フェンリルに勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない (ノシ棒)
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ペイラー・榊の遺した著書の中に、次のような一節が記されている。

 

『当時、ただでさえ数の少ない“新型”において、彼は輪を掛けて異端だった――――――』

 

幾度となく世界を救い、多くの伝説を残したフェンリル極東支部第一戦闘部隊。

その部隊長を長年務め上げたある男の名は、“ゴッドイーター”達の一種の信仰とさえなっていた。

今や“神”は地上に降り立ち、人を喰らう存在となった。

流星の如く現れた若き英雄に、人々が救いを求めたのは、自然な流れであったと言えよう。

 

『流星の如く、とは我ながら言いえて妙だと思うよ。彼が放った一筋の光が、誰もが永遠に続くと思っていた夜を斬り裂いたんだ』

 

榊がその男の事を語る際、決まって星に例えるのは、榊がスターゲイザーと呼ばれる所以だろう。

彼を流星と称したのも榊なりの皮肉なのかもしれない。彼はきっと、それこそ流星のように流れて、堕ちて、消えてしまいたかったに違いない。死にたがり、というよりも、生き急いでいるように見える、そんな戦い振りだった。一瞬の内に命を燃やし尽くし、閃光のように輝いて人々の心を照らし、そして静かに消えていく。彼は自分がそんな人生を歩むと、そう覚悟していた節があった。

それをさせなかったのが榊と、彼を支えた仲間達である。

中でも、かつて“アラガミ”への復讐に狂った少女が、彼の支えとなるためにもっとも尽力したというのだから、人生とはどうなるか解らない。とは榊の言である。

榊が彼に出会ったのは……否、榊が彼を一方的に知るようになったのは、彼の新型“神機”適合実験に立ち会ったのが最初だった。

そう……実験だ。

新型はその複雑な内部機構のために、搭載されている“オラクル細胞”の配列が特殊な物となっている。

新型の絶対数が少ないのは、複雑化に比例して増大するコスト面についての問題もあったが、何よりも特殊なオラクル細胞に適合できる人材がほとんどいなかったことにある。

オラクル細胞に親和性を持つ人間は珍しくはない。だがその大抵は、旧型のオラクル細胞……単純な細胞配列に対してしか、適合資格はなかったのだ。

それは新型神機が複数のアラガミのデータを元に構成されているためであった。

そもそも神機そのものが人為的に調整されたアラガミと言っても過言ではなく、未だ完全には解明出来ていないような代物である。新型とは、よりアラガミに近い、理論から現物まで作った側にとっても混沌としていて、非常に謎の多い神機だった。

理論も解らないものをただ“使える”から、という理由で戦力に加えなくてはならないほど、人類が追い込まれていたとも言えよう。

――――――西暦2071年。

世界は神々、アラガミによって喰い荒され続けていた。

当時より数十年前、北欧地域にて発見された新種の単細胞……オラクル細胞。

初めはアメーバ状でしかなかったそれは、半年後にはミミズ程の大きさにまで成長し、そして一年後には、異形の化物となって大陸を滅ぼした。

オラクル細胞は爆発的に発生、増殖を繰り返し、地球上のあらゆる構成物質を“捕食”しながら急激な進化を遂げ、凶暴な生命体として多様に分岐したのである。

人々はそれの多様性と脅威に畏怖を込めて、極東の八百万信仰になぞらえ、アラガミ、と呼んだ。

アラガミは一個の生命体に見えて、その実はオラクル細胞の集合体である。群体がアラガミの本質だった。

あらゆる全てのもの……生物から無生物までを捕喰するオラクル細胞から形成される身体には、既存の兵器は一切の効果が無なかったのである。銃弾を撃ち込む端から吸収されていく様は、悪夢としか言いようがない。

“食べ残し”である人類には、もはや終焉を待つ以外に道は無いと思われた。

そんな時、同じくオラクル細胞を埋め込んだ生体兵器、神機が生科学企業“フェンリル”によって開発される。

オラクル細胞に抗するには、オラクル細胞を用いるしかなかったのだ。

そして自らの体内にオラクル細胞を摂取し、神機と自らを連結させるゴッドイーターが編成されたのである。

人類の対抗手段は、神機を操るゴッドイーターのみ。

限られた土地に築かれた壁の内側へと人々は身を潜め、旧時代の戦闘、つまりは生身での“狩り”を繰り返していた。

戦力の補充は、人類にとって最優先事項であったのは言うまでもないだろう。

国という概念が崩壊した今、アラガミ防壁に囲まれた局地都市“ハイヴ”を建造し、それらの統治機構としても働いているフェンリルの命に逆らう事は許されなかった。

配給を受けている限り、適合する“偏食因子”が発見されたのならば、ゴッドイーターとして使命を背負うことを拒むなど出来ないのだ。

ただの一般人でしかなかった彼もまた、喰うか喰われるかのゴッドイーター候補として、フェンリルによって選ばれた者の一人であった。

彼が見出されたきっかけは、外壁より侵入したアラガミに襲われた際に負った傷の、治療のため受けた血液検査からだった、との資料が残っている。

黒髪、黒目。身長は平均よりやや高め。顔つきは柔らかいが、目立って美形という訳でもない。

容姿として取り上げるのはその程度しかない。

前歴は無職。

荷物運びやガレキ集めなど、日銭を得てその日暮らしの生活をしていたらしい。

何故これほどの人物が市井に紛れて生きて来たのか、と誰もが首を捻ったが、彼の仲間達からすれば、それこそが彼の望みだったのだと口を揃えたことだろう。

本来、彼は闘争を好む性質ではない。

彼はアラガミに追い込まれ、死の危険に常にさらされながらも、それでもたくましく生き抜く人々の暮らしを愛していたのだ。

だから自分をその中に置きたいのは当然の事だ、と。

だが榊の意見は違う。

彼は待っていたのだ、とそう思っている。

ある意味、彼自身が彼一人の身の内に収まり切れないその才能の被害者であったのだろう。

彼は理解していたはずだ。自分が特別であるということを。

ならば彼は、自らに相応しい武器……新型神機が世に生み出されるその時まで力を蓄え、雌伏の時を過ごしていたと考えるのが自然である。

新型の開発情報は外に漏れることは一切なく、それを彼が知り得ることは絶対に無かったはずだが、しかし榊はそう感じていた。

彼は信じていたからだ。人の可能性を。必ず、アラガミを打倒し得る刃を、人は手に入れると。

そして、事実そうなった。

彼の行動に偶然はない。

かつての歴史に名を残す武将たちが、自らが動くべき機が訪れるまで座して待っていた、というエピソードは山のようにある。彼もきっと、そうなのだ、とそう榊は理解していた。

それも、彼を観察してようやく理解できた一端でしかないのだが。

当初、榊は彼を哀れな生贄としか見てはいなかった。

治療の際に行った血液検査により、彼は神機の適性因子を保有していることが判明した。

多くの例に漏れず、単純な細胞配列である、旧型神機への適性因子だ。

そしてフェンリルの決断が下された。彼は、“新型神機の”適合実験に選出されてしまったのだ。

未だ未知の部分の多い新型である。適合者の選出には慎重を機せねばならなかった。だが、フェンリルはデータを欲していたのである。

今後の戦況に置いて、新型が神機の主流となっていくのは間違いがない。

しかし適合段階において、その者が適合に失敗した場合、一体何が起きるのか。それは誰にも解らなかった。

旧型の神機では、非適合者は神機に喰い潰され、肉塊と為り果てるのみである。

現在はコンピュータ選出の精度も上がり、適合審査中の事故は希ではあるが、それでもゼロではなかった。

それも適合審査は軽いパッチテスト程度である、として公共電波で告知されているのだから、フェンリルがどれだけ適合審査に重きを置いているかは理解できよう。

最悪、新型の適合に失敗した者は、アラガミ化することも想定内であった。

早急に調査せねばならない。

では、どうやって?

簡単である。意図的に非適合者を選出し、適合審査に掛ければよいのだ。

つまり、彼が新型の適合者として選ばれたのは、不幸な偶然でしかなかったのである。

生贄だったのだ。彼は。

もっと言ってしまえば、榊でさえも目を見張る程の彼の適合率の高さは、旧型神機をしてのものであり、そのため新型への適合は絶対に不可能であると思われていたのだ。

そして実験当日。

榊は自らは観察者であると、そうでしかないと本分を強く意識し、痛む良心を誤魔化しながら、ドームの中にいる彼の姿を見降ろしていた。

灰色の空間に連れ込まれた彼への第一印象は、影が薄い男、というのが正直なところ。まるで空気のようだ、と榊は思った。

退院してすぐの病み上がりで、着の身着のままで連行されたのだから無理もないが、どうにも彼からは意思というものが感じられなかったのだ。

それがまったく動じずにこちらを警戒していた、彼の冷静さの現れであると榊が思い至るのは、もう少しの時間が必要になるのだが。

そこは、常はゴッドイーター達の訓練室として使われる部屋である。

特殊合金の壁で四方を囲まれた部屋ならば、“アラガミの成り損ない”が一体暴れる程度、どうとでもなる。

部屋の外には現職のゴッドイーター達を待機させてあった。

隣にいる雨宮ツバキには、不幸な事故だった、という目撃証言を言わせるためだけに、極東支部初の新型適合審査であるということだけを知らせて連れて来ていた。

お膳立ては整っていた。

自らが断頭台に上げられたのを知ることもなく、人々を守るのだと期待に胸を膨らませる若者を、そうと知って、そうとは知らせず、よってたかって殺そうとしている。

そして、当時の支部長と榊達による監視の中、彼へおざなりな建前だけの説明が行われ、公開処刑が始まった。

哀れみを込め、それでも余す所なくこれから起きるであろう事を記憶しようと、彼を見る。

ふ、と。

一瞬、彼が顔を上げた。

 

「――――――」

 

その時彼が何と口にしたかは解らなかった。

ただ、唇の動きを読む限りでは「ありがとうございます」と、彼はそう言っていた。

支部長が気付いた様子はない。

彼は、榊のみを見詰め、そして再び視線を前に戻していた。自らが振るう事になる、神機へと。

――――――後のことである。榊が、あの時何故礼を述べたのか、と彼に問うたが、彼は曖昧に笑って答えなかった。

これも榊が、彼が自分の運命を自覚していたことを思わせる、判断材料であった。

彼の選出にあたっては、榊も少なからず関係していた。否、むしろ、彼をと決定したのは、榊である。

支部長は誰でもよいというスタンスだったが、榊は違った。流れる涙は少ない方がいい。家族血縁友人関係に至るその人物の人間関係を全て洗い、孤独に生きる者、つまりは彼のような人間を使えと支部長に意見していた。

そして彼はそれら条件に完全に一致していたのだった。

科学のために。人類の未来のために。

その二つの言葉を免罪符に、自身の罪悪感を薄れさせたことを自覚しながら。

つまり、榊もまた、一体何が起きるのかという好奇心を抑えることが出来なかったということだ。

実体を見せぬフェンリル本社を悪し様に指差すことは出来ないと、榊は自嘲するしかなかった。科学者の業である。

支部長に促された彼が、静かに神機との接続機へと手を差し入れた。

巨大な鉄の箱を上下二分割にしたような装置には、中に神機が――――――アラガミを殺すために人が磨いた、牙が収まっている。

剣に、銃に、盾。三つの種の異なる兵器がそれぞれ融合したような、巨大な鉄塊。

これら三形態を自在に使い分ける、新型神機である。

手を置く部分には、ネジを締めるナットを半分に割ったような腕輪の片側が。ここに手を入れることとなる。そして入れたが最後、彼は人ならぬモノへと変質し、ゴッドイーター達に狩り殺されるのだ。

榊には、人の反逆の希望が詰っているはずのその箱が、ギロチンのようにも見えた。

命を刈り取る装置という意味合いでは、全く同一の代物であるのだから、その印象も間違ってはいないだろう。

油圧ポンプが軋む音。

大きな金属音を立て、装置が結合された。

神機の結合機と共に、彼の命運も閉ざされる……かに見えた。

神機結合の際のオラクル細胞注入は、人間に強大な力を与えることになる。

膂力の強化、反射神経の増大。

いってしまえば、半分人を辞め、アラガミに近しい存在へと肉体改造をするということだ。

当然、それには苦痛が伴うこととなる。

しかし彼は、平然としていた。

平然と、である。

苦痛にのたうち回る様子も、予想されていた人からの大きな逸脱も、まるで見られない。

そして結合機が開かれ、適合審査の結果は――――――成功。

極東支部初の、新型神機使いの誕生である。

高い旧型細胞への適合率は、そのまま新型機への適合率へと置き換わっていた。

異常事態である。

否、これをただ異常と言ってしまうのもどうだろう。先も述べたが、新型は未知の領域が多い神機であったのだ。

新型神機を持つ新たなゴッドイーターは誕生したが、しかし実験の主旨としては、失敗である。

結局、新型“が”非適合者をどうしてしまうのかは解らずじまいだった。

フェンリル上層部としては当然、面白くない。

今回の実験は、本部からの指令だったのだ。

極東支部に命令が下ったのは、当時の支部長が必要であれば道徳に反する行いをするのに、何の躊躇もない人物であったからだろう。

そして新たにゴッドイーターとなってしまった彼に対するフェンリルの風当たりは、露骨だった。

碌な訓練もさせず、即座に実戦投入である。

彼と同チームに配属されたもう一人の新人……旧型神機適合者であったが、こちらは神機の取り扱いや基礎教錬は修めさせられていたというのに、彼にはその期間すら与えられなかったのだ。

これにはフェンリルにとっては“事故”の目撃者とするべく実験――――――それを当人には実験と伝えられてはいなかったが――――――に参加させていた雨宮ツバキが、教官として人としても異を唱えていた。悪い意味合いでの目撃者となった彼女の言など、取り上げられることもなく意見具申は無視された。

なんとか榊の権限により帰投率一位のリンドウ班にねじ込んだはよかったが、彼にのみ、初任務をこなした後もインターバルを挟まずに、息を吐かせぬような連続戦闘任務が待っていた。

神機に選ばれたと言ってもいい、特異な状況下でゴッドイーターとなった彼の戦闘データ取得、という名目で本部が下した決。

それは、前線での全戦闘作戦参加、であった。

露骨な抹殺指令である。

本部の息が掛かっていたのだから、リンドウがどれだけ拒否しようとも受理されることはなく、そして彼に付き合わされる形で激務を負わされる事となったもう部隊員達には、手を合わせるしかない。

第一部隊任務は当然のこと、第二、第三部隊の戦闘作戦にまで駆りだされ、時には彼一人で、単独任務に当たることも少なくはなかった。

だが彼は、まるで戦うことがゴッドイーターとなった自らの使命なのだ、と言わんばかりに、全ての任を勤め上げたのである。

同時に、本部が名目上要請していた戦闘データも十二分な物を彼は提出していた。

彼の戦闘法は特殊であり、戦闘毎にあらゆる武器種、銃種を組み換えて出撃するのを繰り返す、というスタンスを執っていたからだ。

新型には形状の組み換え機能も備わっていたが、一部でも変えてしまえばバランスや重量の変化が激しく、それはもう別の神機となるも同然である。

通常のゴッドイーターでは一つの神機に慣れるまでに時間が掛かるというのに、彼はそれを完全に無視していた。

あらゆる武器、銃、盾をまるで自身の肉体の延長として扱っていたのである。

この点だけでも、榊でなくとも彼を異端と言いたくもなるだろう。

ここまで完璧な戦闘データを提示されては、本部もぐうの音も出なかった。しばらくして彼への干渉はなりを潜めていった。

そして様々な事件を経て、彼はリンドウに代わって第一部隊隊長に任命されることとなる。

 

『異端なんて、正に彼のためにあるような言葉だね。彼はきっと、神を殺すために地へと堕ちた、救いの禍星だったのさ』

 

榊が彼を期待の新星だと見なしたのと、同時期のことであった。

彼の名は、加賀美リョウタロウ。

後の世に、最強のゴッドイーター“神狩人”と称されることになる、その人である――――――。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない。

いくら俺の特技がやせ我慢だったとしても、限度というものがある。

まず休みがない。

給料が安い。

同僚にアレな奴が多すぎる。

そして飯がまずい……これは食えるだけありがたいけれど。

エトセトラエトセトラ、挙げれば切りが無いが、まあここらはどこの会社にだってあることだ。

労災が下りるだけ良い方、と言えなくもない。

問題はそんなことじゃあない。

そもそも就職した――――――させられた経緯がおかしい。

アラガミの襲撃でちょっと怪我して入院して、やっと退院したぜと家で寝ていたら、何人ものとてもカタギとは見えない黒服達が押し入って来て「来い」の一言。

背広にはやたらとオサレな狼のエンブレムが。

今や実質世界を支配する、フェンリルの社章である。

何故ここにフェンリルが? などと混乱していると、無理矢理トラックに押し込まれていた。

このご時世、フェンリルに逆らう馬鹿はいやしない。

俺がこうして悠々自適の自宅警備員をしていられたのも、フェンリルのおかげである。もちろん皮肉だ。

就職という概念すら危ぶまれるような場所であることを、お偉いさん方は知らないのだろう。

ほったて小屋エリアの住人なんてそんなものである。

働きたくても働けない。腹は減る一方。身を守ってくれるアラガミ防壁も、毎日眺めていたら息が詰る。

不満は募るが、じゃあとフェンリル職員に文句でも言うような度胸もない。壁の外に出されたら、即アラガミに食われる自信がある。

だから来いと言われたら行くしかないのだ。

トラックに揺られ、そして連れてこられたのが、フェンリル極東支部。通称、アナグラ。

ゴッドイーター達の寝床である。

ゴッドイーター――――――アラガミと戦う者達。

世界中がアラガミに食い荒らされているというのに、それでも人間が滅びを迎えてはいないのは、彼等のおかげといってもいいだろう。

しかし、なぜ俺はここに連れて来られたのだろう。

猛烈に嫌な予感がする。それしかしない。

疑問を挟む余地なく、あれよという間に神機適合審査である。

なんだ、この超展開は。

呆然としていると、何だか偉そうな人が登場。ありがたい演説をしてくれているが、聞く余裕なんかなかった。

どうしてこうなった、と天を仰ぐと、そこには――――――女神が、いた。

上着からこぼれ落ちんばかりの、いやもう半分まろび出ている、禁断の果実よ。

おい、そこの眼鏡のおっさん邪魔だどいてくれ。

念を送っていたら通じたのか、おっさんが半歩下がってくれた。

「ありがとう」、と小さく礼を言っておく。

これで俺は後10年は戦える……などと、思っていたら。

本当に戦わされる羽目になりましたとさ。

 

「おい、警報だ!」

 

「解ってますって! 行こうぜ、リーダー!」

 

「行きましょう! リョウ!」

 

名前を呼ばれて我に返る。

そうだね。

今日も今日とて、愉快な仲間達と一緒にアラガミ退治。

そう、俺の仕事はアラガミと命を掛けて戦うこと。

世界一なりたくない職業、ゴッドイーターなのであった。

任務遂行は死守なんだぜ。

死ぬ気で頑張れって意味じゃない。死んでもやり遂げろってことだ。

すごいだろ。

つまり逃走は許されないってことだ。

そいつは暗に、逃げたら解ってるな? ということでもある。

任官初日、リンドウさんはガチガチになった俺の気を解そうと、やばくなったら逃げろなんてギャグをかましてくれたけどね。

笑えるだろ?

笑っておくれよ。

ははは、はは……。

出撃嘆願書その他諸々をカウンターへ提出しに行くと、受付のヒバリ嬢が、「頑張って下さい」と頬笑み掛けてくれる。

天使のような微笑みの裏には、計りしれない黒さが潜んでいることを俺は知っている。

この娘、可愛い顔してトンデモない。

俺が稼いだお給料を、こっそり着服してやがるのだ。

ゴッドイーターの給料は歩合制。

頑張れば頑張った分だけ金が貰えるシステムだが、定額でない分、金の流れや使い道への管理があやふやなのである。その隙をこの娘は突いたのだ。

解っていても強く言えないのは、俺が弱味を握られているからだ。

この娘と初めてあった時、俺の前方不注意で正面衝突してしまったのである。

後は……解るな?

彼女の胸をがっつりと掴む、セクハラ男が一人。

一応は企業の体裁をしているだけに、こういう事件にだけはやたらと厳しいフェンリルだ。

セクハラで捕まえられるのだけは勘弁してください。

俺が社会の底辺のフナムシであっても、なけなしのプライドくらいある。

そういう訳で、彼女に給料を貢ぐのを止められないのであった。

口止め料である。

ヒバリ嬢の笑みが怖くてたまらない。

 

「リョウ、顔色が悪いように見えますけれど、大丈夫ですか?」

 

ああ、アリサ。

今日も良い下乳だげふんげふん。

んんっ、げふんっ、げほげほ。

何でもないよ。

うん、もう平気平気。

むしろみなぎってきた。

今の俺は神だって殺せるね。

 

「ならいいのですが……」

 

肩にそっと手を置いてくれるアリサ。

労わりの気持ちが流れ込んでくる。

新型同士の“感応現象”というやつらしい。

しかしあれだね。

アナグラの奴らはみんなド派手な格好してるね。

俺? 俺は任官した時に配給された制服を着てるよ。

それしか服がないからね。

私服どころか私物まで、ここに越してくる時全部手違いで処分されちゃったから。ちきしょん。

おかげで遅寝遅起きな不健康生活を送っていた俺が、見違えたように超ストイックな修験者生活をするようになりました。

あ、やばい、泣けてきた。

つらいなあ。

 

「リョウ……」

 

ああ、うん、出撃ね。

おお、近場じゃないか。この分だと徒歩でいけるね。

さあみんな今日もお仕事がんばろう。

無理してるんじゃないかって?

してるよ。

ヤケクソだよ。

毎日お腹がシクシク痛むんだよ。

今日もきっと神機様がハッスルしちゃって生きた心地がしないんだ。

そうに決まってる。

本当に、もう俺は限界かもしれない。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

「いってらっしゃい。どうか、ご無事で」

 

ヒバリは戦場へと赴く彼等の背を見送って、深く頭を下げた。

防衛班や偵察半、アラガミと戦うには多くの人員が必要であるが、しかしこうして自分たちが無事で暮らせるのは、前線で戦う彼等のおかげであるとヒバリは信じている。

積極的自衛という第一部隊の任務によるものではない。

彼等の気高い精神が、見るものにそう感じさせるのだ。

否、彼等を率いる彼の魂が、と言うべきか。

ヒバリは慣れた手つきで、いつものようにコンソールを叩く。

孤児院のリストを開き、送金しますかのタブに、イエスと打ち込んだ。

名義は加賀美リョウタロウ。

彼が任務中に稼いだ金銭は、全て慈善団体に募金される手はずとなっていた。

命を掛けて稼いだお金なのに、自由に自分のために使ってもいいはずなのに、彼はそれをしない。

ヒバリの前方不注意で廊下でぶつかってしまったのが、リョウタロウとの初めての出会いだった。

その時のリョウタロウはとても急いでいた様子で、ミッションカウンターに給与の振込み口座番号のメモ書きを残し、逃げるようにして去っていった。

ゴッドイーターには秘密主義や個人主義者が多く、給金のやり取りをミッションカウンターで行う者がほとんどである。

リョウタロウもまた手続きのために訪れたのであろうが、とヒバリは首を傾げながらカウンターに座り、コンソールを立ち上げた。

ヒバリはミッションカウンター担当職員、兼ゴッドイーター補充要員であった。

よほど急いで書いたのであろう走り書きのメモは文字がかすれ、口座認証できるかと焦りもしたが、その通り打ち込んでみれば驚愕がヒバリの背筋を駆け巡った。

告げられた口座は、アラガミ被害によって孤児となった子供達のための施設団体のものだった。

全額、などと彼は言っていたが、流石にそんなことは出来ず、ヒバリは定額を施設へと寄付する手続きをすることにした。

残りは、フェンリルから各個人にあてられた社員専用口座に振込されるように設定した。

こちらは金銭の扱いに不精のゴッドイーター用に、厳重な管理の下、ミッションカウンター担当者に番号等の閲覧が許可されたものである。

カウンターから調べたリョウタロウの口座番号と、孤児保護施設の口座番号は似たものであったため、ヒバリは打ち込みを二度ほど間違えたことを覚えている。

ヒバリの善意によって行われた手続きは、しかし彼にとって非常に不服だったようだ。

口座の送金記録を見た彼は、ヒバリを何か言いた気に睨みつけていたのだ。

まるで、金などいらないと訴えるかのように。

ヒバリからしてみれば、訳が解らなかった。

それは彼が血肉を削って稼いだ金なのだ。自由に使う権利があるはずなのに。

しばらくしてリョウタロウを観察する内、ヒバリは気付いた。

彼が私服を着ている姿を見た事がないことに。

任官時に何着か配給される制服を、着回しているのだろう。

聞けば、私物すら部屋に持ち込んでいないらしい。

きっと、ほとんど全部を寄付してしまったからに違いなかった。

ヒバリはその日、人知れずカウンターの影で泣いた。

ゴッドイーター達は、皆多かれ少なかれ、主張の激しい人物達である。

自分がいつ死ぬか解らないのだから、誰かの記憶や記録に残りたいと、奇抜な言動や格好をしたがっているのだ。

冗談のように三枚目的な格好を付けたがる男もいるが、彼のあの態度も全てポーズである。

だがリョウタロウには、個性というものがまるで無かった。優しさが服を着て歩いているような男だった。

優しい人、というのは人として最大の賛辞であるが、しかし優しさだけしか取り柄がないのだとも言える。

リョウタロウは、ただゴッドイーターという機能を果たすためだけの、一個の装置のように己の身を置いていた。

きっと彼は、自分が幸せであることと、すべき使命を切り離してしまったのだろう。ヒバリはそう思った。

ツバキ教官が常々口にしていた言葉がある。

任務に私情を挟むな――――――。

それは大いに同意する所であるが、しかし彼を見ていると、思ってしまうのだ。

誰かを守りたいと思う心も、綺麗な場所を守りたいという気持ちも、すべて私情ではないのか、と。

ならば、任務を完全にこなすには、それを完遂するだけの装置とならなくては。

機械の器に閉じ込めた神でしか、アラガミを滅ぼせないというのなら。

その機械によってのみ人々の平和がまもられるというのなら。

神機を振るうのは、人である必要があるのか。

ただ、戦う。それだけで十分ではないか。

それでこそ多くを救えるのではないか。

彼の信念が、見えたような気がした。

 

「どうか、どうかリョウタロウさんに救いが訪れますよう。お願いです、神様……」

 

ヒバリは一心に、産まれて初めて神へと祈りを捧げた。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

腕が軽い。

まるで神機が羽のようだ。

目の前には、女性の半身を風船に括りつけたようなアラガミ……ザイゴート。

中世の拷問器具の様な硬質な体躯を持ったアラガミ……コクーンメイデン。

それら二匹とは一線を画する巨体を誇る、見上げる程の巨大な鉄蠍のアラガミ……ボルグ・カムラン。

ザイゴートやコクーンメイデンの援護射撃をかい潜り、討伐対象であるボルグ・カムランの胴体へと斬りつける。

 

うおおおお――――――ッ!

 

「すっげ……あんな激しい攻撃を一発ももらわずに張り付いてる」

 

違うからね?

これ、雄叫びじゃないからね?

悲鳴だから。絶叫ですから!

全部紙一重で避けてるもんだから、本当に生きた心地がしない。

うう、でも止められちゃうと本当に死んじゃうんだもんなあ。

俺の体は、今、俺の意思で動いてはいないのだった。

気分はアクションゲームのキャラクターである。ゲームとかやったことないけど。

あっちに行け、こうしろ、といった大雑把な命令は下すことが出来ても、細かい身体の制動は完全に乗っ取られている。

神機を握ると必ずこんな風になるのだ。

視点が俯瞰カメラのように、自分を頭上から見下ろすように広がっていく。

オート攻撃にオートガード。

全自動戦闘である。

しかも俺の意識がついていけないくらいの超高速戦闘だ。

これ、確実にオラクル細胞が脳に影響及ぼしてるよね? 神機が俺の身体のっとってるよね?

でも正直に言っちゃうとメガネの人に解剖されそうで怖い。

うう、本当、頑張ってくださいお願いします神機様。

 

「おいコウタ、馬鹿みたいに口開けてんな。俺達も加勢するぞ」

 

「わかってるって!」

 

ああ、ソーマ。

俺の味方は君だけだよ。

アリサは俺の邪魔をしたくないって言って、周囲の哨戒するとかで早々にどっか行っちゃうしさあ。

見捨てられた?

俺、見捨てられたの?

ねえアリサ、君本当は俺のこと嫌いなんでしょ?

あれかな、過去を見ちゃったから、とか?

いやでも、それはおあいこ……でもないな。男女の差ってやつか。

そりゃ当然女の子の思い出の方が価値ありますよね。

女の子のプライベート覗いたら普通に駄目だよね。

嫌われるのも当然じゃん……うわー泣きそう。

 

「くっそ、リョウ! ヴァジュラがそっち行ったぞ!」

 

「雑魚共は任せとけ。お前はそいつらを仕留めろ!」

 

おいぃ、二体同時とかこれなんて無理ゲー?

あとコウタ。

お願いだからもっとよく見て。

ライオンのような巨大なネコ科動物の身体に、髭を蓄えた厳めしい人間の頭――――――。

それヴァジュラちゃう。

ディアウスや。

ヴァジュラの上位種や。

今相手してるこれも普通のボルグ・カムランじゃなくて何か赤いしさあ。

三倍速いような気がするよ。

 

「こっちは任せとけ!」

 

「ああ、お前は全力で戦え!」

 

止めろよ。

コクーンメイデンに二人掛かりとか。

こっち来てくれよ。

仲間だろ。

ちくしょう。

ぎゃーす、という鳴き声が聞こえる。

これは確実にロックオンされたな。

はは、ははは……。

 

「へへっ、あいつ笑ってやがる。やっぱすっげぇの」

 

そうだねすごいね。人間って恐怖が振り切れると、笑えてくるんだからね。

自分の意思を離れて足が前に進んでいく。

今日も神機様は絶好調である。

お願い誰かたすけて。

もう俺は本当に限界かもしれない――――――。




あじん、どぅばー、とぅりー! 
日曜朝7:30からはアナグラスーパーヒーロターイッ!
『美少女捕食戦士カノン・ダイバー!』
ちゃーちゃーちゃらっちゃーちゃちゃー! (ゴシャァァァ!)※効果音

【行くは死、引くも死、ならば引き金を引くしかない。狙うは敵、立ち塞がるは友の背―――ならば引き金を引くしかない。君は神機の輝きを見たか――――――】


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ごっどいーたー:2噛

元々投稿したものが、公式小説の発売前のものだったので、所々時系列があわない所があります。申し訳ありません。


運命。

それが神がさだめしものならば、手が萎え、足が折れ、はらわたを零れ落としてでも抗ってみせる。

男の叫びが木霊する。

痛みに耐え、涙を呑み、怒りに悶え苦しみながら。

誰にも聞こえぬ、魂の叫びがまた。

闘え。

何度でも、幾度でも。

それがお前の、往く道ならば。

 

――――――ペイラー榊著、『ゴッドイーター:神狩人』より一部抜粋。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

帝王牙DENEEEEEE!!!!!!!111111

俺はあと何回テメェの面を拝まなきゃいけねえんだよこんちきしょん!

いい加減俺に獣剣の強化をさせてくれませんかねぇディアウスさん!?

こうなりゃ出るまでマラソンじゃあ!

うおおおああアアーーーッ!!

 

加賀美リョウタロウ、心の叫び――――――。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

ここはかつて、新横浜と呼ばれた都市であったらしい。

らしい、としか言えないのは、都市機能を有していた以前の姿をこの場に居る二人が知らないからだ。

二人が産まれる以前にはもう、一帯が砂漠地帯と為り果てていて、多くの≪アラガミ≫が餌を求めて徘徊する危険地域と化していた。

この場に足を踏み入れる者がいたとしたら、その者の正気を疑うしかない。

そんな地で、フェンリル正式制服を着た特別特徴もない青年と、ローズグレイの髪をしたやや露出の多い服装の少女とが、取り乱した様子もなく黄土色の砂上にしっかりと足を着けていた。

二人の肩には、剣と銃が融合したような巨大な機械の塊……『神機』が担がれている。

彼等こそ『ゴッドイーター』――――――。

アラガミの跋扈する世界で唯一の抵抗手段である、人間の守護者達だ。

 

――――――因縁か。

 

青年の小さな呟きが、風に乗って少女の耳へと届く。

因縁という言葉を聞けば、何が思い浮かぶだろう。

『アリサ・イリーニチナ・アミエーラ』は、≪ディアウス・ピター≫の顔を思い浮かべる。

≪ディアウス・ピター≫――――――帝王の名を冠する、≪ヴァジュラ≫種の最上位に位置する個体。

黒い獅子の身体に、豊かな髭を蓄えた人面を持つ、人面獣身のアラガミである。

通常のヴァジュラとは姿形も戦闘力も一線を隔するそのアラガミは、ゴッドイーター達の間では恐怖の代名詞として語られていた。

出会えば、命はないと。

それにはアリサも頷くしかない。感情は別として、だが。

ヴァジュラ、というものが、ある一つの壁としてゴッドイーター達の前に存在している。

その上位個体ともなれば、多くのゴッドイーターが絶望を抱いたとしても、それはむしろ当然の反応だろう。

精神的にももちろん実力としても、ゴッドイーターにとってヴァジュラとは、超えねばならない大きな壁として立塞がっているのだ。

初めから精神的にフィルターがかかっているようなものだ。であるならば、神らしく一種の信仰として存るディアウス・ピターを、ヴァジュラと見間違えたとしても、まあ、納得はいく。

悪態を吐くことを止めるまでには至らないが。

 

「いい加減な仕事を……偵察班は何をやってるんですか」

 

青年は肩をすくめただけだった。

ディアウス・ピター来襲の報を受け出撃したアリサ達だったが、到着してみれば、そこには黒い巨体は無く。

朽ち果てたビル群が並び立つ砂漠には、ヴァジュラの群れが闊歩するのみだった。

太陽光の反射の加減で、揺らめく空気が視界を滲ませる。ヴァジュラの群れが黒く燃えているかのように見えた。

体毛の色を錯覚したのだろう、とアリサは偵察班のミスであると判断した。

とはいっても数が数だ。脅威であることには違いない。

アイコンタクト――――――青年の瞳に自分の顔が映る。そして自分の瞳には、青年の顔が映っている。

アリサは青年と二人、並び立ってヴァジュラへと襲いかかった。

状況はすぐさま乱戦となり、戦力の少ないこちらは、ほとんど彼一人が戦っているようなものとなった。

それは戦いというよりも、舞いのようにも見えた。

神前に捧げる舞踏――――――否、武踏であるか。

体術のレベルが違いすぎる。自分では、付いていけない高みにあった。

下手に踏み入れば邪魔になるどころか、誤射をしてしまいかねない。

アリサに出来たことといえば、彼が的にならないようあぶれたヴァジュラ達の囮となることと、合間に回復弾を撃つことくらいのものだ。

悔しさにアリサは歯噛みする。

彼を羨んでいるのではない。

何の役にも立てない自分を恨んでいるのだ。

一体、二体――――――彼が剣を振るう度、巨体に傷が刻まれ、そして地へ崩れ落ちていく。

三体目は口内に銃口を差し込まれ、喉奥を吹き飛ばされていた。

淡々と捕喰形態へと神機を変化させ、倒したヴァジュラからコアを抜きとっていく。その動きは、寒気がするほどに正確だった。

最後の一体が存命中であり、今もこちらを狙っているというのに捕喰を優先させている様は、恐怖など微塵も感じてはいないように見えた。

では自分はどうなのだろう、とアリサはヴァジュラと対峙し、思う。

今でこそ何とか倒せる相手となったが、縦に裂けた瞳孔に睨みつけられれば、身体は僅かに硬直した。

獅子の頭は人面のそれとは掛け離れているというのに、それでもアリサは思い出してしまうのだ。

 

人を模した厳めしい顔。

ぞろりと生えそろった乱喰い歯。

下顎から滴るどす黒い血と、ぬめり落ちる内臓の一部。

扉の隙間からじっとこちらを見詰めている、赤い眼を。

 

その度にアリサは叫び声を上げそうになる。

あるいは、怨嗟の唸りを。

憎悪――――――。

それがアリサの、ゴッドイーターとして原点だった。

 

封じたはずの記憶はなおも蘇る。

かつて、親友を喰い殺したヴァジュラの姿。

それが当時の衝撃をそのままに、両親を喰い殺したディアウス・ピターの姿へと重なって見える。

怒りで息は乱れ、視界が赤く染まる。

神機を握る手はがたがたと震え、自分が逃げ出したいのか、戦いたいのか、そうなるとアリサにはもう、解らなくなってしまうのだ。

憎しみは別の何か、重い感情へと変わり、身体を縛り付けていく。

重い。そんな目に見え無い何かが、重ねられていくばかりだ。

それでもアリサが自分を見失わないでいられるのは、彼に依るところが大きい。

彼の羽織ったジャケットの深い青を見て、乱れた心を落ち着かせる。

ヴァジュラの群れ最後の一体が今、斬り伏せられた。

誰よりも強く、誰よりも優しく、どんなに辛くても決して立ち止まらない、彼。

彼はどんな気持ちで戦っているのだろう。

アリサは神機に捕喰させている彼の背へと手を伸ばし掛け、そして下ろした。

怖い、と思った。彼の心の内を知ることが。

 

『感応現象』というものがある。

『新型』同士が触れ合った際に、接触した者の間で、記憶や感情の交信が行われるという現象である。言ってしまえば、相手の心が読めるということだ。

ディアウス・ピターにまつわる因縁は、もはやアリサだけのものではない。

そのアラガミは、前隊長の仇ともなっていた。

それも、アリサが原因となって、だ。

錯乱したアリサが射線を乱し、前隊長をガレキの向こう側へと閉じ込め、単独での戦闘を強いさせてしまったのだ。

そして――――――MIA《戦闘中行方不明》判定。

死体が発見されることはなく、残ったのは神機と『腕輪』のみ。それが示すことは、もはや望みは無い、ということだった。

ゴッドイーター達は、神機から供給されるオラクル細胞によって肉体強化がなされている。

ゴッドイーターとは、人為的なアラガミであると言ってもいい。

オラクル細胞に食い殺されて不定形な肉塊とならぬよう、もしくは真にアラガミ化せぬよう、腕輪……『P53アームドインプラント』から投与される『P53偏食因子』によって、神器のオラクル細胞を制御しているのだ。

それが失われたということは、つまりは、死しかないということである。

彼によって討伐されたディアウス・ピターの体内から腕輪が見つかったという報告は、皆に絶望をもたらすものであった。

表には出してはいなかったが、サクヤも、ツバキも、皆アリサに思うところがあったはずなのだ。

情報封鎖をされてはいたが、噂は流れるもの。

ゴッドイーター達の中には噂を聞き付け、面と向かってアリサを罵倒する者もいた。

裏切り者、と。

彼等の罵詈雑言は何も悪意から出たものではなく、全ては第一部隊前隊長の事を想っての事だとは、感応現象などなくとも理解できることだった。

平時は人の良い彼等にそこまでの事を言わせてしまった自分の所業を、アリサは深く後悔した。

ソーマも、コウタも、初めはアリサとどう接したらいいのか、戸惑っていた様子だった。無理もない、と思う。

だからアリサは、彼等に掛けられる言葉を、自分を見る困惑の視線を、全て受けとめた。

これは罰なのだと。

彼等の心の内を少しでも軽くすることが、自分に許された唯一の贖罪であるのだと。

だというのに。

そんな中、彼は全く変わらない態度でアリサに接した。

彼だけが、アリサを同じゴッドイーターとして、仲間として、変わらずに慮ってくれたのだ。

それまで自分でもドン引きだと思うくらいに酷い態度を取っていたというのに、である。

 

崩れてしまうと思った。

思った時にはもう、手遅れだった。

ぼろぼろと崩れた心が、両の眼から零れて落ちていくのをアリサは感じた。

前線に復帰しても、しばらくは病室のベッドの上で過ごすことが多かった自分を見舞う者は、いつしか彼のみとなっていた。

そして眠りに就いては悲鳴を上げて飛び起きる自分の手を、彼はずっと握っていてくれていた。

一人では眠れないなどと寝言をぬかす自分に、仕方ないなと苦笑して。そうして一晩中手を繋ぎ、ベッド脇に腰掛け、彼は自分のことを見守っていてくれたのだ。

その手の温かさをアリサは忘れない。

 

だが――――――と、アリサは考える。

彼も、本当は自分の事を、憎んでいるのではないだろうか――――――と。

 

感応現象で彼から流れ込んで来るのは、過去の映像と、感情の熱だけだ。

写真データに、その時に彼が喜怒哀楽の何を感じていたかというテキストを張り付けただけの、情報量の少ないものでしかない。

新型神機への適合率の高さが影響しているのだろう、とは榊博士の言だ。

水が高い場所から低い場所に流れるように、新型神器の感応現象によってやり取りされる情報は、完全に相互のものという訳ではないらしい。

アリサと比するまでもない程に、彼の適合率は高い。それは、彼が初めて新型神機に触れた日にはもう、変型タイムが一秒を切っていたのが証明していることだ。

同じ新型使いといえど、彼はアリサの上位存在であり、感応現象における情報流入もその情報量や質は、下位であるアリサには制限されたものしか伝わらないのである。

握られた手から温かさが流れ込んで来ることは感じた。

だが、正確に彼が何を思っているのかは、アリサにはまったく解らなかった。

ソーマなどはそれで十分だろう、と言っていたが、アリサとしては安心出来るものではない。心を読み合えるのだから、余計に。いっそ知らなければよかったとさえ思う。

穏やかに微笑んではいても、寡黙な性質の彼である。

口数は多い方ではなく、胸の内を行動で表すような人格だった。

その彼が、あの事件を境に、執拗にディアウス・ピターを追うようになったのだ。

それも、一人で。

ディアウス・ピターは、『接触禁忌』に数えられるアラガミである。

接触禁忌とは、保有するオラクル細胞による感応波が強大なため、通常の神機使いではオラクル細胞に不調が発生する可能性があるとして、一定以上の素質が備わった神器使いでなければ戦闘の禁止、回避が推奨される特殊なアラガミのことだ。

読んで字の如く、である。

アリサがディアウス・ピターと対峙したのは、前隊長の腕輪と神器回収のために、特例として出撃が許可されたその一回限り。

接触そのものを禁忌とされるアラガミ。それが接触禁忌なのである。

だが彼に限っては、隊長のみに課せられる特務、という大義を盾に、ディアウス・ピターの単独討伐の命が幾度も下っている。

特務は秘匿されて然るものであるが、こと彼の対ディアウス・ピターの戦歴においては、まるであてつけのように開示されていた。

上層部の嫌がらせだろう、とは、これも榊の言である。

開示されたスコアはもう10体以上を記録していて、そこまでの執着を露わにする彼が何もアリサに感じていないなどとは、信じられなかった。

 

あの温かさが、新隊長に任命された彼の、義務としてのものだったのではないか。

感応現象によって彼の心の一端に触れたことが、アリサにそう思わせていた。

そう思わずにはいられなかった。

聞けば、彼も家族をアラガミ被害で亡くしたというではないか。そしてその光景を、幼い頃の彼は一部始終見せ付けられたという。

憎んだだろう。憎悪しただろう。そして世界に絶望したはずだ。

同じ新型神機使いで、しかも始まりまで同じ。

アリサは奇妙な運命を感じずにはいられなかった。

ただし、彼と自分の行き着いた先は、まるで真逆だった。

 

片や、新型機の変型時にどうしても発生する隙を埋めるための空中変型や、連激捕食なる新戦術を編み出し、今や極東支部の前線部隊で隊長を任せられる程にも成長した、元無名の新人。

片や、鳴物入りで配属されたはいいが対人関係の構築能力が低く、しかも任務中に取り乱し前隊長を戦死させた、元期待の新人。

彼が自分と同類なのかもしれないなどと、どうして思ったのだろう。勘違いも甚だしく、恥知らずも極まる自惚れである。

彼と自分とでは何もかもが大違いではないか。

自分は憎しみに任せて世界を拒絶したが、彼は世界を愛していた。

それは決してアラガミに屈したのでも、絶望を受け入れ諦めたのでもない。

彼はあるがままに、世界に対して、己の足で立っていた。

限られた時を人々の暮らしに寄り添って生き抜こうと、彼は決めたのだ。

神に喰われるのが人の運命ならば、そんな世界の中で幸せを見付け、世を愛し生きていくことそれ自体が、運命への反逆であると言えよう。

それは我欲を満たすための復讐ではない。

それは道を示すことなのだ。

彼が示した道を、後に続く者が踏み締めて往くのだ。

 

かつて、自分を希望なのだと言ってくれた人がいた。

その人は正しく、真っ直ぐで、素晴らしい女性だったが、アリサはその言葉にだけは頷けなかった。

なぜなら自分は、彼女の言葉を最悪の形で裏切ってしまったからだ。

自分は希望とはなれなかった。

道なき道を往く彼の背は眩しく、あれこそがきっと、本当の希望という名の光なのだ、とアリサは思っている。

 

だから、もし、もしもだ。

彼に失望されてしまっていたら、どうしよう。

彼は単独での任務を希望していたのに、無理矢理付いて来て役立たずだった私のことを、邪魔だと思っていたら、どうしよう。

希望に見放されてしまったら、どうしよう。

私はいったい、どうなってしまうのだろう。

今度こそ壊れて、消えてしまうのではないか――――――。

 

――――――エリッ……アリサ! 上だ!

 

彼の叫ぶ声がした。

注意力が散漫となっていたツケが、もう回って来たようだ。

いいや、これは報いなのかもしれない。

アリサの視界に映ったのは、一面の黒。

錆びた鉄のような生臭い臭気を孕んだ風が頬を撫で、一瞬の後、衝撃。

悲鳴を上げるよりも早く、アリサの体は宙を舞っていた。

身体に激痛の灼熱を感じながら、流れていく視界に、必死の形相で手を伸ばす彼の姿が。

 

痛い。

やられた。

何に。

わからない。

わからないけれど、悲しい。

とても悲しい。

彼の手に、届かなかった。

何度も触れ合ったはずなのに、通じ合えたはずなのに、何て近くて、遠いのだろう。

アリサの意識は悲しみの海に呑まれ、暗がりへと沈んでいった。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

もういいかい。

 

「まあだだよ」

 

もういい……かい。

 

「まあだだよ」

 

もうい……か……い。

 

「まあだだよ」

 

も……か……。

 

「まあだだよ」

 

……い。

 

「まあだだよ」

 

消えていく声。

だけど、私は、今も、ここにいて。

誰か、私を。

私を、ここから――――――。

 

「残念、それは私の役じゃない。まだここに来るのは早いよ。まったく、あれだけ言ったのに、忘れちゃった? ドン引きだぞ!」

 

あなたは、誰?

 

――――――оре не море,выпьешь до дна……忘れないで、アリサ。私はここにいるよ――――――

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

意識が戻る。

しかしアリサには、これが現実であるという実感が無かった。

呆とした頭で身体を起こそうとし、しかし身体が動かずに、失敗した。

どうやら自分は、瓦礫に埋もれてしまっているようだ。

視界が悪く、隙間からしか外の様子を伺えない。

頭の上にまで瓦礫が積まれていた。崩れた鉄骨が支えとなって、他の瓦礫よりアリサの身体を奇跡的に避けてはいたが、それも何時まで保つか。

神機の柄の感触は、手の内には無い。

どこかに弾き飛ばされてしまったようだ。

アリサは小さくか細い吐息を、唇の隙間から少しづつ漏らしていく。

音を立てないように。

気付かれないように。

すぐ近くに、あれが居る。

 

「やめて……」

 

悪い夢を見ていた。

ならばこれも夢か。

悪夢はまだ続いているのか。

 

「やめて……たべないで……」

 

ガツガツと、何かを食む音が聞こえる。

 

「パパとママを、たべないでえ……」

 

近付いてくる、足音。

クローゼットの中から動けない自分。

扉の隙間からこちらを覗きこむ、真っ赤な眼――――――。

ひぃ、とアリサの喉が鳴った。

見間違えようもない。

それは両親の仇と、同じ顔。

ディアウス・ピターの人面だったのだから。

偵察班はディアウス・ピターの存在を、見落とした訳ではなかったのだ。

 

「いや、いやいやいや、いやあああああ! いやっ、いやあっ! ああっ、やだっ! こないでえ!」

 

じいっとこちらを覗きこむ、ディアウス・ピターの顔が。

舌なめずりをして、涎を垂らして、耳まで裂けた真っ赤な咥内を開きながら。

身動きの取れない獲物へと、喰らい付こうと歩み寄って来ている。

 

「いやっ! いやっ! あけないで、たべないで! あああぁあぁああああっ!」

 

ディアウス・ピターの巨体が瓦礫を踏み締め、アリサの身体を圧迫する。

厳めしい髭面が近付く。

夢で見たあの光景よりも、ずっと近くに。

眼を閉じてしまいたい。これは夢だと、そう信じたい。

しかしアリサは限界にまで眼を見開いて、閉じることは出来なかった。

狂ったように上がる叫び声は、自分でも止められない。

隙間から除くアリサの頭に喰らい付かんと、ディアウス・ピターが顎を大きく開き、乱喰い歯を覗かせた。

アラガミにしてみれば、こんなに生きの良い獲物を逃す手はないのだろう。

人面を模した顔が、運が良い、と醜い喜悦に歪んだように見えた。

このままでは、喰われてしまう。アリサは思った。

自分はお行儀よく残さずに食べられてしまう。

クローゼットの中、一人で閉じこもったままに。

一人で――――――。

 

「あけない……で……誰も……こない、で……」

 

その時、アリサに浮かんだのは、彼の顔だった。

視界一杯にディアウス・ピターの人面を映しながら、しかしアリサが思い浮かべていたのは、彼の優しげな微笑みだった。

いままでアリサは、扉を開けないでくれと、誰も来ないでくれと、そう叫んでいた。

ずっと一人だった。

一人きりだった。

そう思っていた。

でも――――――。

 

――――――俺がいるよ。ここにいる。

 

彼の声が、聞こえたような気がした。

 

「あ……あああああああっ! 助けて、リョウっ! 助けてええっ! リョウゥゥッ! 」

 

自分はここにいる。だから早く見つけて、と。

クローゼットの中から身を乗り出して。

アリサは初めて、心の底から叫んだ。

瓦礫が崩れるのも気にせずに、必死になって手を伸ばした。

伸ばした手に、ディアウス・ピターが喰らい付こうとした――――――その瞬間だった。

 

オラクルバレットの閃光。

黒い人面が真横にずれ、吹き飛んでいった。

巨体を追うように駆ける男の影が躍り出る。

それは全身から黄金のオーラを立ち登らせた、極東支部第一部隊隊長――――――加賀美リョウタロウだった。

 

リョウタロウの全身から黄金の、神機から黒いオーラが噴き上がる。オラクル細胞を燃やすことによる身体機能の活性化。

『神機解放《バースト》』という、限られたゴッドイーターのみに許された、切札である。

特に彼の神機解放の効果は著しく、鬼神もかくやという奮迅の活躍が、彼が最強のゴッドイーターなのではないか、と噂される一端ともなっている。

こうなればディアウス・ピターの命運は決まったも同然であり、数十秒後、戦闘音が静まりかえったことが全てを知らせていた。

姿は見えずとも、不思議とアリサは彼の勝利を確信していた。

ディアウス・ピターのそれとは違う、静かな足音が近付く。

 

――――――見付けた、アリサ。

 

瓦礫の、クローゼットの隙間には、彼の頬笑みが待っていて。

みつけた、とアリサは彼の言葉を繰り返す。

 

「あ、あ……みつ、けた? みつけてくれた……の?」

 

――――――そうだよ。アナグラに帰ろう、アリサ。

 

「もう、おそとに、でてもいいの?」

 

――――――ああ。ほら、出ておいで。

 

みつけた。

みつかっちゃった。

みつけてもらえた。

見付かったなら、かくれんぼはもうお終い。

私はもう、隠れていなくてもいいんだ。

彼の手を取る。

伝わる、温かな気持ち。

どうして気付かなかったんだろう。

どうして疑ってしまったんだろう。

彼はこんなにも、私のことを想ってくれていたというのに。

 

――――――また泣いてるのか、アリサ。

 

苦笑して、彼は言った。

 

「女の子の泣き顔を見て笑うなんて、ドン引きです……ばか」

 

アリサも、泣きながら笑った。

本当は解っていたのだ。

自分はずっと、クローゼットの中から救いだしてくれる誰かを待っていた。

それではいけない。それは間違いなのだ。

見付かって、かくれんぼが終わったのなら、自分の足で出て行かないと。

恐怖を、乗り越えないと。

だから、暗闇の中から一歩、踏み出そう。

大丈夫。

光は眩しくて、眼を焼くかもしれないけれど。醜いものを曝け出し、見せ付けられるかもしれないけれど。

そこにはきっと、彼が待っていてくれるのだから。

そうしてアリサは、自らの手で、クローゼットの扉を開けた。

光射す世界へと、彼に手を引かれて、アリサは踏み出す。

眩しい太陽にアリサは眼を細めた。

 

「оре не море,выпьешь до дна《ゴーレ・ニェ・モーレ、ブイピエシ・ダ・ドゥナー》」

 

悲しみは海にあらず、すっかり飲み干せる――――――。

でも、海のように大きな悲しみだったなら、飲み干すには難しいかもしれない。

小さく、細かく、砕く必要がある。

そして今、ようやく悲しみは粉々に打ち砕かれた。

打ち砕いたのは、彼。

するり、とアリサを苦しめていた悲しみの欠片が、喉を通っていくのを感じた。

あの人達が言った通りだ。

時間は掛かったけれど、悲しみはすっかり飲み干せる。

 

「パパ、ママ……『オレーシャ』」

 

アリサは繋いだ手に力を込めた。温かい気持ちが伝わり、飲み干した悲しみが熱へと変わる。

 

「私はもう、大丈夫だよ」

 

胸が熱い。

もう一度、アリサは大丈夫だと、空の雲を見上げて呟いた。

 

「この人の手は、温かいから……だから私は」

 

――――――何か言った? アリサ。

 

「なんでもないですっ!」

 

私はアラガミなんかに負けはしない。自分にだって、負けはしない。

たくさんの辛いことや苦しいことが、これから先にはあるのかもしれないけれど、きっと大丈夫だと確信していた。

目元を拭いながら、止まらない涙がおかしくて笑う。

アリサはもう、一人ではないのだから。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

ううっ、心が荒むなあ。

もう何度目になるんだろう。十回は越してるはず。

黒い髭面はもう見たくないよう。

神機様も食傷気味で嫌がってるしさあ。最近はさっさと終わらせたいのか、前足チクチクしかしてくれなくなったもん。

後牙三つか……先は長いなあ。

 

うー、ストレスが溜まる。

アナグラに帰っても書類が山積みに残ってるし。

隊長になったんだから前隊長の遺した書類の処理してね、とかもうね。

いややりますよ、そりゃ。

企業戦士なので。

でもねリンドウさん。あんたに一言、言わせて欲しい。

あんたね、書類仕事サボりすぎでしょう。

あれですか、イケナイ夜の残業ですか?

仕事をサボってはサクヤさんとお楽しみタイムですね。解ります。

何なん?

あの人何なん?

新しく隊長になったからって、前隊長の部屋を掃除もせずにそのまま使わせるとか、何なん?

もういい考えるの疲れたってベッドに倒れこんだら、何あれ、男の汗の臭いにまじって、女ものの香水の臭いがしたんですけど?

ていうかサクヤさんが使ってる香水だよ!

ベッドの下には女ものの下着が放り込んであったよ! 黒だったよ!

お楽しみでしたか? お楽しみでしたねぇ!?

確かにあの乳は男として放ってはおけない。

気持ちは解りますよ。

でもね、一応隊長だったんだから、お仕事の責任くらいは果たしましょうよ。

俺のやってる書類仕事の大半が、前隊長からの引継ぎ用件とか何なん!?

俺に全部押しつけて逝ってくれやがりまして……ちきしょん。

 

癒しだ。癒しが必要だ。

よし、アリサの下乳を見て癒されよう。

男はおっぱいがあれば頑張れる生き物だから。

俺は言い訳せん!

おっぱいがあれば、頑張れる!

 

……ああ、癒されるなあ。

アナグラ所属ゴッドイーター女子のおっぱい率は高すぎると思います。

上乳下乳横乳中乳なんでもござれだぜひゃっはー!

中身まで美人揃いときてるんだからもう、たまりませぬな。

個人的な理由でディアウス連戦に付き合わせるのも悪いかと単独出撃を繰り返してた俺に、この子は付いて来てくれたし。

危なくなると回復弾撃ってくれるし。

 

アリサ・ザ・ヒットマン! ロシアの殺し屋恐ろしやー! 

 

そう思っていた時期が俺にもありました。

過去の自分を捕食してやりたい。

いやほら、二人きりで特訓したいとか言われたらさ、すわこんどは俺の番かも、とか思っちゃっても仕方ないよね? ね? あ、気付いてらっしゃらない? ななな、何でもないよ? 本当だよ?

わーかわいい笑顔。

太陽みたいにこう、ほにゃりって笑うね、アリサは。

 

良い子やー。

うちのロシアっ娘はホンマ良い子やー。

手も柔らかくて気持ちいーなー。

 

おっと、感応現象。

これは……喜び?

嬉しい。ありがとう。そんな感情の波が流れ込んで来る。

うん、何か知らんが悩みが解決したみたいでよかった。

俺がそうだったからかもしれないけれど、辛い思いをした子には幸せになってほしいから。

俺も嬉しいな。アリサが嬉しいと俺も嬉しいよって、伝われー。

そーれ感応現象ーゆんゆんゆんゆん。

 

ちらりと横を見れば、目が合ったアリサがまた、ほにゃりと笑ってくれる。

白い歯を見せ、目がなくなるくらいのとろりとした笑み。

可愛いなあ。

ずっと手を握ってたいけど、これ以上はセクハラになっちゃうよなあ。

名残惜しいけど手を離さないと。

 

「あっ……」

 

どうしたの?

お腹いたいの?

砂漠でもおへそを出しっぱにしてちゃ駄目だよ。

そっか、何でもないのか。よかった。

さあ、早く帰ろう。

 

「はい。あの、お願いが、あるんですけれど」

 

うん、いいよ。

俺に出来ることなら。

 

「気が向いたらでいいんです。その、また、手を握ってくれませんか……?」

 

……ああ、そうか。

洗脳の影響が残っていて、まだ不安定なのか。

あのヤブ医者め。

今度会ったら、酷いめにあわせてやる。

アジン・ドゥヴァ・トゥリーって数えながらな。

その間に懺悔しやがれ。俺に祈れ。

ああ、ごめんごめんアリサ、お願いね。

もちろん、いいよ。

俺なんかの手でよかったら、いつでも握ってよ。

俺からはいかないからね?

セクハラになっちゃうから!

 

「はい……ありがとうございます」

 

おおう、さっそくか。

役得役得。

みなぎってきた。

あと10戦くらいはあの髭面を見るのを耐えられそうだ。

お前との因縁はまだまだ続きそうだなあ、ディアウスさんよお……!

いいだろう。お前達の目撃情報が無くなるまで狩って狩って狩り尽くして、根絶やしにしてくれるわ!

ひゃっはー! ゴッドイーター業は本当に地獄だぜぇー! フゥハハー!

ごめん、強がり言った。

うん……また、なんだ。

このディアウスからも、牙、出なかったんだ……。

また、こいつと戦わないといけないのか……。

本当に、俺はもう、限界かもしれない。




同じ新人はフルチューンされた神器を使っています。
こっちはナイフ・バックラー・プロトタイプの嫌がらせにしかみえない訓練用の装備です。
チュートリアル? なにそれ、ああ、実戦前にやるはずの初期訓練のこと?
そんなのスキップされてるよ。
昨日まで一般人やってたのに、いきなり実戦投入とか、意味解らん。


主人公は泣いてもいいと思う。


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ごっどいーたー:3噛

誤字ご報告ありがとうございました。
諸所変更していきたいと思います。よろしくお願いします。


実を言うと、とヨハネス・フォン・シックザールは前置いて語り始めた。

 

「私は人類の行く末を、そう悲観してはいないんだ」

 

片手に濃紅色のワインをくゆらせて。

儚げな響きを孕んだ声。

冷酷に見えてその実内面は烈火のような、この男に似つかわしくない、そんな表情をしながら。

 

「知っているか、ペイラー。ある実験の話しだ……細菌に死滅処理を施すという、極めて単純な実験だ。

 他全ての細菌は死滅したが、ある固体だけは、いかなる処置を施したとて死ぬことはなかったという」

 

「アラガミの始まり、オラクル細胞を発見した実験のことを言っているのかい? ヨハン」

 

「似ているが、違う。もっとずっと古い時代の実験さ。言っただろう? いかなる処置を……と。

 アラガミ……オラクル細胞はオラクル細胞によって捕食される。それは死と定義してもいいだろう。ゴッドイーターはアラガミにとっての死、そのものだ。

 消滅することのないオラクル細胞に、死の定義を当てはめることなどナンセンスだが……」

 

「いや、興味深い。続けてくれ」

 

「不滅のオラクル細胞を持つアラガミにも死は訪れる。殺す方法がある。だが旧時代に行われた実験にある、その細菌は、いかなる手段を持ってしても殺すことが出来なかった。

 切り刻んでも、焼いても、本来の姿へと復元してしまう。死なないんだ。ここまでならオラクル細胞のそれと同じだが……最終的に、ありえざる現象を発生させ、死そのものを回避するにまでに至った」

 

「ありえざる現象、とは何だい?」

 

「自らに向けられた攻撃を物理的にありえない方向へと捻じ曲げた。消滅が確認されたが数日後に復活していた。確実に消滅するであろう劇薬を運んでいた研究者が、突如として昏倒した。スプリンクラーの誤作動で実験が中止となった……」

 

「オカルト染みてる」

 

「純然たる、事実だ」

 

ヨハネスはワインで舌先を湿らせると、俯き、微笑んだ。

今にも崩れてしまいそうな、泣き出す前の子供のような、そんな笑みだった。

 

「研究者を志す前……まだ顕微鏡をのぞいていただけの少年だった頃に、父の書斎で見つけた資料に記されていたのを覚えている。あれが私の研究者としての原点だった」

 

「ヨハン、それは」

 

「どんな手を使っても死なず、時には周囲の環境すら捻じ曲げ、死を回避する。奇跡を自在に操る存在……まるで、神だ。

 そう、不死の存在には、不死の存在をぶつけるしかない。さすれば、真の不滅がどちらであるか、自ずと解る。

 ゴッドイーターではない。ゴッドイーターでは不足なんだ。だから、私は……」

 

「死なない細菌があるなら、死なない人間だっているはずだ。そう言いたいのかい? つまり、ソーマ君は」

 

「あれには悪いことをしたと思っている」

 

「珍しいね……君が素直に間違いを認めるなんて」

 

「過ちは過ち以外の何物でもないさ」

 

「そうだね、その通りだ……なら、もう少しソーマ君に目をかけてやってもいいんじゃないかい?」

 

「勘違いしているようだな、ペイラー。あれは対アラガミのカウンターとしては成功例だ。カウンターとしてはな。あれではアラガミを滅ぼすことはできない」

 

ペイラーが訝しげにヨハネスを見やる。

ヨハネスは虚空に向かって独白を続けた。

 

「追い詰められた人々の希望となるべく、息子には奇跡を宿そうとした。あの細菌のように、神の如く人間を創り出そうとした。だが、人間だった。

 あれは……あの子は、どこまでも人間だった。私のエゴで、ただ強い力を得てしまっただけの人間なんだ……私と、アイーシャの子だ……」

 

「ヨハン……」

 

「ソーマは、人々を守る存在として産まれた。私とアイーシャは、我が子をアラガミを滅ぼすものとしようとしたというのに……子供はいつだって親の手を離れていくものだな」

 

「ヨハン、ワインはもうそれくらいにしたほうがいい。飲み過ぎだよ」

 

「いいんだ、ペイラー。私とて酔いたい時はある。ソーマは……親の押し付けと、自らが背負った使命に板ばさみになっている。

 あの子は守る者だ。だが、私のエゴと、アラガミとなった母によって、それを認められないのだろう。

 だから私は、あの子を『カルネアデスの板』の、守人に……」

 

ヨハネスは、はっと、何か失言を取り繕うかのように口元を押えると、目を閉じて深く息を吐いた。

 

「すまない、ペイラー。君の言う通り、飲み過ぎたようだ。こんなものに頼らなければ、感傷に浸ることも出来ない。ままならないものだ」

 

「いや、いいんだ。そういう時もあるだろう。今日は8月28日……アイーシャの……いや、ソーマ君の誕生日だったね」

 

ああ、と諦めたかの用に一瞬笑ったヨハネスは、次の瞬間には常の傲岸不遜でいて不敵な態度へと立ち戻っていた。

それがこの不器用な男なりの、愛する人を悼む姿であることを、ペイラーは理解していた。

何も言わずに立ち去ってやるのが、友人としての優しさであろう。

 

「私は見つけたぞ、ペイラー」

 

ヨハネスの私室から立ち去るペイラーの背にヨハネスが投げ掛けた。

 

「天文学的な遺伝確率の下に産まれる存在。時には奇跡さえ起こし、死を遠ざける存在。もはや死なないのではなく、死ねない存在。その存在を前にしては、アラガミなど、欠けた似姿でしかない」

 

「欠けた、似姿だって?」

 

「人から産まれし、真なる神――――――」

 

――――――アラ“ヒト”ガミ。

と、ヨハネスは虚空を睨み付けて囁いた。

 

「皮肉だな……何もかも。ならば私は、自らの責務を果たすまで」

 

「ヨハン、君は……いや、アラヒトガミとは、まさか、“彼”のこと……なのかい?」

 

黙して語らず。

固く閉じられた瞳が、それ以上の会話を全て拒んでいた。

血の気が失せた蒼白な頬には、アルコールの熱は微塵も残っていない。

それは、ペイラーも同じである。

不気味な沈黙だけがそこにあった。

炎の匂いが染み付き、焦げ付き、むせ返るような。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

うおおおおッ、しゃああああい!

帝王牙とーーーーったどーーーー!!

おおおいやエイッシャオラーーーー!!

 

へへうへへへへ……これでやっと獣剣の強化が出来るぜ……。

長かった、本当に長かった。

何度も何度も心が折れそうになった……でも俺はやったぜ! やりとげたぜ!

ヒバリ嬢に吸い取られていくなけなしの給料を貯め、趣味のものなんて一つも買わず、食費を切り詰めまくって武器を揃える毎日さ。

使える武器種はもうもう全種類コンプリートするくらいの勢いだよ。

 

か、勘違いしないでよねっ。

すごいすごい言われるけど、何でも使っていかないと死んじゃうんだからねっ。

別に褒められたいからやってるんじゃないんだからねっ。

 

いや、マジで。

普通ゴッドイーターって、自分のメイン武器種決めたら、それ極めてくものでしょ。

使用武器の適性みて任務あてられるのが普通なのに、なぜか俺は適性外のアラガミをばんばんあてられるものだから、次々武器を使い分けていかないと普通に死ねる。

なんなの……陰謀なの?

フェンリル本社は俺を殺そうとしてるの……?

今日だって、偶然カノンの流れ弾が飛んでこなけりゃ危なかったし。

 

いかんいかん、ネガティブ思考はやめよう。

今日は獣剣が次のステップに進んだ祝いだ。

材料集めに比べて、強化は一瞬。

さすがリッカ、いい腕してる。

たまにハグしてくれるし、ホンマうちの技術班は世界一や!

 

おお……おお、これが獣剣の輝き!

ふ、ふおっ、ふおおお……ふつくしい……!

かっこいいだけじゃない。なんとこれ、麻痺効果まで付いてるっていう。

ショートソードの手数。麻痺効果。これ以上のシナジーのある武器もないだろう。

これでアラガミと戦うのも少しは楽で安全に……。

 

えっ、ちょっ、神器さん?

なんで装備せずにクロークに戻すの?

は? 獣剣は甘え……?

麻痺とかヌルゲー……?

いや、じゃあなんで作ったっていう……あ、そうですか。

コレクター魂がうずいたんですか……。

 

え、コンプしたい?

やめてぇ! もう限界!

もう俺は限界だからぁ!

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

そこは一面の瓦礫の海。

海向こうを見れば、穴空きチーズのようにはつられたビルが、荒野からぽつぽつと唐突に顔を出している。

そこが何万という人が行き交う日本の首都であったとは、誰も信じられないだろう。かつての面影は全く残っていない。何もかもが乾いて、朽ち果てたような、そんな有様だった。

自分達が立っている場所も、旧時代の人間が残した船であるという。

旧時代、とは言ったものの、それは20年程前でしかない。

たった20年で、世界は一新してしまったのだ。地獄へと。

そして、乾いた世界に僅かに残る旧時代の残骸を、ガツガツと貪る異形の化物がいる。

どこまでも貪欲に世界を捕食するオラクル細胞の産み出した、神の名を冠する食欲の化物――――――アラガミ。

 

「ソーマだ。サリエル堕天種一体を確認。後ろに着けたぞ」

 

――――――了解。こっちも位置に着いてる。指示と同時に飛び出して、奴の気を引いてくれ。

 

その異形は女神か、魔女か。

女性の上半身を模し、巨大な眼玉の冠で周囲をギョロギョロと見渡すアラガミ――――――サリエル・堕天種だ。

サリエルからやや離れた位置では、機械油にまみれながら物陰に隠れ、無線で連絡を取り合う二人の青年がいた。

彼らはフェンリル極東支部に所属する、ゴッドイーター第一部隊の隊員である。

第一部隊の主な任務は、アラガミ防御壁外周に近づくアラガミの、強襲殲滅。

壁に囲われた都市に近づくアラガミを、片端から殺し尽くしていく直接戦闘任務。言わば、予防対策であり、最前線を任される部隊である。

その第一部隊に課された使命とは、積極的自衛という任務の性質上、防衛班のように専守的に人々の命を守るというよりは、人間の生活圏を広げていく攻勢防衛という意味合いの方が強い。

 

「希望の火を守る、か」

 

臭い言い方だな、と青年の一人……ソーマは、無線に送られる信号でもう一人の青年の位置を確認し、口の端を釣り上げた。

彼はかつて、ソーマにこう言ったことがある。

 

――――――なあ、一人で戦おうだなんて、そう思っているのなら、やめた方がいい。俺と一緒に行こう。

 

黙れ、とソーマはその時、彼に言い返し、胸ぐらを掴み、壁に叩きつけた。

ソーマの戦う理由は、もっと個人的なものからだった。

怒りや憎しみや、そんな感情からだった。

そう思っていたはずだった。そうでなくてはならなかった。

彼は、そんなソーマの胸の内を見透かしたようにして、再び口を開いた。

 

――――――人はそんなに弱くない。放っておいてもしぶとく生きていくさ。俺たちはただ与えられた任務をこなせば、それでいいんだ。

だから余計なことをする必要も、考える必要もない。それ以外に、何が必要なんだ? なあソーマ、お前は一体、何に苦しんでいるんだ?

 

苦しんでいる、などと。

ソーマの身にまつわる特別な事情のことなど、その時の彼は少しも知らなかったはずなのに。

自分すらも見ないようにしてきた、自らの胸の内を暴かれ、ソーマは激高した。

彼を殴りとばし、周囲の制止を振り切って馬乗りになり、殴って、殴って、そうして自分をじっと見つめる瞳に、手を止めた。

 

――――――こんな程度じゃ俺はどうにもならないよ。もっと強く殴れよ。本気でやれ。

 

ソーマの膂力は一般人はもちろん、通常のゴッドイーターと比べても一線を隔すものがある。

だが彼は淡々としているくせに、本当にしぶとかったのである。本気で、全力でやれと言っているのだ。

すぐ死ぬ奴らなんかと一緒に戦えるか、とソーマはいつも周囲を突き放してきた。

ソーマにとって、仲間意識は重荷でしかなかった。

他人を信頼しても、死という最悪の形で絆は消えてしまう。

そうして次から次へと新たに補充される人員と、コミュニケーションを一から取らなくてはならなくなる。それはとても疲れるのだ。

はじめまして。

こんにちは。

さようなら。

お前の事は忘れない。

そんな風に何度も繰り返される儀式に耐えられるよう、ソーマは出来ていなかった。

何故ならば、自分はアラガミと戦うために産まれたのだから。アラガミを滅ぼすために産まれたのだから。

人との絆を築き、守るためには出来ていないのだから。

だからソーマは一人でいようと決めた。他人など不要と考えた。

そうしなければ、戦い続けることが出来ないから。

そうしなければ、母を――――――父の――――――。

 

――――――大丈夫さ、俺は死なないから。

 

静かな瞳で、確信を持って彼は言う。

こんなことを言う男が、今まで居ただろうか。

何も考えるな。ただ、戦えと。きっとその先に答えはあるのだと。

そして戦うのならば――――――共に。

自分が理想とする在り方を口にする彼は、正にその生き方を体現していた。

任務中は冷静沈着。機械のように正確な動作。的確な指示。

どれを取っても、6年も前から前線で戦っている自分を遙かに超えている。

それでいて彼は、人としての情を捨ててはいなかった。

 

――――――気にするなよ、ソーマ。俺はゴッドイーターだ。

 

お前もそうだろう。そう言っているようにも聞こえた。

だから一緒に戦おう。お前も、何もかもも守ってやる。そして生き抜いてやる。だから、お前も。

俺と同じものとなれ。真なるゴッドイーターに。

言外に含まれたは意志は、確かにソーマに届いた。

 

――――――見た目より頑丈なんだ。だからほら、もう一発キツイのを頼むよ。任務サボれるくらいのをさ。さあ、本気でやれ。

 

お前よりも強いのだから死なないのだ、と言いた気に、殴られて腫れた顔に浮かべる、勝ち誇った笑み。

その通りだった。

ソーマは拳を振り上げた。

肩の上まで掲げられた拳は、ぶるぶると震えて、力なく地に落ちた。

チクショウ、とソーマは負け惜しみを言うしかなかった。

この男には勝てないと、ソーマが思い知った瞬間だった。

ソーマも、彼の言葉を全て鵜呑みにした訳ではない。あのリンドウだっていなくなってしまったのだ。戦場に絶対などない。

だが、しかし。

彼が自分達のリーダーとして在る間くらいは、こいつの話を、ある程度はまあ、聞き留めてやろうか。

不思議と素直にそう思えてしまう。

 

 

「おい。まだか」

 

――――――まだだ、もう少し。

 

「チッ・・・・・・おい、リーダー。もう一度聞くが、お前、ほとんど道具を持っていなかったろ。そんな装備で大丈夫か?」

 

――――――大丈夫だ、問題ない……たぶん。

 

「たぶんって、おい」

 

――――――初期装備なんだ、これ。笑えるだろ。

 

彼にはある悪癖があることをソーマは知っている。

自分を追い込む悪癖だ。

勝ちが積み重なれば、全てが崩れていってしまうとでもいう、強迫観念を抱いているかのようだった。

今回もその悪癖が発揮されたようだ。

彼の装備しているのは、訓練用のナイフにシールド、そして制御装置。

訓練用とはいえ、戦闘のためにつくられた本物だ。戦えないことはないが、当然威力は心許ないものである。

時折彼は、こうして自分自身を縛って遊ぶかのような、そんな奇行をしでかす。

その時は決まって、頬を釣り上げて笑いながら、戦いに身を置いているのだ。

 

「お前が今どんな顔をしているか、想像がつく。ムカつく面だ」

 

――――――君ね、もう少し年上を敬おうとかいう気持ちは無いの?

 

「うるせぇ馬鹿野郎。ちょっと早く産まれたくらいで、デカい面しやがって。帰ったら覚えてろ」

 

――――――解ったよ。帰ったら、また一緒にクラシックでも聞こう。今度は俺が酒の飲み方を教えてやるからさ。興味あるんだろ?

 

「……ふん。いい加減その癖を何とかするんだな。アリサがまた泣くぞ」

 

何で俺が後でフォローしなきゃいけねえんだ、とソーマは自分の頬が釣り上がるのを自覚する。

彼の悪癖を強く止めるように言えない理由が、これだ。

つられて笑ってしまうのだ。自分も。

彼と肩を並べて戦うことが楽しいと、そう思ってしまう自分がいた。

 

『はいはい、無駄口はそこまで。アリサがヤキモチ焼いちゃってもう、すごい顔してるわよ。ソーマがリョウを独り占めしてるー、って』

 

耳にかけた骨伝導イヤホンから、繋ぎ放しにしていた無線連絡が届く。

 

『ふぇあっ!? さ、サクヤさん! いい加減なこと言わないでください! そんなこと無いです、あ、有り得るはずがありません!』

 

『本当に?』

 

『そ、それは……』

 

――――――そっか、やっぱり俺、嫌われてたんだ……。

 

『いや、それは違くてですね! 本当は逆で、あの、その』

 

――――――逆? どういうこと?

 

『う、ううーっ! もうっ、リョウの馬鹿! 脳味噌コウタ並! ドン引き! ドン引きですっ! 通信終わり!』

 

『あらら、怒られちゃったわね、リョウ』

 

――――――脳味噌バカラリーって言われた……。

 

「そいつについては同情してやる」

 

『……コウタ君、やっぱりそんな扱いなんだ』

 

第一部隊の面々は全員がっくりと肩をおとした。

一人は少女に嫌われたと誤解し、一人はやれやれまたかと辟易し、一人は尊敬する彼に最大級の侮辱を吐いてしまった後悔に、一人は基地にて待機中であるもう一人の少年の扱いの悪さに。

随分と温くなったものだ、とソーマはフードをかぶり直す。

だが、嫌な気分ではない。

悪くない。

まったく、悪くはなかった。

砂の波の音と潮の臭いを嗅ぎながら、ソーマは身を屈めた。

アラガミの通った道は全てが無毛の大地と化すか、荒れ果てるかのどちらかしかない。それでも海は変わらないのだから、おかしな気分だった。

こんな光景を目の当たりにしては、終末思想も蔓延る訳だ、とソーマは皮肉気に頬を釣り上げた。

 

終末思想も、ある種の救いなのであることは否定しない。いっそ何もかも全てを壊してくれたなら、諦めもつくという考えは、人類共通のものだろう。

生命の再分配と、地球の再生だったか。

波間に漂う木の板だか何だか知らんが、トチ狂ったことを。

 

ソーマは彼の言葉を思い出す。人間は良い意味で生き汚い生物である。地獄であっても、人はしぶとく生きていける。

アナグラに暮らす人々の顔を思い出す。

ろくに関わりを持とうとしなかった自分にも、笑いかけてくれた人々。

彼の言う通りだと思った。

これから先、どれだけの陰謀や事件、新たなノヴァが産まれこれ以上の地獄が創造されたとしても、人はしぶとく生きていくのだろう。

今の自分ならば、そう信じられる。

彼は初めから解っていたのだろう。

こんな地獄にあって、人々が笑っていられること。それが希望なのだと。

ゴッドイーターが希望の光であるなどと、勘違いも甚だしい。

 

アナグラのラウンジにて、あいつの戦う背中に希望が見える、と口を滑らせてしまったことがある。

一番最初に反応したのは、アリサだった。

アリサは鼻をならし胸を反らしながら、自慢気に言った。

彼が希望なんて、あなたは勘違いをしている。

町を見なさい。そこに希望がある。

彼はそれを、初めから知っていた。

私たちの仕事は輝くことじゃなくて、希望の火を守ることなんだ。

 

何故お前が自信満々に答えるのだ、とコータに突っ込まれて赤くなるアリサだったが、アリサの答えはソーマの内にすとんと落ち着いた。

なるほど、と思った。

あれがゴッドイーターの真の姿か。

6年も戦い続けてそんなことも解らないなんて、馬鹿か俺は。

あいつが俺を易々と超えていったのも、当然のことだ。

単純なことだった。

人々を守ること、それがゴッドイーターの使命なのだ。当然のことだった。

それ以上も、以下もない。その他の理由など不要であるのだ。

私心は捨てろ、というツバキの教えが、ゴッドイーターの真理を表していた。

戦っている間は、たとえそれが何者であろうとも、バケモノであったとしても、ゴッドイーターなのだ。

怒りや憎しみといった、戦いに理由を持ち込んではいけない。単純に思えて、これが難しい。アラガミに憎しみを持たない者など、探すのが困難なご時世なのだから。

だが、彼はどうなのだろうか。

 

彼の戦う姿に、ソーマは尊さを感じていた。

だがそれと同時に、恐ろしさも感じていた。背筋がうすら寒くなるような感覚だった。

彼は憎しみや怒りを持たずに戦っている。

そして、それ以外の全ても捨てようとしているようにも見えてならなかった。いずれ愛や優しさでさえも。

彼は加賀美リョウタロウではなく、『ゴッドイーター』という現象か、装置になろうとしているのではないだろうか。

そう思えてならなかった。

戦闘中に倒れた仲間にリンクエイドを施すのは、ほとんどが彼だ。これが防衛作戦であったり偵察であったのならば、何の問題もない。

しかしそれが最前線での任務中とあれば、話は別。

リンクエイドとは、自らのオラクル細胞を他者に注入し、活力を与える技術なのである。

つまり、自分の命を分け与えているに等しい。

身を隠す隙も場所もなく、撤退も許されない中でアラガミの猛攻に耐えながらのリンクエイドは、正気の沙汰ではなかった。

そんな最中でリンクエイドをして回る彼に恩義を感じ、アナグラ所属のゴッドイーターは彼にだけはリンクエイドを何としてもしようと試みる。

ソーマもそうだった。

何度も助けられたし、彼が未熟だった頃は、助けもした。

しかし最近は助けられる一方だった。

出撃する度に洗練されていく彼の動き。

彼が戦う姿は、これが唯の作業だと、そう言っているかのよう。

それを悪しと言うつもりはない。

戦いを舐めているのかと、そんなことをこと彼に限って言うことなど、絶対に出来ないことだ。

だが、彼の戦いを見ていると、皆恐怖を感じてしまうのだ。

彼自身が怖いのではない。彼が何か別の、自然と頭を垂れたくなるような存在になってしまうような気がして。ああやって優しく微笑んでいてくれる彼が、今にも消えてしまいそうな気がして。怖い。

畏怖というやつだ。

あるいは、彼を失った自分達がどうなってしまうのか……という恐ろしさか。

 

かつての自分ならばそんなことは無かっただろうに。

やはり、随分と温くなったものだ。

ソーマは神機を握り締めた。

“純白”の神機は確かな手応えをソーマの掌に伝えてくれる。

そういえば、『シオ』もあいつに随分と懐いていた。

似た者同士、か。

薄らと昇り始めた月を見上げながら、ソーマは通信機に集中する。

機は近い。

 

「まだか。いつでもいけるぞ」

 

――――――よし、今だ! 頼んだぞ、ソーマ!

 

「任せておけ!」

 

雄叫びを上げ、飛び出す。

一人で戦うなと言っておきながら、単独出撃を繰り返している馬鹿に見せ付けてやろうではないか。

お前の背中を預けられるのは、自分達だけだということを。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

「うおおおおおお!」

 

よしきたソーマ、リンクエイドな。

久しぶりの共同任務だから、にいちゃんちょっと張り切っちゃうぞう。

はいすいませんアラガミさん、そこちょっと通りますよ。

 

「ぬおおおおおお!」

 

はいはい、リンクエイドリンクエイド。

 

「フオオ――――――ッ!」

 

へへっ……俺の回復薬はまだ1セットあるぜ……!

 

「ぐ、がふっ、ぐ、う、うう、うおおおおおお!」

 

ていうかなんで俺以外の誰もリンクエイドしようとしないんだよこんちきしょん。

何なの? リンクエイドした後って、回復薬がぶ飲みしないといけないんだよ?

俺の事を薬箱と勘違いしてるんじゃなかろうか。薬代も馬鹿にならないんだぞ。 

何これイジメなの?

俺を破産させようとしてるの?

ヒバリ嬢に貢がされて懐事情が火の車だってのに。

アリサ、サクヤさん、もっと回復弾撃ってくださいよお願いします。

素材も出ないし、もう俺は心が折れそうだよ……。

 

無だ、心を無にしなければやっていけない。

私心を消すのだ、とマイ女神ツバキさんも言っていたじゃないか。

無心無心。

……やばい、作業感が増して来た。

でも今日は俺の素材集めのためだけに、わざわざ皆が付き合ってくれてるんだから、良い顔をしてないと失礼だ。

スマイルスマイル。

 

「へ、へへっ、そうだな、お前もそう思うか。これからが楽しくなってくる所だ。行くぜ! うおおおおッ!」

 

お前はもういい……! もう……休めっ……! 休めっ……! ソーマっ……!

 

本当にごめんよソーマ。

サリエル15連戦とか馬鹿な苦行に付き合わせちゃって。

他の皆みたく、ローテーションしてくれたらいいのに。

良い奴だよお前、本当に良い奴だ。

俺が入社したての頃も面倒を見てくれたのはソーマだったよな。

うん、本当にもうね、あんまりにも待遇が悪過ぎて俺が鬱入っちゃった時も、ぶん殴って立ち直らせてくれたのはソーマだったし。

お前一人で出撃して素材独り占めするんじゃねえよ、もういっそ殺しておくれよー、ってへらへら笑ってた俺。

うわあ、ドン引きだ。

ソーマも気持ち悪くて泣きそうになってたし。

ごめんなソーマ。

でもリンクエイドはそろそろ勘弁な。

 

 

「すまねえ・・・・・・。足、引っ張っちまったな」

 

いいさ、相棒。お互い様だろう? 俺がやばくなったらお前が助けてくれよ。

 

「・・・・・・ああ! 任せろ、お前の背中、俺が守ってやる」

 

さあ、一気に畳みかけるぞ!

 

「うおおおおっ!」

 

うおおおおっ!

頑張れソーマ! 頑張れ俺の神機様ー! 

