緋弾のアリア その武偵……龍が如く (ユウジン)
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プロローグ
前編 龍の試験


「ったく……キンジ!こっちだ」

「なんとか間に合ったな……」

 

二人の男が学校に飛び込む。

 

「折角遠くの学校にしたって言うのに遅刻して試験失格じゃ洒落になんねぇぜ」

 

大柄で肩幅も広く顔立ちは整っていない訳じゃないがキツめの怖そうな男が言う……名は桐生(きりゅう) 一毅(かずき)……江戸時代から端を発する実戦剣術の一刀、二刀、無手、大太刀、小太刀の5つの型を使う武術【二天一流】の使い手で15才。

一見齢15に見えないが中学を卒業したばかりの高校受験生である。

 

「そう言うがお前だって寝坊したじゃねえか」

 

今しゃべった男は遠山(とおやま) 金次(きんじ)・通称キンジ。

背丈は平均的で少し暗そうだが中々見れる顔だ。

彼は名奉行遠山・遠山の金さんの子孫で、ナイフと銃と我流で少々粗削りな蹴り技を得意とする15才だ。

この二人は昔からの付き合いで、幼馴染みと言う関係であり、そして二人は今、東京武偵高校の受験に来ていた。

 

こ東京武偵高校を武偵を育成する学校である。

武偵とは金を貰えばどんなことでもやる。謂わば何でも屋だ。

そんな学校の試験に二人は来たのだが……

 

「こっちか?」

「地図だと多分そっちだな…」

 

二人が地図と睨めっこしながら会場を目指して角を曲がる……すると、

 

「た、助けてください!」

『え?』

 

二人は唖然とした声を出す。更にキンジは走ってきた女の子と激突かのじょ押し倒す形になる。

 

「おいおい、先客は此方だぜ?」

 

そこに3人ほど柄の悪そうな男たちが来た……武器はない。

 

「つうわけでどぶっ!」

 

男はキンジの肩を掴むが次の瞬間蹴りで吹っ飛んだ。

 

「全く……女性を追いかけたくなる気持ちはわかるが怖がらせるのは頂けないな」

 

スッ……とキンジはゆっくり立ち上がる……先程とは違い別人のような雰囲気……間違いない、成っている。

 

(キンジの奴成っちまったかヒステリアモードに……御愁傷様、柄の悪そうな男達)

 

一毅は男達に手を合わせる。

 

「てめぇ!」

 

男達は拳を構える。

 

「来なよ……ウォーミングアップには丁度良いさ」

 

キンジは我流の蹴りの構えだ。

 

「やったらぁ!」

 

一人来るがキンジに簡単に躱される。

 

「隙ありぃいいいいいい!」

 

そこに男が後ろから拳をを降り下ろす……だがキンジは当たる前に男の金的に後ろ蹴りを思い切り打ち込む……

 

「はぅあ!」

 

男は堪らず脂汗をドッと流しながら金的を押さえる。そこにキンジは飛び上がるとオーバーヘットキックの要領で後頭部を蹴っ飛ばす。

 

「金的の極み……」

「くそ!」

 

先程躱された男が振りかぶる。

 

「喰らえ!」

 

拳がまた迫る……だが当たると相手が踏んだ瞬間にキンジの蹴りが腹にめり込んでいた……

 

「カウンターキック……」

「ぐげろぉ…」

 

男は瞑れたカエルみたいな声を出して気絶する。

 

「ひっ!」

 

最後の男は腰を抜かす。

 

「二人を連れていけば良い……但し二度とやるな……分かったか?」

「は、はぃいいいいいい!」

 

二人を連れて走り去っていった。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

女の子に頭を下げられるがキンジはスッと相手の髪を梳く。

 

「全く……昔から君は変わらないね……」

「え?」

「忘れたのかい?俺だよ、遠山 キンジ……それともキンちゃんと言った方が良いかい?」

「き、キンちゃん!?」

 

女の子は驚いたような顔だ。

 

「すっかり綺麗になったけど相変わらずだね、白雪」

 

キンジを頬を赤くしながら見ている女の子……彼女は星伽(ほとぎ) 白雪(しらゆき)。昔キンジと一毅が遊んだ事がある子だ。神社の巫女の家系で妹が沢山いる。15才。

 

「おーい、俺置いて話すな~」

「ああすまないな一毅」

「え?カズちゃんなの?」

「おお、白雪久し振り」

 

幼馴染み三人が久し振りに顔合わせだ。

 

「じゃあ二人もこの学校に?」

「ああ、強襲科(アサルト)だ」

「同じく」

 

キンジと一毅が頷くと、

 

「私はSSRなの」

 

すると放送が入る。

 

【これから試験が始まります、指定の場所に集まりください】

 

「じゃ、じゃあ又後でね」

「ああ」

「おう」

 

白雪と二人は別れると、集合場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、今のキンジの変化について少し説明しよう。

今のキンジは【ヒステリア・サヴァン・シンドローム】……通称【ヒステリアモード】。

これは男が女を守るときに強くなるという本能が極端化したもので所謂……性的興奮をトリガーとした人格変化を含む神経系の強化……という説明を一毅はキンジの兄からされたことを思い出した。

そうしていると教官役の女性が来る。

キンジとは運良く別のグループに割り振られた。一毅はBグループだ。

 

「教官の蘭豹(らんぴょう)や、ルールは一つ。生き残れ、武器は事前予約したやつを受け取ったな?」

 

俺は太刀と小太刀を模した木刀を軽くさわる。

 

「よし、初め!」

 

ルールはさっき説明した通りバトルロワイヤル方式……適当にバラけつつも俺は太刀型の木刀を抜く。

 

「ウォオオオ!」

 

そこにいきなり木刀を降り下ろされる。

 

「ちっ!」

 

俺は体を反らして躱すと構える。

 

「来いよ……」

「だぁ!」

 

相手の木刀を弾く。

 

「うらぁ!」

 

そこに一毅は胴を凪ぐように木刀を振るう。

 

「うご…」

 

そして相手は泡を吹いて気を失った。

 

「くそっ!」

 

今のを見ていた奴等は一毅をロックオンする。

 

「…………」

 

一毅は太刀型の木刀を構え直す。

 

「はぁ!」

 

一人来た。

 

「しゅ!」

 

俺は後ろに跳ぶと、一気に前に出直す、

 

「二天一流・秘剣!疾走斬!!」

 

二天一流の【秘剣】と言うのは一刀、二刀流、無手、大太刀、小太刀の中でも一刀の技をそう呼ぶ。

5つの型の中では攻守共にバランスが取れた戦い型で基本的にどんな相手とでも戦えるようにと技が豊富だ。

一毅の先祖も愛用した型であり一対多数には少々不利ではあるもののこれくらいの相手ならこれで十分……

それが【二天一流・秘剣の構え】である。

そして躱され体勢を崩された顔に木刀が叩き付けられる。

 

「この!」

 

一人が一毅の体に飛び付く……

 

「ウォオオオ!」

 

動けないところにまた来た。

 

「二天一流・拳技!解き投げ!!」

 

拳技は読んで字のごとく無手の技だ。

二天一流の型の中では最も速くやらされる型で、二天一流の技の中では基本中の基本の型だ。しかもこの型の技は刀を持っていても使える技が非常に多い。

ただ威力は低いため剣と平行して使うことが多い。

それが【二天一流・拳技の構え】……

さて、一毅は素早く相手の掴みを解き襲いかかって来た相手に投げつける。

 

「うえあっ!」

 

相手が驚いて避けた所に一毅は走り込むと相手を渾身の切り上げで打ち上げる。

 

「二天一流・秘剣!」

 

一毅は浮いた相手を台に跳び……回転。

 

「空中回転斬りの極み!!!!!」

 

一毅の木刀はそのまま地上の相手を吹っ飛ばした。

 

「ふぅ…」

 

一毅は相手がいない事を確認してから木刀をしまう。

すると、乾いた音が続けて響いた。

 

「なんだ?」

 

一毅は音の方に向かう。

 

「くそぉ!」

するとさっきキンジに唯一ぶっとばされなかった男が走っていった。

だが次の瞬間乾いた音が響きそのあと倒れた音がする。

 

「大丈夫か!」

 

一毅は出ると目の前に見事にゴム弾で眉間を撃ち抜かれて昏倒していた男がいた。

 

「貴方で最後ですね?」

 

一毅は声の主を見る。

相手は綺麗な薄い青色の髪…だがその瞳からは感情を読み取れない。

そしてその少女はライフル狙撃銃を構える。

 

「行きますよ……」

 

次の瞬間マズルフラッシュでその場が光る。

 

「っ!」

 

一毅は木刀で弾く。だが、

 

「ぐぉ!」

 

弾いた弾丸が跳弾し、一毅の脇腹めり込んだ。

計算済みと言うわけだろう。

 

「くっ!」

「まだまだ行きますよ」

 

次々とマズルフラッシュが瞬く。

 

「くそ!」

 

一毅は横に跳んで柱に隠れる。

 

(なんだあいつ……)

 

一毅は木刀を握り直す。このまま居ても拉致があかないのは明らかだ。

 

(よし!!)

 

一毅は飛び出すと少女を睨み付ける。

 

「ウォオオオオオオオオオ!!!!!」

 

一毅は木刀を手に走り出す。

ゴム弾が迫るがそれを次々弾き返す……跳弾に当たることがあるが歯を食い縛り耐える……

 

「どうやって……」

 

少女が眉を寄せる。ゴム弾とは言え当たれば痛いし速度だって並みじゃない。なのに目の前の男は普通に弾いてくる。

 

「弾は銃口から真っ直ぐしか飛ばないから連射されない狙撃銃が相手なら銃口の角度とか良く見て行けば簡単に弾ける!」

 

……と父に習っていたが確かにその通りだった。

そして間合いを詰めると少女の方は冷静に銃剣を振り下ろす。

 

「うらぁ!」

 

一毅はそれを木刀で受けると弾き返しつつ腰を落とす。

 

『っ!』

 

一毅の木刀と少女の銃剣が交差する。一瞬の間の後にゴトっと言って少女の狙撃銃が落ちる。

 

「なぜ私自身には当てないんですか?当てられましたよね?」

「どんな理由があろうと女をぶん殴るのは俺の趣味じゃねえんだよ」

 

一毅は木刀を下ろす。

 

「まあこれは俺の俺の勝ちで良いだろ?」

「ええ」

 

少女は頷く。それを見ると一毅も安心する。

後、こうやって近くで見ると凄い美人だ。きっと学校受かったらスゴくモテるだろう。まあ関係ないことだ。まあ彼女の彼氏になる男には少し同情す……等と考えていると突然囲まれる……

 

「っ!」

 

一毅は木刀を構えながら少女を庇うように立つ。

 

「どういうつもりですか?」

「相手が何もんかわからないが…取り合えず守ってんだよ」

「なぜ……?」

「誰か守んのに理由がいるかよ……しかもお前女だぜ?男が女を守んのは義務みたいなもんだ」

 

一毅は周りを見る。数は凡そ七人……恐らくプロだ……何となく持ってる雰囲気で分かる。

 

「こりゃあ…本気でやるしかねえか…」

 

一毅は相手を見回しながら息を吐ききると左手で小太刀を一気に抜く……右手に太刀型の木刀、左手に小太刀型の木刀、見ての通り二刀流の構えだ。

 

「なんだ?」

 

相手の一人が疑問の声を漏らす…

太刀と小太刀の二刀流はどんな状況だろうが絶対に実戦的ではない……これは少しでも剣を噛じれば誰もが知る事になる真実だ。

純粋に利き手でない方に武器を持つ利点がないのが大きな理由だろう。更に片手で相手の攻撃を受ける事になる等相当腕力が高くないと無理な芸当だ。

小太刀の二刀流ならまだいいだろう。才能があればそこそこ使える。だが一毅の二刀流は駄目だ……誰もがそう重思った。

それ故に油断した……一毅は……いや、桐生と言う一族は才能・恵まれた体躯……それに加え愚直なまでに自らを鍛え続け長い長い時間の中で世界から見ても唯一太刀と小太刀の二刀流を得意とする……己の手足と同等になる程までに昇華させた一族だと言うことを知らなかったのだ……

 

「全員纏めてで構わない……一緒に掛かって来やがれ!!」

 

一毅は相手に向かって走り出した……




武偵の龍のリメイク版です!
まあリメイク前と似たような部分もありますが出来るだけ掘り下げて書いたりします。宜しくお願いします。


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後編 龍と風の出会い

桐生(きりゅう) 一馬之介(かずまのすけ)……これは一毅の先祖の名である。

【祇園の龍】と呼ばれ酒と女を好み、喧嘩には滅法強い……だが情に弱く己を頼るものを無下に出来ないお人好しだった。だがこの男にはもう一つの名があった…それは、【宮本 武蔵】

【天下無双】【最強の剣士】【史上最強】etc.etc……この全てが彼を語る上で外せない二つ名である。

彼を知らぬものはいないだろう……誰もが一度はその強さに憧れ、誰もが一度はその男の伝説を聞く。

そして誰も知らないだろう……彼はその武をたった一人の少女を助けるために懸けた事を……

そして知るだろう……彼の魂を、彼の強さを、彼の心力を、全てを受け継ぐものがいることを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウォオオオオオオ!!!!!」

 

一毅は相手に向かって走り出す。

 

「ちぃ!」

 

相手も武器を構える。

 

「いよっしゃあ!」

 

一毅は太刀型の木刀を振り下ろす。

 

「っ!」

 

相手の一人がそれを躱し別の相手が攻撃に出る。

ゴムで出来たナイフを一毅は小太刀型の木刀で弾く。

 

「なにぃ!」

 

相手は大きく体制を崩す……そこに、

 

「二天一流・必殺剣!二刀陰陽斬!!!」

 

一毅はがら空きになった脇に太刀型の木刀を打ち込む。

 

「がっ…」

 

打ち込まれた相手は泡を吹いて倒れた。

 

「フゥウウウウウ……」

 

一毅は残心を行いゆっくり息を吐く…

 

「この!」

 

背後から来るが小太刀型の木刀で防御する。

 

「なっ!」

 

二刀流は良く隙があると言われるがそれは使いこなせていないからである。

確かに重い一撃はガードごと弾かれることもある。更に剣を振れば刀を刀で振るうと言う都合上どうしても振りが大きくなる傾向にある。

だがこの様に真の意味で使いこなせば隙がないのだ。例えば重い一撃は透かしたり躱す。それ以外は弾いてその隙をもう一方の刀で突く。

攻撃寄りの型であり二天一流の看板の型……そして桐生 一馬之介が命懸けで会得し最も好んで使った……一対多数から一対一までどんな状況でも使える万能にして最強の型。必殺剣と総称される構え……それが【二天一流・必殺剣】の構えである。

 

「この!」

 

更に前から来る。

だが当たると思った一瞬油断し次の瞬間そこを太刀型の木刀で突かれる。

 

「がっ…」

「二天一流・必殺剣!二刀瞬斬!!!!!」

 

一毅に突かれた相手は白目を剥いて倒れる。

 

「く、くそ!」

 

残り五人は驚いて下がる。

 

「来ないのか?なら俺から行くぞ!」

 

一毅は木刀を二本とも握ると走り出す。

 

「うぉ!」

「うっらぁ!」

 

一毅は木刀を振り上げる。 相手は顔を逸らして躱すが一毅は、

 

「イヨッシャア!」

 

反対の足を前に出し床を踏み抜かんばかりに力強く踏み込むと小太刀型の木刀を相手の鳩尾に突く。

 

「ごはっ!!」

 

相手は吐瀉物を撒き散らしながら倒れる。

 

「だぁ!」

「おらぁ!」

 

背後から来るがスウェイで躱しながら更に転がる。そして後頭部を、

 

「二天一流・必殺剣!二刀側転斬!!!」

 

ぶっ叩くと倒れる。一毅の超人的な腕力からの一撃だ。仕方ないだろう。

 

「こ、こんのぉおおお!」

「ま、待て!」

 

仲間が止めるが焦っているのか来る。

 

「舐めんなぁああああ」

 

木刀が振り下ろされるが、一毅は二刀を使って止める。

 

「うぉおおらぁあ!」

 

一毅は蹴っ飛ばして相手を押し返すと空中に向かって跳ぶ。

 

「オッシャア!」

 

二刀共振り上げると力を込め勢いをつけながら渾身の力で振り下ろしそのまま頭に叩きつけた。

 

「ごがっ!」

 

相手はその凄まじい衝撃に脳裏で一瞬驚愕しながら倒れる。

 

「ぐ……」

 

だがそれでも立とうとするのは意地とかプライドか……

 

「ふん!」

「ぐえ!」

 

だが、一毅は立とうとしていた相手を踏みつけて止めを指すと残りの二人を見る。

すると二人は目配せし、ゆっくり一毅を取り囲むように近寄っていく。

他の奴等とは違うようだ……それが分かると一毅は二刀を構え腰を落として迎え撃つ……

 

『…………………』

 

一瞬静寂が辺りを包む……そして、

 

「はぁ!」

 

一人が木刀を振り下ろす。

 

「っ!」

 

それを太刀型の木刀で防ぐ。だがそこに、もう一人の方が木刀を振り下ろす。

 

「はぁ!」

「おお!」

 

それを一毅は小太刀型の木刀で防ぎ下がる。

 

『はぁ!』

 

それを二人は追うように木刀を振るいながら追ってくる。

 

「ちぃ!」

 

一毅はそれを次々と弾き返していく。

 

『っ!』

 

そして一毅が止まると、二人は好機と踏んで同時に大振りの一撃を放ってきた……

だが、それを見ると一毅の目が光る。

 

「勝機!!!!!」

 

一毅は二本とも握ると、二人の木刀を一本ずつ弾く。

 

『なっ…』

 

流れるように……鮮やかにそして優雅に……余りに美しい動きに二人が唖然とした……そこに一毅は最後の一撃を叩き込む。

 

「二天一流・必殺剣!真二刀(しんにとう)()い!!!!!!」

 

先祖で二天一流の開祖・桐生 一馬之介がある日に躍りの稽古をする舞妓を見て天啓を得て作り出した二刀流の剣技によって二人とも沈めた…

 

 

「ふぅ…」

 

一毅が息を吐くとブザーが鳴る。恐らくこれで試験終了という合図だろう。

 

「おーい!」

 

そこに教官の蘭豹が来た。

 

「めんごめんご、お前狙撃科なんやってな!」

 

そう言って先程狙撃銃をこっちに向けてきた少女に話しかける。

 

「はい」

「こっちの書類の手違いや、今から別途に試験やるから来い」

 

いやひどい間違いだな……しかも科が違うならあの少女も言えば良いのにと一毅が呆れる。

 

「分かりました」

 

そんな一毅の思いも露知らず少女は頷くと一毅を見る。

 

「……貴方が風が言っていた神殺しの一族ですか……成程、その年で二刀流を操る常識離れした腕力、更に銃弾も見切る動体視力と反射神経……極めつけに複数人相手でも物怖じせず返り討つ……化け物ですね」

「何?」

 

突然謎の言葉を言い出した少女に一毅は疑問符を浮かべる。

風とか神殺し良く分からんが……所謂最近流行りの電波ちゃんとかだろうか……

だが初対面に化け物呼ばわりはされたくない。それに化け物度合いなら父親の方が上だ。

 

「いえ、此方の話です」

「そうかい」

 

一毅は少し不機嫌そうに言う。だが少女は一毅の顔をジッと見つめる。

 

「なんだ?」

「貴方のお名前を聞いていいですか?」

「え?ああ~、桐生……桐生 一毅だ」

 

最初は名字だけでいいかと思ったが一応名前まで名乗っておく。

 

「私はレキです」

 

相手は名前しか名乗らなかった……だったらこっちも名前だけで良かったな。

 

「では又会いましょう……」

「え?」

 

そう言ってレキと名乗った少女はポカンと口を開けたままの一毅を置いて蘭豹に着いていった。

 

「おいおい。また会うことなんてあるのか?」

 

可愛いが何か口より先に狙撃銃が出そうなレキという少女の背を見送ってから一毅は首を傾げつつ外に出る。

すると、

 

「ふふ、じゃあキンちゃんも合格決定だね!」

「あ、ああ……そうだな」

 

ヒステリアモードも切れて唯の人間に戻ったキンジとそれにハートマークを飛ばしながら話続ける白雪がいた。

 

「よう、どうだった?」

 

一毅が声を掛けるとキンジが振り替える。

 

「取り合えず全員ぶっ飛ばして終わりだ」

 

流石ヒステリアキンジ。多分向こうにも此方に現れたようにプロの武偵が居た筈だ。それをぶっ飛ばすのだから本当にキンジと同じグループでなくて良かったと思う。

無論戦って負けると思ってる訳じゃないが簡単に勝てる相手でもない。

 

「じゃあキンちゃん!寮が決まったら教えてね、お弁当持っていくから」

 

白雪はグッと手を握ってキンジを見る。

 

「いや、別に良いって……」

 

キンジは必死に断ろうとするが、

 

「私がしたいから良いの!」

 

白雪には馬の耳に念仏だった。完全にヤル気満々だ。

 

「はは……」

 

こりゃ盛大に惚れられたもんだなキンジ……と一毅は苦笑いを溢す。

まあ別に良いのだ。どうせ女関係で苦労するのはキンジだし、当分自分には恋愛は程遠い話で関係のない話題だ……こんなヤクザみたいな顔の男と付き合おうと思ってくれる女はそんな多いとは思えない。

 

だがこの時一毅は知らなかった……先程会ったレキという少女とそれから一ヶ月後に告白され……そしてその少女と紆余曲折を経て付き合うことになることを……

 

 

これは後に王龍と呼ばれる男と魔弾の龍姫と呼ばれる女の出会いの話である……



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第一章 龍と風の会遇
魔弾の告白


「結婚を前提に付き合ってください」

 

誰もが一度は憧れるかもしれないプロポーズ……場所は屋上、夕日がその場を照らしている。良い雰囲気の中一毅と告白の相手を照らす……ここだけ聞けば何と素晴らしい告白風景だろう……演劇での演目であればお涙頂戴物だろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだが……

何故こんな事になったのか……それは少し時間を戻そう。

それは今から少し前……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

「どうした?」

一ヶ月前に東京武偵高校に仲良く受かった一毅とキンジは下駄箱に居た。

後、武偵には其々学科でSからEまでランク付けされており一毅とキンジはプロ武偵を倒したためかSに格付けされた。

因みに試験の際のプロ武偵(あとで知ったがあれは在校生だったらしい)をボコボコにしたのが大きかったのだろうがキンジは普段はCランクいけば上々の戦闘能力なので結構苦労している。

そんなこんなで新入生としてそろそろ此処の無茶苦茶な校風も分かってきた頃一毅の下駄箱に手紙が入っていた。

 

「手紙だな……」

 

【放課後…屋上にて待っています】と中にはそう書かれている。

「果たし合いか?」

「かなぁ……」

 

キンジと一毅は首を傾げる。この文面を見てまず最初に果たし状かと勘ぐるのは世界広しと言えどこの二人くらいだろう。

 

「まあ良いや、行ってから帰る」

「一緒にいくか?」

「いや、大丈夫だろう」

「そうか?まあ、気を付けてな」

 

そんな会話の後に一毅はキンジと別れると屋上を目指し階段を上る。

意外とこの学校は広いので5分も学校を歩かなければならない。

まあ普段から体を鍛えるためとか色々理由はあるらしい。だが変な場所に間違っていくと暗器とか鳥居とか銃弾とか転がる危険地帯も多いため気を付けなければならない。

 

そしてそうこうしてる間に屋上に着くと扉を開ける。

 

「あれ?」

 

一毅は驚く。

屋上には何故か試験の時に蘭豹が間違えて試験を受けさせてた無口で無表情で無感情だが顔立ちはとんでもない美少女……確か名前は……

 

「レキ……だっけ?」

「お久し振りですね。桐生 一毅さん」

 

あの時と変わらぬ無表情でレキは言いながらこちらを見ると近づいてくる。

 

「何か用か?まさか試験時の意趣返しか?勘弁してくれ……俺は今日は疲れてんだ」

 

一毅も近づき屋上の真ん中辺りで二人は止まる。

 

「違います。ただ……私に約束してくれればいいのです」

「約束って……何をだ……?」

 

一毅が首を捻った次の瞬間予備動作なしでドラグノフ狙撃銃の銃剣を首筋に突きつけられる。

流石に油断してた一毅は反撃する暇処か腰に履いた刀に手を掛ける事も出来ずに驚くことしか出来なかった。。

 

「ど、どういうつもりだ?」

 

一毅は取り合えず聞く。どういうつもりか分からないがとにかく攻撃しに来た彼女に事情を聞いて見るしかない。

と言うか意趣返ししないんじゃなかったのだろうか……

 

「結婚を前提に付き合ってください」

「……はい?」

 

一毅は唖然とした。

血痕を前提に付き合う?……いや、それだと殺し合いに発展する。多分【血痕】ではなく……

 

「言っておきますが殺伐した方の血痕ではなく夫婦になると言う意味です」

「で、ですよね?」

 

先に言われた……だがいきなりどういう事だ?突然|結婚を申し込まれた?全く話の前後がわからない。

まあこんな可愛い子に言われて全くトキメかない程枯れてはいないが……だが、

 

「きょ、拒否権は?」

「ありますよ」

 

あ、あるんだ……等と思ったがところがどっこい、

 

「まあ断ったら撃ち抜きます」

「おい……」

 

先程までのトキメキは全部吹っ飛んだ。完全に脅されている。とは言え……

 

「俺はお前の事は何も知らないぞ……?お前だって何だってそんな男に告白どころか結婚まで申し込んでいるんだ?」

「そうですね、ですがいいのです……風の命令ですから」

「風?」

 

風……今も吹いてるこの現象の事だろうか……?試験の時も思ったがもしかしなくともこの美少女無表情ガンナーはやはり今流行りの電波系なのだろうか……って待て待て!

 

「もしかしなくともその風の命令で俺に告ってんの!?」

「ええ」

「それじゃあさよな(パン!)……OK、少し話し合おうか」

 

俺の顔の真横を弾丸がお通りなさった。ほんとに撃ち抜くのかよ……しかも撃つまでに迷いが一切ない。なんか狙撃用の機械みたいだ。

 

「ち、取り合えずその風に伝えろ……俺はその風とか言う奴の命令で好きでないもの同士で付き合える程の度量はない」

「成程……ならこういうのはどうでしょう」

「あ?」

 

レキは銃剣を離して一毅を見る。

 

「お友だち期間……所謂仮カップル期間を作るんです。その間に貴方は私を好きになってください。これならいいでしょう?」

「俺じゃなくてお前はどうすんだよ」

「私には必要ありません」

「で、でもそれでお前のことを好きにならなかったらどうするんだ?」

「その時はその時で考えます」

 

そう言ってレキの目が細くなる……まるで暗殺者のようだ。

 

「これ以上の譲歩案はありません。断れば今度こそ撃ちます」

 

そう言って再度銃を向けてくる……

 

(しかし何だよ風って……)

 

そう思いつつもレキを一毅は見る。

確かに愛想はないし背は低いし比較的幼児体型の部類の女だがそれらを差し引いてもくりっとした眼に透けそうな真っ白な肌……とお釣りがくる美少女だ。

そんな彼女が風とか言う謎の人物からの命令とは言え自分に対して結婚……はまあまだ勘弁願いたいが告白してきてる……一毅も年頃の男の子でありそんな状況で多少なりとも悪い気がしないのは仕方ないだろう。

それにここまでさせる風と言う奴の正体や目的も気になると言えば気になるのだ。

だが、彼女は自分の好み(一毅は活発ででも大人びた感じの年上の女性が好みだ)とはかけ離れてるし、態々仮カップルしてまで風の正体が気になる

訳じゃない。

 

「うーん……」

 

一毅は頭を捻る。

 

「駄目ですか?」

 

レキは銃を持つ手に力を込める。

 

「………分かった……分かったよ。取り敢えず物は試しだ」

 

命令とは言えここまでさせたんだ。

断るのはやはり男として不味いと言うか男としてここは腹を括るべきだろう。まあ試しに付き合ってみれば本当に好きになるかもしれないと言う気持ちもある。

よく言うだろう。自分の好みと好きになる相手は違うと……

 

「そうですか。ではこれからよろしくお願いします」

「あ、ああ……まあこちらこそ……」

 

そう言ってお互いに頭をペコリ下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、脅迫と言う名の告白による一毅とレキの一年生同士の仮カップルは何故か次の日には学校中に知れ渡り、さらにその次の日には……

 

「桐生死ねヤァアアアアアア!!!」

「ウォオオオ!!!」

 

強襲科(アサルト)に追い掛け回され……

 

「【チュイン!】おわ!」

 

狙撃科(スナイプ)に狙撃されかけ……

 

「逃げるなぁあああああ!」

「逃げるわぁあああああ!」

 

車輛科(ロジ)に轢かれそうになり……

 

「……………」

「ウォップ!」

 

諜報科(レザド)に暗殺されかけ…

 

「喰らえ!」

「危な!」

 

救護科(アンビュラス)に怪しげな薬投げられ……ってコンクリートが溶けたぞ……

そして極めつけは、

 

「死ね!」

「何で!?」

 

蘭豹に斬馬刀とM50の餌食にされかけた……

しかもこのすべての装備は装備科(アムド)から供出されている。

だがまさかレキにファンクラブ(通称RFC)が出来ていたとは……一部は合コンに失敗したとかだけどな。

 

(俺明日辺り死ぬんじゃねえかな……)

 

一毅はトボトボ歩きながら食堂に向かう。後ろにはテクテクと従者のようにレキを引き連れながらだが。

因みにレキが居ないときを見計らって襲ってくるのでレキがいれば襲われない。

 

「さて何食うかな……」

 

一毅がメニューを見ているとレキはテクテク歩いてカロリーメイトの自販機に向かう。

 

「待て、お前まさかカロリーメイトをここまで来て食う気か?」

 

一毅はレキの肩をガッチリ掴んでとめる。

 

「何か問題でも?食事とは必要なエネルギーを摂取出来れば問題ありません」

「……………はぁ……」

 

一毅は大きな溜め息を一つ吐くとレキの手を引っ張り列に並ぶ。

 

「あのなぁ……食事ってのはなにも栄養の摂取のみを目的としていないんだよ。旨いもん食えば色々と頑張ろうとか思えるだろうし元気も出る」

「そうですか?」

 

一毅が言うだけ言ってみるが反応は静かなものだ。

 

「あー……うん、とにかく今は何かカロリーメイト以外の物を食おうぜ?ほら奢ってやるから」

 

一毅がメニューを指差す。するとレキは、

 

「でしたらあの【激辛ドラゴンチャーハン】で」

「何でこの学校そんな必殺技みたいな名前の飯あんだよ……」

 

一毅は唖然とした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後昼食を終えて帰る途中に蘭豹に呼び止められる。

 

「お~いそこのリア充」

 

先程一毅を襲った恐ろしい教師が話しかけてきた。

 

「あ、蘭豹……先生何ですか?」

 

危なく呼び捨てで呼ぶところだった。間違ってでも呼べば恐ろしい体罰が待っている。

 

「なんや今の変な間は」

「き、キノセイデスヨ……それで何かようですか?」

「おお、ちょいとヤクザの密談潰してこい」

「………………はい?」

 

何かちょっとそこまでお使い行ってこいみたいなノリでとんでもないこと命令されたような……

 

「ここの廃ビルで薬の密売があるしい

んや。だから全員ブッ飛ばして捕まえてこい」

「いやいやいや、そう言うのって先輩やるんじゃないんですか?」

「今でばってるんや、ついでに言うと下手な二、三年いやらせるんやったらお前の方がエエわ、んじゃ今日は頼んだで」

 

蘭豹は一毅に概要を書いた書類を渡すとさっさと行ってしまう。

 

「って今日かよ!」

 

書類を見てみる……もう出ないと駄目だ。

 

「悪いけどレキ、俺行ってくる」

「私も行きます」

「え?」

 

一毅はレキを見る。

 

「狙撃による援護はできます。報酬はそうですね……一毅さんと私で7:3で分けましょう」

「……分かった……じゃあ頼む」

 

まあ断っても勝手についてきそうだ。

 

「はい」

 

一毅とレキは先ず装備を取りに行く。

 

「レキ……お互い気を付けようぜ」

「はい」

 

そしてそれぞれ装備をつけ終えると立ち上がり外に出る。

 

「今日の運搬を仰せつかった島 苺ですの」

「宜しくな……え?」

「………」

 

車に乗った一毅は目を丸くする。

アタリ前だろう。運転席に居たのはどう見ても小学生だ……アクセル踏めるのかからして怪しい……

 

「では行きますよ!」

 

だが次の瞬間アクセルを踏み込み飛ばす。

物凄い力のGが横から掛かり一毅とレキは横に揺さぶられる。

 

「お、おいもっと安全運転で行けよ!」

「それじゃ間に合いませんの!後、喋ると噛みますの!いよっと!」

「うぉっふ!」

 

それにしても仮にとは言え一応レキとはカップルだと言うのに二人の初めてのお出かけが薬の密売をしているヤクザへの殴り込みとは何と言うか如何にも武偵らしいと縦に横にと激しく自分達をシェイクしてくる車の中で一毅は口を抑えながらそんなことを考え現実逃避していた……



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龍と魔弾の初仕事

暴走車と遜色ない車に揺られて一時間ほど後……一毅は廃ビルの入り口を見ていた。

情報が正しければここで取引が行われているらしい。

 

「レキ、準備は?」

「完了です」

 

レキに通信機を使って連絡を取ると準備オーケーとの返事が来る。因みにレキは今別のビルに狙撃銃を構えながら待機している。

 

「よし、援護は頼むぜ……」

 

一毅は抜き足差し足でこっそり入る。すると、話し声が聞こえてきた。

 

「だけどこれってバレたらヤバイよな?」

「大丈夫だよ、あの人は案外お人好しだしな、気付きやしねえよ」

「?」

 

何の話だろう……まあいい。相手は……1、2、3……10人だ……戦闘能力は見たところ鍛えてる感じもないし喧嘩慣れしている感じが余り無い……更に何となく感じで分かるが下っ端の下っ端と言ったところだろう。

 

(大丈夫だな……)

 

一毅は息を吸う……

 

「ウォオオオ!!!」

 

そうして一毅は足元の木箱を台に跳んだ。

 

「何だ!?」

 

全員が怒声と共に飛び出してきた一毅を見る。だが同時に一毅の拳が一人の頬にメリ込んだ。

 

「がほっ!」

「な、殴り込みか!?」

「てめぇどこの組の者だ!」

「いやヤクザじゃねぇよ……」

「んなわけあるか!どう見たってその顔はヤクザの人間だ!」

「ああ!?」

 

滅茶苦茶失礼な奴だと一毅はキレる。

そして一毅は近くの相手を掴むと力を込め……

 

「二天一流・喧嘩技!人柱戯の極み!!!」

『ぎゃあ!!!!!』

 

この技は正確には二天一流の技ではない。

だが先祖代々喧嘩も多くこなしてきた桐生の一族は無骨だが同時に相手を一発で沈める我流の喧嘩術をいくつも作ってきた。

その技を総称して二天一流・喧嘩技と呼び様々な状況に置いて使える。

そしてこの技は相手を持ち上げて複数人の中に向かって思い切りぶん投げてドミノ倒しのように薙ぎ倒す技だ。

 

「死ねぇ!」

 

投げ飛ばした硬直を狙うように一人後ろから来たが、そこに銃弾が放たれそいつは沈む。僅かな窓の隙間から狙ったのだろうが流石レキである。狙撃科(スナイプ)のSランク武偵の称号は伊達じゃない。

「糞が!」

 

そんなことを思っていると今度は木刀片手に一人突っ込んでくる。

 

「だぁ!」

「っ!」

 

そいつは顔に渾身の突きを放ってくる。

それを一毅は横にスウェイして躱す……だが更に脇腹を狙った横凪ぎを放って追撃してきた。それを一毅は肘と膝で挟んで止めると言う一種の真剣白羽取りで防御した。

 

「オッラァ!」

 

そして一毅は相手をぶん殴って相手を離させると腰を落とし……

 

「二天一流・拳技!煉獄掌!!!」

 

これは相手の胸に渾身の掌打を叩き込み、戦意消失させ同時に瞬間的に呼吸困難に陥れる技だ。例え心臓から外れても一毅の恵まれた体格と突進から放たれる掌打……それだけで充分高い威力となる。

 

「ぐぇ……」

 

そして一毅は煉獄掌で吹っ飛んだ相手の木刀を掴むと、それで一人殴り飛ばす。

 

「がっ!」

 

更に二人目、三人目と次々叩いて沈めていく。

一毅の無茶苦茶な腕力によって為す術もなく沈められていくが……

 

「糞が!」

 

最後の一人が一毅に銃を向け……発砲する。だが……

 

『え?』

 

一毅と相手の声が重なる。何故ならば相手が放った銃弾は別方向から来た弾丸に弾かれると言う普通なら考えられない事が起きたからだ……

だが誰がやったのかは直ぐに分かった。

 

(嘘だろ……レキの奴は銃弾を狙撃したっていうのか!?)

 

流石の一毅も驚愕した。同じ人間のやる技とは思えない。

とは言え直ぐに相手方を見ると木刀を思い切り投げつけた。

 

「ひ!」

 

相手は驚きつつも慌てて身を逸らして躱すがその間に一毅は間合いを一気に詰めると拳を握る。

 

「この!」

 

相手は至近距離でなら外さないと向けた……だがそれは甘かった。

二天一流は江戸時代の初期から端を発している古流剣術である。更に桐生は昔から事件に巻き込まれる体質と言うか事件が向こうからやって来るような体質の人間であった。故に拳、刀のみならず鎖鎌に長刀、槍、弓矢……そして鉄砲……それらを返したり持った相手の戦いは日常茶飯事であり同時に代々対人で作ってきた。

 

そしてこれは一馬之助が使っていた技でその名も……

 

「二天一流・拳技!火縄封じ【短銃】!!!」

 

相手の銃を持った手を掴み銃口の先を自分からずらして外させるとそのまま相手の鼻っ柱に渾身の裏拳を叩き込むこの技……因みにこの技は【短銃】にたいして使うが元々長銃と言うかこの技の原型は火縄銃用の技のため一毅の三代前の桐生が現代用に改良した技だ。

 

余談ではあるが意外と桐生の技は時代に併せ改良したものやその代その代が作り出したオリジナルもある(一毅も何個か作っている)ため初代のと違う場合が多いらしい。流石に先祖に聞いたわけではないため本当かどうか分からないが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい……ではそう言うことで」

 

一毅は蘭豹に電話して報告する。

後は島に武偵高校まで運ばせれば良いと言うことなので車に犯人を詰め込むと後は任せて一毅たちは別れる。

どうせだからそのままレキと何処かに行こうかと思っているのだが…

 

「何処か行きたいところ無いか?」

「一毅さんが行くところが私の場所です」

 

そう言われてしまい、どうするべきか……と一毅は頭を悩ませる。

一毅は女性と親しく付き合ったことは殆ど無い処か同世代の女性とは皆無と言っても遜色ないほどだ。

しかも見ての通りこの娘はこの無表情と無感情っぷりである。機微を読み取って移動という手段が使えない。

これから先付き合うかもしれない以上はやはり向こうにもこちらを好きになってもらいたいと思う……だがしかしヒステリアキンジのように女性にたいして口が特別上手いわけがない一毅は必死に考える。

すると歩きながらもそこに見えたのは……

 

「これだ!レキ、ここに入ろうぜ!」

「?」

 

一毅が指差したのは……

 

「ラーメン屋……ですか?」

「ああ」

(こう言うときは食い物屋に入って会話をそこから広げる!)

 

確かにそこは一毅にしては素晴らしく頭が働いたが明らかに若い男女の二人でラーメン屋はミスチョイスである。

 

まあどちらにせよそこらへんには全く気が付かない一毅と全くその辺りに関心がないレキは入っていく。

 

 

「じゃあ……醤油ラーメン大盛りで……ああレキ、今日は奢るから好きな物の頼めよ。あ、カロリーメイトは無いからな」

 

一毅にそう言われてレキはメニューに目を落した。そして、

 

「では野菜増々麺アルティメットメガ大盛りエベレストラーメン下さい」

 

次の瞬間その場が凍りついた。今言ったレキのメニューは所謂一時間以内に食べきれば無料+賞金系メニュー……だがまずこれは麺だけでも座ってる一毅の目線くらいある…更に野菜もそれくらいの高さに盛られるため圧倒的に座っているレキより高いのだが……店員さんが下がると俺は素早くレキに耳打ちする。

 

「食い……きれるよな?」

「当たり前です」

 

暫し待つと一毅のが来た。延びるといけないので先に食べている……うん、魚介系のスープに麺は少し固め、さっぱりしていて非常にうまい。初めて来たがこれなら贔屓にして良いな。等と思っていると……

 

(うん、うまいな……ん?)

 

すると店員さんが二人掛かりで運んできた……もしかしなくてもお盆に乗っている謎の巨大物体は……

 

「御待たせしました!」

 

二人でよっこいしょと席に下ろす。うそでしょ……一毅が唖然としながら見上げれば天井に届かんばかりの野菜と麺、更にチャーシューにメンマもたっぷりと乗せてあり、スープもかなり油多めのギットリタイプときている……麺もスープとどっちが多いか勝負できそうだ……これは絶対クリアさせる気が無い。

 

「では行きますよ……」

 

店員さんがストップウォッチを持ち、レキは黙って箸を持つ。

 

「ではどうぞ!」

 

レキはツルツル食べる。麺を一本ずつ……おいおい!

店員さんは明らかにこれは楽勝と言う顔で周りのギャラリーもダメかと言う顔だ。一毅もである……

だが開始五分程で違和感を覚える。レキさん……麺ずっと啜ってませんか?

周りもそれに気づき始める。そんな中でもレキは一人冷静にツルツルと全く速度を落とさず食べ続ける。名付けるならば間を断って食べつつける食べ方……【間断喰い】だ。

全く間がなく……目に見えて減っていくラーメン……店員さんなんか顔色真っ青だしギャラリー興奮ぎみだ。

そして、

 

「ごちそうさまでした」

 

レキは三十分で食べきった……本当の制限時間は一時間なのにスープまできれいに飲み干されていて非の打ち所がない……

 

(あ、今後ろで店長が倒れた……)

 

一毅は冷や汗を垂らす。この体の何処にあれだけの量入っていくのだろうか……見てみるがお腹が膨らんだ様子も全くない……

 

「じゃ、じゃあお会計を……」

「は、はい」

 

一毅は未だ現実を信じられていない店員さんにお金を払い賞金の一万をもらうとレキに渡す。

ここは贔屓にして良いといったが前言撤回……ここにはもう此処には来れそうにない……

そんなことを考えながら二人で外に出た……

因みに余談だがその場にいたギャラリーはレキをこう呼ぶようになったらしい……【ビューティフルブラックホールガール】……美しき無限の胃袋を持つ少女……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、イヤーよく……食ったな!」

「はい」

 

一毅は完全に呆気に取られ目的であった会話をしてないことに全く気づいてないがその辺りはそっとしていてあげて欲しい。

 

「うまかったか?」

「はい……また行きませんか?」

「あ、うん!そ、そうだな!贔屓にしても良いな!」

 

ドキッと心臓が跳ねる。反則だ……何で何時もみたいな無表情じゃなくて珍しくホンの僅か……本当に僅かにだけど笑うんだよ……

 

(ヤバい……顔が熱い……)

「顔が赤いんですが何かありました?」

「ナンデモナイデス……」

 

その後一毅は終始レキの顔が見れなかった……仕方ないよな?これでは……

 

 

 

 

 

その後レキと別れた一毅は自室に宛がわれた寮の部屋に入る。

一応部屋は四人用なのだがちょうど一緒に住む人が居らず一人だ。

因みにキンジも何故か運良く一人であるし隣の部屋だ。だったら一緒の部屋にしても良いんじゃないだろうかと思うがこの高校は相当適当であり更に部屋が余っているかららしい。

まあ実家では(沖縄で孤児院をやっている)大所帯だったため静かすぎて少し寂しいと思わないこともないがキンジが居るしそこまで寂しいわけでない。それに電話すれば声くらいならすぐに聞ける。

まあメールと言う手もあるのだが父親は携帯が電話くらいしかできないためメールは専ら母親とばかりだ……

そんなことを考えながら一毅はシャワーを浴びて風呂に浸かる。序でに今日は大暴れしたからマッサージもする。

一応明日は土曜日である。武偵高校も休みだし、土日の間にレキを何処かにつれていこうか……等と考えている。

 

すっかり仮のカップルと言うことで付き合い始めたことを忘れ始めている一毅であった……とは言えあの笑顔ですっかり参ってるのかもしれない。

 

「そろそろ上がるか……」

 

一毅は出ると体を拭き部屋着を着る。丁度良いからキンジのところに遊びに行くか……そう思ってるとチャイムが鳴った。基本的に訪ねてくるのはキンジくらいだし今回もそうだろう。

そんなことを思いながらドアを開ける。

 

「はいはい、何だよキン……」

 

一毅はパタンとドアを閉めた。

 

「あれ……?」

 

一瞬一毅は自分の目が悪くなったのかと疑う。自慢じゃないが小さい頃から視力2.0で眼疾も患ったことはない。と言うか虫歯や風邪などといった物とは昔から無関係なのだ。キンジは昔奥歯を両方とも虫歯になったことがあるが……そんな現実逃避をしているとするとまたチャイムが鳴った。

 

「はぁ……」

 

一毅は観念してドアを開ける。

 

「なあ……ここは男子寮だよな?」

「そうですね」

「もう……夜だよな?」

「そうですね」

「そうですねしか言えないのか?」

「いいえ」

 

適当に言ってる訳じゃないそうだ……ってそうではなく!

 

「じゃあ……何でお前が此処に居るんだ?レキ……」

 

一毅の目の前には旅行バックとドラグノフ狙撃銃を持ったレキが居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃ある場所では……

 

「んで?そいつがやったんやな?木島」

「は、はい!」

 

木島と呼ばれた男は目の前にいる眼帯をつけた男に返事をした。

 

「そいつは突然やって来て俺たちをボコったあとに捕まえて行きました。俺は皆が逃がしてくれました……」

「あんがとな、お前が居らんかったら誰がやったか分からんとこやったわ」

 

眼帯の男は座っていたソファーの手を乗せる所を握る。

 

「まあワイ等は職業上武偵に睨まれやすいっちゅうのはある……だが適当に罪作ってしょっ引くのはやりすぎなんとちゃうかぁ?ああ!?」

 

眼帯の男は鎌を一毅が写った写真に降り下ろす。

 

「あいつに大切なもん無いか調べろ……そんで連れてくるんや……ただし絶対傷つけんやないで?傷つけた奴を殺すからな!!!!!!」

「おす!」

 

眼帯をつけた男は立ち上がる。

 

「宍戸組組長!宍戸 梅斗様に喧嘩売ったこと後悔させたるわ!!!糞ガキが!!!!!」

 

男の声が響いていった……



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龍の戦い

「だーかーら!ここは男子寮!女子は入れないの!分かるか?」

「大丈夫です。寮長さんに許可を頂きました」

「嘘だろ……」

 

一毅はうなだれる。なにそれ……男子寮と女子寮で分ける意味ないじゃん……どうやら元陸上自衛官の寮長さんは寛容すぎる人だったらしい……

「もういいや……」

 

そして一毅は考えるのをやめた……

 

「ではシャワー借ります」

「あいよ」

(あーくそ……どうするべきか……【シュル】やはりいくらなんでもうら若き男女……それがひとつ屋根の下って【シュル】精神衛生上悪すぎる【パサッ】……俺だって年頃の男なんだから間違いがあってからじゃ……【スト】……さっきから何だよ俺の台詞中に入るお………と?)

 

一毅は振り替えって音の方と言うかレキの方を見て石のように固まった……そこには何とブラジャーのホックに手を掛けてると言うか下着姿のレキが……ああ、制服は足元……って違う!!!

 

「お、お前は何でここで脱いでるんだ!」

「これからシャワー浴びるからですが?もしかして一毅さんは服を着て浴びる人ですか?変わってますね」

「違う!そんなわけないだろ!俺が言いたいのは服を脱ぐんなら脱衣所行けってことだ!」

「別に私は気にしません」

「俺がするんだよ!」

 

慌てて一毅はレキをつれて脱衣所に放り込みドアを少々乱暴に閉める。

何考えてんだあれは!こっちは良くも悪くも健全な年頃の男子校生だ。あんな刺激的なものを見せられたら理性が色々危ない……

でも凄く肌は綺麗だった……なんつうか透き通りそうな肌ってああいうの言うんだって思った……それに決して大きいとは言えなくても年相応に発達した四肢……そこにタイミングよくシャワーの水滴の音がする。

これは大変よろしくない……さっきのイメージがあるため邪な想像をどうしてもしてしまう……

 

よし、こう言うときはテレビでも見よう……とテレビをつける。丁度良くサスペンスだ。これで犯人を推理して煩悩晴らそう……としていたのだが、

 

「シャワーありがとうございました」

 

そこにレキが出てきたようだ。

 

「どういたしま……◎△▽○◎★@¢※△¢@△▼」

 

一毅は声にならない奇声を挙げた。

 

それはそうだろう。

何故ならそこにはいきなりレキがいた……それだけならまだいい……だが何とレキは真っ裸でいたのだ。

 

いや、ここだけの話だが女の裸を見たのは初めてじゃない。沖縄の実家の孤児院にはチビッ子も沢山居たしそいつ等を風呂にいれてやっていた。

 

だがあくまでそれは5、6歳くらいまで……それ以上は母さんや他の女子と一緒だったし一番年上の女の子である遥(14才)に至っては一毅が間違えて着替え中に部屋に入ったとき顔を赤くして鉛筆削りを投げつけてきたくらいだった……だと言うのにこの娘ときたら真っ裸だと!?せめて腕で隠せよと声を大にして叫びたい。まあ叫んだら人なりの部屋のキンジに聞こえてしまうが……

 

だがしかし……決して大きいと言うわけではないが膨らみのある胸……その先にはさくらんぼの様なツンっと……って違う違う!!!一毅は視線を下にして見ないようにしようとするがその際に当たり前だが股の……

 

「ブハッ!」

 

と言うわけで一毅は遂に限界を越えて鼻血を吹いて倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで?何で真っ裸で出てきたんだ?」

 

一毅はティッシュを鼻に突っ込みながら話を聞く。無論レキは既に着替えているが動きやすいとのことで何故か武偵高校のセーラーだ……

 

「服を持っていくのを忘れてました」

「なら脱衣所で呼べよ!そしたら持っていってやったから!つうかせめてバスタオル巻くとか色々あるだろ!」

「別段困ることはありません。どうせ見られるのですし」

「……はい?」

 

一毅はティッシュを変えながら唖然とする。

 

「このあと子供を作る行為しますし」

「▲◆▲■※△●ゑΒ♪※○◎☆☆」

 

本日2度目の大混乱だ。何言ってくれてんのこの娘は!

 

子供を作る行為といったら……流石に知識がない訳じゃない為分かるがいきなしそんなことを言われてもといった感じだ。

 

「な、何いきなり言ってやがんだ!」

「もしかして分かりませんか?」

「いや……そう言うわけではなくてだな……」

 

一毅はシドロモドロする……ならば、

 

「で、でもなんでそんなことを?」

 

強引に話題をすり替える事にした。

 

「そうすれば貴方をウルスに組み込めます」

 

レキの言葉を聞いた瞬間一毅は先程の混乱を棄てて眉を寄せた。

 

「ウルス?」

「今のウルスには47人の女しかいません。そのために必要なのです。強き血統が」

 

そう言う事だったのか……と一毅はやっと納得がいった。少し謎ではあったのだ。何故レキは自分を選んだのか……ようはレキが風と呼んでいるのは今言ったウルスの事なのだろう。コードネームみたいなものか。

 

「それで俺だったのか?」

「はい、桐生 一馬之助……いえ、宮本 武蔵の子孫、桐生 一毅さん」

 

大したものだと一毅は舌を巻く。

基本的に宮本 武蔵=桐生 一馬之助と言うのは知られていない。

一流の情報屋辺りなんかは調べてたりしているが取り合えず一般的な知識じゃない。

 

「それでなんですが……」

「断る。そう言うのは仮が取れてからだ、少なくとも今はダメだ。良く言うだろ?男女は結婚しても三ヶ月は一緒の布団に居ちゃいけないんだって」

 

我ながら何時の時代の武士だと突っ込みたくなったがレキは暫し考え……

 

「分かりました」

 

一毅はホゥっとため息をつく。こんな子供みたいな言い訳で納得してくれて助かった。

 

「でしたらもう寝ます」

 

そう言ってレキは部屋の角に行くと体育座りで目を瞑る。

 

「いやいや布団で寝ろよ」

「いつ襲撃を受けてもいいように用心です」

 

武偵の巣窟とも言えるここを襲撃する命知らずは居ないと思うが……

とは言え女の子を床で寝させて自分だけ布団で寝るなんて言う暴挙は出来ない、仕方ないが此処はソファーで寝よう。だがその前に一毅は携帯を取り出す。

電話帳から電話を掛けると、2、3回コールが鳴ったあとに出る。

 

「あ、もしもし……はい……はい……それではよろしくお願いします。じゃあ明後日に……はい」

 

一毅はそのまま電話を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして日曜日……一毅はレキを連れて茶屋に来ていた。此処は他にも湯呑みや絵など和を主軸においた物が沢山ある。だがここの店主にはもう一つの顔があるのだがそれは少し後にして店を見渡す。

 

「じゃあレキ、お前はちょっとそこでお茶でも飲んで待っててくれ」

「はい」

 

レキを見送って一毅は奥に入っていく。

中に入るとそこには壁一杯の機械が並んでいた。

 

「来たか」

 

その真ん中の機械を見ていた男が一毅の方に振り替える。

 

「お久し振りです。光一さん」

 

彼の名は本阿弥 光一……この人の先祖である本阿弥 光悦は一馬之助の友人でその為先祖代々この人の一族とは家同士での知り合いである。

そしてこの人はこの茶屋【本阿弥堂】の主人であり裏の業界では知る人ぞ知る情報屋なのだ。

この人の手に掛かれば国家機密から小さい頃の恥ずかしい思い出まで調べられついた二つ名は【千里眼の光一】。

 

「確かウルスについてだったな?」

「はい」

 

光一は紙を見る。

 

「ウルスってのは、ロシアとモンゴルを挟むバイカル湖って言うところの南方の高原に隠れ住む少数民族で、チンギス・ハンこと源義経の戦闘技術を受け継いだ一族の末裔だ。この民族はかつては弓や長銃の腕を恐れられた凄腕の傭兵の民であったが時の流れと共に次第に数を減らしていき、現在では女性47人しか残っていないって所だな」

「あれ?チンギス・ハン=源義経って否定されていたような…」

「お前にしては博識だな。そうなんだがどうも昔情報を操作したやつがいたみたいだ。だがチンギス・ハン=源義経ってのは間違いねえ」

 

そう言うと光一は椅子に凭れる。

 

「しかしお前からいきなりウルスについての操作を頼まれたときは驚いたぞ。しかもまさかそのウルスの一人に求婚されてるらしいじゃねえか」

「あはは……」

 

一毅は乾いた笑いを浮かべる。

 

「ならお前教えておくことがある。どうせウルスの娘は言ってないんだからな」

「え?」

「ウルスには【最後の弾丸】と言う言葉がある。これは相手に向けるもんじゃない、自分が足手まといな状況となったとき自分を撃つ為の物だ」

「それって自殺用ってことじゃないですか!?」

「そうだ……お前もあいつと武偵をやるなら気を付けるんだな」

「はい……」

 

すると一毅が頷いた次の瞬間爆発音と銃声が響く。

 

『っ!』

 

一毅と光一はそれに反応すると飛び出す。

 

「なんだこれは……」

 

出るとそこには散らかった店内……所どころには銃痕もある。すると足元に紙が落ちていた。そこには……

 

【お前が強襲した廃ビルで待つ】

「………………」

 

一毅は紙を握りつぶすと立ち上がる。

 

「行くのか?」

「はい」

「気を付けろ……こりゃあ相手もかなりの兵力だ……一応武偵校の方に連絡した方が……」

「二時間……」

「なに?」

「二時間なにも連絡がなかったらお願いします」

「……ちっ…分かったよ……」

 

一毅は頭を下げると走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お茶屋から走ること三十分……思ったより早く着いた……

入り口には……誰も居ない。まあその方がいい。建物の構図もまだ覚えている。

一毅は膝を曲げ伸ばして軽く体をほぐしながら息を整えると……

 

「二天一流継承者……及び東京武偵高校強襲科(アサルト)所属……Sランク武偵!桐生 一毅!推して参る!!!」

 

一毅は扉を思い切り蹴破る。

 

「来たぞ!」

『おう!』

 

中に入ると三十人程のヤクザらしき男達が居た。

 

「上等だ……来やがれ!」

 

一毅は走りながら空箱を掴むと一人に被せる。

 

「うぉ!」

「二天一流・喧嘩術!」

 

そのまま一毅は渾身の手刀を落とす。

 

「被せ手刀の極み!!!」

「うがふっ!」

 

一毅はそのまま桐生が代々受け継ぐ三本の刀であり太刀の殺神(さつがみ)を抜く。

前回は日の目を見なかったが今回は遠慮なく抜かせて貰う。光に照らされ鈍く光る白刃の刃……美しくもどこか恐ろしい造形で……薄くではあるが深紅に光る。真に使いこなせば神すらも殺すその刀を抜くと、その近くの相手を掴む。

 

「二天一流・秘剣!一刀の極み!!!」

 

そのまま少し突き放すと三連撃を叩き込み更に、

 

「秘剣!ぶっとばしの極み!!!」

 

これは一刀の極みから繋がれる追撃用の技で相手を回転蹴りでぶっ飛ばす技だ。

さらにぶっとんだ際に他の相手を巻き込む。

そして一毅は前傾姿勢で切っ先を相手に向けつつ走り出す。

 

「二天一流・秘剣!狼牙!!!」

 

弾丸となった一毅の突きが男に決まる。だがそれで終わらず、

 

「狼牙・終!!!」

 

突き刺したまま相手を持ち上げぶん投げると言う荒業で相手を沈める。

こんな荒業は殺神(さつがみ)でなければ出来ない。

そんな風に扱われても平気なのだからまさしく名刀である。

 

「クソォ!」

 

背後から来たがそれをスウェイで躱し、相手の一瞬隙を突いて斬る。

 

「二天一流・秘剣……霞ノ太刀……」

「何なんだあいつは…」

 

男達は逃げ腰になる……だが、

 

「くそ!このままじゃ兄貴に顔合わせらんねえぞ!」

「そ、そうだな、いくぞお前ら!」

『おう!』

 

男達が来る。ポン刀、ドス、ビンにその他もろもろが一毅を狙って襲い掛かる。

 

「ッ!」

 

それを一毅は次々殺神で弾き返す。

 

「うっらぁ!」

 

一瞬の隙をつき殺神を振り下ろす。

 

「ぐあぁ!」

「ふん!」

 

更に繋がるように振り上げ、横に凪ぎ、時にはぶん殴ってどんどん数を減らしていく。

 

「ウォオオオオラァ!」

 

一毅は相手の襟をつかみ頭突きをかます。次に一毅はアッパーを打ち込む。

最後に飛び上がると殺神を勢い良く振り下ろした。

 

「い、いくぞおおおおお!」

 

残りは四人……ならばと一毅は殺神(さつがみ)を仕舞い腰に挿すもう一振りの刀、 小太刀の神流し(かみながし)を抜く。それは殺神(さつがみ)とは違いどこか安心させる……美しくも何処か儚い……人を感動させるなにかがある造形で薄く蒼い……真に使いこなせば神の天罰すらも受け流す刀……そして防御用に使われることが多い小太刀ではあるが二天一流いは小太刀の型もある。どんな一撃も受け流しすさまじい早さで連撃を叩き込む型……一撃は低くともその分手数で圧倒する。それが【二天一流・組小太刀の構え】。

そして技数は少ないがこう言うときには使える技がある。

 

「二天一流……組小太刀・秘技!」

 

次の瞬間一毅の体から白いオーラが現れる。

これは超能力と言うか体質みたいなもので【ヒート】と呼ばれている。

とは言えこれは本来誰もが持っている力だ。例えるなら火事場のクソ力……

一毅は意識的にその状態に持っていきその副作用として白いオーラが纏われる……この状態になると身体能力は向上するし頑丈にもなる。

そしてそこから放たれる二天一流の秘技……

 

幻狼(げんろう)

 

まず一人目に横凪ぎの一撃で斬る。

 

「ぎあ!」

 

更に返し刀で二人目……

 

「ぎぅ!」

 

更に返して三人目……

 

「ごあ!」

 

最後に体を回転させその勢いで切って四人……

 

「がはっ」

 

まるで幻の中で見えた美しき狼のように流れるように斬る技……

チキッと刀を鳴らすと斬られた四人は倒れる。

ヒュッと刀を振って血を払うと仕舞う。

 

「上……か?」

 

一毅は階段を上がり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たようやな……流石に腕は立つようやのう」

 

宍戸は頬尻を上げる。

これは仇討ち……だが実を言うと桐生 一毅に対し個人的に興味があった……

 

幾ら不意打ちであろうとヤクザ十人を聞く限り一人でブッ飛ばして捕まえていったのだ……仮にも武闘派ヤクザと言われる自分の部下達だ……決して弱くない……寧ろ下手なやくざより強い自信がある。部下の強さだけならあの鏡高にも勝てると言う自負があった。だがそれを一人で……

元来戦闘狂の一面を持っていた宍戸としてはかなり楽しみなのだ。

 

「……………」

 

それをレキは無表情に見ていた。手には密かに忍ばせた武偵弾の炸裂弾(グレネード)がある。

武偵弾とは一流のプロ武偵が使う特殊弾でDAL(Detective Armed Lethal)とも呼ばれる。

そして今レキが持っているのは読んで字の如く爆発しその破壊力は戦車も破壊する。そしてこの武偵弾のもうひとつの利点……それは銃に込めなくても素手で起動し今持っている弾丸であれば手榴弾代わりに使える。

だがレキがこれを持っているのはそのためではない……そう、これは光一が言っていた【最後の弾丸】となるため……縛られつつも隙を突いて近づき起爆すれば道連れに出来るだろう……

 

「…………」

 

そう考えつつレキはゆっくり近づき起爆にタイミングを探す。

だがそこに扉の開閉音がした……一毅が入ってきたのである。

 

「来たな?」

「お前は……?」

「ワイは宍戸 梅斗……分かるか?」

「悪いな……宍戸という知り合いには昔から会ったことはねぇ……」

「そうか!」

 

次の瞬間宍戸の袖から鎖分銅が飛んでくる。

 

「うぉ!」

 

一毅は殺神(さつがみ)を咄嗟に抜いて弾く。

刀で受けたが手が痺れる……凄まじい威力だ。まともに喰らったら痛いでは済まない。下手すれば頭が吹っ飛ぶ。

 

「お前が何で喧嘩売ったか興味あらへんしヤクザが嫌いなのか知らん……だけどな……」

 

宍戸は逆の袖から鎖鎌を出す。

 

「やっとらん罪でうちの子分しょっ引くなんぞええ度胸や……殺してバラして埋めたる……」

「?」

 

一毅には宍戸の言ってる意味がわからなかった……だが何となく直感で分かる……

こいつは冷静に話が通じる男じゃない……打ちのめして叩きのめしてからじゃないと話はできないだろう。

 

「言ってることの意味がわからねぇが……やるしかねぇようだな……」

 

一毅はそう言って神流し(かみながし)も抜き……【二天一流・必殺剣の構え】をとる。

 

「二刀流か……面白いわ!」

 

宍戸が笑いながら鎖分銅と鎖鎌を振り回し一毅へと走り出す。

 

「行くぞ桐生ぅうううううう!」

「ウォオオオオ!!!!!!!!!」

 

一毅もそれに応じて走り出すと二刀を鳴らし宍戸へと一気には走り出す……

 

『オッラァ!』

 

二人の武器のぶつかった音を合図に激戦の幕が上がった……



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龍と鎖

「ウォオオオオラァ!」

 

一毅は右手に握った殺神(さつがみ)を振り下ろす。

 

「ひゃ!」

 

だが宍戸はそれを横に動いて意図も簡単に躱すと鎖分銅を勢いよく降りながら一毅の顔面めがけ投げる。

 

「くっ!」

 

一毅は神流し(かみながし)でそれを咄嗟に弾くと間合いを一気に詰める。

 

「うらぁ!」

「ひゃふ!」

 

一毅は殺神(さつがみ)を横に凪ぐ……だが宍戸はそれを伏せて躱すと鎌を一毅に向けて振る。

 

「くっ!」

 

一毅は横に転がって躱す……そして、

 

「二天一流・必殺剣!二刀側転斬!!!」

「くぉ!」

 

一毅は転がりながら素早く殺神(さつがみ)神流し(かみながし)を振る……回避と斬撃を同時に行う二天一流の技に宍戸は驚愕する……だが、

 

「甘いでぇ!」

「っ!」

 

宍戸は素早く腕に鎖を巻いて防具代わりにして一毅の二刀による斬撃を受け止めるとその隙を突いて鎌を握り直し一毅に振り下ろす。

 

「くぅ!」

 

どうしても生じてしまう攻撃後の硬直を突かれた一毅は咄嗟に神流し(かみながし)で受け止めるが宍戸は好機とばかりに一気に押し込んでくる。

 

「ぐ……」

「ひっひっひ……」

 

一毅は片手では足りず右手の殺神(さつがみ)も交差させて両腕で耐えるが上から下にの方が力は入りやすい……その為上にいる宍戸に徐々にだが押されていく……だが、

 

「ウッラァ!!」

 

このままでは押し負けると判断した一毅は二刀を横に大きく振ることで鎌を横に逸らして何とか回避することに成功する。

 

更にそれだけに終わらず一毅は素早く立ち上がり渾身の頭突きを宍戸に叩き込んだ。

実はキンジの方が石頭だが一毅も結構石頭なのだ。

 

「ぐがっ!」

 

宍戸は突然の頭突きにふらつきながらも壁にもたれる……その隙を一毅は見逃さない。

 

一気に宍戸との間合いを詰めると、殺神(さつがみ)神流し(かみながし)を握る。

 

「二天一流・必殺剣!!豪双!!!!!」

 

壁を背にした相手を二刀で挟み込み一気に一撃を叩き込む二刀流の技……

 

一馬之助が牛に襲われたがギリギリで角に当たらず助かった光景から天啓を得た妙技である。

相手を壁に追い込んでいないと使えないが意表を突くには充分すぎる技である。

 

「がぁ……」

 

宍戸が膝をついたのを見て一毅は一旦後ろに下がって距離を取る……すると、

 

「ふひひ……今のは結構痛かったでぇ……」

「っ!」

 

完全に決まっていた……現に宍戸はふらついている……だがそれでもなお宍戸はニタリと笑い一毅を見る。

狂犬(クレイジードック)】と呼ばれる男、宍戸 梅斗はゆっくりと鎖分銅を回し始める。まるで獲物を狩る前の獣のようだ。

 

「行くで……」

「くっ!」

 

宍戸が言った次の瞬間……鎖分銅がその手から放たれた。先程とは比べ物にならない速度をもって一毅を狙うが何とか横に跳んで躱す。だがそれを見て宍戸は笑った……

 

躱されたのに笑う?意味がわからなかった……が、

 

「っ!」

 

一毅は殆ど無意識に伏せた……すると頭上を分銅が通っていく。

見てみれば鎖が柱を支点に方向を転換していた。

だが再度隙ができてしまった。

 

「ヒィイイイイヤッハァアアアア!!!」

「ちっ!」

 

宍戸は其処を狙って飛びあがると一毅を狙って鎌を振り下ろす。

 

「くっ!」

 

一毅は体勢を崩しながらも後ろにそれを跳んで躱す。

 

「ウララララ!」

 

だが宍戸は逃がさんと言わんばかりに追撃し鎌をぶん回していく。

 

「らぁ!」

 

それを一毅は殺神(さつがみ)と神流し(かみながし)を交差させ宍戸を狙うが逆に宍戸は鎖で絡めとり刀を奪おうとしてきた。

 

『ぐ……ウォオオオオアアアアア!!!!!!!』

 

一毅と宍戸の腕の筋肉が隆起する。互いの腕がミキミキ言う……

 

「負けるかぁああああああ!!!!!」

 

すると次の瞬間一毅の体から蒼いオーラが現れた。

 

 

これの名は【ブルーヒート】…これは前回紹介した【ヒート】の一つで前回の【ホワイトヒート】の上位種に当たる。

【ホワイトヒート】は火事場のくそ力とするならこの【ブルーヒート】は更に深奥に眠る肉体の力を限界まで強引に引き出す。使用後に筋肉痛になるが此処から繰り出すのは二天一流の奥義……

 

「勝機!!!」

二天一流において蒼いオーラ(ブルーヒート)を用いた技には奥義と秘奥義に分けられる。

奥義は今回は出さないがどちらも共通して言えることは 【ブルーヒート】状態であること……だが違うところは奥義はどんな状況でも使えるが秘奥義は限定的な状況でしか使えないと言うことだろう……そしてこの秘奥義は鎖鎌に対してのみ使える秘奥義……

一馬之助が鎖鎌使いの男と戦った際に使った秘奥義……

 

「二天一流……秘奥義……」

 

一毅の目が光る。それはまるで獲物を見つけ……勝利を確信した龍の目……

 

縛解斬(ばくかいざん)!!!!!」

 

絡まっていた刀を勢いよく引き抜きつつ相手の体勢を崩させる。そしてその力を利用してそのまま二刀の連撃を叩き込んだ。

 

「がはっ……」

 

宍戸は血を吐いて膝を付く。だが倒れない……

 

「おい、かなり深く決まったんだ……下手に動くのは危険だぞ……」

「黙ってろや……お前にだけは……お前にだけは負けるわけにいかんのや……お前みたいに汚いやり口で点数稼ごうとする奴にだけは……負けられんのや!」

「はぁ?いきなり何言ってんだ?」

「惚けんやない!ついこの間適当な罪作ってしょっ引いたやろうが!」

「何を言って……」

 

一毅は困惑する……この男は何を言っているんだ?

 

だがそこに、

 

「動くなぁ!」

『っ!』

 

声が響き渡り一毅と宍戸はその方を見る。そこにはレキにナイフを突き付ける男が居た……

 

「なにしてんねん!木島!!!!!」

 

宍戸に木島と呼ばれた男は一度こっちを見る。

 

「てめえがあん時に邪魔しなけりゃ…お陰で俺は元締めにてめえの首を持っていかなけりゃいかなくなった……だと言うのにそこのバカは負けるしよぉ……」

 

木島は頬尻を上げる……

 

「とは言えお前もバカだなおい、こんな女一人に命賭けて突貫かよ」

「そう言うことか……」

 

一毅は木島の方を向く……

 

「そこの男の言ってることが可笑しいわけだぜ……どうやら嵌められたらしいぞ、あんた」

 

一毅は宍戸に言いながら確信する……ぶっ飛ばすべきなのはこいつだ……宍戸じゃない。

 

「どう言うことや木島!こいつが適当言って捕まえたんやないんか!」

「バカですね組長……こっちは薬捌いてたってのにこいつが邪魔したんですよ……」

 

木島は一毅を見る。

 

「まあここは逃げさせてもらうぜ……薬売った金はたんまりある…それで海外に高飛びだ……」

 

木島はレキを引きずり離れ始める。

 

(くそ……どうする……)

 

一毅は奥歯を噛み締める。

 

「……………」

「くそ!とっとと歩きやがれ!」

「その必要はありません……」

レキはゆっくりと木島を見た。ゾッとするほど機械的な感情のない目……

 

「あ?」

「貴方はここで……」

 

レキは炸裂弾(グレネード)を握る。

 

「死ぬ……」

「っ!」

 

一毅は次の瞬間光一との会話がフラッシュバックした。

 

「私は一発の弾丸……」

「辞めろレキ!!!!!」

 

一毅は考えるより先に持ち銃であるジェリコ941を抜くと天井に発砲した。

 

『っ!』

 

その場の全員が驚きで一毅を見る。そして一毅は神流し(かみながし)を木島に向けて投てきする。

 

「ぎゃ!」

 

木島の肩に深々と神流し(かみながし)が刺さる。

 

「レキ!走れ!」

 

一毅の声を聞いてレキはこっちに走る。

 

「このガキ!」

 

木島は神流し(かみながし)を肩から抜くとレキに投げる。だが、

 

「なっ!」

「残念やったな……」

 

それは宍戸の鎖分銅で弾かれた。

 

「くそ!」

 

木島は後ろの扉から逃げだした。

 

「待たんかい!!」

 

宍戸がその後を追う。

 

『………………』

 

二人がいなくなり一毅とレキだけになるとその場が沈黙した。

 

「レキ……お前今死ぬ気だっただろ?」

「ええ」

 

一毅が聞くとレキは何でもないかのように答えた。

 

「何でだ……?」

「足手纏いになるなら死ねと……」

「風か……?」

「はい」

 

一毅は自分の中の血がカァっと熱くなったような感覚がした。

 

「ふざけんな!」

 

一毅はレキの胸ぐらを掴む。レキの感情のない目が一毅の目を合う。

 

「何が風だ……てめえはんな意味分かんねえ物のために死ねんのかよ!」

「そう命じられたのなら……」

「っ!………」

 

一毅はレキを乱暴に離す。

 

「そうかよ……なら勝手にしやがれ……!!!!!!だけどなぁ……俺は命を粗末にする奴は大っ嫌いなんだ……二度とその顔見せんな!!!!!」

 

一毅は木島の逃げた方のドアをぶち開けるとレキを見ずに出て行った。

 

 

だが結局その日……木島は見つかることはなかった……



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龍の逆鱗

あの戦いから一週間…ここのところずっと雨だ…

 

「はぁ…」

 

あれ以来レキはいない…と言うか会ってもいない…二度と顔見せるなは言い過ぎたか…と思うもののレキに連絡を取る手段がないことを思い出す。

するとチラシが目に入る。そこにはレキと行ったラーメン屋が新しい大食いメニューを出したと書いてある。大方レキに負けて新しいのを出したのか…

 

「レキ…」

 

お前は今どこに居るんだ…

だがそこに電話が来た。電話してきたのは…キンジ?

「モシモシ…」

『一毅か?今すぐ武偵病院にこい』

「何でだよ」

『レキが入院した!』

「っ!」

 

一毅は自分の血が凍りついたような気がした…

 

 

この件については少し時間を戻そう…

それは池袋にて…

 

「くそ!」

 

木島はケースを蹴っ飛ばす。

肩の傷はすでに治療中…さらに宍戸を初めとした宍戸組には完全に追われる身…どうにかして逃げなければ…いや、その前にあの武偵に何かしらで復讐してやる…

木島には既に冷静な判断能力はなかった。

 

「ん?」

 

するとラーメン屋の前で佇むあのときのガキが居た。

今の格好は私服…

チキリと懐から銃を出す…木島の頬が上がった…

 

 

「…………」

 

レキは一人考えていた…もしかしたら今日の新商品を一毅は食べに来るかもしれない…ここで待っていれば会えるかもしれない…

あれから色々考えた…考え続けて出した答え…部屋にいけばいいだけなのだが顔を見せるなと言われた以上偶々行き先が被ったと言う方がいいだろう…

 

(私は…あなたに言いたい事が…)

 

パン!っと次の瞬間乾いた音が響く。

 

「え?」

 

レキは突然腹に走った痛みに思考が停止した…

ジワリと腹が熱くなっていく…見てみれば腹が紅く染まっていく…

 

「キャアアアアアア!!!!!」

「撃たれたぞ!」

 

周りから悲鳴と驚きの声が上がる。こんな大雨のなかでは人通りも少なかったがそれでも0じゃない…阿鼻叫喚は伝染していく…

 

「は…はは…」

 

目の前には銃を構えた木島が見えた…向こうも驚いている…まさか道路挟んで反対側に居たレキに本当に当たるとは思わなかったのかそれとも撃ってから自分のやったことが恐ろしくなったのか…それは分からないが木島はレキに着弾したのを見届ける路地の方に逃げ出した。

 

「あ…う…」

 

レキは傷口を手で抑え止血に取り掛かる。

死ぬわけにはいかない…死にたくない…

 

「おい!大丈夫か!」

「?」

 

レキに駆け寄ったのはネクラそうな目をした男…キンジと、

 

「大変!」

 

今時番傘と言う変わった傘を持った白雪だ。

 

「いま救急車呼ぶ」

 

キンジは携帯で電話を掛ける。

 

「ちょっと見せて…」

 

白雪はレキの傷に手をかざす…すると痛みが楽になった…だが血はまだ出ている。

 

「大丈夫、助かるよ」

「はい…」

 

レキは歯を食い縛る。

 

「そういや一毅は一緒じゃないのか?最近一緒にいなかったけど…」

「ちょっと…怒らせました…」

 

だから謝りたかった…やり直したかった…だから…死んでしまうわけにいかないのだ…

そしてレキはそのまま意識を手放した…

 

 

一毅が武偵病院についたのはキンジから連絡を受けて三十分後の事である。

乱暴に扉を開けレキの手術中のランプが点いた手術室の前に立つ。

 

「一毅、来たのか?」

「キンジ…」

 

キンジはベンチに座る。

 

「腹部に一発…だが防弾性の無い服の為完全に入っちまってる…」

「………………」

 

一毅もキンジの隣に座る。

 

「くそ…」

 

一毅の手が強く握りすぎてミキミキ言う。

 

「落ち着けよ一毅」

「落ち着いてられっか!!!!!」

 

怒鳴ってから一毅はハッとなる。

 

「わ、悪い…八つ当たりしちまった」

「いや、今のは俺も不用意だった…軽々しく落ち着けなんて言うもんじゃねえ…」

 

すると、

 

「あ、カズちゃん」

「白雪…」

「はいタオル…濡れててすごいよ」

「ありがとな…」

 

白雪からもらったタオルで頭を拭く。

 

「それで誰なんだ?」

「すまない…俺と白雪は銃声を近くで聞いて行ったが既に犯人は…」

「木島だ…」

『っ!』

「光一さん…」

 

突然声をかけられキンジと白雪は驚くが一毅は気にしない。

 

「済まんかった」

 

そこに宍戸も現れる。

 

「………あんたのせいじゃ…」

「いや…ワイがあいつの本性見抜けんかったからや…そのせいでお前の女傷つけた…詫びのしようもあらん!済まんかった!」

 

宍戸は頭を地面に叩き行けるように土下座した…

すると手術中のランプが消えた。

 

「ふぅ…」

 

救護科(アンビュラス)の矢所呂 イリンが出てきた。それに続いてレキもベットから運ばれてきた。

 

「手術は無事終了…内蔵もキズはないしもう大丈夫だ」

 

そう言うと一毅を見る。

 

「じゃあ彼氏君は少し一緒に居てあげなさい」

「はい…」

 

一毅は病室に入っていった。

 

 

「…………」

 

一毅はレキのバイタルサインの音だけを聞きながらジッとしている…

だが心の中では怒りが渦巻いていた…

 

「う…」

「レキ…」

 

一毅は身を乗り出して顔を見る。

 

「一毅さん…」

「大丈夫か?」

「……よ…」

「え?」

 

レキが何か言ったみたいだが聞こえなかった…するとレキは一度息を吸う…

 

「今度は諦めませんでしたよ?」

「え?」

「今度は…足掻きましたよ?」

「お前…」

 

一毅は俯く…

 

「だから…もう諦めませんから…一緒にいさせてください…」

「レキ…」

「…一毅さんには嘘をついていました…」

「何?」

「風が命令したといました…でも一毅さんと一緒になれと言われたとき…嬉しかった…」

「何で…」

 

一毅には分からなかった…

 

「女を守るのは…男の義務みたいなもんだ…」

「っ!」

 

一毅は驚く…忘れもしない…その言葉は自分が試験の時に言った言葉だ…

 

「すごく嬉しかった…いえ、嬉しいと言う心もその時にあなたが教えてくれたんです…他にも貴方はどんなときでも私を女扱いしてくれた…行きなり押し掛けたのに貴方は何だかんだと彼女扱いをしてくれた…」

「……」

「だから同時に風に言われるがままに死のうとして貴方に拒絶されたとき…悲しかった…」

「それは…」

 

冷静に考えればレキだけが悪いんじゃない…そんな命令を出す風も…

 

「いえ…それから考えたんです…私はどっちでいるべきなのか…前回のことで貴方から離れるように言われています…でも考えました…そして決めました…」

レキはそこまで言うと自分の手を一毅に手と重ねる…そしてジッと一毅の目を見る…その目には一週間前とは違いレキなりの強い意思が宿っている…

 

「私は…桐生 一毅さん…貴方とずっと一緒に居たい…一緒に笑って…一緒に泣いて…悔しがったり…他にも普通の恋人同士みたいに一緒に手を繋いで登校したり…キスしたり…そんなことがしたい…駄目ですか?」

 

レキも目には…必死で…どこか怯えている。

誰かじゃない…只のレキが言ってることが分かる…

 

「……………」

 

一毅はそっと手を離すと立ち上がる。

 

「ちょっとだけ待ってくれ…」

 

一毅は背を向けるとドアに手を掛ける。

 

「ちょっくら俺の女を撃った木島(カス)を後悔させてくる」

「………帰ってきますよね?」

「当たり前だ…だから返事も保留してんだ」

 

まあほとんど答えてるようなもんだけどな…等と自嘲気味に笑うと一毅は病室を出た。

 

 

「よう、俺ですらヒスッてたって言いそうにない台詞はいてきたな」

「うるせぇ…」

 

すると光一が立ち上がる。

 

「木島の居場所は既に掴んである。今回は金は要らねぇ」

 

次に宍戸が立つ。

 

「ほんまはワイがあいつやりたいんやけどまあお前に頼むわ…」

「ええ…」

 

最後に白雪が一毅に袋を渡す。

 

「はい、おむすびだよカズちゃん。腹が減っては戦はできぬだからね」

「白雪…」

 

これでキンジが絡んだときの暴走がなければ最高なのだが…

 

「木島はいま単独で行動中だ、他の奴の邪魔は気にしなくていいだろう」

「はい」

 

一毅は制服のネクタイを締め直すと、

 

「じゃあちょっと行ってきます」

 

一毅は病院を出た…

 

 

「へへ…ざまぁ見やがれ…この木島様を舐めるからあんなことになるのさ…」

 

木島はいまとあるホテルのスウィートルームにいた。既に逃げる準備をしている。あとは逃げるだけだ…そう考えながらバックに金を詰め込み背負う。

 

「あの女が死んであの男も悔しがってるだろうな…ひひ!」

 

木島はレキが死んだと思っているらしい。

だがそこに窓が割られる音が響く。

 

「へ?」

 

そこには窓で頬を切ったらしく血を軽く流した一毅が立っていた。

 

「よぅ…」

「お、お前!」

 

木島は腰を抜かす。だが一毅はそれを気にせず木島の方に向かう。

 

「く、くそ!」

 

木島は銃を抜き撃つ。

 

「ラァ!」

 

だが一毅は殺神(さつがみ)を半分抜いて弾く。

 

「ひっ!」

「てめぇはやっちゃなんねぇことをしたんだ…」

 

一毅の体から深紅のオーラが漏れ始める。

 

「ま、待て!か、金をやる!武偵は金で動くんだろ?なら幾らだ?あんな女よりいい女が買えるぞ?」

 

木島は一毅の最後に残った理性をぶっ壊した。

 

「んなもんいるわけねぇええだろうがぁあああああ!!!!!」

 

一毅の体から深紅のオーラが完全に出る。

これの名は【二天一流・絶技 怒龍の気位(どりゅうのきい)】又の名を【レッドヒート】…これは人間の限界以上の力を引き出すヒート…100を限界とするなら感情次第では200も300も引き出す…その分反動もでかく一毅も今まで意識的には引き出せていない。だがこれは激しい感情の揺らぎで現れる…木島の一言がどれだけ一毅の逆鱗に触れたか。それは推して知るべしだが…正しく今の立場は猫どころがライオンに睨まれたハムスターと言ったところだろう…

その証拠に木島はガクガク膝を震わせ失禁している。

 

「二天一流…」

 

そしてこれは今までのヒートが身体強化だけでなかったようにこれも二天一流の技を出すための前段階…この状態から出すのは二天一流の絶技…拳・一刀・二刀・小太刀・大太刀の五つの絶技のうちこれは拳の絶技…

一毅は歯を食い縛り拳を握る。

 

「絶拳…」

「ま、まって…」

 

一毅には既に木島の声は聞こえていない…やることはひとつ…こいつを気の済むまで殴ることのみ…怒りなどと言った激情をトリガーとしたこの【怒龍の気位】はこう言った一歩間違えれば殺してしまいかねない心も生まれる。だがそれだけは自制する…レキに…殺した手で触りたくないから…

 

龍翼ノ陣(りゅうよくのじん)!!!!!」

 

次の瞬間木島の顔に一毅の拳が刺さる。

 

「ぶべら!」

「ウォォォオオオオオオオ!!!!!」

 

一毅は反対の拳で殴る…

 

「ぶふっ!」

「ウォラウォラウォラウォラウォラウォラウォラウォラウォラウォラウォラウォラウォラウォラウォラァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

 

眼にも止まらぬ凄まじい早さでの乱打が次々木島に刺さっていく。

 

「ゴバブビブベゴバブフビヒハフ!!!」

 

木島は完全にサンドバックとなりいつの間にか壁に追い込まれる。だが一毅の怒りの乱打は今だ止まらず…

 

「ご、ごべんなしゃ…ぶべら!」

「ウォオオオラァア!」

 

一毅の渾身の右ストレートが木島の意識を刈り取った…



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龍の告白

木島をぶん殴ってから早くも1ヶ月…遂にレキの退院の日も差し迫り…そしてやっと一毅はレキに会いに行った…理由は一応事後処理とか色々仕事が…と言い訳してるが照れ臭いだけだ。

 

「だからなんで俺まで行かなきゃなんねぇんだよ!」

「頼むよキンジ~やっぱ照れ臭いんだよ」

「知るか!告白にOKの返事出すだけに1ヶ月も掛ける馬鹿に付き合ってここまで来てやっただけでもありがたいと思え!」

「うるせぇ!どうせお前だって好きな奴できたら意識してんの丸分かりなのに好きなんかじゃねぇとか言うに決まってる!そんでな、一年位自分の気持ち否定し続けるんだ!」

「んな訳ねぇだろ!ヒスもちでも好きになれるような相手ができたら男らしく言ってやるっつうの!」

 

だが一年後に知る…一毅の考えが正しかったと…

 

「ほら行けよ!」

 

キンジの蹴りで強引に入れられ一毅は渋々一人で行く…思い足取りで階段を登り(因みに武偵病院は五階建てでレキの部屋は五階にある。つまり時間稼ぎだ)ふらついた足取りで廊下を歩く。

だが何時かは着く…遂に来てしまった…病室前の名札には【レキ】と書いてある。

一毅は制服のネクタイを緩める…それから深呼吸一つし…

 

「よし…」

一毅は気合いを入れ直しノックをする。

 

「どうぞ…」

「ああ…」

 

一毅が入ると明らかに包帯や周りに置いてある機材が少なくなったレキが饅頭を食べていた。

 

「どうしたんだ?その饅頭」

「宍戸さんが来たときに頂きました」

「へぇ…」

「因みにこのお茶は光一さんです」

「そ、そうですか…」

「それで一毅さんは何かあるんですか?」

「…………………」

 

何もなかった…告白の返事ばかりに頭が行ってお土産とか全く考えてなかった…

 

「まあそう言った物を催促したいわけではないんです」 

「そ、そうか?」

「ただ来るのが遅すぎます」

「う…」

 

一毅は視線をそらした。

 

「ちょ、ちょっと事後処理に時間が掛かって…」

「それでも遅すぎです」

「はい…」

「では返事を聞かせてください」

「や、やっぱお前が退院して【チュイン!】返事を今させてくださいお願いします」

 

顔の真横をまた弾丸が通った…こいつをドラグノフ持ち込んでいたのか…でも病院で発砲は…サイレンサー着けてるとはいえ良いのだろうか…

 

「ではどうぞ」

「でもさ、分かってるんだろ?今更返事をしなくても【ジャキ】されレキ、一回しか言わないからよく聞けよ」

「はい」

 

一毅は息を吸うと…

 

「俺も好きだ…だから結婚を前提に俺と付き合ってくれ…ないか?」

「私は…愛想は良い方では無いです…しかも多分嫉妬深くて…独占欲が強いです…」

「ああ…」

「そんな私でよかったら…」

 

レキは体を起こし手を差し出す…

 

「俺は見た目がこんなヤクザみたいだし…頭わりぃし…基本的に馬鹿だけど…そんな俺でよかったら…」

 

一毅は答えるようにその手を握る。

 

「好きです…一毅さん…これからよろしくお願いします」

「好きだよ…レキ…これから宜しく…」

そう言うとレキが顔を一毅に向けて目を閉じる… 一毅も何となくそれがどういう意味か分かる…と言うかキンジじゃあるまいしそれが分からないほど鈍くはない。

一毅はそう内心笑いながら目を瞑ると二人の顔の距離は0になる。

 

『ん…』

 

何十秒か…永遠とも思える時間の後に二人はどちらともなく離れる。

 

「こんなに…ドキドキするものなんですね…」

 

頬が僅かに上気したレキは不器用な笑みを浮かべる。

 

「笑い方下手くそだな~」

「これから自然になります…」

「無理はしなくていいぜ?その笑みも可愛いからさ」

「………」

 

レキはそっぽ向いてしまう。

 

「あ、そうそう。お前の部屋にあった荷物俺の部屋に持ってきて貰ったからな」

「あ…」

「これからも俺の部屋にいるんだろ?」

「……はい…」

 

それからもう一度二人はキスをした…

 

 

こうして一毅とレキは仮カップルから…普通のカップルになった…




どうも~やっとこさ一章終了しました~、リメイク前はあっという間でしたがこれでは此処まで来るのだけで8話…つまり2章分使っています…うん…しかも一話一話を出来るだけリメイク前と比べ長く書いています。そのお陰でこれを投稿したら変わると思いますが平均文字数3623文字です。少ないじゃんと言わないでください。リメイク前は2000字ちょい位だったんです。

さてさて、次回から遂に本来のヒロインにしても我らが風穴ヒロイン!アリア様の登場です。後、AA勢も少しずつ出していきたいです…はい。やっぱライカちゃん可愛いです。
そう言えばこれ新刊のネタバレですが…もう大丈夫ですよね?嫌な方はちょっと飛ばしてください…




はい…ではいきます。
新刊で出てきた人でヒノ・バットと言う人がいました…何でも後妻は日本人で何でも娘は東京武偵高校の強襲科一年で蘭豹のお気に入り…ヒノ…バット…日野…バット…
もしかしなくても日野ライカのお父様ですか?と本見ながら呟きました…学校で読んでいたため周りの奴等に変な目で見られましたけど…
だとしたら多分いつの日か一毅とも少し絡ませようと思います。絶対睨まれると思いますけどね…






では皆さん…次回からもよろしくお願いします…ではでは~

P,S 感想とかもらえるとうれしいです


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第二章 双剣双銃
龍達への襲撃


春休みも明け…桜も満開かと言う今日この頃…暑くもなく寒くもなく…眠い…睡魔がもっとも強くなる四月…眠りこける男がいる…そこに少女が起こしに来た。

 

「一毅さん…朝です。起きてください。遅刻しますよ」

「あー…」

 

基本的に一毅は朝に弱い…そのため生返事だが起こしに来たレキはそんなのではへこたれない。先程まで一緒にいたベットに行くと揺さぶる。

 

「一毅さんおきて…っ!」

 

レキは布団に飲み込まれた…一毅が引きずり混んだのである。と言うかそれ意外であったら普通にホラーである。

それからモゾモゾと布団が動くが静かになり…

 

「あっつぅ!」

 

布団から跳ね起きた。流石に人が二人でいちゃつくには暑い…

 

「全く一毅さん…イタズラは自滅しないようにやってください」

「はい…ん?イタズラはダメだとは言わないのか?」

「私は別に嫌じゃないので…」

 

レキは少し頬を染めてそっぽを向く…可愛すぎた。

 

「さ、朝御飯ですよ」

「ああ」

 

今日から新学期である。

 

 

基本的にご飯は交換でやる。一毅は朝に弱いため朝御飯はレキは作り晩御飯は一毅が作る。元々一毅は料理などの家事全般は実家でやっていたため下手な女子より上手いくらいだ。

そのため元々この二人の家事は一毅が一手に引き受けていたがある日レキが見ていたテレビで(レキは付き合いだして変貌してからはテレビに嵌まり出した…ジャンルは何でもだ)【彼氏は手料理で落とせ】とか言うテレビを見てからは料理に手を出し始めた…

いや、彼女の手料理は最高なんだけどね…最初は酷いもんだった…ご飯なんか重湯だったもんね…味噌汁は味ないし…

そしたら今度は白雪に弟子入りをして山籠り(何故料理修行で山籠りなのかは分からないが…)して日本料理をマスターして帰ってきたのだ。まるで界王星で修行した悟空だ。

それ以降は普通にどころか滅茶苦茶旨い料理を食べることに成功している。

最近はレシピ見ながら洋食にもチャレンジ中だ。お陰でレキに外食に引っ張られることもある。カロリーメイトオンリーの頃からは考えられない。

レキいわくあれは黒歴史らしいが…

 

「どうしました?」

「いや、何でもない」

 

一毅は白いご飯、味噌汁に焼き魚とお浸しと言う純和風飯を前に座る。

 

「じゃあ…」

「はい」

『いただきます』

 

ちゃんと食事前の挨拶は大切だぜ?

 

 

朝飯を済ませ歯を磨き互いに防弾制服を着け防刃ネクタイを着ける。

 

「一毅さん、曲がってますよ」

 

そう言ってネクタイを直してくれる。

 

「サンキュー」

 

それから一毅は殺神(さつがみ)神流し(かみながし)を腰に差し、肉厚の大剣、断神(たちがみ)を背中に背負う。

レキもドラグノフ狙撃銃を背負う。

 

「じゃあ行きますか…」

「おう…」

 

それから二人はキスをする。行ってきますのチュウと言うか行きますのチュウである。

とんでもないラブラブっプリでそのラブ度は他の人間から【大量非リア充殺戮兵器】と呼ばれている。爆ぜれば良い…

 

 

それから二人は駐輪場に行く。何時もはバス通学だがもう時間がない。

するとそこにキンジも来た。

 

「お、キンジ」

「あれ?まだお前ら居たのか」

「ちょっと遅れまして…」

 

レキがそう言うとキンジはジト目になる。

 

「どうせイチャイチャしてて気付いたら時間過ぎてたんだろ?」

『な、何故それを…』

 

一毅とレキは後ずさる。

 

「まさかお前俺の部屋に隠しカメラ…」

「そして一毅さんの着替えを…」

「え?」

「んな訳あるか!どう考えても目的が可笑しすぎるしそんなもんする訳ねぇだろ!」

 

キンジが吠える。

 

「ですがキンジさんは【ロリ】か【ホモ】か【巫女】か【くの一】か【ロリ巨乳】の何れが好きかで統計を録ったところですが…」

「誰だ。んなふざけたのを録った奴…」

「【ホモ】39%【巫女】21%【ロリ巨乳】20%【くの一】19%【ロリ】1%と出ました」

 

レキの発表にキンジはずっこけた。

 

「な・ん・で!ホモが一番多いんだよ!」

「一部の女子から【キンジ×武藤】とか【キンジ×不知火】とか【キンジ×一毅さん】等と言ったファンが根強く…」

「ふ、ふざけんなぁああああ!て言うかロリにいれた奴出てこい!」

「あ、俺だ」

「それ私です」

「うっしゃあ!」

 

キンジの蹴りが飛んだ。

 

「うぉわ!」

「テメェラコロス…」

「キャラ壊れてる壊れてる!」

 

するとそこにモーターの駆動音が響く…

 

『ん?』

 

そこに響くのは有名なボカロの声…そして目の前にはセグウェイ…さらに取り付けられたのはUZI(ウージー)

【あーあー只今マイクのテスト中…】

「ええと…キンジの知り合いか?」

「あんな知り合い居るわけねぇだろ…」

【あー…お前ら全員死ね!】

『いきなりだなおい!』

 

一毅とキンジは突っ込むが次の瞬間UZI(ウージー)がマズルフラッシュと共に9×19㎜パラベラム弾が次々発射される。

 

「うぉっ!」

「マジかよ!」

 

一毅はレキを抱きかかえながら横に飛び壁に隠れる。

 

「何だよあれ…」

「さぁな…」

「一毅さん陽動お願いします」

 

レキはドラグノフ狙撃銃を構える。

 

「よぅし…頼むぜ!」

 

レキと一瞬アイコンタクトを交わすと一毅は走り出す。

 

【発見、死ね!】

「お前は強襲科(アサルト)の人間か!」

 

一毅は次々発射される銃弾を躱しながら走り抜ける。

するとそこに…

 

「ここは暗闇の中 一筋の光の道がある 光の外には何も見えず、何もない私は光の中を駆けるもの…」

 

レキの呪文のような言葉が聞こえた…

 

「終わったな…」

 

一毅は動きを止め…次の瞬間銃声が一発響いた…

 

 

「後はこれを鑑識科(レピア)にでも回すしかないか…」

「ったく…こういうのはもう勘弁だってのに…」

「……………なあキンジ…」

「あ?」

 

一毅は完全に沈黙したセグウェイを見ていたキンジを見る

 

「本当に武偵をやめるのか?」

「当たり前だろ」

「だが…」

 

一毅は何かを言おうとするが、

 

「言っただろ…俺は普通の人間になるってな」

「お前な!」

「待ってください…」

 

あわや口論になりそうになるがそこにレキがstopをかける。

 

「来ます…」

「え?」

【ショータイム】

『げ!』

 

一毅たちの目の前には何体ものUZI(ウージー)付きセグウェイが来ていた…

 

「逃げろォオオオオオオ!!!!」

 

一毅の号令で素早く自転車を出し一毅は後ろにレキを乗せ走り出す…

次の瞬間には銃声が響いていた…



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龍達と独奏曲

【豪華客船・アンベリール号沈没事件】…去年に起きた事件でその事件には一人の武偵が絡んでいた…その名は【遠山 金一】…一毅も面識がある男でキンジの実の兄である。その実力は全てに於いて二人を上回っておりヒステリアモードもキンジと違い完全に使いこなせていた…

だがその事件で客を逃がすことに成功したが自分は逃げ遅れ…死んだ…

だがそれだけではなかった…事件を責めたてられることを恐れた会社は事故の責任は事前に止められなかった武偵にあると断定…その矛先は無論キンジにも向かい【無能武偵の弟】【最低の武偵の弟】【役立たず武偵の弟】等々連日のように記者も押し寄せた…当たり前だが寮長さんが全部門前払いだったがキンジは絶望したのだ…武偵の不遇さに…そして知ったのだ、自分の命を捨てて助けても社会は簡単に裏切る…そして決めたのだ…武偵なんて辞めてやる…と。

 

 

っと今はそんなことを考えてる場合じゃない…今は…これに集中しよう。

 

【あと言い忘れてましたが自転車には爆弾がついてやがります~一度乗ると次に降りたときに爆発しやがります~キャハ!】

「何がキャハ!…だコンチクショー!」

 

一毅はさらに加速する。さっきとはうって変わり撃つことはなくなったがその分周りを取り囲んで一毅達の邪魔をしてくる。

 

「とにかく人気ない所まで行くぞ!」

 

キンジの言葉にうなずくと二人は曲がる。

 

「しつけぇええええええ!」

 

一毅は叫びながらペダルを漕ぐ。

すると…一毅たちの視界に人影がある。建物の屋上にいたそれは飛び降りた。

 

『ええ!?』

 

一毅たちの驚愕を他所にそれはパラシュートを広げ銃を構えた。

 

「そこの馬鹿男子共!後ろの女子みたいにさっさと頭下げなさい!」

 

キンキンのアニメ声でそう命令した女子は武偵高校のセーラーを翻しコルトガバメントを二丁抜く。

 

『ちょ!』

 

一毅とキンジは咄嗟に頭を低くする。そしてさっきまで頭があった場所を銃弾が通過し、一毅達を囲んでいた四機がなくなる。凄まじい射撃能力だ…通常拳銃は7、8メートル当てられれば一流だ。それをその三倍はありそうな距離から当ててきた…何者だあいつ…

 

「って待て!この自転車には爆弾がついてる!」

 

するとキンジはこっちに来たアニメ声の少女に叫ぶ。だが、

 

「黙りなさい!」

 

アニメ声の少女は銃を仕舞いながらこっちに来た。

 

「武偵憲章第一条!仲間を信じ仲間を助けよ!行くわよ!」

「行くわよって…げ!」

 

一毅は顔色を悪くする。視線の先にはなんと逆さまになり両手を広げるアニメ声少女が…

 

「嘘だろそんな助け方あるか!」

「文句言わずに漕ぐ!」

「くそ!行くぞ一毅!」

「勘弁してくれよ…レキ、絶対離すなよ」

「はい」

 

そう言って一毅とキンジは漕ぎまくる!

 

『ウォオオオオオオオオオ!!!!!!!!』

 

そしてキンジはそのまま突っ込み一毅はレキを着けたままキンジに抱きつく… そして大爆発した…

 

 

「い…つつ…」

 

一毅は目を覚ます。流石に気を失っていたようだ…胸にはレキがしっかりといる。無傷だ…

 

「よかったよかった」

 

一毅もたん瘤はできたっぽいが骨折等の怪我はない…するとレキが目を開けた。

 

「大丈夫ですか?」

「まあな」

 

一毅はそのままレキをお姫様だっこし持ち上げる。レキは小柄だから軽いのだ。

 

「ドラグノフは大丈夫そうか?」

「残念ながら銃身が僅かに歪んでます。暴発や不発(ミスファイヤ)の可能性があり射撃は難しいです」

「そうか」

 

一毅はレキを持ったまま歩く…どうも体育館の倉庫らしい…ここまで吹っ飛んだのか…

 

「さて…」

「ええ…」

一毅とレキはこのまま気づかないふりしようかと思った…だが無理そうだ…

 

「この強姦魔!」

「誤解だ!」

『何故こうなった(んだ?)(んですか?)』

 

一毅とレキは親友が跳び箱の中で小学生を脱がすと言う犯罪現場を目撃してしまった…

 

「キンジ…冗談でロリコンと言っていたが本当にロリコンだったとは…」

「ロリコンは犯罪ではありません…ですがキンジさんのように行動に移したら犯罪です」

そう言って一毅とレキは手錠を出す。

 

「時々面会に位には行ってやるよ」

「差し入れはカツ丼が良いですか?それともロリ専門のエロ本が良いですか?」

「どっちもいらんし違う!」

「言い訳は署で聞こう…」

 

一毅は渋い声で手錠をジャラッと鳴らす。

 

「この場合の署は尋問科(ダキュラ)です。そして武偵三倍刑の下に体罰も待っています」

「ここで言わせろ!」

 

キンジが叫んだ瞬間銃弾が来る。

 

『っ!』

 

一毅とレキは素早く横に飛び、キンジと小学生は跳び箱に隠れる。

 

「又来ましたね…」

 

倉庫の前にはUZI(ウージー)付きのセグウェイが六機程いた…

 

「他に予定はないのかよ…」

 

一毅は殺神(さつがみ)の鯉口を切りながらため息を吐く…

 

「何だよあれ!」

 

キンジが叫ぶ。

 

「武偵殺しの玩具よ!あんたも戦いなさい」

 

無理だ…と一毅は直感した…ヒスってれば別だが今のキンジでは難しいだろう。となれば自分が行くか…と思っていたところで銃撃が止む。

 

「……敵は?」

「垣根の向こうに追い払っただけよ」

「上出来だ」

 

一毅は首をかしげる…おかしいなぁ…何でこの声のトーンのキンジがいるんだろう…

一毅は脂汗を垂らす。そんな中でもキンジはにこりと笑いかけると小学生を先ほど一毅がレキにそうしたようにお姫様抱っこで持ち上げる。

 

「ご褒美にお姫様にしてあげよう」

「テメェなに成ってんだよ!!!!」

 

キンジと一毅の声が重なった…こいつどんな状況だったか知らないが成りやがった…ヒステリアモードに…

一毅とレキのジト目もスルーしてキンジは小学生を安全な場所に下ろす。

 

「六体か…一毅、半々でやろう」

「この変態野郎め…」

「全く否定ができないね」

 

キンジはきれいな笑みを浮かべながら歩き出す。

 

「ったく…」

 

一毅もそれに続く…

 

「な、何しに行くのよ!」

 

突然雰囲気が変わったキンジに小学生は困惑する…

 

「アリアを…守る」

 

アリアと言うのか…と一毅は内心思いながら見てみるとアリアはミルミル顔が赤くなる。こっちのキンジは喧嘩の腕も一流だがフラグの建築も一流だ…

 

「ったく…」

 

一毅は頭を掻きながら外に向かう。

 

「行ってくる」

「はい…」

 

レキに見送られキンジと外に出ると相手も戻ってきていた…

 

「さて…行くか!」

 

 

一毅は殺神(さつがみ)を抜刀すると走り出す。

 

「二天一流・秘剣!」

 

銃弾を避けながら一毅はスライディングして躱しつつ…

 

「疾走斬!!!!」

 

一機切り捨てると一毅は跳んで躱す。

 

「ウォオオラァ!」

 

二機目を真っ二つにすると最後の一機に神流し(かみながし)を投擲し、刺さったのを見届けるとその刺さった神流し(かみながし)を台に跳ぶ、

 

「二天一流・必殺剣!躍り猫!!!!」

 

あっという間に三機破壊し一毅は刀をしまった。

 

 

キンジは三体を見据える…

 

「っ!」

 

次の瞬間には銃弾が飛んでくるがキンジは上半身を逸らして躱す。

 

「良い狙いだ…玩具の割にだけどね」

 

キンジはそう言って軽く笑うと走り出す。

 

「ウッシャア!!!!」

 

キンジは跳ぶと目の前の一機に蹴りを叩き込む…だが更にその反動で反対側の二機の前まで跳ぶと…

 

「三角飛びの極み!!!!」

 

二機まとめて蹴りで破壊した…相変わらず曲芸師みたいな身軽さだ…いつか空でも飛べそうだ…流石に無理か?

 

「さて…」

 

一毅とキンジの二人は倉庫に戻っていく…

 

「ただいま」

「お帰りなさい…」

 

するとアリアはいつの間にか跳び箱の中に戻っていた。

 

「べ、別にあんたたちが居なくたってあれは私だけでも何とか出来たわ!ほんとよ!って言うか誤魔化されないんだから!あんたは私を脱がそうとしたわ!それは立派な犯罪よ!」

 

中でスカートを弄っている。大方スカートのホックが壊れたんだろう。そこにキンジは自分のベルトを投げる。

 

「落ち着いて欲しいアリア…それは悲しい誤解だよ」

(ヒスった癖に…)

「…………」

 

一毅とレキが冷たい視線を向ける。

だがヒステリアキンジは気にも止めない。

 

「何が誤解よ!私を脱がせた癖に!」

 

アリアはベルトでスカートを止めると跳び箱から飛び出す。

しかしこうやって見ると本当に小さい…レキも小柄だがそのレキより頭ひとつ分低い…

 

(150も無いな…140位か?)

 

一毅が首を捻る。

そんな中でもアリアは叫ぶ。

 

「せ、責任取りなさいよ!」

「待つんだアリア…俺はもう高校2年生だ…中学生に手を出すわけがないだろう?」

(ヒスっといてよく言うぜ…)

 

一毅とレキの冷たい目も更に強まる。それと同時にビキッとアリアの表情が固まった…

 

「わ、私は!中学生じゃない!」

 

ドドンドドンと珍しい地団駄を踏む。

それを聞いたキンジは慌てて、

 

「ああ、インターンで入ってきた小学生か…いや~あんな危険なところに来るなんて凄いよアリアちゃんは…」

 

キンジがそこまで言った瞬間キンジの足元に銃声と共に銃痕が出来た…

 

「こんな奴助けるんじゃなかった…私は…高2だ!」

『え!!!!』

 

傍観に徹していた一毅とレキもキンジと一緒に驚いた。あれで同い年だと!?

だが驚いてばかりでは居られない、キンジの方では次の瞬間にはガバメントが向けられていた。

 

「うぉ!」

 

キンジは素早く腕を固定して自分に向けられないようにすると全弾撃ち尽くさせる。

 

「ウルァ!」

 

だがアリアはジャーマンスープレックス要領で投げるとキンジは転がる。

あのヒステリアキンジ相手によくやる…と一毅は舌を巻く。

 

「強姦魔は…風穴ぁああああああ!!!」

 

アリアはリロード使用とするがマガジンがない。

するとマガジンはキンジが手の中で弄んでいた。

 

「ああ!」

「御免よ」

 

キンジはアリアとは別の方向にぶん投げた。

 

「は、反省の色は無しね…良いわ…」

 

するとアリアは背中から小太刀を二本抜いた。一毅とは違うが二刀流である。

 

「強姦魔風あきゃうわ!」

 

だがアリアはキンジがマガジンを投げる前にこっそり転がしといた弾丸を踏みつけて転ぶ。

 

「さて、一毅、レキ。行こうか」

「だなぁ…」

「はい」

「あ、こら待ちなうきゃあ!あんたたちも仲間ね、あんたたちもきゃう!風穴うゃう!」

 

立とうとしては転び…立とうとしては転びを繰り返し続ける…大丈夫かこいつ…等と考えながら一毅はレキとキンジと共に歩き出した。




ヒステリアキンジ相変わらず結構書きづらい。


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龍達と奴隷

一毅、レキ、キンジの三人は案の定と言うか当たり前だが遅刻したあげく始業式に間に合わなかった。

まあその辺が緩いのが東京武偵高校言う学校なので分けられたクラスに入る。運良く三人一緒だ。

するとそこに、

 

「よう!キンジ、一毅、レキ!今年も一緒だな」

 

こいつは武藤 豪気。良い奴だが騒がしい…まあそんな奴で車輛科(ロジ)所属のAランク武偵だ。乗り物ならば原潜から三輪車まで何でも運転できる。

 

「何だぁキンジ、星伽さんいなくて寂しいのか?俺は寂しいぜ?」

 

余談ではあるが武藤は白雪にホの字である。悲恋なのは確実なのだが…

 

「今俺に女の話を振るな…武藤…」

 

ヒステリアモードの後は疲れるらしくキンジは絶賛不機嫌だ。無論ヒスった事実とその際に言った言動の数々が反芻していると言うのもある…

 

「何がお姫様にしてあげようだ俺…」

「は?」

 

武藤は意味がわからなかったらしいが一毅とレキにはわかる。その場にいたこっちでも何だあのキザ男って思った…

 

「はぁーい皆さん。席についてくださぁい」

 

そこに何故武偵高校の先生になれたのか分からない先生…高天ヶ原 ゆとりが入ってきた。のんびりとした美人でほんとなんで武偵高校の先生になったのか七不思議の一つに数えられるほど謎である。

 

「今日から皆さんに新しい仲間が来ました」

 

転校生か?クラスの全員が首を傾げる。

 

「どうぞ~、神崎 H アリアちゃんです」

 

転校生が入ってくる…そして次の瞬間一毅とキンジは椅子から落っこちた…

 

(な、何であいつがここにいるんだよ!)

 

キンジと一毅は内心突っ込んだ。するとキンジとアリアは視線が合う。

 

「先生…」

「はい?」

「私…アイツの隣がいい」

 

アリアが言った次の瞬間クラス中の視線がキンジに集まる…

 

「ウォオオオオオオオオオ!キ、キンジの奴一%のロリが好きだったみたいだぞ!」

「嘘だろ!俺は星伽さんだと思って巫女だと思ってたのに!」

「ダメよ!キンジはホモじゃないと!想像できないでしょ!」

「くそ…一年の戦妹じゃねぇのか…」

「大穴のロリ巨乳は無しか~」

「だけどロリは意外すぎ、流石に付き合いが長い一毅とレキさんはわかったみたいだけど」

「だろ~!」

 

クラス中が大騒ぎになる。因みに最後のは一毅だ。

 

「てめぇ!」

 

キンジは飛び上がると一毅に蹴りを出す。

 

「あぶね!」

 

一毅はスウェイで躱すとキンジをぶん投げる。

 

「ダウンリバーサル!!!!」

 

だがキンジは空中で体勢を直しスライディングで一毅の足を蹴る。

この技は一毅の技の【二天一流・拳技 死中活】という技をキンジ流にアレンジした技でヒスってなくても使える。

 

「いってぇ!」

 

一毅はスッ転ぶ。更にそこからキンジはマウントをとる。

 

「覚悟はできてるな…?」

「全く!」

 

一毅はキンジのネクタイを思いきり締める。

 

「ぐぇ!」

 

キンジは怯み一毅は返すと立ち上がる。

 

「良いぞぉ!やれやれぇ!」

「て言うかこれキンジに春が来たって話からだったよな!?」

「とにかくやれぇ!ぶっ殺せ!」

 

外野が騒ぐ中一人の少女が立ち上がる。

 

「やれぇキー君!彼女に良いとこ見せてやれぇ!」

 

彼女は峰 理子…この学校一の馬鹿…ある一点は優秀だが基本的にトラブルメーカーでこんな状況では騒ぎを加速しかさせない。

 

「って違うわ!」

 

キンジも一毅との喧嘩どこではないことにやっと気がつき否定するがそんなのを聞く奴はこの学校の何処にもいるわけない。

 

「照れんなよキンジ」

 

武藤がキンジの肩をつかむ。

 

「そうだよキー君。あの彼女とはどこまで行ったの?A?B?まさかのC!?あんな小柄な子なのに出来たの!?」

 

理子は興奮ぎみに聞いてくる。

 

「なんの話だ!」

「んも~解ってるくせに~!まあ、フラグ乱立覇王のキー君なら経験も豊富そうだしね~」

「ますます意味わからん!」

 

どんどん騒ぎは加速の一途だ…高天ヶ原先生も静かにさせようとしているが意味はない…というか聞こえてない。だがそこに響いた…

 

「【ババン!】うるさーい!!!!」

 

銃声と共にアリアの怒号が響きその場が静かになる…余談だが東京武偵高校では【極力】無駄な発砲はしないことと校則にあるが、撃ってはいけないとは書かれていない…

 

「恋愛とかくっだらない…次そんなこと言う奴は…」

 

アリアは机の上に仁王立ちになるとコルトガバメントの白と黒を二丁とも持ち構える。

 

「風穴開けるわよ!!!!」

 

恐らく…世界で最も目立つ転入デビューを彼女はしただろう…

と言うかレキ…

 

「…♪♪♪…」

 

お前良くこんな中でもヘッドフォンに集中できるね…本当に尊敬するよ…たぶん聞いてるの世界のオーケストラとかなんだろうけど…

 

 

さて、武偵高校の5、6時間目は専門教科の時間のため強襲科(アサルト)の一毅は専用の体育館でトレーニングに入っていた。

基本的に強襲科(アサルト)の授業は最初にちょこっとやると放任される。何故なら武偵とは自分で考えそれを実践していかなければならない…そのためこの時期からどんなトレーニングをやれば良いかその辺は自己の責任なのだ。まあ完全放置ではなく専任教師のゴリラ…じゃなかった蘭豹の機嫌が良ければ授業もある。悪ければ八つ当たりだ。

 

「あ、一毅先輩」

「ん?おおライカ」

 

170近い身長の女子に一毅は話しかけられる。

彼女は火野 ライカ…一毅と同じ強襲科の一年でBランク。寝技が得意で、一毅とは入学してすぐのある事情で知り合い、戦って負かしてやったのだがその後良く話すようになり何故か懐かれた。

まあ普通に可愛いし悪い気はしない。かわいい後輩だ。

 

「いでっ!」

 

と思っていたらいきなりゴム弾が一毅の頭に命中した。窓の僅かに空いた隙間から撃ったらしい…こんなことできると言うかするのは一人だ…

 

「レキィ…」

 

恐らく長距離(ロングレンジ)からの狙撃だ。見えない…帰ったら文句いってやる。

 

「まあ良いや…やるか?ライカ」

「はい!」

 

一毅は刀を置き拳を握る。ライカも構えると…

 

「やぁ!」

 

ライカの顔を狙ったパンチがくる。

 

「しっ!」

 

一毅は横に躱すがライカは素早く足を払いに来る。

 

「よっと!」

 

一毅は後ろにスウェイで躱すと、

 

「二天一流・拳技 捌き打ち!」

 

この技は相手の攻撃をスウェイで躱して相手の隙を攻撃する技で威力は体制が崩れた状態でやるため低いが牽制にはもってこいの技である。

 

「ぐ!」

 

ライカは素早くそれを腕を交差させて防ぐと一毅の腕を取り関節を極めに掛かる。

 

「二天一流・拳技 解き投げ!!」

 

それを一毅は相手に捕まれたときの返し技である解き投げで逆に投げ飛ばす。

 

「いってぇ!」

 

ライカは受け身をとるが流石に体格差のある投げだ…効く。

 

「らぁ!」

 

次の瞬間一毅の拳がライカの顔の前で止まる。

 

「俺の…勝ちだな」

「………はい……」

 

一毅が拳を退けて手を開くとライカは一毅の手を借りて立ち上がる。

 

「腕を上げたな~、捌き打ちで終わっと思ったのに防がれて関節を極めに来られっとは思わなかったよ」

「でも結局返されましたけどね」

「まぁ頑張んな」

 

一毅はライカの頭をクシャリと撫でる。するとライカの顔はミルミル茹で蛸も負けそうなほど紅くなっていく。

 

「何だ?熱でもあったのか?」

「あ、いや…大丈夫です…」

「??……いってぇ!」

 

そこにまたゴム弾が飛んできた。何だいったい…一毅としては自分が何をしてレキを怒らせたのか分からない…

 

「またレキ先輩か…」

 

ライカも何故か不機嫌になった…例えるなら飼い主が自分以外の犬を可愛がってるときの犬みたいな顔だ…

 

(何だって俺の周りに不機嫌な女が集まるんだ?)

 

こういうのはキンジの仕事だろう…等と思ってると、

 

「ねぇ、ちょっと」

「ん?おお、神崎?」

 

視線を限界まで落とすとそこにはアリアが立っていた。本当にこいつは小さい

 

「アリアで良いわ…聞きたいことあるんだけど良い?」

「俺でわかる範囲でなら」

 

一毅が腕を組んで聞きの体制に入るとアリアも一毅を見る。

 

「キンジについて何だけど…」

「元強襲科(アサルト)Sランクで現在探偵科(インテスケ)Eランクの武偵だ」

「それは知ってる。あいつは昔は凄い強襲武偵(アサルトDA)だったって皆言うわ。でも何であいつ今はEランクの探偵科(インテスケ)何かやってんの?」

「さぁね…」

 

一毅は肩をすくめる。理由は知ってはいる…だがこの事は自分が言うことじゃないし言って良いことじゃない。親友として…そして何よりも人としてもだ…

 

「知ってるけど…言っちゃダメなことってとこね…聞くなら本人に聞けってことかしら?」

「?」

 

一毅は眉を寄せる。何でこいつは今自分の思ったことが分かったんだ?

 

「勘よ…最も推理の方は遺伝しなかったんだけどね」

「はぁ?」

 

益々意味が分からなかった。

 

「そういえばあんたも武偵寮の第三寮だったわよね?」

「まぁな」

「んで、何では分からないけどレキと付き合ってる」

「まぁな」

「謎だわ…何だってあんたみたいなヤクザみたいな顔の男とレキみたいな美少女が付き合ってるのか…」

 

余計なお世話である。確かに余り釣り合ってないのは自分でもわかっているが…

 

「まあ良いわ。放課後の六時にキンジの部屋に来なさい。話があるわ」

 

恐らく…今朝の事か…

本音としては聞くならキンジに全部任せたいがもし今朝のように銃を発砲されてはキンジの命に関わる。

 

「了解…」

「レキも連れてくるのよ」

 

そう言うとアリアは出ていった。

 

「先輩ってアリア先輩とも知り合いなんですね」

「ん?ライカ知ってるのか?」

「え、ええまあ…友達があの人の戦姉妹(アミカ)やってまして…って言うか有名じゃないですか、Sランク強襲科(アサルト)武偵…神崎 アリアって…」

「そうなのか?」

「はい、先輩他の人間に興味無さすぎです」

「あ…あはは…」

 

一毅は視線を横にそらした…

 

 

その後ライカと別れ一毅はレキを拾いに行く…

直ぐに見つかりはしたが…機嫌が悪い。無表情だが一毅にはわかる…後ろに閻魔大王が口から煙を吐き、手に木槌を弄ばせながら鎮座している…一毅はそのまま回れ右をしたくなったがレキは無表情な瞳で既にロックオンしている。逃げても撃ち抜かれるだろう。逃げるには二キロ以上先までテレポートしないといけない。まあそれでも捕まる気がするが…

 

「よ、ようレキ…」

「………はい」

「か、帰ろうか?」

「はい、六時にキンジさんの部屋でしたね」

 

レキが歩き出しながら言ってくる。

 

「見てたのか…」

「おはようからお休みまで見てます」

「こえぇよ!しかもプライバシーは!?」

「一緒に住んでいますし学校も一緒です。確かにお休みまでの辺りは冗談ですがそれに近い状態ではありますよ?」

 

確かにその通りではあった…かなり互いのプライバシーは無いと言っても過言じゃない。お陰でエロ本も買えない…買うと撃たれるし…本と一緒に…

いや、自分から買うことはないが武藤(バカ)が勝手に置いていったり(妹に見つかりそうになったときとか勝手に人の部屋を緊急避難場所にするのだ)してそれが見つかるともう大変だ。武藤(バカ)は巨乳が好きなためスタイルが良い女性が写っていたらレキは一瞬でぶちギレて俺を狙撃してくる。

その姿はまさに般若…無駄に高い狙撃スキルと怒り(無限のエネルギー)を武器に一毅を追い続ける。

 

「それにしても相変わらずライカさんと仲が良いですね」

「ん?まあ、な…」

 

更にレキとライカは凄まじく仲が悪い。犬猿の仲何てもんじゃなく仲が悪く会うたびに二人の間には雷がバチバチと走る。

その仲の悪さは学校でも有名で俺の知らないところで決闘が行われそうになったとかの噂もちらほらと入って来るほどのまさに筋金入りだ。

しかもライカが何度か一毅と戦徒(アミカ)契約しようとしたところ書類に片っ端から穴を開けたらしい…狙撃でだが…

その後ライカは一毅には組手の相手をして欲しいと来るようになった。

レキはそれも気に入らないらしいがそれまで邪魔に入ったら一毅が怒ることは目に見えてるため我慢している。

とは言え一毅には何故二人の仲が悪いのか全く分かっていない。

まあ読者諸君には丸分かりだと思われるが…

 

「それにしてもだけどさ」

「何ですか?ライカさんが大人っぽい下着だった件についてですか?確かに水色レースでしたけど」

「え?黒のレースじゃ…あ…」

 

ジャキン!とドラグノフ狙撃銃が一毅に向けられる。

武偵高校の制服はスカートが異常に短いため結構見える…しかもライカは結構その辺に頓着無く派手に動くためさっきの組手でも見えていたりする。以外とライカってお洒落だし…ってそういってる場合じゃない。

 

「ま、待てレキ…見ようと思って見た訳じゃなくて…」

「ふふ…まあ一毅さんと組手する日だけ無駄にエロい下着を着けてくるあの(アマ)も撃ち抜いておきたいですが…」

 

レキはぶつぶつ言っていて何を言っているか聞こえないが…とにかくここは…

 

「孫子曰く逃げるしか無し!」

 

一毅は全速力で走り出す。

 

「それを言うなら、孫子百計逃げるに如かずですし本来の正しい使い方とは違います」

 

次の瞬間銃声と共に一毅の絶叫が響いた…

 

 

「何であんたそんなにボロボロなのよ」

「何でお前は我が物顔でキンジの部屋にいるんだよ」

 

一毅はレキにボコボコにされたあとキンジの部屋に来た。

するとそこには何故か我が物顔でキンジの部屋で足を組んでインスタントコーヒーを飲むアリアとアリアにさっさと帰れと全身で訴えているキンジの二人がいた。

 

「んで?一毅も来たぞ、さっさと目的話せよ」

「そうね」

 

どうもアリアは一毅とレキが来るまで来た理由を言わなかったみたいだ。

キンジの言葉に頷くとアリアは窓際まで歩くと夕日を背に立つ。そんなのを見ながら一毅は自分でもインスタントコーヒーを淹れてレキにも渡しつつ席に座りながら飲む。

 

「キンジ、一毅、レキ…」

 

アリアは三人を見ると…

 

「あんたたち…私の奴隷になりなさい!」

『ぶー!』

 

アリアの言葉を聞いた瞬間一毅とキンジはコーヒーを吹いた…




多分今回過去最長です…初の5000字越え…うん、ビックリした。と言うかアリア転入して奴隷になれ宣言までの下りでここまで長くなるとは…


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龍と契約

「ようしレキ!帰ろ…【パン!】…さてキンジ!今日はちょっとだけ遅くまで居ても良いか?」

「ぜ、是非居てくれ!」

「………………」

 

レキを連れて逃亡を図ろうとしたがその前にアリアに顔の真横を弾丸で掠められた…明らかにワザとだ…次は当てると言う意思表示だろう。

 

「んで?どういう意味だよ」

「キンジは強襲科(アサルト)に戻って来て私とパーティーを組むのよ」

「はぁ?無理に決まってるだろ!つうか俺はあんな死ね死ね団と一緒が嫌だったから比較的まともな探偵科(インテスケ)に転科したんだぞ!」

(俺もその死ね死ね団の一人だけどな)

 

一毅が内心突っ込んでいると、

 

「無理、疲れた、めんどくさい…この三つは人間の可能性を押し止めるよくない言葉よ、もう使わないこと。あとそうね…キンジと一毅はフロントでレキはスナイプって所ね」

「なあ、お前日本語通じてる?」

 

一毅は呆れた…まず話が通じていない…因みにフロントとはホテルの受付のことではなく戦いにおいて最前線に立たせられる強襲科(アサルト)の花形で負傷率ダントツのトップのポジションで、スナイプは読んで字のごとく遠距離からの援護を主とするポジションである。

 

「通じてなかったら会話できてないわよ。あんたバカなの?」

「あ?」

 

一毅のコメカミに青筋が浮かぶ。

 

「一毅さん落ち着いてください」

 

レキに止められた。そうでなければアリアを窓から投げ捨てていたところだ。

 

「と・に・か・く!俺は組まないからな!」

「ふんっ!長期戦は想定済みよ!」

「え?」

 

アリアは部屋の隅にあったキャリーバックを指差す。あれ…お泊まりセットらしい。キンジは口をあんぐりと開けている。

 

「取り合えずお腹減ったわね…何かないの?」

 

アリアはソファーに撓垂れ掛かるように座る。それはドコか色っぽいポーズなのだがアリアみたいなチビがやってもな…レキなら嬉しいけど。

 

「ね、ねぇよ…」

 

だがキンジはお気に召したらしく顔を赤くして視線を反らす。おいおいお前…

 

「ロリコンだな」

「ロリコンですね」

 

一毅とレキの声が重なった。

 

「誰がロリコンだ…」

 

キンジは二人を見る。

 

「お前だ」

「あなたです」

 

何を言ってんのお前…みたいな目で一毅とレキの二人はキンジを指さす。

 

「シャ!」

 

そこにキンジの蹴りが一毅に跳んだ。

 

「うぉっぷ!」

 

一毅は上半身を逸らして躱す。

 

「俺はノーマルだ!」

「えぇ~」

 

一毅は信じらんなーいと言わんばかりの雰囲気を出す。

 

「てんめぇ…」

 

キンジは歯軋りしている。

 

「取り合えず飯だろ?台所借りるぜ」

 

一毅はからかい飽きたのか台所に立った。

 

 

取り合えずキンジの部屋の冷蔵庫には毎朝キンジのお世話をする白雪が色々と置いていっているためそこそこの物が結構入っている。

 

「今日はしょうが焼きにでもするか」

 

一毅は豚肉(黒豚だ…)と生姜と一緒に飾るキャベツ(どっちも有機野菜だった…)を出し準備をして行く。

その間に米を炊き、味噌汁を作りながらキャベツを切っていく。

それから生姜を磨り下ろし醤油と酒とみりんを混ぜたタレに小麦粉をつけた豚をつけて焼く。

その間に素早くキャベツを刻んで盛り付け米が炊き上がる。

更に味噌汁に切った油揚げとキャベツを入れて味噌を溶きながら肉をフライパンから出して皿に乗せていく。

 

「完成!」

 

手際よくあっという間に三十分ほどで作り上げて持っていく。

 

「ほら」

 

一毅が持ってくると皆は手を合わせ…

 

『頂きます』

 

食べ始める。

 

「んで?何時まで居る気だよ」

 

キンジは生姜焼きを口に放り込むと半眼で聞く。

 

「あんたたちが良いと言うまでよ」

 

アリアは答えるが、今度は一毅が聞く。

 

「どんな内容の仕事だ?少なくともそれが分からないと考えることもできないぞ」

 

一毅としては基本的に組む事はやぶさかでもないと考えている。何となくだがなにか事情がありそうな感じだ。

 

「武偵殺しよ」

「あれは逮捕されただろ?」

 

武偵殺しとは数ヵ月前に起きた事件で武偵を狙って来ると言う名前の通りの事件…確かにキンジの言う通り逮捕されたはずだ。

 

「あれは別よ、本物は別に居る…」

「どうしてそう言えるんだ?」

「勘よ…」

「勘てお前…」

「で、でも絶対そうなのよ!………そうよ…あいつらは人に罪を擦り付けることだけは天才的なんだから…」

「え?」

 

アリアの言葉の最後の方が聞こえず一毅は聞き返す。

 

「な、何でもないわ!取り合えずあんたたちは私の奴隷になればいいのよ!」

「アホか!絶対組まねぇよ!」

 

キンジは残りのご飯を掻き込むと茶碗をドン!っと置く。

それを見たアリアはプルプル震え…

 

「こんの…分からず屋!ちょっと頭冷やしてきなさい!!!」

 

アリアはガバメントを引き抜き…げ!

「風穴祭り(フェスティバル)!!!」

 

ガバメントが火を吹く。

 

『うぉ!』

 

キンジと一毅は横に飛ぶ。更に一毅はレキを庇いつつ転がりレキを小脇に抱えると猛然と走りだしドアをぶち開けると自分の部屋に逃走した……とは言え部屋は隣なのだが…

 

「ひ、ひでぇ目に遭った…」

 

一毅はレキを下ろし肩で息をする。何て凶暴な女だ。

とは言えうちのレキも喧嘩の時に撃ってくるし武偵校ではそんなに珍しくないだろう…しかし突然来て奴隷のなりなさい宣言…とんでもない人間に睨まれたものだ。

 

「明日の学校サボろうかな…」

「そうしたらここに乗り込んで来ますよ」

 

それは勘弁して欲しいところだ…

 

「となれば仕方ねぇや…」

 

一毅はスマホを出すと電話を掛けた…

 

 

それから次の日…

 

「お久し振りです」

「おう」

 

光一さんは一毅たちにお茶を出す。

一毅は本阿弥堂を訪れていた。キンジの方は何か依頼で飛び出していったがまあ関係ないだろう。

 

「それで分かりましたか?」

「ああ、一発で出てきたぜ」

 

光一も座ると今日も客がいないお茶屋を軽く見渡しながら話し出す。レキには抹茶パフェでも与えておいてと…

 

「神崎 H アリア…イギリス人のハーフの父と日本人の母親の娘…つまりクォーターだ。そして倫敦武偵局に籍を置いていた。その間にした単独で99回の強襲(アサルト)を全て成功させている」

「うわぉ…」

 

一毅はつい拍手したくなった。普通は一発強襲(アサルト)で成功って相当な実力がなければ不可能だ。

一毅であってもこれまで2、3回程取り逃がしがあった。これは別に一毅の実力が低いわけではなく普通はそう言うものだ。そのために何人かの仲間と協力して行う。一毅の場合はレキが取り逃がしは捕まえていた。それを単独とは…

 

「更にこいつはイギリスの貴族だ。祖母がディムの称号を持っている」

「なんですかそのパンに塗る甘いやつみたいな称号」

「そりゃジャムだ。ディムってのは貴族の称号だ。それを持っていて初めて真の貴族と言う扱いを受ける」

「へぇ~」

 

貴族もめんどくさいものだ。

 

「しかしここまでは分かったんだがそれ以上が分からねぇ…かなりキツイセキュリティーが掛かってる。お陰でこいつの実家の事が分からねぇ…」

「まあわかったらお願いします」

 

見ればレキも丁度食べきっていた。

 

「旨かったか?」

「はい」

 

するとレキの口には食べかすがていたいた。

 

「動くなよ」

 

それを吹き取ってやっていると光一が笑う。

 

「何だかんだでうまくやってるな、最初の頃は少し心配だったが」

「ほんまやな」

「宍戸さん!?」

 

ひょっこりと顔を出したやくざの組長に一毅は驚く。

 

「久し振りやな、元気そうで何よりや」

 

宍戸も座る。

 

「あー桐生ちゃんにはええなぁかわええこがいて」

「ならお前はどうなんだ?宍戸」

「駄目や駄目や全然そう言うのはおらん」

 

宍戸にも光一は茶を出すと笑う。

 

「まあヤクザと好き好んで付き合う女もいないか」

「ま、そうやな…あづづ!」

 

宍戸がお茶を吹くと皆も笑った。

 

 

更に次の日…キンジは部屋のドアを開ける。そこには当たり前のように鎮座したアリアが居た。迷惑きわまりない。

 

「何で入れてんだよ」

「自分で考えなさいな。て言うかあんた入れなかったらドアの前で淑女(レディ)を一人待たせることになるのよ」

 

キンジは鼻で笑う。

 

「何が淑女(レディ)だよ、デボチン」

「デボチンって何?」

「お前みたいな額がでかい女の事だよ」

 

キンジは荷物を放る。

 

「分かってないわねあんた。これはお洒落よ、これでもイギリスもファッション雑誌に乗ったこともあるんだから」

「………………」

 

キンジは黙る。わかってはいるのだ。こいつは可愛い…とんでもない美少女だ。美少女度合いで言うなら白雪とか同じクラスで先程ある依頼を完遂して貰った理子より上かもしれない。

等と思っている自分の思考が恥ずかしくなったキンジは手を洗いに行く。

 

「ふん…流石貴族様だ。身なりには気を使っているんだな」

 

照れを隠すようにキンジは茶化すように言う。

 

「調べたの?」

 

アリアが眉を寄せる。

 

「武偵同士での戦いの基本だろ?」

「やっとらしくなったじゃない」

 

アリアの身の上についてならある程度まで知ることができた。先程いった理子に完遂して貰ったある依頼と言うのがこれだ。誰しにも取り柄の一つくらいあるとは良く言ったもの。理子はアホだが情報収集には使える。

キンジも一毅たちと同じ程度までならアリアの素性を調べあげていた。

 

「しかも単独で99回逃がして事ないんだろ?しかもいままで逃がしたことはない。大したもんだ」

「一回逃がしたわよ」

「なに?」

どうも理子は間違えた情報集めたらしい。一度逃がしてるときた。

 

「どんなやつだよ」

「あんたよ」

「ぶふっ!」

 

キンジはうがいの為に口に含んだ水を思いきり吹いた。

 

「なんで俺なんだよ!ふざけんな!」

「ふざけてんのはそっちでしょ!人の服脱がせといてなに?」

「いや…あれは…」

 

本人は否定しているロリコン説だがその話は横においていいだろう。とにかく前の事件の際に体育箱に填まったキンジとアリア…そのさいに爆風のせいでブラウスの裾が捲れ上がり可愛い寄りも上がりもしないプッシュアップブラをご開帳してしまった…お陰でキンジはいまだにアリアには痴漢扱いを受けている。

 

「だ、だからってお前は俺をパートナーにするのかよ!」

「そんなわけないでしょ、あんたがあのあとやった動き…銃弾を簡単に見切って避けた挙げ句あの蹴りと身軽さ…流石元Sランク武偵よ。そこは見込んであげるわ。だからあんたと同じ一年からのSランク武偵の一毅とレキを加えて武偵殺しを追うと決めたのよ!」

「馬鹿じゃねぇか!今の俺じゃ足手まといにしかならねぇよ!良いとこCランクだ!!!」

「今?あんた条件が合った時に本気になるタイプなの?」

 

しまった…キンジは冷や汗を流す。会話がヒートアップしすぎて冷静になってなかった…バレるわけにいかない…あの時に銃を撃とうと前傾姿勢になった際に胸が当り水饅頭のような柔らかさと暖かさに性的興奮してヒステリアモードと言うものになりましたなど口が裂けたって言えるもんじゃない。だと言うのに…

 

「ふぅん…良いわ、協力してあげる」

「っ!」

 

キンジは驚愕する。

 

「どんな条件だか知らないけど協力してあげるわ、何?言ってみなさい。駄賃の足しに位なるでしょ?」

「ばっ!」

 

キンジは仰け反る。アリアは意味がわかっていないため仕方ないがつまりアリアが言ってることは自分を性的に興奮させてやると言うことだ。それが…どんな意味だか…

 

「キンジ…」

 

キンジの脳裏には放課後の夕日が傾く部屋の中で行われるアリアとの一時…甘く…時には酸っぱい…恐ろしくも…どこか甘美で癖になる…

 

(不味い…ヒスリかけてきた…)

「なんでも協力してあげるから…」

「っ!」

「きゃあ!」

 

キンジは咄嗟にアリアを突き飛ばす。

 

『……………………』

 

その場を沈黙が支配する。

 

「一度だけだぞ…」

「え?」

「1度だけ強襲科(アサルト)の自由履修受けてやる。それでいいだろ」

「……どんなのでも?」

「…ああ、どんなに簡単でも一度だ」

「逆でもいいのよね?」

「ああ…」

「分かったわ…それで勘弁してあげる。その代わり全力でやるのよ?」

「分かってる」

 

素の俺だけどな…とキンジは内心吐き捨てた…



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龍と鳶

「はぁ…」

 

キンジは強襲科(アサルト)用の体育館前にて溜め息を吐く。

ついに戻ってきてしまった…とは言えここで落ち込んでいても仕方ない。やけに重く感じる扉を開けると中には多くの生徒がいた。そいつらはキンジを見ると…

 

「キンジ~やっと死にに来てくれたか、と言うわけで死ね」

「お前こそコンマ一秒でも早く死ね!」

 

キンジは素早く切り返す。それを皮切りにキンジの周りに皆は集まってくる。

 

「お前みたいなボンクラはさっさと死ぬんだぜ」

「じゃあなんでお前は生きてんだよ!」

「よぅし、死ね!今すぐ死ね!」

「お前が死ね!」

 

別にこれは新手の虐めではなく強襲科(アサルト)では挨拶のようなものだ。

キンジ、一毅両名は現在の2、3年には一目置かれているのだ。言うまでもなく入学式で一発Sランク合格によるものだ。更にこの二人、強襲科(アサルト)では入学してその直後位に上級生が力を見せつけるため下級生を叩きのめすと言う洗礼があるのだが、あろうことか逆に当時二年生だった現在の三年生を叩きのめして外にポイしている。所謂上勝ちをしてしまっているのだ。お陰で現在の三年に命狙われ気味のキンジと一毅だがまあそれを脇に置いておこう。

 

「ようキンジ」

 

一毅が来る。強襲科(アサルト)に自由履修で一時的にキンジが戻ってくるのは昨日のうちに聞いていた一毅はどこか嬉しそうだ。

 

「銃弾と硝煙と暴力の強襲科(アサルト)に戻ってきたな」

「一時的にだ」

 

キンジは頬を掻きながら答えた。

 

 

「あれ?遠山先輩じゃん」

 

その頃2階のトレーニング室でライカが声をあげる。

 

「知り合い?」

「まあ一毅先輩経由で少し」

 

ライカは話し掛けてきた男に答える。

 

「やっぱり強いのかなぁ…」

辰正(たつまさ)戦いたいのか?」

「無理無理!僕みたいな一年のCランクじゃ軽く捻られちゃうよ」

 

辰正と呼ばれた男は一年のようで首を横にブンブン振る。

 

「何の話?」

「お、あかりじゃん、今強襲科(アサルト)の伝説が来てんだよ」

 

あかりと呼ばれたミニアリアのような少女は見る。

 

「なんかイメージと違う…もっと筋骨隆々って言うか桐生先輩が強いってのはわかるけど…」

「でもあかりちゃん、もしかしたら隠してるだけかもしれないし…」

「んも~!辰正も男ならシャキッとしなよ」

「う、うん…」

 

辰正は何処か頼り無さげに笑った。

 

 

 

「ふぅ…」

 

一毅は放課後に街の方に出る。今日はレキは依頼(クエスト)でいない。まあ7時くらいに帰るとの事だったので今夜は天丼かと材料を買っていた。ついでに付き合ってそろそろ一年になる。記念日でもあるし何かプレゼントでもと今日は下見も兼ねているのだ。

すると…

 

「ん?」

 

スーパーのすぐ目の前のゲームセンターのUFOキャッチャーでキンジとアリアが遊んでいた。デート?いや失礼ながら小学生をつれ回す誘拐犯だぞキンジ…等と思っているとアリアがとれず筐体に当たりだしたところをキンジが止めて取った…しかも二個同時…人間どんな才能があるかわからない。そう言えばプレイ中のキンジをアリアがボーッと見てた気がするが気のせいだろう。

すると二人はハイタッチした。やった後に恥ずかしくなったのか顔を赤くしてそっぽ向いてるが…

 

(あいつらは中学生か…)

 

一毅はあきれながら見てると二人は取った景品(後で知ったがレオポンと言う名前らしい)をどっちが先に携帯に付けられるか勝負を始めた。意外と良い勝負をしている。何とも微笑ましいな。とは言えこれをもう一人の幼馴染み、星伽 白雪が見たら大暴れになるだろう。間違いない。そうこうしてる間に二人は別々に歩き出す。

さて…アリアの方に行っても仕方がないし男子寮に向かってるであろうキンジの方に歩き出した。

 

 

「ようキンジ」

「ん?一毅か」

 

キンジと並んで歩く。

 

「今日はなんだ?」

「天丼だ」

「いいなぁ~…」

「そう言うけど白雪が恵んでくれるじゃねぇか」

「味は良いけど量が…」

『……………』

 

キンジと一毅は何気ない会話をしているが…後ろへ意識を集中している。

先程から尾行されているのだ。数は二人と言ったところだ。

 

「気付いてるよな」

「まあな、減ったくそな尾行だ」

 

一毅とキンジはそれとなく武器に手をかける。

 

「何もんだ…?」

「分からないが…」

 

二人は曲がり角を曲がると…

 

『逃げるぞ…』

 

二人は全速力で走り出す。後ろからも追ってきているのが分かるがとりあえずもっと開けた場所の方がいいだろう。

 

「キンジ…この先に公園がある…そこで迎え撃つぞ」

「よし…」

 

追ってもまだ居るようで必死に追いかけて来ているのが分かる。

 

「ここだな!」

 

二人は公園にはいると振り替える。

 

『何もんだお前ら』

 

一瞬静寂が包む。

 

「言っとくが気付いてるからな…おとなしく出てこい」

『…………………』

 

一毅が言うと観念して出てきた。

一人はアリアを更に低くしたような幼児体型の名付けてミニアリア女…もう一人はかなりイケメン顔で比較的ガッシリした体格の男…

 

「一年か…名前は?」

「あ、初めまして!一年強襲科(アサルト)!!!谷田(たにだ) 辰正(たつまさ)です!ランクはCランク!あ、この子は同じ強襲科(アサルト)のEランク、間宮(まみや) あかりちゃんです」

「ふぅん…」

 

一毅とキンジは構えを解く。

 

「んで?何で俺たちを尾行したんだよ」

「あ、正確に言うと本当は遠山先輩に用が…」

「あの!」

 

するとあかりが出てくる。

 

「アリア先輩とはどういう関係なんですか!?」

「は?」

 

キンジが唖然とすると、

 

「ロリコンとその主だよ」

 

一毅が間髪知れずに答えた。

 

「ちげぇよ!」

 

キンジは一毅に突っ込む。

 

「ロ、ロリコン…?」

「う、噂って本当だったんだ…」

「噂?」

 

辰正の言葉にキンジは反応する。

 

「遠山キンジロリコン説って言う奴ですよ」

「誰だよそんなガセ流してんのは!」

「確か…枯木と言う人です」

「誰だよ!」

「んな奴うちの高校いたっけ?」

 

キンジが叫び一毅は初めて聞く名に首を捻る。

 

「あ、これあだ名で二人組をまとめて呼んでいるんです。一毅(かずき)とレキで枯木(かれき)です」

「てんめぇえええええじゃあああねぇええええええかぁあああああ!!!!!!!!!!!」

 

キンジは般若みたいな形相で一毅の襟をつかむ。

 

「そ、そんなこともあったけな~…」

 

一毅も今思い出したようだ。

 

「って話が逸れてます!本当にどういう言う関係なんですか!?」

「お前アリアのファンか?なら言っとくが俺は付け回されて迷惑してんだ。特別な関係じゃねぇよ」

「めい…わく?」

 

あかりの雰囲気が変わる。

 

「ん?」

「せ、せんぱぁい…」

 

辰正は強襲科(アサルト)とは思えないくらい情けない声を出す。

 

「今すぐ逃げてください…」

『はぁ?』

 

一毅とキンジの二人が首をかしげた次の瞬間マズルフラッシュと共に銃弾が飛んできた。

 

「この無礼者ォオオオオオオ!」

『いい!』

 

一毅とキンジは予感に飛んで躱す。銃は…マイクロUZI(ウージー)…ついこの間もこの銃を装着したセグウェイに追いかけられたばかりだ…すげぇ嫌だな…今度は人が装備してるけど…

 

「あ、あかりちゃん!」

「辰正!やるよ…アリアが自分から会いに来るなんて羨ましいのにそれを迷惑!?言語道断だし絶対許さない…撤回させてやる!」

 

ダンダン足を踏み鳴らしあかりは辰正に怒鳴る。

 

「おーい…俺無関け【ババババババ!】うぉわ!」

 

一毅は自分の無実を訴えるが聞く前に否決された。何て横暴な裁判官だ。

 

「どうするキンジ…」

「仕方ねぇ…左右でいくぞ!」

「OK」

 

一毅とキンジは荷物を置くと首を軽く回す。

それから二人は一度逆方向から出ると一気にあかりとの間合いを積める。いくら連射出来ても砲身は一つだ…と思った次の瞬間…

 

「ごめんなさい!」

 

一毅の腰に衝撃が走りそのまま後ろに押される。

 

「っ!」

「俺流・流星タックル!!!」

 

体がホンノリ深紅に染まった辰正は一毅の腰にガッチリとしがみ付くとそのまま一気に一毅は木に叩きつける。

 

「ごほっ!」

「俺流…」

 

更に辰正は離れると拳を握り振り下ろす。

 

「流星フィニッシュ!!!」

「がっ!」

 

一毅は顔をぶん殴られ地面に転ぶ。

 

「一毅!?」

「こっちです!」

 

キンジの方にあかりが手刀を繰り出す。

 

「ちっ!」

 

キンジはスウェイで躱す。

 

「ったく…UZI(ウージー)付きセグウェイにピンク武偵と来て次はその劣化番かよ…」

 

キンジはネクラな顔を更に曇らせながら蹴りの構えだ。

 

「ったく…」

 

一毅も殴られた頬を擦りながら立ち上がると拳を握る。

 

『いくぜ…』

 

少しお灸を据えてやるため一毅とキンジは走り出した。

 

 

一毅は辰正との間合いを詰めると拳をつき出す。顔面を狙った一毅の拳を辰正はスウェイで躱すと、殴りかかってくる。

 

「しっ!」

 

それを片手で払い一毅は裏拳を繰り出す。

 

「うぐっ!」

 

諸にそれが決まり辰正はよろけるがそこに更に一毅は蹴りを叩き込むとそのまま掴んでぶん投げる。

 

「が…はぁ…」

 

咄嗟に受け身は取ったようだがダメージはあったらしい。

それにしても先程も思ったがこいつは無手の戦いは上手くない。特に格闘技経験者と言うわけでもなく、鍛えてはいるが特別な腕力の持ち主でもない。

ならばやり易い。そう思い一毅は腰を落とすと…立ち上がった辰正に、

 

「二天一流・拳技!煉獄掌!!!」

「くっ!」

 

辰正はそれを受けると次の瞬間流され一毅は体勢を崩される。

 

(そうかこいつ…(やわら)を使うのか!)

 

一毅はとっさに体勢を戻そうとするがその前に蹴りを叩き込まれる。

 

「ぐっ!」

「うぉおおおおお!」

 

辰正は駆け寄ると腕を取り一毅に肩車をするように乗ると一毅の首を足で絞めながら腕の関節を極める。これは抑えるためじゃない…間違いなく腕の骨と更に首の骨をへし折る技だ。

つまり殺しの技…しかも流しからのここまでの一連動作…そうとう鍛え混んでいたようだ。油断していた…だがそんなことを考えている間にも首がしまり酸素がなくなっていく。

 

(こいつ…裏家業の人間か…!?)

 

一毅は残った左手で足の拘束を緩め左手を曲げることで耐えるがこの状態では圧倒的に辰正が有利だ。

 

「う……おお…」

 

更に辰正は力を込める。

 

「こん…の…」

 

一毅も力で解こうとする。

 

『ウォォオオオオオオオ!!!!!!』

 

一毅と辰正の咆哮が響く。

 

「ウォオオラァ!」

 

軍配が上がったのは一毅だった…一毅はそのまま後ろに倒れ地面に辰正を叩き付ける。

 

「がっ!」

「ゴホ!ゴホ!」

 

辰正の拘束を解くと一毅はむせながらも関節を極められていた腕を軽く振って異常がないことを調べる。

 

「ウラァアアアアア!!!!!!」

 

その隙に辰正はホンノリ深紅のオーラに身を包み身を低くして一毅の腰に抱きつく。

 

「俺流・流星タックル!!!」

 

だが先程の不意打ちとは違い今度はしっかりと見えている。つまりそれは…

 

「勝機!」

 

一毅の目が光る。

 

「ラァ!」

「ウラァ!」

 

一毅は正面から辰正を受けると首に手を回し…

 

「ふん!」

 

バキ!っと辰正の首が音を鳴らし、辰正が怯む。

 

「二天一流・喧嘩術!」

 

そして辰正の胴体を掴み持ち上げると荒々しくも豪快に…それでいて武骨な一撃、

 

「縛解の極み!!!!!!」

 

そのまま辰正の頭をパイルドライバーの要領で地面に叩きつけた。

 

 

 

そのころキンジとあかりの戦いはキンジが間合いを詰めると足を狙ったローを放つ。

 

「うわわ!」

 

あかりは危なげなくもそれを躱すとナイフを抜いて来る。

 

「ちっ!」

 

キンジも緋色のバタフライナイフを抜いて応戦していく。

その間にも蹴りを放ち当てていくが何度当てても不死人(アンデット)の如く立ち上がって来るため勘弁してほしい。

もしかしたら人間じゃないのかもしれない。たぶんこいつはゴムスタン弾(非殺傷性のゴム弾。暴徒鎮圧用に使われるが当たると凄く痛い上に頭に当たると命にか変わる場合もある)が当たっても平気なタイプだ。

だがいくら強襲科(アサルト)を抜けてから日が経つとは言え流石に一年に遅れはとらない。

キンジはそう内心思いつつバタフライナイフの峰に付いているギザギザと刃砕き(ソードブレイカー)の部分であかりのナイフを止めるとテコの原理でへし折る。

 

「っ!」

 

あかりは驚いたような顔を見せるがキンジは気にせず蹴りを横っ腹に叩き込む。

 

「どうだ?まだやるか?」

 

キンジはめんどくさそうにあかりを見る。

 

「当たり前です」

 

そう言ってあかりは立ち上がる。何て頑丈な奴だ。

そう思いつつナイフを…あれ?

キンジは自分の手を見る。そこにはなぜかナイフがない。

 

「探し物はこれですか?」

 

あかりは自分の手の中にあるバタフライナイフを見せる。

 

「いつの間に…」

「行きますよ!」

 

あかりがキンジのバタフライナイフを振るう。

 

「くっ!」

 

胸を狙った一撃をキンジはバックステップで躱しながら更に下がる。

 

「はぁ!」

 

冗談のナイフを伏せて躱し、そこに来た足払いを飛んで躱す。

しかしこいつ…ナイフあまり上手くないな…と言うか下手くそだ…何て言うか…癖を抑えながら振ってる感じがする。まあ関係ないことだとキンジは思考を払いながら横にスウェイで躱しながら同時に蹴りを放つ。

一毅の【二天一流・拳技 捌き打ち】をモデルとしたキンジの技…

 

「スウェイアタック!!!」

「きゃう!」

 

これは威力が低いため牽制程度にしかならないが蹌踉めかすには充分だ。

そしてキンジは胸元から銃を抜く。

 

「っ!」

 

あかりの目が光ると一気に間合いを積めてきたかと思えば一瞬の間に奪われた。

 

(やはりヰ筒取り…いや、鳶穿ちか?)

 

遠山家にはヰ筒取りと言う相手の武器をカウンター気味に奪う技がある。この技は元々ご先祖様の部下が使っていた技をパクった劣化番のだが…

 

「今の鳶穿ちか?」

「っ!…何故それを!」

 

あかりは驚いている。

 

「それって元々相手の眼球や心臓奪うえげつない技だろ?大したもんだ。ヰ筒取りバージョンして武偵法に触れないようにするとはな」

「?」

 

あかりには理解できていないようだが確かあいつの苗字は間宮だった…恐らく間宮 林蔵の子孫なのだろう。となるとあそこで一毅と戦っている谷田 辰正は谷田 吟の子孫だろう。まさかここで先祖の部下の子孫に会うとは…武偵高校を辞める身空なれども感慨深い。

 

「と、とにかくこれでもう武器はないですよ!」

 

そう言ってあかりはキンジのベレッタを向ける。ならば、

 

「安全装置くらい解除してから向けろ」

「え?」

 

あかりは銃を見る…無論安全装置はとっくに解除済み…だがその隙が命取りだと言わんばかりにキンジは跳ぶ。

 

「はっ!」

 

明かりもキンジの接近に気づき銃を向けるが素早く蹴り上げ銃を打ち上げる。

そしてキンジの目が獲物を捉えた鷲のような目となり光ったような感覚がした。

 

「勝機!」

 

キンジが叫んだところにあかりがナイフをつき出す。

それをキンジは体を回転させ躱すと…

「ウッシャア!!!」

 

渾身の後ろ回し蹴りを叩き込んだ。

 

 

 

「がは…」

「うぐっ!」

 

一年二人は倒れる。

 

「ふぅ…」

「終わったな」

 

キンジと一毅も構えを解く。

 

「んで?何がそんなに気に入らないんだよ」

「……ずるいです」

「は?」

「私スッゴい苦労してアリア先輩とお近づきになって戦妹(アミカ)になったのにあんた何なんですか!」

 

あ、こいつアリアの戦妹(アミカ)なのか…

 

「だから俺は寧ろめいわむぐ!」

 

キンジの言葉を一毅は止める。それ言ったらまた撃たれる…

 

「あ、あのな間宮…こいつとアリアはある事件で一時的に手を組んでるだけだ」

「…………本当ですか?信じられませんが…一緒に遊んでいたじゃないですか」

 

ゲーセンの所から居たんだこいつ…

 

「た、多分一時的にとは言え組むんだから親睦を深めていたんだよ…なあキンジ」

「いや、あいつが勝手について…」

「そ・う・だ・よ・な?」

「…ハイソウデス」

 

一毅が半眼になるとキンジは流石に少しビビって言うことを聞いた。

 

「何か脅されてる感が凄いんですけど…」

「き、気のせいだよ。そんなに信用ならないんならお前の敬愛するアリアに聞いてこい。嘘だったとわかったらまた襲いに来れば良い」

「…分かりました…行こう、辰正」

「あ、うん。失礼しまし…」

 

そこまで言った次の瞬間突風が吹く。

 

『え?』

 

するとこの場で唯一の女であるあかりの武偵高校特有の短いスカートがブワッと上がる。そして見えるは白木綿のパンツと言うか子供っぽい見た目と相まってパンチュ…

 

「キャア!」

 

あかりは咄嗟にスカートを押さえ、

 

「ぶはっ!」

 

辰正は鼻血吹いて倒れ、

 

「…………」

 

一毅は特に何も感じる事もなく。

 

「ウワァアアアアアアア!!!!!!」

 

キンジは何処か分からないがとにかく爆走した。大方ヒスりそうだけどこんなガキではヒスりたくないという本能が働いたのだろう。本当にあいつはロリコンなんじゃないだろうか…

 

『…………』

「見えました?」

 

あかりが聞いてくる。

 

「大丈夫だ…俺は彼女持ちだしすぐ忘れることにする」

「ああ、そういえば二人でしたね。武偵高校で一番釣り合ってないカップル」

「そんな風に言われてんの!?」

 

一毅は驚愕した…

 

 

その夜…

 

キンジは時々、

 

「俺はあんなガキに興味はない…興奮したりしない…」

「キンちゃん大丈夫!?特濃葛根湯買ってきたよ!あとは…人肌で暖め…」

「やめろぉおおおお!!!」

 

と、ドタバタしながら寝込み…

 

 

一毅は…

 

「あの一毅さん…何故急にかけ蕎麦なんですか?別に良いですが今日は天丼だったはず…しかもその頬は誰にやられたんですか?頭撃ち抜いて来るんで教えてください」

「ちょっと疲れてな、後殺すな」

(言えない…材料全部戦った場所に忘れてきて取りに戻ったら既に持っていかれていたなんて…)

 

一毅は墓場まで持っていくことを内心決め…

 

 

「アリア先輩!」

「あら、あかりどうしたの?それに辰正の姿が見えないけど…」

「あ、あいつはちょっと倒れまして…でも大したことないので大丈夫です!」

 

まさかパンツ見せてしまって鼻血出されたとは言えない。

 

「あ、それより聞きたいことがあるんです!」

「何かしら?」

 

アリアはももまん(和菓子専門店、松本屋のロングセラー商品。桃の形をした只のあんまんなのだが何故か熱心的なファンが多く日本で最も売れてる饅頭ランキングで二位と圧倒的な差をつけて堂々の一位を飾っている。アリアはももまんファンクラブ、通称MFCの会員NO.1の称号を持つ)を一度置くと聞きの体勢に入る。

 

「遠山キンジ先輩との関係ですが…」

 

次の瞬間アリアの顔が赤くなる。

 

「は、はぁ?あいつとは唯のパートナーよ。べ、別にクレーンゲームの時の真剣な顔が少し格好良かったとか思ってないんだからね!」

 

語るに落ちている。キンジならそうかとそれで終わりだがあかりは…

 

「そうですか…(遠山キンジ…殺す…絶対に殺してやる…本来の鳶穿ちで心臓奪ってやる)」

 

あかりはキンジ抹殺を心に誓った。




遂にAA勢が本格的に絡み始めました。因みに谷田 辰正はオリキャラですが、元は、龍が如く4の主人公谷村 正義と5の主人公・品田 辰夫をごちゃ混ぜにして出来たのが彼です。
あかりの幼馴染みで捌きと関節技の腕は超一流。何せSランクの一毅の一撃を簡単に捌いて関節を極めて行くんですからこの二つだけに限定すればSランクの素質があります。ですがそれ以外は完全な喧嘩殺法…その為Cランクに甘んじているのが彼です。

顔立ちはイケメンですがどうも頼りない感じで姉御系にモテます。凄くモテます。羨ましい限りですが彼はあかりちゃんが好きなんです。なのでアリアラヴのあかりに何処か複雑な思いを寄せつつももう一つのある理由(後述)と相まって後一歩が踏み出せていません。ただ、あかりの方も辰正は特別な異性と認識しています。裏設定ですがあかりの妹、ののかに好意を持たれていると言う設定もあります。

実家は昔はそれこそキンジの先祖を外敵から守る仕事をしており、汚れ仕事を間宮が…表仕事を谷田が行っており、防御が得意なのもその辺が理由です。
そして現代では谷田は守る対象を間宮に変えており、間宮壊滅の際に谷田も滅んでいます。その為、辰正にとってあかりとは守る対象であり、守るべきだった間宮を守れなかった負い目がある対象でもあるのです。 その為、誓いをたてており、【泥臭くたって情けなくたって格好良くなくたって良い…ただあの子の涙を見ないで済むなら戦う…それだけだ】と言うのを心に決めています。

家はあかりの家に居候させてもらっており、佐々木 志乃とはその為か非常に仲が悪いです。

さて、こんな感じですかね。いつか彼らの物語も書きたいとは思いますがその辺はどうするか思案中です。

さて、次回は遂にアレが起きます。ではお楽しみに~


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龍とバスジャック

テスト期間?なにそれ美味しいの?


一年生ズとの戦いの次の日…一毅とレキはバス停前で佇んでいた。

 

「マジかよ…」

 

一毅は呟く…一毅は今だ爆弾魔によりあえなく爆砕させられた自転車の再購入の目処はたっておらずそのため此処のところバス通学だったのだが何と今日は台風が近づいてきておりその為雨が降っている。そのせいか滅茶苦茶混んでる…これでもかと混んでおり例えるなら押し寿司みたいだ。

普段自転車通学してる連中もバスに来てる。

 

「なんだよこれ…」

 

そこに遅れてキンジもやってくる。珍しいな…と一毅は内心驚く。レキとイチャイチャしていたため遅れた自分とは違いキンジに限ってそういう遅れはないはず…いや、もしかしたら白雪が星伽に帰ってるせいで寝坊したのか?

 

「ようキンジ!そんであばよ!」

 

クラスメイトの武藤が捨て台詞を残しバスは行ってしまう。

 

「歩きかよ…ぜってぇ遅刻じゃねぇか…」

 

キンジはガックシと肩を落とす。冗談ではないと言わんばかりだ。

 

「ほら、キリキリ歩こうぜ」

 

レキと相合い傘をしながら一毅はキンジを立たせると歩き出した。

 

 

それから一時間ほど歩きやっと強襲科(アサルト)練前に着く。

 

「しかし嫌な雨だな…」

「違いない」

 

キンジと駄弁っているとキンジの携帯に電話が入る。

 

「もしもし…なんだアリアか。今?今はちょうど強襲科(アサルト)前に居るが?はぁ?C級装備?何で…なに!……わ、分かった…」

 

キンジは電話を切る。

 

「どうした?」

「バスジャックだ…」

「あ?」

「武偵殺しは今度はバスジャックしやがった!」

「な!」

 

レキも目を見開く。

 

「一毅とレキにも集合かけろってさ」

「ったく…冗談じゃねぇぜ…」

 

一毅は冷や汗を流しながら呟いた…

 

 

それから一毅とキンジはC級装備…これは制服よりもずっと動きやすく頑丈に作られており強襲専用の特殊装備の一つだ。

 

「アリア!」

 

三人は武偵高校の屋上のドアを乱暴に開ける。そこには既にアリアが待機していた。

 

「遅いわよ!」

「状況は?」

「バスはそのまま南に移動中!行くわよ!」

「待てよ!状況くらいしっかり説明しろ!」

 

キンジはアリアに叫ぶ。

 

「仲間が危機、武偵殺しが絡んでる、しかもバスには爆弾!これだけわかってれば十分でしょ!」

「おい!冗談じゃねぇぞ!んな適当に…」

「良いから行くったら行く!現場は待ってくれないのよ!!!」

 

成程…と一毅は内心思う。これはアリアの高い戦闘能力をもって行う完全な武力制圧だ…光一に聞いたがアリアはイギリスでの武偵活動の功績を全て持ってかれてるらしい…確かにこれでは他の人間に歩調を合わせるとかできないだろう。

するとそこにヘリが来た…

 

「行くしかねぇみたいだぜ…」

「くそ…」

 

一毅達はヘリに乗り込んだ。

 

 

それから五分ほどで現場に到着する。

 

「レキはここで待機!行くわよ」

 

一毅・キンジ・アリアの三人は跳び移る…そしてキンジは転んだ。

 

「中には居ないのか?」

「武偵殺しなら居ないわ」

 

そう言う情報も回して欲しいものだ。

 

「いんや…今回は特別だぜ…」

『っ!』

 

すると突然隣をスポーツカーが通りそこから男が一人飛び移ってきた。武器は…槍?

 

「俺の名前は宝蔵院(ほうぞういん) 蹲矢(しゅんや)…」

「出たわね武偵殺し!」

 

アリアが銃を構える。

 

「おおっと…そんな暇はあるんかい?爆発しちまうぜ?」

「う…」

 

すると一毅が前に出る。

 

「二人は爆弾の解除だ…」

「え?」

「俺じゃあのギュウギュウ詰めのバスには入れないしバスの底にも爆弾があるかもしれないがそこも論外…なら情報持ってそうなあいつをぶっとばして吐かせる」

「………分かったわ」

「気を付けろよ…」

 

キンジはバスの中に、アリアはバスの底に向かう。それを横目で見届けてから一毅は宝蔵院を見据える。

 

「なあ、槍術相手に剣術で勝つ場合剣術家の方が三倍の力量いるって知ってる?」

「安心しろ…」

 

二天一流には槍相手にした場合の戦い方も伝えられている。それに何より…

 

「俺の方が三倍どころか百倍は強いからな!」

 

一毅は殺神(さつがみ)を抜くと飛び上がった。

 

「イヤァアアア!」

 

だがそれを簡単に見切った宝蔵院は槍を空中につき出す。

 

「しゅ!」

 

だがそれを一毅は殺神(さつがみ)で弾くと刃を振るう。

 

「くっ!」

 

宝蔵院は槍で防ぎながら後退する。

槍は近距離用の武器ではあるが密着するほどの至近距離でも使いにくい武器だ。ちょうどいい間合いを見いだしその距離を保たなくては槍は弱体化する。だが宝蔵院も自信に合うだけの実力はあったらしく槍をバスの天井に突き刺すと曲芸か棒高跳びのように跳ぶ。

 

「っ!」

 

そして一毅の意表を突き空中で槍を引き抜きそのまま突く。

 

「この!」

 

だが一毅もその程度で殺られない。素早く神流し(かみながし)を引き抜き槍を受け流し宝蔵院の方を向く。

 

「へぇ…二刀流か…だっせぇ…んなもん使いこなせんのかよ」

「自分で味わってみろ…」

 

一毅は【二天一流・必殺剣】の構えを取り相手を見据える。

一瞬静寂が流れ…

 

「だぁ!」

 

先手は先程とは変わり宝蔵院だ…

 

「がぁ!」

 

それは横から神流し(かみながし)をぶつけて弾くと一気に間合いを詰める。

 

「うらぁ!」

 

迫る殺神(さつがみ)を宝蔵院は伏せて躱すと足払いを掛ける。

 

「ちっ!」

 

一毅は跳んで躱したが横凪ぎの槍が来る。

 

「ちぃ!」

 

一毅は二刀を交差させて防ぎながら着地しそのまま押し込む。

 

「くっ!」

 

そのまま押しきろうとした次の瞬間…

【ババババババ!!!!!!!!!】と言う音と共に足元のバスの窓が割れていく。

 

「なっ!」

 

するとバスの横にはスポーツカーが並走しておりそこには毎度お馴染みUZI(ウージー)が付いていた。

 

「邪魔だ!」

「ぐほ!」

 

一毅は宝蔵院を思い切り蹴っ飛ばすと、集中する…すると一毅の体から純白のオーラが現れる。

 

「二天一流・必殺剣…秘技!」

 

一回その場で円を描くように回ると二刀を交差させて跳ぶ。

この技は一馬之助が犬が円の中に不動し…一気に飛びかかる様から天恵を得た技…その名も、

 

円明(えんめい)!!!!!!」

 

交差させた刃がUZI(ウージー)を切り裂く。そのままスポーツカーに着地するとバスを見る。すると宝蔵院はなにかを話していた…なにか軽く言い合ってるが話はついたのか一毅一別すると反対側に飛び降りそのまま迎えに来ていたらしいスポーツカーで走り去る。

一毅も車で追おうとするが案の定自動運転らしく勝手に止まっていく…

 

「役に立たねえなくそ!」

 

一毅は車を蹴っ飛ばしたが痛かったらしく飛び上がる。

 

「さてあいつらは…」

 

一毅がバスの方を見た次の瞬間銃声が響いた。

 

「な…」

 

遠くに見えたのはアリアがゆっくりと倒れていく様…UZI付きスポーツカーは対向からも来ていたのだ。

だがそれも次の瞬間撃ち抜かれる。

 

「すいません…」

 

通信が入る。レキからだ。

 

「この雨の中で援護ができませんでした」

 

確かにこの風の中だ…ヘリも何処かで下ろしていたのだろう…だがそれよりも今はアリアだ。

 

「大丈夫か!」

 

一毅がバスの上に飛び乗ると着けていたヘルメットのお陰で額を撃ち抜かれなかったようだが意識を失ったアリアとそれを抱えるキンジがいた。

 

「くそ…武偵病院に行くぞ!!!」

 

その後…アリアは意識をすぐに取り戻したが三日間の入院と額に消えぬ傷を残した…

 

 

 

キンジはバスジャックから二日後…アリアの見舞いに来ていた。ももまんをもって…

病室に着くと無駄に広い…VIPルームとか言う奴だろう。その扉をノックする。

 

「どうぞ」

 

扉を開けてキンジは入る。目の前には自慢していた額を前髪で隠したアリアがいた…胸が痛む…

 

「ほら、見舞いだ」

 

キンジがももまんと事件後の調査をした書類を渡す。

 

「一応調べてみたがなにもわからなかったそうだ」

「そう」

するとアリアは書類を碌に見ずに捨てる。

 

「………取り合えずお前との契約は済ませた…満足か?」

「ええそうね…ガッカリしたわ」

「そうかよ」

 

キンジはそこまで言うと出ていこうとドアに向かおうとする。

 

「やっと見つけたと思ったのに…」

 

キンジの動きが止まる。

 

「っざけんな…お前が勝手に押し掛けてきたんだろうが、俺は違うっていってたのによ」

「私にはもう時間がないの!勝手にだってなるわよ!」

 

キンジはアリアを睨み付ける。

 

「あーあー大層な事情らしいな!だけどな、俺にだってある。だからって勝手にやって良い訳じゃ…」

「あーそうなの大変ね!でもあんたの事情なんて大したことないに決まってるわ!」

 

ブツリとキンジの中で何かが切れた音がしたような気がした…だがそんなことを気にする間もなくキンジはアリアの襟を掴むと拳を握って振りかぶっていた。

 

『………………』

 

アリアは少し驚いた顔をしていた…そしてキンジは拳を下ろすと背を向ける。

 

「…………」

 

何か一言言ってから行こうと思ったがなにも浮かばずキンジは口を閉ざしたまま外に出た…




今回は3500文字ちょい…うん、大体これくらいの長さが普通くらいだろう。
と言うわけでたまには後書きで駄弁ってみようと書いてみました咲実です。
いやはやこれで遂に14話目…一章だけに限定すればまだ少なくなりますが…うん、やっと1章の佳境なのにこのペースだと原作に追い付くのは当分先になりそうです。

さてさて、次回は遂に我らがかなえさんが登場…まあちょびっと?
そして遂に武偵殺しの正体が(←多分読者は知ってるだろ…)明かされます!
他にも一毅とレキの恋愛模様(←書けるのか?)とか書きながら物語は進んでいきます!多分…
と言うわけでまた次回お会いしましょう~


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龍と母

キンジとアリアが喧嘩別れして三日目のことである…一毅はキンジを半ば強引に連れて街まで出ていた。レキとのカップル成立一周年記念として何かプレゼントをと思ったが一人ではセンスがあんまり宜しくないことを自覚してる一毅はキンジを連れてきたのだ。

それに何となくだが喧嘩別れしたのも一毅はキンジと入れ違いでアリアへの見舞いにレキと行ったときに気付いていたのでキンジの気晴らしも入っている。

最初は乗り気じゃなかったキンジだが段々あれはどうだこれはどうだと結構真面目に考えてくれる。最終的にハンカチに決定した一毅とキンジはプレゼント用の包装をして貰い店を出た

 

「ありがとな」

「いや、別に」

 

このあと何か食べていくかと話しているとキンジはいきなり後ろを見る。

 

「どうした?急に… 」

「今アリアとすれ違ったんだよ」

「すげぇなこの人だかりの中で…」

 

下手な満員電車より混んでいそうなこの道であの140程のアリアを見つけるとかこの男何者かレベルである。

とは言え言われてみれば確かに居た…随分粧し込んでる…キンジは気になっているようだった。

 

「あの服装…デートか?」

「…………」

 

キンジは一瞬ピクッとした…

 

「気になるか?」

「別に…」

「じゃあ行くか」

 

一毅が帰ろうとするがキンジは動かない。

 

「…キンジ?」

「あ、あいつと付き合おうなんて奇特なやつの顔が見てみたいな!うん!」

「ツンデレ!?」

 

そう言って二人はアリアを追った。

 

 

それから30分ほどで目的地と思われる場所に着く…ってこれは…

 

「新宿警察署?」

「だな…」

 

するとアリアは歩を止め…

 

「下手くそな尾行ね、尻尾が出てるわよ」

『……………』

 

キンジと一毅は目を真ん丸くする…そして…

 

『ツクツクホーシ!ツクツクホーシ!』

「この季節にセミはいないわよ!」

 

等と言うアホをやってから出て来る。

 

「気付いていたんなら何で言わなかったんだよ」

「迷っていたのよ」

「迷ってた?」

 

キンジに返答したアリアの言葉に一毅は首をかしげた。

 

「まああんたたちも武偵殺しの被害者だし連れてってあげる」

 

アリアの言葉に首をかしげつつも一毅とキンジはアリアについて行く。

暫く歩き、アリアは何かの書類に書き込むと面会室に入る。暫く待つと、刑務官に連れられた柔らかな顔をした美人な女性…何か何処かで似た人間と会った気がする…キンジも同意見らしく眼を僅かに開きながらその女性を目で追っていた。

 

「ママ…」

『ママ!?』

 

アリアの言葉に二人は驚愕した。目の前にいる人が母親だと!?っと言わんばかりだ。まあ確かに目の前の女性…アリアの少し年の離れた姉でも十分通じるほど若々しい…もしかしたら飛天御剣流の継承者かなにかだろうか…少なくとも母親と言われる見た目はしていないが確かに何処かアリアに似ている。

 

「あらあらアリア。どちらが彼氏さん?」

「あ、このネクラな見た目に反しあらゆる女性を口説き落とすハーレム王こと、遠山キンジです」

『違う!』

 

キンジとアリアが同時に叫んだ。

 

「誰がハーレム王だこら一毅!」

「こいつと私は一時的に組んでるだけよママ!」

「あらあら…あのアリアが二人もお友達を連れてくるなんてねぇ~。小学校頃休み時間を寝て過ごしていたアリアが…」

「ママ!」

 

どうも昔からアリアはボッチ系だったらしい…

 

「と、とにかく時間がないから手短に話すわ。爆弾魔がやっと尻尾を出し始めたわ…あいつを捕まえればママに被らせられた864年のうち一気に108年は縮められる。他にも差し戻し審を取れるかもしれない」

「アリア…その額の傷はどうしたの?」

「これは…」

「やっぱりね、アリア…貴女は一族の中でも最高の才能を持っている。でもそれには優秀なパートナーが必要なのよ。だから貴女はまずその優秀なパートナーを探しなさい」

「そんな時間はないわ。そんなの居なくたって私は一人で十分よ」

「その結果がその傷よ…私はどうなったっていいの。でもあなたが傷つくのは耐えられない。貴女はもっと自分を大事にしなさい」

「…ママ…」

 

すると、

 

「神崎!時間だ!」

 

そう言うと刑務官乱暴にアリアの母親は立たせられる。

 

「ママに乱暴するな!!」

「アリア…私は良いの…仕方がないのよ」

 

アリアの母親はそう言い残すと外に出された…

 

 

 

『……………』

 

外に出ると雨が降っていた…だがこの方がいいのかもしれない…少なくとも自分とキンジ以外アリアが泣いてることに気づくことはない…

 

「あんな扱われかたして良いわけがない…訴えてやる…」

 

しゃっくりあげながらアリアは呟く。

 

「アリア…」

「何で…何でママなの…証拠だって十分不十分な筈なのに…冤罪なのに…何で…」

「……………」

 

キンジは黙る。気付いてしまったのだ…アリアと自分は似てることに…自分は兄を世間から見捨てられ…アリアは母を見捨てられた。そしてそれゆえに腹が立つ?いや、嫉妬しているのだ…自分は兄のことを諦めて…武器を捨てる決意をした。いや、逃げ出したという方が正しいかもしれない。だがアリアは…武器をとった。世間がなんと言おうと自分の母は違うとその小さな体で戦うことを決意した…それゆえに眩しすぎる光だ…自分にはない強さ…羨ましく…同時に自分には関わってほしくない…関わられれば捨てたものを拾いたくなってしまう。拾って…戦いたくなってしまう…報われなくても…馬鹿にされても良いから…彼女の力になりたいと思ってしまう。

そしてこのときのキンジは気づいていない…その心は羨ましいとか嫉妬とかだけで起こる感情では無い事を…そして後に知る…この気持ちの名を…

 

 

 

「そんなことがあったんですか…」

「ああ」

 

ハンカチをプレゼントした後レキと本阿弥堂でお茶を飲んでいた。

会話の中身は無論昨日の出来事だ。

 

「なんつうか…少しわかる気がしたよ…もう最高裁で時間もない…確かに焦ってしまうし勝手にもなるのかもしれないし…キンジも色々思うとことがあるみたいだけど何かうだうだしてるし…あー苛つく!」

「つまり何とかしてあげなければとキンジさんは思っていながらも自分は武偵を辞めるんだと色々言って動かずに居ると?」

「そうなんだ…何か良い手無いもんかな…」

「ならいっそのこといい加減にしろと言わんばかりにぶん殴って目を覚まさせてあげたらどうです?」

「それもありか…」

 

等と話しているとスマホが鳴る。

着信主は…噂のキンジだ。

 

「はいモシモシ?どうしたキンジ」

「一毅!突然で悪いが羽田に来てくれ」

「はぁ?」

「詳しい事情は後で話す!とにかくまだ武偵殺しは終わっていない!」

「……………」

 

事情は良く分からないが声のトーンで今のキンジはヒステリアモードだとわかるし何か焦っていることがわかる。なら、

 

「分かった。タクシー代は後で請求するからな」

 

そう言って切ると立ち上がる。

 

「何かあったんですか?」

「ああ、ちょっと羽田に行ってくる」

「分かりました。気を付けてください。私は武偵高校で待機しておきます。何かわかったら連絡できますか

ら」

「ありがとな」

 

そう言って一毅は本阿弥堂を飛び出した。

 

 

 

それからタクシーに飛び乗り十分ほどで羽田に着くと丁度キンジも居た。

 

「イギリス行きにアリアも居る…行くぞ」

「了解」

 

武偵は警察に準ずる活動も許されているため緊急時は武偵手帳見せるだけで中に入ることはできる。

 

「で?何があったんだよ」

「実を言うとな…起こると決まった訳じゃないんだ」

「はぁ?」

「あくまで仮説なんだ…すまない…ただ俺の仮説が正しければ絶対起きる」

「……はぁ…とにかく…」

 

二人は飛行機に飛び乗ると近くのキャビンアテンダントに武偵手帳を見せながら、

 

「東京武偵高校の遠山キンジだ!」

「同じく東京武偵高校の桐生 一毅だ!」

『飛行機を止めろ!!!』

「ひゃ、ひゃいいい!」

 

アテンダントは慌てて走っていく。脅かしたような形になるが仕方あるまい。するとキンジは膝を着く。ヒステリアモードが切れたらしい。どんな刺激にかもよるがヒステリアモードは凡そ三十分前後位しかモタナイ。その後は疲れるし全身がだるくて重くなるらしい。

 

「立てるか?」

「ああ…」

 

すると飛行機が動き出した。

 

「すいません!機長がそんな指示は受けていないといって…」

「くそ…」

 

一毅は悪態を吐く。

 

「仕方ない…アリアと合流するぞ」

 

キンジの言葉に頷くと二人は歩き出す。

 

「とは言えどこに居ると思う?」

「まああいつあれでも貴族だしな」

 

そういえば光一がイギリスの貴族だといっていたのを一毅は思い出す。

 

「良い席に居るだろ」

 

そう言ってキンジはファーストクラスのさらに奥のVIPルームドアに手をかけた。

 

 

 

「キ、キンジ!?それに一毅!?」

「ホラな?」

「流石探偵科(インテスケ)だな」

「何であんたたちがここに居るのよ」

「ちょっとな」

「おいキンジ、この部屋冷蔵庫まで着いてるぞ」

「なに勝手に入ってきてんのよ!」

「武偵憲章にもあるだろ?任務はその裏まで完遂せよってな」

「あんたなに言って…」

 

アリアが口を開いた次の瞬間窓が光った。雷だな…

 

「ひゃう!」

 

アリアは飛び上がった…もしかしてこいつ…

 

「ち、違うわよ!そう…突然光ったから銃撃とまちが【ピカッ!】ひゃうん!」

『ぷ…』

 

つい一毅とキンジは笑ってしまう。

 

「あ、後で風穴…【ピカッ!】ひゃいん!!!」

「布団にでも入ってろよ」

「だ、だから怖くな【ピカッ!】キャアアア!!!」

 

パニックを起こしながらアリアは布団に飛び込んだ。

 

「……ぷぷ…アリア~、替えのパンツ持ってきてるのか?」

「あ、あんた絶対後で風穴開け【ピカッ!】ひゃい!」

(相当怖いらしいな…)

 

等とキンジは考えてると、

 

「キ、キンジ~」

 

プルプル震えながらアリアらしからぬ弱々しい声音でアリアはキンジの制服の裾を掴む。

 

「ま、待てって、今テレビ点けてやるから」

 

そう言ってテレビを点けると丁度キンジの先祖、遠山 金四郎 兼元のチャンバラがやっていた。死んだ兄である金一の仮説だが彼もヒステリアモード持ちで諸肌を脱ぐと成っていたらしい。用は露出狂の毛があったのだ。とは言えアリアも珍しいのかそれに見いっている…

もし…この子と普通の学校で普通に出会っていたら…違ったのだろうか…

そう思いながらアリアを見ると目が合う…そしてゆっくりと指と指を絡めて…

 

『っ!』

 

銃声が響いた…

 

「さ、アリアとキンジ。イチャイチャはここまでみたいだぞ」

 

一毅は置いてあったお菓子を食いつくしながら立ち上がる。

 

『イ、イチャイチャ何てしてない!』

「えぇ~一応主人公の俺が空気になるくらいラブラブだったじゃん」

 

すると放送が入る…モールス信号だ。

 

【オ・イ・デ・オ・イ・デ…イ・ッ・カ・イ・ノ・バ・ー・ニ・イ・ル・ヨ…オ・イ・デ・オ・イ・デ…イ・ウ・ー・ハ・テ・ン・ゴ・ク・ダ・ヨ…】

 

そして放送は切れる。

 

「行ってくるわ。あんたたちは来なくても【ピカッ!】ひっ!」

「俺たちは?」

「く、来れば?」

吹きそうになりながらアリアに着いていく。

 

「しかしこんなところで(チャカ)ブッ放すとか何考えてんだ?犯人のやつ」

「それには同感だな…」

「居たわよ」

 

アリアが顎をしゃくると居た…ってあれは…

 

「最初に居たキャビンアテンダントじゃ…」

 

一毅の声が聞こえたのかキャビンアテンダントは振り替える。

 

「待っていたよ…」

 

次の瞬間キンジとアリアが銃を構える。

 

「動くな!」

 

だが次の瞬間アテンダントはバーカウンターの後ろに転がるように落ちる。

 

「逃がすか!」

 

アリアは素早く走りだし椅子を台に跳ぶとガバメントを撃つ。

 

「キヒヒ…」

 

だがアテンダントは地面を転がりつつバック転をしてそれら全てを紙一重で躱していく。

 

(あの女は猿か曲芸師かよ…)

 

一毅は舌打ちすると、キンジも銃を構える。だが、

 

「っ!」

「甘いよ…」

 

銃を抜いた瞬間アテンダントはワルサーP99を抜いてキンジのベレッタを撃ち抜いた…アリアの銃撃を避けながらあの正確無比な射撃…間違いなく素人ではない。

 

「なら!」

 

一毅は殺神(さつがみ)を抜くと走り出す。

アリアも銃では避けられて弾を無駄遣いしてしまうと悟ったのか小太刀を抜く。

 

『はぁ!』

 

だがアテンダントもタクティカルナイフを抜いて応戦する。

 

「らぁ!」

「やぁ!」

「ふっ!」

 

一毅とアリアの振り下ろしを横に跳んで躱しアテンダントのナイフが迫る。

 

「ちっ!」

 

一毅はそれを上半身をそらして躱しつつ…

 

「二天一流・秘剣!霞ノ太刀!」

 

ズン!っと刃が当たったら感触はしたが同時に斬れた感じはしない。案の定防刃仕様らしい…

 

「流石だね…遺伝系の強さを持っているのが3人…まあ一人は役に立ってないけどね」

「てめぇ何もんだ?」

 

一毅は構えを解かずに聞く。

 

「んー?ああ、これ着けてちゃ分からないよね」

 

そう言うと顔からベリベリとマスクを剥がす。その顔は…よく知っている顔だった。

 

『なっ…』

 

3人とも唖然とする。

 

「初めまして?久しぶり?あ、キー君はさっきぶり~。峰 理子だよ!」

 

ダブルピースを決めたクラスメイトに一毅達は何も言えなかった。



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龍とハイジャック

『理子…』

 

一毅とキンジは信じられないといった顔だ…

二人の知る峰 理子と言う女を説明する際には馬鹿の一言に尽きる。

常に騒動に中心に居り超が付くほどのトラブルメーカー。そしていつも武藤と共にばか騒ぎに興じている。

クラスメイトからの人気も高く男子からはその社交的且つ明るい性格とその可愛らしい顔とロリ巨乳と称されるほどのスタイルから人気が非常に高い。

ただ、特定の異性との噂はなく良く絡まれていたキンジとの間に関しては噂が立った(キンジは否定するが)。

 

「やっほー♪」

 

理子はクラスでも良く見る太陽のような笑顔を向ける。

 

「あんた爆弾魔だったのね…」

「そうだよ…オルメス」

(オルメス?)

 

キンジと一毅は顔を見合わせる。アリアの実家の名前か?

 

「結構戦闘能力って遺伝するんだ…例えばキンジは町奉行…遠山 金四郎 兼元…一毅は桐生 一馬之介こと宮本 武蔵…そしてオルメス4世…この場にいる全員が遺伝系だ…」

 

その言葉を聞いて一毅は眉を寄せる。

 

「全員?お前はじゃあ何だよ…峰何て言う奴は聞いたことねぇぞ」

「ああ、私は峰 理子だけじゃない…本当の名は…峰 リュパン 理子…」

 

次の瞬間キンジとアリアの表情がひきつる。

 

「リュパンって…あの?」

「そうだよ…」

 

だが一毅は…

 

「わるい…リュパンって偉人も知らん」

 

その場の全員が次の瞬間ずっこけた。

 

「ああ、あのラスクみたいなパンのお菓子か?」

「それはコパンだ…」

 

キンジが突っ込む。

 

「じゃあ音楽家?」

「それはショパンでしょ?」

 

次にアリアが突っ込む。

 

「じゃあ誰だよ。リュパン何て偉人はいないぞ」

「居るよ!アルセーヌ・リュパン!理子はその人の4世だよ!」

「ああ~フランスの泥棒…でもあれってルパンだろ?」

 

するとキンジが、

 

「発音の違いだ馬鹿、外国と日本では良くあるだろ」

「ふぅん…で?態々何でこんなことしたんだよ。もしアリア殺したいんならキンジにヒント与えてここに呼び出すようなことしなくたって良いしアリアがイギリスに帰ってからだって…」

 

一毅がそこまで言うとキンジが出る。

 

「これは挑戦状…違うか?」

「流石キンジ…脳味噌まで筋肉とレキに殺られちゃった一毅とは違うね」

 

喧嘩を売ってるのかこいつは…等と思っているなかもキンジはヒステリアモードの時に作り出した仮説を話していく。

 

「まず第一回目の武偵殺しはバイク…大型車…そして船だった…そして今回…俺と一毅の自転車…武偵が大勢乗ったバス…そして飛行機…船の時も恐らくお前は直接対決していたんだろ?」

 

そうでなければ兄が逃げ遅れるわけがない。

 

「そしてお前も今回で直接対決を望んでいる。だからお前はここで騒動を起こした」

「流石キンジ…だね」

「だが分からないことがある。何故俺と一毅も巻き込んだ…偶々か?」

「 本当は一毅は要らないんだ…本当はオルメスとその相棒となれるキンジの二人がいれば良い。はっきり言って邪魔さ」

「……じゃあ質問を変える…何が目的だ?」

 

理子の目が細くなる。

 

「私さ…一応昔は使用人とかいたんだよ…でもそんときから可笑しくてさ、だーれも理子って呼ばない。皆4世様って呼ぶんだ」

『?』

 

一毅達は首をかしげた。それの何処が悪いのだろう。

だがそう思ってることが理子はわかったらしく。

 

「悪いに決まってんだろうが!!!私はDNAか!?記号か!?違うね!私は理子だ!」

 

どうやら理子にとっての地雷を踏んだことだけはわかった。

 

「だから私はオルメス…お前を殺す…殺して…峰 理子になる」

 

すると次の瞬間理子の髪がまるで意思を持ったように動き出す。

 

「一つ教えてやるよアリア…お前は双剣双銃(カドラ)って呼ばれてるけど…お前の双剣双銃(カドラ)は本当の双剣双銃(カドラ)じゃない…今から本当の双剣双銃(カドラ)を見せてやるよ」

 

理子のツインテールはナイフを一本づつ持ち理子自身が銃を二丁持つ。

 

『なっ!』

 

髪が持ったナイフが前にいたアリアと一毅を狙う。

 

「ちっ!」

「このっ!」

 

一毅とアリアはとっさに防ぐが次の瞬間銃弾が当たる。

 

「ぐっ!」

「いつ!」

 

だがその程度では止まらない。

アリアは銃をその中でも構えるが次の瞬間機内が揺れる。

 

『え?』

 

二人はよろけそこにナイフがアリアを狙う。

 

「なっ!」

「アリア!」

 

アリアが倒れる。見てみれば側動脈をやられている。

 

「くそ…退くぞ!」

「ちっ!」

 

キンジはアリアを抱えあげ一毅と共に走り出す。

 

「どこ行くの?こんな狭い機内でさぁ…」

 

 

 

「くそ…アリア!大丈夫か?」

 

キンジが声を掛けるがアリアの反応は薄い。更に…

 

「よう!」

「てめぇ…宝蔵院!!!」

 

宝蔵院は槍を構える。

 

「キンジ…アリア連れて先に行け…」

「だが後ろから理子も…」

「今の状態のアリアが一緒じゃ逆に不利になる…だから行け…」

「……死ぬなよ…」

「ああ…」

 

一毅は殺神(さつがみ)を構える。そして、

 

「ウォオオオオ!!!」

 

それから走り出すと刃をぶつける。

 

「へっ!」

 

それから一気にキンジは横を通り抜けそのまま逃げたのを見届けると切り返して距離を取る。

 

「あれぇ?カズッチしかいないの?」

 

そこに理子も来る。

 

「……」

 

本当は二刀流で行きたいが先程から揺れがひどい…二刀流は足の踏み込みが命だ…故に今は太刀のみで行く。

 

「安心してねカズッチ。レキに髪の毛くらい死んでも送ってあげるから」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ…レキと約束してんだ…互いに相手残して死なないってな…」

 

そう言って一毅は構える…そして、

 

「らぁ!」

 

一毅は走り出すと宝蔵院に殺神(さつがみ)を振り上げる。

 

「はぁ!」

 

それを宝蔵院は槍で受けそこに理子が髪を操りナイフで一毅を狙う。

 

「くっ!」

 

一毅はスウェイで躱すが狭い機内だ、逃げ道は限られる。それ故に宝蔵院に簡単に行き先を見切られその場所に槍を突き出される。

 

「ちぃ!」

 

一毅は咄嗟に刀で防ぐがその隙を突くように理子がナイフと銃を使い一毅を追い詰める。

 

「がっ!」

 

ナイフは咄嗟に避けたものの銃弾はそうもいかず防弾制服に当たる。

 

「うらうら!」

 

更に宝蔵院は槍を突きだし一毅を狙う。

 

「っ!」

 

一毅は殺神(さつがみ)で弾き返し刀で斬る。

 

「なっ!」

「二天一流・秘剣!弾き斬り!!!」

 

だがそれは理子のナイフで防がれてしまう。

 

「くっ!」

 

一毅は下がる。

 

(流石にキツいぞこれ…)

 

一毅は歯を噛み締める。このままでは不味い…

 

「さぁて…後どれくらい持つかな?一毅…」

 

冷酷な目をした理子は走り出した…

 

 

その頃キンジはアリアをVIPルームまで連れてくるとベットに寝かせる。

それから武偵手帳から注射器を出す。

 

「アリア!ラッツォ打つぞ!」

 

ラッツォとはモルヒネとアドレナリンを凝縮した復活薬。ただこれは心臓に直接打たなくてはならない。

 

「必要悪だからな…後で怒んなよ」

 

キンジはアリアの制服を少し脱がすと心臓の位置に手を添える。

 

(くそ…こんなときでも可愛いな…)

 

後で一毅にばれたら殺されるなと思いつつ心臓に直接打ち込む。

ギュッと中身が入っていくと…

 

「カッハァ!!!」

 

アリアが跳び起きる。

 

「え?え?」

 

アリアは自分が脱がされブラジャーが丸見えなことからまたキンジが強姦(きょうわい)に走ったのかと思いキンジを睨み付ける。

 

「あ、あんた何!?嫌みのつもり!悪かったわね、万年142㎝よ!胸もAカップでこのブラ着けても寄りも上がりもしないわよ!それが何か!?」

「いや、それは…」

 

不覚にもかわいいと思った手前キンジは強く出れない。

 

「…ん?……ええ!?」

 

するとやっと注射が刺さったままだと言うことに気付きアリアは飛び上がる。

 

「何これ!?」

「落ち着け!お前は理子にやられて…」

「っ!理子!!!」

 

アリアはベットから飛び降りると制服を着ながらズカズカ歩き出す。

 

「待てアリア!!!」

 

キンジはアリアを止める。だが、

 

「煩い煩い!!!あんたは布団の中でも隠れてなさい!!!」

 

ラッツォは復活薬でもあると同時に興奮剤でもある。更にアリアは薬が効きやすいようで(余談だが反対にキンジは薬が効きにくい)その効果は素の性格も絡んで完全に理性を失っている。

 

「代替あんた今更なんなのよ!違うくせに!やっとパートナー見つけたと思ったのに!」

 

言ってることが飛びすぎている。

 

「やっと…独奏曲(アリア)じゃなくなったと思ったのに…」

 

ズキン!と心臓が痛む。

 

「現場につれていけば何だかんだで力を出してくれると思った!そうね!私だって勝手だって思うわ!でもじゃあどうすれば良いの?ママを助けるため力貸してって悲劇のヒロインみたいに言えばよかったの!?」

(辞めろ…辞めてくれ…)

 

分かっている…キンジは分かっているのだ。この状況をどうすれば良いのか…だがそれを実行したらどうなるのか分かっている…

だが…怖い…それをしてしまったら逃げられなくなる気がする…武偵を辞める筈なのにここまで来て…そして成ってしまうのか? 駄目だ…あれだけは使っちゃいけない…

 

「辞めろ…死ぬ気か…?」

 

キンジは何を言って良いのかわからず当たり障りのないことをいってしまう。

 

「覚悟の上よ…それが武偵をやるってことでしょ!!!例え報われなくたってやるのよ!」

「っ!」

 

キンジは二の句が継げなくなる。

 

「じゃあね」

 

そう言って横を通っていく…

 

(辞めろキンジ…それは…)

 

キンジは振り替える。

 

「アリア!!!」

「今度はな…む……」

 

キンジの唇と自分の唇の距離がゼロとなりアリアは目を見開く。

 

『ん…う…』

 

キンジは自分の血が熱くなっていくのを感じた。恐らく…人生で初の自分の意思で使うため行動した…言い訳はできない…でも構わない。

 

(アリアは……死なせない!!!)

