白狼ファウナス男の娘! 被り物着用無口男の子? のじゃロリ有能怠け者! 天真爛漫金髪赤目褐色少女! 我ら! ((´鋼`))
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HAUL:Trailer


まずはトレイラー風にプロローグ


 ここはレムナントと呼ばれる世界。4つの大陸と4つの王国によって成り立っている。そんな4つの王国の内、北大陸ソリタスに位置するアトラス王国は極寒の環境により、この世界特有の脅威に対する防御には打ってつけであるが、同時に人々はこの厳しい環境に苛まれている。

 

 そんな人間が暮らすには向いていないとされるソリタスではあったが、開拓者たる先人の活躍により飛躍的に科学技術が進歩していき、かつての都市であったマントルをも凌ぐ巨大都市アトラスを築き上げた。

 

 そのような発展を遂げてきたアトラス王国から離れ、技術的な発展の痕跡もない危険な谷間を疾走する集団がいた。先頭を駆け抜ける白髪に犬耳と尻尾のある白狼の獣人(ファウナス)は、赤い線の入っている白い仮面を着けた数名の人物に追いかけられていた。

 

 後方からの発砲を避け白狼のファウナスは集団を僅かに見て、すぐに視線を前に戻したあと一気に方向を変えた。急激な方向転換に間に合わず、追跡者の集団は白狼のファウナスに距離を取られてしまったが、ある光景を見て要らぬ心配だったとタカをくくった。

 

 白狼のファウナスは目の前の岩壁の前で立ち尽くしている。そこに追跡者が挟み込み、逃げ場を失った白狼のファウナスを見ている追跡者の1人が銃の機能を取り付けた籠手を向けた。

 

 

「馬鹿な奴だ、わざわざ自分から逃げ場を無くすとはな。大人しくしていればすぐに死ねただろうに」

 

 

 言い終わった直後に、集団から嘲笑が漏れる。袋の鼠、そのような認識も持ったまま集団はゆっくりと白狼のファウナスに近付く。

 

 

「動くな」

 

 

 その白狼のファウナスがドスの効いた声で言葉を発した。追跡者達は思考が瞬時に彼の言葉に思考を塗りつぶされ、その足を止める。

 

 

「何だ、命乞いか?」

 

「いいや、寧ろ逆さ」

 

 

 ゆっくりと回り、白狼のファウナスは追跡者達を見据える。橙色の目が集団を捉え、周囲の音を聴くために犬耳を動かしている。それらを維持したまま白狼のファウナスが口を開いた。

 

 

「そこから1歩も動くなよ、お前ら。痛い目を見たくなければの話だけど」

 

 

 一瞬の間、そのあとに追跡者の1人が堪えきれず吹き出し、それを皮切りに追跡者達が笑いだした。そんな彼らの前で表情を崩さない白狼のファウナスに向けて、集団の先頭にいた人物が喋りだす。

 

 

「コイツは驚いた! トンだ阿保じゃねえか! どうやら目が節穴らしいお前に教えてやるが、お前は1人で、岩壁と俺たちに挟まれて絶対絶命! 対してこちらは18人、囲んで叩けばすぐに終わるんだよ!」

 

「だから?」

 

「……は?」

 

 

 白狼のファウナスと先頭にいる人物はお互い呆れたような表情を見せた。実際のところ、追跡者側の表情は仮面で隠れており読み取ることは出来ないが、意味を理解していないような反応を示している。髪を掻き上げながら、白犬のファウナスは言った。

 

 

「じゃあ聞くけどさ──、この程度の数でボクを殺せると本気で思ってるわけ? 足りるわけねぇだろ能無し共」

 

「なっ……!?」

 

「こんなのセンブランス無しで150人組手をやってた時の方がまだ地獄だわ。18人とか舐めてんの?」

 

「で、出鱈目もそこまでだ! お前の命は今日で終わ」

 

「あーはいはい、分かった分かった。だったら来なよ、こっちはセンブランス無しで相手してやる」

 

「っ、舐めやがって! 後悔しても知らんぞ!」

 

 

 追跡者集団の先頭に居た1人が籠手の銃を2本の爪に変形し、白狼のファウナスに向かって1()()踏み出した。

 

 刹那、その人物は不可思議な体験をした。何が起きたか分からないまま白狼のファウナスと追跡者集団が少し遠くに見えた途端、腹部に大きな痛みが走る。

 

 肺からすべての空気が抜け、胃から何かが逆流するような不快感を覚え、俯せのまま重力に従って地面に叩きつけられる。痛みに悶え、暫く動けない状態になった者を集団は見てしまった。

 

 付け入られる隙を、目の前で与えてしまった。

 

 

「17、余所見していいの?」

 

 

 その言葉が蹂躙の始まりを告げる。

 

 右側に展開していた追跡者の1人を1歩分も無いであろう距離から、タックルと肘打ちの同時攻撃で避けきれなかった3名を巻き込んで吹き飛ばした。

 

 

「16」

 

「ウォオオオオ!」

 

 

 白狼のファウナスの後ろから追跡者の1人が剣を振り下ろそうとする。が、確認する動作も無く白狼のファウナスは僅かに横に避けたあと、躰道における海老蹴りを顎に直撃させて意識を奪った。

 

 

「15……来ないの?」

 

 

 一連の流れを見ていた追跡者達に緊張の糸が張り詰める。動きたくとも動けない、向かえばやられる。そのような思考に陥っていた彼らに白狼のファウナスは大げさに溜め息をつく。

 

 

「はぁ、なら良いよ。こっちから行くし」

 

 

 その直後、まるで空間が縮んでいるのでは無いかと錯覚を受けるまで追跡者の1人に接近し、拳を軽く握ったまま白狼のファウナスは鳩尾に狙いを定めて殴った。

 

 だが追跡者が受けたその軽い拳の威力は、想像だにしない痛みと自身のオーラの乱れを伴って仰向けに倒れ、鳩尾を押さえて悶える結果となる。

 

 

「14、かな。多分」

 

「か、囲め! 囲んで撃て!」

 

 

 残った14名の追跡者は白狼のファウナスを取り囲むように颯爽と展開し、銃を構えた。

 

 

「ちょっと、それは悪手じゃない?」

 

「撃て!」

 

 

 白狼のファウナスの後ろから発砲され、弾丸が目標目掛けて飛んでいく。およそ避けられない距離から放たれた弾丸は白狼のファウナスを貫く──事はなく、まるで当然のように上体を下げて弾丸が避けられ、弾丸同士が衝突しあらぬ方向に飛んで行った。1発は岩壁に、1発は地面に。そして最後の1発は追跡者の1人に当たった。

 

 

「ギャッ!」

 

「13、だーから悪手だって言ったじゃん。フレンドリーファイアの可能性がある上に、この状況下なら接近戦に持ち込むのがベストだよ。……って、またいつもの癖が出てるし」

 

 

 額を抑えて僅かに首を横に振る白狼のファウナスの言葉を聞いて、残りの追跡者達は構えていた銃を別の近接武器に変形させる。

 

 

「うん、それで良い。何ならセンブランス使っても良いよ、ボクには特に問題ならないし」

 

「後悔しても知らんぞ!」

 

 

 センブランスとは、簡潔に言ってしまえば超能力のようなものである。性質などが似か寄る傾向はあれど、1人1人が違うものであり、同じものは存在しない。閑話休題。

 

 追跡者の1人がセンブランスを発動し、目に捉えきれない速さで白狼のファウナス目掛けて突貫するが、これもまた当たり前のように頭を傾けただけで避けられる。

 

 岩壁に当たった追跡者の1人は、まるでスーパーボールのように跳ね返り、直線的な軌道を描きながら再度白狼のファウナス目掛けて突貫した。

 

 

「成程、そういう類の高速移動ね」

 

 

 白狼のファウナスはまたも避けようとして、自身の動きが遅くなっている異常を検知した。吶喊した追跡者の渾身のパンチが白狼のファウナスの綺麗な顔面に当たる。だが追跡者が想像していた感触は訪れなかった。

 

 

(硬いッ!?)

 

「硬いでしょ。ふむ、どうやら遅くなるのは肉体の動きだけで、オーラ操作には問題無いのか。で、君のは閉鎖的な空間で真価を発揮するタイプの加速能力と。ついでに……」

 

 

 肉体鈍化のセンブランスをかけている追跡者の疲労により、白狼のファウナスに掛けられていた拘束は解け、自身の顔面に拳を当てている追跡者の腕を掴み、身体操作によって投げ飛ばした。

 

 

「どうやらセンブランスを掛けている対象者に第3者が触れると、そっちの方にも鈍化効果が起きるみたいだね。で、使用時間も短くなると。元々短いみたいだから、相手を鬱陶しくさせるのには向いてる」

 

「ならこれはどうだッ!?」

 

「おっと」

 

 

 追跡者の1人が地面から生えてくる1本の石柱を白狼のファウナスに向けて放つ。それを跳んで回避すると、石柱を伝って接近しようとするが、岩壁からも生えてくる数本の石柱が襲いかかった。

 

 白狼のファウナスは石柱をパルクールのような動きで避け続け、遂に発動者の真上にまで辿り着く。しかしこれを読んでいたのか、避けられない面積を押し付ける。

 

 

「君はセンス良いね。でもっ!」

 

 

 白狼のファウナスは逆立ちの体勢になり、向かってくる石柱の面に触れた瞬間、両手と両腕の勢いを使って避けると、そのまま自由落下に従って発動者を踏みつけた。

 

 

「ガハッ!?」

 

「12、惜しかったね。さて、まだやるか──」

 

 

 白狼のファウナスは戦闘を続ける体力はまだまだ有り余っており、まだ刃向かってくるなら相手をするつもりだったが、残りの12名は素早く逃げおおせたらしく、後に残ったのはダウンしている6名のみ。あの鈍化効果持ちと高速移動系の追跡者も逃げているようだ。

 

 

「なんだよ、もう居ないの? 全く、だったら実力の差が分かった最初の時点で逃げれば良いものを」

 

 

 白狼のファウナスはスクロールを取り出し、電話をかけようとしたが、踏み台にしている追跡者が脚を掴み意識を逸らした。

 

 

「なに? まだやる気?」

 

「な、ぜ……」

 

「ん?」

 

「なぜ、女のファウナスが、これほどまで強い……?」

 

 

 白狼のファウナスの中で何かが切れる音が聞こえた気がした。乱雑に追跡者の手を振りほどくと、今度は追跡者の胸倉を掴んでドスの効いた声で言った。

 

 

「ボクは、男だ!」

 

 

 そして顔面に1発、本気のパンチがぶち込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、アトラス王国の中央軍施設内部。シャワーを浴び終えた白狼のファウナスは、アトラス軍の軍服に着替えてある場所まで来ていた。部屋のドア前に到着し、3回ノックをする。

 

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

 

 自動ドアが開かれ、部屋の中で待っていたのは白髪混じりの黒髪にがっしりとした体格を持った男と、雪景色のような白い髪をした若い女性。ドアが閉まったのを確認したあと、白狼のファウナスは敬礼する。

 

 

「『ハウル・アイアンウッド』、現着しました。」

 

「楽にしろ、今は私たちだけだ」

 

「ではお言葉通りに……ただいま、ダディ」

 

「おかえり」

 

 

 白狼のファウナス、ハウルがダディと呼んだ男の名は『ジェイムズ・アイアンウッド』。このアトラス軍の将軍であり、ハウルの養父である。

 

 

「今日は災難だったな、まさかホワイト・ファングの構成員に狙われるとは」

 

「まあ、それはそうだけど。それよりボクとしては、いつもの訓練場所をアイツらが知っていたのが気になる。ウチの部隊から漏洩する事は先ず無いけど、どうやって知ったのか」

 

「軍内部に内通者か、はたまた別の方法か。お前と私が信頼できると踏んだ諜報員の言では、そのような人物は確認されていないらしい」

 

「となると別の方法にフォーカスが当たる訳だけど、だとしてもどうやって……?」

 

 

 2人の会話の間に、女性の咳払いが入る。2人の視線が彼女に向けられると、彼女も会話に参加した。

 

 

「そちらについては何れにせよ、判明していくでしょう。ここで悩まれていては本題に入れません、将軍」

 

「あぁ、そうだったな」

 

「頼みたいこと、でしたね。ウィンター様と何か関わっておいでで?」

 

 

 ジェイムズは頷き、ハウルを呼ぶことになった本題について話をし始める。

 

 

「お前に頼みたいのは、ワイス・シュニーの護衛になる」

 

「ワイス様の……あぁ、確かビーコン・アカデミーの方に入学なさるのでしたよね」

 

「そうだ。そして厳密に言うとジャックからの依頼だがな」

 

「あぁ、ジャック様の」

 

「……我慢しなくても良いぞ」

 

「では失礼して」

 

 

 ニコラスという名前を聞いて口にした事実に対し、ハウルはすぐに苦い顔を顕にする。傍で見ていたウィンター・シュニーは少し吹き出し、困りながらも笑っていた。

 

 

「本当に君は、お父様の事が苦手なのだな」

 

「ファウナスのボクを信用してるのは良いんですけど、余計な一言が多いんですよ。どうやったって治りそうに無いのは分かってるんですけど、出来れば抑えてほしいというか」

 

「まぁ、お父様のアレは生まれついてのものだ。すまないな」

 

「貴女が謝るような事ではありませんよ。別にその辺に関してウィンター様は特に関係ないですし」

 

「そう言ってくれるだけで嬉しいよ、ありがとう」

 

 

 ウィンターがハウルの頭を撫で始める。耳を横に倒し目を細め、尻尾が巻き尾になって横にパタパタと動き始めた。身長差があるためハウルが身を屈める形になっており、彼から撫でられに行ってるようにも見える。

 

 ただ、彼女の撫でが終わりそうに無いので、すぐに姿勢を正して手から離れた。

 

 

「あっ」

 

「ウィンター様、また次の機会に」

 

「あ、あぁ。そうだな」

 

「それで、ダディ。ボクもビーコンに行くよ、ワイス様の護衛の間は副隊長に部隊を任せる方向で行く」

 

「助かる、いつもすまないな」

 

「そこはありがとうで良いよ。あぁ、それとライオンハート教授の身辺調査の定期報告だけど──」

 

 

 そして時は経ち、彼はワイス・シュニーの護衛とビーコン・アカデミーへの入学のためにヴェイル王国へと向かった。




これから出てくるRWBY:OCたちは、ゲームを参考に設定を練って作りました。良ければ何のゲームから生まれたのか予想してみるのもありかと。

RWBYOC:その1
『ハウル・アイアンウッド』Age17
身長182cm 体重64kg
白狼のファウナス 男の娘 元孤児
ジェイムズ・アイアンウッドの義子
センブランス:■■


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Oblivion:Trailer

 王国から離れた村や町では、直接的な恩恵を受けることが出来ない。主にこのレムナントに出没する脅威である、グリムからの襲来に対する防衛策が働かない事も、ごく当たり前の事実であった。