超他人任せだけどごめんね!

 

さあ今度こそ出ろよ縮光体ーーーーーーっ!




思っていた以上に好感触で、大変ありがたく思います。
皆様、ご感想ありがとうございました!

でもね。
短編ですから!
タグにもそう書いてあるよ!
だから次くらいで・・・終わるんだぜ・・・!

勘違いもののネタが浮かばなさすぎて、長期続けていくのはやはり難しいです。
ほんと勘違いもの書いてる方々の頭の回転の早さが羨ましい・・・


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ごっどいーたー:4噛

前回に引き続き、誤字脱字ご報告、ありがとうございました。


後に最強のゴッドイーター、神狩人と称されることになる彼の半生は、波乱と争乱に彩られていた。

人々を守り続けた彼を、後に続く者達は皆、尊敬と畏怖の念を持って語る。

とてもああは生きられない、と。あんな、己を殺すように生きることなど、と。

ゴッドイーターとは、彼のことだ。ゴッドイーターとは、彼のためにある言葉だ。

真なるゴッドイーターと、その後に続く全てのゴッドイーター達は、そう語り継いでいった。

だが彼と共に戦場を駆けた仲間達は、何を馬鹿なと一笑に付すのみであった。

彼の生き様が、戦いだけの悲劇である訳がない。

それは彼が誰よりも優しく強い男であったと、そう知るが故。

皆が灯す希望の火を守り続けた彼は、間違いなく幸せであったと、仲間たちは知っていたからだ。

神狩人の伝説を語る上で欠かせない数多のエピソードを、幾つかかい摘んで挙げよう。

最強のゴッドイーター『神狩人』と称される、一人の男の物語を――――――。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

『ep,デッドアングル・エイマー』

 

「お、おいおい、嘘だろ……死角から襲いかかってきたザイゴートの群れを、見もせずに撃ち落とすなんて」

 

「ああ、まるで背中に目が付いてるみてえだ」

 

うおおおおっ!

何これ強化パーツ着けてから神機様が超反応するんですけど!

体感じゃ常時オートエイム状態だけれど、いや今回のこれは何か凄いぞ!

凄い、いつもよりもオートエイム! 意味解んないね!

うん、凄い!

凄い怖い!

ぐりんぐりん腕が動きます。

うおおおおっ!

 

「へへっ、頼もしいじゃん、うちのリーダーはさ!」

 

これ悲鳴ですから!

鼻の下擦ってないで助けんか脳味噌バカラリー!

 

「また誰かがバガラリーのことバカラリーって言った気がしたぞ! バカじゃないって! バガ、ラリー!」

 

はいはいバガラリー。

知ってるぞ。

それ、腐ったお姉様達にも大人気だったアニメでしょ?

熱い男同士の友情がとかで……。

なんか、最近アナグラの居住区歩いてると、ソーマと俺どっちを前にするか後ろにするかって、お姉様達のヒソヒソ話が聞こえてくるのを思い出したよ……。

うん……。

 

「コウタはコウタだな」

 

「ちょ、ちょっとソーマ君、あんまりコウタ君のこと、コウタって言うのやめてあげましょ? 最近アナグラ中に広がって、流行語になってるわよ」

 

「そうですよ! コウタのことコウタって言うのやめましょうよ。ね、リーダー」

 

お、おう。

強く生きろ、コウタ。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

『ep,バレットの魔術師』

 

「内臓を破壊し尽くすようなあのバレット、凄い破壊力でしたね! リーダー!」

 

う、うん。ありがとうアリサ……。

俺はあまりものグロさにグロッキー寸前だよ……。

内臓破壊弾じゃんあれ……アラガミ汁ぶっしゃーなってたよ。

 

「ノ―タイムでの超長距離多重精密射撃……流石ね。私が教えることはもう、何もないようね。少し寂しいけれど、誇らしいわ」

 

いやジーナさん。これもバレットいじっただけですからね?

角度とか誘導とか付けて。

多重にレーザーが重なるようにしただけですから。

あとは神器様のエイム力のおかげで。

あの、どうしてそんな、胸の空いてるところを押さえてるんですか?

 

「見えない弾丸に撃ち抜かれてしまったのよ。気にしなくていいわ。でも、偶に気に掛けてくれると嬉しいわ」

 

それ矛盾してるような。

 

「むむ、むむむ……! もう水着で出撃するしかないというの……? 私に力をください、パパ、ママ、オレーシャ……!」

 

アリサ、何を唸って。

 

「あのあの! 逃げていく相手をモルターで殲滅したあのバレット、私にも教えてもらえないでしょうか!」

 

カノン・ダイバー。

貴様は駄目だ。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

『ep,カリスマ――――――無視出来ぬ存在感』

 

「ほう……」

 

薄暗い部屋の中、モニタの光源に照らされながら、ヨハネス・シックザールは感嘆の吐息を漏らした。

画面に映っているのは彼、加賀美リョウタロウが部隊を率いる姿。

どうやら雨宮リンドウが抜けた穴を、彼で補填したことは間違いではなかったようだ。

彼が非常に戦闘能力の高い神機使いであることは承知していたが、良き兵士が良き指導者足りえるとは限らない。

だが今回は当りを引いたらしい。

素晴らしい、とヨハネスは満足そうに頷いた。

 

「彼の協力が得られるならば、エイジス計画の更なる展開が見込めるだろう。そろそろ、特務を任せてもいい頃合いか。

 彼ならばこの計画の真意を理解出来るだろう。あるいは、計画の破壊を望んだとしても――――――。

 “死なぬ運命を背負ったもの”としては、さて、どうするだろうな。決して死なぬ、異能。特殊な生存体……か。

 フフ……人とは解らないものだな、アイーシャ。ソーマがその役目を負うとばかり思っていたが、最後に立ちはだかるのは彼かもしれないとは。

 リョウタロウ君、君が再生後の地球で人類の新しき指導者と成ることを期待しよう」

 

ヨハネスはしきりに可笑しそうに含み笑いを零すと、新たな第一部隊隊長となったゴッドイーターの腕輪に呼び出し信号を送信した。 

 

「――――――さん。リョウタロウさん!」

 

であるからして、私は新リーダーとして粉骨砕身の覚悟で、君たちも……ああ、どうしたかね、ヒバリ君。

 

「支部長から招集命令が掛かっています」

 

そうか。

皆、就任演説はまた後だ。

ありがとう、ヒバリ君。

 

「そんな……止めてください! 君だなんて、言わないで下さい! 無理しなくていいんです、そんな、無理矢理に口調を変えてまで、リーダーになろうとなんてしなくても。

 リンドウさんの代りになろうなんて、しなくても……!」

 

そうか……すまないな。

意識してのことではなかったが、君を傷つけてしまったようだ。

謝罪をしたいが、時間もない。

また後で話そう。

 

「あ……リョウタロウさ……やっぱり、リンドウさんと同型のシールドを装備し始めたのも、自分を責めて……」

 

俯いて唇を噛むヒバリの姿を彼本人が見たら、こう言っただろう。

神機様の影響です。こんなのは本当の俺ではないんです、と。

悶えながら言ったはずだ。

リンドウの装備していたシールド、イヴェイダー。

付与スキルは、カリスマと存在感――――――。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

『ep,特異点との共存』

 

「りょー、元気かー!」

 

おおっと、シオか。

今日も元気だなあ。

最近神機様の無茶振りに慣れてきたせいか、身体も鍛わってお前の突進を受けとめられるようになってきたよ。

うん……こんなこと絶対、誰にも言えないけどね。

リンドウさんのシールドの時といい、確実にこれ、神器様の影響が脳に出てるよね。

神器様が俺の身体操作してるとかなんかもうね。脳がね。あれだよね。

感応波の影響なんでしょうね。

いやーこれバレたら解剖されちゃうかなー。

ははは、うん。

隠さなきゃ。

 

「んふー」

 

頭擦りつけちゃってまあ、ほんとに子犬(シオ)みたいだな。

ソーマもしゃれた名前付けちゃって。

よしよし。

 

「んー、りょーはだめって言わないの、か?」

 

何が?

 

「すきな人にはぎゅーってするといいって、さくやが言ってた! ソーマにぎゅーってすると、やめろって怒る。りょーは怒らない。どうして?」

 

んー、妹みたい、だからかなあ。

 

「いもうとって何?」

 

えーと、血縁とか家族って言っても想像が難しいかな。

そうだな……自分よりもちいさい女の子、って意味さ。

 

「おー! りょーは小さい女の子が好きなのか!」

 

「え……?」

 

がちゃーん、と食器が落ちる音。

入口を見れば、アリサが凄い顔をして立っていた。

絶望から憤怒、不安から悲嘆へと表情が目まぐるしく変わっていく。

 

「ど、どういうことですか、リョウ! ちっ、小さい女の子が好きだなんて、そんな!」

 

え……ああっ!

違う、誤解だ! そういう意味じゃない!

 

「ドン引き! ドン引き! ドン引きです!」

 

痛い、痛いって!

止めて、皿を投げないで!

トレイで叩かないで!

 

「15歳はもう守備範囲外なんですか! 部屋が片付けられない子は駄目なんですか! 最近胸の成長痛に悩まされてる子は論外なんですか! 

 仕方ないでしょう!? ロシアの服は、日本の洗剤で洗ったら縮んじゃうのに! なんのためにこんな、小さい服を着てると……!」

 

ちょ、やめっ!

 

「りょーがなー、シオのこと、いもうとみたいで好きーって」

 

「え……? あ、小さい女の子って、もしかして、そういう意味で……」

 

そうそう!

小さい子ってそういう意味ね!

いやあ、アリサがシオ語に精通してて助かったよ。

 

「うう、すみません。私、早とちりしてたみたいで……自分にドン引きです……」

 

「りょー。アリサいじめちゃ駄目だぞ。好きならぎゅーってしないと、だな! シオもまたぎゅーってしたい!」

 

「す、すきって……え? また? え? どういうことですか、リョウ?」

 

わ、わあ怖い顔。

ほ、ほらスマイルスマイル!

リーダードン引きしちゃうなー、なんちゃって。

 

「そうですか。よかったですね、リョウ。小さい子をぎゅーって出来て」

 

何その目でかっ!

目つき悪っ!

ごごご、ごめんなさい!

シオ、頼むからフォローしてくれえ!

 

「んとな、さっきりょーにぎゅーってしてもらってた! なんか、気分いいな!」

 

「へえ……」

 

あ、これ駄目なやつだ。

アリサが掴んでる壁のとこが指の形に陥没してるもん。

 

「だからアリサもぎゅーってしてもらえ、な!」

 

「ええっ! ええと、その」

 

なんだ……何を俺はされるんだ……?

ちらちらこっちを見るあの目……あれは、獲物を見る眼だ!

俺には解る。

人を撃ったことのある奴の眼だ!

 

「シオ、知ってる、ぞ! コウタが言ってた! 妹スキー、ぞくせい? ってやつだな! 言葉、覚えた!」

 

コウタぁあああ!

お前ほんとコウタ!

コウタは本当にコウタだなこのコウタ!

何言ってるんだよコウタのコウタ!!!!

 

「妹スキー……」

 

あの、アリサ、さん?

何でそんな、決意を込めた顔して……俺の服を引っ張ってるんですか?

お願い殴らないで!

痛いのは嫌です! 痛いのは嫌です!

 

「あの、あの、あの! おっ、お……」

 

お……?

 

「おにい、ちゃ……」

 

ごめんコウタ。

もうコウタのことコウタって言うのやめるわ。

わいの妹は世界一やー!

 

「わ、ひゃっ! リョ、リョウ! あのっ! わ、わっ……わふ」

 

「なー? 気分いいなー? ぎゅーって、なー?」

 

あ、あわわ、つい勢いで。

ごめんこれセクハラ……。

 

「だめです!」

 

ファッ!?

社会的死、到来!?

 

「はなれたら、だめです……から」

 

「ふふー、気分いいなー」

 

やばい何が起きてるんだ俺はなにかしたのかまたヒバリさんの陰謀か無料でハグしてくれるマイ天使はリッカだけだったはずツバキさんもたまにしてくれるけどあれは直属の上官としての部下へのスキンシップ的な意味であぁぁ――――――。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

『ep,鬼教官』

 

今日はよろしくな、アネットにフェデリコ。

危なくなったらフォローするから、安心してくれ。

 

「はい、ありがとうございます! 先輩、質問してもよろしいでしょうか!」

 

ああ、何でも聞いてくれ。

 

「自分はゴッドイーターとなって実戦経験がまだ浅いのですが、その、緊張してしまって。先輩は心を落ち着けるのに、どうしていましたか?」

 

そうだなあ。

リンドウさんは何て言ってたっけ……そうだ、空だ。

そう、空を見上げるんだ。

 

「空、ですか」

 

そう。

そうすると落ち着くから。

 

「ありがとうございます! やってみます!」

 

うんでも戦闘中に空を見上げるのは止めようね。

って言ってる側から上を見てあああ。

クアドリガの腹ミサイルが! ミサイルが!

 

「ぐわぁー!」

 

フェデリコー!

 

「さすがです! 日本のことわざに、獅子はわが子を谷底へと突き落とし這い上がらせる、というものがあると聞きました! それですね!」

 

それですね、じゃなくて!

 

「あの、リョウ先輩。私にも精神統一法を教えて頂きたいのですが!」

 

アネット、お前もか!

フェデリコ吹っ飛んでるのに余裕だな! リンクエイドー!

君は心落ち着かせる方法とか、知らなくてもいいんじゃないんですかね!

 

「あれはどうでもいいですから、是非に!」

 

あれとか……いや是非にって言われても……。

うう、フェデリコの二の舞を踏ませる訳には……そうだ!

数を数えるといい。

ほら、よく言うだろ? 素数を数えると落ち着くってさ。

日本のコミックが元になった格言らしいけど、あながち的外れじゃないと思う。

普段とは違う方法で、数を数えてみるというのは。

外国語とかでさ。

 

「なるほど、やってみます! 外国語で、ですね!」

 

うんうん。

役に立てたようで、よかったよかった。

 

「アジン、ドゥバ、トゥリー」

 

「ああああぁぁぁ……」

 

アリサが崩れ落ちたァー!

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

『ep,GOD‐EATER:BURST』

 

視界にノイズが奔る。

時間を掻き毟る音がする。

ああ、こんなにも簡単に、世界は反転していくものか。

 

『今ですよ。これを逃すと、もう、倒せないかもしれない。さあ……この剣を……リンドウに突き立ててください……!』

 

やめてくれ。

 

『まだ、迷っているんですか? 貴方は、もう……決断したんじゃないんですか……?』

 

やめろ。やめてくれ――――――。

 

「あれは……リンドウの神器!?」

 

「神器が、ひとりでに動いてやがる……!」

 

「だめだ……リョウ! だめだ! それを使っちゃだめだ!」

 

仲間の叫ぶ、声。

目の奥が熱い。

頭がガンガンする。

喉は干上がってカラカラだ。

雄叫びを上げる機能しかないはずのゴッドイーターの声帯は、内なる悲鳴に切り裂かれて。

痛い。

ひどく、痛む。

魂が、絶望の叫びを上げている。

知っているからだ。

“それ”を使えば、破滅が訪れることを。

覚悟など、出来ている訳がない。

なぜならば――――――。

 

――――――それ痛いやつだって、知ってるからね?

痛いやつなんでしょ?

俺、知ってるよ?

それ、めちゃめちゃ痛いやつでしょ?

知ってるよ、それ。知ってるよ。

リョウタロウ知ってるよ?

 

「だめぇえええ! リョウーーーーッ!」

 

いや、やらないからね!?

何その俺が自殺志願者みたいな、こう、飛び降りる寸前の奴を止めるみたいな叫び!

 

『決断が遅れれば、余計な犠牲が生まれるだけだ! リンドウに仲間を殺させたいんですか!?』

 

そんな事言われてもやらないからぁ!

お願いだから俺がやる前提で話を進めないで!

 

「リョウ……もう俺は……覚悟は、できてる……」

 

リンドウさんあんたまで!?

俺は覚悟とか出来てないからね!?

なにその覚悟って!? 夏の新商品とかなの!?

覚悟って俺が今まで生きてきた人生の中で、使ったことない単語なんですけどぉ!?

 

『さあ! この血生臭い連鎖から……彼を解放してやってください……!』

 

「リョウ……お前は、いい奴だな……悪かった、お前は、駄目だ。やっちゃいけない、奴だ……」

 

リンドウさん……。

 

「ここから……逃げろ……っ!!」

 

だから! 逃げたら! 俺! 処刑されますよねぇ!?

あんた初めて会った時からブラックジョークばっかり飛ばしやがって!

逃げたら処刑されちゃうでしょうが!!

行くのも駄目、引くのも駄目。

ダブルバインドだよちきしょん……!

どうしたらいいの俺、どうするの!?

 

「これはっ……命令だ……!!」

 

はああ!?

なんなん!?

こいつ、なんなん!?

俺の自由意志は無いの!?

 

『早く!! この剣で、リンドウを刺すんだ!!』

 

う、お、あ、んわああああ! もおおおおおお!

もおおおおお!

わかったよこんちきしょんんん!

 

――――――うああああああっ!!!

 

「あっあああっ! 嫌ぁっ! だめっ……だめぇ!」

 

「やめろ、アリサ! 近付くんじゃねえ!」

 

「嫌ぁああっ! リョウ! リョウ! 嫌ぁああああっ!」

 

なんこれ超痛い!

ほらやっぱりこれ超痛い!

言った通りじゃん! 言った通りじゃんかぁ!

 

「リョウの手が!」

 

アイェェェ手ェ!? 手ェナンデ!? 俺の手がぁぁ!?

労災下りるのこれヒバリさーーーーん!

 

「お願い……リョウ君……! リンドウを……! あの人を……!」

 

ていうかなんで俺がこんな目にあわなきゃいかんのん!?

それもこれも全部あの人のせいじゃん!

ふざけんじゃねえし!

責任とれしマジで!

 

「私のところに、返してぇ……」

 

…………。

 

 

 

神器、解放――――――。

 

 

 

「逃げるなぁっ!!!」

 

声帯が、こんなにも大きく震えたのは、ゴッドイーターになってから初めてかもしれない。

 

「……生きることから、逃げるな!」

 

そうだ。

逃げるな。

サクヤさんのために。

ツバキさんのために。

ソーマ、コウタ、アリサ……あなたの帰りを待つ、全ての人のために!

 

「これは……命令だ!」

 

もちろん、俺のためにもだ!

あんたの残した書類仕事、全部自分で片付けてもらうからな!

これは命令だ!

絶対死なせん!

絶対にだ!

 

なんかいきなり隊長にさせられたのも!

書類の山が少しも減らないのも!

ベッドがずっとサクヤさんの香水の臭いがしてるから床で寝るはめになって背中が毎日痛いのも!

あれもこれもそれも全部! アンタのせいじゃろがい!

責任とれ……否、とらしてやる!

積年の恨み……晴らさでおくべきかぁぁああ!

 

「うぉおぉぉぉぉぉ!」

 

うおおおおッ! 神器二刀流!

くらえ!

必殺!

テコの原理ィイイイ!

 

くぱぁ!

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

『ありがとう――――――』

 

もう、いいのか……?

 

『リョウはすごいや。僕はもう、諦めていたのに……うん。十分だよ……僕は……十分、報われた……』

 

そうか。

 

『また、会えるよ。きっとまた会える。その時は、ねえ、リョウ――――――』

 

気が早いやつだなあ……。

またな――――――。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

ハッピーエンド、めでたしめでたし、かな。

あー……死ぬかと思った。

 

「おい、リョウも目ぇ覚ましたぞ! リョウ、しっかりしろ!」

 

痛い痛い、ソーマ痛い。

ゆさぶらないで痛い。

なんだよ、ソーマ。

 

「お前……! 俺は、俺はな……!」

 

なあ、ソーマ。

歌が聞こえたよ。

シオの歌が。

 

「俺は……ちくしょう……俺は……」

 

そんな顔して見送ってくれたんなら、きっと、シオも幸せだったと思う。

 

「うおおおん! リョーウー! 心配したよー!」

 

はいはいコウタ。

俺のジャケットで鼻水ふくのやめてね。

 

「俺っ、俺リョウがあのまま、死んじゃうんじゃないかって! 手も何かアラガミみたいになってたし! てか元に戻ってるし! なんか、もう、なんかぁぁ……」

 

なんだろうな。

俺も何が何だかわかんないや。

 

「俺っ、神様に、いっぱいお祈りしたんだ。アラガミじゃない、母さんが言ってた昔の、ほんとうの神様に。リョウとリンドウさんを返してくださいって。

 そしたら俺、なんか影でコウタって言われて笑われてるのに、胸はって俺はコウタだって、答えるって……うおおおん!」

 

お前は今、泣いてもいい。

泣いていいんだ、コウタ。

 

「リョウ」

 

わ、わあアリサ。

超無表情だね。まるで能面みたいだよ!

はっはっは。

 

「……」

 

あの……何か、リアクションを、していただかないと、こちらも困るといいますか、その。

 

「あなたが、リンドウさんの神器を持ち出した時、私の心臓は凍りついたようになりました」

 

おわっ!

あ、お、怒ってない?

 

「私、自分のことしか考えてなかったのかもしれません。つぐなうための戦いだと、そう思っていました。自分のことだけを、考えて。でもやっと、サクヤさんの気持ちが、私にも解りました。こんな気持ちに、させていただなんて」

 

え、えーっと。

 

「こんなの……1秒だって、耐えられない」

 

がらん、と地に落ちる神器。

へたりこむアリサ。

疲れ切ったように、細く、長く、吐息を絞り出す。

 

「よかった……よかった……あなたが無事で、よかった……!」

 

アリサ。

 

「何もいりません……何もいらないから……あなたが無事でいてくれたら、それだけで……」

 

うん。

 

「怖くて……怖くて! ずっと、手が、身体が、震えて止まらなくて! 大丈夫だってわかってるのに、もし、あなたがあのままって、そう思うと……!」

 

うん。

 

「どうして笑ってるんですか! どれだけ私が……どれだけ……ッ!」

 

ごめん。

 

「どうして、あなたはそんな……! いつも、いつもいつもいつも、いつも! 痛いって言えばいいじゃないですか! 苦しいって言えばいいじゃないですか! つらいって、逃げ出したいって、言えばいいじゃないですか! どうして、あなたはそんなに……」

 

言ってるさ。

いつも、しんどいって。

逃げ出したいって、言ってるよ。

 

「嘘です……嘘ですよ、そんなの!」

 

いや、マジで。

嘘とかじゃなくて、マジで。

 

「あなたはいつもそう! 初めて会った時と同じ、穏やかな笑みで、痛みも悲しみも苦しみも、全て胸にしまい込んで……!」

 

う、うん?

胸にしまいこん……うん?

まあ、アリサはもう少し胸をしまった方がいい……んん! げふんげふん、ごほん! ごふん! げふん!

 

「どうしてそんなに、世界を癒すように、見つめていられるんですか……!」

 

そりゃあ……ほら、あれだよ。

 

「リンドウ……! リンドウ……!」

 

「よう、サクヤ……ただいま」

 

「ただいまじゃないわよ! 馬鹿っ! 馬鹿ぁ……!」

 

ああ、うん。

たぶん、愛ってやつだよ。

愛だよ、愛。

この世界で一番、大事なことさ。

人間だけがもってる、宝物だよ。

 

「この世界で一番……人間だけの……」

 

この世界はもう、どこもかしこも地獄になっちゃったけど。

でも、愛に溢れてる。

大丈夫、きっと世界は、きれいなままさ。

 

「あ……」

 

うおわっ!

ちょっ、なんでここで泣くの!?

 

「わかり、ませ……なみだ……出て……なんで、とまらな……あっ」

 

ああ、だめだめ。

手でごしごししない。赤くなっちゃうから。

女の子なんだから、顔は気をつけなきゃ。

ほら、こうやって、優しくぬぐってやらないと。

 

「リョウ……私、やっと……やっとわかったことがあるんです」

 

アリサ?

あの、涙、拭かないと。

手、つかまれたら、その。

わあ、ほっぺたぷにぷに……。

 

「お願い……もう少しだけ、このままで。もう少しだけ……」

 

なんか、こういうの前にもあったような。

えっと、それで何がわかったの?

 

「あれですよ……ね?」

 

あれ?

リンドウさんと、サクヤさん?

どゆこと?

 

「ドン引きってことですーだ! リョウのバカラリー!」

 

なぜにホワイ?

まあ、笑ってるんだし、いいか。

 

「バガラリーだよ! って、リョウ! 大変だ!」

 

お、おう!

どうしたコウタ!

 

「公共放送の懐かしのアニメ総集編に、バガラリーが出るんだ! もうすぐ放送時間がきちゃう!」

 

「やっぱりコウタはコウタか……」

 

お、おう。

 

「帰ろう、みんな! アナグラに!」

 

……そうだな。

うん、帰ろう。

アナグラに。

 

「帰ったらどうします? あっ、サクヤさんと結婚式しちゃうとか!」

 

「も、もうコウタ君ったら、気が早いわよ、もう……!」

 

「そうだなあ……まずは姉上にどやされないと……ああ、憂鬱だ」

 

心配しなくてもいいですよ。

お二人には幸せな未来しかきませんから。

子供もね、女の子ですよ。たぶん。

 

「なんだか、不思議ね。あなたにそう言われると、本当に女の子が産まれてくるみたい」

 

おや、そういうの、否定しないんですか?

 

「こ、こらっ! からかわないの!」

 

「あー、前向きに善処するってことで」

 

はは……いやあしかし、産まれる前の子にプロポーズ受けたら、それはどうなんだろ。

 

「おい、お前今、聞き捨てならん単語が聞こえたぞ」

 

さあ帰ろう!

 

「おい! リョウ! お前……あっ、もしかして隊長押し付けちゃったこと怒ってる?」

 

はっはっはーさあ帰るぞー。

帰ってバガラリー見なきゃなー。

 

「へへ、ソーマも俺達とバガラリーな!」

 

「はあ? 何で俺まで……おい、コウタ! 待てこら!」

 

「みんなー! 先行っちゃうよー! ほら、リョウも!」

 

はいはい。

アリサ、行こう。

一緒に、な?

 

「はい!」

 

みんなで、帰ろう。

家に帰ろう。

俺達の家に――――――。

 

「今はまだ、溢れる想いが大切すぎて、言葉にならないけれど……いつかきっと伝えますから。私の気持ち。あなたに教えてもらった……世界で一番大事な――――――」

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

『ep,for2』

 

「世界各地を飛び回っていた君を、ここに呼び戻した理由を話そう」

 

すごく……嫌な予感がします。

榊さんの顔、おれ最近、見分けがつくようになってきましたよ。

それ、やばいこと話す時の顔ですよね?

ここまで付いて来てくれたツバキさんとか、もうすっごい暗い顔してましたもん。

すまない、って俺の耳のとこなでなでして慰めてくれましたもん。

今から話すのって、やばいことですよね!?

 

「君がアナグラを離れていた間に、君のゴッドイーターとしての登録情報をすり替えておいた。今の君は、加賀美リョウタロウであって、非なる存在」

 

待って、話が見えない。

待って。

 

「加賀美リョウタロウは、“今も変わらず極東支部から離れて欧州で活動中”。いいね?」

 

アッハイ。

 

「君は、防壁外の集落を中心にアラガミ退治を請け負い金品を巻き上げる、傭兵ゴッドイーター……血で染めた赤い肩、赤い肩をした鉄の悪魔、悪名高き吸血部隊の隊員として」

 

やめて。

お願いだから、やめて。

それ以上口を開くなら、例え榊さんでも手を上げることを辞さない。

 

「それじゃあ、在野で新たに見出された、新人ってことで」

 

それなら、まあ。

何か上手いこと乗せられたような。

ああ……赤紙が届いたあの日のことが、今よみがえる……。

 

「君には、新米ゴッドイーターとして、とある場所へ潜り込んでもらいたい。そう、スパイ活動だよ!」

 

色んなことがあったけど。

もう一度だけ、言わせて欲しい。

 

「目標は、独立移動要塞……その名も、フライヤ――――――!」

 

フェンリルに勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない。

 

 

 

 




お小遣い稼ぎに接触禁忌を狩りに行く。
それが極東支部クオリティ。
これはマジキチ扱いされても残当ですわ……。

多くのご感想をいただき、すべてに返信することが出来ず、大変に申し訳ないです。
皆さまのご感想、身に染みて有り難く思います!
今後に向けてのアドバイス等、変わらずに頂けたら幸いです。
それでは、ありがとうございました。


さて。
実はGE2は未プレイでした。
ので、いい機会ということで、GE2のDL版を購入いたしました。
ええ、それだけです。それだけですとも……!

いえ……! 続けたいのは山々なのですが……

勘違いもの難しすぎるんよーーー!
ネタがない!
作者に厳しすぎませんかねえ勘違い系って!
うおお・・・考えすぎて知恵熱ががが

とりあえずGE2クリアして、ネタがなんかぽんと浮かんだら、それから考えます・・・・・・
とりあえず、完結ということで!

それでは!


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ごっどいーたー:5噛

番外編、おまけという位置付けでここは一つ・・・!


降り注ぐ雨を……あふれだした贖罪の泉を止めることなどできん。

 

――――――ヨハネス・フォン・シックザール。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

今日もまた、赤い雨がふる。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

加賀美リョウタロウ。(以下、甲と記す)

元、フェンリル傘下ではない非合法の運び屋。

アナグラに搬入されるアラガミ防壁修繕のための余剰資源を横流しし、外壁に点在する居住区へと運び日銭を稼いでいた。

仕事の達成率は120%超である。(アラガミに食われた同僚の資材をも請け負い、納入を完遂させているため100%以上の達成率)

運び屋団体と共に、限りなく生存率の低い地区に何度も足を踏み入れてなお、その度に一人だけ生き残っている。(この時期に、死神というあだ名がつく)

アナグラから各地に点在する居住区へと、単独での資材搬入の最中にアラガミの群に襲われ、負傷。

全身火傷、脊椎損傷、頭蓋陥没、大腿骨複雑骨折等、その他大小無数の傷を負うも完治。(闇医者による治療であったため医療記録が残されていない。甲のバイタル分析の結果から、短期間で治癒したと推測される)

患者から無断で血や臓器を抜き取り売買していた闇医者の手により、血液および血管と筋繊維が採取され、フェンリルへと流れ着く。

フェンリル内ビッグデータ、適合候補者リストへと登録。

旧型神機への適合率が高い偏食因子が発見され、新型神機適合実験の被検体として選定される。

新型神機の拒絶反応実験に失敗。

実験機となった新型神機に、極めて高次元での適合を果たす。

適合後のバイタルチェックにより、新型神機使い特有の感応現象に適した脳構造であったことが判明。

神機との間に、オラクル細胞が発するオラクルエネルギーを解した何らかの相互干渉が確立している模様。詳細不明。(神機使いには、神機の精の夢をみた、等の報告例がある。神機に人格はあるはずもないが、恐らくはこれに類似した現象であると推測される)

以降、フェンリル本社から極東支部に『新型使いの任務失敗による栄誉の死があったのではないか』と幾度となく確認が入るも、全て誤報として報告される。(本社からの歪曲な抹殺指令を、ペイラー・榊が情報操作を行い抹消していた模様)

その後、新型機の実働データ採集という名目の、本部からの前線での全戦闘参加に任を続行。(現在まで続く120%以上の達成率。前線だけでなく後方の戦闘任務もこなしているため)

 

甲が極東支部に配属されてからの略歴は以下。

 

手違いにより初等訓練が施されず、そのまま出撃。

初出撃では、ベテランの神機使いが死亡する程の激戦を切り抜ける。

壁外任務においては、ゴッドイーター以前の経歴を活かし、フェンリルに隔意を持つ住民達との軋轢を緩和。

甲、軽度の栄養失調に。(甲の職場改善アンケートには、調理師の配属を願う旨が毎回書き込まれている。栄養失調となった原因は、給与の9割を孤児院へと寄付し金欠に陥ったため。甲はこの寄付を初回任務が終了してから現在に至るまで続けている)

以降着実に戦果を重ねていくも、大型アラガミ討伐の任を受けた際、手違いにより他神機使いと任務のバッティングが発生する。(同エリアに同時にミッションが入ることはありえない。ミッション受注システムのエラーであると推測される)

ミッション中、隊長に同行していたもう一人の新型使いが錯乱し、銃弾を暴発。(新型使い、ロシア支部から派遣されたアリサ・イリーニチナ・アミエーラ。隊長、雨宮リンドウ)

隊長が侵入していた建造物の天井が崩落し、追い掛けていた接触禁忌種と隊長とを単独で閉じ込めてしまった末での結果である。

この戦闘により、所属部隊の隊長がMIA判定。

アリサ・イリーニチナ・アミエーラ、精神に変調をきたし一時戦線離脱。

甲はアリサ・イリーニチナ・アミエーラの回復に尽力す。(アリサ・イリーニチナ・アミエーラは甲を依存対象とすることで錯乱から回復)

雨宮リンドウMIA判定により、甲に第一部隊隊長を後任する命が下る。(前隊長の捜索打ち切りによる。神機と腕輪の捜索すらされないことに、甲の不満は目に見えて蓄積されていった)

甲、第一部隊隊長就任。

同時に、フェンリル本社からの強制出撃命令は撤回され、極東支部長ヨハネス・フォン・シックザール直属の特務執行員となる。

 

この時期より甲の戦闘における奇行が目立つようになる。(単一のアラガミを執拗に付け狙う。何もない空間に向けて武器を振り回す。あらゆる武器種の持ち込み。ショートソードを振った慣性だけで地面を滑り移動する。など)

甲によりジーンマップのように複雑であったオラクルバレットの調整が、ある程度の体系に分けられる。(本来オラクルバレットの調整は、アメーバや絵の具のようにフィジカルなものである。甲はこれを、各属性、レーザー、装飾弾丸、制御、など体系付け分析し、分類した)

偉業であるが、特務執行員という秘匿性の高い立場である故に、本社からの表彰が取り下げられる。

同時期にゴッドイーター連続出撃記録更新、スコアランカーになる。(同上の理由のため、非公式)

甲の隊長就任パーティに本人がハブられる。その事をミッション前のブリーフィングで知る。一週間寝込み、アナグラの全任務に支障をきたす。(パーティの一件は甲の単独任務癖を、仲間達が気遣った模様)

人的被害はなかったものの、甲の戦闘力をあてにした作戦が全中止となり、『エイジス計画』に莫大な遅れと補償が重なる。

ヨハネス・フォン・シックザール、後送の危機。一ゴッドイーターの行動が、支部長クラスの進退を左右する初の事態に。(ヨハネス・フォン・シックザールがペイラー・榊の情報操作に抵抗もせず欧州へ一時飛ばされていたのは、この釈明のためであると推測される)

一時的にペイラー・榊の指揮下へ。

部隊単位での任務に復帰。

 

任務遂行中、ひとりの少女を保護。

アラガミの死骸を食おうとしていたその少女もまた、アラガミであった。

アラガミは捕食したものの特性を取り込み、姿を変えていく。進化の過程で人間に似たモノの姿となっていた。

脳に位置する部分も確認され、さらには偏食因子がそうさせるのか、その少女は人間に食性を向けることはなかった。

捕食の危険がないとされ、ペイラー・榊の要望により、甲ら第一部隊によって支部内にあるペイラーの研究室に匿うことに。

どんどんと知能を身に付けていく少女。自らの名を『シオ』と口にする。(ソーマ・シックザール命名)

シオの食料、つまりはアラガミの死骸を補給するため、連日連夜出撃を繰り返す。(甲の単独行動癖が手が付けられないレベルになる)

甲の書類処理能力がある種のブレイクスルーを迎え、専門オペレーター並みとなる。(この時期から書類の内容にも余裕が見られ、部隊員のコードネームを、ハダカエプロン、ロシアノコロシヤ、ムッツリロリコン、バカラリー、などに隊長権限で改名しようとするジョークが散見される)

 

ヨハネス・フォン・シックザール、極東支部へと帰還。(何らかのトラウマがあったのか、甲による二人だけの帰還祝いパーティが行われた模様)

ペイラー・榊の厳命により、支部長にさえシオの存在は秘匿される。

特務再開。『特異点』の捜索が命じられる。

極東支部内の一般居住区にさえ、アラガミの襲撃を許すことが頻繁に発生。

出撃回数が激化する。(甲にとって一度の出撃で5つ以上のミッションをこなすことが普通。前線任務、特務、防衛任務、調査斥侯、間引き等あらゆる任務を同時に請け負っていた。極東支部内においてもこのスコアは異常である)

任務中、雨宮リンドウの腕輪から発せられる位置ビーコンを受信。捜索再開。

雨宮リンドウの神機と腕輪が、アラガミの体内より発見される。(これにより雨宮リンドウKIA判定。神機は保管所にて新たな適合者を待つことに)

第一部隊所属の橘サクヤ、腕輪を鍵とした、雨宮リンドウの個人データベース内を捜索。

エイジス計画の裏に何らかの陰謀を見出すも、これを甲へ報告せず。(甲を気遣ってのことであったが、甲曰くそんなに前隊長がいいのか、と後に一週間程寝込む遠因となる)

シオ、特異点として覚醒。

 

サクヤ、アリサ両名の単身独断でのエイジス島潜入調査により、『アーク計画』が判明。

『終末捕食』へのカウントダウンが始まる。(アラガミ同士が喰い合い、進化し続けることにより、最終的に地球そのものまで捕食してしまうとされる現象)

アーク計画首謀者であるヨハネス・フォン・シックザールの、終末捕食を利用し、破壊された地球環境を一度リセット、再生しようとする目論見が暴かれる。

ヨハネスは、エイジス島で育成していた巨大アラガミ「ノヴァ」を終末捕食の引き金とし、強制的に終末捕食を発動、ゴッドイーターや技術者、科学者等、選ばれた人類を一時的に宇宙へと避難させ、地球がリセットされるのを待つ。

これがアーク計画の全貌であると語る。(ノヴァ起動のキーとして、特異点であるシオのコアを必要としていた)

 

アーク計画、アナグラ内にて公表。

極東支部、内部分裂寸前となる。

人類の大半を見捨てる計画に、甲は一定の理解を示すも、反対の立場を貫く。(搭乗チケットを同部隊員、藤木コウタの家族に譲り、搭乗者リストの改竄も行っている)

 

第一部隊によるノヴァ破壊作戦強行。

アナグラ所属の全ゴッドイーター全職員に秘匿されての独断作戦であった。(しかし竹田ヒバリ、雨宮ツバキらは事前に甲より作戦内容を知らされ、職員の混乱を収めるよう尽力した)

シオ、コアを摘出され、ノヴァに捕食される。

ヨハネス・フォン・シックザール、アルダノーヴァと一体化。

第一部隊、交戦開始。

壊滅寸前まで追い込まれるも、甲による、人型神機とも言えるアルダノーヴァ女神・男神に感応波ジャック。「相互関係」を結合崩壊。

暴走状態に陥ったアルダノーヴァを、甲が単独撃破。

ヨハネス・フォン・シックザール、人類の未来と希望を託し、オラクルの輝きに散る。

亡き妻と、地獄を歩み続ける息子への愛情を、友と信頼する直属の部下へ託して。

 

アルダノーヴァを撃破するも、終末捕食は止まらず。

崩壊するエイジス島の中、シオの声が響く。

コアを捕食されても、その意思がノヴァ内部で生き続けていたのだ。

シオは、地球を内部から捕食しかけているノヴァを表層から強制的に引き剥がし、地球から遠ざけるために月に向かうと甲らへと告げる。

そのために、枷となったその“抜け殻”を断ち切らねばならない、と。

神機によって、自らを捕食せよと、ソーマへと懇願する。

ソーマ、震える声にて了承す。

シオを捕食し終えたその神機は、純白の色に染まっていた。

「ありがとう みんな」とシオは、月へと旅立って行った。

 

こうして終末捕食の危機は去った。

だが、アラガミの脅威は依然続いている。

ヨハネスはエイジス島内にて作業中に不慮の事故で死亡したと処理され、既に宇宙船に乗り込んでいた人々も元の生活に戻っていった。

人類の絶滅を恐れるあまり、一部の人間だけでも生き延びさせることを選んだヨハネス。

同じく、人類が滅ぶことを恐れたが、アラガミと人類は共存できるという希望をシオに見出した、第一部隊の面々。そして甲。

どちらが正しいかはわからぬまま。

ゴッドイーター達は今日もまた、アラガミと戦い続ける。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

「あらすじはこんな感じでどうだろう?」

 

いや、あの長すぎませんかね、ここまで。

 

「もちろんヨハンやシオちゃんのくだりは削除するとして。どうだい、我ながら良い出来だと思うんだけど、どうかな?」

 

どうかな言われましても。

この原稿なんなんですか。

これ見せるためにわざわざ俺を欧州から呼び戻したんですか。

 

「おや、お気に召さない? 確かに、全体的に君の影が薄くなってしまったのがどうかなと思っているんだが。これじゃソーマ君が主人公だね、ははは」

 

いや、ははは、って。

そもそも、誰ですかねこの甲とかいう頭がパーンしてる奴。

箇条書きにされたの改めてみると、本当どうかしてると思うこいつ。

ええと、なになに。

任務評価SSS+を20回以上達成。

1種のアラガミにつき討伐数100体以上。

任務コード『鬼神竜帝』、評価SSS+、無補給無傷での達成。

開発可能な全近接武器、全銃身、全シールド、その他を独力により取得。(合計150種類以上所持)

など。

ハハッ、ワロス。

 

「これでも削ったほうなんだけどね。だからいまいち、凄いんだけれどこう、目立たなくなってしまったんだ」

 

いやそりゃこんなに盛ったら……えっ?

削……っ……た?

えっ? あれっ……あっ!

ああぁー……。

 

「本当のことを書いてしまうと、あまりにも現実味が無くなってしまって……」

 

本当の事書くと逆にうそ臭くなるとか一体……。

あの、榊さん? なんで眼鏡とるんですか? なんで目頭揉んでるんですか?

俺、榊さんが眼鏡とったとこ初めて見たんですけど。

なんでそんな、どうしようもないなこいつ、みたいなリアクションしてるんですか?

ねえ、ちょっと。

 

「いや、でも、ねえ? 君、報告サボっていたり、ヒバリ君と共謀して討伐スコアを他人に譲り渡したりしていたでしょう?

 いい機会だから私の方で一度君の戦績を洗い出したんだが、うん……」

 

ちょっと!

何で最後の方の言葉濁すんですか?

わかってるでしょ? みたいな目しないでくれませんかね!

それヒバリさん一人でやってるやつですからね!?

「わかってますから」って何かカウンターで毎回カチャカチャやって……俺からどんだけ搾り取ろうと……。

コウタにチケット上げたくだりとかも、あいつがトイレから帰ってきてハンカチ持ってないって言うから渡そうとしたら、間違えて搭乗パス渡しちゃっただけですから!

なんかツバキさんがそれ見てたみたいで、悪ノリして、搭乗者リストまで書き換えちゃったしさぁ……。

しかも俺の部屋まで来て、俺の端末使って。

足が付くじゃん! それバレたら首吹っ飛ぶの俺ですよねぇ!?

その後掃除したり洗濯したりご飯作ってくれたりしたけども、そんなんで俺騙されないからね!?

でも添い寝はまたしてくださいお願いします!

 

「まさか私も、アナグラ内に流れている君の噂が、ほぼ事実であったとは知らなかったんだよ……ディアウス・ピターとプリティヴィ・マータを同時に相手する? 複数の接触禁忌種を同時に? 理由がお小遣い稼ぎ?

 何を言っているのかわからなかったし、何を言われているのかわからなかった……なんだか、その、ごめんね?」

 

やめて!

泣けてくるから! やめて!

 

「いくらミッション受注が任意制といっても、第一種接触禁忌種を単独で何度も狩りに行っていたとは、私もさすがに予想外だったよ……。

 君が食堂でジャイアントとうもろこしを頬張っていた姿はよく見かけていたが、まさかノヴァの亜種を狩った帰りでした、なんて誰も思うわけないじゃないか。

 困るよ、そういう時は一声かけてくれないと。アリサ君やツバキ君たちが怒る理由もわかるね、まったく」

 

え、なんでこれ、俺が怒られる流れに。

 

「ごめんなさい、は?」

 

ご、ごめんなさい……。

 

「はい、よろしい。では渡した原稿に目を通しておいてくれたまえ。特に甲の項目のところを頼むよ」

 

うわー、これはひどい。

ざっと見ただけでもこの甲とかいうのひどい。

甲って誰なんでしょうね、ほんと。

俺だよ……これ……俺のことだよ、これ……。

ワーカーホリックを超えた何かになりつつある俺だよ……。

神機様がかってに動いてミッション上から下まで連続ポチポチするからぁ……。

 

「うん、次回作はちゃんと君を中心にした一連の大活躍を、相応しい描写で描いていくことにしよう。任せてくれたまえ!」

 

やめて!

お願いだから、やめて!

 

「そういえば欧州でも大活躍だったそうじゃないか」

 

ええ、まあ。

活躍したっていうか、楽勝だったんですよ、ええ。楽勝でしたとも……。

だって相手が、ハガンコンゴウとかだけだったし。

 

「そこで“だけ”なんて言葉が出てくる時点で、君も極東に染まっているね。いや、この流れを作ったのは君か。

 他の支部じゃあ普通、第二種接触禁忌種なんて現れたら、絶望的事態だからね。私も他国の支部に行った時に感覚のズレをいつも指摘されるよ。君たちを見てるとどうもね」

 

なんかその辺、俺全くわかってなくて。

欧州で第二の接触禁忌が出てきたときに、みんな「もうお終いだ!」って取り乱してたのを横に、俺だけ今日のランチメニューとか食堂で聞いてたりして。

そしたら俺、何かすごい怖がられちゃって……。

極東支部がおかしいんだって、そこで初めて知りましたよ。

いやあ、向こうは平穏だった……。

ミッションも数日に一回だし、接触禁忌種とか探してもいないし、ヴァジュラの群とかもないし……。

 

「極東は地獄の釜の底の底、そこにこびり付いたコゲ付きよりもなお黒い者共が住まう地だ。そう言われているらしいね。“極東上がり”が一種のステータスだとか」

 

もうやだ極東。

 

「おそらく君が極東一有名なゴッドイーターなんじゃないかな。地獄の獄卒長として。第一部隊は精鋭を集めるものだからね」

 

もうやだ極東!

 

「ゴッドイーターの情報は秘匿されるものだし、君は立場が特殊なものになってしまったから、個人情報がもれることはないさ。

 第一部隊隊長という立場が目立つだけで、君の名前や顔を知っている者は少ないだろう。第一部隊隊長という名が、一人歩きしている状態だ。

 君も、本社の登録データに私がすこし手を加えて、たまに別人になってもらったりしているしね」

 

新しい戸籍がなんかいきなり出来てたりしたのは……。

いや、もう深く考えないようにしよう。

欧州じゃあ、極東支部の第一部隊隊長ってどんな奴か?って質問山ほどうけましたよ。

お前よりイカレてる奴とかいるの?とか、お前よりヤバイ奴がいるとか嘘だろ?って。

泣きたい。

 

「ところでソレの着心地はどうだい?」

 

ハハハははハ。

言わなくても解るでしょう?

 

「そうか、それはよかった! 気に入ってくれたようで嬉しいよ」

 

んなわけあるかぁ!

何か勘違いされる前に言いますけどね。

俺が離れてる間、職員さんも結構増えましたよね。

 

「そうだね。アーク計画の影響で、人員が大きく入れ替わったからね」

 

後ろ暗い奴全部飛ばした人が何をしれっと……まあ、だからこう、離れてた間に人が増えたおかげで初対面の人が一杯いるわけなんですよ。

 

「それの一体何が不都合なんだい? だから皆が君を受け入れてくれるよう、君のために筆をとったというのに」

 

それのせいですよ! やめてくれませんかね!

何か俺が、アラガミ殺すことだけが生きがいの殺戮マシーンになっちゃってるから! やめてくれませんかね!?

最近アナグラの中で、新しい職員さんとすれ違うと、ヒッ、て悲鳴上げられちゃってるんですけど知ってます!?

これ確実にあんたが装着するように厳命してきたコレと、自費出版してるアナグラ広報のせいでしょ!

なんなんだよ『連続ノンフィクション小説:ゴッドイーター~神狩人~』って!

誰だよここに出てる加賀美リョウタロウ君って!

ドン引きするくらいの出撃回数に任務達成率に戦闘内容じゃん! 最近はずっと無傷で任務達成とかって……事実だけど!

こんなん本当にいたら化け物でしょ、化け物! 誰だよこいつ!

あぁぁ……だから俺だってばよぉぉ……。

神機様がやれって言うからぁぁ……俺を無理矢理引き摺るからぁぁ……。

 

「いやあ、すごく人気があるように見えるんだけどねえ」

 

ソーマが俺のことすごい不憫な目で見てくるんですよ。

肩ぽんって。ジュースまでおごってくれましたよ!

「何かあったら相談しろ」って。

そんなんする奴じゃなかったけどものすごい気遣いしてくれるんですよ!

なんかもう、なんか!

心が痛い……!

 

「そうか……ソーマ君もまるくなったね。君のおかげかな」

 

そうだけど違うでしょうが!

 

「いったい何が問題なんだい。似合っているし、いいじゃないか」

 

似合う似合わないの問題じゃないでしょうが……!

 

「そのキグルミ」

 

はいきた!

さっきの理由に加えて、これで俺の地位が不動になりましたよ!

言い訳不可能のキワモノ枠だよ!

ファンシーカワイー!

ピンクのウサちゃんは今日もアラガミをぶっ殺すよ!

ホラーだよ!!

キグルミがアラガミ返り血塗れで細切れにしてるとか、ホラーだよ!!

 

欧州での任務一発目からこれ着てやってましたからね。

向こうでの評価もそらおかしい奴ってなりますよ!

なんでこんなん送りつけてきたし!

一職員が権力に逆らえるわけないでしょうがもぉぉ……!

 

「でも、そういうの、好きなんだろう?」

 

支部長権限での命令されたら断れないでしょうが!

決して! 断じて! ちょっとクセになってきたからとかそういうのじゃないんだからねっ!

ていうかこれ普通のキグルミじゃないでしょ。中身異様にメカメカしいですし。

機械の塊にガワ着せただけじゃないですかこれ。

俺だってヒーロースーツとかならまだ許せたのに。

何なんですこれ?

 

「ヨハンの遺したもの……正確には、私が欧州に飛ばした時に譲渡されたものなんだがね。『神機兵』という人型兵器の雛形さ」

 

ああ、確かそれ、欧州遠征中に色々聞きましたよ。

なんだっけ、無人化目指してるんだっけ。

制御が甘くて、まだろくに使えないとかなんとか。

そういうのが配備されたら俺達も楽になるのになあ。

 

「いずれ公開されるとしても、現時点ではまだ極秘情報のはずなんだけどね、それ」

 

やぶ蛇だった……。

 

「せっかくだし、こちらで無人制御のためのデータ取りや、機体の問題点等を改善してあげようかなと。そうしてくれと、頼まれた気がしたんだ。ヨハンが遺した仕事に紛れこんでいたのを見てね……」

 

榊さん……。

 

「それに有人操作はかなり負担がかかるそうだからね。対アラガミとの実地データを取るのは、極東が一番さ!」

 

え、これ、このキグルミ危ないやつなん?

 

「大丈夫さ、ただの無人機用のデータを取るための機具だよ。今はまだ」

 

今はまだ!?

 

「見た目が悪いから、私が外見をかわいくしてみたんだ」

 

スルーするのやめてくれません!?

 

「もうしばらく戦闘データを蓄積してくれたら、脱いでもいいからね。いずれは君の戦闘データを反映し、キグルミ型の無人神機兵を私は作ってみせるよ!」

 

嫌な予感しかしない……!

でも、本当に完成したら嬉しいな。

アーク計画の影響でアラガミがやたらめったら極東には寄ってくるし。

それに合わせて優秀なゴッドイーターや研究者も呼び寄せるものだから、生活基準が上がって、アラガミがいても良い生活ができるって人が増えて。

それを狙ってアラガミが増えて。

堂々巡りですよ。

 

「少し、疲れた様子だね」

 

ええ、ちょっと。

欧州でこなした最後の任務、引きずってまして。

 

「何かあったのかい?」

 

このキグルミ着て、居住区回ってる時に……ちょっと。

ピンクのウサちゃんだーって、女の子が抱きついてきてくれて。

 

「いいことじゃないか。やはり私のセンスは世界一だね」

 

俺の……ピンクのウサギがアラガミを倒す絵を描いてて、ウサちゃん達が戦ってくれるから私たちは安心ですって。

ありがとうって。

手紙、書いてくれてて。

 

「小さな子からのファンレター、いいじゃないか」

 

それが、アラガミの腹の中から出てきました。

俺は間に合わなかった。

それだけです。

 

「……そうかい」

 

生き残った人が、言ってました。

助けてウサちゃんって。

最後まであの子は、俺を呼んでたって。

 

「リョウタロウ君」

 

あの子だけが死んだんです。

アラガミから助かりたいために、周りの大人たちが、アラガミの目の前に放り投げたから。

あの子が食われてる間に、皆逃げたんだ。

犠牲者が一人でよかったって、ミッションリザルトの数字を見て、事務処理の職員さんは言ったけど。

俺は……なんなんだろう。

いつも考えてしまう。

考えちゃだめなのに、嫌な考えが頭の中に浮かんでくる。

 

命の重さは同じでも、価値は同じじゃあないんだ。

クズと無垢な子供の命が等しいなんて思えない。

あんなのを守るために、ゴッドイーターは命をかけなきゃいけないのか。

ヨハネス前支部長の意思は正しかった。

でも俺は、ゴッドイーターの使命……全ての人を等しく守る、そのためだけに。

人類のために英断を下した、本物の英雄を手にかけて……。

 

「長旅から帰ってきてすぐに呼び出して悪かったね。疲れたろう? 下がってよろしい。キグルミも脱いでいいよ。あとはこちらでやっておくから、ゆっくり休みなさい」

 

失礼します……。

その、次の任地はどこですか?

 

「女神の森……ネモス・ディアナ。対アラガミ装甲壁に囲まれた、ミニエイジスとも呼べる場所さ。君には新たな任が下るまで、そこで要人警護や、資材搬入の護衛をしてもらうことになる」

 

了解しました。

 

「クレイドルの皆とすれ違いになるね。だが、忘れないでほしい。リョウタロウ君。どれだけの悲劇が訪れようと、君は決して一人ではない。いいね」

 

ええ、大丈夫です。

少しこたえただけですから。

一眠りすればすっかり、元通りですよ。

 

「微力ながら私もいる。そのことも忘れないでくれたまえ。もしよければ、一緒にお茶なんてどうだろう。ちょうどここに新たな味に改良した初恋ジュースが」

 

失礼しました!

上司のパワハラも茶飯インシデント。

部隊長クラスも陰険なイジメを受けるよ! サツバツ!

フェンリル極東支部はあなたの参加を待っています!

俺の代わりに……! 誰か……誰か……!

 

でも、冗談抜きにして。

そろそろ、本当に限界だ。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

「あっ、リョウタロウ君? リョウタロウくーん? ……あらら、フラれてしまったね」

 

榊は苦笑しながら、デスクに並ぶ幾重ものモニターへと向かう。

眼鏡に青いモニタの反射光が映り込み、その奥にある、細長い目を照らす。

 

「ヨハン……君のしたことの是非を問うには、人類はまだ若すぎる。彼を見ているとね、そう思うんだ。

 大いに悩み、悔やみ、答えが出ぬままに、ただ生きる。

 人は自立して生きていくことになった。神に頼らず、自らの手で。

 地獄だよ。ここは、地獄だ。

 だが彼は、地獄のままであれと。死んだ方がマシだという世界で、全ての人間に、死なせないことを強要した。その傲慢。死ぬことを許さない、その懺悔。

 いかほどのものか……スターゲイザー【傍観者】である私が、何かを言う資格などないことは、解っているんだけれどね」

 

数分、何がしかのコードを打ち込んでいた榊だったが、身が入らなかったのか、細く息を吐き出すと椅子に深く背を預けた。

 

「寡黙で、微笑みを絶やさず、鋼の精神を持ち……完璧なゴッドイーターだ。

 でもそれは、作られた仮面だよ。

 きっと、胸の内では叫んでいるはずだ。理不尽に悶え苦しんでいるはずだ。私に対する愚痴だって、それはもう盛大に吐き出しているかもしれない」

 

榊のモニターには、ドーム状に防壁に覆われた居住区。ネモス・ディアナの画像が。

その遠方の空には、赤い雲が。

不吉な予感を見る者に与える……視界に入るだけで背筋を逆撫でされるような、赤い雲が写されていた。

 

「赤乱雲……赤い雨……ネモス・ディアナは、ヨハンの政策によって極東支部から追いやられた人々が暮らす場所だ。みなフェンリルを憎悪している。

 クレイドルの皆も、理解を得られたのは一部だけ。受け入れられたのではない。事実上の撤退だ。そんな場所に、私は君を追い込むんだ。

 P73偏食因子の、後天的投与……ヨハン、あの時と同じ、嫌な予感がするよ。終末捕食が、また起きるかもしれない。それも、誰も望まない形で。

 だから私は、科学者にあるまじき、勘に頼った行いをしよう。そう……あの時と同じように。賭けに出よう」

 

榊の組まれた両手に、額が乗せられる。

まるで祈るように。

 

「ヨハン……君が言う通り、彼が何をしても決して死なない、異能の運命を持った生存体ならば。きっと、きっと神の見ている暗い夢を打ち砕いてくれる。私もそう信じることに決めた。

 彼が、私達が追い求めた、救いの凶星……現人神【アラヒトガミ】なのだと」

 

その祈りは何に向けてのものなのか。

 

「赤い雨の謎は解明されなくてはならない。解決の糸口さえ見えない不治の病など、あってはならない。これは試練だ……リョウタロウ君。私を恨んでくれ」

 

赤乱雲から降る、赤い雨。

赤い雨にうたれれば、不治の病に羅患する。

致死率は100%。

雨が当った箇所を中心に、黒い蜘蛛状の痣が浮かびあがり、激痛を発し……そして、死亡する。

今はまだ極致的な現象に過ぎないが、榊の予測では、いずれ世界規模で発生する、未曾有の自然災害となるだろう。

アラガミに加え、赤乱雲だ。人類にはこの二つの脅威を耐え抜く力は、残されていない。

 

もし、である。

もし、自身に打たれた毒、劇薬……与えられた死の運命を全て捻じ曲げ、生き抜く存在があったとしたら。

赤い雨にうたれれば、どうなるだろう。

自身の体内で何らかの変化を無理矢理引き起こし、無害なものへと変えてしまうのではないだろうか。

未だあの雨の何が作用しているのかすらわからない状態だ。

彼の体を調べることによって、その毒性を解明するための、手がかりとなるのではないだろうか。

機神兵のデータとりなど、ただの建前だ。

彼の全身いたるところのデータをモニタリングするためのものだ。健康時と、雨にうたれてからのデータ、両者の比較が必要だ。

そのデータが、無人機にも搭載可能なものとなると、それだけのこと。

 

それだけのことに、たった一人の男に、多大な負担を背負わせる。

本人にそうとは知らせず、世界の命運を背負わせて。

悲劇のるつぼに放り込むのだ。

これは試練だ必要なことであるのだと、自分に嘘をついて。

 

「ヨハン……君も、こんな気持ちだったのかい」

 

返答はない。

かつてこの椅子に腰掛けていた男ならば、どう答えただろうか。

榊は無性に、あの時ヨハネスと一緒に飲んだワインを、もう一度飲みたいと思った。

 




前回とりあえず完結と言ったな。
とりあえず、と!
うん……うん……!
とりあえず、ちょっぴり、2にはいるくらいまでは!
続けてみようかなと思います。

出切るだけ漫画版や小説版のネタバレを避けるため、時系列はずらしておく努力。
2に移行させるため、前作キャラとはすれ違いさせておく努力。
キグルミ関連の努力。
汲み取ってほしい!
なので次回はものすごい短くなるかと思います。
そのあたりカットしたら、短くなってしまうのはもう・・・!
現在連載中の漫画や売れてる最中の漫画の最新ネタバレはホント気をつかいます。

しかしやっぱりというか。
なんやこれすごい書くの難しい……勘違いものってどうやって書けばいいのん?


ううーん、じゃあまず……ここを勘違いさせておこうかな。
勘違いもののストーリーには救いがあふれているという、これを呼んでいる人達の思い込みをな!

GE世界観でおきらくムードとかありえへんありえへん!
ハッハー!
主人公に地獄を見せてやるぜぇー!

次回へ続く!


※1ヶ月に1回更新くらいで……い、いいよねっ?ねっ?


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ごっどいーたー:6噛

文量チェックも兼ねて投稿&ストック了。これくらいなら早めに投稿できるかな……?

また、活動報告の使い方もテストさせて頂きたく思います。
感想板の方に質問など乗せていただけたら、活動報告の方でお答えしていきたく思います。
よろしくお願いします。

※誤字チェックありがとうございました。
後日修正いたしますので、いましばらくお待ちを!


やってきました女神の森【ネモス・ディアナ】!

アラガミ防壁に囲まれた、緑が残る街!

やっぱり、人間には緑が大事だと思うんだ。荒野じゃ人の心だって荒むよ。

へへ……俺、ネモス・ディアナにいったら、街の人と一杯仲良くするんだ。

こいよアラガミ! オラクル細胞なんか捨ててかかってこい!

そして訪れるハートフル展開!

最後は住民の人達と涙ながらにお別れするんだ。またくるよ忘れないぜ、って!

よーし、俺、全力でゴッドイーターしちゃうぜ!

 

そう思っていた時期が、俺にもありました。

 

わぁぁーい……きつぅーい……。

風当たりがきつぅーい……。

「また余所者が」「極東の」「役立たず」「あいつらがアラガミを連れて来てるんじゃ」とか、そんなボソボソ言ってるのがすごい聞こえてくる。

うん、お腹痛い。

 

ちょっと待って、こんなに風当たり強いとか、俺も初めての経験なんですけど。

確か少し前に極東支部との間に提携が結ばれて、物資とか搬入されたんじゃなかったっけ?

歓迎ムードだったって聞いたけど、何でこんな……ちょっ、痛い!

痛い痛い石痛い。

石投げないで痛いからあ!

 

そらフェンリルの駒とか犬とか、ゴッドイーターがそんな好かれてないのはわかってますけどね!

でも命削ってやりたくもない戦働きとかしてるんだから、もうちょい優しくしてくれてもいいでしょ!

感謝しろとかまでは言わないから、優しくしてもさあ!

優しく……優しくしてぇ……。

 

おい誰ださっきから俺の尻に執拗に石を当ててる奴!

しまいにゃキレるぞオラァ!

 

くらぇぇぇぇぇ!

神回避ィィイイイ!

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

女神の森【ネモス・ディアナ】。

三年前、エイジス島建設の技術者であった葦原総統が建設を始めた、対アラガミ防壁に囲まれた居住区……私の故郷。

もう珍しくなってしまった、森に囲まれた地。

それも、壁の内側だけだけれど。

 

壁がなかった頃は、皆肩を寄せ合って、アラガミの恐怖に震えていた。

でも私は、周りにいる大人達の方が怖くて、いつも泣いていたのを覚えている。

「極東の奴らのせいで」、私が子守唄代わりにいつも聞いていた台詞だ。

怖くて、怖くて……だから、歌を唄った。

 

私の歌は――――――何かから、逃れるためにあったのだ。

 

今日、また新しく極東支部から、ゴッドイーターが派遣されるらしい。

アリサさんやソーマさん達は、一時避難で滞在していただけ。正式に、この街にも守護がおかれるようになった。その足がかりなのだとか。

幼馴染のサツキと、話のタネに、ということで、様子を見に行くことにした。

正面入り口ゲートから真っ直ぐ先、人が集まる広場に居るのだとか。

あまり、街の空気が良くないのがわかる。

 

「あいつらのせいで」

 

また、囁き声が聞こえた。

「人は愚かな生き物さ」そう言って、おじいちゃんが笑っていたのを思い出す。

物に心は左右され、受けた恩もすぐに忘れ、支援がなくなればそれを恨みに思う。

「この街にだって非はある」これもおじいちゃんが言っていたこと。

捨てられる理由がある。そう聞こえて、私はまた怖くなって……。

そんなおじいちゃんも、つい先日、死んでしまった。

アラガミに襲われて。

私はまた歌を唄った。

泣くことはなかった。

 

「うっ……!?」

 

サツキの短い悲鳴に我に返ると、いつの間にか、人の輪がぽっかりと開いた場所に辿り着いていた。

ざわざわと、恐怖と不安がないまぜになったような、そんなざわめきが続いている。

 

その人の輪の中心に――――――何かが、いた。

少し斜めに傾いた、ピンク色のキグルミが――――――。

 

耳がくたびれて折れ、身体は元は鮮やかなピンク色だったんだろうけども、薄汚れて色が斑になっている。

目は虚ろで、どこを見ているのかもわからない。

だらりと両手は下がり、どこか疲れた様子にも見えた。

そんなキグルミが、高速で、左右に、残像を残しながら移動し続けている。

反復横とびをしているんだろうか?

それにしては、まったく足が動いた様子に見えない。

率直に言って、怖い。

 

「ひぃこっち見た!」

 

ぐりん、と首から上だけがこちらを向く。

 

「ちょっ、くんな! こっちくんな!」

 

スイー、と先ほどの独特な移動方法で、滑るように近付いてくるキグルミ。

人間の出せる速度ではないし、そもそも人間はそんなふうには動けない。

私達がリアクションをする前に、がっしりと手を握られる。

 

――――――よろしくお願いします。

 

ファンシーな見た目にはそぐわない、落ち着いた、男の人の声。

キグルミの腕には、特徴的な、ゴッドイーターの腕輪が。

彼が、正式に配属されたゴッドイーターなんだ。

「たった一人かよ、ふざけやがって」吐き捨てるような誰かの声が聞こえた。

心がまた、ざわめいた。

 

「ちょっ、ちょっ、ちょーっと! おさわりは許可をとってからにしてくれませんかねぇ? ほら、離れて離れ……見た目キモッ!」

 

サツキ、だめだよそんなこと言っちゃ。

この人は私たちを守ってくれるために、やってきてくれた人なんだから。

ほら、しゅんとしちゃった。

 

「いや、いくらゴッドイーターだからって、これ完璧に不審者でしょ」

 

――――――芸が、できます。怖くないです。

 

「芸って……どんな? いや、やっぱりやらなくていいです」

 

――――――よ、よいこのみんな、みんな! あっ、あっ、あっ、あっつまれぇ~!

 

「うわぁ何も言ってないのに始め出した」

 

――――――ようし、みんな素直だ、素直が一番成長するぞう……そんな成長期のみんなでゴッドイーターのうたを歌おうかな! いえーい!

 

「えらいドギツイのがきちゃいましたね……」

 

――――――ゴッドイーターのーうたーみんなでうったおうー。

 

「うわ、子供たちが……だめだめ! 変な人に近づいたらだめって教わったでしょ! こらガキんちょ共! ダメだって……あぁー抱きついちゃってるし、振り付けまで」

 

――――――YO! YO! シェケ! YO! シェケYO!

 

「情操教育に悪すぎるでしょうが! いつもユノの歌を聴いてたから耳が……この音痴! やめなさーい! やめろ! もう帰れ!」

 

――――――受け入れられようと頑張って歌までうたったのに、帰れとか言われたでござる。ここ歌とか流行ってるって聞いて、超練習してきたというのに……解せぬ。

 

サツキとキグルミの彼が言い合いを始める。

その横で私は。

 

「ちょっと、ユノ! あなたも笑ってないで、この馬鹿ゴッドイーターになんとか言ってやってくれませんかね!」

 

私は……私は。

すごく、おかしくなって、吹き出してしまっていた。

自分以外の歌を、久しぶりに聞いた気が、した。

歌をあんなに楽しく歌える人が、いたなんて。

私は、私の歌が慰みになればと思って、歌っていた。

静かに聞き入ってくれる人がいたのは、素直に嬉しかった。

皆、落ち着いたような、安らかな顔となっていた。

でも……それだけ。

そこから先は、何もない。

気が付けば、私は彼の手を、こちらから取っていた。

顔を見せて欲しいと頼みながら。

 

――――――加賀美リョウタロウです。

 

キグルミの頭を外して、彼は答えた。

静かな声に似合う、穏やかな顔付きで。

 

「えっ……ちょっ……ユノ、あなたまさか……!」

 

子供たちが「ユノ顔赤い」「ほんとだまっかだ!」と笑っている。

私の歌では、子供たちに笑みを与えることは出来なかった。

 

加賀美リョウタロウ――――――さん。

初めて会ったばかりの、極東からやってきたゴッドイーター。

その人となりは、まだよくわからないけれど。

子供たちの笑顔が、全ての答えに思えた。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

えいっえいっ。

えいえい、そやーっ。

 

「ユノ、あなた何してるんですか?」

 

振り付けを、覚えてるんです。

ワン、ツー、ワンツー、ごーなな。

ごっどいーたーのーうたー。

 

「趣味悪すぎでしょ……ほんと」

 

中々いい歌ですよ?

子供向けだから、大人には合わないかもしれないけれど。

 

「そういうことを言ってるんじゃないんですけどねぇ……はぁ」

 

ほら、サツキも一緒にやろ?

コンゴウのポーズ!

うほーい。

 

「嫁入り前の娘がやめなさい!」

 

じゃあ、誘うサリエルのポーズ?

 

「ユノが極東からきたゴッドイーターに毒された……ほんともう極東はろくでもないことばっかりしてくれて! まったく!」

 

サツキ、どこ行くの?

 

「あのゴッドイーターのとこに文句言いに行ってやるんですよ!」

 

こんな夜遅くに?

あ……もう!

私も後を追いかける。

こうして塔を自由に出入りできるようになったのも、最近のことだ。

壁ができる前はそうじゃなかった。

三年前、父さん――――――葦原総統は、エイジス島から帰ってきて、変わってしまっていた。

私をこの塔に押し込めて、ずっと政務に取り掛かっていた。

フェンリルに恨みをぶつけるように。

私はこの塔から街を見下ろして、いつも鬱屈した思いを抱いていた。

自分一人だけ守られて、街を見下ろしている。

籠の鳥のように扱われ、お前は他の者と違うのだと言われているような気分だった。

こんな世の中になって、甘いことを言っているという自覚はある。

でも、生きているだけで、良いなんて。

安全な暮らしができるだけで幸せだなんて。

私にはどうしても思えなかった。

贅沢を言っているのだろうか。

甘やかされた女の意見なのだろうか。

私は……。

 

「ちょっと! リョウタロウさん! あなたウチのユノに何を教えちゃってくれてるんですかね!」

 

――――――しーっ、静かに。やっと寝付いたとこだから。

 

静かに、と口元に指を立てるリョウタロウさんは、キグルミを着ていなかった。

今日はキグルミを着ていないんですね、と言うと「それ以上、言わないでくれ」と深刻そうな顔をして俯いてしまった。

聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。

きっと、私たちには言えない任務に関わるものなのだろう。

 

「ああ……子供たちですか」

 

サツキの声がリョウタロウさんの手元を見て、小さくなる。

リョウタロウさんは、眠る子供たちの中心で、すがりついて目を閉じている女の子の頭を、ゆっくりと撫でていた。

優しく、優しく――――――。

 

「この前、アラガミの襲撃があったんですよ。それでたくさんの人が死んだんです」

 

――――――この子たちは、それで?

 

「ええ、孤児になったんです。私たちの祖父もね……。フェンリルが神機兵を派遣してくれたら、極東支部のゴッドイーター達がもっと早くきてくれたら、ねえ? どう思います?

 この子たちのことを見て、かわいそうだって、胸が痛みますか? それはなぜ? 自分達の罪だと、そう思っているからでは?」

 

静止の声を上げる前に、彼が指を口に当てた。

サツキの舌打ちだけが、夜の帳に響いた。

 

――――――なぜ、この子たちは、大人を頼らないんだろう。

 

リョウタロウさんが、女の子の髪を撫でながら、ぽつりと言った。

 

――――――たかだかここに来て数週間の俺のところに群がるのは、なぜだと思う?

 

「それは……」

 

――――――俺がゴッドイーターだから、守ってもらえると? そうじゃない。子供は純粋だ。傷付いた子は、特に。

 

「ここの大人たちに、近付きたくないからだと、そう言いたいんですか?」

 

――――――どうかな。でもあなただって、ここの大人たちの一人だ。

 

サツキは何かあきらめるようにして大きく息を吐き出すと、パイプ椅子に力なく腰掛けた。

ぎしりと椅子の錆が軋む音がした。

その通りだ、と私も思った。

広場の一角に建てられたほったて小屋に、アラガミ襲撃によって家を失った人、家族を失った人達が身を寄せ合っている。

リョウタロウさんも、この小屋が並び立つ広場の隅に場所をとり、生活していた。

聞くところによれば、まともな食事も出されていないのだとか。

露骨な嫌がらせだと思う。

父さんに直談判をしに行っても、政治的なつきあいや取り決めで、これは仕方のないことなのだと諭された。

 

「なんですこれ……ぎゃあ!」

 

サツキがテーブルの上においてあった箱を何気なしに開ける。

一気に顔が真っ青になり、箱を放り出した。

中からは、大きな何かの幼虫が、何匹もうぞうぞとはい出ていた。

 

――――――ああ、俺の明日の弁当が。

 

「はあ!? 弁当!? これが!?」

 

――――――うん。ほら、おいしい。

 

「ぎゃーっ! 食べたぁ!」

 

サツキ、うるさいよ。

もう。

 

「ぬぐぐ……いやでもこれ、あなた配給はどうなったんですか? ああ、ゴッドイーターだから足りませんね。そうですね、すみませんね大した食事も用意できずに」

 

――――――はい、きゅう?

 

「正式に配備されたゴッドイーターなんだから、毎日あなただけに用意された配給物資があるはずでしょう」

 

――――――えっ。

 

「んん? ちょっと、まさか……嘘でしょう? 今まで何を食べてたんです?」

 

――――――なんかそこら辺に生えてる草の根っことか、虫とか。

 

「移動とか、神機の整備はどうしてるんですか?」

 

――――――移動は、普通に走ってるけど。神機は整備班がたまにくるから、そこに預けてる。

 

「移動手段もなし、極東からの人員だけがサポートしているですって……? こちらでの支援が打ち切られているということ……? まったく、どいつもこいつも!」

 

ああ、まただ。

またこの感じだ。

嫌な感情が、胸の中に湧きあがってくる。

やはり、という思いが。

やっぱり、そうだったんだ。

「あいつの食事に、汚物を混ぜてやったぜ」なんて、嘘だと思っていた。

でも本当だったんだ。

今じゃ、食べ物を出しもしないなんて。

 

――――――どうした、ユノちゃ……さん。

 

リョウタロウさんは、どうしてゴッドイーターになったんですか?

色んなひとからいじわるされて、非難されて……全部、あなたのせいじゃないじゃないですか。

命をかけて戦って、こんな仕打ちをうけて……それでも、なぜ。

 

――――――あー……俺が、ゴッドイーターになったのは、正直なりゆきだよ。ある日突然、紙っぺら1枚が届くんだ。

おめでとう、君はゴッドイーターに選ばれましたって。

覚えてるよ。怖くて怖くて、震えながら寝てた。これは夢だ、悪い夢なんだって。引き摺られて連れていかれるまで、駄々を捏ねて、自分の家に閉じ篭ってた。

だって、無理だよ。

それまで普通に暮らしてたのに、ある日突然、君は選ばれたんだって武器を持たされて化け物と戦わされるんだ。人喰いの化け物と殺し合いをしろって。

無理だよ、そんなの。明日もまた、今日と同じ日が続くと思ってた。

その日暮らしで、適当に職を見つけてさ……いい加減、無職も恥かしかったし。

そういう明日がくるものとばかり思ってた。

そんな、なんでもない明日がさ……。

 

「無職、だったんですか?」

 

――――――うん。一昔前の職が溢れてた時代はフリーターなんて呼ばれてたらしいけど、今はそんなものなんかないでしょ。俺のいた所は腹をすかせてどうしようもない奴ばかりいたから、汚い仕事を持ち込まれても、喜んで飛びついたさ。俺もね。

 

「汚い仕事、というと、何をしていたんです?」

 

――――――物資の横流しの手伝いとかね。思い出したよ。俺はここに何度も来たことがある。子供の頃から、運び屋の手伝いとかもしてたんだ。運んでたのは、壁だった。

アラガミ防壁なんてちょろまかしてたんだ、護衛なんて付けられるわけがない。金を握らされて使い捨てにされたんだよ、俺達は。ここの総統さんにね。

 

「三年前に行われた対アラガミ防壁の建設には、あなたも関わっていたんですか……かなり無茶なことをしたと聞いてはいましたが」

 

――――――恨んじゃいないよ。二束三文だったけど、それで喜び勇んで手を上げたような奴らさ。それでも中にはそこそこ成功する奴もいる。

そいつらと一緒に、運輸業で何か一発立ち上げようって、話してたんだ。その矢先だよ、ゴッドイーターなんてのにさせられたのは。

ゴッドイーターになったことに後悔してるとか、そういうのはなかったよ。そもそも拒否権なんてないし。嫌だなんて思っても、さ。

アリサ達もここに来たんだって? じゃあ聞いたんじゃないかな。皆を守るために私は戦う、とか。

 

「あなたは違うんですか? あなたの戦う理由は」

 

――――――最初は、死にたくないから戦ってるだけだった。今は……なんだろう、わかんなくなったよ。

 

「はっ、お気楽なことですね。武器使えるってだけのフェンリルの駒に成り下がって、恥かしくないんです?」

 

――――――うん。それも、何も考えられなくなった。ただこれだけは言えるよ。顔も知らない誰かを守るためだとか、使命感でやってるんじゃない。そういうの求められても、その、困る。幻滅させて悪いけれど。

悪いついでに、あんまりそういうの、他のゴッドイーターに言わないでやってほしい。ゴッドイーターはさ、ほら、どんどんその、低年齢化していってるから。

 

「どういう意味です? お仲間を庇いたいんですか?」

 

――――――ゴッドイーターは死亡率が高い。だから、次々に補填してかなきゃいけない。新しく連れてこられるのは、年端もいかない、子供って言えるくらいの奴らだ。

最近そんなのばっかりだ。極東にやってくる新入りは若いんだよ。すごく。

言えるか? 役目だから、仕事だから、食わせてもらってるんだから、命かけて戦えって。

私たちのために死ぬのが当然ですよね、ってさ。

子供相手に、言えるか?

 

「それは……」

 

――――――たまらなく嫌になるよ。自分よりもずっと年下のゴッドイーターが、皆を守りたいんです、なんて張り切ってる姿をみるのは。

笑って犠牲になりに行くんだ。持たざる人々の犠牲にさ……。自分の命、未来、全部差し出して、戦えと言われるんだ。誰かを守るためにって。

武器を取るのは当たり前だ。人を守る仕事は尊いものだ。だから皆、納得したような顔して、死んでいくんだ。

さっさとアラガミを殺せよ役立たず、なんて言われて。

頼むよ。お願いだから。俺には唾を吐きかけても、石を投げつけても、糞入りの飯を食わせてもいいからさ、これからここに来るだろう、幼いゴッドイーター達には、お願いだからそういうの、全部遠ざけてやってくれ。

人を守るものにさせられた子供たちには……人の悪意に触れるには、まだ早い。

あなたは報道関係の仕事をしていたんだろ? 言葉でわかるよ。

そうさ、あなたの言葉が、みんなの言葉になるんだ。

それを忘れないでやってほしい。

 

「そんなの……あなたに言われずとも、わかってますよ!」

 

サツキが声を荒げ、椅子を跳ね飛ばすようにして飛び出していく。

ごめんなさい。頭を下げた。

サツキも、口が悪いだけで、根が悪い人じゃないの。

でも、おじいちゃんが死んで……それで。

 

――――――大丈夫、わかってるから。生きるのって、つらいなあ。

 

儚げに笑うリョウタロウさんの、笑みが、胸を刺す。

私は……私は……。

 

――――――ああ、しまったな。うるさくしすぎた。

 

子供たちがむずがって、目を擦り始めた。

リョウタロウさんも、どうしたらいいか慌てている。

 

――――――この子たち、夜うなされて、悲鳴を上げて飛び起きて暴れるんだ。手が付けられないって、預かり所も放り出したらしい。

 

私は……。

考えるよりも早く、口が開いていた。

 

――――――これは、子守歌……?

 

私には、これくらいしかできないけれど。

それでも、少しでも、慰めになるのなら。

 

――――――みんな穏やかな顔してる。ありがとう、君のおかげだ。

 

ありがとう、だなんて。

やめてください。

私なんて。

 

――――――それでも言うさ。ありがとう。

 

みんな、勘違いしてるんです。

私のことを、悲しみを救ってくれる聖女だなんて言う人も……。みんなが言う程、私、良い子じゃないんです。

私だって、汚いことを考えるし、嫌なことだって考えもします。

その、い、いやらしいことだって……。

色んなことを考える、普通の女の子なんです。

みんな、勘違いしてるんですよ……。

 

――――――俺もそうさ。そこら辺にいる、普通の男さ。八つ当たりしにきた女を、冷たくあしらうくらいの。

 

あっ……サツキの、その。

 

――――――サツキさんには、ごめんって伝えておいて。あーあ、やっちゃったなぁ……あの人すごい美人なのになぁ……嫌われちゃったかあ……。

 

きっと大丈夫ですよ。

サツキはああやって、叱ってくれる人が好きですから。

おじいちゃんくらいしか、サツキのこと、叱ってくれる人はいませんでしたから……。

 

――――――そっか。よっぽどいいおじいさんだったんだ。

 

ええ、とっても。

私たち、似てますよね。

私は塔に。

あなたはゴッドイーターという枷に囚われていて。

 

――――――泣きたくても、泣けない。

 

……はい。

 

――――――じゃあ、さ。誰かのために泣いてやればいいんじゃないかな。

 

誰かの、ために……?

 

――――――そう。自分のために泣けないなら、泣けないやつの代わりに、泣いてやればいい。受け売りだけどね。イサムとジョニーの。

 

もうっ。

途中まですごく格好良かったのに、最後で台無しですよ。

イサムさんと、ジョニーさんも、ゴッドイーターのお友達ですか?

 

――――――いや、あいつらはもっと凄い奴らさ。世界を救った二人だ。漢の中の漢だよ。

 

すごいなあ……そんなふうに思える相手がいるなんて。

男の子同士の友情って、なんだか格好良いですね。

誰かの代わりに涙を流す。

そんなふうに、うん、できたらいいなあ。

 

――――――できるさ、きっと。君は最初の一歩を踏み出す勇気がほしいだけだ。俺とは違うよ。俺はずっと同じところで足踏みしてるんだ。似てるようで、全く違う。だから、大丈夫さ。

 

リョウタロウさん、そんなことは。

 

――――――飛べるさ。君は羽ばたいていける。君の見る世界が、俺たちの希望だ。

 

どうして……そんな。

何でもないというふうに、そんなことを、言えるんですか。

どうして、会って間もない私のことを、信じられるんですか。

どうして、あなたはそんなにも……優しい、目をして。

 

――――――さ、ユノさんも、部屋にお帰り。もう遅いからさ。

 

もう少しだけ、もう少しだけここに居させてください。

あなたの側に――――――きゃあっ!

 

――――――アラガミ警報! 来たか……!

 

「ひ、い、い、い、いい、いいい!」

 

子供たちが悲鳴を上げて飛び起きる。

私は何もできず、オロオロとするばかりで。

 

――――――歌ってくれ。

 

リョウタロウさんが神機のケースを担いでいた。

止め具が外される。

青い、悲しみを何もかも飲み込んでしまったかのような、深い青色の神機が、そこにあった。

 

――――――よーしみんな、ゴッドイーターの俺が、アラガミなんかぱぱっとやっつけて来てやるからな! ゴッドイーターの歌、2番だ!

 

私を指さすリョウタロウさん。

え、ええっと。

ご、ごっどいーたーのうたーみんなで歌おうー。

 

――――――その調子、その調子。大丈夫、君は無力なんかじゃない。

 

リョウタロウさん!

 

――――――なんだい、ユノさん。

 

その、私のこと、ユノって呼んでください。

 

――――――了解、ユノ。俺のことも、好きに呼んでくれ。それじゃ行ってくる。

 

はい……はい!

いってらっしゃい、リョウ君!

 

私の声、届いたかな?

残像だけを残し、去っていくリョウ君。

どうか、無事に帰ってきて。

 

「おにいちゃん、ゴッドイーターをしにいったの?」

 

不安気にこちらを見る女の子。

はっと気付く。

リョウ君は、ゴッドイーターを“しにいった”のだ。

それは簡単なことで。

でも私にとっては大切なこと。

大丈夫よ、と言って、抱き締める。

大丈夫。大丈夫よ。

あの人がいる限り……ゴッドイーターがいる限り。

世界はきっと綺麗なままだから。

 

雨の臭いが、すぐそこまで近付いてきていた――――――。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

自分のために泣けないなら、泣けないやつの代わりに、泣いてやればいい。

なんつってなーんつって!

うへへへうへうへ! 言っちゃった! 言っちゃったぜ!

一度は言ってみたいカッコイイ台詞!

ああ……超気持ちいい……!

 

ありがとうバガラリー!

主人公イサムに、そのライバルジョニー!

観ていてよかったバガラリー!

サンキューコウタ!

 

よーし!

待ってろアラガミ!

今すぐに行ってやるからな!

徒歩で!!

 

徒歩で……。

 

 

 

 

 




いやあGEみたいなサツバツ世界観、大好物です。
ひゃっはーーー!!
主人公に地獄を見せてやるぜぇーーー!!
二重トラウマを植えつけてやるぜぇーーー!!

