イルミネ、海賊王を目指す。 (バナハロ)
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ROMANCE DAWN
冒険の夜明け。


みんなもやろうぜ、ワンピースカード!


 それは、風野灯織にとって一番、落ち着かない日々での出来事だった。受験が終わり、いよいよ待ち望んだ283事務所合否発表が、ここ数日の間に届くはずの日。

 電話がかかって来る、という事なのだが、流石に家で机の上にスマホを置き、正座して待っていられるほど落ち着かなかった。

 なので、とりあえず表を散歩して待とうと思い、外を出歩いている次第である……のだが。

 

「ダイジョウヴ、ダイジョウヴ、ダイジョウヴ、ダイジョウヴ、ダイジョウヴ、ダイジョウヴ、ダイジョウヴ、ダイジョウヴ、ダイジョウヴ、ダイジョウヴ、ダイジョウヴ、ダイジョウヴ……」

 

 目をぐるぐる回しながら、画面もつけていないスマホを持っていじっていないのにながらスマホをしながら歩いているので家にいるのとほぼ変わらない状況であることに気づいていなかった。

 散歩とかしても落ち着いていない。真冬なのに暑いくらいだが、本人はそれを気にする余裕もない。

 なので、他人と肩と肩がぶつかってしまうのも当然だったと言えるだろう。曲がり角から走って来た少年と、衝突してしまった。その拍子にスマホを落としてしまう。

 

「きゃっ……」

「あ、ごめん!」

 

 尻餅をついてしまう。それにより、何か嫌な予感が脳裏に響いた気がした。

 

「大丈夫か?」

「あっ、あああ……こんな日に誰かとぶつかって合格通知が来るかもしれないスマホを落とすなんて……もしかして、良くない結果が来る凶兆……?」

 

 頭を抱えてスマホを拾う余裕もなくそんなことが頭の中で回り始める。これで落ちていたらどうしよう……両親も「灯織が頑張れるなら」と応援してくれたことなのに……このままでは色んな人の期待を裏切ってしまう……などと頭の中が回っている時だった。

 グイッと腕を引かれ、強引に身体を立たされた。

 

「何やってんだお前。ちゃんと顔上げろバーカ」

「え……?」

「何不安になってんだか知らんけど、ちゃんと前見ろ。ルフィだってエースが死んでもしゃんと前見て生きてんだろうが」

 

 ルフィ? 何の話? と思ったが……前を見る、というのは確かにその通りだ。……そうだ、いつかはどうせ結果が来る。不安になっていても仕方ない。

 

「それとながらスマホはやめろ。よそ見して片腕凍らされたジョズ隊長の敗北を忘れたかお前?」

「そ、それはごめんなさ……ジョズ?」

「じゃ、俺急いでるから」

 

 なんかちょいちょいよく分からん人の名前出てくるな……と、思いつつも、とりあえずその人を見送る。なんか……変わった人だった。

 まぁでも、とりあえず今はあの人の言うとおり、少しはしゃんとしないとと思い、帰ろうとした時だった。

 足元に何かが当たる感覚。下を見ると、緑色の羅針盤の絵が描かれた白のカードケースのようなものが落ちていた。

 

「何これ……カード?」

 

 思わず呟きながら手に取る。「ONE PIECE」「CARD GAME」のロゴが上下に並んでいた。

 ワンピースなら、灯織も知っている。いや、名前くらいしか知らないが、それでもルフィの名前くらい知っている。

 今、ぶつかってしまった少年はワンピースが好きで、これもその子が落としたものと見て間違いないだろう。

 

「! わ、渡しに行かなきゃ……!」

 

 ぼんやりしている場合ではない。後を追おうとしたのだが……見失ってしまった。

 

「ああっ……ど、どうしよう……!」

 

 せっかくなんか勇気づけてくれたのに、もう影も見えない。やってしまった……と、ひおひおと肩を落とす。どうしたら良いのか迷ったが……そこでハッとする。

 そうだ、前を向かなければ。確率はどんなに低くとも、何かしなければその定確率さえ引けない。

 

「さ、探しに行かなきゃ……!」

 

 ひとまずそのデッキを持ってスマホをポケットにしまい、街を見て回ることにした。

 

 ×××

 

 結局、見つかることはなかった。

 

「はぁ……」

 

 とぼとぼと歩きながら帰宅する。これ、どうすれば良いのだろうか? 

 家に入り、自室の椅子に座ってカードケースを置く。これを返す機会はおそらくもうないだろう。あの子の顔は覚えているけれど、偶然街で会える可能性なんて皆無だろうし……だからって、こういうのは捨て難い。

 高いものじゃないと良いなぁ、なんて思ってしまった結果、ちょっとだけ気になってしまったので中を覗いてみることにした。

 

「……うわ、キラキラしてる」

 

 なんのキャラクターだか分からないけれど、おそらくレアリティというものが高いのだろう。

 とりあえず先頭のカードの金額を調べてみる。カード名は「シャーロット・カタクリ」。カッコ良いカードではある。なんか光ってはいるし。

 でも……白黒だしこれは高そうではないな……なんて思いながら検索してみると……。

 

「……へ?」

 

 メ○カリで5200円と出てきた。嘘でしょ? と冷や汗を流す。だって……いくらカッコ良くて光っていても、白黒の紙である。

 なのに、これがまさかの、灯織が今年、従姉妹の親からもらったお年玉と同じ値段……ちょっと理解が追いつかない。

 冷や汗を流しながら次のカードを見る。今度はシャーロット・リンリンという名前の厳ついおばさんだ。

 全体的にカードは黄色く、右手に怖い顔をした炎のようなものを纏っている。そして、同じカードが3枚並んでいた。

 調べてみると、一枚2000円弱である。

 

「えっ……つまり、これで10000円以上……」

 

 この辺で調べるのをやめた。早い話が……そんな金額をかけた束を、この持ち主は落としてしまったことになり、そして自分はそれを拾ってしまったことになる。

 

「のんびりしてる場合じゃない……!」

 

 もう一度探しに行かないと、と思って席を立った。そもそもぶつかったのは自分がボーッとしていたからだ。

 だがっ……闇雲に探したところで、どうせ同じように見つからないのではないだろうか? 

 少し手段を考えないと……と、頭を悩ませていると、ふと思い浮かぶ。そもそも彼はこのデッキケースを持ってどこに行くつもりだったのだろうか? 

 ワンピースカードを持っていたということは、ワンピースカード関係の何かがある、と見るべきか。

 カードゲームについて詳しくもないので、スマホで検索。今日、この辺りでワンピースカードゲーム関連の何かをやっているのか。

 しばらく探していると、見つけた。今日は近くのカードショップでワンピースカードの大会をやっているらしい。

 

「って、マズいよねこれ……!」

 

 慌てて家を飛び出した。正直、行ったことはないが、まぁその辺なら多分分かる。看板さえ見つかれば。

 とにかく走って、そのお店に向かう。流石にあれから一時間弱経ってしまっているし、大会には間に合わないと思うけど、返せる機会ではある。

 そのまま移動していると、ふと目に入ったのはやたらとキョロキョロして歩き回っている見覚えある少年の姿。

 

「はぁ……ねぇなぁ、なんで落とすかなぁ、俺……受験が終わって久しぶりの大会だってのに……はは、見聞色の覇気を使えるんじゃないかってくらいヤマカンだけでテストをこなしてきたのに、とんだピエロ野郎だぜ俺は……所詮、俺はラッキーでのし上がってきたバギーと同レベルって事かな……はは、バラバラになってしまいたい」

 

 ……すごく前を見ることもなく引き摺っている。もう涙目というか、今にも死にそうな顔だ。

 声を掛けなければ、とも思ったのだが……どう声をかけたら良いのだろうか? 今の呪詛のような独り言を聞いた限り、どちらかと言うと試合に出れなかったことへのダメージの方が大きそうだ。

 もし、このままのこのこ持って行ったら……。

 

『は? お前が持ってたのかよ。ぶつかってきておいてなんですぐ届けてくれなかったの? 大会あったんだけど。どうしてくれんの?』

『ひぃっ……す、スミマセン……!』

 

 ……あり得る。すぐに追おうとしたけど見失ってしまった、なんていうのはこちらの都合であり、そういう詰められ方をしたら答えられる事は何もない。謝って参加費をこちらが持った上で慰謝料まで請求されるかもしれない。

 ここは……もう少し、こう……別の声の掛け方をしなければ……なんて思っている時だった。

 

「……あれ、お前さっきの……」

「へ? あっ……」

 

 見つかったことにより、さらに目がまわる。まだ言うべきことを何一つ決めていないのに。

 なんて言うべきだろうか? こうなったら、もう一刻の猶予もない。言いたいことは届けられなかったことの謝罪、そして不可抗力であったという事。それさえ伝えれば大丈夫……そう思い、的確に短くまとめながら、鞄から取り出した。

 

「ごめんなさい、わざとじゃないんです!」

 

 叫びながら頭を下げてカードケースを差し出した。

 ……。

 …………。

 …………。

 …………わざとやった人の言い訳みたいじゃない? と後になって思った。ヤバい、と思って慌てて顔を上げた時だった。

 

「ハンコック〜〜〜〜!」

「ひえっ⁉︎ い、いえ風野です!」

「おめェって奴は! ありがとう‼︎ 恩にきるよ‼︎」

 

 そのままバンバンと背中を叩かれる。正直痛いのだが、それどころではない。急なハグ……それも、異性から。あまりの衝撃にセクハラとか痴漢とかそういう類のとか思う前に手が出た。

 

「きゃああああああああ⁉︎」

「ぶへぇ〜〜〜〜‼︎」

 

 バチィィィンッッというビンタが顔面に炸裂し、後ろにひっくり返った隙に、お腹にカードケースだけ置いて逃げてしまった。

 ダッシュで家に帰宅し、扉を開けて中に入り、自室に戻って布団を思いっきり被る。

 抱き締められた。初めて異性に抱き締められた。今まで告白とかされたことはあったけど付き合おうと思う異性はいなかったから、そんな経験は当然ない。良い所父親くらいのものだろう。

 

「っ……うぅ〜……!」

 

 あの男……一体、どういうつもりなのか? まさか……セクハラ? わざと自分の前にカードを置いていったのか? ていうか、ハンコックってなんなのか。

 何にしても、自分と同い年くらいの男の子に抱き締められたのは初めてで、今になって鳥肌が立ってきた。

 

「と、届けなければ良かった……」

 

 そんな風につぶやきながらも……まぁ、喜んでくれてたことには違いないし、届かなければよかった、ということは無いのだろう。おそらく、怒ってはいなかっただろうし。

 ……ていうか、セクハラ確定みたいに考えてしまっていたが、もしかしたら帰国子女のようなものの可能性もある。文化が違うと、挨拶の仕方も違うって言うし。

 そう思ったら……ビンタしてしまったのは少し申し訳ない。ていうか、ハンコックって本当に誰なのか? 

 色々と気になったので、彼の口から漏れたセリフから調べてみることにした。

 目を悪くするといけないので、包まった布団から顔とスマホだけひょっこり出して調べてみる。

 まずは、ルフィから。

 

「本名、モンキー・D・ルフィ……年齢、17→19?」

 

 物語のうちに二年経過したということだろう。しかし、灯織より年上とはいえ随分若いんだなーと思ってしまう。

 しばらくそのまま色々と調べる。ゴムゴムの実を食べた、シャンクスという赤い髪の人に憧れている、麦わら帽子をかぶっている……などなど、分かってきた。ちょっと面白いけど、ハンコックという人の裸を見て「裸になってどうしたオメー」は驚いた。性欲というものがないのだろうか? 

 さて、引き続きさっき聞いた「ジョズ」という人を調べる。

 

「ダイヤモンドジョズ……」

 

 ちょっとよくわからない。なのでスルー。

 続いて、いよいよハンコック。ルフィと関係がある人らしいので、一緒に検索してみた。

 まずは画像で見てみると……こんな一コマが載っていた。

 

『ハンコック〜〜〜〜! おめェって奴は! ありがとう‼︎ 恩にきるよ‼︎』

「……」

 

 つまり、あの男の子はこれの真似をしてお礼を言っていただけらしい。その程度の事で殴ってしまったのは申し訳ない……申し訳ないのだが……その、なんだろう? この胸の奥にあるモヤモヤする感じのものは。

 お礼を真似でされたとかではなく、こう……たかが物真似でハグをされたという事に関するモヤモヤというか、ムカムカというか……。

 どうしても、釈然としない感じが抜けない。なんでそんなことされなくてはならなかったのか、という感じが。

 

「なんで……」

 

 と、考え込む。普通にお礼を言えば良い場面で、わざわざあんなお礼の仕方をした理由。ハグなんて普通に考えてセクハラと間違えられて通報されてもおかしくないところだと言うのに……。

 ワンピースが好きだからとかそういうことだろうか? いや、にしたってそんな真似をいきなりするのはおかしい。

 

「……いや、待った」

 

 さっき調べた限り、ルフィは他の人間の心を動かすのが上手い。つまり、自分の気持ちをストレートに他人へ伝えることが出来るということだ。

 だとしたら……あの少年は自分のお礼をする気持ちを正直に伝えるためにああいった行動に出た……? 

 そう思えば納得がいく。あり得なくはないのかもしれない。きっとそういうことだ。

 正直、あまり自分の気持ちを他人に伝えることが得意ではない灯織としては、そういう表現の仕方もあるのかも、と少し感心さえしてしまう。

 

「……あの人、すごいな……」

 

 いや、流石にハグという真似は出来ないけれど、でもそういういろんな感情の表し方については見習いたい。

 ……というか、むしろそういうの見習うにはワンピースを読めば良いのではないだろうか? 

 

「……よしっ」

 

 ちょっと読んでみようかな、と思って、とりあえず単行本を買いに行こうとした時だった。

 スマホが鳴り響く。画面には「283事務所」の文字。なんだろう? とスマホを耳にあてがう。

 

「もしもし」

『もしもし、こちら風野灯織様のお電話でお間違い無いでしょうか〜?』

「はい、そうです」

『私、283プロダクション事務員の七草はづきです〜』

 

 緑色の髪の女性だ。よく覚えている。この前、審査の時にいた人だ。

 

『今、お時間の方は大丈夫でしょうか?』

「あ、はい」

『先日の選考結果についてお知らせのため、お電話させていただきました〜』

「!」

 

 そうだった。近日中に来るという話だったのを忘れていた。一気に心臓が爆速で動き出す。動き出しているが……思ったより冷静でもあった。緊張していないわけでもないが、これで結果が分かる、という覚悟だけが静かに決められているような感覚だ。

 

「よ、よよっ、よろしくお願いしみゃす……!」

 

 嘘。少なくとも震えてはいた。胸の奥をドギマギさせながら、震える唇から声を絞り出したら噛みまくった。

 そんな自分に、耳元からはづきが優しい声音をかけてくれた。

 

『ふふ、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ〜。悪い報告ではありませんので』

「え? ということは……」

『はい。是非とも弊社にてプロデュースを受けていただきたいと思います〜』

「……〜〜〜っ!」

 

 パァっと表情が明るくなる。……いや、まだスタートラインに立っただけだ。浮かれても仕方ないのだが……まぁ、ホッとするくらいは許してもらっても良いだろう。

 とりあえず、さっきより激しく動いていた心臓は少しずつおとなしくなり、漏れそうになる深い安堵のため息を抑えつつ、お礼を言う。

 

「……ありがとうございます。よろしくお願いします……!」

『こちらこそよろしくお願いします〜。詳しい案内は後日、郵送にてお届けしますね〜』

「あ、は、はい」

 

 デビューが決まったとかではないのは分かる。とりあえず入社し、これから色々レッスンやトレーニングを積み重ね、アイドルとなる。そうすれば……自分をきっと変えられる。

 

『では、失礼致します〜』

「はい。ありがとうございます」

 

 最後にもう一度お礼だけ言って、電話を切った。これで、ようやくのスタートライン。高校生になったら、自分を変えるんだ。そう強く思いながら、胸前で握り拳を作った。

 

「よし……やるぞっ」

 

 そう呟きながら、一先ず早速何か出来ることはないか、スマホで探し始めた。

 

 



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めぐる。

 一ヶ月が経過した。灯織も283事務所に慣れてきて、櫻木真乃と八宮めぐるの三人とユニットを組むようになった。

 とはいえ、まだまだ新米アイドル。雑誌の撮影やラジオ、トークショーなどの地道な活動をしなければならない。

 さて、そんな新しい日々の中で、明日からはまた新しい日々が始まろうとしていた。

 同じことを思っためぐるが、着替えながらそんなことを呟いた。

 

「そういえばさ、みんな明日から学校じゃない?」

 

 そう、明日から学校である。いや、まぁそんなに浮かれるほどの事でもないが。ていうか、浮かれている場合ではない。

 

「ほわっ……そ、そういえばそうだね」

「明日はお休みなんだっけ?」

「うん、そうだよ」

 

 アイドルになった以上、普通の高校生のような生活が出来るわけではない。自覚を持たなければ。

 明日はプロデューサーが「入学式は出た方が良い」と融通を聞かせてくれたが、今後も文化祭や修学旅行といったイベントは休む必要があることも念頭に置かなくては。

 そして……そこまで多忙になれるように、アイドルとして精進する。

 

「めぐるちゃんの高校はここから近いの?」

「普通かなー。真乃は?」

「わ、私も普通かな……でも、近くにお昼寝するのにちょうど良い公園があってね。ぽかぽかして気持ち良いんだよ」

「良いなー。私も一緒にお昼寝したい」

「じ、じゃあ……今度しよっか」

 

 いや、ダメでしょ。と頭の中でツッコミを入れる。アイドルでなくても、こんなに可愛くてスタイルが良い女子高生が二人で、公園でお昼寝なんてしてしまえば何が起こるか分からないのだから。

 

「灯織ちゃんも一緒にどうかな……?」

「えっ?」

 

 まだ少しだけ馴染めていない灯織は、思わず呆けた返事をしてしまった。なんで答えたら良いのだろう? とも思ったけれど、むしろついて行った方が良いのは間違いない。二人の面倒を見るという意味で。

 なので断る理由はなかった。

 

「う、うん。じゃあ今度、ご一緒しようかな……」

「三人でお昼寝ー!」

 

 いや自分は昼寝はしないけど。

 ……しかし、まだ上手く会話できていない自分を誘ってくれるなんて、やはり二人は良い人だ。ちょっと自分には勿体無い気もする、なんて思ってしまう程。

 顔も可愛くてスタイルも良くて、その上性格も良いなんて、ちょっと羨ましい。

 早く自分も馴染めるようにならないとな……なんて思ってしまっている間に、さらにめぐるご質問してきた。

 

「そういえば、灯織は休みの日、何してるの?」

「……えっ?」

 

 聞かれて少し冷や汗。休みの日に何をしているのか、それは知り合って間もない人と最初にする会話だ。

 それは別に良い。良いのだが……果たして、言ってしまった良いものなのだろうか? あと一日で女子高生になる女の子が、休みの日はワンピースを読み耽っています、なんて。

 あのワンピースカードを拾ってあげた日以来、ワンピースにハマってしまった。それはもう、父親に相談して1〜30巻までとりあえずまとめ買いしてもらってしまったほど。

 正直、語りたい。ワンピースについて語れる友達が欲しいところだが、中学の時の友達はみんな「え、いや興味ないし。てかこれからJKになんのにワンピースって……」と、呆れていた。

 だから、二人にも言って良いものなのか迷ってしまう。だって二人とも絶対彼氏いそうだし。

 

「……灯織?」

「えっ? あ、あー……」

 

 しまった、長いこと黙り過ぎていたらしい。なんて答えようかしばらく頭の中で考え込むが、答えは出て来ない。

 漫画だとバレなくて、それでも嘘ではない表現を交えなくては。つまり、自分はワンピースをどういうつもりで読んでいるのか。

 やはり、冒険。だが、それだけではない。あのルフィの真っ直ぐさと、仲間の為に命を賭ける度胸や人情、そして真っ直ぐな表現によって仲間にも勇気を与えるコミュニケーション能力……そういった面だ。

 これらを漫画と悟られずに伝えなければ。

 

「……ど、度胸や器量、会話力を磨いてる、かな……」

「へー! 灯織、休みの日までそんなに頑張ってるなんて……頑張り屋さんなんだね!」

「ほわっ……私も見習わないと」

「……」

 

 何故だろう……何故か、嘘をついているような罪悪感が胸を締め付ける。

 

「……いや、なんかごめん」

「ほわ? 何が?」

「どうかした?」

「……なんでもない」

 

 ダメだ。やはりルフィのように何もかもを直球で言うのは難しい。自分も「お前の声なら、おれ達に聞こえてる‼︎」くらいのことを言ってのけたいものだ。あのセリフ、実を言うと灯織的に今のところ、ワンピースで一番好きなセリフだ。

 

「……はぁ」

 

 もう少し上手に話せるようになりたい、そう思いながら着替えを終えた。

 

 ×××

 

 翌日、入学式の日。八宮めぐるは浮いていた。金髪、ハーフ、巨乳と三拍子揃った目立って当たり前の理由があるわけだが、本人には全くわかっていなかった。

 校門前を通り過ぎた辺りでやたらと視線は感じるものの、何故かは分からずにめぐるはクラス分け表でクラスを把握してから、自分の教室に向かった。

 まぁ、とりあえず教室に着いてからいろんな人に話しかけてみようかな、と決めて、気にせずに歩く。

 教室に到着したので席に座り、ふと隣を見ると……隣の席の男の子は、何故か机の上にギターを持った骸骨のフィギュアを置いていた。

 

「……」

 

 めぐるともあろう者が、絶句してしまった。なんだろう、あのフィギュア。てか何をしているんだろう、この子? と。今まで周囲の生徒達はめぐるの方を凝視してきていたのに、この子はその骸骨から目を離さない。

 思わず気になったので声をかけてしまった。

 

「そ、それ何?」

「? ブルックだけど?」

「……ブロック?」

「ブルック。麦わら海賊団九人目の仲間の」

「麦わら海賊団……?」

「え、知らない? ワンピース」

 

 それを聞いてようやくピンと来た。

 

「あー! ワンピース!」

「そう、ワンピース。知ってる?」

「知ってるー! アレだよね、ゴムゴムのピストル!」

「そうそれ」

 

 それしか知らないけれど、ルフィの名前と能力だけ知っている。ゴムゴムの実を食べたゴム人間らしい。

 めぐるのセリフに満足げに頷いた少年は、少し嬉しそうな顔で声をかけてきた。

 

「え、好き? ワンピース」

「うーん、読んだ事はないかな。読んでみたいなーとは思うけどね」

 

 本当に機会があれば、という感覚ではあるが、長く続いているし面白いって聞くし興味がないわけではない。まぁ、長すぎてやっぱりちょっと途中で飽きそうではあるけど。

 本当にそんなスタンスではあったのだが、隣の少年は目をキラキラと輝かせてしまった。

 

「ホント⁉︎」

「え? まぁ、うん。きっかけがあればね?」

 

 それを聞いた直後、少年は鞄の中を漁る。そして、その後に続いて中から出したのは……ワンピース第1巻の単行本。

 

「ロビン、お前の口からまだ聞いてねェぞッ!」

「え? いや私めぐる……」

「読みたいと、言えッ‼︎」

「……」

 

 急に大きな声を出されてビックリしたが……ていうか、この子入学初日から漫画とフィギュアを持ってきているのは何なのだろうか? もしかして、めぐるより遥かに浮いている? 

 まぁなんにしても……機会があれば、と言って機会を作ってもらってしまったので、お言葉に甘えるしかない。

 

「あ、ありがとう」

「うん」

「で、そのブルックは何なの?」

「今日、ブルックの誕生日だから」

「うん。……で?」

「お祝いに持ち歩いてんの」

「……」

 

 普通の人ならばドン引きするところだろう。ていうか、めぐるもちょっと引いている。

 だが、アメリカ帰りの帰国子女という経験と、めぐる本人の明るい性格とコミュニケーション能力が火を吹いた。

 つまり、一周回ってこの子が面白い子に見えた。

 

「すごいね!」

「だろ? ちなみに、明日はしらほしのフィギュア持ってくるよ」

「へー! どんな子なの? 見たい見たい!」

「おーう良いとも。明日を楽しみに待ってな」

 

 なんか盛り上がっていた。

 

 ×××

 

 入学式が終わった。放課後はどうしようか、とめぐるは考え込む。今日はプロデューサーの計らいでお休み。

 せっかくだし、みんなで遊びに行きたいんだけど……不思議なことに、友達は一人しかできなかった。それもワンピースオタクの友達だけ。

 まぁ自分から声を掛ければよかったんだけど、ちょっと隣の男の子とワンピースの話で盛り上がっていてそんな隙はなかった。

 ま、それならその男の子と出かければ良いだけの話だ。

 

「ね、真央。今日暇?」

 

 真央とは彼の名前だ。日吉真央が本名。お互いに自己紹介は済ませておいた。

 

「や、そうでもない」

「あー、そっかー……」

「これからワンピースカード買いに行く」

「それ暇じゃん!」

 

 いや、期間限定の何かとか、数量限定のものを買うとか、それなら暇じゃないというのも分かるが、カードは流石に暇判定だろう。

 

「お昼食べて帰ろうよ」

 

 この「帰りに買い食いして帰る」というのがなんだか高校生っぽい……と、小さく笑みが溢れる。今更思う事ではないが、女子高生になったのだ。

 

「良いけど、何処で?」

「うーん……じゃあ、マック」

 

 安いし、早く食べられるし、でもゆっくりも出来るファストフードといえばここだろう。

 

「良いよ」

「やったー! じゃあ行こっか」

 

 当然のことながら「入学初日から男女マンツーマンで飯……?」「手が速いなあいつ……」「いや女の子の方から誘ってなかった……?」などと周囲の視線は突き刺さるが、とにかくそのまま学校を出た。

 

「そういえば、ワンピース読んだ?」

「まだだよ。ていうか読める暇なかったじゃん」

「入学式中に読めば良いじゃん」

「いやいや、流石に読めないよー」

「俺は読んでたよ。頭の中でワンピースの45巻」

「……えっ、どういうこと?」

「頭の中でコマとセリフを頭から順番に思い出すの」

「すごいね! そんなこと出来るんだ⁉︎」

 

 この人、もしかして勉強とか得意なのかもしれない。記憶力が良すぎる。

 

「良いなー……私、暗記は苦手でさー」

「暗記だと思うから覚えられねーんだよ。重要な核になる部分を押さえれば、後は何故そうなったかを思い出せば覚えられる」

「おおー、なんか頭良さげ」

「ルフィだって、バカのくせに『クロコダイルを倒さないとアラバスタは救われない』っていう目的地をちゃんと押さえてただろ? 要はそういうことだ」

「ごめんね、ちょっと分からない」

 

 まだそこまで読んでいないから。……でも、そういうを学べるということは、もしかしてワンピースは読めば頭が良くなるとかそういうことだろうか? 

 

「わ、私もちょっとワンピースを読んでみようかな……」

「うちに全巻あるから。今日、良かったら読んで行くか?」

「ほんとに⁉︎ 行くー!」

 

 仮にも思春期の男の子と女の子のはずだが、何一つ引っ掛かることなくそんな予定を立てていた。

 さて、そうこうしているうちにマックに到着。スマホを出してクーポンを用意した。

 

「今、何か安くなってる奴あるかなー」

「クーポン、店ごとに変わったからね」

「あーね。そういえば、真央は何が好きなの?」

「侍」

「ああ〜……ちょっと高くない?」

 

 有名な奴だ。日本にしかないし食べてみたかったが、まだ食べたことがない。値段が値段だから。

 

「いや、俺も一回しか食べたことないんだけどさ、炙り醤油がすごいの。あれは値段の価値あるよ」

「へ〜……今度、食べてみよっかな……」

 

 アイドルも始めたし、もしかしたらそれくらいの贅沢が出来るくらいになれるかもしれない。友達が勝手に申し込んで、なんか流れでなってしまったけれど、やるからにはちゃんとやる。

 

「それに、侍と言われるとゾロやワノ国を思い出して読み返したくなるからな」

「ゾロ?」

「さっき貸した表紙の緑色の頭のヤツ」

「あー、マリモみたいな人?」

 

 言った直後、横からキッと視線を向けられる。それにより、思わずハッとした。そういえばワンピース好きなのに、今の外見だけで別称をつけてしまったのはまずかったのかも……と、冷や汗を流す。

 

「あ、あの……ごめっ」

「なぁ、八宮。お前、もしかしてさ……」

 

 怒られる、と思った直後だった。束ねている髪を掬うように触れられる。そして、その髪をしばし眺めた後、それなりに確信を持った目で真っ直ぐ見据えられた。

 

「苗字、ヴィンスモークだったりしない?」

「しないよ! 今、自分で八宮って言ってたでしょ!」

「じゃあ下の名前がサンジ?」

「めぐるだよ!」

「いや、ゾロをマリモと呼ぶ、金髪、あとは……いやあとは特にないけど、特徴が揃い過ぎている」

「二つだけど⁉︎」

「馬鹿野郎、人にはそれぞれ無限大の特徴があるのに二つも被ってるなんて偶然、あるか!」

「あるよ!」

 

 薄々感じてはいたが、この人かなり変だ。ワンピースオタクというか、ワンピースバカな気さえしてくる。

 

「もしかして、お前料理も得意なの?」

「え? ううん? 料理はあんまり……」

「あ、じゃあ違うわ」

「……」

 

 髪から手を離された。なんだろう、別に良いけどなんだろうこの子。

 さて、いい加減列に並んで注文をしなければ。並びながら、めぐるはスマホを眺めながら何を食べるかを探す。

 

「今日は、普通にチーズバーガーのセットで良いかなー。後、フルーリー」

「デザートもしっかり頼むんか」

「私、アイス好きなんだー」

「マックでアイス食べたことないんだけど美味いの?」

「美味しいよ。クッキーとか入ってて、冷たさと甘さと苦さと食感が口の中で合体するんだー」

「……それ美味しいの? 普通になんか口の中がぐちゃぐちゃになってるだけな気もする」

「美味しいよ!」

 

 ていうか、それを言うならハンバーガーだって同じだ。それらが調和するから美味しい味になる。

 

「俺もハンバーガーにしよ……。あ、アイスなら俺、アレが好き。板チョコアイス」

「ああ〜、アレも美味しいよねー。チョコが割と濃厚でさ」

「や、ていうか片手で食えるしポロポロも落ちないから漫画読みながら食えるじゃん?」

「あ、味で好みを選ぼうよ!」

 

 そんな話をしている間に、自分達が注文する番になった。お目当てのセットを購入し、番号がモニターに表示されたのでそれを取って席を探す。割とすんなり座れたので、お互いに向かい合って座った。

 

「八宮ってどの辺、最寄?」

「三つ隣だよー。電車で下り」

「あー、真逆か俺は隣だけど。今日、うちにマジで来るなら交通費かかるけど大丈夫か?」

「それくらい平気だよ。ていうか、こっちこそ急だけど家に行って大丈夫なの?」

「大丈夫。今日、うちに犬と猫と妹しかいないから」

「あ、妹さんいるんだー」

 

 ちょっと意外だ。……割と子供っぽいし、どちらかと言うと弟とかだと思っていた。

 

「弟が欲しかったんだけどな。もしくは兄貴」

「? なんで?」

「その上、義兄弟が欲しかった」

「難しいことを……だからなんで?」

「勿論、ルフィかエースかサボの何処かのポジションに収まりたいからだ!」

 

 またワンピース……と、少し苦笑いを浮かべながら、せっかくなのでもう一つ聞きたいことを聞いた。

 

「猫と犬いるんだ?」

「おーいるよ」

「やっぱそれもワンピース?」

「いや、これは妹が欲しいって言うから。仲良いのよ。犬と猫なのに」

「へー! 名前は?」

「赤犬と藤虎」

「漢字⁉︎」

「カッコ良いっしょ」

「カッコ良いけど……!」

 

 色々とツッコミどころは他にもある。なんで赤なのかなーとか思ったが、まぁでも名前をつけたのはこの子ではなく妹さんなのかもしれないので、ここはスルー。

 それより、犬種が気になる。

 

「なんて種類の犬なの?」

「分からん。俺あんまその辺詳しくないし」

「そうなんだー……大きいの?」

「まぁ、そうね」

「おお〜……大型犬」

 

 大型犬……もしかして、一緒に遊んだりするのだろうか? 

