ラブライブ!~μ'sのその後の物語~ (毛虫二等兵)
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今作について 

今回は本編ではなく、主人公の設定、注意書き等々です。


~ただいま再編集中~


 

今作は本編(二期)より八年後の世界です。

 

μ's(ミューズ)が解散してから八年は経ち、メンバーは各々の道を歩み始めている頃。主人公は彼女達と出会い、成長したり、いちゃいちゃしたりしていきます。

 

 

 

今作は、ただ単にキャラクターを愛でる為だけに書いているSSです。

 

 

キャラクターについて

 

私も設定を完全に理解しているわけではないですし、好きなキャラによって偏ってしまうことがあると思います。(私は海未ちゃんが大好きです)

なので、感想や、メッセージ等での「こういう話を書いてほしい」「ここは違うと思う等と言ったご指摘があれば、ご希望に沿ったものを頑張って書いていけたらな~って思ってます。

 

 

 

~主人公~

 

 

穂乃果編  

 

 

 

名前 上園 織部(かみぞの おりべ)

年齢 25歳

趣味 ガンプラ製作・ゲーム…eto

仕事は普通のサラリーマン。平々凡々の性格、押しに弱い。

(挿絵予定)

 

 

 

海未編

 

名前 考え中

年齢 25歳

趣味 登山 日本の伝統芸能(最近はまり始めた)

割と自由奔放な性格で、誰に対してもあまり怒ることが少ない。

(挿絵予定)

 

 

 

 

絵里編 

 

名前 斉藤 弘樹(さいとう ひろき)

年齢 26

趣味 カメラ・食べ歩き

過去の失敗とかを引きずるタイプ。妹の有紗を愛でたり、弄ったりするのを楽しんでいる。若干S寄りのシスコン

(挿絵予定)

 

 

名前 斉藤 有紗

年齢 

好きなこと・もの 

 お兄さん(弘樹と過ごす時間)寿司 お餅…

日本に来た頃は不登校になりかけた時期もあったが、弘樹の説得でもう一度学校に通い始める。兄のことを慕いすぎるため、暴走してしまうことも多々ある

(挿絵予定)

 

 

 

 

 

 

ストーリーについて

 

9人分…しかも、別のストーリーを用意するのは結構大変なので、高確率でネタに詰○と思います。

「このメンバーとこういった話を書いてほしい」「もっとこのメンバーとイチャイチャさせてほしい」という感想やメッセージはとっても嬉しいですし、助かります。ぜひ書いていってください!お願いします!

 

活動報告のほうに

 

ことりともうちょっとイチャイチャする話を書いてほしいな~

 

と思って頂けたら、もしよかったら場所とどんな風にイチャイチャしてほしいと書いてくれると助かります!

 

 

 

アニメに登場したキャラが命を落とすような病気になったり、事故ったりもしません(風邪とかインフルエンザは例外)

些細な喧嘩(?)みたいな話はあると思いますが、誰かを取りあったりとかする愛憎劇のようなどろどろしたものはありません。

Rー18は薄い本にお任せします。(規制に引っかからなければ…もしかしたらギリギリのラインまでは書こうかとは思ってます)

 

 

 

 

 

世界観について

 

今作では、彼女達が音ノ木坂学園を卒業し、各々の道に進んだ後の話です。

年齢的には、23~25歳くらいの時期だと考えてください。主人公もほとんど同年代という設定です。

オムニバス形式ではなく、同じ世界観にしました。(少しやりたいネタがあったので)

 

 

 

 

 

時間があれば、もしかしたら主要キャラクター以外のキャラも書けるかもしれません。

 

 

 

 

※現在各メンバーと「どういう経緯で知り合ったのか」という大元の部分だけを書いています。まとまるまで、もう少し待ってください。すいませんm(__)m

 

 

※感想を書いてくださった方、お気に入り登録してくださった方。本当にありがとうございます!私も時間を見つけて、なるべく早くメンバー全員の話を投稿したいです。 

 

設定を変更したので、第一話の注意書きを修正しました。

変更があり次第、また書いていきたいと思います

 

 

 

 

 

文章について

 

文才ははっきり言って無い方なので、表現等が乏しかったり、わかりにくかったりすると思います。

その際はご指摘頂けると、非常に助かります。

 

 

 

今回は注意書きという事でここまでにしたいと思います。

 

もう一度言いますが、

 

今作は、ただ単にキャラクターを愛でる為だけに書いているSSです。

 

 

 

それではノシ

 




このような話になっております。




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高坂 穂乃果編
穂乃果編 第一話 出会い


どうも、毛虫二等兵です。

今回から、主人公である高坂穂乃果と主人公(?)の出会いの話です。

今作は、ただ単にキャラクターを愛でる為だけに書いているSSです。

拙い文章ですが。どうか温かい目で見てください。


今日は…最悪の気分だ

 

 

定時で仕事を片付け、気分よく帰ろうとした矢先のことだった。俺は上司に半ば無理矢理酒屋に連れていかれ、そして飲まされた。酒豪と言わんばかりの飲みっぷりの上司につき合わされ、俺は苦手な酒をとにかく飲まされた。

 

 

眩暈はするし…気持ち悪いし…あぁ…ホント最悪だ

 

 

いつもどおりの帰路をふらふらと歩いていると、腹の奥から何かが押し出される感覚に襲われた。そう…吐き気を催したのだ。

 

 

うわ~…みっともね~…

 

 

ひとまず電柱にもたれかかるようにして地面に座り、ひとまず吐き気を抑えている。…そんな時だった。

 

 

「大丈夫ですか…?」

 

 

話しかけられるまでまったく気が付かなかったが、俺は割烹着を着た女性に話かけられていたようだ。顔はよく見えなかった。

 

 

「み…水を一杯…ください…」

 

 

「お水ですね!ちょっと待っててください!」

 

 

そういうと、女性は颯爽と明かりの付いている家の方に戻っていった。

 

 

本当…なにしてんだよ…もう社会人だってのに…

 

 

2分ほどだろうか、正確な時間はわからないが、すぐにさっきの女性が駆け寄ってきたのがわかった。

 

「お水です!お家近いですか?送っていきますよ?」

 

 

コップを受け取り、水を勢いよく身体の中に流し込む。

 

 

「いや…大丈夫です…歩けますから…」

 

 

自分のみっともなさに呆れつつ、ゆっくりと立ち上がる。酔っている状態では…まっすぐは歩いてくれそうもなかった。

 

 

吐き気は少し収ったし、歩けるくらいには回復してれた…と信じたい。せめて家まであと10分持ってくれれば…

 

 

「おっとっと…」

 

 

「危ない!」

 

 

倒れかけた身体を、さっきの女性が支えてくれた。彼女は俺の腕を肩に回し、少し張りのある声で俺に怒鳴ってきた。

 

 

「危ないですから…!お家…どっちですか?」

 

 

そこからのことは…あんまり覚えていない。

 

 

 

 

 

朝 ―07:30―

 

 

あれ…俺なんで家に…というか、帰ってきたのか…

 

 

寝ぼけ眼を擦り、ひとまず服の匂いを嗅ぐ。

 

 

酒くさ…あ…そっか…昨日の夜…

 

 

昨日の夜、俺は帰路のどこかにあるお店の女性に助けられ、ここに帰ってきたんだ。

 

 

「とりあえず…シャワー浴びて着替えるか」

 

 

時間はギリギリだが、臭いまま職場に行くわけにもいかない。うちの会社は労働条件もそこそこ良く、世間で騒がれるブラック企業に比べたら大分ホワイトな会社だ。当たり前のことだが、服装に関しては厳しい。このままいったら…とりあえず考えるのを辞めよう。さて…準備準備…

 

 

 

 

 

午前 ―08:03―

 

 

 

冷蔵庫に置いてあった二日酔いに効果のある薬を飲み干し、俺は家から出た。

 

 

目指す場所は会社だが…その前に寄っていきたい場所がある。そう、昨日のお礼をしに行かなければならない。

 

 

顔は何となくしかわからなかったけど…結構な美人だと思う。声からして…20代?いやもうちょっと若かったような…

 

 

考え事をしながら歩いていると、昨日の女性の声が聞こえてきた

 

 

「おとーさーん!柄杓(ひしゃく)ってどこおいたっけ~?」

 

 

「この声…!?」

 

 

声のした方を振り向くと、そこには「和菓子屋 穂むら」と書かれている看板があった。…そして、入り口と思われるドアを開け、中から割烹着を着た昨日の女性が出て来た。

 

 

「あ…」

 

 

「昨日の…」

 

 

それが彼女との、二回目の出会いだった。

 

 




どうも、毛虫二等兵です。

大分短いですが、毎回こんな感じになると思います。

ご意見(ご指摘)・ご感想、心よりお待ちしております。

わざわざ最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

それではノシ


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穂乃果編 第二話 謝罪と誤解

前回のラブライブ!

”酒豪”と言われている上司に居酒屋に連れていかれた俺は、愛想笑いをしながら何とか乗り切った。
…はずなんだけど、酒がそんなに得意ではない俺は、家まであとちょっとの距離の所でダウンしてしまった!
電柱にもたれかかり、吐き気と戦っていると、割烹着を着た一人の女性に助けられ、俺は無事に帰ることが出来た。

そして朝を迎え、俺は彼女と再び出会った。



どうも、毛虫二等兵です。

今回は穂乃果編の第二話です。あともうちょっとで穂乃果と知り合った経緯は終わるかな~って思います。

拙い文章で読みにくいは思いますが、どうか温かい目でみてくださると助かります。




朝 -08:09-

 

 

「あ…」

 

 

「あ…」

 

 

「どうも…」

 

 

いざ目の前にすると、何も話せない。おそらく…というか昨日助けてくれたのは彼女であることは間違いない。間違いないんだけど…

 

 

「よかった~!大丈夫だったんですね!」

 

 

彼女は俺の手を掴み、ワンサイドアップの髪を揺らしながら、とてもうれしそうな笑顔を浮かべていた。

 

 

「あの後大丈夫かな~って思ってて、ずっと心配してたんですよ!」

 

 

「あっ…はい…」

 

 

目を輝かせて迫ってくる彼女に呆気を取られ、俺は言葉を失ってしまった。

それに、通学中の女子高生、通勤中の社会人、この道を通っている人たちの視線が刺さってきている。「朝からイチャイチャしている社会人がいる」程度に思われているのだろう。

 

 

「頭とか痛くないですか?体調は…?」

 

 

「あの…えっと、大丈夫です。それとその…とりあえず手を…」

 

 

「あっ…すいません!」

 

 

彼女はようやく気が付いてくれたのか、握っていた手を離してくれた。申し訳なさそうに謝られているものの、本来なら謝るべき立場なのは俺のはずなのだ。さっきとはまた違った意味で、視線が刺さってきた。

 

 

どうしてこうなったかな~…

 

 

彼女の勢いに押されてこうなったとはいえ、昨日ご迷惑を掛けてしまったわけだし、俺から謝るべきではあった。羞恥心がないわけではないが、せめてお礼と謝るくらいは…

 

 

「こちらこそ、昨日はご迷惑を掛けてすいませっ…いっ!」

 

 

「え~っと…さっきはすいませ…っ!」

 

 

謝ろうと頭を下げると ゴツン と鈍い音が頭に響いた。フラッと力が抜けるような感覚に襲われた俺はバランスを崩し、尻餅をついた。

 

 

「…いってて…」

 

「いたたた~…」

 

 

どうやら彼女の頭とぶつかったらしく、彼女もバランスを崩して尻餅をついていた。それに気づき、もしかしたら怪我をさせてしまったのではないかと思い、彼女に向かって声を掛けた。

 

 

「「大丈夫ですか!?」」

 

 

「え…?」

 

思っていることは同じだったらしく、言葉も、タイミングもずれがないと言っていいほど見事にシンクロしていた。

 

 

「……ぷっ」

 

 

少しの沈黙後、彼女は柔和な表情を浮かべ、楽しそうに笑い始めた。

 

 

「あははははははは!」

 

 

あ~あ…なんだこのやっちまった感…

 

 

彼女は15秒くらい笑った後、息を整え、どこか懐かしそうな表情で呟いた。

 

 

「久しぶりだな~…この感じ…」

 

 

「…?」

 

 

ピンポン♪ピンポン♪

 

 

ズボンのポケットに入っている携帯の着信音が鳴っていることに気が付き、俺は携帯の画面を見て…現実に引き戻された。

 

 

着信は二件…どっちとも会社の上司からの連絡だった。時間は08:30。仕事が始まる時間だ。

そして画面には

 

 

[仕事始まったぞ~生きてるか~?]

 

 

という通知が入っていた。

 

 

あ…え?しまったーーーーー!!

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

急いで立ち上がり、尻餅をついている彼女にむかって手を差し出す。

 

 

「大丈夫ですか?すいません!俺こっから仕事があるから急がないと…」

 

 

彼女が手を掴んだことを確かめ、ゆっくりと力を込めて立ち上がらせる。

 

 

「はいっ!ありがとうございます!…って穂乃果も仕事しなきゃ!」

 

 

彼女はニコッと笑い、自分にも仕事があることを思い出したようだ。

 

 

ピンポン♪

 

 

携帯を取り出し、恐る恐る画面を見ると…

 

 

[早く来い]

 

 

「やべっ…すいません!また伺います!」

 

 

会社と家が近い事をせめてもの救いに思いながら、駅に向かって全力で走り出した。

 

 

 

 

 

夜 -20:55-

 

 

仕事を終え、いつも通りの帰路についていた。

結局…俺が仕事についてのは、午前九時ちょっと前の事だった。

「昨日のあんなに飲ませたから…すまないな」

と、上司がフォローしてくれたこともあり、なんとか遅刻を許されることとなった。そのあとはいつも通りの仕事をこなし、今日は上司に掴まらずに帰ることが出来ている。

 

駅の改札を抜け、10分程度の距離を歩いていると…目的の和菓子屋の看板見えてきた。

 

…あった。まだやっているみたいだ

 

暖簾を少し避け、扉開けて店内に入った。入り口に入るとすぐに、ショーケースに中にいくつかの和菓子が並べられていた。こんな時間でなければ、もっと商品が置いてあったのかもしれない。

鮮やかな色彩をもった和菓子を眺めていると…奥から「穂むら」と記された暖簾の上げ、割烹着を来た女性がカウンターまで移動してきた。

 

 

「いらっしゃま…あ、朝の人…」

 

 

「はい。その…」

 

 

「はい?」

 

 

他にお客様がいないからいいが、恥ずかしくないわけではない。それでも…迷惑かけてしまったことは変わりない以上、謝らなければならない。

 

 

「昨日といい…ご迷惑を掛けてすいませんでした!」

 

 

羞恥心を捨て去り、勢いよく頭を下げる。

 

 

「えっと~…えっと…?」

 

 

怒っているようではないようだが、少し呆気を取られたような声が聞こえたため、顔の角度を少し上げて、彼女の表情を見た。

 

 

「えっと…う~ん…」

 

 

何のことだろう?と言わんばかりに眉をひそめ、一生懸命何かを考えていた。

 

 

もしかしたら…何のことかわかってない?

 

 

彼女は何かを閃いたのか、ハッとした表情をした。…と思ったら、首を何回か横に振り、再び悩み始めた。

 

 

あ…これ絶対わかってないやつだ。でもどうするか…このままの体勢って地味に腰がきついし…それにもし他の人に見られたら「何してんの?」ってなるだろうし…

 

 

「ん~…」

 

 

真剣に悩んでいるようだが…このままだとわかる気配はない。

 

 

駄目だ…このままじゃ…。よし、とりあえず説明を…

 

 

「おねーちゃん!閉店の準備して……何してんの?」

 

 

声と共に、もう一人の女性が暖簾をくぐって出てきた…つまり、見られた。

 

 

「あ」

 

 

「あ、ごめん雪穂!」

 

 

「何…これ?どういうこと?」

 

 

「雪穂」と呼ばれた女性は、案の定ドン引きしていた。考えて見れば…当然のことだ。見知らぬ男性が店内で頭を下げている。これだけでも、もう十分異常事態だ。

 

 

どうする…とりあえず事情の説明を…!

 

「えっと…これは」

 

 

頭を上げて、雪穂 と呼ばれた女性に状況を説明しようとするが、彼女はハッと何かを閃き、にやにやと楽しげな笑みを浮かべた。

 

 

「そっか!なるほど!邪魔しちゃってごめんねお姉ちゃん!」

 

 

「へ?」

 

 

「ん?」

 

 

あ…あ~……これ完全に勘違いされてるやつだ

 

 

「それじゃあごゆっくり~!♪」

 

 

「あっ!ちょ!」

 

 

誤解を解く前に行ってしまった…と後悔していると、割烹着の女性が笑顔で話しかけていた。

 

 

「え~っと、お茶、飲みますか?♪」

 

 

「…はい」

 

 

いろいろ誤解を受けたようだが…ようやく落ち着いて話が出来るみたいだった。

 

 

 




最後まで読んでくれてありがとうございました!

次回はようやく話し合いができる感じです。

ご意見(ご指摘)・ご感想、心よりお待ちしております。


それではノシ


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穂乃果編 第三話 高坂姉妹と…

どうも、毛虫二等兵です。

今回は穂乃果編の第三話ですね。


各メンバーの基本的な出会い方とかは考えられているので、あとは文章化するだけです。そこが問題なんですけどね…
とりあえず、二年生組の話の出会い方を完成させてから、他のメンバーについて考えたいと思います。
残る二年生メンバーだと、「穂乃果編」が後一話、「ことり編」がもう一話で、あとはイチャイチャさせるだけの状態にもっていけます。

次は一年生か…はたまた三年生か…。悩みどころですが。全員の話を出来るだけ早めに投稿したいと思います。


拙い文章で読みにくいとは思いますが、温かい目で見てください。


あの後、俺は彼女の言われた通りに席に座り、話し合うことになった。

 

 

え…え?

 

 

「雪穂こないな~…」

 

 

雪穂って…さっき出てきたショートカットの女性か。そっちにも説明しないとな~…

 

 

「私、高坂穂乃果って言います。よろしくね♪」

 

 

お茶を啜って一息ついてあと、彼女はニコッと笑って自己紹介をしてきた。

 

 

「あっはい。えっと、昨日の夜とか今朝の事とか、いろいろご迷惑をかけてすいませんでした」

 

 

座っているからそこまで深くは下げられないが、少しだけ頭を下げて謝った。

 

 

「昨日…?朝…?穂乃果…なにかしたっけ…?」

 

 

やっぱりわかってなかったか…

 

 

「えっと、昨日はちょっとお酒を飲み過ぎてしまって、穂乃果さんに迷惑をかけちゃってんじゃないかな~って思ってたんですけど…」

 

 

「あ~!そういえばそんなことが…」

 

 

そんなことがあったのか!と言うような表情で驚いているが、なぜ今まで気づいてくれなかったのだろうか…

 

 

「…わざわざ俺の家まで連れて行ってもらって…本当にすいません」

 

 

「困ったときは助け合わないと。そうだ!今、ちょっと時間ありますか!?」

 

 

腕時計の針が21時を回ってしまっている。これといって思いつく予定もないけど…

 

 

「大丈夫です」

 

 

「ちょっと待っててください!」

 

 

そういうと、彼女は勢いよく席から立ち上がりって速足でどこかへ入って行ってしまった。

 

 

え~…どうしよう、

 

 

呆然としていると、暖簾を上げ、白色の半そでTシャツと、青色のホットパンツ姿の女性が出てきた。

 

 

あのひとはさっきの…

 

 

「おねーちゃんうるさ…あれ?あなた…」

 

 

彼女は眠そうに眼を擦りながら、店内を見渡した。そして…奥の席に座っていた俺の事を見つけた。

その瞬間、さっきまでの眠気はどこかへ消えてしまったのか、目を大きく見開き、キラキラと輝かせながら、少しはしゃいだような高い声で俺の方に歩いてきた。

 

 

「ねぇねぇ!お姉ちゃんのどこに引かれたの!!!」

 

 

「!?」

 

 

しまった…!?さっきは彼女に見られたんだっけ…って近い!?

 

 

俺の目の前で止まった彼女は、横に逃げようとした俺の行動を遮るために首の横に手を突き出し、座っている俺の両足の間に片足入れて動きを完全に封じた。彼女との距離は10cmほどしか離れていない。

本来の意味とは少し違ってしまうけど、人生初の「壁ドン」だ。しかも…まさかされる方の。

 

 

「教えて教えて!」

 

 

品定めをするように、俺の方をじっと見て、楽しそうに質問してくるが、彼女は勘違いしている。しかも近い、それにその恰好は男にとってはいろいろとまずい。視覚的に…

 

 

「えっと…それは勘違いで…」

 

 

「いいじゃん減るもんじゃないし、お願い!一個だけ教えて!」

 

 

彼女は拝むように両掌を合わせた。なるべく彼女の方を向かない様に顔を逸らし、本当のことを伝えようと考えた。

 

 

そうこうしていると、不思議そうな表情をしながらさっきの割烹着の女性が戻ってきた。左手には配膳用のお盆を持っていた。

 

 

「なにしてるの雪穂?」

 

 

「あ、お姉ちゃん。ずるいよ~」

 

 

ようやく「壁ドン」から解放され、彼女は少し後ろに下がった。

 

 

「なにが?」

 

 

「あの…とりあえず話を…」

 

 

話を始めようとした瞬間。俺の前に机にそのお盆が置かれた。

 

 

「じゃじゃ~ん!新商品に白玉あんみつ!穂乃果アレンジだよ!♪」

 

 

「話を…」

 

 

「感想、聞かせてね!♪」

 

 

駄目だ…話そうとするたびに機会を潰されている気がする。

 

 

「…いただきます」

 

 

まあ…いただきながら話すか

 

 

 

 

 

~10分後~

 

 

 

正方形の四人掛けの席に座り、俺は手前の一人、奥に並んで穂乃果さん、雪穂さんが座っていた。

 

 

「え~~!!!彼氏じゃないの!?」

 

 

白玉あんみつを美味しくいただき終わると同じぐらいに、彼女たちに昨日のことなどの説明を終えた。割烹着姿の女性は、どうやら 高坂 穂乃果 というらしい。この「和菓子屋 穂むら」の後継ぎになるべく、和菓子修行に日々励んでいるそうだ。

 

 

「なるほど~」

 

 

「なるほど~じゃないよお姉ちゃん!も~……あんたも紛らわしいことしないの!」

 

 

「すっすいません…高坂さん」

 

 

「気にしないでください、困ったときはお互いさまですし。穂乃果って読んでください。友達からもそう呼ばれているので♪」

 

 

お茶を一口啜り、柔和な表情で微笑んできた。何故かはわからないが、彼女に微笑まれると、俺もつられて嬉しくなってしまう。

 

 

「そこ!ニヤニヤしないの!…まったく…」

 

 

腕を組み、少し不機嫌そうな表情をしている女性で、俺に「壁ドン」をした女性だ。彼女は 高坂 雪穂 というらしい。高坂さん…じゃなかった。穂乃果さんの妹らしく、「おっとりとした姉」を持った「しっかりとした妹」…というのがぴったりだった。

 

 

「雪穂、お客様に失礼だよ~」

 

 

「うぐぐ…元はと言えばお姉ちゃんが…!」

 

 

「…っ!!」

 

 

二人のやり取りを眺めていると、身体に寒気が走り、何かに威圧されているような圧力を感じた。

 

 

なんだこの上司に睨まれてるみたいな感覚…!?

 

 

「あ、お父さん。寝てなかったんだ」

 

 

さっき雪穂さんが出てきた場所には…一言で例えるなら“昭和の親父”がいた。腕を組み、長年の職人であることの威厳を感じさせる白衣。そして…その力強い眼からは威圧感を放っている。

 

 

「高坂さん…もしかして話しちゃったんですか?さっきの勘違いのやつ…?」

 

 

「雪穂でいいよ。うん、話しちゃった。まあ…お父さんには後で私達から話しておくから」

 

 

「お願いします」

 

 

あの人を目の前にして、話せる自信がない。会社の上司の睨みが可愛く思えてきた。

 

 

「ねえねえ、ところで私オリジナルの白玉あんみつはどうだった!?感想教えて!」

 

 

穂乃果さんが俺に話しかけた瞬間、彼女たちの父親の威圧感が大きくなった。俺はプレッシャーに耐えながら、感想を答える。

 

 

いかん…なんだこのプレッシャー!?

 

 

「っ!?……美味しかったです。まさか白玉をオレンジ風味にするとは思いませんでした」

 

 

「そっか…!ありがとう!♪」

 

 

彼女は何かをメモ用紙に書き込み、笑顔で返してくれた。

 

 

「ひっ!?」

 

 

さっきよりよりも威圧感が増した感じはあるが、ここは雪穂さんを信じて耐えるしかない。

 

 

「お姉ちゃん、そろそろ帰って貰ったら?時間、もう10時超えたし、お店閉めなきゃ」

 

 

「う~ん…そうだね」

 

 

穂乃果さんは椅子から立ち上がり、入り口の少し外のまで送ってくれた。

 

 

「今日はありがとうございました~!」

 

 

少し離れたところで振り返ると、彼女の声が聞こえ、手を大きく振ってくれていた。家まで送ってくれると言ってくれたが、彼女の家から俺の家はそこまで距離はないから、迷う事もない。と断った。手を振り返し、すこし浮かれた足取りで家に向かって歩いていく。

 

 

「また…明日も行こう」

 

 

雪穂さんの言葉を信じて、俺は久しぶりに走って家に帰った。

 

 




最後まで読んでくれてありがとうございます!

いつのまにかお気に入り件数がこんなに…!?

凄い嬉しいです。これからも頑張ります!


ご意見(ご指摘)・ご感想、心よりお待ちしております。

それではノシ


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穂乃果編 第四話 高坂一家

どうも、毛虫二等兵です。

現在少し遠くに出掛けてしまっていて、SSを投稿できない状況です。

かなり急いで書いたので、今回はちょっと長いです


朝 ―07:20―

 

 

ピピピピ♪ピピピピ♪ピピピピ♪

 

 

携帯電話のアラームが部屋に鳴り響き、俺は目が覚めた。

 

 

「あ…仕事…」

 

 

布団から起き上がり、会社に向かうためにスーツを着る。仕事の資料を確認し、少し浮かれた気分に浸りながら、俺は家を出た。

駅まで歩いていく道のりの途中に…その店はある。そして、そのお店の前には…後継ぎ兼看板娘である、高坂穂乃果が居た。

彼女は「穂むら」の暖簾をかけ、竹ぼうきで店の前を掃いている最中だった。

 

 

忙しそうだし…今はいいか

 

 

店の前を通り過ぎて少したった頃、後ろから彼女の声が聞こえた。

 

 

「おはようございま~す!お仕事、頑張ってくださいね~!♪」

 

 

「!?」

 

 

後ろに振り向くと、彼女が大きく手を振っていた。当然、この道を通っている通行人の目線が一気に俺に集まってきた。

 

 

俺は足を止め、苦笑いをしながら軽く手を振り返した。横を通り過ぎた女子高生の会話が、嫌でも耳に入ってくる。

 

 

「すごいね~」

「ね~」

「ラブラブだね~!」

 

 

「きゃ~!」と、悲鳴のような高い声を上げ、キャッキャと騒ぎながら歩いていった。

 

 

うちの近くの高校といえば、音ノ木坂学院と、超難関校のUTX学園くらいだ。当の本人は人目なんかを気にしてないかのように、変わらない笑顔を向けて手を振っていた。

 

 

うわぁ…めっちゃいい笑顔だ。嬉しいけど、なんとも反応しにくい…

 

 

恥ずかしさのあまり顔を見ることは出来なかったが、もう一度だけ手を軽く振り返して、会社に向かった。

 

 

 

 

夕方 ―19:40-

 

仕事を片付けたと同じタイミングで、上司の一人が俺に向かって声を掛けてきた。

 

 

「お~い、今日飲みに行かないか?」

 

 

…今日はいけないか

 

 

「わかりました」

 

少し心残りを残しながら、俺は上司に連れられて居酒屋に向かった。

ネットでは、「無駄」という意見をよく目にするが、上司に居酒屋に誘われるのは、決して悪い事ばかりではない。(悪いことのほうが多いかもしれないが…)

確かに愚痴られるし、自分の時間もなくなってしまう。だが、仕事の経験や、実績を残す方法など、勉強になることも多い。

 

 

「この間の事もあるので、俺は控えめで」

 

 

一応控えめとは言ったが、どうせ飲まされるのは目に見えていた。

 

 

 

 

夜―??:??―

 

散々愚痴を言われ、挙句飲まされた俺は、帰り道のどこかで、電柱にもたれかかっていた。

 

 

「大丈夫…?…雪穂~!お水~!」

 

 

頭…ぼーっとする…

 

 

誰かに助けられたところで、俺の記憶は途切れていた。

 

 

 

朝 ―07:30―

 

 

ピピピピ♪ピピピピ♪

 

 

「はっ…!?」

 

アラームの甲高い電子音に叩き起こされ、俺は目が覚めた。

 

 

あれ…どうしてここに…ってスーツが!?