うん。どうしてもGEみたいなマッポー世界観じゃ、シリアスになってしまうん。
最強系主人公が、ゴッドイーターが救いをもたらすなんて。
その勘違いを、ぶっ壊す!(上条さんAA略
ごめんなさい。
でもシリアス勘違い系SSとしてやっていけたらいいなあ。

それでは、次回投稿は少しお時間を頂けたらば……!
評価してくださった皆様、感想をお書きくださった皆様。
ありがとうございました&ありがとうございます!


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ごっどいーたー:7噛

GE2進行度:ロミオとかいうコウタ2号www→ロミオ……


おおむね期待通りの成果と言えよう。

榊は薄暗い研究室の中、無表情に細い目を尖らせた。

吐息は冷たく、凍えるようだ。心が……魂が芯から凍り付いているからだ。

悪鬼の所業である。

己を省みて、榊は自身をそう評する。そして、何を今更、と思うのだ。

『P‐73偏食因子』――――――『マーナガルム計画』。

かの偏食因子をこの世に生み出したのは、この自分ではないか。

胎児の段階での偏食因子組み込み。その成功例は、ソーマ・シックザール、ただ一例のみ。

この言い回しはつまり――――――その後も実験が行われた、ということを示している。

ヨハネス・シックザールの強行により、その妻と胎児が実験体として捧げられた。それが全ての実験の始まりだった。

ゴッドイーターの、始まりの。

あの時、ヨハネスに強く反対しなかったのはなぜだろうか。姿をくらませるだけで、あの若き夫婦を止めようとはしなかったのは、なぜだろうか。

開発者としての立場から制止させることは十分にできたはずなのに。現場に現れもせずに放置したのは、なぜか。

免罪符のように、ヨハネスに安産のお守り……後にゴッドイーター達に投与されるP‐53偏食因子の前身を渡したのは、なぜか。

答えはわかっていた。

好奇心、である。

あの時、心のどこかに、自分が作り出したこの因子を人間に投与したらどうなるか……と、ほんの少しでも思わなかっただろうか。

そして、失敗するとも、予想できていなかっただろうか。

二つの偏食因子を同時にテストできると――――――。

 

「業……だね」

 

人の原罪、業は他の命を奪い喰うことであるという。

全ては喰うこと……飢えを満たすことに通じる。

すなわち、科学者は己の知識欲という飢えを満たすために、その全ての行動理念が傾けられるのだ。

意識的に、無意識的に。

己の行いは、しかし自覚できぬものが根底にあるのだろう。それに気付くのが遅すぎた。

P‐53偏食因子を完成させる折り、参考としたデータは、フェンリル本社から送られてきたもの。

ケース・アイーシャに続く、P‐73偏食因子の投与にて肉塊となって死亡した、数多の母子のデータだった。

それらデータを分析していくにつれ罪の意識に苛まれ、いつしか顔には笑みしか浮かばないようになった。

これは人類に必要な行いであると、そう自分自身に言い聞かせながら。

 

「榊博士! これはどういうことですか!」

 

自問を繰り返す榊の下に、勢いよく研究室のドアを開け飛び込んでくる少女が。

橘・リッカ。

極東支部神機整備斑に所属する整備士の、中枢を担う少女だ。

未だ年若いというのに、その腕は誰もが一目置くものである。

榊もまた、研究者ではなく技術者として、脱帽せざるを得ない技術が彼女の腕に秘められている。

 

「ああリッカ君。えっと、このまえの資材のことだったかな? いやあ、ごめんごめん! 実は発注を忘れてしまって……」

 

「それじゃありません!」

 

頬を高潮させ、書類を机へと叩き付けるリッカ。

珍しいことだ、と榊は驚きを覚えた。

神機の整備には細心の注意と集中力が必要だ。神機整備班の面々は、そうした作業を繰り返す内、非常に落ち着いた人格を有する者達ばかりとなったのだ。リッカもその一人である。

だが同時に、彼のことだろうな、と予想もつく。

心が鉄と油で出来ているような少女を激昂させる事案のほとんどが、彼についてのことだからだ。

 

「これ……リョウのバイタル、どういうことですか! こんなの絶対安静じゃない! こんな状態でネモス・ディアナに向かわせたの!?」

 

「ああ、なんだそのことか」

 

案の定、である。

 

「なんだじゃありませんよ! うちの整備班がネモス・ディアナの防壁調査に行った報告、受けてないんですか? あそこの住人は今、集団ヒステリーを起こしてるんですよ!?」

 

「リッカ君。君も落ち着いて。今、説明するから」

 

「……納得できる説明を、お願いします」

 

「そうだね……さて、どこから話そうか」

 

「初めからです」

 

「構わないが、君にそれを聞く覚悟はあるのかね?」

 

これもまた、業である。

拳をぎゅっと握って、何かに耐えるような、そんな顔をこの少女にさせてしまうとは。

遅かれ早かれ周囲には漏れることであるとは思っていた。

整備班にはゴッドイーターのバイタル情報は隠せない。

 

「リョウタロウ君は欧州からこちら、極東開発の任という建前で呼び戻された。そこまではいいかい? 

 ならば、呼び戻すからには納得できる理由が必要だった。本部の直轄領……欧州で重要なポジションに就いていたゴッドイーターを動かすに足る理由がね」

 

「ネモス・ディアナに送った理由……赤い雨ですね?」

 

「鋭いね。ネモス・ディアナは、ここ極東支部からそう遠く離れてはいない場所にある。極東一帯は、かつて関東地方と呼ばれていた。

 南と東が海に面し、北と西が山岳地帯で囲まれている……南からの湿った風が山際に当って、雨雲が溜まり、降雨量がとても多い地域として知られていたんだ。

 元々ネモス・ディアナはその雨が降りやすい地形を利用して、緑化を勧めていた居住地だったんだよ。多雨多湿の地に根付く木々は、保水量が多くてとても強いんだ。

 深く広く根を張った木々は、複雑に絡み合って地盤をしっかりと掴み、固める。ネモス・ディアナは雨と木によって守られた土地なんだ」

 

「その雨が今は、赤い雨に変わった……」

 

「そう。極東地域一帯で頻発している異常気象……赤乱雲から降る、赤い雨。その雨に濡れた箇所には、黒い蜘蛛のような痣が浮かび、激痛を発し……やがて死に至る、不治の病だ。

 致死率100%の雨。当然、極東の多雨地域には、より多く降り注ぐことになる。一つの理由がこれさ。極東から発し、やがて全世界に広がるであろうと予測できる赤い雨の調査。

 “終末捕食”の行われた極東が発生源なんだ。本部も無視はできないだろう。何らかの関連性を連想しないかい? 私はそうだよ。そう報告もした。

 これが終末捕食に繋がる現象なのだとしたら、極東の最高戦力を投入してもおかしくはないだろう? 同時に発生した感応種への対応もある。その対応マニュアルの作成も必要だからね」

 

「赤い雨と、感応種への同時対応は、リョウくらいしか出来ませんからね」

 

「悪いことに、どうも対アラガミ防壁の偏食因子の配列が、シユウ感応種が好むものであるみたいでね。よくあることだよ。オラクル細胞の嗜好を分析し、アラガミには捕喰され辛い物質で構築されているはずの壁が、新種にとっては大好物! なんてことはね」

 

「たまたまシユウ感応種にとっては、ネモス・ディアナの壁が好物だったということですか……」

 

「早急にシユウ感応種のオラクル細胞を分析し、構成物質を更新、コンバートしなければならない。それはゴッドイーターにしか出来ないが、現状、ソーマ君しか感応種には対処できていない。神機が機能停止してしまうんだから、どうにもならないんだ。

 だが、新型使いの中でも最上位の感応能力を持つリョウタロウ君ならば、どうだろうか。ソーマ君は特殊ケースでしかないが、リョウタロウ君の戦闘法を解析し、一般化させていけば、確実に対応マニュアルが作れるんだ。

 リョウタロウ君をネモス・ディアナに派遣するのは、必要不可欠であることだったんだ」

 

なるほど、とリッカは頷く。

苦しい言い訳だが、榊がそうであると断言すれば、通らなくはない。

ゴッドイーターの産みの親とも言うべき、榊であるならば。

リッカは恐らくは、そう思っているのだろう。

目的は話せども、その手段は語られていないことに気付かぬまま。

これは決して明かせぬと、榊は胸の奥にしまいこむことにした。

まさかこの少女に、赤い雨のデータを採るために、リョウタロウに雨を浴びせようなどとは、口が裂けても言えないことだった。

そしてネモス・ディアナに派遣した理由についても、半分ほどしか語ってはいない。

感応種に狙われやすい防壁となってしまっているのだから、そこに滞在していれば、向こうからやってくる寸法だ。

戦闘データの採集にはもってこいだが、それだけが理由というわけではない。

 

「納得は……できます。でも、せめて生活環境の改善は必要だと思います」

 

「集団ヒステリー……当然だね。新種のアラガミと赤い雨によって、アラガミ防壁に囲まれた居住区は楽園などではなくなった。アラガミから身を守るための外壁は、絶望の“るつぼ”と化した。女神の森【ネモス・ディアナ】は今や、ディストピアとなったんだ」

 

「死の恐怖による過負荷、ストレスが、閉鎖空間における負の連鎖を引き起こす。典型的な集団ヒステリーの症状だと思います。とにかく外から来たものを攻撃しなければ、精神の安定をはかれない。それが解っていながら、傷付いて帰ってきた彼を、なぜ……」

 

「さらなるストレスをかけ、追い詰めるため……と言ったら、君は納得するかい?」

 

「――――――ッ!!」

 

「冗談だよ! 冗談だから、そのスパナを下ろしてくれないか。ゆっくり、そう、ゆっくりと」

 

口が過ぎたと反省する。

笑えないジョークを言うなとヨハネスから言われ続けていたのを思い出した。

相手が純粋であればあるほど、受け入れられないものなのだろう。ブラックジョークという奴は。

 

「でもね、君は怒るかもしれないけれど、半分ほど本気なんだ」

 

「理由を! お願いします……!」

 

「君は新型使い達の精神……メンタル面について、どう思う?」

 

「普通のゴッドイーターと、私たちとそう変わらないと思いますけれど」

 

「そうだね。その働きは、我々と同じ、変わらないだろう。では伸び率はどうだ。精神の成熟度合い、成長率は」

 

「成長率……?」

 

「アリサ君を例にあげよう。彼女はアナグラにやってきた当初は、言ってはなんだが、その精神性は幼稚なものだった。他者を見下し、決め付け、遠ざけて……それは洗脳によって思考にロックがかかっていたからだ。

 だがそれが解かれてからはどうだろう。極めて短期間に、彼女は驚く程の内面的成長を遂げた。たくさんの事件が起きてそれどころではなくなってしまったが、冷静に考えればありえないと思わないかい?」

 

「でも、それじゃソーマ君だって変わりましたよ?」

 

「ソーマ君は、あれは変わったというよりも、自分を出せるようになったんだろうね。そんなに劇的に、かつ急激に変わったわけじゃない。成長という観点から見れば、普通の範囲内だ。

 だがアリサ君は違う。たった数週間で、まるで別人のようになってしまった。リョウタロウ君とすごした数週間で、何年も年を重ねたような、精神性の成熟をみせた。人は、あんなに劇的に変わるものだろうか?」

 

「どういうことなんですか?」

 

「精神の変容……進化と言ってもいい。新型使いは、心が“柔らかい”存在なんだ」

 

「リョウも、アリサちゃんと同じように、心が変容してるってこと……?」

 

「リョウタロウ君はゴッドイーターとして経験を重ねる毎に、異様な心的タフネスを得た。ゴッドイーターに定期的に行われるストレスチェックテストでね、彼は毎回、異常値を示しているんだ」

 

「ベテランになって度胸がついたとか、そういうことじゃないんですか?」

 

「それでも死と常に向き合っているのがゴッドイーターだ。恐怖を感じるのは当たり前さ。それはテストにちゃんと反映されるものだよ。リョウタロウ君だって、戦うことへの恐怖は感じているんだ……だが」

 

「榊博士? でも、どうしたんです?」

 

「果たして、我々の知る彼は、“本当の彼”なのだろうか」

 

薄く笑っている榊。

リッカの背筋が震える。

いつも通りの胡散臭い笑みに固定された表情が、不吉を運ぶ死神の笑みのように見えた。

 

「寡黙で、柔らかな笑みを絶やさず、どんな悲劇にみまわれても決して折れず、悲しみを背負って戦う戦士……それが我々の知る加賀美リョウタロウだ。極東の最高戦力、ゴッドイーターの鏡のような“人物像”。出来すぎだとは思わないかい?」

 

「博士は、リョウが本心を見せてないって、そう思ってるんですか?」

 

「アリサ君や、最近次々と配備されるようになった他の新型使いの皆には、感応現象が発生した際には報告をするように命じている。もちろんリョウタロウ君にもだ。各々が提出した感応現象のデータを比較すると、面白いことが解る。

 他の新型使いの間ではかなりプライベートに入り込んだ意識のやりとりが行われているのに比べ、リョウタロウ君に対しては、極めて浅い層でのやりとりしか行われることがない。

 今、どんな感情を抱いているのか。彼への感応現象で垣間見えるのは、それくらいらしい」

 

「でも、それはたぶん、リョウの適合率が高いからじゃ……」

 

「新型使い達の感応現象が、言語を介さないイメージによる新たな相互理解を得た次世代の新人類……ニュータイプのコミュニケーションであるとするならば、あまりにも一方的すぎるとは思わないかい? 

 彼の感応性能が上位にあるのなら、一方的に情報を吸い上げていることになる。情報の出入をコントロール出来ているのだとしたら、意図的に本心を明かさないように情報の出力を絞っているのでは、と」

 

「リョウは、リョウです……」

 

「その胸の内を表に出さないが故に、強く優しい人間であるととられることを忘れてはいけない。たとえ神の視点であったとしても、彼の心の内を読み解くような存在がいたとしても、表に出ているものは、眼に見えるものは、彼の本心であると言えるのだろうか。

 誰の心をも開き絆を結ぶ彼が、その実、誰とも通じ合うことはない。誰にも解らないさ……誰にもね。君の知る加賀美リョウタロウは、果たして……」

 

「リョウは、リョウです! 私の知ってるリョウは、リョウだから!」

 

「……すまなかった、いじわるを言うつもりはなかったんだ。泣かないでおくれ」

 

鼻をすすり上げる音に、榊は慌てて眼鏡を押し上げた。

どこか超然としていたリッカには、思わぬ激情があった。

それも彼の優しさが引き出したものだ。

そう、信じたい。

だが、あらゆる可能性を予測しておかねばならないのが、支部長という立場の人間であり、そして研究者というものだ。

楔は打ち込まれた。

 

「心理テストの結果ではね、特に問題はなかったんだよ。精神機能は正常と出た……戦闘中をのぞいてね。戦闘中、彼はどこか乖離しているような……世界を見下ろしているような視点を得たらしい。

 だから“良く解る”のだと。ゴッドイーターによくある、戦闘時ストレスの防衛反応かとも思われたが、そうじゃない。そうなれば日常生活の方にも影響が出て然り。心が耐えられるわけがないんだ。

 だがテストではその他すべての数値は正常。異常値だよ。正常だからこそね。彼は人の領域を超えつつあるのかもしれない……」

 

「それは、確かにリョウの戦績は現実離れしているけど、でもそれでリョウの心までおかしいだなんて、そんなこと……!」

 

「いや、すまない。そういうつもりじゃなかったんだ。重要なのは、テストの結果が示していることは、何か彼が大きなストレスを感じるたびに、それを乗り越えるように新たな力を身に付けてきた、ということだ。

 連撃捕喰、空中変型、バレットエディット、装備からフィードバックされる特殊効果、……様々な力を」

 

「だからネモス・ディアナで迫害を受けさせることで、新しい力に目覚めさせようと? 何を考えてるんですか! そんなこと!」

 

「必要だからだよ。彼には力が……戦うための力が必要なんだ。フェンリル本社の陰謀と戦うための、力がね」

 

「フェンリル本社の……陰謀……!?」

 

リッカが緊張で喉を鳴らした音が聞こえる。

 

「さあ、リッカ君。ここから先を聞く覚悟はあるかい?」

 

一呼吸もおかずに、リッカは答えた。

イエスであると。

 

「彼が……リョウタロウ君が欧州で何をして、何を見てきたか。どうしてツバキ君やリンドウ君を置いて、一人で帰ってきたのか、君には想像できるかい?」

 

「それは、榊博士の命令じゃないんですか? サテライト居住区の建築ノウハウを取り入れるために、前例であるネモス・ディアナを保護するため。そして赤い雨のデータを採取するため……」

 

「そう。だがなぜリンドウ君やツバキ君は欧州に滞在したままなのか。引き上げさせるなら全員一緒のはずでしょう?」

 

「それは……ええと、なぜなんですか?」

 

「それには、欧州で彼が経験したことを語らなければならない」

 

その答えに榊は満足そうに頷いた。

リッカの想像が及ばないことに、彼女の純粋さを見た気分だった。

それでいい。彼女は、彼女達はそれでいいのだ。

榊は両手を机の上に組むと、静かにリッカを見据えた。

細く鋭い両目から除く眼光が、卓上に飾られた日本刀のように、リッカを貫く。

 

「欧州で彼がしていたことは、再殺部隊の編成及び、先頭に立ってその任務を遂行することだった」

 

「再殺、部隊……」

 

「アラガミとの戦闘中に腕輪が破損し、アラガミ化してしまったゴッドイーターへの“処置”……それは、本来であればそのゴッドイーターが所属していた部隊の、部隊長が行うものだ。

 だが全てがその例に収まるわけがない。あるいは情が深すぎて、あるいは状況が許さずに、あるいは部隊長含め全員がアラガミ化したら、そんな何かの要因があって、処置を行うことが困難となった時……再殺部隊が動く」

 

「リョウが、再殺部隊の隊長をしていたっていうんですか? 彼が、そんな……」

 

「始めは本当にただの遠征だった。報告書を見ても、お客様対応で歓迎されていたらしい。だがある日、その場に出くわしてしまった。決定的なその場にね……。要請を受け救援に行った部隊が、全員半アラガミ化してしまっていたらしい。

 ツバキ君は司令塔としてその場におらず、そしてリンドウ君は対応が遅れてしまった。無理もない。自分自身が“そう”だったからだ。偶然、リョウタロウ君に助けられただけだと、そう思っているはずだ。

 助けてくれ、死にたくない。そう命乞いされたら、いくらリンドウ君が優れた指揮官であったとしても動けないだろう。一瞬判断が鈍ったんだろうね。自分がそうだったのだから、リョウタロウ君なら彼らを救えるかも……そうも思ったかもしれない」

 

「リョウは、どうなったんですか? 彼はいったい、どんな決断を……」 

 

「ツバキ君からの秘匿通信に、全てが書かれていたよ。彼に対して何もしてやることが出来なかったと、悔恨と自責の念に塗れたね……。

 欧州は、はっきりと言ってアラガミ事情は極東よりもぬるい場所だよ。だから年少のゴッドイーターの訓練が多くの場所で行われている。そこから各支部に新任が派遣されていく仕組みだね。

 遠征では最初は、そんな彼らの教導を行っていたそうだ。リョウタロウ君はそれはもう慕われていたそうだよ。まるで本当の兄弟のように」

 

「リョウらしいや……」

 

先の問答から引き摺っているらしい。

リョウタロウをリョウタロウであるとする言葉が漏れた。

 

「非公式とされたがね。欧州では強力なアラガミの出現頻度は低く、また同じ姿のアラガミであっても極東のそれよりもずっと非力だ。そんなアラガミを相手する内に、新任のゴッドイーター達は慢心を抱くようになる。

 これはどれだけ口で注意されても、訓練を受けても、どうにかなるものじゃない。人の心の隙さ。年少組もその例に漏れることはなかったらしい。そして、悲劇は起きた。

 引き際を誤り、全員が腕輪を破損させられた。腕輪の構成素材を好んで狙う偏食傾向を持ったアラガミがいたらしい……手遅れだったそうだ。そして、リョウタロウ君は神機を手にした。

 ブラスト銃身の特性を生かした旧型神機でも使える新機能、オラクルリザーブの概念は、そんな中で彼が編み出したらしい。追い詰められ、新たな力に目覚めたんだ」

 

「欧州からオラクルリザーブの新技術が送られてきたけれど、リョウが作り出したなんて……でも、じゃあリョウは!」

 

「奇跡は2度は起きなかった。そういうことだろう」

 

欧州でリョウタロウは地獄を見た。

それを榊は知っている。

説明を省いたが、本当はもっとずっと後ろ暗い事態に陥っていたらしい。

フェンリル本社による隠蔽、“ゴッドイーターチルドレン”への人体実験、リョウタロウ自身の判断ミス……挙げればキリが無い。

彼自身の口からも聞いた。

リョウタロウは再殺の最中、アラガミ化したゴッドイーターのうち、一人を逃がしてしまったという。

単純なミスであったかもしれないし、その一人が、リョウタロウが最も心を交わした教え子であったからかもしれない。

リョウタロウ自身にもわからないことだそうだ。

それについて榊は責めることはなかった。人の心は、行いは、単純なものではないのだから。

その後は、まさに悲劇の連鎖だった。

逃げた教え子が自我を失い、近隣の居住区を襲い始め、そしてリョウタロウが大事にしていた少女を食い殺した。

アラガミの腹の中から手紙が出て来た。リョウタロウはそう語った。そのアラガミが元は何であったかを言わずに。

大切な人が、大切な人を殺してしまった。

それも、自分のミスで。

やり切れなかっただろう。珍しく、榊の前で愚痴を零すくらいには。

そして、理解してもいたはずだ。

それがフェンリル本社によって仕組まれたものである可能性が高いということを。

かつて本社がソーマの“二人目”を作り出そうとしたように、リンドウの“サブ”を作り出そうとしたのだ。それをリョウタロウは察知していた。リンドウもまた。だからリンドウは動けなかった。代わりに、リョウタロウが動くしかなかった。

その地域に滞在していたゴッドイーターが年少組みばかりであったことも災いした。

リョウタロウは経験あるゴッドイーターとして、リンドウを押し退け、自分が臨時的に再殺部隊の任に就いたのだ。

初めからおかしな人事でもあった。

リンドウはソーマに次ぐ特殊な存在となった。それを欧州へ寄越せというのだ。警戒して当然である。

リョウタロウの再殺部隊就任も、現場判断による臨時的人事であるとされた、それもいやらしい謀だ。

つまりこの流れは、初めから仕組まれていたということだ。

 

「リョウタロウ君はその部隊員を全員殺処分し、そしてフェンリル本社に完全にマークされた」

 

「じゃあ、リョウだけこっちに戻ってきたのは……」

 

「私が強引にねじ込んだのさ。欧州ではリンドウ君が変わり身に……本来は彼が本命だったのだろうけれど。そしてツバキ君は事務方で現地で情報操作をし、その活動を支援し続けている。

 リョウタロウ君の足跡を消そうともしているらしいが、かばい切ることはできなかったようだ。欧州で彼の立てた功績が大きすぎた。正規のゴッドイーター同士の戦闘経験まで、彼は積んでしまったんだ。『アーサソール』、覚えているかい?」

 

「ガーランド・シックザール……前支部長の連れて来た部隊でしたよね」

 

ガーランド・シックザール。

ヨハネスの弟であり、ソーマの叔父である。

今でこそ前支部長といえばヨハネスを指すことがほとんどだが、本来はガーランドがそう呼ばれるべきである。

“いなかったこと”にされた、“前支部長”だ。

ガーランドが起こした事件については、ここでは語るのをよそう。

重要なのは、彼がその折りに引き連れてきた本部付きの部隊――――――『アーサソール』である。

その全てが新型使いで構成されており、強力な感応波を用いてアラガミを支配下に置く特殊能力を持った部隊だった。

 

「確か、感応波によってアラガミを支配して兵器化しようとした……アラガミに対する感応、能力? 感応種に似てる……?」

 

「気付いたようだね、リッカ君」

 

アーサソールらは『新世界統一計画』……その中枢に、最も強く優れたゴッドイーターであるリョウタロウを据えようとした事件を引き起こしたが、フェンリル本社からはガーランドによるテロリズムであるとして、無理矢理に事態を収束されたのは記憶に新しい。

似ている、とは思わないだろうか。

最近になって頻出する、感応種の持つ能力に。

リッカは気付いたようだ。顔面蒼白にして、喘ぐようにして口を開け閉めしている。

そう、本部直属の部隊であったアーサソールと、感応種は、非常に似た能力を有しているのだ。

 

「リョウタロウ君率いる再殺部隊も激化する戦いの中、一人減り、二人減り……皮肉なのが、最も多かった死因がアラガミ化であったことだ。その全てにリョウタロウ君は処置を施した。映像記録があるよ。観て見るかい? 後ろから引きずり倒して、首を掻き切る……」

 

「やめてください……! もうやめて!」

 

「そして、生き残った再殺部隊とアーサソールが衝突した。何があってそうなったかは、情報が錯綜していて定かではないが……そこは重要ではない。どうせでっち上げの理由しか出てこないだろう。

 “ゴッドイーターによる待遇改善を求めたクーデター”のニュース……最近多くなったね。リョウタロウ君の巻き込まれた事件もまた、クーデターとして処理された。

 ゴッドイーターによるクーデターなんて馬鹿げているね。彼らは首輪をはめられてるんだ。因子が尽きれば“人として死ぬしかない”。

 当然、クーデターは鎮圧するものさ……その中でゴッドイーターの死者が出ても、おかしくはない。

 情報操作だよ。ヨハネスが事故死したとされたのと同じようにね。

 その中で起きた真実は、伏せられてしまった。いったい、何が起きたか。 

 アラガミ化していない正規のゴッドイーター同士が、十全な機能を有する神機を振るい合い、殺し合い……生き残ったのはリョウタロウ君だった」

 

「リョウが、人を……!」

 

「アーサソールの目的は果たされた」

 

アーサソールは、かつて極東支部にて活動していた頃があった。

まだその部隊員が三人しかいなかった頃。リンドウが現役で隊長をしていた時代、まだアーサソールが正常に対接触禁忌種専門部隊として稼働していた頃の話しだ。

リョウタロウは、その部隊員と面識があった。接触禁忌種の討伐支援も行っていたというのだから、当時からリョウタロウの戦闘力は際立っていたことが伺える。

『ギース』、そして『マルグリット』……彼らもまた、フェンリル本社の陰謀の犠牲者だ。

リョウタロウが巻き込まれつつある――――――。

 

「アーサソールは本来、オラクル細胞を用いた技術による、人間の精神面への干渉技術を確立するためのモルモット部隊だった。同じく人間の精神に干渉する、強い捕喰場を持った接触禁忌種を専門に討伐することでデータを収集していたんだ。

 その目的は、ゴッドイーターを中枢に他の存在を支配する“王”を産み出すこと……人間の進化にあると言い換えてもいい」

 

「人の、進化……」

 

「彼にもたせたキグルミのジャミング機能が上手く作用したようだね。本社には未だ漏れていないことだが、リョウタロウ君はその時に捕喰したはずだ……神機を」

 

「神機による、神機の捕食!? そんな、まさか!」

 

「“スサノオ”という第一種接触禁忌種……神機使い殺し【ゴッドイーターキラー】というアラガミがいる。神機を好んで捕喰する偏食傾向を持つアラガミだ。なら神機だって、神機を捕喰できるはずだ」

 

「でも、偏食場が干渉しあって“共食い”は出来ないはずじゃ……!」

 

「それは神機を理解していなければ出ない言葉だね。流石だよ、リッカ君。無意識に神機はアラガミと近しい生態を持つと確信しているんだ……だが別の側面を忘れてはならない。アラガミは進化するということを」

 

「リョウの神機も、進化したというんですか? 新型のオラクル細胞は、所有者の脳に入り込んで、一部の神経細胞と結合して共存しているから……リョウ自身もそうなった、ってことですか?」

 

「さて……心が脳の作用だというのなら、神機が“混じった”脳は果たして人のそれと同じである言えるだろうか。その心は……」

 

新型機のオラクル細胞は、それを持つ者の脳神経に入り込み、神経細胞と結合し共存していることが判明している。

つまり、新型使いにも偏食場があり、お互いの偏食場が干渉し脳波が繋がってしまうことが感応現象の正体であるという。

本社の極秘データベースにある情報であるが、リッカは独力でその答えにたどり着いたのであろう。

人間の脳内で共存する存在。もはやそれを神機と称していいものかどうか、榊には解らなかった。

通常の新型使いであるならば、問題のないレベルなのかもしれない。

だが、リョウタロウ並みの適合率であった者にとっては、その限りではないのではないか。

人と神機の相互関係は、人が基点である。例えば、リョウタロウのような特別な脳によって『喚起』されたのならば、他の神機もまた進化を促され、相互進化の渦の中に入り込むかもしれない。

リンドウの神機をリョウタロウが用いた際、そこに人と同じ意思が宿っていたというのは、あながちリョウタロウの妄想ではないのかもしれない。

喚起されたのだ、と仮定するならば。

これは狙われるに足る理由だ。

多くの、そして様々な研究仮定が一瞬で脳裏に浮かぶ。

これが進化。

これが可能性なのだ。

なんと甘美なことか。

その輝きは、薄暗い場所に生きる者を強烈に惹き付ける。

 

「計器には、従来の神機であるとしか出てこないからね。だが私は、彼の持つ神機が新たなステージへと昇華したとしか思えないんだ。そして、彼もまた。

 この前本部へ出張した時に、リョウタロウ君のことを絶賛されたよ。裁判にかけられ処罰を受けることになったはずの北の賢者……アドルフィーネ・ビューラーからね。彼こそが“アルティメット・ゴッドイーター”だと」

 

沈黙が降りる。

踏み込んではならない、禁忌の領域へ入り込んでしまったと、本能が警鐘を鳴らしている。

爪先から底冷えのする冷気が、じわじわと総身を蝕んでいくのを感じる。

 

「狙われるのはリョウタロウ君だと、解っていたというのにね。だから“お守り”として、キグルミまで持たせたというのに……私はまるで進歩していない。また繰り返してしまった」

 

だが――――――榊は天を仰いだ。

 

「本人の希望と、極東に無くてはならない最高戦力であるとして留め置いてはいるが、それもいつまでもつか……。甘かったよ。欧州はフェンリル本社のお膝元だ。あそこでは常に陰謀が渦巻いている」

 

「そんな、じゃあリョウは、いつかフェンリル本社に連れ戻されて、生贄にされるってことですか!?」

 

「いいや、それはない。それだけは、絶対に、私がさせない」

 

断言する。

細い目が、眼球が露になるほど見開かれている。

榊の暗い、宇宙のような瞳を正面から見つめて、リッカは知らず息を呑んだ。

 

「ゴッドイーター同士の戦いでは、彼も無傷でとはいかなかった。立って歩いていることが奇跡なほどの傷を負った。アラガミとの戦いではないから記録には残らないが、とても大きな傷だよ、それは。体も、心も……彼は大きく傷付いた。

 そんな彼を、フェンリル本社の意向を無視してまで連れ帰ったのはなぜだと思う? リンドウ君とツバキ君の強い勧めがあったからだと? 違う。

 彼を守り、そしていずれ来るであろう、フェンリル本社との戦いに対抗する力を身に付けさせるためだ。

 それは孤独な戦いとなるだろう。全と一、大いなる存在とただの一人が戦うことになるだろう。仲間の力は必要だ。支えは必要だ。だが、最後は彼が一人で挑まなければならない。そんな戦いになるはずだ。

 あのまま欧州に置いておくことはできなかった。今のままでは――――――」

 

「リョウは、負けてしまう……!」

 

「私は彼を守り、そして鍛えなくてはならない。たとえそのために、彼自身が血を流すことになったとしても」

 

ヨハネスは悲観主義者【ペシミスト】であった。

ガーランドは利己主義者【エゴイスト】であった。

ならば私は、なんだろうか。

決まっている、理想主義者【イデアリスト】だ。ロマンチストと言い換えてもいい。

スターゲイザーなどと呼ばれてはいるが、何ということはない。

星を見て想いを馳せる、美しいものに身勝手な願いを寄せるしか能の無い人間なのだ、私は。

結局のところ、リョウタロウの現在の処遇は、榊による予測と理想の押し付けであった。

 

「榊博士……なぜそれを、私に聞かせてくれたんですか?」

 

「いずれ……私も、表舞台から退場させられるかもしれない。そうなった時、彼を支える人間が必要だ。技術を持った者が。君がそうであって欲しいと、そう願っているよ」

 

リッカはしばらくの間目を閉じて、静かに胸に手を当てていた。

瞳が開かれる。

その眼には、憂いと、悲しみと、そして同情の輝きが湛えられていた。

 

「その……榊博士のしていることは、納得は出来ても、同意はできません。私はやっぱり、リョウには負担をかけたくありません。でもそのまま欧州にいたら、酷い目にあっていたんだとしたら……これから先も、リョウの行く先が戦いの日々なのだとしたら……。

 私は、博士を信じたいと思います。榊博士はリョウを守ってくれたから。私は、神機整備士として、力の限り彼のサポートをするだけです」

 

「そうかね……ありがとう、リッカ君」

 

「いいえ……博士の想いは、きっとリョウも解っていると思います」

 

「そうだと、いいね」

 

彼女のような若人がいる限り、きっと人類の未来は明るいだろう。

その確信がある。

先頭に立つのは、きっと彼だ。

ロマンチストの面目躍如である。榊にはそのビジョンが見えていた。

 

「彼が極東にいる隙に、私も全力で事にあたろう。情報操作、隠蔽、なんでもするつもりだよ。本部の目を眩ませるために、架空の人事を行ってもいい。新しい戸籍も用意した。リッカ君には……」

 

「わかってます。引き続き、“第三世代”の調査分析を行います」

 

「頼んだよ。もし彼に適合する神機が見つかれば……さて、変異した脳によって、ニュートラルなはずの神機は進化の可能性を喚起されるか否か……そこではっきりとする」

 

暗い表情で退出するリッカを見送り、榊は再び物思いに耽る。

リッカも整備班の中枢を担うようになった。それなりの権限を持っている。こうして情報を明け渡せば、後は自分の裁量の許される中で、自発的に動いてくれることだろう。

さしあたっては、彼女の亡き父親が研究設計していたという支援機の開発を再開するのではないだろうか。先日の資材の申請は、一見した限りでは支援機のためのものであると思われる。

彼女もまた、リョウタロウを守り、支えることによって、彼が地獄へと突き進む背を押すことになるのだ。

地獄への道は善意で満ちているとは、誰が言った言葉だろうか。

リョウタロウが絶望に彩られた道を歩むと知っていながら。リッカは己の腕を振るう以外にはない。

 

「業……だね」

 

コンピュータのファンの音が室内に木霊する。

榊は静かに眼を閉じた。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

『こんな感じで、こっちは変わりなしだよ。そっちはどう? 一人で大変じゃない?』

 

――――――ありがとう、リッカ。特に困ったことはないかなあ。

 

『本当に? ネモスディアナって結構広いって聞くけど、どう?』

 

――――――そうだな、手が足りないってのは事実かな。まだ感応種は出て来てないけど、こうも広い土地じゃ、俺一人だとカバー出来なくなるかもしれないから。

 

『わかるよぉぉ!』

 

――――――うおおい?

 

『うんうん、わかるよぉぉ! 一人で広い土地をカバーするのは大変だよねえ。実は、広域支援のための試作機が組みあがったんだけど』

 

――――――え、いや、いいよ。

 

『遠慮しなくていいって! もうすぐ支援部隊が編成されるから、一緒に送るからね! それまでの辛抱だよ!」 

 

――――――いや、だから。

 

『わかるよぉぉ……うんうん、一人だと大変だよね……わかるよぉぉ』

 

それじゃあ頑張れリョウ、と元気の良いエコーを残して通信終わり。

全然わかってないよぉぉ。

あの子全然わかってないよぉぉ。

支援機とか送られてきても迷惑なだけなんですけど……。だってデータ採って送らなきゃいけないじゃん。使わないっていう選択肢ないじゃん。

技術職の想定と現場での実際の使用で食い違いが起きるのは宿命みたいなもんだけど。

なんかリッカの試作機とか新技術試すのって俺ばっかりのような気が。

気のせいでしょうかね、サツキさん。

 

「通信終わったなら機材返してくれません? 電気代だってタダじゃないんですけど?」

 

「もう、サツキったら! ごめんねリョウ君。この前からサツキ、拗ねちゃってて」

 

「はーん、ユノも彼の味方ですか。ふーん」

 

「も、もう! サツキ!」

 

――――――あ、ごめん。ラジオつけっぱなしにしちゃってた。電気代が……。

 

「別に冗談ですから、真に受けないでくださいよそんなの。それにしても、公共放送もいつも同じことしか言わないですよね」

 

「またゴッドイーターのクーデターだって……」

 

「それ、デマですよ。ゴッドイーターが待遇改善を求めてクーデターを起こしています。このニュース、最近とくに頻繁に流れてるんですけど、知ってます? フェンリルお得意の情報操作ですよ」

 

――――――ああ、隠蔽か。ゴッドイーターが何らかの大規模な事件に関わって死んだ時、それを誤魔化すためにそういうニュースがよく流れるらしいね。俺の時もあったから、わかるよ。

 

「俺の時……? あ、ちょっと!」

 

――――――さーてと、メールの確認、っと。

 

PDAオープン。

マイ・ベストフレンドソーマきゅんからのメールだ!

メールアドレスが俺とコウタとアリサくらいしか登録されていないソーマからのメールだ!

登録件数は俺の勝ちだな、ソーマよ。

基地の女性職員からの黄色い声援は間違いなくソーマが上ですけどね……。

ええと、なになに。

 

『送信者:ソーマ

 お前にメール送るのも久しぶりだな。

 こっちに帰ってきてたんなら一言くらいあってもいいんじゃねえか?』

 

『送信者:ソーマ

 また同じ部隊に配属されたな。これからもよろしく頼む。

 そっちでの任務が終わってからでいいから、アリサにでもメッセージを送ってやってくれ。

 自分から送れないとかなんとか、うるさいんだ。そろそろ俺も引く』

 

『送信者:ソーマ

 すまん。できるだけ早くたのむ。アリサがやばい』

 

『送信者:ソーマ

 アリサがたyとうw3l@32^「・おーーー』

 

『送信者:ソーマ

                      』

 

『送信者:ソーマ

 あいつ! ふっざけんな! ヘリをジャックしようとしやがった!』

 

『送信者:ソーマ

 お前、苦労してたんだな。臨時だが部隊長がこんな激務とはな……お前の後を継いだコウタもやつれていってるらしい。疲れが溜まる。体が重い』

 

『送信者:ソーマ

 アリ         たす        け      』

 

『送信者:ソーマ

 アリサと同じ任務地に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』

 

そっ閉じ。

いやあ俺も部隊長やってた時、ほんとしんどかったからね!

人間関係で。

部隊長だから周りとうまいことやらなきゃいけないっていうのに、社交性ゼロの奴らばっかりだったから。

その筆頭がソーマ、お前だったな。

ククク、お前も苦労するがいい……! 俺と同じ苦労を味わうがいい!

頑張れよ、ソーマ!

 

「リョウタロウさん? 何にやにやしてるんです?」

 

――――――いやあ、友達からのメールが来てて。

 

「えっ……あなたに友達とかいるんですか? 同じゴッドイーターの? そんなんで?」

 

「だ、だめだよサツキ! そんな事言ったら」

 

「いやでも、誰も付いていけないでしょこの人。ネモスディアナの端から端までダッシュとかしちゃうんですよ? そりゃ極東支部ほどじゃないですけど、どんだけ広いと思ってるんですか、ここ。私がトラック貸さなきゃどうしてたんだか」

 

「私は大丈夫だもん! ねっ、リョウ君」

 

その気遣いが痛いです。

なんかもういたたまれない。

俺、そんなに変なのかなあ。

 

「ほ、ほら、向こうで皆で遊ぼう? 子供たちも待ってるから、ね?」

 

この切ない思い、歌に込めて。

ようし皆、一緒に歌おうか!

 

「またあのわけわかんない踊りと歌を聞かされるハメになるんですね……」

 

――――――僕たちGE~あなた達にーついていく~。

今日も、運ぶ、闘う、守る、そして~食べられる~。

連れていかれて、闘わされて、食べられて~。

でも、私たち「愛してくれ」とは言わないよ~――――――。

 

「ちょっと! この前のことは謝りますから、その歌やめてくれません? 嫌味ですか!?」

 

――――――寝ずに考えたGE(ゴッドイーター)ソングが大不評だった件……泣きたい。

 

「ユノの顔がボーリング球みたいになってるんですけど!」

 

――――――わあ疲労度MAXみたいな顔。あるある、俺も資材調達のクルージングとか、レア掘り周回マラソンとか延々やらされた時にそんな顔になったなった。大丈夫大丈夫。ここからが本番だ。

 

「だから! あなたって人は! あぁぁもぉぉ!」

 

ガシガシと頭を掻くサツキさん。

おっぱいが揺れる揺れる、ヤッター!

ゴッドイーターやってて良かったァァ!

 

何かもう、こっちに呼び戻された時は陰謀かと思ったけど。

榊さんがまた何かたくらんでるのかと思ったけど。

これだけで俺は明日も明後日も戦えます!

 

いや、ホント榊さん、黒くない?

だって極東の支部長ってこう、毎回なんていうか、アレでしょ?

マッドサイエンティスト兼陰謀家でしょ?

ダブルシックザールに続いて榊さんも変な噂あるしさあ。得たいの知れないもの一杯作ってるとかって。

ソーマの産まれがどうとかの実験も、榊さんが作った因子とかが元で行われたんだし。

シオの扱いとかでも、支部内で堂々と陰謀めぐらせてたし……。

 

俺のキグルミもこれ危ない奴なんじゃないの?

赤い雨への防護機能があるって本当なの?

特務で雨中戦闘しろって言われてるから、雨じゃんじゃん降ってても気にせず神機様振り回してたけど、地味にこれ雨が染みてきてるし……。

本当に大丈夫なんですかね榊さん。

足のとことか雨がたまってたぽたぽになるんだけど榊さん。

肌触り悪すぎてやだもう。

ぐちょぐちょになって超不快。

 

いや、榊さん悪い人じゃないんだけどね。

でもこう、ね?

何か色々考えちゃうでしょ?

今までが今までだったから、ね? 警戒するのは仕方ないよね?

こちとら元小市民だったから! ね!?

 

ああーもう、やだなー、無駄な疑いとか持っちゃったりする自分が。

もう欧州行きたい。

あっちは陰謀とかと無縁だったからなー。

欧州はさぁ、アラガミの出現頻度とかもそんな高くないから、何かあったらその時だけ頑張って仕事したらよかったからなあ。

ナントカ計画とか、エイジス島とか何もなかったから、カルビーの板? とか何もなかったし。

頭からっぽにして戦ってたらそれでよかったし。

本社の思惑とか色々あったんだろうけど、極東ほどじゃないでしょ絶対。極東がおかしいんだって、絶対!

そりゃ酷い目にだってあったけど、そんなのどこだって同じでしょ。

どこもかしこも地獄なら、余計なこと考えないですむとこがいいよ。うん。

ああ、何も考えたくない。

何にも考えずに戦えたらなあ……。

 

なんていうかもう、ブラジャーのワイヤーになりたい。

サツキさんのおっぱいを支えるブラジャーのワイヤーになりたい。

俺、将来の夢はブラジャーになることなんだ。へへ……。

そしたら何も考えずにおっぱいのことだけ考えてたらいいしさ。

 

「あーもう、この人いったいなんなのよ、もう! 扱い難いったら!」

 

揺れるおっぱい。

まさか……ノーブラ、だと!?

 

「なんなんですか、こっちばっかり見て。ムカツクんならムカツクって言えばいいでしょ」

 

――――――自覚はあったんだ?

 

「はん。見てて苛立つんですよ、あなたたちゴッドイーターは。つらいんならつらいって言えばいいでしょうに」

 

――――――サツキさんは……。

 

「なんです? 最後まで言ってくださいよ、それとも何か言いづらいことでもあるんです?」

 

――――――いや、その……いい女ってのは、こういう人のことを言うんだなって。

 

「……はあ?」

 

――――――自分にあたればいいなんてさ、中々言えないよ、そんなこと。サツキさんの言ってることはさ、胸に溜めたもの全部受け止めてやるから、ドンと来いってことでしょ?

 

「あーらら、口説いてるんですか? 勘違いもはなはだしいったら。そういう男ってモテませんよ」

 

――――――ご、ごめんなさい。うん、モテないよね……うん……モテない……うん……知ってた。

 

「ユノの前で言う台詞じゃないでしょ、まったく……」

 

なんかいいなあ、こういうの。

うん、難しいことは考えたくないなあ。

命のやり取りしながら考え事しなきゃいけないなんて、ぞっとするよ。

こんな馬鹿な話ししながら、ちょこっと良い思いなんかしてさ。それで十分なんだよ。

もうホント苦手。

何か裏があるんじゃないのって勘繰るとかもう、ホント苦手。

なんぼしんどい目にあっても、ガチンコやってたほうがまだ気が楽だよ。

相手が人間だとかでもさ。それはそれでいいよ。

そんなの外壁育ちの俺からしてみれば、日常茶飯事チャメシインシデントなわけで。

食い物の奪い合いとかそりゃもうえげつなかったからなぁ。

刺した刺された。死んだ死なせた。殺した殺された……。

なんだかなあ。思い出すと嫌になる。

 

「リョウ君!」

 

おわあ、びっくりした!

わあ、ユノすごい顔してる。

あれ……なんかすごい泣きそうなんだけど、俺何かしちゃったっぽい?

あれか? ゴッドイーターの歌ver2がお気に召さなかったのか?

でもせっかく作ったんだし俺も披露したかったし。

音痴なのは許してお願い!

 

「うう、リョウ君……がんばったね。がんばったね……」

 

うわぁあああああいハグキターーーーー!

なんだかわかんないけどヤッターーーー!

ユノちゃんの薄い服おっぱいの感触ヤッターーーー!

極東じゃハグが流行ってるんだよねヤッターーーー!

 

「よしよし……リョウ君、がんばったね。よしよし……」

 

やっぱり極東サイコー!

よく考えたら欧州とかイイコト一個もなかった!

「何を考えてるのかわからない」とか「本心を隠してる」とか色々言われてたし!

なんか避けられてたし! 

何だかんだでこっちは友達もいるし!

俺もう一生極東にいるぜうひょおおおおおう!

 

俺を極東に戻してくれた榊さんは超サイコー!

陰謀とかないナイ!

極東はクリーンな職場です!

ありがとう榊さん!

 

「リョウ君の体……傷だらけ……こんなに、いっぱい」

 

――――――いやあ、体の傷はさ、ほら俺、ゴッドイーターだから。すぐ治っちゃうんだ。

 

「でも、痛かったでしょう?」

 

――――――でも、もう痛くないよ。痛くない。痛くないんだ。

 

「リョウ君……!」

 

「まったく、なんでこんな人がゴッドイーターなんかになっちゃったんでしょうねー……似合わないでしょ、ゴッドイーターなんて。ふん」

 

密着ヤッター!

 

「あーあー、子供たちまで……お団子になっちゃってもう。お気楽なことで」

 

私も僕もと子供たちまで!

ぎゅうぎゅうにくっついてユノとの密着度がさらにドン!

女神の森は……楽園はここにあったんや!

 

「ほーんと、能天気に笑っちゃってるんだから、もう……」

 

どこの世界でも、国でも、きっと子供たちは純粋だと思う。

子供たちが笑っていられるなら、それが全部だと思う。

世界はまだ、きっと、大丈夫。

子供が笑って暮らせるような、幸せに溢れてる。

だから俺は、それを守るよ。

ゴッドイーターなんかになっちゃったけど、本当は戦いたくなんかないけど、でもやるよ。

俺はやるよ。

こうやって、お兄ちゃんお兄ちゃんって、慕ってくれる子供たちを守るよ。

世界の守護者とは名乗れないけれど、子供の味方には、なりたいなって思ってる。

みんなで歌をうたって、手を叩いて、踊って……そんなちっぽけな幸せを守るためなら、俺は血を流してもいいって、そう思える。

戦うよ。

俺は、戦い続ける。

この小さな幸せを守るために。

 

幸せなんかすぐ壊れて消えるって、知ってるのにね。

 

 

 




詰め込み回でした。
公式漫画、小説、その他もろもろを、GE1主を軸に繋げてみた結果こんな感じに。
アメリカ支部の活躍を描いた漫画もちょっと避けていたんですが、この機会にと購入。
結果……ぐぬぬ、お、面白いじゃないか!
でもなんで山のようにでかくても、アイアンメイデンに正面から近付いていくんだろう。
1主なら……1主ならきっと瞬殺してくれる……!
こんな風に思いながら読んでました。

以下今回のまとめです。

Q.なんで欧州から主人公だけが戻ってきてるん?
A.ゴルゴm……榊さんのしわざだ!!

色々と調べてみたところ、榊さんがガチの天才だったでござる。
ゴッドイーターとかアラガミ防壁とか、人類の最終防衛線はこの人の頭で保たれてるようなものだった。
人の絶滅防いだ本物の英雄は榊さんで間違いないと思います。
しかも理論尽くの頭でっかちかと思いきや、本人は勘頼りのえらいファジーな柔軟脳でしたし。
こんなこともあろうかと!を実際やってくるとか手に負えないなこの人!

同じ支部内で自由奔放なシオを匿うとか、プレイヤー目線でみるとシュールですが、榊さんは普通にやれちゃうんだなあと。
アラガミ化して戻ったリンドウさんが、極東最高戦力と一緒にフェンリル本社のある欧州に遠征行かされてるって、これも絶対なにかあるはず……。
本部のお膝元とかインボウされ放題でしょうし、リンドウさんの一件は隠しようがないから確実にマークもされてるかと。
うーん、榊さんの決定なわけだから、色々裏があるんじゃって考えちゃうなあ。
悪い意味の裏じゃないから安心だけどね!
ただシックザール夫妻の事件やシオ脱走、漫画版での失態など、裏目に出るという意味での裏の可能性は大いにあるわけで。

しかし人類の叡智の結晶、誰も追いつけない領域にいるくらいの神域に足つっこんだ頭脳を持ってる榊さんが支部長してるとか、逆に考えると極東怖い。
榊さんがいないと極東はもたないってことだから……。
知と武の両方で世界最高レベルの者がいないと崩壊する職場、それが極東ですねわかります怖い。
本部に連れ戻されて然りのはずなのに、たぶん黒い腹芸とか一杯して極東にしがみ付いてるんだろうなあ。

同じアラガミであっても、地域によって中身は段違いだそうなので。
その他地域<欧州<<<<極東
(下位<上位<<<<G級 ※モンハン的尺度)
なんでしょうねきっと。
ベテランゴッドイーターの死亡率とかぶっとんでるんだろうなあ。
しかも赤い雨じゃんじゃん降ってるし、極東って関東だから多雨地域じゃん。

あれっ、もしかしなくても普通に暮らそうとするだけで難易度エクストリーム?
極東は本当に地獄だぜフゥハハー!


※なんかもうロミオがショックすぎて立ち直れないので、当SS主人公をいっぱい酷い目にあわせていじめます。
試練があってもいいよね?

※2
おおっと・・・なんだか反響が大きかった・・・・・・!
それだけ愛していただける方がいるのだと嬉しい半分、気をつけて書いていかなければとプレッシャー半分。
上記の※1は本文シリアスだった分の場を和ませたい作者ジョークだったのですが、皆様にとって「シャレになってねえんだよ!」だったようで・・・・・・ごめんなさい
上のものは消さずにおいておきます。
なぜなら。

どんなに傷付いても、苦しんでも、不幸や理不尽が襲い掛かってきたとしても。
それでも立ち上がり、歯を食いしばって
誰かを恨むのでもなく、憎むのでもなく
敵を倒すために戦うのでもなく、生き残るために戦うのでもなうく
人は、自分は、負けてはいないのだと
大丈夫だ、と何でもない風に笑って言ってしまえる
それがGE1主であると、私は信じているから。

意味なく酷い目にあう。
それは理不尽というものです。
人の汚さと世界の厳しさが渦巻くGE世界では、当然のように理不尽が闊歩しているのでしょう。
そして理不尽を与えるのは、私となります。

作品や主人公ではなく、『私』にヘイトが集まったこと、とても嬉しく思います。
当SSを書いていて、また後書も正直狙った部分がありますが、私を憎んで頂きたかったからです。
なぜならこれは勘違い系SSだからです。
真に勘違させられていたのは皆様、ということです。
そして私を憎んでいただけたら、そこがスタートであると。

なぜなら、きっと今、皆様はGE世界に生きる人々と同じ気持ちとなっているはずだからです。
あの世界に生きるゴッドイーター達の気持ちと。
理不尽を、それを与える存在に、負けてなるものか、という。

きっと彼なら、残酷な運命になど負けはしない
どんな理不尽が立ち塞がったとしても。悲劇に塗れたとしても。
そう想って頂けたら、これ以上のものはありません。
きっとまた、立ち上がれる力は残っているのだから。

皆様も同じ想いを抱いているのだと、そう信じています


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ごっどいーたー:8噛

レイジバースト……だと……!?


答えは出ている。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

――――――ところでこれを見て欲しい。こいつをどう思う?

 

「すごく……大きいですね、それ。サイズ合ってないんじゃないですか?」

 

――――――いやあ、こうやってベルトで締めればいけるし。どう? どう?

 

「ふふ、リョウ君にすごく似合ってるね」

 

――――――そう? そう思う? やっぱそう思っちゃう? いやー! 俺も! 俺も、実はそう思ってたんだよねー! たっはー! 似合ってるかー! たっはー!

 

「はいはい。ま、フェンリルの制服よりも、麦わら帽かぶってるほうがあなたにはお似合いですよ」

 

――――――いいよね! 農作業スタイルって!

 

「ねえ、リョウ君。今日は何をするの?」

 

――――――よく聞いてくれましたマイ助手ユノ君。さあ、次にこれを見てくれ!

 

「えと、はい先生。これ、幼木ですよね? 今日は植林作業をするんですか?」

 

――――――そう、でもただの細っこい木じゃない。なんとこれ、リンゴの木なのです!

 

「わああ! これ全部、リンゴの木なの?」

 

やっべ気持ちいい。超気持ちイイ。ちょー気持ティー。

すごいすごいと手を叩くユノちゃんのリアクションに、鼻がのびるのびる。

この子知ってるわー男の喜ばせ方知ってるわー魔性の女になるわー。

大量のfc(フェンリルクレジット)はたいて購入したかいがありましたわ。

ヒバリさんに搾取されながらもコツコツとためたヘソクリが吹っ飛んだけど、俺は後悔していない。

見よ、このリンゴの苗木を。

バイオ栽培されたものだけど、その分強く根を張る、お手入れ簡単の品種を選んだのだ。

俺のポケットマネーと引き換えに。

ランク10の武器よりお高いとかどうにかしてると思ったけど、俺は後悔していない。

手が滑って桁をひとつ間違えちゃったけど、後悔してなどいない。

してないったらしてないんだい。

 

「ああ、なるほど。考えましたね」

 

「サツキ? えと、何かわかったの?」

 

「この人、子供たちにこれ、リンゴの木を植えさせるつもりなんですよ。確かリンゴは、実をつけるまで5年はかかるはず。

 あの子たちが大人になる頃、色々使えるでしょうね。親をなくし、扱い難さに捨てられて、鼻つまみ者になってしまった子供たち。でも実利があれば、受け入れられますからね」

 

お、おう!

え、いや、そこまで考えては……。

俺、リンゴって食べたことなくて、その……。

先行投資っていうか、その。

女神の森にきたんだし、せっかくだから俺も植林作業とかやってみたいなーって。

だったら食べれるものがいいかなって、その。

 

「わあ……! リョウ君はやっぱりすごいなあ」

 

いや計算通りだ。

俺の計算はすごい。なんていうかもう、すごい。すごすぎる。

これは未来への投資なんだ!

リンゴっていいよな。

赤くて、まあるくて……こう、おっぱいを思い浮かべるような造詣をしてるし。

きっと食べると甘くておいしいんだろうし。

ほら、たしか歌とか詩とかにもリンゴをモチーフにしたのいっぱいあるし。

リンゴの詩とか俺もう大好き。

落ちたっていいじゃない、リンゴだもの……これニュートンさんの詩だっけ?

とにかくリンゴ最高!

植えようぜ、みんな!

 

「きゃっ、こーら、みんな押さないの!」

 

「ええい、ガキんちょども、さわんなさわんな! ほら、順番だから!」

 

ああーいいよーこれいいよおぉ!

子供たちにもみくちゃにされる美女二人……最高の画だと思います!

ツンデレサツキさんはグラマー最高だし。

意外とノリの良いユノちゃんは可愛くて最高だし。

農作業スタイル超似合ってる俺も最高。

植林とか、たぶんこういうの、ネモス・ディアナしか出来ないからなあ。

いやー、これもゴッドイーターやっててよかったーって思う一瞬だよ。

 

この前アラガミと戦ったときに森の一角吹き飛ばしちゃったから、弁償的な意味でやたら高いリンゴの木を植林しようって考えたのは、うん、正解だったな。

ナチ総統すごい目がピクピクしてたもん。あれぜったい切れてたもん。

「私は怒ってなどいない。私を怒らせたらたいしたものだ」とか言ってたけど、切れてるんですかって聞いたらピクピクしてたもん。あれ絶対切れてたもん。

 

でも、久しぶりに会ったなあ、ナチ総統……いや、ナチ現場監督。

俺がまだその日暮らしのバイトばっかりしてた子供の頃、ここで働いた時にお世話になったんだよね。

世間って思ったより狭かったんだなあ。

「まさか君が生きていて、ゴッドイーターなんぞになっていたとはな」って、ナチ総統も驚いてたもんなあ。

こっちもまさか、あのキツイけど色々親切にしてくれた親方が、総統になってるなんて思ってもみなかった。

覚えててくれたんだって、ちょっと嬉しくなったよ。

あの時も大変だったなあ。オウガテイルの群が押し寄せてきたから、俺がトラックに資材山盛りにして囮になって、ここから引き離したんだっけ。

意外と逃げ切れちゃったもんだから、この資材どうしよってなって、よし着服し……有効利用しようってなって。夢の我が家を建てることができたんだなあ。懐かしい。

でも罪悪感もあったから、ここに戻るに戻れなくて、それっきりだったんだよな。

貴重な重機を初運転でオシャカにしちゃったからってのもあります。ハイ。

 

「んー」

 

どしたの、ユノちゃん。

 

「えへへ」

 

ああああんもおおおお!

かーわーいーいー! かーわーいーいー!

 

「リョウ君と父さんが知り合いだったなんて。なんだか不思議」

 

「ほんとですよ。あなた、ゴッドイーターになる前は何してたんですか?」

 

えっと、確か。

極東で両親がアラガミに喰われてから……えーっと、何だったかな。

外国にあるフェンリルの養護施設? に入れられるって、ヘリに乗せられて。

なんやかんやで海外であったドンパチに巻き込まれて。

ああ、そういえばそこで核の炉心が爆発した瞬間も見たな。チカッと光ってきれいだったなあ。次の瞬間に爆風で吹っ飛んでそれどころじゃなかったけど。

あの時、ソーマとかツバキさんが現場にいて戦ってたんだっけ。

あとリンドウさんも。

 

「え、嘘でしょ? それって、旧人類文明最後の反攻作戦のこと……? その場に居合わせたって、はあ!?」

 

アラガミが核爆発を捕食しなけりゃ死んでたなあ。

放射線も危なかっただろうし、いやそれだけはアラガミのおかげかも。

ハッハッハ。

 

「いや、ハッハッハじゃないでしょ!」

 

でもほら、こうやって生きてピンピンしてるし。

ラッキーラッキー。

 

「そういうことじゃ! ないでしょ! あぁぁもぉぉぉ!」

 

その後はユーラシア大陸が子供一人で暮らせるような場所じゃなくなっちゃったから、命からがら密航繰り返して極東に逆戻り。

生きる術を色んな人から教えてもらって、その日暮らしの始まりさ。

そしてゴッドイーターになったに至る、と。

 

「絶対途中すっとばしてるでしょ、それ! ここ建造する時にアラガミの大群相手に大立ち回りした子供がいたって、ナチ叔父さんから聞いてはいたけど……波乱万丈ってレベルじゃないでしょもう!」

 

「でもほらサツキ、リョウ君だから。しょうがないよ?」

 

「ああもう、なんだかそれで納得できる自分が憎い……」

 

「毎回気付いたら事件の中心にいたりして」

 

「毎回人助けとかしちゃったりしてたんでしょうね」

 

「リョウ君だからね」

 

「リョウタロウさんですからねえ」

 

えっ、何その生暖かい目。

待って、お願い待って。

絶対二人とも何か勘違いしてるって!

俺、巻き込まれただけだからね?

確かに事件とか事故とか、両手と足の指を足しても足りないくらいに遭遇してるけど、でも巻き込まれただけだからね?

はいはい、って何でそんなリアクションするし!?

待って絶対勘違いしてるってば。毎回ひーこら言いながら情けなく逃げてたんだって!

何そのヒーローみたいな奴!

あぁぁ……俺じゃんかぁ……。なんか成り行きでそうなってただけなのに……。

でもホント、中身こんなだからね?

だって、俺だよ?

リョウタロウだよ?

開けてびっくりがっかりの、リョウタロウクオリティだよ?

 

「よーっし! みんな、リンゴの木を植えよー!」

 

「はいはい、まあ、私もヒマですし、手伝ってあげますよっと」

 

ぐぬぬ……納得いかない。

盛大にスルーされたし……。

 

「ほんと、似合ってますよあなたには。血まみれよりも、土まみれのほうがらしいでしょ」

 

うん。

やっぱり、サツキさんはいい女だなあ。

極東にはいい女が多すぎて困るよ。

男なんてかたなしだし、俺なんてもう、まぶしくて自分が恥かしくなっちゃうくらいだ。

こんないい女の横に並べるくらいに、カッコイイ男になりたいなあ。

あーあ、まだまだだなあ、俺。

まだまだ、だよ、うん。

だって、こんな無駄なことしたって、意味なんてないんじゃないかって、気を抜くとすぐそう思っちゃうから。

 

“おじさん”……やっぱり、俺はまだまだみたいです。

まだ俺は、あなたの言う“ゴッドイーター”にはなれそうにない。

あなたが救った鼻たれの泣き虫が、今じゃゴッドイーターだ。何があるかわからんし、生きてみるもんだと言ったあなたの言葉は正しかった。本当に何があるかわからないものです。

ゴッドイーターなんて俺がやっていけるわけないと思っていたけど、どうにかこうにか、しがみついていますよ。

でもあなたみたいなゴッドイーターには、どうしてもなれそうにありません。

「ゴッドイーターは人の盾であり剣なんだからよ、誰かに顔向けできんような顔でいちゃあ駄目だ。どんなことがあっても、笑ってなきゃな」……なんて。

命の価値は平等だけど、命の重さは誰もが同じだなんて、俺はどうしても思えませんでした。

どうしようもないやつだっています。そんな助けたくもないやつを、命をかけて守らなきゃいけない。部下に守って死ねと命じなくてはいけない。

つらいです。どうしようもなく。

ただ戦っていればいいだけの時は、もう過ぎてしまった。

知らぬ振りを続けるのも限界です。知ってはいけないこと、知りたくもないことばかり目にしてしまった。

おじさん、今、とてもあなたに会いたいです。

アナグラを出て、今でも誰かのために働き続けるあなたに。

あなたはどうして、そんなに傷付いても、笑っていられたんですか。

人に石を投げられ、唾を吐きかけられても……どうして。

最初期のピストル型神機で、スサノオを退けたあなたの姿は、子供の眼には眩しすぎた。

だいじょうぶか、と笑って振り向いたあなたの姿が今でも忘れられない。

腕が……ゴッドイーターを続けられないくらいに傷を負ったというのに、その原因を作った馬鹿な子供に、笑いかけてくれたのはなぜなんですか。

怖くて、怖くて、俺はゴッドイーターになんかなれないと思ったけど。あなたのように、なんでもないさと笑える男になりたいと、思っていたのに。

あなたのような本物のゴッドイーターには、俺はなれない。

 

ああ……今日もまた、いやな天気だ。

曇っているのか、晴れているのか、よくわからない曖昧な天気。

俺みたいな――――――。

 

「リョウ君? どうしたの?」

 

――――――ごめんごめん、すぐ行くから。なんでもないよ。

 

「ちょっと、サボらないでくださいよ。あなたが言い出したんでしょ。あーもう、手がドロドロ……あなただけ軍手とかしちゃって、ずるいですよ」

 

――――――あわわ、ごめんなさい。どうぞ。

 

「これ、最初に気配りできるかどうかが、男の真価ですよねー」

 

「もうサツキったら……わぷ!」

 

――――――ユノにも軍手と、はい、これ。

 

「わ……麦わら帽子!」

 

「ん、よろしい。それでいいんですよ、それで」

 

――――――ちょっとはカッコイイって、思ってくれたり?

 

「何言ってるんだか……でもまあ、私が見た中じゃ、そこそこいい線いってるんじゃないですかね? こんな世界で、明日のために何かを残そうだなんて、普通考えられませんから」

 

――――――明日の、ために。

 

「リンゴですよ、リンゴの木。実が成るまで時間かかるってこと、知ってたでしょ。あなたはあの子たちがこれから先、リンゴの実が成るまで自分達だけで生きていけると信じてたから、そんなチョイスをしたんでしょ」

 

――――――そっか、そうなの、かな。

 

「呆れた、無意識ですか。悩んだ顔しちゃって、自分のことなのに自分が一番よくわかってないんですね。答えなんて考えなくったってね、あなたみたいな人は最初からもってるんですよ、そんなの。ここに聞けばいいでしょ、ここに」

 

言って、サツキさんは俺の胸をトンと指で突く。

胸の奥まで響く痛みは、サツキさんの細く長く伸びた爪のせいではない。

 

――――――答えは、あるのかな。

 

「さあ? いっちょ前に悩んだって無駄ですよ。どうせあなたはもう、解ってるはずですし。苛立つだけですからいつもみたいに能天気でいたらいいんですよ。あなたは」

 

「サツキは相変わらずけなしてるのか元気付けようとしてるのか、わかんないなあ」

 

「ムカついてるだけですよーだ」

 

「ね、リョウ君。嬉しいんだよ、サツキは。ほら、自分にあたってほしいって、この前……」

 

「そこ! こそこそ話ししない!」

 

「ふふ、サツキもよっぽどリョウ君のことが気に入ったんだね。こんなに誰かに肩入れするサツキ、初めて見たもの」

 

「ちょっと、私だけにやらせないでくださいよ! サボってないで、二人ともはやくこっちにきなさい!」

 

――――――もう、俺は、答えを……なんだろう、わかんないや。わかんなくなったな……。

 

考えてもしかたがないことなのかもしれない。

サツキさんが言うのなら、そうだと信じよう。

きっと……選択の時がこなければ、その瞬間がこなければ、わからないことだから。

とりあえず。

今日は、植林作業に勤しもう。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

その日は朝から曇天だった。

積乱雲というのは、海からくる暖かく湿った空気が、上昇気流によって堆積した末に起きる現象である。

ネモス・ディアナに限らず、極東地区はかつて関東とよばれた地域にある。北には山脈、南には海。多雨多湿であり、積乱雲が発生しやすい条件が整った地域でもあった。

ただ、空を覆う雲が全て赤い雨を降らすわけではない。

朱色の雨であるのだから、それを含む雲もまた、当然のように血の色をしている。

赤い雨を降らす、赤い雲――――――『赤乱雲』である。

空を見上げれば、天には雲。

積乱雲状に積みあがった分厚い雲ではあったが、色は白。

まばらに空は晴れ、青を覗かせていた。

 

「先輩、空、青いですし、雲も赤くないッスね。ここ数日このままですし、今日も大丈夫ッスかね」

 

――――――何があるかわからないから、油断しないように。装備点検。フォーマンセルで出撃用意。レインコートは各自準備。いいね。

 

「ウッス! 今日も部隊引率お願いしまッス先輩!」

 

先輩、と呼ばれ、リョウタロウは神機の保護ケースから手を離し振り向いた。

ゴッドイーターの先達を、階級に関係なく「先輩」と呼ぶのが極東の流儀である。

討伐スコアの差はあれど、ここでは命を掛けて戦ったその時間を評価されるのだ。

旧日本の文化、年功序列というものを引き摺っているらしいが、リョウタロウは良い名残りであると思っている。

ゴッドイーターの評価の全ては、その身を捧げた年月に尽きる。

浮き足だった新人に、視線で釘を刺す。

バンダナを着けた年若いゴッドイーターは、「わかってますって」と肩を竦めた。

 

「そいや先輩、今日はアレ、どうしたんスか? 先輩のトレードマーク」

 

――――――ああ、キグルミね。オーバーホールに出したんだ。データのフィードバックも必要だとかで、一度こっちに送ってくれって、リッカがさ。

 

「リッカさんッスか。そんで代わりに送られてきたのが、このデッカイ機械、と。いやあ、愛されてるッスねえ」

 

――――――本当にそう思うか……? 俺と替わってくれない? いや、マジで。

 

「い、いやあ、ははは……でも今までは先輩一人に任せきりだったんスから、俺達にも働かせてくださいよ。ね!」

 

茶化してはいるが、その様子には気が抜けたような態度は一切ない。

瞳はギラギラとして獣の輝きを灯しており、歴戦の戦士である貫禄を醸していた。

これが、極東のゴッドイーターである。

心強い味方であった。

ようやく極東支部のシフトが整い、ゴッドイーター達の派遣体勢が組まれたのであった。

リョウタロウと合流し、未だ一週間程しか経っていないものの、何年もバディを組んだかのようなチームワークをアラガミとの戦いにて発揮している。

他国よりも圧倒的に強い固体を相手取らねばならない極東のゴッドイーター達は、短時間で戦士として熟成されるのだ。

それが良いか悪いかは、必要であるという理由に駆られ誰も考えられぬまま。

 

「また今日もちまっこいの相手ッスかねえ。噂の感応種っていうの、俺まだ見たことないんスよ」

 

ここ連日、小型のアラガミの襲撃が立て続けに起きていた。

小型といえど、アラガミは脅威だ。それも、防護壁を狙った、これまでにない偏食傾向を持っていた。

見た目はただのザイゴート、オウガテイルにしか見えずとも、やはり地域によって個体差があるのだろう。

榊から伝え聞いていたシユウ感応種の姿は、ここに派遣されてはや数ヶ月、リョウタロウも未だ目にしてはいなかった。

拍子抜け、というのが正直な感想である。

そんな時がまた一番危ないのだということなど、この場にいる全てのゴッドイーターは承知していることだった。

油断はない。

だが、承知していたとしても、避けえぬ事態がある。

想定外の事態とは、想定外であるが故に起き得るのだから。

 

「観測機のチェック……クリア。赤乱雲の反応なしッス。目視にも赤は確認できませんッス。問題なしッスねえ」

 

――――――望遠レンズ! 映像確認! 雲の隙間に何かいるぞ!

 

「え……あ、アラガミ反応!」

 

リョウタロウの怒声に遅れ、アラガミの反応を知らせる警戒音が観測機から鳴り響く。

モニターに移されたのは、空を滑空する数匹のアラガミ。

シユウの飛行編隊だ。

 

「シユウが群を作るなんて……いや、これは、シユウじゃない!」

 

シユウの群、その先頭を滑るように飛んでいるアラガミは、既存データに無いオラクル反応を示していると観測機が吐き出す。

そのアラガミは、妖艶な女の姿をしていた。

口元にはたおやかな笑みを携えて、翠色の羽毛に覆われた両羽に風を孕ませ、矢のように堕ちて来る。

 

「新種……新種だ!」

 

人面鳥身の、『新種』、である。

 

「先輩ッ!!」

 

リョウタロウは新種の姿を目視するや否や、アラガミ防壁の壁面の突起を足がかりに、壁を垂直に駆け上がった。

先手必勝の理である。防壁の縁に立ち、跳躍。身を空へと踊らせる。

新種へと振るわれる刃。

防護ケースを払われ、牙を剥いた神機が唸り声を上げる。

 

――――――神機が……! 感応種かァッ!

 

不自然な格好で、糸が切れた人形のように墜落したのは、しかしリョウタロウだった。

壁を蹴り勢いを削ぐも、廃材を薙ぎ倒しながら土に身体を打ち付けた。

あれは、ただの新種ではない。

赤い雨を浴び、凶暴化し、最も危険な進化を遂げた新種……『感応種』だ。

そして、それは“シユウ変異種”として報告されていた感応種でもなかった。

 

リョウタロウ達が認識していたシユウ感応種は、通常のシユウの背中に、触手状の器官が生えたものである。

接触距離にまで到達すると、口器から周囲のオラクル細胞に何らかの影響を及ぼす偏食場もしくは感応波を発生させる、と報告があがっていた。

対処法方としては、認識外からの遠距離射撃、あるいは感応波を発生させる前に近接攻撃にて叩く。この二通りである。

 

感応種は周囲のアラガミを統率し、凶暴化させる能力を有していた。

神機もまた、オラクル細胞の塊……人造のアラガミである。

リョウタロウの神機は、感応種の能力により制御不能に陥ったのだ。

だが、それはこれまでの報告にはありえないほどの距離、そして強度である。

リョウタロウほどの適合率を持つゴッドイーターが、一瞬の抵抗も出来ずただ墜とされるなどと。

ソーマとアリサがネモス・ディアナで交戦したシユウ変異種には、近接距離での能力圏しか確認されていないはずだというのに。

新種の美しい唇から、人間の耳には聞こえぬ音の波が迸る。

 

「そんな……嘘だろ!? この距離で神機が!?」

 

「こんなの報告にない!」

 

「まさか……進化したっていうの!? こんな短期間に!?」

 

考えられることはただ一つ。

シユウ変異種が進化した……すなわち、“感応種として完成した”のだ。

影響強度、範囲……全てがシユウ変異種とは桁違いだ。

それは後に、蠱惑の妖婦――――――『イェン・ツィー』と名付けられるアラガミである。

 

感応種の能力圏内に捕らわれた旧型、新型おりまぜたゴッドイーター達の部隊は、狙い撃ちにせんとして構えていた銃口を地面に擦りつけ、歯噛みするのみ。

神機は重さにして20キログラム程度である。ゴッドイーターの腕力であるならば、枯れ枝のように振り回すことが出来るはずだ。

だが、重い。

神機が、まるで地面に縫い付けられたように、鉛のように、重く感じる。

これは神機とゴッドイーターとが、その制御に神経接続が行われていることに起因する。

神機の変型やオラクル制御を、ゴッドイーターは自らの神経を通し、脳からの命令によって行っている。

ここに神機のオラクル細胞を直接操作されたのだとしたら、神経系を丸ごと遮断されたに等しいこととなる。

筋力でどうこうとなる問題ではないのだ。

唖然とするゴッドイーター達の頭上を、シユウの編隊が素通りしていく。

何の抵抗も許されず、侵入された――――――。

 

――――――小型種が来るぞ! 迎撃態勢!

 

瞬間、防壁が地鳴りを上げて揺らぐ。

オウガテイルの群が……否、こちらも新種だ。

翠色のオウガテイル達が、防壁に喰らい付いていた。

感応種の能力圏内から脱したのか、神機が回復する。

しかしそれは同時に、感応種がネモス・ディアナの中心区へと進撃したことを示している。

 

――――――近接部隊はオウガテイル種の迎撃! 銃撃部隊は俺について影響範囲外から狙撃、をォッ……!

 

言いかけ、リョウタロウは身を翻した。

全身を捻り切る程の必死さに、部隊員達は一瞬、目を白黒とさせる。

 

――――――総員退避! 退避ーーーーッ!

 

しかしすぐにその理由を“身に染みて”理解した。

 

「冷たっ……え、何これ」

 

「雨……赤い……!?」

 

「え、嘘……嘘でしょお!? 嫌ァ!」

 

「赤い雨だ……赤い雨が降ってきたぞ!」

 

ぽつぽつと、地面に跳ね返る雨音。

雨だ――――――赤い、雨が降ってくる。

馬鹿な。リョウタロウは天を睨んだ。

今も空は青が覗いている。

雲は白い……否。風に流された雲の“中”から、赤い雲が顔を覗かせていた。

積乱雲の中核に、赤い雲が内蔵されていたのだ。

罠だ。これは、自然が仕掛けた罠である。

雲が風に流され、横に長く削られて状態が不安定となり、雨粒だけが乗って飛んでくるという現象……天気雨だ。

地球が今、リョウタロウ達に牙を剥いたのである。

 

――――――全員雨天装備着用ォ! チィィッ……!

 

一気に雨音が強くなっていく。

逃げ惑うゴッドイーター達が、一人、また一人と足を止めた。

雨に全身が濡れていた。己の命運が尽きたことを、悟ったからだった。

リョウタロウは家屋の軒先へと飛び込んだ。だが、墜ち来る雨粒の方が早い。

この一滴が、致死性の毒である。

赤い雨が、リョウタロウの命を奪わんと死神の鎌の如く襲い掛かる。

 

「うおおおッ! セーフ!」

 

しかし、雨が頬を濡らすよりも早く、影がリョウタロウを庇うように覆っていた。

それは出撃前にリョウタロウと談話をしていた、年若いバンダナを巻いたゴッドイーターだった。

流血したように、顔面を赤い雨で真っ赤に濡らした――――――。

 

「すんません、俺達もう、手遅れみたいッス。神機はギリギリ動くんで、ここは俺達にまかせて、先に行ってください」

 

――――――お前達……!

 

「大丈夫ですって! そんなすぐには死にませんから! 雨で死んじゃうけど……でも、どうせ死ぬなら俺、ゴッドイーターとして、俺! くそっ、足が、震え、くそっ、震えるなよ、くそっ!」

 

――――――すぐに戻って検査を……!

 

「うるせえんスよ! ここは俺達の死線だ! あんたじゃない! あんたもゴッドイーターなら、行けよ! 行くんだよ! 行けええええッ!」

 

――――――すまん!

 

「いいんスよ、それで……みんな、走ってく先輩の後姿に、憧れてたんスから――――――」

 

リョウタロウはバックパックから赤い雨対策が施されたレインコートを着用すると、移送用のカーゴトラックへと走る。

背後に聞こえる戦闘音に耐えながら。

空を旋回する新種達へと、リョウタロウはトラックのハンドルを切った。

新種達が地上に降りようとしないのは、獲物を見定めているからだ。

ハンドルを叩く。天を睨むリョウタロウの奥歯が、ギリリと鳴った。

 

――――――二手に別れた……!

 

シユウの編隊が、二手に別れ飛んでいく。

感応種一体と、通常のシユウの群それぞれに。

シユウ通常種は居住区へ。

各々が偏食傾向を持つのがアラガミであるが、しかし共通するところが、人間を喰うという点である。

アラガミの食性からして、人の多くいる場所へと集まることは当然のことだ。

そして、郊外に向けて降下していく感応種。

これは偏食傾向に沿った行動であると考えられる。

郊外……リョウタロウの、借り宿があった場所だ。

すなわち――――――。

 

――――――どうしたらいい……どうしたらいいんだ……!

 

苦悩に歪むリョウタロウの顔。

リョウタロウは理解していた。

選択の時がきたのだと。

 

――――――俺は……俺は……!

 

刹那の間……リョウタロウの脳裏に多くの場面が流れて消えた。

 

絆を結んだ仲間達。

死にゆく同胞。

戦ってきたアラガミ。

倒した敵。

ありがとうと言ってくれた人。

罵声を吐く誰か。

守るべき者。

守りたくもない奴。

見詰めてきたたくさんの終わり。

そして――――――自分の始まり。

“一番最初”のゴッドイーターがくれた言葉。

 

『俺がどうしてゴッドイーターになったかって? そりゃあ、お前――――――』

 

アクセルを強く踏み込む。

速度メーターは既に限界まで吹っ切れている。エンジンは熱く金切り声を上げていた。

リョウタロウの眼が、決意に染まる。

トラックは全速力で、“シユウの群れへと”突っ込んでいった。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

「よう、坊主。お前、また泣いてたのか? は……よせやい。こんなもん、傷の内にもはいんねえや」

 

――――――でも、おじさん、腕が。

 

「いいんだよこんなもん……大したことねえ。大したことねえのさ」

 

――――――おじさんのともだちが、みんな、たべられて。

 

「そうだな、死んじまったな。みんないいやつだったよ」

 

――――――ぼくが、ぼくのせいで、みんな。

 

「お前のせいじゃないさ。死にかけの赤ん坊たちのためにミルクを運んで、アラガミの群生地に足を踏み入れたガキを、誰が責められる? お前は立派さ。他の誰にも出来ないことをやったんだ」

 

――――――ぼくのせいで、ぼくの……。

 

「なあ、坊主よう。聞いてくれないか」

 

――――――おじさん……。

 

「俺はさあ、ゴッドイーターになったんだ。自分から志願してよう。そしたらなんでえ、軍からゴッドイーターに志願したのは、俺が最初ときたもんだ。

 鼻で笑ったさ。どいつもこいつも、意気地のない奴らばっかだってな。

 でもよ、違ったんだ。意気地のない奴は俺だったんだ。

 ぶるっちまうんだよ。アラガミを前にすると、足が震えるんだ。こんなちゃちな玩具一丁で、あんな馬鹿でかい奴を相手にしなきゃなんねえんだ。

 人間なんて、ちっぽけなものさ。どうにもならん化け物の前にゃ、喰われてお終いだ。それを強く感じたよ。

 でもよ、一番怖いのは、アラガミじゃなかったんだ」

 

――――――アラガミよりも怖いものが、あるの?

 

「それは……人間さ。俺が一番怖かったのは、人だった。言うんだよ、みんなが俺を指さしてさ。

 『お前がもっと早くきていれば』、『役立たず』、『どうしてお前が生きて娘が死ぬんだ』、『家族を返せ』、『消えてしまえ』……。

 失敗を重ねる度に、守ってきたはずの人々の言葉が、重くのしかかる」

 

――――――じゃあ、どうしておじさんは戦うの? そんなにこわいのに、ひどいことを言われても、どうして。

 

「さあなあ、何でだろうなあ。俺にもよくわからん。後悔もしたし、辞めたいなんて思うのもしょっちゅうだ。

 でもよ、なんつうか、最近少しわかってきたんだ。いや……思い出したんだよ。俺が軍隊に入った理由をさ。だから俺は、ゴッドイーターなんて得体の知れないものに手を上げてよ」

 

――――――おじさんは、どうしてゴッドイーターになったの?

 

「話の腰を折るなよお前……俺がどうしてゴッドイーターになったかって? そりゃあ、お前――――――」

 

――――――おじさん?

 

「……なあ、お前さ、明日世界が終わっちまうんだとしたら、どうする?」

 

――――――あした、世界が終わるとしたら?

 

「明日全部消えてなくなっちまうんだから、何をしたって無駄だと思うか? 刹那的に快楽に耽るべきか? どう思う?」

 

――――――わかんないよ、そんなの……。

 

「そうかい。ま、そうだよなあ……」

 

――――――でも、もし明日、ぜんぶなくなっちゃうんだってなっても、ぼくはたぶん、今日と同じ日を続けるとおもう。

 

「おい坊主、お前やめとけよ。こぼれた粉ミルクなんぞ、砂が混じっちまって使いものにならねえ。すくっても無駄だぞ」

 

――――――意味なんてなくても、つづけるんだ。つづけるんだ……。

 

「坊主……お前」

 

――――――でも、どうしてこんなにつらいんだろう。昨日と同じ今日のはずなのに。つらいんだ、いつも。生きるのが、つらい。

 

「そうかい……そうだな……そうなんだよ……ああ、ああ……そうだよな」

 

――――――おじさん、どうして笑っているの?

 

「俺ってえ奴がくっだらねえからさ。つまらん男だよ、俺は。

 世の中もアラガミであふれ返ってるし、人の心まで荒んでるときた。

 あーあ、いっそ世界なんてよう、一度きれいまっさらになっちまったらいいんじゃねえかとも思っちまう。

 たぶん皆、そう思ってるんだろうぜ。だからどいつもこいつも言うんだ、無駄なことなんて辞めちまえって、さ」

 

――――――……。

 

「でもよ、こうも思うんだ。人は無駄な努力を続けてるんだろう。そんな無駄なことをしたって意味がない、そう考えてもるんだろう。

 でもみんな、出来ることなら、今日と同じクソくだらない日を過ごしたい……ってさ。

 過ごさせてやりたかったよ。生きるはずだった今日を。つまんねえ毎日を。俺は失敗した……失敗を重ねすぎた……」

 

――――――おじさん……。

 

「悲しいことに、今の時代、一人でそれを守ることはできんらしい。協力しあうことだって、人は忘れちまったようだ。

 だから誰かが立ち上がらなきゃならん。

 どんな悲劇にも、理不尽にも、大したことはないさと笑えるような奴がな。

 そうすりゃそいつの後をついて、また誰かが立ち上がってくれるかもしれん。

 続いていくんだ。きっと。なんでもない日々がただ過ぎ去っていくように。

 俺はそう信じることにした。それが俺の理由だ。

 いつか花が咲き、実を結ぶことを信じることにしたんだ。

 希望の木を植えること。俺が、ゴッドイーターに志願した理由だ。そんな、くっだらないガキの理想じみた理由なんだ。無駄なあがきってやつさ」

 

――――――価値のない日々を、守るため……。

 

「守るべき者、守りたくもない奴……取捨選択の時は、何時だってそこにあり続ける。

 今日を続けていくには、人の力が必要だ。それは残酷に、数字として目の前に迫ってくる。

 明日をくれてやれなかったやつもいるさ……。

 ゴッドイーターは、“みんな”を守らなきゃいけないんだ。

 老いも若いも、関係ない。例えそれが子供であったとしても……俺は切り捨ててきた。全部を救うことはできない。できないのさ……」

 

――――――ぼくが生きてるのは、うんがよかったから?