 

キンジは唇を離す。ヒステリアモードに…成っている。しかも今回は相当強力だ。

 

「ふ、ふみゃ~」

 

アリアも良い具合に落ち着いたようだ。

 

「あ、あんたね!私初めてだったのよ!」

「俺もだよ…アリア」

 

キンジはアリアの前に膝を突き顔を見る。

アリアの顔は赤い。

 

「済まないことをした…俺は本気を出すのが嫌いでね…だから…今度は本当の力を見せるよ」

「っ!…あんた…まさか…」

 

アリアもキンジに何かしらの変化があったのを感じ取ったらしい。

 

「アリア…一緒に捕まえよう…君を絶対に死なせないよ」

「っ!」

 

ニッコリ微笑んだキンジにアリアの赤面は更に強くなった。

 

 

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

一毅は荒くなった息を強引に整える。

 

「大丈夫~?カズッチ」

「うるせぇ…」

 

すると一毅のスマホが鳴る。

 

「出て良いよ~、もしかしたら最後のお別れかもね」

「…………」

 

一毅は好意に甘えて出る。

 

「もしもし…?あ?…分かったよ」

 

一毅はスピーカーにすると理子と宝蔵院の前につき出す。

 

「ん?」

「モールス信号?」

【リ・コ・オ・イ・デ・ビ・ッ・プ・ル・ー・ム・ニ・イ・ル・ヨ…リ・コ・オ・イ・デ・ビ・ッ・プ・ル・ー・ム・ニ・イ・ル・ヨ…】

 

キンジのやつ…皮肉っていやがる…と一毅は頬をひきつらせる。

 

「ふぅん…宝蔵院…後頑張ってね。デートのお誘い来たから」

「あいよ」

 

理子はスキップで行く。これで一対一(タイマン)

 

「俺さ…やっぱ二人がかりは気が引けていたんだ…」

「そうかよ…」

 

一毅は殺神(さつがみ)を構え直す。

 

「行くぜ…」

「ああ…」

 

 

その頃VIPルームでも…

 

「アリア死んだ?」

「俺を倒した後に見てみれば良いさ…」

 

キンジは防刃ネクタイをグイッと引っ張って弛め制服のボタンを2、3個外す。これはキンジが本気で戦うときの前段階と言うか気分的なもので特に意味はないが癖のようなものだ。そしてバタフライナイフとアリアの黒いガバメント…そして、得意の蹴りの構えを取る。

 

「成ったんだ…よくこんな中で出来たね」

 

キンジは眉を寄せる…

 

(知ってるのか?ヒステリアモードのことを…まぁいい…後で聞こう)

 

「おいで理子」

「良いねキンジ…最高、殺したいくらい」

「ああ、そのつもりで来ると良い…そうじゃなきゃ…君が死ぬ」

 

一毅と宝蔵院…キンジと理子…武偵とイ・ウー…二つのグループの戦いが最高潮(クライマックス)を迎える。



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龍と金と槍と爆弾

【一毅VS宝蔵院】

 

 

『らぁ!』

 

一毅の殺神(さつがみ)と宝蔵院の槍が火花を散らしながらぶつかり合う。

 

「しっ!」

 

一毅の横凪ぎを宝蔵院は槍で受ける。だが一毅は更に、

 

「二天一流・秘剣!!!連撃(れんげき)(ごう)!!!」

 

渾身の振り抜きで宝蔵院の槍を弾きガードを崩すと、

 

連撃(れんげき)轟閃(ごうせん)!!!」

 

勢いを更に付けた一閃が宝蔵院の胴を凪ぐ。

 

「がっ!」

 

浅かったものの宝蔵院はたまらず後退するが一毅は追撃の手を弛めない。

一毅は宝蔵院を追って走る。だが、

 

「この!」

 

宝蔵院は崩れた体勢から槍を突き出す。

 

「ウッラァ!」

 

だが一毅はスウェイでそれを横に躱し椅子を台に跳ぶ。

 

「二天一流・秘剣!!!燕舞差し(えんぶざし)!!!」

 

この技は一馬之助が高空から一気に落下し獲物を捉える燕の動きから天啓を得た技で使える場所は限られているがこうやって使えば相手の攻撃を躱しながら斬ると言う事を行える。

 

「ぐぉ!」

宝蔵院は槍を引き戻して弾こうとするが懐に入られれば槍の方が不利だ。防御が間に合わず一毅の刃が遂に完全に届き斬られる。

 

「くそ…さっきは手加減してたのか!?」

「ちげぇよ…さっきは俺は時間を稼がなくてはいけなかった…だが今は違う。俺はテメェに勝って理子をぶっ飛ばしたキンジと合流しなきゃ行けないんだ…それだけだ」

「おい、あいつが勝つと思ってるのか?」

 

馬鹿にするように宝蔵院は聞いてくる。

 

「当たり前だろ」

 

それにたいし一毅は怒りも何もなく極自然に…まるで太陽は東から上るのは当たり前だと言うように当たり前のように言う。

 

「何でそこまで信じられる」

「親友だからだよ…それだけだ」

 

一毅は殺神(さつがみ)を構え直す。

 

「来いよ…もうお前の槍は当たらないだろうがな」

「こんの!舐めるな!!!」

 

宝蔵院は槍の突きを放つ。だが一毅は次の瞬間宝蔵院の真横を一瞬ですり抜け一閃する。

 

「がはっ!」

「二天一流・秘剣…閃の太刀(せんのたち)

 

一毅は相手の攻撃の当たると踏んだ瞬間に高速の一閃を与える技…閃の太刀を放つ。

これは相手の攻撃に対するカウンターと言性質上非常にタイミングに関してはシビアだがそれを可能とするのは桐生の一族が代々得意とする先の剣に加え同時に修行により後の剣を会得し、研磨し続けた故だ。ダがやられた宝蔵院は何が起きたのかすらも分かっていないだろう。

 

「俺がただやられていたと思っているのか?そんなわけ無いだろ。お前の槍の一突き一突き…それをバスの上とこの飛行機の中で全て見た…もうお前の槍は見切った」

「っ!」

 

宝蔵院は愕然とする。

あれだけ優位に立ってると思っていた…なのに一毅にしてみれば既に見極め切った単純な槍術だと暗に言われてるのだ。

とは言え当たり前なのだ。二天一流は昔から様々な者達から技を教えてもらい…それを己の技としてきた。純粋に見切ってその技を使うと言うことに関しては二天一流は数多く存在する剣術の中でもトップクラスだろう。

 

「ふ、ふざけんなぁあああああ!!!!!!」

 

だがそれを宝蔵院は認められなかった。否、認めたくなかった。まるで子供だな…と一毅は溜め息一つ吐くと体から蒼いオーラ(ブルーヒート)が現れ一毅は宝蔵院を見据える。その目はまるで勝負がつく事を確信した龍の目…

 

「うらぁ!」

 

宝蔵院は槍を横に凪ぐ。

 

「ちっ!」

 

一毅はそれを打ち上げるように弾き上げると一毅は叫ぶ。

 

「勝機!!!」

「なっ!」

 

一毅はすれ違い様に胴を一閃する。

 

「くっ!」

 

それを槍で受けるが一毅は更に振り返りながら宝蔵院を打ち上げた。

 

「…二天一流……秘奥義!!!」

 

この秘奥義は一馬之助が槍使いを相手取った時に使った技…その名も、

 

枯葉微塵(こっぱみじん)!!!」

 

そのまま飛び上がった一毅は渾身の力で刃を振り下ろし槍を砕きながら宝蔵院を床に叩きつけた。

 

 

【キンジVS理子】

 

「ウォオオオオ!!!!!!」

 

キンジは疾走する。

 

「シャア!!!」

 

キンジは理子の脇腹を狙ったミドルキックを放つ。

 

「くふ!」

 

理子はそれを軽く後ろに跳んで躱すと髪を操りナイフを振るう。

 

「ちっ!」

 

キンジはそれをバタフライナイフと黒いガバメントで迎撃する。

 

「ひゃっほう!」

 

だが理子はそこに二丁拳銃を撃ちキンジを追い詰める。

 

「くぉ!」

 

キンジは顔を歪めるが防弾制服のお陰で致命傷にはならない。

 

「うらぁ!」

 

更にキンジは撃たれつつも蹴りを放つ。

 

「うわぉ!」

 

だがやはり理子は遊ぶように動いて躱すと舞うように飛び上がり髪を操りキンジを狙う。

 

「くっ!」

 

キンジはスウェイで躱しながら下がるが次々とキンジの首を締め上げようと狙ってくる。

 

「うっらぁ!」

 

その隙を突きながら銃を撃つが理子は射線から外れながら髪を操る。

通常人間を相手取る場合両手や精々足に注意すれば良いが理子の場合は髪がある。まるで手が四本あるかのような感覚があるため非常に戦いにくい。

 

「ほらほらぁ!そんなんじゃ当たらないよ!」

「ちっ!」

 

キンジはスウェイで躱しながら、

 

「スウェイアタック!!!」

 

牽制として躱しながらのキックを放つ。

 

「捌!」

 

だが理子は脛で受けると流れるように平手をキンジの体に添える。

 

「っ!」

「やぁ!」

 

ズン!っとキンジの腹部に衝撃が走りる。

 

「ウブ!」

 

キンジは嘔吐感を抑えながら後ずさる。

 

「発勁…か…」

「うん♪イ・ウーの仲間に教えてもらったんだ~」

 

理子は見事なまでの中国拳法の構えを取る。

 

「でも流石だね、咄嗟に後ろに跳んで発勁の勁力を逃がすなんてさ…」

「まあな…」

 

キンジは嘔吐感治まったのを確認しながら構え直す。

 

「うん、これなら良いかな」

「?」

 

理子は勝手にウンウン頷き、それを見たキンジは首をかしげる。

 

「ねぇ、キンジもイ・ウーに来なよ。良いよ~イ・ウーは…」

「折角の女性の誘いだが遠慮しておこう。俺は犯罪集団の仲間になる気はない」

「金一がいても?」

「っ!」

 

キンジは自分の血が凍りついたような感覚が走った。

 

「何を言っている…兄さんは死んだ…いや、殺されたんだ…君にな」

「H.S.S…だっけ?金一はヒステリアモードのことをそう呼んでいたよね?」

「何故…それを…」

 

キンジはグルグルと頭がこんがらがって行く…

 

「だって教えてもらったもん。だからおいでよ…久々の兄弟の再会だよ?ねえキン【チュイン!】え?」

 

理子の口から間の抜けた声が漏れた。それとは反対にキンジの体からは微かに紅いオーラが出始める。

 

「人を馬鹿にするのも大概にしろよ理子…」

 

遠山 金一という男は…自分の兄だ…兄は優しい人だった。優しくて…怒ると怖くて…とある立てこもり事件で報酬はお握り一個で言いと言って解決したこともある筋金入りのお人好し…そして自分とは違い才能に溢れていた。ずっと越えられない壁…と言う表現が正しいかもしれない。それ故に死んだと聞いたときの喪失感は大きかったし…桐生 一毅と言うお節介な友人とその彼女が居なければもっと自堕落に生きてたと思う。

だから許せない…今の理子の言葉は兄への…そして今まで支えてくれた一毅やレキへの冒涜に他ならない。

 

「ど、どう言うことかな?事実を言った【チュイン!】うわ!」

 

誰よりも優しくて…誰よりも義を大事にした兄が…犯罪集団の仲間に成るわけがない。

 

「お前は…言ってはならないことを言ったんだ!理子!!!!!!」

 

キンジの体からは深紅のオーラが現れる。これは一毅風に言えば【二天一流 絶技・怒龍の気位】いや、キンジが使うのだから【レッドヒート】言うべきだろう。

激しい激情により現れる人間の肉体の限界以上軽く引き出すヒートの極地。

元々ヒステリアモードは性的興奮とは言え感情をトリガーとしている。そういう意味では同じく感情をトリガーとするヒートは相性抜群なのだろう。その為か一毅と比べ強い力を感じる。

 

「行くぞぉおおおおお!理子!!!!!!」

「っ!」

 

キンジは床を踏み抜きそうな勢いで駆け出す。

 

「くっ!」

 

理子は銃を発砲する。だがキンジはスウェイで躱す。

 

「なっ!」

 

今のスウェイは横に動きつつも上体を逸らし更に側転も加えるというサーカスの劇団員のような動きだ。これはキンジの得意の蹴り技とその際に使う鮮やか且つ身軽な動きを支えている強靭な足腰と柔軟性の高い体を使った新たな回避技…名付けて【アストラルスウェイ】。次々と銃弾が飛んでくるがそれを全て避けきってしまう。幾らVIPルームで飛行機の中でも広い場所とは言え普通ではあり得ない。だが神経系強化されるヒステリアモード、更に人間の限界以上の力を引き出すレッドヒート…この二つが発動している今のキンジにとって銃弾は止まっているも同然だろう。

だが…次の瞬間理子が笑う。

 

「っ!」

 

一瞬の浮遊感と共に機体が大きく揺れキンジは体勢を崩す。

 

「バイバイ♪」

 

理子の言葉と共に銃弾がキンジの眉間を寸分違わず狙い迫る。避けるのは無理…耐えるのはもっと無理…ならば、

 

「はい?」

 

理子は本日2どめの間の抜けた声を漏らした。

 

銃弾切り(スプリット) ……」

 

なんとキンジはバタフライナイフで理子の放った銃弾を真っ二つに切ったのだ。確かに一毅などは銃弾を刀で弾くが刃渡りが圧倒的に短いナイフで切り飛ばすなど尋常ではない反射神経と動体視力に加えとんでもない胆力もいる。

理子ですら驚愕させた咄嗟の荒業を披露しながらキンジは理子との間合いを積める。

 

「ちぃ!」

 

理子の髪で操るナイフが迫る。だが、同時にキンジの目が細まり獲物を捉えると確信した鷹のような目となる。

 

「勝機!!!」

 

そのままキンジは上体を逸らしナイフを躱しながらバク転しながら理子を空中へ蹴りあげる。

 

「ぐっ!」

 

だがそれだけではおわらない。いや、本番はこれからだ。

 

「ウォオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」

 

キンジは共に飛び上がると空中で凄まじい速さでの連続蹴りを加える。

その速さは尋常ではなくその風圧と理子を蹴るときの反動でキンジの落下速度は明らかに落ちてるし蹴られ続けているため理子も落ちない。まるでマシンガンのような蹴りの嵐に理子は為す術も無く蹴られ続ける。文字どおり反撃を許さないキンジの三つ目の新技にして後までキンジが信頼を持って使うことになる技…その名も、

 

「【エアストライク】!!!」

 

キンジは空中で止めの蹴りを放ち理子を吹っ飛ばした。

 

 

「がは!」

 

理子は地面を2、3回バウンドしてから止まる。

 

「う…がは…」

 

だが理子は嘔吐きながらもキンジに銃を向ける。しかし次の瞬間別の銃声が響き理子の2丁拳銃が吹っ飛ぶ。

 

「残念だったわね理子…」

 

いつも変わらぬアニメ声を発しながらアリアは荷物棚から這い出るとキンジの隣に立つ。そして、

 

『峰 リュパン 理子、殺人及び殺人未遂、そして危険物所持の現行犯で逮捕する!』

 

キンジとアリアの勝利宣言がその場に響く…

 

「へぇ…オルメスはそこに隠れていたんだ。確かにその小柄さを最大限利用した場所だね」

 

理子はどこか余裕を持った雰囲気でキンジ達を見る。

 

「なんだその余裕は…」

「忘れちゃった?私は…武偵殺しの前に…【爆弾魔】ですから」

 

チョイっと理子はスカートを上げるとなにかが落ちてくる…次の瞬間凄まじい閃光と音がその場を包む。

 

「ぐぁ!」

 

フラッシュグレネードだと気付いたときには既に理子は消えていた。

 

「大丈夫か?アリア」

「ええ…でも聴覚と視覚どっちも駄目だわ…少し休憩すれば大丈夫…だからあいつを追って」

「…分かった」

 

キンジは走り出した。

 

 

その頃一毅も爆音を聞き付けその方に向け走っていた。無論宝蔵院は手錠と更にロープでグルグル巻きにしておいた。逃げられはしないだろう。

それから扉を開けるとタイミングよく理子と会う。

 

「理子…」

 

一毅は殺神(さつがみ)の鯉口を斬る。

 

「やっほーカズッチ」

 

理子はどこかふらついた足取りで搭乗口に凭れる。そこにキンジも追い付いてくる。

 

「もう逃げ道はないぞ…」

 

一毅が睨み付ける。

 

「ねぇ…最後に聞くけどキー君イ・ウーに来ない?カズッチも良いよ~」

 

理子が誘ってくるが、

「断る。俺は武偵だぞ」

「レキが居ないから嫌だね」

 

正反対の答えだがイ・ウーには入らないという意思が帰ってくる。

 

「そうか…じゃあ仕方ないな」

 

するとドアが爆発と共に落ちていき理子もそれにあやかって落ちていく。

 

『んな!』

 

キンジと一毅は慌てて外を見るが理子は制服のリボンを引っ張るとパラシュートとなりゆっくりと落下していく。

 

「くそ!」

 

一毅はイラつき半分に椅子を蹴っ飛ばしその時の振動で上においてあった荷物が一毅の頭に直撃する。

 

「仕方ない…後はうまく降りて…」

『なっ!』

 

キンジと一毅が驚愕した次の瞬間飛行機の翼にミサイルが直撃する。

 

『うぉ!』

 

大きく機体が揺れ、翼は破損した。

 

「おいおい…ヤバイんじゃないか!?」

「一度コックピットに行くぞ!」

 

二人は駆け出した。

 

 

「遅いわよ!」

「すまない」

 

既にアリアが操縦していた。足元には何故か箱と…髪?

 

「これ使って遠隔操作してたのよ、道理で理子の良いように揺れると思ったわ」

 

そんな話をしてる間にキンジも操縦席に座る。

 

「一毅、武藤に電話を掛けてくれ」

「ん、了解」

 

スマホを弄って電話を掛けるとワンコールででた。

 

「一毅!キンジとその彼女のアリアが…」

「ああ、目の前にいるよ」

 

スピーカーにしてやると、

 

「おいキンジ、お前の彼女が…」

「え!?ちが!」

 

するとキンジは人差し指でアリアの唇を押さえて黙らせると会話を続ける。

 

「彼女じゃないがアリアはいる。あと一毅だ」

「俺はオマケかよ」

 

さて、緊張も適当に解いたところで、

 

「それで武藤。先程攻撃を受けて内側の二基が壊された」

「燃料系は?」

「どんどん減っていっている」

「クソッタレ…盛大に漏れてるぞ…」

「とりあえずこれから羽田に戻る。安心しろ」

 

だがその時通信が入る。

 

「こちら防衛省航空監理局…羽田の使用は許可しない」

『なっ!』

 

キンジたち3人とそれを聞いた武藤は驚愕する。

 

「待ちやがれ!今燃料が漏れてんだぞ!」

「安心したまえ…」

 

すると飛行機と並ぶ様に飛ぶ戦闘機が四機ほど来る。

 

「安全な場所まで案内する。誘導機について【バチ!】」

「き、キンジ?」

「これは嘘だな。大方海の上で落とす気だろう」

 

キンジの言葉にアリアは驚く。

 

「ま、まちなさいよ!これには一般人も…」

「都内に落ちられるよりはマシ…と言った所か?」

「だろうな…おい武藤」

「なんだキンジ」

「今の風速は?」

 

すると向こうで人が入れ替わった音が聞こえる。

 

「南南東41メートルです」

「レキ…」

「大丈夫ですか?怪我はないですか?してたら犯人撃ちます」

「だ、大丈夫だって」

 

それからまた武藤と変わる。

 

「この雨の中止まるんだったらどれくらい距離がいる?」

「そうだな…2000mもあれば行けると思うが…濡れてるからもっといるかもな」

「ギリギリ…だな」

 

キンジはなにか思い付いたらしい。

 

「よしアリア…これからだ人工埠頭(メガフロート)に向かおう」

「何!?待てキンジ!学園に突っ込む気か!?」

「違う。もうひとつあるだろう?必要と思ってたら実は要らなかったから放置されてる空き島が」

 

向こうで息を飲む音が聞こえる。

 

「お前本当にキンジか?」

「当たり前だろ。そうだろう?アリア」

「そ、そうね」

 

キンジにウィンクされアリアはミルミル顔を赤くしながら答える。

 

「だがキンジ…空き島文字どおり何もねぇんだぞ…誘導灯も何もねぇ」

「ならアリアと一毅で心中だ」

「あんたとなんて真っ平ごめんよ」

「同じく」

 

するとキンジは笑う。

 

「初めてアリアと意見があった。俺もアリアを死なせたくない」

(俺は良いのか?おいこら)

 

そんなやり取りでアリアの頬を真っ赤にさせると、キンジは機内通信を入れる。

 

「これより緊急着陸いたします…皆様はシートベルトをお付けになってお待ちください」

 

最後の大博打の開始だ…

 

 

それから十分ほど飛びつづけると空き島が…見えなかった。そこに広がるが漆黒の世界…闇に塗りつぶされ何があるのかわからない。キンジすらも呆然としている。見えにくいことは百も承知だったがここまでとは…

 

「どうする?」

「こうなったらできるだけ被害が少ないように…ん?」

 

すると突然空き島をなぞるように光が現れる。まるで誘導灯のようにだ。そこにいたのは武藤…レキ…他にもバスジャックの時に出会った皆がライト片手に居た。

 

「仲間を信じ…仲間を助けよ…か…」

 

一毅が呟くとキンジとアリアもニッと笑う。

 

「行くぞぉおおおおおお!!!」

 

次の瞬間凄まじい衝撃が走る。だがこのままでは止まらないぞ…と思っていると見えた…あれは風力発電用のプロペラ機。お情け程度に作ったそれに飛行機は翼をぶつけ急速に減速し…止まった……



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金と独奏曲のコンビ

ハイジャック事件から三日後…キンジは寮の屋上に居た。

 

「何黄昏点のよ」

「アリア…」

 

キンジは振り替えると目の前にはアリアが居た。

 

「ちょっとな」

 

あのあと理子は逃走を許したが宝蔵院はきっちり裁判の場に出せるようにしてある。

 

「理子は逃がしたけど一人は一毅がきっちり捕まえてあるわ。ママの裁判も高裁まで差し戻せたし…これで一歩近づいたわ」

「そうか」

 

するとアリアはキンジを見る。

 

「後…ありがとね。助けに来てくれて」

「あ、ああ…」

 

珍しく見せた笑顔にキンジはドキマギしてしまう。

 

「それでね…今回で分かったわ。私にはパートナーが必要なのよ」

 

アリアはどこか寂しげな目となる。

 

「本当はあんたがいいんだけど…約束したもんね。武偵憲章2条…依頼人との約束は守れ…だもんね。だから私イギリスに帰るわ。今日女子寮の屋上に迎えが来るから…」

「ああ…」

「ねぇキンジ…もし…もしもよ…武偵を続けようと思ったら…会いに来て…」

 

そう言ってアリアは屋上を出る。

 

(すまないアリア…俺は…ん?)

 

アリアの気配が遠ざからない…おかしく思ったキンジはドアに聞き耳をたてると、

 

「ねぇ…あんた以上のパートナー何ていないよ…キンジ……私のパートナーになってよぉ…キンジィ…」

 

ズキン!とキンジの心臓に痛みが走るような感覚が走る。

 

「っ!」

 

キンジは振り払うようにフェンスの方に向かう。

やめると決めていたはず…なのにアリアに請われると決心が簡単に揺らぐ。だがアリアと共にいれば確実にヒステリアモードからも逃げられなくなる…兄を死なせた忌まわしい力を…普通の人間になるんだろう?殉死何てものからはほど遠い人生を歩むんだろ?なのに何で…アリアを相手にするとそんなものがどうでもよくなるんだ…勝手に人の領分に入ってきて…一方的にパートナーにしてきたとんでもないやつなのに…何でこんなに悲しいのだろう…何で…

 

「キンジ…」

「っ!………なんだ一毅か」

 

声の方を見るとドアの前に一毅が居た。

 

「アリアじゃなくて残念だったな」

「そんなんじゃねぇよ……」

 

キンジは一毅から視線をそらす。

 

「アリア…今日帰るんだって?」

「ああ…」

「行かねぇのか?」

「何にだよ」

「迎えにだよ。止めに行けよキンジ」

「ふざけんな…俺は武偵を辞めるんだ…」

「お前は本当にそれで良いのか?」

 

一毅はキンジの方を向く。

 

「それでお前は満足なのかよ…ええ?遠山 キンジ」

 

キンジの中で何かが切れた。

 

「うるせぇんだよ!俺は武偵を辞めるんだ!何したって認められない…不遇のままで終わる武偵から足を洗うんだ!兄さんを死なせたヒステリアモードからも離れて暮らす。普通の会社で普通に仕事をして普通に死んでいく!そう決めたんだよ!」

 

キンジは肩を上下させながら捲し立てるように言う。だが一毅には…必死に言い訳してるようにしか聞こえなかった…誰にではない…自分自身にだ。分かっているんだろう…だが…一歩が踏み出せないんだろう…なら出来ることは一つだ…一毅なりのやり方で…教えてやる。

 

「キンジ…歯ぁ喰い縛れ」

「あ?……がはっ!」

 

キンジが唖然とした次の瞬間一毅の拳がキンジの顔面にめり込みバキィ!!!っと言う音と共にキンジが吹っ飛んだ。

 

「か、一毅?」

 

キンジが呆然とする中一毅は上に着ていた服をバッと脱ぎ捨て上半身がさらけ出される。。

元々恵まれた体躯に加えて鍛え込んだ筋肉質の裸体を春特有の暖かな風が包む。

 

「言いてぇことはたくさんある…沢山ありすぎっからよ……(これで)教えてやる」

「……マジかよ」

「ああ…マジだよ」

 

キンジは頬を抑えながら立つとキンジも上に着ていた服をバッと脱ぎ捨て上半身裸になる。

一毅と違い細身ではあるが決して貧相ではなく寧ろその体格から考えればかなり鍛え込んである。そんな体も春特有の暖かな風が包む。

 

「鍛えては居たみたいだな」

「まぁな」

 

それから一毅は拳と握りキンジは蹴りの構えを取る。

 

「手加減なしだぞキンジ…」

「上等だ…」

 

そして二人は駆け出す。

 

「行くぞぉおおおおキンジィイイイイ!!!」

「上等だぁああああ一毅ィイイイイイ!!!」

 

一毅の拳とキンジの脚が交差した。

 

 

 

『ウラァ!!!』

 

バキィ!と互いの拳と脚が相手に同時にぶつかり二人は後ずさる。

 

「オゥラァア!!!」

 

一毅はキンジの腹部をぶん殴る。

 

「ぐぉ!」

「ウラウラウラウラァ!!!」

 

怯んだキンジに一毅は更に追い討ちをかけるように顔・脇腹・最後にアッパーを決めてキンジを吹っ飛ばす。

 

「がはっ!」

「おいおいそれでおわ…」

「ライズキック!」

「うぉ!」

 

一毅が近づいた瞬間キンジは素早く起き上がりながら足払いを掛ける。

 

「シャア!!!」

 

キンジは素早く馬乗りになると一毅に拳を叩きつける。

 

「がっ!」

「ヨォオオッシャアアア!!!」

 

キンジは両手を合わせて指を絡ませそのまま相手に落とす格闘技の技・ダブルスレッジハンマーを一毅の顔面に叩き込み昏倒させると立ち上がり一毅の頭の方にたつ。

 

「ウッシャア!!!」

 

そこからサッカーボールのように一毅の横顔を蹴っ飛ばし独楽のように一毅は一回転する。更にキンジは一毅の頭を掴むと逆立ちし…そのまま膝を落とす。

 

「ぎがっ!」

「追い討ちの極み…」

 

さすがの一毅でも落ちたと思ったキンジは一息吐く…が、

 

「うっらぁ!」

 

一毅はキンジの両膝に寝転がったまま蹴りを入れる。

 

「がっ!」

「二天一流 喧嘩術!逆転の極み!」

 

更に一毅はキンジが怯んだところをぶん投げて地面に落とすと馬乗りになり思いきりぶん殴る。

 

「ぶっ!」

 

更に立ち上がると一毅はキンジの両足を掴み、

 

「ウォオオオ!スイングの極みィイイイイ!!!!!!」

 

思いきりジャイアントスイングの用量でぶん投げた。

 

「ぐっ!」

 

キンジィはとっさに受け身を取るがダメージはあるらしく足元はふらついている。

 

「はぁ…はぁ…」

 

だが一毅も先程の一連の攻撃が効いているらしくフラフラしている。どちらも体力の限界は近い。

本来ならもっと持つ筈だ…だが二人とも先程から互いの攻撃を避けていない。理由は単純…馬鹿と言われようが…なんと言われようが互いに言いたいことは一撃一撃に乗せている。ならば避けてはならない。相手の一撃を避けるのは伝えたいことを聞いてないのと同じだから…全部受け止めてやるし全部聞いてもらうため一毅とキンジには避けると言う選択肢はない。

 

「うらぁ!」

 

一毅の右フックがキンジの頬に刺さる。

 

「ぐぉ…ウッシャア!」

 

キンジは後ずさるが逆に蹴り返す。

 

「がは!…ウォオ!」

 

一毅のボディーが…

 

「シャア!!!」

 

キンジの回し蹴りが…

「らぁ!」

「シャ!」

「オラァ!」

「イヨッシャア!」

「オオオオラァ!」

「ウォオオオ!」

 

互いの攻撃を交互に入れていきだんだん加速していく…

 

『ウォオオオオオオオオ………』

 

一瞬静かになり…

 

『ウォラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!!』

 

一毅の拳とキンジの脚が次々放たれていく。

痛いし吹っ飛びそうだ…だがそれでも負けたくなかった。折れるわけにはいかなかった。親友のため一毅はキンジに負けられなかった。

その思いに答える様に一毅の体からブルーヒートが現れる。

 

「ウッシャア!!!」

 

キンジの拳が迫る……だが、

 

「勝機!!!」

 

一毅は目を光らせると敢えて祖手を顔で受けた……そして、

 

「二天一流 拳技・奥義!!!究極の…」

 

一毅は大きく振りかぶる。

 

「極みィイイイイ!!!!!!」

 

キンジが気がついたときには既に一毅の拳が自分の体をぶっ飛ばした次の瞬間だった。

 

 

「がっはぁ!」

 

キンジはゴロゴロ地面を転がり止まる。

 

「ごほ…」

 

その隣に一毅もぶっ倒れる。

 

「………俺さ…」

 

キンジは口を開く。

 

「本当は怖かったんだ…分かっていたんだ…普通普通言ってるけど本当は途中で気づいてた…本当は逃げてるんだって…でもさ…同時に思ってしまうんだ…俺にとって兄さんってのはその程度だったのかって…」

「………………」

「誰も分かっちゃくれなかった…武偵ってのはそんな人を助けたって恨まれるような仕事を…俺はできる気がしない…兄さんのような聖人君子みたいなことを俺は…できない」

「……誰だって…そうだろう」

「え?」

「誰もそんな慈善事業で出来やしない…誰もが理由があるんだと思う。金のため…強いやつと戦いたいから…銃を撃ってみたいから…色んな奴がいる…この東京武偵高校だけでもな」

「……………」

「アリアは母親のために…俺はレキと一緒にいたいから…お前だって合っただろ?ここに入ったときに…思いがさ」

「……ああ…」

 

そうだった…あの時は何時かは自分も兄のように強く…そして自在にヒステリアモードを使いこなせる日が来ると思っていた。兄が死んでからはすべてを諦めたが…

 

「俺は思うんだけどさ…武偵に限らず人間ってのは夢とか…思いがないと生きていけない生物なんだと思う…そういう原動力があるから…胸張って生きられるんだと思う…そして叶えたときに思うんだと思う…やってよかったってさ…」

「……一毅」

「まあ俺は馬鹿だしまだまだ餓鬼だ…偉そうには言えないけど…そう思う」

「……夢とか思い…か」

「キンジにもあるんだろ?と言うか出来たんだろ?が正しいか」

「何でそう思うんだよ」

「お前との付き合いがどれだけになると思っているんだ?分かるさ…それにお前昔レキに言われただろ?」

「ん?」

「あなたは超がつくほどのお人好し…」

「……ああ!」

 

キンジはやっと思い出す。確かに昔一毅が不在でレキと偶々会って寮まで帰ったときにポツリと言われた言葉…

 

【キンジさんはお人好しですね】

【はぁ?】

【気を付けた方がいいですよ。誤解を招きますから】

【なんの話だよ】

【まあ無理ですかね。貴方は一毅さんと同じで超がつくほどのお人好しで馬鹿みたいに優しくして人を拒絶できない…例えヒステリアモードでなかったとしてもね】

【……………】

【ですから頑張ってくださいね?数多くの女難に巻き込まれるでしょうが】

 

 

よくわからん一言だったからも忘れていた…どうも自分は他人から見るとお人好しらしい…自分ではよくわからないが…

 

「だからキンジ…行ってこいよ…どうせお前はここでアリアを見捨てられるような自分の意地を守る強さはないんだ。お前の嫌いなヒステリアモードが示すようにお前は結局誰も見捨てられず誰も厳しくできない…馬鹿何だからよ」

「お前にだけは言われたくない馬鹿」

 

そう言って一毅とキンジは笑う。

そしてキンジは立つと制服を着る。

 

「寂しがりやな女の子を……迎えにいってくる」

「ああ…行ってこいよ」

 

キンジはサムズアップを一つして走っていく。

それから…

 

「いつつ……あの野郎…本気で蹴りやがって…」

「じゃあ治療してあげましょう」

「うぉわ!レキか…」

「はいレキです。ここのところアリアさんに出番奪われていて出番が少なくなっていたレキです」

「そ、そうか…」

 

確かに少なかったよな…出番…

 

「さて、包帯と消毒液とガーゼはたっぷりあります。傷を見せてください」

「準備いいな」

「そりゃあ一毅さんとキンジさんがオホモダチワールド展開し始めた頃から準備開始してましたから」

「誰がオホモダチだ!」

 

確かにあいつと仲が良すぎて一部の女子からそういう風に妄想されているのは風の噂で聞いてはいたが自分的にはレキが好きだしキンジだって多分色んな女の子落としまくる割りにはアリア一筋何だろうし…その妄想は色々とあり得ない。

等と治療を受けながら考えていると、

 

「間に合いますかね」

「間に合うさ…ん?」

 

すると電話が来た…光一からだ。

 

「はいもしもし?」

「おう、分かったぞ。神崎 H アリアの実家がな…」

 

 

 

その頃キンジは女子寮の階段をかけ上がっていた。寄りによってエレベーターが壊れていたのである。そのため自慢の脚力を全開にして階段を2、3段すっ飛ばしながらかけ上がっている。

今なら世界を狙えるかと思える早さだ。

 

「はぁ…くそ!こうなるなら強襲科(アサルト)辞めんじゃなかったな!」

 

やっと決めた…アリアに思わされて…一毅に背中押されて…やっと決めた…やっと思えた。自分は大したことはないかもしれない。ヒーロー何てとんでもない…でも…それでもたった一人の女の子の味方にはなれる。その女の子の背中を守ることはできる。守って…共に戦える。誰も認めてはくれないかもしれない。いや、敵は強大だがアリアの言葉の端々から察するに表だっての功績にはならない。だがそれがどうした。そんなものなくたってアリアが生きて行けるならいいじゃないか。アリアにお疲れと言って貰えれば良いじゃないか?死ぬかもしれない…酷い目に遭うかもしれない。でもそれでもアリアの苦労を半分は背負ってやれる。一人では無理でも二人ならどんなやつにも負けない。

 

「シャ!」

 

キンジはドアをぶち破らんばかりに開けると既にヘリが飛び立とうとしていた。遅かったか…いや、まだだ!

 

「アリア……」

 

行くな…

 

「アリアァアアアア!」

 

するとヘリのドアが開く。

 

「来るのが遅いわよ!馬鹿キンジ!!!」

 

そういうが早いか迷い無く呼び降りる。

 

「なっ!馬鹿!」

 

落下地点に先回りするがアリアが落下前にヘリに着けていたワイヤーが長かったのか地面に付く前にアリアが止まる。

 

「あーもう!邪魔!!!」

 

アリアは背中から小太刀を抜刀するとワイヤーを切り裂きキンジの胸に落下する。

 

「馬鹿かお前は!」

「あんたにだけは言われたくないわよ!」

 

バチバチ火花を散らしながらにらみ会うがヘリの方も騒がしいことに気づく。恐らくつれ返す筈のアリアが突然帰国拒否したため焦っているのだろう。

 

「ったく…」

「どうする?キンジ」

「ドンパチやって日英両国の仲悪くするのは得策じゃない」

 

そう言ってキンジはドア方にいくと渾身の力で蹴っ飛ばす。

ドゴン!っと派手な音を立てドアは歪み取っ手は外れる。

 

「ちょ!あんたどういうキック力…じゃなくて何考えてんのよ!」

 

アリアが驚いてるが説明してる暇はないため無視してフェンスの方にいく。

 

「アリア…」

「な、何よ…」

 

キンジが見せた真剣な顔にアリアの心臓が跳ねる。

 

「俺はたいした男じゃない。一毅みたいに腕力はないしお前みたいな勘もレキみたいな目もない…精々蹴り技とバタフライナイフの高速開閉とか位が能の男だ。でもな…お前の隣に食らい付いて居ることはできる。一緒にいて…独奏曲(アリア)と俺で協奏曲(デュエット)はできる…」

「キンジ…」

 

アリアの顔の赤みが最高潮になる。

 

「ほらいくぞアリア!!!」

 

キンジはアリアを抱えあげると屋上の縁にベルトのワイヤーを引っ掛ける。

 

「ちょ!どうするのよ!」

「跳ぶんだよ!!!」

 

キンジは飛び蹴りでフェンスを歪めるとそれを台に跳ぶ。

それはまるで今まで雛だった鷹が成長し、大人になったかのようだ。

とは言えキンジは人間なのでアリアをかけたままそのまま落下してそのままベルトの方も千切れる。

 

『嘘…』

 

思っていたより劣化していたらしいベルトは二人を支えきれずついに切れる。

 

「嘘だろおおおお!!!!!!!!!」

「あんた装備の点検はちゃんとしときなさいよおおおおおお!!!!!!」

 

すると運良く温室の上だったらしくビニールの上で大きく羽上がるとビニールを破りながら落下した。

 

「いっつつ…」

「あんた馬鹿じゃないの…」

「まぁ…なぁ…」

 

全く否定できなかった。

 

「まぁ…こんな男をパートナーにする私も馬鹿よね」

「お互い様ってやつか?」

「そうね…」

 

そういうとアリアは立ち上がる。

 

「キンジ…本気なの?」

「ああ、武偵を辞めるのもやめだ。俺は今度は普通の武偵を目指すぜ」

 

するとアリアがプーッ!と吹く。

 

「あんたが普通?無理に決まってんでしょ?あんたみたいな普通とか絶対に普通じゃないから。でなきゃナイフで銃弾真っ二つとかあり得ないわよ」

「何!?」

「それに…あたしのパートナーになるのよ。普通じゃ困るわ」

「むぅ…」

 

キンジは不貞腐れる。

 

「そういえば理子の奴も言っていたがオルメスって何なんだ?」

「は?」

 

アリアの持つ雰囲気が固まる。

 

「あんた分かんないの?」

「全く」

「あんたも天然記念物級の馬鹿ね!私は!神崎…」

 

アリアは息を吸い込むと、

 

「神崎・ホームズ・アリア!あのシャーロック・ホームズ四代目子孫よ!」

「……………え?」

「遠山 キンジ!あんたを現代のJ.Hワトソンにしてあげるから覚悟しなさい!」

「はは…こりゃ光栄です…ってか?」

 

キンジは冷や汗を滴ながら顔を引き攣らせていた。



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談話
談話室Ⅰ


とある舞台裏

 

キンジ「収録お疲れさまでーす」

 

アリア「あーやっと終わったわ~」

 

一毅「あーしんどかったー」

 

レキ「まあ今回は長いですしね」

 

咲実「あ、お疲れ~」

 

咲実以外『死ねぇ作者!!!【次の瞬間銃弾と剣撃の嵐】』

 

咲実「ぎぇー!」

 

 

 

 

 

咲実「酷くない!?いきなし銃弾と剣撃の嵐って!」

 

一毅「あのなぁ作者!!!お前これのリメイク前を終わらせたと思ったら殆ど間髪いれずにリメイク始めやがったよな!」

 

キンジ「し!か!も!一話一話前と比べて長いんだよ!台本覚えるのも一苦労だ!」

 

アリア「しかも何!?1章分の話数もも大分増えてんじゃない!私たちの負担倍増よ!」

 

レキ「まだアリアさんやキンジさんは本格登場二章目からだからいいですよ。私と一毅さんは最初からこのペースではどれだけ時間がかかるのか今からヒヤヒヤしてるんですよ」

 

咲実「待つんだ皆…落ち着け…素数を数えるんだ。そして銃と刀を下ろせ、まずは話し合おう。俺の言い分を聞いてくれ。まず文章量の増加だが、これは仕方無いんだ。リメイク前で指摘されていた話の展開が早い…だがこれを解消するため俺のできる限りで文章の内容を濃くして多くして描写を多くした。元々リメイクの方では1章につき四話は廃止する予定だったし丁度良いと書いていたんだ。そしたら思ったよりも多くなって原作開始軸の二章までで既に18話…まあプロローグを抜けば16話…詰まりリメイク前なら既に四章…確かイ・ウーの辺りまで書いてしまったと言うことなんだ。因みに二章に限定しても10話も使ってる」

 

一毅「そうか…で?どの辺が言い訳になってるんだ?」

 

咲実「いや、ようわね。読者の皆様にも俺のできる限りで読みやすく分かりやすい話にできるように書いてるんだよ」

 

アリア「まあでも確かにリメイク前は分かりにくい場所もあったわよね」

 

咲実「そう言うこと~だから銃と刀を下ろせ」

 

レキ「まあ良いでしょう」

 

 

 

 

一毅「それにしてもキンジヒートアクションとか使うようになったよな」

 

キンジ「ああ、しかもエアストライクまで使い始めたぞ」

 

アリア「もはやなんでもありね」

 

レキ「もともとこの作品は何でもアリでしたけどね」

 

咲実「大丈夫だ、問題ない…筈だ」

 

一毅「筈…ってお前」

 

咲実「まあノンビリにとはなるけどこのまま何でもありで進んでいくよ」

 

キンジ「良いのかそれで…」

 

 

 

 

 

キンジ「そう言えば作者、お前外伝の方がどうする?」

 

作者「ああ此処んところ書けてない奴ね。そうなんだよ…あの作品の中での世界観はリメイク前を基準としているんだけど個人的にリメイクの世界書いてしまっているし消しちゃうのも一つの手かと思ってる。とは言えそうするまでに苦労もあったわけだし少し書き直さなくちゃいけないとことは書き直してリメイクの方にこう言う幕間に挟んで行こうかなっとも思ってる」

 

一毅「つまり未定と…」

 

咲実「まあね」

 

アリア「まあそこはノンビリでも良いと思うわよ。どうせ読んでる人いないんだし」

 

レキ「でも14人お気に入り登録してくれてる方も居るんですよ」

 

咲実「まあリメイク版のに変えると言うのもアリかなぁ…」

 

 

 

 

 

一毅「だけどお前書いていて大丈夫なのか?今お前風邪と喘息とか諸々で絶不調で学校も休んでるだろ?」

 

咲実「こんなときでもないと執筆時間を取れないよ。これでも平行して書いてんの沢山合ってさらに書きたいのも沢山合って困ってるくらいだよ。是非とも分身の術が欲しいね」

 

アリア「馬鹿じゃないかしら…」

 

レキ「ダメですよそんなこと言ったら…事実ですけど…」

 

咲実「傷つくんですけどー!!!」

 

 

 

 

 

 

一毅「で?これからどうするんだ?」

 

咲実「そりゃあ原作通りに進むよ。次回からは我らがクロイン―――もといヒロイン…白雪ちゃんが登場だよ」

 

キンジ「ヒロイン……ねぇ…」

 

アリア「微妙な間はどうしたのよ」

 

レキ「会ってみれば分かりますよ」

 

 

 

 

 

 

 

咲実「さて、とりあえずは【緋弾のアリア 武偵の龍 Remake】をここまで読んでいただきありがとうございます。この物語はやっと序章に入ったばかりです。これからも一毅たちの物語は続いていきます。これからもどうか見捨てずにいただけたら幸いです。では皆さん。第3章からまた作品でお会いしましょう。ではでは!」

 

 

P.S・感想やお気に入り登録、評価などお待ちしています。していただけると凄く作品の執筆の熱意になります



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第三章 篭の鳥と魔剣
龍と新たな騒乱


キンジと一毅の喧嘩とキンジとアリアが改めてパートナーとなった日の三日後…

 

「ようキンジ」

「よう一毅」

 

キンジはアリアを、一毅はレキを連れてドアから出てきたところに鉢合わせる。

何故アリアも一緒かと言うとアリアが言うにはキンジの力には秘密がありその力はパートナーである自分は把握しとく必要がある。その為一緒に住んで調べると言ってキンジの部屋に住み着くことになったらしい。

のだが…

 

「うわ!なに一毅…あんたも顔凄いことになってるわよ…何て言うか…ヤクザの抗争の後みたい」

「やかーし」

 

そう、一毅とキンジは三日前互いにボロボロになるくらい殴りあったと言うかキンジの場合は蹴っ飛ばしてきたと言うべきだがとにかく一毅とキンジは顔が腫れてしまっているのだ。

 

「そう言えばアリア」

「何よ一毅」

「お前シャーロック・ホームズの曾孫なんだってな」

 

一毅の言葉を聞くとアリアは眉を寄せる。

 

「随分腕の良い情報屋と知り合いみたいね」

「まぁな。て言うか否定しないって言うことは肯定と受け取るぞ」

「別にいいわよ。どうせあんたとレキにも言おうと思ってたし」

 

そういうとアリアも一毅を見る。

 

「でも私もあんたが宮本 武蔵の子孫だと聞いたときは驚いたわよ」

「そうか?」

「そりゃあ宮本 武蔵って言ったらイギリスでも有名よ?東方の剣豪(EAST SWORD MASTER)、世界最強の剣豪…他にもその戦いぶりは畏怖と尊敬の年を込めて小さな国の伝説(SMALL COUNTRY LEGEND)って呼ばれてるわ」

 

自分の先祖がそこまで買われていると言うのはどうもむず痒い気がしてしまう。

 

「ま、俺はその男の子孫ってだけで別段意味はないがな」

「それに関しては同意するわ」

 

アリアに同意される。恐らくそう言った意味でのプレッシャーは一毅なんか火じゃないだろう。しかも一毅の姓は桐生だ。殆どバレることはない。

 

「それにしてもキンジさん少しスッキリした顔になりましたね。憑き物が取れたみたいです」

「そうか?」

「その分腫れやアザで酷いですが」

「お前の彼氏にやられたんだぞ」

 

そうこうしてる間にバスに着くとクラスメイトの武藤が居た。

 

「うぉ!何だその顔はよ一毅!ヤクザの抗争の後か!?」

「確かにヤクザに知り合いはいるが違う!」

 

 

 

 

その夜… 今日は豚カツだ。

小麦粉と卵を絡め最期にパン粉をまぶして熱した油の中に潜らせる。

ジュワっと音を立て気泡と共にパン粉がきつね色に変わっていく。

その間にキャベツの千切りと添えるプチトマトの輪切りを皿に置くとカラリと綺麗に上がった豚カツを切って置く。

 

「レキ~ご飯だぞ~」

「はい」

 

クイズ番組を観ていたレキは箸を並べたりご飯と味噌汁を置いたりする。

そして今回のメインディッシュの豚カツを置く。

 

『いただきま【バカキンジィ!(バキィ!)】す…』

 

隣の部屋から派手な音が出た。

 

「今日はジャーマンスープレックスかな?」

「ですねぇ」

 

これから毎日こう言った騒音が起こるのか…等と思っていると、【ジャキン!】となにかを切った音が響く。

 

「居た!泥棒ネコ!!!」

「む?」

 

この声…何処かで聞いたことがあるような…

 

「キンちゃんの前から居なくなれ!天誅ううううう!!!!!!」

 

次の瞬間ドッタンバッタン騒音が聞こえ始め更に銃声とそれを鋼で弾く音が聞こえ出す。

 

「………一毅さん。この声は恐らく…」

「だよなぁ…」

 

一毅は豚カツを口に一つ放り込んでから殺神(さつがみ)を片手に外に出るとレキを引き連れ隣の部屋に入る。

 

「か、一毅!止めてくれ!」

「一毅!この意味わかんないバカ女を斬りなさい!」

「カズちゃん!この泥棒ネコを斬って!」

「…………何してんだよ…」

 

上から順にキンジ、アリア…そして、キンジと一毅の幼馴染み…

 

「白雪…」

 

星伽 白雪だ…

 

 

 

 

久しぶりの登場なので改めて紹介しよう。星伽 白雪は黒髪にロングストレート…さらに性格は品性でいまだに男の3歩後ろを歩き特技は料理と裁縫。部活はバレー部と放送部とか諸々の部長を兼任しつつ生徒会長もやっている。まさに慎ましやかで大人しく何処か儚げで巨乳の今時の絶滅危惧種といっても過言ではない大和撫子である。しかもキンジにホの字。

等々女として非常に高ランクな人なのだがキンジに女の影がチラついた時は違う。まさにその時の暴走状態は狂戦士(バーサーカー)で歩く核弾頭…危険性もトリプルSの女性なのだ。

 

「しかし凄いですねぇ。アリアさんと至近距離で喧嘩とは…鬼道術でしたっけ?」

「ああ」

 

先程からギャーギャー言いつつもアリアと白雪は刀や銃弾に鎖分銅やアリアのお得意のバリツの技が飛ぶ。

因みに普段は運痴の白雪だが所謂、超能力者でありその力によって身体能力を引き上げているらしい。

その力は凄まじく一度痴漢をバスの中から反対車線を飛び越え歩道の方までブッ飛ばすところを目撃したときがある。流石にあの時は目が飛び出すかと思ったが…

 

「超能力…ねぇ…」

 

キンジもすっかり傍観者となり一毅とレキと三人で並んで座っている。

 

「胡散臭いとか思っちゃダメですよキンジさん。最近は超能力と言うのは結構ポピュラーなものになってきてますから」

「そうだぞキンジ。だから超能力捜査研究科(SSR)何てものもあるんだぜ?」

「とは言えやっぱ良くわかんないな…ヒートみたいなもんか」

「いや、あれは体質みたいなもんだ。ちっと畑が違う」

「そうか…」

 

そんな話をしているとアリアと白雪が座り込む。

 

「無駄に…タフ…何だから…泥棒…ネコ…ゼィ…」

「何…なのよ…あんた…ハァ…」

 

見たところ両者戦闘不能と言ったところだな。

 

「やっと終わったか…」

「キンちゃんさま!」

 

そに白雪はジャンピング土下座をした。

 

「キンちゃんゴメンね!私が臆病だったばかりにそんな顔にされちゃうなんて…でも大丈夫!もうキンちゃんの綺麗な顔をそんなフルボッコにするピンクの悪魔は私は祓うから!」

「ちょ!待ちなさいよ!キンジのその顔はあたしじゃなくて一毅とキンジが喧嘩してなったのよ!」

「まあ間接的にはアリアさんも関係してますけどね」

「レキは黙ってなさい!」

「うるさい毒婦!キンちゃんと恋仲になったからってそんな逆なら羨ま…じゃなかった、そんないけない関係になるなんて!」

「こ、恋仲!?違うわ!そんなんじゃないわよ!恋なんて憧れたこともないしこれからもない!」

 

またこんがらがってきた…仕方がなくキンジは白雪の肩を掴むと少し強気な目で、

 

「白雪…この顔は同意の上での喧嘩だったから恨みはないしアリアとはパートナーなだけだ」

「でもキンちゃん!ハムスターも一緒の籠に雄と雌を入れておくと子供出来るんだよ!」

「飛躍しすぎだ!白雪…」

 

キンジは白雪を見詰める。

 

「俺の渾名を知ってるだろ?」

「女嫌い」

「そうだ」

「後…昼行灯」

「それは今は関係ない」

 

キンジは息を一つ吸い…

 

「俺が信じられないか?白雪…」

「そ、そんなことは…」

 

意識してやってる訳じゃないだろうがキンジ…女は意中の男にそんな顔近づけられて低い声で囁かれたらクラっと普通は来るからな…

 

「じゃあ…してないんだよね?」

「なにをだ?」

「キス…とか…」

「おいおい白雪、そんなまさ…か?」

 

一毅は笑ってそんなわけ無いと言おうとするがキンジとアリアが石像のようになり…え?したの?

 

(まさかお前ら…俺が命掛けで戦ってる最中イチャイチャチュッチュしてたと言うのかオイゴラァ…)

 

一毅の額から青筋が浮かび上がる。

とは言えキンジはそっちには気づかない。

 

「し、白雪…確かにしたかと言われればしたんだろうが…あれは云わば生きるか死ぬかの瀬戸際で生き残るためには仕方無くでだな…」

「した……の…ね…」

 

白雪はまるで幽鬼のように顔をあげる。

 

「した…のね…」

 

間違いなく今はR指定の白雪…いや黒雪が誕生した。

 

「ちょ、ちょっと待って!あの後ね…気になったから調べたんだけど…」

 

アリアが今度は息を一つ吸い…

 

「子供は出来てなかったから!!!」

『………っ!』

 

アリア以外のその場の全員が驚愕し白雪がぶっ倒れた。

 

「白雪!」

 

一毅が駆け寄る。

 

「キ、キンジ…お前なぁ!キスに飽きたらず何してんだよ!人が命掛けで戦ってる最中によ!せめて避妊くらいしろよ!」

「それともあれですかキンジさん。あなたはそう言うシチュエーションじゃないと燃えない人ですか?私と一毅さんも色んなシチュエーションでしたことはありますけど流石にそう言うのは無いと思います。ドン引きです」

「ちっげぇよ!子供ができるようなことはしてねぇ!アリア!何で子供なんだよ!」

「あんたこそ何言ってんのよこの無責任男!これでも悩んでたのよ!」

「何でだよ!」

「お父様が小さい頃言ってたわ!キスしたら子供ができるって!」

(そ、そう言うことですか…)

 

一毅が納得すると、

 

「アリアさん。キスでは子供出来ませんよ」

「そ、そうなのレキ」

「ええ、子供と言うのはキスのその先の行為によってできます」

「そ、その先…」

「はい、これは私と一毅さんの実体験ですがモゴ」

「ストーップレキ!それ以上は俺が羞恥死ぬから辞めろ」

 

一毅はレキの口を塞ぐ。

 

「そんなに気になるならキンジに聞けよ、それこそ詳しく教えてくれるぜ?手取り足取り」

「するか馬鹿!!!」

 

キンジの蹴りが飛ぶ。

 

「あれ?」

 

するとアリアが周りを見渡す。

 

「あの変な女は?」

『え?』

 

周りを見ると確かに白雪が消えていた…

 

 

 

さて次の日だがアリアと白雪の行動の明暗ははっきり別れた。

あれほど甲斐甲斐しく世話を焼いていた白雪はキンジを避けるようになり、アリアはレキ先生と共に書物を読み、雄しべ雌しべレベルから学習し自分の知識が天動説並みに違うことを学びキンジを見ると顔を真っ赤にして慌てると言う奇行(後でレキに聞いたがアリアにマニアックなプレイの数々を教えたらそれをキンジとやるのを想像してるらしい)をしていたが昼休みにはそれも成りを潜め(忘れたとも言う)キンジをまた奴隷扱いしていた。

すると食堂で一毅、キンジ、アリア、レキの四人でいると、

 

「おうキンジ、ちょっと話聞かせろ、でなきゃ引いてやる」

 

そう言ってキンジの近くに座った武藤(バカ)と、

 

「やあ遠山くん。少しいいかな」

「不知火」

 

武偵高一の人格者にして強襲科(アサルト)のAランク武偵…不知火 亮が来た。

彼はナイフ、銃、徒手空拳の三つともレベルが高く更にイケメンで座学成績も良いとモテ要素が満載の男である。なので当たり前だが女子にモテモテなのだが何故か噂が一つも立たない。変な奴だ。

 

「ちょっと面白い噂があってね」

「噂?」

 

一毅はご飯をがっつきながら聞き返す。

 

「何でも昨日星伽さんと喧嘩したんだって?神崎さんが」

「それがどうかしたのか?」

「いやほら、遠山くんと星伽さんって付き合ってんじゃないの?」

「っ!」

 

アリアが盛大に桃饅を詰まらせる。

 

「それとも…愛が冷めちゃったとか?」

「むぐっ!」

 

またアリアが詰まらせたため一毅が水を飲ませる。

 

「アホか。白雪とはそんなんじゃねぇよ」

「そうなの?じゃあよかったね神崎さん」

「はぁ?」

 

アリアが首をかしげる。

 

「いつも遠山くんの話してるし…ねぇ桐生くん」

「そうだな」

 

聞きもしてないのにキンジがあーだったこうだったとそりゃあもう…

 

「あ…う…あ…」

 

アリアは顔を真っ赤にしてしまう。そして、

 

「エロキンジ!」

 

八つ当たりにぶん殴った。

 

「べ、べべべ別にあんたのことなんてなんとも思ってないわよ!」

「理不尽すぎるだろ!」

 

キンジは不知火の手を借りて立ち上がる。

 

「そう言えば遠山くんアドシアード何に出るか決めたの?」

「いや…不知火は?」

「僕は拳銃射撃競技(ガンシューティング)補欠かな。神崎さんは代表になってたよね?」

 

アドシアードとは武偵高校で行われるオリンピックのようなもので人によっては選ばれている。レキも狙撃競技に選ばれてるし一毅も剣道の代表に選ばれている。

 

「まあ私は辞退したわ。面倒だしそれよりもやることがあるわ」

 

母親のことだろう…すると、

 

「アリア先輩!」

 

そこに丁度ミニアリア…もとい、あかり、ライカ、辰正の三人がやって来た。

 

「この前はどうもすいませんでした!」

「良いって」

 

辰正は頭を下げてきた。

 

「あ、一毅先輩。今日また組み手良いですか?」

「ああ、良いぞ」

「……」

 

何故かレキに睨まれた。

 

「あ、レキ先輩。ちょっと一毅先輩借りますね?」

「ええどうぞ…」

 

バチバチとレキとライカの間に火花が散る。 ほんと仲が悪いな…

「いやぁ…桐生くんも何だかんだでモテるもんねぇ」

「へぇ~意外じゃない…顔に似合わずね」

 

不知火とアリアはウンウン頷く。

 

「まあ本人全く気が付いていないんだよね~意外と多いんだよ?桐生くん狙ってる子」

「マジかそれ!?」

「彼女持ちでも良いって子が結構ね」

「ほんと意外だわ…」

 

会話に武藤も加わり出すが一毅には全く分からなかった。

そうしていると、

 

「あ、志乃ちゃーん!こっちこっち!」

 

あかりが手を振ると長身の白雪に似たあかりの同級生と思われる少女がお盆を手にやって来た。

 

「何だ志乃、遅かったじゃねぇか」

「あ、ゴメンねあかりちゃん」

 

すると、一毅と目が合う。

 

「あ、どうも…探偵科(インテスケ)の佐々木 志乃です」

強襲科(アサルト)の桐生 一毅だ。宜しくな」

 

そう言うと志乃の表情が固まる。

 

「き…りゅう?」

「そうそう、桐生って言うんだ。そんなに珍しうぉ!」

 

次の瞬間一毅は椅子から転がるように避ける。

 

「し、志乃ちゃん?」

 

あかりを含め周りが全員唖然とする。

そりゃそうであろう。いきなり名を名乗ったら志乃が腰から剣を抜いて一文字一閃である。周りは同時に静かになり志乃がお盆を落とした音が自棄に大きく聞こえた。

 

「成程…貴方が桐生ですか…」

「お、おい…どうしたんだよ急に……俺はキンジと違って女に恨まれる心当たりはないぞ…」

「そうですか…じゃあ名乗り方を変えますね…初めまして、【巌流(がんりゅう)】佐々木 志乃…」

「【巌流(がんりゅう)】……だと」

 

一毅は眉を寄せた……



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龍と巌流

巌流…この剣術を使う者は古来より一人しかいない。物干し竿呼ばれる長刀を使い、飛ぶ燕をいとも簡単に斬る…神速にして通常よりも離れた間合いから切り捨てる剣術家…名は【佐々木 小次郎】。当時一毅の先祖の宮本 武蔵と並び最強の剣士に数えられその強さ故に常勝不敗。

なんと武蔵も一度この男に土を付けられた事があるらしく唯一宮本 武蔵を敗北に追い込んだ男なのだ。

だがその後、巌流島という島で武蔵と小次郎は一騎討ちとなり武蔵が勝利する形で決着を付けた。

だがその後、武蔵の生存の行方は知れていないが、今の一毅が居ると言うことは生きていたのか…それは知れない。

だがお互い一度ずつの敗北なのだがその後の歴史で名を残したのは武蔵…歴史の中で佐々木 小次郎の名は埋もれ…敗北者としてその名を刻んだ…

一度ずつの敗北…だがそれはハッキリと明暗を分けた。

そしてその後の子孫たちの関係に影響を与えたのだが…

 

 

「って何だ…?」

 

等の一毅は全く分からなかった。

 

「は、はい?」

 

志乃は唖然とした。

 

「巌流…韓国のドラマか?」

「一毅先輩、それは韓流です」

 

ライカが突っ込む。

 

「………うん。悪い。やっぱ心当たりねぇや」

「………るな…」

 

志乃は震える。

 

「ふざけるな!!!」

 

志乃はハンドガード付きの日本刀を一毅に振るう。

 

「待て待て!だからって闘う必要はないだろ!」

「大アリです!先祖・小次郎が負けた日から私たち巌流は技を磨き、何時の日か勝つことを夢見てきました!ですが…」

「ですが?」

「あなたの父…桐生 一明(かずあき)は私の父に勝負を持ち掛けられた際には…」

「ああ~、それは親父から武装検事時代の話を聞いたことあるぞ。確かジャンケンだったっけ?」

「それだけではありません!いつもいつものらりくらりと躱して逃げ回りあまつは結婚して引退…」

「つまりさ…」

 

それ俺関係なくね?…と喉まででたがそれを言ったら確実にぶちギレられること確実なので黙る。

 

「ですから…桐生 一毅さん!貴方に一騎討ちを申し込みます!!!」

『おお…』

 

周りのギャラリーは声を漏らす。

上勝ち狙いの一年は多いが他の学科でしかも女子…

だが近くの面々はハラハラものである。

 

「や、辞めた方がいいよ佐々木ちゃん。強いよこの人…」

「黙ってて…谷田君…これは負けられないの…」

「おい、どうすんだよ…」

 

キンジが一毅を見る。

 

「決まってんだろ」

「だろうな…」

 

キンジは一毅が何をするのか分かっているようだ。

 

『え?』

 

全員が一毅の行動に注目したあと…

 

「にーげるんだよー!!!」

 

一毅は食堂の出口に向かって走り出した。

 

「は!?待ちなさい!!!」

 

志乃は追いかけ始めるが一毅は物凄い速さで出ていってしまう。

 

「レキ…心配じゃないの?」

 

アリアが聞くが、

 

「大丈夫です。一毅さんの逃走技術は諜報科(レザド)で通用しますから」

 

レキは今日の珍品【エスカルゴのイスパニア風ぶっ飛びサラダ(あまりの不味さに意識が吹っ飛ぶため吹っ飛びサラダと着いた)】を口にいれた。

 

 

「いよっと!」

 

一毅は窓に飛び込み校舎内に入ると一気に階段をかけ上がる。

 

「逃げるんですか!?」

「俺女には剣は向けない主義なんでね!」

 

一毅は的確且つ素早く、そして迷いのない走りでどんどん距離を取っていく。

何故一毅がこんな逃げなれているのか…それは単純。純粋に逃げなれているだけだ。

普段からレキに怒られて高い狙撃能力から幾度となく逃走を成功させている一毅…狙撃科(スナイプ)のSランクからの逃走に比べればこんなの屁のカッパである。

まさか普段のレキとの攻防がこんな形で幸を奏し逃げきったかと思いきや突然下の階から剣を突き刺し壁を這い上がってきた志乃が襲い掛かってくる。

 

「お前はヤモリか!」

 

一毅が驚く中志乃は飛び上がると剣を腰に仕舞い背中から長刀を抜く。

 

「それが物干し竿…か?」

「ええ…そしてこれが…」

 

巌流の技は基本的に居合いである。その巨大な間合いと神速の剣を最も活かす技…鞘を使わずに行うことで鞘の摩擦による減速を無くし斬る技…その名も、

 

「燕返し!!!」

「あぶな!!!」

 

一毅はとっさに伏せて躱す。

 

「くっ!」

「まだ完全に習得してないみたいだな」

 

一毅は来た道を帰っていく。

 

「まちな…さい!」

 

志乃は振り下ろすが、

 

「あ、そこは…」

 

一毅が言い掛けるが一歩遅く物干し竿はその長さ故に天井に引っ掛かった。

 

「え?」

「あーあ…」

 

志乃は慌てて引っ張るがかなり深く刺さっているのか全く抜けない。

 

「あー…じゃあな」

 

一毅は置いていくことにした。

 

「あ、ちょ!まっ!」

 

慌てて抜こうとするが志乃が押せど引けどピクリともしない。

 

「卑怯ものぉおおおおお!!!」

「言ったろ?俺女に剣は向けない主義なの」

 

そう言って一毅は強襲科(アサルト)用の体育館に向けて歩き出した。

 

 

その日の放課後…志乃から逃げきった一毅はライカの相手をしてやりレキ、キンジ、アリアと帰っていた。

 

「でも逃げ出したときには驚いたわ」

「いや俺は何でキンジがボコボコにされてるのか非常に気になるんだが?」

 

一毅が聞くとアリアいわくキンジは二重人格で戦闘のストレスを受けることで変化する。ならばこちらから意図的に変えることも可能なはずだから調教…もとい、特訓していたらしい。

とはいえキンジのヒステリアモードは多重人格ではないのだが…まあそこは割愛だ。苦労するのはキンジだけである。

すると、

 

「あ…」

「どうした?レキ」

 

一毅がレキを見ると指を指される。その方向を全員で見ると…

 

【超能力捜査研究科・2年 星伽 白雪……至急教務科に来ること…】

 

「なにしたんだ白雪…教務科(マスターズ)に呼ばれるって…」

 

教務科(マスターズ)とは武偵高校の三大危険地帯の一つで武偵高校の教師たちの巣窟である。

無論普通じゃない武偵高校の教師なのだから前歴も普通じゃなくマフィア、殺し屋、暴力団に傭兵と聞かなきゃ良かったような御方達が沢山いるのだ。良い子は絶対…と言うか武偵高生でさえも進んでは近付きたくない一角である。

 

「お前昨日の件言ったのか?」

「そんなわけないでしょ。そんなみみっちぃ真似…やり返すなら正々堂々とやるわ」

 

それもどうかと思うが…

 

「ま、どうしようもないし帰ろうぜ」

 

だがアリアは動かない。

 

「アリア?」

 

キンジが呼ぶと…

 

「潜入するわよ」

『は?』

 

一毅とキンジの声がハモる。

 

『ど、何処に?』

 

嫌な予感しかしないが一応二人は聞く…

 

教務科(マスターズ)によ?』

 

アリアがあっけらかんと言うので、

 

「さあキンジ、レキ帰ろうか!」

「そうだな!」

 

さっさと帰ろう…としたのだが、

 

『お家へ帰【パキューン!】……せめて遺書を書く時間だけでもくれないか?』

「そんな時間はない!!!」

 

そう言ってアリアは一毅とキンジを引き摺りながらレキを引き連れて行った…

 

『勘弁してくれぇええええええ!!!』

 

その場には一毅とキンジの悲痛の声だけが響いていた…




あ、今回久々に2000字台だ…

と言うわけで今回は志乃ちゃんと一毅の追い駆けっこ…と言うかグダっただけです。
この時代の一毅と志乃の家同士はこんな感じで仲が悪いです。とは言え一毅の方が現在は強いです。とは言え今回の一毅はリメイク前と違い比較的一貫して女の子には剣を向けさせないようにしてます。
何かこう言うときの一毅の方がヒステリアモードみたい…等と思う今日この頃。
と言うわけで次回から白雪が住み着きます。序でにAAからあの子も登場です。少し流れが変わります。とは言え大筋に変化はない…筈です。
基本的に行き当たりばったりが心情なのでね。
と言うわけでではでは~

感想、評価、お気に入り登録してもらえると嬉しいです。


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龍と護衛準備

「なぁ…やっぱ帰ろうぜ…」

「良いから来る!」

 

キンジがブツブツ言うがアリアの一喝で黙らせられる。

一毅達は今通気孔のなかをほふく前進で移動中である。

しかしアリアが異常に早い…邪魔になるのがないからだろう。

 

「何か今物凄く腹が立ったわ…」

『はぁ?』

 

すると声が聞こえてきた。一毅達は排気口の網から覗く。そこには白雪と尋問科(ダキュラ)の綴 梅子がいた。

彼女は一毅が所属する強襲科(アサルト)の担当の蘭豹やキンジが所属し同時にクラス担任でもある高天ヶ原 ゆとりの親友であり年中怪しい煙草吸ってラリってる危ない人間だ。

ただ尋問に関しては超が付くほど一流…しかも彼女の尋問を受けたあとは女王様と崇め奉るらしい…どんな尋問か受けたくないし考えたくもない。

 

「お前さぁ…最近成績下がってんじゃん?」

 

プハァーっと煙草の煙を吐く。

 

「別に成績とかどうでも良いんだけどさ」

(良いのかよ!!)

 

排気口の全員が内心叫んだ。

 

「なんつうの?あ~あれだ、変化…そう、変化が気になるんだよ」

「はぁ…」

「お前さ…単刀直入に聞くけど魔剣(デュランダル)に接触された?」

 

魔剣(デュランダル)…最近有名な武偵…しかも超能力を使える武偵(超偵と言われている)を狙う誘拐犯…とは言え存在は都市伝説程度の存在だ。

 

「つうわけでさ…お前護衛つけろ。アドシアードの期間だけで良いからさ」

「でも…」

「何度も言わせるなよ…星伽…」

「っ!」

 

白雪はビクッと体を震わせる。

とは言え直接睨まれたわけでもないのに一毅達まで震えた…

基本的に武偵校の先生は先生と言う立場上見せることはないが本性はプロ武偵…しかも一流の…がつくタイプのだ。本気になれば尋問が本職とは言え綴でもキンジや一毅を倒すことは容易いだろう。それぐらい先生と生徒…もしくはプロとアマチュアの差は大きい。

だが同時に白雪が哀れになった。

大体護衛つけたとしてもそれは杞憂で終わることが多い。所詮は過保護でしかないのだ。

 

(ここでもお前は…籠の鳥…か。白雪)

 

一毅は目を細める…だが次の瞬間、

 

「その護衛!」

 

アリアがパンチで排気口の入口をぶち破る。どんなパンチ力してんだよと内心突っ込んだがもう遅い…アリアは下に降りると、

 

「アタシが引き受けきゃうわ!」

 

カッコよく言おうとしたがそうは問屋が卸さずその上にキンジ、一毅、レキが落下してアリアの上に降った。

 

「ちょっと、邪魔よ!」

「お前は急に飛ぶからだろう!」

「レキ、大丈夫か?」

「はい」

 

四者四様の反応を示すなか銃声が響く。

 

「あんだぁ?飛行機ジャック四人集じゃねぇか」

 

綴は今撃ったばかりの愛銃のグロックを仕舞いながら見る。

 

「おお~強襲科(アサルト)のエースの神崎 H アリアちゃんじゃん」

 

グイっとアリアのツインテールの片割れを引っ張りながら綴は笑う。

 

「武器はガバメント二丁と小太刀二本…他にもバリトゥード等の多数の格闘技に精通…」

「ふん!」

「でもカナヅ…」

「ち、違うわよ!浮き輪があれば泳げるわ!」

 

その言葉で全員がアリアが泳げないことを知る。

そして次は…

 

元強襲武偵(アサルトDA)遠山 キンジ…銃とナイフともっとも驚異な我流の蹴り技…更に一部の人間から一目置かれるなど一種のカリスマ性があると思われる」

「…………」

「持ち銃は違法改造のベレッタ」

 

ギクッ…とキンジが固まる。

 

「三点バースト所かフルオートも可能な通称キンジモデル…だよなぁ?」

「いや…今は米軍の払い下げ品で間に合わせてます」

装備科(アムド)に改造依頼いれてるだろうが」

「あっづぅ!!!」

 

綴は煙草の火をキンジに押し付けキンジは飛び上がる。

 

「更に…狙撃科(スナイプ)のエース…レキ。近接戦闘は苦手だがその狙撃の腕は超一流…2051mまでならばどんなに小さい的も撃ち抜ける」

「ええ…」

「出身は流牧民…ウルスで現在は勘当中」

 

そして最後に一毅を見る。

 

「桐生 一毅…現在強襲科最強の名が高いSランク…武器は日本刀3振りとお情け程度に銃が一丁」

「はぁ…」

「使用する技は二天一流…戦国時代から端を発しており非常に実戦的且つ強い…」

 

何でも知ってるな…と一毅は頭を掻く。

 

「でぇ?神崎。受けるってのはこいつの依頼で良いのかい?」

「そうよ!無料で受けてあげるわ」

「だってよ星伽」

「嫌です!そんな汚らわしい」

 

そこまで言わんでも…

 

「なんですってぇ~…」

 

とは言えアリアの雰囲気を見るにただ事ではない…仕方ないな、助け船を出すとしよう。

一毅は顔をあげると、

 

「今ならキンジにも護衛してもらえるぞ」

『え?』

その場の全員が一毅を見る。

 

「だってよ、連携とか考えたら普通にパートナーのキンジが一緒に決まってるだろ?」

「キン…ちゃんと…?」

「そうだ白雪…想像しろ…24時間キンジと一緒だ…何てったって護衛だからな…お前の危機には颯爽と駆けつけ助けてくれるぞ」

「…お…お…」

 

白雪の顔がミルミルダラけていく。白雪のファンには見せられないな。更にそっと白雪に耳打ちする。

 

「しかも…ここで受ければあわよくばアリアとキンジの間に入りキンジを奪い返せるかもしれない」

「っ!」

「良いのか白雪…お前のキンちゃんをピンク武偵に奪われて…」

「っ!っ!っ!」

「そして想像しろ…奪い返したあと更に強くなる絆を…キンジとの繋がりを…」

「ふぁ…ふぁ…ケプァ!」

「うぉ!」

 

最終的に鼻血吹いて倒れた。

まあ嘘も方便と言うようにだが少々刺激が強かったらし…どうも絆のその先迄に想像したらしいな。

とは言え白雪…悪いんだが奪い返せるとは実は一毅は思ってなかったりする。この二人何だかんだですげぇラブラブだし…

 

「ごえいにんむおねぎゃいしましゅ…」

「じゃあ神崎、遠山頑張れよ」

 

綴りもあとは勝手にどうぞといわんばかりにいってしまう。

 

「じゃあ今から荷物運ぶ準備するわよ。一毅はその巫女連れてきて、レキは護衛のプランたてるわよ」

 

そうしてキンジ以外いくと…

 

「って俺の意思は!?」

 

キンジの声が響いたがそんなものは最初から無い。微塵もない。

 

 

 

 

 

 

そして次の日…

 

「ゴメンね武藤くん」

「いやいや良いんですよ星伽さん」

 

白雪LOVEの武藤は白雪の大きな荷物を運ぶため景気よく軽トラを走らせてくれた。

 

「でも…何で男子寮に?」

「今日からキンジの部屋に住むからな」

「ああ~…だからあんなにウキウキとして…エエ!?」

 

荷物を受け取りに来た一毅の言葉に武藤は荷物を落としかけるほど驚愕した。

 

「あくまで任務でだからな?」

 

そこにキンジも来た。

 

「それでも羨ましすぎんだよキンジぃいいいいい!!!!なんだお前ギャルゲーの主人公かよ!」

「知らねぇよ!」

「チクショー!轢いてやるぅうううううううううう!!!!」

 

武藤は血の涙を撒き散らしながら走り去っていった。

 

「この軽トラどうする?」

「置いとけばいいんじゃね?」

 

キンジと一毅は黙々と作業を開始した。

 

 

 

 

 

「そう言えば魔剣(デュランダル)ってどんなやつなんだろうな」

「アリアにちょこっと聞いたけど超能力者かもってよ」

 

一毅とキンジが部屋で作業していると…

 

「そう言うことよ」

 

二人の足元に手錠を投げられる。投げたのは無論アリアだ。その後ろにレキもいる。

 

「なんだこれ」

「ESP手錠よ」

 

一毅が物珍しそうに見る。

 

「一個百万以上するから大事に扱いなさいよね」

『ヒャ、ヒャクマン!?』

「異能対策が施されたものは総じて値段が張るのは普通ですから」

 

アリアやレキは別段驚いていないがどう考えても高すぎる…だが見てみれば何か文字みたいなものが彫ってある。これをするだけで一個千円前後の手錠の桁が三つも増えるのか…

 

「しかし超能力か…どんな力なんだろうな」

「まあ異能系は何でもアリですからね。テレポート、念動力…思考を読む…等々有名な超能力から自然を操るといったものもあると言うのを聞いたことがあります」

「まじかよ…」

 

キンジは早速落ち込んだ。

 

「まあそう言うのが出来るようなレベルの高い超能力者はそう居ないわよ」

「ならいいけど…」

「まあそう言うときに見事に強いやつを引き当てるのがキンジだけどな~」

「不吉なこと言うなぁああああ!!!!」

 

キンジの怒声が響いた…



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金と忍

護衛についてから早くも一週間…とりあえず魔剣(デュランダル)は姿を見せることはなくアドシアードに向けて時だけが過ぎていく。

そんな中あとアドシアードまで二日を切った頃白雪の生徒会の仕事が終わるまで待っていたキンジと白雪は共に歩いていた。

 

「久し振りだね。こうやって帰るの」

「ん?ああ、そうだな」

 

純粋に時間が合わなかったと言うのが大きいがヒステリアモードの性で女性から距離を置き気味のキンジである。残念きわまりない性格を除けば美少女の白雪と二人きりなどとんでもないことであるのだが今回は護衛対象であるため仕方ない。

 

「だけど良いのか?」

「え?」

「チアだよ」

 

アドシアードの閉会式には女子がチアの格好で踊るのだが白雪も誘われていた。だが白雪は断っていたのだ。先程言ったように性格を除けば美少女の白雪が出れば宣伝になると思うのだが…

 

「駄目だよ。キンちゃんも知ってるでしょ?私は君を星伽の守り巫女…人前に出るのだって控えなきゃいけない。本来なら星伽の社から出るのもダメなの」

「良いのかよ…それで…」

「良いの…それで…」

 

白雪はキンジに笑みを見せる。

 

(良いわけ…ねぇだろ…)

 

キンジは頭を乱暴に掻くと目の前の電柱に花火大会の開催のポスターがあった。

 

「……白雪」

「え?」

 

キンジは指を指す。

 

「アレ行くぞ」

「アレ?……ええ!?」

 

白雪は驚愕の顔をする。

 

「一日くらい良いだろ?俺も護衛するし」

「でも…」

「嫌か?」

「ううん!」

 

白雪は首を横にブンンブン振って否定する。

 

「じゃあ明日行くぞ」

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

次の日…

 

「じゃあ行くの?」

「ああ」

「ふぅん。まあ良いわ。但し気を付けるのよ。魔剣(デュランダル)はどんな手で来るかわからないんだし」

「分かってる…」

 

アリアとキンジは放課後屋上で話していた。今夜アリアは母親の裁判の事で出なきゃいけないとのことらしく護衛から外れるし一毅とレキは緊急依頼が入ったらしく今朝から居ない。

 

「だけどほんとにいるのかよ…魔剣(デュランダル)何てよ」

「居るわ…絶対にいる…勘だけど」

「勘ってお前…つうか魔剣(デュランダル)とお前にはどんな因縁があるんだ?」

魔剣(デュランダル)はママに罪を着せた一人よ…そいつを捕まえれば500年ちょっとまでママの罪を減らせるわ」

「じゃあそいつも理子の仲間ってことか?」

「そうよ」

 

こりゃあ間違いなくとんでもない相手のような気がしてきた。

 

「どんなやつなんだ?そいつは」

「分からないの…理子の時もそうだったように顔はわからない…でも剣士だって噂はあるわ。あと超能力者」

「剣士で…超能力者…」

 

何かゲームのキャラクターみたいなステータスである。

 

「情報が少ないな…仕方ないな」

 

キンジは携帯電話を出すと電話を掛ける。

 

「よう、久し振りだな。少し依頼があるんだが…ああ、ああ…じゃあ屋上に居るからな」

 

キンジは電話を切ってポケットにしまう。

 

「だれ?」

「知り合いに少し…いやかなりアホだが情報収集ならお任せアレって奴が…―っ!」

 

キンジがそこまで言った次の瞬間屋上を煙が包む。

 

「ごほ!な、何これ…」

「こんの…お前は…」

 

煙が晴れると屋上の入り口に人影が見える。

見てみれば女…マスク【防毒面らしい…】とマフラー【忍者の必須アイテムらしい…】にポニーテール【本人曰くチョンマゲ】と言う色々突っ込みどころがある出で立ち…だが顔は以外と可愛いらしく今はあどけないが将来絶対美人になる雰囲気だ。

だが彼女こそが今の煙の発生源…と言うかこんなところで煙玉を使うなと言いたい。

 

「お久し振りでござる師匠」

「お前は普通の出方ができないのか!風魔!」

 

 

 

 

彼女は風魔 陽菜…先祖はあの風魔 小太郎…その為現在も忍者の技を脈々と受け継いでるのだが見ての通り全く忍べていない。寧ろその口調と服装…だがその下に隠された素顔から目立つ存在である。

お陰でキンジは一年からまで恨まれている。主に男子だが…

風魔関係で一年の男子から…アリアや白雪関係で二年から…一年の時の上勝ちで三年から…ついにキンジは全学年の男子を敵に回している…全くもって勘弁してほしい。

 

「それで師匠…何用でござろうか?」

「ああ、魔剣(デュランダル) って知ってるか?」

「無論、ここ最近超偵ばかり狙う不届きな犯罪者でござるな?」

「そうだ。そいつについてできる限り調べてほしい。但し無茶はするな。出来るか?」

「ふっふっふ…愚問でござるな師匠…このBランク諜報科(レザド)武偵!風魔 陽菜にかかればこんなものあっという間でござる」

 

と言うがこいつは変な所でドジる。

例えば自分で仕掛けた落とし穴に落ちる。

忍び込んだは良いが忍び込む建物を間違える。

今度はちゃんと忍び込んだかと思えば装備を忘れる。

忍者らしく隠れ蓑の術【壁と同じ布を被り目の錯覚を利用して敵を欺く忍の技】をしたら壁の色と全然違う布を使って一発でバレる。

自分で使った煙玉で咳き込むetc.etc…

とにかく話題には事欠かない残念系美少女の風魔 陽菜である…少し心配だが仕方あるまい。

 

「あんたたち知り合いだったの?」

「ん?おおアリア殿。居らしたんでござるか」

「居て悪いのかしら?」

「おいおい喧嘩は辞めろよ…まあ知り合いと言うか…」

「師弟でござる」

「まあ俺の戦妹(アミカ)だ」

 

昔色々あって更にやらかした挙げ句懐かれて今では師匠…まあお陰で無料で動かせるのだが…

 

「じゃあ頼むな。風魔」

「御意」

「ああ、ちょっと待て」

 

キンジは財布から150円出すと風魔に投げる。

 

「これでお前の好きな焼きそばパンでも買えよ」

「い、良いのでござるか!?」

「まあ依頼料みたいなもんだ。気にするな」

「拙者師匠のそう言う優しいところが好きでござる!」

 

焼きそばパン代一つで優しい人とは…こいつの将来大丈夫だろうか…って!?

 

「抱き付くな馬鹿!!!!」

「師匠~共栄至極感謝感激雨あられでござる」

「わかったからわかったから!」

 

ジンワリとだがヒスり始めてきた。ヤバイ!

と思った次の瞬間キンジの背中に悪寒が走る。

 

「へぇ~そう…」

 

アリアがコメカミをビクン!ビクン!ヒクつかせキンジを睨む…こわ!

 

「キンジ?分かってると思うけど戦妹(アミカ )とかに手を出すと武偵3倍刑の元に罰があるわよ?」

「知ってるし出してねぇよ!」

 

そう、戦徒契約とは云わば上司と部下のような関係…つまり下手に手を出すとパワハラと見なされ日本が法治国家だと信じられなくなるような体罰が武偵高校の教師によって行われ三秒に一回は「殺してくれぇ!」と叫ぶようになるらしい…間違いなく廃人コースだ。まだ死にたくはない。

 

「安心くだされアリア殿。双方同意の基であれば全く問題ありませぬ」

「問題ありだ!」

「あぁ…そぅ…」

 

ホラホラどんどんアリアの機嫌が…

 

「って言うか風魔!そいつは私の奴隷よ!」

「その前に拙者の師匠でござる!」

 

バチバチとキンジを挟んでアリアと風魔の火花が散る。

 

(ん?そういえばこの光景…見たことがあるような…)

 

そこでキンジは思い至る。これは一毅を挟んだレキとライカの風景と同じだ。キャストが違うだけの…そしてこのあと何が来るのは分かっている。

 

「キンジ!」

「師匠!」

『どっちをえら…あれ?』

 

二人はキョロキョロ回りを見渡すがいつのまにかキンジは消えていた。すると足下に置き手紙があり、アリアが拾い上げてそれを読むと、

 

【先に帰る…】

「に、逃げられた!!!!」

「でござる!!!!」

 

二人は頭を抱えた。



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金と花火

アリアと風魔から逃亡し帰ってきた頃にはすっかり日が暮れ始めていた。しかしなんだいったい…さっきまで喧嘩していた二人は自分を追い始めると凄まじい連携能力を見せ始めアリアの勘は冴え渡り風魔の追尾能力と合間って恐ろしいものとなった。実際本気でヒステリアモードで逃げたいと心から思ったのは始めてだ。それくらい恐ろしかった…

まあとにかく約束に遅れそうだったため急いで部屋に行くと白雪がいた。白雪はしつこいようだが暴走する性格を除けば非常に美少女である。

そのため今着ている浴衣だが純日本美人といった風情の白雪が着ていると似合う…いや、似合いすぎてる。普段は髪で隠れているが今は纏めているため見えてる白くて妙に色っぽいうなじや強調される胸…横から見える可愛いと言うよりは綺麗な顔…全てが星伽 白雪と言う少女を彩っている…

 

(やばい…何か意識するな…)

 

キンジがリビングに入るのを躊躇っていると、

 

「あ、キンちゃんお帰り」

 

向こうの方から気づいた…まあいいさ。

 

「悪いな…遅れた」

「ううん。じゃあいこう」

 

白雪に言われキンジはついていく…

 

 

 

 

カラン…コロン…と白雪の下駄の音が夜闇に響く。

さっき変な風に白雪を見たせいか少し気まずい。

 

「久し振りだね?こうやって歩くの」

「あ、ああ…そういえば昔もこうやって花火大会に行ったな…」

 

まだ小さかった頃…ずっと神社に縛り付けられていた白雪を半ば強引に近所の祭りに連れてって後で大目玉を食らったことがある。

 

「うん…あの頃からキンちゃんは私のヒーローなんだよ?」

「あ、おう…」

 

キンジは照れ臭くなって視線をそらす。

すると花火がうち上がった。

 

「やべ!始まった…」

 

キンジは唖然とした…やはりアリアたちとの追いかけっこがタイムロスだったみたいだ…

 

「悪い…」

「ううん…良いよ…」

 

白雪は笑って許してくれるが…そうだ!

 

「少し待ってろ!」

 

キンジは大急ぎでそこのスーパーに入ると何かを買って戻ってくる。

 

「小さくなったけどな…」

「あ…」

 

キンジが出したのはお徳用花火セットだった…

 

 

 

 

 

 

「綺麗だね…」

「ああ…」

 

二人で河原に来て花火をする。

 

「でもありがとね」

「え?」

「守ってくれて…ほら、明日で終わるし」

「別に…まあ魔剣(デュランダル)が結局出なかったのは残念だったけどな」

「…………キンちゃん…変わったね」

「え?」

 

白雪の言葉にキンジは困惑する。

 

「何かいつも楽しそうだし…明るくなった」

「そんなことはない」

「あるよ…あの事故からずっとキンちゃんはずっと塞ぎ混んでた…カズちゃんやましてやレキさんだってキンちゃんを変えられなかった」

「白雪…?」

「私だって変えたかった…ずっとこの一年頑張り続けた…なのにアリアはたった数日でキンちゃんを変えちゃった…カズちゃんは良いって言っていたけど私は良いと思えない…私は…」

「どうしたんだ白雪!」

 

キンジは白雪の肩を掴む。だが白雪は眼からポロポロ涙を流しながら言葉を続ける。

 

「私はドンドン要らない子になっていく…そしてキンちゃんはアリアと私の知らない遠い世界にいっちゃう…」

「そんなわけないだろう!お前とは幼馴染みでこれからだって要らないなんて言うわけないだろ」

「それじゃ嫌なの!!!!」

 

白雪は声を荒上げた…何が嫌なのかキンジには分からなかったが…何も言えなかった。

 

「それじゃ嫌なの…ずっと幼馴染み?それはいやぁ…」

「白雪…どちらにせよお前が要らなくなることはない。絶対だ」

「……じゃあ…証拠を頂戴…」

「え?」

 

そう言うと白雪は瞳を閉じて唇をつきだしつま先立ちになる。

 

「キス…して?」

「っ!」

 

今の白雪はどこか儚げで…簡単に突き飛ばせる距離だ…なのにそれを体が許さない…それどころかこちらも瞳を閉じてその嘆願に応じてしまう。

ヒステリアモードには成っていない…なのに拒否ができない…アリアにはない何かが白雪にはあった…

そしてそのまま唇がくっつく直前で…

 

【パァン!】

「っ!」

 

キンジはとっさに体でかばう…だが花火だった…まだうち漏らしがあったらしい…

だがお陰でキスが未然に防がれた…それに引き換えとしてその場には何とも言えない微妙な空気が流れる…

 

「かえ…るぞ…」

「うん…」

 

それから二人は一言も会話せずに帰った…

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日…キンジとその親友、武藤は二人でアドシアードの受付をしていた。

白雪は生徒会長の仕事でいない…昨日の一件でうまく会話もできない。こう言うとき一毅が居ると空気を変えて話せるがアドシアードの選手として出ているため宛にできない。レキは論外。

だがこれなら大丈夫だろう…少なくともアリアには悪いが魔剣(デュランダル)は来なかった…教務科(マスターズ)の過保護だったのだろう…

だが次の瞬間携帯が鳴る…武藤にも来たようだ…何だろう。

そう思いながら見てみると…

 

(ケースD7!?)

 

武藤と目を会わせる。これは現在不足の事態が発生…今すぐに対処できるものが対処せよ…つまり危険度の高い緊急事態と言うことだ…

 

「くそ…」

 

すると続けてメールが来た…

 

「え?」

 

白雪からだ…だが内容はいつものようなくそ長いメールじゃない…たった一言…【さようなら】

 

「っ!」

 

キンジは歯を軋ませる。

やられた…魔剣(デュランダル)は居たんだ…自分も知らないところで接触されていたのだ…

 

「武藤!受け付け頼むぞ!」

「え?」

 

キンジはテーブルを飛び越えると駆け出す。

 

(ふざけんなよ…俺の幼馴染みを返してもらうぞ魔剣(デュランダル)!!!!)

 

キンジは宛は無いが居ても立ってもいられず走り出した。




すげぇ…文字数が2222…これは本当にたまたまです。


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金と巫女

「はぁ…はぁ…」

 

キンジは先程から白雪の写真を見せながら行方を追っていたが一向に行方はつかめない。

 

「くそ!」

 

キンジは苛立つ…何で気づけなかった…注意しておけば分かっていた筈だ…くそ…

すると地面に穴が開いた。

 

「なっ!」

 

するとそこに電話もかかってきた。

 

【どうもキンジさん】

「レキ…すまないが今は話してる暇は…」

【分かってます。よく見てください】

 

見てみれば…矢印?

 

【白雪さんの行方は先程から捕捉済みです】

「レキ…」

【急いでください…嫌な予感がしま

す】

「分かった…この方向だな?」

【はい、正確に言えば地下倉庫(ジャンクション)の中です」

「なっ…マジかよ…」

【こんなときに冗談は言いません】

 

待ったくその通りであった。

 

 

 

 

 

地下倉庫(ジャンクション)とは外向けのための優しい言い方だ…本来の使用用途は弾薬や爆弾の宝庫…つまり危険物系の武器庫なのである。

 

「ここ…か?」

 

キンジは地下倉庫の入り口にあるナンバーを入力しロックを解除…すぐさまその中に飛び込んだ。

 

(ん?声?)

 

キンジはそっと音を立てないように歩いて近づきバタフライナイフだけ抜く…周りには火薬や爆薬が大量に置かれている…発砲しようものなら跳弾した際に引火して爆発するかもしれない。

それから覗いてみれば白雪と声だけだがもう一人誰かがいる。

 

「何で私なの?私なんか対したことのない魔女(マツギ)だよ?」

「ふ…随分謙遜するのだな。謙遜は日本人の美徳だがそうするものじゃない。事実お前はこの学校の中でも指折りの実力者だ…そういうダイヤの原石を探しているのだよ…我々イ・ウーはな…」

 

イ・ウーの名を聞いた瞬間キンジは自分落ちが熱くなるのを感じた…だが敵の姿も確認できないまま飛び出すのは愚の骨頂だ…今は出れない。

 

「随分苦労させられた…中々思ったようには遠山キンジと神崎 アリアは喧嘩しない…険悪になってもあの桐生 一毅がうまく宥めてしまう」

「そうだね…カズちゃんは昔からそういう男の子だから…」

「だがやはりアドシアード本番は簡単だったな…貴様を呼び出すのは…」

(つまり白雪は自分からいったのか!?)

 

キンジは驚愕する。

 

「改めて歓迎しよう星伽 白雪…我らは君が欲しいのだ…必要なのだよ…」

「……………でも…」

「何を迷う…遠山 キンジは神崎 アリアと上手くやっていくだろう…あの男にとって貴様はもう用済みなのだよ…」

「………そう…だね……キンちゃんは…」

 

白雪は自らの足で歩き出す…ダメだこのままでは…白雪が行ってしまう。

 

「白雪!!!!」

「え?」

「ほう…来ていたようだな」

 

キンジは白雪を見据える。

 

「何処行く気だよ白雪…」

「キンちゃん…今さら何か用?」

 

白雪の目には感情がなかった…

 

「俺はお前の護衛だぞ…守りに来て何が悪い」

「じゃあもうその依頼取り消すね?それに私は自分の意思で行くの…ほぅっておいて…」

「させるかよ…お前を犯罪集団の仲間になんかさせるか…」

 

キンジはナイフを構える…

 

「シャア!」

 

一瞬の交錯…だが気付けばキンジの首筋には白雪の刀…イロカネアヤメが突き付けられていた…

 

「っ!」

「無駄だよ…キンちゃんじゃ私には勝てない…」

「くっ!」

 

キンジはナイフで弾くとミドルキックを放ち白雪を牽制…白雪はそれを後ろに跳んで躱す。

 

「うぉおおおおおお!!!!」

 

キンジは走り出すとナイフを振るう。

だが全て白雪には見切られ掠ることもない…

 

「はぁ!」

「がっ!」

 

白雪の突きが防刃ネクタイに当たり後ろにキンジは吹っ飛ぶ…

 

(これが…白雪の本当の実力…)

 

キンジは咳き込みながらも立ち上がる…

 

(だが…集中しろ…よく見れば見えないこともない…意識を研ぎ澄ますんだ…)

 

キンジは目を細める。

 

「キンちゃん…」

 

白雪は駆け出す。

 

「うぉおおおおおお!!!!」

 

キンジも駆け出すと飛び蹴りを放つため飛び上がろうとする…だが、

 

「え?」

 

突然足が凍りつき動けなくなった…

 

(まさか白雪?若しくは魔剣(デュランダル)の力か!?)

 

白雪の刃が迫る。

 

(し…ぬ…?)

 

だがそれは別の刃で弾かれた…

 

『え?』

 

キンジと白雪は驚く…そこには、

 

「何でお前らが戦ってんだ?」

「一毅…」

「そうだよ一毅だよ…ここのところ全く出番がレキと一緒に無い主人公…桐生 一毅だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ…」

 

白雪は下がる…だがそこにピンクの物体が突っ込み白雪に小太刀を振り抜いた。

 

「アリア!」

「人の相棒に何してんのよ!」

 

アリアは小太刀を躱されたため一度距離をとる。

 

「ふん…一度撤退するぞ」

魔剣(デュランダル)の声と共にその場を光が包み目が眩む。

気付けば白雪は居なくなっていた。

 

「大丈夫か?」

 

一毅は刀で氷を砕いてキンジを救出する。

 

「お前アドシアードは良いのか?」

「替え玉おいてきた」

 

 

その頃アドシアード会場では…

 

「さっきの桐生先輩一蹴って感じだったね」

「でも桐生先輩は関節技はあんまり使わないよね?」

 

あかりと辰正は二人で廊下を歩いていた。

 

「そうだよね…桐生先輩一回戦目とかはいつも通りだったのに…なんで急に寝技とか使ったんだろう…」

「それになんでお面着けて出てきたんだろう…天狗の…」

「あれ?桐生先輩じゃない?」

 

一毅?はその声が聞こえたのkビクッと体を震わせる。

 

「桐生先輩先程はおめでとうございます」

「あ、ああありがとな、あか…じゃなくて間宮」

「?何か声おかしくないですか?」

「そ、そそそんなことは無いぞたつま…じゃなくて谷田…」

『……………』

 

何か怪しい…二人は本能的に感じた…何かを隠してる…

 

「なにか疚しいことでもあるんですか?」

「い、イヤダナー…ソンナコトナイヨ…」

 

(怪しい…)

 

二人は一毅?をみる…良く見ると黒髪の隙間からちらほらと金髪が出てるような…それにこの身長…良く見てみれば一毅にしては低い気がする…近くで見たことがあるから一毅はもっとがっしりしてる…確かに背は高いがそれでも低いしなにより細い気がする…更に良く考えてみるとこの声に聞き覚えがある…まさかとは思うが…

 

「じゃ、じゃあな…」

「ねぇライカちゃん。報酬はなんだったの?」

「え?今度買い物に付き合って…」

 

だんだん語尾が小さくなるがしっかり答えた…

 

『何やってんの!?ライカ(ちゃん) !!!!』

「い、いやぁ…」

 

隠しても仕方ないため一毅?改め火野 ライカは天狗のお面をとる。

 

「一毅先輩何か急用らしくてさ…頼まれたんだ」

『ふぅん…』

「ほ、ほら。先輩が困ってるんだ。助けてやるのが優しさだろ!?」

 

二人の呆れた目にライカは言い訳を重ねる。

 

「本音は?」

「え?」

「ライカ…本音は別でしょ?」

 

辰正とあかりはがっしり服を掴むとペンライトを取りだし目に付けたり消したりしながら尋問する。これは実は結構精神的に圧迫されるのだ。

 

「そ、そんなものは…」

『あるでしょ?』

 

こう言うときに息がピッタリなのは流石幼馴染みと言うところか合わないで欲しかったがライカの思い虚しくピッタリなのだ…

 

「…うぅ…」

「言った方が良いよ?」

「田舎のおっかさんが泣いてるよ?」

 

辰正とあかりは更に圧迫をかける。

 

「うぅ…そうだよ!一毅先輩が今度買い物に付き合ってその後でお茶も奢ってくれる約束したんだ!何かデートみたいだって思ったら諸手を上げてOKしたよ!なにか問題あるか!!!!」

「最初からそう言いなよ…」

 

二人はライトを仕舞う。

 

「ライカちゃんって桐生先輩が好きなんだねぇ」

「あんだよ…文句あるのか?」

「いやまさか。僕だって尊敬できる人だと思うし…でも…」

 

辰正は頬掻くと…

 

「あの人彼女持ちだよ?」

「まあ好きになっちゃったらそういうのどうでもいい感じにはなるとは思うけどね…」

「………別にいいんだ…」

『え?』

 

辰正とあかりは己の耳を疑った。

 

「あの人は一途だから難しいとは思う…でも良いんだ…週に三回…いや、一、二回で良いんだ…多くは望まないからそれくらい愛してもらえれば…」

「ま、待った待ったライカ!自分で何言ってるか分かってる?」

「自覚してる…一番にはなれないけど…二番目でいい…ってやっぱ虫が良いのかな…」

(虫がいいと言うよりは…)

「で、でもあたしの方が胸とか大きいし色気だったら上だと思うんだ…それならゴニョゴニョとかもレキ先輩より絶対上だと思うんだよ!」

『いやいやいや…』

「大丈夫…別に認知とかしなくてもいいし…」

『ダメでしょ!』

「あ、あんまり痛い奴じゃなきゃあたし大概平気だし…外とか…紐とか…ああでも一回目はやっぱりムードとか大事にしたいし…」

「あ、あのライカさん?」

「ん?なんだよ辰正」

「君それで幸せ?」

「うん」

 

ライカはあっさり頷いた。

 

(愛人だ…愛人気質の人だこの人…)

 

あかりと辰正は残念と言うよりはトンでもない境地に進み始めてる友人を見て頬をひきつらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

さてその頃地下倉庫ではライカの思いを知るよしもない一毅とその仲間達が追い掛けていた。

 

「ハァックション!!!!」

 

一毅は盛大にくしゃみをする。

 

「風邪…ではないわね」

「なぜ確定する…」

「馬鹿は風邪引かないって言うからだろ」

「何!?」

 

アリアとキンジの言葉のダブルブローに一毅はショックを受けた。無論噂の内容を聞いたら更なるショックを受けるだろうが…

すると目の前に…

 

「白雪…」

 

白雪は刀を構えキンジ達を見据えていた。

 

「しつこい男は嫌われるんだよ」

「今さらお前がそれを持ち出すか」

 

そう言ってキンジが前に出る…すると次の瞬間パイプが破裂し水が出てくる…どんどん水が貯まってくる。

 

「アリア…バレてるぞお前がカナズチだってこと…」

「う、嘘でしょ!」

 

アリアは半狂乱だ…

 

「仕方ねぇ…一毅とアリアは先に行けよ…」

「お前は?」

「後で白雪つれていく…」

「…気を付けろよ」

 

一毅とアリアは先に向かう。

 

「行くぞ…白雪…」

「勝てないよ…キンちゃんじゃ私に…」

「勝つ…それくらいの意地(プライド)はおれにもあるんだよ!」

 

キンジは疾走した。

 

同時に一毅とアリアも奥にあるコンピューターの管理などをする部屋に突入し魔剣(デュランダル)に追い付く。

 

「しつこい奴等だ…」

 

魔剣(デュランダル)はローブを脱ぐ…その下には雪の様な銀髪を揺らし…両手剣と呼ばれる剣を持つ少女だ…

 

「氷を抱いて眠らせてやろう」

「あんたちゃんと武器向けられるんでしょうね?」

「俺は武偵だぜ?幾ら女に向けたくないと思っていたって…」

 

一毅は殺神(さつがみ)を抜く。

 

「捕まえるときに手加減はしねぇよ」

「それは助かるわ」

 

アリアも銃を抜く…ここなら機械は壊れても引火はしない…

 

「行くわよ一毅…」

「ああ!」

 

一毅とアリアも走り出した…



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龍と氷刃と紅蓮の刃

「ウォオオオ!!!!」

 

キンジはバタフライナイフを逆手に持つと振り上げる。

 

「っ!」

 

白雪はそれを躱すとイロカネアヤメをがら空きになった脇腹に向け横に凪ぐ。

 

「しゅ!」

 

キンジは後ろへスウェイで躱そうとするが既に水は膝の辺りまで来ている…スウェイが上手くいかない上にこれでは得意の蹴りも上手く出せない。だが白雪は得意なのは刀とはいえ巫女服が水を吸って重くなっているのか動きが鈍く踏み込みも膝まで水に浸かった状態ではおぼつかない。

だが戦況はキンジが押されていた…やはり武器のリーチ差があるのだろう。

 

「キンちゃん…お願い引いて…」

「……………」

 

キンジは無言で否定する。

 

「何で…ねぇなんで…私なんかもう要らないんでしょ?」

 

ついに水は胸まで届く…

 

「白雪…」

 

キンジは水を掻き分けながら進む。

 

「来ないで…」

「…………」

 

キンジは無視して進む…

 

「来ないで!!!!」

 

イロカネアヤメがキンジの顔に迫る…がそれはギリギリの所で止まる…

 

「お前が…本気じゃないのはわかってた…」

 

もし本気だったらとっくに一刀両断されてる…それに最初から白雪は自分を引き返すように言ってた…つまり…白雪には殺す気なんて最初から無かった…唯一攻撃を当ててきたのは防刃ネクタイへの突きだけだ…それ以外はキンジでも受けられる程度の一撃しか放ってない。ヒステリアモードであればまだしもそんな常人離れしたナイフの扱いは出来ない。

 

「こな…いで…」

「バッカヤロウ!!!!」

 

キンジが思い切り自分の頭を白雪に叩きつけた…

 

「はがっ…」

 

白雪の目の前に星が舞う…

 

「俺が何時お前が要らないって言った!!!!」

 

本心からの叫びだった…確かに白雪はよく分からないこと言うし叫ぶしすぐポン刀振り回し暴走する…だがキンジにとって一毅と同じくらい唯一無二の幼馴染みで大切な存在だ…要らなくなるなんて絶対にない…それだけは絶対にだ。

 

「だってアリアがいるでしょ!」

「あのなぁ!あいつは俺を奴隷扱いだぞ?すぐに銃はぶっぱなすわ蹴るわ投げ飛ばすわ一緒にいていっつもハラハラドキドキもんだわ!」

 

別にそれが嫌ではない自分がいるがそれは関係ない。

白雪とはそういった意味のドキドキハラハラは無い。無論ヒステリアモードの心配は必要だが一緒にいては気楽なのだ。

 

「俺は…お前に…いやユキちゃんに居て欲しい…」

「キ…ン…ちゃん」

 

キンジは昔の呼び方で白雪を呼ぶと白雪は目を見開く…すると次の瞬間顔まで水に沈んだ。

 

(不味い…白雪が服の重さで沈む)

 

キンジも突然だったため息を吸いに上に上がり一気に空気を肺一杯に吸い込むとまた潜る。

脚力があるため一気に白雪が溺れている所まで潜ると…

 

(白雪…お前の言う証拠を…やるよ)

 

そう思いながらキンジは白雪に自分の唇を押し付け自分の空気を白雪に吹き込んだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃アリアと一毅は…魔剣(デュランダル)と激戦を繰り広げていた。

魔剣(デュランダル)はその名の通り非常に高いレベルの剣士だ…だが剣士というレベルでは一毅の方が数段上手だ。

 

「ウォオラァアアアア!!!!」

 

一毅の豪剣が唸りをあげ魔剣(デュランダル)を狙う。

 

「ちっ…」

 

魔剣(デュランダル)は剣で防ぎながら後ろに飛ぶ。

 

「流石だな…だがこの聖剣・デュランダルを切ることは不可能だ」

「だあああああ!!!!お前と剣の名前同じかよ!紛らわしい」

 

そこに一毅の肩からアリアは跳ぶとガバメントを乱射する。

 

「ふん!」

 

すると魔剣(デュランダル)が力を込めた瞬間氷の壁が現れ弾を防ぐ。

 

「やっと出たわね」

「氷か…かき氷作り放題じゃねぇか」

「あんたそういう方向にしか考えがいかないの?」

 

アリアにジト目で見られるが一毅も考えてはいた。

氷と言うことは先程のように足元を凍らせたり今みたいに壁をつくって銃弾を弾くなどする…となると先程みたいに迂闊に攻めると危ないか…

 

「考えてる暇はないぞ…」

 

ジャンヌが腕を振るうと氷のつぶてが飛んでくる。

 

「ちっ!」

「くっ!」

 

一毅とアリアは横に跳んで躱すと一毅は走り出す。

 

「二天一流・秘剣!疾走斬!!!!」

 

スライディングと共に殺神(さつがみ)を振るうがその前に凍らされた。

 

「読めていたぞ!」

「やっべ!」

 

一毅はもがくがそう簡単には外れそうにない。

 

「このまま彫像にしてやろう…」

「こんの…」

 

段々氷が一毅の辺りまで来る。

 

「一毅!」

 

アリアが銃を手に来るが氷のつぶてが先にアリアを吹っ飛ばす。

 

「く!」

「安心するがいい…後でお前も凍らせてやる」

「くそ…」

 

段々意識が遠退いてきた……不味い…

だがそこにアリアとは別の銃弾が飛んできた。

 

「何っ!?」

 

魔剣(デュランダル)は驚愕しながらも後ろに跳んで躱す。

 

「一毅…随分苦戦してるじゃないか」

「全然余裕だ…て言うかな…」

 

一毅は凍りながらもキンジと…

 

「おう白雪…お帰り」

「ただいま、カズちゃん」

 

憑き物が取れたような白雪を見る。

 

 

「星伽…」

魔剣(デュランダル)…貴方を斬ります」

 

そう言って降りると白雪は一毅に手をかざす…すると氷が溶けた…

 

「ここは私に任せて…」

 

そう言って白雪は魔剣(デュランダル)を覚悟を込めた目で見据える。

 

「ふん…まさか私に勝てると思っているのか?」

「思ってる…貴方の力は凡そG8前後…でもね私はG15あるよ」

「ブラフだ極東の島国の…しかもその年でG15はあり得ない」

「本当にそう思う?」

 

白雪はリボンに手をかける…

 

「キンちゃん…今から私は本気だす…すごく怖いかもしてないけど…嫌わないで?」

「安心するといい白雪……お前を俺が嫌いになる?100%あり得ない」

 

白雪は顔を僅かに紅潮させてからリボンを一気に取る…

 

『なっ…』

 

それと共に刀身に炎が宿り白雪は構える。

 

【我が白き雪よ…あらゆる物に流される弱き己よ…今その戒めを解き…あらゆる厄災を焼き払う紅蓮の業火とならん】

 

白雪はゆっくりと歩を進める。

 

「白雪という名は隠し名……私の本来の名は……【緋巫女(ひみこ)】」

 

すると魔剣(デュランダル)は構える。

 

「ならば我も名乗ろう…我はジャンヌ!ジャンヌ・ダルク30世だ」

 

そう言うとピキピキと氷が足元を覆うが白雪の周りだけは凍らない… 白雪の放つ熱が氷を溶かすに留まらず蒸発させているのだ。

白雪の炎と魔剣(デュランダル)改めジャンヌが迎え撃つ様はまさに陰と陽…

 

「行きます…」

「行くぞ…」

 

次の瞬間二人の刃がぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかジャンヌ・ダルクの子孫とはね」

「でも死んだんじゃなかったのか?」

「なんだ一毅。それくらいは知っていたんだな」

 

キンジは一毅をからかう。

 

「馬鹿にすんじゃねぇや。あれだろ?最後に処刑された人」

『おお~』

 

キンジとアリアは拍手した。

 

「まああんだけ贅沢してれば革命も起きるぜ」

『………ん?』

「まあ最後はギロチンか…呆気ないもんだぜ」

「ま、待って一毅…あんた何か勘違いしてない?」

「え?【有名な言葉でパンがなければお菓子を食べれば良いじゃない】って言った人じゃ…」

「一毅…それはマリー・アントワネットだ…」

 

キンジとアリアは溜め息をついた。

 

「でもどうだ?」

 

見てみれば凄まじく高いレベルでの激戦が行われている。

 

「多分…長くはないわ」

「と言うと?」

「高いレベルでの超能力は直ぐにガス欠を起こすの…そこが狙い目よ」

「分かった」

 

一毅は刀を鞘に戻す。

 

「勝機は一瞬…そこを狙うわ」

「ああ…」

 

 

 

 

 

「やぁ!」

「ふ!」

 

炎と氷が入り乱れたその小さな空間は周りの器物を破壊し、打ち上げ吹っ飛ばす。

 

「星伽候天流!緋炫毘(ひのかがび)!!!!」

 

炎を纏った剣撃はジャンヌの氷を溶かしながら切り裂く。

 

「これが貴様の…本気か」

「そうだよ…本来はこの力を使うのは禁止されてる…多分後で星伽に怒られる…でも関係ない!」

 

キンジが言ってくれたから…自分が必要だと…なら幾らでもこの力を使う。キンジのための刃となるために、

 

「愛があれば大体の事は許されるんだよ!」

 

自分の戦妹(アミカ)に教えた言葉を復唱し白雪は更に剣速を上げる。

 

「星伽天候流!緋火虜鎚(ひのかぐつち)!!!!」

 

松明のように刀に炎を纏わせ撃ち下ろす。

 

「くっ!」

 

ジャンヌは後ろに後ずさるが耐える。すると白雪は後ろに跳び距離を取ると刀を納め居合いの構えとなる。

 

(でかいのが…来る!?)

 

ジャンヌも咄嗟に力を込める。

 

「今!」

 

そこにアリアが駆け出す。

 

「く!ただの武偵が!!!!」

「知らないの!日本にはこういう言葉があるわ!!!!三人集まれば文殊の知恵ってね!!」

 

アリアは横に凪いできたジャンヌの一撃を下に伏せながらギリギリで躱し、剣の腹の部分に小太刀の渾身の一撃を叩き込む。

 

「しま…」

 

そのまま込めた力を上に放出したため天井が凍るが…

 

「ハァアアアアア!!!!」

 

キンジはハイキックを放つがジャンヌは空に高く跳んで躱すと空中で一回転し剣を降り下ろす…だがキンジの目が獲物をとらえた大鷲のように光る…

 

「勝機!!!!」

 

キンジは銃を構えたまま片手を出す…

 

「なっ…」

 

ジャンヌは驚愕する。

 

二指真剣白刃取(エッジキャッチングビーク)

 

人差し指と中指による真剣白羽取り…アリアとの特訓がこんな風に役立つとは…

 

「ジャンヌ…」

 

キンジはジャンヌを見据える。

 

「君は聡明な女性だ…だけどね…」

 

キンジの目が怒りに染まり…体から深紅のオーラが現れる。

 

「俺の幼馴染みに手を出したのは許せない!!!!」

 

キンジがバック転してジャンヌを空中に打ち上げる。

 

「ウォオオオオオオ!!!!エアストライク!!!!!!!!!!!」

 

空中でのキンジの蹴りの嵐…

 

「が、ぐ、あ、が、ぎ!!!!」

「シャアアアアアアア!!!!」

 

キンジの渾身の一撃でジャンヌは壁まで吹っ飛ばす。

 

「こ、のぉおおおおお!!!!」

 

ジャンヌは立ち上がると剣を振り上げる…だがそこに…

 

「キンちゃんに手を出すなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

赤鬼の形相で駆け出す白雪と、

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオラァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

全身から白いオーラを出しながら一毅が駆け出す。

 

「星伽天候流!」

「二天一流!秘剣!!!!」

「奥義!!!!」

「秘技!!!!」

 

二人は刀に手をかける。

 

「くっ!」

 

ジャンヌは氷で壁を出す…だが、

 

緋緋星伽神(ひひのほととぎがみ)!!!!」

荒れ牛(あれうし)!!!!」

 

氷の壁ごとジャンヌの剣を二人の刃が切り裂いた。



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龍と新たな仲間

さて、魔剣(デュランダル)改めジャンヌ・ダルク30世はキンジのエアストライクと自身が絶対の信頼を寄せていた剣を三分割された為か呆然としていたところをアリアに全身手錠で縛られ捕まった。

その後の処置だが一旦尋問科(ダキュラ)預かりとなり綴が尋問することとなった。頑なに黙秘するジャンヌではあるが、

 

「こいつは活きがいいなぁ…」

 

と初めてみる笑顔で笑っていた…内心壊れる前に白状することを強く進めながら一毅たちは戻ってきていた。

更に一毅はアドシアードの会場に戻ると一毅に成り済ましたライカが丁度優勝したところだった。

そのため控え室に行ってみると…

 

「おーいライカ。試合お疲れ…」

「キャア!」

 

なんの因果か着替え中に乱入してしまった。レキとは今更裸見ても顔に服を投げつけられる位だからどうということはないがライカのは不味い。

 

「すまん!」

 

一毅は外に出た。

 

(やっべぇ…)

 

黒のレースという大人っぽい下着だったためか脳裏に焼き付いている。

何かクラクラしてきたと言うか鼻から熱い液体が出てきそうだ。

 

(って待て!俺にはレキがいるんだろうが!バッカヤロウ!!!!)

 

バキィ!っと一毅は自分で自分の頬をぶん殴った。

 

「うわぁ!」

 

ライカは着替え終わったと言う旨を伝えに外に出たところで一毅が自分をぶん殴った瞬間と鉢合わせし驚く。

 

「ど、どうしたんですか?」

「自分を戒めていた…」

「?」

 

ライカには意味がわからなかったが控え室に招き入れられる。

 

「しかし優勝するとは思わなかったぞ」

「そりゃあ一毅先輩の身代わりですからね。流石に負けられませんでした。ただ決勝戦の相手には苦戦しましたが一毅先輩との特訓が役立ちましたよ」

「え?」

「一毅先輩の【二天一流・拳技 受け流し】…使わせてもらいました」

「え?あれ使ったの!?」

「も、問題ありました?」

「いや、問題はないけどまさかあれ使うって…結構タイミングシビアだぞ?」

「そこは普段の相手がSランクですから」

「なるほどね…」

 

これは本当に将来延びるな…と一毅は内心思う。

 

「まあいいさ。それで?報酬の今度買い物に付き合って飯奢るって奴だけど何がいい?」

「何でもいいんですか?」

「おう」

「じゃ、じゃあ焼肉行きましょ」

「良いぜ」

 

うら若き男女で行く場所ではないがそこは二人とも強襲武偵(アサルトDA)である。疑問など無い。

 

「あとそうだな…俺が思っていた以上に活躍してくれたし何か追加報酬出すぞ」

「え?」

「何がいい?何でもいいぞ?」

 

何でもいいぞ…その言葉にライカは一瞬トリップしかけるが何とか戻る。

 

「す、少し待ってください。次のデート…もとい、奢って貰うときまでには考えときます」

「そうか」

 

するとそこにあかりと辰正が入ってきた。

 

「あ…桐生先輩も来てたんですか」

「ああ」

(何だろう…このあかりと辰正が出してる微妙な顔…)

 

詳しくは2話前の話を読んでもらえばわかるがあかりと辰正はライカの秘めた方が良いかもしれない思いを聞いて非常に微妙な気持ちなのだ。

 

「と、とりあえず優勝おめでとうライカ…まあ桐生先輩に成り済ましてたけどね…」

「良いんだよ別に」

 

ライカとしては一毅と一緒に出掛けられると言う事の方が重要だったりする。

 

「ん?」

 

すると電話が来た。

 

「ハイもしもし?」

【一毅さん、これからアドシアードの打ち上げ兼少しアリアさんからお話があるらしいので校門前まで来てください】

「了解」

 

一毅は電話を切ると立ち上がる。

 

「じゃあまたな。スケジュール決まったら連絡してくれ」

「あ、はい」

 

そう言って一毅は出ていく。

 

「…うへへ…」

ライカは頬が緩む。

 

(ライカの思い…これは友達として止めるべきかな…)

(ぎゃ、逆に友達として応援して上げるべきか…)

 

あかりと辰正の頭を大いに悩ませたのはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、校門前に行くとレキが居た。

 

「アリアさんたちは先に行くそうです」

「そうか」

 

それから歩き出す。

 

「今回はお疲れさまでした」

「まああと少しで氷の彫像に成るところだったけどな」

「その時は私が一肌で脱いで人肌で暖めてあげます」

「普段から暖めて貰ってるんだけどねぇ」

 

ちっ!リア充が…と言う声がどこからともなく聞こえたのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うわけで…今回はお疲れさま」

『お疲れさま』

 

一毅、レキ、アリア、キンジ、白雪はお互い頭を下げる。この面々で今はファミレスに来ていた。

 

「まあ今回の貢献度だけど私、一毅が3、白雪が2、レキとキンジが1ってところね」

「おい…結構俺は動いたと思うぞ」

「確かに白雪を引き戻したのは誉めてあげるけどジャンヌ・ダルクの逮捕事態は最後にちょこっと動いただけでしょ?」

「マジかよ」

「まあ白雪の一時的な離反はお前が要因でもあるんだから諦めな」

 

キンジは首をかしげた。こいつは本当にバカだと思う。

 

「まあ今回で分かったんだけど…流石にキンジたちだけではチームの幅が小さいと思ったの…だから白雪!」

 

アリアは立ち上がると、

 

「あんた、私の奴隷になりなさい!」

「え?」

「お?」

「はぁ?」

「………」

 

上から順に白雪、一毅、キンジ、レキである。と言うかレキはこの瞬間でも音楽を聴いてる。最近の流行りはJ-POPらしい。特にT●KI●とか聞いている。

 

「ど、奴隷!?………き、キンちゃんおのなら…」

 

良いのかよ…と内心突っ込むと、

 

「と言うわけで白雪!明日からあんたはキンジの部屋に自由に出入りして良いわ!チームワークを高めるのよ」

 

そう言ってカードキーを投げ渡す。いつの間に作ったのだろうか…

 

「ありがとうアリア様!!!!」

「って待て!あそこそもそもは男子寮だぞ!」

「今更ですねぇ…多分そんな設定誰覚えてませんて」

「設定言うな!お前ら、俺の話を聞【ジャキ!】…てくれると嬉しいです…」

 

アリアに銃を向けられキンジは両手をあげて降参の意思表示をしながら自分の意見を言う…と言うか、

 

(立場低いな~)

(それも今更ですね)

 

一毅とレキは苦笑いした。

そこに頼んだ物が来た。

 

「と言うわけで奴隷四号が誕生したことを祝って乾杯!」

「乾杯!ああ~これでキンちゃんの部屋に行き放題!」

「あーもう…勝手にしやがれ!乾杯!」

「乾杯!…ん?奴隷四号ってことは一号かキンジだろうけど二号と三号は?」

「乾杯。私と一毅さんのことですよ。今更ですね」

 

新たなチームメイト…白雪を加えて一毅たちはコップをあげて軽くぶつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあアリア…やっぱり俺の貢献度が1って言うのは納得いかんぞ」

「全く…」

 

ファミレスでの打ち上げ後、そのままキンジの部屋で皆だらけていた。

 

まあ白雪は生け花を飾ったりしており動いて入る。レキは壁に持たれていた一毅の腕を暖簾のように潜って通り抜け膝の上に座ると自分の特等席でスヤスヤ寝出した。それを一毅は頭を撫でてやりつつアリアとキンジのやり取りをみる。

 

「まあ確かにあんたも頑張ったわ。だから安心しなさい。あんたはいまだにちょっと強さに並みがあるけど…私の大切なパートナー()よ」

 

キンジの顔がミルミル赤くなる。正に茹で蛸…だがキンジ…お前はそこでアリア可愛いとか思うからひどい目に遭うのである。

だがそこに、

「大切ってなに!?」

『え?』

 

ブラック白雪…通称、黒雪が降臨した…

 

「これからリードすれば良いの!私だってキスしたんだからああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

黒雪となった白雪はイロカネアヤメをブンブンぶんまわし暴れまわる。と言うかキンジがヒステリアモードとなったきっかけが分からなかったがキスしてたのか…こっちは氷の彫像に成り掛けたってのに…

 

「キス!?あんた何してんのよ!」

「ま、待てアリア!」

「てぇええええええんちゅううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!」

「はぁ…」

 

一毅は寝息を立てるレキをお姫様だっこで抱え上げると、

 

「か、一毅助けて…」

「自分で撒いた種だ…自分で何とかするんだな」

 

たまには良い薬だ。

 

「行くなぁあああああ!!!薄情者ぉおおおおおおおお!!!!」

 

キンジの叫びを無視して一毅は行ってしまう。

そして外に出ると、一毅は星が輝く空を見た。少なくともイ・ウーと言うか組織の人間とはまだ縁が切れそうにない…ジャンヌ以上の者だっているだろう…

 

「強く…ならねぇとな…」

「大丈夫ですよ…」

「え?」

 

起きたのかと思ったが寝言のようだ。

 

「私が…居ます…」

「そうだな…」

 

彼女のためなら幾らでも強くなれる…そんな気がした…

それから一毅はレキにキスを一つしてから自分の部屋に戻った。



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談話
談話室Ⅱ


とある楽屋…

 

皆「お疲れさまでした~」

 

アリア「まあ今回は二章よりは少なかったしまだよかったわ」

 

一毅「それでも8話もあったけどな」

キンジ「でも他の作者さん達の作品見てみろよ。これでも少ない部類に入ると思うぞ」

ライカ「おつでーす」

 

あかり「お疲れさまです」

 

辰正「こんにちわ~」

 

志乃「お疲れ様でした」

 

アリア「あら、お疲れさま」

 

咲実「皆お疲れ~やぁっと3章終わって次から4章に入れるよ…あれ?そういえばレキは?」

 

レキ「ここです」

 

咲実「え?【パキューン!】がは…」

 

レキと咲実以外「作者あああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「って!?何で俺撃たれたの!?」

 

レキ「ふふふ…この作品のヒロインは誰ですか?」

 

咲実「そりゃあ君だよ」

 

レキ「では何故今回私の影が薄いんですか!?まあ今回は白雪さんが目立つのは仕方ない部分もありましょう。ですが何でそこの無駄にでかい女が目立つんですか?」

 

ライカ「そこは人間性ですね。まあコメントでも私のヒロイン昇格望む声があったし」

 

レキ「消すしかないか…」

 

一毅「お前にそんな権限ねぇよ…」

 

レキ「赤松中学大先生に頼みます」

 

レキ以外「いやいやいや…」

 

レキ「ダメなら証拠残さず撃ちます」

 

一毅「もっと不味いだろ」

 

レキ「この作品のなかでは言及されてませんが私は日本に来る前殺し屋やっていたと言う裏設定がありますし?」

 

ライカ「大人しく殺られるとでも?」

 

武器を構える二人…

 

白雪「でもRemakeの方では活躍があってよかった…あそこら辺もあっさりしてたし…」

 

キンジ「俺はお前がこんな状況でも平常心なのの方が驚きだ」

 

アリア「そう言えば次回からあのロリ巨乳も出てくるのね…作者!」

 

咲実「はい?」

 

アリア「あのロリ巨乳出さないで!これ以上敵が増えると目障りだわ!!!!」

 

咲実「流れ的に不可能でしょ!?」

 

アリア「タグにもあるでしょ?オリジナルルートって。だから変えちゃえば良いのよ。あのロリ巨乳は殺されてて、それを知った私たちは怒りに震え犯人を倒すって」

 

キンジ「全国の理子ファンから殺されるぞ…」

 

アリア「大丈夫よ。多分この作品はレキファンしか見てないから」

 

一毅「いや、緋弾のアリアって言う作品事態が好きで読んでくれてるかたもいらっしゃると思うが?」

 

志乃「それにそれを書いたらタグに原作キャラ死亡を入れないといけない気が…」

 

アリア「とにかく消すのー!」

 

あかり「アリア先輩必死だなぁ…」

 

辰正「でも思うんだけどまだキンジ先輩落としていくはずだからこの段階でキャラ殺したら随分殺さないといけない事態になるよね?」

 

ライカ「確かに…」

 

 

 

 

 

キンジ「じゃあ次から4章に入れるのか?」

 

咲実「いや、その前に番外一個挟む」

 

アリア「何で?」

 

咲実「ほら、一毅ライカに奢るて言ってたからその話をね」

 

レキ「ほぉ…」

 

咲実「ひぃ!」

 

レキ「なんですか作者…貴方はライカファンに鞍替えですか?未だに私と一毅さんのデーとシーンは描かないくせに…」

 

ライカ「ふ…」

 

レキ「なんですかその勝ち誇った目は」

 

ライカ「別に何でもないですよ~」

 

レキ「貴方とは一度決着をつけようと思ってました…」

ライカ「奇遇ですね…あたしもですよ…」

 

レキ&ライカ「デェエエエエエエイ!!!!」

 

喧嘩を始める二人…

 

キンジ「止めなくて良いのか?」

 

一毅「い、命懸けに成りそうだから勘弁…」

 

咲実「とにかく次回からもよろしくお願いします。コメント、感想及びお気に入り登録、評価等々お待ちしております」

 

レキとライカ以外「では皆さん!又次回!」



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番外編
番外編 ライカの心


アドシアードから早くも数日…一毅は現在Tシャツの上にポロシャツを羽織、下にはジーンズと言う普通の高校生くらいが着そうな服で駅前に居た。

今日は約束通りにライカと出掛ける予定だ。本当はレキも来るはずだったかがここに来る途中で突然現れたあかりと辰正がレキを連れていってしまったのだ。その直後に電話が来てレキには急用ができたとよくわからない事を言っていたが大丈夫だろう。

すると…

 

「あ、一毅先輩。すいません遅れました」

「おうライ…カ?」

 

一毅は驚いた…ライカとは何時も武偵高校の制服でしか会ったことがない。

だが今のライカはワンピースにチェックのミニスカート…首には敢えて目立たせないネックレス。髪は卸していて凄く女の子の服装だ…派手ではない…だが何と言うか…そう!自分を良く分かっている。自分に似合う服を良くわかった上で着ている。

ワンピースはライカの細身の体を際立たせ…スカートからは暴力的なまでに細くて長いが同時に鍛えている健康的な足が…だがそれを全て包み込んでしまうきれいな金髪を卸した髪…

レキの体は柔らかいと言うか…マシュマロ…と言った感じだがライカのは…何と言うか…チョコレート?自分でも訳がわからないがギャップだ。

最終的にそこに帰結した。ライカは女の子ではあるがまず最初に後輩の…と言うのが着く。だが今は女子だ…女の子…ではなく女子…のが付かないだけだが意味合いが大分違う。

 

「一毅先輩?」

「お、ん?ああ…悪い悪い。見とれてた」

「っ!」

 

一毅は事実をありのままに伝えた…こういう辺りは結構天然ジゴロなのだ。良いと思ったことをさらりと伝えたり、女の子にとって気を使ってお洒落をしたりする場所を一毅は結構マメに気がついてそれを真顔で誉めたりする。

他にも重たいものを持っていれば分け隔てなく持ってやったり頼まれた仕事をきっちり責任持ってやりきるなど好感をもたれる事が多く、更にヤクザ顔と称される位目付きは悪いが決して醜男ではない。この辺の気遣いなんかは実家で培われたのだがこういった辺りが一毅がレキと言う彼女がいると言うのにモテる理由でありレキを怒らせる原因でもあるのだが一毅は全く気づいていない…

 

「じゃあ行くか?」

「あ、はい…」

 

ライカは顔を真っ赤にして一毅について行った…

因みに完全に余談だがライカの今日の服装…三日三晩悩みに悩んで決めた服だ…そりゃ誉められれば嬉しい筈である。

 

 

 

 

 

 

最初は服を選ぶとのことだ。

ライカは基本的にちょっと格好いい系の服を選ぶが…眼は可愛い系の服を見ている。大方自分には似合わないとか考えてるのだろう。確かにライカは170近い身長で可愛い系の服では丁度良いサイズの服が余り無い。だが無いわけでもない…折角なのだから着てみれば良いのだが…

 

「こう言うのはどうだ?ライカ」

「え?」

 

ライカは一毅が手に取った服を見るとブンブン横に振る。

確かにサイズは良さそうだがそんな可愛い系の服は似合わないと思っているからだ。

 

「似合わないですよ…そんなの…」

「…………」

 

すると一毅は服をライカの体に当てながら見る…

 

「うん…やっぱり似合うよ」

「お世辞ですか?」

「俺は世辞が言えるほど器用な人間じゃねぇよ」

「あ……」

 

ライカは自分でも分かるほど頬が熱くなった…更に心臓の鼓動も早くなる…こう言うときに思い知らされる…

 

(この人が好きだなぁ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

結局服は一毅の薦めで買うこととなった…そして次は約束通り焼き肉である。うら若き男女が焼き肉である。大事なことなので二回言うがうら若き男女がである。

とは言え全く気にせず二人は肉を焼いていた。

 

「いやぁ美味しいですね。何て言う店でしたっけ?」

「韓来だよ、ここはお持ち帰りもあるだけど前に特選牛カルビ弁当を山ほど買っていく女の人見たことあるぞ」

「何者なんですか?」

「フードファイターかなんかだと思うが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから腹を膨らました二人はカラオケに来た…

 

「持ち歌とかあるんですか?」

「【意地桜】とか…やっぱり…【馬鹿みたい】とかかなぁ…」

「し、渋いですね…高校生が歌う歌じゃ無いですよ」

「あ、最近【MachineGun Kiss】とかも歌うぞ」

「一気に歌の雰囲気変わりましたね…」

「ライカは何歌うんだ?」

「その時々って感じですかね…何かデュエットしません?」

「おう」

 

結局二人で【神室純恋歌】を歌った…

 

 

 

 

 

 

 

 

「お!」

「きた!」

 

その後ゲーセンのクレーンゲームでぬいぐるみとか取ったりしてると、

 

「あ、太鼓の達人ですね」

「あー…昔やったな~」

「じゃあうまいんですか?」

「まあそこそこ…って所だな」

「見せてくださいよ」

「んー…」

 

ライカにせがまれ100円いれて数分後に一毅は裏オニ(太鼓の達人には簡単、普通、難しい、オニ、裏オニと存在し裏オニに近づくほど難しくなっていく。作者はオニ所か難しいでも出来るか怪しい…)で開始しフルコンボ(一度もミスをせずにクリアすること)を軽く達成した。

 

「滅茶苦茶やり混んでるじゃないですか!?」

「ふ…」

 

因みにその後ホッケーもしたがそこは強襲科(アサルト)の二人である…すさまじいラリーの応酬にギャラリーが集まって大変なことになったとか…

 

 

 

 

 

 

「あー楽しかった!」

 

一日中遊んだため近くの公園のベンチに座る。

 

「しっかしあのホッケーは疲れたぞ…」

「終わった後動けなくなりましたもんね」

 

そう言って笑う。

 

「今日はありがとうございました…」

「別に良いよ…今度はレキと来ようかな…」

 

一毅は何気なく行ったつもりである。と言うか、今度は彼女と来る…と言うのは普通でありそんな特別なものではない……それが行為を向けてる相手が言わなければ…ではあるが…

 

「…………」

 

ライカは自分の心臓が痛むのを感じた…ズキン!っと…同時に広がる苦味のような感覚…

 

(別に普通だろ?ただ彼女と来るって言ってるだけじゃん…)

 

ライカはそう自分に言い聞かせる…あかり達にはああ言ったが本当はどこかでは分かっているのだ…本当は二番目にだって成れない…桐生 一毅は誰にでも優しいが反面誰かに甘えるところを一人しか見たことがない。そう、レキには甘えているのだ。

弱くて頼りない部分だってある…でもそれを見せるのはレキだけなのだ…

愚直で馬鹿が着くくらいの一途っぷり…

そう思ったらライカの何かが崩れた気がした。

 

「一毅…先輩…」

「ん?」

「追加報酬……貰っていいですか?まあ私があげるんですけど…」

「?…まあ良いけど何がいい?」

「目を…瞑ってください…」

「おお…」

 

一毅は目を瞑る。

 

「一毅さん…」

「え?」

 

チュッと一毅の唇と何か柔らかくて暖かくて…それでいて非道く情熱的な物…ライカの唇がくっ付いた。

レキとは違う…レキも柔らかくて暖かい…でも静かに…ずっと吹き続けるが直ぐに無くなってしまう風のような儚さがある。だがライカのはそれとは反対…燃え上がるような…例えるなら火のような熱いキス…

 

『ぷは…』

 

ほんの十秒にも満たないだろう…だがえらく長く感じた…

 

「う…え…お…?」

 

一毅は混乱した…あれ?これ報酬になってなくね?

だが一毅の内心は分かったらしく。

 

「なりましたよ…私のファーストキスが一毅さんだった…それだけで十分です…」

 

そう言ってライカは立ち上がる。

 

「さようなら…」

 

一毅が茫然としてる間に行ってしまう…

 

「ええと…ライカって俺の事好きだったの?」

 

気付くの遅すぎである。

 

(待てよ…じゃあレキと仲悪かったのってその辺が原因!?もしかしてレキは気づいていたのか!?)

 

レキだけではなく好かれてる本人以外周知の事実である。

 

(こ、こう言うときってどうすればいいんだ?ライカの思いに答える?無理だ…レキがいる…やっぱレキが好きだし…でもさよならってもう会わないってか?それってすげぇモヤモヤする…あーでも俺モテた事無いからどうすればいいかわからん!!!!よし、こう言うときはハーレム王のキンジに…ん?電話?)

「ハイもしもし?」

【私よ私…レキーさん…あなたの後ろにいるの…】

「いい!?」

 

一毅はベンチから飛び上がりながら背後を振り替える。

 

「れ、レキ…」

 

一毅は先程の一件で脂汗が止まらない…

 

「何とか逃げてきましたよ…ライカさんは…」

 

一毅はビクッと震える。

 

「ああ、あそこの入り口から逃げたんでしたね…」

「そ、そう…」

 

多分…見えていただけだ…そうに決まってる…

 

「アーツカレタ…でしたっけ?」

「はぐ!」

 

一毅は完全に固まる…最初から見られてた。

すると再度電話が鳴った…

 

「どうぞ?現世最後の会話を楽しんでください」

(や、殺られる…)

 

とは言えそれだけの事かもしれない…してきたのはライカ…だがそんな言い訳をする気はない。

 

「もしもし…」

【あ、桐生先輩ですか!?谷田です!レキ先輩がそっちに…】

「ああ…もう目の前でドラグノフ狙撃銃に弾を込めて俺の眉間に狙い定めてる」

【え?】

「俺…帰ったら結婚するんだ…」

【それ死亡フラグ…】

 

一毅は電話を切る。

 

「逃げないんですか?」

「言い訳はしない…」

「そうですか…一応救命措置はあげますよ?明日からライカさんとは他人のように振る舞うこと…それで撃つのは勘弁してあげます」

「レキ…俺はお前が好きだ…それは嘘じゃない…だけど…あそこまでされてこのままサヨナラってのはできねぇよ…断る何なりで決着は着けるべきだ…」

「違います…あれがライカさんなりの決着なんです。貴方はライカさんにはもう会わずライカさんが貴方を過去の恋と思えるようにするのが本当の優しさです」

「それができるやつならとっくにそうしてるんじゃねぇか?」

 

一毅は鈍感だ…女心に対しては…だがライカとの付き合い昨日今日ではない…そんな風に簡単に割りきれるやつじゃない。自分が振ると言う形にしなくては…いけないタイプだ。

 

「出来るんですか?」

「え?」

「ライカさんに言えるんですか?貴女は異性として見れない…と…」

「レキ…」

「私が居るから…というのは無しですよ?きちんと言えるんですか?」

「…………」

「無理ですよね?貴方は優しすぎる…残酷な位にね…」

「ゴメン…」

「……時間切れです…目を瞑ってください」

「……ああ…」

 

バットエンド…と言う奴か…まあゲームと違いリトライ無いけどな。

そんなことを考えつつ一毅は目を瞑る…

 

「……………」

 

がいつまで待っても来ない…と思った瞬間ペチンっと一毅の頬に軽い衝撃が走った…

 

「あ…」

「でも私もバカですね…それでも貴方が好きです…優しくて人を突き放せない…そんな貴方が…」

「レキ…」

「ですから一つ提案があります」

「え?」

「なので明日まで待っていてください」

「え?え?」

 

そう言ってレキはどこかに行ってしまう。

 

「……し、死ぬかと思った…」

 

今回はレキなりに考えがると言うことだとう…だが自分が考え無しに浮気なんぞすれば…

 

(次は死ぬな…)

 

浮気だけはしない…一毅はそう誓いつつ寮に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日…結局レキは帰ってこず寝坊した…それから一日授業を受けて終わると特に依頼も受領せずに帰ってきた…

 

(レキどうしたんだろう…ライカも探してみたけどいないし、あかりたちも居ないし…)

 

するとキンジとアリアが来た。

 

「よぅ。今日はレキが一日居なかったけどどうしたんだ?」

「知らん」

「あかりたちも居ないしどうしたのかしら…」

「さぁ?」

 

一毅としてはレキやライカ…どっちも意味合いは違えど大切だ…レキは恋人として…ライカは大切な後輩として…

 

「はぁ…」

(一毅が悩みごとなんて珍しい…)

 

キンジとアリアの思考がシンクロした。

そして二人と別れ一毅は部屋に入る。

 

『あ、お帰りなさい』

 

すると段ボールを片付けているレキとライカがいた。

 

「何してんだ?」

「ライカさんが越してきたので荷物の整理です。すみませんが飲み物くれます?」

「ああ…ライカは何がいい?」

「牛乳で」

「了解…」

 

一毅はボーッとコップを二つ取りレキにはカロリーメイトジュース(レキしか飲まない)と牛乳を注いでいると…

 

「ん?」

 

やっと違和感に気付いた…お陰で牛乳を溢したがそんなのに目も暮れず、

 

「ライカァ!?」

「あ、やっと気づきました?」

「なん…で?」

「それは私が説明しましょう」

 

レキが手をあげる。

 

「こうすれば一毅さんはライカさんとの縁を切らずに済む、ライカさんは一毅さんと一緒にいられる。私はライバルが目の前にいるため監視がしやすい…良いことずくめです」

「まさか今日一日中やってたのか?」

「驚かそうと思って…なのに一毅さんとボーッとしてて気付かないし…」

「と言うわけで…」

 

ライカが正座をして…

 

「不束者ですがよろしくお願いします」

「あと一毅さんは平等に愛してくださいね?それを破ったら撃ち抜きます」

 

一毅は後ろにぶっ倒れそうになった。何がどうしてこうなった?

 

「へへ…」

「ふふ…」

 

すると二人は一毅の腕に絡み付くと頬にキスした。

 

『好きですよ!一毅(さん)(先輩)』

「…はぁ…降参だよ。参った参った」

 

一毅が肩を竦めるとライカが笑いレキも少し微笑む。

一毅の部屋に同居人が一人増えた瞬間であった。




やっちまった…だが後悔はない!《キリ…》
と言うわけで次回からライカも一毅の部屋に居ます。
可笑しいな…当初の予定ではデートだけして終わりだったのに筆が乗って全然違う位置に着地した…まあいいか!龍が如くでは桐生さんキャバ嬢複数人落としてたし…も、文句とか言わないで…でも無言で石も投げないで…だってライカ不遇で終わらせるの可哀想だったんだもん…




さて、今回一毅たちが歌ってた歌ですが全部龍が如くの歌です。特に一毅の持ち歌は全部桐生 一馬さん…と言うか黒田崇矢さんが歌ってます。聞いた事ないよと言うかたは是非聞いてみてください。すごくかっこいいです。



さて最後ですが…お気に入り登録50人突破…いやいや結構これ快挙なんです。リメイク前はこの辺りだとまだ二十人ちょっと位だったはず…それと比べれば多い多い。
と言うわけで次回から本編です。では!


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第四章 落ちこぼれの大泥棒
龍と新たな騒動の開幕


「ふん!はぁ!」

 

一毅は殺神(さつがみ)振り下ろし素早く切り返すと振り上げる。

その周りには自然とギャラリーができていた。

あらゆる物を切り裂く剛剣の体現…だが同時に体にはまるで鉄の棒が一本入っているかのように真っ直ぐで人の目を引き付ける。

おおよそ齢16、7でたどり着けるような領域ではない。まさしく超人的だ…

あまり強襲科練に顔を出すことは少ない一毅だがここには器具もあるし何より広い。一応一毅の部屋にもトレーニングルームと称した部屋がありそこにも色々器具はあるがこっちの方が種類は豊富だ。

とは言え桐生の一族全てに言えることだがあまり一毅は自分の強さの研磨は余りしない。同時に鈍ると言うこともないと言うのが不思議なのだが特異体質なのか桐生の一族は特別な訓練を毎日続けているわけではないのに年を重ねると勝手に強くなっていく節がある。無論絶対鈍らないと言うわけではないためある程度の特訓は必要だがそれ以上にどうも戦いとかの巻き込まれやすい体質らしく下手な訓練より一度の命がけの激戦が桐生を強くする。

一毅もその例に漏れず剣筋の鋭さは宝蔵院、ジャンヌ・ダルクと続いた戦いの中でまるで野生の獣が自ら牙を磨かず…狩りの中でのみその強さが磨かれて行くように鋭くなっていた。

 

「ウッラァ!」

 

床がドン!っと言う音と共に震動し一毅の手にある殺神(さつがみ)の横一文字一閃…そこから残心を行い息を着くと鞘にしまう。

とは言えこれはいわば準備…本当の相手は今来た。

 

「待たせたわね」

「はぁ…」

 

一毅がアリアを相手に溜め息を吐く羽目になったのは少し時間が先上る。

 

 

 

 

 

前回の一件でライカが一毅の部屋に住み着いて早くも3日…だが3日もすれば皆分かる。

 

「それでなんですけどね一毅先輩」

「と言うことがありましてね一毅さん」

 

気分は聖徳太子だ…二人の言葉を一言一句逃さず一毅は聞き取る。

下手な戦いより集中する。

 

「あら、一毅たちも来てたの」

 

そこにアリアとあかりと辰正も来ていた。

 

「全く、あんたもキンジの幼馴染みだけはあるタラシっぷりね」

「あれと同列ってのは勘弁して欲しいがまあ反論はしない」

 

すると一毅は周りを見る。

 

「あれ?キンジは?」

「どっか行ったわ」

 

アリアが特に気にしてないと言うことはあまり気にしなくてもいいのだろう。

その為一毅はメニューを注文し席に着くとその場の流れで皆と食べることになる。

 

「そう言えばレキ以外全員強襲科(アサルト)ね」

「そうですね」

「でもSランクが半分も居るんですね…何気にすごい状況ですよ」

 

アリアと一毅とレキ…この三人は特にこの東京武偵高校内でも有名なSランクだ…

 

「そう言えばそうでしたね…でも…」

 

辰正の言葉が今回の事件を引き起こす。

 

「アリア先輩と一毅先輩ってどっちが強いんですか?」

『そりゃあ【一毅】【アリア】先輩』

 

あかりとライカの声がハモった。

 

「おいおいあかりと、一毅先輩の方が絶対強いぞ?」

「ライカ…惚れた弱味かなんか知らないけど絶対アリア先輩だよ」

 

バチバチと二人の間で火花が散る。

 

「どっちが強くたって良いだろ…」

「でも面白いんじゃないかしら?」

「え?」

 

アリアが笑みを浮かべながら立つ。

 

「一毅、今日の五時間目に強襲科練で勝負しましょ?ノックアウト制降参アリ…のね」

「はぁ?」

「私あんたとは戦ったことがないのよ。丁度良いわ」

「マジかよ…」

 

ちなみにその間レキは完全に音楽の世界にいた…最近はなぜか演歌を聞いている。

 

 

 

 

 

 

拒否権等あるはずもなく一毅は引きずり出された。因みにどっちが勝つか賭けまで行われている。

オッズとしては僅かに遠近共に成績がいいアリアが勝っている。

確かに一毅は銃も上手いがアリアと比べれば劣る。

どちらかと言うと一毅の才能は剣術寄りだ。

そうやって考えるとアリアは銃も刀も無手も出来るオールラウンダー…対する一毅は普段の任務では基本的にレキに遠距離は任せてあとは近距離の相手をすることが多い。接近戦では強いが離れられたら…と思うものは多いだろう。だが二天一流は戦国時代から端を発しずっと両手に一振りずつ刀を持ち…背中に三本目の刀をもってその身一つで戦ってきた…気後れなどない…ただ一つは問題があるとすれば…

 

(アリアって女なんだよな…)

 

極力女性相手に刀を抜きたくない…だが抜かずに勝てるか…と言われたら難しいと言うのが本音だ。

アリア相手に遠慮や手加減…等いったものを持っていては勝てない相手だ。とは言えわざと負けても怒るだろう…それに幾ら女相手とは言えこんな状況で態々負けてやるような紳士的な人間でもない。

 

「おら!並ばんかい!!!!」

 

蘭豹の声で現実に戻される。

まあなるようにしかならないだろう。

そう思いながら一毅は軽く腕を回し首をコキリと鳴らす。

 

「手加減抜きよ」

「むしろ俺を本気にさせてみな」

 

アリアは銃二丁を…一毅は拳を構える…

 

「うらぁ!」

 

先手は一毅…だがそれを直感で予測したアリアは下がりながら銃を撃つ。

 

「ちっ!」

 

一毅はスウェイで躱し更に二発目を…

 

「二天一流 拳技!達磨避け!!!!」

 

スウェイから更に転がって避ける回避技で銃弾を避けるがアリアは構わず正確無比な銃撃で一毅を狙う。

 

「なめんなよ!」

 

一毅は躱しながらアリアに肉薄すると、

 

「二天一流 拳技!煉獄掌!!!!」

 

アリアに向けて掌打を放つが、アリアはそれを伏せて躱すと一毅の顎に向けアッパーを繰り出す。

 

「っ!」

 

一毅はそれを後ろへのスウェイで躱すがアリアは小太刀を抜いて追撃する。

 

「しぃ!」

 

一毅はそれを体を逸らして躱す。

しかしアリアはしゃがみながら一毅の足を狙う。だがそれを一毅はバック転で避けると二人は一度止まる。

 

「お前…なんで俺の避ける方向が分かるんだよ…」

「勘よ」

「ずるいな!」

 

勘で全部行き先バレるとか狡すぎる。

 

「あんただって結構身軽じゃない」

「キンジほどじゃない」

 

空は飛べないからな等と考えながら一毅は考える。

 

(さて…やっぱりつぇえな…マジでやってるってのに少しの気の緩みが敗けになりそうだ…)

「悩んでる場合じゃないわよ!」

 

アリアは一気に間合いを詰める。

 

「くっ!」

 

一毅はアリアの二刀流を躱していくがアリアの方が僅かに読みが早い。

 

「はぁ!」

 

アリアは回転しながらs瞬時に一毅の死角に入る。

 

「やあ!!!!」

 

普通ならばこれで終わる…一毅は死角に一瞬で入られたためアリアを追いきれていない。

このまま一毅の後頭部に入れて終わる…はずだった。

 

「うぉおおおおお!!!!」

「なっ!」

 

一毅はアリアの一撃を頭を下げるだけで躱すとアリアの刀を真剣白羽取りで取ると…

 

「二天一流 拳技…無刀転生!!!!」

 

刀を相手から奪う二天一流の技でアリアを投げながら刀を奪うとアリアに突きつける…だがアリアも空中で体制を戻すと一毅の腹部に刀を突き付けていた。

 

「引き分け…だな」

「どうかしらね。私はあんたに刀を抜かせてないわ」

「まあ、その辺は勘弁してくれ。どうしても抜かせたいなら俺を殺しに来いよ。そしたら俺も死にたくないから全力だぞ?」

「嫌よ。それにしても…あんた今すごかったわね」

「ん?ああ…」

 

アリアの死角からの一撃…今までならあそこからで終わったが…と言うかこちらとしては無刀転生でアリアに刀を突きつけてからアリアは死角から攻撃したことに気づいたのだ。その間…一瞬意識が飛んだ…全く記憶になかった…

頭がピリッとした後からない…不思議な感覚だ…

 

「やあお疲れ」

 

そこにペットボトルが投げられた。

 

「不知火」

「流石Sランクがぶつかると迫力があるね」

 

不知火は柔和な笑みを浮かべる。そこに、

 

「一毅さんお疲れさまです」

「イヤー凄かったですね。あのとき躱したときの一毅先輩すごい速度でしたよ」

「でもやっぱりアリア先輩もすごいです!」

「すいません俺が要らん事言ったせいで…」

 

労われてから立ち上がると、

 

「そう言えば桐生くん火野さんとも住んでるんだって?よくレキさんが許したね」

「色々あってな…」

「まあ良いと思うよ。火野さんが桐生くん好きなの皆知ってたしね」

「……え?」

「気づいてなかったのあんただけよ?」

 

アリアに言われて一毅は更に落ち込んだ。

 

「でも気を付けるんだよ?レキさんと付き合ってるってだけでも桐生くん睨まれてたのに更に火野さんだからね」

「どういう事だ?」

「いやぁ、最近男子の火野さんを見る目が変わってきたところだったからね」

 

不知火が言うにはライカは一毅と一緒の時はどこか女性的で用は恋する乙女になっていて男子たちも最初は女男と馬鹿にしていたが段々男子の視線が変わってきていたらしい。だがそこに前回の一騒動で一毅に取られて男子たちは「あんなデカ女が化けるなんて反則だ。分かってれば先輩にみすみす渡さなかったのに!」という男子が大勢たらしい。

 

「まあ火野さんを可愛くさせたのはいろんな意味で桐生くんのお陰だしね。そういう深い所を気づけなかった彼らが悪いんだし気にしなくても良いと思うよ」

 

すると不知火はまた少し笑い、

 

「でもレキさん含めて一毅くんは女の子の魅力を引き出すのが得意だね」

「?」

 

一毅としてはレキもライカも元々かわいいと思っているのだが…

 

「レキさんは何て言うか…表情が出たよね?始めてみた頃は本当にロボットみたいで焼き餅とかからは無縁だっただろう?」

「まあ…確かに」

「火野さんは女の子らしいところができたし君も遠山くんに負けず劣らずの女の子泣かせだね」

「アレよりはマシだと思うが…」

「五十歩百歩って言葉知ってる?」

 

すると何かを思い出したような顔になり、

 

「そう言えばさっき遠山くんものすごい人数に追い掛けられてたけど何かあったの?」

『え?』

 

その場の全員が固まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃キンジは全速力で走っていた…

 

『トオヤマァアアアアアアアアア!!!!(タマ)取ったらァアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

「何でだぁあああああああ!!!!」

 

キンジは叫ぶ。相手は追い掛けてきてるのは強襲科(アサルト)諜報科(レザド)…更に遠距離から狙撃科(スナイプ)から狙撃され装甲車を乗り回す車輛科(ロジ)がしつこく、折角隠れても情報科(インフォルマ)が見つけ出して来るので息つく暇もない。

 

「待ちやがれぇええええええキンジィイイイイイイイ!!!!」

「むとぉおおおおおおお!!!!てめぇ!装甲車で俺を轢き殺すきか!!!!」

「てめぇこそ神崎だけに飽きたらず星伽さんとまで同居とかうらやま…じゃなかった!なに考えてやがる!轢いてやる!」

「くそ!」

 

遮蔽物のないこの場所では不利のためビルに飛び込む。

 

「待てキンジィイイイイイイイ!!!!」

 

武藤の叫び声が聞こえるがキンジは無視してかけ上がる。

だが強襲科(アサルト)諜報科(レザド)もかけ上がってきた。この二つは普段から鍛えてるし逃げてるものを追うのは十八番だろう。

 

「しつけぇんだよ!」

 

二ヶ月ほど前にはセグウェイに追いかけられたし今度はこの人数にかなりマジで殺されそうだ…

と言うか白雪もアリアも無理矢理住み着いたのになんでこんな目に会わなけれならないのだろう…別に一度も住んでくれとは言ってない…

だがそれを言ったら更に怒りを買ったのは言うまでもない。

とは言え何時までこんな大勢の人間とチェイスバトルをしなければならないのだろう…

 

「しねぇ!遠山!!!!」

 

追い付かれそうになるがキンジは伏せて躱すと顎に蹴りを打ち込む。

 

「うが!」

「ちっ!」

 

キンジはビルの縁に足をかけると思いきり飛ぶ。

 

「くっ!」

 

転がって受け身を取ると後ろを見る。

 

『くっそぉおおおお!!!!』

 

追いかけてきた方は思いきりが足りなかったらしく自他んだを踏んでいる。

 

「じゃあな!」

 

キンジは走り出した。

 

 

 

 

 

 

「ぷはぁ…」

 

キンジは寮の部屋に入るとソファに横たわる。

人工埠頭を縦横無尽に走って逃げ続けたため全身が疲労している。

喉も乾いたがアリアは一毅と模擬戦とかすると言ってたし白雪は合宿に行った…誰もいないから自分でやるしかないだろう。

だが動くのもだるい…

 

「はい、お茶」

「あ、悪いな」

 

キンジは飲む。

 

(ん?)

 

なんでお茶が出てきたんだ?

 

「相変わらずトラブルに巻き込まれてるねぇ…」

「ぶふ!」

 

キンジはお茶を吹いた…なぜなら目の前に…

 

「久し振り~」

 

金髪を夕日で反射させ、その小さな体からは想像もつかない胸の大きさ…今は童顔の少女だが将来絶対妖艶な美人になると思う少女…

するといきなりキンジを押し倒してきた。

 

「キー君…」

 

元クラスメイトにしてイ・ウー構成員…そしてついこの間起きた飛行機ジャック事件の主犯でキンジと戦ったばかりの少女…

 

「理子…」



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金と泥棒

「……理子、何の用だ?」

 

キンジは努めて冷静に聞いた……強引に押し返せないこともないとは思うが今のキンジはヒステリアモードではない。Cランクがそこそこの普通の男だ。押し倒されてるこんな密着状態では得意の蹴りは勿論銃やナイフは懐から出す前に殺られる可能性がある。

ならば交渉で時間を伸ばしアリア達が帰ってくるのを待つ方が良い……

 

「んも~キー君そんな怒らないで。理子はキー君と仲良くしたいんだよ?」

 

理子は体を密着させてくる。モミュウ……っとその小柄な体からは考えられないほど柔らかくて暖かい……まるで大福みたいな胸がキンジの胸に押し付けられる。アリアにはないな……等とふざけたことを考えてる場合ではなく一気にキンジのヒステリアモードが促進される。

 

(不味い不味い不味い!)

 

キンジは無理矢理そこは距離をとらせるように理子を押すが理子は更にキンジにくっついてくる。

 

「理子はキー君に手伝ってほしいことがあるの……」

「ふざけるな……兄さんを殺しておいて……」

「まだ言ってるの?何度も言うけど理子は殺してないよ。金一はイ・ウーに居るんだよ」

「ふざけるな……」

 

キンジの目が細まり怒りに染まる。

 

「でもさぁ……」

 

だが理子はそれにも関わらずに話を進める。

 

「カナの美貌って反則だよねぇ~」

「………は?」

「まあ中身は男でさ……しかもカナに成ってヒステリアモードを使うと金一は恥ずかしいんでしょ?どうせだからずっと成っておけば良いのに」

「っ!」

「そう言えばキー君昔喧嘩して泣きながら帰ってきたんだって?今じゃ考えられないね」

「っ!」

「あ、もしかして黒歴史?じゃあ……昔二人でキャッチボールしてたら庭の地蔵割ってア●ンア●ファでくっ付けたってのは?それともキー君の初恋は実は初めてみたカ……」

「わーわーわー!」

「信じてくれた?全部金一に聞いたんだよ」

「……………」

 

確かに最後のに至っては文字通り誰にも言っていない。無論兄でもだ。バレていたのには驚愕だが……逆に現実味はある。

 

「他に何を言って欲しい?好きな食べ物?趣味?それとも使う技?使う銃?得意な武器?今の年齢?」

「……………じゃあ…兄さんは今何処に居るんだよ…」

「だからイ・ウーだよ」

「そうじゃない……居場所だ……」

 

同時にヒステリアモードに成り掛けて来ていることに気づく。残念ながら掛かりは甘い。甘ヒス(メザヒス)と呼んでいる状態だ……それでも通常より思考は早いし理子相手に倒すのは無理でも時間稼ぎの自己防衛位ならギリギリ行ける筈だ。

 

「うーん……教えても良いんだけど……」

「金か?言っておくが持ってないぞ」

「じゃあ……キー君頂戴」

「………は?」

「理子分かるんだ……キー君は絶対にもっと強くなる。今よりもずっと腕をあげ……いずれ世界に名を轟かす男になる」

「バカ言うな……俺は普通の武偵になるんだ……」

「バカ言ってるのはキー君の方だよ。キー君がなんて言おうと世界はキー君程の逸材を絶対に放っておかない……まあカズッチもそういう意味では同じかな……理子はお母様の血のお陰か将来大物になる人間が分かるんだ。キー君とカズッチは将来とんでもない化物になる。でもカズッチとは戦闘能力的に相性が悪いしね……キー君はその分女性の機微に敏感だ」

「………………」

「化物が二人居るなら……相性が良い方と組む……それが普通でしょ?」

「ふざけるな……俺はアリアのパートナーだ」

「お前に拒否権はない……」

 

ゾクッとするほどの理子の笑み……理子の細い指がキンジの体を伝う……

いつも子供みたいなやつだと思っていたが今の理子は……妖艶……背筋が凍るような可愛さだ。

アリアはドキドキさせられる……白雪は暴走しなければ安心する……だが理子にあるのは……背徳感……

触れてはならないのに触れたくなる。触れれば最後……戻れなくなるとわかっているのに触れてしまう。

同時に理子の体から甘いシュガーミルクみたいな香りが来る……今日ほど祖父から遺伝した嗅覚の鋭さを恨んだことはない。

 

「私はオルメスから貰うとも頂戴するとも言っていない……奪うって言っているんだ……キンジ……お前をな…」

 

耳で囁かれ抗う力が勝手に抜けていく。

キンジは困惑するが理子は美しくもどこか恐ろしい笑顔をする。

 

「ほら……キンジは私を求めている……口では何て言っても男だからねキンジは……お母様に聞いていたんだ、男はその気になれば簡単に落とせるって……」

 

そう言うと理子は胸のリボンを弛める。

 

「な!お前なにする気だ!」

 

とっさに正気に戻りが理子は笑って…

 

「イ・イ・コ・ト♡……さあキー君……ここで理子を受け入れる?そうしたらお兄さんの情報あげる。但し断れば……分かるよね?」

「っ!」

 

キンジは自分の体が強ばるのを感じた。

ここは断るべきなのだろう……だがここで押し返せば兄の情報源は無くなる。

どうするべきか…分からない。

悩んでいる間に理子を押していた手の力が緩まる。

 

「さすがキー君……懸命なご判断」

 

理子は服の裾をあげて……

 

「キンジただ…え?」

「遊びに着た…え?」

「……………ほぅ?」

「お邪魔し…あれ?」

 

上から順にアリア、一毅、レキ、ライカが入ってきた…

 

「ふぅん……そう……」

 

アリアはコメカミをビクンビクンさせながら銃に手を掛ける。

 

「人の部屋で何してんのよ!風穴疾走(かざあなドライブ)!!!!」

 

お前の部屋でもないけどな!っというキンジの至極真っ当な突っ込みはアリアの銃声でかき消えた。

 

「うわぁお!」

 

その中理子は飛び上がって素早く躱すとワルサーPPKを抜いて近接拳銃戦(アル=カタ)に持ち込む。

 

「一毅!」

「…あ、おう!」

 

一毅は拳を握ると理子の襟を掴む。

 

「やば!」

「うっらぁ!」

 

ただ投げるのではなく上から下に投げ落とすように投げる。だが、

 

「甘いね」

 

理子は逆さになってるのを利用し一毅のコメカミに蹴りを入れる。

「ぐっ!」

 

そのまま理子は転がって衝撃を逃がすと不適な笑みを浮かべる。

だが、

 

「しゅ!」

「いい!」

 

レキはドラグノフに着けた銃剣で何の迷いもなく理子の顔を突こうとした。

 

「今本気だったよね!?」

「人の彼氏の頭蹴っ飛ばしておいて手加減を期待しないでください」

 

更に、

 

「よくわかんねぇけど敵なのは分かった!」

「っ!」

 

ライカのトンファーが理子を狙い、理子の鳩尾を的確に穿つ。

 

「がっ!」

 

理子が後ろに後ずさると一毅が後ろ首を掴む。

 

「良くも人のコメカミ何ざ蹴りやがって…結構痛かったぞ」

「いや流石に力弱い理子でもコメカミの蹴りは普通命に関わるんだけど…」

「んな蹴り使うんじゃねぇよ!」

 

一毅は理子の腰に手を回すと持ち上げ…

 

「二天一流 喧嘩術!引き起こしの…」

 

そのままジャーマンスープレックスで床に落とす。

 

「ぐぉ…」

 

だがそれで終わらず一毅は回り込みもう一度持ち上げると再度ジャーマンスープレックスで落とした。

 

「極み!!!!」

 

さすがの理子もこれには堪らず意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぅっし要約するぞ?お前は俺たちを殺そうとした奴の色仕掛けに落ちかけた…死刑だな」

「死刑ね」

「死刑ですね」

「遠山先輩最低ですね」

「待て待て待て!違う!」

「キンジ…介錯なら任せな…きっちり殺してやる」

 

一毅は殺神(さつがみ)の鯉口を切る。

 

「だから待てって!落ちてねぇし落ち掛けてもイねぇ!」

「どうかしら…こいつは女と見れば見境ないもの」

「アリア…お前の俺のイメージどうなってんだ…?」

「白雪にキスしたんでしょ?…私にもしたくせに…」

 

キンジはヒィっと飛び上がった。

 

「う…ん…」

 

ついに理子が目覚めた。

 

「んもーカズッチ手加減がないんだから」

「やっと起きたわね理子…あんたにはきっちりママの裁判に出てもらうんだから」

「じゃあこの手錠外して」

「できるわけないでしょ!!!!」

「え~しなきゃ不当逮捕だぞ~」

「何?」

一毅が眉を寄せると理子が手錠を着けたままバックを顎でしゃくる。

 

「…………」

 

一毅はバックを逆さにして中身をぶちまける。

 

「ちょっと!もっと大事に扱ってよ!」

 

理子の抗議を無視して見てみると…

 

「司法取引?」

 

よく分からない書類の束があったが要するに理子が司法取引に応じたと言うのを証明する書類だ。

 

「んふふ~分かった?もう理子は真っ白なのです!」

「ふ、ふざけんじゃないわよ!司法が許したって私が許さないわ!」

 

アリアは理子に飛び掛かりそうだったため一毅が猫みたいに後ろ首をつかんで持ち上げると身長差凡そ40㎝…いや、下手したら50㎝ほどあるため少し持ち上げるだけで空中でジタバタ暴れている。

 

「落ち着け……レキ外してやれ。その代わり理子……変な動きをしたら捕まえるからな」

「はーい」

 

レキは黙って手錠を外すと理子は手をプラプラさせながら立ち上がる。

 

「あー楽になった」

「それで理子さん。わざわざ何しに来たんですか?何の理由もなく来たわけではないんでしょう?」

「まあねぇ~一つはキー君貰いに来たんだ」

「はぁ!?キンジは私のパートナーよ!」

 

また暴れだしそうだったため一毅がアリアを持ち上げつつ……

 

「じゃあ二つ目は?」

「うん、でもねぇライカ要らないや」

「っ!」

「だってライカよわっちぃし~」

「上等だ……さっきよりキツいの入れぐえ!」

「お前も落ち着け」

 

一毅は残った手でライカを捕まえる。

 

「ライカ……確かに今のお前では単独撃破は多分8、9割無理だ。さっきのは不意打ちがうまく決まっただけだし本気の理子はもっと強い」

「【今は】……って言ったね」

「ああ、【今は】……だ」

「ふぅん…まあ良いや」

 

皆の視線が理子に集まる。

 

「ねぇ皆、理子と一緒に泥棒やろ?」

『………………はい?』

 

全員があんぐり口を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいま~!理子りん帰ってきました~!」

『理子りん!理子りん!理子りん!理子理子理子りん!理子りん!理子りん!理子りん!理子理子理子りん!』

 

何故かアイドルよろしく合唱が始まった。何故か理子は次の日普通に武偵高校に帰ってきた。表向きはアメリカまで武偵活動しに……と言うことになっている。

キンジは固まってるしアリアはボールペンをへし折っている。

だが一毅は眠かった。関係なしに眠い……何故なら昨夜はライカに現在巻き込まれてる事件の概要を説明していたためだ。だがそれを聞いてもライカは一人の武偵としても協力したいと言う返答を返してきたため嬉しい反面やはり危険もある……どうするべきか……とりあえず眠ろう……

そうして一毅は眠りの世界に落ちていった……



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龍交渉

秋葉原……昔から電化製品を多く扱う店が多くオタクの聖地とも言われ更に何と言っても武偵には土地柄余り立ち寄りたくはない。その理由の一番は人が多く集まる……そして路地裏の秘密の道が多く犯人の逃走を許すことが多いからだ。

 

まあ一毅自身此処に来たのは初めてではない。沖縄の実家の孤児院の子供が好きなアニメや漫画の限定グッズを欲しがったときにちょくちょく出没しては買っていくからだ。だが一つ文句がある。それは頼むときは一度に!だ。

一日ずらしながら連続して頼んでくるのはマジ勘弁して欲しい……とか言いつつも買いに来てしまうのは甘やかしてるんだろうな……とか思う事も多い。

さてそんな個人的な話をしたって面白くないだろうから話を変えよう。今一毅、キンジ、レキ、アリア、ライカは秋葉原に来ている。

何故なら理子が此処にある店を集合場所兼交渉場所としたからだ。そしてわざわざ関係ない話をしたのかと言うと……まあ所謂……あれだ……

 

「ここ何処ですかねぇ……」

「そうだなぁ……」

 

全員仲良く道に迷いました。と言うか理子の書いた地図が無駄に絵が多いし分かりにくいし字が汚いし……余談だが一毅は勉強方面では馬鹿だが字は達筆で非常に綺麗な字を書く。序でに書道もうまい。更に言うと絵も上手い。水墨画から水彩画、油絵、彫刻から粘土までレキと同じく芸術方面で意外な器用さを披露しており裁縫なども上手にこなす。そういう意味ではやはり先祖譲りなのかもしれない。

とまあ現実逃避をしても全く店に着く気はない……でかい看板があるといっていたがそれも見えない。

 

「多分こっちよ」

 

アリアが突然行ってしまう。

 

「いやいやいや……」

 

多分ほど宛にならないものはない。

 

「止まれアリア……多分で歩いて着くわけないだろ」

「私の勘が言ってるわ……此方に行けば道は開けるって」

「んなわけねぇだろ……」

 

キンジが溜め息を吐くと、

 

「此でしょ?」

 

アリアが指差すもの……それは間違いなく理子が指示した店のでかい看板……

 

『嘘でしょ……』

 

一人音楽を聴いていたレキ以外全員が呟いた。因みに最近オペラを聴いてるらしい……

 

 

 

 

 

 

 

「おっそーい」

 

既に理子はでっかいパフェを喰っていた。そりゃもうモフモフと喰ってやがった……

一毅たちは疲れたため文句言わず椅子に座ろうと入った瞬間……

 

『お帰りなさいませご主人様、お嬢様!』

『え?』

 

何と目の前にはメイドさん達のお出迎え……所謂ここはメイド喫茶という場所らしい……

 

「実家と同じ挨拶だわ……」

「凄すぎるなお前の実家は……」

 

一毅は皮肉気味に言う。少なくとも一毅は生まれて17年になろうとしているがご主人様と呼ばれたのは一度もない。

時々忘れそうになる設定だがアリアは生粋の貴族である。

 

「設定言うな!」

 

突然アリアが叫んだため一毅たちは驚く。

 

「あ……と、とにかく行くわよ!」

 

アリアに続いて席についた。

 

 

「で?どういうことだよ」

「どうって?」

 

キンジはコーヒーを飲みながら聞くと理子は惚ける。

 

「どうもこうもねぇだろ。泥棒ってどういう意味だ」

「言ったまんまだよ。アリアのママの裁判に出廷してあげる。ただその代わりに理子の大泥棒大作戦に協力してほしいの」

「一応参考程度に聞いておくが誰から何を盗むんだよ」

「ママに貰ったロザリオ何だけどさ~」

 

それを聞いたアリアは目をカッ開き立ち上がる。

 

「あんたふざけんじゃないわよ……ママに罪着せといて自分の母親のは取り返すの手伝えですって!?」

「アリア落ち着け」

「キンジは黙ってて!上等よ、無理矢理でも引きずっていってやるわ!!!!」

「アリアは良いよね。ママが生きてて……」

『え?』

 

アリアだけではなくその場の全員が声を漏らした。

 

「私はお父様とお母様が年を召してから出来たんだ……だから理子が八歳になる頃に死んだ……そしたらさ~使用人とかも皆家のあったお宝とか持ってドロンして……一人ぼっちになった……そこにあいつは現れて……」

 

ポトッとテーブルに滴が落ちた。

 

「あいつは知ってるんだ……私にとってあのロザリオはお母様に貰った唯一の形見だってことを……だからあいつは……畜生……」

「理子……」

 

泣いていた……あいつとは誰を指すのか知らないが少なくとも……理子が強い恨みを持っている。

 

「ああもう!泣くんじゃないわよ!」

 

アリアはハンカチを出して理子の顔を拭いてやる。

 

「それで……理子さんからロザリオを奪ったのは何者何ですか?」

「……無限罪・ブラド」

 

その名を聞いた瞬間アリアは驚愕した。

 

「イ・ウーのNo.2じゃない!」

「うん。でもブラドはこれから泥棒する場所には何年も帰ってないよ?」

 

それを聞いたアリアは舌打ちした。

 

「でも良いと思うよ?ブラドは誰も勝てないから」

 

理子ですらここまで言い切らせるブラドとは……

 

「なあどちらにせよイ・ウーってなんなんだ?そろそろ教えてくれてもいいだろ?」

「……やめておいた方がいいわキンジ」

 

アリアは静かに言った。

 

「イ・ウーの事は日本でも第一級の機密事項よ。下手に知れば公安0課や武装検事も動く」

『っ!』

 

キンジ、一毅、ライカは表情を固まらせた。

今出た公安0課と武装検事……どちらも日本が誇る武装職……武偵と違い殺しも許された者達だ。

分かりやすく言うと公安0課は00(ダブルオー)シリーズをモデルにしている警察の人間で武装検事は裁判なんかにもでる……どっちも化け物と言う意味では同じだが仕事内容は結構違う。

だが少なくともキンジと一毅……二人掛かりでも恐らく勝てないだろう。少なくとも自分の父達が所属していた武装検事の強さは身に染みてわかってるつもりだ。

 

「じゃあブラドと言うのは?」

 

レキが聞くと、

 

「イ・ウーの構成員でママに冤罪を掛けた一人……どちらにせよその屋敷にいけば何かしらの証拠がありそうね」

「じゃあやってくれる?」

「ええ、良いわ!やってやろうじゃない」

 

アリアはやる気だが……

 

(この流れ俺たちもやる流れだな)

 

一毅たちは苦笑いする。

 

「それで?どうするの?」

「んふふ~皆はこれから行く屋敷でメイドさんか執事やってもらうの」

『……え?』

 

一毅たちは唖然とした……

 

 

 

 

 

そして次の日……

 

「メイドか~」

「何か嬉しそうですねライカさん……」

「え、まあメイド服可愛いじゃないですか」

「まあそれは否定しないけどな」

 

一毅とライカは学校で荷物を運んでいた。

何故かと言うと今日は健康診断があるらしい……そのため救護科(アンビュラス)から荷物運び要員を要請されて今に至る。だが今回はレキも呼ばれている。レキは病気とは縁が遠いのだが……因みに一毅も風邪なぞ引いた事はない。誰だ今馬鹿だからだろとか言った奴。

 

「まさかレキ先輩デキたんじゃ……」

「何が?」

「子供」

 

一毅はずっこけて階段から落ちた。

 

「あ、アホか!た、確かにそういう行為をしたことは否定しないがちゃんと避妊してたわ!」

「そうですか……やっぱりレキ先輩とはそういうことを……」

「あ……」

 

ライカはシュン……としてしまう。それが何を意味してるかくらいは分かる。

 

(平等に……だったよな)

 

一毅は荷物を奥と階段を上がり、

 

「ライカ」

 

ライカはこっちを見たのを見計らって自分の唇をくっ付けた。

 

『ん……』

 

それから離すとライカの顔が真っ赤になっていく。

 

「安心しろよ。レキもお前もちゃんと好きだからさ……勝ってるも負けてるもねぇ」

「はい……」

 

一毅はポンポンとライカの頭を撫でてやる。

 

「さ、運ぶぞ」

 

すると次の瞬間ガラスが割れる音と共に悲鳴が聞こえた。

 

『っ!』

「ライカ行くぞ!!!!」

「はい!」

 

二人はその声がした教室まで走ると飛び込む。

 

「い、犬?」

 

入った瞬間何故かキンジと武藤がいて二人がレキに襟を引っ張られていた。

そして倒れたロッカーの上には犬……いや、それにしてはでかいから……狼?

 

「コーカサスハクギンオオカミです」

 

一毅の前にいるキンジと武藤の襟を引っ張られていたレキが答える。

 

「がぅ!」

 

オオカミがレキに飛び掛かる。だが、

 

「オラァ!」

 

一毅がレキの前に躍り出ると顔を掴んで止める。

 

「グルルルルルル!!!!」

「うぉおおおおお!!!!」

 

かなり力は強い……まあ四本足なのでこの場合足腰が強いと言うべきかもしれない。だがどちらにせよ凄まじい力で押してくる。少なくとも常人であれば簡単に押し負けただろう。だがあくまで常人の……でありパンチでバスを横転させたり学園島を傾けると言ったことは無理だが《ヒートを使ったらバスくらいならいけるかもしれないが……》これくらいの力に押し負けるような人間では桐生 一毅と言う男ではない。

 

「おおおおぉぉらぁああああ!!!!」

 

腕の筋肉が隆起するとそのままオオカミを薬品棚に叩きつける。

 

「キャイン!!!!」

 

オオカミは少し苦しそうだが戦意は失っていない。

 

「ぎゃう!」

 

オオカミは一毅を飛び越えると……

 

「ぐわ!」

「先生!」

 

確か名前は小夜鳴(さよなき) (とおる)……だったっけ?救護科(アンビュラス)の非常勤講師の先生だ……イケメンで物腰が柔らかくて女子からの人気が非常に高い……ってそんな解説してる場合ではない。レキ助けたらすっかり油断していた。

 

「ウォオオオオオ!!!!ダッシュキック!」

 

だがそこにキンジがオオカミの顎に思い切り蹴り上げを叩き込む。

 

「キャン!」

「オッシャア!!!!」

 

更に追撃技、【ダッシュキックダブル】で胴を蹴って打ち上げると、地面に向け蹴って叩きつける。

 

「ダッシュキック……トリプル!!!!」

 

そしてオオカミがバウンドしたところに一毅が掴むと力を込めてそのまま投げ飛ばす。

 

「がぅ!」

 

だが空中で姿勢を戻すと睨み付けてくる。

 

「流石に頑丈だな……」

「だな……って何でお前はここにいる上にヒスってんだよ」

「……………………」

「後でお話ししようかキンジ君。そうだな……具体的に言うと校舎裏でぶん殴ってやるから(仲良くお話ししようか)

「何か今非常に嫌な副音声が……」

「気のせいだ」

 

それから一毅とキンジはオオカミを見る。

 

「行くぞぉおおおおおお!」

「うぉおおおおおおおお!」

 

二人はオオカミに向かって疾走した……




そう言えば桐生 一馬さんは虎を素手で倒していたっけ……しかも一人で……うん、一毅くんは人間だもの……キンジと二人掛かりでも良いんだよ。

今日中にもう一本上げたいなぁ……


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龍と狼

『ウォオオオオオ!!!!』

 

一毅の拳とキンジの蹴りがオオカミを狙う。

 

「がぅ!」

 

オオカミはそれを躱して跳ぶ。

牙がキンジを狙うが、

 

「っ!」

 

スウェイで後ろに下がって躱す。

 

「ガゥワ!」

 

だが更に追撃してくる。しかし、

 

「カウンターキック!!!!」

 

オオカミの攻撃が当たると思った瞬間にキンジの蹴りが先に決まり吹っ飛んだ。

 

「せぇ……」

 

更に吹っ飛んだ先には一毅が待ち構えており……

 

「の!」

 

オオカミをキャッチするとその吹っ飛んだ勢いを殺さずにジャーマンスープレックスに持ち込み地面に叩きつけた。

 

「ぎゃん!」

「よし!」

 

一毅は一度距離を取る。

 

「グ……ルル……」

 

オオカミは牙を噛み締め立ち上がる。

 

「グルゥア!!!!」

「勝機!!!!」

 

一毅は拳を握る。

 

「二天一流……拳技!」

 

この技はキンジのカウンターキックのモデルでもありその威力……虎をも殴り倒すと言う意味が込められた二天一流 拳技の中でも奥義を除けばトップクラスの破壊力を誇る技……

 

虎落(とらお)とし!!!!!!!!」

 

オオカミの攻撃が当たる紙一重先に決まる一毅の虎落としはキンジのカウンターキックを遥かに凌いでおりオオカミを壁に叩きつけた……

 

 

「……キャイン!!!!」

 

オオカミは窓から逃げる。

 

「逃がすか!」

「一毅!」

 

武藤が鍵を投げてくる。

 

「垣根の向こうにバイクがある!」

「サンキュー武藤!でも後で校舎裏でお話しがある」

「ですよねー」

 

一毅は窓から飛び降りると確かにバイクがあった……明らかに違法改造が施された物ではあるが……

 

(明らかに逃亡用だよな……どこまで逃げる気だよ)

 

すると音もなく着地した気配がある。

 

「私もいきます」

「レキ?」

「ここのところ出番がないですしここでひとつ活躍します」

「………分かった。帰れと言っても帰らないんだろう?」

 

一毅は一個しかないヘルメットをレキに投げると鍵を差し込みエンジンを掛ける。

 

「行くぞレキ!」

「はい」

 

そのままアクセルを捻りオオカミをバイクで追いかける。

 

「どこ行ったんだ?」

「ここから200メートルほど行った建築途中のビルです」

「流石視力6.0だな」

 

因みに一毅は2.0である。

 

「よし……」

 

更にスピードをあげて敷地内にはいる。まだ骨組みだけしか出来てないそのビルに入ると足跡がある。

 

「成程……この先か」

 

一毅が足跡の方向に速度を上げるとオオカミが背後から飛び出してきた。

 

「フェイクかよ!」

「中々頭が良いオオカミですね」

「ちっ!」

 

一毅は思い切り蹴っ飛ばす。だがオオカミはそれを躱して跳ぶと一気に上に上がっていく。

 

「あとは任せてください」

 

レキは立ち上がるとドラグノフ狙撃銃を構え……

 

「ここは暗闇の中……一筋の光の道がある、光の外には何も見えず、何もない私は光の中を駆けるもの」

 

レキは自分に暗示を掛けるように呟くと引き金を引き絞り……パン!っと言う音と共に銃弾が発射……そして外れた。

 

「む?」

 

レキがこの距離を外すと言うのは考えにくい。

まあ一毅はレキから逃げる際に刀で弾いたりして逃げるがそれでも跳弾を利用して100%当ててくる。

そのレキが外す?

 

「行ってください。大丈夫です」

 

レキに言われ上がってみるとオオカミは動けなくなっていた。

 

「ん~?」

 

一毅には意味がわからなかった。

 

「銃弾を頸椎にカスらせて瞬間的に圧迫しました。今は一時的にですが体が麻痺してます」

「すっげぇ……」

 

何と言うチート狙撃……

 

「安心してください。今の狙撃は人間でも不可能ではありませんが危険ですのでやりません」

「やられてたまるか」

 

そんなことをやられたら一歩間違えれば死んでしまう。いや、むろんレキの狙撃能力を信じてないわけではないが首の近くを弾丸が通るとか普通に恐怖体験である。

 

「さて、あと数分もすればまた動けるでしょう。逃げたければ逃げなさい。ですがどこに逃げようと私の矢があなたを撃ち抜きます。もしこっちに来ても一毅さんがあなたを完膚なきまでに打ちのめすでしょう。嫌ならば変えなさい。主を……私に」

 

一瞬静寂が包むがヨロヨロとオオカミはレキの元に行き、スリっと顔をくっ付けた。

 

「大したもんだな」

 

一毅もオオカミの腹を撫でやる。

 

「で?どうすんだよこれ」

「武偵犬と言うことにしましょう」

「いや、流石にこれはどうみてもオオカミだろ……」

「大丈夫でしょう……お手」

 

レキが手を出すとシュタっと前足をレキの手に乗せた。

 

「変わり身早すぎだろ」

 

一毅は頭をガリガリ掻くがまあ良いか……とため息を吐く。

そこで気づいた……

 

「お前服は?」

「急いでいたので着てません」

 

さっきまで慌てていたため気付かなかったがレキは今下着姿であった……

 

「あ、ああ~うん……」

 

一毅はブレザーを着せた。

 

「とりあえず服を着ろ」

「そうですね」

「わん!」

 

バイクを押しつつ二人を一匹は帰路に着いた……

 

 

 

 

その夜、

 

『……………』

 

一毅と顔がガーゼだらけになったキンジはお茶を啜る。ひどく居心地が悪そうだ。何故なら…

 

「うわ~ライカって結構おっぱい大きいんだね~」

「そ、そうですか?」

「れ、レキ……あんたは味方だと思ってたのに……」

「?」

 

と言う会話が隣の部屋から聞こえてくる。

今女性陣達はメイド服の試着中である。

無論一毅とキンジは着替えてある。キンジは目がネクラだが元々の造形はそこそこ整っているので結構似合う。

だが一毅は余り似合わない。いや、何と言うか一毅が着ると黒いスーツではどこかのカジノの用心棒か完全にその筋の人である。そういう意味では凄く似合っていた。

 

「終わったよ~、うわ!ヤクザがいる!」

「やかましい!」

 

理子が皆を連れて出てくる。

 

「じゃあ行くよ~、お帰りなさいませご主人様」

 

理子がお手本。

 

「お帰りなさいませご主人様」

 

無表情に言うレキ……中々味があるなこう言うのも……

 

「お、お帰りなさいませご主人様……」

 

顔を真っ赤にして恥ずかしそうに言うライカ……良いねぇ

 

「お、おかゲフンゲーホゲホ!」

 

論外のアリア……二言目までしか言えてねぇ……

 

「じゃあキー君主ねぇ、何か命令してみて」

「じゃ、じゃあ洗濯頼めるか?」

「アリア~胸で洗っちゃダメ【バン!】」

 

理子の言葉にアリアがぶちギレた。

 

「誰の胸が洗濯板デスッテェエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!」

 

銃弾が乱れ跳ぶ戦場とかした部屋の中でキンジと一毅はため息を吐く。

 

『こんなんで大丈夫かぁ?』

 

二人の呟きは銃声と硝煙の中に消えていった……




次回からついにあの屋敷へ……


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龍と執事

狼襲撃の騒動から早くも一週間……遂に作戦決行と言うかこれから家政婦として潜り込むため皆で屋敷に向かうため待ち合わせをしている。

因みに狼の名前は三人で話し合った結果【タロベエ】や【ごんべぇ】……狼なのに【タイガー】、果てや【権右衛門】等多数出たが最終的に【ハイマキ】となった。と言うかその名を聞いた瞬間ハイマキがその名にしてくれと言わんばかりに吠えたためだ。

 

「しっかし理子の奴遅いわね」

 

アリアが呟く。

 

「そうだな……何かあったのか?」

 

キンジも映画情報サイトを携帯で見ていたが携帯をしまいながら周りを見る。すると、

 

「ゴメンねぇ~遅れちゃった~」

 

全員が理子を見た瞬間息を飲んだ……だがその反応は二つに別れた。

アリア、レキ、ライカはその美しさに……キンジと一毅は……見たことあるその顔に……

 

『カナ……』

『え?』

 

一毅とキンジ二人の呟きにアリア達は疑問の声を漏らした。

 

「何で……」

「だって理子の顔ブラドに割れてるしさぁ~そのための変装」

「ふざけんなよ……何でよりによってその顔なんだよ!!!!!」

「だって理子が知るなかで一番美人だもん。カナわね」

「~っ!行くぞ!」

 

キンジは苛立ちながら先に行く。

 

「カズッチも驚いた?」

「まぁな……」

 

一毅も頭を掻きながら歩き出す。

 

「なんの顔なの?なんかキンジと一毅驚いてたけど」

「ひ~み~つ~♪」

 

理子達もそれに続いて歩き出した。

 

 

 

 

 

歩いて三十分の道のりを越えると見えてきた……屋敷だ。かなり立派だが何と言うか……カラスとか鳴いてるし全体的に暗いし……お化けとかゾンビとか出てきそう……ゾンビ?そう言えばバイ●ハザー●でもク●スとかこんな屋敷の中を探索していた。ゾンビはほんとに出てこないと思うがやはり少し薄気味悪い。

アリアに至っては完全にビビってるし……

 

「ここが玄関だねぇ~♪」

 

理子がチャイムを押す。こう言う反応を見てると恐怖とか無いんじゃないだろうかと思ってしまう。

 

「はい」

「家政婦商会から来まし……え?」

『げっ……』

 

中から出てきたのはあの武偵高校の教師……小夜鳴であった……

 

 

 

 

 

後で聞いてみれば知り合いの頼みで研究の傍ら管理人をしているらしい。

だがよりによって嫌な相手だ……女子生徒に手を出してるとか言う噂もあるしな……レキとライカ近づけないようにしておこう。アリアは……キンジがどうにか守るだろう。と言うかアリアはどうも理子が変装していた人物が気になるらしい。勘でキンジに親い人物だと見抜いたらしい。嫉妬だね。

さて、とりあえずキンジと一毅は執事服に着替える。

 

「お前似合わねぇな~ヤクザか用心棒だぜ。ここじゃなくてカジノとかそっちの方に行った方がいいんじゃないか?」

「お前似合うねぇ~さすが普段からパシられてるだけはある。パシり根性の塊だな」

『フッフッフッフ……』

 

等とじゃれあってからアリアたちの方にいく。

 

「おーい、入るぞ」

「…………誰もでねぇな」

「可笑しいな」

 

キンジが開けるとアリアは巨大な鏡の前でポーズを決めていた。

傍目から見てもかなり可愛い。まあアリアはイギリスのファッション雑誌のモデルになった事があるらしいし流石と言ったところである。

それにキンジもそれを見た瞬間顔を赤くしてドキマギしている。

 

「そういう趣味あったわけ?」

「いや、そう言うのはない筈なんだが……」

 

キンジは頭を掻いた。

 

「意外とこう言うのもいいわね」

「ええ、アリアさんも良く似合ってますよ」

「流石貴族ですねぇ」

「そう?二人も凄く似合ってるわよ?」

「そうですか?どう思います?一毅さん、キンジさん」

「え?」

 

アリアはドアの方をみてキンジを捕捉すると一瞬固まり……にっこり笑う。

だが残念ながら死神が親指で首を搔っ切る動きがアリアの背後で見えた……

そのままアリアはズカズカこっちに来る。一毅は既に安全圏に移動済みだ。

 

「ふん!」

 

アリアはキンジの正面から肩車するように乗ると股でキンジの首を絞めながら……

 

「何かご用でしょうか?ご主人様」

 

何だ言えるじゃねぇか……

 

「い、いや……特に用事はないんだが……殺さないでくれると嬉しいんだが……」

「ウルァ!」

 

アリアは美少女にあるまじき声を出してキンジを股で挟んだまま後ろに倒れるとキンジに頭を床に叩き付けた。

 

「ごほ……」

「次覗いたら風穴ぶち開けるわよ!!!!!」

 

アリアは叫んだ。

 

「まあキンジさん達は置いといて、どうです?」

「へ、変じゃないですよね?」

「ん?ああ、凄く可愛いよ」

「ふふ……」

「へへ……」

 

レキとライカの二人は照れくさそうに一毅の体に寄り添った。

 

 

 

 

 

 

さて、仕事の内容だが基本的に掃除、洗濯及び食事の準備と然程特別なものはない。まあ少し変わった所と言えば食事は串焼き肉であること、そして食材にはニンニクを使わないこと……と言ったくらいの物である。栄養バランス大丈夫なのだろうか……

因みにその間も侵入場所の調査をしてはいたがとんでもないところだった。

重量センサー(乗ったりすると警報がなる奴だ)に赤外線センサー……ちゃんとした入り方をしようとすれば暗証番号にカードキーだけにとどまらず指紋、声紋、顔認証に、目もセンサーに通さなくては行けず、極めつけは耳紋(耳も人によって形が違うのだ)も通さなくてはいけない。

明らかに防備固すぎる。あのロザリオがどれだけ重要なのかが分かるがマジでこれは酷い。盗めるのだろうか……

だが理子曰く、

 

「楽勝楽勝~」

 

と言っていたためそれを信じ一毅達は仕事に励んだ。

そして仕事についた二日目……キンジはレオポン使って雷が嫌いなアリアの気を逸らしてるのを傍目で見ながら一毅とレキとライカはビリヤードをやっていた。

結構一毅はこう言ったゲームには強いのだが相手の一人はレキである。

何と言っても正確無比なショットは一発で全部の球を落とす……ナインボール(盤上に置いた1~9のボールを順番に落としていくゲーム)しても一撃で全部落とされるし勝負にならない。だが、

 

「また私の勝ちですねライカさん」

「ぐぅ……」

 

今度一毅と一緒にお出掛け権を賭け二人は勝負していた。勝率はレキ十割、ライカはゼロである。勝負になってない。少しは手加減してやれよ。

 

「現実の厳しさを教えるのも先輩である私の仕事です」

「ズバリ本音は?」

「一毅さん独り占めしたい」

「大人気ねぇ上に平等にって言ったの君だよねレキさん!」

 

そんな事を言い合いながらその日の夜は深くなっていった……

 

 

 

 

 

 

それから更に一週間後……遂に作戦の決行日になる。

アリアが小夜鳴を庭の薔薇が見たいとかで呼び出しレキとライカは中から監視して動きを逐一報告、キンジと一毅は盗むため天井裏に忍び込む。理子は総指揮官だ。

しかし天井裏は面白いほど警戒されてなく逆に嫌な予感がしたが一毅は不安を振り払いつつキンジの補佐をする。

今回の作戦は天井からコウモリのようにぶら下がりレール作ってそこを釣糸通して釣り上げて偽物とすり替えると言うものだ。実行はキンジがやる。

一毅では天井からぶら下がることはできるが体格が大きいため赤外線センサーに引っ掛かる可能性があるし何より細かい作業に向かない。

 

「こちらモグラはコウモリになった」

【了解……じゃあ最初は……】

 

理子が指示を出してキンジはその指示通りに組み立てていく。

だが、

 

【監視班のレキです。雨が降ってきました】

【アリアよ……小夜鳴先生が戻ろうとし始めたわ】

【うーん……アリア胸………は無理だしお尻でも触らせて時間稼いで】

【は、はぁ!?馬鹿言ってんじゃないわよ!】

【うーん】

「不味いんじゃねぇか?」

「ああ、この状況じゃ言い訳も出来ないぞ」

 

キンジは慌て始めたがこのままでは……

 

「ん?」

 

すると通信が切られた。どうしたんだ?