 

 そうした場所にはハンターが派遣され、報酬と引き換えに安全を確約する。しかし報酬が十全に払えない事もあり、ハンターを雇うための金が工面できない地域も確かに存在している。

 

 しかし、何事も例外が存在するように。ハンターが雇われていない状態でありながら、グリムの被害報告が出てこない地域をオズピンはつい最近知った。

 

 グリムの被害報告が一時的に無くなることはあるかもしれないが、その村ではグリムの被害報告が無い状態が、5ヶ月以上に渡って続いている。グリムの脅威に晒されやすい地域にも関わらず。

 

 興味が湧いた。この目で確かめてみるのも良いかもしれないと、ビーコン・アカデミーの校長でもあるオズピンは、その村へと訪れた。何となしに考えた彼の行動は後に、良い原石が見つかった喜びと、これからのことについて板挟みになろうとは、誰1人として知る由もない。

 

 村に着いたオズピンがまず目にしたのは、グリムの被害とは無縁そうな景観であった。人々が普通に暮らし平和を享受しており、とてもグリムの被害に苦しんでいた場所とは思えない場所がそこにあった。

 

 何はともあれ、まずは調査である。そう広くは無い村を隅々まで渡り歩き、大人たちが働き、子どもたちが無邪気に遊ぶ姿を確認したあと、この村に建てられた小さな酒場に足を運んだ。

 

 昼間であるため準備中の看板があったものの、彼は迷うことなく扉をノックした。少し待って、もう一度ノックをすると、酒場の中で足音がした。ドアが開かれると店主と思しき人物がオズピンを見やった。

 

 

「どちら様で?」

 

「はじめまして。少しばかりお時間をいただいても?」

 

「はぁ、何か?」

 

「実は私、現在グリム被害の調査をしているのですが……この村だけ被害報告が極端に少ないのが気になりましてね。ハンターを雇っていないにも関わらず、一体どうしてかと思ってお尋ねした次第です」

 

 

 オズピンのその言葉のあと、少しの間が流れたところで、酒場の店主が勢いよく扉を閉めようとした。足を挟ませることで扉が閉まるのを防ぎ、僅かな隙間から覗くようにして、また尋ねる。

 

 

「まあまあ、そのように焦らなくても」

 

「か、帰ってくれ! 別にアンタには関係の無いことだ!」

 

「おや、何かやましい事でもあるのですか? 是非遠慮なく話してください。大丈夫、別に通報したりしませんから」

 

「あ、アンタこれ以上続けようってんなら営業妨害で──」

 

 

 そのようなやり取りをしている2人であったが、店主が視線を下に向けた途端、間の抜けた声を出して1点を見つめた。何かと思い、オズピンもそちらを見やると、内心驚いた。

 

 視線の先には、2つの覗き穴のある蟻の頭部のような白い被り物を被り、黒いローブを身につけた子どもらしき人物が居た。それだけなら少し変わった子どもと言えるが、その右手には熊型のグリムであるアーサの物と思われる骨を持ち、2つの覗き穴からは目では無く虚無のような黒だけがそこにあった。

 

 その子どもはオズピンを見ると首を傾げて、まるで“誰?”と言っているかのよう。しかしオズピンは別の要因から、この子どもが只者では無いと感じ取った。

 

 

(気配がしなかった? この距離まで近付かれて、足音もせずここまで来たのか? 一体この子は──)

 

「は、早いなオブリー」

 

 

 オブリーと呼ばれた子どもは店主の方に顔を向けると、その手に持っているアーサの骨を誇らしげに見せつけながら、その場でジャンプを繰り返す。

 

 毒気を抜かれたかのように店主が溜め息をつくと、閉めようとしていた酒場の扉を開けた。

 

 

「入りな」

 

「おや、よろしいので?」

 

「もうここまで来たら、潔く全部話した方が良いだろ。それに、オブリーに飯を食わせてやんないといけないしな。村長を呼んで話もしたい」

 

「では、お邪魔するとしましょう」

 

「オブリー、村長を呼んでくるから先に入ってな。この人と話をしなきゃなんねぇからよ」

 

 

 オブリーは空いている方の手を挙げて、大人2人の隙間を縫って酒場へと入って行き、オズピンも店内に入り村長と店主が来るまで、この無口な少年と待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 少しして店主が村長を連れて到着し、村長がこれまでの事を説明した。

 

 

「教授ともあればご存知でしょうが、ここは以前グリムの被害に悩まされていた場所でした。しかしハンターを雇おうにも纏まった報酬を支払う事も出来ず、協会の方にも掛け合っては見たのですが無理だと言われて……そんな時に、この子と出会ったのです」

 

「話を遮って申し訳ありませんが、彼……彼女? は幾つですか?」

 

「性別は多分男の子でしょうが、歳も性別も詳しくは分かりません。この子を拾った時に、医者が言うにはおそらく12歳頃だろうとは。ただその医者でさえも、この子には分かりかねる事が多すぎると」

 

「ふむ、成程……失礼、続けてください」

 

「は、はい。この子を拾ってひと月もしない頃、グリムの群れが村にやって来ました。急いで村を捨てて逃げようとしましたが、それよりも早くグリムが村を包囲していて絶対絶命の時に、この子が助けてくれたんです」

 

 

 村長とオズピンの間の席に座っているオブリーは、ローブの内側からヒビの入った楕円錐の刀身に持ち手がついた簡素な剣とも言い難い武器を店内で掲げる。オズピンは興味津々といった様子で、その武器を見ながら訊ねた。

 

 

「かなりボロボロな、この武器で?」

 

「いえ。それ以外にもセンブランスを発動してグリムを倒していました。以来、オブリーはグリム退治に精力し、私たちもそれに甘える事に」

 

 

 オズピンは村長の体が小さくなっていく錯覚を覚えた。決して低くは無い背丈の持ち主ではあるが、オブリーに対する申し訳なさ等が勝ってしまい縮こまることしか出来なかったのである。

 

 

「とても助かっています。でも同時に、何とも情けないと今でも思っています。本来なら守るべき子どもにグリム退治をしてもらい、平和を享受している自分たちに。そして少しでもこの子の助けになればと、村の者皆で世話をすることにしたのです」

 

「事情は分かりました。しかし──」

 

「ええ、分かっています。このようなこと、罷り通って良いわけがありません。本来ならば正式にハンターを雇って解決すべき問題を、彼に押し付けていた。それが事実であり、罰を受けなければなりません。ですが──」

 

 

 村長はおもむろに席を立ち、床に跪こうとしたところでオズピンも席を立って、村長の行動を妨害した。

 

 

「落ち着いて、私は別に罰を与えに来た訳じゃない」

 

「し、しかし」

 

「確かに普通の人間であれば、このような事態にある村の現状に対し何かしらの非難を投げるのでしょうが、生憎私は普通とはかけ離れてるものでして」

 

 

 そう言ってオズピンはスクロールを取り出して自身の身分を明かそうとして、取り出したスクロールが一瞬で手から消え去ったことに気付く。

 

 

「ん?」

 

「こ、これオブリー!」

 

 

 村長の視線の先を見やると、何といつの間にか酒場のテーブルの上に座ってオズピンのスクロールと思われるものを触っていたのだ。まるで初めて見たものに触れるかのように、おそるおそる手探りな様子で。

 

 

(やはり、この子は只者では無い。最初に会った時といい今といい、気配すら感じさせることなく動いていた。気配を遮断するセンブランスの持ち主なのか、いやだとしたら戦闘時にセンブランスを使用していたという村長の言葉と若干の齟齬が)

 

「も、申し訳ございません! すぐに返すように」

 

「あぁ、別に構いませんよ。好きに触らせても大丈夫ですから……彼はいつもこの様なことを?」

 

「いえ、ごくまれに。元々悪戯好きなのか、村に来て暫くしたあと、頻度こそ少ないですが被害に遭った者は多少居まして。ただ度を過ぎた事はしていない上に、謝りもするので叱るに叱れず」

 

 

 そんな会話の終わりにオブリーが元の席に座り、オズピンにスクロールを返す。満足したのかはさておき、オズピンに向かって軽くお辞儀をしたあと店主が持ってくる料理を待とうとしていた。

 

 不意に、オブリーは姿勢を正したあと急いで酒場から外へ素早く出て行った。剣とも言い難い武器を取り出しながら颯爽と駆けていく様子から、村長は異変を察知した。

 

 

「まさか、グリムが!?」

 

(グリムの反応を検知した? にしては私の方には何も……いや待て、この反応は)

 

 

 直後、外から轟音が響いた。オズピンも村長と共に出て音の発生場所を探し、地中から顔を出したミミズに酷似しているグリムとオブリーが争う場面を目撃した。

 

 

「地中から……それにあのグリム、見たことも無い新種か」

 

「オズピン教授! 今すぐにここから避難してください! 私も村の者に避難するよう伝えに」

 

「いえ、私も彼に加勢しましょう」

 

「ですが!」

 

「なに、ご心配なさらずとも腕には自信がありますので。そうでなければ今頃、グリムの餌になっていた位には戦えます」

 

「!…………お願いします、あの子を!」

 

「ええ、お任せを」

 

 

 すぐにオズピンはオブリーの元へと向かい、店主や村長と別れた。そしてオブリーとグリムの戦いを見るために、戦闘の渦中へと身を投げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミミズのようなグリムが地中と地上を交互に移動する中、オブリーは本来人間が出来る筈のない2段ジャンプを用いて、地上に出てきたグリムの肉体を斬りつけていく。

 

 身軽な動きでグリムにダメージを与えているが、グリムの肉体が全て地中へと入れば、オブリーに出来ることは待ちの姿勢を取るのみ。目視による判断がほぼ不可能なオブリーの立つ地面が、少しずつ危うい場所に変化している事にオブリーは気付いた。

 

 ダッシュでその場から離れると、先程まで立っていた地面からミミズのようなグリムが現れた。あの場に留まっていれば一溜りも無かっただろうが、避けたことでこれ幸いと相手に隙が生まれた所を、自身のオーラで作られた塊を射出する。

 

 グリム本体への着弾と着弾時の爆発が更にダメージが重なる。しかしオブリーの攻撃に対し、あまり効いている様子のないグリムは、そのまま地中を潜りまた姿を消した。待ちの姿勢を保ち、異変にいち早く気付けるように集中する。

 

 オブリーの足元の地面から、僅かに土埃が舞った。すぐにその場で跳躍し地面から離れた瞬間、立っていた場所にグリムが現れオブリーを喰らおうとする。しかしオブリーの身につけたローブが、まるで翼のように変化すると1回の羽ばたきでグリムから逃れ、そのまま白いオーラを纏いながら落下攻撃を仕掛けた。

 

 その攻撃が効いたらしく、グリムは初めて痛みに悶え、堪らず自身の肉体を何度も地面に叩きつけ始めた。破れかぶれな攻撃を避け損ない、勢いで家屋の壁を突き破って距離を空けてしまう。

 

 間髪いれずグリムは喰らうべき対象であるオブリーに向かい、地上と地中を交互に移動しながら家屋ごと飲み込もうとした。

 

 

「試すような真似をしてすまない、オブリー君」

 

 

 突如、グリムの頭部を得体の知れぬ衝撃が突き抜ける。大きく横に逸れ、慣性により家を倒壊しながらオブリーの手前で止まった。

 

 オブリーが加勢に来たオズピンに視線を向け、それに気付いた彼は杖を地面についてオブリーの方に向き直る。

 

 

「今まで加勢できず、試すような真似をしてすまない。君の実力を量り、ついでにあのグリムの弱点を探っていた。君はすぐに休んd」

 

 

 言いかけて、オズピンは言葉を止める。オブリーの体から白いオーラが発生し、傷を癒していく。全ての傷が完治すると、オブリーは立ち上がりオズピンに軽く一礼した。同時にグリムも意識を取り戻し、2人はすぐさま家屋から逃れて体勢を立て直す。

 

 

(さて、どう動く? 見たところオーラも殆ど残っていないはず。)

 

 

 オズピンの見立てでは、1度引き姿を隠してグリムの弱点に一撃を当てて倒す。もしくはオズピンに任せて村民の避難を促す、他にも色々とあったが可能性が高いものとしてはこの2つだった。

 

 オブリーはオズピンの予想とは裏腹にグリムへと突っ込み、一撃離脱を繰り返していた。と、オブリーを見ていたオズピンは気付く。

 

 

(オーラが回復している? 相手に攻撃、いやダメージを与える度に自らのオーラを回復させる能力もあるのか……!)

 

 

 オーラが回復しきったところで、オブリーはオーラで形成された塊をグリムの頭部目掛けて放つ。幾度となく弱点を突かれた影響で、グリムは本日2度目のダウンを取られる。オブリーはグリムの頭部まで移動しながら、持っている武器にオーラを収束させていく。

 

 そしてグリムの頭部目掛けて放たれたのは、3回攻撃の回転斬り。これが致命的であったらしく、グリムは身体を大きく仰け反らせたあと、その巨体が地へと叩き付けられる。ピクリとも動かなくなったことを確認し、オブリーは武器をしまった。

 

 辺りに、オズピンの拍手が広がる。

 

 

「中々見応えのある戦闘だった。素晴らしいものを見せてもらったよ」

 

 

 オブリーは近寄ってくるオズピンに向けて、改めて一礼をする。

 

 

「いやいや。新種を相手して生き残り、剰え倒したのは君の功績だ。私は手助けをしたまでさ。……ところでオブリー君、1つ君に聞きたいんだが」

 

 

 オブリーはその言葉に首を傾げ、オズピンは続けて訊ねた。

 

 

「ビーコン・アカデミーに興味無いかい?」

 

 

 




RWBYOC2人目になります。こちらもゲームキャラから生み出しました。良ければ何のゲームから作られたのか、予想してくれると楽しめるかもしれません。

RWBYOC:その2
『オブリー・マルホッグ』Age12→17
身長152cm 体重53kg
常に2つの覗き穴のある蟻の頭部のような白い被り物を被っている
彷徨癖が目立つ イタズラ好き
喋れないので基本筆談か身振り手振り
センブランス:ホロウ


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Phoebe:Trailer

難産でした。


 4大陸の内の1つ、サナス大陸。このレムナントで最も大きな大陸の西部には、かつて行われた略奪や資源の乱獲によって荒廃した土地ばかりが広がっている。故にこの地に住まう人々はテントでの移動生活を強いられており、過酷な環境を生き延びた者は互いに尊敬すべき者として接する仲間として扱われる。

 

 そんな過酷な世界で生まれた1人の少女は、故郷の荒れ果てた世界と、同じ大陸の豊かな国との差異に憂いを抱いていた。少女は求めたのである、豊かな自由を。少女は辟易していたのである、貧しい不自由を。

 

