怪物みたいだが、ギルドの出した情報だ。少なくとも虚偽ではないはず。)

 

双眼鏡には、ドスランポスが群れを連れて狩りをする様子や、ケチャワチャがオルタロスと戯れる様子が映る。

 

(平和だなぁ。…たまにはこんな依頼もいいかも知れねえな。研究者の頃を思い出す。…そういや、獰猛化現象の調査のためにベルナ村へ行ったあいつは今どうしているかな?)

 

モンスターと命の奪い合いをする依頼と比べ、長閑な時間が流れる依頼に、思わず気が緩んでくる。温かな陽気が体を暖める。樹々のざわめきが心地いい。

 

そうして、半刻ほどした頃だろうか。

森の端から、煙がうっすらと登っていることに気づいた。

 

(何だ、野火…にしちゃあしょぼい。他のハンター、いや、密猟者か?)

 

双眼鏡を煙の出所へ向ける。

 

「……なっ!?」

 

いた。金色の蟷螂が。

自分で作ったのだろう。焚き火の前に座り、何かをしている。

瓶、だろうか。何かを混ぜ合わせているようにも見えるが、流石に遠すぎて詳細はわからない。

 

「…くそっ、見えねえ。」

 

より遠くが見える望遠鏡を取り出して、レンズ越しにアトラル・カを視認して気づく。

見られている。

 

アトラル・カは、金色の女王は間違いなくこちらを睨んでいる。

気づけるわけのない距離でありながらも、間違いなくこちらを認識している。

 

(不味い、不味い不味い不味い!これ以上の深追いは危険だ、撤退する!)

 

そう判断し、乗っていた大樹から飛び降りると、そのままアトラル・カから距離を取るようにして、男は駆け出した。

そして、男は何としてもこの情報を持ち帰らなければと決意する。

 

(間違いねえ、あいつ

 

 

「調合」してやがった!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

紅蓮石を火種に着火させた焚き火の前に、金色の蟷螂が佇む。

橙色の灯に照らされた甲殻が、ゆらゆらと揺らめく。

 

 

 

♦︎

 

 

 

吾輩である。

キリンからやっとの思いで逃げ切れたと思ったら今度は着地した場所でイビルジョーに襲われ、なんとか討伐したと思ったら今度はやけに鋭い犬歯を持った白と黒の狼型モンスターの番に襲われ、武装の残りも怪しかったので逃亡した吾輩である。

しかもそのあとレウス夫妻(希少種)にもあわや襲われるところであった。隠れてやり過ごしたが、吾輩、何故か番のモンスターと縁が多いな。しかも全員漏れなく殺意が高いという。

 

そういえば、あんな狼型のモンスターは知らないな。吾輩が転生した後の作品に出てくる種族なのだろうか?番外作品だったら流石に分からないが……

 

で、だ。流石にこのままだと吾輩いつか死んじゃう!と悟り、己を強化しようと今日この日まで半年ほど世界中を旅していたのである。

別にいつもと何も変わらないじゃないかとか言ってはいけない。

今まで以上に頑張って発掘武器も集めたし、襲いかかってくる大型モンスターは積極的に討伐し、なんなら新しい種類の外装も幾つか作った。

ゲネル・セルタス型、バサルモス型に続き、多少の滑空を可能にしたリオレウス型に、とにかく周辺の地形を薙ぎ倒しながら逃げることだけを考えたパンジャ…ウラガンキン型である。これであのキリンからも逃げ切れるぞ!勝てるとは言っていない。

 

他にも、吾輩の持つ全技術と兵器を結集して作った黒龍型もあるが…まだ未完成だしこれ使ったらいよいよハンターズギルドにバレて殺意を爆発させてきそうだから封印している。まだ吾輩死にたくないのである。ギルドとか龍暦院とかにばれるような行為は避けなくては。*1

 

とはいえ、何かが足りない。まだ、もっと取れる手段があるはずだ。そんな引っ掛かりを覚えながら、2ヶ月ほど旅を続け、気づいた。

それはケルビを乱獲する密猟者を討伐した時のことである。

 

あ、吾輩は基本的にモンスターも人間も、襲いかかってこない限り殺さない。なんならハンターは、殺したらわんこ蕎麦形式で強いハンターがやってきて、最終的に猛き炎(RISE主人公)とか黒龍討伐しちゃった人外(ワールド主人公)とか吾輩のオリジナル討伐した人外(XX主人公)とかその辺のヤバい奴らに辿り着きそうだから殺さない心算である。まだハンターと戦ったことはないが。

しかし、密猟者、それも度を越した奴らは別である。やめてくれ、貴様らがモンスターを殺しすぎて生態系のバランスが大崩壊したら世界がシュレイドしちゃうでしょ。吾輩まだ死にたくないよ。

 

閑話休題。

そんな密猟者をしばき倒した時のことである。

うち一人が面白いものを持っていた。調合書のような何かである。吾輩は文字が読めないので調合書のような何かとしかいえないが、挿絵的に多分そうである。

 

調合。何故吾輩はこんな簡単な答えに辿り着かなかったのだろうか。

あくまで矮小な生物である人間が、圧倒的な存在であるモンスターを狩猟できるのは何故か。そもそもこの世界の人間は矮小じゃないだとか、そう言った人外要素は無視すると、その武具の性能、そして回復薬を始めとした数々の調合により生み出されたアイテムが理由として上げられるだろう。

 

そう。回復薬。薬草とアオキノコを混ぜたアレ。

他にも秘薬やら丸薬やらルーン石…はコラボイベントのアイテムだから例外か。ハンターが魔法を使い出したらいよいよ誰も手がつけられなくなる。というか調合アイテムですらない。

 

人類の叡智が結集された多くの調合アイテム、これを使えば吾輩の戦闘能力も大きく向上するのは間違いがないのである!

ふははは、吾輩は最強の力を手に入れたのだ!…そこ、ようやく駆け出しハンターと同じラインに立ったとか言ってはいけない。

 

調合という奥義に気付けばあとは実践するのみ。

前世の記憶を頼りに、拾った瓶を使って多くの薬を作成した。

 

回復薬に始まり、秘薬に怪力の丸薬、強走薬に活力剤と、用意できる素材を使い、次々と便利なアイテムを調合していく。

とはいえ、師匠がいるわけでもないので調合の分量は全て手探り。今のレベルのものが出来上がるまで一体どれだけの素材が無駄になったことか。それに、使える水準になった今でも、多分ハンターが使っているそれよりも品質は低い。

 

とはいえ、ある程度の傷なら回復薬グレートですぐ回復するし、半死ぐらいなら秘薬で回復する!吾輩、もはや不死身では?…まぁ、秘薬は一日2本より多く飲むと全身が割れるように痛くなるから2本までしか飲めないのだが。

そこ、吾輩の素の耐久力は高くないんだから薬作ったところで無駄とか言ってはいけない。密猟者から奪い取った、違法に入手したであろう守りの護符から作った守りの護爪のおかげでちょっと硬くなったから。

 

調合することを覚えたおかげで、同時に料理をする精神も思い出した。危ない危ない、文化的な生活は最低限守らなくては。この世界の食べ物、焼いて調味料かけただけで充分美味しいから忘れていた。まぁ、料理を始めたのは調合の影響だけではなく、落ちてた鍋を拾ったから、というのもあるのだが。

 

 

 

そんなこんなで、今吾輩は大森林のど真ん中で、焚き火を焚きつつ料理をしているのである。

捕まえた米虫に、上質なポポノタンを乗せ、岩塩を振りかけて高級肉寿司。女王エビに霜降りトマト、千年米を纏めて炊き上げて、千年クイーンパエリア。おまけにハニーバターを乗せた生肉を肉焼きセットで焼いて、こんがり肉G。一手間として、センリョウミカンをかけるのも忘れない。デザートには、氷結晶にメロンベリーの身を潰したものをかけて作ったアイス擬き。

 

いやぁ、健康で文化的な最低限度の生活である。米類が多い気もするが、まぁ前世日本人だし仕方がない。というかなんなら米虫は米みたいな見た目で米の味だが虫である。米ではない。

自作料理の素晴らしい出来栄えに満足し、いざ実食へ行かんとするが、その前に千里眼の薬を錬金して飲むのは忘れない。

この前、食べようとした料理をメラルーに掻っ攫われたのは今でも忘れないぞ。吾輩のリュウノテールのステーキ返せ。

 

千里眼の薬は本来なら調合できないが、密猟者が持っていた本がたまたま錬金書だったようで、そのおかげで不完全ながらも作れたのである。感謝の代わりに冥福を祈っておこう。大地に還れば密猟者もまた兄弟。どう考えてもやばそうな吾輩に奇声を上げながら襲いかかってきたその根性は忘れないだろう。

 

千里眼の薬を飲んだ瞬間、少し遠くの切り立った崖の上から、微弱な反応を感じる。

さてはこの前のメラルーだな、失せろっ!

 

吾輩は赤髪もかくやといった迫力の視線を崖の上へ送る。

よかった。諦めてくれたようだ。

 

……さーて、実食と行こうじゃないか!

 

お、これはなかなか。吾輩、ひょっとして料理の才能があるのかもしれないな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とまぁ、この間抜け、幸せそうな顔して料理を食べているわけだが、今この瞬間にも「このアトラル・カ、ハンターの装備どころか調合まで使いこなすかもしれない」という特大の地雷情報が拡散していることには気づいていないのである。

しかも、もちろんこんな特大の重大情報はトップ層のハンターに共有されないわけもなく、世界の頂点たちに認識されてしまっていることなんか想像すらしていない。

 

そんなことよりも、食事の匂いにつられてやってきた野性のアイルーと、料理と交換にアイテムを貰うのに夢中なのである。もっと強力な武器を使えるのに投げナイフなんて貰ってどうするつもりなのだろうか。

 

この様子では、どこぞのモンスターなハンターに消される日も遠くないかもしれない。

 

 

 

 

 

*1
こいつ、既にバレてることに気づいてないのである。





設定的には、調合アイテムの効能は、大体本来の完成品の8割ほど。
ただし、秘薬は、大体最大耐久値の半分ぐらいの傷を回復してくれる、ぐらいの効果になっています。そりゃぁハンターより体大きいし効能は多少薄まります。

なお、このアトラル・カ、この世界では秘薬の調合法は、相当上位のハンターへ至らなければ噂レベルの、教えてもらうには対価が必要なレベルの希少な情報であることには気づいていない。なんならいにしえの秘薬はさらに希少であることにさえ。
その上、自分の作るいにしえの秘薬がST性能になっていることにさえ気づいていない。まぁ、ほんの数本しか作れていないから実験ができていないこともあり、しょうがないのだが。



感想、評価などありがとうございます。大変励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吾輩はアトラル・カである。炭鉱夫は危険が一杯である。

初投稿です


 

 

 

 

 

巨大な火山に囲まれた黒き大地。大地の裂け目からは赤々とした溶岩がその姿を覗かせ、黒曜石質の大地の周りを、灼熱の川が囲う。

定期的に小規模な噴火を繰り返す山々からは灰が薄らと降りしきる。

 

溶岩島や、決戦場と呼ばれるそれとよく似た構造の名もなき土地。

普段なら誰も見向きもしないような大自然の中に埋もれたそこで、翠緑玉と黄金が、その拳を幾度となくぶつけ合っていた。

 

異常に活性化した粘菌を纏った拳が、直径10メートル以上はある大きさの瓦礫で構成された拳とぶつかり合う。

かつて防壁の役目を果たしていた瓦礫に粘菌が触れると、途端に赤熱し、瞬時にその大質量を瓦解させる。

 

ほんの数刻前まではなだらかだった土地は見る影もない。

地面には隕石が降り注いだ後かのようなクレーターが無数に形成され、大地の奥深くまで刻まれた打撃痕からは、溶岩が柱のように吹き出しアーチを形成している。

例えるならば、『地獄』が相応しいこの光景。これをたった一体のモンスターが、それも古龍ですらない竜の一体が生み出したのだというから驚きだ。

 

『猛り爆ぜるブラキディオス』。

 

異常に活性化した粘菌との共生の中で形成されていった荒々しくも美しい翠緑玉の外殻を纏った破壊の権化。

瀕死に追い詰められているのにもかかわらず、砕竜の胸の内は歓喜に満たされていた。

 

「────────────!!!」

 

鼓膜が破れんばかりの絶叫に応えるように、辺りに散らばった粘菌たちも赤熱化する。

大地も、壁も、その全てが臨界点に達した粘菌に覆われ、空間そのものが赤く染まったかのように感じる。

 

大地が、割れた。

黒曜石の岩盤は、その拳に一分たりとも耐えることなく爆散し、それを合図にして全ての粘菌が同時に炸裂する。

 

「ピギャアアアアアアアアアア‼︎(吾輩死んじゃうって、死んじゃうって!)」

 

その常軌を逸した爆発のエネルギーは、空を覆っていた暗雲と火山灰とを一瞬にして吹き飛ばす。

空の裂け目から月光が差し込む。

 

──ああ、これでも「オマエ」は倒れてはくれないのだろう。

 

瓦礫のドレスを纏った美しき女王よ。

幾度拳をぶつけても、その悉くを防いだオマエは。オレの熱も、オレの粘菌達も、その全てがオマエに届く前に遮られる。

 

 

「ピギャァアアア!(不味いって、不味いって、ちょっと、瓦礫越しでも衝撃がッ!)」

 

「グラァアアアア‼︎!」

 

深く両の足を踏み込み、強烈な右ストレートを放つ。

たったその一動作だけで、大気が揺れる。

 

──オレは、嬉しいのだ。

 

この世界に生まれて、砕竜が初めて感じた感覚は、痛みだった。

今でこそ砕竜と共生関係にある粘菌だが、それに耐えうる外殻が形成されるまでは粘菌の爆発に耐え続ける必要がある。

本来であれば、異常に活性化した粘菌との共生など不可能。通常の粘菌の数倍の威力を誇るそれに、赤子の身で耐えれるわけがない。

 

だが、その砕竜は耐えてしまった。

その結果、災厄が生まれた。

 

──空を飛び回る奴も、水の中を泳ぐ奴も、大地を馳ける奴も、みんなオレの拳を耐えることはできなかった。どんな攻撃も、オレには効かなかった。

 

だが、オマエはどうだろうか!

砕竜の炉心が、今まで以上に煌々と輝く。

 

あの、この場所ごと消しとばすつもりで放った一撃も、オマエは耐え抜いてみせた。

その瞳を爛々と輝かせ、女王へと果敢に挑みかかる。

 

拳が逸れるたび、地面はより深く沈み、投げ飛ばされるたびに外殻が剥がれおちる。

何かが光ったかと思うと、『雷』で構成された刃がオレの体を切り裂き、『灼熱』と『極寒』の爆発がオレの体を揺らす。

『濁流』がオレの粘菌達を押し流したかと思うと、大喰らい達の使う『龍』のエネルギーが爆発を伴って炸裂する。

 

「グルル…」

 

露出した体表から流れ落ちる体液を振り払うように頭を振るう。

体の節々が痛むが、それは砕竜の動きを何ら阻害することはない。寧ろ、増してゆく痛みに連動するように、指数関数的にその動きは苛烈さを増してゆく。

 

「ピギャアアアアアアアアアア、ピギャアアアアアアアアアア‼︎(おいちょっと待てこれ食らっても全く堪えないのは流石に…!)」

 

一体その小さい体のどこにこんなにも多様なエネルギーを秘めているのだろうか。

まるで、嘗て戦った小さき者達のようだなどと、彼が知恵を持っていれば思ったのだろう。

 

知恵を持つわけではない彼の想いはただ一つ。

目の前の、女王に勝ちたい。それだけだ。

 

名もなき火山での死闘、その終わりは近い。

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

 

 

吾輩である。

吾輩は今火山に来ている。破茶滅茶に熱い。今まで数多くの火山に訪れてきたが、ここは別格である。

クーラードリンクがなければ即死だった。

 

そんな吾輩は今、ピッケル片手に採掘作業に勤しんでいるのである。

これも全ては新武装の開発、それも『属性エネルギー』という吾輩には備わっていない力を使った武装の開発の為である。

 

 

ある朝、雪山を散歩している中で急にクシャルダオラに襲われて、吾輩は気づいたのだ。

ハンターの武器を使い、モンスターの死骸を操り、調合を駆使する。これ、あくまで全部小手先の技ではないか!

これでは真の強者に出会った時、なすすべも無くやられてしまうだろう。というか死にかけた。

 

鋼龍クシャルダオラ。流石は古龍。滅茶苦茶であった。投擲系の攻撃が全部龍風圧で弾かれやがる!ギリギリ隕石だけだったぞ突破できたの!

たまたま進路上に吾輩が居ただけだったようで、本格的な戦闘になる前に退散できた。しかしだ。本格戦闘になってたら不味かった。一応紫毒姫の激毒ぶっかければ何とかなるかなとかも思ったがリスキーすぎるのである。どうして吾輩は定期的に死にかけるのであろうか。まだハンターに出逢ってないだけマシか。吾輩、隠密上手いからなぁ!*1

 

何とかクシャルダオラから逃亡した後、吾輩は一晩考えた。吾輩に足りないものは何か、と。

 

 

思いつかなかった。

 

 

それでは問題なので、とりあえず足元に生えていたドキドキノコを齧ったところ、天啓が降りてきた。

あの圧倒的な古龍達やハンターに抵抗するために吾輩に足りていないもの、それは必殺技なのである、と。脳内で祖龍が言っていたから間違いない。

そう、必殺技。モンスター達が使う大技や、ハンター達の使う狩技のような一撃で戦況をひっくり返すような切り札の事である。

そして、吾輩にはそれがない。厳密に言えばメテオはそれに当たるかもしれないがあれ見た目ほど威力無いしやってることただのちょっと強いウラガンキンだぞ。キリン相手に決め手になったのは、空中という相手に不利な場所に引きずり込めたからに他ならない。

 

必殺技かぁ、王の雫でも撃ってみようかなどと考えてみてふと気づく。

撃龍・霹靂神、王の雫、エスカトンジャッジメント、ビッグバン。うーんどれも吾輩には無理である!

膨大な生命エネルギーの放出とか無理である。撃龍・霹靂神なら行けそうだろって?どこをみて行けそうだと思ったんだ。吾輩ができるの撃龍槍ぐるぐるパートだけだよ属性エネルギーなんて持っていないから。おいアマツマガツチ。ダイソンってどうやってるんだよ教えてくれよ。

そう、吾輩無属性なのである。炎は吐けないし雷は落とせないし吹雪は起こせない。なんなら雷は弱点である。

水圧レーザーなんて無理だしそもそも龍属性はなんだかよくわからん。イビルジョーの落とした滅龍核を見たところで綺麗だな、という感想しかわかない。生命エネルギーを引き出すとかどうやるのだろうか。サイヤ人か何かか?

 

そういえば原種はどうしていたのだろうか。

アトラル・ネセトはあくまで攻撃手段兼防衛手段で必殺技という感じはしなかったし、強いて言うなら糸結界+撃龍槍、か?それって普段の吾輩ではないか。

 

ちくしょう、吾輩に必殺技の習得は無理だというのか。せめて属性技だけでも使えるようになりたいぞ…!

そう心の中で叫びながら、発掘した水属性のしょぼい大剣を地面に叩きつけて気づく。そういや吾輩、今でも武器を使って属性使ってるじゃん、と。そして連鎖的に気づく。ハンター達が使う武器。それは何から出来ているか。モンスターの素材である。

つまり、モンスターの素材、例えば宝玉とか火炎袋とかを使えば吾輩も属性を擬似的に使えるではないか、と!

 

そうと気づけばあとは早かった。今までもドボルベルクやディノバルドのように、モンスターは使ってきた。その経験を生かせばいいのである。脳内の範馬勇次郎も『持ち味をイカせッ!』と言っている。

しかし、その作業は難航した。なにせ工房が長い時をかけて作り上げてきた加工技術。それを一部とはいえ再現するのは容易なことではなかった。

具体的にいうと何回か死にかけた。一番多いのは雷電袋の誤爆である。弱点属性を扱う時は慎重にしろとあれほど…!調合した薬がなければ吾輩死んでいたかもしれない。薬のおかげである程度の無茶なら出来るようになったのである。

 

何十回に及ぶ試行錯誤の末、ようやく使える水準に達した武器…いや兵器が完成し始めた。竜の体をかけ合わせて作った武器だし『竜機装(クロスドラゴンウェポン)』とかどうだろうか。

ライゼクスの雷玉に冠甲、フルフルの電気袋やジンオウガの蓄電殻を組み合わせて、フルクライト鉱石と鉄鉱石の合金性の棒で指向性を持たせて作ったライトニングブレード再現機に、瞬間凍結袋を内部に組み込んだことで、着弾時に莫大な冷気をあたりに振り撒くハンマー。滅龍核を大砲に組み込み龍属性のレーザーを放てるようにした圧縮砲。

あとは今までも使っていたディノバルドの尾剣を紅蓮石などで強化したモノも合わせればいい感じである。

 

今までのハンターサイズの装備に加えて、吾輩達モンスターサイズの巨大な武器達。これで隙のない二段構えの出来上がりである。内包する属性のエネルギーも桁違いである。

まぁ問題があるとすれば3回も使えば内包したエネルギーは枯渇するしその威力は本家本元のそれと比べればお粗末極まりないことだな。

結局小手先の技が増えただけじゃないかとか言ってはいけない。

 

ここに水属性が加われば完璧なのだが、残念なことに吾輩何も思いつかなかったのである。水袋の中の水ぶちまけてどうしろと。粉塵とか粘液とか使う相手には洗い流せるから有効かもしれないが、普通のモンスター相手に効果があるレベルの濁流を起こすとかロアルドロス何体分の水が必要になるんだ。想像もつかない。仮に用意できたとしても、意図的に兵器にするためにモンスターを狩り始めた時点で間違いなくシュレイドの方向からミラバルさんがこんにちはしてくる。そして吾輩は死ぬ。

 

水属性は…まぁ、発掘武器があるからいいか。ハンターだってそれでモンスター狩ってきたのだし。

 

いい感じの兵器ができて、なかなか満足だった吾輩だが、普段使い用の盾を作ろうとしてとんでもないことに気づいた。

鉱物資源が枯渇してやがるのである。特に火山でしか入手できない種類のものが。鉄鉱石とかマカライト鉱石はおやつにできるぐらいあるのに。

何故だ。ほんの数週間前までアイテムボックスの中に山のようにあった筈なのに…そういえば、吾輩、兵器作る中で時々鉱物をつまみ食いしていた記憶が。

 

そんなこんなで吾輩は火山を訪れることになったのだ。

そしてそろそろ1ヶ月が経とうとしている。久しぶりにここまで長く一箇所に滞在した気がするぞ。

というかここからどうやって外に戻るかがわからん。地下に地下に迷路のように続いているせいでもう1週間は日の光を浴びていないのである。

マグマのおかげで洞窟内はずっと昼間のように明るかったがな!

 

1ヶ月も篭ったおかげで、しばらくは補充しないで済むぐらいの鉱物資源が集まった。これは完全金属製の外装とか作ってもいいかもしれない。まぁモンスター素材の方が強いからそれはないか。

副産物として、大量に護石も出土した。それも、RISE仕様の護石が大半である。

 

護石。それは数多くのハンターを沼に引きずり込み、そして特定のモンスターを嵌め周回の餌食へと追いやった魅惑のアイテム。

装備したものにスキルという恩恵を与えるそれは、手に入れるまでどんな能力になるかは完全にランダム。その所為もあって、多くのハンターを、理想の能力を持った護石である神おまを求める終わりのない旅路へと誘ったあの護石である。

一応、吾輩は今までに護石を入手したことが無いわけではない。しかし、今まで一度も効果が発動したことがなかったので、「あぁ、きっと護石は吾輩に恩恵を与えてくれないか、もしくは古い時代(スキルポイント制の)の護石しかないのだろうな」と思っていた。だが違った。

恐らくは、発掘装備を作った古代文明とは異なる文明が作った護石なのだろう、RISE仕様の護石が発掘され、同時に吾輩にも護石の効果はあると判明したのである。拾った護石を首にかけたら体が鬼火を纏ったのである。

 

 

ちょっと待て。護石で付く鬼火纏のスキルレベルは2まで、つまり装備したところで体が鬼火を纏うわけ……

まさか吾輩、『護石系統倍化』スキル発動してる、のか?というかそれ以外で説明が付かない。

他の護石を装備してみたら、体が泡を纏ったりもした。やったね吾輩タマミツネごっこができるよ。実際泡やられ状態で外装を操作したらすごかった。速度が尋常じゃない。それに、急制動ができない問題も、外装の鉤爪で地面に体を固定すれば問題ない。

 

閑話休題(それはともかく)、吾輩の体は護石とも親和性が高かったようである。

同時に吾輩の運が頗る悪いことも分かったがな!今まで入手してきた護石、どうやら全て5ポイントよりも少ないスキルポイントしかついていなかったようである!だってスキル発動しなかったし。

 

属性攻撃に加えて、スキルの恩恵にも少しとはいえ与れるようになった吾輩。もうこれは最強なのでは?

そう思って意気揚々と地上に出ようとしたが、道が分からん。

ずっとぐるぐる回ってるような気もするし、ちゃんと進んでるような気もするし、本当に何も分からん。

吾輩、もし鉱物を食べることができなければ、餓死していたぞ。

 

早く地上に出たい。そして太陽の光を浴びたい。

その一心で前へ前へ進み続け、そしてさらに1週間が経って漸く外の光が見えた瞬間、その目に映ったのは『決戦場』みたいなどこか。

 

そしてそこに佇むのは明らかに此方を捕捉して拳を構えるブラキディオス。それもなんか緑っぽい。エメラルドみたい。

 

「ピギャアアアアアアアアアア(猛り爆ぜてんじゃねえかああああああああ!)」

 

 

え、吾輩死ぬの?

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

その日、観測隊は見た。

轟音と共に雲が破れたかと思うと、その下で、2体のモンスターが死闘を繰り広げている姿を。

 

「なぁ、あれは、あれはなんなんだ。」

 

金色の姿を、その外装からわずかに覗かせる女王。

間違いない、あれは捜索が続けられている特殊個体のアトラル・カだ。

 

吹雪、雷、火炎、龍光。

泡沫を舞い、砕竜の攻撃を受け止め、撃龍槍を始めとした兵器を使い苛烈に攻め立てる。

 

金の糸に操られた人形が、女王の軍勢として砕竜に群がる。

もし仮に、ここに龍暦院や王立古生物書士隊、ハンターズギルドの裏に通じる者がいればこう感じただろう。

 

──全てのエレメントを操るあの姿は、まるでかの禁忌の龍の如きものであったと。

 

そして、この戦いを見届けたものは後にこう語る。

 

“一度死した筈の女王は、玉座の上で再び立ち上がり、天の星を以て敵を打ち破った”、と。

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼人薬グレートや硬化薬グレート、強走薬グレートのようなドーピング三種の神器を使い、他にも今まで調合して貯めてきた薬を大量に使った。

撃龍槍を何度もその外殻に突き刺し、バリスタや速射砲は何度当てたか分からない。

四属性による連撃も受け止められ、鬼火を纏った撃龍槍の一撃は、その拳と相殺しあった。

 

一撃でも喰らえば即死しても不思議ではない極限の戦いの中で、吾輩も相当疲労してきたのを感じる。

キリンや、クシャルダオラのような古龍にも匹敵する威圧感。

 

一度逃げようとした時には、逃亡は許さんと言わんばかりに、放り投げた岩は全て爆破された。陸路で逃げようにも周囲が火山で囲われていて出口がない。入ってきた入口は既に崩落している。

 

もはや吾輩も、砕竜も、引くことは能わず。

猛り爆ぜるブラキディオス。お前は、お前はここを死地と決めたのか。

 

目の前の、満身創痍と言った様相の砕竜を見つめる。

吾輩は、砕竜と真っ向から向き合った。ぶっちゃけ最初は何度も逃げようとしたが、今はそのつもりはない。攻撃は避けても、戦いそのものから逃げようという心は消え失せた。

逃げが封じられた吾輩は、真っ向から彼と向き合った。

その苛烈な攻撃を全て捌ききり、ついには瀕死まで追い詰めることができた。

 

砕竜の口から垂れる唾液が、あまりの高熱に蒸発する。

 

「───────────!」

 

ブラキディオスが、その腰を深く落とし、大きく息を吸い込み始める。

その拳に、今までの何倍もの厚さの粘菌が集まり、グローブのような何かを形成する。

 

来る。

彼の、その残り少ない命の全てをかけた最期の一撃が。

 

まともに喰らえば、まず間違いなく絶命するだろう。

吾輩は、取り出した塊を口に放り込む。これで万が一の保険はつけた。

 

あとは、吾輩の盾が勝つか、彼の拳が勝つか、だ。

 

─────────────────!!!

 

砕竜が声にならない叫び声をあげた。

粘菌を纏った拳が、吾輩の盾にぶつかる。そして、何十重にも重なった爆発が、吾輩の人形を一瞬で蹴散らし、用意した20枚の盾のうち半分を一瞬のうちに消しとばす。

 

「ピギャ!(くそ、真面目に喰らえば吾輩粉微塵だぞッ!)」

 

全力のストレートを放った反動で、急に軌道は変えられないだろうと思い、今なら跳べると吾輩は踏む。

そして、取り出した石を経由して、空へ跳び上がる。その瞬間、残り10枚の盾も粉砕された姿が見えた。

 

「ピギャアアアアアアアアアア(ふぅ、危ない危な………っ!まて、()()()()()()()()()()()()()

 

ぞわ、っと全身が震える。

吾輩の真上に、何かいる。

 

砕竜だ。奴め、自分の脚の裏で爆発を起こして、無理やりここまで上がってきやがった。

爆発で両の足が吹き飛んでいる。そうまでして吾輩を殺したいのか、お前は!

 

キリンとの時とは、まるっきり逆のシチュエーション。

なるほど、あの時のキリンの判断は間違っていなかった。こう成ってしまえばもう、

 

「ピギャアアアアアアアアアア(食い破るしかない!)」

 

瞬時に展開した武器を、次々とブラキディオス目掛けて投げつける。

しかし、その全ては、白く輝く拳に弾き飛ばされる。

 

あ。

 

拳が、外装を打ち破り、吾輩の胸に触れた。

そのまま、地面にからだが、おとされ、て。

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

女王が、血に沈む。

 

 

ブラキディオスは、その両脚から血をとめどなく流しながらも、満足げに拳を天に掲げる。

ピクリとも動かない女王の姿を見て、死を確信した。

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

吾輩の、心の臓はまだ止まっていない。

先程飲んだ塊、『根性玉』というアイテム。吾輩もどうやって作ったか思い出せないが、その効果は簡単。

最後の(ライフ)を失う攻撃を、一度だけ肩代わりするというもの。

 

そして、吾輩は攻撃を耐え切った。

何とか、砕竜に気づかれないように、いにしえの秘薬を飲み干す。

体に活力が戻る。

 

これが吾輩のやり方よ。吾輩はまだ死にたくないからな。

 

吾輩はいつかこの大地で死ぬのかもしれない。

でも、それは今ではない。この命、お前程度にくれてやれるほど安くはないぞ。

 

ピギャアアアアアアアアアア(吾輩はまだ、死んでいないぞッ!猛り爆ぜる、ブラキディオスッッッッ!)

 

吾輩が取り出したのは、各種属性を纏った竜玉を内包した、巨大な岩石。その後方には数本のガンランスが取り付けられている。

それを思いっきり上空へ持ち上げ、そのまま大地へ落とす。

 

ガンランスのリバースブラストにより加速した隕石は、砕竜の体に衝突すると同時に、内包した莫大な属性エネルギーを一度に解放する。

世界から、音が消えた。

 

 

 

 

あぁ、猛り爆ぜるブラキディオスよ、其方もまた強敵(とも)であった。

 

 

立ったまま死んでいる砕竜の眼をそっと閉じる。

 

 

「ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!(また、また!吾輩は生き残ったぞおおおおおおおおおおおおおお!!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

この馬鹿、生き残ったという事実に夢中になって、頭上に観測船がいることに気づいていないのである。

そして、その飛行船が爆速で退避を始めたことも。

 

勿論の事、この戦いの情報は観測船によってギルドへと持ち帰られることになる。

多分次回あたりにこの馬鹿死ぬんじゃないかな?あーあ。

 

 

 

 

 

 

*1
否。観測隊の隠密能力が高くてバレていることに気づいていないだけである。









「四属性全てを操る、か。まるでかの禁忌のような…」

「原種のように瓦礫を纏うだけではなく、用途を理解した上で兵器を扱い、古代文明の名残りである発掘武器を使いこなす、か。」

「あり得ないほどの高い知能を持ちながらも、古龍ではない、か。一体奴は何なのだ。我々を避けるように移動を繰り返す以上、此方としても手出しがしにくい。討伐依頼を出そうにもその頃には既に別の場所へ移動している。現在は火山地帯へ止まっているようだが…」

「待て、あの周辺には古代文明の遺跡があった筈。…まさか奴は古代人の作った兵器の一種なのか!?」

「迂闊に手を出せば、国が消えかねんぞ…!もっと早期に対処をしておくべきだった!」

あまりにも少ない情報に、ハンターズギルドの上層部は頭を抱える。
そこに、とんでもない情報がもたらされる。

「や、やりやがったっ!まじか、いやマジか、マジでマジかよ!」

伝令の手に握られた依頼書。
その依頼主は彼の国の第三王女。

「待て、伝令。それ以上は何もいうな。聞きたくない。勘弁してくれ。」

その内容は、特殊個体・アトラル・カの討伐及び捕獲。

「どこの誰だそのクエストの掲載を許可したのはッ!しかも受諾済みッ!」

そして、受注者の名前を見て気づく。
その名前は、かつて旧砦跡で、アトラル・カと激戦を繰り広げ、その後も古龍を始めとした多くの天災を狩り続けた天災の名であった。












♦︎






次回、平和に過ごすアトラル・カ。
そんな彼女に迫る、ハンター。あーあ。ついに出会っちまいましたね。


感想、評価、誤字報告などありがとうございます!大変感謝しています。
急に伸びて大変びびっております。感想の返信も遅れます。申し訳ございません。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吾輩はアトラル・カ。まだ死にたくない。そして私はハンター。どうぞ私を殺してご覧なさい?

初投稿です。
珍しく後編へ続きます。


その依頼を手に取ったのはほんの気まぐれだった。

どこぞの王女サマが、不定期に出している子どもらしいワガママに応えるための依頼。

一部の熟練ハンターなんかは、彼女の依頼を気に入らないと思い、受注を断固拒否する者もいるようだが、私はそうは思わない。

人間を試すだなんだと嘯く赤衣の男や、人類の命運なんて大層なモノを平気で私1人の肩に載せてくるギルドの暗部共と比べれば、可愛らしい物だ。

 

特殊個体・アトラル・カの討伐及び捕獲。

思い出されるのは、まだ世界は未知と希望に満ち溢れていると信じていたあの頃に受けた依頼。間違いなく、私の人生を大きく変えたターニングポイントになったクエスト。『蠢く墟城』。

ラオシャンロンのような超大型古龍に匹敵する程の大きさを誇る玉座を繰る、高い知能を誇る甲虫種。

ヘビィボウガン片手に、酒場のマスター達の声援を背に挑んだ、廃墟の女王。

 

その特殊個体。噂は聞いていた。

原種のように撃龍槍を操るのは勿論、オストガロアのように(ワイバーン)の死体を操り、バルファルクの如く落下する隕石を扱う。

操るエレメントは火、水、雷、氷、龍の全属性に渡り、大砲やバリスタといった防衛設備はおろか、狩人の武具さえ操り、その技術までもを模倣する、もはや禁忌の領域へ侵入している程の高い知能を有する大厄災。まぁ、あくまで噂は噂。実際に禁忌と相対したことのある身からすれば、どれだけ賢かろうが、禁忌でない物がその領域へ足を踏み入れることが出来るとは思えない。

 

──アトラル・カ、は自身がその虫生の中で見た一番強い生物を目指して外装の強化を繰り返す、のだったかしら。ギルドの方も情報を絞ってるから、詳しくはわからないのよね。

 

腰まで伸びる白髪を左手で弄りながら、右手に持った依頼書を眺める。

 

──あぁ、でも楽しみね。

 

特殊個体、あぁ、なんといい響きなのだろうか。

怒り喰らうイビルジョー。猛り爆ぜるブラキディオス。鏖魔ディアブロス。通常を逸脱した能力を持つ彼らは、誰もが大自然を感じさせる良い相手だった。

獰猛化個体や、戦った経験は少ないが極限化個体、覇種個体なんかもいい。

命を削りあう戦いほど、心を満たしてくれるものはない。嘗ては、相棒のガオウ・クオバルデを担いで、レオンとアーサーと一緒に多くのモンスターを狩猟したものだ。

 

──貴女が何をしてくるかわからない。貴女がどんな存在なのかもわからない。

 

黒龍の甲殻に身を包んだ乙女は、噂の特殊個体に想いを馳せる。

私はきっといつか大自然の中で死ぬ。そして、その死神は貴女かもしれないから。

 

彼女の背負う武器は『ミラバルカンブレイド』。真紅の刃による一撃は、()()に極上の絶望を与える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吾輩である。

古龍級生物の中でも最強クラスの相手に勝利してノリノリな吾輩である。

 

猛り爆ぜるブラキディオスから手に入れた炉心殼。これがまた本当に素晴らしい!生み出すエネルギーは既存のどの(ワイバーン)とも隔絶したものがある。この炉心を限界まで暴走させて爆弾にしたらエリアの一つや二つ地図から消えるのではなかろうか?

そんな莫大なエネルギーを秘めた炉心を動力として使えばそれはもう恐ろしいことになる。操作のしやすさは何倍にも上り、速度、パワー、動作の正確さ。その全てが数段上に上昇。それこそ上位とG級ぐらいの差がある。

単純なスペックだけの問題ではない。これと幾つかの兵器を組み合わせて作動させる兵器は、分厚い鉄の壁すら溶かし尽くす。まさに『劫火』である。

炉心は一個しかないので、吾輩の最終兵器に積み込んだが、どう考えてもこれは表に出しちゃいけないタイプのやつである。

素材が手に入るごとにちょくちょく強化はしていたが、炉心が入るとだいぶ違うな。少々熱量が多過ぎて胸付近の金属が溶け出しているのは少々問題だが。あぁ、ハンター人形の一体がそのまま張り付きやがった、勿体ない!

 

事実上封印されている炉心以外にも、粘菌も又吾輩の取れる手段を増やしてくれる素晴らしい物であった。採取できた量はそう多くないので枯渇が心配されたが、苦戦の末培養に成功したから然う然う枯渇することはないだろう。

粘菌と鬼火を纏った撃龍槍による1撃はかの黒龍と同じ硬度を誇るクンチュウの甲殻すら粉砕する。ついでに撃龍槍も真ん中から折れる。勿体無くて使えるかこんなもん。至近距離で撃ったら吾輩も死んじゃうわ。

基本的には岩石の塊に粘菌と鬼火を纏わせて辺りにばら撒くのが基本の使い方になる。まぁ、これも周囲の環境に与える影響が甚大だから森とかでは使えないのであるが。

他にも、特別硬く作った外装の脚部に粘菌をつけることで、その爆発の威力を推進力に変えて高速で移動したり…まぁ、直線的過ぎるので他の移動方法と組み合わせての仕様が前提となるな。おい待て粘菌やっぱお前使いづらいわ威力が高すぎる。

 

いやぁ、鉱石の採取だけが目的であった筈なのに、森林地帯ではできない粘菌の実験の為に随分と長い時間を使ってしまったのである。

何ヶ月も同じ地域に滞在したのは久しぶりである。そのせいか珍しい相手にも会った。テオ・テスカトルである。遠目に見たがあれは生物としての格が違うな。流石古龍。一瞬火山の上空を飛行しているのを目撃したが、威厳があった。

古龍級生物と古龍にはやはり隔絶した差があるなぁ。やっぱイビルジョーとは違うなイビルジョーとは。お前人が飯食ってる時に乱入してくるんじゃねーよ怖いだろ?

