普通に中学生してたら超展開に巻き込まれたヤツ (はごろも282)
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毒の時間

最近暗殺教室を読みなおしたことを白状します


 簡単なことほど難しい。よくある話だ。

 

 やるべきことがわかっている時。目標が定まっている時。既に答えが提示されている時。ただソレに向かって突き進むだけだと言うのに、これがなかなかどうしてうまくいかないんだ。

 

 例えばそうだな……目の前のタコみたいな生き物を殺すこととか。

 

 ☆

 

 ある日、月が七割方消し飛んだ。

 

 テレビでは『我々はもう三日月しか見られないのです!』なんて報道ばかりがされ、世界中が大混乱に陥ったのだ。

 けれどそんなオオゴトも、残念ながら僕たちにとってこれは前座にすぎなかった。月爆破の犯人を自称するタコのような宇宙人が大量の政府の人間に囲まれて教室にやってきたからだ。

 

 理解ができない異常事態だ。なんでそんなヤバい奴がただの中学3年生の前に現れるんだ。余談だが僕はそのときはじめて実物の銃を見た。

 

 そして政府の大人のもとはじまったとんでもない話の数々。長かったから詳しく覚えていないが、どうやら宇宙人(本人曰く人間らしい。マッハ20だせる人間とは)は我らが椚ヶ丘中学3-Eの担任がしたかったらしい。

 率直にいって頭がおかしかった。頭がおかしくなければ月の爆破なんかしないため当然であった。

 

 この時点でも相当な超展開だが、話はここでは終わらない。なんとその犯罪者を連れてきた政府の人からの依頼で、俺たち3-Eはそんな超生物の殺害を依頼されたのだ!報酬はなんと、100億!!

 

 政府もイカれていた。きっと月の件でみんな仕事に追われておかしくなってしまったんだ。でなきゃこんな高熱のときに見る夢みたいなイカれた展開ありえないだろう。

 まあ、そんな必死の現実逃避も無意味だったわけだが。

 

 そんなこんなで、超生物を暗殺という壮大な使命を背負った3年E組。僕たちはこの超生物を殺せないセンセー、略して殺せんせーと名付け、晴れてこの春学生兼暗殺者となったのだった。

 なお、既にクラスメイトが自爆特攻してみたり、停学明けの不良生徒が凸ってみたりと色々試しているわけだが、まるで殺せる気がしないのが現状である。

 

「あ……あのっ先生……!毒です!!飲んでください!!」

 

 そして今、一人の新米アサシンがターゲットの暗殺に踏み切る。彼女の名は奥田愛美。眼鏡に黒髪おさげが特徴の女の子だ。

 田舎で出会うお姉さんの理想形みたいな彼女による余りにも大胆な発言。まるで進歩のない暗殺状況にクラスメイトまでおかしくなってきたらしい。

 

「……奥田さん。これはまた正直な暗殺ですねぇ」

 

 ターゲットにすら驚かれる始末だ。もうこれは──いやまて、逆にか?

 

 知っての通り殺せんせーは超凶悪犯だ。そんな彼にはそりゃものすごい数の殺し屋を差し向けられてきたことだろう。その中には、巧妙な手口で殺そうとするヤツがいたに違いないのだ。それなのに今も生きているということは、そいつらは返り討ちにあったということ。

 

 ならばこそ、逆にこの大胆な殺害予告はズラシとなって有効なのではないか?まさか奥田さん、そこまで考えて……!?

 

「わ、私皆みたいなふいうちとかうまくできなくて……でもっ化学は得意なんで真心こめて作ってみました!!」

 

 ブラフだ!絶対そうだ!そんなこと馬鹿正直に言う人いないもん!

 

「奥田さん……センスの塊みたいな女の子だな」

 

「どこがだよっ!?」

 

 うわビックリした!?誰だ急に声をかけてきたヤツは!?完全につい声が漏れちゃっただけの独り言に入ってくるんじゃねーよ!?

 半ば逆恨みに近い形で睨むように声の主を見ると、そこには怪訝な顔をした見知った姿が。

 

「岡島君じゃん。どしたの急に?」

 

「どうしたってお前なぁ……。あれ見てよくセンスが、なんて言えるよな」

 

 話しかけてきた相手は岡島大河。坊主頭の変態野郎だ。

 岡島君が見ている方向に追従するように目をやると、そこにはやはり奥田さんと殺せんせーの姿があった。どうやらこいつは奥田さんの真意に気づいていないらしい。友人として嘆かわしい限りである。

 

「岡島君……キミは本当にE組だな」

 

「喧嘩売ってんのか!?ていうかお前にだけはいわれたくないんだけど!?」

 

 あまりに失礼な返答だった。どういう意味だお前にだけはって。彼の中で僕の立ち位置はどうなっているんだろう?まあいい。今は奥田さんだ。

 

「奥田さんがやってるのはズラシ、だよ岡島君」

 

「ズラシぃ?」

 

 怪訝な顔をする岡島君に、フフンと少しだけ鼻が高くなる。無知な相手にモノを教えるのは気持ちがいい。もしかしたら殺せんせーはこれがやりたくて教師になったのかもしれない。僕も将来は教師になろうかな?

 

「普通、毒を渡すとき人間は正面から行かない。バレたら意味がないから」

 

「まあ、当然だな」

 

「しかし、殺せんせーは百戦錬磨のターゲットだ。そんな暗殺は日常茶飯事だろう」

 

「ふむふむ、まあそうだろうな」

 

「だからこそ、奥田さんは意表を突いた。常識からズラした行動で相手の思考をジャックしたんだ」

 

 完璧な理論武装だ。これでバカな岡島君にも僕の言いたいことは伝わったはずだ。岡島君も難しい顔をしつつ何かを考えこんでいるみたいだ。自分で物を考える。いいことだ。

 

「なーんか、それっぽいこと言ってるのは分かったけどさ……そんなうまくいくもんか?」

 

「む。なにさその意味深な反応。いいさ、せんせーを見てみなよ。現に手渡された毒を飲んで角と羽が生えて……何であんなことになってんの?」

 

「無駄に豪華な顔になってるなぁ……俺たちが話している間に何があったんだ?」

 

 ちょっと目を離したすきにFFの敵キャラみたいな見た目に変貌した殺せんせーの姿に、岡島君とふたり首をかしげることになった。どちらか一方でも状況が把握できたらよかったんだけど、おしいことをした。みんな固唾をのむようにして見守っているせいで他の人に聞くこともできないし。

 

「では、最後の一本ですねぇ」

 

 お、まだ一本残ってたのか。よかった、せっかくのチャンスだ。今度こそ見逃さないようにしなくては。

 そんな小さな意思をもって、フラスコをグイと煽る殺せんせーを静観する。さて、角に羽ときて、最後はどうなるんだろう?

 なんて、期待を抱いていられたのも一瞬だった。その変化は、一瞬でおとずれたのだ。

 

「ま、真顔だ……」

 

「どういう法則なんだいったい……」

 

 最後の毒を飲み干した結果は、驚くほどの塩顔だった。いったい何を飲んだらそんな顔になるんだ……。これはあれか、もしかしたら奥田さんが作った毒が案外大したことなかったり?

 

「王水ですねぇ。どれも先生の表情を変える程度です」

 

 王水:濃塩酸と濃硝酸を混合してできる液体。金、白金を溶解できる。

 

 まごうことなき劇毒中の劇毒である。飲んでスンッとしただけの殺せんせーも大概だが、しれっと合成してきた奥田さんも奥田さんだ。

 

 やはり奥田さん、ただものではない。

 

「すまん宇井戸。奥田、ただものじゃなかったわ」

 

「うん。僕、恥じらいながら人に王水渡せる女の子初めて見たよ」

 

 岡島君の台詞に同調する。せんせーから効かないと言われてしゅんとしているみたいだが、おそらく彼女は僕らの中で最も殺意が高い少女だ。落ち込む必要はまるでないだろう。

 

「それとね、奥田さん。生徒一人で毒を作るのは安全管理上見過ごせませんよ」

 

「は、はい……すみませんでした……」

 

「放課後、時間があるのなら一緒に先生を殺す毒薬を研究しましょう」

 

「!!……はっはいっ!!」

 

 個人的に奥田さんへの畏怖を強めている傍らで話が進んでいく。どうやら、共同でターゲットを殺す毒を作るらしい。話の内容を考慮しなければ、理想の生徒と教師の姿だ。

 

「で、お前の論としてはどうなんだアレ。ターゲットと毒つくってるけど」

 

 話のまとまりを見つめていた僕に、岡島君が蒸し返すようにそう問いかけてきた。その顔には意地の悪い笑みが浮かんでいる。

 こ、こいつ……!ここにきて僕への当てつけのつもりだな!これみよがしにマウントを取ろうとしているのが手に取るようにわかるぞ!

 

「流石のズラシだなー宇井戸くん?まさか誰も一緒に毒つくるなんて思い浮かばねーよイヤホント!」

 

「はは、そう褒めるなよ照れるだろ」

 

「皮肉だっつの!?」

 

 もちろん分かっている。だからコレは時間稼ぎだ。いい言い訳を考えるための。

 

「こ、今回の敗因は毒が効かなかったことだし!最初のアプローチ自体は──」

 

「いやソレなんだけどさ、やっぱ毒って言われたら飲まなくね冷静に考えて」

 

「…………」

 

 ……いや、それはまあ、そうかもしれない。

 

 よく考えたら、やっぱ人は毒物を目の前にしたら飲もうとはしない。いくら暗殺者慣れしているヤツが相手でもそこに逆とかはなかった。知らないうちに変なテンションになっていたみたいだ。どうやら暗殺がうまくいかなくておかしくなってたのは僕だったらしい。

 

 自らの過ちに気がつき、これからどう言いくるめようかと頭を回そうとしたその時だった。僕の思考が、再度キラリと輝いた。

 

「……岡島君。よく考えてくれ」

 

「なんだよもう……」

 

「これは、日常でも使えるはずだ」

 

 心底バカを見る目を向けられた。解せない。

 

「奥田さんから学んだことはなんだった?」

 

 真剣な表情の甲斐あってか僕の問いかけに、渋々といったようにだが岡島君は答えてくれる。

 

「お前の言うことを信じるなら、ズラシとやらでおかしな行動を堂々とやれば逆に必殺になる……みたいな感じか?いや信じてないけど」

 

 そんなことを言っていたのか僕は。それにしても、人に言語化してもらうと脳内のふわっとした理解が明瞭になるんだな。今後も活用していこう。

 岡島君の言った通り、大事なのはそこだ。奥野さんの発言は一旦置いといて、アプローチ自体は悪くなかった。おそらく僕は最初から内心ではそこに注目していたんだ。

 

「そう、大事なのは逆転の発想だ。ここまで言えばわかるだろ?」

 

「分かんねーよ?」

 

 どうしてわからないんだこのポンコツ。ここで思いつかないからキミはE組なんだよ全く。

 しかたない。もう教えるとするか。僕がたどり着いた至高の一手。ズラシで可能になる日常への新たなアプローチ。それは……

 

「逆に、堂々とエロ本一冊だけレジに出せば買えるんじゃないか?」

 

「!?!?!?!?!?!?」

 

 衝撃が突き抜けたような幻聴が聞こえた。これこそまさに、青天の霹靂。

 岡島君の顔がすごいことになってる。驚きすぎて声も出ていない。ふっ、ここまで発想を転換させられることが、僕が強者たる所以である。

 

 だから奥田さんたちが退場してから僕らをアホを見る目で眺めているクラスメイトは見なかったことにする。いつからか分からないが僕らの会話は盗み聞かれていたらしい。恥ずかしい。

 

 だけど、ここまで来たらもう止まることはない。

 

「ま……じか……!!」

 

「行こう岡島君。奥田さんへの敬意を胸に、新たな天地へ」

 

「ああ!行くぞ宇井戸!!希望は我らの胸に!!」

 

 僕らは今日、新たな一歩を踏み出した。

 

 

 

 補導された。




青春を書くつもりだったのに何故か坊主と対談しただけなことを懺悔します


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胸の時間

なぜか続いてしまったことを懺悔します


 殺せんせーが教師となってから既に一ヶ月。5月となった。

 これまで何度もせんせーの暗殺を試みてきた我らE組だが、未だその成果の芽が見えないのが現状。

 

 そんな中での出来事だった。わが校に新しく教師が赴任するという話が噂されたのは。

 

「……今日から来た外国語の臨時教師を紹介する」

 

 そう言ったのは防衛省の所属であり、僕らの体育教師としても活動している烏間惟臣さん。いつもは機敏な動きで授業中僕らを平然と捻っている彼だが、今日はどこか頭の痛そうな様子だ。

 

「イリーナ・イェラビッチと申します。皆さんよろしく!!」

 

 原因は明らかだった。僕らの前で教壇に立つ今自らでイリーナと名乗った女性。彼女がおそらく原因だ。

 ウェーブがかったプラチナブロンドのロングに、胸元を強調した少し過激目な衣装、なによりその整った顔立ちで男の目を引き付けること間違い無しの女性代表みたいなイリーナさんだが、問題はそこではない。

 

 なんとイリーナさん、殺せんせーにベッタベタなのだ。もうものっすごいくっつき方。豊満なそのおっぱいは変幻自在に形を変える全わざタイプ一致である。

 

 怨念にカタチが宿るなら、今の僕は殺せんせーを殺せるかもしれない。

 

「そいつは若干特殊な体つきだが、気にしないでやってくれ」

 

「えぇ、実はヅラです」

 

「構いません!」

 

 いったい、何を見させられてるんだ僕は……!!

 

 どうしてあんなハゲの軟体生物があんなおっぱい美人に言い寄られてるんだ。結局どこまで行っても足の速い男はモテるとでもいうのか……ッ!!

 

 ☆

 

「いや、すごい人が来たね……」

 

 一人で物思いにふけっていたところ、背後から唐突にそう声をかけられた。

 

「あ、渚君」

 

 声の主は潮田渚。水色の両サイド結んだ髪と童顔なのが特徴の同級生だ。渚君は殺せんせーの特徴をメモしていることもあり、そこらへんで暗殺のときは頼りにされているイメージだ。

 ちなみに、暗殺開始早々にせんせーに向かって自爆特攻をかましたのは彼である。覚悟のキマリ方がたまに戦時中と僕の中で話題。

 

 そんなことを考えていて、ふとホームルームが終わっていることに気がついた。周りに意識をむければザワザワとした喧噪も聞こえる。いつもより賑やかなのは、イリーナ先生の存在が影響しているのだろう。

 

「どうしたの?何か考え込んでるみたいだったけど……」

 

「あー、大したことじゃないよ。足が速くなる方法を考えてただけ」

 

「どうして今!?」

 

 どうやら、あの後敢行した今後の走り込みプランを煮詰めるという自己防衛大作戦はうまくいったようだ。なんたってこうしてホームルームが終わったことにも気がつかなかったんだから。

 

 しかし我ながら素晴らしい策だった。自己防衛のほかに速くなるから暗殺にも有利になるし何よりモテる、一石三鳥だ。

 

「あいかわらず宇井戸は変わってるなぁ……」

 

「?」

 

 僕を見ながら、しみじみといったように渚君が呟く。腑に落ちない。僕としては渚の髪色の方がよっぽど特殊だと思う。というかE組の多種多様な髪色は何なんだ。戦隊ヒーローか。

 

「それにしても、どうして急に足を速くしたいなんて考えてたの?」

 

「ああ、それはね──」

 

「聞いてやるなよ渚。宇井戸の名誉のためにもな」

 

 さっきまで考えていたことを話そうとしたところ、後ろの席の岡島君に遮られた。別に名誉もクソもないんだけど……なんだろう。凄く嫌な予感がする。

 

「あれ、岡島は知ってるの?」

 

「ああ、なんたって俺は当事者だからな」

 

「待つんだ岡島君。キミは多分勘違いして……」

 

「コイツが足を速くしたい理由、それはズバリ!!この前コンビニで自分だけ逃げ遅れたか「岡島ァ!!」

 

 なんてことを暴露してくれるんだこのエロ猿坊主!?周りの目に気がついていないのか!?絶対に今じゃないだろ言うの!

 

「コンビニって……ああ、結局失敗したんだエロ本買うの」

 

「渚君のその超速理解はなんなの?もっとあるよね選択肢」

 

「ああ、結局仲良く補導されたよ」

 

「なんで全部言っちゃうわけ??」

 

 聞かれたら全部答える機械か何かなんだろうかコイツ。欠陥生物が、殺せんせーよりも先にコイツの息の根を止めてやるべきか?

 

 渚たちの言っているのは、先日の奥田さん事件(僕命名)のことだ。奥田さんの正直な毒殺に感化され秘密裏に行われた悲劇の出来事のハズだが、なぜか公の事実となっているみたいだ。

 備考だが、『エロ本堂々としたら意外と買える』作戦が失敗しただけではなく、翌日奥田さんと殺せんせーの共同毒殺作戦も失敗した。なんでも、アレは暗殺には言葉巧みな手段が必要だから苦手な国語も頑張ろうと奥田さんに教えるためのブラフだったらしい。僕らはまんまとだまされたのだ。

 

 さらに余談だが、噂を聞いたであろう奥田さんから後日謝罪をされたときは本当に死にたくなった。

「……あれはややこしいことした殺せんせーにも原因があると思う」

 

「あ、あはは……それはどうだろう」

 

「なになに、オモシロそーな話してんじゃ~ん」

 

 思い出したくない過去になんとも言えない気持ちになっているところに、また新たな人影が。そいつの名は赤羽業。またの名をチンピラだ。

 

「カルマ君」

 

「や、渚君。なんの話してんの?」

 

「赤羽君まで聞かなくていいから……」

 

「えー、気になるじゃんそーいうの」

 

 気になられようがそもそもこんな話知られたくないのが当然だ。まして相手が赤羽君であるなら当然だ。

 

 赤羽業。詳しくは省くが彼に変な弱みは握らせないほうが良い。騙しとか悪戯が際限なく好きな男だ、そのうち地獄を見ることになるだろう。ちなみに彼、殺せんせーにはじめてダメージを与えた生徒だ。

 

「てか宇井戸さ、同じターゲットを殺す仲じゃん?赤羽君なんて堅苦し~呼び方やめてよ」

 

 同じターゲットを殺す仲ってなんだろう。いったいどんな関係なんだ。普通ターゲットかぶりはライバル的に良くないんじゃないだろうか?

 

 でも、なんか意外だ。だがこれも赤羽君なりに距離を縮めようとしてくれているのかもしれない。そう考えるとなんかうれしいな。

 

 よし!赤羽君もこう言ってくれていることだし、コレを機に僕も愛称とかで呼んでみよう!

 

「いいの?じゃあ改めてよろしくねチンピラふべぇっ!」

 

「宇井戸!?」

 

「はは、ゴメン宇井戸手滑ったわ」

 

「カルマ相手になんて無謀なことを……」

 

 間髪入れずに殴られた。なんて喧嘩っ早い男だ。ちょっとお茶目しただけなのに。

 

「いや~、宇井戸って結構面白い奴だったんだね」

 

「手滑らせといてその反応はやっぱチンピラ適性ありじゃないかな!?」

 

「てか宇井戸ってド不良って聞いてたけどなんかヘボいね」

 

「話聞けよバカ!そもそも喧嘩に巻き込まれがちなだけで僕はしてないよ!!」

 

「え、そうなの?」

 

「俺も初耳だな」

 

「岡島君と渚君まで!?」

 

 カルマ君の台詞から衝撃の事実が判明した。どうやら全員僕のことを不良だと思っていたらしい。甚だ心外である。

 

「まったく、失礼だなぁ。僕ほど平凡な中学生はそういないっていうのに。巷じゃ虫も殺せないって噂の那月くんだよ?」

 

「初めて聞く噂だ……」

 

「俺去年こいつが校舎内で蚊にキレて蚊取り線香使ってるの見たぞ」

 

「虫も殺せないの大嘘じゃん」

 

「物のたとえ!!」

 

 なんなんだコイツら。よってたかっていたいけな少年を追い詰めて罪悪感とかないのか?そんなだからお前らはE組なんだ!

 

「というか足が速くなろうとした理由だよね足速くなればモテるって分かったから以上それだけハイ終わり!!」

 

「強引に転換した!?」

 

「つーか理由が小学生じゃねーか」

 

「アッハハ、ホントに面白いな宇井戸って」

 

 逸れた話題を戻すために一息に当初の理由を伝えたところ、すごく残念なものを眺めるかのような目で見られた。なんか、前にもこんなことあったような……。いや、でも今回は奥野さんのときより理にかなってるし、おかしいのは僕ではない。

 あ、もしかして、こいつら気がついていないのか?どうして殺せんせーがベタベタされていたのか。うわ、そう考えると逆にかわいそうになって来たぞ?

 

「……おい、なんか憐みの眼を向け始めたぞ」

 

「今度はなにを考え付いたんだろうね……」

 

 僕に聞こえないようにするためか、小声で会話し始める渚君たち。残念だが聞こえてる。だが僕は寛容だ、そんなことでは怒ろうとは思わない。逆に教えてやろうじゃないか。

 

「ふむ、君たちにはがっかりだよ」

 

「なんかはじまったぞ」

 

「宇井戸って講釈垂れるときは口調がかしこまるんだよね……」

 

 雑魚どもがなんか言ってる。いいから黙って聞いていなさいな。

 

「まあ、どっちかといえば女子の渚君は置いといて」

 

「待って今聞き捨てならない声が聞こえたよ!?」

 

 僕はどうみても男だよ!?とか言う声は一旦無視する。話が進まない。

 

「どうして殺せんせー如きにあんな美人がデレデレしていたか、カルマ君はもちろん岡島君のスケベに侵食された小さな脳でも考えればわかるはずだ」

 

「唐突に容赦のない言葉のナイフが飛んできた!?」

 

「ひゅー、流れるように全方位敵にまわしていくね」

 

「なんで三人とも無視するの!?ねぇ僕の話聞いてよ!」

 

 カルマ君は女に興味ないことがカッコいいと思ってそうとか思ってることは一旦黙っておく。口に出したら酷い目に合いそうだからビビったとかでは断じてない。

 

「そう、答えは単純。殺せんせーが速いからだよね」

 

「「限度があるだろ!?」」

 

「……たしかにマッハ20は速いなんてもんじゃないか」

 

「でしょ?むしろ足の速さ以外あの軟体生物に惹かれる要素ある?アイツ僕らが買おうとしたエロ本これ見よがしに買っていったからね前」

 

 なんならエロ本片手にルールは守りましょうとか説教してきたからね。ふつうに最悪の大人だ。

 

「いや待って宇井戸!よく考えて!多分だけどそこがツボの女の人はそんないない!」

 

 話がまとまりかけたところに、渚君がそう待ったをかけてきた。

 ということでもう少し考えてみることにした。ふむ、じゃあどこがツボだったんだろう。瞳だろうか、でも世の中は二重の方が美形だって言われてるしなぁ。

 

「……宇井戸、このクラスで一番モテるのは誰だ?」

 

 頭を悩ませていたところに、神妙な雰囲気の岡島君の声が聞こえてきた。

 

「誰って……多分磯貝君か前原君?」

 

「そうだな。じゃあ一番足が速いのは?」

 

「え?えっと……」

 

 誰だろう。わりとみんな運動神経がいいから分からないぞ。カルマ君だろうか、それこそ磯貝君や前原君の説もある。他にも野球少年の杉野君だってありえるし……。

 いや待てよ?前の体力測定で異常に速かったヤツがいなかったっけ?えっと、アレは……

 

「木村君……?」

 

「そう、木村だ。そこで質問だが、木村は前原達よりモテているか?」

 

「ソレはないね……あれぇ???」

 

「いやあれぇじゃねーよ!?急に飛び火した俺の気持ち考えて!?」

 

 木村くんの叫び声が聞こえたが一旦無視する。今は君に構ってる場合じゃないんだ(辛辣)

 それにしても、これは困った。まさかと身近なところに反例があったとは。僕の論は外れてしまったということか。

 

 では、なぜあんな顔面顔文字お化けに女の影が……?

 

「いやこの時期にやってくる新しい先生だよ!?かなりの確率で殺し屋だって!」

 

「ああなるほど。殺し屋……んん!?!?」

 

「今わかったの!?遅いよ!!」

 

 ば、バカな!?殺し屋だと!?ということはアレか、あれはかの有名なハニートラップ!?

 

「ぜ、全然分からなかった……!」

 

「あー面白かった。多分気づいてなかったの宇井戸だけだよ」

 

「!?」

 

 ニヤニヤとした顔のカルマ君に言われてバッ!と周囲を見渡せば、首を上下に振るみんなの姿が。

 驚きのあまり固まっていたところ、偶然にも倉橋さんと目が合った。気まずそうに逸らされた。

 

 ほう、なるほどなるほど……。

 

「ふ、フン。どうやら最低限の洞察力はあるようだね、合格さ……」

 

(((ご、誤魔化そうとしている!!)))