 

 

布団から起きあがり、身体に触れて今着ている服を確認する。

 

 

あれ…Yシャツ…?スーツの上着は…なんだこれ?

 

 

どこかに行ってしまったスーツの上着を探すと、布団の横に手紙が置いてあった紙を発見した。

 

 

「これ…」

 

 

“昨日も飲み過ぎてしまったんですね。無茶は禁物ですよ!”

 

 

読み進めていて思った。これは俺の文字ではない。まさか…酔っぱらって変な人格出来上がったとか恐ろしい事にはなってないよな…?

 

 

誰かは思い当たらないが、女の子らしい、柔らかい文字の手紙を読み進めていく。

 

 

“それと、スーツの上着は私が預かっています。あと、机の上に”リ○ビタンE“を買っておきました。もしよかったら飲んでくださいね!

 

 

スーツを…預かった…?まさか…

 

 

俺の家を知っていて、ここまでしてくれるの女の子。そんなことをしてくれるのは…

 

 

高坂 穂乃果より!

 

 

彼女一人しかいない

 

 

「…っ!?」

 

 

咄嗟に出そうになった声を押さえつけ、高鳴る心臓と、一気に熱くなった顔の熱を抑える。

 

 

うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

 

 

思いっきり叫びたくなる衝動に駆られたのは…高校時代の、初恋以来だったかもしれない。

頭を冷やすようにシャワーを浴び、さっさと会社に行く格好に着替えて「穂むら」に向かった。

徒歩五分の距離にある和菓子屋の前に、割烹着の彼女はいた。

この間と同じように、店の前を竹箒で掃いている。彼女は反対側を向いてる為、俺に気が付いていないみたいだった。

 

 

「~♪」

 

 

陽気に鼻歌歌っている彼女の肩を軽くたたくと、オレンジ色の髪を揺らし、彼女がこっちに振り向いた。

 

 

「おはようございます、穂乃果さん」

 

 

「おはようございます!昨日は大丈夫でしたか?そうだ!雪穂~!」

 

 

彼女は朗らかな笑顔で答え、二階に向かって声を張って叫んだ。

 

 

「やっぱり…本当にすいません」

 

 

「いえいえ!雪穂~!早く早く~!」

 

 

本当のことを言うと、嬉しさもある。というか…もしかしたら嬉しさの方が大きいかもしれない。言葉に出すわけにはいかないが…

 

 

店の入り口の扉が開くと、この間の格好とは違い、スーツを着た雪穂が慌ただしく走って出てきた。

 

 

「はいこれ!行ってきます!!!」

 

 

押し付けるようにスーツを俺に渡し、彼女は走っていってしまった。

 

 

「いってらっしゃ~い♪」

 

 

笑顔で手を振り、彼女は雪穂を見送った。

 

 

そういえば…姉の穂乃果さんはお店を継いでいるとして…雪穂さんは…?

 

 

「そういえば…雪穂さんは仕事ですか?」

 

 

「ん~…今は大学四年生ですよ。今日は教育実習?みたいのがあるらしくて、寝坊しちゃったみたいです」

 

 

「あ~…寝坊?ってことは時間は…」

 

 

腕時計を見ると、時刻は8:30分を示していた。携帯に連絡が着ていないかを見ると……充電が切れていた。

 

 

「やっべ!すいません!時間なので失礼します!」

 

 

急いでスーツを着て、駅に向かって走り出す。

 

 

「頑張ってくださいね!♪」

 

 

「穂むら」の看板がどんどん小さくなり、距離が遠のいていく。

 

 

こんな状況なのに…ほんの少しだけ嬉しい気持ちが俺の中にはあった。

 

 

 

 

 

―20:30―

 

 

二度目の遅刻に、さすがに怒られたものの…上司のフォローもあり、遅刻は水に流された。

 

 

「昨日はすまんな、さて今日はどうする?」

 

 

笑顔で謝ってくる上司に少しだけイラっときたものの、愛想笑いを浮かべながら、上司のやんわりと断る。

 

 

「それ、昨日と同じじゃないですか。俺もう遅刻するのは嫌ですよ~」

 

 

「そうか。それじゃあ、明日は遅刻するなよ。お疲れ~」

 

 

「気を付けます。お疲れ様でした」

 

 

さて…俺も行くか

 

 

「お疲れさまでした!」

 

鞄を掴み、俺は会社を後にした。人が多くなってきた電車に乗り込むと、いつもは短いと思っていた15分程度の時間が、異常に長く感じた。

 

 

落ち着かない…

 

 

やっとの思いで付いた「秋葉原」に到着し、「早く」と命じる心を落ち着かせながら、人の流れに沿って歩いていく。駅の改札を抜けると、俺は早足で「穂むら」へと向かった。

 

 

早く…

 

 

出会ってまだ二日程度、時間にしたら24時間もないだろう。それでも、気が付いた頃には、俺は彼女の夢中になっていた。

 

 

「穂むら」の店内に入ると、カウンターには笑顔の穂乃果さんはいた。

 

 

「いらっしゃいませ~♪また来てくれたんですね!」

 

 

少し照れ隠しの愛想笑いを浮かべ、この間の奥の席に座る。少しすると、彼女が冷たいお茶を配膳してきた。

 

 

「メニューはそこにありますから、ごゆっくりどうぞ♪」

 

 

ニコニコしながらこっちを見てくる穂乃果さんに気を取られながらも、メニューの一覧を見ると、この間の商品がない事に気付いた。

 

 

あれ…白玉あんみつ…?

 

 

「あの…この間のって…」

 

 

「この間…?あっ…もしかして穂乃果スペシャルですか?」

 

 

彼女にしては珍しい、少し困った表情をしていた。

 

 

「はい、あれ…また食べたかったんですけど…白玉あんみつで…」

 

 

少しだけ残念に思ってメニューを見直そうとした瞬間、彼女は机に両手をつき、目を輝かせながらグイッと顔を近づけてきた。

 

 

「本当ですか!!」

「っ!?」

 

 

近っ!?

 

 

俺と彼女の顔との距離は、ほんの10センチ程度しか離れていなかった。

 

 

「よかった~!白玉あんみつ入りました~!♪」

 

 

あれ…非売品だったのか…?

 

 

いつも通りの明るい笑顔で、彼女は奥に入っていった。

 

 

~30分後~

 

 

白玉あんみつを食べ終えた後、俺は彼女と自分の勤めている会社の事、「穂むら」での修行のことなどの話していた。

 

 

「へぇ~…あの会社の人だったんですね!」

 

 

「まあ…平社員ですけどね」

 

 

 

「いいな~…穂乃果も会社員、やってみたかったな~」

 

 

羨ましそうに言いながら、彼女は上を向いた。自分のスーツ姿でも想像しているんだろうか…

 

 

穂乃果さんのスーツ姿…か…

 

 

想像を膨らませ、いつもの割烹着ではなくスーツ姿の彼女を想像してみた。

 

 

―おはようございます!今日も一日がんばりましょ~!♪―

 

 

「どうかしました?」

 

 

…ありかもしれない

なんてことは言えず。俺は少し慌てて誤魔化し、思いついた適当な話題に話を逸らす。

 

 

「いやなんでも…そんなにいいもんじゃないですよ、会社員なんて。今日はこれで失礼します。閉店時間になりそうですし…」

 

 

「あっ…ほんとだ」

 

 

立てかけられている時計を見ると、時間は21:30を回っていた。穂乃果さんと俺は椅子から立ち上がり、ゆっくりと歩いて店の外に出た。

 

 

「今日はありがとうございました。昨日も助けてもらったみたいで…」

 

 

「困ったときはお互い様です。でも、お酒は少し控えなきゃだめですよ?」

 

 

少し怒った表情を見せる彼女に、少しだけドキッとした。

 

 

「…はい、気を付けます。それじゃあ、失礼します」

 

 

「そうだ!ちょっと待っててくださいね!」

 

 

振り返り、家に向かって歩き出した足が止まる。慌ただしそうに店内に戻って行ってしまった。

 

 

「…?」

 

 

すこしお店の前で待っていると、紙袋を持った彼女が店から出てきた。

 

 

「これ、もしよかったらなんですけど…」

 

 

紙袋の中には、店頭に並んでいた綺麗な和菓子が包装されて入っていた。

 

 

「これ…いいんですか?」

 

 

「はい。残っているのって勿体ないので、せっかくだから食べてほしくて」

 

 

「ご自宅では食べないんですか?」

 

 

「ははは…本当はそうしたいんですけど、穂乃果の家って昔から和菓子屋だから、正直和菓子に飽きちゃったというか…」

 

 

頭に付けている白い三角巾を解き、少し苦い表情をしながら彼女は答えた。オレンジ色の髪が風に吹かれ、ワンサイドアップの髪がゆらりゆらりと揺れる。ほんの少しだが風に乗って甘い香りがした。

 

 

「あぁ…なるほど、それじゃあ、ここに長くいるのもあれなので、失礼します」

 

 

幼いころから和菓子屋の娘として育っているのなら、もしかしたら飽きるほど食べているのかもしれないな…それはそれで羨ましいが

 

 

身体の向きを変え、俺は自宅に向かって歩き始めた。ほんの数メートル離れた場所で足を止めてもう一度振り返ると、今朝と同じように、彼女は笑顔で大きく手を振っていた。

少し照れくさかったが、今度は俺も彼女に向かって手を振り返した、

 

 

「今度来た時!穂乃果アレンジ作って待ってますからね~!」

 

 

「…!」

 

 

穂乃果アレンジって…まさかあの…

 

 

「それじゃあ、おやすみなさ~い!」

 

 

彼女は店の中に戻っていき、俺は自宅に向かってもう一度歩き始めた。

 

 

また…次回がある

 

 

叫びたくなる気持ちを抑え、俺は家に走って帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

~一カ月後~

 

 

 

夜 ―21:35―

 

 

ここ最近…といっても一ヶ月だが、俺は毎日のように「穂むら」に足を運んでいた。

やることは定休日でも変わらず、俺は彼女の試作品を食べ、感想を言う。そして、空いた時間は彼女と話しているだけだ。

ここ一ヶ月でわかったことだが、この時間に来るお客さんはそんなにいない。来るとすれば…時折、業者のお兄さんが来るだけだ。

この時間の奥の席は俺の特等席(?)になっている。

 

 

「穂乃…いいなぁ~、私もやっぱりスーツ着てみたかった~!」

 

 

駄々をこねる子供の様に足をバタバタと動かし、羨ましそうに声で彼女は叫んだ。

 

「そんなことないですよ。飲み会とか疲れますし…」

 

 

「え~…そういえば、穂乃…私もお酒ってあんまり飲んだことないな~」

 

 

「そうなんですか?」

 

 

「うん、大学の時は高校からの友達と一緒の事が多かったし…サークルも入らなかったんです」

 

 

「サークル…そういえば俺はワンゲルでしたね」

 

 

「ワンゲル?」

 

 

「ワンダーフォーゲルです。登山とか、ツーリングとか、小さなサークルでしたけどね」

 

 

「いいな~!穂乃果も登山してみたい!」

 

 

「また、穂乃果って言ってます」

 

 

名前の事を指摘すると、口を押え、はっ!?っと驚いた表情をした。

 

 

「いいな~私も行ってみたい!」

 

 

言い直すのか…

 

 

穂乃果 と何度も言いかけては、私 と言い替えている。昔からの口癖らしく、言ってしまうのだそうだ。

さっき聞いた話では、昨日の夜、雪穂さんに

「そろそろさ、自分の事「穂乃果」って言う癖やめた方がいいよ」

と、言われたらしく、なんとか改善しようとしているらしい。

 

 

「手ごろな山だと…高尾山ですかね、近いですし」

 

 

「いいな~!」

 

 

奥からTシャツとホットパンツを着ている雪穂さんが現れ、奥に席に座っている俺に指を指した。

 

 

「来て」

 

 

「俺?」

 

 

「お姉ちゃんもだからね」

 

 

俺と穂乃果さんと顔を合わせると、頭の上に「?」が浮かんだ。

 

 

「穂乃果さん、何か知ってますか?」

 

 

「さぁ…穂乃果にもなにがなんだか…」

 

 

「あ、また言ってます」

 

 

ハッと驚き、両手で口を押さえると、一呼吸置いて、もう一度話し始めた。

 

 

「…私にも何が何だか…」

 

 

やっぱり言いなおすんだ…

 

 

「早くきて、お姉ちゃんも早く~!」

 

 

ゆっくり話している俺達を急かすように、雪穂さんの声が店内に響いた。

 

 

「はい!」

 

 

「わかったよ~」

 

 

穂乃果さんは少しムッとした表情をしながら、席を立ってゆっくりと歩き始める。これ以上怒られたくはないので、俺も席を立って歩き始めた。

 

 

カウンターを抜け、奥に入っていくと、何の部屋かはわからない居間のようなところに案内された。部屋の中に入ると、ムッとした表情の雪穂さん、にこにこしている綺麗な女性、この間のように殺気を纏っている男性がいた。

 

 

「やっときた、早く座って」

 

 

「は…はい…」

 

 

四角形の席にを囲んで、入り口に近い手前に母親(?)、父親、真ん中に雪穂さん、奥に俺、穂乃果さんが座った。

 

 

重苦しい空気の中。禍々し殺気を放っている父親の隣にいる女性が口を開いた。

 

 

「初めまして、穂乃果と雪穂の母の高坂美穂(みほ)、そして夫の高坂秀造(しゅうぞう)です」

 

 

「は…はい…はじめまして…」

 

 

いや…なんで自己紹介を…?というか…プレッシャーやばい…!

 

 

「ここ最近、娘の穂乃果が、いろいろお世話になっているようで…雪穂からいろいろ聞いていますよ」

 

 

「いえいえ…お世話になっているのはむしろ俺の方で…」

 

 

重く圧し掛かるプレッシャーを堪え、いつも仕事で使っている愛想笑いで応じる。

 

 

「ということで、あなたには穂乃果とお付き合いをしてもらいたいと思っているんです」

 

 

「ははは…そうですね……え?」

 

 

「お母さん!?」

 

 

バンッと勢いよく机に両手を叩き付け、穂乃果さんは母親に向かって身を乗り出した。猛抗議する彼女を無視し、美穂さんは話を続ける。

 

 

「悪い男に引っかからなかったのは良いけど…今年でもう24歳。なのにぜんぜん相手を見つけてこないし…」

 

 

「は…はぁ…」

 

 

「お姉ちゃんうるさい!話聞こえないじゃん!」

 

 

「だって雪穂だって彼氏いないじゃん!」

 

 

「そ…そんなの私の勝手でしょ!お姉ちゃんだって…」

 

 

後ろでなんか口論が起きているが…それを気にも留めずに美穂さんは話し続ける。

 

 

「高校時代、大学時代といい…結局友達と遊んでばかりで…」

 

 

「は…はあ…」

 

 

なんだこのスルースキル…まるで美穂さんのいる部分だけ別次元みたいだ

 

 

「それもこれもお姉ちゃんが悪いし!」

 

 

「穂乃果は悪くないもん!」

 

 

「それに!また「穂乃果」って言ってるし!」

 

 

「うぐっ…いいじゃん!穂乃果は穂乃果だもん!」

 

 

「そんなんだから…」

 

雪穂さんが反論しようとした瞬間、美穂さんの雰囲気ががらりと変わった。

 

 

「あんたたち…うるさいから静かにしなさい」

 

 

「っ!?」

「「ひぃ!?」」

 

 

さっきまでのおっとりとした雰囲気とは違い、美穂さんの雰囲気が鬼のそれに変わった。

 

 

「……はい、というわけで、よろしくお願いしますね♪」

 

 

もとのおっとりとした雰囲気に戻り、穂乃果さんと似た朗らかな微笑みを向けてきた。

 

 

「は…はい…」

 

 

かなり強引だが、明日から俺と穂乃果さんの奇妙な関係が始まることになった。

 

 




はい、というわけで穂乃果編の第三話です。

今回は忙しい中投稿したので…もしかしたら「?」と思う部分があるかもしれません。
帰って落ち着いたら、いろいろ編集したいと思います。

高坂美穂っていうのは、穂乃果の母親で、秀造ってうのはお父さんの事です。


え~っと…実は、これからどう穂乃果とイチャイチャさせるかは、正直あんまり浮かんでないのが現状です。(いくつかは浮かんでますけど…中盤かな~って感じのネタが多いです。遊園地とか)
9人分全員のネタを考えるのって割と思いつかないもんですね~…
しばらくの間書くことは出来ないですし、ネタを募集したいと思います。
穂乃果と行ってみたい所とか、書いてくれると嬉しいです。※詳しくは第一話へ

え?ストーリーに組み込んでも大丈夫なの?
といった疑問を持った人もいるかもしれませんが、今作の世界観や、大まかなストーリーは決まっていますが、ネタに関してはあんまり考えていません
9人分も書くのは私の頭が処理しきれないです
なので、皆さんが考えたネタを突っ込んでもらって結構です

あと、俺ガイルコラボですが、現在小説を読んで勉強中なので、もう少々お待ちください。

ご意見やご指摘・感想・評価・ネタ提供など、心よりお待ちしております。


わざわざ最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

それではノシ


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園田 海未編
海未編 第一話 微妙な距離感


どうも、毛虫二等兵です。

今回は海未編の第一話です。

ちょっと無理があるだろ

っていう突っ込みはあるとは思いますが、温かい目で見逃してください。

二期8話「私の望み」のBパート、映画のキスシーンですら顔を真っ赤にする海未ちゃんならいけるかな~って思って。

今作は、ただ単にキャラクターを愛でる為だけに書いているSSです

拙い文章ですが。どうか温かい目で見てください


夜  午後 ―20:32―

 

 

「夕食が出来ました。温かいうちに食べましょう」

 

 

「わかった」

 

 

テレビの電源を切り、ダイニングテーブルの椅子に座ると、四人用の広さのあるダイニングテーブルの上にはご飯、味噌汁、肉じゃが、きゅうりの浅漬け、焼き魚、だし巻き卵など、和食中心の豪華な食事が並んでいた。

 

 

「すいません…今日は作り過ぎてしまいました…」

 

 

申し訳なさそうな表情をして俯いてしまっているが、俺は凄く嬉しかった。

 

 

彼女…―園田 海未(そのだ うみ)―と一ヶ月程前から同棲していた。

海未とは大学が一緒で、初めて知り合ったのも大学でのことだった。

俺と彼女が初めて話したのは、同じ2年の時の、とある講義の時だった。そして、たまたま隣に座っていたのが彼女だったというだけだ。

当時、バイトで夜勤が多かった俺は、その講義の時に寝ていることが多かった…というか、ほとんどで眠っていた。それに加えて、その講義を取っている友人はいなかった。

 

講義の内容も後半に入り、まとめの小テストが配られた。白紙の答案をみて絶望し、諦めようかとうなだれていると

 

「ノート…よかったら見てください」

 

といい、彼女はノートを貸してくれたのだ。そのおかげで俺は単位を無事に取得することが出来た。

 

そこからは、彼女とはいくつか講義が被っていることもあり、知らず知らずの内に会話が多くなっていった。

彼女から聞いた話だと

「当時の俺と、幼馴染が被って放っておけなかった」らしい。

 

告白しよう という事は何度かは考えたが、彼女に告白した強者は数多く存在し、見事なまでに撃沈したことを知っていた。なので俺は大人しく諦め、大学を卒業するまで「友達」のままでいるという関係を選んだ。

そのまま社会人になって数年が過ぎ、大学生活の楽しさを忘れて仕事に没頭している頃。

一本の電話が来た。

 

電話に出ると、聞いたことのない高齢の男性の声が聞こえてきた。

内容をまとめると、彼女はお見合い全て断り、交際経験が全くない(本人曰く)。ということで、それを危惧した海未の両親は、大学時代に仲の良かった俺に連絡してきたらしい。

その連絡以降はしばらく音信不通になったものの、その間に話が大幅に進められていたらしい、次に俺に連絡が来たときには、いろいろな段階をふっとばして同棲することになっていた。

当然、海未も反対し、俺も断ったのだが…一ヶ月前から同棲させられることになり…今に至る。

 

 

「そんなに落ち込まないで。それに、海未さんの料理はおいしいんだから」

 

 

「そっ…そうですか…あっ…ありがとう…ございます…っ!」

 

 

真っ赤になるのは相変わらずか~…でも、最初の頃よりは慣れてきているみたいだ

 

 

最初の一、二週間はことあるごとに真っ赤になり…いろいろ大変だったのを覚えている。

 

 

「それじゃあ食べようか、冷めたらもったいないし」

 

 

「そうですね…そうしましょう」

 

 

「「いただきます」」

 

 

箸を掴み、好物である肉じゃがをつつく。見た目もそうだ、彼女の作る料理は本当においしい。以前まではインスタントやコンビニ弁当が多かったが、もうあの生活には戻りたくないと思えるほどの美味しさだ。

 

 

「…美味しい」

 

 

「よかったです…今回は少し「はちみつ」を加えて見たのですが、お口にあっていたのなら何よりです」

 

 

ホッと胸を撫で下ろし、嬉しそうな表情で隠し味について話しはじめる。

 

 

「はちみつ…だからちょっと甘みがあるのか」

 

 

「バターなどいろいろ試してみたのですが、やっぱりはちみつが一番好みの味でした」

 

 

「他の隠し味か。今度お願いしてもいい?」

 

 

「もちろんです!」

 

 

海未の口調は自然と上機嫌になり、にっこりとうれしそうな笑みを浮かべた。

 

 

「ありがとう……ところで、明日の予定なんだけど…」

 

 

夕食を食べながら、明日の予定について話していると、程なくして夕食を完食、全ての皿は空になっていた。

 

 

箸をおき、両手の平を重ね、タイミングを合わせて

「「ごちそうさまでした」」

と言った。海未は椅子から立ち上がり、手慣れた手つきで皿をまとめ始める。

 

 

「皿は洗っておくけど…お風呂先にはいっちゃえば?」

 

 

「ですが…」

 

 

彼女はまとめたお皿を台所のシンクに置き、洗い物を始めようとした手を止めた。どうやら少し悩んでいるようだった。

昨日の夜に聞いた今日の彼女の予定は

午前中は「日舞」

午後は「書道教室の先生」があると言っていた。恥ずかしかったからなのか、「剣道の稽古」があることは教えてくれていなかった。

 

 

「いいよ。今日は日舞の稽古もあったみたいだし、それに…剣道もしてきたんでしょ?」

 

 

「なっ…なんで剣道の稽古をしていたことを知っているのですか!?」

 

 

彼女は大きく慌てる素振りを見せ、顔は真っ赤になっていた。

 

 

そりゃ…籠手の匂いは誤魔化せないよ…

 

 

幼いころから高校に入学するまで、惰性ではあったが剣道を続けていたことがある。だから防具特有の汗臭い匂いがあることも知っている。

 

 

「いいよいいよ。俺はそんなに疲れてないし」

 

 

「…わかりました。では…お先にいただきます…」

 

 

「どうぞ~」

 

 

俺は椅子から立ち上り、洗い物を始めた。

 

 

~25分後~

 

 

洗い物を片付け、「日舞」について少し勉強していると、彼女の声が聞こえてきた。

 

 

「お先にお風呂頂きました…すいません、気を使ってもらって」

 

 

バスタオルで濡れた髪の毛の拭きながら、寝間着のパジャマに身を包んだ彼女がリビングに上がってきた。

 

 

「いいよ。先に寝てる?」

 

 

少し考えた後、申し訳なさそうな表情で彼女は答えた。

 

 

「そうですね、また明日も早くなってしまうと思うので…」

 

 

「そっか…おやすみ」

 

 

「お休みなさい」

 

 

俺と彼女の寝室は別になっていて、微妙に距離感があるのだ。いろいろな段階を素っ飛ばしているんだから…当然と言えば当然なのかもしれない。

 

 

「さて…風呂だ」

 

 

その後、俺は風呂に入り、布団に入って眠りについた。

 

 

 




最後まで読んでくれてありがとうございます!