 故に少女は、豊かな国に行く方法を考えた。足らぬ頭と過酷な世界で生きてきた経験を頼りに知恵を絞り、ようやくひり出した悪知恵を使って彼女はシェイド・アカデミーに目をつけられた。

 

 少女への評を取り繕うことなく言うのならば、欲に正直。その欲が満たされる為ならば、どのような手段であれ実行する躊躇いの無さも持ち合わせている。ある意味厄介な、しかし強かな人物像である事には違い無い。

 

 年月が経ち、少女はようやく自由への切符を手に入れた。座学は彼女自身も少しばかり目を瞑りたくなるぐらいの成績ではあったが、実技成績はその汎用性の高いセンブランスにより、トップクラスを叩き出した。これにより異例の事態ではあるが、シェイド・アカデミーからの推薦状を受け取ることが出来、晴れて彼女はビーコン・アカデミーへの入学が決定した。

 

 これから始まる豊かで平和な人生に胸を踊らせていた彼女だったが、そんな彼女の前に立ち塞がったのは、同じ時を過ごした仲間たちだった。比較的砂嵐が落ち着いている頃合に、彼女の前に彼らは立ちはだかった。

 

 

「どういうつもりなんだ、フィービー」

 

「一体なんのつもり? 御祝いって雰囲気じゃ無さそうだし、皆目が怖いよ」

 

「惚けるな! 何でシェイドじゃなくて、ビーコンに行くんだ!?」

 

「何でって、行きたかったからだけど」

 

「ッ、そんな簡単に!」

 

「いやあのさ、何で皆は私のビーコン行きに反対なワケ? 別に良いじゃん私が何処に行こうが、皆には関係ないでしょ?」

 

 

 フィービーと呼ばれた少女のルビーのような瞳が疑念を向ける。まるで当たり前のように言ってのけた彼女のそんな態度に、腹を立てたらしい1人が叫ぶ。

 

 

「ふざけるな! 何で略奪者の奴等が居る場所に行こうとする!? 俺たちが今こんな辛い生活をしなきゃならなくなった、元凶の居る場所なんかに!」

 

「あー、そういうヤツ?」

 

 

 その発言に対し、フィービーは彼らが何を言いたいのか()()()した。納得などこれっぽっちもしていないし、したくもない様子を隠そうとはしていないが。

 

 どこか呆れた面持ちのまま、半開きになった瞼から覗かれる赤い目が、この過酷な地ヴァキュオで育った同胞を無機質に見つめる。

 

 

「言っとくけどさ、私別にそういうの気にしない方なのよ」

 

「なに?」

 

「まぁ確かにヴァキュオは他の王国から豊富にあった資源を乱獲されたりしてこうなったけどさ、そこでアンタ達の言う略奪者だけを責めるって思想はよく分からないのよね。だってそれ、私たちより前に生きてた人達が怠惰に暮らさず、他の王国から資源を守るための力をつければ良かったのに、それをしなかったからこんな結果があるんでしょ?」

 

「……だとしても!」

 

「だとしてもも、へったくれも無いでしょ。私たちの今の暮らしは、むかーしむかしに怠惰に暮らした私たちより前の人達が生み出したツケが回ってきてるから。個人的にはそう思うのだけど?」

 

 

 何人かは思うところはあったのだろう。彼女への風当たりは弱まったものの、それでもまだ言いたげな彼らを見やって、フィービーも右側頭部を軽く指で叩きながら発言を再開した。

 

 

「…………もしかしてさ、私がヴァキュオを出て別のアカデミーに行こうとしてる事が、裏切り行為だと思い込んでる?」

 

 

 砂塵を運ぶ風の音だけが静かに木霊した。その反応に兎に角心底呆れ返ったのか、天を見上げて他の者にも聞こえるぐらい大きく長く溜め息を吐いて、彼女にとっては何とも馬鹿馬鹿しい理由への第一声が叫ばれた。

 

 

「バッカじゃないの!? 思い込みもここまで来ると、いっそ清々しいわねアンタ達! そんな事で裏切られたとか思われてたなんて心外よ!」

 

「けど!」

 

「けども何も無いわよ! 私はね、ヴァキュオの生活に今もウンザリしてるのよ! オシャレは出来ないし真面な御飯なんて食べれやしない! 生きるのに精一杯で友だちとショッピングなんて以ての外で、恋バナなんてちっとも出来やしない! こんな不自由な暮らしを続けるのは、もうたくさんなのよ!」

 

「だから他のハンターの仕事を奪って、シェイド・アカデミーに自分の存在を誇示したのか」

 

 

 集団の中を掻き分けて新たに先頭に立ったのは、薄いピンクがかった橙の肌に暗褐色の模様が入ったトカゲのファウナスだった。成人男性の太もも程の太く短い尻尾を携えた彼女は、フィービーに対して敵対的な視線を崩さなかった。

 

 

「なに、悪い?」

 

「いや、そういった方法でシェイドに目を付けられるようにしたのは中々頭を捻ったと思うし、褒められた方法では無いにせよアンタの意思を非難するつもりは毛程もない。でも……」

 

 

 トカゲのファウナスの彼女は徐に自身の武器であるウルミを取り出し、取っ手を口に運びそれを噛むと、ウルミの刀身に雫が伝わっていく。再度武器を手に持って構えると、フィービーにゆっくりと歩み寄り始める。

 

 当のフィービー本人はというと、先程の彼女の行動を見て僅かに後ずさった。

 

 

「アンタは自分の願望を叶える為に、()()()()()()()()()()()()()()()。本来受けられていた筈の仕事が出来なくなったハンターを、一体何人生み出した? ん?」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。それは洒落になんないから一旦落ち着いt」

 

「落ち着けだと? 物凄く落ち着いているじゃないか。ただ歩いているだけなのに何を怖がっている?」

 

「なら普通武器は持たないんじゃ無いかな!?」

 

「あぁそう。話を戻すが、仕事が出来ないハンターの中には私の両親も居てな。それにヴァキュオに居るハンターの中でも噂になっていたんだ、仕事をしようとしたら先に誰かが仕事を奪っていて、報酬が貰えなかった事態がな」

 

 

 トカゲのファウナスは自身の毒を流し込んだウルミを、フィービーに向けて振るった。

 

 

「ちょぉぉおおっ!?」

 

 

 フィービーは振るわれたウルミの刀身をバク転で避け、そのまま距離を取る。絶対に当たってはならないと知っているからこそ、この慌てようを隠そうともしない。

 

 

「ちょっ、ホントに洒落にならないってば!」

 

「何だ、もう忘れたのか? 私の毒は死には至らない弱い毒だというのに」

 

「よく覚えてるわよ! もう2度と当たりたくないから避けてるんでしょうが!」

 

「だがお前は受けなければならん立場にあるとは思わんか?」

 

 

 1歩、トカゲのファウナスがフィービーに向かって動く度に、彼女はまた1歩後ずさる。2人の間は縮まらないが、追い詰められているのはフィービーの方であった。

 

 

「ヴァキュオに生きるハンターは、この荒れ果てた地で生き残るためにハンターをしている者が多い。フィービー、お前は生きるために必要な物を奪って権利を得た。それ相応の報復は覚悟しておくべきだということもな」

 

「それが今だって言いたいわけ? というか、こんな事してもただの鬱憤ばらしにしかならないわよ」

 

「不平不満を晴らしたいのが私だけとも思うなよ? お前はヴァキュオに住まう全てのハンターに迷惑をかけたんだ、私1人にやられるぐらいどうって事無いだろう」

 

「ぜーったい、いや!」

 

「文句は受け付けん!」

 

 

 毒の染み込んだウルミの刀身が振るわれる。刃はフィービー目掛けて凪ぐように向かってくるが、身体を縮めて前方へと回避すると彼女は勢いのままトカゲのファウナスに目掛けて蹴った。

 

 トカゲのファウナスは蹴りを危なげなくバックステップで回避したあと、ウルミを勢い付けるために左足を軸に左回転を行い、ウルミの刀身をフィービーの頭上目掛けて振り下ろす。側転で避けられたが、すぐに刀身を引き寄せて再度彼女目掛けて振るう。

 

 防戦一方かと思われるフィービーであったが、トカゲのファウナスから距離を取った所でセンブランスを発動する。彼女の肩に夜空の星が猫の形も持った何かが現れると、フィービーの色彩が赤、白、黒のみに変わった。直後、フィービーは上に向かって()()()()()

 

 

「逃げるな卑怯者ッ!」

 

「戦略的撤退って言うんだよこういう時は! 2度と会うことは無いかもだから、じゃあーねぇー!」

 

 

 物理的に届かない距離を取ったフィービーは、1度落下を止めたあと今度はヴェイルの方角に向かって高速で落下して行った。

 

 落ちていく彼女へ向かって忌々しげな様子を隠すことも無く、トカゲのファウナスは自身の武器を収める。彼らはただフィービーの行く先を見続けるだけしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、ヴェイル王国ビーコン・アカデミー。5年前に良い拾い物をしたオズピンの目にとまっていたのは、今年入学する生徒の一覧であった。その中の1人、シェイド・アカデミー直々の推薦を貰ってヴァキュオからビーコン・アカデミーへの入学をもぎ取った、『フィービー・カトゥルス』その人を今は見ている。

 

 彼女に関する情報の幾つか、主にパーソナルデータや経歴等に関するものとセンブランスを使ったグリム退治活動の記録を入手し、改めて資料を確認していたところに扉のノック音が耳に入った。

 

 

「どうぞ」

 

『失礼します』

 

 

 扉が開かれ、部屋に入ってきたのはビーコン・アカデミーの教師であるグリンダ・グッドウィッチ。彼女は部屋に入り、オズピンに頼まれていた調査の報告を始めた。

 

 

「オブリー・マルホッグに関する情報ですが、手掛かりは見つかりませんでした。他国の戸籍情報も確認してみましたが、彼の両親と思しき人物さえ居ません。その痕跡さえも」

 

「そうか。ご苦労だった、グリンダ。この5年、手間をかけさせた」

 

「全くです。急に奇妙な子どもを連れてきたと思ったら、あの子をビーコンで預かると言った挙句、身辺調査をしろと」

 

「容赦が無いな」

 

「そう言われるだけの事を頼んだのです。これぐらいは甘んじて受け止めて下さい」

 

「それもそうだな」

 

 

 短いやり取りを終えて、ふと彼女の視線はオズピンの見ていた今年入学する予定のフィービーに向けられた。

 

 

「1つ聞いても?」

 

「構わないが、フィービー・カトゥルスの事か?」

 

「えぇ。なぜ彼女の入学を承認なされたのか、常々考えてまして」

 

「強いて言うならば、良い刺激になるからだな」

 

「随分と評価しているのですね。私には、彼女が生徒に悪影響を及ぼすのではと」

 

「否定はしない、その可能性もあるだろう。とはいえ良い機会とも捉える事が出来る」

 

「というと?」

 

「影響が良かれ悪しかれ、彼女のような人物と関わりは学びを得る。ヴァキュオに住まう人間の思想や思考、そんな彼女とどう向き合うのか。いい勉強になると私は思うんだ」

 

「……言い分は理解しました。ただ、悪影響を及ぼしかねない人物よりも、良い影響を与えるような人物であれば生徒の意識向上にも繋がるのではと個人的には思います。例えば、今年入学してくるアイアンウッドの息子の──」

 

「いや、正直なところ彼は劇薬の類だと考えている」

 

「劇薬? 彼がですか?」

 

「ジェイムズからSDC(シュニー・ダスト・カンパニー)からの要望だという詳細を聞かなければ、入学を許可していなかったぐらいには」

 

 

 オズピンは机の上に置かれたココアの入ったマグカップを持ち、最後の1口を飲み干そうとした。しかしやって来た味わいが想像と違うものだと感じた途端、口に含んでいたココアをマグカップの中に戻してしまった。

 

 

「オズピン?」

 

「ああ、大丈夫だ。ココアに塩が入ってたらしい。多分だが、最後の1口を狙ってあの子が入れたようだ」

 

 

 グリンダが辺りを見回す。そして先程入室の際に通った扉の方を見れば、ぱたんっと閉まる扉を捉えた。大きな溜め息をついて彼女はイタズラの主犯であるオブリーを捕まえに、オズピンに一礼して部屋から退出した。

 

 残されたオズピンはマグカップの中の塩入りココアを飲んだ。最後の1口であったがために、塩の味が口の中に広がっていくが、これ以上飲まなくて良いので、少し困った顔で空になったマグカップの中を覗く。

 

 机の上にそれを置いたあと、読んでいた資料に視線を戻しページを捲った。ハウル・アイアンウッドの項目を一瞥したあと、次にある人物の情報が掲載されたページを見た。

 

 『サクラ・ウカノ』について纏められたページであった。

 

 

「毒を食らわば皿まで、とあるが2人分の劇薬では皿まで食べ切れる自信が無いのだがね」

 

 

 そう呟くようにこぼれ出た愚痴は、歯車の回る部屋の中に広がっていった。




RWBYOC:その3
『フィービー・カトゥルス』Age17
身長167cm 体重59kg
金髪 褐色 赤目 美少女のグループ(自称)
天真爛漫 お転婆娘 甘いもの好き
センブランス:重力操作


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Sakura:Trailer

 レムナントの中で2番目に大きな大陸アニマ。サナス大陸の東に位置し、4王国の1つ『ミストラル』が存在している。

 

 ミストラルに住まう上流階級の人間は、あらゆる物に価値を見出し、レムナントの文化的貢献を構築している。そんな煌びやかな世界とは裏腹に、下層階級には世界最大のブラックマーケットが存在しており、犯罪者の隠れ蓑として有名なのは少し調べれば分かるほど周知されている。

 

 金さえ払えば、どのような事でも受領する彼らではあるが、そんな彼らでさえ敵対してはならない相手が居る。今回は特別に、匿名性を保持する条件を呑んでもらい、1記者たる私が関わってはならない相手についても取材した。

 

 取材相手である『A』氏へのインタビューを続けていると、関わってはならない相手について語ってくれた。

 

 

「どんな世界には、間違っても手を出しちゃならん相手が居る。自分らみたいなのが束になっても敵わない奴等さ、中でもヤバいのが2つ」

 

 

 指を2本立て、分かりやすく此方に示した。手を出してはならない相手について、机に置かれている水の入ったコップを持って、コップの半分まで飲んだあと話が再開される。

 

 

「1つ、ここ最近新しく設立されたアトラス軍特殊部隊の『ルミナス部隊』。情報規制があるせいで詳しい事は分かっちゃいないが、全員が手練なのは間違いない。隠密戦、強襲戦、電子戦、情報戦……目を付けられれば間違いなく終わりと思っていい相手だ」

 

 

 では、もう1つは一体? やはり、アトラス軍関係の相手なのでしょうか?