するとキンジが突然ヒステリアモードになり凄まじい速度で回収と偽物の設置を済ませ一瞬で天井裏に戻ってきた。

 

「理子め……後でお仕置きだな」

「何があったんだよ」

 

一毅のジト目をキンジは視線を逸らして躱した。

 

 

 

 

 

 

 

その後、とあるビルの屋上に来た。

理子とここで待ち合わせである。

 

「お待たせ~」

 

理子が遅れて登場した。

 

「これだろ?」

「うわぁ!」

 

理子はキンジから受け取ると嬉しさのあまり踊り出した。

 

「ちゃ、ちゃんとママの裁判出てもらうからね?」

 

アリアは理子の奇行に若干引いていた。

 

「まあ、これにて一件落着ですかね」

 

ライカが言うと一毅とレキも頷く。

 

「あ、キー君。このリボン取って~」

「ん?ああ……」

 

キンジが手を伸ばして解いた瞬間……

 

「【チュッ!】……っ!?」

 

その場のレキ以外全員が目を限界まで開いた。レキも若干驚いたように表情を変えている。

 

「な、な、何しとんじゃぁあああああああ!!!!!」

 

一番アリアが復活が早かった。

だがアリアの一撃を理子は軽く躱し、

 

「理子にとってはロザリオの回収が一番大切だからね。これさえ貰えば後は用無しだよ」

「はん……利用したってことか」

 

すると理子は笑いながら銃を抜く。

 

「そう言うこと、忘れたの?理子は泥棒だよ」

「全く……仕方ないね……でも許すよ。女の嘘は嘘にならないからね」

「?」

 

この場で唯一ヒステリアキンジ始めてみるライカはキンジの変化に首をかしげた。

でも慣れた方がいいぞライカ……多分これからも何度も成るから。

 

「上等だわ。あんた気に入らなかったのよ。無理矢理裁判に連れ出してやるわ」

「はは、私も嫌いだったよ。オルメス……あんた倒してやるよ」

「最後に一つ聞いていいか?」

 

一毅に視線が集まる。

 

「そこまでしてなんでアリアを倒すことに拘る」

「……カズッチってさ~繁殖犬って知ってる?」

「なに?」

 

一毅は首をかしげた。

 

「悪質なブリーダーとかが高く売れる犬とか繁殖するためにろくに食べ物与えないとかって奴だよ」

「それがなんの話に……」

「私がそうだった」

『え?』

 

全員が驚愕した。

 

「昔ブラドに理子は監禁されてた。泥水とカビの生えたパンでも貰えればラッキーで食えない日もあった。私はあそこでは……リュパン5世を生む機械だった」

『っ!』

「でも私はこのロザリオの力で脱出できた!イ・ウーでまたブラドに捕まったときはもう駄目かと思ったけど実力をつけた私にあいつは言った……もし初代リュパンを越えられたら解放するってね……そのために四世……あんたを倒す。初代リュパンがなし得なかったホームズを倒す!!!!!」

 

理子の髪が意思をもって動き出す。

 

「お前達は私の踏み台に【バチっ!】……え?」

 

急に理子の体に電撃が走り体が崩れた。

 

「お、まえは……」

「相変わらずダメダメですねぇ……四世ぇ……」

「お前は……」

 

一毅たちの驚きをよそに理子の背後に立った男は笑う。

 

『小夜鳴……』

 

遠くに雷の音が聞こえた……



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龍と吸血鬼 前半戦

「何であんたが……」

 

第一声はキンジだった……

 

「逃げ出した犬を連れ戻しに来ただけですよ」

「なに?」

 

この場合理子の事を指してるのは幾ら馬鹿である一毅でもすぐに分かった。

 

「そう言えば四世……貴方にはこの姿を見せてませんでしたね」

「まさか……ブラド!」

『っ!』

 

全員が小夜鳴を見る。

 

「ふふ、違いますよ。私と彼はとても近しく……それでいて別人であり一心同体なのです」

 

小夜鳴は一毅たちを見る。

 

「彼はもうすぐ来ます。それまで少し講義と行きましょう」

 

小夜鳴は理子の首を踏みながら話を続ける。

 

「強さは遺伝する。そして遺伝とは遺伝子の情報による能力の発露……才能や能力は如何にこの遺伝を引き継げるかに懸かっています。逆に言えば引き継げなければどんな親を持っていようとも唯のゴミです」

「何だと?」

 

一毅が眉を寄せた。

 

「言わばその者がどれだけ強くなれるかは決まっているのですよ……既に生まれたときから遺伝子でね。ですが彼女ときたらあれだけ有能な親から生まれながら……」

「やめろ……言うなぁあああああ!」

 

理子は叫ぶ。だが、

 

「有能な遺伝子を受け継いでいない。これっぽっちもね。故に無能……まさに落ちこぼれの大泥棒ですよ!初代のように一人で盗めず……父のようにチームを率いるリーダーシップもない!まさにゴミ以下の人間です」

「てんめぇ……」

 

一毅の額に青筋が走る。さっきから聞いていればゴチャゴチャ腹が立つことばかり言いやがる。

 

「ならなぜそうまでして理子を付け狙う」

「決まってんだろ……こいつからコレから良い五世を産んでくれるかもしれません」

「だがそんなやり方で理子が死んだら!」

「ふふ、彼を呼ぶためですよ」

「ブラドを?」

 

意味がわからなかった。理子をいたぶる事が何故ブラドを呼ぶことに繋がるのか……

 

「彼を呼ぶには強い興奮が必要なんですよ……ですが永い時を生きる中であらゆる興奮に慣れてしまい強い興奮を得られなくなりました……ですが……」

 

小夜鳴の雰囲気が変わっていく……

 

『っ!』

 

一毅とキンジはコレを知っている。

 

「ヒステリアモード……」

「そう、それに変革を与えてくれたのが遠山 金一武偵の血……ヒステリア サヴァン シンドローム……この血が私に新たな力を与えた」

「血だと?」

「ええ、私は血を摂取することでその物の力をコピーできるのですよ」

「はっ!吸血鬼かよ」

 

ライカが馬鹿にする。

 

「ええそうなんですよ」

『え?』

 

全員が唖然とした。

 

「私はルーマニア出身の純正吸血鬼です」

「おいおい」

 

キンジは冷や汗を流した。ルパンの子孫にジャンヌ・ダルクの子孫と来て今度は吸血鬼と来た。

 

「さぁ……来ましたよ……彼が……」

『っ!』

小夜鳴の体が毛むくじゃらになり肥大化していき更に牙が生える。

 

「はじめまして……だな」

『なっ……』

 

一毅たちは絶句した……

身長は軽く二メートルは超え……鋭い牙……爪……肩幅等から考えても腕力も高いだろう……

 

「よう四世……お前には人間に擬態してる時の姿を見せてなかったなぁ」

「や、約束が違う……オルメスに勝てば自由にすると言う約束が……まだ戦って……負けてない!」

「くく……お前は犬とした約束を守ると思っていたのか?」

 

小夜鳴……否、ブラドは理子の頭を掴むと持ち上げる。幾ら理子が小柄で軽い筈だとしても頭をもって持ち上げるなどどんな握力と腕力をしているのだろうか……

 

「しっかり目に焼き付けとけよ?お前が人生で見る最後の夜景なん……」

『うっらぁ!!!!!』

「ごば!」

 

ブラドの言葉は途中で断ち切られた……一毅の拳とキンジの蹴りがブラドの巨体をぶっ飛ばしたのだ……

 

「え?」

 

理子をキンジは優しく抱き止める。

 

「わりぃ……もう我慢の限界だ」

 

一毅は指をボキボキならしながらも体からは純白のオーラ(ホワイトヒート)蒼いオーラ(ブルーヒート)の中間位の色のオーラが溢れ出ている。

 

「さっきから聞いてれば胸くそわりぃ……まさに怒髪天を突くって奴だぜ」

「凄いな。一毅が諺を間違っていない」

「喧嘩売ってんのか?」

「冗談だよ」

 

それからキンジは理子に優しく微笑みかける。

 

「辛かったね……でも、もう大丈夫だよ」

「何で……私はキンジたちを騙して……」

「言っただろう?女の嘘は嘘に入らない。女性の嘘はその女性を彩るアクセサリーみたいなものだよ」

「っ!」

 

理子の頬が朱色に染まる。

 

「さあ、言ってごらん。君の言葉を……本当に君が言いたい言葉を……皆に伝えるんだ……」

「良いの?」

「ああ」

「キー君……カズッチ……レキュ……ライライ……アリア……助けて……」

 

涙声で声量は小さい……更にさっきから遠雷が聞こえるし雨も降ってきた……決して聞こえやすかったわけではない……だが、心に響いた。

 

『任せ(ろ)(なさい)(てくだい)!!!!!』

 

一毅は殺神(さつがみ)神流し(かみがなし)を抜き、キンジは理子を下ろすとベレッタとナイフ、アリアはガバメント二挺にレキはドラグノフを構えライカはトンファーをだす。

 

「虫けらがぁあああああ!!!!!」

 

ブラドは避雷針を引き抜く。

 

「串刺しにしてやるぜ」

「やってみな!」

 

一毅が疾走する。

 

「うらぁ!」

 

殺神(さつがみ)を一閃……

ザン!っとブラドの肩から反対の脇に掛けて傷が走る。

 

「なっ!」

 

だがそれは瞬時に治癒した。

 

「言っとくけどなぁ……俺は不死身だ!絶対死なねぇ!!!!!」

 

ブラドが避雷針を横に振る。

 

「くっ!」

 

ヒートで強化した身体能力で伏せて躱すがゴウッ!!と凄まじい音がした。当たったらただじゃすまないだろう。

 

「おら!」

 

足を斬る……だがそこも瞬時に回復した。

 

「効かねぇよ!!」

「っ!」

 

振り下ろしを一毅は刀を交差させて防ぐ……

 

「ぐぉ……」

「くくく。人間じゃその程度だよなぁ!!!!!」

「舐めんな!!!!!」

 

そこにライカのトンファーがブラドの鳩尾を突く。

 

「がっ!…………何てなぁ!!!!!」

「ぐぅ!」

 

ライカの首をへし折らんばかりにブラドは握る。

 

「甘いです」

 

レキの銃剣がブラドの腕を刺す。

 

「ぐぉ……」

 

腕の腱を寸分違わず貫いたらしく力が入らなくなりライカを落とす。

 

「ごほ!」

 

ライカは咽せながら距離を取る。

 

「大丈夫ですか?」

 

レキはライカに肩を貸しながら腱を刺し貫いたと言うのに全く痛がらない上にすぐに治ってしまうブラドを見て眉を寄せた。

腱は普通斬られたりすれば耐え難い苦痛があるはず……なのに変わらずと言うことは痛覚が鈍いか……いや、それでもやはり痛がらないのは可笑しいだろう。と言うことは……

 

「痛覚が無いようですね……」

「ああ、ついでに言っておくが俺は遺伝子をコピーし、塗り替えていくことで今や太陽光で灰になることはなく、ニンニクを食っても死なず……聖水でシャワー浴びることもできるしその気になれば十字架に面と向かってお祈りもできるぜ」

「面倒ですね……なら」

 

レキはライカと共に横に跳ぶ。。

 

「これなら……」

「どうよ!」

 

ベレッタとガバメント二挺の一斉放射……

 

「…………ふん!」

 

無数の弾がブラドの体に入る……だがそれを筋肉で押し出すとそのまま治癒してしまった。

 

「いやいや……痛覚ねぇわ直ぐ回復しちまうわ面倒だな……」

 

だが一毅はそう言いつつも避雷針に込められた力が抜けた瞬間に押し返し弾き返すと、

 

「二天一流 必殺剣!二刀陰陽斬!!!!!」

 

瞬時につけられる2連斬……無論回復してしまうが今つけたのは脊髄……ブラドは立てなくなり膝をつく。

 

「くぉ……」

「ウォオオオオッシャアアアアア!!!」

 

キンジは駆け出すとブラドの鼻に膝蹴りを叩き込む。

更に、

 

「喰らえ!」

 

キンジは空中バック転の構えになる。

痛みがなく傷が回復する……だがその回復する回数にも限界はあると考えたのだ。そして一気に削るならキンジのエアストライクが一番良い。

「エアストライク!!!!!」

 

深紅のオーラを顕現させブラドの顎に渾身の打ち上げ蹴りを叩き込む……だが、

 

「あ?」

「なっ!」

 

地面からホンの数ミリ浮いただけで空中に跳ぶことはなかった……

 

(エアストライクが……出来ない!?)

 

理子にもジャンヌ戦でも決め手となってきたエアストライク……だがブラドがでかくて重すぎる故に打ち上がらなかった。

 

「くそ!」

「ちっ……めんどくせぇ!【ワラキアの魔笛】に酔いな!!!!!」

 

ブラドが空気を吸い込み胸が異常なほど肥大化する……そして、

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

大気が震えるほどの声……咄嗟に皆が耳を抑える。

 

「っ!」

 

キンジと一毅は声が止まった後驚愕した……

一毅は体から出ていたヒートが消え、キンジはヒステリアモードが解けていた……今の二人は唯の人間だ。

 

「キンジ!!!!!」

「っ!」

 

一毅の声でキンジは正気に戻るが遅い。

 

「死ね」

 

ブラドはキンジの首を掴むとビルから投げ落とした。

 

「キー君!!!!!」

 

理子がそれを追う。だがそれを気にしてる暇はない。

 

「うら!」

 

ブラドの避雷針の横凪ぎが一毅を襲う。

 

「くっ!」

 

咄嗟に刀で防ぐがヒート状態ならまだしも今は何の補助もない。

一毅は肋骨が折れるのを感じながら吹っ飛び壁に叩きつけられた。

 

「が……っはぁ!」

 

口から鉄の味がする赤い液体……血が塊となって吐き出された。

 

(くそ……)

 

「ハハハハハハハ!!!!!脆いなぁ人間はぁ!!!!!」

「……が…う……」

 

一毅はヒューヒュー呼吸しながら刀を握る。

 

「この!」

 

肩に突き刺す……だが効果などあるはずもなく一毅はそのまま地面に叩きつけられた。

 

「が!」

「丁度良い……」

 

ブラドは肩に刺さった殺神(さつがみ)を抜く……

 

「自分の刀で……」

「こっちだ!」

「あ?」

 

ブラドは声の方を見る。そこには下着姿の理子がキンジを股で挟んで上がってきていた。そして、

 

「アリア!レキ!模様を撃て!!!!!」

『っ!』

 

アリアとレキは弾かれたように銃を構え……撃つ!

だが、

 

「【ピカ!】っ!」

 

雷にビビったアリアは銃弾を外す。

 

(いや……まだだ!)

 

キンジはベレッタの銃口をブラドではなく、アリアの撃った銃弾に向け……撃つ。

 

銃弾撃ち(ビリヤード)……」

 

キンジの撃った銃弾がアリアの撃った銃弾を弾きブラドの模様を撃つ。

 

「ブラド!!!!!」

「っ!四世!!!!!」

 

次の瞬間ブラドの口に理子が銃弾を撃ち込む。

 

「ごあ……」

「お前の不死身の力は魔臓に支えられてる……そして魔臓はその模様の場所にある。魔臓は一個でも逃せば直ぐ治るけど四個同時に壊せばもう戻らない」

「ウォオオオオ!!!!!」

 

そこにライカが駆け込む。

 

「そしてお前は痛覚も戻った筈だ」

 

理子の言葉はブラドには届かなかった。

 

「喰らえ!」

 

腰を落とし、全体重を一撃に乗せる二天一流の拳技……一毅もよく使う技、煉獄掌……それをトンファーで行うライカの改造版煉獄掌がブラドの眉間を穿った。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……おせぇよ」

「悪かったよ」

 

キンジは肋骨が折れて呼吸も苦しそうな一毅の肩を貸しつつ立ち上がる。

 

「まあ、何とかなったわね」

 

アリアが言うとレキやライカも頷く。

 

「勝ったんだ……」

 

理子は今だ信じれないといった顔だ。

 

「全く……夢じゃないよ」

 

キンジは理子を優しく撫でてやる。

 

「とりあえず病院だな俺は……だんだん気が遠くなってきた」

「ヤバイじゃないですか!」

 

ライカに言われて一毅は笑う。すると影が射した……

 

『え?』

 

全員が振り替えるとブラドが立ち上がっていた。

 

「伏せ……」

 

ろ……という前に一毅はキンジに突き飛ばされる……次の瞬間避雷針が振るわれ突き飛ばされてギリギリ間合いから外れた一毅以外吹っ飛ばされた。

 

『が!』

「くは……ハハハハハハハ!!!!!こいつはすげぇ……力が沸いてくるぞ!」

「馬鹿な……」

 

一毅が声を漏らす……

ブラドが持つ雰囲気はヒステリアモードだ……だがキンジや一毅が知るヒステリアモードを遥かに上回っている。

それに何故動けるのだ……魔臓は全て撃ち抜いた……少なくとも銃弾が四発も体に撃ち込まれている……更にライカの一撃が眉間に完全に決まっていた……

ダメージや傷を考えたって普通は立てる筈はない。頼みの綱のはずの回復も無い。傷がそのままなのが何よりの証拠だ……何が起きている……

 

(死に掛けても可笑しくない筈なのに……ブラドに何が起きている!)

 

一毅は困惑していた……




後半戦に続く……


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龍と吸血鬼 後半戦

ブラドとに戦いに決着……


(くそ!何が起こってやがる!)

 

一毅痛む肋骨を抑えながら地面に座ったまま体を引きずって距離を取る。

既に立つ体力も残っていない。

 

「すげぇ……すげぇぞこりゃあ!」

 

ブラドは歓喜の声をあげる。

だが幾らなんでもどういう事なのか分からない。ブラドに何が力を与えたのか……全く分からない。

 

「くそ……」

 

キンジが呻いた。

他の皆も動く……良かった生きてるようだ。

 

「何だ……生きてたか……」

 

ブラドは避雷針を片手にキンジ達の方に向かう。

 

「っ!辞めろ!!!!!」

 

一毅が叫ぶがブラドは一毅を見ると……

 

「後でお前も殺してやるから安心しな」

「っ!」

 

一毅は一瞬体を強張らせると殺神(さつがみ)を地面に突き刺し立ち上がる。

させるわけにいかない。親友のキンジを……そのパートナーのアリアも……敵である理子も……大切なレキとライカを……殺させるわけにいかない。

 

「ウォオオオオオオオ!!!!」

 

肋骨が痛み……軋みをあげるが関係なかった。だが、

 

「邪魔だよ」

 

回し蹴り……それ以上でもそれ以下でもない。単純且つただの蹴りだ……だが次の瞬間ベキィ!!っと言って一毅の左足がへし折られた。

 

「ア゛ガ!」

 

あまりの痛みに一毅は地面に転がる。

 

「う……ぐぅ!はっ!」

 

歯を食い縛り耐えるが、

 

「ふん!」

「っ!ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

 

ブラドに折られた足を踏まれ一毅は声をあげた。

 

「人間風情が……下等な生物が俺様に喧嘩を売るからこう言う目に遭うんだよ!分かったか!?ええ?」

「か…は……」

 

一毅は意識が遠くなっていくのを感じた。体が震え……自分でも体が冷えていくのを感じる……死ぬのかもしれない。

 

「おらよ!」

 

一毅をブラドは蹴っ飛ばす。

 

「が!」

 

一毅は地面に2、3回バウンドしそのまま止まる。

 

「ちょうど良い……そのまま殺してやるよ!!!!!」

 

ブラドがこっちに来る……が、

 

「シャア!」

 

キンジがブラドに飛び掛かり歩を止めさせるが、

 

「あめぇよ!!!!!」

 

ブラドに簡単に外され、

 

「おら!」

「ごっ!」

 

キンジの腹にブラドの拳が沈む。

 

「ごぼ……」

 

キンジが吐血した。内臓が傷ついたかもしれない。

 

「キンジ!……こんのぉおおおお!!!!!」

 

アリアが疾走……銃を乱射しようと銃を構えたがそれより前に避雷針を投げつけ怯ませるとブラドはアリアを掴み……

 

「ふん!」

「が!」

 

壁に叩きつけて意識を刈り取った。

 

「やめろ……」

 

一毅は呻くが届かない。

ドクン!っと心臓が跳ねた気がした……

 

「ブラド!」

 

理子が髪でナイフを取ると動かしブラドを狙う。だが、

 

「おせぇ!」

 

逆に髪を捕まれ理子を空に放りあげた。

 

「しまっ!」

 

理子は慌てるが遅い……

 

「らぁ!」

 

ラリアット……プロレスなどで見られる腕を振って相手に打撃を加える技だ……ブラドのパワーでそれの直撃を理子は喰らい血を吐きながら吹っ飛んだ。

 

「くそ……」

 

一毅は拳を握る……このままでは皆やられる。だが自分ではどうすることもできない。この折れた足とさっき蹴られて更に折れた肋骨……意識すら遠くなってきた今の状況ではなにもできない。

 

「ウォオオオオオオオ!!!!!」

 

ライカが特攻……それをレキが援護するが、

 

「しっ!」

「何だ?その蚊の止まったような攻撃は」

 

先程の不意打ちのダメージがあるため確かにライカの一撃に速さがない。そのため簡単に掴まれライカをレキに投げる。

 

「くっ!」

 

レキはライカをキャッチする。だがその隙が命取りとなり……

 

「っ!」

「死ね」

 

レキとライカの二人をブラドは力任せに地面に叩き付けた。

 

『がっ!』

 

ドロリと血が地面に流れ出る。

 

「っ!」

 

一毅は自分の血が凍ったような感覚に陥った。

だが同時に体の芯の部分が熱くなって頭の方でプチンと何かが切れたような気がした……自意識が……沈んでいく……

 

「や……めろ……」

 

一毅の体からブルーヒートが現れる。

 

(殺して……やる……)

 

「あ?」

 

ブラドは一毅の方を見た。

足の骨はへし折ったし肋骨も折れてる筈だ。なのに一毅は立つ。

 

「なんだ?お前」

 

ブラドは怪訝な目で見た。

 

「ぶっ殺してやるよ」

 

一毅はそう言うと次の瞬間ブルーヒートが霧散した。

 

「え?」

 

キンジは驚く。ブルーヒートを解除するなど死ぬ気かと思ったからだ。ただでさえ動くことすらままならないのに何をする気か?

他の面々もキンジと同感だった。だが……次の瞬間その意識は消えた。

 

【ミキ……】

 

と音がした。

最初は何処からか分からなかった段々気付く……

 

【メキミキ……ゴキ!】

「オォオオオオ……」

 

皆は一毅を見た……この音……一毅から鳴っている。

 

 

【メキミキゴリゴキバキ!】

「はぁ!うぐ!」

 

一毅は暫し痛みに耐えるとブラドを見た。

 

「治ったぜ……」

『え?』

 

全員が唖然としたが一毅は無視して左足でケンケンする。確かに……治っている。

一毅が行ったのは二天一流 修羅の気位(しゅらのきい)……瀕死の状態でのみ行える起死回生の技である。

だが一毅はこの技を父から習っていない。理由は後々説明するがあくまでこれはその場凌ぎの面もある。だが何故か一毅は使えた……とっさに頭に掠め、無意識に使っていた。

だが足と肋骨は治したがあくまで動ける程度でしかなく本来なら入院した方がいい。更にこれを使うと一時的にホワイトヒートとブルーヒートが使えなくなる。だが今の一毅には関係なかった。

今の一毅は戦えればいい……そしてブルーヒートとホワイトヒートが使えずとも……一毅には三番目のヒートが現れていた。キンジも幾度となく使ったヒート……レッドヒート……一毅流に言うなら、

 

「二天一流 絶技……怒龍の気位」

 

一毅の全身から深紅のオーラが溢れ出す。

 

「お前は俺が殺す……」

 

一毅は二刀流の構えを取る。

 

「上等だ」

ブラドも避雷針を構えた。

 

「いくぞブラドおおおおおおお!!!!!」

「グゥウウラアアアアアアアア!!!!!」

 

二人は疾走した。

 

 

 

 

 

 

「オラァ!」

 

一毅の殺神(さつがみ)とブラドの避雷針が火花を散らしてぶつかる。

 

「なっ!」

 

ブラドは驚愕した。

何故なら自分の力と拮抗しているからだ。完全に互角……押し合い……押し返し合い……完全に互角の押し合いは一毅が早く動いた。

 

「らぁ!」

 

神流し(かみながし)の切り上げをブラドは躱すが更に殺神(さつがみ)を横に凪ぎ脇腹に切り傷をいれた。

 

「ぐぉ……」

 

咄嗟の痛みに避雷針をブラドは手放す……だが一毅は止めず

 

「二天一流 必殺剣!」

 

ブラドを打ち上げた……キンジと違い腕力も高い一毅でなければ無理な話ではあったが……

 

「おろち渦!!!!!」

 

地面に落ちないように連斬を決めて吹っ飛ばした。

 

「がは!」

 

だがブラドは笑う。

避雷針が一毅の頭上目掛けて降ってきたのだ。

しかも一毅は気付いていない。完全に死角だしブラドに意識がある。

キンジたちも気づいたが遅かった……はずだった。

 

「ふん!」

 

一毅は見もせずにスウェイで躱した……

 

「え?」

ブラドは今の出来事が信じられず間抜けな声を漏らした。

 

「……ああ、避雷針が降ってきたのか……」

 

一毅は今気付いたようだがさして興味もなさそうな顔をしてからブラドを再度見た。

 

「いくぞ……」

「ひっ!」

『っ!』

 

ブラドは一毅の闘気に当てられて後ずさる。

キンジたちですら背中は寒くなった……雨が降り……髪が張り付きながらもその眼光に陰りはない。

そしてその瞳に映るのは圧倒的な殺意……そして怒気……

キンジですらここまでキレた一毅を見るのは一年前レキが撃たれた時以来であった。

 

「…………」

 

その中ゆっくりと一毅は歩を進める。

 

「く、くるな!」

 

ブラドが今度は尻を地面に着けたまま後ずさる。

ブラドの目には一毅の背後に龍が居るように見えていた。

 

「二天……」

 

一毅は二刀を仕舞い殺神(さつがみ)の鯉口を切る。

 

「一流……」

 

一毅は身を低くすると一気にブラドとの距離を詰める。

この技は二天一流の絶技シリーズのうち秘剣に属する技……

怒龍の気位で超強化された身体能力からの疾走から繋げる剣撃……

 

「く、くそ!」

 

ブラドは走ってきた一毅に対抗するため地面を殴りコンクリートを幾つか手に取り取ると力の限り一度に全て投げた。

ブラドの渾身の投擲は一粒一粒が弾丸のような速度と鋭さで一毅に弾幕を張るように襲いかかる。

 

「甘い!」

 

だが一毅は頭がピリッとしたかと思うとその弾幕を全て回避した。

 

『な!』

 

傍観していたキンジたちも含め驚愕する。

それにしても頭がピリッとした時の一毅は無意識に回避している。どういう事なのか分からないが今はどうでもいいことだ。

これで決める。

 

「絶刀!!龍牙一閃(りゅうがいっせん)!!!!!!!!!!」

 

殺神(さつがみ)の横一文字……更に唐竹割り、切り上げとブラドに次々と必殺の居合いを叩き込んだ。その間およそ3秒……叩き込んだ剣筋は何と14ヵ所……レキ……ライカ……キンジ……アリア……理子……全員の分を自分の分も入れて二倍にして返してやった。

 

「あ……が……」

 

ブラドは倒れる。一毅もただ14ヵ所斬ったわけではない。その全てが腱や筋……斬られれば動けなくなるのが間違いない箇所だ。

 

「よぅ……」

「ぐ……ぅ……」

 

動ける者と動けない無い者……両者は立場が逆転していた。

 

「言ったよな?殺すって」

「っ!」

 

一毅は殺神(さつがみ)を振り上げる。

 

「ま、まて!武偵は殺人を禁じている筈だ!」

「悪いな……忘れちまったよ」

 

一毅は刀を握る手の力を強くする。

 

「あばよ」

「ま……」

 

ブラドの言葉を聞く前に一毅は殺神(さつがみ)を振り下ろそうとし……

 

『駄目!』

「あ……」

 

止められた……

 

「レキ……?ライカ……?」

 

一毅は腰にレキを、腕にライカを着けて止まる。

 

「駄目です一毅さん……それは駄目です」

「そうですよ一毅先輩……らしくないです」

「…………」

 

一毅はrレキを優しく下ろしてライカを離すと殺神(さつがみ)の刃を返す。

 

「そうだな」

「がっ!」

 

峰打ちでブラドを戦闘不能にすると一毅は刀を仕舞う。

そして……

 

「一毅さん!」

「一毅先輩!」

 

そのまま一毅は意識を失った……



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龍の戦闘後

「それにしても中々怪我ひどかったみたいだな」

「まぁな」

 

一毅はキンジの病室に来ていた。

 

「と言うかお前本当になんともないのか?」

「あ?おう。骨は完全にくっついてるし肋骨も繋がってるってよ」

「いやいやいや……」

 

あの時間違いなく骨が折れる音が聞こえた……

 

「そう言えば後三日ほどで退院だろ?」

「ああ……それまで暇だぜ」

「そう言うなよ」

 

それから一毅は立ち上がる。

 

「じゃあ俺はレキたちの所に行くよ」

「ああ……そう言えば」

「ん?」

 

一毅は手をドアに掛けて止まる。

 

「お前はブラド倒したときの記憶無いって本当か?」

「……ああ、全く覚えてない」

 

そう言って廊下に出た。

 

 

 

 

無事、ブラドを捕縛してから早くも三日……一毅にボコボコにされたブラドは警察に引き渡された。

今回の窃盗については一応学校に報告はしておいたが代わりに分厚い書類を渡された。内容としては、今回の一件は特別に不問としてやるから他言はしないようにとのこと。

アリアが言っていたイ・ウーという組織の影響だと思うが随分なVIP待遇だ。涙が出てくるね。

 

(だが……)

 

一毅は歩を止めた。

ブラドの魔臓を撃ち抜いたのはキンジの機転と策だ……だが最終的に倒したのは一毅だ……とブラドを倒した次の日に目を覚まして教えられた。だが一毅にはその時の記憶が一切ない。コレっぽちもない。そのお陰で目を覚ました時まだ夢の中では戦ってて「ブラドォオオオオ!!!!!」と叫びながら診察のために自分の顔を覗いていた衛生科(メディカ)の男子生徒を体を起き上がらせつつ上半身のバネと捻りのみで作り出す渾身のパンチを決めてしまいその生徒の方が入院することになった。

まあそんな話は横に置いておくとして、一毅の記憶がはっきりしてるのはブラドにレキとライカがやられた辺りまでだ。それ以降の記憶がない。正確に言うと記憶がゆっくりとブラックアウトしていっている。お陰で聞くまで理子が既に逃走してたことをしらなかった。何処に行ったのやら……だが頭がピリッとした感覚だけを残こってる……だが怪我はその場で治したとキンジに聞いたときは一体何の冗談かと思った。言っておくが自分はプラモデルじゃないしそんな滅茶苦茶高い塔のてっぺんに住んでる猫の神様に一粒で十日飯を食わなくても生きていける豆を貰って食ったわけでもない。

しかし骨を折られた記憶ははっきりとある。なのに 骨が既にくっついているとは……もしかしたら本当にその場で治したのだろうか……

いや、それは無いかと思い直す。だがキンジ曰くあの時の一毅は本当に強かったらしい。

何でもブラドと力比べで押し返すほどで終始圧倒……だが一番驚いたのは見てもいないのに避雷針の落下を躱し、ブラドが放った石礫の弾幕を全て回避したことらしい。しかも石礫の弾幕は突進しながらで掠りすらしなかったらしい……

 

(ううーん……)

 

一毅としては全く記憶がなくはっきり言って本当に自分がやったのか自信がない。

だが、見てもいないのに避けたと言うのは一つ心当たりがあった。

アリアとの組手である。完全に死角からの一撃でその上アリアを見失ってたというのに頭にピリッと電撃というか針で軽く突かれたような物が走ったかと思うと完全に無意識に体を動かし避けて反撃していた……未だに謎だがあの時と少し似ている。

 

「……まあ、良いか」

 

考えても仕方ないとばかりに再度歩き出した。考えて思い付くなら最初から思い付いてる。

考えるのは他の皆に任せる。自分は突貫するだけだ。

そうこうしていると着いた。

 

「おうっす。入るぞ」

 

一毅が入ると、

 

「ああ!レキ!あんた私の桃饅食べたでしょ!」

「知りません」

「ってよく見ると二つともなくなってる!ライカ!あんた食べたわね!?」

「ワカリマセン」

「なんつぅ棒読み加減よ!嘘言うならレキみたいにもう少し演技しなさいよ」

 

どったんばったんと病室で暴れまわる三人……元気だ。

 

「ああ!一毅!あんたのところのレキとライカが私の桃饅取ったわ!ちゃんと教育しときな……」

「アリア、桃饅買ってきたんだが……」

「食べるわ」

 

凄まじく早い変わり身だ。

 

「レキにはカロリーメイト、ライカにはリーフパイだ」

「ありがとうございます」

「やった!」

 

二人に見舞品を渡すと一毅も適当に椅子に座る。

 

「だけど一番怪我が酷かった筈の一毅が入院無しで私達が入院って何か腹が立つわね」

「あ~?仕方ないだろ。後とっとと退院してくれ特にアリア。間宮が俺が怪我させたと思って闇討ちしようとしてくるんだよ。戦妹(アミカ)の手綱はしっかり掴んでおいてくれ」

「それは悪かったわ……」

 

何気に間宮は暗殺スキル高めで急所を普通に狙ってくるししかも狙わせると上手いのだ。命の危機を感じる。

すると、

 

「おねぇええええええさまぁああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

病院だというのに全く気にも止めずドドドドド!!と言う音と共に何かが走ってきたかと思うと入ってきた。

 

「き、麒麟!?」

 

ライカが上擦った声で入ってきた人間の名前を呼ぶ。

 

「遅れてご免なさいですの!ちょっとCVRの方で合同で3日間ほど全身ヨガ&エステに加え鍼にマッサージのフルコースを無理矢理やらされていたのですの!」

「わ、分かったから!だから抱き付くな!!!!!」

 

ライカは抱き付いていた麒麟という少女を強引に引き剥がす。

 

「もう!麒麟と御姉様の仲じゃないかですの」

「気持ち悪いわ!私はそう言う趣味は無い!」

「んも~ツンデレですの」

「本心だよ!」

 

ライカは疲れたような顔を浮かべる。

 

「あ、そう言えば桐生……何でございましたっけ?御姉様と付き合うお方は」

「一毅だよ」

「いらっしゃるのですか?」

「え?後ろに居るのが……っておい!なんだよその銃!!!!!」

「ウフフ……既にお付き合いしてる方がいながら御姉様にまで手を出すクズを射殺するために購入した物ですわ」

 

麒麟には不釣り合いな馬鹿デカイ回転式(リボルバー)拳銃をにっこりと笑いながら持ち上げる。

 

「あら?あなたは誰ですの?」

 

麒麟は一毅を見た。

 

「お、俺は鈴木 太一だ!」

 

とっさに偽名を使い誤魔化す。

 

「ほう、鈴木さんですの。一つお聞きしますが何故ここに?」

「あ、アリアに強襲科(アサルト)の課題渡しに来たんだ。そうだよな!?」

「え、ええそうね!そうなのよ!」

 

アリアは乾いた笑みを浮かべる。

 

「取り合えずそんな銃しまえよ。どちらにしたって防弾制服の上じゃ当たっても痛みはある……程度だぜ?それにそんな馬鹿デカイ銃一発でも撃てればラッキーだぞ?」

「そこは御姉様の愛で何とかしますの」

 

絶対無理である。

 

「本当はもっと居たいのですが用事があるのでここで失礼しますの」

 

そう言って麒麟は出ていった。

 

『……ふぅ』

 

全員揃って嫌な汗を掻いた。

 

「何だあれ……」

「インターンの島 麒麟……所属は特殊捜査研究科(CVR)よ」

 

アリアが説明してくれた。

 

「一度事件で助けたことがあったんですけどなつかれちゃって……すいません」

「いや、別に良いんだけど……」

「恨まれてましたねぇ」

「だよな……」

 

めっさ普通に命狙われてた……

 

「はぁ……どうするか……」

「大人しく撃たれなさいですの」

『え?』

 

一毅がギギギと効果音がつきそうな動きで背後を振り替える。

 

「あんな下手くそな演技で麒麟を騙せると思ったんですの?」

 

忘れていた……CVRこと特殊捜査研究科はハニートラップを専門に勉強する学科……ハニートラップとは分かりやすく言えば相手から情報を得るため色気で相手を騙す高等技で無論そういった際の演技も磨く。つまり相手を騙す事に長ける学科なのだ。そりゃ死ね死ね団の一毅とアリアの大根役者二人による即興劇など幾らインターンでも簡単にバレるに決まってる。

口より先に手が出る強襲科(アサルト)……手より先に口が出る特殊捜査研究科(CVR)……意外とこの二つの科は仲が良くなかったりする。

因みに余談だがCVRは美人しか入れないと言う制限がある。確かに麒麟は背が低いものの顔やスタイルが良い。

 

「ま、待て、話し合……」

「汚物は消毒だーですの!」

「聞けよ!」

 

一毅は瞬時に振り替えると銃身の回転する部分を掴む。

基本的にこれで撃てなくなるのだ。とは言え撃鉄が動くと危ないので撃鉄と銃身の間に指も入れておく。

 

「う……」

 

麒麟は銃が撃てないことを悟る。

 

「よっと」

 

一毅はそのまま銃を奪うと流れるような手つきで弾を全部出し銃と弾を別方向に捨てる。蘭豹に殴られながら覚えた技術がここで役に立つとは……

 

「あ……」

 

麒麟は呆然とした。

CVRは基本的に戦いはない。基本的に自らの体を晒すことが多いしその為か銃もあまり持ち歩かない。あくまで基本的な扱いが精々だろう。と言うか体に傷一つでも付くと大騒ぎになるのがCVRだ。普段から銃弾の雨に晒される一毅にすれば制圧するのは簡単だがこんなの癇癪だろう……目を見ればわかる。それにレキがいるのにライカにも手を出してるのは事実だ。否定は出来ないし、する気も更々ない。

 

「く!」

 

すると、麒麟が掌打を繰り出す。

 

(ん?理子の構えに似てるな)

 

そう思うが威力は殆ど無い一毅の腹にポスポス音を立てて終わる。見た目通り力がないようだ。

まあアリアのように見た目に反した怪力がなくて良かった。

 

「うーうー!!!!!」

 

麒麟が猫で言うなら毛が逆立っているだろうな……という風に足を床に叩きつける。

だがそこに、

 

「いい加減にしろ!」

「はぅ!」

 

ゴチン!っとライカの拳骨が降った。

 

「言っただろ!レキ先輩と納得した上だって!!!!!」

「御姉様!一体どんな弱味を?こんなヤクザも仏に見えそうな顔の男と……しかも彼女持ちの男と一緒に居るなど弱み握られてるとしか」

「ねぇよ!大体なんだお前は、いきなり来て一毅先輩にあんな銃をぶっぱなそうとする何て……一毅先輩じゃなかったら止めるのが間に合わなくて当たってたぞ!」

「うー!」

 

麒麟がバタバタ暴れだす。

 

「御姉様!何でですの!戦妹(アミカ)にもしてくれないし麒麟は不満ですの!」

「あのなぁ……」

 

麒麟はギロッと一毅を睨む。

 

「全部あなたが悪いんですの!」

「まあ……否定はしない」

 

一毅は頭を掻く。

 

「麒麟!!!!!」

 

ライカが声をあげると麒麟は一瞬俯くと声を震わせ……

 

「麒麟は寂しいですの……ふぇえええええん!!!!!」

(あちゃ~)

 

泣かせてしまった……さてどうするか……

 

「あ、いや、麒麟……」

「ああ~あのさぁ……」

 

一毅は近寄る。そこに、

 

「おい一毅。ちょうど良いから俺の制服クリーニングから引きと……」

 

キンジが入ってきて一毅がそっちに気を取られた瞬間……

 

「騙されたですの!!!!!」

『え?』

 

素早くしゃがみこみ麒麟は大きく足を振り上げながらジャンプ……その足は一毅の足と足の間を通り……

 

「はがっ!」

『いい!?』

「ひ!」

 

一毅は固まり……アリア、ライカ、さらにレキですら驚愕し、キンジは無意識に一毅が蹴られた部分を手で押さえた……

 

「あ……が……」

 

つま先で何の遠慮もなく一毅の股間を蹴りあげた麒麟はあっかんべーすると、

 

「男なんて皆死んじゃえば良いですの!!!!!」

 

そう言い残して飛び出していった……

 

「あ……ぎ……」

 

幾ら一毅でも……流石に効いたらしくそのまま一毅は後ろにぶっ倒れた……

 

「一毅さん!?」

「一毅先輩!?」

 

レキとライカは驚きと悲鳴に近い声を出す。

 

「き、キンジ医者よ!医者を呼びなさい!」

「あ、ああ!ええと……何科だ?ああくそ!誰か!」

 

キンジが出ていく。

遠くなる意識の中一毅はその光景を見ながら思った……女の恨みは怖い……



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談話
談話室 Ⅲ


咲実「あ~疲れた」

??「ふふふ……」

咲実「え?」

 

 

 

 

 

 

 

キンジ「あれ?いつもの対談やるはずなのに作者が……って理子!?何やってんだ!?」

理子「え?作者の首を髪で締め上げてるんだよ?」

咲実「た……すけて……」

理子「あ、まだ生きてた。えい!」

咲実「【ドス!】がはぁ……」

キンジ「作者ぁああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「と言うわけで今回で三回目となる対談でーす」

アリア「あんた一毅もビックリの生命力よね……」

一毅「え?俺でもあれには負けるよ」

レキ「どっこいどっこいですね」

ライカ「私もそう思います」

白雪「……はぁ……」

キンジ「どうした?白雪」

白雪「私今回出番ゼロだよぉ!!!!!」

白雪以外『………………』

白雪「何で!?本編では出てこない火野さんは滅茶苦茶あって私ゼロなのぉ!」

一毅「ああでも白雪!次の章ではお前も出るじゃん!なぁ?作者」

咲実「え?ああ……うん!あるよ?……多分(ボソッ)」

白雪「今の、多分(ボソッ)……って何!?」

キンジ「白雪、刀抜くな!髪ほどくな!炎出すな!作者切ろうとするな!」

白雪「駄目!ここでガツンと言わないとリメイク前と同じ末路辿るよ!!!!!だからキンちゃん離してぇ!」

ライカ「同じ末路?」

アリア「ああ、あんたは分からなくて当然ね。この作品にはリメイク前があるのは分かるわね?」

ライカ「はい」

アリア「その作品では白雪と理子は完全空気化……特に修学旅行編からその片鱗が現れその次から完全に消滅……時々会話に出てきたり戦闘シーンで最初の方で少し喋ったりする程度で活躍何かある筈も無し」

ライカ「悲しい末路……ですね」

アリア「ええ、まあ私には関係ない話よ」

レキ「私もです」

キンジ「まあ俺もだな」

一毅「俺なんか心配する必要性皆無だぜ」

咲実「そりゃあ君一応主人公だよ」

一毅「そのわりにキンジの見せ場多くね?」

咲実「いや、一応一毅とキンジのダブル主人公という形とってるからねぇ。ある意味じゃキンジの見せ場作って当たり前と言いますか」

一毅「ほう……」

ライカ「あ、今リメイク前見たんですけど結構設定違うんですね」

キンジ「まあ俺はヒートアクション使わないし結構流れもあっさりだった。リメイクでは作者なりに頑張って内容濃く書いてるんだ。お陰で俺たちの苦労増えたけどな」

ライカ「うわぁ、理子先輩も本当に影薄いんですね」

理子「がは!……だから増やすために作者を脅迫……もとい、説得してたのに」

キンジ「あれってそう言う意味だったのか!?」

咲実「いや、頑張るつもりですよ?」

一毅「大変そうだな……作者」

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「そう言えばリメイク前で思い出したんだけど~」

キンジ「ん?」

咲実「この間何気なくお気に入りに登録してくれた人見てみたんだよ」

一毅「今まで見てなかったのか!?」

咲実「うん。コメントくれた人は分かっていたけどそう言えばお気に入りに登録してくれた人見てないなぁっと思てみてみたんだけど……そしたらリメイク前でも登録してくれていた人いたんだよねぇ」

アリア「へぇ~良かったじゃない」

白雪「確かにそう言うの嬉しいよね」

ライカ「でもそっちから見てた人絶対リメイク前と後との変わりように驚いてますよね」

理子「まあ多少はあるだろうね」

咲実「でもやっぱり嬉しいもんだ」

一毅「ま、次の目標はリメイク前の数を越すことだな」

キンジ「そのための執筆頑張れよ」

一毅「プレッシャー……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジ「そう言えばさぁ」

咲実「何?」

キンジ「ブラドの後半戦での変貌って何?」

咲実「え?分かんないの?多分読者の方から聞かれなかったって事は皆さん気づいてるよ?」

キンジ「聞きたくても聞けない人もいるだろ?で?なんだよあれ」

咲実「ヒステリア・アゴニザンテ……死に際の(ダイニング)ヒステリアだよ」

一毅「ブラドって使えるのか?」

咲実「多分使えるんじゃないかなぁ……ヒステリア・ノルマーレ使えるんだから」

アリア「でもこの時期はまだヒステリアモードの派生系出てないわよ」

咲実「だから謎の力という形にしてあるじゃん」

キンジ「あ~……」

理子「じゃあついでに質問。カズッチの力は?」

咲実「コメントでもいただいたけどまあキレて力が目覚めたって感じかな。まあでも殆ど暴走状態って感じだよ?怒龍の気位に振り回される感じ?」

レキ「では一毅さんがブラドの攻撃を気付いてもいないのに避けたりしたのは?」

咲実「あれはまだ詳しくは秘密~。詳細はあの最強の男が作中で教えてくれるでしょう」

ライカ「ええと……誰ですかそれ」

一毅「あ、ライカ知らないんだな。まあ、もうすぐに出るよ」

白雪「多分その辺り完全に私出番ないよぉ……」

理子「理子もだね……」

キンジ「が、頑張れって」

白雪「そうだね、脱げば良いんだよ」

白雪以外『は?』

白雪「脱いで目立って脚光当たれば良いんだよ!というわけでキンちゃん様お情けを!」

キンジ「い、意味わからん!!!!!というか脱ぐな馬鹿!!!!!」

理子「いいねぇ!理子も脱ぐ!!!!!」

アリア「はぁ!?あんたたちなにしてんのよ!!!!!更にキンジもデレデレしてんじゃないわよ!!!!!!!!!!」

キンジ「してねぇよ!!」

アリア「問答無用!!!!!」

一毅「おおっと決まったぁ!アリア選手のバックドロップ!!!!!」

レキ「今回は良い感じに荒れてきましたね」

ライカ「では作者、どうぞ」

咲実「だなぁ……ええ、何時もながら読んでいただきありがとうございます。次回からは遂に皆のアイドル?のあの人が……そして自称覇王様も登場!益々荒れる武偵の龍ワールド!次回もお楽しみに!後、感想・コメント・評価にお気に入り登録等々していただけると嬉しいです」



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第五章 憧憬の兄と砂の女王
金と姉


「ふぁぁぁああああ………」

 

キンジは学校の帰り道で大きな欠伸をした。

先日一週間ほどの入院から無事退院して登校初日……久々の学校は中々骨がおれた。

すると、校門前に見たことがある影がある。

 

「よぅ。理子」

「やあ、キー君」

 

そう、理子は帰ってきた。あの事件の直後姿を消し、キンジ達が学校に復帰した日に合わせて自分も復帰した……

あと、恩義は感じてるらしくアリアの母親の裁判に出ることはきちんと了承している。

そしてその理子がキンジをみると頬を染め……

 

「一緒に……帰ろっか」

「あ、ああ」

 

なんか初めて見る汐らしい理子……調子が狂う。まあヒステリア的な危険さは無くなってありがたい限りだが……

 

 

 

 

 

「取り合えずありがとね」

「一毅に言ってくれ。あいつがいなきゃ結局負けてた」

「言ったよ。後はキー君だけだったんだ」

「そうか」

 

あらためてブラドとの戦いを思い出す。今でも少し背中が寒くなる。

だが一毅の変化はなんだったのだろう……レッドヒートを使うと確かに興奮して狂暴性が増すのは自分も体験済みだ。だが明らかにそれだけじゃない。あの時の回避力はそれだけじゃない。

なにか裏がある……そんな気がした。

 

「後さ、パソコンに送っといたから……」

「何をだよ」

「お兄さん……金一の事を」

「っ!どういうことだ理子!」

 

キンジは振り替えるが既に理子はいない。

 

「……くっ!」

 

キンジは足早に帰宅した。

 

 

 

 

 

「これか……」

 

キンジはパソコンを起動するとメールを急いで開ける。

ブラドが言っていた金一の血により受け継いだヒステリアモード……それが本当なら間違いなく兄は生きている……ならば会って聞くのだ……何故イ・ウーにいるのか……

 

「【ジャジャーン!!!!!】うぉわ!」

 

椅子から落っこちた……メールを開いたらいきなり大音量のアニメーション……間違いなく理子の自作だ。あのロリ巨乳……と恨めしく思いながら座り直して見る。映像には壊れた飛行機と風力発電用のプロペラ……

 

「そこで待つ……か」

 

キンジは俯いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジは理子の飛行機ジャックの際に不時着した懐かしくも記憶に未だ強く残る空き島に居た。

未だに不時着した飛行機は残ったままでありプロペラも曲がったままだ。

そしてプロペラの上には……

 

「久しぶりね……キンジ」

「……………」

 

一人の女性……その姿は理子も前に変装したことがある。だが……持っている雰囲気……オーラ……声……立ち振舞い……全てが本物だと告げている。

 

「兄さん」

「?」

「あ、いや、間違えた。カナ」

 

キンジの兄の遠山 金一はキンジと違い意図的にヒステリアモードに成れていた。その方法が今目の前にいる……カナと言う女性になること……用は女装することでヒステリアモード……兄さんはHSSと呼んでいた力を使うことができる。その代わりカナに成っていると兄さんと呼んでも返事をしてくれない。と言うか自分だと分からなくなる。

だがそのときの強さは自分が知る者の中でも突出しており喧嘩したって勝てるわけがない。

 

「何でだ……何で今まで連絡一つくれなかったんだよ!」

「ごめんなさいキンジ……」

 

カナはすまなそうに顔を伏せた。

 

「なあ、アンタ今何をやってるんだよ」

「……ごめんなさいキンジ……言えないの」

 

だから……とカナは続けた。

 

「何も言わずに力を貸して?」

「なに?」

「一緒にアリアを殺しましょう」

「……え?」

 

キンジは自分の血が凍りついた気がした。アリアを殺す?何をいっているのだろうか。

カナは……いや、兄さんはそんな人ではない。殺しだけは絶対しない人だったはずだ。あの優しい兄さんが……あ、いや今はカナだがどちらにせよ……そんな人じゃない。

 

「どういう……事だよ」

 

キンジはそう言葉を絞り出すのが限界だった。

 

「アリアは巨悪の種よ……ならば今のうちに潰すのが義であり遠山の宿命……そうでしょ?」

 

そう言ってカナは飛行機の方に降りるとキンジの前に立つ。

 

「さぁ行きましょう?キンジは私の言ってることは分かるわよね?」

「……」

 

一瞬……手を伸ばしかける。だがそれを心が拒否した。

アリアを殺す?ふざけるな!!!!!

 

「シャア!」

「っ!」

 

キンジは殆ど無意識にハイキックを放った。

 

「キンジ?」

 

上半身を逸らしてミリ単位で見切って躱したがカナは驚いている。

 

「ふざけるなよカナ……」

 

キンジも自分がやった行動に困惑した。だが後悔はない。

 

「どうしたの?キンジ」

「カナ……アリアは俺のパートナーだ……殺させるわけにはいかねぇよ」

 

キンジは腰を落とすと蹴りの構えをとる。

 

「アンタがイ・ウーで何があったか知らない……でもな、アリア殺すって言うことは俺に対する挑戦状と同じだ……例えアンタでも……引けない」

「そう……」

 

カナが残念そうな顔を見せた次の瞬間、

 

「が!」

 

腹に鋭い痛みが走った。これは……見えない銃撃……金一の十八番にして看板技…… 【不可視の銃弾(インヴィジビレ)】だ……

見えず……そして悟られずの銃撃……

銃が見えないため理子の時のように銃弾切り(スプリット)も出来ない。

 

「ぐぅ……オオオオオ!」

 

キンジは走り出す。距離はそんなにない。キンジは一足飛びで間合いを詰めると蹴り上げる。

 

「ふっ!」

 

だがギリギリで当たらない。いや、こっちの攻撃が完全に見切られてる。

故に最低限の動きだけで躱される。なら、

 

「スラッシュキック!!!!!」

 

連続蹴り……刀が連続で人を斬るように蹴り続ける蹴りの猛攻。だがそれすらも簡単に見切られて躱す。

幾らこっちがヒステリアモードじゃないとはいえ明らかに実力差がありすぎる。

 

「キンジ……」

「なん!だよ!」

 

後ろ回転蹴り……も躱された所にカナが話しかけてきた。

 

「アリアが……好きなの?」

「っ!」

 

キンジの顔がバッと赤くなった。

 

「な、ちがっ!言っただろ!パートナーだ!!!!!」

 

顎を狙った蹴り上げを躱されたながらキンジが叫ぶ。

 

「そう言うこと……だったのね」

 

カナは少し悲しそうに目をした。

 

「分からないものね……キンジも成長したと言うことかしら?お姉ちゃんは少し寂しいわ」

 

お姉ちゃんは……と言う下りには酷く違和感を覚えたが何も言うまい。

 

「ならば……夢を見てみましょう」

「え?……が!」

 

次の瞬間キンジの腹に鋭い蹴りが入った。

 

「キンジ……教えて上げるわ。蹴りは……こうやって放つのよ!」

「ぐぉ!」

 

先程蹴りが腹に入りくの字になっていたキンジの顎にカナのサマーソルトキックが決まる。

 

「また会いましょう……キンジ」

 

ニコッと天使のような……綺麗な笑顔を書けと言われたら誰もが想像しそうな美しい笑みを浮かべたカナがキンジの最後に見たものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カナ!」

 

キンジは飛び起きる。

すると自分は椅子に座っていてパソコンの画面はReplayとなっていた……夢?

 

「何してんのよキンジ。遅刻するわよ」

「え?」

 

キンジの肩をアリアが叩く。

生きてる……一応頬を引っ張ってみるが痛い……

ちゃんとアリアは居た。良かった……本当に良かった。そして感泣極まってキンジは……

 

「全く。昨日からずっと椅子で寝てるしなにやっぷ!」

「良かった……」

 

思わず立ち上がってアリアを抱き締めた。クチナシのような香りも……ちっこくて細い体もスッポリとキンジの体に収ま……え?

 

「あ……」

ここまで来てやっとキンジは自分がしでかした事に気付く……思わずやらかしてしまったが今の自分……アリアを抱き締めてる……しかも事故ではなく自分から……そしてアリアは現在キンジの体にスッポリ嵌まりながらプルプル震えていた。

 

(や、やば!)

 

蹴られる殴られる撃たれる!!!!!

 

キンジは咄嗟に防御体制を取ろうとした……だがアリアから来たのは予想だにしないもの……何とギュッと逆に抱き締められた。言っておくが鯖折りじゃない。優しくて女性的な抱き締め方だ。

 

「あ、アリア?」

「ば、馬鹿キンジ……い、言っておくけどそんな時間はないのよ?だから手短にね?」

 

手短にね……と言われてもキンジにはこれ以上何をすればいいのか分からない。取り合えず離れて欲しい訳じゃないのはわかる。こう言うときはヒステリアモードなら分かるのだが……

 

「……はぁ、ほら……」

 

アリアは痺れを切らしたのか目を瞑って顔を……と言うかもっと正確に言うと唇を突き出してきた。

ドキン!っと心臓が跳ねた。一瞬ヒステリアモードに成り掛けてるのかと思ったが違う……もっと別の感情だ。だがキンジにはどうでもいいことだった。頭でわかった訳じゃないが……キンジも目を瞑るとゆっくりと顔を近づけて行く……

そして後、数㎜で着く所で……

 

 

「おーいアリア。強襲科(アサルト)のレポートって期限明日までだった……おう?」

「おお……」

「あちゃ……」

 

上から順に一毅、レキ、ライカだ。

学校に行くついでに一毅は強襲科(アサルト)のレポートって期限を聞きに来たのだが……邪魔だったみたいだ。

三人は何の迷いもなく写真を撮った。

 

「よしお前ら!送れる奴に送信しろ!」

「はい」

「賭けは勝ちましたね!」

「待て!何する気だお前ら!て言うか賭けって何だ!」

 

賭けとは密かに秘密裏に当人たちには秘密の【アリアとキンジは付き合うか否か……】である。オッズは付き合う3に対し付き合わない7である。因みに同じクラスの武藤や不知火は付き合うに賭けている。無論間宮は付き合わない派だ。

 

「おいアリア!固まってないで急いでこいつら止めるの手伝え!このままじゃクラス処か学校中にあることないこと言われるぞ!」

「大丈夫。真実100%で皆に送っとくから。後、俺たちお邪魔虫みたいだな。先生には遅れるって伝えとくから」

「全然大丈夫じゃねぇ!」

「…………はっ!………」

 

ついにアリアもやっと硬直が解け、動き出す。

 

「アンタたちぃ!今すぐその写真消しなさい!!!!!」

「にげろぉ!」

 

一毅、レキ、ライカたち三人が携帯片手に走って逃げ出し、それをアリアとキンジがそれぞれガバメントとベレッタを抜いて空に向かって撃ちながら全速力で追いかける。

 

『待てぇえええええええ!!!!!』

 

夏が深まってきた空に二人の声が響いた……



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龍と依頼受領

「ちぇ!」

 

一毅は残念そうに舌打ちした。

前回撮った写真はキンジとアリアの必死の抵抗を受け三人纏めて消去された。

「ったく……あぶねぇ所だったぜ」

「全くだわ」

 

キンジとアリアは疲れたような顔をする。

 

「しかし暑いですねぇ」

「そうですね」

「いや、レキ先輩全然暑そうに見えないんですけど……」

「?」

 

話は変わるが今日から衣替えで夏服だ。だが暑い。日差しが強すぎだ。

 

「暑すぎて沸騰しそうだ……」

「一毅。人間は液体じゃないから沸騰しないわよ」

 

アリアからごもっともな指摘を受けた。

 

そして武偵高校に入ると、何故か人だかりができていた。掲示板に何か書かれてるのだろうか?

「ん?」

 

すると見たことある顔がこっちを見た。

 

『ジャンヌ……』

「久しぶりだな」

『?』

 

直接顔を見たことがないレキとライカは首を傾げたが一毅、キンジ、アリアの三人少し複雑そうな顔だ。ついこの間の戦い……一毅はあわや氷の彫像に成りかけキンジは白雪を奪われかけた。印象深い戦いだった。その当人がなぜここにいる上に……【武偵高校の制服】を着ているのだ?

 

「久し振りだな。今日から私は情報科(インフォルマ)のジャンヌだ。よろしく頼む」

「お前……司法取引か?」

「そうだ。安心しろ。ちゃんと神崎 かなえの裁判には出廷する」

 

ジャンヌは松葉杖を着きながらこっちに来た。

 

「お前足はどうした?」

「ふむ……足に虫がついてな」

『は?』

 

全員が首を傾げた。

 

「その際に驚いた私は側溝に足が嵌まり……そこにトラックが来てはね飛ばされた。全治三週間だ」

『そ、そうですか……』

 

一毅たちから見ればよくそれだけで済んだものである。

 

「そう言えばここで話していていいのか?」

「え?」

 

一毅たちがジャンヌが指差した方向を見る。すると、

 

【遠山 金次 1単位不足】

 

「なにぃ!」

「はっはっは!キンジお前留年すんのか?」

 

一毅が笑う。だがそのまま下に視線を落とすと、

 

【桐生 一毅 0.7単位不足】

 

「嘘だろ!」

 

因みに、

 

【レキ 0.3単位不足】

 

「おやおや」

 

更に下に行くと、

 

【火野 ライカ 0.6単位不足】

 

「げ……」

 

最近戦いまくって居たため忘れていた……ここのところ単位取得のための依頼を受けていない……

 

「何やってんだか……」

 

アリアが呆れてるが、

 

【間宮 あかり 0.9単位不足】

【谷田 辰正 0.9単位不足】

 

ピキっとアリアの顔が固まった。

この二人は何時も一セットだな……

 

「おい!良い緊急クエスト無いのか!?」

 

一毅とキンジは見る。

 

【砂鉄盗難事件……0.4単位】

 

ダメだ足らん。

 

【土木現場の砂盗難事件…0.1】

 

話にならん。

 

【下着盗難事件2単位】

 

お釣り来るけどヒステリア的な危険があるため駄目。

 

【カジノ警備 1.5単位】

 

『これだ!!!!!』

 

その後、キンジ、一毅、レキ、ライカに加えアリアとそれに泣きついたあかり、辰正とおまけに佐々木に麒麟と何故か急に白雪も参戦を表明したため総勢10名がこの警備に参加した。

 

(って島もいるのかよ……俺あの子苦手なんだよなぁ……)

 

未だにこの間の事がトラウマになっている一毅は内心ドキドキしながら過ごすことになったのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

キンジはプール際のビーチチェアで寝転がる。

 

「おいおいサボりかよ」

 

それを見た一毅はプールから上がってキンジのもとに行く。

 

「別に良いだろ。蘭豹居ないんだしよ」

 

体育教師も兼任している蘭豹は現在二日酔いのため自習となっている。

普通の学校だったら二日酔いのため自習に何ぞしよう物ならこの間の首が飛ぶが余りしょっちゅうやらなければ特に問題ないのが武偵高校である。

 

「そういうお前こそ上がってんじゃねぇか」

「あれだよ」

 

一毅が指差すと、武藤含めた車輛(ロジ)の連中と見たことある幼女……もとい小さな高校生……装備科(アムド)の平賀 文がいた。

あの少女?は銃の改造や整備を請け負う装備科(アムド)に所属しておりその才能はまさに歩くオーバーテクノロジーの権化……不可能は無いのだ~とかいって無茶な改造を片手間にやってさらに特許をとれるくらいの武器や兵器を生み出す。

だがその実態はただの幼女だ。ご丁寧に【ひらが】と書いたスクール水着を着て何かプールに浮かべた。

 

「見ろよキンジ!一毅!」

 

そこに武藤が来た。

 

「あれぞ平賀と俺様たちが作り出した超アクラ級原子力潜水艦・ボストークだ!!!!!」

「へぇ~」

 

前に武藤が言っていたことを思い出す。

確か1979年に進水直後に事故で行方不明になった潜水艦だったはずだ。

 

「今ごろ何処ぞの海底で海の海蘊(もずく)になってるんだろうなぁ……」

『違う、それを言うなら海の藻屑(もくず)だ』

「あり?」

 

相変わらず本気で心配になるほどの頭だ。こいつは絶対武偵高校以外に学校では生きていけないだろう。

主に勉学の方で……と言うかこいつは一般的な偏差値よりも遥か下にある武偵高校の中でもテストの点数では遥か下にいる。ただ体育の点数は別で、百メートルを11秒で駆け抜けたりできるので陸上系の部活や、格闘能力を見込まれボクシング部やラグビー……更にポピュラーな野球部など運動神経はずば抜けてるので多くの部活に勧誘されてる(一応お情け程度にだが武偵高校にも部活は存在するのだ)

すると、

 

「やあ皆」

『不知火?』

 

不知火がやって来た。

 

「どうしたんだ?」

「いや、少し世間話良いかな」

「?別に構わないが?」

 

キンジが了承すると不知火が笑う。

 

「神崎さんって彼氏いるの?」

「はぁ?」

 

キンジが眉を寄せる。

一毅もそれを聞いた瞬間吹いた。

 

「何だよ急に。いるわけないだろあんなチビに」

「ふぅん……だとしたら遠山くんにライバル出現かもよ?」

「何?」

 

キンジは少し興味を持ったみたいに不知火に顔を向けた。

 

「さっき強襲科練に顔を出したんだけどその時にチラッと見えたんだよね。武偵手帳に男の写真」

「……へぇ……」

 

キンジは少し眉を寄せた。

 

「別に良いんじゃないか?あいつにだって恋愛の自由はある」

 

すると不知火が笑った。

 

「そう?すごく無理した顔をしてるよ?」

「あ?」

「でも夏は男女の仲が良くも悪くも進展するからね……そこで遠山くん。今度緋川神社でお祭りやるんだって。神崎さんと二人でカジノ警備の練習代わりに行ってきなよ」

 

そう言って不知火は素早くキンジの携帯を奪って武藤に投げる。

 

「そいつは良いなぁ不知火」

「はぁ!?」

 

キンジは驚愕しつつも止めに入ろうとするが不知火に止められる。

 

「いやぁ、二人とも見てて焦れったくってさ。武藤くんと協力してね?」

「えーと……あれ?キンジの奴神崎じゃなくてアリアって登録してるぞ」

 

そう言いつつ携帯をいじる。

 

「おい一毅!武藤を止めろ!!!!!」

 

だが、

 

「そうか……祭りかぁ~レキとライカ誘って行こうかな」

 

完全に別の事を考えていた。

 

「【親愛あるアリアへ……カジノ警備の練習に緋川神社の祭りに行こうぜ。6時にパンダ前に集合だ。かわいい浴衣着てこいよ】……こんな感じですかねキンジ先生!」

 

そう言いつつも送信ボタンを押した。

 

「…………」

 

キンジは不知火の拘束を解くと武藤をつかみ……

 

「良いわけねぇだろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」

「お?」

 

一毅もキンジの声に気づいて顔をあげた。

 

「うぉわ!」

 

そのまま武藤は着水……しかもボストークの上に落ちたため平賀が涙目になった。

そこへ、

 

「なんやお前らぁ!自習いっとい……」

 

蘭豹が来たが何と武藤が上に着水したボストークが暴走……多分平賀が搭載させた小型ミサイルが発車し全て蘭豹に炸裂した。

 

『……………………』

 

全員の時が止まる。

 

「ふぅん……ほぉ……」

 

蘭豹ののコメカミがビクンビクン動き出す。そしてそのままM500(象殺し)を抜き……

 

「誰や?そのおもちゃ作ったの……」

『武藤です!!!!!』

「ええ!?」

 

全員で武藤を売った。因みにその間に平賀は武藤の近くにコントローラーを捨ててる。

 

「そうか武藤……上等や……ちょっと来い」

「げげ!」

 

武藤の後ろ首掴むと蘭豹は引きずっていく。

 

「助けてくれぇ!!!!!ヘルプミー!!!!!」

『……………』

 

全員で武藤の冥福を祈り十字を切ったのは余談である。




書き上げて投稿するときにふと思ったが……カジノ警備の時ってAAでもなんか事件あったっけ?
……………まあいいか!良いのだ。時間の流れも武偵の龍ワールドで良いんだ!うん……




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龍と百人組手

「うーん……」

 

一毅は腕を組ながら首を捻った。

 

(何故こうなった……)

 

目の前には総勢百名程の強襲科(アサルト)勢……と、

 

「おらぁ!死ね!殺しあえ!」

 

それを増長させる蘭豹……

 

「んでさぁ……何がしたいんだよ」

 

少し時間を戻そう。

 

 

 

 

プール授業が終わったあと一毅、キンジ、アリア、レキ、ライカと言う何時もの面々で昼飯を食べたあとライカはあかりに連れられて依頼(クエスト)に行き、キンジは探偵科(インテスケ)の授業へ、レキは狙撃科(スナイプ)の授業に行きアリアは桃饅の安売り聞き付け買いに飛び出していった。

そして一毅は特にやることもないため今夜の夕飯の買い物に行こうとしたところ人に囲まれのだが……

 

「ん?」

「ちょっと来い!」

 

両腕を捕まれそうになるが……

 

「っ!」

「ぎゃ!」

 

片方の鼻をぶん殴り反対側の相手を掴むと、

 

「二天一流 喧嘩術 投げ潰しの極み!!!!!」

『ぐげ!』

 

一毅を捕まえようとした二人は仲良くその場に延びた。

 

「何のようだよ。これから買い物があるんだが?スーパーで卵と豚肉の安売りがあるんだ」

「…………」

 

男は何処ぞの主婦か!と突っ込みそうになったがそれを飲み込み……

 

「話がある。そこの強襲科(アサルト)練に来い」

「ここで良いだろ?別に人もいないし」

「話したい奴がたくさんいるんだ」

 

たくさん?と一毅は首をかしげながら同時に嫌な予感がした。と言うか……強襲科(アサルト)練に呼びつけるなど絶対平和な話じゃない。

だが……ここで別に無理矢理行っても良いが……今気づいたが校門に佐々木が張ってる。

ここ最近毎日のように佐々木が勝負を挑んできてはそれから一毅が逃げるのは既に風物詩と化してる。とはいえ一毅は今のところ戦う気は更々ないので勘弁願いたいのだが諦めると言うことを知らない女の子のため嵐が過ぎ去るのを待つしかないだろう。

 

「分かったよ」

 

だが一毅は数分後に後悔した。結局どっちに行っても酷い目に遭う事になるのだから……

 

 

 

 

 

 

「で?」

 

さて時間を戻すと一毅はため息をついた。

話を聞き、要約すると、とどのつまりレキとライカ……二人の美女に手を出してる状況が気に食わないらしい。

その論理でいったらキンジも同様だと思うのだが彼ら曰く、まだキンジは手を出したなハッキリしないためまだグレーゾーンだが見逃そうとの事……だが一毅は違う。二人に手を出してることを全く否定しない。その堂々としてるのがどうにも許せないらしい。

まあ様は……

 

「嫉妬か」

『やかましい!』

 

百名程の声がハモった。

 

「で?一人じゃ敵わないから皆で気に食わん俺をここに呼び出してお話しかよ。おい蘭豹!何か言ってくれ」

「あ?リア充爆発せぇや!!!!!」

「そっちじゃねえだろ!!!!!!!!!」

 

蘭豹も気に食わんサイドらしい。

 

「お前やったら別に大丈夫やろ」

 

そう言って蘭豹は瓢箪から酒を呑み出した。

信用半分この間の合コンに失敗した八つ当たり半分と言った所だろう。

いや、九割位は八つ当たりだ絶対。

 

「はぁ……わかった。来いよ」

 

一毅は刀を全て床に置くと拳を握る。

 

「おい!刀は!?」

「はぁ……お前ら斬るとか刀が泣くしご先祖様に殺されるわ」

『なっ!』

 

一毅は足を肩幅に前後に開く。

 

「全員纏めて相手してやる」

『く、くそ!』

 

全員構えた。

 

「行くぞぉおおおおおお!!!!!」

 

一毅は疾走した………

 

 

 

 

「おっらぁ!」

 

一毅は飛び蹴りで先制すると近くの敵を掴みぶん投げる。

 

「ぐぉ!」

「せぇの!」

 

更に別の敵の襟を掴むと鼻に頭突きを叩き込み突き飛ばすと殴り飛ばす。

 

「このぉ!」

 

後ろから来たが、

 

「おらぁ!」

 

振り返りながら肘を頬に叩き込み、

 

「オラオラオラァ!!!!!」

 

内臓打ち(レバーブロウ)、鳩尾突き、トドメの顔面ストレートの3連コンボで静かにさせて流れるように背後に蹴りを放つ。

 

「がご!」

 

キンジのような速さはないがその分威力がある蹴りを顎に喰らいバック転しながら跳んだ。

 

「おぉ……」

 

一毅はそのまま突っ込み相手の頭を掴むと、

 

「らぁ!」

 

膝を叩き込む。

 

「この!」

「くっ!」

 

一毅を背後から羽交い締めにすると一人が一毅の腹を殴る。

 

「うぐ!」

「この!この!この!」

 

連続して腹にパンチを叩き込むが一毅の鍛えられた腹筋では効果が薄いと判断したのか腰から棒を引き抜くと振りかぶる。

 

「しっ!」

「あらよ!っと」

「げ!?」

 

思いきり顔を狙うが一毅は咄嗟に顔を伏せて躱し逆に羽交い締めにしてた方をぶん殴ってしまう。

 

「二天一流 拳技!煉獄掌!!!!!」

「ぐえ!」

 

だが息つく間もなく攻めてくるため、一毅は腰を落とす。

 

「ふ!」

 

一気に疾走するとまず一人目にアッパーを打ち込む、

 

「しゅ!」

 

更に疾走して距離を積めると二人目にパンチで静め、

 

「おらぁ!」

 

左フック、右ストレートのコンボで3人……

 

「イヨッシャア!!!!!」

 

そして四人目の手を叩き膝を着けさせると顔面に裏拳を叩き込み吹っ飛ばした……

 

「二天一流 喧嘩術……驚愕の極み」

 

少し肩が上がってきた気がする。

だがまだ余裕で動ける、

 

(何か弱い気がするな……)

 

一毅は相手を殴り飛ばしながらボンヤリと考えていた。幾ら最高でもAランク武偵までしか居ないとは言えこの多人数相手では前までの一毅ならもっと苦戦した。だが、こうしてる内に相手の人数は既に半分を切っている。

一応SランクとAランクの戦力差はAランクが例え束になってもSランクが簡単に叩きのめす事ができるくらいだと言われている。

 

「おら!」

「っ!ふん!!!!!」

「ぐげぇ!」

 

【二天一流 拳技 虎落とし】で相手を吹っ飛ばすと思い至った。

 

(あ、俺が強くなったのか)

 

ここ最近は宝蔵院、ジャンヌ、更にブラドと来たため一毅は自分が思ってる以上に強くなっていた。少なくとも最高でもAランクの軍団では相手にならないくらいに……

そうこうしているといつの間にか相手は30人を切っている。

 

「くそ!」

 

纏めて来る……だがそれに併せて一毅も疾走……

 

「オッラァ!」

 

一毅のドロップキックが複数人纏めて吹っ飛ばす。

 

「喰らえ!」

 

横からの攻撃……だが、

 

「二天一流 拳技!無手返し・白虎!!!!!」

「ぐぎ!」

 

そのまま相手の足を掴むと、

 

「二天一流 喧嘩術 スィングの極み!!!!!」

 

敵を巻き込みつつジャイアントスィングで投げ飛ばした。

 

「ち!」

 

あと10人……

一毅は首を軽く回すと指をクイクイっとやり、来いよ……と挑発する。

 

「クソッタレ!!!!!」

 

全員で行くと一毅の目が光る。

 

「勝機!!!!!」

 

一毅は突撃すると、

 

「二天一流 拳技!無手返し・玄武!!!!!」

 

正面の敵を潰すと、そこに左右から同時に殴りかかってくる。

 

「しゅ!」

 

それを伏せて躱すと、

 

『が!』

 

互いに潰しあってくれた。

 

「く、くそ!」

「おら!」

 

一毅は飛び膝蹴りで更に吹っ飛ばし、

 

「ふん!」

 

鼻っ柱にパンチを叩き込み、

 

「オラァ!」

 

一毅は目の前の相手を持ち上げると、

 

「二天一流 喧嘩術!人柱戯の極み!!!!!」

 

人混みに投げるとドミノのように崩れる。

最後の一人は丁度一毅を連れてきた奴だ。

 

「このぉおおおお!!!!!」

 

殴りかかってくる。

 

「二天一流 拳技……受け流し!!!!!」

 

相手の拳を捌くと腹に膝を叩き込む。そして相手がふらつくと、

 

「二天一流 拳技……」

 

一毅の体から蒼いオーラ(ブルーヒート)が吹き出す。

 

「奥義!!!!!」

 

一毅は飛び上がるとそのまま胴回し回転蹴りの体制をとる。

 

王龍の極み(おうりゅうのきわみ)!!!!!!!!!!!!」

 

喰らった相手は一毅の背後に火焔に身を包まれた龍が見えたような気がしたのを最後に意識がブラックアウトした……

 

 

 

 

「ふぃ~」

 

一毅は刀を腰に戻すと、外に出る。

 

「さて、特売に間に合うかな……」

 

余談だが結局その後一毅は佐々木に見つかって追い駆けっこしたため特売に間に合わずスーパーの前で膝をついたらしい……




王龍の極み……それは龍が如くでは古牧師匠の先祖が編み出した奥義にして最強の技……受け流しで相手をピヨらせてレッドヒート状態でのみ使える技で4までは結構じゃんじゃん使った技でした。
それが5じゃクライマックスゲージMAXじゃないと使えない技に……どうしてもそれが違和感があると言うかその性で受け流しが相手をピヨらせて終わりの技に落ちてしまいました……
と言うどうでもいい話でしたね。


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龍とカナ

「フー!……フー!……」

「アリアァ……後輩苛めはそこまでにしとけよ」

「キャフー!!!!!」

「……………」

 

猫かこいつは……狂暴性は虎とかライオンだが……

 

さて、一毅が百人組手を不本意ながらやった次の日、アリアは後輩の間宮 あかりとその下僕――もとい、幼馴染みでいつも一緒にいる谷田 辰正をボコっていた。何があったんだ?

 

「なんでも昨日負けたんですって」

「はぁ?」

 

ライカがタオルで汗を吹きながら来た。ライカが言うには見た訳じゃないが時間的に一毅と入れ替わりでアリアはとある人物と此処に戻ってきたらしい。そこで一対一(タイマン)で戦ったが見事に完敗。これ以上にないくらいボコボコにされキンジが止めに入らなければもっと大変なことになったらしい。

 

「ライカ!余計なこと言わない!!!!!」

「は、はい!」

「で?どんなやつだったんだアリア」

「………………」

 

するとアリアはドスドス来ると一毅の隣に座り、

 

「あんたってキンジと何時からつるんでるの?」

「ん?それこそ物心ついたときからだな。まあ住んでるところが別だったから何時もという訳じゃないが基本的に長期休業何か行ったり来たりして遊んでたし、中学から同じ神奈川の武偵中学に一緒に入学してたしな」

 

ちなみにその間はキンジの実家に身を寄せていた。

 

「ふぅん……じゃあ聞くけど……カナってキンジの元彼女?」

「ぶっふ!」

 

一毅は口に含んだお茶を吹いた。

 

「はぁ!?無い無いそれはない。いろんな意味でそれはない」

 

あの人と言うかカナは本来、遠山 金一という男だし兄弟だし……

 

「そう……」

「なんでそこで出てくんだよ」

「昨日言われたのよ……【キンジのパートナーに相応しいか見てやる】って」

「?」

 

何か暗躍でもしてるのか……と言うか一毅としてはアリアが会ったカナが自分の想像したカナと違うことに気づいた。何故ならあの人は死んだ筈だから……遠山 金一は死んだ筈なのだ……

いや、イ・ウーで生きてると理子から何度か聞いたが……どうなのだろう……もし生きていたとしてそのカナが何故アリアの実力を見るような真似をしたのだろう。謎が謎を呼ぶ……

 

「で?後輩に八つ当たりですか?アリア先輩」

「同い年でしょ。一毅……分かってはいるの……キンジとカナは何となくそう言うのじゃないって……でもやっぱり何処か深い所で繋がってる」

 

勘……だと思うが凄いものだ。

 

「やっぱり……キンジはカナを選ぶのかしら」

「……………あいつはさ……」

 

一毅が呟く。

 

「え?」

「ネクラだし口悪いし昼行灯だし戦闘能力だって普段は並だ……それに優柔不断だし女誑しだし……」

「あんた本当にあいつの親友なの?」

「親友だから分かることもある。あいつはな。そんな取り柄が一見無いようなやつだよ。でもあいつはお前のパートナーに成るって言った。それをお前に何の相談もなく切ったりしない。つうかあいつはお前がパートナーを辞めろと言っても聞くような奴じゃない。馬鹿だからな」

「あんたもでしょ」

 

そういうがアリアは笑った。

 

「ま、喧嘩別れしたんだろうけどそこはお前から折れてやりな。それが大人の女性って奴だろ?」

「そうね。ま、明日の警備の練習変わりに神社に行ってあげても良いわね」

「そうそう」

 

アリアはスキップしながら行った。

 

「我ながらあいつらの喧嘩の仲裁の腕が神懸かってきたと思わないか?ライカ」

「確かに慣れてきましたよね。一毅先輩」

 

一毅とライカは苦笑いした。

 

 

 

 

 

その日の放課後……

 

「ふむ……」

 

噂をすれば影……と言う言葉がある。ようはその人の話をしていると話してる人が現れるという言い伝えだ。だがまさか……

 

「あら、一毅じゃない」

「なーんでお前がいるんだ?カナ」

『?』

 

一毅は頬が引き攣りレキとライカは理子がブラドとの一件の時に変装していた顔の人間が来たため驚いている。

 

「あんた生きてたのかよ」

「死んでも生き返ったり死んだと思っていたら実は生きてたりするのは遠山家の宿命よ」

「…………」

 

何だその宿命……

 

「じゃあイ・ウーにいるってのも本当かよ」

「ええ」

「で?何のようだ?」

「ああ、一毅は元気かなって。キンジとその相棒のアリアとは会ったんだけどまだ一毅の顔見てなかったから」

「さよけ」

 

一毅は頭を掻く。

 

「だけどよ。態々今まで死んだ振りしてたのに今更何で顔だしたんだ?」

「ん?アリアを殺しに来たのよ」

 

まるでちょっとそこまで散歩に……みたいな口調で言われ一瞬何を言ったのか分からなかったが少しずつ理解していく……

 

「どういうつもりだよ……」

 

一番先にカナに武器を向けたのはライカだ……

 

「でも安心して。第二の可能性がある限り殺さないわ」

「第二の可能性?」

「ええ」

 

そう言うとカナは背を向けた。

 

「一毅も力が目覚めつつあるし……それに賭けてみるのも良いわ」

「……………」

 

言っている事は分からないが……戦う必要は今はなさそうだ。

 

「ふふ、じゃあね一毅。あと、レキさんとライカさん?私の弟分宜しくね」

 

そう言ってカナは去っていった。

 

「ぷはぁ!」

 

一毅は緊張が解けたように体の強張りを解く。

もしアリアを殺しに行く途中だったなら……ここで戦うしかなかった。多分……負けると思うが。

 

「誰なんですか?あのひと……」

 

レキが聞いてきたがライカも気になると言った表情だ。

 

「あ、まあキンジのお兄さ……じゃなかった。お姉さんだよ」

「あんまり似てないですね」

 

ライカが言うが確かにカナ状態では余り似ていない。でも金一状態だと結構雰囲気とか似てるのだ。

 

(待てよ……と言うことはキンジ実は女装が良く似合う?……まあ無いか)

 

一毅は自分の考えを打ち消しつつも、

 

(しっかしまた何か動き出したって感じだな……)

 

事件の起きる予兆を感じていた……しかも…何となくだがかなりでかい事件だ。もしこの勘が当たったとき……自分はどうなるのだろう。死ぬかもしれない……もしかしたらレキやライカたちが……

 

「大丈夫ですよ」

 

すると一毅の不安を打ち消すようにレキが言ってきた。

 

「私もライカさんはこの先も一毅さんと一緒ですから」

「そうそう。一毅先輩はどんと身構えて安心して敵に向かっていけば良いんです。私達は一毅先輩はどんな相手にも負けないって信じてます」

「…………ふ、そうだな」

 

ここで考え込んでも仕方ない。悩んだって落ち込んだって来る時は来る。ならその時には黙って刀抜いて応戦するだけだ。勝てるかどうか考えても意味はない。

 

「よぅし。帰るか。今夜は天婦羅だ」

「じゃあカロリーメイトの天婦羅もお願いします」

「あ、私はリーフパイの天婦羅でお願いします」

「そんな天婦羅は無い!」

 

三人は笑いながら帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カナは歩みを止めた。

 

「本当にやる気なの?」

 

カナは携帯に話し掛けた。

 

【当たり前ぢゃ……明日、祭りにお前の弟と行くらしいからノ……その時に呪いでも掛けてくれる】

「そう」

 

携帯からの言葉にカナは溜め息を吐きつつもどこか悲しそうに携帯を切った……

 

「まだ……夢を見ていても良いのよね?キンジ……第二の可能性は貴方に懸かっているわ……強くしなさい。その強さを……そして自分では気付いていない……でも確かに存在している未だ完全には芽吹いていない小さな種子のような想いを……」

 

カナは一度息を吸う。

 

「そして一毅……キンジを助けてあげて……その強さと……他者を慈しめるその心で……全てを切り裂くその刃を……全てを守護するその心力を……キンジに貸してあげて」

 

そして……と最後にカナは続けた。

 

「二人とも……何処までも昇っていきなさい。何処までもその強さを……何処までもその精神を上へ……上へ……天高く昇りつめていきなさい……まさしく、龍が如くね……」



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龍と金のそれぞれの夏祭り

一毅は自室で着物を着ていた。

 

今日は緋川神社で夏祭りの日だ。レキとライカも何か浴衣で行くとのことなので序でに一毅も着物で行くことにしたのだ。因みに一毅の着物は先祖代々由緒正しい物で灰色に背中に竜の刺繍が施されたちょっと派手だが一毅には良く似合っていた。

だがこの着物……何と初代の桐生。つまり一馬之助が着ていたものらしい。多少補修された箇所も見受けられたが今だに現役で着れるこの着物は一毅も気に入っていた。

それに一毅は基本的に洋服よりは着物とかの方が似合うのだ。

因みに余談だがキンジも先祖が武士のためか着物が似合う。

 

「あ、終わりました?」

 

そこにライカが顔を出す。ライカは明るい黄色の着物にコウモリの刺繍がアクセントになった着物だ。

 

「じゃあ行きましょうか」

 

続いてレキは瑠璃色の着物に何時もは下ろして少し寝癖が残る髪を束ねている。こうすると大人っぽくなる。

 

「ああ。おっと財布忘れるところだった」

 

着物の唯一の欠点と言えばポケットがないことだなぁ……等と考えつつ一毅は財布を取ると両手に花状態で外に出た。

 

 

 

 

上野まではそんな時間はかからないので言ってみると結構な人だかりだ。

 

「いや~何やる?」

「では射的で」

『店のもの取り尽くす気(か)(ですか)!?』

 

店を開店早々閑古鳥を鳴かす訳にいかないのでレキを引っ張って行く。

 

「うーん……何か良いもん無いかな」

 

すると、

 

「おお?おーい!桐生ちゃーん!」

「んん!?」

 

一毅が声の方を振り替えると眼帯にオールバックの髪をバンダナで覆い、エプロンを着けてヒッヒッヒ~と笑っている男……

 

「宍戸さん!?」

 

一年前の事件で知り合い、それ以降も何度も会ってすっかり顔見知りになってしまった極道の組長がたこ焼きを返していた。

 

「大阪仕込みのたこ焼きやでぇ~買ってってや~」

「何してんですか?」

「いや~最近は極道社会も閑古鳥鳴いておってな~普段は不動産売買とか言うのが多いんやけどこう言うときは店出して稼ぐんや」

「へぇ~麻薬とかしないんですか?」

 

ライカが聞くと宍戸は眉を寄せた。

 

「何や初めて見る嬢ちゃんやな。まあ教えたる。ワイら宍戸組は麻薬(ヤク)とか、売春(ウリ)とか言うのは全部禁止や。まあ去年の件もあるし更に強くしとるけどな」

 

一毅とレキは苦笑いした。去年の一件で一毅と宍戸は戦いそして友人のような関係になった。宍戸にとって一毅は武偵と言う云わば敵に当たるが桐生 一毅と言う人柄を気に入ってるし一毅も極道と言う相容れぬ立場にあるが宍戸 梅斗と言う一人の漢を人生の先輩として尊敬していた。

 

「ま、それはそれとして桐生ちゃん。両手に花なんやしここは一つ器量あるとこ見せや」

「ようわ買えと」

「まあそんなところやな。六個入りと十二個入りの二つあるで」

「じゃあ折角なんで十二個入り下さい」

「毎度あり~」

 

宍戸は手際よく入れていく。

 

「慣れてますね」

 

レキが誉めると、宍戸は何でもないと言った顔で、

 

「大阪人の基本技術や」

 

と言って熱々のたこ焼を作ると渡してくる。

 

「オマケしとくさかい。ここのたこ焼き旨かったって言いふらしてきてくれへん?」

「本当に美味しかったら言いふらしてきて来ますよ」

 

十二個入りなのにオマケで十五個も入ってるたこ焼き片手に一毅達はそこを離れた。

 

 

 

「うわ~旨そうですね」

「と言うわけで一つ目は……」

「あーん」

 

レキがパカッと口を開いてきた。

 

「はいはい」

 

一毅は一つ刺すと良く冷まして……

 

「ほれ」

「むぐ……」

 

ムグムグと咀嚼し……燕下する。

 

「ほぅ……これは美味しいですね」

「……………」

 

ライカが河豚みたいに頬を膨らませる。

 

「お前にもやるって」

 

一毅は笑いながらライカにも同じように食べさせてやる。

 

「あつつ……」

 

ハフハフとたこ焼きを飲み込むと、

 

「ほんとだ。美味しい」

 

そう聞くと一毅も食べたくなった。

 

「じゃあ俺も……」

 

すると、レキとライカが一つずつ刺し……

 

『あーん……』

 

突きだしてきた。

 

「あ……むぐ……」

 

美少女二人からあーんして貰えるとは……こんな役得な状況におかれてるとはこれでは確かに100人クラスに喧嘩売られても仕方ないかもしれないな……等と思いつつ口に含む。

 

「あっちぃ!」

『あ……』

 

レキとライカが冷ますのを忘れていたため一毅が飛び上がった。

 

「ん?」

 

すると見知った顔があった。

 

「あれ?キンジとアリアじゃん」

『あ、ほんとだ』

『え?』

 

武偵高校の制服姿のキンジとピンクの着物姿のアリアは二人仲良く手を繋いで人波から出てきた。

 

『ほぉ~』

 

一毅とライカはニヤッと笑いレキがポン!っと手を叩き、

 

「私たちは邪魔ですね」

「ええ」

「さ、行くぞ二人とも」

『ちょっと待ったぁああああ!!!!』

 

キンジとアリアは一毅たち三人を止めた。

 

「べべべべべべべ別にデートとかじゃねぇから!」

「そそそそそそそそうよ!!!!この手は今突き飛ばされて」

「大丈夫。分かってるから。仲直りのデー――もとい、訓練だろ?」

『そうそう!!!!』

 

二人ともめっちゃ首を縦にブンブン振る。首が遠心力で取れそうだ。

まあ逆に互いに意識してるの丸わかりだけどね。

 

「まあ良いわ。どうせ此処で会ったのもなんかの縁だし一緒に回りましょ」

 

そう言ってキンジの手を引っ張って行く。何だかんだで手は離す気はないらしい。そこを突っ込んだらぶちギレられそうなので言わないが……

 

 

 

 

その後いつものメンバーで回りながらたこ焼きを平らげる。

 

それから金魚すくいで切れそうになるアリアを見たり……(レキが異常に上手い)お面を選んだり……綿飴買ったり……フランクフルト買ったり……何やかんやと一番楽しむアリアを見ている。

 

「レキ!ライカ!輪投げで勝負よ!」

「良いですよ」

「望むところです!」

 

三人は輪投げの方に行く。

 

「ん?」

 

すると見知った顔がありキンジは首をかしげた。

 

「あれ間宮たちじゃないか?」

『え?』

 

確かに視界の先にいた……

 

「全く!こういう場所では犯罪も多いんだからちゃんと注意しなきゃ!何楽しんでんのよ!」

((お前が言うな……))

 

一毅とキンジの心の声がハモった。

 

「ちょっと注意しに行くわよ」

 

アリアに率いられ皆で行く。

 

「何やってんのよあかり!」

「あ、アリア先輩!?」

 

間宮はひっくり返りそうな勢いで飛び上がった。

 

「どうも、桐生先輩」

「こんにちわ」

 

佐々木と島に普通に挨拶される。さすがにこの人混みの中では喧嘩吹っ掛けられずに済みそうだ。

 

(隙あらば……)

(殺れる……)

 

ゾクゥ!っと一毅の背中に悪寒が走った。

 

(何だ!?俺の第六感が言っている?逃げろと!!!!)

「あ、久し振りだな桜」

「あ、火野先輩」

「知り合いですか?」

 

レキが聞くと、

 

「あ、はい。この間のランク昇格試験で知り合った中等部の乾 桜ちゃんです」

 

一年の中で唯一の男……紅一点ならぬ黒一点の辰正が答えた。

そう言えばこの間間宮のランクがEからDになったと聞いた気がする。確か一毅が二日酔いの綴に無理矢理試験監督代理をさせられてた。

 

「はじめまして」

 

桜に頭を下げられ一毅たちも下げる。

見たところ他の組織……つまり警察とかでも研修を受けてる架橋生(アクロス)だろう。確か間宮と戦妹契約交わしたはずだ。

 

「それで何してたんだ?」

「あれ見てたんです」

 

するとステージの上では戦隊物の奴をやっていた。

 

「何?あれ」

 

アリアが首をかしげた。

「警察戦隊 ピーポニャンじゃねぇか。久し振りに見たな」

 

一毅の言葉を聞いた桜が一毅を驚いたような顔で見る。

 

「分かるのですか?」

「ああ、沖縄で実家が孤児院やっているんだけどそこのチビたちが好きでさぁ。良い話だよな。まあ俺はこっちの方をやらされてたけど……」

 

そう言って一毅はコホン!っと咳一つして……

 

「ハーハッハッハ!!!!遂に俺に追い付いたなぁピーポニャン!だが残念ながら既に爆弾は起動した!そこで人々が苦しむ様を見ているが良い!」

「爆発魔・ボムンダーですね!!!!」

「とまぁ悪役になって居たけどな」

 

しかもピーポニャンのリーダーであるピーポレッドを皆でやりたがって5人ともピーポレッドと言う摩訶不思議な戦隊になったが……

 

「あんたって何だかんだ顔に似合わず面倒見が良いわよね」

「顔って何だ顔って」

 

アリアに一毅がコメカミをヒクつかせると……

 

「あかり!これを食べましょう!」

 

美少女と言うか美女……と言う方が正しい少女……こいつは一毅も知っている。 確か、

 

「高千穂 あらら?」

「う!ら!ら!」

 

間違えて怒られた。

 

「誰だっけ?」

 

キンジがアリアに聞く。

 

強襲科(アサルト)のAランク。代々武装弁護士の一族・高千穂家の人間よ。後……鳥取出身」

「鳥取は関係無いっちゃ!」

 

高千穂が叫んだ。

 

「全く!何で帰ってきたら増えているんですの!?しかも男が二人も!辰正だけでも邪魔なのに」

「麗ちゃん酷くない!?」

「それで?誰ですの?」

 

高千穂に聞かれたため、

 

「遠山 キンジだ」

「桐生 一毅だよ」

 

それを聞いた瞬間高千穂は首をかしげた。

 

「桐生?遠山……?」

 

何処かで聞いたような……と言った感じで考え出した。

 

「とにかく食べましょう!」

 

そう言って間宮が高千穂が買ってきた食べ物を広げ一毅たちもご相伴に預かる。

 

「うーん」

「どうしたの?麗ちゃん」

 

あかりは首をかしげる高千穂に声をかける。

 

「何処かで聞いた気がするのよ……桐生も遠山も……」

「…………」

 

キンジもそう言われて高千穂と言う名に記憶がないか考えるが全く無い。無論一毅にもない。

すると、佐々木が口を開いた。

 

鬼検事(オルゴ)……」

 

その一言で高千穂は思い至り、

 

「もしや遠山 金叉の子息ですか?」

「……ああ、父さんだ」

 

それを聞いた瞬間高千穂は驚愕した。

 

「あの鬼検事(オルゴ) 遠山 金叉の息子でしたの!?」

「知ってるの?」

 

辰正が聞く。

 

「ええ、武装検事局始まって以来の才媛。たった一人でも100人単位の犯罪組織を潰し、検挙した伝説を持つ男。確かその相棒(バディ)は桐生 一明……もっとも有名なのは500人近く居た麻薬組織に二人で乗り込み一斉検挙した事件で未だに武装弁護士界でも有名な人物ですわ」

『へ、へぇ~』

 

何か周りドン引きしてる。言っておくが、高千穂に……ではなく一毅とキンジにだ。

と言うか一毅とキンジも驚いていた。

何やってんだろうかあの人たち……そして高千穂……それは有名は有名でも怖がられてるって言うんだ多分……

 

「流石キンジと一毅のお父さんね。人間離れしてるわ」

 

ウンウンとその場の全員がうなずく。

 

(どういう意味だよ……)

 

と一毅とキンジは項垂れたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、キンジとアリアは二人で直ぐ其処の輪投げ屋で遊ぶ面々を見ていた。

 

「あんたのお父さんって武装検事だったのね」

「まあな」

 

そう言えばアリアに自分の家族の事を話したことなかったなぁ……とキンジふと思い至った。

 

「今は何してるの?」

「殉職したんだ」

 

それを聞いた瞬間アリアの顔がこわばる。

 

「ご、ごめん」

「別に良い」

 

沈黙が二人を包む。

 

「ねぇ」

「なあ」

『…………』

 

ハモってしまった。アリアとは愛称が良い分こう言うときまで合ってしまう。

 

「キ、キンジから言いなさいよ」

「ア、アリアから言えよ」

 

二人でしどろもどろしてしまう……

 

「……ねえキンジ……カナに負けて…悔しかったけど今は冷静に出来る。カナは次元が違ったわ。今ならそれがちゃんと理解できてる」

「アリア……」

「でもキンジ……カナと組むの?」

「あのなぁ……俺とカナは実力が違いすぎる。それに俺はお前のパートナーだろ?」

 

最近……何となくそれだけじゃない気もしてきたが……とにかくキンジは自分はお前のパートナーだと言い切った。

 

「……そうね、ありがとう。キンジ」

 

ニコっと笑ったアリアに少しドキッとしていると……

 

「みぎゃ!」

 

アリアが飛び上がった。

 

「むむむむ虫が入ったぁあああああ!!!!」

「お、おい暴れるな!」

 

アリアは荷物を撒き散らしつつ転げ回る。するとアリアの背中から虫が飛び出していった。

 

(コガネムシ……?)

 

一瞬しか見えなかったため確証はないがそれに似た虫だ。

 

「大丈夫か?」

 

アリアを立たせながらキンジはアリアの荷物を拾う。

すると、

 

(写真?)

 

一瞬見えたがアリアに奪われた。

 

「何よ」

「別に」

 

自分でも驚くほどイラついた声が出た。何だいったい。

 

「はぁ、言っとくけどあんたが想像してるような人じゃないわ」

 

そう言って写真を見せてくる。

 

「これは私が世界でもっとも尊敬してる人よ」

 

改めて見たキンジはやっと分かった。教科書で見たときよりも若々しいが間違いない。

 

「シャーロック・ホームズ一世……私の曾お祖父様よ」

「お前写真なんかもって居たのか?初めて聞いたぜ」

「そりゃあ見せたの初めてだもん」

 

そう言ってアリアはキンジを見る。

 

「キンジじゃなきゃ見せないよ」

 

ドッキン!とキンジは自分の心臓が跳ねた。音が近くにいたアリアに聞こえたんじゃないかと少し心配になるほどだ。

多分……服が悪いんだ。いつものセーラーしか着ないアリアが浴衣を着ている。武藤が言うギャップと言うやつだろう。絶対にそうだ……

 

(多分……だけどな……)

 

キンジは自分に言い訳するように内心呟くと顔をそらしていた……



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龍達のカジノ警備

「換金をお願いしたい。今日は青いカナリアが入ってきたんだ。きっとツイてる」

 

サングラスをかけた辰正はアタッシュケースを係員に渡しながら言う。

ギザな言い方だがイケメンの辰正が言うと本当に絵になる。

 

さて一毅、キンジ、辰正の三人はブラックスーツにサングラスという格好でカジノ・ピラミディオンに来ていた。

因みに構成は若手IT社長の役を辰正、そのボディーガードという役を一毅とキンジがやる。

 

「派手ですね~」

「ほんとだな」

「さて、レキとライカどこかな」

 

すると、

 

「いかがですか?」

 

お酒を出された。出してきた女性はバニーガール姿だった、そう言えばこの女性従業員は皆バニースーツだった。

キンジはヒステリア的な危険性のため目をそらす。

 

「いいえ、大丈夫です」

 

丁重に断っていると……

 

『なに鼻の下伸ばしてんのよ』

『いい!』

 

突然背中をつねり上げられキンジと辰正は飛び上がった。

 

「あ、アリア!?」

「あ、あかりちゃん!?」

 

カナリア色の目を吊り上げたアリアとプリプリと言う効果音が着きそうな感じで怒る間宮は二人をにらむ。

 

「良いのかよここで油売ってて……」

「そうだよ。それにここでは僕たち一応他人だよ?」

「だって誰も注文しないんだもん」

 

間宮はウンウンとアリアの同意する。

確かにアリアも間宮も顔立ちは整っているが如何せんチビ……しかも幼児体形と来てる。いくらパットで盛ってるとは言え確かに人気は…

 

「うっ!」

「らぁ!」

 

等と考えたキンジの目にアリアの……辰正の目に間宮のウサミミが刺さった。

 

『フグォ!』

 

キンジと辰正は目を抑えて何処ぞの大佐のように「目が、目がぁあああ!!!!」と叫んでいる。

 

「パットはオシャレ!パットは無罪!」

「そうだよ!パットは何も悪くない!!!!」

 

因みにもう一人仕事してないのがいる。それは間宮の背後でスロットに隠れながら写真を撮ってる白雪2号――もとい、佐々木である。

 

「あかりちゃん可愛い……ハァハァ……あかりちゃんのバニーは永久保存だよハァハァ……」

「あのぉ……注文したいのですが……」

「黙りなさい。そんな暇はないのよ!」

「あ、はい」

 

お客さんを脅してどうするんだ。しかも何か犯罪者みたいだし一応警備の仕事と言う都合上あいつ捕まえた方が良いんじゃないだろうか……

 

「何か波乱の警備のような気がする……」

 

などと一毅が考えていると、

 

「だぁああああ!!!!」

 

背後で声が聞こえた。

 

「くっつくなぁあああああ!!!!」

「お姉さまと麒麟の仲じゃありませんの~」

 

バニーガールのライカは同じくバニーガールの島に追いかけられていた。

だがライカは高身長の上にスタイルが良いのでこうやってみると非常に色っぽい……

 

「あ、一毅先輩……」

 

ライカはとっさに胸とかを手で隠すが色々と露出が多いバニースーツだ。あまり意味はない。

 

「あ……あれだな……色っぽいな」

「そ、そうですか?」

「あ、ああ……いっでぇ!」

 

島にハイヒールの踵で足を踏まれた。

とんでもなく痛い。

 

「さあ姉さま!行きますよ!」

 

そう言ってライカは引きずられていった。

 

「くっそぉ……島の奴本気で踏みやがった」

 

一毅はピョンピョン片足で跳びながら涙目になる。

 

「大丈夫かよ一毅」

 

キンジも目を軽く押さえながら一毅の所に来た。

 

『ん?』

 

すると向こうが騒がしい。

 

「あれは……」

「星伽先輩……」

「だなぁ……」

 

キンジ、辰正、一毅の順に声を発した。三人とも呆れた声を出していた。

白雪も当たり前だがバニーガールだ。だが高校生離れしたスタイルの持ち主である為かすさまじい人気となっていた。

そして人目に耐えられなくなったのかスタッフルームに逃げ出した。

 

「あいつ何してんだよ……」

 

キンジがボヤく。

何かこのままじゃ警備の仕事が覚束無い気がする……

 

「と、取り合えず適当に廻りませんか?」

 

辰正の提案に一毅とキンジは黙ってうなずいた。

 

 

 

 

 

 

さてその後適当に見て回ったのだがルーレットを見ると、

 

「あ!」

 

レキがいた。残念ながらバニーガールではない。大切なことなのでもう一度言うがバニーガールではないのだ。チョッキにスボンと蝶ネクタイと言う完全に男装である。

まあ凄く似合っているのだが少し残念だ。

しかし……

 

「ふふ……まさかここまで僕が負けるとはね。まるで君は勝利の女神だ。ならば次は僕の全てを賭けよう」

 

そう言って男は全額を賭けた。

まあそれは別に良い。破産でもなんでもすれば良いのだ。だが次に放たれた一言が一毅の怒りを買った。

 

「もし僕が勝ったら君を貰おう!」

「あ゛?」

 

一毅のコメカミに青筋が走った。

 

「あーあれだな。警備のためにあれは排除だな」

「まてまて!」

 

キンジが一毅を止めた。

 

「止めるなキンジ……アイツコロセナイ」

「武偵法9条だ!」

「ナニソレシラナイナァ」

「一毅先輩落ち着いて!」

 

辰正も止めに入る。

 

「……そうだ、おい辰正。お前ちょっとあそこであいつに勝ってこい」

「え?」

「ギャンブルで負かしてこい。もしあいつに勝ってくれば問題はない」

「……参考程度に聞かせてもらいますけど負けたら?」

「お前を海に叩き込んでからあの男ぶちのめす」

「じゃ、じゃあ二人一緒に負けたら?」

「二人一緒に鮫の群れの中に投げる」

「いやそれは別にお咎め無しで良く無いですか!?」

 

辰正はキンジに助けを求めるように目を向けたが……

 

「……………」

 

キンジは黙って合唱した。そしてマバタキ信号で……

 

【骨は拾ってやる】

 

と言った。

 

「……………」

 

味方は居ないと悟った辰正は胃を痛くしながら出ていく。

 

「あーすいません」

「ん?」

 

辰正は男の隣に立つ。

 

「俺も入れさせてください。俺もこの子狙ってましてね」

「………………」

 

レキは辰正と後ろの方でさっきから殺気を放ち続けている一毅と辰正の勝利を必死に祈ってやっているキンジを見た。

 

「成程……」

 

大方一毅に無茶ぶりでもさせられたのだろう。全く……仕方ないのでここは助け船を流してやろう。

そう思ったレキはマバタキ信号で、

 

【どこでも良いんで一つ賭けてください】

【え?】

 

辰正もマバタキ信号で返す。

 

【そこに私が入れます】

 

いやいやいや……普通無理だ……辰正苦笑いした。いくらレキでも自分の意図したところに入れるなど出来るはずがない。

だがレキがそう言い切るからには何かしらの策があるのだろう。なので辰正は赤の23番にコインを置いた。

 

「では行きますよ」

 

そう言ってレキはルーレットを回すと玉を投げ入れる……全員が注目する中……

 

「赤の23番です」

『え?』

 

その場の全員が唖然とした。

 

「配当金は全額をそちらの方にいきます」

『えええええええええ!?』

 

辰正は一気にお金持ちになった。まあ……ここでいくら稼いでも結局後で店に回収されるのだが……

 

(狙って……入れられるの?)

 

辰正はあんぐり口を開けたまま固める。

 

「ま、待ってくれ!せめてメアドだけでも……」

 

やっぱり殺そう。一毅はそう決心して行こうとした次の瞬間……

 

『っ!』

 

けたたましい音と共にフード付きのローブを来た何者かが着地した。

 

「何だあれ……」

 

キンジが驚くなか、

 

「ハイマキ!」

 

一毅の声でハイマキがそいつに噛みつく。

 

だがそれはローブをハイマキに被せて避けながら蹴っ飛ばした。

 

「あれは!」

 

辰正が驚愕する。

ローブの中にいたのは全身黒で腰巻きと首飾り……そして何よりも辰正を驚かせたのは顔……犬?

 

「なんつうか……エジプトとかの方の壁画とかにある【アルコール神】とかそう言うのに似てるな……」

「………………一毅、多分言いたいのは【アヌビス神】か?」

「…………そうとも言うな」

「そうとしか言わん」

 

キンジは銃を抜く。

 

「お前は銃は?」

 

キンジが辰正に聞くと、辰正も銃を抜く。

 

「俺のはこれです」

「ラドムVIS wz1935か」

 

キンジが呟く。

ポーランドの拳銃でアリアのガバメントに少し似ている。だが細々とした部分に違いがある名銃だ。

 

「とは言えあまり射撃は得意じゃないんですよね~」

 

そう言いながら辰正は構える。

 

「おい、一毅!お前の銃は?」

「今抜くよ」

 

そう言って一毅は懐に手をいれ……

 

「あれ?」

 

一毅は自分の体をあちこち叩いたりする。

 

「何してんだよ」

「やべ……部屋に忘れた」

 

キンジと辰正がずっこけた。

 

「アホかぁああああ!!!!」

「良いんだよ!殴り飛ばせば……」

伍法緋焔札(ごほうのひほむらふだ)!!!!!!!!!!!!」

 

そこに炎をまとった折り鶴がアヌビス?に炸裂した。

 

「ダメだよカズちゃん!それにさわったら呪われちゃう!!!!」

「白雪!?」

 

白雪は更に折り鶴を構える。

 

「キンちゃんには触らせません!!!!」

 

白雪は折り鶴を更に放つと跳躍。

 

「はぁ!」

 

白雪は貫手をアヌビス?に放つ。だが全く効果はなく簡単に腕を掴んで止められると腕に膝を叩き込む。

 

「あぅ!」

 

ベキィ!と言う音と共に白雪の腕が曲がらない方向に曲がった。

 

「白雪!!!!」

 

キンジが叫ぶ。

 

「……………」

 

レキはアヌビス?の頭に銃弾を撃ち込んだ。すると砂鉄に変わり、中から虫が出ていった。

だがそれを気にする暇はなく。

 

「大丈夫ですか!?」

 

レキは駆け寄ると白雪の腕を見る。

 

「完全に折られてます」

「ちっ!」

 

一毅は舌打ちする。そこに、

 

「がう!」

 

アヌビス?が更に現れた。

 

「おいおい……幾らなんでも多すぎだろ……」

 

一毅はサングラスを捨てながらレキと白雪を庇うように立つ。

 

「くそ……」

 

キンジもサングラスを捨てて少しネクタイを緩めながらベレッタを三点バーストにして……

 

「っ!」

 

撃った……が、

 

(弾が二発しかでない!?)

 

キンジは驚愕しながら舌打ちした。

この銃は平賀に改造されたのだが腕が良い代わりに不具合も多いのがご愛敬の平賀の魔改造である。

そしてこのベレッタは二発がほぼ同時に出てしまうようになっていた。

 

「うわわ!」

 

辰正も銃を撃っていくが動きが速い上に辰正自体射撃能力が高いわけでもないためか全て躱される。

 

「お前本当に下手だな」

「キンジ先輩だって全部避けられてるじゃないですか!」

「喧嘩してる場合かよ!」

『銃を忘れた(お前)(あなた)にだけは言われたくない!!!!』

「全く……」

 

レキはドラグノフを構え……

 

「ふっ!」

 

アヌビス?の眉間を撃ち抜く。

また砂鉄になった。

 

「何だこれ……」

「触んない方がいいわよ」

「アリア!?」

 

アリアがキンジのとなりにガバメントを二丁構えながら着地した。

 

「白雪お姉さま!」

 

佐々木は白雪に駆け寄る。

 

「大丈夫だよ」

「がう!」

 

そこにアヌビス?が飛び掛かる。

 

「一毅先輩!!!!」

 

ライカは元々店に預けて置いた殺神(さつがみ)神流し(かみながし)を投げる。流石に断神(たちがみ)は持ってこれなかったらしい。確かにあれは重い。

 

「サンキュー、ライカ!!!!」

 

空中でキャッチして二振りとも腰に差すと殺神(さつがみ)を抜刀。

それに合わせるようにアヌビス?も飛び上がる。

 

「ラァ!」

 

一人と一体が交差する……

 

『………………』

 

一瞬の静寂……そして、

 

「がう……」

 

砂鉄になった。

 

「ぐるる……」

「あーもう!しつこい!」

 

幾ら何でも多すぎる。

 

「行くわよ!レキ!!!!」

 

アリアは回転する台に飛び乗るとレキがその台を撃つ。すると回転し、アリアはその回転に乗って銃弾をぶっ放した。

 

「お、お前やりすぎだろ!!!!」

「これくらいで良いのよ」

 

アリアは台から飛び降りる。

 

「ん?」

 

すると一体逃げ出した。

 

「ちっ……追うぞ!」

 

キンジは近くにあったモーターボートに飛び乗る。

 

「いくぞアリア!」

「え゛?」

 

アリアは表情を強張らせた。

 

「仕方ないだろ」

「せ、せめてライフジャケット……」

「んな時間はない!」

 

キンジがアリアを引っ張ると……

 

「きゃうわ!」

 

キンジにヒシっと抱きついた。

 

「ひゅ~」

「馬鹿!んなこといってる場合か!」

 

一毅にキンジは切れるが、

 

「だ、ダメキンジ……」

「っ!」

 

ドクン!っとキンジ体の芯が熱くなる。成って……行く……

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

一毅は背後から襲撃を受けた。

 

「先輩!!!!」

「ちぃ!」

 

一毅は相手の横凪ぎを、武器の上を転がって躱す。

 

「す、凄い……」

 

佐々木も驚いたような目で見る。

幾ら身体能力が高い一毅でもこれは誰もが見ても驚愕の一言に尽きる避け方だ。

だが注目すべきなのは襲撃者だ。それは先程のアヌビス?に似ているが大きさが違う。身長はおおよそ2m半……この中で一番背が高い一毅の頭1個分近く大きい。

そしてその武器はグレードソードと呼ばれるタイプの剣だ。普通の人間であれば振るう処か持ち上がることすら不可能。だが重量に物を言わせた破壊力は侮れない。

 

「お前ら下がれ!」

 

この武器はただの横凪ぎでも纏めて切り捨てるだろう。残念だが大勢いても邪魔だ……つまり一人でやるしかない。

 

「一毅、そいつを任せて大丈夫か?」

「ああ……」

 

今気づいたがキンジはヒステリアモード……アホはやらないだろう。

 

「お姉さま……こっちです」

 

島がライカと協力して白雪を他の皆と隠す。

 

「気を付けろよ」

「そっちもな」

「行くわよキンジ!」

 

アリアとキンジはモーターボートで走っていく。

 

「よぉし……行くぞ!」

 

一毅は疾走する。

 

 

 

 

「ウラァ!」

 

一毅は殺神(さつがみ)を切り上げる。

 

「ぐぉ……」

 

刀は刺さるが凄まじい筋肉量のためか深く刺さらない。

 

「ちぃ!」

 

一毅は抜こうとするが、筋肉を素早く収縮させ抜けなくする。

 

「なっ!」

「ぐわ!」

 

アヌビス?はグレードソードを振り下ろす。

 

「くっ!」

 

一毅は殺神(さつがみ)から手を離し避ける。

 

「っ!」

 

先程一毅の居た場所にグレードソードが振り下ろされ床に穴が開く。

 

「おいおい……」

 

剣の重さだけじゃない。振るってるアヌビス?その者の腕力が人間離れ(まあ人間では無いのだが)してるのだ。

 

「くそ……」

 

一毅は神流し(かみながし)を抜く。だがこれでは普通に刺しても効果は薄いのは目に見えている。ならば……

 

「うぉおおおお!!!!」

 

一毅は間合いを詰める。

 

「グォオオオオオ!!!!!!!!!!!!」

 

アヌビス?は咆哮をあげると凄まじい速度で振り下ろした。

 

「甘い!」

 

一毅は横にスウェイで躱すと、

 

「オッラァ!」

 

グレードソードの上に飛び乗ってアヌビス?の顔に膝蹴りを叩き込んだ。

 

「がぅ!」

「せぇ……の!!!!」

 

そのまま一毅は神流し(かみながし)を逆手に持つとアヌビス?の顔に突き刺した。

 

「が……」

「…………」

 

一毅は着地する。

 

「どうしたレキ」

「…………嫌な風を……感じます」

「…………」

 

一毅は眉を寄せる。久しぶりに聞いた。レキの風と言う言葉を……

 

『っ!』

 

すると遠方で銃声が聞こえた。

全員が周りを見る中レキはドラグノフを構える。

そして狙いをつけると迷わず撃つ。

 

「不味いですね」

「どういうことですか?」

 

間宮が聞く。

 

「アリアさんが何者かに狙撃されました。更にキンジさんが何者かと交戦に入る可能性があります」

「見せろ」

 

一毅がレキのドラグノフを借りてスコープを覗く。確かに居た……キンジと……金一さんが……

 

「くそ!俺たちも行くぞ!」

 

一毅が振り返った次の瞬間、

 

「ガウァアアアアア!!!!」

「しまっ!」

 

先程倒したと思っていたアヌビス?が突然動きだし一毅の襟を掴むと総重量100キロを越えるグレードソードを軽々と振るう腕力で一毅をぶん投げそのまま一毅は店の受付だったところに突っ込んだ。

 

『なっ!』

 

他の皆も驚愕しつつも武器を構える。

 

「こんの!」

 

ライカのトンファーによる一撃がアヌビス?の腹に叩き込まれる……が、

 

(ダメだ……体重(ウェイト)が違いすぎる……)

 

体格も体重も差がありすぎるためか殆ど効いていない。

 

「ライカ避けて!」

 

間宮の声を聞いてライカは横に飛ぶと、間宮がUZI(ウージー)を撃つ。

だが……

 

「ぐるる……」

(銃弾のパワーが低すぎる!?)

「あかりちゃんに手を出すな!」

 

佐々木が飛び掛かる。

鞘を捨て……放つは巌流の看板技。

 

燕返(つばめがえ)し!!!!」

 

だが脇腹に少し切り傷が入っただけで一毅同様致命傷には遠い。

 

「うぉおおおお!!!!」

 

辰正がアヌビスの頭に飛び乗ると首に足を巻き付けそのまま体を回転させて首をへし折る。

 

「どうだ!」

 

普通なら武偵法9条に違反するため使えないがこいつは人間じゃない。遠慮なく使わせて貰った殺し技だ。

 

「ぐ……るぁ!」

 

だがアヌビス?は頭をがっしり掴むと無理矢理戻した。

 

「っ!」

 

ゴキゴキ首を回して確認するとグレードソードを拾う。

 

「ここは暗闇の中 一筋の光の道がある 光の外には何も見えず、何もない私は光の中を駆けるもの」

 

そこにレキの暗唱と共に銃弾がアヌビス?頭を撃ち抜いた。

 

「やはりダメですね……」

 

レキが言うようにアヌビス?は頭が撃ち抜かれたと言うのに動いている。

 

「喰らえですの!」

 

島のデリンジャーが更にアヌビス?の片目を撃ち抜く。残念ながら効果はないが……

 

「どうする?」

 

ライカたちは目配せする。

 

「じゃあ俺にもう一度交代だ」

『え?』

 

一毅がさっき投げ込まれた受付を乗り越え着地する。

手には三本目の刀……と言うには少々デカいがとりあえず桐生の家に伝わる名刀……断神(たちがみ)を抜く。

刀身はそのでかさと武骨さ……圧倒的なまでの重量感を見ただけでも感じる。全てを断ちきる破壊力を持った刀……薄く緑色に輝くそれは真に使いこなすものは神の意思すらも断ちきると言う意味を込めた一振り……そして二天一流の中ではあまり使われないが攻撃力は最強の型……【二天一流 剛剣の構え】を取る。

 

「グルルル!!!!」

 

アヌビス?は一毅を見ると疾走する。

 

「二天一流……」

 

一毅は断神(たちがみ)を構える。

 

「剛剣!!!!」

 

一毅も合わせて疾走……

 

「グルァ!!!!」

 

グレードソード横凪ぎ一閃……それを一毅は断神(たちがみ)を床に突き刺し飛ぶと曲芸のようにアヌビスを軽々と飛び越えた。

 

「っ!」

 

アヌビス?も驚く中一毅は断神(たちがみ)を握ると、

 

「猿返し!!!!!!!!」

 

そのままアヌビス?の首を撥ね飛ばした。

 

「ウォオオラアアアア!!!!!!!!」

 

更にそのまま振り下ろすと重量に物を言わせて強引に叩き切って体を真っ二つにした。

 

「これでどうだ?」

 

一毅が残心を取りながら見る……そしてそのままアヌビス?は砂鉄になった。

 

「……ふぅ」

 

一毅は刀を全部拾うと仕舞う。

 

「よし、あいつら追うぞ!」

 

一毅の言葉に全員がうなずいた。

 

 

 

 

 

 

少し時間を戻そう。

 

キンジとアリアは逃げ出したアヌビス?を追っていた。

そして、

 

「それ以上は通行止めだ」

 

そう言ってキンジはベレッタを撃つ。

そして、アヌビス?は水の中に砂鉄となって沈んでいった。

 

「ふぅ……」

 

キンジが前髪についた水を払う。

 

「ふぁ……ふぁふぁ!!!!」

 

アリアはアリアで水が怖いのか少し震えている。

 

「ほら、帰ろうか」

「そ、そうね!」

 

アリアは震えた声で言う。

 

(一毅の方は大丈夫だろうし……これにて一件落ちゃ……)

 

パァン!っと空気を切り裂く音が聞こえた。

 

「え?」

 

アリアの体がゆっくり倒れていく。

 

「アリア!」

「おっと動かない方がよいぞ」

「っ!」

 

キンジの目の前に突然船が現れた。

 

「ホッホッホ」

 

船の上にはおかっぱの髪の美女が居た。

 

「く……」

 

キンジがアリアは目だけ動かして探すと水の中から棺に入れられたアリアがアヌビス?達に引き上げられていた。

 

「ふむ……折角じゃ、お前は木乃伊にでもしてやろう」

 

女性がキンジに手をかざした所に、

 

「やめろパトラ」

「っ!」

(兄さん……!?)

「キンイチ……妾の邪魔をするか」

教授(プロフェシオン)から言われているはずだ。アリアに仕掛けるのは良い……だが無駄な殺しはするなと」

「うるさい!妾はやりたいようにやる!贄がなければ楽しくない!!!!」

「だから退学になったのだろう。今の長は教授(プロフェシオン)だ……リーダーの座を狙うなら今は従え」

「何を今さ……むぐ…!」

「え?」

 

キンジは目を見開く。

そりゃ自分の兄が今日初めて見る女性とキスしたのだ……

 

「これで許せ……あいつは俺の弟だ」

(しかも……成っただと!?)

 

今の兄はヒステリアモード……いや、兄の呼び方で言えば【HSS】……だが何でだ?兄である金一はカナに成ることでヒステリアモードになることができる。逆に言えば女性との接触でなる必要はないし何よりあの優しい兄が人を利用してヒステリアモードに成るなど初めて見た。

 

「き、貴様、わ、妾を使って成ったな!」

「悲しいことを言うな。そんな打算的な理由でキス出来るほど器用な男じゃない」

「なっ!」

 

女性はアウアウと顔を真っ赤にすると、

 

「ふ、ふん!今のお主を殺すのは簡単だが儂も無事では済まないじゃろう」

 

背を向け消えていく。

 

「待て!」

「いくな!」

「っ!」

 

金一の怒声にキンジは動けなくなる。

 

「夢を……見ていたようだ」

「何だと?」

 

キンジは兄を睨み付けた。



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金の兄弟喧嘩

「どういう意味だよ。兄さん!無法集団のイ・ウーで何をされたんだよ!」

「そう、イ・ウーは真の意味で無法……何を願っても良い。同時にどのような手を使っても許される」

「っ!」

「それを束ねているのが教授(プロフェシオン)だ。あの男でなければイ・ウーは束ねられないだろう。だが教授(プロフェシオン)にも寿命があった。そしてイ・ウーの人間は探したのだ……後継者を」

「それが……アリア?」

「そうだ。俺はイ・ウーを潰すために考えた。そして至ったのが同士討ち(フォーリングアウト)……アリアを消すことで仲間同士で潰し会わせる……これが第一の可能性だ」

 

そして……と金一は続けた。

 

「アリアが教授(プロフェシオン)を相棒と共に倒すこと……これが第二の可能性。だがパトラに遅れを取るような程度ではそれは無理だ。ならば俺は第一の可能性に戻る」

「待てよ……アリアを殺すのか!?あんた武偵だろ!」

「武偵であるまえに俺は遠山の義賊だ。大きなものを救うには小さなものを切り捨てなけてればならない事もある。お前もそろそろ知るべきだ」

「っ!」

 

キンジは歯を噛み締める。兄の言っていることは正しい。何も間違っていない。だが何かがキンジの心を締め付ける。それで良いのかと……

 

「さっき言ったように……犠牲はアリアだけで良い」

「っ!」

 

ブツンっとキンジの中で何かが切れた音がした。

 

「ふざけんなぁああああああ!!!!」

 

キンジはバタフライナイフを兄のいる船に刺し登る。

 

「あんたは自分を誤魔化してるんだ!本当に義を考えるならアリアも……誰も犠牲がでない方法を考えるべきだ!それが武偵だ!!!!」

 

金一がキンジを睨む。鬼検事(オルゴ)と呼ばれた父と同じ恐ろしい眼だ。

 

「これは百万回考え……百万回悩んだ上での答えだ。いい加減現実を考えろキンジ!!!!」

「百万回考えた?百万回悩んだ?違うね!あんたは考えたつもりになってるだけだ!!!!」

「っ!」

「俺は神崎 ホームズ アリアのパートナーだ!その覚悟は遊びでもなければふざけて名乗ってるわけでもねぇ!例え世界を敵にしたって俺はアリアの隣に居続ける。決めたんだ!協奏曲(デュエット)になるって」

 

キンジはホルスターからベレッタを抜く。

 

「兄さん……いや、元武偵庁特命武偵 遠山 金一!殺人未遂の現行犯で逮捕する」

 

金一はキンジを見据える。

 

「おまえのそのHSS……アリアでなったものか?」

「……ああ」

 

すると金一は両手をダラリとおろす……

 

「良いだろう。ならば見せてみろ。お前のアリアへの想いを……」

 

そう言った次の瞬間キンジの腹に銃声と共に痛みが走る。金一の得意技……不可視の銃弾(インヴィジビレ)だ……

 

「なぜ避けない」

「態と喰らったんだ……それくらい分かれ」

 

キンジはニィっと笑う。

 

「見えたぜ……その技の正体」

 

見ること叶わぬ銃撃……それが不可視の銃弾(インヴィジビレ)だ……だがその正体は単純。

 

「何であんたがコルトSAA何て言う美術館にありそうな銃を使うのか不思議だった」

 

精度や威力……リロードの早さだって自動式拳銃が上回る昨今……だがこの銃は……

 

「その銃は早撃ちに適した銃だ……その銃でヒステリアモードの反射神経を使って撃つ……これが不可視の銃弾(インヴィジビレ)の正体だ」

 

金一は瞳を閉じる。

 

「流石だな……だがキンジ。それがどうした。お前の使う技に不可視の銃弾(インヴィジビレ)を防ぐ手立てはない」

 

そう……そんな技はない。だが、

 

「……なに?」

 

金一は眼を見開く。何故ならキンジは銃を腰のホルスターに戻したのだ。構えは間違いなく不可視の銃弾(インヴィジビレ)……

 

「浅はかな……お前の銃は早撃ちに向かない」

「やってみなきゃ分かるまい」

 

風が吹く……まるで西部劇のように……

 

「やはり……兄を越える弟はいない!」

 

金一の不可視の銃弾(インヴィジビレ)が発射される……

確かに不可視の銃弾(インヴィジビレ)を破る技はない。

だが無理、疲れた、めんどくさい……この言葉を封じられているのだ。

 

(無ければ作る!それだけだ!!!!)

 

コンマ一秒後にキンジの銃弾が発射される。二発しかでない三点バーストで……

この新技は一発目の銃弾で弾き、二発目で相手の銃を撃ち抜く技……名付けて、

 

鏡撃ち(ミラー)!!!!)

「っ!」

 

金一は突然自分の銃が砕け散り驚愕した。だがそれだけでは終わらず、

 

「ウォオオオオオ!!!!!!!!!!!!」

「なに!?」

「シャアアアアア!!!!!!!!!!!!」

 

キンジは一気に間合いを詰め飛び上がると金一の顔に飛び蹴りを叩き込んだ。

 

「がっ!」

「立てよ……」

 

銃が壊れたから俺の勝ちだ決着です……何て言う喧嘩は遠山はしない……きっちり決着を着けなければいけないのだ……

 

「俺の不意打ち一発で倒れるような柔な鍛え方してないんだろ?」

「……ふ、そうだな」

 

金一も立ち上がる。

 

「覚えてるか?俺とお前……今まで何回喧嘩したか……」

「ああ、99戦中99敗……これで丁度100戦目だ。そして今回は区切りも良い……だから……」

 

初勝利を頂こう。

 

「ああ、今回で100勝目だ……丁度区切りも良くてスッキリする」

 

だから今回も勝たせて貰おう。

 

「後悔するなよ……キンジ」

「あんたこそ……何時までも餓鬼だと思ってると痛い目に遭うぜ?」

 

キンジと金一は自分の服の肩の部分をつかむとバッ!と上に来ていた服を脱ぎ捨てた。これからやるのはただの喧嘩だ……防弾繊維の支給されたスーツなど要らない。

少し暑くなった気温が二人のさらけ出された上半身を包む。

 

「いくぞぉおおおお!!!!キンジぃいいいいいいいい!!!!!!!!」

「いくぞぉおおおお!!!!金一ちぃいいいいいいいい!!!!!!!!」

 

二人のハイキックのぶつかった音が開始の合図とばかりに響いた。

 

 

 

 

「シャ!」

「っ!」

 

キンジの掬い蹴りを金一は跳んで躱しながらキンジに先程のお返しとばかりに蹴りを叩き込む。

 

「ぐっ!」

「ふん!」

 

更に連続蹴りがキンジを狙う。

 

「くぉおおおお!」

 

キンジも蹴りの応酬で対抗する。

 

『オッシャア!』

 

更に同時に蹴りの軸足にローキックを打ち込んだ。

 

「くっ!」

「ちぃ!」

 

だがキンジも金一もそのまま蹴った脚を一度戻しそのまま相手の横顔に蹴りを入れる。

 

『がは……』

 

キンジと金一は横にふらつく。

 

「うぉら!」

 

金一の脇腹を狙うミドルキック……

 

「シャ!」

 

それを脛で受け押し返すと逆に蹴り飛ばす。

 

「ぐっ!」

 

そして間合いを詰めると、キンジの体から深紅のオーラ(レッドヒート)……そして其処から放たれるのは、

 

「エアストライク!!!!」

 

ガン!っとキンジのバック転蹴りが金一を打ち上げる。そして更に追撃すべくキンジも跳ぶが……

 

「おぉおおらぁあああ!!!!」

 

瞬時に体勢を立て直し金一は蹴りを放つ。

 

「っ!」

 

空中でキンジと金一の蹴りがぶつかり合う。

 

「ぐぁ!」

 

キンジは咄嗟に受け身を取りつつも落ちた。

エアストライク……再び破れたり……である。

 

(重い敵や俺と同じく身軽な相手には嵌められないって感じだな)

 

キンジは立ち上がると金一を見据える。エアストライクが破られた程度で勝利を捨てるような必要はない。

 

『……………』

 

トントントンっと軽く二人はその場に跳んでリズムを刻む。

 

「強くなったな」

「まぁな……」

 

キンジは脚に力を込める。

 

「シャ!」

「ルゥア!!!!」

 

ゴッ!と二人の後ろ回し蹴りがぶつかる。

 

「オオ……」

「ぬぅ……」

 

二人が押し合う……

 

「オオオオ……」

「ぬぅうう……」

 

ググ……と金一は僅かに押すが押し返される。

 

「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

キンジの体から再度深紅のオーラ(レッドヒート)が溢れだすと金一を押し飛ばした。

エアストライクは通じない……だが前から構想だけは出来ていた新たな技……一毅で言う絶技に該当する技をキンジはぶっつけ本番で行うことにした。

 

「勝機!!!!」

 

キンジのハイキックが金一に決まる。

 

「ぶっ!」

「はぁ!」

 

更にミドルキック……

 

「ヨッシャ!!!!」

 

飛び上がり右足と左足の連続蹴り……

 

「ウッシャ!」

 

更に降りると最初とは逆の足でのミドルとハイの蹴り叩き込むとキンジは一瞬腰を落とす。

これで終わり……深紅のオーラ(レッドヒート)で超強化された蹴りを連続で叩き込み最後に強烈な一撃をブチ込むキンジの絶技……その蹴りの連撃は相手に自分への勝利と言う夢すら破壊する。名付けて、

 

「ファンタジスタブレイク!!!!!!!!」

 

キンジは飛び上がると回転……遠心力とレッドヒートの超強化、そして元からの破壊力などを味方につけた渾身の踵落としを金一の頬に叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

キンジは立ったまま荒く息を整えながら金一を見下ろす。

 

「本当に……強くなったな」

「……兄さん……ごめん」

 

分かっている……こんなの我が儘だってことは……でも……

 

「分かっている……そんな器用にお前は生きられない。まるで父さんのようだ」

「え?」

「傷つきながら戦って……現実を知ってもそれに準ずることができなくて……」

 

金一は笑う。

 

「俺はお前が羨ましいよ。自分の思ったことに誰もが疑問を持つ。だがお前は自分を信じて決めた意思を貫こうとする」

「……馬鹿な親友がいたから馬鹿が伝染ったんだよ」

 

キンジは服を着ると、

 

「俺はまだ……走ってみるよ」

 

そう言ってボートにのって行った。

 

「全く……どんなバカに育ったもんだ」

 

金一はどこか晴れやかな顔で言った……

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジはその後車輛(ロジ)のドックに来た。

一毅からその後連絡が来たのだ。

 

「皆……」

 

キンジが来ると、

 

「事情は知ってる。行けるか?」

「おう!」

「でもどうしたんですかその顔」

 

辰正が見てくる。確かにキンジは先程の蹴り合いで顔が結構腫れていた。

 

「ちょっとな」

 

すると眼帯を着けた理子が来た。

 

「アリアの場所がわかったよ」

「どうした?その顔」

「パトラにやられたのだ」

 

其処に松葉杖を着いたジャンヌと包帯とギブスの白雪が来た。

 

「スカラベっていう虫に憑かれちゃったの」

「虫……」

 

そう言えばアリアにも虫がくっついた……それでか……

 

「さて、行くんだな」

「当たり前だろ」

 

キンジがそう言うと背後の潜水艦の入り口が開いた。

 

「ん?キンジも来てたのか」

「武藤!」

「僕もいるよ」

 

中から不知火も出てきた。

 

「何で……」

「ま、何かお前らがヤバイ事件に巻き込まれてるのは知ってたからな。俺たちにできるのはこの潜水艦を動けるようにすることだけだ」

「仲間を信じ仲間を助けよだから。何に巻き込まれてるか分からないけど絶対に殉職しないでね」

「二人とも……」

 

すると、

 

「あやや!あやや!」

「平賀さん?」

 

其処に合法ロリ改め平賀さんがやって来た。

 

「ふぃ~疲れたのだ」

「どうしたんだ?」

 

一毅がいくと、

 

「何かヤバイ事件に巻き込まれてると聞いてお得意様の遠山くんと桐生くんに新装備をあげにきました!」

『なに!?』

 

キンジと一毅がそれを見る。

見てみれば……ロングコート?

 

「ついさっき完成したばかりでどれくらい使えるのか未知数だけど絶対に役立ちますのだ」

「用は俺たちでテストか?」

「まあそうとも言えますのだ。だから絶対帰ってきてほしいのだ」

 

平賀なりのエールと言うところだろう。

 

「で?これは?」

「最近完成した新繊維、【AYAYA】で作ったロングコートですのだ。防弾防刃耐衝撃性に優れ、更に暑いときは涼しく、寒いときは暖かくなるようになってますのだ。ちゃんと防炎加工や絶縁機能も完備、これ一着であらゆる状況に対応できますのだ」

「へぇ~。名前は?」

「【龍桜(りゅうおう)】ですのだ」

龍桜(りゅうおう)……か』

「因みにこっちが桐生くんの、こっちが遠山くんのですのだ」

 

そう言ってキンジには縹色の龍桜(りゅうおう)を……一毅には銀色の龍桜(りゅうおう)を渡された。

 

「ん?」

 

そして気づいたがこれ……背中にそれぞれ刺繍がある。

例えばキンジには背中に桜の木の刺繍で右腕にかけて桜の葉が舞い散っている。

そして一毅には背中に巨大な龍の刺繍……恐らく王龍と呼ばれる龍だ。

 

「派手だなぁ」

 

キンジが眉を寄せる。

 

「遠山くんの先祖に合わせてみました!」

 

これ最初からあげる予定だったんじゃ……と思ったが其処は敢えて突っ込まない。

 

「ありがとな。で?誰がいく?」

「うん、本当は超能力者(ステルス)が居るから私が行きたかったんだけどこの腕じゃ足手まといになる。だから行くのはキンちゃんとカズちゃんと……」

「私たちもいきます!」

『っ!』

 

其処に間宮たちも来た。

 

「おい、遊びに行くわけでもないし何より今から行くのは大規模な戦闘が前提だ。お前らじゃ……」

「でもアリア先輩ほっとけません!なにもしないで待つなんて嫌です!!!!」

 

間宮に言われキンジは弱る。

 

「まあ、前回のような砂鉄人形(ゴーレム)が大量に出た場合人数はある程度いた方がいいとも思いますが?」

「レキ……」

 

レキもフル装備で入ってきた。

 

「……わかったよ。但しお前ら絶対前に出るな。パトラとは俺が戦う。後、島は絶対だめだ」

「分かってますの……」

 

一毅が言うと間宮たちも頷く。

島も不承不承といった感じだが自分では戦闘には完全に役に立たないことを分かってるため了解した。

 

「良いのかよ」

「来んなって言っても聞くやつらじゃねぇだろ」

 

キンジと一毅はボソボソ二人で話す。確かに言うことを大人しく聞いてくれるような奴等ではない。

 

「仕方ない……お前ら!俺たちはこれからアリアの救出にいく!準備は良いな!」

『はい!』

「おう!」

 

キンジが言うと皆は返事した。時々リーダー能力の高いやつである。

そしてキンジと一毅が龍桜(りゅうおう)を着ると皆は潜水艦に乗り込んだ。



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龍達の討ち入り

「見えてきたぞ……」

 

一毅が言うと皆も見に来た。

 

「アンベリール号……」

 

キンジは苦虫を噛んだような顔になる。

キンジとは間接的にであるが因縁深い船である。

 

 

さて、一毅たちは現在海の中でそれぞれ食事をとったり睡眠とったり、

 

「あかりちゃん~」

 

とくっついていたり……

 

「って志乃、お前何してるんだ」

「あかりちゃん成分吸収中です!」

「そ、そうか」

 

ライカはその百合百合しい光景から目を逸らした。

 

「それにしてもでっかいピラミッドですねぇ」

「そうだな……何であんなのおいてあんだ?」

 

ライカと一毅が首を捻ると、

 

(まじな)いですよ」

 

レキが答えた。

 

「どういうことだ?」

超能力者(ステルス)は皆さんが思ってるほど万能ではありません。使えば使った分だけ消費して何かしらで回復しなければなりません。ただああ言った風に式と呼ばれる物を掛けておく事で無限に超能力を使えるようにするというのを聞いたことがあります。ただその技術事態高くないと不可能な芸当ですがね」

「そう言えば白雪お姉さまがパトラは世界でも五指に入る超能力者(ステルス)だって言ってました」

「かなりヤバイ相手……ですね」

「ああ」

 

ライカに一毅が同意していると、

 

「……」

 

キンジは一人何かを考え込んでいた。

 

「キンジ?」

「ん?」

 

キンジがこっちを見る。だが何かゾッとした……いや、キンジの眼がネクラっぽいのは前々からだし気にならないが……何て言うか全てを見抜かれてるような感じだ……

 

「どうしたんだよ?」

「いや……」

 

キンジは目を逸らす。

 

「すまん……少し考えさせてくれ」

「ああ」

 

キンジは自分の目を抑える。

 

(眼が……どうかしたのか?俺の眼……)

 

「入ります……」

 

運転していた辰正の言葉に皆は頷いた。

 

 

 

 

 

「よいしょ!」

 

一毅が潜水艦の入り口を開けると皆も続いて出てくる。

 

「中は見た目より大きいんだな」

 

だが周りは砂だらけだ。

 

「こう言う時って砂の中から手が急に出てきて……何て言うのがお約束だよなぁ」

『っ!』

 

間宮、佐々木、ライカの3人が一毅の言葉を聞き飛び上がった。

 

「冗談だよ」

 

3人は一毅を怨めしそうに見る。

 

「ははは」

 

すると一毅は肩を叩かれる。

 

「何だよそんな怒んなくたって良いだろ。行くぞ」

 

だが一毅はふと気付く。そう言えば自分の視界には既に皆いる……そしてその皆は顔を青くして後ろ後ろと指を指す。

 

「何だよ。俺は志村 けんじゃ……」

 

一毅が振り替えると目の前に……

 

「グルル……」

「え?」

 

アヌビス?と言うか正式名称はゴレムにご対面である。

 

「うぉわ!」

 

一毅は遠慮なくぶん殴って吹っ飛ばす。

 

「び、びっくりした……」

「ビックリしてる場合じゃないぞ……見てみろよ」

 

キンジに言われ一毅が周りを見ると砂が人の形を取りゴレムに変わった。

 

「はは……俺これから冗談でもさっきみたいなこと言うの辞める」

「是非そうしてください」

 

一毅が殺神(さつがみ)を抜きながら言うとレキは言葉を返しながらドラグノフを構える。

 

「マジでこれから自粛してくださいね」

 

ライカは一毅に説教しながらトンファーを構える。

 

「ついて早々これぇ?」

 

間宮は嫌そうな顔をしながらマイクロUZI(ウージー)を構える。

 

「仕方ないよ。敵は待ってくれないからね」

 

辰正は受け流しの構えを取る。

 

「大丈夫だよあかりちゃん。あかりちゃんには指一本触れさせない!」

 

佐々木も居合いの構えを取る。

 

「まあパトラには俺たちの侵入がバレてると考えて良さそうだ……仕方ない」

 

キンジもベレッタを構えると、

 

「全員突撃だ!!!!」

 

キンジが叫ぶと皆は攻勢に入った。

 

 

 

 

 

「うらぁ!」

 

一毅は次々切り捨てながら跳ぶ。

 

「うっらぁ!」

 

振り下ろしで真っ二つにした。そこに背後から襲い掛かるが……

 

「ここは暗闇の中……一筋の光の道がある、光の外には何も見えず、何もない私は光の中を駆けるもの……」

 

ドラグノフの弾丸がゴレムを撃ち抜く。さらに、

 

「一毅先輩背中借ります!!!!」

 

ライカが一毅の背中に乗ると蹴りをブチ込んだ。

 

 

 

「くっ!」

 

間宮はゴレムの剣をギリギリで躱す。

 

「っ!」

 

そして一瞬間宮の眼が光り次の瞬間銃声が合計八つの銃声が響く……

 

「がう……」

 

両目、咽、心臓の部分に二発ずつ撃ち込まれたためゴレムは後ろに倒れた。

 

「人間相手には使えないけど……貴方達は人間じゃない」

 

 

 

 

「………」

『………』

 

辰正は三体のゴレムに囲まれていた……

 

「がう!」

「っ!」

 

後ろから来たがそれを避けつつ相手の勢いを利用し投げる。だがただ投げるのではなく頭から叩き落とすように投げた。

 

「がっ!」

「はぁ!」

 

更に別のゴレムを掴むと腕の関節を取り折りながら地面に投げ、そのまま地面に倒れたところに咽をぶん殴る。

 

「がぁあああううぉおおお!!!!」

 

突っ込んできたゴレムを見据える……

 

「っ!」

 

ゴレム一撃を横にスウェイで躱すと腹に一発パンチを撃ち込み顔を下げた所に腕を回し首の関節を極めるとそのまま後ろに倒れ首を折りながら巴投げの要領で投げる。

 

「どうだ!」

 

 

 

 

「………はぁ!」

 

キン……っと言う音を一瞬させながら佐々木はゴレムの横を通過する。

それと共にゴレムは横一文字に斬られ上半身と下半身に別れる。

 

「その程度ですか?」

 

 

 

 

「?」

 

キンジはゴレムに銃を撃ち込みながら違和感を覚える。

幾らなんでも弱すぎる。

時間がなかった?いや、準備する暇くらいあったはずだ。なのに前回あまりの早さに素の自分では銃弾を当てることすらできなかったゴレムに当てている。それに動きも単調だ。

それに他の皆も気づき始めている。パトラは何を考えているのだ?

だがそれよりも今はキンジは別のことが気になっていた。今のを差っ引いてもお世辞にもうまいとは言えない射撃であるのに銃が面白いように当たる。理由は分かってる。それは……

 

と、丁度最後の一体を一毅が斬った。

 

「なあキンジ……弱すぎやしないか?」

「それは俺も思っていた。幾らなんでも弱すぎる……これならカジノに表れた奴等の方が何倍も強い」

「まあとにかく先向かいません?その方がいいですよ」

「ああ……」

 

辰正に言われキンジは頷く。他の皆も武器を仕舞うと歩きだ……

 

『っ!』

 

その瞬間砂が再度集まりだしまた人の形となった。

 

【残念じゃったのう」

「この声は……パトラか!?」

【そうじゃ遠山 キンジ……馬鹿じゃのう。妾のゴレムがこれで終わりのわけがないじゃろう。これの真骨頂はこれからよ】

 

パトラがそういった瞬間ゴレムが一体を走ってくる。

だがその速度は先程のと比べ物にならない。

 

「くっ!」

 

一毅が咄嗟に殺神(さつがみ)で弾くが手に嫌な汗をかく。

 

【教えてやろう。これはな、確かに最初は弱い。だが倒され、復活する都度に強くなり……学習するのじゃよ。あ、学習自体は見るだけでも出来るがの】

『っ!』

【さぁて……あとどれだけ持つかの】

 

どこからともなく聞こえていた声が聞こえなくなる。

 

「来るぞ!」

 

一毅の言葉と共に飛び出してくる。

 

「くっ!」

 

間宮が銃撃するが全て躱されるか剣で弾かれる。

 

「なら私が!!!!」

 

佐々木が刀に手をかけたがほぼ同時にゴレムが柄を蹴って止める。

だがそこに、

 

「佐々木ちゃん!」

 

辰正の飛び蹴りが吹っ飛ばす。

だが腕でそれもガードされていた。

 

「完全に俺たちの動きを学習したってことか」

 

一毅が舌打ちする。

 

「………」

 

レキがドラグノフを構える……だが、

 

「がう!」

「レキ先輩!」

 

剣を投げて止める。剣事態はライカがトンファーで弾くがその間に距離を詰められる。

 

「やばっ!」

「おらぁ!」

 

それを一毅は刀で迎撃するが、

 

「くっ!」

 

簡単に受けられて距離を取られる。

 

「進化の振り幅でかすぎだろ」

「文句いってる暇はないですよ」

「…………」

 

そんな中でもキンジは黙っていた。

 

「どうした?」

「いや、何でもない」

 

キンジは目を軽く抑えた……

 

「どうする?」

「時間はなさそうだからここは奥の手で行こう」

「どうすんですか?」

 

キンジに視線が集まる。

 

「良いかお前ら……途中で絶対諦めるなよ……」

 

全員が頷いた瞬間……

 

「逃げろォオオオオオオオオ!!!!」

 

キンジは先に進むドアの方に全速力で走りだし全員がずっこけた。

 

「あはは~やっぱりかよ!」

「まあそんなオチでしょうね」

 

キンジとは付き合いが長い一毅と一年近くの付き合いとなったレキは流石に心得ており一緒に走り出す。僅かに遅れて一年生ズも追い付いてきた。

 

「なんですかそれは!どこが奥の手ですか!」

「だから鬼武偵神崎 H アリアをキレさせたときの奥の手、嵐が過ぎ去るのを待つため離れる!だ」

 

間宮とキンジは喧嘩しながら走る。

 

『っ!』

 

すると目の前にゴレムが立ちふさがる。

 

「ウォオオ!」

 

一毅が前に出る。

一撃で良い……

 

「アタレェエエエエエエエ!!!!」

 

一毅の体にピリッとした感覚が流れる。

それと共に剣が振り下ろされる……が、

 

「オォオオオオオラァアアアアア!!!!!!!!」

 

バン!と地面を一毅が蹴ると横に一瞬で跳躍……それと同時に一閃……ゴレムの頸が跳んだ。

あり得ない反応と速度に他の面々は驚愕する。

 

「グゥウウウワァアアアアア!!!!」

 

更にもう一体……それには場所的にキンジが相手をするしかない。

 

「くっ!」

 

だが次の瞬間キンジの視界が一瞬バツッ!とスパークした……

 

「っ!」

 

キンジは敢えてスレスレで躱す。

 

『なっ!』

 

他の面々が驚愕した……今の一撃は一毅のつい今の一閃を見て学習したのか最速の一撃だった。

だがそれを敢えてスレスレで躱すと言う芸当を見せ……

 

「シャ!」

 

ハイキックで鼻に爪先を叩き込むとそのままドアをぶち開ける。

 

「早く入れ!」

 

一毅は皆が入ったのを確認するとドアを閉め近くの重りになりそうな物でドアを塞ぐ。

それからキンジを見る。

 

「お前今……素だよな?」

「ああ……」

 

一毅はキンジの反応に本当に驚いていた。無論今のゴレムを何時斬ったのかも分からないままだがそれ以上にキンジの反応……まるで剣筋が完全に見えてるようだった。

 

「見えたのか?」

「ああ、見えてた」

「?」

 

見えたか?と言う問いに、見えてた……と言う返しは可笑しいような……だがそんなのを気にする間もなくドアがぶち破られんばかりに叩かれた。このままでは壊される。

 

「行くぞ!」

 

全員で先に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

一番豪華そうな扉を開ける。

 

「ふん、来たか」

「パトラ……」

 

玉座に座るパトラを見てキンジ達はアリアを探す。

 

「アリアならあそこの棺の中じゃ。安心するがよい。まだ死んではおらぬ」

「何でアリアを狙ったんだ?」

「……………」

 

キンジの問いにパトラは目を細めた。

 

「イ・ウーを手に入れるためじゃ」

「何故だ?」

「妾が世界の頂点に立つため」

「おいおい、世界征服でもするのかよ」

「まあそういうことじゃ」

『………………』

 

一毅は冗談で言ったつもりが肯定され皆で黙った。

 

「ブラドも本当は妾が呪いをかけ、倒してやったと言うのにイ・ウーの奴等はアリア達が倒したなどと抜かす。群れて倒すのは弱いやつのやることじゃ」

 

そう言ってパトラは立ち上がる。

 

「安心せい。綺麗な女子(おなご)は生かす。だが男はいらんから労働でもさせる。側近も女で固めたい。まあ金一はずっとカナにさせておく。あやつにあんなことをされてから眠れん」

 

するとパトラはキンジを睨む。

 

「じゃが遠山 キンジ。お前は絶対殺す。お前は金一に面影が似とる。向かっ腹が立って仕方がない」

「そりゃ兄弟なんだから似てて当たり前だろ……」

「キンジ……金一さんはあいつに何したんだ?」

「まあ……ちょっとな」

 

キンジはそう言って銃を抜く。

 

「ふむ……覇王(ファラオ)である我に(それ)を向けるか……良いだろう」

 

すると次の瞬間地面からゴレムが6体現れる。

 

「先程の進化ゴレムじゃ……強さはさっきのと同じじゃから強いぞ」

 

パトラがそう言うと襲い掛かってくる。

 

「くっ!」

 

一毅は殺神(さつがみ)を抜くと6体全ての攻撃を捌く。

 

「キンジ!走れ!!!!」

 

キンジは棺に向け走り出す。

 

「っ!」

 

ゴレム達が通せんぼしようとしたが……

 

「邪魔すんな!!!!」

 

キンジが一瞬で隙間をすり抜けていく。

 

「お前らの相手は俺たちだぜ」

 

更に一毅達がゴレムの前に立ちふさがる。

 

「行くぞ!」

 

第2ラウンドの開始である。

 

 

 

 

 

「くぉ!」

 

一毅はゴレム剣を殺神(さつがみ)を捌くが一撃一撃がアホみたいに高い威力を持っており気を付けないと刀を弾き飛ばされてしまいそうだ。

 

「こんのぉおおおおお!」

 

一毅は刀をぶつけると巻き上げ剣を上空に打ち上げる。

 

「二天一流!秘剣・巻鳶斬り!!!!」

 

3連斬を叩き込み倒すが……

 

「グルル……」

「くっ……」

 

復活する。

 

「くそ………」

 

一毅は舌打ちした。

 

 

 

「うっ!」

 

剣が近くを通過する……躱したのに凄まじいまでの圧迫感(プレッシャー)にライカは潰されないように心を落ち着けつつもトンファーの連撃を叩き込む。

 

「おら!」

「がうっ!」

 

だがそれをゴレムは防ぐと切り返してくる。

 

「喰らえ!」

 

ライカはバックステップで距離を取りながら懐から出した蝙蝠の形をしたブーメランを出すと投げた。

 

「っ!」

 

それをキャッチしたが……

 

【ピピピ!】

 

次の瞬間爆発した。

 

「ふぅ……」

 

だがゴレムは再生した……

 

「く……」

 

ライカはトンファーを構え直した。

 

 

 

 

 

「うわ!」

 

間宮はゴレムの速さに何とか着いて言っていた。

元々身のこなしや速さはキンジほどでないにせよ元公儀隠密である間宮の末裔だ。低い筈はない。無論普段は殺さないような戦い方を強いられる武偵活動とは違い手加減が要らないと言うのは大きいとは思うが……

だがそれにすら簡単についてくるゴレムは驚異としか言いようがなかった。

 

「っ!」

 

横凪ぎの一撃を間宮は伏せて躱す……

そして、

 

「はぁ!」

 

顎に銃口を押し付け発射……ゴレムが後ろに倒れた……

 

「はぁ……はぁ……っ!」

 

だがゴレムは何事もなかったかのように立ち上がる。

 

「うそでしょ……」

 

 

 

 

 

「ちぃ!」

 

辰正はゴレムの一撃を受け流す。

だが、それで体勢は崩さず耐える。

更にそのまま剣を振り上げる。

 

「うぉ!」

 

それをスウェイで躱すと辰正は、

 

「よいしょ!」

 

ゴレムが振り上げた腕を掴み関節を極めると折りながら頸に手を回し一回転させる。

 

「どうだ?」

 

だがゴレムは頸を掴むと強引に元の位置に戻す。

 

「全く……しつこい男は嫌われるよ?」

 

 

 

 

 

「はぁ!」

 

佐々木の刃がゴレムを狙うがそれを弾かれる。純粋な剣速のみに限れば一流一歩前程度の速さがある佐々木の一撃だがそれを簡単にゴレムは止めた。

 

「くっ!」

「がう!」

 

更にゴレムは無茶苦茶な腕力で剣を振り下ろしてくる。

腕力においては貧弱甚だしい佐々木は避けの1手だ……

そしてゴレムの一撃を躱しきると……

 

燕返(つばめかえ)し!!!!」

 

渾身の燕返(つばめかえ)しがゴレムを切り裂く……

だが瞬時に形が形成され直し復活した。

 

「何か弱点は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

キンジは皆の苦戦を見つつも自分が割り込んだ所で状況は変わらないと分かってるためアリアの救助(セーブ)を急ぐ。

だが、

 

「させると思うとるのか?」

「っ!」

砂鉄で作ったと思われる剣が振り下ろされキンジは躱す。

 

「ふむ、回避能力は中々高いようじゃの」

「パトラ……」

 

キンジは何時でも蹴りを出せるように構える。

 

「ほほ……やる気か?」

「…………」

 

キンジはパトラに答えない。

 

「はぁ!」

 

パトラが剣を振り下ろす。

 

「っ!」

 

キンジはそれを半歩下がり躱す。

 

「なに?」

「っ!」

 

キンジは更に来た斬撃を全て紙一重で躱す。

 

「ふむ……避けてばかりでは勝てんぞ!」

「分かってんだよ!」

 

キンジのミドルキックがパトラを狙う。だが、パトラはそれを後ろに跳んで躱すと、

 

「ふむ……ならばこれならどうだ?」

「っ!」

 

急にキンジは自分も体が乾いていくのを感じた。

 

「か……はぁ……」

「残念じゃったの」

「ぐ……」

 

視界が滲んでいく……眼が乾く……舌が乾く……命の灯火が……消えていく……

だがそこに銃声が響く。

 

「っ!」

 

同時にキンジに水が掛けられた。

 

「お前は……!」

「あんたは……!」

 

キンジとパトラは同じ方向をみる。そこには月を背に立つ一人の美女……美と言うものの体現者。

 

「この戦い……私も参戦させてもらうわ」

「金一……いや!」

『カナ!!!!』



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龍の驚愕

「何で……」

「弟とその仲間達の危機に馳せ参じたのよ」

 

フワッと重力がまるで無いかのような動きでキンジとパトラの間にカナは着地すると、

 

「キンジ、私があげたバタフライナイフはあるわね?」

「あ、ああ」

 

次の瞬間カナはとんでもない事を言った。

 

「じゃあそれを持ってアリアにキスしてきなさい」

「……………え?」

 

戦いの場だというのに間抜けな声が出た。

 

「接吻とかチュウとも言う奴よ?」

「いやそれは流石に分かる」

 

女性との付き合い方と言う点において同世代の男子からは地球と冥王星位の差があることはキンジ自身も大いに自覚している。だが流石にキスが分から無いほどではない。

キンジをなにより驚かせてるのはキスをしろと言うこと事態である。

 

「王子様のキスでお姫様起こしてあげなさい」

「させるか!」

 

パトラのゴレムが迫る。

 

「ふふ……」

 

カナは不可視の銃弾(インヴィジビレ)で全て瞬時に撃ち抜く。

 

「行きなさいキンジ。彼女は私が止めるわ」

「………頼むぞカナ!」

 

キンジは走り出す。

 

「まて!」

「待つのはあなたよ」

 

足元に銃弾が撃ち込まれパトラは止まる。

 

「さぁ……掛かってきなさい」

「~~!!!!」

 

パトラは武器を抜く。形状は日本刀……

 

「イロカネアヤメ……星伽から盗まれたって噂を聞いていたけど貴女だったようね」

「はぁあああああ!!!!」

 

パトラがイロカネアヤメを振り下ろす。

それをヒラリヒラリと舞うようにカナは躱していく。

 

「その程度じゃ当たらないわよ」

「くっ!」

 

パトラはそれでも剣を振るう。

 

「パトラ……貴女は優秀な子……左右の手で別の絵を描くように魔術を使う。それに無限魔力が加われば一見脅威……でも貴方は人間。集中力は無限じゃない」

「っ!」

「今一毅達が応戦してるゴレムだってそう……砂を人形にする術……更にそれを無限に行えるようにループさせる術……そしてループの際に学習する術……これだけの複合術式を同時に何十体もここまでに使えば……貴女は疲れ始める」

「違う!!!!」

「違わないわ。その証拠に貴女はこの場では6体しか出せてない。そして今の貴方は……砂で剣すら作れない」

「だまれぇえええええ!!!!お前なんか嫌いじゃあああああああ!!!!!!!!」

「あら残念。私はあなたが好きなんだけどね」

 

カナの髪から刃の破片がゾロゾロと現れ一つの巨大な鎌となる。

 

サソリの尾(スコルピオ)

 

ギィン!っとイロカネアヤメを弾くと、鎌の先が空気を切り裂き円錐錐状(ヴェイパーコーン)が見える。まるで桜吹雪が舞う様に……

 

「おやすみなさい」

「っ!」

 

ズン!っと柄尻でパトラの腹を突くと意識を刈り取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝機!!!!」

 

一毅は急激に動きが悪くなったゴレムを見ると力をためる。急に動きが悪くなったのには驚いてはいるが今なら行ける気がした。

 

「全員集まれ!」

『っ!』

 

一毅に言われ皆は一毅の周りに集まる。

 

「合図でしゃがめ!」

 

一毅はそう言って背中の断神(たちがみ)を抜く。

 

「二天一流 剛剣……」

 

一毅は静かに精神を集中させる。

 

「秘技!!!!」

 

次の瞬間一毅の体を純白のオーラ(ホワイトヒート)が包む。

 

「今だしゃがめ!」

 

一毅が叫ぶと皆はしゃがみゴレム達は飛びかかってくる。

 

絡繰独楽(からくりごま)ぁあああああ!!!!」

 

断神(たちがみ)を手に一毅は回転……遠心力を味方にゴレム6体纏めて斬り飛ばした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう腕力してるんですか?」

「鍛えてますから」

 

一毅は辰正に親指たてて答える。

 

「一毅さんが鍛えてるとこ余り見たこと無いんですけど」

「まあそれもそうだな」

 

するとそこにカナが来た。

 

「お疲れさま」

「ゴレムが弱体化したのはあんたのお陰か?」

「ええそうよ」

 

いきなり絶世の美女と言っても過言ではない女性?が現れて間宮達が驚く。

 

「初めまして。キンジの姉のカナよ」

「姉……ねぇ……」

 

そこに疑問は覚えたがここでネタばらししようものなら確実に金一に戻った際に拳銃片手にキレた金一に地の果てまで追いかけ回されることは間違いないので黙っておく。と言うか是非とも一生カナで居て欲しい……

 

「それにしても強くなったわねぇ。凄い凄い」

 

カナに頭を撫でられる。背はこっちの方が今じゃ高くなったもののキンジ同様一毅もカナに頭が上がらないのだ。

 

「それで?キンジは?」

「たぶん棺の方に……あれ?」

 

するとキンジも棺のいない。

 

「あら?」

「いや、あら?じゃねえだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつつ……」

 

キンジは頭を抑える。棺に近づいた瞬間確か……

 

「そうだ。いきなり穴に落ちたんだ」

 

上を見てみるが完全に閉じてるため上がれそうにない。だがそれより、

 

「アリア!」

 

キンジは棺を開ける。酷く重かったが何とか開けると中には瞳を閉じ、エジプト風の服に身を包んだアリア……こんなときに不謹慎だが……可愛かった。

 

「っ!」

 

ドクン……っとヒステリアモードに成るときのとは違う質の心臓の跳ねを感じた。

ただ可愛いものを見たときはこんな反応はない。薄々……気付いていたのかもしれない……それを否定していただけだったかも知ればい……でも……確信してしまった。

論理的に言うのは得意じゃないし今だって否定したい気持ちがある。

 

(アリア……)

 

キンジはバタフライナイフを出す。

 

多分……言うことはないだろう。彼女がそういうのが苦手なのはわかってる。しかも自分は厄介な病気(ヒステリアモード)持ちだ……顔だってネクラと言われるような顔だし素の自分は情けないくらい弱くて頭だって偏差値が底辺の武偵高校ですら落ちこぼれ……レキみたいな多彩さも……一毅のような強さも……アリアのような直感も……理子のような変装技術も……白雪のような超能力もない。

相手にもされず言ったところで困らせるだけだろう。

分かってる……だから何度でも言うが伝えることはない。だが……意識のない今なら思うくらい良いよな?

 

(アリア……俺は……お前の事が――!)

 

キンジとアリアの顔の距離がゼロになる……

 

 

ドックン!と体の芯が跳ねる。成ってしまう……ヒステリアモードに……

 

「ん……」

 

アリアが目を開ける。

 

「アリア!」

「キンジ!?ってここは!?て言うかなにこの服!」

 

いつものアニメ声だ……良かった……本当に……

 

「目覚めさせられたか……」

『っ!』

 

キンジとアリアの二人が振り返るとそこには腹を抑えたパトラがいた。

 

「残念じゃがアリアは置いていって貰うぞ」

「っ!」

(不味い!)

 

パトラの銃口はアリアに向いている。

アリアとのキスでヒステリアモードに成っていたキンジは半ば本能的にアリアの前に立つ。

 

「引っ掛かったのぅ」

「くっ……」

 

銃弾が発射される。そう、キンジの顔面に……わかっていたのだパトラは……ヒステリアモードに成っている事も……成っていれば庇うことも……

 

(死ぬのか……?)

 

走馬灯のように思考が駆け巡る。

目の奥が痛くなる。バチバチ視界が明暗する。

 

(嫌だ……死ねない……死ねるか……)

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」

 

キンジは咆哮と共に後ろにぶっ倒れた……

 

「キン……ジ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

一毅達も到着する……キンジが撃たれた瞬間に……

 

「キンジィイイイイイイイ!!!!!!!!」

 

一毅の体から深紅のオーラ(レッドヒート)が現れる。

 

「てめぇ!!!!」

 

一毅は刀に手をかけようと手を伸ばす。

だが次の瞬間ドクン!っと刀が脈を打ったような感覚がした。

 

「っ!」

(何だこれは……)

 

一毅は驚きながらも刀を触る。すると驚くほど熱くなっていた。

 

(これは……)

 

同時に目の前に目が眩みそうになるほどの緋色の光……

 

「アリア?」

 

一毅が呼ぶがまるで感情を失ったかのような瞳に変わった緋色の光に身を包んだアリアは指をパトラに向ける。

 

「避けなさい!パトラ!!!!」

「っ!」

 

アリアの指から光線が放たれた次の瞬間その場の全員が我が目を疑った。

 

(天井が……)

 

消えていた……まるでそこに最初から存在しなかったかのように……抉り取られたかのように消えたのだ。

 

「何だよ一体……」

 

一毅達はゾワっとした。あんなのを喰らったら文字通り肉片一つ残らないだろう。

 

「……」

 

スッとアリア?はパトラに再度指を向ける。

 

「待てアリア!」

 

一毅は叫ぶがアリアの耳には届かない。

だがあんなのを当てるなんてオーバーキル(やり過ぎ)だ。

そう思った一毅は飛び出そうとしたが……

 

「やめろアリア……」

 

先程倒れたはずのキンジがアリアを抱き締めて止めた。

 

「もういいだろう。やり過ぎだ」

「………………あれ?キンジ?」

 

アリアの体から緋色の光が消え、アリアはキンジをみる。

 

「何で……」

「ん?ああ……これだよ」

 

キンジは少しモゴモゴと口を動かすとペッ!と何かを吐き出した。

 

『へ?』

 

手の中にある物を見た瞬間アリアのみならず一毅やライカ達一年生達、更にカナやパトラと来てあのレキですら呆然とした。

 

「名付けるならば銃弾噛み(バイツ)ってところだな」

『えええええええええ!?』

 

嘘でしょ……っとその場の全員が思った。

この男は銃弾を噛んで止めると言う普通出来ないし誰もやろうとも思わない技で今の危機を回避したのだ。

 

「一毅は知ってると思うが俺は昔両方の奥歯が虫歯になって今はセラミックで被せてあんだよ。そこで噛んで止めたんだが勢いは殺しきれなくて脳震盪起こすし鼻血も出たしでしばらく動けなくって」

 

それを死んだと勘違いしたと言うことだ。

だが……

 

(あ、あり得ねぇ……)

 

その場の全員の心の中での声となる。

 

「我が弟ながらあり得ない切り抜けかたするわねぇ……」

 

カナは冷や汗をかきながらパトラに手錠をかけた。

 

「ほっといてくれ……あーこれは明日辺り鞭打ちだ」

「銃弾歯で止めた代償には小さいだろ?」

 

一毅が言うと次の瞬間船が大きく揺れる。

 

「不味い!沈むわ!」

「ちっ!脱出だ!!!!」

 

一毅が叫ぶと皆は動き出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

船が沈んでいくのはボートから一毅達は見る。

あの後何とか脱出用ボートを探し出して全員無事脱出……死ぬかと思った。

 

「しっかし何だったんだ……?」

 

一毅は刀を見る。あの時感じた脈動……絶対に気のせいではない。だが今は感じない。何だったのだろうか……

 

「…………」

 

キンジもどこか虚空をみていた。

先程まで起きていた目の異常……それはすっかり収まっていた。良かったような……だが同時に少し残念だ。

あの時見えていたものが何だったのか……それは分からないがお陰で躱すことも出来たし生き残れた理由だ。

 

(あの時俺は全部見えていた……)

 

銃弾も……そしてなによりも相手の動きを……全て見抜いた目はすでに消えて何時もの景色を写していた。

 

「じゃあお願いします」

 

間宮が携帯を切る。

 

「今から迎えに来てくれるそうです」

「そう」

 

アリアは少し疲れたような顔をしながらも間宮に返事する。そうとう消耗してるらしい。

 

「まあ仕方ないわね」

 

医師免許を持つカナ(と言うか金一)がアリアの診断を終えると、

 

「あの……」

 

間宮はカナに話し掛ける。

 

「何処かで……会ったことありませんか?」

「…………」

 

カナは少し驚いたような顔をし……

 

「そうね……私は……――っ!」

 

そこまでカナが言った次の瞬間海が揺れる。

 

「なんだっ!」

 

一毅が言ったとき、海から何かが現れる。一瞬鯨かと思ったが違う。これは……

 

「潜水艦……?」

 

ライカが呟く。

更にその側面にはこう記されていた。

 

【伊・Uー】

 

「イ・ユー?」

「違う……あれでイ・ウーと読むのじゃよ……」

 

成程そりゃ見つからない筈である。水の中を悠々と動ける潜水艦が本拠地であれば見つかる筈もない。

そうやってパトラが一毅に説明していると、中から誰かが出てきた……

それは男だ……目鼻の堀りは深い美丈夫……更に高身長で一毅と同様に筋肉質だ。年は見た目で精々20代……それが誰なのか……そんなのは見ただけでわかった。

特に探偵科(インテスケ)のキンジと佐々木はその男について授業までやっている。

まあどちらにせよ武偵やってれば顔くらいは何処かで知ることもある。無論それは晩年の写真や……絵などと言ったものに普通は限られるが……そんな男が一毅達の目の前に立っていた。

 

すると次の瞬間パァン!っと空気を切り裂く音が聞こえた。

 

『え?』

「……………」

 

カナがゆっくり後ろに倒れていく。

男が持つのは狙撃銃……それで不可視の銃弾(インビジヴィレ)を放ったのだ。あれは拳銃でしかできないと思っていたが違うことを教えられた……

 

「この瞬間は……推理できていたよ」

 

男の声に皆は注目した……

武偵の始祖にして最強にして最高の名探偵……シャーロック・ホームズの言葉を……



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第六章 最強の名探偵
龍と金の殴り込み


「初めまして……だろうね。まあ君たちは僕の顔を知っているだろう。あ、これは別に自意識過剰とかではなく僕の場合映像や書籍……更には伝承と言う形で知られているからね。だが一応礼儀として名乗らせて貰おう。私はシャーロック・ホームズだ。現在はイ・ウーの艦長をしている」

『………………』

 

誰も動けなかった。アリアに至っては呆然と座り込んでしまい動けなくなっていた。

いや、正確にはパトラはカナが徹甲弾(アーマーピアス)で撃たれた直後に駆け寄り何かしていたがカナとパトラ以外はシャーロックから目を離せなかった。

あり得ない……と言うのが第一感想。生きているとしたら一体この男は今いくつだ?しかもアリアの曾祖父の筈なのに見た目は20代……だがそれを全て否定するには……彼と言う存在がでかすぎた。

立ち振舞いや喋り口調は英国紳士と言った風情だ。なのに体から放つ覇気……それは人間ではないような気がした。

すると同時に周りの温度が下がり始める。

 

『っ!』

 

足元に氷を作りそれを悠々と歩くその様は誰もの目を奪った。

そしてスッと音もなくボートの上に降りる。

 

「アリア君。君を後継者として迎えに来た」

 

手を差し出しながらシャーロックはアリアに近づいていく。

 

「君にイ・ウーをあげよう。さすれば母親の件も解決する」

『っ!』

「んの!!!!ふざけんな!」

「ちっ!」

 

動き出したのはキンジと一毅。キンジの蹴りと一毅の拳がシャーロックに迫り……二人の視界が反転した。

 

『え?』

 

投げられた……そう判断するのに少々時間が掛かった。

 

「若さゆえに戦力比が分からないのは仕方がないが今は少し通してもらうよ」

「この!」

「たぁ!」

 

ライカと佐々木が間合いを詰める。

 

「やぁ!」

 

佐々木の横凪ぎを手に持っていたステッキの先で止める。

 

「らぁ!」

 

ライカのトンファーは首を横に倒して躱すと足を払ってライカ転ばせその上に佐々木を投げる。

 

『がっ!』

「志乃ちゃん!ライカ!」

「くぉおおお!」

 

間宮と辰正が走り出す。

間宮は体の中の電磁パルスを集約……同時に増幅させてシャーロックに放つ。

辰正も体から深紅のオーラ(レッドヒート)が僅かに出ると、

 

鷹捲(たかまくり)!!!!」

「俺流 流星タックル!!!!」

「はぁ!」

 

迫る二人のうちまず辰正をシャーロックは軽く蹴り飛ばす。その技術はキンジが使う【カウンターキック】に酷似……いや、そのものだ。

 

「ふっ!」

 

更にシャーロックは間宮の一撃は余裕綽々と言った雰囲気で避けるとそのまま海に落とした。

 

「そんな……鷹捲(あれ)を避けるなんて」

「残念だが君の動きは見えていたからね。それに触ると痛そうだ」

「ここは暗闇の中 一筋の光の道がある 光の外には何も見えず、何もない私は光の中を駆けるもの」

 

レキは暗示と共に銃弾を発射……だがシャーロックの狙撃銃が同時に発射され弾かれると次の瞬間レキの首筋を叩いて気絶させた。

 

「アリア君。君はちゃんとホームズ家の淑女としてその髪型を守っていたようだね。嬉しいよ」

 

圧倒的……としか言いようがなかった。窮鼠猫を噛むなんて言う言葉があるがシャーロックとの戦力比はアリと巨像……いや、ヘタしたらティラノサウルスとかそんなレベルかもしれない。

 

(これが偉人……)

 

キンジや一毅、佐々木にレキや風魔のような子孫ではなく偉人本人……

 

「さあアリア君。都合が良ければおいで、悪くても……おいで」

「あ……」

 

アリアはまさにされるがままと言った感じでそのままシャーロックに抱き上げられるとそのまま潜水艦の方にいってしまう。

 

 

 

 

 

「ふざけるな……」

 

キンジは呟く。

 

「む?」

「ふざけんなシャーロック……」

 

キンジは立ち上がる。だが持つ雰囲気が違う。一見ヒステリアモードに近いが明らかに違う。それはシャーロックや隣にいた一毅だけで無く後ろにいた一年生達も感じており震えていた。

まるで獣……野獣の如きその雰囲気は力強さと同時に危険さを感じさせる。

 

「アリアから……手を離せ」

 

キンジも自分の変化に驚きつつも関係なかった。今のキンジにはアリアを奪い返すことしか頭にない。そのためならどんな危険でも犯せる気がした。

更に同時にキンジの視界が変わる。

今なら見える……シャーロックの動きが、

 

「ほう……やはり君もその眼を持っていたか」

「ふん、まるで全部俺は見抜いてますと言わんばかりだな」

 

一毅も立ち上がりながら見据える。

 

「ああ、卓越した推理は何時しか推理越えて予知に変わる。僕は条理予知(コグニス)呼んでいるよ」

「そうかよ」

 

すると、

 

「シャーロック……遂に時が来たな……」

「っ!」

 

カナが……いや、声からして金一に戻っている。

 

「待て金一!傷が……」

「いいんだパトラ……これ以上治すな」

 

バッと服を脱ぎ捨てると黒のアンダーウェアに身を包んだ金一に変わる。

 

「兄さん……?」

 

同時にキンジは気づく。今の金一はヒステリアモードだ。だがカナになることでしかヒステリアモードに成らなかった(パトラでも成ったがあれは例外だ)金一が……しかもトリガーであるはずの性的興奮をしてはいないはずだ。

 

「キンジ、お前は知らないだろうがヒステリアモードにはいくつかの派生がある。普段のはヒステリア・ノルマーレ。そして今の俺のはヒステリア・アゴニザンテ、通称死にかけの(ダイニング)ヒステリア……お前達もこの力は一度見たはずだ」

「ブラドのことか?」

 

金一はうなずく。

確かに魔臓を撃ち抜いた後に急な覚醒をした……あれがヒステリア・アゴニザンテだったのか……

 

「そして今のお前はヒステリア・ベルゼ。女を奪うヒステリアだ。ノルマーレの凡そ1.7倍の力を持つがその分攻撃思考になり性格が凶暴化する。気を付けろ、飲まれるぞ」

 

そう言って立ち上がるとコルトSAAを抜く。

 

「キンジ、一毅……合わせろ」

『っ!』

 

それに呼応するように一毅は腰を落とし殺神(さつがみ)に手を添え、キンジもベレッタを抜く。

 

「お前らはここに居ろ」

 

一毅の言葉に一年生達は頷く。

邪魔にしかならないのは今の一戦で明らかだった。

 

「いくぞ!」

『おぉおおおおおおお!!!!』

 

キンジと一毅は金一に続き走り出した。

 

 

 

 

 

 

『うぉおおおおお!』

 

金一とキンジは銃を乱射する。

 

「っ!」

 

それを狙撃銃で全て銃弾撃ち(ビリヤード)でシャーロックは弾きつつ二人に銃口を向け撃つ。

 

「はぁ!」

 

キンジはベレッタをフルオートにすると、同じく銃弾撃ち(ビリヤード)で撃ち抜く。

 

「うぉおおお!!!!」

 

金一も弾を空中に投げ銃を叩きつけるようにして空中リロードしながら銃弾撃ち(ビリヤード)……恐ろしいまでの数の弾丸がぶつかり……弾かれていく。名付けるならば冪乗弾幕戦だ。

 

「く……」

 

一毅も今度はちゃんと持ってきたジェリコ941を抜くと撃つ。

 

「ふっ!」

 

全部で三つの銃口から放たれるがそれを全てシャーロックは弾く。

それと共に周りが凍りだし風が吹く。明らかに人為的な力。

 

「魔術か!?」

「気にするな!あんなものはまやかしだ!」

 

金一が叫ぶ。

 

「人間にはこれがある!フルメタルジャケットの弾丸が!それを音速で放つ銃が!これこそが人間作った至高の武器!それをもっとも扱えるのがヒステリアモードだ!」

 

金一の言葉にキンジは頷く。するとシャーロックの動きが止まった。

 

「耳を塞いでおきなさい。アリア君」

「はい……」

 

そう言うとシャーロックの胸が膨らんでいく。これは!

 

『くっ!』

 

キンジと一毅は耳を塞いで身を低くする。これはヒステリア破り……本当の名は、

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!」

 

ワラキアの魔笛が辺りに響く。

キンジと一毅は必死の耐えると……収まった。

 

「いくぞ兄さ……」

 

キンジは眼を見開く。何故なら金一は……倒れていた。

 

「なっ!」

 

ヒステリア・アゴニザンテが消えている。そう、金一は喰らったことが無かったのだ。それ故にまともに喰らった。そして今はヒステリア・アゴニザンテでは無くなっている。

 

「兄さん!」

 

キンジは駆け寄る。

 

「き、んじ……追え……」

「え?」

「今までシャーロックは表に出てこなかった。だが今は違う。アリアを連れていくため外に出た。シャーロックを捕まえるには今しかない」

「…………」

「拳銃にナイフしかない今の状況で行かせるのは狂ってるかもしれない。だが、今しかないのだ!」

「…………分かった」

 

キンジは頷く。

 

「最後にキンジ……お前は視界が可笑しくなってないか?」

「あ、ああ」

「それはお前の力は次のステージに行こうとしている兆候だ。恐れるな。惑わされるな。自分の見たものを信じろ……見て、見据えて、見抜くんだ……お前なら見ることができる。俺は見ることが出来なかった世界を……」

 

キンジは立ち上がる。

 

「一毅……いくぞ」

「……おう」

 

そしてキンジは背を向けると、

 

「死ぬなよ……死んだらあんたの弟辞めるからな!!!!」

 

そう言ってキンジと一毅は走り出した。

 

「ふ、なら安心しろ……お前はこれからも俺の弟だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと!」

 

一毅とキンジは潜水艦の中に進入する。

 

「ったく……今度は潜水艦に潜入かよ」

「しかも原子力潜水艦だ」

 

キンジが指で示すとそこには写真と共に【イ・ウー歴代艦長】と書いてある。

 

「ボストークって言うとこの間武藤が語ってた悲劇の原子力潜水艦だったな」

「ああ、多分理子の時の飛行機の翼ぶっとばしたミサイルもここから発射されたんだろう」

「成程ね」

 

一毅は軽く首を回す。

 

「行くか」

「だな」

 

二人は歩き出そうとすると、背後でなにか物音がした。

 

『っ!』

 

一瞬幽霊かと思いビクついたがある意味幽霊以上に会いたくないものがいた。

 

「これは……」

 

恐らく元はパトラの砂人形と同じだろう。だがその姿は身長は一毅と同じくらいだがパトラの物とは違い鎧兜(よろいかぶと)を着込み、更に日本刀を持っていた。しかもその立ち振舞いは相当な実力を持っていることを物語る。

 

「キンジ……お前は先に行け」

「え?」

「こいつ切ったら俺も追う。お前はアリアの救助を急げ」

「……分かった。またあとで合流しよう」

 

キンジは走り出す。

 

「っ!」

 

鎧武者はこれはキンジを止めようとするがそれを一毅が殺神(さつがみ)で弾いて止める。

 

「お前の相手は俺だぜ?」

 

一毅は構える。

頭はピリピリ言っている。

 

「来いよ」

 

一毅は不敵な笑みを浮かべると走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジは扉を開ける。そこは礼拝堂のような作りになっておりそこには、

 

「アリア!」

「え?キンジ!?」

 

アリアは驚いたような顔で振り替える。

 

「ったく、探したぞ。しかしシャーロックもお前をここに置いたままにしとくとはな。だが丁度良かった。一回戻って一毅と合流……」

「帰ってキンジ……」

「……あ?」

 

キンジは我が耳を疑った。

 

「まて、何つった今」

「帰ってと言ったのよ。私はここで曾祖父様と暮らすわ」

 

何で…と続けようとしたがアリアはその前に答えた。

 

「あんたには分からないでしょうね。言ってなかったから……私ね、ホームズ家で唯一直感だけで推理力が遺伝しなかった。だからママ以外には居ないものと扱われたわ。今まで誰も私を認めなかった」

「……」

 

その辺の事は薄々気づいていたがキンジは黙って聞く。

 

「だけど私は認めて欲しかったから敬愛する先祖である曾祖父様に追い付くように武偵になったわ。分かる?私はその敬愛する人から認められて後継者って言われた気持ちが!ママ以外に初めて認められた私の気持ちが!」

「だけどお前自分が言ってる意味分かってんのか!?お前は母親に罪擦り付けた奴と暮らすって言ってるんだぞ!?」

「分かってるわ!!!!でもそうすれば曾祖父様はイ・ウーをくれると言った!そうすれば冤罪は晴らせる!解決するのよ!!」

「それこそ本末転倒じゃねえか!罪晴らすために犯罪犯すなんざ、かなえさんが望むのかよ!」

 

一瞬アリアは詰まるが直ぐに立て直し、

 

「じゃあどうするの!?曾祖父様は最強よ!あんただって分かったでしょ!あかりたちが幾ら未熟だからってあんなあっさり負けたのよ!あんただって一毅と一緒にあっさり投げ飛ばされたじゃない!!!!あの人倒して罪を認めさせるのなんて無理よ!」

「……………」

「何よ…なにか言いなさいよ!」

 

キンジは息を吸う。

 

「無理、疲れた、めんどくさい……人の可能性を妨げる良くない言葉なんじゃないのか?」

「っ!」

「ついでに言ってやるよ。シャーロックは年食い過ぎて頭がどっかイカれてる時代遅れの爺だ。さっきは遅れとったがもう負けねえよ」

 

こっちはヒステリアモード(切り札)を切らせてもらったから……

 

「俺はお前のパートナーだ……ここで退けねぇ……」

「じゃあその契約を解除するわ!」

「勝手に居着いて勝手に辞められたんじゃたまんねぇな……悪いが拒否だ」

「なんなのよあんた……なにも知らないくせに!!!!」

 

違う……本当のアリアの言葉じゃない。アリアは未だ暗い道で歩いて迷い続けてる。敬愛する人物が現れて……でも既にここには居たくない理由があって……

 

「ああそうだ知らないね。当たり前だろ?お前はなにも教えてくれなかった。俺は神様でも何でもねえんだ。分かるかよ」

 

でもな……とキンジは続ける。

 

「お前は誰も認めてくれなかったって言うけどな……それは絶対違う!俺はお前を認めてるぞ」

「っ!」

「一毅だって……レキだってそうさ……間宮なんかお前を敬愛し過ぎてちょいと犯罪臭がし始めたくらいだ。お前はそんなやつらの思いを裏切るのかよ!」

「っ!」

「お前には俺が居るんじゃねえのかよ!俺を現代のJ.Hワトソンにするんだろ?」

「…………」

 

もう潮時だ……

 

「口で言い合うのはもういいだろ……?」

 

キンジは蹴りの構えをとる。

それを見てアリアもキンジが言わんとしてる事が分かった。

 

「ヤル気?一度だってあんた私に勝てた試しないでしょ?」

「アホか……俺は一度だってお前に本気だしたことはねぇよ……」

 

幾ら一方的でしかもこちらに比が無いからって言っても女に本気でやり返すにはどうかとか……怒ってるアリアも可愛いとか建前は色々あるけど……本音は秘密だ。

 

「俺たち武偵は何時だって何か決めるときは喧嘩で決める……それでいいだろ?」

「ええ」

 

アリアは銃を抜く。

 

「俺はお前をシャーロックから奪い返す……」

「私はあんたには帰って貰うわ……」

 

そうして二人は疾走……

キンジとアリアは硝煙の中での出会いから初めて本気の喧嘩を開始した。



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龍と鎧武者

「オォオオオオオオ!!!!!!!!!!!!」

 

一毅は殺神(さつがみ)を抜くと飛び上がりながら振り下ろす。

 

「っ!」

 

無言で鎧武者は一毅の一撃を弾き返すとその体躯からは考えられない速さで切り返す。

 

「くっ!」

 

一毅は体を捻って直撃を避ける。平賀 あやからの新装備の龍桜(りゅうおう)は軽くて非常に高い防御能力を誇っており刀が振るわれたと言うのに切れずに叩かれたような痛みが走る。しかし、一応衝撃分散も入ってるが相手も腕力も高すぎるのだろう。かなり痛い。

 

「……………………」

 

鎧武者は斬れないと判断したのか次は首を狙う。

 

「くっ!」

 

一毅は横にスウェイで躱すと、

 

「二天一流 秘剣!霞ノ太刀!!!!」

 

回避と斬撃同時に行う牽制技……だが、鎧武者の鎧は固く一毅の放った斬撃を簡単に防ぐ。純粋な剣士としても相当な鎧武者だと言うのに生半可な剣撃では鎧を通らない。

 

「っ!」

 

そこに鎧武者の横凪ぎ一閃……それを一毅は後ろに跳んで躱す。

 

「っ!」

 

だが更に鎧武者は間合いを詰めて襲い掛かる。それを一毅は、

 

「二天一流……」

 

鎧武者の刀の振り下ろし……

 

「秘剣 閃ノ太刀!!!!」

 

攻撃が当たる瞬間にスレ違いながらカウンター斬りを叩き込む剣技で斬る……だが、

 

「っ!」

「なっ!」

 

今度は斬った……事実胴の半分ほど斬り込みが入ってる。なのに動いた。

動いて一毅を一閃。それを一毅は殺神(さつがみ)で防ぐがあまりのパワーを流しきれず壁に叩きつけられる。

 

「が……はぁ……」

 

世界が揺れる……歪む……グニャリと……不味い……鎧武者がこちらに歩み寄る。

 

「ぐぁ……」

 

気合いを込めて立ち上がる。龍桜(りゅうおう)のお陰か骨に異常はない。

 

「っ!」

 

鎧武者の振り上げを後ろ……は行けないため横に跳んで躱す。すると壁に刀突き刺した。

 

「おらぁ!」

 

その隙を突くため一毅は刀を振り上げる。だが、

 

「っ!」

「なにっ!」

 

腕力に任せて壁を斬り裂きながら一毅を狙う。

 

「くっ!」

 

急遽狙いを変更し防御に神経を注ぐ。

 

「がっ!」

 

再度凄まじい衝撃が一毅を襲う。

 

「ごほっ!」

 

一毅は何度もバウンドしながら吹っ飛ぶ。

 

「くっ……はぁ……ふぅ……はぁ……はぁ……」

 

一毅は意識を覚醒させるため何度も息を吐いたり吸ったりする。

そんな中でも鎧武者は歩みを止めない。

 

「っ!」

 

鎧武者が振り下ろすために刀を上にあげる……

 

(死ぬ……)

 

訳にいかない……ここで止まってられるほど……暇では……ない。

そう思った瞬間無意識に一毅の体が動き出す。

それと共に一毅の頭から全身に電撃が走ったような感覚が現れる……

 

「オォオオオオオオ!!!!!!!!!!!!」

 

鎧武者の振り下ろしに対して方膝を付いた一毅が放ったのは突き……しかもぶつけたのは刀にだ……するとなんと鎧武者の刀が折れた。

 

何故こんなことができたのか…それは二流以下の武器の多くは実はある一点だけ脆い部分が存在する。俗に破砕点や目と呼ばれるその部分を的確に突くと案外簡単に武器を壊せる。

その名も刃砕き(ソードブレイク)と呼ばれるその妙技はその単純な理論にたいし非常に高度な技術を要求される。

理由はほんの数ミリ擦れれば効果を発揮しないからだ……コンマ一秒でも遅れれば逆に斬られる。数ミリ外せば刀に当たらず斬られる。

そんな危なげな綱渡りを一毅はやり抜けた。

本能的に……無意識に体が動いた。

 

「二天一流!秘剣!!!!」

 

一毅は間合いを詰めると殺神(さつがみ)を構える。

この技は本来相手の剣を上空に打ち上げた状態で放つがそこは少し変えさせて貰う。その技の名は、

 

巻鳶斬(まきわしぎ)り!!!!」

 

三連続斬りを叩き込む。しかもそれは全て鎧の隙間を切り裂くように斬り飛ばす。

三分割にされた鎧武者は遂に後ろに倒れ動かなくなった。

 

「はぁ……はぁ……ん?」

 

一毅は鎧武者をマジマジと見る。

 

「あれ?何で何時の間に倒れてんだ?」

 

一毅の記憶が残ってるのは鎧武者が刀を振り上げたところまでだ。それ以降は記憶がなくなっている。

 

「………まあ、いいか」

 

一毅は殺神(さつがみ)を鞘に戻しながら頭を抑える。

記憶にはないが全身を駆け巡った不思議な感覚事態は覚えている……何だったのだろうかあれは……前々から起こってはいたが今回のは全身に駆け巡った上に力は恐らく最大級だった。

 

まあそのうち分かるだろうと一毅は先に進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて少し時間を戻しキンジとアリアの戦いは……

 

「ハァアアア!!!!!!!!」

 

アリアの銃撃は全て銃弾撃ち(ビリヤード)で弾く。

本来は鏡撃ち(ミラー)で一発決着をしたいが銃弾の威力がアリアの方が上だ……撃って逸らせてもこちらの銃弾も負けてしまう。

 

「まあ構わないけどな」

 

キンジはアリアに肉薄すると蹴り上げる。

それをアリアは簡単に躱しながら銃を構える。

だが発射される前に銃口からキンジはスウェイで外れる。

 

「くっ!」

 

アリアは困惑していた。

 

「この!」

 

アリアは小太刀を抜き振り上げる……が、

 

「はっ!」

 

振り上げた腕を掴み投げる。

 

「どうしたアリア。顔色が悪いぜ?」

「うるさい!」

 

アリアは受け身を取りながら銃弾を発射……だがキンジはそれを銃弾斬り(スプリット)で対処しながらキンジは距離を取る。

 

「アンタ……まだ隠し球を持ってたのね!」

 

アリアは叫ぶ。

先程からキンジの動きは良すぎるのだ。先程から全て攻め手は攻める前に潰される。まるでこちらの動きが読まれてるみたいに……

 

「残念だが使えるようになったのは今さっきだ」

 

とは言えオンオフができないが……と言う注釈が付くもののパトラの所に行く直前から感じた視界の違和感……それは一毅達の動きが二重に見えていたのだ。

それは時間を追うごとに強くなり最終的には重なっていた動きはハッキリと別の動きに変わった。

キンジの目には現在ハッキリと見えるアリアと別の動きをする薄く写るアリア二人が見えている。

つまりキンジには……

 

「教えてやるよアリア……俺はお前の動きを読んでるんじゃねぇ……見えてんだよ。凡そ五秒前後のお前の動きと現在の動きがな!」

 

キンジの言葉にアリアは耳を疑った。




次回、遂にキンジの力が語られます。


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金と緋弾の大喧嘩

お前の動きを読んでるんじゃない。見えているだけ、凡そ五秒前後のお前の動きと現在の動きが……キンジはそう言ったが詳しく言うともっと見えているものもある。

例えば銃口からキンジに向けて赤い軌跡が見える。これは弾丸が発射され何処に着弾するかが分かる。

先程アリアが小太刀を抜いていた際には白い軌跡が見えた。これはアリアの剣筋が見えていた。

更にアリアの近くにもう一人……幽霊のように薄い色で立っているアリアはこれからするアリアの動きを見せていた。

先読み……または先見と呼ばれる力をキンジは使っていた。

もし戦いにおいて相手の動きが分かると言う力があればどれだけ有利なのかそれは言うまでもないだろう。だが残念ながら精度がまだ低く凡そ3、4割位しか当たらないし段々頭が痛くなってきた。だが精度が低かろうと今のキンジはヒステリアモード。しかも派生系のベルゼである。思考は攻撃よりで気を付けないとアリアに本気で攻撃しそうになる上に防御が疎かになりそうになるがそれでもアリアと十分に渡り合える。だが……狙いは戦うことではないのだ。

 

「アリア……もう辞めな。今の俺には勝てねえよ」

「まだよ!」

 

アリアが発砲する。

だが銃は発射されてから避けるのは難しいが銃口から読んで発射角度を見切って躱すのは難しくない。ようはタイミングだ。今のキンジの眼を持ってすれば……

 

「っ!」

「残念だったな」

 

キンジは僅かに横に逸れただけで避けるとアリアとの距離を詰める。

 

「シャア!」

 

アリアの銃に向けて蹴りをだす。

 

「馬鹿にすんのも……大概にしなさいよ!」

 

アリアは敢えて銃を上に投げて蹴りを躱すと小太刀を抜刀。

キンジの目には剣筋が見えるがそれでも相当早い。

回避に全神経を動員させる。

 

「さっきから何でアンタは私の武器しか狙わないの!!!!」

「しっ!」

 

片腕ずつの二指真剣白羽取(エッジキャッチングピーク)で取ると睨み会う形になる。

 

「何で……」

「んなもん自分で考えろ」

 

キンジは息を吐く。

両手は塞がった。蹴りは……放てるがアリアに当てられない。いや、本音は当てたくない……だ。

一応奥の手(とっておき)の一撃が存在するがこれはアリアに当てるなんて論外だ。

 

「…………」

 

キンジはアリアの小太刀から手を離す。

 

「殺せよ。アリア……」

「え?」

 

甘っちょろいかもしれない。

 

「武偵活動においてパートナーとは一心同体だ。俺は……お前を連れ戻せなかった」

 

ヒステリア・ベルゼは初めてだったお陰か概ね今の自分は何時ものヒステリア・ノルマーレだった。そのせいかもしれない……

 

「つまり……任務失敗だ。そして任務失敗した俺は死ぬんだ」

 

ヒステリアモードと言う厄介きわまりない体質がもたらす過ぎたるほどの優しさ……最後の最後で女には厳しくなれなかった。特に……アリア相手にだから……

 

「誰か知らないやつにやられるくらいなら……俺はお前に殺られた方がいい」

「だ、駄目よ!そうだわ、アンタもここに……」

「嫌だね。遠山家は正義の味方なんて言うのをずっとやって来た酔狂な奴等ばかりだぜ?俺は死んだらそんなご先祖様達にあの世でまた殺されるのはごめんだ。俺はジェームズ・ボンドじゃないし、そんなことしたら一毅にボコられちまう」

「っ!」

「もう終わりだ。俺はお前に殺されて……お前は悪に堕ちる。でもな、全てが終わったら思い出してくれ……お前を連れ戻そうとして拳銃とナイフと親友一人連れて原潜に乗り込んできた(バカ)が居たことを……そして何時か帰るんだ。暴力と銃弾が舞うあのクソッタレな学校に……」

 

アリアの持つ小太刀が震えている。

 

「いや……」

「殺れよ!!!!アリア!!!!!!!!」

「ああああああ!!!!!!!!」

 

アリアの小太刀が眼前に迫る……だが見えてしまった。アリアは……ギリギリのところで止める……

 

「何で……そんなこと言うの?」

 

ポロポロとアリアのカメリア色の瞳から涙がこぼれだす。

 

「そんなの……できるわけないじゃない!」

「アリア……」

「曾祖父様は敬愛してる。武器だって向けられない。でも……アンタを殺すなんてできないよ……もうどうすれば良いのか分かんな……え?」

「…………」

 

キンジは黙ってアリアを抱き締めた。

 

「バカ野郎……俺が何とかしてやるよ」

 

簡単だ。最初に言ったようにシャーロックぶっ飛ばせば良いだけだ。蹴っ飛ばして殴り倒して捕まえる。

 

「だから俺を……信じろアリア……」

「……キンジ……でも私アンタに銃を……」

「何時も向けられてる」

そんな大したことじゃないとキンジの目が語る。

 

「帰るぞ。アリア……」

「……うん」

 

アリアの顔が赤くなる。眼もボゥっとしてキンジしか視界にないって言う雰囲気だ。

 

(どういう……意味だ?)