 そんな風に話しながら食事を終えた。だが、めぐるにはまだアイスが残っている。まぁ溶けるからちょいちょい他の食事を食べながら摘んではいたわけだが。

 

「ん〜っ、やっぱ美味しい」

「そんなに?」

「そんなにだよ。私、アイス大好きだからさ」

「でもマックのアイスじゃん?」

「むー、そんなに言うなら試してみる?」

 

 そう言うと、めぐるは自分のカップからアイスを掬って、真央に差し出した。

 当たり前のことだが、二人は今日が初対面である。

 

「マジか、さんきゅ」

 

 お礼を言いながら普通にアイスを受け取った。パクッと一口でいって少し咀嚼し、目を見開いた。

 

「ほんとだ。美味いなこれ」

「でしょ⁉︎」

 

 そのままどう見てもカップルにしか見えない様子でデザートも全てを食べ尽くした。

 

 ×××

 

 いよいよ真央の家に到着……したのだが、すごかった。まず家の屋根にライオンの頭のようなものがぶら下がっている。

 

「……えっ、何あれ?」

「サニー号に決まってんじゃん。その船首」

「えっと……どゆこと?」

「うち家族みんなワンピース好きなんだよね」

 

 というか、家の前に泊まっている車も外観こそ何もないが、窓から見える内部には大量のワンピースグッズが飾られている。海賊旗とかぬいぐるみとか風鈴とか。

 

「す、すごい家だね……」

「普通だろ」

「普通では絶対にないよ!」

 

 この子の普通の基準を知りたいところだが、とにかく今は飲み込んだ。真央が鍵を開けて家に入ると、まず聞こえてきたのはトタトタトタ、という可愛い足音。

 

「おー、赤犬ー。ただいまー」

 

 噂の赤犬? と覗き込んでみると……現れたのはチワワだった。

 

「ちっちゃーい! 可愛いー! 大型犬じゃないー!」

「大型犬より態度はでかいけどな。ほれ、集合」

 

 その一言で、赤犬はさらに迫ってきて真央の膝の上に飛び乗る。そのままぺろぺろと頬を舐め始めた。

 やばい、微笑ましい。こんなに理想通りの懐き方をしてくれるなんて、赤犬最高だ。

 羨ましいなーなんて思う中、真央は赤犬の頭を撫でながら言った。

 

「いや舐めるな。臭いわ」

「真央ー! あんた人の心とかないの⁉︎」

「いや臭いもんは臭いし。てか家上がるから退いて」

「ひっど! ドライにも程があるよ⁉︎」

 

 立ち上がりながら、真央は靴を脱いでスリッパを用意してくれる。足元を合わせて赤犬が歩く中、洗面所に向かった。

 

「先に手洗いして。俺顔も洗うから」

「ほ、本当に洗い流すんだ……」

「当たり前じゃん。可愛いから舐めるまでは許すけど、舐められた後は洗うよ」

「あはは……えっ、そういうこと?」

 

 つまり、舐められめているのはわざとらしい。なんか犬に対してツンデレって珍しいな……と、呆れつつも、そのまま手洗いうがいと顔洗いを済ませた。

 

「そういえば、藤虎は?」

「知らん。何処かいるでしょ。どうせ寝てるよ」

 

 それだけ話しながら、二階に上がった。誰が真央の部屋の扉かな、なんて少しソワソワしながら見回すと、どの扉にもワンピースの映画のポスターが貼られていた。

 

「これ何の映画?」

「ワンピース。ルフィ見れば分かるでしょ」

「いやそうじゃなくて……あ、そういえばウタとか流行ったよね。どれ?」

「それ妹の部屋」

「あ、あれが妹ちゃんの……ていうか、妹ちゃんいるの?」

「いないっぽいな。遊びに行ったかも」

 

 それはちょっと残念……と、思いながらも「スタンピード」と書かれたポスターの扉を開けた真央の後に続く。中を見ると……これまたすごかった。

 

「ほ、ほわああぁぁ……すっごー!」

 

 ガラスのショウケースにワンピースのキャラクターのフィギュアが大量に飾られていた。

 

「こ、これどうしたの……?」

「ゲーセンで取った」

「ゲーセン⁉︎」

「父ちゃんと母ちゃんの部屋のがすごいよ。市販の奴とか一番くじの奴がめっちゃ飾られてるから」

「へ、へ〜……」

 

 ちょっとじっくり見物してみたいが……ちょっとどれが誰なのか全くわからない。こういうのは作品を読んでからだろう。

 

「ね、じゃあ早速……」

 

 読ませて、と言おうとしたところで、口が止まる。目に入ったのは、ベッドの上。おそらく真央のものと思われるパジャマがベッドに散乱ており、その上で猫が一匹、寝息を立てていた。

 

「あー! ふ、藤虎!」

「そこで寝てたか。ただいまー」

 

 慣れた手つきで頭、顎を撫でたあと、抱き上げる真央。そして、胸元に抱えたままこちらに連れてきてくれた。

 

「ほれ」

「は、はわぁ〜……!」

 

 思わず感嘆の息を漏らしてしまう。可愛いが過ぎる。というか、触って良いのだろうか? 

 

「な、撫でて良い?」

「どうぞ」

「ありがと〜。よ、よしよし〜」

「……」

 

 ……思ったより頭は硬いが、なんか脆そうだ。やっぱり猫ってちっこいな〜なんて思ってしまったり。

 だが、それ以上に思うのは……なんだろう。この、無関心さ。こちらに対し、何一つ感情を抱いていないかのようにされるがままだ。

 

「この子、人懐っこいの?」

「いや、赤犬に追いかけ回されてた時期を乗り越えて一足先におばあちゃんみたいになった」

「そ、そう……」

 

 色々と疲れたんだな……なんて少し猫に同情しながらも、だ。とりあえずベッドの上に座らせてもらった。

 そして、膝の上にポンポンと手を置く。

 

「ここ乗せて?」

「良いけど毛だらけになるよ制服」

「……やっぱいいや」

「じゃあ、読んでて良いよ好きに。俺こいつ下に置いて来て着替えるから」

「あ、うん」

 

 そんなわけで、とりあえずめぐるは漫画を読み始めた。なんか流れでワンピースを読むハメになってしまったけど……まぁ、たまにはこんな風にのんびりするのもありだろう。

 めぐるとしては少し身体を動かしたくもあったけれど、せっかくのワンピースを読む機会だ。今日はゆっくりしよう。

 

 ×××

 

「ぐすっ、えぐっ……!」

「はい、ティッシュ」

「ありがど……良がっだ……良がっだね〜……ナミぃ〜……」

 

 2時間後、11巻まで読み終えて涙を流すめぐるの姿があったりなかったり。

 

 



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三船長、集結。

 ある日の午後、櫻木真乃はのんびりとお散歩に出掛けていた。鳩のぴーちゃんを連れて外を歩く時間は好きだ。本当ならお昼寝もしたいけれど、ぴーちゃんを放っておいてお昼寝は出来ない。

 一先ず、公園でのんびりとベンチに座りながら、歌を口ずさむ。いつのまにか、ぴーちゃん以外の鳩も周囲に集まってきており、少しずつポカポカした感じに意識を手放しそうになっていた時だった。

 

「1、2、Sunshine、4、ウィーゴー!」

「ほわっ⁉︎」

 

 急な爆音と同時に公園に飛び込んできた音でぴーちゃん以外、みんな逃げてしまった。驚いて顔を向けると、そこにいたのは一人の少年。チワワを連れており、元気爆発といった様子だ。

 

「よし、赤犬! 『犬噛紅蓮』!」

「ぐわっぎゃぶるる!」

「うおおっ! お、俺にじゃねーよ! やめろバカ!」

 

 命令した側が襲い掛かられており、ちょっと面白かった。ていうか、チワワがあんな風に襲い掛かるところは初めて見た気がする。

 

「だ、大丈夫ですか……⁉︎」

「だ、大丈夫大丈夫! 誰だか知らんけど! こんな奴、覇王色の覇気で……」

 

 そう呟いてから、少年は軽く息を吸い込むと、目を見開いて大声を出した。

 

「やめろっつってんだろうがァ‼︎‼︎」

「ほわっ……!」

 

 思わずビクッと肩を振るわせてしまう。なんて大きな声なのか。耳にビーンっと来てしまったし、ぴーちゃんも驚いて真乃の頭の上に逃げる。

 ……しかし、チワワはそのまま少年の頬を舐め回す。

 

「ハッハッハッハッ」

「ぬおっ……く、腐っても三大将か……! あの、くすぐったいし痛いからやめっ……!」

 

 ていうか、襲われていなかった。思いっきりイチャイチャしていただけのようだ。

 

「ったく、いい加減にしろ! いくら仲間同士でもやって良いことと悪いことがあんだろ! 船降りろって言いかけてサンジに蹴られたルフィの頭を忘れたか⁉︎」

「わふっ……わふっ!」

「家でならいくらでも来て良いから、ここではやめろっつの……!」

 

 家では良いんだ、なんて少し優しいと思わないでもなくて。

 さて、ようやく落ち着いた様子で、チワワも少年から離れる。そして、頭をわしゃわしゃと撫でた。

 なんか……ちょっと微笑ましい。なんか……主人とペットというより、兄貴と弟みたいだ。

 

「ふふ、仲良しなんだね……」

「今のやりとりの何処でそれを……こいつ、うちで俺にだけこうやって牙を剥くんだぜ」

「ほわ? 懐かれてるんじゃないの……?」

「何処がだよ。サンジとゾロだって、アレ仲間という意識はあるからお互いにフォローし合うし、嫌悪感ばちばちだし、いちいち喧嘩するけれど、基本はお互い嫌いだからねアレ」

「じゃあ……君はこの子のこと嫌いなの?」

「……」

 

 黙って顔を赤らめながらそっぽを向いた。あ、この子素直で可愛いかも、なんて思ってしまった。同じユニットにいる、口下手だけど観察してみれば態度に出ている子とそっくりだ。

 

「あの……私、櫻木真乃って言います。あなたは?」

「俺? 俺は……そうだな。マーシャル・D・ティーチ」

「ほわっ……が、外国の方だったんですね。日本語お上手です」

「あれ、信じた?」

 

 すごく日本人っぽい顔をしている。とりあえず……なんて呼べば良いだろうか? 

 

「ティーチさん、で良いですか?」

「あ、あー……うん、それで良いや」

「このワンちゃんはなんて言うお名前なんですか?」

「こいつ? 赤犬」

「……赤くないよ?」

 

 ていうか、名前に「犬」が入っている犬って斬新な気がする。どういう想いを込めてつけた名前なのだろうか? 

 

「違う違う。赤犬ってワンピワースのキャラの名前。いや名前でもないけど」

「ワンピース?」

「……え、知らない? 宇宙で一番面白い漫画」

 

 とんでもないスケールで言い切った。つまり、ワンピースが好きなのだろう。

 ちなみに、真乃だって名前くらい知っている。

 

「ワンピースの……どんなキャラクターなの?」

「そうだな……厳格な正義の執行者、と言った感じか。ああいう人が一人はいないと組織は成り立たないんじゃないかな、という象徴とも言える」

「ほわっ……なんか、すごそうな人だねっ」

「勿論、すごいとも。我が家の人間はワンピースの為なら仕事も学校もサボるバカが多いからな。そんな自分達の自堕落さを取り締まる役割を担うという赤犬だ」

「……」

 

 えっ、それ犬にお願いしちゃうの? どんな家族? と思ってしまったけれど、何も言わないでおく。それに、たまに真乃も目覚ましをかけ忘れてピーちゃんに起こしてもらう事もある。

 

「すごい子だね、赤犬ちゃん」

「オスだよこいつ」

「あ、赤犬くん」

 

 細かいな、と思いながらも訂正に従っておく。

 すると、ティーチは今度、真乃の頭の上のピーちゃんを眺めた。

 

「そっちのは……青キジ?」

「ほわ? キジじゃないよ?」

「じゃあ……カルー?」

「いや、ちがうよ」

「あ、分かった。マルコか。あ、それともペル? ラフィットの説もあるか」

「待って。お願いだから待って」

「え、もしかしてトリノ王国の鳥? それはちょっとマニアック過ぎるよ〜」

「この子はピーちゃんだよ」

 

 聞いてくれないってことを薄々敏感に感じ取った真乃は、笑顔で訂正せずに紹介した。

 

「櫻木家でその子はなんの役割を担ってるの?」

「いや、そういう役割はないけれど……」

「『俺はまだ、自分の役割を分っちゃいねェが……!』ってこと? やっぱマルコじゃん」

「強いて言うなら、癒しの役割かな……」

「つまり……船医か。さらにマルコじゃん。すごいなーお前」

 

 なんかよく分からないけれど、ピーちゃんを褒めてくれたのだから悪い気はしない。

 それよりも気になるのはマルコの方だ。ワンピースのことは分からないけれど、どんなキャラなのだろう? 

 

「そのマルコさんって、どんな人なの?」

「ん、画像見る?」

「あ、う、うん」

「ちょい待ち……」

 

 名前的に可愛い人だし、女の子なのかな。と思っていると、その子は何故かスマホで画像検索ではなく鞄の中からカードケースを取り出した。

 そして、カードを何枚か漁った後、一枚のカードを見せてくる。

 

「これ」

「ほわっ……ほわ?」

 

 見せられたのは、パイナップルみたいな頭の男の人。両手が青い炎になっており、どう見ても白い鳩のピーちゃんではない。一ミリも被っている部位がない。

 

「あの……この人の何処がピーちゃんなの?」

「癒しなんでしょ?」

「え……この人の何処に癒しが……」

「馬鹿野郎、この人すげぇんだぞ」

「ど、どういう風に?」

 

 聞いてみると、その少年の瞳がキラリと光る。そして、その場でしゃがみ込むと、木の枝で絵を描き始めた。

 

「まず、マルコの説明からな」

「え? あ、うん」

「マルコ。通称『不死鳥マルコ』。トリトリの実モデルフェニックス」

「トリトリ? ゴムゴムみたいな?」

「そうそう。悪魔の実って言って、食べるとくぞ不味いけど特別な力が得られる実のこと。トリトリの実って言うからには鳥になれるわけだ」

「すごいな……私もトリトリの実を食べて、ピーちゃんとお話ししてみたいな……」

「え? ……あ、それいけんのかな……チョッパーもヒトヒト食って喋れるようになってたしな……」

 

 なんか考察が始まってしまったが、チョッパーの名前も真乃は知っている。有名だから。あの可愛いトナカイは真乃も好きではある。

 

「チョッパーって……あの、可愛い子だよね。赤い帽子の」

「そうそう。……あ、マルコとチョッパーは手を組んで戦ったこともあんだぞ」

「え、そうなの?」

「マルコは不死鳥だって言ったろ? 再生する炎を扱えるからそれを利用して船医をやってたんだけど、チョッパーも麦わら海賊団の船医だからそれで。敵がウイルスを利用して攻撃して来るから、チョッパーがそのウイルスに対抗する薬を作る間にマルコはそのウイルスの症状を止めてたんだ」

「へ〜、すごいね」

 

 本当にすごい。どんな戦況なのかはいまいち分からないけれど、医者ならではのコンビだった、という事だろう。そもそもチョッパーが船医であることを知らなかった事は差し置いて。

 

「とにかく、マルコは今言った通り不死鳥の能力を利用した船医。その上、強くて、仲間のサポートという点ではワンピースでは最高クラス。再生する能力によって自らの体を盾にして仲間を守り、飛行を活かした高機動による偵察と一方的な奇襲、その上で味方の治療もこなせる万能型」

「はづきさ……じゃない、事務員さんみたいなもの、なのかな?」

「そうなんじゃね? 知らんけど」

 

 自分が所属する283プロダクションの事務員、七草はづきを思い出す。プロデューサーの手伝いだけでなく、アイドル達へのサポートは普通のレベルではなく、犬のお世話から虫の処理までなんでもござれだ。

 ……そう思うとつまり……「マルコ=ピーちゃん+七草はづき」ということになる……? 

 なんだか、少しずつマルコに興味が湧いてきた。

 

「あ、あの……マルコって人、ワンピースでいつ頃出てくる?」

「25巻。……え、もしかしてワンピースに興味出てきた?」

「う、うん……」

 

 ワンピースというよりマルコにだが、まぁ似たようなものだろう。

 とはいえ、あの漫画は確か最近になって100巻を超えたと聞く。それを全部読むのは少ししんどい……と、思わないでもない。

 特に、今はアイドルをやっているし……なんて思っている時だった。

 

「じゃあ、ちょっとおいで」

「? 何?」

「ほい」

 

 すると、手渡されたのはイヤホンの片方。つけろ、と言うことだろう。そのイヤホンが繋がっているのはティーチのスマホ。

 

「今から30分くらい平気か?」

「え? うん」

「じゃあ、とりあえず1話だけ見ようぜ。アニメの」

 

 そう言いながら起動されたア○ゾンプライムビデオ。今からアニメを見るらしい。

 まぁ、今日は天気が良いし別に用事があるわけでもないから構わないけれど……でも、ピーちゃんとのお散歩の最中。退屈しないかな? と思っていると、いつの間にかピーちゃんは赤犬と遊んでいた。可愛い。

 それならば少しは時間は空くか、と思い、笑顔で頷いた。

 

「じゃあ……少しだけ見てみようかな……?」

「よっしゃ!」

 

 とはいえ……男の子とイヤホンを共有できるほどの距離に近付くのは少し気恥ずかしいけど……と、少し複雑に思いながら、イヤホンを借りた。

 第一話が始まり、オープニングテーマが流れる。

 

「ほわっ……この曲、知ってる」

「有名だからな。いまだに映画で流れたりすんだぜ」

「へ〜……」

 

 それは凄いことなのかは分からないが、まぁすごいことなのだろう。ワンピースのアニメは自分達が生まれる前からやっているものだから。

 

「じ、じゃあ、ティーチさんはカラオケとかで歌ったりとかしてるの?」

「いやいや、俺音痴だからカラオケとか行かなくてさー」

「そうなんだ……」

 

 そういえば、この公園に来るまでの間にも何か歌っていたが、どちらかと言うと騒音だった。

 

「あ、てか、櫻木歌上手だよね」

「え、い、いつ聞いたの?」

「ここ来る前。誰か歌ってたなーって。周りの鳩とかすごく聞いてたじゃん」

「あ、あはは……恥ずかしいな……」

 

 聞かれてたとは……ていうか、あの騒音を発しておいてよくこっちの声が聞こえたものだ。

 

「櫻木が歌ってよ。ウィーアーでもBelieveでも新時代でも」

「えっ、わ、私? それ、どんな曲なの?」

「ごめん、アニメ始まる」

 

 そう言う通りオープニングが終わり、始まった。

 

 〜1時間後〜

 

「次、次のお話……!」

「いや、4話までにしておいた方が良い。5話以降は続き物の話がいくつか始まる」

「じ、じゃあオープニングとエンディングだけ……!」

「それ全部じゃん」

 

 ハマった。

 

 ×××

 

 お休みの1週間が終わり、283事務所においてイルミネーションスターズの三人は集っていた。……のだが、今日は何故だかシンっとしている。

 三人ともソワソワしているというか、目が泳いでいる。若干、頬を赤らめながら、周囲を見回して、お互いの動きを牽制・観察し合いながら、隙を窺う。まるで侍が三つ巴で対峙しているかのように。

 ……何を、そんなに緊張しているのか? それは一つしかない。

 

『他の二人はワンピース好きなのかな……』

 

 であった。

 だが、女子高生がワンピースはおかしい気もする。自分がおかしいと思われるのは構わないが、そんな話をすれば「え、そんな漫画の話別に興味ないんだけど。まだ続くの?」とか思われてもおかしくない。

 つまり……ここをしくじれば、今後のコミュニケーションに関わるかもしれない。

 そんな時のために、灯織は一つ秘策を用意していた。それは……鞄に付けているルフィとシャンクスのストラップである。

 

「……」

 

 だが、誰も触れない。触れてくれない。少し、シャンクスはマニアックすぎただろうか? 

 しかし……真乃もめぐるも気が付いていた。「あ、あれルフィとシャンクスだ」と。

 実際、シャンクスはワンピースを知らない人でも顔は分かるかもしれないが、名前は知られていないこともある。めざましジャンケンには出ていたが。

 なので「あ、ルフィとシャンクス!」なんて言ってしまえば速攻でオタクがバレるかもしれない。

 その為、二人とも口を紡ぎながら、様子を伺う。結果、灯織はしれっとルフィとシャンクスをはずした。

 その一方で、真乃にも作戦があった。それは……ワンピースのオープニングを口ずさむことだ。

 たまに事務所で鼻歌を歌っていることもあり、不自然ではないだろう。

 

「こほん」

 

 咳払いをして、作戦決行。選んだ曲は「ココロ○ちず」。

 

「〜♪」

 

 鼻歌で歌い始めた。

 それに、灯織とめぐるはすぐに気がついた。これは……ワンピースのエンディング。聞いたことはある気がする。……でも、残念ながら、二人とも単行本派で細かく知らなかった。鼻歌なら尚更だ。

 反応しづらい。そして、反応したとしても「え、こいつ思った以上にワンピースオタクなの?」となる。

 当然、反応してくれると思った真乃は「あれ?」と小首を傾げる。二人とも、気付いていない? と少し声を大きくしようとした時だ。

 

「真乃、ご機嫌だね。何かあったの?」

 

 めぐるが触れると、真乃は頭の中で「ほわっ?」と小首をかしげる。おかしい。リアクションが思っていたのと違う。計画では「あ、ワンピース!」となるはずだった。

 

「え? あ、う、うん……ちょっとね」

「そ、その曲聞いたことあるなー。なんだっけ?」

 

 めぐるなりに拾ったつもりだった。知ったかぶりすると悪いのは分かっているから。

 しかし、真乃にとっては「あれ、そんなものだったの?」と言う感じ。

 

「……え、えと……わ、私も聞いたことあるなって……」

 

 その一言はミスだった。逆にめぐるにとってみれば「あ、やっぱ知らずに歌ってたんだ」と言わんばかりである。

 

「そ、そうなんだ……」

「……う、うん……」

 

 ……何一つ険悪な空気は出ていないのに気まずかった。

 そんな時だった。めぐるが、意を決したように「よしっ」と呟いた。何を決心したのか? そんなの決まっている。思い切って、ワンピースの話題を切り出すことだ。

 そもそも、そんなに悩む事でもない。好きなものは好き、それにおかしな事はないし、好きなものは誰かと一緒に語りたいのは当たり前だ。

 

「ねぇ、二人とも!」

「「は、はいっ?」」

「ワンピースって知ってる⁉︎」

 

 今までの攻防を台無しになるかもしれない強烈な一撃。リュウグウ王国でなんか知らんけど閻魔を持っていたゾロがヒョウゾウ相手に飛龍侍極を撃っちゃって勢い余ってシャボンを割っちゃったくらい台無しになるかもしれない一撃。

 それに対し、灯織は……ストラップを鞄からとってしまったので気付かれていたと思うと「なんで鞄からストラップ取ったの?」ってなるのが怖かった。

 そして、真乃としては……「じゃあさっきの曲普通に知ってたんじゃない?」となるのが怖かった。

 故に……。

 

「「し、知らない! 聞いたこともない!」」

「あ……そ、そっか……」

 

 結局、ワンピースの話をすることは、その日には無かった。

 

 ×××

 

 こうなったら、もうあの少年と語るしかない、そう思った灯織は決意した。もうワンピース語りをするにはあの少年をもう一度探すしかない。この前の話的にめぐるはワンピースについて知っているような空気は出していたが、みんなの前で「知らない!」と言ってしまった以上は下手に話題に出すことはできないだろう。

 その為、イルミネ以外で仲間を作らなければならない。

 だが、あの少年の名前も連絡先も知らない以上、簡単には見つからないだろう。

 だからこそ、作戦がある。その名も「ビブルカード作戦」だ。

 ワンピースの世界には「ビブルカード」という不思議な紙がある。持ち主のDNAを配合させた紙のことで、それを置くことでふわりと浮き上がり、その持ち主がいる方向を指し示してくれるものだ。

 そして、世の中にはワンピースカードというものがある。あの少年も持っているものだ。大会などにも参加しているらしい。

 なので……灯織もワンピースカードを始めて大会に出れば、いずれ強者同士引き合わされることだろう。

 

「よしっ……!」

 

 そんなわけで、ワンピースカードを買うことにしたのだ。今日は早速、ワンピースカードの公式ショップに来たわけだ。

 ワンピースカードに関係する物しか置いていない店だから、棚も少ない。ざっと見た感じ、スターターデッキ、ブースターパック、スリーブ、デッキケース、ストレージボックスがある。

 デッキは構築済みのもので、初心者が始めるに一番最初に買うべきものなのだろう。

 パックは、そのデッキを強化するためか、一からデッキを組むためのもの。慣れてきた頃に買うものだ。

 スリーブはカードの傷を保護するためのもの。カードショップにならば透明でシンプル故に安いスリーブが売っているらしいが、ここはワンピースカードのショップなので裏面にはワンピースのキャラクター達が載っているものだけがある。

 デッキケースはそのまんま。デッキを入れるための箱だ。これもワンピースのキャラが描かれている。

 ストレージボックスは、逆にデッキには入らなかったカードを収納するためのものだ。絵柄は言わずもがな。

 ここまで、スマホで調べて理解した。

 

「私は……やっぱりスターターデッキ、だよね」

 

 それと、スリーブとデッキケース。このお店にはワンピースカードをプレイするための席も設置されており、そっちの方で遊んでいる人達を見ると、ケースとスリーブをちゃんと用意していた。やはり、形から入るのは大事だ。

 でも、とりあえず今はシンプルで構わない。なので白い羅針盤のケースを手に取る。スリーブは……キャラクターが色々いたのでデッキを決めてからにすることにした。

 さて、大事なところだ。どのデッキにするか。

 

「うーむ……」

 

 麦わら海賊団か、王下七武海か、最悪の世代か、百獣海賊団か、ワンピースfilmか、海軍か、ビッグマム海賊団か、ヤマトデッキか、ルフィデッキか。

 ここは、灯織の目的を見失うわけにはいかない。強くなってあの少年と出会う為に始めるのだ。強いデッキを選ばないわけにはいかない。

 そんなわけで、調べ始めた。どれがおすすめなのかを。

 

「ふむふむ……」

 

 スマホで色々と調べている時だった。後ろのレジで買い物している人の声が聞こえてくる。

 

「合計で2640円でございます」

「3000円でお願いしまーす」

 

 聞き覚えあるな、と思って後ろを見ると、そこにいたのは目立つ金髪の八宮めぐる。

 

「あっ」

「? ……あっ」

 

 思わず声を上げてしまったことで振り返られてしまった。昨日の今日でまさかの顔合わせ。ワンピースカード公式ショップなだけあって、言い訳は全く出来ない。

 

「……ひ、灯織?」

「め、めぐる……」

「……」

「……」

 

 沈黙が続く。気まずい。酷く気まずい。あのコミュ力お化けのめぐるでさえ黙り込んでしまっている。

 とりあえず、めぐるは買い物を済ませなければならない。お釣りをもらって袋に入れてもらって手に取り、レジから外れてこちらに来た。

 

「ひ、灯織も来てたんだ……」

「う、うん……す、好きなんだ、ワンピース……」

「そ、そっか……」

「うん……」

「……」

「……」

 

 気まずい……何がって、知らないとまで言ってしまったのにカードゲームにさえ手を伸ばしてしまっているからだ。

 どうしよう、でも逃げたらそれはそれで今後の関係に響きそうだし……なんて話していると、そこにさらに聞き覚えある声が参入してくる。

 

「ほわっ……こ、ここがワンピースカードショップ……」

 

 ほわっ、の時点で察していた。振り返ると、そこにいたのは櫻木真乃。当然、顔を合わせるなり何とも言えない表情になる。

 

「あ、ま、真乃……」

「め、めぐるちゃんと灯織ちゃん……」

「う、うん……」

「……」

「……」

「……」

 

 まるで「クリスマスには予定がある」と言ってクリスマスパーティをやらなかったのに当日、ネットカフェで顔を合わせてしまった男子高校生のような空気が流れていた。

 

 



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頂上決戦
ルールも会話も深読みしたって良いことはない。


 結局、三人揃ってデッキを買ってしまった。

 まぁ、せっかく三人の趣味も一緒だと分かったことだし、ここはひとまずポジティブに捉えることにした。

 さて、そんなわけで、早速プレイしてみることにした。ルールもちゃんとスターターデッキの中に入っているし、多分大丈夫なはずだ。

 

「じゃあ早速、やってみよっか!」

 

 本当ならお店でやれば良いところなのだろうが、席が空いていなかったので急遽、めぐるの家でやることになった。

 早速、デッキを開封する。箱を開けて中身を確認。プラスチックのケースにカードの束が二つ入っている。

 その束こそがデッキ。リーダーカード1枚、デッキ本体が50枚、ドン‼︎カードデッキが10枚と入っている……らしい。同じく内封されている説明書にはそう書いてある。

 その説明書は、裏面にはデッキの置き方のようなものが書いてあった。

 

「なんか……カッコ良いね。リーダーカード」

 

 めぐるがビッグマムのデッキを眺めながらそんなことを呟く。絵の中では、剣のようなものを振り上げたシャーロット・リンリンが目立っている。

 ワンピースの不思議なところだ。シャーロット・リンリンという女は別に美形ではない。身長880センチ、体型も丸々と太っていて自身の子供を食べてしまうと言う恐ろしさ……だが、こうして戦っているシーンを見るとやたらとカッコよく見える。

 

「めぐる、ビッグマムにしたんだ?」

「うん。黄色いから! 灯織は何にしたの?」

「ワンピースfilmにした。これ強いカードがたくさん入ってるらしいから」

「そうなの?」

「うん。ウタと……テゾーロ? ってカードが特に使えるみたい」

 

 わざわざ事前に調べておくあたり、灯織らしい。でも、強さを求めるのは少し意外だった。結構、ガチでやるつもりなのだろうか? 