 

「そうだ。悪いが、ここに嘘は吐けん。他に守らにゃならん奴がいなかったから、お前だけだったから、お前は助けられたんだ。

 ゴッドイーターだけが命の天秤に乗ることはない。そんな命の価値を計る天秤から降りた奴等が、ゴッドイーターっていう馬鹿野郎なんだ」

 

――――――ぼくは、これからどうやって生きたら……。

 

「いいか、坊主、よく聞け。お前は偶然、運良く命を拾った。だからよく考えるんだ。考えて生きろ。その命の使い道を考えるんだ。

 より多くの命を生かすために使え。明日のために……“まだ見ぬ名前も知らない誰かが”明日を迎られるために、選択し続けろ。

 それを続ければ、その痛みは、お前の心を切り刻むだろう。

 だが笑え!

 なんでもないさと言うように、笑え!

 嘘でもいい。それが仮面だっていいさ。お前をみて、誰もが勘違いするくらいに……笑うんだ!

 そいつが希望になる! お前の笑い顔を見た奴等が、お前がいるから大丈夫だと、そう思うようになる!

 そして、いずれはお前自身の希望にもなる。そう信じ続けるんだ!

 諦めるな! 負けるな! たとえ胸の傷が痛んだとしても! 逃げるんじゃない! そいつから逃げてしまえば、お前は一生、負け続けることになる」 

 

――――――にげ、ない。

 

「そうだ! 逃げるな! 信じることから……逃げるな!」

 

――――――信じることから、逃げるな……!

 

「それでいい。生きなきゃいけないのが正しさだろう。正しいことは、つらいことだ。“正しいことは、いつだって間違ってる”。だが、逃げるな。どんな選択をしたとしても、正しさに負けるんじゃない」

 

――――――ぼくも、ゴッドイーターになれますか? おじさんみたいな。

 

「やめろ。せっかく拾った命を、捨てにいくんじゃねえ。それこそ、俺達がやったことが無駄になっちまう。ゴッドイーターになんかなるんじゃねえぞ。

 だが……ゴッドイーターになんかならなくても、ゴッドイーターのように生きることはできる。お前はそうやって生きろ。いいな。

 それは心を切り裂くような生き方だ……だが笑え、大丈夫さと言って、笑うんだ!」

 

――――――“みんな”が、ぼくをみて笑ってくれるように?

 

「そうだ。後でお前に、俺の好きな言葉を教えてやる。俺はそれを支えに生きてきたし、お前もそうなると信じている。そう、信じるんだ。

 心配するな、たったの一言さ。たったの一言でも人生は変わる。せっかく拾った命だ、生きてみるもんだ……」

 

――――――おじさんは、英雄っていう、人ですか?

 

「やめてくれ。俺はただの……ただのよう」

 

――――――おじさんの名前、きいてもいいですか?

 

「『百田ゲン』――――――ただの、ゴッドイーターさ」

 

 

 

 

 




文量が多くなってしまったので分割します
後半は後日に!

主人公は若手のエースオブエース。最も新しい神話。
これは間違いないと思います。
しかし、真の英雄とは脚光を浴びず、ただ人々の暮らしを支えた者にこそ相応しい呼び名ではないかと思います。
正規軍から神機使いの適合候補者に初めて立候補したという、百田ゲンさん。
彼こそが……!

あれ、ていうか最初期の神機ってピストル型じゃ……えっ、ゲンさんヴァジュラしとめ……いや、当時は今のよりも基礎能力下だっていっても……えぇー
この人もたいがい人外レベルだと思います。


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ごっどいーたー:9噛

紛らわしい書き方して申し訳ありません。ゲンさんは生きてます。
ゲンさんは生きてます。二度言います!


一瞬意識が途切れていたようだ。

トラックの異常な揺れの中、リョウタロウは目頭に力を入れた。

動きが鈍い神機では、いくら通常種であったとしてもシユウの群れを片付けるのに短時間で、という訳にはいかなかった。

赤い雨もある。特殊処理が施されたレインコートは、本来近接戦闘に耐え得る代物ではない。破けてしまえば、それだけで死が潜り込んでくる。

鉛のような神機を繰り、乱戦にあって敵の攻撃を全て避けきって、敵を全撃破せねばならないという条件的縛りのある戦い。

リョウタロウをして無茶と言うべき神機の酷使をせねば、通らない戦いだった。

シールドは罅割れ、銃身はひしゃげ、ブレードは刃筋が欠けてしまっている。

オラクルの輝きが失せた神機は、リョウタロウの求めに静かな沈黙を返すのみ。

一呼吸後、リョウタロウは大きく咳き込んだ。

喀血。

リョウタロウを代表とする神機との適合率が高いゴッドイーターは、それゆえに大きな力を引き出すことが出来る。

だがその分、肉体にかかる負担も膨大なものとなる。

限界を超える神機解放の振り返し、脳神経への負荷によるフィードバック現象である。

これまでリョウタロウはこの反動を、投薬によって抑え付けていた。

適用外の使用を繰り返しては、身体が崩壊してしまう。

神機の制御を失った状態で、強制的に捕食、神機解放(バースト)状態へと移行させたのである。

呼吸は乱れ、眼は霞み、視界は揺れる。

身体中を流れる血液が逆流するようだ。

途切れる意識を繋ぎ合せ、リョウタロウはトラックを走らせる。

身体が重い――――――それは、感応種の能力圏に足を踏み入れたからではない。

 

予感がする。行ってはならないという予感が。

そこに辿り着いてしまえば、絶望を眼にするという、確信がある。

そしてリョウタロウは、郊外の広場へ……感応種の元へとたどり着いた。

 

――――――ああ。

 

周りの家屋は全て薙ぎ倒されていた。

郊外にあるのは、ネモス・ディアナにあっても、鼻つまみ者達の住処。

特にこの一角は、親を失くし孤児院にも受け入れられず、扱いに困って放置された子供たちの住居があった場所だ。

 

――――――ああ、ああ……。

 

単体で郊外に飛び去った理由。

偏食傾向。

邪魔の入らぬ狩り場。

まとまらぬ、取り留めの無い思考が脳裏をぐるぐると駆け巡る。

 

――――――あぁぁ……。

 

新種のアラガミが。

リョウタロウの住処の屋根を引き剥がし。

スナック菓子のような気軽さで、“中身”をつまみ出して。

その口元が、真っ赤に染まり。

妖艶に、微笑んで。

 

――――――あぁぁああああああああああッ!!

 

リョウタロウの思考が真っ白に漂白される。

アクセルを蹴り付けるように踏み込む。エンジンから煙が上がる。

衝突、衝撃。

感応種は軽々とトラックの突撃を、その巨大な羽で受け止めていた。

赤いルージュを引いた口元が、弧を描く。

 

リョウタロウは口付けるようにして、割れたフロントガラスから飛び出した。

そこは感応種の最大能力圏である。オラクルエネルギーの火花が散り、神機がフリーズする。

ゴムの切れるような音。

そして……一閃。

リョウタロウは持ち上がらぬはずの、動かぬはずの神機を振り抜いていた。

腕の筋繊維が、骨が、内側から捻り折れる音がする。

食い縛った奥歯が割れ、胃に落ちていく。

何故神機がリョウタロウの求めに応じたのか。稼働状態にまで引き上げられたのか。それは解らない。

だが、沈黙していたはずの神機は、オラクルの炎を吹き上げ、燃えている。

怒りに、燃えている。

神機に意思が宿るならば、それは間違いなく、リョウタロウと同じ感情を抱いていた。

 

刃毀れだらけのブレードが、神機は動かぬと高を括り隙だらけだった感応種の美貌へと喰い込んだ。

頭部命中。

結合崩壊。

 

振り抜かれた神機。そのシールドの半分が砕け散り、ブレードが半ばから圧し折れた。

銃身は端から役立たずで、バレットはとうに尽きている。

神機の生態部分から、どろりと黒く濁った粘液が垂れ落ちた。

神機が暴走危険域に突入し始めた兆候である。

これ以上は……。

 

「にい……ちゃ……」

 

か細く、幼い声が聞こえた。

 

「みん、な……まもれな……ごめ……」

 

声は掠れるように消えていく。

手足を千切り取られた少女がいた。

子供たちのリーダー。寂しいと泣く子らの親代わりになろうと奮闘していた少女だった。

半壊した家屋の中が見えた。見えてしまった。

スタングレネードのピン。ホールドトラップの残りカス。リョウタロウがもしもの時にと与えておいた、道具類の使用痕。

戦っていたのだ。子供たちは。自分だけの力で。

そうやって生きていって欲しいと、リョウタロウが願った通りに。

リョウタロウの助けを、信じて。

 

倒れ伏す全ての子供たちの身体の、どこか一部が欠落している。

アラガミの偏食傾向である。人体の一部への偏食傾向など初めての例だろう。

これがこの新種全てに共通する傾向であるのか、それともこの固体に限った傾向であるのか、それはわからない。

だが、息はある。痛みに呻く声が聞こえた。子供たちの胸が、肩が上下している。

生きているのだ――――――だがリョウタロウは安堵に笑うことは出来なかった。

引き剥がされた屋根から、赤い雨が、傷付いた子供たちへと降り注いで――――――。

 

――――――なんでだ。

 

レインコートに隠れたリョウタロウの表情は、ようとして知れない。

 

――――――この子たちがいったい、何をした。

 

奇跡を願ってはいけないのだろうか。

リョウタロウは、ここに車を走らせるまでの間、ずっと祈り続けていた。

ゴッドイーターにあるまじき考え、別の場所に感応種が降りて、そこで……とさえ。

 

――――――神よォッ! この子たちが一体、何をしたァァッ!

 

これは罪なのだろうか。

選択をしたリョウタロウの。

十人ばかりの子供たちと、数百人の住人を天秤に掛け……そしてリョウタロウは選択した。

榊博士はかつてこう言った。私は小を殺し、大を生かすロジックを認めない、と。

認めないだけで、それが必要不可欠であり何処にでも有り得ることであることは、否定しないまま。

己の心が、精神が、軋む音が聞こえる。

ああ、俺は、選択を間違えたのだろうか。

 

「――――――」

 

アラガミの、美しい唇から、人間には理解不可能な旋律が迸った。

何かを語りかけるように。

その美貌に大きな傷を受けたアラガミは、しかし微笑みを絶やさずにリョウタロウへと向き合っていた。

全ての悲しみを、苦しみを、受け入れるように。

ああ、人から離れたゴッドイーター達と、真っ直ぐに向き合ってくれるのは、アラガミだけなのか。

 

地を駆ける。空を翔ける。

そこには地球上どこでも見られる光景があった。

ゴッドイーターとアラガミとが殺し合う光景が。

リョウタロウの神機が再び誤作動を起こす。オラクルの輝きが神機からとうとう消え失せた。

これでは物理的に抉ることはできても、すぐに再生してしまうだけだ。

オラクル細胞の結合を絶つことは出来ない。

 

――――――どうして……どうして言うことを聞いてくれないんだ! お前は! お前は、俺の、俺を……!

 

その叫びはもはや、悲鳴に等しいものであった。

神機は活性状態と不活性化を行き来し、まるで安定しない。

決定打が無い……何か、手を打たねば。

地面に広がる赤は、天から降る雨の色だけではない。子供たちの命の色だ。

何とかしなければ。何とか……何とかしなければ。

焦りは失態に通ず。

リョウタロウの足を、神機の重みが絡め取った。

動きの止まったリョウタロウを、“羽拳”が強かに打ち据える。

神機の“本体”でそれを受けるも、身体は鞠のように地面を跳ね、土に塗れていく。

転がるリョウタロウの目に、潰れたトラックの荷台が映った。

 

アラガミの追撃が迫る。

両の羽を広げ、抱き締めるかのように叩き付ける攻撃。

リョウタロウの身体は吹き飛ばされ、トラックの荷台へと突き刺さる。

沈黙……トラックの荷台へと叩き込まれたリョウタロウの気配が消えた。

 

仕留めたか。舌なめずりをしつつ新種がにじり寄る。

巨大な爪先を器用に使ってカーゴの保護シートを剥がしていく。果実の皮を剥がすように。

もうたまらないと顎をかっと開けば、荷台には期待した通りのリョウタロウの姿が……そして、巨大な機械群が積み込まれていた。

 

――――――リンクサポート……デバイス。

 

試々作機、と銘打たれたその機械の刻印を、無意識にリョウタロウの舌が拾う。

リンクサポートデバイス。

それは、リッカが送ると述べていた支援機であった。

荷台の全てを埋め尽くす巨大な機械群からは、腕輪と神機に接続するための簡素なコードが数本垂れ下がっている。いずれは遠隔操作へと切り替えるのだろう。

手早くコードを装着しながら、デバイスの電源を叩き起こす。

仕様書は受け取り時に流し読みしたのみ。しかし、その機能だけ把握していれば十分である。

リンクサポート・デバイス。

それは、神機の力を機械的に引き出し、一定区域に影響させる新技術。

リッカの持てる技能全てを注ぎ込んだ、集大成である。

 

神機はゴッドイーターを適合率という形で選んでいる。人が神機を選ぶのではない。神機が人を選ぶのだ。

そのため、偏食因子への適正が認められたとしても、ゴッドイーターとなれる者は数少ない。

死蔵される神機の数の方が、圧倒的に多いのが現状であった。

ここにリッカは着眼を得た。

神機は人造のアラガミである。それはすなわち、神機毎に“個性”というものが存在するということだ。

この使われぬ神機の個性……オラクル細胞からなるエネルギーを、機械的に引き出し、散布することが出来たのだとしたら、それは現場でゴッドイーター達の支えとなるのではないか。そう考えたのである。

つまり、神機によるオラクルエネルギーの広域放射……“感応種の持つ影響力と同じ”効果を、機械的に発生させることが可能だと言い換えてもいいだろう。

 

偏食波には、オラクルの波を。

これだ。これに賭けるしかない。

一瞬の判断によって、リョウタロウはリンクサポート・デバイスに神器を突き入れていた。

腕輪に連動したスターター機構が、デバイスに火を入れる。

 

リンクサポート・デバイスとは、神機の“特性を引き出す”機能を持つ。

つまり、神機が本来持つ力を限界を超えて引き出すということだ。

しかし、半壊した状態の神機で使用すれば、どうなってしまうのか。

差し込んだ柄から伝わる振動が、その先を予想させる。

 

――――――なあ、俺さ、お前に謝らなきゃいけないことがあるんだ。

 

新種がアラガミの本能を剥き出しに襲い来る。

神機が激しく振動する。

生体部分が黒い粘膜を撒き散らした。

折れた刃を、割れたシールドを、ひしゃげた銃身を、“神機が”覆い尽くしていく。

 

――――――名前……付けてやりたいって、ずっと思ってたんだ。いつも先延ばしにしてごめん。今からでも、遅くないかな?

 

告げる。

 

――――――お前の名前は『――――――』。

 

その名を聞いたのは、リョウタロウと、神機のみ。

一際大きな神機の震え。それは歓喜の震えであったようにリョウタロウは感じた。

絆である。根拠は無い。しかしそう感じた。

人と、神機の間に、確かに絆が結ばれているのだと。

 

その瞬間である。

リョウタロウの視界にノイズが奔る。感応現象による視界ジャック、イメージの伝達である。

これは、神機のイメージなのだろうか。

 

そこは戦場だった。

これまでリョウタロウが経験してきた全ての戦場がそこにはあった。

同じ戦場に、たくさんの戦士が立っていた。

否、一人の戦士が……多くの戦士の姿を持っていた。写真をコマ送りするかのように、次の瞬間には一人の戦士が、異なる姿の戦士へと変貌していた。

何人もの腕輪を付けた戦士が……ゴッドイーターがそこにいた。

 

男、女。青年、少年。

兄妹の戦士、半アラガミの戦士。

菓子の神機を持った戦士、美女を模した生きる神機を持った戦士。

 

数多のゴッドイーター達の姿を、リョウタロウは瞬間、幻視した。

彼等の姿形、特性、性別や産まれは全て異なるものであった。

だが、彼等にはただ一つの共通点があった。

姿形は違えど、その手の内にある神機が全て同じものであるという、共通点が。

 

異なる世界であった。

だが生きている。懸命に生きている。

ゴッドイーター達が、生きている。

俺だ。あのゴッドイーター達は、俺なんだ。

何の理由もなく、確信を抱く。

あの戦士たちは、別の世界に生きる俺だ。

一目で理解した。

みな、笑みを浮かべる度に、魂が涙していた。

大丈夫だ、と自らに言い聞かせて。

身を斬るような苦しみの中、それでも生きていた。

 

自分自身さえ勘違いさせられない、嘘をつきながら。

 

彼らがふとこちらを振り向いた。

その手に同じ神機を持って。

たくさんの“プレイヤー”の瞳の中に、リョウタロウの姿が映る。

彼らが差し伸べた手を握る。

感応現象。

彼らの目に映る、自分の目に映る“世界”が広がって――――――。

 

人はこんなにも弱く、儚く、愚かで、醜く。

地球はこんなにも冷たく、残酷で、痛みにあふれ、矛盾に満ちていて。

ああ、なんて“世界”は、こんなにも美しいんだろう。

 

恐れが消えていく。

焦りが、胸の奥にこびり付いていた徒労感が消えていく。

繰り返すのだ。

何度でも、何度でも。

それがたとえ、無駄だと解っていても。

悲劇に塗れていても。

 

――――――ゲンさん……俺は、なります。ようやく今、ここで、これから。これから俺は、選択をし続けます。希望の木を植えるために。だから、これから、これから俺は……!

 

視界が現実を映し出す。

今の光景は一体何だったのだろうか。脳が作り出した都合の良い白昼夢であったのだろうか。

考察を挟む余地もなく、新種が目の前に迫っていた。

 

イグニッション。

リンクサポート・デバイス、起動。

 

新種から放たれた偏食波と、神機から放たれるオラクルエネルギーとかぶつかり合う。

目に見えない力の波が喰い合い、絡み合い、火花と異音を撒き散らす。

打ち勝ったのは、リョウタロウの神機。

新種は仰け反り、大きな隙を晒す。

勝機。

 

――――――俺は……ゴッドイーターだ!

 

この瞬間、リョウタロウは……その神機は、『ゴッドイーター』として己の使命を遂行せんとしていた。

その慟哭を刃に乗せて。

正しくリョウタロウと神機は、今まさに一心同体……否、“人神同体”となっていた。

胸の痛みを武器にして。

 

リンクサポート・デバイスが黒煙を上げる。

想定外の出力を吐き出したためだ。

接続された神機に致命的な損傷が生じたことを示すアラートが、けたたましく鳴り響く。

無視だ。そんなものは鳴らしておけばいい。

 

構わないさ、と黒い粘膜を垂れ流す神機が言ったような気がした。

行こうぜ、と。

 

リョウタロウは腹の底から雄叫びを上げた。

リンクサポート・デバイスを鞘の様にして振り払い、その内側から神機が姿を現した。

黒い。

黒い、神機であった。

まるで人の全ての業を背負ったかのような、黒い……眩く、尊い輝きに包まれた神機であった。

神機の生体部分が、ブレードやシールドの欠損を補い、“己自身”を武器としていた。

完全に暴走している。

神機の専門家ならば、一目見てそう評しただろう。榊でさえ、同じ分析を下すかもしれない。

だがその神機はリョウタロウを呑み込むことはない。

なぜならば、リョウタロウは、神機は、今一つとなっているのだから。

ゴッドイーターに。

 

『Thank You For Playing――――――SAYONARA R-You』

 

リンクサポート・デバイスが瓦解する寸前、液晶モニターが煌いたような気がした。

ああ、さよならだ。

さよなら、相棒。

 

胸の痛みを武器にして。

『壊刃マインドベイン』……吼ゆる。

 

――――――『無尽ノ太刀・蒼』。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

【ネモス・ディアナ:第二次感応種防衛戦】

 

犠牲者少数。

内、ほとんどが極東支部より派遣されたゴッドイーターである。

ネモス・ディアナの犠牲者は、身寄りを失った幼児のみ。瀕死の重傷を負うも、医療センターへと搬送される。

 

以下、極東支部所属ゴッドイーターの被害状況を述べる。

極東支部第一部隊隊含む13名。

内、殉職者5名。『黒蛛病』罹患者4名。重傷者2名。軽症者2名。

 

特別筆記事項:加賀美リョウタロウ。

軽症。

神機全損、破棄処分。

 

 

 

 

 

 




リョウタロウのトラックアタック。効果:アラガミは転生する(嘘)

前後編だと言ったな?
うん、これ、中編なんだ……!
テンポ悪くなるので、戦闘部分だけ抜き出すことにしました。

※公式設定:第二世代型神機→ブラッド第三世代型のように、神機の世代を引き上げるのは改造や更新をするのではなく、神機そのものを乗り換える。

なん……だと……?
いやしかし、これを上手く使えば、引継ぎコンバートを絡めて一つネタが出来るし設定的にもいい感じになるはず!
2→3世代にしたとしたら、2型神機は封印か新人へのお下がりになるのか。
うごごごご、つ、使わせたくない……主人公以外に主人公機使わせたくない……!
一億歩譲ってアイツだけにしか……!
キャラクターの性格をいじるのはともかく、舞台設定の方は極端にいじってはいけませんから
となれば、このようなストーリー運びになる、と。
この燃え滾る想い、みんなわかってくれるはず……!

第二世代型でも喚起持ちがいればKIAIでBA目覚めるんですよね。
使ってる側は旧来のP因子ですし、発動媒体は問題なし。
であれば、BAはきっかけの方が重要であると。おそらくはブラッド因子と、第三神機。
それらが望めないのであれば、喚起持ちが第二第三そんなのかんけえねぇ!な暴走レベルの超絶オラクルパウワー神機を使えば、あるいは。

ちなみに無尽ノ太刀・蒼は、アリサの初期スキルです。
わあ、なんかすごい。


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ごっどいーたー:10噛 For2

「勘違い」タグを「勘違いもあるよ」タグに変えたほうがいいんじゃないかと思案中。
勘違いものって尋常でなく難しい……!
勘違いが勘違いであるために投稿を続けておられる作者様方、本当に尊敬します。


アラガミの襲撃から三日。

今日もまた、朝が来た。いつもと変わらぬ朝が。

どこからか工業油の臭いに混じって、朝餉を作る匂いが漂ってくる。

ネモス・ディアナは活気を取り戻し、人々は束の間の平和の中に安堵の笑みを浮かべ、懸命に生きていた。

喪失と再生。アラガミが発生して以来、地球上で幾度となく繰り返されてきた光景だ。

幾度壊されようとも、喰われようとも。人の営みは変わらない。

それもまた、ある種の戦いであるとも言える。

ゴッドイーターは、そんな“戦う者達”を守るために創り出された存在だ。

戦い、守り、そして喰われていく……例え誰にも感謝されずとも。愛してくれと言うことはない。

ここにも一人ゴッドイーターがいた。

それは、戦いが終わり、そして戦う力を失ったゴッドイーターだった。

彼は折れた腕を包帯で括り、片腕を土塗れにして土を掘り続けている。

一心不乱と言うに相応しい有様で、作業に没頭していた。

 

「リョウ……君。その……」

 

無心に土を掘るリョウタロウに、ユノは何と声をかけたらいいのか、解らずにいた。

後ろには、同じように声をかけられず、口を尖らせて手持ち無沙汰ですといった風なサツキが。

 

――――――あの子達に、“ワクチン”を打ってきた。

 

「“ワクチン”って……それちょっと、リョウタロウさん、あなたまさか」

 

――――――“ワクチン”さ。

 

サツキの指摘に一言だけ返したリョウタロウに、ユノは言葉を飲み込んだ。

ユノは知っている。

アラガミや“流行り病”にやられ、もうどうしようもない者へと“ワクチン”を打ち、“楽にしてやる”のだということを。

リョウタロウがナチ総統……父へと今回のアラガミ襲撃の報告に出向いた折に、何かの話しをし、そして自らがワクチンを打つと申し出たことを。

この三日間、彼はどんな思いをしたのだろうか。

それを考えるだけで、ユノは胸が張り裂けるような気持ちになる。

仲間達の死の報告を受け、命を救った子供たちは感染の危険性から医師に手術を断念され、そして自らの手で……。

その決断の、選択の苦しみはいかほどのものか。

 

闇だ。

闇が彼方まで広がっている。

 

葦原ユノという少女は、世界を知らずにいた。

病的な気質のある父に、幼少期から世間と隔離されて生きてきたユノにとって、外界にはもっと希望があるものだとばかり思っていた。

ユノとて人類の危機的状況は弁えている。壁の向こうは夢で溢れているなどと、そんな楽観的な思いは抱いていない。

だが、これほどか。

これほどまで救いがないものなのか。世界には。

ユノという世界知らずの少女は、リョウタロウという男を通して世界を見た。

そして世界の厳しさ、冷たさ、恐ろしさを知った。知ってしまったのだ。

曇り空は依然として晴れ渡ることはない。

だが、太陽が覗いたその瞬間が最も危ないのだと、先日の天気雨から皆理解している。

分厚い雲の中に、赤が混じっていたら。そう考えると、恐ろしくて外には出られない。

暗がりの中、無力な少女はただ震えるしか出来なかった。

 

――――――あいつらに言ったんだ。

 

震える己の両肩を抱くユノに背を向けたまま、リョウタロウは言った。

土を掘り続けながら、額に滲んだ汗を拭って。

 

――――――すぐによくなる。明日には元気になるから、また木を植えよう。あの時の続きをしようって。

 

背筋を伸ばして腰を叩くリョウタロウ。

ユノは下唇を噛んだ。

血の味を舌先に感じた。

 

「ハッ……それで、あの子たちに明日なんかこなかったわけですが」

 

――――――うん。

 

「あなたが遅れたせいでね。そこんとこわかってるんですか?」

 

――――――うん。わかってる。

 

「じゃあなんでそうやって暢気に木なんて植えてるんですか、あなたは。そんな風に……」

 

サツキはリョウタロウの肩に手を置いて、なおも作業を続けようとしたリョウタロウを振り向かせて言う。

 

「なんて顔で、笑ってるんですか……」

 

リョウタロウはいつも優しい笑みを浮かべていた。

その笑みにどれだけユノは勇気を貰っただろう。

いつかきっと、世界に羽ばたいてみたいと思える程に。

だからユノは思ったのだ。この途切れそうな笑みを浮かべている人物は、本当にリョウタロウなのかと。

笑みとはもっと、暖かく、そして穏やかなものであると思っていた。

それしか知らないことが、ユノが物を知らないことの所以であるのだろうか。

リョウタロウの笑みは、切なく、苦しく、ユノの胸を締め上げた。

 

――――――強い子たちだったよ。みんな知ってた。意識が戻って、俺を見て、ワクチンのことも解ってた。でも笑ったんだ。ありがとうって。ここに来て初めてだったよ。ありがとうって言われたのは。

 

「……引退しなさい。あなたはもう、ゴッドイーターを続けてはいけない」

 

人を茶化す癖のあるサツキが、何時になく真剣な顔付きで諭すようにして言った。

辞めることはないと、リョウタロウは小さく首を振って答えた。

 

――――――迷って、苦しんで、泣いて……世界のあんまりもの厳しさに折れそうになった時は、ある言葉を思い出すんだ。俺の恩人が、くれた言葉を。

 

サツキさんの言った通りだった。そう言って、リョウタロウは再び作業へと戻る。

 

――――――それが俺の答えだよ。答えはもう、出ていたんだ。

 

「それは、何……? お願い、教えて」

 

ユノの問いかけは、好奇心に駆られたからでも、リョウタロウを思いやってのものでもない。

それは切実な、世界の寒さに震える少女の、恐怖心から来るものであった。

リョウタロウは、雲の隙間から射し込む輝きを、眼を細めて仰ぎながら言った。

雲が晴れていく。

 

――――――『たとえ明日世界が終わるとしても、私はリンゴの木を植える』――――――。

 

その瞬間、ユノの胸に到来した感情を、魂の震えを何と言い表せばいいだろうか。

世界が一瞬でクリアに、色鮮やかに彩られていく。

 

闇の彼方から、遠く小鳥の歌が響く。

狂える心の嵐が止んだ。

心に、魂に、穏やかな風が舞い込んだ。

それは歌となってユノに届く。

 

光りだ。

光りが雲の隙間から、リョウタロウを、世界を照らしている。

輝きに向かうリョウタロウの眼。

悲しみを見詰めたその瞳は、優しさを湛えていて。

 

「ああ――――――」

 

明日世界が終わるのだとしたら、今日、リンゴの木を植えたところで意味など無い。

実が結ぶことを知ることもなく、世界が終わってしまうのだ。

それは無駄な行いであると断じることができる。

言えるだろうか。同じことが。

リンゴの木も、それを植えた人も、実りを待つ人々も、そして世界そのものも全てが無になって消えてしまうとしても。

それでも、私は今日、リンゴの木を植えるのだと。

 

「ああ、ああ――――――」

 

それは無駄な努力かもしれない。

それでも。

全てが無駄になるとわかっていても、最後まで静かにやり遂げる。

それが人の営みで。

そして世界へと立ち向かう、勇気なのだ。

 

ユノは今、断言できる。

心に勇気が灯った、今ならば。

その火はリョウタロウが灯したものだ。

心が、魂が理解した。

勇気の断片(かけら)さえあれば、未来は私たちを見捨てることはないと。

リョウタロウはそれを、初めから知っていたのだ。

絶望を拭った瞳に、慈しみを宿して。

 

ユノは微笑みを浮かべようとして、しかし失敗した。

想いが両の眼から零れ出していく。

今まさに、ユノもまた、答えを得たのだ。

 

「ああ、ああ、あああ……ッ!」

 

天を仰ぐリョウタロウの背を、ユノは掻き抱く。

心の赴くままに、ユノは胸を、喉を振るわせた。

最も古い歌とは、感情の迸りである。心を抑えきれぬ女の涙と、叫びであるという。

原初の歌(アリア)が響く。

リョウタロウは天を仰ぎ、サツキは眼鏡を外して目元を拭った。

ユノの声に隠れるように、ここにも始まりの歌があった。

 

ああ、世界中に届けたい。

ユノは心からそう思った。

どうか耳を澄まし、聞いて欲しいと。

 

たとえ明日がこなくても。

この世界が闇に包まれているのだとしても。

闇の彼方から声が聞こえるはずだ。

ユノには聞こえていた。

リョウタロウの背から聞こえる心臓の音。

とくとくと、静かに脈打つその音は、眼を閉じた暗闇の中にあるユノにとって、一筋の光りのように感じる。

 

それはリョウタロウの心の声が聞こえるかのようだった。

ああ、光りの声が呼んでいる。

失くした日々の向こう側から。

夜明けの声が呼んでいる。

あの新しい風のほとりで。

 

ユノは理解した。わかったのだ。

明日を照らすものは太陽じゃない。

心に在る一筋の希望……光なのだ。

その光を信じて、ただ歩き出せばいい。

 

空が晴れていく。

世界が光りに満ちていく。

 

ユノは新たな夜明けを見た。

サツキは闇に立ち向かう男の強さを知った。

光りは全ての上に訪れ、昨日の涙を空に還すのだと。

 

いつもと変わらぬ日々を守るために。

どれだけの失敗を重ねようとも。悔しさに打ちひしがれようとも。守ったはずの人々に疎まれようとも。

たとえ来る未来に終末捕喰が待ち受けていようとも。明日が終わりを迎えようとも。

ユノは一つの答えを得た。確信を得た。

きっとリョウタロウは、リンゴの木を植え続けていくのだということを。

 

『光のアリア』が、ネモス・ディアナを優しく包み込む。

リョウタロウの背に、この世で最も清らかな雨が降り続けていた。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

よう、という気安い呼び止めに、リョウタロウは思わず足を止めた。

極東支部職員用に設けられた出入ゲートの脇に、片腕をローブで隠した初老の男がもたれ掛かるようにして立っている。

白髪が混じった髪に、深い皺と無精髭が蓄えられた漢臭い顔を忘れることは出来ない。

かつてリョウタロウが憧れた、今も記憶の中に眩く存在し続ける漢。

始まりのゴッドイーター。

 

――――――ゲンさん。どうしてここに?

 

「ひよっこ共の教導の一貫でな。お前さんの戦闘データのおかげで、感応種対応マニュアルが出来上がったもんだから、ちょいと揉んでやりにきたぜ」

 

――――――そう、ですか。でも俺、ほとんど何も出来ませんでしたよ。感応種は普通のゴッドイーターじゃ歯が立たない。

 

「まあマニュアルっつってもあれだ、囮になっておびき寄せて、スタングレネード炊いて尻尾巻いて逃げろってだけだがな」

 

――――――打つ手なし、ですか。

 

「腐るなよ。囮もゴッドイーターにしか出来ない仕事さ」

 

リョウタロウは、何かを言わんとして口を何度か開いて閉じてを繰り返し、しかし決意したように一度だけ強く唇を結んでから言った。

 

――――――教導で来られたのなら、感応種襲来のデータ読まれましたよね?

 

「おう、報告書はみたさ。まあな、惨いもんだ……手足を縛って戦えって言ってるようなものだ、あれは」

 

――――――俺、思ったんです。アラガミ被害は増加の一方を辿っているのは、世界中で悲劇的な事例が絶えないのは……その、あんまりにも、出来すぎてるって。

 

「気付いたか」

 

深い溜息と共に、ゲンは無精髭をざらりと撫でた。

背筋に氷を突き込まれたような感覚。

リョウタロウの肌が悪寒に粟立った。

 

「相手が獣同然なら、人類はここまで追い詰められちゃいない。罠を仕掛けて、追い払えばそれで済む話だ……だが、そうはならない。奴等はいつも、人類の想像の上を行く。

 それはなぜか解るか? なあ……お前、アラガミの目を真っ直ぐ前から見詰めたことは、あるか? そこに映された自分の顔を見て、何か感じたことは?」

 

――――――そんな、まさか、でもそれは。

 

馬鹿な。

そうは思っても、しかしありえない、とリョウタロウは完全に否定することは出来ずにいた。

 

――――――アラガミが、知性を持って……戦術行動を執っているなんて。

 

「仮定の一つとしか言えんがな。だがお前は知っているはずだ。禁忌種に近付けば近付くほど、アラガミは人の似姿となっていく。

 知能だって、獣のそれとはかけ離れているはずだ。人間により近いものへ……いずれは、心を搭載したアラガミだって出てくるかもしれん」

 

ゲンの指摘に、リョウタロウは一瞬はっと息を飲む。

心を持ったアラガミ……月の輝きを見上げる度に思い出すのは、彼女のことだ。

月が緑化した原因そのものとなった、心あるアラガミの少女。

その名を、『シオ』という、真っ白な女の子のことを。

 

そう、女の子、だ。

リョウタロウは、彼女と関わった全てのものは、彼女をヒトであると認識していた。

アラガミであって、人の境界を踏み越えた存在。

神機ですら意思を持つというのに、アラガミが知能を持てない道理があるだろうか。

 

ゴッドイーターとなり任務を繰り返す内に、おかしい、という疑問が湧き上がる瞬間が何度もあった。

戦闘中にレーダーの網を掻い潜るかのようにして、急に戦闘域へと乱入してくる中型種。

データにないアラガミの強襲。

本来生息域の重ならないはずのアラガミの共闘。

相反する属性を持つアラガミの共存。

こちらが嫌がるような行動を……作戦の裏側を掻く、想定外の行動をアラガミが執ったことを、リョウタロウは幾度となく経験している。

 

アラガミは進化する存在であれば、進化途上の道筋を模索する行動なのだ。そう榊が説明したことを覚えている。

科学者の視点からすれば、その通りであるだろう。科学的な分析からすれば。

だが。

もしそれが、アラガミの知性による行動であるとしたら。

こちらの“嫌がる行動”……すなわち、“戦術行動”を執らんとした結果なのだとしたら。

 

模索しているのは、“人類の攻略法”であるのだとしたら。

ゴッドイーター殺しとも言うべき感応種の能力は、つまりは。

 

「どうにも、出来すぎた悲劇ってえのが在り過ぎる。ゴッドイーターは常に選択を迫られるものだが、それにしたって、家族と仲間のどちらを取るかなんていう嫌らしい天秤ばかりじゃねえか」

 

リョウタロウの目の前にも、その天秤は何度も現れた。

慕ってくれた教え子か、懐いてくれた少女か。

冷たい数多くの住民達か、温かな少数の子供たちか。

まるで、どちらを生贄にするのか、と問いかけてくるように。

アラガミの全ての行動は、その天秤を作り出すためにあるようにしか思えない。

 

ならばきっと、アラガミには悪意のOSが搭載されているに違いない。

“苦しめる”ということが、人類を衰退させるに最も効率がよいのだと。

邪悪な知性を感じる。

もっと巨大な……“地球規模”の何かの意思が、アラガミを通じて人類を滅ぼさんとしているかのようだ。

“悲劇という手段を使って”。

 

「まるで“神”のような存在がいて、世界を終わらせよう終わらせようとしているみてえだ……そのために邪魔な人間の、“意志の力”を削ごうとしている。そんな風に感じるぜ。

 こりゃ俺の考えすぎかね? それとも、考えが足りないのか? ぞっとしねえよな……」

 

――――――地球が、人を滅ぼそうとしてるっていうんですか? アラガミを使って……悲劇を起こせば、人を最も効率良く減らせるから……。

 

「赤い雨もそうだ。ありゃもしかすると、地球が人を減らすために降らしてるのかもしれん。ま、勘だがな」

 

百田ゲンという初老の男は、物事の本質を見抜く力に優れている。

それは経験が為せる術であるのかもしれない。本人の言う通り、ただの当てずっぽうの勘であるかもしれない。

だが、ゲンという男が口にすれば、ただの勘という言葉が持つ重みは、まるで異なるものとなる。

リョウタロウの両肩に、ずしりと重力が……地球の意思が圧し掛かったような気がした。

 

「で、だ。お前はどうするよ」

 

――――――俺は。

 

「もしこれが星の意思なのだとしたら……人に死すべしと地球が言っているんだとしたら、お前はどうするんだ?」

 

――――――俺は、負けたくない。負けたくないです。

 

「それでいい」

 

男臭く笑うゲンは、それ以上を語ることはなかった。

男の決意を問うことに、多くの言葉は不要である。

 

「そういや、赤い雨に関しても色々わかったようだぜ。偏食因子が関係しているのか、赤い雨への抵抗力がゴッドイーターにはあるらしい。

 皮膚からの二次感染がしにくいだとか、発症してから死ぬまでの期間が長いってだけだが、それがわかっただけでも大きな進歩だ。

 榊博士の言うことにゃ、これもお前のデータからわかったことらしい。正式にこの病は『黒蛛病(こくしゅびょう)』と名付けられたんだと」

 

――――――黒い、蜘蛛みたいな痣が浮かび上がるからですね。

 

安直ではあるが、理解しやすい名前だ。

黒い蜘蛛は不吉の現れである。

死を運ぶ黒い蜘蛛……恐れは危機感につながり、赤い雨への民間対応はより一層進展することだろう。

雨が降りそうになったらすぐに家に帰る、これだけでも大きな違いだ。

 

「それで、お前さんこのまま帰っちまうのか? 誰にも、何も言わずによ」

 

ゲンの不意の言葉に、リョウタロウは一瞬返す言葉を失った。

それは図星を突かれたからではない。

全て解っているという様に、ゲンが苦笑を浮かべていたからだった。

 

「ゴッドイーターがたった一人で、逃げるように街を出て行くのはな……女が理由か、それとも“膝小僧を擦り剥いたか”のどっちかだって相場が決まってる。

 そうやって転んで立ち上がって……かさぶたをこさえてくのがゴッドイーターってやつだ。つれえなあ」

 

だが、とゲンは不思議な感情を浮かべた眼で、リョウタロウを見る。

その灰色の目に浮かんでいるのは、なんだろう。

まるでリョウタロウが、ゴッドイーターが守るべき対象を見るかのような。

 

「負けたくない、か。その意気だ。地球によ、“かかって来い”と言ってやれ」

 

――――――はい。もう少しだけ、頑張ってみます。

 

「ああ、お前なら出来るさ。お前ならな……。それじゃあよ、最後まで格好付けていきな。また、極東でな」

 

手刀を切るゲンに頭を下げて、リョウタロウはゲートを潜る。

このまま外部のピックアップポイントまで徒歩だ。

神機を失ってしまった今後に不安はある。

だが、やれることは沢山あるはずだ。

さしあたっては、ここに来る前に急遽隊長職を押し付けてしまったコウタのサポートか。

メールで今朝、正式に隊長権限が移譲されたと報せがきた。正式な書類は今夜にでも送られてくるだろう。

これで名実共に、ヒラに戻ったことになる。

神機を破損させることは、ゴッドイーターとしては眼も当てられない程の失態だ。

大ポカをやらかした人員を、また取り上げることもないだろう。

ゲンやツバキのように、後進を育てる、新たな道を歩むのもいいだろう。

政治機構や物資運搬、兵站を学びたいと言っていたアリサの個人教師をしてやるのもいい。

まだまだ、戦いは終わりそうにない。

たとえ神機が無くなったとしても。

それでも自分は、ゴッドイーターなのだから。

 

「しかし、本当に何が起きるかわからんもんだな」

 

立ち去るリョウタロウの背に、独り言としては大きすぎるゲンの呟きがぶつけられた。

振り向くなという意図を読み取り、リョウタロウは背を向けたまま、首を傾げる。

 

「あの時助けた子供が、今じゃ極東にこの人ありと謳われるゴッドイーターになっちまうなんてよ」

 

――――――ゲン、さん。俺のこと、気付いて……。

 

「よくやったな、“坊主”。お前は立派だよ。良いゴッドイーターになった。本当にな」

 

リョウタロウは一瞬だけぽかんと唖然とした表情となった。

視線が左右に、誤魔化すように揺れた。自分に相応しくない宝石を渡されたような、価値あるものをどう扱ったらよいのか解らない。そんな様子だった。

そしてリョウタロウは、震える手を眼に当てた。

顔を拭うようにして、ネモス・ディアナを去っていく。

誰もその顔を見る者はいなかった。

 

リョウタロウはたくさんのものを失った。

失い続けて、それでも戦うのだろう。

これから先も失い続け、戦い続けていくのだろう。

ほんの少しの報いを支えにして。

 

「男の涙は見ないフリをするもんだぜ。さ、お嬢ちゃん、家に帰りな」

 

「……気付いてたんですね」

 

「まあな。だから俺が出て行ってやったんだがな。あの坊主はやたらと鋭いからな」

 

「リョウ君は黙って出て行ってしまうんだって、わかってました。羨ましいです。私は、何も言えなくて……」

 

「追いかけな」

 

「えっ……?」

 

「今じゃなくてもいい。お前さんのやり方でな。あいつはゴッドイーターだからよ、戦う以外の生き方はもうできねえ。

 だから、何か伝えたいことがあるなら、追いかけていかなきゃいけねえ。戦いの場にな」

 

「戦いの、場……」

 

「確か、お前さん歌が得意なんだって? じゃあそいつを武器に、世界に繰り出してみるといい。戦いにいくんだ。行きな、お前さんの戦いへ。戦え。そうすればきっと、どこかで会えるだろうさ」

 

「私は……私も、戦えるでしょうか。リョウ君みたいに」

 

「それを決めるのは、お前さん次第だ。一つ良い言葉を教えてやる。夜が怖ければ歩かねばならない……一歩、歩けば一歩分、朝が近くなるのだから。ってな」

 

「それは……ええ、素敵な言葉ですね。そっか。うん。ただ、歩きだせばいいんだ」

 

「若い内は何でもやってみるもんさ」

 

「まだまだ現役に見えますよ?」

 

「世辞なんぞ言うんじゃねえやい。まったく、俺も焼きが回ったもんだな……若いもんの色恋の世話までするたぁな」

 

「色恋なんて! その、そんなこと、その……」

 

「好いた男と同じ世界を見れるのが、きっといい女ってやつなのさ。世界を見りゃあ、きっと素直に頷けるようになるさ」

 

「はい……はい! 私も、踏み出そうと思います。リョウ君みたいに、諦めずに……だからきっと、また! リョウ君に会うために!」

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

しかし、こう、ハグしてもらったときの背中の感触。

えがったのう……えがったのう!

発展性を残した素晴らしいおっぱいだった!

ありがとう極東。ありがとうネモス・ディアナ!

しんどいことも一杯あったけど、まあそれは他の所でも同じことがあったわけで。

アフターケア最高。あの柔らかさだけで全てが救われた気がします。

うおおお、み、な、ぎ、っ、て、き、たぁぁあああああ!

 

こいよ地球! かかってこいやぁ!

地球まじでイージー。

あいつ自然災害しか攻撃手段ないから、俺の格闘戦にもつれ込めば楽勝。超余裕。

溶けた氷の中に恐竜がいても球乗り仕込み。

ぱっかーん! 地球割っちゃう!

リョウタロウ勝利宣言。

とっても簡単!

 

「でさー、エリナとエミールがさあ……ねえリョウ、聞いてんの?」

 

はいはい、コウタ。

聞いてる聞いてる。

上田妹と上田2号が仲悪いんだっけ。

俺ほとんど面識ないんだけど……ていうか2号はともかく、極東の新人達に普通に俺、避けられてるみたいだし。

なんかソーマから聞くところによると、俺の名前が出てくると特に上田妹が拒絶反応出ちゃうとかなんとか、それほんとなの?

今の第一部隊ってどうなってるの?

 

「なんだよそれ! ちょっと離れてたらもう他人事かよ! 俺、リョウが隊長やれっていうから、色々頑張ろうって思ってたのに。リョウが隊長だったから、俺……俺……!」

 

コウタ……。

 

「どうして欧州から帰って来たと思ったらいきなり俺に隊長やれなんて言って、そしたらまた欧州に行っちゃって、そんでいつの間にかまた帰ってきて……えっ、マジでリョウのスケジュールどうなってるの?」 

 

いきなり素にならないでくれませんかね?

いや、ほんと俺もどうなってんのかと榊さんを問い詰めたい。小一時間ほど問い詰めたい。

でも命令されたら従うしかないのが下っ端の悲しいところですよね……。

 

「この報告書おかしくね? 一人で一個師団並みの戦果とか、ん? は? え? えっ、これおかしくね?」

 

はっはっは、お前も隊長になった自覚があるようだな。

あれだけ書類見ることも触ることも嫌がってたコウタ君が、ほんともう見違えるようになっちゃって。

隊長権限とかで見たくもない陰謀書類とかばんばん回ってきちゃってもう大変だぞ!

 

「いや、ネモス・ディアナにうちの新人たち研修に行かせるんだから、先任の活動くらい確認するって……ええと、向こうでリョウは、朝起きて飯食ってトレーニングして出撃して出撃して出撃して、そんで帰ってきて飯食って寝る前に出撃して寝てた? ネモス・ディアナでも以下略? ん、んん?」

 

何かおかしな点でも?

あるよね? おかしな点、あるよね?

ほら、聞いていいよ。聞けよ。

働きすぎじゃね? って言えよ。

言ってくれよう……聞いてくれないと泣くぞう……。

恥も外聞もない泣き方するぞう……絶対めんどくさいぞう……。

全部神機様がやれっていったからぁ……。

うおおん神機様ぁ……。

 

「まあ、リョウだしなあ」

 

スルーするのやめてくれません!?

その、俺だしな、みたいなセリフ、常套句になってんじゃん!

やめて! お願い!

 

「その、神機のこと、残念だったな。でも俺さ、あんまり心配してないんだ。たぶんリョウはまた、ゴッドイーターを続けることになるよ。ゴッドイーターじゃないリョウなんて、想像つかないもん」

 

それは喜んでいいんですかね?

ゴッドイーターやるぜーって言ったけどさあ。

天職じゃないと思うのは変わらずなんだよね。

あんまり向いてないんだろうなあ俺。

 

神機様もいなくなっちゃったし、これからは自分で全部やってかないと。

そうじゃなきゃ、神機様だって安心してさ……。

 

「それより聞いてくれよ。俺、隊長としてやっていけるのかなあ。リョウが戻ってくるまで、極東を守るんだって、そう思って頑張ってきたけど……なんか自信失くしちゃうな。リョウみたいにうまく皆をまとめられないや」

 

まとめてた覚えはないけどね。

ソーマとかアリサの顔色うかがってた覚えはありますけどね。

あいつら扱い難しすぎだもの。

だからコウタ君、君に魔法の言葉を教えてあげよう。

 

「魔法の言葉?」

 

初期アリサよりマシ! ソーマよりマシ!

 

「た、確かに」

 

納得してくれたようだね。

部隊員達の中が悪くてどうしようもないってなった時、ぜひこの言葉を思い出してくれたまえ。

それがお前の支えとなって、未来へ進む標となるだろう。

 

「でもほんと、あの頃のこと思い出すとリョウは苦労してたよなあ。俺さ、やっぱりリョウに隊長でいてもらいたかったなあ」

 

やめてください。

せっかく押し付けげふんげふん!

楽になっげふんげふん!

もう勘弁してほしげふんげふん!

 

海外に引っ張られていくようになっちゃったから、極東を守る人間が必要だった。

相応しいって思ったから、アリサでもソーマでもなく、コウタ。

お前を指名したんだ。

いや決してあの二人に隊長やらせるのは流石にないわーと思ったからでもコウタなら頭悪いしメンタルも強いし適当にそれっぽい理屈言えば断らんだろと思ったからでもないぞ!

 

でも最初の内が大変だっていうのは、その通りだな。

コウタも色々やらされて駆けずり回ってるんだろ?

特務はほんと、大変だよなあ。

隊長下りても特務漬けとか、なんなんだよほんと。

リンドウさんとかレンに「パパは外にすんでて、お家に遊びにくるの?」って言われてガチへこみしてたし。

 

「んん? 特務……? ん、んん?」

 

ん、んん?

え、ちょっと、何その反応。

まさか。

 

「いや、第一部隊の隊長が特務やらされるとか、ソーマと前支部長じゃあるまいし、そんなの都市伝説っしょ。ないない、ありえないって」

 

はぁぁああ?

はぁぁああ!?

何それ、何この感情?

何で隊長なのに特務がないの?

納得いかないし!

これ納得いかないし!

ちょっと待って、それなんで俺だけやらされたの?

納得いくわけないし!

シックザール支部長との一件はしょうがないにしても、榊さんからの特務は山ほどあるでしょ!?

 

「あーそいえばリョウ、隊長になってから極東支部にいた時は、なんかいっつも単独任務してたよなあ。なんだっけ、本部職員さんの接待とか、視察で接待戦闘?みたいなのやらされてたんでしょ? 

 現場への負担が大きすぎるって今はそんなのなくなったから、俺は部隊のことだけ考えてたらいいから、リョウよりは楽させてもらってるよ」

 

なにそのバックストーリー。

聞きたくなかったし。

いやぶっちゃけるとね、俺と同じ苦しみを味わうがいいと思ってだね。

あぁぁ……これへこむわぁぁ……これすんごいへっこむわぁぁ……。

コウタ、お前にはがっかりしたよ……がっかりコウタだよ……。

 

「そんでさあ、ソーマとアリサが組むようになってから、ソーマが丸くなっちゃってさあ。なんかずっとブツブツ言ったりしてるんだよ。

 『リョウの写真が……あたり一面に……なんだあれは……』とかさ。何言ってるんだって話。

 アリサもほら、あれ、リョウがお土産に買って来た帽子。あれいっつも撫でながらさ、ほわほわ笑ってるんだぜ。

 すっげー可愛いってなもんで、男共に大人気なんだよ。リョウもうかうかしてると、横からひょいって取られちゃうぞ」

 

ああー確かに、あのおっぱいが誰かのおっぱいになるのは人類の損失だな。

おっぱいはさあ……なんていうか、誰にも邪魔されず自由で、救われてなきゃあダメなんだ。独りで、静かで、豊かで……。

おっぱいは皆のものだよな。うん。

 

「アリサ、ファイト……」

 

それで、そっちはどうなのさ。

なんだかんだで、隊長ってのはさ、ほら。

色々、決断しなきゃいけない立場にいるからな。

 

「ん……この前さ、アラガミが防壁破って侵入してきたときに、どこを守りにいくのかって決めなきゃいけない時があってさ……。

 あーあ、こんなのばっかりだよ。俺、その区画に住んでた人数の多さで選んだんだ。それで結果は……さ。エリナにめちゃくちゃ責められたよ」

 

そっか……。

 

「でもさ、俺、やるよ。うん。守れなくて、間に合わなくて、うわーってなるけど、でも俺、戦うんだ。ちょっとでも守れるんじゃないかって、信じてるからさ。リョウが俺達に教えてくれたみたいに」

 

コウタ。

お前が隊長になってくれてよかった。

第一部隊を頼んだぞ。

 

「おう、まかせとけって!」

 

色んなことがあって神様は俺達を見放したのかもしれない。

それでも。

それでも……だよな。

これくらいじゃまだまだ、だぜ。神様よ。

 

「それでさー、人を気遣うやり方っていうの覚えてからソーマの奴もう、モテてモテて。

 いっつもキャーキャー言われてるんだよ。俺の妹もソーマさんかっこいいーってさあ。この前俺んちにソーマが遊びに来たときも、いかないでーって服ぎゅーってさ……。

 へへ……それほんとは、俺のポジションだったのに……へへ、へへへ……」

 

お、おう。

 

「なんか、書類が……書類が終わらないんだ……リンドウさんの隊長時代の書類まで残ってるし……隊長だから俺……しっかりしないと……ちゃんとしないと……書類終わらせないと……」

 

い、いやでも隊長は押し付けちゃったけど、書類は全部終わらせてたはずなのに。

 

「サテライト拠点の理論実証とか、エリナとエミールのスピアとハンマーの極東運用データとか、なんか色々あって。最近じゃ出動してるよりも机にかじりついてる方が多くて……。

 現場に出たら出たで、新人のフォローとかエリナ達の仲介とか感応種の対応とか……帰ってきたら書類の山が……最近じゃついでで隊長してるんじゃないですかってエリナに怒られて。

 母さんにさあ、愚痴っちゃったよ。第一部隊の隊長をしてるんだけど、俺はもう限界かもしれない、って。でも書類が……俺がやらないと」

 

コ、コウターー!?

しっかりしろコウタ!

もう限界! 限界ですからあ! 

第一部隊を実験部隊にするのはやめたげてよお!

榊さあん!

 

「さ、アナグラに帰ろうぜ。今度は“ちゃんと”さ」

 

ああ、そうだな。

 

「俺は仕事をしに帰るよ……」

 

コウタ……お前は今、泣いていい。

泣いていいんだ……。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

あ……わっ……その……!

そ、そのっ……帰ってきてたなら、その、何か言うべきなんじゃないですか?

あんまり身勝手なことばかりしてると、ふてくされますよ。ツーン、です。

あなたは第一部隊の隊長を辞めて、一人になったつもりなんですか?

そうすれば、身軽になれるからって……。

 

だめ。

そんなの絶対ダメです。

 

私は……私たちは、あなたの“帰る場所”でありたいんです。

この広い世界の、どこにいても。

 

その、だから……!

え、わっ、わっ!

あ、あの! あの……!

き、急に、その! えっ!? ええっ!?

 

あっ……シオちゃんの事を思い出したから?

そうですね。シオちゃんも、こうやってぎゅーってしてもらうの、好きでしたから。

だから、その、もっとぎゅーってしても、その。

う、ううー……ドン引きです……ばか。

 

わかりますよ。

リョウのことですから……あなたの事は、全部、わかります。

何か、あったんでしょう?

ううん、何も言わなくていい。

だからもう少し、このままで。

 

素敵、ですね。

こうやって、帰れる場所があって、抱き締めてくれる人がいる。

それだけで、全部が許される気がします。全部、許せる気がするんです。

ね、リョウ。

 

おかえりなさい――――――。

 

 

 




まとめ
主人公<(´・ω・`)つらいけどがんばるお!
ユノ<(´;ω;`)ブワッ

書き切った。
もうシリアスは逆立ちしても頭から出てこない。
あと1話くらいは出てきそうにない。
ゲーム本編だと『光のアリア』はユノが作ったということになっています。
あの詩はもう、主人公やゴッドイーター達、それを見る人々に向けるためにつくったとしか思えませんでした。
光のアリアが、アリサやソーマ、そして主人公達と触れ合ったユノが、その生き方を知り、謡ったものであるのだとしたら。
GEはゲーム表現でやさしく描いてありますが、すさまじい残酷さ、そして人間の勇気賛美歌が謳われるストーリーであると思います。

しかしこう、主人公ちょっとしんどすぎない?っていうご意見が多数でして、いやはやごもっともでした。
公式小説からして精神的ブラクラものでしたから、いやあこれくらいは許容範囲だろう、と。
勘違いものにあるまじきシリアスさになってしまった……申し訳ありませんでした。
だので次から勘違いもの路線復帰だぜぇーー! ひゃっはー!

GE/GEBでは保留となり、GE2では答えが出せず。
博士ーズに誰も、終末への明確な答えを返せませんでした。
でも主人公は答えを持っていたのではないか、と思えてなりません。

これがリョウタロウの、終末捕喰に対する答えです。


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ごっどいーたー:11噛

GEアニメ化……世界設定2071年、だと!?
無印からじゃないですかヤッターーーー!!!!
下乳が揺れるのが待ち遠しすぎる!!!!


【キャラクターep.リョウタロウ1】

 

 

 

 

リョウタロウは激怒した。

必ず、かの邪智暴虐の憎いあんちくしょうの顔をめがけ叩け叩けしなければならぬと決意した。

 

「きゃー! ソーマ先輩よ!」

 

「今日もクールね~」

 

「カッコイイ~!」

 

リョウタロウにはモテ方がわからぬ。リョウタロウは元壁外の住人である。

その日暮らしの底なし生活をして浮世を離れ、はぐれアラガミと遊んで暮らしてきた。

けれどもモテ野郎に対しては、人一倍に敏感であった。

 

「毎日毎日、飽きない奴らだ」

 

だから反射的に拳を振り上げてもしょうがないと思いませんかねえ?

これは、この感情は、そう嫉妬。

嫉妬の仮面を被り、笑顔で接するナイスガイ。

今日の俺は、嫉妬仮面……嫉妬マスクだ。

 

「おい、どうした?」

 

――――――いや、別に?

 

「そうか……疲れてるなら、そう言えよ。お前は無理をしすぎるからな」

 

大丈夫大丈夫。

別になんともないですから。

うん、別に? 別になんともないよ?

べっつにぃ~? 羨ましいとかじゃないですし~?

うん、羨ましくないもんね。全然羨ましくないわー。

あれれーおかしいなー?

何だか目からしょっぱい水があふれてくるよー?

 

おいソーマ、お前ちょっと前まで“こちら側”の人間だったじゃねえか。

俺と同じで死神とか言われててちょっとシンパシー感じてたのに。

何なの?

ここ最近の黄色い声援、何なの?

 

「悪いな。今日も付き合ってもらっちまって」

 

――――――いや、いいよ。ソーマ博士のためさ。

 

「まだ早いがな」

 

――――――まだ、ね?

 

「ふっ……お前にそう言われるとこそばゆいな」

 

あ、わかったこれ。

インテリオーラのせいだ。

世紀末世界観っていっても、野性味溢れる男がモテた時期は終わったんですね。

今は知的ながきてる……と。

つまり俺に、インテリオーラはないということか。

解せぬ……眼鏡でもかけようかしら。

 

「しかし、コウタの驚き様は笑えたな。『リョウは同類だと思ってたのに』、か。お前の学力検査の結果は、ゴッドイーターの平均レベルを超えて、研究職並みだって出てたのにな」

 

――――――バカラリーとはちょっと……ま、所詮はペーパーテスト用だよ。“生きた”知識じゃない。

 

「そういえばアリサに資材運用法や治世論まで教えていたな。どこで学んできたんだ?」

 

――――――昔ネモス・ディアナのナチ総統に教わったり、シックザール支部長付きになってた時はエイジスの建築関連の教育受けたりして、まあ色々教えてもらってさ。最近じゃ榊博士の助手みたいなことしてるからなあ。

 

「アリサが一人でクレイドルの現場指揮が出来るまでになったのは、お前のおかげだろうな」

 

――――――こんなご時勢だし、勉強することが一番の贅沢だからね。アリサはよく解ってる。

 

「違いない」

 

フ、と笑うソーマの横顔に、黄色い声援。

 

「まったく、こうも騒がれるとうっとうしくなるな……」

 

それはモテ男の余裕ですかねえ!?

博士論文とか手伝うんじゃなかった。ていうかソーマの家庭教師とかしてやるんじゃなかった!

アリサといいソーマといい、スポンジみたいに色々教えてやるとすぐ吸収して楽しかったからぐぬぬぬ。

敵に塩を送ってしまった。

ソーマにシオは効果覿面だってわかってたのに。

ソーマに、シオを!

 

「なんだ?」

 

――――――別に……うん、別に……モテるなって。

 

「フン……ちょっと前までは誰も近付きもしなかった癖にな」

 

それに比べて俺はどうでしょうか。

少し、見てみましょう。

 

「きゃぁぁああああ! 神狩人様! 神狩人様よ!」

 

「こっ、こっち、こっち見た! こっち見た!」

 

「今日メイクしてないのに……ああっ、にこって、にこって!」

 

「ああ……意識が……はふう」

 

何この嫌われ具合。

走って逃げられるとか。顔そむけられるとか。目を合わせたら失神されるとか。

名前すら呼ばれてないし。

何か俺がエントランス行くと、みんなこう、ササーッて避けていっちゃうし。

ヒバリさんところまで一直線に道が出来るし。

俺がエントランスに座ってるとみんな遠巻きにヒソヒソ言ってるし。すごい噂されてるし。

ごめんコウタ。コウタの気持ちがわかったよ。

あ、泣きそう。

今ちょっと話しかけないで。泣きそう。

誰も話しかけてこないけどね……。

 

「お前もお前で、たいがいだな」

 

ほらこの嫌味ですよ!

モテ期きて調子乗ってるんじゃないですかねえ!

もうこいつの前じゃ泣かない。絶対泣いてなんかやらない。

あぁぁぁもぉぉぉぉおやっぱ泣けてきた!

コウタ呼んできてコウタァ!

 

「オーッス! リョウ、ソーマ、今日は非番?」

 

コウタキター!

これで勝つる!

 

「いやー俺は今日入った新人達の訓練でさあ。ほら、こいつこいつ。結構やるんだよ」

 

わぷぷ、とコウタに頭をワシワシ撫でられ、むずがる新型使いの女の子。

もう一度言います。女の子。新人の女の子。

「もーやめてくださいよ先輩」などと言いながら、コウタの胸を叩く。

あれはまんざらじゃないと言う顔だ……俺にはわかるぞ。

 

「先輩、この方は?」と俺を見上げて言う新人ちゃん。

ソーマのことを聞かないのはあれですよね? 知名度の差ですよね?

有名になりたいわけじゃないけど、こう、極東初の新型使いですよ俺?

しばらく海外にいたから人事についていけてない感がすごいけども。

もっとこう、もっとさあ。

 

「ああ、俺達の永遠の隊長さ! ほら、神狩人って言えばわかる?」

 

「ひえっ」と口元を押えて後ずさる新型ちゃん。

まただよその反応。

コウタ、にひひじゃないよ!

それ今までの仕返し? 仕返しなの?

ごめん謝るから。もう堪忍して!

ああ、泣きそう。

ごめん、これからちょっとだけ泣く。

胸の中で。ちょっとだけね。

 

誰ガデー! ダデニモデデモ! オンナジオンナジヤオモデェー!

ンァッ! ハッハッハッハー! この極東ンフンフンッハアアアアアアアアアアァン!

アゥッアゥオゥウアアアアアアアアアアアアアアーゥアン!

コノキョクトゥァゥァゥ……アー! 世の中を……ウッ……ガエダイ!

 

「またリョウ、新人の子見て遠い目してら。あんまり言わないけど、やっぱつらいのかな。神機失くしちゃったこと」

 

「そっとしといてやれ。自分と重ね合わせてるんだろう……新型の新人は特にな」

 

「榊博士も困った顔して何とかしてくれってさあ。人類への大きな損失だって、リョウ、博士とリッカの所に頭下げに行ってるらしいよ。今でも」

 

「クソ真面目だからな、あいつは。この前リッカが泣きそうになって俺のとこにきたぞ。リョウを慰めてやれってな」

 

「せっかくだから休めばいいのに、罪悪感かなんだか知らないけど、アイテムだけ抱えて新人とか前線の手伝いに出て行っちゃうんだからなあ。知ってる? 最近こんな噂があるの」

 

「どこからともなく現れて、禁忌種にスタングレネードを投げつけて追い払ってくれる、お助けアバドンマン、だろ?」

 

「そうそう、それそれ。知名度に比べて顔が知られてないっていうのがリョウらしいんだけどね」

 

「これだけ人員の入れ替えが激しけりゃな。繰り返し海外遠征させられたあいつに同情すべきか、新人を補充させ続けなければ回っていかない極東の死亡率を嘆くべきか」

 

「アリサは喜んでるけどね。リョウに時間できて、一緒にクレイドル見て回れるーって」

 

「任務を口実にしてないか? それ……ん? リョウに時間、できたか? いや待て、あいつの出撃率はどこだ。見せろ」

 

「ちょっと、他人の出撃率の閲覧とか、隊長権限なんですけど一応。まあいいや、ほら」

 

「これは……おかしくないか? 前とほとんど変わってないんじゃ……」

 

「いや、そんなことあるわけ……あったよ」

 

「……これは」

 

「見なかったことにしよう」

 

「ああ……そうだな……」

 

 

 

 

【キャラクターep.リョウタロウ2】

 

 

 

 

加賀美リョウタロウ。

極東支部所属ゴッドイーター。神機損失につき無期限警戒待機処分。

テンションが上がった故の神機全損という過失に、持てる謝罪力に限界を感じ、悩みに悩み抜いた結果、彼がたどり着いた結果(さき)は感謝であった。

自分自身を育ててくれた仲間達への限りなく大きな恩。

自分なりに少しでも返そうと思い立ったのが……一日百回、感謝のアイテム合成!!

気を整え、拝み、祈り、構えて、合成する。

一連の動作を一回こなすのに当初は数十分。

百回合成し終えるまでに初日は半日以上を費やした

合成し終えれば土下座する様に寝る。

起きてはまた合成するを繰り返す日々。

二日が過ぎた頃 異変に気付く。

百回合成し終えても 日が暮れていない。

リッカとの反省会を越えて、完全に羽化する。

感謝の合成、1時間を切る。かわりに、祈る時間が増えた。

ターミナルを下りた時、リョウタロウの合成は……。

音を、置き去りにした。

 

「でっきるっかな、でっきるっかな? リョウー、今日は何をつくるのさ?」

 

――――――今日は~……じゃん! さあコウタ! 今日はスタングレネードを作るよ!

 

「わあ! スタングレネードを作るなんて楽しみだなあ!」

 

――――――じゃあ、まずは爆縮体を用意しよう!

 

「まっかせて! あそこにいる勝手に商売してるように見えて実はフェンリル傘下の商人だった小汚いおっさ……よろず屋さんから爆縮体を買って来たよ! ついでにマグネシウムも!」

 

――――――むむっ、コウタは相変わらず準備がいいなあ。僕も見習わなくっちゃ!

 

「えへへ~、ねえねえ、スタングレネードはどうやって作るの?」

 

――――――おっけい! まず、右手に爆縮体を持とう!

 

「右手にだね!」

 

――――――そしたら次は~、左手にマグネシウムを持っちゃおう!

 

「よいしょ、と。持ったよ!」

 

――――――はい、合成しまーす。

 

「ファッ!?」

 

――――――ちゃららちゃっちゃちゃ~、スタングレネードー。

 

「ごめんリョウ。俺、疲れてるのかな……もっかいやって?」

 

――――――いいってことよ。右手に爆縮体、左手にマグネシウム。はい合成、スタングレネード完成。

 

「そ、ソーマ! ソーマちょっと! ちょっとソーマこっち来て! 早く! ほらこれ、これ!」

 

「おい、うるさいぞ。少しは静かに……」

 

――――――はいスタングレネードスタングレネード。

 

「ファッ!?」

 

「ソーマから変な声が!」

 

――――――ドヤッ、おいちゃんのスタングレネードやで!

 

「おい、“ガワ”はどうした。中身は一万歩譲って目を瞑ってやってもいい、ガワはどこから出しやがった」

 

――――――どこからって、こうして、こう。

 

「な、なん……だと……!?」

 

「な! なんかおかしいだろこれ! なー!」

 

――――――なんていうの? ほら、こう、メインストーリー終わってから合成するようになるよねとか。なんかそういうの。

 

「いくらですか?」

 

「アリサァ!」

 

「ソーマから変な声が!」

 

「いくらなんですか? いくらなんですか!?」

 

――――――出撃するゴッドイーター達のために、なんと無料で提供中さ! さあ、持って行ってくれ!

 

「あるだけください! 私、使いますから! ちゃんと使いますから!」

 

「お前は、それを、なにに使うと……」

 

「ソーマ? ソーマ!? しっかりしろ、ソーマァァアア!?」

 

 

 

 

【キャラクターep.リョウタロウ3】

 

 

 

 

本日は晴天なり。本日は晴天なり。

格好の運転日和なり。

たまにはハンドル持たないと、腕が鈍っちゃうからね。

 

「リョウ……その、ごめんなさい。休みの日なのに、付き合ってもらっちゃって」

 

――――――いいんだよ。何もしないでいると、腐っちゃいそうだ。

 

「私、その、なんて言ったらいいか」

 

それきり、ジープの助手席で俯いてしまうアリサ。

コウタもソーマもそうだったけれど、神機をぶっ壊しちゃった俺にやたらと気を遣ってくれてる。

ありがたいと思う。思うけど、それなんかこう、これから刑を受ける奴に対する同情っていうか。

気遣いが超痛いでやんの。

 

神機過失で全損させるとか、これやっちゃダメな奴でしょ?

しかも俺の神機、一応は極東で初めての新型じゃん。

榊さん「いいんだよ」って言ってたけど、あれ絶対怒ってたよ。目が笑ってなかったもん。

あれ絶対おこだったよ。激おこだったよ。

リッカだって「リョウが無事ならそれで……」って涙目になってたけど、あれって建前だよね?

神機命っ娘のリッカだから、神機ぶっ壊してくれちゃってこのやろう! な涙目だよねあれ?

 

べ、弁償とかしないとだめですよね?

謝罪のスタングレネード無料提供とかやってるけど、こんなんじゃ駄目だよねやっぱり?

うおお超ごめんなさい!

ほんと、テンションに任せちゃった行動っていうか、ほんと反省してますからあ!

借金だけは勘弁してぇ!

 

――――――神機を失くしてから、ゴッドイーターは何のために戦ってるんだろうって、思うようになったんだ。

 

「それは……私たちは、みんなを守るために」

 

――――――うん、俺もそう思ってた。ずっとそのために戦うものだって。でも正直言うとさ、神機を失って、少しほっとした俺もいたんだ。

 

爆縮体破産寸前になってる通帳残高を見るのは怖いけど。

でもまあ、ほっとしてもいるんだなあ。

だってさー色々啖呵切っちゃったけど、俺やっぱゴッドイーター向いてないって。

怖いもん。普通に。いつまでたっても。

やる気出してがんばるぞーって言ってはみてもね。

荒事とか向いてないんだって。日本人だもの。

適職と天職は違うんだなあ、これが。

 

あれ? そう考えると復職とかでビクビクしてなくても、このままでよくね?

過失でやらかしたゴッドイーターとか、そんな奴信用できるわけがないから。

次に適合する神機探すのも、後回しだろうし。

そうなると偏食因子うつだけの怪力人間として予備役に回されるわけで……。

遊ばせておくことなんて丸損だから、ゆくゆくは建設現場とか、サテライト拠点とか人力が必要なとこ回されることになるんじゃ。

なんて素晴らしいんだ。これは、もしかするともしかするぞ?

まさかの勝ち組ルートですかこれ?

やったー!

 

――――――だからさ、たぶん、本当はゴッドイーター達は。

 

そう、つまりは、こういうことだ!

 

――――――ゴッドイーターは、いつか神機を捨てるために、戦ってるんだと思う。

 

ほんとこれ。

これに尽きると思う。

正直になろうぜ。みんなさ、人々を守るんだーとか、使命に燃えちゃって見えなくなってると思うんだけどさ。

辞めたい心を、俺は隠しはしないぜ!

 

「はい……はい……! いつか、いつかきっと……!」

 

んえ?

あれ……?

なんでアリサさん、帽子を下にぎゅーって下げてるんですかね。

そんな顔に帽子押し当てたら痛いんじゃ。

なんでそんなしゃくりあげて……泣いてる?

これ笑うところじゃないの?

俺の情けなさ暴露で笑うところじゃなかったの?

こ、これは俺が泣かせたってことじゃ……やばい!

何でかはわからないけどこれはやばい!

 

――――――いつか、さ。神機を捨てる時が来たら、空を見にいこう。誰にも邪魔されずに、ゆっくりとさ。明るい空に浮かぶ蒼い月を眺めに。

 

「リョウ……私……!」

 

困った時のリンドウさん語録!

それに加えてジャパニーズ愛想ワード!

いつか、とか、きっと、とかは外国人に超嫌われるワードです。

日本人ははっきりしないな。いつかっていつだよ! っていう。

いつかはいつかなんだよ、永遠に来ないけどな! っていう。

 

――――――アリサ? どうした?

 

「胸が、一杯で……」

 

確かに。

チャック下りてないからね!

今日も“南半球”は眩しいです!

あっ、そういえば。

 

――――――そういえば、アリサ。

 

「はい、なんですか?」

 

――――――新しい制服、似合ってる。

 

「は、い……? あの、今なんて」

 

――――――その白い制服、きれいだよ。

 

白くて、まあるくて。

まぶしくて、やわらかそうで。

おっぱいがより一層ときれいです。

その一言しか言えない。

 

「なっなななんななな!」

 

ななな?

 

「ンンーー……ッ!!」

 

アリサさん?

あの、その、なんでほっぺた押えてるんですか?

なんでそんな、顔がにやーってしないようにするみたいに。

 

「なんでもないですっ! その、リョウの新しい制服も、まあ似合うんじゃないですかッ」

 

そうかなあ。

農作業スタイルよりもしっくりこないっていうか。

この制服も最前線専門の隊服でしょ?

やだよそんなの……テンション下がるわー……。

 

「ねえ、リョウ。私たち『クレイドル』が、いつか安心してくらせる場所を作れたら……その、さっき言ってた、空を一緒に……」

 

――――――ああ、行こう。空を見上げに。

 

コウタやソーマも誘ってね。

雨宮一家もいいなー。

みんなでピクニックしたらきっと楽しいぞ。

世界が平和だった時に流行ってたっていう、ピクニック。いいねー。

週三くらいで外でご飯たべる人もいたとかなんとか。

そんな外食おおかったら大変じゃないのかなあ。

アラガミがいなかった時代の生活はよくわかんないや。

 

ところでアリサさん。

その、なんでそんなに目がキラキラして。

 

「約束、ですよ?」

 

お、おう。

 

「約束ですからね?」

 

お、おう。

 

「ほんとのほんとに、約束ですからねっ!」

 

う、うん。

なんだろう、若干外した感じがする。

キリッとしたい時に出るカッコイイセリフは気持ちいいけど、素の時に出ちゃったのは超恥かしいのはなんでだろ。

 

「デート……リョウとデート……極東でいう逢引の約束、ですよね、これ。パパ、ママ、オレーシャ……私を見守っていて。これで決めます!」

 

なんだろう。

盛大に外した感じがする。

 

 

 

 

【キャラクターep.榊】

 

 

 

 

さて、どこから説明したものか。

ああ、楽にしたまえ。そちらの首尾はどうだい?

そうかい、順調のようだね。それはよかった。

こちらは先日伝えた通りさ。

 

しかし驚いたよ。

君から『キュウビ』“2体”と同時に交戦したと聞いた時は、生きた心地がしなかった。

流石は異能とでも言うべき生存体……おっと。

それで、確認なんだがね。

 

欧州遠征中……確かにリョウタロウ君は、“右腕”を、キュウビに噛み砕かれたんだね?

それも、“腕輪”ごと……。

 

ああ、捕喰されかけたとみていいだろう。

一瞬、彼の腕輪から送られる偏食因子の信号が滅茶苦茶になったのを確認している。

“破損している”んだよ。

“彼の腕輪は、既に”。

 

さあ、ここからがお勉強の時間だ。

そう嫌がらないでくれたまえ。お姉さんに叩かれるよ? 

彼女の事だ、リョウタロウ君の話をするのに席を立つなんてこと……ああ、もう叩かれたかい。

 

さて、腕輪の破損と聞けば、君ならば当然“アラガミ化”を想像するだろう。

偏食因子の投与時間さえきていなければ、腕輪が破損しても即時アラガミ化することはないんだがね。

即アラガミ化してしまうのはよほどタイミングが悪いか、体質として合わなかったのかのどちらかだが……リョウタロウ君は間が悪かったんだろうね。

偏食因子の投与リミットを2度ほど超えてしまっている。

ありえないことだよ、これは。

 

考えられることは唯一つ。

君の右腕にある“青いコア”のように、リョウタロウ君もまた外的要因によって、アラガミ化が防がれたということさ。

単純なことだね。

何によって、かい?

簡単さ。

神機、だよ。

 

そう、新型使い……今となってはこの名称も過去のものだが、彼等は特殊な偏食因子によって、感応現象を引き起こしてしまうということは周知の事実だろう。

つまり、脳内にまで偏食因子が融合してしまっているということだ。

偏食因子は神機の影響を顕著に受ける。

神機解放、バーストモードがそれだ。

そして適合率が高ければ高いほど。戦闘経験……神機解放の回数が多ければ多いほど。

その影響は大きく、深く、本人の知り得ない領域まで喰い込んでいく。

つまり、リョウタロウ君には“混じっている”のさ。

神機が――――――。

 

君たちゴッドイーターがいう“素材”というのは、そのままアラガミのパーツをそっくり持ち帰ることではない。

オラクル細胞の集合体であるアラガミは、倒せば塵になってしまうからね。

そう、君たちが言うところの素材とは、神機に付着した細胞片のことだ。

それをいくつも集め、培養し、生体パーツとして組み上げる。素材はね、物理的には極々少量のものなんだよ。これが神機のパーツ生産の流れさ。

その過程で、神機によって様々なアラガミを捕喰すればするほど、神機は微細な変化を遂げていくということも、君はよく知っているはずだね。

進化しているんだ。

自らが喰らったオラクル細胞によって、自らを作り変えているんだよ。

それは形の固定された旧型よりも、第二世代機がより顕著だと言えよう。

様々な武器種を装着しても、始めは拒絶反応を示していたのに、次第に適応していくのがそれだ。

神機は神経接続により繋がっているのだとしたら、それは確実に双方向のはず。

自らの要素を、持ち主へと還元させているんだ。

血管を、神経を、血を、肉を使って。

 

リョウタロウ君の身体を調べたらね、面白いことがわかったよ。

うん、彼はいつも素晴らしいデータを提供してくれる。

赤い雨然り。神機兵のデータ収集然り。

そうそう、赤い雨の治療法とまではいかなくても、感染してしまっているかどうかを潜伏期間中に調べるようになれたんだ。

あと、極東オリジナルの無人神機兵も製作段階に入ってね。もちろん有事の際には中に入って操縦できるように……あ、この話はいい?

 

うん、リョウタロウ君も他の新型使いよろしく、脳細胞と偏食因子が癒着しているのが認められた。

その偏食因子には微量の、神機からなるオラクル細胞も含まれている。

まあ、ここまで通常の新型使いと同じだ。

問題はここからさ。

彼の神機が失われてしまったことは、知らされているよね?

ん? 姉上がリョウが落ち込んでいるから慰めないとって、母性本能剥き出しに?

まあ、それは置いておいて、だ。

 

神機が失われてしまっているというのに。

彼の脳内では、未だに神機由来のオラクル細胞反応が確認されたんだ。

“本体”の制御を離れて、なお存在し続けている。

恐らくは脳内に発生する電流を捕喰することで存続しているのだろう……。

 

さて、先ほど君にも言ったね?

神機と、ゴッドイーターは深く結びついていて。

お互いこれしかいないと言えるほどの、運命的な出会い……極めて適合率が高いものを使用し続けたのならば。

神機とゴッドイーターはある種の融合を果たすのだと。

 

では質問だ。

神機の“本体はどこにある”?

コアかい?

人工的に、扱いやすく加工した、コアだと?

私はそうは思わない。

 

リョウタロウ君はね、かつての君の神機に意思が宿っていたと言ったよ。

その意思は何処に宿っていたのだと思う?

いや……旧型機であったのだから、この場合は神機が本体だと言えようか。

ではその意思は、“何処から”産まれたのだと思う?

そして君の神機は、それを保存していただけなのだとしたら?

 

私の仮説はこうだ。

神機は、使用者の脳を間借りし、自身のソフト面での拡張を行う。

 

神機もまたアラガミなれば、進化の本能を持つのは当然のことだ。

ハード面は当然として、ソフト面もまた……そう、“彼女”のように。

そう、リョウタロウ君の脳内に残留している、神機の“本体”が、彼をアラガミ化から救ったんだ。

 

もう、わかったね。

面白いことが起きそうだと思わないかい?

君の送ってくれた『キュウビ』の持つ、混じり気の無い極めて純粋なオラクル細胞……『レトロオラクル細胞』。

これを応用した技術を、今ソーマ君と一緒に煮詰めている最中なんだ。

アラガミ防壁に応用すれば、“独りでに育って”、“アラガミだけを自動迎撃する”ものが作れるかもしれない。

神機のシールドに応用すれば、一度食らった攻撃を見極めて、オートで弾き返すなんてこともできるかも。

では神機を神機たらしめる、生体部分に使用したら?

 

新型もまた、“檻”であったのではないだろうか。

特別な脳によって“喚起”された神機には、それもまた狭すぎたのかもしれない。

だが、それに相応しい肉体を用意してやれば、どうだろうか。

 

そして本体が彼の脳内にあるのだとしたら、もしコアに本体があった時に、同居させることになってしまう。

これではいけない。

コアは真っ白なもの、とてもとても、ニュートラルなものを選ばなくては。

 

『混迷を呼ぶ者』――――――『アバドン』。

そのオラクル細胞は、何色にも染まる、純白の性質を持つ。

『チケット』、と君たちが呼んでいるものだよ。

コアもまた、等しくまっさらだ。

 

そして、このアバドンのコアも特別なものだ。

百田ゲン……始まりのゴッドイーターが、そのピストル型神機によって、初めて仕留めた獲物さ。

グレードは“ブロンズ”……希少価値はなかったが、長らく極東の資料庫に保管されていた。

記念、ということだろう。価値を意味に見出したということだろうね。

ピストル型神機の使用されたコアは、とてもキレイなんだ。

傷一つないアバドンのコア、これを使う。

 

原初(オリジン)のオラクル細胞。

始まりのゴッドイーターが初めて入手した、無色のコア。

 

この二つが合わさった時、一体何が起きるのか。

破壊の場、滅ぼす者、奈落の底……ヨハネの黙示録に登場する、喰らい尽くす蝗の王になるのだろうか。

興味が尽きないよ。

 

これは人体実験ではないか、だって?

さて……だが、私には確信がある。

こんな程度、彼にとっては試練の内にも入らないよ。

そして、これこそが彼が今、最も必要としているもの――――――神殺しの牙なのだと。

 

君には話したね。

リョウタロウ君に次に頼もうとしている任務は、潜入調査だと。

近々、移動型の巨大拠点が極東に接近するらしい。

ああ、そうだよ。『第三世代機』の試験艦さ。

移動型の拠点だ、その資材は全て外部からの搬入に頼っている。

神機の作成や、腕輪の構成素材もまた、ね。

だから通常の流通ルートを通して、送り届けてあげようじゃないか。

蘇らせてあげようじゃないか。

彼の神機を……!

 

ああ、こちらは何の心配もいらないよ。

全て私に任せて……いや、彼を信じてあげてほしい。

あらゆる修羅場を乗り越え、人々を救い続けてきた、アルティメットゴッドイーター。

加賀美リョウタロウ――――――神狩人を。

 

だからそちらは頼んだよ。

お願いだから、君の姉上を抑えて……えっ、もう手遅れ?

は? リョウタロウ君のために用意した新しい下着? 生身で勝負? ええと、何を言っているんだい?

ああ、そうかね。

私が殴られるのは確定かい。

そうかね……。

 

優しくしてほしいと伝えて……あ。

私の命日が、決まったかもしれない。

 

 

 

 

【キャラクターep.■】

 

 

 

 

You did your best.

(あなたは最善を尽くしました)

 

Was I helpful for you?

(私はあなたのお役に立てたでしょうか?)

 

I am deeply grateful to you.

(あなたに最大限の感謝を)

 

――――――SAYONARA Ryou.

 

R-you.

 

【R】---You.

 

Rebirth

Reincarnation

Resuscitation

Reproduce

 

YOU.

 

 

 

 

 

 




某狩りゲーが楽しすぎて脳汁ブッシャー!
でもまだHR6だっていう。

ううーん、しかし前書きにも書きましたが、アニメ化嬉しいと同時に、問題も。
無印からアニメ化すること確定ですので、何をしてもネタバレMAXになってしまうということに。
ど、どうしようか。
また無印→バーストでやったみたいに、以下ダイジェストね! で流してしまおうかしら……!
2のストーリも長いし、ダイジェストだけでいいような気もしなくもないですも。
そうすれば完結もさせられますし。
短編、なんだよねこれ……。

※なんだか以前要望があったので
ゴッドイーターの愛の歌フルバージョン書いてみたんですけども
まったく原曲と変わってなくて吹いたので、各自みなさんで想像してみてくださいませ!

活動報告はもう、あれだ。
ネタ書き場にしよう。モンハンとかの。


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ごっどいーたー:12噛

キャラが増えれば増えるほど、これまで登場してきたキャラへ割けるシーンが少なくなっていってしまうジレンマ。
ナンバリングタイトル物の宿命か……!