 

吾輩は、洞窟の中から大雨の降る外を眺める。

この嵐が過ぎ去ったら、そろそろこの火山地帯を出ようと思うのである。同じところに長く止まっていては、ハンターに見つかる可能性が上がってしまうからな!*1

 

きっとあの空の中にはアマツマガツチがいるんだろうなぁ、などと言うくだらないことを考えながら、溶岩でいい感じに溶かした鉱石を齧る。

この絶妙な溶け具合が堪らない。火耐性付きの護石なしで食べると口の中を少々やけどしてしまうのが難点だが、ほんのりと溶けたドラグライト鉱石は、言うなれば焼きアイスのような味わいで──

 

まて。

 

何か、揺れて、…人?

刹那、古龍を超える強大な気配が、吾輩の目の前で膨れ上がる。

 

あ、へ、いや、なんで何故!?

 

白い。人間──ハンター?どこから、どうして?

黒い。赤黒いオーラが…獣宿し【獅子】!?そしてこの構えは震怒…いや、『地衝斬』ッ!

 

思考が許されたのは、そこまでだった。

 

「あは」

 

大地を削り取りながら放たれた一撃は、その刀身から放たれる一撃と衝撃波による二重の破壊力を持って、吾輩の外殻を粉砕する。

遅れて、大剣から漏れ出る爆発性の粉塵が、追撃の爆発を起こす。

 

──吾輩の、鎧が。ありとあらゆる外敵から吾輩を守ってくる吾輩の要塞がッ!

 

破壊されたゲネル・セルタス型の装甲をすぐさま脱ぎ捨て、防御力に優れたバサルモス型に乗り換えようとするが、間に合わない。

目の前の少女は、()()()()()()()()()以て周囲を円形に薙ぎ払う。

 

ラウンドフォース、だが、それは、片手剣の狩技の筈だろう!?

 

咄嗟に割り込ませたランス持ちの人形を盾に、辛くも吾輩は離脱する。

そして、吾輩は愕然とする。G級相当のランスの盾が、唯の一撃でかち割られている。

 

「ピギャアアア‼︎(なんだ、何故いきなりハンターが!?)」

 

衝撃までは抑えきれず、洞窟の天井に叩きつけられながら、下手人の姿を目撃する。

大剣を背負った女ハンター。装備は──ドラゴンシリーズ系統っぽい…

 

あ、これ吾輩死んだわ。黒龍狩ったヤバい奴が来ちゃった。

 

 

嘘だろ、どうして野良のプロハンがたまたまこんな場所にいるんだよ、まさか採取クエか、採取クエなのか!?

どんな確率だよ、まだギルドに発見されてない吾輩のクエストがあるわけないし*2、それこそ道を歩いていたらいきなりバルファルクに襲撃されて吹っ飛んだ先にいたラージャンに思いっきり天に投げ飛ばされたかと思ったらアマツマガツチにさらに天高く持ち上げられて最後は落下しつつラヴィエンテに丸呑みにされるぐらいの超確率だぞ!?

 

取り出したゲネル・セルタス型外装2号に身を隠しつつ、女ハンターの様子を伺う。

アイルーがいる様子は…ないな。ガルクもいない。まぁオトモがいないからって安心できる要素なんてどこにもないんだけどな!

 

「ピギャアアア(見逃してくれたりって…しませんかねぇ?)」

 

「嫌よ、死になさい。」

 

モンハン語だから何を言ってるか正確には分からないが、なんとなくはわかる。

死ね、的なことを言われているのだろう。え、会話成立してるんだけど。

 

「ピギャアアア‼︎?(おい、絶対吾輩の言うこと理解してるよな、まさか竜人族!?)」

 

「あはははははははははは!」

 

女ハンターは、大声で笑いながら、大剣に似つかない速さで、まるで朧翔けでもしているかのような速さで吾輩の元へ迫る。

高速の抜刀からの縦切り、横殴り、そして放たれる溜め斬り。

思わず咄嗟に振るってしまった鉄骨の一撃は、宙を回るような回避─エア回避で踏みつけられ、そのまま強烈な叩きつけが吾輩の盾とぶつかり合う。

 

だめだこいつ話が通じない。

まさか、呑まれてしまったのか。傀異錬成もしくはギルクエの闇に呑まれて闇霊になってしまったとでも言うのか!?

 

ハンターの振るった大剣が、吾輩の盾を両断する。

 

お前は何スタイルなんだ、エリアルスタイルなら狩技は一個までの筈だろうが、そういやここ現実だからスタイルなんてあるわけ無いよなぁチクショウ!あ、お前大剣が兜割りを使うんじゃねえ!!付き合ってられるか!

 

吾輩は悟った。

奴が陣取っているのは洞窟の入り口。逃げる為に外に出るにはその横をすり抜けなければならない。これが外だったら空を駆けて一瞬で逃亡できたが、よりによって吾輩がいるのは屋内。覚悟を決めて、突撃するしかあるまい!

吾輩チェーンジ!ウラガンキンモード!体を丸めて、回転の推進力に加えて粘菌の爆発力を加えた超加速で振り切ってやるぞ!

 

あれ、簡単にすり抜けさせてくれた。いやぁ、流石のプロハンも吾輩の動きには面食らって…あ、不味い。

洞窟の入り口に向けて、ハンターが投げナイフを投擲する。瞬間、仕掛けられていたのか爆薬が起動して、そのまま入口を崩落させる。

 

「あは、これで私を殺さなくちゃ逃げられなくなっちゃったね、臆病な女王サマ?」

 

なんか煽られている気がする。

ハンターには手を出さないとか、ギルドに目をつけられる行動は控えるとか言ってらんねえだめだこれ少しでも出し惜しみしたら吾輩明日には加工屋さんに並んでいることになるぞ!

 

「ピィ…(うわぁ)」

 

どうして、吾輩何も悪いことしてないのに。別に生態系荒らしたり竜機兵作ったり狂竜症広めたりキュリアが寄生していたりしないのに…何故いきなり降ってきたプロハンに狩られりゃならんのだ…

逃げ場もない、姿も見られた、吾輩は平穏に生きたかっただけなのに。これはもう、覚悟を決めて狩人を狩るしかない!

 

古龍を超える迫力で迫り来るハンターの姿を見て、その考えは一瞬で消え失せた。

やっぱ無理ぃいいいい!そうだ、だったら動けなくさせて縛って会話できるような状態にして説得するんだ!オペレーション「吾輩悪いアトラル・カじゃないよ」である!いや、下手なことしないで気絶させてそのまま逃亡が正解か?ともかく、動きを封じないことには話が始まらない。なんとか麻痺らせるか眠らせるか拘束するか気絶させるか失神させるかして隙を作るぞ!

 

いけ、ナルガクルガ、ディノバルド、ブラキディオス、セルレギオス!君たちに決めた!

ついでに竜機装も展開し、ハンター人形を除いた吾輩の武装を展開する。

 

どうせ兵器に関しては原種だって使ってるし(撃龍槍)、モンスターの死体操るのだってオストガロアがいるから「あー、こいつオストガロアの生態模倣したんだろうなー」ぐらいにしか思われないだろう。いやこれでもギリギリを攻めてはいるがこうでもしないと生き残れねえ、吾輩史上最大のピンチ!これならまだクシャルダオラとデスマッチした方がマシだぞ!

しかも殺したら殺したで「どうしてプロハンが唯の採取クエで死亡した…?」ってなってもっと沢山プロハンが押しかけてくる様になるのは確実である。元人間だから人間を殺したくないってのも多少あるが、やはり殺すことによるデメリットが大きすぎる!

 

 

うっそだろナルガクルガが瞬殺された!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

 

うーん。臆病ですぐに逃亡するって言う情報があったから、屋内にいる可能性の高い大嵐の日を狙ったけど正解だったわね。

あらかじめアトラル・カが雨宿りに使いそうな洞窟の入り口全てに爆薬は仕掛けておいたから、無事一騎討ちの状態へ持ち込ませることができた。

 

あぁ、なんていい気分なのかしら。

しかも、意識してないだろうけど、この洞窟を選んでくれるなんて!

この奥へ進めば、円形のドーム状の広い空間がある。しかも、そこに出口はない。

 

私と貴女だけの、天然の闘技場!時間制限なんてものはない、どちらかが力尽きるまで無限に殺し合える!

 

私の背丈を優に超える大剣を振り回しながら迫り来る竜達の連撃をいなし、私の知るものより遥かに小さく、しかし遥かに硬い女王の玉座を抉り壊す。

 

目の前の彼女は、なんとなくだけど戦いに乗り気じゃない、寧ろ逃がして欲しそうにしているのは伝わってくる。知ったことか。お前も、大自然に生きる者ならいつか殺されるのは理解しているはずだ。

あぁ、勿論私を返り討ちにするのは大歓迎よ?

 

無理やり高威力な連携を繰り返し、女王を奥へ奥へと押し出す。

 

「ピギャアアアアアアアアアアア‼︎‼︎(頼むからこれで堕ちてくれえええええ!)」

 

火竜の翼を使った風圧に乗せて、ホロロホルルの鱗粉と、何かのモンスターの睡眠ガスが放たれる。

成る程、確かにこの閉鎖された空間でそれは最適解ね。でも、それは少し私を舐めすぎじゃないかしら?

 

鱗粉を吸い込み、前後左右がわからなくなる。

だったら、狂った感覚に合わせて動けばいい。ガスによる眠気は、自傷で覚ませばいい。それに、この呪われた鎧の呟きは、私に眠りを許さない。

遅れて放たれた高熱のガスは大剣を盾にして切り抜け、振り下ろされたライトニングブレードは横へのステップで避ける。

 

「ピギャアアア(取ったッ!)」

 

確実に必中コースだと思ったのだろう。アトラル・カから、歓喜の感情が伝わってくる。

ステップで避けた先に置かれるようにして迫るのは、臨界点に達した粘菌の付着した拳による一撃。

 

「うふ、あはは!残念だったわねぇええええ!」

 

足の筋肉を断裂させながらも、無理やり動かした体で、その軌道から逃れる。

『絶対回避』と呼ばれる狩技は、一瞬の激痛と引き換えに、私をまだ生きながらえさせる。

 

そのまま、大剣を軸に急制動を掛けて、その勢いで攻撃を放とうと溜めに入った瞬間、アトラル・カは今までの逃げの姿勢とはうって変わって急激にこちらへ接近してくる。

 

「ピギャアアア(それだけ得物がデカければ、吾輩に潜り込まれればやりにくいだろう!)」

 

そして、両の鉤爪が振り上げられ、胸に内蔵された三門の大砲が私にその砲身を向ける。

やっぱりそうくるのね!そうよ、私が初めにしたように、大きな武器は密着されれば取り回しにくい。でも、いつ私の獲物がこれだけだと言ったかしら?

 

腰に提げていた『龍星ネコ剣ニャール』と『レジェンドネコソード』を引き抜き、双剣のように構えて、突進。

鬼人化しつつ、目の前の存在を思いっきり踏みつける。

鬼人回天連斬が、女王の鎧を超え、その体に傷を刻む。呆けたような顔で呆然と佇むアトラル・カ目掛けて、地面に突き刺した大剣を再度引き抜き、そのまま突進。

真溜め斬りの衝撃が、洞窟を揺らす。

 

破壊された玉座から落とされた女王が、その瞳を怒りに染める。

 

「あぁ、怒り状態!漸く本気を見せてくれるのね!貴女は!」

 

地面に突き刺された糸。

それが地面から離されると同時に、死者が蘇ったかのように、ゆらりとハンターを模した人形が立ち上がる。

 

それらは意思を感じさせない無表情な連携で、私を刈り取らんと迫ってきた。

あぁ、楽しい。私の体が傷ついていくこの感覚が。きっと貴方たちも、そう願っているのでしょう?いつか私が地獄に落ちるまで、そこに待っているのでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

もうギルドにバレたって構わない。『今』生き残ることに全力を尽くそう。

そう思って、吾輩は覚悟を決めてハンター人形を使ったが…うっそだろ、いやどういうことだ?

 

目の前の女ハンター、妙に対人戦に慣れていやがる!

何故モンスターを狩るのが仕事の狩人が、人体の効率的な壊し方を心得ている。何故、複数に囲まれた時の切り抜け方を理解している!

お前マジで何なんだよぉ、勘弁してくれよ!

 

眠りも効かない、麻痺も効かない、混乱は気合で乗り切られる。

ミラボレアスという現象を超えたハンターは、こんなにも強いものなのか…!

 

 

 

 

 

 

 

*1
もうバレているのである

*2
バレているのである。














Tips:女ハンターは、別にミラボレアスの『狩猟』には成功してはいない。傷つけ、怒り狂った存在とも戦い、その戦いの末、満足そうに相手が去っていった。それだけである。
それ以降、彼女は大剣を使うようになり、ソロ専門の狩人になった。
かつては、その特徴的な美しい黒い髪に合わせて、なんかいい感じの二つ名で呼ばれていたかもしれない。
ちょうどXX主人公に当たる人物。




次回、黒龍(偽)vs黒龍(人)


感想、評価、誤字報告などありがとうございます!大変励みになっております。
大変申し訳ございません、感想へ全て目を通してはいるのですが、その全てへの返信は難しそうです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吾輩はアトラル・カである。ハンターとは怖い生き物である。

初投稿です


 

 

 

初め、その少女は英雄と呼ばれるにふさわしい証を持っていた。

元々狩猟を好む気質はあったが、それは目的ではなく問題解決の手段に過ぎなかった。人々を脅かす竜を狩り、時には国を滅ぼしかねない龍を狩り、多くの人々を救ってきたその姿は英雄と呼ぶに相応しかった。骸龍に喰らわれた人々の無念を晴らし、赤き災厄の彗星を墜とし、文明そのものを喰らう蠢く墟城を越えた。

その後も、多くの災害を、人々の声に応えるために狩り続けた。そしてある日、彼女は自身の所属する龍歴院ではなく、ハンターズギルド上層部から直々にある一つの依頼を受けた。

 

黒龍『ミラボレアス』の討伐。

彼女は、シュレイド城にて彼の現象と相対し、互いに少なくない傷を負いながらも、相手が撤退することで決着と相成った。

そして、傷つき、怒り狂った黒龍と、溶岩島にて再度相対した。

 

今でも鮮明に思い出せる。あの日の記憶は。

 

「待て、逃げるな…私を見ろ、ミラボレアス!」

 

全身が煤に塗れ、破裂した水膨れからは体液が流れ、全身を隈なく見ても傷の無い部位を見つけることが難しいほどに満身創痍になりながらも、目の前の紅く染まった黒龍を睨みつける。

砲身が歪み、弾を撃ち出すことも難しくなったヘビィボウガンを血が滲むほどの力で握りしめて、大地に倒れ伏した体を起こす。

 

そばに転がるのは、2つの家族だったものの残骸。

 

「───────────」

 

あぁ、何故私は壊れれば使えなくなるボウガンなどを使っているのだろうか。

これが刃なら、柄が折れ、刀身が砕けたとしても、その破片をあの体に突き立てることが出来たのに。

 

地面に転がった、人用の物ではない2本の武器を拾い、不慣れながらも双剣のように構えて、黒龍目掛けて突進する。

ああ、憎い憎い憎い憎い、目の前の存在が憎い。

 

抵抗虚しく、黒龍の尾が振るわれるだけで、死にかけの私の体は吹き飛ばされる。

 

「あは」

 

でも、あの子たちの怒りは通じた。

黒龍の尾。その先端が綺麗に切断され、そこから奴は夥しい量の出血を始める。出血はすぐに止まったが、黒龍の血が、私の全身を覆い尽くす。

でも、そこまでだった。

体が崩れ落ちる。私は睨む。睨みつける。

 

その顔は、どこまでも歪んでいて、醜悪で、まるで幽鬼のようなその表情に、英雄と呼ばれた面影はどこにもなかった。

 

「ま、て…」

 

意識が薄れてゆく。

黒龍は、芋虫の様に這いつくばりながらも、己に迫ろうとする私を見て、満足そうに鼻を鳴らした後、何処へと飛び去っていった。

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

かつて英雄と持て囃された少女は、ある存在と出会ってから変わってしまった。

黒龍を狩るために黒龍の鎧に身を包み、黒龍を狩るためにその剣を手に持った。常人では考えられない量のクエストを、オトモも連れずに一人でこなし、人が変わったかの様に、どこまでも苛烈に龍を刈り続けた。

 

彼の黒龍と相対したものは、皆揃えて戦いの内容を話そうとはしない。その場にいた痕跡すら残さずに消えるか、発狂の末に狂死するか。

黒龍と相対するだけの力を持つものでさえ、その呪いには耐えられない。何処からか感じる視線に、自らの体が黒龍そのものへと変わっていくかの様な感覚に、死ぬその時まで使用者を苛ませる悪夢に、常に黒龍に捕らえられていくかの様な感覚にその心を壊され、最後には亡者の様に変貌し、人として死に至る。

 

勿論、彼女はそんなこと知る由もない。黒龍を狩るには黒龍の力を使うしかない、そう思っただけ。それが失敗だった。

 

しかし、彼女はその強靭な精神力で、呪い相手に不完全ながらも抵抗してしまった。

黒龍、あの存在を殺すまでは何としても生き続けると。

 

『黒龍の討伐依頼』を以ってしても消すことができず、その後に狂い、何処までも強大な存在へと変貌して行くその少女に畏れを抱いたギルド上層部は暴走して、直接的な手段に出たこともあった。しかし、その悉くは失敗した。

ギルドナイトは、確かに人を殺すことに関してはあらゆるハンターを越えるだろう。しかし、その相手が人の皮を被った古龍だったとしたらどうだ。

間違いなく、彼女はこのままでは『ミラボレアス』と呼ばれる存在の一種へと成り果てるだろう。

そして、彼女自身もそれは何となく理解していただろう。ミラボレアスを殺す前に、自分は自我を失った厄災へ変わり果てると。

 

だから、無意識のうちに自分を殺す様な依頼を選ぶ様になっていた。

もう、自死することさえ思いつけなくなった自分を、誰かに殺して貰うために。大自然の多くを喰らってきた私を、大自然へ還す為に。

しかし、私の中の黒龍は、傷ついた体を動かして、無理矢理生き延びさせる。同胞の誕生を祝福するように。

 

だから、もう限界だった。

アトラル・カ。貴女しかもう私を殺せる相手はいない。

 

私が、気まぐれで取ったこの依頼。偶然の出会いに全てを託すだなんて、随分と愚かだけれども

 

私の刃が、守るべき人々に振るわれる前に

 

 

 

「私を、私を殺してご覧なさい!あはははははははははは!」

 

 

私を貫こうと繰り出されるランスの全てを切り飛ばし、返す一撃でボウガンを持った人形を、原型を残さず破壊する。

暴虐の嵐が吹き荒れる。

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

吾輩である。

突然襲来したプロハンに、理不尽にも消し飛ばされそうな吾輩である。

どうしてハンターがハンターを狩る術を持っているんでしょうね、ハンターを狩るハンターってそれモンスターハンターじゃなくてハンターハンターじゃねーかよ念能力でも使えるのかよ!

 

明らかに奥へ奥へ押し込まれているのは吾輩にもわかる。わかるからといってどうしようも無い、もう吾輩に手札は殆ど残ってないぞ!

 

「ピギャアアア(吹き飛べ!)」

 

横向きに放った隕石は、身を掠める様なギリギリの回避で避けられる。

ちくしょう、仮にも現実に生きる生物ならビビって多少は余裕を持って避ける筈だろう!

 

「ピギャアアアアアアアア(お前そろそろいい加減にしてくれよ吾輩死んじゃうって!!)」

 

中空に飛び上がったハンターは、そのまま体を捻ると月の軌跡を描く様にして大剣を振るう。

あっぶねえ盾の中にランスの盾仕込んでなきゃ即死だった。吾輩は一体何と戦わせられているんだ。一撃一撃が喰らったら痛いじゃ済まなそうな威力しているぞ!

 

だが、宙に飛び上がった今こそが好機!

 

横一文字に振るわれるライトニングブレードに、胴体からは計5門の大砲から粘菌の入った砲弾を放ち、上からは矢の様に降り注ぐ武器の雨。左右からは爆発的に冷気を拡散するハンマーと、ドボルベルクハンマーの挟み撃ち。加えて閃光玉と音爆弾、鱗粉にガスによる撹乱も合わせた今の吾輩に出来る最高の連携技だ!

 

……ハンターって怖いね。

流石にこの連撃だから何発かは直撃したよ。流石に一発で失神はさせれないとは吾輩わかっていたけど…まさか笑いながら受け切るとは想像してなかったぞ。追い詰められて笑う…まさか火事場ハンターなのか!?おいマジかよプロハンの中でもヤバい部類じゃねえかよ。

 

地を滑りながら迫る斬撃を回避する為に、吾輩は糸で思いっきり体を引っ張り後方へと跳ぶ。

長い洞窟の通路も、どうやら終着点へ着いてしまった様だ。

 

火竜が飛べてしまえそうなほどに広い大空洞。

溶岩の仄かな灯だけが、ぼんやりとこの天然の闘技場を浮かび上がらせる。

 

「うふふ、あはは!もう鬼ごっこは終わりよぉ!女王サマぁ!」

 

ぶんぶんと大剣を振り回して、マガイマガド人形とセルレギオス人形と激闘を繰り広げながら女ハンターは叫ぶ。

随分と吾輩を守ってくれた2体も、ここで役目を終えることになるのだろう。

 

 

 

…もう、やめだ。

 

 

吾輩は怒った。激おこである。

激昂状態といっても過言では無い。

 

 

吾輩の最終兵器。吾輩の誇る最強の()()()で構成された最強の鎧。最強の『竜機装(クロスドラゴンウェポン)』。

一生使うことが来ないだろうと考えてきたこれを、使う日が来るとは思っていなかったが…お前は、それに値する。

 

ほんの少しだけ、ワクワクする吾輩がいるのも事実だな。

だって、吾輩の積み上げてきた全ての集大成を、ぶつけることができるのだから。まぁそれ以上に死にたく無いのでさっさと倒れてくださいお願いしますこれ壊されたら今度こそ後がないんです。あとは炉心自爆生存チャレンジするしかなくなるんです。

 

糸に引っ張られ、地面から迫り上がってきたのは、鉄と肉、甲殻と鎧で構成された、通常の飛竜よりも巨大な1匹の機械龍。

知る者が見れば、間違いなく同じ感想を抱くであろう。

 

黒龍ミラボレアス。その紛い物だと。

 

龍の外装に女王が乗り込んだ瞬間、命が吹き込まれたかの様に胸に仕舞われた炉心が鼓動を始め、ギョロリ、と瞼に当たる部分が開く。

ぶぉおおおおおおんと、錆びたラッパを鳴らしたかの様な音が鳴り響く。

 

 

「あは、あはははは!ミラボレアス、貴女はこんなところにいたのね!あは、あははははははは!」

 

焦点の定まらなくなった目で、女ハンターは吾輩のことを睨みつけてくる。

ドラゴン装備を身につけているのだから、勿論これの存在は知っているのだろう。だがなぁ…吾輩のこの兵器を、ミラボレアスと全く同じモノだと見ると、痛い目見るぞ?

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

黒き翼を広げ、地面スレスレを滑空しつつ、ハンターの体に噛み付く。

腕を握り潰し、火薬岩へ叩きつけようとした瞬間、身を翻したハンターに拘束から抜け出され、お返しの斬撃を喰らう。

 

だが、吾輩は無傷である。仮にも黒龍を再現しようとした兵器。紛い物とはいえ、そう簡単に打ち破れると思うなよ!

口から吐き出された、大砲以上の速さの火炎を纏った岩石が連続で着弾すると、連鎖的に爆発が発生する。

爆風に揺られながらも倒れることだけは避けたハンター目掛けて、追加の火炎のブレスを放ち、同時にセルレギオスの刃鱗や、バゼルギウスの爆鱗で強化された大木の如き尾の薙ぎ払いをお見舞いする。

 

最初から、最初からこうすればよかったのだ!強靭、無敵、最強!

他の外装なら、こんな風にプロハンと正面切って殴り合うことなんてできやしない!

みろ、あのプロハンが手も足も出て…無いわけないわ、なんなら動きの勢いも上がってるぞこれ!翔蟲ないのに翔蟲アクション見たいなことしてるんじゃねーよ、クラッチクロー無いのに鎧の装飾で無理矢理傷つけるんじゃ無いよ、お前本当に人間かよ!

 

バルファルクも斯くやといった速度での突進に合わせて蹴りを放ち、そのまま空間の天井にハンターを叩きつける。

普通ならそのまま落下して気絶でもするのだろうが、目の前のこいつは違う。

 

どんな攻撃で吹き飛ばそうと最短距離で復帰して、再度攻撃を繰り返す。

上へ弾こうと、回転をかけようと、炎で炙ろうと、臆することなく突撃を繰り返す。

 

これでは、この鎧もいつかは砕けるな…だが、そんなことは折り込み済み。

次、吾輩の正面にハンターが降り立った瞬間、最後の勝負に打って出る。それが吾輩の生存を賭けた、一世一代の大博打だ!

 

翼でハンターを横へ吹き飛ばし、尻尾を叩きつけ、徐々に、徐々にその軌道を誘導する。

そして、切り結んで幾百合。

いい知らせと悪い知らせがある。いい知らせは、遂に、ハンターを吾輩の正面に捉えたこと。そして悪い知らせは──そのハンターが、獣宿しをしつつ、武技を放つ寸前であるということ。

 

 

「砕ケ散レ!!!」

 

ファーストコンタクトと同じ、獣宿しを併用した地衝斬。しかし、その威力は初めのモノの数倍を優に超える。

 

「ピギャアアアアアアアアアアアア‼︎(耐えきれ、吾輩の翼あああああああ!)」

 

盾の様に広げた翼と、その前に展開した盾とが、ハンターの放った、本日最大の一撃とぶつかり合う。

その衝撃は、黒龍を模した翼を端から徐々に削り取る。金属と金属の擦れ合う嫌な音が響く。バキバキと何かが折れる音がする。

翼が根本から完全に消失する。それと同時に、衝撃の進行も止まる。

 

「ピギャアアアアアアアア‼︎(捉えたぞ、ハンター!)」

 

炉心が輝く胸が開く。

その中に鎮座していたのは、金属製のリオレウスの頭を模した彫像。

その兵器の名は『滅龍砲』。

これは、散歩中に吾輩が見つけた、まるでラオシャンロンが散歩をしたかの様な荒れ具合の森林跡地の、巨大な足跡の横に落ちていた超兵器。火竜の延髄がふんだんに使われているらしいそれは、吾輩の改造により僅かだが小型化、そして強化が施されている。

鉄の火竜の口から、火に耐性を持つ飛竜さえ一撃で火だるまにする人類が作り上げた至高の一撃が放たれる。

 

──あくまで吾輩の切り札は、黒龍外装という『兵器群』。この肉体だけが切り札だとでも思ったか!

 

圧縮された大火球は、絶対回避の力でギリギリ回避される。

瞬間、着弾。石を一瞬で融解させる威力の豪炎が、産声を上げる。遅れて到達した風圧が、無理矢理回避したハンターの体制をさらに崩す。

 

「ピギャアアア!(システム起動──『劫火』ッ!!)」

 

あくまで滅龍砲はサブ。

本命は、吾輩の火力の全てを注ぎ込んだ、世界を焼き尽くすとされる黒龍の息吹を再現した超常の火炎。

翼を壊され空に飛び上がるのは無理なので、金の糸に吊り下げられるというなんとも間抜けな絵面ではあるが、吾輩は宙に浮かび上がる。

点火。そして解放。

体制を崩したハンター目掛けて、追い討ちの劫火が放たれる。

 

地面が、大気が、空間を構成する岩石そのものが発火する程の灼熱。

ここにはお前を守る防護壁なんて無いぞ!さぁ、そのまま死んでしま…いや殺したら不味いんだった!

 

一度発動した劫火は止められない。

数秒間に渡る超高熱のブレスが終わると、そこには大地に倒れ伏し、動かないハンターの姿が。

 

「ピギャアアア(あれこれ吾輩やったか、殺ったか!?)」

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

動かない、心臓ももう動いていない。はずなのに。

どくん、外部にも聞こえる程の音で、目の前の彼女の心臓が鼓動する。

 

どくん。黒い命が脈動する。

黒い焔を纏って、彼女は立ち上がる。それは、『最期ノ閃黒』。黒龍の力が、無理やり彼女の体を蘇らせる。ミラボレアスが、「殺せ」と頭の中で呟き続ける。

怨念を秘めた大剣を構えた彼女は、一言も発することなく、ただただ全身全霊を込めて大剣を振り下ろす。

 

 

 

それを迎撃するのは、粘菌と鬼火、そして僅かだが採取できたテオ・テスカトルの粉塵と、劫火の残り火を束ねた撃龍槍。

 

 

大剣の切先と、回転しながら迫る撃龍槍がぶつかり合う。

瞬間、刀身にヒビが入る。そのヒビは徐々に拡大し始め、次にその刀身は硝子の様に砕け散り、その勢いは鎧まで波及すると、最後には全身を覆っていた黒龍の鎧、そのものが完全に砕け散る。

 

 

頭の中の靄が晴れる。

彼女を蝕み続けていた、黒龍の呟き声が消える。

 

 

呟き声が聞こえた。

 

「ありがとう。」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吾輩である。

さて。

 

 

 

 

 

目の前で失神してるハンターはどうするべきなんだろうかっ…………!一時のテンションに任せて生き残ったはいいけど後処理がっ!

 

 

 

 

 

 

 

 









アトラル・カくんちゃんは、四天王bgmのアレンジから始まり、無限の勇気を持ちてが流れて、最後のXX仕様の英雄の証が流れるタイプのボスだけど大体一曲目の途中で逃げられるからクソモンスの部類だね。

Tips:ちなみに王女さまの依頼が通ったのは9割白い衣を着た誰かさんの所為。

感想、評価、誤字報告などありがとうございます、大変励みになっております。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吾輩はアトラル・カである。──生存のプロフェッショナル、大自然の流儀──



初投稿です。投稿が遅れて申し訳ございません




 

 

 

 

 

 

 

 

白龍は、自分が観察していた少女が黒龍の呪いから解放されたことを知覚する。

アレが我々と同族になるのもいいが、しかしそれは少しつまらない。だから、たまたま目に入った彼女を打ち破りうる存在と彼女をぶつけてみた。

もしも呪いから解放されるのならそれはそれで良い。仮に解放されず、そのまま飲まれたのならば、黒いのに奪われる前に私のモノにすればいい。

 

ミラボレアスと呼ばれる存在の中でも、白い体毛を持った存在が、人類の手が未だ及ばない秘境の中で微睡む。

時間と空間を超え、あらゆる時代、あらゆる場所に望むように降臨できる、古龍の領域さえ逸脱したその存在。その中でも観る者全てに『全ての龍の祖』であるという印象を抱かせる白龍。

 

──ああ、彼女は解放されたのか。

 

──そしてあの存在…生きにくそうね。別に、彼の逆鱗に触れる様な、竜を虐殺する様な禁はまだ犯していない。でも…よりによってあの兵器を連想させるもので彼の姿を再現するなんて、ね。まぁ、私には関係のないことだけど。竜が死のうが人が死のうが、星が滅ぼうが極論私には関係ない。

 

彼の存在に関する文献は恐ろしいほどに少ない。

あの黒龍でさえ、竜大戦時代のごく僅かな文献や、旧シュレイド王国での一件など大規模に人類と関わった痕跡は残っているのだ。

しかし、白龍にはそれがない。竜大戦や、それよりも前の時代まで遡っても、その存在は殆ど登場しない。既に失われた竜人族の詩や、滅んだ王城で見つかった書物で語られる『祖なる存在の到来』という単語や、皆既日食に纏わる逸話でその存在は示唆されるのみ。人類の前に直接姿を晒した例は殆どない。極一部の選ばれたハンターの前に現れ、気まぐれに試練を与えてくるだとか、昔、ある竜人族の少女が連れ去られただとか、殆ど与太話の様な噂しか残っていないのだ。

 

白龍は、自分が興味を持った存在にしか干渉しない。

遥か太古、千を超え、万を超える年より出で、この星で生まれたかさえも定かではない。この時空で生まれたかさえも定かではないことが近年の研究でわかってきたミラボレアスという現象、その一体。その中でも最も古き存在である彼女が、どうして自然などという細事に興味を抱こうか!何故文明の興亡などという細事に興味を抱こうか!人間の尺度で彼女を語ろうなど、烏滸がましい!

 

彼女が行う思考の内容でさえ、それが真なのかは解らない。

彼女がそこに存在している、それ自体も真なのかは解らない。

 

それこそが祖龍。人に、『ミラルーツ』や、『ミラアンセス』と呼ばれる存在なのだ!

 

──あの子、なんなんでしょうね。でも、面白いから、退屈を紛らわせてくれそうだし、まぁいいか。

 

………あまりにも神聖で不可侵な様に感じる彼女だが、その実、何も考えていないだけなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

 

吾輩である。

さーて、目の前のこいつはどうするべきなんだろうか。ネコタクも来ないし。

 

多分ミラボレアスを越えた経験があるであろう人外ハンター。劫火喰らって生きてた時は流石に死を覚悟したぞ吾輩。撃龍槍も一本消し飛んだし。まぁ黒龍素材が手に入ったと思えば収支はプラスであろうか?とりあえず金糸でぐるぐる巻にした上からネルスキュラの糸でさらに雁字搦めにしてはいるが、目覚めた瞬間糸を引きちぎって脱走しても吾輩は驚かないぞ。

 

本当にどうするべきなんだろうか。

仮に目の前の相手を殺したとしよう。勿論『最低でも黒龍と相対する資格を持っている実力者』のハンターが唐突に消えたことは一瞬でハンターズギルド上層部に伝わるであろう。そして吾輩のことも芋づる式にバレる。そして『なんだこいつ人類の脅威すぎるだろ、いけ!歴代主人公ハンターズ!こいつ解体してこい!』ってやられてゴール武器持った四人組とか機動力が屈強すぎるカムラの猛き炎&盟勇とかがやってくるのが目に見えている。そして吾輩は死ぬ。

 

じゃあ放置して逃げたとしよう。

それでもやはり吾輩は危険な存在だとしてギルドに伝わるだろう。なんなら装備を整えて目の前のハンターが復讐に来るかもしれない。というか100%来る。このハンターの目つきは間違いなく戦闘狂とかTA勢とか1ヶ月以上繰り返される周回作業で意識が遺群嶺のその上まで行ってしまった人のソレだった。ここで何もせずに放置したら「絶対に許さんぞ虫ケラ!」とか言って一生追いかけ回されること間違いなしだ。そして吾輩は死ぬ。

 

殺してもダメ、逃げてもダメ、吾輩は詰んでいるのか!?吾輩はおしまい!

しかし、まだ、まだ第三の選択肢が残っている!説得ロールに成功すればいいのだ!なんとかして、吾輩が危険ではないことを証明する。これに成功すれば吾輩の安全は保たれるし、なんなら強いハンターとのコネという最強のカードまで手に入る。なんならハンターを通じて人間社会でしか手に入らない物品も手に入るかもしれない。抗竜石とか抗竜石とか抗竜石とか。説得に成功すれば、一石ニガーグァ、いや一石三ガーグァなのである。

そもそも目の前のハンターに言葉が通じなくて説得ができない可能性もある。しかし、吾輩は聞き逃さなかったぞ。戦闘中、何度か会話が成立していたタイミングがあった。恐らく、彼女も吾輩と同じく相手の言っていることがなんとなくわかるタイプなのであろう。

会話は成立しても見逃してはくれなかったけどな!あれ、やっぱりこれ詰んでね?

………目の前の彼女が、戦闘の時だけ人格が変わるタイプでいつもはまともであることを願おう。

 

 

まぁこれ以上うだうだ考えていても仕方がない。吾輩が生き残るための仕込みを始めよう。

とりあえず鍋を用意して、火を付けて、と。吾輩の最終兵器、料理の出番である。鍋料理である。

料理を通じて吾輩は過去に野良アイルーと交流することができた。なら、それを人間に応用することも出来るだろう。それに、『人語を理解して、人の様な営みをし、それでいて人類に害意がない』存在をまともな精神を持った人間が狩れるだろうか?いやまぁ目の前の相手はまともじゃない側かもしれんが。

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

む。そろそろ起きそうであるな。

冷静に考えると少しでも印象を良くするために縛りは解いた方がいいな。流石に武器のない人間には瞬殺はされない…と思う。

 

ちょうど料理も出来上がったタイミングである。ちなみにタイクンザムザの甲羅で蟹の出汁を取ろうとしたら死にかけた。吾輩は雷弱点なんだ…!結果、蟹とコナマキダケの出汁のしみ込んだ美味しい鍋の出来上がりである。え?ドスファンゴの肉が獣臭いって?臭い消しとかどうやればいいんだよとりあえず塩につけて放置してダンスパイスぶっかけてはいるけどちゃんとは消えないぞ。吾輩虫だし内容にはそんなに期待するなよ。

 

………起きそうなのに起きない。

ダメだ、我慢できない。先に食ってしまおうか。いやこれ振る舞う用なんだけども、それはそうと吾輩の分も作ってあるし先に食べても……

 

あ、目があった。

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

 

長い夢を見ていた気がする。

そして、目が覚めたら目の前に料理らしき何かを食べようとしている虫がいた。

 

 

「アトラル・カ…?」

 

私は負けた。なら、死んでいないとおかしい。

ひょっとして、私は今から料理されるのだろうか。人間の行動を模倣しているという情報のある特殊個体だ。それもありうる。

 

口の中に、挽肉の塊の様な何かを放り込もうとした体勢で、アトラル・カは固まっている。

それは、気まずそうに自分の椀の様な何かを地面に置くと、糸でできた腕でもう一つの椀に汁を注ぐと、私に渡してくる。

 

「ピギャアアアア(食え)」

 

ほかほかとした湯気のでているそれを、恐る恐る受け取る。多分、食べろ、と言っているのだろう。

あぁ、アイルーの料理長の作るそれと比べれば随分と原始的なモノだが、間違いなくこれは料理だ。

 

夢でも見ているみたい。

私の知っている、威厳に溢れた女王の姿とは余りにも違う姿に、可笑しくって笑いが込み上げてくる。そういえば、自分の意思で笑ったのはいつぶりだろうか。常に聞こえていた、黒龍の声が全く聞こえない。黒龍の存在が何も感じられない。そうか。意識してやった訳ではないんだろうけど、目の前の存在が、私を解放したのか。

 

何も言い出さない蟷螂を横目に見ながら、汁を啜る。毒が入っている、なんてことは無いだろう。殺す気ならあの鎌でスパッと首を断ち切れば一瞬で終わる。

 

彼女は、一体何なんだろう。

知りたい。どうして私を殺さなかったのだろう。何故、人間の真似事をしようと思ったのだろう。

 

「ピギャアアアア(いや、だって人間怖いじゃん。吾輩は人間とは戦う気はないぞ)」

 

人間に対する恐怖心、かな?あとは敵意は無いと伝えようとしているのだろう。

 

今まで出会ったどんな竜よりも、それこそ古龍よりも自意識がはっきりとしている。

間違いなく、目の前の存在は人知の及ばない存在、禁忌に並び立つ存在なのだろう。貴女も、黒龍の力を真似たということはアレに一度は出会って生き残っている訳だし、そんじょそこらの竜とは格が違うのは分かっていたが。

それなのに、目の前の存在が、自分よりも強い存在に怯える幼児の様に思えてしまう。

 

…所詮、一度は捨てた命だ。人間社会にも愛想が尽きた。元より、黒龍の次は彼らのつもりだったんだ。今はその気は失せたが、別に義理立てする必要も無いだろう。

 

「ピギャアアアア(だから、頼むからギルドには吾輩の存在は言わないでくれよ!な、な!吾輩は悪いアトラル・カじゃ無いよ!)」

 

「あはは!分かってる、分かってるわよ!勿論言わない。まぁもうギルドは貴女のこと知っているから無駄かもしれないけど。」

 

ピシっ、と。アトラル・カの動きが止まった。

 

──ああ、彼女。ギルドに気づかれていることに気づいていなかったのね………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

「お互い、生きていたらまたどこかで」

 

「ピギャアアアア(人間社会に居られなくなったら、まぁ会いにくれば飯ぐらいは出してやるからなー)」

 

吾輩の渡した最低限の性能は持った発掘装備に身を包んだ女ハンター、いや師匠が手を振りながら吾輩の元を去る。

2週間前の激闘が嘘の様だ。昨日の敵は今日の友というが、真面目に戦っていた時の彼女と今の彼女は別人なのでは無いだろうか。

 

 

最終的に、説得には成功した。どうやらかなりのプラス補正がかかっていたらしい。何でも吾輩は恩人だそうだ。理由は分からん。

 

後、衝撃の事実が発覚した。

吾輩の存在はとうの昔に人間にバレていた様である。嘘だろおい、勘弁してくれよ。なんなら初等的な調合や料理をすること、ハンター人形を使うこともバレているらしい。最終兵器と秘薬レベルの調合のことがバレていないだけマシか…?いやもう終わりだよ吾輩。

でも、でもだ。目の前の彼女が!吾輩は危険な存在じゃ無いと他のハンターにも広めてくれると約束してくれたのだ!上層部相手は仲が悪いから難しいそうだが。まぁ、現場と上層部の仲が悪いのは良くあることだし……

 

人間に既にバレているとわかれば、吾輩の今後の動きも変わってくる。

これからは積極的に死にかけているハンターがいれば粉塵をぶっかけ、モンスターに襲われている商人がいれば助け、人類の味方アピールをすればいいのである。吾輩は悪いアトラル・カじゃ無いよ、とわかれば早々狩られることも無くなるだろう。

 

さらに衝撃の事実が発覚した。彼女のメイン武器は大剣ではなくヘビィボウガンであること、その上黒龍の討伐には失敗しているということだ。

二つ言わせてくれ。あの化け物じみた動きで全力じゃなかったのかよ。そして、あれ以上に強い状態でも黒龍には勝てないのかよ。ミラボレアス怖っ。シュレイドには近寄らんどこ…

 

 

うぅむ。ひょっとすると最初に出会ったハンターが、吾輩の言っていることを理解できる師匠だったのは幸運だったのか?殺されかけたけど。

 

え、何故吾輩が彼女のことを師匠と呼んでいるかって?簡単なことである。彼女は吾輩の、『狩技』の師匠なのである。

説得に成功した後、じゃあ吾輩が危険じゃ無いことを伝えるために早く街へ帰ろうということになった。

ここで問題が発生した。どうやらあの戦闘の動きはハンター的にも少し無茶があった様で、あとはよくわからんが今までの反動が襲ってきたとかで全身の骨が砕け散って、内臓も殆どイカれてるとかで暫くうごけないらしいのである。ちなみに全治2週間。どうして内臓が崩壊しているのに2週間で治るんですか!?