 

 

「いや、アトラス関係では無い。だが敵対したら最後、地の果てまで追って根絶やしにしかねない奴等が居るってのは確かだ」

 

 

 いつの間にか水を全て飲み干して、取り出した煙草に火をつけて紫煙を燻らせた。

 

 

「敵対しちゃならない相手には共通点ってのがある、結果が割に合わないのさ。逆に自分らが痛い目を見続ける羽目になってしまうから、矛を向ける事は無い。互いにな」

 

 

 煙草が4分の1ほどまで灰になり、灰皿へと落とす。

 

 

「ルミナス部隊以外に敵対しちゃならんのは、ただ1つ。ウカノグループだ」

 

 

 ウカノグループ。確か、第一次産業のシェアリングエコノミーで急速に名を挙げた、あのウカノグループ?

 

 

「そう。あの、ウカノだ。このレムナント全土の食料を支配してると言っても過言では無い相手には、絶対に手を出しちゃならんのが暗黙の了解になってる。ウカノに手を出す奴が居るのなら、そいつはモグリか命知らずかのどっちかだ」

 

 

 1つ聞いても? 何故SDCではなく、ウカノグループなのですか? 確かにウカノグループは急速な成長を遂げ、レムナントを台頭する企業にまで上り詰めていますが。

 

 

「言いたい事は分かる。確かにSDCはレムナントのダスト産業や他産業を担っていて、まさしくレムナントの支配者。そんな場所を狙えば間違いなく報復されるだろうな、さっき言ったルミナス部隊もある。だがウカノと違いSDCは、近年その勢力が弱まりつつあるんだよ」

 

 

 ……ホワイト・ファングですか。

 

 

「そう。ホワイト・ファングが積極的にSDCを狙ってる事もあって、ウカノは着々と勢力を増やしている。加えてウカノはSDCみたく、低賃金・劣悪環境・人権無視の方針とは真逆を進んでいる。風の噂によれば、ウカノは元ホワイト・ファングの構成員までも適切な労働条件を出して仕事させてるみたいだ」

 

 

 そう聞くと、凄い人望の厚さがありそうですね。

 

 

「実際、人望はあるだろうよ。人間とファウナスの差別をせず、労働従事者として平等に接する。人道とやらに則った社風だからこそ、ウカノは発展した。中にはウカノこそが至高だと宣う奴も居る、そんな奴等が大量に居るウカノに喧嘩を売ったとなれば、問答無用で消されかねない」

 

 

 だから、ウカノには手を出さない。

 

 

「出しちまえば最後、禄な終わり方にはさせちゃくれないだろうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わってミストラルの高地にある小さな木造の小屋。小屋の前には小さな畑があり、右隣には別の木造小屋が建てられている。小屋の左側には天然の湧水源があり、いつでも水が引けるように水路が作られていた。

 

 引き戸になっている扉を開けて、紫色の髪を古墳島田と呼ばれる結い方で纏めている少女が現れる。小学校低学年に見られる位の身長でありながら、農業に用いられる服装を着て別の小屋に向かって行った。

 

 小屋の中では育苗棚にて育てられている米の苗があり、彼女は現在の状態を見る。

 

 

「……ふむ、良い良い。そのまま何事もなく育っていっておくれよ」

 

 

 確認したあとは、今いる小屋から鍬を持って外へと出ていき、固くなっている畑へと足を踏み入れ、掛け声と共に土を耕し始める。

 

 

「ぃよッ!」

 

 

 畑の広さはそこまで大きい訳ではなく、1人手作業でやっても問題ない。現在は機械にとって置き換えられているが、今この場ではそれについて言及していない。何の疑問も抱くことなく、少女は鍬を慣れた手付きで振るう。

 

 途中ある石などは取り除きながら、速いペースで進めていき、いつの間にか時刻は昼頃。朝食は軽く済ませているため、腹の虫が鳴ったのを気に休憩を始めた。

 

 ちょうど良いタイミングで、人の足音が近付いてきた。少女が小屋の縁側で待っていると、現れたのは大柄なゴリラのファウナスで、その手には風呂敷に包まれた物品を持っている。そのゴリラのファウナスは少女のもとまで歩み寄ると、しゃがんで視線を合わせて持ってきていた物を渡した。

 

 

「お嬢、本日の昼食に御座います」

 

「おー、ちょうど腹ペコじゃったんじゃ。うむ、褒めてつかわそう」

 

 

 ゴリラのファウナスから風呂敷を受け取り中身を確認する。入っていたのは笹の葉で包まれた物と、保温機能のある水筒、そして弁当箱が1つ。笹の葉の包みを開ければ三角握りのおにぎりが3つ、弁当箱を開ければ肉と山菜と卵焼き、水筒の蓋を器にして中身を注げば出汁の効いた味噌汁が現れた。

 

 それら全てを用意して、少女は両手を合わせる。

 

 

「いただきます」

 

 

 笹の葉に包まれていたおにぎりに手を伸ばしかけ、少女は待機しているゴリラのファウナスに視線を向け声をかけた。

 

 

「そういやバルバロ、おぬし昼は摂ったのか?」

 

「いえ、お嬢の食事が済みしだい本家に戻り、ホルホッサ様にお渡しした後に」

 

「バルバロ」

 

 

 少女は声のトーンを落とし、溜め息を1つこぼす。おにぎりに伸ばしかけていた手の動きを再開し、1つを手に取った。

 

 

「ほれ、手を出せ」

 

「はっ」

 

 

 少女はバルバロと呼ばれたゴリラのファウナスが差し伸べた手のひらに、自分が食べる分であるはずのおにぎりを置く。

 

 

「あの、お嬢?」

 

「その大きさでは腹の足しにもならんじゃろうが、儂1人では少々食いきれん。手伝え」

 

「しかし」

 

「くどい。手伝えと言うておろう」

 

「……御意のままに」

 

 

 少女は縁側に座るよう誘導し、バルバロは優しげな顔になって縁側に座った。それを見て少女は残りのおにぎりを取る。

 

 

「では、いただくとするかの」

 

「ご相伴に与ります」

 

 

 バルバロはおにぎりを1口で、少女は海苔に届かない辺りの所まで食べ、よく咀嚼した。それからは特に会話は無く、しかし鳥のさえずりや風の吹く音などが静寂を呼び寄せない。

 

 そうしてふと、少女は思い出した。

 

 

(あれ、儂なんで当たり前のように労働しとるんじゃ?)

 

 

 そこからであった。思い出される日々の内容は、アカデミーに通いながら農業の苦労とはどういったものかを、この身をもって学ばされた事。農業狂いである自分の母の言いつけを、当初は面倒くさがっていたのにも関わらず、何だかんだビーコン・アカデミー入学前まで続けていることを改めて思い出した。

 

 

(儂、そもそも肉体労働も頭脳労働もクソだと思っておらんかったか? なんで律儀に米作りを手作業で、いやその前に農薬ではなく堆肥で土地を育てる時点で正気かと疑いはしたが……ちょっと待て、儂元肥済ませておったっけ?)

 

 

 食べている途中であったが、少女はおにぎりを食べながら堆肥を入れている桶のところに向かい、中身が入っていることを確認した。

 

 

「しもうたな」

 

「お嬢?」

 

 

 バルバロは少女の様子が気になって声をかけた。少女もバルバロの方を見て、食いかけのおにぎりを食べる。

 

 

「バルバロ、来てなんだが堆肥を撒いてくれんか。元肥をまだ済ませておらなんだ」

 

「よろしいのですか? 食事中にそのような」

 

「もう慣れたわい。今更腐ったものを嗅ぎながら飯食う事なんぞに抵抗もクソも無いわ」

 

「まぁ、それでも構わないのでしたら、やらせていただきますが」

 

「文句は言わん、遠慮なくやれ」

 

「では」

 

 

 そうしてバルバロが畑に堆肥を撒き始める中、特別臭いに気にせず飯を食べる少女。その作業を見ながら、色々なことを考え始めた。

 

 

(そういえば、そろそろビーコンへの入学時期か。入学準備は済ませておるが、この畑の管理を誰に任せるのか決まって無かったの。バルバロはいかん、果樹園を任せておるしな。あと他には──)

 

「お嬢、堆肥撒き終わりました」

 

「うむご苦労」

 

 

 考えていた彼女ではあったが、ひとまずやる事をやってから自分の執事にでも相談すれば良いかと思い、昼食を食べ終えて片付けを済ませる。風呂敷に包まれた洗い物などを持って、バルバロは少女の居る小屋を離れて行った。

 

 食事は摂ったが、元肥を撒いた以上少し早めに休憩を切り上げて土を掘り返していく。その間も、誰にこの畑を任せようかと考えて暫く経ち、田起こしも終えて後は苗が育つのを待つのみ。

 

 あとは特に何もすることも無いので、このまま少女は下へと降りていく。多少整備された道を歩くこと30分、少女の目に入ってきた景色は壮大なものであった。

 

 農場、農場、農場。どこもかしこも何かの野菜を育てており、時折蜜蜂達が花の蜜を集めに飛んだりしている。通り道を少女が歩けば、彼女を見た農家たちは挨拶をし、少女も挨拶を返していく。

 

 そうした帰路を通り、少女は家屋の並ぶ住所地帯の中でも一際大きな平屋敷に到着した。門を潜り踏み石が並ぶ道を通り、引き戸を開けた。

 

 

「爺ー、帰ったぞー」

 

 

 声が屋敷の中を素通りしていく。思えば、いつもならば帰りに合わせて玄関で待っている筈の本人が居ないと気付くやいなや、少女は腰に付けた棍棒を手に取り警戒心を持って家の中に入っていく。

 

 やけに静かな部屋をゆっくりと歩き、少しばかり億劫になるほどの広さのある自分の家で警戒しなければならないストレスを何故自分が体感しなければならないのか腹が立って、無気力気味に敵を探し始めた。

 

 そうして台所にまで到着すると、外から物音が耳に入る。何の警戒心もなく足音を立てながら、裏口のドアに手をかけて開ける。しかし外を見ても誰も居らず、何処から音が出ているのか周りを見れば蔵の扉が少し開いている。

 

 蔵を荒らしに来た阿呆を対処していたのだろうとアタリを付け、どんな輩が来たのか見てみようと思い立ち、少女は蔵の扉を開けて中を覗いた。

 

 

「おや、お嬢様。お帰りなさいませ」

 

 

 そこに居たのは、歳を召した老齢の男。しかしただの人間では無く、この男はミミズクのファウナスである。丁寧な所作で少女に一礼した彼を一瞥して、特に問題は無い事を悟った。

 

 

「うむ、帰った。じゃがあまり手間をかけさせるな、面倒事は嫌いなんじゃ」

 

「大変申し訳ございません。ネズミが入り込んだので対処に」

 

「よい、此度の事は責める程でも無い。後のことは任せたぞ、儂は疲れておるでな」

 

「かしこまりました」

 

 

 少女は裏口から室内へと戻っていき、執事は扉が閉められたのを確認したところで、蔵の中に居る()()()へ視線を向ける。

 

 

「さて、お嬢様もお戻りになられた事ですので──すぐに終わらせるとしようか」

 

 

 右手を顔の辺りまで挙げて、左手で右手首を掴みながら右手の指を鳴らす。彼の視線の先には1人の男のファウナス(同類)が居り、傍らにはグリムに似た仮面が転がっていた。

 

 

「ッ……! ぐッ……!」

 

「あまり動くな、傷が増えるぞ」

 

 

 執事はファウナスの胸ぐらを掴み、少女と接していた時とは想像できない程の冷たい視線を向ける。満身創痍のファウナスであったが、その視線を向けられた途端に意識の全てが執事に注目してしまった。

 

 

「1つ聞こう、ここに住まう御方が誰か分かった上で襲撃したのか?」

 

「なん、で……俺は、ホワイト・ファングの、幹部だぞ……!? こんな、事が」

 

 

 男が言い終える間も無く、執事の拳が鳩尾目掛けて放たれる。まるで極太の槍にでも貫かれたかのような衝撃をくらって意識が一瞬で飛んだが、()()()()()()()()()()()()()

 

 

「質問に答えろ。2度も手間を掛けさせるな」

 

「し、知っていた! ウカノへの威力偵察という命令で、あわよくばウカノの勢力を削げとの命令で!」

 

「誰に?」

 

「う、上からの命令としか知らない! 本当だ!」

 

 

 執事が少しばかり考える素振りをして男から手を離すと、執事は自身の内ポケットから大金と呼ぶべきリエンを取り出し男へ投げ捨てた。

 

 

「此度はこれで不問にしてやる。さっさと失せて、ヴァキュオにでも向かえ」

 

 

 男は訳が分からないといった様子で執事を見上げる。その理由を執事は丁寧に教えた。

 

 

「無論、それは口止め料だ。私の言いたい事は分かるだろう? 今回は無かったことにしてやると言っているんだ、相応の価値を払わねば示しがつかないのでな」

 

「で、でもアンタこれ」

 

「敵味方なぞ関係ない。何かを頼むのであれば、相応の価値を相手に支払う、それが取引というものだ。だが努努忘れるな、またウカノグループに牙を向けるような事があれば──」

 

 

 “気付かぬうちに骸に成り果てるぞ”。最後の一言を聞いたファウナスは蔵から慌てて逃げ出し、2度と近付かないことを誓った。




今回でプロローグは終了。
次からは本編軸と絡んでいきます。

RWBYOC:その2
『サクラ・ウカノ』Age17
身長143cm 体重42kg
のじゃロリ 髪色:紫 目:黒 髪型:古墳島田
服装:動きやすい農民スタイル
第一次産業で成功したウカノグループの御令嬢
センブランス:現在非公開


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Volume1
1


難産で長文になりました。
ここからVolume1の内容となります。


001

 

 

 

 月日は巡り、新たな出会いの時期となったレムナント。全てのアカデミーでは新入生を迎え入れる頃、ビーコン・アカデミーに入学する新入生の間では様々な話が飛び交っていた。

 

 本来17歳からの入学条件であるにも関わらず、飛び級により15歳から入学した天才少女が居るだとか。

 

 ビーコン・アカデミー入学前に色々とやらかしたヤバい奴が居るだとか。

 

 SDCの御令嬢が何故かビーコン・アカデミーに入学してくるだとか。

 

 あのウカノグループの御令嬢が何故かビーコン・アカデミーに入学してくるだとか。

 

 その内の1つ、件の天才少女『ルビー・ローズ』はというと、妹との入学という予想外の出来事に驚喜している姉の『ヤン・シャオロン』に抱きしめられている最中であった。

 

 

「ああうっそみたい! 大好きな妹とビーコンに通えるなんて今日って本当に最高!」

 

「お姉ちゃん、苦しいよ……」

 

「だって、あんたが自慢でしょうがないから!」

 

 