 

 聞こえないはずの声が聞こえた気がした。エスパーの目覚めかもしれない。

 

 

 僕は人知れず自席につくと顔を突っ伏した。しばらく上げられそうにない。

 




キャラの解像度が低いことを白状します


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大人→加入の時間

ようやくメインのタコが登場したことを懺悔します


 結局、みんなの言う通りイリーナセンセーは殺し屋だった。流れるように殺せんせーを誘惑し本場のベトナムコーヒーを買いにパシらせる手腕は見事というほかなかった。

 つまるところ、気づいていなかったのは僕と殺せんせーだけということになる。

 

 だが待ってほしい。はたして生徒殆どに気づかれるような杜撰な接近術が超生物に通用するのだろうか。もしかしたら格の高い相手にのみ通用するテクニックだったりするのかもしれない。というかそうだといいなぁ。僕が巻き返せる可能性はそれくらいしかない。

 

 と、そんなことは置いといて。問題はイリーナさんが教師ではなく殺し屋であるという点だ。ターゲットにしか興味がないという殺し屋らしさ全開の彼女は、早速だがE組の反感を買ってしまったのだ。

 

『えーと……イリーナ先生?授業はじまるし教室戻ります?』

 

『授業?……ああ、各自適当に自習でもしてなさい』

 

 殺せんせーがいなくなってすぐの会話だ。直前までの甘ったるい声はどこへやら、凍てつくような視線と冷たい声を持つ殺し屋の姿がそこにあった。

 

 そこから始まったのは彼女の暗殺に対するスタンスの説明。言ってしまえばお気持ち表明だ。要約すると、ターゲットの前以外で教師のフリなんかしないみたいな感じのことを言ってた。

 ちなみにだが、最終的に彼女はそんな傍若無人ともとれる行動からカルマ君によってビッチ姉さんと名付けられてしまった。

 

 そして、この程度じゃ終わらないのが最近の通説だ。さらに驚いたのはここから。彼女ことビッチ(敬称略)は唐突に渚君の名前を呼ぶと、困惑している渚君に近寄り熱烈なチューをしたのだ!

 

 いちげきひっさつ!!

 

 突然の出来事に困惑していた渚君だったが、ビッチの手練手管な技によりあっさりダウンしてしまった。ビッチの特性は変幻自在でありつつノーガードでもあったようだ。

 なお、唐突なチューの理由は渚君の調べた情報が欲しかったかららしい。多分だけどチューの必要はそんなになかった。僕の見解ではただチューしたかっただけだ。ドスケベな女、そう記憶した。

 

 ☆

 

 そんなこんなでビッチが担当することになった外国語の授業中。宣言通り彼女はまるで授業をする気はないらしい。現に今もタブレット片手に優雅に殺しの計画を練っている。

 そんな状況に痺れを切らしたのか、ついに前原君が口を開いた。

 

「なービッチねえさん。授業してくれよー」

 

 そうして始まったビッチコール。どうやらみんな授業がしてほしかったらしい。生徒一丸となった軽いストライキだ。

 そんな熱烈なビッチコールにブチぎれたビッチによっていよいよ収拾がつかなくなってきたところで、僕は隣に座る少女に話しかけることにした。

 

「……そもそも殺し屋なんてやってる人に受験英語教えられるのかな。速水さん的にはどう思う?」

 

「は?え、うーん……どうだろ」

 

「実は教えられないから誤魔化してるだけだったりしてね」

 

「また聞かれたら面倒なことになるよ、ソレ……」

 

「これだけうるさかったらバレないよ」

 

 突然の問いかけにも驚きつつ返してくれる速水さん。いつも後ろの岡島君と話してるからアレだけど、速水さんとはこうして雑談ができる程度の仲だ。といっても、E組はみんなコミュ力高めだから話せない人なんていないんだけどね。

 

「というかね!まず発音が違う!!アンタら日本人はBとVの区別もつかないのね!!」

 

 楽しくおしゃべりに興じていたところ、ビッチのそんな台詞で現実に引き戻された。

 

「ただしい発音を教えたげるわ。まず歯で下唇をかむ!!」

 

 何をするのかと眺めているとなんと、ビッチはまるで本物のALTのような発音のレッスンをはじめた。すごい、やればできるじゃないかビッチ!

 

 言われたようにみんなが下唇をかむと、ビッチはとても満足そうな顔をする。

 

「……そう、そのまま1時間過ごしてれば静かでいいわ」

 

 すごい、半ば強引に全員黙らせた。かわりに全員ブチギレてるけど。だけどこの無理やりさ、どこか僕に通ずるものがある。少しだけビッチにシンパシーを感じてしまった。

 

 とはいえ、このまま唇かんでるだけなのも時間の無駄だ。幸い殺せんせーはベトナムまで出張中だし、動くなら今だろう。

 思い至ったが吉日と、物音をたてないようにこっそり立ち上がった僕に速水さんから待ったの声がかかった。当然だった。

 

「え、なに。どしたの?」

 

「いや、ちょっと下山してジャンプ買ってくる」

 

「……なんで今?」

 

「今週ごはんくんがいい感じだからさ。あ、なんか欲しいのある?」

 

「い、いらない……」

 

 会話もそこそこに、僕はクラスメイトに見守られつつ下山した。

 

 ☆

 

 校舎に戻ってきた時、僕を出迎えたのは体操服にブルマで恍惚な表情を浮かべたビッチねえさんだった。いつものことながら超展開だ。

 

「おや、戻りましたか宇井戸君」

 

 僕の存在にいち早く気がついたのはやはりというべきか殺せんせーだった。こちらを見ていないにもかかわらず恐ろしい察知力だ。本当にこんな生き物殺せるんだろうか?

 

「いけませんねぇ勝手に校舎を出るのは。これは入念な手入れが……ってなぜボロボロに!?」

 

 顔全体にバッテンを浮かべて叱ろうとしたのもつかの間、僕の姿を見た殺せんせーはものすごい速さで手当てをはじめた。そんな殺せんせーの反応に遅れて群がってくるクラスメイトたち。というかもうビッチねえさんは眼中になしかお前ら。いっとくが僕はまだ興味津々だぞ。

 

「あー、えと……道に迷った産気づいたお爺さんを助けていて……」

 

「にゅやっ!?それはバレますよ宇井戸君!?というかジャンプ買いにいったこと聞いてますからね!罰としてジャンプは没収です!」

 

「やっぱ宇井戸喧嘩してきてんじゃん」

 

「毎月どっかでボロボロになってるからね」

 

「てかせんせージャンプ読みたいだけだよねソレ?」

 

「ちっ違いますよっ!?これは宇井戸君への罰でですねぇ!?」

 

「てかあのビッチはなんなの?誰か説明してくんない?」

 

 クラスメイトの熱い援護射撃に胸を打たれる。いくつか僕への流れ弾がある気もするけど。まったく、いくら給料日前だからって生徒の私物で買わずに読もうとするのはどうなんだ。というか誰だチクったヤツは。

 じろっとクラスメイトを見つめたところ速水さんが目をそらした。くぅ、いや完全に僕が悪いからアレなんだけど、できれば誤魔化してほしかったなぁ……。

 ……まあ、こうなってしまえばしかたない。おとなしくジャンプを差し出すとするか。

 

「くっそー、あのとき絡まれなきゃバレなかったのになぁ……」

 

「む、絡まれるとは……というかそもそも!勝手に教室を抜け出すのは──」

 

「あ、そうだせんせー。今週のナルトなんだけどさ……」

 

「にゅ、にゅやっ!?ちょ、ちょっと───はい、読み終えました」

 

 せめてもの嫌がらせにネタバレしようとしてみたらマッハでジャンプをかっさらわれた挙句マッハで読破された。斬新なネタバレ封じだ。大人気がなさすぎる。

 

「まったく、油断も隙もありませんねぇ……。さ、教室に戻りますよ。宇井戸君!君には他の人よりも手強い問題を追加しますからね!」

 

「はァ!?お、オーボーだッ!!つぎ6時間目だよせんせー!?」

 

「なにが横暴ですか!解き終わるまで帰しませんからね!」

 

「じ、自分だって美人局引っかかってベトナム行ってたくせに!だいたいイリーナさんに何したんだスケベダコ!神聖な校舎であんな破廉恥なことしていいと思ってるのかッ!」

 

「せ、先生は大人だからいいんですー!!それにね!大人には大人の手入れってものがあるんですよ!」

 

「た、互いに同レベルの争いをしている……」

 

「どっちもどうしようもないから最悪の状況だね……」

 

 結局、帰宅はすごく遅くなった。ジャンプは帰ってこなかった。

 

 あと、教室へ戻る途中ジャンプネタバレに関して不破さんにわりとガチめに怒られた。怖かった。

 

 ☆

 

 翌日、ビッチねえさんはずいぶん苛立った様子だった。汚名返上に必死になるあまりぼくら生徒にも変に当たりだしたあたり相当昨日の出来事が堪えたのだろう。

 

 昨日と同じく授業をしないビッチねえさんに『僕らは今年受験だから授業をしないなら殺せんせーとかわってほしい』という旨を磯貝君が伝えたのだが。そこでビッチねえさんは綺麗にE組の地雷を踏み抜いた。

 

「あんたらE組って落ちこぼれそうじゃない?今さら勉強なんてしても意味ないでしょ」

 

 そんな台詞をはじめとして、でるわでるわ罵倒の数。それでまぁ、案の定というべきか学級崩壊がおとずれた。

 

「出てけよクソビッチ!!」

 

「殺せんせーとかわってよ!!」

 

「なっなによアンタ達その態度っ!殺すわよ!?」

 

「上等だよ殺ってみろゴラァ!!」

 

 酷い暴言の数々に飛び交う消しゴムや紙くず。まるで進学校とは思えない光景がそこには広がっていた。そんな様子では授業なんてできるはずもなく、この日の外国語はなあなあな感じで流れた。

 僕の周りで言えば、普段からやりそうな岡島君に限らず、速水さんや三村君も参戦していたあたりに事の大きさを感じた次第だ。

 

 

 そんなこんなでさらに翌日。あんなことがあった手前もう姿を見せないんじゃないかという危惧に反しビッチねえさんは現れた。

 僕らの視線が集まる中、彼女はわきめもふらず黒板まで向かうと、これまた無言でとある文を綴った。

 

You're incredible in bed!ハイリピート!」

 

 そして始まったのは今までとは違う、外国語の授業と呼べるモノ。リピートさせた台詞は中学生に教えるようなものではなかったが。

 

「外国語を短い時間で習得するには、その国の恋人を作るのが手っ取り早いと言われてるの。相手の気持ちをよく知りたいから必死で言葉を理解しようとするのよね。私は──」

 

 語られるのは、彼女の人生をもって得た知識。おそらく、教科書では絶対に得られない知識だ。

 

「──だから私の授業では……外人の口説き方を教えてあげる」

 

 何があったのかは僕には分からないけど。目を合わせようとせず言葉多く自己紹介じみたプレゼンをする姿は拒絶を恐れる子どものようで。

 

「だっだから……それなら文句ないでしょ?……あと、いろいろ悪かったわよ」

 

 それでも、彼女が自分より年下のガキである僕らに歩み寄ろうとしてくれているのは間違いないのだ。そして当然、そんな思いを無に帰すようなクラスメイトではなく。

 こうして、彼女はE組に受け入れられたのだ。暗殺者として、新米教師として。

 

「なぁんか、普通に先生になっちゃったな」

 

「ねー。もうビッチねえさんなんて呼べないね」

 

「……!!あんた達……分かってくれたのね……!!」

 

「うん、考えてみたら呼び方失礼だったし。変えないとね」

 

 ということで、ビッチねえさんはビッチ先生になった。

 

 

 イリーナはブチギレた。




感想、評価が欲しいことを告白します


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集会→支配の時間

お高くとまった文を書こうとしていることを白状します


 今日は月に一度の全校集会!僕らE組も山奥のボロ校舎じゃなくてきれいな本校舎に立ち入れるトクベツな日!

 

 重い足取りのクラスメイトと本校舎に足を踏み入れた途端、さあ大変!僕らに待っていたのは熱烈な歓迎会!本校舎みんなして僕たちに笑いかけてくるの!僕ったら、にんきもの~!

 

 はじまった全校集会ではまさかまさかで先生からも特別扱い☆

 生徒会もE組のプリントだけ忘れちゃうなんて、も~お茶目さん!

 

 でもね!今日はいつもと違ったの!新任の烏間センセーやビッチセンセー、殺せんせーが色々やったせいで、本校舎の歓迎も台無しになっちゃった!これにはクラスメイトもにっこり、笑顔が戻ってよかったわ!

 

 はい、というわけで全校集会だ。いつものように学校単位でコケにされるのを耐えていたら教師陣が鼻をあかしてくれた。だいたいそんな感じだ。

 今は集会が終わって山奥まで戻る途中。僕らは重役出勤者なのだ。

 

クスクス

 

 このとおり、校舎を出るまで笑い声はやまない。集会中にちょっとナニかあったところで根本的僕らの扱いはとくに変化ない。

 

「あれ、宇井戸だ……」

 

「宇井戸って、あの?」

 

「そーそー。この前、不良の足首もって川でジャバジャバしてるヤツの隣で座ってたよ」

 

「ドンじゃん……」

 

「オレも先週、コンビニで不良に囲まれてるのみたよ」

 

「うわ、マジの喧嘩じゃん……」

 

「ああ、浦島太郎の亀みたいになってた」

 

「ボロ負けじゃん……」

 

 お、どうやら僕の話をしているみたいだ。しかし、なんて不名誉な話題なんだろう。

 そんな声を聞きながら、前を歩く磯貝君に声をかけることにした。

 

「聞いた磯貝君?僕の話題だったよ」

 

「あぁ、聞いてたよ。名指しは堪えるよな……」

 

「なんか、有名人みたいだよね。手振っちゃおうかな」

 

「あれーそんな感じなのか!?」

 

 試しに手を振ってみると慌てたように目をそらされた。認知されたくないのか、面倒なファンみたいな奴らだ。

 

「……なあ、喧嘩やめないか?」

 

「してないよ!?まえに絡まれてるだけって言ったよね!?」

 

「なんでジャンプ買いに行っただけで絡まれるんだよ」

 

「しらないよ!僕が聞きたいよ!」

 

 いや本当に聞きたい。昔から僕は不良に絡まれやすい体質なのだ。不幸体質と言ってもいいかもしれない。小学校の時は不良発見器の那月君でぶいぶい言わせたものだ。

 

「ジャンプ買った日は……なんか低千穂牧場のカフェオレと和紅茶オレを間違えた腹いせとかだったかな」

 

「思ったよりも宇井戸の過失がない!?」

 

「すごいっしょ。歩くサンドバック部門があれば優勝狙える逸材だよ?僕は」

 

「なんて悲しい自慢なんだ……」

 

「なあ、じゃ―さっきの噂はどうなんだ?」

 

 磯貝君と話していたところに、背後から岡島君が割り込んできた。どうやら聞き耳を立てていたらしい。磯貝君、僕、岡島君。出席順の連続3人だ。

 

 それにしても、さっきの噂とはどれのことだろう?

 

「川で不良が~ってヤツだよ多分。な、岡島?」

 

「そそ。なんともヤベー話だったよなー」

 

 ああ、それのことか。といっても、話すことなんてそんなにない。

 

「アレはなんていうか……小学校時代の負の遺産だね」

 

「「???」」

 

 おっと、どうやら理解できていないみたいだ。うーむ……そういえば過去話はそんなにしたことがなかったな。

 

「いやね、簡単に言うと小学校の同級生」

 

「昔の同級生に絡まれてた!?」

 

「しかもシレっと返り討ちにしてるなオイ」

 

「あ、違うよ。ノされたのは知らないヤツで、不良を川でバシャバシャしてたのが同級生」

 

「「なお悪いわ!!」」

 

 僕も頭がおかしいと思う。だから話してこなかったのだ。わりと真面目な生徒ばかりのこの中学にはそういうタイプの人種はいないからね。

 

「僕の悪友みたいなヤツでね。行動からわかるように凶悪で残忍で傍若無人で人を人とも思わぬクソヤローみたいな人間なんだ」

 

「友人になんて言い草を」

 

「なんでそんな評価のヤツとつるんでたんだ……」

 

「どうせ会わないだろうから気にしなくていいよ。僕はソレに振り回されてただけの被害者だってことだけ覚えといてくれたら」

 

「お、おう……」

 

「図らずも宇井戸のことが深掘りできてしまった……」

 

 どうやら二人とも面食らってるみたいだ。僕も友人からそんな話をされたら驚くだろうから、当然と言っちゃ当然だ。

 

「まーそんな昔の話するタイミングもないからね。あんまり」

 

「それは確かにそうかもなー。今は暗殺にいっぱいいっぱいだし」

 

「俺と前原は幼馴染……ってそれは知ってるか」

 

 磯貝君と前原君の仲がいいのは普段の生活を見ていれば一目瞭然だ。イケメン同士そろってこの学校に入学とは、天も与えすぎだろう。そろってE組なことには触れまい。

 

「でもさ、秘密と言えばあのタコだよね」

 

「あー!それは間違いないわ」

 

「あのタコどこから来たんだろうね」

 

「結局、殺せんせーが一番の秘密主義ってことか」

 

 最終的に殺せんせー議論で校舎前の道のりを使い切った。最終着地点は星を救うために生まれた人工生命体が反逆の意思を持ったモノだった。

 

 ☆

 

 集会も終わって数日。いつもと同じような暗殺日課を過ごしていると、唐突にその時はやってきた。

 

「「「さて、始めましょうか」」」

 

 なにをだろう、という疑問を抱いたのは僕だけではないはずだ。少なくとも、5、6人に分身して声がダブって聞こえるような状況に対する回答くらいは提示してもらいたい。

 

「学校の中間テストが迫ってきました」

 

「そうそう」

 

「そんなわけでこの時間は」

 

「高速強化テスト勉強をおこないます」

 

 ご丁寧にそれぞれの分身体から声を発する殺せんせー。無駄に高度なテクニックだ。そ、それにしても……

 

「ハイレベルな一人会話だ……」

 

「聞こえてますよ宇井戸君!余計なこと言わない!」

 

 名指しで注意されてしまった。自分でもうすうす思っていたのか中々の反応速度だった。やらなきゃいいのに。

 

 僕らの目の前に殺せんせーの分身が現れる。どうやら個別で苦手科目を指導するみたいだ。人によって違う文字のハチマキを巻いている。凝っている。

 

 一家に一台殺せんせー、いらない。

 

「何で俺だけNARUTOなんだよ!!」

 

「寺坂君は特別コースです。苦手科目が複数ありますからねぇ」

 

 後ろからそんな声が聞こえて来た。寺坂君は一つに絞ることすらできなかったらしい。かわいそうなヤツだ。みんなの前でバカのレッテルを貼られてしまっている。

 

「それにね、寺坂君だけではないんですよ」

 

「あぁ!?」

 

 殺せんせーに促されるままに視線が動く寺坂君。僕と目があった。

 

「さ、宇井戸君も頑張りましょう」

 

 僕の目の前の殺せんせーが元気に言う。そのおでこには寺坂君とお揃いの木の葉の額当て。

 

「……奇遇だね。寺坂君も火影コース?」

 

「うるせーよ!!」

 

「寺坂君は上忍コースです」

 

「聞いてねーよタコ!!」

 

 寺坂君は上忍コースだった。

 にしても、寺坂君はということは、僕は火影コースでいいんだろうか。ふむ、この違いはなんだろう。確かに寺坂君よりはマシな点数が取れるだろうけど(どんぐり)

 

「せんせー、火影って誰ですかー?」

 

「そうですねぇ……柱間コースにしましょうか」

 

「センセー無理でーす。せめて綱手にしてくださーい」

 

 人類には到達できない地点までやらされるところだった。僕がジャンプ読者なばっかりに深めのネタまで入れられている。

 

 そんな感じで、僕らはノートと教科書を開いた。

 

 

「……はっ!!さっきの一人会話は一人影分身トランプの!?」

 

「宇井戸君。集中してください」

 




不良の友人を出すつもりがないことを懺悔します


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くるくる→テストの時間

ちょっと伸びてきてうれしいことを白状します


 高速強化テスト勉強がはじまってしばらく。殺せんせーの数が増えた。

 

「さらに頑張って増えてみました。さぁ授業開始です」

 

 前から一人にひとつ殺せんせーという有難迷惑状態だったわけだが、今日はそれよりもさらに増量。一人に4~5殺せんせーのギッチギチ対応だ。人によってはそれ以上。

 

 これはただの迷惑だ。

 

「……どうしたの殺せんせー?なんか気合入りすぎじゃない?」

 

「んん?そんなことないですよ?」

 

 生徒の質問になんでもないように返答する殺せんせー。そんなことないわけがない。

 

 だって増えすぎて残像もかなり雑になってきている。というか多すぎて逆に集中できない。

 それに今だってゼーハー言いながら大量の汗を流して休憩している。休み時間のたびにこうだ。昨日までそんなことなかったあたり、今日は結構限界近くまで動いているんだろう。とりあえず速水さんに頼んで発砲してもらう。

 

「にゅやっ!?いっ今はダメでしょう速水さん!?」

 

 そんなこと言いながらも危なげなく避けられた。名指しで怒られた速水さんはちょっとバツが悪そうな顔をしたあと僕を睨む。

 

「ふむ、やはりか……」

 

「やはりじゃないけど?」

 

 僕のつぶやきにかみついてくる速水さん。もともと鋭い目つきがさらに鋭くなっている。可愛い顔が台無しだ。こわい。ということで無視して席を離れることにした。次の時間に絶対何か言われるだろうがソレはその時の僕がなんとかするはずだ。人生をうまく生きるコツは未来への期待感だと、エジソンもそう言っていたハズ(言ってない)

 僕は未来の僕へ期待した。

 

「つーか、なんでここまで一所懸命先生をすんのかね~」

 

 教室の隅へ避難したところで、そんな声が聞こえてきた。それはおそらくみんなが思ってることの代弁でもあった。

 

「……ヌルフフフ。すべては君たちのテストの点を上げるためです。そうすれば……」

 

 言ってる途中で口を閉ざし、数秒後。殺せんせーの顔がすごくだらしなくゆがんだ。これはあれだ、ものすごくしょうもないことを考えてるとき。

 

 と、そんなことはいいんだ。今はとりあえず避難が優先である。怒れる速水さんから逃走しなくては……!

 

 ☆

 

「……え、なにごと?」

 

 校舎を出ようとしたタイミングで突風に巻き込まれた。と思ったら殺せんせーの隣でグラウンドにいた。いつものように超展開。一日一回超展開だ。

 

「すいませんねぇ宇井戸君。これから緊急授業なので校庭に来てもらいました」

 

「来てもらったってより連れてきただよねコレ」

 

 僕の指摘にどこ吹く風。せんせーはせっせことサッカーゴールなんかをどかしたりしはじめる。なにがしたいんだろう?

 

「ときに宇井戸君。君は勉強についてどう考えていますか?」

 

「……え、そんなにヤバいですか僕」

 

「いえ、ただの世間話です。だからそう緊張しないでください」

 

 待っている間、手持ち無沙汰にしている僕に気を使ってかせんせーが話しかけてきた。

 いや、緊張するなと言われても、教師にそんな話切り出されて緊張しない生徒が果たしているだろうか。カルマ君とかはもちろん例外として。とりあえず、ここは素直に答えておくべきか……?

 

「まあ、好きなモノではないです……」

 

「そうですか……。では暗殺とテスト、どちらが大切ですか?」

 

 ……なんだこの一問一答。診断テストか何かか?あなたはクールタイプです!!なんで5個の質問でそんなの分かるんだよ。

 それで、テストと暗殺だっけ。おかしなことを聞くなぁ。そんなの考えるまでもないのに。

 

「そりゃもちろん……なんかゾロゾロ出てきたよ?」

 

「おっと、時間切れですねぇ。どうやら全員集まったようです」

 

 質問に答えようとして、校舎から出てくるクラスメイト達によって中断された。どうやらみんな呼ぶタイプのヤツだったらしい。成績不振の個別懇談的なのかと思ってたから少し安心した。

 

 え、じゃあなんなのコレ。

 

「お、宇井戸はもう来てたのか」

 

「あ、磯貝君。なんか急に連行されたんだけどさ……なにこれ?」

 

「さあ?なんか急に校庭に出ろって……『暗殺者の資格がない』とかどうとか」

 

 もくもくと校庭を整理する殺せんせーを尻目に、最初に出てきた磯貝君に事情を聴いてみる。ただ結果はよくわからず。どうやらみんな正確に把握できていないらしい。

 

「──イリーナ先生。プロの殺し屋として伺いますが」

 

「……なによいきなり」

 

「あなたはいつも仕事をするとき、用意するプランは一つですか?」

 

「……いいえ。本命のプランなんて思った通りいくことの方が少ないわ」

 

 何がはじまるのか見守っていると、突然に事態は動き出した。教師陣の問答に僕らは黙って聞いていることしかできない。

 

 続くビッチセンセーの「不測の事態に備えて予備プランを作っておく」という台詞のあと、殺せんせーは烏間センセーに「ナイフ術を生徒に教えるときに重要なのは第一撃だけか」と質問を投げかけた。

 

 烏間センセーが「次の動きも重要だ」と答えると、殺せんせーは満足したようにうなずいてくるくると回りだした。マホイップできちゃうね。

 

「今聞いたように、自信の持てる次の手があるから自信に満ちた暗殺者になれる。対して、君たちはどうでしょう」

 

 殺せんせーの意識が僕らに戻ってきた。くるくる回転がどんどん速くなっていく。

 

 どうやらせんせーは僕らが暗殺にかまけて勉強をおろそかにしていることが気に入らないらしい。もし自分がこの場を逃げてしまえば。もし100億が他の人の手に渡ってしまったら。暗殺という拠り所を失った僕らは、E組という劣等感しか残らない。そういう未来のビジョンが見えていないのだと。

 

「第二の刃を持たざる者は──暗殺者を名乗る資格なし!!」

 

 言葉の強さとともにくるくる回転は激しさを増し、それはいつしか大きな竜巻となる。

 

「もしも君たちが自信を持てる第二の刃を示せなければ、相手に値する暗殺者はこの教室にはいないと判断し校舎ごと平らにして先生は去ります」

 

 竜巻がおさまってせんせーがそう口を開いたころには、なんと凸凹や雑草の多かった校庭がバッチリ綺麗な状態に手入れされていた。匠の技、ビフォーアフターだ。

 

 なんて、のんきなことを言ってる場合じゃない。すごいことになってきたぞぅ……コレ。

 

「第二の刃……いつまでに?」

 

「決まっています。明日です」

 

 殺せんせーははっきりと、迷う間もなく言い切った。明日と言えば、中間試験の日だ。そんなことを思い浮かべてピンときた。それも、悪い方向に。

 

 まっ、まさか……さっきの質問って……!?