 

その間、特にすることもないらしいのでダメ元で狩技を教えてくれないか、と頼んだら快諾してくれたのである。

狩人の秘技的なモノをそう簡単に教えていいのだろうか、とか色々言いたいことはあったが師匠がいいって言ったってことはいいのだろう。

 

まぁ、時間もなかったし三つしか習得はできなかったのだが。

『不死鳥の息吹』『エスケープランナー』『覚蟲強化(自分)』である。こいつ生き残ることしか考えてねーな。

『覚蟲強化』は本来なら操虫棍の猟虫と共生関係にある蟲を呼び寄せ、猟虫を強化する技であるが、吾輩が使った場合は普通に吾輩自身が強化される。使うとどっと疲れるが、それは強走薬を飲めば問題ない。

この中でも、個人的には『不死鳥の息吹』が最強技である。吾輩は、ついに!狂竜症の恐怖から真の意味で解放されたのだ!これがあればシャガルマガラに苗床にされる心配が無くなる!

『エスケープランナー』は、単に習得難易度が吾輩にとっては一番低かったから習得したが、卵を運ぶシチュエーションがない吾輩にとってはただのちょっと強い強走薬グレートである。

 

 

どうやら天はまだ吾輩を見放してはいない様だな!

大自然と人類を同時に相手しなきゃいけなくなりかけたときはどうしようかと思ったが、割と上手くいきそうである!がっはっは!

 

 

 

その夜、吾輩はひさしぶりに夢を見た。

枕元に置いていた黒龍素材から半透明のミラボレアスが出てくる夢である。

それは、吾輩に襲い掛かろうとした瞬間、猛り爆ぜるブラキディオスにぐちゃぐちゃにされていた。うわぁ、グロい。

 

 

 

 

 

 

 

「ピギャアアアア(なんか、滅茶苦茶変な夢を見たぞ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






2匹のアイルーの墓の前には、久しぶりに花が添えられてたという。





感想、評価、誤字報告などありがとうございます!大変感謝しています
今回は短めで申し訳ございません。言い訳がましいのですが、少々体調を崩しておりました。
アンケートを追加しました。これはまぁアトラル・カくんちゃんの未来になるかもしれません。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吾輩はアトラル・カ。恐れ見よ、赤き災厄の彗星を。奇しき金星の女王を 

初投稿です

今回も後編へ続きます


恐れ聞け。星の歌は、命の灯火すら沈める。

金属が擦れ合う様な独特な音を響かせながら、紅い星が大空を翔ける。

 

彼の存在から逃れられる者はいない。全ての存在は、等しく灰塵と帰す。それは人であれ竜であれ例外はない。

地平を砂が埋め尽くす灼熱の大地。そこに飛来するは、銀翼の凶星。

 

その存在にいち早く気づいた古龍観測隊によれば、その龍の体には、癒えかかってはいるが、傷の様なものが多く見られたそうだ。

その胸には塞がりつつあるも穴が空いており、よく見ると全身には微細な傷が刻まれ、龍気というバルファルクにとって最も重要な要素を生成する胸部には抉れた様な跡がある。

観測隊の知るところでは無いが、彼はある存在と戦い、そして互いに致命傷に近い傷を負った。その時に負った傷の所為で龍気の生成機関が歪んでしまった彼は、足りないエネルギーを他から補う必要があった。

 

その為に彼は砂原へ降り立った。手始めにティガレックスを捕食した彼は、その後も傷を癒す為に多くの竜を喰らった。その場所の生態系を変えてしまいかねない程に。

その結果本来死ぬはずだった彼の龍は生存した。死の運命を乗り越えてしまった彼の力は、もはや手の施しようが無いほどに強大なものとなりつつあった。一度壊され再生した胸部はかつて無いほどに肥大化し、その翼脚はこれまで以上に鋭く、そして練り上げられた龍気は今まで以上に濃く、強く、赫い物へと変貌していた。

 

 

恐れ見よ。凍て星を貫く無情の瞬突を。

天彗龍『バルファルク』は目の前の石の鎧を纏った女王へ、龍気を纏った翼脚を槍の様に突き刺す。

 

──これも流すか。これも避けるか。

 

女王は、その盾を砕かれながらも突き刺しを流し、お返しとばかりに大量に構えられたボウガンからの弾幕射撃を行う。

龍の体からすればあまりにもちっぽけな弾丸は、そのメタリックな装甲に弾かれる。大剣を構えた二体の人形の振り下ろしを弾き飛ばし、胸部を狙い放たれた剛射を弾き飛ばす。どうして戦闘機を地を這う歩兵風情が堕とせるだろうか?

 

バゼルギウスの爆鱗が貼り付けられたドボルベルクの投擲をクロスした翼脚で受け止め、爆発をものともせずそのまま女王へ投げ返す。

それを器用に糸で受け止めた彼女は、視界を真っ白に染め上げるほどの雷を纏った剣を振り下ろす。

 

バルファルクという生物は、その全身に龍気を纏うことで一切の属性攻撃を防ぐことが出来る。そして、彼の持つ龍気の量は通常のそれを大きく逸脱する。

赫い衣を纏っていると見紛うほどの膨大な龍気は、体内に流れるはずだった電気を全て散らす。

 

餌の補給のために、大地を這っていた蟲を喰らうだけのつもりだった。

だから、予想外の抵抗をされた時点でさっさと次に移るべきなのだろう。しかし、彼はそれをしない。

 

龍気を最大限充填する。紅いスパークを放つ翼脚を正面に構え、その照準を女王へ向けた。

龍気を束ねた光線が放たれる。その光は地面を抉り、浅くない渓谷を大地に作る。

 

間髪入れずにもう一発、さらに三発目。硬直なく放たれた三連続の極太の光線は、しかし女王には届かなかった。

 

──なるほど。

 

一発目を糸を使ってなんとか回避した彼女は、二撃目を鎧とドボルベルクを盾にして防ぎ、次いだ三撃目は粘菌による大爆発により減衰させ、さらに爆発で作った塹壕の中に隠れることでやり過ごした。

 

この瞬間、バルファルクは目の前の存在を『餌』ではなく『敵』として認識した。

この場所に来てから、全ての存在は、一撃か二撃喰らわせれば戦意を喪失し、そのまま喰われるのみだった。しかし、目の前の黄金の女王は違う。

十を超える刺突を喰らい、百に迫る龍気の放出を喰らってもなおその眼は生きる意思を失ってはいない。

 

そうだ。目の前の女王は、かつて戦い、深い傷を負わせ、そして負わされたあの全身がトゲトゲした古龍(同類)と同じ全身全霊を以って潰すべき敵だ。

 

目の前の存在を敵だと認識したバルファルクのギアが、数段上のものへと変わる。

例え龍でない存在が相手でも、(モス)の様に餌としてただ消費されるのではなく、勇敢に立ち向かってくるのであれば全身全霊を以ってそれを叩き潰す。それが礼儀であり、古龍としての矜持。

 

彼がそこまで考えていたかはわからない。しかし、間違いなく気配が変わったのは事実。

女王も、天彗龍自身も同じことを思っただろう。

 

『ここからが、本当の戦いの始まりだ。』と。

一際膨大な龍気の放出と共に、凶星は天へと駆け上がる。そして、流星の如く大地を穿った───

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

吾輩である。

ついにハンター達から捕捉されてしまった吾輩である。いや、実はかなり前から捕捉されていたんだったか。

そんな訳で、もう振り切れた吾輩は、ピンチに陥ってる人間を見つけたら救助して印象をあげようと決意した訳なのだが…

 

まず第一に殆ど人間と出会わないのである。いやまぁ密猟者とは出会うけど、商人とか新米ハンターとは滅多に出会わない。それもそうか。師匠に言われるまで人間に気づかれていることにすら気づかないレベルで人間とは出会ってこなかったのだ、今更急に出会う様になる訳もない。冷静に考えるとこの広大な大自然の中でドスランポスより小さい人間と出会う方が無理があるのである。

密猟者とは出会うがな。後は吾輩が手助けするまでもない実力者のハンターとも一度出会った。怒り喰らうイビルジョーが瞬く間に解体されていく姿にははっきり言って恐怖を感じたぞ。

 

そんな一般人が古龍並みに希少な環境の中で、仮に出会ったとしてもさらなる問題がある。

仮にリオレウスに襲われている商人がいたとしよう。そこに吾輩が割って入ったとする。次の瞬間にはこれ幸いと商人は逃げ出しているぞ。もしくは護衛のハンターと三つ巴の戦いになる可能性もある。

仮に乱入してきたラージャンに襲われている初心者ハンターがいたとしよう。そこに吾輩が割って入って、そしてラージャンを倒したとする。次の瞬間には号泣しながら命乞いをするハンターか目の前にいるか、全てを投げ出してモドリ玉を使って逃亡しているかに分かれる。

号泣したハンターを宥めようと近づけばさらに事態は悪化する。酷い時にはそのまま失神する。

 

師匠に慣れきっていて忘れていたが、そういえば吾輩の言葉は普通人間には通じないんだ、ちくしょうめ!

結局友好的な関係を結べたのは大体中級者ぐらいの雰囲気があるハンターだけである。粉塵の力は偉大だ。

でも多分今頃ギルドでは『怪異!密林の黄金の化け物蟷螂!』とか言われてるんだろうな…もう二度とあの密林に立ち寄れなくなったのである。

 

しかも、泣きっ面にクイーンランゴスタ。これやっちまったなぁと肩を落としながら歩いていたらネロミェールがダイナミックエントリーしてきた。お前新大陸以外にも生息してたのかよぉ!よりによって雷+水とかいう吾輩特攻属性持ちな古龍である。本当に勘弁してくださいお願いします。

偶然その時は、吾輩に新しい狩技を教えるために師匠がいたから代わりに撃退してくれたが、吾輩だけだったら全力で逃げることになってたぞ。あまりにも相性が悪すぎるし戦ったところでメリットがねえ!

まぁそんな古龍を軽く撃退する師匠も師匠なのだが。

 

 

師匠には、毎回別れる前に次行く方角と地域だけは教えておいて、何かのクエストがてら怪しまれない程度に密会しているのである。ある程度近くまでくれば後は互いに認識している状態だから千里眼の薬で落ち合える。現実世界だからか、普通に日にちを跨ぐクエストも多い様で助かった。そうでなければ毎回数時間しか時間も確保できなかったであろうし、碌に狩技の習得もできなかっただろう。

お陰で新たに二つ、それも吾輩にとっては切り札級の狩技を習得できた。使う機会が来ないことに越したことはないがな。ちなみに言語の習得は無理そうである。一生師匠以外の人間と対話できないじゃないか!

 

そんな吾輩だが、今は砂漠っぽいところに来ている。

そして、2日前に師匠と別れたことを早くも後悔し始めている。

 

目の前に落ちているのは、全身を爆撃されたかの様な荒れ具合の、『ティガレックス』の死体。しかもちゃんと捕食された跡がある。

周りにもそこそこの深さのクレーターが出来上がっている。

 

この感じはバゼルギウスか。しかも紅蓮滾ってるだろコレ。

古龍級生物の強化個体とか、吾輩戦いたくないよ。だって死んじゃうじゃん。いや、まぁ?でも?吾輩臨界ブラキに勝ってるし?怒りジョーにも激昂ラージャンにも一勝はしてるし?紅蓮バゼルにも勝てるんじゃないか?

…すっごい地面揺れてる。探知範囲外なのに明らかに誰のものかわかる爆発が伝わってくるぞ。

 

 

ま、まぁ周囲に気配はないし要らぬ戦いになる前にここを去るのが吉………だったんだろうけどもう手遅れだな。

地平線の向こうに見えるあれ絶対紅蓮バゼルだよ。しかも絨毯爆撃しながら迫ってくるよ。いや一騎で絨毯爆撃って謎だけどそうとしか形容できないのである。荒ぶってるなぁ。退避、退避ーーーーっ!

 

いや待て。なんかもう一体いるぞ。バゼルギウス以上に強烈な気配を放つ何かが。

戦っている、のか?地平の向こうに、赤く輝く何かが見える気がする。まだ遠くてよくわからない。断続的な爆発音と、それに伴う振動が吾輩の足元を揺らす。

 

不吉な予感がするぞ。というか遠ざかる様に移動しているはずなのに吸い込まれる様にこっち来てないか!?ホーミング爆撃機とかどんな冗談だよ!

数瞬前までは地平の向こうに見えていた爆鱗竜が、今や目と鼻の先だ。

 

紅蓮滾るバゼルギウスが何と戦っていたのかが分かった。考えうる限り最悪の事態である。

それは、銀の翼を持ち、全身から赤い龍気を迸らせる、文明の終わりを告げる災厄の龍。

 

バルファルクじゃねえか。バルファルクじゃねえか!?

爆撃機に続いて今度は戦闘機かよふざけるな。命がいくつあっても足りないのである!

バゼルギウス、頼むから吾輩が探知範囲外まで逃亡するまで粘ってくれよ、吾輩死んじゃう!

 

雨霰の様に降り注ぐ爆鱗をものともせずバルファルクはバゼルギウスに接近すると、すれ違い状に翼脚による刺突をお見舞いし、そのままUターンし今度はその顎を蹴り上げる。

その衝撃で僅かに怯み、バゼルギウスは減速してしまった。それが命運を分けた。

金属が擦れ合うような音と共にその赤は加速すると、爆鱗竜に衝突。そのまま衝突されたバゼルギウスは1キロは先にいた吾輩の隣の地面に叩きつけられ、物言わぬ肉塊と成り果てる。

 

まじか。どんな馬鹿力だよ。というか一瞬で追いつかれたよちくしょう。散歩してたらいきなり音速超えで飛行する古龍とエンゲージするとかどんな奇跡だよ、本当に勘弁してくれ!

 

砂埃が中に巻き上がる。

その砂の窓帷越しに、見下ろす様な冷たい視線が吾輩の体を射抜く。

 

 

 

 

 

 

 

あー、これ吾輩死んだな、うん。

 

 

 

音速以上の速さで飛ぶやつからは流石に逃げられないが!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ピギャアアアアアア(どうせ効かないんだろうけどさぁ!)」

 

爆発性の粘菌を纏った剣尾を燼滅刃の如く振り払い、天眼の如き蒼炎を纏った泡を斬撃の軌跡に残す。

それらは拡散された炎と接触すると同時に連鎖爆発を起こし、膨大な火と水のエネルギーを解放する。そのまま間髪入れず横一文字に青電の大剣を振るい、天からは銀嶺と見紛うほどの大きさの大氷塊が唸りを上げて突き刺さる。

 

ゲネル・セルタス型の装甲に取り付けられた一際大きな大筒が赫い光を一瞬放ったかと思うと、龍属性の一条の光線が、砲身を融解させながら放たれる。砲弾の代わりに滅龍核を込め、それを砕き溢れ出したエネルギーに指向性を持たせることでその破壊力の制御に成功した高出力の龍属性エネルギーが、直前に放たれた四属性と共鳴し、互いに高め合いながら炸裂する。

 

禁忌にしか許されない全属性の同時行使に、本来なら他の属性を喰らい尽くす龍属性と他属性の共鳴。煌黒龍だけに許された術理を、劣化とはいえ偶然再現に成功したことにより、放たれた属性エネルギーは瞬時に数倍に増幅され、天の裁きを地上に再現する。

 

絶対的捕食者たる古龍との絶死の相対という極限状態が吾輩の何かを刺激したのか、無意識下で放たれた最高の一撃は、しかしバルファルクには通用した様子がない。

 

やはりバルファルクに属性エネルギーは通じない、か。

吾輩の攻撃は悉くあのあまりにも濃い龍気の衣に散らされる。僅かについた様な傷は全て氷塊の大質量と剣尾や、爆発による物理的な衝撃に依るもののみ。

すっごい逃げたい。このままだと碌なダメージも与えられないまま嬲り殺しにされちゃうよ吾輩!でも逃亡は無理なのである。

 

最初は逃げようと思った。というか逃げた。

あの時は、バゼルギウスが肉塊にされて次は我が身かと思った。しかし、特に襲われることもなく呑気に肉塊の捕食をバルファルクが始めたのでこれ幸いとバルファルクから逃げ出した。別に吾輩を捕捉した訳じゃなかったんだなぁ、とか考えて全力で逃亡をして5分ぐらい経った頃だろうか。

 

いる。赤い凶星が全力で追いかけてきている。数キロ近く離れたはずなのにもう追いつかれている。

しかもホーミングミサイルかよと言いたくなる正確さで逃げ道を塞ぐ様に龍気弾を放ってくる。

 

この瞬間、吾輩は逃亡を諦めた。いくら吾輩の装甲が、戦車と呼ばれるゲネル・セルタスを再現しているとはいえ音速を数倍する速さで飛ぶ戦闘機からは逃げられないよ、というかそんな速度で動いたら普通の生物は内臓が爆散するんだよ!

 

 

回転運動を織り交ぜながら、左右の翼脚が交互に振るわれる。

恐れ見よ。降り注ぐ、星雨に勝る双刃を。ただ力を込めて振るっただけの攻撃が、空間を飛び越え背後にある崖に軌跡を刻む。

 

一撃で盾の装甲の半分が持ってかれる。糸越しに衝撃を感じる。

だが、この程度なら正面から受け止めず、流せば受けれないわけじゃない!あの砕竜ほど理不尽な火力ではないぞ!…まぁ問題があるとすればこれがただの通常攻撃ということなのであるが。これで吾輩が龍属性弱点だったら今頃死んでいただろうし。

 

 

突然だが、吾輩…というよりアトラル・カ、という種族には基本的に龍属性は一切効果がない。

反対に雷属性が弱点である。そしてバルファルクの使う属性は龍。つまり相性的には吾輩が有利である。有利である筈なんだけどなぁ………

 

龍気、当たったら普通に痛いんだが!?

単純に内包するエネルギーが大きすぎてその熱やら衝撃やらで当たったら怪我じゃ済まない。流石は古龍。勘弁してくれ。

それに、いくら攻撃を流せるとは言っても、それはある程度までの威力の攻撃に限られる。大技に位置するであろう攻撃を喰らえば龍気を抜きにしてもランス使いの人形が一撃で鉄塊に変わり果てるし龍気の噴出により加速された翼脚の突き刺しはグラビモス人形の装甲貫きやがった。防御方法を間違えた瞬間一瞬で吾輩は虫ステーキである。

 

 

「ピギャアアアアア(頼むから有効であってくださいお願いします!)」

 

属性エネルギーが効かないとはいえ、流石に物理的干渉を無効化するほど理不尽ではないことは先の衝突で確認済み。

こんな時こそ人類文明の本領発揮よ。

 

砦もかくやと言った量の大砲から次々と榴弾が放たれ、数門の速射砲から壁と見紛う量の砲弾が放たれる。

瓦礫で構成された巨大な武器の叩きつけは大地を揺らし、それらの大ぶりな攻撃の間を縫う様にして発掘武器が降り注ぎ、また瓦礫に隠れる様にしてハンター人形が奇襲を仕掛ける。

 

時に粘菌を撒き散らし、モンスターの人形たちが肉体を武器に古龍とぶつかり、本物の狩人の動きを間近で見たことでその動きがさらに洗練されたハンター人形達の連携攻撃が続く。

 

バルファルクの翼脚から無尽蔵に放たれる龍気弾と砲弾が大地に滅茶苦茶な破壊痕を残し、大質量の解放と、それを切り裂く龍気の光線が粉塵を撒き散らし、空を割る。空が赫く染まりゆく。

そのあまりにも暴力的な光景を見た古龍観測隊の報告を聞いたある研究員は、後に秘匿された文献の中にこう記したという。

 

『まるで、文献に残された竜大戦、その再現の様であったと。』

 

その日、砂原では断続的に小規模な地震が確認され、多くの小型モンスターが姿を隠し、空には粉塵と灰が舞ったという。

 

互いに、後一手足りない。

今の吾輩では、彗星を砕くには至らない。黒龍を使うか?否。見られていたら終わりである。それに、吾輩の劫火は所詮は劣化再現。その形成に多くの火属性エレメントが関わっている。龍気の衣によりその威力の大部分が減衰されるだろう。

 

砕く…いや、ある。あるじゃないか。吾輩にはあの龍気をものともせずに彗星を砕く方法が。吾輩を穿ったあの一撃が。

辺りを見渡す。周囲には飛び散った粘菌が付着し、怪しい光を放っている。

 

──いける。あの拳なら、貫ける。

 

獣の技を。ただ力だけを突き詰めた野生の一撃を。思い出せ。そして、再現しろ。

その前に、まずは下拵えをしよう。

 

「ピギャアアアアアア(特大の隕石だ、受けれるものなら受けてみな!)」

 

大部分が火薬岩、そしてその表面には爆鱗と粘菌の付着した巨石がバルファルク目掛けて落下する。

同時に、辺りに臨界した粘菌をばら撒くと、隕石の衝突と同時に爆発。エリア全域に付着した粘菌が一斉に爆発して、辺りが一瞬にして灼熱地獄と化す。

 

──これも防ぐか、これでも無傷か…いや、違う!

 

自身の胸部を中心に自身の全身を覆う様にして放った龍気エネルギーの解放が、爆発と衝突しその威力の全てを消滅させた。

しかし、半ば自爆紛いな方法で攻撃を防いだ代償は重かった。

自身さえ傷つけてしまうほどの膨大なエネルギーの解放はその美しかった甲殻を焼け焦げさせ、その体をよろめかせる。

 

自身の身を傷つけながらとはいえ、あの大爆発を防ぎ切ったのは事実。

でもさぁ…バルファルクよ。

 

「ピギャアアアアアア!(そんな有様じゃ、防げないだろう!)」

 

 

吾輩が取り出したのは砕竜の撃滅拳。

外装の両脚の裏に付着させた粘菌を爆発させ、それを推進力に一瞬で天彗龍との距離を詰める。移動方向を変えるつもりはない。ただ力のベクトルは正面へ。小細工もいらない。ただ、吾輩の持つ全ての破壊力を乗せた拳を放つのみ。

より深く踏み込め、より速く前へ進め。より疾く、その拳を振り抜け。

出し惜しみはなしだ。鬼火、粘菌、鬼人薬に覚蟲強化。その全てを載せたアッパーが、バルファルクの胸部を抉る様にして突き刺さる。

 

硬い外殻を突き破る感触と共にその体が天へ浮き上がる。

 

「ピギャアアアアアア!(もう一発!)」

 

天へ打ち上げておいた瓦礫を踏みつけ、体勢を崩したバルファルクの顔面へ右ストレート。

そのまま大地へ落ちるまでの間にひたすらにラッシュを繰り返す。打撃音と呼ぶにはあまりにも硬質な音が響き渡る。

 

「ピギャアアアアアア(砕けろ、バルファルクッ!!!!!!)」

 

全身を隈なく殴られ、糸が切れたかのようにバルファルクが墜落する。

古龍の血が吾輩の金色の甲殻をどす黒く染める。

 

 

「ピギャ(嘘だろ)」

 

 

ゆらり、バルファルクが立ち上がる。

そして、その傷を感じさせないほどしっかりと大地を踏みしめる。

外殻は砕かれ、全身から止めどなく血が溢れている。

顔面の一部は陥没し、翼脚の一部も破壊されている。動くのもままならないほどの苦痛を感じているはずだ。

 

なのに何故かバルファルクの闘志は消えない。寧ろ、高く、より強く研ぎ澄まされてゆく。

傷つけられ、本来の役目を果たすことさえ難しいはずの胸部から溢れる龍気は、どんどんと増殖し、ついには周囲が赤い霧で満たされたのかと錯覚するほどの量に至る。

 

これが本物の古龍。

これが、大自然だとでもいうのか。一度見せた技はもう二度と通じないだろう。…最後まで足掻くぞ。吾輩はまだ死にたくない!

撃龍槍を構え、黒龍の外装を取り出そうとした瞬間、何処からか声が聞こえた気がした。

 

 

──これは、竜の咆哮……?

 

 

吾輩達のものではない何者かの振動を感じる。

何かが、徐々に近づいていくる。

 

いや、マジでなんなんだ?吾輩何も心当たりないが…

砂の先に何か…あれは、角の先端?

 

「ピギャアアアアアア!(ま、マジか、お前がここで乱入してくるのか!)」

 

砂の大地を突き破って、2本の捻れた角を持った竜が現れる。

砂と紺色の甲殻を持ったその竜は吠えると、蒸気を噴き出しながらその角をバルファルクの体に突き立てた。

 

同時に、空から二体の竜が強襲を仕掛ける。

急降下しつつその速度を全て片足に乗せて、強烈な蹴りをお見舞いしたのは全身に逆立つ鱗を持つ竜。

そして、龍気を散らす様に大規模な竜巻を発生させ微細な岩石とともにぶつけたのは、全身に返り血を浴びた赤銅色の竜。

 

セルレギオスに、ベリオロス亜種。

そして、鏖魔に限りなく近い領域まで近づいた、この砂漠地帯で最強の存在。ディアブロス。

 

三体、その誰もが間違いなく生態系における頂点の存在。

知恵を持つことはない彼らだが、我こそが頂点であるという自負はあった。そして、自身たちの縄張りを荒らすあの存在を放っておけば、不味いことになることは悟っていた。自分たちの餌は奪われ、番が殺された個体もいた。

 

竜であれば、その存在を感知しただけで逃げてしまうほどに生物の格が違う存在である古龍。

しかし、彼らは逃げなかった。

 

知恵なき竜であるからこそ、誰が言うでもなく自然に集まった。

この砂漠地帯の生態系による古龍という災害への最後の抵抗。縄張りに入ったというだけなら、目の前の女王も排除するべきなのだろう。しかし、三体のうちの誰も、その選択肢は取らなかった。

 

殺すべきは、目の前の赤き災厄。

 

 

 

 

 

バルファルクは、その翼を構え、一際大きく咆哮する。

 

 

『掛かってこい』

 

とでも言いたげな様子で、全身から龍気を溢れさせた。

 

 

 

 















吾輩「めっちゃ逃げたい」
文字数が想像より多くなってしまったため後半に続きます。

次回あたりの後書きで装備解説とかやりたいな、と思ったり。
『滅龍砲』:リオレウスの骨髄を大量に使用し生産された厄ネタの塊のような兵器。風向き次第で外で使えば一瞬でリオレウスの群れがやってくる。通常種だけならいいけど何十回も使っていると銀色とか白いのとか黒いのとかがやってくるかもしれないから使用は控えたほうが良い。
みたいな感じの。


感想、評価、誤字報告などありがとうございます!大変感謝しています。
アンケートへのご協力ありがとうございました!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吾輩はアトラル・カ。暫くは流れ星がトラウマになりそうである。

初投稿です


 

あぁ、なんと強い竜であろうか。

 

バルファルクは思う。

今まで出会ってきたどんな竜よりも、彼らは強い。

何度防がれようと、ベリオロス亜種の竜巻が、セルレギオスの滑空蹴りが、そしてディアブロスの水蒸気爆発を伴った突進が俺の体を捉え続ける。

 

響く。衝撃が。

砂嵐が視界を奪い、突進の後隙を埋めるように刃鱗の大雨が降り注ぐ。

 

「───────!」

 

刃鱗を龍気で弾き飛ばし、突進をすり抜けた彼は、その強靭な翼脚でディアブロスの心臓を貫かんと迫った。

視界の半分を覆うほどの大きさの大盾がそれを弾き、その脚を粘着質の糸が絡めとり、同時に空から数十の矢が山形の軌道を描いて着弾する。

着弾と同時に、表面についていたビンが割れ対象の気力を奪う減気の煙が漏れ出す。

その刹那、攻撃を防がれ、煙に気を取られたバルファルク目掛けて、セルレギオスの急降下突進が突き刺さる。

 

なんとか攻撃を掻い潜り、反撃に転じようとも、女王がそれを許さない。

常に、彼の視界の半分以上は女王の構える盾に塞がれ、攻撃の悉くは防がれる。何度盾を砕こうと、その度に新しい盾が現れる。盾を貫いたとて、中途半端な傷では一瞬で癒えてしまう。

 

女王の盾と、鏖魔達の矛の連携が、バルファルクを追い詰める。

 

 

ディアブロスの水蒸気爆発を伴った突き上げで吹き飛ばされたバルファルクは、体勢を整える暇もなくセルレギオスの蹴りにより地面に叩きつけられたかと思うと、今度はベリオロス亜種の放った大竜巻が大地を捲り上げながらバルファルクを再度宙へかち上げる。

三体の竜による波状攻撃。互いの息継ぎの隙を、他の竜が埋めることで成り立つ無限連鎖。反撃する隙も与えずに、頂点たちの全身全霊の一撃が絶えず降り注ぐ。

 

今まで、彼らは一度として手を組んだことなどなかった。しかし、互いに縄張り争いを繰り返してきたからこそ、その手の内は知り尽くしている。故に、その連携は下手な狩人のそれを凌駕する。

 

もはや、彼ら全員を喰らい尽くしても大損なのは間違い無いだろう。

しかし、バルファルクは一歩も退かない。その体に流れる古龍の血が、逃亡を許さない。その体を闘争へ駆り立てる。

 

 

 

♦︎

 

 

吾輩はバサルモスを加工して作った障害物の陰から戦闘を観察する。

そして思う。

 

 

「ピギャアアアアアア(これ、吾輩要らなくね…?)」

 

 

いやそれにしても強過ぎないかこいつら?吾輩が手助けする余地がない。精々が生命の粉塵使ったり硬化と鬼人の粉塵使ってサポートしたりだけだな。吾輩完全に仲間外れじゃん!

ディアブロスは鏖魔ってるし、セルレギオスは極限化してないのにスペックがそっちよりだし、ベリオロス亜種はそもそもラギア希少種と同格らしいし流石にこいつらが揃ったらバルファルクも倒せるんじゃないか?あー、よかったよかった。これで吾輩も死なずにすみそうだ。

 

 

と思っていた時期が吾輩にもありました。順調に追い詰めて行っているように見えた三体。しかし、その一体が遂に捉えられたのだ。

 

どんな相手でさえ容易に食い破れそうだと感じた攻撃の雨。初めは、バルファルクを追い詰めていた。それこそ後少しで殺せそうであった。しかし、古龍はそれだけで終わってくれるほど甘くはなかった。確実に天彗龍は適応しつつある。あの暴虐の嵐に。

一撃一撃が凡百の竜であれば致命傷につながる攻撃を悉く耐え切り、その衝撃を、その連携を学習する。

殆ど死にかけの筈なのに。

尚強大さは増す。未だその差は縮まらない。絶対的強者である古龍の前に、あらゆる努力は無駄であるとせせら笑う声が聞こえた気がした。

 

 

「ギャッ………ガアアア!‼︎」

 

 

肉と肉がぶつかり合い、暴風と龍気が吹き荒れ、刃鱗による裂傷が甲殻に刻まれる。一体何度繰り返されただろうか。互いにとって一瞬にも永遠にも感じる衝突が続く。

 

未だ龍の心臓は止まらない。

 

何度目かの衝突で、ついに連携が崩れる。

あろう事か。龍気を練り上げて作り出した暴風で砂塵の竜巻を無理やり打ち消したバルファルクは、セルレギオスの切り裂きをその馬鹿げた耐久力で無理やり突破してベリオロス亜種の喉元に龍気の噴出口を押しつけた。

 

「ピギャアアアアアア(不味っ!)」

 

次の瞬間どうなるのかを悟った吾輩は、翼脚に黄金の糸を巻き付け、無理やり照準をずらそうとする。

 

──ダメだ、重過ぎる…!これ、理論上はアトラル・ネセトも支えられる糸なんだがな…!

 

完全に逸らすことは叶わない。ほんの僅かに下に照準を変えただけで、糸の大半が引きちぎれる。

瞬間、目を開けていられないほどの赤い光が炸裂する。

風牙竜の左脚から鮮血が噴き出す。咄嗟に風圧を解放したのか、即死はしていない。しかし、あれでは暫くは脚は使い物にならないだろう。

 

包囲網を突破したバルファルクは千刃竜の追跡を振り切り、後方へ大きく飛び退いた後には自身の尾を大地に突き刺し、前方へ噴出口を構える。

独特の吸引音が響く。

そこから放たれたのは、初めに吾輩に向けて放った光線を数倍した太さの龍気の光線。風牙竜が崩されてから、ここまでの時間は5秒にさえ満たなかった。

これが直撃すれば、いかに彼らといえども致命傷は免れまい。糞、我輩がやるしかないのか、嫌だなぁ!

吾輩は咄嗟に光線と三体の竜たちの間に入り込むと、何重にも重ね合わされたアーチ状の大盾を光線に横合いからぶつける。

 

「ピギャアアアアアア(そおおい!)」

 

一直線に全てを消し飛ばしながら進む光線が、盾の表面に触れた瞬間、その進路を変える。

龍属性に耐性を持つ素材で作った即席の盾が砕け散ると同時に、光線を流せたことを吾輩は知覚した。糸越しにビリビリとした衝撃が伝わってくる。

 

風牙竜から、感謝の感情が伝わってくる。同時に、怒りとともに放たれた暴風のブレスがバルファルクを襲う。

すると地面へ潜行していたディアブロスが、光線の撃ち終わりと同時にその腹部目掛けて飛び出し、暴風に乗って加速された刃鱗がバルファルクの甲殻の隙間に突き刺さる。

 

吾輩は、本当は怪我なんてしたくないし、死にたくないから盾役なんてやりたくないんだけどさぁ…一度攻勢に出られると、曲がりなりにもこの中で対応できるの、多分吾輩しかいないんだよなぁ。それに、ここで、お前らのうち一体でも欠けたら生き残れるビジョンが浮かばないのであるよ。

お前らを囮に逃げたところで、すぐに追いつかれる。…あぁ、くそったれ!やるしかないんだろやるしか!

 

「ピギャアアアアアア(吾輩が盾になる、お前らは全力で攻撃を続けろ!)」

 

 

 

先程までも吾輩1匹で耐えられていたんだ、なんなら今は攻撃役が他にいる分、防御に専念できる。それなのに、耐えきれない道理はない!

吾輩のしぶとさを舐めるなよバルファルク。生き残ることにかけてはなぁ、吾輩、誰にも負けない自信があるんだよ!

 

……やっぱ怖い!

 

 

自ら盾役を買って出ることを決意した吾輩は、多くの資材を投入して、なんとかバルファルクの猛攻を凌ぎ切る。

戦い終わった後の資源の残量が怖くてたまらないが、出し惜しみしていて勝てる相手ではない。

 

瓦礫の山が震える。

 

「ピギャアアアアアア(何度でも打ち込んでこい!最高にハイってやつだぜ!)」

 

正面から全ての攻撃を受け止めなければいけない恐怖で若干おかしくなりながらも攻撃をいなし、時には兵器で反撃をしつつ、三体の攻撃を支援する。

時には糸で足を絡めとり、気を逸らそうと矢を放ち、弾丸を放ち、龍気の噴出口目掛けて瓦礫を投擲する。

 

一手間違えればそのまま死ぬ。そんな極限状態が一体どれだけ続いただろうか。

疲労が吾輩たちを蝕み始める。いくら強走薬があるとはいえ、限界というものがある。持ってあと何合だろうか。そこまでに決めきれなければ流れを持っていかれる。

 

ディアブロスと吾輩の視線が交錯する。

 

上段からの打ち下ろし、テールアタックの後に龍気弾の乱射、そして叩きつけ、回転しながらの両翼による乱れ突き。

攻撃の軌道に当てるように盾を動かして、攻撃を防ぎ続ける。27撃目、一際大きな攻撃を防ぎ切ったタイミングで、横合いからバルファルク目掛けてディアブロスのタックルが炸裂する。

苦し紛れにバルファルクに投げ飛ばされるが、同時にバルファルクも転倒する。

 

起き上がるまでの一瞬。今しかない。

属性攻撃も通じない、生半可な火力じゃ耐えられる。でもさぁ、古龍とはいえお前も生物だろ?

 

「ピギャアアアアアア(今だッ!)」

 

 

取り出したのは、紫毒姫を素体に作られた竜騎装(クロスドラゴンウエポン)。リオレイアの頭部を模したその兵器は、本来のモノの代わりに取り付けられたテツカブラの強靭な顎で対象に噛み付くと、そこから配合された猛毒──捕獲用麻酔玉にグラビモスの睡眠ガス、サボアザギル亜種の麻痺液にホロロホルルの鱗粉、そして紫毒姫の劇毒の混ざった激毒──を送り込む。調合を繰り返す中で大型モンスターでさえ一撃で昏倒させるほどに強まった猛毒は、同時にディノバルド亜種の硫晶と、アルセルタスの腐食液が混ざった腐食液と共にバルファルクの装甲を蝕みながら送り込まれる。

 

その大きさ故に、接近しなければ使えない上に相手が大きな隙を晒していなければ使えない種類の竜騎装。

しかし、命中すればその効果は絶大。戦いの中で傷ついた装甲の傷に腐食液が入り込み、それを強靭な顎が砕くと、そこから猛毒を送り込む。

同時に、バルファルクの耳目掛けてティガレックスの頭部を模した鉄塊を当てる。轟竜を模した竜騎装。

中に組み込まれた轟竜の大鳴き袋が炸裂し、同時に取り付けられたゲリョスの鶏冠と額がぶつかり合い、凄まじい閃光を発する。

 

鼓膜へ直接氷壁を砕くほどの轟音を送り込まれ、同時に眼球のすぐそばで狩人を一撃で気絶せしむるほどの閃光が炸裂する。

頭部を押し当てられ、密封された空間で炸裂した轟音は、余すことなくバルファルクの脳へ送り込まれる。

 

劇毒と閃光、腐食液と轟音。

 

 

おまけに護石による異常状態攻撃強化付きだぞ!生物である以上は耐えられないだろ、バルファルク!