 

残念ながらヒステリア・ベルゼ寄りのヒステリア・ノルマーレの思考能力でもアリアの今の気持ちは分からない。

 

「キンジ……ありがとう」

「ああ」

 

するとアリアは瞳を閉じた。

ドクン!っと心臓が跳ねる。キンジも眼を閉じ……そして、

 

「なあ、俺は何時までここで待ってれば良いんだ?」

『っ!』

 

二人は離れる。入り口には一毅が口の形をへにしていた。

 

「なんだよ俺は痛め付けられながら何とか倒したってのにそっちはピンク空間製造気やってるんですか?」

『いや、そんなんじゃ……』

 

一毅はコメカミに怒りマークを浮かばせながらグチグチと文句を言う。

 

「ほ、ほら行こうぜ」

 

キンジはこのままでは形勢不利と見たのかアリアを連れて歩きだした。

 

「良いんだ。帰ったらレキとライカに慰めて貰うから」

「なんだその死亡フラグ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから奥に向かうと、

 

「これは……」

 

一毅達の目の前には大陸間弾道ミサイル(ICBM)の弾頭が見えていた。

 

「戦争でもする気かよ」

 

すると、

 

「私……見た事あるわ」

「何だと?」

 

アリアの呟きにキンジは反応する。

 

「昔……間違いなく見たわ」

「んな馬鹿な」

 

一毅が首を降る。

 

「ううん。それにここでキンジと会ってる」

「俺はこんなところに来たことないぞ……」

 

キンジも困惑していると、突然音楽が流れた。これは……

 

「モーツァルトの【魔笛】?」

 

一毅にはさっぱり分からなかったがアリアは分かったらしい。

そしてそれと共に、

 

「音楽には和やかな調和と甘美な陶酔がある」

 

ICBMの影から世界最強の名探偵……シャーロック・ホームズが現れた。

 

「そう、まるで今から起きる戦いのようにね。だがこのレコードが終わる頃には戦いも終わるだろう。その後は……僕でも推理しきれない部分がある」

「アリア……下がれ」

 

キンジがアリアを下がらせる。

アリアはシャーロックに対して本気で武器を向けられないだろう。それを責める気はない。どちらにしても最初からキンジと一毅の二人がシャーロックと相対する予定だった。

 

「ふ、良いものだ。諦めることを知らず……不可能を知らず……そして希望に溢れた眼。何時見ても若者の光は僕には眩しいものだ」

「はん!爺みてえな言い方だな」

 

一毅は腰から殺神(さつがみ)神流し(かみながし)を抜くと二刀流の構えを取る。

 

「まあ、お前を倒して捕まえて……全部終わらせてやる」

 

キンジもナイフと銃を抜くと蹴りの構えを取る。

 

「残念だが終わりではないよ。この戦いはあくまでこれは始まりの序曲。【序曲の終始線(プレリュード・フィナーレ)】だ」

「序曲だと?」

 

一毅が聞き返す。

 

「そうだ。この戦いは君たちにこれから降りかかる火の粉の一旦に過ぎない。これから始まる出来事の開幕を知らせる合図だ」

 

するとシャーロックはアリアを見る。

 

「アリア君。君は素晴らしいパートナーと友人を見つけた。誇っても良い。君を後継者と見定めた僕の目は間違いでなかった」

 

シャーロックはステッキを握る。

 

「そしてキンジ君との間には確実に……未だ芽吹きとも言えぬ小さなものだが現れている。推理できていたがやはり目で見て確信できると嬉しいものだ」

『?』

 

一毅たちは首をかしげる。この男は何を言いたいのだろうか。

 

「おっと、すまない。年よりの長話ほど鬱陶しい物はないね」

 

そう言ってシャーロックはこいこいと指を動かす。

 

「追いで、年期の違いと言うものを教えてあげよう」

「上等だ……」

 

一毅とキンジは腰を落とす。

 

『行くぞぉおおおおお!!!!シャァアアアアアアロックゥウウウウウ!!!!!!!!』

 

一毅とキンジは疾走した。



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龍と金と史上最強の名探偵 前半戦

「ハァアアア!!!!」

 

一毅の振り降ろし……だがそれはシャーロックのステッキの切っ先で止める。

 

「シャア!」

 

キンジの視界にシャーロックの動きが写る……そこから先読みしキンジの回し蹴り……は更に早く放たれたシャーロックの蹴りで止められる。

 

「っ!」

「君も見えているようだが残念ながら僕の眼と推理の方が正確で先まで見通せる」

「も……だと?」

 

キンジは眼を見開く。

 

「お前も見えているのか?」

「ああ、例えば僕の視線には……」

 

一毅が神流し(かみながし)を振るう。

 

「一毅くんの小太刀が僕の脇腹を狙うと言うフェイントをして逆方向から太刀で僕を狙っている」

「なっ!」

 

一毅の動きはシャーロックが予言した通りで神流し(かみながし)は指で挟んで止めるキンジで言う片手真剣白羽取(エッジキャッチングピーク)で止めるとステッキで殺神(さつがみ)を止める。

 

 

「次はキンジ君がナイフで僕の顔を狙い、意識をそこに向けさせたところにハイキックかな?」

「っ!」

 

まさにその通りでシャーロックは一毅を突き飛ばしてキンジの方に向くとナイフを躱しながらキンジの追加攻撃のハイキックを掴んで止めると腹に膝蹴りを打ち込みそのままバリツの落とすような背負い投げ……日常的にアリアから受けているものとは比べ物にならない速さと威力だ。咄嗟に受け身を取ったがそれでも受けた痛みで肺にあった空気を吐きだした。

それと同時にキンジは確信した。シャーロックは自分と同じ眼を持っている。

しかも数倍強力だ。更に条理予知(コグニス)と併用することでその正確さに磨きをかけている。

 

「さて、次は僕から攻める番だ」

 

シャーロックの正拳突き……それ以上でもなければそれ以下でもない拳がキンジに迫る。

 

「カウンターキ……が!」

 

シャーロックの攻撃に合わせてカウンターキックを放つ筈が逆にカウンターキックを決められた。

 

「カウンターは相手の虚を突けるから効果があるんだ。相手がカウンター狙いだと言うのが分かればカウンター返しも簡単だよ。忘れたのかい?僕は相手未来の動きが見えるんだ。君より数倍強力で精度も比べ物になら無いけどね」

「二天一流!」

 

一毅は二刀を交差させる。

 

「必殺剣!蟹鋏(かにばさみ)!!!!」

 

二刀を×の形に交差させ、腕を開くようにして切る。

 

「甘いよ」

 

それをシャーロックは後ろに飛んで躱す。だがこの技は元々一撃目ではなく二撃目の斬撃が本命。開いた腕を返し挟むようにする。まるで鋏のように……

 

「くらぇええええええええええ!!!!」

「残念だね」

 

だがその斬撃はシャーロックが上に跳んで避けると一毅の頭を台に跳躍。

それと共にシャーロックに頭をステッキで殴られた。

 

「ごっ!」

「僕は剣術の達人でもある。まあ僕の場合はフェンシングだがね」

「ちぃ!」

 

一毅はフェイントや小手先の技は通じないと判断し、跳躍。

殺神(さつがみ)神流し(かみながし)を縦横無尽に振りシャーロックを狙う。だがその無数の斬撃はシャーロックに簡単に見切られ避けられる。

完全に読まれている……だがそこに、

 

「シャア!」

 

キンジの背後からシャーロックの脇腹を狙ったミドルキック……それは何故かシャーロックの脇腹に決まった。

 

「くっ!」

「え?」

 

放ったキンジも僅かに困惑したがその隙を見逃す一毅では無かった。防御が崩れた今がチャンス!

 

「二天一流 秘剣!」

 

神流し(かみながし)を上に放り投げると殺神(さつがみ)を構える。

 

微塵切(みじんぎ)りの(きわ)み!!!!!!!!」

 

体勢を崩したシャーロックに圧倒的な数の斬撃を叩き込みまくる。

 

「オラァ!!!!」

「がは……」

 

シャーロックは壁まで吹っ飛ぶ。

 

「どうだ?」

 

一毅は降ってきた神流し(かみながし)をキャッチすると、構える。

 

「流石に無傷と言うことは……っ!」

 

一毅とキンジは自分の身の毛が泡立つのを感じた。

その中シャーロックはゆっくりと立ち上がる。その雰囲気……オーラ……間違えようが無かった。

 

「ヒステリアモード……」

「僕は自分の死期を分かっていた……そして、その時は近いこともね」

『っ!』

 

シャーロックは首を軽く回す。

 

「僕は既に死にかけていた。礼を言うよ。最後の砦を君たちは壊してくれた」

 

そう、元々死期が近づいていたシャーロックはヒステリア・アゴニザンテ一歩前だったのだ。そこに一毅の技がシャーロックを完全にヒステリア・アゴニザンテに変えた。

 

「はぁ!」

「っ!」

 

一足跳びで間合いを詰めたシャーロックの後ろ回し蹴り……キンジは反応もできずに吹っ飛んだ。

 

「シャーロ……」

 

一毅は殺神(さつがみ)を横に振るうため腕に力を込めて構えるが……

 

「残念だが遅いよ……」

「ぐっ!」

 

殺神(さつがみ)を持っていた右腕をステッキで突かれ動きを止める。更に、

 

「はぁ!はぁ!はぁああ!」

「ぐがっ……」

 

両肩の関節に鳩尾を突かれ一毅を痛みと嘔吐感が襲う。

 

「ふん!」

 

トドメとばかりに一毅の眉間をシャーロックの放った突きが命中した。

 

「ぎっ!」

 

一毅は後ろに倒れる。

 

「がは……!」

「ぐぐ……」

 

一毅とキンジは歯を食い縛って立とうとするが、

 

「さて、これは耐えられるかな?」

 

周りの空気の温度が下がり……熱くなり……急に風が起こり始め……水が生まれ砂が舞いはじめる。

どういうのかは分からないが超能力なのだけは分かった。

 

「予習だと思ってくれたまえ」

『っ!』

 

次の瞬間、一毅とキンジの体を情け容赦無用の超能力が蹂躙した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『がは!』

 

砂に揉まれ水鉄砲が体を貫き鎌鼬が体を切り裂き氷が体を叩き炎が体を焼いた……

他にも様々な超能力を体験させられた気がするが痛みと苦しみが多すぎて分からなかった。

分かってることはただ一つ。今の自分達はボロボロだと言うことだ……

「キンジ!一毅!」

 

アリアはキンジと一毅に駆け寄る。

 

「はぁ……がは……ぐぅ……」

「ふぅ……はぁ……ふぅ……」

 

龍桜(りゅうおう)が二人を守ったのだ。お陰で既にボロボロだがこれがなければ死んでいた。

 

「くそ……」

 

強すぎる。相手の動きの未来を読む眼も……全てを上回る推理も……剣術の腕も……これが最強の男の力なのだろうか。

 

「流石に頑丈だ。ここまでとはね……」

 

シャーロックも少し嬉しそうだ。

 

「っ!」

 

アリアは二人の前に出るとガバメントを向ける。

 

『アリア!?』

 

キンジと一毅は驚く。あのアリアがシャーロックに銃を向けたのだ。

 

「ほぅ……僕に向けるかい?」

「曾祖父様……私はあなたを敬愛しています。でも……やはり見ているだけなんてできません」

 

一毅は友人で……親友のレキの彼氏で……キンジは今まで感じたことない気持ちを胸に起こしてくれる大切なパートナーで……

 

「私は貴方を倒します」

「そうか……流石年頃の男女と言うやつだね。君の成長嬉しく思うよ」

「え?」

「いや、何でもない。ならば……こうしよう」

 

するとシャーロックの体が緋色に輝く。

 

『っ!』

 

更にそれに共鳴するようにアリアの体も緋色に輝く。

 

「これは……」

「アリア君……これから君達にある一撃を放つ。その名は【緋天・緋翔門】……キンジ君と一毅くんは知ってると思うがパトラ君のピラミッドの屋根を吹き飛ばしたあの一撃だよ。防ぐ手だては……一つだ。君も私に【緋天・緋翔門】を放つんだ」

 

そう言いながら指先をアリアに向けると光は指先に集まる。

 

「っ!」

 

急いでアリアも同じようにするが全身が緋色に輝くだけで変わらない。すると、

 

「大丈夫だ……アリア」

 

キンジが這いながらもアリアの元に行き、アリアの手をそっと握る。

 

「お前は覚えてないかもしれないがちゃんとお前は使ったんだ……きっとまた使えるさ」

 

ギュっとアリアの手を握る力を強める。

 

「俺がいる。大丈夫だ」

「……そうね!」

 

それに呼応するがごとくアリアの緋色のオーラが強まり、同時に指先に輝きが集まる。

 

「それで良い……行くよ」

『っ!』

 

同時にシャーロックとアリアは指先から光を放つ。

それがぶつかると……

 

『え?』

 

次の瞬間一毅たち三人は信じられない光景を目にした……



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龍と金と史上最強の名探偵 後半戦

『え?』

 

一毅達は驚愕し……そう声を漏らすのが精一杯だった。

光線のぶつかった場所には鏡のような物が現れていた。そしてそこには……見たことある少女が見えていた。

 

「アリア……?」

 

キンジが声を漏らす。そうだ、アリアだ……髪の色も瞳の色も違うため分からなかったが間違いなくアリアそのものだ。アリアもやっと自分だと気付いたらしく呆然としている。

 

「推理の通りだ。これで継承ができる」

「なに?」

 

キンジがシャーロックを睨む。

するとシャーロックは懐から何かを出した。

 

「イロカネ……または色金合金等とも称される金属だ。そしてこれはその中でも緋緋色金と呼ばれる物だ」

 

そう言って見せたのは緋色弾頭をした銃弾。

 

「別に形状はなんでも良い。理子君だって十字架状にして持ち歩いてるくらいだ。これはこれから行うことのために銃弾に加工してあるだけ……」

『…………』

「まあ便宜状名付けるなら【緋弾】と呼ぶべきだね」

 

そして……と続ける。

 

「このような高純度の色金合金を持つものは様々な……それこそ人知を越えた力を使える。これが僕がイ・ウーを統率し、僕の若さを保てた理由だ。だが残念なことに僕の寿命は尽きかけ……この緋弾を継承することにした」

 

そう言って緋弾を銃に込める。

 

「アリア君。君は十二才の誕生日に誰かに撃たれたね?」

「はい」

「それは僕が撃った」

『っ!』

「いや、これから撃つんだ」

 

そう言って銃を構える。

そこでキンジは何をするのかわかったらしい。

 

「やめろぉおおおお!!!!シャーロック!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

だがその叫び虚しく銃弾はアリアを撃ち抜き……鏡は消えた。

 

「緋弾の継承には条件と副作用がある。まずは最低三年は肌身離さず持つこと……そして僕も良く分からないがどうも子供っぽい性格をしている人間でなければならない。そして色金の保有者は年を取る速度が落ち、髪や瞳が緋色に近づく」

「なぜ……」

 

そうまでして継承に拘った……一毅はそう言いたかったが未だダメージがでかく喋ることも出来ない。

 

「……世界は今戦いが起きている。様々な物を巡って戦った。時には金、時には石油……君たちには想像もつかないだろうが服を作る布地を奪い合って戦った事だって時代によってはある。そして今代は色金だ」

 

シャーロックは語り出す。

 

「僕の【緋色の研究】によって色金の力はおおよそ解明された。世界中の組織や人間がこれを狙うだろう。アメリカのホワイトハウス、イギリスの00(ダブルオー)、イタリアのバチカン……に日本では宮内庁が星伽を……おっと、口が滑るところだった」

 

ここまで言ってシャーロックは慌てて口をつぐんだ。

 

「分かるかい?悪しき者に緋弾が渡ればそれこそ世界が滅びる。世界を守るためには仕方がなかった」

 

教科書に出てくるくらいの見た目になったシャーロックは一息つく。

 

「これが僕の緋色の研究の全てだ。これからは君たちが緋弾を……」

『ふざけんな……』

 

ダンッ!!!!と床を踏み鳴らしキンジと一毅が立ち上がる。

 

『ふざけんじゃねぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!』

 

咆哮……ぐらつく足を立て直し、二人の体からは怒りを原動力とする深紅のオーラ(レッドヒート)が溢れ出す。

 

「世界だと!?んなもんのためにてめえは自分の曾孫を撃ったのかよ!」

 

キンジの目の奥がチカチカしだし頭に血流が集まると痛みを発し出す。体が熱い。キンジはネクタイを緩め、ボタンを上から2、3個外す。久し振りのキンジの本気モード……

 

「君たちには分からないだろう……だが仕方なかったのだ」

「ふざけんな!!!!仕方なかっただと!?んな理由でたまっかよ!」

 

一毅も体がビリビリしだし全身が脈をうち始める。刀の柄が軋むんじゃないかと思うほど握る。

 

「どんな理由があるか分かんねえよ!でもなぁ!!!!俺は……いや、俺達はお前を!!!!」

『絶対ぶっとばす!!!!』

 

二人は武器を構える。

 

「ほう?まだやるかね。僕にアレだけボコボコにされといて」

「残念だったなぁ!俺達は馬鹿なもんでしてとっくにそんな記憶忘れたよ!」

「つうかそんなのいつまでも覚えてるほど頭良いと思ってたのか?シャーロック!!!!」

 

頭よかったらこんな場所に銃とナイフと刀をもった二人組で乗り込まない。

 

「俺達は馬鹿だから今でもお前に勝てると思ってんだぜ!!!!」

 

頭よかったら……多分このまま寝転がっていた方が楽だった。そんなのは分かりきってる。でも……

 

「何故だい?あそこまで実力の差を見せられたのに折れることがない」

「何度も言わせんな!俺達は馬鹿なんだよ!」

 

一毅が口から血を流しながら叫ぶ。

 

「諦めた方が楽だっただろうさ!寝転がっていた方が楽だっただろうさ!お前が何処かに去るのを待ってた方が良かっただろうさ!でもなぁ……そんな器用な生き方出来ないんだよ!!!!」

「一毅の言う通りだ!どんなにてめえが強くたって……絶望的だって!諦めるって選択肢を頭の中に作れるほど器用に生きられないんだよ!」

 

馬鹿だと言われようが……愚かだと言われようが……間抜けだと言われようが……気に食わない相手に膝折ったままなんて出来ない。いや、もっと良い言い方とかあるんだろうけど……それこそ漫画とかアニメみたいに【アリアの犠牲の上での平和何ぞいらん!】と言えれば良いんだろうけど……馬鹿で不器用な二人にはうまく言葉にできなかった。

 

「大体気に食わないんだよ!全部知ってるぜ俺は……みたいな顔しやがって!!!!」

「ホントだぜ!どんな事情があるのか知んねえけどな!やっぱり気に食わねえ!」

 

二人の気に食わない……この言葉に多くの意味が含まれている事はシャーロックは分かった。不器用でバカな二人なりに纏めた言葉……

 

「ふふ……」

 

シャーロックは笑った。するとタイミング良く音楽が終わった。

 

「成程……大馬鹿が二人も揃って累乗か……良いだろう」

 

シャーロックはステッキを持つと引く……すると中から剣が現れた。

刀剣の種類としてはスクラマサクスという種類だろう。

 

「銘は聞かない方がいい。女王陛下の謗りを受ける」

「興味ねえよ。どうせエクスカリバーとかラグナロクとかそんなもんだろ」

「素晴らしいね。探偵になれるよ」

「お前も案外適当だな……」

 

更にシャーロックは銃も弾を込めて構える。武偵風に言うなら一剣一銃(ガン・エッジ)……これが本気のシャーロック・ホームズであることは簡単に分かった。

 

「はっきり言おう。ここから先は僕の推理の外……どうなるか分からないよ?」

『上等だ……』

 

一毅とキンジも構える。

 

「気に食わないなら……その拳と刃で語ると良い」

『行くぞシャーロック!』

 

二人は再度疾走……痛みといった感覚も麻痺した大馬鹿(おおばか)二人と今だ底を見せぬ最高の頭脳(てんさい)の戦いは最高潮(クライマックス)を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオオオ!!!!」

 

一毅の体がミシミシ音を立てる。だが今の一毅には意味はない。

 

「ガァアアアアアアア!!!!」

 

キンジの頭痛が更に加速する。だがそれに呼応するがごとく視界も加速する。

 

「ふふ、君たちにはやはり力があるようだ……」

 

シャーロックが銃撃。剣術、バリツに加え銃撃も達人級のシャーロックが放つ不可視の銃撃(インヴィジビレ)……だがそれを一毅は残像が残る程の速度で躱し、キンジは先読みした世界で見えていたため銃弾切り(スプリット)で迎え撃つ。

 

『はぁ!』

 

二人の斬撃……それをシャーロックは瞬時に弾きながら距離を取る。

 

「まず教えよう。一毅くん。君のその力は……極限にまで研ぎ澄まされた本能だ!」

「なにっ!」

 

野生の獣は嗅覚と視覚、聴覚のみで獲物は追わない。寧ろそれはあくまで補助である。

本当に強い獣は見ずとも分かる。本能が教える。獲物の位置……そして敵の位置を……

人間も昔は持ち合わせていたが長き時間の中で失った本能。

見ずに相手の一撃を見切り、空かし、カウンターを決める力……最低の動きを最高の動きで行う力……他人の悪意も善意も感じとる超直感……人はそれを気を感じる……や空気の動きで……等といったがどれも正しくはない。

まあその使い手は自分の動きを感じれず、気がつけば相手を倒していたような感覚に襲われる。そのため使い手は自分の力の説明はできず、感じることもできなかった。

そう、例えるなら無我夢中の極地……その名も、

 

「【心眼】……時の人はそう言った。鬼と呼ばれた男、武蔵坊 弁慶!戦国最強と言われ徳川軍最強の男、本田 忠勝!黒田 官兵衛に使えた槍の名手、母里 太兵衛!新撰組の沖田 総司!幕末の人切り、岡田 以蔵!同じく人切り、河上 彦斉!無論、君の先祖の宮本 武蔵や残念ながら受け継がれなかったようだが佐々木 小次郎だってそうだ。世界を変えれば三国志の関羽や張飛、更に呂布などもそうだったと推理している。武に置いてすさまじい功績をあげた者達だ。皆ね」

「オォ!!!!」

 

キンジの蹴り……それをシャーロックは見切って躱して剣を振るうがキンジも見切ってナイフで受ける。

 

「君の力は僕も持っている……君の目は正確には未来は見ていない。見たものから導き出された相手の動きを君は脳に見せられている。そう、君の力は極限の観察眼……だよ」

「っ!」

 

目自体が物を見てはいない。目に映ったものを脳が処理して……そして視覚と言うものが生まれる。

キンジの目は常に観察しているのだ。相手の筋肉の収縮を……相手の視線を……動揺を……相手の剣の刃の向きを……銃口の向きを……引き金を引く瞬間を……全て見て、見抜いて、見切って……見逃さない。

更にその目は時の流れを遅くする。すべてがスローになった世界でキンジは銃弾だろうが音速に匹敵しようかという剣撃だろうが見えてしまう。相手の動きも見切ってしまう。

無論キンジの驚異的な銃弾回避技は全てこの眼のお陰だ。幾度となくキンジは無意識にこの力を引き出してきた。だが今一歩というところで完全に引き出さず終わっていたがシャーロック・ホームズと言う敵がキンジの眠らせ、鉄の檻に入れて幾重にも鎖を巻いて封じた才能を引き出させた。この力の一端は金一も持っている。だがキンジほど引き出せない。この眼の才覚はキンジが圧倒的に上回っていた。

 

「【万象(ばんしょう)()】……そういう名前の力だ」

「万象の眼……?」

「そうだ。希代の軍師、竹中 半兵衛及び黒田 官兵衛……更には織田 信長に徳川 家康……他にもレキ君の先祖の義経や武田 信玄に上杉 謙信に諸葛亮 孔明や周瑜 公謹に荀彧や司馬懿 仲達と言った人物が同じ眼を持っていたとされる」

『……………』

 

一毅とキンジは鍔ぜり合いしながらも聞いていた。

 

「その力の使い方だが……一毅くん。君は氷となれ……闘争心を深層に抑えろ。氷のような闘争心を身に付けるんだ。どこまでも澄みきった冷たい天に広がる闘争心を……キンジ君……君は炎となれ、熱く熱く、何処までも燃え上がれ、感情の高ぶりこそが脳のリミッターを外す」

 

そう言って切り返して一毅とキンジを見る。

 

「さぁ、講釈は此処までだ。あとは実践あるのみだよ」

 

シャーロックの言葉に答えるように二人は疾走する……

 

「おっらぁ!」

 

一毅の横凪ぎ……それをシャーロックは受け流す。だが其処にキンジの後ろ回し蹴り……

 

「っ!」

 

それを伏せて躱しながらキンジ一毅は飛び蹴り……

 

「くっ!」

 

シャーロックは腕を交差させて受けるが後ずさる。

き一毅の体が悲鳴をあげ始め、キンジは頭痛と共に頭のなかでプチプチ音が出始めた気がした。

 

「気を付けるんだ。力に惑わされれば当然負担も大きくなる」

 

一毅の力は最善を選択しすぎる。そして人間の普段は抑えてある潜在能力(ポテンシャル)を簡単に引き出させる。キンジは脳に負担が掛かりすぎる。結果、脳がオーバーヒートすれば廃人になるかもしれない。

だが二人は徐々にシャーロックに追い付き始めた。

 

「ラァ!」

 

一毅の横凪ぎ……

 

「オォ!」

 

キンジのハイキック……

 

「ふん!」

 

一毅の振り降ろし……

 

「シャ!」

 

キンジの足払い……

 

「オッラァ!」

 

一毅の二刀を使った交差切り……

 

「ヨッシャ!!!!」

 

キンジの旋風脚……

 

一撃一撃が最初は気にならない程度のダメージ……だがそれは何時しか大きくなった。

 

「オオオオオオオオオ!!!!!!!!」

 

斬!っと一毅の横一文字が遂に深々とシャーロックを切り裂く。

 

「ラァアアアアアアア!!!!!!!!」

 

キンジの渾身の蹴り蹴り上げがシャーロック顎を穿つ。

シャーロックが大きく体勢を崩した。

 

『勝機!!!!』

 

 

キンジはクラウチングスタートの構えを取る。これは理論だけが出来上がった状態で一度も使わなかった技……だが今ならできるだろう。

ナイフを構え、シャーロックを見据える。

 

「この桜吹雪……散らせるもんなら……散らせてみな!!!!」

 

キンジは走り出す。まずは足の関節……続いて肩と腰の関節……最後に腕の関節……これらを同時に加速させる技……元は風魔のヂ撲ちと言う技を原型とした瞬間的に秒速1235㎞と言う音速に匹敵するキンジの最速技。この技を好んで使ったキンジは後に【速星(スピードスター)】と呼ばれるようになる。その名も、

 

桜花(おうか)!!!!!!!!」

 

ナイフの先から円錐錐状(ヴェイバーコーン)が現れ、同時にキンジの腕から血と龍桜(りゅうおう)の袖が破れて撒き散らす。まるで桜吹雪のように……だが、

 

「惜しかったね……」

 

シャーロックには見えて……見切られ……見抜かれた。 だが……キンジの眼はその先を見た。

 

「んなもん……」

 

キンジはシャーロックのもう一方の手を掴み……大きく体を逸らす。

こんなのは必殺技でも何でもないが遠山家代々の奥の手……アリアを先程相手取ったときもこれを使えればよかったがそれはしなかったと言うかできなかった一撃……

 

「とっくに見抜いてる!!!!!!!!!!!!」

 

ガス!!!!っと大きな音をたて大馬鹿の偏差値40切ってる武偵高校でも中の下クラスの頭脳を誇るキンジの頭と世界最高峰にして最強を支え続けた頭がぶつかり合う。

 

「がっ……」

「残念だったなぁ……先祖代々石頭でよぉ……」

 

キンジは崩れる。さすがに限界……だから……

 

「後は頼むぜ、親友(一毅)

「ああ、任せろ、親友(キンジ)!!!!!!!!」

 

キンジの横を走り抜け、一毅は殺神(さつがみ)一本のみを握る。

同時に蒼いオーラ(ブルーヒート)深紅のオーラ(レッドヒート)と混じり会う。

 

「二天一流!」

 

シャーロックは崩れた体勢で剣で突く……だが、バツン!と言う音と共に一毅の残像をシャーロックは突く。

 

「秘剣!!!!」

 

人知を軽く凌駕した身体能力からの膝蹴り、

 

「がはっ!」

 

顔面に叩き込まれた膝蹴りにシャーロックは大きく後ずさる。

 

「アアアアアア!!!!!!!!」

 

一毅は襟を掴むと引っ張り前に倒しながら自分に向いた背中に渾身の袈裟斬りを叩き込んだ。

 

「奥義……一流(いちなが)れ……!」

 

一毅も地面に膝をついた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハァ……ハァ……』

 

一毅は体がバキバキだしキンジは視界がボヤけてる。

 

「ふ、ふふ……負けた……ハッハッハ!完敗だよ!」

 

シャーロックは嬉しそうに笑う。

 

「僕を負かしたのは今までで一人しかいない。いや、追い詰めたのは何人かいたがね」

「一人いたのか!?」

 

一毅たちは驚愕した。

 

「ああ、ふと現れて僕に決闘を申し込み三分で負かされた。終わった後戦う前に作っていたカップ麺煤って帰っていったよ」

「なにもんだよ……そいつ」

「宮本 武蔵と斎藤 一両方の血を受け継いだ男……桐生を探している……そう言っていた」

「っ!」

 

斎藤 一……明治の時代に生きた桐生の妻が斎藤 一の娘だったはず。そのため二天一流には斎藤 一の剣技も組み込まれているのだが……なぜそれを知っているのだろう……

 

「確か名は……亜門(あもん) 丈鬼(じょうき)……そう名乗っていた。いずれ君の前に現れるかもしれないね」

『…………』

 

一毅とキンジは互いに肩を貸しながら立ち上がる。それからアリアに手錠を借りると、

 

『シャーロック・ホームズ……お前を……逮捕する』

 

手錠をかけようとした……が、

 

『え?』

 

シャーロックが土になって崩れた。

 

「残念だが諸君。老兵ただ死すのみってね」

 

シャーロックはいつの間にかICBMに乗り込んでいた。

 

「曾祖父様!」

 

今にも飛び上がろうとするICBMにアリアは小太刀を刺して張り付く。

 

「アリア!」

 

キンジもアリアを追ってスクラマサクスをICBMに刺して張り付くと……二人をくっつけたままどこか遠くに飛んでいった……

 

「おいおい……俺置いてけぼりかよ……」

 

一毅がボヤくと爆発音が響く。

 

「え゛?」

 

嫌な汗が流れた。だがそれを笑うように爆発は続く。

 

「不幸だぁああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

一毅は筋肉疲労がMaxの状態で全力疾走する羽目になった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ!」

 

沈むボストーク号を見て武藤が声をあげる。

 

「勿体なおごふぅ!」

『心配すんのは船の方ですか!』

 

一年生たちから総攻撃を受ける。

 

「大丈夫かな。三人とも」

「大丈夫ですよ」

 

不知火にレキは返答する。

すると、

 

「ぷはぁ!」

『っ!』

 

一毅が浮き上がった。

 

「引き上げてくれ。疲れてもうだめだ」

「わ、分かった」

 

武藤に引き上げられ一毅は息を吐く。

 

「ヒデェ目に遭った。キンジと一緒だとろくな目に遭わねえな」

「お疲れ様でした」

 

レキに頭を撫でられた。

 

「ってアリア先輩は!?」

「……ミサイルの側面にくっついて飛んでった」

『はぁ?』

「キンジも一緒だ」

「益々意味わかんないんですけど!」

 

すると金一がなにかに気づく。

 

「あれは……」

 

指差す方を全員が向く……その方にはアリアとキンジがいた。

だが一番驚いたのはアリアは髪をパラシュートのように広げゆっくり落下してきたのだ。

 

「そうか……」

 

だからああいう髪型にさせたのかと一毅は納得した。

他の皆はポカーンと見てる。一毅も緋弾の事を知らなければ多分同じだっただろう。

そしてさっきまでキンジはアリアにくっついていたが泳げないアリアはキンジに着水する直前にくっつき直し着水する。

 

「よう。さっきぶり」

「ああ」

 

引き上げられたキンジは桜花の反動でボロボロの腕を金一に見てもらう。

 

「多分痕に残るだろうなぁ」

「傷がない武偵の方がすくねぇだろ?CVRくらいだ」

 

キンジが言って肩を竦める。

 

「だな……あぅ!」

 

一毅はピキッと体が言って顔をしかめた。

 

「こりゃ病院だな」

「ま、どちらにせよ……」

 

キンジが笑う。

 

「これ……にて一件……落着……だ……な……」

「取り……合えず……わ……な……」

 

そこまで言ってキンジと一毅はそのまま倒れた。ちなみ頭はキンジはアリアの膝に、一毅はレキとライカに凭れるように倒れた。

 

「あ!こら!!!!遠山 キンむぐぐ」

 

辰正にあかりは止められる。

それから指を口に持ってきてシーッとやる。何故なら、

 

『くー…zzZ』

 

完全に限界に来たのか二人とも完全に睡眠中であった。

さすがのアリアも顔を真っ赤にするが頭を退けるようなことはせずにそっと撫でる。

レキとライカも一毅をそっと撫でた。

 

 

 

だがそれから1ヵ月後に知ることになる。これはまだ序曲……巨大な戦いの始まりなのだと……

 

だが今は二人の戦士に一時の休息が与えられんことを……



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金の告白

「はぁ……」

 

キンジはため息を吐きつつモップとホウキを手に教室に入る。

 

前回の戦いから既に二週間……あの後無事?入院までしたキンジと一毅だが一つ不運が起きた。それはカジノ警備……本来1.5単位貰える美味しい仕事だったのだが襲撃で派手に暴れたせいか減点喰らってしまい何と0.9単位に減らされたのだ。

つまり……1単位とらねば留年確定のキンジは緊急で教室掃除0.1単位の依頼を受領し、それを行いに来た。

だが普通は単位は半分になるのが当たり前で0.9単位とは随分かさ増しされており教室掃除の依頼もまるで予め用意されてたような手際の良さで言われた。

まあ入院中に武装検事や官僚秘書を名乗る奴等がやって来て幾分かの報酬金を貰い(非常に怪我とか苦労とかに比べて割りに合わない額だったがそれでもかなり纏まった額だった)同時にイ・ウーの件は他言無用との事。元から他の人間に話す気はなかったが(言っても誰も信じないだろう)一応誓約書にサインしておいた。

多分それこそ上の奴等がいくら探しても見つからず相手を差し向けても返り討ちに会わせられていたのに一介の高校生二人がイ・ウーを壊滅させたことに相当驚愕させたらしい。

その件は多分と言うか絶対教務科(マスターズ)にも行っており(0.9単位に水増しされていたのは多分このお陰だと思うがどうせなら切り良くあ1単位にすればいいと思った)蘭豹にはまた強襲科(アサルト)に復帰しないかとここに来る前に聞かれた。まあその件は少し保留させていただいている。

別に武偵を続けるつもりの自分は復帰も吝かじゃないしシャーロックと戦いで思い知らされたがまだまだ自分の力は低い。だが同時に探偵科(インテスケ)にも何だかんだで愛着も湧いてしまったし頭使って考えられるやつが一人位居ないとアリアたちが絶対苦労する羽目になる。

 

「さてと……」

 

キンジはホウキを動かしてゴミを一ヶ所に持ってくる。

明日から夏休みだ。なんとしても終わらせて夏休みはのんびりと過ごさせて頂く。まあアリアが居たらのんびりとは遥か彼方にサヨナラしなければいけない気がするのは気のせいではないだろう。

しかし結構広い教室の掃除を一人はキツい。

なので人を呼んだが武藤も単位が足りずにどっか依頼を受けにいったし不知火は何か重要な用があるとかで無理。白雪は星伽に行ったし理子はコミケに行くとかで来ないし一毅は未だ入院中で(全身の筋肉が切れていたらしく未だに筋肉痛状態でレキとライカにご飯を食べさせて貰うと言う状態だ)間宮は論外だし佐々木も論外……パシリ属性持ちの辰正にも頼もうとしたら既に間宮の妹の買い物に付き合わなければならないとの事でダメ。風魔にも声をかけたが修行(バイト)でダメでレキとライカはさっき言ったように一毅の見舞いで来れないしアリアからは……返事も来ない。入院中も見舞いにすら来てくれなかったし少し寂しい気持ちも……

 

「そんなチンタラやってると終わんないわよ」

「え?」

 

クチナシの香りと共に恒例のアニメ声で現れたのは……

 

「アリア……?」

「全く、なにポカーンってしてんのよ」

 

アリアは両手を腰に添えて立っている。

 

「ほら、後はモップ掛けでしょ?」

 

モップ片手にアリアがこっちに来る。

 

「そうだな……」

 

キンジもモップを取ると、

 

「ねぇ、端と端から同時に始めて一番多く拭けた方が勝ちにしない?賭けるのはリポビタにしましょう?掛け声はヨゥイドンね」

「ヨイドン!!!!」

 

キンジはものすごい早さで拭き始めた。

 

「ああ!ズルいわよキンジ!!!!」

 

アリアもそれに続いて拭き始めた。

 

 

 

『オオオオオオオ!!!!!!!!』

 

リポビタ何ぞどうでもいいのだがやるからには負けたくない負けず嫌いが二人も集まると異常な速さで拭かれていく。そして、

 

『あがっ!』

 

ゴチン!っと碌に前を見ずに拭き進んだ結果頭をぶつけ合ってしまった。遂二週間ほど前この少女の曾祖父に頭突きかましたがまさかこんな短い間に曾孫にまで頭突きすることになるとは……だが悲劇はここで終わらず、

 

「おわ!」

「きゃ!」

 

バランス崩してキンジとアリアは倒れる。

 

『え?』

 

二人の時が止まった。何故ならキンジはアリアの腕を抑えながら上に覆い被さるように……そして勿論アリアはその下に……様はキンジがアリアを押し倒した状態になった。

アリアがアワワワワと顔が赤くなっていく。

キンジはアワワワワと顔が青くなっていく。

更にヒステリアモードの血流が……

 

(ってマズイ!!!!)

 

キンジは慌てる。昔はやはり子供だったためヒステリアモードに成っても大丈夫だったが最近は割りと危ない気がするのだ。特にこういう戦いの場ではない場所でのヒステリアモードへの変化……

元々この力は子孫を残すための力。いい加減ガキでもないのでこのまま行くと大変マズイ状況になるのは本能的に察していた。それこそ責任を取らねばならないくらいに……と言うか誰もいない教室でアリアと二人っきりで更にヒステリアモード……絶対ヤバイ!

 

「す、すまん!」

 

キンジはガバッと立ち上がって安全距離まで離れる。

ギリギリセーフだ……まだ成ってない。

 

「う、うん……」

「?」

 

アリアはなだらかな胸(と言う程すら無いのだが)を抑えた。

 

「どうした?」

「う、ううん。大丈夫よ……うん……ちょっと胸が……ね」

 

それは一大事だ。アリアの胸になにかあればパッド屋が閑古鳥を鳴かすことになる……等と冗談はここまでにしてキンジはアリアに駆け寄る。

 

「特に顔色は悪くないし大丈夫だとは思うが……」

「うん」

 

それからモップを見るとタイル一枚分だけキンジが買っていた。

 

「俺の勝ちだな」

「あんたがズッコイ手を使うからでしょ」

「知ってるか?日本には勝てば官軍負ければ賊軍って言葉がある」

そういうとアリアがプッと吹く。

 

「でも日本の侍は正々堂々がモットーなんじゃないの?」

「俺は侍じゃねえ」

「一毅に聞いたけど先祖が侍だったんでしょ?」

「あいつも余計なことを教えやがって……」

 

互いに机を椅子代わりに話す。

 

「そう言えばカナ?だっけ?」

「ん?ああ」

「あれって……アンタのお兄さんなのよね?」

「……まあな……」

 

微妙な空気が流れた。

 

「あんな美人なのにお兄さんなのよね?」

「あ、ああ……」

「胸とか……どうしてるの?」

 

確かに胸がでかいんだよな……カナって……等と思った所で思考を切った。実の兄?の胸を考えるとかただの変態である。

 

「俺も知らん」

 

そこでふと思った……アリアはヒステリアモードを知らない。つまり金一がカナになる必要がわからない……と言うことは……

 

(このままだと兄さんってただの女装好きの変態って事にならないか?)

(キンジのお兄さんってやっぱ変だわ……)

 

既にキンジの危惧は遅かった。

 

「ってキンジ!アンタの兄とパトラ何処行ったか知らない!?隠すと風穴よ!」

「知るかよ。俺だって聞きたいくらいだ」

 

そう、あの二人は事件の直後に姿を眩ました。多分何か企んで動いてるのだとは思うし、元々連絡が着かない兄貴のためかあまり心配してはいないがアリアにしてみれば重要な証人二人も逃がしたと言うことだ。まあシャーロックの一件もあるし多分かなえさんの無実は勝ち取れると思うが……

 

「ふぅん……まあ良いわ」

 

嘘を吐いてないと信じたアリアは背を向ける。

 

「屋上行きましょ。少し話したいことがあるの」

「ああ……」

 

なぜか……嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~いい天気ね」

 

アリアは背伸びする。

 

「で?何だよ話って」

 

キンジが聞くとアリアは少しバツが悪そうな顔をする。珍しい表情だ。

 

「キンジ……今回の一件で多分ママは無実よ……」

「そうだろうな。じゃなきゃ俺と一毅の苦労が報われん」

 

ホントだぞ?まだ頭痛とか続いてるんだからな?

 

「うん。まずわね。一毅にも言うけどアンタが最初よ、ありがとう。キンジ」

 

アリアは夕日を背に言う。

 

「別に気にすんな……俺はお前の……」

「パートナーだから?」

 

照れ臭くなってキンジがぶっきらぼうに言おうとするとアリアに言われた。

 

「ああ」

「でも言っておきたかったの。ママの一件が終わったら私はロンドンに帰るから……」

「……………」

 

やはり……そうだったのか……とキンジは視線を伏せる。覚悟はしていた。アリアはロンドン武偵局に所属する武偵で日本には母親の一件が遭ったから来ていただけだ。終われば帰るのは変じゃない。

 

「そうか……」

「うん……それでねキンジ。アンタも来ない?」

「え?」

「留学するのよ。向こうの武偵高校を卒業してそのままロンドン武偵局に来なさいよ。そしてアタシと武偵活動するの……」

 

ダメ?という眼で見てくる。わざとじゃないんだろうが……そんな眼で見られて勝てるわけもなく。

 

「良いな。それ……俺は別に構わないぞ」

 

自然と口からそんな言葉が出た。

 

「武偵は世界に雄飛せよって言葉もあるしな……あ、でも俺は英語話せねえぞ」

「アタシが付きっきりで教えてあげるわ。当分はアタシと一緒に行動ね」

「お手柔らかに頼む」

 

互いに笑みがこぼれた。

 

「嫌がられたらどうしようかと思ったわ」

「お前がいれば何があっても怖くねえよ」

 

キンジがそういうとアリアは頬を染めた。

 

「そう?」

「ああ」

 

するとアリアは距離を詰めてきた。

 

「たくさん色んな事があったわ……でもアンタが一緒に居てくれ……何度も助けてくれた。ありがとう。キンジ」

「あ、ああ」

 

アリアが潮らしいことにキンジは違和感を覚えた。すると……

 

「っ!」

アリアは瞳を閉じてつま先立ちになる。

夕日を背に……どうとか言えないが何となく良い雰囲気の屋上に二人きり……ここまで来たらさすがにキンジでもアリアが望んでいるこちは分かると言うか分からなかったらただの阿呆である。

でも……恐くなった……

 

『…………』

 

行こう……とアリアはドアの方に向かう。

 

(俺は……)

 

その時……入院時に一毅に言われた言葉をキンジは思い出した。

 

 

 

 

 

 

「なあキンジ」

「ん~?」

 

全身に包帯を巻き更にキンジは頭痛のため氷囊を頭に乗せていた。

 

「アリアにさ~ヒステリアモードの事話さないのか?」

「…………」

 

キンジは視線をそらす。

 

「言えるかよ。今まで性的興奮で強くなってましたなんて……しかも興奮した相手にだぞ!?」

「でもさ……ちゃんと言っといた方が良いんじゃね?ちゃんと言っておかねえと……いつかお前はアリアを傷つける」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリア!」

 

キンジの声にアリアは振り替える。

 

「……おれ……お前に言わなきゃならないことがある」

「え?」

 

キンジは唾を飲み込む。喉が乾いた

 

「俺の……力についてだ……」

「へぇ?あれだけ問い詰めても口を割らなかったのに」

「言いづらかったんだ……」

 

少し弱気のキンジにアリアは首をかしげた。

 

「俺の力の名前はヒステリア・サヴァン・シンドローム……爺ちゃん何かは日本名の【返對(へんたい)】何て呼び方してるけどな」

 

ちなみに字で書くとこうだとアリアに見せるがまあ名前が名前のため顔をしかめられた。

 

「まあこの名前で呼ぶのは爺ちゃん位で兄さんはHSSって呼ぶしおれはヒステリアモードって呼んでる」

 

一度キンジは息を吸う。

 

「効果は脳内エンドルフィンの分泌による反射神経や記憶能力や論理的思考能力を通常の30倍に高める力だ」

「ふぅん……凄いじゃない。30倍だったらあんな凄い技も出来る筈よね」

 

純粋に感心される……だが一番の難所は……これからなんだ……

 

「一応派生系が幾つかあるがその中でも一番の基本のヒステリア・ノルマーレ……お前が何度も見てる覚醒状態ってやつだよ」

「ええ」

「発動トリガーはな……」

 

声が詰まる。

 

「何なのよ。言いにくいの?」

 

猛烈に言いにくい……

 

「だったら別に無理しなくても」

「駄目だ……ちゃんと言わなきゃならない」

 

キンジは覚悟を決める。

 

「発動トリガーは……性的興奮だ」

 

言い切った……アリアも最初はうんうん頷き……あれ?と首をかしげ……ブワワ!っと顔が赤くなった。

 

「え?え?」

「……………」

 

キンジは黙っている。

 

「そ、そう……」

「その……すまん……」

「ううん。私も気づかなかったのが悪いし……ホントこういうときに推理力が欲しかったと思うわ」

「気持ち悪いだろ?」

「別に、驚いたけど嫌な感情ではないんでしょ?」

 

まだ少し困惑した顔だがアリアはキンジの方に体を向ける。

 

「と言うかアンタ変態ね。こんな幼児体型の私にそんな感情持つなんてね」

 

自覚あったのか……等といったらすべて台無しだろう。

 

「そんなの関係ねえだろ」

「しかも……白雪とか理子とかでも成ったわよね?」

「…………………」

 

白雪の場合は仕方なかったし理子の場合は向こうからだがそういっても仕方ないだろう。

 

「まあ良いわ。じゃあ突然口調が変わったりしたときはそういうこと考えたって証拠なのね」

「おい、撃つとか勘弁してくれよ……悩んでんだからさ」

「分かってるわよ」

 

アリアはそっとキンジの手を握る。

 

「もしかして女嫌いって言ってるのはそれ関係?」

「まあな……中学時代にバレて利用されまくった苦い経験があるから……」

「そう……」

「ああ~……アリア。お前が俺と組むのが嫌になったら……」

「それ以上言ったら本当に風穴開けるわよ」

「っ!」

 

アリアの手に込められた力が強くなる。

 

「アタシはね……二言を言うつもりはないわ。言ったでしょ?アンタはアタシがどんなときでもパートナーで居てくれた。だったらアタシだってアンタにどんな力があろうがアンタのパートナーよ?」

「アリア……」

「何となく此で分かったわ。アンタが妙に鈍い理由がね……あんたヒステリアモード?に成らないようにそう言うの学んでこなかったんでしょ?」

「まあ保体は何時も鉛筆転がしだ」

「なぁんだ……安心したわ」

「安心?」

「ええ……」

 

何が……とは聞けなかった。多分気づかない間にアリアを傷つけたんだろうし多分今だって……

 

「っ!」

 

キンジはアリアに手を強く握る。

 

「一緒に……帰るか?」

 

すまないアリア……と内心呟く……今の自分にはこれが限界だ……これ以上の事を多分望んだことは分かってる……ただそれでもまだ少し怖い。

 

「……そうね。一緒に帰りましょ」

 

アリアも今はこれで良いと言うようにキンジの手を握る。

 

(いつか……ちゃんとこの気持ちは伝えなければならないのだろうな……)

 

棺で寝るアリアに誓ったことを早速破る事になりキンジは苦笑いした。

 

「まあ、良いか」

 

キンジは呟くとアリアの手を引きながら歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

レキはそれを遠くで見ていた。

 

「その命令は……聞けません」

 

レキは何か見ているのだが何を見ているのかわからない視線で言う。

 

「アリアさんは友達で……キンジさんは一毅さんの親友です。私は一毅さんを愛しています。故にキンジさんに靡きませんし何より二人の仲を裂くような真似はできません」

 

風が強くなる。

 

「私はあなたから離別しました。私は私の意思で生きる!」

 

レキは強い口調で言葉を放った。

 

「何故?決まってるでしょう……信じているからですよ。仲間を……愛する人を……それだけですよ」

 

レキはその場を立ち去った。

そこには……レキの意思を認めないと言うような強い風が吹き抜けた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああああ!ライカ!怖いから無理するな!」

「大丈夫です!イメージはできてます!」

 

ライカはリンゴとナイフ手に剥く……レキが剥いて一毅にあーんしてるのを見てライカも剥く所から挑戦しているのだが機械みたいに均一に薄く剥けるレキだがさっきからナイフとリンゴを目の前にもって心臓に悪い剥き方をするライカ……技術的な差が大きいと言うかライカは器用だがどうも料理方面は苦手らしい。

 

「と、取り合えず4つに割って皮を剥け!その方が簡単だから!」

 

簡単……そう言われライカはムキになる。

 

「だから大丈……あ!」

 

案の定刃が滑って指を切った。

 

「ったく……」

 

一毅はライカの手をにとると、

 

「あ……」

 

指を口に入れる。

ライカは顔を真っ赤にする。

 

「ホント、オチを外さない奴だな」

 

一毅はあきれたような顔をしながら血が出た指を吸うと、

 

「止まったな」

 

一毅は指を出す。

 

「絆創膏とか貰ってこい」

「はい……」

 

ライカは真っ赤な顔で立ち上がろうとすると、

 

「持ってきましたよ」

『っ!』

 

レキが入ってきた。

 

「ビックリした~」

 

完全に気配を消した状態での入室だった。

 

「と言うわけでライカさん。手を見せてください」

「あ、ありがとうござギャー!」

 

レキはライカの傷に情け容赦なく消毒液をぶっかけた。

 

「ちょ!染みる!」

「フフフ……自分の力量を見定められなかった武偵は痛い目に会うものです」

「ギャー!」

「二人とも~ここ病院だからな~?」

 

すると一毅は何かに気づく。

 

「レキ……お前何かあったのか?」

「え?」

「いや、何かそう思っただけだよ」

 

一毅が言うとレキはフッと少し笑う。

 

「何でもないですよ」

「そうか?なら良いんだけどさ」

 

一毅は言う。だがレキは内心ザワ着いた。相変わらずこう言うときには鋭い。普段は鈍感大魔王の癖してこう言うときには聡くて……

 

「一毅さん」

「ん?」

「大好きですよ」

 

一毅は頬が熱くなった。

 

「俺もだよ」

 

するとライカがこっちを見てくる。

 

「ライカも大好きだよ」

 

元から赤かったライカの顔がもっと赤くなった。

 

「取り合えずさっさと治してくださいね?飛行機の予約してきたんですから」

「あ~……一毅先輩のお父さんか……どんな人なんですか?」

「ヤクザも幼稚園の先生に見えるくらいおっかない顔……」

「またはアサシン……ですかねぇ」

「何もんですかその人……」

「まあ性格は穏やかな人だから怖がんなくて大丈夫だよ」

「どちらにせよ沖縄は夏ですから暑いですし何か服でも見に行きませんか?」

「あ、良いですね」

「ええ!俺動けないんですけど!」

「そこは後々のお楽しみにと言う事で」

「ちくしょー!」

 

一毅が項垂れるとレキとライカは笑った。



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対談
対談Ⅳ


咲実「さて、対談シリーズ第4弾です!」

 

アリア「もう4回になるのねぇ」

 

一毅「感慨深いな」

 

キンジ「うーん……」

 

あかり「どうしたんですか?」

 

キンジ「いや、俺って今回でヒステリアモードの事話しちまったけどさ……良いのかなぁ?」

 

レキ「まあ私が原作と違って横槍入れませんでしたし良いんじゃないですかね」

 

ライカ「確かにこの作品ではレキ先輩邪魔できませんよね~」

 

辰正「と言うか原作と流れ変わるのって今さらじゃないですか」

 

白雪「確かに……私パトラ戦出てないし!」

 

理子「理子なんて会話数すら少ないよ!?」

 

志乃「確かに元戦妹(アミカ)の麒麟さんの方が多い……」

 

理子「がはぁ!」

 

咲実「あ、血を吐いた……」

 

キンジ「で、でも夏休み編挟んでからの修学旅行編では出番も増えるんじゃないのか?」

 

咲実「そうだね。ちゃんと作るよ」

 

白雪&理子「ホ……」

 

咲実「まあその前に番外編も挟むけどね」

 

アリア「どんな話なの?他にも出る人は?」

 

咲実「一毅とキンジには台本見せてあげよう」

 

一毅&キンジ「なになに……ええ!」

 

一毅&キンジ以外「え?」

 

一毅「結構真面目にシリアスな話だ……」

 

キンジ「書くのか?これ……お前シリアスとか書くの苦手だったろ?」

 

咲実「かといってコメディーが得意と言うわけではないんだけどね……純粋に書いてて難しいでしょ?シリアスって」

 

アリア「ちょっと!見せなさいよ」

 

咲実「ダメよ~ダメだボブフゥ!」

 

白雪「それだダメだよ作者さん!色んな所から怒られるから!」

 

志乃「突っ込みに斬撃……流石ですお姉様!」

 

白雪&志乃以外「いやいやいや……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レキ「そう言えば夏休み編は一毅さんの実家ですか?」

 

咲実「うん。リメイク前は正月にいったけどやっぱり沖縄は夏じゃないとね!でも俺沖縄の事あんまりわかんないからいまからグーグル先生に聞かなきゃな……」

アリア「え?じゃあアタシたちって出番なし!?」

 

白雪&理子「なーかーま~♪」

 

咲実「そこは我慢してくれ……」

 

キンジ「ま、休暇にさせてもらうさ」

 

一毅「いいなぁ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一毅「そういやチラッと出てきた亜門ってやつだけど」

 

咲実「ああ、あれね。まだまだ出番ないと言うか出す予定も立ってないんだよね~」

 

キンジ「あれって龍が如くにも出てた奴がモデルか?」

 

理子「龍が如くが分からない方に理子からの簡単講座~と言うか読んで」

 

亜門……それは龍が如くの皆勤賞の敵であり世界中のあらゆる格闘技や武器の扱いをマスターしたと豪語する男。サブストーリーをすべてクリアーすると謎の男が現れ主人公を亜門の所に連れていってくれる。

強さはマジキチレベルで(これは作者の腕が問題とも思われるが……)難易度マックスの亜門は育てきった主人公でもかなりキツい相手である。

因みに余談だが攻撃の際に未知の兵器使ってみたり携帯取り出してレーザービーム落としてきたり空飛んでみたり人一人倒すためにしては随分と派手と言うか鬼かお前は!な攻撃をしてくる。

 

白雪「こうやって考えると色々変な人だね。亜門って」

 

アリア「でも曾祖父様三分で倒したんでしょ?化けもんじゃない」

 

レキ「いつか現れるんですかねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

咲実「そう言えば遂に評価に平均が出るようになったんだよね~」

 

キンジ「そう言えばそうだったな。ありがたいことだ」

 

レキ「評価していただいた方にはこの場を借りてお礼申し上げます」

 

一毅「他にもお気に入り登録も増えてきたよな~」

 

アリア「ホント感謝だわ」

 

あかり「目指せ百人も見えてきましたもんね」

 

志乃「これからも頑張りましょう」

 

辰正「でも少し休暇ほしいかな」

 

ライカ「いや、夏休み編は休めるだろ?アタシは無理だけど……」

 

咲実「大丈夫だよ。番外編は一年生の出番ないから」

 

一年生達「え?」

 

咲実「では皆さん。感想、評価何時でもお待ちしております。また会いましょう!」

 

一年生達「ちょっと出番無いってどういう意味ぃいいいいい!?」



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ifの話
失いし物に縋り付き…… 前編


ポタリ……と刃から血が落ちた……

 

「……が……が……」

 

刃を持つ男の足元には滅多切りにされた男は一人……もうすぐ息絶え死体一つに変わるだろう。

 

「ああ……」

 

刃の血を払うと男は刀をしまう。

顔立ちは……整っている部類だろう。だが人相は悪くその眼はひどく濁っていた。

 

(あだ)ぁ討ったけど……生き返っちゃくれないよな?レキぃ……」

 

勝手に押し掛けて……勝手に恋人宣言してきた女の名を呼ぶ……返事はな

い……もう死んだから……

 

 

 

その日……武偵・桐生 一毅は姿を消した。

 

これはIFの物語……あり得たかもしれない後悔の話だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「おぃっすカズッチ」

 

一毅は適当に座っていたがそこにクラスメイトになったかもしれない少女に声をかけられた。名は峰 リュパン 理子……

無論話す必要を感じないため一瞥だけする。

 

「相変わらず暗いねぇ。あ、これから仕事にいくから」

「ホームズ四世か?」

「そ、ついでに言うとパートナーにキー君選んだんだよ?」

「ふぅん」

 

キー君……本当の名は遠山 キンジ……遠山金四郎という男の子孫で一毅の幼馴染みだった……もう一年近く会ってないしこれからも会う予定はない。どうでもいいことだ。

 

「殺すからね」

「勝手にしろよ」

 

一毅には……キンジがどうなろうと知ったことではなかった。

 

「そう言えばジャンヌも雪ちゃん引き込もうとしてるし夾ちゃんも何か企んでるしねぇ~ここの人間もまた増えそうだよ」

「……………」

 

一毅は既に寝ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一毅は新聞をとる。

そこに小さく【暴力団構成員惨殺事件いまだ犯人捕まらず……】とある。

 

顔がバレてないわけない。未成年ゆえに名前も顔も出せないのだろう。

(下らねえ……)

 

一毅は新聞を投げるとまた寝出した……

 

ふと……眠る前に思った。今の自分をキンジが見たらどう思うだろう……軽蔑するか……怒るか……イ・ウーのNo.4の自分を……

 

 

……………どうでも良かった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局その後理子は捕まった。その直後にジャンヌも捕まった。どちらもキンジがどうにかしたらいい。少し驚きだ。少なくとも自分が知るキンジではない。序でに夾竹桃も捕まった。司法取引でもなんでもしてどうせすぐ自由になるのだろうからどうでもいいことだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度はブラドが捕まった。さすがにその時は耳を疑った。またもやキンジのお手柄らしいが随分実力をあげたらしい。まあ他にもいたらしいがそれでどうにかなるような相手では無いだろう。興味なかったから話すこともなかったし眼を合わすことは殆ど無かった上にあまりイ・ウーの潜水艦に顔を出さなかったので感じる事はなにもない……どうでもいいことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

退学になったパトラとキンジの兄の金一が何かやっている。どうでもいいので無視していたら金一の方から来た。ホームズ四世と戦うらしい。

キンジとも戦うかもな……等と思っていたらキンジにも協力してもらうらしい。あの男はブラコンなので多分力を貸すだろう……

 

 

 

そう思って三日ほどいたら断られたらしい。随分パートナーやっているようである。

どうでもいいことだが……まさかあのブラコン野郎が断ったのには少し驚愕が強かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然潜水艦が上昇し始めた。それと共に教授(プロフェシオン)が来た。

 

「これからアリア君を迎えにいくよ」

「へぇ?自分のひ孫をか?」

 

大方次のリーダーに据えるのだろう。それをめぐって派閥なんか出来てはいたが興味なかったため一毅は無所属だ。誰がリーダーだろうとどうでもいいことだ……

 

 

 

 

 

 

三十分をほど外で銃声が聞こえると教授(プロフェシオン)がピンクブロンドの髪の小さな少女を連れてきた。写真で一度見たことがあるため知っている。

彼女がホームズ四世改め神崎 H アリアだ……

 

「彼は桐生 一毅君だ」

 

一毅は一瞥だけする。だがアリアは眼を見開いていた。

 

「あんたが一毅?」

「初対面の男を名前で呼び捨てかよ」

 

一毅は奥に引っ込んだ……

 

「あいつが……キンジが探していた男?」

 

 

 

 

 

 

 

 

一毅は自室で寝転がる。あの後教授(プロフェシオン)がやって来てキンジが来たら出迎えてやれと言われた。こんなところに来るわけがない。アイツは馬鹿だがこんなところに乗り込んでくるほどではないだろう。

だがそれでも言われた場所に一毅は座る。どうせ来るはずのない相手を……

 

「一毅?」

「おいおい来るのかよ」

 

一毅は冗談だろ?と言う目でキンジとその後ろにいるアリアを見た。

 

「お前はそっちか?」

 

アリアに聞くと頷いた。別にいいんだがね。

 

「久し振りだな。キンジ」

「ああ、一年ちょっと振りだ」

 

幼馴染みに挨拶すると普通に返された。

 

「お前今イ・ウーの構成員なんだって?随分な鞍替えだな」

「どうでもいいだろ」

「しかもなんだその髪。半分白ってお前はブラックジャックか?」

「どうでもいいだろ」

 

一毅には興味もない。

 

「…………まだ……レキの事を想ってるのか?」

「っ!」

 

一毅は自分でも血が熱くなるのを感じた……

 

 

 

 

 

 

レキ……苗字は知らない。分かってることは狙撃の天才でウルスと言う民の一人……だった。入学から一ヶ月後に告白されて恋人(仮)として付き合いはじめて……ある事件で死んだ。

銃で撃たれて死んだ……自分が殺した……

彼女を拒否したから死んだ……正確には殺されただが……雨降るなかであっても自分がいたら変わったかもしれない。全て……自分のせいだ。

 

 

 

犯人は殺した……そして死に場所求めてここ、イ・ウーに来た。

出来るだけ苦しく死にたかった。だが中々そう言うことはなく日だけ過ぎていく。自殺などと言う生易しい物では死ねない。これ以上なく残虐に死にたかった。

何故か……そんなの決まってる。好きだったから。何時からなのかは分からないが彼女に惹かれていた……本当は……なのに拒否して彼女を遠ざけて……死なせた。幾夜も悔やみつづけ髪が半分白髪になるほど後悔し続けた。

 

 

 

 

 

 

「お前はまだもしかしたらって考えてるのか?バカじゃねえの?IFってのはどんなに想ったって、もしかしたら……としかならねえんだ」

「黙れよ……」

「どうでもいいとか言っといて……世捨て人みたいな顔して?そうやって自分に都合が悪くなると黙れ?何もどうでも良くできてねえだろうが!」

「黙れぇええええええ!!!!!」

 

一毅はぶん殴ろうとキンジに跳躍……だが、

 

「オォ!!!!!」

 

その前にキンジのハイキックが一毅を横に吹っ飛ばした。

 

「がっ……」

「テメェはあのときで時が止まっちまってる……お前の中の時計は壊れちまったんだ……」

「んだと……」

「だからそういうのは叩いて直すんだ」

 

そう言ってキンジはバッと上に着ていた服を脱ぎ捨てた。服の下には細かい傷に一年前とは比べ物にならないほど鍛え抜かれた肉体。元々キンジは筋肉量が多い体質をしていないためここまでにするのにいったいどれだけの修練を積んだのか分からない。

 

「最初に言っておいてやる。毎日血反吐吐いても鍛えまくって……血尿出しても戦いまくって……俺は一年前とは比べ物にならねえぞ?」

「……」

 

ブッと血を吐き出す。

 

「良いのかよ……俺だって実力はあげたんだぜ?」

「上等だ」

 

一毅も上に着ていた服を脱ぎ捨てた。

生まれつき筋肉質の肉体がさらけ出される。

 

「教えてやるよ……武偵三倍刑がどれだけ苦しいかをな」

「やってみろよ……」

 

二人は息を吸う。

 

「東京武偵高校 Sランク武偵!強襲科(アサルト)所属・遠山 キンジ!!!!!」

「イ・ウー構成員!桐生 一毅!!!!!」

『勝負!!!!!』

 

二人は一年振りの再開を果たし……戦いを始めた……




さて取り合えず前編……次回は後編となります。
今回は私なりにシリアス前回でした。うん、難しいです……

このifの話ですが第一章でもしレキが助からなかったら……と言う話です。
一毅は撃った犯人を殺して死に場所求めて今やイ・ウー構成員……そんな一毅を光ある場所に戻せるのはやっぱり親友のキンジでしょう。
なので次回はキンジ頑張っていただきます。

では次回の後編で~


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失いし物に縋り付き…… 後編

『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!!!!』

 

何度殴りあっただろう……互いに顔は腫れ上がり……口の中は切れてグチャグチャで顔の腫れで目が見えにくいし膝も笑っている。

キンジと一毅を動かすのは気迫のみで精神が肉体を凌駕している。

 

「オッシャア!」

 

キンジのハイキックが一毅の体を揺らす。

 

「オッラァ!」

 

一毅のボディがキンジの体をくの字に曲げる。

 

「テメェに……」

 

一毅は吠えた。

 

「テメェに何が分かんだぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

失ってから分かった好意……その時に喪失感も……悲しみも……分かる筈がないと一毅は叫ぶ。

 

「分かるさ!兄さんを失ったとき俺は悲しかった。泣きたいのに涙もでなかった!!!!!武偵なんか辞めたくなるくらいだったよ!それにアリアが狙撃されたときだって胸になんか穴が開いたみたいで喪失感が胸を支配した!俺の方はどっちも生きてたけどそれでも分かるさ!」

「じゃあ何で辞めなかったんだよ!!!!!」

「お前を見つけたかったからだ!!!!!」

 

キンジだって後悔していた。親友大切な何かを失い、何処かに消えたとき……なぜ一緒に居てやれなかったのかを……そしてその親友が犯人を殺したときになぜ自分は体を張って止められなかったのかを……

キンジもifを考えてそんなのあり得ないと思うことが何度もあった。

だがそれでもキンジが諦めなかったのはロボットと呼ばれた少女が死の間際に託した願いを叶え……言葉を一毅に届けなければならなかったから……

 

「下らねえ下らねえ言って……お前は【今】を見てねえだけじゃねえか!!!!!」

「っ!」

「死んだ人間を何時までも想ったって死んだままなんだよ!生きてるやつの幸せこそが死んだやつの望みなんじゃねえのか!」

「アアアアアアアア!!!!!」

 

一毅はガムシャラに拳を突き出す。それを全てキンジは受けきった。

 

「テメェに!!!!!なにがわかるんだぁああああああああああああ!!!!!」

「テメェこそレキが何を想って死んだと思ってんだよぉおおおおおおおおお!!!!!」

 

レキは……死に際にキンジに託した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が降る中レキは胸から血を流しながらキンジに言った。

 

「一毅さんに……ごめんなさい言ってください……優しくしてくれてありがとうとも」

「え?」

「そして……拉麺美味しかったと……」

「あ、あのなぁ……そう言うのは自分で言えよ!」

「言いたいですよ……でも言えそうにないです……だからキンジさんに託します……愛してました……と」

 

レキの体から力が抜ける……

 

「レキィイイイイイイイイイ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツはなぁ……ちゃんと人間だったんだぞ!俺じゃない!お前が人間にしたんだ!」

「だったらなんだよ!」

 

何度も殴り会う。

 

「アイツはお前に感謝してたんだぞ……」

「だからなんだぁああああああ!!!!!」

 

キンジはここまでいっても分からないのかと歯を噛み締め……

 

「テメェは今の姿レキに見せて胸張れんのかぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!」

「っ!」

 

バキィ!っとキンジの後ろ回し蹴りが一毅の顔に決まる。

 

「ごほ……」

「アイツは言ったんだぞ!拉麺うまかったって!優しくしてくれて嬉しかったって言ったんだぞ!それなのにお前は落ちぶれやがって!」

「っ!」

「何時までもウダウダ落ち込んでんじゃねえよ!」

「だけどさぁ……」

 

泣いていた……止めどめなく一毅に目から涙が溢れた。

 

「そしたらレキが俺の心からも死んじまうじゃねえか!!!!!」

「死なせてやれよ!じゃなきゃ成仏できねえだろうが!」

「んな器用な生き方出来るとおもってんのかよぉおおおおおお!!!!!!!!!!」

「出来るかじゃねえんだよ!やるんだ!それが生きてるやつの義務なんだよ!供養なんだよ!」

 

キンジも泣いていた……一毅の辛さ……心の傷……それがどれだけの物だったか正面から向き合って今分かる。

 

『ウォオオオオオオオオアアアアアアアア!!!!!!!!!!』

 

一毅とキンジの拳が交差(クロス)しほぼ同時に顔面に炸裂する……だが大きく体勢を崩したのは一毅だった。

 

「お前……強くなったな…」

「あれからどれだけ特訓したと思ってやがる……」

 

キンジは背を向ける。

 

「レキからの伝言だ……」

「え?」

「ごめんなさい……」

「っ!」

「優しくしてくれて嬉しかった」

「っ!」

「拉麺美味しかった」

「っ!」

「最期に……愛していました」

「………………」

 

一毅は呆然と聞いた……

「レキはなぁ……好きだったって笑ったよ。すっげえ可愛い笑顔でな」

「………あ……あ……うぐ!」

 

一毅はボロボロ涙腺が決壊したように涙を流す。

 

「…………行こう」

 

キンジはアリアをつれて教授(プロフェシオン)が居る奥にあるきだした。

 

「あ……ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!」

 

一毅は絶叫にも似た声を出す。

周りにあるものを殴り壊し、投げつけて壊し、蹴り壊す……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周りにあるものを破壊しつくし一毅はうつ伏せに倒れ息を整える。

 

「……はぁ……はぁ…はぁ」

 

一毅は歯が軋むほど噛む。

 

「ふぅ……はぁ……」

 

一毅は息を吐く。

それから立ち上がると走り出した……胸を張れるように……

 

 

 

 

 

「がっ!」

 

キンジは地面を転がる。

 

「その程度かい?」

「キンジ!」

 

教授(プロフェシオン)にぶっ飛ばされたキンジは血を吐く。

 

「ぐ……がは!」

 

一毅との戦いのダメージがあるキンジは終始劣勢を強いられる……そこに、

 

「よう、苦戦してんなキンジ……」

 

一毅が駆けつけた。

 

「お前はいつも遅いんだよ」

 

キンジは立ち上がるとニッと笑う。

 

「行けるか?」

「絶好調だ」

なら……と二人は腰を落とす。

 

「行くぞ親友(一毅)

「ああ、親友(キンジ)

 

二人は駆け出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

一毅は爆発して崩れていく船を見ながら座り込む。

どうやって教授(プロフェシオン)を倒したのか分からない。とにかくガムシャラにやってとにかく戦った……因みにキンジとアリアは教授(プロフェシオン)を追ってミサイルの側面にくっついて飛んでいった。

 

「あ~くそ……体いてぇ」

 

久しぶりに刀振って……久し振りに本気で戦った。

 

「レキ……」

 

一毅は眼を閉じようとし……

 

【一毅さん】

「っ!」

 

慌てて開く。目の前にはレキがいた……病院で見た死に顔を同じ服だ……

 

「レキ?」

【はい】

 

生きてる……筈はない。確かに確認したのだ。

 

【知ってますか?一夏(ひとなつ)(ゆめ)ですよ】

「……そうか」

 

そうだったのか……残念だ。

 

「なあ……やっぱり不幸だったと思うか?」

【まさか……私の人生の中で幸せだと思えました……いや、貴方を悲しませたことは不幸でしたが】

「……」

 

一毅は一度息を吸う。

 

「レキ……好きだったよ」

【私も……愛してました】

 

一毅なりの別れの言葉……さよならとはやっぱり言えなくて……過去にすることでしか示せない。

 

【約束……してもらえませんか?】

「ん?」

【誰か私じゃない人を好きになってください。幸せになって子供つくって……下さい】

「……ああ」

【次に元気で暮らしてください。健康に気を付けて】

「………ああ」

【最期に……笑ってください。笑顔で生きてください……】

「…………ああ」

 

一年笑うことはなかった一毅は不器用な笑みを浮かべた。

 

【一毅さん……お元気で】

 

最期にレキは綺麗な笑顔を浮かべ……消えた……

 

「お前も……な」

 

一毅の足に最後の一滴の雫が落ちた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後どうなったかはこれを見た人の想像に任せよう。ただ一つ言えることは夏休み明けの名簿に……【強襲科(アサルト)Eランク 桐生 一毅】

と言うものが記されていた。




この話はあくまで作者の妄想であります。
なのでこれって矛盾あるだろ!とか言わないで下さい。あくまであったかも……と言うものです。
これでは基本的に部分部分を取り出して書くと言う書き方でした。はじめての書き方でしたがまあシリアスは難しかったです。

さて、次回からは本編の夏休み編へと突入します。そこでレキも元気ですしお楽しみください。


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夏休み編
龍達の夏休み その一


「久し振りですね。飛行機に乗るのも」

「そう言えばレキ先輩外国出身ですもんね」

 

一毅、レキ、ライカの三人は空港にいた。

 

「まあ国内線だけどな」

 

三人とも飛行機の書類にサインする。武偵であるため三人は交通機関に乗るときは実は結構面倒な手続きがいるのだが……

 

「二人ともまだですか?」

『はや!』

 

何故かレキはすでに終えていた。

 

「既に書類を前から受け取っておきました」

「そんな裏技が……」

 

何度も利用している一毅だがそんなものは知らなかった……

 

「急がないと登場時間に遅れますよ」

『やば!』

 

一毅とライカは大急ぎで書類を書き終えた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一毅の実家は沖縄にあり孤児院【アサガオ】を営んでいる。

アサガオは一毅の祖父の代から存在しており現在は最年長は15歳、最年少は10歳の総勢10名で一毅の両親と一毅を含めて計13人もいる結構な大所帯である。

一度レキは行った事があるがライカは初……しかも一毅曰く父親はヤクザも幼稚園の先生に見えるほどらしい……そのため現在何気に緊張してる。

 

「でも飛行機乗れてよかったですね」

「だよなぁ……金無いんじゃないかと焦ったよ」

 

夏休み突入前一毅とキンジはシャーロック・ホームズと激戦を繰り広げた。その際に死にかけるような怪我を負い、更には平賀 文お手製の試作品装備、防弾、防刃、耐衝撃に防炎、絶縁を兼ね揃え暑いときは涼しく、寒いときは温かい多機能ロングコート……その名も【龍桜(りゅうおう)】……テスターとしてではあるがタダで(普段は普通にぼったくって来る平賀を考えればあり得ない事態だ)いただいたがその日にボロボロにしてしまい平賀を泣かせてしまった。

まあ職人魂に火が着いたらしく龍桜(りゅうおう)を無料で作り直して更に改良を加えくれると言ってくれたのだ。ぼったくり受けると思っていた一毅とキンジ胸を撫で落としたもは言うまでもない。

 

 

 

 

「まあ今は多少なりとも金銭的な余裕はあったんだけどな」

 

イ・ウーを結果的にぶっ潰したため口外無用の書類と共に結構まとまった額を貰ったのだ。まあ怪我の度合いとか戦った相手を考えればもう少し貰ってもバチは当たらないとは思ったが病室から一刻も早く同席していた武装検事の御方を退散させたかったため一毅は黙って受け取った。何せその武装検事と来たらおっかない事この上ない人間で一見は少しがっしりした一般人に見えてその実歩いたときの足音などで分かったが重かったのだ。つまりあの服の下は筋肉しかないのだろう。体格に似合わないほどの筋肉量……だがその動き事態は寧ろ身軽で隙がなかった。流石日本の最強組織の一角を担う武装検事……自分の父もあの一人だったのかと思うと少々複雑だ。

 

(俺もまだまだだねぇ……)

 

一介の……と言えるほど低い実力ではないと一毅自身自分の強さを分析している。だがあの武装検事と戦えと言われたら単独撃破は難しい……心眼使えれば話は別だがシャーロック戦以降また使えなくなった。

何度かレキやライカに背後から襲ってもらってやってみたものの心眼のしの字も出来なかった。だがあれはもっと自在に使いこなさなくてはならない。手加減抜きの全開で使用した結果全身の筋肉が切れたりボロボロになったりした……キンジも一時的に焦点が合わなくなったり頭痛に悩まされたりしてたし多分……ではあるものの心眼も万象の目も使いこなせなければ自分の体を壊す。

一毅の心眼は肉体的にボロボロになって何れは動くことも出来なくなる……キンジの万象の目は脳に負担を掛けるらしいから廃人になる可能性が……

世の中ままならないものである。せっかく凄い力を覚えても使いこなせなかったり一歩間違うと人生棄てる羽目になったり……

 

「はぁ……」

『?』

 

一毅が珍しく悩んだ表情を浮かべたためレキとライカは首をかしげた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とうちゃーく!」

「相変わらず暑いですねぇ」

「ならもう少し暑そうな顔したらどうだ?」

 

一毅たち一行は沖縄に到着する。

しかし今日の気温……何と34℃……確かに暑い。

 

「……」

「ライカさん顔色が悪いみたいですがどうかしました?」

「いや、今から緊張してて……」

 

ライカは顔色が悪い。

 

「大丈夫だって。人相は悪いけどうちの親父は人柄は良いし母さんだって結構美人で優しいし孤児院の皆だってライカを気に入るさ」

「う~」

 

それでもやっぱり緊張はする。しかも一毅の父は気を利かせて空港まで迎えに来ると言う……つまりここを出たらすぐに会うと言うことだ……

 

「うーん……どこだ?」

 

そんなことをしつつ外に出ると一毅はキョロキョロ周りを見る。

確かここらで待ち合わせしていたのだ……居ない。

一毅の父は一毅と同じくガタイも良いし身長に至っては二メートルちょっともあると言う日本人離れした体格の持ち主だ。何せ二メートル近くあったキンジの父親と話すときは首を下に向けていたと言っていた位で肩幅関係上圧迫間が半端じゃない。

そんな人間が歩いてくればそりゃ目立つ筈だが……

 

「おーい」

「ん?」

 

突然声をかけられ三人は降り返る……

そこには一毅たちが見上げんばかりの高身長の男……そして顔立ちは鋭い眼光に歴戦の戦士のようなオーラ……幾つもの修羅場を乗り越えたものが持つ物……どう見ても堅気じゃない。更にその佇まい……一見すれば普通に立ってるだけだが一切無駄の無い立ち方で脱力してリラックスしているもののあらゆる方向からの攻撃に対して対処できる立ち振舞い……見たところ無手であるが簡単に一毅たち三人を圧倒できるのが手に取るように簡単にわかる。

 

「よう。おかえ……」

「か、カツアゲだったらまだ未遂のうちに辞めな」

 

ライカは言い切った。だが、

 

『ぷふ!』

「え?」

 

ライカは一毅とレキが背を向けて笑っていることに眉を寄せる。

 

『ぷぷ……』

「あのぅ……」

 

ライカは訝しんだ目で一毅とレキを見る。

 

「ん?ああ悪い悪い。なあ、先ず名乗った方がいいぞ?親父」

「………へ?」

 

ライカは唖然としながら一毅が親父と呼んだ男を見る。

 

「あ~。初めましてだな。話は聞いてるよ火野 ライカちゃん。俺は桐生 一明。こいつの父親だ」

「…………でぇええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

ライカの驚愕の声は辺り一体に響き渡った……言われてみればその顔立ちは、一毅に良く似ていた……



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龍達の夏休み その二

「…………」

 

ライカは穴があったら入りたい気分だった……無いならすぐそこに見える海に飛び込んでどこまでも遠くまで泳いで逃げたかった……まあそれをやろうとしたら一毅に捕まったが……何せ彼氏の父親に初対面でカツアゲ犯(内心では最初強盗かその筋の人かと思った)扱いしてしまったのだ。

 

「気にすんなよライカ。この人いつもそういう風に言われてるから慣れてるよ」

「そうですよ。私なんか初めてあったときは鬼と間違えましたから」

「まあ鬼みたいに強いけどな」

 

一毅とレキがフォローする。

 

「別に気にするなよライカちゃん。俺は気にしてないから」

「は、はい……」

 

それでもやっぱりライカは罪悪感があった。

 

「て言うか親父は堅気じゃないしな」

「今は堅気だ!」

「あが!」

 

一毅が言うと一明は拳を飛ばした。

 

「いってぇな!ちゃんと運転してろよ!」

「ハンドルは離してないから安心しろ」

「そう言う問題じゃねえ!」

「仲良いですね」

「ええ」

 

ギャイギャイと仲良く喧嘩する二人を見てレキとライカは笑った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし着いたぞ」

 

孤児院【アサガオ】は目の前が浜辺ですぐそこに海が見える。そのため比較的涼しいし遊び場にも困らない。更に裏は道場にいる。だから立地条件最高で数十年前のある日に巨大な陰謀渦巻く土地買収事件に今は亡き一明の父……と言うべきか一毅にとっては祖父に当たる男である桐生 一心(いっしん)が巻き込まれ(何か政治的なものも絡んでいたことはわかっているのだが深い部分を一明は語らない)一度地元の極道に土地を売って欲しいと乗り込まれたが一心がチンピラをボコボコにした後に本拠地に乗り込んで話し合い(と一明は言ってるが苦笑いしてたし絶対にそんなわけはない)が行われてそこの組長を屈服させ更にはその当時チンピラ(現在は組長をしている)が一心に惚れ込んで兄弟の盃交わすまでに至ったとか言う逸話を残しており時々ここにはそこの極道の人も顔を出すと言うとんでも空間である。

 

(なにやってんだうちのじいさんは……)

 

一毅と一明は荷物を持ちながらアサガオに入る。

 

「今帰ったぞ」

 

一明が入ると……

 

「一毅兄ちゃんが帰ってきたぞ!」

「すっげぇ!ホントにもう一人いる!」

 

ワラワラと子供達が出てきた。

 

「まずいれろー!」

 

一毅が叫ぶと皆で入っていった。

 

 

 

 

「まず年長組からな」

 

そう言って髪を下ろした一番年上の女の子。

 

「澤村 遥です。今年で15になります」

 

次に細身の少女がたつ。

 

「綾子です。中学では陸上部をしています。今年で14になります」

 

次にガタイのいい男子。

 

「太一だ。将来はプロレスラーになること!今年で12だ!」

 

次に整った顔立ちの男子、

 

「宏次です。運動全般が得意です。今年で12になります」

 

次はハーフと思われる男子、

 

「三雄です。警察戦隊ピーポニャンが好きで、今年で11になります」

 

続いて少し暗い女の子、

 

「エリです……11です」

 

次にこの暑い時期に長袖の少女、

 

「理緒奈です。11になります」

 

次に眼鏡をかけたヒョロっとした男子、

 

「志朗です。医師になるのが夢です。今年で10になります」

 

最後にちょっとわがままそうな女の子、

 

「泉です。犬が好きです。今年で10歳です」

 

そしてライカも自己紹介する。

 

「一毅先輩とは同じ学校の後輩の火野 ライカです」

 

緊張した声音でライカは言う。すると、

 

「じゃあお部屋に案内しますね」

「じゃあ俺たちは荷物持ちする!」

「レキさんも行きましょう」

 

子供たちに連れていかれた。基本的にあの子達は聡い……何故ならあの子達は裏切られたり親に先立たれたりと年に合わない事件に対面してきた。そのためか相手の人間の感情に対してひどく敏感でありその分信用できるとわかった相手にはとことん信用を捧げられる。良いことか悪いことかは分からないがどちらにせよライカはあの子達の信用を勝ち取れたと言うことだ。それが分かっていた一毅は心配してなかった。

 

「ふむ……」

 

すると一明は荷物を置きつつ、

 

「強襲系か……銃は長銃で連射タイプ……後近距離用にトンファーでCQCが得意だな。格闘もいけるな」

「え?」

「ライカちゃんだよ。目も良いみたいだし耳も良さそうだ。背も大きいから大概の男子じゃ相手にもならんだろう。近いうちA……きちんと誰かを師事すればSは楽勝だな。しかしアサルトライフルは俺は苦手でな」

「へえ銃弾は全部弾けば問題ないとか豪語したあんたがね」

「流石にアサルトライフルは弾ききれねえから避けるよ」

「……」

 

問題そこだろうか……?

「さ、流石元武装検事様だねぇ」

「これくらいの戦力分析は出来た方がいいぞ。ただあの子は……ん?」

 

そこに誰かが帰ってきた。まあ今帰ってきてなかったのは一人だ。それを聞き付けて皆も降りてきた。

 

「ん?ああ、貴女が火野 ライカさん?」

「あ、はい……」

 

ライカは息を飲んだ。

穏やかな瞳……ほっそりと背は高くでも出るところは出ている。どれくらい高いかと言うと170前後のライカと視線が同じところにある。だが全体的な雰囲気はゆったりとしている。何と言うかオーラ自体は日常生活のレキに似ているが見た目はライカにも少し似ているような気がした。

 

「初めまして、一毅の母親の桐生 由美です」

「び、美人……」

 

ライカが呟いてしまうと由美は笑う。

 

「ありがとう。さ、ご飯作……」

「よし、俺が作るから任せろ」

 

一明がストップをかけた。

 

「良いじゃない。たまには作らせてよ」

「お前はライカちゃんに来て早々トラウマ植え付けるのか?」

 

そう、一毅の母親の由美は料理がポイズンクッキング(ゲキマズ)なのでアサガオの料理係は一明なのだ。どれくらいかと言うと記すのも憚れるものばかりだが例えば中心部まで炭の卵焼き……緑色の味噌汁……紫色のご飯にどうとも形容できない色の炒め物等々とにかくとんでもない物体しか制作しないので台所は立ち入り禁止だ。

 

「今夜は沖縄料理を腹一杯食べさせてやるからな」

 

一明はエプロンを着けつつ言う。

 

「そうだ、一毅。丁度良いから少し近所案内してやれよ。一時間くらいで帰ってくれば良いから」

「あ、うん。行こうぜレキ、ライカ」

 

一毅は二人を連れて外に出た……

 

 

 

 

 

 

 

「あれが琉球街だ」

「へぇ~賑やかですね」

 

一毅たちは商店街に来ていた。

 

「あれぇ?一毅じゃねえか」

「あ、八百屋のおっさん」

 

一毅は声をかけてきた男の方を見る。

 

「なんだいさっき由美さんがえれぇ量の食材買っていったがお前が来て……おお!両手に花かよ!しかも去年見てねえ子がいるし!」

「はは。でしょ?」

「かぁー!羨ましいなおい!うちの母ちゃんと交かあが!」

 

八百屋の親父は背後から飛んできたボウルで頭を強打して倒れた。

 

「何だってあんた!……あら、一毅君も来てたの?」

「あ、おばさん久し振り」

「あらあら去年の子と初めて見る子ね。どっちも可愛い子連れて~青春してるじゃない」

「おばさんもおじさんと仲良いままだね」

「なーに言ってんの!この解消無しは困ったもんだよ!」

「んだとこのアマァ!」

「あ?」

「イ、イエナンデモナイデス……」

 

おじさんは仕事に戻った。

 

「今度は買いに来ます」

「待ってるよ!」

 

三人は歩き出す。すると今度は、

 

「お?坊主じゃねえか」

「名嘉原さん!」

 

突然声をかけて来たこの男は名嘉原(なかはら) (しげる)……前述したアサガオに土地売買で乗り込んできたヤクザの当時新入りのチンピラで現在は組長となった人で義理人情に厚く昔気質のヤクザだ。なのでヤクザではあるものの沖縄の皆から人気があり一心とは義兄弟であり今はアサガオの土地の法的な部分の管理をしてくれる。

 

「なんだ?お前別の女も引っ掛けたのか?」

「まあ……」

「ふ、良いじゃねえか!ちゃんと大事にしろよ?そう言うのはきっとお前の力になる」

 

そう言って名嘉原はライカを見る。

 

「そっちの嬢ちゃんにもいったがよ。こいつを頼むぜ?一心(兄貴)の孫なら俺にとっても孫同然だ。俺の孫をよろしく頼むぜ」

「い、いえ……」

 

名嘉原の器に圧されつつもライカはしっかり頷いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも一毅先輩ってこっちにもヤクザの組長さんと知り合いなんですね」

「祖父ちゃんの義弟なんだよ。いまだにうちには色々力を貸してくれてさ」

「一毅さんのお祖父さんですか……色々武勇伝がありそうですね」

「んー……昔戦争に出てたことがあるのは知ってるけどあんまり知らないんだよ。俺の物心がつく前に死んじゃったし……ただ親父が言うには今でも祖父ちゃんには戦っても勝てる気がしないってさ」

 

一明の強さであれば一毅も身を持って知ってる。その一明に未だに勝てないと言い占める祖父……一つだけ知ってるのはキンジの祖父と色々ヤンチャしてたらしい事くらいである。後チラッと聞いたが土地買収事件で祖父は東京の総理官邸までキンジの祖父を連れて行って待ち伏せていた今で言う公安0課(昔はもっと仰々しい名前だったらしい)や武装検事達と大立ち回りを繰り広げた挙げ句全員積み木みたく積み上げて堂々と総理まで謁見して土下座させて事件を強制的に収束させたらしい。

因みにそれに関しては一明は口が重いためキンジの実家に居候させて貰ってた際にキンジと一緒にキンジの祖父に聞いたところ……

 

「あ~……そんなヤンチャもしたような気がする」

 

と言う返事が帰ってきた。国相手に喧嘩してもヤンチャ程度なのが怖かった。因みに後に二人は捕まらなかった。そりゃそうである。たった二人に警備全滅させられて総理に土下座までさせられたのだ。そんなもの闇に葬るしかなく一心は平穏な日々を過ごせたらしい。

 

(無茶と言うかバカと言うか……)

 

何時かそんな事態になったら……自分達では死ぬ。

因みにそれを話したらレキとライカにドン引きされた。

そりゃもう人間を見る目ではなくなった。

 

「流石一毅さんのお祖父さん……人間ではないですね」

「あと流石キンジ先輩のお祖父さん……こっちも人間じゃない」

「えー……」

 

一毅はガックシと肩を落とす。

 

「俺は人間だって……」

 

一毅の呟きは二人には聞こえなかった……




気が付けば総合評価が100を越えていた……スッゴク感動し得ます。これからもよろしくお願い致します。


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龍達の夏休み その三

(ん?)

 

ライカは布団から体を起こす。

 

「ふわ……」

 

大きな欠伸をひとつして私服に着替える。

夕べは歓迎会と称し結構遅くまで騒いでいた。そのため少し寝坊してしまった。

因みに今の服装はTシャツとジーンズと簡素で男っぽいが機動性重視だ。

 

「あれ?」

 

降りると誰もいない。まだ子供たちは起きてきてないのだろう。だが一毅たちは……と思ったとき、

 

「オラァ!」

「っ!」

 

裏の道場の方から一毅の声が聞こえた。

 

「失礼します」

 

道場にはいると、

 

「ラァ!」

「惜しいな」

 

一毅と一明が木刀二刀流で打ち合っていた。とは言え一毅は完全に遊ばれてる。

 

「あ、ライカさんおはようございます」

 

レキはライカの方を向く。

 

「どれくらいやってるんですか?」

「彼此一時間くらいですかね」

 

レキが言っていると一毅は右手の木刀で切り上げる。

 

「よっと」

 

一明は木刀の切っ先で止めると反対の手の木刀で軽く一毅の額を突いた。

 

「ホレホレ~彼女がもう一人来たぞ~カッコいいところ見せたれ」

「この!」

 

一毅は反対の手の木刀で一明を払う。だがそれを少し首を逸らしてミリ単位で躱すと頭突きをぶちこんだ。

 

「がっ!」

 

一毅が後ろに倒れた。

 

「中々腕をあげたな~。学生相手なら負け無しだろ?」

「よく言うよ……」

 

一毅は立ち上がると構え直す。

 

「丁度いいや。ライカちゃんも一緒にどうだ?」

「え!?」

 

ライカは驚く。

 

「レキちゃんには断られたしな」

「勘弁してください。私はそう言う混戦での戦いは苦手です」

「で?どう?」

「……分かりました」

 

ライカはいつも持ち歩いているグローブを着ける。

 

「一応生で見てみたかったからね。お前の強さをさ」

 

一明も少し目を細める。

 

「一毅に二天一流おしえて貰ったんだろ?」

「は、はい」

「見せてみな……一毅が信用したお前の力をな」

『っ!』

 

ホンの一瞬だけ見せた桐生 一明の覇気……自分達の潜った修羅場など幼稚園児の喧嘩程度だったのかと錯覚するほどの恐怖を叩きつけられた気がした。

 

「………」

 

ライカは腰を落として体を僅かに捻る。

 

「放つタイミングは任せるぞ!」

 

先に一毅が疾走……両手の木刀を握ると右手の長い方の木刀で突く。

 

「っ!」

 

一明は左手の木刀を前に出して一毅の物とぶつけると剃らしそのまま右手の木刀で脇をすり抜けながら一閃……

 

「ぐっ!」

「っ!」

 

そこにライカが跳躍……

 

「うぉおおおおおお!!!!!」

 

ライカの煉獄掌が一明を狙う……だが、

 

「やっぱりな」

 

一明は納得した顔で動きを止める。

そしてライカの煉獄掌が決まった瞬間威力に逆らわずに回転……

 

「しゅ!」

 

その勢いを利用してライカを投げながらそっと地面に転がした。ちゃんと頭を打たないように気遣いまでされた……

 

「この!」

 

一毅が背後から跳ぶ。

 

「二天一流・必殺剣!二刀側転斬!!!!!」

「っ!」

 

だが一明はダン!と足を踏み鳴らし体を捻って躱すとそのまま一毅の頭を木刀で打った。

 

「あが!」

「……ん?ああ、わりぃ。咄嗟だったから気付かずに手加減忘れた」

「気付かなかったって……」

 

一毅は頭を押さえながら座り込む。

 

「心眼……か?」

「お?誰に聞いたんだ?」

「前に戦った男からだ」

「ふぅん」

 

一明は目を細める。

 

「お前も使えるのか?」

「まあ……自分の意思では使えないけど」

「その方がいいさ」

 

一明は木刀を壁に置く。

 

「まだ成長しきってない体じゃ将来体をぶっ壊す可能性がある。お前が成人したら教えるはずだったんだけどな」

「でも強いですね……」

 

ライカはレキに立たせられた。

 

「そりゃお前らより乗り越えた修羅場は多いからな」

「あ~麻薬組織を二人で潰したとか?」

「確か500人でしたっけ?」

「凄いですよね~」

「それ嘘だぞ?」

『え?』

 

一明の言葉に三人は唖然とした……が、

 

「実際は援軍とか来てその倍以上はいたかな……いや~途中から数えんのめんどくなってさ」

『え……?』

「流石に同僚たちがドン引きしたね」

 

そりゃしただろうね……その言葉は一毅達三人の心に秘められ同時に噂は当てにならないと言うが今回は当てになって欲しかった三人であった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を食べた後ライカとレキは二人でアサガオ内の探検をしていた。こうやって歩いてみるとなんとも広い家だ。

 

「大きいですね。レキ先輩」

「ええ」

 

耳を澄ませば海の音とセミの鳴き声……平和だ。

 

「でもさっき実は一発くらい入れられると思ったんですよね~」

「まだまだ戦力分析が未熟ですね」

「いやだって反則的な強さですよ?」

「一流と呼ばれるクラスになればあそこまでとはいなくても今のライカさんより強いのはたくさんいますよ」

「そうなんですけど……」

 

やっぱり悔しいものは悔しいのだ。

それに一明がライカの煉獄掌を見たときに呟いた言葉ははっきりと聞こえた……

 

(なにがやっぱりなんだ?)

 

するとレキが止まる。

 

「どうしたんですか?」

「いえ、少しこの本が気になりましてね」

 

レキが指差すとリビングのテーブルの上にポンっと本が置かれていた。

 

「えーと……桐生家の家系図?」

 

レキとライカが顔を見合わせる。

 

「ちょっと見てみません?」

「まあ見ても怒られるものではないでしょうし」

 

そう言って開けてみる。一番下には一毅の名前……更に上にいくと一明、一心、一條(いちじょう)一茂(かずしげ)と続いていく。更にこれは珍しいことに母方の方にも親までならば載っていた。

 

「こうやって見ると長いんですね~」

「確か江戸時代の初期からですからね」

 

そうやって見ていくと……

 

「あれ?」

 

ライカは一人に目が止まる。

 

「桐生……一武(かずむ)……」

「知ってるんですか?」

「あ、いえ……この人の奥さんの両親なんですが……」

「え?」

 

そこには……【斉藤 一】【斉藤(旧姓・楢崎) 龍】

 

「あれ?」

確か楢崎(ならさき) (りょう)は……

 

「坂本 龍馬の奥さん?」

『……』

 

二人が沈黙した……

 

「あれ?どうしたんだ?」

『っ!』

 

そこに一毅が顔を出した。

 

「ああ!それそこにあったのか!探してたんだよ~」

「あ、すいません」

「いや、二人に見せようと思ってたからいいんだけどな。レキが去年来たときは見せられなかったし」

 

そう言って一毅も隣に座る。

 

「なげぇだろ?まあそれでも世界的に見たらまだ日が浅い一族だけどな」

「そうなんですか~じゃなくって!」

「ど、どうした!」

 

ライカが急に大声を出したため一毅は驚く。

 

「これなんですか!?」

 

そう言ってライカは指差す……そこには先程の斉藤 一と龍の名前だ。

 

「あ~それな。まああれだよ。真実は記述より奇なりって言う言葉があってだな」

「一毅さん……真実は小説より奇なりです」

「……………ま、まああれなんだよ。その斉藤一は本当は坂本 龍馬なんだ」

『……は?』

「実はさ~」

 

一毅が言うには斉藤 一改め坂本 龍馬は恩人であり親と言っても過言ではない男を殺され下手人を探すため京都に潜伏……そして斉藤 一と名乗りながら犯人を探し犯人と同じ剣術を使う集団、新撰組に入隊しその後様々な事件に巻き込まれながら犯人を突き止めるもその先にある巨大な陰謀が発覚……そして最後は全身に銃弾を受けつつも黒幕を切り捨てると同時に坂本 龍馬と言う名を完全に棄てて斉藤 一として生涯を閉じたらしいとのこと……

 

「じゃ、じゃあ坂本 龍馬が切られたって言うのは?」

「あれは斉藤 一として行動してる最中に現れた偽物だよ。因みに切ったの斉藤 一だからな?」

「じゃあ今の日本史って……」

「まあ少なくとも幕末辺りの下りは全部間違ってるぞ」

『…………』

 

ライカとレキは呆然とした。

 

「だから今の二天一流って斉藤 一の剣技とか無手も組み込まれてるから正確に言うと桐生 一馬之介が作った剣術じゃなくなってるんだよな~」

 

因みに斉藤 一は右手に刀と左手に銃を持つ乱舞の型と言われる戦い方や拳銃を使った戦いを得意とした男なのだが残念ながら桐生にはそっちは引き継がれず一刀と無手のみに限定された技を引き継いでいる。

 

「もしかしたら辿っていくと一毅先輩の一族って日本史を根っこからぶっ壊しそうな秘密が出てきそうですね」

「まあ私の先祖もチンギス・ハンと言うか源義経ですし今更一毅さんの先祖に驚きの繋がりがあっても驚きません」

「ええ!」

 

ライカが驚愕した。

 

「あれ?言ってませんでしたっけ?」

「もしかして私だけ普通の一族……?」

「でも確かライカのお父さんだって有名じゃん」

「良い年こいて覆面被って戦ってますけどね」

 

ライカがそっぽ向いた。

 

「一応親が別れたとは言え父親なのには変わりませんから恥ずかしいです」

「まあまあ」

 

ライカの父親はアメリカで有名な覆面武偵で誰もその素顔を知らない。特殊な能力を持たないがその反面平賀もビックリな武器(ガジェット)で戦うアメリカを代表する武偵の一人だ。現在はライカの母親とは離婚して別の人と結婚している。まあそれでも連絡はとってるらしい。

 

「でもだとするとライカってハーフ?」

「まあそうなります」

「じゃあ英語とか喋れますか?」

「まあぎりぎり日常生活位だったら大丈夫ですよ」

「…………」

 

一毅は黙る。一毅は英語なんぞしゃべれるはずもない。

 

「レキ先輩って何ヶ国語くらいしゃべれるんですか?」

「フランス、イタリア、ドイツ、英語に中国と韓国語にアラビア語までです」

「世界中で生きていけますね」

「一毅さんも少し勉強したらいかがですか?」

「良いんだよ……俺は日本からでないから……日本語だけ話せてれば良いんだよ!中国にもフランスにもドイツにもアメリカにもイギリスにも行く気はないし」

「武偵は世界中に雄飛せよですよ?一毅先輩」

「う……」

 

一毅はそっぽ向いた。

 

「おーいお前ら~」

 

そこに一明が顔を出した。

 

「これから海に行くんだけど行……」

「行く行く今すぐ行く!!!!!」

 

一毅は立ち上がるとレキとライカを立たせる。

 

「さ!行くぞお前ら!」

「逃げましたね」

「ホントですね」

「ぐふぅ……」

 

一毅は二人を引きずりながら血涙を流した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに海での一件は残念ながら記すことはない。普通ならば女子の水着姿にドキドキするだろうしそれが楽しみだった読者の皆様には大変残念だろうが沖縄は日差しが異常に強く水着で遊ぼうものなら背中とかがあっという間に火傷したみたいになり水脹れが出来てしまい大変なことになるのでTシャツ等を着た状態で遊ぶからである。




次回で東京に帰ります。

後、一毅の一族に出てきた斉藤一のお話を詳しく知りたいお方は【龍が如く 維新】をプレイすればわかると思います。


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龍達の夏休み 終

『大変お世話になりました』

 

一毅達が沖縄に来てから早くも二週間近く……学校も始まるのでそろそろ帰るため三人は空港に来ていた。

皆へのお土産物も買っておりアリアには沖縄限定桃饅、キンジにはチンスコウ、白雪には精力増強ハブの干物を頼まれていたので買う……のはキンジの貞操のために辞めて普通に服で理子には適当にハンカチだ。一年生達にはライカが色々買ってた。

 

「またいらっしゃい」

「待ってるぞ」

一明や由美を含めたアサガオの皆も見送りに来ていた。

 

「レキ姉ちゃんまた来てな!」

「はい」

「ライカお姉ちゃん待ってるね?」

「あ、うん」

「あれ?俺は!?」

『別に一毅兄ちゃんは良いや』

「がはぁ!」

 

ここは一毅の故郷のはずなのだが……

それを見て一明は爆笑している。

 

「お前らな~」

「私は一毅兄さんにも帰ってきてほしいよ?」

「お前ら遥を見習え!」

 

そんな漫才みたいなことをしていると時間が着た。

 

「あ、じゃあそろそろ行くよ」

「また来ます」

「ではまた」

 

一毅達は行った……

 

「……」

「?あなた?」

「あいつらは……大丈夫なのだろうか……」

「え?」

 

由美は一明を見る。子供達は窓の方にいって飛行機を見ている。

 

「あいつらがなにか大きな戦いに巻き込まれてるのは知らされていた。あいつは気づかれてないと思っているがな」

「そうね」

「だからこそ心配でな。あいつらは皆揃ってまだまだ未熟だ」

「……大丈夫よ」

 

由美は言う。

 

「一毅はあなたの息子で……レキちゃんもライカちゃんも一毅が選んだ大切な女の子……あなただって知ってるでしょ?一毅は何かを守るときに強さを発揮する」

「由美……」

「私たちはね……信じるしか出来ないのよ。信じて信じて信じぬいて……それが私たち親の仕事なんじゃないかしら?」

「そう……かもな」

 

一明は由美の肩を抱く。

 

「きっと……大丈夫だよな?」

「ええ、大丈夫ですよ」

 

由美も一明の肩に頭を乗せた……

そうして二人は一毅達が行った方をいつまでも見ていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ただいま~!』

「帰りました」

 

一毅達は寮の部屋にはいる。

あれからまた飛行機に揺られ一毅達は土産を手に帰ってきた。

 

『お~か~え~り~……』

 

キンジ、アリア、白雪、理子、あかり、辰正、志乃は死んでいた……返事がない。ただの屍だ。

 

『死んでない!つうか返事してるだろ!』

「なにしてんだお前ら……大丈夫かよ」

「ちょっと……色々あって」

 

一毅達はお土産を配りながら聞くと最近一年に編入した元イ・ウーの女の子がいるらしいのだが(夾何とかと言うらしい) その女の子が今日ある同人誌即売会に出す筈が予定が狂って書き終わらず仕方なく理子に手伝いを依頼し余りの忙しさにキレた理子がキンジや一年生達も巻き込み、さあ大変。何と夏休みの始めから昨日まで連日連夜ベタ塗りに消ゴム掛けとやらされまくったらしい。しかも絵が上手かった理子と白雪と志乃は更に悲劇で漫画自体の絵まで描かせられる羽目になってしまったらしく泣くことになったらしい。

 

「絵が上手い一毅とレキがいれば半分の時間で終わってたぞ」

 

キンジは逆恨みに近い目で見てきた。

 

「て言うか何でよりによって僕たちにGL描かせるんだよ夾ちゃん……」

 

辰正は精根尽き果てたように突っ伏したまま言う。

 

「ま、漫画ってあんな疲れるのね」

「違うよアリア……後々まで物事をためると祿な目に遭わないって言う良い教訓だよ……」

「さ、流石お姉さまです……」

 

アリアと白雪はいつもなら喧嘩し合っているが今回はそんな体力もないらしい……志乃は白雪を褒め称えてるが力ないし……

 

「あ、ライカ……水ちょうだい」

 

あかりは取りに行く力もないらしい……

 

「取り合えず……ご愁傷さま」

『うん……』

 

すると、

 

「わふ…」

 

ハイマキが顔を出した。キンジ達に預けていたのを忘れていた。

一応飯は貰っていたらしい。

 

「じゃ、じゃあ俺たちも帰るから」

『お~……』

 

キンジ達ゾンビの見送りを受けながら一毅達も帰った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~疲れた」

 

一毅達はそれぞれ荷物を片付ける。

 

「ハイマキ~ご飯だぞ~」

 

ライカが魚肉ソーセージを置く。

 

「わん!」

 

ハイマキが魚肉ソーセージをガフガフ食べるのを見ながら一毅も夕食の調理にかかる。

 

「それにしてもキンジさん達も可哀想でしたね」

「何だっけ?夾……夾竹梨?」

「惜しいです一毅先輩!夾竹桃(きょうちくとう)ですよ……」

「確かライカさん達が倒した子でしたよね?」

「ええ、毒使いの女の子です。すげえ強くて私負けちゃったんですけど」

「相性の問題もあるだろうしな~純粋な殴り合いなら負けないだろ?」

「まあ……基本策士ですから夾竹桃は……」

 

強さ相関図で言うなら強襲科(アサルト)諜報科(レザド)に弱いみたいなものだ。正面からならライカは強いが毒などの搦め手で来られるとどうしても弱い。まあその辺は仕方ない部分でそのためのチームなのだが……

 

「そう言えばライカ達って皆揃って近距離専門ばっかじゃね?」

『………………』

 

一毅の言う通りあかり射撃は下手くそだし辰正もそこまで上手くはない。ライカは結構上手いが狙撃はしたことないし(目は良いがあくまで格闘方面の目である)志乃に至っては剣士……バランスが悪い……

 

「ま、まあそのうち良い狙撃主見つけな」

「レキ先輩雇っちゃダメですか?」

「Sランクは高いですよ?」

「金取るんですか!?」

「当たり前でしょう」

 

そんな二人のやり取りを見て一毅は笑う。

 

「どちらにせよ修学旅行(キャラバン)(ワン)迄にどうにかすれば良いさ」

 

修学旅行(キャラバン)(ワン)とは夏休み明けに二年で行われるイベントで武偵高校で尤も重要なイベントと言っても過言ではない。何故なら……

 

「あ、先輩達は夏休み明け行くんですよね?京都に」

「ああ」

「チームはどうするんですか?」

 

そう、この修学旅行で武偵はチームを組むのだ。言っておくが1件2件解決するためとかではなくこの先の人生ずっと組む仲間を決めるのだ。このチームは何事に置いても優先して良いと決められているが同時に変更も効かない。なので結構シビアに決めなければならない。

なのでこの修学旅行で本当に大丈夫か最終決定するのだ。

 

「一応夏休み前に決めておいたんだが……」

 

確かここに……と一毅は紙を出す。

 

「あったあった」

 

そこには、

 

【リーダー・遠山 キンジ】

(サブ)リーダー 神崎 H アリア】

【対超能力 星伽 白雪】

【後方支援 峰 理子】

【狙撃支援 レキ】

前線(フロント) 桐生 一毅】

 

「へぇ~リーダーはキンジ先輩何ですね」

「意外とリーダーシップあるからな」

「でも改めてみてもSランクが三人で他にも理子さんや白雪さんはランク付けで図れない強さですしキンジさんは人間辞めてますし存外とんでもないチームですね」

 

確かにレキの言う通りだがバランスも良い。中々良いチームだ。

 

「ま、一番喧嘩別れで心配だったアリアとキンジも別れず仲良くやってたみたいだしひとまず安心だ」

 

一毅としてはキンジとアリアが喧嘩したあげく意地張り合って申請ギリギリでセーフという流れは勘弁したかったため肩の荷が下りた気分だ。

 

「取り合えずお土産は生八つ橋でお願いします」

「了解」

 

そう言って一毅はエプロンを着けつつ料理を始める。今日は素麺とお握りだ。

 

「さて、始めるか」

 

後に一毅は知る……これはシャーロックが言う序曲の前奏……静かで平穏な日々でこれから始まる戦いの……嵐の前の静けさだったのだと……




ついに終わりました……次回からは修学旅行編……なのですが多分原作とは結構違うことになると言うか原作にはない戦いも多く出ると思います。あくまで全体の大きな流れは変わりませんけどね。
と言うわけで次回からもよろしくお願いいたします。


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第七章 キャラバンⅠ
龍と万人


「そうか……言ってたのか」

「ああ」

 

一毅とキンジは並んで荷物を手に歩きながら話していた。

会話の内容はキンジのアリアへのヒステリアモードの告白である。

 

「それで?」

「別に結構普通に受け入れられたよ」

「良かったじゃないか」

「でもぶん殴られるの覚悟だぜ?少し肩透かし喰らったよ」

「だろうな。でもアリアなりの覚悟じゃないのか?お前を受け入れるってのはさ」

「そうかな」

「そうだろ。で?後は買うものはないのか?」

「あとは大丈夫だな」

 

キンジは袋を覗く。そう、修学旅行まで後二日……新学期も始まって早々忙しいことこの上ないが文句言っても仕方ないので準備だ。因みにアリア、理子、レキの三人も女性同士で買い物に行った。

 

「歯ブラシ買ったし替えの下着も買ったし序でに移動中に食べても良い御菓子とかも買ったし切れてた牛乳もあるし大丈夫だろ」

「だな……そう言えば白雪はどうしたんだ?武藤がゴリラみたいに闊歩しながら探してたぞ」

「あいつなら星伽に帰ったぞ」

「星伽に~?」

 

一毅は嫌そうな顔をした。あまり言いたくないが白雪も星伽自体もなに隠してることはシャーロックが口走っていたことからもキンジと一毅は感じ取っている。聞きたいこともあるが白雪はその事には触れないでオーラを出しまくっているため聞くに聞けない。

そんなときに星伽への帰郷である。何かありそうだ。

 

「ま、今は情報が少なすぎる。そっとしておこうぜ?どちらにせよ刀が戻ってきたって話かもしれないし」

 

キンジが言っているとそこにフワリフワリとシャボン玉が飛んできたかと思うとキンジに当たってパチン!っと弾けた。

 

『ん?』

「お前ら今一人死んでもう一人は戦闘不能ネ」

 

そう言ってシュタッと近くの木から綺麗に着地した黒髪の長いツインテール……チャイナ服を着ているものの背も低く童顔で何と言うか……色違いのアリアである。後序でに酒臭い。

 

「なんだ?この幼女……お前また拾ったのか?キンジ」

「人を幼女と見れば片っ端から拾うみたいな事言うんじゃねえよ!」

「ああ、すまん。幼女はアリアだけだったな。ロリコン」

「すっげえ爽やかな笑顔で人を貶めるな!」

 

まあ大体あってるだろう。するとアリア擬きが怒った。

 

「誰が幼女カ!ココはもう14ヨ!!!!!」

「アメ食うか?」

「いただくヨ」

 

一毅が出したデカイペロペロキャンディーをココと名乗ったアリア擬きは舐め始める……だが、

 

「はっ!」

「ぷぷ!」

「騙し討ちよくないヨ!!!!!」

 

ついさっきシャボン玉で奇襲かけただろう……

 

「わかったわかった。牛乳飲むか?」

 

キンジが牛乳を出すとココは奪う。

 

「これで将来バインバインネ……はっ!」

 

キンジと一毅は腹を抱えて笑った。

 

「騙すには最低よ!」

『悪い悪い』

 

謝るもののキンジと一毅は完全に笑ったままである。

 

「ウガー!!!!!」

 

ココは地面をダンダン踏む。

 

「お前ら0点ネ!!!!!ココをバカにしすぎヨ!!!!!絶対後悔させたるネ!!!!!」

 

そう言ってどこかへ走り去った。

 

「何だったんだあいつ……」

「さぁな……ああ!」

「どうしたキンジ!」

 

急にキンジが叫んだため一毅は見る。

 

「いや、あいつペロペロキャンディーと牛乳はなんだかんだ言いつつちゃんと持っていったぞ……」

「そ、そう言えば……」

 

一毅とキンジは呆然としたままその場に立ち尽くした………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ただいま~』

「ムカつくムカつくムカつくーーー!!!!!」

 

キンジの部屋に行くとアリアがダンダン床を踏んでいた。こっちも本家アリアがイライラしている。

 

「あ!キー君!カズッチ!お帰……」

『失礼しました!!!!!』

 

キンジと一毅はクルッと背を向け走りだし……

 

「逃がさないよ!」

 

理子の髪に捕まった……

 

「離せ理子!イライラしたアリアになんて近づけるか!」

「そうだ理子!離すんだ!」

「だってアリア理子に八つ当たりしてくるんだよ!」

『知るか!』

 

グギギギギ……と一毅とキンジの二人は踏ん張って逃げようとしたが結局理子の髪の毛に部屋に引きずり込まれた……因みにそれ以降キンジの部屋は髪の毛のお化けが人を飲み込むと言う噂が立ったがそれは別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?何があったんだ?」

 

部屋にはレキもいたがじゃんけんの結果キンジがアリアに事情を聞きに行った。

理子いわく買い物でちょっと眼を離した隙にアリアが突然襲われたらしい。一応撃退には成功したもののかなり苦戦を強いられ勝負の途中で逃げたらしい。

 

「しかも私が行く途中で食べようと思ってたアメとか飲もうと思ってた牛乳を持ってかれたわ!!!!!」

『ん?』

 

キンジと一毅が首をかしげた。その出来事どこかで聞いたような……

 

「アリアさん。牛乳では胸大きくなりませんよ?(注・ホントです)」

「ええ!それホントなの!?レキ!」

「はい。あれは元々牛の胸が大きいからそう言う噂が立ちましたが医学的にも統計的にもあれは嘘です」

 

アリアがガーン!っと言う顔になった。

 

「飲んだって然程変わりません」

「何だかレキュ経験則からも言ってるが(パキュン!)……失礼しました」

 

理子が何か言おうとしたがレキに顔の真横銃弾通過で黙らされた。

 

「待て待て!話が逸れてる。で?どんな奴だったんだ?」

「髪が黒くて、背が低くて……ツインテールで……」

『ん?』

 

一毅とキンジは首をかしげた。どこかで聞いたような特徴だ。

 

「後語尾に【ネ】とか【カ】とか着けてて……ああ!そう言えば名乗ってたわ!そいつは……」

『ココ……』

 

一毅、キンジ、アリアの三人の声がハモった。

 

「何で知ってんのよあんたたち!」

「俺たちもさっき襲撃されたんだ」

 

キンジがアリアに事情を説明する。

 

「ふぅん……あんたたちも奪われたわけね」

「まあ……」

 

奪われたと言うか冗談であげたらそのまま持ってかれたと言う方が正しいんだが……

 

「ココか……」

「理子?」

 

一毅が理子を見る。

 

「ココは知ってるよ」

『っ!』

 

全員が眼を見開く。

 

「【万人の武人】ココ……一時期イ・ウーに出入りしてたよ」

「じゃあ仲間だったのか?」

「ううん。潜水艦の燃料とか食料とかを買っていたんだ。と言うかココは既に藍幇(ランパン)って言う組織に所属してるしね」

「売り手と買い手の関係ってやつか」

 

キンジが言うと理子が頷く。

 

「因みに理子の中国拳法もココ直伝だよ」

「はぁ?私のところに来たココは剣を使ってきたわよ」

「だから【万人(ワン・ウー)】何だよ……ココは素手も剣も更に狙撃も出来る万能超人なんだ……」

『…………』

 

全員があんぐりと口を開けた。何だその何でもあり人間……誰にしても戦い方の得意不得意がある。

テレビゲームにしたって同じシューティングでも狙撃が得意だったりしたり拳銃の方が好きだったりと存在する。それが現実となれば尚更でそのために武偵だってチームを組んで不得意を潰すがその必要がないと言うのは中々面倒だ。まあ何人もいる訳じゃなければその一人に注意すれば良いとも考えられるがそう簡単なものでもない。

 

「また……面倒事が起きそうだな……」

 

キンジは半ばもう諦めたような声を出す。

 

「いつもの事だしココより今は修学旅行の事を考えようぜ」

「そうだな……」

 

キンジを含めその場の全員がうなずいた……



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龍達の修学旅行 前編

「それじゃあ行ってくる」

 

キンジ達は荷物を片手に見送りに来た皆に声をかける。

 

「師匠。体調には気を付けるでござるよ」

「ああ」

「あかり、私が居ないからって油断してちゃダメよ」

「はい!」

「辰ちゃん、シノノンお土産楽しみにしててね」

「はい。お願いします」

「ありがとうございます……って辰ちゃんって俺の事ですか?」

「ライカ。気を付けろよ」

「分かりました」

 

二年生達がそれぞれ一年生たちに対応する。

 

「そろそろ時間だ」

「じゃあな~」

 

一毅達は手を降りながら新幹線に乗り込んだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うわけで~京都行ったらどうするの?」

「まず名所に3つ寄ってレポート書いたら後は自由だ」

 

武偵は自立せよ……がモットーの為か基本的に修学旅行も最低限のレポートさえ書けば後は完全自由。自由すぎて宿泊先も自分達で決めねばならないと言う状態だ。まあ安くて良い感じの宿を既にキンジが確保してあるので問題はない。キンジ様様だ。

 

「しっかし何だこのチーム名」

 

キンジは顔をしかめながら先程新幹線に乗る前に蘭豹に出しておいたチーム登録用紙のコピーを見直す。

チーム名は……

 

「あれだろ?【バンカーバスター】」

「一毅……それは蘭豹の渾名だ。【バスカービル】だよ」

「確かアリアさんの曾祖父であるシャーロック・ホームズが解決した事件の土地の名前ですよね?」

「さすがレキね。そうよ、序でに現在は私の所有地」

 

アリアがさらっと言った言葉に全員が椅子から落ちた。

 

「お前土地を所有してたのか!?」

「そうよ。まあ今はただの荒れ地だから殆ど価値なんて0よ」

「流石貴族だね~」

 

転落人生を歩んだ理子はからかうように言う。

 

「だったら序でにリーダーも襲名してくれ」

 

キンジが言う。未だにキンジは自分がリーダーと言うことに納得していないのだ。

 

「ですが状況判断能力や咄嗟の牽引能力などを考えた場合キンジさんが適任かと思われますが?」

「どれもヒステリアモード限定だけどな」

 

キンジがそっぽを向く。

現在は白雪が星伽に帰っていて不在だし一年生も居ないためヒステリアモードの名前も安全に出せる。

 

「それ抜きでもお前結構リーダーの素質あると思うけど?ほら、綴だって言ってたじゃん」

「あれは買いかぶりだ」

 

キンジは言うがキンジ以外はリーダーに関して異論はない。

キンジ自身が気づいていないものの普段の学校での評価や今までの戦いでの評価の上ではキンジが一番指示を飛ばしたりするのが上手いしキンジの人間辞めました技が反撃の機転になったことも多い。

それに残念ながら今までの経験上アリアは勘に頼り過ぎるし理子はどっかで滑るしレキは指示を飛ばすよりも受けた指示を忠実に実行する方があってるし一毅に至っては突撃しか作戦の指示が頭にないような人間だ。

それなら確かに指示の正確さはヒステリアモードに限定はあるものの素でもヒステリアモードでも共通してキンジに存在する一種のカリスマ性等があるので結果キンジ以外がキンジをリーダーにすることで一致した。

まあなんだかんだ言いつつも基本キンジは土壇場で力を発揮するタイプなので戦いになるまではその辺は置いておくしかないのだが……

 

「まあキンジの文句は置いとくとして……」

「置いとくな!」

 

キンジは怒るがスルーだ。

 

「で?ココに関して何か分かったか?」

 

一毅が聞くと理子は微妙な顔をした。

 

「芳しくはないかな。まあ香港藍幇の実質的なリーダーなのは分かったけど何で日本に来たのか~とか何でキー君とかカズッチとかアリアを襲ったのか~とかはぜんぜん。もしかしたらココの独断専行かもね」

「へえ~藍幇って香港の組織なのか?」

 

チャイニーズマフィアの一種かもしれないな……と一毅が思うと、

 

「正確には上海にもあって中国全土に範囲を広げてる秘密結社だね」

「何かのアニメかよ……」

 

キンジが突っ込んだ。

 

「んであれか?全身黒タイツの戦闘員がたくさんいるんだろ?ヒィー!とか叫ぶんだろ?」

「それは違う作品です……色んな所から怒られるので辞めてください」

 

一毅にレキが突っ込むと……

 

「後ね。ココも私たちと同じ偉人の子孫だよ」

「何?」

 

全員が眉を寄せる。

 

「誰のだ?」

曹操(ツォツォ)……日本読みなら曹操(そうそう)……中華覇者の子孫だよ」

「うぉ……」

 

また凄い名前が出てきたと一毅は半ば感心したような声を漏らした。

 

「まあココは何かめんどくさい大事件とかイタズラ感覚でやらかすし私に教えてくれた爆弾技術も遠慮なく行使してくるから気を付けた方がいいかもね。とんでもない馬鹿だけど……」

「理子さんに言われたら立つ瀬がないですね」

『確かに……』

 

レキの言葉にキンジ、一毅、アリアはうんうん頷いた。

 

「どういうこと!?」

 

理子の叫びに、そう言うことだろ?と全員が呟いたのは言うまでもない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてさて駅弁食ってトランプして喋って時間を潰していると遂に着いた。

 

「ビバ!京都!!!!!」

「騒ぐな馬鹿!恥ずかしい!!!!!」

 

キンジに一毅は殴られた。

 

「いってぇ!」

「で?最初はどこ行くの?」

「まずは金閣寺だ」

 

 

 

 

 

 

「ホントに金ぴかなんだな~」

「成金丸出しってやつね」

「まあ全部金箔ですよ?」

 

一毅、アリア、レキが見る。

この金閣寺は鎌倉時代に作られ室町幕府を足利 義満が作った。歴史の教科書でも見た人間は多いだろう?あの禿げて垂れ目の男が作った奴だ。

 

「じゃあ写真撮るぞ~」

 

キンジがカメラをセッティングすると全員を呼ぶ。

 

「はい、チーズ!」

 

カシャッ!と言うシャッター音と共に一枚目……

 

「ええと次は……三十三間堂だ」

「その前に理子は金閣寺の金箔ちょこっといただいてきまーす!」

『させるかぁ!』

 

キンジとアリアの衝撃の瞬間を完全に合わせるラリアット……【クロスボンバー】が炸裂し……

 

「がごふぅ……」

 

理子が白眼を剥いて倒れた。

 

「よし、行くぞ」

 

キンジは理子の後ろ首を掴んでズリズリ引き摺りながら皆を連れて歩き出した。

 

「完璧でしたね」

「全くだな」

 

レキと一毅が思わず拍手したのは余談である。

 

 

 

 

 

 

「なっが……」

 

三十三間堂とは細長く南北に延びその中に三十三本も柱が存在する建物……因みに何故三十三本かと言うと仏様の数らしい。昔の人はよく考えたものだ。

 

「どうせだから拝んでいくか」

 

中の仏様に向かって手を合わせる。

 

(普通の武偵になれますように……って何でアリアまで脳裏に出てくんだ俺の脳裏にまで出てくんなよ!!!!!)

(ママが無実になって……後は……ち、違う!べべべべ別にキンジと良い雰囲気になれたら良いなぁとか思ってないんだからね!)

(キー君と~イチャイチャしてアリアから奪いたいな~……何だろう?誰かがムリムリとか言った気がした……)

(一毅さんとライカさんの三人でこれからも一緒にいられますように……あ、あとこれ以上ライバルが出現しませんように……)

(レキとライカとずっと居られますように……ん?何だろう……今悪寒が走ったぞ……)

 

誰がどの願いを願ったかは脇に置いておこうというか直ぐ分かると思うのであまり突っ込まないでおこう。

さて、レポート用の写真もそこで撮って二枚目……

 

「最後に清水寺行くぞ」

「その前に【理子参上】って仏様の額に書いとこ~」

「辞めろ!」

 

素早く一毅が理子の腰を抱き抱え持ち上げるとブリッジしながら落とした……ようはジャーマンスープレックスである。

 

「がほぉ……」

「全く……そんなことしたら損害賠償でとんでもないことになるぞ……」

 

一毅は理子を担ぎ上げるとキンジたち共に歩き出す……

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

清水寺に向かう道中一毅は立ち止まる。因みに理子は既に復活済み……

 

「どうかしましたか?」

 

レキが聞くと他の皆も振り替える。

 

「いや、ココが祇園何だなって……」

 

江戸時代祇園は京都の一角に存在し四方を壁で囲まれた今で言う歓楽街だった。ある種の独立国家として存在した祇園だが華やかさの裏には闇がある。そこには遊女達の戦いがあり涙が流された。

一毅はそこに立つと不思議な懐かしさを感じる。恐らくココに生きた一毅の先祖……桐生 一馬之介こと宮本 武蔵の血がそう思わせているのだろう。

 

(ココで生きたのか……俺の先祖は……)

どこかココだけ時間の流れが違う気がした……

 

「一毅、感傷に浸るのも良いけどそろそろ行くぞ」

「あ、悪い。行こうぜレキ」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっけ~」

 

清水寺の天辺は本当に高い。

 

「成程……ココから飛び降りるのね」

「まあホントに飛び降りるやつなんて居ないけどな」

 

キンジがアリアに日本について教えている。

 

「……」

「一毅さん?」

「あ?どうかしたのかレキ」

「あ、いえ……何かまた感傷に浸っていたらしいので」

「ああ、伝承に残ってるだけなんだけど桐生 一馬之介もココで宍戸 梅軒(ばいけん)って言う鎖鎌使いの男と戦ったらしいんだ……そうやって考えたら清水寺の歴史って長いんだなって」

「そうですか……ちゃんと一毅さんなりに学を修めて居たんですね」

「はは……まあ自分の先祖が居て戦った場所なんて子孫からしたらやっぱり色々考えるよ」

「成程……ん?」

 

レキが振り替える。そこには……

 

「ふふ……と言うわけで高いところから落ちたって死なないだろう人間やめてるキー君清水の舞台から跳んでみよう!」

「なに!」

 

キンジが振り替えるがもう遅い……理子に突き飛ば……

 

「自分で落ちてください」

「え?」

 

す前にレキに理子が突き飛ばされそのまま理子がゆっくり落下していく……

 

「アアアアアアアアアアア………」

『エエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!』

 

一毅とキンジとアリアは慌てて下を見ると理子が髪の毛を動かして捕まっていた。

 

「ちゃんと理子さんは落ちても大丈夫だと言う確信の元にやっています」

『そう言う問題じゃねえだろ……』

 

キンジと一毅の突っ込みをレキは受けた。

 

「まあいいや、最後の写真を撮ろうぜ……」

 

キンジは理子が柵に這い上がって来たところと一緒に皆と最後の写真を撮った……

 

 

 

 

 

「さて、レポートはあとは各自の問題になるしどうする?他にも行きたいところはあるか?」

 

キンジが皆に聞くがそんな直ぐには思い付かない。

 

「あ!なら大阪行こうよ!そして服を見よう!」

「それ良いわね」

「良いですね」

 

女性陣は賛成した……が、

 

「お前らこの前も買ってたじゃねえか……」

「そうだぜ……態々大阪まで行って買う必要あるのかよ……」

 

キンジと一毅は難色を示した。男声陣にとっては服なんぞユニクロとかで適当に合わせれば良いと思ってるのである……だが、

 

「分かってなーい二人とも。大阪には東京にはない服もたくさんあるの!それに~」

 

ニヤ~っと理子達女性陣は笑った。

 

「私達だけだと買うのにも限界があるのよね」

 

アリアの言葉にキンジと一毅は首をかしげた。

 

「幸い今回は荷物持ちが二人もいます」

 

狙いはそこか!っとキンジと一毅は頬を引き攣らせつつも、

 

「キンジ!銀閣寺見に行かないか!?」

「良いなぁ一毅!序でに風魔に土産買いにいこう!」

 

二人は背を向け猛ダッシュ……だが、

 

「風穴ぁ!」

「逃がしません!」

 

アリアの銃弾をキンジが……レキの銃弾を一毅が喰らい転んだ……防弾制服の上からとは言え痛い。さらに理子の髪に捕まった。

 

「離せぇ!俺たちには人権と自由が認められている!」

「そうだそうだ横暴だ!」

「では多数決といきましょう。男声陣二人を荷物持ちにしても良いだろうと言う人……」

 

スッとレキ、アリアからアリア、理子の三人が手を挙げた。

 

『狡いぞお前らぁ!』

 

ジタバタ暴れるが所詮女性の比率が多い状態では男性の意見など通る筈もなくキンジと一毅は女性陣三人に大阪に連行された……



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龍達の修学旅行 後編

『ゼィ……ゼィ……お前らぁ~』

 

一毅とキンジは怨めしい顔で女性陣達を睨む。

 

『一体幾ら買い込む気だ!』

「まだまだ買うわよ」

「まだまだ買えますね」

「まだまだ買えるもんね~」

既に一毅とキンジの両手には服が詰め込まれた袋がある……荷物持ちがいる間にここぞとばかりに買い込むつもりなのは分かりきっていた。

 

「取り合えずお茶にしないか?奢るから」

「そうだな。奢るから一度休憩にしようぜ?」

 

一毅とキンジは必死に畳み掛けながら言う。幾ら普段鍛えてるからとは言え長時間興味ない買い物に付き合わされ引っ張り回され荷物を持たされれば精神的に疲労する……だが一毅は何故かアリアの声で頼まれるとNOと言えない……レキなら惚れた弱味だと分かるが何故アリア?等と考えていると、

 

「じゃあ彼処のカフェに行こうか」

 

理子が指差すとその先には【シャトンカフェ】と言う店があった。とは言えその隣には【シャトンb】と言う服屋もある…… まだ買う気だ……まあ良い。時間潰しがあるのはありがたい。そう自分に言い聞かせつつ一毅とキンジの二人は入っていった……

 

 

 

 

 

さて、一毅とキンジはコーヒを飲む。無論女性陣は当たり前のように服を見に行った。

何でもこれぞと言う服を見せに来てくれるらしいがそんなのは良いのでもう買うのをやめてもらいたい。

 

「パトラッシュ……もう疲れたよ……」

「そうだなネロ……」

 

一毅とキンジの二人はふざけながら待つこと一時間……長げえよ……

 

「おっ待たせ~」

 

最初に現れたのは理子……理子は何故かウェディングドレス……こう言うのって店にあるものだっけ?

 

「どうよ!」

 

アリアが着てきたのはひどく大人っぽいこれまたドレス……何と言うかキャバ嬢が着ていそうだ。いや、これを理子が着たのなら似合うだろうし白雪が着たら武藤なんぞ踊り出すだろう。だがアリアが着たら……滑稽だった。と言うか幼児体型のアリアでは似合わないことこの上ない。

 

「どうですか?」

 

最後にレキ……なのだが、

 

『は?』

 

一毅とキンジはポカーンと口を開けた。レキの服装は所謂、園児服……何でこんな服があるんだこの店……何でもありの店だ。

 

『取り合えず……』

 

一毅とキンジは自分に服を選ぶセンスがあるとは欠片も思っていないが……それでも言わせてもらう。

 

『もっと普通の服にしたら?』

 

一毅とキンジはそれしか言えなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地獄?の買い物も遂に終わりキンジ達は宿に来た。

 

「予約していた遠山です」

 

一応言うまでもないとは思われるが男女で部屋は別である。

 

「は~い。どうも」

 

穏やかそうな顔の女将さん(沙織さんと言うらしい)に案内されつつそれぞれ部屋に入る。

 

「やーっと終わったぜ~」

 

一毅は肩を回す。

 

「早速だけど風呂に行くか?」

「いいなぁ~行こう行こう」

 

二人は洗面具を取ると風呂に向かって歩き出した……

 

 

 

 

 

『極楽極楽……』

 

今日一日引きずり回され引っ張り回され挙げ句に荷物持ちにされて疲れ果てた二人の筋肉を温泉が癒す。

 

「しっかし今日のシャトンbの一件は改めて思い出すと笑いそうになるな」

「まあな」

 

一毅の笑いが一緒になった言葉にキンジも同意した。

 

「それにしてもちゃんとお土産買えたのか?」

「風魔にはシャトンbで序でに服を買った。あと八つ橋でも一緒に渡せば問題ないだろ」

「何だかんだ言いつつ弟子の面倒みてるんだねぇ」

「何が言いたい」

「別に?」

 

キンジは気づいていないが風魔はキンジにホの字である。好意を持った相手からのプレゼント(しかも服)なら余程の物を渡さなければ嫌な顔をする女は居ないだろう。

因みに風魔がキンジに惚れているのは既に周知の事実であり知らないのはキンジのみである。因みに風魔は自分の気持ちが周りにバレてないと思っている。あんなスキスキ光線を目から出してて気付かないのはキンジくらいのものだ。

 

「キンジは鈍感(バカ)だからな」

「急に何だ?喧嘩売ってるんだな?」

 

キンジが湯船の中で蹴ってきた。

 

「そういえば覚えてるか?昔星伽の神社で白雪とその妹たちと一緒に風呂入ったの」

「ああ~確か石鹸で滑って転んで大変なことになったな」

「今やったらもっと大変だけどな」

「勘弁してくれ」

 

冗談なのは分かっているためキンジも笑う。

 

「そうやって考えるとお前との付き合いも長いよなぁ」

「考えてみれば中学から考えるとお前とは一緒に居ない時の方が短いんじゃないか?」

「そんなんだからオホモダチ何て言われるんだな」

「お前彼女いるのにな」

 

そう言ってキンジは顎に手を添える。

 

「そういやお前とレキももう一年半か?」

「ああ」

「ココだけの話どうなんだ?一年半一緒に居たらやっぱり相手の考えが何となく分かったりするのか?」

「女心以外なら結構な。でもほら、最初は苦労したぜ?同棲ってのはまさに異文化交流って感じで目玉焼きにソースか醤油か~みたいな感じのはあったし」

「お前は醤油派だったな。レキは?」

「塩と胡椒派だった」

「……」

 

予想斜め上を行っていた。

 

「でも俺は少し安心してる」

「ん?」

「お前とレキの付き合いが出来ててな。一年前のレキが撃たれたときもしレキが死んでたらお前が壊れたんじゃないかって今でも思うよ」

「その時は殴ってでも道を戻してくれよ親友」

「勘弁してくれよ。お前と殴り合いとか一度だって勘弁だよ親友」

 

そんな軽口を叩きながら肩まで沈む。

 

「でもなんだかんだ言いつつお前ら仲良くやってるもんな。しかもライカも一緒なのにお前の人徳だな」

「お前だってアリア居て白雪居て更に理子が居て未だに住人増えそうな部屋だろ?ある意味人徳じゃね?」

「いや、これ以上増えても困るから増えないでほしいし増えないと思うが?」

「フラグフラグ♪」

 

一毅はニヤニヤ笑った。

 

「まあお前はアリア一筋だし他は無理か」

「まあ……は?」

 

キンジはネクラな目を更に曇らせた。

 

「お前今なんつった?」

「べっつにー?」

 

一毅はケラケラ笑う。

 

「てんめぇ!」

 

キンジは風呂から手を伸ばし一毅の首を締めにかかる。

 

「だから何時も言ってるだろ!俺とアリアはそんな関係じゃねえって」

「(今は)そんな関係じゃ無くたって感情は別問題だろ?」

「んなわけあるかあんな幼児体型!」

「んのわりにアリアだとヒステリアモードの掛かりが良い癖に~」

「偶々だ!」

 

所狭しと二人は暴れまわる。

 

「待ちやがれ!」

「お~にさんこちら~手~の鳴~る方へ~」

 

だがそこに、

 

「誰かいるの?」

「あれ?誰かいる?」

「?」

『え?』

 

一毅とキンジの時が止まりほぼ同時にたった今乱入してきたアリア、理子、レキの時も止まった……一応幸運にも逃げ回る際に一毅とキンジは腰にタオルを巻いていた。だがそんなものは関係ない。

 

「な、ななな……」

 

アリアは顔を真っ赤にしていく。

 

「お~鍛えられた男二人の裸体ってのも中々ですなぁ」

 

理子はケータイを出して写真を撮る。おいこら……

 

「……」

 

レキは無表情……三者三様の反応を女性陣は示す中男性陣は……

 

「あ……えと……」

「何で?」

 

だが改めて思い出せば男性女性を分ける暖簾がなかったような……

 

(ここは混浴だったのかぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!)

 

全員の心の叫びがハモる中アリアは何処からともなく銃を抜く。

 

「上等よあんたたち……覗きしに来たのね!」

「ちげぇしこんな堂々とした覗きがいるか!」

 

キンジが否定するが……

 

「んも~キー君ったらちゃんと言えば裸エプロンだろうがワイシャツのみだろうが裸だろうが見せたのに~」

「一毅さん……」

 

理子の騒動を加速しかさせない一言とレキの冷たい視線が来た。

 

「こ、このエロキンジ!」

 

遂に銃が向けられる。だが今は制服を着ていない……しかしこの半年間でキンジはいろんな意味で強くなったのだ。

 

「一毅!」

「おう!」

 

二人は空を指差す。

 

『あ!桃饅UFOとカロリーメイトUFOとストロベリーパフェUFOが空を飛んでる!』

『え?』

 

三人は見事に引っ掛かり指差した方をみた……そこに、

 

「お邪魔しました~」

 

一毅は隙間を縫うようにその場を脱出……だがそれに気づいた三人はキンジだけでも捕まえようと道を塞ごうとしたが……

 

潜林(せんりん)!」

 

女性陣三人のタオル一枚姿(主にアリア)のお陰で甘くだがヒステリアモードになっていたキンジが遠山家の秘技、潜林(せんりん)でアリアの両足の間を駆け抜けた。

因みにこの技は馬や人間の足の間を低い姿勢で駆け抜けつつアキレス腱を切っていく技だが無論駆け抜けるだけにして……

 

「またあとで!」

 

一毅に続いて入り口を出たあとそのまま服を取って二人は逃げ出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く……とんでもない目に遭ったな」

 

浴衣を着ながら部屋でキンジはボヤく。

 

「甘くとは言えヒスってる奴が言っても説得力がないぞ」

「しかしアリアに気づかれてなくてよかった……」

 

完全にヒステリアモードに成っていたら確実にアリア達をあの手この手で落ち着かせて宥めて一毅にぶん殴られて連れて行かれて目が覚めたらアリアにボコボコにされていただろう。

 

「しっかしお前視線がアリアに固定されてたな」

「はぁ!?」

 

キンジが白雪のお株を奪うような動きで座ったまま飛び上がった。

 

「おぉ~キンジも座ったままジャンプ(それ)出来るんだ」

「いやそれほどでも~って違う!お前なに言ってんだ!」

「え?ああ、事実を突き付けられると人間傷つくもんだもんな。悪かったよ」

「全部嘘や虚言だろうが!」

 

キンジがかなりマジでキレる。

 

「まあまあそんな怒んなって……――っ!」

 

一毅は素早くキンジを突き飛ばしながら転がる。

 

「かず……」

 

キンジが言葉を紡いだ次の瞬間轟音と共にガラスが弾け飛んだ。

 

「敵襲だ!」

 

一毅は制服を引っ張り出しながら叫ぶ。

 

「ちっ!何処の何奴だか知らないが旅行先くらい平穏にいられないのかよ」

「お前は無理だろ」

 

そこに……

 

「今のなに!?」

 

アリアたちが入ってきた。

 

「狙撃だ。急いでお前らも着替え……」

『きゃ!』

 

アリア達は自分の目を塞いだ。

 

着替える都合上キンジと一毅はパンツのとシャツのみである……少々刺激が……とは言え先程裸見られたばかりだろと言いたいが微妙に違うのが乙女心らしい。

 

「とにかくお前らも脱出するから着替えてこい!」

 

キンジが怒鳴ると再起動したアリアたちが消えた。

 

「でもよく狙撃が分かったな」

「心眼を意識するようになってからだけど気配察知能力自体が上がったんだ。無論心眼その物はまだ使えないんだけどな……」

「それは分かるな」

 

キンジはブレザーを着ると荷物を素早く持ちながらベレッタに弾を込める。

 

「俺もシャーロック戦以降動体視力とか眼の力自体が上がったよ」

 

キンジの言葉を聞きつつ一毅も刀を持つ。

 

「終わったわよ」

 

アリアたちも準備万端といった風情で来た。

 

「よし、出るぞ!」

 

キンジの号令に他の皆も続いた……



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龍達の逃走

チュイン!っと風を切りながら一毅の足元に穴が開く。

 

「アブね!」

「そこの森に逃げるぞ!」

 

突然の狙撃だがそれくらいであれば武偵であれば日常だ。だが気になるのは敢えて相手は外してると言うことだ。

 

「恐らくこの森に誘い込みたかったんでしょう」

 

レキがドラグノフを抜く。

 

「相手は自尊心が高いようです。ここに誘い込んで私と対決が望みでしょう」

「何でそう言いきれるの?」

「簡単ですよ理子さん。先程から相手は一毅さんのみを集中的に……それでありながら完全に当ててはいない。つまり当てようと思えば簡単だと暗に言いながら同時に一毅さんを狙うことで私へ挑戦しています」

 

木に隠れながらレキはドラグノフをリロードする。

 

「ならば受けましょう。どちらにせよこの狙撃の中を搔い潜りながら逃げるのが難しいでしょう」

 

そう言いながらレキは懐からカロリーメイトの箱を出して中身を手に取る。

 

「持っていてください」

「う、うん」

 

アリアにカロリーメイトを渡すと空になった空き箱を放り投げた……そして次の瞬間、

 

『っ!』

 

空き箱に穴が開いた。

 

「方角は北東やや高い場所から撃ってますね。距離は2180メートル」

「お前より大きいじゃねえか」

 

一毅が驚く。レキの狙撃の距離は2050メートル……この距離だって武偵高校内ではトップだ。それを上回るとは……

 

「大丈夫です。空き缶の中心部に当てられなかっただけで2180メートル位なら何度か撃ってます」

 

レキの目が細まる。

 

「本来なら相手が油断するのを時間を掛けて待ちたいところですが相手の戦力が未知数です。短期決戦と行き狙撃主を撃破後ここを離れましょう」

「そうだな」

 

キンジも同意した。

 

「では……」

 

レキがドラグノフの引き金に指を掛ける。

 

「ここは暗闇の中 一筋の光の道がある 光の外には何も見えず、何もない私は光の中を駆けるもの……」

 

レキは何時もの暗示を掛けると一気に飛び出す。

 

「っ!」

 

発砲音と共にレキが後ろに倒れた……

 

「レキ!」

「だい……じょうぶです……」

 

レキがコメカミを抑えながら立ち上がる。ドロっと血が出る。

 

「敵の狙撃銃を破壊しました。もう大丈夫です」

 

一毅が手拭いでレキの傷口を抑える。

 

「とにかく逃げるぞ。レキの治療もここじゃ危険だしな」

 

キンジが言うと皆はうなずく。なので一毅がレキを背負い脱出に動き出そうとした……だが、

 

「おおっと~ここからは行き止まりだ」

「止まれ」

 

そこに現れたのは二人の男……一人は眼帯にジャケットとジーンズと言う出で立ちに長刀に近い形の鞘に仕舞われた剣を肩に乗せている男……もう一人は鼻を掛けて両頬へ通った横一文字の傷が特徴的で服装はTシャツにスラックスだ。武器は両の腰につけたククリ刀と言ったところだろう。

 

「あ~どうせここの正体はそこの峰 理子から聞いてるだろ?だけど自己紹介はさせて貰うぜ?俺は夏侯僉(かこうせん)……お前らにはこう言った方が良いか?三国志で曹操の配下だった夏侯惇の子孫だ」

「なに……」

 

一毅の驚愕も他所にもう一人が名乗る。

 

「俺は周岑(しゅうしん)……周泰の子孫と言えばわかるか?」

 

確か周泰は呉の孫権の配下だった男だ。

 

「まさか香港藍幇には三国時代の子孫がいるのか?」

「結構な。まあ言っとくが今は先祖の出自が蜀とか呉とか魏とかでごちゃごちゃだぞ?」

 

夏侯僉は言う。

 

「まあ無駄話の時間はない。お前たちには投降して貰う。手荒な真似はしたくない」

「言ってくれるじゃん。たった二人でさ」

 

そう理子が言うが警戒している。気付いているのだ……この二人は高い実力を持っている。油断すれば負傷者を抱えているこちらでは不利だ。

 

「抵抗しても良いが極力生け捕りしろって言われててな。できればして欲しくないんだが?」

「生け捕り?」

 

あんなことをしておいて生け捕りが狙いとは……どういうわけだ?

 

「分からないようだな。とは言え説明する義理はない。後でココにでも聞け」

 

そういった周岑はナイフを抜く。

 

「ま、大人しくはなさそうだし仕方ないな」

 

夏侯僉も剣を抜いた。

 

「アリア、理子……レキを頼む」

 

一毅はレキをアリアと理子の二人に預ける。

 

「さて……どうす……――っ!」

 

キンジたちが周りを見ると幾つもの眼光……

 

「犬か!」

「残念狼だ。お前ら襲うように調教されてるけどな」

 

グルルルと牙を剥き出しにする。

 

「ちっ……」

 

皆は構える。

 

「やるしかないか……」

 

狼とこの目の前の男達を何とかしなければ逃げ場はない。

 

「耳を……塞い……でくだ……さい」

 

レキの呟き……何故?と聞く必要はなかった。キンジたちはその言葉のままに耳を塞ぐ。

 

『っ!』

 

その動きをみた夏侯僉と周岑もとっさに耳を塞いだ……対したものだ。中々こうは行かない。そして次の瞬間爆音……衝撃波も光もない。ただの巨大な音が辺り一体を包んだのだ。

レキが使ったのは武偵弾の音響弾(カノン)……人間は良い…どうす生物のなかでは比較的耳が聞こえない種族で耳を塞げる……だが、

 

『キャイン!』

 

突然の爆音に狼たちは(ひきつけ)を起こし倒れた。耳の良さが災いしたのだ。

 

「あとは任せます」

 

レキの声を背に次の瞬間一毅とキンジは跳躍……

 

「やべっ!」

「くっ!」

 

反応が遅れた夏侯僉は一毅の拳が顔に刺さり、周岑はキンジの飛び回し蹴りで吹っ飛んだ。

その隙にアリアと理子はレキを連れて戦いの場を離れる。

残るのは一毅とキンジと夏侯僉と周岑だけだ。

 

「流石にいってぇな」

「もっと痛くしてやるよ」

 

夏侯僉が構え直すと一毅も殺神(さつがみ)を抜く。

 

「お前の相手は俺か?」

「そうなるみたいだな」

 

周岑の問いにキンジは答えながらナイフと銃と蹴りの構え……そして今は甘く掛かったヒステリアモード……

 

(かなりキツいことになりそうだが……やるしかなさそうだ)

「行けるかキンジ?」

「まあ何とかするしかないだろ?」

 

ここを通せばアリアたちも危険なのだ。

 

「ならやるぞ!」

「おう!」

 

次の瞬間一毅とキンジは走り出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「らぁ!」

「ふん!」

 

一毅と夏侯僉の刃が激しくぶつかりあい火花を散らす。

 

「くっ!」

「ちぃ!」

 

押し合いになるが素早く夏侯僉切り返しながら左手に持った鞘で一毅の頭を狙う。

 

「っ!」

 

一毅は上半身を逸らして躱すがそこに夏侯僉は蹴りを放って狙う。

 

「ぐっ!」

 

一毅の脇腹にめり込んだ蹴りは一毅のバランスを崩すのには十分でそこに夏侯僉は剣を振り下ろす。

 

「っ!」

 

一毅は素早く神流(かみなが)しを抜いて弾くと二刀流で相対する。

 

「面倒だな……」

 

夏侯僉の剣は初めて見る形だった。

剣だけではなく鞘も使い蹴りも放つ。キンジの型に似ているが純粋に剣術として昇華させた物は初めてで戦いにくい。

 

「中国はそれこそてめえらが石を削って斧とか作ってた時代には既に鉄を加工して剣を作っていたんだぜ?同時に武も作り始めた。お前の剣術だって精々200年ちょっとが限界だろ?だけど中国は四千年の歴史があるんだ。格が違うぜ」

「長けりゃ良いってもんじゃあるまい」

「武の研鑽は長い方がいいぜ?」

 

そういった次の瞬間夏侯僉の突進からの鞘での突き…それを一毅は躱し切り返すが剣で防がれ蹴りが放たれた……だが一毅もそれを足で止めると頭突きを撃ち込む……

 

「がっ!」

「日本の歴史舐めんな中国四千年の歴史!」

 

夏侯僉は後ろに後ずさった……が、

 

「効いたぁ~……」

 

ニヤリと笑いながら夏侯僉は一毅を見る。

 

「面白くなってきたじゃねえか」

「タフな野郎だぜ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………来ないのか?」

「隙探してんだよ……」

 

キンジと周岑の戦いは一毅たちと違い派手さはなく静かな物だった。だが……

 

「来なければいくぞ」

 

その沈黙を周岑は破った。

 

「っ!」

「ふっ!」

 

周岑のククリ刀がキンジの首を狙う。

ククリ刀とはくの字に曲がった刀身で内側に刃があるのが特徴でインドのネパールに伝わる大型の湾刀と呼ばれる刀剣に分類される。

どちらかと言うと切れ味よりも重さで叩き斬るに近い切り方で斬るものであり作りによっては非常に頑丈だ。

そして周岑の両手に持っているククリ刀は二本とも頑丈だ。

 

「ちっ!」

 

キンジは体を捻って躱すと周岑の顎に蹴りを放つ。

 

「しゅっ!」

 

だがそれを周岑も顔を引いて躱しククリ刀を振り上げる。

 

「うぉ!」

 

キンジはバタフライナイフで防ぎながら発砲……

 

「っ!」

 

周岑が着ていた服は防弾仕様だったようで痛みを与えるにとどまったがそれでも一度歩みを止めさせた。だがそれでも……

 

(強い……)

 

キンジは冷や汗を流した。今までの攻防は全てギリギリの綱渡り……なんとか凌いで銃で動きを止めたもののダメージと言うにはあまりにも心細い……

 

「ベレッタは……」

 

周岑が口を開く。

 

「痛いことは痛いし効かないわけではない……だが……」

 

口径が自分を相手にするには小さい……と言う。

 

「…………」

 

キンジは視線を返すだけにした。それに関しては少し考えていた。ベレッタは今や自分の相棒で手にも馴染んでるし使いやすい。だがアリアとの決闘?やシャーロック戦にてもう少し銃の威力が欲しかったのもまた事実なのだ。

まあその辺に関しては一応対策を高じたが今は無い。無い物ねだりしても仕方ないのでキンジは構え直す……

 

(さて……一毅の方も膠着状態だしこっちも決め手がない訳じゃないが……まだ練習中だし甘ヒスではまず無理だ……)

 

だがそこに突然キンジの顔の真横を何かが通った。

 

「なっ!」

「そこまでです」

 

キンジの背後には和弓を構えた黒髪のスラッとした美少女……キンジには見覚えがあった。確か……

 

「ええと確か……風雪?」

「はい、お久しぶりです。遠山さま」

 

白雪の二番目の妹である風雪はキンジを一瞬見ると夏侯僉と周岑をそれぞれみる。

 

「ここは退いていただきましょう。それとも藍幇はフライングした上に星伽と一戦を交えますか?」

 

そう言うと森の暗闇から気配を感じる……星伽神社の方には白雪の一家以外にも多くの巫女がおり全員戦闘能力が高い。

 

「ちぇ!」

 

夏侯僉は剣をしまう。

 

「行くぞ周岑」

「……ああ」

 

二人はそのまま森の中に消えていった……

 

「……ふぅ~」

「大丈夫かキンジ」

 

一毅がキンジに駆け寄る。

 

「ああ、風雪のお陰だ」

「ん?おお~白雪の」

「桐生様もお久し振りです」

 

そこにドドドドドドド!!!!!!!!と砂塵を上げながら人が走ってくる。

 

「キィイイイイイイイイイイ!!!!!!!!ンンンンンンンンンンン!!!!!!!!ちゃああああああああああああん!!!!!!!!!!!!!!!!」

「しらゆごうっふ!!!!!!!!」

 

走ってきた白雪に体当たりに近い抱きつきを喰らったキンジは変な声を出した……

 

「キンちゃん大丈夫!?怪我はない!?斬られてない!?撃たれてない!?殴られてない!?蹴られてない!?投げられてない!?」

「だ、大丈夫だって」

 

キンジがどうどうと手を出して白雪を制止する。

 

「でもなんで……」

「うん……さっき銃声やすごい爆音が聞こえたって騒ぎになって調べたらそこにはキンちゃんにつけておいた発信器が反応――もとい嫌な予感がして占ったらキンちゃんが危機って出て大急ぎで来たの」

「そ、そうか……」

 

なんか前半の部分でとんでもない言葉が出掛けた気がしたが気にしないでおこう。

 

「ありがとな。白雪」

「良いんだよカズちゃん。キンちゃんの危機だったもん」

 

主軸そこですか?一毅は突っ込みたくなったがスルーだ。

 

「あ、あとレキさんは星伽神社で匿ったからね?お医者様も呼んだしもう大丈夫だよ」

「そうか……良かった」

 

一毅は刀を仕舞いながら一息つく。

 

「とりあえず二人も星伽神社の社に行こう。事件の話も聞きたいしね」

「ああ」

 

キンジがうなずくと白雪の案内の元数年ぶりに星伽神社に向かった……



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龍達の戦い 開幕

「ふぁぁあああ……」

「あ、おはようキンちゃん」

 

襲撃を受けた次の日……キンジは甘くとは言えヒステリアモードを使い更に戦ったためか疲れて星伽神社について早々倒れるように寝た……

 

「おはようキンジ」

「おはようキー君」

 

そして……

 

「無事のようだな。遠山」

「ジャンヌ!?」

 

キンジは驚いた。何故ジャンヌもここに?

 

「お前たちが襲撃を受けたと聞いてな。後……」

 

ジャンヌは何かを出した。

 

「これって……」

「ここに来る直前平賀 文に会ってな。ちょうど良いから渡せとの事だ」

 

そう言ってキンジにジャンヌは多機能コート・龍桜を渡す。

 

「前回の戦いで破壊された龍桜(それ)に改良を加えた完成形だとのことだ」

 

確かに持ってみるとシャーロックの時より軽い……

 

「後、遠山にはこれだ」

 

ジャンヌがキンジにもうひとつ渡す。

 

「だがこれを使えるのか?」

「ま、おいおい何とかするさ」

 

キンジは平賀に預けていた秘密兵器を仕舞う。

 

「そういえば一毅は?」

「ずっとレキの所に居るわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

一毅は胡座を掻いて眠るレキを見る。

 

(また……守れなかった)

 

一毅は拳を爪が掌に刺さるほど強く握る。

 

「桐生様」

「あ、風雪」

 

そこには毛布を持った風雪が来た。

 

「風邪をひきますのでどうぞ」

「すまない」

 

風雪から受け取ると包まる。

 

「……一応桐生様にも言っておかねばならないでしょう」

「え?」

「レキ様の……ウルスの璃巫女について……そして璃璃色金につい……」

「なあ風雪」

 

一毅は風雪の言葉を止めた。

 

「桐生様?」

「俺はバカだ……」

「はい?」

「俺はどうしようもないくらいバカでアホでテストなんて赤点の嵐(レッドポイントストリーム)だし鈍くて鈍感で脳筋で……」

「?」

 

風雪には一毅が何を言っているのか分からなかった。

 

「でもさぁ……」

 

一毅は微笑む。優しく……だが何処か鋭利な刃……一流の名刀しか持ち得ぬオーラのようなものがあった……

 

「そんな俺でも何も分からない訳じゃない……俺とレキが出会ったのも……レキは最近言わなかったけど風とかにも……きっと俺も知らない何かの意思があるのも薄々感じてるしきっと何かとんでもないことが起きてるのも感じてる」

「っ!」

 

風雪は目を限界まで見開いた……風雪は完全に誤解していた。一毅(この男)は誰も気付いていないと思っていのだが誰よりも何かを早く感じ取っていた……だがそれを誰にも言わず自分の中に留めておいたのだ。

基本的には単純で……バカで先を見据えるなんて出来ないと思っていたこの男は実際は誰よりも油断してはならない男だった。計算は出来ずとも……考えるのが苦手でも……油断するべきではなかったのだ。

 

「でもな風雪……俺はお前の口から聞きたくない」

 

一毅はゆっくりと……だが威厳をもってはっきりと言う。

 

「俺は何時かレキが話してくれるって思ってるから……そりゃ表面的な部分は知っておかなきゃいけないし俺なりに推理しなきゃいけない。それが俺の義務だ。そしてそれができたときに俺からレキに聞く……それまでは深いところを知っても意味がないし知りたいとも思わない。それまでは……俺は蚊帳の外で良いよ」

「……分かりました」

 

風雪は頭を下げる。

 

「無礼をお許しください」

「いや、構わん」

 

すると風雪が手紙を出した。

 

「あと、これを桐生様に」

「なに?」

 

一毅は手紙を読む。

 

【清水寺の天辺にて貴殿を待つ……夏侯僉】

 

「……そうか」

 

一毅は手紙を仕舞うとその場を立った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おうっす」

「一毅?」

 

キンジたちは入ってきた一毅を見る。丁度ご飯にするところだったようだ。

 

「お?ラッキー」

 

一毅も座る。

 

「丁度呼ぼうと思ってたところなの」

「わりぃな。大盛りで頼む」

「うん」

 

白雪の超絶ウマウマ和食を一毅はがっつく。

 

「俺たちは今日の新幹線で帰るぞ」

「ああ、行ってこい」

 

一毅の返答にキンジは眉を寄せる。

 

「お前は残るのか?」

「これだ」

 

一毅は夏侯僉の手紙を見せる。

 

「今夜清水寺に行ってくる」

 

キンジは流しながら読むと、

 

「大丈夫なのか?」

「ああ」

 

キンジと一毅の視線が交差すると、

 

「気を付けろよ」

 

改良版龍桜をキンジは一毅に投げる。

 

「いいの?」

 

アリアがキンジに聞く。

 

「大丈夫なんだろ?」

「おう」

 

一毅は魚を口に放り込みながら飯を口にいれる。

 

「じゃあ一毅以外俺たちは東京に戻る」

 

全員が頷いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜……

 

一毅は龍桜の前を締めながら清水寺目指して階段を上がっていく。

一段一段階段を踏み締めながら上がる……風が吹くと龍桜が揺れて背中に刺繍が施された王龍が揺れる。

観光客はいない。入り口が封鎖されていたため恐らく邪魔が入らないように夏侯僉がやったのだろう。上等だ。

そうこうしてると着いた……夏侯僉隠れもせずに手すりから京都の町を見ていた。

 

「良い町だな」

「そうか?」

「ああ、中国にも有名な夜景はあるがこっちには派手と言うよりは怪しい感じだ。そこが良いんだがな」

「あれか?百億ドル夜景だっけか?」

「いや、桁が増えすぎだろ……百万ドルの夜景だ」

 

夏侯僉に突っ込まれた。

 

「ここに来る前日本の歴史少し勉強してきた。京都は日本の歴史の転換の時の戦いの中心地になることが多いんだな」

「へぇ~」

 

一毅は感心した。だが……

 

「それと何が関係ある」

「今も転換の時と言うことだ」

 

夏侯僉は一毅を見る。

 

「お前にも近日中に分かるぜ?お前たちが中心に世界が動き始めてる」

「全く心当たりがない」

「理由はそのうち分かるさ」

 

夏侯僉は剣を抜き剣打の構えをとる。

 

「言わばこの戦いは前哨戦だ。これから起こるでっかい戦いの前菜だよ」

「勘弁して欲しいね」

 

一毅も二刀流の構えをとる……

 

「一つ教えておいてやる……新幹線で遠山キンジたちは帰るみたいだがそっちの方にはココと周岑が向かってるぜ」

「そうかよ」

「心配じゃねえのか?」

「バカかお前は……あいつが死ぬかよ」

「そうか」

 

二人は力を込める。

 

「行くぞ……」

「ああ……来いよ」

 

二人は疾走……次の瞬間刃から火花が散った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃キンジたちは新幹線にいた。

 

「キンちゃん何か飲む?」

「あ、ああ」

 

キンジは白雪からお茶を受けとる。

 

「何だかんだでやっぱり心配してんのね」

「まあ……」

 

動いていく景色を見ながらキンジは一毅を何処かでやはり心配はしていた……すると、

 

「ん?」

 

止まる筈の駅をそのまま走り抜けた……

どういう事かと周りが騒ぎ始める。

 

【新幹線は事情があり止まることができません。不審物をお見掛けした際は近くの職員にお知らせください】

 

『っ!』

 

キンジたちは咄嗟に何が起きているのかを感じ取った。

 

(この新幹線はジャックされたのか!?)

 

「ふざけるな!俺は降りるぞ!」

 

男が緊急用のレバーを引いて無知やりドアを開けようとしたが……

 

「おい!」

「うるせぇ黙ってぼぶぅ!」

 

止めたが聞いてくれそうになかったためキンジは男の鳩尾に膝を叩き込んで意識を刈り取ると適当に縛って転がす。

 

「理子と白雪は運転席の方を……俺とアリア後ろの方を見て危険物がないか見るぞ」

「分かった」

「任せて」

 

二人はうなずく。

 

「後、確かこの新幹線には武藤も居た筈だし何人か武偵も乗り合わせてるはずだ。さっきの放送で危機には気づいてるだろうしそいつらと協力しろ」

 

そう言いつつキンジは改良版龍桜をバッと着る。キンジの龍桜に刺繍された桜吹雪の模様が揺れた。

 

「行動開始だ!」

 

キンジとアリアは後ろへ…… 理子と白雪は運転席の方へと動き出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更にその頃東京では……

 

「今日先輩達帰ってくるみたいだし楽しみだね」

「あかりの場合アリア先輩帰ってくるから~とかだろ?」

「でもライカちゃんだって一毅先輩帰ってくるから浮き浮きしてたじゃん」

「う……」

 

辰正に指摘されライカはそっぽ向いた。

 

「あれ?」

 

すると全員の携帯が鳴った。

 

『え?』

 

全員が唖然とする……内容は東京行きの新幹線がジャックされたこと……そして東京駅を占拠されたらしい……

 

「駅に向かおう!」

 

あかりは言うが早いか走り出してしまう。

 

「あ、待って!」

 

辰正が追いかけだすと他の皆もそれに続き駅構内に入った。

 

 

犯人はすぐに見つかった。数は5人……

 

「ん?その制服は……ああ、武偵か?」

「うぉう!早いな~結構やるじゃん」

「もう少しかかると踏んでいたんだけどな~」

「ま、実力は大したことはなさそうだね」

「……………」

 

男が二人に女が三人の集団はあかり達を見た。

 

「だれ?」

「日本ではこう言うんじゃないのか?聞く前に自分から名乗れ……とな。まあいい、俺は関羅(かんら)……武神・関羽 雲長の子孫と名乗った方が分かりやすいか?」

「おりゃあ甘餓(かんが)……甘寧っていったら結構有名だろ?呉の武将」

「私は楽刄(がくは)~、楽進って言う魏の将の子孫だよ」

趙伽(ちょうか)……趙雲と言う武将の子孫だ」

「………夏侯……(びん)……夏候淵の子孫……」

 

全員が名乗り終える。

 

「まあ名乗ってしまったけどよ。俺たちは別に戦いたい訳じゃないんだぁよ」

 

甘餓はダラリとしながら話す。

 

「俺たちの目的は仲間が乗ってるからここ封鎖しといて迎えて序でにあいつらが倒した奴等を連れていくんだ」

「倒した奴等?」

 

ライカが聞く。

 

「ああ、遠山 キンジ、神崎 アリア、星伽 白雪、峰 理子。あと京都に残ったレキって女と桐生 一毅だ」

『っ!』

 

一年生ズは驚愕した。

 

「ま、良いから帰……」

 

一年生達は全員武器を構えた。

 

「余計退けなくなった」

「あちゃ……言ったら不味かった?」

 

甘餓が振り替えるとその仲間達が肩を竦めた。

 

「やるしかないようだ」

 

そう言って関羅は薙刀のような武器……先祖伝来の武具、青龍偃月刀を握る。

 

「……なら……!」

 

夏候黽は消えた……そして、

 

「っ!」

 

突然背後から現れ武器である鍵づめであかりの首を狙い……

 

「はぁ!」

『え?』

 

風魔の忍者刀一閃で弾かれた。

他の面々はやっと気づいたように風魔を見る。

 

「気を付けるでござるよ。この者は拙者と同じ匂いがするでござる」

「…………」

 

夏候淵は弓矢の名手と言うイメージが強いがもっとも得意としたのは奇襲攻撃である。三日で五百里、六日で千里移動するなどと揶揄されるほどの速い行進は現在では今のように相手の隙を突いて一撃で葬る暗殺者の力へと変貌していた。

 

「ほんじゃあ……」

 

甘餓はカリスティックと呼ばれる棒を両手に一本ずつ持つと疾走……それを志乃が弾いた。

 

「おお、意外と速いねぇ」

「…………」

 

志乃はたった一撃を弾いただけなのに刀を握るのに支障が出そうなほどの痺れを感じていた。

 

「さぁて……遊ぼうか」

 

楽刄はメリケンサックを付けると拳を振りかぶって突進……それを辰正は後ろに流した。

 

「うわっとと~」

 

楽刄は楽しそうに笑う。

 

「面白い技だね」

「そうでもないよ……」

 

流した際に頬を掠り出てきた血を拭う。強い……

 

「行くぞ」

 

その間に趙伽が間合いを詰めていた……

 

「くっ!」

 

あかりは咄嗟にナイフで応戦したが下からの掌底が腕を弾きあげそのまま美しくも鋭い槍のような貫手があかりの腹を穿った……

 

「がぁ……」

 

 

 

「お前が私の相手だな」

 

ライカは構える。

 

「お前がこの中では一番みたいだな。面白い」

 

青龍偃月刀を持ち上げた関羅は頬尻を上げる。

 

「楽しませろよ」

「楽しむ暇だって与えるかよ」

 

京都・京都――東京へ向かう新幹線・東京の三つを舞台に戦いの火蓋が切られた………



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龍達の戦い 京都

「ウォオオオオオ!!!!!」

「デェエリャアア!!!!!」

 

一毅の右手に持った殺神(さつがみ)の横凪ぎ……夏侯僉はそれを剣で打ち上げて躱すと降り下ろして反撃……しかも、

 

「墳!!!!!」

 

剣を降り下ろしながら上から鞘で叩いて剣速を一気に加速……だが常人であればこれで終わっただろうが一毅はそれの臆する事なく左手の神流し(かみながし)を斜めに寝かせ夏侯僉の剣撃を受け流すと夏侯僉は当然バランスを崩す……

 

「オラァ!」

 

そこを狙って二刀を構え……

 

「二天一流 必殺剣!二刀陰陽斬!!!!!」

「あめぇ!」

 

一毅の刀を交差させた剣撃を夏侯僉は鞘で一瞬抑えた。バランスを崩した状態では一瞬抑えるのが限界だ。だが夏侯僉にとってはその一瞬さえあれば十分だった。そのまま倒れる方に身を任せ地面を転がって受け身を取りながら一毅から距離を取ると共に体勢を戻す。

 

「めんどくせぇな」

 

一毅は舌打ちした。

夏侯僉の太刀筋は二度目だが未だに慣れない。剣と打撃と体術……一見無茶苦茶だが実戦的で現実的で幅広い戦術だ。

 

「お前もな」

 

だが夏侯僉も一毅の力には舌を巻いていた。世界から見た場合日本は東の小さな島国だ。田舎者だ。

無論強者だっているがそれは一部のものであり国力も軍事力もあらゆる面で日本は劣っていると言う認識が強い国である。

だがいざ対峙してみるとどうだろうか……腕力も判断能力も胆力も才能も下手すれば自分よりも上だ。剣術じたいも高いレベルを誇っている。

こんな男は……夏侯僉は一人しか知らない。 圧倒的な武力を誇る一騎当千の男……

そう意識し出してしまうとどうしてもその男と重なってしまう。

 

「嫌だねぇ」

「は?」

「いや、こっちの話」

 

一度戦ったときは一太刀も当てられず完膚なきまでにボコボコにされた(トラウマ)が疼いた気がした。

 

「それにしてもお前は強いなぁ~でも楽しいなぁ」

 

夏侯僉は笑った……

 

「だから俺も本気で殺るわ」

 

そう言って眼帯に手を掛ける。

 

「何だ?眼帯の下には邪気眼とか言うオチか?」

「んなわけあるか。俺の眼帯の下には……」

 

夏侯僉は眼帯を外す……その下には……

 

「普通の……目だなぁ」

「当たり前だろうが。俺は中二病でもなければ邪気眼もねえし別に先祖みたいに目玉喰ったわけでも眼疾に成ったわけでもねえ……」

 

敢えて片目で生活する……それがどれだけ戦闘面において不利だろうか……距離感は掴みにくく、相手の動きを見切るための目が一つしかない状態……動体視力も制限が掛かり同時に反射神経だって落ちる……幾らだって片目の不利は挙げていけるが……並ば片目状態で両目と同じように動けたら……夏侯僉の眼帯生活はそこから始まり……今、その封印を解いた。

 

「行くぞ……」

 

両目となった夏侯僉は疾走……剣を突き上げ一毅の顔を狙う。

 

「ちぇい!」

 

一毅は弾きながら斬る……が、

 

「見えるぜぇ!」

 

両目となった夏侯僉の回避能力は尋常ではなかった。そして意識は馬鹿みたいに攻撃一辺であり同時に高い実力の元に後を考えない戦いぶり……正に一盲夏侯であるがその強さは一流……そして夏侯僉の武術はこれで完成となった。

高いパワーと凄まじい速度と尋常為らざる反射神経……夏侯僉の剣打一体の剣術は遂に頂きに届いた……何千年も続いた歴史の中で唯一頂上に届かせた……桐生 一毅との戦いが夏侯僉を熱くさせ……進化させた。

 

「オラオラァ!」

 

夏侯僉の剣撃……だが、一毅はそれに対応していく。

 

「っ!」

 

夏侯僉は目を見開いた。今の一撃は夏侯僉最大級の速度とパワー乗せた一撃……だが一毅は……いや、桐生は何時だってそうだった。

相手は強敵……負けそうになったこともあるし挫けそうになったこともある。だがその度に折れない心力を奮い立たせ急速な進化を遂げてきた。相手が強かったならば相手を上回る速度で進化して勝ちを得てきた……その底無しの潜在能力は一毅にも受け継がれ、相手が強ければ強いほど一毅は強く進化していく……勝てない相手ならば同じステージに上がればいい……

 

「……勝機!」

 

一毅の体を蒼いオーラ(ブルーヒート)が包み込む……

 

「二天一流……」

 

お前は強かったよ……一毅の目が語る。

 

「必殺剣……!」

 

だが最後の最後で……一毅には負けられない理由があった。例え相手がいくら強くても……一毅はレキを連れて東京で待つライカの元に帰らなきゃいけなかった。

 

「奥義……」

「何故……」

 

夏侯僉は一毅の力の源がわからなかった。

そんなの簡単だ。照れ臭いから秘密だけどな。

そう内心呟いた一毅は二刀を振り上げ……

 

二天(にてん)!!!!!」

 

夏侯僉の体に二天一流の奥義が……目にも止まらぬ早さで無数の斬撃が一気に叩き込まれた……

 

―――――――勝者・桐生 一毅――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃新幹線では……

 

「……どうだ?」

「ここにもないわ」

 

放送の言葉から何かしらの危険物が新幹線内にあると踏んだ キンジ達は二手に別れ捜索していた。

理子と白雪は先頭の方に向かいキンジとアリアは後ろの方に向かっていた。

 

「遂に最後尾だが……」

 

キンジがボヤくと電話が鳴る。マナー違反だが今は仕方ないので着けておいたのだ。

 

「もしもし?」

【あ、キー君?爆弾がいくつか見つかったよ】

 

成程、人がいない貨物車の部分には爆弾がないようだ。

 

「戻るぞアリア」

「ええ」

 

するとフワフワとシャボン玉が此方に飛んできた……

 

『え?』

 

そのときキンジの脳裏にある言葉がフラッシュバックした。

【一人死んで……もう一人は戦闘不能ネ】

 

「――っ!アリア伏せろ!」

「ええ!?」

 

キンジは咄嗟に龍桜を広げアリアごと覆い被さる。

 

「ちょ!何してんの馬鹿キン……」

 

次の瞬間爆発音と衝撃が響き渡った……



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龍達の戦い 京都―東京

「う……」

 

キンジは目を覚ます。思考もゆっくり回復していく……確か白雪と理子たちに合流しようとしてそれから……そう、爆発してそこで記憶が途切れてる。背中越しにアリアがいるが纏めて縛られていて動けなさそうだ。

 

「眼が覚めたカ。ほとんど一瞬しか気を失わなかったネ……呆れた頑丈さヨ」

「そりゃ普段からボコられてブッ飛ばされて投げ飛ばされてるからな……ココ」

 

キンジは声の主を見る。相変わらずのツインテールのチビ……見方によってはアリアと間違えそうだ。

 

「キヒヒ……キンチお前一体どんな生活してるネ。それともボコられてブッ飛ばされて投げ飛ばされてるのが好きカ?興奮するカ?お前らドMカ?」

「んな訳あるか!!!!」

 

キンジはかなり本気で突っ込んだ。

それをみたココはまたキヒキヒ笑った。

それから傍らにあった剣を弄びながらキンジの顔を覗き込んできた。

 

「何が目的だ」

 

キンジが覗き込んできたココを睨み付ける。

 

「簡単ヨ。日本政府に日本円で凡そ3億円要求したね。因みにこの新幹線には爆弾仕掛けさせてもらタ。一定時間毎に速度を一定ずつ上げて行かないと爆発する特殊爆弾。理子にも教えてない新型ね。中にはさっきキンチを吹っ飛ばした爆弾をたっぷりと積めたヨ。キンチが死なないようにさっきは威力を抑えたけど今度はしないネ。こんな新幹線なんて木っ端微塵ヨ」

「っ!」

キンジは驚愕した。

 

「そんな驚かなくテ良いヨキンチ。お前たちは死なせないネ」

「なに?」

「日本政府が呑めば爆弾を止めるが呑まねばこのまま……でもココたちはどちらでも脱出するネ。そのときはお前達も連れていく」

「何のためにだ?」

「キヒキヒキヒ……お前自分の価値わかってないね。これからは魔術は使えないただの人間……でも化け物みたいに強い奴が必要ヨ。まあキンチが人間かは謎だけどネ」

「喧嘩売ってんのか?」

 

俺は普通の人間だっつうの!っとキンジは無言の圧力を与える。

 

「キヒキヒ。言っておくが世界中の組織が今はお前とカジキに注目してる」

 

カジキ……ああ、一毅の事かとキンジは納得した……って!

 

「世界中が注目!?」

「なに今さら驚く……キンチとカジキはイ・ウーぶっ潰した張本人ヨ。お陰で藍幇は大口契約先が消えて大損こいたネ」

「知るかよ」

 

キンジは吐き捨てた。

 

「だからココはキンジを藍幇に引き入れれば万々歳ネ。カジキの方は夏侯僉が倒し……」

「いや、それはないんじゃね?」

 

キンジがココの一言を一蹴した。

 

「は?」

「いや、あいつが簡単に負けるってそれこそシャーロッククラスじゃねえと無理だし、しかもあいつ夏休み前の戦い以降あり得ない速度で実力あげてるし基本的に人間じゃないしあんだけ強くなったら少しは強さが上がる速度落ちるもんだろ?絶対人間じゃないって!」

「……キンチに言われたくないだろうネ」

 

失礼な!っとキンジは叫びそうになったが黙っておく。何故なら……

 

「遅刻だお前ら」

「は?」

 

次の瞬間銃弾が飛び込んできた……げ!?

 

「うぉわ!」

 

キンジは縛られたまま転がって避ける。

 

「アワワ!」

 

ココも急いで避ける。

銃で破壊し尽くしたドアから現れたのは機関銃【M60】の銃口……そして武偵校の制服を来た黒髪ロングの美少女……

ガチャン!っと7.62x51mm NATO弾が銃にリロードされる。

 

「く、黒雪……じゃなかった、白雪!?」

 

キンジは顎が外れそうな程あんぐりと口を開けた。何でこいつ怒ってんの?

 

「キンちゃんと命の危機……アリア狡い……命の危機の中では男女が一番進展する……」

「おーい……白雪さーん?」

 

白雪は何かブツブツ言っているが聞こえない。

 

「う……ん?」

 

アリアが目を覚ました。

 

「あれ?何であたし縛られて……」

「ちょうど良いアリア!アレを使って脱出するぞ!」

「は、はぁ?」

 

アレとはアリアはある方法を使って縄で縛られてる時脱出できるのだがそれを早急に行って貰いたいのだ。何故なら……

 

「キンちゃんから離れろぉ……」

 

ゆらぁ~っとした動きで白雪がM60を構えた。

 

「どぉおおおおおろぉおおおおぼぉおおおおねぇええええこぉおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」

 

次の瞬間M60が乱射。

慌てて角にキンジとアリアはずりずり行って隠れる。

だがすごい連射量で次々車両の中が破壊されていく。

 

「ちょっと雪ちゃーん!キー君もいるんだよ~!」

 

理子が言うと銃の乱射が止まった……

 

「あ!そうだった」

 

そうだったじゃないだろと言いたかったがアリアが脱出に入っていたため静かにする。

アリアは髪ごと紐などで体を縛られたときまるで猫じゃらしがスルリと手で握っていても抜ける用に脱出できるのだ。

夏休みに一発芸みたいにして見せてくれた。

だが流石にキンジも一緒の為か少し上手く行かないようだ。

 

「行けそうか?」

「うん……よいしょ!」

「っ!」

 

キンジは声を出しそうになり我慢した……アリアが動いてウネウネしてしまったためキンジの顔に水饅頭()の感触……鼻一杯にアリアのクチナシの香り……暖かくて軟らかくて……胸無いくせにこう言うところは無駄に女子だ……しかも……

 

「少し肩とか膝を借りるわよ」

 

アリアはキンジの膝に乗って脱出を図る。 ドクン!っと心臓が跳ねた……

 

「ぐぁ……」

「?」

 

キンジは声を押し殺す……アリアの柔らかくて暖かい太股が当てられる。何で武偵のスカートがこんなに短いののだろうか……こんなに短いスカートを恨んだことはない。それに何かスカートとは違う布地の感触を感じる……これって……

眼が見えないため余計な想像をしてしまう。

ドクン!っとまた心臓が跳ねた。

 

「……は!」

 

アリアも今の状況のヤバさに気付いたらしい。

 

「ちょ、ちょっとキンジ離れなさいよ」

「無茶言うな!」

 

キンジは今度はアリアの腹に顔を押し付けながら叫ぶ。

すると今度はアリアの足が見えてきた……生っ白くて細くて無駄な肉なんか無い小さなアンヨ……

 

「あぅ……」

 

ドックン!!!!っと最後の鼓動……成ってしまったぞ……今度は昨夜とは違う完全なるヒステリアモード……派生系ではないヒステリア・ノルマーレ……

 

「ぷはぁ!」

 

アリアが脱出しきる。

 

「キンジ!あんたねぇ!」

 

何時もならこのまま理不尽な暴力が振るわれる……が、

 

「御免よアリア」

 

スッとアリアの手を取ると笑みを浮かべる。

 

「君にとても恥ずかしい思いをさせたね」

「……っ!」

 

アリアは一瞬何が起きたのかと言う顔になり……気がつく。

 

「あ、ああああああんた!つ、遂に成りやがったわね!」

 

アリアは羞恥と怒りと驚きが混ざりあったような顔になる。

 

「そうだねアリア……でもアリア聞いて欲しいんだアリア……」

 

耳で囁くように言い聞かせるように甘い声で言う……

 

「俺はねアリア……君のように可愛らしい女の子にくっ付かれても冷静で居られないんだよアリア……」

 

ゆっくり……ゆっくりと甘い声で囁いて行く。

 

「もし冷静で居られたらそれはアリア……君に……いや、美と言う言葉そのものへの冒涜だよ」

「………うん……」

 

よし成功……アリアには悪いが少し催眠をかけさせてもらった。その名も遠山家秘伝……呼蕩(ことう)……甘い声で囁いて何度も相手の名前を読んでお願いを聞かせると言う兄に教わった技だ。悪用厳禁と言われてるが今回は仕方ないだろう。

トロンっとした目でアリアがキンジを見上げている。

 

「アリアはココで少し休んでいると良い」

「はい……」

 

はいって……初めて聞いたなアリアの汐らしいところ……等と思いながら角を出る。

 

「やぁ二人とも」

「おぉっと~!そこの角で何したのかなぁ!理子スッゴク気になる!」

「少しお話ししただけだよ」

 

理子の額を少し小突く。

 

「さてココは……っ!」

 

ココが避けた方向へ行こうとした瞬間鋭い蹴りが飛び込んできた。

 

「ココ!?」

 

移動した方向とは明らかに別方向から……

 

「キー君!」

 

理子が掌底を放つが中国拳法と思われる動きで防がれる。

 

「どういうこ……」

 

キンジが困惑した瞬間今度は隠れた方からココが飛び出してきた。

 

「っ!二人!?」

「キンちゃん!」

白雪が刀を抜いて弾いた。

 

「双子だったのか?」

『気づくの遅いネ』

 

成程。実は役割を分担していたのか。通りで万能過ぎる気はしていたしアリアの前に現れていた頃自分と一毅の前にも現れていたのか。

 

「ん?」

 

するとヒステリアモードの耳にもうひとつ無視できない音を捉えた。

 

「……理子、白雪」

『?』

「ココたちを頼む。少し用事ができた」

 

キンジはネクタイを緩めボタンを上から2、3個外す。

 

「え~それじゃ嫌だな~。キンジは私たちのなんだ?」

 

裏理子聞いてきた。そうだった忘れていた。

 

「分かった。言い直す。理子、白雪はココたちを倒しておけ、俺は用事ができた。後、アリアは戦えないから戦い終わったら少し正気に戻しておいてくれ」

 

強い口調で命令するように……そうだったこれからは自分はリーダーなのだ。こう言うときは命令口調でやるべきだった。だが、

 

「なにしたのキンちゃん……?」

 

白雪が黒いオーラを発し出した……

 

「お望みなら君にも同じようにしてあげるよ?」

「え!?」

 

明らかに食いついたな。

 

「但しココをちゃんと倒せたらだ。よく言うだろう?御恩と奉公って言うやつさ」

「ふふ……任せて!」

 

刀を構えると白雪の闘気が強くなる。序でに何か背中に鬼がいる……目の前にいる剣を持ったココが後ずさったぞ……

 

「ねぇねぇ理子は?」

「君にもしてあげるよ」

「やったね♪」

 

理子はスキップしながら拳法を使うココの前にたつ。

 

「じゃあ任せたぞ」

 

キンジは走り出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だ、誰あんた……」

 

キンジたちとは同じクラスで通信科(コネクト)の 鷹根・早川・安根崎の三人は身を寄せあう……背中側の車両に逃げたいがそこには避難させた乗客がいる。中には不知火や武藤もいるが二人は車両の運転に向かってしまった(元々運転してた男はプレッシャーに耐えられず気を失った)……だが目の前には爆弾の山とククリ刀を両手に一本ずつ持った周岑が首を回す。

 

「ったく……全部集めやがって……設置のしなおしが面倒だ」

 

無論別にこのままでも新幹線ぶっとばすのには良いのだが几帳面な周岑は爆弾をきっちりと設置して爆発させたい人間だ。

 

「とりあえずお前ら邪魔だな……殺すか?」

「させるかボケ!」

 

周岑の顔面に壁を跳躍して回り込んだキンジの空中回し蹴りが決まって周岑は吹っ飛んだ。

 

「大丈夫かい?」

 

にっこり優しく笑い掛ける。

 

「君たちは下がっていてくれ……」

「だ、だけど遠山あいつ強そうだけど……」

 

それを聞くとフッとキンジは笑った。

 

「君たちに傷が付かないなら幾らでも強い相手と戦うさ」

 

鷹根・早川・安根崎の三人はボフン!っ顔を真っ赤にした。

 

(あ、あれ?遠山ってあんなやつだったっけ?)

(な、何かかっこよくない?)