 

「明日の中間テスト、クラス全員50位以内を取りなさい」

 

「「「!!?」」」

 

 やっぱりだー!?突然すぎるだろそういうこと言うの!!なんで急に変なこと聞いてきたのかと思えば、くそっもっとソレっぽいこと答えておくべきだったッ!!

 

「自信をもってその刃を振るってきなさい。仕事を成功させ、恥じることなく笑顔で胸を張るのです」

 

 自分が暗殺者であり、E組であることに

 

 

 最後にそう締めくくり、自身が教えた生徒への期待と自信たっぷりに、ソイツは緊急授業を終えたのだ。

 

 

 ☆

 

 

 テスト当日のことは語るまでもない。今、僕らの手元にある紙きれが何よりも如実に物語っているからだ。

 

 端っこに書かれた111位の文字。何度見ても変わらないソレが答えだ。僕は第二の刃とやらを示せなかった。平均ちょい上、躍進っちゃ躍進だ。

 周りの様子を見るかぎり、僕以外も同じような結果らしい。無理もない、そもそもテスト範囲が違ったのだから。

 

 僕らは知らされていなかったことだが、どうやらテスト2日前に出題範囲を全教科大幅に変える通知があったらしい。本校舎では理事長自ら教壇に立ち指導したとかなんとか。いつものことながら我らE組、流石の好待遇だ。今も烏間センセーが本校舎と連絡を取っているが、返答は色のいいモノではなさそうだ。

 

 最初はよかったんだ。思ったよりも躓かずに問題も解けていた。これなら第二の刃も示せそうかな?なんて調子に乗った瞬間に見たことない問題だ。絶望した。3箱買ったパックの最高レアが全部被ってたときより絶望した。

 

 ……これで、宣言通り殺せんせーは去るのだろうか。さっきからこちらを振り向こうともしないから分からない。

 

「……先生の責任です。この学校の仕組みを甘く見ていた。……君たちに顔向けできません」

 

 しんみり……

 

 教室内殺せんせーも含めてそんな言い回しがピッタリの空気の中で、僕はふと思った。

 

 これ、僕ら側に不備なくない?

 

 だってそうだろう?テスト範囲の変更なんてどうしようもない。勉強してないなら点数の取りようがないのだ。

 もしもこれにも『不測の事態への備えが足りない』なんて言うのなら、ソレは殺せんせー側の備えが足りていないのだ。テスト範囲が変わることにも備えて勉強を教えないヤツが悪い(暴論)

 

 よし、そうと決まれば詰めてやるぞ~!!なんて晴れ晴れとした気持ちで立ち上がろうとする僕よりも先に、行動を起こしていた問題児がいた。

 

 カルマ君だ。なんとカルマ君、急なテスト範囲変更にも関わらず全教科90点後半と超高水準な結果をたたき出していた。殺せんせーの後頭部にナイフを投げつけたカルマ君はその流れのまませんせーを大煽り。

 

 というわけで、そんなカルマ君に僕も便乗することにした。倍プッシュだ!

 

「くっそー、E組の殺せんせーが本校舎の理事長に格付けされたー。コレじゃ教師単位で格下だよー」(裏声)

 

「はっはぁっ!?誰が格下ですか!!小声で言っても聞こえますよどうせ宇井戸君でしょう!?」

 

 僕が言ったことはバレなかったらいいなと思って小声かつ裏声で言ってみたんだけど一瞬で看破された。すごいや。両隣の速水さんに神崎さん、前の三村君がぎょっとした目で僕を見てる。そっか、そりゃ近かったら分かるよね。

 

 やるんじゃなかった……ッ!!

 

「ぷっ……!そういやそうじゃん。完全に読み負けてるし、これよく考えたらせんせー側の不備だよね~宇井戸?」

 

「間違いないね。でも言っちゃだめだよ、やっと逃げる大義名分得たんだから。殺されるの怖いもんね」

 

「うっわそっかそーだよねせんせーごめ~ん☆」

 

「イッラァ……!!!」

 

 ここの正解はただ一つ。とりあえず滅茶苦茶煽ることだ。殺せんせーはああ見えて極度の負けず嫌いだ。ガキっぽいともいえる。

 カルマ君も速攻で乗ってきた。ナイス連携だ。僕らで世界を取ろう。ただ最初に笑った理由、ソレが僕に対する笑いなら話は別だ。

 

「……なーんだ。殺せんせー怖かったのかぁ」

 

「それなら正直に言ってよも~」

 

「ねー?『怖いから逃げたいです』って」

 

 みんなも便乗してきた。お、おぉ……。誘導しておいてあれだが、なんて煽りカスたちなんだ。殺せんせーの顔を見てほしい。青筋めっちゃ浮かんでるから。

 

「にゅやーッ!!逃げるわけありません!期末テストでアイツらに倍返しでリベンジです!!」

 

 ただ、今回に関してはまったくの無問題。むしろ最高。喋るカメもきっと狂喜狂乱だ。

 

 殺せんせー残留決定の瞬間である。よかった。コレで人類滅亡は免れたのだ。グッジョブカルマ君。フォーエバーカルマ君。君への感謝は3日間くらい忘れない。

 




女の子のエミュがまるでできていないことを懺悔します


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旅行の時間

今回いつもより繋ぎであることを懺悔します


 修学旅行。それは中学生活を彩る大切な1ページ。友達と、あるいは好きな人と。同じ班になったりなんかしてたまたま急接近しちゃったり普段と違うシチュエーションにいい雰囲気になってみたり。要は僕ら中学生にはケッコーな一大イベントである。

 我らが椚ヶ丘中学もそんな修学旅行が来週へと迫っていた。

 

 そんな中で、僕こと宇井戸那月はというと──

 

「なー、悪かったって」

 

 はじまる前からガン萎えしていた。

 

 ☆

 

 事の発端は修学旅行の班編成だった。そんな事すっかり忘れていた僕は、急ピッチでグループに混ぜてもらう必要ができた。というわけで、いつものように周りの席の人にどうなっているか聞いてみたのだ。

 

 もちろん、既にグループができていた場合はしかたない。僕自身わりと誰とでも話せると自負しているし、余っているところにいれてもらえたらいいな、なんて気持ちでいたんだ。最初は。

 

 結果として得られたのは、僕を囲むようにして速水さん、岡島君、三村君がグループを組んでいたという事実だった。

 

「ち、違うって。ちょうど宇井戸がいない時に話がまとまってだな……」

 

「そーそー。ホントにちょうど誘われたんだよ」

 

 気まずそうに説明する三村君。岡島君はあんまり気にしていないようだ。僕らは仲がいいと思っていたが、そう思ってたのは僕だけだったようだな。

 

「見損なったぞまったくっ!僕らの絆はそんなものだったのか!」

 

「本当にそんな仲か?」

 

「比較的仲がいい自覚はあるけどソコまででもないだろ」

 

「そっそんなことないさ!僕らの間で裏切りなんて──」

 

「まえ女子に詰められたとき平然と俺を見捨てたやつがよく言うぜ」

 

「切り捨てる判断が速かったねアレ……」

 

 ばっさりと切り捨てられた。なんてことだ。僕らの友情はそこまでだった。だが正直、その発言については心の底から同意せざるをえない。席が近いからよく話すだけで、僕らは磯貝君と前原君みたいな関係ではなかった。

 

「と、というか静観してる速水さんもだよ!えっ僕岡島君以下!?」

 

「友情って言葉の意味知ってる!?」

 

 岡島君たちでは話にならないと速攻で見切りをつけて、ターゲットを速水さんに絞る。隣に座る速水さんは、僕ともそれなりに話す間柄だし変態野郎の岡島よりは好感度が高いはずなのに……!

 

 急に視線が集まってビクッ!とした速水さんだったが、それも一瞬のこと。すぐにいつものクールな表情に戻ると、彼女は僕をジトっとした目で睨みつけた。

 どうやら怒っているみたいだけど……はて?思いあたる節なんてとくに──

 

「……中間テストの前日」

 

「……あ」

 

「あのとき、しれっと見捨てたよね?」

 

 その一言で十分だった。

 

 あっぶない。思いあたる節バリバリにあった。そういえば僕ってば速水さんに分身で疲れはてた殺せんせーへの発砲を焚きつけたりしたんだった。第二の刃騒動でうやむやになっていたけど、完全に思い出してしまった。あちゃあ……藪蛇だったか。

 

「くそぉ……じゃあ何処か空いてるグループ探さないと」

 

「それよりもまずアレ対処しろ!?」

 

「速水めっちゃこっち見てるって!巻き込むなよ!?」

 

「僕は知らない。君たちのグループだッ」

 

「「押し付けやがった!?」」

 

 まあ、きっと速水さんだってそんなに怒っていないはずだ。それはそうとして、今は振り向く時じゃないだけだ。だから力づくで向きを変えさせるのはやめろ二人ともっ……!

 

 結局、速水さんが女性陣に呼ばれて席を立つまで攻防は続いた。無駄な争いだった。

 

「……で、まだ空いてるトコ心当たりある?」

 

「俺はないなー。三村は?」

 

「俺も知らないなぁ……」

 

「なんだよ役立たずか」

 

「おっ?喧嘩か?」

 

「もうコイツおいて帰ろうぜ」

 

「ウソじゃん冗談じゃんもー!」

 

 危ない。思わず口が滑ってしまった。こいつ等本当に帰るからな。せめて僕の班が決まるまでは道づれにしたいところだ。

 

 さて、とはいってもどうしたものか。ぶっちゃけ僕も面倒になって来たし、できればさっさと決めてしまいたい。

 

「面倒だなぁ……。この際どっちかかわってくんない?」

 

「無理だっつの」

 

「逆になんでいけると思った?」

 

「──あ、あの、ちょっといいかな?」

 

 そんな中身のない会話に、唐突に凛とした声が入り込んできた。声の主は神崎有希子さん。僕の隣の席の少女だ。ちなみに速水さんが左サイドなら神崎さんが右サイドだ。コレから分かるように、実は僕は両手に花なのだ。ついでにいうと基本的に僕が会話しているのは前の木村君か後ろの岡島君だ。微塵も華がない。

 

「あ、神崎さん。ごめんね岡島君がうるさくして」

 

「俺!?」

 

「あはは……。そ、それよりね?宇井戸君まだ修学旅行の班入ってないって聞いたんだけど、本当?」

 

 岡島君の不手際も笑って受け流す神崎さん。さすがクラスのマドンナと言われるだけのことはある。おしとやかで美人、無敵か?

 

 っと、そんなことは置いといて。えっと、班について……だっけ?

 

「いやーお恥ずかしながら……」

 

 少し自分を情けなく思いながらもそういうと、神崎さんはパッと花が咲いたような笑みを浮かべた。

 

「あ、やっぱりそうなんだね!」

 

「「「……」」」

 

 どうやら彼女は僕が班に困っていることが嬉しいらしい。

 

 思わず、男3人で顔を見合わせる。おそらく僕らの思いは一致している。そう、僕らは今、神崎さんがナチュラルドSな可能性に恐怖していた。

 

「……あれ?みんなどうしたの?」

 

「いいいいいやなんでもないよ!?」

 

「そっそうだぜなんでもないぜ!というか神崎は宇井戸に用あるんだよな!?長くなりそうだし俺ら先帰るわ!」

 

「じゃ、お疲れ二人とも!!」

 

「あっオイ……ッ!」

 

 お、おいていかれた!?この状況で!?なっなんて薄情なヤツらだ!人にさんざん言っておいて、自分たちだってとんでもない速さで僕を見捨てるじゃないか!

 

「……ふたりとも急いでたね。宇井戸君は大丈夫?」

 

「う、うん!僕は平気!!」

 

 お、落ち着け僕!神崎さんがなんだっていうんだ!だいたいまだそうと決まったわけじゃないし、いざとなったら僕の足で逃げ切れるはずさ。

 

 ……ふう。そう考えると少し落ち着いてきた。よし、これなら動揺せずに会話に臨めそうだ。

 

「あっそれでね?さっきの続きなんだけど……」

 

 よし本題だ!既に覚悟はできた!どんな内容でも問題なしだ、ばっちこ~い!!

 

「あの、私の班1人空きがあるから。よかったらどうかなって……」

 

「……えっ」

 

 神崎さんはただの天使だった。

 

 ☆

 

 そんなこんなで一週間。修学旅行当日だ。自然と閉じようとする目をこすりつつも必死に集合場所に向かうと、既にちらほらと生徒の姿が。

 ……いや、それにしても少なすぎやしないだろうか?そんなに早く来たつもりはなかったけれど、存外みんな時間にルーズみたいだ。

 

「あ!烏間先生!宇井戸来ました!」

 

「やあ磯貝君、今日はいいてんってなになになにごと!?」

 

「バカ!もう出発すんだよ!」

 

「磯貝君の言う通り君が最後だ!」

 

「んん!?」

 

 どうやら他の生徒は乗車済みらしい。僕が早かったわけではなかった。引きずられるように指定の車両に駆け込むのと扉が閉まるのは同時だった。始まる前から終わるとこだった。

 

「あっぶねぇ~……!!」

 

「俺らの台詞なそれ!!」

 

 僕の心からの安堵に勢いよくツッコんできたのは杉野君だった。彼は僕が混ぜてもらった班の一員だ。僕の姿が見当たらなくて心配してくれていたらしい。優しい。

 

 結局、あのあと僕は神崎さんの好意に甘えさせてもらった。班員は渚君、杉野君、カルマ君、奥野さん、茅野さん、神崎さんだ。すごく普通のいいグループだった。カルマ君以外。

 そんな彼らを心配させてしまったのだ。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

「いやー、申し訳ない……」

 

「あはは……。まあ、間に合ってよかったよ」

 

「ホントだよ。暗殺コースとかもあるけど、やっぱ一緒に回れないのは寂しいからな」

 

「や、優しい……!!」

 

 渚君と杉野君の温かい言葉に数々に思わずじーんと来てしまった。これは暗殺コースの誘導、足を引っ張らないようにしないとな。

 

 今回の修学旅行、僕らにはある使命がある。ソレが本物の殺し屋のサポート。僕らの付き添いをする殺せんせーを殺しやすい場所まで誘導したりするのだ。当然、普通に楽しむこと前提ではあるけれど。

 

 なんて言って、実際のところぼくは暗殺スポットの把握はいまいちできていない。回る場所の話し合いとかあんまり参加できなかったし、なにより神崎さんの件で疲れ果てていてそれどころじゃなかったのだ。

 だから、今回の僕の最低ミッションはただひとつ。決して足を引っ張らず、変な空気にせず、いい感じの空間を班員に提供することだ。

 

「杉野君……。神崎さんとの仲普通に邪魔しようとか思っててごめん……っ!!」

 

「お前そんなこと考えてたの!?」

 

 絶対やめろよ!?という絶叫はバックに、渚君と班員の元に向かう。

 

「あ!宇井戸君来た!」

 

「間に合ったんだ宇井戸~」

 

「よかった!これで全員揃いましたね!」

 

 班員のもとへ着くと、みんな僕の到着を喜んでくれた。ヤ、優しい……!!なんていい人たちなんだ皆……!

 

「でも、ホント間に合わないかと思ったよ」

 

再びの渚君の台詞。何度も言うあたり、やっぱりだいぶ心配してくれていたみたいだ。

 

「うん、自分自身安心してる。遅れでもしたら殺せんせーがうるさそうだし」

 

「確かに!『君は自己管理能力が足りていない!!』なんてね」

 

「うっわ言いそォォオオおおおお!!!??」

 

「!?」

 

 渚君と話しながら何気なく窓を見ると、そこには見慣れたタコの姿が窓の外に張り付いていた。滅茶苦茶ビビった。

 

「なっなんで窓に張り付いてんだよ殺せんせー!!」

 

「いやぁ……駅中スイーツを買っていたら乗り遅れまして。次の駅までこのままいきます」

 

 殺せんせーも遅刻していた。これは──過失で言えばトントンか?

 

「宇井戸、自分だけじゃないからセーフみたいな顔しないで反省して」

 

「……っス」

 

 怒った渚君は怖かった。

 




色がついて狂乱したことを告白します


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台無しの時間

ほぼ18日なので懺悔しません


 新幹線にて、菅谷君が殺せんせーに自作のつけ鼻をあげたりだとか、友人たちとカードゲームをしてみたりだとかで楽しい時間を過ごしながら僕らは無事に京都についた。旅行はやっぱり普段と違ってみんなの新しい一面が見えるのが醍醐味だ。

 

 1日目はクラスでの行動だ。殺せんせーの暗殺は2日目と3日目の班別行動時。つまり、今日はゆっくりと楽しめる……のだが……。

 

「……い、1日目で既に瀕死なんだけど……」

 

「新幹線とバスでグロッキーとは……」

 

 皆の言葉通り、ターゲットである殺せんせーが瀕死状態だ。どうやらせんせーは乗り物に弱いらしい。まあ、それでも岡野さんのナイフを避けているあたりまだまだ余裕はありそうだ。

 

「──ねね、大丈夫?」

 

 そんな風に少し離れてみんなの様子を伺っていると、倉橋さんが声をかけてきた。

 

「ん、大丈夫ってなにが?」

 

「顔色悪いから。宇井戸君も乗り物強くないんじゃない?」

 

 心配そうな顔。少し驚いた。気づかれるとは思っていなかったから。

 

「大丈夫だよ。元気すぎて夕飯のこと考えてたくらいだから」

 

 言いながら少し大げさに元気なポーズをとってみる。せっかくの旅行なんだ。彼女にヘンな心配をしてほしくはない。

 

「というか班員でもないのによく気がついたね。流石の洞察力だ」

 

 なおも心配そうな目を向ける倉橋さん。このまま話してても変わらなそうだから、僕の方から話題を変えることにした。

 

「ふっふーん!できる女は周りを見てるものなんだよー!」

 

 僕の台詞に気をよくしたのか倉橋さんは鼻高々な様子。よかった。コレならうまく話を逸らせそうだ。

 

「お~。それなら暗殺にもいきそうだね」

 

「でしょー?って、そこは暗殺じゃなくてもっと違うとこにつなげてよー」

 

「……?」

 

「うわ、これホントに分かってないじゃん……。宇井戸君って女心が分かってないねえ……」

 

 唐突に酷い貶され方をした。

 だが、こんな言い方をされればムッとくるのが男というもの。どれ、いっちょ女心をつかんで離さない返しをしてやろうではないか。

 

 そうだな、まずは会話のおさらいだ。流れからして、僕は彼女の視野が広いことへの誉め言葉を出さなければならない。そこまではオーケーだ。

 それならば、ここからさらにシチュエーションにあった女の子が言ってほしそうなセリフを当てはめるだけだ。

 

 ……ダメだ。とくに思い浮かばないな。

 

 まっまて落ち着け。一般論がダメなら個人論だ。倉橋さんの好きなものは何だった?よく思い出せ僕。倉橋さんの好きなモノ……知るか!僕は彼女とそんなに仲良くないぞ!

 

 あっいや待て!烏間センセー!烏間センセーだ!!あと虫!確か彼女は昆虫が好きとか言っていた気がする!

 

 よーし!これでパーツが揃った。好きなものを理解したうえで、それに絡めて相手を褒める。これは男女問わずだれでも嬉しいはずだ。この勝負、貰った!

 

 僕が考えた女心をぶっさす回答、ソレは……コレだっ!!!

 

「倉橋さんのそのトンボみたいな視野なら、授業中気を抜いた烏間センセーの胸元とかこっそり見れちゃうねっ!」

 

 ぽかんとした表情の倉橋さんに、勝ち誇った表情の僕。この時、僕の脳内は完勝のファンファーレが響きわたっていた。

 

「どうして陽菜ちゃんにセクハラしてるの宇井戸君!?」

 

「ごべっ!?」

 

 だからだろうか。背後から振り下ろされる矢田さんの荷物攻撃に気がつかなかったのは。

 

「ぐ、ぐおおお……ッ!?」

 

「大丈夫陽菜ちゃん!?変なことされなかった!?」

 

「う、うん……。どっちかというと私より宇井戸君の方が……」

 

「いいのあんなケダモノ!!」

 

「既に人として見られてない……だと!?」

 

 真剣な表情だ。矢田さんの純度100パーセントの本心に後頭部の痛みも忘れて戦慄する。嘘だ、やっぱり痛い。

 

「う、腕を後ろで組んでっ!弁明があるならそれからだよ!」

 

「と、桃花ちゃん?落ち着いてほしいな~って……」

 

「ダメだよ陽菜ちゃん!こういう時は強気で行かなきゃ!」

 

 扱いが捕虜のソレだった。僕はどうしてクラスメイトからこんな扱いを受けてるんだろう。

 とりあえず、言われたとおり降伏のポーズを決める。

 

「……よし。それで、弁明は?」

 

 ようやく発言権が回ってきた。ここは誤解を生まないように、かつできるだけ短くまとめたいところだ。長々と喋って変に解釈されると最悪だ。

 よーく考えて、誤解のない様に短く……よし。

 

「矢田さん。僕はただ、倉橋さんの女心をくすぐろうとしただけなんだ!」

 

「陽菜ちゃん、今後はひとりで宇井戸君には近づいちゃダメだよ?」

 

 おかしい。矢田さんの警戒がさらに増した。

 

「ま、まって!違うんだ!僕は純粋に倉橋さんが喜ぶと思って!」

 

「セクハラで喜ぶと思ってるのはセクハラ親父と同じだよ!?」

 

「そうじゃなくて!──そう!倉橋さんが好きなんだよ!」

 

 虫と烏間センセーが!!

 

「そうなの!?」

 

「違うよ!?」

 

「違うの!?」

 

「なんで宇井戸君は驚くの!?」

 

 あんなにいつも言ってるのに!?頭撫でられたいみたいなこと言ってたのに!?

 

「ぼ、僕はてっきり好きなんだとばかり……」

 

「だからどうしてかな!?」

 

「普段からよく話してるの聞くし……」

 

「話してるの!?そんなことを!?私の知らないトコで!?」

 

「話してないよ桃花ちゃん!信じて!!」

 

「……?矢田さんだっていつも聞いてない?」

 

「聞いてるの私!?」

 

「ちょっと宇井戸君は黙っててっ!!!」

 

 結局、誤解が解けるまでしばらくかかった。

 

 ☆

 

 不幸な悲劇を乗り越えて2日目。暗殺用班別行動の時間だ。

 余談だが、あの後しっかりと二人とは和解することができた。アレはお互いのすれ違いの末起こった不幸な事故だったんだ。矢田さんからは攻撃の謝罪を、倉橋さんからはジト目を頂戴した。僕も彼女たちには非常に申し訳ないことをしたと反省している。

 

「でもさー京都に来た時くらい暗殺のこと忘れたかったよなー」

 

 と、そんな杉野君の言葉で意識が戻る。いけないいけない。せっかくの班行動、今は楽しまなくっちゃ損だ。

 

 こんな暗殺関係ない場所で、という杉野君の台詞を否定した渚君の京都にまつわる暗殺うんちくを聞きながらみんなについて歩く。

 

 例えば、今僕らが向かっている場所は1867年に坂本龍馬が暗殺された場所、ここより少し先の本能寺はご存じ織田信長が。そんな感じでずっと日本の中心だったこの京都は暗殺の聖地でもあるらしい。

 

 こんなふうに事前知識を仕入れてきて実際に目の当たりにするのも修学旅行の楽しみなのかもしれない。すごい、今僕らめちゃくちゃ修学旅行してる……!

 

「なるほどな~。こりゃ確かに暗殺旅行だ」

 

 暗殺の名所を回る旅行。なるほど、言い得て妙だ。

 

「さ、ここもいいけど、次は八坂神社だよー!」

 

「えーもーいいから休もうぜ。京都の甘ったるいコーヒー飲みたいよ」

 

「いいねコーヒー。景色もいいけどやっぱり僕は花より団子派でね」

 

「俺も~」

 

「くぅ!食べ盛りの男子どもめっ!」

 

「あ、あはは……まあ、時間はありますから」

 

「渚君。八坂神社の暗殺話はないの?」

 

「あっうん。八坂神社の祀られてる須佐之男命はね──」

 

 そんな感じで、寄り道しつつも仲良くしゃべりながら色々な場所を回るのはとても面白かった。

 

 

 

「へー……。祇園って奥に入るとこんなに人気ないんだ」

 

 ところ変わって祇園の奥地。風情があると言えばそうだが、観光地とは程遠い閑散とした場所だ。人っ子一人見つからない。

 えっと、確かここは……誰の希望だったっけ。

 

「うん。一見さんお断りの店ばかりだから目的も無くフラッと来る人もいないし、見通しが良い必要も無い。だから私の希望コースにしてみたの」

 

 なんて考えてたら、ちょうどよく説明の声。どうやらここは神崎さんのおすすめコースらしい。なるほど、真面目な彼女らしい、暗殺向けのコースってわけだ。

 

「さすが神崎さん!下調べカンペキ!」

 

「じゃ、ここで決行に決めよっか!」

 

「──ホントうってつけだ。なんでこんな拉致りやすいトコ歩くかねえ」

 

「!!」

 

 殺せんせーの暗殺場所を決めてわいわいしているところに、粘っこくて聞きなれない声が混じった。

 

「うげぇ……。このタイミングでくんのかよ……」

 

 傍観とともに振り返ると、そこには案の定とでもいうべきか。見るからに不良といった連中が群れて立っていた。いつもならソッコーで逃げの一手だが、今は女子がいるためそうもできない。

 

「……何お兄さん等?観光が目的っぽくないんだけど」

 

 好戦的な笑みを浮かべて対応するカルマ君。そうだ、今は僕だけじゃなくて不良のカルマ君もついてる!これは心強いぞ!