気が付いたら…今の所一番長いのは海未ですね、好きキャラ(特に)となると…やっぱり凄く書きやすいです。

他のメンバーについてですが、どんどん更新していきたいと思います。
ご意見(ご指摘)・ご感想、心よりお待ちしております。

それではノシ


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南 ことり編 
ことり編 第一話  夢


どうも、毛虫二等兵です。
今回は、二年生組であり、μ'sの初期メンバ―であることりの話です。

ことりとの接点を作るために、今回の主人公はちょっと特殊な設定です。

ことり編の主人公は、幼いころからデザイナーという夢を抱いていましたが、挫折し、デザイナーの夢を諦めようとしているが…未だに未練が残ってしまっている。
という設定です。


拙い文章ではあると思いますが、温かい目で見てくれると嬉しいです。


それではノシ


(次は~秋葉原~秋葉原~)

 

俺は運転の荒い電車に揺られながら、次の就職先のことを考えていた。今は無職ではないが、おそらくあとちょっと、近い未来に俺は無職になる。この契約が上手く行かなければ…業績の芳しくない俺はクビになるだろう。

 

 

やる気のない奴は…いらないよな…

 

 

上司からのメールには

「南 ことり」と専属の契約を結ぶこと

という文面が書かれていた。

 

 

「南 ことり」といえば、世界の中で10本指に入るほどの有名デザイナーに弟子入りし、独創的なセンスと発想力、そして優れた容姿を生かして自らモデルを務めるなど、ファッション界に大きな衝撃を与えた人物だ。年齢は俺と同じ25歳…期待の新星というわけだ。

 

 

彼女が日本人という事もあるのか、すでに多くの大手企業が契約を持ち掛けたらしい。

こういった場合、もうすでに大手が契約を結んでいるため、俺の所属している小さな会社なんかに契約の順番は回ってこない。

しかし今回は、俺の会社に回ってきたのだ。理由はわからないが、これは彼女が大手との契約をすべて断っている…ということになる。

そして、そんな大物を相手にし、俺は契約を持ち掛けなければならない。

 

 

大手でも駄目な相手にこんな小さな会社と契約してくれるとは思えない。それが俺の感想だった。

 

 

神田駅を過ぎると、電車は目的の駅である有楽町駅に到着した。彼女はここの駅の近くのビルを借りているらしい。

 

 

…行くか

 

 

電車を降り、俺は彼女のいるビルへ向かった。

 

 

 

 

 

 

夕方 ―17:10―

 

 

「ですから、今回の契約では…」

 

 

 

 

 

ビルに到着し、俺は係員に応接間のような部屋に案内された。エレベータを上がって8階に昇り、少し長い廊下を歩いていくと、「南 ことり」はいた。彼女は紺色のYシャツと白色のスーツに身を包んでいる。

ブラウン色の瞳と、透き通ったベージュ色の髪とワンドアップの髪型。スタイルもいい、彼女時自身がモデルを務めている時があるというの話は、あながちウソではない様に思えた。

 

 

部屋に入り、お互いに挨拶を交わした後。1メートルくらいの大きさの円形の机を挟みんでソファーに座っていた。

 

 

「説明は以上です。何か質問はありますか?」

 

 

初めて会った時に思ったが、やはり写真で見るのとは全然違ってみえた。契約書を見つめる瞳は、真剣そのものだ。

 

スリーサイズは上から―B:80前後-W:60くらい―H:70より上…といったところだろうか。おっとりした感じの雰囲気をもっているから…少し趣向を変えてメイド服のようなひらひらした感じの……おっといけない。今はデザイナーなんかじゃない……ただの社員だ

 

 

―君のデザインからは…そうだな、何かが足りないんだ、すまないね…よく言って”平凡”目を引くものがない。残念だが…今回は…―

 

 

―う~ん…うちでは雇えないよ、また頑張りたまえ―

 

 

どれだけ頑張っても…届かない場所がある。それを痛感した。“夢”なんて…才能がなければ叶えることは出来ない。

 

 

…ただの社員だ

 

 

「あの~…聞いていますか?」

 

 

「はっはい!」

 

 

少し昔の事を思い出してしまい、彼女の言ったことを聞き逃してしまっていた。

 

 

しまった…!これで機嫌を悪くしたら契約なんて……まぁ…いいか

 

 

「何か考え事ですか?」

 

 

彼女は微笑みながら、おっとりとした口調で質問してきた。

 

 

「えっと…」

 

 

「?」

 

 

きっとさほど興味をもってないかもしれないが、彼女は少し不思議そうな表情をしている。

 

 

どうせ契約してくれないならいいか。という思いから、俺は八つ当たりのような質問を彼女にぶつけた。

 

 

「…どうして、大手の専属契約を断ったんですか?」

 

 

「どうして…ですか?」

 

 

さっきよりも不思議そうな表情をし、間の抜けたような表情をしている彼女を見ているうちに、自分の発する言葉に力が籠っていった。

 

 

「他の人より圧倒的な才能もあって…自分が期待の新星って言われていることくらい知ってますよね?大手と契約すれば生活も安定するし、これからどんどん夢を掴んでいけるかもしれない…!!それなのにどうして断るんですか!?」

 

 

「それは…」

 

 

俺はソファーから立ち上がり、困惑している彼女の言葉を遮って言葉をぶつける。

 

 

「掴みたくても…!あんたみたいに…自分の“夢”を掴めないやつだっているんだよ!」

 

 

彼女はムッとした表情で俺を睨みつける。俺はハッと我に帰り、すぐに頭を下げた。

 

 

「はっ…!?すいませんでした!!!」

 

 

何言ってんだよ…俺!

 

 

冷静になって考えて見れば、失礼極まりない上に、彼女の才能に対する一方的な嫉妬でしかない。何度も頭を下げる。

 

 

「ホントにすいませんでした!」

 

 

「頭を上げてください。…契約については、今夜中にご連絡します。今日はもう帰って下さい」

 

 

一息ついた後、彼女は資料をファイルの中に入れ、ソファーから立ち上がった。口調は少し怒っているように聞こえた。

 

 

「…はい。すいませんでした。失礼します」

 

 

その後俺はもう一度だけ頭を下げ、応接間を出た。今は電車に揺られ、真っ暗で何も見えない将来の不安をひしひしと感じている真っ最中だ。

 

 

クビは確定……でも、自業自得だ。今度は…デザインとは一切関係ない所に就職しよう

 

 

 

 

 

朝 ―08:30―

 

クビ宣告を覚悟し、いつもより重たい会社ドアを開けると…想像もしていなかった結果が、俺を待っていた。

 

 




最後まで読んでくれてありがとうございます!

今回はちょっと引っ張ってみました。
なんとなくわかっている人もいるかと思いますが、このあと主人公に転機が訪れます。


軽いQ&A

Q、主人公何でキレたん?
A、本文にあるとおり、主人公にとっては大事な「夢」だっだのですが。夢を諦めきれずにいました。
主人公から見れば、喉から手が欲しい才能を持っているにもかかわらず、ことりはその才能を生かそうとしない。
という風に見えてしまったと解釈してください

それ以外にも理由はあるのですが。それはまた次回に書いていきたいと思います。


注意書きに書き足した項目があるので、よかったら確認してください。


ご意見(ご指摘)・ご感想、心よりお待ちしております。


それではノシ


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ことり編 第二話 諦めないで

どうも、毛虫二等兵です。
今回はことり回です。

二年生組の中だと、なんだかんだで一番ストーリーの展開はあるかな~と考えています。

前書きが長くなるのもあれなので、今回はこれで。あとは、後書きに書いていこうと思います。

今回出てくる服ですが、「スクフェス 画像」で検索し、SR(3月編)のことりを発見しました。(ちなみに私はスクフェスはやってません)

拙い文章ではあると思いますが、温かい目で見てください。



朝 ―08:30―

 

出社すると、俺の嫌いなちびデブの上司が俺に飛びついてきた。

 

 

「はあ!?」

 

 

「よくやった!よくやったぞ!」

 

 

気持ち悪い!離れろって!…と言いたいが、仮にも上司なわけだから、そんな言葉を使うわけにはいかない。言葉を飲み込み、作り笑顔で質問を投げかける。

 

 

「…えっと、なにがあったんですか?俺は今日でクビなんじゃ…」

 

 

いつのなら、「ふんっ…自分で考えろ」と、嫌味っぽく言うのだが、今日は違った。

 

 

「そんなことを言うんじゃない!やれば出来るじゃないか!」

 

 

「え…!?」

 

 

昨日までの上司とは人格が変わったみたいな掌返しに、動揺を隠すことができない。

 

 

「いいから!今すぐ応接間に行きなさい!」

 

 

「え…?あ…はい」

 

 

気持ち悪いくらいテンションの上司が離れることができ、ようやくストレスから解放された。指示された通りに応接間につながる廊下を歩いていると、いつも短いと思っていた距離が、凄く長く感じた。

 

 

なにが…“やれば出来る“だよ。俺は今日…クビになるはずなのに……まさか、まさかな

 

 

昨日の南 ことりさんが契約をしてくれた…ということなら、この状況も納得はいく。だけど、それはありえない。昨日俺は彼女に向かって…

 

 

考え事をしているうちに、応接間のドアの前についてしまった。

 

 

まあ…どうにでもなれ

 

 

ドアをノックし、「失礼します」と言って応接間に入る。

 

 

ん…?あれって…

 

 

そこには紺色のYシャツの上に白色のスーツ、ブラウン色の瞳と、透き通ったベージュ色の髪とワンドアップの髪型…

 

 

「あんた…どうして!?」

 

 

応接間のソファーに座っているのは…「南 ことり」だった。

 

 

「おはようございます。また、会いましたね♪」

 

 

彼女は部屋に入った俺に気付くと、無垢な少女のように、優しく微笑んだ。

 

 

あれ…昨日は怒ってたんじゃ…??

 

彼女は荷物をまとめてソファーから立ち上がり、俺の前で止まった。

 

 

「それじゃあ行きましょう」

 

 

というと、彼女は応接間の扉を開け、廊下に出て歩き始めた。

 

 

「え?ちょ…!」

 

 

「ほら、早く早く♪」

 

 

なんの陰りもない笑顔で俺の方を向き、こっちにおいでと言わんばかりに手を招いていた。

 

 

状況は読めないが、とにかく話を聞くしかない。そう考えた俺は、彼女の後ろに付いていった。

 

 

「あの…どこへ…」

 

 

彼女はお構いなしに歩き進めながら、俺の質問をスルーし、質問を質問で返してきた。

 

 

「荷物はもってますか?」

 

 

「…はい、今持ってるのが全部です」

 

 

「わかりました」

 

 

そして俺がさっきいたフロアに入って到着し、彼女は扉を開けて中に入った。

 

 

「それじゃあ、約束通りに彼をお借りしますね♪」

 

 

「!?」

 

 

そう言い放った彼女は扉を閉め、さっさと出口に向かって歩き始めた。

 

 

一体…なにがどうなってるんだか…

 

 

会社の入り口の自動ドアを抜けると、彼女はようやく足を止めてくれた。

 

 

「あの…訳がわからないんですが…借りるって一体?」

 

 

「う~ん…それじゃあ、今日は少し案内してもらってもいいかな?♪」

 

 

聞いているのか、聞いていないのかわからないが、彼女は軽やかに俺の質問をスルーした。

 

 

「あの…まあいいや。どこを案内すればいいんですか?」

 

 

「う~ん…」

 

 

今どこにいくかを考えているのか、彼女は少し考える素振りを見せた。

 

 

案外無計画なのか…?

 

 

「あの…」

 

 

思いついたのか、何故か彼女は俺の右手を両手で握った。

 

 

「あなたにお任せします♪」

 

 

「は!?」

 

 

彼女は思いついたわけではない、全部俺に投げてきたのだ。しかも…俺と彼女の身長を比べると、彼女のほうが一回りくらい小さい。この体勢だと…俺は必然的に上目遣いで見つめられることになる。

 

 

「…!?」

 

 

「駄目…ですか?」

 

 

ブラウン色の瞳を輝かせ、少し艶めかしい声色で訴えてくる。…わざとやっているのか、はたまた天然なのかわからないが、あざとい。

 

 

「っ…!?」

 

 

出会ったばかりだし、彼女を特別に意識しているわけではないが、こんなことをされて断ることなんてできない。

 

 

「…わかりました」

 

 

「よくできました♪」

 

 

そういうと、彼女はようやく離れてくれた。

 

 

案内か…いったいどこへ…

 

 

今まで行ったところを思い出し、考えてみたが…思い当るところがなかった。それに何をしていいかもわからない。

 

 

「洋服とかのお店を回ってくれると嬉しいな~♪」

 

 

彼女は俺から視線を逸らし、独り言のように呟いた。

 

 

あぁ…なるほど

 

 

「わかりました」

 

 

まあ…途中でわざとはぐれて…いや、彼女を一人にするのは危険か

 

 

「それじゃあ、お願いしま~す♪」

 

 

そういうと、彼女はおもむろに自分の手と俺の手を重ねてきた。

 

 

「ちょ!?」

 

 

「?」

 

 

手を繋ぐのがさも当たり前のように。彼女は首を傾げて「?」不思議そうな表情をした。

 

 

「いや…なんで手を繋いでるんですか?」

 

 

「だって、さっき逃げようとか考えたよね?」

 

 

「!?」

 

 

なんでわかった…!?

 

 

「やっぱり…だから逃がしません♪」

 

 

彼女の柔らかい手の力が少し強くなり、しっかりと掴まれてしまった。俺は彼女から逃げられないことを悟った。

 

 

「逃げませんよ…ちょっと考えただけです」

 

 

「よろしい♪」

 

 

そういうと、彼女はとびきりの笑顔を向けてくれた。少し気恥ずかしいけど…逃げられそうもない。

 

 

「…いきますよ、南さん」

 

 

「ことりです」

 

 

「?」

 

 

「次、名前を呼ぶ時は、ことりって読んでくださいね♪」

 

 

さっきと変わらない笑顔を向け、遠回しに俺に拒否権はないことを伝えてきた。

 

 

「…わかりました。ことり……さん」

 

 

「よろしい♪」

 

 

仕事であることを忘れ、俺は彼女にあった服を売っている店を案内した。

 

 

 

 

  夜 ―17:35―

 

 

俺は付いてきたことを物凄く後悔しながら、中型の紙袋を6つ、両手で持っていた。断じて俺の服ではない。これは彼女の…ことりさんの服だ。回ったお店は18件。彼女は俺が選んだ服のほとんどを購入していた。その荷物持ちは…当然俺になる。

 

 

他の店舗と同じように、店内に入り、店頭に置かれている全ての洋服を見ていく。時間はかかるが…何故か手を抜く気にはなれなかった。

 

 

~20分後~

 

 

 

「いいのはあった?」

 

 

「はい」

 

 

手にしたのは、上は肩などにピンク色のラインが入っている紺色のジャケットと無地のシャツ。下は花柄で、薄ピンク色のロングスカートだった

 

 

「どうですか?」

 

 

取ってきた服を少し眺めた後、彼女は笑顔で

 

 

「ありがとう♪」

 

 

と言った。どうやら気に入ってくれたらしい。

彼女は機嫌がよさそうに歩き、会計をしてお店を出た。…ようやく俺は、彼女との仕事(?)を終えた。

 

 

屋上に上り、疲れ切った足を休める為に備え付けのベンチに座る。一息つき、オレンジ色に輝いている夕日を忌々しげに睨み付けた。

 

 

まったく…なにしてるんだか…

 

 

「…つかれた~…」

 

 

「はい、これ。今日はありがとう♪」

 

 

心からの悲鳴が知らず知らずのうちに出ていたらしく、ことりさんにも聞こえていた。彼女は空いている俺の隣に座り、午後の紅茶のミルクティーを飲んでいた。

俺は彼女が買ってきてくれた缶コーヒーを受け取り、蓋をあけて一口飲む。なんとなくだが、このコーヒーは身体中に染みわたっていくように感じた。

 

 

「ふぅ…」

 

 

「朝の質問の答え、聞きたい?」

 

 

「え…?」

 

 

隣を見ると、今までにないほど真剣な眼差しで、彼女がこっちを見ていた。

 

 

朝の事…そうか

 

 

「はい。教えてください」

 

 

「昨日、“あなたは夢を掴めない人もいる”と言った。でも…あなたはまだ諦めきれていない。ちがうかな?」

 

 

そうだ。俺はまだ諦めきれてなんかいない…なりたくてもなれなかったから、仕方なくデザイナーを支える仕事に就いた。それでも…どうしても諦めきれない夢だった。

 

 

「…はい。子どもの頃から手先が器用で、家庭科が得意でした。そして高校生の時、ステージで輝く人たちを見て…凄い憧れたんです。でも、俺は彼女達みたいに輝くことは出来ない。だから、彼女達を思いっきり輝かせるための衣装を作ろうって思って…頑張ってた時期もありました」

 

 

自分語り なのかもしれない。でも、彼女の前で嘘をつくことは出来なかった。

 

 

「…うん」

 

 

「でも…駄目だったんです。何度も何度も考えて、やり直して、徹夜して。やっと出来上がったデザインも…結局は駄目でした。諦めきれないまま、惰性で今の会社に入って、言われたことだけこなして…そこでも駄目で、もう次の就職先を考えてるところだったんです」

 

 

―君は…平凡だ―

 

 

審査員に言われた、あの時の言葉。あの言葉は、完全に俺の心を折ってしまった。

 

 

「結局俺は…“夢”を叶えるなんて出来ないんです。……すいません、語っちゃって。今日の夜には、上司に辞表を提出しようと思います」

 

 

荷物を掴んでベンチから立ち上がり、少し前に進んで、彼女に背を向ける。

 

 

「もう…いいですか」

 

 

「駄目」

 

 

帰ろうと歩き始めた俺の足を、彼女の言葉が止めた。

 

 

「あの時のあなたの瞳は…まだ諦めていなかった。今日だってそう、あなたは私の服を選んでいるとき、真剣だった」

 

 

「…それが…なんだっていうんです。所詮、俺はその程度だって…」

 

 

彼女は再び俺の言葉を遮り、話に割り込んできた。

 

 

「私も…夢を諦めたことがある。高校二年生の時、私は先生の招待を断って…スクールアイドルの大切な友達の所に行った。でも、三年になってスクールアイドルが解散した後…そのしわ寄せが来た」

 

 

「断ったって…」

 

 

「一度申し出を断った以上。相応の実力がない限り、先生は認めてくれなかった。だからもう一度弟子入りするために、何度も何度も、数え切れないくらい衣装デザインを送っては断られて…諦めそうになったことがあるの」

 

 

「え…?」

 

 

今の話を聞くまでは、天才だと思っていた。圧倒的な才能があり…努力なんてしていないように思っていた。だけど…実際は違った。

ただの企業と、有名なデザイナーに弟子入りするのとでは訳が違う。しかも…実力で認められなくてはならないのだとしたら、途方もない努力をしたはずだ。

 

 

「でも、穂乃果ちゃん…大切な友達がね、何度も支えてくれたの。夢を諦めちゃ駄目だよ…って。だから、あなたにも諦めないでほしい、もし…本当に駄目だって思うんだったら、ことりがあなたを引っ張るから!」

 

 

彼女の言葉は胸に刺さり、少しずつ、心の中にあった黒い靄が消していった。

 

 

「俺は…」

 

 

もう一度…もう一度だけ、あの時のように頑張れるなら…!

 

 

「もう一度、お願いします!」

 

 

そして…もう一度だけ頑張ろうと、決意を固めた。

 




最後まで読んでくれてありがとうございます!

ということで、ことり回でした~。

文章化しようとすると…やっぱりことりって難しいですね。

私の中の勝手なイメージですが、ことりって頭の良い方だと思うんです。突っ走る穂乃果と、それを危険だから止める海未、そして衝突しそうになった二人を止めることり。
このことを考えると、人の心の変化とか、そういうのを読み取るのが上手なんじゃないかと考えてました。

今回もですが。なんというか…ことりちゃんの可愛さを表現出来ているのかの自信がないです。なので
違うな~
って思ったら、指摘してくれると助かります。

今回の話ですが、アニメ一期の留学騒動と、解散後の一年間について触れました。
ここの部分は、少しだけオリジナルの設定を加えました。
初めて一期を見た時
ん?
ってなって、二期でも留学騒動についてはあんまり触れていなかった気がします。
そこで、ことりが将来就職するとしたら
音ノ木坂学院理事長コース、デザイナーコース、まったく関係ないところに就職するコース。
など…いろいろなパターンを考えてました。

決め手になったというか…やりたかっただけですが
本文の最後の方、ことりが主人公を説得するシーンです。

あれは、μ'sの時は穂乃果がみんなを引っ張っていました。時間が経って、今度は立ち止まっている主人公を、ことりが引っ張ってあげるのもありかと思ったんです。

そうすると、デザイナーになるにあたっていろいろ問題が発生するのではないかな~と考えました。

これ以上長くなるのもあれなので、今回はここまでにします。

後書きながくてすいません!



ご意見(ご指摘)・ご感想、心よりお待ちしております。

わざわざ最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

それではノシ


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絢瀬 絵里編
絢瀬絵里編 第一話  


どうもお久しぶりです。毛虫二等兵と申します。

やっと忙しい生活から解放されたと思ったら、一転して何もない日々が2日程続いてました。
忙しい時は「早く書かなきゃ…」みたいな使命感を感じるのですが、逆に何もないと「後でいいや」ってなってしまうって不思議な状態でした。

そんなこんなでようやく絵里編の一話です。
ロシア旅行とか…ばったりの出会いとか、前回のはちょっと勢いで書きすぎた気がします。
今回のは頭を冷やして、出来るだけ考えたつもりです。



誤解がないように簡単に説明を…

今回登場する 
有紗 と アニメに登場する 亜里沙 は別のキャラです!

わざと読み方を同じにしました。すいませんm(__)m



5月29日 夜 -10:20―

 

「疲れた~!」

 

スーツのジャケットを脱ぎ捨て、ワイシャツのまま布団の上に寝っ転がる。怒涛の五連勤を終え、ようやく気が休まる時間が出来た。そして…明日は久しぶりの休みの日だ。

 

 

「あ~…動きたくない…」

 

 

ピンポン♪

 

 

ん…?

 

 

ポケットに入っている携帯を取り出し、メールに添付されているファイルを開くと、高校の時の友人と、美しいドレス姿に身を包んだ幼馴染が映っていた。二人は透き通るような青い海を背に、幸せそうに笑っていた。

 

 

「そっか…あいつら結婚したんだっけ」

 

 

幼馴染のメール文面には

 

“私達、5月29日に結婚しました!

彼からは、仕事で忙しくて結婚式に来られなかったと聞いています。

しばらくこっちの生活を満喫してから、日本に帰りたいと思います。

あんたも早く見つけなさいよ!“

 

 

「余計なお世話だ…ん?」

 

 

しばらく写真を眺めていると、もう着信音が鳴った。今度は高校の友人からだ。

 

“久しぶり!

出来れば来てもらいたかったけど、仕事で忙しいなら仕方ない。あんまり気にすんな

それと、こっちの料理は俺には合わない!なんでこっちの料理って妙に味が濃かったりするんだ?

そんなわけで!

今度来れなかった分の償いとしてお前の奢りで居酒屋に連れてってもらうからな!

 

“お断りだ“

 

 

と返信し、俺は起き上がり、夕食を食べるためにリビングに向かった。

 

 

25にもなって実家住み

ということを伝えると、男女関係なくすごく微妙な顔をされる。いやまあ…それはそうなんだけども。

そして、目標は「一人暮らし」をすることだ。今の会社もそのために働いている。

 

 

「母ちゃん飯~…ん?」

 

 

何の気なしに扉を開けると、腕を組んで威圧的なオーラを纏っている母親と、黒色のセミロングの髪、可愛らしいピンク色のパジャマに身を包んでいる、中学二年生になった姪っ子の有紗(ありさ)が睨み合っていた。理由は知らないが、有紗は中学・高校の間だけ、こっちの家に預けられることになっている。

俺と有紗は一緒に暮らして一年経つが、彼女と話したことはあんまりない。

 

 

そしてきっとこれは

姪っ子が何らかの形で母にお願いしていて、それにはどうしてもお金が必要になる

という感じだろう。

 

 

「お願い!お願い!!」

 

 

何度も言い寄る有紗に対し、表情が一つ変えることがない母。

 

 

うわぁ…どうしよう

 

 

「はぁ…あっ…あんたちょっと来て」

 

 

ため息をつくと、母はようやく俺の存在に気づき、席に座れと目で命令して来た。

 

 

~10分後~

 

 

「ということなの。あんたはどう思う?」

 

 

「まぁ…うん…」

 

 

今回の事をまとめると

有紗の通っているクラスのダンスのレベルが全体的に高くなりつつあり、このままではいけないと彼女は思い始めていた。

そして、姪っ子の友達の何人かもダンススクールに通い始めたらしい。

焦った有砂は勝手にダンススクールの無料体験を受け、そのまま流れで書けるところまで契約書にサインしてしまい、あとは保護者の同意を待つだけの状態にまで話を進めてしまった。…ということらしい。

 

 

「お願いします…!」

 

 

そっか~…ダンス必修化なんだっけ、こいつらの世代って。俺は必修化する前の世代だったからな~…

 

 

「私は反対よ。考えが甘いもの」

 

 

呆れるようにため息をつき、そっぽを向く母。それをなんとかしようと、少し泣きそうになりながらも必死にお願いする有紗。

 

 

「…いけないことをしたのはわかってるよね?」

 

 

「…うん」

 

 

なんとなくだけど、彼女の焦る気持ちはわかる気がした。自分一人だけ残されるのは、なかなかに堪えるものだ。きっとクラスの立場みたいなものもあるのだろう

 

 

「それじゃあ、母さんがどうして怒っているかわかる?」

 

 

宥めるように話しかけると、少し間を空けて有紗が弱弱しい言葉遣いで話はじめた。

 

 

「勝手に…話を進めたこと」

 

 

ここ一年間あんまり話したことは無いとはいっても、性格は何となく理解している。彼女は思ったこと・自分で決めたことを後先考えずに進めてしまう性格だった。要は 思い立ったが吉日 みたいな感じ。

 

 

「わかってるならよし。母さん、料金は俺が払うよ。」

 

 

「本当に!!!」

 

 

有紗の表情がぱぁっと明るくなり、 ガタッ と椅子から立ち上がって身を乗り出した。

 

 

「あんた…」

 

 

「今回は許してあげればいいじゃん。相手にも迷惑かけるわけにはいかないし…」

 

 

母は呆れきった表情をし、さっきより大きなため息をついた後、有紗向かって話しかけた。

 

 

「…これからは気を付けること。今回限りなんだから…」

 

 

「本当にありがとう!ありがとう!やったー!!」

 

 

有紗は小躍りをしながら、ピョンピョンと飛び跳ねながら喜んでいた。

 

 

「…で、いくらくらい?」

 

 

「…これ」

 

 

机の上に置いてあった青色の封筒を取り、中に入っている資料を取り出して目を通す。

 

 

「……こんなに高いっけ?」

 

 

受講料は毎月8800円 最初の月は入学金として+6000円掛かる

と書いてあった。練習の回数は週に2回行うらしい。

 

 

おいおい…きっついなこれ

 

 

「あんた一人暮らしするんじゃ…?」

 

 

不安そうにこっちを見てくる母親の気持ちもわかる。俺もこんなに高いとは考えていなかった。

 

 

「わかってるって、一応格安物件は見つけてあるし…貯金もあるから」

 

 

それに…

 

 

「ありがとう!本当にありがとう!」

 

 

有紗は今も嬉しそうな顔で飛び跳ねている。

 

 

…今更断るわけにはいかないな

 

 

「えっと!明日の学校終わりだから…明日の18時に秋葉原のSENA前に居てね!約束です!」

 

何度もお礼を言おうとくっ付いてくる有紗を退け、明日が休みでよかったと思いつつ、部屋に戻って寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

5月30日 夕方 ―16:00―

 

 

リズムゲーやらクレーンゲームの音がうるさいSENAの入り口の前で待機していると、有紗が駅の方から手を振りながら走ってきていた。

 

 

「おにいさ~ん!!」

 

「ごふッ!?!」

 

 

人と人の間を潜り抜け、全速力で走ってきた有紗が腹に飛び込んできた。みぞおちに受けた強烈な痛みを堪えながら、有紗に向かって引きつった笑顔見せる。

 

 

「…あ…りさ…っ!…走っちゃ危ないだろ……?」

 

 

「あっ…ごめんなさい!」

 

 

背中に回していた手を離し、有紗はささっと後ろに下がって頭を下げた。

 

 

「…場所はわかる?」

 

 

「はい!」

 

 

まだ続いている腹部の鈍い痛みを我慢しながら、俺と有紗は移動した。

 

 

 

~20分後~

 

 

改めて思ったことだが、有紗と話すのは久しぶりのような気がした。一つ屋根のしたとはいえ、会話もほとんど交わしたことがなかった。

 

『ここです!』

 

『駅前のSENAに比べ、随分人気のない道のビルの一角に、そのダンススクールはあった。』

 

 

「ここが…」

 

彼女が貰って来たパンフレットに書いてある通り“絢瀬ダンススクール”と書いてあった。自動ドアを通り、美容室のような綺麗な受付で軽い手続きを済ませると、奥の応接室のような部屋に案内され、座らされた。

 

 

「絵里さんこないかな~♪」

 

 

この部屋に案内されてから、有紗は常に嬉しそうで、落ち着かない様子だった。

 

 

「絵里さん?」

 

 

「はい!絢瀬絵里さん!すっごく上手で!綺麗で!すっっごく優しいんです!!」

 

 

そういえば…パンフレットにそんな名前があったような…

 

 

「遅くなってすいません…ってあれ?有紗じゃない、ご両親に許可は取れたのね」

 

 

ノックの音が聞こえてすぐに、ジャージ姿の女性が応接間に入ってきた。

 

 

「はい!」

 

 

「よかった」

 

 

そういうと、“絵里さん”と呼ばれた女性は前の椅子に座り、握手を求めてきた。

 

 

「初めまして、絢瀬絵里といいます」

 

 

透き通るような美しい金色の髪と、鮮やかなクリアブルーの瞳。テレビでよくある「美人モデル」とか、そういう類の女性であることは間違いない。

 

 

なんだこの美女…モデルさんか……?