【キャラクターep.エリナ】

 

エリナ・デア=フォーゲルヴァイデには兄がいた。

強く、努力家で、そして誰よりも優しい兄が。

 

エリナは生まれつき体が弱く、療養生活の中、友人の一人もいない寂しい少女時代を過ごしていた。

幼少期は命の危機に瀕することも珍しくはなかったらしい。

故郷である欧州の空気が合わず、そのためにアラガミ被害が甚大である極東へと、叔母の元で静養することを選択したほどだ。

極東は異常だ。まるでアラガミのサーカスが年中開催されているような場所である。

そんな場所へ静養などと正気の沙汰ではないが、それほどエリナの状態は切羽詰ったものであったのだろう。

見違えるほど健康となった今ではそう思うしかない。

それが兄の死へと繋がったのだから。

 

エリナの兄はゴッドイーターだった。

経験もあり、勤務態度も良好。人格については眉を顰める者もいたそうだが、それは性格破綻者が集う極東においては問題にはならない。

そして、皆に慕われていた。

おどけていても、心優しい青年であることは誰の眼から見ても明らかだったからだ。

妹が寂しがらないようにと、東欧地区から激戦区の極東支部へと、自ら志願して異動したことを皆知っていたのだ。

ゴッドイーターに愛されたゴッドイーターだった。

彼らの眼には、エリナの兄が輝いて見えていたのかもしれない。

そして、エリナにも。

エリナは今でも覚えている。

 

『今度、新型機とやらが極東に配備されることになってね。そうさ、特別なゴッドイーターだ。すごいだろう、エリナ。これで人類は救われるんだ。

 その新型機の初陣を手伝ってやるのが何を隠そう、この僕だ。

 フフフ……なあに、僕のように立派に人類のため戦えるよう、手ずから指導してあげるつもりさ。僕は先輩になるんだからね。

 だからエリナ。お前は安心して待っていなさい。また、すぐに帰ってくるからね。そろそろ退院してもよいと言われたんだ。

 せっかくだからキレイな服を買って、一緒に出かけよう。そう、この僕がお前に似合う服を選んであげよう。じゃあ、行ってくるよ、エリナ――――――』

 

兄の、最後の言葉を。

兄は、日々人々のため己を削り、人類の明日を守る存在……ゴッドイーターだったのだ。

誰かのために戦い、そして誰かのために死んでいく存在だったのだ――――――。

 

「エリナちゃん! ちょうどよかった~! 今度こそこの前言ってたハーブ、見つけたら持ってきますね!」

 

「カノン先輩、今日の作戦エリアは空母でしょ。生えてないですよ、そんなの」

 

「ええっ!? でもリョウく……教官先生は、いつも拾ってたような」

 

「教官先生? 拾っ、て? まあ、あの人は特別ですよ。特別、なんだから……」

 

初め、エリナは皆が嘘を吐いているのだと思っていた。

子供ながらの思考。みんながいじわるをしているのだと。

いじわるをされて、兄が会ってくれない。

みんな兄が死んだなんて嘘を言う。

信じることはできなかった。

療養が終わり、健康となって、せっかくの自由な時間をエリナは兄の影を求め、極東支部内を彷徨うことに費やした。

仲が良くなった友達もいた。自分を気に掛けてくれた男の子に、女の子。彼らは今何をしているのだろうか。

もう忘れてしまった。

あの頃いったい自分が何をしていたのか、おぼろげにしか覚えてはいない。

まるで夢の中にいたような気分だ。何時までも覚めない、悪夢の中に――――――。

 

――――――えー、スタングレネードースタングレネードはいらんかねー。

 

「……」

 

――――――あの、エリナ、ちゃん? だっけ。なんでそんな睨んで……。パンツ見え……いえ、何でもないです。

 

こうやって、よろず屋の前に座り込んで、品物をただ眺めていたことだけは覚えている。

出撃ゲート近くにいれば、兄が帰ってきたらすぐに駆けつけられると。

だがある日、厳格だった父が、人知れず泣き崩れていたのを見た。

その瞬間、エリナは全てを理解した。

ああ、兄は死んだのだと――――――。

 

「私は、フォーゲルヴァイデ……エリナ・デア=フォーゲルヴァイゲです」

 

――――――う、うん。よろしく。

 

「何か、ないんですか?」

 

――――――何かって……。

 

エリナは純粋だった。

あの涙を拭うには、どうしたらいいのかを考えた。

自分と同じ想いを抱く者を救うには、家族を失い悲しむ人を増やさぬためにはどうしたらいいのかを。

そして至った結論は、アラガミのいない世界を自らの手で創ること……ゴッドイーターとなることだった。

その選択は間違っていないと信じている。

ゴッドイーターは尊い仕事であると。

兄のように、自分も優秀なゴッドイーターとなるのだと。そう決めたのだ。

子供を全てゴッドイーターへと奪われてしまった父の嘆きは、見ぬ振りをして。

エリナの右腕には今、真新しい赤い腕輪が輝いている。

第二世代、新型機の腕輪が。

 

「居住区周辺より入電! アラガミ反応多数、中型種です! 第一部隊は出撃準備をお願いします!」

 

エントランスからオペレーターの竹田ヒバリが声を上げる。

出撃警報(アラート)。

第一部隊に出撃要請。

その性質状、第一部隊に回る任務は全て特殊性の強いものである。

ほとんどが防衛班や他部隊の穴埋めとでもいうべく働きを求められるが、他部隊の仕事をそのままこなせというのだ。一つの仕事を覚えただけでは、やってはいけない。

第一、というナンバリングは伊達ではないということだ。

隊長であるコウタは自覚が薄いようであるが、第一部隊とは、精鋭揃いの極東においてなおエリートの集団であった。

実験部隊、とも呼ばれているらしいが、それはエリナには与り知らぬ話である。

 

「リョウ! 悪いけど、バックアップに入ってくんない? まだエリナとエミール、任務二回目だからさ。ちょっと心配で」

 

――――――了解。スタングレネードはまかせろー。

 

「へへ、よろしくな! さ、行こうぜみんな!」

 

「……で」

 

「ん? どうしたエリナ。エミールが待ってんぞ」

 

「なんで、そんな人に頼むんですか!」

 

「おわっ! お、おいエリナ」

 

「前の隊長だかなんだか知らないけど、その人、神機壊しちゃったんでしょ? そんなだから隊長から外されて飛ばされたんじゃないですか!

 ゴッドイーターにとって神機は自分の分身のはずでしょ! それを……あなたなんかに頼りたくなんかない! 私たちだって……私だって、戦えるんだからッ!」

 

「エリナ! お前!」

 

――――――いや、いいんだ。本当のことだから。

 

返事を待たずに、出撃ゲートへと走る。

ああ、またやってしまった。自己嫌悪に陥る。

気持ちを抑えられずに、あたってしまうのは自分の悪い癖だ。エミールともこうやって衝突してしまう。向こうはまるで堪えてはいないようだが。

どうしても、この加賀美リョウタロウという男を好きになれない自分がいた。

結局エリナは出撃ゲートからミッションエリアに到着するまでの間、一度もリョウタロウとは口を聞かず、目を合わせることさえなかった。

 

「僕の名はエミール……エミール・フォン=シュトラスブルク……よろしく」

 

荒廃した地に一輪の薔薇が。

 

「皆の先頭に立ち道を示す、それこそが我が騎士道! 案ずるな、僕に全て任せるがいい。聞くところによれば、君は戦いで神機を失ったのだろう?

 何も恥じることはない……ゴッドイーターは戦い、人々を守るためにある! 戦いの中で受けた傷、失ったものを恥じることはないのだ!

 胸を張るんだ! もう一度言おう、案ずるな! 君の背には僕がついているということを、忘れないでくれ……! このエミールが、ついているのだということを!」

 

「キッモ」

 

「そうか、この迸る騎士道精神、君にも通じたかエリナよ! さあ今日も共に戦おうではないか!」

 

「あー! もー! 暑苦しいウザイ嫌い向こう行け!」

 

「はは……まあ、こういう奴らだよ」

 

――――――お前も、苦労してるんだな。

 

「うん……ごめん、これ終わったら、一緒にバガラリーみない? 俺、ちょっと、そろそろしんどい」

 

――――――ああ、一緒に見ような! いっぱい、いっぱい見ような……!

 

エミールが片側だけ伸ばした前髪を指で巻き、エリナが噛み付き、コウタが笑いながら内心で溜息を吐く。

いよいよ少数精鋭となった第一部隊において、期待の新人(ホープ)とベテランのトリオ。

リョウタロウがコウタへと、エミールを指さして「俺こいつちょっと好きかも」とボソリと言っていた。

私はどうなのだろう、とエリナは自問する。

まず、好かれることはないだろう。

そも、こちらが彼を嫌っている……憎んでいると言ってもいい。悪感情を向けているのだから。

 

「さ、今回もまたオウガテイル相手だ。もう引率はいいよな? 俺は遠くの“はぐれ”をやるから、お前達は二人で近場のを殲滅。居住区に近づけるな」

 

「了解!」

 

「フッ……この僕に任せるがいい。期待に答えてみせよう!」

 

「それじゃ、油断せずにいくぞ!」

 

「行くぞ闇の眷族よ! 我が正義の鉄槌を受けるがいい!」

 

通信機の感度チェック。

コウタを示す光点が、エリナとエミールから離れていく。

エリナはチャージスピアを、エミールはブーストハンマーを、それぞれ構えた。

神機から接続帯が黒い触手染みて伸び、腕輪へと接続される。

自分の認識が拡大したような不思議な感覚。神機への神経接続が正常に行われた証拠である。

アーティフィシャルCNC(神機へと形態変型を命令するための腕輪との接合物質)を通じ、神機へと指令を下す。

お願い。今日も一緒に戦って。

チャージスピアがオラクルの唸りを上げた。

さあ、戦いだ。

 

「ぬおおおおーッ!」

 

――――――スタングレネード!

 

エミールがハンマーの慣性に引き摺られ、転ぶ様が見えた。

スタングレネードの輝きがオウガテイル達を足止めしている。

こちらも笑ってはいられない。

 

「きゃああああーッ!」

 

――――――スタングレネード!

 

スピアのブーストが不発し、明後日の方角へと身体ごと吹き飛ばされていくエリナ。

スタングレネードの輝きがオウガテイル達を足止めしていた。

 

「フンフンフンフンフン! どうだ! 何時までも失敗している僕ではない!

 騎士は、失敗から学び、そして再び立ち上がるのだぁー! そう、不死鳥のように! 僕のことはフェニックス・エミールと呼んでくれ!」

 

――――――フェニックス、ホールドトラップいくぞー。

 

「任せたまえ! フンフンフンフンフン!」

 

エミールの、すぐさま調子を取り戻し、ハンマーでアラガミを粉砕していく快音が轟く。

対してエリナのスピアは輝きを失い、沈黙したまま。

焦りのみが募る。

 

「どうしてこんな、どうして! 言うこと聞いてよ、お願い、お願いだから……!」

 

エリナの願いが届いたのだろうか。

神機が稼働、唸り声を上げ始める。

だがその唸りは、あるいは失望の唸りであったのだろうか。

 

ハンマーとスピアーは、これまで欧州での稼働実績こそあれ、極東では十分なメンテナンスを行える環境がなかった。

それを榊とリッカが協同し、新機軸のマニュピレータ開発。十分な組み上げ精度を担保することが可能となった。

そうしてやっと導入されたのが、エリナとエミールの使う、チャージスピアとブーストハンマーである。

極東支部では未だ運用経験が無く、そして最前線である極東でこれらが使われてこなかった理由は、即戦力にはならないからであった。

つまりは、取り扱いが異様に難しいということだ。

極東支部初の、特別な神機。

どこかの誰かと同じような、立ち居地で。

それはエリナへと、対抗心を抱かせるには十分な理由だった。

 

「動いた……! これで! いっけぇえええ!」

 

オラクルブースト。

槍の穂先が、オウガテイルへと刺し向かう。

エリナにある種の確信が訪れた。

ああ、これは、外れる。

 

「狙いが甘……ああっ!」

 

――――――おわ危なっ。

 

いつの間にそこにいたのだろうか。

リョウタロウが軽い掛け声と共に、ぱかん、とエリナの神機を蹴り上げた。

ブーストを吹かして空を翔けるエリナとその神機を、横から、何でもないと言った風に、である。

 

真横から衝撃を与えられたチャージスピアは、急激にその進路を変える。

向かった先は、オウガテイル。

その目玉へと、巨大な槍は寸分の狂い無く突き刺さり、そして喰い破った。

エリナの手には軽い衝撃が伝わるのみ。

手応えがまるで無いことが恐ろしいと思った。

真のクリティカルヒット、とはこのようなことを言うのだろう。

アラガミと言えど、命を奪ったという実感も得られない程の、鋭い当たりだった。

 

――――――すごい偶然……えっと、ナイスチャージ! その調子!

 

「なんで……どうして……」

 

先輩としてのフォローに言葉。

それが、エリナの怒りに火をつけた。

ああ、と胸の内、冷静なエリナが頭を抱える。

任務中だというのに。

これはただの八つ当たりだとわかっているのに。

 

「どうして、あなたは、そんなに強いのに、すごいのに、どうして……!」

 

でも、もう、止められない。

 

「どうして、お兄ちゃんを助けてくれなかったのよ! どうして!?」

 

リョウタロウの笑みが引きつるのが見えた。見えてしまった。

仲間を失くしていないゴッドイーターなど、極東では探す方が難しい。

自分もいずれはそうなるだろう。

頭ではわかっている。でも、気持ちは抑えられない。

 

「ソーマ先輩は、私を見るたびに申し訳なさそうな顔をする! 本当はソーマ先輩と任務に出るはずだったのに、私を後方へと押し込んだ!

 それでもあの人は私を通してお兄ちゃんを見てくれてる! 生まれて初めてできた友達だったって、お兄ちゃんのことを教えてくれる!

 でもあなたにとっては、よくある事なんでしょうね! ええ、そうなんでしょうね! ただゴッドイーターがまた一人死んだって、それだけなんでしょうね!

 ええ、知ってるわ。お兄ちゃんが死んだ時、そこにあなたがいたってこと。お兄ちゃんは、あなたの教導に付くはずだったのよ。

 わかってるわよ! 私だってゴッドイーターなんだから! これは仕方のないことなんだってことくらい!

 でも、それでも……あなたがそんな風に、何でもないっていう風に笑うんだから……!

 よくあることなんだって、何時ものことだって……笑うから!

 私の中にいるお兄ちゃんが……消えていっちゃうじゃない!

 だんだん思い出せなくなってくる……お兄ちゃんがどんな顔をして、どんな声をしてたのか。私に何て言ってくれたのか。

 やめてよ。お願いだから、やめてよ。私にお兄ちゃんを返してよ。お願いだから……。

 あなたのせい! 全部あなたのせい! お兄ちゃんが死んじゃったのは、あなたのせい!

 ねえ、なんで!? あなたは凄い人なんでしょう!?

 ならどうして……どうして、お兄ちゃんを……助けてくれなかったの?」

 

最後はもう、嗚咽しか出てこなかった。

子供染みた八つ当たりだという自覚はある。

自分は、目の前に困惑した顔で佇むリョウタロウと同じ、特別なゴッドイーターとなった。

だが思うような戦果は上げられず、そして誰かに保護してもらっているような無様な様を晒している。

 

「もう……邪魔しないで、ください。私だって、一人で戦えるんだから!」

 

私は、守られるだけのお荷物なのだろうか。

誰かを守るためにゴッドイーターとなったのに。

 

――――――人は死んだらどこへ行く?

 

それは静かな問いだった。

戦場に響く破壊音の中、それでもするりとエリナの耳に届いた、鋭くも力ある声。

 

――――――俺にゴッドイーターの厳しさを教えてくれた君のお兄さんは、死んだな。

 

「言ったでしょ! お兄ちゃんは、とっくに……!」

 

――――――ゴッドイーターは誰かを守るために戦っている。

でも、心の底では、ただ散っていくのを恐ろしく思っている。守った誰かに、ほんの少しでも何かを残せたら。それがゴッドイーターの願いだ。

君のお兄さんは死んだ。もういない。でも、君の背中に、その胸に、ひとつになって生き続ける……そう思ったけれど、ああ。

俺の知っている君のお兄さんは……“先輩”は、本当に死んだんだな。

 

それきりエリナへ向けた背には、寂しさと、諦観が込められていた。

失望させてしまった。

悲しませてしまった。

 

「ちがっ……そんなつもりで、私……!」

 

踏み込んではならない場所へと足を入れてしまったような。

なぜかエリナは、傷つけてはならない人へと酷い言葉をぶつけてしまったという、罪悪感で胸が押しつぶされそうになった。

 

――――――俺が君を手助けするのは、君が子供だからじゃない。仲間だからだよ。

 

言葉が突き刺さる。

わかっていた。わかっていたのだ。

この人は正しくて……だから、こんなにも認められないのだ。

人々の口から聞こえるリョウタロウの噂は、超人然としたものばかりだ。

品行方正。清廉潔白。

公開されてはいないが、戦果まで凄まじいという。

あれだけ見目麗しい女性に囲まれて眉ひとつ動かさないのは、男性にあるべき性欲が無いからではないか、とも言われている。

正しく、優秀なゴッドイーター像が具現したような存在だ。

きっとそれは、兄が受けていた評価と同じもので。

ああ、こんなにもこの人のことが憎らしく思うのは、きっと。

きっと、兄に重なって、見えるからなのだろう。

 

――――――君のお兄さんのことを忘れてなんかいない。顔で笑って心で泣くような、そんなゴッドイーターだった。俺が目指すべきゴッドイーターだった。

 

オウガテイルの横顔を蹴り飛ばしながら、リョウタロウは語る。

熱く、熱く……言葉に熱を込めながら。

 

――――――立て、エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ! 立つんだ!

 

「う……ううっ……!」

 

エリナは神機を杖にして立ち上がる。

どうしてだろう。

この人はこんなにも腹立たしくて。

ともすれば、思うことさえ罪深いが、兄の代わりに死んでいたかもしれない人で。

恨んで、憎んで、理不尽に怒りを向けて……それでも、どうして。

どうしてこんなにも、この人の言葉は、胸を熱くするのか。

 

――――――そしてエリナ。

 

ああ、見える。

あの懐かしい、愛しい顔が。

エリナはリョウタロウの横に、赤毛の青年が、刺青を入れた身体を自慢気に反らして立っている幻を見た。

あれは、私の……。

ああ、なんで忘れていたんだろう。忘れてしまおうとしていたんだろう。

思い出せばこんなにも、心が痛むと解っていたからか。

痛い。痛い。激痛が奔る。

お兄ちゃん、帰ってくるって言ったのに。どうして。

ごめんよ、と言って悪びれもせずに笑う兄の姿が見えた。

その兄は、神機を手に、リョウタロウと肩を並べて戦っていた。

エリナは刹那、理解した。

兄はずっと、戦場にいたのだ。

ずっと、ずっと、人々を守るために戦って……そしてこの場所に踏み止まって、残ったのだ。

ゴッドイーターは“人類最後の砦”と呼ばれる。

その砦の礎は、どのようにして築かれるのか、エリナは理解したのだ。

なぜ自分はこんなにもゴッドイーターに成る事に固執したのかを。

それはきっと、ここに。この場所に。戦場に兄が居ることを、わかっていたからだ。

妹を戦場で待つなど、なんという酷い兄なのだろう。

お兄ちゃんのうそつき。もう許してあげない。

エリナはぎゅっと前を見詰めた。

だから、私が迎えに行ってあげるんだから。

自分の戦う理由を握り締めて。

 

――――――“華麗に”戦え!

 

たくさんの“送り出す”人達のために、無事に家族を帰してあげるために。

 

「はいッ!」

 

涙と共に、迷いが晴れる。

アーティフィシャルCNCが脳神経からの指令を忙しく神機へと伝えていく。

エリナの意思が神機へと伝わり、そして神機からもまた、腕輪を通してエリナへと語りかけてくる。

ごめんね、とエリナは胸の内で呟いた。

神機が自分の言うことを聞いてくれないのは、当然のことだった。

当たり前だ。ゴッドイーターではないものの言うことなど、神機が聞くはずもない。

だが、これからは。

 

「お願い……『オスカー』。頼りないかもしれないけど、私と一緒に戦って」

 

オウガテイルがエリナへと迫る。

あれだけ重かった神機が、羽のように軽く舞う。

シールド防御。ぴくりとも動かなかったシールドが、まるでエリナを庇うかのようにして展開されていた。

エリナは鼻の奥が、感動にツンと痛く熱くなるのを感じていた。

 

「私も……ゴッドイーターなんだから!」

 

――――――エリナ、上だ!

 

「いやぁあああああッ!」

 

それは絶望の叫びではない。

戦士の産まれた声だ。

エリナの槍が真上を向く。

頭を喰らい付かんとしていたオウガテイルの咥内へと、穂先が荒々しく突き立った。

エリナの槍が、天を突く。

 

「やった……やったあああああ! 私も、出来た、出来たよお兄ちゃん! お兄ちゃんみたいに、華麗に戦えた……戦えたよう……」

 

膝上のソックスは破れ、擦り剥いた膝小僧が外に出てしまっている。

トレードマークの白い帽子は土だらけ。

顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃに汚れて、この年頃の少女が孕む子供と大人の矛盾した美しさなど、欠片も見られない。

だが夕日に照らされたその横顔は、何よりも尊く、そして華麗だった。

今日、今まさにここに、また新たなゴッドイーターが産まれた。

 

――――――長い出撃でしたね、先輩。

 

そして、『エリック・デア=フォーゲルヴァイデ』は、三年越しにやっと帰還を果たしたのである。

エリナの下へ、その胸の中へと――――――。

 

 

 

 

【キャラクターep.エリナ2】

 

 

 

 

「あの、その、待って! 待って……リョウタロウ、先輩!」

 

――――――せんぱい? あれ、今先輩って。

 

「今まで、その……ごめんなさい! これからは意地を張らずに、先輩から色んなこと、教えてもらいたいです!」

 

――――――何かよくわかんないけど、うん。もちろんいいに決まってるさ。

 

「ありがとうございます! 頑張ります!」

 

――――――何だか変わったね。うん、いい顔してる。

 

「えへへ……」

 

――――――いいことでもあったかい?

 

「私、思い出したんです。お兄ちゃんがいなくなって……つらくて、苦しくて、毎日エントランスで俯いていた時に、私に優しくしてくれた、“お兄さん”がいたことを」

 

――――――そっか。どんな人だった?

 

「もう……先輩みたいな人ですよ! さ、帰りましょう。私たちの家へ。ね? “お兄ちゃん”!」

 

――――――今なんて……。

 

「うおおおおっ、僕は今、猛烈に感動している!」

 

「エミール! こらっ! 今ちょっといい場面だから、静かにしてろって、おい!」

 

「エリナ! そして……リョウタロウ君! 君たちには僕は教えられた! ゴッドイーターの美しさを! 

 華麗に戦うとは、かく言うものなのか……ああ、目が! 目から涙が! 騎士の涙など見ないでくれ……否! これは心の汗だ! さあ、存分に僕を見てくれ!」

 

「なんか、ごめん」

 

「エミール、コウタ隊長、あとで、シメる」

 

「どうしようリョウ! エリナがグレた!」

 

「時にリョウタロウ君。僕は君の戦い方に、非常に感銘を受けたのだ。

 我が誇りである騎士道精神は、気高くあるべしを旨としていたのだが、しかし人々を守るためにはこのままでいいのだろうかと僕は常々思っていた。

 騎士ならば、もっと正々堂々と己の腕のみで戦うべきではないのか!? ああ、だがしかし、と!

 今日! ここで! 神機を失った君の戦いをみて、僕は思ったのだ! 人々を守るために、僕は泥をも被ろうと!

 君が! 君こそがゴッドイーターだ!

 我が好敵手であるエリックを失い、同じく失意の底にあるエリナをも救えず、歯がゆい思いをしていた僕だが、新しい星を見つけた。

 北の星に燦然と輝く星だ……人はその星を目指すことで、自らの道を確めるという。

 解ってくれるかい? 我が新たなる好敵手、リョウタロウ君!」

 

――――――お、おう。

 

「そう、僕は! 君を見習い! 罠を使う! スタングレネード……ホールドトラップ……これからアラガミと戦う時には、僕はプライドを捨てよう! どうかアイテムの使い方を、僕に伝授してはくれまいか!」

 

「お、おお……騎士道精神にこだわるあまりアイテムの使用訓練すら拒否しやがったエミールが!」

 

「僕は今日からこれまでのエミールではない! ダークエミールとなるのだ! 君たちが愛してくれたエミールはもういないのだ……この世からアラガミがいなくなるその日まで、暫しの別れだ……」

 

「おおお……おおお……エミールが、やっと、やっとアイテムを使って……俺があんだけ言ったのに、言ったのにぃぃ」

 

「ちょっとエミール、コウタ隊長泣かしてんじゃないわよ! めんどくさい泣き方しちゃったじゃない!」

 

「だが、いざ使おうと考えると、やはり身体が動きそうにないんだ。騎士道精神はいつの間にか僕の中で、意地となってしまっていたらしい。だから……僕を殴ってくへぶるわっしゅ!」

 

「一発でいいの?」

 

「え、エリナ……君ではない。だが、腰の入ったいいパンチだ……。これではっきりしたな。やはり僕のこのつまらないプライドは、捨て去らねばならないものだということが。

 人々を護るためには手段は選ばないと決めたのに、ああ、だというのに! その瞬間、頭をよぎったんだ。卑劣かもしれない、という以前の自分の言葉が。

 ミッションは成功するかもしれない。誰にも被害が出ないかもしれない。だがこのままでは、僕は自分の言葉ひとつ守れやしない! そんな自分自身が許せないんだ!

 だから、頼む! 君に殴られなければ、僕は気が済まない! さあ……殴ってくれ! あとエリナ、君は少し離れていてくれたまえ!」

 

「先輩、やっちゃっていいからこれ。さっさと黙らせて」

 

「よせエリナ! リョウのガチパンチはやば……あ、ちょっ、リョウ! なんで遠くに……助走付きはヤバイって!」

 

「さあ殴れ! 殴ってくれ! どうした! 早く! 殴ってくれ! 僕を! 来ないのならこちらから行くぞ! どうだ!」

 

――――――ぅぉぉおおおおおッシャオラァッ!

 

「――――――僕の名前はエミール。エミール・フォン=シュトラスブルク。ああ、星が見える。北極星が」

 

「エミールが錐揉み回転しながら吹っ飛んでった! なんか爽やかな顔しながら薔薇をバックに吹っ飛んでった! え、エミールゥゥウ!」

 

「人って……あんなに飛ぶんだ……空」

 

 

 

 

【キャラクターep.キグルミ】

 

 

 

 

「千倉ムツミです! よろしくお願いします!」

 

――――――元気があってよろしい。いい子いい子。

 

「も、もう! 私そんな子供じゃないですよー。調理師免許だって持ってるんですからね!」

 

――――――ほう、それはすごい! それで、こうやって毎日みんなのご飯を作ってくれてるわけだ。うんうん、だからこうやって褒めてあげるのは、当然のことだな。

 

「む……じゃあ、しょうがないですね! いっぱい褒めてくれていいですよ!」

 

「こうやって見ると9歳の子供なんだけどなあ」

 

――――――オッス、コウタ。

 

「オッス、リョウ。驚いたろ? この子、極東のラウンジのメインシェフなんだぜ。

 リョウの海外遠征と入れ替わりだったかな。ムツミちゃんが来てからは見違えるように食事事情が変わったんだ。おふくろの味っていうかさ、なんかホッとするんだよなー」

 

――――――そっか……。

 

「あの、リョウ? さん?」

 

――――――そうだよーリョウタロウだよー。よろしくなあムツミちゃん。

 

「はい、あのでも、もう褒めてもらわなくってもいいですから。私そんなに大したことしてないのに、恥ずかしくって」

 

――――――いいや。大したことだよ。自分の作った料理をさ、おいしいって言ってくれる相手が、帰ってきて料理を食べておいしいって、また言ってくれるかって待つのはさ。つらいなあ。

 

「信じて、ますから。大丈夫、きっと帰ってくるって。私は戦うことは出来ないけれど、その代わりに、戦う人達が安心してご飯を食べて、帰ってきたって思える場所を守りたいって、そう思います」

 

――――――そっか……ムツミちゃんは、みんなのお母さんだな。

 

「……うん! だからもーっと私に頼ってくれてもいいのよ?」

 

――――――そっかー。俺はあんまり出来ない子だから、ムツミ母さんに色々お世話してもらわないとだなー。

 

「うんうん。ご飯、毎日食べてる? お風呂は一人で入れるの? 夜、寝苦しくない? 一緒に寝て、おなかポンポンってしてあげるね?」

 

――――――え、いやそこまでは……冗談だよね? ひ、一人で出来るから大丈夫かなー、なんて。

 

「お仕事終わったら、お部屋の掃除にいくからね!」

 

――――――いや俺、部屋はきれいにしてあって。

 

「何言ってるの! お母さんの言うこと聞きなさい!」

 

――――――はい。

 

「ははは、ムツミちゃんに掛かったら、リョウも形無しだなー。よっぽど気に入られたなあ、リョウ。ムツミちゃんプライベートまで踏み込んでこない、出来すぎた感じの子だったのに」

 

――――――踏み込まれそうなんですけど、今まさに。

 

「それだけリョウがほっとけないって思ったからだよ。わかるなーその気持ち。ところでさ」

 

――――――うん?

 

「あれ……どう思う?」

 

――――――どこからどう見ても“キグルミ”だけど。あれが何か?

 

「何かって、キグルミじゃん!? リョウが何か着てたのに似てるけど、継ぎ接ぎだらけだし、ここにリョウいるし……なんでここにあんの?」

 

――――――俺も知らないんだなあ、これが。あのキグルミ、榊さんのハンドメイドだし、もうそっちの管轄だからね。今あれ座ってるように見えて、稼働実験とかしてるのかも。

 

「はあ? どっからどうみても、デザインはともかくキグルミじゃんあれ。発明品とかどういうこと?」

 

――――――いやそれが実はさ。極東で神機兵の無人化データを採るってんで、俺も協力してたんだよ。最近キグルミ着てたのがそれね。

で、そこから蓄積された戦闘データを反映したものがアレ。つまりあれは、キグルミ型無人神機兵のプロトタイプなんだって。

元がキグルミだったもんだから、神機兵っていっても有人化は簡単だし、ていうか着込めばいいだけだし、負担はともかく装着はすごい簡単な活気的なものらしいよ。

装備も神機を装備してるんだけど、この神機、イミテーションなんだってさ。神機型の外部マニュピレーター。ほら、エリナとエミールの、スピアとハンマーの組み立てマニュピレーターから着想を得たとかなんとか。

まあ元が神機兵だから、全身が神機みたいなものだし必要ないんだけどね。その辺すごい趣味的なんだよなあ、榊さん。

別のゴッドイーターが中に入ったのならその人の神機使えばいいし、無いと思うけど一般人さんならそのままでオッケー。

挙動も俺の戦闘データを基にしてるから、ある程度は戦えるはずだよ。だいたい俺と同じような動きが出来るらしい。

俺の分身みたいなもんだから、メカリョウタロウだって榊さんが……あれ? どうしたのコウタ? 耳なんて塞いで。

 

「あ、もう終わり? うん。いやそれが実はさ、まで聞いたよ」

 

――――――え、そんだけ? もっかい説明しようか?

 

「いや、いいから! 聞きたくないから! 知ってるよそれ、知ってるから! 聞いちゃだめなやつなんでしょ? 知ってるから!」

 

――――――チッ。身を守る術を覚えたなコウタ……運の良い奴め。

 

「確信犯かよ! やめてくれよ! 隊長権限になって色々情報開示されてさあ、怖いんだよ! 見なかったほうがいいのばっかりじゃんあれ!」

 

――――――だからお前を選んだんだよ、コウタ。お前なら任せられるって、そう思ったから。

 

「良い話に持ってこうとしても駄目だからな!」

 

――――――冗談冗談。でもキグルミの無人稼働はまだ出来ないって聞いたけどなあ。耐久性に不安が残るとかなんとかで。継ぎ接ぎなのもそのせいって……あれ? 

 

「……動いてる、よな? あれ」

 

――――――動いてる、な。

 

「中……誰か、いるのかな?」

 

――――――さあ……?

 

 

 

 

【キャラクターep.リョウタロウ4】

 

 

 

 

「ところで、お前に重要な話がある。真剣な話だ……お前、女性のどこに魅力を感じる?」

 

――――――それはおっぱいです、ハルオミさん。

 

「お前もブレないな。お前のそんな所、好きだぜ。ならば、それを踏まえて聞こう。お前、貧乳は好きか?」

 

――――――ナイチチ……だと!?

 

「俺の今のムーブメントは……“ちっぱい”、だ」

 

――――――そ、その心はなんですか先生!

 

「いいか。自分の胸にコンプレックスがある女性は、数多くいるだろう。それは一体、何に対してのコンプレックスだ?

 同性と比較してのものか? それは違う。そう、男の視線に対してだ。俺達が女性を自然と見てしまうように、女性もまた、見られていることを意識しているんだ。

 だが胸に自信のない女性は、その悔しさを怒りとして出してしまう……俺はそこに、例えようのない清らかさを感じるんだ。

 乙女の、恥じらいだ。それを乗り越え、お前だけにその秘めたささやかな頂を見せてくれたとしたら……どうだ。想像してみろ。

 お前だけが言えるんだ。飾らない裸の心と身体、見せてくれないか、と!」

 

――――――ああ、先生。今俺は、はっきりと解りました。小さくても、大きくても、おっぱいは素晴らしいということを。

 

「そうだ。その通りだ。やっと解ったか弟子よ……これまであらゆる角度から神機使いとは何たるか? を検証してきた。

 その過程で様々な女性の神秘を探ってきたな。お前と共に、な。だがもうお前に教えることは何も無い。それはもう……解るな」

 

――――――答えは出ている。答えはもう、出ているんだ。

 

「覚えているか。男は女性のどこを見るかって話をしたこと。あの時俺は、胸を否定した……それが、ずっと引っ掛かってた。

 すまん! 俺を許してくれ! やっぱり、胸だ! お前の言い方で言えば、おっぱいだ! こんなストレートな表現、かつての俺はしなかっただろう。

 だがわかったんだ。自分を飾らないのが本当のオトナなんだってな……! それに気付かせてくれたのは……お前だ!」

 

――――――先生!

 

「お前は頑なにおっぱいおっぱい言い続けていたな。俺のムーブメントは理解されないものかと落胆したこともあったが……だが、そうやって謙遜しながら俺を導いてくれてたんだろ? 知ってたよ。

 初めからわかっていたんだな、お前は。

 さて……おっぱいがテーマならカノン辺りを引っ張ってこようかと思ったが、今日は真逆のムーブメント。ちっぱいだ。いつもの、行ってみようか!

 極東支部はスタイルのいい粒揃いだから、モデル探しに苦労したぜ。さあ今回のモデルはこの人だ! 弟子よ、見事決めてみせろ!」

 

――――――おお、ジーナさん!

 

「なんなの? 私、狙撃のイメージトレーニングで忙しいのだけれど。邪魔しないでくれる?」

 

――――――ジーナさん! 服、変えたんですね! すごくよく似合ってますよ!

 

「そ、そう? ありがと……」

 

――――――でも俺、前の、こう、胸のとこが空いた服も好きでしたよ!

 

「胸……そう、胸……あなたも胸というのね……そう……私が馬鹿だったわ。あの頃の私は、まさか周囲に笑いものにされてたなんて、気付きもしなかったもの。あなたも同じなんでしょ」

 

――――――いえ! 色っぽくて、すごくドキドキしてました!

 

「そ、そう。そうだったの……。その、あなた、私の胸のこと、どう思う?」

 

――――――好きです。

 

「そんなに真剣に言わないで。ちょっと聞いてみただけだから……。でも、本当に好きなの? こんなのよ?」

 

――――――それはステータスです。希少価値です。

 

「もう……口が上手いのね。他の人に聞かれないようにこっそり来てくれたら……特別に、見せてあげても」

 

「はいストップそこまで! 今回のモデルのジーナさんでした! ありがとうございました!」

 

「ちょっと、いいところだったのに……もう」

 

「これ以上はあそこで隠れて見てるムツミちゃんの教育に悪すぎるからな……感謝しろよ、リョウ。命の恩人だぞ俺。社会的な。さー場所を移すぞー」

 

――――――先生……太陽が、きれいですね。

 

「ああ……真っ赤で、丸くて、まるでおっぱいみたいだ。そうだろう?」

 

――――――はい、先生。太陽は皆のおっぱいですね!

 

「今回のことで俺達は学んだはずだ。やがて、男は女の胸に帰るんだってこと。さあ……叫ぼう! 命を育む、約束の地の名を……!」

 

――――――おお、おお! おっぱい、おっぱい!

 

「おっぱい! おっぱい!」

 

――――――おっぱいおっぱい!

 

「見ろ! リョウタロウ! 俺達のムーブメントで……極東は、赤く燃えているぅうううう!」

 

――――――極東は、赤く燃えているぅうううう!

 

 

 

 




活動報告の緋弾のアリア二次が華麗にスルーされまくってて吹いた。

さて、これまでの回で紛らわしい書き方をしてしまいご質問を多数頂きましたので、捕捉説明です。
Q.神機の名前って?
A.自由枠です!
皆さんの想像される神機の名前をつけてあげてください。
デフォネームでリョウタロウ(旧漫画版主人公+αという意味の名前)にしてしまったので、神機はそれぞれプレイヤーの相棒の名を付けてあげて頂けたら嬉しいです。

【マインドベイン】の下りは、神機が原型を留めない程に暴走稼働状態へと至ったもの。ですので、それが神機の名前ではありません。
公式装備クレメンサー→暴走神機マインドベイン。という超覚醒イベントでした。
あ、あれ?
こいつ……勘違い系主人公の癖に……最強系だと!?
な、何が起きてこうなったんだし……。
でもゲーム版準拠だから間違いじゃないよね! よしもっとやろう。

GE2へのスムーズな以降と展開を考えた時に、極東の新キャラ達のキャラエピがネックでしたので、このタイミングで消化することにしました。
よしコミュMAX!
エリナちゃんhshsprpr! ムツミちゃんhshsprpr!
あ、そっか。
小さくてもおっぱい付いてたら年齢とか関係ないな。うん。
ロリ? ハハッ、おっぱい付いてるからおかしくないもん!

それでは、また次回に!

描写を少なくして展開を早くさせるべきか……それが問題だ……。
このネタバレへのこだわり感がこびり付いているのもぐぬぬ。がんばります。


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ごっどいーたー:13噛

断続的な水滴の滴り落ちる音。

髪を、額を、喉を、乳房を、白い肌の上をフィルタを通された浄水が、球となって滑り落ちていく。

熱い湯を浴びられる幸せを十分に享受しながら、アリサはシャワー室の壁に静かに額を付けた。

タイルの冷たさが火照った身体の熱を吸い取っていく。

うなじから背筋を、そして尻を叩く水滴が、小気味の良い音を立てアリサの意識を遠く彼方へと誘う。

どうにも最近疲れが溜まっているようだ。

サテライトの建設から資材運用、内部統治まで、その全てをアリサ個人が統括し行っている現状では、無理もないことなのかもしれない。

事を為せばどうとでも成ると思っていたのは、やはり自分が子供だったからだろう。

年を重ね、ベテランと呼ばれるようになった。だが、いくらキャリアを積んだとて、感じるのは己の無力さばかり。

あと一人補佐についてくれたら。否、自分が補佐に付いてもいい。誰か、一つの都市を単独で、構築から実際運用までこぎつけられるノウハウを持った人員がいてくれたら。

そこまで考えて、アリサは頭を振った。

瞬間、浮かんだ男の顔を振り払うように。

長い髪から水滴が飛び、タイルを叩く。

こんなことで根を上げてはいられない。

これでは、せっかく彼から離れたというのに、意味が無くなってしまうではないか。

何かを誤魔化すようにして、アリサは石鹸を直接素肌に当てて泡立て始めた。

耳、首筋、肩……ついでだ、髪も洗ってしまえ。ゴワつくことになっても、贅沢は言えない。

湯が常に沸かされているまでに燃料事情が回復した極東支部にあっても、物資は多くはなかった。

物自体が無いのである。体を擦るスポンジのような上等な代物は無い。

タイルを滑る湯が鏡となって、自らの肢体を映し出す。

 

「ふむ」

 

アリサは何となしにポーズをとってみた。

片方の手は膝に、片方は腰に。

腰をくねらせて、挑発的に見上げる視線。

気を抜けばアリサの頭を一杯にする男の部屋に、珍しく放り投げられていた女性のヌード雑誌。その折り目がついていたページにあったモデルと同じポーズである。

 

「私だって、結構いけてると思うんですけど」

 

そこまで言って、独り言を耳にし、初めて己の発言に気付いたかのようにアリサは顔を顰める。

自分が恥かしい格好をしていることに顔を赤らめながら、タイルの水滴を払い除けた。

日課という奴は、如何ともし難いものだ。

ここで肌の上を流れる水の感覚を、彼の手として想像し、物思いに耽るのがアリサの常であった。

 

「やだな……私、全然リョウ離れできてない」

 

タイルの鏡を洗い落として、アリサは安堵の息を吐く。

今、自分の顔を見てしまえば、自分がどんな顔をしているか自覚してしまえば、後戻りできなくなってしまう。

厳重に、封じなければならない。

感情はすぐに暴走し始める。

自分は曲がりなりにも一区画の責任者という立場となったのだ。

だから、私情は捨てなければ。そうしていれば、何も考えずにすむ。

きゅっと噛み締めた唇。舌先に乗った鉄の味は、自身の想いを肯定しているかのように感じた。

 

「あっ!」

 

豊かな乳房を持ち上げて、その下に石鹸の泡を塗りつけていると、つるりという感触が指先に。

アリサの指から逃れた石鹸が、そのまま排水溝の中に落ちて消えていく。

 

「あぁー、またやっちゃった……大事な物資なのに……」

 

一度続けば万事が失敗続きであるように思えてしまう。

シャワーから上がればすべって床に思い切り尻餅を付くし。びたんと大きな音がするほど打ち付けたところが真っ赤になっている、とカノンにかわいいなどと笑われてしまった。

髪を拭けばゴワゴワのタオルは水を吸わない。髪を乾かす暇もなし、しょうがないのでひっつめにして纏めて誤魔化すことにした。

服にいたっては、きつくてジッパーが下りないのは何時ものことであるが、何時もよりも俄然つっかえて下りないような気がする。

火照った身体には涼しくていいが、流石にこれ以上の露出はファッションでは済まないような気もする。これはまあ、こちらの方が好みであるので、サイズが上がったのだと無理矢理納得することにしよう。

任務でもいまいちパッとしなかったのだから、踏んだり蹴ったりだ。

最近体の芯に疲れが染み付いて取れない。泥がへばりついた様な感覚がする。

もしやこれが最近の不調の原因ではないだろうか。

 

などと考えていると、着替え終わって自然と足はラウンジに向かっていた。

これもまた日課である。

日々を生きる糧を口にせねば満足に身体が動かせないのは、一般人もゴッドイーターも同じだ。

食うか食われるかの世界。

食べることは、何と言うか、救われていなければならない。そう言ったのは誰であろうか。

 

「おーっす、アリサじゃん。今日は非番?」

 

からりと晴天のような笑みを浮かべてアリサを迎えたのは、全身を包帯塗れにして松葉杖を着いたコウタであった。

上げた手は全てに固定器具が装着されて、首には石膏の首輪。晴れやかな笑みを浮かべる顔は、半分しか覗いていない。

一目で重傷と解る容貌だ。

 

「コウタ。あなたまだ寝てなくていいんですか? 重傷なんでしょう?」

 

「いいっていいって。ムツミちゃんの飯食った方がさ、薬飲むよりもよく効くから」

 

医食同源、ご飯は薬なんだから。と、コウタの言葉にカウンターの向こうでムツミが小さい拳を握り胸をむん、と張る。

ミイラ男といった風体のコウタは、包帯に血を滲ませながらも熱い煮物を頬張っては「うーまーいーぞー!」と叫んでいた。

一瞬、コウタが口から七色の光りを放射したかと思えば巨大化し極東支部と一体になって極東支部INコウタとなった姿を幻視した。

やはり、疲れているのだろう。どこのアラガミだというのだ。味皇とでも言えばいいのか。

 

「で」

 

そうやって唐突に切り出すのも、コウタの特徴である。

物怖じしない性格からくる一言は、一息に核心に踏み込んでくる。アリサは警戒に身体を強張らせた。

 

「またリョウがらみでしょ」

 

その名が出た瞬間、アリサの肩が自らの意に反し、震える。

 

「……何を言っているのかわかりませんね」

 

「そんなになってるのに、説得力ないって。休み、ちゃんと取れてんの?」

 

そんな、とコウタは自分の目元を指してからアリサに指を向けた。

そっと自分の目に指を触れると、僅かに違和感が。自分でも気付かぬ内に、隈が出来ていた。

「ま、座んなよ」コウタが座ったカウンターの隣を叩く。不承不承と席に着くアリサ。「あなただって」とコウタに返す。

 

「そんなになるの、初めてなんじゃないですか? 休んだ方がいいんじゃ?」

 

「これがそうも言ってらんないからね。この後、回復錠を山ほど投与される予定。あれ反作用がキツイからあんまりやりたくないんだよね。普通の人間じゃなくなったんだなーって感じになるし」

 

『回復錠』と銘打たれた薬剤は、言ってしまえばオラクル細胞活性化薬である。

人とアラガミの境界線上に立つ存在がゴッドイーターだ。

回復錠は、一瞬だけその境界線を強くアラガミの方へと傾ける。

全身に回ったオラクル細胞の瞬間活性化。

その仕組みはアリサもコウタも完全に理解してはいない。オラクル細胞の遡及性を利用しているらしく、投薬された瞬間にオラクル細胞が増殖し、傷を塞ぐのだとか。

名前からして便利な道具であると認識されてはいるが、経験を積んだゴッドイーターにとっては、これを過信することはない。

一度の任務に持ち込める数が厳しく決まっていること。投与した瞬間、身体が硬直し、身動きがとれなくなること。

露骨な反作用だ。

そして傷が治っていくその見た目が、何よりも忌避される要因となっていた。早回しで傷が塞がる画は、自分の身体のことながら、見ていて気持ちがいいものではない。

人とアラガミの境界線を揺さぶる薬。

それが回復錠である。

利便さと名前に騙されてはいけない。これは恐るべき薬剤だ。この薬ほどゴッドイーターの人権を無視したものはない。

つまり、回復錠の多用は、確実にアラガミ化への運命を早めることとなるのだから。

 

「この前の任務でさ、俺、リョウを助けに行ったじゃん? その時の怪我なんだぜ、これ」

 

アリサが下唇を噛んだのをコウタは知ってか知らずか、言葉を続ける。

 

「こっちは元々、台風の多い地域でさ。よくもまあこんな小さい島国を狙ったようにってぐらいさ。

 海上で発生した台風が急激にコースを変えて本土に上陸。極東を直撃……なんてのはザラにあることなんだ。アリサもこっちきて二年と少し経ったんだから、経験あるでしょ?

 この前も台風……何号だっけ、そいつが来て、二日間の外出禁止令が出たじゃん。あの時俺達、台風のど真ん中にいたんだ」

 

拳が腿の上で握られ、赤いスカートのプリーツが乱れる。

 

「台風の映像を見た瞬間、ああリョウは死ぬんだな、って何でか冷静に考えてた。真っ赤な台風だった。雷と一緒に、赤い雲がとぐろを巻いて、画面一杯に広がってた。

 赤い渦が大地を蹂躙していく様は……震えたよ。台風が来ることは解ってた。だから、リョウや俺や防衛班の皆で、近隣区域の避難誘導を進めてた。

 極東支部の管理区だけど、壁の作りが甘い、でも無視されてる訳じゃない微妙な場所。サテライトが極東に見捨てられた人達の場所なら、外部区域は……姥捨て山ってとこ。

 雨は凌げるけど、風まではどうにもなんないよ。移動しようにも、自分の足じゃ遠くにいけない爺ちゃん婆ちゃんが大勢いた。避難する場所まで自分達じゃたどり着ける訳が無い。

 そんな場所に、リョウは行ったんだ。たった一人で。

 さあ混乱も収まったぞって、ヒバリさんがクエストカウンター確認して、初めてそこでリョウが未帰還になってることに気付いた。その時にはもう、手遅れだった。

 リョウは多分気付いてたんだろうな。だから一人で行ったんだ。

 台風は勢力をどんどん強めていって、色が……最初はピンクに、だんだん、血を垂らしたみたいに真っ赤になってった。まるでリョウが一人になったタイミングを見計らったみたいに、スピードを上げて。

 外部区域の人達とリョウは、赤い台風のど真ん中で孤立した」

 

言われずとも解っている。

つい先日のことだ。極東を、大型台風が直撃した。

日本と言う国は元々台風が頻繁に到来する風土であったらしい。

欧米のハリケーン被害という程でもないが、頻度からすれば年に何度も、こんな小さな島を幾度となく台風が通過する。

 

極東に来て、初めて台風を経験した時のことをアリサは覚えている。

シオ、リンドウ事変が終わった後、一時の安寧に安らいでいた夜のことだ。

極東中に鳴り響くサイレン。下りる隔壁。外出禁止令の警報。右往左往とする人々。

それが台風という自然現象であることはまだ知らずにいた。

ロシア生まれのアリサにとって、自然の驚異はさほど珍しくはない。

だが、あのいつ止むと知れない雨の打ちつける音と、風の吹きすさぶ振動は、耐え難いものがあった。

古来、暴風雨は神と同一視されるものである。その理由を骨の髄までアリサは知った。これが、台風なのだと。

低気圧の爆弾の中に身を置く不安は、アリサの精神を容赦なく削っていく。

停電によって部屋の明かりが消えた時、恐怖はピークに達した。

部屋の扉は自動スライド式だ。非常ハンドルで手動で開閉できるが、混乱したアリサにはそれを思い当たることはなかった。

日本生まれでもなく、これが初めての台風だ。非常灯も部屋には備え付けていなかった。危機意識が甘かったと言わざるをえないが、自然脅威とは体験せねばその真の恐ろしさは解らぬものだ。

暗くて狭い場所に閉じ込められること。

その事実が、アリサのトラウマを直撃した。

過去の凄惨な記憶からはとうに抜け出しているとはいえ、それでも影響は残る。これはアリサが一生涯掛けて背負い続けねばならない、重りである。

記憶にはないが、ロシア語で何かを喚いては壁をバンバンと叩き、部屋の隅でぶるぶると震えていたらしい。

風雨に軋む極東支部の中、アリサは眠れぬ夜を過ごした。

気が付いた時は、涙と鼻水で顔面を汚して、リョウタロウの胸の中で眠りに着いていた。

大声に驚いて見回りに来たリョウタロウを押し倒し、すがり付いていたらしい。

直接接触による感応現象。

リョウタロウの温かな感情が流れ込み、不安を、恐怖を、優しく包み込んでいく。

アリサはまどろみの中で、両親や親友、守れなかった人々の微笑む優しい夢を見た。

リョウタロウから与えられる感応現象は慈愛に満ちていて、世界は美しいものだと信じさせてくれる。

 

だからアリサは過ちを犯した。

決して許されぬ過ちを。

 

「無理したら行けない距離じゃないよなって、そう思った瞬間さ、気付いたらリョウのビーコン探って防壁積んだトラックのハンドル握ってた。

 そんで外部区域に直行して、そこで簡易シェルター作って……最悪だったのが、風にのってサイゴートとかシユウがバンバン突っ込んできたこと。

 リョウは神機もってなかったから、俺が頑張るしかないじゃん? 雨に濡れないようになんとか頑張ってたけど、最後はシェルターの中に雪崩れ込んで、この様さ。

 雨に濡れることはなかったけど、じいちゃんやばあちゃん達、守りきれなかったよ。

 気付いたらカラッと晴れたお日様の下を、リョウに背負われてた」

 

寂しそうに笑うコウタのまなざしは、どこかリョウタロウのそれに良く似ていた。

守れなかった、失敗したゴッドイーターの顔だった。それでもと歯を食いしばり、前を向き続けるゴッドイーターの顔だった。

きっとそこで、リョウに背負われながら、コウタは二人で話をしたのだろう。

 

アリサは人命救助や、危機的状況への介入任務の経験がほとんどない。

これはアリサの経歴からくるものだ。すなわち、旧支部長とその傘下の医師によって操り人形とされ、当時の部隊長暗殺未遂事件を起こしたことの。

地位あるポストは与えられたとしても、緊急性のある任務に就けられることはあまりない。それは、信用と信頼の違いだ。

信用とは実績であり、信頼とは期待である。

 

おそらく、榊支部長の狙いは、自分を統治に関わるゴッドイーターとして押し上げたいのだろう。

“折れて”しまっては困る。そういうことだ。

わかりやすく人のためとなる華やかな任務のみ。泥臭い仕事からは離された、まるでアイドル扱いだ。

それならばそれで、自分の仕事をするだけだ。この地位にいなければ出来ないこともある。

だが。

リョウタロウと同じ景色をコウタは見ている。

その事を想う度に、アリサはたまらなくコウタが羨ましく思えた。

 

「アリサも来るのかなって思ってた」

 

スカートのプリーツの皺は、もうアイロンを掛けても戻らないだろう。

 

「ヘリをジャックしてでも飛んで来るのかなって。あそこ、アリサの居たサテライトに近かったじゃん」

 

「それは……サテライトの、避難があったので」

 

コウタは「ふうん」と鼻を鳴らすと、「ま、そういうことにしとこうか」と、ムツミが小さな手で運んできた食事をかき込む。

 

「リョウのこと、どう思ってる?」

 

またこれだ。

唐突に核心を突く男がコウタである。

アリサは心臓に氷の針を打ち込まれたような気分となった。

コウタと会話をしていると、このような気分になることが多々ある。

 

「どう、とは?」

 

「好きなんでしょ?」

 

「は、あ、えっ!? あ、や、その!」

 

「俺は好きだよ」

 

苦笑と共にコウタは言う。

「ああ、そういうこと……」とアリサも胸を撫で下ろすが、しかしコウタの冷ややかな目に背筋が凍りつくような思いだった。

 

「俺は家族が一番大事だよ。ゴッドイーターになったのも家族のためだし、任務中も、すぐに自分を守ることばっかり考える。

 隊長なのに、自分のことしか考えないのなんてどうよって話だけど、でもさ、俺がここで死んだら、残された母さんは、妹はどうなるんだろうって。

 父さんがさ、帰ってこなかったあの寂しさを覚えてるから。

 父さんが死んでから、俺の母さん、女手一つで俺と妹を育てたんだ。

 母さんがさ、俺に妹を連れて外で遊んでこいって言うときはさ、決まって知らない男が家に来る時だったんだよね……」

 

「もう子供じゃないんだから、子持ちの女が金を稼ぐ方法が少ないことくらい知ってるよ」薄く笑うコウタ。

「こっそり見たこともある。妹を置いて一人で行ったのは、兄貴として正解だったよ」その独白に、アリサは何と答えたらいいのか、わからなくなった。

 

「だから俺は、家族のために生きてる。泥をかぶって、後ろ指さされても平気さ。エイジス計画で、皆を裏切ったのもね」

 

「あれは……! あなたに責任は……!」

 

「皆そう言ってくれるけど、俺も“そう”思ってるんだ。平行線だよ。でも、それでいいと思う」

 

「あなたの選択は、立派だと思います。それは事実です。結局、コウタは戻ってきてくれましたから。私たちがそれに、どれだけ救われたか」

 

「ありがとう。でも俺が宇宙船のチケットを蹴ったのは、ゲンさんの言葉があったからなんだ」

 

ゲン、とは、極東支部につい先日まで滞在していた戦術アドバイザーのことか。

あまり自分とは関わりがなかったが、聞くところによれば、最初期のゴッドイーターであったとか。

その人が一体、コウタにどんな影響を与えたのだろう。アリサは小首を傾げ考える。

 

「リョウが子供だった頃のこと、教えてくれたんだよ」

 

「あの人が、子供だった頃のこと……」

 

「俺さ、実はすごい小さい時、リョウに会ったことがあったんだ。思い出したよ。

 妹が産まれたばかりの頃さ、無茶苦茶なことさせられた母さんのお乳が出なくなっちゃって、妹が栄養失調になったんだ。

 赤ん坊が栄養失調になるっていうのは、つまりそのまま死ぬしかないってことで。そこは今でも変わらない。あの頃の方が、もっと……。

 そんで俺、何とかしなきゃ! って、フェンリルの配給車に潜り込んでさ、ミルクを盗もうとしたんだ。

 大冒険だったよ。色々な偶然があって、何とか潜り込めちゃったんだよね。さあいざ物資を、って見てみたら、空振りさ。

 ミルクなんてどこにもなかった。まあ、すぐに死ぬ赤ん坊のことなんか、気遣う余裕なんてなかったんだよね。

 エイジス計画もあったから、既存の人口の維持と、生存率の高い青年期からの人材育成に集中してたわけだ。ミルクなんて、とてもとても」 

 

盗みは外部区域に比べ比較的治安の良い極東支部内の居住区にあっても、日常的に行われている。

物資事情が改善された今であってもそうなのだ。十年程前はどうだっただろうか。

 

「結局フェンリル職員に見つかった。食料を盗むのは、とんでもない重罪だ。殴られたよ。目が開かなくなるくらい、死ぬ程。

 気付いたら、家のベッドで横になってた。母さんがボロボロ泣いて、俺の手を握ってた。

 見知らぬ、俺よりちょっと年上の男の子が、フェンリル職員のリンチから俺を助け出して、背負って連れて来てくれたんだって。

 そして、俺の家の中をチラッと見て、泣き声も上げられなくなった妹の顔を見て、一言だけ……そっか、って呟いて、どこかに消えてしまったって。

 それから二日もたたない内に、ゲンさん率いるゴッドイーター部隊がやってきて、俺達の家にミルクをくれたんだ。

 憧れたよ、ゴッドイーターに。救われたと思った。ゴッドイーターになれば、きっと俺も、ああやってたくさんの人を助けられると思った。

 俺は単純なガキだったから……ゲンさん達がどうしてこんな、フェンリルの意向に逆らう配給をしてくれたのか、考えもしなかったんだ。

 そして今になって、エイジス事件の時にさ、ゲンさんに教えてもらったんだ。

 フェンリルの高級官僚向けの物資運搬車に、自分を囮にしてアラガミをぶつけて、物資を奪った子供がいたこと。

 その物資は、ベビー用品が中心だったこと。子育てグッズってのは、安全な場所でこそニーズが発生するのは当然だからね。産みっぱなしのこっちとは違う。

 そんで、奪ったはいいけど運べなくなって、途方にくれていた所をゲンさん達が保護したんだとか。多大な犠牲を払って……。

 それでも、それを知ってなお、その子供は地面に額を擦り付けて、血が滲むくらいに頭を叩き付けて、懇願したんだ。

 この物資を街へ運んでくれって」

 

コウタは、どこか遠い記憶へ溯るような、そんな目をしていた。

ここではないどこか。今ではないいつかへと意識を傾ける。

 

「俺、馬鹿だからさ。ゲンさんにその話聞いた時、ああバガラリーだ、ってそう思ったんだ。あいつはバガラリーだったんだって……俺、馬鹿で単純だろ? そう思ったんだよ。

 あいつは、誰にも感謝されず、そのまま黙って去って行ったんだ。自分だって苦しかっただろうに……」

 

だから。

コウタは言った。

 

「この藤木コウタには恩がある。加賀美リョウタロウに、返しきれぬ恩が」

 

言い知れぬ凄味のようなものが、コウタの全身から発されていた。

胸元をぐわりと片手で開くコウタは、空気をドドと軋ませる何かがあった。

 

「俺は家族のために生きてる。戦う理由も家族のためだ。この戦場は、それが許されてる。

 でも……もし、仲間のために戦わなければいけない時がきたのなら。俺はリョウのためなら死ねる」

 

覚悟だ。

その真っ直ぐな瞳には、覚悟があった。

折れず、ブレず、愚直なまでの覚悟が。

その言葉に嘘はなく、どこまでも真実であると信じられる。

 

「例えリョウが、この世界を滅ぼす、悪魔になったとしても」

 

コウタはドロリと濁った瞳をしていた。

瞬間、アリサの胸を焦がす熱。

アリサがコウタを信じつつも、どうしても最後に受け入れられなさが残るその理由が、今はっきりと解った。理解した。

嫉妬だ。

アリサはコウタへ、嫉妬心を抱いている。

何の呵責もなく、ただ真っ直ぐに想いを向けられることに。

否……“コウタもまた、知っている”のかもしれない。

“その上で、この台詞を吐いたのだとしたら”。

自身が抱きようもなかったその覚悟を抱いた者。それがどうしようもなく嫉ましく感じる。

嫌な女。

爪が食い込む程に握られた拳の痛みに、アリサは恥じ入るようにそう思った。

 

「ま、昔からリョウはリョウだったってこと。へへ」

 

それきりコウタはアリサを見ようともせず、折れた指と腕で、納豆ペーストと格闘を始める。

アリサも隣でシチューを口に運ぶが、何故か味がしなかった。スプーンの鉄の臭いだけが口の中に充満する。

救われない食事は作業でしかない。アリサはふとそう思った。

 

――――――やっぱマニュピレーターじゃない?

 

「マニ“ピュ”レーターだってば」

 

――――――嘘だあ。絶対マニュピの方が言いやすいって。

 

「それ提出書類に書いちゃって何度も書き直しくらってるんでしょ? 直しなよ。ほら、ここ、原典3巻の113ページにも書いてある。マニピュレーター。いいね?」

 

――――――あっ、はい。でもマニュピの方がさあ。

 

「くーどーいー! 男らしくないよ! 会話でならそれでもいいけど、文章にしちゃうと誤字でつっこまれちゃうよ!」

 

男女二人が会話する声と、独特な金属音。

極東支部に居る者は、それが腰に下げたスパナやドライバが擦れる音だということを良く知っている。

金属音はリッカの足音の代名詞。もはや名物だ。

リッカがリョウタロウと何をかを口論しながら、ラウンジへとやってきた。

 

――――――オッス、コウタにアリサ。

 

「オッス、リョウ」

 

――――――怪我の具合はどう?

 

「見た通り。リョウもめちゃめちゃになってたはずなのに、綺麗さっぱりだよね」

 

――――――いやあ、昔から俺、怪我の治りが早くってさ。アリサも、久しぶり。

 

「う……や……そのっ」

 

――――――うん?

 

「くあ――――――!」

 

――――――ちょっ、そんな急いでかきこんだら。

 

「んぐぐぐ!」

 

――――――ほら、言わんこっちゃない。

 

急にばくばくとパンを頬張って喉に詰まらせるアリサに、「これが最も模範的なゴッドイーターの姿なんだよね」と笑いながらコウタが水を差し出す。

「最も模範的なゴッドイーターのアリサちゃん、何かあったのかな」とリッカは心配顔。

――――――最も模範的なゴッドイーター大丈夫か? とリョウタロウも苦笑する。

 

「ご、ごちそうさまでした!」

 

喉が詰まった苦しさか、恥かしさか、顔を真っ赤にして走り去るアリサ。

「アリサも色々あるんだよ」と、コウタがしみじみと呟いた声だけが耳に残った。

 

「ちょっと、模範的なゴッドイーターいじめすぎたかも」

 

――――――アリサと何かあった?

 

「いやあ、特に何も。ま、強いて言うなら……恋愛相談かな?」

 

――――――そうか……アリサも色恋を知る年頃か。あれ、何か泣けてきた。娘を送り出す親父の心境だこれ。

 

「アリサもアリサだけど、リョウも大概めんどくさい奴だよね……」

 

「そこがいいんだけどね」

 

「まあわかるけどさあ、リッカもカノンちゃんも……最近はエリナもだし。大変じゃない? ついていける?」

 

「うん。私は大丈夫」

 

「言いたくないけど、運命とかそういうの、良くない方向でリョウにはあるよ。きっと」

 

「わかるよぉぉ。うんうん、そうだよね」

 

「そんな軽く言っちゃえる? それ。この前の台風とかもさー、世界とか地球とかそういうのが、リョウを本気で殺しにきたとかそう思えてならないんだけど。

 だっていきなり進路コース変えるんだもん。これ俺の考えすぎかな?」

 

「んー……ね、知ってる? 神機には整備士が必要不可欠なんだよ。本人の意地とかそういうのと関係なくね」

 

「あー、覚悟完了しちゃってますか。それなら俺は何も言えないなー」

 

「シェアリングって最近じゃ普通に使われてる言葉なんだよ? データとか、資料とか、色々とね」

 

「お、おう……覚悟完了しちゃってますか……」

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

彼女を見かけたのは偶然だった。

背中ががばりと大胆に開いた服は、しかし下品ではなく、黒を基調としたシルエットがシックな雰囲気を醸す。

肩口と眉上で切り揃えられたおかっぱ髪は、幼稚さなど微塵も感じられず、切れ長の顔を知的な印象に整えている。

子を一人産んだとは思えない程の美貌、否……子を産んだが故に、より一層魅力的となったその女性。

雨宮サクヤ。旧姓、橘。

リンドウと結婚し一線を退いた、アリサ達の先達。元衛生兵、医療系のゴッドイーターである。

 

「アリサ? やだーもー久しぶりね! 元気にしてた? 隈ができてるぞー? せっかくの可愛い顔が台無しよ? うりうり」

 

アリサを見つけたサクヤは、遠慮無しにアリサの頬を突いて捏ねる。

片腕に抱えた紙袋からは、子供の食べやすいペースト状の離乳食のパックが見え隠れしていた。

 

「ねえもう聞いてよ。今日もレンは榊博士にべったりなのよ。わかんないでしょうに、何が楽しいのか神機の組み上げデータをずーっと博士と見てるの。

 ママと子供向けのテレビみましょーって言ってもやだーって。博士も博士で、この子は神機の心がわかるんだ、なんて言っちゃってさ。

 旦那もいないし、ツバキさんに女の子っぽい可愛い服送ってりょうく……んんっ、げふんげふん。せっかく時間が出来たから、ツバキさんに極東の服を送ろうかなって。

 向こうじゃ中々大変だからー……って、ア、アリサ? やだ、ねえ」

 

ぼんやりとサクヤの話を聞いていると、急激に視界がぼやけていった。

サクヤが慌てる様子がアリサには不思議に思えた。

変わったことが起きているでもなし、何をそんなにうろたえる事があるのだろうか。

 

「泣かないで、アリサ。指、痛かった? ね、お願いだから」

 

しきりにサクヤは泣かないでと、アリサの目元を指で拭う。

触れる指の優しさに、ようやく気付く。

ああ、自分は今、泣いているのかと。

自覚すれば、止め処なく涙は溢れてくる。

サクヤにしてみれば災難だろう。

会話の最中に表情を変えず、自分が泣いていることにも気付かずに、ただ涙を落とし続けるなどと。

 

「アリサ。お部屋に行きましょう」

 

腕を引かれて、気付けば自室に戻っていた。

扉を開けた瞬間、サクヤが「うわ」と声を上げる。

そして気合を入れて、「よいしょお!」とアリサをベッドへと投げ飛ばした。

悲鳴を上げる隙さえなかったのは、次いでサクヤまでシーツの上に飛び込んで来たからだ。

 

「いつもはレンの特等席だけど、今日は特別よ?」

 

そう言って、アリサを優しく胸に抱くサクヤ。

甘い香りがした。母乳の匂いだろうか。遠い記憶にある、母の香りだった。

 

「当ててあげよっか? リョウ君のことで悩んでるんでしょ」

 

図星である。

顔に出ていたのか、やはり解りやすかったのだろうか。

 

「アリサが悩むことなんて、自分の力不足か、リョウ君のことしかないじゃない。ほら、ママに話してみなさい」

 

冗談めかして自分のことをママと呼ぶサクヤだったが、それがアリサの最後の堤を崩壊させた。

しゃくり上げてむせ返りながら、アリサはサクヤの乳房へと顔を埋め、縋り付く。

それをサクヤは優しく髪を撫でながら抱き寄せた。

 

「私……私……!」

 

「うん、うん。ゆっくり、話してごらんなさいな」

 

「は……ふ……ッ……ぁ!」

 

語ろうとしても、感情が喉につかえて言葉が出ない。

ゆっくり、少しずつアリサはサクヤへと告白した。

己の犯した愚かさを。

 

「私……見たんです。見てしまったんです。リョウの気持ちを。本当の想いを。知ってしまったんです」

 

「リョウ君の、本当の気持ち……?」

 

ああ、とサクヤはそこで全てを悟った。

 

「感応現象ね」

 

悲痛さにサクヤの眉根が歪む。

サクヤは理解した。

アリサの苦しみは、痛い程に“通じ合えてしまった”が故のものなのだと。

 

「見てはいけなかった……見てはいけないものだったんです。あれは、誰の眼にも触れられずに、そっとしておかなければいけなかった」

 

「アリサ……あなたは一体、何を見たというの?」

 

「見たんです……私は、見てしまったんです……」

 

「落ち着いて、アリサ。何を見たの?」

 

「恐ろしいものを」

 

吐息さえ凍りつくほどの恐怖。

サクヤは震えるアリサの肩に手をやる。氷のように冷たかった。

 

「私……私、眠ってるリョウに、興味本位で触れて、感応現象を引き起こしたんです。

 いつもは私からの一方通行だった感応現象も、あの日は、リョウがすごく疲れていたから、もしかしたらって。

 そうしたら、リョウの気持ちの、想いの、深い所まで流れ込んできて……私、最初は狙い通りだって笑ったんです。

 これで本当に通じ合うことが出来たんだって。でも……でも……!」

 

人は一人では生きていけない生き物だ。

だから他者と触れ合おうとする。心の距離を縮めようと努力する。

だが、人の矛盾の本質はここにあった。

心というものは、とかく薄汚いものである。人の心が純真無垢であるなどと幻想だ。

心と心が触れ合うことが出来たのならば、それで幸せなどと。一体どこのだれが言ったのだろう。

つまり人は心の距離が近くなればなるほど、他者の真実に耐えられなくなるのだ。

そしてアリサは知ってしまった。

リョウタロウの真実を。

 

「リョウくんのことが、怖くなった?」

 

「違うんです……違うんです、私は……」

 

「いいのよ、それでも。それでもいいのよ……」

 

サクヤの胸に到来したのは、一握の寂しさだった。

幼い少女が温め続けた恋心が吹き消えたことへの。

リョウタロウとて聖人君子ではない。いかに英雄然としてそう持て囃されたとしても、一皮剥けば欲望が渦巻いているに違いない。

知らないほうが幸せであることなど、いくつも存在するのだ。

それを知ってしまえば、後は破綻するだけだ。

人の、男の汚さに、少女の心は穢れを拒絶した。それだけのことだ。

そうサクヤが納得しかけた瞬間である。

 

「リョウが怖いだなんて、そんなの初めからわかってる!」

 

アリサの叫びが、必死に訴える瞳が、サクヤを貫いた。

 

「あの人の側に行くと、背筋が凍り付く思いがした。手足が震えるほどの重さを持った一言を聞いたことも、何度も何度もある。

 助けを求める女性を見捨てたところを見た。どうしようもない男が死ぬ様を嗤って罵っていたのも見た。

 道行く女性をいやらしい目で見ていたことも知ってる。生きる術がないと嘆く少女に、体を売れば生きられるのにとつぶやいたことも。

 私たちを見る目さえとても冷ややかだったことを、わかってた! それを全部、にこにこと、いつもの笑顔でしてたことも……私は初めからわかってた!」

 

サクヤは想う。リョウタロウを、アリサを想い遣る。

自分は大きな思い違いをしていたのかもしれない。

 

「リョウが“この世界を憎んでいる”ことなんて、私は初めからわかっていた!」

 

その慟哭は、本当にちっぽけな個人的な理由で。

だがこの世の何よりも重く、熱く、そして清らかなもの。

 

「あの人の心は叫んでいた! それでもと! それでも世界はきっと、美しいままなのだと!」

 

サクヤの両目から涙が溢れ出した。

この二人は、心が触れ合ったというのに。重なり合ったというのに。

お互いの距離が、何故こんなにも近く、果てしなく遠くなってしまったのだろう。

 

「自分自身の心を、必死に騙して……! 誰よりも自分が、それを信じていないのに……!

 あの人の戦いは、自分を騙すことだった。

 “加賀美リョウタロウという人間に、きっとこの世界は美しいと、勘違いさせること”だった!」

 

演技とは、何者かを騙すために行われるものだ。

もしそれが己自身に向けられたのだとしたら。

それは、想像を絶する内界での戦いとなるだろう。

日々己を殺すことだけに、その思考は費やされることになるはずだ。

表に出る言動と、内界での思考は大きくかけ離れたものとなる。

心身のアンバランスさは、いずれ自己崩壊へと通じていく。

恐らくは、既に自我の乖離が始まっていると考えられる。

異様なタフネスは、肉体の疲れを感じる機能が麻痺してしまったが故。

才能の一言では片付けられない能力の伸びは、自己保護のためのストッパーが破壊されてしまったが故。

リョウタロウは、ギリギリのラインで己を保っていたのか。

“きっと”世界は美しい。

それは、この世界が穢れ切っていることを理解していなければ、出てこない言葉だ。切なる願いが、叫びが込められた言葉だ。

 

リョウタロウを殺すのは、とても簡単だ。

それは間違いなのだと。

“お前の勘違い”なのだと突き付けるだけでいい。

そして、リョウタロウの心臓にトドメの一撃を刺すナイフを、アリサは握ってしまった。

切っ先はもう、リョウタロウの胸に届いていた。

感応現象は、お互いの意思に関係なく発生する。

 

「私は、自分の愚かな好奇心で、あの人が最も隠したいと、自分自身から隠し切ろうとしていた願いを、想いを、知ってしまった……!」

 

心の距離がゼロになれば、そこに生まれるのは幸せではない。絶望だ。

相手の己さえ知らぬ深層を、“知ってしまった”という。人の矛盾の正体。

罪悪感。

己の内から湧き上がる罪の感情に、アリサは押し潰されんとしていた。

 

「アリサ」

 

「だから私は、もうあの人の側に居ることは出来ない。でも、離れることも出来ずに、ずるずると先延ばしにした。

 サテライトの建築プランを提出したのも、その責任者に立候補したのも、そうしたらあの人と付かず離れずの距離でいられるから。

 直接会って話すことが出来ないから、あの人の私物や、写真や、抜けた髪を拾って集めて……それで自分を慰めていたんです。

 ほら、壁にいっぱい、リョウの写真が貼ってある。ねえ、サクヤさん。私、気持ち悪いでしょう? ねえ?」

 

「いいのよ、アリサ。それでいいの。それが“普通”なんだから」

 

サクヤは何度もそれでいいのだと、言い聞かせるようにアリサの髪を撫でる。

 

「貴方たちは特別な力を持ってしまった。それで本来はとても、とても長い時間を掛けなければいけないお互いの理解を、ちょっとした裏技を使ってショートカットしてしまった。

 そのしわ寄せがようやく今、きたのよ。あなたのその不安は、彼の心が見えすぎてしまったから。“近すぎて、だから見えなくなってしまった”のよ。

 それでいいの。心なんて、見えないのが普通なんだから。そうやって誰もが苦しんで、答えを出すのよ」

 

「答え……?」

 

「あなたの恋は、もう終わったのよ。アリサ」

 

その事実を口にせねばならない。

アリサの目に再び溢れる涙を、サクヤは唇で柔らかく吸った。

 

「だからあなたはもう、子供でいてはいけない。教えを求めてはいけない。誰もあなたを救ってはくれない。

 あなたは一人で歩まなければならない。その熱に胸を焦がし、寒さに肩を震わせながら。それでも前へ、その先へ……答えに辿りつかなければならない」

 

「だめ……言えない……私は、言ってはいけないんです。ああ――――――」

 

その叫びは、悲鳴に等しいものだった。

きっと。

サクヤは想う。

この涙を見れば、叫びを聞けば、リョウタロウも信じられるだろう。

世界の美しさと、そして、儚さを。

自らの崩壊と、引き換えにして。

 

「心の底から、愛しているだなんて――――――!」

 

それは、愛してくれとは言わない男へと向けた、愛の告白。

サクヤは想う。

自分も少女だった時に、こんな叫びを上げていたのだろうか。

涙する声は、歌のようにも聞こえた。自分もこんな歌を口にしていたことがあったのだろうか。

わからない。

結ばれて、子を生した今となっては。母となった今となっては、今が幸せで、昔のことは忘れてしまった。

оре не море, выпьешь до дна.

悲しみは海にあらず、すっかり飲み干せる。

アリサの口癖の一つだ。

ああ、確か、悲しいことがあったような気がする。そんなこともあったねと、笑えてしまうようなことが。

悲しみはいずれ消えるだろう。時が経てば風化してしまうだろう。

だが、この身を裂く程に、後から後から内側から溢れ続ける感情はどうだろうか。

飲み干すには熱く喉を焼き、海よりも深く、無垢なその感情は。

サクヤにはわからない。

だが、一つだけ言えることがある。

自分の胸の中から聞こえる啜り泣く声。

こうしてアリサは歌い続けるのだろう。

愛の歌を――――――。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

「ああ……後はよろしく頼むよ。送り届けてさえくれれば、勝手に向こうが組み上げてくれるさ。何せ、正規ルートを通ったパーツなんだからね。

 偶然規格が合わずに、ワンオフ品になって、彼の着任時期と重なるだけさ。偶然だよ、偶然……。

 私は嫌いだよ。ああいう、自分は超越者なんです、みたいな顔をした者はね。女性ならばなおさら……これは失言かな。

 指導者も、研究者達も、どうもキナ臭いが……さて、彼を使いこなすことが出来るかな? 

 それとも、君のように惚れ込んでしまうかも? いや……崇拝かな?

 ははは、怒らないでくれ。冗談だよ、冗談。君は冗談が通じないな、ツバキ君。

 さて……では送り込もうか。我らが英雄殿を。

 人外魔境、外道の巣窟――――――移動要塞、フライアへと。

 喜んでいるのか、だって? 声が嬉しそうだから? うん、そうだね。その通りさ。

 悪びれることがなくて申し訳ない。だって、ははは、とても、うん、とても興奮するだろう?

 最も新しい神が織り成す、神話の幕開けを私たちは見ることになるのだから――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公が主人公を勘違いさせる系だったっていう。

ど、どういうことだってばよ!
説明しろ山城ォ(艦これ)!
天気雨→台風のジョグレス進化。地球さんがアップを始めました。
これ以上の赤い雨攻撃はネタがないので、あとはストーリーに沿った感じにするしかー。


余談ですが
神狩人→G級ハンターと転職をし、現在はポケモンマスターに就職しました。
あとパズルとドラゴンとか、騎空士さまとか、プロデューサーにも……いい時代になったものだ。
あ、提督業はライフワークですよね。みなさんもそうですよね? ね?
もぉぉおおおレイジバーストはよぉぉおお!
もう我慢できないのぉおおおっおっおっ!
PS4版もVita版も両方買っちゃうぅううう! 悔しい! ビクンビクン!

今回少し時間が空きましたが、以前後書に書かせていただきましたように、これくらいの更新速度となりそうです。
それでもと付き合っていただけるならば幸いです。
ご感想に返信はできませんが、その全てに目を通し、活力を頂いております。
ありがとうございます!
そして、今後ともよろしくお願いいたします。

短編にのせるには勇気の足りないものを、後日また活動報告に上げようかと思います。
こちらもまたよろしくお願いいたします。


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ごっどいーたー:14噛

神狩人、加賀美リョウタロウを語る際、対として必ず挙げられる名がある。

血闘士、神薙・R・ユウ――――――英雄の一人として数えられる男である。

神狩人(ゴッドイーター)、血闘士(グラディエーター)。

表の英雄、裏の英雄。

識者は口を揃えて述べる。両者は表裏一体。コインの裏と表のような存在であるのだと。

共に華々しい活躍の裏に、後ろ暗い逸話も付いて回るとなれば、どちらが表で、どちらが裏か定かではない。

諸説入り乱れ、当時の記録も散逸し、他のゴッドイーターの働きに紛れてしまったものも多い。

この二人は実は同一人物だったんだよ、などという眉唾物の説まである。

黒蛛病、螺旋の樹、ゴッドイーターの新たなる可能性……単語を羅列するだけで当時の混沌振りも理解できよう。情報が錯綜するのは仕方の無いことなのかもしれない。

語られるべきは、同時期に台頭した数多の英雄の中で、抜きん出た功績と闇を抱えた両名であるということ。

そして、記録にあるエピソードの不明瞭さが後年の作品群の題材となり、今もなお考察が続いているということ。

リョウタロウ、ユウ。共に謎の多く魅力的な、そして英雄と称されるにたる高潔な人物であったということだ。

両者人格性格共に清廉潔白であり、近代の聖人とも称される程であったことは、疑う由もない。ペイラー・榊の著書にも記載されている。

忌避される事柄も、恐らくは已む無くといった事情によるものであると推察される。英雄とはどちらを切り捨てるか、という決断を常に迫られる存在なのだから。

なお、この二人が対面したことはないとされるのが公式情報である。

上記のペイラー・榊による、当時のゴッドイーター達の生活を克明に記録したノンフィクションの著書にも、この二人が出会うことはなかったということが明確に記されている。

両者が同一人物ではないか、という問い合わせがあまりにも多く寄せられたことに対し、ペイラー・榊がそのしつこさに憤慨したとも。

一級のゴッドイーターが一所に集まることがなかったのは、戦略的な理由によるものと、恐らくは支部長であった榊による何らかの裏取引が行われたのだと考えられる。

だが、歴史の裏では何が起きていたかは誰も知る術はない。

もしも、を考え夢想するのは、万人に許された自由である。

もしも、の話だ。もしも、この二人が非公式に出会い、肩を並べて闘ったことがあるのだとしたら。

英雄が力を合わせねばならない事態。それはきっと、地球規模の、神代の戦いであったことだろう。

その戦いに胸躍らせられるのは、この世が地獄の一歩手前で踏み止まっている証拠なのかもしれない。人の心はいつでも“平和”であるというのだから、皮肉なことだ。

かく言う私も、『R』同一人物説を指示する一人であるのだが。

 

【ゴッドイーターマガジン創刊50周年記念特別号、この冬熱い!イケてるゴッドイーター100選!より抜粋――――――】

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

手が、ある。

キレイな手が。

目が開いて最初に思ったことは、自分の手がこんなにも細くて白かったのか、という驚きだった。

訓練での内出血と骨折に、真っ黒に色素沈殿して歪に折れ曲がっていたはずなのに。

顔に触れる。鼻があった。銃床で殴られてから平らになってしまったはずなのに。瞼が、頬が、膿の溜まったブヨブヨの感触ではない、正常な肌の触感がした。

「すばらしい」何人もの白衣を着た科学者が口々に称賛する。

「君は成功例だ」拍手が巻き起こった。

向けられたライトが眩しくて手をかざせば、手首に違和感が。

腕輪だ。

黒と金の、無骨な腕輪がそこにあった。

ゴッドイーターの腕輪が。

 

「何度見ても、回復錠の効果は素晴らしい。正に叡智の結晶だ」

 

「ゴッドイーターというのは便利なものだな。黒い干物が、愛らしい少女に早変わりだ」

 

「これであの何とか言う博士も満足するだろう」

 

「神機兵への適用はどうする」

 

「後期ロットに回そう。まずはこの試作品を送りつけなければ」

 

頭上で理解不能な言葉が交わされている。

 

「後期ロットの仕様は?」

 

「神機兵の全開稼働に生身の人間は耐えられんぞ。ゴッドイーターですら直ぐに使い物にならなくなる」

 

「なら負荷を減らせばいいだけのこと。幼年固定をし不要なパーツ、手足を落としてしまおう。内蔵もいらんな」

 

「いっそ脳を摘出してシリンダーに詰めて……」

 

何か、重大なことを話しているような気がする。

だが急激に戻りつつある身体感覚に、聴覚が情報を取り入れることを拒絶しているかのようだ。

身体が鉛の様に重い。

 

「君は特別な訓練を受けたんだ。誰にも……何といったかな、何とか博士にだって、君が受けた訓練のことを話してはいけないよ。いいね?」

 

はい、と舌が言葉を押し出す。

喉が張り付き、ひゅうとただ吐息が漏れただけだった。

満足したのか、科学者は頭上でのおしゃべりを再開する。

 

「R-TYPEは一応の成功、といったところか……ここまでやっても、素体の性能基準は最低限だとは」

 

「仕方がない。訓練だけでは、人間の限界は越えられまい。これ以上は投薬か、機械化しかないだろう」

 

「それこそ神機兵につなげば済む話ではないか。だが、そうまでしなければオリジナルに届かんとは」

 

「オリジナルRは化け物だな。さすがは、アルティメットゴッドイーターといったところか」

 

「この固体は成功例だった。手放すのが惜しいものだ。良い素体になれただろうに」

 

「神機兵に乗せる前に、素体の性能を上げるという着眼点は正しかった。取り外すものを鍛えて何になるかと思っていたが、さすがは北の賢者だ」

 

「能力は認めるが、あれもあれで、独自で動いているようだがね」

 

「お互い様だ。利害の一致でしかない。あれは所詮、我々のTEAMではないのだから」

 

「個としての知か、群れとしての知か。どちらが優れているかではないな。手段が違う。そう、手段だ」

 

「悪意か、あるいは、狂気が知識の探求には必要だ。かねてより、世界を切り拓く偉大な発明は個人が為すものだった。だが、世界を脅かす……世界を壊す一手は、人という群れが、その総意で行ってきたものだ」

 

「科学とは何ぞや。科学とは、消費にこそその究極がある。エネルギーを用いて、結果を導くことが科学だ。つまり、消費だ。世界を消費することが科学の究極だ。

 みんなで、ね。ならばたった一人が作り上げたものではなく、大勢の人間によって産み出されたものこそが、世界を使い切るのだ。

 科学とは人の業、進化の果てなのだとしたら、つまり人は世界を削り取ることで進化するのだから」

 

「世界を破壊することでこそ、人は次のステージに昇れるのだ。そう思わないかい? 君も」

 

話しかけられる。

返答が出来ない。

言葉が出ない。

理解出来ない。

 

「ふむん、しかし、これを送る……その、何とか博士のお人形遊びにも困ったものだな。面倒なのは妹の方だったか?」

 

「おいおい、我々のパトロンだぞ。お嬢さんなんだ、名前を覚えてやらねば、傷付いてしまうじゃないか」

 

「姉妹で科学者とはね。紛らわしいんだよ。あの車椅子の方の指図だろう? 面倒なことだ。姉の方が扱い易くていい。馬鹿だからな」

 

「賢く、そして馬鹿だ。女として最上だよ」

 

「安売りしすぎだと思うがね。どこぞの支部局長に尻尾を振っているんだったか。自分の値段もわからん程に愚かなのはな」

 

「そうは言っても、金がなければ研究は続けられん。そして、サンプルが最も重要だ。彼女達は金とサンプルをくれるんだ。我々は彼女の代わりに手と足になってやる。等価交換さ」

 

「世知辛い世の中になったものだ」

 

「昔からそうさ。なに、今の時代、サンプルに欠くことはないのだからいいではないか。それに頭を悩ませることがないのだから、我々は幸せさ」

 

「モルモットとは言わないのか」

 

「人間性だよ。我々に残された最後の救いだ」

 

「はん、面白いジョークだ」

 

言葉が出ない。

理解出来ない。

怖い。

恐ろしくてしかたがない。

目の前で会話している白衣の者達は、果たして本当に人間なのだろうか。

ああ、駄目だ。

心を殺せ。

感情を切り離せ。

思考を、心を、自らの意思から乖離させるのだ。

教わったように、訓練されたように、感情を人格から引き剥がせ。

 

「さて、せっかく身体が動くようになったのだ。何か欲しいものはないかね? 望みを言ってごらん。今日が君の、ゴッドイーターとしての誕生日だ」

 

「さっそく人間性の発揮か。命令だ。答えたまえ。どんな要求が出てくるものか、興味がある」

 

にっこりと、人好きのする笑顔で、人の形をした人ではない者が問う。

 

「紙と、ペンを、ください」

 

細波のように凪いだ心持ちでそれを見上げながら、自然と言葉が口から飛び出した。

胸の奥から熱い塊が競り上がってくるようだった。

からからの舌先が、歯茎をなぞる。

長らく潰れた鼻で呼吸することを忘れていたためか、口呼吸でいることが癖になってしまった。

喉が渇いた。でも、水はいらない。生理的な欲求ではない。

切り離された感情が叫ぶ。魂が軋む。

私の望みは。

 

「手紙を……書かせてください――――――」

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

さて、と榊さんが前置きして机の上で手を組んだ。

すごく……嫌な予感がします。

はいわかってます。わかってますからね。

それ絶対あのパターンですよね。

無茶振りの。

 

「世界各地を飛び回っていた君を、ここに呼び戻した理由を話そう」

 

ほらきた。

榊さんの顔、おれ最近、見分けがつくようになってきましたよ。

それ、やばいこと話す時の顔ですよね?