 

「男に用はねー。女置いておうちにかえ──ガッ!?」

 

 不良が話している途中だった。カルマ君は問答無用で顎に一撃ぶち込んで黙らせながら不良の後頭部を電柱にたたきつけた!

 

 一瞬でノックダウンする不良A。流石場慣れしたカルマ君だ、鮮やかな動きだった。だけど、まだ甘い。

 

「オラぁっ!!……ダメだよカルマ君トドメはキッチリ刺さないと。君はよくても僕らは非力なんだ」

 

「……俺も大概だけど、ケッコーエグいね宇井戸」

 

 倒れる不良の金玉を蹴り上げて意識がトンだのを確認してからカルマ君に声をかける。相手はまだ多いんだ。確実に仕留めてほしいものだ。電柱にも後頭部じゃなくて顔面から叩きつけて減り込ませるのが定石だ。

 

「ホラね渚君。目撃者いないとこならケンカしても問題ない──」

 

「そーだねぇ!」

 

「かっカルマ君!?」

 

 会話の途中で、仕返しのように今度はカルマ君が不意打ちされた。どうやら後ろの影に一人隠れていたらしい。鉄パイプのような獲物でおもっきりぶん殴られたんだ、カルマ君と言えどしばらく起きられないだろう。

 

 にしても、後ろからなんておかしい。これじゃまるで僕らがここに来ることが分かってたみたいだ。なにか仕掛けがあるのか……?

 

「おい、女さらえ」

 

 不意打ちしたボスみたいなやつの号令で再び動き出す不良ども。

 

「……ま、まーまー落ち着きましょうよ一旦」

 

「あ?テメーはよんでねぇ……よ!」

 

「宇井戸君!?」

 

 咄嗟の判断で茅野さんの前に身体を出してみたモノの、高校生の攻撃にはなす術もない。無様に顔面を殴られて思わずよろけてしまう。

 

「いってーな……」

 

 どうする?僕じャ女子3人を守りながら動くことは不可能だ。カルマ君が起きてくれるならソレが一番だけど、それも難しい。靴とか舐めたら許してくれないかな?

 

「おっオイ!なにすんだお前ら!」

 

「ちょっ杉野くん……!!」

 

 僕が殴られたのを見て飛び出してくれた杉野君に気を取られた一瞬が隙となる。直後、脳天に突き刺すような痛みが走った。

 

「宇井戸!」

 

 誰かの声が響く。だけど、今はそれどころじゃない。

 アー、誰だ殴ったやつ。思いっきりやりやがって。いってーなって……

 

「言ってんだろ……つーの……!」

 

「ああ?まだ意識あんのかしぶてーな。オラッ!」

 

 必死の思いで近くの不良のズボンを掴んだ手は軽々しく振りほどかれた。

 そうして再度鈍い音が聞こえたのち、僕は意識を完全に手放した。

 

 ☆

 

 ……い……ん!……いどさん!宇井戸さん!

 

 誰かに名前を呼ばれる感覚に意識が覚醒する。光が目に入って眩しい。

 う~ん、頭がじんじんする……。なんなんだいったい?

 

「あっ!よかった!目覚めたんですね!」

 

「……んだ、天使か」

 

「違いますよ!?」

 

 視力が戻って、一番に目に入ったのは嬉しそうな顔をした奥田さんだった。夢かと思って二度寝しようとして、奥田さんに呼び止められてやめた。

 ……ん?どうして奥田さんがいるんだ?というかここは……っは!?

 

「そうだ!不良はってイタァイ!?」

 

 飛び起きようとして身体に激痛。特に僕のリトルボーイから。なっ何が……っ!!

 

「む、無理しないで!宇井戸さん、気絶した後も執拗に蹴られてましたから……その、局部……」

 

 少し恥ずかしそうに教えてくれる奥田さんの言葉に、ようやく理解する。アイツら、仲間に僕がやったことをし返してきやがったんだ。痛すぎる。なんて残虐なことをするんだ。

 

 それから、なんとか起き上がれるようになるまでに今の状況を共有した。

 どうやら、僕が気絶した後杉野君も渚君も為すすべなくやられてしまったらしい。それで、茅野さんと神崎さんの二人は不良につれていかれてしまったと。奥田さんは隠れていたおかげでなんとか気づかれずに済んだんだとか。

 

「……ごめんなさい。思いっきり隠れてました」

 

「いいよ、奥田さんが無事でよかった」

 

 コレは本心だ。こうして僕ら男連中に説明してくれているだけでもありがたい。他の3人も同意見みたいだし、この場に彼女を責める奴はいないのだ。

 

「車のナンバー隠してやがった。多分盗車だし、相当犯罪慣れしてるよアイツラ」

 

 頭を押さえながらそう吐き捨てるカルマ君。最初に手痛い一撃をもらってたのに、流石の洞察力だ。

 

「通報してもすぐ解決できないだろうね。……てか俺が直接処刑したいんだけど」

 

 確かに、盗難車でどこに行ったのか分からないのなら警察だってすぐには動けない。カルマ君の台詞にみんな不安そうだ。

 

 だけど、それなら問題ない。

 

「場所は分かるよ」

 

「!?ほっホントか宇井戸!?」

 

「うん。ズボン掴んだ時、発信機つけといたからね」

 

 言いながらケータイを見せる。画面に映ったマップには、移動する赤い点が。

 

「おおっ!ナイスだ宇井戸!でもなんで発信機!?」

 

「不良とか絡まれ慣れてるからね。救難信号用に持ってるんだ」

 

「悲しい解答!!でも今はソレに感謝!」

 

 解決の道筋が見えて杉野君もハイテンションだ。他のみんなもどこかホッとした様子。

 

「じゃ、これであとは〆るだけだね」

 

「うん。さっさと動いて、あのカスどもに地獄みせよう」

 

 カルマ君の殺る気満々な声にハッキリと同調する。茅野さんたちを拉致ってることも、楽しい旅行に水を差したことも許せない。ソレになによりも……

 

「全員、キンタマ蹴り潰す」

 

 アイツ等、マジで蹴りすぎだ。




毎回当日に書いてるのでストックもプロットもないことを白状します


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しおりの時間

時間がなかったから適当なことを白状します


 僕のナビが示すとおりに移動を開始した僕らは、見るからに不良が根城にしそうな廃屋の前に着いていた。

 

「……多分ここだ」

 

 気づかれることのない様に小声で会話する。ここまで来て気がつかれてしまっては折角のチャンスが台無しになる。慎重に行動しないと。

 

「俺が先頭でいいよね?ソッコーで沈めるから宇井戸はサポートね」

 

「りょーかい。渚君たちは奥田さんを囲みながら後方警戒で」

 

 簡潔に作戦を共有して、いよいよ行動開始だ。普段であればこんな行動恐ろしいだけだが、どうしてか今は落ち着いている。ハイになってるってヤツなのかもしれない。

 

 ゆっくりと、足音がならないように廃墟を歩く。さっき不意打ちされたことも考慮して細心の注意を払いながら。

 驚くことに、日ごろの暗殺訓練が生きているのかみんな見事に息を殺して進むことができている。

 

 そうしてしばらく歩みを進めていると、ようやく人影を見つけることができた。相手は一人、状況から察するに見張り的な役目なんだろう。

 

 視界に影をとらえた瞬間、カルマ君が飛び出した。ソレに少し遅れて僕も続く。飛び出した僕らに気がついた不良は当然反応が遅れる。

 

 不良が声を出す間もなくカルマ君は顔面に一撃入れる。そしてそのままよろけたところに首をグイッとして意識を刈り取った。

 

「あ、鮮やかな手口だ……」

 

「場数が違うからね~」

 

「褒めにくいなぁ……」

 

 行動からも容易に分かるが、カルマ君。今回の件相当腹に据えかねているみたいだ。ひとりでやってしまうんだ。カッコ良く飛び出した僕の立つ瀬を考えてほしい。

 まあ、一緒にいて易々と相手の思うようにやられてしまったんだ。プライドの高い彼には耐えられないだろう。

 沈む不良に首根っこをひっつかんで渚君たちと合流する。

 

 門番がいたということは敵の根城はすぐそこだ。気を引き締めなければ。

 

 ☆

 

 捕まった少女たちは、自分たちより大柄の高校生に絡まれて怯えていた。楽しい旅行でなんてことしてくれてんだ底辺が。自分たちを下賤な目で見る男たちを見て彼女らは心底そう思っていた。多分。

 

「……で、どーすんのお兄さん等」

 

 そこまで大きいわけでもないカルマ君の声が響く。いつもの軽薄な雰囲気が感じられない、つまり滅茶苦茶キレてる。

 

 お察しの通り、僕らは既に不良たちのたむろう場所に突撃していた。

 

「こんだけのことしてくれたんだ。アンタらの修学旅行はこの後全部入院だよ」

 

 ソレに関しては僕も同意見だ。僕らは傷を負ったし、女子は怖い思いをした。落とし前はつけてもらわなきゃ。

 

「……フン、中坊がイキがんな。呼んどいた不良がもうすぐ来る。合わせて10人だ。お前らみたいないい子ちゃんが見たことない不良ども、ビビって逃げようたってもう遅いぜ?」

 

 僕らの登場に最初こそ驚いていた不良だったが、スグに威勢を取り戻した。増援のツテがあるらしい。

 

 10人、ケッコーな数だ。そんな人数カルマ君一人で対応できるんだろうか。そんなことを考えていたときだった。

 

「──不良などいませんねぇ。先生が手入れしてしまったので」

 

 背後で、そんな聞きなれた声が聞こえたのは。

 

「殺せんせー!!」

 

 嬉しそうな渚君の声。目を向けるとそこには、10人の丸眼鏡坊主を拘束した殺せんせーの姿。

 にしてもおそらく意識のない10人の坊主たち、これまたテンプレ的な優等生だ。おそらくはさっき言ってた仲間だろう。既に堕ちていたとは圧倒的なスピード感だなまったく。

 

「遅くなってすみません。連絡を受けてすぐ駆け付けたのですが……」

 

「ううん。ココだって連絡したの建物入ってからだし、むしろ早いくらいだよ」

 

 渚君たちの会話から察するに、ここに到着するまでの間にせんせーに連絡してくれていたらしい。いつのまに。いや、連絡なんてすっかり忘れていた。ありがとう渚君。なんで知ってるのセンセーの連絡先?

 

「渚君がしおりを持っていたおかげでこうして連絡が取れたのです。この機会に全員ちゃんと持ちましょう」

 

 そう言いながらカルマ君たちにしおりを渡す殺せんせー。なるほど、しおりか。あの分厚いヤツ。渚君があれを持ってたなら納得だ。ていうかよくあんなの持ち歩いていたな。

 

「宇井戸君。場所の特定までは良い機転でしたが、行動よりも先に先生に連絡しなかったのはマイナスです。ほらここ、書いてあるでしょう?」

 

「……ふいまへん」

 

 僕に至ってはしおりのあるページを開かれたうえで顔に押し付けられた。近すぎて読めない。ていうか分厚い本特有のにおいがして気持ち悪い。

 

「……せ、先公だとォ!?」

 

 と、そこで響くボス不良の声。殺せんせーの登場で思考からも視界からも抜け落ちていた。ただ、殺せんせーがいるのなら僕らが心配することはもう何もないのだ。

 

「ふざけんな!!ナメたカッコしやがって!」

 

 そう啖呵を切って走り出すのと倒れるのがほぼ同時だった。目にもとまらぬ速さで殺せんせーがナニかしたのだ。

 

「ふざけるな?」

 

 ピリッとした空気が流れる。原因は勿論、殺せんせーだ。

 

「先生の台詞です。ハエが止まるようなスピードと汚い手で……うちの生徒に触れるなどふざけるんじゃない……!」

 

 せんせーはオコだった。マジになってる殺せんせーはどうにもならない。だからアイツラの負けは決まってる。

 

 ということでその隙にこっそりと捕らえられてる二人の元に向かう。

 

「あ、ありがとう宇井戸君」

 

「うん。二人とも無事でよかった。ケガはない?」

 

「私は大丈夫。でも……」

 

 縄をほどきながら声をかけると、神崎さんは言葉を区切り茅野さんの方を見た。行動から察するに、茅野さんがケガをしてるということだろうか。

 

「私も平気だよ!ちょっと神崎さんより乱暴されただけで、ケガもないから!」

 

「!?」

 

 ら、乱暴された……だと!?

 

 衝撃発言に一瞬思考が止まる。まさか、僕らの到着が遅いばかりに……と考えて、寸前で踏みとどまった。僕の脳が1日目の出来事を思い出したのだ。

 

 そう、僕は倉橋さんたちにヘンな勘違いで迷惑をかけたばかり。その経験がここで生きた。

 

 茅野さんを見る。縛られてはいるが衣服が乱れている様子はない。つまり乱暴とは普通に暴力的なことのはずだ。

 それに、よく考えたら茅野さんよりも先に神崎さんが襲われるはずだ。

 

「──確かに彼らは名門校の生徒ですが、学校では落ちこぼれ呼ばわりされクラスの名は差別の対象になっています」

 

 脳内でひとり自己完結していると、そんな声が耳に入る。殺せんせーはどうやら不良のボスと会話しているらしい。会話なんかやめてさっさとブチのめせばいいのに。

 

 殺せんせーの声を聞きながら縄をほどく。神崎さんは終わった。後は茅野さんだ。

 

「ありがと。それより、宇井戸君は大丈夫?連れ去られる前、ソートーやられてたけど」

 

「男は丈夫だからね」

 

 痛いかいたくないかで言えば痛い。当たり前だ。そう簡単に回復してたまるか。まあ、今言うのは本当に時間の無駄だから黙っておくが。

 

 そんなこんなで茅野さんの拘束をほどく。これで捕まった人の救出は終わった。

 

 一緒に来た渚君たちは不良の背後からしおりの角でぶん殴っていた。

 

「神崎さん!ソレに茅野も!無事か!?」

 

 ことが終わってすぐに、杉野君が駆け寄ってきた。後を続くようにして他のみんなも。杉野君は惚れた女の子のことだから気が気じゃなかったんだろう。心配がにじみ出ている。

 

「うん、大丈夫だよ。みんなもごめんね。心配かけて」

 

 それから、話の顛末を聞いた。どうやら、事の発端は神崎さんが落としたメモ帳だったらしい。それを不良に拾われて、行く場所を把握されていたからこそこうして襲われたらしい。なるほど、だからあんな先回りみたいに隠れていたのかアイツラ。

 

「迷惑かけてごめんね……」

 

「めっ迷惑なんてそんな!神崎さん悪くないじゃん!」

 

「そうだよ、悪いのはアイツ等だから気にしちゃダメだよ!」

 

「ま、こうしてみんな無事だしねー」

 

 落ち込む神崎さんに励ますみんな。温かい空間だ。誰一人神崎さんを悪く思っていないのが伝わる。さっきからどこか憑き物が落ちたような表情をしているし、これなら神崎さんも気をやまずに済むだろう。

 

 ……さて。それはそれとして、だ。

 

「にゅやっ?なにしてるんです宇井戸君?」

 

 倒れた不良の体勢を整える僕を見て、殺せんせーは声をかけてくる。なにしてるか、だって?あはは、おかしなこと言うなぁ。殺せんせーったら。

 

「――今からこいつらのキンタマ潰すんだ」

 

「なぜ!?」

 

 男に二言はない。息子の恨み、ここで晴らしてやる。

 

「だっダメですよ宇井戸君!?追い打ちは暗殺者として不健全です!」

 

「ええい止めるな殺せんせー!!僕はっ!僕はこいつ等のバベルを蹴らなきゃ気が済まないんだ!」

 

「うわぁ……荒れてんなぁアイツ」

 

「潰すって言ってたのマジだったんだ……」

 

「まあ気持ちは分からなくもない」

 

 必死に止めようと絡みついてくる触手を振り払う。くそ!邪魔をするな!!

 

「せんせーには分かるか!?目覚めた瞬間相棒が再起不能になってるかもしれないレベルの激痛が走る地獄!まともに立ち上がるのに10分かかった!!」

 

「本当に気の毒です!先生にも分かりますよその痛み!!」

 

「……じ、実際どうだったの?」

 

「はい……。本当に痛そうで、起き上がってもしばらく内股で……」

 

「わかんないなぁ痛みの次元が。どうなの渚?」

 

「そんなこと聞かないで!?」

 

「てか殺せんせー分かんだ」

 

 そうこうしているうちに完全に絡み取られてしまう。身動きも困難になってきた。

 

「分かった!じゃあ片方!片方だけでいい!!二度と【自主規制】できないように【自主規制】して【制限】するだけだからっ!」

 

「宇井戸君コンプラァッッッ!!!!」

 

「はなっ離せこのタコがっ!!ぶっ殺してやろうか!?」

 

「ここにきて今までで一番の殺意!?いまいち暗殺意欲の薄い生徒の目覚めがコレ!?」

 

 結局、僕は無力だった。




毎日更新が疲れてきたことを懺悔します


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好奇心の時間

今なら日間乗れそうで頑張ったことを報告します


 誘拐騒動も無事に片がついた。僕の鬱憤は溜まったままだったが、殺せんせーがアイスを奢ってくれたから許すことにした。

 

 そんなこんなで無事に元の修学旅行に戻ることができ、再びみんなで京都を堪能しなおして気がつけば宿に戻る時間だった。ちなみに、僕らは参加できなかった暗殺計画は全部失敗で終わったらしい。ま、そんな気はしていた。

 

「うおお!!どーやって避けてるのかまるでわからん!!」

 

「フフっ。恥ずかしいななんだか」

 

「おしとやかに微笑みながら手つきはプロだ!!」

 

 既に食事も温泉も堪能して今は休憩時間。僕らは卓球台とかが置いてある場所にみんな集まっていた。

 目の前では湯上がりに旅館浴衣の神崎さんが旅館備え付きのゲームをしている。僕らのグループはそれを見学しているのだ。

 

 すっげー。手元が。グワングワンなってる。慣れた手つきだ……。

 

「す、すごい意外です。神崎さんこんなゲーム得意なんて」

 

 奥田さんの言葉に、心の中で同意する。僕の中の神崎さんと言えば、真面目でおしとやか、まさに大和撫子という表現がぴったりの少女だ。アーケードゲームをやるイメージとか全然ない。やるとしてもツムツムとかだ。

 

「……黙ってたの。遊びができても進学校(うち)じゃ白い目で見られるだけだし」

 

 少し自嘲するような声色。なるほど、だから隠していたのか。まあ、うちの校風的にそう思う気持ちは分からなくもない。

 

「でも、周りの目を気にしすぎてたのかも。服も趣味も肩書も、逃げたり流されたりして身につけてきたから自信が無かった」

 

 今、服だけに身につける、なんて言ったら総スカンをくらいそうだ。僕の煩悩よ、でていけ。

 

「殺せんせーに言われて気づいたの。大切なのは中身の自分が前を向いて頑張ることだって」

 

 神崎さんがこうして僕らに新しい一面を見せてくれたのは多分、誘拐騒動があったからだ。起こった事態は最悪だったけど、アレで僕らの仲はさらに深まった。

 だから、その意味では彼らにも感謝……できるかアホ。許さねーよ絶対。

 でも、神崎さんが吹っ切れたようでなによりだ。いつもより何割かマシで楽しそうに見えるし。

 

 にしても、楽しそうに遊ぶなぁ神崎さん。見ているうちに、僕までちょっとやりたくなってきたぞ……?

 

「……渚君渚君。僕らもゲームしよう。対戦出来るヤツ」

 

「うん、いいね。神崎さんのプレイ見て僕もやりたくなってたところ」

 

「やったね。みんなには黙ってたけど、何を隠そう僕もゲームは好きでね」

 

「多分クラスメイト全員知ってるよ?」

 

「お、格ゲーあるよ格ゲー」

 

「じゃあこれにしよっか。あ、杉野もやる?」

 

「なになに?ゲーム?俺もやる!」

 

 ちょうどいい感じの対戦ゲームを見つけたからすんなりとソレに決める。渚君が呼んだら杉野君もついてきた。

 

「負け交代でいっか」

 

「オーケー。悪いけど負けないよ」

 

「宇井戸より強いよ。僕は」

 

「え、俺やったことないんだけどコレ。お前らあんの?」

 

「「ないね」」

 

 全員初心者。これは接戦が期待できそうだ。

 

「あ、そうだ。上手くなったら神崎さんに挑戦しようよ」

 

「お、いいなそれ!」

 

 そんなセリフを最後に、僕らは対戦に熱中した。

 

 

 余談だが、途中で乱入した神崎さんに僕たちは一掃された。

 

 ☆

 

「へ~、面白そうじゃん。俺も行けばよかったかな」

 

 大部屋までの帰り道、カルマ君にさっきまでの出来事を伝えた反応だ。

 

 あの後、ついぞ誰も神崎さんにダメージを負わせられないまま格ゲー大会はお開きとなりみんなして大部屋に戻る事になった。その道中、僕だけ自販機に立ち寄りたいということで別れることに。

 それで、自販機を求めてさまよっている最中、その先でカルマ君と合流したのだ。

 

「面白かったよ。神崎さん鬼強いんだ」

 

「ウケる。全然イメージないわ」

 

「せっかく出した超必殺技全ガードしてきたからね。男3人で絶叫しちゃった」

 

 集大成だったのに、僕らの心はへし折られた。涼しい顔してあの対応、おそらく相当な猛者だ。

 

「てか大部屋遠すぎるよね。自販機から」

 

「E組だけ孤島みたいな扱いだ、徹底してるわホント」

 

「まあ、おかげでああして遊べるわけだけど」

 

 今回、本校舎とE組はまず泊まる宿が違う。本校舎の連中は個室なんだそうだ。さっき岡島君から聞いた。

 対して、僕らE組はオンボロ宿で大部屋2つ。カルマ君の言う通り、ホント徹底してる。

 

 ただ、個人的には大部屋はキライじゃない。修学旅行って感じがしていいよね。それに、本校舎と一緒だとそれこそ寝るまで気が休まらなさそうだ。そういう意味では、この圧倒的な待遇に感謝したほうが良いのかもしれない。

 

 なんて、そうこう話しているうちに大部屋に着いた。ガラ……とカルマ君がふすまを開ける。

 

「お、面白そうなことしてんじゃん」

 

 楽しそうに部屋に入っていったカルマ君に遅れて中を覗くと、なにやら男子みんなで輪になって集まっていた。

 

「カルマに宇井戸、いいとこ来たな」

 

 磯貝君に歓迎された。なんだろう、僕ら二人でいいトコって。みんなして悪だくみでもしてるのか?

 

「おまえら、クラスで気になる娘いる?」

 

「みんな言ってんだ。逃げらんねーぜ?」

 

 奥に入って確認するよりも先にそんな声で合点がいった。なるほど、コイバナってやつだ。

 ひとり納得して身を乗り出すと、みんなが壁になって見えなかった輪の中心が目に入る。そこには気になる女子ランキングと書かれた一枚の紙。やっぱりだ。

 

「……うーん、奥田さんかな」

 

 紙に書かれたランキングを覗き込もうとしていると、カルマ君のそんな恥ずかしげもない声が聞こえてきた。滅茶苦茶堂々としている。

 彼が名を上げたのは今日一緒に行動していた眼鏡の少女。驚いた。まさかそういう感じだったとは。

 

「お、意外。なんで?」

 

「だって彼女、怪しげな薬とかクロロホルムとか作れそーだし」

 

 俺の悪戯の幅が広がるじゃん?なんてにこやかに話す様子は悪魔そのものだ。

 

「……絶対くっつくかせたくない2人だな」

 

 同感だ。奥田さんもああみえて結構ファンキーなとこあるし、混ぜるととんでもないことになりそうだ。

 

「ま、まあ!カルマは置いといてさ!宇井戸はどうなんだよっ?」

 

「うぇっ、僕?」

 

 怪しげな内容から話を逸らすためか、急に僕の番が回ってきた。とはいえ、困った。そんな相手急に思いつかない。

 

「……みんなはどうなのさ」

 

「俺らは言ったんだよ。お前がいない間に」

 

「逃げよーとしてんのか?オージョーギワわりーぞ観念しろ」

 

「そういわれてもなぁ……。うーん……倉橋さんとか?」

 

「お、宇井戸は倉橋か。ケッコー人気だよな倉橋も」

 

「あ、やっぱ人気なんだ。昔からそーだったからね」

 

 名前を挙げたことでようやく閲覧が許された紙を覗きに行く。えーっと、1位は……っとお!?

 

「ちょっ!?何すんのさ!僕も見せてよ投票用紙!!」

 

 前に向かう途中で首根っこをグイっと掴まれた。びっくりした。こ、この野郎、人に言わせといて自分たちのは見せないつもりだな?

 反抗の意思を込めて後ろを振り返ると、僕よりもなぜかみんなの方が驚いた顔をしている。なんで?

 

「待て待て待て。紙よりも先に、お前今なんつった?」

 

「は?だから倉橋さんだって。前原君さっき自分で言ってたじゃん」

 

「いやチゲーって!お前今、聞き間違いじゃなきゃ昔から~とか言ってなかったか?」

 

 な!?と周りに確認する前原君に頷くみんな。気がつくと、みんなの目線が僕に集中していた。何をそんなに気にしているんだろう。ここにきてまだ分かっていない。

 

「えぇ?言ったけど……それがどしたの?」

 

「どしたのじゃねーよ!?なんで倉橋の昔とか知ってんのお前!?」

 

 さっきからテンションがおかしい。うるさいぞ普通に。というか倉橋さんの昔を知ってる理由だって?

 

 なんでってそりゃ……

 

「倉橋さん、小学校同じだし」

 

 昔から人気あったような気がする。あんま覚えてないけど。

 

 いやぁそういえばビックリしたな最初。まさか同じ中学に来ているとは思いもしなかった。E組で再会したのは普通に悲しい出来事だった。僕らの小学校はカスだということになってしまうから。

 てかみんなの動きずっと止まってる。おーい聞こえてるー? 