 

 

「おにいさん!握手!」

 

 

「はっ!…初めまして!」

 

 

握手に気付き、慌てて握手を返す。

 

 

―見惚れてしまっていた―

 

 

なんてこと、有紗の前で言うわけにはいかない。

 

 

「では、説明を始めます」

 

 

手を離し、彼女はダンススクールの説明を始めた。

 

 




というわけで絵里編の一話でした。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

結構急ぎめで書いているので、後で修正が入ると思います

UAもお気に入りも大幅に増え、正直驚いています。本当にありがとうございます!
あとメッセージを送って下さった3名の方、本当にありがとうございます!今後のネタとして使わせていただきます。


絵里編では、姪の有紗を接点として、話を進めていこうかな~というのと、他の接点もこれから考えいます。(だいたいあと2話くらい?)


ご意見やご指摘・感想・評価・ネタ提供など、心よりお待ちしております。


わざわざ最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

それではノシ


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絢瀬絵里編 第二話  

どうも、毛虫二等兵と申します。

そんなこんなで今回は絵里編の二話です。今回も急ぎ足の中での投稿です。元より駄文な文章が更に駄文に…orz

というか、これって毎回のように言っている気がしますね…
現在3作品(ビビオペ・ガイル・ラブライブ)を同時に書いているので、やっぱり誤字・脱字、文章が雑になっている部分はあると思いますので、後日少しだけ修正が入ります。

最近 人間の時間は24時間以上欲しい なんて思ってしまう。


このままだらだらと長くなってもあれなので、前書きはこれで




5月30日 夜 -18:28-

 

 

「以上が当スクールの概要になります。何かご質問はありますか?」

 

 

「一つだけよろしいですか?」

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

「この「矢澤プロダクション」っていうのは一体…」

 

 

気になっていたのは”矢澤プロダクション”との業務提携にあると書いてあった所だ。さっきの説明だと…受講するコースの説明の時に少し出てきた位だ。

 

 

「それはプロのアイドルを目指している人向けのコースですね。後ほど確認しようとは思っていたのですが…有紗ちゃんはプロ志望でしょうか?」

 

 

「有紗?」

 

 

「う~ん…」

 

 

有紗は少し考えているようだった。やっぱり、あんまり将来について考えていないんだろうな~なんて思っていると、部屋のドアの前の辺りにひそひそと動いている影を発見した。

 

 

「あの…外に誰かいますけど…」

 

 

「はぁ…」

 

 

絢瀬さんはため息つき、立ち上がってドアを開く。すると…

 

 

「なにしてるの?」

 

 

「あはは…」

「すいません…」

「…ごめんなさい」

 

 

ドアの向こうの廊下には、三人に制服姿の女の子が部屋に入ってきた。

 

 

「音ノ木坂の制服…」

 

 

小さな声で呟いた有紗の瞳は、きらきらと輝いている。

 

 

「それで…何をしていたの?ドアの前なんかに隠れて…」

 

 

絢瀬さんがそう尋ねると、ショートカットのオレンジ色の髪色の女の子が苦笑いで答えた。もし本当に“音ノ木坂学院”の制服なのだとしたら、彼女達は高校生なのかもしれない。

 

 

「えっと~…しずくに新しい人が来るって聞いちゃったから気になって…」

 

 

しずく と呼ばれたロングヘアーの女の子が頭を下げた。

 

 

「すいません絵里さん…」

 

 

「だからやめてこうって言ったのに…」

 

 

「理華ちゃんだって気になるって言ってたのに~!」

 

 

紺色のショートカットの女の子がボソッと呟くと、オレンジ髪の女の子が肩を掴んで必死に訴えている。なんだ、この微笑ましい光景…

 

 

「気になると、行動するのは…別の話」

 

 

理華 と呼ばれた女の子は、少し顔を赤くしてそっぽを向いた。

 

 

「理華ちゃ~ん!」

 

 

「はぁ…でもちょうどよかった。彼女達は音ノ木坂学院のスクールアイドルで、プロコースを選択している女の子達よ」

 

 

「プロの…アイドル」

 

 

絢瀬さんから説明を受けた有紗の瞳は、さっきよりも煌々と輝いている。

 

 

「初めまして!私は、支えるに倉って書いて、支倉かさねっていいます!♪」

 

 

一番最初に話したオレンジ色のショートカットの女の子 支倉かさね という女の子が、嬉しそうな笑顔で挨拶をしてきた。

 

 

「私は桜坂しずくと言います。私達はみんな、音ノ木坂学院の二年生なんですよ。ほら、理華さんも挨拶を」

 

 

さっき しずく と呼ばれた女の子だ。なんとなくだが、彼女を言い表すのなら“大和撫子”という言葉がぴったりのような気がする。そして彼女はもう一人の紺色のショートカットの女の子に向かって微笑みかけた。

 

 

「…神谷理華、二年生。よろしく…」

 

 

少し間をおいて、 神谷 理華 という女の子は恥ずかしそうに俯きながら自己紹介をした。

 

 

「もっとちゃんと自己紹介しようよ~!」

 

 

「…かさね、くっつかない」

 

 

「二人ともはしたないですよ、まったくもう…」

 

 

なんというか、目の保養になるな~と思いながら眺めていると、絢瀬さん パンッ と手を叩き、三人の動きがピタッと止まった。

 

 

「みんなはこれから練習の時間でしょう?早く行かないと先生怒っちゃうわよ」

 

 

「もうそんな時間!?」

 

 

腕時計を見ると、針は19:57を刺している。

 

 

「先生に怒られる~!」

「危ないですよ、かさねさん!」

「怒られるの…嫌」

 

 

そう言い残すと、三人は慌ててドタバタと走っていった。

 

 

「まったくもう…」

 

 

そういいながらため息をする絢瀬さんの表情は、どこか嬉しそうに見えた。

 

 

「そうだ…有紗!せっかくだし見て見たくはない?」

 

 

何かを思いついたのか、彼女は有紗に向かって提案してきた。百聞は一見に如かず…ということなのだろうか

 

 

「もしかして…いいんですか!」

 

 

「ええ、それじゃあ行きましょう」

 

 

俺と有紗はダンススクールのレッスンスタジオを見て回ることになり、途中から有紗も支倉かさね達の練習に混じっていた。

 

 

 

~2時間後~

 

 

 

練習を終えた後、必要な書類にサインし、俺と有紗は秋葉原の駅に向かって歩いていた。

 

 

「有紗…どうする?」

 

 

残っているのは…“プロ”か“アマチュア”コースの選択だけだ。この選択は、どうやら有紗も決めかねているようだった。

 

 

「お金…掛かるんですよね?」

 

 

「まあ…そうだな」

 

 

確かにプロのコースは通常のコースよりもお金がかかるし、絢瀬さん曰く、通常クラスよりも練習内容はハードになっているらしい。

 

 

「お金のことは気にしなくていい。有紗はどうしたいかだけ教えて欲しい」

 

 

足を止め、有紗は考えて始めた。

 

 

「わがまま…言っていいですか?」

 

 

「おう」

 

 

少し間を空けて、彼女が話しはじめる。時間が時間だけに、表情はよく見えなかった。

 

 

 

「私は…出来るところまでやってみたい。もっと上手くなりたいです」

 

 

踊っている時の彼女の表情は、辛そうで、苦しそうだった。でも、常に目を輝かせて、楽しそうに踊っていた。

 

 

「…わかった。ただし、途中で やめたい とかは絶対に駄目だからな」

 

 

「はい!」

 

 

有紗は嬉しそうな声で返事をして、パタパタと駆け足で隣に追いついてきた。

 

 

「遅くなってもいけないから…早く帰ろう」

 

 

「はい!」

 

 

街灯の明かりに照らされ、一瞬見えた有紗の笑顔に…ドキッとしてしまった。

 

 

「…まったく」

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

「…いや、なんでもない。それより聞きたかったんだけど…どうして有紗は東京に来たんだ?」

 

 

それと、一日ちょっとしか一緒に行動してない俺が言うのもなんだが…どうしてそんなに純粋に育っているんだろうか、姪っ子とはいえ、ちょっと心配だ。

 

 

「私が東京に来た理由…ですか。お母さんから聞いていませんか?」

 

 

「ん~…聞いてたはずなんだけど、あんまり覚えてない」

 

 

「私の父は、あなたのお兄さんなんですよね」

 

 

「そうだな、そういや居たな~…兄貴なんて、久しぶりに思い出したよ」

 

 

俺とは歳が10歳離れている兄がいた。幼い頃の俺にとってはすごくかっこよくて、憧れだった。

俺が中学生3年生くらいの時だったと思う、既に兄は外国にいて、結婚した。

と母は言っていた。

中学辺りから別の場所に過ごしていたということもあり、俺と兄とは疎遠になっていた。

 

 

「はい。でも…私と父は血縁関係はないらしいんです。私は母方の…」

 

 

有紗が話しにくそうにしている様子を見ると、大分ややこしい話であることは察することができた。

 

 

「…その話は、いつか話してくれればいい。兄貴のことだから、多分「こっちの生活に慣れさせたい」っていうことで送ってきたんだろうし」

 

 

「…すいません」

 

 

申し訳なさそうに俯く有紗の頭に手を置き、軽く撫でる。

 

 

「言いにくい事もあるもんだ」

 

 

「お兄さんの手…暖かいです」

 

 

触れている掌から伝わってくる温もりと、糸のように細く滑らかな髪の毛の感覚。そして…子供の様な純粋な笑顔に、不覚にも心臓が高鳴った。

 

 

「…っ!?」

 

 

これは…なかなかやばい。ここまで純粋だと…お兄さん本気で心配になっちゃうぞ…

 

 

「…よし、もう帰ろう」

 

 

「はい♪」

 

 

姪っ子の将来が本気で心配になったが、それだけで俺の一日は終わらなかった。

 

 

 

同日 夜 -11:40―

 

 

「はぁ!?」

 

 

「だから~結婚相談所に連絡しておいたから、今週中に行っといてね~」

 

 

風呂から出て、のんびりとテレビを見て過ごしていると…母親に衝撃的な告白をされたのだ。

 

 

「ちょ…ちょっと待ってくれ!母ちゃん!いきなり過ぎて話が…」

 

 

「まあまあ、あんたも年齢考えたら…もう焦ってもいい時でしょう。それじゃあお休み~」

 

 

「うそだろ!おい!待ってくれ!」

 

 

悲痛な俺の叫びは、母親の寝室の扉で完全にシャットアウトされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日 ―同時刻―  絢瀬絵里

 

 

「結婚…ねぇ」

 

 

電話越しに聞こえてくる親友の言葉に、自分がもう学生のように楽しい事ばかりではないという現実を突きつけられているような気がした。

 

 

(うちはそろそろ考えてもいいと思うんやけど?)

 

 

「でも…今は正直考えたくないの」

 

 

(う~ん…そんなに深く考えんでもええと思うんやけどな~)

 

 

「スクールの子たちもいるし、そんなこと考える余裕がないのよ」

 

 

(まあまあ、うちの友達に結婚相談所で働いている人がおるんやけど…一回だけ…どうやろか?)

 

 

「…希がそこまで言うのなら、考えてみるわ」

 

 

(ふふっ…あんまり変な人を紹介しない様に、うちの友達には伝えておくからな~)

 

 

「…ありがとう。またね、希」

 

 

(おやすみ~)

 

 

通話を終了し、真っ黒になった携帯の画面を見つめる。

もう…彼女には見透かされてしまっているのだろうか。高校の頃から、希はこういう所は異様なまでに鋭いのだ。もしかしたら私が鈍いだけなのかもしれないけど…

 

 

「学生の時に…彼氏の一人でも作るべきだったのかしら…」

 

 

私は音ノ木坂学院を卒業し、大学に入学した。

大学生活にこれと言って何かあったわけでもなく、普通に友達を作って、ごくごく普通の大学生活を送った。

友達から、異性に関する相談も何度か受けていたことはあった。でも、私はただ相談を受けるだけで、これといって行動を起こしたことは無かったし、告白されても「付き合おう」とは考えられなかった。

 

言い方は悪いが…告白してくれた人の中には、あからさまに「身体目当て」の人もいた。しかし全員がそうと言うわけではなく、本気で私に好意を抱いて告白してくれた人もいた。

 

 

でも…私は断った。好意を抱いてくれるのは嬉しかった。だけど…私はその好意に、応えることが出来るのだろうか。

自分の想いを偽って過ごす時間に、なんの価値があるのだろう。

そう考えると…容易に付き合おうとは決断できなかった。もしかしたら…あの時のしわ寄せが、今こうしてやってきているのかもしれない

 

 

「…仕事しなくちゃ」

 

 

携帯に充電器を差し込み、パソコンを開いて今日入塾してきた女の子の個人情報を打ち込んでいく。

 

 

「いまいち想像できないもの」

 

 

“有紗” と “亜里沙”

私の大切な妹と、同じ名前の女の子だ。

初めて会った時も、今日少しだけ教えている時も、本当に楽しそうで…ずっと笑顔だった。まるで…あの頃の穂乃果みたいな。

容姿は違っても…本当に純粋で、綺麗なものを見るたびに楽しそうに輝かせる瞳、まっすぐな性格も本当にそっくりだ。

 

 

こんなとき…亜里沙だったらどう言ってくれるのだろうか そう思うと、少しだけ手が止まってしまう。

 

 

「亜里沙も…上手くやっているといいけど」

 

 

故郷のロシアに居る妹の事を思い出しながら、私は再び手を動かした。

 

 

 




最後まで読んでくれてありがとうございます!

前回の誤字といい、ご指摘ありがとうございました。
今回も間違っていたら、ぜひともご指摘お願いしますm(__)m

最近スクフェスを初めまして、序盤で「あっ…(察し)」となった毛虫二等兵です。
友達に勧められ、キャラの参考のために初めてのですが…音ゲーが致命的なまでに苦手な私にとってはやっぱり難しいもんでした。
今回の話では、塾生としてスクフェスのキャラの「支倉かさね」「桜坂しずく」「神谷 理華」の三人を出してます。
キャラの性格が異なっているかもしれませんが…どこを調べても見当たらず、スクフェスでも出すことが出来ていないキャラなので、ある程度(?)…というか自分に中のイメージで書いている部分が多いかもしれないです。ごめんなさい


あと、気付いた人はいるかと思いますが、「矢澤プロダクション」はにこにーです。はい。
にこ編では、そっち方面の話の予定ですので、そっちの方も見て下さると嬉しいです。


帰宅中の描写だと大分有紗に偏っていますが、そういうわけではなく、表現の練習だったりということで書いていたりしてます。本筋は絵里編ですよ!


長くなりましたが、後書きはこの程度で終えようと思います。




ご意見やご指摘・感想・評価・ネタ提供など、心よりお待ちしております。


わざわざ最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

それではノシ


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絢瀬絵里編 第三話

どうも、毛虫二等兵です。
ちょっと時間かかっちゃいましたが、ようやく更新です。

次の回のあたりで、エリーチカの大学生活についても触れると思います。



(綾瀬絵里さん、俺…ずっと…あなたの事が好きでした!付き合って下さい!!)

 

 

あの時、私は間違えてしまったのかもしれない。

 

 

(はははは…ずっと好きだったのは…俺だけだったってことですか…?絵里はそんな俺を見て…今まで…すっと心の中で笑ってたのかよ……返せよ…!俺に今までの気持ちと!時間を返せ!!)

 

 

大きな声を張り上げ、強い憎しみの籠った瞳で彼は私を睨み付ける。今までにないくらい…冷たい眼差しで…

 

 

あの時…私は……!

 

 

「っ!?」

 

 

あの夢から逃げ出すように、私は目を覚ました。パジャマは汗でびっしょりと濡れていて、胸の辺りが重く、息苦しい。

 

 

「まだ…許してくれないのね」

 

 

ベッドから降り、重たい足取りでバスルームに向かった。脱衣所でパジャマを脱いで、バスルームに入ってシャワーを浴びる。

 

 

今日は…本当に行かなくちゃいけないのだろうか。少し強引だったような気がするが、希のお願いをみすみす断ることはできない。

それに希だって私はもう誰とも付き合う気はないということくらい知っているはずだ。

 

 

「もう…たくさんよ…あんな思いをするのも、させるのも…!」

 

 

お湯の弾ける音が私の声をかき消して、時間はゆっくりと流れ始めた。

 

 

 

 

 

齊藤 弘樹 6月9日 -07:55- 

 

 

「おはようございます、お兄さん♪」

 

 

朝食を食べるためにリビングに入ると、有紗の元気な声が後ろから聞こえてきた。

 

 

「おはよう。やけに気合入ってるな…今日何かあるのか?」

 

 

「はい♪今日は発表会の為の大事な授業があるんですよ!」

 

 

有紗は 精一杯頑張ります と言わんばかりの眩しい笑顔を見せると、椅子に座って朝食を食べ始めた。

 

 

「あぁ~…なるほど、足挫いたりするなよ~」

 

 

俺も椅子に座り、久しぶりのゆっくりとした時間を満喫していた。

ダンススクールに通って以来、俺と有紗は話すようになっている。少し前まで別々の時間帯に家から出ていたが、最近では時間を合わせて一緒に通勤するようになった。

 

 

「ぜっったいにセンター取って見せます!兄さんの為に!」

 

 

右手で小さくガッツポーズを決め、真顔でそんなこっぱずかしいことを口走る有紗。やる気があるのはわかるけど…まさかそんなこと外でも言ってないよな…?

 

 

「いや…そこまではしなくていい。でも、頑張ってな」

 

 

「頑張ります!…ところで…お兄さんお仕事は…?」

 

 

「ん?今日はないよ」

 

 

有紗はパンを食べる手を止め、何か考え込むように俯いた。

 

 

「もしかして…」

 

 

「?」

 

 

「リストラ…されちゃったんですか…?」

 

 

いきなり深刻そうな顔をしてなにを言い出すかと思えば、有紗は突拍子もないことを言い始めた。

 

 

「…それは違うぞ有紗。今日は会社に休みをもらったんだ、午後に外せない用事があってな」

 

 

「昨日テレビでやってました…!最初は誤魔化すために 仕事に行ってくる って言って…実は数ヶ月前にクビになっている場合があるって!まさか兄さんも…?」

 

 

これは友人の話だが、子どもの頃。心霊系の特番を見て、幽霊は実在するかを問い詰めたことがあるそうだ。断じて俺ではない、俺ではないぞ。

 

 

「あ~…さっそく影響受けちゃってるよ。ちょっと母さん、昨日の夜何教えたのさ」

 

 

「なにって…ただ気になったテレビがあるっていうから見せてあげただけよ?」

 

 

「有紗…何をみたんだ?」

「テレビです!」

 

 

「ブッ…ゴホッゴホッ…」

 

 

真顔で即答してくる有紗に牛乳を吹き出しそうになったが、ひとまず落ち着いてからもう一度質問することにしよう。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 

凄い心配そうな表情で見つめてきているということは、悪気があるわけではないだろう。でもな有紗「なにを見たんだ?」と質問されて「テレビです」なんて答え方をする人はいないぞ。お兄さんそんな斜め上の回答をされちゃったからいろいろ不安になっちゃったでしょうが

 

 

「…うん、知ってる。その中で、何の特集を見たんだ?」

 

 

「えっと…社会復帰?の難しさと非労働者の…」

 

 

曖昧だが、おそらく昨日の夜の22時くらいからやっていた特集「社会復帰の難しさと非労働者の言葉」みたいな特集が組まれていたのだ。タイトルだけでも、なんとなく察しはつく。

 

 

「もういい、いいか有紗。あれはな…説明するとややこしいからしないけど、俺はしっかり働いてる。今日はたまたま休みが貰えただけだ」

 

 

「そうなんだ!よかった~…」

 

 

有紗は心の底からホッとしたような表情を浮かべた。そんな有紗の笑顔にほんの少しばかり傷ついていると、上の階から母親の声が聞こえてきた。

 

 

「有紗~そろそろ学校の時間じゃないの~?」

 

 

「そうだった!行ってきます!」

 

 

ハッ と驚いた表情をし、立ち上がって椅子の下に置いてあった学生バックを掴んで家から飛び出していった。

 

 

「いってらっしゃい、気を付けろよ~」

 

 

~5分後~

 

 

朝食を食べ終えて、静かになったリビングでテレビを見ていると、扉が開く音が聞こえた。

 

 

「…で、あんた、顔合わせは今日なんだろう?」

 

 

少し邪魔者を退けるような言い方が突っかかったが、手に持っている掃除機でなんとなく理解した。

 

 

「みたい。今日の14時、もう一度来てくれって話らしい」

 

 

「それにしても…それまでずいぶん時間があるんだけど。今日は寝てればいいのに」

 

 

時計は8時15分を少し過ぎた頃を指していた。身支度の時間を考えてもまだ時間に余裕はある。

 

 

「そこはわざと開けたんだ。“有紗“について詳しい話が聞きたくって」

 

 

俺が真剣であるのを察したのか、母は珍しく真顔で答えた。

 

 

「…だろうね、話しとくべきだとは思っていたもの。だったらそうね…部屋の掃除をしながらでもいいなら、話してあげる」

 

 

「…まあいいや、わかったよ」

 

 

 

 

 

 

 

?? ?? ―13:40―

 

 

もうそろそろ来るであろう応接室で男性の写真を見つめ、いつものようにタロットカードを引く。

 

 

引き当てたのは ―魔術師の正位置― 物語の始まりや、問題の解決などの意味を持ったカードだ。

 

 

さて…下準備も問題ない、あとは…

 

 

「えりち次第…やね」

 

 

親友の事を思い出すと、助けに行きたくなって、今すぐこんなことは辞めさせてしまおう思ってしまう。でもそれでは解決しないことを、私も、彼女だってわかっているはずだ。

 

 

「駄目だよ、私…」

 

 

彼女の心の傷も、今どう思っているのかもわかっている。それでも駄目、行っちゃ駄目だ。私が出来ることは…後押しをすることだけだから

 

 

「心の傷は…えりちにしか…治すことができない」

 

 

カードはただの占いでしかない。それでも…もしかしたら…

 

 

「あなたに…掛けますからね」

 

 

口調が素に戻っていることに気づいたのは、ほんの少し後の事だった。

 

 

 

 

 

 

齊藤 弘樹 -13:50―

 

 

ここで…本当に合ってるんだよな…?

 

 

不安になり、辺りを見渡すが…誰もいない。何をしていいのかもわからないし、ひとまず落ち着くために、あのえせ関西弁の女の人が言っていたことを思い出した。

 

 

 

~回想~

 

 

仕事の合間に、俺は一度だけ結婚相談所に足を運んだ。思いっきり、いや徹底的に断るつもりだったが、どうやらこれだけでもお金が掛かっているらしく…一回だけのチャンスだと思って掛けることにした。

 

 

(う~ん…再来週の月曜日、予定を開けることは出来ますか?)

 

 

なんとかなりそう と答えると、えせ関西弁の女の人はすぐに予約を取り付けてきた。彼女の携帯の鈴の音色(?)の着信音が鳴ると、上機嫌そうに携帯を見て、俺に話しかけてきた。

 

 

(うん、えりちのほうも大丈夫そうやね♪それじゃあ9日の午後14時に、もう一度ここにお願いしますね♪)

 

 

~回想終わり~

 

 

ここでどうしたらいいんだろう。というか えりち って誰だ。

 

 

ここにいても落ち着かないので、ひとまず飲み物を買いに行くことを思いついた。

 

 

「落ち着かないときはこの手に限る」

 

 

立ち上がり、外に出ようとドアノブに手をかけた時だった。ドアノブが勝手に動き、扉が開いていった。そしてその先に居たのは…

 

 

「「あっ…」」

 

 

部屋に入ってきたのは…金髪碧眼の美女で、姪っ子のダンススクールの先生でもある

 

 

「絢瀬…さん?」

 

 

絢瀬絵里さんだ。

 

 

「齊藤さん…?」

 

 

希さんが反対側の出口からひょっこりと顔を出し、ニコッと笑いながら部屋に入ってきた。

 

 

「二人とも、顔合わせは済んだみたいやね♪」

 

 

「どうも…」

 

 

「希…」

 

 

「まあまあ二人とも、一旦座って座って♪」

 

 

ひとまず彼女に案内され、俺と絵里さんは一旦席に座ることになった。

 

 

 

~10分後~

 

 

「希、どういうこと?わかるように説明して頂戴!」

 

 

「だ~か~ら~、さっきから説明しとるやん。たまたまやって~。あ、そうそう、弘樹さんも来てくれてありがとうな~」

 

 

「そんなわけないでしょ!それに私に説明してくれた人は別の人だったじゃない!」

 

 

バンッ と机に手を付き、絵里さんは身を乗りだして希さんに説明を求めていた。なんでも、彼女が初めて来たときに説明を受けていたのは別の人らしく、紹介された人も別の人だったそうだ。

 

 

「あ、いえいえ…」

 

 

一旦席に座ってから10分くらい経ったが、絵里さんはずっとこの調子だ。説明を求める彼女を希さんは言葉巧みに受け流している。

 

 

「希!」

 

 

東條 希 ふわっとツインテール、服の上からでもわかる豊満な…いやなんでもない。そして何より特徴的なのは えせ関西弁 だ。本場の言葉づかいはどうか知らないが、あれがいわゆる「えせ」関西弁であるのはわかる。初めてここに来た時も、違和感のある言葉遣いに困惑した。

 

 

「そんなに怒らんでもええやんか~それに」

 

 

希さんは立ち上がり、絵里さんの耳元で何かを呟いているようだった。

 

 

「…わかったわ」

 

 

少し納得がいかなそうな表情をしていたが、一旦絵里さんは椅子に座った。なにか弱みでも握られているんだろうか…?