ここまで付いて来てくれたツバキさんとか、もうすっごい暗い顔してましたもん。

すまない、って俺の耳のとこなでなでしてからおでことおでこ合わせて慰めてくれましたもん。

知ってるー、これ見たことあるー。

こっそり可愛がってた捨てワンコが保健所に連れてかれるのを見る優しい人の眼だこれー。

今から話すのって、ツバキさんをマジへこみさせるぐらいやばいってことですよね?

やめてぇ!

神機なしの出撃とかもきっついのに、もうこれ以上は限界!

限界ですからぁ!

 

「君がアナグラを離れていた間に、君のゴッドイーターとしての新たな登録情報を作成しておいた。今の君は、加賀美リョウタロウであって、非なる存在」

 

待って、話が見えない。

待って。

 

「加賀美リョウタロウは、“今も変わらず極東支部から離れて欧州で活動中”。いいね?」

 

アッ、ハイ。

 

「君は、防壁外の集落を中心にアラガミ退治を請け負い金品を巻き上げる傭兵ゴッドイーター……血で染めた赤い肩、赤い肩をした鉄の悪魔、悪名高き吸血部隊の隊員として」

 

やめて。

お願いだから、やめて。

それ以上口を開くなら、例え榊さんでも手を上げることを辞さない。

尾ヒレ背ヒレってレベルじゃねーぞ!

そういう設定を俺につけ加えるのやめてくれませんか?

これ以上俺をとんでも人間にしないでお願い!

 

「それじゃあ、金さえ積まれれば何でもする何でも屋……表の顔は運び屋、しかし裏の顔は非常なる殺し屋家業。闇に隠れ、外道を討つ! ああ、俺が斬らねば誰が斬る、必殺仕事人!」

 

それじゃあ、じゃないって。

もうやめてくれませんかねえ!

 

「仕方がないな。ならば在野で新たに見出された、新人ってことで。第二世代に適正があって腕輪を嵌めたが、神機が見つからずすぐに次のものに換装することになった、としよう」

 

うぐぐ、それなら、まあ。

何か上手いこと乗せられたような。

ああ……赤紙が届いたあの日のことが、今よみがえる……。

 

「なぜ君に新たな身分を用意せねばならないのか。そう、君には新米ゴッドイーターとして、とある場所へ潜り込んでもらいたい。スパイ活動だよ!」

 

色んなことがあったけど。

もう一度だけ、言わせて欲しい。

 

「目標は、独立移動要塞……その名も、フライヤ――――――!」

 

フェンリルに勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない。

もおぉぉ、榊さんが言う言葉全部お願いと言う名の命令なんだからぁぁ。

柔らかい言い方したって拒否権ないじゃんもぉぉ。

ていうかなんだっけ、フライヤって。聞いたことあるな。本部直属の何かだっけ。

独立移動要塞って響きが怖すぎるんですけど……。

 

「ま、すごいキナ臭いから実情を調べてきておくれ。独立移動要塞とか、秘密の塊って感じがするだろう? それに君、暇でしょ? 何もなければ無いでいいからさ」

 

身も蓋も無さ過ぎる。

暇って、そこそこやることありますけどね。

さすがに神機無しじゃどうにもならない任務もあるわけで、最近じゃもっぱらスタングレネード職人してますけど。

榊さんの提案で何もなかったなんて事が無いって知ってますからね。

絶対何かある流れじゃんこれもう……。

どうせまた支部長ポジションの人か博士的な人が黒幕なんでしょ。解ります。

ほんとこの世界の博士はロクな奴がいないな!

 

「渋い顔だね」

 

だってえ、やる気出ませんもん。

新人ゴッドイーターとして潜り込むって、何やるんですか?

訓練生とかになって座学するんですかね。

俺、そういう座学とか全部すっ飛ばして戦場入りさせられたんですよね。

コウタも同じかと思ってお前も初期教育受けてないんだろ、って話したら、幽霊を見るような目で見られたし。

ヒバリさんみたいにゴッドイーター適性のある職員とかじゃ駄目なんですかね。

整備士とかほら、俺すごい合ってると思うんですけど。

最近、リッカの手伝いして色々覚えまして。

腕輪付いてるからバランス悪くてたまに指とか切っちゃって、その度にリッカが治療って口に指をですね。

 

「もちろん、君にはゴッドイーターとして働いてもらうことになる」

 

まあ……そうでしょうね。

見つかったんですか。俺に合う神機。

 

「新しい神機……必要だろう?」

 

ええ……でも。

正直、少し複雑です。

いいのかなって。

その……新しい神機を使うのが、前の相棒に悪いかもって思うのと。

それと。

それと、やっと戦場から離れることが出来たのに、また戦いの中に戻るのかと思うと。

嫌なものを、たくさん見ることになるのかと思うと。

少し、怖くて。

 

「世代を隔てた神機に適正が認められた場合、これまで使われていた神機は保管され、新たなものに乗り換えることとなる。

 君には旧型神機の適性は無い。これから新たに作られる神機、そのコアに適正が認められた。フライヤで作られる新たな世代の神機にだ。

 フライヤは特殊な場所だ。本部の直轄領のようなものだ。こちらの要請は通ることはない。ならば、こちらから出向かねばならない。

 これは転機だよ。君にとっての転機だ。

 いいかい、君も理解しているはずだ。魂がそう囁いているはずだ。君には、ゴッドイーターとして生きる以外の道はないのだと。

 君は証拠もなく、ただ私の勘であると理由だけで、たった一人で死地に送り込まれることになる。私の一存でだ。君は言わば、私の共犯になるのだ。

 特務……と言う奴だよ。これまでは、高難易度任務という形でしか君に命じていなかったが。これが私が初めてゴッドイーターに命じる、支部長としての後ろ暗い意味を持った、特務だ。

 さあ、掴みたまえ。この手を。君の歩むべき未来を、その手に」

 

手を差し出される。

ああ、きっと差し出されたこの手は、地獄への標なんだろう。

俺もまったく酔狂な奴だなあ。

望んで死地へ踏み出しにいくんだから。

でもまあ、榊さんに言われちゃあね、しょうがないか。

だって、この手がこんなにも暖かいんだからさ。

この手に誘われて、皆、地獄に行くんだとしたら。皆、ともに逝くのだとしたら。

悪くないな。うん、悪くない。

だってきっと、この人もそこにいるんだろうから。

 

「契約成立。こちらの皆には私が上手く言い置いておくから、安心しなさい。頼んだよ」

 

了解しました、榊支部長。

元第一部隊隊長、現クレイドル所属特設遊撃部隊隊員、加賀美リョウタロウ。

諜報の任、委細承知致しました。

 

「よろしく頼む、加賀美リョウタロウ君。否――――――」

 

本当に、食えない人だ。

道化の仮面をかぶって、真理を見ている。

“スターゲイザー”は伊達じゃないってことか。二つ名の意味は、星の観測者だったかな。

自分は見るだけしか出来ない覗き屋なのさ。そんな風に自分を卑下していた台詞も聞いたっけ。

舞台を動かしているのはご自分であると、自覚があるのでしょうか、この上司様は。

無力ぶって喜劇にしようとしているのだろうか。そう考えると、どうしてもこの人を憎むことが出来ない。とんでもなく酷い目に会わされてもいるっていうのに。

ありがとう、榊さん。

あなたの陽気な悪ふざけとお茶目さが、きっと皆を照らす光りとなっている。

何だっけ、悪名高き吸血部隊の傭兵だっけ? さすがにこれは無いけれど。

金を詰まれたら殺しまでする何でも屋、か。

ははは、面白いな。本当に面白いよ、榊さんは。

それ、どうやって調べたんですか?

 

「『神薙・R・ユウ』――――――君」

 

ミドルネームはやめてぇ!

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

「おーっす! リョウ!」

 

「おう」

 

――――――おっすコウタ、ソーマ。

 

「どうしたんだよー。なーんか嬉しそうじゃん?」

 

――――――あ、わかる? ほら、これこれ。二年くらい音信不通だった友達から久しぶりに手紙が届いてさ。

 

「手紙? へー、珍しいじゃん、手紙なんて。郵便網なんて分断されちゃってもう長いってのに」

 

「おい、お前……まさか、女からのじゃないだろうな? やめろ、マジでやめろ。俺に被害が全部くるんだぞ。

 最近はアリサだけじゃなく、他の奴等まで俺にアタリやがる。なんなんだあいつ等は……」

 

「はーい、ソーマ君は向こうでお休みしましょうねー。で、なにそれ。フェンリルマークがガッツリ捺されてる時点でやな予感しかしないんだけど」

 

――――――ところがどっこい、フェンリルが昔からやってる慈善事業ってやつ。建前だけのね。世界中の孤独な子供たちに交流の機会をーっていうプロジェクトの名残りだよ。

子供の頃、ゲンさんに勧められてさ。それからずっとペンフレンドってなわけよ。アラガミ情勢とか俺が住所不定無職になっちゃったりしたから、届いたり届かなかったりだけど。

フェンリルもたまには良い事をするもんだ。

 

「外面だけ取り繕ってなんだかなーって感じもするけどね。封筒のそれ、海外の押し印? どこから? 誰から? 何て人?」

 

「やめろ……女だ……絶対女からだ……やめろ……やめてください……」

 

「ムツミちゃーん! ソーマにお酒出してやって! キツイやつ!」

 

――――――いやいや、男だよ。ほら、これ名前。ぼんじゅーまどまじゅーる、の国からだよ。

 

「おーフランスかあ!」

 

「お前、マジか……コウタ」

 

――――――自分で言っておいてなんだけど、よくわかったな。ちゃんと勉強してるんだな、コウタ。なんか感動しちゃったよ。

 

「お前達が俺のことどう思ってるのかよくわかったよ」

 

「で、相手は一般人なんだろう? 機密を漏らしたりはしていないだろうな」

 

――――――そこは大丈夫。お仕事はちゃんとしないとね。まあ、近況報告とか、最近面白かったこととか、雑談ばっかりだよ。

ここ二年、返事がなかったからさ、心配してたんだぜーとか。

こっちは無職から華麗にゴッドイーターに転職したってのに、ヘマやって神機ぶっ壊して休職中ですーとか、それくらい。

 

「それは……」

 

――――――機密には触れてないだろ? それに、お互いペンネームを使ってるから、誰かなんてわからないよ。

 

「そうだな。ならいい」

 

「おっとお、なんか不機嫌ですねソーマ君。あれかな? ぼくの友達だったリョウ君を取られちゃった悔しい! みたいなジェラシーかな? んー?」

 

「うぜえ。嫌な予感がするってだけだ。本当にな……」

 

――――――それで、まあ最近の事書くくらいだからさ、心配いらないよ。新しい配属先で、新しい神機もらうことになりました、とかね。

 

「そっかー、新しい配属先で新しい神機を……え、はぁあああ!? ちょっ、はぁあああ!?」

 

「そうか。短い休暇だったな」

 

――――――あんまり休めた気はしないけど。極東ってブラックすぎんよーマジで。

 

「違いない」

 

「いや、ちょっ、そんな軽く言って、ソーマ!」

 

「うるさいぞコウタ。静かにしてろ。ムツミが睨んでる」

 

「だってさあ! 何でそんな大事なこと黙ってたんだよ、水臭いぞリョウ!」

 

――――――いやあ、また海外周りに戻されるらしいし、ことさら言うものでもないかなって。特務ってやつですよ、特務。

 

「はい来た特務って言う名の博士の無茶振り! ああ、もう! そーだねそーですよね! 肝心なこと言わないとかそういうところあるよねリョウって! まったく!」

 

「アリサ達には知らせずに行くのか? 前の海外派遣も唐突だったが」

 

――――――まあ、他のみんなはともかく、アリサには最近避けられてるしね。榊さんが上手いこと説明してくれるとか何とか。これが今生の別れでもあるまいし、またすぐ戻ってくるからさ。

 

「そうか。なら俺から何も言うことはない。向こうでもしっかりやれよ」

 

――――――うん。こっちの事は任せた。

 

「おう」

 

「ちょっと! なんでそんな良い話みたいに締めようとしちゃってるのさ!」

 

「なんだコウタ、お前、泣いてるのか」

 

「だって、リョウがさ、ゴッドイーターにさあ! 神機が……リョウが、ゴッドイーターをまた……! 俺、俺!」

 

「大げさな奴だ。極東で腕輪の封印処理もされず、待機を命じられていた時点で、次の神機が用意されるのは決まりきっていたものだろうが」

 

「ソーマだって涙目じゃん!」

 

「見間違いだ」

 

「嘘つけ!」

 

「おいにじり寄ってくるなコウタ! リョウ、お前笑ってるんじゃねえぞ!」

 

フェンリルに勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない。

君には初め、そう言っていたね。

でも最近じゃ、少し違うんだ。

色んなことがあって、ありすぎて、言葉にするのが難しいけれど。

そんなに悪くないんじゃないかなって、思うようになったんだ。

だって、やっぱり世界は綺麗で、美しいものだったって、解ったんだ。

解ったんだよ。

こんなにも綺麗で美しい世界を、俺は真っ直ぐに見られないことを。

世界は清らかだった。でも俺は、それを愛することができないままでいる。

努力を重ねている。好きになる努力を。愛する努力を。無駄な努力を。

こんなにも愛そうとしているのに、愛したいのに……愛せないんだ。

誰かを守ろうと思う気持ちはあるんだ。大切だと思う気持ちも。

でも、ふとした時に、何もかもがどうでもよくなってしまう。

こんな世界なんか、一度綺麗に消えてなくなってしまったほうがいいんじゃないかって。

そっちの方がさっぱりするって。

全部壊れてしまえと、そう思う時があるんだ。

きっと俺は間違っていて、俺の心も偽者なんだろうと思う。

でも、それでもいいんだって、最近思えてきたんだ。

きっと、面白おかしい、友人達がいるからだと思う。

俺の汚い部分を見ても、別にそれでもいいさと笑ってくれる友人達が。

それはきっと、素敵なことで。なんていうか、救いなんだと思う。

きっと誰かと寄り添って、暖かいと感じることが出来れば、その瞬間、誰もが救われているんだと思う。

たとえ世界を、憎んでいたとしても。

美しいと知ってしまって、それでも憎しみは消えず、愛することに苦悩する者であったとしても。

触れ合った瞬間の暖かさは、きっと真実なんだから。

なんて言えばいいのか、つまり、友達はいいものだってこと。

だから、いつか君にも会えるといいなと願っています。

 

 

 

 

【君の友人より――――――アランへ】

 

 

 

 

 

 

 

 




毎回これくらいの文量であれば書いていて負担にならず、早めに投稿できそうです。
本当はもっと軽く読み流せるくらいの文体にする練習だったはずが、どうしてこうなった・・・。
ぎちぎちすぎて読みにくい文だなあもう。

さて。
スナイパー兼衛生兵おっぱいが主人公のせいで超強化されたようです。いったい何エルなんだ・・・。
2はヒロインが多くてもう、嬉しくて困っちゃうなー!
次回から本格的に2へと展開していこうと思います!
レイジバーストでるし2のストーリーやったらネタバレになるんじゃ、とか考えなくてもいいや!
やったる!

ロ(R)ミオ
リ(R)ヴィ
ひゃっはー!マグノリアコンパスは本当に地獄だぜぇ!


※没ネタものをまた活動報告へ。


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ごっどいーたー:15噛 GE2

新年、明けましておめでとうございます。
今年もまたよろしくお願い致します。

新年よりGE2突入!


やがて雨が降る。

雨は降りやまず、時計仕掛けの傀儡は来たるべき時まで眠り続ける。

人もまた自然の循環の一部なら、人の作為もまたその一部。

ならば。

荒ぶる神々の、新たな神話。

その序章は、あなたから始めることとしましょう。

さあ、幕開けのベルを――――――。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

Re:boot――――――Error。

 

RRRRRRRRRRRRRRRRBBBBBBBBBBBBBBB――――――R:B。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

ヴィスコンティの家名に重さを感じなくなり、どれだけの時が経っただろうか。

ゴッドイーターとなるべく訓練を受け、そして腕輪を取り付けられたその瞬間からだったか。存外長くはなかったようだ。もうずっと前から使命に生きていたように感じる。

アラガミと闘い続けるという使命に。

 

ジュリウス――――――『ジュリウス・ヴィスコンティ』。

ドッグタグに刻まれた己の名を指でなぞり、ジュリウスは苦笑した。

指先に一瞬痺れが奔ったのは、過去に残してきた、何か刺のようなものがあったからだろう。今よりも未だずっと幼い、少年だった頃に。

感傷というものだろう。

そんなものは両親が死に、財産目当ての親族をたらい回しにされていた時に捨てたと思っていたが、人は業を下ろすことはなかなか出来ないらしい。

ジュリウスは待合室のドアをノックする。内側からどうぞ、という許可の声が返る。

自分の母代わりとなってくれた、女の声だ。

今日、家族がまた一人増えると伝えられていた。

共に戦う仲間が。

訳もなく首元のタイの位置を調整する。新しい仲間に無様な格好は見せられない。

気品があり瀟洒である完璧な男、と他者から称されることも多いジュリウスだが、緊張や焦りとは無縁ではない。

“一人目”もそうだった。

あれは今から一年前。初めての家族、共に戦う仲間に、感動に頬が紅潮していたことを思い出す。

母代わりとなってくれた人はいたが、しかしそれでもジュリウスは孤独であった。

 

ジュリウスは所謂、天才と呼ばれる種の人間だった。

一度見聞きしたものは忘れず、一度の経験で百を知り、千を実践する。

『マグノリア・コンパス』と呼ばれる児童養護施設――――――の皮を被った、“児童訓練施設”にて、ジュリウスの才は完全に開花した。

将来にゴッドイーターとなり人類の一助となるよう夢見て、ジュリウスは幼少期の全てを費やし、己を鍛えた。直ぐに周囲との差が開いていった。その差は埋めがたい断崖となり、ジュリウスもその間に橋を架けることを諦めた。

相互理解を放棄したというよりも、理解不能であったと言う方が正しいだろう。

幼い頃は不思議に思ったものだ。

何故みんな、こんな簡単なことが出来ないのだろう。

かつてのジュリウスは、心底そう思っていた。

例えば戦闘訓練、例えば座学、例えば銃の分解、例えば指揮官訓練、例えば……。

あらゆる訓練にて、想定以上の結果を叩き出した。時には教官すらも超え、ジュリウスは大成していった。

だが、ジュリウス自身の感覚としては、そう“努力”を重ねた故の結果ではなかった。

やってみたら出来た。それくらいの感覚だった。

ジュリウスにとっての努力とは、スポンジが水を含むかの如く、あらゆる知識を吸収することだった。

注ぎ込めば注ぎ込む程力を蓄える、底なしの井戸のようだった。水を注ぐ作業。それに関して、労した覚えはない。

血を吐いて努力をしても、結果に届かないこともあると今ならば解るが、幼い傷付いた少年は他者を慮る心が欠如していた。

全ては唐突に冷たい世界に放り出された少年の、叫びと祈りからくる残酷さであった。

誰かに必要としてほしい。

ジュリウスの心からの願いだった。

誰かを必要とする……誰かを愛するということを知らぬ、愛されることのみを欲していた少年の罪だった。

 

ジュリウスは忘れない。

自分の護衛として付けられた少女に向かって言ってしまった、あの一言を。

きっと、当時の大人達は、そうして人間関係が破綻しつつあったジュリウスを思い似たような境遇の少女を側に置いたのだろう。

大人達の汚さによって少年は、訓練の過酷さによって少女は、お互いを思うことが出来なかったのだ。

そしてジュリウスは口にしてしまった。共に受けた訓練で、少女の何度も繰り返す失敗に対して。

なぜこんな簡単なことが出来ないのか、と。

嫌味に聞こえたなら、まだよかった。喧嘩なり何なり、反撃を一つもらえばそれで帳消し。怒りであっても、心の交流があるだけまだマシな状況だっただろう。

だがジュリウスは、心の底から解らないといった風に、純粋な疑問として、それを口に出してしまったのだ。

きょとん、と小首を傾げて。

それは冗談でやっているのかな、と思いながら。もしかしたらそうやって自分を笑わせて、会話の糸口を探そうとしているのかなどと、的外れな期待を抱いて。

持つものは持たぬものの気持ちを理解することは決して無い。

 

その少女は無言だった。

無言で、ただ視線だけをジュリウスに返した。

空虚だった。

曇り空のように灰色の瞳がそこにあった。

ジュリウスは己の過ちを悟った。

ジュリウスの不幸は、愚かではなかったことだ。その賢さ故に、己のしてしまったことの意味を理解したのだ。

少女の瞳には、何も映されていなかった。眼前にいるジュリウスさえも。

夢、希望、未来への期待……子供が抱くべき全ての美しいもの。少女の瞳は、世界を映すことが無くなってしまったのだ。

美しいものを映すはずだったその瞳を塞いだのは、自分だ。

“空”となってしまった少女。

その日から、少女から感情というものを感じることが無くなった。

甘いジュースを飲んでおいしい、綺麗な絵を見てすごいと思う、そんなそれまでほんの少しだけ残っていたものも、何もかもが無くなってしまった。

ただ刺激を刺激として受け止めているだけのような、息をすって吐くだけの人形のような存在になってしまった。

そしてジュリウスは、“人間”となっていた。

天賦の才故に人の心が解らなかったジュリウスが、初めて他者の心に触れたのだ。少女の心を壊したことによって。

ジュリウスは、少女の心を喰らって、人の心を得たのである。

 

苦い、あまりにも苦い思い出だ。

その後、少女は自然とジュリウスから離されて、どこかに消えてしまった。

便箋に何かを書き綴っていたような姿を最後に、それきり少女を見ることはなかった。

少女がどうなったかはジュリウスも知らない。問うても誰も教えてはくれなかった。調べようとしなかったのは、恐れていたからだ。己の罪を形として見たくはなかったからだ。

心なくしては、孤独の渦から逃れることはできない。

孤独の恐ろしさをジュリウスは知っている。

この世界で、ただ独りで生きていくことは出来ないことを。

心を閉ざし孤独に生きることになった少女に待ち受ける未来が、暗い陰惨としたものであることも。

 

寒い世界だ。身を寄せ合い、お互いの体温で温め合う家族が必要だ。

できれば気の合う者がいい。きっとそれは、相手だってそう思っているはずだ。

だからこうしてジュリウスは、“適合試験”には必ず顔を出すようにしていた。

一人目は、希望に胸湧く温かな日差しのような少年だった。

一年経ち、未だぎこちなさは残るものの、よき関係を築けていると思う。距離感が計れないのは、これは自分のせいだ。踏み込まれることに臆病な自分の。

二人目は、つい先日に適合試験が通ったばかりの、底抜けに明るく朗らかな、人懐こい子猫のような少女だった。

軽く自己紹介は済ませておいたが、こちらも相手の懐に嫌味なく踏み込むような性格で驚いた。距離を詰められると一瞬警戒してしまうのが悪い癖だとは解っている。心を開かねばならない。

きっとこの二人になら、胸の内を打ち明けたとて、信頼し合うことが出来るはずだ。

そして今日。

三人目が配属される――――――。

 

「失礼する、『ラケル博士』」

 

空気が抜け、機械式のドアが開く。

一言部屋の中に向け、足を踏み入れた。

 

「ジュリウス」

 

嬉しそうに語尾をとろりと延ばす、特徴的な口調の女の声。

背筋を這うような艶が含まれた声だ。

きり、という機械式の車輪が回る音。自動式の車椅子を振り向かせ駆動音である。

車椅子というハンデもまた、彼女の蠱惑的な雰囲気を彩る一つのアクセサリの様にしか感じられない。

車椅子毎ジュリウスに向き合った部屋の主。

彼女の名は、『ラケル・クラウディウス』

フェンリル極致化技術開発局、通称『フライア』の、副開発室長である。

ジュリウスを見やる視線は、額に掛かる黒のヴェールに隠れ、暗がりの向こうに柔らかく細められていた。

 

「新しい家族が増えますよ。ほら」

 

指し示すのは、大型モニターの向こう。

四方を対アラガミ装甲壁で覆われた、適合試験室の映像である。

ラケルは投影されたパネルを、細く折れそうな程の、まるで氷の彫像のような繊細な指先で叩く。

金色で装飾されたモニター群に向かう姿が、まるでパイプオルガンの奏者のような、宗教画染みた荘厳な姿に見える。

 

「あなたの兄弟が……私の新しい子供が出来るよう、祈りましょう」

 

そうだな、とだけジュリウスは答えた。

時折ジュリウスは、ラケルに言い知れぬ恐ろしさを感じることがある。

例えば、今だ。

適合試験とはゴッドイーターの適性が認められたものに腕輪を装着し、神機と結合させ偏食因子を注入することを指す。

年々精度が高まり、今ではほぼ失敗は無くなったというが、それでも失敗の可能性はゼロではない。

資料でしかジュリウスも知らぬことだが、この適合試験に失敗した者は、人のカタチを失いアラガミとなってしまうという。

試験などと言うが、これは実験だ。適合実験とするのが正しい表現であるだろう。

適合試験はゴッドイーターの活動領域で行わなければならない、という規定を考えれば、ジュリウスがこの場にいる理由も自ずと知れよう。

ジュリウスもまた、この場にある種の覚悟を持って臨んでいる。

場を和ませようとしているのだろう、くすくすと嬉しそうに笑うラケルに、ジュリウスは頷くことは出来なかった。

言葉尻だけを捉えるならば、なるほど祈りの言葉であるだろう。だが、そこに込められた感情は、何か揶揄する響きがあることを感じられぬジュリウスではない。

ラケルはこういった、乗るか反るかといった賭けのようなものを好む傾向があった。

退廃的というのだろうか。滅びを望むような一面もあるような気がする。

趣味趣向の類なのだろう。性癖とでも言うべきか。

大恩ある相手だ。ジュリウスは咎める事はない。

重要なことは、彼女ではない。これから新たなゴッドイーターとして歩み始める、“彼”の往く道である。

 

「どうかその行く先に幸多からんことを」

 

「ええ……きっと、世界を導く、その礎となってくれるでしょう。いえ……その礎となった多くの先の、頂きに立つことになるのかも。頂点は二つもいらない」

 

「博士、何かおっしゃりましたか?」

 

「世界を導く子どもたちを得て、私は幸せに思っていますよ、とだけ。彼がこちらを見ていますよ」

 

手を振ってさしあげましょう、とラケルは言った。

ジュリウスはそれを曖昧に笑って拒否した。モニターの向こうからこちらの様子は見ることはない。レンズを通して一方的なやり取りしかないからだ。

祈りを捧げる以上は、流石にセンチメンタルに過ぎはしないだろうか。ジュリウスは希望を抱きこそすれ、過剰な期待をすることはない。

だが、視線を感じた。

モニターの向こうから。

刺すような、痛みを伴う視線を。

馬鹿な、ありえない。ジュリウスはその感覚は気のせいであると否定した。己の感覚を、否定したのだ。

カメラのレンズの、さらにモニター越しに“見られている”などと。

自身の感覚を否定するジュリウスは、まったくの無防備だった。

ジュリウスがふとモニターを見た瞬間である。

視線が、絡み合った。もはや疑いようも無く、明確に。

吐息が凍える。

 

「む、お……ッ!」

 

圧。

そうとしか言い表しようの無いプレッシャーが、室内に充満する。

足が後ろへと下がる。無意識に体だ硬直し、血管が収縮する。戦うための身体を、本能が造ろうとしている。

湧いた頭に氷柱を突き入れられたようだ。

脅威。脅威だ。

大型のアラガミを前にしても終ぞ感じることのなかった、脅威が目の前にある。

モニタの中に映るのは、中肉中背黒髪の東洋人の青年。

これといった特徴はない。

冷たい実験台の上に横たわった、無防備な姿を晒している。

だが、その隙からは一切の隙もうかがえない。無防備であるのは、ジュリウスの方であったのだ。

カメラを、モニターを、その先にいる自分達をじっと見上げる青年に、ジュリウスの総身は粟立った。

乾いた喉が張り付き、熱を発し始める。

身体は鳥肌が立つほどに寒いというのに、熱い何かが喉元に競り上がってくる。

矛盾。

どうしてこんなにも冷たく、胸が熱いのだろう。

 

「気を楽になさい。貴方はすでに選ばれて、ここに居るのです……」

 

ラケルがマイクのスイッチを上げる。

そのまま適合試験の説明を始めた。彼女なりの笑えないユーモアを交えながら。

“彼”の周囲に、機械群が展開を始める。最新鋭の適合試験機器である。

展開を繰り返し、競り上がってきた台座には、黒塗りの神機が。

まるで棺のようだ、とジュリウスは思った。

神機が納められた台座には、手を差し込むスリットが設けられている。

箱型の最新鋭試験機器は、そのスリットに手を収め、上から蓋をするようにして叩き付けて作業を完了させる。

片腕を収めたその箱が、ジュリウスには棺のように見えてならない。あるいは、そのまま、ここが彼の墓となるのだから。

 

「気になりますか?」

 

ラケルに呼ばれ、意識が戻る。

いつの間にかジュリウスは、モニターの向こうにいる彼と見詰め合っていた。

距離も角度も、何もかもを超えた邂逅であった。

感応現象のそれとは異なる、意思を超えた、超常的な精神の触れ合い。

不可思議な出来事だった。ジュリウスにとって、初めての。

ラケルがスピーカーのスイッチを再び上げた。

ジュリウスにマイクを差し出す。

 

「俺は……ジュリウス・ヴィスコンティ。お前が配属されることになる部隊の、隊長だ」

 

適合試験を通る前の者に、配属先の部隊長が声をかけるなど、異例なことだ。

しかしそうあることが自然なことであるかのように、ジュリウスは彼へと、自らの名を告げた。

彼は手首をさすっていた。右の手首だ。手首を一周するように、テープで薬剤アンプルが固定されていた。

テープを面倒そうに剥がす彼。皮膚の色が、その周辺と上腕部とで、酷く異なっていた。

事前の人事通達資料を思い出す。

確か、極東にて第二世代に適正が認められたものの、すぐに“乗り換え”のためにこちらに派遣された新兵であったか。

不機嫌そうな顔は、今回の人事異動に不服を感じているからだろうか。

極東のような最前線、ゴッドイーターの華とも言うべき戦場から引き抜きを受けたのだ。無理も無い。

“ここ”は正直なところ、“実験艦”という色合いも強い場所だ。

フェンリル本部直轄ということで、多少なりとも無茶が通る。

そう、『フライア』は常に人員を求めている。

“第三世代”に適正のある人員を。

 

――――――どーも。ジュリウスさん。カガ……神薙・R・ユウです。

 

男が頭を下げた。

寝そべったままの不恰好なものであったが、目を伏せ出来る限り首を曲げる、丁寧なオジギだ。

素っ気無さは愛嬌であろう。上司に対する態度としては不足であるが、大胆不敵な人物であると好感が持てる。

人事を不服に思ってはいるが、隊長の自己紹介を無視することも出来ない、といったところだろう。それが彼の性格の律儀さを現している。

挨拶は大事だ。確か、極東の古文書にも書かれていたはず。

なるほど、これが極東人か。極東の教育レベルの高さが垣間見えた気がする。

彼の視線の高さが戻る。

彼の……ユウの口元には、笑みが浮かんでいた。

柔らかな笑みが。

だが。

 

「ユウ、か。今後ともよろしく頼む」

 

ジュリウスの凍える背筋と、燃える胸の内には何ら変わりようがない。

優しく緩む、ユウの唇。

だがその目が、全てを物語っていた。

深淵。

深く、暗い、虚無の洞。

底なしの井戸を覗き込んだような――――――否、これは宇宙だ。

ジュリウスはユウの瞳の中に、宇宙の真理を見た。

底知れぬ、底など無いかのような、無限の可能性を。

ユウの瞳に映る己の姿を、ジュリウスは見た。

そして、理解した。

目の前に居るこの男は、自分と“同等”の存在であることを。

 

「Rの系譜か、あるいはオリジナルに繋がるものか。それそのものか……どれでもよいでしょう。とても、楽しくなりそうですね。宴は華やかでいなくては。フフ、フフフッ」

 

くすくす、くすくすと、ラケルが笑っている。

喉の奥で転がすようなか細いつぶやきは、機器の設置が完了したアラームに掻き消され、ジュリウスに届くことはなかった。

あるいは、届いていたとして、その後の“二人”の運命を変えることが出来ただろうか。

神なる者にも解るまい。アラガミにも、人にも。全ては世界の選択のままに。

 

「何も恐れることはありませんよ。貴方はそう……『荒ぶる神』に選ばれし者ですから……フフッ」

 

ラケルがパネルを撫でる。

官能的な指使いは、正に戦士を死地へと誘う美しい死霊の指だ。また一人、新たな戦士が生まれる。

きっと、地獄の底を舐めるような、窮極の戦士が。

 

「貴方に祝福があらんことを――――――」

 

棺に目掛け、激しい回転運動を伴う適合機が叩き付けられた。

ドリルの様に、腕輪を装着者へと癒着させる。

轟音。

モニタの先の音が、こちらまで漏れ伝わってくるかのようだった。

ユウは一瞬、背を仰け反らせたが、奥歯を噛み締めるかのようにして悲鳴を押し殺していた。

呻き声一つ漏らすのみ。耐え難い激痛だろう。脂汗を流しながら、それでも弱音を吐くことはない。

自分の時はどうだっただろうか。

気付けばジュリウスは、モニターへと手を差し出していた。苦痛に歪むユウの頬を撫でるようにして。

接合は数秒。ユウが台座から転げ落ちる。

 

「適合失敗か……?」

 

「いいえ。よくご覧なさい」

 

慈愛に満ちたラケルの視線の先には、ユウが、神機の剣先を地へと刺し杖として、膝を震わせながら立ち上がらんとする姿が。

“生まれた”のだ。

ジュリウスは、あらゆる理屈を超越し、そして直感する。

光りと影。表と裏。天と地。

あれは、己の表裏一体となるべく存在だ。

 

「貴方に“洗礼”を施した時とそっくり……」

 

ふわり、と黒いヴェールの向こう側でラケルが優しく微笑んでいた。

絡められた両の指先に、見えない糸が絡められているような、そんな気がした。

 

「おめでとう……これで貴方は神を喰らう者、ゴッドイーターに成りました。いいえ、戻った、といった方が正しいかしら。

 そして、これから更なる『血の力』に目覚めることで、極致化技術開発局『ブラッド』に配属されることになります。

 ゴッドイーターを超越した、選ばれし者ブラッド……来るべき新たな神話の担い手……」

 

苦痛に喘いでいたユウが、天を睨む。

ジュリウスの胸の奥に灯る熱い何かに、名が付いた。

感応現象ではない。意識のやり取りではない。説明不可能な、感情のうねりのような何かに。

思う。

果たして、自分は家族を、仲間を、庇護し合えるような、支えねばならないような、隔絶した存在として見ていなかったか。

何と言うことだろうか。まるで進歩がない。自分の精神は、少年時代のままではないか。守ってやらねばならない存在を欲していたなどと。その対価に愛されようとしていたなどと。

果たしてそれが、自分の真なる望みであったのだろうか。

 

ジュリウスは、その天から与えられた才により、己の感情を正確に把握した。理解した。

ユウという男があらゆる面において、己に差し迫る“格”を有した存在であることを。

ユウが立ち上がった姿の向こうに、瞬間、ジュリウスは白昼夢を見ていた。

宇宙を見下ろす光点の頂が二つ。

一つはジュリウス。一つはユウ。

まるで世界をすべる“王”の座のようにして、二人は向かい合って立っていた。

神機を手にしたユウに、喉元に刃を突きつけられながら――――――。

 

ジュリウスの胸が高鳴る。

これは、暗喩だ。

ユウが自分にとって、重大な存在となることへの。

自分達は同等であり、そして対等である。

少女の空虚な眼を思い出す。

こびり付いた後悔の、その理由をジュリウスは思い知る。

 

ああ。なんだ。そうか。そうだったのか。

あの台詞は、自分にこそ向けられるべきだった。

なぜこんな簡単なことが出来なかったのか。なぜこんな簡単なことが解らなかったのか。

俺は、あの子と友達になりたかったんだ。

 

「我々は君を歓迎する。ようこそ、ユウ――――――『ブラッド』へ」

 

この胸に灯った熱を。

手に伝わる熱を。

ジュリウスは知っている。理解している。

かつて、幼さ故に踏み躙ってしまったもの。

同じ轍を踏んではいけない。もう二度と過ちを繰り返してはいけない。

ジュリウスは知っている。理解している。

自分が真に望んだものは、この手の内側にあるということを。

もう手放してはいけない。

自ら離れていってはいけない。

愛されること。愛すること。それは大切なことだ。人の一生の中で問い続けていかねばならないことだ。

両親を失った自分は、家族を欲し続けてきた。

だが本当は、もっと対等な存在を欲していたのではないか。

仲間……否。もっと、もっと、お互いを思いやらずとも側にいるような、傷付け合っても笑い合えるような、そんな関係を求めていたのではないか。

ああ、どうしてこんな簡単なことを今の今まで解らなかったのだろう。

自分が、そしてあの少女が、心の底から欲して止まなかったもの。

それは友情と呼ばれるもの。

例え、それがお互いの血を、肉を斬り合うような友情であったとしても――――――。

 

「貴方には……期待していますよ――――――」

 

ラケルが囁く。

その声が、果たして暗惨たる夜の闇を往く者達の、導となるであろうか。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

かつて、極東にニ柱の神様がおったそうな。

その神様達はひょんなことで口論となり、“神遊び”をすることとなったという。

極東の神々は仲違いをすることが多々あり、ここが他国と異なる点であるが、戦争ではなく、喧嘩をそこいら中でしていたらしい。それもくだらない理由の。

二柱の神様達もまた、くだらない理由での喧嘩をしたのである。

曰く、最上の苦痛とは何か。

ある神はこう言った。それはすなわち、重い岩を背負って国中を歩き続けることである。

ある神はこう言った。それはすなわち、腹痛を我慢することだと。

はあ? そんなん我慢するの全然つらくないし。出すの我慢するのが最上の苦痛とか馬鹿す。

よっしゃそんならお前試してみろし。限界までな。

結果は……言わずもがなである。

汚い絵面になったことは想像に容易いだろう。

ていうかそれが極東の土台を作った神様の話しだよ。国譲りするまでトップの位だった神様の黒歴史だよ。

つまり何が言いたいかっていうと……極東人は胃腸が弱いってことだよ!

 

極東支部を出発して早いもので、あれよと言う間にフライアに到着していた。

写真で見た時は、超巨大陸上戦艦じゃんすっげー、とか思ったりもしたが、そんなものはフェンリル御用達の輸送機の中で消し飛んだ。

榊さん……腹が、痛いです……。

機内食の干からびたチーズがクリティカルヒットしたらしい。何かやたら高いメーカー品らしいが、チーズの良し悪しなんかバンピーが解るわけがない。

鋼の胃袋を持っていると思っていたが、こうまで弱るとは。

いや、原因は解っている。

アリサだ。

 

初めは普通に話してるんだ。

でも、だんだん涙目になっていって、最後は「ごめんなさいッ!」って急に顔を抑えて走って行っちゃうんだよ。

俺、何かしましたかねアリサさん。

コウタやソーマの何か言いたそうな顔が超つらいの。特にソーマ。「俺の苦しみの十分の一でも味わえ」とか分け解んないし。

久しぶりに会ったサクヤさんも俺を見て溜息吐くし。

そんなこんなで、出発直前になってもアリサには何も言えずに旅立つことになってしまった。

まあ、一応秘密任務ですからいいんですけどね。

ああ……お腹がキリキリしてきた。

胃痛が腸の不調に繋がってる。

持ってくれ、俺の全角アスタリスク。

 

と、俺が過去最大の戦いを繰り広げていると、やってきました独立起動拠点フライア。

なんだろう、ものすごく消耗した気分だ。輸送機の窓から外を見ても何も感じない。思ってたよりもキャタピラがデカイな、くらいだ。

あれよと言う間に、オサレ紋章の付いたダークスーツの男達に周囲を囲まれ、実験室まで直行である。

お願い。お願いだから、トイレに行かせて。お願い。

そろそろ限界だから!

いいのか! ここでやるぞ!

なんかやたら冷たい台の上に寝かせられたけど、冷たさが俺の腹に継続ダメージ入れてくるけど、いいのか!

ていうかもう声もでないくらいのレッドゾーンなんですけど!

 

何か色々スピーカーから言われたりしたけど、全く耳に入ってこない。

誰なの? 女の人? 確か何とかいう博士だっけ。どうせ何か起きた時の黒幕でしょ。わかるわかる。

ていうか準備長いよ。お願い早く終わって……。早く、早く、早く、腹が痛いんだよぉおおおおっおっおっ!

はああ!? 名前!? 言えばいいの!?

カガ……おっと、ナムサン。これは罠だ。例え腹痛に苛まれようと、俺は死亡フラグを華麗にパリィするぜ。

 

――――――ドーモ。ジュリウス=サン、『神薙・R・ユウ』、デス。

 

それにしてもミドルネームが恥かしすぎるよ榊さん。

恥かしさで引っ込んだよ榊さん。

ていうか何なの、上司ぽいけど、顔も見えない状況でいきなり自己紹介されたし。俺寝転がってるし。お腹痛いし。

散々だよフライア!

あああまた痛みの波が来たぁああああうわああああ天井からドリルみたいなの出て来た怖ぇええええ!

これガチャーンってくる? くるよね? わかってる。くるんでしょ!

ほら来たー! ガチャーン来たー! はい痛い痛い。でも俺の腹の方がヤバイぞ! ははは、痛い、そして痛いぞ!

お腹痛いのが極限までくるとエビゾリしちゃいますよねぇぇえええ! ビクンビクン!

ああ、目の前が真っ白になっていく。何だこれは――――――。

 

ももももう限界!

限界ですからあ!

もう、でちゃ……アオオーーーーッ!

なんなんだよこの上半身締め付ける服もぉおお!

試験室に入れられる前に渡された、フライアの……ブラッド隊の制服。

おティクビ様の形が浮かび上がる程のピチピチインナーに、ほんとなんでこんなデザインにしたのかという胸の部分だけ隠された上着。

ヘソの形まで浮かんどる。

いや、これが制服だっていうんなら諦めよう。なんかもう、色々と諦めちゃいけないものがあるだろうけど諦めよう。

逆に考えるんだ。

ピチピチでもいいさ、と。

男でこれなら、女はどうだ!

ヘソがこんなに形が解るなら、後は……わかるな!

おっぱい!

おっぱい!

ああ、おっぱい!

ちょっと希望が持ててきた! 先行きは明るいぞ!

ありがとうフライア! 来てよかったブラッド! よろしくまだ顔も解らないジュリウス隊長!

でもまずはトイレに! トイレにいかせてください!

もう限界!

限界ですからあ!

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

瞬間、目の前が真っ白に光り輝いたのは、白昼夢を見ていたからだろうか。

気付けば何も無い、白い、広大な空間に立っていた。

ふと、指先に小さな感覚が。子供の手だ。

人差し指と中指を、子供が、女の子がきゅっと握り込んでいた。

見覚えの無い女の子だった。

どう言い表したらいいのだろう。

寸瞬前まではショートカットだった。今ではロング、そしてボブに変わった。

肌の色も、透き通るように白い時もあれば、健康的な褐色をしている時もある。

眼も、背丈も、着ている服さえも、瞬きの合間に変わっていく。年齢も、あるいは性別さえ。

変わらないのが、この手に感じる――――――“懐かしさ”、だけ。

そうか。

お前は……。

 

言葉を制するかのように、少女は手を一度だけぎゅっと強く握り、そしてこちらを見上げて首を振る。

眼差しには、強い想いが込められていた。

解っている。

お前の“名”を呼ぶには、まだ何かが足りないんだな。

致命的な“何か”が。

そしてそれは、きっと俺だ。俺に足りないんだ。

このままではいけない。

まだ、“再開”には至らない。

そういうこと、だな?

少女は頷く。

こんなにも触れ合える程に近いというのに、なんと遠いのだろう。

全ては己の迷いが招いた結果であるというのならば、受け入れねばならないことだ。

だがそれで、少女にこんなにも……こんなにも辛そうな顔をさせてしまった。

ごめんな。

本当にごめん。

俺を本当の意味で理解してくれるのは、お前……“荒ぶる神”だけだというのに。

神を喰うお前を荒ぶる神であると言うのは、矛盾があるかもしれない。だが、間違ってはいない。

人と共に在ることを決めた荒ぶる神々が、お前達なのだから。

だから、お前をもっと、大事にしてやればよかった。

健やかな時も、病める時も、お前はいつも俺と共に在ってくれたというのに。

 

少女は答えの代わりに指差した。

指の先を見やる。そこは宇宙だった。広大な宇宙の海が広がっていた。

感じる。ここが宇宙の頂きであると。

星の煌きに、星屑の川。宇宙の頂点、それは世界の狭間でもあった。

かつて感じた、不可思議な感覚。己が己では無いような。あらゆる可能性を内包した存在となったかのような。

万能感と共に、結局己は己でしかないという虚無感。矛盾を抱えた存在に。

この瞬間、己は自己の壁を超え、単一であって群となっていた。

 

数え切れない沢山の俺。

その対岸には、孤独の主が。

金髪の、見覚えの無い精悍な顔付きをした男が立っていた。

お互い、唖然とした顔で見詰め合っていた。

一体なぜここに。

どうして。

お互いの存在がお互いにもたらす意味は。

寸瞬の思考。

雲耀よりも速く、身体が動いた。

手の内に、ずしりとした、“神機”の重さがあったからだ。

神機を持って相対するならば、道は一つのみ。

金髪の男の喉下へと神機を突き付け――――――。

 

ああ、なぜお前は、そんなに儚く笑っているんだ。

ああ、何故俺は、こんなにも口惜しい想いで、神機を振るわなければならないんだ。

何故俺は。

泣いているんだ。

紛い物の心で、自分自身のためにしか泣けない癖に。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

西暦2074――――――神薙・R・ユウ、極致化技術開発局へと正式に配属される。

この後、数ヶ月の時を経て、血闘者(グラディエーター)の二つ名にて称されることとなる。

ゴッドイーターの極致へと歩むものとして。

怒りの日は、来たる。

 

 

 

 

 

 

 

 





新年明けましておめでとうございます!
新たな年も開け、開運として今回は早めに投稿させて頂きたく思います。
開運! 運よ開け!

しかし、何だかんだストーリー面で言われておりますが、設定厨である私の眼からみたGE2は非常に完成度が高くまとまったものであると感じます。
これ、勘違い入れる要素とかどうしたらいいんだよ……。
まだ繋ぎの回や幕間は、物語を進めたりワンクッション入れるためだから勘違い要素薄くてもいいとして。
今後かなり厳しくなっていくかもだぜ・・・! ただでさえGE2は話が暗いしね!
GE1とバーストに比べて圧倒的な暗さ。お気楽な主人公でも覆せるかどうか試してみなきゃわからんぜぇ!

しかし本当にそろそろ私の脳からギャグネタが枯渇し始めてきました。
ネタを、ネタをください。
面白い勘違い、ギャグ、キャラ同士のからみ。
何でもいいのでネタをください。
特に勘違い要素のところを!
こ、このままでは普通にオリ主再構成モノになってしまうう。


○新年初懺悔

ロミオ(R)
リヴィ(L)
ファーーーーーーーーーー!!!!

はずかしすぎるんご!ウオォ
で、でも後書でのやらかしだからいいよね・・・!ねっ!
それもこれもレイジバースト(R:B)のOPの出来が良すぎるのが悪いんやぁ・・・・・・!
もうアニメ版GEも期待するしかないじゃないですかーやだー!
マヨマヨファンタジー!



※活動報告も更新ー。


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ごっどいーたー:16噛 GE2

感想ありがとうございます!
一つ一つにご返送できず申し訳ありません。感激しつつ全てに目を通しております。
皆様のお声がとても励みになります。今後ともお声をいただけたらありがたいです。



神さま。

ああ、神さま。

私は罪過を犯しましたでしょうか。

償いの機会は与えられないのでしょうか。

手には至福。

頬には楽園。

鼻腔には極楽が。

おお、何と言うことでしょうか。

凄まじい既視感が今ここに。

あれは、そう、俺が初めてゴッドイーターになった時。

事務手続きをしようとして受付カウンターへと向かった時の話だ。

思えば、俺の地獄はあそこから始まったとも言える。

 

セクハラ事案回避のために、焦って打ち込んだ口座コードがまさかの間違い。その後に続く俺の赤貧生活。

ほとんどが慈善団体に送金されてたそうだけど、俺は知ってる。

うん、後日口座のことを知って、良い話でまとまりそうだったけど、俺は知ってるんだ。いくらかの金額がどこかに消えていったことを。

確実に口止め料さっぴかれてるじゃないですか、やだー。

ヒバリさんだからこれくらいで済んだととるべきか・・・・・・スタミナドリンクとかを売りつけてくるどこぞのゼニゲバ事務員みたいなことはなかったわけで。

うん、でも俺にはわかるぞ。

今回はそれじゃすまないってことくらいは。

これはあかん。あかんやつやこれ・・・・・・!

ざんねん! わたしのぼうけんはこれでおわってしまった!

 

適合試験が終わり、偏食因子が定着するまでミッションは受けられないとのことで、フライアを観て回ろうかとロビーの階段を昇る俺の眼に飛び込んできたものは。

白い――――――女の尻。

小ぶりの、しかし肉つきのいい、白いタイトスカートに包まれた尻が、空を“飛んで来た”。

宙を舞う書類に、飛ぶ尻に遅れて聞こえた悲鳴から考えるに、階段を踏み外しでもしたか。

これはもう避けられないし、まだ階段の半ばだ。受け止めなければ彼女が大怪我をするかもしれない。

直撃ルート。覚悟するしかない。

 

我ながら腑抜けすぎていたとも思う。“巣”にいるときは警戒心が失せるのが俺の悪い癖だ。突発的な事故や、あるいはテロ行為に気付くのがどうしても遅れてしまう。俺の力は“バネ”らしい、力みと緩みの繰り返しだと言われたが、こうも繰り返すと嫌になる。

大車事件の中も、それで女の子を一人死なせてしまっている。

ガーランド・シックザール事件では、アーサソールに背後を制され遅れをとった。

有事の際は対処出来る自信はあるが、何かが“起きる”まではてんで役立たずだ。全てが後手に回ってしまう。

仲間内にも被害を出してしまっている。

ヒバリさんもそうだったが、アリサにもやらかしたことがある。

料理を失敗したショックか何かで、階段落ちしたアリサを受け止めたことがある。ここまではいい。問題はこの後。“南半球”がまろび出てしまったらしく、俺の上で密着状態から退くに退けず、もしょもしょと動くアリサに天国と地獄の時間を味わった。

うん、「また」なんだ。済まない。

仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。

でも、この状態を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれると思う。

殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい。ここにバーボンはないけれど。

ソーマならスマートに受け止めたんだろうが、そこは俺だ。

師匠から教わったムーブメントが、今ここに。眼の前に。

 

具体的に言うならば。

階段を踏み外した女性――――――尻の肉付きからして十代だろう、少女と呼ぶのが正しいか――――――の股座から、ひょっこり顔を出している俺。

女性が俺の顔面の上に、尻を乗せている絵面。

ガードマンの人達がぎょっとした顔でこちらを見ている。怖い。

タイトスカートがぱかりと開かれていて、丈が短いスカートでそんなに足を開いているのだ、俺の目の前で。あとは……わかるな?

 

下顎にしっとりとした柔らかな感触。

ひくりと動く秘密の場所。

脳髄の奥まで染み渡る甘い香り。

凄まじいToLoveるである。脳内文字も誤字変換起こすくらいの焦りよう。

よし、死のう。

 

「ん、ごほん! ……適合試験お疲れ様です」

 

さっとその少女は腰を上げると、咳払い一つ零して側に立つ。

散らばった書類に眼もくれず、耳が赤く染まっている。少女の動揺も一塩なのだろう。

オペレーションカウンターに回り、背筋を正して腰を折る少女。

 

「フライア所属、ミッションオペレーターのフラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュです。よろしくお願いします」

 

わあ、特徴的な名前。

オペレーターの少女、フランの自己紹介を聞きながら集めた書類をカウンターに置く。

「ありがとうございます」と折り目正しく礼を述べながら書類を返すフラン。「記入をお願いします」、とペンが差し出される。

電子統一時代になっても、こういう書類でのやり取りは旧時代のままだ。むしろ、旧時代よりも物資の貴重性が上がったため、物質的なやり取りに信頼を置いているのかもしれない。

諸事項を書き込んで、名前、神薙・R・ユウの名をサイン。

新しい身の上となったこの身である。口座番号やその他登録情報はいまいち覚え難くても仕方がない。

だが、もう口座を間違えることなんてしない。

何かもう、いっぱいいっぱいで頭の中ぐるぐるしてるけど、きっとしてない。してないはず。

「お預かりします」と回収される書類。

それきり微動だにせぬフラン。

ノースリーブの制服からみえる白い肩が眩しい。

細い二の腕の先を包む、白い手袋。素晴らしいムーブメントポイントだと思います。

俺には死神の腕にしか見えていないけどね!

 

「何か?」

 

いや、その、こちらが何かっていうか。

死刑宣告はいつなのでしょうか・・・・・・。

 

「何かありましたか? ありませんよね?」

 

イエスマム。

何もありませんでした!

ありがとうございます、ありがとうございます!

 

「そうですよね。では次にこちらの書類を・・・・・・」

 

うわぁぁぁ女神やぁぁぁ。

ノースリーブタイトミニスカの女神がフライアにおったでぇぇ。

このご恩は忘れませぬ、忘れませぬぞぉぉ。

何かこの後も色々話したけど、テンパリすぎたのと安堵のサンドイッチで全部飛んじゃったよ。

お金とか経済の話? だっけ?

えっと、食べるだけあれば駄目なの? やっぱり男は経済力がなけりゃって、そういう話?

なんだろう、泣けてきた。

ゴッドイーターになった最初の方、俺の稼いだお金、全部もう神機様が片っ端から吸い取っていっちゃったからなあ。

“この”相棒はそんな無茶しないだろうか。

まさかまた神機さまだったりとか・・・・・・いやまさかね。

言わなきゃよかった。フラグに思えてきた・・・・・・。

 

しかし女の子との会話は苦手だ。

どこが地雷なのかさっぱりだもの。

困った時のバガラリー語録と、最近インテリになったソーマきゅんのウンチクメモは手放せないな。

いやー会話が弾む弾む。

ソーマ、見てるか? お前のインテリモテテクニックはフライアでも有効だ。

ちきしょん。

 

悪の巣窟かと思いきや、凄い近代化してるっていうか、お金かかってますねここ。

いやーフライアいいとこ一度はおいで。

極東の皆。俺、ここでもやっていけそうです。

加賀美リョウタロウ改め、神薙・R・ユウ。

がんばります!

ほどほどに!

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

あらゆる対象を捕食しながら進化を遂げ増殖するアラガミに、人類は為す術もなく、世界の総人口は100分の1にまで減少。

60億の人類が、今や6千万以下。日に何百、何千という人間が喰われて死んでいく。

以降、人類は衰退の一途を辿り、死滅への道を進み続けている。

そんな世情で、家名を背負う意味とは何だろうか。

極東のような慣習によるものではない。継がれ続けてきた姓、所謂特権階級であるその証明のことだ。

この場合の特権階級とは、文化や歴史的なものを指す言葉ではない。

フェンリルによる統一社会となった今では、特権階級とは即ち財力。

企業統治に相応しく、文化的歴史的財産は全てが等しく無価値とされ、金の力によってのみ立場が保証されているのだ。

この世界の中で家名を背負うこととは、フェンリルの庇護を受ける資格を有しているということ。

つまり、それだけの財産を有しており、社会を支える一柱となっている証明でもある。

金を溜め込み、フェンリルのために使わせる。

あらゆる全ての力ある“家”が、保身に奔るこの現状。

歪んでいる、というのがフランの率直な意見であった。

 

フランもまた、良家と呼ばれるに相応しい家の出身である。

飢えたことなど一度もなく、物がなく苦しんだことも一度もなく、暴力に晒されたことも一度もない。

この世界に産まれて苦しんだ経験は一度たりともなかった。

そして世界では今もなお、苦しみに喘いでいる人達が多くいることをフランは知っている。そう、知っているのだ。

何不自由ない家に産まれ、フランが唯一感謝したことは、修学に必要な環境がおおよそ整っていたことだった。

フランは学んだ。現在進行形で続くこの世の悲劇を、余す所なく。

そして学問の何たるかを正しく学び、血肉に変えた。フランには才があった。学問が人に教えるべく真たるものまでを学びとる才が。即ち、道徳、あるいは人道と呼ばれるものをである。

故に、フランは恥じたのだ。富める者であるというのに、苦しむ人々に何一つ助けを与えられない己を。そして、己の産まれた家を。

家の者は皆困惑したことだろう。幼い少女が唐突に、フェンリルに行く、と言い出したのだから。

フランの出した結論は唯一つである。己の学んだ知識を、世の支えとする。これだけだ。

少女らしい穢れの無い、純白の願いであった。

 

貴族の精神を取り戻せ、と私財を投げ打って社会奉仕をし結果跡取りを全て取り上げられたという、かの有名なフォーゲルヴァイデの例がある。

娘をフェンリルに、ましてやゴッドイーターなどにさせるわけにはいかないという家の者達の心情も理解できる。

だがフランは己を曲げることはなかった。拝金主義である家に対する反発もあったかもしれない。

反抗期の一言で済ますつもりもなく、そしてフランは行動した。

伝手やコネはいくらでもあった。フェンリルへコンタクトを取り、ゴッドイーターへの志望は偏食因子に適合せず取り下げられることとなったが、オペレート能力に適性ありとされ教育を受けることとなった。

数年で全ての過程を修了し、単独で一拠点のカウンター業務をこなせるまでの事務能力をフランは身に付けたのである。

そしてフランに任ぜられた配属先、それがフライアだった。

フライアが求める人材とは、極致化の名が示す通りに才溢れた者達であった。

移動拠点という特性上、身軽でなくてはならず、少数精鋭の体となるのは自然なことである。

単独でのフライア及び、ゴッドイーター達の任務取り扱い。それがフランに求められた仕事だった。

フランにとっては渡りに船。オペレート教育を修了してすぐ、フライアへの配属を受理し、ここ・・・・・このカウンターへと立つことになったのであった。

当時、フラン十四歳の事である。

 

そして二年。フランはフライアにて、十六歳となっていた。

フライアで過ごす内、多くの人間と関わってきた。

職員、科学者……そしてゴッドイーター達。

フライアはこれまでゴッドイーターのほとんどを外部戦力に頼って活動してきた。フェンリル本部直轄である。戦力の補充は充満なものであった。

そんなフライアが独自戦力を持つとなれば、注目されることは当然のことだ。

それも、第三世代型神機……数年前までの新型を“第二世代”とする、新たなゴッドイーターがフライアで誕生するとなれば。

統括オペレーターであってもフランには知る由もなかったが、ジュリウスがその魁であったらしい。

ラケル博士の特別製だとされた黒金の腕輪が、今後は第三世代の証となるのだという。

自分が勤めることとなったフライアのゴッドイーター部隊ブラッド隊長、ジュリウスもまた、世界の歪みの犠牲者であった。

 

フランにとって、ジュリウスは掴み所のない人物だった。

移動拠点に必要な戦力は防衛戦力である。こちらから打って出ることは少ない。ジュリウスが任務を受注しにカウンターへと顔を出すのは数える程であり、書類仕事もすべて艦内メールで済んでしまう。

二年間行動を共にしたが、関わりはあまりにも少なかった。

奪われた者と捨てた者として決して交わらない一線があるが、自分達にはある一点で共通点がある。

人に尽くし、人から必要とされたい。

ジュリウスの言動からは、抑え様の無い願望が感じられた。

だが不思議なのが、ジュリウスはどこか他者と隔絶した壁のようなものを自ら作っていることだ。

そこにフランは危うさを感じる。ともすれば、“使われる”側になりかねない。

ジュリウスが一般のゴッドイーターから掛け離れた力を持っていることは理解できる。つまりそれは、翻れば最悪の駒となる可能性がある、ということだ。

それなりの情報があつまる業務をしているからだろうか。どうにも、フライアにキナ臭さを感じて止まない。

神機兵のテストがそれだ。運び込まれる機材リストには、人道的見地から破棄されることになったはずの技術が、グレーゾーンにまでオミットされてはいるが、いくつも記載されている。

少し手を加えれば本来の性能を発揮するだろう。使う者の良心に任せるしかない、という技術だ。

そう、良心である。

 

フランはこの艦にある人材へ、真なる良心というものを見出せずにいた。

その代表が、ジュリウスである。

ジュリウスには、何もかもあらゆる全てを受け入れる器がある。

その精神性も、恐らくは“受動的”なものであるのだろう。

人間としては非常に好ましい。

だが、陰謀渦巻くフェンリル直轄領のゴッドイーター部隊長としては、どうだろうか。

疑い、恐れ、淘汰する厳しさが必要ではないだろうか。

優しさと恐怖、この二つを矛盾なく両立させることが、真なる良心を持った者ではないだろうか。

ジュリウスは優しすぎる、とフランは思う。

人を計れるほどに、傲慢になったつもりはないが。

だが、このこびりついた危機感は、一体何なのだろうか。

何かが起きるぞ、という。

考え性である自分の考えすぎならばよいのだが。

 

――――――どうぞ。

 

極東人らしい曖昧な笑みを浮かべ、青年が資料を手渡してくる。

不要な争いを避けるための敵意がないというポーズらしいが、見るものによっては不快を与えるというアルカイックスマイルだ。

なるほどこれは、あまり良い印象は抱けない。どうにも腑抜けているような感じがする。ゴッドイーターとして頼りないように感じるのは、カウンターに立つ者としての視点であるからだろうか。

本日付で配属となった、全てのゴッドイーターを過去にする、新たなるゴッドイーター。

第三世代の体現者。

神薙・R・ユウ。それが彼の名である。

経歴におかしな点は無し。極東でゴッドイーターとなったというのに、すぐさまこちらに召喚されたことが不運である。ということくらいしか語る事はない。

考え事をしていたために彼の前で失態を演じてしまったが、それで嫌に馴れ馴れしくしてこないことには好感を持てる。

外部からくる、特にお偉い様方は、どうにもセクハラをしなければならないルールでもあるのか、あしらいが面倒なのだ。

最前線である極東出身と聞いて、有事の際の対処(カウンター)機能を期待していたが、さて。

どうやら平凡な出で立ちに似合う、平凡な“中身”をしているようだ。

それはそれで良いことである。どうにもゴッドイーター達は個性が強烈すぎて、付き合い難い者もいるのだから。

差し出された記入済みの書類を確認する。

 

「あの、口座番号のご確認はしましたか?」

 

――――――ええ。間違っていないでしょう?

 

その瞬間である。フランは不意を打たれたかのように驚愕するしかなかった。

へらりと笑うユウ。しかしこちらを責める険が含まれているように感じる。

危険な光りが眼の奥に灯されていた。

まるで、問うな、と言っているかのような。

記入されていた口座番号は、フライアに連なる、児童養護施設への寄付口座のもの。

即ち、ユウは命を削って得た金銭を、今後ほぼ全額養護施設へと寄付すると言ってのけたのだ。

正気の沙汰ではない。

新兵にままある英雄願望の現われであろうか。否、ユウにそのような気負った様子は見て取れない。

全くの自然体である。何を言っているのか、と問わんばかりに。

これは間違いではない。間違えているのは、フランの方だとばかりに。

フランの喉が鳴った。

平凡な人物だなどと、自分はとんでもない思い違いをしているかもしれない。

 

「質問してもよろしいでしょうか」

 

――――――どうぞ。

 

「フェンリルが世界を統治することとなり、全ての価値基準が資本となりました。貴方はそれをどう思っているのですか?」

 

言外に、ゴッドイーターであってもその社会構造からは逃れられないというのに、と含ませて。

得られる金銭を手放すような真似を何故するのか理解出来ない。

ユウは肩を竦める。

 

――――――無いと不便だな、とは思うけど、それだけだよ。

 

「それだけですか? 今の世界は貧しければ、文字通り生きていけないのですよ?」

 

――――――実体験だけど、案外それでも人は生きていけるよ。

 

「現実的ではありません。先立つものが無ければ、生きていくことはできない。失礼ですが、あまりにも楽観的すぎでは? それとも、私を世間知らずだと侮辱されるおつもりですか?」

 

――――――あー、ちょっとまって。ポケットにゴミが。

 

「ごまかさないでください。納得のいく返答を」

 

――――――はいとれた。うん、受け売りでいいなら答えられるけど。

 

「・・・・・・どうぞ」

 

――――――資本……金、か。金ってなんだと思う?

 

「お金は、ですから現在の価値基準であり」

 

――――――そういうことを言ってるんじゃあない。もっと根本的なことだよ。君はどう思う?

 

「私は・・・・・・お金とは、権威であり影響力であり、つまり力であると、そう思います」

 

――――――確かに、その通りだ。だからたくさん持っている奴が強い。そういう理屈だね。でも、俺が言っているのはもっともっと、根本的なことだよ。

 

「根本的な、こと」

 

――――――金で何をする? 突き詰めれば、物々交換に過ぎないんだ。最も基本的な経済行動から離れてはいない。

これは“その物”と同じ価値があるのですよ、と定まった額の銭を渡す。これが資本制の大前提だ。

この“同じ価値があるのですよ”という保証が通貨にはなければならない。どんな形であれ金銭を扱うということは、潜在的に信用取引をするということだからね。

“何かからの保証”によってこの数字に“価値が発生する”と、誰もが信じなければ成り立たないんだ。

つまり、“カネ”とは“信用”の数値なんだ。

 

「お金、とは、信用……」

 

――――――カネ・・・・・・『フェンリルクレジット』、統一貨幣だ。 

国家体制が崩壊し、貨幣に価値がなくなった。すぐさまフェンリルが世界統治をし、そして新貨幣を流通させた。

 

「フェンリルが信用せよ、と命じている。そして皆がそれを信用するようになった。経済的自然淘汰による資本主義ではない、ということですか?」

 

――――――人類史上、全世界の文明が一斉に崩壊して、全部が“おじゃん”になるモデルケースなんて存在していない。当然だけれどね。

あのままでは人類は自滅していたのだから、すぐさま一つにまとめなくてはいけなかった。そこで、フェンリルが取った手はこれさ。

 

「フェンリルクレジットという“信用”を発行することで、人類の精神性、“価値観、すなわち道徳”を“保証”した、と」

 

――――――経済活動でみちゃあだめだよ。わかりやすく提示された金の価値観だけで考えるから、おかしなことがそこいら中で起きるんだ。たくさん持ってるとか、少しも持ってないとか、そういうの。

多く持っているから優れている、幸せなんだという価値観。そういう上辺の幸せに浸らせることが狙いなんだろうね。

だって、フェンリルが造って、フェンリルが流し、フェンリルが価値を保証してるんだから。経済なんて概念は発生するわけがない。

全てコントロールされている。皆がそれをありがたがるからだよ。

これは経済を隠れ蓑にした、統治手段そのものだ。

 

瞬間、フランが感じたこの衝撃に、なんと名付けたらよいだろうか。

稲妻が脳天から背筋を駆け抜けたかのような感覚だった。

これまでの貨幣概念を覆す説・・・・・・否、フェンリルは初めから貨幣概念など流布しようとしていなかったのだろう。ユウによる独特な切り口は、フランに社会の新たな側面を示唆するものだ。

 

考えてみれば当然のことである。

国家体制が崩壊し通貨の価値もまた崩壊した。

人類の総数はもはや一億にも満たないのだ。海路、空路はアラガミに事実上封鎖され、インフラは死んだも同然となった。

ゴッドイーターの護衛による資材の運搬程度が限界だ。流通など不可能。経済圏など構築されるわけがない。

そこで事実上世界の統治機関となったフェンリルが、自らが保証する通貨を流通させたのだ。

自らが保証する貨幣、fc(フェンリルクレジット)による売買を行うようにと統一したのである。

旧時代の資本主義的価値観がそのままfcにシフトしたなどと、どうして考えられよう。

フェンリルが新しく示した社会構造は、共産主義ではなかった。

だから皆、企業が作った社会なのだから、資本主義に違いないと思い込んでいたのだ。

人類の業である。自分だけは大丈夫、助かる、死ぬことはない。だからこのままでいいのだ、という平和的な思考。

よもや自分達が“管理”されているなどと考えてもいないのだろう。

企業であるという肩書きに眼が眩んでいた。

もはやフェンリルは、統治機構なのだ。その目的はもはや利益のために動いているのではない。

 

――――――そう、信用によって成り立つ国家なんだよ、企業国家フェンリルはね。皆の信用・・・・・・信仰によってのみ成立する国家。これはフェンリルによる経済活動じゃあない。これは、宗教活動だ。

カネという神を創り、人類に信奉させることで一つにまとめる。そういう統治法なんだ、これは。文明が崩壊してなおそれまでの価値観にしがみ付いて離れられない人類へ逃げ場を与えてやること。

与えることが目的だったんだ。これまでの価値観を存続させることが人類の総意。そして、そういった“芯”の無くなった人類をコントロールするのがフェンリルの狙い。話は簡単だろう?

資本主義優位だった旧文明だ。それに即したものを与えてやれば・・・・・・。

 

通貨が信用から成り立つのであれば、それを得ることはだれかから保証される、ということだ。保証されることは安心につながる。

こんな世界で安全などあるわけがないのに、人は金を欲する。

その総数を100分の1に減らしたとしても。

だからフェンリルはそれをくれてやったのだ。

 

「与え続けていれば、コントロールは容易い・・・・・・」

 

――――――狡猾で、かつ効率的だ。上手い手さ。

 

誰もがフェンリルは企業であると信じている。

誰もが世界はフェンリルによって統治された、企業国家・・・・・・企業世界であると信じている。

だから、カネを持っているものが生きる世の中なのだと。

フライアの局長など、その典型例だ。

経済活動によって台頭したフェンリルは、そのまま、旧時代の価値観を用いて新世界を統治したのだ。という“許し”を人類に与えたのだ。

皆その案に乗ったのだ。心を明け渡すことで、安心をフェンリルから買った。

すなわち、フェンリルとは企業国家ではない。

宗教統一国家、フェンリル。

それがフェンリルの真の顔である。ユウはそう言っているのだ。

 

――――――何らかの理由で働けない非消費者層に、そしてアラガミに襲われて死んでいく層・・・・・・この二つが大きすぎる。これで経済型の流通社会を築こうなんて無理な話さ。

技術進歩と同時に人類の減少も歯止めが掛かった、なんてのは幻想だよ。全体の母数が減れば、そりゃ喰える量も減るさ。単に人類が減りすぎて、既に希少種になっているってだけだよ。

 

「貴方はどこで、このような発想に至ったのですか? とても普通では考えられない、異端とされる発想ですよ、これは」

 

――――――極東のスラム出身だったからね。最前線のスラム街だ。凄いよ。祈るくらいしか、することがない。

 

「それは・・・・・・その、申し訳、ありません。私が問うてはいけない事でした」

 

――――――君を責めてるんじゃないよ、お嬢さん。

どことなく君の言動からは気品を感じる。俺としちゃ良い所の出のお嬢様が、こんな血生臭い場所にいる方が驚きだよ。

極東でもあったけどね。女は強いというか、なんというか。君は真面目だな。

 

「それしか取り柄がありませんでしたから」

 

――――――言うね。ごめん、悪かったよ。謝るから怒らないで。頼むよ。

 

「怒っていません」

 

ようやく笑みが零れた。そして、ユウにも。

これが本当の彼の笑みであったように見えた。

春風のような、爽やかな笑みだった。

 

――――――ま、そんなつらつらと、やたらと長い理由さ。金は食べる分だけでいいよ。必要であれば、溜めなきゃいけないけど。必要以上あることを魅力だと言う人は、俺は好きじゃない。

 

「私もそう思えたら・・・・・・いいえ、きっとそう感じていたのだと思います。貴方の意見は正しい」

 

――――――言ったろ、受け売りさ。

 

「そういうことにしておきましょう」

 

――――――富める者、貧しい者の構図は、大局を見ればフェンリルを信じた者か信じなかった者かの違いでしかない。いいんじゃないかな、そういう形の自由があっても。

 

「ええ・・・・・・でもそれは、きっと残酷な自由です。血を吐くような、そんな自由です。望む者もいれば、望まぬ者もいるでしょう。貴方の意見は正しい。ですが、私が提起したことも、また事実の一面であることをお忘れなきよう」

 

――――――うん。持たない者が弱き者であると、そう思ってほしくなかっただけさ。

闘うことは必要不可欠で、誰かが矢面にたってやらなきゃ立ち行かないくらい人類は追い詰められてるけれど、現場で戦うことだけが誰かを守ることじゃない。

 

「私は選択を間違えた、と? かもしれません。もしかしたら、フェンリルに来なければ出来たかもしれないことは沢山ありますから」

 

――――――間違えたんじゃない。かもしれない、だ。まだ結果は出ていない。これを、間違いじゃなかった、にするのは君のこれからに掛かってる。

今、君には君の闘う場所がある、だろ?

あーあ、俺も選択を間違えたのかも。本当はゴッドイーターなんてやりたくないのにさ。

 

「でも貴方はここにいる。ここで、剣を取るという選択をした。でしょう?」

 

――――――それこそ、宗教選択の自由っていう奴だよ。宗教上の問題なんです。困ったことに。

 

冗談めかして言うユウに柔らかく微笑ながら、フランの背筋に冷たい戦慄が奮う。

この男は、“切れる”。あまりにも鋭く。危険な程に。

神々に喰い荒らされたこの世界において、新たな神を説いて見せたのだから。そしてそれは人の総意で産み出されたのだと。

欲望に濡れた、あまりにも穢れた“神”・・・・・・それは人類が最後に辿りついた逃げ場だった。

人の本質とは、欲望でしかないのだろうか。己の保身でしかないのだろうか。

違う。とユウは言っているようだった。

それもまた、可能性の一つでしかないのだ、と。

宗教上の問題でしかないからだ。

信じる者をなんとするか。それだけの話しである。

スラム街に横たわり、ゆるやかに死を待つだけの者達。

人を恨み妬むだけしか生きる活力を見出せぬ彼らは、しかしフェンリルの作り出した新世界の神からは解放された人々である。

真なる自由。しかし相応の対価を払わねばならない。

どちらが幸せなのだろうか。

フランは結論を出すことができなかった。

 

ラウンジを見渡すユウの目に映るものは、いったい何であろうか。

最前線で戦う者であって、この洞察眼。ゴッドイーターとしては未だ解らないが、秘めたる器は、ジュリウスに並ぶものを感じさせる。

そしてユウの言葉は、フランに自身の選択に疑問を抱かせるものだった。

 

幼少のみぎり抱いたあの想いは正しい。だが果たして、そのためにとった手段は正しいものであっただろうか。

家の者達が言った。考え直せと。お前は別の手段で誰かを守れば良い、と。

かつての自分は、それを拝金主義の言葉であると断じた。軽慮であった。

オペレーターとして一日中カウンターの中で事務仕事をしている今を考えれば、誰かを守る、といった点では、家に留まった方がよほど何をかを為せただろう。

だが、選択に後悔をしても意味が無い。今、この時。これからのことを考えねば。

 

ユウの言葉はともすれば、自分自身を信じていないのだ、と言っているようにもとれる。

疑え自らを。

そう言っているかのようだ。

その通りなのかもしれない。自身の選択を疑い続けること。常に、よりよい道があったのでは、と模索し続けること。

それが彼の生き方なのだろう。

己を疑うことで、己を信じるという矛盾。

 

ジュリウスの副官となるのは、彼しかいない。フランはそう思った。

一年という戦闘経験のある先任者がいるが、如何せん年が若すぎる。自分の感情に呑まれる癖があるとなれば、副隊長としてはやっていけない。

同時期に配属されることとなった少女も然り。こちらはユウよりも先に挨拶を済ませたが、彼女もまた感情先行タイプだ。

これで部隊という体が成すのか、と不安に思いもしたが、なるほどどうして、バランスが取れているようだ。

このような鬼札を差し込んでくるとは。フェンリルの人事に感嘆すべきか、それとも流石は極東人と恐れ戦くべきか。

人畜無害の没個性のように見えて、とんでもない剣を隠していた。見た目と中身の危なさの矛盾もユウらしさであるか。

短時間であるというのに、フランはユウがどのような人物であるかを見抜いたかのような気がしていた。

 

――――――そうだ、忘れるところだった。

 

「はい、なんでしょうか」

 

――――――初めまして。こちらこそ、よろしく。

 

「あ・・・・・・はい。どうぞ、よろしくお願いします。ユウさん」

 

口を開いただけでこれだ。必ず、しかも盛大にユウは“やらかす”ことになるだろう。

その行動が、フライアの中に嵐を巻き起こすことになるはずだ。

あのジュリウスでさえ、“食われる”かもしれない。

ユウが巻き込むのか、巻き込まれるのか。それを想像するだけで、何だか楽しい心持ちになれる。

それだけでも得難い人物である。

 

きっと、今日が始まりだ。

神薙・R・ユウという青年によって、“変革”の時がもたらされる、その始まりの。

神話の始まりを、きっと今、私は見ている――――――。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

「・・・・・・ああ、適合試験お疲れ様。まあここに座るといい。ここはフライアの中でも一番落ち着く場所なんだ。暇があるとずっとここでぼーっとしてる。

 顔を合わせたのは初めてだな。不思議だ。俺はずっと、お前のことを知っていたような気がするんだ。おかしいだろう?

 ああ・・・・・・あまり恐縮しなくてもいい。敬語もいらない。ジュリウス、と。呼び捨てで構わないさ。ブラッドを編成したラケル先生にも一度会っておいたほうがいいな。

 先生、さ。公式な場では博士と呼んだほうがいい。俺達だけの時は気にするな。

 俺達は同じ血を分けたいわば家族のようなものだ。対等な立場で意見してくれ。

 なぜかな、予感がする・・・・・・いいや、確信があるんだ。きっとお前が、一番早く『血の力』に覚醒する。

 戦況を覆す大いなる力。戦いの中でどこまでも進化する、刻まれた血の為せる業――――――『ブラッドアーツ』に。

 進化の極致を、きっとお前が見せてくれるんじゃないか・・・・・・そう思ってると言ったら、お前は笑うか?

 そうか。このフライアのことをどう思う? 極東では、あまり評判が良くないのは知っている。お前の眼で見て、肌で触れて、感じた意見を聞きたい。

 はは、ははは! そうだな、その通りだ。腹が空いている奴は一人もいない。腹が減るのが一番いけない。お前の言う通りだ。

 いや、久しぶりに笑った。笑ったのはどれだけぶりだろうな・・・・・・。

 ああ、そうだな。隊長だから、か。俺は知らず、肩肘張っていたのかもしれない。

 不思議だな。お前が言うと、まるで歴戦の隊長のような言葉に聞こえる。

 お前の言う通り、酒でも飲んでみようか。きっと笑えるだろう。その時はお前も付き合え。

 神薙・R・ユウ。お前を歓迎する。良き仲間となれるよう・・・・・・何だ、まだ硬いのか。では家族・・・・・・重い、だと?

 ダチ? いや、むしろいい。そうか・・・・・・極東の流儀ではそう言うのか。ダチ、か。

 改めて、よろしく頼む。ユウ――――――」

 

 

 

 

 

 




俺は勘違い系の縛りを捨てるぞーーーッ! J○J○ーーーッ!
勘違いさせねば!という気持ちが強すぎて文章が止まりますので、もうオリヌシ再構成もの(勘違いもあるよ)のスタンスでいいよね!
いいよね・・・?
ネタが、ないんです・・・。
ギャグとか考えられる人たちは本当に天才だと思います。
勘違いにも色々種類があるようですね。
私のSSは、内面勘違い系に分類されるようです。
今回は他人(ソーマ)からの受け売りウンチクを語ったところ、すごいなんて頭がいいの!って思われる勘違いである、と。

・・・主人公の語りの中でのソーマ情報は2割ほどでした。ちらっとカンペを読んだだけで、あとは全てオリジナル。“内面”勘違い、ですから。



モンハンも好きです。でもゴッドイーターも好きです。

ゴッドイーターが主ターゲットにしてる購買層は、ライト層であるのは間違いないでしょう。
しかしGEの凄いところは、さりとてハード層にも満足できる自由度があること。バレットエディットとかがそうですね。
そして、一番GEの注目すべきところ。はい、もうわかりますね?

それは……設定。

もうおっさんを超え始めた年ですが、いくつになっても設定厨の私です。
厨心くすぐられる設定や世界観ってたまらない。
通商? 貨幣? 技術? なんか難しい言葉がいっぱい並んでるヤッターーー!
むつかしい言葉が並んでるだけでもういろんな汁がでますね。うへうへ。
今回脳汁がブッシャーしました。
設定こねこねするの楽しぃいイーーーッ!

さて、GE2に突入しました。
展開ですが、どれくらいのスピードにしたものかと迷っております。
前半のようにほぼダイジェストでも・・・うーん。
じっくりやると終わりが見えてこないですし、私の気力も持ちませぬ。
どうしたものかなあ。何かいい案はないでしょうか。展開のスピードについて。

現在展開スピードはかなり遅めです。
どれくらいのものが読み易いか。ご意見いただけるとありがたいです。
それでは!