 姉の喜びように反して、妹の方は素直に喜べるような表情をしていなかった。そも、ルビー・ローズがこの歳でビーコン・アカデミーに通う切っ掛けは、先日ダストショップの強盗騒ぎに居合わせて強盗犯を全滅──とは言わずとも退治し、取調室のような場所で女性から説教を受け、その後やって来たビーコン・アカデミー学長のオズピンに入学したい旨を言ったら、急にこうなっただけなのだから。

 

 本人は仲の良い友人たちと一緒に入学するつもりであったのに、何の手違いなのかと疑いたくなる事なのは違いない。悪目立ちしたくないらしいが、こういったものは否が応でも目立ちやすいものである。

 

 幾らかの会話の後、飛行艇内のホログラムからルビー・ローズが関わった悪党の名が聞こえる。指名手配犯であるローマン・トーチウィックに関する情報があればヴェイル警察まで、との発言のあと内容はファウナス権利団体の集会にホワイト・ファングが乱入する事件が語られる──前に、ホログラムが女性の映像に切り替わった。

 

 

『ビーコン・アカデミーへようこそ』

 

「誰あれ?」

 

『グリンダ・グッドウィッチです』

 

「ああ」

 

『皆さんは栄えある我がビーコン・アカデミーへ入学を許された、選ばれし生徒です』

 

 

 ホログラムに映された彼女から続いた言葉は、ハンターを目指す生徒たちへ向けた、これから負う責務とアカデミーから彼らに渡せる経験について。それらが語り終わると、ホログラムが消えた。

 

 そして生徒たちは窓の外を見る。ヴェイル王国の景色、多くの人が上空から見下ろしているその光景は何よりも格別な物に映っていた。

 

 

「ぃいやっふぉー!」

 

 

 それ以外にも、空を飛んでいる誰かが居るようだ。

 

 

「お姉ちゃん、空飛んでる!」

 

「そりゃ飛んでるでしょ。何言ってるの?」

 

「そうじゃなくて人が飛んでる!」

 

「うっそマジで!? どこどこ?」

 

「あっちに行った!」

 

「えーどこよ!?」

 

「だからあっちだって!」

 

 

 いつの間にか、殆どの視線は空を飛ぶ彼女に集まっていた。

 

 

 

002

 

 

 

 ビーコン・アカデミーに1番速く到着したのは、1番先頭に居た飛行艇──ではなく入学する1人の生徒であった。いの一番に到着した彼女は、センブランスを使って早速探検を始めた。

 

 それから少しあとに飛行艇が到着し、搭乗していた全生徒がビーコンに降り立っていく。中には降りないで足早に胃の中の物をスッキリしにいく生徒も居るようだが。

 

 ルビーとヤンの2人も降り立ってビーコンを見上げた。待ちに待ったアカデミーを目の前に彼女らは昂りを隠せないでいる所に、上空から声が聞こえてきた。

 

 

「退いてどいてー!」

 

「え、うわぁああ!?」

 

「ちょちょちょちょ!?」

 

 

 群衆の中心に落下している彼女から生徒たちは離れていき出来た空間の中心に衝突……するかと思いきや、一瞬だけ体色が変化すると全ての勢いが殺された様にギリギリで止まった。

 

 体勢を整えたかと思えばまた色が変わり、今までの落下速度を無視したような軽い音が鳴る。落下してきた当人は、どこかあっけらかんとした様子で両腕を上に伸ばして自身を誇示し始めた。

 

 

「たらーん! 私、降・臨☆!」

 

「ちょっと! 危ないでしょアンタ!」

 

 

 退避していたヤンが落ちてきた彼女へと詰め寄るものの、当の本人はキラキラと表情を輝かせてヤンに急接近する。

 

 

「あなた超かっこいい!」

 

「へっ?」

 

「ねね、名前なんて言うの? あ、私フィービー。フィービー・カトゥルスよ、よろしく!」

 

「あー……私はヤン、こっちは妹のルビー。ってそうじゃなくて! あんな風に落ちてきたら危ないでしょ!」

 

「大丈夫、避け無かったら当たる前に止まって退いてもらうつもりだったし。ねぇそれより、あなた何処から来たの!? 金髪は地毛? 私のは訳あって少し薄いけど同じ金髪だしお揃いだよね! その服どこで買ったの? もし良かったら一緒にその店に行ってみたいなぁ! このブレスレット結構おっきいね、ヤンにとっても似合ってる!」

 

「あー……」

 

 

 中々のマシンガントークで会話の主導権を握り、ヤンが困り始めた。そのあとも尽きぬ興味に突き動かされるようにして聞いてくるので、明朗快活なヤンでさえも戸惑っている。

 

 しかしそのマシンガントークが不意に止まったかと思えば、フィービーはハッとした表情を浮かべた。

 

 

「そうだ! 今から講堂に行こ! 待つのは面倒臭いけど、あなたや他の子たちと色んなお話しすれば時間も潰せるしお互いの理解も深められるから一石二鳥よね! よし決まり行こう!」

 

「ちょっと人の話をおおおお!?」

 

「おねえちゃーん!?」

 

 

 フィービーの肩に猫のような何かが現れた次の瞬間、フィービーの全身の色彩が変化し彼女と彼女の周囲に居た生徒たちが浮き始めた。そのままヤンは他の生徒と同様にフィービーによって連れ去られていってしまった。

 

 残されたルビーは遠くなっていくヤンとフィービーを見上げて呆然としていたのも束の間、現実を直視し慌てふためく。

 

 

「ど、どどどどうしよいきなり1人になっちゃったし、寮とか講堂とか場所分からないし、何をどうしたら」

 

 

 ルビー・ローズ、早くもピンチに陥る。慣れ親しんだ友だちも居なければ、唯一頼れる姉もフィービーなる人物に連れ去られてしまっており、咄嗟に何をすれば良いのか考えがまとまらない様子を見せた。

 

 ただ、そんな慌てふためいている彼女に手を差し伸べる者が居た。

 

 

「どうされましたか?」

 

「あ、えっと人とはぐれちゃって……わぁ」

 

 

 そう言いながら背後に立っている人物と目を合わせようとして、ルビーは少しの驚きが混じった声を出す。自分より遥かに高い背丈にモフモフとした白い尻尾、真っ白な髪と頭の上にある獣耳の()()。優しげな笑みを浮かべながらルビーの目の前に居るファウナスは声をかけた。

 

 

「どちらに向かわれたかお分かりですか?」

 

「えっと……講堂、に?」

 

「講堂でしたら、あちらの方に進んでいくようにすれば辿り着きますよ」

 

「ありがとう、ございます」

 

「ついでなのですが、1つお尋ねしても?」

 

「はぁ」

 

 

 やけに声が低いなと思いながらも、ルビーは目の前の()()の質問に付き合う。

 

 

「失礼ながら、貴女はビーコン・アカデミーの入学生なのでしょうか?」

 

「あ、はい。そうです」

 

「ふむ、なるほど。あぁいえ少し疑問に思っただけでして、見たところ他の方々より年若いような雰囲気でしたので」

 

「あ、私は──」

 

「何をしてますの、ハウル?」

 

 

 白狼のファウナスである()()の後方から、同じく白い髪と白い服装で纏めた生徒らしき人がやって来た。その彼女の後ろには荷物を運んでいる使用人らしき人物が2名ほど。

 

 ハウルと呼ばれたファウナスは、ルビーから視線を離して(うやうや)しく一礼して質問に答えた。

 

 

「どうやら道に迷われていた様子でしたので、案内を」

 

「あなたは(わたくし)の護衛でなくて? 勝手をされては困りますわ」

 

「今後長い付き合いになるであろう学友の方々との交流は欠かしてはならないでしょう。それに、先んじて確認する事も護衛の仕事ですよ」

 

「全く、その口は何時になったら閉じるのかしら?」

 

「それはボクにも分からない事ですね」

 

「はぁ……兎も角、行きますわよ。そちらの──ハウル、彼女まだ子どもじゃないの」

 

「ボクもワイス様も子どもですがね」

 

「そういう事を言って! ……いえ、これ以上は止めておく事にします。行きますわよハウル」

 

「かしこまりました。失礼、ボクはこれにて」

 

「あ、ありがとう」

 

 

 話が終わると、ハウルと呼ばれたファウナスはワイスと呼ばれた彼女と、彼女の使用人と共に目的の場所に向かい始める。途中、ハウルはルビーの方を振り向いて一礼を済ませると、元の進路に戻っていった。

 

 

「優しそうな人だったなぁ」

 

「そうかしら」

 

「うひゃあっ!?」

 

 

 独り言に答えられた事で驚いて後ろを振り向くと、ルビーの背後に頭頂部の黒いリボンが特徴的な人物が立っていた。驚いているルビーを他所に、その彼女は言葉を続けた。

 

 

「さっきの、SDCの令嬢だったわ」

 

「えーっと、ハウルっていうファウナスの方?」

 

「まさか。そのハウルって人と話をしていたワイスって呼ばれていた彼女の方よ。SDCに関係してそうな人間を信用するのはオススメしないわ」

 

「それってどういう?」

 

「SDCは労働者の問題や怪しげな取引先も多くて、かなり悪名高い世界有数のエネルギー会社よ。そこの令嬢の護衛ともなれば、あのファウナスも危ない繋がりを持った人物だと予想できる」

 

「でも道案内してくれたよ?」

 

「周囲との関係を良くしておけば、怪しい事をしても擁護されやすいのよ。覚えておくと良いわ」

 

「ちょっと、流石にそれは!──」

 

 

 ルビーが彼女の発言に物申そうとしたが、その前に自身から離れていく彼女の背中が視界に映り、結局何も言うことが出来なかった。盛大に溜め息をつき、ハウルの言っていた方向へと歩こうとして呼び止められた。

 

 

「やあ」

 

「あー……どうも?」

 

「俺、ジョーン。何か困ってそうだったからさ、良かったら話聞くよ」

 

「ルビーよ」

 

 

 近くに居る金髪の青年をルビーは見つめ、鼻に伝わる臭いで何かを思い出したかのように言った。

 

 

「もしかして船でゲロった子?」

 

 

 

003

 

 

 

「だからさ、みんな口に出さないけど乗り物酔いはよくある事なんだって!」

 

「だからごめんって。ゲロった子って印象が強かったからさ」

 

「ちょっと、人の痴態をほじくり返すなって! 俺にはジョーン・アークって名前があるんだから! 覚えやすくて言いやすい、女子にだってモテる!」

 

「本当?」

 

「マジだって! ──いや、いつかはモテたい。母さんがいつも……やっぱりなんでも無い」

 

 

 講堂のある方に向かって歩いている2人は、意外にもお互い談笑をするぐらいには仲良くなっている。初めの印象こそ良いとも悪いとも言い難かったものの、初対面の人とここまで話せた事を知ればヤンは喜ぶであろう。

 

 ジョーンの気落ちした様子を見て、ルビーは今自分が話せる話題について切り出した。

 

 

「えっとね、私はこの子」

 

 

 そう言って、ルビーは自身の武器であるクレセント・ローズを大鎌形態で見せる。1歩下がって驚くジョーンも、その話題に乗った。

 

 

「それって鎌だよね?」

 

「変形もできるの。高火力のスナイパーライフルに」

 

「えっとつまり?」

 

「銃にも変形できるってこと」

 

「へぇ……それ凄いな!」

 

「あなたの武器はどんなの?」

 

「えっと、俺のはこの剣」

 

「おぉー」

 

「それから、盾さ」

 

「それで、どんな機能があるの?」

 

 

 そう言いながらルビーが盾に触ると、盾が勝手に跳びジョーンが慌てて掴もうと四苦八苦した。盾を地面に落とすことなく掴むと、ジョーンは言葉を続ける。

 

 

「この盾、小さくなれるんだ。持ち運ぶのに辛くなったら、仕舞っておける」

 

「でも重さは変わらないでしょ?」

 

「あぁ、確かに……」

 

「えっと、へへっ。私、武器のことになると夢中になっちゃって、この子を作る時も凝りすぎちゃったんだ」

 

「待って、それ自作なの!?」

 

「そうだよ! シグナル・アカデミーじゃ皆自分で武器を作るから。あなたは違うの?」

 

「これは、お下がりでさ。ひいひい爺ちゃんが戦争で使ってたんだ」

 

「良いね、先祖代々の伝家の宝刀って感じで。最近は伝統を大切にしてる人って少ないし」

 

「伝家の宝刀ね、ははっ……」

 

 歯切れが悪くなったジョーンをよそに、ルビーは1つ尋ねてみた。

 

 

「そういえばさ、さっきは何で声掛けてくれたの?」

 

「いや当たり前のことさ。母さんがいつも言ってる、“他人とはまだ見ぬ友達”って」

 

「へぇ。あ、講堂が見えてきた」

 

 

 

004

 

 

 

 そうして講堂にまで辿り着いたルビーとジョーン。ルビーは辺りを見回してヤンの姿があるか確認すると、ヤンを見つけたと同時に向こうもルビーを見つけて手招きした。

 

 

「ルビー、こっちだよ! 場所取っておいたから!」

 

「ジョーン、また後でね。また入学式のあとで!」

 

「ねぇちょっと待って!」

 

 

 その声は届かず、ルビーはそそくさとヤンの方に走っていった。

 

 

「はぁ。話してて楽しい子、もっと居ないかな」

 

 

 ジョーンと別れたルビーはヤンの元まで辿り着き、先程まで別れていた姉にルビーは訊ねる。

 

 

「ねぇ、さっきの子は?」

 

「嵐みたいに色んな人の所行って、今どこにいるかさっぱり。ルビーこそどう? 入学初日に友達できた?」

 

「友達、かな? ちょっと話した子なら1人」

 

「おめでとうルビー! 1歩前進じゃーん!」

 

 

 嬉しさのあまり、ヤンはルビーにハグをして頭を撫でた。ルビーは姉の胸の中で嬉しさ半分、困惑半分といった表情を浮かべている。

 

 

「お姉ちゃん、別にハグしなくても良いから」

 

「嬉しいのよ、可愛い妹が友達作ったって事がさ。他には誰と話したの?」

 

「他はえっと、大きくて白いファウナスの人に道案内してもらったりとか」

 

「それってあっちに居る?」

 

 

 ヤンが視線を向けた方向を見ると、先程案内をしてもらった()()の姿がそこにはあった。

 

 

「うん、そう」

 

「そっか。じゃあ私からもお礼言わなきゃ!」

 

「いいってお姉ちゃん!」

 

「はぁーい、そこの人ー!」

 

 

 ルビーの制止も虚しく、ヤンはその白いファウナスであるハウルと、その傍に居たワイスの元へルビーを引っ張って近寄った。それに気付いたハウルとワイスの2人は、ヤンとルビーの方に視線を向ける。

 

 

「何の御用です?」

 

「そっちに居る()()が私の妹を助けてくれたらしいからさ。お礼しておこうって思って」

 

 