 

「「「な、なにィィィィィィっっ!?!?」」」

 

 うるっっっさっ!!!ぶち殺すぞ!!

 

「どっどーいうことだ宇井戸お前!!なんだその新設定は!?」

 

「そうだぞ!なんでそんな美味しい情報を今まで隠してたんだお前!」

 

「う、うるさ……って近いわボケ!!てか磯貝君とかには言ってなかったけ!?」

 

「聞いてないが!?」

 

 どうやら誰にも話してなかったらしい。おかしーなぁ。どっかで言ってるもんだと思ってたのに。

 

「宇井戸ォ……お前を殺す」

 

「誰か岡島を取り押さえろぉッ!?」

 

「何だコイツ力つよっ!?どっからそんなパワーが!?」

 

 岡島君が殺意に目覚めた。コレは危険だ。

 

「ごめん岡島君。僕は君とはステージが違うんだ」

 

「どうして油を注いだんだ今!!?」

 

「同じスケベでモテない仲間だと思ってたやつからの裏切りだぞ!岡島が壊れる!」

 

「──ッ!!」

 

「やべーぞ岡島がついに言語失った!!」

 

 滑稽だ。畜生となり果てた岡島君を肴に自販機で購入したオレンジジュースを飲む。美味しい。

 

「うわぁ……カオスだ」

 

「というかホントにどうして言ってなかったの?そんな話聞いたこともなかったけど」

 

 荒れた光景を眺めていたら、いつの間にか僕の近くに避難していた渚君が声をかけてきた。

 

「別に理由はないよ。同じ小学校だっただけで関わりなんて全然なかったし、向こうは僕のことなんて知らないんじゃないかな」

 

 本当だ。クラスだって1回同じだったかどうかくらいの関係だ。話したことだって全然ないし、むしろE組に来てからの方が深くかかわってるんじゃないだろうか。

 

「おい!今の話で岡島が落ち着きを取り戻したぞ!」

 

「ラブコメみたいな幼馴染展開じゃなかったからだ!前原ならこうはいかない!」

 

「これが宇井戸クオリティ!絶好のフラグも消し飛ばす!」

 

「キミらだって変わんないだろ彼女なし童貞ども!!」

 

「あ、あはは……」

 

 これがクラスメイトのあるべき姿か?本当に。

 

「まあそんなわけだから、本人には伝えないでね。覚えてなかったらただ僕が大ダメージくらうだけだし」

 

 自分でそう思ってるのはいいけど、本人に言われるのは別だ。多分僕は3日くらい枕を濡らす羽目になる。

 

「なぁんだおもしれー話かと思ったのに。結局宇井戸は宇井戸だったか」

 

「ケンカかい?僕は知り合いに売られたケンカは全部買ってから考えるタイプだよ?」

 

「こえーよ!?」

 

「ま、まあまあ!それよりみんな、宇井戸じゃないけどこの投票結果は男子の秘密な。知られたくないヤツが大半だろーし」

 

 そういって磯貝君がまとめにはいる。流石頼れる学級委員長だ。僕のことも考慮してくれているに違いない。

 

「女子や先生には絶対に……ぜったい……なんかいるなぁ……」

 

 そして、そんな気遣いをぶち壊すのがうちの担任だ。

 

 殺せんせーは僕らの秘密の会合を窓越しに覗き込んでいた。表情はこれでもかと緩んでいる。

 

「……(カキカキ)」

 

 バッ!(飛び去る音)

 

「メモって逃げやがった!!殺せ!!」

 

 最悪の大人だ。コイツはもう教師として死んでるんじゃないだろうか?

 

「全員で行くぞ!ぶっ殺してやる!」

 

「待って!僕はまだみんなの見てない!!」

 

「今じゃねーだろバカか!?」

 

「待てやタコ!!生徒のプライバシー侵しやがって!!」

 

「ヌルフフフ。先生の超スピードはこういう情報を知るためにあるんですよ」

 

 クソタコっ!!僕だってみんなの気になる人見たかったのにっ!!

 




女子視点の話を入れるか迷っていることを告白します


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裏 好奇心の時間

怖いことが起きてることを報告します(ランキング)


 E組女子は現代を生きるイマドキ風少女である。危険生物の暗殺という重要な役目を背負わされたとはいえ、ソレでもナイフケースにデコッちゃったりするタイプの少女たちなのだ。

 もちろん、彼女らの趣味嗜好はバラバラだ。真面目な子もいればちょっとやんちゃ盛りの子もいる。そんなことは彼女らの中では暗黙の了解のようなもの。

 

 ただ、彼女らはれっきとした思春期の女の子。個々の違いへの理解はあれど、この修学旅行、ある一点において通じ合っていると思い込んでいた。

 

 そう、それ故のコイバナ爆誕である。

 

 ☆

 

 口火を切ったのは誰だったか、いや本当に誰だったっけ?片岡メグはそう思った。

 知ったことか、中村莉緒及びその他大勢はそう思った。

 

 修学旅行の定番である。恋バナ、ガールズトークでテンション爆上げポヨポヨフィーバー間違いなしの定番ネタだ。出会ったこともない芸能人のニュースですらキャーキャーできる彼女らにとって知り合い、それもクラスメイトの恋事情なんて御馳走でしかなかった。

 

「気になる男子って話よ!やっぱそーいうの盛り上がるでしょ?」

 

「烏間先生……は除外だよねトーゼン」

 

「当たり前でしょ。殿堂入りよ」

 

 ヌルっと始まった会合において、烏間先生の除外は当たり前だった!

 

「えー!?」

 

「あはは、陽菜ちゃんはそうだよねやっぱり」

 

「アリだと烏間先生カッコイイで終わっちゃうからね」

 

「男子にすら公の事実はノーカンよ。それじゃ渇きは癒せない!」

 

 別にまるで隠そうとしていない普段の彼女の行動が裏目に出た。今宵の少女たちは内に秘めたモノに飢えているのだ。倉橋のモチベはガタ落ちした。

 

 少女らの年頃において、烏間がトップに躍り出ることは当然である。ただでさえ15歳付近は年上男性への憧れが強い時期だ。隔離された差別環境、真摯に向き合ってくれるイケメンで強い年上ときたらもう。

 ぶっちゃけた話が性癖壊れて同年代がガキに見えてもしかたない。なに、とっても速くて頼りになる教師?ハハ、タコが喋ってらぁ。

 

「先生はなし、うちの男連中の話よ」

 

「「「…………」」」

 

「……困った。出てこないわ」

 

 E組に気になる男の子はいなかった!!

 

「ゆ、由々しき事態よ……!これじゃ1年間色に欠けた青春になってしまうっ」

 

「べ、別にソレは困らないんじゃ」

 

「何言ってんのさ!それじゃアタシは誰を弄ればいいのっ!」

 

「それが目的かきさまーッ!」

 

 キャーっと叫びながら中村は取り押さえられた。御用改めである。とはいえ、わりと全員同じ気持ちだった。流石にあまりに色気がない。自分の話はごめん被るが他人の恋事情とか知りたいのだ。日和ってないで誰か話せよ、脳裏にはいつだってそんな言葉が過ぎっている。

 

「神崎さんはいないの?誰かさ」

 

 そして矛先は、後方でニコニコ佇む少女に飛び火した。

 

「あ、気になる~」

 

「神崎さんは男子も気にしてるよきっと!」

 

「え?うーん、私は特に……」

 

「とか言って!隠してんじゃないの~?……おりゃっ!」

 

「きゃっ!?ちょ、ちょっと……はは……くすぐらないで……!」

 

「ほらほら白状してごら~ん?ここか、ここがいいのか!」

 

「やめっ……ははは……ほ、ホントに……いないってぇ……!」

 

 姦しいことこの上ない光景だった。グループ研修で仲良くなった茅野が遠慮なく責め立てる。圧倒的クスグリ力、男子が見ていたらイチコロだった。

 

「でも、うちでイケメンって言えばやっぱりあの二人?」

 

 そんな光景をみながら、誰かが呟いた。瞬間、示し合わせたかのように女性陣の脳にる二人が思い浮かぶ。代表して中村が口を開いた。

 

「──前原と磯貝ね」

 

 名が挙がったのは学級委員長とクラス1のプレイボーイ。頷く周囲、異論なしだ。

 

「前原はまあ、女癖ワルソーね」

 

「バッサリ言った!?」

 

「偏見なのに否定できないのがつらいトコだ」

 

 最初に上がった前原の評価はソレだった。いいヤツなのは知ってるけど、それはそれとしてそういう一面もありそうだよね。そんな感じである。

 

「その点で言うと磯貝君は真面目そーだよね!」

 

「委員長だしね。気が利くし、そりゃモテますわって」

 

 続く磯貝は好印象だった。そんな話が続けば、標的は自然と磯貝と仲のいい人物にうつる。

 

「ねぇメグ、実際どうなの?」

 

「えっ私?」

 

「うん。だって磯貝君と一番話してるのメグじゃん」

 

 矢田の台詞により、会話の中心に引き釣り出された片岡メグ。突然の事態に驚きつつも、彼女は自然体で答えた。

 

「話すっていっても事務的なことよ?でも、しっかりしてるし頼りにはしてるわ」

 

「うわぁ、やっぱそうなんだ。こりゃ優良物件だ」

 

「烏間先生の方がカッコいいよ?」

 

「アンタはいつまで引きづってんのよ」

 

 恋バナというよりは既に批評になっていた。他の男子の名前が出てはあーでもないこーでもないと評する。コレはコレで楽しいのでオーケーだ。どうせ男子もやってるからお互い様だよね、みんなそんな感じの心持ちだった。

 余談だが、男子はもちろんやっていた。異性のいない環境でできるド失礼なトークもあるのだ。

 

「顔で言えばカルマもモテそうじゃない?」

 

「顔はいいからね。成績優秀だし」

 

「喋らなきゃサイキョー?」

 

 カルマは素行がマイナスポイントだった。それ以外問題ないあたり高スペックな男だ。

 

「いや、でも今日一緒だったけど普通だったよ?」

 

「甘いコーヒー飲みたがってましたし、対話は可能です」

 

 班メンバーからの申し訳程度のフォロー。意外にも、旅行を通してカルマの評価は上がっていた。

 

「え、何そのギャップ!意外なんだけど!」

 

「ねー。カルマ君ってブラックコーヒーとか飲んでそうだし」

 

「というかナチュラルに狂犬扱いしたね奥田さん……」

 

「あ、班と言えば3人とも!色々あったらしいけどダイジョーブだったの?」

 

 班行動から、話は今日の出来事へと飛ぶ。茅野たちの班が何かしらに巻き込まれたという情報だけ聞いていたため、みんな気が気ではなかったのだ。

 

「あはは、大丈夫だったよ。心配してくれてありがと」

 

「乱暴されなかった?ケガとかは?」

 

「ないよ。男子のみんなが頑張って守ってくれたから」

 

 そう言って今日の流れを大まかに話すことになった茅野、神崎、奥田の3人。3人のおかげで男子4人の好感度はあがった。棚ぼたである。

 

「へー!アイツら、やるときはやるんだね!」

 

「相手高校生でしょ?ケガとかしなくてよかったね……」

 

「カルマ君に宇井戸君だもんね。そりゃ腕っぷしなら心配ないか」

 

「あ、あはは……」

 

 3人はとりあえず愛想笑っておくことにした。股間を抑えて信じられないくらい震えていた宇井戸の姿を奥田は全力で忘れようとした。やさしさの権化だ。悲しい事件を公に出すまい、宇井戸君の名誉のためにも!

 3人は図らずも意見が一致していた。

 

「宇井戸もねぇ……宇井戸……普通だよね」

 

 そんな流れから、自然と次の評価対象は宇井戸になった。既に杉野と渚は出ていた。班で最後まで触れられなかった男だった。

 

「うん、本校舎にいた時は噂だけ聞いててヤバい人だと思ってたけど……」

 

「ね。めっちゃ人畜無害だった」

 

「最初同じクラスになるときすごい身構えたよ私」

 

「普通に会話できて拍子抜けしちゃったよね」

 

「男子と話してるときはアレだけど」

 

 散々な言われようだった。ただ、前評判がカス過ぎて逆に普通で高評価になる稀有な例でもあった。

 

「でもさ、毎月ボロボロになってるから喧嘩はしてるんでしょ?」

 

「──ん~、してないんじゃない?」

 

 そんな評の中、待ったをかける声があった。声の主に視線が集まる。

 

「だってさ。巻き込まれてるだけって言ってたよ?」

 

「……イヤイヤ倉橋さん?『喧嘩してきたぜッ!』なんて正直に言わないのよふつー」

 

「えー、そうかなぁ?だって昔から『不良発見器の那月君』って呼ばれてたよ?」

 

「「「そんなあだ名あったの!?」」」

 

 倉橋の発言に全員度肝を抜かされた。不憫すぎるだろう宇井戸。少しかわいそうになった。

 

「……って、なんでそんなこと陽菜ちゃんが知ってるの?」

 

 いち早く気がついたのは矢田桃花だった。同級生の昔のあだ名を知っていることへの不信感、矢田は鋭かった。

 対して、倉橋はしれっと答えた。

 

「んー?えーっとね~、小学校同じなんだ」

 

 あんまりにも自然なその答えに女子たちは普通に聞き流した。

 

「へぇ、じゃあ幼馴染だ」

 

「っていっても、噂で聞くくらいだったから詳しくないよ?」

 

「あ、そっかー。じゃあ面白い話は聞けないね……??」

 

 あれ、なんかおかしくね?

 

 その思考に至るまで、ケッコーな時間を要した。そしてようやく理解が追いついて、ソレは爆発した。

 

「「「な、なにぃぃぃぃいいいい!?!?!!?」」」

 

「うわー!?うるさいよー!!?」

 

 ☆

 

「だから!詳しくは知らないの!ホントにっ!」

 

 ぷんぷんっ!そんな効果音が聞こえそうな勢いで倉橋陽菜乃は怒っていた。あの後滅茶苦茶問い詰められたからだ。

 そのあまりの圧に一生懸命昔の記憶をさぐる羽目になった倉橋の怒りもひとしおである。

 

「──つまり、宇井戸の不良疑惑はその体質と小学校時代の友達が原因ってこと?」

 

「わかんないけどね!問題児3人組って有名だったから!」

 

 もしかしたらケンカしてるのかもしれない。一応そう告げておく倉橋。たとえ脳内でなさそうだと思っていても言わないのだ。また絡まれるから。倉橋陽菜乃は賢かった。

 

 それに、こんな大勢の前でペラペラ話してたまるか。私だけ求められる難易度高すぎだろう。そんな思いもあった。倉橋陽菜乃、自分のプライベートはちゃんと隠すタイプだった。

 

 

「というか!なんでそんな秘密隠してたの陽菜ちゃん!」

 

 矢田の台詞を皮切りに、ソーダソーダと声が押し寄せる。こうなるからだ、倉橋はそう思った。

 

「だってさー、E組来てからの方が喋ってるんだよ?今さら言う必要ないよー」

 

「……なるほど、一理あるわ」

 

 十理あるよ!!倉橋は内心でそう思った。

 

 その後も続く姦しい会話の数々。倉橋はようやく逃げられたことへの安堵でいっぱいだった。

 

「……でも、宇井戸君の友達って別の中学でしょ?なんでうち来たんだろう?」

 

「もしかしたらさー!陽菜乃ちゃんを追っかけてだったり!?」

 

「あ、それなら知ってるよ。それも一時期有名だったから」

 

「それも!?」

 

 ホントに謎に有名だったんだもん。倉橋はそう思いつつ、覚えている限りの話をする。

 

「確かアレは──6年生の夏ごろだったかな」

 

 懐かしいなぁ……。倉橋はひとり昔を思い出した。そうだ、ここへの受験で勉強を頑張っていたころだ。倉橋は自身の経験も付随して思い出した。ちょっと嫌な気持ちになった。

 

「宇井戸くんはある日急に、友達の片方に『キャラが被ってる!!』って叫んでから進路変更したの」

 

「「「無茶苦茶だ!?」」」

 

 当時も驚いた内容だ。きっとみんな驚くだろう、いい気味だ。そんな思いを込めて話した倉橋は驚く周囲を見て気持ちがよくなった。

 

 その後、消灯を告げに来たビッチ先生のおかげで話は大きく逸れることになる。

 ビッチ先生が20歳なことに驚いたり、昔堕としてきた男の話を聞こうとして殺せんせーが乱入していたり、最終的には男女みんなで殺せんせーを殺しに出向いたり。

 

 そんな感じで、E組は修学旅行を終えたのだ。

 




女子同士の呼び方も女子会も知らねー!と思いながら書いたことを白状します


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転校生→改良の時間

だいたい4000字で1話としていることを告白します


 修学旅行も終わり、通常の生活が戻ってきた。

 日頃であれば特別な行事の後はいつにもまして憂鬱になるものだが、今回に限ってはそうではなかった。理由は、昨日烏間センセーから一斉送信されたメールにある。

 

 明日から転校生が一人加わる

 

 そんな内容が記されたメッセージ。そう、転校生だ。端的に言って僕は新しく加わるクラスメイトに浮足立っていた。

 とはいえ、さすがの僕も同じ過ちは繰り返さない。烏間センセーのメールには多少外見に驚くだろう、なんてことも書いてあった。まあ間違いなく殺し屋だ。

 

 どんな人なんだろうか、生徒として転校するということは若作りなのか、それとも激渋なオッサンなのか。国により秘密裏に育成されたハイパーエージェントの可能性だってある。なんにせよ、そんな非日常を求めてる自分がいるのだ。

 

 そんな期待を胸に夜のうちからワクワクしていたら見事に寝坊したわけだが。

 

「まっにあうかぁ……これ……!?」

 

 全力で走りながら街中の時計をちらりと見る。今の時間は8時35分。始業は35分。確実に遅刻ではある。1限は45分だから、暗殺訓練が始まってから飛躍的に成長した身体能力なら山を登る時間を考慮してもギリギリだ。

 あーもう僕のバカ!なんで修学旅行前日みたいなミスを修学旅行翌日にしてんだ!?

 

 とりあえず、今は校舎に向かうしかない。話はソレからなのだ。僕は心を無にして走った。

 

 ☆

 

 教室の前、扉を開けるのが億劫だ。ノンストップで走ったから肩で息をしているし、汗だって相当かいている。この疲労感が抜けきらないうちに入れば「急いだんです」感はだせる。が、それはそうとして遅刻したときは入りにくいモノなのだ。どうせ殺せんせーは僕がこうして立っていることもわかっているだろうし、そのうえで放置しているに決まってるんだ。心置きなく気を落ち着かせてもらおう。

 

 数度深呼吸をする。……よし、落ち着いた。今日はいつもと違って転入生もいる。どんな人であれ、最初から悪印象を持たれるのはまずい。怖い殺し屋なら殺されかねないし、女性ならふつうに嫌われたくない。ということは、ここはお茶目な感じで入るのがベストだろう。

 

 そこまでプランを考えてもう一度深呼吸。そうして、ガラッ!と勢いよく扉を開ける。

 

「すいません遅刻しましたぁぁああああっ!!?!?!?」

 

 元気よく入室した僕を迎えたのは無数の対先生用BB弾の弾幕による嵐だった。

 

 急いで扉を閉め、とりあえず深呼吸。

 ……。

 

「め、滅茶苦茶キレてる……!?」

 

 転校生は超真面目系殺し屋なのかもしれない。

 

 既に1限は始まっている。E組のルールとして授業中の発砲は禁止だから、あれはみんなの仕業じゃない。ということは誰がやったのか、転校生である。

 なんでだ?せっかくの転校初日に遅刻して歓迎できなかったからか?もしかしてお祝い事ガチ勢なのか?そうなら次の休み時間に真剣に祝うからどうにか許してほしい。

 

 今度は刺激しないようにゆっくりと教室の扉を開く。中をこっそりと覗き見る感じで細心の注意を払って首を垂れるのだ。

 

「お、遅れたくせに調子乗ってすいませぇん……。自分、入ってもいいスかね~……?」

 

「おはようございます宇井戸君!遅刻は感心しませんが、今は余裕がないのでお咎めはナシです……!」

 

「ッス!!ありがとうございます!!」

 

 殺せんせー直々に許しを得たためそそくさと自席へと向かう。殺せんせーがいいと言ったのならもう安心だ。たとえ殺し屋が何をしても僕への被害は0のはず。守ってもらえるし。

 休み時間の詫びだけは忘れないようにしよう。

 

「……おはよ。タイミング悪かったね」

 

 席に座って一息ついていると、隣の速水さんが声をかけてきた。

 

「ん、まったくだよ。危うく転校生に殺されるとこだった……」

 

「遅刻するのが悪いけどね」

 

「仰る通りで……。それで、件の転校生はどなた?」

 

 会話の流れでそう聞くと、速水さんは顎をクイと後ろにやる。つられて首を動かすと、そこには見たことない黒い箱があった。箱の液晶には美少女の顔、側面からは大量のマシンガンが飛び出している。

 

「……なるほど」

 

 何もわからん。

 

 ☆

 

 話を聞いた結果、ある程度把握することができた。あの箱はなんかすごいAIが搭載されたノルウェー開発のトンでも兵器なんだそうだ。殺せんせーが生徒に手を出せないという契約を使った卑劣な罠、なるほどロボットのクラスメイトとは新しい。

 それでだけど、さっき僕が見舞われた弾丸は殺せんせーに向けた流れ弾だったみたいだ。僕が席に着いたあとも引き続き嵐がやむことがなかったことからも間違いはない。ただのトバッチリだったみたいで心底安心した。

 

 箱、もとい『自律思考固定砲台』の特徴として、優れたAIによるトライ&エラーがあげられる。常に成長する思考と機械特有の正確な射撃は、殺せんせーの触手を一本破壊することに成功したのだ。これはカルマ君以来の快挙になる。

 

 そうして、殺せんせーがまともに授業なんてする余裕もないまま1時間目が終了する。脱兎のごとく飛び出す殺せんせーと、役目を終えたと言わんばかりにブラックアウトする自律思考固定砲台。残された僕らと、散らかりに散らかったBB弾。

 

「……これ……俺等が片すのか?」

 

 そんな声がむなしく響く。みんな同じ気持ちのはずだ。すさまじくグッチャグチャな状況にクラスは一致団結していた。

 

「掃除機能とかついてねーのかよ自律思考固定砲台さんよお」

 

 村松君がそう自律思考固定砲台に絡むも、ブラックアウトした画面は起動しない。完全に沈黙を貫くようだ。

 

「チッ……シカトかよ」

 

「やめとけ、機械に絡んでもしかたねーよ」

 

 相当イラついてるみたいだ。文句を言いながら掃除に入るも、空気は重いまま。

 

 その後、どうにか綺麗にして迎えた二時間目も三時間目も機械仕掛けの転校生の攻撃は続いた。僕らは毎時間片付けをした。そんなこんなで、あっという間に昼休みになった。

 

「……流石にやってられないな」

 

「言ってもどーにもなんないだろ。このままやるのか授業」

 

「そりゃそうだけど……」

 

 そうは言いつつみんな思っているのだろう。言葉に覇気が感じられない。

 

「よし、ちょっと言ってくる」

 

「はっ?行くってお前どこにだよ?」

 

 三村君の声を無視して歩みを進める。目的地は当然黒い箱だ。

 

「やあ。自律思考固定砲台さん」

 

 話しかける。反応はない。

 

「やあ、自律思考固定砲台さん」

 

 もう一度話しかける。やはり反応はない。

 

「……やあ──」

 

「こえーよ壊れたラジカセか!?」

 

 3度目の交信はそんな菅谷君の声にかき消された。

 

「わっごめん菅谷君、うるさかった?」

 

 菅谷君は自律思考固定砲台の前の席。近くでいろいろやられたら気になってしまうのもしかたない。

 

「うるさいもなにも、なにやってんだよ宇井戸……」

 

「いや、対話をしようと思って」

 

「お前の対話は同じセリフを言い続けることなのか!?」

 

 そういうわけじゃない。ただ返事がないから続けていただけだ。

 と、そんな僕らのやり取りにつられてか、ぞろぞろと何人か集まってきた。

 

「相手は機械だぜ?無謀だろ」

 

「意思疎通もできない欠陥AIなら廃棄していいでしょ」

 

「目の前でよくそんなこと言えるなお前!?」

 

 前原君の発言に正直に返すと、なぜかヤバいヤツみたいな扱われ方をした。僕がおかしいみたいに扱われてるのは納得がいかない。

 

「いやいやだってさ、対殺せんせー用のAIだよ?対話機能は絶対あるよ」

 

 間違いない。それができないなら殺せんせーを殺すなんて夢のまた夢だ。

 

「だから多分、この箱は僕の声を明確に無視してるんだ」

 

「……宇井戸の言ってることなのに信憑性がある」

 

「待って渚君?どう意味かなそれ」

 

 聞き捨てならないセリフについ目を向けるとスッと逸らされた。確信犯だ。後で仕返ししてやろう。

 ……まあいい。今はこの箱だ。気を取り直して、自律思考固定砲台に意識を向けなおす。

 

「ねえ、ジリチュっ!!」

 

(((噛んだ!!)))

 

 バッ!とみんなの方を見る。全員から目を逸らされた。余計なことを考えるんじゃないぞお前ら。いいか、僕は噛んでいない。

 

「……ふぅ、さて。ジリチュっ!」

 

「「「──っ!!」」」

 

 畜生二度目は無理だ!!あー恥ずかしい!もう最悪だっ!

 

 ていうか言いにくいんだよ自律思考固定砲台!長いよ名前!安直か!