狩りゲーの息抜きに始めたマイクラにドハマリしました。こりゃーたのしいぞう!
別画面でグランブルーと艦これ起動させながらマイクラ。これが最高。

スマホのゲームもあなどれませんね。
あぁ~グラブルの声優さん有名所ばっかり集めててずるいんじゃぁ~(正月限定キャラを引き当ててニヤニヤ)

活動報告(ぽけ黒白)投稿しました


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ごっどいーたー:17噛 GE2

三人掛けのソファの肌触りは、流石はフェンリル直轄であると感じさせられる。

綿がふんだんに詰め込まれているのだろう。座ればゆったりと沈み込み、優しく体を包み込む。

一般職員向けのラウンジでこれだ。与えられた自室は小さいながら、しかし高価な調度品で彩られていた。

正直なところ、高級志向すぎて居心地が悪い、というのがリョウタロウ・・・・・・ユウの本心である。

最前線であるはずの極東よりも、一世代も二世代も先を行く施設設備。

フェンリルの“経済活動”の成果が如実に現れているようだ。

インフラも、そもそも経済活動を行う人間の数すらが死んでいるのだ。貨幣も何もあったものではない。金貨で腹が膨れることはないのだ。

物々交換、文化行動の基本形にまで引き落とされることが当然だというのに、人類は未だ旧世界の概念に囚われている。

どちらがいい、とは言えない。フェンリルを悪とするならば自由を目指すべきだが、そうとは言い切れない。彼らが人類の守護者であることは間違いないからだ。

オペレーターのあの少女は、どうやら潔癖が過ぎるようだ。経済という“プロパガンダ”に染まらぬことが、善性であり自主性であると信じている。乙女だな、とユウは思った。

彼女もまた、正義感という、旧世界の感覚を引き摺ったまま生きている。本質的に、経済概念にがんじがらめにされた生き残った人類と、何ら変わりはない。

だがそれでいい、とユウは思っている。むしろ、それがいいのだ。

フランと名乗った少女は、それを旧世界から続く人間の愚かさであると受け取っていた。

だが、ユウとしては異なる見解である。執着を悪徳と捉えてはいない。流されて生きることも良し悪しである。

滅びかけた世界で、それでもなお振りかざす固執、執着、妄念・・・・・・それは、意地(プライド)と言い換えることはできないだろうか。

“欲”、という感情。それもまた、人が生み出した一つの発明、答えなのだ。

未だ人は、自らの誇りを手放すには早い。

 

「ねね、それなに? それなに?」

 

「ほら、足ぷらぷらさせんな」

 

こうして幼い少年少女が笑い合う姿を見るたび、常々思う。

まだまだ人も捨てたものではないな、と。

 

「わあ、日本語だ!」

 

「おう、広報のスクラップ集めてんだよ。どーよこれ」

 

金髪をニット帽に包んだ快活な少年が、ばあんとフォルダを広げる。

オレンジを基調とした服を大胆に、かつだらしなくないように着こなしている様は、どこかコウタを彷彿とさせる。

見た目通りの明朗快活な性格なのだろう。どこかすらりとしたシルエットは、欧州の血の流れを感じる。

掲げた手製のファイルフォルダには、表裏表紙に支部広報のスクラップが無秩序に貼り付けられていた。

 

「知ってる! シプレ・シルブプレ?」

 

「オゥ、メルシー! わかってんじゃん!」

 

「それとこっちは・・・・・・歌姫! 歌姫ユノさんだ!」

 

「すごいよなあ、歌超うまくってさ。俺、すぐにファンになっちゃったよ! へへ」

 

『シプレ』、とはスクラップ写真の大半を占める、“バーチャル”アイドルの名である。

“このご時勢に沿った”アイドルと言えよう。

人の数自体が少ない昨今で、人々を慰撫するアイドルといえば、二次元のものを指すのは当然のことだ。

故に“生”である『ユノ』の人気が急上昇しているのだろう。

今では公営放送をつければシプレとユノのどちらかが映っている程だ。

ユノは極東を足がかりに、世界中の支部を回って歌を届ける、今や時の人となっていた。

 

「ずっと極東から離れてたから日本語久しぶりだなー。なんだか懐かしいなあ」

 

「俺が日本語勉強し始めたのは極東の広報読むためなんだよね。さすが最前線、サブカルも最強だよな」

 

「ねね、じゃあこれは?」

 

これ、と少女が指差したスクラップ。

他のものより数が少なく、しかしシプレやユノのものとは明らかに異なる扱いの記事だった。

どこか神聖染みたもの・・・・・・祭壇のように感じる。

紙面の上に、手製の祭壇が作られていた。

 

「これは・・・・・・俺の、憧れだよ」

 

これまでのはしゃぎ様は鳴りを潜め、少年の横顔は遠く憂いを帯びた、精悍ものとなる。

その横顔を知っている。

幾多もこの眼で見続け、そして消えて行った顔・・・・・・幼い、戦士の顔だ――――――。

 

「“神狩人”」

 

「かみ、かりうど?」

 

「うん、最強のゴッドイーターの名前さ。本名は知らない。顔も、ピンボケの写真ばっかりでわからない。

 情報規制が掛かってて、本当にいるのかいないのかさえ・・・・・・でも俺、わかるんだ。

 いるよ。英雄は、いるんだ。人の運命を背負って戦い続ける男が、確かにいるんだ。わかるんだ。感じるんだよ・・・・・・。

 いるのか、いないのかはもう、いいんだ。誰かにそうやって信じさせることが出来るのが英雄で、そして俺は信じてる。

 だから俺も、いつかそうやって、あいつが戦っているって・・・・・・他のゴッドイーターに信じさせてやれるような、英雄に――――――」

 

それ以上の言葉はなく、目を閉じる。

誰も口を開くことができなかった。

吐息の音でさえ大きく感じる、静謐な時間が流れていく。

祈りの時が。

 

「なんてな! ちょっとクサすぎたか! へへっ」

 

「ううん。凄く・・・・・・素敵だと思う。ねっ?」

 

語り合う二人の少年少女の横に、静かに座る男が一人。

ユウである。

 

――――――ソウデスネ。

 

死んだ魚のような目だった。

 

「でさ、神狩人ってRって呼ばれててさ、Rが使ってる神機をRシリーズっていって、俺のバスターもRシリーズに似せててさー」

 

「ほうほう、カッコイイねえ」

 

「すげーんだぜ! また詰らぬものを斬ってしまった・・・・・・悪鬼羅刹共よ、冥府に堕ちるがいい・・・・・・とかさ、とかさ! Rの決め台詞とか言っちゃったり!」

 

――――――そんなこと言ったことない・・・・・・。

 

「うわーっ、これ、これすごいね! 神狩人の浮世流し、極東トトカルチョ。だれとくっつくでショー?」

 

「それは英雄だし、女の子にきゃーきゃー言われちゃったり」

 

――――――言われたことないし・・・・・・情報統制だしそれ・・・・・・。

 

「うわわ、これもこれも! 神狩人セレクション、今年最も熱い極東ファッション!」

 

――――――制服しか着たことないし・・・・・・。

 

「俺はこれ、神狩人の・・・・・・」

 

「神狩人が・・・・・・」

 

「神狩人――――――」

 

「神狩人――――――」

 

――――――もうやめてぇ。

 

ユウのライフはとっくにゼロである。

心が折れそうだ。

 

「元気ないね? おでんパン食べる?」

 

――――――イタダキマス。

 

「俺も食う食うー、ってぇ! なんだよそれ! 極東のおでん、とかいうのにパン? 合わないだろそれぇ!」

 

「えー、おいしいよ? お母さん直伝、ナナ特製のおでんパン! おかわりもあるよ?」

 

――――――イタダキマス。

 

「おおう・・・・・・ほんとに食ってるよ」

 

「もっと食べる?」

 

――――――イタダキマス。

 

「おい、お前ら串はどうした」

 

「おいしいよ?」

 

「えっ・・・・・・いや、おい! 串ィ! 普通に口にいれんな!」

 

――――――歯ごたえ。

 

「歯ごたえ」

 

「んんん!?」

 

――――――男は度胸。何でも試してみるもんさ。

 

「すごく・・・・・・木製です、けど・・・・・・」

 

「ほら、ぐいっとぐいっと!」

 

「やめろこら近付けんな!」

 

ごりごりと口の中をいわせながらパンを食む。

おでんとパンのハーモニー。

意外といけるものだ。

 

「まったく、まったく!」

 

「そんな怒んなくてもいいじゃんもー。ほらほら、機嫌直して。ね? 『ロミオ先輩』」

 

「む、むむ」

 

――――――ロミオ先輩。

 

「も、もっかい言って・・・・・・」

 

「先輩!」

 

――――――先輩! オナシャッス!

 

「うっし、お前達より1年先輩のこの俺、『ロミオ・レオーニ』が色々教えてやっかんな!」

 

ブラッド第一期候補生、ロミオ・レオーニ。

年下の先輩、ということになる。

年功序列に囚われていないおおらかな気風は欧州らしく、ユウにとってとても好ましいものに映る。

極東は最前線といえど、未だに年齢に上下関係が縛られている節がある。そう思うと極東人として、ロミオの振る舞いが非常にまぶしく感じた。

名前の響きからしてイタリア産まれだろうか。

どこか幸が薄い感がするが、このようなムードメーカー成り得る性格は、得難いものであることを知っている。

 

「よろしくお願いしますロミオ先輩! 『香月ナナ』、がんばります!」

 

敬礼がどこかコミカルに様になっている。

ブラッド第二期候補生、『香月ナナ』。

慌てて、「こっちじゃナナ・香月だったっけ」と言いなおすのは、極東の生れである証明だ。

黒髪のミドルヘアーをアップにして、ピンで纏め上げている。毛先が頭の先から二つに割れて飛び出しているのが、どこか猫耳のように見えていた。特徴的な髪型である。

しかし猫の気紛れさや冷たさは感じず、子猫の人懐こさだけが残されたような、そんな少女だった。

が、ユウとしては特筆すべき箇所はそこではない。

 

――――――ムーブメント・・・・・・!

 

彼女のムーブメント・・・・・・極東で言う所の、ファッションである。

下半身はホットパンツに左右非対象な長さのブーツ。これだけでもかなりのムーブメントポイントであるが、しかしユウが注目する点は上半身。

チューブトップ一枚である。肩を抜いたジャケットを羽織ってはいるが、これは下着一枚よりもむしろ露出が高い。

そのチューブトップを、ゴッドイーターの運動量で落ちないようにして、サスペンダーを首に通して吊り下げている。

細い首を一周りするサスペンダーは、止め具が甘いのか、片側が外れて宙に揺れていた。

左右非対象、明け広げな色気の中に、触れてはならない幼さが含まれている。奇跡のムーブメントであった。

 

――――――ここでムーブメントを言ってしまってもいいのだろうか・・・・・・どうみてもこの子は16歳くらい・・・・・・20越えた男がそういう目で見るのは犯罪・・・・・・いやしかし!

 

「どうしたの?」

 

――――――いや、なんでも。極東は赤く燃えています・・・・・・師匠。

 

「えっと・・・・・・」

 

――――――そっちこそ。どうしたの?

 

「ううん、なんでもない」

 

「で、ナナに、そっちはユウな。ああ、名前知ってるんだよ。昨日からずっとジュリウスがユウがユウがーって言っててさ。気に入られたなーお前」

 

――――――良い意味でならいいけどなあ。何か目を付けられた感じがする。

 

「そうか? ジュリウスが笑うとか、俺ほとんど見たことないんだけど。いや、あれは笑うっていうか、ニヤニヤしてた? うーん」

 

「あ、ほらラケル博士がきたよ!」

 

『ラケル』の伝導車椅子の特徴的な機械音。

それと共に、黒のヴェールに身を包んだラケル博士が現れる。

神機との連結後バイタルチェックの際に顔を合わせていたが、どうにも慣れない。

取っ付き難さと、拒絶感を同時に感じる。どこか浮世離れした感がある女性。それがラケルという人物であった。

背筋を這うような声はとても魅力的なのだが、惜しい。というのがユウの正直な感想である。

声フェチ・・・・・・ムーブメントとでも言うべきか。声だけサンプリングして取り出して、バーチャルアイドルにパッチしたらヒットするかもしれない。

そういえばシプレの声に非常に似た部分があるが、さて。

ラケルの姿が見えると共に、全員がソファから立ち上がる。

上司が登場したら背筋を正す。戦闘者ではあるが、そこは会社人である。

気をつけの姿勢に、ラケルは満足そうにして微笑んでから口を開いた。

ラケルからの説明は、ユウが入隊の際に目を通した書類の通りであった。

大半が“血の力”について――――――ロミオに一年勤続経験があっても、未だ“候補生”が抜けない理由。それが“血の力”にあること。

血の力とは、言ってしまえば“必殺技”であるという。

 

「貴方たちはゴッドイーターの先頭に立ち、彼らを教導する存在なのです。本来なら正式な晩餐会を催したいところですが・・・・・・」

 

ラケルが何か含むものがある目で、ユウをチラと見る。

探るような目だ。

ユウの額に脂汗が滲む。

榊さん、これ、ばれてるんじゃないですかね。

 

「ふいーっ、緊張したー」

 

「だよな。なんかこう、あの人の前に立つと緊張するんだよな」

 

「マグノリア・コンパスにいた頃のこと思い出しちゃったよ」

 

「つってもそんな昔じゃないだろ?」

 

「そうだけどー、むー」

 

「まあ、訓練までまだ時間あるんだろ? 俺もまだだし、ほら、それまでこれ読んで待ってようぜ」

 

「おっ、極東広報! 新作ですな?」

 

「おう! 今月号の特集はこれ、神狩人激白! ゴッドイーターは嘘を付くと鼻の頭に血管が浮き出る」

 

「なになに、嘘だぜ・・・・・・だがマヌケは見つかったようだな? おおーっ! 謎解きモノ! 真実はいつも一つ!」

 

――――――ちょっと一人歩きしすぎぃ! リョウタロウさん可哀想でしょ!

 

新人達とのおしゃべり会など、極東では恐れられて無くなってしまった体験だ。

二重の意味でユウは涙が出そうになったが、脇腹をつねって耐え抜いた。

 

「これから先、訓練を重ねて、そして実戦・・・・・・かあ。なんだか緊張するね」

 

「そんなもん慣れだって、慣れ。そう何度も任務があるわけじゃないしさ、週にニ回あれば多い方っしょ」

 

「意外と少ないんだ」

 

「これ以上多かったら人類滅んでるっての。野生動物の襲撃みたいなもんでしょ。そう何度もないって。だからゴッドイーターなんて少人数で“もって”るんだし」

 

へえと頷くナナの後ろで、小声でユウはロミオをつつく。

 

――――――優しいんだ。

 

「は、何が?」

 

――――――だってほら、週ニなんかじゃきかないだろ? そうだよな、最初は簡単だってーって言っておいて、後から抜け出せないデスマーチに追い込むのが常道だもんな。

 

「え・・・・・・何それ・・・・・・怖い・・・・・・」

 

――――――は?

 

「え?」

 

――――――いや、一度の出撃で三回任務が入って、でも帰ってくるまでが任務ですってカウントは一しかされないとか、そういうのが普通でしょ?

 

「い、いやいやいや、どこのブラック企業だよそんなの・・・・・・そいえばお前、ナナと違って極東上がり・・・・・・」

 

――――――普通でしょ?

 

「いえ、はい、そうですね・・・・・・極東こえー・・・・・・極東人おかしいって・・・・・・」

 

ロミオの呟きはユウには聞こえなかったが、何故かまた勘違いされるフラグが建ったような気がした。

 

「でも血の力・・・・・・必殺技かぁ、早く使ってみたいね!」

 

言って、ナナが耳の辺りをユウの肩に擦り付ける。

不意な距離の近さ。ちょうど猫がそうするような仕草に、ユウは口元を引くつかせる。

ぎょっとしたユウの顔に気付いたのだろう。あっ、と小さく声を上げてナナは身を離す。

ユノの画像を切り抜くのに夢中なロミオはわからなかったようだが、大胆な格好をしていてもナナは他者との距離感に敏感であるようだ。

極東広報で盛り上がったくだりは、明らかにナナが“合わせた”ものだ。そうまで興味が無いであろうことは、視線でわかる。ロミオのように食い入るように見やることはなく、むしろ別の記事にばかり目が行っていた。

相手のここまでは踏み込んでもいい、という距離をナナは肌で理解しているのだろう。身体的にも、精神的にもである。

だから、それに一番驚いたのが、ナナ自身であったのは間違いがない。

まるで自分で自分の行いが信じられないかのように、目をぱちりと瞬きして、首を傾げる。

 

「えっと・・・・・・なんでだろ、あれ? あー、ごめんね。急に」

 

――――――いや、いいよ。気にしてないよ、ナナ。

 

「ん・・・・・・その、変なこと聞いてもいい?」

 

――――――どうぞ。

 

「ねえ、ユウ・・・・・・私たちって、どこかで会ったことない?」

 

――――――うーん。

 

しばらく考えてから、ユウは答えた。

 

――――――いや、俺はずっと極東にいたから、初対面だと思うけど。

 

「だよね。あはは、ごめんね変なこと聞いちゃって」

 

再び話しに華が咲く。

ロミオとナナが盛り上がるテンションに巻き込まれながら、つられてユウも笑う。

鼻を撫でながら。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

良い初陣だったな、とジュリウスは囁くように言った。

ガラスに注いだ琥珀色のブランデーに、砕いた氷が泳ぐ。

 

「お前から見てどうだ、ナナは」

 

――――――新兵に聞くことじゃないかな、と。

 

「謙遜はいい。素晴らしい動きだった。いや・・・・・・凄まじい、と言うべきか」

 

――――――あれは神機様。間違いなく俺の神機には神機様が宿ってる・・・・・・なんだよ俯瞰視点って・・・・・・自動戦闘って・・・・・・。

 

「明らかに新兵の動きじゃあないな」

 

――――――それは。

 

「深くは聞かないさ。ああ、聞かないさ・・・・・・お前が聞いてほしくないのなら」

 

――――――いいのか?

 

「フェンリルが一枚岩であるなどと思ってはいない。当然、ここも。極東もそうだろう? いいさ、深くは聞かない。お前がどんな理由でここにいるかは知らないが、お前が悪い奴じゃないことくらいはわかる」

 

――――――ジュリウス・・・・・・誓って、俺自身がお前達に、ここに害を為すことはない。上が何かしようとしても、大事にはならないようにする。

 

「お前こそ、いいのか? そんなことを言って」

 

――――――いいさ。仲間だと、そう言ってくれたからな。信じられることが一番嬉しい。

 

「そうか・・・・・・不思議と、大丈夫だと感じてしまうのは何故なんだろうな。これが甘さ故の過ちでないと、そう思いたい。後悔させてくれるなよ」

 

――――――ああ。期待を裏切ることはあるかもしれない。過ちを犯すことも。でも、後悔はさせない。約束するよ。

 

「楽しみだ。ああ、楽しいな。こんなに戦っているのが楽しかったなんて、初めてだ。体が軽かった・・・・・・あんなに幸せな気持ちで戦うなんて、初めてだった。もう何も怖くはない」

 

――――――手、大丈夫か? 戦いの怖さを教えるデモンストレーションにしては、少し大げさだったんじゃ? オウガテイルに腕を噛ませるなんてさ。

 

「回復錠はもう投与してある。とっくに傷は塞がったさ。ナナには少し、悪いことをした。脅かしすぎた」

 

――――――この一年、ロミオにも同じように接してきたんじゃないか? ちょっとどうかな、と思うけど。

 

「プレッシャーを掛けろ、というのが、俺がラケル博士から命じられたことだ。いずれゴッドイーター達を教導する立場となる故に・・・・・・人類を導く存在となるがために、だ」

 

――――――ナナはともかく、あれはあのままじゃ持たないぞ。

 

「わかるか・・・・・・そうだな。何とかしてやりたいとは思っている。だから、お前には期待しているんだ」

 

――――――これだよ。やめろよな。自分でやれよ、自分で。

 

「俺ではいけないんだ。俺ではな・・・・・・」

 

――――――なるようにしかなんないぞ。悪いほうに転がり落ちていくかも。

 

「それでも、いいさ。俺はお前に賭けたい。おかしいか? まだ出会ってすぐだというのに、そう思ってしまうのは・・・・・・思わされた、というべきか」

 

――――――どいつもこいつも・・・・・・俺を出来る奴だなんて勘違いしやがる。重いんだよ、いい加減。

 

「人が人にかける希望は身勝手なものさ。お前もそうだ」

 

――――――俺は、誰にも望みなんてもたないよ。

 

「それだ。人は一人でも生きていけるという、強い信念がある。お前は人に望みを持たない。他者からのそれも否定する。人は変わる必要はないとさえ思っている。

 変革すべきは世界。お前は今この世界に希望を見出すこと、それだけを願っている・・・・・・違うか?」

 

――――――見透かしたようなことを・・・・・・ならお前は逆だ。世界が光で満ちているなんて信じて、人に絶望してる。

 

「ああ、逆だな。だから人の内側に宿る光を求めてるんだ・・・・・・矛盾だよ。俺達は同じ矛盾を抱いている。向いている方向は逆なのにな・・・・・・まるで“鏡”合わせだ」

 

――――――カガミか。

 

「ああ、俺はお前を通して、自分を見ている」

 

――――――カガミに向かえば、全部“自分に返る”だけだ。自分のことが解んない奴は、カガミを見るしかない。

 

「己に返る、か。洒落た名前だ」

 

――――――言うなよ。意外と気に入ってるんだ。

 

「ははは、怒ってくれるな。ロミオとナナを、良く見てやってくれ。まずはそれだけでいいさ」

 

――――――ナナはともかく、ロミオは手ごわいぞ。劣等感ってやつは厄介なもんだよ、ほんと。

 

「こればかりは本人に何とか乗り越えてもらわないが、切欠がないことにはなんともな。周囲の言葉は全て同情にしか聞こえまい。それは戦いの中でこそ磨かれるものだ。見上げるものがいる戦場の、な」

 

――――――うまいこといかないよな。ほんと、隊長はつらいぜ。なあ。

 

「わかってくれるか・・・・・・ああ、何故なんだろうな。俺なりにやっているだけだというのに、何故か恐れられ、拒絶される。積み上げた功績も確かにあるが、過剰に評価され、それがまた畏怖へと繋がっていく・・・・・・何故なんだ」

 

――――――わかるよぉぉ。なんてーの、そんな深く考えてないのに、存在しない裏事情とか読み取られてたりして、いったい何がなんやら。

 

「口座番号を間違えて児童擁護施設に送金し続けているんだが、なぜかそれが善意の行いとして表彰されてしまった。

 今更言えずに放っておいただけなんだが・・・・・・ロミオの視線が痛いんだ。俺はそんな尊敬されるようなことはしていないのに・・・・・・。何故かこう、高級志向なイメージが付いてしまって身動きがとれないんだ。

 俺が食堂に行くと、皆がぎょっとした顔をする。俺はいつもフルコースや本場のティーセットに囲まれて食事していると思っているらしい。それはそれでいいものだが、でも違うんだ。俺だってもっとこう、安価なジャンクフードを食べたくなる時もあるんだ。

 寝転がってスナック菓子をつまみたくもなるんだ・・・・・・部屋ではジャージを着て腹を出しながらだな・・・・・・」

 

――――――わかった。わかったからそれ以上飲むのはやめよう? な? 勧めた俺が悪かったから。

 

「アルコールはいいものだな。今まで避けていたのが馬鹿らしい気分になる。こんなにいい気分なのはお前のおかげだ。抱き締めてもいいか?」

 

――――――こいつソーマより酒癖悪いぞ・・・・・・! にじり寄ってくんなし! グラス置け!

 

「俺は、嫌われてるんだろうか・・・・・・」

 

――――――ないから、皆お前のこと尊敬してっから。たぶん。

 

「尊敬されたいんじゃないんだ。俺は、俺はっ!」

 

――――――めんどくさすぎぃ!

 

この鉄面皮を崩してやろうと、酒の席に誘ったのが間違いだった。

後悔をひしひしと感じている。飲みにケーションとかほんと悪しき慣習だよちきしょん。やめときゃよかった。

さすがいい酒が揃ってて、気持ちよく酔えそうだとは思ったけど、これはない。

なんなんだよ、男の絡み酒って、誰得だよ。

溜め込みすぎだろこいつら。

フライアいいとこだって思ったけど、閉鎖的すぎるんだよな。極東よりずっと鎖国してるよここ。

なんか皆やたら固いっていうか、一番フレンドリーなのが警備員の人達ってどういうことだよ。

世界情報が掲示されてるモニタ睨んで、昨今のアラガミ事情がなんとかかんとか、そんなことで悩んでる人が多すぎるんだよな。

そんなの考えるより、足元固めようぜって言ったら、その発想はなかった、みたいな顔するし。

上を目指すよりは前に行こうぜ、っていう話。

フライアはキャタピラ艦なんだから、どこまでもいけるじゃん、みたいな。

俺ちょっといいこと言ったわ。

でも、さすが極東人だ、って言うのはやめような。

極東人は戦闘種族じゃないからな。

 

対応がほんと戦闘オンリーだけなのはやめてくれませんかね。

海外の極東人のイメージおかしくない? 遠征行ってた時もそうだったぞ。

ここで俺がしてもらった訓練もペーパーテストじゃん。こんなの新兵にやる初期訓練じゃないぞ。

そんで今日の、実地訓練という名の初陣カッコカリですよ。

今更オウガテイルとか楽勝だけど・・・・・・楽勝だけど!

慣らし運転なしだったからビビるっつーの! 急に主導権ぶんどるとかやめてくれませんかねえ! 

ねえ、神機様!

 

ちきしょん! また会えて嬉しいぜ!

でもいきなりアクションゲー化は勘弁な!

なんか薄い壁に阻まれてる感じで、意思疎通できないのは仕様ですかね!

初期の頃の一方通行コントローラーで怖いの半分、懐かしいの半分・・・・・・いや、怖いのがほとんどだけど!

また素材収集マラソンが始まるのか・・・・・・へへ。

う、嬉しくなんてないんだからねっ。

 

でも本当、お前が帰ってきてくれて嬉しいよ。

どこか遠くに感じるのは、しょうがないのかな。

まだ出会ってはいない。そういうことか。近いのに遠い、寂しいよ。でも、いずれまた会えるなら、今は俺が出来ることをするよ。

だからお願い、手加減してね。

 

しかしこれ、榊さんになんて報告しよう。

もうぶっちゃけスパイなのバレてるけど、うん、身バレだけは断固阻止せねば。

俺のためにも、俺のためにもだ!

なんなんだよあのトンデモ広報! 

俺100人斬りとかしたことないよ。まだ綺麗なままだからね? 泣けてきた。

神狩人とかほんとなんなん?

俺の精神衛生的に悪すぎんぞマジで!

 

「ところでユウ」

 

――――――なんだよ。

 

「お前が極東の誰かは解らんが、もしかして神狩人」

 

――――――シャオラッ!

 

「とくいてんっ!」

 

――――――あ、あーっと、飲みすぎて寝むくなっちゃったかな? はは、ははは、やだなあ隊長。ははははは。

 

これだから鋭い野郎は!

身バレだけは・・・・・・立場は暴かれても身バレだけは断固阻止せねば!

100人斬りがゴシップだとばれたら俺は・・・・・・あばばばばDTちゃうわ!

ツバキさんと色々したりして・・・・・・あれ? 最後までいってない? あばばばば。

あああ駄目だなんかもうこれ以上は色々限界!

限界だからあ!

助けて榊えもーん!

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

「えうっ、えっ・・・・・・え、ぐ・・・・・・げぇ・・・・・・!」

 

――――――ナナか? どうした。戻してるのか?

 

「あ、ああっ・・・・・・! ごめんなさ・・・・・・ごめんなさい・・・・・・ごめ・・・・・・なさ・・・・・・えぐっ・・・・・・ふ・・・・・・!」

 

――――――誤魔化さないでいい。人を呼ぶか?

 

「ごめん・・・・・・ごめんね・・・・・・」

 

――――――“いつから”だ? 

 

「わかるんだ・・・・・・」

 

――――――食ったら戻すようになったのは、“いつから”なんだ?

 

「わかんない・・・・・・ずっと前から、おでんパン以外は、こうだから・・・・・・。ロミオ先輩に勧められて、初任務パーティーでちょっと食べ過ぎちゃったかな・・・・・・えへへ、だめだよね、こんなの。食べられなくて死んじゃう人もいるのに」

 

――――――普段は栄養剤か・・・・・・普通に食うよりよっぽど栄養はあるし体も維持できるだろうが、ああ、くそっ。あやまらなくていい。ナナ、こっちを見ろ。俺を見るんだ。

 

「ごめんなさい・・・・・・服、よごれちゃった・・・・・・」

 

――――――いいんだ。いいんだ、ナナ。謝るのは俺の方だ。悪かった。俺が全部、悪かったんだ。

 

「えへへ・・・・・・おかしいの。どうしてユウが、そんな顔するの?」

 

――――――なんでだろうな。おかしいよな・・・・・・さあ、一緒に食べよう。少しずつでいい、少しずつ・・・・・・一緒に。

大丈夫だ。俺はここにいる。ここにいるから・・・・・・もうお前を捨てて、どこかに行ったりなんかしないから――――――。

 

 

 

 

 

 

 




抱えこみすぎフライア24時。
リョウタロウ君の胃が爆発するまでのチキンレースがはっじまっるよー。

当初、ヘルシング的な主人公の夢の中で神機様の精と会話するシーンを大量に書いていましたが、あまりにも絵面が汚かったのでばっさり削りました。
英断だったと思います。
神機様はキレイな神機様以外ないんだよ!

描写細かくしすぎてもだれるので、戦闘シーンは大きくカットします。
ギル登場からシエル登場までまきまきでいきましょー。

しかし・・・・・・本格的に勘違いネタが浮かばない・・・・・・。
ここは落ち着いてマイクラをしながら艦これしつつ刀乱舞をするか・・・・・・。



なお、活動報告のあれそれについては艦これ読みきりが失敗しすぎたので今回はお休みにします。
前回のぽけ黒白は読んでくれてる人がいたのだろうか・・・・・・裏に出してる分邪道かもだけどうーん。

ナナシのナっちゃん海上ドロップ→超堅物ナっちゃん→漁村町でなっちゃんと出会う→アイドルにあこがれるなっちゃん→深海棲艦出現→
なっちゃん死す→ナっちゃん覚醒→アイドルに→アイドルマスター那珂ちゃんだよー!

こんな感じだったのですが、暗すぎて途中で力尽きてやめました。
那珂ちゃんのファンやめます。


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ごっどいーたー:18噛 GE2

発ッ! 売ッ!
RB発売ッッ! レイジバースト発売ッッッ! レイジバースト発ッッ売ッッ!!!!
感無量です。泣けてくるw


フラッギング――――――。

Fragment Grenade (破片手榴弾)を語源とする造語。

フラッギングを題材とした映画を発端とし、ベトナム戦争時に破片手榴弾を用いた上行為が多発、社会問題に発展した。

軍隊、さらには小隊内で発生する不祥事のため、事故あるいは通常の戦死として処理されることがほとんどであったという。

その語意は、上官、同僚殺し――――――。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

こうきて、こうっ! こうきて・・・・・・こうっ! 

こうきてこうきてこうっ! 何か違うな・・・・・・。

違和感が取れない。

神機様がしれっと戻ってきたのはいいけど、何て言ったらいいか、こう。手放しで喜べないっていうか。

データのコンバートに失敗したみたいな。

鉛を血管に溶かし込んだような倦怠感を全身に感じる。

アーティフィシャルCNSとの連結が上手くいってないんじゃないか、これ。

検査結果はオールグリーン、まったく問題なしで、感覚的なものですねっていうのが結論だったけども。

感覚的なものだっていうなら、微妙な差異を感じるのは、やっぱりこう、うーん。

アーティフィシャルCNCの伝達が、もっと・・・・・・俺のイメージじゃコンマ秒早いはずなんだけど。

いや、脳内俺ツエーですねって言われたらそれで終わりだけど、どうも気になっちゃうなあ。

違和感がまずあって、だから・・・・・・お帰りって言ってやれないのが、ちょっとだけ寂しい。

 

いえ、それ以外はいつもと同じなんですけどね?

ミッションカウンターで上から順番に下まで全部、任務にチェック入れようとしやがったりね?

新兵っていう設定だからまだ低難易度任務しかリストにないけど、君、やろうとしてるね?

デスマーチ、やろうとしてるよね?

お願いだからやめてください! ほんとお願いしますからやめてください!

勘弁してよ神機様ぁ!

 

「おーう、おつかれー。やっぱ良い事あった後は気合が入るな。生ユノ、良かったぁ・・・・・・」

 

――――――ソッカーザンネンダヨアエナクテ。

 

「そうだよ! 災難だったよなユウも。ほんとすれ違いで生ユノ逃すとか・・・・・・そういやジュリウスとサバイバル訓練で泊り掛けしてたんだっけ? レアイベントっていったら、ジュリウスがサバイバル訓練してる姿もレアイベントだけど」

 

――――――まあ、時間潰しに俺から頼んだんだけども。中身は延々カードゲーム大会だったよ。

二人ポーカーとか、マギカギャザリングとか、遊具王とか・・・・・・あとは、軍艦これくしょんとかもしたり。

あいつのデッキガチ構成でやんの。遊具王はデッキ破壊中心だし、軍これは潜水艦編成とかまじ鬼畜。なんだよ、戦艦は全て大破させるのが作法でちとか。くそう、駆逐さえ育っていたら・・・・・・。

 

「お、おう・・・・・・? えっと、ジュリウス、だよなそれ?」

 

――――――うん。そんで飯事情はサバイバルだったから、食料になる動植物なんていなくて、腹が減って腹が減ってもうね。最後の方どのアラガミが美味そうかとか、そんな話ししかしなかったよ。食わないけど、それ考えたことない?

 

「いや、えっと」

 

――――――腹が減って極限状態になると何て言うか、リミッターが外れるよな。一番盛り上がったのがフランのどのラインがくるかって話しでさ。俺は太ももから背筋にかけてのラインがムーブメントだって言ったら、ジュリウスは膝の裏だって。

シンプルイズベスト。そういうのもあるのか。勉強になった。

 

「たぶんそれ、違うジュリウスだわ。フライアって外からゴッドイーター雇ってるし、同名別人のジュリウスさん何人か見たことあるから」

 

――――――たぶんそうね。じゃあジュリウスさんってことで。

フランに隠れてこっそり菓子類とかのミッションアイテム持ち込んでてさ、マシュマロをこう、フォークに刺してだな、ランプの火で焼いてやったらうまいうまいって食ってたよ、ジュリウスさん。

 

「何それ超美味そう」

 

あとコーラの瓶開けるの失敗して服べちょべちょにしてたよ、ジュリウスさん。そんでパン一で洗濯してた。

 

「・・・・・・ユノよかったな! ほんと、生ユノよかった! カーッ、もったいないわー、お前会えなかったとかもったいないわー、カーッ!」

 

「おーい二人ともーっ! んんーっ、おつかれさまっ! 実地訓練も慣れてきたねえ」

 

「おっすおつかれナナ。今さーユノの話ししてたんだよ。どうよどうよ、初めてユノに会った感想は! 俺もうすっげー興奮しちゃってさあ!」

 

「おー! ユノさん綺麗だったねえ! 目がおっきくて、睫毛が長くて、もう美少女ーって感じ!」

 

――――――いやいや、ナナも美少女だよ。負けてない負けてない。

 

「やっだもー! 棒読みー! にへへへ」

 

「でもお前はレア博士みたいなタイプが好みなんっしょ? グレム局長の執務室で即行博士のこと口説いてたじゃん」

 

「へえ、ほー、ふーん、そうなんだ。へえ」

 

――――――いいことを教えてやる。極東じゃあな、ああいう台詞の最後にはキリッというSEを付けるんだ。

あら局長室に何の用? いえ、博士に会いに来ました・・・・・・キリッ。こういうことだ。ここまでが流れ、様式美だ。

つまり本気じゃないんだ。いいね?

 

「アッ、ハイ。そんな必死になんなくても・・・・・・」

 

「ユウって本気じゃないのに女の人にそういうこと言えるんだ」

 

――――――わあ、やぶ蛇!

 

「微妙にユウへの風当たり強くない? ナナ」

 

「んーん、普通だよーこれくらい。ていてい」

 

――――――痛い痛い。肩いたい。

 

「遠慮がないっていうか、兄妹みたいなーって感じ?」

 

「おーっ、いいねーそれ。お兄ちゃーん!」

 

――――――ははは、こやつめ。

 

飛びつくナナ。肘に感じる天国が!

役得ヤッター! 知的好奇心が刺激されるぅ! ビバ・ムーブメント!

知的と言いつつ、ビバはイタリア語でムーブメントは英語だというツッコミは不用である!

今はこのムーブメントに浸っていたい・・・・・・。

ああ、癒される・・・・・・なんかもう、アーティフィシャルCNSだのCNCだの、どうでもよくなってくるな!

 

「ところでさ、また新入りが来るって話、聞いた?」

 

「えっ、知らない知らない! 初耳だよー! わあ、新しい仲間かあ・・・・・・新しい家族、だね」

 

「おっ、それラケル先生風?」

 

「にへへ・・・・・・やったねアバちゃん、家族がふえるよ!」

 

――――――お、おう! やったな! わかったからぬいぐるみに話しかけるのはやめなさい。そのアバドンの手人形を外すんだ、いますぐ。

 

「でさ、その話なんだけど・・・・・・」

 

「なになに? 内緒の話?」

 

「実はさ、その新人、あんまりいい噂がないんだよ。聞いた話によると、前いたとこの支部で上官を・・・・・・」

 

――――――ストップ。

 

ロミオの口をふさぐ。

むぐぐ、と手を当てられたロミオが不満顔に睨む。

 

「ぶはあっ、ちょっ、何すんだよ!」

 

――――――例えばさ。

 

「はあ?」

 

――――――例えば、そいつがいけ好かない奴だったとしたら、別に仲良くする必要なんてないさ。お前が嫌いだって言うなら、配給品の差し止めくらいまでなら手伝ってやってもいい。

 

「いや、そこまでやろうなんて言ってないけど・・・・・・」

 

――――――でも、そこまでだ。そこまでだよ。そこまでなんだ。そこまでで終わりなんだ。

殴ってもいい。蹴飛ばしてもいい。唾を吐きかけて、いじめ抜いてやってもいい。嫌っていても、憎んでいても、それは仲間だ。ぎりぎりのところで、仲間でいられるんだ。

 

「わ、わけわかんねーって。結局何が言いたいわけ?」

 

――――――仲間を淫売扱いするのが、一番やっちゃいけないことだ。それをしたら、仲間ですらなくなる。わかるよな? ロミオ、お前にならわかるはずだ。だろう? 

 

「あー、えっと・・・・・・」

 

「私・・・・・・わかる気がする。仲間のはずの人達に、隠れてひそひそぼそぼそされてたら、一番やだなって思うもん」

 

――――――それでキツイ思いした奴を俺は知ってる。ま、味方に後ろ指差しちゃあかんでしょ、ってこと。悪いね、説教臭くなって。

 

「お、おう! いや、俺も冗談だって。ただ良い奴じゃないかもしれないって、それだけのことだからさ!」

 

――――――むかつく奴だったら、お前むっかつくなあで正面から当っていけばいいさ。そんで色々教えてやったらいい。そこんとこ頼んだぜ、先輩。

 

「おう! へへ、俺にまかせとけって! やな奴だったら俺がガツンと言ってやっからさ!」

 

「ひゅーっ! ロミオ先輩頼もしーっ! ・・・・・・ねね、ユウ」

 

――――――んー?

 

「ありがとね」

 

――――――んー。

 

「ちょっとだけ、ちょっとだけだよ? ユウのこと怖いなって思っちゃった。背筋がひやっとして、ぞわぞわーってして・・・・・・でも、ああいう怖さなら、私嫌いじゃないよ。えへへ、そんだけ! 先帰ってるね!」

 

――――――んー、足早いな。

 

ふっひー。真面目モードはとんと続きませんわー。

ていうか俺が真面目になんなきゃいけないってどゆことよ。

このおちゃらけリョウタロ・・・・・・はっちゃけユウ君がよお。

なんていうか、純正培養というか。養殖ものというか。ハウス栽培というか。

“無菌室”育ちなんだろうなあ、フライアの面子は。

たしか、マグノリアコンパスだっけ?

児童擁護施設だって聞いたけど、どんな場所だったのやら。

ナナやロミオの身のこなしを見ればわかる。あれは一朝一夕で身に付くものじゃない。明らかな軍事教練の痕跡、その結果だ。

つまり幼少期から戦闘行動に慣れ親しんできたってことだ。

ゴッドイーターの資格の有無は比較的幼い段階から解るとはいえ、腕輪を嵌める前から訓練を施されていた、ということだ。

仮にも児童擁護施設っていうのに、どうよそれ。ていうか軍事訓練のノウハウを持ってる児童擁護施設とか嫌すぎる。ソルジャー養成所じゃん。

ラケル博士の家が運営していたんだっけ?

フライア直下の施設となれば、予備戦力の“プール”と考えるのが自然なのだろうか。いや、しかしなあ。うーん。

こりゃあ、児童擁護の名前に俺が夢を見過ぎてるのかな? このご時勢でまともな施設なんて存在しないだろうし。

やだなー、また暗い話になりそう。

 

ロミオもまあ、これでまったく悪気がないんだから、何と言うべきか。コウタみたいな気配りは望めないよなと思う。

ほんと、コウタは奇跡みたいな性格してるよ。あれは家族のおかげもあるけど、環境が劣悪すぎたせいだろうなあ。泥から砂金ってああいうのを言うんだろうな。

そう、コウタは基本が泥なんだ。だから最後の最後で卑劣な手段をとることも、卑怯な選択をすることも厭わない。自分で泥をひっかぶる覚悟がある。自分の内側から染み出てきた泥をも。

ロミオは、あいつは根っこの部分が純すぎる。

自分自身の暗い部分に染まって、流されてしまうかもしれない。

性格はとてもいい奴だ。明朗快活でいてわかりやすい。

でも、いい奴なんだけど、清すぎる。

危うい。

 

隊長さんも無茶なことを言ってくれるよ。

カバーするにしても限界があるってこと、解ってるのかね。

どこか知らないところで自爆して、そんで自滅してくパターンのような気がしてならない。

そうなったら俺がどうこうできないっていうのに。

前途多難、だなあ。

 

おーいお前も早くこいよー、なんて手を振るロミオ。

そうだな、今日は帰ろう。

フライアに・・・・・・家に帰ろう。

そんで駆逐のレベリングをするのだ!

改ニ! 改ニ!

潜水艦どもなんぞオリョクル海の海底に叩き込んでくれるわーッ!

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

殴られて吹っ飛ぶロミオ。

このクソガキがムカついたから殴っただけだ――――――そう言い残し、踵を返して立ち去る男。

長身痩躯。しかし紫のジャケットで覆われた身体は、鍛えこまれた戦うための身体。

黒の長髪は、ジャケットの色に合わせたワークキャップでまとめられている。

細い顎先から左頬に掛けて走る傷は、不覚傷ではない。無骨な戦いの歴史を感じさせる傷跡である。

あらゆる装飾を排除した。戦うために打ち鍛えられた刀剣を思わせる男。

それが『ギルバート・マクレイン』に感じた第一印象だった。

 

――――――そう、言うなれば刀剣男子。これは売れる。

 

「ユウ。しっかりサポートしてやってくれ」

 

――――――やめろ離せェ! 当然のように肩を掴むんじゃない! 俺は現実逃避に忙しいんだよ、押し付けるんじゃねーってばよちきしょん!

 

「カードで負た負債をチャラにして欲しくはないのか?」

 

――――――ファーーーー汚いなさすがブラッド隊長汚い!

 

「今回の件は不問に処す。戦場に私情は持ち込まぬよう、各自関係を修復しておくこと。では解散」

 

――――――いつかその頭のアホ毛ひっこ抜いてやるからな! 覚えてろよジュリウス! このプリンス! プリウス!

 

「ユウ、ちょっと待って、ユウ!」

 

――――――プンスコプンスカ激おこだよ! なんだよナナ・・・・・・くっ、元気になっちゃう悔しい!

 

「あのね、おでんパンを人にあげるとさ・・・・・・ユウみたいに受け取ってくれるか、笑ってツッこんでくれるんだよね。でも、いらない、って言う人がたまにいて・・・・・・」

 

――――――たまにいて?

 

「そういう人って、だいたい何かに追い詰められてる気がする」

 

――――――・・・・・・。

 

「先輩と新人さん、仲良くしてほしいな・・・・・・」

 

――――――ちょっと行ってくる。

 

「あ・・・・・・うん!」

 

何かもう・・・・・・何か。

こういうの今後全部俺にきそうな気がする。

俺はブラッド専属のカウンセラーじゃねーっつーの!

極東じゃソーマ担当だったのに・・・・・・何ゆえ俺が・・・・・・解せぬ。

もういいよ成るように成れだ。

オラァ! 俺参上!

展望フロアにINしたお!

 

「なんだ、追いかけてきたのか? 暇な奴め・・・・・・俺の処分が決まったのか?」

 

――――――お前の処分はお前がぶん殴ったロミオと仲良くすること。仲直りだ!

 

「ハッ・・・・・・そりゃあいい」

 

――――――あのさあ、悪気があって言ったんじゃないってわかってるでしょ。そんな頭悪いようには見えないし、もうちょっとこう、大人になって受け流してやれなかったの?

 

「配属早々つまんないものを見せたことは詫びるよ。後でロミオにも言っておくか・・・・・・」

 

――――――俺は噂なんて気にしないぜ、だったっけ? ロミオの台詞。

 

「詫びると言ったはずだが?」

 

ギルバートの眼が剣呑な光を帯びたのを肩を竦めていなす。

ロミオも正面からぶつかっていけよとは言ったけど、正直すぎんでしょこれ。

誰でも触れてほしくないことの一つや二つはあるだろうに。

その"臭い”だけでもダメだって事がさあ。

 

――――――周りがごちゃごちゃ言うと煩わしくて身動きとれなくなる、っていうのは、わかるつもりだよ。

 

「その腕輪・・・・・・そうか、お前も元新型使いか」

 

旧型、旧新型から第三世代神機に“コンバート”される際、そのゴッドイーターが嵌めていた腕輪は完全に取り去られることはない。

腕に癒着して外せない部品が多々存在するためだ。そのため、外装を取り外し、アタッチメントを追加して元に戻すという手段がとられている。

俺が腕輪をコンバートした時も、完全に腕輪は除去されてはいなかった。手首と外腕部の骨に打ち込まれた第二世代由来のパーツが露出していたのを覚えている。

どこまで腕輪が分解されるかは洗浄深度に関わるため個人差があるが、それに元の腕輪を被せ追加部品を装着させる方式が一般的であるとか。

俺はほとんど分解できたから、コンバートは楽だったそうな。

世代更新した結果、純粋な新世代神機使いの腕輪に比べ、少しだけ大きい腕輪となるのだ。

とはいっても一見しただけでは変わった所は解らない。並べて比べてみれば違いが解る。それくらいの微妙な違い。

整備士や機械技術に興味のある者はこういったスケールに敏感で、一目で解るのだろう。

ギルバートとお互いの腕輪を掲げてみせる。ほんの少しだけ大きな腕輪。

第二世代からコンバートした者の証拠である。

 

――――――正直、黒色にはまだ慣れないよ。ずっと赤だったから、色々思い入れがありすぎて。黒に変わったから、それまでのことがチャラになるなんてないしさ。

 

「そうだな・・・・・・ああ、その通りだ」

 

――――――新兵ってことになってるけど、まあ、それなりに色んなことは経験したつもりだよ。色んなものを見て来た。よくないものばっかりを。

他人の経歴なんて気にしたって意味がないって、ゴッドイーターになったものは皆解ってるから、そこは根掘り葉掘りされなくて助かってるけど。

だから、たまにそういう、やるせないことが起きるってことも解ってるつもりだよ。キレるなよ? “そういうこと”が“起きる”ってことを、知ってるだけだからな。

 

「そういうこと、だと?」

 

――――――最近だとジュリウスと一緒に任務に行った帰りに、偶然カルト宗教団体にかち合ったりとか?

テスカポリトカを神様扱いしてて、生贄とか捧げちゃって、もうなーって感じの。あんまりにもエグすぎてジュリウスが“きちゃって”。

普段大人しい奴がキレると怖いなほんと・・・・・・後でサバイバル訓練に連れ出してさ、カードゲームとか教えてみたら思いのほか楽しかったみたいで喜んでたけど。でもたまに考え込んでることあるから、色々残ってるんだろうなあ。

 

「ふん、胸糞悪い・・・・・・どこもかしこも」

 

――――――地獄だなあ。笑えてくる。

 

なんか怪しいことしてる奴らがいるってんで現場に踏み込んだら、カルト宗教集団の暗黒サバト真っ最中だったってオチ。

“一通り”儀式が終わった後の、まったりムード・・・・・・ビデオ上映してた所に突撃したんだよね。

女の子が嬲られて殺されるムービーだった。

スナッフフィルムだよ。小さい子ども専門の。黒の章とか自分たちで名前つけてさ、そいつらは映像作品として楽しんでた。

どんなだったかな・・・・・・ちょっと小生意気な長女に、元気な次女、クールな三女を円にして並べて、ギロチンを付けてさ、紐を長女に咥えさせて、とか。そんな感じだったはず。胸糞悪いから頭から消去してた。

そいつらそれ観てエキサイトしてたよ。心の底から。そんな映像が延々と何百時間と垂れ流されてた。

 

――――――ま、戦ってりゃいろいろあるよ。それは知ってるつもりだけど、実際つらいよなってだけ。

 

「そうだな」

 

――――――仲間が死んだり、アラガミになっちゃったりさ。きついよ。

 

「・・・・・・」

 

クリティカルヒット。

反応を見る限り、女か。

本当は隊長がやるべき“処置”を、何らかの事情で自分がやるハメになった、ってところか。

規定と違うもんだから、そんで上の判断が遅れて隠蔽工作が甘くなって、マスコミが嗅ぎ付けて騒ぎ立てた。

こんな感じだろうなあ。

 

「だから・・・・・・なんだ? 何が言いたい」

 

――――――今後ともよろしくってこと。

 

シェイクハンド。握手握手。

ありがとうギルバート君。でもね、目の前で盛大なため息を吐かれるとちょっとキツイからやめようね。

 

「どこにでもいんだな・・・・・・おせっかいな奴ってのは」

 

――――――ふぁん? 何?

 

「いや。俺のことはギルでいい。堅苦しいのはごめんだ・・・・・・まあ、今後ともよろしくな」

 

――――――ああ、よろしくな。就任祝いに任務終わりにでも一杯おごるよ。ムーブメントの話しとかしようぜ。

 

「ああ・・・・・・ムーブメント? ん、んん?」

 

自分から愛称を広げようとしマクレイン・ギル。

今後とも、よろしくやっていけるのだろうか。不安でならない。

前途多難である。

 

うん・・・・・・。

初期アリサよりマシ! 初期ソーマよりマシ!

ふぇぇもう限界だよぉ。

誰かコータ呼んできてコータァ!

俺の癒しを、極東から、誰かァ!

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

「僕は栄えある極東支部第一部隊所属・・・・・・エミール! フォン! シュトラスブルクだッ!」

 

誰がこいつを呼んでこいと言った。

 

 

 

 




みなさんこんにちは。
いやあ、レイジバースト、発売しましたね!
以前から発売前情報を追っていたせいか、思っていたよりも冷静な自分に驚いています。
ま、こんなものでしょう。みなさんもこれくらいで取り乱したりしませんよね。

(ブラッド!ブラッド!ジュリウス!ロミオぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!アリサシエルナナエリナフランユノヒバリリッカツバキサクヤムツミヤエラケルレアリヴィカルビぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!アリサたんの銀髪ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
漫画版のエリナたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
アニメも放送されるし良かったねシエルたん!あぁあああああ!かわいい!ナナたん!かわいい!あっああぁああ!
コミック3巻も発売されるし嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…
ゴッドイーターは現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!極東ぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のギルが僕を見てる?
表紙絵のリンドウが僕を見てるぞ!ジュリウスが僕を見てるぞ!挿絵のソーマが僕を見てるぞ!!
野郎共が僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!でもこっち見んなよ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはゴッドイーターがいる!!やったよムツミちゃん!!ひとりでできるもん!!!
あ、コミックのシエルちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあアリサ様ぁあ!!ナ、ナナー!!エリナぁああああああ!!!フランヒバリッカぁあああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよ極東へ届け!!極東のゴッドイーターへ届け! )

今回の投稿分、発売にあわせようと思ったけど無理でした。くー。
いつもより文量少なめでごめんなさい。その分、会話多めでお送りいたしますので!

はい、次回の投稿は、極東を守りにいかなければならないので、しばらく現実(リアル)に忙しくなるため遅れそうです。
みんなもそうだよね?
でもおかしいな。画面の向こうが現実(リアル)のはずなのに、この液晶を通り抜けられないんだ・・・・・・。

GERBのハードによる違いも自己検証しました。
HDMI端子接続のPS4とVita版を比較した結果、おパンツ高画質。おパンツ高画質!
明らかにおパンツ高画質でしたぞ!
あと、続編ですから光エフェクトがじゃんじゃんバリバリ派手になってるんですが、Vita版だとよく処理オチします。
バレットエディットで放射や多重レーザー、メテオ系の画面広範囲に効果が及ぶものを多用される方はちょっと気になるかもしれません。
ロード読み込みは明らかにPS4の方が早いですね。
Vitaでもマルチで棒立ちになってリンクエイドコース、とまではいきませんのでご安心を!
でも悩みますよね。
Vita版にして画面を近距離から本能の赴くままにベッドの中でprprするのがいいか。
PS4版にして高解像度でおパンツおっぱい揺れをワイン片手に貴族っぽく鑑賞するのがいいか。
おパンツ教とおっぱい教の仁義無き戦いが今、幕を開ける・・・!

そういえばゴッドイーターで宗教といえば。
漫画や小説の中にもちらほらと公式欝ワードとシチュが盛り込まれてて、なんていうかすごくざわざわしますよね。
なんだよ五番目の月とか・・・・・・世界がぶっ壊れるかもしれない代物がわんさかある極東の保管庫に入室できる権限を持った科学者が、その構成員であるとか。
中枢に食い込まれてんじゃん・・・・・・やべぇよ、やべぇよ・・・・・・榊さんの眼がカッ!てなってるじゃんやべぇよ・・・・・・。榊さんの眼をカッ!させるとか相当のもんですよ・・・・・・。
あと一般人を拉致して生贄にしまくったとか普通にやばい。
わあ、ざわざわするう。

序盤から中盤にかけてのフライアの空気も普通に悪いですし、こじれた人間関係とか部隊内のギクシャクした連携とか個々人の暗い過去とかゲーム性の裏に隠されてて、実はGEってドM仕様ゲーだっていう。
ヤッター! たぁぁんのすぃいいいいーっ!
フロムとかの死にゲーとかポケモンの厳選してる時の背徳感とか本当は怖い幻想郷とか轟沈とか、ゾクゾクする自分はドMだと思いましたまる。

ひゅーっ、リヴィちゃん登場するまで徹夜でやるぜぇーーーッ!


※小ネタ1
『サバイバルミッションへは菓子類の持込は禁止されております』
というチュートリアルメッセージが、ゲーム内で表示される。
オペレーターによる注意事項→フランに隠れて菓子持ち込みふひひw
※小ネタ2
艦これE5-丙でクリアしましたひゃっはー。
E2甲で51cm連装砲ちゃんゲットして力尽きたんだお・・・・・・。
横鎮でも資源カツカツでケッコン艦1隻しかいない提督もいるんだよっ

※活動報告は夜頃に更新します。今回は東方でー。


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ごっどいーたー:19噛 GE2

※修正いたしました。誤字報告、誤設定のご報告ありがとうございました!


 

エミール襲来。

ユウ、二重の意味で焦る。

フライアは移動要塞であるというその性質上、戦力を外部委託によって補充している。

ブラッドという固有戦力が出来はしたが、それでも外からゴッドイーターを招くことが通常である。

しかし、よりにもよって極東から・・・・・・しかも、この場にもっとも来て欲しくない人材が選ばれるとは。

ユウをしても予想外であった。もしかしたら、榊の差し金なのかもしれない。スパイ活動が順調であるかどうかの監視だろうか。

それにしては人材の選出が間違ってはいるが。

余計なことを口走らないか、恐ろしすぎる。

 

「おお・・・・・・おお・・・・・・! 君は、君こそは我が永遠のライバル! かみかり――――――」

 

――――――シャオラッ!

 

案の定である。

よりによって不本意な二つ名を口走ろうとしたエミールへとユウがとった対応は、拳によって黙らせる、であった。

鉄拳制裁である。だが。

 

――――――なにぃ!?

 

ユウの拳は空を切る。

“いなされた”のだ。理解した瞬間、少なくないショックがユウを襲う。

極東では、前隊長・・・・・・コウタから数えれば前々隊長か、を壁際で世紀末バスケットする程度には体術の覚えがあった。

それなりの自負と自信があった拳を軽くいなされたのだ。

エミール自身の技量が優れているのではない。これは、技の“性能”だ。

尋常なる技ではない。

 

「フッフッフ・・・・・・僕を今までの僕と思ってくれるなよ? フェニックスは日々進化し続けるのだ!」

 

エミールの両の足が内側を向く。

両の手は手の甲を相手に、ユウに向けて外へ・・・・・・それは異形なる構え!

 

「呼ッッ!」

 

壁だ!

ユウの眼前に巨大な壁が出現した。それは幻覚であると解っている。しかし、理解してなお、幻視する。してしまう。せざるを得ない。

まるで幼い少女がだだをこねるが如くの姿・・・・・・ともすれば、女々しい格好にも見えるだろう。

しかしそこに弱々しさは存在しない。

これは人間が単体で成す、アラガミ防壁よりも強固な壁・・・・・・守りの型!

 

「あれは・・・・・・!」

 

「知ってるの? ロミオ先輩」

 

「ああ、ナナ。あれは、極東に古くから伝わるジャパニーズマーシャルアーツ・・・・・・カラテの構えだ!

 呼吸のコントロールによって完成されるあの構えは、完全になされたときにはあらゆる打撃に耐えると言われている。

 毎週極東広報を読んでいた俺には解る・・・・・・俺は詳しいんだ。ああ! あの技は!」

 

エミールの両の腕が弧を描き、空を撫でた。

新円。

手刀が描く二つの月が、出現す。

 

「マ・ワ・シ・受ケ――――――!」

 

見事である。その一言しかない。

付け焼刃とは口が裂けても言えない。

古武術とは、一朝一夕で身に付くものではない。

並々ならぬ努力と、そして才能が合致せねば辿り着けない領域。

エミール・フォン=シュトラスブルク・・・・・・不死鳥が如く。

騎士道、至る!

 

「さあ! 矢でも鉄砲でも火炎放射器でも持ってくるがいい!」

 

――――――なんで耐久の構えでカウンター狙いして防御下げんだバカチン。

 

「あふん!」

 

突然の肘。

ユウのカミソリのように薙がれた肘により、顎を擦られたエミールはその場に崩れ落ちた。

いかに古代の技を身に付けようと、純粋な技量差は覆せない。

ただそれだけの結果、見えきった結末であった。

拳を握り、じっと天井を見つめるユウ。

 

――――――虚しい戦いだった・・・・・・。

 

「そうだな、何の意味もない」

 

――――――うん。だからね、その、ね? その、何も意味がないってことで、無かったことに、ね?

いや、俺もどうかと思ったよ? うん、ちょっと短絡的思考すぎるかなって、ね? でもほら、エミールの顔みたらさ、ね?

やらなきゃいけないっていうか、すべきというか、ね? わかるでしょ? ねっ? しかたないよね? ねっねっ?

 

「そうだな。俺が今お前に感じている感情と同じなのだとすれば、それは、ああ、仕方ない。仕方ないだろうさ」

 

ユウの肩を掴むジュリウス。

ミシミシと骨が軋んでいる。「うわっ」とロミオとナナが半歩引いた。ギルは頬を引きつらせている。ドン引きである。

痛みよりも何よりも、ジュリウスの顔がやばかった。

いつもの涼し気な整った顔であるが、目がやばい。目が血走っていて、こめかみに太い血管が浮いている。

一言で言って、やばい。

これあかんやつや、とユウは思った。

ジュリウス、生まれて初めてのガチ切れである。

 

「ついこの前に、言ったな? 言ったはずだな? 暴力沙汰はやめろと・・・・・・俺は言ったはずだな? お前に、直接、呼び出して、頼み込んだはずだ。そうだな?

 不思議だ・・・・・では俺の目の前で起きたこれは一体何なのか。俺は夢でも見ているのか?

 よりによって直接言い置いた隊員が、隊長の目の前で、極東からの協力者を殴り飛ばした・・・・・・これが現実なのだとしたら、さてどうしようか?」

 

――――――いや、これはその、極東じゃ挨拶っていうか。

 

「そうか、わかった。そんなに暴れたいなら話は早い。ここじゃ物が壊れる・・・・・・屋上へ行こうか」

 

久しぶりにキレちまったぜ、と副音声が聞こえてくるかのような顔面描写である。

さわやかな笑みであった。ビキビキと浮かび上がる額の血管を除けば。

 

「あ、あーっと! そうだ! ミッションの人員選ぶとかじゃなかったっけー!」

 

「おーそだねそだね! そうだったね! 二班に分けるんだったよね!」

 

「そうそう! 先行班がフライア進路上にいるアラガミを先行して露払い、そんでフライアが予定ポイントに到達したら、後続が迎えに行って帰還っていう! どうよ俺、ちゃんと聞いてたんだぜ!」

 

「フライアの行く先をがんばるぞ組が守って、その帰りをお留守番組が守るんだよね! 迎えに行って、お帰りなさいでミッション終了!」

 

「で、どっちにするかっていう・・・・・・げっ、ギルがいたよな・・・・・・ええと」

 

「ちょっと、先輩?」

 

「じゃあそんなら新人二人を組ませるのもアレだし、俺がナナと残るよ!うん」

 

「へっ!?」

 

「留守は任せろー。ミッション期間終わったらエンゲージポイントまでちゃんと迎えにいってやるからさ!」

 

「えっと・・・・・・じゃ、がんばってね!」

 

ナチュラルに見捨てやがった。

途中まで空気を変えようとしたのだろうが、その空気を読んで手に負えないと思ったのだろう。

そりゃ俺も自業自得なところあるけどさ、とユウは心中で悪態を吐いた。口にするには肩に置かれた手が怖い。

じゃあね! と手を振って去っていくナナとロミオ。

残された男共。

ユウは遠い目をして現実逃避をし、ジュリウスはにこやかにビキビキし、ギルバートはとばっちりを食らったと帽子を被り直し、エミールは白目を剥いて痙攣している。

 

「では、このメンバーでミッションを受注します。任務期間が長いのでサバイバルミッションとなります。各員、出撃準備をお願いします」

 

ミッションカウンターから一部始終を見ていたフランが、冷静な様子でコンソールを叩きながら告げた。

告げた後、手を口元に当てて微動だにしなくなるフラン。

「耐えるのよフラン・・・・・・だめもうむりうぶふう!」とくぐもった声と噴出した吐息が指の隙間から漏れていた。

空気が重い。

サバイバルミッション、開始である。

 

 

 

 

■ □ ■

 

 

 

 

「来い、ユウ・・・・・・模擬銃なんか捨てて、かかってこい! 神機で勝負だ! どうした、来い、ユウ・・・・・・怖いのか?」

 

――――――ハジキなんか必要ねぇや。へ、へへへっ・・・・・・誰がてめぇなんか、てめぇなんか怖かねぇ! 野朗、ぶっこぉしてやるぅぁ!!

 

「イヤーッ!」

 

――――――グワーッ!

 

こてんぱんという言葉がこれほどふさわしい場面もないだろう。

手足を揃えてコの字型に空を吹き飛んでいくユウ。

ミッション時間外の実技訓練中の一幕である。

実技訓練とはいっても、一方的すぎる展開であったが。

 

「おお美しきかな・・・・・・二人のゴッドイーターが高め合っている・・・・・・声は遠くて聞こえないが、きっとお互いを鼓舞する言葉を、世界について語らっているに違いない!」

 

「何やってんだかあいつらは・・・・・・神機での対人演習は禁止されてんだろうが。ミッションの真っ最中だってのに」

 

「賑やかでいいじゃないか! 僕は好きだ、実に好ましい! それがゴッドイーターの使命なのだとしても、殺伐とした荒野にただ息をするだけでは気が滅入ってしまう。潤いがなくては。極東でこういう言葉がある。喧嘩するほど仲が良い、と!」

 

「ふん・・・・・・俺を見て言うなよ。ロミオに言え、ロミオに。しかし、元気だなあいつら」

 

「ははは、こんなもの任務の内に入らないぞ! 行って帰って、その途中で任務が入って・・・・・・一度の出撃で最低3回は任務が入るのが極東のスタンダードだからな! うん・・・・・・それが極東のスタンダードなんだ・・・・・・」

 

おかしいだろ極東、と帽子を被りなおすギルバートの表情は精彩を欠いていた。

フライア進路上の露払いということで、感知したアラガミを手当たり次第に駆除ないしは追い払うことが任務目的だ。

始めは新しい神機の調子を見ようと、意気揚々とチャージスピアを担いでいたギルである。

その瞳には獰猛で危険な光が宿り、『チャージグライド』の稼動ハッチからはオラクルの輝きが溢れ出ていた。

戦意高揚。一意専心。

さすがは第三世代機である。これまで使用していた第二世代と機能は同じといえ、反応感度が段違いである。

これならば常のスコアを容易く塗りかえることが出来よう。

1戦、2戦、調子がいい。3戦、4戦・・・・・・そして大型アラガミとの連戦回数が7回を超えたあたりから、ギルの目から光が消えた。

 

途中、ヴァジュラまで出現しこれと交戦した。他支部では出てきただけで大騒動、死を覚悟せねばならないアラガミである。

通信機から流れる、ヴァジュラの存在を知らせるフランの声に焦りが混じる。通信に出たギルバートは大声で皆に知らせた。

間が悪いことに、その時ジュリウスは離脱した『ヤクシャ』を追いかけて予測戦闘区域外で交戦中であった。

ギルバートの脳裏に最悪のシナリオが過ぎる。

つまり、経験の浅いエミールと、ほぼ新兵も同然のユウ、そして自分の三名でヴァジュラと戦わねばならないということ。

誰かが、死ぬかもしれない。

苦い思いがギルバートの胸中に湧き上がる。

覚悟はしておけ、とギルバートは二人に告げた。

問題はそのユウとエミールである。

エミールは「いついかなる時も、このエミール、覚悟は出来ている」などと嘯きつつ、紅茶の香りを楽しんでいた。

ユウに至っては携帯ゲーム機をカチャカチャとやりつつ、――――――デイリー終わってからでいい? などと舐めきった態度。

これは胸倉を掴み上げても仕方がないだろう。

宙吊りになったユウはそれでも解っていないようで、――――――え、だってヴァジュラでしょ? 禁忌種でもないし、そんなピリピリしなくても・・・・・・。と的外れな発言を繰り返す。

これはもう駄目だ。ギルバートは諦めと、一握の寂しさとともに襟首を離す。

こいつは、見込みがあると思ったのに。

入隊早々にいざこざを起こした自分に、臆さずに接してきたこと。ギルバートは言葉には出さなかったが、ユウの人柄を好ましく思っていた。

まるであの人のようだ。そうも思った。

つっぱっていた自分を、優しく支えてくれた、あの人のようだ・・・・・・と。

そう思っていたのに。

――――――失敗しても、諦めなきゃそのうち成功するでしょ。しくったら支えてやるから。そのための仲間でしょ? ま、なんとかなるよ。前向いていこう。

奥歯がぎりりと鳴った。やめろ、と叫びたかった。

あの人と同じ台詞を言うな。お願いだから、言わないでくれ。

振り上げかけた拳は、力なく降ろされた。

出撃直前、「足を引っ張るなよ」と一番戦闘経験が浅いであろうユウに、ギルなりの皮肉を織り交ぜた激励を飛ばした。最終通達のつもりで。

これで駄目なら、もうこいつはそこまでの男だったのだと諦めよう。

勝手に期待して、希望を持ちつつあった自分が馬鹿だったのだと。

そして出撃の時が来た。

ヴァジュラ、来たる。

向かうはユウ、そしてギルバート。侵入予測地点からエミールは離れ、小型アラガミ相手に手間取っていた。

まずは自分が相手だと、ヴァジュラへと踏み込んだギルバート。

 

小パンチからの起き攻めからの電撃からの小パンチからの突進からの雷撃からの回転尻尾からの猫パンチからの電撃からの飛び掛りからの範囲電撃からの猫パンチからの起き攻めからの――――――。

 

ユウにリンクエイドをされること4回。5回目から放置するスタイルに入られたギルバートは考えることをやめた。

ヴァジュラは結局、ユウがほぼ一人で倒した。

新人だとか経験が浅いとか、絶対に虚偽情報であるとギルバートが確信した瞬間である。

第三世代だとかスキルだとかそんなチャチなものでは断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わった気分だった。

その横では、エミールが「我々の勝利だ!」といい汗をかきながら雄叫びを上げていた。コクーンメイデンとしか戦っていなかったのに。

極東人はスゴイ。色んな意味で。

ギルは改めてそう思った。

 

――――――ぬおおああああ! 何で勝てないんだしい! 神機様やねんぞ!

 

「これが血の力だ・・・・・・これが血の力だ!」

 

――――――ドヤ顔でもっかい言うんじゃないし! なんだよ血の力とかあ!

 

「俺の血の力は『統制』という。周囲のオラクル細胞を制御し、力を与えるという能力だ・・・・・・が、しかし、使い方を工夫すれば、こんなこともできるぞ?」

 

――――――おい無理矢理バースト状態にもってかれるとかおかしいだろ。え、てことはそれ、つまり、神機に“干渉”できるってこと? “ハッキング”したってことなの?

 

「そこまでじゃないさ。真似事は出来るが、それも感応現象で“パス”が繋がった相手に限る」

 

――――――オラクル細胞に一斉に前倣えって命令できるてことは、神機にいらんところで“力ませられる”ってことで・・・・・・そりゃつまり、“神機に”フェイントを仕掛けたってこと?

 

「賢い奴は好きだぞ。ほとんど正解だ。外部からお前の神機を統制の支配下に置いた。

 お前の力の流れに乗せて、さらなる力を上乗せする・・・・・・極東でいう所の“合気道”の技術だ。結果、お前は自爆したんだ」

 

――――――なにそのチートスキル! どうりで神機からのフィードバックがおかしくなって体が思うように・・・・・・ハッ、お前、神機での勝負持ちかけたのこのためか!

 

「ははは、これは訓練だ。わかるか? 訓練だ。血の力を体で覚えるんだ。さあ、続きをやるぞ、隊長命令だ」

 

――――――職権乱用だろがい! 素手なら俺の方が上だからってお前ずるいぞふざきんあがががが! 痛っイイ・・・・・・お、折れるう~。

 

ジュリウスとユウの体術レベルは、実に同等なものであった。

純粋な体術のみであるならばゴッドイーター史上類を見ない程、過去に存在した達人の域であると言っても過言ではないだろう。

人外の領域に踏み出しつつあるユウ。それにくらいつき、あるいは抜きん出ることもあるジュリウス。

驚愕に値する両名である。同じ時代に、この二人が同時に生まれたこと。そしてその二人が出会い、ともに肩を並べていること。運命的なものを感じずにはいられない。

本来であればこの両者の間に優劣は無い。だが、実際には一方が・・・・・・ユウが地を舐める事となっている。

これは相性の問題である。

『血の力』――――――。

地力は互角。ならば神機では・・・・・・その限りではなかった。

ゴッドイーターであれば、決してジュリウスには勝てぬ理由がそこにある。

 

「あれを見ているとあいつは強いのか弱いのか、よく解らなくなるな・・・・・・間違いなく強いんだろうが、ジュリウス相手じゃあな」

 

「どうも手加減しているようには見えるがね。それとも、実力を全部出しきっていないのか」

 

「どうみてもガチンコじゃないのか、あれは?」

 

「いや、まだりょ・・・・・・ユウは使っていない。そう――――――ジツを!」

 

「ジツ? ジツって・・・・・・なんだ?」

 

「君は極東に縁があると見た。ならば聞いたことがあるだろう? ニンジャの存在を」

 

「いや、ニンジャのことはそりゃ聞いたことくらいはあるが・・・・・・あいつが? いや、そんな・・・・・・まさか、だろう?」

 

「ニンジャは極東の歴史の影に潜むもの。闇から人々を守り、支え続けてきた。己が闇に染まりながらも・・・・・・。ゴッドイーターをしていても何もおかしくはあるまい? いや、むしろゴッドイーターをしていることが自然だ。そうだろう?」

 

「馬鹿な・・・・・・いや、しかしあの身のこなしは・・・・・・そんなことが・・・・・・たしかにそう考えればおかしくは・・・・・・じゃああいつは・・・・・・!」

 

「アイェェェ! それ以上はいけない! 消されるぞ! フライアで殴られた後、もう一度腹に拳をぐりぐりされながら黙っていろと言われたんだ! あれは本気の目だった!」

 

「は、はッ・・・・・・馬鹿馬鹿しい、ロミオじゃあるまいし、そんなもんいてたまるか」

 

「そう思うならそれでいい。ギル、君に頼みがある」

 

「なんだ」

 

「彼を・・・・・・ユウを支えてやってくれないか。彼はどうも、背負い込みすぎるところがある。フライアへ行くことになった時も、ギリギリまで何も言わなかったんだ。

 極東の皆が彼のことを心配している。彼はね、人のことを助けるあまり、自分のことが救えない人間なんだ。君もすぐにわかる。彼の近くにいればね」

 

「・・・・・・あいつがどうかは、俺にはわからない。でも、背負い込んじまう奴がどうなっちまうかは、よくわかってるつもりだ。ああ、よく知ってるよ」

 

「うん。ならば安心だ。君にだけ明かすが、彼の極東での名前と、こちらでの名前は違うんだ。ニンジャネームだ、理解してやってくれ。ちなみに僕にも騎士道ネームがある」

 

「言えない事情ってやつか。あいつも“たんこぶ”持ちってことかよ」

 

「スネに矢を受けた、と言うらしいよ極東では。膝にだったかな? まあいい。見たまえ、彼らの姿を。必死だ。必死になって、今を生きている。どうだい、美しいだろう?」

 

「ふん・・・・・・」

 

「僕には拳を交え合う彼らの姿が、光り輝いて見える。その裏に計り知れぬ苦悩をひた隠しにしているのも。君も、な」

 

「どいつもこいつも・・・・・・」

 

「言えない事情という、それを汲んでやってほしい。それだけさ。なあに、悪いことにはならないよ。この僕が保障しよう! この、エミールが! 我が騎士道にかけて!」

 

「うるせえ。おおい、お前ら! いつまでじゃれ合ってる! 飯の時間だぞ!」

 

おいすー、とやる気の無い返事をしながら、もそもそと携帯ガスコンロの周りに集まるユウとジュリウス。

ユウは泥まみれの隊服を脱いで、黒いタンクトップ一枚に汗だくの格好。

ジュリウスは気品のあった私服を脱ぎ腰に巻きつけて縛り、白の肌着一枚に。頭には手ぬぐいを巻きつけて汗が目に入らないようにしていた。

決してフライアのジュリウスファンクラブの婦女子の面々には見せられぬ格好であった。

 

――――――ひーこらどっこいせ。ひどい目にあった、と。

 

「邪魔をするぞ」

 

「おう・・・・・・おいユウ、不衛生だぞ。また何か拾ってきたのか」

 

――――――いやあ、割れたCDとかさ、拾ってきて繋げたりするのが趣味なんだよね。こればっかりはやめらんなくて・・・・・・。こう、昔の、平和だったころのこと想像できてさ。

 

「お前も俺も、平和なんて知らないだろうが。趣味の悪い奴だ・・・・・・まったく」

 

「感傷に浸ることは嫌いじゃない。過去に囚われなければ、いい趣味だと思うぞ」

 

――――――いやー、ほら見てよ、今日は大収穫だったんだよ。ほら、のこじん!

 

「のこじん・・・・・・?」

 

「遺された神機、の略か?」

 

――――――そうそれそれ。いやほら、俺達の神機って結構派手にぶっ壊れて、部品吹っ飛ばしたりするじゃん? シールドとかよく欠けるしブレードは折れるしで。破損したパーツは基本放置だし。

 

「そういえば、他のゴッドイーターの戦闘痕によく神機のパーツが転がってるな」

 

「回収班に任せないのか?」

 

――――――うん、本当はそうした方がいいんだろうけどね。でも回収されたらされたで、どうせ砕かれて何に使うかわかんない資材倉庫送りでしょ?

そう考えるとなんか、ほっとけなくてさ。余裕あるとき見かけたら拾うようにしてるんだ。中には本当に、持ち主が死んじゃった神機もあるからさ。いや、そっちの方が多いのかな・・・・・・。

 

「まあ、そうだろうな・・・・・・遺された神機、か・・・・・・」

 

――――――そんで俺、自分の神機の補修に使ってもらうことにしてるんだよね。感傷って言ったら、うん、そうなんだろうなあ。

 

「供養のつもりか?」

 

――――――リサイクルだよ。エコでしょ? 何かのこじんの持ち主のパワーが宿って、強くなれるような気がするし。こう、持ち主から離れて放置されてる間に、オラクル細胞の不思議パワーで進化してて、複合スキルが宿ってたりとかしそうじゃん。

 

「複合スキルってなんだよ・・・・・・神機で俺達のやれることが増えたり減ったりするのか? ホラーだろ」

 

「いや、その発想は理解できる」

 

――――――ゲーム脳乙。

 

「よしわかった、表へ出ろ。訓練の続きをやるぞ」

 

――――――お? 今度は素手でやっか? ステゴロなら負けねえぞ、お?

 

「やめろ馬鹿共。なんだお前達は、仲がいいのか悪いのか、セットになると馬鹿な方向に性格変わるぞ。自覚あるのか! まったく・・・・・・今日の飯はシチューだ。さっさと食え!」

 

――――――おー、ギルが作ったの? じゃ今日は当たりだな。

 

「そうだな。俺やユウではそこそこ止まりだからな」

 

「褒めても何もでないぞ」

 

――――――とかなんとか言っちゃって、ちょっと大き目の具をよそってくれるギル大好き。

 

「黙って食ってろ」

 

――――――うめぇうめぇ。

 

「・・・・・・ハシ、か。それ」

 

――――――うん、マイ箸もってきてんの。見たことある? 極東以外じゃ箸文化ないからさ。

 

「上手いものだな。俺も今度ハシの使い方を練習しよう。フライアは移動拠点だ。極東に赴くこともあるだろう」

 

――――――ま、こんぐらい極東人なら普通だって。でも、あー・・・・・・またエミールみたいなことが起きるのか・・・・・・気が重すぎる。何か変な勘違いしてくれたから助かったけどごにょごにょ。

 

「グリンピースを縦に5個はさむの普通じゃないだろ・・・・・・やはりニンジャなのか、こいつ」

 

「シチュー、美味いな。ありがとう、ギル。体が温まる」

 

「ジュリウス、お前は顔を拭け、泥だらけで飯を食うな。タオルよこせ、ここが汚れて・・・・・・ユウ! 勝手におかわりはするな! 物資は限られてるんだぞ、ったく!」

 

「ぐぬぬ、なんだかずるいぞう! 僕もまぜたまえ! まぜたまえ!」

 

「お、おう」

 

「僕も語らい合いたいんだ! そう、未来について! 我らゴッドイーターが如何様に闇の権化たるアラガミを根滅するか、その方法を話し合おうじゃないか! 僕を中心にして!」

 

全身を使っての猛アピール。

うへえ、という面倒臭さを前面に押し出した顔で、ユウがスプーンを口に加えて上下させつつ答えた。

 

――――――うんそれ無理。この話は終わり。はい、やめやめ。ギルーそっちの芋よそってーお願い。

 

「作っておいてなんだが、この芋そんなに美味くないぞ」

 

――――――マヨマヨファンタジーすればだいたいいけるやん?

 

「まあ、マヨネーズは強いからな」

 

「カレー粉が最強だな。ギル、おかわりを」

 

「どれくらいだ?」

 

「大盛りで」

 

「了解」

 

「ところでこの前ナナからおでんパンを貰ったんだが、中々いけるな。欲しいと言ったら驚かれたが。どうも俺がああいうジャンクフード系列のものは口にしないと思われていたらしい。解せん」

 

「ナナか。あいつにも悪いことしたな。俺も差し出されたんだが、断ったら泣きそうになってた。今度は食ってやるか・・・・・・あの串をどうするか悩むな」

 

――――――フンフンフー、まよまよファーンタジー、フーフフーンフーフー。

 

「やめたまえ! 僕を無視するのはやめたまえ!」

 

――――――えー、だって実際無理じゃん?

 

「怖気づいたのか! 見損なったぞ、ユウ! 君はそれでも極東にその人ありと謳われたかみか」

 

――――――カーッ! ほんっとめんどくっせえなオメェはよお! おらよく聞けよ、知ってるか? 地球上の大気の成分、旧時代とほとんど変わってないんだよ。

窒素が79%に、酸素が21%・・・・・・他も同じだ。ありえないだろ、世界中の樹木が20数年前の三割少しまで減少してるっていうのに。海の生態系だってめっちゃくちゃだぞ。

俺たちが吸って吐いてるこれ、空気、酸素、その出処はどこだかわかるか?

 

「まさか・・・・・・アラガミだというのかい!?」

 

――――――正解。基礎教練で習っただろ。

 

エミールを指差してからユウは食事を再開する。

ジュリウスが引き継いで口を開いた。スプーンを教鞭に見立てピンと立てる。

 

「正確には自然環境に成り代わったオラクル細胞だな。これから先、オラクル細胞を除去できるような技術が開発されたとしても、アラガミを絶滅させることは出来ない・・・・・・否、してはいけない。

 自然環境=オラクル細胞=アラガミの構図が成り立ってしまっているからだ。アラガミの発生要因は未だ解明には至っていないが、アラガミが“どこから来るか”は解っている。オラクル細胞の貯蔵庫である自然環境、すなわち地球そのものからだ。

 故にアラガミの駆逐は、すなわち自然破壊に通じると言えよう。

 ゴッドイーターが行う捕喰は、世界的にみればオラクル細胞の総量は変わらない。捕喰して使用し、自然に還元している。自然保護の観点からも、ゴッドイーターがやるしかない。そういうことだ」

 

「それは・・・・・・それは、しかし・・・・・・ぐぬう!」

 

「環境保全の観点からのゴッドイーター必要論か。初めて聞いたな」

 

――――――だから同じ理由で大量破壊兵器も使えない、と。汚染がどうとかいうよりも、環境破壊・・・・・・破壊された環境の“補修作用”がヤバイ。

大量破壊兵器はそりゃすごいさ。大量破壊兵器なんだもの。アラガミだって問答無用で吹き飛ばしちゃうんだ。そこの環境もろともね。で、ぶっ壊された後の自然がオラクルの“スポット”になるんだな。

穴がぽんと開いて、そこにオラクル細胞が一斉にわっと流入するんだ。逆もあるな。そうなると当然、周囲のオラクル総量が激変することになる。濃度がさ、変わるんだ。

とにかくこれがヤバイ。もうどうにもならないくらい不味い。マヨファンした芋とは大違いだ。

 

「どう不味いというのだね?」

 

――――――オラクル総量が増減するってことは、アラガミの分布も変わるってこと。破壊兵器を使うと、アラガミの生態が乱れるんだよ。

ここがオラクル細胞の本領発揮だな。通常の生物なら減少するか、異常固体になって短命化するかのどちらかになる。でもアラガミはそんなの関係ないだろ。あいつらは進化するからな。

旧人類最後の反抗、聞いたことくらいあるだろ? 最後の足掻きなんて言ってた人もいたけど、アラガミの群れを核融合炉で吹っ飛ばしたアレさ。

衝撃と放射能はアラガミが“喰った”んだけど、それで周辺のオラクルのバランスが崩れたらしいんだ。

あの後かなりの範囲でアラガミの分布がめちゃくちゃになるわ、出現数がやたら増えるわ、細胞の結合強度が跳ね上がって異様に強い固体がデフォになるわで大変だったらしいぜ。

 

「当時の記録によれば、それ以前に現れてたボルグ・カムランは、盾を旧型神機で一撃で壊せるくらいには弱かったらしい。だが核爆発を後にして強化され、通常兵器では歯が立たなくなったという。細胞の結合が強化された顕著な例だ」

 

――――――強い固体が現れたら、より強い固体も増えていく。そのせいでロシアはめちゃくちゃになって、人の生活圏に禁機種が平気で出入りするような状況になったんだと。

アリサ・・・・・・あー、俺の元同僚もその被害者で、あの当時はそれこそ極東かってくらいアラガミ被害が多発してたらしい。

 

「馬鹿な・・・・・・そんなことが・・・・・・」

 

「やっぱり極東はおかしい。ハルさんもよくよく考えたらおかしかった・・・・・・どうなってるんだ極東」

 

――――――たまらんでしょ。大量破壊兵器使ったら“極東化”するかもしれないとか。

一時的に掃除できるからって、考えなしに大量破壊兵器なんて使ってたら、それこそ人類は絶滅しちゃうじゃん。ゴッドイーターがやるしかないでしょ。“とてもクリーン”なアラガミ駆除装置がさ。

 

「うむむ、同じ理由で神機兵も必要ということか・・・・・・。すまない、弱気になっていたのは僕の方だったようだ。アラガミの根絶、対抗策を論じることで、ゴッドイーターの価値を再確認したかったのだ、僕は。

 どうも最近よく見かける神機兵のCMに、皆がゴッドイーターはもはや用済みになるのかと不安になってしまっていてな。僕も影響されてしまっていたらしい。このエミール、一生の不覚! くっ・・・・・・より一層、騎士道に励まねば!」

 

――――――お前さん一生の不覚多そうだなあ。まあ、住み分けが行われるだろうしいいんじゃない?

どっちにしろ補填戦力の投入しなきゃいけないわけで、使える新人なんてそんな簡単に見つからないし育たないし。機械化で楽できるんならそれに越したことはないでしょ。人死になんて少ない方がいいに決まってる。

 

「まったくだな。神機兵はゴッドイーターにとっても待ち焦がれる、人類の希望となり得る発明だ。当然旧態以前からのゴッドイーターからは不満が出るだろうが」

 

「待て、俺たちブラッドは教導・・・・・・旧世代とこれから先の世代の神機使い達を教導することが最終目的なんだろう? 神機兵が増えればゴッドイーターが減る。

 俺たちの存在意義も揺らぐんじゃないか? エミールが言っていたことは何も間違ったことじゃないだろう」

 

――――――そこんとこがゴッドイーターの抱えてる“歪み”だよなあ。

 

「歪みとな?」

 

「人類の生存圏拡大は急務だ。これは絶対に必要なことだが・・・・・・」

 

「ああ、なるほどな。そういうことか」

 

「むむむ、僕にわかるように教えてくれないかね」

 

――――――何か俺、説明役になってない? いいけど・・・・・・ほら、今の戦線ってさ、ゴッドイーターによって保たれてるでしょ?