(だ、駄目よ。キンジ×一毅の想像が出来なくなっていくわ)

 

最後のは是非出来なくなって貰いたいところだろう。

 

「さ、後ろ車両に行っていると良い」

 

キンジがそう言うと三人は避難した。

 

「さ、やろうか?」

「お前の方にはココが行った筈だが?」

「仲間たちに任せてきたよ」

 

そう言ってベレッタとバタフライナイフを抜くとキンジは銃とナイフと蹴りの構え……

 

「仕方ない……殺るか」

 

ククリ刀を周岑は握り直すと、

 

「逝けよ」

「そう言うわけにはいかないな」

 

二人は互いの距離を摘めた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャ!」

 

キンジのナイフとククリ刀が火花を散らす。

 

「ふん!」

 

そこにはもう一刀のククリ刀が来たがヒステリアモードの反射神経であれば躱すのは昨日より余裕を持てる。

だが周岑の武威は決して低くはないし相手の急所を……しかも首筋や肋骨の隙間を狙うように斬って来るため油断すれば一撃で絶命させられる。

とは言えお返しに命を奪う攻撃は武偵と言う立場上することもできないし感情的にだって絶対に嫌だ。

 

「ちぇい!」

 

キンジは剣の腹を叩くように蹴って周岑の斬撃を躱す。

 

「ふん!」

「ウッシャ!」

 

もう一刀のククリ刀が迫るがそれも蹴って弾く……

 

「らぁ!」

「シャア!」

 

続いた斬撃も弾き上げる……

 

『ウォオオオオオオ!!!!!!!!』

 

凄まじい数の斬撃をキンジは剣の腹を叩くように蹴って弾いていく。一歩間違えれば足が切断されるような無茶な技をキンジは行っているのだ。

 

「イヨッシャア!」

 

完全に弾き返すとその隙をキンジは腰の捻りを加えた後ろ回し蹴りを放ちぶっとばした。

 

「ぐほ!」

 

更に同時に銃を発砲……二発ほど当たるが案の定防弾仕様だ。あまり意味はない。

 

「お前……昨日と違うくないか?」

「残念ながら俺はスロースターターでね。本気になるのが遅いんだ」

 

キンジは軽くその場に跳んでリズムを取るように構える……

 

「で?大人しく捕まるならこれ以上蹴らないけど?」

「そう言うわけにはいかにだろう」

 

そう言うと周岑は立ち上がる。

 

「誇るが良い。俺にこれを使わせたのはある男だけだ。そしてあの世で悔やめ。これを使われた己の不運を……」

 

そういった瞬間周岑は手に持ったククリ刀を投げる……それと同時に背中に手を入れ新たなククリ刀を四本程出すとそれも空中へ……

落ちてきたククリ刀はキャッチすると再度空中へ……それをひたすら繰り返す。

 

「曲芸ショーか?」

「ほざいてろ」

 

そう言って間合いを詰めた周岑はククリ刀を降り下ろす。

 

「っ!」

 

それをバタフライナイフで受けたキンジだがそれは悪手だった。

次の瞬間周岑の(ストーム)のような猛攻が始まる。

まずは降ってきたククリ刀を片手でキャッチし一閃……

 

「くっ!」

 

体を逸らして避けるが足を落ちてきたククリ刀が狙う……

 

「くぉ!」

 

キンジはそれをかなり無茶な姿勢になりながら足を引いて躱すがそこを周岑は狙い再度剣撃放ちキンジの腹を狙う。

 

「っ!」

 

例え避けてもそれはククリ刀を上へ投げ上げる動作へと替わりそのまま降ってきたククリ刀を使いキンジを狙ってくる。

 

「この!」

 

キンジが銃撃したがそれは周岑の周りを跳ぶククリ刀邪魔をして当たらない。

この戦法は周岑の靭やかな筋肉と幾度も積み重ねた修練が作り出した周岑のオリジナルの型だろう。

多量に降ってくるククリ刀や周岑の動きは予測が非常に難しい。ここで万象の眼が使えれば楽だがシャーロック戦以降自分の意思での使用には至っていない。

そこに周岑はキンジの顔面を突く……

 

「ちっ!」

 

だがキンジはそれを伏せて躱す。そこから深紅のオーラ(レッドヒート)と共に必殺……

 

「エア!」

 

キンジの強烈な蹴り上げをまともに喰らった周岑は上空に跳ね上がる……それをキンジは追うと……

 

「ストライク!!!!!!!!」

 

キンジの代名詞にもなりつつあるエアストライク……それは相手を蹴った反動や足を降った強烈な風圧で自分と相手を浮かし続けながら蹴り続けると言う常識と重力をを無視した蹴りの(ストーム)……周岑の乱撃にも負けず劣らずの猛攻が周岑を襲う……だが、

 

「邪魔だぁ!」

 

それを腕力と靭やかな筋肉を使ったククリ刀一閃……それをキンジは空中で避けて二人は落ちた……

 

「く……」

「ちっ……」

 

二人は舌打ちしながら睨み合う。

 

「面倒だな……」

「お前こそな……」

 

周岑は再度剣を上へ投げ出す……

序でに足元に落ちたククリ刀も次々空中へ跳んでいく。

 

「今度は捌かせん」

「良いよ」

 

キンジは新たな手札を切ることにした。ここで出し惜しみしても仕方ない。

 

「捌かないからね」

「?」

 

キンジの言葉を周岑は理解できなかった。まあ関係ない。

 

「行くぞ!」

「ああ……」

 

周岑が来た……

キンジはベレッタを腰のホルスターに仕舞う。それからキンジは胸に手を突っ込むと……

 

「勝機!」

 

次の瞬間銃声……だがその音はベレッタの物ではない。ベレッタにしては大きすぎる。大口径の銃が発射された音……

 

「がはっ……!」

 

周岑が後方まで吹っ飛んだ……更に込み上げてきた血を吐く。防弾処理をしていたがそれでも破壊力が高すぎて意味が余り無かった。

キンジが撃ったのは先程ジャンヌを経由して平賀から届けられたキンジの新装備……夏休み時に一度実家に戻って引っ張り出してきた今は亡き父の形見の1つ……周岑にも指摘されたキンジの攻撃力の低さを補うために新たに配備した拳銃……その名も【デザート・イーグル50AE】だ。世界最強の弾丸を射ち出せる世界最強の拳銃……

無論こんな馬鹿でかい銃はヒステリアモードでなければ使うことはできない。父ならば二メートル近い身長でガタイもよかったため簡単に扱えていたが……

まあそんなことを考えながらキンジは周岑との間合いを詰める。

こいつは昨夜まで練習中だと言った技だ……ぶっつけ本番だがやるしかないだろう。

 

「ウォオオッシャアアア!!!!」

 

キンジのバック転による蹴り上げで周岑は上に吹っ飛ぶ。

ここまではエアストライクと同じだ。だがココからが別……

 

「アルファドライブ!!!!」

 

キンジは飛び上がると横回転蹴りで周岑を地面に叩きつける。

 

「ごほ!」

 

更に、

 

「ベータドライブ!!!!」

 

地面に着地するとキンジは飛び上がりながら思いっきり蹴り上げる。

 

「ががっ!」

 

最後にキンジは体を大きく捻りながら飛び上がるとトドメの一発……

 

「ガンマドライブ!!!!」

 

渾身の回転を加えた両足蹴りを喰らった周岑は床を跳ねながら壁に激突……

今の三連攻撃はエアストライクの派生系……打ち上げた相手を質より量で倒すのが普段のエアストライクであればこれは量より質で決める技……エアストライクは今まで打ち上げてもキンジ同様に身軽な金一だと決まらなかった。今回の周岑もそうだ。故に構想を練って密かに練習していた技……相手を打ち上げる事が出来れば決められるように三発の蹴りに全てを賭けるキンジの新技だ。更にこれはレッドヒート使わずにできる。

 

「ごほ……」

 

そのまま周岑は気絶した……

 

「俺の勝ちだな……」

 

キンジは言った……すると、

 

「オーイ、キー君」

 

理子がずるずる何かを引きずりながら現れた。引きずっていたのはココだ。

 

「キンちゃーん!」

 

ハートを飛ばしながらココとアリアを引きずりながらキンジの元に白雪も来た……

 

「お疲れ二人とも」

 

さてと……とキンジは目を細める。

 

「爆弾はどうする?」

 

キンジがそう言うと理子はニシシと笑った。

 

「理子凄いこと考えたんだ~!」

「凄いこと?」

「うん」

 

そう言うと理子は白雪を見て……

 

雪ちゃん(先生)……ここは1つよろしくお願いします」

 

そう言いながら爆弾を抱えて後ろの方に消えた。

 

「任せて」

 

そう言うと白雪は車両の連結部分に立つ。

 

「もう爆弾いちいち解除するの無理でしょ?」

 

理子が戻ってきた。

 

「だからここなら人も建物もないし~爆発させちゃお」

「俺たちはどうなる」

「大丈夫だよ。切り離すから」

「……は?」

 

キンジが唖然としたところに白雪は気合いを込める。

 

「星伽候天流 奥義!緋緋星伽神(ひひのほととぎがみ) 斬環(ざんかん)!!!!」

 

次の瞬間新幹線から切り離された後ろの車両は減速……だがいつのまにか相当な速度が出ていたキンジたちがいる新幹線はあっという間に距離を取り……爆発したときには既に安全圏にいた……

 

 

 

―――――勝者・遠山 キンジ及び峰 理子、星伽 白雪の三人。更に京都では同チームの桐生 一毅が勝利しているためこの戦い、チームバスカービルの完全勝利――――――

 

だが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「が……はぁ……」

 

東京駅ではライカが地面に倒れたところだった。

他にも風魔は身体中を切られ……間宮は壁に凭れながらも血を吐き動けず意識も朦朧としている。

志乃は全身余すところなく叩かれ辰正は顔が腫れ上がるほど殴られていた……

 

「お前ら……弱いな」

 

関羅の言葉にライカは歯を噛み締めながら立ち上がる。

 

「まだ……だぁ……」

「たいした根性ではあるようだな」

 

関羅は青龍偃月刀肩に担ぐ……

 

「……ウワァアアアアア!!!!!!!!」

 

ライカの二天一流 拳技・煉獄掌が放たれ決まる……だがその前にライカの鳩尾には関羅の青龍偃月刀の石突きがめり込んでいた……

 

「ごほ……」

 

ライカは地面に完全に倒れ伏した……

 

――――一年生総勢五名……敗北―――――




一年生たちに戦いはちゃんとやります。

どのようなことが起きたのか……次回までお待ちください。


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龍達の戦い 東京

少し時間を戻そう。

 

東京駅ではあかり、志乃、ライカ、風魔、辰正の五人が藍幇の構成員たちと戦いを繰り広げていた……

 

風魔は忍者刀を握り締めながら夏候黽と距離を詰める。

だが風魔の忍者刀は全て夏候黽の身に付けた鉤爪に弾かれていく。

 

「は!」

「遅い!」

 

風魔の横凪ぎを夏候黽は後ろに跳んで躱し振りきったところに一気に間合いを詰めて夏候黽の鉤爪が風魔を狙う。

 

「ふ!」

「っ!」

 

風魔はそれを伏せて躱すがそこを狙い澄ましていたようで夏候黽は足を振り上げ顎を蹴り上げた。

 

「うご!」

「大したことないね」

 

夏候黽の言葉に風魔はカチンと来た。

 

「まだでござる!」

 

風魔は袖から鎖分銅を出すと夏候黽の体を縛る。

 

「ハァアアアアア!!!!!!!!!!!!」

 

風魔は疾走し忍者刀で突きを放つ……だが夏候黽は縛られたまま体を捻って突きを躱すと跳ぶ……そのまま両足で風魔の頸を挟むと更に回転……結果として風魔は危険な角度でコンクリートの地面に頭から叩きつけられた……しかもその際に風魔の首が変な音を発していた。

 

「かひゅっ……」

 

夏候黽は意識が朦朧としている風魔を鎖分銅を外してから首を持って風魔をたたせた。

 

「バイバイ」

「っ!」

 

次の瞬間風魔の体は夏候黽の鉤爪によってこれでもかと()()()()()()()()()()()()()()()()()切り裂かれた……

 

――――風魔 陽菜・敗北―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

志乃は甘餓のカリスティックを躱し続ける。

最初の一撃を弾いただけで手が痺れて力が入らない。更に武器はハンドガード付きの日本刀が一本しかない。その刀はたった一撃受けただけで刀身が欠けた上にヒビまで入った。

無論相手の武器が鋼鉄の棒であるため相手の武器に損傷はない。

 

「おらおら~どうしたんだ大和撫子~!!!!!!」

 

甘餓がユラユラと不思議な歩行で間合いを詰めて来る。

 

「っ!」

「らぁ!」

 

日本の武術では見られない特殊な歩行……そこから放たれる一撃……

それは志乃の反応を完全に遅らせた……そしてその遅れが命取りとなる。

 

「がっ!」

 

足に当てられたカリスティックでミキミキ足が音を発てながら志乃は体制を崩す。

 

「がぅ……あが!……うぅ……わぁあああああ!」

 

半ば無意識に志乃は抜刀……だが、

 

「あめぇよ」

 

甘餓の振ったカリスティックは寸分違わずヒビを穿ち志乃の刃を砕く。

 

「っ!」

「結構怪我が酷いだろうからな……」

 

志乃と甘餓の目が合う。

 

「誰か知り合いに付きっきりで看病してもらえや」

「な……」

 

次の瞬間凄まじい速さの連撃が志乃の全身を余すところなく叩いていく……

 

「あ……がが……」

 

志乃は折れた刀を落とす。

 

「あばよ……大和撫子(よわっちぃ女)

 

最後志乃が見たのは自分の顔に迫るカリスティックと興味が失せたような顔をした甘餓の表情だった……

 

――――佐々木 志乃・敗北――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぐ……」

「しゅ!」

 

あかりの肩の付け根に趙伽の貫手が刺さる。

 

「シュシュシュ!!!!!!」

 

喉、脇腹、鳩尾の三つを次々と槍のような鋭い貫手が刺す。

 

「がひゅ!げはっ!」

 

どれも呼吸困難……下手すれば命に関わる人体急所だ……死んでも可笑しくない。だが趙伽は迷うことなく突く……まるで槍の達人が鎧と鎧の間を的確に突いていくように……

 

「が!はふ!」

 

あかりは必死に呼吸困難を抑えて息を整える。

体の頑丈さだけならAランクも凌ぐと言われているが趙伽の急所への貫手とは相性が悪い。

 

「どうしたの?その程度?」

「っ!」

 

ザクゥ!っと効果音が付きそうな勢いでの貫手……それはあかりの肋骨の隙間を突き抜く……

 

「ひゅ……」

 

同時にあかりの呼吸が完全に止まる。注意しておくがあかりが死んだのではない。肺に衝撃が走り一時的に自発呼吸ができなくなったのだ。

 

「っ!っ!っ!っ!」

 

突然息が出来なくなりあかりは驚愕した。だがそこに……

 

「もういいや。終われ」

 

爪先蹴り……それはあかりのコメカミを直撃する。

 

「が……」

 

当たり前だが横に吹っ飛ぶ……しかし、

 

「よいしょ!」

 

瞬時に逆方向からの爪先蹴り放った趙伽は反対側のコメカミを蹴る。

 

「っ!」

 

反対側に無理矢理吹っ飛ばされ平衡感覚が麻痺し……

 

「せぇの!」

 

あかりの腹筋による防御がしにくいと言われる下腹への爪先蹴り……

 

「げぼ……」

 

血を吐きながらあかりは壁に背を付けそのままズリズリと下がる。

「退屈だ……」

 

趙伽は頭を掻いていた。

 

――――間宮 あかり・敗北――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ!」

 

辰正は楽刄のメリケンサック付きの拳を受け流す。

 

「おっ?」

「うっらぁ!」

 

その隙をついて辰正は飛び上がると後頭部に拳を落とす。

 

「がっ!」

「どうだ!」

 

ギリギリ転ばないように楽刄はふらつきながらも立つ。

 

「いったぁ……確かCランクの武偵だって聞いたんだけどな~」

 

楽刄は首を捻る。

 

「まあ良いか」

 

楽刄が疾走……拳を辰正は打ち上げるように弾くと関節を極めて地面に倒す……

 

「これで終わりだ」

「……そう言うことかぁ……」

 

楽刄は地面に伏せたまま辰正をみる。

 

「え?」

「少し不思議だったんだよ。アンタCランクでしょ?その割りにはスゲェ鍛え混んでる。筋肉量も受け流しの練度も高い。あたしさぁ、アンタがS……は言い過ぎだけどAランクの中でも上位だって言われても信じれた……でも分かったよ……アンタが何でそんな低評価なのかがさぁ!」

 

次の瞬間楽刄は半ば強引に関節技の解除にかかる。

 

「なっ!」

 

ベキィ!っと骨が折れる音がした……だが曲がらない方に腕を曲がるようにした楽刄が仰向けに体勢を戻すと辰正の顔をぶん殴る。

 

「がっ!」

「アンタは……勝つ気がないんだ……」

 

楽刄は腕を抑えながら立ち上がる。

 

「アンタは狂う程の勝利への渇望がない。極端な話すればアンタは自分の大切な人に傷を負わなきゃいいとか思ってんじゃないの?」

 

舐めんな……楽刄は辰正を更に殴り飛ばす。

 

「ヘドが出る甘さだ。お前は勝つ戦い方じゃない。勝つために戦うんじゃなくて攻撃を守る人間に届かなければいい戦い方……その結果勝つ戦い方だ。結果的に勝つのと勝つために戦って勝つのは違う」

 

辰正は関節を極めたときに瞬時に折るべきだった。

だがそうしなかった為に楽刄に腕一本犠牲にして反撃すると言う選択肢を与えた。

 

「アンタのその甘さが何よりもその守りたい奴を傷つけるんだぜ?」

「…………」

 

辰正は自分の手を見る。震えていた……

本人にそんな気はなかった。勝ちたいとも思っていたと思っていた。

だが……否定できなかった。

 

「もういいや……」

「っ!」

 

振りかぶられたのは折れた腕……

 

「私は例え腕を折られようが引きちぎられようが構わないぜ?それで相手に勝てるならよ……」

 

狂気……勝つためであれば幾らだろうと傷を負えるタイプの人間……辰正にはない物だった。

 

「くっ!」

 

辰正は受け流そうと構えたが精神的な動揺のためか受け流しに失敗し顔面にモロ直撃した……

 

「ふぶぅ……」

「アンタは……人間相手を傷つけるのを本能的に何処かで恐れる。だから相手に幾ら有利な状況に持っていっても返されるだろ?」

「っ!」

 

幾らでも心当たりがあった。

 

「それにお前は本気で人間相手に関節技を掛けられない。腕一本犠牲に抜け出せたのがいい例だ」

「ちがっ……」

「違わないね!負けたくねえと口では言ってお前は本当に負けなきゃいいと思ってる!勝ちたいと思ってねえ!負けたくない=勝ちたいじゃない!」

 

今度は折れてない方の腕で肝臓打ち(レバーブロウ)……

 

「あが……」

「お前戦いに向いてねえよ……そんなあまっちょろい気持ちじゃさ」

 

顔面に折れた方の腕でフック……

 

「ぶし!」

 

そのまま辰正は地面に倒れると楽刄がマウントを取る。

 

「お前の負けだ……」

 

次の瞬間拳が降り下ろされた……

 

――――谷田 辰正・敗北―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウォオオオ!」

 

ライカはグローブを付けた拳を振りかぶる。

 

「ふん!」

 

それを迎撃するように関羅は青龍堰月刀を振り上げる。

 

「っ!」

 

間一髪ライカは躱す。

普段ライカが見ている一閃は一毅やキンジなどの人間辞めてます連中ばかりだ。それに比べれば比較的関羅のは遅く見える。

そしてそこに腹部への突き……

 

「ほぅ……」

 

関羅はライカの動きに感心した。中々良い師匠がついてるらしい。だが、

 

「やはりな」

「え?」

 

次の瞬間青龍堰月刀の柄でライカは殴り飛ばされる。

 

「がっ!」

「お前に武を教えた男はとんだ凡愚だったようだ」

「なん……だと……」

 

ライカは立つ。

 

「訂正しろよ」

「事実だ」

「コンノオォオオオオ!!!!!!」

 

ライカの拳を関羅は避けるとカウンター気味に柄でライカの脇腹を殴る。

 

「がっ!」

「はぁ!」

 

更にそのまま回転すると強かに腕を打ち据えられた。

 

「あぐ!」

「フンヌ!!!!!!」

 

そして止めとばかりに柄を降り下ろされた。

 

「あがっ!」

 

ライカは地面に転がった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前ら……弱いな」

 

関羅の言葉にライカは歯を噛み締めながら立ち上がる。

 

「まだ……だぁ……」

「たいした根性ではあるようだな」

 

関羅は青龍偃月刀肩に担ぐ……

 

「……ウワァアアアアア!!!!!!!!」

 

ライカの二天一流 拳技・煉獄掌が放たれ決まる……だがその前にライカの鳩尾には関羅の青龍偃月刀の石突きがめり込んでいた……

 

「あ……が……」

 

ライカは再度地面に転がる。今度は立てない。

 

「お前に武を教えた男……かなり大柄な男だろう?しかも腕力が高い」

「何で……それを……」

「分かる……今お前が放った掌打が今いった二つの条件を満たして居なければならないからだ」

「っ!」

「教えてやる。お前は中々才がある。だが、()()()()()()()()()使()()()()()()()

「え?」

「今のうちに別の流派に変えることを進めておく」

「…………」

 

ライカは呆然とした……傷よりも……受けた痛みよりも……今言われた事実の方が心に響いていた……

 

「ん?」

 

すると関羅たちに連絡が入る。

 

「何?ここたちが負けた?……分かった。こっちも退却する」

 

関羅達は連絡を切る。

「では去らばだ。もう会うことはないだろうがな」

 

関羅達はその場を去る……誰もそれを止めることはできない……

 

こうして一年生達は敗北を知ったのだった……



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龍達の戦い 閉幕

『皆!?』

 

キンジ達は新幹線から降りると驚愕した。そこには顔見知りや自分の戦妹(アミカ)が倒れていたのだ。

 

「大丈夫か!?風魔!!!!!!」

 

キンジが風魔に駆け寄る。

 

「し、師匠……申し訳ございませぬ……敵に……やられたでござる……」

「っ!……そいつらは何処だ」

 

キンジはぶちギレそうになるのを無理矢理抑え付け風魔を見る。

 

「分かりませぬ……ただ……そいつらは三国志の英雄の子孫だと……」

「ちっ……」

 

間違いない……藍幇はここにも網を張っていたのだ。恐らく倒された自分達の回収係として……だが予想外にココ達がやられたのでとっとと撤収したと言うところだろう……

 

「おい!衛生科(メディカ)救護科(アンビュラス)は治療を頼む!」

 

新幹線にいた衛生科(メディカ)救護科(アンビュラス)がキンジの怒声にも似た大声に慌てて治療にかかる。

 

「全く……とりあえずあの子達が無事でよかったわね」

「まあな」

 

アリアの言葉にキンジは頷く。

 

「でも周岑やココはアタシ達が捕まえたしそいつらについても多分分かるでしょ?一毅も夏侯僉捕まえたってさっき連絡来たし」

「そう……だな」

 

だがキンジは今のアリアの言葉に違和感を覚えた……何かを忘れてる気がする……そう、忘れてはならない大切な何かを……とても大切なピースを填め忘れている気がする……

 

「でも中々の腕だったよ、ココは」

 

白雪が言うと理子も頷く。

 

「そうそう。こっちのココの拳法とかこっちのココの剣術とかね」

「っ!」

 

パチン……とキンジの頭で何かが填まった音がした。

 

「そうだ……何でこいつらは今更分担してたんだ?」

『え?』

「足りないんだよ……もしココが多生児で使う武を分担してたとしたらじゃあどっちが旅館で俺たちを……」

「そこまでヨ……キンチ」

『っ!』

 

全員が振り替える……そこには狙撃銃と何かのスイッチを構えたココが居た……

 

「ギリギリで推理できたカ……でも少し遅かたネ……次一歩でも動いたら頭撃ち抜くヨ」

「成程……三つ子だったってことか」

『キヒキヒキヒ』

 

後ろに縛って転がしておいたココも含めて三人のココは笑った。

 

「さ、まずは捕まえたココの仲間達を解放するね。あ、その前に全員武器を捨てるヨ」

『……』

 

キンジ達は銃や刀剣類を捨てると転がす。

 

「キンチ、理子……嘘は良くないネ。胸に仕舞ってる銃も捨てるヨ」

「ちっ」

「ちぇ」

 

キンジはデザートイーグルを、理子はデリンジャーも捨てる。

 

「キヒキヒキヒ。これで形勢逆転ね。分かってると思うがこのスイッチは駅に仕掛けておいた爆弾の起爆装置よ……下手にココに危害を加えるとドカンネ……」

『……』

 

全員両手をあげた状態でココを見る。

 

「さて、キンチ、アリアはココを連れてこの新幹線に乗って一緒に来てもらうヨ」

 

ココは笑う……だが、

 

「……っ!」

 

するとヒステリアモードの耳と目がキンジに二つの情報を与える。ココは気づいていない……

 

「そう言うわけには行かないな」

 

キンジが全員を庇うように前に出る。

 

「キンジ?」

 

アリアが目を丸くしてるのが分かる。白雪と理子も似たようなもので他の武偵達もキンジの暴挙に息を飲む。

 

「俺はチーム・バスカービルのリーダーだ……リーダーとして残念だがその要求は飲めないね」

「これは交渉じゃない……命令ネ」

「なら尚更飲めないね……俺に命令できるのは俺の主人(アリア)だけだ……」

 

するとココは銃口をキンジの額に向ける。

 

「お前に今はココの銃撃を凌ぐ手は無いネ。強がりは辞めるヨ」

「君こそ人を舐めない方がいい。その傲慢は何れ自分の身を滅ぼすよ」

 

キンジは首を軽く回す。

 

「撃てるものなら撃てば良い……どうせ俺には当たらないからね」

「お前はただの人間ヨ……どうする気カ?」

「どうするも何も無いよ……俺のできることをするだけさ」

 

そう言ってキンジは全身の力を抜く。

 

「もういいネ。キンチはもう要らないヨ」

「そうかい」

 

キンジの目が痛み出す……パチパチと視界が明暗し……世界の時の流れがゆっくりとなる。

 

(久し振り。万象の眼……)

 

「言葉を返すネ……傲慢で死ぬのはお前ヨキンチ」

 

ココの狙撃銃が発砲……ゆっくりとした世界のなかで銃弾が迫る。

銃弾噛み(バイツ)は駄目だ。意識を失ったらせっかくのチャンスで足を引っ張る……ならばどうするか……簡単だ。さっきココは手がないと言ったが違う。手はある……そう、()()()()()()

 

(ココ、俺は隻腕でも何でもない。ちゃんと両手があるんだ!!!!!!)

 

遅く流れる世界の中でキンジはジャンケンのチョキのような手になると#の形に交差……そして銃弾を挟むと……

 

『え?』

「キャア!」

 

次の瞬間キンジの頬だけが切れ同時にあかりが治療を受けていた隣のゴミ箱が粉砕した。

周りの皆も何が起きたのか分からなかったが段々理解していく……と言うかそうとしか考えられない。

 

「片手真剣白羽取りを応用した銃弾を/のように逸らして避ける技……名付けて【銃弾逸らし(スラッシュ)】って言ったところかな。欠点は突き指しちゃうところだね」

『嘘でしょォオオオオオオオオオオ!!!!!!』

 

アリアも理子も白雪もあかりも辰正も志乃も風魔も他にもその場に居た武偵全員があんぐりと口を開けながら全力で突っ込んだ。

ココもポカーンとしている。

 

「理論事態は単純だよ」

「理論が単純でも人間やっちゃダメな技だよキー君!」

「……はっ!キンチ!お前に銃がダメならこの起爆装置爆発させ【パキュン!】え?」

 

ココの手にあった起爆装置が弾けた……

 

「やっと来たか……二人揃って遅れて登場するな」

 

キンジは肩をすくめるとヘリが来た……ヘリの名前はブラックホーク……それに乗るのは我らが狙撃主のレキだ。

レキは頭の包帯を取るとピースする。キンジはヘリが近づいて来ているのに気づいていた。そしてライトを使ってモールス信号で伝えてきていたのだ。

 

そして新幹線に別の人間が着地する。シルバーコートの背中の王龍を揺らして登場したのは一毅だ。

 

「よう、キンジ」

「遅いよ」

 

一毅が笑う。

 

「でぇ……何でココが三人もいるんだ?」

「三つ子でね。あと、今狙撃銃を持っているのがレキを狙撃したココだよ」

「ほぅ」

 

次の瞬間その場の温度が低くなったような気がした。

 

「そうかそうか……お前かぁ」

 

一毅の目がキラーンと光った気がした。

 

「ひっ!」

 

一毅がニタァっと笑いココがビビる。

 

「お前かぁ……」

 

ゆっくりと一毅が来る。

 

「ピィ!」

 

ココが狙撃銃をぶっぱなす。

 

「甘い!」

 

一毅が殺神(さつがみ)で弾く。

 

「コォオオオオオオコォオオオオオオ!!!!!!!!!!!!オォオオオマァアアアアエェエエエエカァアアアアアア!!!!!!!!!!!!」

 

次の瞬間爆走……

 

「ピギィイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!」

 

ココは恐怖のあまり泣き出しながら逃げ出した。

考えてもみてあげてほしい……一毅は本職のヤクザも怖がりそうな顔をしている。その男が本気でぶちギレた状態で日本刀片手に百メートルを11秒で駆け抜ける豪脚で迫ってくるのだ……

 

(タマ)取ったらァアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」

 

しかも背中には牙を生やし火を吹きながら手が六本あり恐ろしい形相の大魔人がいるように見える……

幾ら実力があるとはいえ14才のココが見るには下手なホラーも真っ青である。

 

(ひぇええええええ……)

 

それを見ていたキンジを筆頭とした武偵達はあまりの怖さにドン引きしつつも追われるココに十字を切り……

 

(あ、あそこに居たのが自分じゃなくてよかったネ……)

(全くネ……)

 

追われるのが自分達ではなかった事に他のココ達は心底安堵する。

 

「マァアアアアテェエエエエエエ!!!!!!!!!!!!」

「ひ!ぃい!」

 

ココはこのままではあっという間に追い付かれるため後ろに銃を発砲……

 

「ふ!」

 

だが簡単に弾かれた。恐怖心に支配された人間の銃線は読みやすい……

 

「二天一流……秘剣!!!!!!」

 

一毅は刀の刃を寝かせながらココとの距離を詰める。

 

「ピギャアアアアア!!!!!!!!!!!!」

 

ココは恐怖で半狂乱になりながら銃を再度撃つ……だが、

 

「銃弾避けの極みぃいいいい!!!!!!!!!!!」

 

銃弾を刃で切り裂きながら勢いを落とすことなく疾走……そして、

 

「ぴっ!」

 

ココは腰を抜かすとその次の瞬間銃身が真っ二つに斬れた……

 

「さて……どうしてくれようか……」

 

一毅はココを見据える……漫画であればゴゴゴゴゴ……と効果音が付きそうである。

 

「あわわわわ……」

 

ココはガチガチ歯を鳴らす。すると、

 

「一毅さん」

 

レキがやって来た。

 

「流石に14才の女の子に向ける顔じゃないです。ただでさえおっかないんですからもっと笑顔で話しかけてあげないと」

 

そこじゃねえだろ!と見ていた全員が突っ込んだ。

 

「それもそうだな」

 

一毅はにっこり笑う。

 

「ゴメンねココちゃん怖かった?」

 

口調は優しいが背中にはまだ大魔人がいる……逆に恐ろしかった。

 

「それで良いですね一毅さん。さて、幾ら怒っても良いですがもっと平和的に且つもっと静かで更に血を見ない方法で制裁お願いします。そうじゃないとキンジさんたちがドン引きします」

 

もうしてます……と言いそうになったが全員ゴックン飲み込んだ。と言うか平気なのはライカと付き合いが長いキンジくらいである。

 

「そうだなぁ……よし!」

 

一毅は刀を鞘に戻すとココを荷物を持つように肩で抱えあげた。

 

「な、何するネ……」

 

ココは一毅を肩で担がれたまま見る。

 

「教えてやるよ。お前らがバカにしてる日本の古来より用いられるオイタをした子供へのお仕置き……」

 

そう言って一毅は片腕で抱え込むように持ち直すと腕を振り上げる。

 

「俺のはなぁ……アサガオでも痛いってんで子供たちから恐れられていたんぞっと!!!!!!」

 

一毅は平手をココのお尻に叩きつける。

 

「ピギャ!」

 

バチーン!っと綺麗な音が周りに響く。余りに綺麗に響いたため他の皆もおぉ~っと歓声を漏らしてしまった。

 

「どんなことしたかわかってんのか!?ええ!?」

 

バチーン!バチーン!っと音が響く。

 

「いだ!はぐ!」

「死人が出たかもしれないんだぞ!?分かってるのか!?」

 

バチーン!バチーン!と手首にスナップを効かせ鞭のように叩く。こうすると音も大きく出るが同時にすごく痛くなるのだ。後、叩くときは尻タブの部分を叩いた方が痛しいし痔にせずに済む。

 

「ご!ごめん!なさい!」

「ええ!?聞こえないぞ!」

 

バチーン!っとまた大きく響く。

 

「御免なさぁああああああああああああああああい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

ココの外聞もなく泣きじゃくった謝罪の声が辺りに響いていった……




次回終わるはずが思ったより長くてもう一話……理由はわかっています。最後に一毅で遊びすぎました。
ちなみにココはその後尻叩き30回で勘弁してもらい連行されていきました。爆弾は平賀さんが全部解除してくれたでしょう。

さてさて、次回でこの章終わりますがその時こそはライカの一件を書きます。本当は今回書くはずだったんですよ……おふざけはダメですね。ちゃんと想定通りに書かないと……

ではまた次回会えることを願っています。


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龍のチーム登録

京都から帰還した次の日……

 

『あ……』

 

一毅がドアを開けて外に出るとちょうどキンジと鉢合わせた。

 

「アリア達は?」

「先に行くってよ。レキは?」

「こっちも同じようなもんだ。ま、アリアは間宮の見舞いにでも行ってるんだろ?」

「白雪も多分佐々木のだろうな」

 

二人は歩き出す……二人は現在黒い制服を着ていた。

名は【防弾制服(ヴィローザ)(ネロ)】……これからキンジ達はチームを本登録して写真を撮るのだが何時撮ったか分からなくするために皆で歴代皆で同じ服を着て視線を逸らして撮るのだが……

 

「お前がその制服着るとマジで怖いな」

 

制服とはいえ基本的にブラックスーツみたいなものだ。端から見たら一毅はマフィアのドンみたいだ。

 

「喧しいわ」

 

キンジの言葉に一毅は肘で突いて笑う。するとキンジは一瞬タイミングを計るような雰囲気を出してから……

 

「一応今回の戦歴は……俺たちの勝ちで良いと思う」

 

そう切り出してきた。

 

「そうだな。どんな形であれ俺たちが勝って相手は撤退した……勝った数は向こうの方が多いけどこっちは数が減ってないのに向こうは減らされてる。まあギリギリってところだろうな」

「ああ……でもさ……一年生達……特にライカとかな……」

 

負けたショックですっかり折れてしまってる。

 

「まぁ……俺はライカに話があるから少し体育館に寄っていくぞ」

「俺も風魔に土産渡してからいく」

 

じゃあ後で……二人はそう言って一旦別れた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

風魔は白装束を着て紙を噛むと脇差しを抜く。

 

「我……人生に一辺の悔い無し……あいや、師匠のお土産の八つ橋食っていないことがさり気に悔しいで御座るが……まあ良いで御座ろう」

 

風魔は和紙を出すと筆に墨をつける……

 

【師匠へ……此度の任の失敗は一重に拙者の力が及ばなかったため……師匠は全く気にやむことはありませぬ……さて、此度の失敗の責を取って潔く腹を切ろうと腹を決めましたがその前に師匠へ伝えたいことがあるで候……拙者師匠は初めて会ったときは突然押し倒してきた上に甘く囁く軟派男と思っておりました。ですが師匠は実は素晴らしい方だと知ることができました……拙者は……あいや、私は……そんな師匠……ではなくキンジ先輩が……その……す……す……】

 

風魔の筆が止まる。

 

「こ、ここから先が書けぬで御座る……」

「何が書けないって?」

 

風魔はビックリ仰天しながら振り替える。

 

「お前玄関に鍵もかけてねえしチャイム鳴らしてもドアを叩いても反応ねぇから勝手に入らせて貰ったぞ……て言うかなんだその格好……しかもなんか書いて……」

「キャウワァアアア!!!!!!!!!!!!」

 

風魔はキンジが覗こうとしたのを体を張って阻止して紙を丸めると口に放り込みゴックン!と飲み込んだ。

 

「おま!腹下すぞ!」

 

今度はキンジがビックリした。

 

「つうかホントなんだよその格好……まさかお前切腹でもするわけじゃあるまいし」

「そのまさかでござる」

 

風魔は脇差しを抜く。

 

「師匠……ちょうど良いので介錯を」

「できるか!」

 

スパーン!っとキンジは風魔の頭を叩くと脇差しを奪う。

 

「全く……何したいんだよお前は」

「ですが師匠……此度の敗北一重に拙者の力不足……」

「馬鹿……だったら力つければ良いだけだろうが」

 

キンジは頭を掻く。

 

「お前はやられっぱなしで終わる気か?」

「師匠……」

「あのな、一回二回負けたくらいで死んでたら俺は何回死ぬことになるんだ?」

「そんなに負けていたんでござるか?」

「普段の俺は勝率最悪だよ」

 

ヒステリアモードになってれば話は別だが……素の状態ではアリアにはボコボコにされるし一度だけ一毅と殴り合いを演じたがあれだって一毅が自分に合わせて戦った故で本来だったら一毅の方がずっと上だ……多分……バスカービルでは自分が最弱。でも……

 

「でも俺は自分が弱いと言う気はない」

 

言葉にしたらそこで止まってしまう気がするから……言葉にしたらそれを言い訳に努力を辞める気がしてしまうから……

 

「武偵にとって普通敗北は死を意味する。それなのにお前は生き長らえた……それはすごい幸運だ。ならそれを利用しない手はないだろ?」

 

二度目がある幸運を使うのだ………使って強くなって次に勝てばいい……キンジはそう言う。

 

「師匠……」

「俺ももっと強くなんねえとイケないしな」

 

キンジは風魔の隣に座りながら頭を撫でてやる。

 

「お互い強くなろうぜ」

 

キンジは優しく言う。

風魔は自分の頬が熱くなるのを感じた。

 

「はい……」

 

消えそうな声だったが風魔はそれでもしっかりと頷いた。

 

「さて、この生八つ橋でも食べて元気出せ」

 

キンジが袋を渡す。

 

「感謝でござる……む?何でござるかこれは」

「ん?服だ。序でに買ってきた。お前に似合いそうだと思ってな」

 

黒を基調として所々明るいラインも入ったワンピース……風魔は普通の服をろくに持っていない(家が物凄く貧乏だからだ)ため1000円セールの物だが買ってきたのだ。

 

「し、師匠……」

 

風魔は感動した顔だ。そんな感謝されてもキンジとしては安売りの物なので少し罪悪感がある。

 

「これは家宝にするでござる!」

「いや、着てくれた方が嬉しいんだが……」

 

キンジはため息を吐く。

 

「じゃあ風魔……俺はそろそろいくぞ」

「あ、その前に師匠」

「ん?」

「拙者のことを陽菜と呼んでは下さらぬか?そうしたら拙者もっと元気が出るきがするでござるよ」

「はぁ?」

 

しょうがない後輩だとキンジは肩を竦めると……

 

「待たな、陽菜」

 

そう言ってから出ていった。

 

「……プハァ!」

 

その場には鼻血を吹いて倒れる白装束の少女が一人いるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方……

 

「はぁ……はぁ……」

 

ライカはサンドバックを叩くが力がない……体力が限界だ。

 

「荒れてんなぁおい」

「っ!」

 

体育館に入ってきた一毅をみてライカは顔を逸らす。一番顔を会わせたくない人だった。

 

「ほら!」

 

一毅は冷たい缶ジュースを投げるとライカはキャッチする。

 

「全く……そんな無茶苦茶突いたって意味はないって」

「分かってます!」

 

ライカは自分でも驚くほど大声をあげた。

だが一毅は優しげな笑みを浮かべる。

 

「何があった。ただ負けたんじゃないだろ?昨夜は俺も事情聴取で部屋に帰れなかったし今日になって戻ってみればお前も居ないし心配したんだぜ?」

「…………」

 

ポツ……っとライカの足元に滴が落ちた……

 

「使いこなせないって言われました……二天一流は私には使いこなせないそうです……何ででしょうかね……何で私は……でも一番許せないのは一毅先輩が凡愚だって言われたのに負けたことなんです。自分に一番腹が立って許せないんです……」

 

一毅は黙って聞いていた……そして口を開く。

 

「分かっていたよ」

「え?」

「お前に使いこなせないのは分かっていた……でもな」

 

一毅はライカを見る。

 

「あくまでそれは()()()()って注釈は付くけどな」

「どう言うことですか?」

「大方お前は体格が大柄な訳でもなければ力だって弱いとかそんなもんだろ?言われたの」

「はい……」

「じゃあココで問題だ……桐生が皆俺みたいだったと思うか?」

「?」

「聞き方変えよう。桐生が皆大柄で力に恵まれていたと思うのか?」

「それって……」

「確かに大多数はそうさ……でも中には例外がある……時々居たんだ……体格に恵まれず腕力にも恵まれなかった桐生がな」

「っ!」

 

ライカは目を見開く。

 

「だがそいつらも人生の中で戦い続けた歴戦の戦士だ」

「どうやって……!!!!!!」

「二天一流の技は……才能で使いこなせるかが決まる。お前に教えたのはまだ第一段階。使いこなせるかは第二段階……つってもそこで終わりなんだけどさ」

 

一毅は一度呼吸を吸う。

 

「二天一流の技は秘剣、組小太刀、豪剣、必殺剣……そして拳技で5つある。桐生はどれも使えるけどやっぱり得意なのは人それぞれだ……でも実はどの技も未完成なんだよ」

「……はい?」

「二天一流は多くの技があるけどどれも完成はしていない。いや、敢えて完成させてないんだ。そうして未完成の技を基礎に覚えさせてそれぞれが完成に持っていく」

「っ!」

「分かるか?二天一流は使うものがそれぞれ違う形で使っていくんだ。だから俺が使う二刀流の技と親父が使う二刀流の技は違うんだぜ?まあ俺もまだ改造中だけどな」

「……つまり……」

「ああ、お前は確かに今のままじゃ使えない。でもな、お前が自分自身で使える二天一流にすることはできる。火野 ライカ専用の二天一流に変えることができる。いや、するんだよ」

 

ライカは自分の体に電撃が走ったような気がした。

 

「私の?」

「ああ、俺が教えた二天一流を自分のやり方で作り替えるんだ。相談には乗るけど……お前が自分でやるしかないぞ」

ライカは自分の手を見た……

 

「出来るんでしょうか……」

「出来るよ……俺はお前の才能を信じてっからな……それにお前の拳は真っ直ぐだ」

「え?」

「まっすぐで……素直な拳だ。きっと出来るよ」

 

一毅はライカの頭に手を置く。

 

「信じてるぞ」

「……はい!」

 

やっとライカは笑った。

 

「じゃあ俺もう行くからな」

「一毅先輩!」

「ん?」

 

ライカに声をかけられ見る。

 

「次は勝ちますから……絶対に勝ちますから!」

「……ああ、勝てよ!」

 

一毅がサムズアップをするとライカもサムズアップで返す。

 

「今夜は焼き肉だぞ」

「やったぁ!」

 

ライカが飛び上がったのを見てから一毅は集合場所に向かった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二人ともおそーい!」

『悪い悪い』

 

同じく【防弾制服(ヴィローザ)(ネロ)】を着用した理子の文句を聞きながら一毅とキンジは苦笑いする。

 

「ほらほら急ぐわよ」

「キンちゃんカズちゃんはやく」

 

アリアと白雪も二人を引っ張る。

 

「一毅さん、ライカさんは大丈夫ですか?」

 

レキの質問には一毅はニッと笑って答える。

多くの言葉は要らないのだ。

 

「おらぁ!お前ら!さっさと集まらんかい!」

 

蘭豹の怒声に慌てて並ぶと斜を向く。

 

「チーム・バスカービル結成!!!!!!」

 

そうしてパシャっとシャッターが切られ登録が完了した……

 

 

因みに余談だがシャッターが切られる直前白雪がバランス崩して転びアリアを巻き込んだが今度はアリアがキンジを引っ張って更にキンジが一毅を引っ張り一毅が理子の髪を引っ張って最後にレキを抱き込んで全員で転んだ結果登録写真は全員で地面に突っ伏した状態と言う何とも締まりの無いが中々バスカービルらしい写真が撮れたのであった……




やっと終わりました!次回談話挟んでもうひとつ何かやってそれから戦役が始まります。


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談話
対談Ⅴ


咲実「いやはや何とか修学旅行も無事に終わりました……そしていつの間にか総合評価&お気に入り登録が150突破です。感謝感謝です。何時も感想を下さる方や高評価くださった方々やお気に入り登録してくださった人々等々この場で名前を出すのは辞めますがこの作品はそんな多くの方々のお陰で続きました。何度も言いますが、ありがとうございます。そしてこれからもどうかよろしくお願いいたします」

 

一毅「どうした作者……急に汐らしくなって。何か最終回みたいだぞ」

 

キンジ「心配せずとも皆様ちゃんと続きますからね」

 

咲実「いや、一応まずは一段落って感じだと個人的に思うんだよね。次回からは戦役編に入って緋弾とかの秘密にも迫っていくしね」

 

白雪「そして私が正ヒロインに!」

 

アリア&理子「それは絶対にない(わ)(ね)」

 

白雪「ごふ!」

 

レキ「戦役編でリメイク前ではあのオリキャラがでましたがこれでも出すんですか?」

 

咲実「だすよ」

 

レキ「ライカさん気を付けましょう。敵が増えます」

 

ライカ「はい」

 

辰正「でも二人だって敵じゃ……」

 

あかり「シィー!」

 

志乃「次回からは私もあかりちゃんとラブラブで……」

 

咲実「あ、後免。次章は君たち多分出番少なくなるし戦闘シーンないと思う」

 

AA勢『え?』

 

咲実「だ、大丈夫だよ。ほら、次の次からはまた増えてくから」

 

キンジ「まあ少なくなるだけで出ない訳じゃないんだろ?」

 

咲実「まあね。大丈夫だよ、君たちは減るだけでちゃんと出すから」

 

陽菜「ならいいでござるが……」

 

一毅「そういえばナチュラルに参加してるけど風魔って談話初参加じゃね?」

 

陽菜「ニンニン♪知ってるでござるよ。ここに登場するキャラはレギュラー化すると言うのを……」

 

アリア「これ以上会話する人間が増えないのを願うわ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白雪「でも修学旅行ではちゃんと見せ場があってよかったね」

 

理子「そうだね。戦闘シーンは無かったけど」

 

咲実「それはごめんよ。書こうとも思ったんだけどさすがにそこまで書いたら余りにも長くなりすぎるからカットしちゃった。てへ」

 

キンジ「気持ち悪いわ!」

 

咲実「大丈夫。何れ君たちの戦闘シーンも書くからね」

 

アリア「あたしのは?」

咲実「勿論書くよ」

 

キンジ「でも次は無いんだろ?」

 

咲実「寧ろ見せ場一毅とキンジしかないよ」

 

理子「なん……ですと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライカ「そう言えばこの間仰天したんですって?」

 

咲実「そうそう、この間この作品お気に入り登録数が一日で20も増えたんだよ。いつもは投稿した日に多くて3人位だったのに投稿してない日に一気に20人で一瞬我が目を疑ったね」

 

キンジ「まあ嬉しいことだな」

 

咲実「全くだね。本当に感謝しかないよ」

 

一毅「とは言えこれからも頑張んないとな。その人たちの期待の分と今までに登録してくれた人の分まで」

 

咲実「うっす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辰正「そう言えば今回の番外編は書くんですか?」

 

咲実「結論から言おう。無い!」

 

あかり「何故ですか?」

 

咲実「純粋にネタが思い付かなかった。あとどうせだからキャラクター紹介みたいなの書こうかなって思ってる。キャラクターの能力値付きのね」

 

一毅「キンジなんかも上がってんじゃね?」

 

キンジ「まあ……で?この場にいるの全員かくのか?」

 

咲実「とりあえずバスカービルだけかなぁ……何れAA勢も書きたいしその辺は追々って感じかな」

 

アリア「取り合えずキンジと一毅の数値はあり得ない値を示しそうね」

 

キンジと一毅以外『うんうん』

 

キンジ&一毅『え?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「さて、だんだん対談のネタがなくなってきましたが……」

 

キンジ「ならやるなよ」

 

咲実「ここまで来たらやりたくなるって、と言うわけで活動報告の方で質問コーナー作ろうと思うんだ」

 

一毅「なんだそりゃ」

 

咲実「キャラたちへの質問だよ。質問された人がズバッと解決するんだ」

 

志乃「どちらかって言うとそれってお悩み相談コーナーじゃ……」

 

辰正「だよねぇ……」

 

咲実「ま、まあ質問やお悩み相談等々を集めてこの対談での会話のネタにさせてもらえたらなぁと言うわけで作っておきますので皆様良かったらお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライカ「じゃあそろそろだな」

 

咲実「よぅっし!次章からついに始まる緋緋神絡みの大事件の数々……キンジたちはそれに直面したとき乗り越えられるのか!と言うわけでこれからも感想、評価はお待ちしております」

 

全員『では皆さんまた次回!』



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キャラ説
能力図 バスカービル編


独断と偏見で作成しましたのであまり突っ込まないでください。


能力図での評価は、【R(測定不可能)】【S(人外)】【A(一流)】【B(二流)】【C(三流)】【D(苦手)】【E(全然ダメ)】【F(才能なし)】で表される。

 

更に項目が存在し、

 

【腕力】……攻撃力を示す。この値が高いほど攻撃力が高いことを表している。

 

【速さ】……機動力を示す。更にこの値の高さが身のこなしも表している。

 

【頑丈】……読んで字のごとくタフさ表している。特性上一部の人間を除きこの能力が高いほど【速さ】が低くなる傾向がある。

 

【反応速度】……反応してから動き出すまでの速さ。おおよそB以上で弾丸を見切れるくらい。

 

【異能】……超能力や魔法などの力。但し【ヒート】は含まれない。

 

【将来性】……将来的にどれくらい成長するかの度合い。高いほど潜在能力が高いと言うこと。

 

これ等六項目で判断する。但しあくまで目安である。この能力が低い=負けるとは限らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【桐生 一毅】 年齢17歳 性格・善

 

身長 184㎝ 体重88㎏ 血液型O型

 

種族・人間?

 

所属 東京武偵高校 強襲科(アサルト) Sランク

 

二つ名・無し

 

習得スキル・【二天一流】【喧嘩仲裁】【家事全般】【心眼】

 

所持武器・刀三振り 銃一丁

 

【腕力】S【速さ】B+【頑丈】S【反応速度】A【異能】F【将来性】R

 

※但し、ヒート使用時に限り異能以外の全能力がRに上昇する。更に心眼使用時には速さと反応速度がR+へと上がる。

 

 

 

今作の主人公。

実戦剣術、二天一流の継承者で近距離であれば武偵高校でもトップクラス。

能力も異能系統以外は高い数値を誇り、人間としては非常に高い身体能力を誇る。

習得武術である二天一流では一刀流と二刀流と無手が得意だが他の二つが少し苦手である。

 

性格は良くも悪くも裏表がなく一度信じると決めた相手は絶対に疑わない。

更に少しおっちょこちょいな所があったり強面な見た目に反してひょうきんなところもある。

 

喧嘩自体は肯定派だが殺し合い嫌いである。

 

心が広く大概の無茶ぶりや面倒事もやれやれと言いつつもこなす事になると言う苦労人体質。更に面倒事がやって来る性分でありキンジのせいだと本人は思ってるが半分くらいはこの男のせいである。

 

時々大ボケをカマすが(偉人の名前などを間違えたりする)基本的に常識人でツッコミ役でありアリアとキンジの喧嘩仲裁人。バスカービルの調和は彼が握ってるようなものである。ある意味ではチームの生命線。

 

キンジとは自他ともに認める親友であり戦友。物心付いたときからの付き合いで中学時代以降は一緒にいない時の方が少ないほど行動を共にしており阿吽の呼吸で互いの意思疏通を図れる。しかしその為か一部の女子からはオホモダチと呼ばれる。一応彼女がいるのだが……

 

戦闘面では先述通り高い身体能力を用いた剣術を使用し一対一から一対多数まで幅広い戦いかたを行うことができる。更に学術は低いが、戦闘面に於いては冷静な判断を下したりするなど戦闘的な才能は随一である。

しかし戦闘狂の一面があったり感情が振りきれると自我が飛んだりすることもある。

 

唯一特殊能力としてヒートと心眼が存在し、身体能力を引き上げるヒート、更に相手の悪意や攻撃の際に起こる様々な現象を本能的に察知する心眼を使う。

 

先程書いたように勉学は苦手で何時も赤点である。更に本を読むのも苦手で目次で吐き気を催し一頁目で目眩がしてきて二頁目以降は意識が飛ぶほど……ただ興味を持ったことに関しては造詣が深いこともある。

そんなので当たり前であるが英語などの外国語は全く喋れない。

 

本人は気づいていないが、彼も高いカリスマ性があり彼と戦った人間達を不思議と引き付け仲間へと変えていく。だが本人はキンジをリーダーとして立てるときは立てていて上にたつ気は全くない。

 

レキとライカとは恋仲である。

 

 

 

 

 

 

 

【遠山 キンジ】 年齢17歳 性格・善

 

身長170㎝ 体重63㎏ 血液型A型

 

種族・自称人間

 

所属・元強襲科(アサルト)Sランク。現在探偵科(インテスケ)Eランク

 

二つ名・無し

 

習得スキル・【一級フラグ建築士】【高速バタフライナイフ開閉】【ヒステリアモード】【万象の眼】【ヒート】

 

所持武器・拳銃二丁 ナイフ一本

 

【腕力】B-【速さ】C【頑丈】A【反応速度】C【異能】F【将来性】R

 

※但し、ヒステリアモード時には速さと反応速度がSに代わり、万象の眼使用時には反応速度がRに上がる。

 

ご存知緋弾のアリア主人公にして今作では第2の主人公。

普段は素人に毛が生えた程度の能力だが性的に興奮した際にヒステリアモードと呼ばれる状態になると凄まじい戦闘能力を発揮する。と言うか人間をやめる。

 

普段は昼行灯でツッコミ役が多く他人との関わりを避ける傾向にあるが最近はそう言ったものも成りを潜め元来のお人好しさのためか多くの人間から頼られるリーダーの素質を開花させつつある。

 

一毅とは親友で悪友。長い付き合いの彼とはそんな間柄でありアリアとは違った意味で信用置いている。ただし一毅のぶっ飛び言動や行動に振り回されるのもキンジである。ある意味では苦労人。

 

戦闘スタイルは拳銃とナイフの複合武器術と我流の蹴り技使用し特に蹴り技は生まれつき身軽な身体能力を生かしたアクロバティックな技を多く使用する。

この蹴り技だけは一毅ですら真似ができないと言わしめさせるほど高い能力を誇るが、その反面破壊力に関しては低く、手数ならぬ足数でカバーしている。

 

一毅同様ヒートを使えるがレッドヒートのみしか使えない。使用時はアクロバティックな動きに磨きがかかりその速さは常人であれば捉えることが出来なくなる。

 

アリアとはパートナー……本人は言い張っているものの恋心を抱いてるのは周りから丸分かりで気づかれてないと思ってるのは本人だけである。原作より一毅のお陰で距離が近い。

 

 

 

 

【レキ】年齢17歳 性格・善

 

身長150㎝ 体重41㎏ スリーサイズは76-50-73

 

種族・人間

 

所属・東京武偵高校 狙撃科(スナイプ) Sランク

 

二つ名・無し

 

習得スキル・【遠距離狙撃】その他多数

 

所持武器・ドラグノフ狙撃銃

 

【腕力】D【速さ】D【頑丈】E【反応速度】A【異能】?【将来性】A

 

今作では主人公の正ヒロインに昇格した無口無表情無感情の無の三拍子が揃った天才スナイパー。

但し一毅が相手のときは表情が結構豊かで一毅の突っ込みも行う。

 

普段はあまり喋らないが言うときは結構言う毒舌な所がある。

 

2051メートルまでならどんなに小さな的でも当てられるがその反面近距離戦闘は苦手とする。その為近距離は一毅、それをレキが援護すると言う形を取る。

その技術はあらゆるところで発揮され一毅との喧嘩の際には逃げる一毅を延々と遠距離から狙撃してお仕置きする。

 

ウルスと呼ばれる民の出身だが現在は絶縁状態。

 

アリアとは数少ない友達で相談に良く乗っている。

 

一毅とは恋仲で非常にラブラブ。

 

一毅はバスカービル最強ではあるが彼女に全く頭が上がらないため別の意味で最強の女である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【神崎 H アリア】 年齢16歳 性格・善

 

身長142㎝ 体重(穴が開いていて読めない)

スリーサイズ(図った人の血で読めない)

 

種族・人間

 

所属・東京武偵高校 強襲科(アサルト) Sランク。

 

二つ名・双剣双銃(カドラ)

 

習得スキル・【バリツ】【ツンデレ】【外国語】【桃饅早食い】

 

所持武器・拳銃二丁 小太刀二振り

 

【腕力】B+【速さ】B+【頑丈】C【反応速度】B-【異能】?【将来性】A

 

原作の正ヒロイン。

 

性格はツンデレであるが根っこは素直な女の子。

口より先に手が出る狂暴さも持つがそんなところもかわいい女の子である。暴力を受けるキンジはたまったものではないが……

 

戦闘時は高い才能を生かした三次元的な戦いを行う。

 

拳銃に関しては天才的でキンジへの八つ当たりでも遺憾なく発揮される。

 

キンジとはパートナーであり異性としても意識してるが経験が少ないためどうすれば良いか分からず乱暴してしまい自己嫌悪することも……まあこのばあい女心に鈍いキンジが悪い。

 

レキとは親友でキンジに対する相談を持ちかけることがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【星伽 白雪】年齢17歳 性格・善?

 

身長、体重スリーサイズ共に不明。

 

種族・人間

 

所属・東京武偵高校超能力捜査研究科 (SSR)

 

二つ名・無し

 

習得スキル・【星伽候天流】【家事全般】【ブラック化】【占い】

 

所持武器・日本刀 機関銃

 

【腕力】C+【速さ】B-【頑丈】C+【反応速度】C+【異能】A+【将来性】A

 

※但し鬼道術使用時は異能と将来性以外は全能力がB+になる。

 

キンジと一毅の幼馴染み。同時にキンジへ好意を抱いているがその思いが届くことは今のところ無い。

 

性格は普段は後輩の面倒見も良く偏差値75オーバーで生徒会長もこなし文芸部やバレー部や手芸部の部長もしつつもキンジの面倒も同時にみる大和撫子な女の子。

だが一度キレるとブラック白雪(通称・黒雪)となり鬼神のごとく暴れだす。

 

キンジとの間に子供ができたらと妄想しており同時にキンジとの急接近中のアリアには警戒している。

 

戦闘時には超能力と剣術を用いてた白兵戦が主流で封じ布である髪の結びを解くと更にその強さが上がる。

 

前述通りアリアを警戒しているがそれだけではないようで……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【峰 リュパン 理子】年齢17歳 性格・【善】と【悪】の二つを持ち合わせている。

 

身長147㎝ 体重スリーサイズ共に不明。

 

種族・人間

 

所属・東京武偵高校 探偵科(インテスケ) Aランク

 

二つ名・自称 双剣双銃(カドラ)

 

習得スキル・【変装術】【変声術】【髪を操る力】【逃げ足】

 

所持武器・銃二丁 ナイフ二本

 

【腕力】C【速さ】B+【頑丈】B-【反応速度】B【異能】?【将来性】A

 

 

かの有名なルパンの子孫で白雪以外キンジ達にとってはクラスメイト。

 

性格は表向き社交的で人気が男女ともに高く、りこりん教と言う宗教が存在する。ただ裏の部分ではかなり冷酷な部分も持ち合わせている。

 

能力自体は比較的低いが戦闘時には反面相手を罠に嵌めたりしてその能力の低さをカバーしている。

 

キンジへ好意を抱いてる節があるが今だその辺ははっきりしていない。



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第八章 極東戦役 開幕
龍への相談……そして


「じゃあ一毅……これはあんたにだから聞けるんだからね?他言絶対無用よ」

「お、おう」

 

チーム登録から速くも一週間たった日の放課後……一毅とアリアは珍しく二人でリーフパイを片手にベンチに座っていた。

 

「しかしなんだ急に相談なんて。珍しいじゃねえか」

「そうね……でもこれは私だけじゃ判断しきれない難問よ」

 

アリアだけで処理しきれないだと……?そうしたら自分で力になれるのだろうか心配だ。

 

「安心しなさい。あんたじゃなければダメよ」

 

アリアはそんな一毅の心証を読み取って言う。

そこまで言われたら一毅も男だ。腹を括って話を聞こう。

 

「OK……聞こうじゃないか」

「……ええ……」

 

少しアリアは深呼吸した。

 

「あのね……」

「あ、ああ……」

 

ゴクリと唾を飲む。

 

「…………なの?」

「え?」

 

声が小さすぎて聞こえなかった。

 

「わ、悪い。もう少し声大きく」

 

アリアは顔を真っ赤にする。そして……

 

「聞きたいんだけど……」

「ああ」

 

一毅は今度こそ聞き逃さないように身構える。

 

「男にとって性的興奮ってどういう感じなの?」

「俺にしてみたら男にそんなことを聞くお前の頭がどういう感じなのか知りてぇよ」

 

とんでもない爆弾を投下して来た少女を見ながら一毅はコメカミを抑えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?どういう事だ?」

「キンジのヒステリアモードの事なのよ」

 

ああそう言うことかと一毅は納得した。つうかいきなり真面目な顔して性的興奮を聞かれた時は頭のネジが取れたのかと思った。

 

「そ、その……あいつって興奮すると強くなるじゃない?」

「まあな」

「その興奮が性的じゃない?」

「そうだな」

「そ、それで謎なんだけど……男と言うのはその気になれば誰相手にでも興奮するもんなの?」

「…………」

 

難しい質問だ……アリアの心根の考えはわかる。

アリアはキンジは自分に対して多少なりとも好意を抱いているからそう言う感情があるのか……それともただ単にそう言う生き物なのだから興奮するのかを問うているのだ。本人に言ったら多分全力で否定するだろうが……

 

「まあ……男は産ませる性だからな……ぶっちゃけた話見た目が整った相手であればそう言う気が起きないと言う方が少ないと思う。起きなきゃそれこそホモか相手を異性として全く見てないかだ」

 

無論話してみて性格が糞だったらそんな気が削げるが……

 

「そ、そうよね……」

 

アリアが眼に見えて落ち込んだ。少なくとも自分に対して好意がなくても起こるものだと言うことがわかったからだ。

 

「ただ……そう言う興奮が起きやすい相手と言うのは存在する」

「え?」

「キンジのヒステリアモードは俺も聞いただけなんだけどそう言う状況に対して身構えてればある程度までは耐えられるらしいんだ。まあ限度はあるけどな」

「そ、そう」

「ああ、だからなんつうかお前が相手の場合はそう言う身構えが出来る暇すら与えずに成ってる気がする」

 

本当はキンジがアリアに対して好意を抱いてるのは知ってはいるがそれを言うべきじゃない。言うのはキンジでなければならないと思ってる。

 

「そうなの?」

「まあ興奮自体は誰相手でもするけど……少なくともお前相手だと顕著かなっては思う」

 

あくまで自分の想像だよ~みたいなことを言っておく。後は自分で推理して実行してもらおう。

 

「うん……」

 

アリアは照れ臭いような恥ずかしいような色々な感情が混ざったような顔をした。

 

「ふむ……」

 

一毅は腕を組む。もう一歩突っ込んでおかなければダメそうだ。

 

「よしアリア……キンジの心根を一発で知る魔法の言葉を教えてやる」

「わ、私超能力系はやったこと無いしあんた自分でそう言う才能はないって言ってたじゃない」

「キンジに向かって声を出すだけで効果を発揮するものだ」

 

そう言って一毅は少し息を吸うと、

 

「キンジ……私はあなたの事が好き……注意しとくけど異性としてだからね!……これでどうよ」

「……………」

 

アリアの顔がミルミル赤くなっていく。

 

「この異性としてってのが重要だぜ?そうじゃねえとあいつLOVEじゃなくてLikeの好き誤解して……」

「わ!私は別にキンジの事が好きな訳じゃないわ!ああああああいつはパートナー!と言うか聞いたのだって学問的に気になっただけよ!」

 

ハァハァ息を荒あげる……それからリーフパイを乱暴に咀嚼する。

 

「とりあえず落ち着け。俺は他の人間に言い触らさねえから」

 

とは言えアリアがキンジに対して好意を抱いてるのもまた周知の事実……気付いてないのは当人たちくらいだ。

 

「だから違うわよ……」

 

そう言うが語彙に力がない。

 

「別に良いんじゃないの?好きになったって」

 

一毅はリーフパイを口に含む。

 

「誰か好きになるって言うのは結構低い確率だぜ?だってその誰かと出会って好きになるくらい深く付き合うってだけでも神懸った確率なのにそこから好意に発展する」

「…………」

 

アリアは黙って聞いていた。

 

「なら俺はそう言う心は否定するんじゃなくてその人に向けてあげるべきなんじゃないかなぁと思うぞ。せっかく会えたんだからな」

「ライカの好意に気づかなかった癖に言うわね」

「うぐっ」

 

痛いところを突かれた……でも、とアリアは続けた。

 

「……私好きなのよ……キンジが」

 

やっと認めた……

 

「何時からか分かんない。もしかしたら初めてあったときからかもしれないし別の時かもしれない。切っ掛けっぽいのが多すぎてね」

「だろうなぁ」

「どこに惚れたのかしら……女ったらしで昼行灯で顔は……まあ整ってるけど」

「それはお前にしか分からないな」

 

キンジの良いところは知ってる。でもそれがアリアがキンジを好きになった理由かどうかは別だ。

 

「……そうね」

 

アリアはうなずいた。

 

「参考程度に聞かせて。レキってあんたに何て告白したの?」

「狙撃銃を突きつけて【結婚を前提に付き合ってください】だったな」

「………あの子最初はそんな奴だったの?」

 

アリアは少し引いてる。

 

「そうだな」

 

一毅は少し笑いながら言う。

あいつも変わった。恋は人を変えると言うがアリアも変わっていくのだろうな。

 

「じゃあライカは?」

「いきなしキスされた」

「参考になら無いわね」

 

だろうね……と言いそうになったが黙っておく。

と言うかキスどうこうなどアリアたちからしてみれば今更だろう。

 

「少し自分で考えるわ」

「おう」

 

そう言うとアリアはリーフパイを食べきり立ち上がる。

 

「やっぱりあんたに相談して正解だったわ。またね、一毅」

「またな」

 

アリアが走り去ったあとを一毅はみる。

 

「青春……だねぇ」

 

リーフパイを平らげながら言った一毅の爺臭い呟きは誰の耳にも届くことはない……すると、

 

「ん?」

 

電話が鳴った。電話してきた主は調度話題に上ったキンジだ。

 

「よぅ色男(ロメオ)

《はぁ?》

 

電話の向こうから困惑の声が聞こえた。

 

「で?どうしたんだよ」

《少し付き合ってくれないか?》

「わりぃが男色の毛はないぞ?」

《ちっげぇよ!ジャンヌに呼び出されたんだ。出来ればお前も来いってよ》

「俺も?」

 

腕時計を見れば既に六時近く周りも暗くなり出してる。

そんなときに呼び出すとは……

 

「何処に行けば良い?」

 

なにか不穏な物を感じた。

 

《七時に俺たちは飛行機を不時着させた人工埠頭(メガフロート)だと言われてる……》

「じゃあ現地集合でいいな?」

《大丈夫だ》

 

キンジの返答を聞いてから一毅は電話を切る。

 

「仕方ねぇ……いくか……」

 

一毅はキンジに言われた場所に向かって歩き出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今や懐かしき人工埠頭(メガフロート)……既に飛行機は撤去されたが未だにひしゃげた風力発電用のプロペラとかが残ったままだ。

そんな場所にキンジは足を踏み込む。ここに来るのは事件の時に一回……カナに呼び出されて二回……そして今回で三回。今までここでろくな目にあってないため今回も非常に嫌な予感がする。そういえばカナ(兄さん)は元気だろうか……

 

「はぁい♡」

「……………」

 

なんか普通に居た……

 

「おーい!」

 

そこに一毅も来た。

 

「カナぁ!?」

 

一毅も驚愕する。

 

「何で……――っ!」

 

一毅は周りを見直す。ここまで接近して……その気配は突然現れた……キンジもカナに驚いていたため遅れてたが気づく。

この場には人種を越えて様々なものがいた。

 

明らかにシスターと思われる服装で背中に一毅の断神(たちがみ)のような剣を背中に背負った女。

 

逆卍……つまり示すのは大戦時のナチスの残党と思われる服装で眼帯の女の子。

 

銀灰色の髪を後ろで一つに結んで狙撃銃を携える何処かで見た覚えがあるような顔立ちの少女。

 

中性的な顔立ちと身長の性別は……男かもしれないし女かも知れないような人間。

 

背丈は平均だが肩幅が広く相当鍛えてるのがわかる上に腰に一振りの刀を携えた剣士。

 

線は細く恐らく軍師系と思われるが何かそれだけではないように思える中華服の男。

 

黒い傘に黒いゴシックロリータの服で金髪美少女。

 

変なゴーグルを付けて派手な服を着た男。

 

エジプトの古い服……と言うかあれはパトラだ。

 

全身に機械の装甲をつけた女の子までいる。

 

それどころか良く見れば明らかに鬼の角と思われる物が生えた女の子だとか狐耳の和服の女の子とか……人種処か種族も越えて大集合……

 

「一体何だこれは……」

 

キンジと一毅の体を嫌な汗が包む。

 

「滾るのは良いがまだ仕掛けるんじゃないぞ」

『っ!』

 

二人は振り返る。そこには先程まで全然違う方向に居た狐耳をした和服の女の子が二人の背中に居た……

 

「ふむ……これが今代の遠山か……ふむ、面差しが残っている」

 

そう言うと今度は一毅を見た。

 

「お主が桐生か?」

「あ、ああ……」

「お主にも一馬之助の面影があるの……まあ武の方は影すら踏めておらんようじゃが」

「え?」

 

一毅がどういう事か聞こうとしたところに突然照明が点く。

 

「それでは始めよう」

 

現れたのはジャンヌ……ジャンヌは荘厳な口調で言う。

 

「我らが前に進むために……新たな時代の幕開けのために……ここが世界の中心となる」

 

一毅とキンジは唾を飲んだ。

何が起きるのか全くこれっぽっちも分からないが分かることはある……

 

―――新たな争乱の幕開けだ―――



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龍と開戦

「まず初顔の者もいるので序言しておこう。かつて我々には諸国の闇に自分達を秘しつつ、各々の武術・知略を伝承し、求める物を巡り、奪い合って来た……イ・ウーの隆盛と共にその争いは休止されたがイ・ウーの崩壊と共に、今また、砲火を開こうとしている」

 

キンジと一毅は冷や汗をぬぐう。

今から何が始まるのか分からないが少なくとも忘れようにも忘れない名前……イ・ウー……この名が出ると言うことはただ事ではない。

すると、

 

「皆さん。忌まわしき戦乱の時に戻らない方法は無いでしょうか」

 

声を出したのは法衣に身を包んだきれいな女性。恐らくシスターだろう。泣きぼくろが可愛らしいそのシスターには不釣り合いな大剣背負った女性は言う。

 

「バチカンはイ・ウーを必要悪として来ました。誰もがイ・ウー敵に廻す事を畏れ、結果的に休戦し、平和が保たれてきました。これからもその平和を保ちたいと思いませんか?」

 

成程バチカンか……シスターの聖地だ。等と一毅は考えると、

 

「良く言うぜこの偽善者は……」

 

そこに水を指したのは眼帯をつけてカラスを肩に乗せた十四才くらいの少女……

 

「おめえこの間うちの使い魔襲っただろうがよ。何が休戦だよ。お腹がチョチョ切れるぜ」

「黙りなさいこのウジ虫」

(……ん?)

 

先程の優しげな雰囲気と打って変わって汚ならしい言葉……

 

「貴方達魔女は別です。害虫を駆除するのに何の躊躇いがありましょうか。と言うか生かす理由がありませんよね?聖書のどこにありますか?」

 

何かこの豹変ぶりどっかで見たことあるなぁキンジと一毅は現実逃避した。誰とは言うまい。黒髪の巫女さんで二人の幼馴染みだ。それ以上聞くんじゃない。

 

「けけけ!おもしれぇ!やるのかオラァ!」

「良いでしょう!積年の恨み晴らしてやります!」

 

一気に臨戦態勢……

 

「やめなさいよぅ」

 

それを止めたのはゴシックロリータ服の金髪少女……一瞬スカートから見えたが吸血鬼・ブラドと同じ模様の刺青……まさか縁者だろうか……しかし止めると言うことは比較的常識人かと思いきや……

 

「こいつには首を跳ねられた恨みがあるわ。だから私も混ぜなさい」

「おう良いぜ!」

「ふふ、良いでしょう!二人まとめてかかってきなさい!」

 

所がどっこい寧ろ戦ってやるぜ状態……おとなしく話し合いも出来んのかこの場にいるやつらは……血の気多すぎだろと一毅の頬がひきつる。

 

「ですがメーヤさん」

 

そこに口を挟んだのは中華服の男……軍師と思われるタイプの立ち振舞いだが何となくそれだけではない気がした。

 

「既にそれは不可能でしょう。それが出来るようなら最初からそうしています。この場の全員がそれぞれぶつかり合えば唯で済まないことは重々承知しているのですからね」

 

笑みが張り付いたような顔で男が言うとジャンヌも頷く。

 

「私もそう思う。だがイ・ウーが滅んだときからこうなることはわかっていた」

 

では……とジャンヌは続けた。

 

「古の時から続く約定に基づき三つの協定を結ぶ」

 

ジャンヌが掲げたのは三つ……

 

一、戦いは何時如何なるときでも許される。例え飯を食べていようが寝ていようが遊んでいようが学んでいようが女を抱いていようが許される……よって不意討ち、闇討ち、密偵、奇術、挑発とあらゆる手段が許される。

 

一、際限無き死を無くすために数だけの雑兵は禁止とし、代表戦士のみとする。これは先述の約定より優先される。

 

一、戦いは主に【師団(ディーン)】と【眷属(グレナダ)】に別れて行う。これは歴戦の戦士を敬うため永代改めないものとする。ただし、戦況の上で【無所属(フリー)】は認められる。

 

「以上だ……」

 

ジャンヌは一息着いた。

言い方は回りくどかったが中身は単純だ。一毅でもすぐに理解できた。

ようは代表戦士間であればどのような手で戦っても良いと言うことだ。

 

「続いて連盟の宣言だが、私たちイ・ウー研鑚派(ダイオ)は【師団(ディーン)】だ。更にバチカンは【師団(ディーン)】、カツェ達魔女連隊及びヒルダとパトラはは【眷属(グレナダ)】で間違いないな?」

 

呼ばれた面々は頷く。

 

「では藍幇は諸葛 静幻名に置いて【眷属(グレナダ)】を表明させていただきましょう」

 

諸葛 静幻と名乗った中華服の男は笑みを顔に張り付けたまま言う。

三国志の子孫ばっかの藍幇で諸葛と名乗ると言うことは諸葛 孔明の子孫だろうか……

そう一毅が考えていると次に腰に刀を帯刀した男が一歩前に出る。

 

「吉岡一門は【師団(ディーン)】への参加を吉岡(よしおか) 清寡(せいか)の名に置いて表明しよう」

 

一毅が知ってるか?キンジに聞くが首を横に降られた。

 

「LOO……」

 

機械少女は先程からLOOしか言っていないため全員が黙殺せざるを得なかった。

 

「眷属……なる!」

 

そう言って元気に宣言したのは子供……だがその額には角がある。人間じゃないだろう。

 

「リバティーメイソンは【無所属(フリー)】とするよ」

 

男か女かわからない中性的な人物はそう宣言した。

 

「カナはどうするのぢゃ?」

 

パトラは聞きながらも必死に眷属(グレナダ)になれ~と念を送っている。

 

「同じ夜に私達はそれぞれ夢を見たが、そのどちらにも意味が隠されていた……そうね、【無所属(フリー)】とさせて貰うわ」

 

何かの言葉を暗唱したカナはリバティーメイソンとか言うところと同じ立場らしい。パトラがガックシと肩を落とした。

 

「では玉藻は?」

 

ゴスロリ少女が一毅とキンジの足元にいる幼女に聞く。全員がその動向を気にしてるところを考えると意外と大物なのだろうか……

 

「今回は思うところがあるんでの。【師団(ディーン)】じゃ」

 

玉藻と呼ばれた狐耳の幼女はそういった。

 

「ではGサード……お前は?」

 

ジャンヌは派手な服の男に聞く。

 

「はん!興味ねえなぁ」

 

そう言ってGサードと呼ばれた男は背を向ける。

 

「このままでは【無所属(フリー)】だが良いのか?」

「かまいやしねえよ。俺がここに来たのは強そうなやつらが集まりそうだったのと……」

「?」

 

キンジと目が合う。と言うかキンジを見ていたのだ。

 

「少し顔を見てみたい奴がいただけだ。好きなように殺り合ってろよ」

 

そう言い残すとGサードの体がジジ……と音を発てると消えた……科学迷彩と言うやつだろう。

 

「次に……」

 

ジャンヌはプロペラの上に居た銀灰色の髪の狙撃銃を肩に担いだ少女に声を掛けようと向く。

だがその直前に一瞬一毅の方を向いて気遣うのような顔をした。

 

「?」

 

一毅が疑問符を浮かべたがジャンヌは続けた。

 

「ウルスは……どうする」

「っ!」

 

一毅は驚愕した。更に血も冷たくなった。あの少女はウルスの関係者……と言うことだったらしい。どうりでさっきから睨まれるわけだと納得した。

 

「ウルスの代理大使として宣言するわ。今だ戦況がはっきりしないし、まだ【無所属(フリー)】とするわ」

 

そう言って一瞬一毅を一瞥した後瞳を閉じた。

 

「じゃあ最後にチームバスカービルはどうする遠山」

「…………」

 

キンジの頭がスゥっと冷えて冷静になっていく。

 

「言っておくが拒否権は「分かってる」…そ、そうか」

 

無論こんな場からさっさと去りたいと思うしこんな意味の良くわからない戦いに巻き込まれたくないと言う気持ちは無いとは言わない。だがイ・ウーの壊滅には自分が関わっているのは事実であり否定しようもない。別段否定する気もないが……この場から逃げ出せる状況じゃないのはわかる。

 

「フフ……決まってるじゃない。遠山……貴方は我が父のブラドの敵……であれば【師団(ディーン)】よ」

 

あの少女はブラドの娘だったのか……等とキンジは思いつつも拳を握る。

 

「良いぜ、自分の父親の仇と共同戦線なんざ張りにくいだろうからな。チームバスカービルは【師団(ディーン)】だ。リーダーの遠山 金次の名に置いて宣言する!」

一応建前みたいに言ったが一応同じ武偵高校のジャンヌがいて更に結構大物と思われる玉藻もいる。

そう考えれば師団(ディーン)の方がキンジにとって戦いやすいと思われたからだ。

 

「ではこれより解散して……」

「もういいんじゃないかしら」

 

ゴスロリ少女が口を開く。

 

「血を見なかった開戦は無かったと言うしねぇ」

「なっ!」

 

次の瞬間降り注ぐ雷光……

 

『っ!』

 

全員が身構えた。

 

「ケケケ!良いぜそっちの方がおもしれぇ!」

 

そういったカツェが手を振るうと水が集まっていき……

 

「良いなぁ島国ってのは……あたしの武器が幾らでも集まる!!!!」

 

次の瞬間水礫……様々なものを穿ち貫き殺到する。

 

「ちぃ!」

 

ジャンヌがキンジと一毅の前に現れると地面に剣を刺し氷が壁となる。

 

「一旦撤退だ!」

 

キンジと一毅はその指示を聞くと撤退しようと背を向ける。

 

「くひひ!あーそーぼ!」

『っ!』

 

身の丈を遥かに凌駕した戦斧を木切れ見たいにブン回しながら角を生やした幼女が来る。

 

「くっ!」

 

一毅は刀を抜いて応戦……だが、

 

「っ!」

 

一毅を軽々と吹っ飛ばし今度はキンジを狙う。

 

(一毅を軽くってどういう腕力してんだこいつは!)

 

キンジは横凪ぎをとっさに伏せて躱す。

 

「おぉ!」

 

悪いと思いながらもキンジは伏せたまま蹴りを放つ……が、

 

「っ!」

 

キンジの蹴りが完全に決まったのにも関わらず鬼の少女はにっこり笑ったまま微動だにしない。

 

「キャハ!」

「っ!」

 

キンジに戦斧が迫る……だが次の瞬間銃声と共に逸れた。

 

「何やってんのよキンジ!」

「アリア!?」

 

ガバメント両手にボートからアリアは跳躍し戦いの場に乱入……

 

「何でお前が居るんだよ」

「晴れてんのに急に雷なんか落ちるからレキが怪しんで調べたのよ。そしたらあんた達がヤバイじゃない」

 

クルクルアリアは銃をしまう。

 

「とにかくやばそうね。さっさと逃げるわよ」

「ああ、おい一毅起きろ」

「ん……ああ」

 

一毅はまだ少し頭が揺れているようだがなんとか立ち上がる。

 

「っ!アリア!!!!後ろだ!」

 

一毅は叫ぶ。

 

「え?」

 

突然アリアの背後にゴスロリ少女が現れる。

 

「飛んで火に入る夏の虫……だったかしら?」

 

そう呟いた次の瞬間アリアの首に噛みつく。

 

『っ!』

 

驚きも束の間アリアの体から緋色の閃光……

 

「てんめぇ!」

 

キンジはそれをものともせずに跳躍……飛び蹴りを叩き込もうとしたがそれより前にアリアから離れる。

アリアは意識がなくキンジは追撃よりもアリアを支えることを優先した。

 

「ふふ……美しいわ」

 

ゴスロリ少女の手には宝石のようなものがある。

 

「まさか……」

 

玉藻が驚愕する。

 

「アハハハハハ!素晴らしいわ!第一形態(プリモ)で取れたわ!」

 

一頻り笑うとゴスロリ少女がその宝石を投げた。

 

「独り占めは良くないわよね」

『っ!』

 

バラバラに投げられた宝石は瞬時に玉藻、メーヤ、静幻、鬼の少女、カツェ、パトラがキャッチする。

 

「あらあら、少し検討違いの奴にも渡ったけどまあいいわ……丁度良いし貴方達にがっ!」

 

ゴスロリ少女の頭を撃ち抜かれる。射手はレキだ。だが案の定すぐさま修復される。

 

「良いわ……今回はここまでにしましょう」

 

そう言い残すとゴスロリ少女は影に溶け込んで消えた。

 

「ふむ、想像以上の収益ですね。すぐに解析しましょう」

「こいつは良いぜ。あばよメーヤ!!!!」

「ふむ、ここは引いておくか」

「キャハ!」

 

鬼の少女が宝石を飲み込むとそれを合図とばかりに眷属(グレナダ)を表明した面子は全員逃走を開始。

 

「寄せ追うな!」

 

メーヤとジャンヌは追おうとしたが玉藻の声で止まる……

 

「慌てるな遠山侍……アリアはまだ大丈夫じゃ」

「どういうことだよ……」

「ちゃんと話す……とにかくどこか雨露を凌げる場所に案内せい……それからじゃ」

 

キンジはアリアを抱きかけたまま玉藻を見ていた……



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龍とくじ引き

『…………』

 

誰も口を開かなかった。キンジに至っては背中に背負ったアリアの漏らす呼吸だけがアリアの生存を教えてくれている気がしていた。

 

「あ、その前に少し寄る場所があるので先にいっていてください」

 

ふらついた足でメーヤが行こうとするので、

 

「俺も行く。先に行ってくれ」

「あら良いんですよ?」

「そんなフラフラで置いて行けませんて……」

 

一毅はメーヤに付き合って道を変えた。

 

「……遠山侍……そんな死にそうな顔をするでない。今はまだ大丈夫じゃといっておるだろう」

「ああ……」

 

レキが撃たれたときの一毅の気持ちが今になって少し分かるような気がした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのメーヤさん?」

「メーヤで結構ですよ?あまり年下には見えませんし」

 

確かに一毅は背が高いし上背もあるし比較的老け顔だが……

 

「じゃあメーヤ……どう見ても酒だよな?これって」

 

ちなみに一毅とメーヤは現在コンビニにて並んで買い物中である。

因みに一見すさまじい美女に付き従う野獣に見えなくもなく他の男から羨望処か呪詛を送られてる感じがあるがすぐに霧散する。どちらも背中に大剣背負ってるしメーヤが買おうとしてる酒の量……バーボンやらウォッカに飽きたらず焼酎、ワイン、ビールに果実酒と度数の強いものから弱いものまで何でもござれ……

 

「はい、本来は禁止されていますが例外で許されています」

「いや、そこじゃなくて……」

「あ、ついでに私酔わない体質なんです」

「そこでもなくて……」

「せっかく日本に来たんですし日本酒も買いましょう」

「体壊すぞ……」

 

一毅が至極真っ当な突っ込みを入れた。

 

「大丈夫ですよ。超能力や魔法を使うものは使用後に大量に何かを接種しなければなりません。私はお酒なんです」

「へぇ~」

 

そりゃ初耳だ。もしかしてその明らかに重たい剣を背負える辺りはその辺の力が働いてるのかもしれない。

 

「暴飲の罪をお許しください主よ……」

 

暴飲とそういうレベルかなぁと内心一毅は突っ込むが黙っておく。

 

「こ、此方ですか?」

 

店員のひきつった笑みは当分忘れられそうにない……

 

 

 

さて買い物を済ませて外に出る。

 

「あ、お持ちしますよ。私の買い物ですから」

「良いよ別に。これくらいなら男が持つ範囲だ」

「……ふふ」

 

メーヤが笑ったため一毅が眉を寄せる。

 

「何がおかしい」

「いえ、私を女扱いする人は居ないものですから」

「む?」

 

確かにそんな大剣背中に背負った女は珍しいかもだが……

 

「どう見ても女だろう?」

「まぁ」

 

メーヤは少し頬を染めると笑う。

 

「ダメですよ。彼女さんがいらっしゃるのに」

「?」

 

一毅には良くわからなかった。なので話題を変えることにした。

 

「それ振れるのか?」

「はい」

 

そう言って抜いてピュンピュン振り回す……って!

 

「抜いて見せんでいいから!」

「そうですか?」

 

周りの人間も怪訝な目で見てるがメーヤが美人で一見線が細い女性のためかコスプレと思ったらしい。

後さっきは戦闘とかで気づかなかったがメーヤってトンでもなくスタイルがいい。比較的ユッタリとした服であるローブを着ているのに関わらずバインバインと良く揺れる……レキは勿論ライカだって目じゃない位だ。

 

(良かった……俺にヒステリアモードがなくって……)

「どうかしました?」

「イヤナンデモ……」

 

一毅とメーヤは帰路を急いだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

二人がキンジの部屋に着くと丁度玉藻がアリアに何かやって終わったところだった。

 

「桃饅ツリー……」

 

涎を滴ながら寝言を呟くアリア……それを見てやっとキンジも緊張を解いた……

 

「さて水飴はないかの」

 

玉藻は当然のように冷蔵庫を開けて理子のプリンを出すと、

 

「匙……匙はと」

 

当然のように食べ始めた、

 

「おい……」

 

キンジの突っ込みもようやく復活して玉藻をにらむ。

 

「そう急かすな。儂も疲れたんじゃ。少し暗い甘いもんを食べさせぃ。相変わらずせっかちじゃのう遠山侍は」

「俺の先祖を知ってるのか?」

「数代前の遠山侍、星伽巫女、桐生と少しな。まさか今代もその代の再臨になっていたのには驚いたがな」

『あんた一体幾つだよ……』

 

一毅とキンジがボヤくと、

 

「今年で803……って女に年を聞くんじゃない!」

『いでぇ!』

 

バチコーンっと玉藻にぶっ叩かれた。

 

「そう言えば俺の初代も知っていたみたいだけど?」

 

頭を抑えながら一毅が聞く。

 

「あやつが祇園に流れ着いた頃から知っとるわい。あいつと来たら普段は飲んだ暮れとるか煙管吹かしてるかなのにいざというときは便りになるやつじゃった。長いこといろんな男を見てきたが儂ら神格の位に届かんとしたやつはあやつくらいじゃろう」

「そんなに凄かったのか?」

 

一毅が聞くと玉藻は鼻を鳴らした。

 

「少なくとも今ではお主と遠山侍とメーヤが纏めて掛かっても一人10秒持てば奇跡じゃ」

『…………』

 

一毅とキンジはポカーンとしてメーヤ持っていた酒を落としそうになっていた。

 

「まああの時代の奴はそんなのばっかりじゃ。勝負の重さが今とは比べ物にならん。今でも生きるか死ぬかの決着等とほざくものが居るがあの時代はそんなもの言わずとも当たり前の世の中じゃったからの。まあ一馬之介はその中でも隔絶した強さであれと渡り合えたのは殆ど居ない。全くと言う訳じゃないがな」

 

玉藻がプリンを食べ終わると丁度ドアが空いた。

 

「レキ?」

「怪我は……無さそうですね」

 

レキは次にアリアを見る。

 

「安心せい璃巫女よ……アリアは無事じゃ」

「璃巫女?」

「私のことです。一毅さん」

 

レキが手をあげた。

 

「お主らは知らんのか?まあ遠山も桐生も廃れつつあるからの」

 

玉藻は少し目を細める。

 

「世界には三つの色金がある。お主らも知ってる緋緋色金……ウルスが保有する璃璃色金……何処にあるかはわからんが存在する瑠璃色金……それを守護し管理する者を巫女と呼ぶんじゃよ」

「じゃあ緋緋色金のは緋巫女……ん?」

 

一毅が首をかしげる。確かその名前って白雪の……

 

「その辺は追々な……」

 

あからさまにはぐらかして来た。

 

「ともかく今のアリアは一時的に危機を脱したが傍観できるものではない」

「直ぐに殻金を取り戻さなければ……ですね」

 

クピクピお酒を飲むメーヤが言うと玉藻がうなずく。

 

「結局あれはなんだったんだ?」

「抑え弁みたいなものじゃよ。昔の星伽が作った殻じゃ……知らんじゃろうから教えておくが色金の力を使えるようになることを【法結び】と言う。これは問題ないんじゃが大質量の色金を長期間保有し続けるとその先……【心結び】と呼ばれる状態になる」

「なるとどうなるんだ?」

「緋緋神……戦と恋を愛する神になる」

「緋緋……」

「神?」

 

キンジと一毅はアリアを見る。

 

「そうなったらおしまいじゃ。殺せ」

『っ!』

 

キンジと一毅の顔が強張る。

 

「じゃが殻金を取り戻せれば大丈夫じゃ。すべてで七枚。儂とメーヤが二つ揃えたため残り五枚……それを取り返せれば大丈夫じゃ」

「……緋緋神ってのはヤバイのか?」

 

一毅が聞くと玉藻は目を伏せる。

 

「昔居った……帝を拐かし戦を起こさせ遠山、星伽、桐生に討ち取られたのじゃ」

『…………』

 

するとレキが口を開いた。

 

「アリアさんは何時までモツんですか?」

 

聞きにくいこと……ではあるが聞かなければならないことだ。

 

「2、3年じゃろうな。山勘じゃが直ぐと言うことはないだろう」

「どちらにせよ……」

 

キンジは口を開く。

 

眷属(グレナダ)とは戦うんだろ?目的が一つ増えるだけだ。問題ねえ」

「だな」

 

キンジの言葉に一毅はうなずく。

 

「何じゃ今代の遠山と桐生は随分好戦的じゃのう……」

 

玉藻は少し驚いたような顔をしていた……

 

 

 

 

 

 

「おいレキ」

「?」

 

部屋を出ると一毅はレキに声をかける。

メーヤは酒を補給し終えるとカツェを追ってドイツへ、玉藻は鬼払結界(きばらいけっかい)師団(しだん)の人間以外入れなくさせる結界らしい)を張るためにどこかへ消えてキンジはアリアの看護をしている。

 

「何があったんだ?」

「何のことです?」

「誤魔化すな」

『…………』

 

語意が強くなる。珍しく一毅はレキに対して怒った口調だ……

 

「お前の口調が少ないのは何時もの事だ。でもお前は心ここに在らずじゃないか……さっきの狙撃だって明らかにアリアの救出までの行動が遅かったしさっきか何か思い悩んでるんじゃないか?」

「…………」

 

レキは手すりの方を向く。

 

「……今回ウルスの代理大使として来ていた少女を覚えていますか?」

「ああ」

「彼女は……私の妹です」

「え?妹!?」

 

何か似たような雰囲気を何処かで見たような気がしたがそうかレキか一毅は納得する。そりゃ見たことあるはずだ。いっつも顔を会わせてるのだから……

 

「流石に揺れましたね……いきなり自分の妹が居たときは驚きました……」

「……」

「我ながら人間臭くなったものです」

「そうだな……でもいいんじゃないか?」

「良くないですよ……私が不甲斐なかったかぷ!」

 

一毅はレキを黙って抱き締めた。

 

「そうだな。もしかしたらアリアは殻金奪われなかったかもしんないけどIFの話ししたって世話ないぜ?奪われたら奪い返せばいい。今度はしっかりやればいいだろ?あんまり自分責めんな。彼女の失敗の後始末くらい幾らだって手伝ってやるくらいの甲斐性はあるんだぜ?」

 

一毅はレキを優しく撫でる。

 

「さ、帰るぞ」

 

と言っても隣の部屋だけどな。と笑うとレキも笑う。

そうして二人は自室に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

キンジは微睡みから朝日で目を覚ます。

 

「あ……わわ……」

 

目を開けると目の前でアリアが手鏡で自分の首筋を見ている。

 

「こ、こここの……」

「あ、アリアさん?」

 

キンジは恐る恐るアリアを見る。

 

「なんちゅう事してくれてんのよエロキンジィイイイイイイイイ!!!!」

「ええ!?」

 

首筋に唇の形をした赤い鬱血を着けたアリアの右ストレートが決まる。

 

「ぶべぇ!」

 

キンジがゴロゴロと酒の瓶をひっくり返しながら転がる。

 

「いっつぅ……」

 

キンジは素早くアリアのブチキレた理由を推理する。

 

首に唇の形をした鬱血……周りには散乱した酒の瓶……

 

「酒に酔わせて昨日の記憶がないけど流石に分かるわよ!」

 

こっちもアリアがどんな勘違いをやらかしたか分かった。

 

「ま、待てアリぶば!!!!」

 

まあ推理できたからと言ってアリアに事情を説明できるわけなくキンジはアリアが冷静になるまでボコボコにされたのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言ってアリアには昨夜の記憶がなかった。そのトホホと言うか本当にシャーロック・ホームズの曾孫か心配になる記憶力だった。

 

「しっかし今朝もすごいですね」

「今朝も?」

 

レキの一言にアリアは眉を寄せた。

 

「毎朝と言うか何時もじゃねえか」

「あんたたち喧嘩売ってるのね?」

 

一毅とレキをアリアがにらむがどこ吹く風だ。

さて、現在バスカービルの面々は体育館にいる。

何故なら今度文化祭をやるのだ。しかも一毅のクラスを含めいくつかの暮らす合同で変装食堂(リストランケ・マスケ)……言わばコスプレ喫茶なのだがこれでは変装技術も評価される。つまりガチでやらねば先生からフルボッコなのだが何の変装するかはくじ引きで決める……

 

「では白雪お姉さま」

「う、うん」

 

白雪は手伝いで回っている志乃の持つ箱からくじを引く。

当たり外れが大きいこのくじは緊張の瞬間……

 

「先生(小学校から高校まで任意)」

 

比較的当たりだ。次に理子、

 

「ガンマン?やるやる!」

 

楽しそうだなぁ~っと一毅は理子を見る。次にレキ……

 

「化学者?良いですね」

 

一応一回までなら引き直しが認められているがここまではバスカービルが順調……すると入れ替わりで今度は陽菜が来た。

志乃の紙がなくなったのだろう。

 

「ささ、師匠どうぞ」

「ああ」

 

キンジは抜く……そこには、

 

「銀河鉄道999?」

 

鉄郎か?車掌か?と続きを見ると、

 

「に出てくるメーテル……出来るか!引き直しだ!」

 

キンジは紙を投げ捨てる。まさか色物の一つである女装を引くとは……理子なんか笑っている。

それを尻目に引くと……

 

「警察官(警視庁・巡査)……まあ良いか」

 

キンジはホッとしながらアリアと変わる。

 

「行くわよ……!」

 

シュバっとアリアはくじを引く……そこには、

 

「アイドル?」

『ぷふぅ!』

 

バスカービルの面々は愚か周りの人間や陽菜まで吹き出しかけた。

 

「ア、アイドルってあれよね?テレビの前で歌ってる……そうよねキンジ?」

「あ、ああ……ププ」

 

でもアリアは……

 

「そうだなアリア……お前はあれだよ。【KONNANじゃない!】とか歌えば似合うんじゃないか?」

「似合うと言うか声は同じ……ぷぷ!」

 

理子は意味不明な事を呟いて笑うのを抑えている。

 

「ええいチェンジよチェンジ!」

 

アリアは引き直す……そして、

 

「小学生(8歳)……」

『ぶは!』

 

遂に全員の笑いを抑える臨界点が限界を迎えた。

 

「に、似合いすぎ!!!!プギャー!」

「うぉら!」

 

ぶちギレたアリアは理子にローキックをかます。

 

「お、落ち着けアリア!」

「キンジ逃げるなぁああああああ!!!!」

 

無論今度は変更を認められないのはアリアも重々承知であるためキンジへの八つ当たりへ移行する。他の皆もキンジへアリアの怒りが向いていれば安全なのを知っているため喜んでキンジを生け贄に捧げた。

 

「あ、一毅先輩」

「おおライカ」

 

一毅はライカの持っていた箱に手をいれる。

 

「ええと……新撰組隊士(三番隊組長)……」

 

多分……当たりだろう……だが自分が新撰組の格好……刀は自前であるが……似合うとは思うが多分客が逃げるだろう。ただでさえおっかない顔なのだ。

 

「チェンジだ」

 

一毅は手を入れ直す。

外れはキンジが先ほど引いたばかりだ。そう引くこともあるまい……そう思っていた。

 

「何々?……………【伝説の極道】?」

 

何か巨大な力が働いたような気がした……



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龍達の準備

夜間の教室……星空が見守るその下で複数の男女が時に賑やかに……時に沈黙の中で作業を続ける。その場は一種の聖域……不遜なるものが入ろうとすれば間違いなく成敗されるだろう……だが扉が開かれる。その扉を開け入る男の特徴……オールバック一歩前位にまで上げられた髪……深紅のワインレッドシャツを上のボタン二つまで外し襟をたてる……極めつけにグレーのスーツを着用し靴は蛇柄エナメル靴……それを見た者たちは思う。ただ者じゃない!

 

「や、ヤクザだぁあああああ!」

「武偵高校に殴り込みに来たぞ!!!!」

「何しに来やがった!」

「け、警察……もしくは武偵を呼んで!」

「任せろ……って武偵は俺たちだ!」

 

皆揃って好き勝手言う。

 

「おい!俺だよ!桐生 一毅だよ!!!!!!!!」

 

伝説の極道に扮した一毅の怒りの声が響いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前似合いすぎだろ……」

 

警視庁巡査の格好に扮したキンジが苦笑いする。

 

「喧嘩売ってるのか?」

「別にいいけど逮捕すんぞ」

「ロリコン巡査か……色々ヤバイな」

「ぜってぇ逮捕したる!」

 

極道と警察が喧嘩する……なんか変な絵面である。

 

「ダメだよ二人とも」

「いいんだよ白雪。ちょうどいいから使い込んだ感じ出すのに少しヨレヨレにしないといけないんだからな!」

「俺にもちょうどいいんだよ!」

 

ボカスカボカスカボカスカ……と殴り会うこと5分……

 

「……………」

「俺に喧嘩で勝つには100億光年早いぜ」

「バカ……光年は距離だ……」

「あ……」

 

キンジは頬を押さえながら立ち上がる。最近すっかり体の頑丈さと復帰までの速さが羽根上がったキンジである…… その内心臓止まっても復活するんじゃないだろうか……流石にないな……ないよな?

 

「で?小学校の先生か?」

「うん」

 

白雪は白のワイシャツに黒のタイトスカートとストッキング……うむ、何かR18指定が掛かりそうな絵である。

 

「ふへへ…色々ダメだよ遠山くん……鍵閉めないとね……」

『?』

 

何かトリップしてるがそっとしておこう。

 

「なあ白雪……」

 

キンジがそっぽ向いてる間に一毅がそっと近づく。

 

「小学校の時の……もっと詳しく言うと小学一年生くらいの時のキンジの写真あるんだけど買う?」

「買います!幾らなのカズちゃん!金に射止めはつけないよ!」

「一枚白雪ならいくら払う?まさか安くはないだろ?キンジへの愛が」

「い、一枚5000円……」

「縁がなかったな。白雪」

「10000円!!!」

「がっかりだぜ」

「12000円!!!!」

「その程度か?」

「15000円!」

「毎度あうぉ!」

「てんめぇ!」

 

キンジの飛び蹴りを慌てて躱す。

 

「何をする!」

「お前こそなにしてんだ!」

 

人のショタ写真を幼馴染みに売ってボッタくろうとする幼馴染みにキンジはぶちギレていた。

 

「別にいいじゃん。正当な取引だ」

「どこがじゃ!」

 

キンジの怒りのドロップキックを一毅は掴んで投げ飛ばす。

 

「ちっ!」

 

キンジは空中で体制を戻して着地すると睨み会う……そこに、

 

「喧嘩は外でしてください。迷惑になりますよ」

『レキ?』

 

研究者の格好をしたレキがポケットから薬を出す。

 

「あまり騒ぐと薬漬けにして実験材料にしますよ?この薬の効果は一年の某毒の使い手の女の子から頂いたため信用できる品です」

『こえぇよ!!!!!!!!』

 

一毅とキンジは同じタイミングで突っ込む。無表情だからか余計にこわい。と言うかその薬の調合人は間違いなく最近あかり達とつるんでいる夾竹桃だ。

 

「バキューン!」

 

そこに理子が登場。ちゃんと銃も古い物だし服もあのギザギザみたいな奴がついている。殆んどがCVRからの借り物の中で自作なのだから恐れ見る。

 

「似合う?」

 

理子の問いに一毅とキンジは素直に頷く。理子はこういう服が着なれてるし物怖じしない。

 

「キー君もカズッチも似合ってるよ~」

「そりゃどうも」

「あんま嬉しくねぇな」

 

キンジと一毅それぞれの反応に理子が笑うと、

 

「遠山くん!」

「ん?その声平賀さあぁあああ!」

「どうしたキンいいいいいいい!」

 

キンジと一毅は飛び上がる程びびった。後ろにはなんとケバケバしい化粧をした合法ロリ……平賀 文である。

 

「遠山くんに頼まれていたグローブができたので持ってきましたのだ!」

「あ、ああ」

 

キンジが受けとる。

 

「名前はオロチ!大事にして欲しいですのだ」

 

キンジはオープンフィンガーグローブと呼ばれるグローブをひとつ受けとる。

 

「ん?もうひとつお願いした筈なんだが」

「少し遅れてますのだ。でももうすぐ完成するから待って欲しいですのだ」

「分かったよ」

 

キンジはポケットにしまう。

 

「お前まさか銃弾逸らし(アレ)を通常技にする気か?」

「まあ……使う事態になりたくはないけどな」

 

両手を#の形にして銃弾をそらす荒業……一毅もやろうと思わない。

 

「そのうちお前銃弾を止めそうだな」

「出来るか」

 

すると、

 

「う~……」

 

廊下から唸り声が聞こえる?

 

「あ、そう言えばアリアも着てたんだ。おーい!」

 

理子が廊下に出ると……

 

「やめなさい理子!!!!!!!!風穴よ!」

「良いではないか~」

 

引っ張り出されたのはアリア……ブラウスにスカートと赤いランドセル……ぷぶ!

 

「く……えん!あ、アリアも出来たんだな」

 

キンジは爆笑を咳で誤魔化す。

 

「はいアリアちゃん自己紹介しましょうね~」

 

白雪も口角が上がりそうなのを表情筋で抑えながら言う。

 

「そうだよぉアリアちゃん」

「理子ぉ……あんたそれ言いたいだけでしょう」

 

一毅も星が綺麗だなぁみたいな感じで空を見上げているが顔のにやけが止まらない。

クラスの中でも笑いを押さえる雰囲気の中でも唯一変わらないのがレキ……ブレないな。

 

「お名前と年は何ですか?」

 

レキが聞く。ちなみに服を着て一時間はそのキャラになりきらねばならない。

 

「か、神崎ぃ!アリア……はははははは8歳ですぅ!!!!!!!!」

 

遂にクラスの笑いを抑える門が瓦解し笑い声と共にガバメントの銃声が夜空に吸い込まれていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

何時もの防弾制服に戻った一毅とレキは帰路を歩く。

 

「いや~服の都合上弾がマガジン一本分しかなかったのは良かったな」

「と言うかあそこにアリアさん引っ張り出した理子さんはいつのまにか消えましたしねぇ」

「確か誰だかが知り合いが呼んでるとかで理子を引っ張っていったぞ」

「ほぅ」

 

理子の知り合い……どんなやつだろうか。

あんな性格だったら嫌だなぁ……

 

「それにしても皆さん楽しそうですね」

「まあな」

 

ああいう雰囲気は不思議と人の気分を高揚させる。

 

「そう言えば今回の裁判でアリアさんのお母さんは恐らく無罪となるでしょうし……アリアさんとこういった行事をできるのはもう無いんでしょうね……」

「こっちに住めばいいのにな」

「そう言うわけにも行かないでしょう。向こうの武偵庁が手放すとは思えません」

「んのわりに雑に扱ってたみたいだけどな」

 

アリアの功績を自分達の功績にしたりとかな……

 

「ん?」

 

すると一毅とレキの目の前に後ろに一本に縛った銀灰色の髪を揺らし狙撃銃・H&K(ヘッケラー&コッホ) PSG1を持った少女……

 

「久し振り。お姉ちゃん」

「……ええ、ロキ」

「へぇ、ロキって言うのか」

 

多分……レキの下だからロキって言うんだろうが安直な付け方だ。もし姉がレキにいたらルキ、リキ、ラキと上がっていくのだろうか……

 

「俺先帰ってようか?」

 

久々に姉妹水入らずで話したいこともあるだろうと一毅は気を効かそうとする。

 

「必要ないよ。私はあんたに用があるんだ」

「え?」

 

一毅はポカンとするとロキは一毅を指差す。

 

「何れ……私はあんたを殺す」

「どう言う事ですか?ロキ」

 

ロキの言葉を聞いてレキが殺気を滲ませた。

 

「言ったまんまだよお姉ちゃん……この男はお姉ちゃんを不幸にする……事実お姉ちゃんは弱くなったよ……ウルスを出る前はもっと凄かった……こいつがお姉ちゃんを弱くしたのなら……私は桐生 一毅を殺す」

「っ!」

 

レキがドラグノフを向けようと銃を抜こうとする……

 

「やめろレキ」

 

だがそれを一毅は制した。

 

「俺は構わない。俺が気に入らないなら来ればいい……ただウルスは無所属なんじゃないのか?」

「これは極東戦役(FEW)とは関係ないよ。言うならばウルスの問題」

「そうか。で?まさか今やるのか?」

「今はしない」

 

そう言うとロキは背を向けた。

 

「バイバイ」

 

手を振ってロキは去る。

 

「恨まれてんなぁ俺……」

「すいません……妹が」

 

一毅はレキの頭に手を置くとグシャグシャと撫でる。

 

「あいつの考えは分かるから良いよ」

「え?」

 

レキの疑問を無視して一毅は歩き出す。

 

「どう言う事ですか?」

「秘密だ」

 

レキの疑問に一毅は曖昧に笑ってゴマしていた……



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龍と転校生

カンカンカン……と木が打ち鳴らされる音がする。

 

「神崎 かなえを……懲役500年の刑に処する」

『っ……』

 

全員が自らの耳を疑った。同時に怒りが沸き上がる……

 

「ふざけんじゃないわよ……」

 

今日はアリアの母親、神崎 かなえさんの裁判であった。

今まで捕まえたイ・ウーの人間は理子、ジャンヌ、ブラド、更にあかりたちが捕まえた夾竹桃……今回の証人にだってブラド以外は全員証言させられた……だが……現実はこれだ。

 

(何でだよ……)

 

一毅は自分の歯が軋むのを感じる。

自分は頭が良い方だとは思っていない。寧ろ悪い方だ。だがそれでも検事達の言い分は絶対に筋が通ってないし無茶苦茶だ……なのに証拠不十分で理子達の分しか減刑されなかった。

じゃあ逐一イ・ウーの構成員捕まえて全員に証言させなきゃいけないと言うのか?無理だ。一体何年かかると思っているのだ。

 

「こんなの不当よ!」

『アリア!』

 

キンジと一毅は今にも飛び掛かりそうなアリアを止める。

 

「離して!」

「まだ最高裁がある!心象悪くしたいのか!」

 

キンジに怒鳴られビクッとアリアは身を竦ませる。

 

「いいのよアリア」

「ママ?」

 

アリアはかなえさんを見る。

 

「こうなる事は分かっていたわ……遠山さん」

「え?」

「アリアがここまでやってくれるとは思わなかった。娘をありがとう。そしてこれからもお願いね」

 

そういい残しかなえさんは連れていかれた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………』

 

一毅、キンジ、レキ、アリア、理子、あかり、辰正、ライカ、志乃、陽菜……そして、

 

「気に入らないわね」

 

あかりたちが捕まえて司法取引と言う形で証言させた夾竹桃は呟く。誰も反応しないが……

特に先頭を歩くアリアは隣を歩くキンジの袖をずっと掴んだまま肩を震わせている。

泣いているのか……怒りか……はたまたその両方か……後ろを歩く一毅たちには分からないが少なくとも落ち着いた状態ではない。

 

「やっぱり気に入らないわ」

「何が?夾竹桃ちゃん」

 

辰正が夾竹桃に反応する。

 

「先程から車が一台も通らないわ」

「偶々じゃない?」

「あらじゃあ辰正……信号機が止まっているのも偶然?」

『っ!』

 

遂に全員が反応する。

 

「ようやく気づいた?」

「どう言うこ――っ!」

 

轟く雷鳴……街頭の上に立つゴスロリの少女に全員が注目した。

 

「貴方は……ヒルダ」

「久し振りねぇ……夾竹桃」

「あ……あ……」

 

ヒルダと夾竹桃に呼ばれた女は呆然とする理子を見る。

 

「久し振り。理子」

 

フワッと理子の前に着地するヒルダ。

 

「良いわねぇ理子。元気そうじゃない」

「ヒ……ルダ!」

「いやねぇそんな目を向けないで」

 

ヒルダは理子の頬に触れる。

 

「お父様はいないわ。だから貴女をもう虐めない。大切に扱ってあげる」

「シャア!」

 

キンジの後ろ回し蹴りが迫る。

半ばとっさに出したがヒルダは危険だ。

 

「無粋な男ね」

 

だがヒルダはそれを影に入って躱すと理子の背後に回って耳にコウモリのイヤリングをつける。

 

「友情の証よ」

「この!」

 

そこにライカが間合いを詰めて拳を振り上げる。

 

「邪魔よ」

 

バチィ!っとライカの体に電撃が走る。

 

「はぐっ!」

「ライカァ!!!!!!!!」

 

元々今回の判決でフラストレーションが溜まっていた一毅は一気に怒りの臨界点が突破する。

 

「っ!」

 

一毅は刀を抜くと疾走し……

 

「ちっ!」

 

ヒルダの電撃が一毅を襲う。

 

「痛いんだよ!」

 

だが一毅は喰らいながらも斬撃を叩き込む。

 

「くぅ!」

 

ヒルダは後ろに飛んで距離をとる。傷は勿論直ぐ様修復された。やはり魔臓壊さないと物理的なダメージはない。

 

「時々いるのよねぇ……痛みに鈍感なむさ苦しい猿……と言うかゴリラ」

「ああ!?」

 

メチャクチャ失礼な言い方に一毅のコメカミに青筋が走る。

 

「まあいいわ、ここは一つ派手に……「そこまでだ」は?」

 

一毅たちも声の方向を見る。

そこには銃と剣……武偵風に言うなら一剣一銃(ガン・エッジ)の構え……それを見た瞬間ヒルダは顔をしかめる。

 

「臭い……銀のにおいね」

「ああ、由緒正しい純銀だ」

「お前は……」

 

キンジは思い出す。確か開幕の時に無所属を表明していた中性的な顔の人間。服装を見る限り小柄な男か?

 

「誰?」

 

あかりの呟きにそいつはこちらを見てくる。

 

「僕はエル・ワトソン。J・H・ワトソンの曾孫だ」

『なっ!』

 

J・H・ワトソン……シャーロック・ホームズの相棒(パートナー)……元軍医でシャーロックとは幾つもの難解且つ奇怪な事件を解決してきた男だ。そいつの子孫もいたのかと一毅が思っているとワトソンはヒルダを見直し……核爆弾級の爆弾を落としてきた。

 

「ヒルダ。ここは引いた方がいいんじゃないか?まあやると言うなら僕はパートナーであるアリアを……いや、婚約者であるアリアを守るために君と戦う」

『………………………はい?』

 

その場の全員が唖然とした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はじめまして、エル・ワトソンです」

『キャー♪』

 

次の日……ごく普通にワトソン転校してきた。

昨日は結果としてヒルダはあっさりと撤退し(あっさりしすぎて怪しい)帰路についたが実際のところキンジとアリアが微妙にギスギスしていた。と言うか衝撃が走って亀裂ができてしまったと言うべきか……

無論二人が意識しあっているのは周知の事実で二人も最近は少しずつ距離も縮まってきたところと言う一番のデリケートな時期に婚約()()動 である。

特にアリアなんか顕著で昨日はキンジの部屋に帰らなかったらしい。

バスカービルと言うチームとしてはこの二人が喧嘩と言うのは非常に問題だし何より鑑賞物件が消えるのは残念きわまりない。何より何だかんだでお似合いの二人なのだからくっついてほしいとも思う。

 

「ねえ何科にはいるの?」

「他の武偵学校で強襲科(アサルト)探偵科(インテスケ)を修学したからこの学校では救護科(メディカ)をやるつもりだよ」

『キャー♪』

 

何を言ってもキャー♪である。

 

「ふぅ……」

 

女子にキャーキャー言われるワトソンを尻目に一毅は隣の席のキンジを見る。

キンジは敢えてアリアの方を見ていない。

それからこの間の席替えで何の因果か一毅のキンジとは反対側の席に座るアリアを見る。

こっちもキンジを見ていない。

 

(い、胃に穴が開きそうだ……)

 

一毅は二人に挟まれながら胃がキリキリ言うのを我慢して机に突っ伏す。

 

(まあ……キンジがどう言う風に結論出すかが気になるけど……)

 

一毅はキンジを見る。付き合い長い一毅だからわかる微妙な雰囲気……

 

(そうだよなぁ。大丈夫だろ?リーダー)

 

一毅はそう思いながらギスギス空気から逃げるように眠りの世界に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

その日の昼休み……

午後からそれぞれの学科で授業なので強襲科(アサルト)の学科練に行くためアリアは校舎を出る……本当はキンジと話しておきたい……だが中々機会と言うか踏ん切りと言うか……等と考えていると目の前に自転車が止まった。

視界をあげていくと見覚えがある。

四月の事件で木っ端微塵にされた自転車をつい最近買い直し金欠だと嘆いていた……

 

「キンジ……」

「乗れよ、送るから」

 

キンジは後ろの荷台を指す。

 

「う、うん」

 

なぜキンジがこんな誘いをしてきたのかわかったアリアは素直にスタンドの辺りに足を掛けて乗る。

 

「行くぞ」

 

キンジは自転車を発進させる。

蹴りを得意とし無茶苦茶な蹴りも繰り出すキンジの足腰は自転車を漕がせれば結構早い。更に最近新技製作のため馬歩站椿で部屋の中を闊歩して(最初見たときはキンジの頭がイカれたのかと思った)更に鍛えておりこの間理子のイタズラ体当たりをジャンプで文字通り飛び越えて避けると言う事までやっている。

 

「キンジ……」

「あのなアリア」

 

アリアの言葉をかき消すようにキンジは言う。

 

「一応一晩考えて……んでもって授業中にまで考えた。んで思うんだけど俺はお前のパートナーだろ?なら別にワトソンのことは案外どうでも良い……お前が俺とどうしても解消してあいつと組みたいんだったら話変わるけどその辺どうなんだ?」

「そんなわけ無いでしょ……」

「なら別に良い。俺はお前のパートナーでお前の俺のパートナー……それだけ決定してれば別に良いじゃねえか。いや、多分俺の分からないところで貴族同士色々あるんだろうけどさ……お前くらいだろ?ヒステリアモードのトリガー知ってもパートナーでいてくれる奴なんてさ」

「キンジ……」

「あいつが婚約者だろうがお前のパートナー自称しようが興味ない……って訳じゃないがお前が何か気にする必要も俺が気にすることもないだろ。今日からちゃんと俺の部屋に帰ってこいよ。昨日桃饅買っておいたのにお前が帰ってこないからこのままだと冷蔵庫の肥やしになるぞ」

「うん……キャ!」

 

そこに段差をガタン!っと落ちた際に揺れてアリアはキンジにガッチリだきつく。

 

『っ!』

 

二人はブワッと顔が赤くなった。

 

「……しっかり……捕まってろ……」

「う……ん……」

 

その後強襲科(アサルト)練につくまでアリアはキンジの首に手を回したままだったのは秘密だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【と言うわけでして特に問題なく仲直り……と言うか喧嘩らしい喧嘩しなかったので仲直りとも言えませんがね】

【でもアリア先輩強襲科練に来たときそれはもうご機嫌でしたよ】

「そりゃ良かったな」

 

複数人同時会話可能なビデオ電話でレキ、ライカ、一毅の三人は談話していた。本当は一毅も強襲科練にいく予定が途中で担任の高天原 ゆとりに捕まって荷物運びの手伝いをさせられ顔を出せなかった。是非とも見たかった。

 

「どちらにせよ取り合えずチーム組んだ直後に解散騒動にならなくて済みそうで良かった良かった」

【では仕事があるのでこれで失礼します。今夜はなんですか?】

「もう秋も深まったし栗ご飯と秋刀魚にするか」

【良いですね。楽しみにしときます】

 

そう言って電話を切る。

 

「さて、スーパーのタイムセールが終わる前に行くか……」

「やあ桐生」

 

そこにワトソンが来た。

 

「ん?おおワトソン」

 

ワトソンはアリアや理子やレキほどでないにせよ小柄だ。近くで話すと首を結構曲げなくてはいけないため辛い。

 

「授業は良いのか?」

「君こそ強襲科(アサルト)に顔を出さなくて良いのかい?」

「他は知らないがうちの強襲科(アサルト)は滅多に授業やらねえよ。顔出さんでも怒られることはないしな。放任主義といえば聞こえは良いが担当が面倒臭がるんだよ」

 

いつも酒呑んで寝てやがるしよく教職をクビにならないものだ。

 

「ふぅん……」

 

ワトソンは一毅の頭から足の先まで見る。

 

「ゴミでも着いていたか?」

「いや、凄いね君は……こうやって自然体なのに隙がない。【行住坐臥常に戦場】ってやつかい?」

「そんな大それたもんじゃねえよ。誰かと話すときは不意打ち喰らわねえように注意してるってことさ」

「遠回しに僕の敵だって言いたいのかい?」

「別に」

 

一毅とワトソンの視線が交差する。

 

「中々根回しがうまいようだな。さっそく寄付やったりしてるみたいじゃないか」

「対したもんじゃないよ。自分の学舎だ。壊れてたら直したくなるものだろ?」

 

喰えない奴だと一毅は思った。

 

「そうそう、今夜パーティをやるんだ。君も来ないか?レキと一年のライカ?だったっけ?その子達も呼んで良い」

「キンジは来るのか?」

「呼んでいないから来ないだろう」

「じゃあ良いや。パーティは嫌いじゃないが今夜はもう決まっててね」

「随分仲が良いんだな。ホモなのかい?」

「んなわけあるか!」

 

失礼な奴だな。

 

「まあ良いさ、別に無理にとは言わないよ。じゃあね」

「ああ最後にワトソン」

「ん?」

 

一度背を向けたワトソンが一毅を見る。

 

「余計なお世話だと思うがお前はアリアの婚約者だ……でも諦めた方がいいぜ」

「貴族の約定だよ。違えられないさ」

「それ以前の問題だろ」

「……どう言う意味だい?」

「別に。アリアにはもうキンジがいるんだ。諦めろって」

「なら二人を引き離すさ」

 

二人の間の空気が張り詰める。一触即発とはこの事かと言う雰囲気だ。

 

「……まあ良いさ。だけど忘れるなよ?あんまり無茶なやり方するとキンジに風穴開けられるぜ?」

「肝に命じておこう……」

 

その言葉を聞くと一毅が背を向けた。

 

「ま、キンジが本気出せるか分からねえけどな」

「それは僕を舐めてるからと言うことかい?」

「理由はお前の胸にでも聞け。自分が一番要因を分かってるんじゃないのか?」

「っ!」

 

ワトソンの表情は強張り自分の手を胸に寄せる。

 

「じゃあまた明日」

「……くっ!」

 

ワトソンは一毅が見えなくなったあと壁を蹴り飛ばしそうになったが寸でのところで我慢した。修理費をまた払わなくてはいけなくなる。



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龍達の平穏

次の日……ワトソンはキンジにたいして喧嘩を売るようになった。

例えば金欠のキンジはコッペパンを一つで済ましていたところにステーキ持ってきて食べたり、体育の時間のバレーでスパイクを後ろを向いていたキンジに向かって事故に見せかけながら放ったり……まあ、バレーは咄嗟にキンジがボールを蹴り返して逆にワトソンの顔面に炸裂させたが……

と言うわけで完全にキンジとワトソンは水面下で激戦……と言うかワトソンが仕掛けてきてキンジがあしらってる感じだが……

 

「そんなに仲が悪いんですか?」

「まあ相当な」

 

一毅はライカの問いに答える。他にもレキ、更にあかり、辰正、志乃、陽菜に夾竹桃と武偵高校近くのカフェを占領している。

 

「ふむ、師匠に対するそのような暴挙……許せぬでござる。ここは一つ風魔一族秘伝の毒でワトソン殿には藻掻き苦しませながらポックリ逝って貰うでござるよ」

「秘伝の毒?まさか符丁毒じゃない毒じゃないでしょうね。ならば教えなさい。ワトソンと言うやつで実演して良いから私に見せなさい。私の知らない毒があるのは許せないわ」

「すとーっぷ!」

 

慌てて陽菜と夾竹桃の暴挙を辰正が止めた。

 

「それ確実に9条に引っ掛かるよ!」

「証拠は残さぬから安心召されよ谷田殿」

「別に毒の効果を見るだけよ」

「そこが一番の問題と言うか寧ろ武偵としてそれどうなの?」

 

そんなことを呟きながら肩を落とす辰正を一毅は同情を込めた目で見る。

 

「でも遠山先輩と神崎先輩特に問題無さそうですよね?」

「そうですね。取り合えず二人なりに決着つけたという感じでしょう」

「…………」

(ああ、嫉妬でほっぺ膨らませるあかりちゃん可愛い……)

 

志乃はレキと会話しながらも隠しカメラであかりの写真を撮る。

 

「でもワトソン先輩って結構良い噂聞きますよ?」

「うまく取り入ってるからな。顔良いし一見性格も良好で頭も良い。自分のファンがあっちに流れたってジャンヌが怒ってたし……」

「アハハ……」

 

確かにジャンヌも同姓にモテる奴なので結構周りに女子が多かったのだが最近減った気はしていたがそういう理由だったのか……とライカは納得しつつ、

 

「そう言えば理子先輩見ないんですけど休みですか?」

「ああ、何か一昨日ヒルダに会ってから来ないんだよ」

 

一毅は理子を思い浮かべる。

ブラドの娘とくれば理子とは因縁浅はか成らぬ相手だろう。いや、因縁どころか理子の怯えかたをみたらトラウマといっても過言じゃないだろう。

 

「んでよ夾竹桃。どうなんだ?」

「何が?」

「理子とヒルダの関係」

 

一毅の問いに夾竹桃は顎に手を添える。

 

「ヒルダが……と言うかブラドも含めてイ・ウーに来たのは理子が15の時よ。その時には理子も既にイ・ウー人間であったのだけど今でもブラド達を見たときの怯えかたは覚えてるわ」

 

プハァーっと煙管から煙を夾竹桃は吐き出す。 未成年だろお前とか色々突っ込みたいところはあったが黙っておこう。

 

「結果的にイ・ウーに所属したのはブラドだけだったけどその直後に理子は潜水艦から去ってこの武偵高校に入学して帰らなくなった。思えば普段の楽天的な部分は根底にある恐怖を考えないようにするための一種の事故防衛なのでしょうね」

『……………』

「気を付けておきなさい桐生 一毅。ヒルダが来てワトソンが来てタイミングが怪しいでしょ?何か裏があると考えて良いと思うわ」

「え?じゃあワトソン先輩って実は」

「そこまでは言わないわ間宮 あかり。ただ警戒はしておきなさいって言うことよ。少なくともチームバスカービルでは貴方が最強なのよ?いざと言うとき敵に向かって一番最初に斬りかかれる覚悟はしといた方がいいでしょ?」

「ま、そうだな」

 

一毅は頷く……そして、

 

「でもな夾竹桃……」

「え?」

 

一毅は握り拳で夾竹桃の頭を挟む……

 

「先輩には敬語使わんかい!」

「イーダダダダダダダ!!!!!」

 

グリグリと頭を締め上げられ夾竹桃は悲鳴をあげた。

 

「ちょ!この!離しないたたたた!!!」

「いって!付け爪で引っ掻くな!ぬお!何か体が痺れてきたような……」

「残念だったわねぇ。プロレスラーも倒す痺れ薬よ!」

「てめぇなんつう毒仕込んでやがんだ……」

 

ギャイギャイ一毅と夾竹桃は喧嘩する。

 

「平和ですねぇ」

「ほんとですね」

 

他の皆はそんな光景をBGMにケーキを食べ進めた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

キンジは銃の整備を終えると息をつく。ベレッタもデザートイーグルも改造銃のため暇潰しには良い。

白雪は合宿だし一毅たちは何処か行ってるしアリアは用事があると言ってた。

 

「腹へったな……」

 

何か下のコンビニで買うかと立ち上がると、

 

「ヤッホー!キー君」

 

ごく自然に当たり前のように理子が入ってきた。

 

「ようサボり女」

 

キンジが言うと理子がテヘっとベロを出す。

 

「まあまあ。理子はキー君やカズッチと違って成績は優秀なので少しサボったって大丈夫だもんね~」

 

そうなのだ……こいつは座学の成績も結構良い……腹が立つが仕方ないだろう。

 

「で?どうしたんだ?」

「はいキー君」

 

理子はキンジにコンビニ弁当を渡す。

 

「今カップルサービスしてるんだって~。だから彼氏のキー君にあげる」

「……」

 

彼氏……と言う下りは否定させてもらいたいがここで理子の機嫌を損ねると弁当がなくなる。

 

「ありがとな」

 

キンジはソファに座り直すと理子が弁当ごと一緒にキンジにくっついてきた。

 

(う……)

 

理子の体から甘いミルクの香り……アリアと良い白雪と良い理子と良い何で女って良い匂いさせるのだろう……

 

「はいキー君」

「あ、ああ」

 

理子から弁当を受け取ると開けて割り箸を割る。

 

「ま、可もなく不可もなく……平常通りだな」

「雪ちゃんとかカズッチみたいなのを望んじゃダメだよ~」

だからなんで態々理子(こいつ)はくっついてくるんだろうか……良い匂いも撒き散らすし出来れば辞めて貰いたい……

 

「どうしたのキー君」

「ナンデモナイ……」

 

だが指摘してもやぶ蛇にしかならない気がするため無言で少し離れる。

 

「くふ……」

 

なのに来やがった……

いつも理子はこうやってくっついてくるが今日は何時にも増して激しい気がする。

 

「……で?何か用か?」

「何かって一緒にご飯食べたいだけだよ~」

「おい……」

 

キンジの目が細まる。

 

「……いまヒスってないよね?」

「当たり前だ。でもお前との付き合いは昨日今日じゃない。それにお前が休んだのは昨日からでヒルダってやつが絡んでるのは丸分かりだ」

「…………ねぇキー君……」

 

理子が撓垂れ掛ってきた。

 

「胸借りて良い?」

「え?」

 

理子は返事を聞く前にキンジの胸に顔を埋める。

 

「理子は昔ブラドに監禁されていたことだ……その時にさ……ヒルダは……あいつは……」

 

理子の肩と声が震える……

 

「理子……」

「やっと自由になったと思ったのに……なのに……!」

「理子!」

 

理子はハッとしてキンジの顔を見る。

 

「大丈夫だから……何かあったら俺や一毅にアリアだっているだろ?」

「……………」

「何かあったら守るから」

「キー君……」

「と言うわけでそろそろ離れろ……そろそろヤバイ」

 

ヒス的な意味で……

 

「……くふふ……やだよー!」

「ちょ!お前!」

 

理子は髪の毛を使ってキンジを縛り上げると……

 

「……と言うわけで……キー君をいただきま~「させるわけないでしょ!」ふげぇ!」

 

そこにアリアがドアをぶち破り乱入して理子をドロップキックで吹っ飛ばした。

 

「あんたねぇ!少し汐らしいから許してやれば調子乗るんじゃないわよ!」

「ちっ!良いとこだったのに」

「あ!?」

 

アリアと理子の間にバチバチ火花が散る。

 

「やっぱりあんたとは決着着けなきゃいけないみたいね」

「くふふ~良いの?理子が勝っちゃうよ?」

 

二人は銃を二丁抜く……

 

「…………はぁ」

 

キンジはよかった反面これから起こる惨劇を想像すると頭がいたくなる。

 

「片付けもお前らがちゃんとやれよ……」

 

キンジはベランダにある防弾倉庫に入ると次の瞬間銃声が響き渡る。

 

(平和だなぁ~)

 

キンジはこんな状況も慣れてしまった自分に涙しつつ自分の世界に入っていった……



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龍と狙撃主

筆が乗ったので連投です。


「んでさぁ……この間は夾竹桃のお陰でヒデェ目にあったぜ」

「そりゃご愁傷さまだな」

 

一毅とキンジは二人並んで帰る。

早くもワトソンが転校してきてから一週間……その間も喧嘩を売られてはいるがキンジはよく我慢している。

とは言えキンジの堪忍袋も既にメルトダウン寸前の原発みたいな状況でいつ切れてもおかしくない。一重にキンジが切れないのは相手にしても仕方ないだろうと言う面があるからだ。

 

「しかしどうなんだ?ワトソンは」

「対岸から木でツンツン突かれてる気分だ。男ならドン!っとくればやり易いのにあいつは女か!!!!!」

「はは……」

 

一毅は苦笑いした。ストレスの溜まり具合が絶好調である。

 

「あいつに隕石でも直撃しねえかな」

「そしたら大惨事でワトソンファンが宇宙に文句言いにいくぞ」

「言っても聞く相手がいないぞ……」

キンジは一毅の返しに呆れながら肩を竦める。

とは言え一毅には感謝だ。一毅のお陰でここ最近孤立ぎみなのも緩和されてる。

まあ今日は任務で居ないがレキとライカや一年生たちとつるむようになってるためワトソンが武藤達を懐柔してキンジを孤立させようとしてもボッチにならないのが現状だ。

まあ困ったところと言えば平賀さんが懐柔されてオロチの左手が遅れてることである。

 

「ん?」

 

キンジの電話が鳴る。

 

「モシモシ?」

【どうも遠山さん。中空知です】

「ああ、どうしたんだ?」

 

何度か仕事でオペレーターをしてもらった中空知からの電話だ。

 

【ジャンヌさんにお願いされていたワトソンさんについての情報をお伝えします】

「何でジャンヌじゃないんだ?」

 

キンジは携帯をスピーカーにしながら聞く。

 

【ジャンヌさんは服をゲフン!……少々事情がありますので……】

「そ、そうか……で?」

【はい】

 

中空知が言うジャンヌからの情報によるとワトソンはリバティーメイソンと言うイギリスの秘密結社の構成員で【西洋忍者(ヴェーン)】【全身武器(プレンティ)】の二つ名を持つとのこと……表向きは綺麗な経歴だが裏では結構汚い仕事もこなした経験があるとの噂もあるらしい。

 

「そうか……」

「ふぇ~案外危ないやつなのか?」

 

キンジと一毅は感心すると、

 

【そう言えば現在ワトソンさんはアリアさんとカフェに居られるようですが会話を聞きますか?】

「聞けるのか?」

【はい】

 

中空知が繋げる。

 

【アリア……それで結婚のことだが……】

【だから言ったでしょ……私にはまだ早い。それにママの事もあるのよ?】

【だけどアリア。僕と婚約すれば君もリバティーメイソンの一員になれる……そうすれば君のママの事も助けられる】

【っ!】

「っ!」

 

アリアの動揺とキンジの同様が重なった。

 

「落ち着けキンジ……」

「分かってる……」

 

携帯を握りつぶしそうなキンジを一毅が抑える。

 

【せめて……婚約だけでも……駄目かい?それとも好きな奴でもいるのかい?】

【それは……】

 

アリアは動揺したような声だ。

 

【でも……あれ?……………………】

「ん?」

 

急にアリアが静かになった。どうしたんだろうか……

 

【アリアさんは意識を喪失した模様……恐らく薬です】

「っ!」

 

キンジの体の芯が熱くなる……

 

「ワト……ソン………」

 

キンジは自分は比較的忍耐が強い方だと思っている。

まあ沸点が-を指すアリアや白から黒への切り替わりがタキオン粒子も追い越す白雪とか短気な部分がある一毅と比べた場合だがそれでも比較的忍耐強い……だからワトソンの嫌がらせも流してきたしそのうち飽きるだろうと見逃してきた……だが、

 

【行き先はスカイツリーのようです】

 

中空知がワトソンとアリアの行き先を告げる。

 

「あいつは……」

「え?」

 

キンジはそこまで聞くと携帯を握りつぶした。

 

「おぅ……」

 

一毅は驚愕で目を真ん丸にしながら握りつぶされてグシャグシャになった携帯を見る。

だがキンジにとってどうでも良いことだった。今のキンジはワトソンへの怒りしかない。ワトソンをぶっ飛ばすことしか考えられない。

 

「よほどあいつは……俺を怒らせたいようだなぁ!」

 

キンジの目が据わる……成っている……ヒステリアモード……

しかも派生系の野獣のようなヒステリアモード……女を奪う力攻撃一辺になる代わりに力が通常の1.7倍になるヒステリア・ベルゼ……

 

「スカイツリーにいく……アリアを奪い返す」

「はは……了解キンジ(リーダー)

 

キンジと一毅は走り出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は徒歩しかない。本来なら何か乗り物がほしいが今回は残念ながらワトソンが乗り物を軒並み抑えてあった。

用意周到と言うか恐らく前々から準備していたのだろう。

それが余計にキンジの怒りの鍋に油を注いでいく。

更に本当は龍桜を持っていきたいが寮の部屋だ。今はそれを取りに行く時間も惜しかった。

 

「あと二百メートルだ!」

 

キンジはグングン行く。

 

『っ!』

 

突然地面に穴が開き、二人は止まる。

そして銃を構えながら現れた。

 

「ロキ……」

「確か開幕の時に……知り合いだったのか?」

「レキの妹だ。んで、俺を殺したいらしい」

 

一毅は腰から殺神(さつがみ)を抜くと正眼の構えを取る。

 

「ここは任せて先に行けキンジ。こいつは俺も獲物だ」

「……多分だけど半分一度言ってみたかった台詞なだけだろ?」

「まあな。でも時間はないんだ。行けよ」

「……ああ、任せたぞ」

 

キンジは回り込むように走り去る。

 

「てっきりキンジ狙うかと思ったぞ」

「私がエル・ワトソンから受けた依頼は桐生 一毅の足止めだけだから……たまたま貴方と戦いたかった私と利害が一致しただけ……でも……」

 

ロキはスカイツリーを見る。

 

「薬はやりすぎだと思う。でも一応依頼主だしこう言っておく」

 

ロキはH&K(ヘッケラー&コッホ) PSG1を一毅に向ける……

 

「遠山 キンジ追いたければ……私を倒していけ」

「そうか!」

 

一毅は走り出す……

 

「おぉ!」

 

一毅は刀を振り上げる。

 

「っ!」

 

それを迎撃するように銃を向ける。

 

「チェイ!」

 

一毅はそれを弾くが既に二発目が発射……

 

「くぅ!」

 

一毅は躱すが弾いた一発目が跳弾し、一毅の脇腹に決まる。

 

「いっつ……!」

「っ!」

 

更に2、3と一毅の胴体に銃弾を打ち込む。

 

「いってぇ!」

「っ!」

 

更に銃弾が一毅を狙う。

 

「うぉ!」

 

一毅は体を捻って躱す。今度は跳弾は来なかった。

こう言うときに心眼を自在に使えれば良いが思い通りにはなかなか行かない。

 

「流石だなぁ……レキほどじゃねえけど天才的な狙撃だ」

 

一毅は笑うと再度間合いを詰めに掛かる。

 

「ウォオオオオオ!」

 

一毅は飛んできた銃弾を今度は全て斬る……だが、

 

「っ!」

 

刃が当たった瞬間閃光……これは武偵弾の閃光弾(フラッシュ)……

 

「ぐぉ……」

 

一毅は目を抑えるが視角は封じられた……絶好の攻め時……だが、

 

「馬鹿にしてる……」

 

ロキは銃口を下に向けた。

 

「え?」

「こんなもんじゃないはず……何でふざけて戦う!!!!!」

「……………」

 

一毅は一時的に見えなくなった目を瞑って頭を掻く。

意外と聡い……まあ良いだろう。

 

「そりゃやっぱお前はレキの妹だ……でも一番の理由はあれだ。お前だって俺のこと殺す気ないだろ?」

「っ!」

 

一毅は見えないがロキは目を見開いていた。

 

「だってさ、最初の一発目だって不意打ちできたのにしないし狙撃主の癖して俺の前に出てきて正々堂々だし……何より銃弾が絶対に俺の防弾制服に当たるように撃ってる」

「………たまたま」

「違う。偶然胴体だけ当たるように撃つ何て狙ってなきゃ無理だって。それにお前殺気無かったし」

「え?」

「俺分かるんだ。お前みたいなやつが考えること」

「………は?」

 

ロキは唖然とした。

 

「お前さ。本当はレキが弱くなってようが関係ないんだろ?」

「な、何言ってんの?」

 

ロキの声が僅かに震える。

 

「お前本当はお姉()ゃん()にあって甘えたかったんだろ?」

「っ!」

 

ロキの頬が紅潮する。

 

「なのにお姉ちゃんの隣にはどこの馬の骨とも知れぬ男がいてそれに腹が立ったんだろ?お前の本心はウルスなんか実はどうでもよくて本当は大好きなお姉ちゃん盗った男に八つ当たりしたくなったんだろ?」

「…………………」

 

パクパクとロキは口を動かす。動揺何て生易しいもんじゃないくらい困惑してる。

 

「いやぁ~うちの孤児院にもいたんだよ遥の取り合いする奴等がさ。誰が構って貰うか~みたいな喧嘩をしてた。なんかお前そいつらに似てるんだ」

「違う違う違う!」

 

足をバタバタしながら必死に言い訳を考える。成程、素の性格結構まだ子供だ。少なくともレキみたいな冷静な性格はしてないようである……等と見えないが聞こえる音と声で判断する。

 

「そうだよな。気に食わないよな~大好きなお姉ちゃんの隣に男がいればさ」

「~~!!!!!」

 

ロキは林檎も負けそうな位真っ赤になる。

 

「だから本気出せないんだ。お前は悪いやつじゃない感じがしてさ」

「………」

 

ロキは歯を噛み締める。

 

「最初から分かってたの?」

「ああ、女心には鈍いがそう言うのは結構気づく性格でね」

 

一毅は少し笑う。

 

「………そうだよ。私はあんたが気に食わないよ……調べてみれば一年の女の子とも関係持ってるって言うじゃん!お姉ちゃんはホントは騙されてるんだ……って思ってた」

 

でも姉は一毅と共にいるときすごく楽しそうだった。ここ一週間こっそり見てたが見たことない姉がいた。

 

「あ、ここ一週間感じてた視線お前だったんだ……」

「それも気づいてたんだ……」

「薄々な」

 

ロキはため息をついた。

 

「最初は納得いかなかった。何でこんな見た目ヤクザでその癖して二股してお姉ちゃん何でこんなのって思った……」

「…………」

 

一毅は何も言えない。事実だから……

 

「なんか言い訳しないの?」

「事実だからな。その通りだよ。最低かもな。でもやっぱり……いや、これ以上は言わないでおくよ」

 

そう言って一毅は一旦下がって距離を取る。その距離はおよそ30m……100mを十一秒で駆け抜ける一毅が走れば凡そ4秒もあればつく距離だ。

 

「うん。口で言ってもやっぱり言い訳にしかならん。だからお前のありったけをを俺に向けろ……今度は本気出す」

 

一毅は腰刀を仕舞い腰を落としながら目を開く。もう視力は回復した。

一毅は暗に言っているのだ。自分を気の済むようにボコって言い訳をさせてみろ……と、

 

「………分かった」

 

ロキはリロードする。

 

「それで良い……」

 

一毅の体を深紅のオーラ(レッドヒート)が包む……キンジが新技を製作する中一毅だって漫然と過ごしていた訳じゃない。

まず一毅はヒートを完全に制御する修行をしていた。そうすることで今は【ホワイトヒート】【ブルーヒート】【レッドヒート】の全三種のヒート全てを完全に使用できるようになっていた……

 

「行くぞ……」

 

一毅が前傾姿勢になった瞬間ロキが発砲……狙いは一見バラバラで一毅は一発も当たらない……だがそれは間違い。

銃弾は壁に跳弾し跳弾した弾丸は別の跳弾とぶつかり跳弾……それが幾つも起こり銃弾の壁を作り出し一毅に迫る。例え防弾制服の上からでも十分に倒す威力があるだろう……だが一毅は迷うことなくそこに突っ込む。

 

「勝機!」

 

一毅の体に電撃のようなものが走る。夏休み前以来の心眼……それが来た。全く遅すぎである。

 

「っ!」

 

飛んできた銃弾を全てギリギリで回避する。360度全てから飛ぶ弾丸をまるで見えているかのように避けていく。だが本当は見えていないし見切っていない。全て体が勝手に動いていく……本能が一毅の体を支配する。

 

「二天一流……絶刀!!!!!」

 

銃弾の壁から抜けると一毅は抜刀……ブラドにも放った二天一流 秘剣の構えの絶技!

 

「龍牙一閃!!!!!」

 

一毅の居合い……だがそれはロキの首筋に添えられただけだ。

 

「結局一太刀もいれられないんだ……」

「はは、勘弁してくれ。俺にはレキの妹って言う盾は壊せなかった」

 

一毅は刀を仕舞う。

 

「俺なぁ。自分でも駄目だなって思うよ。でもさぁ……」

 

一毅は笑う。

「あいつら俺を好きだって言ってくれるんだ。そんな二人をさ……俺はどっちも大切にしたくてどっちも愛おしくて……好きなんだよ」

「………………」

 

ロキは一毅の言葉を黙って聞いた。

 

「はは、我ながら優柔不断だな」

「ホントだね……でも……何でお姉ちゃんが惚れたか少し分かった気がする」

「そうか?」

「うん」

 

ロキは肺の空気を吐ききる。

 

「どこがって言いにくいけどね。感覚的な感じかな」

「ふむ……そんなもんか」

 

そんな一毅を見てロキが笑う。

 

「へぇ、そうやって見るとレキと似てるな」

「お姉ちゃん笑うの?」

「時々な」

 

一毅が言う……だが次の瞬間スカイツリーに雷が落ちた。

 

「っ!……どう言うことだ?」

 

天気は星が見えるくらいの雲ひとつない空だ。そこに雷?

 

「じゃあ俺は行くからな」

「え?やばそうだけど?」

「キンジが行っててアリアもいる」

 

そして一毅は笑みを浮かべながら、

 

「男が危険に飛び込むには十分な理由だ」

 

一毅はそういい残し走り出す。

ロキの頬が紅潮していたのは気づかなかった……



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金と西洋の忍者

一毅とロキが戦い始めた頃……キンジはスカイツリーに到着していた……現在まだ作りかけのこのタワーは一応階段もあるがどうせバレているだろうとキンジはエレベーターに乗る。

数秒でチーン!っと言う音と共に業務用のエレベーターが開くとキンジは外に出た……

 

「………」

 

キンジは広場みたいになっているところに着くとゆっくりと視線を動かす。

 

「……おい。出てこいよ」

 

キンジは右手にだけオロチを嵌めながら言うと柱の影からワトソンが出てきた……

 

「まさか本当に来るとはね」

「で?アリアはどこだ?とっとと返せ」

「返せ……とはおかしな言い方だね。彼女は僕の婚約者でパートナーだ。寧ろ僕の方が返してもらったと言うべきだよ」

「あいつは望んでなかったようだが?しかも母親のことまで引き合いに出しやがって……」

「事実をありのままにいっただけさ」

「そうかよ」

 

キンジは蹴りを放つ構えを取る。

 

「俺はこれでも見逃してやってたんだぜ?だけどお前はどうも俺にぶっとばされたいみたいだからな……その思いに答えてやるよ」

「返り討ち……と言う可能性は考えないのかい?」

「できると思ってんのかよ」

「やって見せてあげるよ!」

 

次の瞬間キンジの胸に向かってナイフの切っ先があと数センチの所まで飛んでいた。

この技は相手に悟られないように予備動作を極限にまで切り詰めどうしても起こす予備動作高速で行うことで攻撃を相手に悟られないようにする暗殺技術……イギリスでは武偵の独断で自らの利を害する物の殺害が認められている……これで普通なら何をされたか分からず終わる……そう、普通なら……

 

「あ?」

 

キィン!っとキンジはナイフを抜いて弾いた。

 

「そんな程度で当たると思ってんのかよ」

 

だがキンジの万象の目は極限化された観察眼……一毅と違い元々持っていた感覚器官を用いた力である万象の目はキンジの怒りに呼応するように発動する。例え無拍子の動きから投げられたナイフであってもキンジには投げる前からワトソンがナイフを投げることが見えていた。

 

「そんな曲芸じゃ俺に傷をつけるなんて無理だぜ?」

 

キンジはネクタイを緩めるとボタンを2、3と外して腰を落とす……

 

「なら……こうするさ!」

 

体の中心を敢えて振らしながらワトソンが近づいてくる……移動に緩急をつけながら一見ゆっくりと……だがそれでいて実際はかなりの速度だ。間合いを図りにくい。

 

「シュ!」

 

無拍子からの肘打ち……だが筋肉の動きまでは誤魔化せない。キンジはそれを見切って上半身を逸らして躱すと、

 

「ウッシャア!」

 

地面に手を付いてワトソンの脇腹に後ろ回し蹴り叩き込む。

 

「ぐっ!」

「ん?」

 

キンジは自らの胸をさわる。

 

「おい、銃返せ」

「そうはいかないな」

 

ワトソンは蹴られながらもキンジからくすねたベレッタとデザートイーグルを後方に捨てる。

 

「さぁ今度はそのナイフを貰うよ!」

 

コートを思いきり翻しワトソンがナイフを突き出す。

 

「っ!」

 

それをキンジはスウェイで躱し蹴り上げる。

 

「くっ!」

 

ワトソンはそれを危なげながらも躱しナイフを一閃……だがキンジには当たらない。キンジはお返しとばかりにナイフで切り上げる。

ワトソンは躱すがギリギリで頬に掠る……筈がワトソンは怯えるように大きく躱した。

 

「ん?」

 

キンジは首をかしげる。ワトソンの戦い方を考えれば今のは頬に掠ったとしても攻撃に繋げたはずだ。それを態々……まあいい。

 

「その程度か?」

「そんなわけないだろう!」

 

ワトソンは再度疾走。

キンジはそれを受けながら蹴りを放つ。ワトソンは受けながらも後ろに飛んで衝撃を和らげた。中々器用なやつだ。

 

「大したことないな」

 

キンジは軽くその場で跳ぶ。

 

「…………流石と言うべきだ……」

 

ワトソンは不遜な態度を取り続けたが遠山 キンジを侮っていた訳じゃない。寧ろその強さ事態は一毅に次ぐバスカービルの主力として警戒していたくらいだ。

特に固有技とも呼べるエアストライク……あれは嵌められたら確実に自分でも沈めれられるだろう。無論自らの身軽さを持ってすれば嵌め切られる前に脱出可能かもしれないがそんな賭けはしたくなかった。更に不可解な見切り能力にエアストライク以外の我流の蹴り技も相当なものだ……

 

「……はぁ!」

 

ワトソンのナイフの突き……

 

「しゅ!」

 

それを躱すが更に追撃、

 

「だぁ!」

「ちぃ!」

 

ワトソンの(チン)を狙った肘鉄……それを体を逸らして回避……

 

「ウォオオオオ!!!!!」

 

ワトソンは腹に突き刺す気なのかナイフを腰の近くにくっ付けるようにして突進……しかしそれも、

 

「ヨッシャ!」

 

キンジは後ろに跳びながら体を回転……そのままワトソンの手を思いきり蹴ってナイフを吹っ飛ばした。

 

「くっ!」

「シャ!」

 

更におまけとばかりにワトソンの頬にキンジのハイキックを叩き込んだ……

「もうおしまいか?」

「く……貴様ぁ……未婚の女性の顔にあろうことか蹴りを……」

「は?」

 

ぶつぶつなにか言ってるが聞こえない。

 

「まあいい……いや、良い事はないがそれは置いておこう……君は強いよ遠山……流石その年でSAD……日本だったら超人ランキングって言うんだけどそれの100位以内に入るだけはあるね。流石だ」

「マジかよ……」

「マジだよ……因みに一毅も入ってる。しかも君より上だ」

「それは納得だ。あいつの方が喧嘩は強いからな」

「実際戦ってみて分かった。だがその上で言わせてもらおう。僕の勝ちは揺るがない!」

「何言って……――っ!」

 

突然キンジの世界が傾く。

 

「これ……は……」

「無味無臭無色の揮発性の毒さ……平衡感覚やあらゆる感覚を狂わせ奪う薬でもある。一種の麻酔に近いね」

 

ワトソンはキンジの近くにいくとナイフを遠くに蹴り跳ばす。

 

「君の弱点を教えよう。君は搦め手に弱い。傾向的に強襲武偵(アサルトDA)に多く見られることであるがこうやって毒を使えば面白いように嵌まる」

 

昔から忍者と武士に見られる力関係と似ていた……武士は飯をたっぷり食って修行もして良い武器も持って戦える。正面からであればそれは強いだろう。

だが忍者は反対に毒だろうが鉄砲だろうが不意打ちだろうがなんだって行う。汚いと言ったらそこまでだがそれが忍者だ。

 

「殴り合いは君の方が断然強い……だが、殴り合いと戦いは違うよ。戦いとは前もって準備して考えておくんだ。必ず勝つ方法をね。それが頭の良い戦いかたさ」

「へ……そんなめんどくさいこと逐一考えていたら頭パンクするぜ……」

「だがそれで君は敗北し……死ぬんだ」

ワトソンはナイフを抜く。

 

「さよなら遠山 キンジ……アリアは僕がいただく……」

「っ!」

 

キンジの体が更に熱くなる。

 

「なぁに、心配するな。僕が幸せにするよ……」

 

そう言ってナイフを振り下ろす……が、

 

「え?」

「ふざけんな……」

 

キンジはワトソンを見上げる……指でナイフを止めながら……睨み付ける。

 

二指真剣白羽取り(エッジキャッチングピーク)……って言ってな。なに、大したもんじゃない」

「な……な……」

 

ワトソンはキンジの言葉等耳に入らない。

なぜ立てるのか……遅効性であるが一度効けば巨像ですら半日は感覚を狂わせる薬だ。何故……

 

「悪いがよ……元々毒とか薬の利きが俺は悪いんだ。お陰で風邪引いたとき何か悲劇だぜ……」

 

更にキンジは気づいていないが自らの体に変化があった……

脳はブラックボックス……とよく言われる。医学が進歩した昨今でも脳については未知の部分が多い。つまり脳がもたらす力もだ。

そして脳のもたらす力と言えばやはり脳内麻薬……アドレナリンとかβーエンドロフィンとかドーパミンとか挙げていけばキリはなく判明してるのだけで20種類もある。

だが飽く迄20種類である。脳が危機的状況時にだす脳内麻薬はそれを遥かに上回ると言われており走馬灯や時間がゆっくり流れる言うに感じたときなどはそのせいだと言う。

そのような多種多様な麻薬とは言え薬を性的な興奮で脳から半強制的に出させているのがヒステリアモード……その状態で毒を盛られれば毒と脳内麻薬が混じり合い現代化学から考えられない未知の物質となり……一種の血清と同種の物が作られる。

つまり……キンジには毒で死ぬことがない。元々毒や薬にたいして高い耐性を持つキンジはこうした力も強いと言うこと……更に怒りによって奪う力のヒステリア・ベルゼは過剰なまでに脳内麻薬を促進しているだろう。言わばワトソンは態々キンジのベルゼを強化して脳内麻薬を出させ自らの毒を無効化させた状態だ……

 

「教えてやるよワトソン……てめぇは油断しすぎなんだよ!」

「はぅ!」

 

妙に男っぽくない声でワトソンはキンジの頭突きにより後ずさる。

 

「あぐ……」

「てめえはそんなに俺を怒らせて楽しいのかよ。ああ!?」

「くっ!」

 

ワトソンはキンジから距離を取ると銃を抜く。

 

「SIG SAUER P226か……いい銃だな……」

 

だがそれがどうしたとキンジは体を大きく捻りながらワトソンを睨む。

 

「撃てるなら撃てよ。どうせ俺には当たらない」

「この距離で外すわけがないだろ!」

 

ワトソンは迷わず発砲……確かに外さないだろう。だが一言もお前が外すとは言っていない……当たらないと言ったのだ!

 

螺旋(トルネード)!!!!!」

 

白雪の奥義、緋緋星伽神にも似た動きはオロチのつけた右手の指で弾丸を挟むと弾丸をあらぬ方向に弾く。

 

「ウソ……だろぅ?」

 

あり得ない……そんなの普通は無理だと言う目で見る。

 

「イヨッシャア!!!!!」

 

キンジはワトソンの懐に突っ込むと逆立ちしながらワトソンの銃を蹴り上げる。

 

「ううっ!」

「スラッシュキック……α!!!!!」

 

脚が分裂しているように錯覚しそうなほどの速さを持った連続蹴り……カナに放って全て躱されたがそれは進化を遂げ蹴りの数も速さも威力も上がった蹴りの刃へとなっていた。

 

「ぶふっ!」

その蹴りにワトソンは体を曲げる……

 

「フィニッシュキック!!!!!」

 

大きく体を捻った渾身の蹴りでワトソンは吹っ飛ぶ……

 

「それで終わりか?」

「が……はぁ……」

 

ワトソンは恐怖していた。キンジは全てにおいてワトソンの想像の遥か上をいっていた。

 

「おら……来いよ!」

「く……アアアアアア!!!!!」

 

ワトソンは大きく振りかぶると体の捻りを利用した突きを放つ。

 

「勝機……」

 

混乱した状態では良く出したと言うべき一撃だ。だが、

 

「なっ……」

 

次の瞬間キンジが消えたのだ……横や下を瞬時に見るがいない……じゃあどこに……

 

「教えてやるよワトソン……」

「え?」

 

ワトソンは空を見る……そこには大きく跳躍しまるで獲物を狙う鷹が羽ばたくようにキンジはいた……

 

「アリアのパートナーってのはなぁ!無理とか疲れたとか不可能とか言わねえし言っちゃいけないんだ!俺の技見て少しでも無理とか思っちまうようなやつはなれないんだよ!」

 

キンジの体を深紅のオーラ(レッドヒート)包みキンジは新たな新技を繰り出す……これは奇しくもワトソンに当たれば良いと思ったものと同じ名前を頂いた技……相手よりも遥か高く跳躍して高空から蹴りつけるキンジ二つ目の絶技……その名も、

 

「メテオストライク!!!!!!!!!」

「がふっ!」

 

キンジはワトソンの顔を踏みつけそのまま地面に叩きつけた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

キンジはワトソンが飛ばした自分の銃とナイフを取る。

 

「さて、おいアリアはどこだ?」

 

キンジはワトソンの胸ぐらを掴んで引き上げる。

 

「っ!」

 

ズイッとキンジが睨みながらワトソンに顔を近づけるとワトソンは……

 

「は?」

 

顔を赤くした……赤面とも言う。いや、何で照れるんだよとキンジは突っ込む……男に顔を近付けられただけだけだぞ……お前はホモか……お前は男だ……ろ?

 

「いや……」

 

シナモンの香りを捲きながらワトソンは顔を真っ赤にして逸らす……

 

「お前……」

 

キンジは眉を寄せた……それから見る……今までは怒りで落ち着いてみれなかったが今は落ち着いているから殆どヒステリア・ノルマーレだ。戦うなら良いが相手を検分するときはノルマーレが一番万象の目と相性が良い。

体脂肪率は20%ちょい……身長は160もない……他に身体的な特徴としては……撫で肩で潰してるが胸が不自然膨らんで……あれ?

 

「え?」

 

キンジは驚きで目をひん剥いた……

 

「お、お前女……って言うか転装生(チェンジ)だったのか!?」

 

ワトソンはカァっと顔を赤くした。酷く女性らしい表情だ……

 

「おいおい……お前レズだったのか?」

 

レズは一年の志乃だけで十分だと思う……

 

「ち、違う!色々問題があるんだよ!」

「ふぅん」

 

キンジはワトソンの胸ぐらから手を離す。

 

「まあ良いさ。で?アリアはどこだよ」

「アリアは……この上に――っ!危ない遠山!」

「っ!」

 

突然の雷撃……キンジはとっさに跳んで転がって躱す。この雷撃には覚えがあった……

 

「どう言うことだ?」

「この上にはヒルダもいる……」

「あいつが?」

 

キンジは眉を寄せる。

 

「契約だ……僕はアリアを眷属(グレナダ)にしたかった。アリアの殻金は殆ど向こうにある。アリアの身を考えれば眷属(グレナダ)に着かなければならないんだ。だから僕はヒルダに協力を申し入れた……僕達リバティーメイソン及びアリアの眷属(グレナダ)の帰属を代償に彼女には定期的な血液の提出及びイギリスでの自由な行動だ」

「そうか……じゃあアリアはヒルダの所に居るんだな」

 

キンジは上に向かう階段を探す。

 

「お、おい!行く気か!?」

「そこにアリアが居るんだろ?」

 

キンジは散歩にいくような足取りだ。

 

「し、死ぬぞ。彼女は吸血鬼の力だけじゃない!今のような雷撃に加え古流の催眠術も使うし何より僕は信用されなかったから知らないが協力者が一人いるんだぞ……」

「死ぬかよ。俺は死ぬときは子供や孫やひ孫に玄孫達に囲まれて大往生って決めてんだ」

「いや、玄孫は長生きしすぎだろう……」

 

ワトソンが突っ込むとキンジはニヤリと笑う。

 

「まあどちらにせよついでだついで……お前はそこにいろよ。先頭に立って戦うのはお前みたいなかわいい女の子じゃない。男の仕事だ」

「っ!」

 

キュン!っとワトソンはときめいたような顔になる。

 

「さて、行ってくるよ」

 

キンジは階段を上がっていった……



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龍達と紫電

「ん?」

 

キンジは階段を上がる途中で顔をあげるとピンクの髪を靡かせた少女がいた……

 

「何やってんだ?お前」

「決まってんでしょ?あんたを迎えに来たのよ」

 

いつものアニメ声を発したアリアはキンジを見てから階段上の方を見る。

 

「ヒルダには話をつけてるわ。交渉次第ではママの裁判にも呼び出せる。話せば分かるやつよ」

「そうか……お前にしては冷静に考えたな」

「どういう意味よ」

 

ガルル!っアリアが威嚇するがキンジは流す……

二人並んでまだ作りかけのため広場になっている天辺に着くと居た……真っ黒なゴスロリに今のような闇に栄える金髪……美しき吸血鬼の姫……ヒルダ。

 

「やあヒルダ……」

「ふふ、まさかあの虫を倒すなんてねぇ」

「あまり女性を虫扱いするものじゃないよ」

 

今回はヒステリア・ノルマーレ……か。まあいいだろう。

 

「でもまさかここまで簡単に騙されて来るなんてねぇ」

 

ヒルダはうすら笑みを浮かべた……普通なら何を言っているのか分からないだろう……が、

 

「ああ、後ろでアリアに化けて懐にスタンガンを忍ばせてる理子の事かい?」

『っ!』

 

キンジが振り替えるとスタンガンを構えたアリアが目を見開きヒルダも驚いたような顔をした。

 

「体と言うのは人間が思うより正直だ。俺の目はそれを見抜く。残念だが理子……俺は君を一度でもアリアとは呼んでいないよ」

「……」

 

バッとアリア改め理子は変装を脱ぐ。

 

「アハハ……まさか簡単に見抜くなんてキー君どうしたの?ヒステリアモードってだけじゃないよね?」

「ああ……」

 

いつものようにキンジは話す。

 

「理子!」

 

ヒルダが叫ぶと理子は恐怖に体を竦ませた。

 

「そのイヤリング破裂して欲しいのかしらぁ?」

「なに?」

 

キンジはヒルダを睨む。

 

「どう言うことだい?」

「そのイヤリングには毒が入ってるのよ。私が少し念じればパーン……五分で死ぬわ。怖いわよねぇ理子ぉ……なら分かるでしょ?」

「……」

 

理子は髪を動かしナイフを二本……両手に銃……

 

「理子……」

「ごめん……キー君」

 

次の瞬間理子との間合いがつまる。縦横無尽にキンジを襲う髪は目で対処できる。

 

「理子……君とヒルダの関係は軽くだが聞いている……だがその上で言わせてもらうよ。それで良いのかい?」

「っ!」

 

一瞬理子の動きが鈍くなる。

 

「そのまま呪縛に囚われていて良いのかい?」

「黙れ!」

 

理子は銃を撃つ……だがキンジの銃弾切り(スプリット)が対処する。

 

「お前に何が分かる!」

「そうだね。俺は君を全ては知らない……でも分かる事もあるよ……例えば……君は強い……」

「え?」

「俺には分かるよ……君は強い人間だって……囚われていてそのままで良いと思えるような人間じゃないってね……」

 

キンジは理子を抱き締める。

 

「怖いだろう……逃げたいだろう……でもそのための俺たちだ……少しだけ勇気をだすんだ……そうすれば……」

 

チャリ……っと音がしてイヤリングが地面に落ちた……

 

「簡単に自由だ」

「馬鹿な……そのイヤリングの解錠は複雑な機構だから普通はピッキングぐらいでは不可能……」

「俺の腕と目を持ってすれば幼児の知育玩具くらいの簡単さだよ」

 

キンジはヒルダに声をかけながらも理子の髪をすく……

 

「さ、一緒に倒そうか」

「キンジ……」

 

理子は頬を紅潮させながらも頷く……

 

「悪いがヒルダ。君を逮捕するよ?」

「あら……そんなの出来損ない入れての二人で私に勝つ気?」

「いや、三人だし理子は出来損ないじゃねえよ!」

『っ!』

 

ガシッと縁を掴んで一毅はスカイツリーに這い上がる。

それを見て三人は唖然とした。

 

「どこから登場してるんだ?」

「いや、何かエレベーターの電力止まってるし階段は崩れてたし仕方ねぇから側面に張り付いて登ってきたんだよ。いや、途中でワトソンに会ったんだけど驚愕された挙げ句に腰抜かされた」

「当たり前だ」

 

そんなことを言いながら一毅は立ち上がると体を回す。

 

「さて、見た限りどうしても嫌な予感がしてね……タイミングは君に任せるよ理子……でも少し待っててくれ、最初は男達がやろう」

キンジはそう言うと、

 

「先ずは魔臓だ一毅……」

「OK……」

 

二人はそれぞれ武器をもつ。キンジはナイフと銃と蹴りの構え……一毅は二刀流……

 

『いくぞぉおおおおおお!!!!!ヒルダぁアアアアアア!!!!!!!!!!」

二人は走り出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちぃ!」

 

ヒルダの電撃……普通の人間なら反応すら許されず体の自由を奪われただろう。まあ二人にとっては防げず当たると痺れる銃弾と大差はない。

 

『っ!』

 

一毅の心眼キンジの万象の目は未だその場のノリや勢いに乗じて使う感じだがこの場でも使える。二人は別れるように跳んで躱すと一毅の斬撃がヒルダを襲う。

 

「くっ!」

 

切り傷事態はすぐに回復する。だが精神的な圧迫は消せる訳じゃない。少なくとも二人はブラド……自分の父と言う吸血鬼と一度戦うことで無限回復に対しての驚きはない。

 

「一毅!」

「任せろ!!!!!」

 

一毅は間合いを詰める。

 

「この!」

 

雷球が一毅を穿……たずその前に横に一瞬跳んで躱した一毅は模様を二つ刺し貫く……更に、

 

「これで終わりだヒルダ」

 

キンジがベレッタとデザートイーグルの2丁拳銃でもう二つも撃ち抜く……

 

「がっ……」

「どうだ……?」

 

一毅は刀を引き抜いて離れる……

 

「ふ……ふふ……アハハハハ!!!!!何てねぇ」

 

ヒルダの傷が回復する。

 

「なにっ?」

 

一毅が眉を寄せる。

 

「私の魔臓は外科手術で場所を変えてるのよ。医者も殺したし私も場所を知らないわ」

「どうりで魔臓を隠さないはずだ」

「気づいてたのかよ」

「違和感があっただけだ」

 

キンジが肩をすくめる。

 

「その余裕……何時までできるかしら?」

 

そう言ってヒルダは電気をためる。

 

「見せてあげるわ……吸血鬼の真の力をね!」

 

電撃をヒルダは自らに当てる……すると、ヒルダの姿が変わっていく。

 

第2態(セコンディ)を鬼とするなら第3態(テルツァ)は神……人間なんぞ有象無象のごみ虫よ」

『ヘースゴイスゴイ』

 

一毅とキンジは適当に答えた。

 

「じ、自分達が置かれた状況が分かってないようね」

「いや、お前こそちゃんと周り良く見ろよ」

「?」

 

ヒルダは一毅に言われ周りを見渡す……

 

「っ!」

 

良く見ると理子がいなかった。どう言うことかと周りを見ると、

 

「こっちだよヒルダ」

「え?」

 

声の方を振り替える……そこには銃身を短く切り落としたカットオフショットガンをガチャンとスライドさせて構えた理子……

 

「一発一発に今までの恨み込めといたからさ……全部喰らっとけ!!!!!」

 

小さな散弾が発射されヒルダ体を余すとことなく穿つ……無論魔臓もだ……

 

「がひっ!」

 

ヒルダは後ろに倒れそうになるが視界の端にクラウチングスタートの構えを取るキンジと二刀を交差させ腰を落とす一毅……まず一毅が疾走する……

 

「ヒィ!」

 

理子に撃たれ力の殆どが逃げたがそれでも残った電撃を全て一毅にぶつける……死んだか?ヒルダはそう思った…………思っただけだった。

 

「二天一流ゥゥウウウウウ……」

 

一毅はバチバチと体を発光させ電流が体を駆け巡る。

 

「必殺剣!!!!!」

 

静電気で髪が逆立ち体が動かなくなりそうだがそれをブルーヒートで体を動かさせる。

 

「この桜吹雪ィイイイイイ……」

 

それを追い越しながらキンジは加速……

 

「散らせるもんなら散らせてみやがれ!!!!!」

 

全身の関節をほぼ同時に加速……オロチの着けた右手から桜吹雪のような円錐錐状(ヴェイバーコーン)が現れる……

だが今回は自損しない程度に速度を抑えてある。音速ほどではないが亜音速の拳がヒルダの腹に直撃する。

 

「桜花!!!!!」

「ぶほっ!」

 

ヒルダは体をくの字に曲げながら空に飛ぶ……そこに一毅は飛び上がる。

今回限りのオリジナル技……雷を纏し天からの一撃、

 

鳴神(なるかみ)!!!!!」

 

一毅の双刀がヒルダを切り裂いた……

 

「丁度良かった……」

 

一毅が笑う。

 

「最近肩凝りが酷くてな。良い感じ解れたぜ」

「解れるか」

 

キンジのチョップを喰らう……

 

「う……ぐぅ……」

 

ヒルダは体を捻るが力はない……そこに理子が立つ。

 

「理子ぉ……」

「…………」

 

キンジと一毅はそれを見守る。

 

「ふふ、殺す?いいわよ、憎いわよねぇ……恨んでるわよねぇ……どうせもう長くないわ……」

 

ゼィゼィヒルダは息を荒くしながら言う……だが、

 

「馬鹿にするな」

 

理子は言う。

 

「私はお前を殺さない」

 

理子はキンジと一毅を見る。

 

「捕まえて救急車呼んで」

「良いのかい?」

「良いんだよ。捕まえたのはお前達だ。私じゃないしね」

「そうか」

「…………」

 

ヒルダは呆然と理子を見た。

 

「さて119……いや、救護科(アンビュラス)にしとくか」

 

一毅は携帯を出す……が、

 

「ああ!!!!!ぶっ壊れてる!」

「そりゃそうだろうね」

『ん?』

 

振り替えるとワトソンが来た。

 

「これを使ってくれ」

 

ワトソンは一毅に携帯を渡す。

 

「応急処置は僕がしておくよ」

「頼んだよ。ワトソン」

 

キンジは笑いかけると頬を赤く染めた。

 

「こ、今度は男にキー君が走った……?」

 

おい、とキンジは理子のデコをつつくと近くの棺を開ける……中にはアリアがいた。

 

「桃饅ツリー……」

「……全く」

 

キンジはアリアの寝言に肩をすくめた。

 

「どこでもアリアだなぁ」

「全くだね」

 

一毅とキンジは笑いあった……



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龍達と新たな被害者

ヒルダを確保してから3日……

 

「本当に申し訳ございませんでした……」

 

ワトソンはキンジの部屋でバスカービル一年達の目の前で土下座だ。

 

「ええとね、まず整理するわよ……」

 

ワトソン家は今ではリバティーメイソンという組織でも上位の階級を得ていたが貴族社会のイギリスにおいては吹けば飛ぶような小さな家だったらしい。しかも家事態も没落の一途辿っていたらしい。

 

そこで持ち上がったのが昔からの付き合いであるホームズ家との結婚……ホームズ家はイギリスでは高い地位を占める家であるらしく謂わば一族総動員で玉の輿を狙っていたということだ。だが生まれたのはワトソン(女)一人……なので男として育てられたらしいのだが……

 

「何かベルサイユの薔みたいですね」

 

ライカが苦笑いする。

 

「でも居るんですねぇ天装生(チェンジ)って……俺初めて見ましたよ」

 

辰正が言うと理子が笑いながら言う。

 

「そりゃ自分が天装生(チェンジ)だって公言する人はいないからね。殆どは女子なり男子なりになりきってるからね」

「まあそんなことはどうでも良いのでござるよ」

 

陽菜がズイッとワトソンの前に出る。

 

「今日までの師匠への所業……どんな処罰与えようか……」

「良いわね……別に遠山 キンジはどうでも良いけど最近作って試したい毒があるのよね」

 

キンジへの嫌がらせにキレる陽菜と別にキンジはどうでも良いが人体実験したい夾竹桃を目の前にワトソンは震える……

 

「ダメだよ二人とも……」

 

それをあかりが止めた。

 

「そうですよ。武偵法9条に引っ掛かるかもしれないしね?」

 

志乃は言うが突っ込むところはそこじゃない。

 

「まあ今回は実害を被ったアリアさんとキンジさんが煮るなり焼くなりすれば良いでしょう」

 

レキの言葉にワトソンも頷く。

 

「どんな目に会う覚悟もできている……殴るなり蹴るなり撃つなり好きにしてくれ……」

「私はね……家の問題とか同情できない面もあるしねぇ……キンジに任せるわ」

「俺も別にな……」

 

キンジは頭を掻くが、

 

「だ、だが遠山!僕は君にナイフも向けたし銃も向けたし毒も嗅がせたんだぞ」

 

どれも捌かれたが……

 

「別に良いよ。俺の部屋には普段から人の部屋で日本刀振り回す黒髪の巫女とかガバメントを俺に向けるピンクの武偵とか悪戯で地雷を仕掛ける金髪の怪盗とかが常駐してるんだぞ?」

 

今居ない白雪以外のアリアと理子が遠い目をしながらキンジから視線をそらした。

 

「だ、だがそれでは……せめてイーブンになるまで……」

「俺はお前の顔を蹴った……しかも踏んづけもした……女の顔を傷つけたんだから寧ろ俺の方がなにか払わないといけないだろ」

「しかし……君を殺そうとしたんだぞ?」

「何時もの事だ。悲しいことにな」

 

それにしても……とキンジはヒルダの雷に当たってから気分が良さそうな一毅を見る。

「お前ワトソンが女だって聞いても対して驚いてなかったし知っていたのか?」

「最初から気づいてたぜ?」

『ええ!?』

 

キンジとワトソン以外の面々が驚く。

 

「だが謎だったのだが何故君にだけはバレたんだ?」

「あー……実は理由はないんだけどさ……何となく持ってる雰囲気?そんなやつが男じゃなかったと言うかそんな感じでさ」

 

用は勘……と一毅は言う。

 

「お前なんでもありだな……ヒルダの雷に当たってもピンピンしてるし……」

「いやぁ肩凝りが治った」

「嘘だろぅ……」

 

ワトソンは唖然とする。キンジと言いこの男と言い喧嘩を売ったことを今さらながら後悔した。

 

「そう言えばレキの妹はどうした?」

「それが分かんないんだよなぁ……そのうちひょっこり顔を出すだろ。レキの妹だし」

「どういう意味です?」

『そういう意味でしょう?』

 

レキの呟きは全員に突っ込まれた。

 

「じゃあヒルダはどうだ?」

「あ、ああ」

 

ワトソンは顔をあげる。

 

「一応武偵病院に一度入院したけど脱け殻みたいだ。相当理子に見逃されて命を結果的に救われたわけだからね。完全に呆けているよ」

「そうか……」

 

理子は少し複雑そうだ。これからヒルダはどうするか分からない。取り合えず気が変わって殺す気にならないように願う。

 

「で?ワトソンをこれからどうするんだ?逆さ釣りにして学校に吊るすか?それとも簀巻きにして太平洋に流すか?それとも市中引き回し?」

 

一毅が冗談混じりに言う。

 

「しねぇよ。でもそうだな……ぞんなに罪悪感を感じるならうちのチームの衛生武偵をやってくれないか?もちとんタダで」

『え?』

 

今度はキンジ以外全員がポカンとした。

衛生武偵とはチームが外部から雇う衛生兵みたいなものである。ワトソンは元々前の武偵高校でそう言ったものも履修してるらしいし家事態が医者の家系だ。

ぴったりと言えばぴったりだ。

 

「今度はその薬学の知識を……毒じゃなくて薬の知識を俺たちに貸してくれ」

「っ!」

 

ワトソンはまたキュン!という顔になった。

 

(またか……)

(またですか……)

(まただな……)

(またなのね……)

(またなの……)

(また……)

(まただ……)

(またですね……)

 

上から順に一毅、レキ、ライカ、アリア、理子、あかり、辰正、志乃はまた一人被害者が増えたかとため息をつくと共にすっかりキンジのタラシに慣れが出始めたことを気付いていなかった……




次回で文化祭をやって終了です。


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龍達の文化祭

ワトソンが仲間になってから二日……ヒルダとの戦いからなら5日が経った……つまり今日は……文化祭である!

 

「よしお前ら!」

 

文化祭委員がダン!と机に足を乗せ叫ぶ。

 

「複数クラス合同!変装食堂(リストランケ・マスケ)開店だ!どんな手を使っても客を集めろ!銃を使っても良い!」

『出来るか!』

 

全員から総ツッコミを受けたがめげない。

 

「ジャカジャカ客を集めてジャカジャカ金を稼いでボロ儲けだぁ!序でに単位もボロ儲けだぁ!」

『オォオオオオオ!!!!!!!!!!』

 

さぁ開店だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開店一時間で既に客席は満杯だった。まあ当たり前だろう。顔は美人が多いので男性ウケがするし不知火などが女性客を集める。

更に、

 

「はぁい。ここに座ろうね~」

 

小学校の先生の姿をした白雪はちびっこ達の相手までする。

 

「流石に慣れてるな白雪」

 

キンジが注文の隙をついて言うと、

 

「う、うん……でもやっぱりキンちゃんとの子供を世話したいなぁ……」

「あ?悪い。周りがうるさくて聞こえなうぉ!」

 

突然のローキックにキンジは飛び上がる。

 

「何すんだアリア!」

「キンジこそ何デレデレしてんのよ!」

「してねぇよ!」

 

キンジとアリアは睨み会う。

 

「痴話喧嘩は後にして二人とも~。これ運んでね」

『違う!』

 

そう言いながらもキンジとアリアは理子から受け取った食器を運ぶ。

 

「お客様。ただいまこれをセットにすると非常にお得です。如何ですか?」

「あ、じゃあお願いします……」

 

一毅は完全に客に怖がられていた。別に脅している気はないが何せ怖い顔である。更に髪は掻き上げられワインレッドのシャツにグレーのスラックスとジャケットに蛇柄のエナメル靴……一般人のお客様にしてみれば存在が脅迫である。

まあ別に客に危害は……

 

「なんだ嬢ちゃんかわいいなぁ」

「……」

「レキにさわんな!」

 

レキに触れなければ店の外に処か窓から投げ捨てるなどしない人畜無害なウェイターである。

 

「おーい!材料がなくなりそうだ!」

 

武藤が叫ぶ。

 

「早くないか?」

「じゃあ俺と一毅と……」

「私がいきます」

 

一番ウェイターとして役に立ってないキンジ、一毅、レキの三人が買い出しにいった……

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおおおおおお一人様ですか!?」

 

白雪が声を裏返らせながらしゃべった声が響く。

 

「ああ……もしかして団体限定やったんか?」

「い、いえ大丈夫です!」

 

背は平均的だがつり目で切れ長な目に眼帯と蛇柄のジャケットを着た男は明らかに真っ当な道を歩く人間じゃない。普段から見ることが多い武偵の皆はわかる。ヤクザであると……

 

「ふぃ~……」

 

男は周りを見渡す。彼はここで知り合いがウェイターをしているときいたため着たのだが……

 

「なあそこにイケメンな兄ちゃん」

「はい?」

 

不知火は男を見る。

 

「ここで桐生ちゃん……じゃない、桐生 一毅っちゅうもんが居る筈なんやけど?」

「現在買い出しにいってまして……そのうち帰ってくるかと」

「ほうか、済まんかったな。忙しいなか」

「いえいえ」

 

次の瞬間全員心で叫ぶ……頼むから一毅早く帰ってこい!!!!!と……だが一難去ってまた一難というようにまた難が来る……

 

「ヒィイイイイ!!!!!」

 

理子が入ってきた人間を見て驚愕する……その男は二メートル近い身長に広い肩幅……更に鋭い眼光に圧倒的なオーラ……例えるなら教務科(マスターズ)に近い雰囲気を感じる男だ。

 

「一人なんだが……」

「あ、相席でよろしいでしょうか!」

 

理子は膝を震わせる。

 

「俺は構わないが?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で!よりによってあの客と相席にしたのよ!」

「だってあそこしかお一人様のお客がいなかったし……」

 

アリアと理子は裏で言い合う。

無論理子を恐怖のどん底に陥れた男の相席の相手はその一つ前に来たヤクザの男だ……

二人は向かい合って座ると見合う……それが怖い……その結果客が次々お勘定していき何時の間にかお客はこの二人だけの上に来た客がヤバイ店かよ勘違いして逃げていくのだ。

何故こう言うときにキンジとか一毅が居ないのだとスタッフ全員が恨む……

 

「すまないが注文は良いか?」

「あ、はい!」

 

白雪が行く……

 

(あれ?どこかでこの人見たことあるような……)

 

白雪はデジャブを覚える。

 

「ん?もしかして白雪ちゃんかい?」

「え?何で……」

「あ~もう昔一回っきりだからな~忘れても仕方ないか……あんまり顔忘れられるってことないんだけど……」

「?」

 

すると、

 

「アリア先輩来ましたよ~え?」

「しつれいしまーす……あれ?」

「こんにちわ……へ?」

「ちわっす、ん?」

「師匠!拙者は懐が寒いのでなにか恵んで……むむ!」

「繁盛は……ないわね」

 

あかり、辰正、志乃、ライカ、陽菜、夾竹桃が来た……が、

 

『またの機会します』

 

ライカ以外背を向けて店を出ようとした……

 

『逃がすかぁ!』

 

まあ一発で捕縛されたが……

 

「……」

「どうしたのライカ?」

 

無理矢理座らされたあかりがライカを見る。

 

「もしかして……一明さんに……宍戸さん?」

『ん?』

 

二人が顔を向ける。

 

「おお!桐生ちゃん彼女の一人!」

「おお!ライカちゃんじゃないか!」

『……ん?』

 

謎の男た改め宍戸 梅斗と桐生 一明は互いを見る。

 

「何やお前桐生ちゃん知っとんの?」

「知ってるっつうか……桐生ちゃんが桐生 一毅を指しているならこう名乗るぞ……桐生 一毅の父だ」

『………………』

 

世界の時が止まった……そして、

 

『えええええええええ!!!!!!!!!!』

 

全員が驚きで飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなに怖い顔かなぁ……」

「あ、いえ……」

 

一明は結構真面目に落ち込んでいた。客が居なくなったのには気付いていたしスタッフが暗くなっていたのも気づいていた……だがその原因がまさか自分……しかも別に睨んでいたわけじゃなく普通にしてただけなのにそれだけで怖がられていた……

 

「でもすいませんでした。昔お会いしたのに忘れて……」

「良いんだよ。昔だったしね。まああんまり顔を忘れられたことなかったんだけどな……」

「そうなんですか?」

 

白雪が聞く。

「ああ、久々に会っ奴でも【ヒィ!き、桐生!!!!!】って……怖がられていただけだね……うん」

 

勝手に言って勝手に落ち込む……

 

「分かるでぇ……世間は冷たい!顔で人を判断する!別にワイはええけどな」

「全くだ!」

 

一明と宍戸は意気投合する。

 

「あ、あの!」

「ん?」

 

一明は声をかけられた……

 

「初めまして……佐々木 志乃と申します」

「ああ~あいつの娘かぁ~こりゃすげぇ!俺も年を取るわけだぜ」

「いえ、父がお世話に……」

「……いやいや、あいつ元気?いっつも俺に勝負挑んでくる面白い奴でなぁ。よく遊んでやったぜ」

 

主に落とし穴とか【私は馬鹿です】と書いた看板背負わせて町内一周とか顔に落書き等々である。

 

「あいつじゃんけん弱くてな~くじ運も悪いんだ」

 

一明は楽しそうに笑う。

それを見たら志乃を少し笑えた。父はそれはもう恨み辛みを込めた口調で言っていたが(今にして思うと悔しかっただけなのかもしれない)こうやってみると余り恨み合った間柄ではないのかもしれない。

 

「でも言われてみるとカズッチと似てるよね~」

「そうか?俺の方が頭いいけどな!」

「元武装検事ですもんね」

 

辰正が頷く。

武装検事は実技だけでは試験は通れない。ペーパーテストも良くないといけないし他にも人格とかその他諸々の試験を通ってやっと合格である。

 

「まあ金叉……あ、お前らにだったらキンジの親父さんと言えば分かるか?あいつは頭よかったぞ~女にもモテたし」

「あ、モテたんですか?」

 

馴れない敬語でアリアは話す。

 

「モテたモテた。天然タラシ野郎でさ~その癖女難の相持ってた」

 

何かその辺血だなぁと一明の言葉に全員が思う。

そこに、

 

「あれ?親父と宍戸さん!?何でここにいるの!?」

 

一毅たちが帰ってきた……

 

「いや、ワイは桐生ちゃんの格好がすごいと思うでぇ」

「俺も自分の息子がそう言う格好というのには驚いたぞ……ん?よう!レキちゃん」

「お久しぶりです」

 

それからキンジを見る。

 

「ようキンジ。段々金叉に似てきたな~」

「一明さんは変わらなさそうですね」

 

キンジは頬を掻く。

 

「そう言えば何で東京に出てきたんだ?親父」

「ちょっと東京に用事がな。なあに、明日には変える予定だ」

「へぇ~そう」

 

一毅が言うと一明が叩いた。

 

「何すんだ!」

「少しは気を付けろよ~とか無いわけ!?お父さんは寂しいよ!」

「寧ろ親父に傷を負わせられる奴が居たら会ってみたいね!」

「まあまあカズッチ~お父さんは心配してほしいんだよ」

 

理子が宥める。

 

「いいなぁそれ」

「え?」

「なあ理子ちゃん?だっけ?おじさんに渾名つけっとしたどんな感じだ?」 「うーん……一明……だからアッキー?」

「アッキー?いいなそれ!いや~アッキーかぁ。うん、アッキーはいいぞ」

 

何故か気に入ってる。

 

「随分面白いお父様ね」

「からかうのは止してくれ……夾竹桃」

 

一毅が肩を落とす。

 

「しかし客が全く寄り付かないな……これじゃ俺たちは邪魔だしそろそろ……」

 

一明は行こうとする……だが宍戸が止めた。

 

「様は金払う奴がぎょうさんおればええんやろ?なら任せとき」

 

そう言って携帯を出す。

 

「おう鴛野!今から言う場所に全員集合や!何!?今仕事?ワイの命令とどっちが大事や!そうやな、ワイのほうやな?よおし全員現金全部下ろしてこい!そして金のあるかぎり飲み食いするんや!逃げたやつは海に捨てて魚に飲み食いさせたるからな!」

 

携帯を切る。

 

「ど、どちら様にお掛けに?」

 

辰正が聞く。

 

「まあ待っとれ」

 

すると五分後……

 

『全員集合しました!』

 

店から溢れそうなほどのヤクザの集団……全員宍戸組の構成員である。

 

「よおし!全員で売り上げに貢献!あと、どんなかわいい子が居っても見るのもさわるのも禁止や!」

「え!?見るのもっすか!?」

「お前らの汚い顔で見られたら気分害するやろが!No See Don,t Touch!!!!!」

『ひでぇ!』

 

ブーブー文句言うと……

 

「何か文句あるか?」

 

宍戸は鎖鎌を振り回す。

 

『イエス!サー』

 

それから行儀よく全員座ると……

 

『あるだけ下さい!!!!!』

 

そうヤクザの皆様は言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

「三番テーブルで来たぞ!」

「おし!」

 

ヤクザの集団食事場に変わった場は正に戦場……恐ろしき容貌ではあるが宍戸組の構成員の皆は宍戸の言いつけを守って厭らしい眼で見たりせず触りもせずひたすら飯を口にいれていく。

 

「委員長」

 

キンジが実行委員に話しかける。

 

「これでいいのか?」

「……金が稼げればそれでよし!」

 

良いのかい!っとキンジは突っ込みそうになったがなにも言うまい。

 

「来年の私たちもこの中ウェイターやるのかなぁ……」

「拙者彼らに物怖じせずに食事を配る勇気はないでござる……」

「だ、大丈夫だと思いますよ?先輩たちだって平気そうなの一毅先輩とキンジ先輩とレキ先輩とアリア先輩だけです」

「皆いい人みたいだけどな~」

「ああいうヤクザの方が珍しいのよ」

 

あかり、陽菜、志乃、ライカ、夾竹桃はコーヒーを片手に見ている。

 

「ふふ……」

 

一明はパフェ食い終えると立ち上がる。

 

「一毅、俺は用事があるからもう行くよ」

「そうなの?じゃあな」

「おう」

 

一明は一毅と拳を軽くぶつけてから店を出た……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

学校の門を一明が出ると電話が鳴る。

 

「どうした?久し振りだな」

 

一明は数年来の友人からの電話に顔を綻ばせる。

 

「俺がアメリカに行ったのがもう十年以上も前だしな……懐かしいぜ。お前との殴り合い。え?本気だしてなかっただろ?いやいや確かに心眼は使わなかったけど俺の持てる格闘技術はフル活用したぜ?」

 

一明は苦笑いした。

 

「でもまさか()()()()を恋人に連れてきたときは驚いたぜ。おいおい、子供の恋愛くらい許してやれよ。え?嫁には出さん?」

 

一明は吹く。

 

「お前娘大事にしすぎだ。だからアメリカに越させないんだろ?まあアメリカの犯罪者は危険人物多いからなぁ……危ないのは分かるが少し位認めてやんねえと将来ヴァージンロード一緒に歩いてくれなくなるぞ?」

 

電話の主が階段からだと思うが落っこちた音がした。

 

「騒ぐなよ。え?結婚させないからヴァージンロード歩くことはない?あいつと結婚するなら俺の屍越えさせる?お前も良い年だがいまだに現役を張る一流じゃねえか。一毅でもキツいって」

 

一明はそこまで言うとギャーギャー騒ぐ友人の電話を切る。

 

「ま、頑張れ一毅。応援してるよ……何てな」

一明は冗談めかしながら道を歩く。自分の息子に応援はいらない。自分が居らずとも彼を支えるもの達が居る。きっと大丈夫だ。

そう自分に言い聞かせていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに余談だが、

 

「ヤッホー!」

『え?』

 

宍戸組の構成員達が腹を膨らませ倒れて他のスタッフ達が裏で死屍累々状態で死んでるところに顔を出した銀灰色の髪の少女……

 

「ロキィ!?」

 

一毅は驚く。ここ数日姿を消していた少女が来たのだ。レキも少し驚いてる。

 

『?』

 

まあキンジ以外の面々や一年生たちは知らないので首をかしげる。

 

「レキの妹だって」

「え!あんた妹いたの!?」

「はい」

 

するとロキは一毅の前にたつ。

 

「お前その服……」

 

一毅は驚くが当たり前である。何せその服武偵高校の制服……

 

「来週からこの学校でお世話になるから宜しくね」

『ええ!?』

流石のレキも驚いて声を出した。

 

「と言うわけで宜しくね、お兄ちゃん」

 

ロキが頭を下げる。

 

「あ、ああ……」

 

一毅が困惑の中で返事するとニヤリとロキが笑う。

 

「あ、専門は狙撃だから宜しくねお姉ちゃん」

 

ロキはレキを見ていいながら、

 

「でもお兄ちゃんにも教えてほしいなぁ」

「お前近接戦闘できんのかよ」

「出来ないから教えて。手取り足取り……ね?」

 

ロキが体をくっつけてくる。

胸が当たるが……でかい……小柄なくせに胸は白雪クラス……

 

「おお~レキュ!ライライ新たな敵の登場だぁ!」

「ちょ!」

 

理子が要らんことを言ってレキとライカがキレた。

 

「ほぅ……」

「へぇ……」

「ワーフタリガイジメルタスケテー」

 

ロキは一毅の背中に隠れながら抱きつく。モニュンモニュンと当たる胸が……ってその前に、

 

「ま、待てお前ら……背中に死神立ってるぞ!」

『ロキィ!!!!!』

 

一毅の言葉など聞かずレキとライカが突進してロキを追いかけ回す。だがロキは器用に一毅を盾にして逃げ回る。

たまったもんじゃないのは一毅だ。レキに撃たれるわライカの拳が狙いを外して自分に飛んでくるわ大忙し……心眼など使えるはずもなく一毅は喧嘩が収まるまでサンドバック状態となった……

 

(一毅……何か同情するぜ……)

(良かった……俺はモテなくて……)

 

キンジと辰正は一毅に向かって十字を切ったのは秘密である。



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対談
対談Ⅵ


咲実「対談やるぞ~!って誰もいないし……しかたない俺だけで……」

 

全員『おい!』

咲実「げ!?」

 

一毅「ちゃんと全員いるっつうの!」

 

咲実「し、失礼しましたぁ!と言うわけで始まるよ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「と言うわけで今回から登場だよこの二人!」

 

ワトソン「まさかここに登場することになるとはね」

 

ロキ「いぇーい!初めまして!ロキだよ!あ、リメイク前からの人から見たらお久し振り?とりあえずこんにちわ~」

 

キンジ「相変わらずロキって登場時と性格変わりすぎだろ」

 

一毅「でも意外と人気があったんだよな~リメイク前から……」

 

辰正「確かにヒロインに推す声もありましたもんね。今回はどうするんですか?」

 

咲実「する……と言うかこの作品のメインヒロインは最初からレキ、ライカ、ロキの三人って決めていたからね。いや、サブ的一毅を好きになる女の子は居る予定だけどね」

 

アリア「大変そうね。レキとライカも」

 

レキ「そうなんですよ」

 

ライカ「ホントですよ」

 

志乃「あかりちゃん。私たちは純愛を貫きましょうね」

 

あかり「う、うん」

 

理子「良いのたっちゃん?」

 

辰正「え?何がですか?」

 

理子「分かってるくせに~あかりん盗られちゃうよ?」

 

辰正「お、俺とあかりちゃんはそんなんじゃないですよ!」

 

咲実「まあ設定上辰正はあかりが好……」

 

辰正「デェイ!」

 

咲実「ヘブッシ!!!!!」

 

白雪「つ、次にいこう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「と言うわけでアンケートをとってました質問コーナ~アーンドお悩み相談コーナー!取り合えず第一回のこのコーナー……ではまず1問目!質問者は何時もコメントをくれる一人、マダラ様です」

 

ライカ「えーと、質問内容は」

 

【そういえば、ここのライカは「少女返り」とCVRとの関連はどうなってるのでしょう。まぁ、もはや心底惚れぬいてる一毅がいるからかなり薄まっているとは思いますが。そうなるとCVRとは原作程関わっていない?

 

後、夏休みの名古屋武偵女子高との戦いとかどうなったのか気になる、何気にレキもAA側に結構登場してるし、ライカなんて一毅に師事してるから、おそらく原作を遥かに上回る強さでしょうし】

 

ライカ「ですね。そうですね。可愛い人形とかは今でも可愛いと思うし普通に好きですよ?ただ原作より緩和されてると言うか可愛いと思うより一毅先輩に可愛いと思われたい感じが強くなってるかな……CVRから……と言うか麒麟からは今だに逃げてます……相変わらずそこは変わってませんが原作と違ってCVR自体との絡みはなくなってますね。ナゴジョとは……特になにもなかったですよ?」

 

あかり「ライカあんなこと言ってますけどほんとは抑え込まれたところに頭突きかまして武器奪って返り討ちにして後でやり過ぎたと自己嫌悪してたんですよ?」

 

志乃「あらこんなところに証拠写真……」

 

ライカ「わー!」

 

咲実「え、えーと……次の質問!これはリメイク前からのブルーデステニィー様から~」

 

白雪「私だね」

 

白雪(というより黒雪)は原作で出たM60は使うのですか?

 

白雪「……黒雪?」

 

咲実「やべ!え、えーとですね!まだ所持してません!ですが次章……あのトンでもブラコンシスター戦後に登場していずれ使う予定です(いつ使用するかはまだ細かくは決まってないわかりませんがちゃんと使います)」

 

白雪「ねえキンちゃん。黒雪ってなにかな?私白雪何だけど」

 

キンジ「さ、さあな……」

 

咲実「では次の質問!これもリメイク前からです。爆発王様からのコメント……これは俺が答えた方がいいな」

 

レキVSライカVSレキの妹(ネタバレ防止の為本名は出しません)VSメーヤVSカツェのメインヒロインズの大乱闘はやりますか?