 彼女、という言葉を聞いた途端にハウルが固まり、それを予想していたワイスが小さく溜め息をつく。その意味が分からないヤンとルビーは首を傾げたが、すぐにその意味を理解することになった。

 

 

「誤解するのも無理はありませんが、こちらに居るハウルは()()ですわ」

 

「えっ、マジ?」

 

「マジですわ」

 

 

 少しの間が訪れ、そしてヤンとルビーは驚いた。

 

 

「えぇー!? そんな()()()()して、男なの!?」

 

「うっ!」

 

「ええ。彼はこんな()()()()をしていますが「うぐっ!」、正真正銘男性です。それと、かなり気にしているので以降は()()()「うごっ!」といった言葉などは彼に向けて言わないようにして下さいまし」

 

「あのー、そこの彼がダメージ受けてるけど良いの?」

 

 

 ヤンが心にダメージを受けて膝を地に付けたハウルを指さし、ワイスも彼の方を見るがあっけらかんとした様子を保っていた。

 

 

「面白いのでこのままで構いませんわ」

 

「ひ、酷い……苦しむボクを見て愉悦するなんて」

 

「いつもの飄々とした態度よりかは、余っ程可愛げがある今の方が良いですわ」

 

「しくしく……ワイス()()()()()が心無い態度で傷ついちゃった」

 

「ちょっと! アカデミーでその呼び方はやめなさい!」

 

「え、なに? 姉弟なの?」

 

「違います! これはハウルが」

 

 

 ワイスが何か言いかけたが、講堂内の喧騒に割って入ったスピーカーから発せられるオズピン学長の咳払いで止まり、集められた生徒一同はその1人の言葉に耳を傾けた。

 

 

 



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2

今回は少し筆が乗りました

11月30日、一部修正


005

 

 

 

 ビーコン・アカデミー学長オズピンの挨拶は短い内容であったにも関わらず、講堂に集まった新入生へ投げかける言葉としては不穏なものを想起させるものであった。とはいえ生徒の反応など、単なる虚仮威しだの少しばかりの怖さを感じた程度らしく、本当の意味を知ることになるのはこれから先の事になるだろう。

 

 今夜はダンスホールで全員就寝するとの通達をグリンダ・グッドウィッチから伝えられた。そして夜になるまでの間にアカデミーの施設案内や休憩時間などを過ごし、男子側のシャワールームで少し一悶着あったりと退屈しない時間が経過していった。

 

 そして夜、まだまだ元気の有り余っている生徒たちがダンスホールに敷き詰められた寝袋の上で各々なりの時間の過ごし方をしている頃のこと。

 

 

「へぇー、家族ぐるみの付き合いなんだ」

 

「えぇ。といっても、食事会にお招きされたりする程度ですがね。ワイス様と知り合ったのも2年前とかですし」

 

「じゃあさ、彼女のことをお姉ちゃんって言ってたのは?」

 

「そう言うと可愛らしい反応を見せてくれるので。あとはワイス様の方が誕生日が早いので」

 

「へぇー! 私もちょっと言ってみようかな、仲良くなった頃に」

 

「決めました、この方とは仲良くしません」

 

「えー?」

 

「えー? じゃ、ありません! ハウルも余計な事を言わない!」

 

「おっと、これはうっかり」

 

「わざとでしょう!」

 

 

 ヤン、ワイス、ルビー、そしてハウルの4人が集まって歓談していた。歓談というよりも、ハウルが時折ワイスをからかったりするので、2人の痴話喧嘩に混ざっているような状態であったりする。

 

 因みに本来男であるハウルは女子側のスペースに入ることは出来ないものだが、ヤンが「顔が女子だし、紳士そうだから大丈夫でしょ」と言って誘った事で今に至る。尚、その際にハウルが受けた精神的ダメージには知らない振りをした。

 

 

「ほらルビー、アンタもハウルに何か聞いてみたら?」

 

「聞いてみたらって、何を?」

 

「それはほら、何でも良いのよ。ルビーの好きな武器の話でも良いしさ」

 

「武器、ですか?」

 

「えっと、うん。私武器が大好きで、クレセント・ローズを作る時に色々と凝りすぎちゃうぐらい夢中になるんだ」

 

「待った、何を作るとおっしゃいましたの?」

 

「クレセント・ローズ、私の武器だよ。シグナルじゃ普通の事だし」

 

「……あぁ成程、お二方はシグナル・アカデミーに在籍していらいたと。聞き覚えがあります、確か課題として自作の武器を作る学校の1つにその名前が」

 

「よく知ってるねアンタ」

 

「癖で調べたりしましてね。因みにそのクレセント・ローズというのはどのような武器種で?」

 

「サイスでスナイパーライフルにも変形できるんだ。射撃時の反動を抑えて精密射撃もしたかったからサイス形態でも撃てるようにもしてるの! スコープを内蔵する時に細かい作業とか必要だったしスナイパーライフルとサイスの両立で耐久性も考えなくちゃいけなかったからクロウ叔父さんにも手伝ってもらって素材を探したり変形機構の複雑さに頭を抱えたりしたけど私の大事な子なの! ストッピングパワーも確保したいから摩耗の少ないグラビティダストの反発力を使用した発射機構を組み込んだしそれに!」

 

「ルビー、ルビー。早い早い、夢中になるのは分かるけど落ち着いて」

 

 

 夢中で自身の武器について語っていたルビーであったが、ヤンの制止によってワイスとハウルの表情を交互に見やる。急に饒舌になった少女は静けさに襲われた為か、途端に大人しくなった。

 

 

「ご、ごめんなさい。私武器のことになるとつい」

 

「なぜそこで謝るんですの? まあ今ので貴女がとても武器が大好きな事は理解しました、でもそれだけです。別に引いてる訳ではありませんわ」

 

「そうですよルビーさん。それにそこまで熱中するぐらい大好きなのでしょう? 貴女はそれを誇って良いんです。ボクとしては何かに夢中になっている貴女の方が好きですよ」

 

「すっ……!?」

 

「ちょっと、妹を誑かさないでくれない?」

 

「流石に見境無いのは頂けませんことよ女誑しさん?」

 

「ボク別にそういうつもりで言った訳じゃないんですけど……!」

 

 

 ハウルの発言に対し危機感を持ったヤンがルビーを抱き寄せて守りに入る。若干頬の赤みが増しているルビーとは裏腹に、ハウルの方はそれほど顔や態度に現れている訳でもない様子であった。

 

 

「きゃっ!?」

 

 

 と、歓談中に4人の耳に入ってきた女子生徒らしき人物の驚く声。4人がその方向へと視線を向ければ、慌てて火のついた燭台を戻している女子生徒と、何やら奇妙な被り物を被った誰かがそこに居た。

 

 ハウルはすぐに立ち上がり、その2人の元まで歩み寄り声をかける。それに続くようにして他の3人も集まった。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「え、ええ。ごめんなさい、少し驚いただけ」

 

「いえ、大事なくて良かったです。して、ご迷惑でなければでよろしいのですが、先程はなぜ驚いてしまわれたので?」

 

「この被り物をした子に──って、居ない!?」

 

 

 彼女の傍に置かれてある本から、おそらくは読書中であったのだろう。そこに奇妙な被り物をした者が何かしらしたというのが考えられたが、彼女の近くに居たはずの当人が見当たらない。

 

 しかし辺りを軽く見回してみれば、その当人はすぐに見つかった。ルビー、ヤン、ワイスの3人の輪の中に入っている被り物をした件の人物が居たのである。これにはハウルも内心驚きを隠せずにいた。

 

 

「わあ、アンタすっごく……特徴的ね。その白い被り物とかさ」

 

「私より背が低い子、居たんだ」

 

「その前に人なのかどうかも怪しいのですけど」

 

「いやいや人でしょ……人よね?」

 

 

 ヤンの疑問に対し被り物をしている人物は頷いた。

 

 

「ねぇ、貴方の名前は? 私ルビー」

 

 

 ルビーの質問に対し、被り物をした人物はスクロールを取り出し、何かを入力し始める。1〜2秒程度の時間が経つと、手が止まったかと思えばスクロールの画面を見せた。

 

 

<僕はオブリー。オブリー・マルホッグ、よろしくね

 

「へぇ、オブリーっていうんだ。よろしくね」

 

「ってかさ、もしかして喋れないの? あ、私はヤン。こっちはワイス」

 

「ちょっと、自己紹介ぐらい自分で出来ますわ」

 

<よろしく、ルビー、ヤン、ワイス。あとその質問の答えはYESだよ

 

「中々不便ね」

 

<もう慣れた

 

「あー、そこの被り物をしている君。ちょっと良い?」

 

 

 オブリーが3人の方に向けていた視線が、ハウルの方に動く。ハウルはオブリーの視線に合わせるようにしゃがんだ。

 

 

「名前はさっき聞いてたけど、オブリーで合ってるかい?」

 

 

 オブリーは首肯する。

 

 

「ならオブリー、1つ良いかい? さっきあそこに居る彼女の傍に居ただろう。あの時、驚いて燭台にぶつかったのは知ってた?」

 

 

 オブリーはその質問にも首肯で返した。

 

 

「驚かせたのはわざと?」

 

 

 その質問には首を横に振って答えた。

 

 

「そっか、わざとでは無いのは分かった。ただ危ない事になっていたかもしれなかったから、その辺りの迷惑については謝っておいた方が良いと思う。彼女の方にね」

 

 

 頷いて返答したオブリーはそのまま本を読んでいた彼女のもとへと向かい、近くまで歩み寄ったあとスクロールを入力しその文面を見せる。

 

 

<さっきはごめんなさい、驚かせちゃって

 

「あぁ、別に良いわ。気付かなかった私も悪かったし」

 

<僕オブリー、オブリー・マルホッグ。君は?

 

「ブレイクよ」

 

<よろしく、ブレイク

 

 

 すっ、とオブリーが手を差し出す。差し出された手をブレイクは見ていただけだったが、軽く前に出された事で握手を交わす。

 

 

「……ん?」

 

 

 不意にブレイクの手に何か変な感触が伝わった。何かと思い手のひらを見てみれば、そこにあったのはオブリーが決めポーズをしている絵柄の栞であった。

 

 

<僕がプリントされた栞、良かったら使ってね

 

 

 まるで口をおさえてケラケラと笑っているようなオブリーと、会話文が映し出されているスクロールの光が、怒る気にはなれないけれど微妙な面倒臭さを醸し出していた。

 

 

「……えぇ、まぁ。使う時があれば」

 

「わぁお、オブリーったら早速プレゼント?」

 

「手が早いのですね」

 

「ボクの方を見ないでくれません?」

 

「誰、とまで言わないだけマシだと思いませんこと?」

 

「暗に言ってきてるじゃないですか、視線で」

 

「はいはい、そこのお2人さん痴話喧嘩は後でね。私ヤン、リボン可愛いね!」

 

「ええ、ありがとう」

 

 

 そこで会話が終わり、気まずい時間が流れるかと思いきや、ハウルがブレイクに正面を向き正座の姿勢をとった。

 

 

「改めまして、ハウルといいます。これからよろしくお願いします、ブレイクさん」

 

「……ええ、そうね」

 

 

 またも簡素な受け答えで終わろうとしていたところに、流石に痺れを切らしたワイスが口を出してくる。

 

 

「ちょっと、貴女。それが相手に向ける態度で──」

 

「ワイス様、それ以上はお待ちを」

 

「ハウル、貴方はそちらの方を庇うの?」

 

「人には人のペースを持ち合わせています。下手にこうした方が良いと強要されると逆効果になるかもしれません、それにボクは特に気にしてませんよ。物静かなタイプは知り合いに居ますし」

 

「あら、よく知ってるような物言いね」

 

「まさか。似た人物を知っていて、その時にした接し方をしてるだけに過ぎませんよ」

 

「そう。なら今私が考えてる事も分かったりするのかしら?」

 

「“静かに本を読み、1人の世界を楽しみたい” といった所ですかね。ではボクらはこれにて」

 

「ちょっと、ハウル!」

 

 

 優しげな笑みを保ったまま、ハウルは立ち上がり集まっていた彼女らから離れて男子側のスペースに向かおうとして、何かを思い出したかのように1歩踏み出しかけた足を引っ込めてブレイクの方へと視線を向ける。

 

 

「あぁ、失礼一言忘れていました。おやすみなさい、ブレイクさん。また明日」

 

「……えぇ、おやすみなさい」

 

「ワイス様、ルビー、ヤン。ボクはそろそろ就寝に入ろうかと思います。明日も忙しくなりそうですし、皆様もそろそろ就寝に入られた方がよろしいかと」

 

「……はぁ、分かりました。おやすみなさい」

 

「あぁ、おやすみ」

 

「おやすみなさい」

 

 

 一礼してハウルは男子側のスペースに向かいながら、オブリーの姿を探してみたがいつの間にか男子側のスペースにオブリーが居たことを確認する。自分が気付かない、なんて事があるのだろうかと考えを巡らせながら眠りについた。

 

 

 

006

 

 

 

 明朝、まだ誰も起きていない時間帯。標高の高い場所に建設されたビーコンは空が白んでくるのも少しばかり早い。

 

 時刻にして朝の4時。まるで普段からそのようにしているような動きで眠りから目覚めたハウルは、慣れた手つきで寝袋を片付けたあと洗顔、歯磨き、着替えを済ませて外へと出ていく。

 

 胸と背中に伝わる鉄の感触と大きめのシンプルなカチューシャの重さと共に、ほのかに朝焼けた空の下でどこか座れる場所を探している最中、彼と同じように宛もなく歩いている小さな女児を見かけた。

 

 ハウルはその女児を見つけると、彼女に近寄り挨拶を交わす。

 

 

「おはようございます、朝がお早いのですね」

 

「ん? おう、おはようさん」

 

「して、かのウカノグループの御令嬢のサクラ様は一体ここで何を?」

 

 

 ぴた、と足を止めた女児がハウルの方へと視線を向けた。古墳島田と呼ばれる結い方で纏められた紫色の髪をした彼女、サクラ・ウカノはハウルを見上げて一言。

 

 

「高い、しゃがめ」

 

「これは失礼」

 

 

 ハウルは相手の物言いに対し、特に言及することなく相手の視線に合わせてしゃがんだ。

 

 

「で、お主。儂の名をよく知っておったな」

 

「調べれば情報ぐらい出てきますから。ボクとしては、貴女が入学した事があまり話題になってない事に驚いてますけど」

 

「大半が興味無いのじゃろ。儂のことを迷い込んだ童として扱っておった者も居たしの」

 

「おや、それは怖いもの知らずな御方で」

 

「無知ゆえよ、気にすることでもない。して、お主名は?」

 

「ハウルとお呼びください」

 

「ふむ、ハウルとな。で、名字(ラストネーム)は?」

 

 

 その問いに対して、ハウルは少しの間だけ無言になったあと表情を崩さずに告げた。

 

 