吾輩は考えたのだ。

一個や二個の異常状態では気合で耐えられる。だったら、目も潰して耳も潰して、神経も何もかもも滅茶苦茶にするほどに合わさった毒ならどうだ。目も見えず、耳も聞こえず常に眠気が襲いかかり、前後左右も定かではなく、痺れが体を襲う。

既定の生物を逸脱した古龍に、ここまで上手く決まるとは思ってないが、間違いなく致命的な効果はある筈。

 

 

轟竜の大鳴き袋は超希少なんだ、これで効いてなかったら吾輩泣いちゃう…ぞ………

 

 

「ピギャアアアアアア(いやそれはおかしいだろう)」

 

耳から血を流し、目の焦点は定まらず宙を泳ぎ、体を蝕む毒がバルファルクの体を痙攣させる。

しかし、それでもバルファルクは立っている。碌に吾輩たちのことを認識もできていない筈なのに、正確に吾輩たちに喰らい付いてくる。

 

 

「───────────────────!

 

 

空が緋く染まる。

雲が鳥よりも速く流れ、どこからとなく吹き始めた暴風が砂塵を巻き上げる。太陽が覆い隠され、辺りが急激に冷え込む。

 

“これで終わりにしよう”

 

バルファルクが吠えた。

 

翼脚を折り畳むと、ジェットのように龍気を噴射して、天へ飛翔する。セルレギオスとベリオロス亜種は何かを感じ取ったのか同じく空へ飛翔し、千刃竜は蹴りで、風牙竜は突進で妨害しようとするが、そのあまりの速度に妨害した側が遠くへ弾き飛ばされる。二体を振り切った龍は目にも留まらぬ速さで大気圏を突破して、宇宙空間ギリギリまで天彗龍は飛翔する。

幾度となく文明を滅ぼしてきた、天彗龍の最大にして最強の一撃。

 

 

 

セルレギオスとベリオロス亜種は…見たところあそこまで吹き飛ばされていれば衝撃の範囲からは脱しているだろうな。

ディアブロスは地中に潜ればいいし、あとは吾輩が避けるだけ…なんだけどなぁ。

 

空に飛ぼうと思って投げた瓦礫が全部撃墜されたのである。お前傀異克服してないのに流星群使うんじゃないよ!吾輩への殺意高すぎるだろ!吾輩あれ避けずに耐えなきゃいけないの!?死んじゃうって!!

 

…まぁ、でも。死力を尽くせば耐えきれないことも無いかもしれない。

硬化薬、忍耐の種、粉塵を使い、バフをかけてゆく。おまけに根性玉、そして一定ダメージを相殺してくれるみがわり玉を三つ。

最も防御力の高い外装に身を包み、表面に大量にランスとガンランスの盾を貼り付けた盾を十数枚。同時に、周囲に散らばった瓦礫を城塞のように組み上げる。

 

恐れ見よ、赤き災厄の彗星を。

 

天へ登った赫い彗星は、全龍気の放出と共に、後ろへ軌跡を描きながら急降下。

一瞬にして距離が零となり、凄まじい轟音と共に、女王と厄災が激突する。

 

一層目、二層目と守りが次々と破壊され、女王の顔が苦々しげに歪む。

 

みがわり玉の許容量は一瞬で超えたか。理論上は撃龍槍だって直撃じゃなければ耐えられる盾も、一瞬で破壊されている。こんなのをまともに食らったら吾輩、ミンチじゃ済まないなぁ。

 

8枚目。僅かに勢いが弱まり、しかしそれでも盾は少しの抵抗ののちに砕け散る。砕け、砕け、守りなど無意味だと星が叫ぶ。

最後の一枚。そこで、バルファルクの進撃が止まる。

 

 

そうだよ、最後の一枚。これが吾輩の切り札だ。

これ以外の十数枚の盾、それはお前の軌道を修正するための囮。本命はこの盾。盾を砕かせたのは、僅かにしかない黒龍の素材で組み上げられた盾の部位に、お前の攻撃を当てるため。どうせまともな素材じゃ耐えられそうにないからな!

それに、この二つが合わさればお前の攻撃だって耐え切れる。『鉄鋼身』、『金剛身』。狩技の中でもこと防御に於いては最強の二種ならば、流星だって貫けまい!

 

女王の盾と、赫い彗星が拮抗する。

彗星が吠えると、再び膨大な龍気が生成され、翼脚から放出される。再度の加速。それでも盾は砕けない。

女王の足元は陥没し、彗星は、その威力に耐えかねた体が崩壊を始める。それでも尚前へ進もうとする意思と共に、龍気はその強さを増す。

盾にヒビが入り、バルファルクの片目が弾け飛ぶ。

 

死んでたまるか、吾輩は絶対に

 

ピギャアアアアアア(生き残ってやる…!!!)

 

 

 

 

 

 

 

激突が終わる。

盾は跡形もなく消し飛び、女王を守っていた鎧は消し飛んでいる。それでも、女王は立っている。

黄金の甲殻を曇らせることなく、その足で大地を踏んでいる。

女王の足元、そこだけが残っている。周りは巨大隕石が衝突したかのように抉り取られ融解し、ガムートがまるまる入ってしまいそうなほどの深さのクレーターと化した。

 

彗星が、力なく地へ堕ちる。

全ての力を使い果たした龍が、地面へ堕ちるその瞬間。

 

「オアアアアアアアアアアアアア!」

 

地面へ潜行していたディアブロスが飛び出し、その体を打ち据える。

吹き飛ばされていたセルレギオスとベリオロス亜種が戻ってくると、残り少ない命を燃やして抵抗を続けるバルファルクの両翼を押さえつけ、ディアブロスがその頭部を押さえつける。

無理やり押さえつけられ、仰向けになったことで胸部が天を向く。

 

全ての力を使い果たした筈なのに、それでも尚三体の竜の拘束を振り払ってしまいそうなほどの力でバルファルクはもがく。

 

──お前がトドメをさせ、女王。

 

三体が、そう呟いた気がした。

 

 

女王が駆け出す。

ディノバルドの剣尾を携え、胸部めがけて全力で翔る。

 

野生の技だけではダメだった。狩人の技だけではダメだった。

ならば、それを掛け合わせよう(クロスしよう)。思い出せ、吾輩が見てきた全てを。人と竜、その技を!

 

体を捻らせ、片手剣の如く、剣尾を放つ。狩技『ラウンドフォース』の一撃が、バルファルクの胸部目掛けて放たれる。

そして、回転の勢いに身を任せて、斬撃の軌跡をクロスするように、もう一発の斬撃が放たれる。二重に合わさった斬撃(クロスブレイザー)が、バルファルクの胸部にクロス型の痕を刻む。

 

剣尾が肉を切り進め、骨を断ち切り、その先の心臓へ迫る。

何倍にも増幅された斬撃波は、龍気の噴出をものともせずに進む。

 

龍が吠え、竜が叫ぶ。

 

 

ピギャアアアアアア(これで、終わりだバルファルク──ッ!

 

心の臓が引き裂かれ、絶叫と共にバルファルクが絶命する。

黒い古龍の血が、アトラル・カの体を染め上げる。

 

星は砕けた。

 

 

吾輩の、吾輩たちの勝利だっ!

女王と、竜たちが天へ向けて咆哮する。

 

厄災、竜には抗いようのない古龍に、竜である彼らが打ち勝ったのだ。

 

 






それを見ていた観測隊は、のちにこう語ったという。

『彼女は、間違いなく竜たちの女王であった。竜を統べる存在がいるとするならば、全ての竜の女王となる存在がいるとするならば、彼女なのかもしれない』、と。
そしてギルド上層部は頭を抱えた。こいつどうするよ、と。
そしてあるハンターも頭を抱えた。悪目立ちしすぎだよお前、と。










♦︎






感想、評価、誤字報告などありがとうございます!励みになります!

今回のバルファルクは放置してたら『極み凶つバルファルク』とかになっていたかもしれない。


兵器紹介:竜機装

一文字変えれば黒龍案件なアトラル・カくんちゃんのメイン装備。
ディノバルドを元にした大剣、ライゼクスを元にしたライトニングブレード、ドボルベルクを元にしたハンマーに今回使った紫毒姫を元にしてテツカブラと掛け合わせた毒兵器にティガレックスを元にした兵器など。黒龍を参考にした劫火は、別に黒龍素材を使っているわけではないが他の素材は使っているので一応竜機装と言えなくもない。
タマミツネの泡攻撃とマガイマガドの鬼火は護石によるものなので竜機装ではない。

こいつアトラル・カのくせにオストガロアみたいなことしてんな。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吾輩はアトラル・カ。生贄よりも吾輩はチーズの方が欲しいのである。料理に使えるし。

初投稿です。


 

 

 

 

 

 

「ピギャアアアアアア(これで治療は終わりであるな。ベリオロス亜種、特にお前はしばらくは安静にしてろ…って飛び回るんじゃねえ!脚もげるぞ!)」

 

折れた骨には添え木をし、龍気に抉られた傷跡には秘薬を染み込ませた包帯を巻く。

 

満点の星空が、静まり返った砂漠を照らす。月明かりに照らされた砂が、ぼうっと白く光る。

治療行為をされていることを理解しているのだろう。三体の竜は、抵抗することもなく女王にされるがままになっていた。女王はフルフルの素材で作ったナースっぽい外装を装備しているが特に意味はない。

 

落ち着けお前、とでも言うようにディアブロスが吠えると渋々といった様子でベリオロス亜種が地面に降りてくる。セルレギオスは、女王に分けて貰った古龍の肉をひたすら齧っている。

数刻前、古龍と言う災害が暴れていたのが嘘のように静まり返った砂漠だが、彼らを見守る星々は識っている。彼らが、不可能を成し遂げた英雄であると。

 

「グルル」

 

着いてこい、とでも言うようにディアブロスが翼を折り、何処かへ向けて歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

「ピギャアアアアアア(ここで待てばいいのか?)」

 

大砂漠が一望できる、ちょっとした崖の上で吾輩は自家製の黄金色に輝く蜂蜜酒片手にディアブロスに話しかける。

治療を終えた吾輩は、バルファルクの死体と瓦礫を回収した後、ディアブロス達に連れられて、そこそこ離れた場所まで連れてこられていた。

月下で飲む酒というのもなかなか乙なものであるな。それなら日本酒が欲しかったけど。

風が砂を攫う音だけが砂漠に響く。

種族も違う吾輩達であるが、今はただ戦友と共にいるこの時間が心地良い。

 

あとセルレギオス。お前は幾つ吾輩のあげたジャーキーを食べるつもりだ。アプトノス丸ごと一頭使ってるからそこそこ大きいんだけどな。それ吾輩のおやつだし少しは残して置いて欲しいんだけど。

 

少しばかり時間が経過しただろうか。古龍に怯え逃げていたモンスターたちが戻ってきたのか、ガレオスの群れが砂漠を渡るのを何度か見た。そうして暫く経った時。

砂の中を、何か巨大なものが泳いでいるのを感じた。

 

「ピギャアアアアアア(なんだなんだ…っ!?)」

 

思わず目を見開いた。

 

神秘を纏った霊獣が、砂の中からその身を翻し、飛び出す。

吾輩たちの居る高台よりも高い高度へ飛び上がった霊獣は、暫く滞空したのちに、夜空に紫の軌跡を残して砂の中へ還る。

 

吾輩は思った。

人も、竜も何かを美しいと思う心は同じなのかもしれない、と。

 

闇夜に紛れ、砂の中から現れたのは、霊山龍『ジエン・モーラン亜種』。

全身が紫に輝く霊水晶に包まれた、荘厳たる神秘の巨獣。

 

──あぁ、彼らはこれを吾輩に見せたかったのか。

 

突然、ディアブロスが霊山龍の出てきた方へ潜ると、角に紫の巨大な結晶を引っ掛けて戻ってくる。

そして、頭を振るうとそれを吾輩に投げ渡してくる。

それを合図に、セルレギオスとベリオロス亜種が、自身の鱗の一枚を持って、女王の元へ歩み寄る。

 

それを遠くから観察していたハンターは、知人にこう語ったという。

「あれはまるで騎士の叙勲式だったな。」と。

三体の竜が、自身の鱗の一枚を手渡すと、女王は三体の竜へ護石を手渡す。

それが終わると、三体はそれぞれの縄張りへ、バラバラに帰ってゆく。そして、地平の向こうへ見えなくなる寸前、咆哮が夜空に霧散した──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

吾輩である。

吾輩は今洞窟を潜った末に辿り着いた溶岩地帯にいるのである。勿論目的は鉱産資源の確保である。そこ、お前いつも採掘してるなとか言ってはいけない。やばい相手と会うとその度にストックが吹き飛ぶから仕方がないのである。

 

いやぁ、バルファルクは強敵であった。古龍怖すぎる。四対一で負けかけるとかなんなんだよ、だからお前は平気で盾を貫通するんじゃないよ。あと龍属性ってなんなんだよ。

とはいえ、得るものもあった。咄嗟に出したが狩技『ラウンドフォース』。あれはなかなか便利なものである。木の伐採とか。回転して薙ぎ払うだけで木材がいっぱい手に入るのである。…絶対に使い方間違えてるよな、これ。

 

あとはこれである。バルファルクの素材から作った竜機装(クロスドラゴンウエポン)。新しい外装の素材にするか迷ったが、今まで使っていた外装の上から更に追加で装備する追加装甲のような感じにした。

バルファルクの素材と、レイア希少種レウス希少種の素材をメインに、補助としてジンオウガ亜種やイビルジョーの素材から作ったかなり見た目が派手な装備である。

龍気生成機関を加工して作った炉心により、従来の数倍の威力の龍属性光線の発射を可能に、加えて各属性の竜機装と組み合わせて威力の増幅も可能。加えて生成した龍気をドレスのように纏うことで、本来の性能のように属性ダメージ全カットは無理だが、4割ぐらい属性攻撃の威力を減衰する。

又、バルファルクのような高高度への飛行はできないが、龍気を噴出することで水平方向への高速移動も可能。これとバサルモス型外装を組み合わせれば高防御力でやけに素早く動く虫(曲がれない)が出来上がる。

 

今まで龍属性は使おうとすると使うたびに滅龍核と砲身使い潰していたから、これからは比較的安易に龍属性を使えるようになって大満足である。ちなみにこれと黒龍型外装を組み合わせると不味いことになる。

核融合炉二個分の炉心が直列に繋がれた状態になるわけで、具体的にいうとパワーが強すぎて機体を制御できない。一歩進んだと思ったら十歩分以上進んでるし、ちょっとジャンプしたつもりが数十メートル上空にいたりする。

勿論火力も頭が悪いことになっている。全龍気を集めた光線を放つと空が割れる。これを実験した時、嫌な予感がして横ではなく上に向けて放ったのは正解だった。反動で死にかけた。いにしえの秘薬使う羽目になった。

ちなみにこれでもバルファルクの彗星より威力は低いのである。あの規模のクレーター作れる攻撃を出せたらそれはもう生物じゃないんよ。

 

この竜機装の素材になった金銀夫婦は普通に強敵であった。ただでさえ残り少ない盾は溶かされるし単純に2体同時だから見なきゃいけないものも多いし、普通に一体でも強いしで本当にこの世界は吾輩に優しくないと思う。しかもなんか2頭とも獰猛化してたし。

あー、今日は何もなくて平和だなぁ、などと考えながらシモフリトマトにモスポーク、目玉焼きを挟んだハンバーガーを齧っていたら、いきなり獰猛化金銀夫婦相手に撤退戦を繰り広げているコンビハンターが飛び込んできたのである。

そのまま戦闘に巻き込まれた。ハンバーガーは消し炭にされた。哀しい。

 

コンビのうちの片方、男ハンターの方は今にも死にそうだったし、女ハンターの方もそっちはそっちで疲労困憊と言った様子だったから、吾輩がいなければどちらかは死んでいたと思う。幾ら死にものぐるいで逃げていたとはいえ、普通進行方向に別の大型モンスターがいるかどうかぐらいは確かめるのでは?

意図せず救援したコンビハンターだが、相変わらず何をいってるのかは分からなかったものの、吾輩を見ても逃げなかったし、お辞儀っぽいことしてたし多分感謝してはいたのだと思う。とはいえモンスターがゼニー置いていかれても困るんだけどね、使い道ないし。

 

……そういえば師匠に色々買ってもらってるし、これで支払った方がいいのだろうか?あれ、吾輩クズ男みたいなムーブしてないか?

 

 

閑話休題。

そんなこんなでピッケル片手に鉱産資源の補充のために溶岩地帯で採掘をしていたわけであるが…

 

目の前にいるのは人間。それも幼児。どう考えてもこの溶岩地帯の熱には耐えられなさそうな貧弱な存在。

それも木で作られた木製の社の様なところに縛られて放置されている。

 

と、とんでもない厄ネタ見つけちゃったよ吾輩。

危険なモンスターの前に幼児がいる状態をハンターに見られたら間違いなく捕食数秒前と勘違いされて狩猟されちゃうよ。あ、眼があった。

 

虚な眼が、吾輩を見据える。そして気を失…不味いこれ熱中症で死にかけてるぞ!おい!クーラーミスト、クーラーミスト使わなきゃ!!!

まずいって、目の前で子供が死ぬのは夕飯が不味くなるじゃ済まねえぞ、というかなんでこんな小さい子がこんなところにいるんですか!?

 

クーラーミストで体を冷やし、保管していた氷水に塩を少し溶かして飲ませる。

あとはともかく体を冷やそうと近くに氷塊を置いたりとあたふたしていると、突然目の前の溶岩湖の表面が隆起したかと思うと、中から3頭の竜が現れる。

『炎戈竜』アグナコトル。火山の生態系では上位に位置する竜、それが3頭同時。普段ならなんてことない相手だが。

 

「ピギャアアアアアア(おま、子供守りながらだと話が変わってくるのだが!?吾輩死ななくてもこの子死んじゃうっ!)」

 

子供を守るようにしてマガイマガド人形とナルガクルガ人形が立ち塞がり、金と銀の鎧をさらに着込んだ女王が武器を構える。

 

どうして鉱物が欲しかっただけなのに、毎回厄介ごとに巻き込まれるんだよ吾輩!

 

 

♦︎

 

 

 

 

かみさまなんていないと思っていた。

モンスターは火の神の怒りの具現だと、何度も言い聞かされてきた。だから、悪いことをしていると、神様が怒ってモンスターに食べられちゃうんだって。

そして、お父さんはそんな神の怒りから、みんなを守るハンターだった。

お父さんは、周りでも数少ないハンターの一人だった。私の生まれた国、火の国の中の小さな村落の中では、そこそこ腕の立つハンターだった。

 

そして、近くの山にとても怖いモンスターが現れて、それをお父さんは狩りに行って。

帰ってこなかった。一緒に行ったハンターも全員帰ってこなかった。

 

そして、大人たちは、命をかけてまで必死に戦って、死んでいったお父さんたちのことを、次々と悪様に罵った。

無能だとか、神の怒りに触れた愚か者だとか、自分じゃ何もできないくせに、何度も何度も。

 

そして、その中の一人がこう言った。

「生贄を捧げれば、怒りも収まるんじゃないか」って。

そしたら、もう一人がこう言った。

「なら、失敗したあの男の娘を差し出そう。自分の娘が神の贄となれればあの男も本望だろう。」と。

 

そして、私は縛り上げられ、苦しいほどの暑さの中に放置された。

憎しみよりも、悲しさよりも、初めに感じたのは「何故」だった。何故、こんなにも世界は理不尽なんだろうか。

かみさまなんていないと、理解した。

 

でも、絶望と等価の希望を世界は与えてくれた。

 

 

「ピギャアアアアアア(ちょ、3体相手に勝てるわけないって?馬鹿野郎お前吾輩は勝つぞお前!あ、待て溶岩を投げつけてくるんじゃない!熱いって!ウロコトルまで連れてくるんじゃねえ!!)」

 

赫いドレスを纏った、金と銀のお姫様。凶暴な竜相手に圧倒的な力を見せつけた私の神様。

凛々しく、美しいその背中は、今でも私の瞼に焼き付いている。

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

 

 

「いや、その子どうしたのよ。」

 

「ピギャアアアアアア(吾輩にもわかんない。なんか溶岩のそばに放置されてたからとりあえず保護したのである。)」

 

溶岩地帯を抜けた先の、森林地帯。

そこで1人のハンターとモンスターが鍋を囲んで話し合っていた。

彼女も目を疑ったであろう。バルファルクの特異個体と激闘を繰り広げたと噂の恩人に会いに行ったら、気づいたら何処かから子供を攫ってきていたのである。本当にこいつギルドに目をつけられたくないと思っているんだろうか。

 

「あー………火の国かぁ……生贄かー………。うん。私が故郷に帰してあげようかとも思ったけど、それなら止めておいた方がいいかもしれないわね。貴女はどうしたいの?えーっと、お嬢さん?」

 

少女は首を振る。あんな国に帰るのは二度とごめんだと言わんばかりに激しく。そして口を開く。

 

「ひょっとして、神様の言葉がわかるということは、貴女は巫女様ですか?」

 

「ちょっと待って何かとんでもない勘違いをしている気がするわねこの子。神様とか言ってるんだけど。」

 

「ピギャアアアアアア(知らない、吾輩知らない!吾輩この子の言葉なんとなくしかわからないもん!師匠、お願いしますこの子どうしたらいいのか教えてください!)」

 

女ハンターも、アトラル・カも気づかない。

この会話の中でも少女の勘違いは加速していることに。具体的に言うと何年後かに新興宗教を立ち上げそうなほどに。

 

グツグツと煮えたった鍋から、ダイミョウザザミから取れたいい出汁の匂いがする。

もうそろそろ食べごろだろうか。そんな匂いが漂う。

 

「保護しようにも、私、ちょっと今立場も危ないしいつ消されてもおかしくないし…」

 

ハンターがアトラル・カの方をチラリと見る。

 

「ピギャアアアアアア(大自然の中に幼児を連れて行くとか殺す気か?)」

 

鍋をかき回しながらアトラル・カが答える。

 

「そうね…1人、1人だけ龍歴院に信頼できる友人がいる。迷惑をかけることにはなるけど、あの子に頼んでみるわ。…貴女も、それでいい?」

 

少女の目線に合わせるようにしゃがんだハンターは、そう問いかける。

少女は小さく頷く。

 

「はい。本当は一緒に行きたいけど、神様には迷惑をおかけしたくないので。」

 

「とりあえずその神様って呼び方はやめてほしいそうだけど」

 

「じゃあお姫様で、貴女は騎士様…?」

 

「‥って言ってるけど、お姫様?」

 

「ピギャアアアアアア(吾輩がお姫様ならリオレイアはどうなるんだ。女帝か?)」」

 

勘弁してくれ、と言った様子でアトラル・カは首を振る。

 

「あはは、そうだ、アトラル・カ。頼まれてた抗竜石だけど、オークションに流れてたから手に入ったわよ。あとチーズ。」

 

「ピギャアアアアアア(本当か!?それはありがたい。…とりあえず、鍋も煮えたし、飯にしようか。)」

 

 

 

 

 

 






「聞いたか?最近、どうも金獅子が大量に不審死しているらしいぞ?」

「ああ、知ってる。雷を落とされた後に氷漬けにされたような感じだってな。それも雷のエネルギーを全て抜き取られて死んだみたいなんだってな。」

「あぁ、角をおられたキリンの怨念が実体を持ってラージャンを襲った、なんて噂もあるぜ。」

「そりゃあ流石にないだろうな」








感想、評価、誤字報告などありがとうございます!大変感謝しています。

数年後、ハンターズギルド上層部を悩ます問題が増えるが、それはまた別のお話。
教祖がMR級ハンターでさらに手が負えないかもしれないがそれもまた別のお話。


作者は受験生なので、急に更新されなくなったらそういうことです。三月下旬になっても更新速度が戻らなかったら「あ、こいつ落ちたな」って思ってください。一応活動報告で報告だけはします。


兵器紹介:『調合』

兵器というか技術。時々錬成に失敗してST産アイテムが出来上がることもあるが再現性はない。ちなみに密猟者の落とした錬金書のおかげで錬金っぽいこともできる。文字がないから不完全だが、千里眼の薬ぐらいなら作れる。
また、師匠に教えてもらった結果調合アイテムのクオリティはハンターのそれと遜色ない領域までたどり着いた。
ちなみに兵器一個でも特徴としては大きいのに、調合やらハンターの装備使うやらで、研究員たちの間で、『こいつの特殊名どうしよう』問題が日夜繰り広げられているそうだ。観測されるたびに特徴が増えるため皆頭を抱えている。
一部の研究員の間では、80年前に暗殺された狂気の科学者『マネルガー』の作った改造モンスターの一種なのではないかと言われていたが、時系列が合わないのでそれはないだろうと結論付けられた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吾輩はアトラル・カ。好奇心猫をも殺すと言うが吾輩はそもそも蟷螂である



初投稿です




目の前に広がるのは、埃を被った大博物館。

1人の来訪者も終ぞ来ることがなかった、天才たちが夢の跡。

 

「ピギャ…!(おぉ…!)」

 

大扉を開け、中に入るとまず目に飛び込んできたのは、巨大な龍──ラオシャンロンの頭骨。

骨になっても失われないその威厳に思わずため息が漏れる。

 

大型モンスターが十分に歩き回れるだけの大きさがある空間の中を、女王は歩く。

積もった埃の上に、足跡がつく。女王のもの以外に痕跡は一切見られない。壁の装飾は剥げ落ち、恐らく博物館を照らしていたであろうシャンデリアは地面に落下し、床のタイルはすでに割れてしまっているものも見られる。

 

それでも、展示品に手をつける盗賊は現れなかったのか、展示品の一切は失われていない。

カツン、カツンと硬質な床を叩く音がする。

壁際のガラスケースには、鉄鉱石のような一般的な鉱石から、シーブライト鉱石やアイシスメタルのような一部地域でしか採取できない特殊な物まで、ありとあらゆる鉱石が飾ってある。

そのほかにも、黒色の鎧を着せられたアプケロスやリノプロス、リモセトスの剥製や、何かのモンスターの卵の殻、なんらかの古龍の化石などが、来訪者の目を楽しませるように工夫がなされた配置で展示されている。

 

そして、黒色の鎧を着たアプトノスの剥製の目の前まで来た時、突如として剥製の全てが命を取り戻したかのように動き出し、侵入者目掛けて一斉に三色のブレスを放ってくる。

 

なるほど。

 

「ピギャアアアアアア(お前たち展示物じゃなくて警備員なのかよおおおお!草食竜がブレス吐くんじゃないよ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

吾輩である。

気づいたらよくわかんない遺跡のようなものを発見していた。しかも吾輩でも入れそうな大きさの入り口である。表面に蔦が這って、長年誰も出入りしていないような様子ではあるが、完全に崩落はしていない。

上空からは見えないように入り口は巧妙に隠されているし、これは一体なんなのであろうか。…気になる。明らかに現文明から分断されている位置にあるが、これはなんの遺跡なんだろうか。竜大戦時代の名残とかだったらロマンがあるなぁ。

 

これを見つけたのは本当に偶々である。その夕、吾輩はビストロ防具風の外装に身を包み、お手製の包丁やら片手に料理をしていたのである。今日の夕ご飯である!

実は黒狼鳥の脚が美味しいというのはあまり知られていないことである。煮込んでスープにすると美味しいのであるよ。

あとは、怪鳥ことクック先生は皮も肉も全身余すことなく美味しい。その皮を焼いた鶏皮にタレをつけてパリッと焼くと大変香ばしいのである。その肉とツチタケノコを合わせてチキンライスにしても美味である。後はリノプロスのもも肉から作ったプロシュットに、夜鳥ことホロロホルルの肉から作ったロースカツも、これまたご飯に合う。付け合わせとして砲丸レタスを千切りにしたものも忘れずに。

師匠に任せたあの子はどうしてるかなぁ、なんて考えながら肉を切り野菜を切り、自家製の油で揚げこれらの料理を作っていく。肉の焼ける匂いが食欲を刺激するのである。肉料理ばっかりじゃねえか!

 

ちなみにあの子の養育費の方は問題ないはずである。倒すと粗悪な装備と幾らかの金をドロップする半無限湧きの人型モンスター*1がいるからな、そいつらから毟り取ったゼニーやら、吾輩にとっては無用の長物な幾つかの換金アイテムやらを渡しているから、全部合わせれば暫くは持つはずである。

 

閑話休題。料理の準備も全部終わり、綺麗にこれまたお手製の食器の上に盛り付けて実食していた時のことである。

メインディッシュは全て食べ終えさてデザートだと思いデザートの乗った皿を取ろうとした時のことである。

どこからともなく飛び込んできたメラルーがその皿を掻っ攫うと、そのまま夜の闇に紛れて逃げ出した。

 

「ピギャアアアアアア(わ、吾輩の熱帯イチゴのタルトがあああああ!返せこの泥棒猫!)」

 

とっておきの熱帯イチゴを使ったタルトが掻っ攫われたのである。一番作るの大変だったのに!野生じゃ材料を集めるのも大変だったんだぞ!貴様にわかるか!バターを作るには生クリームが必要で生クリームを作るにはバターが必要で無限ループに陥りかけた吾輩の苦悩が!

 

お腹いっぱいで元気いっぱいな吾輩から逃げられるわけがない、しかしメラルーの方も流石の走力。

その小柄な肉体を活かして木々の間をすり抜け、岩々の間を通り抜け、蔦の間に飛び込み、なかなか距離が縮まらない。

ちくしょう、言ってくれれば少しぐらい分けたのに、盗むんじゃないよ!吾輩怒らないから止まりなさい!というか止まれ!少し千里眼の薬飲まないとコレだよ。吾輩の料理すぐ盗まれる。

暫くして、ようやくメラルーをとっ捕まえた時のことである。ちょうどメラルーを捕まえた場所の正面に、謎の古代遺跡の入り口があったのである。本当にここどこだ。というかなりふり構わず走り回ってたせいで元いた場所に戻れるか怪しいぞ吾輩!

メラルーはミャーミャーミャーミャー(訳:やばいこれ殺されるニャ)泣いてたが、大タル爆弾投げつけてきた訳でもないのに殺すほど吾輩鬼じゃないよ。お腹が減っていたようなので、タルトを一切れと明日の朝ごはんにしようと思っていたコダイオウイカのイカめしを包ませて解放してあげた。もう悪いことするんじゃないよー。

 

いや待て、逃したら道案内役いなくなった吾輩帰れなくなるのでは…?

 

ちょ、メラルー戻ってきて!せめて元いた場所に吾輩を案内してくれ!

それで冒頭に戻るのである。古代遺跡か…浪漫があるな。中にゴール武器とか落ちてたりしないかなぁ。入り口も、吾輩ぐらいなら入れるぐらいには大きいのである。うーむ。ここで見つけたのも何かの縁。仮に建物が崩落しても吾輩1人ならいくらでも脱出できるし、少し探索してみるか。なーに、いざとなればすぐ逃げるさ。

 

地下へ続く階段を降る。

階段の段数が百段を超えたあたりで数えるのをやめた。

 

「ピギャアアアアアア(これ、どんだけ深いんだ…?)」

 

 

しばらく階段を降りると、鋼鉄製の錆びついた大扉を発見する。

軽く鎌で押してみると、ギギギと軋むような音を立てて扉が倒れる。

 

目の前に広がるのは、明らかに人間が作ったものである研究所…みたいななにか。

直線に続く廊下の壁には、割れたランプのようなものがかかっていて、地面には鉄の板のようなものが張り付いた小型モンスターの骨が散在している。床には埃が積もり、自身の息遣い以外には音はほとんど聞こえない。ぽちゃん、と何処かで水の落ちる音がした気がする。

 

松明片手に廊下を歩く。

なんかバイオハザードみたいだな…ヴァルハザクとか出てきたりしないよな?後ゴア・マガラとか。

 

所々にある、人間サイズの扉をそーっと押して中をみると、ベッドの残骸の並ぶ仮眠室のようなものや、割れた水槽の並ぶ部屋、ボイラー室のようなもの、食堂…と、ここが嘗て人の営みがあったことを察せられる施設が見られる。

 

うむ。なんの部屋かわかる程度には痕跡があるということは、精々が100年前より最近の遺跡なのであろうな。…それはそれで謎だな。モンスターの被害に遭って滅ぼされた村の施設とかなら周りに住居跡があってもおかしくないが、そんなものはどこにもなかった。というか、この施設。規模感的に竜暦院の秘密の実験施設とか言われても驚かないぞ。

 

さらに幾つかの大部屋を通り抜け、廊下を歩き、遂にこの施設の最奥と思わしき場所へ辿り着く。

錆びついて、今にも崩れ落ちそうな落とし格子で区切られた部屋。向こう側に見えるのは、闘技場、だろうか。

 

ここは何処なんだ?吾輩こんな施設知らな…いや待って前世の何処かで見たことある気がする…外伝作品とかだったら困るぞ…万が一アイルー村とかだったらどうしよう。

見た感じは、竜大戦時代の研究所、みたいなかんじなんだよなぁ。ここに来るまで、古ぼけた研究日誌っぽいものとか、謎の缶に浮いたモンスターの死体とか、ホルマリン漬けにされたモンスターの脳味噌とか、椅子に座ったまま息絶えた白骨死体とかあったし。

…やっぱここ入ってはいけなかったのではないか?吾輩が来ていい場所ではない気がする。というか本当に竜大戦時代の研究所だったら本当に不味いじゃ済まされない気がする。いきなり天井から禁忌がダイナミックエントリーしてきたりしないよね?吾輩死にたくないよ?研究日誌とか文字読めないからわからないけど、多分知っちゃいけない情報が書かれている気がする。

 

それに、途中で通り抜けた博物館のような部屋にいた、鎧を着た三体の草食竜。あいつら草食竜の癖に大型モンスターのブレス使ってきたんだよなぁ。それに、相手が何を言ってるかなんとなくわかるはずの吾輩なのに、何を言ってるのか全くわからなかった。一瞬STの改造モンスターかな、とも思ったんだが、この世界にいるわけないんだよなぁ…やっぱり古代の研究施設が、偶々風化することなく発見された、とかなのかなぁ…?

突然襲ってきたことは、まぁラオシャンロンの頭骨を吾輩にプレゼントしてくれたから許す。え?盗んだだけだろって?いやもう誰もここの利用者いなさそうだし吾輩が有効活用した方がいいのである。

 

それにしても、探検というのはワクワクするなぁ。かなり不気味なこの施設ではあるが、収穫も大きい。

途中で発見した、川に面した半地下の船着場のような場所には半分沈みかけている小型の撃龍船や、格納庫のような場所には2人乗りぐらいを想定した小型の飛行船のようなものがあった。結構本数の減ってしまっている撃龍槍も補給できたし、修理すれば使えそうな船も手に入ったし、ラッキーであるな。今日の吾輩は付いている。まぁ船小さくて我輩乗れないのであるが。もっと大きければ船旅が出来たのになぁ。

どちらかと言うと取り付けられたバリスタや撃龍槍の方がメインであるな。大砲は湿気ってて使えなくなっていた。砲身も潰れてるし。

 

…なんならこの施設ごと分解して持ってってもいいかもしれないな。幾ら時間がかかるかわからないし、崩落に巻き込まれても死にはしないがだるいことになりそうだしやらないが。絶対何処かしらに火薬庫みたいな場所があって大爆発するのが目に見える。途中に大砲の弾が大量に保管された場所とかあったし。全部湿気ってたけど。

 

目の前にある落とし格子を上げ、中の部屋へ侵入する。

少しトンネルのようになっている通路を通り抜け、円形闘技場の中に入ったことで、気づく。部屋の中央に、何かがいる。

それは、微動だにしないが間違いなく生きたモンスター。全身を鋼鉄に覆われた改造モンスター。

 

その姿を見て、吾輩は恐ろしいほどの嫌悪感に襲われる。

『アトラル・カ』。それはまさしく吾輩と同種のモンスター。それが鋼鉄と拘束具、鎖に縛られ、闘技場の真ん中に佇んでいる。

その改造モンスターは、吾輩を感知するやいなや起動し、地面に埋めていたであろう十を超える数の撃龍槍を雨のように撃ち放ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

女王の軍勢と女王の軍勢がぶつかり合う。

冷たい鉄の鎧に囚われた女王は、挟み込むように二つの大車輪を放つと、上空からは撃龍槍を放ち、その口からは、本来なら使えるはずのない高圧の水流ブレスを放つ。

 

その悉くを砲弾と弾丸で撃ち落とした女王は、横一列に展開したライトボウガンを持った狩人人形に一斉に弾丸を放たせる。

同時に装甲に取りつけられたバリスタと大砲からは、一斉に矢弾を放ち、またライトボウガンを持った人形のさらに後方から、弓の曲射により一斉に矢を放つ。

逃げる隙など与えない、と言わんばかりに空間全体を弾丸の雨が貫き、爆音と轟音が鼓膜を揺らす。

 

…吾輩は、相手の言っていることがなんとなくわかる。それが同族であれば尚更だ。しかし、目の前のアトラル・カからは何も伝わってこない。文字化けした文字列を直接ぶつけられている、といえばわかりやすいだろうか。

吾輩の知る人間が作ったものなのか、それに似た技術をこの世界の別人が作り出したのかはわからない。しかし、なるほど、これは…度し難い、な。

正確に放たれる撃龍槍は脅威だし、大車輪の回転に乗せて放たれる鎌の一撃は強力だ。金色の糸による結界は吾輩の動きを拘束するし、体内まで改造されたのか、放たれる複数属性のブレスはたしかに吾輩を驚かせた。だがなぁ…

 

「ピギャアアアアアア(全部、吾輩にも出来ることでしかないんだよ。)」

 

 

放たれた撃龍槍を、粘菌を纏った拳で悉くを撃ち払い、鎌の一撃は、ディノバルドの剣尾の一撃で弾き返す。

ブレスの全ては龍気の衣で散らし、金色の糸を断ち切った吾輩は逆に吾輩の糸で相手を拘束する。

鎧の装飾で糸を切断し、なんとか脱出した改造アトラル・カは、その頭部から奇妙な電子音を響かせると、地面に糸を突き刺す。

 

──くるか、アトラル・カ。最大の攻撃手段にして最硬の城砦が。

 

錆びたラッパを吹いたかのような不気味な音が響き渡ると、地面から、ラオシャンロンを数倍する大きさの要塞が現れる。施設を破壊しながら顕現するは、女王の玉座。アトラル・ネセト。吾輩の知るそれを数倍する大きさのそれは、ガムートをも一撃で潰してしまいそうな重量の脚部を、吾輩目掛けて振り下ろしてきた。

 

地面へ衝突すると同時に、大地が揺れる。

吾輩を射止めようと、糸でできた弾丸を放ちつつ、連続で踏みつけが放たれる。

それだけでガララアジャラの全長を大いに上回る長さの尾が横に振われ、四つ足を繰り返し踏みつけ、瓦礫で作られた頭部からは、火炎放射が放たれ、あたり一面が火の海に変わる。

瓦礫に包まれている彼女は、火をものともせずに踏みつけを繰り返す。なんども、何度も。

 

踏みつけの全てを避け、放たれた溶解液を叩き落とす。

なかなか攻撃が当たらない吾輩に適応してきたのか、踏みつけとテールアタック、撃龍槍や瓦礫の投げつけやブレスを組み合わせて吾輩を追い詰めようとする。

吾輩の攻撃から学習しているのか、攻撃はより多彩になって行くが、それでも彼女の攻撃は吾輩には届かない。

 

「────────、。─────」

 

黄金の繭に身を包んだ女王の、声にならない音が響き渡る。

どう言う経緯かは知らないが、人間に敗れ、囚われ、改造されたのはお前の責任だ。弱きものは自分の生き方を選ぶ権利すらない。だから吾輩達は学習し、逃げ、命を明日へ生きながらえさせるんだ。

それができなかっただけのこと、とはいえ流石に同族。思うところが無いわけではない。

 

蹴り上げられた岩石を迎撃し、全身を使ったタックルを紙一重で避ける。

互いの外装が擦れ合い、砂埃が舞う。

 

眼前に迫る攻撃を、翼脚の一撃で弾き飛ばし、浮き上がった脚部めがけて、臨界した粘菌を纏った殴打を放つ。

 

「ピギャアアアアアア!(壊れろっ!)」

 

粘菌と鬼火を纏い、龍気によって加速された撃龍槍が玉座の四つ足全てに突き刺さり、その破壊力を余すことなく発揮する。

大樹を上回る太さの足を、一撃で粉砕することは叶わないまでも、修復されるまでの間の一瞬だけ相手の動きを止めることに成功する。

瓦礫の竜が倒れ、地面に膝をつく。

 

 

──これならば外しはしない。せめてもの情けだ。苦しみなく、一撃で

 

ピギャアアアアアア!!(葬り去るッ!)