 

咲実「まあレキの妹とはロキの事だけど……」

 

レキ&ライカ&ロキ「(ジトー)……」

 

咲実「……あの……ですね……一応君たちがメインヒロインだし……ね?まだ好意を完全に持たせるか決まってないしね?」

 

レキ&ライカ&ロキ「(コクリ)……」

 

咲実「だから……未定!!!!!」

 

レキ&ライカ&ロキ「死刑!!!!!」

 

咲実「ギャアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

 

キンジ「ええと皆様……ご協力ありがとうございました……これからも募集中ですので今回紹介された三名様もまた大丈夫ですし宜しくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア「今回は番外編やるの?」

 

咲実「やるよ~。今回はこれだ……」

 

全員「何々……フムフム……あれ?」

 

咲実「今回君たちに出番はない!と言うわけで今回は閉幕ね」

 

全員「え!ちょっと!」

 

咲実「皆様これからもよろしくお願いします。更にこれからもお気に入り登録及び感想評価していただけると嬉しいです。では!」



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番外編
番外編 桐生 一明の事件


「………」

 

男は墓の前に花を置くと手を合わせる……男の名は桐生 一明……そして墓にはこう刻まれていた……【遠山家】と……

 

「久し振りだな……金叉……」

 

一明は口を開く。

 

「昨日はキンジに会ってきたぞ……ありゃ強くなる……当分は無理でも経験積んで強くなっていけば俺やお前より強くなるかもだ。まあ一毅には負けるがな……」

 

一明は俯く……

 

「へ……親バカっては突っ込んじゃくれねえか……ま、死人に口なしだもんな……お前死んでどれくらい経ったよ……もう長いぜ……そっちでは元気にやってるのか?もしかしたら俺の親父がいるけど親父も元気か?」

 

返事はない……

 

「ったくよ……返事くれぇ寄越せよ……」

 

一明は頭をガシガシ掻く。

 

「まあ良いさ。またくるよ」

 

一明は何処かイラついたような足取りで歩いていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠山 金叉……遠山 キンジの父であり一明唯一無二の親友(とも)であった……だが……ある事件で死んだ。

一明と金叉は共に様々な事件を解決したしいろんな無茶も馬鹿もやった……楽しかった……

 

「でももう楽しくねえなぁ……」

 

一明は誰に言うわけでもなく呟く。

昔は喧嘩が好きだった……殺し合いは嫌いだったが強いやつと戦うのは好きだったし……暴れて憂さ晴らしもした……だが金叉が死んでからそんな気持ちもなくなった……共に戦って背中を合わせてくれる奴はいない。戦いたいと思わなくなり思えなくなった……

だから武装検事も辞めて沖縄に隠居するように一毅や由美を連れて移り住んだ。

 

「全く……まだ俺は引きずってんのかよ……」

 

すると、

 

「タ、タスケテ!」

「ん?」

 

声の方を振り替えると二十歳前後と思われる女性が一明に抱き付いてきた。

 

「てめえ何もんだ!」

「?」

 

女性が走ってきた方を見ると数人の男たちが囲んできた。

 

「誰だお前ら……」

「てめえこそ引っ込んでろよ!俺たちはそこの女に用があるんだ!」

 

一明はスッと女の前に出る。

 

「ふ……ナンパか何か知らねえが女に揃える頭数じゃねえな……情けねえとはおもわねえのか?」

『っ!』

 

男たちは歯を噛み締める。

 

「さっさと失せな……どうしてもやるってなら俺を倒してからにするんだな」

「……ちっ!お前ら……」

 

男達はナイフを出す。それを見た女は身を竦ませた。だが、

 

「そんな玩具で良いのか?」

 

一明にとっては持ち方が既に素人丸出しのナイフなど玩具同然だ。

 

「へ、へ!お前みたいなのは大体見かけ倒しって決まってんだよ!やっちまえ!」

 

男たちが襲いかかる。

 

「っ!」

 

数は六人……まず先頭の男のナイフを掴まないように手を掴むと捻り上げる。

 

「いででで!」

 

男はナイフを落とし顔を下げ、そこに一明は膝を叩き込む。

 

「ぶべ!」

「この!」

 

一明の顔に向かって降り下ろさせるナイフは横に飛んで避けると脇腹にパンチで沈める。

 

「ちぃ!」

 

一明の腹にナイフを突き立てるべく走り出す男……だが、

 

「ふん!」

 

クルっと回転しながら躱すとその遠心力を利用して肘鉄をコメカミに叩き込む。

 

「ぐご!」

「てめぇ!」

 

再度ナイフが一明に迫るが……

 

「二天一流 喧嘩術……」

 

一明は拳を握って思いきりぶん殴るとナイフが手から離れて空を舞う……それを綺麗にキャッチした。

 

「強奪の極み……」

「な……!」

 

最後の男が唖然とするが一明は切っ先をゆっくり相手に向ける。

 

「まだやるか?」

「す、すいませんでしたぁ!」

 

慌てて仲間たちを起こすと逃げ出した。

 

「ったく……最近のチンピラは戦力差の計算もできやしねえ……」

 

昔のチンピラはそういうのが分かるやつらだった。手を出しちゃヤバイ奴や越えちゃならない一線を弁えていた。

だが最近のは武器あれば勝てると思うやつらばかり……正直いつか死ぬぞあいつらと思いつつ一明はナイフを路地裏のゴミ箱に捨てた。

 

「ア、アリガトウ」

「いや、別に構わない」

 

少し八つ当たりもあったし……等とは言う必要はないだろう。

 

「ア、ワタシ……」

用自己的言词说(自分の言葉で喋れ)……我知道中文(俺は中国語が分かる)

 

↓ややこしいのでこれより下は和訳

 

「え?」

「そんなに不思議か?」

 

一明は首をかしげる。

 

「ううん。でも流暢だったから驚いただけ」

「一応英語と中国語とフランス語は必修だったからな」

「?」

 

武装検事の試験に受かるため人生でもっとも勉強したときのことだ。

 

「だが何であんなチンピラに?」

「……ここじゃまた見つかる……こっち!」

 

女に引っ張られながら一明は着いていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一明が連れていかれたのは耐震性とか言ったものに絶対引っ掛かってるボロアパート……

 

「私は紅花(フォンファ)って言います。さっきはありがとうございました」

「別に良い。だが穏やかそうな連中でもなさそうだしいったいどういう状況だ?」

「私は中国の田舎から稼ぎに日本に来ました……悪い方法で……」

「不法入国か……序でに不法滞在もだな」

「わ、私はお金をたくさんもらえるお仕事だって言われました。怪しい気もしたけどお金を貰えるんだったらって……」

「そんなに金がほしいか?」

「私のうちは貧乏……でもお母さん病気です……薬買うお金ない……病院にもいけない……」

「そう言うことか……」

 

恐らく裏にはチャイニーズ系のマフィアが絡むタイプだろう。

 

「でも日本に来てからご飯あんまりもらえないしお金ももらえない。それどころか帰しても貰えない……もう裸になって知らない男に抱かれるのはいや……だから店から逃げ出した……」

「紅花……ん?」

 

そこに突然男たちが乱入してきた。

 

「お前らは……」

 

それぞれバットや刃物で武装してる……

 

「成程口封じに来たか……」

「いえいえ交渉です」

 

そこにいかにもインテリ系と言った中国人が姿を見せる。

 

「交渉?こんな中でか?」

「ええ。内容は簡単です。彼女をこちらに渡してください。そうすればあなたの身の保証をいたします……ですが断れば……言うまでもないですね?」

「……」

「先程逃げ帰ってきた部下に聞けば偶々居合わせただけみたいですしね……元は赤の他人……どうですか?」

「……まあ確かに赤の他人だ……」

 

紅花が息を飲み男が笑みを浮かべる。

 

「だからよ紅花……俺に言ってくれないか?」

「え?」

 

一明は優しい笑みを紅花に向ける。

 

「助けて……その一言で俺はお前を助ける理由になる」

「っ!……」

 

ポロポロと紅花は涙を流す。

どれだけ苦労したかが良く分かると言うものだ。

 

帮助(助けて)……」

好啦(良いぜ)托付(任せろ)

 

一明はにっと笑うと男たちをみる。

 

「そう言うわけだ。悪いがお節介……焼かせてもらうぜ」

「ちっ……これだから日本人は嫌いなんだ。こっちが優しくしてやればすぐに付け上がる。女もろとも殺せ」

『了解』

 

そう言って一明に飛びかかった……が、

 

「オラァ!」

 

まず一人を【二天一流 拳技 虎落とし】で沈めると次の男の鼻、鳩尾と拳を叩き込み沈むその男を台にして跳ぶと後ろにいた男に飛び蹴りで更に沈める……

「二天一流 喧嘩術!」

 

最後に二人の男の頭を掴み……

 

「双頭の極み!!!」

 

一明のパワーにものを言わせて二人の男は頭を打ち付け合わされ目を回して気絶する。

 

「ば、馬鹿な……どれもさっきのやつらと違い戦闘訓練を積ませたやつらだぞ……」

 

あっという間に10秒程で倒されたためかインテリ系の男は驚愕する。

 

「さてと……」

 

一明はインテリ男の襟首を掴みあげる。

 

「質問はひとつだ。仕切ってる奴はどこにいる?」

「ば、馬鹿め!いうとおもへぶし!」

 

一明は迷わず殴る。

 

「どこにいる?」

「へ、へへいうわけなべぶ!」

 

殴る……

 

「どこにいる?」

い、言うわけない(ひ、ひふふぁふぇふぇふぇ)ぶべび!」

 

殴る……

 

「どこにいる?」

ま、まて(ふぁ、ふぁふぇ)……いくらお前が強くても(ふぃふらおひゃへひゃひゅひょひゅふぇふぉ)……何人いると思ってんだ?(にゃんにんひふふぉふぉふぉっふぇふふぁ)

「関係ないな」

 

一明はインテリ男の襟首を更に締め上げる。

 

「言え……まだ殴られたいか?」

 

一明の殺気の籠った目に逆らえるわけはなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一明は東京湾埠頭に足を着ける。

あの後、誠意を込めたお話し合いにより教えてくれた(殴って殴って殴りまくって吐かせた)場所はここの三番倉庫……の地下に作られた隠し場がそうらしい。

一応紅花の部屋に警察を呼んだ。後は警察の仕事……だからあそこをぶっ潰すのは本来警察がやるべきなのだろう。だが純粋に一明は自分の手で元凶を潰しておきたかった。

先程みた涙を……もう流させないために……

 

「悪いな」

 

一明は三番倉庫のドアを開ける……

 

「ん?」

 

そこには相当量の人間が居た……総勢100人程……成程、連絡が来ないから何かあったのだと発覚し待ち伏せを喰らったらしい。別に良いのだが……

 

「ふん……上等だ!全員纏めて掛かってきやがれ!!!」

 

一明は走り出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァ!」

 

先制手はやはり一明だ……

最初に飛び蹴りから相手を吹っ飛ばすと手当たり次第に殴り飛ばしていく。

一件無茶苦茶だが一対多数戦において大切なのは一人に時間をかけないこと、そして可能な限り全体を見てもっとも近い人間から潰していくことだ。

一毅も一度武偵高生100人を相手にしたがあの時は相手が興奮していたため攻撃が基本直線的だった。

だが今回の一明の場合は違う。相手は比較的統制がとれた相手だ。その場合は崩しにくく普通にやっても拉致が空かない。なので……

 

「あそこだな……」

 

一明はほんの一瞬だけブルーヒートをだして加速し敵の視界から消える。

 

「消えた?がごっ!」

『なっ!』

 

突然顎に横から鋭い掌底が叩き込まれ意識が飛ばされた。

 

「まず一人……」

 

一明はまたほんの一瞬だけブルーヒートを使って加速し次々とリーダー格の男を潰していく。

一毅と違い微細なヒートのコントロールが可能な一明にとっては造作もないことだが敵にしてみれば急に消えたり現れたりするため妖怪か何かに近い存在に見えた。

 

「く、くそ!」

「しゅ!」

 

更に一瞬の隙を突いてリーダー格の男を倒す序でに雑魚も少し削っておく。

 

「この!」

 

すると一人がマシンガンを出す。

 

「くらぇえええええええ!!!」

 

マズルフラッシュと共に銃を乱射……しかし、

 

「っ!」

 

一明の体を電撃のようなものが走り飛来する弾丸が全て躱される。

更に無茶苦茶に撃つため同士討ちにまで発展した。

 

「二天一流……拳技!」

 

その隙間を縫うように走り出すと掌打を繰り出す。

 

「煉獄掌!!!」

「うげふぅ!!!」

 

元来の者とは違い全身の捻りを加えることで威力をあげた一明版の煉獄掌に吹っ飛んだ男は白目を向いて気絶した……

 

「こんなもんか……む?」

するとそこに青竜刀と呼ばれる刀剣を持った中華系の男が出てきた。

 

「お前がお山の大将か?」

「何やら上が騒がしいと思えば……日本の特攻と言う奴か?」

「まさか……おまえら全員ブチのめして警察につき出すだけだ」

「ふふ、それはないな……何故なら」

 

そういった瞬間男の青竜刀が一明の顔に向けて突き出される。

 

「ここで死ね!」

 

だが一明は首を傾けて躱すと男の顔に拳を叩き込んだ。

 

「ぶっ!」

「てめえのせいで泣いた女がいる……」

 

一明は足元に転がった角材を蹴って拾いながら言う。

 

「だ、騙される方が悪いんだよ……」

「そうだな……明らかに怪しいもんに突っ込む紅花も紅花だ……だがそれでも僅かな光にすがり付きたかったんだよあいつは……」

 

男の青竜刀を一明は角材で受け流す。

 

「そうでもしなきゃ母親助けられないってわかっていたから……なのにてめえは……」

 

一明の瞳に怒りの炎が灯る。

 

「それに漬け込んでこっちで随分な事をさせてたみたいだな……」

「言っただろう!騙されるのが悪い!そして弱いから騙される!悪いのは俺じゃなく騙されるような弱さを持ってる方だ」

「違うね」

 

ギィン!っと一明は受け流しから弾きあげる。

その時男は気づいた。一明の角材がいつの間にか削れて木刀の形になっていることに……

 

(当たる角度を全て調整しながら受け流しきったと言うのか!?)

 

男は戦慄する……何者だこの男は……と、

 

「そいつらは必死に今を生きてるんだ……わりぃのはいつだってその必死な人間の弱い部分に漬け込むやつらさ……俺はそういうやつらが大っ嫌いでね……」

 

一明は腰を落とす。

 

「何者だ貴様……」

「沖縄で孤児院を経営しながら主夫やってる一般人だよ」

 

一明はそういうと疾走……

 

「っ!」

 

男は急いで防御したが、キン!っと言う音を発て次の瞬間には一明が後ろにいた……

 

「え?」

「良いことを教えてやろう……木刀でもある程度以上の速度と重さ……そして角度とか色々な条件をクリアした場合にな……斬れるんだよ」

「な……ごふっ!」

 

男の青竜刀が柄本から斬れて男の肩から脇腹にかけて切り傷を生む。

 

「うちの馬鹿息子にはまだ無理な芸当だけどな……木刀だって刀だぜ?」

 

一明クラスの剣豪が使えば木刀も名刀に変わる。

 

「弘法筆を選ばずってな」

 

そういって一明は笑った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「派手にやりましたね。桐生さん」

「大したことはないよ。佐々木」

 

佐々木と呼ばれた男は長刀を片手に肩を竦める。

 

「全く。さっき行きなり貴方から電話が来たときは驚きましたよ。しかも武装検事がずっと追っていた奴をあっさり見つけてぶっ飛ばしてるなんてね」

「仕方あるまい。人の出会いは一期一会だ。大切にしないとな」

 

そういって一明は立ち上がる。

 

「じゃあ事後処理とかは適当にやっておいてくれ……その代わり俺の名前は秘密な」

「はいはい。それにしてもまだ強さ延びてますね。化け物ですか?」

「お前も腕をあげたようだが?お前に付けられた古傷疼くときあんだぞ?」

「結局負けましたけどね……たった一度の真剣勝負……まあ娘には負けたって言えなくて桐生さん逃げ回ってたところしかいってませんけど」

「おい」

 

一明は佐々木に突っ込んだ。

 

「まあ良いさ。アバヨ」

 

軽く手を降りながら一明はその場を去る。

 

「被害者に会っていかなくて良いんですか?」

「良いんだよ。通りすがりのお節介やいただけだ」

 

そういって一明は闇に姿を消す。

 

「全く……相変わらず強いけど……」

 

佐々木は目を細める。

 

「まだあの事件引きずってんだな……」

 

佐々木の呟きは誰にも聞こえることはなかった……




勝手な想像ですがキンジの父ちゃんが殉職した事件は多分相当ヤバイ事件だったと思うんですよ。
だってランキング8位の人が殉職ですよ?しかもイギリスの某超人を任した人がですよ?
なので一明が武装検事を辞めた辺りはその辺が絡んでると言う設定です。

ちなみに今回の一明にとっての事件の難易度……「例えるなら……行き慣れた酒場に行って帰ってくるくらい?」でした。


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第九章 人工天才の血筋
龍達と闇鍋


『カンパーイ!!!』

 

チームバスカービルの皆は祝杯を上げる。

文化祭は無事終了し売り上げは何と校内トップ……序でに歴代トップで話題性もトップと来た……但し苦情もトップ……

まあそんなことは脇に置いておくとして終われば武偵高校 文化祭のお約束……体育館での闇鍋である……

 

「と言うわけで……」

 

まずこの闇鍋は専用の鍋で外れ食材を持ち寄る物と外れ食材を持ち寄るものに別れる。

 

今回の当たり食材はキンジ、一毅、白雪とまともな面子だが……

外れ食材はアリア、理子、レキだ……アリアとレキは想像がつく……だが理子……こやつが想像つかない。いったい何を持ってくるのか……

 

「ま、まず私はお肉だよ……」

 

松阪牛を出して入れる白雪……

 

「お、俺は野菜だ……」

 

一毅は野菜を入れる……

 

「お、俺は豆腐とか白滝な?」

 

キンジもまずまず鍋らしい物だ……そして入れる……だが、

 

「私は桃饅ね」

 

アリアのそれは予想ついた……投入……

 

「私はカロリーメイト(シュールストレミング味)です」

『ちょ!』

 

世界一臭い缶詰味のカロリーメイト出てるのかよと全員が突っ込む……確かギネス認定もされてたはずだ。

ま、まあ少し予想を裏切られたが上場と言うところだろう……投入……クッサァ!!!!!!!!!そして最後の理子は……

 

「皆……大切なのを忘れてるよ……」

 

理子はムフフと笑いながら言う。

 

「そんな理子はこれです!」

 

理子が出したのは……ブレアの午前6時!!!

ブレアーズとか言う会社が作った現在では世界で最も辛いソース!!!その辛さは命に関わるレベル(注※本当です)のそれを惜しげもなく全て投入……シュールストレミングで鼻が痛いが目も痛くなってきた……

 

「ば、バカ!辛すぎだろ!」

「大丈夫大丈夫。これで中和するから」

 

そう言って出したのはタウマチン!!!!!!その甘さは砂糖の3,250倍と言う数値を誇る驚異の甘味料……

 

「どば~♪」

『なっ!』

 

それも惜しげなく理子は投入……遂に鍋の全貌が明かされたわけだが何かドロドロネバネバしてて汁の色が紫だかなんだかよくわからない色だし器に装ってもゴボゴボ音をたてる……こわ!

 

「だ、誰が食べる?」

「こういうのはリーダーじゃないかなぁ……」

 

理子も自分のやらかしたことに気づき冷や汗を流しながらキンジを見る。

 

「いや、こういう場合は一番体が頑丈そうなやつがやるべきだ……」

 

そう言って一毅をキンジは見る。

 

「い、いくらなんでも死ぬって……」

 

因みに絶対一口は口にしなければならないのが約束である。でないと蘭豹から鉛弾を食わされる。

 

「あ、アリアせんぱーい!」

 

そこに生け贄ども――もとい、後輩たち+ロキが来た。

 

『(お前ら)(あんたたち)(だれか)(あなたたち)(君たち)のうち誰か食べ(ろ)(なさい)(て)(てください)!!!』

 

全員が後輩に食わせることを決めた。

 

『ええ!?』

 

一年生たちは驚く……目の前には明らかに人類が製作しちゃいけない何かがある……

 

「あかり!命令よ食べなさい!」

「し、志乃さん!これも強くなるためだよ!」

「ライカ!……ええと……何でもない!」

「陽菜!これを食うんだ!修行だぞ!」

「辰っちゃんあげるー!」

「ロキ、食べなさい!」

 

一毅は彼女にこれを食わすのはどうかと言う理性が働いたが他の面々は遠慮なく食わせにかかる。

 

「む、無理ですよ!辰正パス!」

「す、すいません!と言うわけで谷田くんパス!」

「よ、良かったぁ~まあ一毅先輩の分は辰正にやるよ」

「し、師匠!さすがにまだそれは拙者には荷が重すぎるでござる!なので谷田殿に差し上げるでござる」

「え、えーと……よくわかんないけど正ちゃんにあげればいいんだね?」

 

先輩から後輩に……そして全て辰正に委ねられた……

 

「あれ?」

 

そりゃ、あれ?である。辰正は鍋ごと渡されたため呆然と見る。

 

「いやいや!これ作ったの先輩達ですよね!?何で俺が食べるんですか!?しかも臭くて目が痛いし!」

「知ってるか?後輩はどんな理不尽な命令も聞かなきゃいけないんだ。そして後輩たちのなかで男はお前だけ……まさか女に食わせる気か?」

 

陽菜に押し付ける気満々だったくせにキンジは自分のことを棚にあげて辰正に押し付ける。

「うぅ……」

 

確かにキンジの言う半分は辰正も納得した。更にあかりにはこれを食わせたくない。あかり本人には気付かれてないが辰正はあかりに対して異性の気持ちを抱いてる。なのでこれを食べるのがあかりを守ることになるのなら……男を見せてやろうではないか!

 

「頂きます……」

 

辰正は手を合わせ箸で中から食材を取り出す……出てきたのは元は桃饅だったもの……だがシュールストレミングの香りと危険な色……

 

「南無三!」

 

辰正は口に危険物を放り込む……

グニュチャ~っと言う不快な歯応え……更に鼻を突き刺すシュールストレミングの臭い……そして次の瞬間……

 

「ウグゥゥゥウウウウウウワアァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

地の底から上がってくるような叫び声……辰正の口を凄まじい辛味と甘味が蹂躙していく辰正は皿を落としながらひっくり返る。全身から汗が止まらないし息ができない。

 

「ウグ!エグ!オグゥ!ガガボ!!!」

 

変な奇声を発しながら転げ回って跳ね回る。

 

「オゥエ!!!」

 

そして遂に動きを止めるとうつ伏せのままピクピク動く……

 

「た、辰正?」

 

あかりが恐る恐る見る。

 

「あかりちゃん……君にあえて良かったよ……」

 

ポテ……とそのまま辰正の意識が消えた……

 

「医者ああああああああ!!!」

 

さすがに全員が慌てた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……うーん……」

 

たった一口で辰正を重症?に追い込んだ危険物は捨てて鍋を作り直す。

因みに一応治療を受けた辰正は現在あかりの膝の上に頭を乗せて唸っている……押し付けた後ろめたさか志乃ですからそっとしておく。

 

「そういえば夾竹桃はどうしたんだ?」

 

ここのところ一セットだった夾竹桃が居らず一毅がライカに聞く。

 

「同人誌書くんだって言ってましたよ?」

『あ~』

 

さて、完成だ。今度はちゃんとした鍋である。

 

『いただきます……』

 

辰正と言う犠牲を払い一年生も交えて鍋を食べる。

 

「あ!こら理子!それはアタシのお肉よ!」

「早い者勝ち~」

「うぉ!お前ら少しくらい俺にも食わせろ!」

「き、キンちゃんアーン」

「ん?アー……」

 

勢いで白雪のアーンにキンジは応じそうになるが……

 

「なにやってんのよ!」

 

白雪にアリアがキックをかまして吹っ飛ばず。

 

「そんな狡い……じゃなくてバカやってんじゃないわよ!」

「ねえねえキー君アー……」

「あんたもなにやってんのよ!」

「お前ら埃立つから暴れんな!」

 

一毅が遂にキレた。

まあとにかく邪魔物は排除できたので……

 

「ねえキン……」

「師匠、ささ、お口を開けてくだされ」

「……」

 

そういえばまだいたっけ……とアリアは無表情でガバメントを抜く。

先程から戦々恐々でビクビクとアリアを見ていたキンジはそれを見て飛び上がる。

 

「風穴ァアアアアア!!!!!!」

 

アリアがガバメントをバッキュンバッキュン撃ちまくる。

キンジは陽菜を連れて逃げ回る。

 

「と、止めなくていいの?お兄ちゃん」

 

ロキがそれを見て一毅に聞くがそれ以外の面々は静かに食事を続ける。

 

『何時もの事』

 

一言そう言った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひどい目に遭ったぜ」

 

キンジと一毅はゴミをごみ捨て場に捨てる。

すでに時間は真夜中……一年生たちは辰正を運んでいった。序でにライカは先にかえって風呂を沸かしておいてくれるらしい。後、深く突っ込まなかったし誰も気付いてなかったがロキが着いていってたが……気づかなかったことにしとこう。

 

「あれはお前が悪いよ」

「なん……だと?」

 

キンジは一毅の返答に驚く。

 

「俺が悪いのか?」

「そりゃそうだ。態度をハッキリさせないからそうなる」

「うぐぅ……」

「もしくは纏めて懐に入れられるだけの甲斐性をつけるんだな」

「…………」

 

キンジはごみを捨てながらそっぽ向いた。

 

「さて、帰ろうぜ。もう俺たちしかいないんだからさ」

「そうだな」

 

キンジの言葉に一毅が頷いた次の瞬間……

 

『っ!』

 

体育館が爆発……

 

「なんだ!」

「っ!いくぞ!!!」

 

二人は急いで体育館に向かう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰よあんた!」

 

アリアは突然の襲撃者に向かって叫ぶ。

 

「えーと……」

 

クチュ……とキャラメルを口に放り込みながら変なゴーグルと言うかバイザーを着けた体つきから女と思われる襲撃者はアリア達を見る。

 

「何でお兄ちゃんはあんなロリとかデカ乳女とかロリ巨乳とか忍者っ娘とかを囲むのかなぁ……非合理ぃ~」

「何言ってんのよ!!!」

 

アリアがガバメントを撃つ。

 

「遅い!」

 

襲撃者は横にスウェイで躱すとアリアと肉薄する。そのまま背中から剣を抜くとアリアに振り下ろす。

 

「この!」

 

咄嗟に小太刀で防ごうとしたが勘が避けろと訴える。

 

「くっ!」

 

アリアは小太刀を手放し横に跳ぶ。

 

「意外と判断力あるじゃん」

 

襲撃者の剣と空中にあるアリアの小太刀がぶつかる……すると簡単にキン!っと言う音と共に斬れた……切れ味が良いとか言うレベルではない。

 

(なにあの剣!)

 

アリアは驚愕しつつも一旦距離を取って銃撃……だが襲撃者は回転しながら飛び上がる……そして、

 

「ハァアアアアア!!!」

「がっ!」

 

強烈な踵落しが決まり地面に着地するとそのまま蹴り上げる。

 

そこに白雪が抜刀。イロカネアヤメと襲撃者の剣がぶつかると凄まじい火花を散らす。

 

「そう言うこと……糸鋸みたいな剣なんだね」

「頑丈な刀……だね!」

 

弾き上げると一旦距離を置く。

 

「くふふ……」

「……」

 

理子とレキが銃を構えた……だが、

 

「残念だね」

 

間合いを詰めてきた白雪に飛び蹴りを襲撃者は叩き込みその反動を利用して空中バック転……後ろから放たれたレキと理子の銃弾を躱しながら二人の同時に蹴りを叩き込む……

 

「ぐっ!」

「がっ!」

「うっ!」

 

三人は床に倒れた……まるでキンジの【三角飛びの極み】のような蹴り技……

 

「動きが……キー君に似ている?」

 

理子が顔をあげながら襲撃者を見る。

そこに、

 

「ウォオオオオオ!!!」

 

キンジがドアを蹴破って乱入しそのまま疾走……

 

「あ……」

「ウッシャア!」

 

襲撃者はあっさりキンジの蹴りを喰らった。

 

『え?』

 

アリア達は驚く……襲撃者の強さは味わったばかりだ。あんなあっさりキンジの蹴りを喰らうような奴ではない筈だ。

 

「大丈夫かお前ら!」

 

一毅がレキに駆け寄りながら皆を見る。

 

「何者だお前……」

「ねえ邪魔しないでよ……お兄ちゃん」

『………………はい?』

 

一瞬皆が一毅を見る。首を横に振るう。と言うか襲撃者の視線は明らかにキンジを見ている。だが……キンジに妹はいない。序でに言うと弟もいない。それは一毅も知っている……のだが、

 

「ねえお兄ちゃん。何で邪魔するの?」

「お、おい……何言ってんだ?」

 

キンジは困惑する……

 

「まあいいや……こいつら殺してお兄ちゃんの眼を覚まさせる」

「っ!」

 

キンジは身構え一毅もレキの前に立ちながら刀の鯉口を抜く……すると、

 

「待てフォース……お前へそんな命令をした覚えはないぞ」

『っ!』

 

突如出現した襲撃者と同じバイザーを着けてて顔はわからないが声や体格から判断するに男だろう……それに全員が注目する。

 

「別にいいじゃんサード……」

「駄目だ……遠山 キンジをレガルメンテにするには必要だ」

「でも!」

「それともフォース……俺の命令が聞けねえのか?」

『っ!』

 

一毅達は自分達の体が重くなった気がした……サードと呼ばれた男が放つ覇気……一瞬サードがでかくなったような感覚……何だこいつは……よくわからないが……強い。

 

「ご、ごめんサード……少し興奮して……」

 

フォースと呼ばれた襲撃者はあっさり頭を下げた……と言うかわずかに怯えている。

 

「そうか。じゃあ後はお前のやることをやれ」

 

そう言ってジジ……と言う音と共にサードは消えた……

 

「さてと……」

 

フォースはこっちを見る。

一毅とキンジの二人は身構えた……

 

「そんな風に警戒しないでよ。降参するから」

『なに?』

 

二人の疑問を無視してフォースは鎧や武器を全てこっちに捨ててきた。そしてバイザーを外すと……

 

『っ!』

 

その下にあったのはクリッとした眼……そして淡い栗色のショートボブの髪だ。年齢は14前後だろう。

鎧の下に着てたアンダースーツからも分かるが成長も年相応……

だがフォースの顔を見た瞬間その場にいた誰もがキンジを……そしてカナを知るものは脳裏に浮かべた……

 

「何が目的だ……」

 

キンジはフォースに聞く……

 

「ふふ……それわねぇ……」

 

フォースは妖艶な笑みを浮かべた。

 

「お兄ちゃんの彼女になりに来ました」

『……………………………………………………………』

 

全員が我が耳を疑った……



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龍達と自称妹

突然の襲撃から次の日……

 

キンジは一毅と一緒にカフェに入る。

 

「あ、こっちです」

 

入って奥を見るとメーヤがいた。

他にも玉藻とワトソンと吉岡 清寡と言った男と……

 

「初めてだな。俺は祇園(ぎおん) 廣二(こうじ)だ。吉岡道場の高弟で今回の戦いにも代表の一人として参戦させてもらう」

「そう言うわけだ」

 

キンジと一毅は紹介に応じながら座る。これで取り合えず師団(ディーン)の主な面々が揃ったと言うことだ。

 

「さて、アリアたちはどうなのじゃ?」

「取り合えず病院だ……殆ど蹴っ飛ばされただけだし怪我と言う怪我は大したことないけど一応検査だけでもって僕が勧めたんだ。それに一応ある程度の拘束がないと彼女たちはすぐにでも仕返しに向かいかねないからね」

 

ワトソンの言葉にキンジと一毅は頷く。確かに間違いない。

 

「で?これからどうすんだよ」

「それよりフォースさん?でしたよね?彼女はどこに?」

「キンジの部屋です」

 

メーヤに一毅が返事するとキンジと一毅の二人以外椅子から落ちた。

 

「む、昔から遠山侍は手が早かったがまさかそこまでとは……」

「違う!」

 

キンジが叫ぶ。

 

「あいつが勝手に俺の部屋に住み着いたんだ!」

 

そう。昨夜の襲撃後フォースを何処に連れていくか悩んだ……普通は尋問科(ダキュラ)辺りに突き出すが今は戦役とかの微妙な時期……そうなってくると別の手の方がいい気がする。

すると、

 

《迷うことないよ。お兄ちゃんの部屋に住むんだから》

 

そう言われ二人が唖然としたのは言うまでもない。

 

無論キンジは断った。だが他につれていく場所はないし(一毅の部屋は隣なので一毅に預けてもあまり意味がない)何より理由は分からないがキンジにフォースは懐いてる。暴れる危険も考えればキンジの隣が一番だ。

 

「で?正体はわかったのか?」

 

キンジが話を変える。

 

「昨日の今日で流石にそんな多くはわからなかったよ。でも少しはわかった」

「充分凄いですよワトソンさん」

 

メーヤは拍手した。

 

「彼女は……と言うか彼女の上役になる人物が有名だったからね。だから彼女自身よりは彼女の身の回りだけだよ?」

「それでも充分じゃろう。言ってみよ」

「彼女はロスアラモスと言うアメリカの研究機関で作られた所謂試験管ベビーだ」

「?」

 

一毅にはよくわからなかった。

 

「人道的にとかで余りいい顔はされないけど人間は精子と卵子を機械で人工的に受精させ機械に入れておくと子供になるんだ。一種のクローン技術に近いのかな?」

「へぇ……」

 

一毅が頷く。

 

「そして彼女が所属する組織の名前はジーサードリーグ……アメリカで有名なRランク武偵・GⅢがトップのアメリカでも高い評価を得るチームだ。因みにGⅢは開幕の宣言の時にも居たよ。一人で勝手に帰っていったっけどね」

 

ああ、彼奴か……と一毅とキンジは考えるが……

 

「R?」

 

二人にとってそんなランクがあったことの方が驚きだ。

 

「余り一般的じゃないからね。Rランクというのはroyalの頭文字からだ……王室の警備等を任させられる超超一流の武偵のことだ。単独で警護できるような人間が選ばれるからね。世界でも七人しかいない」

「そんなすくねぇのかよ……」

「因みにその強さは専攻した科関係なくRランクと付けられる時点で最低でも一人で一個大隊に匹敵すると言われる」

『っ!』

 

キンジと一毅は驚愕する。つまり一人で国ひとつ潰せると言うことだ……

 

「ふむ……となると戦うより引き入れる方が得策じゃな」

 

玉藻が言う。

 

「遠山侍。彼女を引き入れてサードと言うやつもこちらに引き入れるぞ」

「どうやるんだよ」

「お主の事を気に入っとるんじゃろ?接吻でも夜伽でも何でもして落とせ」

 

今度はキンジと一毅が椅子から落ちる番だった。

 

「お主らが落ちてどうする。落とす方じゃぞ」

『いや別に上手いことやった訳じゃない……』

 

二人の口調が被る。

 

「あと、絶対却下だ」

「なぜじゃ?使えるものは何でも使って人事を尽くすものじゃ」

「限度ってもんがあるだろ!仮にも自称妹にキスしたりしろってか!?」

「遠山さん。ひとつ抜けてます」

「意味が昔の言葉だから抜かしたんです!」

 

キンジがメーヤに突っ込み返す。

 

「む?夜伽と言うのは……」

「吉岡さん。俺には必要のない知識なのは何となく分かるんで」

 

そんなやり取りを見て廣二は笑っている。殴ったろかい!

 

「なぜそんなにいやがる。儂が童の頃は血の濃さ守るため妹と子を成すことなど当たり前じゃったぞ」

 

今も小さいけどな……と周りは内心思ったが静かにしておく。

 

「いったい何百年前の話だ!」

「最後が今から……って何を言わせる気じゃ!女子に年の話をさせるんじゃない!」

 

玉藻とキンジがポカポカ喧嘩し出す。

 

「大体お前にはと言うか遠山侍自体信心が足らなすぎじゃ!そこに座れ!」

「お前こそ少しは威厳に満ちた姿してみやがれ!」

 

端から見たら幼女と喧嘩する高校生……ただ単にヤバイやつじゃないか。

 

「じゃあ俺が交渉しましょうか?」

『え?』

 

キンジと玉藻も喧嘩を中止して皆は廣二を見た。

 

「俺は独自の情報網がありましてね。交渉位ならやりますよ」

「そうか……ならば頼もう。じゃが遠山……あの娘を繋ぎ止めておけよ?それくらいなら出来るじゃろ?」

「まあそれくらいなら……」

「ならば解散じゃ。あと、アリア達が仕返しを企てたら止めるんじゃぞ」

『え?』

 

一毅とキンジが固まるが他の面々はさっさと解散していく……

 

((あれを止めろと?))

 

一毅とキンジは嫌な汗を流した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、武偵付属病院に重い足取りで見舞品を手に一毅とキンジはやって来た……

 

「しかしお前に妹ねぇ……そして妹はお兄ちゃんの彼女になりたいか……鬼畜やろうだなお前」

「お前にだけは言われたくねえよ」

「実の妹に手を出そうと思わねぇよ」

「俺も思わねえよ」

 

等と漫才みたいなことをやりつつアリアたちの病室(同じ部屋に収容?されている)のドアを目指して階段に差し掛かると……

 

『は?』

 

ズリズリとお盆が動いている……一瞬何事かと思ったが既にこんな怪奇現象に慣れっこの二人だ……

 

「何をやっているんだ?ヒルダ」

「………」

 

お盆の動きが止まった……

 

「あ、あら遠山、桐生。奇遇ね」

 

影から(比喩とか柱のとかではなく本当に影から)ひょっこり登場したナース姿のヒルダは白々しく声を出す。

 

「ちょうどいいわ。理子に黒ヤモリの姿焼きあげてちょうだい」

「自分で渡せよ」

「嫌よ」

『……………』

 

前回の戦い以降魂が抜けた状態だったヒルダだが最近は理子にたいして考えを改めたのか多少なりとも歩みよりを見せている。

 

「と言うわけで頼んだわよ」

 

そう言ってまたヒルダは影に戻って消えた……

 

「まあそれくらい運んでやるか」

「そうだな」

 

二人はお菓子にヤモリの姿焼きと言うカオスな荷物で階段を上がってアリア達が入院している部屋をノックして開ける。

 

『は?』

 

本日二度目のは?である。

 

中には何故か妖精の格好をしたアリアとか普段より強調された胸のミイラ女白雪とか何かナースの格好をしている理子とか獣耳獣尻尾のレキとか猫の格好をしたあかりとか吸血鬼の格好をした辰正とかカボチャ人間に変装した志乃とか忍者の格好をした陽菜とかあちこちにコウモリの意匠施したライカに姉であるレキと同じ獣耳獣尻尾のロキ(だがレキより体の凹凸が出る服装をしている)である。

 

『な、何してんだ?』

「あんたたちこそ何で普通の格好してんのよ」

 

そう言ってアリアはカレンダーを指差し……

 

『ああ!』

 

今日は10月31日……武偵高校の意味分からんルールで何故かこの日は仮装していなきゃいけないのだ。

その事をすっかり忘れていたキンジと一毅は勿論普通の制服だ。(ワトソン仮装してなかったが多分転校してきたばかりなので知らなかったのだろう。この行事はあくまで周知の事実として行われ通告を行われないからだ)

 

やらかしたと一毅とキンジは頭を抱えた。この状況を蘭豹とか先生たちに見つかれば確実にお仕置きである。

 

「ある意味制服も仮装ですと言う言い訳は通じるか?」

「難しいと思うぞ?」

 

先生に見つからないように今日は生活するしかないようだ。

だが忍者の格好の陽菜はあれは仮装じゃない気がする……本職の服装って意味ないだろう……

 

「取り合えず見舞い持ってきたがいるか?」

『いる!』

 

一毅は皆にお菓子を配る。

 

「で?皆も見舞いか?」

「ええ、そしたらですね……」

 

一毅の問いにライカが曖昧に言う。

 

「ん?」

 

一毅が周りを見る……よく見るとこのファンシーな空間に似合わないものがゴロゴロ置いてあった。

 

「おい白雪……なんだそれは」

「何って私の持ち銃の【M60】だよ?」

 

機関銃は違反であるがその前に……

 

「その取り付けてある筒みたいなのは……」

「あ、平賀さんに頼んで着けて貰ったグレネードランチャーだよ。他にも中折れにしてスカートのなかに収納できるようにしたの」

「…………じゃあ理子……そのショットガンの弾丸は……」

「これ?ヒルダの時は散弾だったけど今度はスラッグ弾だよ」

 

スラッグ弾とはショットガンを使って撃つでかい弾丸……通常のと違い弾が散らばらないが威力は桁違いに高い。

 

「……………じゃあレキ……そのライフル……」

「見ての通りバレットM82です」

 

バレット社が開発した軍用対物狙撃ライフル……大方平賀からの購入だろう。だがその前に、

 

「それ人に向かって撃てないんだぞ?武偵が使う銃じゃねえぞ……」

「その辺は何とかします」

 

何とかならないから国際法で人に向けるの禁止されてるはずだ。

となるとアリアのも推して知るべ……かと思いきや、

 

「何よ」

 

アリアのベットには小さな箱と小太刀が一振り……

 

「昨日斬られちゃったからね。買ったのよ」

「お前ら昨日襲われて既に装備の準備が出来てるってどうやったんだよ……」

「前々から皆装備自体は集めていたわ。これからもっと派手になっていくからね。小太刀は予想外だったけど」

「そ、そうか……」

 

一毅は頭を抑えながら一年生たちを見る。

 

『…………』

 

コクリと皆は頷く。恐らく見舞いに来たらこの殺る気満々の二年生たちに囲まれたのだろう……そりゃ怖かっただろうな……

 

「で?その箱はなんだ?」

 

キンジが見る。

 

「あんたには着てなかったの?」

「何がだよ」

 

アリアが箱のふたを開けると中にはカラフルな弾頭の銃弾が……って!

 

(D)(A)(L)!?」

 

キンジはあんぐりと口を開ける。

 

「そうよ。バチカンが送ってきたの」

 

メーヤは知らなかったのだろうか……しかし一発数百万の弾丸を箱詰めにして送ってくるとはバチカンも金がある……

 

「あんたにも来るはずよ。転売したらダメだからね」

「しねえよ」

 

少しそういう考えも浮かんだことは否定しないが……

 

「さて、たしかキンジの部屋にいるのよね?」

 

二年の女子全員がジャキンと銃を構える。

一年達がドン引きしてるぞ……

 

「待て待て。さっき師団(ディーン)として決まったんだが仕返しは無しだ」

『え?なんで?』

 

アリアたちはキンジを見る。

 

「フォースを……と言うかその後ろにいるGⅢって奴も引き入れるんだと。だから喧嘩厳禁だ。と言うかお前らの装備見てればこの空き島の形を変える気か?」

「でも武偵はやられた分はやり返すものよ!」

「もうちょっと平和的に仕返ししろと言っているんだ!」

 

まあ平和的な仕返し等キンジも分からないのだが……

 

「そう言うことだね……」

 

理子がヌフフと笑いながらキンジを見る。こう言うときの理子の狙いは想像つく……

 

「キー君自称妹ちゃんの色香やられたんだね?」

「は?」

「可愛かったもんね~」

「お前話聞いてたか?俺だけじゃねぇ、師団(ディーン)として決まったって……」

 

そこに扉が開く……

 

『ああ!』

「あ、やっぱりここにお兄ちゃんがいた」

 

フォースが普通に入ってきた。

 

『っ!』

 

一年生達が間合いを詰めると武器を突きつけた。

無論ベットから二年生たちも銃を構える。

戦闘体制じゃないのは一毅とキンジだけだ。それにしてもフォースの姿は見せてないはずだが一年生たちもアリアたちから聞いていたのだろう。入ってきた瞬間から武器を抜いて行けるようになっていたとは今の動きも滑らかで無駄がないし最近あいつらの成長が著しい。(こちらの知らないところでもヤバイ事件を解決してるのは知っているが……)だが、

 

「待ってよ。私武器持ってきてないよ?それに戦いに来た訳じゃないし」

「じゃあ何しに来たの?」

 

あかりが聞く……基本的にアリア大好きっ子のあかりだ。一見いつも通りに見えてもアリアに怪我をさせた下手人の登場と来れば冷静ではいられないだろう。

他の皆だって自分の戦姉だったり昨日今日の付き合いではなくかなり深い部分で付き合ってる。そういった関係の人間を傷つけた人間だ。

下手なことを言えば確実に潰しに掛かるだろう。言っている通り丸腰だったらキンジと良く似た蹴り技しか武器はない。

 

「お兄ちゃんを探しに来たんだよ」

 

そう言ってフォースはキンジに近づく。余りに殺気とかそういった害意を感じなかったためあかり達はすり抜けられているのに気づくのが遅れたしキンジも間合いの侵入を許した……

 

「探したよ……お兄ちゃん」

『っ!!!!!!』

 

全員が眼と口を限界まで引ん剥く……それもその筈……何故ならいきなりフォースは……

 

「ん……ちゅう……」

「……………………」

 

キンジに熱いキスをかましたからである……



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金と妹

「はぁ……」

 

キンジが鬱屈とした面持ちで歩く。右腕だけ少し重量を感じる……何故かと言うと、

 

「えへへ~お兄ちゃ~ん♪」

 

自称妹のフォースが自らの右腕に縛り着いて離れないのだ。何度剥がしてもまるで強力磁石の如くくっつき直してくるのでもう諦めている。

 

「おいフォース。お兄ちゃんは辞めろ。俺に妹は居ない」

「……」

 

何故そこで機嫌を損ねるのだろうか…… まあ別にいい。

 

「ったく……どうすんだよ……」

 

それよりキンジとしてはこれからアリア達にどんな顔で会えば良いのだろうかの方が大切だった。

先程の皆の前でされたフォースのキス……

それを見た面々は一瞬硬直して当たり前だがドン引きされた。

あの普段他人に対して嫌悪感を見せず一度戦ったがそれ以降はキンジに対してきちんと後輩として礼節もって対応する辰正ですら「うわぁ……」と言う眼だった。

白雪と陽菜に至ってはバタンと後ろに倒れて気絶したくらいだ。

そりゃ自称とは言え妹とキスするとかどんな鬼畜野郎状態であろう。キンジ自身も自覚はあるがこれは向こうからだしまさかキスがくるとは思ってなかったのだ。

なのに混乱の極致に達したアリアがガバメントを四方八方に乱射し出し仕方なくフォースを連れて逃走したのだが……

 

「はぁ……」

 

だが今ごろあそこで自分がなんと言われてるか想像すらしたくない。するとフォースが離れて背を向けた。

 

「おいどこ行く気だ?」

「アリア達のところだよ?」

 

キンジはずっこけかけた。

 

「何でだよ!」

「ちょっとアリア達ぶっ殺してくる」

「っ!」

 

カァっとキンジは自分の体の芯の熱くなる気がした……だが確実に怒りの沸点振りきれていた。

 

「辞めろ……フォース」

「……お兄ちゃんってアリア好きなの?」

「はぁ!?」

 

フォースの言葉にキンジは唖然とした。

 

「だってアリアって部分にお兄ちゃん強く反応したよ?」

「んなわけねえだろ!」

 

キンジは全力で否定した。

 

「ふぅん……じゃあ他の女は?」

「全員仲間だ!しかも一部は一毅の彼女だしな」

「へぇ~。じゃあキスとかないんだね?」

「……………」

 

キンジは視線を横にそらした。はっきり言おう……寧ろバスカービル内ではキスしてないのはレキ位なものであり(一毅は男だから言うまでもなく論外だ。まあレキとしたと言うことが一毅に知られれば微塵切りにされそうだ)アリア、白雪、理子と全員している……

 

「やっぱり殺そう」

「だから辞めろっての!」

 

キンジがフォースの前に立って止める。

 

「だってお兄ちゃんあいつらがいるとずっとその事考えてばかりだもん!あいつら居なくなればもう考えないでしょ!?」

「そんなことすれば一毅が阻止するだろうがその前に聞いておくぞ?何でそんなにあいつらが気にくわないんだ?」

「お兄ちゃんは私だけ見てれば良いの!そして彼女にしてくれれば良いんだよ」

 

キンジはこめかみを抑えた。

 

「お前……自称とは言え俺の妹なんだよな?」

「うん。でも自称じゃないよ」

「んな事はどっちでもいい。じゃあお前は俺の妹を名乗るくせして恋人になりたいのか?」

「最初からそう言ってるじゃん」

「絶対ダメじゃねえか!世界広しと言えど近親相姦が許されてる場所なんかねぇよ!」

「愛があれば大抵の事は許されるんだよ!」

 

どこかで聞いたなその言葉……とかキンジは考えながら頭を抱えた。

比較的この少女は白雪に似た性格だ。目的を定めるとその標的に向かって爆走して辺り一帯を粉塵と化しかねない危険な性格……

 

「とにかくアイツ等に関わるな。危害加えるようなら俺はお前を全力で潰さなきゃいけなくなるぞ」

「非合理だよお兄ちゃん。私の方がお兄ちゃんより強いよ?」

「やってみなきゃわからないし少なくとも自称妹に負けるような低いプライドはねえよ」

『……………』

 

二人は睨み会う……そして、

 

「分かった。その代わり一つお願い聞いて?」

「内容によるが聞くだけ聞いてやる。何だ?」

「そこのコンビニでキャラメル買って」

「…………………」

 

キンジは今度は完全にずっこけた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ~ん♪」

 

フォースは鼻唄を歌いながらバス停キャラメルを口にいれる。

何がそんなに楽しいかわからないが取り合えず少し考えておきたいことがある。

フォースは相当な美少女だ。いや、並外れたと言う方が正しいかも知れない。少なくともアリア達クラスの美少女だ。

そんな少女とのキス……それによってヒステリアモードになっても何ら不思議じゃない。無論自称とは言え妹に対してヒスった切腹ものだがそれでもヒステリアモードに成らなかったのは何かあるのだろうか……

 

「ねえお兄ちゃんバス来たよ?」

「ん?あ、ああ……」

 

思考に深く入りすぎて気付かなかった。取り合えず後でじっくり考えよう。まさか急にヒスらなくなった訳じゃないだろうか……

 

「ねえ、またキンジ違う女の子つれてるよ」

 

誰かが呟いた。またとは心外である。確かにいろんな女子と一緒なのは否定しないがそんな取っ替え引っ替え女を連れ歩くクズ野郎扱いは勘弁してほしい。

 

「なに遠山、今度はまた可愛い子つれてるね」

「ホントだ。これなら私たちにもチャンスあるかな」

「ねえねえ貴女は誰?」

 

修学旅行の一件以来妙に話し掛けてくるようになった鷹根・早川・安根崎の三人が身を乗り出してきた。

 

「姦し三人娘……」

 

キンジは顔がひきつる。元々ヒステリアモード化の危険を考え女子との交流を(自分の中では)減らしてきたつもりのキンジである。なのに女子三人に話しかけられてもどう返すべきか悩ましいところだ。更にこの三人に話しかけられるとアリア達の機嫌がすさまじく悪くなるのだ。何故?

 

「妹です」

 

キンジは眼を引ん剥いて吃驚眼でフォースを見る。

 

『………ええええええええ!?』

 

だがそれ以上にバス中の人間がひっくり返った。

良くも悪くもキンジは有名人だ。女好きとか女誑しとか異常戦闘能力とか銃弾を手で逸らしたりだとか上げていけば切りがない。

そんな彼の妹が登場である。しかも美少女と来た。

 

「うっそ!歳は?」

「14です」

「好きな言葉は?」

「背徳です」

「好みのタイプは?」

「少し影があって不運だけど……まあお兄ちゃんみたいな男の人が好きです」

「かわいー!」

 

ダメだこりゃキンジはガックシと肩を落とした。完全にお兄ちゃん子の妹がいると認識された。

 

「名前は?」

「Gふぉーもごご!」

 

それは不味いとキンジはフォースの口を抑えた。遠山 Gフォースとかどう考えても可笑しい。

 

「ちょっと何で隠すのよ」

「あ、いやその……」

 

不味い何か名前を出さなければとキンジの頭がフル回転する。

まず遠山兄弟には【金一】【金次】と金の字が入る……ならば金の字を入れれば問題はないだろう。

金子?いや何世代前の名前だとキンジは考え直す……そうだ(きん)と読まずに(かな)と読めばどうだろう。だがそのままでは金一のカナと被る。そこで思い付いたのが、

金女(かなめ)……金と女でかなめだ!」

「え?」

 

周りの人間はかわいー!とかまた叫ぶ。

 

「かなめ……か」

「ん?」

 

だがキンジにはそれよりもかなめと呟くフォースの事の方が気になった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへ。かなめ……かぁ」

「何がそんなに嬉しいんだ?」

 

その後バスを降りて寮への帰路に着く。何を言っても着いてくるのは目に見えていたので半ば諦めていた。

 

「だってお兄ちゃん着けてくれた名前だもん。嬉しいに決まってるじゃん」

「はぁ?」

 

キンジは首をかしげる。

 

「あれはあの場を誤魔化すために……」

「それでも良いの。お兄ちゃんが私のためにしてくれたのが良いんだから」

「…………」

 

何だかなぁとキンジは頭を掻く。こいつは自分の仲間を攻撃した敵なのだろう。だがこうして見ると何故か敵意が持ちきれない。ヒステリアモード成らなかった件もあるし変な相手だとキンジは思った。

 

「ねえお兄ちゃん。これからもかなめって呼んで?」

「……ならその代わりだが……」

 

フォース……いや、かなめは首をかしげる。

 

「あいつらが気に食わないのも良い。だが嫌いな相手でも喧嘩するなら正々堂々やれ。態々俺を使って喧嘩売ったり不意打ちしたりするな。喧嘩は相手の目を見てちゃんとお互い名乗ってしかも武器に頼らず素手でやるもんだ。あいつらは強襲する相手じゃないんだからな」

「うん分かった」

 

素直にかなめは頷く。

 

「じゃあ帰ろうか」

 

お前の家じゃねえけどな。と言いたかったか何故か言えなかったキンジは自分に首をかしげつつもかなめに引っ張られていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにその頃……

 

「取り合えずすぐにレキ先輩退院出来そうで良かったですね」

「そうだな」

一毅とライカも寮への帰路にあった。

 

「ですけど……」

「どうしたの?」

 

ロキ首をかしげる。

 

「何でそんなに当たり前のように着いてくんだよ!」

 

一毅も気付いていたが敢えて言わなかった事をライカが言った。

 

「だってお兄ちゃんの寮の部屋こっちじゃん」

「はぁ!?部屋まで来るのかよ!」

「と言うか住み着く気だけど?」

「んなもんダメに決まってるだろ!あそこは男子寮だ!」

「じゃあライカとかお姉ちゃんはどうなの?」

「うぐぅ!」

 

ブーメランの如く自分に帰ってきたロキの反論にライカは後ずさる。

 

「も、もういい!一毅先輩おいていきましょう」

「言っておくけど昨日ライカの後を着いてって部屋は確認したから意味にないよ」

「なな!」

ライカは驚愕する。

 

「ライカなにも言わなかったから黙認してると思ったんだけど?」

「してねえよ!あんまり普通について来るから違和感がなかっただけだ!」

 

ライカがダンダン地面を踏む。

 

「ねぇお兄ちゃん一緒にいても良いでしょ~?」

 

ロキは一毅の腕に絡み付いてくる。

ムニムニと柔らかくて暖かい胸が……は!

 

「か~ず~き~せ~ん~ぱ~い~」

 

ゴゴゴと炎をその身から燃え上がらせるライカに一毅は後ずさる。

 

「きゃ~お兄ちゃん怖いよ~」

 

だがロキはどこ吹く風で一毅に抱きつく。

 

「こんの!」

 

ついにライカの堪忍袋の緒がぶちギレロキに飛び掛かる。

 

「待て逃げんな!」

「こっちだよ~」

「お、おいお前ら俺の周りで暴れるな!」

 

二人に引っ張られくっつかれと一毅は振り回されながらも、

 

(お互い妹と言う奴には苦労させられるな……キンジ)

 

キンジに同情しつつも一毅は現実逃避へと意識を移行していった……



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龍と押し掛け同居人

「…………」

「ねぇお兄ちゃん美味しいね」

「え、あ、そうか?」

 

一毅の寮の部屋での夕餉の食事で一毅は胃をキリキリ言わせていた。

見舞いから帰ってきた三人の現在食卓には絶賛ご機嫌斜めのライカとは違い非常に表情豊かなロキ(時々本当に姉妹か疑うと時がある)と冷や汗を流す一毅がいるのだが……食事とはこんなに緊張することになるものだったとは知らなかった。

 

「な・ん・で……お前が普通にいるんだよ」

「ライカそんな怒んなくたって良いじゃん。御飯食べに来るくらい大したもんじゃないでしょ」

 

ロキが口にお浸しを放り込みつつ言う。

 

「じゃああのお泊まりセットや荷物は何だよ!」

 

ライカはそう言って部屋の隅に置かれたキャリーバックと段ボールを指差す。

そう、何故か部屋に戻ると宅配業者が来て段ボールやらキャリーバックを置いていったのだ。

 

「ライカ~お泊まりセットって泊まるため以外に使用用途あるの?あと態々宅配業者に頼んで送ってもらった段ボールだよ?引っ越し以外に考えられるものって何?私としては寧ろそんな推理力じゃライカが武偵やっていけるかそっちの方が気になるよ?」

 

ロキの反論と言うかおチョクリにライカがプルプル震える。プピー!っと湯気が出そうだ。

 

「だから……何で引っ越すんだよ!」

「別に良いじゃん。この部屋四人部屋でしょ?この間までホテルに居たんだけどお金はかかるしさ~。しかも武偵高校からは遠いし編入を機会に寮に入ったんだ」

「じゃあ女子寮行けよ!」

「だってここまで距離あるし?それに寮長さんにいったら別に良いって言われて鍵までくれたよ?」

 

何のために男女別の寮にしてるのか全く分からないが今更だしなぁと一毅は目を逸らしながら、

 

「ご馳走さま」

 

食器を下げる。

一応ロキになんで急に越してきたとか何でうちだったのかとか聞きたいことは山ほどあるし聞かなきゃならない案件が天より高く存在している。だがその前に、

 

「お前ら喧嘩してないで飯を食べたら風呂でも入ってこいよ」

『え?』

 

一毅の口調でどういう意味だか二人は理解した……

 

「二人一緒に入ってこいってこと?」

「何でですか?」

 

ロキとライカは意味が分からないといった顔だ。

 

「日本は古来より裸の付き合いってのがあるんだ。仲が悪い二人でも湯に浸かりながら語らえば上手く行くんだよ」

 

ある意味仲を悪くさせていつ張本人の一毅では余り意味がない気が自分でもするのだが仲良くしてほしいのも本音だ。

まあ本当のところはこれ以上ピリピリされたら胃に穴が開くからだがそこは秘密だ。

 

「つうわけで食器洗っておくから行ってこい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寮のお風呂は豪邸のようなでかさは当たり前だがない。だが女子が二人で入るくらいの大きさはあるのだ。

 

『はぁ……』

 

二人仲良く風呂に突っ込まれたライカとロキはため息を吐く。

 

「なあ」

「ねえ」

『……』

 

ハモった上に微妙な緊張が走った。

 

「あ~……ロキってさ……本当に一毅先輩のこと好きなのか?」

「何でそこを疑うのさ」

「だってほら、レキ先輩からかって遊んでんのかな~とか思わないこともないしさ」

「そんな命懸けのおチョクリはお断りだね」

 

ロキはブクブクと顔を沈める。

 

「姉妹揃って異性の好みまで似なくても良いとは思うんだよ?これでも」

「確かになぁ……性格なんか全然違うし……」

 

ライカはロキの顔の下に視線をロックオンした……

 

「おまけにでかいし……」

「ライカだって大きいじゃん。背も大きくてしかも胸とおしり以外細いって何それ反則じゃない?同じ人間?」

「いや半分外人の血は入ってるけど……」

「それかぁ!」

「ひゃん!」

 

ロキはライカのお腹をまさぐる。

 

「うっわ!触ると更に良く分かるけど何この細さ!括れすご!ねえアンダー幾つ?」

「確か……60……幾つだっけ?前半くらいだったと思うけど」

「そ、その高身長でアンダーが60前半って細すぎでしょ!カップは?」

「し、C……」

 

ロキは愕然とする。

 

「そのスタイルでお兄ちゃんを誘惑したの?お兄ちゃんって実は巨乳好き?」

「ち、違う!て言うかその論理だったらレキ先輩どうなんだよ!」

『…………』

 

二人の間に冷たい空気が流れた。

 

「た、確かにお姉ちゃんちっこいしねぇ……」

「ロキの方が大きいしな」

「うん……」

 

二人は落ち着いて浸かり直す。

 

「ライカってお兄ちゃんのどこを好きになったの?ライカって美人だし引く手数多だったような気がするけど?」

「ふぇ!?」

 

突然のロキの切り出しにライカはドキリとする。

 

「いや、どちらかって言うとモテなかったよ……ほら、アタシ背が高いし喧嘩も下手な男より強いしさ……男女何て言われてたし……」

「へぇ~。それは男達の見る目がなかったね」

「はは……入学して直ぐだったんだけど……大体上の学年の怖さ教えるのに2、3年の誰かが下の奴をボコりにやって来るんだけどさ」

「もしかしてライカのはお兄ちゃんだったの?」

「うん。初めて見たときは目付き悪い人が来たな~とか思ったんだけどどうせ木偶の坊かなんかだろうって軽く見ててさ~」

「ありゃりゃ」

 

ロキは呆れたような顔をする。

 

「簡単に捻られたと?」

「そうなんだよ。タックルしたっけ簡単に投げ飛ばされた。ポーンって感じでさ」

「だろうねぇ」

「うん。そして笑われたんだよ。男子にさ……まあ男子達はアタシに負けっぱなしだったから悔しかったんだろうけどやっぱり悲しくなってさ……」

 

今でも鮮明に覚えてる。その時に一毅は一年生を一喝してあまつは素手で総勢50少しの強襲科(アサルト)の卵を潰したのだから……

 

「その次の日くらいに改めてお礼と非礼を詫びに行ったんだ」

「許してくれた?」

「と言うか全然気にしてなかった。後で聞いたんだけどあの人入学直後くらいにヤクザの組ひとつ相手に戦ってたんだよ」

「既にその時から人間やめてたんだね」

「まあな……」

 

二人は少し呆れたような吐息を漏らす。

 

「でもそれじゃあライカがお兄ちゃんホレた理由にならないよ」

「あ、お詫びに言ったらさ……逆に聞かれたんだよ。またバカにされてないかって」

 

されてないと言ったらそうかと笑って喜んでくれた。

 

「その時にさ、先輩はなんとも思わないのかって聞いたんだよ。そしたら」

 

俺から見れば小さいしなぁ……それにどこからどう見ても女の子だけど?……と返してきた。

 

「それでドキッときたんだ」

「アタシを女の子としてみてくれるなんてやっぱ嬉しかったんだよなぁ……」

「ふぅん……でもこうやって見てもライカきれいだけどな~」

「一毅先輩に会ってから少しお洒落とかにも気を使うようにはなったかもな……」

「あ~。皮肉だね。男女って馬鹿にしてた女の子が化けるなんて思いもしなかっただろうしまさか自分達の一言で綺麗にするきっかけ作るとはね~」

 

実際前にも言ったがライカをバカにして後で泣きを見た男子が相当数居たと言うかいるのは余談だ。

 

「ロキは何で一毅先輩にホレたんだ?」

「私のは単純だよ?最初は殺そうかと思ったんだけどさ……殺意とか色々全部受け止められちゃった……なのに全然怒んないしそれどころか謝られたし……」

 

普通あれだけの強さがあったらもう少し傍若無人に振る舞ってもおかしくない気がする。なのに一毅の普段は抜けてると言うか言ってしまえば阿呆である。

 

「なーんかそんな感じのお兄ちゃん見たら毒気抜けちゃった」

「確かにあの人って戦闘時と日常の差が激しすぎるって言うかなぁ……でもその辺ってキンジ先輩とかあかりとかも同じだけどな」

 

普段Eランクであるのにいざというときの判断能力ずば抜けてるキンジ……普段少々間抜けだが戦闘時には鬼神ごとき強さを見せる一毅……普段落ちこぼれの中の落ちこぼれみたいな成績でありながら戦いの中で急成長を見せるあかり……

 

「皆結構リーダーシップのある人間だよねぇ」

「だよなぁ……一毅先輩ってキンジ先輩に隠れてるけどあの人だって結構人脈広いし……」

 

二人は天井を見上げる。

 

「で?あくまでさっきのは切っ掛けだろ?」

「うん……その直後にさ。何かヤバそうな事態になったんだけどお兄ちゃんキンジ先輩達助けにいくって言ったんだよね。一応止めたんだよ?そしたらさ……キンジ先輩とアリア先輩がいる……」

 

男が危険に飛び込むには十分な理由だ……

 

「その時に見せた真剣な目にドキッときたって言うかさ……」

「分かるな……普段抜けてる分そう言うときの一毅先輩の真剣な眼差しってかっこよく見えるよな」

「でも皆は怖いって言うんだよねぇ」

「アタシやレキ先輩は好きなんだけどな~」

まあその良さが周りに知れたら面倒だからバレない方がいいと言うのが二人の本音だった。

 

「でもお兄ちゃんって顔に似合わず優しいよね。自分でもいきなり押し掛けたんだから何か文句言われるの覚悟だったんだけどな~」

「そこが欠点でもあるんだよ……NOを言えない日本人の典型があると言うか自分に頼ってきたり甘えてくる人間を無下に出来ない人なんだよ……」

 

見ていてヤキモキしないと言えば嘘になるがレキとはその辺諦めてる。

 

「キンジ先輩といい一毅先輩といい優柔不断でさ……思うんだけど一毅先輩もキンジ先輩のこと文句言えないと思うんだよ!」

 

ライカが言うとロキが頷く。

 

「そうだよね、五十歩百歩だよね?」

「うん」

 

二人はすっかり意気投合する。ある意味では一毅と言う出汁を使った裸での付き合いは成功だったのかもしれない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっくしょん!!!!!!!はぁっくしょん!!!!!!!」

 

一毅は盛大にくしゃみをする。

 

「二回……誰かに貶されてるのか?それとも風邪か……」

 

一毅は鼻を啜ると買ってきたケーキの袋を見る。皿洗いはさっさと終わらせて風呂上がりのデザートでもと出てきたのだが……

 

「やあ桐生くん」

「ん?」

 

後ろから声をかけられて振り替えると静観な顔立ちの男……

 

「吉岡……清寡さん?」

「奇遇だね」

「奇遇?面白い冗談ですねこんな夜にですか?」

 

一毅が言うと清寡は苦笑いする。

 

「すまない。本当は君に個人的に会ってみたくてね」

「男にストーキングとかゾッとしますね」

「まあ余り否定できないね」

「それで用事は?」

 

まあ戦役の関係の話だろうとは思っていた……だが予想を裏切られた。

 

「君と手合わせしてみたくてね。ウズウズして夜も眠れなくて仕方ないからこんな夜更けに待ち伏せさせてもらった」

「はぁ?」

「剣を修めるものであれば桐生と言う一族は知る人ぞ知る剣術家の名家だ」

 

そう言われてもピンと一毅は来ない。

 

「一度手合わせしてみたいと言うのは剣士の(さが)みたいなものだ」

「でも生憎今刀を……」

 

すると木刀を投げられた。

 

「準備良いですね」

「よくいわれる」

 

一毅は近くのベンチにお菓子を置くと木刀を正眼の構えで構える。

それを見た清寡も同じく正眼の構えをとる。

 

「行くぞ!」

「おう!」

 

二人の一撃がぶつかり合った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

清寡の受け流しで一毅は木刀を受け流されながら脇腹に向かって振られる木刀を躱す。

 

「流石だ……今のを躱すとはな」

 

清寡には笑みで返事すると一毅は木刀を切り上げる。

 

「くっ!」

 

それを清寡は首を逸らして躱すとその崩した体勢から突きを放つ。

 

「うぉ!」

 

一毅は弾いて避けると体を捻って一閃……

 

「ふん!」

 

だがそれを清寡に受け止められる。

 

『くっ!』

 

二人は鍔迫り合いに持ち込む。

 

清寡は非常に高いレベルで鍛練を積んだ剣士だ。

無論一明やシャーロック程の剣士ではない。あのレベルは普通の人間とは違う。

だが清寡も恐らく幼少の頃より訓練を積んでいるのだろう。剣の一振り一振りに清寡の今までひたすらに剣に向き合ってきた者が持つ重みが宿っている。

少なくともこうやって戦える剣士と会うのは初めてだ。楽しいと思える剣と剣のぶつかり合い……純粋に技術を見せあえる相手だ。

 

『ふん!』

 

二人は切り返して距離をとる。

 

「はぁ!」

「ふん!」

 

二人はそれから一気に走り込む。

 

「二天一流 秘剣!斬岩剣!!!!!!!」

「ウォオオオオオオオオ!!!!!!!」

 

岩すら斬ると言う意味を込められた剣撃と清寡の乾坤一擲の一撃がぶつかる……そして、

 

『あ……』

 

木刀がぶつかった衝撃に耐えられず砕け散った……

 

「あらら……」

「やはり木刀じゃ無理か」

 

清寡が差し出した手に一毅は砕けた木刀を差し出す。

 

「さて、そろそろ私も帰るよ」

「ええ、楽しかったですよ」

「私もだ」

 

握手をすると清寡は暗闇に去っていった。

 

「ふぅ……」

 

身体能力が並外れてる訳じゃない。だが清寡は高い技能を持っている。

ある意味では一毅に必要な力だ。身体能力任せで戦うことが多い一毅だ。あの高い技能は一毅にこれか必要となっていくだろう。

 

(自分の改善点が見つかったな)

「何してるんですか?」

 

一毅は驚きで飛び上がった。

 

「レ、レキィ!?」

 

なぜかこんな夜に背後からレミに声をかけられると言う不可思議な状況となった。しかも、

 

「何してんのよあんた」

「ボーッとしてどうしたのカズッチ」

「カズちゃん何か考え事?」

 

キンジ以外のチーム・バスカービル大集合である。

 

「何でお前らここに?」

「病院でジッとしてられなくなったのよ。今からあんたの部屋を借りるわよ」

「……はぁ!?」

 

アリアに一毅は顎が外れそうなほど愕然とする。

 

「な、何故?」

「戦役なんか関係ないわ!私たちは絶対にフォースをぶちのめす!」

『オー!!!!!!!』

 

アリアの宣言に白雪と理子も同調する。

まあ恐らく……

 

(キンジのキスの一件が絡んでるんだろうなぁ……)

 

こうなったバスカービルの女子の暴走は止まるわけがないので適当なところまではやらせてやるしかないかと一毅はため息を吐く。

 

「でも一毅の部屋が隣で良かったわ。効率的に近づけるもの」

「だけどベット完全に四つとも全部埋まってるぞ?」

 

一毅の言葉にレキが眉を寄せる。

 

「全部?可笑しいですね、一毅さんと私とライカさんで三つなので一つは空く筈ですが?」

「いや、何かロキが急に引っ越し……」

「ほぅ……!」

 

ゴゥッとレキから真っ赤なオーラが出てるような気がする……お、可笑しい……レキからヒートがみえるような気がする……あくまで一毅の恐怖心が生んだ幻影だが十分怖い。

 

「そうですかぁ……一毅さん」

「レ、レキさん?あの……怖いっす……はい」

 

自然と敬語になった。

 

「少し……お話ししましょうか?」

「い、イエス」

 

嫌です……と言い掛けて慌て肯定する。

 

「すいません皆さん。寮に着いたら少し部屋の前で待っててください」

『あ、はい』

 

他の三人も頷くしかできなかった。

 

「さあ一毅さん。行きましょうか」

「はい……」

 

行くと言うか逝く気分だと一毅は内心呟く。

まるで死刑執行所に連行される囚人の気分味わいながら一毅は部屋まで連行された……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこにいってたんですか?」

「少し散歩だ……別に構わないだろう?廣二」

「ええ、別にかまいやしませんけどね……俺を裏切ればどうなるかあなたが一番分かってるでしょうしね」

 

廣二はその場から立ち去る。

 

「…………くそっ」

 

清寡は歯が軋みほど噛んだ……



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金と妹の日常

自称妹ことかなめが無理矢理家に来た次の日の朝……キンジは沈痛な面持ちで食卓についていた。

宅の上にはかなめが時価数億ドルの予算で作られた万能バイザーで作ったカレーライス(作った人が泣きそうだ)がある。

一見楽しい楽しい家族の団らんだがかなめには別の狙いがある。

それはお兄ちゃん(キンジ)と一線を越えた関係になってイチャラブすること……その為か昨夜来たばかりなのに甲斐甲斐しくキンジを世話していた。

 

(まあ朝からカレーでも俺は良いんだけどな……)

 

キンジは若い男なので朝から比較的カロリーが高くて濃いめのものでもあまり困らない。むしろ食う量は最近増えた方だ。

 

「美味しい?」

「ん?あ、ああ……旨いぞ」

「良かった~」

 

そんな安心したような嬉しいようなそんな顔をするなよ……やりにくくなるだろとキンジは微妙な気分になる。

 

そんな朝食を終えて歯磨きを終えて登校の準備を済ませると、

 

「そういえば昨日隣の部屋から物凄い殺気したけど何かあったのかな?」

「さぁな」

 

一毅の部屋からだったが何かあったのだろうか……しかも物凄い音が聞こえていたが……まあ何か一大事であれば何か言うだろうし大丈夫だろう。

 

「まあいいや、ほらお兄ちゃん学校行こうよ」

「あ?お前は来れない……何でいつの間にか制服に着替えてんだよ」

「今日から私も武偵高校に編入したんだ~」

「何だと!?」

 

キンジが驚く中かなめはキンジの腕に抱きつく。

 

「さ、行くよ」

 

キンジはかなめに引っ張られつつ、

 

「嘘だろ……」

 

そう呟いた……

 

 

 

 

 

 

 

「おうキンジ……」

「か、一毅か?」

 

外に出ると一毅に会う。だがキンジの表情はこわばった。一毅の顔はまさにボッコボコといった風情だ。

両目にアオタン(まるでパンダだ)やほっぺに引っ掻き傷に殴られ後と思われる傷まである。

 

「お前……一体どうしんだ?」

「いや、少しな……」

 

一毅は遠い目をした。すると、

 

「あ、キンジさんおはようございます」

「あ、キンジ先輩もこれからですか?」

「おはよー」

 

レキ、ライカ、ロキの三人が出て……

「え゛?」

 

キンジは絶句した。

なんとレキとロキまでボロボロだった……ライカも少し怪我してるようだが見たところ巻き込まれた結果という感じだ。

 

「何があったんだ?」

 

するとライカが、

 

「昨日レキ先輩とロキがバトっただけです」

「は?」

「どうにか居住権だけは得たもんね……」

「住むのを許しただけです……」

 

どうやら昨日の騒ぎはこの二人が喧嘩した音らしい。

 

「で、ライカは巻き込まれたと?」

「だって行きなり帰ってきたかと思えばロキに出ていくように言ってそれを拒否したら……」

 

ライカが昨夜のことを語り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロキ、今ならまだ間に合いますからこの部屋の外に出なさい」

「やだよーだ。ベー!」

 

ロキがあかんべーをするとレキの眉が寄る。

 

「あまり聞き分けがないと実力行使といきますよ?」

「やれるならどうぞ~。運動神経は昔から私の方が良かったしぶっ!」

「っ!」

 

目撃者ライカは語る。レキが放った平手打ちは強襲科(アサルト)の目で見ても腰の捻りやタイミング等があまりに完璧で更に当てる位置も鼓膜を破かないようにだが脳は揺れるように絶妙な角度と威力を組み込んだものだったと……

 

「いったぁ!なにすんの!」

「ぐっ!」

「っ!」

 

だがロキも咄嗟に首を叩かれた方向に捻って衝撃を逃がすと素早く体を捻ってレキに掌打を打ち込んだ。

 

『………………』

 

ゴゴゴゴゴ……と二人の間に炎が燃え上がる。

 

「あ、あの二人とも落ちつい……」

『邪魔(です)!!!!!』

「がっ!」

 

止めようとしたライカはレキとロキのダブルアタックでぶっとばされた……

「い、つつ……」

「ら、ライカこっちだ……」

 

すると一毅に影に引っ張られた。

 

「か、一毅先輩なにし……」

 

ライカは固まった……

 

「そ、その顔……」

「さっきここに入る前にレキにボッコボコにされました……」

 

アオタンや引っ掻き傷をつけた一毅は傷を手で抑える。

 

「て、て言うか止めてくださいよ。部屋が惨状になりますよ!」

「あれを止めろと?」

 

一毅が指差すと既に二人の背中には鬼神と魔神がそれぞれ顕現していた。

 

「と、止まりませんね……」

「だろ?」

 

一毅は遠い目をしてるとレキとロキの喧嘩が始まる。

無論女子同士だしどちらも腕力的には非力な位置に属する。

間違ってもリンゴジュースが飲みたいからリンゴを素手で潰して汁を搾って飲むピンク武偵とかと一緒にしてはならない。

だが二人とも狙いが恐ろしいほど良い。一応命に関わる人体急所を狙わない良識は残っているようなのが幸いだが、その分引っ掻くわ叩くわ姉妹だけあって全く遠慮がない。と言うかする気がない。

 

「この!」

「く!」

 

ベチン!っとロキのビンタ、

 

「ふん!」

「つ!」

 

ガリッ!とレキの引っ掻き、

 

「この無愛想!」

「誰が!貴女こそ胸にそんな肉塊ぶら下げて!」

 

最終的に罵り合いにまで発展した。いや、レキのロキに対する罵倒はあまり罵倒じゃない。

 

「食らえ!」

「っ!」

 

ロキの背負い投げ……だがレキはきっちり受け身を取りロキの足を引っ張るとロキを転ばす。

 

「きゃ!」

「油断大敵ですよ」

 

ベシベシとレキが往復ビンタを見舞ってやっている……

 

「そ、そろそろ止めた方がいいよな?」

「そうですね」

 

一毅は覚悟を決めて立ち上がる。

 

「ん?ライカ少しホッペ赤くなってるぞ」

「あ、さっき叩かれたから……」

「見せてみろ」

 

一毅の顔が近づくとこんな場合だがライカは照れる。

 

「む……赤いのがわからなくなった……」

「そ、それは……」

 

すると、

 

「人が……」

「喧嘩してるのに……」

『え?』

『何してる(んですか)(の)!!!!!』

 

ライダーキックよろしく飛び上がったレキとロキの狙いはいつのまにか一毅に定まっており為す術もなくダブルキックに吹っ飛んだ。

 

「がはっ!……ちょ!二人とも落ち着け!」

『フフフ……』

 

レキとロキの二人が笑った……目は笑っていなかったが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うことがありましてですね」

「いやその後は?」

「思い出すのも怖くて……」

 

何があったのだろうか……凄くキンジは気になったが藪を突いて蛇どころか魔王が出てきそうなのでやめておく。

とりあえず喧嘩してロキは実質的にその部屋のヒエラルキーの頂点(一毅は最底辺にいる)にあるレキから住むことは許可して貰ったらしい。

 

「で?フォースが何でここにいるんだよ」

「今日から武偵高校に通うことになったからよろしくね」

『…………』

 

一毅たちがフォースの言葉に唖然とする。

 

「俺も何がなんだかだしなぁ……」

 

キンジは頭を掻く。

 

(そう言えば……)

 

レキが内心呟く。一毅は忘れているがアリアたちを部屋の前に待機させておいたのだが喧嘩を終えたあといつの間にか消えていた……何処に行ったのか後で聞いてみようとレキは決めた……

 

「取り合えず行こうぜ。遅刻する」

 

因みにその後学校にいって一毅達のボロボロ状態に皆が驚愕したのは言うまでもない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そんな事はキンジにとって一毅の問題なのだからある程度までは別に良いのだ。

一番の問題はかなめ……かなめは編入初日からキンジは自分の兄だということを宣伝して回りあっという間にキンジにはすごい美人の妹がいると知れ渡ってしまった。

更に不幸なのはアリアたちが学校に来ていない。何でも何か依頼が入ったらしいが三人纏めて居ないのを考えると何かしらの意図があるのだろう。間違いなく反撃の機会を狙ってると考えられる。

 

(こりゃ何時も通りなるようになるさ作戦で行くしかないか……)

 

キンジは一人廊下を歩きながらそんな適当作戦を考えていると背中をつつかれた。

 

「おにーちゃん」

「かなめ……?」

 

キンジは怪訝な目で見る。今はまだ昼休みだ。特に用事があるとは……

 

「はいお弁当」

「……ああ」

 

キンジはそれを見ると屋上に誘う。意外と誰もいないのだ。

 

「えへへ」

 

かなめは上機嫌でキンジに着いていく。

トントン軽い足取りで二人は上がっていく。

 

(相変わらず身軽だな……)

 

一緒に住んだのは昨日からだ。だが探偵科(インテスケ)のせいで相手の身体的な特徴や動きを見る癖がついている。

それで思ったがかなめは比較的と言うか見ての通り小柄で軽量級……だが自分と同じく蹴りが得意なだけあって歩くときも足音が殆んどしない。さっきだって背中をつつかれるまで全く気づかなかったくらいだ。

更にソファを軽くジャンプして飛び越えて自分の隣に座ってきたりも昨夜してたしその身体能力の高さは目を見張る。

 

「どうしたの?」

「何でもない」

 

キンジはドアを開けると適当な場所に座ってかなめから弁当を受けとる。

まさかカレーじゃないよな?等と考えつつ開けると普通だった。可笑しいところと言えばハートとかが多いことくらいだ。無視しておこう。

 

「幸せだな~」

「なにがだ?」

 

突然のかなめの呟きにキンジは首をかしげる。

 

「お兄ちゃんと一緒に昼に一緒にお弁当食べて嬉しいなぁって……」

「…………」

 

お兄ちゃんじゃない……そう言いたかったが何となく言えなかった。

 

「ねえお兄ちゃん」

「……なんだよ」

「キスしよっか」

「…………………」

 

今度ばかりはスルーできなかった。何と言って?

 

「な、何だって?」

「キスしようよ」

「い、意味わからん!兄妹でとか絶対可笑しいだろ!」

「何で?アメリカでは普通だよ?私がしたいのは意味が違うけどね」

「絶対拒否だ!」

「だってヒスるかもしれないじゃん?」

「っ!」

 

キンジは目を見開く。

 

「ヒステリアモードのことは普通理解されることはない。何故なら性的興奮と言う興奮による変化だもんね。でも私は平気だよ?これからは私でヒステリアモードになれば良いよ。私はお兄ちゃんを受け入れる。そうして互いでヒステリアモードに成れれば最強の兄妹だよ?」

「……俺は別に最強に成らなくて良いし俺を受け入れてくれるやつはいる」

「桐生 一毅のこと?でも異性には……」

「居るぞ」

 

え?とかなめが今度は驚く番だ。

 

「俺の事を言っても受け入れてくれた女は居る」

「……神崎 H アリア?」

「そうだ……俺のパートナーだ」

「ふぅん……」

 

かなめはやっぱりあの女は邪魔だなぁと言う感じだ。

 

「だからって言ってもあいつに手は出すなよ……そんときは俺はお前の敵だからな」

「分かってるよ」

 

かなめはにっこり笑った。

だが心からの納得からは程遠い感じはある。

 

(少し見張ってもらうか……)

 

現在連絡とりにくいんだけどな……とキンジは内心ため息を吐きつつ弁当を完食した……



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金と後輩

今回はかなり短めですね。


「…………」

 

かなめが来てから早くも三日……その間アリア達は全く顔を出さない。

レキにそれとなく聞いたらアリアの部屋で戦闘準備を着々と進めてるらしい……真剣に国外逃亡しようかとも思うがアリアの貴族の特権をフル活用と言う名の職権濫用を行って追い掛けてきそうだし仕方ないので此方は此方で自分で動くしかなさそうだ。

 

と言うわけでキンジは信用の於ける情報収集係と連絡を取るため学校裏の雑木林にかなめを撒いてからやって来た。

 

「おーい。居るんだろ?」

 

すると次の瞬間地面からブワっと木の葉を撒き散らし何者かが飛び上がる。

そしてシュタ!っと黒い髪を舞わせながらキンジの顔を見る。

 

「お久し振りでござる師匠……」

「あ、ああ……」

 

久しぶりと言うほど久しぶりではない陽菜はキンジを半ば睨むような眼だ。

「だ、だからお前一昨日あれだけ説明しただろ?あれあっちからいきなりだって……」

 

最初電話したときは何故か陽菜は大層ご立腹でキンジはその際必死に自己弁護を行いなんとかかなめのかなめの監視を依頼して今日に至るのだが陽菜の機嫌は良くなる訳がなくムスッと陽菜はしていた。嫌われたわけではないのは何となくわかる。純粋にご機嫌斜めと言う奴だ。

 

確かに妹とキスと言うのは後輩の女子に見せるものではない(だからと言って誰かに見せられるものと言う訳じゃないが……)がなぜそこまで気にくわないのかキンジには皆目見当がつかない。

 

「そんなのはわかってるでござるよ……ですが理解するのと納得するには別問題でござる」

 

陽菜にきっぱりと言われキンジは弱る。

 

「と、とりあえず報告は?」

「御意。フォース殿はこの三日で一部を除き人身を把握している模様。ですが少々男嫌いのようで男性から距離を置かれているようでござるがモテるようでござる」

「一部ってもしかして……」

「あかり殿達でござる。ですが表だっての抗争はなくフォース殿が正々堂々に拘っているためあくまで感情的なものでござるが……」

 

キンジは内心少し驚いた。かなめは思った以上にキンジの言葉に忠実らしい……

 

「とりあえずこんな感じでござる」

「そうか。ありがとな陽菜」

 

礼を言ったがプイッとそっぽ向かれた。

だが実はこんな事もあろうかと実は友人の不知火にある一言を教えてもらっておいた。

曰く「君の戦妹(アミカ)の女の子に許しを乞うんだったらこれで許してくれると思うよ?」とのことで使わせてもらおう。

 

「陽菜……」

「?」

 

陽菜は少しキンジを見た。

 

「悪かった。すまなかったよ……許してくれ……お前が望むならどんなことでも言うことを聞くから……」

「っ!!!!!!!!!!」

 

陽菜は自分の体に核爆発クラスの衝撃が走った気がした……

無論キンジは自分がとんでもないことを口にしたとは全く思っていない。

 

だが陽菜から聞けば好意を持つ異性に……更に普段はあくまで自分は後輩であり願われることはあれども願うことは恐れ多くてできなかった。だが今回はキンジの方からどんな願いでも聞くとのこと……陽菜にとってどれだけ甘美な言葉に聞こえたのかは推して知るべしだがともかく頭の中を何度も再生状態にある。

 

「ん?おーい……陽菜?」

「はっ!」

 

一瞬石になっていた陽菜は慌てて正気に戻ると、

 

「ど、どんなことでもでござるか?」

 

滅茶苦茶詰め寄られてキンジは若干退くが陽菜は気にしない。

 

「あ、ああ……ただし俺にできる常識の範囲内でだぞ」

 

キンジは釘を指すがあまり意味はなかった。

 

「で、でしたら師匠……せせ……拙者に……せせせっぷ……」

 

ならば今こそと陽菜は言おうとするが緊張で噛みまくって全く意思疏通ができない。

 

「せせせっぷ?新しいお菓子かなんかか?」

 

そのためキンジは陽菜が伝えたい願いとは全然違う勘違いをした。

 

「ち、違うでござる!」

 

本当は接吻と言いたいのだがやはり今の陽菜では羞恥心の方が強い。

 

「し、師匠!」

 

なので代案にすることにした。

 

突然陽菜が大声を出すためキンジが驚いていると陽菜は覚悟を決めた目でキンジを見る。

 

「師匠……左頬に何か着いてるでござるよ?」

「え?」

 

突然なんだと思いつつもキンジは触るが何もない。

 

「せ、拙者がお取りするでござる……」

「そうか?悪いな」

 

そう言ってキンジが左頬を陽菜に向けた瞬間……

 

「《チュ》……え?」

 

いきなり自分の頬に暖かくて柔らかい何かが当てられキンジが今度は石になった……

ほっぺにキスされた……そう理解するのにたっぷり5秒……目を限界までひん剥いてキンジは固まっていた。

 

この間妹にキスされ今度は後輩の女の子に頬とはいえキスされるとは我ながらどうかと思った……

 

「ひ、陽菜?」

 

キンジがギシギシ効果音がつきそうな感じで陽菜を見ると顔を真っ赤にした陽菜は3歩ほど後退り……

 

「ね、願いの件は後日お願いするでござる!然らば後免!!!!!」

 

ボフン!と陽菜は地面に煙玉を叩きつけ煙を巻く。

 

「ごほ!げほ!」

 

キンジは激しく咽せながら煙が晴れると辺りを見回す……すると背中を見せたまま気の根っこに足を引っ掻けて転びそうになりながらも走り去る陽菜が見えた……まあ、

 

「あいつ……」

 

キンジは甘くであるがヒステリアモードの状態であることを確認しながら悪態をついた。

だが同時に(メザ)ヒスと呼ばれる今の察知能力で何か違和感を感じる……

 

(こっちか?)

 

キンジは少し歩いて木に回り込むと見つけた……引っ掻いた後だろうか?木がボロボロになっていた。

 

「まさか大型の肉食獣でもいるのか?」

 

だとしたら熊かなんかだと思うがその時は一毅に相手して貰おうとキンジはあまり深く考えずに帰り道についた……

 

(しかし……キャラメルの匂いか……どっかで嗅いだような気がしたんだけどな……)

 

後にこれによって後悔することになるが別の話である。



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金と妹の力

「ん?」

 

陽菜の衝撃行動の次の日……キンジの携帯にメールが入った。

最初は一毅かと思ったが違う……

 

【屋上で待つ……アリア】

(は、果たし状?)

 

キンジは思わず天を仰いだ。遂に来てしまった……何て事だとキンジはガックシと地面に膝をつけた。

何れ来ると思っていた。会えば殴るか蹴られるか……まず無事ではすまないだろう。

 

「に、逃げよう」

 

逃げるのも策の内だとキンジはメールを無視して行くことにした。

 

「さて今日も良い天気(バキュン!)……え?」

 

頬の近くを銃弾が通過した……見てみれば校門には一毅とレキが仁王像のごとく待機していた。

 

「よぅ」

「お、おぅ……」

 

一毅がにっこり笑って親指で屋上を指差す。

 

「み、見逃してくんねぇ?」

「悪いがサブリーダーのアリアからキンジが逃亡図った際に多少粗っぽくとも良いから連れてこいとも言われてる」

「さぁて屋上にいくかぁ!!!!!」

 

最初からそうしろよと一毅とレキは思ったが黙っておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

さてそんな茶番のあとキンジは重たい足を動かしてなんとか屋上にやって来る。

 

「遅かったわね」

「ちょ、ちょっとな」

 

屋上のドアを開けるとアリアがいた。ほらほら背後に大魔人が鎮座しているよ……

 

「な、何かようか?」

「聞いたわよ」

「…………」

 

な、何を?と聞きたかったがそれを許してくれる雰囲気ではない。そんなことを聞けばぼこぼこにされそうだ。

 

「フォース今何処にいるのかしら?」

 

アリアは怒らないから言ってみなさいといった雰囲気で聞いてくるが……余計に怖い。

 

「か、かなめは今俺の部屋に……」

「あ?」

「っ!」

 

ヒィ!っとキンジは後ずさる。

 

「かなめ?」

「ふぉ、フォースの事だよ」

「ふーん!」

 

ギリギリ歯軋りしながらアリアが睨んできた。滅茶苦茶おっかない……

 

「あんたやっぱり妹にまで手を……」

「出してねえよ!」

 

キンジもそこは否定した。重々言っておくが流石に妹には手を出さない。

 

「どうかしら?理子だってキスしたあとなんか「キーくんマジ人間離れ人間!」って言ってたわよ」

「いや……その……」

「辰正ですら若干軽蔑してたわよ」

「ぐはぁ……」

 

何気に一年生ズの良心とも言える男からの軽蔑の方が心に響いた。

 

「……でも妹って言うのは本当なの?一毅に聞いたけど今まで存在すら知らなかったんでしょ?」

「まあな……」

「まあキンジのお父さんだし隠し子がいてもおかしくないでしょ?」

「いやなんで俺の親父だとk隠し子がいてもおかしくないんだよ!」

「一毅が言ったら全員が納得したわよ?」

「今度蹴り飛ばしてやる……」

 

キンジは固く誓った。

 

「でも勘だけど何となくキンジのあの子は繋がってる……そう思ったわ……」

「……」

 

アリアの直感はよく当たる。それ故に無視できない……

 

「…………」

「ん?」

 

アリアが俯いた……そのまま黙りコクってしまう。

 

「アリア?」

「本当は不安だったの……あの子可愛いし背は大きいし胸だって大きくて愛嬌あって……」

「?」

「だから目の前でキスされたとき混乱して……でも落ち着いてから考えたらあんたヒステリアモードにならなかったじゃない?」

「あ、ああ……」

「だから本当はわかってた……大丈夫だって……」

「じゃあなんで来たとき怒ってたんだよ」

「逃げようとしたじゃない。何か後ろめたいことがあるんじゃないかって思ったのよ。話してたら別にないんだってのは何となく分かったけどね」

 

キンジは頬を掻いた……確かに後ろめたいのはなかった。

本当はアリアと顔を会わせたらどんな顔をすれば良いのか分からなかったのだ……

 

怖かった。色んな奴とキスしてきたと言うかされてきたがアリアは怒ったりしてもキンジと交流を絶つことはなかった……だが今回は敵で自称妹……心の何処かでアリアに嫌われたんじゃないかと言う思いが過った……怒られたって良いけど……嫌われたんじゃないかと言うのは嫌だった。

 

「その……すまん……」

「別に良いけど……ねぇ」

 

アリアが少し近づいてきた。

 

「まさかあれ以来キスしてないわよね?」

「そりゃ当たり前だろ……」

 

本当陽菜に頬にされたがあれはノーカンで良いだろう。

だがアリアは良かった……みたいな顔をしていた。

どうしたんだ一体……

 

「ね、ねぇキンジ……ちょっとしゃがんで」

「何でだよ」

「い、良いでしょ!」

 

まあ別に構わないのだが……としゃがんだ瞬間……

 

「《チュ!》むぐ!」

 

ガチッと歯が当たったが間違いなくキス……しかも陽菜のように頬にではなく口と口のキス(マウストゥーマウス)……

 

「あ、アリア?」

「っ!」

 

カァー!!!!!っと頬を赤くしたアリアは屋上の入り口に爆走し、

 

「う、上書きよ!」

 

そう言い残し消えた……

 

「う、上書き?」

 

キンジには意味がわからなかった……どう言うことなのか?いや……かなめのキスに大してなのは分かる……だがそれを上書きする意味……それは……いや、上手く考えが纏まらない……幾ら今のキスでヒステリアモードに成ってしまったとはいえ混乱が強すぎる。

 

(それにしても……)

 

キンジは屋上の入り口の裏に回り込む……そこにはパイプとか色々あるのだがそれは全て握り潰されるか引き裂かれていた。

 

(明らかに人為的な損傷だな……)

 

まさかここに熊とか居るわけはない……しかし何があったのだろうか……

 

(何か気に食わないものを見て物に八つ当たりか?)

 

だとしたら何て傍迷惑な奴だ。どんな奴だか知らないが他人の迷惑……はここなら無いだろうが物に八つ当たりは問題だろう。

 

「とりあえず帰ろう……」

 

キンジは家路についた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後キンジは家につくとかなめが出迎えてくれた。

 

「お帰りお兄ちゃん」

「あ、ああ……どうしたんだその手」

「ちょっとね」

 

かなめはてへっと舌を出した。可愛くないことはないがなぁ……

 

「ご飯にする?」

「ああ」

 

キンジが頷くとかなめがキッチンに行きコンロに火を着けカレー(ここのところずっとカレーだ)を暖める。

それを見ながらソファに体を預ける。さっきヒステリアモードに成ってしまったため少し体が怠い。まあショックが強すぎて余り長時間の変化でなかったのは良かったが……

 

「ねぇお兄ちゃん」

「っ!」

 

かなめが抱きついてきた……こんなのは既に日常茶飯事……だが今回は何か嫌な予感がした……

 

「何だかなめ……」

「私ね……お兄ちゃんが好きだよ?」

「……は?」

「口では面倒臭がっても面倒を見てくれる所とかいざというときは体を張るところとか……でもね……なのにお兄ちゃんは忍者娘とかロリ女でばっかりヒステリアモードに成る……」

「んなっ!」

 

キンジは背筋が凍った……

 

「お前見てて……」

「うん……全部見てたよ。風魔 陽菜って忍者娘にほっぺにキスされたところとかさっき神崎 アリアに口と口のキスされたときも居たよ?」

 

かなめの腕がキンジの首をゆっくり絞める。

 

「お兄ちゃんは女子の好みが悪いと思うよ?お兄ちゃんは私でヒステリアモードに成れば良いんだ」

「っ!」

 

流石にヤバイ感じがしたキンジは咄嗟に腕を解いて脱出するとかなめと距離をとる。

 

「落ち着けかなめ……兄妹でヒステリアモードに成ったら倫理的にアウトだろう」

「言ったよね?愛があれば良いんだよ。互いに愛を満たしあってヒステリアモードを発動させ会う。互いがスイッチに成るんだ。そうすればいつでもヒステリアモードに成ることができる。最強の兄妹……【双極兄妹(アルカムディオ)】となれる」

ここに来てやっとキンジはかなめの目的がわかった。詰まり今まで自分だけを見て欲しがったのも自分にくっついてきてヒステリアモードを誘発するような事をしたのも……

 

「それが目的か?」

「うん。あ、でもお兄ちゃんが好きなのは本当だよ。お兄ちゃんは私を受け入れてくれればそれで良いんだよ」

「馬鹿言うな……お前ではヒステリアモードに成らなかったのは今までで分かった筈だ!」

「そうだね。だから勉強したんだ……大丈夫ゆっくりリラックスして……私がお兄ちゃんを成らせてあげるから」

「っ!」

 

キンジは脱出しようとして後ろにとんだ……だが、

 

「なっ!」

 

突然足に布のような物が巻き付き動きを奪う……

 

「はあっ!」

 

かなめが包丁を振り上げてきた。

 

「くっ!」

 

キンジもバタフライナイフを抜いて応戦する。

 

「てめえ……」

「お兄ちゃんの足に巻き付いてるのは磁気推進繊盾(P・ファイバー)……先端化学兵器の一つだよ」

「自称妹が兄と呼ぶ男にこんなもの引っ張り出すな!」

 

キンジは弾き返すが顔の真横に蹴りが来た。

 

「このっ!」

 

キンジは腕で防ぐ。ヒステリアモードの後では力が入らない上に眠い……しかも向こうはなんだが最近はやりのヤンデレになっているし……

 

「くそ!」

 

キンジは横に吹っ飛んだ。そのままかなめはキンジにマウントを取る……

 

「ふふ……お兄ちゃん……」

 

ゾクッとするような笑み……

 

「ああ……凄い……お兄ちゃんがこんな近くにいるって思うだけで脈拍が強くなる……ヒスりそう……」

「この……おりろ!」

 

身を捩るが足は磁気推進繊盾(P・ファイバー)とか言う奴で縛られてて動けないし上手く抑えられてるらしく腕力ではキンジが上にも関わらず返せない。

 

「はぁ~……ねえお兄ちゃん……」

 

かなめが顔を近づけてくる。

 

「このまま成っちゃおうよ……そうすればお兄ちゃんはいつでもヒステリアモードに成れる。私はお兄ちゃんを成っても責めないよ?そして私はやっと意味を見つけられる」

「意味がわかんねぇよ!」

 

キンジは逃げようとするがかなめは構わずキンジに顔を近づける……

 

「取り合えずまずは上書きし返さないとね」

「やめ!」

 

キンジは顔を背けて逃げようとする……すると、

 

「…………」

 

かなめは突然黙り出した。

 

「か、かなめ?」

「何で?」

「え?」

 

ポトッと頬に滴が落ちた。

 

「かなめ?」

「私はお兄ちゃんが好き……大好き……」

 

弱々しく……儚げな雰囲気になっているかなめ……

 

「お、おい?」

「何でお兄ちゃんは……私が嫌いなの?」

 

ポロポロと涙を流しながらキンジの胸に顔を埋める。

突然のかなめの変化……まるで人格が入れ替わったような……

 

(そうか……)

 

キンジは思い至った……この変化は兄の金一のカナへの変化に似ている……そう、これは、

 

(女のヒステリアモード……)

 

ヒステリアモードは本来子孫を残す力の極端化であり異性に好まれやすい人間に成る傾向がある……つまり男は()()()()()()()()に……そして女は……()()()()()()()()()()()()()()()に……

 

「お兄ちゃ……」

 

キンジは緩んだ拘束を解いてかなめのこめかみの辺りを軽く叩く……するとかなめは意識を失った……

 

これは脳髄液を揺らして相手の意識を僅かな時間であるが奪う小技みたいなものだ。昔祖父が「面白いものを見せてやろう」とか言って兄にこの技をかけて見せたの思い出してやってみたがヒスってなくてもぶっつけで出来るもんだと思った。因みにそれをやった祖父はその後祖母にボコボコにされたが余談である。

 

その後キンジはかなめを抱き上げるとベットに運んでやりそのままリビングに戻った。

するとすぐに意識を戻ったらしく啜り泣く声が聞こえた……

ほっておけない感じがする。そしてほっておけず宥めて慰めてとんでもない事をやってしまうのだろう……

 

(罪なもんだな……俺たちの力も……)

 

キンジはこれからどうするか考え始めた……




キンジが使った小技はアリアもAAにて志乃に使ってましたね。


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金の決意

「あ……」

「ん?ああ、かなめお早う」

 

朝……昨夜の一件で流石に気まずかったかなめだがキンジの姿を見たらそんな意識も吹っ飛んだ。

 

なぜか良い匂いがするなぁと思って起きたのだ……そこにはかなめから見たら兄に当たるキンジがクッキングパパ宜しくエプロン着けてクッキングである。

振り返ったキンジの手には少し焦げた目玉焼きとソーセージが乗った皿があった。

 

「顔洗ってこいよ。朝飯にするぞ。今日は学校休みでも早寝早起き朝御飯は健康の基本だ」

「う、うん」

 

かなめはキンジの行動の意味が良く分からなかったが顔を洗うため洗面所に向かった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いただきます』

 

キンジとかなめは朝食を口に入れていく。

 

「…………」

「旨くは中々出来ないもんだな……一毅とかは旨いんだけど如何せん小学校の調理実習以来だもんなぁ、自分で料理を作るなんて」

「お兄ちゃん」

かなめが話しかけるとキンジはかなめを見る。

 

「なんだ?」

「何で急に朝御飯なんか……」

「たまには良いだろ?何時もお前が作ってたんだからさ」

「そうだけど……昨日私は……」

「気にすんな……家族だろ?」

「……え?」

 

かなめは一瞬キンジが言った言葉が理解できなかった……

 

「だってお前は俺の妹なんだろ?だったら家族じゃないのか?」

「…………」

 

呆然とかなめはキンジを見た。

そしてキンジは真剣な表情になる。

 

「まあ色々あんだろうけどさ……血とかそんなのは抜きにして兄妹にならないか?」

 

キンジがそういった瞬間ポロっとかなめが涙を流す。

 

「え!?そんなに嫌だったのか?」

「違うよ……嬉しかったの……本当は追い出されると思った」

「何でだよ」

「だって包丁を向けて……」

「何時もピンクの髪の武偵に小太刀やガバメント向けられてる」

「重いかなって自分でも思うくらいくっついて……」

「寝込みに夜襲をかけてくる黒髪の巫女に比べれば軽い」

磁気推進繊盾(P・ファイバー)で拘束して……」

「人の足元に地雷を置いて逃げられなくしたところに「キー君の貞操いただきぃ!」とかいって襲いかかる金髪怪盗よりマシだ」

 

大概そのあと三つの事案とも全部三つ巴の大戦争に成るんだからな。かなめ一人の暴走くらい楽勝だ。

 

「だからかなめ……なにも心配しなくて良い……」

 

むしろ心配するのはキンジの今までの生活の方である。

だが、

 

「ダメだよ……私は失敗だったもん」

「失敗?」

「私はロスアラモスって言うアメリカにある研究施設で作られた……私が今まで存在できたのは【双極兄妹(アルカムディオ)】の可能性があったから……それがなくなったら私の存在意義なんて」

「アホか。ヒステリアモード何て能力無しでもお前普通に強いじゃねえか。俺としてはそっちの方が羨ましいけどな」

「でも……」

「でもも糸瓜もねぇ!そんなに存在意義が欲しいなら俺が与えてやる!俺の家族になれ!家族として一緒にいろ!」

「っ!」

 

ドキッとかなめは自分の心臓が跳ねたのを感じた。

無論キンジの言葉の意味は妹としてなのはかなめも重々承知している。だがそれであっても家族として……別の意味としても受け取れる言葉だ……これを意識して言わないのだから大したジゴロである。

 

「嫌か?」

「ううん……」

「なら良い。あと飯食ったら出掛けるぞ」

「何処に?」

「武偵校の近くにマックがあるんだ。そこにアリアたちと待ち合わせてる」

「……へ?」

 

かなめはソーセージを落としそうになった。

 

「これから俺の家族なんだろ?だったら俺の仲間たちとも確執はなくしとけ。別に仲良しこよししろとは言わない。でもお前は自分がやったことに対して謝罪する義務がある。違うか?」

 

かなめは首を横に振った。

 

「なら会ってどうするかわかるな?」

 

昔金一に一毅と喧嘩したとき同じようなことを言われたっけなぁとキンジが内心苦笑いしながらそう言った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい……」

 

武偵校近くのマックにてかなめは頭を下げた。

その殊勝な態度にアリア、白雪、理子の三人は困惑と同時にどうするかあたふたしだした。

まあレキは何時も通り無表情で一毅は新発売のビックライスバーガーを口一杯にいれている。

 

彼女たちとしては何れかなめを準備万端でボコボコにする予定だった。やられたらやり返すのが武偵……だがこんな風に頭を下げる相手に対してそういうのは気が引けると言うかやったらどっちが悪者だかわからない。

 

「まあそう言うわけだ……思うところもあるだろうが俺の顔に免じて許してやってくれ」

「でもどういう心境の変化だ?キンジ」

「妹のやったことに兄が頭下げるの当たり前だろ?」

『ぶっ!』

 

レキ以外全員がジュースを吹いた。

 

「あれだけ否定しといてどうしたのキー君!風邪!?頭打った!?それとも本当にタラシこまれたの!?タラシこむのはキー君とカズッチの専売特許でしょ!?」

「おい理子!最後のは聞き捨てならんぞ!」

 

一毅が理子に文句を言うがレキが話が進まなくなるためストップをかけた。

 

「全部ちげぇよ!上手く言えないんだが色々あったんだ……まあお前らにとっても妹みたいなもんになるんだぞ?」

 

キンジは、俺とお前らは仲間なんだからこいつだってお前らの妹分的な立ち位置に成るんだぞ?的な意味で言ったが、別の意味でアリア、白雪、理子の三人が受け取りかけたのは言うまでもないだろう。

 

「で?どうなんだ?」

 

三人は顔を見合わせた。

 

「まあここはサブリーダーのアリアが決めたらどうだ?」

 

ここで皆の総意を取っても色々と複雑な心情が絡み合ってグダグダとなるだろう。ならばリーダーの提案をサブリーダーがどうするか委ねた方が良い。

そう思って一毅が言うとアリアがかなめを見た。

 

「ひとつ聞くけどもうあんたは私たちを襲わない?」

「うん。もうアリアたちを襲わない」

 

じゃあもう良いんじゃない?とアリアがいってその場に漂っていた張り詰めた空気が霧散した。

 

「じゃあ取り合えずなにか食うか」

「そうだね」

 

キンジがそう言うと白雪も同意して両手を掲げて叩いた。

 

『?』

 

全員が白雪の奇行を見て首をかしげた。白雪のオロオロとした反応を見る限り何か思惑と違った状況になったらしい。

そして数泊の間を置いてレキがポソッと言った。

 

「白雪さん……言っておきますがここは高級料亭ではないので手を叩いても店の人は来ませんよ?」

『………ぷふ!』

 

全員が吹いて次の瞬間大笑いする。白雪は顔を真っ赤にした……

 

「白雪!お前笑いのセンスあるぜ」

「そんなの要らないよカズちゃん!」

 

一毅をベシベシと白雪は叩いて抗議したが壺に嵌まったらしく全く意味がないし周りも笑っている。

 

「い、いやー、ユキちゃんが箱入り娘なのは知っていたけださーアハハ!!!」

「し、白雪、私だってそれは違うの分かっていたわよ……プクク!」

「い、良いじゃないか白雪。ひとつ勉強したな……えふん!」

 

上から順に理子、アリア、キンジである。そして、

 

「プクク……ププ!」

 

かなめも体を震わせて笑っていた……

 

「仕方ない。適当に俺と一毅で買ってくる」

 

キンジはまだ爆笑したままの一毅を連れて立ち上がり、

 

「で?お前らも何か買ってくるか?言えば序でに買ってくるぞ」

 

そう隣の席に陣取っていた集団にキンジは声をかけた。その集団はビクッと体を震わす。

 

『……………』

「お前らバレてないとでも思っていたのか?おいこら。あかり、辰正、志乃、陽菜、ライカ、ロキ」

 

キンジが名前を呼んだ数だけギク!っと言う音が聞こえた気がした。

 

「な、何でわかったんですか?」

 

サングラスとマスクを外した武偵校の防弾制服姿のあかりがキンジに問う。

 

「寧ろその格好でばれないと思っていたお前らの方がすげえよ!」

 

二年生やかなめはウンウンと頷いた……と言うか志乃は探偵科(インテスケ)として将来が凄く心配になった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後2年と1年を交えてと言うか最近はいつもの面々で良くなりつつあるメンバーでハンバーガーを齧る。

 

「で?何であかり達がここにいたのよ」

 

ハンバーガーを飲み込んでから後輩の前では先輩振るアリアが聞くとあかりが頬を掻く。

 

「偶々ここを皆で通ったら皆さんと……キンジ先輩と妹さんがいて……」

「それでこれはただ事ではないとおもって見に来たの?」

 

一年生ズがその通りですと頷くと二年生達が溜め息を吐いた。心配してくれるのは嬉しいが相変わらず下手くそな尾行である。

 

「ちっとは進歩しろよ」

「しましたよ!サングラスとマスクと言う道具を使うようになったんですから!キンジ先輩頭大丈夫ですか?」

「なんだそのチンパンジーから猿になりましたみたいな進化すんな!もっと大きく人間に進化しろよ!あかり!」

 

ガルルルルとあかりとキンジが睨み会う。

最近は大体こんな感じだ。言い合いと言うかじゃれあいというかそんな感じ。まあ最近は名前で呼んでるのである意味では距離が縮んだと言うことなのだろう。

 

「仲良いなぁお前ら」

『良くない(です)!!!』

 

やっぱり仲良いだろと一毅は思ったが深く突っ込むと火に油を注いで大噴火した二人に余計に怒られそうなので黙っておこう。

 

「まあまあ、あかりさん。ポテトどうぞ」

「あ、うん」

「はい、あーん」

 

相も変わらずと言うか志乃は全くぶれずに百合百合しいなとか思っているとそれを見た面々が、

 

「じゃあ私も……キンちゃん!はい、あーん」

「あ!良いなぁ!それ理子もやるー!」

「ちょっとあんたたち何してんのよ!キンジ!あたしの奴隷ならこっち向きなさい!」

「ささ、師匠!どうぞこれを!」

「ちょっと!皆揃ってお兄ちゃんに何する気!!!お兄ちゃん!当然こっち食べるよね?あーん」

 

羨ましがってキンジに群がった。どうせいつもの一騒動かと思いきやかなめも混じって三角関係の発展版である六角関係?みたいになっている。

 

「お、おいお前ら!無茶苦茶な力で俺を引っ張るな!制服が壊れるだろ!」

 

キンジはあっちこっちに引っ張られフォワグラ作る際のガチョウの如く口にポテトを突っ込まれていっている。

 

(キンジの奴はまた苦労する羽目になるんじゃないだろうか……まああいつが苦労するだけだから別に良いけ……ん?)

「一毅さんあーん」

「先輩食べます?」

「お兄ちゃんにポッキーゲームならぬポテトゲームしよう!」

『させるか!』

「がふぅ……」

 

ポテトを咥えたロキはレキとライカにダブルアタックで沈められる。

 

(こっちもこっちで何時も通り……かな?)

 

一毅は内心苦笑いした。

 

 

因みに、

 

(羨ましくないけど世間では羨ましく見えるのかな?)

 

辰正は一人でポテトを食べる。

 

(でも……これは凄まじい程のボッチ感だな……)

 

巻き込まれることはなかったが一人寂しく辰正はポテトを消費していた……



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龍達の運動会

武偵校には【ラ・リッサ】と言う行事がある。

わからない方も多いだろうがまあ別に呼び方に馴染みがないだけで所謂体育祭である。

どこの学校にでも存在しきっと運動嫌いな方は前夜のうちに逆テルテル坊主を作って雨乞いの儀式に勤しんでいるだろう。

だが武偵校の体育祭である……今まで幾つかのイベントが開催されてきたがどれもが普通じゃないものばかりであった。よもや誰もが想像するキャッキャウフフの体育祭であるわけ……

 

「これから玉入れを行いまーす!」

 

あるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、少年少女が汗を流しながら動き回るのは青春ですな」

「まったくです」

 

そう言ってテントの下で(顔だけは)美人な蘭豹と綴の教師二人に囲まれてご機嫌な県会議員のお二人を尻目に白組と紅組に別れて玉入れを行う。

とは言えこの二人は午後に行われる行事を知らないからそう言えるのだろう。

 

 

武偵高校は基本的に教育委員会とか県会議員様達から嫌われぎみである。理由は言わずもがな若い男女が拳銃やポン刀ぶん回させているからで元々は喧嘩祭りだった体育祭を非難されあわや武偵校を廃校にまで追い込まれそうになりこのままでは不味いと焦った先生達が表向きは安全な体育祭を開催することで体裁を保つことにしたのだ。

まあ午後は喧嘩祭りの方になるのでそれまでに県会議員の方にはお帰りいただき間違っても午後の事を口にしないでいないといけない。

 

「ふぬー!入らないのだ~!」

 

とまあ午前の部など遊び程度に済ます中数少ないちゃんと取り組んでいる組の平賀を遠目に見つつ一毅は玉を投げ入れる。

 

それにしても普段は姿を見せない三年はやはり実力を隠し慣れている。一年の頃に恨み買っているのでキンジ共々三年の視界には入らないようにしているが三年ともなると適当に見えて他の人間の強さを無意識に見聞する癖がついてる。

武偵高校にいる間ならいいが一般に出たあと自分の技を知られていると言うのは致命的である為だろうが隠す方も大変だ。

 

そんなことを思っていると玉入れが終わった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジは玉入れも終わりもう午前中は出番がないため(一毅はリレーに出る)適当に見て回る。

するとアリアがインラインスケートでのフィギュアをやっていた。クルっと回ってウィンクまで決めて器用なことだ。

 

「いっで!」

 

すると足をグリッと踏まれてキンジが飛び上がった。

 

「なに鼻の下伸ばしてんのお兄ちゃん」

「か、かなめ?伸ばしてねえだろ」

「伸ばしてるよ」

 

ジトーっとかなめに見られキンジは声が上ずる。逆に怪しい……

 

「あんたたち何してんのよ」

 

するとアリアがやって来た。

 

「私はスコアラーだからね」

「俺はもう出番がないから適当にブラブラしてる」

「あんた自分の妹が仕事してるのになにか思うところはないわけ?」

「適材適所と言う言葉がある」

「ものは言いようね」

 

アリアに呆れられた。

 

「じゃあこれから私は屋上でスコアラーしに……」

『お、屋上!?』

 

キンジとアリアが飛び上がった。序でにボフンと顔が真っ赤になった……

 

「……………」

 

それを見たかなめは凄まじく不機嫌になる。

 

「あ、いや……」

「こ、ここ……」

 

キンジはしどろもどろ……アリアがなんか石になってる。

 

「あ、キンジ先輩」

 

するとそこに辰正がやって来た。

 

「さっき凄かったですね。俺スコアラーだったので屋上にいたんですけど屋上からも見えましたよキンジ先輩のジャンプ力……いや~屋上からも分かるその高さったらどんだけの高さまで飛んだんだって話ですよね~あ、かなめちゃん次の屋上でのスコアラーがん……あれ?」

 

いつのまにかキンジは居なくなっていた……

その代わり不機嫌全開のかなめと顔を真っ赤にしていつの間にかガバメントを抜くアリア……

 

「あ、あの……どうかしました?」

 

辰正は全く二人を怒らせるような心当たりはない。

 

「こ、ここの……エロォオオオオオオ!!!」

「お兄ちゃんの浮気者ぉおおおおおおお!!!」

 

キンジに対する罵倒なのだがその怒りは全て辰正に向かい……

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

辰正は二人にしこたまボコボコに(八つ当たり)された。

 

(お、俺なんかしたっけ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリアからの逃走後キンジは用具倉庫に隠れ潜んでいた……辰正には悪いと思ってはいたし辰正の断末魔?が聞こえたときにはつい念仏を唱えてしまったがまあ今の自分ではなだめ透かしてあの場を取り持つなど保健のテストで百点を取るのと殆んど変わらぬ難易度のため諦めて辰正(生け贄)を捧げてきた。

 

「仕方ねぇし時間を潰して……」

「遠山?」

 

ギクゥ!っとキンジは飛び上がった……一瞬だがかなめかアリアに見つかったかと思ったがいや違うかと首を振る。二人は遠山と呼ばない。この妙なハスキーボイスは(彼女)だ。

 

「ワトソン?」

「やっぱりそうか」

 

男子用ジャージに身を包み(キンジたち関係者は知ってるが他にはまだ男子で通しているのだ)ワトソンが倉庫に入ってきた。

 

「さっき谷田が保健室に運ばれてきてね。恐らく遠山がアリアを怒らせてそれに巻き込まれたんんだと思ったんだが……」

「いや、俺は怒らせてない……まあ辰正が悪いわけでもないんだけどな……」

 

悪いのは運だろう……

 

「まあアオタンとか位なものだしそんな大袈裟なものじゃないんだけどね。あきれた頑丈さだよ」

「…………」

 

流石ミニ()()リア()の幼馴染みと言う感じだろうか……余り他人事に聞こえない。

 

「そうそう、少し話したいんだけどいいかな?」

「大丈夫だが?」

 

キンジが了承するとワトソンはキンジの隣に座ってきた……フワッと汗を掻いた性かワトソンから何時もより割り増しシナモンの良い香りがした……

 

(こ、こんな場所でヒスんじゃねえぞ俺ぇ……)

 

こんな人が滅多に来る筈もない倉庫と言う密室空間でヒステリアモードに成ろうものなら危険すぎる。

 

「さて話と言うのはGサードの……って少し顔色悪いけど大丈夫かい?」

「大丈夫だ……問題ない」

 

ワトソンは首をかしげるが話を続ける。

 

「取り合えずGフォース……いや、遠山 かなめをこちらに引き込むことに成功した。流石希代の女誑しだね」

「失敬だな……見捨てられなくなっただけだ」

「そこが女誑しの由縁なんだけどね」

 

なんか含むところでもあるのか聞きたくなったが黙っておこう。

 

「サードの方は吉岡 清寡達が担当している。上手くいけばいいが……」

「ま、なるようになるだろうよ」

「ずいぶん達観してるね」

「経験上取り合えず行動結果は後々ついてくると言うのを身をもって学ばされてるんでね」

「君も大変だね」

「アリアのパートナーやってると気苦労が耐えなくてね」

 

キンジは肩を竦めた。他にも色々苦労するのはあるがここで逐次公開していくと改めて不幸な人間関係に泣けてくるので辞めておこう。

 

「確か遠山は午後は水泳騎馬だっけ?」

「ああ。まあ出るのは女子だけだから俺と一毅は見てるだけだ」

「成程。女子のキャットファイトを只見して楽しもうと言う算段だね」

「そんな趣味はねえよ」

 

武藤だったら喜びそうだが残念ながら武藤は午後はもう一つの華やかさなど欠片もない方に行くので泣いていた。

と言うか本当は一毅と自分だってもう一つの華やかさなど欠片もない方に出るはずだったのに……事情があって女子の方に行かなきゃならない。

 

「そういえば高度経済成長期の日本ではキャットファイトが流行っていたらしいけどそうなのかい?」

「俺に聞くな。俺の親父の時代の話じゃねえか」

「他にもテレクラと言うのとか」

「それが今もあるだろ」

「あとディスコ」

「聞いたことくらいしかないぞ」

 

ワトソンはどうやってそんなに時代がズレた知識を手に入れたのだろうか……

 

「日本語勉強に山田 洋次監督の【家族】を見たんだ」

「渋っ!」

 

キンジは盛大にずっこけた……




そろそろ戦闘シーンやりたいなぁ……


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龍達の運動会 閉幕……そして

ラ・リッサの午後の部……それは五時から始まり二つの競技しか存在しない。

 

 

ひとつは男子競技【実弾サバゲー】……

 

そしてもうひとつは女子競技【水中騎馬戦】……

 

まあチーム単位で動く訳じゃないし男女一緒な訳でもないので一毅とキンジは普通実弾サバゲーに行く筈なのだが……

 

「帰りたい……」

「俺だって帰りたいよ……」

 

一毅とキンジは前回も言った通り何故か女子の方で沈痛な面持ちで座っていた。

 

本来男子の二人はここにいるはずはない……だが何故ここにいるのか……それは今朝に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一毅とキンジは当たり前のように実弾サバゲーの方にいこうとしていた。朝までは……

すると、

 

「おい桐生、遠山」

「ん?」

 

何故か蘭豹に声をかけられた。

 

「お前ら実弾サバゲー出禁やからな」

『……はい?』

 

何て言った今……と一毅とキンジは首をかしげた。

 

「お前ら出たら戦力バランス崩すやろうが。つうわけでお前ら水中騎馬戦の軍師でもやれ」

『えええええええええ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、言うわけで男子なのに競技から出禁喰らった一毅とキンジは別に強制でも何でもない上に普通は一人の白組の指示役として鎮座してうつ向いている。

 

居心地は最悪だ。するとそこに、

 

「あ、先輩方何でここに?」

『…………誰だ?』

 

目の前に現れたのは顔に包帯をグルグル巻きにした引き締まった体の声からして男……

 

「俺ですよ!俺!!!」

 

そう言って包帯を外すと出てきたのは辰正の顔……

 

「何だって包帯グルグル巻きにしてたんだ?」

「先輩に置いていかれたお陰でしてね」

 

一毅が聞くと辰正はジトーッと言う目でキンジを見た。

 

「……」

 

キンジは眼を逸らすしか出来なかった。

 

「まあ今回は俺も実弾サバゲーにそんな怪我で出るなって言われましてね」

「そんなひどいのか?」

「いや、競技前から殴られてるような奴が出たって邪魔だと言うわけですよ」

「成程ね」

「それにしても……」

 

居心地が悪いですねぇ……と辰正は言う。

だが良いじゃないかと一毅とキンジは思った。自分達は比較的避けられるタイプだ。

一毅は顔が怖いし人間離れしすぎだし背も高くガタイも良い……

そしてキンジは目付きが悪いしやらかした人間離れ技【銃弾逸らし(スラッシュ)】……更に二人とも女誑しと来てる……そりゃ女子しかいないところに放り出されれば危険物を見るような視線を向けられて当たり目だ。

 

それに反して辰正は人当たりがよく優しげな顔立ちで寧ろイケメンの部類である。無論一毅とキンジだって充分見れる顔立ちだが前項の理由で若干引かれ気味の二人とは違いかなりモテるのだ。

そんな男が来れば女子達が浮き足立つのも無理はない。

 

所詮は顔なのかチクショー!と一毅とキンジは内心思っていると、

 

「ちゃんとスコアつけてなさいよ」

「キ、キンちゃん!どどどどどうかな!?」

「どうキー君達~」

「………」

「あれ?辰正何でこっちにいるの?」

「そういえばさっき保健室にいましたね(ちっ!邪魔な奴が……)」

「何だ辰正。その殴られ後」

「むむ……師匠顔色が優れぬようでござるが大丈夫でござるか?」

キンジ(お兄ちゃん)大丈夫?」

「ねぇねぇ一毅(お兄ちゃん)似合う?」

 

上から順にちっこくて可愛いフリルのセパレート水着のアリア……

 

高校生離れしたスタイル上にマイクロビキニと言う白雪……

 

今時どこで売ってるんだと聞きたくなるような古い型の水着ご丁寧に胸の部分の【みね りこ】と平仮名で書いた物を着用する理子……

 

青と緑の中間くらいの色の等身大女子といった感じのスタイルによく似合うビキニのレキ……

 

水玉のワンピースと言う少し子供っぽいがよく似合うあかり……

 

何故かスタイルは良いがスクール水着と言うこれはこれで新しい趣を感じさせる志乃……

 

日本人離れした身長とスタイルの良さを存分に活かしたビキニを着用するライカ……

 

何故かさらしと褌の陽菜……

 

理子のとは違い現在のスクール水着を着たかなめ……

 

最後に白雪に匹敵しそうなスタイルを誇るロキはパレオと呼ばれる水着だ。

 

 

さてそんな残念きわまりない性格を除けば桁外れの美女に囲まれた男子三人は慌てて視線を逸らす。

辰正に至っては鼻の根本を抑えて後ろ首をトントン叩いている。

 

(不味いヒスる……)

 

キンジも必死に内なる自分と戦っていた。

 

「と、取り合えずお前ら……死なない程度にやってこい」

「もうちょっと気合い入る指示しなさいよ」

 

アリアに怒られた……仕方ない。

 

「よしお前ら……殺って殺って殺りまくってこい!赤組の赤い鉢巻きを相手の血で更に赤く染めてやれ!」

『おー!』

 

気合いのいれ方女子としてどうなんだよとキンジは自分で叫びながら思ったのは秘密である……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、女子のキャットファイトを楽しみにしていた方々には大変申し訳ないがリポーターのキンジ、一毅、辰正の三名が戦いの最中ずっと念仏を唱えて現実逃避すると言う荒業を行ったため殆んど見ていないと言う役立たずっぷりを発揮したため割愛させてもらおう。

 

まあ結果だけ言えばアリア達の勝利である。

水中騎馬戦では鉢巻きを取られるか水に騎手役の人間が落ちたら失格だ。

そのためあかりが意外と活躍し片っ端から鳶穿で奪っていって更にアリアがキンジを練習台にして培った2丁拳銃乱射でどんどん沈めていき殆んど一方的に且つ圧倒的な戦力をもって潰した。あまりの圧倒的な差に敵が少し憐れになるほどだ。

しかし妙に二年生達と一年生ではあかりと志乃以外の一年生が凄まじい殺気を放って突進していったため赤組が腰抜かした奴もいた……

 

「何か腹立つことでもあったのか?」

『さぁ?』

 

キンジの問いにスコアボードを係りの先生に渡しながら一毅とキンジも首をかしげた。

 

無論一毅とキンジを貶すような人物をアリア達が生かしておくわけがないのだがそんなことは三人とも知らない。実は一毅達が気づかないうちに白組二人を貶した連中もこっそり同士討ちされていたのだがそれは秘密だ。

 

「だけど腹へったな……」

 

ラ・リッサ最中は食事が全面的に禁止である。何でも蘭豹が戦時中に食事するのはイタリア軍くらいだとかどうとか言うからだ……いつからこの学校は軍人養成所になったんだよ。

 

「アリア達が場所とってくれてるはずだぜ?」

「あ~今日は長かった……」

 

男子三人でその場所に向かう。

場所は廃車置き場……この学校ではよく車が壊れるためだ。その中の一つの元キャンピングカーらしき車の前にハイマキがお座りしていた。

 

「ちゃんと待ってたんだな?」

「わふ」

 

ご主人である一毅に頭を撫でられご満悦のハイマキの横を通り中にはいると既にいつものメンバーが弁当を広げていた。

 

「遅かったじゃない」

「仕方ねえだろ。スコアボードを渡す担当の先生が見つかんなかったんだから……」

 

下座のついた白雪のとなりにキンジは座りつつアリアに反論する。

 

「一毅さんお疲れさまです」

「精神的にゴリゴリ削られたぜ……」

 

特に最後のはな……ため息ひとつ吐いて一毅も適当に座る。

 

「辰正もう怪我は大丈夫なの?」

「うん。もう大丈夫だよあかりちゃん」

 

あかりに礼を言いつつ辰正も座る。

 

「しかし良いところ見つけたな」

「かなめが見つけたんだよ~」

 

理子が言うとキンジがかなめを見る。

 

「お前が?」

「うん。ちゃんと話さなきゃって思っていたから……私のこと」

 

かなめはキャラメルマフィンを膝の上に置く。

 

「私はアメリカにあるロスアラモスって言う研究機関で作られた【人間(ヒュー)兵器(アモ)】なの……」

『…………』

 

全員が黙って聞いた。

 

「私は……戦いのために作られた兵器なの」

『…………』

 

かなめの言葉は真剣そのものだった。嘘偽りがないのは簡単に想像ついた……

 

「私は……人間じゃない……」

 

そうかなめが言った次の瞬間、

 

『それは違う(だろ)(わ)(よ)(と思うよ)(な)(でしょう)(んじゃないかな)(でござろう)』

 

キンジ達二年生だけじゃない……一年生達ですらそこだけは否定した。

 

「え?」

「あなた今日すごく楽しそうだったわよ……そんなあなたが人間じゃないなんてあり得ないわ」

「そんなに楽しそうだったのか?」

「キンジ……あんた見えなかったの?」

「水中騎馬戦では念仏唱えていて見てなかった……」

「あんたねぇ……」

「でもさすがキー君だよねぇ」

「いや一毅と辰正も同じだったぞ!」

 

その場に笑いが起きる。

それをかなめが呆然と見ていた。

 

「何で?」

 

そんなあっさりとされたのかかなめには分からない……

 

「かなめちゃんがどんな風に生まれてどんな風に育ったのか分からないけどさ……」

 

あかりがかなめを見る。

 

「もう私たち友達でしょ?」

「まあキンジ先輩の妹なんだし少し変わってても全然普通だと思うよ?」

 

辰正の言葉に全員うなずいた。

 

「お前らさっきから俺に喧嘩うってんのか?」

 

キンジが青筋を浮かばせながらキレる。

 

「何度も言わせんなよ?俺は普通の武偵になって普通のバウンサーとかそういうのになるんだよ!」

『…………』

 

全員で何言ってんのこいつは……見ないな眼で見た……

 

「キンジ……適材適所でしょ?あんたが普通とか有り得ないわ」

「なぬ!」

 

キンジがガーン!と言う顔になる。

 

「ま、こんな感じだからな。皆普通じゃないと言うか変わってるって言うかそんな感じだからさ。お前が変わってても目立ちやしない。よく言うだろ?【竹を隠すなら森の中】って」

 

一毅が自信満々に言う。

 

「一毅先輩……多分言いたいのは【木を隠すなら森の中】ですよね?」

「しかもお兄ちゃんに変わってるって言われたくなーい」

 

だがライカとロキに言われて一毅がガックシと肩を落とした。

すると、

 

【グーギュルギュー!!!】

『………』

 

一毅の腹が盛大に鳴った……

 

「……腹ぁへったよ……飯にしようぜ?」

『………ぷ』

 

今度はかなめも一緒に全員で笑った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラ・リッサの次の日……

 

一毅はエプロンを着けて今夜の夕飯である。今夜はおでんだ。

とは言えライカとロキの……と言うか本当は他の一年生メンバー含めてラ・リッサの後片付けと言う名の証拠隠滅をやらされてるので二人は今日は遅い。

レキはアリア達と買い物に行ってまだ帰ってこない。少し心配だし連絡してみるか?

すると電話が鳴る。

 

「はいもしもし?」

【なにがもしもしじゃ桐生!何をしておる!】

 

この声は玉藻かと一毅は眉を寄せる。

 

「何って夕飯作ってるんだが?」

【く!遠山は一緒か!?】

「いや……でも隣の部屋にいると思うが?」

【ならば急げ!GⅢ攻めてきたぞ!!!】

「っ!」

 

一毅は血の気が凍りつく。

 

【吉岡達とも連絡は取れぬし何かが起きておる!急ぐのじゃ!】

「分かった!」

 

一毅はエプロンをはずして制服と背中に王龍の刺繍が施された多機能ロングコート・龍桜を着ると刀を持つ。

 

そして急いで隣の部屋に行くとドアを叩く……返事はない。

 

「くそ!」

 

すると鍵が開きっぱなしだ。まさか何かあったのかと慌てて入ると……

 

「ぐ~……」

 

キンジはソファで寝ていた……気持ち良さそうだ……

 

「ふん!」

「おご!」

 

無性に苛ついたため一毅は迷わず拳をキンジの腹に落として叩き起こすと言うか殴り起こした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまりヤバイんだな?」

 

キンジは腹を抑えつつ背中に桜の刺繍が施された龍桜をハタメカせ走る。

戦闘が起きてるのは品川の発電所でだ。車で行きたいがあちこちで渋滞が起きているらしく走った方が早い。

だが運が良いと言うかタイミングが良すぎる。狙っていたのか……運が良いのか分からない。

 

「ああ、清寡さん達にも連絡が取れないらしいしどうし……ん?」

 

すると品川に入り発電所が近づきコンテナ等が多くなってきたところで人影が見える。

 

「清寡さん?」

 

刀を腰に差した吉岡 清寡が立っていた。

一毅が驚きつつも清寡に近づく。

 

「どこ行っていたんですか?ずっと連絡が取れなくて心配してい……――っ!」

 

突然の抜刀……あまりの速さ……いや、速くはない。刀を抜くのがうまいのだ。

だがどちらにせよ反応を許さないと言う点においては同じで一毅に白刃が迫る。

 

「一毅!」

「くっ!」

 

だが一毅も咄嗟に殺神(さつがみ)を半分鞘から抜いて止める。

 

「な!いきなりなにするんですか!清寡さん!!!」

「すまない。だが桐生……君にはここで死んでもらう」

「ちっ!」

 

一毅は刀を抜ききって弾き返すと構える。

 

「キンジ先に行け!俺は少し遅れていく!」

「……分かった!」

 

キンジは別ルートで向かうため走り去る。

 

「……何で」

「俺に刃を向けるのか……か?」

 

清寡も刀を構える。

 

「悪いが言えない……だが言っておく……すまない」

 

そう言って清寡は一毅に向けて刀を振り上げた……



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龍と剣術家

「ふん!」

「くっ!」

 

清寡の刀と一毅の殺神(さつがみ)が火花を散らしてぶつかる。

 

『おぉ!』

 

更に切り返すと二人は次々と斬撃を放つ。

腕力や速さなら一毅に分がある……だがそれを補う清寡の圧倒的な技術力……

速さや力を受け流し逆に相手の勢いを使って斬る……

 

「ちっ!」

 

一毅は遂に受けきれなくなり神流し(かみながし)まで抜いて二刀流で応戦する。

 

「それを待っていた……」

 

清寡と一毅は距離をとる……

 

「やはり桐生はその二刀流の構えを取った状態でないとな……」

「……」

 

一毅は無言を返す。

 

「いくぞ!」

「っ!」

 

清寡の切り上げを殺神(さつがみ)で抑えると神流し(かみながし)で突く。

 

「ふっ!」

「オラァ!」

 

その突きは躱されるが一毅は更に間合いを詰めると二刀を構える。

 

「オッラァ!」

 

気合いと共に交差切り……

 

「くぉ!」

 

清寡は正面から受ける……

 

「何でだ……」

 

一毅は歯をギリッと噛み締める。

 

「何で……」

「悪いが言えないと言っただろう……」

「そうか……だが言わせてもらうぞ……」

 

一毅の眼が座る。

 

「あんたの剣の太刀筋は何でそんなに迷っているんだ?」

「っ!」

 

清寡の眼が開かれる。

 

「この間立ち会ったときはもっと真っ直ぐで正直だった……なのになんだその剣筋は!」

「黙れ!」

 

清寡は一毅を押し返すと斬りかかる。

 

「くっ!」

 

一毅は自分に迫る白刃を全て弾き返すが何度か掠る……龍桜が防いでくれるが精神的には圧迫される……だがそれでも清寡の剣筋は迷ったままで曇ったまま……

 

「今のあんたたとの戦いは楽しくねえよ……」

「これは立ち会いじゃない……殺るか殺られるか戦いだ……」

「そうか……」

 

一毅は腰を落として改めて構え直す……

 

「ならあんたをボコボコにして俺はその曇りの理由を聞かせてもらうぞ……」

「やれるものならな……」

 

再度一毅は疾走して二刀を次々振るう。

 

「この!」

 

清寡は剣を逸らすと横凪ぎに返す……それを一毅は、

 

「オラ!」

 

伏せて躱すと切り上げる。

 

「ふん!」

 

だがそれを刀の切っ先を使った突きで突いて止めると言う荒業で清寡は防ぐ……

 

『………………はぁ!』

 

ギン!っと刀がぶつかった音がひとつしてから離れると一毅は地面が凹むんじゃないかと思うほど強く踏むと間合いを詰めて剣撃を放つ。

 

「ちっ!」

 

清寡は全て受け流しきると斬撃を放った一毅の直後の硬直を狙い逆に斬撃を放つ……先程と同じ横凪ぎ一閃……このままいけば首が跳ね跳ぶだろう……このままなら……

 

「ぐぅ!」

「なっ!」

 

清寡は驚愕した……そりゃそうなのだ……一毅は横凪ぎの剣撃を()()()()()()のだ。

 

ふふふ(ふぇふぇふぇ)……毎日歯磨きと(まいふぁふぃふぁふぁふぃふぉ)煮干しを食い続けた(にほひほほほひひふふぁ)俺の歯を舐めるなよ(ふぉげぐがごふぁふぇふふぁふぉ)……」

 

一毅は思い切り清寡を蹴っ飛ばした……

 

「ごほっ!」

 

後ろに清寡は吹っ飛び転がる。

 

「あぶねぇあぶねぇ……煮干しどころか鳥の骨とか豚足の骨とかもガリガリ食って顎を鍛えといて助かったぜ」

「どんな歯と顎をしてるんだ?」

 

清寡が人外かなにかを見るような眼をした。

 

「すいませんねぇ……ここじゃ死ねないんですよ……」

 

一毅は首を軽く回しながら言う。

だが内心は今だ焦っていた。少なくとも清寡は今の剣の腕なら相対できる。だが剣術の腕となったときには相手の方が一日の長があった……どんな決定的な斬撃を叩き込もうとしても相手はそれを絶対受け流してくる。

 

「さて……どうするかな……」

 

一毅は考えを張り巡らせ、

 

「ダメだな」

 

諦めた……元々策略家ではない。

考えるより即行動タイプだ……

 

「もういっちょ!」

 

決めるが早いかまた間合いを詰めると次々と斬撃を放っていく……

 

「っ!」

 

清寡は一毅の剣に息を巻いていた……一毅の剣筋は振れば振るほど良くなって強くなっていく……

普通はこの若さでここまでいけば伸びしろの限界が見えてくる。

だが一毅にそれがなかった。一分一秒全てが一毅にとって成長する瞬間であった。

 

「ちぃ!」

 

弾き返すと刀を振りおろす……だがそれは横に受け流された……

 

「なに……?」

 

一毅は自分が清寡と比べれば幾分未熟とは言え受け流しを行ったことに気づいていない……とにかく何をするべきかを一毅は選択して行動したのだ。

無論心眼を使えればもっと完全な受け流しができただろうが一毅にそんなことを考える余裕はない。

 

(俺の技を……盗んでいるのか……?)

 

砂漠の渇いた土が1滴の水を余さず吸収して行くように……一毅は無意識に吉岡 清寡と言う男の剣を我が物にしていく……

 

「オォオ!」

 

次々と斬撃叩き込んでいく……

 

「くっ!」

「どうした!その程度かよ!」

「っ!……舐めるなぁ!」

 

清寡は刀を握ると体を捻って躱す……

 

「っ!」

 

突然視界から外れるように避けられ一毅は反応が遅れる……

 

「ふん!!!」

 

清寡の刃が一毅の腹に刺さる……普通であれば一毅の負け……だが普通じゃないのが一毅だ。

 

「ん?」

 

清寡は明らかに刀が深く刺さっていない……と言うか切っ先から数センチしか刺さっていない……のに抜けない。

 

「二天一流 拳技……金剛の気位……」

 

別段特殊な技術じゃない……筋肉を固めて攻撃からのダメージを防ぐ技で今回は腹筋を固めて刀が深く刺さらないようにした……とは言え筋肉力が桁外れに多くなければできる芸当じゃない。

 

「勝機……」

 

一毅は清寡を見据えると二刀を構える……それと共に体から深紅のオーラ(レッドヒート)が溢れでる。

 

「二天一流 絶技……怒龍の気位」

 

一毅はこれで決めると腹を据えると体を捻る。

 

「二天一流……絶双!!!!!!」

 

次の瞬間すさまじい速度で回転し、まるで竜巻のようになると清寡に圧倒的な数の斬撃を瞬時に叩き込んだ……

 

龍爪咆歌(りゅうそうほうか)!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「が……はぁ……」

「はぁ……いっつ……」

 

一毅は腹を押さえる。血は出てるが内蔵に傷はないだろうし死ぬことはないだろう。

 

「まさかそんな技があるとはな……」

「まあ今の俺じゃああんたの受け流しを壊せないからな……なら受け流す刀を使えなくすれば良いだろ?」

 

無茶苦茶な作戦である。

 

「つうわけで事情を聞かせて……ん?」

 

そこに刀を携えた男たちが一毅を囲ってくる。

 

「ま、まて!まだ俺は負けていない!」

「もう遅いですよ……時間切れです」

 

男達は刀を抜く。

 

「あ~……話が見えないぞ?」

「分からなくて良いんだよ……お前と吉岡 清寡は立ち会いの末に相討ちで死亡……なに安心しな。後でお前の仲間達も行くんだからな」

「なに?」

 

一毅が眉を寄せる。

 

「気にすんなよ!これから死ぬんだかばっ!」

 

メキィ!っと一毅の蹴りが先に男を吹っ飛ばした。

 

「てめ!」

「おら!」

 

一毅の頭突き……

 

「らぁ!」

 

斬撃……

 

「オッラァ!」

 

ドロップキックと続けて放って全員沈めた。

 

「全く話が見えんが取り合えずあいつらに危害加える連中だったら潰しておいても問題ないな」

 

そして一毅は清寡を見る。

 

「これはいったいどう言うことなんんですか?」

「………吉岡一門は現在【眷族(グレナダ)】へ帰順することにしている」

「っ!」

 

一毅は驚愕した。

 

「今回の戦役で有利なのは現在【眷族(グレナダ)】だ……それ故に最初は【師団(ディーン)】への参加だったが……」

「寝返ることにしたってか?」

 

清寡はうなずく。

 

「だがこれから盛り返すことだって……」

「そうならないための今回の一戦だ」

「ならないため?」

「そうだ。現在【師団(ディーン)】で日本を中心に活躍をしており名が売れ出しているチーム・バスカービル……それを討った上で【眷族(グレナダ)】に帰順することで【眷族(グレナダ)】に於いて高い地位を持つことができると踏んだのだ……」

「だがGⅢの襲撃と何の関係がある」

「元々Ⅲにはなにか思惑があったらしい……だから遠山キンジと戦いたければ戦えばいいと我らは発破を掛けた……そして両者がぶつかり疲労したところを……」

「つまりお前らは良いとこだけ浚っていこうとしてるって訳か……」

「その通りだ。成功すればバスカービルだけじゃない。アメリカのRランク武偵をも討ったと言う箔が付く……例えどんな手を使おうが……な」

 

一毅はそれを聞いて腸が煮えくり返ってくる。だが同時に疑問が浮かぶ……吉岡 清寡と言う男はそんな手を使うような男には見えない。

 

「あんたみたいな男がなんでそんなことをするんだ?」

「……弟がいるんだ……」

「え?」

「よくドラマかなんかでもある展開だ……弟の命が惜しければ……とな」

「っ!」

 

一毅が怒りではを噛み締めた。

 

「じゃあ誰だそんなことを企んだやつは……」

「……祇園 廣二……お前も見ただろう?」

 

あいつかと一毅は思い至る。

 

「もうだめだな……俺はお前に負けた……もう」

「弟はどこに?」

「わからない。わかっていたらこんな事態にはなっていない」

「そうか……ギリギリだな」

 

一毅は男達の服を漁ると携帯を引っ張り出す。

 

「よし……あとは俺たちに任せてもらいますよ」

「え?」

 

清寡は一毅の言葉の意味がわからず呆然と一毅を見る。

 

「あんたの弟は俺達武偵に任せてもらいます」

 

一毅は自分の携帯を取り出しながら電話を掛けた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃キンジは発電所に到着していた……

 

「くそ……」

 

キンジは頭を振るい……そして

 

「何でだよ……おい!」

 

剣を携えてアリアたちを見る少女の名を叫ぶ。

 

「かなめ!」

「…………」

 

キンジとかなめの視線が交差した……



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金と弟 前編

「かなめ……何してんだ!」

 

――ドクン――っとキンジの中で何かが跳ねた。

 

「………」

 

キンジはかなめを睨み付けつつかなめの足元に転がるアリアたちを見る。

アリアも白雪も理子もレキも怪我はありそうだが見た感じ命に別状はなさそうだ。

すると、

 

「くく、これで揃ったな……【Gの血族】が」

「っ!」

 

キンジは声の方を見ると前にも見た派手な服のGⅢ……そしてその隣には、

 

「カナ……」

 

何故かそこにはカナが座っていた……

 

「なんであんたまで……」

「私は極東戦役の戦いの一つを見に来ただけよ」

 

今のカナの雰囲気は前に見たときよりも強く……そして大きい。

 

「さて……」

 

GⅢはニヤリと笑うとキンジを見る。

 

(不味い……)

 

キンジは本能的に危機感を覚える。この男は危険だと警鐘が脳裏で鳴っていた。

 

「おいキンジ……フォースに何を吹き込んだ。俺が何度言ってもこいつはアリアたちを殺そうともしねえしHSSにも成りたくないときてる」

「………」

 

キンジはじっとりと汗を掻く。言葉一つ一つが重い……

 

(今までの相手とは違うみたいだな……)

 

「まあいい。フォース……アリアたちを殺してキンジも殺せ……」

「かなめ……」

 

かなめはキンジに剣を向ける。

 

「ごめんお兄ちゃん……私は強い人間には逆らわない……非合理だから……」

 

剣が振り上げられる。

 

「かなめ……(お兄ちゃん)は言った筈だ……喧嘩は正々堂々と拳でやるもんだとな……」

「これは戦争だから……喧嘩じゃない!」

 

そう叫ぶがかなめの手が震えている……

 

「フォース!!!なにやってんだ!殺せ!」

「かなめ!!!お前は俺の妹だろ!!!やめるんだ!」

「っ!」

 

かなめ――GⅣは精神が揺さぶられていく。

 

「う、うぅ……」

「かなめ!戻ってこい!」

「殺せ!フォース!!!」

 

キンジとGⅢの声が重なる……だがかなめの耳に届いたのは……心に響いたのは……

 

「……な」

「なに?」

「私をフォースと呼ぶなぁあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

次の瞬間かなめのスーツが発光し爆発音と共にすさまじい推進力を得てGⅢに突進して振り上げていた剣を振り下ろした……が、

 

「やはり壊れたか……フォース」

「……あ」

 

かなめは自分のやったことが分からなかった……だがGⅢは人差し指と中指で相手の剣を捉える真剣白羽取り……キンジで言う【二指真剣白羽取り(エッジキャッチングピーク)】でかなめの剣を止めると、

 

「あばよ……フォース」

 

次の瞬間GⅢの体を深紅のオーラが包むとかなめの顎に蹴り上げが決まる……そして空中に打ち上げるとGⅢも跳んだ……

 

「あの技は!」

 

キンジは驚愕する……それもその筈、次の瞬間GⅢが放ったのは……

 

「スカイタイフーン……」

 

かなめを蹴る……だがその凄まじい速さで放たれる蹴りの台風に両者は落下することなくかなめは蹴られるだけになる。

 

「しゃあ!」

 

そのまま蹴りとばすとかなめは吹っ飛ぶ。

 

「かなめ!」

 

それは飛び起きたアリアがキャッチした。

 

「お前ら起きていたのか」

「半々ってところだよ……キー君来たから少し様子をうかがってた」

 

理子も立ち上がると白雪とレキも起き上がった。

 

「それにしても今の技は……」

 

レキはGⅢを見る。

間違いなくキンジのエアストライク……それと同種の蹴り技だ。

 

「ご……ほ……」

「かなめ!」

 

キンジは駆け寄る……

 

「大丈夫か……!」

 

 

 

 

――ド……クン――

 

 

 

 

「あはは……私……逆らっちゃった……」

 

 

 

 

 

――ド…クン――

 

 

 

 

「かなめ……」

 

 

 

 

――ドクン――

 

 

 

 

「非合理だ……」

 

 

 

 

――ドクン!――

 

 

 

 

「だけど……人間らしいじゃねえか……」

 

 

 

 

――ドクン!!!――

 

 

 

 

キンジは自分の中で今までにない変化が起きているのを感じとる。

いや、元々片鱗はあったが今ので完全に抑えが効かなくなった感じだ。

 

「取り合えずお前らは大したことがなくてよかった……だから」

 

かなめを見ておいてくれ……

 

キンジはそう言って立ち上がる。

 

「おにいちゃんダメ……GⅢは超能力者じゃないけど超人なの……例えおにいちゃんが……」

 

HSSで勝てない……とかなめは言おうとした。

だが、

 

「かなめ……俺はな……」

 

キンジは言葉を遮る。

 

「仲間やられて……パートナーやられて……極めつけに妹までやられて……それでもなぁ」

 

キンジはネクタイを緩めボタンを二、三個外す……

 

「それでも冷静に相手との戦力比考えられるほど人間できていないんだよ!!!!!!」

 

 

 

 

――ドクン!!!!!!――

 

 

 

 

キンジは完全に成っているのを感じる……ヒステリアモードに……だがいつものとは違う。

ベルゼに似ているが明らかに違う。今回のは強い。

 

「くく……遂に成ったかレガルメンテに……」

「何?」

 

キンジは眉を寄せる。

 

「来いよ……それの講義はこっちでやってやる」

 

GⅢがくいっと顎をしゃくる……するとその場に、

 

「お止めくださいサード様!本日は凶日でございます!」

 

その場に狐耳の少女叫ぶながら現れた。

GⅢが前使った突然消える服を使っているらしい。

そんなことを思っている間に次々とGⅢの仲間と思われる奴等が現れる。

 

筋骨粒々とした白人……

 

顔に包帯を巻いた恐らく黒人……?

 

左右の目で色が違う少女……

 

「サード様の手を煩わせるまでもない!」

「私がやるわ!」

「私が!」

 

それを見たキンジはまた偉く個性的な仲間たちだと苦笑いした……まあ人のこと言えないかと思いつつキンジは……

 

『え?』

 

GⅢとカナ以外唖然とした……何故ならキンジはいつのまにかGⅢの仲間達の直ぐ近くまで来ている……あまりの自然な足取りで……あまりに不自然な警戒心のなさで……

そして一言言った……

 

「邪魔だ」

 

ザッ!と素早い足取りでGⅢの仲間達は道を譲ってしまった……やった当人達も自分が何を今したのか分かっていない……

 

「悪いな……道を譲ってもらって」

 

キンジは敵の人間の間を通ってGⅢを目指す。

その途中、

 

「そこの背の高い黒人さん……口のニードルガンを向けるのは止めて貰えるか?気になってな」

『っ!』

 

軽く睨まれただけ……だがその行動は相手の動きを止めた……

まるで自分のリーダーのGⅢだった……恐怖とか怖れとかそういうのとは違う……この人には従わなくてはならないと思ってしまう……そんな感じだ。

しかも口に仕込んでいるニードルガンを一瞥しただけで見抜くと言うのはただの観察眼ではない。

 

「それが万象の眼か……」

「知ってるのか?」

「ああ……俺もバイザーによる補助が必要だが使えるぜ?」

 

そう言って海の上を歩き出す……

 

「科学迷彩か……」

 

周りの色にあわせて色を変えることで姿を見えなくする戦闘機らしい……だがキンジの眼にはしっかりと見えていた。

 

「次世代ステルス戦闘機・ガリオンって名前だ……来いよ」

「…………」

 

キンジはカナを一瞥する。

何故カナがここにいたのかも狙いもわかっている。

視線が交わるとカナが言う。

 

「――シラ書42章19説――主は過去と未来を告げ知らせ、隠されたものの形跡を明るみに出される……お互い後悔がないようにしっかりやって来なさい」

 

それからキンジもあるき出す。

 

「キンジ……」

 

アリアが呟きキンジは振り替える。

 

「ん?なんだアリア……」

「……必ず生きて帰ってきて……」

「……こんなところじゃ死なねえよ……」

 

キンジは優しく言うとガリオンに乗り込んだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中に入ると普通に広い機内だった。

まあ意外なのは妙に芸術品が多いことくらいだろう。

 

「静かだな」

 

掛かる重力で高度が上がっているのはわかる。

 

「てめぇは相変わらず直ぐに驚くんだな」

 

それにしても……とGⅢは呟く。

 

「重量オーバーだな」

「は?」

「重量オーバーだ」

「それは聞こえていた。いきなりなんだ」

 

キンジの問を無視してGⅢは辺りに転がっていたアタッシュケースを取るとそのまま外に頬り投げた。

 

「?」

 

ついでに金塊も投げ捨て……

 

「これでいい……」

 

それを見てキンジは成程と手を叩く。

 

「優しいんだな」

「は?」

さっきの仕返しにか同じ反応で返された。

 

「お前は絶対勝てると思っていない……」

「………」

 

黙って続きを促してきた。

 

「だからリーダーの自分がいなくなっても生きていけるように金を渡した。更にかなめもそうだ……お前は元々も気づいていたんだろ?女の子ヒステリア……いや、HSSが弱くなるのに……だからお前は自分に攻撃をさせるために敢えてあんな状況を作り出した……嫌われ役になるのを承知の上でな。しかも医師免許持ちのカナもいる。万全だ」

「……八十点……だな」

 

GⅢは芸術品を見ながら言う。

 

「それだけじゃねえよ。俺はもう長くねえのさ」

「なに?」

「俺やかなめみたいな人工天才(ジニオン)は生まれたときから定期的に何かしらの成分を接種しないと死ぬように活動制限(ライフリミット)を設定されてんのさ。かなめもよくキャラメル食っていただろ?」

 

あれはそういう意味があったのかとキンジは納得した。

そしてロスアラモスのやり口には腹が立った。

 

「俺のは分かってなくてなぁ……まあ別にいいだろう」

「っ!」

 

キンジは突然GⅢ存在がでかくなった気がした。

 

「俺はHSSになるための性的興奮に女は使えないんだ。だがその代わりこう言う絵とか音楽とかでなることができる。便利だろ?」

「そうだな」

 

だがキンジはそんな中でも平常心だった。

 

「まずはお前の力の正体だな。そいつの名前はヒステリア・レガルメンテ……【王者のヒステリア】って呼ばれて複数の女を傷つけられたさいに発現する最強のHSSさ……だけど謎が多くてな。通常のヒステリアモードの1.2倍にしかならないんだとよ」

 

それはおかしいとキンジは頭を振る。自分の体に満ちている力はそんな量ではない。それにそれではベルゼの方が強いではないか。

 

「さて…取り合えず翼に出ようぜ……そこで決着だ」

「そうか」

 

二人はハッチから翼に出る。すでに高度は地上が殆ど見えない高さだ。

 

「これで有名人だぜキンジ」

「監視でもされてるの?」

「ああ、アメリカの衛生でな」

「そうかよ」

 

おおかたGⅢ戦闘能力でも探りたいんだろう。ワトソンの情報でもあまり引っ掛からなかったみたいだからな。

とは言え自分も纏めてと悪趣味にもほどがある。

 

「ファック・ユー」

 

なので星空に向かってそう呟きながら中指を立ててやる。

 

「くはは……」

 

するとGⅢが笑う。

 

「お前変人だな」

「てめぇには言われたくねえよ」

 

余計なお世話だと言いながらGⅢは拳銃を抜く……銃はH&K USPモデル……良銃だなと思いつつキンジもデザートイーグルを抜く。

 

「取り合えず開幕の合図に景気良くと行きてえが……お前の八発しかないだろ?俺のは十五発入ってる」

「何とかするさ……」

「そうか……よ!」

 

戦闘開始の合図とばかりにGⅢフルオートで十五発の弾丸を放つ。

 

連鎖撃ち(キャノン)!!!」

 

それをビリヤードで言うキャノンショットみたいに弾いた弾丸を連鎖させて全て凌ぎきった。

 

「おいおい」

 

GⅢ呆れた声を漏らす。

 

「とんでもない技を何でもない顔で出すなよ」

「悪いが俺は貧乏だからな。弾丸代も節約させてもらうぞ」

 

続いて胸からベレッタを抜くと発砲、

 

「ちぃ!」

 

だがそれを片手で逸らした……って、

 

螺旋(トルネード)……」

 

自分と同じ技……いや、GⅢの方が腕の力を使う分負担は大きいが簡略化されて速い。

 

「お互い銃は効かねえな……」

「みたいだな」

 

キンジとGⅢ銃を仕舞うとナイフを抜く。

 

『しゃあ!』

 

二人のナイフがぶつかると火花が散る。

 

『ウォオオオオオ!!!!!!!!!』

 

そこから蹴り……キンジとGⅢはほぼ同時にローキックを決めると軽くバランスを崩す。

 

「シャ!」

 

だがGⅢは建て直しが早く直ぐにキンジに向けてナイフを突き刺そうとする。

 

「しゅ!」

 

それをキンジはナイフで弾きながら……

 

「カウンターキック!!!!!!」

 

キンジ版虎落としである蹴り……自分の攻撃が当たると油断した相手決める蹴り……だが、

 

「リフレクトシュート!!!!!!」

 

全く同じ蹴りがGⅢからも放たれ二人とも後方に転がる。

 

『ぐっ!』

 

素早く体勢を戻すと二人は間合いを詰める。

 

『ウラァ!』

 

同時に放たれた膝蹴りが脇腹に決まって横によろけた。

 

『ふん!』

 

二人のナイフの横凪ぎ……それもぶつかって終わる。

 

「ちっ!真似っこやろうが!」

「てめえこそ!」

 

攻撃の仕方が似すぎている……更に先程から万象の眼で見切っているがそれでも決定打が放てない。

 

「なに者なんだお前は!」

「俺を倒して聞いてみろよ!」

 

GⅢの体から深紅のオーラ……

 

「くっ!」

 

キンジも応戦するように深紅のオーラ(レッドヒート)が発動する。

 

「エアストライク!!!!!!」

「スカイタイフーン!!!」

 

同時に飛び上がると互いの空中殺法がぶつかる。

何十と蹴りが交差していく。だが不思議だった……キンジはともかくGⅢの醸し出す雰囲気は殺伐としたものではない気がしてしまう。なんと言うか……ずっとこの時を待っていたような……

 

『くぅ!』

 

だが二人とも落下した。

立ち上がると間合いを図る……

 

(やっとわかったぞ……)

 

ヒステリア・レガルメンテの力の正体……レガルメンテは累乗するのだ……アリア、白雪、理子、かなめ、レキとこいつらを群れの仲間として認識していたキンジの力は1.2の五乗プラス通常のヒステリアモード30倍……で75倍。

 

(丁度良いな)

 

まさか仲間の数だけ累乗させるとは……そして待てよとキンジは頭を捻る。

 

(これ遠回しにレキでもヒステリアモードに成ってると言うことじゃないか?)

 

それを考えたら背筋が凍った。

一毅には秘密にしておこう固く誓う。

 

「へ、中々やるじゃねえか……」

「お前は大したことないな」

 

キンジは敢えてそういった。

 

「お前も分かっているだろ?今の俺はお前より強い……」

「…………」

「もう止めろ。短い命をここで散らすな」

「……へへ……甘いなぁお前……」

 

GⅢは言う。

 

「さて……銃とナイフで互角……なら」

 

ガンっ!と翼をGⅢは強く踏むとガシャッと何かが出てきた。

 

「ならこいつでいくぜ!!!」

「スティンガーミサイル!?」

 

キンジが驚愕するがそんな間も殆どなく発射される。

迷っている暇はない。レガルメンテの知能が導き出した五分五分の賭けを実行する。

 

まず渾身の一撃でスティンガーミサイルを逸らす。だがただ逸らしても駄目だ。

これは誘導弾だから……なので敢えて翼を貫通させることで難を凌ごうとする。

 

誘導弾逸らし(スラッシュⅡ)!!!!!!」

 

ここまでは順調……だが、

 

「っ!」

 

爆発……衝撃波が来るが転がって逃げる。だが一発でガリオンが明らかに高度を落とし始めた。

 

「お前は手加減がないのか?」

「まさか誘導を逸らされっとは思ってなかったんでな」

 

GⅢは捨てると……

 

「銃とナイフもダメで誘導弾ダメ……となると最後はこれしかないな」

 

そう言ってGⅢは紙みたいなものを出して口の中に張り付ける。

 

「なんだそれは……」

「ながったるい名前があるんだが様はHSS強化剤さ……成分聞いたらさわるのも嫌になるぜ?命に関わるから投薬中止になった代物さ」

 

更にGⅢの存在が強くなった。

そして腰を落とすと拳を引く……明らかに突進系の技だろう……

ならついでに見せてやろうとキンジも腰を落とし重心を体の中心に置くと両手をつき出す。

 

 

 

 

――遠山家 秘技【絶牢(ぜつろう)】――

 

 

 

 

そう呼ばれる秘中の技だ。使用後は使った相手を殺せといわれるくらい秘密にされているがまぁ……仕方ないだろう。

 

(殺さずで行かせてもらうぜご先祖様よ)

 

それにこいつなら見せても大丈夫な気がするのだ……何故かは知らんがな。

 

「行くぜ……流星(メテオ)!!!!!!」

「っ!」

 

しまったとキンジは驚愕する。

今GⅢが放ったのはキンジで言う桜花(おうか)……絶牢だけでは無理だ……腕を千切られる……ならば!

 

「おぉ!」

 

キンジの眼が燃え上がるように熱くなる。

 

そしてキンジはまずGⅢ版桜花に対して逆ベクトルに桜花を放つ。

名付けて逆ベクトルに桜花を放つことで行う減速防御……【橘花(きっか)】……

更にそこからその際の力を体の中で次々に下の方に送り自損しない程度に速度を抑えた桜花と共に蹴りあげる【絶牢】を放つ。

 

「ガァアアアアアア!!!!!!」

 

自分の流星を逆に喰らってGⅢは吹っ飛んだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

危なかった……あと一歩遅かったら倒れていたのは自分だ。

 

「がは……くそ……」

 

だがGⅢは立ち上がろうとする。

 

「無茶するな……もうお前は……」

「寝言言うんじゃねえよ……俺はまだ……――っ!」

「っ!」

 

キンジとGⅢは同時に同じ方向を見る……その次の瞬間爆発音と閃光……

 

『くぁ……』

 

二人はそのまま吹っ飛んだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああ!』

 

その光は地上からでも見えていた……

 

「キンジ……!」

 

アリアが悲痛にも似た叫びを漏らす……すると、

 

「ぶはぁ!」

『っ!』

 

アリアたちの驚愕を他所にキンジは海から浮かぶとよじ登ってきた。

 

「よう……」

「キンジ!」

「キー君!」

「キンちゃん!」

「おにい……ちゃん」

 

キンジは飲み込んだ水を吐きながら皆に手だけ振る。

 

あの爆発の際にキンジはガリオンの上から放り出されたが高度が低くなっていたのとギリギリでベルトのワイヤーをガリオンに引っ掻けることで海へのそのまま落下を防いだ……

 

「サード様は……?」

 

GⅢの方がその代わり騒がしい……そりゃ自分のリーダーが居なければ心配にも……

 

『っ!』

 

ザバン!とそこにGⅢも出てきて水を吐く。

 

「GⅢ……」

 

水に着水した際に体が冷えてヒステリアモードは収まってしまった……だがGⅢも体はボロボロ……立ち位置が悪かったのだろう。キンジと違い爆発を受けたらしい。そのため戦いの途中から気づいていたが右手の義手が剥き出しだ。なのに……それでもGⅢは言う。

 

「お前らさわるな……」

 

GⅢは前に出る。

 

「来いよキンジ……第二ラウンドだ……」

「………」

 

それをキンジはどこか悲しげに見つめていた。



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金と弟 後編

「GⅢ……もう辞めろ。そんな体でどうするんだ」

「くははは……教えてやるよキンジ……戦いに於いての負けってのは負けと思った方の負けなのさ……俺は負けだと思ってねえ……つまり俺の負けじゃねえ」

 

そう言ってGⅢはフラフラしながら一歩進む。

 

「俺は負けられないんだ……俺は最強じゃなきゃいけない……無敵で不敗じゃないといけない……あの人の理想を叶えるために……俺は負けられねぇ……」

 

更に一歩進む……

 

「最後の通告だぜキンジ……頭を垂れて降伏しな……そして【緋弾のアリア】を渡せ……」

「アリアを?」

 

キンジは咄嗟にアリアを見た。

 

「そうさ……イロカネ界隈じゃ有名でな……古いやつらの間じゃ神様扱いだぜ」

 

更に一歩……

 

「なぜアリアが必要なんだ?」

「お前も見ただろ……【緋天・緋翔門】をな……」

 

キンジもそれは覚えている……無意識にパトラに一回、そしてシャーロックに向けて一回……何に利用する気かは知らないが……

 

「無理だGⅢ……あれをアリアは自分では使えない」

「お前が絡めば使えるさ……」

「?」

 

キンジは意味がわからない。

 

「だがGⅢ……確かにあれは強力だったが触れた物体を消し飛ばすなんれ明らかにオーバーキルだろう」

「はぁ?なにいってやがんだお前……あれは殺さないぞ」

「……え?」

 

そんな馬鹿な……パトラの時にはピラミッドの天井が消し飛んだのだ……あれを人に向けたら生きてるはずがない。

 

「三年前に突然海にピラミッドの一部が流れ着いたって事件になっただろうが……」

「ああ……――っ!まさか!」

「鈍いやつだな……そうだよ。あれが三年前に飛ばされたパトラのピラミッドの一部だ」

「…………」

 

それが表すのはつまり……

 

「そうさ、緋弾には時を越える力がある」

 

後ろにいたアリアが息を飲んだのを感じた……アリアもある程度は自分の胸に撃ち込まれた緋弾については前に玉藻からどの辺りかまではわからないが聞いている筈だ。でも……

 

「そんな力を手に入れてどうする気だ」

「…………」

 

GⅢ歩みが止まった……これは鬼門だったらしい。

 

「お前には関係ないことだ」

「……………」

 

何かある……というのはわかった。

過去にも戻れる力……それがあったら何ができるだろう……

恥ずかしい過去をなかったことする?宝くじで一山当てる?株価で大もうけ……他人の知られたくない秘密を知る……いや、こいつがどんな奴かは分かっている。

そんな理由ではない。恐らく……

 

「惚れた女か?」

「っ!」

 

GⅢは眼を見開いた。

 

「そういう嗅覚だけはいいんだな」

「…………」

 

まさか正解だったとはとキンジは内心肩を竦めた。

 

「辞めておけGⅢ……人の命はそんな軽いもんじゃない。過去に戻って生き返らせようなんてそれは命への冒涜だ……」

「…………」

 

GⅢは黙って聞いた……そして、

 

「そんなのは分かってんだよ……」

 

バイザーを外しながらGⅢは言い……それをみたキンジは……いや、後ろにいたアリア達も息を飲んだ。

 

バイザーの下にあった顔は双子……とまでは言わないがキンジに良く似ていた。

 

「お前何者なんだ……」

Golden(ゴールデン) Cross(クロス) (サード)……それで俺はGⅢだ……」

「え?」

 

ゴールデン……クロス。

日本語に直訳すれば【金叉?】

 

「俺とフォースはな……お前の親父……SDAランキング八位にして心・技・体三つが完璧な日本を代表した武装検事……遠山 金叉から密かに奪ったDNAから必要な染色体取り出して別の女の卵子と掛け合わせて作られたのさ。まあ腹違いの兄弟ってやつだな。まあ俺とお前は殆ど生まれた時間に差なんか無いけどな」

 

おいおいアメリカさんよ……人の親父のDNA好き勝手に使ってくれやがるとキンジは嫌悪感を示す。

 

「本当は桐生 一明のも奪いたかったみたいだが金叉の奪うのに予算かけすぎたのとコンセプトは武も知もバランスが良いことだ。そういう意味では少々戦闘に特化しすぎていたからな。桐生 一明は……」

 

そう言いながらGⅢはバイザーを捨てキンジを見る。

 

「分かるだろ?俺やかなめはお前と違って産まれる筈がない人間だった。祝福なんかされなかったし物心ついた時に持たされたのはナイフはナイフでも殺し用のナイフだ……俺たちは人の扱いを受けなかった……」

 

でも……とGⅢは続ける。

 

「俺を人間扱いしてくれた女がいた……サラって言うんだ……だけど俺は助けられなかった……そして死んじまった……」

「…………」

「自然に逆らうってのはわかりきってるさ……でもなぁキンジ(兄さん)……俺はそれでも止まれねえんだよ……そこに希望があるならすがり付きたいんだ……あいつ生き返らせて公園のベンチでマックのハンバーガー食ってみたり……サラが作った弁当を食ってみたりもしたい……一緒にコンビニの弁当買ってゲームなんてものもいいなぁ……」

「GⅢ……」

 

他人の気持ちに鈍感な自分だが……キンジは気づいてしまった。

 

「分かったよGⅢ……」

 

キンジは肩を掴むとバッと一気に服を脱ぎ捨て上半身を外気にさらす。

 

「来いよ……第二ラウンドじゃない……ファイナルラウンドにしよう」

 

最初からGⅢは自分と戦いたがっていたのはわかっていた。そして今本心がわかった。

GⅢは……自分でも気づいているかわからないが止めて欲しいのだ……もう辞めろと言って欲しいのだ……無理矢理でも……殴り飛ばしてでも……止めて欲しいのだ。だからカナとキンジの元に来たのだろう。

 

なら止めてやる……今までの戦いは根底から間違えていたのだ。キンジは最初は知らなかったが本来GⅢとの戦いは兄弟喧嘩だった……なら銃もナイフもミサイルもいらない。かなめに説教しといて恥ずかしい限りだが今からでも遅くないだろう。

喧嘩には拳でやるものだ……今から喧嘩でも良いだろう。

 

「止めてやる……お前をな」

「…………」

 

それをみたGⅢも上に来ていた服を脱ぎ捨て外気にさらす。

キンジと違い筋肉質な肉体……相当鍛えている。

 

「手加減抜きだぜ?」

 

GⅢが言うとキンジは笑みを浮かべて、

 

「ああ……」

 

と頷く。

 

「死ぬかもしんないけど……恨むなよ」

 

楽しそうにGⅢは言う。

 

「分かってる……」

 

キンジも笑みを浮かべて同意した。そして二人は同時に走り出す……

 

「いくぞキンジィ(くそ兄貴)イイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!」

「来いよGⅢォ(馬鹿弟)オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」

 

そして二人は跳躍し、

 

「オォ!」

「ッシャア!!!」

 

蹴りがぶつかる……遂に二人の喧嘩が最高潮を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウッシャア!』

 

二人の蹴りが同時に相手の軸足を蹴る。

 

「くっ!」

「ちぃ!」

 

二人はバランスをとるがそのまま一気にハイキック同時に叩き込む。

 

『がはっ!』

 

二人とも横に吹っ飛ぶがGⅢは素早く体制を戻すと、

 

「ヨッシャ!」

 

飛び上がり上がり肘を落とす。

 

「くっ!」

 

キンジはそれを防御すると押し返しこのまま腰にタックルしてマウントを取った。

 

「オォオオオオ!!!!!!」

 

拳を握るとキンジはそのままGⅢの顔に落とす。

 

「っ!」

 

だがGⅢは顔を横に動かして避ける。

 

「ラァ!ラァ!」

 

何度も何度も落とすがGⅢはそれを躱しキンジの腕を掴むとマウントから脱出しそのまま腕ひしぎへと持っていく。

 

「ちっ!」

「るぁ!」

 

腕ひしぎさせまいとするキンジと腕ひしぎを完全に極めるべくGⅢの両者は力を込め……

 

「うぉらあ!」

 

キンジがなんとか脱出して転がる。

 

「ウォオオオ!!!」

 

だがGⅢは素早く立ち上がるとそれを追って疾走しそのまま飛び上がりながら膝を叩き込む。

 

「くぅ!」

 

だがキンジも咄嗟に腕を交差させて防ぎながら同時に後ろにわざと跳んで衝撃を逃がす橘花擬きで対処する。

 

『はぁ……がぁ!』

 

GⅢの生身の方の拳が迫るがキンジは伏せて躱すと逆立ちしながら顎を狙った蹴り上げを放つ。

 

「おぉ!」

 

だがGⅢは横へのスウェイで躱すとキンジを蹴っ飛ばす。

 

「がはっ!」

 

キンジは吹っ飛ぶ。更に追撃にとばかりにGⅢはキンジの顔を踏みつけようとする。

 

「っ!」

 

キンジは転がって避けるがGⅢは追う……

 

「こん……」

 

だがキンジは途中で腕に力を込めて飛び上がると、

 

「オッシャア!」

 

GⅢの横っ面に後ろ飛び回し蹴りを叩き込んだ。

 

「がはぁ……」

 

元々肉体的にボロボロだったGⅢは血を吐きながら下がる。

 

「ごほっ!」

 

遂にGⅢは膝をつく。元々戦える状態ではないのだ。

 

「まだ……だぁ……」

 

それでもGⅢは自分の膝を叩いて立ち上がる。

 

「俺は誰にも負けられねえ……俺は人間兵器(ヒュー・アモ)……最強でなければいけないんだ……」

「何が最強だよこの馬鹿……俺に蹴られて血を吐いて……挙げ句の果てに女の名前呼んで……どこが最強だ……人間じゃねえか」

 

キンジの言葉を聞いてGⅢは眼を見開く。自覚はなかったようだ。

 

「おらGⅢ……まだなんだろ?来いよ」

 

キンジがそういうとGⅢがキンジの肩をつかむ。

 

「お互いまだ切り札があるだろ?」

「お前もなのか……」

キンジもGⅢの肩をつかんだ。

 

「覚悟しろよ……俺は兄さん以外に負けたことはない」

「俺は無敗さ……フォースにも負けたことはねえんだ」

 

キンジとGⅢはニッと笑うと大きく体を逸らし……

 

『ウッシャア!』

 

ガツ!っと闘牛のごとく互いの頭を叩き会わせる。

 

「こんの……」

「石頭がァ!!!」

 

再度ガツ!っとぶつけ合わせる。

 

「が……」

 

だがキンジの方が石頭だったらしくGⅢ大きく体を後ろに倒した……

 

「ウォオオ!!!!!!」

 

キンジは大きく体を逸らし三度目の頭突きを放つ……

 

「負けるかぁ!」

 

だがそれをGⅢ拳で迎撃……ゴン!っと派手な音をたてて二人が制止する……

 

「ぐあ……」

 

GⅢキンジの頭を迎撃した手を抑える。ヒビくらいなら入っただろう。

 

「オッシャ!」

 

キンジはその場に飛び上がると強烈なドロップキックを叩き込む。

 

「がっは!」

 

後ろに吹っ飛ぶながらGⅢは転がる……

 

「つぅ……はぁ……」

「くぅ……はぁ……」

 

二人は間合いを測る……そして、

 

『ウォオオオオオオオ!!!!!!』

 

二人は走り出すと最初と同じように跳躍……だが二人が放つ蹴り最初の飛び蹴りではなく後ろ胴回し回転蹴り……

 

「勝機!!!」

 

キンジの大きく捻った体から放たれた後ろ胴回し回転蹴りはGⅢのはなったものよりも数コンマ早くヒットし……

 

「シャァアアアアアアア!!!!!!」

 

そのまま地面に叩きつけた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『サード様!』

「がふ……」

 

GⅢは血を吐いてキンジに掴み掛かる。だが力はない……

 

「俺は……まだ……」

 

ズリッとそのまま遂にGⅢは地面に倒れ伏す。

 

「はぁ……」

 

キンジが手を空に向けると、

 

「俺の……勝ちだ」

 

そう宣言してキンジも後ろに倒れた。

 

「いってぇな……」

「キンジ!」

 

アリア達が駆け寄ってきた。

 

「勝ったぜ」

「うん……」

「そういえばカナは?」

「かなめの治療を終えたらどこかに帰っていったわ」

「そうか……」

 

それからキンジはGⅢを見る。向こうもGⅢを囲って傷を見ている。

 

「負けたのか……俺は」

「サード様……」

 

GⅢは体を起こすとキンジを見る。

 

「ああ、お前の負けだ」

「……くそ……負けたんじゃ文句言えねえな……」

「敗者に文句を言う権利はないって奴か?」

「ああ……」

 

GⅢは狐耳の少女の膝に頭を落とす。特に意識してなかったみたいだな。体に力が入んないのだろう。だがその少女は顔を真っ赤にしてアワアワしている。

 

「何だろうなぁ……何か悔しい気もするし苛つくような気もするし……良くわかんねえな……でも悪くねえ」

「なら良いんじゃないか……」

 

キンジがそういうとGⅢは少し笑う……

 

「ま、これにて一件落着……だな」

 

そう……キンジが言った瞬間相当数の足音が聞こえる。

 

『っ!』

 

その場の全員が顔をあげるとそこには100人以上の男達が囲んできた。

 

「なんだ……人工天才(ジニオン)ってのも対したことねえな」

「お前は……祇園 廣二……!」

 

キンジが叫ぶと廣二はキンジを見る。

 

「ははは……程よくボロボロだな」

「くっ!」

 

今のところ無傷のGⅢの仲間たちと傷が浅いアリア達が立つ。だがアリアたちはもとよりGⅢの仲間達もフル装備で来たわけではない。武装が乏しいのにこの人数……かなりヤバイ。

かなりヤバイ。

 

「さぁて……わりぃがお前ら……俺の出世のために踏み台になってもらうぜ」

「てめぇ……」

 

GⅢは廣二を睨み付ける。

 

「しかしGⅢ。お前ずいぶん嫌われてるなぁ。俺が殺す算段つけた途端に一枚噛ませろって奴が沢山居たぞ」

『……』

 

廣二とその部下達が武器を持つ。

 

「さて……いくぞお前らァ!」

『っ!』

 

相手が走り出そうとした瞬間……

 

「どけどけぇ!」

『え?』

 

皆が唖然とするとそこに大型ローラー車が走ってきた。

 

『うぉわ!』

 

キンジたちと廣二たちの間を走り抜けると誰かが飛び降りると出てきたのは……

 

『一毅!』

「よう!」

 

一毅がグッと親指を建てる。そして、

 

『私たちまで引き殺す気か!』

 

アリア、白雪、理子、レキの四人にボコられた。

 

「ちょ!待てって!ああでもしないとぶつかり合っただろ!」

 

さすがに四人掛かりでが一毅も大弱りである。

 

「なんだあいつら……」

 

GⅢは呆然と見る。

一毅のことは知っている。少なくともバスカービル最強という肩書きを持っているし有名だ。

その二つ名の示すように鍛えてるのは分かるし強そうだ。だが……何かこのやり取りを見るとあまりそういう風には見えない。

 

「おう一毅……重役出勤だな相変わらず」

「わりぃわりぃ」

 

一毅はキンジに謝罪してから廣二を見る。

 

「清寡さんから聞いたぜ……」

「そうか……ならこれも聞いたよなぁ」

 

廣二は性格の腐った笑みを浮かべる。

 

「俺に手を出せばあいつの弟の命は……」

「あ、悪い電話」

『………』

 

一毅は気にせず電話に出て周りの人間が唖然とした。

 

「ん?おぉ……了解了解」

 

一毅は携帯を話すとスピーカーにする。

 

「おいお前ら……首尾はどうだ?」

【間宮 あかり!】

【佐々木 志乃!】

【火野 ライカ!】

【谷田 辰正!】

【風魔 陽菜!】

 

聞きなれた一年生たちの声が聞こえ……声を揃えて言う。

 

【無事人質の救出(セーブ)を完了しました!】

「なにっ!」

 

廣二が驚愕する。

 

「くそ!」

 

廣二が確認のために電話を掛ける。

だが出ない……

 

「役立たずが!」

「ははは!」

 

一毅は笑う。

 

「お疲れお前ら!帰ったら君達の戦兄か戦姉がきっとリーフーパイを奢ってくれるだろう!」

『おい!』

 

その戦兄と戦姉達が同時に突っ込んだ。

 

【一毅先輩あたしには?】

「ライカには俺がおごってやるよ」

【俺には無いんすか】

「男は我慢しろ!」

【酷い!】

「冗談だ。俺が奢ってやるよ」

 

すると次はあかりの声が聞こえた。

 

【かなめちゃーん!一緒に食べようね!】

それを聞いてキンジは苦笑いしながらかなめを見た。

 

「だとよ」

「うん!」

 

それから一毅は携帯を切る。

 

「さぁて……」

 

一毅は首を捻る。

 

「つうわけで……お前ブッ飛ばすのにもう遠慮はいらないわけだ」

「ち!アイツらを斬れぇ!」

 

廣二が指示する。

 

「あいつら?馬鹿言うなよ……お前らの相手は俺だけだ……」

『え?』

 

その場にいる皆が一毅を見る。

 

「お前ら……頼むから手は出さないでくれ……あいつらは……」

 

俺の獲物だ……そう一毅は言う。

 

『っ!』

 

全員の背筋が少し凍った……一毅はこんな場なのに……()()()()()……

 

「大丈夫なのか一毅」

「ああ……」

「なら……行って暴れてこい」

「ああ!」

 

次の瞬間獣が解き放たれた……



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一年の救出劇

Q.何で更新が遅れたのか?

A.書く時間が取れなかったから

Q.何で?

A.龍が如くシリーズの最新作【龍が如く0】をやっていたから(←おい)

と言う訳で一毅無双だと期待してた方々ごめんなさい。一年たちの戦いです。
一毅無双は次回に持ち越しです。


少し時間を戻してキンジとGⅢが戦いを繰り広げ始めたころ……

 

「あー疲れたー」

 

ライカの言葉に皆が頷く。

一年生の面々はラ・リッサの片付けという名の証拠隠滅をやらされていたのが終わり帰路についていた。

 

「全く……馬鹿みたいにプールの底に弾を沈めておくから拾うの大変だったね」

「あはは」

 

あかりが肩をすくめると辰正が苦笑いした。

 

すると、

 

「ん?」

 

ライカの携帯に電話が入った。

 

「あ、一毅先輩だ」

「え?お兄ちゃんから?」

 

ロキも首をかしげる。

 

「一毅先輩どうしたんですか?もしかしてなにか買ってきてほしいんですか?」

 

ライカは電話に出る。

 

【そうそうちょっとお茶を切らしてたから……って違う違う!他の皆はいるか?】

「ええ、あかりと辰正と志乃と陽菜とロキが居ます」

【よし、スピーカーにしてくれ】

 

ライカはスピーカーにして皆にも聞こえるようにする。

 

【今現在俺たちは襲撃を受けている】

『っ!』

 

皆の表情が引き締まる。

 

【とは言えお前らに援軍を頼みたい訳じゃないんだ】

『はい?』

 

この話の流れだと援軍に来てくれという感じかと思いきや一毅に否定された。

 

【お前らにはちょっと人質の救出を頼みたいんだ】

『救出……』

 

全員が息を飲む。

人質救出は武偵が行う任務でもかなり困難な方の部類にはいる任務だ。

 

【まあ本来一年にやらせるような任務じゃないんだけどさ……色々めんどくさいのが絡んでるし……個人的にお前らだったら救出出来るくらいの実力もうあるだろ】

 

実力は今だ未熟かもしれないがキンジ達が異常なのであってあかり達だって寧ろ同年代と比べた場合その成長速度はずば抜けて早い。

 

【つうわけでリーダーのあかりが決めろ】

「はい?」

 

あかりが首をかしげた。

 

【ん?てっきりお前がこの面子のリーダーだと思っていたが?

「いやいやいや!私一番よわっちぃですし……チビだし……勉強もあんまし……」

【リーダー何てのはそんなんじゃ決まんねぇよ】

 

一毅の言葉に全員が耳を傾ける。

 

【こいつの言うことを聞きたいって自然と思うような奴……気がつかないうちに色んな仲間に囲まれる奴……まあ強さも要因のひとつだけどそんな感じだ。敵を敵から味方に変える才能がある奴がリーダー足る人間だ】

 

一毅がそういうとあかりは目を閉じて……開く、

 

「わかりました。救出は任せてください!」

 

あかりの言葉に電話越しでも何となく一毅が微笑んだのがわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここだね」

 

あかり達は一毅が敵とのお話し合いの末に聞き出した(本人は言っていたがそんなわけはない)ビルに来ていた。

 

「うっし!」

 

ライカはグローブを着けた手を軽くぶつけ合ってからアサルトライフルを構える。

 

【ハロー。こちらロキだよ~。狙撃ポイントに到着】

【こちら陽菜と志乃殿と辰正殿でござる。裏口からの侵入に成功したでござる】

「了解」

 

あかりはもう一度正面を見る。

 

「それで中は?」

【うん。お兄ちゃんが言ってたみたいに中には吉岡の門弟達が完全に封鎖してるね。一般人はいない……人の動き見る限り多分居るのは……いた、六階のホールだね】

 

ロキが言うとライカとあかりはアイコンタクトを取る。

 

「あかり準備はいいな?」

「うん」

 

UZIを持つとあかりとライカは走り出す。

 

『喰らえ!!!』

『っ!』

 

次の瞬間凄まじい数の弾丸がビルの中に放たれた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銃声が聞こえ始め吉岡の門弟達が騒ぎだしたころ裏口から侵入した陽菜、志乃、辰正の三人も行動を開始する。

 

「六階か……」

 

階段を上がる都合上六階は結構きつい……まあ文句いっても仕方ない。

 

「行こう」

 

辰正が言うと二人もうなずきかけ上がっていく。

 

「誰だお前ら!」

『っ!』

 

途中で吉岡の門弟と鉢合わせるが、

 

「俺流・流星タックル!!!」

 

仲間を呼ぶより速く深紅のオーラ(レッドヒート)を体から出した辰正が常人を凌駕する腕力と脚力で階段を駆け上がりながら相手の腰に抱きつきそのまま押して壁に叩きつけた。

 

「がは……」

 

吉岡の門弟は空気を肺から漏らすとそのまま気を失う。

 

「辰正殿いつの間にヒートをそこまで自在に?」

 

ヒート自体は一毅も普通に使うので一年生達も知っているが辰正がここまで意識して使うところを見たのは初めてだった。

 

「これでも修行したんだよ?」

「成程」

 

辰正の言葉に陽菜が頷くと、

 

「なんだ今の騒ぎは!」

『っ!』

 

今の音を聴いてまた来た。

 

「っ!」

 

今度はそれを見た志乃が階段を上がりながら長刀・物干し竿を握る。

 

「なんだこの女!」

 

咄嗟に男は銃を向ける、

 

「飛燕返し!!!!!!」

 

巌流に存在する技は全て鞘無しの居合いである。

これは鞘を捨てて相手との間合いを瞬時に詰めて放つ燕返しである。

 

「ぐえ……」

「安心してください……峰打ちです」

 

男は泡を吹いて倒れた。

 

「むむ……拙者の見せ場がないでござる……」

 

陽菜がポツリと呟いた。だがそこに、

 

『敵襲か!』

『っ!』

 

今度は複数だ。すると陽菜がこれは好機とばかりに目を輝かせる。

 

「これは拙者の見せ場でござるな!今こそ見せるでござるよ!風魔家秘伝!!!」

 

陽菜が何かを投げる……

 

『げっ!』

 

辰正と志乃が目をまん丸くしてポカーンと自分の頭上を飛んでいく物体を見た……

形状は黒くて丸い……更にバチバチ火花を散らしながら段々短くなっていく導火線……有り体に言って所謂一昔前の漫画とかに出てくる……

 

『爆弾!?』

「違うでござる。風魔家秘伝の手投げ式・炸裂弾【火爆玉】でござる」

 

((どっちでもいいわぁあああああああああああああああ!!!!!!!!!))

 

辰正と志乃の悲鳴の混じった抗議は陽菜に届く前に爆音に消えていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ざっとこんなもんかな」

 

ライカとあかりは弾がなくなったため銃を下ろす。

 

「援護射撃ありがとね。ロキちゃん」

【楽勝楽勝。でもさっき爆発が起きたけど大丈夫?】

「手榴弾でも使おうかとしてきたのかとビビったけどそう言うこともないもないみたいだしな」

「向こうで何かあったのかな……連絡してみようか?」

 

あかりが通信機に手をかけた……そこにエレベーターが開く。

 

『え?』

 

そこから出てきたのは身長はおよそ2m半に厳つい風体……肩幅もある。

 

「でかい人間は一毅先輩や蘭豹慣れてたけどそれよりでかい……」

 

ライカは無手の構えを取りあかりはナイフを抜く。

ロキも援護のためライフルを構えた。

 

「でもライカ……あの人どこかで見たことない?」

「あれ?確かに言われてみれば……」

【……あー!】

 

ロキが叫び通信機を付けていたライカとあかりは顔をしかめた。

 

「お、おい!ビックリするだろ!」

【ごめん……でもあれって対戦相手を半殺しにしてプロレス界から追い出された……】

「思い出した……一毅先輩が見てた昔の格闘技のテレビでチラッと見た……確かリングネームは【デーモン金井】……」

「ほぅ……俺の事を知ってる奴がいたか……」

「そんな人がいたんだ……」

 

あかりが呟くとライカが頷く。

 

「でも手刀だろうが貫手だろうがあまつは武器まで何でもありのヒールレスラーだったやつだよ」

「遊びの戦いが好きじゃなかっただけだ。俺は強い奴が勝つ戦いこそが正しいと思っていた。なのにあんなショーみたいなこそが正しいと言うプロレスを真っ向から否定したのさ。そのお陰で俺は負けなしだったぜ?」

「そのあげく追い出されたじゃねえか」

 

ライカと男の視線が交差する。

 

「まあどちらにせよやるしかないぞ二人とも」

【みたいだね】

「うん」

 

三人は臨戦態勢を取る。

 

『ハァアアアアアア!!!』

 

ライカとあかりは飛びかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おらぁ!」

 

ライカの正拳が金井の腹に決まる……だが、

 

「効かねえな!そんなヘナチョコパンチ!!!」

 

体重(ウェイト)の差のせいか芳しいダメージを与えられない。

 

「っ!」

 

前の関羅との戦いが思い出される。殴っても蹴ってもダメージを与えられない……

 

「ライカ!」

「う!」

 

金井の横凪ぎの手刀がライカに迫るがギリギリ伏せて躱す。

 

そしてバックステップで下がると距離を取る。

 

「大丈夫?」

「ああ……」

 

あかりが叫ばなければ今の手刀を首に喰らいそのままライカは戦闘不能になっていただろう。

 

「ん?」

 

そこにロキの援護射撃が金井の肩に直撃する。

 

「ちっ……狙撃主もいたのか……」

【何で全然効いてないの……?】

 

金井の反応にロキは絶句した。

防弾処理を行われていたのはわかるがそれでも多少のダメージはあるものだ。それを平然と顔色ひとつ変わらないとは……

 

「痛みに鈍いんだな……」

 

ライカが舌打ちした。

 

「どうする?」

「……まだ練習中だけど一つ方法はある」

「え?」

 

ライカの耳打ちにあかりは耳を貸す。

 

「とは言えまだ練習中で本当は実戦には全然使えないけど多分それなら行ける。ロキも力貸してくれ」

「……わかった」

【了解。で?まずはどうするの?】

「まずは……」

 

ライカは作戦を指示した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話し合いは終わったかヘナチョコ共」

 

金井はニヤリと笑う。

 

「行くよ!」

 

まずはあかりだ。あかりが一気に金井の懐に飛び込む。

 

「ああ?」

 

金井は構わず拳を降り下ろした。だが、

 

「はぁ!」

 

あかりは拳をギリギリで躱しながら金井を跳び箱のように飛び上がりながら頭上を越えていく。

あかりは元来その並外れたタフさに頼った一種の自爆戦法を使うことが多かった。

だが趙伽との一戦でタフさを持ってしても勝てないことを味わった。

 

そして辰正がヒートを自在に扱えるようになったように……志乃は自分の巌流に磨きをかけたように……ライカは一毅に扱かれながらも自分の拳技を模作しだしたように……あかりもタフさだけではなく回避能力を磨いた。

元々比較的身軽だったしあかりは自分では気づいていないが相手の動きを見きるという点においてキンジの万象の眼程じゃないにせよ抜きん出た力を持っている。

そうでなければ不殺版の相手の武器をカウンター気味に掠めとる鳶穿は使えないだろう。

 

「今だよライカ!」

「ウォオオオオオ!!!!!!」

 

そこにライカが来た……

 

「らぁ!!!」

 

ライカの拳が金井の伸びきった腕の肘関節を打つ。

 

「ぐぁ!」

 

ミキッと言う音が少しして金井が顔を歪めた。

 

(出来た……!!!)

 

ライカは内心驚喜する。

 

これは一毅から前々から教えてもらっていた方法だ。

どんなに頑丈で大きな相手でも関節は鍛えられない。

どんな相手でも伸びきった腕や膝、首等はどんなに鍛え上げてもそこだけは脆いのだ。

とは言え肘や膝は曲げられていると逆に殴った方が拳を壊すことになるし首は力加減が難しい。

 

更に僅かに打つ場所がずれると効果が半減する。故に未だに実戦で本来なら使える技術ではないのだがそんなことを言っている場合じゃない。

 

「このアマ!」

 

金井は拳を振り上げるが、

 

「ぐぁ!」

 

そこに狙撃弾が金井の膝を叩く。

 

「勝機!」

 

金井が膝をついたところにライカが掌打の構えをとった。

 

「ウォオオラァアア!」

ライカの掌打は頬を……正確に言うと顎の関節の部分を穿つ。更に当たった瞬間に手を捻る……するとガコン!っと言う音がして金井の顎が外れた。

 

「あがが!」

 

一毅に習った小技みたいなものだ。だが顎をいきなり外されればどんな相手も戦意を大きく削がれる。そこライカは拳をギュッと握ると体を大きく捻る。

 

「ラァ!」

 

ライカのアッパーが完全に決まる。

 

「ぐっ!」

 

再度ガゴン!っと言う音と共に顎が戻らされた。

 

「あぐぅ……」

 

金井は後ろにぶっ倒れた。

 

「や、やったー!」

 

あかりとライカはハイタッチする。

 

【ほらほら何してんの?人質救出でしょ?】

『あ……』

 

倒したことに感激してしまいすっかり目的を忘れかけていたあかりとライカをロキが現実に戻した。

 

「じゃあ、上に……――え?」

「あかり!」

 

金井の横を通った瞬間あかりの足を金井が掴み壁に叩きつけた。

 

「こんの……糞がきがぁああああああああ!!!!!!!!!」

「っ!」

【ライカ!】

 

金井は飛び起きるとショルダータックルをライカに叩き込む。

 

「がっ……」

 

ライカは大きく後方に吹っ飛ぶと転がる。

 

「く……は……」

 

口に血の味が広がる。全身が痛いし力が抜ける。

 

「なめやがって……」

 

金井はライカに近づく……そこにロキが狙撃弾を撃ち込むが怯まない。

 

【ライカ!逃げて!】

「…………」

 

ロキが言う……だがライカはその場にたった。

 

「……ふぅ……」

 

そして大きく体を捻り構える。

全身が痛くて力なんか入らない……でも……逃げる訳にはいかない。

逃げたら後悔するから……退かなきゃいけない時もある。でも退いちゃいけない時だってあるのだ。

 

(駄目だ……力が入らない……くそ)

 

ライカは舌打ちする。

一瞬だけでいい……一瞬だけでも力を込めるしかない。

 

「死ねやぁああああ!!!!!!」

 

金井が走り出そうと足に力を込める……が、

 

「っ!」

 

足にナイフが突き立てられる。

 

「ライカ!今!」

 

あかりが叫ぶ。

 

「二天一流!!!」

 

ライカはカッと目を開くと全身の抜けていた力を一気に込める。

 

「拳技ぃ!!!」

 

ライカは驚いていた……そしてあかりとロキも驚愕した。

ライカの疾走速度は正しく雷光の如くであり初速から限界速を遥かに越えていた……

 

そして【腕力×体重×速さ】……これが掌打の破壊力を生むとしたら腕力と体重はライカに欠けており一毅にはあるもの……だが一毅にはない速さが乗った一撃であったのならば腕力と体重を補った十分な一撃へと変わる。

そんな一撃は金井の胸に叩き込まれる。

 

「煉獄掌!!!」

「がっ!」

 

二天一流 拳技の基本の技でありもっとも最初に習う掌打……ライカがもっとも好んで使う一撃はなんと金井の巨体をつい先程吹っ飛ばされた意趣消すように吹っ飛ばした。

 

「え?」

 

ライカも自分がやった行動に呆然とした。

 

「ら、ライカ何時の間にそんな腕力着けたの?」

【ビックリしたぁ……】

「ち、違う違う!私も今のはわかんないんだ……」

「でも今ライカ消えたよね?」

【速すぎて視角から一瞬で外れたって言うのが正しいけどね】

 

ライカも今のがなんだったのかわからないしあかりとロキも分かるわけがない。

 

「まあここで考えても仕方ないしとりあえず上に……」

 

そこにチーン!とエレベーターが鳴る。

 

「敵……!」

「かぁ!」

 

ライカとあかりが拳を握って飛び上がる。

 

『ウォオオリャア!』

「え?」

 

エレベーターから先に出てきた男はポカンとして……

 

「ホギャ!」

 

顔を思いきり殴られて後ろに倒れた……って!