「申し訳ありません、今はただハウルという名だけ覚えていただければありがたい思いです」

 

「何故に?」

 

「またすぐにでも、否が応でも知る事になるでしょうから。あとは我儘というヤツです、今はただのハウルとして接していただきたい」

 

「……ま、良かろう。してハウル、話を戻すが儂が何をしておったかだったな」

 

「はい」

 

「普段ならこの時間帯に起きて、田畑の面倒やら育てた苗を植えたりやらと農作業をしておった。じゃが身に付いた習慣のせいか、早うにここで起きてもする事が見つからん。暇を潰しておっただけよ」

 

「なるほど。お答えいただき、ありがとうございます」

 

「それで、お主こそ何をしておった? この時間帯に起きている者を見るのは、学生にしては珍しいのでな」

 

「ボクも似たようなものです。普段通りに起きるとこの時間帯になりまして、その後はまあ鍛錬ばかりの時を過ごします」

 

「……儂が言うのもなんじゃが、それが趣味か?」

 

「生活の一部兼趣味になりつつあると言いますか、勿論それ以外にも趣味はあるんですけどね」

 

「ほぉ、それは?」

 

「日向ぼっこです」

 

「犬じゃの」

 

「狼です」

 

 

 そういった会話を続け、朝焼けの景色を高身長と低身長の2人は一時の間なにをするでもなく歩いて過ごすのだった。

 

 

 



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3

1週間以上空いたことについては謝罪します。
いつもの乗り気が無かったです。


007

 

 

 

 日が昇り、そろそろ皆が起きてくる時刻になってきた頃。1人男子用のシャワールームで温水にうたれているハウルが佇んでいた。182cmという長身に加え彫像を彷彿とさせるほど美しいと形容できる肉体に流れる水流が、彼の流した汗とシャンプーとボディソープの泡を洗い落としていく。

 

 排水口へと流れてゆく洗い落とされた全てには目もくれず、1人ハウルはぼうっと(ほう)ける。今この時、ハウルの頭の中は空っぽになって身体に入ってくる温度を感じ取っていた。考え事も、ふとした思いつきも、余計な物でしか無いのだろう。

 

 満足した彼は落とし切れてない泡が無いか確認したあと、シャワーを止めて脱衣所へと入り、水気をタオルで拭く。拭き終わって下着を履いたあとにハウルは、機械のようなバックアンドブレスト*1を着用のあと、背中側の左右に大胆なスリットの入った上着を着て、最後に長ズボンを履く。

 

 髪をドライヤーで乾かし終えると、シンプルなカチューシャを前髪に着け、ジャージを持ってアカデミー内のランドリールームに入る。ジャージを洗濯ネットに入れてから、洗濯機に放り込み予め用意していた洗剤と柔軟剤を入れて回し始めた。

 

 その間暇なので徐にスクロールに手を伸ばしかけたが、ランドリールームに向かってくる足音を捉えたので止めた。 入ってきた人物を見るや否や、ハウルはゆっくりと立ち上がって一礼をする。

 

 

「おはようございます、オズピン学長」

 

「やぁ、お早い目覚めのようだなハウル。あぁ、掛けてくれて結構」

 

「では失礼して」

 

 

 ハウルは室内のベンチに座り、少し離れた位置にオズピンが座った。アカデミーに来て2日目、少々奇妙な光景が出来上がっていた。

 

 

「して、オズピン学長がボクに何か御用でしょうか?」

 

「単に話してみたかったのさ、君という人物がどういったものなのかね」

 

「ボクの、ですか。特に面白い話は……思いつく限り結構あったな」

 

「ほぉ、例えば?」

 

「学長であれば、ある程度の事は知っておられるのでは?」

 

「私は別に全知の人では無いのでね。知らないこともある」

 

「貴方ともあろう人なら、ボクの名字を知ってる時点で身辺や過去について調査済みかと思ったのですが、違いますか?」

 

「それは君の父からの助言かな?」

 

「学長がそう思うのなら、貴方の中ではそうなのでしょう」

 

「……成程。ジェイムズの言う通り、かなり聡い子らしい。その勘の良さは誰から学んだ?」

 

「ボクの知り合いから、とだけ」

 

「君の事は明かしてくれないのだね」

 

「秘密主義の貴方に言われるとは、ボクも陰険になりつつあるみたいですね」

 

「君、よく一言多いと言われるだろう」

 

「ボク自身の事を言っただけですよ、オズピン学長?」

 

「口もよく回るらしい」

 

「お互い様では?」

 

 

 そこまで言い合って、無言の時間が流れる。洗濯機が回っている音だけが室内を占めている中、オズピンから口火が切られた。

 

 

「君の想像通り、私はある程度の事なら君について知っている。たとえば本来受けるべき初等教育専門アカデミーへの入学をしていない、とかだな。おそらく、この事を知っているのは限られた人物のみ。私でなければ上手く隠しきれている事に気付きもしないだろう」

 

「流石に気付きますか」

 

「だがこの程度の情報を私が知る事も、既に織り込み済みだろう?」

 

 

 オズピンが自身のスクロールを取り出し、画面にとある情報を映す。そこにはハウルのプロフィールについて記載された個人情報があった。

 

 

「巧妙に隠されているが、君の個人情報には虚偽か真実か定かでないものが幾らかある。カバーストーリーについても上手く流布されているようだが、考えれば所々に微妙な違和感が浮かんでくるぐらいにはな。とはいえここまでの徹底ぶりには流石の私でも感嘆するな、そうまでして君の事を誰にも知られたくない意図が見受けられる」

 

「それは良かった。将軍と一緒に考えたかいがあるってものです」

 

「その口ぶりから察するに、君もこの偽情報の製作に参加したようだな。正直に言って、ここまで巧妙な嘘をあの将軍が考えられるだろうかと疑問に思っていた所だ」

 

「確かに将軍は性急で無理矢理が過ぎる点があるので、その辺に関しては同意します」

 

「君、仮にも自分の父親をそう言って良いのか?」

 

「一応事実ですし。昔よりは多少落ち着きはしましたけど、それでもまだ性急過ぎる面がある。もうちょっと落ち着いて欲しいのですけどね」

 

 

 ちょうど洗濯機が脱水の時間に入り、水が抜かれていく音が流れ始めた。

 

 

「で、オズピン学長。ここまでの事を知っている貴方は、ボクに何を望んでいるのでしょう?」

 

「若い身空でその考えに至るのは、アカデミーの学長として考えものだが安心したまえ。別にどうにもしない、どのような事情があろうと今や君もビーコンの生徒だ。脅しなど眼中に無い」

 

「それはありがたい。ボクも学校生活は楽しみにしていた人ですので、余計なトラブルは起きて欲しくなかった所です」

 

「それはどっちの意味で?」

 

「ご想像にお任せします」

 

 

 そのように締め括られた2人の会話は、オズピンがベンチから立ち上がって退室の意を示したことで終わりを迎えていた。ハウルも同じように立ち上がり、一礼をする。

 

 

「では、オズピン学長。今後ともどうぞよろしくお願いします」

 

「ああ、また試験の時に。……それと」

 

 

 出入り口へと進めようとしていた歩みを止め、オズピンはハウルの方へと振り返る。

 

 

「ビーコンへようこそ、ハウル・アイアンウッド。我が校の生徒として歓迎しよう」

 

 

 

008

 

 

 

 洗濯と乾燥を終えたハウルは、ランドリールームから退出し、1度ジャージをロッカーに入れてから食堂へと足を運んでいく。時刻にして6時35分、既にテーブルの上にはバイキング形式に料理が並べられており、生徒は朝食を選び誰かと話をして朝食の時間まで暇を潰していた。

 

 ハウルも本日食べる物を選び、空いている席に着く。少しばかり暇な時間を過ごす事になるだろうと考えていた所に、暇そうな彼に話しかける人物が現れた。

 

 

「隣、良いかしら?」

 

 

 ハウルが声のした方へと振り向くと、そこに立っていたのは真紅の髪色にローマの剣闘士のような装いをした少女が居た。彼女を見て誰なのか気付いたハウルは、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべて答える。

 

 

「どうぞ」

 

「どうも」

 

「勘違いで無ければ、ピュラ・ニコスさんでお間違い無いでしょうか?」

 

「そうだけど、貴方は?」

 

「ハウルと申します。ミストラルでのご功績は予々(かねがね)存じております」

 

「あぁ、どうも。よろしく、ハウル」

 

 

 ハウルの言葉に若干のぎこちなさを覚えたピュラと挨拶を交わし、分かりやすい反応に対し少し考えたハウルは1つ話題を切り出した。

 

 

「そういえば、朝食のバイキングメニューが豪華でしたね。ピュラ、貴女は何を選びました?」

 

「へ? えぇ、そうね。私は──」

 

 

 ピュラの朝食はタコのアッフォガード*2、パエリア、ヨーグルト、グリーンスムージーといった健康志向を重視したメニューとなっている。

 

 

「良いですね、ボクのはこういった感じです」

 

 

 そう言ってハウルが見せてきたメニューは、ブラン入り食パントーストにブルーベリーとマーマレードジャム、クルトン入り生ハムサラダ、サーモンのピカタ、キウイジュースで構成されていた。

 

 

「しかし、タコですか。以前に茹で蛸を食した事はあるのですが、少々独特な味ではあったものの噛みごたえが良かった記憶があります」

 

「もしかして、私の地元に来たことあったりする?」

 

「さて、どうでしょう? 貴女の地元がどこか分かれば思い出すかも。地元はどちらで?」

 

「私は──」

 

「ハウル、隣座るぞ」

 

 

 2人の耳に入ってきた声に会話は中断され、ハウルの左隣にやって来たサクラを見る。彼女の後ろには料理を載せたプレートを持っているコックコートとコック帽を着たシェフらしき人物。右手はそれを運び、左手には脚の長いチェアを携えていた。

 

 シェフが先にテーブルに料理を載せたプレートを置き、本来座るはずの長椅子に被せるような形で脚の長いチェアを置くと、サクラはその席に座った。

 

 

「ご苦労、仕事に戻れ」

 

「ではお嬢様、お食事の時間まで暫しお待ちください」

 

 

 丁寧に一礼をしたシェフが仕事場へと戻り、席に座ったサクラは一息つく。とはいえ表情からはどこか疲れているような面持ちを感じられていた。

 

 

「かなりのVIP対応ですね、サクラ様」

 

「様付けはやめい。普通に呼び捨てで構わん」

 

「よろしいので?」

 

「生徒間で様呼びされる儂の身にもなれ、鬱陶しい事この上無いわ」

 

「承知しました。では──」

 

「ねぇ貴女、少し良いかしら?」

 

 

 今度はサクラの視線とハウルの顔が、ピュラの方へと向かう。声をかけられたサクラは特に興味無さげにピュラの言葉を聞いた。

 

 

「お節介かもしれないけど、もう少し言葉遣いは良くした方がいいわ。さっきのシェフに対しても、目上の人だし丁寧に接した方がいいんじゃない?」

 

「おうそうか、忠告どーも」

 

 

 サクラの頭をその言葉が通過し、お節介を受けた当人は暇そうにスクロールを取り出して画面を見始めた。

 

 間に居るハウルはピュラを見る。先の対応の仕方に物言いたげな雰囲気が僅かばかりに滲み出ていた。

 

 ハウルがこの空気感に対して出来ることといえば、ピュラに対してフォローを入れる位であった。

 

 

 

009

 

 

 

 朝食の時間も終わりを迎え、次は実力テストの時間に入ると、1人を除き全員ロッカールームで準備しており各々が支度をしていた。一応護衛任務としての体をなす為に生徒の邪魔にならないようワイスの近くにいた彼は、フィービーに絶賛絡まれ中であった。

 

 

「すっごい背が高いね()()!何食べたらそんなに大きくなるの? 何で背中の両側にスリットが入ってはっ! ここから何か見える! ねね着てるそれ何!? 防具だけ着てるのは武器持ってない理由と関係ある!? 顔()()()ね! 今度ショッピングに行こ! 身長高くても絶対似合うオシャレな服見に行ってコーデしに行こうよ! ()()ならもっと()()()()()なれる絶対なれる!」

 

 

 何やらハウルの方からサクっという幻聴が聞こえてきそうな上、膝がかなり震えていた。知らないとはいえ、フィービーは今かなりハウルへのダメージを蓄積させている事に気付く気配はない。

 

 嵐のように捲し立てるフィービーに、着実にダメージを受けているハウルの2人の様子を、サクラ以外のほぼ全員が見ていた。その中でヤンがワイスのもとに歩み寄り尋ねる。

 

 

「ねぇ、あの子にハウルは男だって伝えなくて良いの?」

 

「いつものからかいの仕返しにちょうどいいですわ」

 

「わぁ、ワイスって結構ねちっこい?」

 

「まさか。ハウルだけです」

 

「へぇ、じゃあハウルは特別な人って訳なんだ」

 

「ええ、特別ではありますわね。ご想像されてるようなものではありませんが」

 

「だよね」

 

「貴女こそ、彼女にハウルが男だと伝えてもよろしいのでは? 昨日にお話していらしたでしょう?」

 

「あーいや、あの子はちょっと……」

 

「あっ! ヤーン!」

 

「うわッ!?」

 

 

 ヤンを見つけた途端ビュンっ、とフィービーはハウルから離れヤンへと接近する。驚いて1歩あとずさったヤンだが、そのような事はフィービーに関係がなかった。

 

 

「ねぇねぇ今日のテストどんな内容なんだろうね!? 私のセンブランス結構便利だからさ地元に居た時は色々とやってたから大体の事は出来るよ! あ、でも連携面ではあんまり期待はするなって言われてるから協力プレイとか出来ないんだよね困ったなあ誰かと一緒に合わせ技! みたいなことしたいんだけどねぇヤン貴女はどんなファイトスタイル!? 上手く行けば私たち超最高のコンビになると思わない!?」

 

「えーっと……」

 

「私先に行くね、お姉ちゃん」

 

「え、ちょっと!? ルビー? ルビー! お姉ちゃんを置いてかないで!」

 

「待って待って! 皆で一緒に行こーよー!」

 

 

 ルビーは足早に試験会場の方へと向かい、ルビーを追うヤンと、ヤンを追うフィービーという構図が出来上がったところで3人がロッカールームを離れていく。

 

 残ったワイスのもとにハウルが歩み寄り、話しかけた。

 

 

「大変ですね、ヤンさんも」

 

「ええ、そうね。私は用があるので先に行っててくれます?」

 

「一応ボク、護衛の任に着いてるんですけど」

 

「必要ありませんの。全くお父様も本当に」

 

「やあスノーエンジェル、俺のチームに入らないかい?」

 

 

 ハウルという護衛が着いていながら、ワイスにキザったらしく語りかけてくるジョーン。微妙な顔を浮かべたあと、ワイスはハウルへ視線を向けて言った。

 