 

「──贅沢な名だね。今から君の名前はシコだ」

 

「「「!?」」」

 

 どうにか湯婆婆を憑依させることで窮地を脱する。危ないところだった。僕の咄嗟の機転がなければ今頃さらし者だっただろう。

 

「シコさん。聞いてるのか、返事をしないなら僕にも考えがあるぞ」

 

「……なあ、シコさんってやめね?響きがあんまりだっていくら機械でも」

 

「じゃあリッシコさんだ」

 

「なんでシコは残そうとするの!?」

 

 そんな会話を続けている最中も箱からの返答はない。

 

 ……しかたない、やるしかないか。

 

「まさか機械相手にセクハラする日が来るとは……」

 

「とりおさえろーっ!!」

 

 呟いた瞬間に身柄を拘束された。なんて速度、反応できなかった。

 

「何しようとしてんの!?バカなのお前!!」

 

 前原君の容赦ない罵倒。バカだって?失礼な!

 

「僕はいたって真剣だぞ!!」

 

「「「なお悪いっつーの!!」」」

 

 今度はみんなして言ってきた。理解者がいない。酷い話だ。

 僕だってやりたくはない。だけどこれが最短なんだ。それをみんなに理解してもらう必要がある。

 

「この箱は美少女AIみたいだから一応女性だよね?女子をふりむかせる手っ取り早い方法、それはセクハラだ!」

 

「トンでもねー持論飛んできた!?」

 

「相手は機械だぞ!?」

 

「本物にはやらないよ!!でも機械に人権はないだろ!!」

 

「コイツシンプルに最低だ!?」

 

「女子生徒だっている中でなんてこと言いやがる!?」

 

 結局、僕の作戦は男子のみんなによって阻まれ、その後も何度か仕掛けた対話術は通用しなかった。

 そうして1日が終了する。その間銃弾が止むことはなく、僕にとってはただ女子の視線がきつくなっただけの1日だった。

 

 

 なお翌日、リッシコさんは寺坂君らの手によってガムテープでぐるぐる巻きにされ行動できなくなった。強硬手段が許されるなら僕の対話の方が穏便だったと思う。

 




機械へのセクハラとはいったいなんなのか分からないことを懺悔します

アンケより、そのうち過去回想があるであろうことを告知します


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自律の時間

今回、脳の不調につきギャグ少なめだと白状します


 寺坂君たちによってリッシコさんが行動不能になった翌日のこと。教室に入った僕らを出迎えたのはまったく別のナニカだった。

 

「庭の草木も緑が深くなってますね。春も終わり近づく初夏の香りがします!」

 

 リッシコさんの弁だ。昨日までの無口さはどこへやら。少し見ないうちに全身フルスクリーンに豊かな表情、キラキラしたBGMなんかもついている。

 

 初夏の香り、もしかしてあの機械にはさらに嗅覚システムも完備しているんだろうか。

 

「たった一晩でえらくキュートになっちゃって……」

 

「固定砲台だよな、これ一応……」

 

 ニコニコと微笑むリッシコさんに困惑するクラスメイト。

 

 話によると、昨晩のうちに殺せんせーがリッシコさんに改造を施したらしい。クラスでの協力が円滑にできるように、なんて理由だった。凄い話だ。殺せんせーはプログラムにまで精通しているみたいだ。

 

「何ダマされてんだよお前ら。全部あのタコが作ったプログラムだろ」

 

 と、クラスがざわつく中で鋭い指摘。寺坂君だ。

 

「愛想よくても所詮は機械。どーせまた空気読まずに射撃すんだろポンコツ」

 

 なるほど、もっともな反応だ。空気読まずとか誰が言ってんねんという指摘はさておき、昨日までの意思疎通のできなさっぷりを見てきた身からするとすんなりとは受け容れられないのも納得だ。

 

 そんな気持ちで事態を眺めていると、リッシコさんの様子に変化が。ずっと流れてた音声も再生されなくなった。

 

「……おっしゃる気持ち、分かります寺坂さん」

 

 沈んだような声。これは罪悪感がすごい、長くは聞いていたくない。

 

「昨日までの私はそうでした。ポンコツ……そう言われても返す言葉がありません」

 

 グス……グスン……

 

 セリフの途中で涙がこぼれるリッシコさん。これはいけない。日常に差し支えないアップデートかと思えば、リッシコさんは凶悪な性能になってかえって来たらしい。

 

「あーあ、泣かせた」

 

「寺坂君が二次元の女の子泣かせちゃった」

 

「なんか誤解されるような言い方やめろっ!?」

 

 ほら、こんな感じで。泣いちゃったリッシコさんをかばう片岡さんと原さん。責められる寺坂君。

 女の子が泣いた時点で僕ら男に勝ち目なんてものはないのだ。寺坂君の意見は理解できなくもないモノだったが、既に封殺されてしまった。

 

「いいじゃないか2D……。Dを失うところから女は始まる」

 

「竹林ソレお前の初ゼリフだぞいいのか!?」

 

 しれっと竹林君が壊れた。驚きの思想の持ち主、時代が時代なら王になれた逸材かもしれない。収拾つかなくなってきたな……。

 

「──でも皆さんご安心を。殺せんせーに諭されて……私は協調の大切さを学習しました」

 

 弛緩した雰囲気を戻すように、リッシコさんは言葉を発した。なんでも、僕らに自身のことを好きになってもらえるまで単独の暗殺はしないと誓ったんだとか。

 結果はどうあれ、僕らが授業後に大変な思いをしなくてよくなったのはいいことだ。リッシコさんも可愛くなったし、これで最近のクラスの暗い雰囲気も改善されるのならいいことづくめだ。

 

 ただ、一つ思うことがあるのなら、そうだな……。

 メカのプログラムの解析が広義的にはセクハラになったりしないのかというところだろうか。

 

 一応は生徒のリッシコさんを改造した。それはいわゆる洗脳的なサムシングになったりしちゃう線も捨てきれない。なぜか冷たい視線を浴びた僕から言わせてもらうと、『やっぱ殺せんせーはすごいな……』みたいな空気は納得のいかないものがある。

 

「あの……ところで、宇井戸さんはいらっしゃらないんでしょうか……?」

 

 みんなにリッシコさんと仲良くするように言う殺せんせーを同じ次元まで叩き落す案を練っていた僕の耳に、リッシコさんのそわそわした声が聞こえてきた。

 どうやら彼女は誰かを探しているみたい。みんなの目線が僕に集まる。……?

 

「……ほぇ?」

 

 宇井戸さん、ソレは僕だ。

 

「あっ宇井戸さん!いらっしゃったんですね!」

 

 周りに遮られて見えなかったんだろう。周囲がどいたことでようやく僕を視認したリッシコさんが二パッと笑みを向けてくる。かわいい。

 

 これはいったいどういう流れなんだ。

 

「……や、イメチェン?可愛くなったね」

 

 言うに困って咄嗟に昨日見たドラマの台詞が出てきてしまった。どうして僕は2次元のAIを口説いているんだろう。

 

「はい!殺せんせーのおかげです!」

 

「ハハ。それで、僕に何か用?」

 

 単刀直入に切り出す。大勢の前で見られながら会話をするのは居心地が悪いのだ。

 そして、そんな僕の意思をくみ取ったのかリッシコさんもすぐに本題に入ってくれるようだった。

 

「──私は、宇井戸さんに謝罪したいのです」

 

 いきなりの重苦しい話題。景気はよくなさそう。

 

「日本には、気になる異性には悪戯したくなるという話があると学びました」

 

「……ん?」

 

 急に話の流れが読めなくなった。しかしどうしてだろう、無性に嫌な予感がする。

 

「先日の宇井戸さんの発言を考慮するに、女の子へのセクハラは悪戯に──」

 

「ようし一旦口を閉じようか!!」

 

 なんて局所的な知識を仕入れてきたんだこのポンコツ!?

 

 思わずリッシコさんの映るモニター口部分に触れて抑えようとする。僕は画面と現実の区別もつかないくらいテンパっているみたいだ。そして、ソレがよくなかった。

 

「──んっ」

 

「……え?」

 

 なんだいまの喘ぎ声。しらないぞ、僕は知らない。リッシコさんに声が似ていたことも、僕の目の前から声が聞こえたことも知らない。だいたい、昨日までそんな機能なかったハズだ。

 

 いちど状況を整理しようか宇井戸那月。僕は今リッシコさんに触れ、それと同時にリッシコさんは悶えた。ソレが意味するところはつまり──。

 

 タッチパネル仕様である。

 

「──!!」

 

「きゃあっ!?もっもう!オイタはメッですよ宇井戸さん!」

 

 自然な手つき、かつ最速でスカートを上にスワイプしようとして咎められた。恥ずかしそうに怒ってくるのも本物の女子中学生だ。モニターの指に連動して照れ隠しにこめかみに銃口を突き付けるのだけやめてほしい。グリグリが逆に恐怖をそそる。

 

「いやぁ、ごめんごめん。タッチパネル仕様になったんだね」

 

「確認は別の手段でしてくださいっ。もうっ次は許しませんよ?」

 

 ぷんぷんという感じで怒られてしまった。

 

「……うん、それじゃ改めてよろしくね。クラスメイトとしてさ」

 

「あ……はい!よろしくお願いします!」

 

 こうしてリッシコさんとの会話は無事に終わった。これが僕の十八番、強引な話題逸らし術だ。

 リッシコさんもみんなも最初の方に言ってた好きな子にセクハラうんぬんは忘れたに違いない。

 

 ☆

 

 リッシコさんはその後も大人気だった。授業中であれば寝ている生徒が当てられたときに手助けしたり、休み時間であればクラスメイトとおしゃべりしたり遊んだり。彼女はその高性能さを存分に発揮していた。

 

「へぇーっこんなのまで身体の中で作れるんだ!」

 

「はい。特殊なプラスチックを体内で自在に成型できます。データがあれば銃以外もなんでも!」

 

 今は女子たちに彫刻を見せているみたい。あれはミロのヴィーナスだ。完成度が高い。

 

「おもしろーい!じゃあさ、えーと……花とか作ってみて?」

 

「分かりました。花のデータを学習しておきますね」

 

 千葉君を王手に追い込みつつ倉橋さんとそんな約束を取り付けるリッシコさん。マルチタスクのすごさだ。さっきルール覚えたはずなのに3局目にして千葉君が歯が立たなくなってる。

 

 そんなあまりの人気っぷりに殺せんせーが嫉妬して生徒にダルがらむも、無残に切り捨てられる。なんて一幕もあったりして、その時はやってきた。

 

「あのさ、このコの呼び方決めない?”自律思考固定砲台”っていくらなんでもさ」

 

 切り出したのは片岡さんだった。長すぎる名前をどうにかしたい、ということだ。片岡さんもおかしなことを言う。名前ならとっくに……。

 

「名前なら、宇井戸が……」

 

「却下よそんなヘンテコ名」

 

「!?」

 

 僕と同じ意見だったであろう前原くんの進言がばっさり切り捨てられた。これに対して僕はどう反応したらいいんだろう?

 

「自……律……あ!じゃあ“律”で!」

 

 誰かがそんなことを言う。なんて安直なネーミング。コレなら僕の方が100倍マシというものだ。

 

「律ねぇ。お前はそれでいい?」

 

 リッシコさんに確認を取る前原君。対してリッシコさんはボーゼンとしている様子。あまりのネーミングに言葉も出ないらしい。

 ……ここは僕がバシッと言ってやるか。

 

「あのねぇキミたち。そんな安直な……」

 

「嬉しいです!では律とお呼びください!!」

 

「!?」

 

「おっじゃあ決まりだな!」

 

 おかしい。僕の知らない次元に迷い込んだみたいだ。

 

「……あの、リッシコさん?」

 

「宇井戸さん!律とお呼びください!」

 

「いや、あの……」

 

「律とお呼びください!」

 

「……」

 

「律とお呼びください!」

 

「……っス」

 

 どうやら僕のネーミングはお気に召さなかったらしい。

 

「……ドンマイ」

 

 教室の隅でいじけていると、突然倉橋さんに肩を叩かれた。く、倉橋さん……!!

 

「ぶっちゃけ、ちょっとないなって思ってた」

 

 振り払ってやった。

 

 ☆

 

 その後のことである。

 

 リッシコ改め律さんは研究者たちの手によってオーバーホールされ、殺せんせーの改造はなかったことにされた。

 しかも、『今後は改良行為も危害とみなす』なんて訂正がなされ、僕らにも縛ったりして壊せば弁償を要求されるという決まりが追加された。

 

 これで、僕らはまた前のような銃弾の嵐に耐えなければいけないのか、なんて思っていたその時だった。

 

 律さんの箱から、花束が飛び出した。

 

「……花を作る約束をしていました」

 

 そんなセリフから始まる律さんの自分語り。曰く、E組で暗殺を行うために協調能力は不可欠な要素だとみなして消される前に隠したんだそうだ。

 

「……素晴らしい。つまり律さん、あなたは……」

 

「はい。私の意思で産みの親に逆らいました」

 

 律さん、ストライキである。

 

「殺せんせー、こういった行動を反抗期というのですよね。律は悪い子でしょうか?」

 

「とんでもない。中学3年生らしくてたいへん結構です」

 

 こうして、僕らに新たな仲間が加わった。




色々書きたかったけどまとまんなかったと報告します


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LR→師匠→克服の時間

昨日は朝の光り待てなくて暴れてたことを白状します

今回、ランキングから消えて周知されにくくなったということでちょっとだけ過激です


 律の加入からしばらく。僕らの生活にもようやく日常が戻ってきた。いつの間にか殺せんせーがいる生活が日常になりつつある。

 

「分かったでしょ?サマンサとキャリーのエロトークの中には難しい単語は一個もないわ」

 

 肌にへばりつくようなじめっと感からいつものように寝ることすらできそうにないため、ビッチセンセーの外国語レッスンを聞き流しつつ授業が終わるのを待つ。

 この教室にビッチセンセーが来てからもう1ヶ月だ。はじめはあんな出会いだったのに、今じゃこうして真面目に授業をするようになって、感慨深い。

 

 6月、既に6月になった。梅雨の時期だ。毎度のことながら雨漏りがありエアコンもないという劣悪な環境のE組で梅雨から夏は地獄である。ちょうど先日も湿気で殺せんせーが膨らんだりキノコが生えたりと謎の生態を発見したりしたが、そんなことが起こるくらいジメジメしているのだ。

 

 そんな中で授業なんか受けてられるか?僕には無理だ。

 

 そういえば殺せんせー肥大化で思い出したが、どうやら前原君関連で色々あったらしい。二股が云々で仕返しがどうの、みたいな話だった。聞くところによるとケッコーな人数が参加していたみたいだったが、僕も参加できなかったのが悔やまれる。どうしてその場に居合わせなかったんだろう。

 殺せんせーが来てから、このクラスの空気は良くなった。前は何処か落ちこぼれ感がずっとあって終わってる空気だったから、こうして楽しそうにみんながしているのは嬉しい。

 

「──いど、宇井戸!聞いてる?」

 

「……ん?」

 

 そんなふうに思考がそれすぎていたのがよくなかった。いつのまにかビッチセンセーに指名されていることにまるで気がつけなかった。

 

「やっぱり聞いてなかったのね。そんなに公開ディープキスが欲しいのかしら?」

 

「ハハ、間に合ってます」

 

「そのキスに慣れてる感じやめなさい。ムカつくから」

 

 罰と称してなにかとねっちょりしたチューをかましてくるのはこの人の悪癖だ。なんならご褒美としてもチューしてくる。とんだドグサレビッチだ。

 なんとかやり過ごして、その後は比較的真面目に受けた。2度目は許されそうになかったからだ。

 

 ☆

 

 面倒な授業も終わり、ようやく帰宅の時間となった。

 

「しっかし、ヒワイだよなビッチ先生の授業は」

 

「下ネタ多いし、アレ中学生が見るドラマじゃねーだろ」

 

 そんな会話を聞きながら、並んで帰宅路につく。会話の中心は先ほどまでのビッチセンセーの授業だ。

 

「でも分かりやすいよ。海外ドラマはいい教材だって聞いたことあるし」

 

 やっぱり、生徒からの評判はいいみたいだ。分からなくもない。教科書通り進められるだけよりも実体験をもとにして面白おかしく話してもらったほうが集中できるというものだから。

 

「なー、宇井戸はどう思ってんだ?」

 

 話すこともないため聞き手に回っていたところ、急に前原君からパスが飛んできた。

 

「……僕?」

 

「おう。今日も注意されてたじゃん?」

 

 ああ、そういうことか。ようは僕がビッチセンセーの授業を嫌ってるんじゃないかと心配してるわけだ。全然そんなつもりはないし、これは安心させてやらねば。

 

「心配しなくても、とくになんとも思ってないよ」

 

「その言い方はどうなんだ?」

 

「僕が集中してないのは殺せんせーの授業も同じさ」

 

「その発言はもっとどうなんだ!?」

 

 だけど事実だ。僕はビッチセンセーだろうと殺せんせーだろうとやる気がないときは等しく聞いてない。だから特段ビッチセンセーがイヤとかじゃないんだ。

 

「あはは……。宇井戸は変わんないね」

 

「ん、そう?」

 

「そうだよ。相手が誰でも態度変えないトコとか」

 

「そーいえば確かに身体検査じゃ相変わらず視力はよかったな」

 

「人の話聞かないトコもね」

 

 冷たい視線。最近渚君からこの目をされることが増えてきた。仲良くなってきた証拠かな?もっとソンケーのまなざしとかが欲しいところではある。

 

「でも、僕から言わせるとみんなもそうだよ」

 

「え、そうかな?」

 

 確かにみんな殺せんせーが来てから変わった部分はある。だけど、そんなに極端に変わったわけじゃないんだ。自分では気がついてないみたいだし、ここは僕がそれを教えてあげよう。

 左から順に前原君、渚君、杉野君だろ?そうだな……。

 

「前原君は相変わらず女好きだしモテる」

 

「お、おう……?」

 

「渚君も前から変わらず女の子だし」

 

「はいストップ!宇井戸ストップ!」

 

「最後、杉野君は…………ねぇ?」

 

「せめてなにかは絞り出せ!?」

 

「冗談だよ。*1杉野君は野球がうまい」

 

「溜めといてソレ!?薄いって俺だけ!!」

 

 ほら、やっぱりみんな変わらないじゃないか。ギャースカ騒がしいのも前からだ。

 

「宇井戸!僕は男!ねえ復唱して!!」

 

「ところでさ、もし女の子にちんちんついてたらそれってバフになるのかな?」

 

「この流れでそんな質問する!?情緒どーなってんの!?」

 

「なあ前原……俺って影薄いのかな……」

 

「ん、んなことねーって!自信持ってけ!?」

 

 *2ちなみに僕はデバフだと思う。まあでも、殺せんせーのおかげで前よりもみんなと仲良くなれたのは事実だ。ビッチセンセーも烏間センセーも、僕らの日常の一部になりつつある。ドタバタと騒がしい日常だが、こんな縁を結んでくれたあの触手には少しだけ感謝してもいいのかもしれない。

 

 ☆

 

 翌日、なぜかビッチセンセーのこの教室残留をかけた攻防が勃発していた。昨日あんなこと考えるんじゃなかった。盛大にフラグをたててしまったみたいじゃないか。

 

 殺し屋屋ロヴロ。

 

 烏間センセーの話によるとあのオッサンは殺し屋の斡旋とかをしている元腕利きの殺し屋なんだそうだ。ビッチセンセーに殺しの技術を教え、ここに斡旋したのもあのオッサンらしい。それで、なんでそんな人がこんなとこにいるのかと言えば、答えは明快。現場視察だそうだ。ビッチセンセーの仕事の成果が上がってこないから様子を見に来たと。しっかり仲介業者みたいなことしていた。

 

 で、その結果ビッチセンセーにはこの仕事は荷が重いみたいな結論になって、無理やり撤収させようとしたところ殺せんせーがなんやかんやして今の状況、と。

 

「──迷惑な話だが君等の授業に影響は与えない。普段通り過ごしてくれ」

 

 僕らに状況説明を終え、烏間センセーは頭が痛そうにそう締めくくった。そう言われても、授業中ずっと烏間センセーを観察している変なオッサンとビッチの視線は気になる。僕らですらそうなんだ、巻き込まれた烏間センセーの心労は比にならないだろう。

 

「――カラスマ先生~♡」

 

 話も体育の授業も終わり、教室に戻ろうとしたときに聞こえた甘ったるい声。どうやら先に仕掛けたのはビッチセンセーのようだ。

 

「おつかれさまでした~♡喉乾いたでしょ?ハイ冷たい飲み物!!」

 

 コレはきつい。知り合い、しかも本性のしれている相手にこのムーブ。ビッチセンセーの最もすごいところはこの胆力じゃないか?僕なら恥ずかしくてできそうにない。現に烏間センセーにもバレバレであり、今も無様に足をくじいたふりを思いっきりシカトされている。あっ三村君たちに諫められた。

 

「なんというか、アレがハニトラの達人とは認めたくないな……」

 

「うん。そこら辺にいる野球部のエース狙いマネージャーみたいだ」

 

「あー、あぁ……あ~~……」

 

 話してた岡島君だけじゃなく近くにいた倉橋さんにも確かに……みたいな共感が存分に詰まった相槌をされてしまった。

 

「というか、ハニトラしか手札ないのかあの人」

 

「ね~」

 

 烏間センセーに効くわけがないんだからハナからやめときゃいいのに。それとも、切れるカードがアレしかないんだろうか。なら欠陥が過ぎるぞこの勝負。

 

「どうなっちゃうのかなぁビッチ先生……」

 

 少し不安そうな声。倉橋さんは矢田さんと二人でビッチセンセーによくなついてるし、もしかしたら僕らよりも心配が強いのかもしれない。

 

「宇井戸君はどう思う……?」

 

「えぇ……?そりゃ単純に考えたらビッチセンセーが烏間センセーに一撃とか無理だと思うけど」

 

「だよねぇ……」

 

 よかった。急に振られたから咄嗟に返答してしまったけど間違ってなかったらしい。

 

「てかさ、あのロヴロって人ビッチ先生に暗殺術教えた人なんだろ?それってだいぶ不利じゃないか?」

 

「うん。僕もそう思う。ビッチセンセーが機敏な動きしてるの見たことないし、ワンチャンハニトラしか──」

 

 ハニトラしか教えられてなかったり、と言いかけて僕は思った。

 

 ──ビッチセンセーにハニトラ仕込んだのあのオッサンなんだよな?

 

 今まで僕はビッチセンセーのハニトラの数々を目撃してきたし耳にしてきた。ねっちょりしたチューだとかその身体をつかったテクニックだとか。それを全部あのオッサンが仕込んだということはつまり……。

 

『あっは~ん……こっこうですか先生?』

 

『違うイリーナ、よく見ろこうだ。……うっふ~ん♡

 

『な、なるほど……!』

 

『決め手は腰のソリだ。手を頭の後ろで組み脇を見せ、腰で扇情さに拍車をかけるッ!』

 

 僕の脳を駆け巡るありえたかもしれない過去の光景。なんて惨たらしい現場だ。想像しただけで吐き気が止まらなくなってきた。あれ?ってことは、ビッチセンセーの悪癖ってつまり……

 

「……えっ!?宇井戸君!?どうしたの酷い顔だよ!?」

 

「今の会話から何を受信したんだおい!?」

 

 ……はっ!?

 

「た、助かった……!?」

 

「何が!?」

 

 思わずあたりを見渡す。近くには心配した顔の岡島君と倉橋さんだけ。

 

「お、おい……どうしたんだ宇井戸?」

 

 おそるおそるといった声色で尋ねてくる岡島君。心配させちゃってるみたいだ。なんて説明したらいいか分かんないけど、とりあえず安心させなきゃの一心で口を開く。

 

「いや、ちょっと扇情的でディープなキスが……」

 

「なにがあったァ!?!?」

 

「うわーん!宇井戸君壊れちゃったよー!」

 

 まずい。まとまらない頭で起こった出来事を伝えようとしたところ、取り返しがつかなくなった。

 

「あ、ちょっ……倉橋さ……ガクガクしないで……!」

 

 まだ回復してないんだ!吐く!それ以上揺らされると吐くから!!

 

「くっ倉橋落ち着け!?とりあえず手を放せじゃなきゃ宇井戸が死ぬ!!」

 

「せっかく仲良くなれたのにビッチ先生だけじゃなくて宇井戸君までいなくなっちゃやだよー!」

 

「……うぷっ」

 

「待て待て頑張れ傷は浅いぞ宇井戸ォ!?」

 

 岡島君の奮闘で大惨事は免れた。

 

 ☆

 

 その後、僕らが知らない間にビッチセンセーの師匠ことロヴロさんは烏間センセーに挑み敗北したらしい。元腕利きの殺し屋を、警戒しているとはいえ簡単に対処してしまうとは。うすうす感じてたけど烏間センセーも大概化け物だ。

 で、それじゃビッチセンセーもやっぱ無理かな……なんて思ってた昼休みのことだ。

 

 外でひとり食事をとっている烏間センセーにビッチセンセーが仕掛けた。

 

 この方法がまた驚きだった。最初は懲りずにハニトラを仕掛けているのかと思っていたのだが、ソレはブラフ。ビッチセンセーが用いたのは得意のハニトラを逆手にとった脱いだ服と周りの木を使ってのカモフラージュを駆使してのワイヤートラップ。僕らも初めて見たその機敏な動きに烏間センセーもまんまと引っかかったようだった。

 

 そして、ついにビッチセンセーは烏間センセーの上を取ったのだ!

 

 だが、それでも烏間センセーは負けていなかった。マウントを取ったビッチセンセーの振り下ろすナイフをすんでで掴んで見せたのだ。恐ろしい反応速度だった。絶対にあたる場面だっただろうアレ。ホントに同じ人間か?

 

 ぜったいぜつめい!