 

『辰正!?』

「はんにゃらひ~ん……」

 

目を回した何故かアフロ姿の煤だらけの辰正を見て気絶させた張本人であるライカとあかりが驚愕する。

 

「あ、あかりちゃん!」

「し、志乃ちゃんその頭……」

 

志乃も何故か煤だらけでアフロである。

 

「もしかしてさっきの爆発!?大丈夫!?」

「う、うん……まあなんとかね……」

 

志乃はジト目で陽菜を見たが、陽菜は遠い目をした。

 

「で?その子供が人質か?」

 

ライカが小さな男の子を指差す。

 

「はい。ですが二人ともどうしたんですか?」

「その大男にやられて……」

「なんですって!」

 

志乃の目が据わった……

 

「あかりちゃんに傷ですってぇえぇええええええ!!!!!!」

 

ゴゴゴゴ……と志乃の背中から地獄の業火が燃え上がる。

 

「万死に値します!死刑!!!」

「ば、バカ!9条を思い出せ!」

 

志乃は迷わず刀を抜いて泡を吹いて気絶する金井に止めを刺そうとしてライカに止められる。

 

【ねぇ~……救出したんだからお兄ちゃんに連絡しなくていいの?】

「あ!そうだった!」

 

あかりは慌てて電話を掛けた……




皆それぞれ修行中です。

え?陽菜は?……ええと……彼女も彼女なりに修行してます。


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戦龍の戦い そして一件落着

「セィヤァ!」

 

一毅一人 対 吉岡の門弟たち……普通であれば数に圧されるとかして一毅は苦戦するとかそういう状況に成るはずだ……だが実際は違う。

 

あるものは急所を外してはいるものの斬られ……あるものは蹴り飛ばされ、殴り飛ばされるものもいる。あるものは頭突きをされて鼻血を出しながら後ろに倒れるものもいる。

 

つまり……圧倒的な力……いや、どちらかと言うと暴力に近い動きと実力を誇る一毅は吉岡の門弟達を目につき次第次々と蹂躙していく。

広い場を右に左と縦横無尽に一毅は駆け回りながらどんどん切り捨てる。元々一対多数も慣れていて戦える一毅だったが今回のはなにかが違った。

 

まず一毅はあんな変則的な動きはあまりしない。普段から喧嘩みたいな動きで決まった動きはしない実践剣術を旨とするもののそれでもあそこまで立ち位置を変えながら荒々しく戦うといるより潰していくと言う言葉が似合う戦い方はしない。

 

何より一毅は笑っているのだ。楽しそうに……嬉しそうに……まるで自分の居場所はここだと言わんばかりに笑う。恋い焦がれて待ち続けたものに出会えたような雰囲気だ。楽しくて楽しくて仕方がないとその顔がいっている。

水を得た魚と言うのだろうか?もしくは戦狂い……戦闘狂……戦を愛する戦鬼とかそんな感じだ。束縛していた鎖が砕け散った猛獣のような雰囲気の一毅は目の前にいた男を殴り飛ばす。

 

「く、くそ!」

 

横から刃が迫る……だが、一毅の体にバチっと電流が走る。

 

「二天一流・必殺剣!!!」

 

一毅の意識の外で体が勝手に動く。

まず小太刀で相手の刀を打ち上げるとがら空きになった胴を凪いだ。

 

「二刀陰陽斬!!!」

 

心眼も発動し更に一毅は爆走する。

 

斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る……

 

荒れ狂う暴力と言う波のの前に吉岡の門弟達はひたすら潰されていくだけだ。

 

反撃を許さないとかではない。恐怖することも驚愕することも舐めて掛かることも全て許さない。刀を振り上げることも防ぐことも対策を立てることも全て禁じている。

 

「桐生一毅ってあんなやつだったのか……」

 

GⅢの呟きにキンジは首を横に降る。

 

「元々喧嘩とかは好きではあったけどあそこまでぶっとんではいねぇよ。なんか今回は少し……な」

 

キンジは言葉尻を濁す。

 

「おらおらどうしたその程度かぁ!!!」

 

向かって来る相手を千切っては投げ千切っては斬っていく……人数的にこれだけ圧倒的な差がありながら一毅はものともせずに潰していき向かってくる攻撃は全て心眼で対処する。

これだけの相手をしながら一毅は傷一つ負わない。だが負ったとしても一毅は止まらないだろう。それは確実でそれこそ命の灯火が潰えぬ限り戦い続けるだろう。

 

「くらっとけぇ!」

 

一毅の飛び爪先蹴りが相手の鼻に刺さり吹っ飛ばす。

 

「くく……かはは!どうしたお前ら……だらしねぇんだよ!!!」

「な、何だよアイツは……」

 

吉岡の門弟達は後ずさる。

 

人間と相対してる気がしなかった……怖く……恐ろしい……まるで化け物で……

 

「鬼……」

 

一毅はその呟きが聞こえたのかわからないがニヤァと笑った。

 

「ほら来いよ……俺を斬ってみろよ……蟻ん子野郎共……」

『ひっ!』

 

ズズッと一毅が間合いを詰めてくる。

 

「も、もうだめだ!」

 

一人が恐怖に耐えきれず逃げ出した。そこから堰を切ったように……

 

「ま、まて俺も!」

「こ、殺される!」

 

次々と逃亡し始める。

それを見て慌てたのは当たり前だが無論……

 

「な!お前ら逃げんじゃねぇ!」

 

祇園 廣二である。

 

止めようとするが部下は廣二を突き飛ばしてでも我先にと逃げ出す。

 

「あいつら……」

「おいおいだらしねぇやつらだなぁおい……まあ、これで一人だな」

「くっ!」

 

廣二は鞘から刀を抜いて構える。だが切っ先は僅かに恐怖で震えていた。

 

「て、テメェさえいなけりゃあ!」

 

廣二が一撃で決めようとして刀を振り上げる。だが、

 

「しゅ!」

 

一応廣二の剣術は決して低くない。寧ろ高い方である。その年から考えた場合天才の部類に入るだろう。だが……一毅には興味も抱けないほど稚拙な剣にしか見えなかった。

一毅にとって高い剣術とは吉岡 清寡のような剣か後は鬼道術を併用した白雪のようなものでありそれ以下の剣では何かしらの感情を抱けない。

 

故になにも考えることなく欠伸ひとつしながら神流し(かみながし)で止める……そしてそのまま股間を力の限り蹴りあげた。

 

「いごゃ!」

 

廣二は奇声を上げて飛び上がる。当たり前だ。男であれば優男から筋肉ムキムキのマッチョまで等しくダメージを与える急所……そこを一毅のぶっとい足で蹴り上げられたのだ。キンジのような早さはないがその分重い。

 

「せぇ……の!」

 

そしてそのまま腰を大きく捻って廣二を一毅は殴り飛ばした。

 

「そのまま寝てな……」

 

一毅は刀を鞘に納めながら背を向けキンジたちの元に歩きだす。

 

「っ!」

 

キンジ達はそれを見て目を見開く。

 

「一毅!」

 

その後ろには刀を手に静かに立ち上がる廣二が刀を降り下ろそうとしていた。

 

『うし……』

 

ろとキンジ達が声を出そうとしたが遅い……刀は一毅の頭を……

 

『え?』

 

切ろうとしていたがその前に唖然とした……そこには剣技において曲芸の扱いを受ける事が多い背面真剣白羽取り……だが背を向けた状態での真剣白羽取りは心眼を用いた一毅であれば造作もないことだ。

 

そして廣二の剣を止めた一毅はそのまま刀を奪って棄てる。

 

「な、なんで……」

「どうせこんな手を使うんだろうとは分かっていたんでな……出来れば外れてて欲しかったぜ……?」

 

そう呟きながら一毅は少し腰を落とすと一気に間合いを詰めた。

 

「勝機……」

 

まず一毅は渾身の掌打を廣二の顎に打ち込み無理矢理体を浮かせる……

 

「二天一流 喧嘩技……」

「ま……」

 

待ってくれ……そう言おうと廣二は口を開こうとしたがそこから先は聞こえることはなかった。

 

「大撲打の極み……」

 

浮いた廣二の顔面を続けて勢いをたっぷり込めた掌打が連続で叩きつけられそのまま吹っ飛ばされた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーいお前ら~全部倒したぞ~」

『……………』

 

その場の全員が驚きが混じった表情をした。

あれだけ戦って大暴れしたのに一毅は笑っている。

たっぷりと公園で遊んだ子供のようだ。

あまりに綺麗な笑顔に全員が生唾を飲む。

 

いや、いつもと変わらない表情なのは二人いた。一人は、

 

「お疲れさまです一毅さん」

「いや~疲れた」

 

一毅はレキに答えながらニシシと笑う。

 

「お前また人間やめたな」

 

そしてもう一人はキンジだ。

 

「喧しいわ。ま、そっちも勝ったみたいだな」

「当たり前だ」

 

さてと……とキンジは廣二を見て顔をしかめた。

 

「こりゃもうステーキ食えないな……」

 

廣二は顎は砕かれ歯もボロボロで酷いことになっている。

 

「力加減失敗したかな……」

「おいおい……」

 

一毅の言葉にキンジは肩を落とした。

 

「まあ良いさ。後で突き出せば良い」

 

それよりこれからどうするか……が最優先事項だ。

 

『っ!』

 

GⅢをキンジが見るとジーサードリーグが庇う。

 

「で?どうすんだ俺を……」

尋問科(ダキュラ)に突きだしてもお前ら意味ねえしな……」

 

とは言え何もお咎め無し何て言うのは許されない。

こいつは少なくともかなめを誑かし?てこいつら襲わせたし少なくとも敵だった人物だ。

 

「で?俺になにさせる気だ?賠償金か?」

「…………」

 

最近金欠気味のキンジとしてはそれでも良いがそれにしたら全員からフルボッコを喰らいそうだ。金で解決は不味いだろう。

 

(……待てよ)

 

キンジは良い手を思い付いた。

 

「日本ではな。非礼を詫びる際には昔から存在するやり方があるんだよ」

『?』

 

ジーサードリーグやかなめにアリアは首をかしげた。

だが一毅、白雪、理子、レキは気づいたようだ。

 

「ある意味一番嫌な方法選んだな……」

「だが平和的だろ?」

「おい、桐生とだけで納得してんな。なにすれば良いんだよ」

 

すまんすまんとキンジは言いながらGⅢを見る。

 

「まず両膝をつけ」

「あ、ああ」

 

GⅢはふらつきながら膝をつく。

 

「両手を地につける」

「………」

 

何となく何をさせられるのかGⅢは想像がついた。

 

「そのまま地面に頭突きしながら【ごめんなさい】と言……」

「ただの土下座じゃねえかよ!」

 

遂にGⅢは全力で突っ込んだ。

 

「だがお前今ボロボロじゃねえか。やられた分殴るでも良いけど流石にその体の人間にやるわけにもいかねえだろ?」

 

キンジが仲間にそういうと、

 

「ま、それもそうよね」

「確かに血は流さないよね」

「面白いもの見れそうだね」

 

アリア、白雪、理子はニヤつきながら見る。

 

「ま、諦めろGⅢ」

「そうですよ。衆人環視の前でお尻ペンペンよりマシでしょう」

「う……」

 

GⅢは詰まる……確かに多少はマシだがそれでも良いわけではないしと言うか土下座……部下の前でそんな恥ずかしいと言うか見栄っ張りな彼にとっては清水の舞台から飛び降りる並みの覚悟がいる。

 

「土下座がなんだ?俺なんかアリアがキレたときは土下座しながら逃げるぞ」

「あ、俺もレキの時それやる」

「どうやってんだよ……」

 

土下座しながらって……

 

『四つん這いのまま這いずって逃げるんだ……こう、カサカサって』

「ゴキブリかよ……」

 

兄とその友人はどんな生活をしているのだろうか……そして後ろにはそれぞれ怒気を纏わせたアリアとレキがいるのはGⅢは見えない振りをした。

 

「さ、GⅢ……敗者に文句を言う資格はないんだろ?」

「~~~!」

 

GⅢはブルブル体を震わせると……

 

「この……」

 

GⅢは膝立ちから両手を地につける……そして、

 

「ごめんなさい!!!!!!!!!」

 

地面に頭突きしながら土下座した……

いつも天上天下唯我独尊を地で行くGⅢを見ていたジーサードリーグの皆は目を丸くし、

 

「んまあこれにて一件落着……だな」

 

キンジのニヤリとした笑みにバスカービルの皆もつられて笑った。

 

 

こうして品川での一戦はチーム・バスカービルの勝利と言う形で幕を下ろした……




今回で丁度百話です。イエイ!
まあ談話とか番外編とかやってるんで本当の意味で百話じゃないんですけどね。とにかくこれからもよろしくです。

さて今回の一毅の変貌ですが後に意味をちゃんと持たせる予定です。少なくともただの暴走じゃないんですよあれも。


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金へのご褒美

『いづつ……』

 

品川での戦いから次の日の二時間目の休み時間……一毅とキンジは歩きながら顔をしかめる。

無論戦いの一時的な後遺症だ。一毅は流石にあそこまでの大暴れとレッドヒートの使用……更に腹を刺されてる。そしてキンジはヒステリアモード(しかも今回は亜種だったらしい)にレッドヒートと桜花と絶牢にGⅢとの殴り合いと5連チャンだ。二人とも全身バキバキである。

 

「だけどお前腹の怪我は大丈夫なのか?」

「あ~……元々あんまり深くは刺さってなかったしな……肉食って寝たら粗方治った」

「どういう回復力してんだよ……」

 

キンジに呆れられた。だがこいつの頑丈さやアリアにボコボコにされてからの復活の早さだって大概だ。

 

「しかしまあ今回は快勝って感じか?」

「まあアリアはたん瘤で白雪は打撲、理子は鼻血でレキは無傷と来てるしなぁ」

 

まあジーサードリーグの面々はGⅢとかなめ以外は無傷だったが怪我の総量だけ考えれば問題はないだろう。

 

「で?ライカの方はどうなんだ?」

「あいつも打ち身があるけど深刻な怪我はない」

「辰正と志乃も少し焦げていたが別に大丈夫だしなあ。あかりが一応あの中では重症か?」

「とは言えデコを少し切っただけだぜ?」

 

一毅が言うとキンジが確かにと肩を竦める。

 

「で?GⅢはどうなったんだ?」

「知らん。土下座のあとアンガスって人さんが連れてったのまでは一緒に見てたろ?そのあとまではわからねえよ」

「だよなぁ」

 

二人はため息をつく。その後のGⅢ行方はまあ知らないがどちらにせよ死んじゃいないだろう。再戦希望とか言って喧嘩売りに来ないことだけ祈ろう。

 

因みにかなめは普通に学校に戻っている。今日のかなめは無駄にくっついて来ることもなかった。だがその目は「好きになってしまった異性はお兄ちゃんだ……どうしよう……」みたいな感じだ。キンジにはどうしようもないので放置することにしている。

「しっかしいってぇな~」

 

一毅は時々ピキッと体を言わせては飛び上がっている。

本当はこんな日は教室でゆっくりしているのに限るのだが残念なことにお呼びがかかった。

しかも相手は校長・緑松(みどりまつ) (たける)……特徴は……知らない。と言うかわからない。

男であること……と言うのは分かるが兎に角平凡過ぎる男なのだ。故に近付かれても反応ができない……相手が来ていると感づけないから勝負に備えることもできない。身構えることも身を守ることも出来ない……だからあの蘭豹ですら逆らわない武偵高校内に置いて恐らく最強――もとい、最凶の教師だ。

 

そんな校長が呼んでるとオカマで教師の一人であるチャン・ウーから連絡が来たときは少し背筋が凍ったものだ。

 

さてそんなことをしていると校長室につく。

コンコンとノックすると……

 

「はいどうぞ」

『失礼します』

 

二人は中にはいる……そこには……普通の男がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞお茶です」

「あ、どうも」

 

校長にお茶を出される。

 

「さて、君たちとは一度こうやって話してみたかったんだよ」

「は、はぁ……」

「あまり声を大にして言えないが君達の活躍は今や武偵業界でもかなり有名になりつつあるからね」

「そ、そうなんですか?」

 

キンジが聞く。

 

「ああ、そりゃあ君達の若さでSADランキング100位を切った上に遠山君はRランク武偵を倒している。そんな君達をマークしないのは二流以下だろうね」

『……え?』

 

今なんと言いまして? と二人は固まった。

 

「ん?まさか君達知らなかったのかい?遠山君は93位、桐生くんは91位だ。いやぁ……君達のような武偵は早死にするものだけどどうなんだろうね」

 

ニコニコしながら言うものじゃないのは分かる。

 

「まあそんな世間話だけしたくて来て貰ったわけはないんだけどね」

 

まあそうだろうキンジと一毅は思った。どう考えてもこの学校の長である彼が呼び出す理由が世間話とは到底思えなかったからだ。

 

「君達に一つ依頼があるんだ」

『っ!』

 

二人は顔を引き締める。たまに教務科(マスターズ)から直接依頼が来ると言うのはそこまで珍しいことではない。だが一毅のようにSランクならともかくEランクで素の状態ではお世辞にも高い能力とは言えない(とはいえこの数ヵ月の間でキンジも素の状態であったとしてもかなり実力をつけている)キンジにまで直接とは……

 

「驚いてるね。だが言っておくが君達は既にランクどうこうで決められる武偵じゃないことは周知の事実だ」

「そう……ですか」

 

ホンの僅かだけ滲ませた校長の覇気……それにより二人は無意識に臨戦態勢をとりそうになる。

 

「ふふ、恐ろしい二人だね。大概の人間はまず僕のオーラに気づかない。気づけても動けない……僕を認識できないからね。今はあえて認識させている部分はあるが君達はその上でも戦いに備えるように行動を体が選択した……少し自信喪失だね」

 

口でそんなことを言っているがキンジと一毅は冷や汗が流れた。

もし戦ったら……勝てるのだろうか?体格も体重もこちらが上だ。でも相手を認識できないと言う力……【見える透明人間】と言われた男に本気で掛かってこられたら……心眼や万象の眼が使えれば別の話かもだがそれでもその力が発動していたとしてこの男に効果を発揮するのかわからない。

 

「やはり面白いね。教師と言うのは……君達のような子達をみれる」

 

最初と同じような笑顔を見せながら校長は言葉を紡ぐ。

 

「君達には少し調べてほしいんだ。最近とあるヤクザの組が海外のマフィアと繋がりを見せ始めている。それが結構大きな組織でね……あまり無視が出来ない」

「ですが……」

「まあ君達には少々難しいね」

 

そう、ヤクザへの潜入捜査(スリップ)は効果を基本的に専門武偵がやる。それくらい危険で難しいのだ。

 

「だが安心していい。別に潜入してくれと言う訳じゃない。その組の下っ端が近くの公立高校に通っている。その下っ端を経由してその組を検挙するのが目的だ。強襲命令は君達に一任する」

「あの……一ついいですか?」

「なんだい?遠山君」

「話聞いてると余計に分からないんですが……なぜそんな重役が俺たちに?」

「そのとある組と言うのが君達に関係していてね。君達なら警戒心も薄れると読んだんだ。それに海外マフィアも君達とは無関係じゃない」

『え?』

 

次の瞬間校長の口から聞いた言葉に二人は耳を疑った。

 

「組の名前は鏡高組……海外のマフィアは藍幇と言うんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

昼休み……キンジは自分の席でぐったりしていた。

 

鏡高……主に一毅よりキンジの方が印象深くと言うか恨み骨髄といった感じだ。

 

この姓のやつは一人だけしか知らない。恐らく校長もそれを知っている。名は菊代……鏡高 菊代……

神奈川武偵中学時代に散々ヒステリアモードの自分を利用した出来れば会いたくない女の一人だ。

その女のお陰で中学校生活は黒歴史の宝庫みたいなものだ。しかも同調して他の女まで自分を利用しだす始末。

 

そのため自分達をエロイ目でみる教師に仕置きとか自分達に生意気な男子の仕置きとかetc.etc……しかもヒスってると女子に逆らえんのだ……

それを知った一毅は無論怒り狂って女子に文句を言いにいったのだが寄りによって一毅撃退に使われたのもヒステリアモードにされたキンジだったのだから皮肉だ。

その時にお互いボロボロになるまで喧嘩してその後は一毅が発見次第止めるようになったが女子と言うのはどうも周到な生き物で一毅に見つからないようにキンジを利用し続けた。まあお陰でキンジはそいつらがいない東京武偵高校に来て結果としてアリア達に出会ったのだからこれもまた皮肉だ。

 

(しかしあいつに会う可能性があんのかよ……)

 

だが菊代は途中からキンジを利用しなくなった。と言うかキンジの視界に入らなくなった。まあ柱の影とかから自分をみていたのは気付いていたが少なくとも直接接することは極端に減った。無論他の女子が利用しまくったお陰で絶賛女嫌いでヒステリアモード嫌いのままだが菊代は途中からキンジを本当に絶対に利用しなくなったため実は菊代自体は顔を見たらぶん殴りたくなるような対象ではない(そう思うようなやつもいる)がキンジの体質を知る一人だ。会えばどんな手を使われるか分かったもんじゃない。だから会いたいかと聞かれれば絶対にNOだ。

 

「はぁ……」

「知ってる?ため息は幸せを逃がすのよ?」

「っ!」

 

キンジは椅子から転げ落ちた。

 

「なにバカなことしてんのよ」

「あ、アリアか……」

 

女子のことを考えていたときにアリアである。何故かキンジは後ろめたい気持ちになった。

何故かは自分でも分からない。

 

「で?どうしたんだよ」

 

声が上ずりそうなのを何とか耐えながらキンジは聞く。

 

「あんたがずっと暗いから気になったのよ。だから皆がいなくなるのを待っていたわ」

「あぁ……」

 

そう言えばもう皆いない。クラスにはキンジとアリアだけだ。

 

「何かあったの?」

「まぁ……少し一毅と依頼(クエスト)行くことになってな。行き先で少し会いたくない奴と会うかもしれないんだ」

「そんなに会いたくないの?」

「まあそれなりにな」

 

キンジは椅子を直しながら座り直す。こうするとアリアと同じ視線なのだ。一度見下ろす形になりながら立って話したら、

 

「なに自慢してるのよ!」

 

と完全に八つ当たりを受けてしまいそれ以降は極力座って話すようにしている。

 

「どんな男よそいつは」

「いや、女だが?」

 

と言ってキンジはしまったと空を仰いだ。案の定アリアのこめかみにピキピキとDの形の青筋が入る。体の何処かに恐らくIとEの青筋も入りDIEになっているだろう。

 

「お、おい何でそこで殺気を出すんだよ!」

「大方その女にも手を出したんでしょう!」

「まるで出会った女に片っ端から手を出す鬼畜野郎扱いしてんじゃねえよ!」

「キスしたくせに……」

「《ドギク……》」

 

ドキン!とギクリが合体した最近よくキンジの心臓が奏でる反応音が心臓で響く……

 

「他にも白雪……」

「いや、あの……その……」

「理子……」

「いやあの……」

「かなめ……」

「いや……」

 

全部キスしたお方たちである……

 

「ほんっとあんたって良くモテることね!」

「あ、あのなぁ……」

「そうせあんたアタシが知らないだけで風魔ともしたんでしょ!」

「く、口ではしてねえよ!」

 

そう言ってキンジは自分の失言に気づく……

 

「ふぅううううん……()ではしてないのね?あぁそうなの」

 

グゴゴゴゴゴとアリアから殺気が溢れ出す。

 

「お、落ち着けアリア……どうどう」

「アタシは暴れ馬じゃないわよ!」

(暴れ馬の方が穏やかそうだが……)

 

まあそんなこと言ったら三秒でこの世からさよならしなくてはいかなきゃいけなくなるので黙っておく。失言は一つでも少ない方がいい。

 

「って、そんな話をしに来たんじゃなかったわ。今の話は後でタップリ話しましょう」

(そのまま忘れてくれねえかな……)

 

キンジは死刑を言い渡された囚人の気分を味わいながら肩を落とす。

 

「で?何のようだ」

「取り合えず今回の戦いはお疲れさま」

 

アリアは少し姿勢を直す。それをみてキンジもシリアスモードだ。

 

「まあ今回の一件でキンジと一毅だけじゃない。アタシたちも実力の底上げが必要だと思うわ」

「まあそうだな」

「ま、あんたたちみたいに人間を卒業はしないけどね」

 

ほっとけとキンジは内心突っ込む。

 

「でも良く頑張ったわ。何せ相手はRランクだもの」

「病人だぜあいつは」

「それでもあんたは正面から受けてそして倒した。相手が病人だったとかそんなのは評価の対象にならないわ。欧米なんかじゃ病人になる方が馬鹿者扱いよ」

「日本では余り分からない感性だ」

 

それであっても良く勝ったと思う。

少なくともまたやり合いたい相手じゃない。

 

「そこで考えたのよ。頑張った人間にはご褒美が必要よね?何がいい?」

「はぁ?」

 

何だ一体藪から棒にとキンジは唖然とした。

 

「言っとくけど金銭系統はダメよ」

「んなことは分かってる」

 

だがいきなり言われてもと言うのが本音だ。ご褒美ねぇ……

 

「ほら、早く言いなさいよ」

「…………」

 

なぜ頬を赤くしてモジモジしだすのだ?とキンジは首を捻る……だがそんなアリアが目の前にいるとこっちまで照れ臭いと言うかなんとも言えない空気になる。

 

多分……ただのご褒美じゃないんだろうと言うのは分かる。夏休み最終日の雰囲気と良く似ているから多分間違いない。だけど……このあとどうすればいいのだ?

 

(全く分からん……)

 

キンジはしどろもどろになる。

それをみたアリアは大きくため息をついた。

 

「忘れてたわ。あんた素だと全く雰囲気を読むとか出来ないんだってこと……」

「す、すまん……」

 

キンジは謝るしかない。

 

「もういいわよ……」

 

そういうとアリアはキンジの頬を両手で挟み目を閉じる。

 

(ああ……こう言うときはこうするのか……)

 

キンジも瞳を閉じた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~……何だって俺は他人の恋愛手助けしてんだろ」

 

天井裏で一毅は胡座をかきながらため息を一つ吐く。

 

「むー!むー!」

「はいはいかなめ~今日は静かにしてような~」

 

一毅が宥めたのはロープでグルグル巻きにされて猿轡を噛まされているかなめである。

本来ならキスの直前にかなめの乱入が起きるはずだったがその前に一毅に捕縛されたたのだ。

 

「体もいてぇし嫌になるぜ」

 

一毅は大きな欠伸を一つしながら言うがどこか嬉しそうだ。

 

「ま、キンジも今回は頑張ったしな……此れくらいの褒美はあってもいいか……――っ!」

 

すると刀が脈を打ったような感覚がする……

 

(これは……)

 

今でも覚えている。これはパトラの時にも感じた感覚……

 

(何だこれ……)

 

すると脈動は収まる……

 

(……何だったんだ……?)

 

一毅は今の一瞬の出来事が分からず首をかしげる。

とは言え気にしても分からないのでまあいいかと楽観視した。

 

「………………」

 

だがかなめは見逃さなかったし見えていた……一瞬だが一毅の――が――――に……

だがかなめも気のせいかと忘れることにした……それが後に意味のある出来事だったと言うことをまだ二人は知らない……




最後のは敢えての伏せです。なにげにこの小説では初の試みです。
まだここは秘密ですがまあ勘の良い方なら分かったかもしれませんが(別に分からなくたって良いと言うかそっちの方が嬉しいです)後々にね。



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談話
対談Ⅶ


咲実「ついに百話を突破したぞ~!」

 

一毅「この作品も長くなったなぁ……」

 

キンジ「と言うわけで対談シリーズⅦが始まります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レキ「でも何とかここまで来ましたね」

 

アリア「そうそう。まあ番外編とか対談シリーズ何かやってるから実際は80ちょっとくらいだと思ったわよ?」

 

白雪「でも何とかここまで来たね」

 

理子「だけどさー……原作最新話までまだまだ道は遠いよ?」

 

あかり「でも次章は確かキンジ先輩と一毅先輩が一般高校のいくんですよね?」

 

一毅「まあ台本にはそうなってるな」

 

あかり「そうなるとそれ以外のキャラはどうなるんですか?」

 

ライカ「そういやそうだな。どうなんだ作者」

 

咲実「無論出番へります」

 

志乃「やっぱりその落ちですか……」

 

キンジ「んでそのぶん俺たちの出番が多くなるのか……」

 

一毅「台詞覚えんのが大変だ……」

 

辰正「で、でも僕たちも少しはあるみたいですよ?」

 

陽菜「是非拙者と師匠だけの話がやりたいでござるな」

 

ロキ「多分無理じゃないかなぁ……と言うか私たちですらお兄ちゃんとの絡みが最近無くなってきてるんだよ?」

 

咲実「それはマジですんません……」

 

レキ「そう思うなら書きなさい。イチャイチャさせてください!ハグとかキスとかそれ以上のとか」

 

キンジ「いや、最後のは載せられないぞ?」

 

辰正「はい。規約でR18のは載せられませんよ?専用の場所でないと……」

 

一毅「それに書いたとしても誰も見ないだろう……」

 

レキ「私が満足すれば別に良いでしょう?」

 

咲実「最終的にそこに行きつくのね……」

 

ライカ「て言うか別に良いじゃないですか!私何かそういうのがあったと匂わせる描写すらなしですよ!」

 

ロキ「私も~!」

 

レキ「初期ヒロインの底力ですよ」

 

ライカ&ロキ『むぎぎ……』

 

一毅「お、落ち着けってお前ら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一毅「そう言えば最近加筆修正始めたんだって?」

 

咲実「まあね……実は誤字脱字以外ではそう言うのあんまりしなかったんだけどさ……こういうお言葉いただいたんだよね」

 

【中二臭い。龍とか多用するだけダサくなる。無駄に単語で文章を飾り立てる癖に、中身は薄っぺら。悪趣味な成金のような小説】

 

咲実「とまあこんな感じで来てね」

 

キンジ「ふむふむ」

 

咲実「まずそんな中二臭いかな~とか思いつつ読み返してみたわけですよ」

 

理子「結論は?」

 

咲実「うん。どういうのが中二臭いのか良く分かんなかった。多分根っからの中二病何でしょうな俺は……だから自分では違和感が分かんない」

 

辰正「技名……とかじゃないですか?」

 

咲実「でも技は全部龍が如くから引用してるからネーミングセンスについての問題はSEGAさんに言った貰わねばならないし……」

 

白雪「技名を叫ぶ所じゃないですか?」

 

咲実「その方が格好良くない?」

 

あかり「まあ現実でやったら危ない人ですけど小説ですしねぇ……」

 

志乃「でも多分その辺じゃないですか?」

 

ライカ「あとはもう文章自体がそう感じるんだろ?」

 

咲実「まあそういうわけで読み返したら文法的に言い回しがおかしく感じたり誤字脱字が間々見られたり最新話と最初の時で微妙に小説の書き方違ってたりしてね……まあ進化したり退化しながら書く身の上だからどうしても起きちゃうんだよね……言い訳みたく聞こえるかもだけど」

 

陽菜「それで加筆修正でござるか?」

 

咲実「文章薄っぺらいとも言われちゃったしねぇ……でも濃い文章って実際俺書けないんだよね……と言うかいろんな小説見るけど濃い文章と薄い文章の違いが理解出来ていないんだよね」

 

キンジ「読み手としては結構やばくないか?」

 

咲実「小説は面白いか否かで決めるからね。どんなものでも読んでいて合わないものは合わないし合うものは合うんだよ。例えどんなに評価が低かろうが高かろうがね」

 

一毅「なにも考えてないだけじゃね?」

 

咲実「ごふぅ……で、でもはっきりいってまだ三話くらいしか加筆修正できてないんだよね……中々思ったようには捗らない。その間もズンズン話は進んでいくしね……とはいっても加筆修正とは言うけど別に話の流れが変わるような変え方してないからわざわざ読み返さなくても支障はないけどね」

 

キンジ「まあのんびりやっていけばいいだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「さぁて!やっていこう質問コーナー!とは言え今回は一人だけどね」

 

一毅「次回は0人でこのコーナーも終わるオチだな」

 

咲実「シー!と言うわけで前回に引き続きブルーデステニィー様から~」

 

アリア「質問内容はこれよ」

 

【一年生ズは対孫戦の時中国に行きますか?】

白雪「こ、答えにくいのが出たね」

 

咲実「まあズバッと答えようと言うか多分流れ的に一年生もいく事になるよ。原作ブレイクもいいとこだけどそんなの最初っからそうだしねぇ。と言うかそうしないんだったら修学旅行の時の一年生たちの敗北は書かなかったよ」

 

あかり「まあこの作品では私たちもレギュラー化してしまってますからね。でも友人に突っ込まれたんじゃなかったんでしたっけ?AAでの事件はどうなったのかって」

 

一毅「まあとある方のコメントでも触れられてたけどな」

 

咲実「うん。まあ実はかなり時間の流れ無茶苦茶だよねって思わない訳じゃないけど書いてて楽しい方がいいじゃない?いや、実際人を減らした方がいいかなぁとか思わなかった訳じゃないけど大勢でワチャワチャさせるのが好きでそう感じの書きたかったからいつのまにかこんな感じになってしまった」

アリア「もう後の祭りね」

 

咲実「そうそう。友人からこう言う質問も来てたから載せてみよう」

 

【一毅って休日どんな風に過ごしてんの?】

 

一毅「俺?少し寝坊して新聞見ながら飯を食べて掃除して洗濯物干して煎餅かじりながら録っておいたサスペンスを見て特売品を買いにハイマキの散歩ついでにスーパーマーケットに行って帰ってきたら夕飯つくって……」

 

一毅以外『主婦かよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「あとさぁ。タグを整理しようと思うんだよね」

 

キンジ「まあ無駄に多いしな」

 

一毅「確かに検索にあまり役に立たなさそうなのもあるしいいんじゃないか?」

 

咲実「後はタイトルも変えようかなって」

 

アリア「何で?」

 

咲実「友人に突っ込まれたんだ。これってリメイクっつうかほとんど別もんじゃねって……確かにキャラとか設定は一部同じだけどかなり別物になってきたよね……って思った。だからもしタイトルが変わってても驚かないでくださいね。作品のあらすじの下にちゃんと同じ作品だってことを明記しとくんで……」

 

キンジ「別に無理する必要はない気もするんだがなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「今回はこの辺でいいかな」

 

一毅「そうだな。さて次回からは一般高校編がスタート」

 

キンジ「まああんまり長くはならないと思うけどな」

 

アリア「だけど見ないと風穴開けるわよ!」

 

白雪「アリア……脅しはダメだよ」

 

理子「そうそう」

 

レキ「ここは優しく見ないと枕元にたちますよ……がいいんじゃないですかね」

 

あかり「ま、まあとにかく次回からもヨロシクお願いしますね」

 

志乃「質問及び感想、評価はお待ちしております」

 

ライカ「では又次回に」

 

陽菜「お会いするでござる」

 

ロキ「バイバーイ!」



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第十章 普通の学校
龍と金の転入


「新しく転校してきた遠山と桐生だ。お前ら仲良くしてやれよ」

『ドウモハジメマシテ』

 

一毅とキンジは頭を下げたがクラスの反応は……

 

(何かカンニングペーパーを暗記してそのまま言ってるみたいだな……)

 

依頼の受理から早くも三日……今日から一毅とキンジは当分この東池袋高校の生徒になる。

 

「何か質問あるやつはいるか~」

「じゃあ趣味は?」

 

クラスメイトの一人に聞かれる。

さて、もし二人だけならここで答えに詰まってしまうだろう。もしくは変な答えをして言ってドン引きさせてしまっただろう。だが今回はそれはない。

(確か理子から聞いたのは……)

 

一毅とキンジは出発前に理子から貰ったカンニングペーパーの中身を思い出す。中身は転校先での質問にあったときの返答。いやはや理子には頭が下がる。

 

「時代劇鑑賞が好きかな。特に水戸黄門とか?」

「俺は映画とか見るのは好きだな。特に洋物とか?」

(何故に疑問系?)

 

二人は思い出してそのまま言ってるだけなのでどうしても疑問系になる。

 

「じゃあ特技はなんですか?」

「バタフライナイフの高速げふん!」

「え?バタフライ?」

「ちょ、蝶の採るのが得意です……」

 

キンジは危なげなくクリアー……さて一毅は、

 

「日本刀の扱いででで!」

 

キンジに抓られた。

 

「え?日本刀?」

「に……日本刀マニアなので日本刀を見ただけで大体どんなものかわかります……」

 

一毅もなんとかクリアーだ。と言うかこの二人理子の努力を水の泡にする気だろうか……

 

「じゃあ最後に好みの女の子は?」

「俺は……「彼は幼女が好きです」チゲぇよ!」

 

一毅の謂れのない中傷にキンジはマッハでキレてドアまで蹴り飛ばした。

 

「特に女の好みはない!それ以上聞くな」

 

ここはひとつ風穴開けるぞといった方がよかっただろうかとキンジは思った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ委員長と副委員長が今日は面倒をみてやれ」

「あ……えと、私は望月 萌……宜しくね。遠山くん」

「ああ……」

 

キンジはマジかよと内心頭を抱えた。寄りによってキンジへ宛がわれた委員長は何と女の子である(一毅の宛がわれた副委員長は男)。しかも滅茶苦茶可愛い。武偵高校の女子はバスカービルも含め出るとこ出てても引き締まっていることが多い。それに反して彼女はどうだろうか……太ってる訳じゃない。良い意味で肉付きが良い。しかもすごく純粋な笑顔だ。チワワみたいな笑顔は綺麗すぎて浄化されそうである。

 

まあアリア達みたいな地獄の番犬ケルベロスみたいなオーラとは全然違う。

 

「じゃあ教科書を開け」

 

先生に言われるがキンジと一毅は持っていない。

 

「あ、じゃあ一緒に見ようね」

「あ……ああ……」

 

近くに来るとシャンプーの香り……ヒス的にはすさまじく危険だ。

 

(やべぇ……一般高校では銃とかに狙われないやらラッキーと思いきやこんな危険地帯があったとは……)

 

キンジは必死に自意識を押さえ込んで授業を受けた……

 

因みに一毅の相手をする副委員長は一毅の眼光に完全にビビってしまったのは別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~」

 

バタバタしてる合間にあっという間に放課後……

一毅は書類を出し忘れていて職員室によってから来ると言っているのでキンジは校門で待ち惚けだ。

しかし今日はずっと変な汗を掻きそうになっていた……何故なら筆箱の開閉音とか近くの工事現場の音とか色々な生活音が銃のコッキング音とかに聞こえてしまったのだ。お陰で一毅もだがバッと振り返ったり身構えてしまい変な目で見られてしまった。

 

(一般高校ってのは大変なんだな)

 

やっぱり自分は武偵に染まってると自覚してしまった。すると、

 

「あんだぁ望月ぃ!文句あんのかよぉ!」

「ん?」

 

駐輪場で何か騒ぎがすると思いきや望月と何か変な髪型の不良?みたいな二人の男が向かい合っていた。

 

「だ、だってまだ二人とも休学中だから問題を起こしたら……バイク通学もダメだし……」

「あんだよ問題あんのかよぉ!ああ?俺たちがなにしようが俺たちの問題だろうがよ!」

「おいおい」

 

キンジは脈絡なく折り畳みナイフを抜いた不良の片割れを舌打ちしながら見た。

 

「仕方ねぇな」

 

キンジはその方に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっちまうか?ああ?」

 

痩せていてナイフを舐める男と太っていて肉をかじる男を前に望月は恐怖で体を竦める。

まあ普通そうだよなぁとキンジは思う。でもこのナイフの持ち方……蘭豹に見られたら「なんやその持ち方舐めとんのか我ェ!」とかいって腕ごと叩き折られるぞ?

 

「おい辞めとけ。素人がそんなもん振り回したって事故って刺しちまうだけだぞ」

「あ?」

 

キンジが頭をかきながら言うと望月と男二人や周りでチラチラが見ていたギャラリーがキンジを見る。

 

「と、遠山くん!?」

「おい望月……これはいったいどういう騒ぎなんだ?」

 

見てみると自転車が将棋倒しのように横転している。大方その辺で言い合いになったというところだろう……

 

「誰だお前」

「今日転校してきた遠山キンジだ」

 

太った方に聞かれたので素直に答える。

 

「それは脅しの道具じゃないんだ。とっととしまいな」

 

素人のナイフはいろんな意味で危ないからな。しまうように促すが気にくわなかったようだ。

 

「関係ねぇやつは黙ってやがれぇ!」

 

ナイフを持った男がこっちに走ってきた。望月がそれを見て声にならない悲鳴をあげる……が、

 

「よっと……」

 

少し体を回して突進を躱すとキンジは足を払った。

 

「あぶっ!」

 

すると面白いように顔から地面に落下した。お前少しは手を着くとかしないのかよ……

 

「この!」

 

するともう一人……

 

「はぁ……」

 

キンジはため息をつきつつそれも躱す。

そしてそのまま未だに地面で転がっている仲間に足を引っ掻け倒れこんだ。

 

「グゲフゥ……」

 

上に乗っかられた方はたまったもんじゃなく変な声を漏らしている。

 

「さてと……」

 

キンジはナイフを拾うと折り畳んで……さてどうしよう。

 

(返すのもアブねぇしな……とは言っても武偵高校と違って武装してると厳重注意どころか一気に停学か退学だし……)

 

側溝にでも捨てるか?等と考えていると二人が復活したようだ。

 

「てめぇ!ぜったい殺してやる!」

「あーはいはい」

 

キンジは心底どうでもいいという感じで言う。

 

死ねとかぶっ殺すとか武偵高校では日常用語だ。今更気にならない。

まあそれも気にくわなかったとのか二人が腰をおとした次の瞬間、

 

「なにやってんだキンジ」

『っ!』

 

そこの来たのは広い肩と高身長に筋肉質な体を持ち鋭い眼光を光らせる男……まあ一毅である。

 

「あ~ちょっとな」

 

キンジは適当に言う。

 

「な、なんだあいつ……」

「く、くそにげるぞ!」

 

一毅の登場にいきなしビビった不良コンビはスタコラさっさと逃げ出した。

 

「何だあいつら」

「お前の顔見てビビったんだろ?」

「失敬なやつらだ」

 

まあ半端な不良では一毅の顔を見ただけで竦み上がっても仕方がない気もするが……

 

「遠山くん!怪我はない?」

 

そこに望月が駆け寄ってきた。

 

「ある言うに見えるか?」

 

キンジが言うと望月は首を横に降った。

 

「お前は……大丈夫そうだな」

「う、うん」

 

キンジが言うと望月は照れながら返答した。

 

「じゃあそろそろ帰ろうぜキンジ」

「そうだな」

「あ、遠山くん……」

「ん?」

 

キンジが望月に振り替える。

 

「その……ありがとね。このお礼はいつかするから」

「別に気にしなくても……」

「私がしたいからいいの!」

「そ、そうか……」

 

柔らかそうな見た目に反して意外と頑固そうな望月に押されてキンジは頷く。

 

「じゃあ遠山くん。また明日」

「ああ」

 

キンジは何気なく言ったが一毅は……

 

(まーたキンジのやつフラグをたてやがったよ……)

 

と肩をすくめたのは余談である。



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龍と金の高校生活

「しっかしあんな奴も居るんだなぁ」

 

一毅の言葉にキンジは同意する。

とは言え言葉の意味はあんなナイフの扱いに不馴れな人間もいるんだな。という意味である。まあ刃物系の扱いであれば武偵高校内では敵無しの一毅と普段からSランク武偵の銃撃や斬撃から逃げるキンジだ。

ズブの素人のレベルの低さが余計に際立って感じるのだろう。まあ比べるものを間違えている。

 

「だけどこの調子でその下っ端が見つかんのか?」

「まだ潜入一日目だ。焦っても仕方ないだろ」

 

そう言って角を曲がると見えてきた……伝統的な日本家屋……そして門の前でホウキを動かすのは……

 

『ただいま金三』

「ダァアアレェエエエガァアアア金三だごらぁあああああああああ!!!!!!!!」

 

GⅢこと金三がお出迎えである。

このキンジの実家を拠点にしたのは昨日からだがなぜかその時から当たり前のようにGⅢと……

 

「うわぁ~キャラメル色の柿だ~」

 

かなめがいたのである。

 

現在キンジの祖父と祖母は健在でこの家の主であるのだがこの二人も普通に納得している。なにか感じたんだろう。

 

「あ、お兄ちゃんと桐生一毅お帰り~」

「お~!それ一個くれよ」

「あの柿は俺の家のなんだがなぜお前が当たり前のように食う」

 

キンジから突っ込みを受けた。すると中から角刈りの白髪頭の爺さんが出てきた。

 

「おお、キンジに一毅。帰ってきたか」

 

着流しの半纏の袖を揺らしキンジの祖父にして国ひとつ喧嘩売っておいてちょっと若気のいたりで一毅の祖父の一心とヤンチャをしましたと言い切る妖怪爺、遠山 (まがね)が門の前に出てくる。

 

「おい爺。今度こそ文句ねぇだろ。向こう三件まで掃除を終えたぞ」

「ふむ……じゃあ次は風呂掃除じゃな」

「おい!奥義を教えてくれる約束はどうした!」

「わしは掃除しろと言ったが一言も玄関掃除だけだとは言っておらん」

「んあぁああああああ!!!!!!!!」

 

頭をガシガシ掻きつつGⅢは風呂掃除に向かった。

 

「取り敢えず入れお前達」

「ああ」

 

キンジが頷くとそれに続いて一毅とかなめも続いて入った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらお帰りなさい」

 

優しげな笑みを浮かべて台所からキンジの祖母であるセツさんが顔を出す。

 

「もうすぐご飯だからね」

「ああ」

 

キンジと一毅は荷物を置く。

 

「よぉーし!かなめぇ!将棋で勝負だぁ!今日は勝つ!」

「昨日は30戦0勝30敗だったもんね」

「今日は負けんっていってるだろ!」

 

一毅とかなめは縁側で金叉の形見である将棋盤をだして打ち始める。

 

「ったく」

 

キンジはそれを炬燵の中でお茶と金華の揃い踏みを口に放り込みつつ十手目にして既にかなめ優勢の盤を遠くから覗き見る。

 

「おい爺!風呂掃除終わったぞ」

「ふむ。じゃあ庭の草むしりじゃな」

「はぁ!?いったいいくら働かせる気だよ!」

「修行じゃ修行」

「ちっ!」

 

意外と素直なGⅢに少しキンジは目を丸くしていると鐡が来た。

 

「しかし昨日いきなり当分この家に戻ると言われたときは驚いたぞ」

「仕方無いだろ?あの学校に通うのに丁度よく徒歩圏内だったんだからさ」

「くっくっく……」

 

すると少し鐡は笑った。

 

「強くなったなキンジ」

「そうかな?」

「うむ……少し金叉に似てきたようだぞ」

「うーん」

 

そんなに似てるかなぁと首をかしげる。

 

「まあよいまあよい。さて金三が行ったところでお前に遠山家秘伝の技を教えてやろう」

「え?なんであいつに教えないんだ?」

「今から教える技はあいつには使えんものだ」

 

それを聞いてキンジは興味を持った。はっきり言って素の戦闘能力はGⅢの方が強い。更に技は自分とほぼ同質の物を使ってくる。この間の戦いに勝てたのは奇跡だ。そんなあいつに使えない技とは……だがこれからの戦いは更に過激になっていくのは明白だ。知っておいて損はないだろう。

 

そんなことを思っていると鐡は金庫を取りだしカチカチと開け始める。秘伝書でもだすのか?

 

「見るがよいキンジ……これが遠山家秘伝の技!【春水車】じゃ!!!!」

 

ババン!っと言う効果音がつきそうな動きでその場に広げた物にキンジは目を見開きひっくり返りそうになった。

 

そこに広がるのは女の肌の写真……つまり綺麗なお姉さんがあられもない格好で写っており……間違ってもベットの下に隠したりしてはイケない代物……何を言いたいのかと言うと要はエロ本である。

 

「な、何ちゅうもんを出してんだよ!」

「何を驚くキンジよ。遠山の男は返對使いこなしてこそ一人前じゃぞ」

 

すっかり忘れていたよこのエロ爺の性格を!

 

「ほれキンジよ。これなんじゃどうじゃ?黒髪の大和撫子じゃ」

「っ!」

 

何故か紐で亀甲縛りされた白雪似の写真にキンジは後ずさって視線をそらす。

 

「これ目を背けるな」

 

だが鐡はキンジの頭を掴んで無理矢理向かせる。

 

「これは儂の好みじゃないんじゃがどうじゃ?お前達に分かりやすく言うならロリっこというやつじゃ」

 

なんで今度はアリア似なんだよとキンジは大声を出したかった。狙ってやっているのかこの爺は!

 

「それとも「あなた……」なんじゃいいまいいと……ころ……」

 

鐡はサァーっと青ざめていく。

キンジにとっては救世主、鐡にとっては地獄からの使者の見えるだろう。

 

「またそんなものを……」

「げぇ!セツ!!!!」

 

鐡はズザザと距離を取る……

 

「しかもキンジにまで見せようとは」

「ま、待て!キンジとて18じゃ!問題はなごふぅ!」

「だからといって態々見せる必要はない!!!!」

 

次の瞬間ゆっくり放たれたセツの拳で鐡は吹っ飛ぶ。

 

(しゅ……秋水……)

 

キンジは呆然と見た。

 

今セツが放った技は遠山家の技で秋水と言う。

ボクシングなんかで体重を乗せてパンチを打てと言うがこれは百パーセント乗せることで遅くとも重くて破壊力のある一撃を放てると言うのものだ。

 

因みに鐡が吹っ飛んだ先には……

 

「見えた!逆転の一手!」

 

一毅がキラーン止めを輝かせ駒を取る。

 

「これで詰みだ!かな……「ごふぅ!!!!」ノォオオオオオ!!!!」

 

吹っ飛んだ鐡は将棋盤を吹っ飛ばしそのままGⅢが掃除したゴミの山に頭を突っ込んだ。

 

「なんちゅう事するんですか鐡さん!!!!」

「おいこら爺!汚すんじゃねえよ!!!!」

 

吹っ飛ばしたのはセツなのだが悪いのは鐡になっている。まあ仕方ないだろう。

 

「これはおばあちゃんが片付けておくからね」

「あ、うん」

 

キンジは大人しくしたがった。まあいつも通りである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてそんな遠山家の日常も過ぎて次の日……一毅とキンジは学校に登校する。

 

教科書は今日から持ってきているがはっきり言おう。

偏差値がとんでもなく低い武偵高校で常になんとか赤点を回避している程度の点数しかとれないキンジと中学の学力の時点で既に怪しい一毅ではそこそこの進学校であるこの東池袋高校の勉強にはついて行けない。

 

(もし無理矢理でも転校すると言う意思が残っていたらこういう目に会ってたってことか)

 

キンジはしみじみと分相応と言う言葉を勉強していた。

 

「よし桐生!徳川幕府最初の将軍は?」

「織田信長!」

『…………』

(いや、それでも少し勉強しておこう)

 

徳川幕府だといっているのに何故か織田信長と答える馬鹿を見つつキンジは教科書に目をおとした。

 

 

 

 

 

 

とは言えこの二人も活躍できる場があった。その一つは体育である。

 

「おっらぁ!」

「げっ!」

 

一毅は飛んできたボールを打ち返す。

今日の体育の競技はソフトボールだ……一毅の無茶苦茶なパワーで打たれた球はあっという間にホームランである。

因みに一毅は現在全打席ホームランを敢行中……

 

「お、おい桐生が打席に入ったら全部外すしかないぞ!」

 

とは言え競技に慣れた人間ならともかく体育の時間にやる程度の技術しかない腕ではわざと外すのも上手くいかずに一毅の手にあるバットにバキーン!っと良い音を立てさせる。

 

そして守備ではキンジの活躍である。

 

「でかい!」

 

球が飛んでいく……だがキンジが走り込んでいくと……

 

「この!」

 

キンジは飛び上がると空中でギリギリキャッチする。それからミットをつけていない素手の方を地面に着けると力を込めて飛び上がり空中で逆さになったままボールを投げた。

 

「ナイスボール!」

 

一毅は別段驚くこともなくそのままボールをキャッチしてタッチしてダブルアウトだ。

まあクラスの皆から驚きと称賛を貰ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあなあ遠山。このあとカラオケ行かないか?」

「え?」

 

放課後……バックに教科書を詰めているとクラスメイトから誘いを受けた。

名前は知らないが時々いるクラスの盛り上げ役といわれる人種である。

 

「俺は……」

「俺も行って良いか?」

 

すると一毅がきた。

 

「ああ良いぞ」

「ほらキンジもいこうぜ」

「……分かった。ただ金がないから一時間だけな?」

「OKOK。他にも来るやついる?」

 

そいつが聞くと、

 

「わ、私も」

 

望月が手を上げた。

 

「え?珍しいな、委員長も?」

「う、うん」

 

望月は少し照れ臭そうに言った。

 

「じゃあいこうぜ」

 

何だかんだで十数名でカラオケにいくことになった。

キンジも妙に望月が話しかけてくることとカラオケで一毅の選曲があまりにも渋くてクラスの皆が若干引き攣ったのを覗けばそんなに嫌な事はなかったのは別の話だ。



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龍と金の高校生活 その2

「ほらこれで詰みだ」

「ちぇ!」

 

カラオケから帰宅した夜……キンジと一毅は縁側で将棋を打っていた。

かなめに連敗中の身空である一毅はキンジ相手に実力の向上を狙っているらしい。

人工とは言え天才相手に将棋で勝つためにここまでやるとはその努力を是非勉強に向けてほしい。まあそれを言うとすごく嫌そうな顔をするため言わないが……

 

因みに将棋の腕はキンジと一毅はほぼ互角だ。

 

「少し一息いれようぜ」

「そうだな」

 

二人はうーんと背を伸ばすと庭の隅でGⅢがなにかやっているのが見えた。将棋に夢中で気づかなかったらしい。

 

「なにやってるんだ金三」

「だからその呼び方やめろって言ってるだろ……」

 

眉を寄せてしかめっ面のGⅢを見るとやはり少しキンジに似ている。

 

「で?なにやってるんだ」

「これだよ」

 

そう言って見せたのは最近有名な塩トマトの種?

 

「これに含まれるリコピンやらカロテンが俺の生命制限(ライフリミット)を一時的に解除すんのさ。これを一生食うぜ」

「大変だな」

「俺は人間が生きていくのに必要な栄養素がひとつ多いだけだ。大変だと思うなら手伝え」

 

ほらと言ってGⅢに鍬を渡されたキンジと一毅はザックザックと畑を製作していく。

 

「それにしても意外だったな。お前爺ちゃんには素直だったぞ」

「ふん。ダイハードには敬意も払うさ」

「映画か?」

「ったく。相変わらず腕は立つくせに脳みそはスポンジみたいにスカスカだな桐生 一毅。ダイ(殺し)ハード(難し)……つまりそいつを殺そうとしたら金が掛かりすぎて割りに会わないって言われてるのさ。世界中でも殆どいねぇ。レア度だけならRランク以上の称号だぜ?」

「そんなに有名だったのか」

 

キンジは改めて感嘆する。

 

「おめぇ知らねえのかよ。戦争の時の活躍なんか未だに伝説だぜ?」

「じいちゃんはあまり話さないからな」

「仕方ねぇな。教えてやるよ」

 

GⅢは少し手を止める。

 

「戦時中にアメリカを震え上がらせた男が二人いる。片方は俺と兄貴の祖父である遠山 鐡……もう一人はおめぇの祖父である桐生 一心だ」

「ああ」

「それぞれ武勇伝は多数あるが一番有名なのはやはり沖縄防衛戦とその後のアイオワ沈没だな」

「確かアイオワってアメリカの戦艦だったか?」

「ああ、まあ一般的には残ってるってことになってるがな。実際は違う。本当はたった一人の日本人にその他の船と共に太平洋にて沈められちまったのさ」

『え?』

 

キンジと一毅は困惑した。

 

「まずうちらの爺さんは沖縄でたった一人でアメリカ兵を止めるっつう暴挙をやらかした。たまたま不時着したらしいがそれでも300人をぶちのめしたらしい」

『…………』

 

そう言えば怪我して戦争の最後の辺りはベットの上だったと言っていたが……そんな裏事情があったとは……

 

「それにアメリカは大慌てさ。何てったってたった一人に作戦狂わされたんだからな。だから今度はアイオワとその他数積の戦艦で日本に攻撃を仕掛けに来た。だが今度は太平洋で引き返すことになった」

「まさか……」

 

一毅が恐る恐る聞くとGⅢはうなずく。

 

「お前の爺さんだよ。太平洋のど真ん中でアイオワに一心は突然乗り込んできたのさ。レーダーにも写らなかったらしい。そりゃそうだな。何せ発見されないように日本の東京湾からひたすら泳いで来たんだからよ」

「す、スケールでかい遠泳だな」

 

キンジはあきれた。

 

「全くだ。だがアメリカもそこは一流の海兵だ。すぐに排除にかかった……が」

『が?』

「数日後戻ってきたのは戦艦アイオワだけでしかも立派な幽霊船(ゴーストシップ)になっていたらしいぞ」

『……………』

 

つまり一人でぶっ潰したと?

 

「まあその後桐生 一心は命令違反って事で軍を辞めたらしいけどな」

「違反?」

 

キンジが首をかしげた。

 

「本当は出撃命令出てないのに行ったんだとよ。理由は知らないがな」

「儂の仇討ちじゃよ」

『え?』

 

三人が振り替えると鐡が縁側から出てくるところだった。

 

「沖縄での戦いの直後儂は死んだと思われていたらしくてな。それにキレた一心が海を越えて意趣返しに言ったんじゃ」

「でも結局生きてたわけだな」

「ま、そう言うことじゃな。お陰であやつは【オーガドラゴン】何て呼ばれるようになったんだぞ?」

 

三人が首をかしげた。なんだその二つ名は……

 

「ただ単に漢字でどう書くかわからなかったから辞書を片手に桐生を当て字で記したんじゃよ」

 

そう言って地面にカリカリと【鬼龍】と書く。

 

「これもでも【きりゅう】とよめるじゃろ?」

『あ~』

 

だからオーガドラゴンだったのかと三人は手を叩く。まあ戦うときの姿も鬼だったんだろうなぁと思う。

 

「それにしてもあやつとは色々バカもやったわい」

「あはは……」

 

国ひとつ敵に回したりとか? それは馬鹿やったレベルじゃないが……

 

「他にも一緒に色街で女を引っ掻けたりとかな」

「うちの爺さんもやってたんですか?」

「うむ。よくどっちがかわいい女の子をナンパできるか勝負したわい」

(なにやってんだようちの方の爺さんも)

「まあその後セツやカグヤさんにぶちのめされるんじゃがな。あ、カグヤは一毅の婆ちゃんの名前じゃが分かるか?」

「名前くらいは……」

「ま、それもそうか。お前が生まれるよりも前に死んだんじゃからな」

 

鐡は星空を見上げる。

 

「お前達は今を大事にするんだぞ……儂位になったときにその大切さがよくわかるようになる」

『…………』

 

一毅、キンジ、GⅢは黙って鐡の言葉に頷いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてそんな事があった次の日……学校は休みだったが一毅とキンジは別々に行動していた。

まあ鏡高組について情報収集しているのだがいざ出てみるとどこに情報収集を行えば良いのか全く考えずに出てきてしまった。

そして途方にくれたキンジは公園のベンチで空の雲の数を数えると言う一人遊びをする。

 

(久々だなこんな静かなの……)

 

部屋ではアリアたちが大騒ぎだし一毅と一緒だと基本的に静かな日常はない。

楽しいことは楽しいがのんびりできるのもこう言うときくらいだろう。

 

「平和なのは良いことだぜ……」

 

何とも爺臭い事を言っていると犬が走ってきた。

 

「ん?」

「ビアンカ止まって~!……え?」

「よう望月」

「と、遠山くん!?」

 

望月が「奇跡が起きた!」みたいな表情をした。

 

「飼い犬の散歩か?」

「う、うん」

 

聞くが何故か顔を逸らされる。何故だ?なんか顔も赤いし……熱っぽいのか?

 

「遠山くんこの近くなの?」

「ああ。望月もか?」

「うん」

 

そう言いながらキンジが座っていたベンチの隣に座っていた。

 

「あ、あの遠山くん」

「ん?」

 

キンジは不自然にならない程度にベンチの端まで寄って望月から距離を取る。ヒス的に危険なのだこの子は……可愛いし良い匂いもして更に優しげな風貌……何より性格が穏やか(ここ特に重要)……危険すぎるのだ。罷り間違ってもヒステリアモードに成ったりでもしたら……アリアにぶっ殺される。絶対嫌だ。

 

「昨日言いたかったんだけど皆もいたから言えなくて……」

「あ、ああ」

「この前助けてくれてありがとう」

 

あの時のかとキンジは納得する。別段対したこともなかったので忘れていたが望月には随分印象深い出来事だったようだ。

 

「別に大したことはない。気にすんな」

 

若干ぶっきらぼうだったかと思ったが何か望月は上気した頬をウルウルした瞳とセットでキンジに向ける。何か感激されている?

 

「凄いんだね遠山くん。体育にときも見たけど運動神経も良いし……」

「見てたのか?」

 

対した意味はなく望月が自分を見ていたことに対する驚きの方が強かったが望月はボン!っと言う効果音が付きそうな勢いで顔を真っ赤にした。

 

「あ、あのね!ほら!凄い動きしてたし……何か部活やってたの?」

「いや?全然していなかったが」

 

普段のアリアからの襲撃から逃げていたら自然と鍛え上げられただけだ。だが望月は知らないことなので純粋に尊敬の眼差しを向けてきた。

 

「あ、それでね遠山くん。なにかお礼したいんだけど……」

「お礼?別に良いよ。そんな対したもんじゃない」

「いいの。ほら……何かない?」

「何かと言われてもな……」

 

急に言われても困るのが実情……武偵流儀の金額換算にしたら端金も良いところな出来事だ。となれば……

 

「そこの自販機のジュース一本で良い」

 

そうキンジが言うと望月がガックシと肩を落とした。

 

「?」

 

キンジは首をかしげた。なんだろうかこの想像してたのと違うと言う感じの雰囲気……デジャブだ……

 

すると望月はハッと顔を上げた。なにか衝撃のことを思い出したみたいな顔だ。

 

「ひとつ聞きたいんだけど……」

「あ?」

「……もしかして遠山くんと桐生くんって……」

「ん?ああ……そうなんだ。昔からの腐れ縁でな。幼馴染みって奴だ」

「…………なーんだ。そうだったんだ」

「え?」

 

なんだと思われたんだ?

 

「女子の皆がいっていたんだもん。遠山くんと桐生くんってオホモダチだって……」

「ぶっ!」

 

キンジは盛大に吹いた。

そう言えば何か風の噂では武偵校内ではカズ×キンなる一部の女子が購入する特殊な書物があるときいたがそっち系か……確かに一毅とは仲が良いとは思っている。付き合いも長いし気心も知れてて親友だと思っている。だが決してそういう間柄ではない。大切なことだからもう一度言うがそんな間柄ではない。それに、

 

「つうか一毅は彼女持ちだぞ」

「ええ!」

 

望月が飛び上がった。そんなに意外そうな顔をするなよ望月……確かに一部の嫉妬心を持った男子からは美女と野獣何て呼ばれてはいるが……

 

「か、かわいいの?」

「ん?まあ確かに可愛いな。皆」

「皆?」

 

望月が首をかしげた。

 

「あ、いや今のは忘れてくれ」

 

それを見たキンジはしまったと口を塞ぐ。何か最近感覚が麻痺してたせいか全く疑問を持たなかったが彼女が複数いると言う状況は結構普通じゃない。

 

と言うかあいつ人の事を女誑しとか言うがあいつもあいつで結構女誑しだよなぁとかキンジは思っている。まあキンジ自身も全く人のことは言えないが……

 

「遠山くんは居ないの?」

「俺は……」

 

キンジは居ないと答えようとすると脳裏に一瞬アリアが浮かんだ。

 

(何で俺の脳裏にまで出没すんだよ!)

 

ブンブン頭を振って振り払うと、

 

「居ない。女っけはゼロだ」

 

武偵校の寮に帰ると寧ろ女っけしかない状況になってしまうのだが……

 

「そうなんだ」

 

望月は良かったと言う感じの顔をする。

 

「そう言えば学校には慣れた?」

「ん?まあクラスの居心地も悪くないしな……あ、でも勉強がな……」

「じゃ、じゃあ教えてあげようか?私この前模試で結構点数良かったんだよ?」

「良いのか?じゃあ教えて貰えるか?一毅と一緒に」

「え?あ……うん……そうだね……」

「?」

 

何故そんなにショックを受けた顔をしたんだろうか……キンジにはそんなに望月を傷つける事を言った記憶はない。

 

「と、取り敢えずメアド交換しない?」

「分かった。じゃあ予定が分かったら連絡する」

「うん。ありがと」

 

そう言って二人はメアドを交換した……

 

 

 

 

 

 

一方その頃一毅は……

 

「てめぇいまガン垂れただろ!」

「嘗めてんのかぁおい!」

(何で俺はいく先々でワルに絡まれなきゃならんのだ……)

 

あっちこっちで不良に生まれつきの目付きのワルさで絡まれる一毅はため息をつきつつも……

 

(まあキンジも今ごろ情報収集頑張ってるんだかs俺もがんばんねぇとな)

 

と、新たにキンジがフラグを構築していることを露程にも知らない一毅は、後でキンジに話を聞いたときにぶちギレたのはまた別の話である……



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金の勉強

「一毅……俺は今まで色んな奴を見てきた……」

「ああ……」

「シャーロック・ホームズの曾孫とかアルセーヌ・ルパンの曾孫とか源義経の子孫とか吸血鬼とか鬼とかそりゃあ色んな奴見たよ」

「ああ……」

「だけどさぁ……」

 

キンジは頭を抱えた。

 

「勉強して知恵熱出した奴は初めてだよ!」

「俺も初めての経験だ……」

 

一毅は氷嚢を頭に乗せながら布団の中で言った。

 

何故こんな状況なのかと言うと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日の土曜日に望月が勉強を教えてくれるってよ」

「そうか。いってらっしゃい……いって!」

 

キンジの自室で漫画を読んでいた一毅の頭をキンジは叩いた。

 

「お前もだよ!」

「俺もぉ!?」

 

一毅は漫画から顔を起こした。数日前の調査時にキンジがそういう約束をしていたのは知っている。だが恐らく思われるに望月はキンジとお近づきになるために言ったと思われるのだが……しかもクラスの連中はこの数日で望月がキンジに半ば一目惚れしたのは知っていると言うか気づいている。

 

どう考えても自分はお邪魔である。

と言うか勉強を教えると言うのが口実であることくらい気付け馬鹿と言ってやりたい。

 

「つうわけでお前を一から教えていたら明日だけじゃ終わらないから少し予習していくぞ」

「いや……俺は戦闘要員だし別に勉強できなくても良いし……」

「うるせぇ。とにかくやるんだよ」

 

テキストを広げキンジは一毅と一緒に勉強を教え始めた……結果次の日、

 

 

「うーん……」

「つうか知恵熱って漫画じゃねえんだから出すなよ。それでも高校生か!」

「まあそんな日もあるさ……」

「仕方ねぇ……俺だけでいってくるぞ」

「行ってらっはい……」

 

一毅は震える手でキンジを見送った……

 

思わぬ形で望月の思いが叶った形となる……ある意味一毅の頭が役に立ったと言うかアリアたちから見れば役に立たなかったと言うべきか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、遠山くん」

「悪い遅れた」

 

その後待ち合わせの場所にいくと望月が待っていた。

マフラー巻いているが……随分薄着だ……しかも随分スカートが短い。寒くないんだろうか?しかし望月の足は白くてむっちりしている……武偵高校では皆さん筋肉が程よく着いていて綺麗な奴が多い(特にライカ何かはその筆頭だ)が皮下脂肪が違うのか良い意味で肉付きが良い……これがこれで当たらし趣が……って!

 

(何考えてんだ俺は!)

 

キンジは自己嫌悪した……そんなキンジの内心も知らず望月は汚れの一辺もない笑顔を浮かべると、

 

「ううん。大丈夫、私寒さには強いし今来たばかりだから」

 

そういわれキンジは首をかしげる。望月はいま来たといっているが鼻も赤いし少し震えている。絶対嘘だろう。そんな前から待たなくても良いだろうに……

 

「あれ?桐生くんは?」

「知恵ねげふん!少し具合を悪くしてな。今日は休ませた」

「そ、そうなんだ」

 

流石に知恵熱でとは言えなかったが望月は何故か「神は居た……神様ありがとう!」みたいな顔をした。一体どうしたんだ?

 

「取り敢えず行こうぜ。お前すごく寒そうだぞ」

「そ、そんなことないよ?」

「あるだろ……そんな冷たそうな手までしてるし……」

 

キンジはそう言って望月の手を取った。

何時も理子に冷たくなった手をいきなり背中に入れられると言う悪戯を喰らうため手が冷たくなられたらその前に手を暖めてやるのが既に癖になっていた。

 

「~~っ!」

 

望月の顔がミルミル赤くなっていく。何かそう言えば理子も似たような反応をするんだよなぁとキンジはぼんやり考えながら少し暖めると手を離す。

 

「少しマシになっただろ?行かないか?」

「………はっ!う、うん!」

 

一瞬望月の時間が止まっていたが再起動して案内を始めた。

 

(何か望月の様子が可笑しいな……)

 

おかしくした張本人は首をかしげた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?桐生一毅どうしたの?」

 

最近出入りしてる将棋クラブから帰宅したかなめが顔を出す。

 

「少し具合悪くてな」

「ふぅん。で?お兄ちゃんは?」

「知り合いに勉強教えて貰いにいった」

「……何て言う人?」

「え?望月 も……っ!」

 

一毅の目の前に般若?いや、悪鬼羅刹が降臨した……

 

「あわわわ……」

「ふぅん……ほんとお兄ちゃんはモテルナァ……アハハハハハ……」

「か、かなめさん?」

 

一毅は知恵熱が下がってそのまま寒気までしてきた気がした。

 

「チョットデカケテクルネ」

「あ、はい。行ってらっしゃい」

 

次の瞬間かなめが砂塵をあげながら猛ダッシュしていった。

 

「おい、いまかなめがものすごい形相で走っていったけど何だったんだ?」

「キンジがな……」

 

顔を出した金三に答えながら一毅は布団に体を入れ直す。

 

「また兄貴どっかの女引っ掻けたのかよ……」

 

金三も半ば呆れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃恐怖のかなめさんが家から出動したのを知らないキンジは望月宅に着いたところだった。

 

「どうぞ」

「ああ」

 

キンジは靴を脱ぎながら入っていく。

 

「親御さんは?」

「あ、うん……今旅行にいってて……」

「………」

 

それは不味くないだろうかとキンジは眉を寄せた。

寮では女子に囲まれて暮らしているが逆に男女二人きりと言うのは非常にいただけないのは流石に何となく分かっている。しかも両親は旅行中と言うことは完全に二人きりではないか……ヤバい……

 

「あ、私の部屋は此処だから先に入ってて、一応軽く摘まめるの作っておいたから持っていくね」

「悪いな」

 

キンジは若干望月が居ないのに入るのを躊躇うが覚悟を決めて入る。

 

(う……)

 

キンジは回れ右をしたくなった。何故ならそこに広がる香りは間違いなく女子の匂い……クラクラして眼が回りそうだ。元々嗅覚は祖父の鐡から遺伝して鋭くバスカービルの女子達を匂いで判断できる(因みに一毅は聴覚が鋭い)ほどだ。

 

「どうしたの?遠山くん」

「あ、いや……」

 

とは言え望月が戻ってきてしまい退路は断たれた。仕方ない……腹を括ろう。

 

「さ、やろうか」

「そうだな」

 

キンジはテキストを広げた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言って望月は本当に頭は良かった。いや、別に疑っていた訳じゃないのだが望月の教養は高く要領がお世辞にも良いとは言えないキンジへすさまじい速度で手際よく教えていった。だが……ちょいと近すぎじゃないですかね望月さん。

 

「それでね遠山くんここは……」

「ああ……うん」

 

キンジはヒステリアモードの血流と戦いを繰り広げながら必死に知識を詰め込んでいく。

 

(素数を数え……ながら勉強は無理だし仕方ねぇ!南無阿弥陀仏!南無妙法蓮華経!アーメン!)

 

何か色々おかしい言葉を脳内にられつしていく。

 

「はい。こんなところだね」

「あ、ああ」

「じゃあお茶いれるから」

「あ、いやお構い無く……」

「良いから良いから」

 

そう言って降りていった。

本当はこのまま退散したかった……が、ダメだった。くそぅ……

 

このままではヒステリアモードになってしまうのも時間の問題だ。そしてなってしまえばあの手この手で望月を宥めて空かしてその後どんな状況になるか想像だってしたくない……確かに望月はどうも自分にたいして悪い印象は無いだろう。それくらいは分かる。

だがそれがLOVEの意味での好意であることはないとキンジは断言していた。そこまで自分は愚かで馬鹿ではないと……

しかもそんなことになれば任務どころではないし何より……武偵高校の方角からピンクの悪魔が飛んできて自分をブチのめすだろう。彼女との関係が未だはっきりしない上でのこんな狼藉は腹切ものであるのはキンジも理解している。故に望月とは少し仲が良いクラスメイトで居るべきだ。彼女もそう望んでいるだろうしキンジもそれを望んでいる。

 

しかし……

 

「……後何時までそのクローゼットに隠れている気だ?えーと……咲さんだったか?」

「何でわかったの!?」

 

望月がいなくなったのを見計らって声を掛けると中から少し小さくなっておっとりした部分を取った感じの望月が出てきた。

 

「しかも名前まで……」

「門のところにかいてあったからな」

「へぇ~。じゃあ改めて初めまして。望月 萌の妹の望月 咲でーす」

 

パチンウィンク一つした咲と名乗った少女はキンジを値踏みするように見る。

 

「ちょっとネクラそうだけど意外とイケメンだね」

「ネクラそうで悪かったな」

 

キンジは眉を寄せた。初対面に向かって随分ないい草である。

 

「あ、そういう意味じゃなくて……お姉ちゃんが何か今日はウキウキしてたし私を家から出そうとしてくるから何かかと思ってたけどそうかぁ~彼氏を連れ込もうとしてたんだね~。寒がりのくせしてあんな短いスカートとかしてるし~」

「いや……彼氏とかじゃ……」

 

キンジがそこはきっちり否定しようとした次の瞬間、

 

「さ、咲!?」

 

部屋に入ってきた望月がお茶を落としそうになった。

 

「やっほー」

「な、何でここに!?」

「やだなぁお姉ちゃん。あんな不可思議な行動してれば分かるよ。この名探偵を舐めない方がいいよ?」

 

意外とこの妹さんは武偵の素質があるかもなぁとキンジは思うが姉の方はそうもいかない。

 

「あ、あれほど出掛けてって言ったでしょ」

「はいはい。すぐに出るからさ」

 

そう言って近づくと……

 

「そう言えばお姉ちゃん下着上下珍しく可愛い奴だったよね?何時も寒がりで毛糸の奴ばっかりの癖に~。やる気だね~」

「~~っ!」

 

望月(姉)の顔がレッドヒートだ。

しかしやる気……とは一体なんだ?……勉強だろうか?だが下着は関係ないだろう。

 

(謎ばっかだぜ……)

 

そんなことを考えている間に望月(妹)を無事?追い出した望月(姉)はキンジの所に来た。

 

「ゴメンね。変なこといってなかった」

「いや何も」

 

実際は最初から最後まで謎の言動が見られたがそれは自分の知識不足があるのを何となく察していたため何もないと言うことにした。

 

そしてキンジは望月お手製のサンドウィッチを食べる。

 

「お、美味しい?」

「ああ、普通に美味しい」

 

望月がガッツポーズした。だが本当に美味しい。

 

「私家庭科部に入ってるの。遠山くんもどう? 」

「いや……俺はいい」

 

調査が未だに遅々として進まない今の状態では部活に入っている暇はない。

 

「そ、そうだよね」

残念そうな顔だ。すると何か思い付いたように望月は顔をあげると棚からアルバムらしき物を出した。

 

「?」

「ねぇねぇ見てみて」

 

そう言って体を寄せてきた……試練の再来である。

 

「このときにね……」

(マジかよ……)

 

キンジは再度理性との戦いを起こす。その内理性がプッツンするぞ……この少女は警戒心と言うものがないのだろうか……

 

「……ねぇ遠山くん」

「……なんだ?」

 

キンジは自分の血流を必死に押さえて望月を見る。

 

「私ってそんなに魅力ないかな……」

「え?」

 

切なそうな目をした望月を前にドクン!っと血流が強まる……

 

「なん……で?」

「だって遠山くん私に興味ないみたいだし……」

 

ドックン!!!とキンジの血流がさらに強くなる……

 

「私じゃ……ダメ?」

「っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴメンよ……本当に()()()は女心に疎すぎる……すぐに女性を傷つけるんだから放って置けないね。

 

「そんなことはないよ萌……」

「え?」

 

悪いが女性を傷つけたままには出来ないからここは一つフォローしておこう……とヒステリアモードキンジ(略してヒスキン)は優しく望月に話しかけた。

 

「君は可愛い女性だよ……ただまだ会ったばかりだからね……まだ別に焦る必要はないだけだよ……その証拠に俺はここに来てからずっとドキドキしていた……」

「遠山くん……」

「今日はもう帰るけど明日もある……ゆっくりお互いを知っていけばいいだろう?」

「うん……」

 

これでいいな……実際もうちょっと優しくしてあげたいけどこれ以上やるとそこの窓から歯軋りしながら今にも殴り込んできそうな顔で覗き込んでいる可愛い妹が科学剣片手来ちゃうからね。

 

「待たね。萌」

「うん……また明日……」

 

すっかり腰が抜けちゃったらしい望月を優しく撫でてやりながらキンジは外に出ていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かなめ、まさか妹に覗き見の趣味があったなんてお兄ちゃんは悲しいよ」

「違うよ!」

 

望月宅から少し離れたところで声を掛けるとかなめが出てきた。

 

「なんでお兄ちゃんはそう何時も何時も……私と言う可愛い妹がいながら」

「可愛いだけならいいけど妹がついちゃうからね……」

「ヒスっててもそういう辺りはちゃんとしてるんだね」

 

ヒスってても流石に倫理観念はそのままだ。

 

「さて……気づいてるか?」

「当たり前でしょ?まあ相手も気づかれるの承知の上みたいだけどね」

 

二人がそういった瞬間近くに黒い車が止まった。テンプレみたいな……ヤクザ御用達の車……

 

「君だったのか……」

「久し振りだね……遠山」

 

明るい髪色の少しキツメの美少女……身に包んだ和服は彼女の美しさを際立たせた。

 

「菊代……」

 

鏡高組の関係者でありキンジにとって色んな意味で印象深い少女は車の中で笑みを浮かべた……



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龍と金の平穏の終わり

「まさか遠山に妹がいたなんてね。驚いたわ」

「序でに弟もいるぞ」

「…………」

望月の家から退出した後……キンジとかなめはヤクザの車に乗っていた。目の前には武偵中学時代の同級生にしてクラスメイトだった鏡高 菊代がいる。

 

「それにしても偶然ね」

「面白い冗談だね」

 

菊代にキンジがそう返すとニヤっと笑う。

 

「やっぱりそっちの遠山は優しいね」

 

そんなやり取りをしているとかなめは更に頬を風船みたいに膨らませていく。まあフォローは後でするとして、

 

「で?どういう用件だい?」

「後少し待って」

 

そう言われたので待つ……すると五分ほどで車が止まった。

 

『?』

 

キンジとかなめが気になって外を見るとそこには巨大な中華料理屋が立っていた。キラキラとネオンで光らせていて金が掛かっている。

 

『…………』

 

二人が少し驚いているとドアが開けられた。

スキンヘッドのガタイの良いさっきまで運転手だった男はどうぞと腕を広げて促す。

 

「いこう」

「うん」

 

キンジとかなめが出ると続いて菊代も出た。

 

「どう?」

「金が掛かってるね。どうやって稼いでるんだい?」

「何だと思う?銃の密売、麻薬、地上げにケツ持ち……ヤクザには色々稼ぎ方があるからね」

「そうかい」

 

何となく分かった……その何れでもない稼ぎ方だろう。何か出資者がいるんだ。そう言えば校長から鏡高には藍幇と交流を持ち始めたらしいしもしかしたらそこが金でも出しているのだろう。

 

「さて、この奥だよ」

 

言われるままに行くと最上階のフロアにつく。そこには既に食べ物が置かれていた。序でに魚がいる水槽も……

 

「うわ~美味しそう」

「そうだな」

 

かなめの頭をポンポンしつつキンジは菊代を見る。

 

「座って良いのかい?」

「ああ」

 

キンジとかなめが座る。すると菊代も座り綺麗な女性たちがやって来た。

 

「さ、まずは食べなよ。毒が入ってるか疑うならそこの水槽に落としてみれば良い」

「毒や薬入ってないよ」

 

そう言ってかなめはバクバク食べる。

 

「毒が入ってたら私すぐ分かるからね」

 

キンジは苦笑いした。まあそれなら良いだろうと食べ始める。

 

「で?本当にどんなようなんだい?」

「うんまぁね……遠山に会えたから話したかったんだ」

「そうかい」

 

キンジはスープを飲む。ってこれフカヒレだぞ……

 

「後は……最近うちの下っ端をあしらったでしょ?」

「え?」

 

キンジは記憶をたどる……もしかして、

 

「二人組のチンピラか?」

「そうだよ。簡単に遊ばれて腹立ててたのを聞いてね」

 

あの二人ヤクザと繋がっていたのか……しかも鏡高……つまり校長が言っていた繋がりのある下っ端はあの二人のことだったのだろう。いやはやどこで知り合うかわからんものである。

 

「面白い偶然だね」

「本当……運命だと思わない?」

「あ?」

 

ビキキ青筋を走らせて殺人的な視線をかなめはする。

 

「それで今朝から俺を見てたのかい?」

「本当は声をかけようと思ったんだけど何か急いでたし様子を見たのよ……」

 

菊代は眼を逸らした。

 

「まあそれは横に置いといてね……桐生は一緒じゃないの?」

「いや?何でだい?」

「だって何時も一セットだったでしょ?」

「否定はしないが、そんなにベッタリと言う訳じゃない」

「ふぅん……最近人相悪い男がうちの組の事嗅ぎ回ってるって聞いて遠山もちょうどこの辺り彷徨いてたし桐生かと思ったけど違うの?」

「さぁね。あいつはあいつで何か任務なんじゃないかい?」

 

まあ半分嘘で半分本当って感じで良いだろう。

流石に言うわけにいかない。

 

「そう?じゃあこっちからも一つ聞くけど遠山なんでここに?」

「まあ社会勉強ってやつさ」

「退学かい?」

「どうだろうね」

 

そんな話をすると菊代は嬉しそうに頬尻を上げた……

 

「退学になったと言うんならうちが雇うけど?」

「遠慮しとくよ」

「そういわないでよ。鏡高組の全てをあげるよ」

「……君の組だろう?そんなホイホイもらえるものなのかい?」

「簡単さ。私と遠山が結婚すれば良い」

 

ベキィ!っと皿が割れる音が響いた。かなめ……女の子なら素手で皿を握りつぶさない方がいいんだよ。

 

「さっきから聞いてればお兄ちゃん……こいつ私の敵……」

「ちょ、ちょっと遠山……あんた妹までタラシこんだの?」

「ちょっと過剰にお兄ちゃん子なだけだよ」

 

キンジはかなめを宥めつつ菊代を見る。

 

「まあ魅惑的な誘いだけど俺は今でさえ面倒事が絶えなくてね……悪いが定員オーバーなんだ」

「そう……」

 

菊代は少し残念そうだ。

 

「ねぇお兄ちゃんもう帰ろうよ」

 

不機嫌かなめキンジを押し出す。

 

「ま、待って!」

 

すると菊代が立った。

 

「?」

「遠山……私あんたを昔利用した……覚えてると思う」

「そうだったけかな」

「うん……今の遠山ならそういうよね……でも一応言っておきたいんだ……ごめんなさい」

「……ああ、許すよ。女の罪を許すのも男の仕事だからね」

 

パチンとウィンクをすると菊代に頬に朱色が走った。この子も子ので初心だね。

 

「ほらお兄ちゃん行くよ!」

「じゃあね菊代」

 

かなめに押されつつキンジは退出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってことがあってな」

 

家についた後でっかい檜風呂にキンジと一毅は浸かっていた。知恵熱もすっかりよくなりキンジの話を聞いていた一毅は……

 

「うん。そろそろお前後ろから刺されんじゃね?」

「何でだよ」

 

要は新たに女の子を作ったと言う話だろ?と一毅は言うとキンジに蹴っ飛ばされた。

 

「ちっげぇよ!とにかく藍幇と通じてるのは多分状況から見て間違いない。後はタイミングだな」

「タイミングねぇ……今から殴り込みには……」

「行かねぇよ!行き当たりばったりの殴り込みはしねぇんだよ普通!相手の居場所とかその他諸々きっちり調べた上でだ!」

「けち!どけち!ネクラ!」

「どれも関係ねぇだろうが!」

 

二人が取っ組み合うと次の瞬間、

 

「お兄ちゃん一緒に入ろーと言うわけで桐生一毅はそろそろ出てね」

「フギャ!」

 

キンジは不思議な奇声を上げると座ったままジャンプする。

 

「な!馬鹿!なんで入ってくんだよ!」

「良いじゃん良いじゃん」

「良くねぇ!」

 

そういうが早いかキンジは窓から庭にダイブして逃亡していった……

 

(あいつの逃亡スキルは日に日に伸びていくな……)

 

一毅は内心そんなことを呟いたがキンジに聞こえるはずもなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてそんな次の日……キンジと一毅は学校でうんうん頭を唸らせ授業で小テストを受ける……とは言え昨日の勉強の成果が早速でたのかキンジの方が余裕があるが一毅の方は知恵熱をまた起こしそうになっている。

まあこんだけ頑張っているんだから少し位は当たって……

 

「ええと……十七条憲法を作ったのは天皇の先祖だから……昭和天皇か?」

 

……前言撤回。この調子では無理である。というか昭和と着く時点で可笑しいと思え。しかもすげぇ最近じゃねえか。

 

 

そんな風に一日を過ごすが……

 

「なあ望月どうしたんだ?」

「そうなんだよな……昨日寒がってたしもしかして風邪でも引いたかな」

 

放課後……一毅とキンジは歩きながらそんな話をする。そう、何故か望月は休みだったのだ。クラスメイトの話では望月が休むこと事態初めてらしい。

 

「一体何が……ん?」

 

すると道を塞ぐように二人の男が前に立ちふさがる。

 

「お前達は確か……」

「久し振りだなぁ」

 

この二人はキンジが転入して早々あしらったチンピラだ。今回は金属バット装備でどうしたんだ?

 

「てめぇを連れて来いって言うのが命令でな……大人しく着いてきて貰うぞ」

「自分で会いに来いって伝えてこい」

キンジは断りの言葉をいれた。

 

「……望月を預かってるっていったら?」

「何?」

「今うちらの手元にあぶぇ!」

「相棒!?」

 

ガリガリの方が言い終わる前にキンジの蹴りを顔面にクリーンヒットし後ろに吹っ飛んでそのままゴミ箱に顔からダイブした。

 

「ホールインワンだな」

 

一毅がニタリと笑いながら太った方に近づく……

 

「こ、この!」

 

横凪ぎの大きな一撃……まあ隙だらけだったので伏せて躱すとボディに一発入れる……

 

「ごぶぇ……」

 

ゲロを吐きそうだったのでその前に下がった顎にアッパーカットを打ち込んだ。

 

「お前……腹筋柔らか過ぎだろ……」

「そりゃあ力込めれば刀が深く刺さらなくなるような無茶苦茶な腹筋してるお前から見ればプリンみてぇな腹筋だろうよ」

 

キンジは一毅に対して至極真っ当な突っ込みをいれつつ携帯に電話を入れる。

連絡相手は……望月だ。

 

【もしもし遠山?】

 

しかし出たのは菊代だった……

 

「おいどういう事だ?望月を拐うなんてどうかしてるぞ」

【そっちだって嘘をついてたじゃないか。桐生が何をしてるか知らないって?一緒にいて知らないわけがないだろ?二人でうちのこと調べてたんだね】

 

キンジは内心舌打ちした。一毅も一緒なのは望月が言ったんだろう。責める気はない。と言うか望月は自分と一毅が一緒だと知られると言うことがどういう意味を示すのか知らないのだから……

 

【まあ良いよ……デートしようよ遠山……特別に桐生も一緒で良いよ?そうだね……今から二時間以内に来てよ】

「おいま……」

 

プツンと電話が切られた……

 

「くそっ!」

 

するとメールが続けてきた……そこにあるのは地図……ここに来いと言うことだろう……二時間とすると……実家に戻って装備揃えれば大体そのくらいだ。本当は急いでいきたいが今二人は丸腰だ。無論多少の相手なら丸腰で十分だが何があるか分からない。準備は万全にしていくべきだ。

 

「一度戻ってから行くぞ」

「了解」

 

一毅も表情を引き締めながらキンジに続いて走り出した……



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龍と金の殴り込み

『はぁ~』

 

一毅とキンジはでかい門の前で手に息を吐き掛ける。

菊代から電話を受けて丁度二時間……日も落ちてるし雪まで降ってきた……

 

だが二人の体の中は全く冷えきってない。寧ろ燃えている。

 

「さてと……」

 

桜吹雪の刺繍がされた龍桜を風に揺らしたキンジは一毅に言う。

 

「今回の任務は望月の救出(セーブ)が第一だ……だから……邪魔するやつは全員ぶちのめす」

「いいねぇキンジ。単純明快……分かりやすくて良い」

 

そして若干ヒステリア・ベルゼの気配を感じさせるキンジは一毅に命令した。

 

「まずはこの門ぶっ壊せ」

「了解キンジ(リーダー)

 

一毅は背中の肉厚の巨大な大太刀、断神(たちがみ)を抜くとそのまま一気に振り下ろした……

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たぞ!」

 

門を叩き斬って入ると鏡高組の構成員のお出迎えだった……

 

「一気に行くぞ!一毅!!」

「おう!」

 

一毅は断神(たちがみ)を背中に仕舞うと腰から殺神(さつがみ)を抜く。

 

「どきやがれぇええええ!!!!!!」

 

相手も刀を出すが所詮は喧嘩殺法のヤクザだ。一毅相手では勝負にならない上に刀の格も違う。

次々と刀を折られて切り潰されていく……だが数は減らない。そこに、

 

「後ろだ一毅!」

「っ!」

 

後ろから飛びかかってきた。だが一毅は冷静にその一撃は横に躱すと腹に正拳突きを叩き込む……更に、

 

「オッシャア!」

 

相手が怯んだところにキンジが後ろ回し蹴りを叩き込んで吹っ飛ばした。

 

「がはっ!」

「てめぇ!」

 

続いてキンジの方に突っ込んできた……しかしそれに対して、

 

「キンジ背中借りるぞ!」

 

蹴りの後の態勢のままのキンジの背中を一毅は転がって越えるとその勢いを利用して切り飛ばした。

 

「ナイス一毅」

「お前もなキンジ」

 

互いのハイタッチひとつしてからそのまま中に入る……すると、

 

「オラァア!」

『っ!』

 

二人は横に飛んで躱すと不意打ちしてきた相手を見る。

 

「あいつ見たことあるぞ……確か井沢 レオンだ」

「ボクシングの選手だよな?」

 

一毅とキンジは軽く情報を擦り合わせていると、

 

「どりゃ!」

 

また後ろから来た。だが今度はキンジが後ろに足を振り上げる。そして、

 

「はぐっ!」

 

金的に蹴りを入れられた相手がそこを抑えて悶絶……更に、

 

「金的の極み!!」

 

キンジのオーバーヘッドキックで下がった頭の後頭部に蹴りを叩き込まれ倒れた。

 

「ちぃ!」

 

その時に井沢レオンも来たがそれは一毅が対応する。元がボクシングだけあって中々良いパンチを放つが一毅の敵ではない。首を横にそらして躱すと、

 

「二天一流 拳技!受け流し!!!!!」

 

一毅は相手の拳を受け流し腕を掴むと強烈な膝蹴りをレオンの腹に叩き込む……その衝撃に堪らず体を崩すがその前に一毅が後ろに回って掴み……そして、

 

「キンジ!」

「任せな!」

 

その隙をついてキンジは走り出し、一毅はレオンを持ち上げる……

 

『連携の極み!!!!!』

 

先ずキンジは飛び上がると飛び膝蹴りをレオンの顔面にキンジの膝がめり込む……そしてその衝撃を使い一毅はレオンをジャーマンスープレックスの要領で床に叩き付けて犬神家の一族にしてやると襖を蹴破って先に進む。

 

「ウォオオ!」

「ちっ!」

 

そこに突然刀が壁から生えて二人を狙ったがそれを転がって躱すと二人を囲むように襖を開けて出てきた。

 

「ちぇい!」

「くっ!」

 

一毅は殺神(さつがみ)で相手の刀を弾くと、

 

「ふん!」

 

胴を凪いで倒すと縦横無尽に切り結んで行く。

 

「くっ!」

 

キンジも相手の刀を素早きバタフライナイフを抜いて受けて蹴り飛ばしていく。だが、

 

「はぁ!」

「しまっ!」

 

強い一撃でナイフを打ち上げられた……しかしそこに、

 

「キンジ!使え!」

 

一毅が素早く殺神(さつがみ)をキンジに投げる。

 

「助かる!」

 

続けて足を狙ってきた相手の刀を飛んで躱すとキンジは殺神(さつがみ)をキャッチすると構える。

 

「ふん!」

「シャア!」

 

キンジは当たり前だが剣術の修練は行っていない。だが先祖が侍であったためか才能がないわけではないし何より周りにいるのが星伽候天流免許皆伝の白雪や高い剣才を持つ志乃に加え更に、一毅がいる。そんな皆には遠く及ばずともヤクザの喧嘩剣術相手ならば十分に渡り合える。

 

「オォ!」

「チィ!」

 

キンジは弾き返すと蹴っ飛ばして跳躍……空中で大きく振り上げるとそのまま落下力も味方につけてそのまま切り飛ばした……

 

「ざっとこんなもんか?」

「だな」

 

一毅に殺神(さつがみ)を返しながらキンジは同意する。

 

「なら進むぞ」

「おう」

 

キンジと一毅は走り出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「望月!」

 

バン!っとキンジが奥の扉を蹴り開けるとそこは結構開けた部屋だった。そこには幹部と思われるインテリ系の男とホストみたいな雰囲気の男と菊代と縛られた望月がいた。

 

「おい、約束通り来たぞ。望月を離せ」

「そんなに焦んないでよ遠山……少し話くらい」

「菊代……」

 

キンジが睨むと菊代はギクッと体を強張らせた……本気でキンジに嫌われるのだけは嫌らしい。

 

「ふぅん……ここまで来るくらいだからやっぱり強そうだね」

「ああ、俺たちが二人掛かりでやっても負けるな」

 

するとホストみたいな雰囲気の男とインテリ系の男が口を開いた。

 

「お嬢、拳銃(チャカ)は?」

「持っていないよ?」

 

そうですかい……ホストみたいな雰囲気の男はそういった瞬間ガチャリと撃鉄を上げた音が響いた。

 

『え?』

 

菊代とキンジと一毅の三人は唖然とし望月も目を見開く。

 

「じゃああんたは後は用無しだ」

 

インテリ系の男が笑いながら菊代の頭に銃を押し付ける。

 

「おい……どういう冗談……」

「冗談じゃないんですよお嬢……あんたはよくやってくれた……でもヤクザ社会は今時あんたが言うような義理とか人情とか古くさい考え方じゃ先細りです。絞れるやつからはきっちり搾り取るし取れない奴でも搾り取る……そんな生き方じゃなければ駄目なんですよ」

 

ホストみたいな雰囲気の男はそう言ってからキンジと一毅を見る。

 

「あくまでもお前ら来させるための囮って奴だよ」

「何が目的なんだ?」

「藍幇の猴先生とルウ先生がそれぞれ君たちに会いたがっててね。知ってるかい?君たちそれぞれ10億……セットで連れていけばボーナスつきだ。つうわけで……武器は捨てな」

 

ホストみたいな雰囲気の男はナイフを出すと望月の頬をペチペチ叩く。

 

「今回は運がいいねぇ……おまけにこんな女の子も付けられるよ」

『……』

 

キンジと一毅は睨むが意味はない。仕方ないが武器を捨てようとした……だが、

 

【ったく……向こう見ずな兄とその友人を持つと弟は苦労するぜ】

【だからこそ楽しいんでしょ?】

『っ!』

 

次の瞬間ホストみたいな雰囲気の男とインテリ系の男が吹っ飛んだ。

 

「金三にかなめ!?」

「だからその呼び方止めろっつってんだろうがくそ兄貴!!!!!」

「やっほー。お兄ちゃんあるところに私あり……だよ?」

 

かなめが科学剣で望月を救出する。

 

「大丈夫か?」

「う、うん」

 

キンジの問いに望月はうなずく。すると、

 

「てめぇらやれ!」

 

ホストみたいな雰囲気の男が命令すると襖が開いてAK-47(アサルトライフル)がこちらに向けられた。

 

「やべ……どうするキンジ」

「こっちも今考えてる……」

「簡単だぜ兄貴……こうすんのさ!」

 

金三がそういった瞬間菊代の着物を時代劇でよく見る良いではないか~の要領で服を引ん剥いた。

 

「きゃ!」

「っ!」

 

ドクン!とキンジの体が脈を打った。

 

「良い模様だ……こいつぁ来るぜ」

 

同時に金三の体もドクン!と脈打つ……そうして二人の持つオーラが変わっていく。

 

「いけるか兄貴……」

「ああ……」

 

ヒステリアモードが二人になった瞬間銃弾が発射された……だがキンジにはすでに対策は思い付いている。おそらく金三も同じ手だ……名付けて、

 

銃弾返し(カタパルト)!!!!!」

 

螺旋(トルネード)の要領で相手の銃弾を180度跳ね返す……そして跳ね返った銃弾は別の銃弾に当たり連鎖撃ち(キャノン)のようになっていく……更に金三が、

 

綣局(コイル)!!!!!」

 

他の銃弾を次々と180度回転させて銃を破壊した。

 

「さらっと人間卒業してんなぁお前ら……素手で銃弾を弾くなよ」

「うっせぇ……さっさと出るぞ」

 

望月と菊代をつれて庭に飛び出すと隠れてたやつらが出てきた。

 

「おいおいまた随分出てきたなぁ……」

「まあ楽勝だぜ」

「だがこの二人をどうにかしないとね……」

 

するとキンジはなにか気づく。

 

「そうだ……今日は満点の星空だし星に願ってみるか」

「は?」

 

金三が唖然とした。

 

「どうか私にお恵みを……アリア様ってね?」

 

次の瞬間銃弾の雨が降り注ぐ。流星のように空から降ってきたアリアが空中で止まるとキンジを見た。

 

「何でわかったんだい?」

「さっきかなめから電話きたのよ」

 

キンジがかなめを見るとてへっと舌を出された。そんなことをされたら許さないわけにいかない。

 

「しかしなんだその機械」

「平賀さんにつくってもらったホバースカートよ。時間は短いけど空も飛べるわ」

「うわぉ……」

 

こりゃ追いかけられたときに海に飛び込んでも空から追撃喰らうなぁとキンジは苦笑いした。

 

「何やってんだ!やれぇ!」

『おぉ!……あれ?』

 

ヤクザが自分の懐にあったはずの武器を探す。

 

「もしかして~お探しものはこれですか?くふ!」

「理子!」

 

すっかりバラバラになった銃の山の上に足を組む理子がいる。

 

「なら素手でやれぇ!」

「キンちゃんに手を出すなぁあああああああああああああああ」

 

ガガガガガガガとM60をランボーのように乱射しながらキンジたちの前に着地したのは、

 

「白雪……」

「久し振りキンちゃん」

「くそ……死ね!」

 

インテリ系の男が銃を向けた……だがそれは別の銃弾がはじき飛ばした。

これは間違いなく……

 

「レキ」

 

一毅が口を開くと続け発射された狙撃弾が次々跳弾しながらやくざを倒す……この技はロキだろう。

 

「な、なんなんだよいったい……」

「もうだめだ!」

 

逃げようと門に殺到した……するとそこに突然煙が沸く……

 

「なんだこがはっ!」

「げほっ!ぐわっ!」

「なんぐぉ!」

 

煙に乗じて次々ヤクザが倒されていく。

 

「ちゃんとできたわね。あかり」

「はい!」

「大丈夫ですよね?先輩」

 

辰正の言葉に黙って一毅とキンジはうなずく。

 

「よぅっし……やってやろうぜ!」

 

一毅も刀を抜き直して構える。

 

「誰一人として逃がすな!この場で全員逮捕だ!」

 

キンジの号令と共に全員飛び出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果として快勝だった。記す必要もなかった。まあこの面子で苦戦することはないだろう。

 

全員を縛り上げ転がしながら久々にあった面子で話す。

 

「レキとロキもこっちこいよ」

 

一毅が通信機で連絡をいれてると、

 

「それでこいつは織田信長って答えたんだぜ?」

「一毅先輩……日本人としてその歴史認識はどうなんですか?」

 

ライカに突っ込まれ一毅は頬を掻く。

 

「…………」

 

それを望月は呆然と見ていた……その視線にキンジは気づく。

 

「……これが本当の俺だ。望月」

「え?」

「君の嫌いな暴力の中で生きる人間だ。今まで黙っていてすまない」

「……ううん……何となく遠山くんって違うところにいる人間なんだなって言うのは少しわかってた。桐生くんもね」

「そうか」

 

そして今度は菊代を見た。

 

「しかしこれでもう鏡高組はダメだな」

「ヤクザ家業なんてそんなもんだよ」

 

フッと菊代が笑った。何か色々落ちた感じだ。プレッシャーとかあったんだろう。だがそこに……

 

「しねぇえええええええええ!!!!!」

『っ!』

 

ホストみたいな雰囲気の男がキンジに向けて銃を構える……

 

「遠山!!!!!」

 

菊代が両腕をキンジを庇う。

だがキンジは防弾制服だったし龍桜も着ている。本当は大丈夫だった……だが菊代はとっさだったため庇ってしまったのだろう。

そして銃弾が発射される。

 

(不味い……菊代のは防弾仕様じゃない……!)

 

だが今からでは今までの技では間に合わない。

皆も咄嗟の事で反応できてない……どうする?このままでは菊代は死ぬ……そんなことをさせるのか?ヒステリアモードの自分が……

 

(一か八かだ!!!!!)

 

するとパシッと言う音が当たりに響いた……

 

『…………へ?』

 

全員が唖然とした。というか顎が外れそうな位あんぐりした……一見菊代を抱き締めてるように見えるが違う……そんなんじゃない……

 

「流石にこのカイロは熱すぎるな……」

 

キンジはポイッと()()()()()()()()を捨てた。

 

『つ、遂にやったぁあああああああああ!!!!!』

 

全員がビックリ仰天である?いつかやりそうではあった……だが本当にやったのだ……銃弾キャッチ……

 

銃弾掴み(ゼロ)ってとこかな?」

「き、キー君まじ人間離れ人間……」

 

理子の言葉に全員がうなずく。

 

「ち、この!」

 

再度ホストみたいな雰囲気の男が銃を構えたが、

 

「こっちだ!」

「っ!」

 

一毅が間合いを詰める。

 

「オラァ!」

 

飛んでくる銃弾は全て刀で弾くと銃を切り飛ばし腹に渾身のパンチを打ち込んで気絶させる。

 

「今度こそ全部か?」

「だな」

 

キンジが来た。

 

「しかしなんでここにGⅢまで居んのよ」

 

アリアがもっともな発言をして来た。

 

「色々あってな。あとこいつはGⅢではなく金三だ」

「だからその呼び方止めッつってんだろうが!」

 

金三がキンジに飛び蹴りをした。

 

「あ、そうだ兄貴。さっきの銃弾キャッチもう一回やってくれよ、そしたら俺もやってみるからよ。交互でやろうぜ」

「絶対やだよ。そんな命懸けのキャッチボール」

 

キンジが断固拒否の構えだ。

 

「さて……どうするかねこれから……」

「俺は風呂入りてぇ……寒い」

「あ~……じゃあ皆でうちに来るか?すぐそこだし今回の報奨がわりに旨い和食が出るぞ」

 

そうキンジが言うと皆は賛成した。だが……

 

『っ!』

 

全員が無意識に鏡高組の屋根を見た……そこにいたのは……まだ捕まってるはずのココ……?更に、開幕の時にいた静幻というやつ……その隣に立つ幼げな面立ちの少年……だが一際目を引くのはもう一方の二人だ……

 

一人は十歳前後の小さな子供……だがその持つ雰囲気は……人間じゃない……その少女は……眠そうに目を擦る。

 

もう一人は広い肩幅……一毅と同程度の身長……肩に担ぐ檄が小さく見える……その男は……楽しそうに笑った。

 

 

「ルゥ君……一応言っておきますが今はダメですよ」

「別に良いだろう……俺が戦いたいのあいつだけだ」

 

一毅と視線が交差する……

 

「俺はルゥ ホァンツェン……桐生一毅……死合おうぜ……」

「っ!」

 

次の瞬間空へ飛び出したルゥが檄を一毅に降り下ろす。

 

「くっ!」

「一毅!」

「大丈夫だ!」

 

一毅は刀を2本抜いて二刀流になる……

 

「気をつけてくださいね……彼は強いですよ?何せ彼は三国志上一人の武では最強と言われた男の名を次ぐ男ですから……」

「なに?」

 

キンジが静幻を見る。

 

「ルゥ ホァンツェンは中国での呼び方です……日本で分かりやすく言うなら……呂 奉先……劉備、関羽、張飛の三人掛かりでも敵わずそこに曹操の軍勢も交えてようやく捕らえた最強の武将の名を継いだ男です」

「おいおい……マジかよ……」

 

すると通信が入る。

 

「レキ?」

【敵襲を受けています……気を付けてください】

「絶賛もう来てる……」

「ウルスの方にいかれたのは貂蘭という人です……貂蝉の子孫と言えばわかりますか?」

「……」

 

近くで剣撃の音がして遠くから発砲音……キンジはこの場をどうすれば良いか頭を動かした……




次で終わると思っていたが終わりませんでした。次回で今度こそ終わらせます。

そして新キャラ三名……これ以上は増えません。因みに貂蝉は史実では存在しないそうです。


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龍と金の高校生活の終わり

「くっ!」

「お姉ちゃん!」

 

レキとロキは遮蔽物に身を隠す。

 

「凄腕のスナイパーです……距離は凡そ2000と少し……ですが狙いはえげつない位上手いですね……しかも……」

 

レキが一瞬身を乗り出して発砲する。

 

「え?」

 

だが銃弾は弾かれた。

 

銃弾撃ち(ビリヤード)も基本技術として使えるようですね……しかもココさんとは違い油断や慢心もない……」

「勝てそう?」

「どうでしょうね……自分と同程度の狙撃主なんて相手取ったことの方が少ないですし……」

 

(どちらにしても一毅さんたちは大丈夫でしょうか……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おら桐生!」

「ちぃ!」

 

一毅の二刀とルゥ……いや、呂布の檄がぶつかり火花と轟音を辺り一帯に撒き散らす。

 

「くははは……良いなぁ!俺の檄を正面から受け止めた奴は殆どいねぇ!誇って良いぜぇ!」

 

そう言いながら呂布は拳を突き出す。

 

「くっ!」

 

その拳を一毅は躱しながら斬り上げる……相手の意識から僅かにだが外れた斬撃だ。しかし呂布は意図も簡単に躱した。掠りもしない。

 

「あぶねぇなぁ!そっから来てたのは気づかなかったぜ」

『っ!』

 

反応の仕方がおかしいのに周りは気付いた……そしてこの避けてから相手の攻撃に気付く回避……それを皆は知っていた。

 

「お前まさか……」

「ああ……お前も心眼使えるんだろう?桐生!」

 

檄での突き……ただそれだけだが呂布が放てば音を置き去りにする音速の突きだ。

 

「この!」

 

だが一毅も体に走る電流と共にギリギリで回避した……

 

「やっぱまだ使いこなしてないんだな……お前」

「残念ながら……なぁ!」

 

体制を崩しながらも一毅はそこから回避と共に斬撃を放つ技、二天一流 秘剣・霞ノ太刀を放つ。

 

「くはっ!」

 

呂布は笑いながらそれを歯で噛んで止める。まさかこの間清寡に使った防御技がこんな場面で相手に使われるとは思わなかった一毅は驚愕した。

 

「おっらぁ!」

「がっ!」

 

一毅の腹部に呂布の拳が刺さる。

 

「一毅先輩!!!!!」

 

ライカが呂布の脇腹に拳を叩き込む。だが……

 

「かた……」

 

腹筋が固すぎてダメージにならない……

 

「お前はたしか火野 ライカだったな……関羅から聞いてるぜ!!!!!」

「この!」

 

そこに辰正が首を後ろから締める。

 

「おぉ?」

「は!」

 

更に、陽菜が檄を持ってる方の腕関節を極める。

 

「これで……」

「どうでござるか!」

 

だが呂布はニタァっと愉悦の表情だ。

 

「こいつは良いなぁ……いいダイヤの原石があるじゃねぇか……だけどよぉ……」

 

お前らじゃ俺の相手にならねぇよ……そう言って呂布は陽菜の着いた腕を振ってライカにぶつける。

 

『がっ!』

「もういっちょ!」

 

陽菜が離れたのを確認した呂布はそこから後方宙返り……辰正の頭を地面に叩きつける。

 

「お前ら……っ!」

 

一毅が駆け寄ろうとした瞬間ドクン!と体が脈を打つ……

 

(これは……)

 

一毅は無意識にその方向を見た……その先には猿の尻尾のようなものをちらつかせた黒髪の少女が立ち上がったところだった。

 

(なんだあれ……)

 

一毅は知っている……彼女が何者なのかを……知識としてじゃない。一毅の内にいる何かが言っているのだ。彼女は……

 

「おいよそ見してる暇はないぜ!!!!!」

「なっ!」

 

呂布が叫ぶと次の瞬間その体から深紅のオーラ(レッドヒート)が溢れた。

 

(あいつもヒートが使えるのか!?)

 

とっさに一毅も深紅のオーラ(レッドヒート)を体からだし迎撃体勢をとった。

 

一毅と呂布が振りかぶる……そして、

 

「二天一流 必殺剣!二刀瞬斬!!!!!!!!!!」

「ルゥオアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

 

二人が一瞬交差する……そして、

 

「がはっ!」

 

一毅が鮮血を撒き散らしながら膝をつく。

 

「か……は……」

「惜しかったなぁ……く……」

 

呂布も脇腹から走った痛みに眉を寄せる。痛み分け……と言ったところだった。

 

だが一毅はそうは思えない。呂布はまだ余力を残している。まだ本気じゃない……

 

(くそ……)

 

引き分け……と言うには一毅自信は思えない引き分けとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(不味い……)

 

呂布と一毅が戦っている最中にさっきまで黙りだった少女まで動き出した。

 

「猴さん……まだダメですよ……」

 

それを口で制するのは静幻の隣にいた少年だった。

 

「お前は……」

「あ、初めまして。俺は姜煌(きょうふぁん)……姜維という武将の子孫です」

 

たしか姜維は孔明の弟子だった男のはずだ。

 

「よくわかんねぇが……やっちまえば同じだな」

 

そう言ったGⅢがキンジで言う桜花……名は流星(メテオ)と言う技をする構えをとって先ほど立ち上がった少女に狙いを定める。

するとそこに、

 

「止めるんじゃGⅢ!」

「玉藻!?」

 

キンジが驚く。

 

「お主もじゃ孫!ここで暴れれば問題となる!」

 

だが孫と呼ばれた少女は聞いていないようだ。だがあの少女は猴と言う名前じゃないのか?

 

「へ……何もんだか興味ねぇな!」

「GⅢ!あれの名は斉天大聖 孫悟空!!!!!神じゃ!人の身では勝てん!」

『っ!』

 

キンジ達は驚愕した。今まで本当にいろんなやつに出会ってきたがまさか孫悟空本人とは……通りで何か人間とは違う気がしたが……

 

「何をしている星伽巫女!今すぐ抑えろ!」

「あ、はい」

 

そう言って白雪が腰のイロカネアヤメに手を掛けようとした瞬間、

 

「っ!」

 

白雪を狙った銃弾が飛んできた。

 

「スナイパーだ!」

 

恐らくレキ達と戦ってた奴だろう。しかしレキ達と対峙しながらこっちにまで狙いをつけるとは……かなりの手練れだろう。

 

「ああめんどくせぇな……待ってらんんねぇぜ!」

 

そう言ってGⅢが流星の構えから走り出し加速する……

 

「やめ……」

 

ろと玉藻が言おうとした……だが言い切ることはなかった……何故ならば……

 

「が……」

『え?』

 

全員が呆然とした……次の瞬間一瞬猴とか孫とか色々な呼び方で呼ばれた少女の目が緋色に光った瞬間……GⅢの胸に風穴が空いたのだ。

 

「GⅢ!」

 

キンジが叫ぶ。不味い……ここで戦力が一人削られた……このままでは……

 

(何か……ん?)

 

キンジはポケットに入っていたやつを引っ張り出す……

 

「お前ら!逃げるぞ!!!!!」

 

キンジがそう叫んだ瞬間何かを地面に叩きつけた……そしてそれは多量の煙を撒き散らす。

 

「一毅先輩行きますよ!」

「……あ、ああ!分かってる!」

 

ライカに正気に戻され一毅も走り出す……

 

「静幻先生……逃げられちゃいますよ?」

「今回はこれでいいでしょう。猴は眠そうですしね……あちら一人戦闘不能にできただけでもいいでしょう。どうでしたかルゥくん……桐生一毅は……」

「悪くない……いや、最高だ。俺に傷を負わせるなんて全盛期のあんた以外にはその猿女位だからな。俺はまだまだあいつとなら強くなれる」

「全く……まだ強さが成長過程とは……」

 

姜煌はため息をつく。

 

(しかも桐生一毅と戦う中でまた強くなったし……まああっちも同じか)

 

姜煌は相手が逃げた方向を見ていると静幻が電話を掛けた。

 

「あ、貂蘭さん。こっちに戻ってください。戦闘は終了です」

 

電話の相手が同意したのを確認すると静幻は電話を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……追っ手はないか?」

「大丈夫みたいよ」

 

キンジ達が一息つく。

 

「大丈夫かGⅢ……」

「このくらい屁でもないぜ」

 

キンジが聞くとGⅢは笑った。

 

そう、GⅢは生きていた。何と途中でヤバイと思ったGⅢは咄嗟に体を傾け内蔵に傷をつけられないようにしたらしい。撃たれるときの対処法があるとは流石アメリカだ。因みに内蔵避け(オーガンスルー)と言うらしい。

 

「つうか慌てすぎなんだよ」

「そんな人間がやらねぇような技で生きてるとは思わねぇよ」

「兄貴にだけは言われたくねぇよ」

『確かに……』

 

他の面々は同意した。

 

「お前ら……」

 

キンジはこめかみをヒクヒクさせる。

するとそこにヘリが来た。

 

「サード様!?」

 

中から出てきたのは狐耳の少女だ……この間も見た。

 

「久しぶりじゃの九十九」

「え?」

 

コニャーンと言う効果音が流れたかと思うとキンジの懐から玉藻がドロンと出てきた。いつの間に……

 

「てゃ、てゃみゃもみゃみゃ!」

「落ち着け。今はこやつの治療を急ぐんじゃ。あと、姉たちにも騒がぬように伝えておけ」

「は、はい!」

 

そう言ってGⅢを運び込むと九十九はキンジにアッカンベーしてから入り一応付き添うとかなめもヘリに乗った後そのまま飛び立っていった……

 

「玉藻……あいつは一体何者なんだ?」

「言ったじゃろ……孫悟空本人……神じゃよ」

「……」

 

何となくそれだけじゃないのは今のキンジにはわかったが聞いても教えてもらえまい。諦めよう。問い詰めるには情報が足りない。

 

「後桐生。お主は気分が優れぬとかないか?」

「んにゃ……斬られたところは痛いけど特に他にはないかな」

「そうか……」

 

玉藻はどこか複雑な表情をした。

 

「お主は孫には近づくなよ」

「は?何で?」

「何でもじゃ……」

 

そう言って玉藻は白雪に一瞬アイコンタクトをとってからまた消えていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「突然だが……遠山と桐生は転校することになった」

 

事件から三日後……いろいろな後始末を終えてキンジと一毅は転校というか元の住処に変えることになる。

それでクラスは騒ぎになるが望月だけは知っていたのでまだ落ち着いているがそれでもつらそうだ。

 

「まあ世話になったな」

「元気でな」

 

二人がそういうとクラスの皆は一度顔を見合わせて……

 

『せーの……遠山!桐生!駆け落ち先でもお幸せに!!!!!』

『駆け落ちじゃねぇよ!』

 

完全にオホモダチ認定されてたことに二人は驚愕しつつ突っ込みをいれた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後電車に二人は乗った。学校は残念だが半分しか受けていない。まああんまり長くいると里心着いちゃうし良いだろう。すると、

 

「遠山くん!」

「え?」

 

ドアが閉まる前に望月が来た。

 

「学校はどうした?」

「抜けてきちゃった」

「おいおい」

 

キンジが呆れた。一毅も肩を竦める。

 

「何か用か?」

「う、うん……あのね……帰っちゃう前に……それくれない?」

 

キンジの第2ボタンを指差しながら望月は言った。それを見て一毅はため息をつく。着実にハーレムランドの住人増やしてる幼馴染みはその意味が分かってないがまあ良いだろう。

 

「別にいいが」

 

どうせもう着ないしとボタンを千切って渡す。

 

「あ、ありがと!」

 

望月は小躍りしそうだ。そんな良いもんじゃないけどなぁとキンジは頬を掻く。

 

「じゃあさよならだな」

「……」

 

キンジがそう言うと望月は黙る……そして、

 

「私……遠山くんに言っておきたいことがあるの……」

「え?」

「私ね……」

 

そこにドアが閉まる……

 

《遠山くんのことが……》

 

読心術で読めるが……キンジは読まなかった。何となく……望月の言葉は聞いちゃいけない気がした。

 

彼女と自分は違う場所にいる。今の言葉を聞いてしまったらその意味がなくなってしまう気がした。

 

「で?何かいってたのか?」

「さあな……ドアが閉じて発進しちまったから分からん」

 

キンジがそう言うと一毅もそうかと頷いた。

 

「傷はいいのか?」

「セツさんのお握り腹一杯くって唾着けて治した。まだ痛いけど戦いには支障はない」

「だからどういう回復能力だっつうの」

 

キンジは肩を落とす。

 

「で?これからどうするんだ?」

「決まってるだろ……」

 

キンジが一毅を見る。だよなぁと一毅も見た。

 

『反撃開始だ』

 

コツンと拳を軽くぶつけて二人は笑いあった。



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談話
対談Ⅷ


咲実「7話ぶりにこんにちわ~咲実ですよ」

 

キンジ「だんだん挨拶のネタがなくなってきたんだろ?」

 

咲実「ぎく……」

 

一毅「そりゃもう8回目だもんな」

 

レキ「作者の乏しいセンスではここら辺りが限界ですかね」

 

アリア「そうね」

 

咲実「泣きたくなってきた……」

 

皆『と言うわけで始まるよ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一毅「しかし藍幇の新キャラは三人か……」

 

ライカ「あ、これで全員一人ずつ相手ができましたね」

 

アリア「アタシは?」

 

あかり「多分姜維の子孫の姜煌じゃないですか?」

 

咲実「そうなるね。ほら、静幻って昔シャーロック・ホームズと戦ったらしいし世代を変えて戦う感じにしたいかなって」

 

白雪「それで調子に乗って書いたんだね?」

 

理子「それだと戦闘数がバカみたいに多くなるけど良いの?」

 

咲実「………………………………」

 

辰正「完全に忘れてたね」

 

志乃「ある程度は勢いも大切ですけどね……」

 

陽菜「苦労するのは拙者たちでござるよ……」

 

レキ「後は作者自信です」

 

一毅「まあ作者は自業自得だから良いけどさ」

 

咲実「前々から思ってたんだけど君たちの俺に対する扱い酷くない?」

 

ロキ「今更だね……だけど銃弾とか飛ばないだけましでしょ?そこのキとンとジがつく先輩より」

 

レキ「初期の頃は飛びましたけどね」

 

一毅「でも確かに銃弾は飛ばないし刀は来ないしバリツはないし……キンジよかマシじゃね?」

 

咲実「確かにそうかも……」

 

キンジ「そうだそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「そういえば最近気づいたんだけどUAがついに五万突破したんだよね」

 

アリア「あらほんとだわ」

 

ライカ「何だかんだで読んでくれてる人がいるんですねぇ」

 

志乃「次は十万ですか?」

 

咲実「そうなるね。頑張って書かないと……」

 

レキ「ファイトです。そしてついでにイチャイチャさせてください」

 

咲実「ぜ、善処します……」

 

ロキ「いや、善処じゃなくてしてよ」

 

ライカ「そうだそうだ!」

 

白雪「と言うか最近アリアキンちゃんと接近しすぎ!そんな羨ま……じゃなくて少しくらい自重しなさい!」

 

アリア「べー!」

 

理子「でも確かにヤバイよね……このままじゃ……」

 

咲実「まだ出番あるだけいいじゃん。って言うのじゃダメ?」

 

白雪&理子『ダメ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「そう言えば赤松中学先生がインフルエンザで倒れて最新刊の発行が遅れるんだってさ……チクショー!」

 

キンジ「それはどうしようもないからな……諦めて待て」

 

咲実「誰かタイムマシン作ってくんねぇかな……」

 

一毅「無茶言うなよ……」

 

あかり「ま、それは置いといて……最近また新しいラノベに嵌まったんですって?」

 

咲実「うん。友人とか知り合いにお勧めしにくいランキングベスト5くらいには入るだろうライトノベル……石踏一榮先生作・【ハイスクールD×D】って言うやつ」

 

理子「あ!それ知ってる!主人公が女子の胸で強くなるやつ」

 

一毅「どんな話だよ……」

 

理子「いやマジでね、胸と自分のハーレムのために限界の一つや二つ何処ろか百個位越えていくやつ」

 

アリア「何かキンジみたいなやつね」

 

キンジ「全然違うだろ!」

 

アリア「性的興奮と似たようなもんでしょ?」

咲実「この作品の主人公もハーレム王だしキンジとその部分だけは似てるかもね。性格は全然ちゃうけど」

 

陽菜「まさかそれも書く気でござるか?」

 

咲実「何れわね。だけど今はこっちの方が忙しいしもう一個書いてるのがあるし……他にも書きたいのが多すぎて……」

 

白雪「書くんだったらどんな感じになるの?」

 

咲実「それでも龍が如くのクロスかな。まあ一毅でないしこの作品では見参を主軸においてるけどそれでは維新を主軸にするだろうしね。でもほんとに当分は書けないと思いたい。書きたいの多すぎる」

 

志乃「例えば?」

 

咲実「龍が如くのシリーズには外伝作品としてOF THE ENDって言うナンパリングの作品があるんだけどね?それをこの作品のキャラでやってみたいんだよね。ある人からリクエストもあって書きますといって全然やってないから書きたいし……AA視点での話も書きたいし実はこの作品の長編特別編を現在構想してて……」

 

辰正「多すぎじゃないですか!」

 

咲実「分身の術が欲しいね今凄く……」

 

ロキ「前途多難だねぇ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「そう言えばさっき五万人突破したって言ったじゃん?」

 

キンジ「そうだな」

 

咲実「だから特別編を書きたいんだけどね~……ネタが思い付かない!!!!!」

 

一毅「お前な……」

 

咲実「ま、そのうちってことで……」

 

レキ「自然消滅パターンですね」

 

咲実「………さ、さぁ質問コーナーいこうか」

 

アリア「大分無理矢理話を変えたわね」

 

咲実「と言うわけで質問者はマダラ様から……内容はこちら」

 

【ライカは普段、休みの日は何をしてるのでしょうか?

 

後、理子がAAの毒の一撃(プワゾン)でアカリを通してアリアの幻影を見ていましたがが、ライカを通して一毅の幻影も見えたのでしょうか?

 

そして、ライカちゃん、一毅(桐生・宮本)が扱う二天一流を真の意味で扱えた感想は?】

 

咲実「ではさくっとライカさん。まず休みの日に何やってんの?」

 

ライカ「アタシはレキ先輩と一毅先輩の間くらいに起きるかな。大体六時くらい。それから一時間くらいランニングに出て帰ってきたらトレーニングルームと名付けられた部屋があるからそこでトレーニングしてシャワー浴びてから朝御飯食べて、その後はあかりたちと出掛けたりハイマキのグルーミングしたりして時間潰してたりするかな。夜だと結構皆でババ抜きとかするけど」

 

ロキ「お兄ちゃん弱いよね」

 

レキ「すぐ顔に出ますから」

 

一毅「う……」

 

咲実「じゃあ次はライカに一毅の幻影を見たかだけどそれは理子に聞くべきかな?」

 

理子「うーん……その時はどちらかって言うとカズッチと同じ技を使うのはわかってたし少し驚いたけどね~。その時はキーくんの幼馴染みでちょくちょく話すクラスメイトって感じで興味なかったから思わなかったかな。でも今はちゃんとカズッチと同じなところもあるってわかるよ」

 

咲実「では最後に真の意味で使えた感想は?」

 

ライカ「ずっと自分に合うやり方がわかんなかったけどやっと理解できた感じで嬉しかったかな。その辺詳しくは中国でしっかりやっていく」

 

一毅「俺もしっかりしねぇとな。そう言えば台本で見たけど俺もやっと進化するっぽいな」

 

キンジ「確かに一毅の成長部分はあまり触れられなかったのに今回は書くんだな」

 

咲実「寧ろ今回に集約させてるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「さて今日はこんなところだな」

 

一毅「さて次回からはついに中国編!この作品ではどうなっていくのか……」

 

キンジ「多分色々ゴチャゴチャさせながらしっちゃかめっちゃかになって行くんだろうけどな」

 

アリア「そして一毅の体の異変とは……」

 

白雪「それの答えって実は前から伏線あるんだよね?」

 

理子「作者なりにね。それがちゃんとなってるかは別だけど。でも言われたらそう言えばってなるかもね」

 

レキ「なってもらわないと意味ありませんけどね」

 

あかり「さて次回からは私たちも大活躍です!」

 

志乃「あかりちゃんが頑張る姿……ハァハァ」

 

辰正「キンジ先輩とアリア先輩の関係にも注目です!って言うか作者さん。僕とあかりちゃんのもどうにかならないんですか?」

 

ライカ「そしてそろそろアタシ達もイチャイチャさせてください」

 

陽菜「拙者も出番が欲しいでござる」

 

ロキ「そんな皆でお送りいたします中国編をお楽しみに」

 

皆「感想評価いつでもお待ちしてます。応援してもらえると凄く盛り上がります。では!」

 

咲実「あ、次回ロキだけ出番があまりないから」

 

ロキ「え゛?」



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第十一章 中国戦乱
龍たちと飛行機


「つうわけでこれからのことについて話し合いをするわけだが……お前ら」

 

学校から帰ってきて早々キンジは皆を呼び出した。のだが……

 

「何でお前ら体操着なんだよ!」

『さっき体育だったから(よ)(だよ)(ですよ)』

 

まあそこは仕方ない部分もあるがなぜ着替えてこないんだとキンジは頭を抱える。

 

「いきなり至急集合とかメール寄越すから皆で大慌てだったのよ」

 

アリアの言葉にキンジは過去に行けるんだったら至急とかメールに書かないように言ってやりたかった。

 

「それで?なんのようだ遠山」

「いやその前にジャンヌ……何でお前だけブルマなんだ?」

 

キンジはそこが一番気になった。

 

「日本の伝統的な運動着だと聞いてな」

 

そう言って形のよくて白い足を見せてくる。やめてくれヒスるから……

 

「それでキンジ先輩どうしたんですか?」

 

辰正が軌道修正してくれた。

 

「ああ、この場には前回の襲撃に立ち会ったのもいるだろう」

『………』

 

全員うなずく。ジャンヌやワトソン等の居なかった面子も話だけは聞いているようだ。

 

「それでワトソン。あいつらは中国に帰ったんだな?」

「ああ、玉藻からの情報だけどね」

 

キンジはそれを聞いてうなずく。

 

「今回俺たちは迎え撃つ側だった。だが今度は違う。こっちから攻めるぞ」

「と言うと?」

 

あかりが聞き返す。

 

「俺達二年は修学旅行(キャラバン)Ⅱがある。その行き先にはなんと香港があるんだ」

「成程ね……でもあかりたちはどうするのよ」

「アリア。校則をよく見てみろ。修学旅行(キャラバン)Ⅱだけは実は二年生一人につき後輩一人を後学のためにという理由で連れていくことが出来るんだ」

 

そう言われ全員が見る。

 

「本当だわ……」

「基本的には戦妹(アミカ)を連れていくのが多いみたいだが実際は特にそんな制約はない。だから……」

 

全員がその権利を使うと全員が行くことが出来るという計算になる。

 

「まあロキの場合は二学期からの途中入学だから課題とか与えられてるからダメだけどな」

「ま、私はワトソン先輩と一緒にお留守番組だね」

 

妙に聞き分けがいいなとレキが首をかしげた。

 

「じゃあ俺の権利で陽菜、アリアの権利であかり、白雪の権利で志乃、レキの権利で辰正、一毅の権利でライカ連れていけば大丈夫だろ?」

「ふむ……どうした遠山。随分やる気じゃないか」

「弟がやられたんでな。敵討ちくらいしとかないと腹の虫が収まらん」

 

珍しく少し気が立ったキンジを見て一毅は笑う。

 

「そういやお前がリーダーだったな、キンジ」

「やかましい!……で?呂布についての情報は?」

「こっちもすぐに分かったよ。呂布 奉先……香港藍幇において最強の武を誇っている男だ。今まで数多くの戦いをこなしてきたが負けなしの男だ。その中には複数人や銃器もあったらしいが傷すら負わせられなかったらしい」

「俺そんなやつと戦ったのかよ……」

 

一毅は空を仰いだ。

 

「多分向こうにいってもお前が相手をすることになるぞ?」

「だろうな……まあ俺以外じゃ戦えないだろ」

 

一毅のいった言葉は誇張でもなんでもない。僅かとはいえ挑んだライカ、辰正、陽菜は呂布の強さの一端を見ている……文字どおり化け物じみた武力を味わっていて二度と戦いたくないと思ってしまう。だが一毅はどこか楽しそうだ。

 

「私もあの時は一方的に撃たれしまいましたからね。今度はしっかりやり返します」

 

レキもやる気十分といった感じだ。

 

「あ、そうだ。忘れていたが……保釈金を積んでココ達や夏侯僉と周岑が保釈されたらしい」

「となるとアイツらとの戦いもあるのか……」

「ココたちにはカズッチがまたお尻ペンペンしれやれば良いんじゃない?」

「おいおい……」

 

一毅が理子の言葉に肩を竦める。

 

『ああ!!!!!』

 

すると今度はあかりと辰正と陽菜が声をあげた。

 

「今度はどうした?」

「これって……自費っすよね?」

『あ…………』

 

あかりと辰正と極めつけに陽菜は万年キンジも目じゃないほどの赤貧であり1ヶ月一万円生活を一年中している状態だ。その二人が海外へ出るなど金銭的な問題で難しい……

 

「な、何とかならないの?」

「いや白雪……学校には行って帰ってきたら経費という形で落とすことになるからな……前借りは無理だ……」

「さ、三人は泳いできたらどうだ?」

『一毅先輩じゃないんですから無理です!』

 

ワトソンに3人で反撃した。

 

「いや俺だって泳ぐのは無理だって……」

「なら私に任せてください!」

 

すると志乃が立ち上がった。

 

「あかりちゃん……とついでにおまけに谷田君と風馬さん。私に任せて」

「お、お金貸すとかダメだよ?」

「大丈夫だよあかりちゃん。飛行機代を0にする!」

『ええ!』

 

全員が驚愕した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「持つべきは金持ちの後輩だ……そう思わないか?キンジ」

「そうだな……一毅。だがどうやったんだ?」

 

話し合いから三日後……一毅とキンジたちは何故かでかい飛行機の特別ゲストルームにいた。なにこれ?

 

「前に先輩方が飛行機ジャックを捕まえられたでしょう?」

「いやぁ~とんでもない奴だったよね。きっと根性ネジ曲がった奴だよ」

 

お前の事だろうが!っとその時事件を解決した一毅、キンジ、アリアは内心理子に突っ込んだ。

 

「その会社の株を実家が結構持っていまして優待されるんです。ついでにちょっと社長さんを脅し――もとい、社長さんとお話ししてタダで乗せて貰えるようにしました」

今若干危ない言葉でなかったか?と 皆は思ったが下手なことは言わないに限る。

 

「で?あかりたちは何でそんな隅っこにいるのよ」

 

何故かあかり、辰正、陽菜は隅っこに小さくなってるためアリアが聞く。

 

「だ、だってアリア先輩!こんなお金持ちしか乗らないような所なんて完全に場違いですよ!」

 

フルフル震えながらあかりがアリアに泣きつく。

 

(あかりちゃん可愛すぎぃ……ハァハァ……)

 

こっそり隠し撮りしつつ志乃は鼻血を流す。

 

「お、俺お腹いたくなってきた……」

「し、師匠……拙者は恐らく明日辺り死ぬんでござるよ」

 

何か変なことを言い出した……

 

「か、一毅先輩!何か機内サービスすごいですよ!」

「本当にすごいな……これって全部タダなのかよ……」

何度か飛行機に乗ってるとはいえ一毅はライカと一緒に苦笑いした。

「とりあえず皆さん座りましょう」

 

レキが言うと皆はうなずいたけど

 

『じゃあ(キンジ)(キンちゃん)(キー君)(師匠)ここに……』

 

バチィ!と火花が散った……そう、誰がキンジと一緒に座るかである。

 

一毅はすでに三人ならんで座る席で一毅を挟むように座る。

 

因みに言っておくが前後の席が凄く離れているため隣の席に座れなければ中国につくまで会話は不可能だ。

 

「それじゃあいくわよ……」

 

全員が拳を握る……油断はない……負けても満足がいけば敗北じゃないなどというがそんなわけはない……勝負は一瞬……一発勝負!

 

『じゃん!けん!ポイ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中国に行ったら戦いもありますが観光も楽しみましょうね」

「そうだな」

「何処行きますか?」

 

一毅の腕にくっつきながら二人は話し掛けてくる。

ロキもこれたらよかったのになぁと一毅は少し思ったが秘密だ。

 

「やっぱり向こうに行ったら本場の焼き餃子とチャーハン食いたいなぁ」

「チャーハンはともかく焼き餃子はあんまりないですよ?」

「そうですよね?向こうは水餃子が主流ですし」

 

レキとライカに驚愕の真実を教えられ一毅の体に衝撃が走る。

 

「えぇ~親父が食いたがってたもんはあるのかよ……」

 

昔本場のチャーハンが食べたいと父と話したのを一毅は覚えていたため楽しみにしていたのだ。餃子は一毅の趣味だ。

 

「そう言えば一毅さん中国語大丈夫ですか?」

「アニョハセヨ~だろ?」

「一毅先輩。それは韓国語です」

「グーテンターク?」

「ドイツ語ですね」

「あれぇ?」

「ライカさん……一毅さんは私たちのどちらかが隣にいないとダメですね」

「そうですね……でないと一毅先輩とはぐれて会えなくなりますね」

 

一毅はしゅんと肩を落とした……

 

「それにしても俺呂布に勝てるかなぁ……」

 

一毅にしては珍しく弱気な発言だ。

 

「どうしたんですか?急に落ち込んで……」

「いや、結構今までどんな相手とでもどうにかしてきたしなってきちまってきたんだけどさ……今回の相手はそうもいかない感じだから少し俺も悩んでてさ……」

「……大丈夫ですよ」

 

一毅の腕にライカが抱きつく。

 

「大丈夫なんとかなります。一毅先輩は強いですから」

「そうですね。一毅さんが自分でいったように何とかしてきました。きっと今回だって何とかするんですよ。一毅さんですから」

「二人とも……」

 

一毅は少し楽になった。

 

「ありがとうな」

 

そう言って二人をそっと抱き締めた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふっふ……」

「何か随分ご機嫌だな……アリア」

「そ、そんなことないわよ?」

「何故疑問系?」

 

じゃんけんに勝利したアリアはご満悦で席に座って足をブラブラさせる。

 

「でもキンジもリーダーらしくなってきたじゃない」

「そうか?」

「ええ、アタシの勘は外れてなかったわ」

 

キンジは頭を掻いた。

 

「それでキンジ。あんた香港についたらなに食べるの?」

「さぁな……適当に済ませようかと思っていたんだが……」

「じゃあ一緒に食べましょうよ。美味しい店はたくさんあるけど一人じゃ入りにくいものばかりなのよ?」

「じゃあ頼む」

 

まあ海外慣れしてるアリアが一緒なら心強いだろう。

 

「じゃ、じゃあ何処がいい?何処かいきたいところある?」

「そうだな……じゃあきれいな夜景が見れるところがいいな。死んだ父さんが言ってたんだ。一度は見てみたいって」

 

そう言うとアリアは嬉しそうに頬を緩ませた。

 

「わかったわ。任せて」

 

デレデレである。別に飯を二人で食べるのくらい何時ものことだと思うが……恐らく自分の知識の無さが招いた事態か……

 

「どうしたのキンジ」

「っ!あいや……」

 

アリアが前のめりできた……その結果ブラウスから胸が見えそうに……いや、セーフだ。胸が平坦のため見えなかった。だがその視線にアリアは気づいたようで。

 

「悪かったわね小さくて」

「いやそういうわけでは……」

「男は大きいのが好きなんでしょ?白雪が夜中に電話してきていってたわ」

 

何してるんだアイツはとキンジは溜め息を吐いた。

 

「いや、別に……そういうのは特に俺は気にしない……大きかろうが小さかろうがアリアはアリアだしな……」

 

何気なくそう言うとアリアはニヘラニヘラ笑いだした。大丈夫かこいつ……

 

「そ、そう?それならいいわ……じゃあおやすみ!」

 

そう言って三秒で寝だした……ほんとよく寝るやつだ……育たないけどな。

 

等と知られたらフルボッコなことを考えつつキンジはアリアの寝顔を見る。

 

最近ふと考えることがある…… それはアリアとの関係だ……いろんな事件を一緒に解決したりして大切なパートナーと言える……だが、キスを……しているのだ……そのせいかどういう関係なのかが複雑に感じる。

 

付き合ってるのかと聞かれることがああるがそれはNOと言う。だが……ただのパートナーなのかと聞かれればそれもNOである。ただのパートナーではない。だが付き合ってるのかと聞かれたらそれもNO……自分とアリアはどういう関係なのか……そういう意味では一毅は羨ましい。はっきりしている。だが自分は中途半端だ……どうしようもないくらいな……アリアは貴族で自分はただの男……不釣り合いにもほどがあるな……付き合うとしても……

 

(まあいい……俺も寝よう)

 

これ以上考えると辛いだけなのでキンジはふて寝した……



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其々の思い

「うぉおおお!すげぇぞキンジ!!!!!全部中国語だ!」

「そりゃ中国なんだから当たり前だろうが馬鹿……」

 

バスカービル及び一年の面々は中国の地に降り立つ。

 

海外には初の一人である一毅はすでに大興奮。大丈夫だろうかこの調子で……

 

「取り合えずアタシが取ってあるホテルにいくわよ」

『おー!』

 

アリアに連れられ皆はある気だす……そして10分もすればそのホテルに着いた。

 

「じゃあまずは適当に観光で良いわね」

「まずはこっちが中国に入ったのをアピールするってことか」

「そ、まあこれは個々の実力が高くないと危ないんだけど大丈夫でしょ」

「どう分ける?」

「適当でいいわよ。複数人でもなんでもね」

「じゃ、じゃあキンちゃんいこう!」

「理子もキー君といく~」

「せ、拙者は師匠と……」

「あ、アリアはいかないのか?」

 

大体いつのこの辺りでバリツが飛ぶためキンジが聞くとアリアは別に、と言う顔だ。

 

「私は何処かで襲撃を受けたらホバースカートで援護に向かうわ」

「成程」

 

そういう感じで【キンジ・白雪・理子・陽菜】のチームと【一毅・レキ・ライカ】のチーム、そして【あかり・辰正・志乃】の3チームとなって行動を開始した……

 

「あ、そうそう。スリが多いから財布には最低限の金銭にしたほうがいいわよ」

 

アリアの助言が後にあんな事態を引き起こすとは……まだ予想もしてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「賑やかですね~」

「あと何か人が凄いな……」

「世界経済二位の国ですから」

 

取り合えずブラブラしようと一毅とレキとライカの三人は一緒に町を歩く。

 

「ヘイモテモテのお兄さん!これどう?」

 

何か露天で薦められた。果物みたいだな……というこのおっちゃん片言だけど日本語しゃべったぞ?

 

「あんた解るのか?」

「少し。日本人お金落とす。だけど話せないとお金落としてくれない。だから覚えた」

「あ~……で?これなに?」

「まず食べる」

 

食ってみた。結構旨いな。見た目とか食感はドライフルーツみたいだ。

 

「レキとライカも食ってみるか?」

「女食べてもあんまり意味ないよ」

「は?」

 

一毅たちは首をかしげた。

 

「お兄さん女二人もいる、だから多分凄く大変ね。これ食べると夜元気よ」

「ぶっふ!」

 

そう言う系統の食べ物かい!思わす吹いたがすげえバクバク食っちまったよ!

 

「他にはどんなのがあるんですか?」

「これとかこれとかもオススメね」

 

だがレキとライカはそう言うのを結構真面目に聞いている。

 

「これとかなんて男が積極的になるね」

『ください』

「…………」

 

何か色々と危機感が……

 

 

 

ホクホク顔で荷物を持つレキとライカをエスコートしていると服屋みたいな所が見えた。

 

「少し寄っていかないか?」

「良いですね」

「じゃあ行きますか」

 

三人は入る。

 

レキとライカの二人はちょっと見てくると奥にいった。その間にロキへの土産でも買おうと色々見る。

 

(うーん……ロキって身長のわりにスタイル抜群だからな……どういうのがいいのかよくわかんねぇ……)

 

買おうにもロキの体格に合う服が分からず必死にロキの体つきを思い出すという端から見たらただの変態行動をしていると、

 

「一毅さんどうですか?」

「え?」

 

振り替えると、

 

「レキ……パンダ……?」

 

振り替えるとそこにはキグルミに近いが体のラインをはっきり見せる服を着ているレキがいた。

 

「変ですか?」

「スッゲェ可愛い」

 

愛くるしすぎる。外じゃなくまだ買ってない服じゃなかったらムギュッと抱き締めてモフモフしてた。

 

「か、一毅先輩……」

「ん?」

 

すると今度は角から顔だけライカが出てきた。

 

「どうした?」

「こ、これ……」

「っ!」

 

出てきたライカはなんとチャイナ服……足の付け根にまで入ったスリットは綺麗な足をこれでもかと見せつけバランスのいい四肢とスタイルをチャイナ服が強調させる……眼福だ……

 

「に、似合ってませんか?」

「似合ってる。凄く綺麗だ」

 

うーむ……もしかして明日辺り俺は後ろから刺されるんじゃないか……と一毅は一瞬考えてしまった。こんな美女二人に囲まれて……しかも二人は自分が好きで……

 

(俺ってなにげにキンジのこと言えない?)

 

やっと最近自覚が出てきた一毅は内心で冷や汗を流した。

 

「じゃあそれにするか?」

『はい』

 

一応ここでの代金は一毅もちである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キンちゃんあれすごいよ!」

「あ~……」

 

「キー君あれ食べよ!」

「れ~……」

 

「師匠!あれを見てくだされ!」

「ま~……」

 

キンジは目をグルグル回す。

先程から西へ東へ駆け回り白雪、理子、陽菜の三人に引っ張られて駆け回っているのだ。

 

「ストーップ!」

『?』

 

キンジが号令をかけて止めた。それを聞いた三人は首をかしげる。

 

「す、少し休憩させてくれ……」

「も~キー君ホントに海外慣れしてないねぇ」

「仕方ねぇだろ……俺は純日本人だ」

「それを言ったらユキちゃんや陽菜っちもそうじゃん。て言うかここにいるのは理子以外全員日本人だよ」

 

確かにそうだった……とキンジは溜め息を吐いた……

 

「そんなにアリアがいないのがショックなの?確かにアリアは海外慣れしてるもんね、一緒にいたら楽かもね」

「違う!」

 

キンジが否定すると理子はケラケラ笑った……だが同時に胸の辺りがズキン!とキンジは痛んだ。

 

(慣れてる……か)

 

飛行機内での記憶が思い出される。

居場所が違って価値観も違う……向こうは海外慣れしていてこっちは同じアジア圏の国ですら四苦八苦……

 

今回泊まってるホテルだってそうだ。所謂スウィートルーム……高級そうな菓子もあるしベットも柔らかそうだ。

 

お菓子といって思い浮かべるのがポッキーとかポテトチップス何て言う自分とは違いすぎる。

 

所詮自分はパートナーでしかないのだろうか……今以上のことを何処かで考えてしまうとストップが掛かってしまう。これ以上突っ込めば互いが傷つくかもしれない。今の関係にヒビが入るかもしれない……それは嫌だ……ならそんなことは望まず今のままでいる事を頑張った方がいいだろう……

 

(ったく……海外だからって感傷的になりすぎだぜ……俺)

 

キンジは乱暴に頭を掻いた。すると、

 

「どうしたのキンちゃん?」

「あ……いや」

 

幼馴染みでも白雪や一毅には相談できない……

 

「じゃあ一旦集まろうって連絡があったからそれで良いよね?」

「ああ」

 

アリアからの連絡を受けた三人に引っ張られキンジは歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ~この髪飾り可愛いね」

「あかりちゃんにはこっちの髪飾りも良いですよ」

「…………」

 

あかりと志乃が髪飾りを見てたりする間辰正は荷物もちである。女二人に男一人となればそりゃ荷物持ちになってもおかしくはない。

 

「ん?」

 

すると連絡が入った。

 

「二人とも。アリア先輩が一度集まれだって」

「一度ホテルに?」

「ううん。この名前の屋台にだって」

 

そう言ってメールの文面を見せる。

 

「あ、これすぐそこですね」

「じゃあ急いで向かおうか」

 

あかりの言葉に二人はうなずく。

 

 

そこは屋台がたくさん所狭しと並ぶ一角であった。ここならそれぞれの好みで食べられるだろう。

 

「なにか飲み物買ってきますね」

 

そう言って志乃が買いにいった。

 

「でも海外なんて行くことになるなんてねぇ」

「一流武偵なら結構普通にいくらしいけどね……」

 

辰正はぼんやりと久しぶりに二人きりだなぁと思った。

学校では志乃やライカなどの友人がいるし自宅ではあかりの妹もいる。こう言うとき何か気の利いたことを言えれば距離が縮まると思うのだがなまじ幼馴染みで気心が知れてるせいで思い付かない。

 

(モテなくて良いけどキンジ先輩の女の子の扱い方が俺にもできたらなぁ……)

 

ヒステリアモードでなければキンジも女の扱いは不得手なのだが辰正を含め一年生たちはキンジのヒステリアモードを知らない。まあ何かしらのタイミングでキンジの中で何かのスイッチが入れ替わって女ジゴロで人間を辞めた状態になると言うのはぼんやりとわかっている。

 

「どうしたの?」

「あ、ううん……そう言えばあかりちゃんアリア先輩がキンジ先輩の隣に座ったときなにも言わなかったね」

「そりゃアリア先輩がキンジ先輩好きなの分かりきってるし……キンジ先輩が悪い人ではないのは分かってるしね……女誑しだけど」

「確かにね……」

「でも両想いの二人の邪魔すると馬に蹴られそうだしキンジ先輩がアリア先輩を泣かせなければそっとしとこうかなって」

「成長したね」

「どういう意味?」

 

あかりはジトーっと見てきたため辰正は視線を逸らした。

 

「でも今頃一毅先輩もデートか……そう言えばさぁ」

 

あかりが何か思い付いた表情になる。

 

「辰正って好きな人とかいないの?」

「お、俺ぇ?……俺は別に……あかりちゃんは?」

「どうだろ……よく分かんないや……でも本当にいないの?」

「それは……」

 

辰正は俯く……もしかしなくても今って告白するすごいチャンスなんじゃないだろうか……あかりは自分を異性とは見ていない……それはわかっている。故にある程度強引な手に出ると言うのも策の一つだと思う……しかしこのあと戦いがあるには間違いない。そんな状況でこのあとの連携に関わりかねない事をしていいのだろうか……だがチャンスを不意に出来ない……

 

(よ、よし……)

 

辰正は覚悟を決めた。

 

「あ、あかりちゃん……」

「何?辰正」

 

辰正は真剣な表情であかりを見た。

 

「僕は……」

「うん」

「僕は君がす【チキッ】うわぁああああああああ!!!!!!!!!!」

 

突然首に白刃が突きつけられた。

下手人は志乃である。

 

「何してるんですか?谷田君」

「なななななな何でもありません!」

 

あと少し遅ければ……と辰正は内心涙を流した……

そこに、

 

「おーい」

 

一毅やキンジたちがやって来た。

 

「何で志乃は刀を抜いてるんだ?」

「少し手が滑りました」

 

辰正の首に添えながら?と思ったが一毅は敢えて突っ込まなかった。

 

因みに、

 

(辰正もああいう男らしい表情するんだ……何か少し照れ臭かったな……)

 

少しだけあかりの中で変化が起きていたのは誰も知らない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ適当に何か買ってきてからアリアに連絡とるか」

「じゃあ手伝うぞ」

「あ、俺も」

 

男性三人が立ち上がる。

 

「何が良い?」

 

一毅が聞いているとキンジは何気なく横を見る。

 

(しっかし人が多いな……ん?)

 

その視線の先にはフリフリと揺れる名古屋武偵女子高の制服……異常なまでに短いスカートの下からは猿の尻尾……丈も異常に短いブラウスから黒くて長いクリッとした瞳の顔を出す……忘れもしないあいつは……何かラーメン持ってるけど間違いない!

 

「孫!!!!!!!!!!」

 

キンジの怒声にその場の全員どころか呼ばれた孫も驚愕して尻尾もビーン!と延びる。

 

「遠山!?」

 

キンジを見た瞬間驚きのあまりラーメンをおとした。

 

「ここであったが百年目だ!」

 

あのGⅢに穴を開けた技もあるためキンジは一気に孫との間合いをつめにかかり一毅たちも臨戦態勢を取った……そして孫は……

 

「ピィ!」

 

と言う奇声をあげてキンジから逃走した……

 

「待ちやがれ!」

 

それをキンジは追うため一気に加速した……



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金の迷子

「待て孫!!!!!」

「ピィイイイイ!!!!!」

 

孫は走る……とにかく走る……足で足りなければ手も使って走る……パンツ見えてるっつうの!

 

「逃げんな!」

 

こんな人通りが多いところでは発砲も出来ないのでキンジも走る。ヒスって無くてもキンジは蹴りを使うため足腰は強い。その為相当な速度が出ているが孫も速い。

 

「ひっ!」

 

孫は壁を蹴ってかけ上がる。猿だなホントに……

仕方ないのでキンジも路地にはいって同じ方向を走る。

 

「いつまでも逃げてんじゃねぇよ!」

 

キンジは悪態を付きながら階段を4段位飛ばして上がっていく。その先には孫が出てきた。

 

「ひゃあ!!!!!」

 

キンジが先回りしていたのは想像外だったのか孫が飛び上がる。

 

「ピィイアアアアア!!!!!」

 

孫は慌てて階段をかけ上がる……が、

 

「あ……」

 

上がりきった所で転んだ……

 

「やっと追い付いたぞ……孫」

「……」

 

キンジはベレッタを突きつけながら孫に近づく。

 

「動くなよ……変な動きをした瞬間撃つ……」

「………」

 

コツンと後頭部に銃口を押し付けた。

 

「ゆっくりとこっちを向け……だが変なことは……え?」

「……ふぇ……」

 

振り返った孫は瞳にたっぷりと涙をためている……

 

「お、おい」

「ふぇ……」

 

今にも目から涙は決壊しそうだ……いや、する!

 

「ビィイイイイエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエン!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

今の状況を説明しよう……

 

まず孫は見た目十歳が良いところの幼女である。そんな女の子の頭に銃口を押し付ける十七才の日本人……どっちが悪者だかわからない。いや、完全にキンジが悪者である。

 

「お、おい泣くな――いで!」

 

いきなり頭を叩かれた。振り替えると坊さんがいて銃を仕舞えとジェスチャーしてきた。

 

(よく見りゃここ寺じゃねぇか……)

 

そりゃ怒られると銃をしまうと今度はバナナを一房渡された……

 

(泣かせたんだから泣き止ませろと?)

 

キンジはまだヒックヒックとシャックリをしている孫をチラ見しながらバナナを受けとる。

しかしこいつはホントに孫か?と疑問が出てきた。これではどうみても見た目通りの子供である。

 

「おい孫」

「……?」

「バナナ食うか?」

「あい」

 

返事速いなおい……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまりお前は……孫じゃなくて猴だと?」

「あい。私は確かに孫でもありますが遠山が思ってるのとは違うのです」

 

話を聞いてみるとなんと孫は謂わば人格が入れ替わった猴だと言うのだ。自分と同じ人格変化による戦闘能力の変化とは……しかし猴の人格の方はずいぶん臆病らしい……そんなことを思っていると五本目のバナナを毟り取って剥いてアムアム食べだした。よく食うな……何かアリアが桃饅食うみたいだ。

 

「ですが貴方の弟さんを殺したのは事実です……」

「あいつは死んでないぞ」

「……え?」

 

猴はポカンとキンジを見た。

 

「あいつは人間辞めてるからな。死んでない」

「そう……でしたか」

 

猴は安心したようは顔だ。それからバナナをまた食べ出す。なんと言うか愛らしいと言うか小動物的な可愛さがあるな。

 

「だけど何であんなところにいたんだ?」

「ココにラーメン買ってこいと……」

 

ようはパシリか……キンジもアリアに桃饅を買ってこいとよくパシられるだけに他人事には思えない。

 

「それは……悪かったな」

「いえ」

 

アムアムとバナナを頬張りながら猴は首を横に振った。

 

「それでこれからどうするのですか?」

「そうだな……まずお互いの所に戻るか」

「え?」

「何か色々あるっぽいし一旦自分のところで考えた方がいいだろ」

「……わかりました」

 

猴はバナナを食べ終わると立ち上がる。

 

「それでは遠山……また会いましょう」

「ああ、それと……」

 

キンジは猴にお金を渡す。

 

「これは……?」

「俺のせいでラーメン台無しにしたからな……これで買い直せ」

「良いのですか?」

「ああ……」

 

キンジが頷くと猴は何度も頭を下げながら走り去っていった。

 

「さてと……」

 

今ので有り金全部渡したのは失敗だったかなぁと思いつつも最低限の金しかもっていない状態では全部渡すしかなかった……だが、

 

「ここどこだ?」

 

改めて落ち着いてみてみると全くわからない。猴を追って無茶苦茶に走ったから他の皆も居ない。

 

「ま、なら電話するか」

 

キンジは携帯を出す。すると既に大量の不在着信が入っていた。全部一毅である。電話を掛けるとすぐに出た。

文明の利器様様だ。ビバ携帯。マジで神。現代人の必須ツールである。

 

【キンジ!】

「わりぃ……でも大丈夫だ」

【あっという間に切り離すんだもんな……探していたんだぞ?何処にいんだ?】

「ああ、何か(プツン)寺に……あれ?」

 

キンジが携帯を見ると……

 

「あ……充電なかったんだった……」

 

文明の利器の役立たず!っとキンジは携帯を地面に叩きつけそうになったが我慢する。

仕方ないホテルに帰れば金もあるしタクシーを使って……いや、キンジは中国語が話せないためタクシーも使えない。

 

「仕方ねぇな……」

 

とにかく歩き出そうと足を進め出したのであった……取り合えず前向いて歩けば良いことあるさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「腹へった……」

 

とまぁ楽観的に考えられたのは最初の一時間くらいだ。それから更に二時間ずっと迷って計三時間も彷徨って放浪して……昼食も食べていないため腹が減ってへたり込んでしまった……

 

「うぅ……」

 

もし迷っていなければ日も落ちた今頃はアリアと飯を食べていたはずだ。なのに今は空腹で目が回ってきた。

 

今頃皆はどうしてるだろうか……と言うか絶対アリア怒っているだろう……もしこの先何かあって帰れてもアリアに殺されるかもしれない。いやその前に空腹の中この寒空の下にいたらそれだけで今日自分は死ぬ。

 

(……何か綺麗な川が見えてきた……しかもなんか父さんが手を振ってる?)

 

段々キンジは寒いし腹が減ったで意識が遠くなっていく……もうだめだ。

 

「☆□○◎■▲▽」

(?)

 

なにか聞こえた気がした。

 

「もしかして日本人か?」

「…………」

「どちらにせよここで死ぬな。店に迷惑だ」

 

ゲシゲシ蹴られた……痛い。

 

「……た」

「は?」

 

キンジは残った力で声を絞り出した。

 

「腹へった……」

「…………」

 

声をかけてきた声からして女の子は盛大にずっこけた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハグハグハグハグ!!!!!ングングングング!!!!!!!!!!」

「相当腹が減っていたんだな……」

 

キンジは店の中でまかない食であるが念願の食べ物を食っていた。空腹が最高の調味料とはよくいったものである。

 

「だけど何で行き倒れていたんだよ」

「道に迷うし金もないしでさ」

「…………」

 

落ち着いてみるとつり目で若干きつめの顔立ちだが整った顔立ちの女の子だ。

 

「あ、私はユアン。あんたは?」

「キンジだ」

「キンジね……で?どこのホテルにいきたかったの?」

「OZONEって言うやつだ」

「随分また遠くまで来たわね」

 

そんなにか?とキンジは首をかしげる。

 

「向かうのは明日にした方がいいわね」

「そうか……」

 

するとそこに突然何かが割れる音が響いた。

 

「ん?」

「▽■◎◎○□☆○!!!!!」

「■●★▽↓◆■□!!!!!」

 

中国語で何が喚いている。酔って暴れているようだ。

 

「人の店で……」

 

ユアンは立つとその二人のもとにいく。

 

「□◆◆▽★▲○!!!!!」

 

ユアンが叫ぶと二人はユアンをにらむ。

 

「■□▲▽○★◆!!!!!!!!!!」

 

おおかた関係ない奴はスッ混んでろって言ったんだろう。何となくわかった。等と考えてる暇はなく片方が瓶を掴んで持ち上げた。

 

「っ!」

 

ユアンが硬直した。

 

「ちっ!」

 

キンジは舌打ちをしてから飛び出した。

 

「っ!」

 

男はそれを知らずにユアンの頭に目掛けて瓶を降り下ろす……が、ユアンの頭にぶつかる前に腕を捕まれた。

 

『っ!』

 

その場にいた客も含め全員が腕をつかんだキンジを見た。

 

「◆★○?」

「わりぃんだけど中国語はわからねぇんだよ!」

 

そう言ってキンジは瓶を奪うと逆に男の頭に瓶を炸裂させた。

 

『おぉ!』

 

その場がざわつく。

 

「ぎゅぎゃ……」

 

声も漏らしながらキンジに瓶で逆に殴られた男は白目を剥いて気絶した。

 

「■□◆★○!!!!」

 

多分もう片方は「なにしやがんだてめぇ!」って言っているだろう。何となくニュアンスでわかる。

 

「おいユアン。怪我はないか?」

 

取り合えずもう片方は無視だ。まずはユアンの心配をする。

 

「あ、ああ」

 

ユアンは頷く。

 

「さて……もう片方はどうするかな……」

 

空腹のところを助けてくれた恩人に手を出そうとしたんだ。相応の報いを受けさせる。

 

「来いよ……」

 

クイッと指で挑発するようにコイコイとやると相手は案の定キレた。

 

「○■◆▽!!!!!」

 

何か叫びながらこっちに来る。それをキンジは横に跳んで躱すと蹴っ飛ばした。

 

「オォ!」

 

更によろけたところにハイキック、ミドルキック、ローキックと次々叩き込みクルリと反転すると後ろけりで顎を蹴りあげた。

 

「喧嘩を売るときは相手を良く見な……って言ってやってくれユアン」

「え、あ、ああ……□◆○■▲●★」

 

ユアンが通訳すると蹴りあげられた男が眉を吊り上げると飛び上がりキンジの腰に抱きつく。

 

「うぉ!」

 

そしてそのまま持ち上げると壁に向かって走り出す。

 

(ちっ!このまま叩きつける気か!)

 

キンジは肘を男に落とす。だが男は離さずそのままキンジを壁に向かって投げつけた。

 

(一か八かだが……!)

 

しかしキンジは空中で体勢を整え壁に両足を着ける。一瞬地面とキンジの体勢が平行になったところで壁を思いきり蹴って膝蹴りをお返しに叩き込んだ。

 

「シャア!」

『オォオオオ!!!!!!!!!!』

 

鮮やかなアクロバティック技に客も大興奮だ。

 

「おい、今回は見逃してやる」

 

キンジは膝蹴りを叩き込んで倒れていたやつの首襟を掴んで持ち上げると睨み付ける。

 

「だが今度酔った勢いで暴れてみろ……長江に沈めるぞ……ユアン通訳」

「いや……その必要はないよ」

 

ユアンは嘆息した。

 

「っ!」

 

何故なら完全に相手はビビっていたしキンジの口調で何となくニュアンスでどう言うことを言われてるかわかっていたからだ。

 

「なら消えろ」

 

キンジがそういうと男はまだ白目を剥いている男を抱えると走り出した。そして男たちが消えると……

 

『オォオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!』

 

拍手喝采と言うやつだった。

 

「なんだいったい……」

「キンジの動きで盛り上がってんだよ」

「マジかよ……」

 

あんなもん大したもんじゃない。ヒスっていれば空中でずっと蹴りつつけるなんて言う事も出来るのだ。壁に着地位大したもんじゃない。

 

「ってキンジ手が……」

「ん?ああ」

 

ガラスで切ったのか少し血が出ていた。舐めときゃ治るだろう。

 

「仕方ねぇな。こっち来いよ」

 

そう言ってユアンはキンジの手を引いて歩き出した。

 

王子先生和回来了吗?(王子さまとお帰りか?)

不是吃亏,(そんなんじゃない!)

「?」

 

頼むから日本語で話してくれ……分からんだろとキンジは首をかしげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでよし」

「悪いな」

 

キンジはユアンに包帯を巻いてもらった手を見ながら礼を言う。

 

「元々アタシを助けるための傷なんだ。礼を言うのはこっちだよ」

「そうか?飯を食わせてもらった恩もあるしお会い子だろ」

「…………義理堅いんだな」

「家訓でね。金持ちからの奢りは忘れていい。だがそうじゃないやつからのは絶対に忘れるなってね」

「貧乏臭くて悪かったな」

「あ、いやそういう意味じゃなくてだな……」

 

キンジがオロオロするとユアンが笑った。

 

「冗談だよ。そうだキンジ、今夜ココに止まっていけよ」

「……へ?」

「どうせ明日まで何処かで夜を明かすんだろ?野宿は危険だしな」

 

うんそれがいいとユアンは頷くと掛け布団を渡してきた。

 

「いやあのな……?」

「じゃあシャワー浴びてくるからそこにいろ。覗くなよ」

「ぜってぇしねぇよ……いっで!」

「それはそれで失礼だ」

 

何か堅いものを投げられてキンジは鼻を抑えた……何なんだよ……

しかもなんか良い匂いしてきたしヒス的にすごく危険な場所だ……

 

そう言えば一毅は一年の時にレキが押し掛けてきてシャワーを浴びてるときに非常に居心地が悪かったと聞いたがすごくその気持ちがわかる。

 

「おいキンジ」

「えひゃい!」

 

取り合えず素数を数えてたら声をかけられて変な声を出してしまった。

 

「っ!」

 

しかも振り替えるとユアンはバスタオルを体に巻いただけ……ヒス的な血流が体を巡り始めた……非常に不味い。

 

「シャワー浴びたらどうだ?」

「あ、あい……」

 

猴みたいな返事の声を出してしまった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、何とかヒステリアモードになるのだけは回避しながら夜を明かしたキンジはユアンの手伝いのためあっちこっちを駆け回っていた。

 

一夜を明かさせてもらった礼のためにあっちこっちの店で皿を洗いごみを拾い荷物運びを手伝う。次から次へと片付けていき辺りの人間たちは称賛していた。

 

「すごかったなキンジ」

「ん?」

 

一通り終えるとキンジのところにユアンが来た。

 

「でもなんで他の店までやったんだ?アタシのところだけでも十分だろ?」

「ついでだ。他の店でも大変そうだったからな。見て見ぬふりは苦手なんだ」

 

そう言うとユアンが笑った。

 

「日本人にも色々いるんだな」

「そうか?」

「ああ……そう言えば最近有名なんだけど【エネイブル】と【オウリュウ】って言う日本人が来てるらしいんだけど知らないか?」

「いや?聞いたことないな」

「ふぅん」

 

そしてキンジは立ち上がる。

 

「じゃあそろそろ俺は行くわ」

「ああ……そう言えばキンジが待たせてるやつってどんなやつなんだ?」

「ああ~……ピンク色の髪でツインテールでチビで幼児体型でキレると2丁拳銃ぶっぱなして人をぶん投げるやつで……」

「……もしかして後ろにいるようなやつ?」

「え?」

 

キンジが振り替えるとその特徴に合致するアリア様がいた。

 

「そうそうこんなや……げぇ!」

 

キンジは飛び上がった。

 

「そう……へぇ?」

 

ビキビキと青筋が走っていく。

 

「あわわ……」

 

キンジは顔色が真っ青になっていく。

 

「悪かったわねぇ……チビで幼児体型でキレると2丁拳銃ぶっぱなす女で……ねぇ?キィイイイイイインジィイイイイイイイ!!!!!!!!!!」

 

ゴゴゴゴと効果音が付き添うなほど怒りの炎を撒き散らしアリアが怒声を発する。そして、

 

「風穴ァアアアアアアア!!!!!!!!!!大砲(キャノン)!!!!!!!!!!」

「ミギャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

 

その後キンジの断末魔が辺り一体に響き渡った……

因みにそれを見たユアンは、

 

「あれが日本で言う鬼嫁って奴か……」

 

と呟いたのは別の話しである。



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龍達と襲撃

一毅たちはエレベーターに乗っていた。昨日行方不明になったキンジを皆で探していたのだが先程アリアから見つかったと言う連絡をもらったのだ。

 

なので皆で待ち合わせて皆で一緒にいくことにした。何故かって?そりゃあ通信機越しのアリアの声がイライラMax状態で一人で行ったらおっかないからだ。

 

赤信号、皆で渡れば怖くない……イライラアリア、皆でいけば怖くないと言ったところだろう。

 

「じゃあ誰がドアを開ける?」

 

この向こう側にはアリアがいるのだ……ドア越しにも殺気がプンプンする。なので全員で顔を見合わせて……

 

「辰正だな」

「辰正さんですね」

「谷田くん頑張って」

「辰ちゃん頑張るんだよ」

「辰正だね」

「辰正だろうな」

「谷田くんだね」

「谷田殿でござろう」

 

こう言うときのお約束で辰正に押し付けた。

 

「こういうときはじゃん拳でしょ!」

 

辰正が突っ込んだが全員がそっぽ向いた。

 

「死んだら化けてやる……」

 

辰正は呪詛を呟いてからドアを開けた……そしてその先には……

 

『え?』

「アリア~……いっで!そろそろ許してくれぇあいだ!……頭に血がたまってきた~……あだ!」

「絶対許さない!」

 

天井から逆さに吊るされたキンジとそれを蹴っ飛ばすアリアがいた……

 

「あれですかね?新しいSMプレイか何かですかね」

 

レキの言葉に一毅は苦笑いする。だがそれを見た白雪と陽菜は……

 

「キキキキンちゃん!今助けるよ!アリア!!!そんな逆なら羨ましい――じゃなくてそんな酷いことしないの!」

「師匠!今お助けしますぞ!神崎殿!それ以上師匠への狼藉許さないでござるよ!」

 

白雪と陽菜はアリアに飛びかかる。

 

「これはお仕置きよ!」

 

アリアが応戦を始めた。

 

「よう。今度はどんな女を引っかけてアリアを怒らせたんだ?」

「いや……いく先々で女を引っ掛けて行くようなこと言うな一毅……」

「否定できるか?」

「否定でき……る……」

 

語尾がすごく弱くなった。

 

「あいや……でも本当に何もなかったんだって……俺だって別に好きで一緒だったわけでは……がふっ!」

「言いわけ無用!」

 

アリアのキックでキンジはまた揺れた。

 

「あんなに怒らなくても良いだろうに……」

 

キンジがぼやくと辰正が首を振った。

 

「そんなこと言っちゃダメですよキンジ先輩。アリア先輩昨夜なんかスッゴく心配そうな顔して一晩中探し回っていたんですかぶばぁ!」

「余計なこと言わない!!!!!馬鹿正!!!!!!!!!!」

 

だがそれを聞いてキンジはそれは悪いことをしたとアリアの昔グリズリーを殴り倒したとか言っていたパンチで吹っ飛んだ辰正を見ながら思う。

 

「アリア……」

「何よ」

 

ジロッと睨んできたアリアに少し後ずさりそうになるがそこは我慢(と言うか逆さに吊るされた状態じゃ逃げられない)して……

 

「その……悪か――っ!」

『っ!』

 

次の瞬間部屋が爆発した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げほ!」

 

一毅が降ってきた木片を蹴っ飛ばして立ち上がる。

 

「お前らぁ!大丈夫か!」

 

うーんと呻きながら皆も立ち上がる。

 

「なんだいきなり……」

「何処かからかロケット弾を打ち込んできましたね」

 

レキが言う。

 

「成程ね~狙撃は辺りに高い建物がないこの部屋には無理だけど近くに着弾させれば良いロケット弾なら別に関係ないもんね」

 

理子の言葉にアリアもうなずく。

 

「火薬もわざと減らしてあったから多分合図の意味合いが強い攻撃ね。戦闘不能に出来れば御の字って感じかしら?」

「兎に角ここは急いで出た方がいいね」

 

それを聞いて皆はうなずくと素早く荷物をとって出た……

 

「おいこらお前ら!俺のロープを解いてからいけ!」

『あ……』

 

危なくキンジを忘れそうになったのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「▲★■●○□▽□□★!!!!!」

「ん?」

 

皆がでるとそこにホテルの従業員たちが立ちはだかる。見たところ味方ではないし突然の爆発に避難を誘導しに来た人間ではない……武器を持ってるのもいるし敵である。こんなタイミングで自分達を襲ってくる敵と言えばひとつだけだ。

 

「もしかしなくてもこの人たちって……」

「藍幇の構成員だろうね……」

 

辰正に理子は答えると髪がザワザワと動き出す。

 

「いつまでも遊んでたら敵も増えそうだし一気に行こうか」

「そうですね!」

 

先手必勝とあかりがマイクロUZIを抜くと弾をばら蒔く。

 

「ウォオオオオ!!!!!」

「リャアアアア!!!!!」

 

その隙をついて一毅とライカは拳を握って相手を殴る。

 

『ラァ!』

 

更に蹴っ飛ばすと相手はドアを壊しながら吹っ飛ぶ。

 

「二人とも伏せてください」

『っ!』

 

そこに後ろから来たが一毅とライカは伏せると狙撃弾が飛んでいき相手を倒す。

 

「その前にアリア!」

「なに一毅!」

「俺の記憶が間違ってなければ雑兵禁止じゃなかったか?」

「戦場ではそんなルールくそ食らえって奴もいるでしょ!」

「そう言えばそうでしたっけね!」

 

アリアの弾丸の隙間を縫うように動きながら一毅は刀を抜くと一閃……更に、

 

「ハァ!」

「オッリャア!」

 

志乃の燕返しと辰正の飛び蹴りが相手を倒す。

 

「なあ多くないか?」

「多分このホテルは全員藍幇の構成員だったんだろうね」

「マジかよ」

 

理子の返事にキンジはボヤく。

 

「キンちゃん後ろ!」

「分かってるよ!」

 

後ろからのナイフをキンジはバタフライナイフで止めると理子はワルサーを抜いてそいつを撃つ。

 

「ヤァ!」

 

止めに白雪の斬撃で終わりだ。

 

「ほら、降りるぞ」

「この階から階段ですか……」

 

あかりがボヤくが仕方無い。高層ビル故の悲劇……エレベーターが使えない状況ではひたすら降り続けなければいけないのだ。

 

「諦めるかしないでござるな」

 

陽菜の言葉にあかりはそれでもうなずいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラァ!」

 

ヒィヒィ言いながら階段をかけ降り途中で出会った輩を蹴散らして下を目指すがこれがまた随分遠い道のりだ。

 

まあこの場にいるには全員武偵であり更にレキと志乃とキンジと陽菜以外は全員強襲科(アサルト)に在籍しもっと切り詰めると探偵科(インテスケ)のキンジと志乃と諜報科(レザド)に所属する陽菜比較的体を動かす……だがそれであったとしても……

 

「まだつかないのか~!」

「今二十階だって!」

「遠いー!」

 

一毅がボヤくと理子が答え更にどん底に落ちる……いや、いっそのこと落ちた方が楽なのだが……

 

「ふぅ……ふぅ…」

 

一番体力のないレキの顔色が若干悪い。

 

「大丈夫?」

「大丈夫です。アリアさんは……平気そうですね」

「当たり前でしょ」

 

そんなことを話してると一階が見えてきた。

「とうちゃーく!」

 

バンっとドアをぶち開けながら外に飛び出す……そして、

 

『っ!』

 

外には……いた、

 

「久し振りだなぁーっと」

「初めてみる顔もあるな」

「懐かしい顔もあるがな」

「さて……強くなったか?」

「ワクワクしてきたな」

「しかしここまで降りてきたのか……」

「お疲れさんって感じかしら?」

「………」

 

そこにいたのは夏侯僉、周岑、関羅、甘餓、趙伽、楽刄、夏候黽……そして、

 

「よう……桐生一毅……」

 

檄を手に笑う呂布……

 

「お久し振りです」

 

ペコリと頭を下げる姜煌……

 

「顔を見せるには初めてね。はじめまして、前回は狙撃をしていた貂蘭よ」

 

腰まで伸ばした黒い髪……更にボンキュボン……いや、ドン!キュウ!バン!といった感じのスタイルの美しい女性……白雪以上のスタイルの良さとは……もしかしたらロキと同等……いや、ロキより背が高い上にチャイナ服……すさまじい美女である……が、

 

『いっだぁ!』

『鼻の下伸ばさない!』

 

キンジはアリアと白雪と理子と陽菜に、辰正はあかりに、一毅はレキとライカに背中をつねられた。

 

「やっほ~狙撃手ちゃん」

「ええ、こんにちわ」

 

レキが何か凄まじい敵対心を出している……まあそっとしておこう。

それより気になるのはもう一人……

 

黒い髪……幼い容貌……緋色の瞳……

 

「猴?」

 

キンジが声を漏らすと素足でポテポテ近付いてきた……敵意がないため皆は反応が遅れた……

 

「クルル……」

「え?どうした猴?」

 

キンジが顔を近づけた……次の瞬間、

 

「(チュッ)」

『へ?』

 

全員が唖然とした……キンジは眼を限界まで見開いた……

 

「ンチュ……チュパ」

『っ!』

 

今度は舌まで入れだした……

 

「ぷは……」

 

最後にペロリとキンジの鼻を舐めて離れる……

 

「安心しろよ遠山……変なことはしてない。言葉をコピーしただけさ」

「そうかい……」

 

キンジはフッと笑う……成りやがったぞあの野郎……アリアより幼い容貌の女でなりやがった。

 

「よし戦おう遠山……」

「デートのお誘いかい?いいよ」

 

キンジをジトーッと一毅とレキと理子はヒステリアモードキンジを見ていた……



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龍達の前哨戦 前半戦

「キキキキンジ!あんた何成ってるのよ!」

「あああのアマ――じゃなくてなんなのあの子!そんな羨ましい――じゃなくてけしからん!」

「おぉーっとキー君流石の理子りんドン引きですよぉー!」

「な、なんと言うことでござる……」

 

アリアはゼロコンマ一秒でキレるとキンジに掴み掛かろうとするし他の面子も大騒ぎである……がそこはヒステリアキンジ。慌てず騒がす冷静に対処する。

 

「おっと皆。今は敵に集中した方がいい。話は後でしよう」

「……そうね!キッチリ話し合いましょう!」

「ああ……」

 

キンジはそっとアリアに甘い声で囁いた。

 

「その時は今度こそ綺麗な夜景を見ながらにしよう」

「な、何よ今さら」

 

アリアはプイッとそっぽを向いたがキンジは続けた。

 

「悪かったと思ってるよアリア。だけどこれだけはわかってほしい。俺にとってアリアは誰よりも一番大切な女性だよ」

「っ!」

 

ボン!とアリアは頬を赤らめた。

 

「ふ、ふん……馬鹿キンジ」

 

アリアはニヘニヘしながら言った。

 

次に白雪、理子、陽菜と纏めてこっそりささやいた……するとなんと言うことでしょう。あっという間にデレデレニヤニヤ空間の出来上がりである。三分クッキングより早い。

 

というかキンジは何をやっているのだろうか……絶対そのうち後ろから刺されるだろう。

 

(最近アリア達がヒロインじゃなくてチョロインになってきたような……)

 

一毅は嘆息しながらキンジを見る。

 

「で?どうする?リーダー」

「決まってるさ」

 

キンジは銃を抜く。

 

「せっかくこんな派手な歓迎会を開いてくれるんだ。答えなきゃ失礼に当たるよ」

「だな」

 

一毅がうなずくと全員は其々構えをとった。

 

「そう言えばこの総力戦でココはきていないのか?」

「あ~、アイツ等は一毅(お前)を見るとケツが痛くなるんだってよ」

「あはは……」

 

一毅は夏侯僉の言葉に苦笑いした。もしかしなくてもトラウマになってる?

 

「じゃ……開幕と行きましょうか……」

 

そう言って貂蘭が狙撃銃を構える。

 

あれはVSS狙撃銃……ソビエト連邦が作った軍用狙撃銃だ。

 

「いくわよ」

「っ!」

 

それに反応したのはレキ。レキもドラグノフ狙撃銃を構えるとほぼ同時に銃弾が放たれた。

 

『っ!』

 

放たれた銃弾はまっすぐ飛んでいき互いの銃弾がぶつかり合うとその弾きあったレキの銃弾は呂布に……貂蘭の銃弾は一毅を狙う。

 

だが、

 

「ん?」

「ふむ」

 

ヒョイっと首を傾けて二人は当たり前のように躱した……

 

「狙撃手対決一矢目は引き分けか?」

 

呂布の言葉に一毅は肩だけ竦める。

 

「じゃあ次は……俺たちがやってみるかぁ!」

 

呂布の檄が一毅を狙う。

 

「ウォオオ!!!!!」

 

それを一毅は腰から殺神(さつがみ)を抜いてぶつけ合う……その際に生じた衝撃は辺りに風を撒き散らした。

 

「流石だな……」

「まあな」

 

ギン!っと言う音と共に火花を散らした刃を返しつつ更に斬撃を放ってぶつけ合う……

 

2合3合と打ち合っていき辺りのガラスまでビリビリ震えていく。文字通り並外れた腕力によって行われる【力比べ】は周りの皆もその轟音に咄嗟に眼を細める。

 

「ウォオオオオ!!!!!」

「ラァアアアア!!!!!」

最後の武器を打ち付けあって距離をとる。

 

「流石だな……面白い」

「そうかよ……」

 

二人は腰を落とす。そして他の皆もそろそろ頃合いとばかりに其々が相対すべき相手を見た。

 

「さあ……」

「ああ、いくよ!」

 

キンジは猴と……

 

「こんにちは、神崎 アリアさん……貴女は私と戦いましょう」

「誰でもいいわよ」

 

アリアは姜煌と……

 

「ま、前は桐生とやったけど今回は無理だし……そこの巫女さん……やろうぜ」

「いいよ……そっちが剣士なのはカズちゃんから聞いてるからね」

 

白雪は夏侯僉と……

 

「となると俺は峰 理子だな……」

「くふふ~、良いよ?カモン」

 

理子は周岑と……

 

「第2ラウンドといこうか」

「ええ、行きましょう」

 

レキはもちろん貂蘭と……

 

「この間の借りは返すよ」

「やってみな」

 

あかりは趙伽と……

 

「先日の敗北の借り……ここでお返しいたします」

「きなよ」

 

志乃は甘餓と……

 

「今度は負けねぇからな」

「そうか……」

 

ライカは関羅と……

 

「いくよ」

「ええ」

 

辰正は楽刄と……

 

「今回は負けるつもりはないでござる」

「…………」

 

陽菜は夏候黽と……

 

「戦闘開始だ!」

『おお!』

 

其々の戦いを開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一番先に武器をぶつけたのは志乃だった。

 

【飛燕返し】という技を使う以上やはり速い。

純粋な剣速は白雪や一毅には及ばすとも十分に高い力量を感じさせる。

 

「シュ!」

 

それを甘餓のカリスティックが受け止める。

 

フィリピン発祥のこの武術は両手に棒を持って戦いその様は一毅の二刀流に似ている部分もあり非常に実戦的な武術として知られ国によっては警察の習得武術の一つにもなっている。

 

『っ!』

 

キィン!っと金属がぶつかり合うと刃を返し甘餓を志乃の刃が狙う。

 

「うぉ!」

 

それを甘餓は体を大きく逸らして避けるとカリスティックの棒を振るう。

 

「くっ!」

 

ギリギリで返しながら志乃はハンドガード付の刀を振り上げた。

 

「ちっ!」

 

甘餓は舌打ちを一つしてバックステップで躱すと距離をとって息を吐く。

 

「いやいやまさかこんな短期間でそこまで実力あげるかよ」

「戦姉が素晴らしい人ですからね」

 

志乃は体制を低くすると再度走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ!」

「……っ!」

 

次に飛び出したのは陽菜だ。やはり忍者の末裔として陽菜は身軽だ。

ドジさえ踏まなければ十分にAランクを狙える少女は手裏剣を夏候黽に向けて投てきする。

 

「邪魔」

 

それを夏候黽は自分の手につけた鉤爪で弾く……だがそこに陽菜は詰め寄ると忍者刀を抜刀し振り下ろす。

 

「っ!」

 

夏候黽は鉤爪で受け止めながら爪先に着けた小刀の刃を出して顎に向けて蹴りあげる。

 

「うっ」

 

陽菜は首を傾けてギリギリ躱すと更に忍者刀を横に凪ぐ。

 

「っ!」

 

それを伏せて避けると夏候黽は爪を突き上げる。

 

「くぅ!」

 

それを横に飛んで躱すと陽菜と夏候黽は睨み会う。

 

「…………」

「さすがに一筋縄ではいかんでござるな……」

 

それでも陽菜は夏候黽から視線を外さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人目は理子だ。

 

恐らくこの面子の中ではキンジのように空を蹴りの風圧で飛ぶとかみたいなみたいなことはできないが総合的な身体能力であればキンジや一毅には大きく劣るが身軽さに限定したなら理子はトップクラスだろう。

それでも先手を志乃や陽菜に譲ったのは相手の戦闘能力を生で見るのは初めてだからだ。

 

キンジから聞いてはいるもののやはり生で見てみないことには本当のところはわからない。

 

別にキンジが話を誇張してるかどうかとか疑っているわけではなく自分の目、耳、鼻、肌で感じてみないと不安感を覚えてしまうのは泥棒の血筋故か……まぁそれは置いとくとして理子は髪を操りながら周岑の様子見だ……

 

周岑は高い身体能力を持つ。ククリ刀を両手に持ち理子を的確に追い詰めていく。

だが理子もそれをヒラリヒラリと躱して銃撃……

 

「ぐっ!」

 

顔を周岑は顰めるがそれでも構わずククリ刀を振り上げる。

 

「あぶな!」

 

クルリと軽々とバック転でその斬撃を全て躱しながら髪で持ったナイフを振るう。

 

「面倒だな……」

「面倒だね……」

 

二人はため息をつく……すると理子は見た。

 

「あれは……くふふ」

(いいもの見つけた~)

 

理子は不気味な笑みを浮かべたが周岑は気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん!」

「やぁ!」

 

夏侯僉と白雪は武器を切り結ぶ。

 

鞘と剣の二つを使う斬打一体の構えは白雪の正統派剣術とは真逆に位置する喧嘩殺法。故に決まった手と言うものはなく白雪は若干苦戦を強いられた。

 

「オラァ!」

「くっ!」

 

夏侯僉の剛撃に白雪は後ろに吹っ飛ぶ。元々腕力などの力で押す剛の剣よりテクニックなどを用いた柔の剣が白雪本来の戦い方である。

 

無論どちらが劣るとか剣の質事態では分からない。だが剣先の読めない我流の剣は白雪を防御一辺に追い込んでいく。だが、

 

「おらぁ!」

「――っ!」

 

大きく振りかぶった脇を一閃……夏侯僉は驚愕する。

 

「やるなぁおい」

「身近にいるんだよ……そう言う喧嘩剣術の使い手がね……まあなんか最近剣術で言う術の部分までなんか磨かれてきたけどさ」

 

夏侯僉は誰かと聞かずとも一毅のことをいっているのはすぐにわかった。

 

「はは……ありゃあ反則だよなぁ?そう思わないか?」

「否定はしないかな。普段おおよそ鍛えてるようには見えないけど気付くと勝手に強くなっていくのは羨ましい部分もあるけど……そうとも言い切れない部分だよね」

 

白雪の言葉には夏侯僉は首をかしげるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァアアアア!!!!!」

「でぇい!」

 

あかりは趙伽の槍のように鋭い貫手を避けながらナイフを振るう。

 

「おっと!」

 

それを躱しながら趙伽の情け容赦ない爪先蹴りがあかりのコメカミを狙う。

 

「つ!」

 

それを後ろに飛んで躱すと腰からマイクロUZIを抜いて撃つ……が残念なことにあまり射撃の成績がお世辞にも良いとは言えないあかりの銃撃回避しやすくその隙間を縫うように間合いを積めてきた。

 

「しゅ!」

「くぅ!」

 

首の根本の辺りを狙った貫手……それをあかりは伏せて躱し至近距離で銃口を押し付けてマイクロUZIを撃った……これで今度こそ外さずに当てた……

 

「いっつ……」

 

当たり前のように防弾処理をされた服の腹を擦りながら趙伽はあかりを見た。

 

「前よりやっぱ強くなったよなぁ」

「当たり前でしょ!」

 

あかりはまた銃を向けた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウォオオオオ!!!!!」

「ふん!!!!!」

 

辰正と楽刄の戦いは乱打戦となった……楽刄のメリケンサックの拳を辰正は全て捌きっていく……少しでも遅れれば辰正は楽刄の文字通り鉄拳を喰らうことになるがそこは受け流しを得意と言うだけはあって上手く捌いていく。

 

「ウォラァア!」

 

そしてついに攻守が逆転する。

 

捌かれた楽刄は体勢を崩す。そこに辰正は拳撃叩き込みそのまま腕関節を極める。

 

「捌き腕取りの極み!!!!!」

「ぐ!」

 

ミキィ……っと言う音がして完全に腕関節を極めた辰正はそのまま合気道の要領で腕を掴み直して投げ飛ばす。

 

「ちぃ!」

 

咄嗟に楽刄は受け身をとるがそれでも腕が痛む。

 

「おぉ!」

「はぁ!」

 

辰正の振りかぶった拳と楽刄のメリケンサックの拳が交差する……

 

『ぐぅ……!』

 

二人は体勢を崩す。だがそれでも相手から視線は外さずに睨み会う。

 

「なんだ今回はずいぶんやるじゃん」

「決めたんだ。もう迷わないって……あの子と一緒に戦えるようにもう迷わないって……誓ったんだ……」

 

この肉体に……心に……大切な少女に……そして何よりも、

 

「俺の魂に……」

 

そう言って辰正は疾走した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!」

「はぁ!」

 

関羅の一撃をライカは躱しながらハイキック……それを避けながら関羅の青龍偃月刀を振り下ろすがライカは横に飛ぶと関羅の脇腹を穿つ。

 

「二天一流 拳技!捌き打ち!!!!!」

「軽い!」

 

そこから横凪ぎの一撃……それをライカは大きくバックステップをして離れて躱した。

 

「確かに動きは前より洗礼されている……だがやはり軽いな」

「…………」

 

関羅はおよそ180㎝と少し……どう考えても体重もある……確かにライカの普通の打撃では効かない……ならば、

 

「ふぅ……」

 

するとライカは両腕をブラリとさせて構えを解いた。

 

「ん?」

 

ライカの行動に関羅は一瞬降参したのかと思ったが次の瞬間なにかが違うとわかった。

可笑しい……なにがって……変なのだ。普通人間はただ立っているだけでも何処かに力を入れている。そう言う風になっている……だがライカはその形を取っていない。全身の力を抜いている。あくまでもイメージであるが全身が液状化していくように見えるくらいだ。

 

そして次の瞬間、

 

「二天一流 拳技……」

 

関羅の懐にライカが飛び込む……関羅は反応すらできなかった……

 

「煉獄掌」

 

力も体重もないライカ……だがその二つを埋め合わせる亜音速……には一歩及ばないがそれであっても常人を遥かに凌駕する一撃をライカは放った……

 

「雷」

 

【二天一流 拳技 煉獄掌・雷】……何者であっても反応できない速度を持った煉獄掌……という意味でライカが名付けた煉獄掌の亜種……

 

「ぐっ」

 

関羅は後方に大きく吹っ飛ばされたがそれでもたつ。

 

「今のは……脱力か」

「そうだ」

 

力を抜く……中国では太極拳に見られる構えだ。

 

何かを攻撃する際人間は体を硬直させる……だがその前に力を脱力させると……脱力→硬直の振り幅が大きければ大きいほどその際に生じる速度は大きくなる……とまあ論理は単純だ。

 

だがそれを行うためにいままで多くの格闘家が挑み……そして実を結ばなかった者が多くいた。

無論実を結んだ者をもいたが成功者よりも失敗者の方が圧倒的に多かった。

 

そもそも脱力などというのは口で言うほど簡単じゃない。生きているだけで何処かに力を入れて入るし意識しても無意識の部分の力みが存在してしまう。

 

だがライカは金井との戦いの際に本当に全身に力が入らないということを身を持って学んだ。そしてその経験が脱力の境地へと進めた。

 

こればかりは一毅もできない。一毅のように筋肉量が多いと抜かなきゃならない力も自然と多くなるし抜く際にかかる時間も多い。

その点ライカは一毅に比べてしなやかな筋肉を持っているしそう言う意味では脱力の極意はライカにとってもっとも相性が良く、しかもライカの威力不足を補う上でもっとも必要な技術だった。

 

「ちっ……何人もの武闘家がそれを夢見て挫折していった極意を使うやつがいたとはな……師匠の教えか?」

「ああ……初めて使ったときは意味がわからなかったけど聞いたら教えてくれた。それからずっと練習して出来るようになったのもつい最近だ。でもこれで互角だろ?」

「前にいったことを訂正して詫びるよ。お前の師匠は確か桐生一毅だったな……大した男だ」

「ああ、そうだろ?」

 

ライカはそう言うと再度力を抜いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………』

 

他の皆が戦う中アリアと姜煌はにらみ合いが続いた。

 

アリアの性格上一番に行っても可笑しくないが直感ですぐに突っ込むべきじゃないと考えたのだ。

 

「お会いになれて光栄ですよ。神崎 ホームズ アリア殿」

「そうかしら?」

「ええ、私の師匠である諸葛静幻様は貴方の曾祖父であるシャーロック・ホームズ様と昔戦ったことがあるようでしてね。まあ、負けましたがね」

「へぇ」

 

確か諸葛静幻はあの糸目でヒョロヒョロの男だったはずだ。まあ見た目で強さの判断はつかないが曾祖父と勝ちの戦いとは……一毅とキンジですら大苦戦した上に相手も病気で弱っていたはずだ。

 

「まあそんなことで弟子という立場上シャーロック・ホームズの後継者と呼ばれる貴方には少々勝手に敵意があると言いますかね。良い迷惑でしょうけど付き合っていただけませんか?」

「ま、他に戦うやつがいないし良いわよ」

「じゃあいきますよ?」

 

そう言って足を前後に開き腰を落とすと手を開き片手をアリアに向ける。

 

(徒手空拳ね……なら!)