 

黒龍の外装に身を包み、その炉心と、バルファルクの竜機装を接続する。

直列に接続された二つの核は、凄まじい熱を放ち、辺りの空気が歪む。大気を吸引する音が限界まで高まった瞬間、一条の光線が放たれる。

限界まで威力を高められた龍属性の光線は、本来なら効果的でないはずの人工物さえも一瞬で貫き、何の抵抗もなく女王の玉座諸共、改造された女王を貫通する。

同時に黒龍の外装に身を包んだ吾輩は、その重量にも関わらず勢いよく上方へ吹き飛ばされ、全身が砕け散りそうなほどの衝撃が走るが、まぁそれは秘薬を飲めば問題ない。

 

崩壊した城砦を見届ける。

吾輩はそこに、いつか遠くない未来のどこかで誰かに敗れ去り、物言わぬ肉塊となる自分の姿を幻視した。

 

「ピギャアアアアアア(吾輩は死なんよ。…絶対に、な。)」

 

胴体を貫かれ、物言わぬ肉塊となった女王の目をそっと閉じ、撃龍槍の一本を墓標のように地面に突き刺す。

同族よ、せめて安らかに眠れ。

 

闘技場を後にし、特にもう見るものもなさそうなので、施設を後にしようとする。

そして、気づく。

 

あ、ここもう少しで崩落するわ、と。

暴れ回ったアトラル・ネセトの衝撃と、吾輩の攻撃に耐えかねたのか、壁全体に亀裂が入り始めている。

 

「ピギャアアアアアア(不味いって、ちょ、逃げ───!)」

 

吾輩は、闘技場を後にして、全力で駆け出す。

途中で一瞬だけ振り返り、玉座の残骸を一瞥する。その瞬間、先ほどまで闘技場だった場所が、天井の崩落に巻き込まれて潰れる。

あ、後数秒遅かったら巻き込まれていたぞ…死なないとはいえ流石に痛いじゃ済まなそうだ。

 

 

「ピギャアアアアアア(生き埋めになるのは流石に脱出が怠いって!!!)」

 

 

吾輩は全力で走る。

なんとか長い階段を上りきり、外へ出た時には、もう朝日が登り始めていた。

天才達の夢の跡。そこは、他の人に終ぞ見られる事はなく、静かにその寿命を終えることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
密猟者にかける慈悲はない。このせいでアトラル・カくんちゃんは密猟者の間で一億ゼニーの賞金首になっていたりする。黄金の死神とか呼ばれている。










感想、評価、誤字報告などありがとうございます!大変感謝しています。

ちなみにこの世界に現在ライダーはいません。

Q.アトラル・カくんちゃんが回収した研究日誌の内容って?
A.改造モンスターの研究に関する情報やら、人為的に複合属性を作り出す方法やらが載っている。ちなみにこれを書いた研究者の片方はギルドナイトに暗殺された。もし仮にこれをアトラル・カくんちゃんが持ってることがバレたらとんでもないことになる。間違いなく禁書。



次回『リベンジマッチ』
古龍って遡れば全員ミラルーツなんですよね。






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吾輩はアトラル・カである。リベンジマッチ?勘弁してくれ!





投稿遅れて申し訳ないです
初投稿です。


風に吹かれ、ススキの海が騒めく。

空に浮かぶ満月が、ぼんやりと地面を照らす。

 

あぁ、旨いな。

手製の椀になみなみと注がれた酒に、月光が反射してキラキラと光る。シキ国で作られた…『龍殺し』だったか。吾輩じゃあ蜂蜜酒や果実酒が精々だからなぁ。酒の良し悪しなんかまるでわからん吾輩にも、良いもんだと言うのはわかる。

 

ぼんやりと、月を眺める。

月光に隠れ、星はあまりよく見えない。虫の音も無い、静かな夜だ。とても、とても良い夜()()()

あぁ、嫌になるな。

 

「ピギャア(隠れてないで、出てこいよ)」

 

ぐいっと酒を煽り、空になった椀を投げる。

唸りを上げて空を飛ぶ椀は、一条の雷鳴に貫かれる。

 

雲一つない天に、月明かりをかき消すように雷鳴が轟く。

急激にあたりが冷え込み、凝固した空気中の水分が月光に照らされ薄らと輝く。

 

黄金色の野に、白と黒の幻獣が降り立つ。

月が綺麗ですね(ここで死にましょう?)』と幻獣が言う。『私には明るすぎる(お断りだね)』と吾輩は吠える。

 

冷気に揺られ、ススキの穂が風に吹かれて落ちる。

今宵は満月だ。

 

殺気が夜の冷たい空気を引き裂き、そして両者の間合いが──弾けた。

 

 

「ピギャアアアアアア(付き合ってられるか、吾輩は逃げるぞ!)」

 

ジャラジャラという音と共に取り出されたのは、鎖により数珠繋ぎにされた大タル爆弾。十数個の大タルの中には、小型の打ち上げタル爆弾、さらにその中にはバゼルギウスの爆鱗や鉄片、毒ケムリ玉などが詰まったそれは、空中で炸裂すると同時に、四方八方へ爆弾の雨をふらせる。

断続的に降り注ぐ爆弾が巻き上げた粉塵と、毒煙に番の幻獣が包まれる。

 

(別にこっちの世界に条約もクソも無いからな、暫くそっちで爆弾と遊んでな!)

 

 

両翼に龍気を充填し、両脚の裏に付着した粘菌を炸裂させる。

幸いここは平原だ、滑走路にするには十分な広さの平地が広がっている。爆発を推進力へ変え、地を滑り、そのまま離陸を試みる。

古龍2体と同時に戦ってられるか。先の戦いで、足場さえ無ければ高高度での戦闘が苦手なのは予習済みだ、このまま飛んで逃げさせてもらう!

離陸に必要な加速にかかった時間は、数秒にも満たない。バルファルクのような、音速を超えた神速の飛行は吾輩には無理だ。だがな、そこそこの速さでの滑空なら十分に可能なんだ。

両脚で地面を蹴り、鬼火と粘菌の爆発を上方向への速度ベクトルに変換して一気に天へ翼を伸ばす。そのまま、両翼から更に龍気を噴射し、再度加速()()()()()()

音速を超えるのは無理でも、亜音速ぐらいならば可能。いくら速度に優れたキリンといえども、追いつけは…ッ!

 

視界、正面。白い影。

刹那、なんとか割り込ませた盾に走る、ほぼ同時の十六発の衝撃。

いつの間に追いついた。音すらなかった…違う、こいつ、()()()()()

 

十分な高度へ上がる前に、跳躍したキリンに撃墜され、錐揉み回転しながら吾輩は墜落し、地面に溝を作りつつ止まる。

今の吾輩が亜音速だとすれば、相手は『雷速』。音にすら届かない吾輩が、光から逃れる訳もないな。多分こいつら、嘗て戦った2匹なんだろうが…その時はそこまで速くはなかったな。いや、吾輩が成長するように、コイツらも成長する、か…

 

あぁ、ちくしょう。また災害相手に正面から殴り合わなきゃいけないのか…しかも、今度は弱点属性相手。だがなぁキリン。

 

「ピギャアアアアアア(一度戦った相手に、吾輩が一切の対策をしていないとは思うなよ!)」

 

体についた土埃を払いながら、吾輩は起き上がると同時に、幻獣目掛けて砲弾を続け様に三発放つ。

この程度、傷のうちにも入らない。活力剤飲んどきゃ治るな。

鬼人薬と硬化薬、活力剤をブレンドした薬品を飲み干す。キリンの馬刺しって美味しいのかな、などと益体のない考えが浮かぶが、それを捨てる。

さて…

 

「ピギャアアアアアア(さて、今日もまた…なんとか生き残ろうか、吾輩!)」

 

吾輩はまだ死にたく無いからな!

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

 

 

 

吾輩である。

昨日の朝ぐらいから、気配だけは感じていた。『誰かが見ている』。しかし、千里眼の薬を使おうと、その気配の主はわからなかった。

それが、今目の前にいる相手って訳だ。キリンとその亜種の番。その体に刻まれた傷跡には見覚えがある。間違いなく嘗て戦った時に吾輩がつけたものだ。

久方ぶりだな。頼むから放っておいてくれ。この広い世界の中で再び同じ個体の古龍と出会うとか確率どうなってるんだよ。お前らみたいな災害がわざわざ吾輩みたいな一般的な(ワイバーン)に構うなよ死んじゃうだろっ!

 

 

「ピギャアアアアアア(撃てっ!)」

 

もはや光の軌跡にしか見えないキリン目掛けて、数十丁のボウガンによる拡散弾の弾幕をお見舞いする。それもただの拡散弾では無い。吾輩特製の『劇毒、麻痺、睡眠混合拡散弾』だ!

キリンの軌道を先読みするように、放たれた弾丸が地面に衝突すると、毒を纏った小爆弾が周囲に拡散する。

加えて、複数の弓から鋼線で繋がれた2本の矢を、狙いをつけず空間を埋めるようにうち放つ。狩技『ブレイドワイヤー』を再現した鋼線の表面には、臨界した粘菌が付着している。

線や点での攻撃では駄目だ。最低でも空間そのものを覆い尽くすような弾幕。そうでなければ傷一つつける事はできない。まぁ、これでも当たっているかは疑問だが。

 

避ける気も失せるほど濃い弾幕の中に身を置いているというのに僅かな空間を見つけては、キリンは回避を続ける。

相手を近づけさせない事はできているが…それでもこちらの攻撃は一切通用していない。当たったと思った弾丸は全てすり抜け虚空へ消える。

双剣や片手剣といった小回りの利く武器を持った狩人人形でさえ、攻撃はろくに当たっていない。

 

「ピギャアアアアアア(チッ!糞ったれ!)」

 

大剣の振り下ろしは、雷に弾き飛ばされ、天高く舞い上がる。

 

嘗て以上に数の多い雷の雨が、夜空を真っ白に染め上げる。

耳はもはや役に立たない。耳栓をつけてなお、轟音により周囲の音はろくに聞こえない。何より、その極光がカモフラージュとなり、ただでさえ視認が難しいキリンの姿が見えなくなる。

 

──来るっ!

 

幾重にも束ねられた雷が、一本の槍となって吾輩に落ちる。間違いなく、当たれば致命傷どころか消し炭になりそうな一撃。雷弱点の吾輩では到底耐えられないだろう…が、対策をしていないと思ったか!

滅龍核を触媒に、高速で充填された龍気が放出され、吾輩の全身が赤の衣に包まれる。

 

取り出したのは、ジンオウガの頭部を模した意匠の施された竜機装。雷電殻、帯電毛で構成された大楯。それを三つ。

それに雷が命中した瞬間、衝撃と共に吾輩の体が大きく後方へ後退する。しかし、雷は一切吾輩には届いていない。

間髪入れずに放たれたもう二発の雷を、残りの盾で受け止める。やはり、雷は盾を貫けない。

ジンオウガ、ライゼクス、ラギアクルスの素材で作った竜機装。そのテーマは、『如何にして弱点属性を克服するか』だ。雷属性を吸収することに特化した大楯は、龍気である程度軽減されているとはいえ、古龍の雷さえも防いでみせた。

 

雷を吸収した盾が、蒼く輝く。それはまさしく超帯電状態の輝き。

やはり、吸収は一発で限界か。それでも、一撃防げれば十分すぎる!

 

キリンの光速の突進を弾幕で牽制しつつ、盾に龍気を流し込む。

盾の一部機構に組み込まれた獄狼竜の素材がそれに反応すると、青い輝きが、赫黒いものへと変質する。

 

──キリン亜種が合流してこない理由は気になるが、それが慢心故のものならば、ここで仕留める!

 

ランスやガンランスといった防御にすぐれた武器を持った狩人人形を大量に展開し、一斉にキリンへ襲い掛からせる。当たらなくてもいい、一瞬でいい。あいつの動きを制限しろ!

如何に光速といえども、無い空間には入り込めまい!

 

 

『龍光解放』

 

赤黒い稲妻が、天高く舞い上がり鳴り響く。

白の光を覆い尽くすように、爆発的に龍属性のエネルギーが高まる。

両足で地面を踏みつけ、思いっきり跳躍。そして、キリン目掛けて急降下。地面に叩きつけた盾より、あたり一面を吹き飛ばす勢いの龍光の嵐を解放する。キリンの纏う雷を蝕み、吹き飛ばさんと解放された破壊力は、コンマ1秒に満たない時間で平原を覆い尽くす。

弾幕、人形、鋼線に絡め取られ、身動きを取りにくい状況。神速の脚を持っていたとて、離脱は間に合わまい!

 

「ピギャアアアアアア(でも、まだまだ終わりじゃ無いんだよ!)」

 

雷属性の入り混じった龍属性の残滓目掛けて、さらなる別属性──莫大な火属性のエネルギーを注ぎ込む。

それは、バルファルクとの戦いの時に掴んだ、禁忌の技(エスカトンジャッジメント)を劣化再現したあの技。

灼熱にあたりが包まれる。

凝固し、氷と化した大気中の水分と熱がぶつかり合い、水蒸気が辺りを満たす。

 

 

「ピギャアアアアアア(マジかよ)」

 

煙の中から現れたのは、分厚い氷に包まれ、彫像となったキリンとキリン亜種。

彫像の表面に刻まれた微細なヒビが広がり、中から2頭の幻獣が解放される。

いつの間に割り込んだのかは知らないが、厚さ数十センチメートルに及ぶ氷の層を作り、番を守ったということか…

氷の鎧に阻まれ、威力の殆どが減衰されてしまい、キリンの表面にほんの僅かな傷を刻んだだけだ。

 

キリンを守るようにして現れたのは、氷の鎧を纏った騎士。

ザボアザギルあたりから学習したのかは知らないが、氷の鎧を纏った騎士は、弾幕に対抗するように氷の礫をうち放つ。

唸り声をあげて放たれた礫と、吾輩の放った石礫が空でぶつかり合い、互いに消滅する。

 

連続攻撃は防がれた、数的有利も相手に取られた。それでも、血は流れた。

ならば…まだ勝ち目はある。

 

放たれた氷の短剣をボーンククリで撃墜しつつ、各種モンスター素材や鉱石製の装甲で強化したラオシャンロンの頭骨を取り出し、盾のように構えた。

 

 

 

 

♦︎

 

 

深夜の平原で始まった超常の戦い。

殆どの小型モンスターは逃げ出し、大型モンスターでさえも姿を隠す中で、人間たちだけはそれの観察を続けていた。

飛行船から観察を続けていた研究員の1人──その腰に、護身用なのか片手剣を佩いていた──が、酒場で仲間の研究員に語る。

 

「んぁ?あぁ、例のアトラル・カ、とキリン夫妻の戦いのことか…あれはヤバかったわ。遠くから観察してたのに、元ハンターとしての勘が『やべえこれ死ぬ』って警告してきてた。」

 

髪の毛をかき上げながら、研究員はその戦いのことを回想する。

 

「実はさ、私。あいつらの1回目の戦いも見てんのよ。その時も凄かったけど…今はそれ以上に凄かった。本当に恐ろしいよ。でもさ、それ以上に…見惚れちまったんだよ。あの船に乗っていた研究員の中では、私以外にあの戦いに追いつけていた者はいない、と思う。後半は私でも捉えきれなかったけどな。」

 

ハンターとしての優れた動体視力だからこそ見切れたあの攻撃。

連撃が一撃に見えるほどの絶技。音さえも置き去りにする、超高速の戦闘。

他の研究員には、赤と白、黒の軌跡が線を描いているようにしか見えなかっただろう。

 

「え、古龍の癖に一対二は卑怯だろって?はは、何いってやがる。お前も研究員ならわかるだろう?彼女を相手にするって事はさ、軍勢を相手にするのと同義なんだよ。」

 

古代文明の超技術で鍛え上げられた発掘装備を纏った狩人を模した人形の軍勢。

一個一個が上位ハンターの中でも限りなくマスターランクに近しい者たちと同じレベルの技術を持っていた。

それだけではない。マガイマガドやリオレウスの人形。しかもそれらは、本来のモンスターとしての動きだけではなく、他のモンスターの動きも取り入れて、嘗て見た時よりもより高度な連携を見せていた。

 

「しかもさ、今じゃバルファルクの力まで使ってやがる。」

 

キリン亜種が、ギルドから『絶対零度空間』と呼ばれる技を使った瞬間、それを龍気で中和し、天眼タマミツネの泡のような、鬼火を纏った泡で吹き飛ばした。

本来の弱点であるはずの雷でさえ、自作の兵器のようなものや、ハンターから奪ったのか避雷針などを使って誘導して、防ぎ切っていた。

 

「あぁ、間違いなくあの女王は人類文明そのものだよ。『モンスター』とか、そういう括りに入れていいものじゃねえ。あれはまさしく化け物だ!例えばオストガロアは、他のモンスターから剥ぎ取った素材を使って武器にする。原種のアトラル・カは人工物を纏って武器にする。ダイミョウザザミは巨大な頭骨で弱点を守るし、ラドバルキンは骨の鎧で身を守る。でもさぁ、奴はそんな原始的なレベルじゃねえんだよ。」

 

「知ってるか?ギルドは古龍でもないあいつが『禁忌』の系譜に位置するものかもしれないと思ってるらしいぜ?*1あぁ、例のルーツの使者が何か言ったのかもな。」

 

古龍の中でさえ、『ゼノ』の名を冠する者にしか許されない、『自然を自分の都合の良い物に作り替える』という特権。

人類は、自分より強い相手に、大自然に、武器や防具といった兵器を、獣にはできない高度なレベルで素材を組み合わせる事で作り出し、争ってきた。

そして、彼の女王は。人間と同じ…下手をすればそれ以上に高度なレベルでそれを為していた。

 

「間違いなくあの戦いで、キリンたちが勝ってくれた方が私たちには都合がいいんだろうな…私たちの使命はさ、モンスターを研究し、病を研究し、歴史を研究して、無辜の民を守る事だ。だからさ、より脅威になりそうな女王が負けるのを願った方がいいんだけどさ。」

 

「願っちまったんだよ。アトラル・カが勝つのを。だってさ、あいつが背負ってるのは千と数百年の、幾度となく興亡を繰り返してきた人類史その物なんだよ。『大自然が何だ!人類史の強かさを見せつけてやれ!』って。」

 

「それにさ、キリンも、女王も…熱かったんだよ。ぶっちゃけさ、ただ生きるだけが目的ならさ、キリンもわざわざ女王に喧嘩を売る必要はなかった筈なんだよ。でも態々戦いを挑んだ。本来なら王者側の古龍が、挑戦者として。」

 

研究者たちは知っていた。

あのキリンは、あのままだと何もしなくても死に果てることを。

本来なら捕食活動の一切を行わないキリンが、ラージャンを喰らい、限界を超えて雷のエネルギーを溜め込んだ、その末路は容易に想像がつく。

 

「わかるよ、その気持ち。…私も、昔はハンターだったからさ。命を賭しても勝ちたい相手ってのはいるもんさ。」

 

そう言って、研究者は腰に穿いた片手剣── 鉤爪剣【荒虎眼】──を叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
勘違いである










オープンなフィールドでワイルドな()()()()()()ハンティング…これがMonster Hunter Wilds


感想、評価、誤字報告などありがとうございます!大変励みになっております。
時間がかかったのに短くて申し訳御座いません。
次はいつ投稿できるのでしょうか。最低限後編は上げます。


後半に続きます。
活動報告の方に、質問とかご指摘とかがある人向けのやつを上げました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吾輩はアトラル・カ。キリンの馬刺しって美味しいのであろうか?

お久しぶりです。初投稿です。






 

 

 

 

 

 

砕けた氷の破片が舞う。

 

「ピギャアアアアアア(2対1は卑怯だろ!お前ら(ワイバーン)相手に(ドラゴン)が本気出してるんじゃないよ!)」

 

 

「──────────────!」

 

キリン亜種が嘶くと、女王の足元目掛けて巨大な氷柱が突き出す。

それをドボルベルクのハンマーで破壊した直後、その隙を狙って雷速の突進が女王を穿つ。

 

2体の幻獣と女王が、月下の元、死の舞踏を繰り広げる。

どこからともなく吹き荒れ始めた吹雪はその強さを増してゆく。

 

どことなく剣に似た形状の氷が空から降り注ぎ、竜骨と黒鉄の剣がそれを迎え撃つ。

氷を受け止めれば雷が、雷を受け止めれば氷が。

絶対零度と致死の雷が、文字通り一切の休む暇もなく女王へ降り注ぐ。

 

糸に引かれた大剣の群れが、矢のように放たれ、雷の壁に弾き飛ばされる。

 

ライゼクスの人形と、ジンオウガの人形が雷をその身体で受け止め、果敢にキリンへ襲い掛かろうとするが、その体は絶対零度の冷気に当てられ、一瞬で制御を失ってしまう。

 

一体であればどうとでもできた。しかし、属性の異なる二体が同時である、そのことが事態を悪化させる。

 

 

仮に吾輩があの『バルファルク』や『猛り爆ぜるブラキディオス』であったのならば、その圧倒的な肉体能力に物を言わせて、連携など何するものぞ、と貫けたのかもしれない。しかし、残念なことに吾輩の肉体はそこまで強くはない。

どれだけ武装を揃えようと、知恵を身につけようとも、強敵たちの外殻を纏おうと、彼らのその圧倒的なパワーが手に入るわけではない。

 

(いや、吾輩にはひとつだけ手がないわけではない…が、二体一の現状で()()を切って、どちらか一方でも倒しきれなければいよいよどうしようも無くなる…)

 

知恵は時に種族の絶対的な差を上回る。それを吾輩は散々経験してきた。

大丈夫。やる事は今までと変わらない。

 

「ピギャアアアアアア(さぁ、古龍ども。吾輩の『狩り』を見せてやろうじゃないか!)」

 

よし、じゃあ…一狩り行こうぜ!

 

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

吾輩である。いきなり古龍の番に襲われた吾輩である。綱渡りではあるがなんとか生きている。なんかこう、最近、世界が吾輩を殺そうとしているんじゃないかと思うのである。

振り返ってみると、この世界で目覚めてから、キリン夫婦、臨界ブラキ、師匠、バルファルク、吾輩の同族と、レイドボスみたいな奴らと出会い過ぎではないか?クシャとネロにも歩いてたら出会ったし、実は古龍って珍しくないのか…?そんな訳があってたまるか。仮にそうなら今の文明は一瞬で滅びるわ。いくらハンターが肉体的に屈強だからといって、アマツが穀倉地帯に陣取って、ヴァルハザクが水源に陣取って…とやられたら終わりである。

 

ギャリギャリと、吾輩の身体を隠す盾の表面が削れる。

機関銃もかくやと言った速度で放たれた氷の礫が、フルクライト-コスモライト合金の盾を削り取る。

 

脆い氷も、古龍に使わせればこれだけの威力になるのか…というかこんな攻撃してきたっけ、キリン亜種。間違いない。これ吾輩の攻撃方法学習されているな。

大雑把に放っていた冷気は、より殺意の強い形状へ。露出していた柔らかい肉体は、より硬い氷の装甲へ。

あくまで落雷の操作に過ぎなかった雷は、己を加速させる加速器へ。

 

前回の戦いの時、ふと思ったことがある。

この番、キリンと比べてキリン亜種はひょっとすると戦闘能力が低いのではないか、と。

実際、前回逃げようとした吾輩に限界まで喰らい付いてきたのはキリン原種の方であるし、再び見えた今回、キリンの方は吾輩じゃ絶対に追いきれない絶望的な速度を提げてきたのに対して、キリン亜種が用意してきたのは、氷の鎧という、多少頑張れば貫ける防御手段のみ。

何度か仕掛けたフェイントにも、引っかかる回数がキリン亜種の方が多かった。いや、それはただ単にフェイントに引っかかったところで大したダメージを受ける事はないと理解していたからなのかもしれないが。

 

しかし、キリン亜種の脅威度は、徐々に上がりつつある。

時間をかけるのは不味いな。

キリン亜種。原種と比べれば驚異度は低かったのであるが…だんだん動きが洗練されつつあるな。吾輩の手に負えなくなる前に、何処かで仕留めなければ、吾輩は確実に死ぬ。

 

瞬間、視界からキリンの姿が消える。

それと同時に、全身を十六発の衝撃が打ち据える。

 

「ピギャアアアアアア(ぐ…あぁ!糞が!瞬間移動してるんじゃないよナルガ希少種じゃないんだから!)」

 

またこれだ。

通常時のキリンの動きは、なんとか目で追い切れる。しかし最高速まで加速されると、吾輩では全く追いきれない。

連続で使ってこないのがまだ救いであるな。

 

「ピギャアアアアアア(ま、それでもそもそも通常時も速すぎてほとんど吾輩の攻撃当たらないのであるがな!)」

 

せめて一対一の状況を作り出したい。

ならばどうするか。簡単なことだ。対処できるうちに、弱い方から潰す!

 

『トラップツール』という素材アイテムがある。

各種罠系アイテムの素材になる便利なアイテムであるが…特にすごいのは、ある程度柔らかい地面であれば一瞬で大型モンスターが埋まるだけの穴を掘れる謎の掘削技術である。分解してみたが仕組みは本当によくわからない。頑張っていくつか技術を応用したアイテムを作れるようにはなったが。そして、その素材から作った『落とし穴』それがここにざっと100個近くある。もちろん、改造によって穴を掘る力は何倍にも増しているよ。まぁその所為で捕獲用の罠、としての性能は落ちているが。

ハンターは持ち込み数に制限があるが、吾輩には関係が無いからな。この場で100個全部使い切るつもりだ。

 

なんとかキリンたちの猛攻を捌きつつ、無理やり作った隙の中で、落とし穴を大量に地面にばら撒く。

『古龍は罠にかからない』なるほど、それは常識だ。彼らは知能が高すぎて罠を避けてしまうし、『生態に不明な点が多く、捕獲が困難である』というのも罠が無効化される理由だ。だから、吾輩の行動は一見無意味。

 

実際、キリンたちは吾輩の置いた罠を全部避け、或いは雷で破壊している。

しかし、だ。幾ら古龍でも、落とし穴によって空いた穴、それ自体は無効化できないだろう。浮遊しているわけでもないんだし。

地面に穴が空き、足場が少なくなれば自然と取れる軌道も減ってゆく。まぁ、それは吾輩にとっても同じことなんだがな。

 

そうやって、キリンたちの機動力を削ぐ、それが目的…そんな訳があると思うか?

 

落とし穴に隠されるようにして、複数設置された、吾輩オリジナルの罠。

捉えるためではなく、殺すために作られたトラップ。

 

殺すのならば、弱い方から。

まずは相手の、数の利を削ぐ。

 

吹雪は激しさを増す。身を裂くような冷気が、刃となって女王の盾を刻む。

貴女の目には、私しか映らない。私の目には、貴女達しか映らない。不埒な観察者は空の向こうに消えた。

 

ならば、吾輩も本当の切り札を出そう。思う存分殺し合おう。

 

「ピギャアアアアアア(覚蟲強化ッ!)」

 

外装の四脚に踏みつけられた地面から雪煙が上がる。雷速に追いつくことは諦めた。無理に追うのではない。相手の行動を理解し、パターンを組み上げ、未来予知にも近い予測で回避する。

多少の被弾は想定内。致命傷になりそうな攻撃だけ避ければ良い。

大砲から榴弾が放たれ、四方八方から打ち上げタル爆弾を撃ち出す。

 

火薬の匂いがあたりに満ちる。

 

ぼろぼろと、砂の落ちる音が聞こえた。

白い幻獣が角を振り下ろすと同時に、その軌跡をなぞる様に雷が放たれる。それをジンオウガ型の盾で受け止める。僅かな遅延(ディレイ)の後に、黒い幻獣の後ろ蹴りが吾輩の身体を僅かに後退させる。…これでも数トンの重さはあるんだけどな、吾輩の外装。

反撃として振り下ろした撃龍槍は、空を切る。先端に付着した粘菌が、地面を揺らす。

 

そして、後方へ飛び退いたキリンが地面に接地した瞬間、轟音と爆発が大気を揺らした。

 

やっとかかったぞ!トラップツールを応用して作った兵器、『対龍地雷』。踏んだ時点でアウトなタイプの地雷で、その爆発の威力は、大タル爆弾G八発分に相当する!

幾ら素早いお前でも、動き出しの前に発動した攻撃は避けられまい!普段なら、幾ら小さいとはいえこんなちゃちなブービートラップにかかる訳ないだろうが、鉄と火薬の匂いで麻痺した鼻じゃ気づけなかったか!

 

流石に足を吹き飛ばすことはできなかったが、転倒したキリンを金色の糸で絡めとり、吾輩は飛ぶ。

それと同時に、無事だったキリン亜種が吾輩目掛けて血相を変えて突進する。

 

あぁ、そうだよな。流石に番を守ろうとするよな。まぁ、でも我輩の狙いはお前の方なんだけどな!

キリン亜種の突進を盾で受け止め、あえてその衝撃に逆らわずにそのまま吹き飛ばされる。

 

この瞬間、吾輩だけが少し遠くに、そしてキリンと吾輩に挟まれるようにしてキリン亜種がいる、という位置関係になった訳だ。

 

 

ヒィィィィィィィィ………ンッ!

 

キリン亜種は思いっきり地面を踏みしめ、そのまま半ば飛ぶようにして、女王目掛けて駆け出す。

キリン亜種が吠える。彼は、この瞬間で決め切ろうとした。「速く決着をつければ、自分の番はこの後も生き延びることができるかもしれない」という焦りもあったのかもしれない。ラージャンを喰らう中で、力を増してゆく反面、寿命を削っていた番への想い故の焦りだ。

 

それが裏目に出た。

 

 

♦︎

 

なんとか金色の糸を外し、なんとか起きあがろうとするキリン目掛けて、天から一本の大剣が落ちてくる。

なんとか脳天への直撃は避けたが、純白の体に一筋の切り傷が刻まれる。

 

そして、()()()()()()()()()()から放たれた小規模な爆発が、とどめになったのだろう。

限度を超えた数の落とし穴により緩んでいた地盤に、幾度となく降り注いだ衝撃、そして数トンの重さが高速で上で飛び回る戦闘が負荷を与え続けていた。

この瞬間、地面は限界を迎えた。

 

 

崩落する地面に巻き込まれながら、キリンは考える。

この大剣は一体どこからきたのか…ッ!

 

─── 糸に引かれた大剣の群れが、矢のように放たれ、雷の壁に弾き飛ばされる。───

 

あの時か。

他の大剣の殆どは消し炭になっていたのに、何本かは消えず、そのまま吹き飛んでいた。

糸でそれを空中で待機させていたのか!

 

地面が崩壊する。

土煙が、女王を覆い隠す。

 

 

キリンが「やられた」と苦々しげに吠える。

吹き飛ばされた女王は、崩落する圏内から既に離脱済み。

そして女王目掛けて駆け出したキリン亜種は、踏むべき足場を失い、不安定な瓦礫を踏むことになる。

なんとか転ばないで済んだが、後ろに下がれば間違いなく体勢を立て直す間に番は殺される。故にキリン亜種は止まれない。

 

もう止まれない。止まるわけにはいかない。

半分も加速しきれていない状態だが、もはや後には引けないと、絶対零度の冷気を放ちながらキリン亜種が突進する。

土煙が晴れた瞬間、キリン亜種が驚愕する。

 

伝説が、舞い降りた。

 

 

 

 

 

♦︎

 

 

出し惜しみはなしだ。黒龍外装、一番火力の出るこれで一撃で仕留める!

 

「ピギャアアアアアア(そんなボロボロの体幹で、吾輩を殺せると思ったか!)」

 

キリン亜種が吾輩とぶつかるその瞬間、一瞬を見極めろ。ここを逃せば二度とチャンスはやってこない。コンマ1秒。盾を繰る糸に、全神経を集中しろ。

漏れ出る冷気に当てられた地面が凍りつく。蹄が礫を踏みつける振動を感じる。まだだ、まだだ…今だッ!

 

大楯と頭部がぶつかり合い、鐘の音のような、重厚な音が鳴り響く。

キリン亜種の決死の突進は盾に弾かれ、幻獣は体勢を崩す。

 

 

ぐしゃり

 

 

 

肉を貫き、腑を撃龍槍がズタズタに引き裂く。古龍の血が溢れる。

 

 

「ピギャア(パリィからの内臓攻撃は狩人の基本だよ、キリン亜種)」

 

 

心臓を潰した。

なんとか死に体の状態ながらもキリンの元まで亜種は後退し、最後の力を振り絞って金色の糸を引き裂き、そのまま絶命する。

その行動を吾輩は止めることはできなかった。キリン亜種のはなった絶対零度空間。それは一瞬ではあるが吾輩の身体を凍りつけ、行動を封じてきた。

身を捩り、全身を覆っていた薄氷を砕く。

血でできた道を辿れば、その先にはじっと佇むキリンがいた。

 

 

起き上がったキリンは、少し哀しそうな眼でキリン亜種の屍を見る。

そして、そっと。持ち主が死してなお輝く角に口づけをし、それを砕き、飲み込んだ。

 

 

吾輩は、立ち止まっているキリン目掛けて、滅竜砲による砲撃を放つ。

何をしているのかはわからない。わからないが…不味い、とにかく不味い。あれを目覚めさせては駄目だ。

放たれた砲撃の後を追うようにして、吾輩はキリン目掛けて突進する。

 

 

瞬間、視界が一瞬暗転する。

 

 

 

「ピギャアアアアアア(ぁ…があああ!?)」

 

突如として、全身に灼熱に焼かれたかのような感触が走る。

あの一瞬、吾輩の心臓は止まっていた。口内に忍ばせていた気合のカタマリがなければそのまま死んでいた。

一瞬何が起きたかは分からなかったが、理解する。灼熱の砲弾を避けるでもなく、撃ち破ったキリンは、そのままの勢いで吾輩に突進。

だが…黒龍外装を貫くほどの力は無かった筈。

 

「ピギャアアアアアア(がっ!クッソ、どこにいる、キリン!)」

 

吾輩死んじゃうって!偶々盾に当たってくれたおかげで今度は防げたけど、まるで見えねえ…っ!

何かが高速で飛び回り、吾輩にぶつかっている音だけが聞こえる。全身が痛い。キリンとも、キリン亜種とも違う。赤い軌跡だけが見える。

苦し紛れに振るった尾が、偶々()()に当たったおかげで、漸くキリンの姿を捉えることができた。

 

純白の体毛には、うっすらと黒のラインが入り、その角は捻れ、2本の角が絡み合うようにして一本の太い角になっている。

あぁ、そうか。亜種の角を喰らって力を増したのか。いやナルハタタヒメじゃないんだから!

 

無理に二属性分の力を取り込んだ反動だろうか。

うちに秘められたエネルギーが漏れ出るようにして表皮は弾け、血が吹き出す。それを埋めるようにして冷気が傷跡を覆い隠す。

 

 

「ピギャアアアアアア(キリン…まさかお前、ここで吾輩と心中するつもりか!?)」

 

 

吾輩にぶつかるたびに、鮮血が吹き出す。

死ぬのが怖くないのか。そこまで吾輩を想うか、殺したいか!吾輩死んじゃうって!

 

キリンの影に、亜種の姿が重なって見える。

 

劫火で焼き払おうにも、一か八かアトラル・ネセトを吹きとばした砲撃を放とうにも、溜めの隙がない。

それに、当たるわけもない。地雷の爆発すら突破しながら走り抜ける走力を得たキリン相手に溜めのある攻撃が当たるわけがない。

肉弾戦。攻撃が吾輩に命中した直後へのカウンター。吾輩に命中した直後だけ、一瞬速度が弱まる。それでも音速を超えて衝撃波が出るぐらいには速いから、今の黒龍外装ですら追いつけない。

 

あまりにも強い衝撃に、外装に守られているはずの我輩の体が軋む。

落雷を放ってこないのは、落雷を操る器官がいかれたからか?

 

今のままでは追いつけない。ならばどうする。簡単なことだ。現状を越えればいい。

バルファルクの竜機装と、炉心を直列に接続する。臨界点まで溜まったエネルギーを、砲撃として放つのではなく、外装の内部で循環させる。黒龍の姿が、赤熱し、紅蓮に染まる。

出来るとは思っていた。

制限時間付きの出力解放。もって3分と言ったところか。それを越えれば、超過加熱で外装自体が機能を失うだろう。

デメリット付きの強化は浪漫だろう?この3分だけ、吾輩は最強になれる。この瞬間で、全てを終わらせる…!

 

あぁ、熱い。漏れ出る熱が、体に走る高圧の電圧が。胸の高鳴りが抑えられない。気分が高揚する。

戦うのが好き、って訳じゃないんだけどな。吾輩は死にたくない。それでも、この高揚は本物だ。

 

 

 

生物が許容できる量を超えたエネルギーは、紅き雷となってその体から漏れ出る。

()()の誕生を祝福するように、吹雪が晴れる。満月が何かに覆い隠され、空にポッカリと穴が開く。皆既月食の下、冷気が白い綺羅星のように舞い散る。

さぁ、最期の時(ラストダンス)は私と踊りましょう?退屈なんてさせないんだから…

 

差し出された手を取り、女王は答える。

雷に焼かれ、極炎の地と化した大地に女王は立つ。最期の招待状を破り捨て、吐き捨てるように叫ぶ。

 

ここで果てるのはお前だけだ。

 

終焉は未だ来ず。

祖へ近づいた幻獣は、甘き終焉を歓喜の内に迎え、紅へ近づいた女王はそれを否定する。

 

ヒィィィィィィン!/「ピギャアアアアアア(さぁかかってこい、キリン/アトラル・カっ!)」

 

 

何度も、何度もキリンの突進が身体を打ち据える。

360°、あらゆる場所からの衝撃を、翼を繰り、盾を繰り、全身を使って何とか防ぐ。

 

残り一分。

前脚の振り下ろしが、僅かにキリンの身体を掠める。その代償に、黒龍の右翼が吹き飛ぶ。

 

捉えろ、相手の姿を。目に頼るな。気配を探れ。五感の全てを研ぎ澄まし、幻獣へ追いつけ。千里眼の薬で拡張された認知能力の糸を伸ばし、一瞬を、刹那より短い一瞬を手繰り寄せる。

 

残り三十秒。

足音から軌道を理解する。

 

 

感覚でわかる。残り十秒。

心臓を狙った一撃。あぁ、

 

──捉えたッ

 

キリンを抱きしめる。あぁ、やっと捕まえたぞ!

残り一秒。そして──抱きとめていた黒龍外装の右半身が半壊し、吾輩の右鎌が千切れ、吹き飛ぶ。緑色の体液が吹き出す。

 

終わった。

力を失い、元の黒に外装の色が戻る。今の吾輩ではもうキリンを捕らえることは出来ない。

 

否。

 

まだ終わりじゃない、何も終わってなんかいない!