 

「やる気満々だねー。大会とか出るの?」

「出る。実は私、会いたい人がいるんだ。その人の名前も連絡先も知らないけどワンピースカードをやってることは知ってるから、大会に出てればいつか会えるかなって」

「そ、そうなんだ……」

 

 相変わらず真面目かつ何事にも本気過ぎて天然が見え隠れしている。ロマンがある話だけど、無理じゃないの、と言う感じがひしひしする。

 さて、この場にいるもう一人にデッキを何にしたのか聞いてみた。

 

「真乃は?」

「わ、私は麦わらの一味にしたよっ」

「あー真乃らしいかも」

「えへへ……そ、そうかな」

「真乃、それに入ってる毛皮強化ってカード強いらしいよ」

「ほわっ……そ、そうなんだ」

 

 他のデッキについてもちゃんと調べている。そうなると、当然めぐるだって気になるものだ。

 

「ねーねー灯織、私のデッキは?」

「めぐるのは、カタクリとブリュレとリンリンだったかな」

「なるほどなるほど……覚えておこっと」

 

 カードの中を見ると、カタクリのカードが目に入る。強いかどうかはわからないが……確かに、カッコ良い。というか、この人のイラストは触っているだけなのに超絵になるくらいイケメンだ。口元は隠れてしまっているが、おそらく寡黙な人で口も小さいのだろう。

 しかし……正直な話、スリーブを買うのは迷ったのだ。たかだか紙じゃん、と思っていたから。

 でも、こうして実物を見ると傷がつくのは確かに嫌過ぎる。

 

「先にスリーブにカード入れよっか」

「そ、そうだね。……私も、ルフィのカードカッコ良いから入れたいな」

「あ、ホントだ」

 

 真乃の持っているカードを見させてもらうと、ルフィがこちらを睨みつけているのが見えた。

 

「あ、ほんとだ。カッコ良いー」

「わ、私も麦わらにすれば良かったかな……」

「そういえば、灯織のデッキのカードはアニメっぽい絵ばかりだよね」

「ま、まぁ……映画のキャラクター達のデッキだから仕方ないかな……」

「灯織、映画も見たの?」

「ううん。ただ、これならネタバレにならないんじゃないかなって」

 

 言われてハッとした。ネタバレとかその辺のこと、全然考えていなかった。ビッグマム海賊団なんてむしろネタバレしかないような……と思ってカードを見る。

 ……が、なんだろう。知らない人ばかりで逆に気にならない。

 

「あー……私、ちょっとネタバレすごいかも……」

 

 それを呟いたのは真乃。そもそも、麦わらの一味の姿が今三人が読んでいるところと全然違う。

 もう街中で貼られているポスターなどの姿だ。

 

「まぁ……気にしなくて良いんじゃない? それにほら、何があってこんな姿になったのか、って言うのを考える楽しみも出来るし」

「ほわっ、そ、そうだね……!」

「ちなみに、真乃は何処まで見たの?」

「わ、私はアニメで偉大なる航路に入ったところかな……」

「あー、じゃあラブーンのとこ?」

「そ、そう!」

 

 あそこはめぐるもヤバかった。あれから同級生の少年の家に結構な頻度で入り浸り、読んでいたわけで今は空島が終わったところ……なのだが、アーロンパークからドラム王国、アラバスタ王国と全力で泣いてきたのでちょっと読むのが怖いまである。

 

「ラブーンのとこもやばいよ。私、なんとか耐えたけど泣きそうになっちゃったもん」

「そ、そうなんだ……あ、泣きそうになったといえば、私ウソップさんのところでちょっと涙腺緩んじゃったかな」

「あー分かる! 解散する所で思い出垂れ流すのずるいよね!」

 

 ウソップは元々、小さな島の少年だった。その中で、小さな男の子達を子分にして「ウソップ海賊団」を名乗り、たくさん面倒を見てあげていたのだ。

 その少年達と最後は本物の海賊を相手にルフィ達と手を組み、村を守ったのだ。

 そしてその冒険を最後に、ウソップは海を出ることを決意し、ウソップ海賊団は解散……あそこは、本当に泣きそうだった。

 

「灯織はどう思う?」

「……ぐしゅっ」

「えっ?」

「ごめっ……思い出が蘇ってきて……ぐすっ」

 

 流石に思い出して涙ぐむことはないかな、と思ったのだが……灯織が泣いているのを見て、思わずめぐるの頭の中にもウソップ海賊団解散のシーンがぶわっと流れ込んで来る。

 そう、残念ながら世の中、どんなに楽しくても終わらない環境なんてない。もしかしたら、このイルミネーションスターズも解散する時が来るかもしれないのだ。

 そう思うと……涙腺が……。

 

「うあああああ‼︎ 私達は絶対、解散しないからねええええええ‼︎」

「めぐっ、めぐる〜……!」

 

 なんと、珍しく灯織がハグに応じてくれて、二人で泣いてしまった。そう、ワンピースの世界の出来事は他人事ではないのだ。現実に起こることも踏まえると泣けてしまう。

 そんな時だった。「ほわ?」と真乃から声が漏れる。

 

「どうしたの? 真乃……」

「この女性……ラブーンのお肉を取ろうとしていた人じゃ……」

 

 一人だけカードを見ていた真乃が、そんな言葉を漏らす。握られているのは、ネフェルタリ・ビビ。正確に言えば麦わら海賊団ではないが、船に乗っていたことは確かにあった。

 ……そういう意味では、ネタバレもやはり往々と含まれている。思い出を振り返るのはやめておいた方が良いかもしれない。

 

「……カードゲームやろっか」

「そ、そうだね……」

 

 そんなわけで、スリーブにカードを入れ始めた。

 その内職みたいな作業を終えてから、ようやくカードをシャッフルする。カードを置く紙に倣ってデッキを並べる。

 

「誰からやる?」

「はいはーい! 私やりたい」

「じゃあめぐると……真乃、先にやる?」

「ほわっ……わ、私で良いの?」

「うん。麦わら海賊団だし、せっかくだから」

「じ、じゃあ……やろっかな」

「負けないからねー、真乃」

 

 そんなわけで、めぐるvs真乃のマッチングとなった。

 お互いのルールブックにある通り、まずはデッキを右側、真ん中にリーダーカード、そして左にドン‼︎カードデッキを置く。

 まだゲームが始まる前から、ルフィとビッグマムが対峙ているような様子だ。

 

「なんか……リーダー同士、ちょっと緊張感あるね……」

「ほわっ……た、確かに」

 

 ビッグマムについてはまだ何も知らないメンバーだが、なんとなくルフィと向かい合うその様は絵になっていた。

 さて、まずはじゃんけん。めぐるが勝ったので、先行はめぐるが貰うことにした。

 

「ルールは私が読み上げるね」

「あ、うん。お願い」

 

 1人だけ空いている灯織がそう言うと、ルールブックのようなものを読み始める。

 

「まず、お互いに5枚カード引いて。それが手札」

 

 言われた通り、お互い5枚引いた。めぐるの手札には、カタクリ、フランペ、ゼウス、力餅、男爵の5枚が来た。

 

「で、この時に手札を変えたかったら、一度だけ5枚、デッキに戻してシャッフルして、5枚引き直し出来ます」

「……って言われても、この手札が良いのかわからないし……」

「わ、私は今はいいかな……」

 

 分からないのに変えても仕方ない気がする。……そうでなくても、灯織が「強い」と言っていたカタクリが来ているし、変えるのは勿体無い。

 

「じゃあ、続いてライフを用意します。リーダーカードの右下を見て」

 

 言われて見ると、5という数字が入っていた。

 

「その枚数分、ライフを用意します。山札……じゃなくてデッキの上から5枚引いて、ドン‼︎デッキの上に置いて下さい」

「はーい」

 

 置いた。ライフ、と言うことはこれが命なのだろうか? 

 

「このライフはお互いのリーダーのライフで、リーダーが攻撃を受けると上から1枚ずつ手札に加わる。それが0枚になった上でさらにリーダーが攻撃を受けると敗北……だって」

「あーなるほどね。じゃあ、大事にしないといけないんだ」

「そうだね」

 

 ルールは分かった。シンプルだ。要するにリーダー……すなわち船長をやっつければ良いと言う話だから。

 他のカードにはライフが書いていないあたり、恐らく他のカードは攻撃されるとやられてしまうのだろう。

 つまり、戦いは敵の頭を取るまで終わらないと言うことだ。

 

「じゃあ、めぐるのターンから始めよっか」

「うん。じゃあ……俺のターン、ドロー!」

「あ、先行はドロー出来ないって」

「……ごめん」

 

 ついよく聞くフレーズだったのでやってしまったが、まさかだった。

 さて、そうこうしている間に灯織は説明を続ける。

 

「じゃあ、とりあえず順番通り行くね。まずは『リフレッシュフェイズ』」

「フェイズ?」

「あ、カードゲームなだけあってターン制で続いていくから、それに伴って行える行動に順番があるみたい」

 

 ポーカーの順番みたいなものかな? と、無理矢理理解しておく。

 

「えーっと……『自分のレストのキャラを全てアクティブにし、自分の付与されているドン‼︎カードをアクティブにしてコストエリアに戻します』……レストってなんだろ」

「灯織先生! アクティブも分かりません!」

「あ、あの……コストエリアって……?」

「……」

「……」

「……」

 

 専門用語が多い。ルールのところに何か書いていないだろうか? 

 

「ひ、灯織。何か書いてない?」

「あ、ある。攻撃とかしたキャラクターはレストになって、カードの向きを横にするんだって」

「? キャラクターいなくない?」

「ど、どれを戻すんだろ……」

 

 ……解説が欲しい。みんなカードゲームに慣れていないから、少し迷ってしまう。

 そんなわけで、めぐるは「よしっ」と決めた。

 

「ちょっと待ってて」

「? めぐる?」

「頼りになる子を連れて来るから」

 

 こういう時、一番に飛びつきそうなクラスメートがいる。どうせワンピース関係の何かを漁っているだろうし、電話してみよう。

 

 ×××

 

「え、友達とワンピースカード?」

「そうそう。ごめんねー、急に呼び出して」

 

 そう言って現れたのは、フォッサのミニフィギュアを持って現れた日吉真央。駅前で待ち合わせして、家まで案内する。

 

「いや、それは超嬉しい。俺もワンピースカード一緒にやる友達欲しかったから」

「えー、言ってくれれば私やったのに」

「いや、金かかるから流石に誘うの憚られてた」

「……で、その人は今日が誕生日のキャラ?」

「うん。白ひげ海賊団15番隊隊長」

「そ、そうなんだ……」

 

 流石に知らない。出てくるのを楽しみにさせてもらおう。

 

「ま、ワンピースカードなら任せろ。家族で一番強ぇから俺」

「家族みんなやってるの?」

「やってる」

 

 楽しそうな家族ではあるな、なんて思ってしまったり。

 

「でも逆に俺が入っていって良いのか? 他みんな女なんだろ?」

「大丈夫大丈夫。むしろそっちこそ大丈夫ー? 女の子ばっかで緊張しない?」

「? 俺との差なんておっぱいがあってち○こがないだけじゃん。それに緊張しろとか言われても……」

「……」

 

 思春期を知らないのだろうか? いや、めぐるとしてもそういう子の方が気を遣わないし遣われなくてありがたいけれど。

 でもこれだけは言っておかなくては。

 

「あの、私の前では良いけど、他の子の前でそう言うこと言わないようにね」

「そういう事?」

「や、だから……胸とか、そう言うの……」

「あー了解」

 

 流石に続きを言わなくても理解してくれた。ちょっと弁えてくれないと、特に灯織が大変な気がする。

 さて、そうこうしている間にめぐるの家に到着。中に入って、めぐるの部屋の前に来た。

 せっかくなので、少し勿体つけてみたい。ただでさえ呼んだのは男な子なのだ。案外、盛り上がるかもしれない。

 

「ね、真央」

「ん?」

「何か物真似できない? ワンピースの」

「あー、なるほど。サプライズ的な?」

「そうそう」

「分かった。任せろ」

「よろしく」

 

 それだけ話してから、めぐるが先に部屋に入る。

 

「ただいまー」

「あ、おかえりなさい。めぐるちゃん」

「あれ、一人?」

 

 二人に軽く挨拶すると、灯織が良いトスを上げてくれた。ふっふっふっ、と「よくぞ聞いてくれました」みたいな笑いを漏らしながら、めぐるは元気に声を上げる。

 

「ではこれより……スペシャル講師の先生をお呼び致します! どうぞ!」

 

 そのめぐるの掛け声の直後、扉の奥から声が聞こえてきた。

 

「何よ……! 何も知らないくせに!」

 

 えっ、とめぐるから声が漏れそうになる。どう聞いたって男子高校生の声ではないどころか、ナミの声だったからだ。

 

「うん、知らねぇ」

 

 しかも、今度はルフィの声になった。この人どんな声帯してるのか。

 

「あんたには関係ないから……! 島を出て行けって言ったでしょ⁉︎」

 

 いや、ていうかやめて欲しい。そのシーン、めぐるがボロ泣きしたところだ。この後で助かったものだから、アーロンパークでは2回泣かされている。

 

「ああ、言われた」

 

 余りにも声が似過ぎていて、頭の中に映像が流れ込んで来る。鼻にツーンと来るような感覚の涙腺緩ませる前兆がこれでもかというほどめぐるを襲う。

 

「ルフィ……助けて……」

 

 ナミのあの泣き顔が見事に脳裏に焼き尽くされ、無事に目から涙が溢れた。

 その直後、扉が一気に開かれる。

 

「当たり前だぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」

「ほわっ⁉︎」

「ひゃっ……!」

「ぐすっ……そ、そんなわけで……講師の……」

 

 と、泣きながらも名前をあげようとしたが、その前に灯織と真乃がほぼ同時につぶやいた。

 

「あ……こ、この前の……」

「ティーチさん?」

「あ? ……あ、櫻木とハンコック?」

「いえ、風野です」

「え……ふ、2人とも知り合い?」

 

 まさかの展開だった。

 そんなわけで、詳しい話を改めて聞いてみる。まぁ要約すると、灯織は真央のデッキケースを拾ってあげたらしく、真乃はペットの散歩中にティーチを名乗られたらしい。

 うん、意味が分からない。

 そんな中、灯織が顎に手を当ててつぶやく。

 

「……つまり、私達イルミネーションスターズはたった一人の男の子の所為でワンピースにハマらせられた……?」

「イルミ……何?」

「あ、ああいや何でもない」

 

 そういえば、アイドルだとは言っていなかったが……まぁ、確かにまだ他人に言えるほど活躍しているわけではないし、言わなくて良いだろう。

 

「ていうか、八宮もハンコックも櫻木もワンピースカードに手を伸ばすまでハマってたんだなー。なんか良ち仕事した気がして気持ち良いわ」

「いや、だから風野……」

「でも、まだハマって間もないよね。なんでワンピースカードやろうと思ったんだ?」

 

 聞かれてまず答えたのはめぐる。まぁクラスメートで一番、多く会っていると思うから、まずは自分から言った方が良いと高コミュ力故の反応で放った。

 

「私、漫画とか読ませてもらって、なんかワンピースのグッズ欲しいなーって思ったんだ。でもフィギュアとかちょっと高いし、ワンピの実とかはスペース取るし……それなら、みんなで遊べるカードかなって」

「あー、なるほど。でもそれでなんでビッグマム? そこまで読んでないよな」

「黄色いから!」

 

 さて、その次に答えたのは真乃。相変わらずほんわかする綺麗な笑顔で答える。

 

「私は、ピーちゃんのカードが欲しくて」

「いやデッキからマルコ出ないよ」

「えっ、ピーちゃんってマルコのことなの?」

「うん。でも、買いに来た時に灯織ちゃんとめぐるちゃんがいたから、一緒に遊べるデッキを買おうかなって」

「あー、なるほどな」

 

 真乃らしいと言えば真乃らしい。……でも本当にマルコのどの辺がピーちゃんなのだろう? 

 さて、最後だ。最後なだけあって全員で一斉に灯織の方を見ると、灯織は少し恥ずかしそうに頬を赤らめている。

 

「ハンコックは?」

「いや、だから風野灯織」

 

 そこを注意してから、灯織は言うか言わない方が良いか少し悩んだように口を紡ぐ。何を悩んでいるのか分からないけれど、言いにくいなら自分が代弁しよう。

 

「灯織は割と本気でやり込むつもりなんだよね? なんかワンピース好きな人ともう一回、会うためとかで」

「っ、め、めぐる……!」

「え?」

 

 なんで怒るの? と思ったのも束の間、灯織がその後に視線を真央に移したことで察してしまった。

 

「え、もしかして……」

「灯織ちゃんが会いたかったの……日吉くん?」

「っ……そ、そう…………」

 

 それってつまり……灯織は真央のことを……? そう思うと、なんだか健気で可愛い。いや、ていうかそれ以前にこの子……真央のことが好きなのだろうか? 

 そこまで思考が達した時、真乃とめぐるは揃って口に手を当てて目を見開く。

 

「「……わぁ〜、つまりそういうこと?」」

「っ、ち、違うから! そういうんじゃなくて……!」

「俺に会うためにワンピースカードを極めようとするって……デュエリスト魂ここに極まれりだな」

「う、うるさい!」

「でも、なんで俺に会いたかったわけ?」

 

 それを聞いちゃうのか、とめぐると真乃の二人はさらに盛り上がる。そわそわしながら、灯織へ同時に顔を向ける。

 

「っ、そ、そこ! 何そのシンクロ率⁉︎」

「シャムとブチ?」

「あなたは黙ってて!」

「いやーだって……ねぇ?」

「気になるよね?」

「だ、だから違うって! ……その、単純にワンピースのことを語れる友達が欲しかっただけなの」

 

 それを言われると、思わず真乃とめぐるは少し頬を赤らめて目を逸らす。今にして思えば、この前の事務所では本当に無駄なやり取りに神経を使ったものだ。めぐるは普通に意を決したわけだが、無駄なことを意識しすぎて空回りし過ぎた。

 

「いや、普通に三人で語れよ」

「「「…………そうだね」」」

 

 もっともな台詞に、三人とも目を逸らした。

 ……さて、まぁそれはさておき、だ。そろそろワンピースカードの続きをしたい。

 コホン、と咳払いをしてから、めぐるはいい加減、話を進めた。

 

「とにかく、真央。聞きたいのはワンピースカードのルールなんだけど……」

「何?」

「ここ。最初にリフレッシュフェイズってあるけど、1ターン目はどうしたら良いの?」

「いや1ターン目だけリフレッシュフェイズないに決まってんだろ」

「「「えっ?」」」

「リフレッシュするキャラもリーダーもいねーんだから。1ターン目はドローフェイズもないから、先行の1ターン目は三つ目のドン‼︎フェイズからだぞ」

 

 言われて、また三人とも黙り込む。いや、考えてみれば当然なのかもしれない。また深読みし過ぎて変な時間を過ごしてしまった。

 

「……えっ、聞きたかったことってそれ?」

「う、うん……」

「まぁね……」

「そ、そう……」

「序盤でナミがいなかった場合の麦わらの一味か」

 

 言い返せない。とても言い返せない。

 ため息をついた真央は、三人を見回した後、ちょっとどうするか迷った様子だったが、すぐに口を開いた。

 

「あー……用事済んだなら俺帰るけど。友達同士でやってた方が良いっしょ?」

「えっ……」

 

 いや流石に帰らせることは出来ない。わざわざ来てもらったのに用事が済んだらさようならは無理だ。

 

「そ、そんな気を遣わなくて良いよ。せっかくだし、このままコーチして?」

「まぁ八宮がそう言うなら良いけど……」

「よ、よし、じゃあ真乃。そろそろ先に進もう」

「う、うん」

 

 改めてゲームを再開した。

 

 



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応用力こそ最強。

ワンピースカード、最新パックの抽選が当たりました。弾けます。


 改めて、ゲームを再開する。

 ワンピースカードの1ターンはざっくり言えば以下の通り。

 1、リフレッシュフェイズ

 2、ドローフェイズ

 3、ドン‼︎フェイズ

 4、メインフェイズ

 5、エンドフェイズ

 の五つだ。

 先行のめぐるはリフレッシュフェイズとドローフェイズがないため、ドン‼︎フェイズからである。

 

「先行1ターン目はドロー出来ないだけじゃなく、ドン‼︎カードも1枚しか補充出来ない」

「普通は2枚なの?」

「そう、2枚」

 

 灯織の質問に頷いて答えている隙に、めぐるは1ドン‼︎を追加。

 改めて、めぐるの手札はカタクリ、フランペ、ゼウス、力餅、タマゴ男爵。めぐるの後ろから手札を覗き込む真央は真剣な顔で説明してくれる。

 

「良いか? 右上の数字分かるな?」

「うん」

「それが、このカード達を召喚するのに必要なドン‼︎カードの枚数だ」

「え、じゃあ……」

 

 カタクリは4、フランペは2、ゼウスは3、力餅は1、タマゴ男爵は4だ。つまり、出せるカードは1枚だけ。

 

「じゃあ、この力餅っていうのを使えば……」

「いや、よーく見てみ。カードを」

 

 言われて、よーくカードを見てみる。その絵では、あまり見覚えのない人が何処かで見たことあるような気がする人を黒い拳で力強く殴り飛ばしている。

 だが、手札の中にカタクリがいることで気が付いた。もしかしてこのカード……。

 

「……あっ、もしかして」

「そう。このカードは……」

「これ殴ってる人カタクリか! じゃあこれカタクリの技カードってこと⁉︎」

「そう! この技は名前の通りとても力が込められた技で、あのドフラミンゴの攻撃を悉く弾いたギア4の防御力を貫通す……って、違ェよ」

 

 途中までノリノリで説明してくれたが、すぐに黙った。まぁまだカタクリが出てくるところまで読んでいないのでほとんど意味が分からなかったが。

 

「文章を読め文章を。カウンターってあるっしょ?」

「うん、ある」

「その効果は敵が攻撃してきた時にしか使えないってことだ。今は発動できない」

「なるほど……そういう、限定的な効果もあるんだ」

「ついでだし、先に説明しておくか……よし、全員注目」

 

 そう言うと、真央は鞄の中からワンピースカードのケースを取り出す。さらにその中から取り出したのはデッキトップにロロノア・ゾロと書かれているリーダーカードがあるデッキ。

 そのデッキを少し捲った後、ゾロのスーパーレアカードを取り出す。

 

「そもそも、相手に攻撃する方法だが、単純だ。右上の四桁の数字、これがパワーなんだが、それ以下のパワーのキャラクターに攻撃すればダメージは通る」

 

 ゾロのパワーは5000。分かりやすいようにめぐるのビッグマムに向けてカードを置き、わざと少し重ねながら説明してくれる。

 

「なるほど……じゃあ、5000同士だから、めぐるちゃんのリンリンさんに攻撃は通るんだ?」

「そういうこと。このままリンリンが攻撃を受ければライフのカードを一枚、手札に取らなければならない」

 

 つまり、負けに一歩近づく、と言うことだろう。このライフが5枚とも全てなくなった上で攻撃を喰らえば敗北してしまうのだから。

 

「で、それを阻止するために使うのが、この『カウンター』の効果を持つカードだ」

 

 そう言いながら、めぐるの手札から力餅のカードを見せる。

 このカードの効果は『【カウンター】自分か相手のライフの上から1枚までを見て、ライフの上か下に置く。その後、自分のリーダーかキャラ1枚までを、このバトル中、パワー+2000』と書かれている。

 

「重要なのは『その後』のあと。パワー+2000ってあんだろ? つまり、ゾロから斬られる前にマムのパワーが2000増えて7000になり、攻撃が通らなくなる。通らなくなるってことは? はい、八宮くん」

「ライフを取らなくて良い?」

「そういうこと」

 

 なるほど……と、めぐるは顎に手を当てる。そんな中、真乃が手を挙げた。

 

「せ、先生っ」

「はい、櫻木くん」

「パワー+2000というのはずっとなんですか」

「良い質問ですね。だが残念ながら、効果をよく読みましょう。『このバトル中』とあります。つまり、このゾロがマムを斬りつけて来る間だけ、と言うことになります」

「ほわ……つまり、一時的ってこと?」

「そういうこと」

 

 パワーに対してはさらにパワーを上げて防ぐ、と言うことだろう。……なんか、その脳筋感がすごくワンピースっぽい気がする。

 

「……ワンピースのカードゲームって感じだね」

「だろ? そこが面白えのよ」

「あ、あのっ、私からも良いですか?」

「はいどうぞ、風野くん」

 

 今度は灯織からの質問だ。力餅のカードを手に取ると、右上のコストの数字を指差す。

 

「ここにコストが書いてあるということは、相手のターン中にドン‼︎カードを消費しないといけない、と言うことですか?」

「そういうことだね。だから、敵からの攻撃に備えて、ドン‼︎カードを使わずに取っておくことも重要になる」

「な、なるほど……」

 

 つまり、100%脳筋ではない。温存と強化、そして攻撃をタイミングを見計らって行う。これが大事ということだ。……なんか難しい気もしてきた。

 

「あの、先生。もう一つ良いですか?」

 

 手を挙げたのは灯織。熱心だ。ワンピースカードゲームを強くなる前に目的を果たしていると言うのに。

 

「はいどうぞ?」

「キャラクターカードにもカウンター+1000ってあるんですが……これはどういう?」

「良いところに気が付きましたね。ハン……か、風間さん1ポイント」

「あの、風野です。あと何のポイント?」

「キャラクターカードのカウンターは便利なことにドン‼︎カードを使わずに攻撃されているキャラクターのパワーを上げられる。さっきのゾロとマムなら、めぐるの手札で言うフランペでパワーを無料で1000上げられる」

「確かに便利ですね」

「でもイベントカード同様、使えばトラッシュに行く。特定のカードの効果を使わない限りトラッシュのカードは戻せないから、ちゃんと選んで使うように」

「なるほど……分かりました」

「脱線したな。そろそろゲームに戻ろう」

 

 そう言って、ゲームに戻る。話を戻すと……要するに力餅は使えないということだろう。

 

「じゃあ私どうしたら良いの? ……あ、リーダーカードにもパワーついてるし、攻撃すれば良いの?」

「先行も後攻も1ターン目は殴れません。早い話、八宮はターンエンドしか出来ない」

「えー⁉︎ ドン‼︎増やして終わり⁉︎」

「終わり。手札消費しなくて良かったじゃん」

「むむむっ……」

 

 納得いかない。何も出来ないのってなんか歯痒い。

 さて、ターンは移り、真乃の番。それに伴い、真央と灯織も移動して真乃の後ろに回った。

 

「まずはドローして。デッキから1枚引く」

「う、うん……!」

「で、ドン‼︎デッキからドン‼︎を2枚追加」

 

 言われるがまま場を揃えた後、真乃は手札の一枚を抜く。

 

「この子出せる?」

「出せる。出す時は今、追加したドン‼︎カードをレスト……あ、横にして、この状態のカードをレストな。レストしてリーダーの前に置く」

「分かった……! じゃあ、ピーちゃん召喚!」

 

 そう言いながら真乃が出したのは、カルーだった。そのセリフを聞いて、横から静かに真央がツッコミを入れる。

 

「なんでもピーちゃん? いや確かに鳥だけどよ」

「攻撃……は出来ないんだよね。エンドしかない?」

「ない」

「じゃあ、エンド」

 

 とのことで、再びめぐるのターン。ドローしてドン‼︎を2枚追加。それにより、真央がこちらに戻って来た。

 引いたカードはフランペ二枚目だった。これで手札はカタクリ、フランペ、ゼウス、力餅、タマゴ男爵、フランぺ、そしてドン‼︎は3枚だ。

 

「……よーし、じゃあ早速……!」

「うん、フランペ出せる」

「フランペー!」

 

 ドン‼︎を2枚レストしてフランペを出した。これで場にはフランペとリーダーのリンリンがいる。

 

「攻撃出来るんだよね?」

「出来る。けどキャラカードを攻撃するには、相手のキャラがレストしてないと攻撃出来ないから、カルーは殴れないよ」

「じゃあ……リーダーだけ?」

「そう。あとキャラカードは基本、出したターンは動かないから、攻撃出来るのはリーダーのマムだけ」

 

 意外と制限あるんだ、と思いつつも、まぁ一人攻撃できるなら十分だ。

 

「よーし、じゃあリンリンで……!」

「あー待った。ドン‼︎カード見てみ。パワー+1000書いてあるでしょ」

「うん」

「これをマムにつければ、パワー+1000で6000で攻撃できるよ。そうなると、相手はカウンターに+2000使わないといけなくなる」

 

 なるほど、と理解。それは良いことを聞いた。早速、マムにドン‼︎カードを1枚つけた。

 

「リンリンでルフィを攻撃!」

「ほわっ……⁉︎ ど、どうしよう……」

 

 少し焦った様子で真乃は灯織を見る。すると、灯織は冷静な口調で肩に手を置いた。

 

「落ち着いて、真乃。今、ドン‼︎一枚残ってるから、このカード使えるんじゃない?」

「あ、そ、そっか……!」

 

 その後、真乃は場のドン‼︎カードを一枚レストにし、手札からカードを出した。

 

「むんっ、毛皮強化っ! ルフィ、パワー+3000」

「えー⁉︎ ち、ちょっと真央!」

「いや俺は案を出しただけでやれとは言ってないし。あと殴ったらマムレストさせて」

「う〜……」

 

 マムを渋々、レストさせる。

 

「……エンド」

「そんなしょんぼりするなよ。もう櫻木は毛皮強化を一枚使えねーんだぞ? 序盤で削れたのはデカいって思っとけ」

「はーい……」

 