 

 

「さて、えりちも納得してくれたようやし、二人で出掛けてもらうで♪」

 

 

「…そうしましょう」

 

 

「あ…はい」

 

 

そんなこんなで、俺と絵里さんは二人で外に出ることになった。

 

 

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

絵里編の話はちょっと重くなっちゃいましたね、すいません。
「ありふれた悲しみの果て」で思いついたもんでつい…



みなさんのおかげで、UA値・お気に入り件数が凄いことになってますね。自分の中では最高記録です。
これからも生暖かい目で、お付き合いのほどをお願いしますm(__)m

評価・ご指摘・メッセージ等、心よりお待ちしています。

勝手ながら、主人公に名前を付けました。割と適当なのは許してください


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絢瀬 絵里編 第四話


どうも、毛虫二等兵です。

そんなこんなで絵里編4話です。結構時間があいてしまいました。
というのも…思っていた話の展開を書いたら想像以上に長文になり、続けて書いていたらあと2話分(12000)くらいに膨れ上がってしまった…というわけなんです。
それに俺ガイルも早く書かなきゃ…

今月中に、
俺ガイル 絵里編(残り二話分)を投稿したいと思います。 





斉藤 弘樹 

 

 

相談所を後にした俺と絵里さんは、ひとまず秋葉原の駅に向かって歩いていた…とはいっても会話はない。ただただ気まずい雰囲気が流れているだけだ。

 

 

はじめまして…も違うか。一度会ったことあるし…

 

 

何か話さなきゃいけない っていうのはわかっているつもりだけど、どう話しかけていいのかがわからない。そんな状態がさらに5分くらい経ち、秋葉原の駅が見えてきた時だった。どうするかを考えていると…隣に絢瀬さんの姿がなかった。

 

 

「あれ?絢瀬さ…?」

 

 

後ろに振り返ると、少し離れてところで絢瀬さんは立ち止まっていた。

 

 

「さっきは…ごめんなさい!」

「んっ!?」

 

 

開口一番で頭を下げられるとは思わず、変な声をあげてしまった。

 

 

「本当にごめんなさい…!」

 

 

駅が近いということもあり、人通りもだんだんと多くなってきている。

 

女性が男性に向かって頭を下げた

 

これだけでも奇妙な光景なのはわかるし、絢瀬の容姿、ブロンド色の綺麗な髪の色は、人目を引かないわけがない。この場合は悪い意味で目立っている。

 

 

「ねぇ…なにあれ…」

「喧嘩…?」

「こら!見とれないの!」「ごめんごめん!」

「うわぁ…」

 

通りがかったカップルやら学生やらの視線と、罵声のような何かが聞こえてくる。

 

 

まあ…ですよね~。周囲の視線が突き刺さってきているがわかる。なるほど、確かに人から見られている気配が俺にもわかるぞ。凄いなこれ!…じゃなくて、早く絢瀬さんを止めないと

 

 

「え…えっと!とりあえず大丈夫なので!気にしないでください!」

 

 

彼女の所に駆け寄り、極力身体に触れないように諭していく。

 

 

「…ごめんなさい」

 

 

彼女はゆっくりと頭を上げる。何かを思いつめているのか、表情は依然暗いままだ。

 

 

「とりあえず、場所を変えませんか?話はそこでしましょう」

 

 

「…はい」

 

 

絢瀬さんは頷き、ゆっくりと歩き始めた。小走りで追いつき、彼女の歩く速さに少しずつ合わせていく。

 

 

少し壁はあるように感じるものの、さっきより肩の力は気軽に話しかけれるような気がしている…あくまで気がしているだけだが。

ともかく、嫌われているというわけではないという事がわかっただけでも一安心だ。

 

 

「よかった~…」

 

 

「はい…?」

 

 

「あっ…えっと、さっきまで嫌われてるんじゃないかって思ってました」

 

 

「そんなことないです!…ただ、いろいろ強引に進んでしまったので動揺してしまって…」

 

 

「まあ…そうですよね。俺の場合は事前に誰とか教えてもらってなかったんで、そんなに驚きませんでした」

 

 

「もしかして希から聞いてなかったんですか?」

 

 

「はい、ただ今日の14時に来いとしか…」

 

 

「まったく希は…」

 

 

彼女はため息をつき、呆れたような表情になった。

 

 

「さっきも思ってたんですけど…もしかして希さんと知り合いなんですか?」

 

 

「はい、高校からの友達なんです」

 

 

高校からの友達 

というのを聞いて、控室での絢瀬さんと希さんの自然な雰囲気だったのが理解できた。

 

 

「そうなんですか!じゃああの関西弁は一体…?」

 

 

「昔からああなの、おかしな関西弁でしょう?大学の時だって……そうね、なにも変わらなかったわ」

 

 

明るい表情をしていた彼女の表情は、「大学」という言葉を口にした瞬間、少し曇ったように見えた。なんとなくだが、きっと踏み込んではいけないことことだと察した。

 

 

「…駅、着きましたね」

 

 

「そうですね…それで、ここからどうしましょうか…?」

 

 

「う~ん…」

 

 

実はこれと言って何も考えてきていない。こういう雰囲気の時に喫茶店に行ってもあれだし、秋葉原にオシャレカフェがあるなんて俺は知らない。

あるにはあるんだろうけど…まさか今日いきなり紹介されて外に放り出されるなんて思っていなかった。

それもこれも希さんが悪い、あの人なんで教えてくれなかったんだよ。まずそこからおかしい。こっちだって言われていれば調べてきたって言うのに…

 

 

「あの…」

 

 

「少し待ってください…どこか…」

 

 

切羽詰まったこんなピンチの時に聞こえてきたのは、有紗とこの間待ち合わせした「SENA」の、やかましい音楽だ。

 

 

…いや…待てよ…もしかしたら…!

 

 

起死回生の名案を思い付き、絢瀬さんに提案をしてみることにした。

 

 

「あ…そうだ、絢瀬さんはゲームとか得意ですか?」

 

 

「やってみないとなんとも言えないけど…それがどうかしましたか?」

 

 

「それじゃあ…」

 

 

 

 

~6分後~

 

 

一通りの警告文が表示されると、ワード創英角ポップ体のような文字で

 

-Standby ready-

 

の文字が画面の中央部分に大きく映し出される

 

 

「久しぶりに来たわね…この曲も入っているのね」

 

 

どこか懐かしそうでもあり、嬉しそうな絢瀬さんの表情は、凄くイキイキしていた。曲選択を終えた後、下ろしていた髪を束ね、彼女は手を伸ばしたり飛んだりなどの軽い準備運動をしながら、開始までのカウントダウンが終わるのを待っていた。

 

 

これはついさっきの話だが、どこにしようか決めていなくて焦った俺は、ひとまず「SENA」に入り、時間を稼ぐことにした。

有紗からの情報によると、絢瀬さんは踊っている時にとても楽しそうな表情をするらしい。

 

 

初めて行く場所がゲーセンってどうよ?って言われたら返しようもない。

だが言い訳くらいさせてくれ。

初対面の女性とオシャレカフェに行く勇気なんかないし、「初対面の人と上手くやってみろ」って無茶振りをされてどうにかなるもんでもないだろう?

なによりトークで盛り上げるなんて俺には出来ない…さっきの思いつめた表情を見る限り、何かトラウマがあるようだし。不用意に地雷を踏んではいけない。

 

 

時間を稼ぎながら店内を回っていると、絢瀬さんが「これがやってみたい」と言いだし、今に至る。

 

 

…それもこれも希さんが悪いと思うんだよ。いや絶対そうだって

 

 

―3…2…1…-

 

曲名は「snow halation」難易度は一番難しい「extra」モード

 

-Music START!―の文字が出ると同時に、曲の前奏が流れ始めた。

 

 

いくらダンス講師をやっているからっていきなりextraはきついんじゃないかな…?

と、ダンス素人の俺は曲が始まるまでそんなことを思っていた。

だが今は 「正直舐めてました、ごめんなさい」 と謝るべきだと思っている。

 

 

「え…?」

 

 

彼女は表示された矢印やら手の位置に寸分の狂いもなく、完璧に合わせているのだから。

 

 

表示されているのは ―excellent― の文字。さっきの説明だと、この表示は映像の中のモデルの振り付けとプレイヤーの振り付けがぴったり合っている時にしか表示されないそうだ。

人間、本当に驚いた時は声すら出ないものだ。言葉はないが、わかる。今この空間、この筐体の付近にいる音ゲーマー(?)の空気が夏凍り付き、戦慄が走っているのが。

後ろに並んでいる大学生二人組が「俺の方がうめー」とか煽ることが出来ないくらいうまい。

 

 

ゲームセンターの施設なだけあって、本当のダンスのようにガンガン動き回れるほどセンサーの精度がすさまじいわけではない。筐体の中の映像が彼女に合わせているんじゃないか?と疑ってしまいたくなるほどに丁寧で、滑らかな動きで、彼女はスコアを稼いでいく。

 

 

「あれ……?」

 

 

時々だが、中で踊っている女性の動きと彼女の動きが違っていることに気付いた。

ということは…アレンジを加えつつ、点数を取っているということになり、さらっと恐ろしいことをやってのけていることになる。

 

 

それに他にも気付いたことがある。踊っている時の彼女の表情は…本当に楽しそうで、輝いていた。

 

 

…有紗みたいな笑顔だ

 

 

純粋に楽しそうで、踊ることが楽しくて楽しくてしかたない そんな笑顔。

見惚れていると、いつの間にか曲が終わっていた。そして…彼女はこの店の中での最高得点を叩き出していた。

 

 

「え~…」

 

驚きすぎて半ば棒読みになりつつあった俺を置いて、彼女は嬉しそうに二曲目を選択し始めた。彼女が踊っているからか、自然とギャラリーも増えてきている。

 

 

「そうね…これにしましょうか」

 

 

笑顔で彼女が選んだのは「Wonderful rush」

筐体の横に、大きな赤色の太字で広告が張り出されているのがもし本当であるのなら…この曲の難易度は、このシリーズの中でも最高難易度に設定されているらしい。

 

 

 

 

 

東條 希 

 

 

~回想~

 

 

華やかな結婚式を終えた後、私は彼女に呼び出された。指定された場所は誰もいない浜辺だった。心が落ちつく波の音と、絵に描いたような綺麗な夕日が町と空がオレンジ色に染める。

 

「いい景色だね」

 

声とともに、後ろからビーチサンダルの音が近づいていることに気がついた。

 

 

「唯子?」

 

後ろに振り返ると、白いワンピースを纏っている、いつもより大人びた友達の姿があった。

 

「来てくれてありがとう、希」

 

 

「結婚おめでとう。花嫁姿、すごく綺麗やった」

 

 

「ありがとう」

 

 

「それで、うちを呼んだ理由は?」

 

 

「…実はね、今日は望に頼みたいことがあるの」

 

 

少し寂しそうな顔をしながら、彼女は自分のお願い事…幼馴染について話し始めた。

 

 

 

~回想終わり~

 

 

 

「いいの…あんなことして?」

 

 

応接間でお茶を啜っていると、大学からの友人である 片瀬ゆみ が怪訝な表情をし、話しかけてきた。彼女は結婚相談所の事務員であり、この支店の副店長だ。今回えりちと彼を引き合わせるようにしてくれたのも、彼女の手助けによってできたことだ。

 

 

「大丈夫だと思うで」

 

 

ゆみは手に持っている缶コーヒーの蓋をあけ、ソファーの端に腰かけた。

 

 

「ん~…どうやろね~…お茶飲む?」

 

 

「すぐ相談があるから、いまはいいわ。希、一応言っておくけど本来手順ってものがあるのよ?それを素っ飛ばしていきなり出かけさせるなんて…」

 

 

「多少強引なくらいがちょうどいいんよ」

 

 

「…私には彼女はなにかを抱えているように見えるんだけど?」

 

 

鋭い言葉が突き刺さり、お茶を啜ろうとした手が止まる。

何かを抱えている という彼女の鋭い言葉は、的を射ている。えりちの時間は、きっとあの時間から止まってしまっている。

 

 

「ゆみは鋭いな~さすがのうちも焦るわ」

 

 

「大学も一緒だったんだし、少しくらいの面識はあるわ。それにあんなにわかりやすい性格の人はそういないもの、上手く行くとは限らないわよ。私の見立てじゃ、あれは失敗する」

 

 

いつもとかわらず気怠そうに話しているが、友人としてではなく、「仕事」としての言葉だった。

 

 

「絢瀬さんは時間をかけて関係を深めてタイプ、一日や二日でどうにかできないと思うけど…?それに希だってあの人のことをどこまで理解しているの?」

 

 

あの人 というのは、間違いなく彼のことだ。今頃えりちに振り回されておるんやろうと思うけど…彼のことをよく知っている”彼女”の言う通りなら、問題は起きないはずだ。

 

 

「な~んもしらん。しいて言うなら、その人を誰よりも知っている人に話を聞いただけや」

 

 

その言葉を聞いて、ゆみはほとほと呆れたように深いため息をついた。

 

 

「はぁ~…なにを企んでいるかはしらないけど、程々にね。お節介と迷惑は紙一重みたいなものなのよ。一歩でも踏み込み過ぎれば、それが傷を広げてしまうかもしれないんだから」

 

 

「…せやね。肝に銘じておく」

 

 

「片瀬せんぱ~~い!!お相手が来ました~!!」

 

 

「来たみたいだから、私は行くわね」

 

 

ほかの従業員に呼ばれ、彼女は部屋を出ていった。

 

 

「うん、頑張ってな~」

 

 

空になった湯呑をシンクに置き、彼女は相談所を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

斉藤 弘樹

 

 

「ここの紅茶、すごくおいしいんです。すいません、紅茶のストレートと、ヴァレニエを」

 

 

店員さんに紅茶と「ヴァレニエ」なるものを二つずつ頼むと、絢瀬さんが笑顔で話しかけてきた。

 

 

途中か気付いたが…最初に比べたら大分距離が縮まったような気がする。絢瀬さんからも話しかけてくれるようになったし。

 

 

「はぁ~…」

 

 

大きく息を吐くと、絢瀬さんは微笑みながら話しかけてきた。

 

 

「体力、落ちてるんじゃないですか?」

 

 

「…かもですね…まさか走るとは思ってませんでした…」

 

 

「定期的に運動しないと、すぐ鈍ってしまいますから」

 

 

「絢瀬さん…上手いとは聞いてましたけど…正直あそこまで凄いと思ってませんでしたよ…」

 

 

「そんなことないです、振り付けも大分省略されているようでしたから…」

 

 

「ひえ~…」

 

 

あれがたいしたことないって…

 

 

「Wonderful rush」をいとも容易くフルコンし終わった彼女の筐体の周りには…俺含め16人くらいのギャラリーがいた。

三曲目選曲中、ようやくそれに何かに気づいた彼女は、三曲目でハイスコアをもう一回叩き出した後、ひとまず外に出ることに。

その後10分くらい走り、彼女の案内でこの喫茶店に来た。

まさかこの年になって手を繋いで走るなんてことをするとは思わなかった。

 

 

「お待たせいたしました」

 

 

店員が持ってきたのは、普通の紅茶と、ジャムのような液状の何かだった。

 

 

「あなたには随分迷惑を掛けてしまったみたいですし…ここは私が奢ります。あと、それはヴィレニエっていいます」

 

 

「これが…?」

 

 

彼女が「これ」といって指を指したのは、紅茶の横に置かれたジャムのような何かだった。

 

 

「日本で言う、ジャムみたいなものです。果物を果肉の形が無くなるほどドロドロに煮溶かして、「濃いシロップ」状になっているものなんですよ」

 

 

「へぇ~…飲み方はあるんですか?」

 

 

「ん~…ヴァレニエは紅茶に入れずに小皿に取ってお茶請けとして舐めながら紅茶を飲む人もいますし、中に入れて飲む人もいますよ。私は紅茶の中に溶かして飲む方が好きです」

 

 

物は試し ということで、「ヴィレニエ」スプーンで一口だけ舐めてみた。

 

 

「…すごく甘いです」

 

 

「ちょっと甘いですけど、この甘さが紅茶と合うんです」

 

 

彼女はクスッと笑った後、紅茶にヴィレニエを溶かし、飲み始めた。

 

 

いい感じになったと思いきや、特にこれと言った会話もなく、独特な緊張感の中でただただ静かな時間が流れていく。予想していたことだったが、やっぱり気まずい。

 

 

 

「………………」

 

 

 

紅茶を飲み終えてしまうと、本格的にやることが無くなってしまった。この場合、携帯は出していいのだろうか?でもそんなことをしたらつまらなそうに見えてしまうのかもしれないし…かといって彼女の学生時代に踏み込むにも危険そうだし…う~ん…どうすれば…

 

 

ピンポン♪ピンポン♪

 

 

俺の携帯からLIMEの着信音が鳴り響く。

 

 

「携帯鳴ってますよ?」

 

 

「…すいません」

 

 

右ポケットから携帯を取り、画面を見ると、可愛い可愛い姪っ子からの連絡だった。

 

 

「…なんだ有紗か」

 

 

<やりました!>

 

<<おめでとう。で、何をやったんだ?>>

 

<発表会です!>

 

そういえば今朝「大事な授業がある」って言ってたな。

 

<<結果は?>>

 

<私がセンターです!>

 

 

確か上手い子が多いって言っていたような…にしてもセンターってすごいな

 

 

<<おめでとう!そうだな…ご褒美に今度の奢って進ぜよう>>

 

<やったー!約束ですからね!>

<大>

 

 

「…?」

 

<お~い、どうした~?>

 

大 という謎のメッセージを残し、有紗からの連絡は途絶えた。時間は15時52分…そういえばこの時間…授業中じゃ…

 

 

「さては有紗…先生に見つかったな」

 

 

「有紗ちゃんがどうかしたんですか?」

 

 

慌てて携帯を机の上に置くと、既に紅茶を飲み終えている綾瀬さんが話しかけてきた。

 

 

「すいません、長々と携帯弄っちゃって」

 

 

「大丈夫です。有紗ちゃんからの連絡だったんですか?」

 

 

「そうです。今朝聞いた話だと「発表会の大事な授業があるんだ~」って言ってました」

 

 

「上手く行ったんですか?」

 

 

「みたいです」

 

 

「よかった~…」

 

 

「絢瀬さんは知ってたんですか?」

 

 

「はい「お兄さんのために頑張るんだ~」って、必死に頑張っていたんですよ」

 

 

「なにを言ってるんだか…まったく…」

 

 

…まさかみんないるときにまで言ってるんではないだろうか…?あれ…なんかすっごい恥ずかしくなってきた

 

 

「照れなくてもいいじゃないですか、むしろ誇りに思ってあげてください。有紗ちゃんはとっても良い子です…ちょっと「お兄さん」にたいして一直線過ぎのような気もしますけどね」

 

 

「そうですか…?」

 

 

「この間のレッスンの休憩時間のときに家族の話になって、有紗ちゃんにあなたをどう思っているか聞いてみたんです。そしたら止まらなくなっちゃって…終わるころにはスクールの子がみんな影響されてしまって…」

 

 

「え…?」

 

 

なにそれ恐い

 

 

「月末の支払い日にあなたが来るタイミングを計って、みんなであなたがどんな人物かを見定めて見ようって聞かないんです」

 

 

「え?え~…」

 

 

「口止めされているので、このことは有紗ちゃんには言わないでくださいね。」

 

 

「…でもその話って、そんなに真に受けるものなんですかね…?有紗と居る時間だってまだ二年しか経ってませんし、話しはじめたのも最近なんですよ?」

 

 

「そこまでは…ただ、二年も一緒にいればわかるんだと思います」

 

 

「何がですか?」

 

 

「「一緒にいた時間」っていうのは、たとえどんな時間であってもかけがえのない物なんです…私にとって、高校最後の一年間がそうであったように。斉藤さんにもありませんか?」

 

「…なんとなくわかります」

 

 

幼馴染のことを思い出し、胸のどこかが痛んだような気がした。

 

 

「暗くなっちゃいましたね。絢瀬さん、あの甘い奴と紅茶、もう一杯頼んでもいいですか?」

 

 

「…そうね、せっかくなんだからもっと明るい話をしましょう。私ももう一杯もらおうかしら」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

その後、俺と彼女は他愛もない話を続け、話し終わる頃には20時を回っていた。秋葉原の駅は帰ろうとする人で賑わい始めている。

 

 

「今日はありがとうございました」

 

 

「いえいえ、こちらこそ楽しかったです」

 

 

今までの行動を見た限り、彼女の性格は捻くれているわけではない、むしろすごく優しくて、嘘をついたりする性格ではないと思う。それに彼女ほどの美人なら男には困らないはずだと思うんだが、なんで彼女は相談所に…?

 

 

「次について、希さんから何か聞いていますか?」

 

 

「次は……もうないと思います」

 

 

「え…?」

 

 

「ごめんなさい」

 

 

突き放す意味での「ごめんなさい」という言葉を告げて、絢瀬さんは開設へと駆けていった。走り去る背中を、俺はただ唖然と見ているだけだった。

 

 




はい、ということで謎を残して、主人公が盛大に振られた4話でした。

こうなったのも、えりちあの回想に原因がありますので、そこのあたりも次とその次の回で説明しようかな~って思ってます

こっから話を一気に進展させますので、温かい目で見守ってくださるとうれしいです。

それと同時に、主人公の掘り下げも行おうと思ってます




ご意見・ご感想・メッセージ・評価、心よりお待ちしてます!


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絢瀬 絵里編 第五話 

どうも、毛虫二等兵です。

今回は急ぎ投稿なので、また修正しようかと思います


斉藤弘樹 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

(もうちょっと…ほんの少しだけ早く言ってほしかったな)

 

 

彼女はセーラー服を風に靡かせ、困ったような顔をした。

 

(ごめんなさい)

 

そして悲しい顔をして告げる、別れの意味である「ごめんなさい」という言葉を。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

コンコン と、ドアをノックされる音と、有紗の声で、俺は目を覚ました。

 

「おにいさーん!起きてくださ~い!」

 

かわいいかわいい姪っ子に起こしてもらえる という幸せシュチュエーションなのだが、あいにく今はそんな気分ではない。昨日盛大に振られ、あげく若い青春時代のことを思い出して超ナーバスな気分になっているのだ。

 

 

今は7時35分、朝食を抜けば少し余裕の時間だ。

 

 

「お兄さ~ん!会社!遅れちゃいますよ~~!!」

 

 

どうしたものかと考えていると、俺の頭の中で二つの勢力の戦闘の火蓋が切って落とされた。

急いで準備し、朝食を食べる「行動派」と、面倒だからこのまま寝過ごしてしまおうと思う「ゆったり派」…この争いは拮抗し、戦況はお互い一歩も譲らない膠着状態に陥っている。

 

 

「どうしよう…寝ちゃってるのかな…」

 

 

有紗は不安そうな声で呟くと、扉が開く音が聞こえた。

この瞬間、この膠着状態は一変、有紗の行動を観察してみたいという好奇心がほかの勢力をねじ伏せ、圧倒的な勝利を収めた。顔を見せないように、寝返りを打った振りをして有紗に背を向ける。

 

 

「お兄さ~ん…寝てるんですか~…?」

 

 

有紗は寝起きドッキリをする芸人のような小さい声で質問を投げかけ、足音を立てないようにベッドの横まで歩いている。

 

 

「寝ちゃってる…のかな…?」

 

 

きっと今頃どうしようか悩んでいる頃だろう、困った有紗の表情も見てみたいが、今は我慢だ。

 

 

「よしっ…!」

 

 

少し間を開けて、有紗は何か覚悟を決めたような口調で呟いた。

 

 

お…何をする気なんだ?よっぽどのことがない限り、お兄さんは布団から出てこないぞ~

 

 

次の瞬間、肩のあたりになにかが触ったように感じた。布団越しにだが、わかる。

 

 

間違いない………有紗の手だ

 

 

「起きてください~!」

 

 

軽くだが、体を揺すられている。察するに、これは「呼びかけても起きないなら、揺すって起こしてみよう」という考えだろう。

 

 

「おに~さ~ん!」

 

 

有紗の悲痛な叫びがで精神的にダメージを負ってきたので、もう起きようと思った時だった。

ここで俺は重大なミスに気付いた。起きたフリをして目を開けたとき、今の俺は有紗に背を向けてしまっている。つまり、目を開けた時に有紗の困った顔が見れない…!?

 

 

目を開き、身体を布団から起こす。

 

 

「うぅ…ミスった…」

 

 

「お兄さ…よかった起きた~!時間ですよ!時間!間に合わなくなっちゃいます!」

 

 

時間は7時53分 はっきり言ってもうギリギリの時間だ。でも今は別の意味で落ち込んでいる。

 

 

「玄関で待ってますからね!」

 

 

そういうと、有紗はそそくさと部屋から出て行ってしまった。ここ数年のうちの最大の不覚だ。布団から降りて、すぐにスーツ着替える。

 

 

「学校か」

 

 

ああ言う夢を見た後は、だいたい学生時代がどれだけ楽だったかを思い知らされ、そして後悔したような気持ちになる。携帯を充電器から外すと、あのえせ関西弁の人から何件もメールと電話が来ていることに気付いた。

 

 

「今更…」

 

 

メールを消し、鞄を持って家から出た。

 

 

 

 

~8分後~

 

 

 

玄関から出て、家の鍵を閉める。セーラー服を揺らしながら、はやくはやくと急かす有紗に追いつき、歩き始める。

 

 

「お兄さんのせいで友達との約束の時間に遅刻です…!」

 

 

有紗はこっちを見ようとはせず、頬を膨らまして怒った口調で話しかけてきた。

 

 

「ごめんな」

 

 

わざとやった なんて言えない、ごめんな有紗

 

 

「…知ってます。未来のお嫁さんを選びに行ってるんだ~ってお母さんから聞きました」

 

 

ムスッとした口調で有紗が答える…怒っていても、しっかり会話をしてくれるのは有紗のかわいいところだと俺は考えている。そしてご機嫌斜めの時は…

 

 

「そんなとこだな。そうだ「ご褒美」のことなんだが…」

 

 

「ご褒美!」

 

 

ご褒美で釣れば機嫌直すかな~と思って振ってみたが、効果は抜群だった。

腕を組み、子供の様な純粋で眩しい笑顔で距離を詰めてくる。何か柔らかい感触が腕に当たっているような気がするが、気にしない。

 

 

「どうしようかな~!えっと~!お寿司!お寿司が食べたいです!」

 

 

「わかった、わかったから落ち着け」

 

 

「あっ…ごめんなさい。あの…今日はレッスンがあるので、帰る時間が遅くなっちゃうかもしれないです」

 

 

「…わかった、気をつけてな」

 

 

今月分も払いの時に顔を合わせるのかもしれないのか…ちょっと気まずいな

 

 

「…?ご褒美楽しみにしてますね~!」

 

 

「おう、気を付けてな~」

 

 

組んでいた腕をようやく離し、有紗は学校に向かって走って行った。…腕にまだ残っている暖かさと、あの柔らかい感触は、しばらく頭から離れることはできないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

斉藤 有紗 ―19時10分―

 

 

 

「はい、それじゃあ10分間休憩して!」

 

 

「「「「はい!」」」」

 

 

インストラクターである絵里さんが指示を出すと、その場にいた4人がその場で座り込む。

 

 

「疲れた~」

 

 

「かさね、先ほどテンポがずれていましたよ?」

 

 

「だってしずくちゃん早いんだも~ん!」

 

 

「かさね、もうちょっと前」

 

 

「うぅ…ごめんなさい~…」

 

 

このコースを選択しているのは かさねさん、しずくさん、理かさん、私の4人。私以外の3人は音ノ木坂のスクールアイドルをやっていて、私は彼女たちの練習に付き合っている形になっている。

 

 

「有紗、今日は体調が優れないのですか?かなり遅れていました」

 

 

「え…?」

 

 

「うん、かなりぎこちなかった。大丈夫?」

 

 

しずくさんが心配そう見つめてくるが…体調には何の問題もない。しいて言うなら、精神的なものだと思う。

 

 

「あ…いえ…」

 

 

「有紗も、絢瀬先生も元気ない」

 

 

今朝の…いや、昨日の夜から、お兄さんは今までないくらい、悲しい顔をしていた気がする。

 

 

「そうですね…何か考え事をしているような素振りでした」

 

 

「ねえ有紗、何かあったの?」

 

 

「えっと…はい、実は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斉藤弘樹 ~20時20分~

 

 

 

有紗と別れた後、仕事がなかなか手につかず、お昼を過ぎても半分も終わっていなかった。終わって帰ってくるころには結局この時間になってしまってた。

 

 

<ごめんなさい!もうちょっとで駅に着きます!>

 

