なんだか違うサモンナイト3【短編・試作】 (マザー0150)
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なんだか違うサモンナイト3【短編・試作】

試作投稿です。感想意見くださるとうれしいです。


 工船都市パスティスに向かう船が分からず、端的に言えば迷子になっていたレックスは船乗りと思われる男に道を尋ねていた。この歳になって迷子とは結構恥ずかしいものがあるが、道がわからなければ仕方ない。

 

「・・・で、向こうにでけえ白い帆の船が見えるだろ?あの船がそうだ」

 

「ありがとうございます、助かりました」

 

 結構な強面だったが快く教えてくれた屈強な体付きの船乗りにレックスは頭を下げ礼を言う。気にすんなよ兄ちゃん、と豪快に笑い行ってしまった。仕事に戻るのだろう。歩いていくその姿にもう一度頭を下げる。

 

「・・・よし」

 

 初めて受け持つ教え子に思いを馳せ、少しばかり弱気になる自分の心に喝を入れる。不安なのは向こうも同じ、教え導く教師として堂々と振るわなければ。詐欺くさい煽り文句につい衝動買いしてしまった学術教本の内容を思いだしつつ、

 

「あ、あの・・・」

 

「ん?」

 

 歩き出そうとした瞬間、後方から声をかけられ、レックスは振り向く。そこにいたのはレックスの視線より随分低いところにいたのは髪をおさげにした可愛らしい少女。気弱な性格なのか、どこかおどおどしている様子だ。

 

「何か俺に用かな?」

 

 レックスは僅かに腰を落とし少女に聞く。もしかしたらこの子は迷子なのかもしれないという考えから出た優しさである。

 

その優しさが大きな間違いであることに気が付くのに大した時間はかからなかった。

 

「ええと、先ほどの人知り合いですか?」

 

 レックスを怖がっているようだが、意外にもハキハキとしたも物言いに、芯は強い子なのかもしれないな、とレックスは思った。質問の意味はよくわからなかったが。

 

「?いや、そういうわけじゃないよ、ちょっと道を教えてもらっただけ」

 

 へ、へえそうなんですか、となぜか顔を赤らめる少女。なぜか分からないが頬が紅潮しており、ついでに鼻息も若干荒い。レックスは引いた。その様子は帝国軍時代の同期の女傑に酷似していた。

 

「そうですか・・・線の細そうな受けと強引な水夫の攻め、有りですね・・・!」

 

 あ、この子やばいわ。ぼそりと少女が呟いた言葉をレックスは聞こえないふりをした。人の趣味は人それぞれ、と自分を納得させ無理やり引き攣った笑みを浮かべる。はっはっはとわざとらしく笑うレックスに少女はきょとんとした表情を見せる。いや君のせいだよ。

 

「ええと、俺になにか用があるわけじゃないのかな?」

 

 悪い子ではなさそうだが正直言って積極的に関わりたいような人間でもない。かといって迷子の子供をほっぽり出すわけにもいかず、さっさと用件を済ませようとする。

 

「いえ、ちょっと聞きたいことがありまして。あなたのお名前を教えてもらえませんか?あと攻めか受けかどうかも」

 

「名前はともかく、初対面の人に到底聞くべきではないことを聞かれた気がするんだけど気のせいかな?」

 

「あ、すいません。私から先ですよね。私はアリーゼ・マル・・・。」

 

「アリーゼお嬢様!」

 

 少女―――アリーゼが家名を言い切る前に一人の初老の女性が小走りで現れた。お嬢様、という言葉からアリーゼは中々の上級階級の子かもしれない、とレックスはあたりをつける。仕立てのいい服を着ていることから、この少女がそれなりに裕福な家庭にいることはある程度予想できていたが、付き人がいるのであれば、かなりの上流階級だ。

 

ついでにレックスは嫌な予感も感じていた。レックスが教えることになるのは帝国屈指の豪商、マルティーニ家の一人娘。家庭教師の件で詳細が書かれていた手紙の内容を思い出す。

 

「あ、婆や・・・」

 

「まったく、あれほど初対面の人にはカップリング講座をしてはいけないと言っているではありませんか!」

 

「常日頃やってるんですか!?」

 

 驚愕するレックス。気弱そうな外見とは違い、中身はかなりの剛の者だったらしい。

 