 さて、次は真乃のターン。まずはリフレッシュフェイズ。誰もレストはしていないけど、ドン‼︎カードだけレストしているので縦にする。

 その後、ドローしてドン‼︎カードを2枚追加した。これで真乃のドン‼︎は4枚だ。

 真央も真乃の方へ移動して手札を見る。

 

「どうしようかな……」

「好きにやれよ。分からないことあったら教えるから」

「う、うん……ありがと」

 

 言われた真乃は、少し悩むように顎に手を当てる。その後で、リーダーに顔を向けた。

 

「あっ……そうだ、先生」

「次から俺のこと先生ではなくレイリーと呼ぶように」

「はい、レイリー」

「いや、レイリー先生? ……師匠?」

「あの、リーダーのルフィに書いてある『起動メイン』ってなんですか?」

 

 無視して話を進められている。面白いけれど、真乃にツッコミを期待してはダメだろう。

 

「あー、それはメインフェイズに使える効果のことだ」

「メイン……?」

「そう。……あ、言ってなかったな。前のターンで櫻木がカルーを出したタイミングと、さっき八宮がフランペを出してマムにドン‼︎カードをつけて攻撃した時、それをカウンターで防いだ時……全部メインフェイズな。召喚、攻撃、あと効果発動を自由に行える」

「ほわ」

「だから、このルフィの場合は……あー」

 

 リーダーのルフィを手に取って効果を読み始めた。その横から、灯織と真乃も気になって覗き込む

 ……なんか、寂しい。さっきのターンも思ったけど、ちょっと3対1みたいになっているのが嫌だ。

 なので、めぐるも前屈みになって真央の正面からルフィの効果を覗き込む。書いてあることは『【起動メイン】【ターン1回】このリーダーか自分のキャラ1枚にレストのドン!! 1枚までを付与する』とのこと。

 

「レストのドン‼︎がないと意味ないな。つまり……」

「あ、分かった! 誰かを召喚した時のドン‼︎カードが使えるんだ!」

「そういうこと」

 

 答えながら顔をカードから真央に向ける。それに伴い、真央もめぐるの方を見た。

 

「えへへー、正解〜」

「レストされたドン‼︎をパワーアップだけとはいえ再利用できる良い効果だ」

 

 にこにこのめぐるに、真央も何故かニヤリと不敵な笑みを浮かべながら答える。

 それは確かに面白い。つまり、今の自分の時だって、フランペ召喚に使った際の1枚と残りの1枚を併用して使えて、リンリンの攻撃力は+2000された、ということだろう。

 まぁこれはルフィのリーダー効果なので、リーダーを2枚以上編成することはできないから机上の空論ではあるが。

 

「面白いなー」

「こう言うのを利用してコンボを繋げるのがカードゲームの醍醐味よ」

「私もそう言うの見つけようっと」

「頑張れ。自分で見つけたコンボほど使ってて楽しいもんはねーぞ」

「うん、頑張る!」

 

 なんて2人で盛り上がっている時だった。ふと視界に入ったのは、いつの間にか左右に離れた灯織と真乃。少し頬を赤らめてこちらを見ている。

 

「……何?」

 

 めぐるが問うと、2人ともほんのり赤く染まったまま答える。

 

「い、いや、その……」

「2人とも……距離近くない?」

 

 言われて、めぐると真央は顔を向け合う。顔の距離はほぼ2〜3センチほど。少し押せばキスをしてしまいそうな距離感だ。

 ……だが、めぐるはハグが挨拶の帰国子女だし、真央はなんか色々とおかしい人だ。つまり……。

 

「「そう?」」

 

 キョトンとした顔のまま平然と返した。そうなれば、真乃も灯織も黙って下がるしかないわけで。

 さて、それよりゲームの続きだ。めぐるも元の位置に戻って、真乃を再び灯織と真央で挟む。

 

「あ、あの、日吉くん。パワーが低いキャラクターで高いキャラクターを攻撃したらどうなるの?」

「攻撃は出来るけど何も起こらないよ。この場合、カルーにドン‼︎も何も付けずにもレストになるだけ」

「なるほど……じゃあ、こういうことだね」

 

 一先ず、真乃はドン‼︎を一枚、レストにして手札からナミを出した。

 

「じゃあ……ナミさん」

 

 続いて、ドン‼︎をさらにレストにしてチョッパーを召喚。

 二人ともコスト1、パワー1000のキャラクターだ。ナミの効果は『【起動メイン】【ターン1回】自分のリーダーかキャラ1枚にレストのドン!! 1枚までを付与する』で、チョッパーには【ブロッカー】と書いてある。

 

「まず、ナミさんの起動メイン使います。召喚コスト1000をピーちゃんにつけます」

 

 言いながら、レストのドン‼︎をカルーにつける。これでカルーはパワー4000だ。

 

「続いて、ルフィの起動メインを使って、もう一枚つけます」

「…………あっ!」

 

 これで、5000になってしまった。つまり……ルフィを攻撃出来る。

 その上で、まだドン‼︎を2枚残していた。その2枚を全てルフィにつける。

 

「ピーちゃんでリーダーを攻撃」

「あ、え、えと……フランペのカウンター!」

 

 慌てて手札のフランペをトラッシュに置く。5000のダメージをガード。

 だが……次のルフィは7000だ。

 

「ルフィで攻撃っ」

「あ……えっ、と……」

 

 手札は残り、カタクリ、ゼウス、タマゴ男爵、力餅。カタクリにカウンターはついていないし、コストが残っていないので力餅は使えない。

 どうやったら凌げる? と頭の中が混乱する中……うっ、と涙目で真央に助けを求めるしかなかった。

 

「はいはい……見せてみ」

 

 こちらに来て手札を見ると、すぐに答えた。

 

「あーこれ無理。一発もらうしかない」

「えー⁉︎」

「別に良いだろ一発くらい。手札増えるんだぞそれでも」

「負けちゃうよ!」

「……あーじゃあよく見てみ」

 

 そう言うと、真央はカタクリのカードの効果が書かれている場所を指差す。

 効果は『【登場時】自分か相手のライフの上から1枚までを見て、ライフの上か下に置く。その後、自分のライフの枚数が相手より少ない場合、このキャラは、このターン中、【速攻】を得る』とのことだ。

 

「……速攻?」

「そう。さっきフランペは出したターン殴れなかったけど、カタクリは殴れるってこと」

「えっ、すごくない⁉︎」

「でも、そのための条件が、こいつを召喚した時にライフが相手のライフより少ないか否か。今、受けておけばこの効果は使えるってことだ」

「あ……な、なるほど!」

 

 しかも、カタクリはパワー6000。わざわざドン‼︎で盛る必要もない。

 

「よ、よし、ライフで受ける!」

「何処で覚えたのそのセリフ」

 

 言いながら、ルフィの攻撃をもらってライフを一枚、手に取る。引いたカードはブリュレだ。

 

「あ、トリガーじゃん」

「引き金?」

「だいたい合ってる。下の方に書いてある『トリガー』ってカードは、ライフから手に取った時にそのままコスト使わずに出せるんだよ。だからこのブリュレも召喚できる」

「あ……な、なるほど! 行け、クレームブリュレ!」

「シャーロットな」

 

 そんなわけで、さっそく出してみた。これで自分の場はリーダー以外にフランペとブリュレが揃った。

 すると、真乃が真央に声を掛ける。

 

「レイリー、私他に何かできる?」

「無理。コストないし。エンドしかない」

「じゃあ、エンド」

「よし、ドロー!」

 

 カードを引いた。来たのは、シャーロット・プリン。ひとまず手札に加えてからドン‼︎を2枚追加。これで5枚だ。

 カタクリのコストは4。つまり、さっきの作戦が出来る。すぐにドン‼︎をレストした。

 

「カタクリ召喚! カタクリのリーダー発動!」

「いや登場時効果な」

「速攻を得る!」

「1からちゃんとやれ。その前の効果があるだろ」

 

 言われた通り、効果を読んでみる。自分か相手のライフを見られるらしい。

 

「……これ意味あるの?」

「速攻得るには見るしかないよ」

「じゃあ……自分ので良いや」

 

 とりあえず自分のトップのカードを見ると……またトリガーだった。プロメテウスというカードである。

 そこで、ピンと来た。これをトップに置いておけば、次のターンまたわざと攻撃をもらえば確実に出せる、ということになる。

 

「よし、上に置いておこっと」

 

 何より、メインはここではない。めぐるがやりたかったことはここからだ。

 

「じゃあ、カタクリで攻撃!」

「ほわっ……レイリー、これチョッパーの『ブロッカー』って……」

「そう、凌げる。1000だから負けるけど」

「うーん……可哀想だけど、ブロックで」

 

 チョッパーはトラッシュに置かれる。さて、まだこちらの攻撃は終わらない。ドン‼︎カードの残り1枚をフランペにつけて攻撃。

 

「攻撃!」

「ウソップさんでカウンター+1000」

「リンリン!」

「ロビンさんでカウンター+1000」

「なんでよ⁉︎」

 

 まさかの全部防がれた。納得いかなくて声を漏らしてしまうめぐるに、隣から冷静な声音で真央が言う。

 

「そりゃ、とりあえず1000あれば凌げるからな、5000で殴っても。まぁこれで相手の手札は1枚になったし、次のターンは当てられるだろ何かしら」

「う〜……真乃、強い」

 

 ため息をつきながら、ターンエンドを宣言するしかなかった。

 めぐる、ライフ4。キャラクター、カタクリ、フランペ。

 真乃、ライフ5。キャラクター、ナミ、カルー。

 まだ押されているような気がする。

 真乃がドローをしてターンを始めたので場所を移そうとする真央の身体を止めた。

 

「えっ、何?」

「こっちにいて」

「は? なんで?」

「私の味方してて」

「いやルール教えに来たんですけど?」

 

 それは分かる。分かるのだけど……やはりやるからには負けたくない。まるで駄々を捏ねる子供のように「う〜……っ」と声を漏らして涙目で手を強く握ると、真央は小さくため息をついて仕方なさそうに言った。

 

「お前さ、ルフィがどうやって強くなったか知ってるか?」

「え?」

「ガープに厳しい環境に放り込まれながらも強い意志で耐え抜いたからだ」

「いや、あの……」

「味方にはなれません。フェアに教えてやるから自分でなんとかしろ」

 

 厳しかった。予想に反して。……いや、まぁ確かに言われていることはその通りなのだが……。

 仕方ない。事こうなったら、もう頑張るしかない。

 

「よーしっ、真乃。来い!」

「じゃあ……5ドン‼︎使って、ルフィ」

 

 ニコニコしながら手札からルフィを召喚した。

 5コスト、パワー6000。速攻。

 

「日吉くん、このルフィの効果なんだけど、【ドン‼︎×2】【アタック時】って……」

「そう、ドン‼︎が2枚ついてる時、攻撃した場合に発動するってこと」

「じゃあ……えっと、ナミさんの起動メインとリーダーのルフィの起動メインで、キャラクターカードのルフィにドン×2枚つけます」

 

 これでルフィのパワーは8000。カタクリを超えた。ニコニコした素敵でほんわかする真乃スマイルで、攻撃宣言をするようにルフィをレストさせる。

 

「カタクリさんを攻撃」

「えっ、ま、待って! えっと……!」

 

 手札には力餅、プリン、ゼウス、タマゴ男爵。いや、大丈夫。自分の場にはブロッカーがいる。

 

「ブリュレでブロック!」

「ごめんね、めぐるちゃん。ルフィの効果で、ドン‼︎が2枚ついてる時はブロックされないんだ」

「えー⁉︎ 何それずるい!」

 

 じゃあカウンターをするしかない。8000を凌ぐには+3000して6000のカタクリを9000にするしかない。

 力餅はコストがないので、使えるのはカウンターがついているキャラクターカード3枚。

 だが、これをすると……力餅以外の手札を全て使い切ることに……。

 

「うーん……」

「何悩んでんのかなんとなく分かるけど、プリンのカウンターの数字よく見てから悩めよ」

「え?」

「言っとくけど、カウンターカードは2枚でも3枚でも使えるからな」

 

 言われてよく見てみると……そこには「カウンター+2000」とある。つまり、この子は一枚で二枚分のカウンターをすることができるのだ。

 

「よ、よし! プリンとー……ゼウスでカウンター!」

 

 凌いだ! と思ったのも束の間、真乃はニコニコしたままリーダーのルフィをレストさせる。

 

「じゃあ、リーダーのルフィでリーダーに攻撃」

「え?」

 

 どちらにせよ手札のキャラクターはいなくなる……? と冷や汗。が、今度は灯織が冷静に口を挟んだ。

 

「めぐる、キャラクターカードのルフィの効果はバトル中だけだから、ブリュレでブロックできるよ」

「え? あ、ほ、ほんとだ! ブロック!」

 

 ブリュレをトラッシュに置いた。すると、真乃は少し残念そうな笑みをこぼす。

 

「あ〜……ダメか〜……ターンエンドっ」

「よ、よし、私のターン」

 

 ドローをしてドン‼︎を増やす。これで7ドン‼︎ある。少しずつできることが増えていく。ちょっと楽しくなってきた。

 ここで注目したのは、あまり見ていなかったリーダーの効果。よく読んでみると……『【ドン‼×2】【アタック時】自分のライフの上か下から1枚を手札に加えることができる:自分のライフが2枚以下の場合、自分の手札1枚までを、ライフの上に加える』だそうだ。

 

「……ライフが2枚以下の場合……」

「そうだな。まぁそもそも黄色は長期戦向きだし、のんびりやれや」

 

 いつの間にか自分の方に来ていた真央がそう言う。それなら……いっそ、わざとダメージもらっても良かったのかもしれない。

 ドローしたカードはペコムズ。ライオンのようなサングラスの男の人だ。

 出そうか、とも思ったけれど、タマゴ男爵の方がパワーは高い。召喚した。

 

「よし、タマゴ男爵!」

 

 これで残りは3ドン‼︎。1ドン‼︎は力餅のために残しておくとして……残りの2ドン‼︎は……せっかくだし、波状攻撃に使おう。

 まず、フランペ。そして、リンリンに1枚ずつ付ける。

 

「リンリンでリーダー!」

「うーん……もらいますっ」

 

 ライフからカードを一枚取る真乃。さらに、カタクリで一発入れた。

 

「カタクリ!」

「もらいまーす」

 

 さらに一枚。次が最後、フランぺだ。

 

「フランぺ!」

「それももらいます」

 

 結局、全ての攻撃が通ってしまった。これで真乃のライフは2。あと3回攻撃が通れば勝てる。

 

「ふっふーん、どうしたのー? 真乃。もしかしてカウンターいないのー?」

「じゃあ、私のターンで良い?」

「どうぞー?」

 

 真乃は1枚、カードを引く。迷いない手つきでドン‼︎を2枚、レスト。出て来たのはサンジだった。

 

「サンジさんを出します」

「あーそういうこと?」

 

 声を漏らしたのは真央。どうやら、真乃の狙いが見えたらしい。何も分からないめぐるは当然、気になる。

 

「どういうこと?」

「いや言わないよ」

「むー」

 

 まぁそれはそうか、と思うことにして真乃の行動を待つ。

 真乃はレストにしたドン‼︎を2枚、手に取った。

 

「ナミさんとリーダールフィの起動メインを使います。サンジさんにつけます。サンジさんの効果で、ドン‼︎が2枚ついたので速攻を得ます」

「……えっ?」

 

 なんか今、すごく困ることを言われた気がする。ぽかんとするめぐるを置いといて、さらにドン‼︎を2枚レストにした。

 

「サニー号を出します。サニー号の起動メインで、キャラクターのルフィのパワーを+1000します」

「……えっ?」

 

 さらに困ることを言われる中、残りの4枚のドン‼︎カードのうち3枚をキャラクターのルフィにつける。これで、パワー10000。

 

「ルフィでカタクリさん攻撃」

「えっ、ま、待って……!」

 

 手札を見る。力餅とペコムズだけ。どう考えても10000は届かない。カタクリが、殺された。

 

「……」

 

 無言でトラッシュに置くが、ニコニコと微笑んでいる真乃の攻撃は終わらない。サンジをレストにした。

 

「リーダーのリンリンにアタック」

「え、あ……じ、じゃあ……力餅!」

 

 なんとかそれで凌ぎつつも、ライフを覗いておく、さっきカタクリを出した時に見たのと同じカードなのでスルー。

 なんにしても、攻撃は凌げた……と、思った直後だった。今度はリーダーのルフィで攻撃してくる。

 

「フランペさんにアタック」

「……無理」

 

 フランペを渋々、トラッシュに置いた。これで、場にはタマゴ男爵しか残っていない。手札もペコムズだけだ。

 敵の場には、サンジにルフィにナミ。リーダーを含めればルフィが2人いることになる。

 

「ターンエンド」

 

 笑顔でそう言われ、次のターンについて、真剣に悩まされることになった。

 

 



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デッキ作りに必要なのはモチベーション。

「ワンピースカードやろう!」

 

 そんな事をめぐるから言われたのは、机の上にシャーロット・アナナのミニフィギュアが置かれている日、つまり4月17日のことだった。

 真央の机の前に現れためぐるにそう言われるが……唐突な気がしないでもない。でも、唐突かどうかはどうでも良い。ワンピースカードをやる、という提案を断る理由なんかないから。

 

「良いよ。今日、うちで良いか?」

「うん!」

 

 しかし、まさか真央に挑んでくるとは……もしかしたら、デッキを変えたのだろうか? 

 

「何、デッキ組み替えたの?」

「ううん?」

「は? じゃあ何?」

「強くなるには、カードゲームを上手くなるしかないかなって思って! その為には、やっぱ何度も練習しないと!」

「……」

 

 どうやら、この前真乃だけでなく灯織にも負けて火がついたらしい。

 まぁやる気を見せてくれるのは良いし、強くなる意志があるのも嬉しい。そういう奴とやるから、ワンピースカードは面白いのだ。

 だが……ちょっとそれにも限度がある。

 

「いや、悪いけど俺とやるならもう少しデッキ強化しないと無理だよ」

「そんなの分かんないじゃん!」

「いや分かるわ。レベル的には、序盤のゾロとミホークくらい差がある」

「なおさら引けないから! 私はこれからこの胸をおもちゃに貫かれるとしても、なおさら引くわけにはいかないの!」

「いや、もう貫かれた後なのお前は。だから、そろそろ『二度と負けねェから‼︎』って言って強くなるために鍛えるパートなの」

「だから、特訓するんでしょ!」

「カードゲームの特訓は回し方の前に素材から集めないと強くならないから。使い込めばコストが下がったりパワーが上がったりするわけじゃないから」

 

 この子、熱くなりすぎて頭が悪くなったのだろうか? いや、それはこの前から薄々勘づいていた。そもそも、割と頭を使う黄色デッキはこの子には向かない。

 

「そもそも、作るデッキから考えたら?」

「な、なんでよ?」

「八宮はもう少しシンプルなデッキのが良いと思う。もしくは、逆に好きなキャラのデッキに特化するか」

「うー……」

「ていうか、強いデッキって今なら割とリーダーで全部決まっちまうからなぁ。調べりゃ分かることだけど、今だとゾロか白ひげか……あ、あとローとかカタクリ? とにかく、あんまりマムに拘らない方が良いと思う」

 

 もうデッキを買ってしまった後の人にこんなことを言うのは申し訳なかったけれど、事実なのだから仕方ない。ジンベエだってルフィに「エースは死んだ」とはっきり言った上で前を見るように言ったのだから。

 

「そういう相談なら、いつでも受け付けてやる。俺は本当に八宮がワンピースにハマってくれて嬉しいから」

「っ……あ、あのさ……」

「ん?」

 

 何故か少し頬を赤らめながら目を逸らされる。何かおかしなことを言っただろうか? 

 

「よ、よくそういうこと少しも照れないで言えるよね……?」

「? どこに照れる要素が?」

「……いや、何でもない」

 

 そんなことよりも、まずはめぐるが組むデッキについてだ。スマホでワンピースカードについて検索し、カードリストを覗く。

 範囲を絞って、リーダーカードに焦点を当てた。

 

「ほれ、見てみ」

 

 言いながら見せる。すると、めぐるは少し目を丸くした。

 

「え……こ、こんなにいるの?」

「そりゃいるよ。デッキじゃなくても組めるリーダーはいるし、それぞれ割と個性がある」

「ほぇ〜……見せて」

「良いけど、ネタバレとかあるから気をつけろ。……や、マムのデッキ組んだ時点で手遅れ感はあるけど」

「大丈夫。新しいキャラ出てきすぎても逆に訳わからないから」

 

 それはそうかもしれない。今のめぐるがルナーリア族だの天竜人だの言われてもピンと来ないだろう。

 真央のスマホを操作しつつ眺めながら、めぐるはリーダーに最適なカードを探す。

 

「うーん……色々いるね、ホントに。……あ、このゾロが?」

「そう。強い奴。効果読んでみ?」

 

 リーダーのゾロ。色は赤、効果は自分のターン中、ドン‼︎カードを1枚つけておくだけで味方全体のパワーが1000上がること。シンプルに鬱陶しい。

 だが、めぐるはイマイチピンと来ていない様子で小首を傾げている。

 

「……これ強いの?」

「パワーが1000上がるってのはな、リーダーにとってすごく鬱陶しい事なんだよ。リーダーのパワーは大抵が5000。場にパワー5000のキャラがいれば6000で襲いかかって来る……つまり、カウンターするには1000のキャラ2枚か、2000のキャラ1枚使わないといけないし、そうでなくてもパワー4000のキャラはドン‼︎なしで斬り掛かってくる」

 

 言われためぐるは腕を組んで想像する。

 昨日、真乃の場にはルフィ、サンジ、ナミがいた。ナミはおそらく動かないとして、ルフィは7000になるし、サンジも5000。リーダーのゾロ自身だってドン‼︎がついているから6000。

 それが自分のリーダーに襲いかかって来たら……ライフも手札もいくつあっても足りない。

 

「つ、強いね……」

「だろ?」

 

 他にも強みはあるが、まぁ最初はそんなもので良いだろう。

 そのままめぐるが次に注目したのは赤緑のルフィだ。

 

「あ、ルフィのリーダー。……赤と緑?」

「2色だな」

「そういえば、この色って意味あるの? 私、よく分からないんだけど……」

「ああ……filmもマムも麦わらも単色だしな。リーダーの色のカードじゃないと使えないってこと」

「……ああ〜、なるほど。え、じゃあ2色のデッキって強くない?」

「そうな。ざっくり言うと、大体のカードは色ごとに効果の方向性みたいなものがあるんだよ」

 

 そう言いながら、わかりやすく説明するためにルーズリーフを取り出した。

 6つの色、赤、緑、青、紫、黒、黄と書いて、それらの特徴を書きながら説明する。

 

「存在するカードはこんな感じ。この中で、赤はパワーを操作するのが特徴だな。相手のパワーを下げたり、自分のパワーを上げたりして、低コストのカードでまとまってる」

「ああ〜、今のゾロみたいに?」

「そう。昨日の櫻木のデッキは特にレストのドン‼︎を使ってパワーを上げたりしてたし、そうでなくてもジンベエやサニー号みたいなバフもある」

「なるほど……」

「顕著なのが白ひげだな。SRのエースが、出て来るだけで相手のキャラ2枚までパワー3000下げるし、逆に白ひげはリーダーのパワーを2000あげる」

「つ、強くない⁉︎ 3000も2体って……!」

 

 強い。だから厄介なのだ。使っている分には楽しいが。特にリーダーの白ひげはパワー6000ある唯一の存在なので、ゴリ押しで殺せるし逆にゴリ押しはされない。

 

「これが本当に強いんだ。モビー・ディック号っつーステージカードもあんだけど、ライフ1枚以下の時に白ひげ海賊団のキャラと白ひげのパワーを軒並み2000あげる」

「2っ……ず、ズルじゃん」

「実際、今使ったらズルだからな。禁止カードになってる」

「えっ、禁止なんてあるの?」

「ある。今のところ2枚だけ」

 

 まだ始まって1年のカードゲームだから、多少バランスが崩れるのは仕方ない。

 そろそろ次の色に移ろう。

 

「次は緑。これは相手のキャラをレストにしたり、逆に自分のキャラをアクティブにさせて戦う感じだな」

「レスト……ああ、横にする奴」

「そう。昨日ので言えば、櫻木のナミだな。あいつ鬱陶しかったろ?」

「うん……何度もドン‼︎を再利用してさー……」

「あのナミを倒せなかったのは、ナミ自身がレストになることが無かったから。でも、緑のデッキなら効果であいつをレストにさせて上から轢き殺せる」

「あ……な、なるほど」

 

 強みはそれだけじゃない。レストにする、という効果は他にも使える。

 

「他にも、敵の場のブロッカーが邪魔ならレストにさせて動きを止められるし、相手が出したばかりでアタック時効果がある奴もレストさせて効果を使わせる前に殺せるし、意外と便利な感じ」

「ほえ〜……な、なるほどね」

「逆に、自分のキャラをアクティブにするのは、早い話が2回攻撃出来るってこと。アタック時効果がある奴は2回効果を使えたりもするな」

「うわー……な、なんか悪質な気もしてきた……」

「悪質だよ実際」

 

 だが、緑なんてまだ優しいものだ。悪質なデッキはまだまだある。

 次の説明は青。

 

「次、青。これは相手のキャラを手札やデッキに戻したり、自分のドローソースを増やしたりする」

「え、それ強いの?」

「めんどくせーぞこれやられると。こっちがコスト支払って出したカードが何も出来ずに手札に帰らされたりするのはマジでクソ」

「……そうかな?」

 

 ピンと来ていないが、まぁめぐるが昨日使っていたデッキにはカタクリとかキャラのリンリンみたいに登場しただけで効果を使えるキャラも多いから、ピンと来ないのも分かる。

 だが、分かりやすく面倒な奴もいるわけで。それが、9コスト9000のミホーク。

 スマホ……は今めぐるが使っているので、実物のカードを見せた。

 

「ほれ、こいつ」

「? あ、ゾロの三千世界見切った人!」

「そう、世界最強の剣士。こいつ、出て来た時に相手の7コスト以下をデッキの一番下に戻すんだよ」

 

 確かに登場時効果は使える。だが、7コストともなると中々、高火力のカードも多い。つまり、アタッカーとしても使われるのだ。

 それが、手札に返されるなら次のターンで使えるにしても、デッキの1番下。死ぬわけじゃないからKO時効果も使えない。

 

「……嫌だねなんか」

「嫌だよ」

 

 理解したらしく、うげっとげんなりした顔を浮かべる。これが本当にストレスなのだ。

 さて、次は紫。

 

「紫。これは自分のドン‼︎を増やして高カードを最短で出すか、或いはマイナスする事で強力な効果を得るデッキだな。……これは昨日、風野がやってたな」

「うん……バレットは一生のトラウマだよ……」

 

 あのデッキの切り札とも言えるダグラス・バレット。8コストパワー10000というゴリラな上に、起動メインでドン‼︎を4枚減らすことで相手のキャラのパワーを下げる上にダブルアタックをかましてくる。

 めぐるのデッキは、それはもう良いように蹂躙されていた。

 

「正直、ドン‼︎を減らすってところ以外に紫は系統があるわけじゃない。相手のキャラをレストにしたり、KOしたり、ドン‼︎を減らさせたり、何でもできる。応用の幅が一番広いデッキかもな。ただ、ふざけてるとドン‼︎がいつのまにかめっちゃ減ってたりするから、そこは匙加減を利かせないと」

「えっ、そうなの? 灯織、昨日全然減ってなかったじゃん」

「上手く使ってたんだろ」

 

 そう言うとおり灯織の動きは中々、上手かった。事前にデッキのカードの特徴を掴んでおいて、バレットを切り札と決めるとドン‼︎の加速を重点において可能な限りドン‼︎を減らさないように立ち回り、最後に切り札を出して一気に制圧する。

 ……どちらかというと、真央としては灯織と戦うのが楽しみだったりする。

 

「よし、次は黒な。これ、俺の中では一番、悪質なデッキ」

「どういう事?」

「コストの操作だ」

 

 一見、あまり強そうな効果ではない。コスト? 下げたから何なの? と、真央も思っていた。

 

「それ意味あるの?」

「これがエゲツない真似してくるんだよな……まぁ、見た方が早いか」

 

 そう言うと、また鞄の中からデッキケースを漁る。

 

「あの、デッキいくつ入ってるの?」

「11」

「……なんで?」

「一緒にいる事でデッキと仲良くなり、欲しいカードを欲しい時にドローさせてくれるかもしれんだろ」

 

 そういうの大事である。ボールは友達とか言うセリフの気持ちがよくわかるのだ。まぁ欲しいカードをドローできたことは4割というところだが。

 

「……私も持ち歩こうかな」

「そうしろそうしろ。それに、常に持っておけば俺といつでも戦えるぞ」

「うん。そうする」

 

 話しながら、真央はケースから2枚のカードを取り出した。モンキー・D・ガープと書かれたカードとクザンと書かれたカード。

 

「ガープの効果読んでみ」

「うん。……えーっと『自分の手札1枚を捨て、このキャラをレストにできる:相手のコスト4以下のキャラ1枚までを、KOする』?」

「そう。で、次にクザン」

「あー『【登場時】カード1枚を引く。【アタック時】相手のキャラ1枚までを、このターン中、コスト-4』ん?」

「はい、これで8コス以下KO確定」

「……えっ? ズルくない?」

 

 ズルい。実際、これやられるとムカつく。恐ろしいのが、これクザンはクザンじゃなくても良いところだ。コストが下げられれば何でも良いのだから。

 

「そういうデッキなんだよ。黒のカード、多いのは海軍だろ? 卑怯な手段ばかり使う所が見え隠れしてるよね」

「……あ、ホントだ! ネズミ大佐とかフルボディ大尉とかモーガン大佐とかホント卑怯な真似ばかりしてたのってこういうこと⁉︎」

「いやそれは逆。そういう卑怯な連中が多いから黒は卑怯なの」

 

 先に出たのは原作なので、そこはおさえなくては。

 実際、頂上戦争でさえ正面からはぶつからず包囲壁とかスクアードの操作とか大分コスい真似をしていた。

 

「じゃあ私、黒は組まない。今の所海軍に良い点ないんだもん。ケムリンくらい?」

「どこまで読んだっけ?」

「昨日、ノロノロビームの人と戦ってるとこ」

「あーそう。じゃあそういう印象になるわな」

 

 まぁ何にしても、組まないなら良いだろう。最後だ。

 

「で、最後の黄色。これは使ってたからわかるな?」

「うん。ライフの操作」

「そういうこと」

 

 これだけ説明したし、あとはめぐるの好きにすれば良いだろう。

 