 

有紗が愛用している子熊のスタンプがごめんなさいをしていた。

 

 

<<改札前で待ってるから、気を付けて帰ってこいよ~>>

 

 

有紗を放っていくのもあれなので、駅の改札前で待っていることにした。今朝の感触をもういち…いやなんでもない。

 

 

仕事のことを考える気も起きないので、駅の前でボーっとしていると、昨日のことを思い出してしまった。

 

 

負け惜しみのように聞こえるかもしれないが、別に一日でどうこうなる関係だとは思ってなかったし、そんなに期待していたわけでもない。

ただ、自分でもよくわからないところに中途半端にダメージを負ってしまっている。恋愛小説風に可愛く言ってしまえば、「心がモヤモヤしている」みたいな感じだ。

 

 

「なんか…納得いかない」

 

 

いかんいかん、このままじゃストーカーになってしまう。あのことは忘れて、早く独り暮らしをしよう。そこから相手を見つければいいだけの話だ。

そう、こんなめんどくさい思いをするのも全部「希さんが悪い」ってことにしとこう。それでこの話はおしまいにするんだ。

 

 

「あとは時間がどうにかしてくれるはずだ」

 

 

ラブコメ系の作家になれるんじゃないか?我ながらセンスあるな。と、くだらないことを思っていると

 

 

「お兄さ~ん!」

 

 

有紗は改札を通り人の波を掻い潜り、目の前に有紗が現れた。

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 

「ゆっくりでいいって言っただろ?あんなにあわてなくてもよかったのに…」

 

 

「ごめんなさいっ…遅れてしまって…!」

 

 

有紗の額からはほんのりと汗がにじみ、少し苦しそうに呼吸を整えていた。

 

 

「謝るのは俺のほうなんだけど…荷物持つよ、きついかもしれないけど…少し歩ける?」

 

 

「はぁ…はい…!」

 

 

学生鞄を肩にかけ、有紗の左手を取って、辛そうな有紗に歩調を合わせて横並びに歩く。

 

 

「ふぇ…?お兄さんっ!?」

 

 

ようやく気が付いたのか、有紗は目を丸くして、耳まで真っ赤にしながら驚いていた。

 

 

「いえ…あっあの……」

 

 

「レッスンを終わった後だから疲れてるだろ、持つよ」

 

 

「…ありがとうございます♪」

 

 

彼女の笑顔が絢瀬さんと重なって見えてしまったのもきっと、希さんが悪い。

 

 

 

 

~2時間後~

 

 

 

帰宅してそうそう、あれも頼みたいこれも頼みたい…と駄々を捏ねる有紗をなだめ、結局は出前の寿司に落ち着いた。

 

 

有紗は制服から、私服であるオレンジ色の七分丈ボレロ、ワンピースタイプのインナーに着替えた。俺はちらしをまとめていたからスーツのままだけど…

 

 

「マグロ…サーモン…イクラ…全部ぜ~んぶ!おいしそうです!そういえば…お母さんは?」

 

 

「草津の温泉旅行に行ってるみたいだ」

 

 

「温泉…がんばったらご褒美で連れてってもらえますか?」

 

 

「…考えてやらんこともない」

 

 

「やった!約束ですよ!」

 

 

「お…おう…いただきます」「いただきます!」

 

 

付属してきた割り箸を割り、金しゃりの「甲府」と、上鉄火丼を食べ始める。有紗はわさび抜きじゃないと食べれないらしく、すこしからかった後にさび抜きの「甲府」を頼んだ・

 

 

「有紗、まぐろ、一つ食べるか?」

 

 

「いいんですか?でもわさび…」

 

 

「大丈夫大丈夫、このマグロには入ってないから」

 

 

「ほんとなんですよね…?嘘だったら怒りますからね?いただきます」

 

 

恐る恐るだが、有紗は食べた。よし、食べたな。もちろん嘘だ。

 

 

「っ…っっ!?」

 

 

「な、鼻にツーンとくるだろ?はいお茶」

 

 

少し覚めたお茶を渡すと、有紗は一気に飲み干した。

 

 

「うぅ…ひどいです!」

 

 

「口で説明するよりも食べてみた方が早いと思ってな、食わず嫌いは許しません」

 

 

「お兄さんの嘘つき!ふーんだ!」

 

 

初めて…でもないか、どこかで見たことがあるが、有紗がこんなに怒るのは初めて見た。かわいい子ほどいじめたくなる…ってどっかで聞いたことあるけど、それに近い。

 

 

「ごめんごめん、悪かった悪かった」

 

 

「ふんっ!私さっき怒るっていいましたからね!今朝だってお兄さんが寝坊しなければ遅刻しなかったんですから!」

 

 

「あ~あれな、実は起きてたんだ」

 

 

「え?ふぇぇ!?」

 

 

有紗は食べようとした箸が止まり、耳まで真っ赤にして悲鳴を上げた。

 

 

「いや~必死におこそうとする有紗を見てみたかったんだよ」

 

 

「もう怒りました!本当に怒りました!ぜっっっったい許さないんですからね!」

 

 

さっきよりも顔を真っ赤にして、椅子から立ち上がる。

 

 

「そんなに怒るなら放って置いておけばよかったのに。あと危ないから座りなさい」

「うぅぅ…!今日のお兄さんは意地悪です!」

 

 

悔しそうな顔をする有紗もかわいいぞ~ なんて変態チックなことを考えてしまう。なんか保護者になった気分だ。しかもちゃっかり座ってるし所もなかなか可愛いところだと思う。

 

 

「ごめんごめん、そうだ、あとでコンビニ行ったときに好きなもの勝ってあげるから、な?」

 

 

「…ふんっ!」

 

 

今回ばっかりは本気で怒ってるのか…さすがに口を聞こうとはしてくれない。

 

 

「そっか~…じゃあハーゲンダッツのアイスを一個でいいな」

 

 

「…っ!?」

 

 

「有紗の分はいらないみたいだし」

 

 

わざと貯め、煽るような口調で遠くに話しかける。

 

 

「…食べたいです……私もアイス食べたいです!」

 

 

「そうか、それじゃあ食べ終わったら買いに行こう」

 

 

「そんなんじゃ許さないですからね…!」

 

 

「はいはい。早く食べちゃおうな~」

 

 

 

朝に引き続き、どうやら今日の俺の運勢はよくないらしい。というか意地悪をしすぎた天罰が来たのかも知れない。

まさかあの人と再会するなんて思っていなかった。

 

 

 




次回の分もまとめて投稿しますので、少々お待ちください。

後ほど修正加えると思います


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絢瀬 絵里編 第六話

どうも、毛虫二等兵です。

絵里編はこれでいったん停止になります。


今回は主人公の掘り下げ&有紗の過去&絵里の話で、長くなりました。

結構詰め込んだので…今回は結構文量があると思います。

急ぎ投稿故、あとで修正するかもです


 

斉藤 有紗 

 

 

「ありがとうございました~」

 

 

「ハーゲンダッツです!」

 

 

「あれ?許さないんじゃなかったっけ?」

 

 

「許さないけど、ハーゲンダッツは食べるんです♪」

 

 

「…まったく」

 

 

「えへへ~♪」

 

 

お兄さんといると、自然と笑みがこぼれてしまう。楽しくて楽しくてしかたない。でも、昨日の夜から様子がおかしい。やけに攻撃的というか…意地悪だ。家の前につくと、見たことのある女性がいた。

 

 

「ここに居たんですね、連絡がないので心配したんですよ?」

 

 

「誰ですか…?」

 

 

「…えせ関西弁のあんたか。悪いな、携帯見てなかった」

 

 

お兄さんの雰囲気が変わり、口調が鋭くなった。

 

 

「えりちとは結局どうなったん?」

 

 

「どうもこうも、二度目無いって盛大に振られた」

 

 

「…そっか」

 

 

えりちって…絵里さんのこと?でもどうしてお兄さんが…それに振られるって…

 

 

「これでもういいだろ、二度目はないんだ。それもこれもあんたが押し付けてきたのが…」

 

 

口調に熱がこもって来たところで、お兄さんは私に気付き、大きなため息を吐いた。

 

 

「…この話は別のところでしよう」

 

 

私が迂闊に口を挟むことができないような険悪な雰囲気。それでも、私はお兄さんに話しかける。

 

 

「絢瀬先生と何かあったんですか?」

 

 

「…いや、何もないよ」

 

 

「嘘です」

 

 

「…」

 

 

「お兄さんは嘘をついているように見えます。もし…もし絵里さんに関係あるんだとしたら、今日の先生は笑っていなかったことに関係していますか?…絵里さんはいっつも楽しそうに踊るはずなのに…今日はずっと悲しそうでした」

 

 

だって、そんなに苦しそうなお兄さんは、いままで見たことがないんだから

 

 

「…何もなかったわけじゃない。ただもうどうしようもない事だから、あとは時間が解決してくれるはずだ」

 

 

私の胸まで締め付けてくるような、無理やり取り繕った笑顔。

 

 

「そんなの…お兄さんらしくないです」

 

 

「…いや、これが俺なんだよ、有紗はまだ知らなかっただけだ」

 

 

「違います!二年間…初めて会った時から、ずっと見てたんですから!私が…私が初めてこの家に来て、学校とか…友達とかで悩んでいた時だって、お兄さんは遠くからでも気にかけてくれてました。覚えていますか?あの日のこと…」

 

 

「あの日…?」

 

 

「お兄さんは忘れてるかもしれないけど…私が中学一年の時、友達もできなくて、馴染むのに精一杯だった時…言ってくれたじゃないですか、後悔ばっかりの人生はしないほうがいいって!」

 

 

きっと…お兄さんは覚えていないだろう。私が今…こうして笑ってられるのは、あの日があるからなんだから

 

 

 

 

 

~回想~

 

 

 

学校に入学して、ついに4ヶ月が経った。私は中学一年になったばかりだったけど…私は未だに学校に馴染めず、ついには通うこと自体が嫌になり始めていた。

 

弘樹さんのお兄さん、つまり私にとってのお父さんの養子になった私は、日本で生きていくための教育を受けた。最初は意味が分からなかったが、日本に来て意味があったのだと実感した。

でも、ロシアの出身である私は、彼女たちからしてみれば「外国人」なのに、私は母国語を話すことも、書くこともできない。この腰まで伸びているこの長い黒髪も、外国人らしさを感じさせない要因の一つなのかもしれない。

 

 

最初の一ヶ月。私に話しかけてくるクラスメイトもいたけど、そこには温度差があった。

今思えば、壁を作って当たり障りのない返ししかしない私に、彼女たちは話しかけにくいと思っていたんだと、勝手に思っていた。

 

 

そんな毎日を繰り返し、次第に学校を休み始めていた。

積み重なった息苦しさが爆発し、一週間の中で、私は学校で過ごす時間より部屋にいる時間の方が多くなっていた。

いつも通り、お母さんもいなくて、家には誰もいなかった。

 

「落ち着く……」

 

自分の部屋のベッドに転がり、物音一つしない静かな部屋で目を閉じる。落ち着きのない学校とは正反対の空間が、心を満たしていくように感じた。

 

「この時間が…ずっと続けばいいのに」

 

そう願って、私は眠りについた。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

コン コンッ 

 

 

 

「起きてるか?」

 

 

目が覚めたのは、誰かの声と、ドアをノックする音。身体をベットから身体を起こし、答える。

 

 

「はい、起きてます。えっと…」

 

 

この人…たしか一緒に住んでいる、お父さんの弟だったっけ

 

 

「母さんから連絡があった。ここ最近、学校休んでるんだって」

 

 

「部屋には入らないでくださいね」

 

 

「わかってる、俺だってそんなことをする気はない」

 

 

「…じゃあ、どうして来たんですか?」

 

 

「別に、ただどうしてかな~って思っただけだよ」

 

 

彼がドアの前に座るような音が聞こえた。

 

 

「学校なんて、行く意味が分かりません。あんなところ…息苦しいだけです」

 

 

「俺もよく思ってたよ。君…じゃないな、有紗と同じ中学の1年の時だ」

 

 

「…何の話ですか?」

 

 

「おっさんの独り言だよ、そのまま聞き流してくれていい。」

 

 

「…」

 

 

「毎朝一緒に通っていた幼馴染がいてな、家が近い事もあってか、俺とその子は中学も、高校も一緒の学校に通ってた。中学校を卒業するまでは朝一緒に登校して、部活に入ってないから一緒に帰っていたと思う。いつだったっけな~…そうだ、さっきも言ったけど、俺とその子は同じ高校に入って、同じクラスになった。ただ、彼女は部活に入って成果を上げて、俺は友達とふざけながら帰路についていたこと。そのころには一緒に帰らなくなった」

 

 

「…話が読めません」

 

 

「独り言だからな、長いもんだよ」

 

 

なんなんだろうこの人…いいや、聞き流して、もう一度早く寝よう。

 

 

「学生の頃ってな、周りが見えているようで、案外ぜんぜん見えてないんだよ」

 

 

「…」

 

 

目を瞑り、寝ようとした瞬間、彼の言葉が心の中に刺さってきたような気がした。そして彼はドア越しに、語り掛けるように言葉を続ける。

 

 

「うちの高校って強豪校でな。特に彼女が所属してた弓道部は全国行くくらい凄いところだったんだ。そんな彼女を見て…練習についていくのが必死だったって勝手に思いこんで、友達と帰って距離を置くようにしたんだ。正直寂しいな~って思ったし、こっちから一緒に帰ろうって言おうとも考えたこともあった」

 

 

(一緒に帰ろう?)

 

 

そういって言ってくれたクラスメイトの女の子達…名前も憶えていないけれど、私はその子たちのことを思い出した。あの時はきっと…仲良くようと思ってくれていたはずなのに。

 

 

 

「友達といる以外の時間は勉強に打ち込んで、寂しさを埋める努力をした。そんで高校の卒業式の時、俺は彼女に告白した」

 

 

「…どうなったんですか?」

 

 

「振られたよ。言うのが遅かったって」

 

 

彼は“ひとりごと”を、淡々と話し続ける。

 

 

「そのあと、俺と彼女は別々の大学へと通って、それ以降は連絡を取ってない。以上、おっさんの甘酸っぱい青春物語だ」

 

 

「…何が言いたいのか、ぜんぜんわかんないです」

 

 

「そうか。でもこんな後悔ばっかりの青春を送りたくないなら、もうちょっと落ち着いて周りを見てみるといい」

 

 

(一緒に帰ろう?)

 

 

そういっていた女の子の手を…私は断った。ただ一言だけ「ごめんなさい」と言って。

 

 

「…ごめんなさい」

 

 

「…どうした?」

 

 

「独り言です。勝手に…聞かないでくださいっ…!」

 

 

気が付くと、声が上擦り、目頭が熱くなった。

 

 

「そっか、それじゃあ何も聞こえない」

 

 

時間は覚えていないけれど、あの日、私は日が暮れるまで泣き続けた。

 

 

 

 

~回想終わり~

 

 

 

 

「そっか、有紗には話しちゃったんだっけ…でもな、あれは作り話なんだ。お前を不登校にしないように…」

 

 

目を逸らして、相手を見ないようにする。こういうときのお兄さんは、十中八九嘘を付いている。

 

 

「それも嘘です。お兄さんは気付いてないかもしれませんけど、嘘をついているときはちょっとした癖があるんですよ?」

 

 

「…まじか、そんな癖があるのか」

 

 

「当たり前です。あの日からずっと…私はあなたを見てたんです」

 

 

「…」

 

 

「お兄さんは、解決してるんじゃなくて、見ない様にして、忘れているようにしているだけです」

 

 

気が付いたときには、私は自分の思いを口走っていた。

 

 

「そんなの駄目です、忘れちゃ駄目なんです。今伝えなきゃ…届かない想いってあると思うんです!」

 

 

「…ほな、うちは行くで。えりちも待っとる」

 

 

希さんが歩き始めても、お兄さんの足は止まったままだ。

 

 

「行ってください。お兄さん」

 

 

手に持っているビニール袋を奪い、少し意地悪な笑顔を兄に向ける。

 

 

「…行ってくる、そうだ。振られてくるかもしれないから、ハーゲンダッツは待っていてくれ」

 

 

「ハーゲンダッツ、帰ってくるまで待ってます♪」

 

 

そういうと、お兄さんは走って希さんを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東條 希

 

 

有紗ちゃんをまっすぐな表情を見て、懐かしいあの時間を思い出した。

 

 

あの時の…えりちもそうやったけ、あんな真っ直ぐな子が…今もおるんやね。

 

 

「薄ら笑いはやめといた方がいいですよ、魔女っぽいです」

 

 

少し昔の思い出に浸っていると、いつの間にか彼が隣にいた。

 

 

「いや…あんな子がおるなんて…正直驚いたわ」

 

 

「まさか姪っ子に説教されるとは思ってませんでした」

 

 

彼とあってすぐ近くの場所に、タクシーを待たせておいた。自分の力でここまで連れてこようと考えていたけど…これはあの子のおかげだ。

 

 

「神田明神まで」

 

 

行先を告げ、後部座席に乗り込む。彼が乗り込むと、車が走り始めた。

 

 

「先に聞いておきたいんやけど、どうして追いかけてきたん?行っておくけど、簡単にうちはえりちを預ける気はないで」

 

 

「…あんためんどくさい性格してるな」

 

 

「答えは?」

 

 

「…まだ一回しか会ってないし、正直よくわかんない。だけど、振られるにしても理由もわからないまま「ごめんなさい」で終わりたくないってだけだ。それに有紗の先生なんだから、俺のことなんか忘れてしっかりしてもらわないと困る。なあなあで終わって…苦しい思いをしてなんて終わり方は嫌だ」

 

 

(弘樹は面倒くさくて、その癖に頑固。きっと一筋縄じゃいかないくらい、めんどくさい性格なんだ)

 

 

そう浜辺で語る彼女の顔は、どこか寂しそうにだったのを覚えている。

 

 

「…うちもそうやけど、斉藤さんも十分面倒くさい性格やわ」

 

 

考えすぎかもしれないけど…きっとそれは建前。本音はきっと…えりちに重荷を背負わせないためにはっきりとしておきたい…ってことなんやろうね。

 

 

「今度はこっちの質問。急遽変更してまで、なんで絵里さんを紹介したんだ?絵里さんは本当なら別の人と会うみたいだったし」

 

 

「詳しいとは言えんけど、ある人から頼まれたんよ。あなたを助けてあげてほしいって」

 

 

「俺が助けを求めてるみたいな言い方なんだけど?」

 

 

「きっとその人には…あなたが苦しんでる風に思えたんちゃう?」

 

 

「…そんなことない。誰だ?そんな適当を抜かした奴は…」

 

 

視線を逸らし、困ったように頭をかく。

 

 

「さみしがり屋のくせに意地っ張り、相手のことを気にして、自分に素直になないまま過去を引きずって、自分を抑圧してしまう不器用なところとかもそっくりや」

 

 

こういうと、えりちはいつもこう返してくる。

 

 

「…そんなわけないだろ」(…そんなことないわ)

 

 

なんていいながら、また視線を逸らして、この話から逃げようとする。

 

 

「そういう所で嘘を付くのも…本当に似とるね」

 

 

「…だから違うって」(だからそんなことない!希のバカ!)

 

 

逃げきれないとわかると、怒ったような声で返してくる。怒ってはいるけど、決して相手を傷つけるようなことはしてこない。

 

 

あぁ、やっぱりこの人は親友(えりち)と一緒なんだと、私は思った。だからこそ、きっと彼女は私に頼んできた。

 

 

(弘樹はきっと引きずってるだろうから、助けてあげてほしい

 

 

「私の大切な友人の話、聞いてくれる?」

 

 

「……わかったよ」

 

 

「その友人と私はね高校からの友達だった。彼女は生徒会長になって、スクールアイドルをやって、今でもあの時が一番充実した毎日だったと思ってる。高校を卒業して、同じ大学に入学した。その友人は社交的で明るくて、次第に友達も増えていった。事件が起きたのは…3年生の頃だったと思う。うちがこのことを知ったのは…もうすでに事件が起きた時だった。ことの発端は…同じ学部の、とある男子学生が彼女に告白した時かららしい」

 

 

「らしい?」

 

 

「どうしてそうなったのかは…うちにも話して貰えなかった。昔からそういう頑固なところはあったけど…今回はうちにも話してくれん」

 

 

「だから大学の時に言葉に詰まってたのか。言い方は少しあれになるけど…彼女ほどの容姿の持ち主なら男には困らないだろうし、告白されたときの対処方法だってもうわかってるんじゃ…」

 

 

「…もし、知らない女の人が「好きです、大好きです!」…ってすごく強く言い寄られたら、斉藤さんはどう答える?」

 

 

「…赤の他人だったら、断ると思いますよ」

 

 

「じゃあ…断っても泣きついてきたり、いい寄って来たのだとしたら、どう応える?」

 

 

「……つまり、絵里さんは断りきれなかったってことですか?」

 

 

「そういうこと。いろいろな人から話を聞いた限りだと、その人がすごく言い寄ったらしい。何ヶ月かそういう関係が続いていたって」

 

 

「…自分勝手な人ですね。何ヶ月かってことは…つまり別れたんですね」

 

 

「察しがよくて助かります。私も…このことはあまり話したくないんです。えりちのことだから、きっと言い出せなかったんだと思う。でもその優しさが、きっとお互いの傷を深くした。私はその時大学の講義の関係で忙しくて、えりちの異変にも気が付いてやれなかった…ほんと、親友として、友達として、情けない…!」

 

 

自分を責める言葉なんて、意味がないのもわかっている。傷を受けたのは私じゃない、絵里なんだから。

 

 

「それでもうちは……私だけは気付いてあげるべきだった…!」

 

 

これは本音だ。隠しようもない、自分の本心。あの時から…私は何も…!

 

 

「…俺には何にも言えないけど、絵里さんは希さんを嫌ってはいないです」

 

 

「適当なこと言うと…怒るよ?」

 

 

「おあいこじゃないですか?初対面に近い人といきなりデートさせて、希さんの方がよっぽど酷いです。しかも振られるってわかってたとか…悪質すぎて俺が怒ってもいいくらいですよ?」

 

 

根に持っていたことに少し驚いたが、当然のことだ。彼の言っていることは正しい。

 

 

「…本当にそうだね、その通り」

 

 

「でも、適当なことは言ってないつもりです。相談所話してた時も、希さんと話してた時もそう。希さんについて話すときは、絵里さんは踊ってる時よりも楽しそうに笑うんです。だから嫌ってなんかないと思います。だから笑っていてあげればいいんです……そういえば、口調、関西弁じゃなくなってますよ?」

 

 

言われて気付いたが、いつの間にか口調が戻ってしまっている。

 

 

「…うちを惚れさせるつもり?」

 

 

「残念、俺は有紗と絵里さんで頭がいっぱいです」

 

 

「シスコン?」

 

 

「断じて違う」

 

 

「ロリコン?」

 

 

「うふふ……大人の魅力、見せてあげようか?」

 

 

彼の腕をつかみ、わざと腕に胸を当ててみる。

 

 

「さっきまでいい話だったのに…いろんな意味で台無しだよ」

 

 

彼はほとほと呆れるようにため息ついた。

 

 

「お客さん、そろそろ」

 

 

運転手の人がそう呟くと、神社が見える位置まで近づいていたことに気付いた。

 

 

「案内はここまでや。えりちはきっと御社殿の前にいる」

 

 

車が停車したすぐ先には、長い階段ある。そこを昇りきってすぐの御社殿。私は話があるといってえりちをよんでおいてある。もうそろそろ着く頃合いだと思うけど…

 

 

「わかった」

 

 

彼はタクシーを降りて、神社に向かって歩き始めた。

 

 

「カードで占ってあげようか?」

 

 

一段一段、ゆっくりと上っていく彼に話しかける。

 

 

「すいません、俺占いとか信じてないんで」

 

 

「そうか、それじゃあまたいつか」

 

 

「もう二度とごめんです……そうだ、灯里(あかり)にありがとう、もう大丈夫だからって伝えておいてください。それじゃあ」

 

 

「…やっぱり、気付いてたんやね」

 

 

そういって、彼はどんどん階段を登って行った。私は彼から目線を外し、ポケットに入れてあったタロットカードを一枚引いた。

 

 

「魔術師…「物語の始まり」…か」

 

 

私のよく知る彼女は、きっと傷つけることを恐れて、彼を突き放した。そうすれば、お互いの傷も浅くて済むから。

 

 

「そっか、そうだよね。でも私は…」

 

 

きっと絵里は、今日も思いつめた顔でもしていたんだろう。相手傷つけたんじゃないかって思いながら、精一杯笑顔で取り繕って、周りに心配かけないように笑い続けて。

でもね絵里、それじゃあ絵里が幸せになれないんだよ。きっと今日のことも、この前のことも、絵里にとっては迷惑なのかもしれない。だとしても…私はあなたに幸せになってもらいたい。

 

 

「親友としてもう一度…あなたを助けてあげたい」

 

 

 

―それが、私の望みなんだよ、絵里-

 

 

 

 

 

 

 

斉藤弘樹  

 

 

 

長い長い階段を上り終え、彼女がいるという御社殿のほうに歩いた。言いたいことは決まってる。うまくいくかはわかんない。それでも…

 

 

「どうしてここに…!?」

 

 

「絢瀬さんの親友に呼ばれたんだ。ここに来いって」

 

 

「親友」と聞いて察したのか、彼女は後ろに下がる。

 

 

「…何してるのよ希…私はそんなこと望んでなんか…!」

 

 

「望んでないのは、きっとあの人もわかってると思う」

 

 

彼女は後悔しているような、深い深いため息を吐いて…反対方向の出口に向かって歩き始める。

 

 

「さような…」

「待ってくれ!」

 

 

行こうとしている、手を掴み、その場でとどめる。

 

 

「離して!もういいの!あれで終わったんだから!きっとあのまま続いたって…傷つくだけよ…!」

 

 

静かな神社に、彼女の悲痛な叫び声が響く。

 

 

「絵里さんからしたら、俺はあんたに心の傷を与えた奴と同じに見えるかもしれない、でも、それでも俺はあのもやもやしたまま終わるのだけは嫌だ!」

 

 

「どうしてそれを…!?」

 

 

「全部…希さんから聞いた。相手のことを考えすぎて…言い出すタイミングが見つからなかったって」

 

 

絵里さんの手の力が抜け、今まで背を向けていた彼女はこっちを向いた。もう帰ろうとはしていないと思い、俺は手を離した。

 

 

「聞いたんだったら…どうしてここに来たの…?」

 

 

「正式に…お断りされに来ただけだ」

 

 

「へ…?」

 

 

「あのまま終わるのだけは嫌だった。だから今、ここで今の思いを伝えるために来た。ここで振られたからどうこうする気もないし、言い寄るつもりもない」

 

 

「どういうつもり…?」

 

 

「…この間みたいな別れ方じゃなくて、はっきりと終わらせたい。そうすれば絵里さんも、俺も、もやもやないで終わらせられると思った」

 

 

たしかに意味不明だけど、これで彼女も心に残ることなく終えられるはずだ。そしたら…俺ももう一度だけ、歩き出せるはずだから。

 

 

「…だから、俺と結婚を前提に付き合ってくれ!」

 

 

一世一代…とも言えないし、社会人みたいな華々しいプロポーズとも言えない。学生みたいな、下手な告白。しかも振られる前提の告白。

 

 

「私は…」

 

 

彼女からのこの言葉で、昔に思い出と、この騒動も終わるはずだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~一週間後~~~~~~~~

 

 

 

 

(そっか…私のこと、気付いてるのか)

 

 

電話越しの相手は今回の騒動の黒幕 大園 灯里(おおその あかり)今は結婚しているため、志田(しだ) 灯里となっている。

 

 

彼女の結婚式の後、私は砂浜で、彼女に幼馴染である 斉藤弘樹の話を聞いた。一緒に通っていたこと…高校で告白されたこと。結婚式にも来てくれなかったこと。

彼のことを話す彼女は…とても悲しそうな顔をしていたと思う。

 

 

きっと…まだあの時のことを引きずってしまっているのかもしれない。そう思った彼女は、絵里と、彼を合わせることを提案してきた。

私と絵里と同じ通って大学いた彼女は、絵里の初めての友達で、あの事件のことも知っている一人だ。だからこそ、見知らぬ他人に任せるより、彼ならどうにかしてくれる。そう思ったらしい。

 

 

「うん、本人はとっくに気付いてると思うよ」

 

 

(…希、もしかして話した?)