「で、でも婆や、私はこれからこの人と一緒にいることになるんだから趣味嗜好は聞いておきたいなとと思って・・・」

 

「俺にそんな趣味はないよ!?というかやっぱり君はマルティーニ家の・・・」

 

「はい。私はアリーゼ・マルティーニといいます。これからよろしくお願いします、先生」

 

「あ、うん。俺はレックス。君の家庭教師をやることになっているよ。これから宜しく」

 

 ぺこり、と軽くお辞儀するアリーゼの様子だけ見ると礼儀正しい少女にしか見えないが、その本性を知ってしまったレックスはげんなりする。育ちのいい豪商の娘、実際に性格もその通りなのかもしれないがこれから先自分をネタに掛け算されるとなればあまりいい思いはしない。

 

もしかしたら俺は人生の選択を誤ったのかもしれない、とレックスは思う。ああ、やっぱり勢いに任せて軍なんかやめるんじゃなかったな・・・、と今更ながら後悔してきた。

 

「マルティーニ家の情操教育はどうなっているんですか・・・」

 

 失礼と思いながらも初老の女性、メイド長であるサローネに小声で聞く。

 

「教育に関しては奥様が亡き以来私に全て一任してありますが」

 

 元凶が目の前にいた。アンタのせいかよ。

 

「・・・マルティーニ家の当主の方は教育に携わらないのですか?」

 

「若いメイドと駆け落ちしました」

 

 マルティーニ家は大丈夫なのだろうか。列車のハイジャック事件後、何故か得体のしれない暗い笑顔を見せていたマルティーニ家の当主を思い出す。

 

・・・・あれ?もしかして俺、体のいい生贄にされた?

 

「すいません、レックス様、お嬢様には私も方から後で厳しく言っておきますので・・・。」

 

「後でも何もここでお別れじゃないですか・・・」

 

「貴方ですね。旦那様のおっしゃった新しい家庭教師の方というのは」

 

「会話の流れをぶった切るのやめてもらえませんか!?それとさっき自己紹介で言ったじゃないですか!?レックスですよ!」

 

 話が横に逸れるどころではなく前に戻っている。

 

「国の軍人たる者、武術も召喚術共に優れるとお聞きしますが・・・。貴方は、どちらがお得意なのですか?」

 

「無視!?」

 

「システム上必要なことですので答えてください」

 

 しれっと意味不明なことを言ってのけるサローネ。レックスは本気でマルティーニ家は大丈夫なのだろうかと心配になってきた。そしてレックスにとって残念なことにその予感は大当たりすることになる。

 

「ところで、渾名がティンコガードだったという噂は本当ですか?」

 

「凄い渾名ですね!初耳ですけど!?」

 

 レックスの苦難の日々はここから始まることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 カイル海賊一家の客分、ヤード・グレナーゼは船長室で繰り広げられる会議内容を聞きながら、もしかしたら自分は早まったマネをしてしまったのかもしれないと思っていた。組織に追われていた自分を客分として迎え、そのうえ自分の依頼も承諾してくれたカイルの器の大きさは認めるし、その点は感謝しかない。

 

だが同時に言いようのない不安に襲われているのもまた事実だった。船内で上半身裸で鉄アレイでひたすら筋トレしている船長の様子を見れば。もしかしたら自分は鉄アレイ製造機とでも思われているのだろうか、とサモンマテリアルで鉄アレイを呼び出しながらたまに思う。

 

「で、だ客人、その客船にその二本の剣があるのは確実なんだろ?」

 

「ええ、その通りですカイルさん。あと汗が飛び散るので拭いてくれませんか?」

 

 男臭い汗で船長室内の空気がすごいことになっているが、他の乗船員は慣れっこなのか誰も言及しない。ならせめて換気でもと思ったがなぜかスカーレルに止められた。この汗臭い空気が好きらしい。赤き手袋の暗殺者だった経歴を持つ彼に限らず、特別な境遇に置かれた人物はなにかしらどこかオカシイのかもしれない、自分以外は。

 

嘗て師匠であった無色の派閥の大幹部を思い出す。普段は傲岸不遜で俺様な師匠も自分の妻だけには滅法弱かった。ち、違うのだツェリーヌ!とか言いながら結局必死に土下座して許しを請う自分の師の姿を思いだすと涙がこみ上げてきた。