「色々と説明したけど、後はお前の好み次第だから。結局、リーダーも好きなキャラで組むのが一番良いと思う」

「そっかー……そう言われても、結構知らないキャラが多くて……」

 

 呟きながら、真央のスマホを操作している時だった。めぐるが「あっ」と声を漏らす。

 

「どうした?」

「ナミがリーダーのデッキなんてあるんだ……」

「あるよ」

 

 ただ、かなりピーキーだ。リーダー効果は『ルール上、自分のデッキが0枚になった場合、自分は敗北する代わりに勝利する。【ドン!! ×1】このリーダーのアタックによって、相手のライフにダメージを与えた時、自分のデッキの上から1枚をトラッシュに置いてもよい』というもの。

 つまり、初心者が手を出すべきでは絶対にない。何せ、ルールそのものを変更してしまうようなデッキだから。……値段は手頃に作れるけれど。

 だが、めぐるの瞳は爛々としている。

 

「私これにする!」

「……」

 

 だが……この子のナミ推しは知っていた。だから、こうなることも想像できなかったわけではない。

 しかし……最初からナミのデッキを作るとなると、他のデッキを使いたくなった時にルールとか把握するのに苦労しそうだが……。

 

「どんなカード入れたら良いか教えてよ!」

 

 ……まぁ、本人が楽しそうにしているし、強いデッキではあるし、何より好きにした方が良い。ルフィもよく言っているが、一番自由な奴が海賊なのだ。

 

「分かった。帰りにカード屋寄るか」

「よーし、行こ……あ、ごめん。今日は無理」

「? なんで?」

「ちょっと用事あって。明後日くらいでも平気?」

「あそう。別に良いけど」

 

 残念だけど、致し方なし。じゃあ明後日に、カードを買いに行くことにしよう。

 

 ×××

 

 レッスンが終わった。運動神経抜群なだけあって、ダンスの覚えもキレもイルミネーションスターズの中ではピカイチ。今日も絶好調だった。

 ……なので、当然仲間が少し苦労していたら手伝ってあげるくらいのことはする。

 

「そうそう、灯織。良くなったよ!」

「はぁっ、はぁっ……あ、ありがとう」

 

 二人で居残りの自主練をしている。正確に言えば、ダンスのコツのようなものを教えてあげていた。真乃はピーちゃんの餌を買って帰らないといけないので先に帰宅してしまった。

 

「じゃあ、今日はここまでね」

「もう少しできるよ……!」

「休むのも練習だよ、灯織。中学の時、部活やってる子が無理して頑張って怪我したなんて話、結構聞いたんだから」

「っ、そ、そっか……」

「またいつでも付き合うから、その時は声かけてよ」

「う、うん……ありがと」

 

 頑張りすぎちゃうのが灯織の良いところでもあり、悪いところでもあるのだろう。真面目過ぎる事もあって、出来ないところとかがあると出来るようになるまでやり込んでしまう。

 結構、汗をかいたのだが、今日は早めに帰らないといけない。何故なら、夕食が唐揚げだからだ。

 そのまま更衣室に入り、着替え始める。

 

「ごめんね、めぐる。遅くまで」

「気にしないで。同じユニットの仲間なんだから」

「うん……私、真乃みたいに歌上手くないし、めぐるみたいにダンスも上手くないから、もっと頑張らないと」

 

 やはり、不安だ。このままだと家でも練習してしまいそうな気がする。今日だって、忘れ物のタオルを取りに戻っためぐるが偶々、こっそりと居残りしている灯織を見つけてそのまま2人で自主練する流れになっただけだし。

 ここは一つ……これで縮めるしかない。そう、ハグだ。

 

「灯織」

「ん?」

「ぎゅーっ!」

「マントラ」

「えっ……よ、避けた?」

 

 まさかの回避である。わざわざエネルみたいなことして。

 

「いや、なんか気配を感じて……」

「ここはハグの場面だよ!」

「え、いやなんで?」

「だ、だって……えっとー……」

 

 諭そうとしたのだが……確かに、ハグである必要を論理的に説明しろと言われると困る。ていうか、2〜3週間前よりはマシになったものの、灯織はいまだにめぐるとのハグを避けるのは何故なのだろうか? そんなに嫌なのか。

 いや、今はそれよりも灯織のことだ。ハグがダメならば、他の説得の方法を考えなければ。

 どう言おうかちょっと考えた後、頭に浮かんだのは、ワンピースの1シーン。そうだ、自分の好きなアーロンパーク編のあそこで行こう。

 

「わ、私は剣術を使えねェんだコノヤロー‼︎」

「……剣道やったことある人だけじゃないのそれ?」

 

 ……それはそう。誰でも基本出来ないことではなく、誰でも出来るけどめぐるは出来ないことで言わないと意味がなさそうだ。

 

「勉強も苦手だし‼︎ 料理も作れねェし‼︎ あーえっと……ひ、人との距離感も間違える‼︎」

「……」

 

 この子は何を言い出すんだろう、という顔をされてしまう。が、その灯織も何かピンと来たように答えた。

 

「し、シャハハハハ‼︎ てめっ、自ぶっ……てめェの不甲斐無さを全肯定とは歯切れの良いおと……女だ‼︎ てめェみてェな無能な男を船長に持つ仲間達はさぞ迷惑してるんだろう。なぜ、てめェの仲間は必死に助けたんだかなァ……」

 

 少し照れながらも真似をしてくれる。ちょいちょい良い子が見え隠れしていたりするあたりは本当に可愛いけれど、そもそもごっこ遊びがしたいんじゃない。

 

「ごめん、アーロンパーク編ごっこがしたいんじゃなくてね」

「え? ……ご、ごめん……!」

 

 顔を真っ赤にして俯かせてしまった。なんか悪いことした気がしないでもないが、そのまま続けた。

 

「えっと、要するに……私が助けて欲しい時は灯織を頼るから、灯織も私を頼ってよ。麦わらの一味みたいに、一人の足りないところを三人で補い合うようなチームになりたいなって」

「……」

 

 そう言うと、灯織は少し黙り込む。やがて、ちょっと目を逸らした後、小さくため息をついた。

 

「はぁ……分かった。ごめん。今日は帰った後も休む」

「あー、やっぱり自主練するつもりだった?」

「分かってたの?」

「えへへ、なんとなく」

 

 言うと、頬を赤らめて目を逸らされる。ヤバい、やっぱりこの子かわいい。萌が頂点に達し、思わず両手を広げてしまった。

 

「灯織ー!」

「ゴムゴムの、盾」

「むにゅっ!」

 

 両手を組んで顔を押さえられてしまった。ひどい。あまりにもひどい。

 

「早く着替えて帰ろう」

「う〜……」

 

 とのことで、改めて着替えを始める。そんな中、スマホが震えた。画面にメッセージが届く。真央からだ。

 

「あ、真央からだ」

「日吉くん?」

「そう。……え、今から?」

 

 内容は「今からそっちの最寄りの改札まで来れる?」だそうだ。まぁどうせこれから帰るから行けるが……何か用事だろうか? 

 

「会うの?」

「うーん……まぁいっか。どうせ帰り道だし」

「……大丈夫なの?」

「? 何が?」

 

 灯織が少し心配そうな顔で声を掛けてくる。

 

「だって……友達とは言っても男の子でしょ? こんな時間に会うなんて……」

 

 何せ、時刻は20時を回っている。高校生ならそれくらい普通かもしれないが、それでも今から遊ぶには遅過ぎる。

 

「大丈夫だよー。あの子、別に変なことするような子じゃないし」

「いや、変なことはするでしょ……変なことも言うし……ただでさえ、めぐると変に距離近いのに……」

「そんなに心配なら一緒に来る? ていうか、うちでご飯食べてく? 今日唐揚げだし」

「えっ……あ、あー……」

 

 少し迷った灯織はちょっとだけ唸った後、すぐに頷いた。

 

「あ、でも男の子と会うならシャワーくらい浴びたいかも」

「大丈夫だって。スプレーしておけば」

 

 そのまま二人で事務所を出た。

 

 ×××

 

「真央ー!」

 

 声を掛けた直後だ。改札前にいる男の子にしては背が低い少年は、邪悪そうで不敵な笑みを浮かべると、渋い声を無理やり絞り出して告げた。

 

「きたか、めぐる」

「きたよー」

「おい、みんな‼︎ 飲むぞっ‼︎ 宴だァっ‼︎」

 

 すぐにピンと来た。ここ、久方ぶりにシャンクスが出たシーンだ。ならば乗るしかない。

 

「飲むってあんた今、飲みすぎて苦しんでた所じゃねェか‼︎」

「ばかやろっ‼︎ こんな楽しい日に飲まずにいられるか‼︎ 鷹の目、お前も飲んでけ‼︎ なっ‼︎」

 

 最後のは灯織に向けて言いながら、オ○ナミンCを手渡した2本持っていて、もう1本はめぐるに渡す。

 

「あ、ありがとう……?」

「買っておいてくれたの?」

「いや家にいるもんだと思ってたから、わざわざここまで呼び出して何も用意しないのは悪いなって思ってたんだけど……まさかのホームから来るとは。2人で遊んでたの?」

「あ、あー……うん。そんなとこ」

「ていうか、それならもう一本、日吉くんのなんじゃ……」

「いや、すぐ帰るから気にすんな」

 

 意外とそういう空気読める奴なのだ。空気読まずにワンピースネタをぶっ込んで来る癖にこういうとこあるから、絡んでいて全く疲れない。

 

「でも、風野来ると思ってなかったから、何も用意してないんだけど……」

「? 何もって?」

「いや、これ八宮に渡そうと思ってて」

 

 そう言うと、コホンと真央は咳払いする。そして……腕を組んでまっすぐな目をしてめぐるを見据えて言った。

 

「レアリティはパラレル、種類はリーダー、青属性現状最強のナミ。うちは大した店って言うか店でさえねェが、これが俺の最高のカードだ。金はいい、もらってやってくれ‼︎」

 

 そう言いながら差し出されたのは、一枚のワンピースカード。裏面は赤色。受け取って表に返すと……そこには、白黒で髪だけオレンジに塗られたナミが描かれていた。

 

「わっ……か、カッコ良い! くれるの⁉︎」

「もらってやってくれ‼︎(2回目)」

「ありがとー!」

「えっ、い、いや待った待った!」

 

 慌てて灯織が間に入る。その表情はやけに焦っていた。

 

「どうしたの?」

「これ……!」

「風野」

 

 何か言おうとした灯織だが、それを真央が止める。その眼光は心なしか少し鋭く見えた。

 

「? どうしたの?」

「や、なんでもない。うちに余ってた奴だから遠慮するな。青ナミデッキ作るって言ってたからあげるだけだし」

「ありがと。いやー、真央超良い奴だねー。ね? 灯織?」

 

 さっきは警戒していたが、これを見ればその限りでもないだろう……と、思ったのだが、なんかやたらと焦っている様子だ。

 その灯織に、真央は続いて言った。

 

「風野も、組みたいデッキがあったら言えよ。うちにカードだいぶ余ってるから、あげられる奴はあげる」

「う、うん。考えとく」

 

 それだけ話すと、真央はそのままホームの方へ歩き始める。

 

「じゃあ、俺もう行くから」

「うん。また明日、学校でね」

「じ、じゃあね……」

「また逢おうぜ‼︎ クソ野郎ども‼︎」

 

 そのまま走って駅の方向へ行く真央の背中を眺めながら……もう一度、カードの絵柄を見る。リーダーパラレルのナミ……カッコ良いし可愛い。これは本当にデッキを作るしかない。

 

「……なんで今なんだろ。カードくらい学校で渡せば良いのに」

 

 相変わらず変な人……と言わんばかりのことを呟きながらも、とりあえず今は喜んでおく。

 

「えへへー、早く組まないとなーデッキ」

「じゃないよ、めぐる! 何かお礼しないと!」

「? 何を?」

「リーダーパラレルはすごく高いの! めぐるや私が持ってるスターターデッキがいくつも買えるくらいの金額するんだから!」

「いやいや、でもカードだよ? 大袈裟だって」

「論より証拠! 調べてみて!」

 

 言われて、めぐるは仕方なさそうにスマホを取り出す。「ナミ、リーダーパラレル、値段」で検索……してみると、思わず固まってしまった。

 トップに出てきたのは駿○屋のお値段。8640円と書かれている。

 

「……えっ」

「い、言ったでしょ⁉︎」

「い、いやいやいや、まさかでしょ。だってこれ……カードだよ? このサイトがアレなんじゃないの?」

「じゃあ他の!」

 

 続いて、メルカリ。お値段、9000円。

 

「上がった⁉︎」

「ほら、ヤバいってば……!」

「他!」

 

 慌てて別のサイト。今度は7870円……などなど、いくら探しても最低6000円のものしかない。

 これだけ高額なカード……仮に、本当に青ナミのデッキを組んでいなくて使っていなかったとしても、真央ならコレクション目的で集めていたりもするはず。

 ……つまり、余っているわけがないのだ。

 

「……明日、お礼言いな?」

「うん。そうする。ハグもする」

「いや、ハグはやめな?」

 

 そんなことを言いながら、とりあえず2人でめぐるの家に向かった。

 

 



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天然男より女の方が罪深い。

 何で学校にわざわざ持ってきたのか、とか、その辺の諸々の事情は何となく察した。盗られる可能性があるからだ。今の時代、カードゲームのカードはなぜかやたらと高い。希少度が高いのは分かるが、そこまで欲しがるものなのだろうか? 

 だってこれ……ワンピースカード以外の用途がない。それなのに何故、そこまで高額になり、それを買う人間が出て来るのか。

 何にしても……とりあえず、今日することは一つだ。

 

「何でこんな高いカードくれたの⁉︎」

「えっ、一緒にやりたいから」

「そうじゃなくて!」

 

 一応、盗難の恐れがあるので家の引き出しの中にしまっておいたが、思わずヒョウゾウのミニフィギュアが置いてある机の主を問い詰めてしまった。

 

「え、てか何。値段調べたの? 売る気? 殴るよ? 天竜人みたいに」

「う、売れるわけないでしょ⁉︎ 値段は、その……灯織が高いこと知ってて、調べちゃった……」

「お前にやったんだから大事にしろよマジで」

「そうじゃなくて! いやするけど!」

 

 傷もつけたくないし折ったりもしたくない。そのためには、何物からの干渉を受けない場所に置いておくしかない。

 というか、そんなことよりも聞きたいことは別にある。

 

「なんでくれたの⁉︎ あれ別に余ってたってわけじゃないでしょ!」

「いや使ってないし。一回、青ナミ作ったけど動かすの難しくてやめちゃったんだよね。ワンピースのゲームなのにあんま戦わないし」

「いや使ってなくてもさ……こう、コレクションとかもしてるんでしょ?」

「まぁな」

「じゃあ……」

「え、なに。いらないの?」

「そ、そんなことないけど……高いものだし、申し訳ないよ……」

 

 分からない人だな……と、思ったのだが、こっちも分からない。何で意外そうな顔をしているのか。

 

「え、申し訳ないの? 貰えるもんは貰うものでは?」

「いや程度があるよ! 流石に8000円もするものは……」

「でもほら、カードってカードゲームで使われるもんじゃん? せっかくのパラレルなのに、使わないのも勿体無いでしょ」

「……それは、まぁ……?」

「流石に俺も知らない人が相手ならあげないでコレクションするけど、高校で初めて出来た友達の八宮なら良いかなって思ったんだ」

「……」

 

 ……ちょっとキュンとした。いや、別に好きになったとかではないが、こういう直球な表現は好きだ。

 

「テメェに効率良くあの女を使えるか⁉︎」

「……」

 

 すぐワンピースごっこに戻ってしまって台無しだった。まぁ……それなら使わせてもらおう。

 

「ありがと。じゃあ……もらうね?」

「え? ナミをもらう時はなんて言うの?」

「……ナミ‼︎ お前は俺の仲間だ‼︎」

「はい、合格」

 

 何にしても、お礼がしたい。よくよく考えれば、めぐるにとっての高校初めての友達だって真央だ。ならば、やはりここは友達の証しをしなければならない。

 そう思い、真央の机を挟んで一気にハグをした。

 

「ほんとにありがとね、真央ー!」

「ふぇっ」

 

 そのままぎゅーっとしばらくしがみついた後、離れる。挨拶だしそんな長くしても仕方ない。

 離れてから顔を見ると……真央は少し顔を赤くして目を丸くしていた。あれ、と意外な反応に小首を傾げる。照れてる? ……いや、それはない。この子、情緒死んでいるはずだし。多分、暑いのだろう。

 

「真央? 顔赤いよ? 熱ある?」

「や、ない。ないから。別に平気。大丈夫。全然大丈夫。モーマンタイ。何の問題もございません」

 

 大丈夫ならよかった。

 とりあえず、そろそろ先生が来そうなので席に戻る。これで、次にワンピースカードやる時がさらに楽しみになった。

 ……そうだ。せっかく仲良くなれたし、何かもう少し友達っぽくなりたい。ハグもしたし、連絡先は初日に交換したし……と、そこで思いついた。

 

「ね、真央」

「え? 何? 全然平気。ルフィだってハンコックとハグしてたし、ゾロだってたしぎを担いでたし、ローだって女になってたし、このくらいガチで大丈夫。何の問題もございません」

「? 何の話?」

「ワンピース」

「じゃあ一旦、置いといて一つだけお願いして良い?」

 

 それだけ聞いておきながらも確認は取らずにそのまま言った。

 

「私のこと、めぐるって呼んでくれない?」

「ーっ……わ、分かった。めっ……メイナードさん」

「いやめぐる」

「めっ……メガロ」

「めーぐーるー!」

 

 なんか顔を赤くしたまま顔を逸らされる。こいつ、無視するつもりか。ちょっと許せなかったので、立ち上がって両頬は手を伸ばす。

 

「私だって下の名前で呼んでるんだから良いでしょー⁉︎」

「め、メリー」

「めぐるだっては!」

「めっ……メロメロ甘風」

「なんでそんなに頑なに無視するの!」

 

 名前を呼んでくれるまで肩を掴んでゆすったが、呼んでくれなかった。

 

 ×××

 

「……っていう事があったんだけど、それ以来、今日なんかずっと真央が私に対してマントラ使ってるみたいに避けてきてさー」

「ほわっ……そ、そうなんだ。なんでだろうね?」

 

 いや、ハグしたからでしょ、と灯織はその会話を聞きながらため息を漏らす。レッスンが始まる前の時間、思わず呆れてしまう。昨日、ハグはやめておけと言ったのに……。

 だが、ちょっと灯織としても肩を落としてしまう。一目瞭然の事実とはいえ、灯織には向こうからハグをして来た癖に……これはつまり、やはり胸の大きさだろう。

 むすっとしてしまったので、フォローはやめておいた。

 

「ていうか、マントラって流行ってるのかな。灯織もやってたよね」

「私は最近、紙絵も使うようにしてる」

「何それ?」

「早く45まで読んで」

 

 父親が買ってくれるようになり、一ヶ月ちょい。灯織の家には60巻までのワンピースがある。誰にも言っていないが、エースが死亡したところで灯織も泣いた。

 

「灯織、もうそんな先まで読んだんだー。良いなー」

「お父さんがたまに買ってきてくれるから……」

「私は真央の家に行かないと読めないからさー」

「えっ」

 

 それを聞いて思わず声が漏れた。今、家って言った? と言わんばかりに。

 

「待って、向こうの家にも行ってるの?」

「うん。単行本読ませてもらいに、たまに」

「たまにってどれくらい?」

「まだ2回しか行ってないけど?」

 

 いや、4月からの付き合いで既に2回も行ってれば十分だろう。灯織自身も実感させられているが、ちょっとめぐるの距離の詰め方は凄すぎる。ギア2の如き速さだ。

 

「良いなぁ、めぐるちゃん。真央くんと仲良しなんだ」

「うん。うちの高校で最初の友達だからね」

「私も、行ったら漫画読ませてくれるかな?」

「くれるんじゃない? 今度行ってみる?」

「いやいや、待って待って」

 

 慌てて灯織は止める。真乃まで何を言い出すのか。

 

「ダメだって。男の子の部屋に簡単に遊びに行ったら」

「なんで?」

「いやなんでって……」

「ていうか、すごいんだよ。真央の部屋。ワンピースのフィギュアたくさんあって。むしろ2人に見てもらいたいもん」

「えっ、わ、私も?」

 

 ヤバい、巻き込まれる気配がする。これでは2人を抑制させるどころの騒ぎではない。

 

「どんなフィギュア? ピーちゃんのフィギュアはあった?」

「マルコいたよー。しかも、メガネかけてた」

「へ〜……良いなぁ、見てみたい」

「今思うと結構、知ってるキャラいたから面白いのかも。ていうか、私ももっと漫画買おうかなー。でもカードやってるしなー」

 

 どんどん話が進んでしまう。どうしたものか、少し悩んだ。あの子、割と変な人だけど、今のめぐるの話で「それでも男の子」であることは分かってしまった。

 変なことにならなければ良いけど……と、思う中、めぐるは真乃に聞いた。

 

「そういえば、真乃はどうするの? デッキ」

「うーん……考え中。ピーちゃんのデッキ組みたいんだけど、まだピーちゃんが戦う所まで原作見てないから、その後にしたいなって」

「あーそっかー。そういうの割と大事だよねー」

「灯織ちゃんは何のデッキ作るの?」

「えっ?」

 

 正直、まぁ割と何でも良い。ワンピース語りをする少年と出会うために強くなろうとして既に出会ってしまったから、頑張る理由は特にない……とはいえ、まぁこの前は楽しかった。

 ワンピースカードは真乃とめぐるとも対戦したが、これが中々に戦略が大事になって来て面白い。で、肝心の戦闘はパワーアップの脳筋なのだからワンピース感もちゃんとある。

 だから……まぁ、デッキは普通に作る。

 

「私は……そうだな。まだ考え中かな」

 

 本当なら青紫カイドウとか考えていたのだが、決めあぐねている。何にしたら良いのかはもう少し後で良いだろう。

 

「灯織は、この前のシャンクスで良いんじゃない? 2デッキ買って枚数揃えれば強いじゃん」

「いや、作るならもう少し考えないと……結構、いらないカード入ってるし」

「え、そうなの? この前はあんまりそんな感じしなかったけど……」

 

 それはそうだ。使わないカードを頭の中で断捨離し、それらはカウンター要員にするだけ。そもそも、パワー4000以下で効果がないカードなんて使ってもドン‼︎がないとダメージも与えられないのだから、出しても無駄なのだ。

 そんなカードはカウンターに使い、必要なカードとその効果でコストを切るのが基礎と見た。

 まぁ、つまり大したことはしていない。頭を使っているだけ。

 

「それは、考えてプレイしてるだけ」

「か、考えてなくて悪かったね!」

「え? あ……い、いやそんなつもりじゃ……」

「真乃〜……灯織がいじめるよ〜……」

「よ、よしよし」

 

 真乃に甘え始めてしまった。というか、真乃に甘えるのは純粋に羨ましい。不思議なもので、灯織も真乃には後ろから飛びつきたくなるくらい距離が近くても問題がない。

 そんな中、ふと灯織の脳裏に浮かんだのは、ワンピースの45巻。ウソップと麦わらの一味の出来事だ。

 

『ごめ────ーん‼︎』

『今更みっともねェんだけども‼︎‼︎』

『もう一度……‼︎ おれを仲間に入れてくれェ‼︎‼︎』

 

 そう、いくら意地を張ろうとも、恥ずかしがろうとも、自分からいかないと望みは果たせないのだ。

 ならば当然、灯織も……素直にならなければならない。

 

「ま、真乃ー!」

「ほわっ……そろそろ時間だね」

「むぎゅっ⁉︎」

「はれ……?」

 

 レッスンの刻限が近くなり、真乃が動いたことでその隣のめぐるに抱きついてしまった。

 当然、元々ハグをしたがりだっためぐるにしてみれば、むしろ灯織からしてきてくれたような感覚であって。

 

「っ、ひ、灯織ー! 私も灯織とハグしたかったー!」

「い、いや違っ……もぎゅっ!」

 

 もみくちゃにされた。

 しかし……このめぐるの様々な柔らかさ。女性でさえ少しドキッとするのに、これを日常的に男子が受けたらどうなってしまうのだろうか? 

 少し、真央が心配になりながらも、そのままレッスンを受けた。

 

 ×××

 

 翌日、いよいよカードを買いに行く日となった。つまり、今日でめぐるの青ナミデッキを50枚揃えるつもりで来た。

 真央の案内で池袋のカードショップに到着し、めぐるは二人で中に入ろうとする。

 

「さ、行こ? 真央」

「剃」

「……」

 

 手を繋いで引っ張ろうとしたら、避けられた。超反応で。灯織と言い、そんなに自分は距離が近いのだろうか? と少し迷ってしまう、

 でも、もしかしたら日本では近いのかも、と思うと、少し遠慮しようかな、なんて思ってしまう。

 ひとまず、改めて中に入った。この建物の7階らしい。なんかちょっと古い建物で、エレベーターなんて狭いし少し変な臭いがする。

 途中で止まったりしそうな気がするエレベーターで上に上がった後、目的のフロアに到着して中を見ると……。

 

「おお……すごっ……!」

 

 その光景を見て、思わず声を漏らす。カードが薄いケースに入って、大量に並んでいた。まるで本屋のようにカードが並んでいた。

 

「カード屋って……こんな感じなんだ……なんか、THE・CARD SHOPって感じだね」

「うお、ネイティブ。英語上手っ。金髪不良の癖に」

「私の金髪は不良じゃなくてハーフだからだよ!」

「えっ、そうなの? ギャルじゃないの?」

「違うわー!」

 

 何だこの子、失礼だ。いや、金髪ギャルならば事務所に1人いた気がしたが。

 ていうか、自分がギャルかどうかなどどうでも良い。それよりも、カードの事だ。

 

「よーっし、じゃあ青ナミに使うカードはどのパックなの?」

「いや、パック買うの?」

「えっ、買わないの?」

「デッキを安く作るなら、バラで全部買った方が良いよ。てか俺そのつもりだったんだけど」

「えっ……デッキってパックから作るんでしょ?」

「まぁそうなんだけど……例えば、欲しいカード1枚、当たるか当たらないかわからない中身ランダムのパックを買うより、ちょい高くても一枚をピンポイントで買った方が安く済むっしょ? そういうこと」

「あー……」

 

 なるほど、と理解した。確かに一つのデッキを組むのならば、その方が安く済むのかもしれない、が……それはそれで少し抵抗がある。

 

「えー……でも、一回パック買ってみたいなー」

「ていうか、俺みたいなガチ勢じゃないとパックは勿体無いよ」

「? どういうこと?」

「結局な、1パックじゃ大したもん当たらないんだよ。SR1枚確定で当たるんけでもないのに、そのSRも組むデッキに入れるカードとは限らない。それがデッキには最低でも2枚、最多で4枚必須。1ボックスに大体、SR4枚にパラレル1枚は確定とはいえ、それも使うカードであるかは不明。それなら……まぁ、普通はバラでみんな買うよね」

「い、意外と計算してる……」

 

 この子、賢いのかバカなのか分からない。本当に不思議な奴だ。

 

「じゃあ……真央は買わないの? パック」

「いや? 買うけど?」

「え?」

「確率が低かろうが、引いてみせるのが浪漫だろうが」

「……」

 

 ……やっぱりバカだ。そこまで考えておきながら、それでもパックを買おうとするなんて……。

 

「じゃあ、私も1パックだけ買ってみたいな」

「いや、1パックはマジで無駄だって。買うならボックスにしな」

「ボックス?」

「ワンピカードの場合は1ボックス24パックでSR3〜4枚入ってるから確定で手に入るけど、1パックだと1/24の可能性でしか手に入らないから勿体無いよ」

「ロマン!」

「いや上げられる可能性は上げろよ……人の夢を語りつつもヤミヤミの実を手に入れる確率上げるために白ひげの船に乗ってたティーチの計算高さを見習えバカめ」

 

 ……それはまぁそうかも……と、思い、仕方ないのでめぐるはため息をついた。

 

「分かったよ……ていうか、1ボックスっていくら?」

「青ナミのパック買うなら5280円」

「うぇっ⁉︎ い、意外とする⁉︎」

「そりゃするよ。1パック220円だし」

「ていうかそれより高いナミのパラレルって何なの⁉︎」

「カートンで買っても手に入るとは限らないカードだからな。確実に手に入れるなら6000〜8000円くらい安いもんだろ」

「……」

 

 カードゲーマー怖い、と思わないでもない。それと同時に、そんな貴重なものをくれた目の前の少年には改めて感謝しなければならない。その感謝を伝える一番の方法は、やはり強力なナミデッキを作ることだろう。

 

「私、頑張るからね!」

「おう。まぁ、箱を買うなら多分、ここ売ってないよ」

「え?」

「ワンピースカード人気だから、パックなんて滅多に売ってねーのよ。……あ、ほら。売り切れだって」

 

 そう言いながら、真央は新品のカードパックの見本が下がっている場所を指差す。

 

「……そ、そんなに買えないの……?」

「見ての通りだろ。カードショップに来ると世の中不景気とかちょっと信じらんないよね」

「そ、そうだね……」

 

 なんかもう今日は色々とカルチャーショックが凄すぎる。日本に住んでいるのに日本との文化の違いを味合わされている気分だった。

 

「一応、調べてみるけど、多分新品の箱は無……あ」

 

 そう呟きながら真央はスマホをいじりつつ、声を漏らす。そして、何を思ったのか、スマホをポケットにしまってめぐるの方に歩いてくる。

 

「っ、ど、どうしたの?」

「来い」

「え、いや、あの……」

「良いから」

 

 ぐいっと腕を掴まれて引っ張られる。て言うか、意外と男の子だからか力強い。決して体幹が弱いわけではないめぐるが引っ張られてしまう。

 少し驚かされたが、エレベーターに乗った時点で手を離されたのでめぐるもちょっとだけ一息つく。

 

「ど、どうしたの?」

「ワンピースカード公式ショップで、強大な敵売ってる」

「分かるの?」

「サイト調べりゃ一発」

 

 そう言いながらスマホを見せてくれる。ブースターパック第一弾である「ROMANCE DAWN」と第二弾の「頂上決戦」には線入っているのに第三弾の「強大な敵」には入っていない。つまり、あると言うことだ。

 

「急ごう。いつ無くなるか分からない」

「う、うん……あの、そんなにシビアなの?」

「バッカお前、俺でも調べられるってことは他の奴らでも調べられることなんだよ。お宝の噂を聞きつけて海賊万博に集まった超新星達の激戦を忘れたのかお前」

「まだその話見てない」

「ごめん」

 

 まぁでも、とにかく急ぐ必要があるのは分かった。1Fに到着した直後、めぐるは走り出す。

 