 

 

外装を脱ぎ捨て、裸になった吾輩は、左腕でキリンの首をホールドし、四つ脚で絡みつく。吾輩ごと、アイアンソードでキリンを貫き、身体を縫い付ける。

そしてキリンの角目掛けて、思いっきり噛み付いた。

 

「ヒィィィィィィン!?」

 

吾輩から逃れようと、キリンは必死にもがく。全身から紅雷を迸らせ、吾輩を吹き飛ばそうとする。

高圧の電流で傷が解け、右腕からの出血が止まる。

雷が全身を震わせる。

 

金剛身、鉄鋼身。おまけに今の吾輩の護石は防御特化だ!

絶対に離さない。このまま角を砕く。ここでエネルギーを操ってるんだろう?だったらここを壊せばお前はもう戦えまい!

ここから先は我慢比べだ、言っておくが、吾輩は相当タフだぞ!

 

女王を振り払おうと放った雷は、アイアンソードを伝い、キリン自身さえ傷つける。

互いに傷つきながら、お互いはお互いの意地をぶつけ合う。

『死んでも殺す』『絶対に生き残る』

 

角がミシミシと軋む。

 

半ば絶叫のような雷が、絶対零度の冷気が互いの身体を蹂躙する。

声にならない叫び声をあげ、女王は込める力を強める。

 

 

「──────────── (こんなところで、死んでたまるか!)」

 

 

 

角が折れた。

 

 

 

「ピギャアアアアアア(あ、まって勢い余って飲み込んじゃっ…痛い痛い痛い!雷は吾輩の弱点ひゃああ!)」

 

無理やり属性を制御していた器官が吹き飛び、暴走したエネルギーがキリンを蹂躙した。

同時に、膨大な雷属性のエネルギーに蹂躙された女王の体が吹き飛ぶ。

 

何とか起き上がった両者は、共に最初の力強さは無く、あまりにも弱々しい。しかし尚も闘志は衰えず。

 

キリンが駆ける。

正真正銘生涯最期の一撃。属性すら纏わなくなったそれを迎え撃つは、隻腕の女王。

 

──絶対回避《臨戦》!

 

スレスレで攻撃を避けた女王は、金色の糸の腕でディノバルドの剣尾をただ全力で振り下ろす。

キリンの体が、縦に両断される。

 

満足げな表情を浮かべ、幻獣は倒れ伏す。

 

(あぁ、生き残った。吾輩の、吾輩の勝ち…だ…)

 

意識が朦朧としてきた。

何とか起き上がらなければ。このまま吾輩も死んだら世話がない。

 

あぁ、どこからか飛竜の羽ばたきが聞こえる。

 

 

 

暗転する意識の中、最後に目に映ったのは、白だった。

少女の笑い声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、評価、誤字報告などありがとうございます!励みになります!


またしばらくお休みします。
ネタ自体はあるのに続きを書く時間がないのが歯がゆい……掲示板ネタもやってみたいし。もしこの世界に掲示板(一部研究員専用)があったら、みたいな。「この蟲やべえぞ殺せ」がメインになりそうですが


兵器解説:黒龍外装(出力解放)

本来なら砲撃として外部に放出するべき龍気のエネルギーをそのまま体内で循環させた状態。
三分も経てば炉心がオーバーヒートして動かなくなる。強化状態の間、外装の表面は紅蓮に染まる。

ちなみにギリギリ黒龍外装は人間たちに見られずに済んだ。もっと不味いものは見られたけど。



連載へ変更しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

If:もしも本編世界に掲示板があったら

初投稿です
所謂Ifモノです。本編世界との違いは掲示板があるかないか。

今までアトラル・カくんちゃんがやってきた事を人間目線で振り返るダイジェスト的な奴なので特にストーリー的な進展はあまりありません。










 

 

家に帰れない研究員が愚痴を吐くだけのスレPart.631

 

 

 

 

 

1:名無しの研究員

このスレは、外部に漏らせない研究内容が多すぎて家族にすら何も話せない研究員が日々の愚痴を吐き出すための雑談スレです。

あくまでこの掲示板は、ハンターズギルド上層部の『ご好意で』用意してもらったものであることを忘れないようにしましょう。

 

■次スレについて

次スレに関しては>>920が立ててください。不可能な場合は有志を募って代理で立ててもらってください。

>>1〜2のテンプレートもお願いします。

 

 

2:名無しの研究員

 

■注意事項

 

基本この場には、およそこの世界の大半の情報を知ることが許されている立場の人間しかいません。但しそれでも話していい情報には限度があります。明日の朝日を拝みたいのなら、その辺は配慮しましょう。万が一限度を超えた書き込みがあったとしても、数秒もすれば自動で削除されます。私たちは何も見なかった。いいね。

 

荒らしは漏れなくイビルジョーの餌になります。

 

 

3:名無しの研究員

>>1 ドスタテアリーオス

 

4:名無しの研究員

>>1 スレ立てサンオツ

 

5:名無しの研究員

前々スレ>>1000はちゃんとリオレイアに告白してきたんだろうな?

 

6:名無しの研究員

そういやあの後から全く報告がないけどまさか逃げたか?死んだか?

 

7:名無しの研究員

>>5

残念だったな、元ハンターあがりなもんで、ちゃんと告白はしてきたわ。まぁ返事にサマーソルト喰らって逃げ帰る羽目になったんですけどね、初見さん。

 

8:名無しの研究員

なぁ、この前主任が「リオレイア希少種の住処に生態調査の名目で突撃して、しかもそれが無断だったらしくて減給処分&謹慎のコンボ喰らったバカがいる」って話してたんだけどまさか…

 

9:名無しの研究員

もうお前ギルドナイトに処されちまえよ

 

10:名無しの研究員

>>9 そいつ元G級ハンターだし普段は普通に優秀な研究員だから無理

 

11:名無しの研究員

一応この場にいるのって最低でも禁忌の研究できる連中だけだし、まぁそう簡単には消されないわな

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

500:名無しの研究員

>>483

で、そのおまいのいう炎と氷を纏った古龍らしき生物の素材は何かしら入手できたのかい?新種の古龍が発見されたってなったら相当な大ニュースだぞ

 

502:名無しの研究員

一応鱗数枚だけは元ハンターの意地にかけて、護衛のハンターと一緒に剥ぎ取ってきたわ。討伐とか無理無理、後数分戦っただけで全滅だわ。

龍歴院の方の知り合いに回したけど、どうも金属に似た性質があるらしいね。後火と氷属性を同時に内包していたらしい。意味がわからない。

 

503:名無しの研究員

悲報:フィールドワークに出たワイ、貴重な記録を全部イビルジョーに食べられる。

 

505:名無しの研究員

>>503 こやし玉を持っていかなかった無能の末路

 

506:名無しの研究員

あーだめだ。甲虫種の専門家なんて、蝗害予測以外では基本そこまで忙しくないのに、例の女王様が発見されてから連日残業続きダァ!

 

507:名無しの研究員

あれって本当に甲虫種なの?実は古龍種だったりしない?

 

509:名無しの研究員

人類文明圏付近に出没したアトラル・カの発見が遅れるという痛恨のミスよ

なんなんだろうね、あれ。オストガロアの生態は説明できるけど、あれに関しては説明ができないんだよね。

 

510:名無しの研究員

あのー、最近新大陸から戻ってきた研究員なのですが、時々話題に上がっている特異個体アトラル・カってなんなんですか?現大陸の情報はあまり入ってこないもので。

 

512:名無しの研究員

>>510 あの魔境からよく生きて帰ってきたな。乙ガレオス

 

513:名無しの研究員

向こうの研究員ってことは生で煌黒龍も黒龍も見れたんだろ、羨ましいな

 

514:名無しの研究員

>>510 現状禁忌と並んで最も人類文明に対する脅威度の高い甲虫種。いや、活発に活動している分下手したらコイツの方が上かもしれない。

 

515:名無しの研究員

>>510 超巨大なアトラル・ネセトを操っていた原種に対して、こいつはネセトを使わない。中型のさまざまなモンスターを模した外装を操る特徴を持ち、討伐したモンスターの死骸を操り武具とする原種を遥かに上回る知能を持つイレギュラー。モンスターの死体をそのまま人形のように操るだけで無く、古代文明の発掘武器を操り、ハンター型の人形も操っていることから『人形師』と呼んでいる研究員もいたね。

どこから拾ってきたのかカムラ製大砲や速射砲を扱っていることからアトラル・カムラとか言ってる研究員もいるね。

 

516:名無しの研究員

モンスターの死骸を使うのはオストガロアもやってなかったか?

 

518:名無しの研究員

>>516 あれは素材そのままじゃん。こいつは明確に鍛治を行なってるのよ。この前観測員の1人が金属を溶かして加工しているのを目撃してるのよ。料理もするし、回復薬の調合もしてるし、どうやら護石もその効能を理解したうえで使ってるっぽいし完全に人類学習されちゃってるね。

 

520:名無しの研究員

原種からして自分の生涯の中で出会った最も強い存在を模倣する特徴があったけど、こいつは生涯で出会ったあらゆる存在のいいところ全部載せだからな。野生の獣がその思考に普通行き着くかね?ちなみにこいつ隕石を模した攻撃もしてるからダラアマデュラ亜種から逃げ切ってる可能性が高い。

 

521:名無しの研究員

あの、現大陸のハンターは何をしているんですか?何故そのアトラル・カは野放しにされているんですか?ただでさえ原種の時点で時間経過と共に手がつけられなくなるから早めに処理しなきゃいけないのに何してるんですか?

 

522:名無しの研究員

>>521 普通にG級最上位層のハンターが返り討ちにあった。なんならそのまま洗脳された疑惑まである。なんでも件のアトラル・カとの戦闘後から別人のように人格が変わったんだってよ。しかもこの件について深く探るのはギルド上層部から止められてるから尚更気味が悪い。

 

523:名無しの研究員

>>521 こいつ、何がやばいってハンターの気配感じただけで逃走するんですよ。だから狩猟クエストを用意することすら難しい。

あと、現時点で二つ名モンスターとかラージャンを始めとした危険度の高いモンスター素材を当たり前のように所持している上に猛爆ブラキにバルファルクまで討伐してるらしいから下手なハンターに依頼するわけにもいかない。

あとなんかラオシャンロンの頭蓋骨持ってたから下手したら自分の数十倍以上もある巨龍を狩ってる疑惑まである。

 

524:名無しの研究員

>>523 猛り爆ぜるブラキディオスのことをその略称名で呼んでるの多分世界でお前だけだよ

 

526:名無しの研究員

今はまだ人里に襲撃かけたりはしてないが、兵器やアイテムの旨みを理解している以上いつかは襲ってくる可能性が高いんだよな。今大人しいのは、まだ「我々人類を脅威に感じているから」襲撃していないだけなんじゃないかと思うね。つまり襲撃をかけるようになった頃にはもう手遅れってことだね。だって人類をどのモンスターよりも理解しているであろうアトラル・カがそれを脅威に感じなくなったってことじゃん。

 

528:名無しの研究員

ここまで知能が高いとなるとさ、人類の社会構造とかまで理解していてもおかしくないと思うのよ。だってこいつハンターや商人は襲わないのに密猟者は襲うじゃん。なーぜーかー、自然に生きているだけじゃ知りようの無い、殺しても問題ない相手を理解しているんだよね。いつか水源に毒流し込んでボロボロになった都市に襲撃かけてきたりしそうで怖いな。

 

529:名無しの研究員

でも一部の中堅ハンターの間で「アトラル・カ友好生物論」とか論じられてるんだよな。なんでも死にかけていたところを助けられたとかで。なぁ、アトラル・カが異種族である人間をわざわざ助ける理由はなんだ?油断させようとしているようにしか思えないんだが?モンスターと人間が心を通わすなんて過去レダンを除いて1人もいなかったんだからあり得ないだろ

 

530:名無しの研究員

ならティガレックス亜種をペットにしてる王女はどうなるんですかね?

 

531:名無しの研究員

>>529 シンプルに人間の行動を学習する上で、意味はよくわかってないけど人間は人間を助けることが多いからそれを真似ただけかもしれないぞ。料理をしている姿なんかはいかにも人間らしいけど、脳の構造的にも甲虫種が人間と同じ構造の精神を持つなんてあり得ると思うか?あくまで全部意味も分からず真似ているだけなんじゃないか

 

532 : 名無しの研究員

>>530 家畜化みたいなもんだろ

 

533:名無しの研究員

>>531 それだとオリジナルっぽい兵器の説明がつかない。

 

534:名無しの研究員

ま、そんなこんなで生態の一切が不明、どのようにして変異を遂げたのかも不明、そのくせ脅威だけはある化け物ってことだな。

我々にできることは未知に目を背けずに研究を重ねることだけだよ。

 

536:名無しの研究員

最早個人の手に負えるモンスターじゃなくなりつつあるから、これ以上脅威になる前に潰そうとする派閥と観察を続けるべきだという派閥で揉めているらしいね。なんでも最大32名のハンターで構成された大部隊による大討伐戦も計画されているらしいね。ひょっとすると新大陸のハンターも呼び戻されるかもしれないな。

 

537:名無しの研究員

なぁ、やっぱこいつって野生の『この発言は削除されました』*1

 

539:名無しの研究員

 

540:名無しの研究員

うっわライン越えやがった

 

541:名無しの研究員

で、大討伐を行えるほどの人手はありますか?余裕はありますか?

 

542:名無しの研究員

ハンターズギルド上層部「今後は新人の育成に力を入れていく所存であります」

 

544:名無しの研究員

>>542 G級、MRまでいける才能を持った狩人って実際殆どいないよな。上層部も相当頑張ってるよ、カムラの方に行って頭下げてカラクリ技術教わったり、シキ国まで行って頭下げて竜人族の助言もらったり。でも肝心の人材が不足してるんじゃあなぁ…

 

546:名無しの研究員

実際ワイも上位までは行けたけどMRの壁で心折れて研究員になったクチだからなぁ。

あ、でも大討伐戦はマジでやるっぽいね

 

547:名無しの研究員

そういやこのまえキリン夫妻とアトラル・カが戦闘してたってあったけどどうなったんだ?

 

548:名無しの研究員

そのキリン夫妻もキリン夫妻で通常種を逸脱した特異個体なんだよね。ザボアザギルみたいに氷の鎧纏ったり、肉を食わないはずなのにラージャン食べたり。ちなみにこの特異な行動は、過去に件のアトラル・カに出会ってから見られるようになったんだよね。

 

550:名無しの研究員

>>548 やっぱあの蟲絶対他のモンスターに影響を与えるなんらかの仕組み持ってるよ。バルファルクと戦った時なんかその地域のヌシ級のモンスター複数指揮してたし、そのあとから今まで争ってたモンスターが協力して外敵を排除するようになったらしいし。初動で殺しておくべきだった。

 

551:名無しの研究員

>>547 普通にアトラル・カが2体の古龍相手に勝利したみたいだね。片方は弱点属性の筈なのにね。

 

552:名無しの研究員

ちょうどその時の監視船に乗ってたんだけどさ、途中で吹雪が強くなりすぎて撤退したのよ。で、吹雪が止んだから戻ってこようとしたらさ、道を塞ぐように紅色の雷が邪魔してくるんだよね。だから再度撤退するしかなかったよね。しかもなんか皆既月食起きてたし。

なんでもその朝、その地域では原生のいかなる竜とも一致しない白色の生物が確認されたらしいね。

 

553:名無しの研究員

アトラル・カ改造モンスター説、アトラル・カ実は原種とたまたま姿が同じだった別の生物説、アトラル・カシンプルに長生きしすぎた化け物説、アトラル・カ別世界からの来訪者説、アトラル・カ実はミラボレアスという名の現象に属する何か説とか色々あったけどこれは決着がついたかもしれないな

 

554:名無しの研究員

アレだよね、誰も明言しないけど完全にアレだよな。アレっていうかアレだよね。アレだね。え、どうすんのこれ。

 

556:名無しの研究員

いや待て、例のアレは優秀なハンターに試練だのなんだのと言って玩具感覚で壊してくる傍迷惑な奴らの一味だし、実はアトラル・カもモンスター側で例のアレに見初められただけの被害者かもしれないぞ!?

 

557:名無しの研究員

>>556 それはそれで例のアレ公認で『こいつはG級及びMR100以上相当ですよ』って言ってるようなもんじゃん。

 

558:名無しの研究員

でも私にはアレが人類の敵だとは思えないんだよなぁ

やっぱ非合法組織の実験体だったりしない?

 

559:名無しの研究員

入手できた体液やら体表やら解析してもおかしな点は…いやあったわ。何故かこいつ肉も植物も鉱石もなんでも食うんだよな。そのせいかごく少量だけど鉱物に由来する成分持ってるんだよな。別にバサルモスみたいに硬い外殻を獲得してるわけではないけど。

 

561:名無しの研究員

>>559 やっぱこいつアトラル・カじゃねえだろ、原種は鉱石食べねえよ

 

563:名無しの研究員

例のアレが興味持ったかぁ…あ、でもそれなら勝手に死んでくれるんじゃないか?

 

565:名無しの研究員

楽観視をするな阿呆

 

567:名無しの研究員

>>561 そういやアトラル・カに助けてもらったアイルー曰く、料理は普通に美味しいらしいね。焼くだけじゃなくて煮る、炙る、炊く、混ぜる、潰す、叩くとレパートリーが豊富だね。少なくともワイの料理よりは美味しいんだろうな

 

569:名無しの研究員

>>567 モンスターに生活力で負けて恥ずかしくないんですかー?

ま、多分アトラル・カの方が我より持ってる服多そうなんですけどね。明らかに戦闘を想定していない外装でお洒落してる姿も観察されてるらしいね。もう怖いよ。わかんない。おじさんには今時のモンスターがわからない。

 

571:名無しの研究員

あの蟲中に人入ってたりしない?大丈夫?

 

572:名無しの研究員

そんなヤツカダキじゃないんだから…

 

574:名無しの研究員

そんなゴアマガラじゃないんだから…

 

575:名無しの研究員

そんなルナガロンじゃないんだから…

 

576:名無しの研究員

>>574-575 いやヤツカダキはまだしもお前ら2人はあくまでそういうロープレしてるだけの人間だから

 

578:名無しの研究員

あの自分はゴアマガラが擬人化した存在だと思い込んでいるだけの一般通過ハンターのこと?狂竜症をバフか何かだと勘違いしているあのお方のこと?

 

579:名無しの研究員

>>578 黒蝕の竜姫さんのこと?あの人を一般通過扱いするのは無理あるよG級ハンターだぞ…いや待ってMRだっけ?

あの背中から2本の義手が生えてくるギミック、自作らしいね。しかも太刀ぐらいなら扱えるぐらいには精密性と耐久性あるらしいね

 

581:名無しの研究員

ルナガロンおじの方はイケおじすぎて周りが勝手に呼んでるだけだから…

あとヤツカダキはアレあくまで神話だから。カムラ周辺に伝わる御伽噺だから。

 

583:名無しの研究員

>>581 でも神話が実は本当でした〜は結構あることじゃん。というか御伽噺だと馬鹿にしたせいで、古文書で誕生を予言されていた猛り爆ぜるブラキディオスの被害防げなかったんだろ。学べ。

 

585:名無しの研究員

でもマネルガーみたいな超天才が、脳みそ弄った結果生まれたとか、なんなら人間の脳みそ移植したとかありそうだよね

 

587:名無しの研究員

前も話したがそれは時系列的にありえないんだよな。80年前に暗殺されてるし、弟子は逃したけどそれでも無茶がある。

人間の脳みそ移植したとして、拒絶反応起こして死ぬだけでは?

 

589:名無しの研究員

というかその辺に関してはタダノ=ムシガスキー博士が論文にまとめて提出してるから読んでこい

 

591:名無しの研究員

悲報:特異個体アトラル・カにかけられた賞金、ついに10億ゼニーの大台を突破する

 

592:名無しの研究員

密猟者ハンティングしすぎてだいぶ恨まれてんなー。でも密猟者如きに倒せる奴じゃないという信頼がある。

 

594:名無しの研究員

アトラル・カに実働部隊壊滅させられた隙を突かれてギルドナイトに壊滅させられた麻薬シンジケートがあるね。

というか密猟者の馬鹿どもがアイテム持った状態でアトラル・カに殺されるせいでどんどん不味いことになってくんだよ多分鬼人薬グレートとか強走薬グレートぐらいならもうラーニングされてるぞ。下手したらこれからはハンター側が落とし穴とかシビレ罠に警戒しなきゃ行けなくなるかもしれない

 

596:名無しの研究員

そういや『この発言は削除されました』*2

 

597:名無しの研究員

ねえこの会話の流れで削除されるってどういうこと?ねぇ!?

 

599:名無しの研究員

>>592 クシャルダオラから逃げるアトラル・カに巻き込まれて拠点が竜巻に吹き飛ばされたりとで商売の邪魔をされすぎてついに某企業が総力を上げて潰そうとしているらしいけどまぁ…屍が積み上がるだけだろうね

ギルドも「勝手にやって勝手に死んでろ」のスタンスだし。いやだってアレは守るべき市民に含まれないし

 

601:名無しの研究員

え、まってクシャからも逃げ切ってんのかコイツ

もう何言われても驚かんわ

 

603:名無しの研究員

巨龍砲でも打ち込みたくなる相手だけど、砦で戦ったら最後根元から全部持ってかれるんだよなぁ

 

605:名無しの研究員

>>594 これで秘薬とか学習されてたら不味かったけどアレは自分でたどり着くには無理があるからないだろうな

 

607:名無しの研究員

えーっとね、その…

アトラル・カとキリンの戦闘跡から、僅かにだけど秘薬に似た成分の液体が検出されたんだよね…

 

609:名無しの研究員

速報:アトラル・カ、巨龍砲に類する火砲を持っている可能性が高いことが判明

 

610:名無しの研究員

ど、何処のどいつだその辺に巨龍砲放置したのは…………ッ!

 

612:名無しの研究員

理論上秘薬一本でモンスターの巨体を癒すのは難しいらしいけどそれでもさぁ、それでもさぁ!

 

613:名無しの研究員

おーい、英雄さーん。出番ですよー、出番ですよー!?

 

614:名無しの研究員

で、件のアトラル・カは今どこにいるんですか?

 

616:名無しの研究員

こ、こんなはずじゃないのに!

 

618:名無しの研究員

>>614 目標、消失しました!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
ドラゴンウエポンじゃないか?

*2
赤衣のあの人とか黄衣の王とかは何か言ってないんかね









感想、評価、誤字報告などありがとうございます!大変感謝しています。

──勘違いは、加速する──

本編世界との違いは、()()()()()()()()()()だけです。
そういうことです。

プレイヤー目線とかだったらどうなるんだろうか。
>>こいつモンスターの死骸に火薬詰めて特攻させてきたぞ
二代目様考案のあれじゃねえか!?

みたいな感じなのかな?少なくともクソモンスターなのは間違い無いしこんなのが実装される現実世界を想像できないから書けないけど…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吾輩はアトラル・カである。多分人間達に勘違いされている気がするけど吾輩はただの一般的な蟲であるよ。




白龍「やっぱこの蟲面白いいわ。玩具取られない様にしなきゃ…」

黒龍(そもそも認知していない、というか今それどころじゃない)

煌黒龍(そもそも認知していない、というか認知していても別に自分の仕事じゃないし…)




初投稿です。







 

 

 

 

 

「ピギャアアアア(むにゃ…)」

 

頭を鳥に突かれて目が覚める。ふわふわ、もふもふの感触がするのである。かわいい。フワフワクイナ…あ、飛んでいった。

半ばからちぎれた右腕で、フワフワクイナの飛んでいった軌跡を追う。無いはずの腕が痛む。というか全身が痛い。滅茶苦茶痛いぞ、なんだこれ!?

もふもふの感触の残る頭を振り、痛む体を起き上がらせる。

 

「ピギャアアアア(もふもふ…)」

 

秘薬を飲み干す。多少は体の痛みが楽になった気がした。

 

朝日が登りつつある。

まだ霜の残る平原と、氷漬けになるようにして倒れ伏す2体の幻獣の死骸を眺める。あぁ、そうか。吾輩は生き残ったのか。

涙が出そうなほど、朝日が綺麗だ。

 

あぁ、暖かい。陽の光が、瞳の中できらきらと煌めく。瞳の中の宝石に、思わず手を伸ばす。

激しく、痛いほどに苛烈なあの雷鳴とは違う、柔らかい光だ。

 

そうか、そうか…

一瞬だけ、二度と目覚めることはできないと思った。意識が暗くなる中で、死んだかと思った。それでも、吾輩は生き残った!

あたりに散らばる武装とキリン達の死骸、そして黒龍外装を仕舞い、この場を後にする。黒龍外装とか人間達に見られたら不味いからな。

 

今日の朝ごはんは何にしようか。

死地を越えたんだ、少しぐらい贅沢したって構わないだろう。

キリンってどうやって料理したら美味しいんだろうか?定番は馬刺しだろうが…ステーキ、いやハンバーグにしてもいいかもしれない。

 

光の方へ進む。あぁ、今日はいい日だ。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モンスターの闊歩する森の中でお茶会って、なかなか凄いことしてるんじゃないの?」

 

「ピギャアアアア(ちなみにその椅子とテーブルも吾輩の自作であるよ。)」

 

吾輩である。全力で吾輩を殺しにきている大自然から無事勝利をもぎとった吾輩である。二度とやりたく無い。そんな吾輩は今、久しぶりに会った師匠と森の中で秘密のお茶会と洒落込んでいるのである。あ、この師匠が持ってきたクッキー美味であるな。自分で焼いた…わけではなさそうだなぁ。

トロピーチのピーチティー入りのポットと百年くるみ入りのパウンドケーキ、そしてクッキーの置かれたテーブルを挟んで、師匠と吾輩が座っている。

師匠が座った椅子は吾輩のお手製であるよ。吾輩が座れる大きさの椅子は流石に無理があるので、吾輩が座っているのは座布団である。それでも座高の差はあるので吾輩が見下ろす形だ。

 

「ピギャアアアア(あったかい外で飲む冷たい飲み物は素晴らしいだろう!)」

 

元々、アイテムボックスのような何かの中に詰め込んだ雪のお陰で冷えた飲食物をいつでも用意できる吾輩であるが、今回はそのなんちゃって冷蔵庫は使っていない。キリンの角を誤って食べた影響か、多少冷気を操れるようになったので、その力を操ったのであるよ!

ちなみに冷気はちょっとモノを冷やしたり、肉を凍らせて冷凍保存したりできる程度のもので、戦闘の上ではなんの役にも立たない!目眩しにすらならないぞ!QOLが少し上がっただけである!

ちなみに雷も多少操れるようにはなったのであるが、具体的にいうと微弱な電流を流して全身マッサージできる程度のものである。戦闘の上では(以下略)

多少耐性は上がった気がするのであるが、それでも相変わらず実験中に事故って雷電袋を暴発させたら相変わらず死にかけるのである。-20が-15になったとか、そのぐらいな気がするのである。殆ど誤差の範疇である。

 

キリンとの戦いが終わった後、吾輩は全身に秘薬ですら癒しきれない傷が残っていたため、今まで以上にハンターとモンスターに気をつけながら放浪していた。その中でくしゃみをしようとしたらなんか雷と冷気が出たのでこの力に気づいたのである。

ちなみに戦闘では碌に使えそうに無いこの能力であるが、他の素材や外装と組み合わせる事で色々なことができるのである。

例えば、微弱な電流で人形の動きをより細かく操作したり、などである。瞬間凍結袋と冷気、キリン亜種の素材を組み合わせる事でベリオロスのアイスサイクロンみたいなこともできる様になったのである。

 

あとは、キリンの素材とライゼクスやジンオウガの素材、雷電袋を組み合わせて作った砲身に、吾輩が電流を流すことで起動できるレールガン的な何かも作れたのである。そう、レールガン。ロマン砲である!レールガンの威力はって?速度はある。音速の4倍ぐらいは出ているんじゃ無いか?マッハ4で飛んでくる劇毒と睡眠毒入りの貫通弾である。恐怖。

でも威力はそこまでではなかったのである。その電力ライトニングブレードに回した方が多分威力は出る。でもかっこいいからいいじゃないかレールガン!…でもこれどちらかと言うと対ハンター向きの性能しているんだよな。封印しとこ…

あとは残った素材を使って吾輩の普段使いのゲネルセルタス型外装も改良したのである。雷と氷属性への耐性が飛躍的に向上したキリン装備風ゲネルセルタス外装である。バルファルクの龍気と合わせれば雷と氷は8割は遮断できるんじゃないだろうか?ちなみに残りの2割で殺してくるのが古龍で、全く通じなくても技術で押し切ってくるのがハンターである。怖い。

 

ちなみにキリン達の馬刺しは大変美味であった。残った肉はジャーキーにして時々齧っているのである。古龍を食すなんて、イビルジョーでもそうそうできる体験ではないぞ。大自然でハントしたモンスターを食す、これがMonster Hunter Wilds

 

閑話休題。そんなこんなで傷を癒しつつ、また戦いがあった時に備えて色々な兵器を作っていたら、師匠に見つかって今に至ると言うわけである。まぁ師匠にしかわからない様な目印は置いていたし、元々こっちの方角へ行くつもりだったとは前回会った時に伝えていたからそろそろ見つかってもおかしくないなぁ、とは思ってはいたが、この大自然の中でちっぽけな蟲1匹見つけ出すとかハンターはやはり凄いのである。いや怖いわ。

 

「一家に1匹いたら便利そうね、貴女。それにしても…その右腕、酷くやられたわね。痛くない?いにしえの秘薬ならあるけど」

 

「ピギャアアアア(んな高価なもん出そうとするんじゃありません!まぁ、幻肢痛も治ってきたし、再結合は無理であったが、まぁそもそも吾輩ほとんど手は使ってなかったからノーダメージであるよ。)」

 

「そう…」

 

師匠の手が吾輩の右腕に触れる。

 

「ピギャアアアア(ひゃん!く、くすぐったいであるよ…腕が吹き飛んだからといって触覚が吹き飛んだわけではないのであるよ…)」

 

「あ、ごめん…。……そういえば、義手とかは作らないの?私たちの中でも、戦闘で四肢を失うことはそこそこあるし、義肢に変える狩人はいない訳じゃないけど。まぁ戦闘向きではないから基本引退することにはなるけどね。一部は隻腕になっても古龍と殺り合う超人もいるけど」

 

「ピギャアアアア(いや貴女どちらかというとその超人側でしょう。)」

 

そう言って、パウンドケーキを齧る。うん、今回は上手くいった。初めて作った時は何故かコンクリートみたいに硬くなったからなぁ。

 

「私は本当に致命的なダメージは喰らわないわよ?脇腹持ってかれたことはあるけど」

 

「ピギャアアアアアアア!(いやそこが超人なんだよ。…一応義手は制作途中であるな。せっかくだし色々機能を詰め込もうとしたら、時間がかかりすぎて。)」

 

ゴトン、と音を立てて義手を取り出す。

竜の頭部を模した金属製の小型の大砲。デザインは昔勝ち目がなさすぎて逃げるしかなかったクシャルダオラの頭部を模した装置である。噛み付いてよし、内部に組み込まれたヘビィボウガンの機構から竜撃弾を撃ち続けるのもよし、である。素材は潤沢にあるし、吾輩に持ち込み制限とかは関係ないので、弾帯から弾丸を送り込む機構を組み込めば竜撃弾の連射も可能である!流石にここまで連射するとガンランスの様に冷却が必要にはなるが、そこは冷やす手段なら沢山あるので問題ない。反動は糸で無理やり押さえ込めば問題ない!ゆくゆくは風圧を生み出す機構とかも埋め込みたいと思っているのである。これをつけるとビジュアルは完全に接ぎ木のなんちゃらさんである。

 

「あ、その繋ぎ方だと多分暴発して砲身吹き飛ぶわよ」

 

「ピギャアアアア(…まじで?そういえばなんか変な音するなー、とは思っていたのであるが…というか加工屋でもないのによく分かるなぁ)」

 

「まぁ一応私の主武器ヘビィボウガンだし。ボウガン使いは最低限オプションパーツの付け替えとか、ライトミドルヘビィの組み替えぐらいはできないとお話にならないのよ」

 

アドバイスを受けながら、義手を調整していく。

そういえば師匠のメイン武器って別に大剣って訳じゃないんだよな。

 

「あー、それでいいわね。って違う違う、別にこれ手伝いにきたわけじゃないわよ私。」

 

「ピギャアアアア(そうなのか)」

 

「生存確認と…あと、少し忠告しにきたのよ。今貴女今まで以上にハンターに狙われてるから気をつけた方がいいわよ?後、ちょっとその関係でしばらく会えなくなるわね。…まぁ、こっちはこっちで上手くやるから、貴女も気をつけなさいな。」

 

「ピギャアアアア(狙…!?え、吾輩何か狙われる様な悪いことしたっけ?)」

 

まぁ、でも狙われてるって言っても今までなかった吾輩の討伐クエストが張り出されたとか、そんな感じであろう。いや十分不味い出来事ではあるが、ハンター相手に逃げ切る手段はいくつも持っているのであるよ。あとは、一箇所に留まらなければそもそも接敵もせずに済むであろうし。

 

「ピギャアアアア(そういえば、あの娘は今どうしているのであるか?)」

 

作業もひと段落し、残っていたピーチティーを飲み干す。

 

「元気にやってるみたいよ。というか元気すぎてあの歳でもう上位ハンターの仲間入りしてるわよ。」

 

「ピギャアアアア(ほえー…あ、そうだ。昇進祝いに、この吾輩の吹き飛んだ右鎌とかどうであろうか?金色で縁起もいいし、別に吾輩に使い道ないし)」

 

「多分あの子卒倒するわよ」

 

「ピギャアアアア(じゃあこのもふもふジンオウガ人形でも…)」

 

そう、吾輩はこの師匠の忠告をもっと真剣に受け止めるべきだったのである。

狙われている、とはいってもまさかハンターの大軍が襲ってくるなんてことはないだろうと吾輩は高を括っていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはりんご飴片手に散歩していたある朝のことである。

 

何かが急に飛び出してきた。小型モンスターほどの大きさ、しかし感じる気配は、何故この瞬間まで気づかなかったのかと思うほど強い。

千里眼の薬にも引っ掛からなかった人型が複数人。ハンターである。

あぁ、こいつら全員隠れ身の装衣着てたんだなぁ…あと、明らかに4人以上いるなぁー……

 

一つ言わせてくれ。数、多くね?

 

「ピギャアアアア(ひゃあこいつら何蟲相手にマジになってんだよ!)」

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

「ピギャアアアア(おいおい、この脚、滅茶苦茶重いんだけどな…!)」

 

男ハンターは、右脚の踏みつけを盾で受け止め、そのまま弾き返しランスを突き上げる。

逆にそれを大剣で打ち払うと、よろけた隙に撃龍槍を突き刺そうとするが、あえて小タル爆弾で自爆する事で、男は刺突を回避する。

 

後方の3名のハンターによるヘビィボウガンの速射を盾で防ぎ、懐に潜り込もうとする大剣使いを蹴り飛ばし距離を離す。

盾の表面を弾丸でガリガリと削られる音が怖い。こう、本能的な恐怖のようなものを感じる。蹴り飛ばした大剣使いも、直撃はちゃんと防いで一瞬で戦線復帰してくるしマジで逃げる隙がねえ!

 

「ピギャアアアア(ひゃあ大岩が飛んできたぁ!?お前それ人間が持てる大きさの石じゃねえだろ!)」

 

小山ほどの大きさはある大岩が弾丸の如き速さで吾輩目掛けて飛んでくる。それを投げたのが人間だというから驚きだ。

それをなんとか避けたと思ったらその上に乗っていたハンマー使いのハンターが飛び出してくる。砕け散った岩石を足場に吾輩目掛けて回転しつつ叩きつけを放とうとするのを、大砲の速射で撃墜する。ハンターが大砲の直撃程度で怪我するわけないから多分大丈夫!

 

うん。完全に4人以上いるね。なんだろうね。吾輩はマム・タロトかラヴィエンテかな?いや、にしても同時に同じ場所に4人以上いるのはおかしいよ、え、密猟者でもないのに何故?まさか偶々近くにハンターの修練場的な場所があったとかか?そんな訳ないですねこれピンポイントに吾輩狙って殺しにきてますねこれ。誰か助けて!

接近してきたハンターをドボルベルクを地面に叩きつける事でよろめかせ、その隙にライトニングブレードで吹き飛ばす。ちょっとした小型モンスターぐらいならこれだけでこんがり肉になるんだが、ハンターなら数秒もすれば間違いなく復帰するという確信がある。多少威力は弱めたとはいえ明らかに大したダメージになってないもんこれ。

 

吹き飛ばされて起きあがろうとするところ目掛けて今度は麻痺毒と混乱毒を配合した睡眠ガスを送る。

起き攻めだよ起き攻め。ハメてないと吾輩嬲り殺しにされちゃうよ!ガンナー連中?今頃後ろでマガイマガドとナルガクルガの人形と楽しくやってるよ!師匠に「これぐらいならもうギルドにバレてるよ」って教えてもらったからもう遠慮はない!

 

元気ドリンコを飲もうとしている相手は瓶に持ち替えた隙に糸でぐるぐる巻きにして、運良く避けた相手はボウガンとバリスタの物量で封殺して…あれ、この避けたやつだけやけに強くないか?吾輩の弾丸全部双剣の乱舞で弾いてないか?1人だけスペックが違くないか?なんか吾輩目掛けて鬼人突進連斬しようとしてないか?待てハンターはやまるなその両手に持った剣で何をしようというんだまさか吾輩を殺そうとしているんじゃないよなまさか吾輩を殺そうとしているわけじゃないよな!

 

「ピギャアアアア(うおあっぶね!背中の装甲に粘菌塗るのが数秒遅れてたら即死だった…)」

 

連斬の初撃に臨界した粘菌をぶつける事でそれ以上の追撃をされる前に攻撃をキャンセルさせる。

本当に僅かにだが、何かに切られた感触がある。薄皮一枚にも満たないほどに薄い傷。当たった瞬間に無理やり攻撃を中断させたはずなのに、それでもなお狩人の斬撃は届いていた。怖っ。

しかも普通なら体勢を崩しているところを、着地直後にそのまま再度攻勢に移ろうとするとは。殺意が高い。明らかに体勢の制御が不能なタイミングで吹き飛ばされた筈なのに空中で無理やり体勢を立て直しやがった。

とはいえ、流石に無理があったのか僅かに体幹がブレているようだ。ならばそこを突く!

 

糸に引っ張られ飛び出したのは、コツコツと集めていた発掘装備と密猟者から剥ぎ取った質の低い武器が多数。その数合わせて百を越える。

それら全てを砲弾の様に撃ち放つ。

 

それを防いだのは、大剣──崩剣ウェンカムルバスを抱えたハンター。大剣をスコップの様にして岩盤をめくりあげたかと思うと、盾の様にして武器の雨を防ぐ。

攻撃を防ぎ切った大剣使い目掛けて、大砲から龍属性の光線と砲弾を同時に放ち、ディノバルドの剣尾を薙ぎ払うようにして放つ。

同時に吾輩は身を翻し、自身の周囲360°全体に鬼火を纏った泡を放ち、それを避けようと跳んだ双剣使いには、跳んだ瞬間目掛けてアイスサイクロンを放つ。

 

絶対近寄らせないよ、多分お前らが主戦力だろ!2人だけ動き違うもん!だったらお前ら封殺すればそれで終わり…ではなさそうであるな…

大剣使いは、自身の数倍はある剣尾を、衝突の瞬間に溜め切りを当てる事で叩き落とす。

勿論、それぐらい出来て当然だとは思っていたので、大砲と光線で妨害していたのであるが、砲弾は全て弓による狙撃によって撃ち落とされ、龍属性の光線は、別のハンターによって防がれる。

弓──なぐるやの遠弓の真弦を構えるのは、天眼装備のハンター──距離が遠すぎて性別はわからない──で、龍属性の光線を防いだのは、ゴアマガラっぽい装備をきた女ハンターである。

 

あ、なんか急に破壊衝動が…ってこいつ狂竜症戦術に組み込んでるタイプかよ!