 

「まあ、間違いなく帝国軍が護衛についているでしょうね。でも表向きは客船である以上帝国軍は少数でしょうし、客船なら機動力という点でこっちに分があるわ。一撃離脱。戦闘を最小限に抑えて攪乱すれば難易度自体はそこまで高くはない・・・。分かってるわねカイル、戦闘は最小限よ」

 

「帝国軍か・・・。骨がある奴がいればいいんだがな」

 

「聞きなさいカイル」

 

「だが俺の筋肉が告げている・・・。その客船には俺と肩を並べるほどの筋肉の使い手がいると・・・!」

 

「駄目ねこれは」

 

 だめかもしれないと、そう思わせるには十分な会話内容だった。海での方向感覚、知識はずば抜けているカイルだが、その実、重度のバトルジャンキーに筋肉マニアという欠陥を抱えていた。

 

「そういえばソノラさんの姿が見えませんが・・・」

 

 一通りの打ち合わせが終わってカイル一家の紅一点がいないことに気が付く。

 

「ああ、あの子なら甲板よ。ここ数日平穏だったもの、そろそろ禁断症状が出る頃ね」

 

「禁断症状、ですか?」

 

 ここ何日かでそれなりに打ち解けてきたつもりだったが、そんな話は聞いたことはなかった。

 

「ソノラさんは・・・なんというか、依存症か病気でも患っているのですか?」

 

「まあ、あれも病気っていえば病気だな。客人、命が惜しけりゃ甲板には出るなよ」

 

 渋面を作り警告するカイルにヤードは「は、はあ・・・。」と困惑顔のまま頷くことしかできなかった。

 

 そして数分後。

 

 ずがががががががががががががが!

 

『ぎゃあああああああああああああああ!!!』

 

 どどどどどどどどどどどどどどどど!

 

『ちょ、お嬢!・・・どさあsdふぃdぽj!!!』

 

 ずきゅーーん!ずきゅーーん!ずきゅーーん!

 

『ちょ、もう勘べどわあああああああああ!!!』どっぽーーーーん!!

 

『あははは!あははははは!!あははははははははは――――――!!!』

 

「「「・・・・。」」」

 

 配下の海賊達の断末魔と時折聞こえる少女の高らかな笑い声。扉越しに聞こえてくるソレはそのあたりの戦場以上の恐ろしさだった。戦慄して言葉が出ないヤードとは逆に、ああまた始まったよというような顔をカイルとスカーレル。

 

「・・・あの、これはいったい」

 

「なあヤード」

 

 筋トレを終え上着を着たカイルが優しさと諦観を織り交ぜたような表情で言う。

 

「言葉にしなけりゃ伝わらないことは確かにある。でもな、これだけは言える。お前が頭で思い浮かべたまんまだよ、ソノラの奴は」

 

 トリガーハッピーだった。

 

「・・・あの、いいんですか?配下の海賊の方達は?」

 

 あの絶叫はかなりマジなものだと思うのだが。

 

「まあ、ソノラの奴も殺すような真似はしねえよ。生きてりゃなんとかなるさ、多分な。・・・って今日の料理当番はソノラじゃねえか。この日のアイツは味付けが雑になるんだよな・・・」

 

「それに今発散させておかないと襲撃するときに鉛の豪雨が降ることになるわよ。確実に乗客が何人かは死ぬわね。あとあいつ等は多分大丈夫よ、生命力だけは飛び抜けてるし。あ、ヤード、ちょっと扉開けてくれない?マニキュア塗ったばっかりだから」

 

 これがカイル一家の平常運転だというカイル達の言にヤードの額から冷や汗が一筋流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 出航までまだ時間があるという中、その一団は客船の一室に集合していた。全員体が鍛えられ、姿勢一つとっても訓練された集団だというのがわかる。封印されている二本の魔剣の護衛を任された、帝国軍海戦隊第6部隊の面々である。

 

「私服組は全員待機完了したか。制服組、巡回ルートは頭に入ってるな?今回の任務は危険度が低いとはいえ、任務であることに変わりはない。油断せず気合入れていけ」

 

そんな中、前に立って命令を下しているのは隊長であるアズリア・レヴィノスでもなく、副隊長であるギャレオでもなく、

 