「よし、行こう!」

「っ、お、おう……⁉︎」

 

 それに合わせて真央も走り出した。人混みを華麗に避けて公式ショップに向かう。前、デッキを買いに行って良かった。道が分かる。

 まるで、バスケの試合中のように人を避けて走る中、エスカレーターに到着。

 

「ふぅ……」

「お前……店内では走るなよ……?」

「あ、うん……流石に分かってる」

 

 ていうか、今のを普通についてきた真央ももしかしたら運動とか得意なのかもしれない。

 

「あの、真央って運動得意なの?」

「身体は鍛えてるよ。いつルフィからスカウトされても良いように」

「そ、そうなんだ……」

 

 まぁ、目的は何にしても身体を鍛えるのは良い事だ。じゃあ……もしかしたら、ワンピースカード以外でも一緒に遊んだりできるかも? バスケでもテニスでも、めぐるはスポーツが好きだ。

 

「じゃあ、バスケとかする?」

「いやー、球技は苦手なんだよね。運動神経は昔から悪くて。小学生に陸上競技大会ってイベントあったんだけど、ハードル走で足引っ掛けて顔から転んで目の下に傷痕残ったくらいだから」

「えっ、だ、大丈夫だったの⁉︎ ……ていうか、傷痕何処?」

「ほらここ」

「あ、ほんとだ。今気付いた。……ルフィみたい」

「カッコ良いでしょ」

「うん……いや、怪我の痕は自慢しちゃダメだよ!」

 

 この子はどこまでワンピースが好きなのか。あとルフィがそこを怪我した理由は自分で傷をつけたものなので、そこも色々と違う。

 さて、そのまま店内を移動し、公式ショップに到着。割と列が出来ていた。7メートルほど。レジの後ろには強大な敵の箱が大量に置かれている。

 

「空いてるな。並ぼう」

「空いてるの⁉︎」

「酷い時はもっと混んでるから。ラッキーと思っとけ」

 

 それだけ言いながら列に並んだ。

 

 ×××

 

 さて、買えたので今日はそのまま帰宅。めぐるの家に2人で集まる。

 部屋に入ると、そのまま床に座って箱を真ん中に置く。ちなみに、真央はお金がなくて買えなかった。まぁそもそも今必要なカードがあるわけでもないのだろうが。

 

「よし、開けよう!」

「ハサミ用意した方が良いよ」

「? なんで? 切れ込み入ってるよ?」

「それに沿って開けるとたまにカード曲がるから。上を切ってスルッと中身を抜いた方が良い」

「なるほど……」

 

 との事で、ハサミを用意した。初めてのカードゲームで、初めての箱買い。なんかちょっと緊張してきた。

 

「出てきたカードに関しては俺が説明するから。青ナミに必要カードも教えてやる」

「ありがと」

 

 箱を開けて、大量のパックを出す。……ちょっと開けるのゴミの処理が面倒くさそうだが……まぁなんとかなるだろう。

 さて、早速1パック目。上部を切り、中をぬるりと取り出す。

 

「……アルビダ、ストライカー、キウイ&モズ、メリー……あ、ドン‼︎カードも入ってるんだ」

「それがマジ邪魔。流石に邪魔」

「あ、あはは……お、最後なんか光ってる。イゾウ?」

「イゾウは白ひげデッキかエースデッキに必須級の強さだな。サーチだから欲しいカード取れる」

「な、なるほど……あ、青のメリーは?」

「いらない」

「そ、そっか……」

 

 記念すべき1パック目は、思ったよりパッとしなかった。

 さて、そのまま二人で開け続ける。カードが出るたびに真央は説明してくれた。

 

「あ、カヤ」

「これは青ナミに必須。クソ強いからとっとけよ」

「ウソップ輪ゴム! これアーロンパークのとこだよね? 使いたいなー」

「実際クソ強いから。これも大事」

「おっ、SR! しかもウソップじゃん!」

「あー、残念だけどあんま使われない。ていうか青ナミあんまSR入れねーからなぁ」

「カヤ2枚目!」

「ラッキーじゃん。そいつバラでも400円くらいするからそいつ」

「わっ、何このドン‼︎カード。なんか光ってる……てかサンジのとこじゃん⁉︎」

「ドン‼︎カードのパラレルだな。それは1ボックスに1枚必ず入ってる。ちなみに、第一弾のドン‼︎カードはルフィが出航するとこだよ」

「えー! ほしい!」

 

 パックを開ければ開けるほど、わくわくが広がってしまう。カードゲームのパック開封って、なんかすごくドキドキしてしまうものだ。次は何が出るかな、なんてウキウキだ。

 結構、青ナミデッキに入るカードも多く出たし、結果は上々と言えるだろう。

 そんな中、真央が声を漏らした。

 

「まだパラレル出てねーな」

「? パラレル? ……あ、くれたナミみたいな?」

「そう。絵柄が違うカード」

 

 そういえばそんなのがあるらしい。

 

「リーダー以外にもパラレルあるの?」

「あるよ。Rでも火拳とか超カッコ良いし」

「ほえ〜……それは1ボックスに確定?」

「うん。1枚は入ってる。ドン‼︎カードは別枠」

「なるほどね」

 

 そんなことを話しながら、次のパックを開けた時だった。なんか最後のカードだけ光り方が違うな、とちらっと見えた時から思っていた。

 中を見てみると、SRのようで派手に光っている「マルコ」のカード。赤属性のはずだけど青い部分が多過ぎて微妙に属性がわからない……と、思う中、目の前の真央から大声が漏れた。

 

「ウェッ⁉︎」

「ど、どうしたのっ? 急に奇声あげて……!」

「そ、それっ……ま、マルコのパラレル……!」

「? すごいの?」

「マルコのスーパーレアはこのパックでカタクリの次に当たりだわ! いや、リーダーの強さ的にはむしろマルコの方が当たりなまであるし!」

 

 言われて効果を読んでみる。『【自分のターン中】【登場時】相手のパワー3000以下のキャラ1枚までを、KOする。【KO時】自分の手札からイベント1枚を捨てることができる:このキャラカードをトラッシュからレストで登場させる』らしい。

 

「えーっと……強いの?」

「バッカお前、こいついきなり出てきて敵キャラぶち殺す癖にパワー6000とかいうギリギリリーダーのパワー超えてる火力ある上に殺されても死なねーんだぞ? クソほど厄介だわ!」

「へー……」

 

 知識が足りなくてピンと来ない。でも、真央がそう言うならそうなのだろう。そんなカードのパラレルなのだから高いのも間違いない。

 

「……ちなみに、真央はこれ持ってるの?」

「や、持ってない。一枚は確保しときたいし、何ならそいつのためにいまだに強大な敵を買ってるまである」

「じゃあ……いる?」

「え?」

 

 声をかけてみると、真央はポカンとしてしまう。

 

「いやいやいや、ダメだろ。それカード屋で4000円くらいするぞ」

「もっと高いナミのパラレルくれたじゃん。もし気を使っちゃうなら、真央の普通のマルコと交換」

「……ホントに良いの?」

「もちろん」

 

 今のところ白ひげデッキを組むつもりはないし、コレクターでもない。……何より、めぐるにとっても高校初めての友達のためなのだから、もらって欲しい。

 すると、真央は少し悩んだ後……何故かとても苦渋の決断を下しているかのように思い悩んだような顔になる。

 

「…………そ、それ、お前にとって初めてのパラレルだろうが……やはり、もらえねーよ」

「いやそんな顔して言われても……それに、私にとっても真央は高校初めての友達だから」

「……」

 

 にっこり微笑んで言うと、真央は少し頬を赤らめる。そして、目を逸らすと無言で自分の鞄からデッキケースを取り出し、白ひげデッキからマルコのスーパーレアを抜いた。

 

「あ、ありがとう」

「ううん。ナミのお返し」

 

 そう言いながら交換を終える。すぐにマルコのパラレルをスリーブにしまう真央。気を遣ってくれるのは結構だけど、態度はとっても素直で素早い。もはや可愛いまである。

 めぐるもスリーブにマルコをしまい、これは永久保存だな、なんて思いながら机のどこに飾ろうかなーなんて考えている時だった。

 

「…………めぐる」

「え?」

「…………」

 

 今、名前を呼ばれた気がする……と、顔を向けると、真央は顔を赤くしたまま目をそっぽに向けている。

 うん……呼んだ。バチクソ照れているけど間違いない。なんか名前で呼んでくれたってだけでやたらと嬉しくなって、つい思いっきり飛びついてしまった。

 

「真央ー!」

「っ、ばっ……やめっ……!」

「やめなーい!」

 

 そのまま真央を締め付けるようにハグを続けた。

 

 



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時間を忘れる時間が一番楽しい。

「うーん……終わったー、W7……!」

 

 そう言いながら伸びをするのはめぐるだった。真央の部屋でワンピースの45巻を読み終えて、ベッドにひっくり返る。ほとんど漫喫の代わりのように使ってしまっているのは申し訳ないが、でも高校生に今からワンピース全巻買うお金はないので、やはりお言葉に甘えるしかない。

 

「どうだった?」

「すっごく面白かった! ヤバいね、ロビンの過去。ていうかバスターコールって、卑劣にも程があるでしょ!」

「そうな。海軍のほとんどに人の心なんてないから」

「こういうの読んじゃうと、益々海軍デッキ使うの嫌になるんだよなぁ……」

「でも、海軍にだって良い奴いるっしょ? ガープ、クザン、スモーカー、たしぎ、コビー、ヘルメッポ」

「まぁねー」

 

 それはその通り。でも……やっぱり麦わらの一味がメインで話が進んでいくし、総合的に見ると海軍も世界政府も「なんかやだな」と思ってしまう。

 そんな中、真央は少し真剣な顔で腕を組み、じろりと自分を見る。

 

「時に、めぐる」

「何?」

「そろそろ聞いても良い頃合いだと思うが……お前、ワンピースの推しキャラ出来た?」

「……ああ〜」

 

 言われて、めぐるも腕を噛む。推しキャラ、と呼ばれると難しい。要するに一番好きなキャラクターという事なのだろうが……誰だろうか? 

 

「やっぱり……ナミ?」

「あー、やっぱお前はそうか」

「だって可愛いもん。村の人達のためにコツコツとお金を貯めたりする所とか、アラバスタやエニエスロビーで仲間の為に強敵と身体を張って戦う所とか……なんかもう、色々と好き」

 

 そう言えば、真乃のデッキのナミは少し外見が違った気がする。あれも、おそらく2年後と言うものなのだろう。ネタバレな気もするし、触れないでおこう。

 

「髪型、ナミみたいにしてみようかな……髪とか染めて」

「いやいや、それはやめとけよ。めぐるは今の髪型で良いだろ」

「えっ」

 

 なんか思わぬセリフが飛んできて、少しドキッとしてしまった。なんだろう、今の真央らしからぬ発言……。

 

「そ、そう?」

「うん。その金髪、ナミさんが大好き、足が速い……と、ずっとサンジみたいな感じでいてくれ」

「ああ……やっぱりワンピース……」

 

 まぁ分かっていたことだ。この男の子は基本的にワンピースと合わせないと次に進めない。

 

「でも、私料理できないよ」

「サンジを名乗るのはやめろ、このパチモンめ」

「何でそんな言い草⁉︎」

「髪の毛とかマリモで良いんじゃない?」

「絶対に金髪のまま変えてやるもんかー!」

 

 やはり、基本的には失礼だ。この野郎。て言うか、逆に気になるのはそっちだ。

 

「真央のほうこそ。推しは誰なの?」

「ルフィ」

「えっ?」

「なんだよ?」

 

 ちょっと意外な話だった。いや、主人公だし、その分描写も多いし、何よりカッコ良いから分からなくもないけれど……。

 

「オタクってもっとマニアックなキャラをあげるものだと思ってたから……」

「ああ、ガノタでいう『ガンダムが好きな奴は全員にわか』みたいな?」

「うん」

「いやそんな奴らと一緒にされてもな……だって、あの世界で一番カッコ良いじゃん」

 

 まぁ、確かにルフィの言葉や行動で救われた人間が何人いるか分かったものではない。

 

「……ま、まぁそうだね。たまに最近、学校でワンピースの話を他の男子からされるんだけどさ、みんな『俺はカクが好き』とか『ブードルが好き』とか『ビスタが良い』とか『人間オークション会場にいた巨人が好き』とか言ってて……いや、分かるけど絶対、一番じゃないじゃん?」

「まぁ……そうね。好きなキャラなら名前くらい覚えとけよな」

 

 話が盛り上がらないのだ。そんな掘り下げがあまりされていないキャラの名前を出されても。

 

「ていうか、他の奴とも話すんだ。ワンピースのこと」

「うん。なんかたまに」

「まぁ……俺ら結構、ワンピースオタクなこと周りに知られてるからな」

「真央が机に誕生日のキャラのフィギュアを飾るからでしょ」

「祝わないと」

 

 ……いや、まぁそう言われるとそうなのだが。ちなみに、今日はウーシーのミニフィギュアが飾ってあった。

 

「ちなみに、ナミの誕生日っていつなの?」

「7月3日。ナ(7)ミ(3)で」

「あ、私と近い! 私、7月22日!」

「へー。ナミどころかプラリネと同じじゃん」

「な、ナミと近いで良いの! ていうかなんでそんなスッと出てくるの誕生日⁉︎」

 

 この人の頭の辞書おかしい。本当に賢いのだろう。

 そのまま2人でのんびりとワンピース談義で盛り上がった。

 

 ×××

 

 その日の夜、真央は寝る前にエニエスロビー編を読み直していた。

 なんか……今更思った。そういえば女の子どころか誰かが自分の部屋に来てワンピースの話をするのなんて初めてだ。誰に勧めても「ワンピース長いから読んでない」とか「いや1から読むのしんどい」って言われて断られてたから。

 ……なんだろう。このちょっと気恥ずかしい感じ。ついベッドの上に放置されていたエニエスロビー編を読んでしまっていたが、今の自分は昼頃のめぐると同じことしてるんだな、なんて思ってしまったり。

 

「……何このだこの変な感覚……」

 

 やめた。漫画に集中できない。

 すると、その自分のスマホが震える。メッセージは……灯織からだ。

 

 風野灯織『夜分遅くに失礼します』

 風野灯織『今、お時間大丈夫でしょうか?』

 

 ……めちゃくちゃ堅い。本当に同級生なのかさえ気になるところだ。真面目なのは知っていたが、ここまでとは思わなかった。

 とりあえず、返事を打つ。

 

 サニ吉『大丈夫だけど』

 サニ吉『何で敬語? 普通で良いよ』

 風野灯織『いや……時間もらってるわけだから』

 サニ吉『いやほんとその社会人みたいな文章やめて』

 風野灯織『分かりました』

 

 こいつ人が言おうとしていること理解してる? と思ったが、まぁただの返事かなしれないしもういい。

 それより、用事だ。

 

 風野灯織『実は、まだワンピースカードで組みたいデッキが決まっていません』

 風野灯織『どうしたら良いですか?』

 

 それを自分に相談されても困る。灯織自身が組みたいデッキを考えれば良いだろうに……。

 だが、せっかくのワンピースカード仲間だ。乗らない手はない。さらに、最初に作るデッキは真央も悩ん……いや、悩んではいない。最初はルフィのデッキを組むとすぐに決めた。

 

 サニ吉『前は紫のデッキ作ろうてしてなかったか?』

 風野灯織『うん』

 

 その後、しばらく返信が途切れる。もしかしてこっちの返事待ち? と思って何を返そうか考えていると、灯織からすごい長文が来た。

 

 風野灯織『でも、もう目的だったあなたに出会えた以上、強いデッキより知っているキャラクターのデッキを組みたいと考え直すようになりました。しかし、カイドウもキングもマゼランもゼットもアイスバーグもシャンクスもなんかピンと来ない。一応、63巻まで読んだんだけど、知っているキャラはマゼランとアイスバーグは知ってるけどあまりデッキを組むって感じにならないし、シャンクスの効果もfilm限定だからまだ映画に手を出せていない私としては敬遠してしまいます。どうしたら良いでしょうか?』

 

 ……いや、マジで好きにしろよ、と強く思う。少なくとも他人に決めてもらうことではない。迷うのは分からないでもないけど。

 まぁでも、紫に組みたいデッキがないのなら、それこそ他の色でも良いだろう。

 

 サニ吉『好きなデッキ組めば良いじゃん。紫以外でも』

 風野灯織『えっ、でもせっかく買ったカードなのに勿体ないよ』

 サニ吉『いや捨てろって言ってるわけじゃないから』

 サニ吉『映画を見て、filmを作りたいって思った時まで取っておけば良いでしょそんなの』

 

 別に、無駄になるわけではない。他に回せば良いだけの事なのだから。

 

 サニ吉『ていうか、推しキャラは誰なん? そいつのリーダーあるかもよ』

 

 というか、灯織の推しキャラは普通に気になる。そもそもの話が、漫画にハマるタイプに見えないので、どんなヤツが好きなのか想像もできない。

 ……いや、想像は出来るかもしれない。冷静で距離感があり、仲間想いな人が好きなイメージ……ローとか? 

 

 風野灯織『……チョッパー?』

 

 思った以上に女の子っぽいものを好んでいた。そして、残念ながらそのリーダーは存在しない。

 いや、落ち着け。チョッパーはいないが……チョッパーを活かすデッキならばある。

 

 サニ吉『チョッパーを活かしたデッキならあるよ。チョッパーがリーダーのデッキはないけど』

 風野灯織『誰がリーダー?』

 サニ吉『ロー』

 

 赤緑ローは強い。パワー負けはするが、脳筋ではない数少ないデッキだ。シャンブルズを活かして、波状攻撃を叩き込める。

 

 風野灯織『トラファヌガーラーのデッキ?』

 風野灯織『いや別に私ラーのこと好きなんかじゃないけれどそういうなら組んでみようかや』

 

 めっちゃ誤打しまくっていた。何をそんなに慌てることがあるのか? とも思ったが、すぐに理解した。

 チョッパーが好きなのは嘘ではないだろう。だが、本当に好きなのはむしろローの方。それが見抜かれた動揺の現れと見える。

 まぁ、正直そこはどうでも良いので、さっさと話を進める。

 

 サニ吉『風野ならロー上手く使えると思うよ。賢いし』

 風野灯織『そんなことないよ』

 風野灯織『じゃあ、ローのデッキ考えてみるね』

 サニ吉『頑張ってー。ちなみに2年後のローだから、せめてパンクハザードくらいまで読んでから作ることをお勧めする』

 風野灯織『分かった。完成したら試運転手伝ってね』

 サニ吉『うぃ』

 

 それだけ話して、チェインを切った。とりあえず、一つのデッキを作ると決めたのは良いことなのだろう。その試運転の日をのんびりと待つことにした。

 

 ×××

 

 それから二日くらい経過したある日。真央がベッドで指銃の練習をしていると、スマホが鳴り響いた。

 

「指銃‼︎ ……いや、違うな……もっとこう……ん?」

 

 早速、手に取る。灯織からの電話だった。電話とは珍しい……と、思いながら応対。ボタンをタップして耳に当てる。

 

「もしもし?」

『あ……日吉くん? ごめんね、夜に』

「いや別に平気。それよりどしたの」

『デッキ出来たから、試運転したくて。スマホのビデオ通話なら出来るんじゃないかなと思ったんだけど……』

「……ああ〜」

 

 確かに出来るかもしれない。まぁ、ものは試しだ。一回やってみよう。

 

「どうやってやんの?」

『私はスタンド買ったんだけど……あ、そっか。日吉くんないよねそんなの』

「いや、多分大丈夫」

 

 工夫すれば良い。要するにカードをやっている場面を見せれば良いのだから……こう、椅子の上にスマホを置いて、カメラの部分がはみ出るように置いて、スマホの下部に重石を相手支えれば……いける。

 そうと決まれば、床にはプレイシートを広げる。これから使うデッキは……何にしようか? 

 とりあえず、向こうにとっても強すぎても弱すぎても練習にならないと思ったので、青緑サンジデッキを選んだ。

 で、それに合わせてルフィのプレイシートを選び、床に敷く。その後で椅子を使ってスマホを設置。

 

「どう? 見えてる?」

『うん。大丈夫』

「言っとくけど、俺手加減は出来ねーよ?」

『もちろん。試運転で手加減されたら試運転にならない』

 

 よっし、ボコボコにする。と心に決める。こちらのデッキは展開力が売りのfilm麦わらデッキだが、速さはローに敵わないだろう。特に速攻持ちのゾロがクソだ。

 だが、7コストの緑ルフィの効果を活かせば、最大で3体キャラを一斉に出せる。

 その上で、3体以下なのだからサンジの効果も使える。見せてやる、環境デッキが全てではないと言うことを。

 シャッフルしながらデッキを置いた。

 

『そういえば、組んだ時に思ったんだけど……多色のリーダーはライフ4なんだね』

「じゃないと強過ぎるからな。使えるカードの幅が広がるだけでもとんでもねーもんだ」

『それは、私も思った。日吉くんが言っていた通り、結構動かしやすくて私好みのデッキかも』

「でしょ?」

 

 ローのリーダー効果が『【起動メイン】【ターン1回】②(コストエリアのドン‼を指定の数レストにできる):自分のキャラが5枚いる場合、自分のキャラ1枚を、持ち主の手札に戻し、自分の手札から、戻したキャラと異なる色のコスト5以下のキャラカード1枚までを、登場させる』というもの。

 コスト、場、手札全ての管理をする必要がある。このゲームはアタックした後にキャラを登場させたりも出来るから、自由自在にカードを入れ替えて波状攻撃を仕掛けることが出来る。

 

「来やがれ」

『行きます……!』

 

 そういえば、なんだかんだ知り合いとワンピースカードで対戦するのは初めてだ。

 

 〜30分後〜

 

「ドン‼︎5枚つけてルフィでリーサル」

『うっ……ま、負けました……』

 

 1万2千は流石に耐えられなかったらしい。ルフィの象銃がローの意識を完全にノックアウトさせた。

 

『やっぱり、ドローソースが厳しいな……手札がない状態でキャラを一掃されると次のターン困るな……もう少しカウンター積んだ方が良いかも……』

 

 ブツブツと感想を漏らす灯織。反省点が多くある様子で、顎に手を当てている様子が手に出るようにわかる。

 

『せめて1万なら耐えられたのに……手札に白滝あったから……』

 

 あッッッッッぶねェエ〜〜〜〜‼︎! と、大量の汗が顔に浮かぶ。何せ、こちらのライフも残り0。ブロッカーのルフィにドン‼︎を全部ぶち込んで殴ったので次のターンはお手上げ。マジで危なかった。

 赤緑ローは環境とはいえ、回し方が不自然な点はなかった。ここまでの精度でこのデッキを最初から操れるとか……逸材にも程がある。

 

「お、お前……本当に初めて……?」

『うん?』

「あ、そう……」

『ホントはゴードンとかも入れたいんだけどね……高くて流石に買えない』

 

 しかも、まだ強くなりやがる。だめだ、もう次やるときはサンジでは太刀打ち出来ないかもしれない。

 

『あの、何処か良くないとことかあった? いらないカードとか……』

「えっ……あ、あー……」

 

 言われても、すぐには浮かばない。なんて言えば良いのだろうか……と、今のプレイを思い返す。

 入れてもあまり旨味がないカード……と、腕を組んで悩む。いや、旨味のなさよりもコンボが止まっていたところだろう。

 

「緑のカードが少ないかな。たまに事故って手札止まってたでしょ」

『あー……うん』

 

 色が違うカードじゃないとローは入れ替えを使えない。だから、止むを得ずたまにカウンター2000枠のカードを出さざるを得なくなっていた。カウンター+2000というのは貴重なので下手に打てば損をするだけだ。

 

「あと、これは単純に回し方の話だけど、結構何をどうしてくるのかわかるから、こっちも対応しやすい」

『どういうこと?』

「いや、だからこう……『あー、こいつこのタイミングでルフィ出すなー』ってのが分かるんだよね。お前が分かりやすいと言うより、結構大会で赤緑ローとやったから経験で。お前回し方の動画とか見てるだろ」

『うっ……そ、そういうことか……』

 

 だから、こっちもわざとドン‼︎を残してガードしたり、その上で除去したり出来る。

 

『なるほど……では、もう一回良い?』

「良いけど、デッキ変えるぞ」

『うん』

 

 次は、カタクリでやろう。

 

 〜30分後〜

 

「SRローいらなくない? ブロッカーの方。アレ展開するように見えて思ったより展開しないよ」

『いや……私もそう思ったんだけど、登場時効果があるキャラを上手く動かしたくて……』

「まぁ任せるけど。攻撃特化にするならブロッカーの枠をデッキのローの方を4枚積んだ方がこっちは怠い」

『なるほど……じゃあそれでもう一回』

「ん、お、おう? またデッキ変えて良い?」

『うん』

 

 〜40分後〜

 

「いや、マジ危なかったわ。あれ、ベッジ引っ込めてくれたから助かった」

『それは私も失敗したなって思った……ブロッカーを引っ込める時は注意しないと……』

「リーダーローの効果は使わない分、ドン‼︎のレストも抑えられるから防御に回せるよ。あそこ、磁気弦にしとけばお前勝ってた説ある」

『難しいな……もう一回』

「良いだろう。いくらでもかかって来いや」

 

 〜50分後〜

 

「あー! ついに負けたー!」

『やっと一勝……やっぱり、日吉くんすごい……』

「いや、お前だよ! 俺このゲーム発売日からやってんだぞ⁉︎ 優勝経験もあるし!」

『ルフィ、最後ドン‼︎つけたのナイスでしょ。ブロッカーすり抜けで』

「あれはマジやられた。上手かった。まぁ、こんだけやれば工夫くらいするわな……」

『もう一回やろう! 今の感覚を忘れないうちに!』

「当たり前じゃん。悪いけど勝ち逃げさせねーから」

 

 〜1時間後〜

 

『……お、大人げない……』

「おれァ、白ひげだ‼︎」

『ていうか、白ひげホントに強い……素でパワー6000はズルだから……』

「グラララっ……おれァ、白ひげだ」

『分かったよ。もっかい』

「デッキ変えるから」

『ダメ。デッキ同じのでもう一回』

「ええ……同じデッキは……あ、充電ない」

『え? あっ……』

 

 そのままスマホの電源が落ちた。というか、時計を見たらもう1時を回っている。3時間ワンピースカードをやっていた。

 

「……やっべ」

 

 明日の朝も学校なのに……と、冷や汗が流れる。とりあえず、早く寝なければ……と、慌てて布団の中に入った。

 

 ×××

 

「高1の4月に三限まで遅刻するのはお前が初めてだよ、日吉」

「インペルダウン初の侵入者のように?」

「一々、ワンピースの揶揄を入れるな。アホンダラ」

「先生もやってるじゃん」

 

 結局、かなりの説教を受けてしまった。ボロカスに怒られながらも、職員室を後にして教室に戻る。

 中では、めぐるがやたらとニコニコして待っていた。

 

「日本では、ジュウヤクシュッキンって言うんだっけ?」

「うるせーよ」

 

 別にそんなつもりはない。ただ、ちょっと昨日の夜中に暴れ過ぎただけだ。

 

「なんでそんな遅刻したの?」

「寝坊」

「どうせワンピース関係でしょー?」

 

 まぁ、当たりだが……言い訳させてもらうならば、灯織が何度も「もう一回!」と挑んできたことだろう。

 

「ちげーよ。昨日の夜は、中々風野が寝かせてくれなかったんだよ」

「……えっ?」

「?」

 

 何故か、めぐるは驚いた顔ながらも頬を赤らめてコチラを見ていた。

 

「? 何?」

「いやっ……寝かせてくれないって……え、どういう意味?」

「いやそのままだろ。何戦もやって疲れたわ」

「やっ……!」

 

 さらに顔を赤くする。そして……めぐるは両手を伸ばして真央の胸ぐらを掴み、持ち上げた。

 

「貴様ー! 灯織の純潔を返せー!」

「準決? いや二人で戦ってただけで大会には出てねーぞ?」

「違うわ! ていうか誤魔化さないで! やったって今言ったじゃん!」

「うん。ワンピースカードを」

「ん?」

「? なんだよ?」

 

 それ以外に灯織と何をするのか。ワンピース語りはするかもしれないが、それなら「やる」ではなく「語る」と普通に言う。

 

「……どうやって?」

「ビデオ通話で」

「……」

 

 ぷくーっとめぐるは頬を膨らませる。真っ赤な顔のまま、眉間に皺も寄せ始めた。

 

「何怒ってんだ?」

「紛らわしい言い方するなー!」

「ちょっ、や、やめろっ……!」

 

 胸ぐらを掴まれてぐわんぐわんと揺すられてしまう。脳が揺れて目が回るような感覚に、頭がフラフラしてきた。

 

「おぼっ……ほ、ほんと何怒ってんだお前⁉︎」

「女の子に恥をかかせておいて何を言うかー!」

「恥って……そもそも何と勘違いしたんだよ!」

「何って……!」

 

 聞くと、ピタっとめぐるは動きを止める。……が、やがて顔の赤みはさらに濃くなり、それと同時に眉間の皺も深くなった。

 

「うわーん!」

「ぐおぇっ⁉︎ う、うわーんじゃねーよ!」

 

 さらに揺らされ続けた挙句、しばらく口を聞いてくれなくなった。昼休みくらいまで。

 

 ×××

 

「ふーむ……」

 

 一方、その頃……灯織は、顎に手を当てたまま深く悩む。昨日は結局、1勝しか出来なかった。だが、確実に手応えはある。もう少しデッキを組み換えれば勝てるだろう。

 そのために、今はカードリストから入れるカードを選出していた。やはり、昨日も言ったが手札がなくならないように調整することは大事だ。

 何とかカードを引けるカードを探さなくては……そんな風に思いながら、そのまましばらくカードリストを漁った。

 

 



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極めるべきは環境より性癖。

ワンピースカードのルールはデュエマに似ているので、それに置き換えてみてください。
レスト=タップ、アクティブ=アンタップ、ライフ=シールド、トリガー=シールドトリガー、速攻=スピードアタッカー、ブロッカー=ブロッカーみたいな。
違いは常に場にいるリーダーがいることとカウンターとドン‼︎カードとかです。


 よしっ、と灯織は完成しそうなデッキを見下ろす。結局、ゴードンを入れるのは諦めた。なんかずっと高いので。それに、そもそもそんなに必要な感じがしない。あった方が良いのかもしれないが、なくても戦える気がする。

 今日は最後のピースを揃えに来た。……赤緑ローのパラレルである。

 

「すぅ、はぁ……よしっ」

 

 安いものではない。というか、たかだかカードにそんなお金をかけること自体が微妙な気もする。

 だが、パラレルのナミがちょっと羨ましかったのだ。もらえた事ではなく、リーダーがカッコ良いとなんかやっぱりモチベーションが上がりそうだなと思ったのだ。

 ここ数日、毎晩真央とデュエルをしているが、やはり向こうのキラキラ光っているリーダーは羨ましい。

 なので……決めた。初任給も入ったので、それは両親へのケーキと自分への赤緑ローに使う、と。

 そんなわけで、今日はカード屋に来ていた。今日来たカード屋はなんかちょっと女の子一人では入りづらい店だが、覚悟はもう決めた。

 深呼吸を終えて、お店の中に入ろうとする……が、やはりなんかちょっと入りづらい。特に、店の外装が古いアパートみたいで怪しく見えて。

 これ……カード屋を名乗っている風俗とかじゃないよね? なんて思わないでもなくて。

 

「……いや、大丈夫……」

 

 しかし、ネットで調べてこのお店は出ているし、住所もあっている。だから普通にカード屋だ。

 そんな風に変なプレッシャーを理屈で塗りつぶして勇気を奮い立たせるのはもう13回目だったりする。

 しかし、今度こそ……今度こそは切らなくては。そう決めて、一歩踏み出そうとした時だった。

 

「あれ、風野?」

「ひゃうっ⁉︎」

 

 声をかけられて背筋が伸びた。誰? と後ろを見ると、そこにいたのは真央だった。

 

「お前さっきからそこで何してんの?」

「っ、い、いや別に……」

「ここに用事あんなら行こうぜ。俺もカード見に来たんだよね」

「あ……う、うん」

 

 誰かと一緒だと、少しホッとする。ていうか、この様子から察するに真央は随分とカード屋に慣れている様子だ。なら尚更、助かる。

 

「風野は今日何買いにきたの?」

「えっ……つ、追加のカードを……」

 

 ちょっと言えない。まだひよっこの癖にリーダーカードをパラレルにしようとしていた、なんて。基本的に形から入るのではなく中身からそれに見合うようになりたいくらい真面目な灯織は、ちょっとリーパラを欲しているのが恥ずかしかった。

 

「へー。ゴードン?」

「う、ううん。ちょっと可能性を探す意味で、色々面白そうなカードを調べたから……」

「へぇ……お前、中々ゲーマーだな」

 

 嘘ではない。例えば「メス」。今までカードはバラで買っていたこともあり気が付かなかったが、これはロー本人の技であるイベントカードだ。

 効果は「【カウンター】自分のリーダーかキャラ1枚までを、このバトル中、パワー+2000。その後、自分のドン!! 1枚までを、アクティブにする』というもの。

 つまり、1コストさえ残しておけばノーコストで使えると言うもの。

 その上、白滝と違って超新星なので、ジュエリー・ボニーの効果でサーチできる。

 ちょっと入れてみたらどうなるかな、と思って買ってみることにした。10円くらいだし。

 

「何買うの?」

「メス」

「ああ〜なるほど……確かに面白そうな感じはするよね」

「あの、どうなの? 実際の所は……」

「思ったより普通。普通のカウンター2000のが強かったりする」

「えっ」

「コスト1必要だし、アクティブにすんのも結局、カウンター2000のキャラならそもそもコスト要らんし、赤緑ローなら毛皮強化かラディカルビームのが強い」

「あ……そっか」

 

 残念ながら、その通りだ。なんだかんだこのゲーム、シンプルな効果のほうが強い。赤緑ローだってリーダー効果こそ複雑なものの、デッキ自体はシンプルな効果のキャラが固まっていた方が良い。

 

「まぁ、金使う前で良かったんじゃね?」

「うん。ありがとう」

「あと、俺はああ言ったけど、意外と使ってみると強いカードってのはあるから。不思議なもんで、特にリーダーは『最初は見向きもされなかったのに組むと環境レベルで強い』ってのが多い」

「そうなの?」

 

 それは意外だ。灯織はそもそもゲーム自体、これが初めてなところはあるので偉そうなことは言えないが、スマホゲームとかではキャラクターとかは公開されるとSNSで騒ぎになり、騒ぎになった通りに強い、と言う流れに見えていた。

 カードゲームではその限りではないのだろうか? 