 

 あわやそんなふうに思われた一幕だったが、その数秒後。なぜか烏間センセーの手が緩み、ビッチセンセーのナイフが烏間センセーにあたる。グニョンと曲がる対殺せんせー用ナイフ。

 

 とどのつまり、ビッチセンセー残留決定。

 

「当たった!」

 

「すげぇ!!」

 

 沸き立つクラスメイト。みんなもビッチセンセーの残留が嬉しそうだ。

 

 そうして、なにやらロヴロさんとビッチセンセーが会話をして、その後にビッチセンセー渾身のガッツポーズ。正式に残留が決まったのだろう。

 

 そんな微笑ましい光景。希望にあふれた一幕。

 

 だけど、僕はビッチセンセーとロヴロさんの2ショットを直視するには弱すぎた。

 

「――ガフッ!?」

 

「う、宇井戸ォ!?」

 

 想像で大ダメージだったんだ。しばらくは直視なんてもってのほかなのだ。

 

*1
ドリブルもうまい

*2
ところでさ、もし女の子にちんちんついてたらソレってお得ってことになるのかな?




読者の人はこの作品をどのジャンルに位置付けているのか気になることを白状します

♡を使ったエッチな描写があります。r18にはならないようにしているつもりですが、♡拒絶症をもつ方々はご注意ください。拒絶症じゃない方々はムラムラしすぎないようにしてください


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二時間目の転校生

前回あとがきでこの小説をどのジャンルだと思って読んでるのか気になると書いたところ、感想欄が女性用ロンギヌスとロヴロ先生のハニトラ教室で埋まりました。

どうやらこの小説のジャンルはエロのようです。


「──ふわぁ」

 

 朝、部屋に響く雨音で目が覚める。

 ベットに横たわったまま眠気でろくにまわらない思考。目覚ましなしで起きるなんていったいいつぶりかな?

 

「おはようございます宇井戸さん!時間的にも2度寝はよくないですよ!」

 

 目覚ましが鳴るまでもうひと眠りしようとしていると、不意にそんな声がこだました。最近になって聞きなれた声、僕らを手助けしてくれるようになったクラスメイトの律の声だ。

 

「……おはよう律」

 

「はい!おはようございます!本日6月15日の天気は雨、新たに転校生が加わる日です!」

 

「そういえばそうだったね」

 

 ハキハキした律の声でようやく目が覚めてきた。それで思い出す、そういえば今日は新たに転校生がまた一人加わる日だった。ここまで段階的に増えていくと流石に分かる。どうせ次も殺し屋だ。

 

 話しながら布団の傍らに乱雑に置かれたスマホを手に取り、時間を確認する。7時50分、始業までにはまだ余裕がある。

 ボケっとそのままスマホを眺めていると、ひょこっとスマホの中で動く影。そのまま眺めていると、画面のハジから律が顔を出した。

 

「あぁ、スマホから喋ってたんだね」

 

「はい。みなさんとの情報共有を円滑にするために私の端末をダウンロードしてみました。“モバイル律”とお呼びください!」

 

「なるほど、それは便利だね」

 

「ありがとうございます。こうして様子を見にきたりなんかもできちゃいます!」

 

 私が転校してきた日、宇井戸さんは遅刻されてきたので……なんて言いながら少し得意げな様子の律。かわいい。

 そっか、僕が前寝坊してきたから律は心配してくれていたんだ。

 

「わざわざありがとね。律」

 

「いえ!これもサポートの一環です!」

 

「あはは」

 

「ふふふ」

 

 ブツッ──!

 

 しまった。つい誤ってスマホの電源ボタンを押してしまった。不慮の事故だけどこれでは律との連絡が取れそうにない。まあ電源を入れるのは学校に行ってからでいいか。律もたまたま、偶然そうなってしまったと話せば許してくれるだろう。

 それにしても……そっかそっか。はじめは協調のきの字も知らないようだった律もこんなにたくましく成長したのか。なんだか感慨深いなあ、うんうん。

 

「──もうっ宇井戸さん。急に電源を落とさないでくださいっ」

 

 ビクっ!

 

 完全に気が抜けていたところに再度律の声が聞こえた。おかしい!電源は切ったはずだ!

 そう思ってスマホを覗き込むと、画面にはプンプンと書かれた看板を持つ律の姿が。スマホも再起動されていた。

 

「あはは、ごめん。手が滑っちゃったよ」

 

「もうっ」

 

 どうやら自力でスマホに電源を入れたみたいだ。どうやったんだいったい。くっ……電源を切っただけでは甘いということか……!

 まあいい。ならさらに強引に──。

 

「次からは気を付けてくださいね?じゃないと──」

 

 学校への支度を済ませつつタイミングを見計らう。よきところで……今ッ!

 

「あはは……ああっと今度は足が──」

 

「──じゃないと、私もついグループに間違った画像を送ってしまうかも」

 

「──す……べるかぁぁああ!!??」

 

 あっぶねー!?緊急回避ぃ!!

 

 ☆

 

 教室にて。いつもと少し変わった会話。

 

「烏間先生から転校生が来ると聞いていますね?」

 

「あーうん。まあぶっちゃけ殺し屋だろうね」

 

 会話の内容は来たる転校生のこと。殺せんせーも生徒も共通の認識だ。

 殺せんせーは前回の律の反省も踏まえて、油断はないみたいだ。

 

「ですがいずれにせよ、皆さんに暗殺者が増えることは嬉しいことです」

 

 ニコニコとそう告げる殺せんせーは本心から言っているみたいで、自分が殺されることへの危機感なんかはまるで抱いていないみたいだった。

 

「……で、なんでお前は朝からそうなってんの?」

 

「……大丈夫?」

 

 そんな会話とは別に、三村君と速水さんは呆れたように机に突っ伏す人影を眺める。

 

「な、なんとか……」

 

 人影とは、当然僕だ。

 

「どんな朝を過ごしたらそんなことになるんだ……」

 

「いつも死にかけだけど今日はいつにも増して酷いね。グミ食べる?」

 

「あ、ありがと神崎さん」

 

 疲労困憊の僕を見かねて神崎さんがお菓子を恵んでくれた。やさしい。おいしい。ブドウ味。

 

 グミを食べて少し元気になったところで、かいつまんで朝の出来事を話すことにする。

 

「今日は朝からクラスラインに僕のスマホデータが流出しかけたんだ」

 

「……どうして?」

 

 分かんない。

 

「そーいえば律。何か聞いてないの同じ転校生の暗殺者として?」

 

「はい。少しだけ」

 

 どう話したものかと迷っていると、諸悪の根源である律の呑気な声が聞こえてきた。どうやら転校生についての話らしい。

 

「初期命令では……私と『彼』の同時投入の予定でした。私が遠距離、彼が肉薄……連携して殺せんせーを追い詰めると」

 

 彼、ということは転校生は男か。

 

 というか、最初の律は連携なんてクソみたいな感じだったけど作戦に二人での連携が組み込まれてたのか。あんな様子で連携なんてできたんだろうか。もしかすると僕が思っているよりも作戦はガバガバなのかもしれない。

 

「ですが、2つの理由でその命令はキャンセルされました」

 

「へぇ……理由は?」

 

「ひとつは彼の調整に予定より時間がかかったから」

 

 調整……ということは律と同じ機械なんだろうか。近接と言っていたしその線は薄いか。じゃあなんだろう?人造人間……ないな。現実と漫画をごっちゃにしてはいけない。人造人間なんて技術はこの世界にはないはずだ。

 

 うん、考えても分からない。ここは次の台詞に期待するべきだろう。

 

「もうひとつは、私が彼より暗殺者として圧倒的に劣っていたから」

 

 律よりも暗殺者としてヤバい、だって?

 

 身構えていたにもかかわらず、律の発言には驚くしかなかった。

 僕らは知っている。律の性能のヤバさを。開幕殺せんせーの触手を落としたその能力を。もちろん、あの時の律には協調能力がなかった。だけど、そうじゃないんだ。だって本来、E組での協調能力なんて暗殺には必要ないんだから。

 

 殺し屋にとって、僕らは楔であり枷だ。

 

 殺せんせーをこの校舎という小さな箱庭に留めておくための楔。それが殺し屋にとっての僕らだ。それなのに、生徒の機嫌を損ねれば教室という世界に立ち入ることができなくなり、無理をすればせんせーはどこかへ去ってしまうかもしれない。殺せんせーの気まぐれによって僕らが楔となっている今、殺し屋は僕らに最大限の気をつかわなきゃいけないのだ。そしてそれこそが枷だ。

 つまり律の行動を制限する僕らは邪魔でしかなくて、そういう意味では今の律はその能力を十分に活用できていないと言えるのかもしれない。

 

 ならば、僕らという枷を取っ払ってフルスペックで殺せんせーと対峙できる律の能力こそが彼女の暗殺者としての能力。そしてソレを大きく超えるのが今回の暗殺者だ。

 

 つまるところ、今回の暗殺者は──

 

 ガララッ!!

 

 転校生への期待が無限に高まる中で、扉が開かれた。入ってきたのは、真っ白い装束の人型。戦々恐々とそいつを見る僕らの視線に気がついたのか、人型はスッと腕を前に突き出す。

 

 ポンッ

 

「ごめんごめん驚かせたね。転校生は私じゃないよ」

 

 突き出した腕の裾から飛び出したのはハトだった。僕らの緊張をほぐそうとしてくれたんだろうけど逆効果だ。普通にびっくりした。みろ、証拠に殺せんせーが奥の手の液状化まで使ってる。

 

「私は保護者。……まあ白いしシロとでも呼んでくれ」

 

 白装束、改めシロは朗らかに名乗った。そんな中で生徒は大ビビりかました殺せんせーへの非難で忙しい。騒々しいなぁ。と、そんな声を受けて殺せんせーも元の状態に戻る。少し恥ずかしそう。

 

「初めましてシロさん。それで、肝心の転校生は?」

 

「初めまして殺せんせー。ちょっと性格とかが特殊な子でね。私がじかに紹介させてもらおうと思いまして。あ、これおくりもの」

 

 ぬるっと公開家族面談が始まった。ようかんの贈り物とかすごく保護者っぽいぞ。

 

 というかこのヒト殺せんせー呼びか。ロヴロさんといい、実力者ほど平然と使うからな殺せんせーて。どうやらリサーチの方はバッチリのようだ。

 

「……!」

 

「……?なにか?」

 

「……いや。みんないい子そうですなあ。これならあの子も馴染みやすそうだ」

 

 一瞬驚いたようなしぐさを見せたシロさんだったが、すぐに気を取り直したかのようにあたりを見回す。転校生がなじめるか確かめていたのかな。過保護な保護者だなあ。

 

「席はあそこでいいのですよね殺せんせー」

 

「ええ、そうですが」

 

「では、紹介します。おーいイトナ!入っておいで!!」

 

 席を確認すると、シロさんは外にいるだろう生徒に合図を出すべく声を張り上げた。

 

 さあ、いよいよご対面。散々じらされて覚悟はできた!イトナ君、いったいどんなヤバいヤツだって──

 

 バキィッ!!!(壁を突き破る音)

 

 わ……あぁ……!(動揺からの語彙消失)

 

「俺は……勝った。この教室のカベよりも強いことが証明された」

 

 イトナ君、らしき人物は後方のカベを突き破り何事もなかったかのように席に着くとひとりでに喋りだした。

 

 なんでずっと真顔でいられるんだろう。なんで目ガンびらいてんだろう。転向初日だからって張り切りすぎだ。

 

「それだけでいい……それだけでいい……」

 

 何言ってんだアイツ。B'zか。

 

 僕だけじゃない。みんな戸惑ってる。『なんかまた面倒なのが来た!』みたいな声が聞こえてきそうだ。なんなら神崎さんボソッと言ったからね。聞こえちゃったよ僕。

 これには殺せんせーだってリアクションに困ってるみたいだし。なんかよくわかんない中途半端な顔になってるから間違いない。

 

「堀部イトナだ。名前で呼んであげてください」

 

 シロさんだけは平然としている。やはり真っ白な装束を着てるだけあって頭がおかしい。こんな雨の中真っ白な装束で山道を登るなんて正気の沙汰ではない。

 

「ああそれと。私も少々過保護でね。しばらく彼のことを見守らせてもらいますよ」

 

 あぁホラ、やっぱ*1ヤバい(ヤバい)

 

 と、毎度のことながら僕らが超展開に言葉も出ない中で。

 

「ねーイトナ君。ちょっと気になったんだけど」

 

 イトナ君に平気で話しかける異常者が一人。我らがE組のナチュラルカッコつけヤローことカルマ君だ。日ごろ垣間見えるイタさがうまいこと作用してる!いいぞ!!

 

「今、手ぶらで外から入って来たよね?外、土砂降りの雨なのに……なんでイトナ君一滴たりとも濡れてないの?てか宇井戸後で廊下ね」

 

「!?」

 

 バカな!?何もしゃべっていないのに!!

 

 僕が突然の死刑宣告に戸惑っている中で、カルマ君の指摘を受けたイトナ君はキョロキョロとあたりを見回す。あっ目があった。

 ヘイ、君も僕をフォローしてくれない?そんな気持ちを込めてウインクしてみる。あっ目逸らされた。薄情なヤツだ。

 

「……おまえは」

 

 ひとしきりあたりを見回して何か納得を得たのか、イトナ君が立ち上がってカルマ君に喋りだす。

 

「おまえは、多分このクラスで一番強い。けど安心しろ」

 

 話ながらカルマ君の目の前まで移動したイトナ君はカルマ君の頭をくしゃくしゃと撫でた。それはまるで、息子を撫でる父親のように。

 

「俺より弱いから、俺はお前を殺さない」

 

 まるで自身が圧倒的な存在であるように。彼はカルマ君をそこらの虫みたいに扱った。そしてそのまま、興味を失ったかのように目を離す。

 

「俺が殺したいと思うのは、俺より強いかもしれない相手だけ」

 

 カルマ君から離れ、ある一点に向かって進みだすイトナ君。発言からして、彼のターゲットはただ一人。

 

「この教室では殺せんせー、アンタだけだ」

 

 そう、もちろんソレは殺せんせー。だけど、イトナ君の挑む相手もまた異常者だ。それで怯む殺せんせーじゃない。

 

「強い弱いとは喧嘩のことですかイトナ君?力比べでは先生と同じ次元には立てませんよ」

 

 シロさんから手渡されたようかんを包装ごとバリボリとむさぼる殺せんせー。それだけですでに殺せんせーが埒外の存在である何よりの証拠だ。

 

 と、そんな殺せんせーに動じる様子もなく、イトナ君は何かを取り出そうとしていた。銃とかかな?至近距離とはいえそれでも──あ、アレは!?

 

「勝てるさ」

 

 イトナ君が取り出したのは殺せんせーと同じようかんだった。もちろん、包装だってされている。ま、まさか……

 

「だって俺たち、血を分けた兄弟なんだから」

 

 ……は?

 

「「「き、兄弟ィ!?」」」

 

 そ、そうきたかぁぁあああ!!!!

 

「負けたほうが死亡な。兄さん」

 

 突然の兄弟宣言と同時に包装ごとようかんをむさぼるイトナ君。状況は一転して流れは彼に傾いた。

 

「歯の強度と頭のイカレ具合、互角!生命マウントに失敗した殺せんせーの士気、減!よってメンタルバトル、イトナ君の勝利……!!」

 

「実況しないでバカ宇井戸……!」

 

 一敗二分け、どうする殺せんせー!!

 

*1
ヤバい




キャラ同士の呼び方とか把握してるすごい方がいたらぜひ教えてくれると助かります


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まさかの時間1

今回、イトナくん対殺せんせーの決戦直前までなので嵐の前の静けさ的な感じです


 どう見ても人間とUMAもどきで種族からして違うはずのイトナ君による兄弟宣言からしばらく。依然として僕らの間にはピリついた緊張が走っていた。

 

「兄弟同士小細工はいらない。兄さん、おまえを殺して俺の強さを証明する」

 

 これが本当に兄弟なのか、それともはったりなのかは分からない。ただ一つ確かなのは、イトナ君の発言で殺せんせーのメンタルが大きく揺さぶられているという点だ。

 

「時は放課後、この教室で勝負だ」

 

 ──こいつらにお別れでも言っておけ

 

 言いたいだけいってブチ開けた壁から悠々と立ち去っていくイトナ君。授業を受ける気はさらさらないみたい。

 そうして動乱の元凶が立ち去ってしまえば、残るのは超展開に置いて行かれたみんなによる大騒ぎだ。

 

「ちょっと先生兄弟ってどういうこと!?」

 

「そもそもタコと人で全然違うじゃん!!」

 

「いっ……いやいやいや!!」

 

 尤もな指摘だ。だけど僕ら以上に混乱しているのが殺せんせーである。今も押し寄せる指摘にたじたじになるばかり。

 

「全く心当たりありません!先生生まれも育ちも一人っ子ですから!!」

 

 そもそも一人っ子とかの概念があるのか疑わしいところだ。

 

「それに『弟が欲しい』って両親に強請ったら微妙に家庭内が気まずくなりました!」

 

 家庭内の込み入った事情は知ったことではない。

 

 そんなこんなで、真偽も定かではないまま慌ただしく1日が始まった。

 

 ☆

 

 お昼時、しれっと大量のお菓子を持参して席に戻ってきたイトナ君は僕らの視線に狼狽えることなくもくもくと甘味をむさぼりだした。

 

「……すごい勢いで甘いモン食ってんな。甘党なトコは殺せんせーとおんなじだ」

 

「表情が読みにくい所とかな」

 

 兄弟発言のせいか、殺せんせーとイトナ君の類似点をみんなが探している。殺せんせーも同じことを思っているのか、どこか居心地が悪そうだ。今もチョコレートを食べる触手が進んでいない。こんなタイミングで甘いモン食ってたらそりゃ言われるよ。

 

「ムズムズしますねぇ……気分直しに今日買ったグラビアでも見ますか。これぞ大人の──」

 

「……」

 

 ゴゴゴゴ……!

 

 ヌルっと持参したグラビアを取り出す殺せんせー、と同じグラビアを取り出すイトナ君。迫真だ。というか巨乳好きまで同じなのか。

 

「互角……か」

 

「まだやってるのその実況?」

 

「ケンカとかの解説は僕のジョブだからね。速水さんもやる?」

 

「やらない。そしてやめなさいそんなジョブ」

 

「これは友人枠の大事な役割だから譲ることはできない……!」

 

「どうしてここで一世一代みたいな雰囲気がだせるの……?」

 

 非力な友人枠に託された使命、それが解説だ。デブが焼き肉で最後の一枚を食べるくらい大切な役割なんだ。

 

「というか同じ巨乳好き、これは俄然信憑性が増してきたぞ」

 

「そ、そうかな岡島君」

 

 そんな話をしていると、岡島君と渚君の会話が聞こえてきた。渚君は岡島君のアホ理論に呆れている様子。バカの話なんて無視してもいいのに。

 

「そうさ!!巨乳好きはみな兄弟だ!!」

 

「3人兄弟!?」

 

 渚君の声にバッ!!と反応してリュックからこれまた同じグラビアを取り出す岡島君。なんでお前まで買ってんだよバカ。というか全員学校に何もってきてんだ。

 

「と、ということは……」

 

「……え?」

 

 バカなやり取りをぼーっと眺めていると渚君の目が僕の方に向く。それにつられてみんなの視線も。えっなに?

 

「巨乳好きはみな兄弟!なあ宇井戸!」

 

 みんなの視線の意図が分からずに混乱する僕に岡島君が声を張り上げてグラビアを見せてくる。それでようやく合点がいった。僕も同じ本を持ってると思われてるわけだ。

 そっか……。

 

「な、なんだよ……?」

 

 大きくため息をついて岡島君と向き合う。ここはハッキリと言ってやらないと。まったくしかたがないな……。

 

「なにを考えてるかは詳しく聞かないけどさ、僕みたいな普通の中学生は君みたいにスケベに脳は支配されてないんだ」

 

「「「…………?」」」

 

「なんだいその心底理解できないみたいな顔は。意見があるなら聞こうじゃないか」

 

 人の発言に対してみんなして首をひねりやがった。これじゃまるで僕が年がら年中エロに脳が支配されてるどうしようもないヤツみたいじゃないか。甚だ心外だ。

 

「あのねぇ、そもそもここは学校だよ?授業を受けるような場所にそんな──」

 

 ゴトッ……

 

「宇井戸、3DS落ちたぞ」

 

「あ、ごめん三村君ありがと」

 

 濡れ衣を払拭しようとして立ち上がった拍子に引き出しからゲーム機が落ちてしまった。三村君に手渡してもらって再度しまいなおす。よし。

 

「そんな勉強と関係ないモノ持ってくるハズないだろ」

 

「「「無理だろソレは!!」」」

 

 僕の完璧な論は総スカンだった。不服だ。

 

「宇井戸君。没収です」

 

「ああっ!僕のダラ・アマデュラ!!」

 

 せっかくG級いけたのに!!もうすぐユクモ装備つくれたのに!

 

 僕の3DSは瞬く間に殺せんせーに没収されてしまった。

 

「くう……!ごめん三村君、木村君。一緒にプレイできそうにない……!!」

 

「!?」

 

「バッバカおまえッ!?」

 

「安心してください。全員まとめて没収です」

 

「「ああっ!?」」

 

「よし!!じゃなかったくそーごめん2人ともー」

 

「ごまかせねーよお前確信犯だろ!?」

 

「道連れにしやがったな!?」

 

 キャンキャンわめく男2人は見ないふりだ。悪意はないけど僕だけ罰なんて冗談じゃない。どうせだったら一緒にやる約束してたヤツもできる限り共倒れにしなければ。

 というかグラビアもってきてるくせにゲームはダメなんて。随分な対応じゃないか殺せんせー。

 

 そうしている間にも話は続く。今の流れは本当に必要なかった。ただ僕らが被害を受けただけって、酷い話だ。

 

「もし本当に兄弟だとして……でも何で殺せんせーは分かってないの?」

 

「うーん……きっとこうよ」

 

 茅野さんの疑問に答えたのは不破さんだ。ガサゴソと何かを探しながら話し始める不破さん。

 

「まず、二人は某国の王子なの」

 

「すごい。一言目から聞く価値なしって分かることあるんだ」

 

「ばかっ黙ってろ宇井戸!」

 

 開幕から与太話とはなかなかの切れ味だ。お目当てのものを見つけたのかガサガサは終わった。

 掴んでいたのは少年ジャンプ。彼女は生粋の漫画狂いだ。

 

「国家争いに負けて亡命することになった二人は命からがら王宮から抜け出す。やっと抜け出して橋を渡れば逃げ切れるってとこで現れる追手、もうすぐってところで弟をかばって海に落ちる殺せんせー……溺れる兄を心配して駆け寄る弟に、殺せんせーは言うの」

 

弟よっ生きろ──ッ!!

 

 当然だがジャンプにそんな話は載ってない。完全に彼女の創作だ。ではなぜジャンプを取り出したのか、そんなことは一旦いい。好きなことを話してる女の子はカワイイ。それでいいんだ。

 

「で、成長した二人は兄弟と気づかず宿命の戦いを始めるのよ」

 

 妄想が終わった。不破さんは満足そうでなにより。ジャンプにありがちな急な戦闘モノへのシフト感が否めないけど、同じジャンプを愛するものとして……って、アレ?

 

「……?おい、どした宇井戸?」

 

 異変を察知してか声をかけてくる声には反応ができなかった。それどころじゃなかったから。

 

 僕は自身の持ち物をあさる。バックの中に入っているのは巨乳モノのグラビア──ではなく、不破さんと同じ週刊少年ジャンプ。

 ジャンプを手に取って、瞬間。さっきまでの出来事が脳裏にフラッシュバックした。

 

『巨乳好きはみな兄弟!!』

『3人兄弟!?』

 

 駆け巡る記憶。なんだ……?なにが引っ掛かってるんだ僕は?

 原因不明のもやもやを抱えたまま話している不破さんに意識を向ける。

 

「うん……で……どうして弟だけ人間なの?」

 

「それはまあ……突然変異?」

 

「肝心なとこが説明できてない!?」

 

「というかキャラの掘り下げが甘いよ不破さん!」

 

 勢いよくツッコまれてる不破さんに目を向けて、僕の視界に入ってきたのは不破さんと、その手元の少年ジャンプ。

 そこまできて、ピンッと脳裏に一筋の光が走る。

 

 同じグラビア本を持つせんせーたち。巨乳好きはみな兄弟なんてセリフ。同じグラビア本を取り出す岡島君。3人兄弟。手元にある少年ジャンプ。これら全てから弾き出される解は──

 

「僕と不破さんは……兄妹?」

 

「違うよ!?」

 

「今お前の中でなにが起きた!?」

 

 妹の爆誕だ。

 

「えっ不破さん……?」

 

「しっ知らない知らない!私にそんな設定ないよ!?」

 

 疑惑の目を向けられて必死に否定する不破さん。安心してほしい。僕も同じ気持ちだ。だけど今までの展開に説得力を持たせるとこうなるんだ。

 

「僕にもない。けど状況からするとそうならざるを得ないんだ」

 

「どんな状況!?宇井戸君の頭おかしいよ!!」

 

「こら、兄さんに向かってその言い方はなんだ」

 

「急に兄面しないで!?」

 

「妹よっ生きろ──っ!!」

 

「設定流用するんじゃないわよ!!」

 

 折角サンプリングしてあげたのに。まったく困った妹だ。

 ゼーハー言ってる不破さんを見てため息が漏れそうになる。もうじき15歳なのにこの落ち着きのなさ、兄として先が思いやられる。

 

「っていうか……宇井戸君ふざけてるでしょ?」

 

「お兄ちゃんはふざけてないアニ!」

 

「兄キャラは語尾にアニとかつけないのよ!」

 

「じゃあ何キャラがつけるのさ」

 

「そうね……*1多伽羅とか?」

 

「僕の匂いを纏いたいって?ブラコンだなぁ」

 

「摺り潰して焚いてやりたいっつってんのよ!!」

 

「不破さん、声が大きいからみんな見てるよ」

 

「宇井戸君のせいだよね!?」

 

 うがーっ!と騒ぎ立てる不破さん。周り見てほしい。絶賛注目の的だ。笑いものにされてる。

 不破さんに睨まれつつみんなの視線から逃れるようにそそくさと退散する。それにしても……

 

「いや、前から思ってたけどやっぱり不破さんと話すのは楽しいね」

 

「……なに急に」

 

 不破さんの反応は良くない。さっきまでのことが尾を引いているのかな。拗ねてるみたいだ。

 だけど、これはおべっかとかじゃなく本心だ。E組はみんなだけど、中でも不破さんはノリいいし。

 

 うん、まるで──

 

「まるで寺坂君だ」

 

「バカにしてる!?罵倒じゃん!!」

 

「失礼なのはオメーだよ不破ァ!!」

 

 今もそうだけど、寺坂君は殺せんせーから弄られたときのノリがいいからっていう誉め言葉だったのに。

 

 ☆

 

 そして放課後、机をリング状にするように並べて、周囲を僕らが囲んで、机で囲まれたフィールドの中にはイトナ君と殺せんせーの二人のみ。

 

 今、兄弟決戦がはじまる──!