「全力を尽くして任務にあたる、それが俺達軍人であることを忘れるな。――――任務開始だ、行け」

 

「「「任務、了解!」」」

 

 顔面に剣の入れ墨を彫った人相の悪い緑髪の男、ビジュだった。

 

 どうしてこんなことになっているのだろうか、とビジュは何度考えたかわからない思考を再び繰り返した。加虐心が強く、任務にかこつけて自らの欲求を満たすために卑怯な戦法を好むため軍をたらい回しにされて第6部隊に流れ着いてきた、というのがビジュの経歴だが、今ではそんな影は微塵も見えない。というか彼をよく知る同じ部隊の隊員からすれば苦労人という印象が強い。

 

実際この第6部隊に来た当初は問題児という一面が色濃く残っていたが、今となってはこの部隊の実質的なまとめ役になっている。理由は単純、隊長と副隊長があまりにもアレなせいだ。

 

アズリア・レヴィノス、ギャレオ。問題児部隊と言われるこの部隊を統べる隊長格の二人である。別にこの二人が無能というわけでもなく、隊長格を張るだけの個人戦闘力に指揮能力、リーダーシップを兼ね備えている。特に戦闘面では化け物かと突っ込んでしまうほどの二人で、それなりに腕に覚えのあるビジュでも分が悪いと言わざるを得ない。

 

だが得てして軍人というのは戦いがなければ途端に存在意義が薄れる。もちろん戦乱の抑止力になるといった役割もあるのだが。日常でも力量を発揮できる文官肌の人間というのは中々少ない。副隊長であるギャレオを見れば分かるが、やはり脳筋が多いのである。頭も筋肉でできていそうな副隊長は別格すぎるかもしれないが。そして文武両道型の隊長、アズリアなのだが――――

 

「まさか、あんな欠陥持ちとはよぉ・・・。」

 

 そうビジュは溜息を零す。才色兼備、文武両道を地で行くアズリアだが、たった一つ欠陥があった。結構致命的な欠陥が。戦闘面では変わらず、というか八つ当たりのように鬼神の如き強さを発揮するが、スイッチの入っていないときの事務作業はダメダメ。うわ言のようにぶつぶつ「レックス」やら「イスラ」やら呟きながら判子を押しているアズリアを見たとき、ビジュは「ああ、これは俺がやらなきゃこの部隊終わるな」と確信した。

 

 それ以来、ビジュは劇的に変わった。というかギャレオを必要最低限の仕事が終わると即筋トレをし始めるし、スイッチの入っていない時のアズリアは大した戦力にならないし、平時における書類仕事ができるのがビジュしかいなかったので変わらざるを得なかった。笑い方は相変わらずだが。

 

「アズリア隊長、ギャレオ副隊長、任務内容の伝達終えました。これより自分も任務遂行のため部屋の警備にあたりますがよろしいですか?」

 

 魔剣が配置されている部屋にいるはずの二人に声をかけるが返答はない。訝しんで扉を開けるとそこには―――――

 

「レックスレックスレックスレックスイスライスライスライスラ――――――」

 

「ふん!ふん!ぬううん!」

 

 椅子に座りアルバムを開いてうわ言のように繰り返すアズリアとどこにあったのか鉄アレイで筋トレするギャレオの姿だった。

 

「・・・」

 

 ビジュは見なかったことにして扉を閉めた。これから俺はもっと頑張っていこう、という決意と共に。遠くない未来、ビジュはレックス、ヤードという得がたき親友、というか愚痴り仲間を得ることになるが、今のビジュが知ることではなかった。

 

「佐藤さんに会いたい・・・。」

 

 その言葉に意味はない。ただなんとなく言わなければならないと思っただけだ。

 

 

 

 多くの人々を乗せた船は帆を張り、港を離れていく。

 ここから運命の歯車は動きだし、彼らを巻き込んでいく。

 

 

 

 

――――――――さあ、目覚めるのだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけの人物紹介 レックス

男版主人公 トリス曰くイケメンらしい。 別名ティンコガード。そんな装備では防ぎきれない。生徒に始まり挙句の果てに幽霊までオトす強者。尊敬してます先生。PS2時代は不遇な扱いだったが、PSP版では中々の使い心地。だがユニットとしていくら強化されていようとも、女教師という高すぎる壁を超えることはやはりできなかった。

 

 



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