 

「ピギャアアアア(不死鳥の息吹!…いや、ハンター怖っ)」

 

太刀──カオスorロウの斬撃を瓦礫の盾で防ぎ、そのままもう一つの盾で挟み込むようにして拘束しようとするが、滑り込んだ大剣使いの真溜め切りに盾が弾かれる。

異なる重さの斬撃が舞う。隙を少しでも見せれば脳天を穿たんと矢が降り注ぎ、吾輩も負けじと複数のボウガンから弾丸を放つ。

 

流石に数が多いぞ!こいつら4人の対処でも見るところが多いのに、後方からは別のハンターからの援護射撃があるし、捉えたと思ったら割り込んだこれまたマークしてなかった別のハンターに防がれるし!

 

まぁ、でも…大体わかった。

吾輩の視線や体の動き、予備動作を見て行動を先読みし、攻撃を避け続け、時には受け止め、自分の手番が回ってきたと感じればここぞとばかりに強烈な攻撃を放つ。時にはカウンターも狙う。まぁ、そうやって自分より圧倒的に格上なモンスターを越えてきたのであろうな。

 

吾輩が一般的なモンスターであればそれでよかったのだろう。

 

兜割を鉄骨で弾き、大量の大タル爆弾を糸で束ね、一気に放つ。

爆風を潜り抜けた大剣使いの薙ぎ払いを粘菌の爆発で打ち消す。そして、周囲に十分散らばった粘菌を一気に同時に爆発させる。

 

──言っておくが、わざと視線を向けた先にしか攻撃しなかったり、予備行動らしきものを行っただけで、その気になれば吾輩は予備行動もなしに、視線も向けずに攻撃できるぞ?

 

龍気を活性化させ、雷電袋から取り出した電気を龍属性に変換して、それを一気に解放して地面に叩きつける。

そしてそれと同時に、視界の外にいる天眼装備の弓使いに、糸から伝わる触覚を頼りにレールガンを放つ。

 

当たった。

起き上がる気配は…ない、気絶した!ならば、いける。

竜属性の爆発を避けるために後方へ飛びのいたハンターたちが、吹き飛ばされた弓使いに一瞬気を取られている隙に一気に地面を駆ける。

 

ここは平地だ、吾輩は逃げさせてもらう!

吾輩特製の麻痺毒ケムリ玉を地面に叩きつけ、視界不良に陥った隙に全力で逃走する。

この前もこんなことがあったなぁ、キリンほど速い訳じゃないし逃げ切れるだろう、などと思いながら両足の裏の粘菌を爆破させ、バルファルクの翼脚から龍気を噴出させて加速する。

後ろからボウガンの弾丸が迫るが、それぐらいならば外装で弾ける。

 

「ピギャアアアア(よっしゃ隙ができた、こんなところにいられるか吾輩は逃げるぞ!)」

 

加速し、空へ飛び立とうとした瞬間、上空から何か──とても恐ろしいものが落ちてくるのを感じる。

 

「…仕損じたか」

 

落ちてきたのは、逆手に太刀を持ったレイア装備のハンター…って、ソードマスターじゃねえか!?え、どこから落ちてきたの!?…嘘だろ、豆粒ぐらいにしか見えない飛行船から、か!?人間じゃねえ!?

 

咄嗟に取り出した、盾代わりの三体の金属で何重にも補強されたバサルモス人形。その全てが一刀の元に切り裂かれている。しかし、微妙なカーブの入った盾で斬撃が逸れ、ギリギリ吾輩の体に刃は触れなかった。それでも斬撃波だけで結構ザックリ持ってかれてるんだけどな!でも切り口が綺麗すぎて逆にあんまり痛くないな。盾がなければ即死だった…

 

「ピギャアアアア(こんな人外魔境で戦ってられるか!吾輩は逃げるぞ!)」

 

ハンターでは決して追いつけない速さまで加速した吾輩は、全力で逃げる、逃げる、逃げる!

 

「ピギャアアアア(やっぱハンター怖ええええ!!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 











「「うーん、なんか狩ってて妙な感じがするんだよなぁ」」

「そうよね」

「腹に当たった弾は滅茶苦茶痛いが、殺しに来てる威力ではなかったしな」

「というか、悪い相手ではない気がするんだよなぁ。古龍みたいな理不尽な奴らというよりかは、俺たちと似た感じがするというか…」

「んにゃ。俺もそう思うわ。爺さんも、そんな感じのこと言ってたしな。そういえばソードマスターの爺さんはどうした?」

「あぁ、上に呼ばれたらしいよ」






───────────────────



感想、評価などありがとうございます!

ジンオウガとタマミツネ、どっちも人気だしどっちも出そうかな?ただ戦うだけじゃなくて百竜夜行だから大分難易度上がるけど…

多分このソードマスターさんは本編終了後に鍛え直したから今ならイヴェルカーナ相手に不覚を取ることは無いと思う。本当に偶々現大陸に一瞬だけ帰還していたため、ハンターズギルドから声がかかった。多分もう新大陸に帰ってる。


最初書いてた時はもうちょっとハンター側に個性持ってたけど、それだとどっちが主人公かわからなくなるので没にした。
力を解放しすぎたハンターとか、双剣(素手)な、力みが、足りねえか!とか言ってきそうなハンターとか。

今回のハンターは、大部分が上位ハンター、一部の主力がG級(MR)。本気出したらもう少し強い。
大討伐戦の慣らしと、アトラル・カの実際の強さを測るための威力偵察の意味合いが高いためである。というか初めから何がなんでもここで終わらせるつもりならソードマスターはもっと早い段階で投入されていました。なんなら青い星が呼ばれたり、猛き炎が呼ばれたりしたかもしれません。まぁ、蟲1匹に全戦力を集中できるほどこの世界に余裕はないわけなのでそうはならないのですが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吾輩はアトラル・カである。アイルーと和解せよ



初投稿です
平日はどうしても時間がなくて、少し短めです。本当に申し訳ない。

これからのアトラル・カくんちゃんのセリフは、鳴き声上のルビが、『アイルーたちが何となく理解しているアトラル・カくんちゃんの言おうとしていること』で、()内部が実際に言ったことです。



 

 

 

 

 

 

あのお姫様は、私にとってかみさまだ。

巫女s…騎士様の持ってきた、お姫様が作ったというもふもふとしたジンオウガのぬいぐるみを抱きしめながら考える。

客観的に見れば、危険視しない方がおかしい。ギルドの上層部が、彼女を討伐しようとするのは自然なことだ、理解はできる。でも納得はできない。

 

恩人のために、わたしには何ができるだろうか。

ハンター達が、お姫様の旅を邪魔できないようにするには。ギルドの上層部でも乗っ取るか…?うん、現実的じゃないね。何百年と世界を支配してきた存在相手は流石に分が悪いどころの話じゃない。それに、彼らがやっていることは至極真っ当な事だ。

 

頭が痛すぎて思考がまとまらないなー。

 

もふもふと人形を抱きながら、ベットの上で転がる。

武力でどうこうするのはナンセンス。だったら社会の力を、大衆の力を借りればいい。お姫様を神格化すれば良い。火の国、そうだ。あの国を利用しよう。

 

はっきり言って、わたしの生まれたあの国は終わってる。詰んでいる。ハンターの数が国土の広さに対して圧倒的に足りない。上層部は山の神がどうのこうのといって、既得権益を守りたいがために現状を変えようともしない。でも、一部の者たちが現状を変えようともがいていたのは最近になって知った。国の上層部のせいで燻っている有望な人材、明日に希望を抱くこともできずにのたれ死んでいる若者達。あぁ、なんということ!未来の信徒候補が沢山転がっている!

初めはそうね…「1人の里帰りしたハンターが、国の未来を憂いて、未来のハンターを育てる私塾を始めた」これで行きましょう。そこから、徐々に宗教に浸していけばいい。目指すべき存在として、日々進化を続けるお姫様を最上位に置く。

 

どんどんハンターが増えてギルドはハッピー、モンスターの被害は減って大衆もハッピー!偶々偶然その新しいハンターのほぼ全員がわたしの息のかかったハンターな訳だけど。

モンスターによる害を神の怒りとすり替えて、ある種の恐怖で大衆を縛っていた彼らがどうなるかは知らないけど、まぁ、その…抑圧されていた感情の矛先がすぐ側にいるのってすっごく素敵。神敵の名の下に、弱者が群れて今まで自分たちを抑圧していた存在を叩く。その熱狂の中できっとわたしの教えは広まってくれる。別にわたしは何もしないわよ?ただわたしの独り言を聞いた信者が暴走しただけ。

 

うーん、テオ・テスカトルぐらい狩れるようになれば私の言葉にも説得力がでる?上位ハンター程度じゃ役不足だし…騎士様が羨ましい。強くなる!やっぱ腕力だな腕力。色々小難しい事考えたけど、考えるのわたしに向いてない。却下。ようは滅茶苦茶強くなって全部まとめて抱き止めることができることができるぐらいになればいいのでは?そうだ、強くなるのだ私はー!

 

…彼女は寝不足であった。一昨日にホロロホルルを狩った時に、頭に超音波を浴びすぎて少しテンションがおかしくなっていたのだ。

朧隠がどうのとか、超特殊許可がどうのと言ってギルドの偉そうな人に滅茶苦茶謝られた気がするがその内容も飛んでいる。*1

 

え、受付嬢さん、ますたーらんく?きんきゅうくえすと?え、あたまはだいじょうぶかって?

これがだいじょうぶにみえるならいんたいすることをおすすめするよ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

吾輩である。無事ハンターから逃げ延びた吾輩である。やっぱハンターってちっちゃい古龍だよな。吾輩の知ってる人類とは違うよな。

とにかく遠くへ遠くへ逃げることばかり考えて、ときに隠れつつ逃げ続けたら気づいたら森の中にいた。ここ何処だ。

 

ふぅ…流石にここまでくれば大丈夫であるか…装衣を使ってくると分かった以上、そう簡単に警戒を解くことはできなくなった訳ではあるが。1週間以上不眠不休で戦闘機が飛び続けていたのである。時間感覚はもう消えた。流石に飛行船じゃ追いつけないと信じたい。…大丈夫だよね?

流石にそろそろ休まないと吾輩壊れちゃうよ…

 

大木を背に座り込み、やかんを取り出してお湯を沸かす。少し温めたポットに乾燥させたラベンダーを少々、あとはお湯を注ぐだけ。ラベンダーティーである。うーん独特な味。嫌いではないであるよ。

ほぅ、と息を吐く。じんわりと体が温まる。ハンター。うーむ、なんというか。多分あれ彼らも本気じゃなかったよなぁ…殺意が薄かったというか、なんというか…

せめて言葉が通じればなぁ。師匠には通じるのであるが、多分特殊な例であろうし…どこかに野生の竜人族いないかなぁ。古龍みたいに吾輩が共鳴できたらワンチャンあるのである。いや無理だな。

 

装衣ってなんだよ、吾輩にも使わせろよ!狡いだろ!まぁアイテムを使ってる吾輩が言えたことではないのであるが。

相手の隠密対策、これをなんとかしたいのであるが…うーむ。周囲に細い糸の結界でも張り巡らせておくか?移動中に引っかかる未来しか見えないのである。今度ハンターが襲ってきたら、迷惑料として装衣パクっていくか?…より殺意が増す未来しか見えないのである。無理やり買おうとしたら高そうだし。

一応、対人という観点なら、今開発中のアイテムの中に幾つか刺さりそうなものはあるが。『蝕龍カートリッジ』。養殖し、龍気を当て続けることでその龍属性の濃度を上げた蝕龍蟲。それを回復薬を薄めて作った特殊な液体と一緒に詰め込んだカートリッジ型のアイテムである。これを龍光解放やビームの様な、莫大な龍属性を放出する攻撃に巻き込む様にして破壊することでその威力を僅かに高めつつ、攻撃に相手の粘液や鱗粉を蝕み破壊する効果を付与するアイテムである。粘液や鱗粉を蝕み破壊すると言えばなんか強そうであるが、たぶんテオ・テスカトルの粉塵とか相手には無力である。ハンター相手に使えば相手をドライアイにできるぞ!だからなんだってんだ。狂竜ウイルスとキュリアに効果が有るのかは知らない。そして、副次効果として回復薬などのアイテムの質を下げる効果もある。こっちは充分実践級で、回復薬の回復量を薬草程度のものまで下げ、秘薬であれば回復薬グレート程度まで下げる効果が有るぞ。なんなら粉塵系は全部無力化できる。吾輩はこの効果を蝕龍やられ【小】と名づけることにした。

対モンスターを考えたら、その作成難度に対して効果的な相手が限定的すぎて開発を後回しにしていたが…これに手を出してもいいかもしれない。

 

あとは、レールガンがかなりハンター相手に刺さったので、それを強化してもいいかもしれない。音速を超えた速度で飛ぶ撃龍槍!…あの重量をその速度で飛ばすのに一体どれだけの電力が必要になるのであろうか…一応、超至近距離でだけ使える、杭がわりに撃龍槍を飛ばすパイルバンカー的なものなら作れそうではあるが、それは対人というより対モンスター向けの兵器である。まぁでも作るだけ作ってみるか、なんかカッコいいし。あと超至近距離で効率的に撃龍槍を使う手段としてはアレが多分最適の形状である。

 

他に何かいいアイデアはないであろうか…ハンターの予想しない意外性で勝負するのは如何だろうか?今まで積み重ねてきた知識が通用しない様な武器…仕掛け武器でも作るか?仕込み杖!車輪!作ってどうするんだ!あとは新作の人形…ACでも作るかAC。人型相手は慣れてないだろ奴r…ゴシャハギぃ!あとなんかコラボモンスターでいたなぁ人型!まぁあれは例外であるか。というかそういえば師匠滅茶苦茶対人得意だったなぁ。うーむ、だめだ。いいアイディアが思いつかない。この疲れておかしくなってるテンションで何か作ろうとしたら絶対ろくでもないことになる。こんなに疲れてちゃあ考えも上手く纏まらないというものであるよ。

まだ日は沈みきっていないであるが…寝よう。吾輩の中のミラボレアスも「寝ろ」と言っている、間違いない。

糸の結界を張り巡らせ、モンスター避けに大型モンスターの人形を幾つか置いておく。

くぁ、とあくびをしながら人形を取り出す。等身大もふもふグランミラオス人形…*2じゃなくて。視界を覆い尽くす禍々しいぬいぐるみをしまい、もふもふベリオロス人形を取り出し、枕がわりにする。もっふもふだぁ!

おやすみなさい…

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

目が覚めたきっかけは、遠くから聞こえる猫の鳴き声だった。

 

「ピギャアアア(なんだなんだ…おわぁっ!?)」

 

寝ぼけ眼をこする吾輩目掛けて、木々の間から火球が飛んでくる。何事!?糸の壁が盾になり、散らされたお陰でダメージは全くないが、流石に驚いたぞ…

ピッチャーに入った水を飲み干し、急いでゲネル・セルタス型外装に着替えて火球の飛んできた方向へ双眼鏡を向ける。

 

アイルー、それも装備をきたアイルーたちが、イャンガルルガ相手に激闘を…って、不味っ!

攻撃を避け損ね、地面に潜る暇もなく踏み潰されそうになってるアイルーを見かねて、思わずイャンガルルガ目掛けてバリスタを放ってしまう。本当はこういうことするのは良くないんだけどなぁ…

粘菌をまとったバリスタの弾を受け、吹き飛ばされたイャンガルルガは吾輩を睨みつけ、嘴から涎を垂らしながら起き上がる。

 

ああもう。

 

ピギャアアアアアア(下がれ、自分、戦う、逃げろ)(下がってろ!吾輩が戦う!だから向こうに逃げてろ!)」

 

「にゃっ!」

 

微妙に言葉が通じたのか、アイルーたちは吾輩を申し訳なさそうに見ながら逃げてゆく。

アイルーたちから興味を無くしたのか、黒狼鳥はティガレックスのものにも迫るほどの大咆哮を上げながら、吾輩目掛けて突進する。

木々を薙ぎ倒しながら迫るその迫力は、大型の飛竜種にさえ匹敵する。

まぁでも、古龍と比べたらなんてことはない。今夜は鳥鍋かな?

 

突き出された尾を義手で受け止め、そのまま噛み付き、ハンマーの様に振り回して投げ飛ばす。

体勢を崩した黒狼鳥目掛けて砲弾を放ち、苦し紛れに吐かれた火球を氷の竜巻が飲み込み、その翼膜をズタズタに切り裂く。

イャンガルルガは、鳥竜種に似つかわしくない圧倒的近接戦闘力と古龍と同じく罠に引っかからないほどの知能と狡猾さが売りであるが…こうとなっては形無しだな。二つ名個体になって出直してこい。

 

金色の糸で地面に縫い止め、とどめを刺そうとディノバルドの剣尾を振り上げた瞬間、剣尾が弾き飛ばされる。いかなる手段を使ったのか、拘束を抜け出したイャンガルルガは、自身の尾を犠牲に剣尾を弾き飛ばすと一直線に吾輩目掛けて突進してくる。

速い、そして重い…!?さっきまでとは違う!

 

自分の体が傷つくのも厭わずに、外装目掛けて何度も突進を繰り返し、嘴が傷つくほどに突く。

自身の何十倍もの質量から繰り出される打撃を喰らいながらも、異常なまでに食い下がってくる。おかしい、激痛で普通なら起き上がれないほどにダメージを負っているはず。よく見れば、糸の拘束から抜け出した時に、翼が千切れかかけている。

 

本当にイャンガルルガと戦っているのか心配になってきた。怒り状態というより狂乱だぞ、これは…冷静さが見る影もない。

横に薙ぎ払う様にして放ったライトニングブレードを、千切れかけた翼を乱暴に振るい、急上昇することで避ける。

急降下しつつ放たれた突進を避け、着地した瞬間、盾で殴り飛ばす。吹き飛ばされ、転ばせたと思ったら、回転する勢いに任せてそのままイャンガルルガは起き上がり、一直線に突進してくる。

 

ピギャア(びっくり)(うおあっぶね!)」

 

嘴の中で限界まで肥大化させた火球が至近距離で暴発し、吾輩もろともイャンガルルガの顔面を吹き飛ばす。龍気に阻まれ、吾輩には殆ど影響がない。むしろ黒狼鳥の方がダメージを受けているほどだ。

脅威でも何でもない、なんて事ない相手なのに…何なのだ、これは!

顔面が吹き飛び、下顎は失われ、片目が喪失している。それなのに、這いずりながらも吾輩へ迫ろうとし、外装の脚へ触れた瞬間、遂に果てた。

 

ピギャアアアアアア(おわり!)(ふぅ…終わった。やっぱハンターだけじゃなくて自然も充分怖いのであるよ。)」

 

戦いが終わったことに気づいたのか、アイルーたちが集まってくる。

逃げてなかったのか。危ないから逃げててよかったのに…興味津々と言った様子で遠巻きにこちらの様子を伺っている。

吾輩が危害を加えようとしてくる様子が無いからか、アイルーたちの中の1匹。──おそらく代表だろうか?アシラ装備のアイルーが吾輩におずおずと近寄り、吾輩に話しかけてくる。

 

「にゃ(助けていただき、ありがとうございましたニャ。その黄金の外殻、理知的なお姿…もしや旦那さんは、村に伝わる伝説の龍、ガバルダオラですかにゃ!?)」

 

ピギャアアアアアア(ちがうよ)(いや人違いです!?あとガバルダオラじゃなくてガルバダオラであるよ…)」

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃ(おーい、村に帰るニャよー!)」

 

とあるアイルーは、他のアイルーたちが、金ピカのナニカと話しているのも気にせず、石を取ったり、綺麗な花を懐に入れたり、剥がれ落ちた黒くてデッカい鳥の鱗を拾うので大忙しだった。

ハンター達の基準で言えば、コレクター気質に当てはまるのであろうそのアイルーは、仲間の他のアイルーに呼ばれて、漸く採集をやめ、仲間達の方へ走る。

 

「へくちっ!」

 

鼻が急にムズムズして、思わずくしゃみをしてしまう。花粉を思いっきり吸っちゃったのが原因かな?と思う。

そういえば、何だか黒い煙?みたいなのが出てた気がするけど…きっとこの花の花粉だろう。

 

「にゃー!(待つにゃ、置いてかないでー!)」

 

どうやら、ボクが採集している間に話が終わり、あの金ピカを村に連れて行くことになったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
勿論、狩ったホロロホルルの素材で作った装備の性能が想像の何倍も高いことにも気づいていない。なんか心と剣が一体になった気がするなー、と思うだけで

*2
全長約62m、その圧倒的重量はぬいぐるみというより最早凶器。駆け出しハンターの打撃ぐらいなら受け流してしまうほどの圧倒的もふもふ。関節部が駆動するギミック付きのこだわりの一品。その禍々しい見た目とは裏腹に、目だけはやけに可愛らしい。







次回、『まぁ別に百竜夜行を起こせそうな古龍は他にもいるよね』

感想、評価、誤字報告などありがとうございます!励みになります!
1人通じる人がいたらいいなぁ、と思っていたネタが通じてびっくりしてます。

一応この世界のハンターって殆どが下位で一生を終えるのですよ。上位ハンターは最早人外。G級、MRハンターは古龍とかそういう人類。ちなみにこの世界にメゼポルタはない。F産ハンター()いない。

アイテムボックス、一応世界観的な説明はあって、所謂古龍が使う様な、天候を操ったりするノリ。天候の代わりに空間を操るために必要な器官がアトラル・カくんちゃんの脳みその中にある感じ。別に大した意味はない。大した意味はないけどもしこの世界に空間を操る古龍がいたら確実にそれの血族かなにかと勘違いされる。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吾輩はアトラル・カ。おいでよポカポカアイルーVILLAGE(ハザード)


初投稿です。
アトラル・カくんちゃんはクールビューティです。ほんとだよ?
難産でした。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃぁ(随分と不思議な客人ですにゃあ)」

 

「にゃあ(ですにゃぁ。)」

 

人類が最後に立ち入ってから千年以上が経過した秘境の地。その地域一帯の野生ネコネットワークの中心地である谷の間に建設された村。

そこで村長的なことをやっているアイルーたちが、村の中でも特に大きい建物の中でにゃあにゃあ話している。

 

人間の村に換算すれば、ドンドルマに匹敵するのでは無いかというほどの大ネコ都市。ギルドでも全貌を掴めていない野生のアイルー社会ではあるが、まさかここまで発展している街があったなど、誰が信じられようか。

古代の謎技術で建設された風車がくるくると回る。いつからあるのかはどのネコも知らない。

 

「にゃにゃにゃぁ(ボクたちの言葉も理解していて、おっかないモンスターたちみたいに食べようとしてこない…ガバルダオラじゃ無いってことは、やっぱりあれはおっきいアイルーなんじゃないかにゃ!?)」

 

「にゃ(それにゃあ!あれですにゃ。ひぃひぃひぃひぃの、そのまたひぃおじいちゃんの言っていた、ボクたちよりも大きくて、毛も殆ど生えていない人間っていう、不思議なアイルーなんじゃ無いですかにゃ?)」

 

「にゃんにゃ(あぁ、ボクたちのつかう、オトモスキルの『オトモ』の由来になったアイルーたちですかにゃ。)*1

 

窓の外から、あのおっかないイャンガルルガから友達を守ってくれた金ピカのアイルー(?)を見る。

みんなに技を教える教官ネコに頼み込んで、貴重な素材を融通する代わりにオトモスキルやサポート行動を教えてもらっているそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

「にゃ(そうにゃ、お腹に力を込めて!)」

 

ピギャアアアアアア(ぱわー!)(パワー!)」

 

掛け声と共にアトラル・カがブーメランを投げると、何故かブーメランが半分以下の大きさになる。

 

「にゃ(どうしてメガブーメランの技を使おうとしてブーメランが小さくなるんだにゃああ!こんな物分かりの悪いアイルーは初めてだにゃああ!)」

 

ピギャアアアアアア‼︎(わたし、アイルー、違う……にゃ)(そもそも吾輩はアイルーじゃないにゃあああ!あ、語尾移った……)」

 

アトラル・カが入っても充分な広さのある修練場の様な広場で、教官風の装いのアイルーが頭を抱える。

何度ブーメランを投げさせても全然大きくならないのを見て、仕方が無いから他の技を先に教えることにしたが、やはりおかしい。

 

「にゃ(憤怒の技を使おうとしたら何故か隠密状態になるし、習得の難しい強化咆哮の技は使えるのに、応援ダンスは全然できるようにならないとか、やっぱこの子おかしいにゃ…)」

 

黄色いぽんぽんを持ち、ダンスを踊る金ピカで大きいアイルー(?)を見てため息を吐く。長老様はアイルーだと言っていたが、絶対この子アイルーじゃ無いにゃ…

 

ピギャアアアアアア(いたい)(痛い!あ、なんか出たであるよ)」

 

「にゃ(どうしてダンスの振り付けでステップを踏んだだけでしこ踏みドンの技がでるんだにゃああああ!)」

 

そこそこ大きな振動で地面が揺れ、木に止まっていた小鳥たちがバサバサと飛び上がる。

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

うん、悪いネコではなさそうだ。アイルーたちはうんうんと頷く。

よくわからないものを作っていたり、加工屋ネコのように鍛治作業をしていたり、かと思えば裁縫を始めたりと謎の多い金ピカである。

とはいえ、昨日は子供たちと楽しそうに遊んでいたし、ネコ飯を作れる村一番のコックとも楽しそうに料理をしていた。作った料理も分けてくれたし、多分優しいネコなんだなぁ、と考える。村の中に入れる判断をしたのは間違っていなかったにゃ。なんか硬いし、足の数が多い気がするけど、まぁ気にすることはないにゃ。何言ってんのかあまりわかんないけどまぁなんとかなるにゃ。なんか昨日までなかったネコ耳生えてるし。*2

良くも悪くも、彼らの頭は柔らかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 

吾輩である。アイルーたちに集られている吾輩である。肉球がすごい。

イャンガルルガからアイルーを助けた吾輩は、助けたアイルー達の村に招かれていた。いたのだが…なんか凄い発展してない?村っていうか街じゃないか?アイルーの村に吾輩を連れて行くと言われた時は、吾輩が大きすぎて入んないんじゃないかと不安であったが、モンスターの死体を運び入れたりするためにある程度広い通りが確保されていて問題はなかった。まぁガノトトス一本釣りする種族だし当然か。

むしろ、アイルーにとっては広すぎるのではないだろうか?古代遺跡の上に建てられた村らしく、所々古代文明の名残のようなものが見られる。

 

そんな吾輩は今、ネコ飯という食べると力が湧き出てくる特別な料理を作れるというコックのアイルーに料理を教えて貰ったので、それの実践をしている。やっぱプロに教えてもらうと違うな。ちょっと教えて貰っただけでは初期のまかない飯程度の効果しか出せないが、味が段違いである。

 

ピギャアアアアアア(お菓子、逃げない。だから並ぶ。)ピギャアアアアアア。(…うん。偉い。…にゃ)(ほうらお菓子は逃げないぞー、だから並ぶんだぞー。うん、偉い偉いにゃ。)」

 

ミルクと砂糖を混ぜ混ぜして、固めて作ったキャラメルをハップルアップルにかけて作ったキャラメルアップルが具材のクレープである。この生地の薄さを出すのには長い研鑽が必要であるよ!え、吾輩が不器用なだけだって?…はい。

アイルーは、見た目はネコだけど中身はネコじゃ無いからか、肉だろうが野菜だろうがネコに絶対食べさせちゃいけない食材として有名なチョコだろうがなんでも消化できるようである。そのおかげか、大自然の中にしては随分と料理のレパートリーも多く、このクレープもコックのアイルーにアドバイスを受けて味が大幅に向上しているのであるよ!

村内でてんさいっぽい植物も育てているらしく、砂糖は充分あるらしい。凄いであるな、アイルー村…

 

美味しそうに吾輩の作ったクレープを食べるアイルー達を眺める。うん、ここまで美味しそうに食べてもらえると、調理人冥利に尽きるというものであるよ。

 

この村に来てからの時間はとても充実したものであった。

加工屋っぽいことをやっているアイルーに、貴重な鉱石と引き換えに色々な技術を教えて貰ったのである。ネコ式火竜車は勿論、イガグリ大砲にバチバチ爆弾ゴマ、ネコ式活力壺のような回復行動用のアイテムまでそのアイルーは教えてくれた。バチバチ爆弾ゴマのホーミングを利用すれば、誘導ミサイルとか作れるのではないか?夢が膨らむのである。ハンターどころか人間との交流が一切ないこの村でもゲームでよく似た技術にたどり着いているのは驚きである。アイルーという生物は、自然に技術を発展させていくうちにこれらの兵器にたどり着くようにできているのだろうか?アイルー、温厚な性格だからいいものの、これが戦闘民族だったら瞬く間に生態系の頂点に立っていたんじゃないか?

 

勿論、アイルー特有の加工技術だけでなく、アイルー特有のあの技も教えて貰ったのである。

所謂、『サポート行動』や『オトモスキル』のような不思議な技の数々を、遂に吾輩は使えるようになったのである!

拾っていたアキンドングリや、要らなくなった強力なモンスターの素材、あとはお昼ご飯を毎日作ってあげるのと引き換えに、教官ネコに教えて貰えることになったのであるよ。

勿論、全部使えるというわけではなく、吾輩も使えそうなものだけではあるが。竜巻旋風撃の技は一生できるようになる気がしないし、流石にキンダンドングリの技とかは存在しなかった。ネコ爪乱舞の技はそもそも吾輩に爪がないから使えない。ビースト変化などもってのほかである。笛技も肝心の吾輩が吹けそうな笛がないので無理である。狩猟笛で代用?規格が違うのである。

教官には随分と迷惑をかけた。出そうとした技と別の技が出るし、匠の術を発動したと思ったら超会心の術が出るしで随分と悩ませたものである。とはいえ、お蔭で無事にある程度までの技と術は使えるようになったのであるよ!

 

兵器に加えて、狩技、そしてオトモスキルも身につけ、料理バフも使えるようになった吾輩はもはや無敵!…だったらよかったんですけどね。ちょっと学んだだけの技術でなんとかなる世界ではないのである。もっと訓練して、技術を磨かないと全然駄目である。同じ武器強化の技でも、吾輩と教官の使った時では強化率に大きく差があるのである。

 

 

あぁ、平和であるなぁ。

久しぶりにのんびりした日々を過ごしている気がするのである。

 

「にゃああああああ!(コレクトさせろにゃ、にゃああああ!)」

 

なんか大声を上げながら走って行くアイルーが見えた気がするけど、平和である。あれを初めて見た時は「大丈夫なのかこいつ…?」と思って他のアイルーに聞いたが、元々あんな感じだから大丈夫らしい。最近は特に酷いけどそういうお年頃なのだろう、と教官は言っていた。本当に大丈夫なのか!?

 

モンスターの襲撃も受けず、古龍がダイナミックエントリーもしてこない。ハンターもいない。心を落ち着かせて作業ができるというものである。

時々遊びに来る子供アイルーたちと戯れつつ、幾つかの新兵器を仕上げてゆく。規格外すぎる超巨大兵器。…まぁ使う日が来ないといいな。誘導ミサイルの方はまだまだ時間がかかりそうである。バチバチゴマは作れるようになったのに、なんであの構造でモンスターに向かって行くのかがよくわからない。どうなっているんだ…?アイルーの技術は不思議である。蝕龍カートリッジは実践投入できるぐらいには仕上がった。

 

くぁ、と太陽に向けて欠伸をする。

そろそろお暇させてもらうとするか。これ以上吾輩という余所者がいても迷惑であろうからな。いい関係のうちのバイバイする方がいいのである。

 

簡易調理セットを片付けながら、そんなことを考える。

クレープを食べ終わったアイルー達にバイバイと手を振り、長老っぽいアイルー達のいる建物へ向かう。

 

同時刻、大事件が起こっていることも知らないままに。

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

「にゃ(大変にゃ、大変にゃあ!)」

 

外に出ていたアイルーが、大慌てて正門から村の中へ駆け込んでくる。その恐怖に駆られた表情に、何事かと続々とアイルー達が集まってくる。

 

「にゃあ(落ち着くにゃ、先ずは落ち着いて何があったのかを話すんだにゃ!)」

 

「にゃ、にゃにゃにゃー!」

 

要領を得ない言葉を口走り続けるアイルーを落ち着かせようと、年上っぽいアイルーが駆け寄るが、押し返される。

 

「にゃ(これが落ち着いていられるかにゃ!モンスターが、モンスターの大群が!…大型モンスターの群れが村に迫ってるんだにゃ!)」

 

時を同じくして、同じタイミングで薬草採集に出ていたアイルーも戻ってくる。同じく身体中に木の葉を貼り付け、息も絶え絶えな様子だ。

 

「にゃ(モンスターの濁流が…イャンクック、アオアシラ、トビカガチ、リオレイアまでいましたにゃあ!村手前の谷に侵入するまで、推定半日!今すぐみんなを集めるにゃあ!)」

 

ついていっていた他のアイルー達も、口々に同じようなことを口走る。

複数匹からの証言を聞けば、見間違えじゃないのは確実だ。今、自分たちの村は未曾有の危機に瀕している。それを理解した瞬間、脳のキャパシティを越えたのか。

 

「「「「にゃああああああ!?」」」」

 

アイルー達の絶叫が村に響き渡る。1匹狩るだけでも命懸けな大型モンスターが複数。それも話を聞く限り、1匹2匹の話じゃあない。慌てるのも無理がない話だ。

 

「にゃああ!(喝ッ!みんな落ち着けぇい!)」

 

教官アイルーが、拾った木の枝を竹刀のように地面に叩きつける。ピシャァン、という音が大通りに響き渡り、アイルー達が静まり返る。

そうだ、ボクたちには彼らがいるじゃないか。多種多様な技を使いこなし、強力な武器を使ってモンスターを狩る彼らが!

 

「にゃあ!(先ずはモンスターの群れを見たという君達、ボクと一緒にくるにゃ!村長たちと話し合ってくるから、皆んなは念の為避難の準備をするにゃ。ボク達に任せておくにゃ!)」

 

教官アイルーは、自分たちに任せてくれれば大丈夫と言わんばかりに胸を叩き、それを見たアイルー達は安心して落ち着きを取り戻し、自然と解散していく。

 

(でも、多分、話を聞く限りボク達でも…)

 

心を翳らせながら、教官アイルーはとぼとぼと村長アイルー達の家へ向かう。

少し歩いたら見えてきた村長の家の前で、一瞬立ち止まる。何かを振り払うようにして一歩踏み出し、ドアを開けた。

 

「にゃあ(ん、どうしたんだにゃ?)」

 

「にゃ(実は……)」

 

教官アイルーに連れられたアイルー達の話を聞いた長老ネコ達は、他のアイルー達のように慌てることもなく、偵察に何匹かのアイルーを放ち、帰ってくるまでの間に様々なことを話し合った。

どれぐらいの規模なら撃退できるか。撃退できそうならば、どのようにして撃退するか。…無理ならば、どうやって逃げるか。

そして、暫くののち、偵察に放ったアイルー達が帰ってくる。

 

「にゃあ(村を捨てるにゃ)」

 

何匹かのアイルーを偵察に向かわせ、大量のモンスターが現れたことが事実であると確認した長老ネコたちは、そう決断する。

初めは撃退することも考えた。しかし、明らかにどうしようも無い雰囲気が漂っていた。仮に全員が決死の覚悟で戦っても、徐々に押されていって全滅。何も残りはしない。

一瞬、あの奇妙なアイルーなら何とかしてくれるかも?という考えが浮かぶが、振り払う。あくまで彼女は客人。ボク達の問題に巻き込むわけにはいかない。

 

「にゃあ(でも、それで次の冬を越えれるんですかにゃ?このタイミングで備蓄もなしに逃げて…?)」

 

「にゃあ(物資を持って逃げれるだけの時間はなさそうだにゃ、だから…辛い思いをすることにはなると思うにゃが、我慢するしか…)」

 

暗い雰囲気が漂う。

瞬間、バァン、と扉が開け放たれる。

 

扉の外から顔を覗かせるのは、体が大きすぎて入れない金ピカの客人。

 

ピギャアアアアアア(話、聞いた。任せろ!)(私 が 来 た !話は聞かせてもらったあ!あとは吾輩に任せるであるよ!)」

 

何を遠慮してるんだこのアイルー達は!吾輩は歩く砦ぞ、歩く攻城兵器ぞ!百竜夜行が何のその!

え、ちょ、まって、話だけでも聞いて!無言でドアを閉めようとしないで!

 

閉められたドアを再度開け放つ。

気まずそうに伏せるアイルー達に、吾輩は叫ぶ。

 

 

ピギャアアアアアア(話、聞いて!)(いいから…話を…聞くのであるよ!)」

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 

 

吾輩である。

客人だからと遠慮して吾輩を逃がそうとした長老ネコ達に話をつけた吾輩である。吾輩これでもラスボスであるからな!忘れられてそうだけど、実はそこそこ強いのであるよ吾輩!…慢心は駄目であるな。

根気強く、というかゴリ押しで話をつけた吾輩は、早速教官アイルー達と一緒に防御陣を敷くことにしたのであるが…アイルー達の技術凄いのであるよ。属性罠とか毒罠とか、実は普通に自分たちで撃退できたんじゃないかと思わせるほどである。

とはいえ。攻撃力不足が否めなかったので、瓦礫を組み上げた砦に、吾輩の有り余るバリスタや大砲を設置して貸し出した

あとはその辺から引っこ抜いてきた門を設置して、モンスターの進路を塞ぐようにしてバリケードを設置して、と色々やれることはやったのである。

 

最初は吾輩1匹で全部殺して、アイルー達には避難していて貰おうと思ったのであるが、流石にそれはできないとアイルー達が集まってきたのである。…まぁ、吾輩1匹じゃ数に物を言わせて抜かれるかもしれなかったし。

 

ただ生き残りたいだけなら、ここで少しの危険も冒さないために逃げるべきなのだろうが…それは違うだろう。そうやって生き残り続けても、いつか吾輩は死にたくなる。ほんの短い間でも、話した、触れ合った。そんな相手を見捨てたくないのであるよ、吾輩は。

 

 

「にゃーー!」

 

「「「にゃあああ!」」」

 

遠くて何を言っているのかはわからないが、アイルー達がボーンネコピックを振り上げながら何かを叫んでいる。かわいい。

 

遠くに、地響きが聞こえてくる。

…そろそろであるな。

 

 

 

いざ

 

気焔万丈!

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

モンスター達が、雪崩を打って谷へ侵入しようと駆け出す。

蠢く化け物達の群れは、咆哮を上げながらアイルーにとっての死の河となって迫る。

切り倒した樹々を積み上げて作った簡易的なバリケードを突破して、その内部に侵入した瞬間に、先頭にいたアオアシラの体が爆散する。

 

アイルー達が設置した複数の設置型爆弾を踏み抜いたモンスター達の体が吹き飛び、爆弾の内部に入っていた弾丸がその後続のモンスター達の肉を抉る。アイルー達が狩りに用いる設置型爆弾は、肉や素材を取るために威力は抑えられていたが、それを女王が改造することでより凶悪な、『殺すこと』に特化した地雷が、先頭の集団を丸々殲滅する。

 

(やっぱり、予想通りだ。この百竜夜行を形成するモンスター達は、言ってしまえば下位相当かそれ以下の強さ。脅威なのは数だけだ!)

 

先頭の集団が消し飛んでも、まだ安心はできない。アオアシラ達の死体を蹴散らし、次々と新しいモンスターが雪崩を打って侵入してくる。

 

ピギャアアアアアア(まだ、まだ…今!)(引き付けて……総員、撃てええええええええ!)」

 

モンスター達の濁流がついに防衛陣の中まで侵入する。

それを出迎えるのは鉄と火薬の雨。撃って撃って撃ちまくれ!的は無限にある。1匹たりとも逃すな!