 

「ハウル、私の護衛ならこの方を遠ざけるのも仕事では?」

 

「特に害意は無いですし、無視しても良いかと」

 

「理由になってませんわ」

 

「ワイス様ならボクの助けなど必要無くとも乗り切れるでしょう。見てて面白いし」

 

「貴方あの時私が助けなかった事を根に持ってますわね!?」

 

「はて、なんの事やら?」

 

「ぐぎぎぎぎ……!」

 

「あのー、ちょっと? 俺を無視しないでもらえる?」

 

 

 ワイスとハウルの2人だけの世界となったジョーンは置いてけぼりとなり、それを見ていたピュラがジョーンの肩に手を置いて微妙な笑顔を向けた。ジョーンは項垂れた。

 

 

 

*1
胸当てと背当てが一緒になった防具

*2
トマト煮




次はようやく戦闘にも入れるのでお楽しみに。


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4

010

 

 

 

 新入生一同がとある場所に集まる。何やら地面に場違いな鉄の床が設置されている崖の上であり、崖下には木々の広がっているエメラルドフォレストと呼ばれる地帯を見下ろす事が出来る場所であった。

 

 そして金属製の板の上に並び立つ10数名ほどの生徒たち。並び立つ生徒の前にオズピン教授とグッドウィッチ教授が、今回の試験についての概要説明を開始した。

 

 

「君たちはこれまで何年もの間、戦士として訓練してきた。そして今日、エメラルドフォレストで君たちの真価が試される」

 

「さて皆さんはクラスをチームで分けるという噂を聞いた人も多いでしょう。そう、その通りです。各自の所属チームは後ほど発表します──()()()()

 

「え、ホント!?」

 

 

 ルビーの反応が聞こえたが、それに気にかける様子もなくオズピンが続けて話をする。

 

 

「今後ビーコンで過ごす間、チーム単位で行動することになる。従って皆、気のあったメンバーと組むのが一番だ」

 

「あぁぁぁ……」

 

「ということで、君達が森に着地した時に最初に目のあったメンバーと組む。それが今後4年間のパートナーだ」

 

「ええー!?」

 

「ほらね、やっぱり言った通りでしょ」

 

 

 ショックの声を挙げたルビー、隣のライ・レンに話しかけるノーラ。大丈夫だろうかと覗き込むハウルと、何事かと覗き込むフィービーとオブリー。何事も無かったかのようにオズピンは話し続ける。

 

 

「ペアを組んだら、森の北端まで進むこと。道中には敵と遭遇することもあるだろう、行く手を阻むものは全て倒すんだ。でなければ命を落とすことになる」

 

 

 その言葉を聴き、各々が反応する。怖がる者、気を引き締める者、特に問題ないと楽観する者と分かれていた。

 

 

「試験の間、君たちの様子はモニターで監視し評価するが、教師が介入することは無い。北へと進んだ先に寺院の遺跡があり、遺物であるレリックが置いてある。各ペアはその中から1つを選び、ビーコンクリフまで持ち帰る。持ち帰ったレリックの種類と順位によって君たちの成績が決まる。質問はあるか?」

 

「あの、先生質問が」

 

「よろしい!では位置について」

 

 

 ジョーンの問いは無視され、全員がスタートの構えを取る。その中でハウルは構えに加えて、頭に着けているカチューシャの右側にあるボタンを押しながら声を発する。

 

 

「バイザー、オン」

 

 

 すると、そのカチューシャからハウルの顔の上半分を覆うバイザーが展開され、まるでゴーグルのようにハウルの顔に貼り付いた。それを見ていたフィービーが訊ね、ハウルは答える。

 

 

「わぁ、ハウル何それ?」

 

「必要なものです」

 

 

 幾人かの生徒が発射され、続けざまにサクラとオブリーが射出されていく。ようやくハウルの番──直後、ハウルは今までとは真逆の方向に飛ばされた。

 

 一瞬、ハウルは何故と考えたがすぐにこれを仕組んだ誰かさんを飛ばされながら見た。

 

 

「ハウル!?」

 

「え、ハウルなんであっちに!?」

 

「おや、機械の故障だろうか。こういう事もあるだろうが、対処できるように訓練は積んであるだろう」

 

「ハウルー! 待っててー!」

 

 

 ルビーはワンテンポ遅れてハウルが飛んで行った方向に振り向き、オズピンは何も気にしない様子でハウルが飛ばされた方向を見て、そう呟いた。

 

 フィービーは発射されてすぐ、センブランスを発動してハウルが飛んで行った方へと()()()()()()

 

 

 

011

 

 

 

 発射台によって後方へと飛ばされていくハウルは、体勢を整えながらある言葉を口にする。

 

 

「RN-03、アクティブ!」

 

 

 その言葉を始動とし、ハウルの服の背中側のスリットから機械の翼が展開された。翼幅(よくふく)が6mほどある機械の翼は、羽に相当する1つ1つの機械がスラスターとなってエネルギーを噴射することにより速度を相殺し、やがてハウルは空中に立ち止まった。

 

 

「ふぃー、やったなあの陰険マン」

 

「ハーウールー!」

 

 

 空中で立ち止まっているハウル目掛けて突っ込んで来たるはフィービー、しかしフィービーは速度の相殺をもせず彼の目の前で急停止する。立ち止まるハウルとは違い、フィービーはまるで浮かんでいるように体勢が安定していない。今も逆立ちのような体勢で話しかけようとしていた。

 

 

「わぁ! 何その翼超カッコイイ! あ、もしかして背中にあったスリットとか防具の意味ってそういう事だったんだ! ねぇねぇそれどうなってるのハウル!?」

 

「これについては移動中に話しますよ。それよりフィービー、貴女体勢が……」

 

「あぁこれ? 慣れてるから平気!」

 

「成程。では早速ですが」

 

「OK、行こう!」

 

「ちょっと待った」

 

「うん?」

 

 

 早速向かおうとするフィービーを制止し、ハウルはある提案を持ちかけた。

 

 

「フィービー、貴女今はセンブランスを使って浮遊してる状態ですよね?」

 

「おー分かる!? 分かっちゃう!? あ、私のセンブランスはね【重力操作】なの! まぁあくまで自分とか、他の人や物の重力の向きを変えるだけだから、移動じゃなくて落下してるんだけどね!」

 

「ははっ、ご説明どうも。それよりセンブランスの維持でオーラを消費するでしょう、ボクの背中に捕まって少しでも温存しながら移動しましょう」

 

「大丈夫大丈夫! 使ったばっかりだし、このまま北の端まで向かって行こうよ!」

 

「いえ、力を温存しておいて突然の出来事への対処に専念してもらえると助かります。ボクのこの翼は大きすぎて、広い場所でないと上手く活用できないので。お願いします」

 

「ふぅん」

 

 

 フィービーは顎に手を当てながら、ほんの少し考えたもののすぐに答えを出した。

 

 

「いいよ、分かった! じゃあ私には敬語無しでお願い! 堅苦しいの苦手でさ」

 

「了解。ならフィービー、ボクの背中に乗って。かなり速度が出るけど、しっかり掴まってて」

 

「だーいじょぶ、だいじょぶ! 速いのには慣れてるから! あ、ちょっと待ってね」

 

 

 フィービーはそう言ったあと、空へと落ちて行く。少し落ちたところでセンブランスを解除し、地面へと落下していく途中で、ハウルの背中に掴まった。

 

 

「おっと」

 

「よーし、じゃあしゅっぱーつ!」

 

「OK、なら飛ばすよ!」

 

 

 翼の羽に当たる小型の機械全てがスラスターとなってエネルギーが噴射され、フィービーとハウルは空を飛んだ。

 

 

「いぃやっほぉおい! さいっこー!」

 

「このまま森の北端まで行くよ! そこでレリックを回収して、一旦他の人の誘導作業に入る!」

 

「えー!? さっさと戻って行けばいいのにー!」

 

「地理把握の甘い人も居てね! 確かにすぐに戻って1位獲得したい気持ちは分からない訳じゃないけど! 誰かのサポートに回るのもハンターとして求められる力だよ! だからまぁ、ちょっとだけ付き合って!」

 

「むぅぅぅ…………しょーがないなーハウルは! 良いよ! 私もついて行ってしんぜよー!」

 

「ありがとう! 君最高!──なら更に飛ばすよ!」

 

「うおっひょぉおおおおい!」

 

 

 機械の翼と繋がった全ての機械の羽から放出されるエネルギーが増加し、速度の上昇が発生した。これにより、ハウルとフィービーはどの生徒よりもいち早く指定の場所であった寺院の遺跡に到着することが出来たため、1番目にレリックを選ぶ権利が与えられた。

 

 着地して2人が見たのは、開けた場所にポツンとある広場らしき遺跡と、その場所に似つかわしく無いチェスの駒であった。それぞれ白と黒の駒が揃えられており、まだ1つの欠けも無いようだ。

 

 

「これがレリック? チェスの駒じゃん」

 

「本物のレリック(遺物)を置くにはいかないでしょ。ほら、取ったから誘導作業に入ろうか」

 

「えー、なになに? 何取った……って、ポーン!? 嘘でしょ信じられない!」

 

「?……レリックを取れば良いんだから、ポーンでも変わらないでしょ」

 

「レリックの()()と順位で、成績が決まるんでしょ! それに折角1番乗りで選び放題なのに、わざわざポーン選ぶ理由は無いって! 1番乗りなんだから、いっちばん良いヤツ選ばないと損だよ!」

 

「そう?」

 

「そうだよ! ほらポーンをこっちに頂戴!」

 

 

 ハウルは特に抵抗する事も無くポーンをフィービーに渡すと、彼女は空いたスペースにレリックを戻し、少し見て回ってレリックを取ってきた。

 

 

「じゃっ、ジャーン! 白のキーング!」

 

「キングねぇ……そんなガラじゃないんだけど」

 

「それはほら! これからハンターの中でレムナント最強を目指す志を宣誓してってヤツだよ!」

 

「ハンターとして活動するなら、ナイトとかの方が良いんじゃ?」

 

「もー細かいな! こういうのは雰囲気だよハウル! 直感が大事なの!」

 

「そういうもの?」

 

「そういうもの!」

 

 

 ハウルはフィービーの手にある白のキングに一瞥はしたものの、駒の種類について頓着の無い彼にとっては瑣末事であったため、すぐにやろうとしていた事へと移り始める。

 

 

「ま、レリックについては一先ず置いといて。フィービー、今から誘導作業を始めるよ」

 

「でもさハウル、誘導って言っても何処に誰が居るのか分からないのにどうすんのさ?」

 

「それについてはご心配なく。今から面白い物を見せてあげるから」

 

 

 フィービーが首を傾げて疑問を投げかけ、ハウルは彼女の問いに行動で答えた。ハウルは右翼を展開すると、羽にあたる機械が翼から離れ自立行動を開始した。その数およそ80。

 

 

「おっほぉ! 何これ!?」

 

「自律機動できるウィングビットさ。普段は飛ぶためのスラスターとして翼に収まってるけど、こうする事で索敵なんかも出来るようになってる。他にもビット同士が合体して武器にもなれたりするよ。因みに今はボクが操作してるけど、このビットの操作はオートとマニュアル両方できるようになってる」

 

「ほぇえ……」

 

「これを使って今から他の人たちを探すから、フィービーには見つけた人たちをここに運んだりしてきてほしい。いける?」

 

「OK、任せて! 人を運ぶのなんてお茶の子さいさいよ!」

 

「それは重畳。じゃ、捜索開始だ」

 

 

 ハウルは翼から離れたビット全てを操作し、他生徒の捜索を開始した。

 

 

 

012

 

 

 

 時は少し遡り、射出台から発射されたサクラは普段の装いと僅かに体から浮いている羽衣を飛ばし、木の枝に巻きつかせる。羽衣は自動的に収縮してサクラを引っ張り、彼女は木の枝に飛び移ることに成功した。

 

 羽衣を使って地面へと降りていき、地に足を下ろしたところで北へ向かいながらのペア探しの時間となって暫くした頃。右肩に担いだ大玄翁と左手に持つ鎌を使って道を切り開いていた彼女の辿ったあとには、塵になりかけているグリムの残骸が残されていた。

 

 どこか気怠げな様子で北へと向かっていた彼女であったが、草木と何かが擦れ合う音を聞いて視線をそちらへと向けると、蟻の頭部を模したような白い被り物をしているオブリーが顔を覗かせた。

 

 お互いの視線? が合ったので、一応ペアは出来た事になったが両者ともに無言で立ち尽くしている。

 

 

「……あー、ひとまず北へと行くか」

 

 

 オブリーは首を縦に振ったあと草むらから体を出し、サクラとともに北へと進んでいく。道中が無言であったものの交流すらまともに無かった訳では無い。

 

 オブリーがスクロールを取り出して会話を試みてみたり、オブリーが無邪気な子どものようにあっちこっちに行ったりして虫や少し綺麗な石に興味を示したりしていたため、気まずいという雰囲気はすぐに消え去っていた為である。

 

 そしてオブリーという存在そのものも、サクラの持っている知的好奇心を動かすのに一役買っていた。

 

 

「では、喋れぬのではなく元より発声器官が無いのか。かなり不便であろうに、対話はどうしておった?」

 

<身振り手振り、筆談とか。スクロールはオズピンに引き取られた後に買ってもらった。

 

「お主は一応村の警護をしておったのだろう、村はどうした?」

 

<オズピンがハンターを雇って村に駐留させてる。だから大丈夫。

 

「そうか。にしてもお主のフリック速度速いの、秒間何文字打てとるのじゃ?」

 

<分かんない。でも返信が早いとは言われる。

 

 

 少し考えた上でそう答えたオブリーに対し、サクラは先程の入力速度と正確性を見て顎に手を当てながら訊ねた。

 

 

「お主、タイピングは速い方か?」

 

<わかんない。人と比べたこと無いし。

 

「では終わり次第、その速さを見せてもらいたい。それによってはお主に頼み事をする事になるかもしれん」

 

<何の頼み事?

 

「それは後で言うわい」

 

 

 そのような会話のあと、2人は何かが飛来してくる音を聞き取り、武器を持って警戒態勢を取る。ただし待っていたのはグリムでは無く、何かの機械であったため疑問符が浮かび上がった。

 

 その機械は2人の目の前に現れたかと思いきや、すぐに2人の真上に移動し、次の瞬間空に向かってレーザーを発射した。何か分からないまま警戒態勢を再度取ると、今度は何かが高速でこちらにやって来る音が耳に入った。

 

 その音の正体が2人の居る場所の真上まで来た。色彩が変化しており近くに猫のような何かを浮遊させているフィービーであった。

 

 

「やっほー! フィービーちゃんの重力的輸送便でーす! 今なら目的地にひとっ飛び! どう?」

 

 

 




Volume1が書き終わったら、キャラ紹介とか書こうかな。


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