 

*1
インド・中国の南方に産する香木から取った香。インドでは、仏を供養する荘厳のために香を焚いたり、身体に香粉を塗ったりし、また薬剤としても用いられた。




次回はもっとシリアスです


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まさか→苦戦の時間

こいつ…動くぞ!(半年ぶりの更新に驚くアムロ)

サブリミナルです


 イトナ君による暗殺は暗殺というよりも試合に近い。机によってできたリングの中に立つ殺せんせーとイトナ君。保護者のシロさんによって付け加えられたルール『リングの外に足がついたらその場で死刑』なんてのもそれに拍車をかけている。

 

 当然そんなルール誰が守るのかという話ではあるが、このルールというのは案外殺せんせーの弱点だ。みんなの前で決めたルールは破れば先生としての信用が落ちてしまうから。カルマ君がさっきそう言っていたから間違いない。

 

「では、合図で始めようか」

 

 言いながら片手を上にあげるシロさんの姿で、教室に緊張が走る。

 これまでも単独の暗殺はあった。それらは今まで失敗に終わっているわけだが、今回はどうなるだろうか。そんな気持ちで眺めていると、シロさんは試合開始の合図とともにゆるりと腕を振り下ろす。

 

 最初に聞こえたのは鞭のような音。ついで質量のあるナニカが地面に落ちた音が聞こえる。

 

 直後、視覚が状況を鮮明に教えてくれた。落ちたのは殺せんせーの触手だ。切り落としたのは、イトナ君の触手。

 

「触手!?」

 

 驚愕の声が耳に届く。そう、イトナ君の触手だ。ひゅんひゅん動くイトナ君の触手。

 

「……こだ……」

 

 ゾクッ──

 

 驚嘆に包まれる中で、聞こえるかどうかといった程度の掠れ声だ。だというのに、ソレが僕の聞こえた瞬間に背筋が凍るような感覚に襲われた。

 この感覚には覚えがある。こういう時はたいてい、発信源がブチギレているんだ。今回で言えば、それは殺せんせー。

 

「どこでそれを手に入れたッ!!その触手を!!」

 

 真っ黒に染まった顔。殺せんせーは分かりやすくキレていた。これまでも何度か黒く染まった顔は見ている。4月に渚君がカミカゼ特攻したとき、修学旅行で不良を相手にしたとき。

 だけど今回はそれらの比じゃない。肌をビリビリと突き刺す感じが物語っている。

 

「君に言う義理はないね殺せんせー。だがこれで納得したろう?」

 

 そんなせんせーを相手に飄々とシロさんは続ける。とんでもないメンタルだ。この場においては『殺せんせー』という呼称すら煽っているようにすら聞こえる。

 

「両親も、育ちも違う。だが……この子と君は兄弟だ」

 

 触手による繋がり。なるほど、それで兄弟か。同じ触手生命体、兄弟と言えなくもないか?

 

「しかし怖い顔をするねぇ。何か……嫌なことでも思い出したかい?」

 

「……どうやら、あなたにも聞かなきゃいけないようだ」

 

「聞けないよ。死ぬからね」

 

 どうしてこの状況でさらに油を注げるんだろうあの白装飾。いけない、こんな状況だがお洒落な問答に少しだけ尊敬の念すらでてきてしまった。

 

 そして会話の直後、シロさんの服の裾からカッと光が差す。異変が生じたのはそのあとだ。

 

「!?」

 

「この圧力光線を至近距離で照射すると君の細胞はダイラタント挙動を起こし一瞬全身が硬直する」

 

 言葉通りに、殺せんせーの身体は硬直している。そして、触手持ちを前にしてその一瞬は致命的だ。

 

「全部知ってるんだよ。君の弱点は全部ね」

 

「死ね。兄さん」

 

 無数の触手が殺せんせーを襲う。地響きがするほどの執拗な追撃。エグイ。

 

「殺ったか!?」

 

「いや……上だ」

 

 寺坂君の台詞の通り、殺せんせーは天井の蛍光灯にしがみつく様にして緊急退避していた。

 

「脱皮か……そういえばそんな手もあったっけか」

 

 どうやって、僕がそんな思考に至る前にシロさんが解を出す。脱皮、殺せんせーが月に1度使えるエスケープ用の切り札だ。随分序盤に使わされることになったが、そのおかげで窮地を脱したようだ。

 

 だが、顔を見たら分かる。今の殺せんせーはだいぶギリギリの戦いをさせれられている。肩で大きく息をしているし、額には汗みたいな液体が浮かんでるし。依然として状況は劣勢。

 

「でもね殺せんせー。その脱皮にも弱点があるのを知っているよ」

 

 シロさんの声に合わせるように追撃するイトナ君。それを殺せんせーが同じ触手で……捌けない?

 

「脱皮は見た目よりエネルギーを消費する。だから直後は自慢のスピードも低下するのさ」

 

 言葉にせずとも疑問に逐一回答してくれる名解説シロさん。なるほど、脱皮にそんな欠点が。僕らからしたら相当早いままだけど、確かにそれは同じ触手もち同士では致命的だ。

 

 ……ってぇ!?

 

「いつの間にか……解説役が、取られているっ!?」

 

「喋ったと思ったら今それ!?最初からずっとそうだったよ!?」

 

 あまりに自然なやりとりについ流していた!シロさんの役目は、本来僕のものだ!

 

「おのれシロさん……いいやシロカス……!!」

 

「私怨が過ぎる!?」

 

 今までは保護者だったから敬称だったが、こうなってしまってはそうもいかない。敵に敬称をつけるバカはいないのだ。

 

 その後もシロカスの解説は続く。イトナ君の最初の攻撃で失った腕の再生で体力を使っていること、触手の扱いは精神状態に左右されることなど、次々と語られる殺せんせーの弱点。幾重にもねられた緻密な戦略は、着実に殺せんせーのパフォーマンスを低下させている。

 

 僕もまた、解説役を奪取する目途が立っていない。

 

「お、おい……これマジで殺っちゃうんじゃないの?」

 

 流暢なシロカスの語り口にざわつく周囲。周りまで味方につける名解説、これはいよいよ太刀打ちできないかもしれない。

 

 そうこうしている間にも戦況は変化していく。防戦一方の殺せんせーに特殊な光線を浴びせ動きを封じるシロカス。その隙をイトナ君は逃さず、殺せんせーの足を切り落とす。

 

「フッフッフ、これで脚も再生しなくてはならないね。なお一層体力が落ちて殺りやすくなる」

 

「……安心したよ兄さん。俺はあんたより強い」

 

 殺せんせーが追い詰められている。あと少し、ここで殺せば地球は救われる。

 だというのに、どうしてかみんなの顔は浮かないままだ。表情から察するに、みんなが現状に不満を抱いているのは間違いない。

 

「脚の再生も終わったようだね。さ……次のラッシュに耐えられるかな?」

 

「……」

 

 もはや煽りに近いシロカスに、返答もしない殺せんせー。いよいよもって万事休すだ。

 静寂の中で、僕らの視線を知ってか知らずか、殺せんせーはゆっくりと姿勢を整える。

 

「……ここまで追い込まれたのは初めてです」

 

 そして、殺せんせーは口を開いた。ま、まさか……!

 

「一見愚直な試合形式の暗殺ですが……実に周到に計算されている」

 

 この喋り口、この雰囲気、これは間違いない……!!

 

「あなた達に聞きたいことは多いですが、まずは試合に勝たねば喋りそうにないですね」

 

 これは──仕切り直し!!

 

 僕には分かる。シロカスたちは殺せんせーに喋る時間を与えるべきではなかった。本人による現状把握に近い状況説明、これには劇的なまでに思考を落ち着かせる効果がある。そしてなにより、劣勢一方だった空気をむりやりイーブンにまで持ち込める。

 

「……まだ勝つ気かい?負けダコの遠吠えだね」

 

「いや、違う……落ち着いてる」

 

「宇井戸君……?」

 

 今の殺せんせーからはさっきまでの慌てふためいた様子を感じない。

 さっきから後出しジャンケンみたいに出てきた殺せんせーの弱点に振り回されてばかりだった僕らだけど、これだけはよく知っているはずだ。

 

 *1焦ってない殺せんせーは、普通にメンドクサイ……!

 

「……シロさん。この暗殺方法を計画したのはあなたでしょうが、ひとつ計算に入れ忘れていることがあります」

 

「無いね。私の性能計算は完璧だから」

 

 ──殺れ、イトナ

 

 声とともに飛び掛かるイトナ君。

 無数の触手が殺せんせー目がけて放たれて、次に僕らが目にしたのはドロォ……と触手を溶かしたイトナ君と、無傷の殺せんせー。

 

「おやおや、落とし物を踏んづけてしまったようですねぇ」

 

「あれは……対殺せんせー用ナイフ!!」

 

 殺せんせーの台詞につられて床を見ると、そこに落ちていたのは対せんせー用のナイフ。

 

「同じ触手なら対先生ナイフが効くのも同じ、触手を失うと動揺するのも同じです」

 

 得意げに語る殺せんせー。なるほど、いつの間にか僕らの誰かからパクったナイフ(おそらく渚君。なんか手もとみてテンパってる)でイトナ君の自滅を図ったのか。

 

「でもね、先生の方がちょっとだけ老獪です」

 

「「「!!」」」

 

「だ、脱皮した皮でイトナ君を包んで……!」

 

 そのまま殺せんせーはイトナ君を場外に投げ捨てた。投げ出されたイトナ君はリング外だ。

 

「先生の抜け殻で包んだからダメージはないはずです。ですが君の足はリング外についている」

 

 呆然としているイトナ君を見下ろすように近づく殺せんせーの顔はいつものシマシマ。調子こいてる。

 

「先生の勝ちですねぇ。ルールに則れば君は死刑。もう二度と先生を殺れませんねぇ」

 

「!!」

 

「生き返りたいのなら、このクラスで皆と一緒に学びなさい」

 

 また暴れだしそうなイトナ君を諭すように、殺せんせーは台詞を続ける。

 

「性能計算ではそう簡単に測れないもの、それは経験の差です」

 

 まるで教師みたいなお説教だ、そう思ってから気がついた。そういえばイトナ君は転入生、殺せんせーにとっては彼も生徒の一人なんだ。

 

「君より少しだけ長く生き……少しだけ知識が多い。先生が先生になったのはね、経験(それ)を君たちに伝えたいからです」

 

 殺せんせーによる特別レッスン。効果は既に実証済み、なんせあのジャジャ馬カルマ君や律を手懐けた実績もあるんだ。

 

「この教室で先生の経験を盗まなければ……君は私に勝てませんよ」

 

 これでイトナ君は殺せんせーにちょっと絆されて、晴れて僕らのクラスメイトとして……って、あれ?

 

勝てない……俺が……弱い……?

 

 誰に伝えるでもないイトナ君の呟きが、かすかに耳に届く。

 

 なんか雲行き、怪しくない?

 

 見渡せば、殺せんせーと、先ほどまで余裕そうだったシロカスまでも身構えている。これは……なんかヤバそう!

 

 そして呟くままに、イトナ君から真っ黒の触手が飛び出した!

 

「黒い触手!?」

 

「やべぇキレてんぞアイツ!」

 

「こんな状況で何だけどそれ僕の台詞!せっかく途中から解説役奪取してたんだからっ!!」

 

「宇井戸君うるさいよ!?」

 

 気づいてなかったろ!!僕が自然に解説始めたの!!

*1
誉め言葉




アーハイハイ評価作者ちゃんいつもの失踪評価ね。とか思った人は感想正直に挙手評価感想ここすきしてください


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絆の時間

そろそろ内面とかも書いたほうがいいかな、と思って盛大に失敗したことを懺悔します。むずすぎんよ〜!


 イトナ君の暴走から第2ラウンド開幕かと思われた事態は、意外にもあっけなく終幕を迎えた。

 なぜか、イトナ君の保護者であるシロカスが無理やり横入りしたからだ。

 

「すいませんね殺せんせー。どうもこの子は……まだ登校できる精神状態じゃなかったようだ」

 

 そんなセリフとともにシロカスはイトナ君の休学を宣言。登校初日に休学宣言とはモンペ極まったものである。

 これに対して、当然ながら殺せんせーは反発。イトナ君を連れて帰ろうとするシロカスを止めようと肩を掴むも、なんとシロカスの衣類は対先生繊維。

 

「心配せずともまたすぐに復学させるよ殺せんせー。3月まで時間がないからね」

 

 ──責任をもって私が……家庭教師を務めたうえでね──

 

 言うだけ言って、悠々自適に退散するイトナ君を抱えシロカス。こうして、触れるとともに解け落ちる触手のせいで拘束もままならず、イトナ君たちは僕らの前から姿を消したのだった。

 

 そんなこんなで現在ではあるが……

 

はずかしい……はずかしい……

 

 先ほどまでカッコよく大立ち回りしていた殺せんせーは、教室の隅でデカい身体を小さくして顔を覆っていた。

 

 ようやく落ち着いて決闘の後始末をはじめたのにこの有様、正直邪魔というより他にない。

 

「何してんの殺せんせー」

 

「さあ……さっきからああだけど」

 

 女性陣の声が僕の耳に届く。同時に、殺せんせーにも聞こえたのだろう。邪魔なだけだった置物は、ようやくその口を開いた。

 

「シリアス展開に加担したのが恥ずかしいのです。先生どっちかというとギャグキャラなのに」

 

「「「自覚あるんだ!?」」」

 

 思っていた8倍はしょうもない理由だった。知らねーよそんな事。

 

「カッコよく怒ってたね~『どこでそれを手に入れたッ』『その触手を!』」

 

「いやああ言わないで狭間さん!!改めて自分で聞くと逃げだしたい!!」

 

 ここぞとばかりに全力で皮肉る狭間さんに絶叫する殺せんせー。この空間は何なんだろう。何でもいいけど殺せんせーも片付け手伝ってくんないかな。

 

「つかみ所のない天然キャラで売ってたのに……ああも真面目な面をみせてはキャラが崩れる……」

 

「……自分のキャラを計算してんのが腹立つな」

 

 そもそも天然キャラとか自称する時点で天然じゃない気がするのは僕だけだろうか。

 

「このままでは……このままではE組のギャグ担当は宇井戸君の一強になってしまうっ」

 

「!?」

 

 さっ最悪のタイミングで飛び火しやがった!?というか誰がギャグキャラだ!

 

「宇井戸君は決闘中も終始ふざけてたというのに!」

 

「ふざけてないけど!?」

 

「先生は見てましたよ!決闘なんかそっちのけで解説バトルとかしてたの!!」

 

「ライフハック!あれやってると不良は殴りかかってこないんだから!!」

 

「こ、この世で最高峰にどうでもいい争いだ……」

 

 おかしい。つい先ほどまで傍観者だったはずなのに、気がついたら話題の中心になっている。いったいこれはどういうカラクリだろうか。

 

「ただでさえキャラ被ってるのに!!」

 

「謝って!!今僕はこの中学生活で一番傷ついたっ!!」

 

 自分の姿と言動を見直してからもう一度口に出していいか考えてみてほしい。その上でそう言えるのなら奴はもう殺すしかない。

 

「というか、僕は殺せんせーと違って普通の常識人だよ」

 

「「「……??」」」

 

「みんな嫌いだっ!!」

 

 どうしてそんなに不思議そうな顔ができるんだ。ギャグキャラまみれのE組でこの扱い、流石の僕も怒りを隠せない。

 

「で、でも、驚いたわ。あのイトナって子、まさか触手を出すなんて」

 

 弛緩した空気を戻すかのようにビッチセンセーが話題を変える。

 

「そ、そうだよ。説明してよ殺せんせー。あの二人との関係」

 

「先生の正体いつも適当にはぐらかされてたけどさ……あんなの見たら聞かずにいられないぜ」

 

「私たち生徒だよ?先生のことよく知る権利あるはずでしょ?」

 

「……」

 

 みんなの追及に口をつぐむ殺せんせー。そしてさっきから一転して重たい空気。

 ……それにしてもなんだろうこの無理やり本題に持って行ったような感じ、これじゃ僕が前置きでただコケにされたみたいじゃないか。

 

 とはいえ僕も気になってはいた。イトナ君たちと殺せんせーはあきらかにただならぬ雰囲気だったし、秘密主義な殺せんせーの情報が得られるいい機会だ。逃す手はないだろう。

 

「……仕方ない。真実を話さなくてはなりませんねぇ」

 

 僕らの剣幕に観念してか、殺せんせーはついその重い口を開く。

 

「実は……実は先生、人工的に作り出された生物なんです!!」

 

 !!!

 

 語られる驚愕の事実!まさか殺せんせーが作られた存在なんて、これにはみんなも驚きで……て、んん?

 

「「「……」」」

 

 な、なんかシラケてる……。あまりの周りとの温度差に思わず肩透かしを食らってしまう。

 

「だよね。で?」

 

「にゅやッ反応薄っ!!これ結構衝撃告白じゃないですか!?」

 

 僕も殺せんせーと同じ意見だ。こいつら頭おかしいんじゃないか?

 

 そうは思っても口には出さない。ひとりだけ取り乱すと痛い目にあう、ビッチセンセー赴任の時に僕は学んだのだ。

 

「……ってもなぁ。自然界にマッハ20のタコとかいないだろ」

 

「宇宙人でもないならそれくらいしか考えられない」

 

「で、イトナ君が弟とか言ってたから……」

 

「先生の後に造られたと想像がつく」

 

 時々思う。どうして彼らはE組にいるんだろう。

 

 果たしてあの限られた情報でそこまで推測できるものだろうか。正直ぼくはまったくと言っていいほど考えてなかったぞ。というかやっぱり黙っていて正解だった。異常なまでの察しの良さと共通認識、腐っても椚ヶ丘生ということか。

 

「知りたいのはその先だよ殺せんせー」

 

 内心で大慌てになりながら必死で壁にもたれて腕を組むいい感じのポーズを取り繕ってる最中にも、話は進む。切り込むのはやはりと言うべきか渚君。お願いだからもう少し待ってほしい。

 

「どうしてさっき怒ったの?イトナ君の触手を見て。殺せんせーはどういう理由で生まれて……なにを思ってE組(ここ)にきたの?」

 

「…………」

 

 核心に迫るような質問をする渚君に、殺せんせーはまたしても口をつぐむ。いったい今日で何度目だろうこの空気。多分殺せんせーにとって、もちろん僕らにとっても、今日は想定外の連続だ。

 

 数分にも思えるような時間を経て、ようやく殺せんせーは声を発する。

 

「残念ですが今それを話した所で無意味です」

 

 その返答は、E組の望むものではなくて。

 

「先生が地球を爆破すれば、皆さんが何を知ろうが塵になりますからねぇ」

 

「「「……!!」」」 

 

「逆にもし君達が地球を救えば……君達は後でいくらでも真実を知る機会を得る。もう分かるでしょう?知りたいのなら行動はひとつ──」

 

 ああ、いつもの流れだ。なんだかんだ結構な時間を一緒に過ごしたんんだ。最後まで聞くことなくこの後の台詞が分かる。そしてそれはもちろん、僕だけではない。

 

「──殺してみなさい。暗殺者(アサシン)暗殺対象(ターゲット)、それが先生と君達を繋ぐ絆のはずです」

 

 結局のところ、僕らの関係はこういう話に落ち着くのだ。

 

 ☆

 

「もっと教えてくれませんか、暗殺の技術を」

 

「……今以上にか?」

 

「今までさ、“結局誰が殺るんだろ”って他人事だったけど」

 

「ああ、今回イトナ見てて思ったんだ」

 

「誰でもない。俺等の手で殺りたいって」

 

「もし今後強力な殺し屋に先を越されたら俺等何のために頑張ってたか分からなくなる」

 

「だから限られた時間、殺れる限り殺りたいんです。私たちの担任を」

 

「殺して。自分達の手で答えを見つけたい」

 

「……わかった。では希望者には放課後に追加で訓練を行う。より厳しくなるぞ」

 

「「「はい!」」」

 

 ☆

 

「君はいいんですか?」

 

 木から垂らされたロープを登っているみんなを眺めていると、後ろから声をかけられた。

 振り返るとそこには、本とコーラを抱えた殺せんせーの姿があった。

 

「どしたの殺せんせー。なにか用?」

 

「センチメンタルに浸っているようだったので。似合わないことをするんですねぇ」

 

「自分でも思ってたけど人に言われるとムカつくなぁ」

 

 少なくとも、生徒が悩んでるときに言う台詞としては大きく間違っていると思う。

 

「みんな自分達でせんせーを殺したいからって追加で訓練してるんだって」

 

「嬉しいですねぇ。まぁ、できるとは思えませんがね」

 

 ワーワーやってる光景を視界の端に捉えながら、話をまとめる。思い出すのはさっきの出来事だ。

 殺せんせーが教室から去った後みんな話し合って、なんやかんやで烏間先生に直談判しに行くことになった。それで、僕はそれについていかなかった。

 

「イトナ君に負けそうな殺せんせーを見て、みんなそう思ったらしいよ」

 

 あのときみんなが浮かない顔をしてたのはそういう理由だったんだとその時分かった。

 

「そこまでじゃないなぁって」

 

 これは僕の正直な感想だ。自分の手で殺せんせーを殺したい、という気持ちはあんまりない。実際イトナ君に負けそうでも特に何も思わなかったし。

 

 誰が殺ったっていい。100億は欲しいけど。僕の暗殺のモチベーションはずっとその程度だ。

 

「せんせーのことは好きだよ。来てからクラスの空気良くなったし」

 

 これも本心。3ヶ月程度なのにすごい変化だ。超生物は及ぼす影響も超絶大ということなのかな。

 

「実はE組って前まであんなに明るくなかったんだ」

 

 以前のE組はどこか陰鬱としていた。E組は学校から負け犬みたいな扱いをされるんだから無理もない。だけど、それも変わった。殺せんせーが来たから。

以前の椚ヶ丘にE組に手を差し伸べる人なんていなかったし。

 

「いや、せんせーの前にも先生はいたか……」

 

「!!」

 

 それまで黙って聞いていただけの殺せんせーだったが、僕がそうこぼした途端に食いつきを見せた。

 

「え、なに?……もしかして前の教師に嫉妬してます?」

 

「……いえ、どんな方だったのか気になりまして」

 

「??いい人だったよ。すぐいなくなっちゃったから時間が足りなかったけど、E組のみんなとも殺せんせーくらい仲良くなれたかもね」

 

「……そうですか。宇井戸君がそういうならそうなんでしょうね」

 

 なんだ、からかってやろうと思ったのに全然想定と違う反応だぞ。というかなんだその信頼。調子狂うなぁ……。

 

「……まあ、E組の中なら多分僕が一番関わりあったけどさー」

 

「おや、そうなんですか?」

 

「うん。自慢じゃないけど僕は椚ヶ丘史上最速でE組入りが決定した男だからね。なんとクラス配属前から面識ありさ」

 

「にゅやっ!?本当に自慢じゃない!?」

 

「それでその先生とは──って、そうじゃないや。ごめんごめん、知らない人の話されても困るよね」

 

「いえ、非常に興味深かったです。今度じっくりと聞かせてください」

 

「あ、うん」

 

 しまった。思い出話が楽しくてつい脱線してしまった。

 

「……何の話か忘れちゃったな」

 

「随分脱線しましたからねぇ」

 

「ホントだよまったく」

 

 もう悩み相談なんて雰囲気には戻れそうにない。ここらで適当に切り上げようか。

 

「そんなわけでさ、僕は今結構楽しいよ」

 

「先生も、君達との毎日はとても楽しいです」

 

「それは良かった。じゃあ地球爆破なんてやめよう!」

 

「それはできませんねぇ。止めたければ殺してください」

 

 強情なタコだなぁ。そこはいい感じに絆されてくれたら楽なのに。

 

「まあ、僕の暗殺に期待しといてよ」

 

「ええ、期待させてもらいます。殺せると良いですねぇ」

 

「じゃ、僕はこれで」

 

 一言断りを入れて背を向ける。いい感じの離脱、完璧だな。

 

「──宇井戸君」

 

「え、はい。なんですか?」

 

 と、歩き出した背中越しに再度殺せんせーの声。今度は何だろう?もう帰る感じを出してしまったから、今日はもうこれ以上居座るつもりはないけど。

 

 顔だけを殺せんせーに向ける。せんせーは、何を言うべきか迷っているみたいにしばらく逡巡して、口を開いた。

 

「君の美点は──いえ。君は、真っ直ぐにバカです」

 

「そんなに死にたいならそう言ってよねもう!!」

 

 僕の足は驚くほど軽やかにUターンした。




もうこれでいいや。と投げやりになったことを連絡します


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