 

 

「な~んにも話してないで」

 

 

(嘘つき~!…まあいいや。二人どうしてる?)

 

 

「ごめんごめん。今日は二人で出かけてるんやったと思うけど…」

 

 

(そう…でもよかった)

 

 

「…うん、うちもよかったって思ってる。」

 

 

あの後、彼から一回だけ彼から連絡があった。内容を簡潔に言ってしまえば、あの告白が上手くいったということらしい。

えりちを問い詰めても、答えてはくれなかった。

 

 

それでも、彼女は笑っていた。取り繕った笑顔ではなく、心の底から、楽しそうな笑顔だった。

 

 

「あの笑顔は…きっと嘘なんかじゃない。えりちはきっと…前に進めたんやと思う」

 

 

(…そっか。本当によかったね)

 

 

「…うん。本当によかった」

 

 

(これで私も…前に進めるから)

 

 

だから、私も笑っていよう。彼女は…きっと自分の意志で前に進んだんだから。

 

 

 

 

 

 





よんでくれてありがとうございます!


絵里編は「秒速5センチメートル」に影響されて書いた感じです。
なので、本編の中では一番シリアス多めだと思います。
ほかのメンバーはもうちょっとわかりやすい設定にしますね。すいませんm(__)m


ご意見、ご感想、評価など、心からお待ちしてます!

後日修正の可能性有


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番外編
絵里編 外伝もどき ~誕生日~



どうも、毛虫二等兵です。

今回は絵里の誕生日という事で、即興で作りました。

正確には昨日なんですけどね~…出遅れたぁ~~~~~!!


 

 

齊藤弘樹  10月21日 21:00

 

 

「ただいま~!お兄さんお兄さん!」

 

 

仕事を終えて自宅でくつろいでいると、スクールから帰ってきた有紗が元気よく話しかけてきた。

 

 

「ん…?」

 

 

「今日は絵里さんの誕生会だったのです!」

 

 

え…?

 

 

「…ん…?」

 

 

「だ か ら!絢瀬さんの誕生日は今日だったんだ!」

 

 

 

 

「…なに!!?!?」

 

 

 

 

衝撃の事実に驚きすぎた結果、家の中全体に響くくらい大きな声を張り上げてしまった。有紗は両手で耳を抑えながら、ゆっくりと言葉を続ける。

 

 

「えっとね…今日は絵里さんの誕生日なんだって、だからみんなが誕生会をひら…」

 

 

誕生日は今日であることは、俺は知らされていない。居ても立っても居られなくなり、気がついた時にはもう身体は動いていた。

 

「…いってくる!」

「あ…おにいさ…」

 

 

猛ダッシュで部屋に駆け上がり、目の前にあった私服に着替えて家を飛び出す。

 

 

なんで誕生日だって教えてくれなかったんだ…!

 

 

ケーキを買うために、俺は駅に向かってそのまま全力で走った。

 

 

 

齊藤弘樹 23:40 

 

 

「はっ…はっ…!」

 

 

駅の周辺を走り周り、6店舗でようやくケーキを買うことが出来た俺は、彼女の家に向かって再び走っていた。

足は棒のよう 腕は上がらない 俺の速さ(全力疾走はだいたい13キロ)が 通じない

 

どこぞのジャンプアニメのOPを頭に浮かべながら、走り続ける。

 

 

この時期は…特に今日は天気予報で少し肌寒いといっていたはずだが、俺はそんなことない、むしろ暑いくらいだ。頼むから冷却剤をくれ。

 

 

彼女の住んでいるマンションに到着し、階段を駆け上がる。たしか彼女の部屋は3階だったはずだ。

 

 

動け俺の足、こんなところで止まるな

 

 

さながらチャンピオンの○虫ペダルだったら熱い感じに演出しているだろう。

 

 

ようやく階段を上り終わり、彼女の号室のドアをノックする。有紗いわく、この時間はもう家にいるらしい。以前こういう話をしたことがあったことを切実に感謝している。ナイスだ姪っ子。

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…っ!」

 

 

やっぱり文面にすると変態っぽいのはどうしようもないな、というか俺結構不審者なのかもしれない…?

 

 

そうこう考えているうちに、扉が開いた。ドアの奥から覗かせた絵里の表情は、驚いているようだった。

 

 

「弘樹じゃない…どうしたのこんな時間に…それにそんなに汗だくで…?」

 

 

「まったく…誕生日くらい教えてくれたっていいだろ…?はい、これ」

 

 

買ってきたケーキを手渡すと、彼女は目を輝かせた。

 

 

「えと…あの…ひとまず上がって!」

 

 

 

 

~10分後~

 

 

「…落ち着いた?」

 

 

彼女の部屋に入り、ひとまずアクオリアスを飲んで体力を回復、うなだれるように椅子に座っていた。

 

 

「…だいぶ」

 

 

「とりあえず誕生日用の、二人で食べきれる大きさで」ということを店員に伝えると、二人前のシンプルなショートケーキを買うことになっていた。お値段は2800円だったよ…

 

 

子供の様に年齢通りの数…じゃなくて、付いてきた6本のろうそくを差し、あとは部屋の電気を消すだけになった。

 

 

「消すぞ~」

 

 

「ちょっと待って!…ほんとうに消すの?」

 

 

「ん…?そうだけど」

 

 

質問してきた絵里の表情は、なぜか不安そうで、怯えていた。

 

 

「もしかして…暗いのが苦手?」

 

 

「っ!?」

 

 

試しに探りを入れて見ると、彼女は耳まで真っ赤にし、顔を隠すように俯いている。間違いない、これは図星を当てられた時の表情だ。ひとまず手に持っているチャッカマンに火が付くことを確認し、周りに危険なものがないかを確認する。

 

 

よし…大丈夫だな。ここで俺には二つ選択肢がある。

 

 

1、このまま暗くせず、雰囲気だけを味わうか

2、手が滑ったと言って電気を消し、恐がらせない様にすぐにろうそくに火をつけてあげる

 

 

そして答えは決まっている。

 

 

「消さないわよね…?」

 

 

彼女はまるでホラー映画を見て怯える子供のような瞳で見つめてくる。少し赤くなっている頬と、上目遣いも相まってか、一瞬で決意が崩れそうになる。

 

 

「…うん、しない、しないよ~」

 

 

「本当に…?」

 

 

あ~…めっちゃくちゃ可愛いこれはやばい奴や…でもな…俺は…俺は…!

 

 

「ア~テガ、テガスベッタ~」

 

 

「まっ…!!!」

「うおっ!?」

 

 

電気を消し、ろうそくに火をつけたと同じタイミングで、彼女がもう片方の腕にしがみついてきた。まるで命綱に掴まる救助者みたいに。

 

 

「…ばか」

 

 

「…え?」

 

 

「消さないって言ったのに…!」

 

 

子供のように怒り、半分泣きそうになっている絵里を見ていると……なんだろう、いつもより凄い可愛く思える。

 

 

「ごめんごめん。手が滑っちゃって…」

 

 

「絶対嘘よ…信じられない…!」

 

 

頬を膨らませ、震える声で怒鳴りながらも、彼女は決して俺の手を離そうとしない。

 

 

あー…やっぱりばれちゃってますよね~…

 

 

まさかここまで恐かるとは思っていなくて、なんていうか凄い反応に困ることをしてしまった。

…どうしよう、腕に当たってる柔らかいものと、彼女の温かさが気になってろくに思考が回らない。これは大ピンチだ

 

 

「ここまで嫌がると思ってなくて…ごめん」

 

 

「…ゆるさないんだから」

 

 

「だよね~…」

 

 

「だから…」

 

 

彼女はさっきよりも腕を強く掴み、ギリギリ聞こえるくらいの小さな声でつぶやいた。

 

 

「…?」

 

 

「炎が消えるまで…そばに居なさい」

 

 

「…っ!!?!?」

 

 

蝋燭の火で薄オレンジ色に照らされた表情とか…小刻みに震えているのが伝わってくるのもあるだろうけど…俺は彼女に見惚れてしまっていた。

 

 

「わ…わかりました」

 

 

~30分後~

 

 

部屋は暗く、明かりは揺れている蝋燭の光しかない。絢瀬さんは俺相変わらず俺の手を離そうとせず、ずっとくっついたままだ。

 

 

これ、消さないと意味ないよ

 

 

なんて空気ぶち壊しのことを言うべきなんだろうか?いや、やめておこう。このいい匂いと柔らかい感触は是非とも頭に焼き付けておくべきもののはずなんだ。

 

 

「…黙っていて…ごめんなさい」

 

 

静かな部屋の中で、彼女の穏やかな声が聞こえてくる。

 

 

「ホントだよ…おかげで走り回ったんだから」

 

 

「ふふふ…でも、嬉しかった。誰かに祝ってもらうのって…本当に久しぶりだから」

 

 

よし…ここはどっかで聞いたことあるイケメンの決め台詞を…!

 

 

「…まひゃ…」

 

 

あ…噛んだ

 

 

「ぷっ…!」

 

 

手は掴んでいるから、彼女が笑いをこらえているのがダイレクトに伝わってくる。

 

 

「くっ…しまったぁ…!」

 

 

「また…来年………」

 

 

何かを言っていたが、猛烈な後悔の海の飲まれていた俺は聞きのがしてしまっていた。

 

 

「はい…?」

 

 

「内緒よ、教えてあげないんだから」

 

 

「えぇ!?」

 

 

「しかも、もう誕生日は昨日よ?」

 

 

「え…?」

 

 

時計を見ると、00:35と表示していた。

 

 

「うわぁ…本当だ」

 

 

「内緒の言葉だけど、もう一回だけなら教えてあげる」

 

 

「…?」

 

 

髪を揺らし、いつもより綺麗な笑顔で彼女は話しはじめる。

 

 

 

「また来年も…隣に居るって約束してね」

 

 

 





いつもより駄文ですいません。

いつものパターンだと

書く⇒直す⇒完成したら2~3日寝かせる⇒見直し

みたいな流れなのですが、時間がないので今回は寝かせてもないし話も思いつきでした。
というのも。

12時頃 友達が「あれ?今日えりちの誕生日じゃん」といってので「まじかよ!」って思い、19時ごろからバイト前の40分で書きました。そしてかえってきてすぐ見直して、今に至ります。


ご意見、ご感想、感想など、心よりお待ちしています。


これでえりちが可愛くかけてたらいいなぁ…



 


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凛編 ~誕生日おめでとう~

どうも、毛虫二等兵です。

今回も忙しく、結局即興になっちゃいました。すいません

凛ちゃんの口調が違うのは成長したからです。(さすがに20代で にゃ~ はちょっとな~と思いまして)


今回の凛の私服は、スクフェスSR 星空凛7月人魚姫編の覚醒前のものでイメージしています。
ミニスカートの袖にカットワーク、ネックレスとブレスレットの重ね掛けのやつです。 


11月1日 ~18時24分~ 渋谷駅 ハチ公前  古泉 春遂(こいずみ はると) 

 

 

 

(あと…10秒で5分前…)

 

 

待ち合わせの時間は19時30分。俺はその十分前に着き、腕時計を何度も確認しながら時間が来るのを待っている。デートの経験が皆無に等しい俺にとって、この10分は鬼のように長い時間に感じた。

 

 

(そういえば…凛の私服はみたことないな。一体どんな格好なんだろう…?やっぱりいつもみたいにジャージ?いやいやそれはないとしても…)

 

 

「はぁ~…」

 

 

深く大きなため息を吐き、強張っている身体を落ち着かせる。いつも30人程度の生徒たちの前で話すから慣れているとは思っていたが、それとはまた違った緊張感を感じていた。

 

 

(…やっぱり落ち着かない。飲み物でも買ってくるか…?いやでも…)

 

 

「みぃつけた~!!」

 

 

「ふぉっ!?」

 

 

甘えるような声と、衝突したような衝撃と共に、何かが後ろから飛びついて来た。

 

 

「りっ……凛!?」

 

 

後ろを振り返ると、オレンジ色の髪を揺らし、彼女はひょこっと身体をずらして視線から逃げる。

 

 

「だれでしょーか♪」

 

 

「星空…凛さん?」

 

 

「正解っ!油断大敵だよ♪」

 

 

彼女は掴んでいた手を離し、いたずらをしてくる子供のような無邪気な笑顔を見せた。

ふわっと揺れる肩まで掛かっているオレンジ色の髪。胸はすらっと控えめながらも、体育教師らしい健康的な身体つきだと思う。いや…もうちょっと欲しいなしいていうならあと3センチ…

 

 

「どこを見てるのかな~?」

 

 

さっきまでにっこりしていた凛の表情は引きつり、威嚇をしている猫のような雰囲気を帯びている。

 

 

「あ…なんでもないです」

 

 

「そ・れ・よ・り!何かいう事はないのかな~…って」

 

 

声は少しずつ小さくなり、彼女は落ち着かない様子で身体を揺らしている。少しだけだが、頬は赤くなっているように見えた。

 

 

上から下まで舐めまわす…いや、上から下へゆっくりと見ていくと、いつもと大きく異なっている服装であることに気付いた。私服だから、ではない…いつもはジャージかズボンなはずなのに…今日の彼女は…

 

 

「スッ…スカート…だと…!?」

 

 

スカート…それは、腰より下を覆う筒状の衣服である。単に「スカート」と言うと女性用のスカートをさすことが多い。ズボンと異なり、筒が股の所で分かれておらず、両脚が1つの筒に包まれる(ただし、股の所で分かれているキュロットをスカートに入れることがある)。※wikiより引用

それだけではない。彼女は今日、ミニスカートを着用しているのだ。ミニスカート…「見えそうで見えない」絶対の防御力を誇る。だがしかし、それがいいのだ。

そして!いつも彼女は長い丈のズボンを履いている。つまり逆を言ってしまえば、今履いているような丈の短い物には慣れていないという事だ…!

ということは…風に煽られて「きゃっ!」的な目の保養になることもあるんじゃ…!

 

 

「はぁ~…気持ち悪いことを考えているのはわかるけど、凛的にはそれを表情に出さない方がいいと思うな~」

 

 

「うぐっ…!」

 

 

呆れるような表情、深いため息、さらっと吐かれた毒舌が俺のメンタルにクリティカルヒットする。

 

 

「まあいいや、それじゃあ行っくよ~♪」

 

 

彼女は俺の右手を両手で掴み、走り始めた。

 

 

「ちょっ…凛!?」

 

 

仕事を終え、疲れ切った顔で駅に向かうサラリーマン。遊び終え、大きな声で楽しそうにはしゃいでいる学生。彼女は猫のような滑らかな動きでその人たちの間をすり抜け、人混みの中を突き進んでいく。

 

 

「早く♪早く♪」

 

 

「凛…!危ないって…おっとすいません!?」

 

 

「危険だってb……はっ!」

 

 

これは…!

 

 

その時、その瞬間に、俺の視点は彼女の衣服の一点に絞られた。

 

 

(彼女は俺の手を引き、目の前を走っている。そして走っているのはミニスカートじゃないか…!)

 

 

揺れるスカート。身体に当たり、少しずつ強くなっている微かな風。そしてここは大都会渋谷……さぁ来いビル風よ!

 

 

「みえっ…!」

 

 

スカートが浮いた瞬間だった。視点を一転に絞っていた俺は凛の動きについていくことが出来ず、少し背の低い見知らぬおっさんと衝突した。

 

 

「うごっ…!」

 

 

「ごばっ…!」

 

 

交差点を渡りきるほんの少し手前、俺は今世紀最大のチャンスを逃がした。もちろんこの後、おっさんとの謝り合戦を繰り広げることになったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

~20分後~

 

 

 

「よそ見ばっかりしてるからだよ~」

 

 

「…すいません」

 

 

謝り合戦を終えた後。投影時間ギリギリに、目的地であるコスモプラネタリウム渋谷に到着し、案内された席に座っていた。

 

 

「いや~今世紀最大のおいしい場面だとは思ったんだけどな~」

 

 

「そんな事ばっかり言ってると、私もうスカート履いて来なくなっちゃうからね?」

 

 

「…それはやめてください」

 

 

「わかればよろしい。あ、始まるよ!」

 

 

部屋の明かりが消え、凛々しい女性のアナウンスが流れ始める。まず始まったのは春の星座の説明だ。

 

 

「…だめだ。わからん」

 

 

天体に興味がない…わけではないけど、どこがどうとか言われても違いがわからない。

 

 

「なあ…り…」

 

 

声を出来るだけ小さくし、凛に話しかけようとしたが…俺は途中でやめることにした。

 

 

「凄い…!」

 

 

映し出された星に負けないくらいに瞳を輝かせ、彼女は星を眺めていた。

 

 

(まあ…いいか)

 

 

春の星座の説明が終わり、夏の星座の説明が始まった時だった。

 

 

「…?」

 

 

自分の右手に、小さくて柔らかい、温かいもう一人の手が重なった。そして、隣にいた彼女が小さな声で呟く。

 

 

「誕生日…ありがとう」

 

 

彼女の手に力が加わり、細く、小さな指が絡まる。隣を見ると、彼女もこっちを見ていた。

 

 

「…喜んでくれてよかった」

 

 

「凛もね、昔は星に興味なんてなかったんだ」

 

 

「え…?」

 

 

「昔…私に言ってくれた人がいたんだ。星はいつも自分の事を見ていてくれる。私の名前…星空凛の星空っていうくらいだから、好きになった方がいいって」

 

 

懐かしい思い出を語るように、彼女はゆっくりと、優しい声色で語り続ける。

 

 

「いつも…どんな時も、私はあなたを見てる。だから…春遂もわたしを見逃さないでね」

 

 

重なっている手から伝わってくる温もり、投影された無数の星々が煌々と光り、暗い部屋を彩っていく。真剣に目を見つめ、彼女は思いを伝えてくれた。

 

 

「…約束する」

 

 

「うん…♪」

 

 

こぼれるような満面の笑みを浮かべながら、彼女はもう一度だけ強く手を握った。

 

 

「…スカート、また履いてくれるならね」

 

 

「…はいはい♪」

 

 

そして、一時間ものプラネタリウムは幕を閉じた。

 

 




最後目で読んでくださり、ありがとうございます!

というわけで誕生日おめでとう!

ぎりぎりセーフ!

そんなこんなで、次回は絵里編を書きますので、少々お待ちください


あと、今度からは活動報告も活用していきたいと思います。


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高坂穂乃果編 クリスマス

どうも、毛虫二等兵です。

今回は予定通り、穂乃果編のクリスマス回です。




 

 

上園 織部 -19時40分-

 

 

世間はクリスマスと賑わっているが、俺はいつもより多い仕事に追われていた。エリートサラリーほとんどは休みを取っているらしいが、俺みたいな下っ端はそんなことはできるはずはなかった。

 

 

「上園!決算の赤いファイル取って!」

 

 

「はい!」

 

 

切羽詰まった様子の上司が大声を張り上げる。俺がさっきまとめたばかりの決算報告のファイルを掴み、上司のところに走る。

 

 

「これです!」

 

 

「サンキュ!」

 

 

壁に掛かっている時計を見て、まだ山のよう積み重なったファイルを見て…今日は夜遅くなることを察した。

待っている穂乃果のことを思い出し、俺はもう一度パソコンとにらめっこを始めた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

仕事を終えて秋葉原駅の付いた頃には、時計の針は22時になろうとしていた。

 

 

「今日…クリスマスか…」

 

 

光輝くUDX学院のイルミネーションの前で足が止まった。

道行くカップルが手を繋いで歩いているのを見ると、気が重くなる。

今日はクリスマス、本来なら俺も休みを取って、穂乃果と一緒にイルミネーションを見て、店で食事をして、穂乃果を楽しませてあげたかった。

 

 

右手に持っている大きな紙袋を見て、プレゼントについて考えてしまう。

いろいろ悩んだ結果…プレゼントは茶色のモッズコートに決めた。さすがに5万もしたのは驚いたが、このくらいしか思いつかなかった。

しかし肝心のケーキは予約の締め切りに間に合わず、買うことができないままだ。このコートもクリスマスっぽくもないし、彼女が喜ぶかはわからないのが問題だけど。

 

 

「嫌われちゃうかな~…」

 

 

温かい缶コーヒーを軽く握りしめ、嘆くような深いため息を吐く。歩き始めようとすると、後ろから二回背中を叩かれた。

 

 

「…?」

 

 

「おっそ~~~いっ!」

 

 

「穂乃果!?」

 

 

後ろに振り向くと、インナーを何枚か着た上に、彼女らしい無地でオレンジ色一色のパーカーを着込み、ジーンズを履いている穂乃果がいた。この時期にこの格好…というのもあれだが、今日は寒波が来ているらしく、気温は13℃しかない。

 

 

「ずっとずっと待ってたのに来ないんだもん!寒くて大変だったんだからね!」

 

 

穂乃果は声を上げ、頬を膨らませて怒っていた。

 

 

「えっと…それは…え、まさかコート着てないの!?」

 

 

「だってすぐ帰ってくるかと思ったんだもん!9時には秋葉原にいるって言ってたから、大丈夫かなーって…そしたら全然来ないし…!」

 

 

「え…!?」

 

 

この寒さの中、駅の前で一時間近く待っていたことになる。しかもその恰好で…

 

 

「それに織部は連絡の一つくらい…ってはわわわわっ!?」

 

 

手を掴むと、彼女手は思った以上に冷たくなっていた。いったん手を離し、荷物をおろして、クリスマスプレゼントのモッズコートを取り出す。

 

 

「ちょっと待ってて」

 

 

「それ…」

 

 

コートを穂乃果の背中にかけて、彼女の手に缶コーヒーを持たせる。

 

 

「今日寒いんだし、せめてコートは着なきゃ体に悪いよ」

 

 

「…あっ…うん…」

 

 

「今日は寒いって言ってたのに…」

 

 

床に置いた鞄と、空になった大きな紙袋を持ち上げ、ゆっくりと歩き始める。

 

 

「穂乃果だって寒いって思ったけど…帰るわけにもいかなかったし…」

 

 

穂乃果の冷たかった手を思いだす。彼女は待っていてくれた。寒い中でたった一人、一時間近い時間を。

 

 

「…ごめん」

 

 

「許しません」

 

 

彼女はそっぽを向き、顔を合わせようとしなかった。

 

 

「そっか、ごめん」

 

 

「…でも、手を繋いだら許すかもしれません」

 

 

「…これでいい?」

 

 

コーヒーのおかげもあってか、繋いでいる手は少しだけ温かかった。

 

 

「コート…ありがとう♪」

 

 

「…どういたしまして」

 

 

光り輝くイルミネーションに照らされながら、手を繋いで家に向かう。寒波が来ている…なんていうのが嘘なんじゃないかと思えるほど、その帰り道は温かかった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

穂乃果の家の前を通り過ぎようとすると、穂乃果の妹、高坂雪穂が勢いよく扉を開けて出てきた。片手に穂むらの紙袋を持っているようだ。

 

 

「おっそーーいっ!」

 

 

雪穂は頬を膨らませ、俺にぶつかる勢いで目の前まで迫ってきた。

 

 

「…さっきも見たな光景」

 

 

でもさっきと違うのは、彼女はダウンジャケットを着て、ボトムスを履いているなどの防寒対策をしていることだ。

 

 

「やっぱり雪穂はしっかりしてるな~」

 

 

「うんうん、雪穂はしっかりものだよね~」

 

 

まったく動揺していない俺と穂乃果に呆れるようなため息を付いたあと、話し始めた。

 

 

「仕事なんだろうから仕方ないけど…で、ケーキはあるの?」

 

 

「それが買えなくて…穂乃果には事情を話して納得してもらったというか…」

 

 

「はぁ~…」

 

 

さっきよりも深いため息を吐き、彼女は穂むらの紙袋を押し付けてきた。

 

 

「…はいこれ」

 

 

「…え?」

 

 

「残りのケーキ。あんたの分と、お姉ちゃん分。この紙袋の中に入ってるから、今日中に食べて」

 

 

「ありがとう雪穂!」

 

 

「これを渡したかったのに、来るのが遅いんだから…私ももう寝るね。織部さん、お姉ちゃん、メリークリスマス」

 

 

「メリークリスマス「雪穂さん」「雪穂~おやすみ~!」」

 

 

彼女は軽く手を振って、店に中に戻って行った。俺と穂乃果は、もう一度家に向かって歩きはじめた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

穂乃果に早く早くと急かされながら、家の鍵を開ける。クリスマスだから といって特別な装飾があるわけではない。一度リビングに荷物を置き、穂乃果は入り口の目の前にある台所に向かった。

 

 

「いつもの部屋だね~。そうだ、お腹すいてない?夕飯作ろうか?」

 

 

「…頼んでいい?」

 

 

「は~い♪」

 

 

穂乃果が料理をしている間に、俺はこたつ周りの散らかったプラモのランナーやら箱やらをまとめ、押し入れの奥に戻す。これだけでも、足の踏み場は格段に増える。

 

 

「まずは椅子周りのランナーから…ん?」

 

 

買ったばかりのビルドバーニング見て、まだ組み立てていないことを思い出した。

 

 

「説明書だけでも…」

 

 

穂乃果に注意されるまで、俺は説明書を読みふけってしまっていた。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ごちそうさま。美味しかった」

 

 

「お粗末さまでした♪」

 

 

目の前には食べ終えた食器がある。そして冷蔵庫は台所の横にある。つまりこたつを出て、寒い中を歩いていき、片づけと、ケーキを取ってこなくてはいけない。

 

 

「穂乃果…わかってるよね?」

 

 

お互いにこたつ入っている手をだし、じゃんけんの構えを取る。

 

 

「…いくよ!」

 

「「じゃんけんポンっ!!」」

 

 

穂乃果はグー 俺はチョキ…つまり負けた。

 

 

「こたつから出たくない~!」

 

 

「いってらっしゃ~い!♪」

 

 

寒さに震えながら食器をかたずけ、雪穂さんから貰ったケーキを机の上に並べる。中身はショートケーキと、俺の好きなモンブランだった。

 

 

「どっちがいい?」

「ショートケーキ!」

 

聞いたと同じタイミングで、穂乃果は勢いよく手を上げた。

 

 

「それじゃあモンブランは頂こう」

 

 

「あ…でもやっぱり…」

 

 

モンブランも…といいたそうな顔をしているが、どっちも食べられては困る。

 

 

「…どっちかにしなさい」

 

 

「うぅぅ~!」

 

 

「駄目です」

 

 

「織部のケチ~!」

 

 

「はいはい、それじゃあ食べようか」

 

 

「うぅぅ~…」

 

 

駄々を捏ねる穂乃果を受け流しつつ、今日あったことや、お互いの仕事のこと…お互いに思ったことを話していると、すでに穂乃果はケーキを食べ終っていた。そして俺のモンブランは残り半分。