アオアシラやドスジャギィ、ヨツミワドウといったモンスター達の死体が積み上がる。

 

それでも群れは止まらない。目を血走らせた化け物達が、絶叫を上げながら迫る。

 

ピギャアアアアアア(わたしに、まかせて!)(吾輩に任せろ!アトラル・カ、出陣!)」

 

幸い、ここにはモンスターの死骸が沢山転がっている。そう考えると、アトラル・カは放出した糸を死体に突き刺し、人形のように操り迫り来るモンスター達にぶつける。

ある人形が壊されれば、新たに殺した別のモンスターに乗り換え、時には自身の装備を使い殴りかかり、1匹でありながら何十匹ものモンスターを食い止める。

 

──やっぱり、吾輩1匹じゃ結構抜かれるであるな…!

 

それでも食い止めきれず、かなり多くのモンスターが侵攻するが、それら相手にアイルー達は貸し出されたバリスタや大砲、自作のイガグリ大砲やブーメランで対抗する。

 

ピギャアアアアアア!(火…リオレイア!)(来やがったか、リオレイア!)」

 

群れの中でも比較的強力なリオレイアが降り立ち、火球を放ち、尾を振るい、砦を破壊しながら進む。

 

ピギャアアアアアア(地上、無視。空、危険。優先!)(地上のモンスターは後ろのアイルー達に任せて無視しろ!今は1匹でも抜かれたらいけない飛行可能なモンスターを優先して撃ち落とせ!)」

 

イャンクックにトビカガチやリオレイアと言った、飛行能力により防御陣が抜かれる可能性のある致命的なモンスター達が群れに混じり出したタイミングに合わせるように、用意された高台に設置された大砲やバリスタから、雨霰の如く砲弾が放たれ、優先的に撃破されていく。

火球や放電によりダメージを負うアイルーが増えてくるが、後方のアイルー達の吹く笛がそれを癒し、あまりにも大きいダメージを受けたアイルーは地中に潜り、後方の待機しているアイルーと交代する。

 

「にゃああああ!(ビースト変化にゃああ!村はボク達が守るにゃあああ!)」

 

「「「「にゃああああ!」」」」

 

陸上を走るだけのモンスターは、毒々落とし穴や属性スチーム、追加の設置型爆弾により撃破され、なんとか生き残った罠で弱ったモンスター達が、アイルー達によって次々と刈り取られる。それでも全滅とはいかない。

幾匹かは設置された門の前まで迫ってしまうが、仮にも廃棄された対古龍用の砦から引っこ抜いたものをそのまま流用している訳だ。そう簡単には破れない。むしろ、門前の広場に侵入したモンスターは、円形に囲うように配置された大砲と速射砲による集中砲撃で沈んでいる。

これがもっと多くの数が広場まで侵入していれば話は別だったが、女王によって数を減らされたモンスター達では、途中の罠や砲撃を突破できない。

 

四方八方から悲鳴と歓声が上がり、轟音と爆炎が上がる。

地面には杭の如きバリスタの弾丸が突き刺さり、モンスター達の血と体液が地面をドス黒く染め上げる。

ブーメランがモンスターの体を貫通し、よろめいたモンスターの頭蓋をバリスタの弾が貫く。

 

少しずつ、少しずつ。無限にいるかのように思えたモンスターの数が徐々に減ってきたように思える。

初めは越えることなど出来るはずがない程に深い河だったが、今や底が見えてきた。

 

(いける、いけるぞ…!これだけ殺されても群れが散り散りにならないのは、やはりヌシが未だ出現していないからか…っ!)」

 

操っていた人形達が、谷間から放たれた高圧の水ブレスによって両断され、雷を纏った拳によって残った人形達も吹き飛ばされる。急造の人形だったため、中に残っていた肉の焼けるいい匂いが漂う。

 

ピギャアアアアアア(来た!)(来やがったか、ヌシ……え、まってなんか2匹いるんですけど!?)

 

谷の合間から現れたのは、仄暗い鬼火の揺らめきを宿した泡狐竜と、金雷公にも似た金色の体毛を持つ雷狼竜。『ヌシ・タマミツネ』と『ヌシ・ジンオウガ』の二体が並び立ち、歪んだ大咆哮を挙げた。

1匹の群れにリーダーが2匹いるってマジ!?この百竜夜行はクリアできないのではないだろうか?

 

ピギャアアアアアア(わたし、やる!持ち堪えて!)(吾輩がコイツらを倒す!それまで持ち堪えろ!)」

 

そう叫んで、後ろを一瞬振り返る。…これ、吾輩が戻ってくる頃には群れ、全滅させてるかもしれない勢いであるよ。アイルーすごぉ…い…

 

ヌシ達をアイルー達から引き剥がすように蹴りを繰り出し、吹き飛ばすように大砲から榴弾を放つ。

砲弾を喰らいながらも前に進む雷狼竜の放った雷を纏った叩きつけを、外装の前足で受け止める。

 

「ピギャアアアアアア(残念だったなぁ、今の吾輩に雷でダメージを与えたいなら、ナルハタタヒメでも連れてこい!)」

 

橙色の泡が装甲にぶつかると、激しい衝撃が走る。

ヌシ・タマミツネは爆発性の泡や、鬼火を纏った泡を後方からシャワーのように放ち続け、ヌシ・ジンオウガはひたすらその肉体スペックを活かして吾輩の体を殴り続ける。

かと思えば放たれた撃龍槍をするりと避けたタマミツネが一気に前に出て、回転しつつレーザーカッターのように水ブレスを放つ。

 

「ピギャアアアアアア(切り飛ばす!)」

 

剣尾を水のブレスを切り裂くように振るい、飛び上がり強襲を狙うジンオウガをドボルベルクを投げつけて撃墜する。

何度もお手をするように繰り出されるジンオウガの叩きつけを瓦礫の盾で受け止め、アイスサイクロンで泡を巻き上げる。

 

「ピギャアアアアアア(おわっ!)」

 

後ろ足で踏んだ地面が、泡に濡れていて滑ってしまい、僅かだが体勢を崩してしまう。

しかし、僅かに体が傾いたおかげで、ジンオウガの突進をスレスレでぬるりと回避する。

 

「ピギャアアアアアア(…流石に抜かれるか…!)」

 

帯電した全雷エネルギーを右の掌に集め、タマミツネの爆発性の泡をあえて踏み抜くことで加速したジンオウガは、鋼鉄の盾を引き裂きつつ、アトラル・カの体を全力で横薙ぎにぶん殴る。

ミシリ、という音と共に脚部にヒビが入る。龍気とキリンの外皮の守りをほんの僅かに貫き、女王の頬に薄らとした焦げ跡ができる。

古龍でもなければ貫けない…筈なんだけどなぁ!

一体どれだけの力で殴りつけたのか、地面に溝を作りながら、女王の体が横へ強制的に動かされる。

 

叩きつけの直後、ブルリ、とジンオウガの体が震えたかと思うと、充電がきれたはずの体から無理やり電気を引き出し、再度全力の殴打を繰り出す。

時を同じくして、タマミツネの体が奇妙な方向に曲がったかと思うと、半ば自分に当てるようにして四方八方へ視界を埋め尽くすほどの泡を放ちつつ、薙ぎ払うようにして尾を振るいながら高圧の水ブレスを放つ。

そのブレスに巻き込まれ、何匹かのモンスターが両断される。

 

文字通り、呼吸を忘れたかのような連撃。一撃一撃が全生命力を込めたかの様な最大の一撃。

戦いの中で限界を超えたとか、そういうレベルじゃない…!

 

ぶちぶちと、筋繊維の千切れる音が聞こえる。

上手く泡立たなかったのか、原液のままの泡が吹き出したり、雷が明後日の方向へ放出されたりと、明らかに様子がおかしい。

吾輩の外装へかみつき、そのまま無理やり硬質な壁を砕こうとしたジンオウガを投げ飛ばした瞬間、気付く。

 

黒い。黒い靄のようなものが、ヌシ達の体を覆って…まさか『黒の凶…じゃなくて狂竜症…ッ!?

 

自身の甲殻さえも砕きながら放たれたタックルを避け、その背中に大剣を放ち、突き刺す。

痛覚が麻痺したのか、何の痛痒も感じていないかのようにヌシ達は、口の端に血の泡を浮かべながら、正気を失った目で暴れ続ける。

 

…もう、吾輩すら見えてないのか。

どっちだ。どっちの狂竜症だ。ゴアか、シャガルか…前者ならいいが、後者なら…!

 

 

突如として、ヌシ達の動きがピタリ、と止まる。

直後、糸が切れたかのように2匹が倒れる。無理な動きが祟ったのか、急に2匹とも命を落としたようだ。

正気なら、こんな無様な姿は見せなかったんだろうな。どうせなら、正気の状態で、本気のお前たちと会ってみたかったよ。

 

ヌシ達の死を感じ取ったのか、モンスターの大半が散り散りになり、逃亡を始める。

何体かはそれでも暴れ続けているが、それらも討ち取られたようだ。もしかして、今逃げなかったモンスターも感染していた?

 

アイルー達が、歓声をあげる。脅威が去ったのだ。当然だろう。

終わった、のか…いや、まだだ!

 

 

ヌシ達の死体が、ぼこり、ぼこりと泡立つ。

 

 

ピギャアアアアアア(全員、死体に砲撃!はやく!)(全員、この死体に全力で砲撃しろおおおおお!)」

 

 

突然の号令に驚きながらも、アイルー達も死体の様子のおかしさを感じ取ったのか砲撃をすぐさま開始する。

女王も、バルファルクの翼脚を構えると、この状態で放てる最大火力の砲撃を、連結された複数の大タル爆弾と共に放つ。

何度も砲撃を喰らい、死体の甲殻が消し飛び、肉は炭化し焼失する。砲撃が収まり、そこにあったのは体積が半分以下まで消失したヌシ達の死体。

 

あ、不味い。

 

残った肉がぴしり、と割れる。

ヌシ達の体を食い破るようにして、肉の蛹の中から二つの黒が飛び出す。凶つ狂星が、産声をあげる。

古龍目.廻龍亜目.マガラ科。古龍に最も近しい、古龍にあらざる幼龍。

 

黒蝕竜『ゴア・マガラ』。

生まれたての幼体ながらも、吾輩にとって…竜にとって致命的な気配を感じる。

 

その脅威を感じ取ったのか、アイルー達が静まり返る。

盲目の龍は、見えない周囲を見渡そうと首を振り、そして体を覆う膜を吹き飛ばすように、翼を広げると────

 

 

 

何もさせない、何もさせるものか!生まれた瞬間、何もさせる暇もなく、世界を認識する前に消し飛ばす!

未だ世界を感知できていない幼龍に迫り、鬼火と粘菌を纏った撃龍槍で頭部を貫く。絶命を確認するまもなく、翼を完全に開き切りつつあるもう1匹の幼龍にまで迫ると、今度は狩技の力を乗せ、全力でライトニングブレードを放ち全身の肉を焼き、追撃に砲撃を至近距離で放ちその心臓を停止させる。

 

 

2匹の幼龍の絶命を確認して、ようやく止めていた息を吐く。

あぁ、よりによってそっち、か…

 

 

 

 

 

 

 

 

本当にどうしよう…どうすればいいの…?ねぇ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
この村の住民は、人間との交流が完全に絶たれていたため、『オトモ』という概念を知らない。だからサポート行動とかオトモスキルはなんかすっごい昔から伝わるなんか凄い便利な技程度の認識である。

*2
アイルーイヤー。定価150円











感想、評価、誤字報告などありがとうございます!大変感謝しています。
アトラル・カくんちゃんの本領発揮がようやく次回見せれるかもしれない。毎回襲撃される側だったけど、ついに襲撃する側に!
次回『廻り集いし竜と龍』


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吾輩はアトラル・カである。輪廻から外れた竜と龍





初投稿です

アトラル・カくんちゃんポンコツじゃないもん、ガバルダオラじゃないもん!







 

 

 

ゴア・マガラは、その本能に刻みつけられた帰巣本能の様なものに従って、本来あるべき場所へと回帰する。

しかし、その個体は欠陥を抱えていた。帰るべき場所がわからない。

本来ならば、帰巣本能を失ったゴア・マガラは脱皮するために必要な環境を見つけることができずに死に果てる筈だった。

しかし、見つけてしまった。地脈の流れも、標高も完璧な立地を。

 

そこまでなら、稀にある話だった。

どれだけ遠い場所で新しいシャガルマガラが誕生しようとしてようが、シャガルマガラはやってきて新たに脱皮しようとするゴア・マガラを押さえつける。

しかし、タイミングが悪すぎた。今、この瞬間。長い星の歴史を見ても一度もなかった、「現存するすべてのシャガルマガラが討伐され、身動きが取れない」タイミングなのだ。

天空山の個体は、ある英雄に討ち取られ、再び現れたと思ったらもう一度今度は別の英雄に討ち取られ。

城塞高地の個体も討ち取られた。

 

故に、自然界の抑制作用が働かない。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

百竜夜行を超え、自分たちの村を守り切ったアイルーたちが、にゃぁにゃぁ鳴きながら宴をしている。

 

それは嬉しそうで、楽しそうで。

 

「にゃ(旦那さん、どうしたんですかにゃ?)」

 

ピギャアアアアア(ん。気にしないで)(いや、なんでもないであるよ)」

 

コックによって振る舞われた大皿の料理を囲んで、飲めや歌えやの宴会だ。陽気な歌が聴こえ、誰かが笛を吹く。

 

だめだ、心の底から楽しむことができない。

理由は分かってる。あの時起きた現象。ヌシの体を食い破って現れたゴア・マガラ。

天廻龍シャガルマガラの幼体である彼の存在は、禁足地(ひょっとすると城塞高地も)に坐すシャガルマガラがばら撒いた生殖細胞を含有した狂竜ウイルスを一定量以上吸い込んだモンスターの体から誕生する。

狂竜ウイルスを浴び続け、感染し発症した存在は精神に異常をきたし、好戦的になり、時には共食いさえするようになり、狂気に呑まれ最期は無惨に狂死する。そしてそうして死んだ、或いは死にかけた竜の体を食い破り、ゴアマガラは誕生する。

 

こいつ吾輩の体にウイルス植え付けて苗床にしようとしてるんだ!エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!!!

 

そうしてその地域一帯の生態系を完膚なきまでに破壊しつつゴア・マガラは増殖し、その中の1匹だけが脱皮して次代のシャガルマガラとなる...とかそんなだったはずだ。残りはもれなく成長阻害因子によって混沌ゴア行き。

 

で、おそらく、というか確実にこの近くにシャガルマガラがいる。

モンスターの体を食い破ってゴア・マガラが誕生した。それだけならばまだいい。たまたま気流によって禁足地からも、多分城塞高地からも離れているであろうこの村にシャガル産ウイルスが発症するのに充分な量やってきただけかもしれないから。

しかし、百竜夜行が起きた。コレがまずい。ある一定以上の強さを持った古龍がいないと百竜夜行は起き得ない。

 

うん。この村詰んでるね間違いない。

百竜夜行の様な現象が再度起きる可能性は低いが、それはそうと本当に近くにシャガルマガラがいるのなら、今後加速度的に狂竜化して暴れ回るモンスターの数は増えるだろうし、ゴア・マガラにエンカウントする確率も上がる。

今思えばあのイャンガルルガは狂竜化していたのかもしれないな。

 

ピギャアアアアア(ねぇ。村長。あの黒い龍、出てくるの。)アアアアアア(....聞いたこと、ある?)(なぁ村長。あの黒い龍が出てくる現象は聞いたことがあるであるか?)」

 

そばでナッツを齧っていたネコに問う。コレは大切な質問だ。

 

「にゃむにゃむ(あれを見て、なんだか不吉な予感がしましたので、あの後調べてみたにゃ。でもあんな現象、過去1000年*1の記録を辿ってもありませんでしたにゃ)」

 

 

過去にはない、か...じゃあここにシャガルマガラの巣があるわけではない?じゃあ禁足地からなんらかの理由でここまで流れてきた?それとも、なんらかの要因で、例えば距離とかの問題で成長阻害されずに脱皮不全を起こさなかったゴア・マガラがこの地で脱皮することで第二のシャガルマガラが誕生した?そういえばこの近くにやけに標高の高い山があったなぁ。

 

「にゃあ(急患、急患にゃあ!)」

 

宴会の喧騒を破る様に荷台に乗せられたアイルーが運ばれてゆく。

どこかでみたことがあると思ったら、あのコレクトのアイルーだ。

 

「にゃあ(衝動が、衝動が抑えられないにゃあああ!!)」

 

糸で縛られたアイルーは、ジタバタと暴れてもがいている。

周りのアイルーが何事かとざわめく。

 

不味いであるな...

 

ピギャアアアアア(そこ、どく。)(そこをどいて欲しいであるよ)」

 

縛り付けられ暴れるアイルーの空いた口に、ウチケシの実を砕いてペースト状にしたものを流し込む。

するとしばらくして、アイルーは落ち着きを取り戻す。

 

「にゃあ(はうあっ!ぼ、僕は一体何を...)」

 

うーむ。ウチケシの実でなんとかなるってことは、完全には感染してないのか、それともアイルーが耐性を持っているのか...

本当にムカつくなぁ。折角助かったのに、結局滅ぶ運命とか。

 

ピギャアアアアア(ウチケシの実、食う。そしたら楽になる。)アアアア(在庫、ある?)(ウチケシの実、これを食べれば多少は楽になるであるよ。在庫はあるであるか?)」

 

「にゃ(い、一応畑で育てているにゃ)」

 

様子のおかしいアイルーを見て、宴の喧騒が白ける。

熱に浮かされていたアイルーたちであったが、なんとなく理解したのだろう。何か良くないことが起きていると。

 

ピギャアアアアア(...ちょっと行ってくる)(ちょっと夜風にあたってくるであるよ)」

 

不安そうに騒めくアイルたちの方へ一瞬目を向け、村の外へ向かう。

吾輩の予想が正しければ、多分あの山の頂上付近のどこかにシャガルマガラがいる。

 

村の外にうっすらと見える峰を睨みつける。

 

この距離感の村にまだそこまで狂竜ウイルスの影響がきていない。

だったらシャガルマガラが現れてからまだ大した時間は経っていないはずだ。拡散しきる前に、初動で潰す。

その後のことは...本当に業腹なことだが、()()()()()()()()()()を利用すれば多分なんとかなる。

 

本当、高々数週間いただけの村に何をムキになってるんだか。

自分から古龍に喧嘩売りに行くとか、正気じゃないであるよ。きっとコレも全部狂竜症の影響を受けてるからだ。間違いない。

 

空に向けて曳光弾もどきを1発放つ。もし近くまで来ていればコレで気づいてくれるはずだ。仮に吾輩が失敗しても多分なんとかしてくれる。

ここからは吾輩のエゴだ。そうするべきだと思ったからするだけ。誰かに命じられたわけじゃない。ここで死んでも文句は言えないな。

 

貸し出した防衛設備は置いていく。全て終わって戻ってきたら村が壊滅してましたー、なんてなったら悲しいからな。

村の外へ出て、翼脚を展開し、山へ向けて飛び立つ。

 

きゅぃぃん、と大気を吸い込んだ翼から、膨大な龍気の炎が溢れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫しの空の旅の後、山へ辿り着いたわけだが、酷いな...

そこかしこに闊歩する、狂ったモンスターたち。

先程も、向かってきたアオアシラを両断したところだ。自らの同胞の肉を喰らい、自らの血を啜る。悍ましい。ここにいるだけで精神が削れていく気がする。

 

それでも、シャガルマガラがいるにしてはマシだな、という感想を抱く。

出会ったすべてのモンスターが狂竜症を発症しているのではなく、むしろしていない個体の方が多いぐらいだ。それに、古龍の気配に当てられ百竜夜行の一部となったからなのか、そもそもモンスターの数も少ない。

 

それでも、奴はいた。

発見した二頭のゴア・マガラを認識される前に焼却する。古龍の幼体とは言え、せいぜいがセルレギオスと同格。ならば先手を取って吹き飛ばせば負けはしない。

それでも、戦いの中で少なくない傷を負ってしまう。

 

ウチケシの実を齧る。あぁ、頭が痛いであるよ。

そうして、険しい山を登り、その頂上付近の広場になった場所で...ミツケタ。

 

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

吾輩は今までは、こちらから攻めるのではなく、常に襲われる側であった。でも、今日は違う。

天を貫くほどに高い山の頂上近くにある広場の中心で眠る古龍を見つめる。

 

所詮、貴様からすれば吾輩などただの虫ケラ...たとえ知覚していても、眠りを妨げる要因にはなり得ない、か...まぁ「吾輩」は生物的に強い、というわけではないからな。実に都合がいい。

そのまま眠っていてくれよ、自分が死んだことにも気づかずに。

万が一誰かに見られていたら困るため、ギリースーツのように迷彩と枝葉による偽装を施した黒龍外装を取り出し、バルファルクの翼脚と接続する。今回は乗り込むのではなく、外装ではなく砲として構える。

独特の吸引音を上げながら、龍気が翼脚に吸収される。狙うは古龍。シャガルマガラの心臓。

 

秘められた龍属性のエネルギーにより、周囲の空間が蜃気楼の様に歪む。

 

──消え去れッ!

 

カートリッジを砕き、蝕龍の力と共に解放された龍属性の光線が、無防備に寝ていたシャガルマガラの体を飲み込む。

チャージされていた龍属性のエネルギーが全て解放され、光線が宙へ消えた瞬間、間髪入れずに滅龍砲からリオレウスすら火だるまにする超高熱の砲弾を放つ。

 

流石に、これだけじゃあ死なないか。

無防備な状態で喰らった二発の超火力によりその全身から血を流しながらも、倒れる様子はない。竜であれば何体も葬り去ってなおあまりある火力を喰らってもなお、その生命力に陰りなし。しかし、蝕龍カートリッジがある意味では生物的要素を持つ狂竜ウイルスにも有効であったのか、シャガルマガラは何かを体内から吐き出す様に咳き込んでいる。それでも一瞬で立ち直ってしまったが。

こっちから攻め入ってるんだ、まだまだ玩具は沢山残っているのであるよ!

 

突然の襲撃に混乱しながらも、すぐさま襲撃者を見つけ、その眼に怒りを漲らせながらシャガルマガラは突進する。パラパラとまばらに放たれる矢弾をその身体で弾き飛ばしながら、虫ケラの頭蓋を噛み砕こうと一歩を踏み出したシャガルマガラを襲ったのは全身が吹き飛ぶのではないかというほどの衝撃。

設置型爆弾と属性スチームの技術を応用し、その威力を何倍にも高めた対龍地雷と、その内部に仕込まれていた自身の弱点である火属性と龍属性の発掘武器を砕いて作られた破片が鱗を砕きながら体に突き刺さる。

 

 

「ピギャアアアアア(総員、撃てえええええ!!!!)」

 

一瞬の転倒から起き上がったシャガルマガラが今度は飛行することで地雷を避けようとした瞬間、再度全身を激痛が揺らし、苦手な猛毒を浴びせられ思わすふらつく。

アトラル・カが、黒龍外装をしまった代わりに取り出したレールガンから弾丸を放つと同時に、左右にずらっと並んだ狩人人形がヘビィボウガンを構えると、そこから一斉に狙撃竜弾を放つ。火薬に、気化する特性を持った劇毒を混ぜ合わせた弾丸が龍の体に命中し、凄まじいスパークを放ちながら脳天を電磁加速砲の一閃が穿った。

 

 

気持ちよく休んでいたところに現れた突然の襲撃者。一体何者なのかと思えば、なんてことはないただの虫。その筈なのに...

 

──一体なんなの、なんなのあれは!全く強そうに見えないあれが...どうしてこんなにも私を傷つけることができるの!?

 

明確に上位存在である古龍。ごく僅かではあるが、たまに龍でない存在が挑みかかってくることはあった。しかし、そんな相手は全てが龍でないながらも、龍に匹敵する力を秘めていることがみればわかった。でも...あれは一体なんなの!?

 

悲鳴の様に上げられた咆哮は、竜たちの怨嗟の声でかき消される。

 

「ピギャアアアアア(そうだ、お前に紹介しなきゃいけない奴らがいるんだった。ほら、おいで...)」

 

金色の糸に操られた亡者たちが、天廻龍の体に爪を突き立て、歯を突き立て、飛び立つのを防ごうと群がり、しがみつく。

大地を埋め尽くす様に蠢くのは、先の百竜夜行で吾輩たちに討伐されたモンスターたち。

狩ったのは吾輩だが、元を辿ればコイツさえいなければこんな無惨な最期は迎えなかった筈の竜たち。

突貫で製作したからか、僅かに残った肉から腐臭が漂い、正真正銘亡者の様な見た目の竜たちが、その体を千切られ、吹き飛ばされながらも何度もシャガルマガラへ攻撃を続ける。

 

鬱陶しそうに狂竜のエネルギーを解き放ち、一撃ごとに人形たちが吹き飛ぶ。一体倒されれば二体が。二体が壊れれば四体が。数を増やしながら竜の亡者が、百鬼夜行の軍勢が進軍する。

その最中でも、狩人人形たちは無慈悲にシャガルマガラの体を狙撃する。

ウチケシの身を頬張りながら、追加で細工を施した人形を放つ。

皆、ありがとう...でも、流石に強度も高くない竜ではここらが限界か...数も結構減ってきたのであるよ。

 

まぁ、

 

「ピギャアアアアア(そんな吾輩ばかり見ていて大丈夫であるか?上を見るであるよ)」

 

シャガルマガラの目に映ったのは、自分めがけて突っ込んでくる小型の飛行船。

遺跡で発見した小型の飛行船のコピー品であるその船には、限界まで油の入った樽と、大タル爆弾が積まれている。

それが墜落すれば、どうなるかは明白だ。

シャガルマガラの体が爆風に包まれ、全身にかかった油が勢いよく炎上する。

 

「ピギャアアアアア(全軍、突撃!)」

 

遠巻きに配置されていた、体内に大量の火薬を詰め込んだ竜の人形たちが突撃し、シャガルマガラに体に張り付いたかと思うと爆散する。

さらには、大剣や太刀の様な近接武器を持った狩人人形たちが煙に紛れ、シャガルマガラの体を滅多刺しにする。

全身の炎を消しながらも、なんとか地上から襲いかかってくる人形たちを突破したかと思えば、今度は空から隕石が落ちてくる。

 

一体どれだけの手札があるのか、一体攻撃はいつまで続くのか。ほうら、また新しい何かがきた。

 

アトラル・カが放ったのは、爆弾の代わりにブレードが取り付けられた回転ゴマ。回転しつつどこまでも相手を追いかけるコマが、シャガルマガラの翼膜を切り付ける。

加えて他の雑多な人形とは比べ物にならない、半身が金属で補強されたタマミツネとジンオウガを模した人形が、怒涛の雷を纏った連撃と、逃げ場を塞ぐ様に放たれた泡の壁の連携で、天廻龍の体力を奪う。ジンオウガの叩きつけが左脚に食い込み、苦悶の声を上げる。

なんとか飛びあがろうにも、泡が邪魔して踏ん張りが効かない。

 

 

「───────────────────!」

 

シャガルマガラが吠える。

怒りと共に翼が神々しく輝き、その身を流れる狂竜の力はより一層強まる。

放たれた衝撃波は、人形たちや罠を悉く破壊し尽くす。

 

明らかに疲労を隠せなくなったシャガルマガラの喉から喘鳴が聞こえる。肩で息を荒らげる。

 

それでも、疲労していようが古龍は古龍。

わざわざ吾輩の土俵で戦ってやる必要はないと言わんばかりに、バリスタや大砲、狙撃竜弾による狙撃を強力な肉体で弾き飛ばしながらシャガルマガラは迫る。

 

出たよ古龍特有の有り余る生命力...!生半可な火力じゃ全部吹き飛ばされるのであるよ...!

接近した瞬間、シャガルマガラを囲うように展開した狩人人形たちが機関竜弾を放とうとするが、瞬間バラバラに吹き飛ばされる。

 

こ、これだけ喰らってもまだまだ元気なのであるか...流石は古龍。

薙ぎ払う様にして放たれた狂竜の光線を吾輩が回避した瞬間、シャガルマガラは全身の筋肉を用いて、周囲に狂竜ウイルスをばら撒きながら突進する。ゲネル・セルタス型の外装に身を包む吾輩目掛けて突進。展開した城壁を何枚も貫いたシャガルマガラの体目掛けて、カウンターとしてぶつけられたのは、女王の肉体を超えるほどの大きさの鉄塊。

 

あまりにも大きすぎるその兵器。『規格外の兵器』とでもいうべきそれから姿をのぞかせるのは、撃龍槍を、その長さも太さも数倍したかの様な杭。

それを、密接したシャガルマガラの腹目掛けて、射出する。言うなればコレは、超巨大なパイルバンカー!

兵器自体の威力と、シャガルマガラ自身の突進の速度も相まって、杭は鱗を貫き、深く脇腹へと突き刺さる。

 

攻撃の手は緩めない。このまま圧倒し続け、相手に反撃のターンは渡さない。一瞬でも流れを持っていかれれば、吾輩は一瞬で持ってかれる!

 

どすん、という音を立てて兵器が地面に投げ捨てられる。代わりに黄金の糸で作られた腕が握ったのは、ラオシャンロンの頭骨で作られた、巨大なハンマー。カシャン、カシャンという音と共にウィングが展開され、取り付けられた加速装置内部の豪炎袋が起爆する。ウィングから橙色の軌跡を残しながら加速された、女王の上半身ほどの大きさを持つ戦鎚は、弧を描きながらシャガルマガラの脳天を横殴りにする。

 

あまりの衝撃にシャガルマガラの片目が吹き飛び、脳が揺らされ視界がブラックアウトする。

そんなシャガルマガラの喉目掛けて突き出された義手から、100発近くの竜撃弾が放たれ、同時に紫毒姫の竜騎装が、その頑丈なテツカブラの顎で翼の付け根に噛みつき、混合された猛毒を流し込む。ミシミシと、骨へ牙が食い込む。

義手が赤熱してきた。用意していた弾丸を全て撃ち切ったころ、脳震盪から立ち直り、反撃と言わんばかりに狂竜エネルギーを解き放とうとしたシャガルマガラの顔面目掛けて、今度はティガレックスの竜騎装から轟音と閃光を放つ。

同時に、弾丸を打ち切った義手で噛み付く。

 

再び意識を混濁させられたシャガルマガラ目掛けて、7本の撃龍槍が放たれる。

天廻龍はなんとか心臓に放たれた槍は防いだものの、四肢と翼に撃龍槍が撃ち込まれ昆虫標本の様に地面へ縫い付けられる。それを外そうともがき、上体を起き上がらせたところで女王に顔面を殴りつけられる。

度重なる衝撃と、全身を蝕む猛毒に全身から力が抜け、シャガルマガラはそのまま女王に地面に押し倒される。

 

ざぁ〜こ♡龍の癖にぃ、虫だと侮っていた相手に負けそうになって恥ずかしくないんですかぁ?ほら頑張れ♡頑張れ♡あっちょっそんな至近距離で狂竜ウイルス放たれると意識が持ってかれる!ふ『不死鳥の息吹』ッ!

 

ビシビシと地面に亀裂が走る。地面ごと己が身を縫い付けていた撃龍槍を抜き、右の翼で女王を殴りつける。のしかかっていた女王を逆に押し倒す様に身を翻す。

 

「ピギャアアアアア(ぐ、がぁ!クソが!)」

 

上を取られるのを防ごうと、シャガルマガラの込めた力を逆に利用して、回転に巻き込む様にして龍の巨体を投げ飛ばす。

女王と天廻龍は互いを巻き込む様にして転がりながらぶつかり合う。女王は、顎門を開き噛みつこうとするシャガルマガラの腹に外装の両脚を当てて思いっきり蹴飛ばし、起き上がりざまに全身に打ち上げタル爆弾をぶつける。

 

腹部に爆弾が命中すると同時にシャガルマガラが吠えると地面が怪しく光り、打ち上げる様な衝撃がアトラル・カの外装を砕く。

その巨体を持ち上げられた女王は、糸を巧みに繰り姿勢を反転させると、シャガルマガラに脳天目掛けて踵落とし。

数トンはくだらない重さの衝撃は解き放った狂竜のエネルギーで横に飛ぶことで紙一重で避けられる。

 

鱗の破片が僅かに届く光を反射して輝く。

硬い鋼鉄の鎧を砕き、外壁を砕く。病の前には、どれだけ堅固な守りも無意味。いずれ内部から腐り果てる。

天を貫く様に狂竜エネルギーの柱が立ち並ぶ。

 

天廻龍は翼を広げ、女王を睨みつける。

虹色に輝く翼は、純白の外殻は血に染まりながらも、その美しさを失わない。その死へと近づいた様子が、かえって妖艶な美を際立たせる。

最早その目に油断はない。しかし、気づくのが遅すぎた。全身から流れ出る命は止まらない。

 

古龍のなり損ないとして生まれ、長い月日が経った。廻る(かえる)場所さえも知らず。

 

瓦礫を纏った黄金の糸で組まれた拳と、美しい光沢を湛えた鉤爪がぶつかる。

チリとなった瓦礫が舞う。

飛竜さえ押さえつける剛力でシャガルマガラは女王の装甲を毟り取る。瞬間、装甲の裏に隠されていた粘菌が爆発して、鉤爪にヒビが入る。

 

たどり着いた、この地。

禁足地から遠く離れた場所で、存在し得ないはずの私が生まれた。

 

「ピギャアアアアア(認めよう、やはりお前は強い!...あ、ごめんなさい吾輩言ってみたかっただけなんです許して!)」

 

アトラル・カの背後に100を超える数の武器が浮き上がり、その全てがライトボウガンの弾丸の如く空を切りながら放たれる。

外殻で弾ける程度の武器の中に紛れた業物が純白の体に突き刺さり、シャガルマガラの体をハリネズミのように飾る。

 

「─────────」

 

天へ向けて吼える。突き刺さった武器が散弾の様に周囲に飛び散る。

 

古龍として生まれたばかりの私。

逃げる?

 

否。

こいつだけはぜっっっっっっったいに殺す!

このまま負けたまま終わりたくない!貴女に勝つ!ここで貴女を殺して私も死ぬ。そして、またもう一回廻ったら、ここで会いましょう!

 

 凄絶にシャガルマガラが笑う。

 

 

乗ってくれたか、シャガルマガラ!

ここで逃げられたら間違いなく吾輩の詰みであった。煽った甲斐があったぞ!古龍の生命力ははっきり言って想像の埒外にある。どう考えても一生物が耐えられるとは到底思えない攻撃を食い続けても、現にこうして生きているわけだし。だからここまで追い詰めても、まだ逃亡する余力を残している可能性はあった。

生き残ることが勝利条件ではなく、討伐以外は全部敗北と同義だからな、今回は。

 

あぁ、くっそ。頭が痛い。こんな至近距離で狂竜ウイルスを浴び続けてるんだ。人間とか、アイルーとか、古龍とか、知能の高い生物は狂竜ウイルスに対して比較的高い耐性を持ってるっぽいが、それでも限界ってもんがあるのであるよ。

 

何度も発症しかけ、その度に活力壷やウチケシの実で抑え、不死鳥の息吹で解除する。その度に無理やり意識を正気に戻される。吐きそう。頭が痛い。

 

何かが弾ける音が脳内で響いた気がする。

 

切れかけていた強走薬を飲み干し、ディノバルドの剣尾とドボルベルクのハンマーを携え地を駆ける。

滞留した狂竜エネルギーにより形成された地雷を避けながらシャガルマガラへと接近する。

吾輩、直接戦闘は苦手だからな...はじめにかなり削らせてもらった。相手の逃亡を考慮に入れなければならないほどに。

 

それでも、あぁ、クソ!

 

「ピギャアアアアア(やっぱタフだな古龍は!羨ましいのであるよ!)」

 

有刺鉄線の絡まった鉄骨が、クロスされた翼に阻まれる。

その両翼を氷の竜巻で凍りつかせ、一瞬硬直させた隙に腹に榴弾の速射を叩き込む。

片目が吹き飛び、見えていない側から生やした準ゴール級の性能を持った3本の大剣を贅沢に投げつける。ゴアマガラのままなら追えたのだろうが、下手に視界を得た結果、攻撃を喰らってしまう。

狂竜のブレスを放とうと開いた口目掛けて毒ケムリ玉と捕獲用麻酔玉を調合したものと、趣味で作った五尺玉を投げ入れる。

 

シャガルマガラの口内を爆炎と毒煙が蹂躙する。舌の先端が吹き飛び、何本か歯が欠ける。コレがただの竜なら下顎ごと吹き飛んでたんだが。あれ、花火作ろうとしたら火力高すぎて筒が爆散して周囲一帯吹き飛ばす、真っ赤な花火を咲かせちゃう兵器になったやつなんだけどな...

 

狂竜の霧が濃さを増す。

シャガルマガラの残り少ない命の灯火が激しく燃える。それに呼応する様に、その角がより逞しく、その翼は紫色に染まる。

 

砲撃音を掻き消すほどに激しく、シャガルマガラは狂竜エネルギーを圧縮した吐息を放ち、前脚と両翼を叩きつける。

 

黒鉄と拳がぶつかり合う。

粘つく糸に脚が絡め取られた瞬間、脚ごと糸を焼き切り尾を横薙ぎにしてアトラル・カを殴り飛ばす。

激しい殴打音と、何かが破砕される音が鳴り響く。

 

それは不完全な真・狂竜化とでも言うべき症状。

悉くを狂死さしむるウイルスは、美しく輝き、黒く覆い隠された空を照らす。

両脚で大地を踏み締め、シャガルマガラは全力で女王を殴り飛ばす。フルフルの対殴打に優れた体表を突き破り、そのまま割り込んできたバサルモス人形を吹き飛ばす。

ビームを放ち、全力で殴りつけ、全身を使って突進する。

一挙一動全てが致死の一撃。

 

「ピギャアアアアア(が、あ、不味っ...!)」

 

外装から吹き飛ばされたアトラル・カの無防備な体目掛けて飛びつく。

視界がスローになる。

盾は──ない。剣は、槍は、弩砲は、爆弾は、罠は...どれも間に合わない

 

あっ。

 

シャガルマガラの攻撃を喰らう寸前、アトラル・カは背後に落ちていたレールガンの砲身を拾う。

 

シャガルマガラは古龍であり、高い知能を持つ。持つが故に理解した。

あれは何かを射出するもので、切ったり叩いたりするものではない、ならばあれごと食い破れる!

 

高い飛行能力、その全てを前進することへ傾ける。

より速く、より強く。

 

 

 

取ったッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはどちらの叫びだったか。

倒れたのは、龍の方だった。

最期まで、前へ手を伸ばして、そして崩れる。

視界が斜めにずれながら、シャガルマガラは考える。

 

レールガンの先端。そこから伸びるは小型のライトニングブレード。

最大火力に雷属性片手剣を芯に展開された雷属性エネルギーの銃剣が、アトラル・カの体に拳が突き刺さるよりも速くシャガルマガラの顔面を切り飛ばす。

 

最後に一瞬だけ、アトラル・カの体から、金色のオーラが浮き上がった様な。

言うなれば、擬似極限化。狂竜ウイルスを克服したわけではないが、何度も抑制と解除、再感染を繰り返すうちに獲得した抗体が昂った精神に反応して起きた現象。

 

 

「ピギャアアアアア(知り得たか、人理の刃、アトラル・カを...なんつって)」

 

 

 

シャガルマガラが崩れ落ちると同時に、山を覆っていた黒い霧が晴れ、青空が広がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぅ...さて。

 

ここからが本番だな。

 

 

*1
過去1000年の記録をまとめた本、その厚さ驚異の200ページ強!薄すぎる!ごく稀に起きた古龍由来の災害のことがメインに書かれている









感想、評価、誤字報告などありがとうございます!大変感謝しています。
えー、自分が執筆に使っているタブレットが壊れまして、今スマホからぽちぽち書いています。そのため段ズレなどおかしい点があるかもしれません。大変申し訳ございません。

シャガルマガラとかいう出現した時点で割と詰んでる古龍よ。
古龍はみんな殺ンデレ(闘ンデレ)

次回更新は、まぁ...3月下旬になります。その時にまた空いましょう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。