 

「例えばほら、白ひげ。これ最初は弱いって思われてたからね」

「えっ、そ、そうなの?」

「いくらライフ6のパワー6000とはいえ毎ターンライフ削られるんだから、絶対使いにくいって思われてた。……けど、実際はライフからカードを得られる=手札が増えて必要なカードが確実に来るし、6000のパワーで敵の攻撃は簡単に凌げるし、SR白ひげ、エース、マルコ、イゾウが軒並み強すぎて轢き殺されるし、発売直後には環境入りしてた」

 

 灯織は動画を見ていたので強いイメージしかなかったが、確かに自分が「発売前から性能だけ知っていた状態」ならば同じことを思っていたのかもしれない。

 考えてみれば、今のワンピースカードの知識は先輩プレイヤー達が自分の目で見て手で触ったものを見させてもらったが故だ。

 まるで……人類の歴史のように積み重ねを感じてしまう。

 

「……深いな、まるで日本史みたい。ワンピースカードって」

「え? どの辺が?」

「う、ううん。何でもない」

「ちなみに、次のパック5月に出るけど、もうリーダーは出てるよ」

「えっ、そ、そうなの?」

「そうなの」

 

 それは知らなんだ。是非とも見させてもらいたいものだ。

 すると、真央はスマホを取り出して少し操作した後、画面を見せてきた。Twitterの画像だ。リーダーはビビ、レベッカ、クロコダイル、ドフラミンゴ、クイーン、イッショウ。半分くらい知らないキャラクターばかりだ。

 

「……クロコダイル、またリーダーなんだ。3枚目?」

「ああ。紫と黄色な。組むの楽しそう」

「クロコダイル……正直、私はあまり好きじゃないんだけど……」

 

 あそこまでよく悪逆非道を尽くせるものだ、と普通に読んでいてむかついた。その分、ルフィとビビを応援する気持ちは強くなったが。

 

「私、ビビリーダーのデッキ組んでみたいかも……」

「あー、カッコ良いよな。……てか、何となく風野に似てるよな」

「えっ……どこが?」

 

 いや、自分はこんな風に命を賭けたりはできない。

 

「私、こんなに立派じゃないよ……」

「あ、着いた」

 

 お店のフロアに到着し、中に入る。ワンピースカードのコーナーを探しながら歩き始めた。

 

「いや、風野って友達想いじゃん。この前、めぐるの家でワンピースカードやった時も、櫻木とめぐるが楽しめるように誰よりも早くルール覚えようとしてたっしょ? ……で、今は誰よりも早くデッキを組んでる。国のために誰よりも早く動いて奔走してたビビと同じだろ」

「っ……そ、そうかな……?」

「そうだろ。だから、めぐるも櫻木もお前のこと好きなんだろ」

「……」

 

 ……なんか、照れる。そんな風に言われると。死ぬほど恥ずかしい。何が恥ずかしいって、嬉しさも混ざっている点が特にすごい。

 

「……も、もういいから」

「あ、この店、マルコ安い。櫻木に教えてやるか」

「……」

 

 本当にもう終わっちゃった。カードに興味が移るのが思った以上に早い。いや、ほんとに恥ずかしいから別に良いんだけど……なんかモヤモヤする。

 さて、灯織もそろそろカードを見ないと……と、リーダーパラレルのコーナーを見ると、赤緑ローのパラレルがあった。

 

「……えっ?」

 

 12500円……桁一つ間違えてないだろうか? 

 

「……そ、そんなにするの……?」

「何が?」

「ローのリーパラ」

 

 驚きの余り言ってしまったが、これはさすがに厳しい。この値段はすごい。

 

「そりゃ高いわ。強いし人気だし」

「……」

「え、それ買いに来たの?」

「いや、ちょっと流石に……」

 

 これには手が出せない……と、ヒヨっていると、真央が口を挟む。

 

「じゃあ、こっちでワンチャン狙う?」

 

 そう言って真央が指さしたのは、同じようにショウケースの中。青色の袋に入ったカードが並んでいた。

 その近くに置かれている紙には「ワンピースカードオリパ1パック1000円」と書かれていた。

 

「何それ?」

「この店オリジナルのパック。スーパーレア以上のカードが確定で入ってる」

「えっ、すごい……!」

「ランダムだけどな?」

 

 そんなものもあるのか、と少し驚く。カードショップならではというべきだろう。

 置かれている紙のイラストはパラレルばかりだ。こうやって並べられていると、実物でなくても壮観だ。そして……その中にはローの姿もある。

 

「……ワンチャン、か……」

「でも70口ある中で12回引くまでの間に出なかったら確定で買った方が良いってことは覚えとけよ?」

「あ……そ、そっか……!」

 

 考えてみれば当然のことだ。何せ、パックで買ったとしても確実に手に入るわけではないのだ。

 そう思うと……むしろ1万2千円は安い可能性だってある。……いや、でもやはりカードに1万円は……と、頭の中がぐるぐると回る。

 

「他の店も見てみるか?」

「え?」

「や、だから他の店。パラレルのローの値段を見比べて安いの選んだ方が良いだろ」

「え、でも……日吉くん、面倒じゃない?」

「いや別に。池袋の店、あと5箇所知ってるから、全部案内するけど」

 

 いや、1箇所は今日じゃないけど見た。そこにパラレルのローは置いていなかったため、今日は見ていないのだが……しかし、そんな事よりも、わざわざそんな風に誘ってくれるなんて……。

 

「あ、ありがと……日吉くんが買う予定のカードは?」

「後で良いよ。それより、風野の欲しいカードが優先」

 

 ……この子、たまに勝手なのか親切なのか分からなくなる。しかし、そうまで言ってくれるのならば、お言葉に甘えた方が良い。

 

「……うん。じゃあ、お願いしようかな」

「よし、ついてこい」

「でもホビステは行ったから、そこ以外で」

「りょかい」

 

 そのまま2人で池袋を見て回った。

 

 ×××

 

 一通り見て周りはしたが、やはり残念ながら安くはない。どこも10200円〜14800円だ。

 

「どこも10000円以上するんだ……」

「強いし人気だからな」

「……うう、どうしよう……」

 

 悩む。いやほんとに悩む。何が怖いって、別に1万円飛ぶことではない。それもちょっとはあるけれど、それよりも今後新たなデッキを作る時にパラレルを買うことへの躊躇いがなくなるかもしれないことだ。

 他にも好きなキャラクターはいる。青キジ、ロビン、ウソップ、ボン・クレー……ん? みんなリーダーカードがない。つまり灯織がリーパラを発するとしたら、やはりローだけなのかもしれない? 

 

「よし、買っちゃおう!」

「え、早い? 今の短い思考で何が?」

「一番安いお店に行こう」

「お、おう……」

 

 すぐに行ってしまった。

 安かったお店に入る。ワンピースのショウケース内では、やはりオリジナルパックが売っていた。

 しかも、1パック500円。さっきの店より安い。ローの写真も載っている。

 

「……1パック買ってみようかなぁ……」

「欲しいなら止めないけど……」

 

 ? なんだろう、と小首を傾げる。何か言いたげだ。

 

「何?」

「うーん……なんか否定ばかりで悪い気がしてんだけど、あんまおすすめはできねーかなって」

「なんで?」

「いや、俺も通った道だから言うけど、そもそも店が作ってるパックだから信用ならないってこと。祭りのてきやと一緒。ホントにこのカードが入ってる保証もないし、そこ問い詰められても『もう買われた』って言い逃れ出来るし、全部嘘じゃないにしてもほんとに買われてたら無駄だし、何よりこう言うのに入ってるのって大体、訳ありカードだし、俺はあんまり好きじゃない」

「……な、なるほど」

 

 全否定である。まさかの。確かに、SR以上確定とあるが、500円以上の価値があるSRなんてあまりない。これでもしクリークとか黄色エースみたいなどこで使うのかも分からないSRが出たら悲惨である。

 そして……お店側からしたら、そんなカードが500円で売れたら大儲けだ。

 

「うん……私もやめておこうかな」

「まぁ当たればでかいんだけどな」

「何なの⁉︎」

「え、何が?」

 

 よくもまぁ意見をそこまで反復横跳びさせられるものだ。お願いだからあまり翻弄させないでほしい。

 

「それでも俺なら買わないってだけ。もちろん、利点もあるよ。俺一回、キングのパラレル引いたし」

「あの、お願いだから迷わせるのはやめて」

「戸惑いこそが人生だよ、黄猿くん」

「風野です」

 

 何で言わなくて良いことを……とも思ったが、そうじゃない。色んな情報を提供した上で決めさせてくれようとしているのだろう。

 決めるのは自分で、だ。ならば……やはり、高いかもしれないけれど買ってしまうしかない。いい加減、覚悟を決めよう。

 

「……いや、やっぱ普通にローを買うよ」

「まぁ、英断じゃね?」

「うん、ありがとう」

 

 そのまま灯織は勇気を振り絞って購入しに行った。親には絶対に言えない。

 レジに並び、店員さんを売り場まで案内し、ショウケース越しにローを指差し、取ってもらってから購入した。

 それをカバンの中のデッキケースにしまい、ツカツカと店の出口の方向へ歩く。

 

「……」

 

 が、途中でピタッと足を止めてしまった。

 ……さて、困ったことに……クソほど嬉しい。何だろう、この達成感のようなもの。たかだか高い買い物をしただけなのに。

 しかし……トラファルガー・ローのパラレル。まだそこまで読み進めたわけではないから、このイラストがどのシーンのローなのかは分からないが、その分の楽しみは増えた。少なくとも血を流している以上は戦闘があったということだろう。楽しみだ。

 いずれにしても……このカードを使う時が今から楽しみで仕方ない。ワクワクとウキウキとソワソワが止まらなかった。

 それを噛み殺すように唇をかみしめて口を閉ざすが、眉間に皺はよっているし頬は赤らんでいるしちょっとなんか小刻みに震えているし、全然隠れていた。

 なので、案の定……。

 

「嬉しそうだな」

「はわっ⁉︎ な、何が⁉︎」

「いや、ロー買えて」

「そ、そんなことないよ。新しいものを買ったくらいでそんな子供みたいな……」

「いや手に入れたらワクワクするでしょ。リーパラなんてほんと滅多に出ないんだから」

「……うう」

 

 でもちょっと気恥ずかしい。所詮はカードゲームにも関わらずここまでやってしまうとは……と、思わないでもない。それで喜んでいるのだから、自分も中々、毒されている。

 その灯織に真央は提案して来る。

 

「今からワンピースカードやるか?」

「あ……」

 

 どうしよう。今日はこの後、初任給のもう一つの使い方である親へのケーキを買う予定だった。

 だが……買い物にここまで付き合ってくれたのに、断るのもちょっと申し訳ない気がする。

 

「あ、あの……もう一つ買い物あるから、その後でも良い?」

「や、無理なら全然、今度で良いよ」

「え……でも、そんな色々付き合ってもらったのに……」

「いや気にしなくて良いからそんなん。てか勝手に手伝っただけだし」

「で、でも……」

「また今度、付き合ってくれりゃそれで良いよ」

 

 そう言いながら、真央はショウケースを眺め始める。……そういえば、まだ真央は自分の買い物も済んでいなかった。

 

「あ、あのっ……!」

「何?」

「今夜、また電話でやろう。ワンピースカード」

「おう?」

 

 で、その日の夜は10戦やった。

 

 ×××

 

 翌日、午前中の仕事の灯織は何とか眠気を出さずにこなすことができた……が、お昼を超えた辺りで割と限界が来た。

 

「ふわぁっ……」

「ほわっ……め、珍しいね。灯織ちゃんがあくびなんて……」

「……あっ、み、見られちゃってた……?」

 

 真乃に横から言われてしまい、思わず頬を赤らめて目を逸らす。しまった、油断した。

 めぐるもさらに真乃の奥からニヤニヤしながら口を挟んだ。

 

「また遅くまでワンピースカードやってたんでしょ」

「あ、あはは……当たり」

「えっ、ほ、ほんとに?」

「え? うん。真央くんと一緒に」

 

 結局、あの後は二人でバカみたいに白熱してしまった。カードが揃った赤緑ローはとても強く、波状攻撃で一気に倒せたが、逆にパワー負けしやすく攻撃出来ないターンは苦労させられた。

 その思い出話をすれば眠気も吹っ飛ぶかな? と思ったので、そのまま話そうとしたのだが……真乃はともかく、めぐるはぷくーっと頬を膨らませている。

 

「えっ……め、めぐる? どうかしたの?」

「ずるい!」

「えっ?」

「何で2人でばっかりワンピースカードやってるの!」

「い、いや……私も誘ったから……」

 

 ていうか、何でそんなことで怒るのか? 学校が同じなんだから、カードをやる機会ならばめぐるの方が多いだろうに……。

 

「めぐるもやったら良いんじゃ……」

「そ、それはそうだけど……!」

 

 もしかして……めぐる、やっぱり真央のことが……? なんて勘繰ってしまう。だって、前々から思っていたことではあるが、めぐると真央はやたらと距離が近い。ハグとかしているし。

 いくら帰国子女と言ってもそういうものなの? という感じは拭えないし、そうであっても真央は男の子だし動揺もしていたのだろう。余程のことがない限り、めぐるのダイナマイトボディに何も感じないなんてことは無いはずだ。

 やはり、二人は……。

 

「それなら、灯織から私を誘ってよ!」

「えっ、わ、私とやりたかったの⁉︎」

「そうだよ! だって真央にはまだ勝てないもん!」

「……」

 

 逆に言えば……灯織になら勝てると思われているのだろうか? 少し普通にむすっとした。残念ながら、灯織はもうそんなに弱くない。

 でも、まぁ別にカードゲームだしこんなことで分からせてやるとか思うほど子供ではないが。

 

「じゃあ……めぐるのデッキが出来たら教えて?」

「もう出来てるよ。超強い青ナミ」

 

 それなら仕方ない。もうやるしかない。

 

「分かった。じゃあ今夜やろっか」

「ほわっ……私、まだデッキ作ってないんだけど……行っても良い?」

「勿論」

 

 よし、決まりだ。

 

 ×××

 

 その日の夜、風野家にて。

 

「なんで3コスで5コスの速攻が飛んでくるの⁉︎」

「ずるいってば! こっちのパワー下げられたら殺されるしかないじゃん!」

「あ、あれ? コストが足りない……これじゃ、大槌うてない……」

「こっちの攻撃簡単に防ぐのやめてよ! 攻撃しないとデッキ捲れないのに!」

「あっ、待っ……トリガートリガートリガー! ああああああ‼︎」

 

 地獄絵図となっていた。

 

 



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趣味と本業はバランスよく。

「狡いよ!」

「何がだよ!」

 

 学校にて、めぐるが真央の前に現れる。まるで、アラバスタの時のように。

 

「何なんだお前は。スモーカーか? 一緒に俺と海楼石の檻にぶち込まれる気か?」

「ちっがうよ!」

「言っとくけど、海賊の戦いに卑怯なんて言葉はねーからな。お前が何を言ったって、俺が狡いなんてことにはならない」

「なるよ!」

「ところで何が狡いの?」

「何も分かってないのに狡くないとか言ってんの⁉︎」

 

 なんかすごく怒っているが、何をそんなに怒っているのだろう? 何か悪いことしたっけ? とか首を傾げる。

 

「ていうか、何怒ってんの?」

「羨ましいの!」

「何がさ」

「灯織にワンピースカードの特訓してるでしょ!」

「……はぁ?」

 

 何言ってんの? と言わんばかりの声が漏れる。覚えがないどころの騒ぎではない。

 

「してねーよ。なんで特訓なんて……」

「すごく強かったもん、灯織!」

「そりゃ環境デッキだし。お前にあげたナミデッキも強い……てかお前組んだの?」

「組んだけどボロ負けしたの!」

「……レシピ見せてみろ?」

「え、私料理できないよ」

「デッキのだよ」

 

 何で今の流れで料理だと思うのか分からない。デッキレシピという言葉に聞き馴染みがないと言うことだろうか? まぁどうでも良いが。

 

「はい。持って来たから見て」

 

 言われて、鞄から出されたデッキケースを借りて眺める。基本的に強大な敵だけで組んでいる感じだ。

 ……だが、中身は素人そのものという感じ。

 そもそも青ナミのリーダー効果自体が「ルール上、自分のデッキが0枚になった場合、自分は敗北する代わりに勝利する。【ドン!! ×1】このリーダーのアタックによって、相手のライフにダメージを与えた時、自分のデッキの上から1枚をトラッシュに置いてもよい」というもの。

 つまり、相手のライフを削ってとどめを刺す必要もなく、とにかくドローをすれば勝てるのだ。その上、ナミ自身も攻撃さえすれば山札を1枚削れる。

 ……が、後者の効果はいわゆる罠だ。まず攻撃をしてしまうと、相手は手札を1枚増やしてしまう。チャンスを広げてしまうと言うことだ。

 そうでなくても、アタックにはドン‼︎を1枚つけないといけないので、コストが勿体無い。2ターン目にコストが余っていたらやっても良いんじゃない? と言う効果なのだ。

 にも関わらず……入っているカードは「ウソップ」「ガイモン」「ベルメール」「ノジコ」……思わずため息が漏れる。

 

「ほんとはそげキングも欲しいんだよね〜」

「この4種類軒並みいらない」

「なんで⁉︎」

「あとそげキングもいらない」

「どういうこと⁉︎」

「まずウソップからな」

 

 ウソップの効果は「【速攻】(このカードは登場したターンにアタックできる)

【ドン!! ×1】このキャラのアタックによって、相手のライフにダメージを与えた時、自分のデッキの上から7枚をトラッシュに置いてもよい」というもの。

 つまり、ガンガン殴ってデッキを減らす……というのが使い方ではある。

 

「まず、ウソップのコスト4は重い。ていうか、これを活かすなら実質コスト5か。出したターン殴らないといけないけど、ドン‼︎をつけないと効果も使えないから5コス払ってこれをした上で、攻撃を通さないといけない」

「だって、ウソップパワー5000でドン‼︎1枚つけるんだから、パワー6000でしょ?」

「そんなもん簡単に防がれるだろ。ブロッカーいたら簡単に凌がれるし、カウンターついてないから手札で腐るし使い道がない」

「ドン‼︎もっとつければ?」

「10コス溜まってる状態で使うならそれもありだけど、そしたらナミの守りのカウンター使えないだろ。言っとくけど、青ナミを相手にしたら全員必死こいてリーダーをボコボコにしてくるぞ」

「……うっ」

 

 どのデッキでもコストの管理は大事だが、青ナミは特にその節が強い。手札次第とはいえ、3コスは残してターンを切り替えたいところなので、正直余程のメリットがない限りでは4コス以上のキャラを出すことはない。

 

「同じ理屈でガイモンとベルメールもボツ。ライフにダメージを与えた時、って時点で無理」

「え……確かにまぁこの前、灯織とやった時、驚くほどダメージ与えられなくてキツかったし……でも、ナミと縁があるキャラクター入れたいなぁ……」

「……」

 

 確かに、ノジコとベルメールどっちか入れたい気持ちはわからないでもない。実際、真央はどっちも入れられないってことでこのデッキをやめたところもある。

 

「……まぁ、ノジコは無しじゃないから。一応キープな」

「! や、やった……!」

 

 ノジコはコスト2、パワー0で「【登場時】自分のリーダーが「ナミ」の場合、相手のコスト5以下のキャラ1枚までを、持ち主の手札に戻す」という効果。

 なるべく相手に殴られたくもないナミとしては、相手のキャラを手札に戻せるのは悪くない。……デッキを削れないので有りでもないけど。

 

「でも、ウソップもベルメールさんもガイモンもダメなら誰入れるの?」

「一つ前の弾のカードだな」

「? どゆこと?」

「バギー、ダズ、インペルダウンオールスター、唐草瓦正拳、DEATH WINK……らしい」

「らしい?」

「いや、倣って俺もデッキ組んだけどそんなに強さを感じなかったから」

 

 とはいえ、一応理屈は説明しておく。流石に組んでいないカードの実物は持っていないので、持って来たカードで代用して説明する。

 

「例えば、まずはバギーな。効果は『【登場時】自分のデッキの上から5枚を見て、「バギー」以外の青の特徴《インペルダウン》を持つカード1枚までを公開し、手札に加える。その後、残りを好きな順番でデッキの下に置く」。1コスだから、まずはこいつを使ってダズをサーチする」

 

 机の上にバギーの代用のカードであるカタクリのカードを置いてから、デッキからダズの代用であるペロスペローを見せる。

 

「ダズの効果は『【登場時】自分のトラッシュからコスト1の青のイベント1枚までを、手札に加える』で、これで大槌か輪ゴムをトラッシュから回収する」

 

 話しながら、この2枚はめぐるのデッキにも入っているので、そこからカードを借りる。

 二つともイベントカード。ウソップ輪ゴムはコスト1で「【カウンター】自分のリーダーかキャラ1枚までを、このバトル中、パワー+2000。その後、自分のデッキの上から1枚をトラッシュに置いてもよい」。というもの。

 ゴムゴムの大鎚もコスト1で「【カウンター】自分の手札1枚を捨てることができる:自分のリーダー1枚までを、このバトル中、パワー+4000。その後、自分のデッキの上から2枚をトラッシュに置いてもよい」だ。

 

「こいつらがあればリーダーを殴られた時にカウンターで防げる上にデッキを削れる。ダズはその効果を何度でも再利用できるってことな」

「な、なるほど……そうやってデッキを無くすんだ……」

「まだあるぞ。そのダズの効果をさらに再利用するための唐草瓦正拳。コスト4以下のキャラを手札に戻せるから、こいつでダズを手札に戻して、ダズを出してダズで輪ゴムが大槌を戻して……って、ループして守りながらデッキ削るって流れ……らしい」

 

 まぁそんなに上手く行ったことがないのであくまでも理論的な話だが。

 説明を聞いためぐるは、少しだけを肩を落としながら呟く。

 

「じゃあ……あんまり東の海のキャラは使われないんだね……」

「いやいや、んなわけないじゃん」

「え?」

「例えばこいつ」

 

 そう言いながらめぐるのデッキから出したのはカヤ。1コストで「【登場時】カード2枚を引き、自分の手札2枚を捨てる」というもの。

 

「こいつをループさせるカードもあるぞ」

「どんな?」

「ゼフ、デッキに入ってるじゃん」

 

 話しながら、デッキからゼフのカードを出した。5コストパワー6000で「【ドン!! ×1】このキャラのアタックによって、相手のライフにダメージを与えた時、自分のデッキの上から7枚をトラッシュに置いてもよい。【登場時】コスト3以下のキャラ1枚までを、持ち主の手札に戻し、自分のデッキの上から2枚をトラッシュに置いてもよい」と言う効果。

 

「えっ、さっき4コスト以上のキャラ入れないって……」

「こいつは別。重要なのは登場時効果の方。これでカヤを手札に戻してもう一回効果を使える上に、デッキもトラッシュに置ける。あとパワー6000あるから、敵の面倒なアタッカーを処理に使っても良いし、あわよくばリーダー殴って7枚削る効果を狙っても良い」

「ああ〜……」

「何より重要なのはサンジのピラフ。とにかくカードを2枚引けるイベントだから、こいつは来たらとりあえずまた使えば良い」

 

 そう言いながら、サンジのピラフのカードを見せる。カヤと違って捨てる必要もないから、このデッキの切り札と言える存在だろう。

 

「な、なるほど……」

「この辺を軸にして、もう一回組み直してみろよ。試運転ならいつでも付き合うから」

「あ、ありがと……」

 

 他にも色々あるが、一先ずはこんな所で良いだろう。すると、めぐるはにっこりと微笑んだ。さっきまでとっても理不尽なことで怒って来ていたやつとは思えないほどの笑顔だ。

 

「ありがと、真央!」

 

 その屈託のないお礼と笑みに、思わず目を逸らしてしまう。最近、こいつの顔を見るとこう言うことがよく起きて困る。

 

「これで私、今度こそ灯織に勝てるよね?」

「いやそれは知らん……」

 

 正直、赤緑ローは相性が悪い。何度でも攻撃してくるし、展開力もあるから。1コスのブロッカーが多く入っていることもあるが、それこそローにとってはシャンブルズのもとにできる。

 その上、ブロッカーをすり抜けるルフィもいるので簡単にはいかないだろう。

 

「じゃあ今夜、とりあえず一戦ね」

「良いだろう。言っておくけど、俺手加減しないからね。しっかりと防ぐように」

「はーい」

 

 そんなわけで、今日の夜は二人でワンピースカードをやることになった。

 

 ×××

 

 翌日、事務所にて灯織は軽く伸びをしていた。少し、気にすることがある。

 

「めぐる、どうしたの?」

「ふっふっふっ……」

 

 やたらとめぐるがドヤ顔で笑みをこぼしていた。

 

「完成しちゃったんだ〜、青ナミデッキが」

「あ、そうなんだ……おめでとう」

「ありがとー」

 

 そう言いながら、めぐるはチラチラと自分を見て来た。どうしたのだろうか。見聞色の覇気の練習? 