 

 

「…こういうことがあって、どうした穂乃果?」

 

 

「う…うん!なんでもないよ!」

 

 

「あ……」

 

 

彼女は俺のケーキを狙っている。それを確信した瞬間だった。話しているときに、ちょくちょくモンブランに視線が行っているのを、俺は見逃してなどいない。

 

 

「で、えっと~」

 

 

「…食べていいよ、モンブラン」

 

 

「ほんと!?」

 

 

子供か と突っ込みを入れたくなるほど、彼女の瞳は輝いていた。

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

「いただきます!」

 

 

皿を穂乃果の前に流すと、幸せそうな笑顔で食べ始める。

 

 

「さっきからずっと食べたそうだったから、残しておいた」

「…ニュータイプ?」

 

 

「いや、どっちかっていうとオールドタイプ。今日は泊まっていく?」

 

 

「そうしようかと思ってるけど…駄目かな?」

 

 

「いや、いつものことだから大丈夫。お風呂先に入っちゃっていいよ」

 

 

「は~い♪」

 

 

慣れというのは怖いもので、昔はこんなことがあったら心臓が大変なことになっていたと思う。今でも少し早くはなるけど…

そんないつも通りの話を弾ませながら、時間は23時を過ぎようとしていた。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「もう電気消していい?」

 

 

「了解であります♪」

 

 

穂乃果は右手で小さく敬礼をすると、俺は部屋の電気を消した。

彼女は家に置いてある自分用のパジャマに着替え、いつも俺が使っている少しお高い布団で、俺は押し入れの奥から実家から持ってきた布団を使って寝る。最初は緊張して寝るどころではなかったが、布団の横の部分をくっ付けて寝ている。「川の字で寝る」とはちょっと違う。

秋葉原から少し離れた場所にあるここは、街灯の光があるくらいで眩しくもないし、人通りもほとんどないから静かで寝やすい。

 

 

「おやすみ」

 

「おやすみなさ~い♪」

 

 

眼鏡を布団の上に置き、布団に入って目を瞑る。

クリスマスらしいことは何もできなかったけど…喜んでもらえただろうか。それだけが心配だった。大きく布団が擦れる音が聞こえ、なにやら穂乃果が動いているのが分かった。

 

 

「穂乃果…どうした?」

 

 

横にいる穂乃果の方に身体を向けると、目の前に彼女がいた。

 

 

「…穂乃果!?」

 

 

驚いて少し後ろに下がると、彼女はまた距離を詰めてきた。布団のギリギリまで下がっているため、もう下がることは出来ない。

 

 

「…まだ、許してないんだから」

 

 

「なっ…何を…!?」

 

 

「…隣、来て」

 

 

いつの陽気な話し方とは違う、おっとりとした口調に驚き、心臓の鼓動が一気に早くなった。

 

 

「…わ…わかった」

 

 

少し真ん中に寄っていくと、彼女の肩に当たった。

眼鏡がないのではっきりとは見えないが、微かな呼吸の音が横から聞こえるということは…もう隣にいるのかもしれない。

 

 

「話したいこと…なにかあった?」

 

 

「ううん、ないよ」

 

 

「え…?」

 

 

「ただ…こうしていたい。そう思ったから」

 

 

「許して貰える?」

 

 

「…うん、許す。コーヒー…本当に温かかった。ありがとう」

 

 

「どういたしまして」

 

 

穂乃果と指と指を絡め、穂乃果と身体を密着させる。肌に温もり伝わってくると、心臓の鼓動が早くなった。

 

 

「…それとね、最高のクリスマスを…ありがとう♪」

 

 

ほんの一瞬、温かい唇のような感触が…頬に伝わってきた。

 

 

「メリークリスマス♪」

 

 

「…メリークリスマス、穂乃果」

 

こっちからは恥ずかしくて何も返すことは出来なかった上に、心臓バクバクでその日はなかなか寝付くことができなかったけど…「来年のクリスマスは彼女を驚かせてあげよう」と、心に決めた一日だった。

 

 

 

 





これ運営的に大丈夫かな?
でもまあ大丈夫だよね っておもいつつ、それでもやっぱりこれ以上は書きませんでした。

にこ編は明日に間に合うかわかりませんが、急いで書きますね~


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元旦 前編

どうも、毛虫二等兵です。
クリスマス回の感想、ありがとうございます!

後程修正加えます

さて、今回は海未編、真姫編、にこ編の混成の話です。
こういった形の構成は初めてなので上手くいくかはわかりませんが…温かい目でお願いします

私は少し出かけてしまうので、今回は予約投稿機能を使っています

今回出てくる主人公たちのプロフィールについては、来年に加筆したいとおもってます


元旦 宮坂 八雲(みやさか やくも) ~13時~

 

白と青を基調とした朝顔模様の刺繍の入った和服に身を包み、園田海未は玄関から出てきた。

 

「お待たせしました…それでは行きましょう…えっと…その着物は…?』

 

あゆは(歩波)さんに見てもらいながらだったけど、自分で着れるようにはなったよ」

 

着物の着付けだと察したのか、彼女の顔が真剣な顔になった。歩波さんとは、海未の母親のことだ。彼女の母…園田歩波は日舞の師匠、父は会社経営者兼、剣道の師範で、よく暇さえあれば稽古をつけてもらっている仲になった。

 

「その時母は何と…!?」

 

海未は俺の肩を掴み、顔を目の前まで一気に近づけてきた。今着ているのは、歩波さんから貰った紺色の羽織と、「梅」と呼ばれる着物で、表は白、裏地は蘇芳(すおう)と呼ばれる赤を薄くしたような色をした着物だ。数時間前の話だが、歩波さんに呼び出されるやいなや着物を渡された。困惑しながらも頑張ったつもりだ。

 

「特に何も言ってなかったよ。ただ「よくできました」って褒めてもらったくらいかな」

 

さっきあったことを伝えると、海未は俺の両手を掴み、目を輝かせながら喜んでいた。

 

「凄いです!本当にすごいです!」

 

「え…ちょ…そんなに驚くこと?」

 

「母は着付けに関してはすごくうるさいんです!その母が褒めるなんて、本当にすごいことなんですよ!私もいままで数えるほどしか褒められたことがないのに…」

 

「…海未がそこまで言うってことは…相当厳しかったんだろうな~。ここではなしてるのもあれだから…そろそろ行かない?」

 

「待ってください」

 

歩き出そうとすると、海未が肩を叩いた。足を止めて振り返ると、首のあたりに温かい何かが巻かれる。

 

「ん…?」

 

「首元が寒いでしょうから、これを」

 

何かと思えば…青と白のストライブのマフラーだ。今まで使っていた市販ものよりも、温かくて柔らかい気がする。もしかしたらお高いものなんだろうか。

 

「あ…ありがとう、でもマフラーって巻いていいの?」

 

「ある程度の防寒対策は必要です。出来ましたよ」

 

「ありがとう、場所は神田明神?」

 

「はい、えっと…」

 

「…?」

 

海未はそっぽを向き、無言で手を差し出してきた。

 

「こっ…こういう時は!男性がエスコートするものです」

 

「…はいはい」

 

 

二人で手を繋ぎ、家の門を出て神田明神へ向かった。

 

 

 

 

 

真姫 編  東 幸和(あずま ゆきかず)

 

 

 

「早くしないと、置いてくわよ?」

 

「ごめん今行く!真姫はすごいね、一人で着物着れるなんて…僕なんか手伝ってもらってるのにこんなに時間かかっちゃったよ…」

 

似合っているかは別として、小百合さん(お手伝い)さんに手伝ってもらってどうにか着ることができた。

 

「当然でしょ、私を誰だと思ってるの?」

 

「今度教えてね、場所は神田明神?」

 

「そう、みんなと約束してるの」

 

慣れない下駄に苦戦しながらも、下駄に苦戦しながらも、ようやく彼女に追いついた。彼女の歩く速度がいつもより少しだけ早い。

 

「真姫…もしかして早く会いたい人がいる?」

 

「なっ…!?私は別にそんなこと思ってないわよ!」

 

「いつもより少し早く歩いてる」

 

指摘されて気が付いたのか、彼女は顔を真っ赤にして歩く速度を緩めた。

 

「たまたまよ!今日はたまたま早く歩きたい気分なの!別に楽しみだからとかじゃないわ!」

 

癖である横髪をいじりながら否定するが…実は今度はいつもよりも遅くなっている。こういうときは彼女の意志を「自分の意見」にして、遠回しに言ってあげればいい。彼女は俗にいう「ツンデレ」なんだろうし。

 

「そっか…僕は早く行きたいし、出来ることならタクシーに乗っていきたいんだけど……真姫はどう思う?」

 

「わっ…私は別に…」

 

「決まりだね」

 

大通りに出てタクシーを拾い、神田明神にむかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

海未編  宮坂 八雲

 

 

「人多かったな~…足が疲れた…」

 

「こんなことで疲れていては、園田家を継ぐのはまだまだ先の話になりますよ?毎年そうでしたが、今年は特に賑わっているみたいですからね」

 

「そうなの…うわっ!?」

 

「きゃっ!?ごめんなさい!」

 

海未との話に夢中になってよそ見をしていると、中学生くらいの女の子にぶつかってしまった。軽い接触だったので、二人とも大きな怪我はなかった。

 

「ごめん!怪我はない?」

 

「大丈夫です!すいません!ごめんなさい!」

 

会社の上司に謝るみたいな勢いで謝られてるけど…年が10くらい離れた女の子に謝られるのは…なんかこう犯罪チックだから嫌だな。

 

「お~い!有紗~!すいません!」

 

父親(?)とは思えないが、同い年くらいの男性が彼女のもとに駆け寄り、謝ってきた。

 

「気にしないでください。自分もよそ見をしてしまったので…」

 

「すいませんでした。失礼します…いいか、これで甘酒はなしだからな」

 

「すいません……そんなのひどいです!甘酒じゃんけんは私が勝ったのに~!」

 

「年越しアイスと称してハーゲンダッツを奪っていくような姪っ子なんて知りません」

 

「うぅ…お兄さんの悪魔!貧乏神~!」

 

「なんか…仲のよさそうな家族だな」

 

怪我がないかを見届けるため、少し遠くまで彼らを見ていたが…なんかとんでもないイチャコラを見せられた気分になった。おかげでこっちまでついにニヤニヤしてしまうじゃないか。

 

初詣を終えたので、特に人の多い御殿を抜け、人の少ないところに移動していると、遠くから海未の名前が聞こえてきた。

 

「海未ちゃ~ん!!」

 

「穂乃果とことりさん…?」

 

「ここですよ~!」

 

彼女たちは二人しかいないらしく、すぐにこっちに合流できた。穂乃果はいつも通りの私服で、ことりさんはスーツの上にコートを着ていた。

 

「宮坂…着物すごい似合ってる!」

 

「海未ちゃんで見慣れていたつもりだけど、これが「和」…!今度お写真を依頼してもいいですか?」

 

瞳を輝かせながら仕事の炎に燃えることりさんと、まるで物珍しいものを見るかのようにじろじろと見てくる穂乃果。なんかこの格好でいるのが恥ずかしくなってきた。

 

「ありがとう…って穂乃果は相変わらず近いし…写真は時間があればで」

 

「穂乃果~!」

 

穂乃果の名前を呼ばれ、人混みの中からにょきっと手が生えると、彼女はそれに気づき、走って行った。

 

「ごめんね海未ちゃん!またあとでね~!」

 

「こら穂乃果!走ってはダメです!危ないですよ!」

 

「は~い♪」

 

いつものように海未の忠告をスルーし、彼女は人混みの中に消えていった。少しして、スーツの男性がことりに駆け寄ってきた。どうやら人混みの中を捜索していたらしく、スーツも乱れ、息も少し荒くなっていた。

 

「はぁ…はぁ…ようやく見つかった~!」

 

「ごめんね!つい走っちゃって…」

 

「いえ…!はぁ…海未さん、お久しぶりです…えっと…」

 

「隣の方は、海未ちゃんの旦那さんだよ♪」

 

ことりさんのまさかの説明によって、俺と海未の顔は真っ赤になった。

 

「なっ…!?」「何を言っているのですか!?」

 

ことりはマフラーを軽く掴み、少しの間じっと見つめていた。

 

「えっと…」

 

ことりさんはようやくマフラーを離すと、にっこり笑いながら人差し指で横腹を軽くつついてきた。

 

「手作りマフラーなんて幸せオーラ全開にしちゃって、私の眼は誤魔化せないんだよ♪それじゃあまたあとで♪」

 

「「!?」」

 

海未の顔がさっきよりも赤くなりついに耳まで茹でたタコみたいな色になった。一方そんな俺たちを置き去りにし、ことりさんはさっきの男性を連れ去ってどこかへ行ってしまった。

 

「な…なぁ海未…」

 

「あ…あの…はい…」

 

「ありがとう…」

 

「いえ…暇だったので…つい…」

 

お互い話す言葉も見つからないまま…しばらくの間二人は顔を真っ赤にしていた。時間が経って落ち着いた後も、今まで通りに俺と海未は口を聞くことができなかった。

 

 

 




というわけで前編です


後編は明日の20時に予約投稿します。





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元旦 後編

どうも、毛虫二等兵です。

今回は前回に引き続き、後編になります。

お正月って…イチャコラさせるのが案外難しいですね


 

柳沢 志紀(やなぎさわ しき)

 

 

「おっそ~い!遅いわ!この程度の階段でなんでそんなに息切れしてるわけ?」

 

にこ社長に煽られているが、今はそれどころじゃない。新年だからと調子に乗り、彼女に乗せられて競争をしたのが間違いだった。序盤はいい勝負だったが…すぐに持久力のない俺が限界を迎え、次第に突き放されていった。

 

「はぁ…はぁ…階段つらっ…!」

 

「まったく…だらしないわね~」

 

「腐っても元アイドルか…っ!はぁ…はぁ…っ!社長ほど元気じゃないんですよ…それに人混みは嫌いなんですから…!」

 

 

 

~回想~

 

 

元旦、年越しそばを食べ、父親と話し合った後…俺はいつも通りの時間に俺は出社していた。しかし、仕事はなかった。

かさね達のスケジュール管理もほとんどと終わっているし、事務的なことももう済ませてある。もう次のライブの備えについて、かさね達と話し合うだけ…ということになっていた。

 

「にこ社長~」

 

スーツに身を包み、両腕を組んで空を眺めている 矢澤にこ 社長に話しかける。

 

「なに?」

 

「暇です」

 

「暇ね」

 

「やることがないです」

 

「そうね…」

 

「そういえばかさね達の今日の予定は?」

 

「確認済みです、一応全員午後は相手いるそうです」

 

「…わかったわ」

 

あまりに暇過ぎて、何か考え込んでいるにこ社長をからかってみたい気持ちが沸いてきた。

 

「せっかくの元旦です。初詣に行ったらどうです?」

 

「…あんた、馬鹿にしてるでしょ?」

 

案の定キッと睨み付けてくる

 

「冗談ですって…あははは~…」

 

「ふんっ!まあいいわ。柳沢、外に行くわよ」

 

「どこに行くんですか?」

 

「もちろん、神田明神に決まってるじゃない!」

 

「今から?」

 

「今から!さぁ!行くわよ!」

 

 

~回想 終~

 

 

 

地獄のような階段を上り終えた後は、初詣の列に並ぶという次の地獄が待っていた。いまからライブでもやるのかとさっかくするくらい人がたくさんいる。

 

「長い」

 

「まったく…文句ばかり言わないの」

 

「相変わらず元気そうで安心したわ」

 

一つ前に並んでいた女性が振り向くと、話しかけてきた。アイドル好きなら…彼女の名前はたいてい知っている。赤い着物に身を包んではいるが…彼女は間違いなく 西木野真姫 だ。そんな彼女に気付き、隣にいる男性もこっちを向いた。黒の羽織に青色の着物…誰だこの人。

 

「…真姫じゃない!やっぱり来てたのね!」

 

「あけましておめでとう、にこちゃん」

 

「あけましておめでとうございます、矢澤にこさん」

 

隣にいるさわやか系イケメンが誰なのかはわからないが、真姫さんと手を繋いでいる以上、ある程度進展した関係であるみたいだけど…誰なんだ一体…

 

「あけましておめでとうございます。(あずま)さん。会社ともども、今年もよろしくお願いしいたします。…あんたも頭を下げる!」

 

彼の顔を見ると、にこの顔が一気に凛々しくなって、仕事の時の「矢澤にこ」になった。

にこに頭をぐいっと引っ張られ、半ば無理やり頭が下がる。少し経った頃、彼女が相手に聞こえないくらいの小さな声で話しかけてきた。

 

「私たちのスポンサーなんだから!失礼があっちゃ駄目!」

 

「スポンサー」この言葉を聞いた瞬間に、一気に脳細胞がトップギアになる。相手はスポンサー…いわば俺たちの出資者のような人だ。粗相があってはいけない。

 

「…失礼しました!」

 

「そんなに改まらなくてもいいですよ、支援をしているのは真姫だし、僕は名前だけみたいなものだから」

 

一安心したのは…声色からして怒ってはいないということ。表に出ないだけなのかもしれないが…

 

「その話は後にしましょう、後ろ…詰まっちゃってるわ」

 

真姫さんに言われて頭を上げて見ると…後ろに並んでいる人達がこっちを睨んでいる。列の前を見ると、大分間隔があいていた。「後ろが詰まっているんだから早くしろよ」という表に出てこない言葉が、空気になって物語っている。

 

「あははは…すいません」

 

話を後回しにし、ひとまず急いで前に進んだ。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

参拝を終えると、すぐににこ社長と真姫さんは別の場所に移動。今はスポンサーである(あずま)さんと二人っきりになった。特に話すことも見当たらないので、素直に疑問をぶつけてみることにした。

 

「…あの、一つお聞きしたいことがあります」

 

「なんでしょう?」

 

「ありがとうございます。どうしてうちの会社を支援してくれるんですか?「スクールアイドル」を支える仕事なんて…金にもならないはずです」

 

「まぁ…そうですよね、確かにお金にはなりません」

 

「ならどうして?」

 

「真姫の思いが伝わったから…かな。そんなこと言ったら、柳沢さんもそうでしょう?聞いていますよ、あなたのお給料は、事務所の運営に使われてるらしいですね、しかも時間外労働もよくやっているとか」

 

「…よくご存じで。でもいいんです、これが俺の生きがいなんですから」

 

ふふっ と静かに笑うと、彼は淡々と話し始めた。

 

「僕がにこさんの会社に出資している理由…少し違うかもしれないですけど、もしかしたらあなたと同じ理由なのかもしれません」

 

「同じ理由…もしかして東さんもにこさんに巻き込まれたんですか?」

 

彼は少し考える素振りを見せると、一度だけ頷いて答える。

 

「…そうですね、巻き込まれたというのが正しいのかもしれません。でも僕の場合は…」

 

彼がようやく話し始め、話が進もうとした瞬間、かさねが背中に飛びついて来た。

 

「さ~ん!あっけおめ~!」

 

背中に衝撃と痛みが走る。こんなことをするのは新年になったとしても一人しかいない

 

「いてて…いい加減背中はやめろ、この人は…」

 

支倉かさね、音ノ木坂のスクールアイドルのリーダーにして、だいたいいつも突進してくる。

 

「あけましておめでとうございます」

 

彼は気にも留めていないのか、落ち着いた口調と笑顔で新年の挨拶をした。

 

「あ…あけましておめでとうごじゃいます…!!」

 

かたや、挨拶された方のかさねはテンパり、ボロボロだった。

 

「あのことは言わないで上げてください。僕はここで真姫を待っていますので」

 

「わかりました…失礼します」

 

「よいお年を」

 

そういうと、俺は彼と別れた。一言で言ってしまうなら…彼は不思議だ。察しがいい割には落ち着いているし、ある種達観しているといってもいいくらいだ。何も考えていないような素振りをして…怖い相手だ。

 

「…あのイケメンさん誰ですか?知り合いですか?」

 

「まず「あけましておめでとうございます」だろう、なんだその挨拶は」

 

「あっけおめ~!♪」

 

俺の右腕をしっかりと掴み、強引にグイグイと引っ張りっていく。

 

「新年の挨拶くらいしっかりしろ…まったく…」

 

「行きましょう!みんな待ってます!」

 

「おう!…ってどこにだよ」

 

「内緒です♪しずくちゃ~ん!理華~!」

 

甘酒を配っている屋台の前で、しずくと理華の二人を見つけた。甘酒を飲んでいる彼女たちの前に連行されると、ようやく腕の拘束が解放された。

 

「あけましておめでとうございます」

「あけこと」

 

「理華は略し過ぎだ。しずくを見習え」

 

「ほかのみんなが来たら!今日もがんばろー!」

 

「…新年あけたばっかりなのに、元気だな~…・」

 

「まだまだこれからです♪もっともっと!私たちは前に進むんですから!」

 

「…そのまえに、しっかり挨拶は覚えないとな。さっき噛んでたろ」

 

「聞いてたんですか!?」

 

「おう、ばっちり聞いてた」

 

喜怒哀楽がはっきりあらわれるかさねをいじるのも面白いが、事案になりそうなんである程度は控えておく。ある程度は。

 

「ふえぇ…忘れてください!今すぐに!」

 

「嫌だよ、勿体ない」

 

新年早々うるさい正月になった と思う反面…彼は、この空気を楽しいと感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう一度9人で  ―高坂穂乃果-

 

 

ことりちゃんのお母さんに学校に入る許可をもらった私は、音ノ木坂学院の屋上に立っている。ドアはやけに重たくって、屋上の空気は新鮮なはずなのに、とても懐かしい感じがした。

 

「9人で楽しく…だったよね」

 

屋上を見渡して…もう一度あの時のことを思い出す。私たちはここで学んで、頑張って、思いを一つにした。

 

「それでも…私たちはここで始まったんだ」

 

μ's と書かれていたの水はとっくに昔に乾いてしまっていて…もうあの時に戻ることは出来ないことを実感させる。心ではわかっていても…なぜかそれが寂しくて、やりきれない思いが募っていく。

 

「あれからもう…随分経ってしまいましたね」

 

「時間の流れって…早いね」

 

「ことりちゃん、海未ちゃんまで…」

 

「二人だけじゃないわ。みんな来てるもの」

 

絵里が扉を開けると、中からかつてのメンバーが出てきた。雰囲気は変わっているけど…ミューズが全員そろったのだと思うと、うれしい気持ちでいっぱいで、満たされていくように感じた。

 

「相変わらず、穂乃果ちゃんはせっかちやね~」

「まったく…どうしてこうも変わらないのかしら…」

「凛…!?くっつかないの!危ないから!」

「真姫ちゃん久しぶりー!」

「凛ちゃんあぶないよ~!」

 

「絵里ちゃん、希ちゃん、にこちゃん、真姫ちゃん、凛ちゃん、花陽ちゃん…」

 

 

「お久しぶりです凛、元気にしていましたか?」「元気にしてます!こう見えて、もう立派な教師なんですよ!」「すっかり大人になったみたいですね、安心しました」「え?え?それってどういう意味かにゃ?」「…やっぱりまだ治ってないのでしょうか?」

 

「花陽もひさしぶりね、仕事の方はどう?」「まだまだ大変です…園児たちの世話が特に大変で…」

 

「にこっちに会うのも久しぶりやね、新しい子たちはどうなん?」「まだまだ甘いわ、けど、私がいる以上絶対に優勝させてみせるんだから!」「にこはこう言ってるけど、にこが思っている以上の女の子達だから、大丈夫よ」「なっ…それってそういうこと!?」

 

「ねえ…ことりちゃん。こんなこと…もうないかと思っていた。この場所で、こんな話をして…本当に夢みたい」

 

「あれから時間が経って…もう私たちはあのころには戻れない。それでも、私にとって…みんなと過ごしたかけがえのない時間であったことは絶対に変わらないと思うんだ。どんなに時間が経っても…私にとっての大切な時間なんだから」

 

肩に入った力を抜き、懐かしい景色をもう一度思い出す。

そうだ、時間は過ぎるものだとしても、変わらないものはある…そう思って、私はここを、μ'sを卒業したんだ。

 

「ことりちゃん…うん、そうだよね」

 

過去を振り返っても仕方ないって割り切れるわけじゃない。でも、私たちは成し遂げたんだ。たとえミューズの文字は乾いてしまっても…あの時の記憶は消えたりしない。

 

「そろそろいいかしら、入ってきて」

 

絵里ちゃんが合図すると、ゆっくりと扉を開けて、9人の女の子達が出てきた。にこちゃんから聞いた話だと、今の音ノ木坂のスクールアイドルを担っているのは彼女たちだ。

 

「そんなに怯えなくても、いつも通りにしてればいいの。特にかさね、あんたはしっかりしなさい、リーダーなんだから」

 

にこちゃんが励まし…ているつもりなんだろうけど、ちょっとプレッシャーになっていた。ほかのメンバーもそう…顔はこわばっているし、肩に力が入っている。

 

「は…はいぃ…!」

 

「あの…」

 

話しかけようとした瞬間、凛ちゃんが私の前に出た。一回ウインクをし、彼女たちの方を向く。

 

「はいはいみんな~一回深呼吸して~」

 

凛ちゃんが9人の前に立ち、「彼女たち先生」になったみたいに話し始める。9人は困惑しながらも、息を吸って吐く。

 

「はい、もう1か~い!合わせてあわせて~」

 

少し困った顔をしながらも、少しずれているが、全員のタイミングを合わせながらの深呼吸。

 

「はいはいもう一回!今度は完璧に~」

 

困惑が消え、全員の息がぴったりあった深呼吸になった。

 

「穂乃果ちゃん、話して」

 

小声でそういうと、凛ちゃんは笑顔で横に下がって行った。

 

「リーダーだけじゃなくて、これは全員が聞いて、これは…私からみなさんに送る言葉です」

 

9人全員の顔を見て、ひとりひとりに話しかけるつもりで話しかける。さっきよりも格段に緊張の色は薄れているのがわかった。

 

「私たちは昔、音ノ木坂でスクールアイドルをやっていました。信じられないかもしないけど、私たちのライブはたった三人で…しかも観客のいない講堂から始まりました。そこから始めて…花陽ちゃん、凛ちゃん、真姫ちゃん、にこちゃん、希ちゃん、絵里ちゃん

…この9人が揃ってμ'sができたんだと思います。合宿に行ったり、笑いあったり、喧嘩もして…一度ラブライブに出るのを諦めたこともありました。でも私達9人は、誰かが挫ければ誰かが助ける。そうやってお互いに支え合って、この9人で、今までの人生の中で最高の時間を過ごすことが出来た。だからあなたたち9人にとって、ここが最高の時間であることを願っています。みなさ…じゃなかった。うん…こんな言葉じゃない」

 

一呼吸置き。とめどなく溢れてくる思いをまとめる。伝えるんだ、私の…今伝えたい想いを。

 

「やり遂げてください、最後まで。これが私達μ'sのメッセージです」

 

 

「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」

 

 

形は違っても…個性は違っても、彼女たちは私たちと同じなんだと、私は感じた。

 

 





最後の穂乃果の部分は実はやりたかっただけです。
この間一期と二期を続け見たので、ついつい書きたくなってしまったんです。


ご意見・ご感想など、こことよりお待ちします!

今年九月末くらいから始まったこの作品ですが…読んでくれているみなさんのおかげでモチベーション維持ができています。ありがとうございます。どうか来年度もよろしくお願いしますm(__)m

それではよいお年をノシ


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