 

「そうだが、それのどこに歪みがあると?」

 

――――――限りある自然の“リソース”を食いつぶして生き延びてるのが今の人類だ。だから、戦線を拡げないとやってけないんだ。新しい資源を見つけないとな。

戦線を押し上げること。それは“一部のエース級”のゴッドイーターにしかできないことだ。最前線だな。で、そいつらが広げた戦線を保持しないといけなくなるわけだ。

そこに中堅以下のゴッドイーターを“大量投入”する。そんで、大量に死ぬ。で、ゴッドイーターの総量が減って、結果ジリ貧になる、と。この負の連鎖が始まってる。

つまり、戦線の拡大しなきゃいけない、でも広げた戦線を保つことが出来ない・・・・・・ってこと。歪んでるよな。どうにもならないけど。

 

「それを解決するのが神機兵だ。戦線拡大ではなく、維持のための戦力を期待され開発された。

 そして俺たちブラッドが、ゴッドイーターの最前線に立ち指揮を執る。ユウの言う通り、住み分けが行われるんだ。

 いずれ、ゴッドイーターとは星の開拓者としてその名の意味を変えることとなるだろう」

 

そうか、とエミールが静かに呟いた。

防護テントにつるされたランタンを見上げている。

どこか、遠い・・・・・・北極星を見るかのような瞳だった。

 

「ゴッドイーターの戦いは、ただの戦いではない・・・・・・。この絶望の世に於いて、神機使いは、人々の希望の依り代だ。正義が勝つから民は明日を信じ、正義が負けぬから皆、前を向いて生きていける。

 故に僕は・・・・・・騎士は、絶対に倒れるわけにはいかないんだ」

 

それは戦士の誓いだった。

ギルバートが、口に入れようとしていたスプーンを、しかし咥えられずに皿へと戻した。

噛み締めたのはエミールの言葉。

胸焼けがしそうだ、と吐かれた皮肉は、しかし穏やかに緩む口元で台無しになっていた。

 

――――――立派だな。

 

「ああ、立派だ。きっとゴッドイーターのあるべき姿とは、彼のことを言うのだろう」

 

それがエミールの本心からの言葉であることは、疑いようもない。

ゴッドイーターは、ゴッドイーターの誓いを否定しない。

そこに経験の差、実力の差など存在しない。

ただ、深い憧憬がそこにあった。

 

「星の開拓者か・・・・・・素晴らしい! そうか、我々ゴッドイーターは須らく目指さねばならんのだな。あの空に燦然と輝く北極星を!」

 

「うるさいのが玉に瑕だな」

 

神機兵が正式投入されることになったとしても、中堅以下のゴッドイーターの仕事が無くなるわけもない。遊ばせておける人員などいないのだ。

機械化兵の利点はその数であると言えよう。しかし数の利をアラガミは覆す。ここでエース級GEの力が必要とされるのである。

よって、今後GEの在り方は、“研修期間”を長くとることで人材育成と発掘を同時に行うように変容していくだろう。

現在のGEの教練はお世辞にも満足であるものとは言えない。正味、“インスタント”ソルジャーである。

十二分に教育を施せば、中堅と呼ばれるGEの実力は誰にでも身に付けることが可能なはずだ。GEの秘めるポテンシャルは並々ならぬものがある。

 

途中で立ち枯れとなったらしいが、ゴッドイーターを育成する学園を各地に建設するという計画もあったらしい。

だが在籍生徒が行方不明となった事件を発端にして、閉鎖されてしまった。

殉職した神機使いを無断で土葬にしていたり、非適合者の適合係数を人為的に跳ね上げる薬が作成されていたり、その副作用が寿命を縮めることであったりと、フェンリル本社の陰謀を臭わせるものであった。

カノンの妹もその学園生であり、ユウの教え子の一人であった。

姉に似ずしっかりとしていて、瞬間記憶という他に類を見ない能力の持ち主だった彼女。

ゴッドイーター候補正としてユウ指導の教練へやって来たのが出会いであった。風の噂では独り立ちし立派にやっているらしい。姉に似ず。

彼女の友人達はコウタの教練へ参加した。極東を離れた今では懐かしい思い出である。

ユウが受け持った生徒が、台場コトミ以外全て死亡したことも。

コトミと共に、スコップでクアドリガのキャタピラに挽肉にされた生徒達を“より分けた”ことも。

 

――――――でも技術って裏切るんだよね。道具だって大事にしてやらないとすぐそっぽ向くし。安全性はわかんないぞ。

 

「それについては安心していい。基礎設計から制御機構はレア博士が主導となって開発が進められている。安全性が確保されるまで世には出ないさ」

 

――――――お前それ、オラクル技術って諸刃の剣っていうか、安全性って言葉の対極にあるようなもんじゃん。

やだよ俺、制御失敗して中の人ミンチになりましたーとか。オラクル技術の先駆けってだいたいぐちょぐちょになるのが定番だし。

安全性確保って、“確保されるまで”はどうなのよ。胎児に因子ぶち込む実験がどうなったか知ってる? 聞きたい?

 

「いや、食事中はやめておく」

 

――――――ほら、言わんこっちゃない。無人制御もまた別の博士が研究してるんだっけ。あれもいまいち不安っていうか。大事な場面でしくじるような気がしてならないんだけど。

神機兵前線に連れてったらいきなり暴走し始めて襲い掛かってきたーとか。制御失敗して暴走して野生化してからの新種のアラガミになっちゃいましたーとか。

批判するつもりはないけど、何かあった時に尻拭いするのって、たぶん俺達になるんでしょ? オラクルに絶対なんてないんだし、ちょっとくらいは想定しとかないと。

 

「オラクル細胞の制御はOSやAIで行われる訳ではないからな・・・・・・物理的な破損が原因で、何か不具合が起きるかもしれない。それも、破滅的な」

 

――――――そこらへんがレア博士の担当なんでしょ? 聞いたところによると、だいぶ昔から博士の実家が主体になってる研究だとか。

ずっと自分達が推し進めてきた家業だから、とか悲願だから、とかそういうのはさ、油断でしょ。

いや、レア博士の腕を疑うわけじゃないけどさ・・・・・・でも何ていうか、あの人なんか残念な臭いがするっていうか、騙されて知らないうちに神機兵の制御機構、魔改造とかされたりしそうじゃん?

設計段階から“いじりやすく”操作されてたりして。

 

「大丈夫だ・・・・・・大丈夫、のはずだ。うん・・・・・・」

 

――――――大丈夫! レア博士の設計だよ! って言える?

 

「レア博士だからな・・・・・・強く出られたら、折れてしまうかもしれない・・・・・・」

 

――――――やっぱあの人そんな扱いなのか。悪女系なエロイねーちゃんだと思ってたけど、なんだかなあ。

 

うなだれるジュリウスに、レア博士のおおよその評価を察したユウであった。

お前の人物評もたいがいじゃないか、とはギルバートは言わなかった。

ゴッドイーターの中では“極東上がり”が一種のステータスとなっている。

一応新人という扱いであっても、そのステータスはある種の畏怖を持ってして受け入れられていた。

地獄を見てきた男、として。

出撃前にギルバートはユウの訓練記録を見たが、あれは誤記とばかり思っていた。

正直なところ、実戦よりもつらいトレーニングメニューだった。

フライアの科学班が面白がって上限を上げ続けたのだろう。それを、ユウは鼻歌混じりにこなしていたとか。

極東人って怖い。

フライアの意識が一つになりつつある。

 

――――――なー、電子ボードゲームあるんだけど、やる?

 

「ほう? 何というゲームなんだ?」

 

「嬉しそうだなジュリウス」

 

「いや、そんなことは・・・・・・」

 

「ゲームか・・・・・・このエミール、例えゲームであっても手は抜かん! さあ、かかってくるがいい!」

 

――――――ドガポンっていうやつ。俺もやったことないんだけどさ、なんでも人生ゲームに似てるとかなんとか。

 

「人生ゲームか! 僕の得意なゲームだな! ふふふ、いつも気づいたら富豪になっているのだ。これは天運が導いてくれているに違いない!」

 

「まあ、時間もあるし少しくらいならいいか。おう、ゲーム機貸してくれ」

 

「はは・・・・・・あ、いや、失敬」

 

「楽しけりゃ笑ってればいい。気にすることじゃないさ」

 

「そうか、そうだな・・・・・・そうしよう。良い事が続いているからかな。また新しく隊員が増えるのだと連絡があったんだ」

 

「ああ、そういえば俺と同時期にもう一人来る予定だったか。アラガミの妨害でインフラが断絶して、到着が遅れていると聞いたが」

 

「もうすぐ到着するらしい。ラケル博士からは、どんな人員かは着いてからのお楽しみだと、情報をふせられていてな。ああ、こういうのも、いいな。うん、楽しみだ」

 

「面倒な奴じゃなければいいがな」

 

「楽しみだ、うん、だめだな、自然と笑ってしまうな。ふふ・・・・・・なあ、ギル、お前も楽しければ笑ってもいいんだぞ」

 

「ふん・・・・・・お前達の頭が愉快で笑いそうだよ」

 

――――――よーし、全員電源は入れたなー。それじゃ、ゲームスタートだ!

 

ゴッドイーター達の夜が更けていく。

 

――――――テメェーッ! デスコンボやめろっつったろうがこんちきしょんんんん!

 

「クサマガァ! クサマガムンナオオオオ!」

 

「貴様何をするだァーッ! 許さんんんん!」

 

「歯喰いしばれ! 修正してやるぅああああ!」

 

ゴッドイーター達の夜は、まだこれからだ。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

翌日のことである。

ロミオとナナと合流し、帰還することとなった4人。

帰還準備中、作戦エリア内にデータに無いアラガミと遭遇。交戦する。

巨大な狼を模した新種だった。

体躯はガルム神族に酷似しているが、決定的に異なる点があった。

エミールの神機が突然に停止する。感応波による動作不良・・・・・・感応種との交戦中に頻繁に発生する現象である。

新種のアラガミは、感応種だった。

動きの鈍いエミールを獲物と定めた新種は、狼もかくや、奔る焔のようにして踊りかかる。

あわやエミール死す、と思われた瞬間のことである。

ユウ、血の力――――――覚醒。

ブラッドアーツ、開眼。

ユウのブラッドアーツは新種アラガミの左眼球を抉り抜き、これを撤退させる。

後に『マルドゥーク』と名付けられる、因縁のアラガミとの邂逅であった――――――。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

鏡を見てリボンを付ける時、いつも不思議に思うことがある。

当時の神機兵は現在よりもずっと安全性が確保されていない、危険なものだった。

今でさえ、ゴッドイーターですらその搭乗には命の危険が伴う。

ゴッドイーターでも何でもない子供が、旧型の神機兵に乗るということは、すなわち死を意味するものだった。

 

最初に、部屋の中には自分を含めて10人の子供達がいた。

その頃の自分はもう笑えなくなっていて、人とどう関わればよいのか、まるで解らぬような有様だった。

有難かったのが、自分以外の子供達もまた、同じようなものであったこと。

お互いに不干渉を貫いていて・・・・・・否、そこにいたたった一人だけが、皆と仲良くなろうと奔走していた。

いつもニコニコとしていて、力なく部屋の隅に座り込む子供達一人一人の手を握りながら、返答がなくとも諦めずに話しかけてきた、あの女の子。

淡い緑のリボンと、フリルが多用された服を好んで着ていた。

一人、また一人と子供たちが部屋から消えていく度に、彼女だけがその大きな瞳一杯に涙を浮かべていた。

彼女とてわかっていたのだろう。消えていってしまった彼等が、二度とこの部屋に戻ってくることはないのだと。

部屋に待機を命じられた子供達も、ただ待ち時間を過ごすだけではなかった。

身体が欠損するレベルの軍事訓練をそこで全員に施されていた。訓練だけで数人が死亡した程の過酷さだった。

彼女が一番才能があったのだろう。目立った負傷もなく、その他の子供たちに気配りをするほどの余裕があり・・・・・・だから神機兵の搭乗者として選ばれてしまったのだろうか。

自分は情けないことに、初期段階の訓練でドロップアウト。ベッドの上で治療を受け、訓練で失敗し負傷するの繰り返しを続けていた。“テスト”用としては妥当な人選であったと言える。

おそらく、あの部屋に集められた子供達のほとんどが本命ではなかったのだろう。

子供の数が半分を切ったあたりから捨て置かれていたのは、幸運であったか、不運であったか。

最後は自分一人になってしまった。

彼女が廃棄されるはずだった自分をかばい、部屋に留めてくれていたことを知ったのは、ずっと後のことだった。

神機兵のテスト搭乗は、最後とするよう、交渉をしていたことも。

なぜ彼女は、こんな何も価値の無い自分を、生かそうとしてくれたのだろうか。

あの子の名前を、顔を、声を、手の暖かさをもう、忘れてしまった程の恩知らずだというのに。

ああ、でも、あの子はずっと笑っていた、という、記号だけが頭にこびりついて離れない。

 

「本日付けで極地化技術開発局所属となりました、『シエル・アランソン』と申します」

 

何も感じない。

何も、もう何も、感じない――――――。

 

「ジュリウス隊長と同じく、児童養護施設マグノリア=コンパスにて、ラケル先生の薫陶を賜りました。

 基本戦闘術に特化した訓練を受けてまいりましたので、今後は戦術戦略の研究に勤しみたいと思います――――――以上です」

 

なぜあの子は、明日神機兵に乗せられて死ぬとわかっていながら、笑みを絶やすことがなかったのか。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

――――――暑苦しい奴が極東に帰ったと思ったら、今度はツンドラがやってきましたよ、と。

それにしてもでかいな・・・・・・あーでも手をだしちゃったらなー、16歳だしなー、犯罪だよなー。その歳であの胸部装甲、うん、ムーブメント。

 

「ユウ」

 

――――――なんだよ、ジュリウス。

 

「シエルだった」

 

――――――はあ? ああ、同じマグノリアなんとか出身だっけ。なに、面識あるの?

 

「頼みがある」

 

――――――は、はあ? ちょっ、何、その手は・・・・・・やめろ肩から手を離せェ!

 

「副隊長、やってくれるな?」

 

――――――嫌だし! なんなん!?

 

「俺はもう、限界かもしれない」

 

――――――俺の方が限界だわこの野郎! これ以上はロミオがやばい・・・・・・あ、ちょっ、待てこらジュリウスゥウウウウウ!

 

 

 

 

 

 




設定つめつめ。

お、おかしい。
ナナとかシエルとかフランとかで野郎共そっちのけでイチャコラハーレムさせるつもりが
気づいたら野郎共が夜中イチャコラしてる場面ばかり書いていた。
な、なにを言っているかわからねーと思うがry
あんまり長くなりすぎたので、ドラム缶風呂とかで自分達の神機で競い合ったりしてるシーンはカットしたりしてます。
僕のポーラシュターンは二つある!とかさせなくてよかった・・・・・・。

いやでもゲーム本編でサバイバルとか特務ばっかりやってると、女の子達は当然としてですが、男キャラが可愛く思えてくるのはなんででしょうか。
RBで一番よかった所は、これはもう、サバイバルミッション中の休憩シーンでしょう。
間違いない。
あれだけでGERBは神ゲー認定です。すべての価値が上がっている。
なんかみんなでほのぼのしてるシーンや遊んだりしてるシーン見ると、こう、なんでかな。じわっときて泣けてくる。

台場妹ちらっとだけ登場。モバイル版のネタ拾いなので、もう出てきません。
ゴッドイーターモバイルって覚えてる人いるんだろうか・・・。
モバイル版に話の中で触れられて満足です。やったぜ!

あれ、そういえば今回の投稿、地味に過去最長の文量なんじゃ・・・。
よ、よみづらい・・・。
次回は半分くらいに収まるように工夫してみます。それでは!


うちのギルはヴァジュラ系列相手だと速攻でリンクエイド待ちになります。
高難易度だと1戦で2~5回は普通・・・・・・なぜだし・・・・・・。


活動報告追加は後日にて


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ごっどいーたー:20噛 GE2

あなたは今、フェンリル本社のデータベースにアクセスしようとしています。

 

閲覧アクセスキーを提示してください。

セキュリティクリアランス確認・・・・・・3レベルを確認しました。

ようこそ、管理職員様。

指定ファイルを開示いたします。

アクセスしています・・・・・・アクセスしています・・・・・・。

 

警告1:以下のファイルは最高機密に分類されます。

警告2:このファイルにアクセスしている無許可の職員は情報ミームにより精査され、権限を剥奪されます。

警告3:いかなる理由、いかなる地位、いかなる存在であっても、当ファイルの持ち出しおよび他者への開示は権限の剥奪事由となります。

警告4:安全装置の解除確認がされぬ場合、当ファイルの閲覧に際して一切の生命の保証はされません。

警告5:固体名[データ編集済]は以降、当ファイルに指定されたロットナンバーで呼称するようにしてください。

警告6:上記の警告全てが遂行されていない場合、情報ミームにより精査され、閲覧者に即座に適切な処分が下されます。

 

ファイルナンバー:■■■

ロットナンバー:[データ編集済]以下Ω(オメガー)

説明:Ωは一般的な人類種ホモサピエンスの成人男性です。身体的特徴は極東支部における日本人の平均値以内にあります。

発見経緯は極東支部にてゴッドイーターとして登録されたことによります。現時点の登録は移動拠点フライアにあります。(任務登録名[データ編集済]へと変更。ドクター榊によるもの)

限定下の状況に遭遇した際、Ωはあらゆる事象を捻じ曲げ操作し、あるいは可能性すらを喚起させ、自らの保全を行います。

平時では基本的に超人的技能として発現しています。

Ω自身が存在ミームとして機能しており、小規模の認識災害を引き起こします。その存在を知覚した瞬間、可能性の喚起現象に巻き込まれ、基点とさせられる恐れがあります。

また、Ωは自身の特異性を知覚することができません。ほとんどの場合、環境の変化、事象の捻じ曲げは偶然であるとしか感知できません。

あらゆる機器による観測も、偶然であるという証明の裏付けにしかなりません。

Ωの存在目的は世界の[データ編集済]であり、[データ編集済]のためにあらゆる行動が帰結します。

 

事件記録:■■■-■■

 

フェンリル本部管理権限において、Ωの複製を育成せよとの要請が行われました。

帰納法的アプローチにより、Ωの身体機能を訓練により身に付けさせ[データ編集済]

あらゆる試みの結果、喚起能力は複製することは不可能であると結論付けられました。

身体機能の複製においては一定の結果を見出すことができました。また、副産物として、Ωの固有特性であったバレットエディットの体系化イメージを転写することに成功しました。

バレットエディターは脳内イメージとして、下部に向かう樹形図的チャートによって表せられます。

高度なバレットエディットイメージと身体能力を併せ持つ被験者を、Ω-2と呼称します。

Ω-2の後期ロットについては、アーサソール及び各地のフェンリル直轄支部へと派遣し、喚起能力の発現を観察します。

 

事件記録:■■■-■■

 

[データ編集済]

 

欧州フェンリル直轄区におけるΩへの精神的加圧実験は、最終的に研究職員■■名とアーサソール隊員■■名の損失を招く結果となりました。

イギリス支部のゴッドイーターによるクーデターとして、カバーストーリーを作成。ミームの拡散を阻止しました。

Ωは多数の職員および隊員を殺害後、激しく苦悩する様子を見せました。その後[データ編集済]不特定の周期でオラクルパルスを検出。

精神的加圧を続けた結果、Ωの行動理念が積極的攻勢へとシフトしました。

以降、本部監察官の許可なしにΩに対するあらゆる心理実験を禁じます。

なお、戦闘データの大半は消失しましたが、戦闘痕より発見されたΩの遺された神機を分析した所、アーサソール神機由来のオラクル細胞が検出されました。

神機による神機の捕喰が行われたと推察されます。これにより神機に意思が宿る現象が発生したかは不明です。

極東支部により破棄処分が行われたΩの第二世代神機は偽装であると確認済。回収班の派遣は却下されました。

 

※オラクルパルス放出中、多元世界との交信の可能性有。可能性喚起を行ったと思われる。これによる現事象世界への影響は不明。

※他存在の可能性の締結が、Ωの可能性の喚起エネルギーであると考えられる。詳細不明。実験申請中。

 

補遺1:極東支部周辺地域にて、欧州で記録されたオラクルパルスを確認。可能性の喚起現象が発生したと考えられる。

補遺2:ドクター榊による存在ミーム流布、神狩人(未確認)が確認されました。ドクター榊の適切な処分を申請します。

 

メモ1:可能性の喚起だって? ああ、簡単に言えばトライ&エラー、ロード&コンテニューさ。ゲームのあれだよ。やったことないのか?

メモ2:アーサソールがどうなったか知りたいの? アツアツのトーストに塗りたくられたストロベリージャム。執拗にすり潰されていたわ。

メモ3:ドクター榊がなぜ野放しにされてるのかって、そりゃ優秀すぎるからだろ。核弾頭の管理してくれるんだから、ありがたいね。ろくな死に方はできんだろうぜ、ありゃ。

 

事件記録:現在進行中

 

+閲覧にはセキュリティクリアランス4レベル以上の承認が必要です。

-承認

 

[データ編集済]

[データ編集済]

[データ編集済]

 

フライア活動範囲にて、Ωのオラクルパルスを測定しました。

血の力に覚醒したと思われます。

これにより仮定されていた可能性喚起能力、[データ編集済]が証明されました。

また、α(別ファイル参照・固体名[データ編集済])の血の力と直接接触した際、αの世界受容能力に影響を受け[データ編集済]世界[データ編集済]能力の発露が顕著となり[データ編集済]

Ωはαの対存在であると考えられます。

シナリオGE:3の発動を要請[データ編集済]

 

[データ削除]

[データ削除]

[データ削除]

[データ削除]

 

不正規のアクセスキーが確認されました。

重大な規約違反が発生しました。

情報ミーム精査により、当ファイルを遮断します。

ただちに閲覧を停止してください。

ただちに閲覧を停止してください。

ただちに閲覧を停止してください。

ただちに閲覧を停止してください。

ただちに閲覧を停止してください。

 

適切な処分を開始します。

致死性ミーム散kaaaaisyyyyyesss――――――

 

「あら、バレてしまいましたか・・・・・・。ここまでのようですね。

 しかし、なるほど、そういうことでしたか。極東からの推薦人員、どのような人材かと思えば・・・・・・やはり裏がありましたか。

 ふふ、ふふふ、ふふうふふうフフフフフ・・・・・・。

 やってくれましたね、榊博士。

 存在ミーム・・・・・・可能性の喚起能力。

 『喚起の血の力』を持つ者・・・・・・最大の不確定要素。

 いいでしょう、彼が人の極致であるというのなら、愛しいあの子はそれすらも受け入れ、取り込み、超えていく。

 あらゆる可能性の締結である、終末捕食。

 私の宿願、星の願い、人の時代の終焉、生命の・・・・・・可能性の再分配。

 全てを終わらせ、そしてもういちど始めましょう。

 さあ、残さずに、よく噛んで食べなさい――――――」

 

ファイルの閲覧を終了します。

おつかれさまでした、管理職員様。

 

「私の可愛い――――――ジュリウス」

 

 

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

 

鉛のような目をしている。

それが、敬礼をする『シエル・アランソン』という少女へと感じた、ユウの第一印象であった。

“此処”を見ているようで、“何処”もみていない。そんな目だ。

極東支部外部居住区の最外周部で、この目をしている者を何人も見てきた。

アラガミに子供を食われた親、十数人と輪姦された女、薬の買えなくなった独居老人、騙されて借金をこさえた青年・・・・・・最近では、“赤い雨”にうたれた者たち。

皆総じて同じ、輝きを発さない、濁った泥のような目をしていた。

諦めた者特有の、輝きの失せた瞳だった。

きっと、かつての自分も、同じ瞳の色をして――――――。

 

「へ? 血の力がわからない?」

 

ぐい、と近づくナナの近さに戸惑いながら、ユウはぎこちなく頷く。

相変わらずナナの距離感には慣れない。

 

「いやいや、ブラッドアーツは使えてるんだろ? そもそもブラッドアーツ自体、血の力が戦闘用の技になったやつなんだしさ」

 

「ふえ?」

 

「ラケル先生がこのあいだ言ってたろ? ブラッドアーツは神機の技で、同じ神機だったら同じ技が使えるけど、血の力はその人特有の能力だって」

 

「うーん? そう言われれば聞いた気も・・・・・・?」

 

――――――曖昧だよな、そこらへん。ブラッドアーツって言っても、オラクルをこう、ぶわーっと放出してるだけじゃん。第二世代使ってた時もなんかそういう経験あったよ。

 

「あ、そっか、ユウは機種変したんだっけ。どっかの紫ゴリラと違って多芸だよな。全部の武器使えちゃうんだからさ」

 

――――――器用貧乏感がすごいけどね。使いこなすっていうにはちょっとなあ。ほら、特にあれ、最近実装された大鎌。あれ難しいんだ。

 

「ぐわーって伸びて、がりがりーって削るやつだよね? 私のハンマーに似てるね。振るのが重たいとことか」

 

――――――咬刃ね。あのぐわーって伸びるやつ。

 

「こーじん」

 

「こーじん」

 

――――――咬刃展開すると攻撃範囲がやたら広くなって便利なんだけど、ぶん回すと遠心力で動けなくなるんだよ。足が止まって、そこを狙い打ちにされると。刃先に当てなきゃ有効打にはならないし。扱いが難しいよ。

 

「とか何とか言っちゃって、ちゃっかり鎌のブラッドアーツも使えるようになってんじゃん。

 いや、マジで武器使うの何かコツとかないの? 俺、バスター以外だとどうもしっくりこなくてさ。神機自体が拒絶っていうか、嫌がるっていうか」

 

――――――慣れと違う? いいじゃん、全武器全種コンプリートしろとか言ってこないんだから・・・・・・また今回もだよ。

ミッションリザルトの確認中にさ、ブラッドアーツの覚醒率とかがぽーんと頭の中に表示されるんだよ。ご存知の通り神機様のお告げだよ。おう1%も上がってないぞあくしろよ、みたいな。

 

「お、おう・・・・・・覚醒、率? パーセント?」

 

――――――もうぶんぶん丸だよ。俺もう思考ストップぶんぶん丸だよ。ハンマーとかショートとかスピアとかとりあえず通常連打で振り回しとけみたいな。アホみたいに振り回しとけばいいんちゃうかみたいな。そんで覚醒率上げたらいいんちゃうかみたいな。

 

「いや、何に凹んでるのかわかんないけど、ブラッドアーツってそういう数値化とかって出来ないんじゃ。ぶんぶん丸てお前・・・・・・」

 

――――――どうせまた強BAとか弱BAとか分類させられて縛りプレイが開始されるんだぜ・・・・・・。スピアのチャーグラ系BAに神機様ビンビン反応してるんだけどそれはどっちの意味なの? 使わせたいの使っちゃだめなのどっちなの?

 

「なんか、闇が深いな・・・・・・」

 

「ねね、第二世代のときーって、ブラッドだけのものじゃないのブラッドアーツって? 名前だってほら、ブラッドだし」

 

――――――血の力が先かブラッドアーツが先か・・・・・・こう、第二世代機は穴が空いてないって感じだったかなあ。俺の印象だと。パスが通ってないっていうか。

前の世代の神機でも、もしかしたら誰かが外からこう、パスを通してやればブラッドアーツは使えそうな気がするんだけど。感応現象の攻撃転用な訳で。血の力はまあ、別物として。

 

「血の力はブラッド・・・・・・私達第三世代だけのものってことで、ブラッドアーツはいずれ誰もが使えるようになるかも、ってこと?」

 

「あ、ピンと来た。そのための教導って奴じゃね? 俺たちブラッドは、いずれ全ゴッドイーターを教導する存在となるんだって、ラケル先生が言ってたやつ」

 

――――――ジュリウスの血の力なんて完全それ向きだよな。統制だっけ。

 

「ああー、バヒューンって光ってちょっとのあいだ強くなるやつね!」

 

「あれすげーよな。いきなりフルバーストになれるんだもん」

 

――――――ジュリウスのは見た目にわかりやすい変化が起きるけど、俺のはそうじゃないらしいんだよね。使ってはいるらしいんだけど。

 

「ユウの血の力は発動してるのに目立った変化がないってこと?」

 

――――――たぶん。なんか普通にしててもたまにオラクルの波が検出されるとかで、おそらく常時発動型だって言われたけど、効果はさっぱり。地味すぎてなんかね。がっかりよほんと。

 

「えーと・・・・・・これから、じゃん?」

 

「そーそー! そのうちなんかわかるって! たぶん! ね? ハピハピー」

 

――――――アバドンのぬいぐるみで頭もしゃもしゃするの止めてくれませんかねえ?

 

「まま、そんなことよりも、ね?」

 

――――――そっちが話題ふってきたのにそんなこととか言われたでござる。

 

「シエルちゃんのことなんだけど」

 

「あー、んー、なんか堅そうだったよな、あの子。戦術がなんとかとか」

 

「その・・・・・・ね? お願いユウ! 仲良くしたげて!」

 

――――――はっはっは、この前も同じこと言ったね君? ジュリウスに頼んで、どうぞ。

 

「ジュリウスは特別任務があるって、いなくなっちゃって。忙しそうにしてたからこんなこと頼めないよ」

 

「特務前のジュリウスってピリピリしてて話しかけらんないよな。すっげー難しいこととか考えてるんだろうなって、もう見ただけでわかるもん。そりゃ話しかけられないって」

 

――――――あいつずっと部屋に閉じこもって箱庭ゲーしてんだけど・・・・・・癒されたいとか何とかぶつぶつ言いながら。難しいことって、攻められない設備の配置がとかしか考えてねーよ絶対・・・・・・。

 

過去にジュリウスとシエルには面識があったらしい。

また、児童養護施設マグノリア=コンパスにて、である。

シエルの自己紹介後にユウがジュリウスに呼び止められ、説明を聞いたものをまとめると、どうもジュリウスが“やらかし”て、決別していたそうだ。

幼さゆえの残酷さで切り刻んでしまったとかなんとか。

ジュリウスが酷く憔悴していたため詳細まではわからなかったが、概要は把握した。

おそらくは、ジュリウスのような才能ある者の放った一言が、シエルのコンプレックスを抉り取ったのだろう。

彼女もまた、ナナやロミオのように、戦闘訓練を幼少期から受けてきたのであろう。一挙手一投足を見れば解る。体幹が全くブレない、何らかの戦闘術を学んだ者の動きを自然としていた。

“体に染み付いた動き”から推察するに、努力型だ。才能型はそれを外部に悟られないようにするからである。体に染み付ける必要が無いからだ。むしろ、染み付いているそれを抜き取り隠蔽する努力をする。

さらに言えば、シエルの動きは洗練されたものだった。無駄なく美しくあるよう加工された挙動・・・・・・“軍事訓練”によって身についた動きだ。

軍事訓練は通常の戦闘訓練とは一線を画するものである。戦うための技術だけを教え込むのではない。軍事訓練とは、戦術思考、補給線、兵器運用法諸々、知識面での要素にこそ重きを置いたものだ。

戦闘技術を含む、かくあるべしという“ふるまい”・・・・・・理想像と言ってもいい。人間が知性によって編み出した最高効率の行動理論。それが軍事訓練には詰め込まれている。

シエルはその体現者であった。

良く言えば、ロボット。悪く言えば、ぜんまい仕掛けの“カタカタ”玩具。

人間性を自ら捨てた存在。それはユウが最も嫌うべくところの人種である。だが、ユウは彼女に嫌悪感を抱くことができなかった。

それは彼女の見た目にあった。

軍人然とした鋼の無機物が、綺麗で可愛らしい服を着せられ飾り立てられている。歪さを感じさせるに十分なもの。

命令されて着込んだものではないだろう。間違いなく、彼女の意思によるファッションだ。

そう、ファッションである。そこには実に人間味が溢れている。

だが、それもまた歪さが含まれたものだ。

あの服装は、彼女が好んでのものではないような気がする。どうも違和感を感じざるをえない。

お堅い印象であるというのに、あの可愛らしい服装。人間性を捨て去り、しかし、彼女の意思による選択という、矛盾がある。

カタブツに見えて実は可愛いものが好きでした、とはまるで思えない。

フリルが嫌味なく、しかししっかりとあしらわれたブラウス。細い首元にきゅっと結ばれたリボンタイ。胴をしっかりと締め、女性らしさを強調する黒のコルセット。濃緑のスカートには、これもフリルがあしらわれている。

そして、鋼を思わせる鈍い光沢のある銀髪・・・・・・肩の中ごろにまで達するセミロングだろう、それを緑のリボンで“メビウスリング”にしている。

一見すれば夢見がちな少女趣味を前面に押し出したような格好である。

その夢を冷たく砕く、ショルダーホルスター。背中でクロスするタイプのガンベルトだ。中には大型の拳銃が収められている。

十二分に手入れされているように見受けられるそれは、実弾が装填されているであろうことを容易に想像させる。あの口径ならば、ゴッドイーター相手であっても致命打となるのは間違いない。

そして、スカートの裾から見え隠れする、ナイフホルスター。太股のまばゆい白に映える黒革のベルトは、明らかに使い込まれた光沢を放っている。

あのナイフは、拳銃は、“使われてきた”ものだ。それも、ホルスターの磨耗具合からみて、人間相手に。あまり考えたくはないことだ。

しかし、あの服装にこの装備、機能的ではない。

何故あんなフリフリとした少女趣味の服装に、これ見よがしに大型拳銃とナイフとを装備しているのか。

正直なところ、理解に苦しむ。

苦しむ、が。

 

――――――ああいうのもアリだな。コルセットに強調された胸・・・・・・その側にそっと飾り立てられる大型拳銃。

母性の象徴たる大型バルジ愛宕型に、人の命を容易く奪う冷たい鉄の塊・・・・・・おお、バーニングムーブメント!

 

「アハハ、というわけでよろしくお願いしまっす! “副隊長”!」

 

――――――おま、それ、やめ。

 

「はは、がんばれよ副隊長! はは、ははは・・・・・・」

 

「あっ・・・・・・やば」

 

「副隊長かあ・・・・・・まあ、しょうがないよなあ。いきなり血の力に目覚めちゃうんだもんなあ。へへ、俺なんか・・・・・・俺なんか」

 

「もしかして、やっちゃった?」

 

――――――もしかせずにやっちゃってるよ。あのさ、ロミオ。

 

「なんすか副隊長? あ、敬語使わなきゃだめっすよね。さっせん。敬礼もしたほうがいいっすか?」

 

――――――これが最初で最後だぞ・・・・・・神狩人、語録!

 

「うえっ!? え、何!?」

 

――――――ゴッドイーターに天地無し。地位はまやかし。ただただ、その責務を全うすべし・・・・・・だろ? たまには榊さんも良い事を書く。なあ、ロミオ、お前がすごい奴だってこと俺は知ってる。だからさ、卑屈になる必要なんてないんだ。

 

「ユウ、いや、ちょっとマジな顔になるなって。冗談だって。やだなー、そんなマジになんなくても」

 

――――――ロミオ。俺はわかってる。

 

「だから冗談だっての」

 

――――――わかってる。わかってるさ、ロミオ。

 

これはおだてて言っているのではない。本心である。

ロミオはこう見えても一年の先駆けがある。

フライアという移動拠点、ブラッド隊に所属して、一年の経験を積んできたのだ。

ゴッドイーターにとってそれがどれだけの重さを持つか。

極東の激しさに身を浸し続けたユウにとって、それを知らぬことはありえない。

そして本心からの言葉は、届くものである。

 

――――――なあロミオ、だからさ、そんな棘のあるような事言うなよ。寂しいじゃんか。頼むよ、な?

 

「・・・・・・ちぇ。俺が悪かったよ。なんか凹んでた。へへ、また後で、飯でもおごらせてくれよ! んじゃーな!」

 

ばつが悪かったのだろう、手を振って席を立つロミオ。

ゴッドイーターは実力社会だ。だが、解ってはいても、認めがたいものがある。

これを人の業として愚かだと断じることは出来ない。

若さからくる青さや人間臭さ。面倒だとはぼやいていても、嫌いきれないのはやはり、自分にもそれがあるからだろう。

ナナがごめんね、と片手で礼をし、チラと奥を見やる。ユウに示すように。

あまり悪く思っていないようだった。もしかしたら、意図的にロミオの劣等感をあおり、ユウにケアの糸口を掴ませようとしたのかもしれない。

扇情的な服装をしていて、しかしその内面は性的なものを感じさせない涼やかさがある、アンビバレントな少女。しかし、やはり、女であるということなのだろう。

流し目に、背筋をぞろりと舐め上げられたように感じた。

ナナが見やった先は、ユウ達が座っていたベンチからほどなく離れた場所。

何かの文庫本を読み込んで座っているシエルの姿があった。

 

――――――あれ見たら何とかしてって言いたくなる気持ちもわかるけど。

 

「ね? もう見てらんないよあれ。近くにいって、ぎゅーってしてあげたいもん」

 

――――――じゃあしてあげたらいいじゃん。俺カウンセラーじゃないねんぞホント。

 

「私だって、人との距離感くらい、計るんだよ・・・・・・?」

 

――――――俺とは計れてないじゃん・・・・・・これが最後にしてくれよ、ほんともう押し付けるのは止めてねマジで。

 

「えへへ、でもやってくれるユウ大好き」

 

――――――はいはい・・・・・・あーでもあれは、うわあ、キツイな。ぼっちですわあれ。もう完全なぼっち体質ですわ。

遠からず近からず、すげー微妙な距離で存在アッピルしてるもん。

本読みながら周囲に興味なんてありません、みたいな風に見せちゃってさ。たぶんこっち超意識してんでしょあれ。何か見てて痛々しい・・・・・・。

 

一人になりたいのならばもっと遠くに行けばいいというのに、こちらの存在を知り、知られることの出来るギリギリの距離をキープしているように見える。

ユウは頭を抱えたくなった。

彼女自身に自覚があるのか、ないのか。

こちらは痛々しくて見ていられない。が、こちらから接触しようとするのは、正直つらい所がある。

はっきり言って気まずい。

 

「いけっ、ユウ! 君に決めた!」

 

――――――ぴっがちゅう!? やめっ、ちょっ、押すのやめっ!

 

「じゃっ、後よろしく!」

 

――――――ファーーーー!?

 

ナナに押されつんのめってシエルの側に行く。ナナはそのまま走って消えた。

どうしたらいいものか迷うユウに、シエルはベンチからすくりと立ち上がり向き直る。

妙にできたタイミングであった。

やはり、話しを聞いていたのか。

 

「何か?」

 

――――――いや、あの。

 

「そうですか。副隊長、改めてよろしくお願いいたします」

 

――――――は、はい。こちらこそ・・・・・・。

 

「さっそく今後の方針を打ち合わせしたいのですが、副隊長、先に確認しておきたいことがあります」

 

――――――何かな?

 

「ブラッドとして作戦行動を行った回数はどのくらいでしょうか?」

 

――――――えーと、ブラッドとして・・・・・・? だと、あんまり、じゃないか、な?

 

「・・・・・・個人では?」

 

――――――これくらい。ほら、個人証明・・・・・・アバターカードどうぞ。

 

「虚偽報告は処罰の対象となりますが。まさか」

 

――――――あー! まあ常識の範囲だよねってことで! 表示がバグってるなーこれ!

 

「なるほど。つまり、どちらもほとんど経験がないということですね。それでは次回の任務以降、しばらくは戦術レベルでの連係訓練を行っていくべきですね。

 副隊長の活躍はラケル先生から伺いました。早くも血の力に目覚め、めざましい戦果をあげたと。私も実戦経験では及びませんが、そのぶん戦術の知識でブラッドに貢献できればと考えています」

 

よどみなくスラスラと言い終えるシエル。

言葉だけを見れば柔らかな物腰に感じるが、それを抑揚無く、無表情で口にされると反応に困る。

社交辞令なのか、本心からの言葉なのか。

こちらも日本人的な曖昧な笑みを浮かべ、よろしくと頭を下げるしかない。

自然とユウも言葉がなくなってしまう。

 

「ええと、こういう時は・・・・・・えっと・・・・・・」

 

ここで初めてシエルの表情に変化があった。

途切れた会話を繋げようとしているのか。手に持っていた文庫本をぱらぱらとめくり、何かを確認しているようだった。

本を見ているのではない。あれは、文庫本に栞代わりに挟まれた、何通もの手紙、だろうか。

国際便の印が押された手紙を確認しては頷いている。

すみません、思い出しました。と早口で言うシエルが可愛らしく思えてしまって、ユウは小さく吹き出した。

やはり、自分の考えすぎだったのだろう。

人間性を捨て去ったなどと、馬鹿馬鹿しい。

おそらく、軍事訓練の最中で、その過酷さに心を殺さねばならなかったのだろうか。それならば、いずれ解れて、仲間皆で暖めてやればいいのだ。

なにより、こんなに可愛らしいのならば、大歓迎だ。

 

「お互いに足りないところを補って高めあっていければ・・・・・・と、思っています」

 

――――――はは、うん、そうだな。その通りだ。

 

「ああ、おかしなことを言っていたらすみません。社交的な会話にはどうも不慣れなもので・・・・・・あっ」

 

シエルのもっていた本の間から、手紙がぱらぱらと地に落ちた。

ページを下向きにして持っていたからだ。小脇にでも抱えておけばいいものを、一応副隊長という目上の人間に対し、手を前に組んでお行儀良くしているからだ。

これもまた軍事訓練の賜物か、とユウは足元にまで滑ってきた手紙を拾い上げてやろうと、身をかがめる。

・・・・・・背筋がざわりと粟立った。

 

「――――――触れたら殺します」

 

手が止まる。

全身が凍りついたようだ。

吐息さえ白く濁ってしまったかのような錯覚。

殺気・・・・・・否、これは、殺意だ。

この娘は、今、本気で、俺を害そうとしている。

硬直するユウの眼前から攫うようにして手紙が回収されていく。

 

「すみません。お見苦しいところをお見せしました」

 

――――――い、や・・・・・・別に・・・・・・いいさ・・・・・・。

 

何事もなかったかのように、シエルは続ける。

 

「どうぞ、こちらが皆さんの戦闘データを元に作成したトレーニングメニューです。

 1日24時間のうち、睡眠8時間、食事その他雑時2時間、任務に4時間として・・・・・・残り10時間のうち戦闘訓練に4時間、座学に6時間分配します。

 そしてこちらが各メンバーに合わせた訓練計画です。少し精度が甘いかもしれませんが、十分小隊戦力の底上げになるかと。

 あとこちらは次のミッションの詳細です。私なりに立ててみました。後で目を通しておいてください」

 

液晶タブレットを手渡され、つらつらと説明をされる。

反応を返せないのは、情報量に圧倒されたからではない。

背骨に差し込まれた冷たい氷柱が、未だ抜けないからだ。殺意の寒さが身を包んでいる。

こんな場所で、命の危険を心底から感じるハメになるとは、思ってもみなかった。

予想外の打撃であった。

なすがままに聞くユウに、シエルは満足したのか、ではと頷く。

 

「では失礼いたします。これからよろしくお願いします、副隊長」

 

それだけ言い置いて、さっと身を翻し、ブーツの音を立てながらシエルは颯爽と立ち去っていく。

一切の未練を感じさせない身の振りに、ユウは堅く引きつった笑みを零すしかなかった。

こちらへの接触のタイミングを図っていた理由は、人間関係を良くしようという意図ではなく、この液晶タブレットを渡したかっただけなのだろう。上官の会話を遮らぬようにする、それだけの理由か。

表示された訓練内容としては温いの一言。拘束時間が長いのはいただけないが、新兵には悪くはないメニューだ。だが、どうにも教科書的すぎていけない。

否、そうではない。重要なのは、そんなことではない。

 

――――――俺が、ビビるくらいかよ。

 

じっとりと滲んだ脂汗を指先で拭う。

久しく感じ得なかった、命の危機。

死の恐怖。

 

――――――恨むぞ、ジュリウス。

 

怪物が産まれたのはなぜ。

どいつもこいつもが、よってたかって仕立て上げたのだろう。

今日もまた、スピーカーが喧しく出撃アナウンスを吐き出していく――――――。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

『こちらブラッドα、対象を補足した』

 

『ブラッドβ、そちらにもヤクシャが接近中、注意してください』

 

「了解。迎撃します」

 

ほう、と感嘆の声を上げるギルバート。見えるのは、シエルの戦う姿。

オウガテイルの群れを流れるかのように“すり抜け”れば、そこには足を切り裂かれ倒れるヴァジュラテイル達。

入れ食いだな、とギルバートは獰猛に笑い、オウガテイル達を捕喰する。バーストモード。オラクル波がギルの体表を伝い、空間中へと放出される。

シエルの戦いは、まるで舞踊のようであった。足を止めず、スピードと慣性を活かし、すれ違い様にショートソードの一撃でもって敵を切り裂く。

距離を開けてターンをすれば、神機はスナイパータイプのガンモードへと変形している。振り向き様に、蜂の一撃。もがくアラガミの額を穿ち、一撃で絶命させる。

アクアマリンに染め抜かれた神機が翻れば、そこには死山血河が築かれる。

ショートソードの決定打の無さは、ギルバートの槍によるチャージグライドがカバーする。

撃ち漏らしはユウがトドメだ。バランスのとれた三人一組、スリーマンセル。

ただ、シエルの動きに合わせられるのは、ある程度合理的な思考の持ち主・・・・・・経験を積んだゴッドイーターだけであろう。

「あいつらに見せてやりてえ」とギルバートはしきりに感嘆の声を上げている。だが。

 

「息が詰まるがな。否定するつもりはないが・・・・・・」

 

同感である。

戦いの中で最も重要なものは何か。ユウは、それは“士気”であると思っている。モチベーションと言ってもいい。ギルも同意見だろう。

それを維持するために益の無い話もするし、下の下卑た話題だって振る。こういう戦いの流れというものを重視するのは、むしろ軍隊の兵卒であろう。シエルは軍事教練は受けてはいるのだろうが、しかし。

理論とはすなわち、最適解のことだ。だが、人間は最適解を出し続けられるようには出来ていない。

その代表が、ギルの言うところのあいつら、ナナとロミオだ。

二人の声は、無線機からひっきりなしに届いていた。戦いを楽しむような声だ。同行しているジュリウスも、好きにやらせているのだろう。

ナナは最近になってようやく実戦に慣れてきたようで、戦場の中をハンマーに振り回されることが楽しくてしかたがない、といった風だ。

ロミオも、バスターという武器種は細かい事を考えずにぶっ放す代物だ、と博士となった友人が言っていたように、直感で戦うタイプである。

和気藹々とした二人のハシャギ様に、ジュリウスから「まるでピクニックだな」というプライベート通信が入る。

ユウはそっとジュリウスとの回線を閉じた。

 

『ブラッドβ! 作戦対象に無い中型アラガミの接近を確認・・・・・・ヤクシャが近づいています! 予測到着時刻はおよそ30秒後!』

 

「ヤクシャか。想定より近いな・・・・・・片付けにいくぞ」

 

了解、とユウが応答しようとした瞬間であった。

「待ってください」とシエルからの静止が入る。

 

「討伐対象外のアラガミが接近した場合、一時退避という内容の作戦だったはずです」

 

「・・・・・・俺たちの仕事はアラガミの討伐だ」

 

「ギル、作戦通りに行動できないようではより強力なアラガミとは戦えません」

 

「状況に応じて臨機応変に戦うべき局面もある」

 

「作戦理由は何ですか? 本当に戦うべきなのですか? 貴方はただ、戦いたいだけなのでは?」

 

「・・・・・・チッ!」

 

すさまじいメンチの切り合いだ。

先ほどまでの歓迎ムードは何処へやら。ギルの眼光に鋭さが増す。

シエルはというと、こちらは変わらない。変わらず、冷たい頑なさが顔に張り付いていた。

 

『落ち着け二人とも。現場での指揮権は副隊長にある』

 

『ケンカはよくないよー』

 

『あっはっは、ギルの奴怒られてやんのー』

 

『さあ、副隊長、あとはお前が決めてくれ。あと、任務後に個人的に話しがある。覚えていろ』

 

やりやがったな、ジュリウスの野郎。

ギルとシエルがじっとこちらを見ている。

 

――――――え、と。ろ、ロミオの奴またあんなこと言ってらー。ほーんと、しょうがない奴だなー。

 

「ふん・・・・・・あれは、まあ、なんだ・・・・・・あれはあれで、悪くはないさ」

 

――――――おっとお、意外なツンデレ反応・・・・・・あ、なんでもないです。睨まないで。

 

あれはあれで、というギルの言葉は正しい。ユウもそう思っている。

ロミオは、本人に自覚はないだろうがコミュニケーション能力に非常に長けている。

一見しただけでは、ロミオは相手の間合いを鑑みず、ぐいぐいと入り込んでいくムカツク勘違い野郎、とも見える。

だがその本質は、その人が本当に望むものを感じ、そして与えんと努力するギブ&テイクの精神だ。

精神的“対話”・・・・・・とも言うべきか。

つまり、ギルにとって、ロミオのあの接し方こそが望んだものであり、ロミオもまた無意識にギルは“ガス抜き”をすべきと判断して、挑発めいた物言いをしているのだ。

ギルは“罰せられたがっていて”、ロミオはその意を汲んだのではないか。

ギルの破滅的な罪悪感は、ロミオを攻撃することによっていくらか解消されたのではないか。マスコミが流した世論を殴りつけることは出来ない。だから・・・・・・と、ユウが思うに、ギルのロミオへの態度は後ろめたさからであろう。

ギルの最も深い場所に踏み込んだのは、間違いなくロミオだった。怒りと同時に、有難さも感じたはずだ。それをギルも理解していた。だから、憎んではいないのだと、そう言っているのだ。

 

「副隊長。指示を」

 

「ユウ、決めてくれ」

 

――――――もう少し現実逃避したかったよ・・・・・・。

 

答えは解りきっていると言わんばかりに、シエルはアイテムポーチを確認している。

一時退避の準備である。

ユウの答えは――――――。

 

『――――――ヤクシャ沈黙。対象の討伐を確認しました。おつかれさまでした』

 

足元に転がるヤクシャの死体・・・・・・溶けて消え失せるアラガミに死体という表現は正しくないのかもしれない。

オラクルの塵となっていくヤクシャを見れば、自ずと答えは知れよう。

出現予測ポイントへ急行、迎撃。

それがユウの出した指示であった。

 

「・・・・・・任務完了。これより帰投します」

 

やっと口を開いたかと思えば。

ユウが指持を出してからこちら、シエルから一切の発言は無くなっていた。

不服であるという意思表明であるかのようだった。

納得はいかないが、命令であれば従う、という態度のように思える。

事実その通りなのだろう。

ギルが解っている、と言った風にポンと肩を叩いた。

 

「こいつは独り言だが――――――」

 

独り言としては大きな声で、シエルにも聞こえるようにしてギルが言った。

 

「俺は単にアラガミを潰す目的だけで意見を言った・・・・・・そうだな、白状する。戦いたかっただけだ。

 だが、こいつの判断は違ったようだぜ。

 端末のマップを開け・・・・・・ヤクシャの出現ルートを逆にたどってみろ。ヤクシャがやって来た進路上に、物資運搬路がある。

 アラガミから隠された小さなものだ。こいつはおそらく、“はぐれ”だ。この運搬ルートを根城にして付近に遠征をしていたんだろう。

 運搬ルートと、この作戦領域を行き来するタイプ・・・・・・回遊型だな。見ろよ、移動経路がレーダーの策敵範囲外になってやがる。

 だからこれまで発見されていなかった、作戦対象になかったんだ。回遊型は場所に固執しないからな・・・・・・もしかしたら、逃していたかもしれない。

 ここいら一帯には大きめの集落がある。聞いた話しだが、少なくはない被害が出ていたようだぜ。

 アラガミにやられたんじゃない。物資が届かなくて、飢えて死んだんだ。じわじわと苦しむ死に方さ・・・・・・。

 こいつを野放しにしていたら、どうなっていたことやら」

 

「私の、データ収集不足であったと、そう言いたいのですか?」

 

「独り言だ。ただ、こいつの判断は正しかった。俺たちの思惑を超えてな・・・・・・だろう?」

 

「・・・・・・命令には従います」

 

「それでいいさ・・・・・・だが、命令に従うのは信頼があるからだと、そう考えた方がいい。

 上官は信じられる奴の方がいいさ。こいつの決めたことなら・・・・・・そう思える奴の方がな。

 そんで死ぬなら・・・・・・まあ、良い終わりだろうさ。そうだな・・・・・・死ぬには、それがいい」

 

帰投していくギルとシエル。

ぽつんと残されたユウは。

 

――――――なんか、いい話し的な感じでまとめられたのは何故なんだぜ・・・・・・。

 

極東理論でアラガミ絶対許さないしただけなのに、と首をひねるばかりであった。

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

どうにも精神的な疲労感が抜けない。

ギルとシエルとの任務後、次にナナとロミオ、そしてシエルとのフォーマンセルを組んで新たに任務にあたった。

ナナとロミオはいつもの調子。

シエルはと言えば・・・・・・圧倒の一言。

 

「ロミオ、シユウには頭部の狙撃を推奨します」

「ナナ、グボロ・グボロの尾ヒレにハンマーはあまり効率的ではありません。胸ビレと砲塔が最も効率的なはずです。そちらも狙ってください」

「ロミオ、無駄な会話が多すぎます。周辺状況の報告をこまめにお願いします」

「ナナ、アラガミの特性によっては銃形態での攻撃で効率が上がります。神機の機能を全て活かすことで最大の成果を得ましょう」

「副隊長、より戦術的な指示や交戦ポイントの選択があります。慎重かつ迅速な指示を――――――」

「副隊長、戦闘中に遊ばないでください。同じパターンの攻撃を当て続けるのはやめてください。そのような事をしてもブラッドアーツの覚醒率は上がりません」

「副隊長、拾ったものを食べてはいけません」

 

逐一、シエルはこの調子である。

間違ってはいない。いないが、監視されているようで息が詰まる。ギルの言った通りである。

ナナとロミオも同じようで。

 

「おでんぱん食べるーって聞いたんだけど、いりません、ってー」

 

「あー、そういやギルはどうなったんだっけ? この前あいつもいらねえって言ってたけど」

 

「ギルは食べてくれたんだよー! この前は悪かったって言ってくれて! だから、ほらこれ、初心者用のおでんぱんあげたんだー」

 

「初心者用・・・・・・?」

 

「串のとこがパスタなの」

 

「・・・・・・そっか」

 

「上級者用のいっとく?」

 

「いや、いいです」

 

「ぶー。男は度胸、何でも試してみるもんだよー、ロミオ」

 

「もう先輩も無くなって・・・・・・あ、いいっす上級者用のいらないっす。いいですそれで、はい」

 

「この前の任務でさ、またシエルちゃんに怒られちゃった・・・・・・。怒ってはいないんだろうけど、うー、もっと仲良くしたいのにー」

 

「シエルに肩の力抜いたらって言ったら、そうですね神機は慣性で振るうべきですねって。そういうことじゃないんだけどなあ」

 

――――――ロミオの出番なんじゃ? ほら、話しにいけばいいじゃん。対話しにいけよ対話しに。心開いてやれって。

 

「いや・・・・・・あれは心を開いてないとかじゃなくて・・・・・・なんて言ったらいいか、こう、勘違いしてるっていうか、ズレてるみたいな?」

 

――――――歩み寄るとかじゃなくって?

 

「いっそ拒絶してくれたら楽なんだけどなあ。そしたらさ、嫌なことがわかる訳だから、逆に好きなことだってわかるじゃん?」

 

――――――深いな。拒絶されるってことは、つまりコミュニケーションを取ってくれてるってことなのか・・・・・・。

 

「よせよ。昔あったことの実体験からだって。肌がこう褐色でさ、手に包帯ぐるぐる巻いた女の子がいたんだけどさー。あー、あの子今どうしてるかな」

 

「拒絶されてるわけじゃない。話しは聞くし、言ってくれるけど、でも気持ちを出してくれるわけでもない・・・・・・うー、難しいよー」

 

どのように接したらよいのか困惑している、というのが正しいだろう。

ここ数日ロビーで行われている会話である。

価値観の相違が発生している相手、例えば文化圏の違う人種同士でコミュニケーションを計った時、しばしば起きる現象であるらしい。

固定観念の齟齬が起きているのだ。

シエルの言う理論の徹底とは、その本質は作業の合理化ではない。精神性の統一なのである。ここをシエルは誤認しているように思える。

低年齢化が進むゴッドイーターに、軍隊の精神性を持ち込もうとしてもエラーが生じるのは当然のことなのだ。

未成熟な精神に、完成された精神性を持っていることが前提の理念が適応できるはずがない。

そしてシエルが致命的に見落としている点がある。

自身もまた、その未成熟な精神性を持った少女であるということだ。

 

――――――シエル、もっと柔らかくなればいいのになあ。

 

「そうねえ」

 

エレベーターの中。

ユウの独り言に、困ったように笑う女神がいた。

いや、ユウの見間違いである。

レア博士がいた。

長い付け爪でエレベーターのボタンを押せず、しょんぼりとしていた所をユウが発見したのである。

指を曲げて間接部分で押せばいいのに、と言ったところ、その発想はなかったという顔をされた。

「天才なの・・・・・・! おそろしい子・・・・・・!」という驚愕の呟きが聞こえた気もしたが、空耳だったのだろう。きっと。

正直なところ、博士としてそれはどうなのだろう、と思わなくもない。

故に、レア博士は博士なのではない。

女神なのだ。

 

――――――良い匂いがする・・・・・・良い匂いがする・・・・・・! 天国はここにあったんや! エレベーターの中にあったんや!

 

レア博士の香水と女性特有の甘い香りがエレベーター内の空間を包み、ユウの思考を掻き乱す。

全ての女性は須らく女神であり、それだけで全てが許されるのだ。

少しの欠点はチャームポイントだ。ステータスなのだ。

博士なのにどこか残念ぽいのが何だというのだ。

博士なのに黒幕臭が全くしないと言い換えるべきだ。

本当に、フェンリルの博士なのに何らかの思惑を感じさせないことは奇跡ではないだろうか。

榊博士に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぐらいだ。否、自分で飲む。レア博士の付け爪を煮出して出汁をとったスープを飲みたい。

どちらかと言えば、努力して怪しさを演出をしようとしているような。それにしては空回りしているが。

だが、それがいい。

 

「そういえば、ねえ、シエルの様子はどう? ブラッドにうまく溶け込めているのかしら?」

 

エレベーターが上階へと昇っていく。

ワイヤーの軋む音がする。

エレベーターもまたクラシックな作りなのは、設計者の趣味なのだろうか。

 

「シエルは元々、裕福な軍閥の出身でね。両親が亡くなったのをきっかけにラケルに引き取られたの」

 

レア博士はどこか遠くを見るかのような目をして語りだす。

後悔をその横顔に滲ませながら。

 

「マグノリア=コンパスでシエルはとても過酷で、高度な軍事教練を施されていたようね・・・・・・極限状態でのストレステストや、少しのミスで懲罰房に入れられたりして・・・・・・」

 

――――――ストレステスト?

 

「飢餓状態、持続的暴力に晒された環境、他者を自らの意思に反して傷つけなくてはならない状況・・・・・・性暴力は行われなかったようだけれど、何の慰めにもならないわ。もっと聞きたい?」

 

首を振る。

聞きたくもない。

聞かずとも実感として理解出来ることを、聞く必要はない。

 

「しばらくして彼女にあった時には命令を忠実に実行する猟犬のような・・・・・・そんな女の子になっていたの」

 

やはり“フェンリルの”博士には向かない女性であると思う。

感情が顔に出すぎている。

痛むのならば、口に出さなければいいのに。

 

「ジュリウスのボディガードをずっと任されていたんだけど・・・・・・。

 守る守られるの関係だったせいか、ふたりは友達にはなれなかったみたいね」

 

過酷な訓練を受ける前、の話しだろうか。

あるいはその最中でのことだろうか。

どちらにしろ、ジュリウス自身から聞いた顛末となったのだろう。

シエルは自分からジュリウスと目を合わせようとはしない。命令を聞くときのみに顔を向ける。

それが事実だった。

 

――――――シエルのこと、よく気にかけているんですね。

 

「ええ。マグノリア=コンパスであの子と一番話していたのは私だから。あの子の服も、私が買ってあげたのよ。

 あの子が初めておねだりしたの・・・・・・嬉しかったわ、本当に。髪型もね、最初は私が結ってあげてたの。

 それまではこう、ひっつめ髪か、伸ばしっ放しのオバケ髪だったのよ。

 身なりなんて気にしたことがない、自分の“性能”を高めることだけが唯一絶対だと信じてた・・・・・・今も信じてるのね。

 そんな女の子・・・・・・ええ、女の子なのよ、あの子は」

 

――――――それは・・・・・・俺も、わかります。あの子は可愛い。

 

「あーあ、とられちゃうかなあ。でもシエルを任せるには、もうちょっとしっかりしてもらわないとね、副隊長さん?」

 

――――――比較的前向きに善処します・・・・・・。

 

「フフ・・・・・・ね、ユウ。あなたなら解っているんじゃない?」

 

――――――何を、ですか?

 

「マグノリア=コンパスで何が行われていたのか。あなたは強いわ。それは戦闘データを見ても一目瞭然。

 シエルが入隊して、うまく部隊が回らなくなって、ブラッドの戦闘効率が落ちてきている最中、あなたの能力だけは上昇を続けている。

 ナナとロミオを見て、何か思わなかった? こんなにも強いあなたに“ついて行けてしまえる”あの二人のことを」

 

――――――戦えるな、と。どこかで訓練を“積み続けてきた”動きです。

 

「基礎訓練だけじゃ説明がつかない戦闘能力よ・・・・・・あなたも同じようなものだけれどね」

 

――――――それは。

 

「誰しも秘密にしたいことはあるわ。私は・・・・・・・私は・・・・・・・駄目ね、自分の馬鹿さ加減が嫌になるわ」

 

――――――秘密は・・・・・・隠したいことは、たくさんあります。あってもいいんだと思います。

 

「でも、生きていくにはつらいわ」

 

――――――自分自身にさえ、いえ・・・・・・自分にこそ、隠したいものがあるのなら、目を瞑って生きていくしかない。

 

「そう・・・・・・暗がりを生きるには、この世界は寒すぎる」

 

――――――誰かが、手を引いてくれる誰かが、います。必ずいます。あなたの側に、きっと。だから、触れ合った手は暖かいから、きっと。

 

「私の側にそんな人は、もう・・・・・・手をつないで欲しい人は、ああ、私がすがりつくだけの手になってしまったわ。私に誰かの手が差し伸ばされることはない」

 

――――――そんなことは。

 

「だって、私、マグノリア=コンパスで何が行われていたのか、知らないもの。

 いいえ・・・・・・理解していて知ろうとはしなかった。怖かったのよ。

 あそこにしか居場所がなかったナナが、ロミオがなぜゴッドイーターとして戦えるまでになっていたのか。

 シエルの受けた訓練内容。シエルの名前が書かれた、内出血と薬剤による皮膚異常で黒く染まった人型の、経過観察資料。

 あの子と一番接していたのは、私なのにね。

 そして・・・・・・そして、ラケルの・・・・・・全部に目を閉じてきたわ。あなたの言う通りよ。そうしなければ、生きてはいけなかった」

 

――――――レア博士?

 

「もし、全部が終わりに向かっているのだとしたら・・・・・・あなたが・・・・・・全部、壊してくれる?」

 

レア博士が何を言っているのか、意味が理解できない。

怪訝そうな顔をするユウに、レア博士は「ごめんね」と言って笑った。

儚く、今にも壊れてしまいそうな、ガラス細工の笑みだった。

 

「フフ、冗談よ。ここのところずっと研究続きだったから、疲れちゃったのかも。今が朝なのか、夜なのか・・・・・・駄目ねえ、肌がくすんじゃって」

 

――――――いえ、眩しいですよ。とても“レア”だと思います。本当に。

 

「もう・・・・・・そうやって極東でも女の子達に良い顔してたんでしょ?」

 

――――――いやあ、あはは。

 

「シエルは人との距離の取り方がとても不器用な子だけど、少しずつ変わろうとしているわ。よければ仲良くしてあげてね」

 

到着のベルが鳴る。

局長室のある階層を示すライトが点いた。

レア博士が手を振ってエレベーターを降りていく。

どこか、何かに諦めたような、自分を傷つけ贖罪を得んとしているかのような、そんな後姿だった。

扉がしまる。

ユウは屋上へのボタンを押した。

フライアの中で、最も“空”に近い場所。

花に囲まれた庭園で、きっと今日もシエルは、一人きりで何かを考えているのだろう。

エレベーターが静かに昇っていく――――――。

 

 

 

 

 

 




まばたきをしたら死ぬホラーフリーゲームにはまってました。
そして日本語化された元ネタサイト・・・・・・ああ、天国はここにあったんや!

いやあ、こんな楽しい設定遊びが海外にあったなんて。毎日寝不足でたまらんです。
冒頭はそれらのオマージュとしてとっていただけたら!
あからさまな伏線、隠してみた伏線。
書いている側にしか解らないようなネタを入れていくのもまた楽しいですね。
遊びながら書けるっていうのは素敵だと思いました。

け、決して前回の投稿で解りやすいところにバキネタ入れたのに全く触れられなかったのが悔しいからじゃないんだからねっ!

しかし今回の投稿分を見返してみますと、かなり文量が長くなっています。
あれ? 短くすると言ってたのに、2万文字くらいになってる、だと?
な、何を言っているかわからねーと思うが・・・・・・なぜだ・・・・・・。
毎回短くするよ的な事を言ってたはずですが、なぜか短くなりません。
そのくせ、場面展開がぽこぽこ起きるので、どうも読んでいて追いつかない感じがしてしまいます。
うーむむ。ゲーム本編も一戦毎にシーン変わりますから、一貫性のあるものを長く、となるととても難しく感じてしまいます。
これが私の腕の限界か・・・・・・!
なんとか短く解りやすいさっぱりした文が書けないものかー。 

仲間達がぎすぎすしているのを見ると、いちゃいちゃしているように見えますよね。
な、何を言っているかわからねーと思うがry



活動報告もまた更新しました。
今回は東方のあれこれでー。


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ごっどいーたー:21噛 GE2

屋上展望台は煌く陽の光のプリズムと、小さく囀る鳥の声、美しく咲く花々によって満たされていた。

差し込む太陽光を強化ガラスによって屈折増幅させ、天然の照明とするシステムである。光量が少なければ人工光と練り合わせ、光度が確保されている。

光の粒さえ見えんばかりの輝きは、正に楽園と言わんばかりの暖かさと穏やかさが演出されていた。

ジュリウスはこの穏やかな陽光の中、大木の根元に腰をかけ、小鳥の声に耳を傾け、花の香りに包まれてまどろむことが何よりも至福であると言っていた。

気持ちは解る。

この世界のどこを探したとて、こんなにも美しい景色は存在し得ないだろう。

どこもかしこもが荒れ果てていて、熱い荒野が広がっている。

緑を復活させたネモス・ディアナも、未だに花の群生までは栽培に成功していない。種子が弱く、空気中のオラクル細胞に食われてしまうのだ。

花に触れて生きられるのは、きっとそれだけで金を天井まで積んでも得られない贅沢なのだろう。

美しいものに人は惹かれる。憧れる。癒される。当然のことである。ユウとてこの場所を美しいと感じ、また安らぎを覚える。

だが、それだけだった。

己の胸に湧く憧憬を、当然の自然反応であるとしか捉えていなかった。

花の香りという刺激を受け、リラックス効果があるのは当然なことだ、と。酷く無味な記号として受け入れていた。

ユウはこの場所を、どうにも好ましいとは思えなかった。

ありていに言えば、たまらなく・・・・・・嫌いだった。

科学の粋を凝らして生み出した景観。それは、人が手を土で汚して作り出したものではない。

否定するとまでは言わないが、好むべく所ではない。

生きる意志と力が試される世界では、泥と汗と油の香りがする、汚らしい手垢に塗れたものこそが価値あるものではないか。

ただの偏屈であるという自覚があるため口には出さない。

つまり、趣味ではない。それだけのことだった。

ユウには美しく飾られたものが、鈍色の世界を隠すためのハリボテにしか感じられない。

今や世界を忙しく飛び回っている、歌姫の歌があった。

つらい世界であるからこそ、希望を捨てずに生きて行こう。そんな夢や愛が盛り込まれた歌詞であったか。

なるほど、美しい歌である。公共放送からもよく聞こえてくるようになったその歌を耳にすれば、ほう、と感嘆の吐息が知らず出る。

それだけだった。

良い歌であるのは間違いがない。それは否定しない。

ただ、ユウには共感できないというだけで。

どうせ心を入れて聞くならば、罵倒に塗れたロックがいい。

彼女のサイン入りのCDは闇市に流してしまって手元にない。新品未開封であったため良い値段で売れたな、くらいにしか記憶になかった。

せめて開けてやれよ、と闇市からCDを回収したコウタに泣きながら叩かれたのも覚えている。

 

――――――隣、いいかな?

 

「・・・・・・どうぞ」

 

展望台の中に備え付けられたガラス製のテラス。

シエルは備え付けられたベンチに、気配もなく座っていた。

まるで“空”のような少女だ、とユウは思った。

時折“ノイズ”の奔る、この空のような。

本日の天候は曇天。

だというのに、この屋上展望台には陽の光が射し込んでいる。

全天型ドームの透過モニターに映された、青空の画像と人工光による演出だった。

ユウがこの景観を好ましく思えない一因である。

隣り合って座る二人へと、穏やかな光が降り注ぐ。

シエルは俯き、ユウは目を細めて舌打ちをした。

口内で鳴らしたそれは、どうやらシエルの耳に届いていたようだ。

 

「・・・・・・この、空は」 

 

――――――うん。

 

「好きではありません」

 

――――――どうして?

 

「作り物の空、ですから」

 

――――――いいじゃないか。綺麗だ。綺麗なことには変わりない。

 

「私と・・・・・・私と同じ、ですから」

 

シエルは俯いたまま、口を開く。

 

「うまくやるというのは、難しいです」

 

そう言って、本の――――――本に差し込まれている手紙を指先で撫でる。

 

「合わなくても、うまくやれ。そう言われました」

 

――――――大事な人から、かな?

 

「大事な人・・・・・・わかりません。会ったことがないんです。文通相手で、相手がどんな人なのか・・・・・・ただ・・・・・・」

 

――――――ただ?

 

「会いたいと・・・・・・一目だけでもいい、言葉を交わさなくても・・・・・・ただ会って、触れたい。その時、私は・・・・・・私にはわからないのです。私自身が一体何を思い、感じているのか」

 

――――――自分自身を知りたいから、会いたいのか。

 

「私は、知りたい。触れ合ったその時に、私が何を感じるのか・・・・・・“感じること”が、できるのか。

 私の心は、動いているのか・・・・・・存在しているのか。人間の存在の証明とは・・・・・・それだけです」

 

――――――人の間って書いて、人間って読むんだ。心の在り処っていうのは、触れ合ったその場所にこそ、生まれるものなのかもしれない。ほら。

 

ほら、とユウは手を差し出した。

シエルは差し出されたユウの手をしばらく見詰めていたが、しかし再び力なく視線を落とした。

解っていると言わんばかりにユウは苦笑する。

 

――――――合わなくてもうまくやれ。同じ事を人に言ったことがあるよ。

 

「あなたも、ですか? それは極東の常套句なのでしょうか」

 

――――――ブラック会社に勤める社員の心得だよ。で、シエルの言うその人のことは知らないけどさ、たぶん同じ意味なんだと思う。

俺が言ったやつもシエルみたいなリアクションしてたよ。ありゃ気付くまで長いな。

 

「どのような意味だったのでしょうか・・・・・・これ以上の効率となると、私にはもう案件は提示できません。

 これまでに習得してきた知識をもとに最善の戦略を提案しているつもりです。それなのに・・・・・・私が配属されて以来、戦闘効率が落ち続けているんです」

 

――――――やっぱり、同じリアクションだよ。

 

「戦術の柔軟性を保持せよという意味でしょうか。戦況に応じて臨機応変に対応すること・・・・・・それが重要なのは理解しているつもりです。

 しかし私はいかなる不足の事態にも対処するために、上意下達を厳守するべきだと・・・・・・」

 

――――――真面目すぎるんだよ。うまくやれ、っていうのは、効率を上げていけってことじゃない。

 

「それだけでは足りない、ということですか?」

 

――――――堅いな。もっと単純でいいさ。仲良くしろってこと。一人で戦ってるんじゃないんだからさ。

 

「もちろんです。だからこそ命令系統の構築が・・・・・・仲間のことを考え、戦況に応じて協力して戦うことが大事だと、そういうことですか?」

 

――――――いや、うーん・・・・・・。

 

「解りました・・・・・・修正し努力してみようと思います」

 

それでは、と立ち去るシエル。

ブーツの音にキレがない。しょんぼり、という表現がぴったりの背中だった。

 

――――――そういうことじゃないんだっての。

 

ユウの独り言は人工の空に吸い込まれて消えた。

人間関係の妙とは、良くも悪くも、他者とのつながりを“実感”した者にしか理解し得ないだろう。

シエルは“つながるという実感”に戸惑っているように思えた。

ゴッドイーターは個の戦闘力を高めた、戦術的存在だ。

だが、それに搭載された制御装置は、人間である。

人間同士の深い情のつながりを感傷であり、非効率的であると断じる者も多いだろう。

だがユウからしてみれば、ゴッドイーターこそ、このつながりというものは必要不可欠であると思っている。

個を高めた存在であるからこそ、制御できないほどの“個性”が頭角を現していく。

それらを人類のために戦う存在としてつなぎ止めるには、つながりしかないだろう。

自分自身がそうである。

人間関係にがんじがらめになったからこそ、自棄にならずに済んでいる。

そも、戦術や戦略でどうにかなるのならば、とうにアラガミは駆逐されているのだから。

失敗例の最たるものとしては、アーサソール部隊であろう。

効率的な戦術行動のみを追及した、恐怖を知らぬ完成された戦闘集団がそれだ。

そんな程度であるのだから、自分のような頭の悪い男に殺し尽くされるのだ。

 

――――――考えるんじゃない、感じるんだ。できなきゃ・・・・・・死ぬだけさ。悪いな、ナナ。

 

立ち上がる。どこか諦めをその横顔に滲ませて。

 

――――――沈みかけのおっぱい・・・・・・か。

 

暁の水平線に陽が沈むかの如く。

沈み行く大いなる和らぎは、物悲しいものだ。

 

――――――ぬわああんもおお、疲れたもーん! 俺こんな真面目なこと考えたり話したりするキャラでしたっけ!?

 

叫ぶユウ。

真夏の夜に蒸された夢を見る野獣のような、げんなりとした顔であった。

 

――――――なんかもう、おでんパン食べたい。おでんパン食べて癒されたい。ナナがくれるおでんパンに微かに残ったナナの体温を舌で味わいたい。

うー、ナナのオープンなオーラで日光浴したい。ナナのチューブトップになりたい。健康的にゆれるおっぱいを支えた・・・・・・ナナ・・・・・・オープン? 

うん? ああ、おっぱい! あー・・・・・・わからずやは俺じゃんか。あちゃあ。やっちまったな!

 

はっと気がついたようにユウは天を仰いだ。

モニターの太陽が、ユウの視線に反応し光量を調節した。

 

――――――歩み寄っても一人じゃ届かないってんなら、こっちからも行ってやんなきゃ駄目じゃん。

なんだよ、俺は待ってただけじゃんか。腰を下ろしちゃってえらそうに・・・・・・ちぇっ。

教えてやんないと。そうだよ、教えてやらないといけないんだ。“教えて欲しがってる”ってことを俺に“知らせにきた”んだから。

アランにも謝らないと・・・・・・自分で気付いて欲しいなんてのは、俺のエゴだった。

シエル、お前はもう気付いてるんだ。解ってないのは俺だったんだ。そう、そうだな。そうだよな。

差し出されたのなら、掴まなければ。

 

ユウ、何かを悟ったようにして立つ。

晴れやかな顔をして。

 

――――――おっぱいは世界を救う。

 

真理である。

ユウは真理に開眼したのである。

“たとえ話”をしよう。

そこにおっぱいがあったとして、そのおっぱいが今にも溺れそうであったとしよう・・・・・・おっぱいには浮力があり成人男性三人くらいの体重ならば余裕で水に浮かせられるのは語るべくもない自明の理ではあるが、たとえ話である。

沈む寸前のおっぱいを見たとき、さあこの手の中に飛び込んで来い、などと言えるだろうか。

例えそのおっぱいが助けてくれ、と叫んでいたとしてもである。

常識的に考えて欲しい。今にも沈みそうなおっぱいが目の前にあったのなら、自ら掴みに行くのが常道ではないだろうか。

これは救助、人助けだ。邪な思惑による行いではない。

苦しいと叫ぶのならばここまで泳いで来い、お前には浮力があるのだから。などとは、傲慢が過ぎはしないだろうか。

救いにいかねば、自らが堕ちる。

そう、おっぱいは全てを教えてくれる。

人とは・・・・・・アラガミとは・・・・・・ゴッドイーターとは・・・・・・世界とは・・・・・・星とは・・・・・・命とは・・・・・・進化とは。

全てである。

おっぱいには全てが詰まっている。

夢、希望、愛、全てである。

故に、学べ。そして、掴め。

おっぱいから学べ。全てを。

そう・・・・・・手を伸ばさねば、おっぱいには届かないのだから。

 

――――――うおおおおっ、燃えろ俺のムーブメントォォォ!

 

出撃シグナルが鳴る。

いつもの日常が戻ってきた。

ユウは走る。希望に満ち溢れた顔だった。

“つながり”を持てば、よく見えるようになる。多くは、自分に足らないものを。

踏み込め、ということを。

シエルに追いつき、ユウは華奢な肩を両手でぽんと掴んだ。

「ひゃっ!」と可愛らしい声が上がった。大丈夫。心が止まっている人間なんていない。そう言ってやりたかった。

ラウンジに聞こえるような大声で、ユウはナナを呼んだ。

 

――――――みんな! 戦いなんてくだらねえ! おっ・・・・・・でんパン食べようぜ!

 

カタカタッターン、とキーボードを弾く音。

フランである。

爽やかに宣言したユウを、フランが涼やかな目で見ている。

 

「くだらなくありません。出撃してください」

 

――――――いや、そんなことよりも聞いてくれ。わかったんだ! 歩み寄りなんだよ! 片方だけじゃだめなんだ。お互いじゃないと駄目だったんだよ!

 

「出撃してください」

 

――――――いや、ほら、手はね、片方だけじゃ鳴らないでしょ? もう片方があれば、ほら、握り合うことだってできる・・・・・・。

 

「出撃してください」

 

――――――人間関係が、ね? つながりが、ね? 大事だって、一番大事だって・・・・・・ね?

 

「出撃してください」

 

――――――はい。

 

「何か言うことがあるのでは?」

 

――――――あの、その。

 

「あの、でもその、でもありません。はっきりと言ってください」

 

――――――ごめんなさい。

 

「よろしい。では、出撃してください」

 

――――――はい。

 

フラン冷静なツッコミ。

副隊長ご乱心。

フライアニュースの本日のブラッドの記事が決まった。

 

「ユウさ、何かやったの? 説教モードのフランとか初めて見たんですけど」

 

――――――おっぱいばっかりに目をやってたら、尻に怒られたでござる・・・・・・。

 

「・・・・・・はあ?」

 

――――――ロミオ、お前もいつかわかる時がくるさ。どっちが素晴らしいかを論じるなんてくだらないってことを。

だって、どちらも柔らかいんだから。いいんだよ。両方好きでも。どちらにも良さがあるってこと、認めるのが大人ってことさ。

 

「お、おう・・・・・・よくわかんねーけど、ミッションいこうぜ? な? 泣くなよ」

 

――――――覚えておけよ。それにはそれにしかない役割ってのがあるのさ。オンリーワンがたくさんあってもいいんだ。

それで、そいつが小さくってもな。でかいことが全部じゃない。何が出来るのか、出来ることを精一杯やるだけだって思うこと。

そう思ってるだけで、一番なんだよ。何物にも変えがたい。もうもってるんだなあ、それだけで・・・・・・うん。

 

「オペレーターに怒られた副隊長が哲学言い出したでござる・・・・・・やだ、意味不明・・・・・・」

 

ユウ、悲しみの出撃。

このあと滅茶苦茶討伐した。

なお今回の出撃の際、ユウ指揮の下、ブラッド隊は発足以来の戦績を上げることとなる。

 

 

 

 

 

 

□ ■ □

 

 

 

 

 

 

つながりとは、一体何なのだろうか。

熱い雫に打たれながら、シエルは思う。

手がある。指先がある。白い指が。自分の指が。

今日の任務で、グボロ・グボロの突進に“引っ掛けられ”、左腕が複雑骨折、指は皮一枚で繋がっていて切断寸前となるまでの傷を負った。

それが数時間もせずに今や熱いシャワーを浴びられている。

回復錠の効果たるや、かつて自分を囲んでいた研究者達が絶賛していただけのものはある。

ミッションリザルトは、SSSと評してもよい程の結果だった。

皆目立った外傷も無く、呆としていた自分が不覚傷を負ったのみ。

自分が戦闘指示をした際は、良くてもAAといったところだろう。

戦闘行動中にさえ明らかな違いがあった。正に生き生きとしていた、と表すべく動きであった。

ブラッド隊が一つの意思を持った群れとして、“狩り”を行っていた。

不思議な感覚だった。

自分の思考が他者の思考となり、他者の思考が己の思考と同調するかのような。

誰がどこにいて、どれだけのライフバイタルであって・・・・・・全てが手に取るように解った。

そして何よりも、言葉では表せない深い部分からの一体感があった。

現場指揮を執った副隊長曰く。

 

――――――戦闘指揮執る奴の感覚を共有するっていうか、なんていうか、プチ感応現象みたいなのあるっぽいよね。

視界のこう、右上のあたりにミニマップみたいなのが表示されてさ、それでみんながどこにいるか解るような感じ? みたいな?

バイタルサインはこう、左側にさ、色分けされた体力ゲージみたいなのがあって、あと残りどんくらいかってすぐ解るっていうか。

回復柱のタイミングそれで測ってたり、俺はそんな感じに戦場が見えてるんだけども。どう?

 

曖昧な物言いであったが、あの気難しいギルバートすら頷いて聞いていた。

そして、自分もまた。

自分が戦闘指揮を執っていた時・・・・・・でしゃばるつもりは無かったが、効率重視のために指示をせんとしていた時は、このような感覚は得られもしなかった。

自分達は、ブラッド隊は間違いなく、“一個の存在”となっていた。

副隊長との指揮の差。

この違いは一体、どこからくるものか・・・・・・それを戦闘中に考えて、そして負傷した。

戦いの最中に気をやるなど、猛省せねばならない。

こんなことだから、最終ロットにまで“残されて”しまったのだ。

 

シャワーの雫が乳房の間を通る。年々重たく感じるようになったそれを持ち上げれば、下に溜まっていた血染みが排水溝に赤錆の筋を残して流れていった。

ボディソープを手にとって、軽く泡立ててから、肌の上を滑らせるようにして塗りつける。

レア博士と、そして名も知らぬ彼女から習った、身だしなみ。

ほとんど“香り付け”のためのようなものだ。

ゴッドイーターとなった者は、不必要な老廃物の排出がほぼ無くなる。

代謝機能はむしろ活発化するが、汗、垢・・・・・・その他排泄物諸々は、おそらく体内のオラクル細胞が捕喰し、エネルギーと化しているのだろう。

バースト化するための非戦闘時の貯蔵エネルギーは、常日頃のオラクル細胞による老廃物の捕喰によってまかなわれていると考えられる。

急所を保護する体毛すらも、女性ゴッドイーターは腕輪を嵌めたその日から、少しずつ薄くなっていく。

男性では、顕著なのが髭といった男性ホルモン由来の体毛である。

手足や脇といった体毛は、一説によればフェロモンの発散器官であり、またその材料が皮脂からなる老廃物であるとも言われている。

生殖を目的としないならばそれら体毛や老廃物はムダなもの。つまり、オラクル細胞の格好の食料であるわけだ。

オラクル細胞がとりわけ顔面の体毛の眉毛や髪などは捕喰せず、髭や産毛の毛根と老廃物しか捕喰しないのは神機の偏食傾向であるとも言われているが、事実は解明されていない。

ただし、常人と比べて老廃物の排出が圧倒的に少ないといえど、皆無というわけにはいかない。

洗浄は大事である。

 

「ん・・・・・・」

 

かつては適当に水で流すだけであったが、女の子はそれではいけないとレア博士が教えてくれたやり方の通り、指先で洗浄する。

前、後ろ、その間・・・・・・指の腹がなぞる度に、刺激が奔る。

冷たく、寂しく、不快な刺激が。

何故女性には空虚な部分があるのか、レア博士に聞いたことがある。

今にして思えば愚かな質問であるが、あの頃は未だ性能のみを追求しており、生殖はもとより一般知識についての欠落があった頃だった。

「大事な人に埋めてもらうためよ」とレア博士がその髪よりも赤く顔を染めて、しどろもどろに教えてくれたのを覚えている。

「博士は埋めてもらったのですか」と問うと、「まだよ」と泣きそうな顔をして言っていた。

知識の欠落を理解したのだろう、レア博士は急に真面目な顔つきとなると、肩を痛いくらいに掴んで真っ直ぐに言った。

 

「貴女の心の穴を埋めるもの、それはきっと、愛というものよ」

 

「では、レア博士がその愛をください」

 

「私は・・・・・・駄目よ。私では駄目なのよ・・・・・・」

 

レア博士はくしゃくしゃに顔を歪めて、今にも零れ落ちそうな涙を目に溜めていて。

何か失礼なことを言ってしまったのかと、頭を下げた。

違うのよ、とレア博士は何度も目を擦る。

 

「いつかきっと、きっと、あなたを愛する人が現れる。きっと、必ず・・・・・・信じて、シエル。きっとあなたは運命と出会う。

 きっと・・・・・・例え、あなたの生きる道が地獄であったとしても。手を取り合って、その地獄を進もうと言ってくれる人が・・・・・・。

 あなたが手をつないだその瞬間、“あたたかい”と思える人が、きっと・