 

「ど、どうしたの?」

「わ、私ねー、真央と結構互角だったんだよー? まぁ勝てなかったけど、向こう本気出したって言ってたしー。結構強いんだよー?」

「そ、そうなんだ……すごいね」

 

 言えない。一度とはいえ勝ちました、なんて口が裂けても言えない。

 

「……むー」

「えっ、ど、どうしたの?」

「誘ってよ! ワンピースカードやろって!」

「えっ? あ、ああ……」

 

 それを待っていたのか、と今更分かった。なんかやたらとチラチラ見てくるな、と思った。

 まぁやるのは構わないのだが……正直、負ける気がしない。だってパラレルのローを買ってから、灯織はさらにワンピースカードの研究をたくさんしている。真央とも互角に戦えるだろう。

 なら……めぐるが「もう嫌」って言わないように戦うのはもう少し後にしたほうが良い気もする……。

 

「や、やめとく。めぐるにワンピースカードやめて欲しくないし」

「っ……へ、へぇ〜……言うじゃん、勝つのは確実ってこと……?」

「え? あ、いやそんなつもりじゃ……」

 

 しまった、また選択肢を間違えてしまったらしい。めぐるは分かりやすくぷくーっと頬を膨らませている。可愛い。

 

「今日、目にモノ見せてあげるんだから!」

「えっ……き、今日はちょっと……」

「真乃もやるよね⁉︎」

「ほわっ? ご、ごめんね。今日は私もちょっと……」

「何かあるの?」

「もう直ぐ中間試験だから。……それに、私はワンピース全部見てからデッキ作ろうと思ってるから、デッキもまだないんだ」

「ちゅう、かん……?」

 

 めぐるが固まり始めた。どうやら、全然勉強していないらしい。

 

「……めぐる。ワンピースカードやってる場合じゃないんじゃないの?」

「うっ……ひ、灯織は勉強してるの?」

「してる。学業もアイドルもワンピースカードも手は抜かない」

「り、立派だ……」

 

 いや、灯織にとってはむしろ当たり前のことだったりする。……ていうか、プロデューサーがどちらを優先させるのか分からないけど、成績が悪くて活動停止とか本当に勘弁してほしい。

 

「じゃあ、真乃、めぐる。今夜は一緒に勉強しよっか」

 

 ちょうど自分もこのあとは勉強する予定だった。高校最初の試験だ。しくじるわけにはいかない。

 

「うん。私は良いよ」

「え、えー⁉︎ やだー!」

 

 ここまで両極端な返事が来るなんて思ってもいなかった。だが、ここで「嫌だ」なんて返事が出る時点で勉強確定である。

 

「ダメ。せめて赤点は回避してもらわないと」

「が、頑張ろ? めぐるちゃん」

「ま、真乃までー……?」

 

 よし、2対1。こうなればめぐるも従わざるを得ないだろう。事務所……は他の人達も使うかもしれないし、マックか何処かで良いだろう。この時間なら多少騒がしくても他に人はいないと思うし。

 

「決まりだから。地学とか特殊なのはないよね? なら、多分教えられると思うから」

「あ、生物なら私に任せて。得意だもん」

「し、試験範囲が同じとは限らないよ?」

「高校一年生の授業にそんな差はないでしょ」

「ノートはとってるなら、多分傾向くらいは分かると思うよっ」

「うっ……」

 

 逃がさない。相手がブロッカーを出して来たのなら、こちらはルフィにドン‼︎をつけるだけである。これでブロッカーがいようとブロックされない。

 

「それに、教材持って来てないよ」

「鞄にたくさん本入ってたよね」

「ううっ……!」

 

 学校帰りの鞄なのですぐにバレる。あの鞄、やたらとズシっとしていたし、教科書は一冊くらい確実に入っているだろう。

 処理し切れない場合は、相手のキャラクターの火力を下げる。ブロックされてもブロッカーは助からないように。

 さて……あとはどうする? と、めぐるに目を向けると、めぐるは肩を落としながらため息をついた。

 

「わ、分かったよ……」

「うん。決まり」

「あ、じゃあさ、もう一人だけ面倒見てあげて欲しい人がいるんだけど」

「?」

 

 まぁ、別に構わない。一応、真乃に聞いた方が良いだろう。

 

「良いよ。……真乃は?」

「めぐるちゃんのお友達でしょ? 私も大丈夫」

 

 しかし……類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。勉強が苦手なめぐるの近くに勉強が苦手な子が現れるとは……やはり、ことわざというのは趣味で作られている物ではない。

 そんな事を思いながら、そろそろ始まるレッスンに備えた。

 

 ×××

 

「人を巻き込む奴があるかああああああ‼︎」

「旅はみっ……み、ミリズレ? だもん!」

 

 呼び出されていたのは真央だった。まぁ、何となく灯織も察しはついていたわけだが。

 

「ちっげーよバーカ。旅は抜け道だろ。旅がミリ単位でズレてどうなるってんだ」

「う、うううるさいな! 言い間違えだもん! ルフィだって御愁傷様言えてなかったもん!」

「ほわ……ちなみに、旅は道連れだよ? 真央くん」

「えっ」

「ぷっ……抜け道って、忍者なの?」

「うううるせーよ! 言い間違えだよ!」

 

 そんなやりとりを聞くだけで、何となく苦労しそうであることは察してしまった。この子も勉強は苦手らしい。

 

「ほら、いいからやるよ。日吉くん、教科書持って来た?」

「ああ、はい」

 

 そう言いながら鞄から出したのは、ワンピースの単行本だった。

 

「教科書!」

「教科書だろ。人生の」

「学校の教科書に決まってるでしょ!」

「次読ませて」

「めぐるも手を出さない!」

 

 だめだ、この子達。早く何とかしないと……なんて頭に手を当てる中、真央はずっと立ち上がる。

 

「ま、持って来るの忘れた以上は仕方ないよね。俺帰るわ」

「はい、真央」

 

 その直後、その真央にめぐるが教科書を差し出す。

 

「使えるよね? 同じクラスだもん」

「……」

「よし、じゃあやろっか。ワンピースは没収」

 

 そう言いながら、単行本を取り上げた。

 とりあえず、めぐるよりもやる気がないアホな男の子は灯織が担当した方が良い。

 

「真乃、めぐるをお願い。私が日吉くんを見るから」

「分かった。じゃあ頑張ろうね、めぐるちゃん。むんっ」

「むんっ」

 

 あっちは仲良さそうだ。……こっちもそうしたいのだが、まぁどちらかと言うと厳しくしないとダメな気もする。

 めぐるから借りた教科書は英語。ならば、まずはそこからだ。

 

「はい、じゃあ日吉くん教科書開いて」

「ルフィの落書きしてやろ」

「真面目にやって」

「あ、カッコよく描いて?」

「めぐるも許可しない!」

 

 ダメだ、本当にやる気がない。こうなったら……仕方がない。ため息を漏らしながら、耳元で告げてやった。

 

「……日吉くん、石焼きシチューって知ってる?」

「知ってるよそりゃ、サンジのでしょ?」

「うん。……実はね、私空島読んだあたりであのシチューを再現してて……」

「……マジで?」

「試験で良い点取ったら、作ってあげるけど……」

「……」

 

 ……流石に無理かな? と小首を傾げる。だってレシピとか出ているわけではないから「こんな感じかな」と研究しただけだし。父親と母親は美味しいと言ってくれたけど、これが果たして真央を唆らせることが出来るのか……。

 

「食べる! 頑張る!」

「……」

 

 ……なんか、たまにこの子は高校生ではないんじゃないかと思うほど素直で可愛く見える時があって困る。

 いや、まぁそれなら良い。早速、勉強を見てあげることにした。

 

「じゃあ、教科書開いて」

「よーっし、やってやる」

 

 そのまま勉強を始めた。……まぁ、実際の所、ワンピースカードについてあれこれ教えてくれたし、ワンピースそのものを教えてくれたのも彼だ。

 だから、こう言う機会でお返ししてあげたい、と言うのは正直ある。灯織も心の中で「むんっ」と気合を入れると、そのまま面倒を見てあげた。

 

「be動詞と助動詞って一緒じゃないの⁉︎」

「違うよ!」

「何この単語……負け? 負けって英語でルーズじゃないの?」

「make! 作るって意味!」

「あ、銃って英語は知ってる! ゴムゴムの『ピストル』でしょ?」

「一般的にはgunだから! それは拳銃!」

「拳銃はレッドホークだろ。何言ってんの?」

「ルフィで間違った単語覚えるのはやめて!」

 

 割と心が挫けそうになった。こいつこれでどうやって高校に入ったのか非常に気になるところだったりする。

 さて、何にしてもその様子で面倒を見始めて、早一時間が経過。残念ながら、未成年者は10時以降の徘徊が出来ないためもうお勉強の時間も終了。

 

「……じゃあ、次からはこのページからこのページまで出来るようにしておくように」

「……死ぬ」

「いや、死なないから。まだ二週間あるから、少しずつ頑張ろう」

「あ、二週間後までにやれば良いの? なら余裕」

「二週間後は試験でしょ! 次にみんなで勉強する時ってこと!」

 

 この子は本物の馬鹿なのだろうか? もう少し普通に考えていただきたい。

 その真央の横から、巻き込んだ元凶とも言えるめぐるがニヤニヤした様子で口を挟んだ。

 

「へへー、真央私より勉強出来てないでやんのー」

「うるせーよ。てかお前より英語できないのは当たり前だろうが……ルフィ以上にゴムゴムの銃を撃てる奴がいるか?」

「そう言う例えを出されたらいないけど……」

「カタクリ?」

「風野、茶々を入れるな」

 

 モチモチの実を使えば可能だ。実際、ルフィの技をルフィ以上の威力で返していた。

 

「逆にめぐる、お前だって生物全然じゃん。血液の働きくらいギア2で覚えとけや」

「う、うるさいよ! そんなので理解できるの真央くらいだから!」

「つまりお前の頭、ルフィ以下」

「なんだとー⁉︎」

「はいはい、もうお店で騒がない」

 

 そんなやりとりの中、真乃が「ふふっ」と声を漏らす。

 

「でもめぐるちゃん、頑張ってたよ?」

「だよね⁉︎」

「この調子なら40点は硬いと思う」

「よーし、頑張……えっ、この調子で頑張っても40点なの私⁉︎」

「プッ……」

「そこー! 笑うなー!」

 

 なんだか……めぐると真央は仲が良いものだ。クラスだと隣の席らしいが、なんだか真央が羨ましい。付き合いの長さは灯織の方が上なのに、ああやってめぐると冗談を言い合える仲になっている。

 ここは一つ……自分も何かジョークを交えて混ざった方が良いだろう。ワンピースで少しずつコミュニケーションも学んでいる。

 ルフィの面白さ……いわば、あの直球さを使えばきっと今より仲良くなれる。

 コホン、と咳払いしてから、二人にぎこちない笑みを浮かべながら言ってみた。

 

「ほら、2人とも。バカ同士でどんぐりの背比べをしても何にもならないから。他人と比較するのはやめなさい」

「「アアン⁉︎」」

「ヒィっ……!」

 

 怒らせてしまった。

 

 



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ハミられ慣れるのは弱さである。

 試験が終わった。残念ながらプロデューサーが気を利かせてくれて試験期間中に仕事がなかったこともあり、終わってからは仕事が増えたため全員での打ち上げは一週間ほど延期。

 ……で、本日の机の上はMr.13のフィギュアが置かれる日。試験当日までフィギュアを持ってきて試験管と普通に揉め事があった様子を見て普通に引いためぐるは、ようやく休みが取れそうな日が出来たので真央の机に集まっていた。

 

「真央ー! 金曜日の夜暇ー?」

「……」

「暇だよね? 暇だから灯織の家に集合だからねー!」

「……」

「……ねぇ、聞いてる?」

 

 なんか返事がない。頬杖をついたまま窓の外を眺める少年を見て、少しめぐるも眉間に皺を寄せてしまった。

 

「真央?」

「別に怒ってない」

「は?」

「どうせ三人で楽しくやってたんだろ。こっちの誘いは断って。せっかく試験が終わったのにず──────っと放っておかれてても全然怒ってない」

「……あ、あー……」

 

 仕事だったのだから仕方ないじゃん、とは言えない。灯織や真乃と話して、アイドルである事は黙っておくことにしたのだから。たまにテレビとかに出るのだが、このワンピースバカの少年はテレビなんてワンピースしか見ていないのだろう。

 

「ご、ごめんって……拗ねないでよ」

「拗ねてないし」

 

 拗ねている子供が一番、言いそうな反応をされてしまった。……ていうか、やっぱりこの子は少し子供っぽい。

 

「ほ、ほら、遊べる日があったらまたこっちから連絡するからさ」

「言っとくけど、俺バイト始めたから。もう前みたいに簡単に集まれないよ」

「えっ、ど、何処で?」

「何処だって良いでしょ」

「う、う〜……」

 

 怒っている。すごく怒っている。まぁ……めぐるも友達に同じことされればむすっとするだろう。

 残念ながら、今後ともこういう日は増えるだろう。その度にごまかすのは無理なので、やはりいつかネタバラシをする日が来る。

 それを踏まえて誤魔化すのなら……これしかない。

 

「ごめん。実は私達、同じバイト先で知り合って友達になってるんだよね。だから、三人で集まって真央と一緒にいられない時間とかは出来ちゃうんだ、どうしても……」

「……」

「ほ、ほら、金曜の夜は四人でいられるから。灯織が石焼シチュー作ってくれるって言うから、みんなで打ち上げしよう」

 

 何とか盛り立ててみると……真央はようやく顔をこっちに向けた。でも視線だけは逸らしたまま相変わらず拗ねた表情で呟くように答えた。

 

「まぁ……良いけど」

「……」

 

 ……困った。こんな弟がいたら溺愛しちゃうかも、なんて思う程度には少し可愛かった。

 そのまま少し頬を赤らめながら、あらためて誘ってみることにした。

 

「じゃあさ、今日の夜も私と二人でカードやっちゃう?」

「いや俺今日バイトだし。謀略の王国買うから金貯めないと」

「……」

 

 やっぱり可愛くねーわ、なんて思いながら、とりあえず席についた。

 

 ×××

 

 さて、そんなこんなで金曜日の夜。四人で灯織の家に集まり、食事を始めた。たかだか中間試験で打ち上げは大袈裟だが、大袈裟じゃないくらいに灯織は苦戦していた。主にバカへの教育で。

 その打ち上げで料理を灯織が作ったのだから、中々に変な集会ではある。

 

「おお〜……美味い! ジャリジャリしない!」

「ほわっ……ほんと。お野菜もホクホクで……」

「ほんとは刀で石を焼きたかったんだけどね……刀がどこにも売ってなくて……」

「そ、それは今度にしようね灯織……」

 

 なんかユニットメンバーまで頭が悪くなっている気がして、めぐるは少し心配だった。……ていうか、この料理を本気で作っているあたり、割と既にワンピースに毒されている気がする。

 

「刀かー。俺も一回は持ってみてーなー」

「どの技をやりたいの?」

 

 めぐるが聞くと、真央は真っ直ぐした目で応える。

 

「二剛力斬」

「えっ、な、なんで?」

 

 かなりマイナーな技な気がする。……が、確かにインパクトはあった。両腕を「一剛力羅、二剛力羅」の掛け声と共に筋肉で膨らませ、口に咥えている一本と同時に振りかぶりながら三刀で殴り付けるように切り裂く力技だ。

 

「カッコ良いし面白いじゃん! 二剛力斬!」

「ああ……やっぱ理由はシンプルだよね真央は……」

「あんま使われてない技だけど、今使ったらヤバいって絶対。閻魔であんな力技を、覇気込めてやったらどんな奴だってぶった斬られるでしょ絶対。俺もあんな筋肉欲しいわー」

 

 言われて少し想像する。ゾロみたいな筋肉の真央……せっかく子供みたいな可愛い顔しているのにあんなゴリマッチョに……なんか嫌だ。

 

「やめて!」

「えっ、やだよ。俺はマッチョになる」

「ま、真乃や灯織がマッチョになったらアンバランスでしょ⁉︎」

「? いや二人がマッチョになりたいならアンバランスでも良いじゃん」

「あの、めぐる……? 何その例えは……?」

「ていうか、あの……私、別にマッチョになりたくないよ……?」

 

 こいつはほんと見事にこっちの思惑を外してくるものだ。おかげで何故かめぐるだけ否定されているような形になってしまった。

 そのめぐるの隣で、真央は灯織に声を掛ける。

 

「にしても、風野。本当にありがとな」

「ううん。それより、どうだったの? 試験の結果」

「お陰さんで平均50点超えたよ」

「あ、あれだけの苦労で50……」

 

 うん、確かに灯織が肩を落とすのも分からなくはない。本当に苦労していた。どれくらいの苦労かと言われると、CP9がプルトンの設計図のために5年も潜入していたくらいの苦労。

 だが、隣の席にいためぐるは彼の点数をよく知っている。

 

「ま、まぁでも、基本的に点は悪くなかったよ! 英語とか社会系科目は60〜70点だし、国語系も50点前後だったから!」

「? じゃあ、何が悪かったの?」

「……数学と物理」

「……何点?」

「お前言うなよ。絶対やめろよほんと」

 

 いや止められるが、点数を教えるのは教えてくれた人へ当然の報告だ。

 

「数1が32点、数Aが19点。……物理が6点」

「……」

「お前言うなやー!」

「自業自得だからー!」

 

 掴みかかってくるが、それに応戦して手を組んで押し合いになる。理数系がとにかく死んでいる。基礎の段階では暗記でしかない生物だけがまだ良かったと言えるだろう(42点)。

 そんな中、真央に真乃がむんっと両手で拳を作って言う。

 

「だ、大丈夫。真央くん。次は私もお手伝いするから……!」

「えっ……い、いや、なるべくなら勉強したくない……」

「頑張ろうねっ」

「……うっす」

 

 意外と善意に弱いらしい。素直に返事をして小さく項垂れていた。これで期末試験もみんなでお勉強が確定してしまった。

 まぁでも、あと二ヶ月くらい先の話だし別に今から嫌なことを考える必要はない。

 楽しい話題に変えるために、めぐるはそのまま真乃に聞いた。

 

「そういえばさ、真乃は次のパックでデッキ組むんだよね?」

「う、うん……! 考えてるのはビビちゃんのデッキだけど……今、アニメでドレスローザの途中まで来たからレベッカちゃんと迷ってるんだ」

「……えっ、真乃もうそんなとこまで見たの?」

「ほわっ……?」

 

 灯織に聞かれるが、真乃はキョトンとした顔で小首をかしげる。ちなみに、めぐるもまだそこまで読んでいない。

 

「ひ、灯織も真乃もその……ど、ドレスナントカって言うの、知ってるの?」

「うん。新世界の三つ目の島かな」

「ち、ちょっと真央! 私まだ頂上戦争も見てないんだけど!」

「知るか。遊んでくれなかったお前が悪い。……てか、自由に読みたきゃ自分で買えよ」

 

 直球のど正論パンチで腰を抜かしそうになった。それはそうなのだが、思った以上の威力で何も言えなくなる。

 そんな中で、さらに真央は真顔で真乃に声を掛ける。

 

「つーかお前、作るデッキが決まってんのは良いけど、ちゃんと抽選に応募はしたの?」

「ほわっ? ち、抽選?」

「そう。抽選。当たらないと買えないよ」

 

 そういえば、めぐるが初めて箱を開けた時も「今は買いにくい」みたいなことを言っていた気がする。しかし、それが本当だとするとまさか過ぎる。

 

「してねーの? ガンガン応募しないと当たらんよ。ルフィだってどんなに追い返されてもガンガン突っ込んだんだからエース助けられたんだから」

「真央の例え、たまにへたくそだよね」

「うるせーよ!」

 

 今のは全然ピンと来なかった。ルフィは別に何の策も無い神頼みで何度も突撃していたわけではない。抽選とは別だ。

 ……まぁ、パッと浮かんでこなかっただけなのだろうが、それでも自覚はあるようで真央は顔を赤くしている。

 

「とにかく、応募した方が良いよ。まだ応募出来る店あるし」

「「「する!」」」

「えっ、三人とも?」

 

 それは勿論だ。めぐるとしても青ナミを強化出来るかもしれないのだから。特にあのデッキは高いカードは必要ない。つまり、1ボックスであったとしても必要な分、手に入るかもしれない。

 

「まぁそれならチェインでURL送るから、それでやってみ。すぐやった方が良いよ。今日までのとことかあるだろうし」

 

 とのことで、とりあえず送られたものを見てそのURLから登録を始めた。

 まずはアカウント作ってアドレスを登録して……とやって、色んな店舗のものをこなしていく。とりあえず三つやった、

 

「ちなみに、真央は何店くらい応募したの?」

「8」

「8⁉︎」

「場所によっては埼玉まで行く」

「ほ、本気だ……」

「当たり前だろ。ちなみに次のデッキ、キャラはサボが最強だと思う」

「どんな効果なの?」

 

 灯織に聞かれて真央は少し得意げに答える。

 

「5コス6000のブロッカー。登場時、次の自分のターン開始時まで味方全員効果でKOされない」

「……このゲーム、効果でKOとかあったっけ?」

 

 きょとんと首を傾げるのはめぐる。なんかあんまり覚えがない。

 

「櫻木が買ってたルフィのデッキのJETピストルとかで死ななくなるってこと」

「でも1ターンでしょ?」

「バッカお前、1ターンあったら」

「攻撃が出来るようになる。つまり、こっちもライフで受けるか手札を消費してカウンターをしないといけないって事」

 

 灯織が説明してくれる。それを聞いて、真央は少し驚いたように目を丸くする。

 

「おお……さっすが。理解が早い」

「これくらい誰でも分かるでしょ」

「分かってない金髪がそこにいるじゃん」

「んがっ……⁉︎」

「いくら英語が出来てもその辺を思考することが出来ないなら勉強とか意味なくない?」

「それとこれとは話が別」

「ていうか何で私今ディスられたの⁉︎」

 

 他所の会話から変化球の流れ弾で虐めてくるのはやめて欲しい。なんか恥ずかしいから。

 そんな中、今度は真乃が尋ねる。

 

「ちなみに、色は?」

「黒」

「ほわっ……黒って、前から思ってたけど強いカード多いよね?」

「そうだな……なんでだろうな」

 

 そうなのかな? と、めぐるはよく分からないが、その間に話が進んでしまう。

 

「そういえば、黒のカードは効果KOが多いよね。コストを下げてコスト以下のKOをして来るし」

「そうなんだよ……。コスト下げるカードが低コストだから10コスだろうと強引に消せるし、正直クソやってらんねーよ」

「赤や紫でも効果でKOってあるよね? ピーちゃ……マルコさんとか」

「マルコ強いよね。イベント一枚でKOされなくなるのはずるいと思う」

「でも、それで仮にコスト5パワー7000のキャラをKOするとしたら、お玉2枚とマルコだから合計コスト7。ガープと大噴火ならカード2枚で済む上にコストも6だぜ。それに追加してガープの効果は1ターンに一度なら何回でも使えるし、大噴火で1ドロー出来るからやっぱずるいわ」

「ほわっ……それに、お玉ちゃんだとカウンター2000を消費するもんねっ」

「そう考えると、確かに黒のカードって強いのかも……」

 

 灯織、真央、真乃、また灯織……と、話す様子を聞きながら、めぐるは「ぐむむっ」と下唇を噛み締める。

 ……話に入れない。みんな、ワンピースカードについて詳し過ぎる。真央はともかく、灯織と真乃は同時期に始めたのに何でそんなに知っているのか。

 なんか……悔しくて、釈然としなくて、それでいて悔しくて。

 

「ず、ずるいよ!」

「何が?」

「色々!」

「いや……意味わからん」

「だって……なんか、私だけ蚊帳の外じゃん!」

「何でだよ。お前だってワンピースカードやってんだろ」

「そ、そうだけど……狡いよ!」

「分かったよ。ずるくて良いから打ち上げ続けようや」

「続けられないの! 私だけ!」

 

 話に混ざれないのが辛い。一番、真央ともイルミネとも一番多く関わっているはずなのに、何で自分だけこんなに話に入らないのか。

 

「あーもう分かったよ。じゃあはい」

「……?」

 

 そう言うと、真央はスマホを手渡してきた。その画面にはワンピースカードのカードリストが載っている。

 

「お前だけこれで勉強してろ」

「結局、混ぜてくれないの⁉︎」

「八百屋の会話に果物屋が入って来るには、それなりに予習が必要になんだよ」

「畑が違うってか⁉︎」

「ほわっ、うまい」

「ありがとう。……いやありがとうじゃないよ真乃!」

 

 真央に真乃が加わってこられて、思わず声を荒げてしまう。微塵も嬉しくなかった。

 そんな中、ようやく灯織がいさめに来てくれた。

 

「ま、まぁ落ち着いてよ、めぐる」

「う〜……」

「えーっと……私達もめぐるが置いていかれてると思わなかったの」

「煽り⁉︎」

「えっ、ええっ⁉︎ なんで?」

 

 どいつもこいつも人を馬鹿にしてくれるものだ。おかげでめぐるのボルテージは留まることを知らない。

 

「もー分かりましたよー! みんながそうやって話すなら、私だってみんなが分からない話するもん!」

「はぁ?」

「知ってる? 私がいたアメリカのマサチューセッツ州ではね、少し北の方に行くとね……」

「それ誰もついていけねーよ。ただのお前の講演会になるわ」

「こうっ……!」

 

 地味にショックだった。どんな比喩を使われているのか。

 もうダメだ。この人達の会話に今日は入れない……と、少しため息を漏らす中「あっ」と真央は声を漏らす。

 

「講演会って言えばさ、風野」

「何?」

「お前らってなんか三大将に当てはめられねーかなって」

「えっ、講演会全く関係なくない?」

 

 それはめぐるも同感。1+1=2だけど漢字でモグラって土竜って書くよね、と言われた気分だ。

 

「まず、めぐるは黄猿じゃん」

「それ髪の色だけでしょ⁉︎」

「何言ってんだ。ボルサリーノの髪は黒だぞ」

「いや名前的に……ていうか、そこ以外でなんで私が黄猿なの?」

「足速いじゃん。体育の時、ちらっと見たけど超速かった」

「……」

 

 前々から思っていたけど、こいつは本当に自分を外見だけで見てないんだな、と少し思ってしまったり。今まで割といろんな男子に告白されて来たけれど、二ヶ月弱馬鹿騒ぎして何もされていないのは初めてかもしれない。

 

「じゃあ私は?」

「櫻木は……クザン?」

「え、なんで?」

「動物に優しいじゃん? 海の上で自転車漕いでる時にすれ違った動物に挨拶とかしてたし」

「ああ〜……」

「じゃあ、灯織ちゃんは?」

「……たしぎ?」

「「分かる」」

「分からないで! 一人だけ大佐?」

 

 大将じゃないんかい、と、思わないでもないけど、でも分かる。しっくりき過ぎた。

 

「……てか、櫻木もどちらかと言えばおつるさんとかだよね。穏やかだし」

「ほわっ……そ、そうかな……?」

「あと名前的にも、真乃はぴったりかも……ほら、鶴だし真乃も鳥好きだし」

「あ……そっか。ピーちゃんがまたいたんだ」

「いやピーちゃんではないと思うけど……」

 

 鳥ならなんでも良いんか、と思わないでも良いけど、まぁ真乃も冗談で言っているのはわかる。

 それより……大将という枷がなくなった今、自分も女性キャラに変えてもらえる流れかもしれない。流れで聞いてみた。

 

「じゃあさ、私は?」

「黄猿」

「なんでよー⁉︎」

 

 思わず掴みかかってグラグラと揺すってしまった。

 

「いや足速いし……」

「私も雰囲気で選んでよー!」

「……3人で一番重そう?」

「ぶっ飛ばすよほんとに! てかそれ黄猿関係ないし!」

「速度は重さって言ってたじゃん?」

「いやだから何⁉︎」

「重そう」

「こんのー!」

 

 掴み掛かった両手を頬に移動させ、抓りながら揺りまくる。この男、今日は本当に腹立たしい。

 

「大体、黄猿は挨拶がわりにハグとかしないじゃん!」

「そうだな」

「男の人だし私サングラスかけてないし!」

「そうだな?」

「私のどこが黄猿⁉︎」

「速くて重そう」

「その一点突破をやめろー!」

「馬鹿野郎、一点突破ほどワンピースで好まれる作戦はねーぞ。それでルフィはエースの処刑台に届いたんだろうが」

「知るかー!」

 

 なんて少しずつ騒がしくなる中、灯織がめぐると真央の間にやんわりと口を挟む。

 

「ま、まぁまぁ……じゃあ、真央は誰だと思う?」

「モーガン! ……いや、ネズミ大佐!」

「バッカ俺そんな良くねーよ」

「良っ……えっ、今バカにしたつもりだったんだけど……」

 

 あの二人、海軍でもトップクラスの最低男だったと思うのだが……こいつワンピース好きなんだよね? と、小首をかしげる。

 

「だってお前、そしたら麦わらの一味に相手してもらえるんだろ? ルフィにでもナミにでも殴られたら最高じゃん」

「え……な、斜め下の喜び方……」

 

 どこまで好きなのだろうか? ていうか似ているか似ていないかの話なのだが……もしかして、殴られるためならば最低になると言うつもりなのだろうか? 

 

「え、じゃあお前羨ましくないの? ルフィとナミに殴られるの」

「いやだよ……え、嫌だよね真乃、灯織」

「う、うん……」

「痛そうだし嫌だ……」

「お前ら変だよ」

「「「いやそれはそっち」」」

 

 口を揃えてしまった。この子の価値観は少しよく分からない。

 

「とにかく、めぐるは黄猿な?」

「やだ! じゃああんたネズミ大佐!」

「サンキュー、ボルサリーノ」

「早速呼ばないでよー!」

 

 喧嘩になりそうになるが、今度は真乃も灯織も止めに入って来なかった。代わりに聞こえてきたのは、割と失礼なひそひそ話。

 

「なんか……小学生の男の子と女の子みたいだね?」

「真乃……た、確かにそうだけども……」

 

 そんな言葉が聞こえたが、このムカつく男を成敗する方が先である。そのまま、しばらく取っ組み合いをしたままバトルを続けた。

 

 ×××

 

 さて、まぁそうこうしているうちに、良い時間になってきた。みんなでワンピースを見たりと騒いで、そろそろ帰る時間。そこで、問題が発生した。

 

「真央は?」

「え? ……あ」

 

 寝ている。よりにもよって男の子の真央が爆睡している。子供みたいに大の字になって「くかー」なんて分かりやすいイビキをかいていた。

 

「寝てる……どうしよう?」

「起こすしかないでしょ」

 

 そう言って、三人で真央を見下ろす。……しかし、男の子がよくもまぁ女の子三人の中で眠れるものだ。無防備というのはこういう子のことを言うのだろう。

 真乃が、思わずというように呟く。

 

「……なんか、ほんとに子供みたいだね」

「高校生どころか小学生って感じ」

「背もあんま高くないしね……」

 

 というか……ちょっと長尾があどけなさ過ぎて起こすのが申し訳なくなる。本当に子供みたいな寝相だ。

 

「……誰か家分かる?」

「私知ってる。持って帰るよ」

「物みたいな言い方しないであげて」

 

 そう言ってめぐるが真央をおんぶする。思ったより重かったのか、少しバランスを崩しながらも何とか立ち上がった。

 

「……」

「めぐる? どうしたの?」

「あ……いや、思ったよりゴツゴツしてて……前、麦わらの一味に入れるように筋トレしてるとか言ってたけど、だいぶ本格的みたい」

「ほわっ……そ、そうなんだ……」

 

 さっきは無防備だなんだと思ったけど、こうしてみると中々男の子みたいだ。

 

「めぐるちゃん、大丈夫?」

「大丈夫! じゃあ灯織、明日からまた頑張ろうね」

「うん」

 

 そう返事して、めぐるは真央を背負ったまま真乃と一緒に風野家を出た。

 歩きながら、真乃がニコニコ微笑みながら声を掛ける。

 

「私も一緒に真央くんの家まで行くね」

「ありがとー」

 

 時刻は20時過ぎているので、遅いと言えば遅い。女の子一人は危険だ。

 そのまましばらく二人で話しながら帰宅した。

 

 



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