 

アリアはガバメントを抜くと向ける。

 

「風穴ぁ!」

 

バリバリと弾丸を撃ちまくる。

 

「おぉ!」

 

だが姜煌はそれを全て避けながらアリアとの間合いを詰める。

 

「っ!」

「その程度の弾幕は策の内ですよ」

 

諸葛静幻はなにもその武力だけでシャーロック・ホームズと戦った訳じゃない。頭脳と言う点においてもけた外れに高い水準を持っていた。

 

そしてその武と知能は未だ及ばずとも確実に……そして確かに姜煌へと受け継がれていた。

 

そして諸葛静幻の後継者……姜煌の拳がアリアを狙う。

 

「くぅ!」

 

それをバックステップで避けると銃を乱射するがそれも読まれて避けられる。

 

「は!」

「んな!」

 

咄嗟に銃を撃ったが何かで弾かれた……いや、見えていたが、

 

「鞭?」

「はい、チェーンウィップとも言う奴です」

 

姜煌はそう言いながら腕を振ると片腕ずつ鞭が袖から一本ずつ出てきて地面を叩き袖に戻っていく。その一連動作は普通は見えない。だがアリアの直感がギリギリで作用してくれたお陰で助かった。

 

しかし一見すれば無手の技を使うように見えてそこに漬け込んだ暗器の鞭の不意討ち……そこはやはり武人と言うよりは……

 

「策士って奴?」

「まあ静幻様ほど人間やめる領域にはまだ遠いんですよ」

 

姜煌は何処か胡散臭い笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ!」

「おっと!」

 

レキと貂蘭の狙撃戦は他のものと比べやはり派手さはない……と言うわけはなかった。

「よっと!」

「っ!」

 

次々と撃って弾きあいながらその跳弾の弾幕の中を二人は駆け抜け銃剣を突き出す。

 

「こういうのは柄でもないしキャラでもないんですがね」

「私もこういうの苦手なのよねぇ……ほら、私動くと胸が揺れていたいのよね」

「っ!」

「ちょっと!胸を集中的に狙わないでよ!」

「削ってあげますから」

 

そんなおふざけもあるが次々発射される弾丸を全て銃弾撃ち(ビリヤード)で弾いて逆に撃ち返していく。

 

「そう言えば呂布さんでしたっけ?やっぱり血筋的に恋人だったりするんですか?」

「まさか、あんな戦闘狂で頭脳がスカスカの脳味噌みたいな脳筋馬鹿をなんだって恋人にすんのよ」

「成程、片想いですか」

「ち・が・う!」

 

再度発砲……だがレキが弾く。

 

「て言うかあんた男の趣味悪いんじゃない?あんなマフィアのドンみたいな顔でしかも脳味噌がスカスカ処か空っぽの超脳筋馬鹿を恋人にって」

「なにいってるんですか?あの人は確かに学力が低いですし未だに注射が嫌いで病院には梃子でもいきませんしピーマンが嫌いで食卓に出すとこっそり私やライカさん達の皿に移しているような人ですけどいざって言うときは最高に格好良い上に普段抜けてるって面倒見てあげなきゃって母性本能うずくじゃないですか」

「あんたダメ亭主に引っ掛かるタイプね」

「一毅さん以外にはうずきませんよ」

 

そう言って今度はレキが発砲する。

 

「全く……ホンと面倒な相手だわ」

「貴女こそ本当に面倒ですよ」

 

二人の鷹のような視線が交差する。

 

「さて……どうしますかね……ん?」

 

そこにクラクションが鳴り響いた……

 

(モールス信号?これは……成程)

 

レキは貂蘭を見る。

 

「すいませんがここで退散のようです」

「は?」

「いえ、ここで全部手の内さらすわけにいきませんからね。こちらとしても……皆さんまだまだ奥の手を隠し持っていますから……と言うわけで……」

 

レキは後ろに向かって走り出すと跳ぶ……するとそこにバスが突っ込んできた。

 

「こちら~理子運転手でーす!行き先はわかりませーん!」

「良いから出しなさいよ!」

「はーい」

 

理子はレキが乗車したのを見て走り出す。

 

「居ない人は居ない?いたら返事し

て」

「キンジ先輩と一毅先輩がいません」

 

辰正が言うと理子は笑う。

 

「あの二人戦ってる内に移動しちゃったみたいだからね。拾っていこう」

 

理子は更に車を加速した……




一毅とキンジは後半戦にて書きます。思ったより長かった……前後編に分ける予定は無かったんですがね……

ちなみにライカの技はある漫画のを引用させてもらいました。元ネタがわかった人は漫画の趣味が私と合う人かもしれません。


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龍達の前哨戦 後半戦

「ちっ!」

 

キンジは走りながら台を飛び越えベレッタを撃つ。

 

「きひ……!」

 

だがそれを猴……いや、今は孫と言うらしいのだがそいつはあっさりと躱して手に持った青龍刀をキンジに振りかざす。

 

「しぃ!」

 

キンジはバタフライナイフを開いてそれを弾く。更にそこから回し蹴り……

 

「良いなぁやっぱり……」

「っ!」

 

だが身軽な孫はキンジの蹴り足に乗って避けると言う離れ業と言うか曲芸みたいな技で躱すとキンジの首を狙った青龍刀の横凪ぎ一閃……

 

「う!」

 

それをキンジはギリギリで体をブリッジ出来そうな程そらして避けた。更に、

 

「ウォオオオ!!!!!」

「っ!」

 

その崩した体勢から敢えて蹴りを放つことで孫は反応を遅らせてしまいキンジの蹴りで吹っ飛んだ。

 

「流石だな……」

 

だがあっさりと孫は立ち上がる。ならば、

 

「ウォッシャア!」

 

キンジは一気に間合いを詰めた。そして一気に孫を空中へ蹴りあげる。

 

「キキ!」

 

だが孫は空中で普通に体勢を戻す。これではキンジの必殺のエアストライクは行えない……だがこの体勢に持っていけば使える技もある。

 

エアストライクの派生技その1……

 

「アルファドライブ!」

 

相手を地面に叩きつける強烈な打ち落とし蹴り……

 

「くひ!」

 

それを防御するが孫は地面に落ちる。

 

今度は派生技その2。

 

「ベータドライブ!」

 

今度は相手を打ち上げる強烈な跳び蹴りあげ……それもガードされるが打ち上げる。

 

最後は派生技その3、

 

「ガンマドライブ!!!!!」

 

トドメとばかりに強烈なドロップキックが決まり孫は辺りのものを撒き散らし転がる。

 

「いてて……」

 

だが孫は手を振りながら立ち上がる。

 

「すごい蹴り技だ……やっぱ遠山侍は面白い技を使うなぁ」

「……?」

 

キンジは内心首をかしげた……まるで昔から知ってるような口ぶりだ。

 

「じゃあ今度は私だな!!!!!」

孫はその小さな体からは想像もつかない脚力で一気に飛び込むとキンジの顎を狙った掌打を放つ。

 

「っ!」

 

それをヒステリアモードの反射神経でなんとか躱しながら蹴りあげる。

 

「甘いよ」

 

だが孫はそれをなんなく躱して青龍刀を振り下ろす。

 

「この!」

 

だがそれをスウェイで躱しながらハイキックをキンジは放つ。

 

「スウェイアタック!」

「クヒヒ!」

 

しかし孫はそれを伏せて躱すと飛び上がって胴回し回転蹴りを放った。

 

「がっ!」

 

咄嗟に腕を交差させて受けたが地面に足がめり込むんじゃないかと思うほどの重力が全身に掛かる。

 

「終わりだ」

「っ!」

 

そこから放たれる青龍刀……通常であればこのまま胴を寸断されただろう……だが、

 

「しゃ!」

 

指で挟んで行う真剣白羽取り……二指真剣白羽取り(エッジキャッチングピーク)……

 

「残念ながら……見えていた」

 

目の奥がバチバチと明暗するような感覚……【万象の眼】の感覚だ。

 

「やっぱ面白いな」

「そうかい?だけどいくら面白くても少しはスカートに気を使いなよ。さっきからチラチラ処かガッツリ見えてるしね……俺はそう言うのを見ると強くなるんだ」

「何だそう言うのを気にするのか?私を女だって言うのか?こんな10歳児と変わらないんだぞ?」

 

そう言って孫は距離をとるとスカートの裾を少し持ち上げたりする。だが何となく勘づいた……まるでこれは年上の女性が年下の男をからかうような雰囲気だと言うことに……それならば、

 

「ふふ……ああそうだ。君は素敵な女性だよ。何故なら、女性は生まれたときから女性なんだからね。皆等しく素敵な女性だよ。もちろん君だって同じさ」

「そ、そうか?」

 

そう言って孫はモジモジ頬を染めて俯く。

 

「ほ、本当にそう思ってるのか?た、例えば一緒に手を繋いで外を歩いたりキスしたり……そ、その先とかできるのか?」

「無論お互いをしっかりと知って仲を深めればね。安易な行為はお互いを傷つける。君のように素敵な女性なら尚更そう思うよ」

「……」

 

孫は凄まじく嬉しそうな表情を浮かべる。

 

しかし一見幼い幼女だがその実中身は成熟しているらしい。いや、肉体と精神の成長が違いすぎる。

 

本当に孫悟空だとしたらそりゃそうかとキンジは納得するが……

 

「そ、そうか……」

 

孫がニヤつくがそこに微かに何かが来る気配を感じた。

 

(このどす黒いオーラは……まさか!)

 

次の瞬間バリバリ音を経てて孫に銃弾が炸裂する。

 

「ミィツケタァ……クソアマァ」

 

漆黒の黒雪の凱旋である。恐ろしい……キンジとギリギリで銃弾を躱した孫がドンびく。

 

「キンちゃんとあんな不届きな真似……ユルサナイ……ユルサナイ……ユルサナイ……ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ!!!!!!!」

「お、おい遠山!何だあの女――って!」

 

バリバリ銃弾をばら蒔き孫を狙うが孫は持ち前の反射神経で逃げる。

 

「バイ菌は……熱消毒!!!!!」

 

シュポポポと何かが発射されたおとがした……

 

『げっ!』

 

発射されたのは炸裂弾(グレネード)……そう言えば白雪の持ち銃であるM60は平賀さんが魔改造して中折れ式にした上にグレネードランチャーも取り付けたといっていたのを思い出した……

 

「死にさらせぇ!」

(キャラが壊れてる……)

 

キンジは内心そんなことを粒やきながら爆炎に包まれた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うわけでキー君を助けに来たんだけど途中で雪ちゃんが【キンちゃん電波受信!!!!!】とかいって窓から飛び出していったんだよ」

「キンちゃん電波は常にバリ3で高速データ通信にも対応してるからね」

「そ、そうかい」

 

キンジは頷くが少しひきつった。ヒステリアモードでも何故か白雪の電波がバリ3の下りは何かいろんな意味で怖かった。

 

 

さて先程の爆炎も咄嗟に近くの店に飛び込んで回避してそこにバスで迎えに来た理子達に助けてもらった後今度は一毅を探しながら走っている。

 

だがそこに上からドン!っという音が響いた……

 

「何かぶつかったのかな?」

 

あかりが呟くと後ろの窓が割られた……

 

『っ!』

 

全員が驚愕するなか来たのは……孫だ。

 

「まだ終わってないぜ?」

 

そう言って孫は突っ込んできた。

 

「皆下がって!!!!!」

 

そう言った白雪は抜刀した……すると孫は嫌そうな顔をして戻っていった?

 

「ちっ!イロカネアヤメ……お前星伽巫女か……チラッと見たときもしやと思ったがまあ桐生も遠山も来ていればお前もいて当然か……」

 

ぶつぶつ何かをいっている……だがこれからどうするか……仕方ない。

 

「いや白雪も下がってくれ」

「え?」

 

キンジは白雪の前に出る。

 

「孫。一発だけ付き合おう。来なよ」

 

キンジは腰を落とす。それを見た孫は嬉しそうに笑う。

 

「そうか……なら行くぜ遠山!!!!!」

 

孫は青龍刀を捨てると2度目の疾走……先程より速く体当たりだろう。しかし孫は常人を遥かに凌駕する力を持っているのは先程の戦いで知っている。直撃したら恐らく全身の骨がバラバラにされるだろう……だがキンジは腕を交差させて重心を体の中心に持っていく……

 

(君の全てを受け止めて……俺の全てと一緒に君にあげるよ)

 

キンジが心の中でそう呟いた瞬間孫の体当たりがキンジにぶつかる。だが、

 

(橘花!)

 

まず桜花を逆ベクトルに放つ減速防御、橘花で受けて次に全身の関節を連動させその衝撃を足に集める。

 

(絶牢!)

 

更にそこから中心においた軸を利用してまるで回転扉のように回転……

 

(桜花!)

 

最後にそこから桜花による加速を加えて完成……孫の攻撃VSキンジの防御だった構図が瞬きの一瞬の間で気付けばキンジの攻撃VS孫の耐久力へと変貌した……この一連動作……例えば名付けるなら相手の攻撃によって自分の防御が崩されるという不利をもチャンスへと変えさせるカウンター技……その名も、

 

「逆転の極み」

「がっ!」

『っ!』

 

その場の全員が驚愕する中孫は自分の体当たり+キンジの攻撃力を喰らい吹っ飛ぶとそのまま侵入してきた窓から外に飛び出していった。

 

「さすがキンジ!」

 

アリアがキンジの背中を叩くがキンジの表情は曇ったままだ。

 

「キンジ?」

「理子!出来るだけこの場から急いで離れろ!孫は殆ど喰らってない!」

『っ!』

 

全員が冗談でしょという顔だ。だがキンジは分かっていた。蹴った瞬間孫は恐るべき反応速度で蹴っ飛ばされる方向に自分から飛んだのだ。

つまり……

 

 

 

 

 

「きひひ!」

 

そんなキンジの考えをよそに孫は笑いながら空中で体勢を戻す……

 

「やっぱ面白いな遠山……」

「おい!」

 

そこに藍幇の皆が装甲車に乗ってきた。

 

「追うんだろ?」

「当たり前だ」

 

孫が飛び乗ると走り出す……孫の目は怪しげに緋色の色を灯した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてキンジと孫が戦い始めた頃まで一度時間をもどそう。

 

別の場所では一毅と呂布が戦っていた。

 

『オラァ!』

 

武器がぶつかる度に凄まじい轟音と衝撃……ビリビリ大気が震えるが二人は気にも止めない。と言うか止める暇もない。

 

互いに才能と腕力に物を言わせた戦いかたをするためか一進一退の攻防が続く。

 

「おぉ!」

「がぁ!」

 

互いに武器を振り抜き一度距離をとる。

 

ツゥ……と二人の頬から血が垂れた……

 

「ふむ……流石だな。楽しいぜ」

「俺は楽しくないな」

 

一毅がいうと呂布は笑う。

 

「楽しくない?嘘をいうなよ。今お前の目は生き生きしているぞ?寧ろ戦い前の方が窮屈そうだったが?」

「っ!」

 

一毅は奥歯を噛む。

 

「俺もお前も同じさ……平穏なんて似合わない……平和なんて柄じゃない……皆で仲良く笑うより……戦いに身を置いている方がよっぽどだ……」

「…………」

「強いってのは残酷だ……苦戦できねぇってのはまさに苦行だ……戦っても心が踊らない。相手を上から見下ろしながら戦うほど萎える戦いもない……そうだろ?」

「どうだかな……」

 

言葉を濁すが一毅の言葉に力はない……

 

「そうさ……俺がそうだ。過ぎた強さは残酷だ……だがお前みたいに俺を苦戦させられるやつは良い。楽しい……そして俺を高められる」

「それ以上強くなってどうするんだ?もっと苦戦できなくなんだろ」

「そうだな……だが男なら……頂上を目指してみるもんだろ?」

「……」

「強くなって強くなって……その果てってやつを見てみれば少し俺の退屈さも消えるかもしれねぇ……何よりこんな無茶苦茶な才能持ったんだ……そうしてみたくなるだろ?」

「考えたことなかったんでな……自分の武才の使い道なんざよ」

「そんな難しく考えることじゃない。ただ戦い続けるだけだ。強さのはての世界……心踊るだろ?何より俺たちはそう言う生き方しか輝けない……」

 

呂布は一度息を吸う。

 

「人間にはそれぞれの生き方がある。例えばシャーロック・ホームズは探偵として名を残したがアレがそうだな……絵描きだったら?」

「想像がつかん」

「そうだな……じゃあレオナルドダヴィンチが兵士になりたいと思ったら?」

「死んでただろ」

「ピカソがナチスの軍隊に入っていて絵を描かなければ?」

「まあピカソの絵は出てなかったな」

「そうだな……じゃあボルトが陸上選手じゃなくてそこらのサラリーマンだったら?」

「大記録はない」

「ああ、その通りだ……人間は色んな才能がある。だがもしその才能とは違う生き方をすれば……歴史に名は残らない。いや、残せない」

「それが俺に何の意味がある?」

「鈍いやつだ。ダヴィンチがモナリザの微笑みを残したように……ピカソがゲルニカを描いたように……ウサイン・ボルトが陸上選手として名を売ったように……俺たちも武で名を残そうっていうことだ」

「……」

 

一毅は眉唾気味に聞いた。

 

「そんなことに何の意味がある」

「あるさ。楽しそうだろ?後々の人間が俺たちの名前を聞くたびに考えるのさ……どんな奴だったんだろうってな……心踊らないか?自分のやったことが伝説なんて呼ばれる。俺の夢さ……俺が叶えてやるって決めた……な」

 

そう言って呂布は懐に手を入れる。

 

「それに純粋に興味あるんだ……お前と俺……本気で殺り合ってどっちがつえぇか……さっきもいったように男なら最強目指すだろ?」

 

そう言って懐から引っ張り出したのは回転式拳銃……確かあれはうちの学校教師であるゴリラ――もとい、蘭豹も使うドデカイ拳銃……S&W M500……それを左手に……檄を右手に構える。

 

「行くぞ!」

「くっ!」

 

檄という武器は一見槍のような形状だが槍とは違い突くだけではなく斬る、凪ぎ払うと言った事も行える比較的攻撃の種類が豊富な武器だ。しかも間合いが広い……

 

「うぉおお!」

 

だが一毅はあえて懐にいった。逆に言えば懐は呂布にとって死角であり長獲物には共通する弱点……しかし、

 

「っ!」

 

呂布は慌てることなく銃を構えた。

 

(不味い!)

 

一毅は咄嗟に体を捻る。

 

「っ!」

 

なんとか避けて呂布が撃った銃弾は後ろに飛んでいったがそこに檄が襲う。

 

「この!」

 

咄嗟に殺神(さつがみ)神流し(かみながし)で受けたがそれでも一毅は体勢が悪く吹っ飛んだ。

 

「やべ!」

 

だが転がって衝撃を逃したのも束の間で呂布は遠慮なく銃を向けて発砲してくる。

 

「くっ!」

 

一毅は急いですぐそこの市場の飛び込むと台の上を転がって待避する。

 

「よく勘違いされるが初代の呂布が得意としたのは檄じゃねぇ……無論何でも使えたがそのなかでも得意としたのは弓術だ……俺は実は銃が結構得意なんだよ……」

「くそったれ……」

 

一毅は悪態を突くと近くのパイナップルを拾って空中に放り投げた……そして銃声が聞こえ落ちてきたのをキャッチすると芯が見事に撃ち抜かれて食べやすいようにバラバラにされたパイナップルが落ちてきた。食べる気にはならないが……

 

(マジかよ……全く……俺が一番外れの相手だぜ……)

 

純粋に戦闘を楽しむタイプとしては宍戸に少し似ているが実力は宍戸に悪いが雲泥の差だ……しかも戦うことに関して全く迷いがない。こういうタイプは面倒だ。

 

「来ないなら行くぞ!」

「っ!」

 

カウンターごと檄で切り裂きながら来る……それを一毅は刀で受けると飛び上がる……

 

「空中では動けないだろ!」

「ならすべて弾く!」

 

背中に電流が走ると至近距離から発射された銃弾を一毅は全て刀で弾き落とす……

 

「心眼だな……」

「ああ……」

 

一毅が頷くと呂布の持っていたオーラが変わる……呂布も心眼を発動させたのがわかる。

 

『………………ふぅ』

 

二人は一度緊張を解くと体から深紅のオーラ(レッドヒート)が出てくる……互いが持っている力全てを体の中心から末端に注ぎ込んでいく…………

 

『オオオオオォオオオオオオ!!!!!!!!!!』

 

再度激突……だが先程とは音も衝撃も比べ物にならない。

 

「うらぁ!」

 

檄で一毅を襲いその間に銃を撃つ……口径がでかいため当たれば制服の上からでもダメージは絶大だ。だが、

 

「当たるかぁあああああ!」

 

心眼とその肉体を深紅のオーラ(レッドヒート)が被い檄も銃弾も全て弾いていく。 常人なら緊張で体が動かないはずだが一毅は既にそう言った感情無くなっていた……完全に戦闘にのみしか考えがいっていない。

 

その周囲のものが無茶苦茶になっていくが見向きもしない。出来ない……

 

「ああそうだ……やはりお前は俺と同じだよ……戦いが大好きで血が好きで喧嘩が好きで相手の命も自分の命も闘いの中ではどうだって良い人間さ!勝利の果てが相手の死だろうと関係ない!だから面白いんだよなぁ!何でお前はそれを圧し殺してまでバス()カー()ビル()にいるんだ?」

「………………」

 

そう言えば何でいるんだろうか……キンジがいるから?レキがいるから?大切な人や仲間がいるから?そうなんだろうか?それだけなんだろうか?

 

「剣先が鈍ってんぞ!」

「っ!」

 

ダメだ考えが纏まらない……何かが違うような……いや、違うんじゃない。まだ何か気づいてないことがある……言葉がまとまっていない……だが今はそんな暇はない。

 

「おぉ!」

 

一毅は二刀を使って檄と銃を弾き開けると腹に蹴りを叩き込んだ。

 

「くく……次はこれだ!」

 

そう言って呂布は檄を振り上げた……

 

「避けられるか?」

「んなっ!」

 

次の瞬間振り下ろすのを後押しするように銃弾を撃って当てて檄の速度を跳ね上げた……無論普通であれば制御が効かなくなって当てづらくなるだけだ。だが無理矢理呂布は腕力を使って制御して一毅を狙う。

 

「くっ!」

 

心眼のお陰で避けるが今度は横凪ぎ一撃も銃弾で加速させて一毅を狙う。

 

「くそっ!」

 

なんとか距離を取るが銃弾が今度は檄にではなく一毅を狙って放たれる。

 

「邪魔だぁ!」

 

それも叩き斬るが呂布が密着してきた。

 

「中国拳法にはこういう考えがある……《人とは巨大な水袋だ》ってな」

「っ!」

 

次の瞬間檄を空中に放り投げると掌を一毅の胸に添える……

 

「がっ!」

 

そこから放たれた発勁……理子も使うが威力は比べ物にならない。一毅の体にある水分が余すところなく振動し体の外部ではなく内部を痛め付けた。

 

「ごはっ!」

 

ビチャ!っと口から血がでた……

 

「外は筋肉で覆える……だが内蔵はそうじゃない」

「ごほっ!がはっ!」

 

咳き込む度に血が競り上がってくる。

 

「くぅ……!」

 

だが一毅は若干フラつきながらも立つ。まだ終わらない。

 

「やっぱ立ってくれるよな?まだ終わらせたくねぇよな?」

 

呂布は嬉しそうに笑う。

 

一毅は目を細める……

 

 

 

二人はゆっくりと市場の奥に向かう……

 

「くらぁ!」

「くっ!」

 

一毅は横にとんで避けると階段を掛け上がった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

階段を上がりきると電話が鳴った。こんな忙しいときに誰だと電話に出るとキンジだ。

 

「どうした?」

【今こっちはバスで来たに向かってんだけど藍幇から攻撃が酷いんだ……一旦合流したいし加勢に来れないか?】

「ああ……分かった」

 

一毅が電話を切ると呂布も上がってきた。

 

「悪いがこの戦いはここまでだな……」

「おいおい……良いのか?それで……」

「…………」

 

一毅は一瞬体を止めたが……そのまま窓を突き破って一気に下まで降りていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!」

 

キンジたちは銃で応戦してるが相手は装甲車の上に機銃まで使ってくる。はっきり言って装備に差がある。

 

「きひひ……」

「この!」

 

しかもさっきから孫の目が怪しげに光る。恐らくあれはGⅢを撃ち抜いたレーザーみたいなものだ。

それを白雪が撃って妨害するが限度というものがある。

 

「あーもう!しつこいってんだよ!」

 

ライカが文句を言いつつアサルトライフルを連射する。

 

「で?どこに向かってんですか?理子先輩!」

 

辰正が聞くと理子も叫んだ。

 

「とにかく逃げるの!詳しく説明してる余裕はないから!」

「…………」

「どうしたアリア?」

 

そんななか一人黙っているアリアにキンジは声を掛ける。

 

「え?あ、うん……何でもないわ!」

「?」

 

アリアの奇行にキンジは首をかしげる。ヒステリアモードだからわかるが何かを隠しているようだ……何かまではわからないが……

するとそこに別のエンジン音が聞こえてきた……

 

「敵か?」

 

キンジたちは同じ方向を見る……そこに現れたのは、

 

「だいじょーぶかー!」

 

途中でお借り(強奪)したデカイバイクを駆って一毅はやって来た。それから背中の断神(たちがみ)を抜く。

 

「バイクと大剣……クラ○ドさんだね」

「まあ見た目はどちらかっていうとバレッ○よねあいつ」

「ク○ウドでも○レットでもどっちでも良いだろ」

 

理子とアリアの呟きにキンジは嘆息しながら外を見る。

 

「うぉらあ!」

 

横から断神(たちがみ)で装甲車を叩く。

装甲車も負けじと一毅のぶつかる。

 

「あっぶねぇな!」

 

体勢を戻しながら見ると孫の片目の光が強くなる……するとドクン!と刀が脈を打つ……だけどこれは今まで何回かあったことだが今回はそれだけじゃない……刀が脈を打つのと共に体が熱い……燃えそうな感覚だ。

 

「く!」

 

だがそれどころじゃない。孫のレーザーが放たれそうなのだ。

 

「オォオオオオ!!!!!」

 

一毅は加速すると孫とキンジたちのバスの間に入る……そしてそれと共に孫からレーザーが放たれた……だが、

 

「がぁ!」

 

一毅の断神(たちがみ)はその銘の示すように断ちきった……

 

『…………』

 

キンジたちはその光景を見て呆然とする……文字通り目にもとまらぬ早さで打ち出されたレーザーを斬ると言うのは一毅の心眼を使えば可能かもしれない……GⅢの防具を撃ち抜くほどの破壊力を秘めたレーザーとぶつけても断神(たちがみ)は形状が全く変化していない……

 

(マジかよ……あいつ遂にレーザー斬るようになったのか……)

 

キンジがひきつっていると理子が声を掛けてきた。

 

「皆何かに捕まって!」

『っ!』

 

理子の声に反射的に反応した皆は急いで捕まる。次の瞬間急ブレーキがかかった……

 

「くぅ……」

 

だが結局凄まじい遠心力によって皆でゴロゴロ転がったが……

 

「大丈夫かい?二人とも」

「う、うん」

「はい……」

 

咄嗟にヒステリアモードのキンジはアリアと白雪をキャッチしてお二人は頬が真っ赤だ。

 

「あー!ずるーい」

「はいはい」

 

理子の頭のなでなでしてやると理子もご満悦だ。

 

「大丈夫ですか?」

「流石ライカさん。男前……いえ、女前ですね」

 

ライカに支えられながらレキがいうとライカは苦笑いした。

 

「な、なななな……」

 

すると志乃がふるふる震えていた……

何事かとライカとレキが見てみると、

 

「おやおや」

「うわぉ……」

 

辰正の頬とあかりの唇の距離が0㎝……つまりほっぺにチューと言う奴である。

 

「ししししし死刑!絶対死刑!」

「ちょっとまって!!!!!今の事故!咄嗟に支えて転がったらそうなっただけだら!」

 

ビュンビュン刀を振り回す志乃の斬撃を辰正は避けあかりは……

 

「…………」

 

硬直していた……

 

「で?何でここで止まったんだい?」

 

キンジが聞いた瞬間横を装甲車がスリップしながら通過していき……

 

「ああ~」

 

そのままこの橋はずっと後ろを見ていたため気づかなかったが作ってる途中で向こう岸まで出来上がっておらずそのまま装甲車は落下していった。

 

「ここに来る前にオイルを盗んでおいたんだ~」

「それでスリップしていったのか……」

 

すると一毅が入ってきた。

 

「大丈夫……だな」

「ちょっと一毅先輩!俺を無視しないで助けてください!って言うかこの状況のどこを見て大丈夫だと判断したんですか!」

「え?いつもの光景だけど?」

 

ガーンと辰正は志乃の斬撃を避けながら皆はバスの外にでた。

 

「さて……」

 

キンジは下を見てみると装甲車の中から敵も出てくるところだった。

 

「取り敢えずは何とかなったか?」

 

一毅がいうとパチパチと拍手された。

 

『っ!』

「いやはや凄いですねぇ皆さん。驚きでしたよ」

「お前は……」

 

キンジは口を開く。

 

「諸葛……静幻……」




な、長かった……今回なんと9056文字ですってよ……
こんなの初です……長すぎたかもしれません……が、戦闘シーンは書いててやっぱり楽しいですね。


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龍達への歓迎会

『………………』

 

今キンジたちは船に乗っていた……何故かと言われると、諸葛 静幻に誘われたから……としか言えない。

 

「そんなに怖い顔をされなくても大丈夫ですよ。私は丸腰ですし見ての通りこんなヒョロヒョロの優男ですから」

 

そうだとしても油断はできない……あんな襲撃をかまして来た連中の中でも一際怪しいのがこの男だ。何かあるように感じる。

 

「それに言ったじゃないですか。私は皆さんを藍幇城に案内するだけですからね」

 

そう、突然現れたこの男がにっこり笑って藍幇城まで案内すると言ってきたのだ。

 

無論それだけなら信じず着いてはいかないが元々これは皆さんを試すための戦いで悪意はない(十分迷惑ではあったが)とか色々言われて説き伏せられる形で乗船していた。

口八丁とはこう言う奴の事を言うのだろう。

とは言え彼もロケットランチャーをぶっぱなすのは想定外であったらしくそれを言ったときは苦笑いした。

 

「で?態々試した理由は?」

「色々ありますよ?これから戦う人間の事をよく知りたいとか……師団(ディーン)のアジア方面の最強戦力を知っておきたいとか……後は諸事情がありましてね」

「最強?」

 

キンジが眉を寄せた。

 

「ええ、現在の戦役は日本を中心としたアジア方面は師団(ディーン)が優勢です。どんな形であれその形状を作り出したのは皆さんでしょう?ですから眷族(クレナダ)の中でも遠山キンジとその仲間たちはかなり危険人物認定です。ぶっちゃけ命狙ってる組織も多いです。ほら、出る杭は打たれるって言葉が日本にはあるでしょう?」

「ちょっとキンジ先輩のせいで私たちまで危険人物認定されてますよ!」

「何で俺のせいなんだよ!」

 

あかりに文句を言われキンジは吠えた。

 

「だってキンジ先輩が人間卒業技ばっかりするからでしょ!ねぇたつま……さ……」

 

いつもの流れで辰正に話題を降ろうとしたあかりは辰正の顔を見て頬が赤くなっていく……辰正も同じ感じだ。

 

前回の頬っぺたにチューは二人には少々衝撃的だったらしい……

 

(ニヤニヤ)

 

それを見て理子や他の面子はニヤニヤしている……なんともはや初々しいではないか……あいや、二人ほど違うやつがいた。

 

一人は無論志乃だ。

取り敢えずは引き離したもののなんと言っても志乃である……白雪二世と言っても遜色ない彼女が怒りの矛を納める訳がない。

 

(殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺!!!!!!!)

 

(ゾクゥ!)

 

辰正は背筋が寒くなった。なんか自分は呪い殺されて日本に帰れないかもしれない。

 

そしてもう一人はこの船に乗ってからずっとボーッとしている一毅だ。

 

(同じ……か)

 

呂布に言われた言葉が反芻されていく。

 

確かになぜ自分はここにいるのだろう……何故戦っているのだろう……何故剣を振るうのだろう……何故か……自分には思い返してみると何もないと思い知らされる。我ながら空っぽで嫌になる。

 

もしかしたら何も考えずただ闘いのなかにいる方がお似合いなのだろうか……

 

「一毅さん?」

「…………ん?」

 

風に吹かれながらボーッとしてたらレキが来た。

 

「どうかしましたか?」

「あ、いや……ちょっとな」

「……一毅さんは一毅さんですからね?」

「え?」

「私もライカさんもロキも一毅さんがどんな風に考えて何を感じて何を決めようと信じてます」

「…………ありがとな」

 

一毅はフッと笑うと柄でもないと頭をかいた。そして、

 

「さあ着きました。欢迎光临(いらっしゃいませ)藍幇城へ」

 

遂に敵地への到着である。しかし全面金ピかで眼が痛い……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では皆さんのお荷物はお運びしておきます」

 

静幻はそう言うと中で待機していた女中達に指示した。

その指示を聞いた女中たちは皆の荷物を受け取り運んでいく。

 

「さて、ささやかながら食事の準備もあります。こちらへ」

 

そう言えば良い匂いがする。さっきまで大暴れしたのだ。腹も減っている。

 

なので静幻についていくとでっかい広間みたいな所に来た。

 

「しっかしここまで金か……」

 

ここに来るまでも思ったがこの城は随分金やら赤やらがふんだんに使われていて眼に痛い。

 

「中国では赤は健康運、金は金運を司っているからね」

「へぇ」

 

白雪先生のご教授に一毅は感心しつつ女中(さっきの人とは違う)が引いた椅子に座る。

 

全員が座るとタイミングよく藍幇の構成員たち……先程戦った面子が入って最後にココたちがコソコソ入ってきた。

 

「よう」

 

一毅が声を掛けると四人のうち三人のココがビクゥ!と飛び上がり眼鏡を掛けたココの後ろに隠れた。

 

「今日は叩かねぇよ」

 

一毅は肩を竦めていると食事が運ばれてきた。

 

「さぁ、毒は入ってませんからどうぞ」

 

静幻はそう言うと勧めてくる。

 

「あ、ピーマンも今回は入れないように作らせたので桐生 一毅殿も安心を」

「ぶっ!」

 

一毅は吹いた。何故自分が嫌いな食い物を知っているのだこいつは……

 

「貂蘭が教えてくれましてね」

「アタシはそこの狙撃手から聞いたけど?」

「レキィ!」

 

一毅はレキを揺らして抗議する。

 

「良いじゃないですか?今回は私やライカさんのお皿にこっそり移さなくて良いんですから」

「意外とカズッチって子供みたいな部分あるよねぇ」

「そう言えばカズちゃんって病院も嫌いだったよね」

「注射と苦い薬が嫌いだったからな。寝てれば病気は治るとか言ってじっとしているんだけど大概余計に酷くするんだ」

 

一毅は恥ずかしさで穴に入りたかった。

 

「も、もういいだろ!食おうぜ!」

 

そう言って一毅はガフガフ食い出した。

 

毒が入ってるかとかすでに考えていない。まあ一毅は食ってみねばわかるまいの人間なので冷静だったとしても結果はあまり変わらない気がする。

 

「どうぞ」

 

そう言って給仕の女中さんはキンジに飲み物を出してきた。

 

「これって……酒か?」

「中国には規制がないので大丈夫ですよ」

 

そう言われ煽る。鼻にツーンと来る独特の風味……悪くはないが余り好んで飲もうとは思わない。だが、

 

「ジュースか?」

 

と一毅はグビグビと飲んで次々おかわりを頼むが物足りなくなったらしく瓢箪から直接飲み出した。

 

グビグビグビグビグビグビグビグビとすごい速度で酒が消費されていく……見てて気持ち悪くなってきた。

 

「強いんだな」

 

呂布も酒には強いらしく張り合って飲んでいくが一毅の場合水を飲んでいるようだ。

 

しかも同時に、

 

「すいません。白米もください」

「は、はい」

 

と、どんぶり飯をテーブルに置かれた豪華絢爛な食材をオカズに消費していく。

ヒートを使うと腹が減るのはよく知っているが今回は相当腹が減ってるらしい……しかし本当に酒も飲んでいく。

 

(しかも全然酔わねぇ……)

 

顔が若干赤くなっている気がするがそれだけだ。口調もしっかりしているし目付きも大丈夫そうだ……そこに、

 

「きいてくらはいよきんひへんぱい」

「あ?」

 

揺さぶられて見てみると辰正が顔を真っ赤にしてやってきた。

 

「おれらっれあきゃりほゃんともうひょっほかんけいふふへはいほほほって」

「何言ってんのかわかんねぇよ!」

 

多分「俺だってあかりちゃんともうちょっと関係進めたいと思ってんですよ」と言っているんだろうが呂律が凄いことに成ってる。こいつは絡み酒のタイプなんだろう。

 

「遠山 キンジ!」

「は、はい!?」

 

飛び上がりそうになったが呼んだのはあかりだ。

 

「今日こそ言わせてもらいますけどね!あなたちょっとばかり女グセ悪いんですよ!もう節操とかその辺を追求すると一毅先輩も説教することになるんで置いときますけどもう少し関係をはっきりさせたら以下がですか?いつまでもうだうだとなあなあの関係続けて見てるこっちはイライラするんですよ!」

「あ、はい……すいません……」

 

なぜ自分は後輩の女の子に膝詰め説教受けているんだろう……とキンジは思っていると、

 

「ほらほらあかりちゃーん……怒んないで飲んだ飲んだ~」

 

救世主――もとい、志乃はあかりの杯にお酒を注いでいく。

 

あかりはそれを一気に飲み干すと、

 

「おいキンジ」

「は、はい」

 

あかりも酒癖は相当悪い……志乃は少しハイになるくらいでマシだがあかりのは純粋に悪い……辰正と同じく絡み酒といった感じだが普段鬱屈していることを相手に向かって滔々と説教するタイプ……酒は本性をさらすと言うが本当らしい。

 

「あかりちゃん行こー」

「あ、まだ話終わってない……」

 

キンジはあかりを強引につれてってくれた志乃に心から感謝した。

すると、

 

「師匠……」

「ひ、陽菜?」

 

陽菜の登場である。

 

さてここまで一年の酒癖は悪いのが続いている……陽菜はどうだろう……オチ的に良いとは思えない。

 

「師匠には何時も何時もお世話をかけております……故に尊敬しておりまして……」

「?」

 

もしかして……もしかしなくても陽菜は酒癖がまだ良い方?比較的志乃寄り?とキンジは思う。自分の戦妹(アミカ)は酒癖が悪くてマジで良かった……

 

「師匠~」

「いい!」

 

と思ったときもありました。キンジの幸福感を打ちのめすが如く陽菜はキンジに抱き付くと耳元で囁く……息があたって凄く変な気分であると言うかヒス的な血流が……

 

「師匠がアリア殿にご執心なのはわかってるでござる……ですが……かといって諦める必要はないでござる……」

「ひ、陽菜?」

「婚前行為等父上と母上に怒られるかもしれんでござるが……この際どうでも良いでござる」

「い、いやぁ、陽菜……親御さんの言い付けは守った方がいいぞ、うん」

 

物凄く危険な雰囲気なのは分かった……

 

「ま、待て風魔……お前が今酔っぱらってる……だからこうしよう……日本に帰ってから……な?」

 

実際陽菜が何を望んでいるのか全く分からないがとにかくこの場を回避できればそれで良しだ。

 

「……分かったでござる……ですがその代わり……」

「その代わりなんだむぐ!」

 

口を陽菜の口で塞がれた……

 

「これでいいでござ……るぅ」

 

コトンとキンジに凭れてそのまま陽菜は寝てしまった……

 

(将来俺はこいつと酒だけは飲まん……)

 

毎回これでは陽菜の親御さんにこっちまで頭を下げなければならない事態になってしまう。

 

キンジはそう本能的に悟っていた。

 

「旨いのかぁコレ……」

 

チビチビライカは酒を飲む。一年の中では唯一酒が普通に飲めたのはライカだけだったりする。

 

(そう言えばバスカービルのやつら……いで!)

「何すんだアリア!」

 

キンジは手に噛り着いてきたアリアを引っぺがす。

 

「ホントなんであんたは少し眼を離すとあっちこっちの女とチュッチュッチュッチュ……ホントにモテるわねぇ……ヒック!」

「?」

 

何でだろう……今回のアリアは怖くないぞ?

 

「なんでぇ……キンジはぁ……ふぇぇえええ!」

「っ!」

 

何と泣き出した……こいつは泣き上戸か!普段とのギャップ凄すぎだ……

 

「おいアリアぁ……何どさくさに紛れてキンちゃんに甘えてんだ……ああ?」

「し、白雪さん?」

 

酒瓶片手に顔を真っ赤にしてやってきたのは白雪である。

 

「つうかお前は前々から思ってたんだけどキンちゃんに話しかけるときだけあんなニコニコ面して……3歩後ろを歩く奥ゆかしさ持たんかい!」

「白雪がいじめるぅううう!!!!!」

 

白雪は……恐らく一番酒癖が悪い。し白雪のファンが見たら卒倒しそうな位危ない雰囲気だ。だが初めて飲んだ感じじゃない。恐らく星伽にあった酒をチョロまかしたことがあるんだろう。

 

「おー!良いぞやれやれー」

 

この中でマトモなのは少し何時もよりテンションが上がってる理子と……

 

「………………」

 

いつの間にかスヤスヤ寝ているレキ……

 

「やっぱあんまり美味しくないよなぁ……」

 

ずっと舐めるように飲んでいるライカ……あとは、

 

「お代わり」

 

白飯と遂には酒を大壺から直接飲み出し呂布や他の藍幇の構成員達を酔い潰させた一毅だけである……と言うかなんでこいつはあんだけ飲んでも顔が少し赤くなるだけで全然平気なのだろうか……

 

(さっきのは撤回だ……陽菜だけじゃねぇ……俺は将来こいつらと酒だけは絶対に飲まん……)

 

キンジは心にそう強く誓ったのであった……



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龍と金の決戦前

「………………はぁ」

 

キンジはため息をつく。

 

現在キンジはテグスのような物を海と言うか藍幇城のオープンテラスみたいなところから垂らしていた。

 

一応魚も釣れるらしいがこうやって考えるのはこれからどうするべきかである。

 

昨夜の宴会では結果的に先手を捕られた。いわばあれは懐柔策だろう。いい気分にさせて此方に対して好印象を持たせてきた。

 

例えその前に襲撃を受けたとしても人間は心理的に嬉しいことをされたり気分が高揚することをされると判断力が鈍り敵との距離を間違えることがある。

 

しかし静幻は何を考えているのだろうか……態々自分の敵地を晒すようなことをして……例え自分達のところに引き込むにせよ昨夜の宴会は歓迎し過ぎ感を持たずにはいられない。

 

「隣宜しいですか?」

「っ!」

 

すると、静幻が隣に来てテグスを垂らし始めた。

 

「いやはや今日は魚が釣りにくい日ですよ?」

「別に釣りたい訳じゃないんだがな」

 

キンジが愛想なく答えると静幻の眼が細まる。

 

「私が何を考えているか……でしょう?」

「……お前はエスパーか」

「コレくらいは簡単に()()()()から」

 

恐らく……シャーロックと同じく相手の感情……動き……動向を推理できるタイプなのだろう。厄介だな……

 

「そう警戒しないでください。私は貴方と話したかっただけですから」

「…………なんだよ」

 

キンジは静幻を見る。

 

「ええ、私は皆様を見たとき何て面白いチーム何だろうと思いました」

「……はぁ?」

 

キンジは首をかしげる。

 

「人間は稀に強く人を引き付けるものがいます。一般的にそれはカリスマ性と言われていますがその才能はどんなに磨こうとしても磨くことが出来ない物です。謂わば天然物が一部の例外を除き殆どです。」

 

キンジはだまって聞く。

 

「ですがカリスマ性を持つもの同士は往々として仲良くなれません。何故なら他人を自らの色に変えていくことがカリスマ性でありカリスマ性を持つものは他の色を嫌う」

 

静幻は語っていく。

 

「例えば桐生 一毅さん……彼も強いカリスマ性を持っています。男であればその強さに……何があろうと曲がらず砕けず消え去らぬその出で立ちに敵であっても羨望し、憧れていき、その背中に惚れてしまう……女であればその強さと性格ゆえに見せる漢の風格に無意識に惹かれていく……そして【華】があるその行動は敵を蹴散らし道を作りその道を多くの人間がついていく……圧倒的な武力を持って他の者を引き連れていく【武王】の才……三国志で言うと曹操 孟徳のような男です」

「…………」

 

キンジにも心当たりがあった。一毅は基本的に戦い終われば敵味方関係ないと言うやつで宍戸といい吉岡といいあいつは戦ったあとに敵を味方に変えていくことが多い。

 

一毅に言わせれば自分もそうらしいのだが一毅も大概そうだと思う。目立たないのは相手のリーダー格の相手をすることが少ないのが原因だろう。もし一毅がもっとリーダー格の相手と戦っていたら恐らく一毅に味方した組織は多いだろう。

 

それでも何だかんだで味方を増やしていっているところは一毅の才能なのかもしれない。

 

「対して間宮 あかりさん……彼女は一毅さんとは比べるのも痴がましい程に武力は低い方でしょう。無論……武偵としてであり殺し合いとなった場合は未だ未知数の部分がありますがそれでも桐生一毅さんと貴方から比べればまだまだ低い……だがそれ故に一挙一足が人を惹き付ける……命を賭してでも守ろうと思わせる……敵ですら友達になろうとする姿勢は危なげであり同時に長にとって必要な心でもある……正に徳を持って人を率いる【徳王】の素質……三国志で言うと劉備 玄徳のような人ですね」

「そうかもな……」

「因みに彼女って周りに女性が多いでしょう?女人望と言って女性を惹き付けるフェロモンみたいなものを持っているんですよ。人工的に持たせられる例外のひとつで彼女のような天然物には勝てません。ですが女にしか効きませんからそう言う意味では谷田 辰正という男はイレギュラーですね」

 

あの百合空間製造機の秘密はそこにあったのかとキンジは思った。

通りで周りには女ばっかり集まる訳だ。

 

しかし二人ともそうやって見ると普通じゃないことが良く分かる……だが、

 

「ですが貴方が一番の異質ですよ。遠山 キンジさん」

 

まるで心を読まれたような言われ方にキンジは眉を寄せた。

しかし静幻は顔色ひとつ変えずに話を続ける。

 

「あなたは不思議だ。説明したようにこの二人は特に人を率いると言う点に置いて武を使うか純粋なカリスマ性を使うかの差はありますが、どちらも一角の組織で相応の位を持って長をしていても何ら不思議じゃない。寧ろそうじゃないのが可笑しい……だが、貴方はその二人と交流を持っている。そして桐生一毅さんに至っては貴方をリーダーと呼ぶ……普通じゃないんですよ……貴方たちが深く付き合い更に仲間と呼び会うのはね……」

「………………」

 

キンジはだまって聞く。

 

「ですが生で会って分かりました。貴方は武力は桐生一毅には及ばない……カリスマ性では間宮あかりに及ばない……だが貴方は総合力ではあの二人に勝ってる……武もカリスマもバランスよく持った貴方の力は相乗効果を生み出している。更に幾らカリスマ性を持っていたとしてもそれを受け止める器がなくてはいけない。そして貴方の器は二人を上回ってる……そうして貴方は異質のチームを作り出してしまった……反発し合うものを纏め上げ、他者を受け入れ慈しみ包み込んでいく…………【仁王】の素質によってね……差し詰め……孫権 仲謀といった感じですね」

 

するとキンジは首を横に振る。

 

「そんな大逸れたもんじゃねぇよ俺は……何時だって色んな奴に助けられてばかりだ」

「そう言うところがですよ」

「?」

 

静幻の言葉にキンジは首をかしげる。

 

「貴方は確かに一人で出来ることは小さい。ですが同時にそれをできる人間が周りにいる。自分にはないものを無意識にか意識的にかはその時に寄りますがそれを理解し、他人にそれを願うことができる。他人を信じて託すことができるし、することができる状況です。貴方は並外れて()()()()()が良いんですよ。仲間に恵まれやすい体質と言う奴でしかも桐生一毅と同様に敵を味方に変えていくことができる」

 

キンジはそう言われて頭を掻く……そう言われて嫌な気もしないものだ。それに確かに仲間に恵まれていると言う自覚くらいはある。

 

「そこでなんですけどね……」

 

静幻はキンジの方に体を向けると頭を垂れた。

 

「我ら香港藍幇を率いてはもらえませんか?」

「……は?」

 

キンジは一瞬自分の耳が悪くなったのかと思った。

 

「今でしたらココ達をあげますし」

「いやそれで吊られねぇよ」

「アリアさんたちも一緒でいいですよ?」

「いやだから……なんで俺なんだよ」

「言ったでしょう?巡り合わせが良いからです。それに……私ももう長くない」

「え?」

 

静幻はキンジの顔を見る。

 

「肺をやりましてね……保ってもあと一年……私の予測では一年半が限界でしょう」

 

そのまま静幻は続ける。

 

「今、上海藍幇の力が急激に延びている。上海藍幇は日本で言うヤクザみたいな組織でしてね。香港藍幇も乗っ取られれば多々では済まないでしょう。無論ルゥ君や他の皆も含め実力はある。だが私が居なくなれば率いるものがいない……そこで出会ったのが貴方です。類稀な巡り合わせの力……敵を味方にしてしまうカリスマ性……巨大な敵を打ちのめす武力……貴方は恐らく……世界で最強の才能の持ち主ではないでしょう。ですが……世界で最も厄介な才能も持ち主です」

 

そう言って更に頭を下げてきた。

 

「私は香港藍幇が大好きでしてね……残したいんですよ……自分が去ったあとにも……私はここで育ちました……そしてたくさんの人間と巡りあいました……消えてほしくないんですよ……」

 

何処か縋るような口調……キンジは一瞬息を飲んだ。

 

この男の中には覚悟がある。例えここでどんなに頭を下げてでも未来にこの香港藍幇を残したいと言う強い思い……泥臭くても格好悪くても……自分の夢のために……

 

だが同時に……諦めてるんだ……自分の死と言う運命に……

 

「まあここで答えを出せといっても無理でしょう。この話はまたということで……あ、そうそう」

 

静幻が小箱をキンジに渡す。

 

「アリアさんの殻金です」

「っ!」

 

キンジは慌てて開けると確かにその中にはあった……

 

「さて、私は用事がありますからいきますね。では」

 

そう言って静幻は去っていった。

 

「…………器……ね」

 

どんどん勝手に自分はすごいやつ扱いにされていく……勝手に評価が上がっていく……そんなつもりはないと言うのに……だ。

 

「何してんだ?」

 

すると、寝転がったキンジの顔を覗き混んできた人物……先程話題に出た一人、一毅だ。

 

「少し考えごとでな……ってかあんなに昨日飲んでなんともないのか?」

「全然?爽やかな朝だぜ」

 

化け物かこいつは……とキンジはため息をつく。

 

「お前はいいな。悩みごととか無さそうで」

「いやいや、俺だってあるぞ?」

「例えば?」

「そりゃあ……ええと……」

 

悩むなよそこで……

 

「あ、悩みがないことで悩んでる!」

「羨ましい限りだ」

 

キンジはそう言って立ち上がる。

 

「なあ……俺とアリアの関係って何だろうな」

「は?」

「いや、お前に聞いてみたかったんだけどさ……中々二人になれなかったから」

 

先程の静幻との会話を記憶の隅に追いやるため敢えて別の話題を出す。

 

「うーん……パートナーで……同居人で……ご主人様と奴隷で……」

 

一毅に出されていくとずっこけそうだった。

 

「まあお前の好きな人?」

「っ!」

 

キンジはビックリ仰天し海に落ち掛け一毅が慌てて掴んだ。

 

「な、なに言ってんだお前!」

「違うのか?」

「ちが……」

 

うと言おうとしてキンジはその前に一つの答えが出てきた。

 

(そうか……だから悲しかったんだ……)

 

アリアは海外慣れしてて自分が慣れてないのが嫌だった……微妙な関係でいるのが嫌だった……パートナーと言われるのが嫌だった……同居人で終わってるのが嫌だった……主人と奴隷なのが嫌だった…………何でか今まではっきりしなかったけど今のではっきりした……

 

(俺は……アリアのことが好きだったのか……)

 

遠い存在に感じるからこそ悲しかった……届きそうで届かないのが悔しかった……その内自分の声の届かないところに行くのが嫌だった……

 

これが恋をすると言うことなのか……とキンジは内心呟く。

 

「おーい……」

「はっ!」

 

一毅に叩かれてキンジは正気に戻る。

 

「どったん?」

「いや少し自覚がでたと言うか……」

 

キンジがシドロモドロしていると……

 

「何してんの?」

「ユアン!?」

 

キンジに声をかけてきたのは迷っていたときにお世話になったユアンだ。

 

「なんでここに……」

「お前と知り合いだってバレてさ……」

 

それを見て疑問符を飛ばすのは一毅だが……ポンッと手を叩く。

 

「キンジがこっちで落とした女か」

『違う!』

 

二人が叫んだ。

 

「ってそんなことをいってる場合じゃない。来いよ」

 

ユアンがこいこいをする。

 

「猴さんが呼んでるんだ」

『っ!』

 

二人が表情を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「連れてきました」

 

ユアンに連れられやって来たのは地下だ……そして呼ぶとパズルの本で遊んでいた猴が顔をあげた。

 

だがしかし短くて露出が激しい名古屋武偵女子学校の制服……そんな格好でゴロゴロしていたため非常にあられもない格好だったためキンジと一毅は視線を逸らした。

 

「待ってました。遠山、桐生」

 

礼儀正しく正座した猴は二人を見る。

 

「今は……猴なんだな?」

「あい」

 

一毅は猴を見た。

 

「しかしキンジから多重人格と聞いてはいたが違いすぎるな……しっかし猴だったり孫だったり忙しいなお前も」

「孫でいるのは心身ともに負担をかけますから……もう戦えますがもう少し休みをいれれば完璧です。それまでは待機を命じられています」

 

大方猴が完全になったところで踏み込んだ交渉をするのだろう。

 

「昨日の戦いは聞きました。孫は恐らくその時は遊んでいました」

「遊んでた?」

「あい……間違いなく次は孫は本気で殺りに来ます」

 

確かにキンジもそれは分かっていた。昨日の戦いは前哨戦と言うだけあって確かに遊んでいた節があった。

すると猴は衝撃の言葉を口に出す。

 

「ですから……私を殺してください」

『っ!』

 

一毅とキンジは驚愕するがそれをよそに猴は続けた。

 

「闘いの中でとなれば藍幇も文句は言えないでしょう。それが私を救う……」

 

優しげで……とても見た目からは想像がつかない言葉だった……そこに、

 

「わかった殺してやる」

『誰だ!』

 

後ろを振り替えるとヒラヒラの改造制服をその身に纏った理子が銃を抜いていた。

 

「おい理子やめろ!」

「全くキンジはロリに甘いなぁ……お前だって見ただろ?レーザー攻撃……昨日は一毅が斬ってくれたがもしお前だけの時にやられたらどうすんだ?」

 

そう言って理子は猴に近づく。

 

「んで?あのレーザーって弱点ないの?」

「ありません。レーザー……いえ、皆様には【如意棒】と言った方が分かりやすいですね。これは相手を視界に入れただけで射抜く事が出来る最強の矛で唯一桐生の刀は例外ですが全て貫きますし溶かします」

「なあ、なんで俺の刀だけは貫けないんだ?」

 

それは昨日からの一毅の疑問だった。あの時は邪魔できればと思い無意識に出したがまさか斬り飛ばすとは思わなかった。

 

「あれは昔星伽と言う巫女が桐生の家に伝わる最上級クラスの大業物の刀を使い作り出した対色金用の刀なのです。三本の刀は色金が産み出す超超能力(ハイパーステルス)を実体のように捉え斬ることが出来ます。更にその刀は……あいや、今のは忘れてください」

 

何かを言い掛けて止めたがそれより、

 

『星伽……?』

「あい、そちらにもいるはずです。その末裔が……そしてその巫女はもっているはずです。イロカネアヤメを……」

 

確か白雪が持っている刀がそうだったはずだ。

 

「イロカネアヤメは桐生の刀と違い制御棒みたいなものです。それを使えば私を孫から戻したりその逆を行ったりすることができます」

「制御棒?」

「あい、星伽は古来より緋緋色金を研究して動かしてきました。そして私はその成果です」

「まさかお前……」

 

キンジの呟きに猴はうなずく。

 

「私の胸には外科的に緋緋色金を埋め込まれている……そう、私は不完全な緋緋神です……」

 

キンジは絶句する。将来アリアもなる可能性があると言われた緋緋神……それが目の前にいる……

 

そう言えばイロカネアヤメは……【色金殺め】とも書ける……もしかすれば自分達の知らぬところで様々な出来事があったのかもしれない。

 

「戦いが始まったら恐らく私は孫にされます。ですが星伽であればもう一度猴にすることができるはずです。そこで桐生と遠山は私を殺してください。私は生命力が高いですが桐生の刀は色金適応者に対して猛毒を塗った刀身のようになります。私に対して斬撃を叩き込めば瞬時に絶命させられるでしょう」

 

一毅とキンジは声がでない。

 

頭の中には武偵法9条とか色々めぐっているが処理しきれない。

 

「この話は一度預けます。心の準備を必要ですから……でも信じてますよ?」

 

二人は歯を噛み締めることしかできなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………はぁ』

 

猴から話された日の夜……あの後理子と別れ一毅とキンジはない知恵を絞って考えたが結局何も決まらないままだった。

 

「どうするよ」

「どうしようもねぇよ……」

 

このままでは猴がいったように殺すしかなくなってしまう。

 

「しかしお前の刀が緋緋神殺しの刀だったとは驚きだぜ」

「しかも星伽ってことはうちの先祖って白雪の先祖と知り合いだったってことか?」

「恐らくな……」

 

そうやって考えると自分達は本当に何も知らない……と言うか知らされてない。

 

「ただの凄まじく良い刀かと思いきやこれだもんなぁ……頭の用量越えるぜ」

 

だが緋緋神のオンオフを切り替える……つまり緋緋神操るための物が白雪のイロカネアヤメ……そうやって考えた場合一毅のは正反対の武器だ。

 

そして緋緋神は恋戦いを好む神……そして自分は性的興奮……ある意味相手を意識すると言う点においては恋心にも近い感情で発動するヒステリアモードの持ち主……

 

そして極めつけに緋緋色金適応者……アリアがいる……

 

(偶然……なのだろうか……俺たちが集まってると言うのは……)

 

一毅とキンジは東京武偵高校に入ったのは本当に偶々だと思いたい……だが良く考えてみればなぜ白雪は武偵高校にいたのだろう……星伽は特別な用事がない限り社から出ることもできないはずだ。

それがなぜ東京なんて言う遠い学校への入学が許されたのだろうか……

 

そして何故イ・ウーは日本の東京を中心に活動したのだろう……その性でアリアが東京武偵高校に編入してイ・ウー探しをすることになったのだ……

 

(まるで……誰かの意思によって一ヶ所に集められたみたいだ……)

 

キンジは内心冷や汗を垂らした。

 

「なんだキンジ、名案が思い付いたか?」

「やっぱり如意棒を使わせずに倒す……これしかないな」

「そうか……」

 

二人には最初から殺す選択肢を選ぶ気はない。

 

「ま、俺には呂布もいるしなぁ……援護出来ないぞ?」

「期待してねぇよ。こっちも気合いいれていくさ」

 

二人は笑う。する放送が入った。

 

《全員今すぐ大広間に集合ネ》

 

すごく嫌な予感するが……行くしかない。

 

 

 

 

「行くぞ」

 

キンジと一毅は立ち上がって歩き出す。幸い着くとすでに皆は集合していた。

 

「んで?ココ、何のようだ?」

 

書状みたいな物を持ったココにキンジが聞く。すると、書状を広げていった。

 

「上海藍幇の命令ね。【遠山キンジは武大校位を与え、3000万人民元給与として与える。更にココ達を正妻とし、中国語を覚えるまで教師もつけること】……あ、もちろん女性ね」

 

正妻として……の下りでアリアと白雪がR18指定の人相になったが今はそっとしておこう。

 

「更に、【チームバスカービル、及びその後輩たちにも相応の位を与え給与を払う。後も遠山キンジの部下として動くこと……】分かったネ?」

 

全員がうなずく……いや、一人わかってないものがいた。

 

「全く分からん」

 

一毅の言葉に全員ずっこけた。

 

「言い回しが長い上に難しい言葉使っていて意味わかんねぇよ!」

「つまり破格の待遇で迎えてあげるからこっちに大人しく下れってことだバカ!」

 

キンジは噛み砕いて説明してやって頭を抱えた。

 

「まあだいたいそんなとこネ。これ断ったらただのバカ……そんな馬鹿なら戦役のルールに則って倒すだけね」

 

ようは従わねば殺すってやつだろう。

 

「んで?静幻は?お前の上司だろう?」

「邪魔だったからふん縛っておいたね。なぁに、キンチの奥さんになればココの位も上がって静幻は下ね」

 

そしてココはキンジに手を伸ばす。

 

「これが最後の通告でプロポーズね……キンチ、こっちに来て一緒にトップになるね」

 

キンジはそれを聞いて目をつむる。決して後ろのレキ以外のバスカービルの女子と陽菜の目が怖かったからじゃない。断じて違う。

 

「……上海は人選をしくじったな」

 

キンジが出したのは手じゃない。ベレッタだ。

 

「お前じゃダメだ……静幻だったら良かったがな」

 

出した答えはNO……掛かってくるなら来いと意思を表示する……あれだけの地位と金を見せられても揺らがないのはカッコいい……が、

 

「お前……男色家だったのか?」

 

ココの後ろで控えていた呂布の絞り出した呟きのキンジはずっこけた……だが、他の皆もそう思ったらしく、

 

「き、キンジあんたそういうやつだったわけ?」

 

アリアだけじゃない。一年たちまでズザザ!っと距離をとった。

 

「違う!断じて違う!俺は交渉相手が静幻だったらよかったと言っただけだ!」

 

キンジは全力で否定した。

 

「とにかくお前ら……気を付けぇ!!!!!!」

『っ!』

 

蘭豹仕込みの発生で意識をリセットさせた。いつまでもこれでは話が進まない。

 

「とにかくだ、金と地位さえ見せれば何でも叶うと思うなよココ。少なくとも《巧言令色少なし仁》って言うだろうが。そんなもんもらうより平和な日常の方が俺は欲しいんでね」

 

リーダーが完全にやる気を見せたことで一毅たちも武器を構える。

 

「そうか……まあしょうがないネ。半分くらいはそうなる気がしたよ」

 

そう言って四人のココたちが二人ずつ半分に別れる。

 

「なら勝負ネ……」

「ああ、負けたらそっちに下ってやるから安心しろ」

 

キンジがそういうとココが笑う。

 

「雑魚は使わない。勝負は……昨日の続きで良いネ……決着をつけると良い」

 

そう言ってココたちは階段を上がっていく。

 

「キンチ、孫は上ね。頑張ってくるよ」

 

そう言い残して上へと消える……

 

「よし……行くぞ!」

 

キンジがそういうと全員がそれぞれの相手へと走り出す。

 

「キンジ!捕まって!」

「っ!」

 

ホバースカートを身に付けたアリアはキンジを引っ張ってこれから激しくなるであろう激戦区予定地を抜けていく。

 

「来い桐生……俺とお前の戦いは周りに迷惑がかかるからな」

「上等だ!」

 

一毅と呂布も上がっていく。

 

 

 

 

 

決戦の火蓋が切って落とされた瞬間であった……



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龍達の決戦 巌流と双撃の将

「くっ!」

「ウラァ!」

志乃のハンドガード付の日本刀と甘餓カリスティックが火花を散らしながらぶつかり合う。

 

「さぁて……決着をつけようぜ大和撫子!」

「望むところ……です!」

 

志乃は弾き返すと日本刀を腰に添える……

 

「燕返し!!!!!!」

 

巌流に伝わる居合い……だがそれを甘餓は両手に持ったカリスティックを交差させて受けると志乃を蹴っ飛ばす。

 

「っ!」

 

それを咄嗟に伏せて躱すと切り上げる。

 

「うぉ!」

 

それを顔を逸らして避けた甘餓は右手のカリスティックを横に凪ぐ。

 

「はぁ!」

 

だがそれを志乃は上へと打ち上げるように正面からではなく横から受けて流した。

 

「器用なやつだな……」

 

甘餓の一撃は正面から受ければ腕力で大きく劣る志乃は劣性を強いられることになる。

 

だがどんな強撃も受け流せれば……衝撃を正面からではなく横から受ければ腕にかかる負担は大きく減らせる。

 

一毅もこういった技術を吉岡 清寡との戦い以降そういった技術を身に付け使うし元はこの技術……志乃は白雪から伝授されている。

 

更にそこから、

 

「燕返し!」

「っ!」

 

受け流しの動作から流れるように居合いの構えと持っていくと至近距離からの燕返し……

 

「ぐぉ!」

 

僅かに脇腹を切り裂かれつつもなんとか躱した甘餓は距離を取る。

 

「やっぱり強くなったよなぁ……大和撫子……お前名前なんだっけ?」

「佐々木……志乃です」

「佐々木 志乃ね……OK。舐めてたことを詫びるぜ……お前は充分脅威だ……だから……俺も本気でいくぞ」

 

甘餓の持っていた覇気が変わる……先程までのふざけた雰囲気はない。

 

「ええ、私も手加減を辞めていきます……」

 

そう言って志乃はハンドガード付の日本刀を腰に添えて……再度居合いの体勢を取って相手を見据える……

 

『……………………………――っ!』

 

甘餓は一気に間合いを詰めて右手のカリスティックで志乃の額を狙って突く……

 

志乃は一気に燕返しを放ちカウンター気味に迎撃する。しかし、

 

「がっ!」

 

軍配は甘餓に上がりもろに受けてしまった志乃は後方へ吹っ飛ばされた……

 

「く……」

 

クラクラしながらも志乃は相手から眼は離さない。

 

「アブねぇアブねぇ……だが何度も同じ手は喰らわねぇぜ……」

 

左手のカリスティックで防御しながら攻撃した甘餓は両腕のカリスティックを握りなおす。

 

「つつ……」

 

志乃は頭を抑えながら立ち上がるともう一度居合いの構えを取った……

 

「お前そればっかだなぁ……」

「私にはこれしかありませんから……」

 

志乃は……はっきり言って自分の剣が並外れたものだと言う考えはない。寧ろ大きく劣る。そういった風に考える。

 

剣術と言う点において白雪やその白雪を大きく上回る一毅とは年齢とかそう言ったものだけでは説明のできない物があるとわかっている。

 

自分の戦妹(アミカ)である白雪には超能力がある……

 

一毅には圧倒的なまでの武力とそれを支える恵まれた肉体がある……

 

じゃあ自分には何があるだろう……腕力も才能も大きく劣り、超能力もない自分の剣は一般人から見れば充分に凄いかもしれないがこう言った一般人ではない者たちとの戦いにおいて志乃は低くなってしまう。

 

「なら……いくぞ!」

「っ!」

 

志乃の燕返し……だがそれは今度は二本のカリスティックで絡み取られて捨てさせられた。

 

「がっ!」

 

そこの来たカリスティックによる撲撃……ミキミキと脇腹にめり込み吹っ飛ぶ……

 

「ごほ……」

 

ゴロゴロと転がりながら志乃はふらつく頭で思う。

 

自分は不毛な想いを持っている。あかりに対して明らかに友人以上の想いを持っているのを認める。

 

分かっているのだ。報われないことくらい。どんなどんでん返しがあったとしても自分の想いが報われることないくらい重々承知している……

 

何だかんだ言ってもあかりは辰正と一緒になるのだろう。それだって勘だが凄く現実味がある。恐らく辰正は浮気もしないしあかり以外の女を囲うことだって無いだろう。

 

そして分かってしまうだけに悲しかった……もし自分が男だったら……きっと女の肉体とは違いもっと身体能力だって戦っただろうしあかりを愛することだってできたと思う。だが女として生まれ女として育って来た自分にはどんなに足掻いてもあかりとは女同士であると言う事実を変えることはできないしあかりはきっと自分を友達以上には思わないだろう。

 

それでも……良いと思う自分と否定する自分が常にせめぎ合い睨み合う……あかりは大好きで辰正を憎々しく思う自分……でもそんな二人を認めて祝福する自分……そしてライカや陽菜を妬む自分……

 

ライカは自分の気持ちを通して一毅とはレキとは別の恋人と言う立ち位置を得た。陽菜はキンジに執心だがきっとアリアとか白雪とか理子とかこれから出会っていく女性達の中に居て大切にされていくと思う。そう思うと二人にも嫉妬する。

 

何時だって自分は宙ぶらりんでどっちつかずで妬んでばかりだ……そう分かっても妬んでしまう自分が大嫌いだ。

そんな風に考えていってどうしようもなくて暗くなっていく自分がいた……

 

「はは……」

「?」

 

志乃は笑い、甘餓は首をかしげる。

 

(ほんと私何時も何時も悪い方に考えてばっかりだ……)

 

そう思いながら志乃は立ち上がる。

 

それでも志乃は戦う。たとえどんなに打ちのめされれも叩きのめされても……またあかりと笑って会いたいから……報われなくてもみっともなくても……佐々木 志乃が15と少し生きてきて初めて思った心。

 

(私はあかりちゃんの一番の友達だもんね)

 

これだけは譲れないポジション……たとえ辰正に心奪われて良い……事もないけどそれでも……一番の友達ということは譲れない。たとえライカでもそこはダメだった……

 

(だから……笑って会えるように……私は勝つよ……あかりちゃん)

 

スッと居合いの構えを取る……本日何度目かわからない。だが……その構えを取った表情に陰りはなく……美しい笑みを浮かべた。

 

「全くよ……そういう顔もできんのかよ……惚れちまいそうだ」

「残念ですがもう好きな人いますから」

「どんなやつだい?」

 

そう言いながら甘餓はカリスティックを握りしめ走り出す。

 

「……そうですね……優しい子です」

 

志乃も走り出す……そして次の瞬間キン!っと言う音が辺りに響いた。

 

『…………………………』

 

静寂が辺りを支配する……それと共に甘餓のカリスティックに切り傷が走っていく……

 

「くく……」

 

甘餓のカリスティックが二本とも半分になった……

 

剣術においても最高ランクの難しさを誇る技術……【斬鉄】……

 

一毅や白雪は既に基本技術として使うが志乃は今まで習得することは叶わなかった。だが、土壇場にて志乃はその最高ランクの技術をついに物して見せた。

 

簡単なことではない。だが、他の仲間達もそれぞれの方法で強くなっていった。そんな中で志乃だけ胡座をかいていた訳じゃなかった。鍛練に鍛練を重ね続けた結果……最後の踏ん張りがこの結果を産み出した。

 

諦めないこと……口や物語では簡単に出されることだが実際に行動すると凄まじく大変で苦労が多い……だが敗北と言う結果はその辛さにも打ち勝ち続けることができた。そして甘餓という男から最初で最後の勝利をもぎ取ったのだ。

 

「これは……俺の敗けだな……」

「はい……私の勝ちです……」

 

その呟きを合図に袈裟傷が甘餓の体に現れる……志乃は鞘を取り出すとそこに納めていく。

 

「巌流・燕返し【斬鉄】……」

 

チン!っと言う音をたてて刀を仕舞うとそれを合図に、

 

「がは……」

 

力が無くなった甘餓はそのまま事件に倒れ伏した……

 

 

 

 

 

 

――――――勝者・佐々木 志乃――――――



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龍達の決戦 忍と速爪の将

「ふっ!」

「っ!」

 

陽菜の忍者刀と夏候黽の鉤爪がぶつかる。

 

「っ!」

 

そこから夏候黽は鉤爪を陽菜に向かって突き出す。

 

「うっ」

 

それを陽菜は後ろに飛んで避けると手裏剣を投擲する。

 

「……っ!」

 

それを夏候黽はコートを脱いでそれを振り回して防ぐとプッと何かを吹いた。

 

(含み針!)

 

狙いは右目だ……その為陽菜は咄嗟に腕を交差させて防ぐ。チクリと腕に走る僅かな痛み……だが素早くそれを抜くと捨てた。

 

「残念ながらその程度では今の拙者には意味はないでござるよ」

「そうみたいだね」

 

夏候黽はコクりと頷く。

 

若干血が出てるが意味はない。元々含み針は急所に当ててこそ効果を発揮する武器であり腕で防がれては意味がない。まあ針に毒を塗ってあったら別だがそれでは口に含んだ時点で自分が毒を食らってしまう……

 

「…………面倒」

 

夏候黽は声に出しながら溜め息を大きくついた。

 

「前より強くなってる」

「またこの間のような失態を師匠に見せるわけにいかぬ」

 

そう言って忍者刀を握り直す。

 

「成程ね……!」

 

そう言って夏候黽は素早く間合いを詰めると鉤爪を着けた右手を突き出す。

 

「くっ!」

 

それを忍者刀で受けるとキンジ直伝のハイキックで夏候黽を蹴り飛ばす。

 

「ちっ!」

 

だがそれを伏せて躱すと今度は左手の鉤爪で陽菜の足を狙う。

 

「っ!」

 

それをジャンプで躱すと背中から火縄銃を抜いた。

 

「いやあんた一体何時の時代の人間よ」

 

呆れながら夏候黽は横に跳んで躱す。

 

「そこでござる!」

「っ!」

 

火縄銃は一発しか撃てない……そう読んでいた夏候黽の隙を突いて陽菜の手裏剣が夏候黽の足に刺さる。

 

「うっ!」

 

更に陽菜はそこから大きく体を中に浮かすと前へ一回転し踵落とし……

 

「かぁ!」

 

それを夏候黽は何とか腕を交差させて耐えると押し返す。

 

「いっつ……」

 

夏候黽は手をプラプラ振る。流石に陽菜がいくら軽量とはいえ今のはかなり衝撃だ。

 

「流石にヤバイなぁ……」

 

夏候黽は舌打ちする。このままでは押し切られる可能性が出てきた。

 

「流石だね。所謂愛の力ってやつ?」

「どうでござろうな」

 

陽菜がそう言うと夏候黽は鉤爪を突然はずした。

 

「?」

「私にとって鉤爪を使うって言うのは云わば手加減なんだよ……何故ならそっちの方が手加減できるからね」

「まさかそれは……」

 

鉤爪を外されたその手は紫色に変色していた……見た目で既に毒々しい……

 

「毒手……」

「正解……さすが忍者の子孫だね」

 

【毒手】……辞典などでは卑怯な手段等と称されるがそれでは勿論ない。

 

元来少林拳に伝わる禁じ手であるこの技は実際には誰でも習得が可能である。

 

まず多数の毒草、毒虫を完全な配合によって砂と混ぜ合わせることで毒砂を作り出す……後はそこに手を突き入れるだけだ。無論その際に微量の傷を手に着けてそこから毒が染み込んでいく為近くに洗浄用の薬水も用意しておき洗浄する……そしてまた毒砂に手を入れて洗浄……毒砂に手を入れて洗浄……毒砂に手を入れて洗浄と延々と繰り返す。当たり前だがその際に手に生じる激痛は想像を絶しており痛みのあまり水からの手を切り落とす者が居るとまで言われる。

 

その為習得までの手順は簡単だがその過程に多くの者が挫折していった。

 

「毒手の使い手と会うとは……」

 

だがその毒手は完全に習得するとこの世で最も危険な暗殺武器となる。何故ならその毒手は相手に触れただけで相手を毒に犯す事が出来る。調合によるが触れただけで相手を瞬時に絶命させる事もあると聞いたことがあった。

 

そして素手と言うことは……現在においても金属探知がされず秘匿性においてこれ以上ないことは言うまでもない。

 

「安心して……触っても苦しいだけだから……死にはしないよ」

 

そう言われても触られただけで危険なのだ。それが両手……同級生には莢竹桃と言う毒使いがいるがそいつは爪に仕込んでいた上に左手だけだ。それに対して手全体が毒と言う利点……更に両手と言う手数の利点……かなり危険だ。だが、

 

「退けぬ!」

 

そう叫び陽菜は袖から分銅を出して投げる。

 

「遅い!」

 

だが瞬時に間合いを詰めた夏候黽の手が来る。

 

「くっ!」

 

それを何とか回避する。鉤爪とは違い掠っただけでも戦いに関わる。

 

「ハァ!」

 

そこから逆の手の突きだし……

 

「チィ!」

 

それも回避するとバックステッ……

 

「っ!」

 

そこに足の甲に鋭い痛みが走り動きが止まる。

 

「さっきは止められたけどね……」

 

二発目の含み針を吹いた夏候黽は薄く笑いながら間合いを詰める。

 

「私たちみたいな暗殺者タイプは相手の裏をかかないとね!」

 

ドン!っと遂に制服の裾から手をいれてきた夏候黽の毒手が陽菜の腹に当たる。

 

「あがっ……」

 

そこに走った痛みは明らかに打撃を食らった痛みではない。まるで硫酸を掛けられたような痛み……毒手を喰らったときに感じる独特の毒が染み込んでくる感触……何より皮膚が焼けるように熱くなっていく。

 

「あ……がぐ……」

 

陽菜は腹を抑えて膝を着く。

 

「あ……う……」

 

痛みだけではない。たった一度食らっただけで毒に犯されたのが分かる。精神が奪われていく……だが、

 

「ま、だでござる……」

 

忍者刀を杖代わりに陽菜は立つ。

 

「スッゴいねぇ……普通は痛みと毒を受けたって恐怖で立てなくなるんだけど……」

「その程度……ねじ伏せるに決まってるでござろう……」

 

陽菜は構える……

 

「やっぱり師匠に勝ったって言うため?」

「無論……そして師匠にお誉めいただく」

「でもさぁ……君って脈なくない?」

「…………」

 

陽菜は眉を寄せる。

 

「いやさ、師匠って遠山キンジの事でしょ?あの人って女の人に囲まれてはいるけど基本的に神崎アリアしか普段から意識はしてないっぽいじゃん?そりゃくっついたり酔った勢いでキスされたら照れたりするけどそれだけじゃん?異性として好意を持ってるのは「そんなことは百も承知でござる」……」

 

陽菜は打って変わってしっかりとした足取りで相手を見据える。

 

「そんなことは分かりきっていることでござる。拙者は未だ後輩と言う目で見られている上に師匠は様々な女人をタラシて行く割にはアリア殿一筋……そんなのは幾ら男の経験が皆無に等しいというか0の拙者にでも分かってしまうでござるよ……」

 

陽菜だって異性として見られていないのなんて分かってる……キンジが女タラシのも分かってる……キンジが鈍感なのも分かってる……女心に無知なのも分かってる……昼行灯なのも普段は情けない部分があるのも……そして一番大切なことだが自分は例え世界がひっくり返ったとしても()()にはなれない……どんなことがあったとしても……だが、でも……と陽菜は続ける。

 

「拙者が師匠が好きと言う事には何ら意味もない事実でござる」

 

陽菜はしっかりと言い切った。

 

陽菜は何時だって言い切れる。キンジはそれでも自分の愛する人だと……お人好しで何だかんだで面倒事を親友と背負い込んで命掛けて死にかけて……それでも懲りずに立ち向かっていく……いざというときは便りになる愛しき人……それが陽菜にとって遠山キンジと言う男だ。

 

「中々慕ってるようね……でも!」

「っ!」

 

陽菜に二発目の毒手が迫る。

 

「がっ!」

 

今度は首……首に走る焼け着くような痛みに陽菜は顔を顰める。

 

「負けてちゃ意味がないのよ!」

「それだって……」

 

陽菜は遠退きそうな意識の中でも叫んだ……

 

「分かってるでござる!」

 

そう言って陽菜は普段から着けてる防毒マスクを外すと何かを吹いた。

 

「ぐぁ!」

 

鼻を襲う痛み……

 

「敵に含み針を当てるときはその後再利用されないようのするべきでござるよ……」

 

そして陽菜は夏候黽の頭上を越えて跳ぶと何かを引いた。

 

「なっ!」

 

すると夏候黽の首に巻き付く鎖……先程投げた鎖分銅の鎖が首に巻き付き夏候黽の体を床から離しぶら下げる。

 

「が……ぐ……」

 

じたばた暴れるがもう既に遅い……

 

「先程投げた鎖分銅……あれは外れたのはわざとでござる。とは言え毒手には当たる気はなかったため計算違いもあったでござるが……」

「あ……ぐぅ……」

 

陽菜は更に絞める。

 

「お主は相手の裏をかくのが暗殺者だと言った……確かにそうでござる。だが……拙者は忍び……忍びは【相手の裏のそのまた裏をかく】……そう言うものでござる」

「ふう……ま……ひなぁ……!」

 

夏候黽は呪詛のように呟くとそのまま遂に頸動脈を絞められて脳に酸素がいかなくなったため意識を手放す。

 

「そう……拙者は風魔 陽菜」

 

陽菜は鎖から手を離して夏候黽を下に落とす。

 

「伝説の忍・風魔小太郎の末裔にして主君・遠山キンジの影なり……」

 

その宣言は同時に陽菜の勝利宣言でもあった……

 

「さて……恐らくは……」

 

陽菜は気を失った夏候黽の服を調べる。すると小瓶を引っ張り出した。

 

「やはり解毒剤を持ち歩いておられたか」

 

毒手は水からの手を毒を染み込ませて行う技だ。何かしらの拍子に犯す必要のない相手を犯してしまったりすることもあるし何より常時毒を体に着けておくのだ。余程毒に耐性がある人間でなければ定期的に解毒を行わなければならない。故に解毒剤を持っていると思っていたがやはりそうだった。

 

まあ毒手自体もそんなに強力ではないようだしこれを飲んでしばらく安静にしとけば大丈夫だろう。

 

「拙者も毒使いには碌な目に会わないでござるなぁ……」

 

陽菜はそんなことを呟きながら解毒剤を煽った。

 

 

 

――――――勝者・風魔 陽菜――――――



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龍達の決戦 鷹と拳槍の将

『ハァ!』

 

あかりの左手に握られるナイフと趙伽の貫手が交差する。二人は互いにギリギリで躱す。

 

「前より動きが良くなったね」

「当たり前で……しょ!」

 

そこから更にナイフを振るって追撃……

 

「甘いね!」

「っ!」

 

横に少し動いてあかりのナイフを躱すと首に向かって貫手を放つ……だがあかりは、

 

「ラァ!」

「なっ!」

 

放ったのは頭突き……貫手に併せるように放った頭突きは趙伽の貫手と激突…………

 

「ぐぁ!」

 

趙伽の手からメキャっと言う音がして趙伽はたまらず距離をとる。

 

「握り拳による突きを面とするなら貫手は点を穿つ技……故に貫手の使用者は指を鍛え上げるけどそれでも基本は人体でも柔らかい部分を狙う……そうじゃないと漫画やアニメやないんだから指を壊す……ってアリア先輩から教わった」

「面倒なこと教えてくれたね……」

 

趙伽は引っ張って指を戻すと息を吹き掛ける。

 

「避けられなければ受けるか……」

 

貫手と言う技術は元々空手に見られる拳撃の一種だ。

 

そもそも拳撃は【拳】【張り手】【熊手】【手刀】そして【貫手】……大まかにとは言えあげていってもこれだけ。日本に限らず世界中に存在する格闘技もこの大まかには五つしかなくその中でそれぞれの格闘技や使い手によって昇華されていく。

 

例えば拳を使う格闘技と言えば有名なのはやはりボクシングだろう。現在ではスポーツ競技の様子を見せているが元は素拳(ペアナックル)を用いて戦うために作られた立派な実戦武術であった。

人間が生まれたときより誰に教えられたわけでもないのに覚えてる【殴る】と言う技……それを軽快なフットワークで相手の攻撃を躱し最低限の動きで相手穿つ……

 

次に張り手……掌打や掌底とも称されるこの技はまあ日本人にとって馴染み深い相撲が有名だろう。

相撲は日本が世界に誇る格闘技であり古くはあの織田信長も若い頃は相撲に明け暮れて成長してからも相撲好きだったといわれる。

そしてその力士が放つ張り手の破壊力は何と横綱クラスともなるとへヴィー級のボクサーのパンチを遥かに上回ると言われる。

 

次に熊手……これを主流に置いている格闘技は見たことがないが古流武術に見られる攻撃方法だ。

指の第二関節を畳んでパーとグーの中間みたいにした拳を相手の不意をつく形で頬に炸裂させる……不意を突かれた相手は場合によっては脳を揺らされ鼓膜を破られる。完全に不意打つようではあるが使いこなせば一対一に置いて相当なアドバンテージ得られる技なのは間違いなく同時に危険な技である。

 

次に手刀……これはもっとも有名な攻撃方法だ。相手への牽制に加えプロレス、古流武術や中国拳法と使う格闘技は幅広いが実は効果的にダメージを与えるとしたら首、もしくは顔面しかない効果範囲の狭い技だったりする。別に肩とか脇腹とか狙ってもいいが固い部分になればなるほど繰り出す前に大きく振らなけらばならず最小で済ませるならやはり急所を狙うべきだ。

 

だが恐らくは……もっとも危険な攻撃方法なのは貫手だろう……

 

指で突くという事は突き指や骨折等の危険性がある。だが指というのは点だ。点と言うのは当てたさいに力が集中する面積……それが小さいと言うのはその分当たった際の力がそこだけに集中する。故に貫手で人体急所をついた場合他の拳撃に加えてダメージが大きい。

 

その為貫手の使用者は指を徹底的に鍛える。指たて伏せから始まり果てには指一本での逆立ちができるようになるものもいる。趙伽だってそうだ。ひたすら指を鍛え上げ今では片手指逆立ちで文庫本を読み上げる位なら朝飯前……だがそれであっても額、肘、膝等の人間の体でも比較的頑丈に出来ている骨の部位とぶつけられれば指をやって当たり前である。それに元々あかりは骨とかは頑丈なのだ。

 

「ちぃ!」

「くぅ!」

 

趙伽はクルッと回転して遠心力を味方に手刀を放つ。

それに対してあかりは右腕の肘を曲げて立てると左腕で抑えて趙伽の手刀を受ける。それと共に衝撃が来る一瞬だけ全身の関節を固定し衝撃を耐えた。無論体格差があれば負けるが趙伽も決して体格に恵まれている訳じゃない。世間一般的にチビと称されるあかりであってもこのようにきっちりと防御すれば耐えられる。

 

「そう言うことか……」

 

趙伽は舌打ちした。

 

あかりは元々タフだ。キンジのようにアリアにボコられるうちに頑丈になったとかではなく寧ろ一毅のように生まれつきからだが頑丈と言われる部類(一毅とは違い電撃に耐えたり腹に刺し傷ができても平気とまでは無理だが)だ。

だがそれゆえにその防御を無意識の過信している部分があった。本来であれば相手へのカウンターとして相手の武器を奪う鳶穿(とびうがち)を使うということは相手の動きを見切る目はキンジの万象の眼とまではいかずともそこそこある筈だ。それなのにあかりは戦闘の度に明らかにダメージを喰らい過ぎる事が多い。

 

それこそがあかりの弱点だった。無論腕力とか身の来なしとか銃とかナイフとかの扱いや経験とか色々挙げていけばキリがないがあかりの最も足を引っ張る弱点は体が生まれつき頑丈ゆえに生まれてしまった【攻撃を喰らっても平気だろう】と言う心……その頑丈さが窮地を救ったことも多いがその都度体を酷使していれば何れ限界が来ることは分かりきっていた。

 

それゆえに磨いた防御のイロハ……幸運な事に相手の攻撃を受け流したりする防御術は辰正が得意としていたし周りには数多くの高ランク武偵もいた。敢えて体の頑丈さを捨てることであかりは趙伽と戦うすべを得た。

 

「オォ!」

「あぶな!」

 

防御したあかりはそのまま肘を振り上げる一撃を放つ。防御と攻撃をそのまま続けて行うその技術は未だ完璧とは言い難く寧ろ未熟……だが修学旅行の時とは違い趙伽に一方的にやられはしない。

 

「嬉しいね……今のあんたの目はゾクゾクする」

「気持ち悪い!」

 

趙伽は爪先であかりのコメカミを狙う蹴りを放つ。

 

だがそれを伏せて躱すとあかりの突き……とは言えあかりの体重と腕力では充分な破壊力はない……はずだった……

 

「がっ!」

 

体を走る振動に波のような衝撃を感じ趙伽は後ずさる。

 

「それは……」

「私は自分の中に流れる電磁パルスをある程度自分で操って相手に流せるんだ」

 

それを極めたのが【鷹捲(たかまくり)】であるが実はあかりは自分の意思で行うことができない上にあれは溜めが必要になる。その為威力を落とす代わりに瞬間的の電磁パルスを集めて放つ鷹捲(たかまくり)擬きの拳を趙伽に打ち込んだ。

 

「成程ね……何でナイフを左手に持ってるのかわからなかったけブラフか」

 

普通ナイフが利き手に持つものだ。それを敢えて逆の手に持つことでそっちに意識を持っていかせて放った鷹捲(たかまくり)擬きの一撃は何時までも腹にまるで喉に魚の骨が引っ掛かったような感覚を残す。中々面倒だし嫌な感覚だ。だがそれより……

 

「マジだね……」

「最初っからだよ」

 

あかりは腰を落とす。

 

あかりの武偵ランクはDである。このランクはバスカービルと一年生達の中でもキンジ以外ではぶっちぎりで低い。しかもキンジはヒスっていればSランクの実力だし今のEランクと言うのは元々ランク考査をサボったがゆえにEランクなだけである。なので実際の実力的に考えてあかりが最底辺なのは最早言うまでもない。

 

だがそれでも仲間に恵まれ友人に恵まれ運にも恵まれ数多くの危機も乗り越えてこれた。自分でも友達は多い方だと思うしそんな皆と一緒にいたいと思っているしそんな皆とならどんなピンチも平気だと思っていた。

だが……修学旅行の時は手も足もでなかった。今まで何とかしてきた皆も全員倒されていく姿は今でも覚えてる。あの時もし藍幇こちらを殺すつもりだったら確実に今自分達はここにいない。その時知ったのだ。何ともならない相手はいるし、寧ろ何とかするには相応の実力が必要だと言うことに……だから誓ったのだ。

 

「私は倒れない……」

「え?」

 

いかなるときも自分は倒れない。そう誓った。強くなって大切な仲間たちと共にいようと……友達と一緒にいるには武偵である以上必要だった。

 

「決めたんだ。もう倒されないって……私は強くなって……皆の力になりたいんだ!」

 

多分これからも助けられながらいくんだと思う。これは何というか決められた運命というか宿命というかそんな感じだ。でも……だからこそ強くなろうと決めた。どんな相手だろうと何とかできる強さを得たい。そうすれば誰も失うことはない。皆で笑って皆で泣いて……そんな時に戻っていくことができる。自分には過ぎた友人や仲間たちだけど……それでも大事だから……そんな皆といたいから……神崎 アリアのようにではない。間宮 あかりとして強くなろうと決めた。

 

「ああ~……あのときにお前弱いと思ったけどそんなことなかったね……」

 

眠っていた鷲が目覚め掛けてしまってる……これから時間を掛ければ間違いなく彼女も大きくなる。

 

「私外れクジ引いたなぁ……」

 

ヒーロー気質?と言うべき才能の持ち主はちょっとしたことで爆発的な成長をする。一毅やキンジ同様にだ。

 

「ま、やれるだけやってみないと……ね!」

 

戦闘再開と言わんばかりにあかりの喉めがけて貫手……

 

「くっ!」

 

あかりは横に飛んで躱すとその方向に向かって爪先蹴り……

 

「っ!」

 

それを地に伏せて躱すと脇腹に鷹捲(たかまくり)擬きの肝臓打ち(レバーブロウ)……

 

「ちぃっ!」

 

攻撃後の若干の硬直を突いた趙伽の手刀……

 

「がっ!」

 

それが遂にあかりの首を直撃する。

 

「ぅぅう……アアァアアアアア!」

 

だがそこから更に胸に一発に腹部に一発と連続で打ち込む。

 

「ごっ!」

 

一撃一撃は大した威力はないだが打ち込まれた後残る違和感……気持ち悪い。

 

「この!」

「っ!」

 

趙伽の踵落とし……それを腕を交差させてあかりは防ぐ。

 

「ハァ!」

 

それを押し返すが手刀が効いてるのか力がない。

 

「デェイ!」

 

それでも趙伽の体勢を崩すと鷹捲(たかまくり)擬きを続けて打ち込む。

 

「うざ……ったい!」

「っ!」

 

メリメリと完全に貫手があかりの鳩尾にめり込んだ。

 

「ご……ほぉ……」

 

胃から競り上がってくる独特の気持ち悪さ。同時に形容しがたい激痛……だが……あかりは……倒れなかった。

 

「一回くらいならまだ耐えられる範疇だよ」

 

そう言って趙伽の襟をつかんだあかりは拳を引く。

 

「っ!」

 

何かでかいのが来るのは簡単に理解できた。故に趙伽は離そうとするが同時に気付く。

 

元々趙伽の貫手は女性として生まれたが故に体格に恵まれなかったため足を固定し腰を捻り腕を突き出すと言う言わば全身を使った技を用いてきた。だが今はあかりが密着状態……つまり貫手が使えない。勿論爪先蹴り何て論外だ。

 

「これがホントの……」

「しまっ!」

 

そこから放たれたのは擬きではなく本来の姿、

 

鷹捲(たかまくり)!!!!!」

 

0距離から打ち込まれる鷹捲(たかまくり)は本来相手に放った場合僅かであるが放出した電磁パルスの振動が相手に届く前に四散している部分があった。その四散する振動が千の矢を逸らして行く正体なのだがそれを今回は無駄とし0距離から打ち込むことでその無駄を発生させずに鷹捲(たかまくり)を使う。無論元々の鷹捲(たかまくり)も相手の銃弾の中を掻い潜っていくと言う点に置いては優秀であるしケース・バイ・ケースといった感じだ。とは言えこっちの方が今はいい。

 

「がっ!」

 

0距離からの鷹捲(たかまくり)が相手の体を蹂躙していき服を散り散りにし更にそこからさっきの鷹捲(たかまくり)擬きが猛威を振るう……実はさっきの鷹捲(たかまくり)擬きは電磁パルスの小さな塊のようなものを相手の体に打ち込む技だ。

楔のように打ち込んだ鷹捲(たかまくり)擬きのダメージは本来の鷹捲(たかまくり)によって増幅しまるで爆弾のように内部にダメージを与えていく。

 

「が……ふぅ……」

 

体のあちこちで起きる振動の波……それは趙伽の体を確実に痛め付けた。

 

「かはぁ……」

 

最後に血を吐いて倒れる。

無論死んではいない。ただ少々ダメージはでかいだろう。つまり当分立ち上がることはない。

 

「で……きた……」

 

あかりはふらつく……だが倒れはしない。

 

まだまだだ……最後に結局喰らってしまった。どうしても自分のタフさに頼ってしまう……だがまあ……これからもまだやっていくしかないだろう。とりあえず今は、

 

「私の勝ち……へへ」

 

あかりは勝利宣言をした……

 

 

――――勝者・間宮 あかり――――




何かあかりが誰だお前状態に……


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龍達の決戦 辰と不倒の将

『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!』

 

辰正と楽刄の戦いは恐らく一年の中と限定すれば最も激しい戦いだろう。

 

楽刄のメリケンサックを着けた拳を辰正はいなして反撃……だがそれを楽刄もギリギリで避けてカウンター……それをいなして……と凄まじい速さで攻防が入れ替わりホンの僅かな隙でさえ命取りとなる乱打戦……だが二人には無駄な緊張も無ければ歓喜も悲しみも恐怖もない。ただひたすらにいなして反撃に転じ更にその反撃を返して行くと言う状態だ。

 

「前とは違う……ね!」

「かも……ね!」

 

辰正はいなすとショートアッパー……

 

「くっ!」

 

それを楽刄は躱して辰正の顔面めがけて右ストレート……

 

「この!」

 

それを下から叩くようにして弾くと辰正の脇腹を狙ったフック……

 

「ちぃ!」

 

それをバックステップで躱すと一旦二人は距離をとる。

 

「流石に前みたいにはいかないか……」

 

軽くその場で跳んでリズムをとる楽刄を見ながら辰正は拳を握る。

 

「まぁね……こっちも色々背負ってるから……」

「色々……ねぇ」

 

そしてリズムをとるのを辞めた楽刄は再度突進……

 

「オラ!」

「ちぃ!」

 

迫る拳を辰正はいなしながら下がる。

 

「まだまだ!」

「こんの!」

 

更に迫る拳を体を回転させながら避けた辰正は拳を握ってぶん殴った。

 

「ぶふ!」

 

遠心力一杯の拳をモロに喰らって楽刄は後ずさる。

 

「今のは効いたぁ……」

 

プッと口を切ったのか血を吐き捨てた楽刄は辰正を睨み付ける。

 

「まるで別人だね」

「変わってないよ。俺は今もあの時も変わらない。ずっと谷田 辰正って男さ」

「そういう意味じゃないよ。何て言うか……精神的に別人みたい」

「はは……そっちは腹を据えてここにいるからね。キンジ先輩みたく誰あんたみたいな変化は流石に無理だし」

 

そう言いながら辰正は再度腰を落として構え直す。

 

辰正はこの戦いに向けてやったことと言えば自分の意思で深紅のオーラ(レッドヒート)を発動させられるようにしたくらいである。それ以外はなにもしていない。そりゃあ筋トレとか身体能力向上のための訓練はしてきたがあかりのような隠し玉はないし志乃みたく剣術を向上させた訳でもなく陽菜のように武器術を上げてもいない。文字通りこの身一つでここに立っている。

 

「でも僕だって考えてきたんだよ。負けられない理由ってやつをさ……」

 

元々自分は武偵と言うのになったのはあかりが行くから着いてきたようなものだった。故に特に理由はなく戦ってきたし改めて考えても実は全く思い付かなかった。

 

何度考えても何度悩んでも何度思案しても……脳裏によぎるのはあかりのことだった。

 

そして笑ってしまった。結局自分は世界の犯罪の増加を防ぐとか誰も傷つかないようにとか誰かの涙を止めるためとか……そういう風に戦うことができないのだ。結局辰正の中にあるのはあかりと一緒にいてあかりが傷つかないようにしてあかりが泣かなくて良いようにする……と言うのが限界であった。漫画やアニメのような英雄やヒーローに自分はなることができない。

 

一毅やキンジはきっと自分が想像もしない形でいろんな人を助けてたりしていくのだろう。あの二人はそういうタイプだ。あかりだってきっとそう。自分はそんな三人のような英雄やヒーロー気質の人間とは違う。

 

だけどそれでも戦いをやめれない。なぜか?決まっている。あかりがいるからだ。結局自分はあかりが好きだから。無論異性として大好きだ。惚れてる。何故かあかり以外にはバレててよくクラスの男子から何であんなチビが好きなのか聞かれる。というかいつの間にかロリコン説とかチビ専説とか根も葉もない噂が立っているくらいだ。無論違うと口では言うが内心では考えることもある。

 

確かにあかりは可愛いが美人と言うタイプじゃない。背は低いし胸もペッタンコで童顔だし鼻からうどん垂らすしドジだし要領も悪いし同姓限定でキンジの事言えない位にはタラシだし寝坊して起こそうとすると顔蹴るし……他にも挙げていけばキリがないがとにかくあかりはそういった意味では確かに惚れる要素は一見ない。

 

だけど何というか……深く付き合っていくと癖になると言うか気付くと引き付けられていた。昔からずっと一緒にいた。それも物心が着いたころにはあかりと一緒にいた記憶がある。ある意味では一種の刷り込みのように一緒にいるのが当たり前……だからある意味確定事項のようにあかりを異性として見るようになった。

確かそうなったのは……そう、まだ小さかった頃……見せてくれた太陽のような笑顔だった。可愛いとか綺麗だとかドキドキしたとか色々言い方はあったと思うけど……何も言えなくなった。呆然と……漫然と……ただ視覚を引き付けられた。そんな一瞬の後に心臓が早鐘を打って頬が熱くなってまともに目が見れなくなって……何か話したような気がするけど覚えてない。

 

だがそれから特に一緒にいるようになった気がする。いつも一緒に一セットだった。でも里が襲撃を受けてあかりとその妹であるののかと逃げ出して……その時に思った。この子はこれから自分が守ろうって……

 

「惚れた女……助けるためだよ」

 

つまるところ辰正はあかりを……いや、惚れた女を守るために戦うのが性に合ってて惚れた女と一緒にいるのが大切で惚れた女の夢を一緒に見ることが生き甲斐な……そんな男だった。

 

小さいとでもなんとでも言うと良いと辰正は笑う。

 

「いや、今少しカッコいいとか思ったよ。一途なんだねぇ」

「そりゃもう十年近く思い寄せ続けてるんでね。全く脈ないけど」

 

そうかなぁと内心呟きながら楽刄も腰を落とす。

 

「ま、そろそろ決着つけますか」

「望むところだよ……」

 

辰正の体から深紅のオーラ(レッドヒート)が溢れる。

 

『ウォオオオオオオオラァアアアアア!!!!!!!!!!』

 

ガツッ!と互いの拳が交差する。

 

『ぐぅ……オオオオオオオオ!!!!!!!!!!』

 

次々と互いの拳が交差して相手の打ちのめす。

 

 

 

 

メリケンサックの拳が辰正の体を叩く……骨が軋むがその分は深紅のオーラ(レッドヒート)がカバーしてくれる。

 

 

 

 

 

辰正の深紅のオーラ(レッドヒート)で強化された拳が楽刄を打ちのめす……一発一発があり得ない破壊力で意識が飛んでしまいそうだ。だがそれを繋ぎ止めたのは意地であった……

 

 

 

 

『アアアアアアアアアア!!!!!!!!!!』

 

既に互いに防御をやめていた。先程は防御をしまくったのだ。今度は本当の乱打戦で決着をつけると互いが何となく理解しあっていた。

 

「くぁ……」

 

叩き込まれた辰正の拳に息を漏らす楽刄……それが大きな隙となった。

 

「オォオオオオオオ!!!!!!!!!!」

 

その隙に叩き込まれる辰正の拳の弾幕……

 

「が……はぁ……」

 

後ろに後ずさるがまだ倒れない。まだ倒れない。砕けない……倒れないことが楽刄の強さでありどんな打撃を喰らっても折れないその精神こそが武器である。故に楽刄は拳を握る。

 

「谷田……辰正ぁ!」

 

楽刄の残りの体力全てを賭けた拳……それを辰正は顔面に受ける……

 

「どう……だぁ!!!!!」

 

ポタリ……と額から血が滴る……だが辰正の目は死んでいない。まだ……終わらない!!!!!

 

「俺流……」

 

辰正は最後の大勝負とばかりに腰を低くすると足に力を込め疾走……そのまま楽刄の腰に体当たりをかます。

 

「流星タックル!!!!!」

 

そしてそのまま一気に楽刄を持ち上げて爆走……そのまま壁に叩きつける……

 

「が……」

「オォオオラァアアアア!!!!!」

 

そして止めとばかりに飛び上がると重力と体重に従って落下……結果、ジャーマンスープレックスの要領で地面に渾身の力で叩きつけた……

 

「ふぅ……」

 

楽刄は立ち上がろうと力を込める……だが脳は揺れ視界はボヤける……

 

「こりゃ……駄目だ……」

 

そう言って意識を手放した……

 

「うっしゃあ!」

 

辰正は手を天に向けて突き出す。

 

 

 

 

―――――勝者・谷田 辰正――――




敢えて今回は辰正に関節技を使わせない戦いかたをさせてみました。多分一番血を流す一年は辰正ですね。綺麗な勝ちかたなんてできない。泥臭くてみっともない勝ちかたしかできない……そんな男です。

さて、次回最後にライカをやって一年生達はお仕舞いで二年生達の戦いに入ります。


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龍達の決戦 蝙蝠と偃月の将

ライカはグローブを着けながら関羅を睨み付ける。

 

「さて……こっちも決着つけようか」

 

そう言ってライカは腰を落としながら拳を握る。

 

「ああ……そうだな。決着をつけよう」

 

関羅も頷くと青龍偃月刀を切っ先をライカに向けながら構える……そして、

 

「………………ハァ!」

ライカは飛びだす。とは言え初手でいきなり奥の手である【脱力】は使わない。故に最初は拳を握って突き出す。拳撃においてもっとも基本的な一撃だ。一毅に会う前から知っていた打撃技である。

 

足を固定し腰を捻りながら拳を突き出す。当てる場所は人体急所のひとつ、鳩尾……だがそこは関羅も喰らってやるほどお人好しではなくそれを掴んで止めると青龍偃月刀を薙ぐ……

 

「くっ!」

 

それを跳んで躱すと飛び回し蹴り……それをコメカミに叩き込もうとする……しかしライカを掴んでいた手を離してそれを防いだ。そして自由にバックステップ……

 

「流石に強いな……」

 

ライカは息を吐く……全身の力を抜いて抜ききる……一分の力みもあってはならない……完全に抜ききると……完全に力を込めきった。

 

「オォ!」

 

ドン!っと地面に踏みしめ爆走……その速さは関羅の視覚では捉えきれない……そして放つ煉獄掌は関羅の胸を狙う。寸分違わないその狙いは真っ直ぐに距離を詰めていく……だが、

 

「ふん!」

「っ!」

 

ほぼ同時に関羅は突進した。それと共に振り下ろされる斬撃……それはライカに目掛けて振り下ろされる。

 

「ちぃ!」

 

ライカは咄嗟に両手を用いた真剣白羽取り……キンジのような片手でしかも指ではないが充分たいした反射神経だった。

 

「対したものだ……」

 

関羅が口を開く。

 

「中国四千年の中でそこまでの領域にまで高めた【脱力】は殆ど居ないし俺は見たのははじめてだ。重ね重ね詫びよう。だが悲しいことにお前はまだその技術を完成の領域にまでは高めていない。いや、時間を掛ければ行けるだろうがそれは年単位の時間がいる」

 

ライカは青龍偃月刀刃を押し返しながら関羅を見る。

 

関羅のいう通りだ。まだこの【脱力】は未発達だ。あくまでライカが行えるのは基礎中の基礎である。もし完全に使いこなせれば敵の攻撃を回避しつつ瞬間的に【脱力】して反撃するのも可能なはずだ。

 

だがライカは予備動作と時間が現在はいる。つまり敵に対して今から【脱力】を用いた攻撃をすると知らせているようなものだ。更にこの技……攻撃に移ると一直線にしか跳べないのだ。

 

どんなに速くても一直線にしか来なければ今のように後はタイミング次第で交差法の一撃を放たれてしまう。

未だ使用して2度目だと言うのに関羅は特性をきちんと理解していた。

 

「なら!」

 

ライカは関羅の青龍偃月刀を強引に弾き返す。更に弾きの動作と相手の顔面への裏拳を同時に決めた。これは二天一流の技でその名も、

 

「二天一流 拳技・弾き返し!」

「くっ!」

 

威力はないが怯ませるには充分。その隙にライカは腰を落とす。

 

「オラァ!」

「っ!」

 

怯んだ隙に飛び膝蹴り放つ。

 

「くっ!」

 

それを関羅はギリギリで躱す。しかし更に素早く着地したライカは拳を握る。その際にライカの拳は中指の第2関節だけ突き出したような特殊な握りかた……その拳で放った拳は関羅の顔面……しかも更に部位は限定され人中と言う唇と鼻の間にある窪んだ部分を穿った……

 

「ぐぉ!」

 

その激痛に関羅は顔を歪め後ろに下がって距離をとる。

 

「随分えげつない技を使いやがる……」

「こんな技でも使えないと着いていけないんだ」

 

ライカは一毅に会ってから強くなったと思う。そして何より変わったと思う。

 

元々身体能力は高かった。男だろうが女だろうが負けなかった。お陰で男女(おとこおんな)とか言われたが負け犬の遠吠えだとか言って笑っていた。無論心は泣いていたけど……

 

思えばきっと周りに女だと思われたいっていう心が合ったんだろう。お陰で人形とか可愛い服とか興味持ってしまったし今だってそういうのは好きだ。まあそういう服は悔しいがレキの方が似合うしどちらかというと活動的な服の方が着ることが多い。

 

まあそんなこんなで鬱屈していた。見た目と内心のギャップが重くて辛くて……誰もそう見てくれとは頼んでいないのに男女(おとこおんな)って言われて……自分でも柄じゃないと言い訳して着飾るのを諦めてたが……

 

そんなときにあったのが一毅だった。訓練中にフラりと現れて(後で聞いたら蘭豹の差し金だった)自分を軽く捻った……負けたとかそんなのを思う間もないくらいあっさりとやられた。体格に差があったとか経験の差とか色々あったけどライカは何となく感じ取っていた。次元というか人種?いや、生き物として既に違っていたというかそんな感じだった。

 

その後何度か話して……気づけば惹かれてた。強いんだけど何処か抜けてて彼女(レキ)に頭が上がんなくて……ちょっと……いや、かなりバカだけど色んな事に一所懸命で何より自分を女として扱う優しい所に……まあ最初の時は完全に後輩か弟子って感じだったが……それが今では彼女の一人……冷静に考えれば彼女の一人と言う形容の仕方は周りから聞いたら変に聞こえるかもしれないが別に当人たちは気にしてないのでほっといてほしい。

 

だけどそうやって考えたとき……自分は一毅の何なんだろう。いや、彼女の一人なのは良いしわかっているが……自分は一毅の支えになれているのだろうか……と言うことだ。

 

勿論普段は好きあってる。だが有事の際にであればレキは狙撃による援護ができる。じゃあ自分は一毅と一緒に前線に?それは不可能だ。どうやっても足を引っ張ってしまう。自分は強くなったとは言え一毅となんか比べ物にならない。一毅と肩を並べて戦えるものなんて多分自分達の中ではキンジだけだろう。一毅の化け物じみた成長と言うか進化についていけるのは彼くらいだ。

 

結局自分は守られてしまう存在なのだろうか……と心の何処かで考えてしまった。でも……同時にそれを否定する自分がいた。それで良いのかと……それに甘んじて良いのかと……じゃあどうするのか?そんなのは決まっていた。追いかけ続けるのだ。ずっと遥か遠くの背中しか見えないかもしれない。いや、もしかしたら背中すら見えないかもしれない。恐らくそっちの方が可能性がある。でも……それでも走り続けたい。一毅と一緒にいたいから……後輩とか弟子とか彼女とか……そういうのは取っ払って一毅といたいと思うから……大好きな先輩と居られる強さをライカは欲かった。

 

「愛されてるんだな。あの男は」

「はは、まあな……お陰でライバルはキンジ先輩ほどじゃないけど多いんだよ……」

 

それでも充分だが……

 

「さて……」

 

ライカは一度構えを解く。そして深呼吸した。

 

「ここで最後の奥の手を見せてやるよ」

「なに?」

 

関羅は眉を寄せた。

 

「まさか脱力(アレ)だけな分けないだろ?ちゃんとあるよ。実戦用の奥の手をな……」

 

そう言ってライカのとった行動は……足踏み?

「it′s Show Time」

 

綺麗な英語と共にライカは跳躍……

 

「ハァ!」

「っ!」

 

それを関羅はバックステップで避ける。だがそれを追うようにライカは距離を詰める。そこから地面に手を付き逆立ちしながら回転……所謂ヘッドスピンと言う奴だ。

 

「くっ!」

 

膝を蹴られ関羅は口を噛む。だがそこから青龍偃月刀を振り下ろした。

 

「っ!」

 

だがライカはそこから素早く足を地面につけると体を回転させながら瞬時に関羅の視覚から外れながら回避……

 

「なに……」

「ファントムターン……」

 

まるで幽霊のようにライカは関羅の背中に張り付く。

 

「ちぃ!」

「はぁ!」

 

関羅の横の薙ぎ払い……それをライカは伏せて躱しながらウィンドミル……関羅の足を払うと関羅は仰向けに転んだ。

 

「二天一流 喧嘩技 追い討ちの極み」

「っ!」

 

転んだ関羅にライカはバック転をして遠心力を味方に膝を関羅に落とす。

 

「がっ!」

 

この極みは結構バリエーションがある。一毅は倒した相手の顔に足を落として拳を落とした後に飛び上がって肘を落とすなんていう凄まじい連撃を決めるしキンジは相手の頭をサッカーボールのように蹴って独楽のように回転させて一回転した相手の頭を掴んで逆立ちして膝を落とす。

 

どちらも一毅であれば腕力と体重が必要だしキンジのは脚力が必須だ。だがライカにはどれも欠けている。だからこそ遠心力などの勢いが必要になってくる。自らが持つ力とは別の力を使う。それを使うために編み出したライカの新たな戦闘法……

 

「ごほっ!」

 

関羅は立ち上がりながらライカを見る。

 

「元の動きはブレイクダンスか……」

「ああ、アタシは隠し芸でダンスとか結構得意なんだよ」

 

お祭り騒ぎが好きなライカに似合う隠し芸だ。

 

だが元々ダンスに限らず日本の舞等は武術を研く為反復練習兼その身を鍛えるために作られたのだ。逆に言えばライカのブレイクダンスを基にしたこの戦闘方は本来の姿に戻っただけだ。

 

こっちもまだ改良の余地はあるがこっちはライカに性があっているのか関羅に対してアドバンテージを得ている。

 

「まあ一毅先輩に初めて見せたら烈火のごとく怒って「これからそれを使うときはスパッツなり何なり穿いてからやれよ!」って怒られたぜ」

「それはそうだろうな」

 

それはそうだ。ダンスでしかも動きが激しい部類に入るブレイクダンスが源流だ。きちんと今は穿いているが初めて一毅は見たときスカートの奥にある布地に目がいって避け損なった挙げ句に顔面にライカの遠心力たっぷりの蹴りが直撃したのは墓場までの秘密だ。

 

「かなり特殊だな……しかも回転などを多く用いることで腕力の無さをカバーしている」

 

しかも回避を回転と共に行うため回転の隙がない。

 

一毅のような腕力勝負ではない。回避と身軽さを用いたライカ版の二天一流……一毅では無理だ。ライカだからこそ出来る踊るように闘う戦闘法……それをついにライカは見つけていた。

 

一毅ではない。ライカだからこそ出来る方法だ。

 

「文字通り【舞踏】ならぬ【舞闘】と言うやつか」

「そう言うことだ……で?まだやるか?」

「ああ、それもまだ改良の余地がいるようだ。その証拠に肩が上がっているぞ?」

「ちっ……」

 

確かにこの戦闘法は動きが激しいため疲労が凄まじいのだ。スタミナをもっと着けなければ長期の戦闘は不可能だ。

 

「ならばもう少しやれば自滅だろう!」

「っ!」

 

関羅が間合いを詰める。それを構え直して回避……次々と振るわれる青龍偃月刀と全て躱す。ユラユラと体の中心線を揺らすことで相手から見るとまるで陽炎のように見える。まるで幽霊だ。だがこれも疲れる……

 

「ふん!」

「くぅ!」

 

クルッと回転して振り上げを回避……それを利用し飛び回転蹴り……それを関羅は腕で防ぐと青龍偃月刀を振る。

 

「あぶねっ!」

 

それをギリギリで体を空中で捻って避けるとバックステップで離れる。

 

「オォ!」

 

だがそれを追って関羅が青龍偃月刀で突く……

 

(こうなったら……!)

 

横に避ける?それとも後ろ?どちらでもない!向かうのは……前だ!

 

「ラァ!」

「っ!」

 

紙一重でライカは青龍偃月刀を躱しながら回転……足を踏み鳴らし肘を思い切り突き上げた。

 

「ぐっ!」

 

ガッ!っと強烈な衝撃が入り思わず意識が飛びそうになり関羅は後ずさり武器を落とす。

 

「ヒュー……ヒュー……」

 

ライカは自分でも呼吸音が可笑しいことに気付く。スタミナが尽き掛けてる……だがもう少しだけ動けば良い……

 

「ハァ……ふぅぅうううう……」

 

ライカは全身の力を抜いていく……このチャンスに全てをかけよう……目を開ける。

 

「させるかぁ!」

 

関羅が突き出す拳……無手も基本的な部分は押さえているんだろう。それがわかる。そしてこの一撃をまともに喰らったら意識が飛ぶだろう……だが敢えて脱力を完成させた。

 

「っ!」

 

次の瞬間関羅の腹にライカの拳が突き刺さった。

 

「座して待ち……虎の牙刺さる刹那に己の全霊を打ち込むべし……」

 

これはこの技の極意だと聞いた……敢えて虎の前にその身を晒しその牙が刺さると虎が油断した瞬間全霊を打ち込めば虎であろうと一溜まりもないと言う意味を込めたらしい。まあ一毅いわく、虎に素手で挑むとか正気の沙汰じゃないよと笑っていた。狼に素手で挑んだ人の言葉ではないと内心笑ったのは内緒だ。

 

「が……は……」

 

そしてその技を脱力の撃速も上乗せして放った……ライカの全てをかけて放った全身全霊の一撃に関羅はゆっくりと膝をおっていく……意識が完全に飛んでるのは端から見ても丸分かりだった。

 

「二天一流 拳技……」

 

手を離してライカは手を上にあげた。

 

「虎落とし【石火】」

 

 

――――勝者・火野 ライカ――――




最初ライカは脱力だけだったんですか書いてみたらさりげに地味になってしまいもっと後で出すつもりだったダンスが元になっている戦闘法です。

基本回避の後にその回避の際の力を同時に攻撃の力に添加するのが基本です。これも元は龍が如くのから持ってきています。詳しく知りたいかたは【龍が如く0】をプレイしてみましょう。


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龍達の決戦 無才能と多剣の将

藍幇城は幾つかの階と部屋に別れており一年生が戦い始めた頃……二階では白雪と理子が其々相対していた。

 

そして理子は、

 

「ウラァ!」

「おっとぉ!」

 

周岑のククリ刀を回避しながら両手には銃、ゾワゾワと動く髪にはナイフを握った双剣双銃(カドラ)で闘う。

 

「はぁ~……キー君苦戦させた相手と戦わなくちゃいけないとか不味いなぁ……まあユキちゃんよりマシかな……」

「さっきからブツブツ何言っているんだ?」

「こっちの話~」

 

そう言って理子は笑う。

 

殆ど覚えていないが父から教わった教えの一つ……【危機の時こそ笑って余裕の心を持つべし】だ。

 

「ま、取り合えずやりますか……!」

 

そうして理子は飛び掛かる。それを見た周岑も両手にもったククリ刀で迎撃する。次々来るナイフと銃弾……それを全て周岑は弾いていく。恐ろしい反射神経と胆力だ。更にそこから反撃も混ぜている。

 

「くっ!」

 

理子は元々腕力に特化していたわけでもなく桁外れな武才があるわけでもない。手先の器用さと身軽さ位が高いと言えるくらいでそれ以外は所謂特化したものがないし何か集中して身に付けたものはない。色んな人間から色んな技術を習ったり盗んだりして身に付けたものはあるがその道の求道者には及ばないだろう。

 

無論銃やナイフの扱いは結構うまいとは言えないわけでもないが別段並外れたものではない。と言うか多分バスカービルの中で近接戦闘は狙撃手であるレキを除き最弱だと言う自信があった。よくお前は強いと言われるがアレは髪とか他にも色んな技術やハッタリを用いて何とか戦ってるのに過ぎない。

 

「テリャ!!」

 

髪が動きナイフが周岑を襲う。

 

「フン!」

 

だが周岑はそれを弾くと一気に間合いを詰めてククリ刀を突き上げる……

 

「っ!」

 

それをギリギリで回避する……だが気付いた。空中に大量のククリ刀が跳んでることに……

 

「んな……」

「行くぞ!」

 

降ってくるククリ刀を振り……そしてジャグリングを織り交ぜながら周岑の斬撃が理子を襲う。

 

「くぅ……」

 

回避と防御を行うが間に合わない。様々な防御方を用いて防ぐが理子の技量では到底間に合わない。

 

とは言え別に好きでこういう風にした訳じゃない。はっきり言って才能がなかったのだ。元々何か一つくらい突出したものがあるだろうと色んなものに手をつけたが面白いくらい基本的なことは身に付くがその先にいくことができない……なんだこれはあり得ないだろうとその時は思ったし、ここまで才能がなく産んだ今は亡き母に無意味な上に逆恨みに近い感情を抱いたのを僅かに覚えている。

 

その性でブラドに監禁されたことはトラウマになっているし普段なんでもないような顔をしているが夢に思い出すことなんて10回20回じゃ何処にも足りない。

イ・ウーにいてもそうだった。何処かで人生を諦めてどうせ自分なんてと腐った時期があった。

 

そして教授(プロフェシオン)……と言うかシャーロックに言われるままに武偵高校に進んだ。

 

そして出会った。今でこそ自分達のリーダーであるがその当時は金一の弟の癖に素だと弱いんだなぁと思った。でもその当時から何故か一部の面々からは注目されてたし一毅との仲なんか良すぎだったし……

 

 

「この!」

 

理子の銃撃……だがククリ刀で弾かれた。

 

「おら!」

「がっ!」

 

理子の腹の決まる周岑の蹴り……胃から何かが競り上がる感覚の中で理子は髪を動かし周岑を狙う。

だがその間をすり抜け降ってきたククリ刀で理子に斬撃を放った。

 

「ちぃ!」

 

それを体を捻って回避した理子の銃撃……それは周岑に当たるが防弾処理を済まされているらしく顔を若干歪めて後ろに下がっただけだ。

 

しかしよくよく考えてみれば何でこんな酷い目に遭わなきゃならんのだろうか……もうクリスマスだ。本当だったらこんな辛いことせずに日本でのんびりできたはずだ。しかも戦ってる相手は格上と来てる。

 

当り前のようにここに来たが別に白旗あげても良いんじゃないだろうか?結構頑張った方だと思うし元々嘘をつくのが息をするのと同義といっても過言じゃない位だ。まあ一種の裏切り行為かもしれないが別に今さらだろう。所詮は利害が一致してそのままダラダラとここにいただけだ。

 

それが良い。このまま降参しよう。

 

元々勝てる戦いじゃない。

 

もしくは逃げちゃおう。逃げ足だけには自信がある。

 

終わったころにひょっこり顔を出しちゃおう。怒られはするだろうがきっと許してくれる……

 

自分がいないくらいで負けるチームじゃないんだ。スタミナが尽きるまで走って走って走りまくろう。

 

生まれたときから逃げ続けた人生……今回もそうなるだけである。

 

(それじゃあ……)

 

理子は両足に力を込める……

 

Lady……

 

「GOだ」

 

そう呟き理子は()()()()()()()走り出した。

 

「オォ!」

 

理子は飛び上がるが攻撃が入る前に周岑のカウンター気味の拳撃で吹っ飛ばされた。

 

「あが……」

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……痛いのは大嫌いだ。苦しいのだって大嫌いだ。逃げたい……せめてこのまま寝転がったままでいたい。別にこのまま負けたって良いじゃないか。負けるのはいつものことだ。何処かで詰めを誤って失敗するのだっていつものことだ。今さらなんで根性を出す?無駄なことだ。無意味だ。じゃあなぜだ?そんなの決まってるだろう。

 

「大好きなんだよ……」

 

ここで逃げたってあの男は……と言うかキンジは何だかんだで許してはくれるだろう。だがそれで生き残っても会う資格がなくなる。ここで踏ん張らなかったやつに笑って会う資格なんかない。

 

だから闘う。理子は弱い。だがそれでも大好きな男に笑って会う資格のために重い体を引き摺る精神は持っていた。いつだって自分の危機に笑って助けてくれた男に胸を張れるように……何時も支えてくれた彼に今度は自分が力を貸す番だ。

 

「だから……負けられるか……」

「……」

 

周岑の頬を冷や汗が通る。理子の持つ不気味な雰囲気に周岑は無意識に後ずさる。

 

「ちっ!」

 

周岑はククリ刀を振り上げる。

 

「ガァ!」

 

理子はそれを迎撃していくが降ってくるククリ刀も含め髪を使ってもまだ足りない……だから……

 

「棲む場所を提供してるんだ……」

 

理子は呟く……自分は何度でも言うが弱い……だから……卑怯でもなんでも足りない分を借りればいい。一対一?そんなのクソ食らえ……反則上等悪手上等……どんな手でも勝てば良かろうなのだ。

 

「いい加減力を貸せ……ボケ吸血鬼(ヒ ル ダ)

「っ!」

 

次の瞬間周岑に降る雷光……全身を痛め付ける。

 

「がは……」

 

吐息を漏らし周岑はククリ刀を落としそうになり空に跳んでいたククリ刀は落ちる。

 

「呼んだかしらぁ?理子」

 

理子の影からヒルダが顔を出す。

 

「ふん。私がこんなになったってのに何してんだよ」

「だって呼ばれなかったんだもの。あなた自分だけで戦うって聞かなかったでしょう?こっちは遠山 かなめや遠山 金三の時だって力を貸すと言っていた筈よ?」

 

ヒルダに指摘され理子は舌打ちする。

 

「でも恥じなくて良いわ。あなたは弱いけどプライドだけはいっちょ前で私が大嫌い。今更のことよ。だけど……」

 

ヒルダが理子の隣にたつ。

 

「ああ、私は弱いしちっぽけな存在の癖にプライドばっか高くてお前なんて大っ嫌いだしお前なんか絶対に頼りたくなかった……だが……」

 

隣にたったヒルダを見て理子は笑う。

 

『《お前と》《貴女で》ならこいつには負けない』

 

虐待して虐待されて……抵抗して抵抗されて……反撃されて反撃して……歩み寄って拒絶して……頼らせようとして頼らず……常に対岸の岸にいて……絶対に交わらず交わろうともせず……眼すら会わさなかった。影にいることは知っていたが特に指摘しなかった……と言うか無視を突き通した。だからと言って声をかけるような事もしなかった……そんな二人が……遂に手を組んだ。

 

「確か……元は眷族(クレナダ)のやつだな?」

「ええ、今は魔臓を撃ち抜かれてぶん殴られてぶった切られた挙げ句に力を殆ど失った吸血鬼の成れの果てよ。まあ理子と一緒なら貴女を倒すことができるくらいの力はあるから安心しなさい」

「全く安心できないんだが……」

 

そう言いつつ周岑は体の不調がないか見る。大丈夫だ。特に動かない部分はない。

 

「それじゃあまずは……私がやるわ理子」

「何いってんだ。あれは私の獲物だ。お前は援護しろ」

 

バチバチと二人は火花を散らす。

 

「そういえば理子……貴女ベットの下に面白い写真集を秘蔵してたわねぇ」

「んな!何時の間に!」

「あら私はずっと貴女の影にいたのよ?貴女の秘密なんかお見通し。毎夜毎夜こっそり見て飽きないわねぇ……遠山キンジの写真」

「やっぱお前殺す!」

「ほほほ!やれるならやってみなさい!」

 

既に喧嘩腰の二人を周岑は半眼で見る。どうせだからこのまま同士討ちでもしないかなぁとか内心祈っているのは内緒だ。

 

「って言うかそれ桐生一毅にバレてるわよ」

「え?」

「貴女お菓子とか置きっぱなしにしとくから桐生一毅が片付けたのよ。その時に見つけていたわ」

「なな!」

「因みに見つけたときに言ってたわよ?「エロ本隠す中学生かよ……」ってね」

「なななぁ!」

 

理子は頭を抱えた。そう言えばこの前妙に生暖かい目で見られた気がしたがそれでか……

 

「もうお嫁行けない……」

「なら私とずっと一緒に居ましょうよ」

「絶対に断る!」

 

理子はそこはきっちり断って周岑を見る。

 

「さっさと終わらせるぞ」

「そうねぇ」

 

周岑はククリ刀をジャグリングし始める。

 

現在理子はボロボロだしヒルダは魔臓を殆ど機能させられないため無限再生はできず精々回復能力が並外れ程度であるし電撃能力も弱体化している。だが油断できる取り合わせではないことはわかっていた。

 

「行くぞ!」

「ええ!」

 

理子が疾走……それを援護するように電気の球体が周岑を襲う。

 

「っ!」

 

だが速度がない。まあそりゃそうだろう。先程のようなでかい一撃が今のヒルダは何度も打てない。と言うか全快だったら周岑を一撃で戦闘不能にできたはずだ。それが出来ないのだからヒルダが現在どれだけ弱体したか簡単に推測できる。

 

「オォ!」

 

それを回避すると理子が髪の毛を操りナイフを放つ。

 

「フン!」

 

それを弾くと銃が発砲される。

 

「甘い!」

 

それを更に弾いた周岑は理子を蹴っ飛ばす。

 

「がっ!」

 

理子は後方に吹っ飛ぶが立ち上がり再度疾走……

 

「オォオオオ!!!!」

 

再度銃を乱射しながら髪を操る。それを横に跳んで避けながら周岑は跳躍……ククリ刀を振り上げた。

 

「っ!」

 

理子はバックステップで躱すが脇腹にカスッたのか血が滲む。

 

「ちぃ!」

 

まだだと理子は銃撃……それを周岑はまだ弾く……

 

ガチン!と撃鉄が鳴る……弾が切れた合図だが既に替え弾はない。

 

「この!」

「ちっ!」

 

破れかぶれか銃を理子は投げつける。

だが周岑は首を少し曲げて躱す。そこに理子のナイフが迫る。

 

「おっらぁ!」

 

それを弾いて走り出す。

 

「おぉ!」

 

そしてククリ刀を振り上げた周岑理子は見た……

 

(一度だけで良い……たった一度だけで良い……)

 

理子は構える……

 

『オォオオオオオオオオ!!!!』

 

周岑のククリ刀は理子の頭蓋を狙う……そして……

 

「っ!」

 

理子は周岑のククリ刀……を握っている手首を掴んだ。真剣白羽取りに比べれば難易度は若干下がるがそれでも中々難しいのだ。

 

「おぉ!」

 

そこから懐に入ると腰を落とし一本背負い……これは元々一毅がアリアに使った【二天一流 拳技・無刀転生】だ。だが理子の体格とパワーでは相手を地面にコロン……と転がすことしたできない……しかもそこまでやって理子はそのままフラフラと後ろに行って壁に凭れてへたり混んでしまった。体力の限界……ここまで来るのに大部殴られて蹴られている……

 

「ちっ……」

 

イキナリ何をしたのか分からないが取り合えず立ち上がって周岑はヒルダの方を見た。理子が倒れたからといって終わりではない。

 

するとヒルダは笑っていた。

 

「何がおかしい」

「おかしいわ……あれだけ私を嫌っていた女が私に譲ってくれたんですもの」

「譲った……?どういうこ――っ!」

 

次の瞬間電気が体を流れた……

 

「あ……ぐぅ!」

 

何が起こったのかわからなかった……何で電気が流れたのだ?

 

「よく体見てみなさいよ……」

「っ!」

 

よく見てみると体に絡み付く幾つもの糸……その糸はヒルダの手に繋がっている。

 

「カーボンナノチューブ……と言うやつらしいわ。通電性抜群でしかも頑丈」

 

確かに周岑は引っ張るが全く千切れない。しかもククリ刀でも中々切れないと来ている。

 

「さて、終わらせるわよ」

「させるかぁ!」

 

周岑は電気を食らう覚悟でヒルダに向かって走り出す……が、

 

「うご!」

 

足を何かに引っ張られ転けた……

 

「なっ!」

「へへ……【必殺・死んだ振り】ってね」

 

理子は髪の毛を周岑の足に引っかけ転ばすと……

 

「やれヒルダ」

「命令しないで……よね!」

 

そう言いつつヒルダの残りの電力を全て一気に解放……発電できる最大電力を周岑に流す……

 

「あががががががががががががががががががががががががががががががががががががが!!!!!!!!!!!!」

 

周岑の髪の毛は逆上がり白眼を剥き泡を吹く……一毅ではないのでこれだけの電力を流されれば当然……

 

「か……はふ……」

 

そのまま周岑はゆっくり後ろに倒れた……

 

「はぁ……はぁ……完全に電力使いきっちゃったわ……充電がしたいわ……」

「私は寝たい……」

 

そう呟くとそのまま理子は意識を失ってしまう……

 

「……全く」

 

それを見たヒルダは理子を引きずって近くの布を掛ける。

 

「それにしても……何だってこの子も遠山キンジなのかしらねぇ……もっとイケメンだったらたくさんいるでしょうに……母親に似て女好きの変わり物好きなのかしら……」

 

そんなことを呟きながらヒルダは理子の影にはいって姿を消した。

 

 

 

――――――勝者・峰 理子(とヒルダ)――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにその頃、

 

「ハックション!」

「ちょっとキンジ!うるさいわよ!」

「すまん……」

「なんだ風邪か?」

「いや……まさかイキナリ風邪引くなんてことはないと思うが……」

 

そんなキンジとアリアと一毅のやり取りがされたのは余談である。




取り合えずまず二年生は理子でした。基本的に理子は一人ではどんな相手であっても勝ち切ることはできないキャラだと思うんですよ(一時的に優勢に持っていくことはできても)

故に理子は誰かと一緒に闘うことでしか勝てない。自分には何も出来ないからこそそういう戦いしか出来ない。
弱いからこそその道しか選べない。ある意味ではバスカービルの中では異端児です。

まあそんな子でも受け入れちゃうのが遠山キンジなんですけどね。


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龍達の決戦 緋緋の巫女と晴眼の将

「ハァアアアアアアア!!!!」

「オォオオオオオオオ!!!!」

 

白雪のイロカネアヤメと夏侯僉の剣と鞘が火花を散らしぶつかり合う。

 

純粋な腕力は夏侯僉に分がある……受け流しや弾き返しなどの技術力は白雪……剣速は殆ど互角……総力に殆ど差はない。

 

一毅は剛剣の使い手なので最終的に前回は比較的剣種近いもの同士の戦いになり実力さが如実に現れたが今回は違う剣種同士……どちらかと言えば力を中心に剣と鞘と体術を混ぜ合わせ更に並外れた反射神経と動体視力により相手の攻撃を無効化しつつ押して押しまくる攻撃の剣である夏侯僉に対して返し技や受け流し等のカウンターを多く用いて技術を主とした防御の剣を得意とする白雪……違う種類同士の剣のぶつかり合いは往々にして長くなることが多く実力に差があっても決定打が打つことができずに既に数えるのも面倒なくらいだった。

 

「ふぅ……」

 

一旦白雪はバックステップで距離を取ると息を吐く……自覚している以上に消耗しているのは分かっている。白雪の剣は質より量の一撃が多い。それに対して一撃でも喰らえば危険な夏侯僉……しかも未だ眼帯をつけてるとはいえそれでも回避能力が高く白雪の剣撃が入りにくい。気を抜けば危険なのは簡単に理解できる。

 

「流石桐生の仲間だな……やっぱりつえぇな」

「そっちもね……」

 

白雪は一瞬封じ布を解く事を考えるがあれは長続きしない。協力である反面その分使いどころをちゃんと考えなければ途中で動けなくなりこのような援軍が来ない一対一の状況では逆に危ない。

 

まだその時ではない。今はまだこのままでいるしかない。

 

「考えは纏まったか?」

「待っててくれたんだ?余裕だね」

 

夏侯僉の言葉に白雪は皮肉で返す。すると、夏侯僉は頭をガリガリ掻く。

 

「いや、そういう意味じゃなくてだな。これでも一応考え事してる相手に対して攻撃するほどKYじゃないって言うか……あれだ、戦隊物とか仮面ライダーとかも変身シーンを邪魔しないだろ?あれみたいなもんだよ」

「成程ね。大丈夫だよ、纏まった」

 

白雪が頷くと夏侯僉は「そうか……」と言って眼帯を外して剣打の構えを取った……両眼になって見せる眼光に淀みはない……油断もない……もうふざけるのは終了だ。

 

「じゃあこっからギアを上げていくぞ」

「良いよ」

 

そういった瞬間白雪の懐に夏侯僉が突っ込んできた。

 

「オォ!」

「っ!」

 

夏侯僉のハイキック……それに対して白雪は伏せて躱した。だが更に夏侯僉の振り下ろしが白雪を狙う。

 

「ハァ!」

「ちっ!」

 

ガギン!っと派手な音を立てて火花が散る……続けて鞘が白雪の肩を狙う。

 

「くっ!」

 

それを体を捻って白雪は躱すとその回転を利用して斬撃を放つ。それを剣で防ぐと夏侯僉の回し蹴り……

 

「がっ!」

 

腹に決まった蹴りに白雪は後方に自分から跳びながら衝撃を逃がすがそれでも衝撃は相当なものだ。

 

「オラァ!」

「っ!」

 

空に浮いたところを夏侯僉の剣の縦切り……は何とかイロカネアヤメで受けたが、

 

「ぐげっ……」

 

鳩尾にめり込む鞘の突きに白雪は嚥下づきながら吹っ飛んだ。

 

「くっ……げほっ!」

 

吐き気を覚えながらも立ち上がって構え直す。

 

「オッラァ!」

「っ!」

 

そこに来た夏侯僉の剣撃……それを回避して切りつける。

 

だが夏侯僉はブリッジできそうなほど大きく体をそらして回避……一毅から聞いていたが夏侯僉の回避能力は驚異で先程から白雪の攻撃をかなり余裕をもって回避している。更にそこから崩した体制から放たれた夏侯僉の突き……だがそれを白雪は危なげながらも回避しきった。

 

「そう簡単に終わらねぇか………」

 

夏侯僉は肩を竦める。

 

「そりゃあここで負けたらキンちゃんに顔向けできないからね」

 

それを聞いた夏侯僉は少し首をかしげた。それから意を決して、

 

「一つ確認したいんだが……」

「なに?」

「お前……もしかして遠山キンジに惚れてんの?」

 

すごく今更だが実は夏侯僉は根っこが色恋より喧嘩の方が好きな性格だ。その為全く気づかなかったのだがその言葉に白雪は頬尻をあげる。

 

「そうだよ。あ、勿論ちゃんと異性として愛してるよ?キンちゃんにだったら私の全てを捧げてあげれるし捧げたいと思う。下の世話だってできる!」

「……いや、それは少々……というか滅茶苦茶重たい気がするんだが……気のせいじゃないよな?」

 

どういうわけか遠山 キンジの周りには何だってこんな色んな意味で残念系美少女(アリアとか白雪とか理子とか陽菜とか)ばかりなのだろうか……夏侯僉は少しだけキンジの女難に同情した。そのうち純粋んkキンジの世話をしてくれる優しくてかわいい女の子が現れてくれなければキンジは死んでしまうんじゃないだろうか……

 

「だ、だけどな?遠山キンジはどう見ても神崎アリアしか見てないようだが?」

 

アリアのは分かりやすいので夏侯僉も気づいたがそれをいった次の瞬間後悔した。

 

「あ゛?」

「っ!」

 

夏侯僉は後ずさった。何か今白雪の顔が般若になっていた……R18指定だ絶対。

 

「違うよあれは……絶対にそんなことないもん!二人は絶対にくっついちゃダメなんだよ!」

「?」

 

何か夏侯僉は引っ掛かった。好きな相手が別の女とくっつきそうなのがいやなのは分かる。だが今の白雪の口調はそれだけじゃない感じがした。彼女しか知らない何かもっと奥にある秘密のようなものを夏侯僉は何となく感じ取った。

 

無論……それに対して突っ込む気はなくそっとしておく。凡そロクな事でないのは20年ほど生きてきていれば勘だが分かると言うものだ。

 

「で?どうやって遠山 キンジを奪うんだ?」

 

夏侯僉が聞くと白雪が表情を引き締める。

 

「言ったでしょ?何でも捧げたいって」

「そう言うことか……」

 

白雪はイロカネアヤメ切っ先を夏侯僉に向ける。それを見て夏侯僉も納得した。何でもというのには自分への勝利と言うのも入っているらしい。勝って……キンジに誉めてもらって自分を見てもらう……それからどんな手管を使うかは彼女しか知らないがそんなところだろう。

 

間違いなく彼女のは盲目的な愛……陽菜の一種の師弟愛から派生した恋慕の愛に理子のどんな手を使っても略奪したいと思う愛……それに対して白雪はバカみたいに一途にその男しか見ない愛。どれも彼女たちの地の性格上好かれる方は命懸けで遠山キンジの場合好きな相手ほどボコっちゃうアリアも居て……だけどそれだけに純粋な恋心なんだろう……好かれる方は苦労するがまあそこは運が悪かったと言う奴だろう……諦めろとしか言えない。

 

「OK OK……良いぜ、来な……報われない恋に燃えるお嬢さん」

「理子さん風に言うなら……無理ゲーの方が燃えるんだよ!」

 

白雪の放ったのは片手平突き……突進の勢いも利用し全身のバネも使ったかなりの速度が出ているがそれに対して横に最低限だけ跳んでミリ単位で躱した夏侯僉に対して白雪は横凪ぎに変化して追う。

 

「オラァ!」

 

それを夏侯僉は打ち上げで防ぐ……元々見切りに関しては普段片目で過ごすことで磨いていたし一毅戦以降更に磨いてきていた。だがそこから来たのは白雪の体当たり……無論たいした威力は白雪の力と体重ではない。だが夏侯僉の体勢を僅かに崩す……そこに夏侯僉の顎にイロカネアヤメの柄が打ち込まれた。

 

「うごっ!」

 

ギリギリ顔を逸らすことで衝撃を逃がすがそれでも顎だ。かなりの衝撃ではある。

 

「これでさっきの蹴りの分はお相子かな?」

 

更に体を捻って回転した白雪の回転切りを放つ……

 

「ちぃ!」

 

それを夏侯僉は剣で防ぐ……

 

『……………………』

 

一瞬静寂が包む……そして次の瞬間、

 

『ダァアアアアア!!!!!』

 

そこから互いに打ち合う剣撃の雨霰……無数に飛び交い斬撃が乱れ咲き刃がぶつかった際に起きる火花がまるで散り桜の花びらのようだ……だがそんな中でも夏侯僉は見切り……白雪は受け流す。互いの得意な剣術を使いあって相手にぶつける。

 

「しつ!こい!んだよ!いい加減!諦めろ!」

「しつこい!くらい!が!丁度!良いんだよ!」

 

鞘と剣時々来る蹴りや拳を全て弾きながら白雪は封じ布を一気に捨てた……この密着状態での拮抗した今こそチャンスだ。

 

「オォ!」

「あっぶね!」

 

白雪の剣速が急に加速した……だが夏侯僉の動体視力はそれを見逃さない。最低限の動きで躱すと後ろ回し蹴り……

 

「ぐっ!」

 

それを白雪は腕で防いだ……明らかに頑丈さや腕力が羽上がっている。

 

「だから嫌なんだよなぁ……超能力者は!」

 

だがそれで終わる夏侯僉じゃなかった。そこから体勢を入れ換え白雪にはなった旋風脚……

 

「くっ!」

 

それを白雪は下がって回避すると夏侯僉の剣と鞘を手に回転し遠心力も味方に着けた攻撃を放つ。だが白雪はイロカネアヤメに火を灯し夏侯僉の鞘にぶつけて止めた……すると、

 

「あづ!」

 

夏侯僉の使用する鞘は武器としても使うため鉄製である。鉄だと言うことは熱が伝わる……しかも白雪の炎は超能力のためか熱伝導が高いのか一瞬しかぶつかっていないのに一気に熱くなった。

 

たまらず熱くなった鞘を手放したが夏侯僉はそれでも強引に斬撃を放った……普通であれば常軌を逸してると言えるが拮抗した今は白雪にとってチャンスであると共に時間が限られており急ぎ足になりやすく防御が二の次になる傾向があるため夏侯僉にとってもチャンスであった。

 

それを夏侯僉は見たわけではないのに何となく歴戦の勘とも言うべき勘で剣を振り下ろした……無論それは正解でこのままいけば白雪は真っ二つだったかもしれない……だが、

 

「なっ……」

 

夏侯僉は絶句した……何と白雪は咄嗟に制服の防刃ネクタイを取ると夏侯僉の剣に絡めて止めたのだ。

 

「前にうちの戦妹(アミカ)がこの手を使われたことがあったんだよ……」

 

そして白雪は剣術で言う無刀取りと呼ばれる技術……相手の刀を取って捻って夏侯僉から剣を奪い取った……そして白雪は二刀流となると力を解放する。

 

「星伽候天流……緋炫毘(ひのかがび)双虎(そうこ)!!!!」

 

イロカネアヤメに夏侯僉の剣の二刀流に火を灯し降り下ろす。

 

「ぐぉ!」

 

だが夏侯僉は二刀の間をすり抜けて回避した……だが少しだけ焼き斬られた……斬撃と体が焼かれる痛みを同時にくらうのは初めての体験だ。その為初めての苦痛に顔を歪めるが回避にだけ今は専念だ。

 

緋火虜鎚(ひのかぐつち)焔二重(ほむらふたえ)!!!!」

 

重い炎の斬撃……夏侯僉はそれを横にとんでギリギリで回避する……全体的に振りが大きい今の白雪の攻撃は一毅のに比べて回避しやすい……だがそれなのに白雪は二刀とも腰だめの体制に持っていく。これが最後の一撃……その思いを込めて力を集約させていく。

 

だが見逃してやる夏侯僉じゃない。拳を握ると白雪の顔面を情け容赦なく殴り付けた……女の顔を殴るのは悪い気がしたがそれでもこれからでかいのが来るのはわかっていたし遠慮はできない。だが白雪は殴られながらも笑った。

 

「報われないかもしれない……見てもらえないかもしれない……好かれないかもしれない……嫌われるかもしれない……でもそれでもキンちゃんが傷つかないなら良い……キンちゃんがアリアと一緒に居て辛い思いをしないでほしい……それに何より……」

「ちっ!」

 

夏侯僉は更に白雪に後ろ回し蹴りを放った……ガスッ!!っと派手な音がして白雪の体が横にいく……だが白雪は踏ん張った。意識が飛び掛けたが半ば意地である。

 

そして白雪は集約させた力を全て爆発させた。

 

「そんな程度で簡単に諦められるような恋はしていないんだ!!!!!星伽候天流 奥義!!!!!!」

 

腰だめの体制からの居合い……そこから生まれる圧倒的な爆発熱……その破壊力はあらゆるものを燃やす炎獣だ。熱波と衝撃波の炎獣は夏侯僉を飲み込んでまっすぐ飛ぶ。

 

緋緋星伽神(ひひのほととぎがみ)二重流星(ふたえのながれぼし)!!!!!!!!!!!!!!!」

「っ!」

 

咄嗟に後ろにとんで回避しようとしたが既に遅かった……夏侯僉は無意識に腕を交差させて防ごうとしたが所詮は文字通り焼け石に水……その熱波と衝撃波は夏侯僉を包み込み吹っ飛ばす……無論立ち上がれるはずはなくそのまま地面に倒れ伏す。

 

「はぁ……はぁ……勝ったよ……キンちゃん」

 

白雪は刀を掲げた。

 

 

 

――――勝者・星伽 白雪――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、

 

「次の階上がれば屋上……っ!」

「んなっ!」

 

ホバースカートのアリアに運ばれていた一毅とキンジは突然何かに引っ掛かったような感覚がして遠心力と共に吹っ飛んだ。

 

「ぐぉ!」

 

咄嗟に一毅は受け身をとったがアリアとキンジはそのまま飛んでいき木箱に突っ込んだ。

 

「なんだぁ?」

 

すると顔を出したのは姜煌だ。成程、恐らくチェーンウィップみたいなやつでアリアの足を引っ張ったのか……それと共に出てきたのは貂蘭……一毅にライフルを向ける。

 

「ちっ!」

 

一毅が刀に手を掛けたがそれより早く貂蘭に発砲したのがいた。まあレキである。

 

「貴女の相手は私ですが?」

 

咄嗟に転がって躱した貂蘭をレキが睨む。

 

「あらあら。もう上がってきたの?」

 

レキと貂蘭の視線が交差する。

とりあえず今のうちに……

 

「おーい、お前らだいじょ……」

 

大丈夫か?と聞こうとしたところに一毅は固まった……何故ならキンジは咄嗟にアリアをかばったらしくその際に何と顔をアリアのスカートの中に突っ込むと言うとんでも行動をとってしまったのだ……

 

そして鼻一杯に入ってくるクチナシの香り……眼前に広がるトランプの柄の布地……これは……ならない方がおかしい。

 

「だいじょうぶかい?アリア」

「………………はっ!キンジあんたねぇ!何だってこんなときまで!」

「そりゃあアリアが可愛いからさ」

「んなっ!」

 

ボボン!とアリアの顔が赤くなる。

 

「言っただろう?どんなときだってアリアが一番かわいいんだってね」

「あ……う……あ……」

『……………………』

 

それを周りは冷ややかな目で見た。

 

「なんですかあれ……私の不意打ちで何だってあんな桃色空間作れんですか?というかあんなピンポイントなラッキースケベってあり得るんですか?」

「それがキンジだからなぁ……」

 

一毅が言うとレキも頷く。

 

「さて、アリアとレキの相手はここみたいだし……俺たちは屋上にいこうか」

「そうだな。レキ!」

 

一毅はレキを見る。

 

「負けんなよ!」

「愚問ですね」

 

それを聞いた一毅はニッと笑って走り出す。

 

「アリア、頼んだよ」

「ええ」

 

軽く拳をぶつけてキンジも上に向けて走り出した。

 

「さてレキ……さっさと終わらせるわよ」

「ええ、そうですね」

 

「さっさとですか……舐められたもんですね」

「まあこっちも油断できる訳じゃないのよねぇ~」

 

戦いは遂に後半戦へと移行する。




やっとここまでやって来た!次回は全員釘宮病にされないように注意して下さい!


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龍達の決戦 最強の探偵の血筋と最強の軍師の血筋

「風穴ぁ!」

「っ!」

 

アリアの2丁拳銃が火を吹く。それを姜煌は全て回避していき腕を振ってチェーンウィップを袖から出してアリアに向かって飛ぶ。

 

「くっ!」

 

何度目かの視認だがやはり反応しにくく何とか勘で横に跳んで避ける。そして転がりながら回避しきるとそのまま銃撃……

 

「ちっ!」

 

だがそれも躱された。別に姜煌は身体能力が低いわけではなくむしろ高い方だ。だがそれよりも厄介なのはこちらの動きを先読みしてくるのだ。

 

だがそれでもアリアは接近すると密着しながらガン=カタで肉薄する。

 

「オォ!」

「チィ!」

 

だがそれに対して姜煌は体術で応対する。純粋な体術も姜煌は中々高いようだ。しかも基本はしっかりと守られて隙が少ない。

 

「面倒ね……」

「いやこっちが論理立てて先読みしても勘で躱されるってすごく傷つくんですけど?」

 

そんな軽口を聞きながらアリアは銃を仕舞って抜刀……小太刀を振るうが袖にしまったチェーンウィップを籠手代わりにして姜煌は防ぐ。そして、

 

「ウラァ!」

「っ!」

 

姜煌は後ろ回し蹴り……それに対してアリアは伏せて躱すとバックステップで距離を取り小太刀を仕舞って銃を再度撃つ。

 

「しゅ!」

 

それを回避しながらチェーンウィップ放つとアリアの腕に絡み付ける。

 

「オオオオラァアアアア!!」

「っ!」

 

そこからアリアをぶん投げる……遠心力をたっぷりと利用したその投げに対して咄嗟にホバースカートで体勢を戻し着地した。

 

そしてチェーンウィップを戻すと姜煌はブラリと腕をだらしなく垂らす独特の構え方をしてアリアを見る。

 

「流石はシャーロック・ホームズの曾孫と言ったところですかね」

「そうかしら?曾祖父様には今でも勝てる気がしないんだけど?」

「それを言ったら私だってそうですよ?私も静幻先生に勝てるかと聞かれたら戦いたくないって答えます」

「あんなヒョロイのに?あんたも筋肉質って訳じゃないけどね」

「あの人昔は凄いムキムキだったんですよ?桐生一毅みたいな体型の人でした。ここ最近やつれ気味ですけどね」

「…………へ?」

 

アリアは唖然とした。あれが?一毅くらいのムキムキ男?いやいやとアリアは首を降る。一度ついた筋肉を落とすのは相当無理がいる。薬とか使えば落ちやすくなるが一毅のように筋肉の鎧と言っても良いクラスでのとなれば……

 

「病気なの?」

「ええ、しかももう長くないみたいでしてね。ですから遠山キンジを頭に置きたいんでしょう。藍幇のこれからのために」

「キンジを?」

「なにもしてないのに事件がやって来てしかもその際に仲間を増やしていく一種の人間ホイホイみたいな能力に高いリーダーシップ……しかもよってくる人間は一癖も二癖もあるがその分実力は折り紙付きと大きな組織からみると実は喉から手が出るほど欲しいタイプなんですよ?」

「そんなもんかしらね。あんな女誑し」

「英雄色を好むって言いますからね。彼や桐生一毅もその典型でしょう」

「そう言えば一毅は?一毅は欲しくならないの?純粋な強さだったらうちで頭三つ以上は抜けてるわよ?」

「いやぁあれは……少々ヤバイんですよねぇ……欲しいんですけど……単独でこられたくないと言うか……」

 

それを聞いたアリアは首をかしげる。確かに顔はおっかないし脳みそ筋肉ではあるが今は別にヤバイと言うほどではない。

 

「いやいや、あれは遠山キンジと彼女がいるから抑えてますけどね?根っこは呂布と同じ化け物ですよあれは……」

「化け物?」

「ええ、戦いが大好きで……血を常に求めようとしている化け物ですよ」

 

アリアにも思い当たる節があった……時々一毅は戦いの時に笑う……戦いの時にすごく楽しそうだ。顔は笑わずとも心が踊っている……キンジもレキも白雪も理子もライカも気付いてるし他の一年生たちもそれに薄々感づいてる……

 

「だから呂布は今は静幻先生が居るから抑えていますがアレだってストッパー消えたら自分の本能に呑まれるかもしれないって内心戦々恐々してるんですよ?」

 

遠回しに……桐生一毅だってそうかもしれないと言ってるのはアリアでもわかった。

実は昨日の酒宴の席で一つ疑問を覚えていた。

 

呂布は藍幇側の人間として立っていた。だが呂布は微妙にそこからも離れていた。何と言うか精神的に?別にハブられているとかじゃなくて互いに無意識に境界線を作ってる感じだった。事実呂布が会話したのは昨日は一毅だけだった……静幻とか貂蘭は違ったが他は大なり小なりそんな感じだった。酒を持ってきた女中までそうだった……そりゃそうだ。藍幇は呂布を恐れてるんだ……呂布は今は静幻が居るから言うことを聞いている状態なのだろう。恐らく静幻と呂布の間には何かしらあると分かる。だから今は藍幇の保護下にある。だが同時に静幻がいなくなったときに呂布がどうなるのかわからない。もしかしたら静幻のいない藍幇に別れを告げてどこかにいくかもしれない。下手すれば藍幇に刃を向ける可能性もないとは言えない。何故なら自分と他人の強さを比べるのが大好きで武力の向上を好むやつだ。だがべつに呂布疑ってるとか……敵視してるとかじゃない。しかし信用もできないし仲間とも言えない……お互いに歩み寄れず……近寄れず……

 

「だからキンジが余計に欲しかったのね……」

 

何故キンジに拘ったのか……簡単だ。呂布と同種の一毅をきちんと自分の下につけてる。少なくとも周りにはそう見えてる。そしてキンジは本来手を結ばない者同士を纏める天性の才能がある。静幻は賭けたのだろう。キンジの実績と才能に……呂布と言う不協和音を藍幇に馴染ませる事ができると……そしてここから先は勘だが姜煌は静幻の本当の思いには意識のが気づいていない。それに静幻は気づいているが時間がないと無視して今回に至らせたのだろう。

 

「あんたは頭は良いわ……」

「はぁ……」

 

姜煌は曖昧に頷く。突然のアリアの言葉に少し驚いたようだ。

 

「でもね……大馬鹿だわ……バカの金メダルよ」

「……?」

 

言葉の意味を理解できてない。

 

「あんた歳は?」

「今年で15ですよ?」

「なら仕方ないとも言えるかもね……でもあんたは何も分かっていない。諸葛静幻は別にキンジに呂布を従えて欲しいとか考えてないわ」

「え?」

 

姜煌は声を漏らした。

だがアリアは自分の考えは恐らく間違っていないことを勘で理解した。そしてアリアは銃を向けた。

 

「良いわ諸葛静幻……あんたの思惑に乗ってあげる……あたしは少し過激にいくわ」

「っ!」

 

そこから来たアリアはホバースカートで加速して姜煌に飛び掛かる。

 

「一つ教えとくわ、静幻はきちんと理解した上だろうけどあんたに理解できてないだろうからね。キンジと一毅はリーダーと部下とか上司と部下とかそんな間柄じゃないわ……」

「はい?」

 

じゃあなんだと言うのだろうか……思考張り巡らせながら姜煌のチェーンウィップとアリアの飛び上がり様に抜いた小太刀がぶつかって火花を散らす。

 

「アレはね……親友って言うのよ。いざってときは一毅はキンジを立てるわ。でもそれでもあの二人は親友なのよ。だから一毅はバスカービルに居るのよ。レキだけだったら別のチーム作ってそこのリーダーでもやっていたでしょうね。でもそうしなかったのは一毅は親友(キンジ)の力になろうって思ったからよ!!!」

 

アリアのホバースカートで加速した飛び蹴り……それを姜煌は横に跳んで躱しそこからチェーンウィップを振るう。だがアリアはそれを銃撃して弾く。

 

そして聞くわ……とアリアは続けた。

 

「あんた達はきちんと呂布を見たの?」

「っ!」

 

アリアの一言に姜煌は動揺した。そりゃそうであろう。少なくとも自分は……いや、恐らくこの藍幇のなかでも呂布をきちんと見るのは貂蘭と静幻くらいだ。他は呂布に会えば話もするし挨拶もする。でも踏み込まない。いや、踏み込めないのだ。

 

 

そこにアリアの小太刀が一閃……それを伏せて躱すと姜煌の蹴り上げ……を、アリアは腕を交差させて防いだ。

 

 

「別に責める気はないわ。私だって一毅は怖かったもの」

 

 

押し合いながらもアリアは続ける。姜煌もその中であっても大人しく聞いた。

 

 

見た目じゃない。今でこそ、その内面をある程度理解しているが初めて一毅の戦うときの表情は内心心が冷めていったものだった。

 

過ぎたものは一恐怖感を覚えさせると聞いたが一毅のまさにそうだろうと思う。一毅のような常人を遥かに凌駕した武力は怖く感じた。きっと藍幇でも呂布がそうだったんだろう。

 

無論……その過ぎたものに感動を覚えるものもいて一毅であればレキやライカ……呂布で言えば貂蘭と言う風にそれに惹かれるものもいる。そして、

 

「でもね……キンジは一毅を親友と何時だって呼ぶわ」

 

例え一毅がどんな化け物になっていってもキンジは無意識に一毅を桐生 一毅と言う一人の男として扱う行動をとる。レキは一人の大切な男性として見る。その行動を見るから他の皆もそう言う扱いを無意識してしまうしそんな雰囲気があるからこそ一毅は気付けばバスカービルの中に居たんだろうとアリアは思う。

 

いつぞやアリアは一度キンジに聞いたことがある。「一毅の強さが怖くなるときはないのか?」と……そしてキンジは答えた……「どんなときでもあいつはあいつだろ?」と……

 

だが呂布は異常性は藍幇では目立ったのだろう。静幻がどれだけ男として扱っても……貂蘭がどんなに大切な男性として扱っても……キンジのようなカリスマ性やレキのように相手と愛し合ってない状態では無意味に近かったのだろう……

 

「だから静幻はキンジに託そうとした……」

「くっ!」

 

押し返したアリアは至近距離から銃を撃った……防弾処理を施してあっても衝撃は来る。

 

「静幻は藍幇(ここ)に……呂布の居場所を作りたかったのよ……」

「なっ……」

 

アリアの言葉に姜煌は耳を疑った。だがアリアはそうだと思っている。自分では呂布に居場所を作ることはできない。でもキンジならもしかしたら……と思ったのだろう。だからキンジに藍幇を渡そうとしたのだ。

 

無論藍幇のこれからのためにと言うのは前提にある。呂布を欠けさせれば藍幇の損失であるのもあるだろう。だがそれだけのために態々敵であるキンジにしたのは……死ぬ前に呂布縛り付けるとかではなく……自然と居たいと思えるような場所を作りたかったのだろう。

 

そうやって考えるとこの戦い自体……

 

「推理力は無いけど今回は自信がある推理よ……何か反論はある?」

 

アリアは聞くが姜煌は答えなかった。恐らく姜煌も今の心構えでイケないことくらいは分かっていた。だが理解することと行動できることは違う。少なくとも15の男に出来る事ではなかった。だが改めてアリアに指摘され論破されて……静幻の思いを理解できなかったことを知ってしまいこの戦いの真の意味も分かったがどうすれば良いのか分からないのだろう。

 

「頭の中グチャグチャよね?でもこれが事実よ……」

「……………………」

 

するとアリアは大きなため息をついた。

 

「で?これで終わり?その程度なの?」

「っ!」

 

姜煌はアリアを見た。

 

「この程度で戦意喪失?師匠の静幻の考えを見抜けなかった位でもう自分はダメとか考えてんの?ばっかじゃない?それだったらアタシだって曾祖父様掌の上で踊らされっぱなしよ……アタシ達は結局年の功で上行かれるオチなのよ。ならその上でどうするのかでしょ?」

 

踊らされても……関係ない。どう成すのかであるとアリアは言う。それを聞いて姜煌は少し笑った。

 

「かもしれませんね……なら……」

「なら?」

「今はとにかく暴れたい気分です……」

 

姜煌は腕を上に上げる。攻撃の合図だ……敢えてそうしている……

 

「そう。そんな気分のときもあるわよね。ならアタシが胸を貸して上げるわ」

「貸すほどないでしょ」

「ぶち殺す!」

 

アリアは銃撃……それを躱して姜煌はアリアに肉薄する。それに対してアリアは銃を仕舞って小太刀だけを構えると振るう……

 

「オォ……!!!」

「ルァ……!!!」

 

ギンギンと音を立て火花を散らしぶつかる。

 

「貴女は怖くないんですか!」

「何が!」

「桐生一毅がです!」

 

それに対して怖くない……と答えるわけがない。

 

「怖いわよ?」

 

あっさりと答えた。

 

「普通の感性してたら一毅は普通に怖いわよ……でもね……それ以前に一毅は……私のチームバスカービルの最強のフロントにしてアタシの相談を親身に聞いてくれる男よ?差し引いたってお釣りが来るくらいの良い奴よ。異性としてじゃなくて一人の人間としてだけどね」

 

そう聞いて姜煌は頬尻を上げる。

 

「良いですね……そう言う風に考えれて……そう言う風に一緒にいられて……」

「まだ間に合うわよ……」

「そうでしょうか?」

「ええ、この戦いが終われば孫だって呂布だってうちの二枚看板が打ちのめしたあとに決まってるわ……」

 

だから……とアリアは小太刀を振りかぶる。

 

「この戦いが終わったらお疲れって言って上げれば良いのよ……まずはそうやって歩み寄らなきゃダメね」

 

アリアはそう言いつつ一気に小太刀を降り下ろす……

 

「がっ……」

 

アリアの渾身の大斬撃に姜煌は後ずさる……

 

「そんな程度でいいんですか?」

「ええ、そんな程度でいいのよ」

「そう……ですか……」

 

そうして姜煌は地面に倒れ伏した……

 

 

――勝者・神崎 H アリア――




今回は今までとは少し毛色が違いましたね。これまではキンジのヒロインは基本的にキンジへの感情を書いてきましたが敢えて正ヒロインのアリアは別のことを書きました。これが真のヒロインの余裕と言うやつです!

だけど姜煌や他の面子の呂布に対する感情は多分普通です。別に変じゃないと思います。

寧ろキンジみたく受け入れちゃうのが変なんだと思います。強さに限らず過ぎた物は人を離れさせていく……同時に惹き付けもする……凄いがゆえに弊害があって故に孤独を感じるし人の繋がりを大切にも思うんだと思います。
だから藍幇を責めないで上げてください。

だが今回アリアがイケメン過ぎました……ダレダオマエ……

次回はレキです。それやったらやっとバスカービルの二枚看板……もう少しでこれも終わりです。


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龍達の決戦 瑠璃の巫女と武神の狙撃手

『っ!』

 

レキのドラグノフから放たれた銃弾と貂蘭のVSS狙撃銃から放たれた銃弾がぶつかり合い弾き会う……だが更に銃弾を放って弾きあった銃弾を弾いて狙う……だがそれもぶつかって弾き会う……千日手にも似たそれを延々と二人は繰り返しあっていた……似たような状況では前にキンジ達がシャーロックと戦ったときの冪状弾幕戦に似ている。無論規模は人数が少ない上に場所が狭い分小さいがその分密度がある。気が緩めば危険なのも変わりない。

 

「流石……ね!」

「そちらこそ!」

 

一気に間合いを詰めたレキの銃剣による突き……近接戦闘ははっきり言って弱い。だが銃剣による戦闘であればそこそこできるのだ。

 

それに対して迷わずナイフを抜いて止めた貂蘭はVSS狙撃銃をレキに向ける……

 

「くっ!」

 

レキは体を横に倒してギリギリ躱すとそこから銃撃……だが貂蘭も同じように躱すと一旦距離をとる……そして後ろに下がりながら銃を撃っていく……全て互いに捌きながらもプレッシャーを与え続けていく。

 

「強いですね……」

「ありがと……」

 

マガジンを交換しながら一度休憩と言わんばかりに攻撃をやめる。

 

「今頃屋上でも戦ってるんでしょうね」

 

一毅達のことを貂蘭が言っている事は直ぐに分かったのでレキは頷く。

 

「そうでしょうね」

「心配じゃないの?」

「そちらは?」

「あいつが負けると思えないわ……で?そっちは心配じゃないの?」

 

レキは少し笑った……そして、

 

「心配ですよ」

 

そう答えた……別に負けることではない。普通に怪我しないだろうかとか……後遺症が残ったりしないだろうかとか……何よりも……

 

「戦いのあとに一毅さんはいるのかとか……ですかね……」

「…………」

 

その言葉の意味は貂蘭にも容易に理解できた。

 

「思うときあるんです。私は一毅さんをバスカービルに……もしくは武偵高校と言う場所に縛りつける鎖の一つでしかないんじゃないかって……」

 

一毅が戦う度に思う……勝つか負けるかじゃない。一毅の強さの延び幅は既に成長とか進化とかそういう次元じゃなくなってる。だがそれと共に一毅は根っこで戦いを求めていてその感情も強くなっていっている……故にその本能は時として力となり……同時に一毅を一毅じゃなくしていく。いつかその感情に呑まれて戦いの場を求めて自分の前から姿を消してしまうんじゃないだろうか……その不安はレキにあったしライカも何となく理解していた。

 

シャーロック戦以降キンジも強くなろうとしていたのもそう言ったことを感じ取ったからだろう。一毅に頼れば一毅はいずれ戦いに狂いだしていく……だから少しでもそれを軽くできるように……戦わせないと言うのは武偵と言う立場上できないし一毅の実力が許さない。だから少しでも……そうキンジも思ったのだろう。

 

そして正直に言おう……それができて羨ましいと思った……自分はライカやキンジのように一毅を追うことができない。どんなに鍛えようが模索しようが自分には戦闘では狙撃以外の才はない。いや、理子から見ればそれでも羨ましいのかもしれないし援護ができるだろうと言われるかもしれないがそれは結局一毅の露払いしかできないと言うことなのだ。

 

同じ戦場にいても自分は離れた場所にしかいれない……一毅が傷つくのを見ることしかできない……それが本当は悔しくて……そんなことしかできない自分に腹が立って……でもどうしようもない現実に沈んで……どうしようもないくらい理解していても納得はできない。

 

「分かるよ……」

 

貂蘭は呟いた。

 

貂蘭も同じだ。彼女がどれだけ呂布に心を向けようと呂布には理解できない。しようともしない。何故ならそれを彼はどうすれば良いのかわからないのだから……

 

彼は戦いにのみ自らの感情を向けたいと考える……いや、向ける対象がそれしかわからない。向けられた感情にどう答えれば良いのか分からない。呂布はいつだって独りぼっちで感情は自分からの一方通行しかなかった……でも孤独の方がいいと考える。その方が武力を磨くのに都合がいいと考える……だが、

 

「本当は寂しがり屋の癖にさ……」

 

口や態度でどれだけ示そうと孤独なゆえに呂布は光をどこかで求めている。何処かで一人より二人の方がいいと考える……だがそれを甘えと考え断じる……本当はそれこそ強がりの癖に彼はそれを認めない。認めたくない。強くなることでしか自分を見せる術を知らないがゆえに孤独を選ぶ。いや、選ぶしかない。

 

だが貂蘭はわかっていた……彼は誰よりも自分を認めて欲しがってる……自分は人間の仲間だと思って欲しがってる……だが同時にそれに対してどう返せばいいのかも知らない……孤独を選びつつも孤独を嫌い……でも誰かが手を出してもその手を払うことしか知らない……それゆえに同種と呼べる一毅に対してはまるで子供のような表情を浮かべる……

 

「そうですね……」

 

一毅だってそうだ。恐らく一毅の顔に似合わず面倒見がいいのはそこにあるのだろう。独りぼっちが嫌いで皆と笑って泣いたりがしたい……でも同時に一毅はバスカービルの中でも本人が知ってか知らずか分からないが何処かで線を引いている……自らが化け物になっていくのが分かるがゆえに怖がられて避けられたとしても傷つかないようにバスカービルに体は置いてるが精神は置いていない。段々戦いに呑まれていく自分が独りになっても悲しくないように何処かで皆と一線を引いている。その証拠に一毅は自分の弱音を他人に殆ど見せないし甘えない。悩みを吐露される事はあっても自分は吐露しない……愛されて甘えられても自分から愛して甘えない……誰かから来たら答えるが……自分から行かない……呂布との戦いに対する悩みを漏らしたがあれは一毅も呂布と同様に同種と出会うことで精神的に不安定になってたのが理由だろう。

 

「私やライカさんが好意を示せば答えてくれますよ?でもあの人から好意を見せませんしロキだって気づきません。恐らく相手からの好意に気づくのを本能的にストップをかけてるんでしょうね……幾らなんでも可笑しいですし」

 

そう言いながら戦闘再開だと言わんばかりにドラグノフを構えた。それを見た貂蘭もVSS狙撃銃を構えた。

 

「まだマシよ。こっちなんてずっと一途にしてんのに全く気づこうともしない。腹も立つけどそれでもあいつがいいのよね……」

「よくわかりますよ」

 

そう言ってレキと貂蘭の銃が発光し弾丸を射出する。

 

『っ!』

 

次々弾丸を発射しながら二人の視線は交差する。

 

「ひとつ聞かせて、どうやって付き合ったの?」

「夕焼けが照らす屋上で銃口突き付けて告白しました。あの手のタイプは逃げられない状況でやれば大丈夫ですよ?」

「全く参考にならない方法をありがとね。ルウにやったら返り討ちに会うわ」

「でしょうね」

 

銃を向けた時点で絶対に手加減しなさそうだ。

 

「では私からも一つ」

「何?」

「何故貴女と静幻さんだけは呂布さんをルウと呼ぶんですか?普通ならば呂布(ルウフ)と呼ぶと思うのですが?」

「ああ……一つだけ言っておくとルウは唯一英雄の子孫じゃないわよ?」

「え?」

「呂布に子孫はいないわ、だって可笑しいと思わなかったの?ただ一人だけ偉人の名前がそのままって……」

「そういえばそうでしたね……」

レキが頷くと発砲しながら貂蘭は口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元々呂布……いや、名無しのバラガキだった彼は物心ついたときから親の記憶がない。気が付いたときには近くに廃棄されたごみの山と工業廃棄物が垂れ流しにされる汚染された川が見えて常に空は工場の煙で薄暗い世界で生きてきたいわゆる捨て子だった。

 

ゴミ山にはいろんなものは捨てられる。腐った肉、カビの生えた包子、蛆虫が沸いた野菜……他にも色々あった。普通の感性

なら手をつけないが食えるものがあるだけマシとその当事まだ6歳ちょっとの子供であったと言うのにそんな考えをしていた。

 

よく腹も下したし変な幻覚を見たがその理由がその食事と飲料水が廃棄物垂れ流しの川の水である。寧ろ生きていたのは奇跡……いや、その当事から彼の生命力と自己治癒能力は桁外れだったのだろう。だがそんなある日だ……偶然彼を見つけた男がいた。別段何かあったわけじゃない。ただ単にその日上司と意見が食い違いムシャクシャしていたこと以外何時もと変わらなかった。元々エリートと呼ばれたこの男はゴミ山の周辺にすむ言わばこの国の底辺にすむ人間を見下して悦に浸ってストレスを解消した帰りだった。その時にゴミ山から姿を見せた彼に目をつけた。この男は特にムシャクシャしてた日で何かに八つ当たりしたかった。だが仕返しされるのを怖がる程度の小心者だった。故に最近噂で聞いていたゴミ山に一人ですむただの子供で親兄弟はいない人物……何よりも死んだとしても誰も困らない。ゴミ山に死体が一つ増えるだけ……

 

そう思い男は彼に近づいた……声をかけ拳を振りかぶる……そして次の瞬間ゴキャッと音がした……何が起きたか分からない……首が通常鳴る筈のない音をしたのはわかった……血の泡が口からでた……死んだ。

 

彼にとって初めてじゃない。こういう輩は結構いる……そしてこういったやつは何かいいものを持っていると死体をまさぐって良いものを見つける……

 

彼はこの当事から既に成人男性を上回る膂力と反射神経……何よりも心眼を使えていた。無論心眼は不完全だったし今と比べれば弱い。だがこの極限状態で過ごし続けるなかで彼の体は適応するため進化するための極限修練となっていた。

 

 

 

 

そんな生活続けていると彼の前に現れた……このときはまだ病に犯される前で今よりずっとムキムキだった静幻……彼を見るなり静幻はいったらしい……

 

「私についてこないか?そうしたら温かいご飯と寝床を用意しよう。その代わり君には強くなってもらいたい。誰よりも……何よりも……僕の力になってほしい」

何を言っているのかわからなかったが……何を言いたいのかは何となくわかった……だから言うことを聞くことにした。そして彼は名前をもらった……《犬っころ》《野良犬》《野獣》何て意味を込められているが彼にとって初めての固有名詞《(ルウ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成程、どうりで呂布さんは静幻さんにだけはなついたわけですか……――!」

「そう言うことよ。呂布と言うのは云わば藍幇の中でも最強の武力を誇るものに付けられる称号よ――!」

 

銃弾が交差する。そして一旦止まった。睨み会う……すると貂蘭が笑う。

 

「さぁ……そろそろ決着といきましょう!」

「……そうですね」

 

レキと貂蘭は瞬時にリロードすると相手に向ける。

 

「オォ!」

「っ!」

 

銃撃はレキを狙う……だがそれを狙撃して弾く。

 

「ハァ!」

「く!」

 

そこに来たのは貂蘭のナイフ……それをバックステップで躱す。

 

「ダァ!」

「ちっ!」

 

離れたところを狙われ素早くレキは横にとんで避ける。それから走って柱の影に隠れると直ぐ様飛び出しながら銃撃……だがそれを貂蘭は銃撃でまた弾く。どんどん弾いてどんどん撃っていく……

 

「でもお互いああいうやつを好きになると苦労が絶えないわね!」

「ええ、本当ですね……こっちの気苦労なんて全然考えてくれない。少し位頼ってほしいのに頼ってくれない。自分の悩みは自分だけに抱え込んで寧ろそっちの方が心配になるのに周りに心配かけないためとか言って口に出そうともしない……」

 

でも……いや、だからこそレキは決めたのだ。

 

「だから、ああいうのは端から見たら鬱陶しいくらい勝手に心配し続けるしかないんです……だから」

 

勝手に心配して勝手に着いてって……勝手にやるしかないのだ。

 

「勝手に私は一毅さんをずっと見ていようって決めたんです。勝手にどこかに消えても見つけようって……何処かで疲れ果てたら一番最初に見つけて皆で一毅さんのところに行くんです。無論、一番最初に会うのは私です。そこはライカさんにもキンジさんでも譲りません。そして言うんです。《大丈夫ですか?》って……」

 

傷ついてたら手当てしよう……落ち込んだらそっと抱き締めよう……道を外したら戻してあげよう……落っこちたら引き上げよう……

 

「惚れた女のしつこさを男は甘く見てますからね……とことんやってあげようと思うんですよ」

「それは参考になるわね……その案は私も使いたいわ!」

 

次々弾丸を発射してぶつけ合いながら二人は互いに間合いを図る。そしてレキの目が細まった……

 

「いきますよ……」

「っ!」

 

次の瞬間放たれた銃弾は銃弾の中をくぐり抜け貂蘭の腹に刺さった……無論防弾処理を施してあるが痛い。

 

「それは……」

「一毅さんのジェリコ941です……ある意味これも二丁拳銃……あ、こっちは狙撃銃ですね……」

 

そう言って二丁とも貂蘭に向ける。

 

「こう言うときはこう言うんですよね……風穴開けるわよ」

「くっ!」

 

放たれる先程より増えた銃弾に貂蘭は狙撃で対抗する。

 

基本的に撃つのはジェリコの方だ。そっちは片手でも充分に狙えるので普通に撃ってくる……そして隙さえあれば狙撃銃に持ち替え止めを狙ってくる。

 

「面倒ね……!」

「っ!」

 

だがそれでも貂蘭は引かない。これでも呂布と一緒にいるために修練を積んでいる。だからこそ……この引かなさこそがレキにとって勝機となった。

 

「終わりです……」

「え?」

 

ジェリコ941から放たれた銃弾……それは貂蘭に迫っていく……全てに銃弾の隙間をすり抜ける……だがそれを貂蘭は驚異的な反応速度で狙い撃った……そして次の瞬間……世界が歪んだ……

 

「はぇ……」

 

間の抜けた声が出た……だがレキは耳を抑えながら近づいた……

 

「武偵弾・音響弾(カノン)……着弾した瞬間に爆発的な音を出す特殊弾です……そして音とは空気の振動……桁外れの爆音はそれに応じて振動も大きい……そしてその爆音は耳を痛め付けその奥の三半規管すら狂わせる……まあ今のあなたに言っても聞こえないでしょうし恐らく私が近づいてることすら分からないでしょうね」

「あ……ぐ……」

 

そしてレキは構える。前に一毅一緒にいったバッティングセンターで習った構え……

 

(肩幅に足を開き脇を閉め足を固定……そして思いきって振る!!!)

 

「ごがっ!」

 

ガゴン!っとレキのドラグノフのフルスイングは貂蘭をブッ飛ばし……意識は忘却の世界へと消えていった。

 

「私の勝ちですね」

 

レキは勝利宣言をした……

 

 

 

 

――――勝者・レキ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

するとそこに他にメンバーが入ってきた。

 

「あ、先輩ここにいたんですか?」

 

あかりの言葉に頷くと白雪におんぶされた理子が顔をあげた。

 

「とりあえずキー君とカズッチのところに行こうか」

 

全員その提案にうなずき上を目指す。屋上の扉は直ぐに見えてくる。

 

恐らくこの扉の先には一毅とキンジがボロボロになりながらも立っているのだろう。皆で勝って日本に帰るのだ。

 

そんな思いで扉は開けられた……その先には……

 

 

床にキンジが血を吐きながら倒れていた……

 

一毅は何かを投げたような格好……そして

 

「がはっ……」

 

血飛沫をあげて自らの血の中に沈んだ……

 

『え?』

 

皆は呆然とした……だが分かったことがある……あの二人は……所謂絶体絶命というやつだった……




次回予告

遂に藍幇の構成員達を撃破したバスカービルと一年生たち……だが屋上に着いたときに見たには血反吐に倒れるキンジと血飛沫で作り出し自らの血溜まりにしずんだ一毅だった。

いったいどんな戦いが行われたのか……そして二人の命は……更に勝負の行方は!

次回、その勝負が明かされる。


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龍達の決戦 龍達の危機

レキとアリアと別れ一毅とキンジは屋上に出た……

 

そこにいたのはココ四姉妹と縛られた静幻……そして武神・呂布奉先と戦神・孫……既に猴から孫に入れ替わってる。

 

「さぁて……いっちょ気張るか!」

 

一毅はバッと翻すと背中に王龍の刺繍が入った龍桜を着て殺神(さつがみ)神流し(かみながし)を抜いて二刀流となる。

 

「一毅」

「ん?」

「……いや、なんでもない」

 

キンジも翻すと桜吹雪の刺繍が入った龍桜を着てオロチを手に着ける。

 

「さて……決着と行こうか……」

「そうだな……」

 

孫は笑う。愛しきキンジを見て……

 

呂布は戦闘体制に入っていく……既に呂布は静幻の声は届かない……同種の一毅を前に何があっても止まらない。

 

『いくぞぉおおおおおお!!!』

 

四人はそれぞれの相手に向かって飛び掛かった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァ!」

「ふん!」

 

一毅の二刀と呂布の檄は火花を爆音を撒き散らしてぶつかり合う。初手から既に手加減なし……遠慮もないし本気だ。

 

「オォ!」

「ドォラア!」

 

二人の体から深紅のオーラ(レッドヒート)が出る。次の瞬間には常人には視認することすら許さない。だがその領域の速度と破壊力がありながら反応しているのは心眼の力……意識せずとも……脳が関知せずとも二人は互いの攻撃に反応ができる。

 

「そうだ……それでいいんだよ桐生 一毅!お前も俺もこうやって死力尽くして戦いあってる方がいいのさ!自分の顔を見てみろよ!今のお前……笑ってるんだぜ!」

「っ!」

 

一毅は刀の刀身に反射した自分の顔を見た……確かに……笑っている……楽しそうに愉悦の表情を浮かべている……これが……自分の顔?

 

「は、はは……」

 

そうか……これが自分なのだ……自分の本心だ……自分の中に居た本当の自分……

 

「ハハハハハハハハ!!!!!!」

 

声をあげて笑った……そうだ。何を躊躇う。気付いていただろう?気付きたくないから気付かない振りをして居たのだろう?本当はブラドの時に感じたのは……仲間を傷つけられた怒りではない。もしかしら自分より強いかもしれないという感情だったかもしれない。自分は戦いが大好きである。

 

強そうなやつを見ると戦いたくなる。どちらかの命尽きるまで戦いたくなる。キンジと一緒に居たのはきっと強いやつに出会いやすいからだ……そしていずれ強くなるであろうキンジと命を掛けて戦いたかったからだ。きっとそうに違いない。間違いない。

 

「カハハ……」

 

一毅は刀の握り直すと呂布の額に向かって突きを放った……当てる気で放った……殺すつもりで放った……武偵法9条?知ったことではない。相手の息の根を止めてこそ本当の勝利だ。殺すまで相手との戦いは終わらない。情や情けは不要。必要ない。寧ろ浴びた返り血は自分の力になると言わんばかりに刀を振るう。

 

「そうだなぁ……お前のいう通りだぁ……」

 

一毅は悦に浸った笑みを浮かべた……呂布もそれを見て自分の感情が高まるのを感じた。

 

それと共に銃も抜いて構える。呂布の本気スタイルだ……

 

「そうだ……殺りやぉうぜぇ!桐生 一毅ぃ!」

「オォオオオオオオオオ!!!!!!!!!」

 

斬って弾いて切り返す……叩いて殴って蹴り返す……撃って撃たれて弾いて弾かれて……その時その時でもっとも最善の攻撃を繰り出す……心眼は相手の攻撃に発する殺気や気配感じる力……逆に言えば相手の意識が集中していない部分も判断できるということだ。その力はこれまでにない領域で発動している。

 

だが呂布も同様だ。元々桁外れだった膂力も判断力も速さも既に人間である者が何れ到達するであろう領域に入っていた。その領域の扉は通常開けられるはずもない。だが深紅のオーラ(レッドヒート)に心眼……更に生まれつきの才能……全てが揃っている呂布に今は一毅との戦いという今生に類をみないほどの楽しみがあるのだ。後の筋肉断裂の危険があろうと何の関係もない。

 

一毅もそうだ。今この瞬間の楽しみに心が支配されていく。喜怒哀楽のうち喜びと楽しいの感情以外が消えていく。それと共に脳裏から記憶が流れていく……記憶を喪失しているのではない。だが今まで感じていた仲間への情や友情……レキやライカへの愛情……キンジへの友好心……他にも大切な感情や思い出が色褪せ一毅の中で思い出されなくなっていく。

 

「ああ……そうだよ……」

 

こんなものはいらない……今必要なのはこの瞬間を楽しむ心……所詮は自分に似合わない過去の遺産……

 

呂布のいう通りだ。自分に平穏なんて似合わない。柄じゃない。戦いの中でこそ自分は輝ける。なら戦いの中にいることこそが王道なんだろう。

 

「さぁ殺りあおう……死が二人を別つまで……なぁ」

「ああ来いよ呂布……死こそが俺達の戦いの終わりの合図だ……」

 

再度二人の武器がぶつかり合った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!」

「どうした遠山ぁ!」

 

キンジと孫の戦いは孫の攻勢だだった。無論キンジの万象の眼は既に発動していて孫の猛攻を凌いでいる。だがそれでも明らかに人知を越えた膂力から放たれる拳打は一撃でも喰らったら危険だ。流石そこは神様と言ったところだろう。

 

故に直撃だけは喰らわないように時々絶牢の応用で蹴り返しながら応戦する。だがそれよりもどうしても気になってしまう……一毅の変化……

 

元々勘づいていた……心配だった……だがその心配が的中してしまった……

 

(行くな一毅……)

 

キンジは心の中で手を伸ばす。実際に伸ばすのは孫がいて不可能だ。

 

一毅は自分達とは別の存在……分かっていた。本当は分かっていた。自分達と一緒にいるというには本来野生で過ごすべき動物に狭い檻の中で過ごさせるのに等しいのも分かっていた。

 

でも一毅……とキンジの心は叫ぶ。

 

確かに一毅は化け物なのかもしれない。それこそ身も心も……でもそれでキンジは信じてる。桐生 一毅という男はそれでも人間である。自分にとって唯一無二の親友であり背中を預けられる位信用してる。だが一毅の中で回る歯車が狂ってしまった。同種の呂布と出会いなのはいうまでもない。故に一毅は自分というものが分からなくなってるだけだ。

 

例えどんなに武力をあげても一毅は17歳の少年だ……精神まで成熟してるとは言いがたい。いや、寧ろ一毅は頼られることに関したは実家のお陰で慣れてる。だがそのために甘え慣れてないのだ。不器用で馬鹿でアホンダラで脳足りんで……誰よりも優しいのが桐生一毅と言う奴だ。それを忘れて今の状態……笑えない。今例え勝ったとしても所詮一毅は中身を失った肉の固まりになってしまうだけだ。

 

「そっちはだめだ……」

「よそ見してる場合じゃないぞ!」

「くっ!」

 

孫の足払い……それに対してキンジはバックステップで躱すと銃を発砲……だが、

 

「がぅ!」

「っ!」

 

噛んで止めた……キンジでいう銃弾噛み(バリツ)……だがキンジと違い意識は飛ばない。

 

「これで終わりか遠山!」

 

そこに孫が間合いを一気に詰めてくる。

 

「っ!」

 

孫はそのまま両の拳をキンジの腹につけた。

 

「がっ!」

 

次の瞬間体を襲う波のような衝撃……

 

「拳勁と呼ばれる技術さ……」

 

中国憲法には発勁と言う技術がある。力をためて一気に放つことで自分も腕力と自重を味方につけ相手に叩き込むがこれはそれだけじゃない。

 

地面を踏み込んだ際に地面から自らの体重が跳ね返ってくる。孫は凡そ30㎏少しだろう。だがその帰って来た体重と持っている体重……更に腕力発勁で行われる掌と言う面ではなく拳と言う点で打ち込まれる……するとどうなるか……30+30=60の衝撃が拳と言う点で圧倒的な膂力を持って叩き込まれるなんてもんじゃない。何故なら計算式が違う。

 

ココまでの要因が完全に合致したら30+30ではない……30×30だ。そんな衝撃がキンジを襲ったのだ……

 

「ごぶっ……」

とんでもない衝撃……何て生易しいものじゃない……全身がバラバラになるような感覚……瞬間的に走馬灯が見えた……

 

「がふ……ごは……」

 

死と言う言葉が頭にはっきりと出た……死神がキンジの命を狩りに来る……だが、

 

「しね……るかぁ……」

 

キンジは倒れなかった。まだ死ねない。一毅をこのままで死ねない……そして……アリアが下にいる。このままでは終われない。

 

「ウォオオオ!」

 

キンジの体から深紅のオーラ(レッドヒート)出る。

「孫!」

 

キンジの回し蹴りに孫は反応した……ギリギリではあったが外す……

 

「いい加減にしろよ一毅ぃ!」

 

キンジは叫ぶ。だが一毅には聞こえてるのか無視してるのか……いや、耳がいいあのバカが聞こえないわけなかった。

 

「無視してんじゃねぇよ……何様だお前はぁ!」

 

それでも孫と戦いながらキンジは叫んだ。

 

「自分一人で何でもやれるつもりかよ!自分一人で抱えて塞ぎこんでよ!その方が迷惑なんだよ!てめぇは桐生一毅だろうがよ!少し自分に似た奴に会ったからってなぁ!!!転んでんじゃねぇよ!お前本当にそれでいいのかよ!それが桐生一毅って男の生き様なのかよ!そんなの死にたがってるだけじゃねぇか!死に場所探してるだけだろうがよ!ただの死に様なんざなぁ、演劇だけで充分なんだよ!」

 

キンジは孫を蹴っ飛ばす……だが孫はそれを防御してキンジに詰め寄った……

 

「っ!」

「だからいっただろ……よそ見してる暇はないってな」

「くっ!」

 

キンジは躱そうと足を動かし……何かに引っ掛かった。

 

「なっ!」

 

キンジの足に巻き付くのは孫の尻尾……そして体勢を崩したキンジに孫の両拳が添えられた。

 

「あばよ、遠山」

「っ!」

 

全身に走る衝撃……先程と同じ拳勁だ……キンジは口から血をはいた……いや、口だけじゃない……鼻や眼からも血が出てきた……ヒステリアモード感覚が告げる……内蔵もボロボロになったのだと……

 

「あ……ぐぅ……」

 

そのままキンジは倒れる……だがそれでも……

 

「戻れよ兄弟(一毅)……お前は……そんな自分の(さが)何ざに左右されるやつじゃねぇだろ……」

 

キンジはそう言いながら立ち上がろうと力を込める……すると孫の眼が怪しく光った……間違いない。如意棒と呼ばれる文字通り必殺技……

 

(死ぬのかなぁ……俺……)

 

今回ばかりはお手上げだ……何の手もない。あってもこの体では無理だ。

 

(一毅……)

 

自分が死んでも一毅はどうなのだろうか……きっとどこかに消える……そうはさせたくない……だから動け体……

 

(アリア……)

 

アリアに自分の死に顔何て見せたくない……だから動いてくれ体……

 

 

だが体は正直で……残酷で……動かない。動いちゃくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時ちょうど一毅の手から呂布の檄によって刀を弾き飛ばされた……だがそれを行うために呂布はかなり大きく振ってしまった……無論弾き飛ばされたのは一毅の誘いである……それ故に攻撃後返してきたとはいえ僅かな隙があった……だからこそその隙を一毅は背中から断神(たちがみ)を抜いて斬れば良かった……体をまっぷたつにすれば良かった……だがその時視界に入った倒れたキンジと如意棒を溜める孫……キンジの声は聞こえていた……だが心に響かなかった……その為一毅は反応できなかった。だが視界に入ったものに対して一毅の本能は二つの選択を強いられた。その選択は【呂布を殺す】か【キンジを助けるか】……無論キンジを助ければ呂布の攻撃を受ける。最善手は呂布への止めだ。それしかないそれがいい……そう一毅は判断した……そして一毅の手から断神(たちがみ)が消えた……

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故だ……」

 

呂布は銃を発砲し檄を弾いて加速させて降り下ろした……断神(たちがみ)をキンジと孫の間に投げてそれで如意棒を打ち消した一毅に向けて……

 

「何で……」

 

一毅にもわからなかった……だが17年生きてくれば体に染み付いてしまっていた……自分より親友を……どんなに心が捨てても肉体がそれを離さなかった……どんな心境でも……一毅は今までの人生を捨てられなかった……故に一毅は……

 

「がは……」

 

血溜まりの中に体を沈める……

 

『っ!』

 

背後から息を飲む声が聞こえた……多分他の皆だ……丁度来たんだろう……

 

(悪い……負けちまったよ……)

 

そう内心呟いて……一毅は意識を手放した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………ん?」

 

気がつくと一毅は辺りが真っ白な世界にいた。何もない……呂布もキンジも静幻もさっき来た皆も……誰もいない。

 

「………………ここは……」

《よう。どこ見てんだよ》

「っ!」

 

一毅が振り替えるとそこにいたのは白髪頭が目立つ男性だった。和装に身を包み何処か自由なオーラを滲ませながらも何処にも隙がなく右目を縦に走る古傷が特徴的……

 

体つきは歳からは考えられないほどがっしりしていて眼光も片目だけだが鋭い……一毅はこの人間を知っていた……会ったのは初めてと言っても過言じゃないほどだ。記憶にはないのだから……だが写真でみたことがある。自分を抱き上げている写真を何度もみた。その時の顔のままだ。故に一毅は口を開いた……

 

「爺ちゃん……」

《おう、おめぇの爺だぜ》

 

手に持ったキセルをペン回しのようにクルクル回転させてニカッと笑った男……桐生 一心はマジマジと一毅をみた……




次回予告

呂布の強烈な一撃を受け意識を失った一毅……だが目を覚ますとそこに居たには今は亡き祖父……

そしてまだ死んではないが危険であると言った一心は一毅に大切なことを教える。

桐生であり……一毅と言う一人の男へ………一心は何を伝えるのか。


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龍達の決戦 龍の目覚め

「……ん?てことは俺って死んだのか!?」

 

一毅は祖父である一心を見ながら驚愕した。だが一心はクックック……と喉を鳴らしたような笑いをした。

 

「ばぁか。そんなわけないだろうか。幾ら強烈だったとは言え流石に即死はねぇよ。まあアブねぇ所ではあるけどな、良く言うだろ?綺麗な河が見える~とかよ。そういうやつだ」

「ああ、あれね」

 

それを聞いて一毅は安心した……だが、

 

「なら急いで戻んなきゃ行けねぇじゃねぇか!なあ、どうやって戻るんだ?」

「あん?別に戻んなくたっていいじゃねぇか。辞めとけ辞めとけ、お前みたいな弱っちいやつはここにいとけ」

「なに……?」

 

一毅は一心を睨み付ける。だが一心は何処吹く風でキセルから煙をプカプカさせながら一毅をみる。

 

「いやぁ、爺ちゃんは可愛い孫が負け戦にいくなんて嫌だねぇ。しかも勝っても負けても何ら意味もない。そんなのにいかせたくないねぇ」

 

言い方は酷くわざとらしい。いっそ清々しいが言われる一毅はムカつくだけである。

 

「負けるとは限んないだろ!」

「いいや、負けるね。あんな大斬撃喰らったんだ。今から立ってもいいようになぶられて終わりさね。彼女たちにそんなところ見られたくないだろ?」

「アイツらは関係ない!俺の勝手だ!死のうがどうなろうが俺の責任なんだよ!」

「……………………」

 

すると一心の眼が鋭く……鋭利なものに変わった。

 

「っ!」

 

一毅はギクッと体を竦める。

 

「俺の責任なんだよ……かぁ……いいねぇその言い訳のしかた……」

「言い訳……だと?」

「ああ、言い訳だ」

 

すると一心は立ち上がってキセルを咥えたまま一毅に相対する。

 

「何だぁその顔は……もしかしてムカついた?いやぁ悪い悪い。昔からこうでね……」

 

一心はおちゃらけた言い方で謝った。

 

「とは言えだ……これ以上口で言っても止まりゃあしないだろうなぁ……お前は俺に似て馬鹿だからな……つうわけで来な、俺に一発ぶちこんでみろ……お前にないものを教えてやる」

「…………いいのかよ……」

 

幾ら一心がガタイがいいとは言え一毅のパンチを喰らったら年も年のはずなので危険のはずだ。

 

「おお、遠慮も手加減無しでこい……」

 

それを聞いて一毅は拳を握って腰を落とす。

 

「恨むなよ!」

 

そう言って放たれた一毅の正拳突き……腰の捻り……拳の突きだし……全ての要因が完全に合致した拳が一心の腹に刺さった……だが、

 

「え?」

 

一心は微動だにしなかった……顔色ひとつ変わらずキセルから煙をふかす。

 

「軽いねぇ……」

 

そういった一心は手を振り上げ指をゆっくり順番に折って握り拳を作った。

 

「歯を喰い縛れ」

「っ!」

 

ガツッ!!!っと顔に走る痛みと衝撃……それにより一毅はぶっ飛んだ。

 

「が……」

 

たった一発……たった一発だ。一心が放った拳骨……腰の捻りもない純粋な拳骨……ただ拳を振り回しただけなのに重く……固い一撃によって一毅は一気に戦闘意欲を削り取られた。

 

「あらゆるものを捨て戦いのみにその意思を置く……それは武の狂信者と呼ばれ拳聖……武王……と称され神扱いされる。だが俺に言わせれりゃそいつは弱いやつさね」

 

仰向けの一毅の顔を覗き込みながら一心は言う。

 

「だって邪魔な物を捨てるってのは様はその邪魔なものを背負う余裕がないってことだ。漢ならよぉ……そんな邪魔なものも纏めて背負わねぇとな。強さも弱さも……全部引っくるめてなきゃ……ただの戦闘狂……しかもおめぇも呂布ってやつも見境がねぇ。戦うんなら相手を選びな」

「くっ!」

 

一毅は口を拭うと一心をにらむ。

 

「クックック……良いねぇ若いねぇ……自分の強さを疑ってない良い目だ。それ故に危険なんだがまあそれはあとにしよう」

 

一心はまたキセルから煙を吹かした……

 

「俺の拳……重く痛かっただろう?何でだと思う?」

「…………」

 

一毅はわからないため無言で返すと一心はまたクックックと喉を鳴らしたような笑いを漏らした。

 

「俺はな……お前をこのまま死なせた方がいいと思ってる」

「っ!」

 

一心の言葉に一毅は目を見開く。

 

「お前さんをこのまま離せば暴れかねない。暴れれば関係ないやつを巻き込みかねない……なら無関係の人間傷つける前に俺が引導渡すのもまた筋ってもんだろう?」

「………………」

「だからここでお前を止めなきゃなんねぇ……止めなきゃ取り返しのつかないことになりかねない……そうしておいた方がレキちゃんだっけか?その子や他の子達もそれぞれの道を歩ける。お前が生きてるとそれができねぇだろうよ……」

「………………」

「そう言うわけで俺は腹ぁ括っておめぇの前に立って拳握ってんだ。だがお前さん……何のために拳を握ってんだい?」

「何のためって……戦うためだ」

「ふん……全てを捨てて戦いのために?そりゃ楽だろうねぇ。何せ何も背負わないんだ。何の覚悟も要らねぇ。例え負けたって自分の命だけで良い。何て楽な戦いだ」

「何だと……」

「お?何だ怒るかぁ?クックック……何度でも言ってやるぜ、お前と呂布の戦いは所詮何も背負いたくねぇもん同士のガキが自分の戦闘欲求満たすために暴れただけさ。所詮は堪え性のない子供の喧嘩さね」

「っ!」

 

一毅は一気に立ち上がって一心を殴る……だがそれを一心は簡単にキャッチするとニヤニヤ笑う。

 

「ホラやっぱり子供だ。事実を言われるとキレる」

「――っ!」

 

一毅はそこから押すが一心には全く効果がない。微動だにしない。

 

「して一毅よ……何で【握り拳】って言うかわかるか?」

「手を握るからだろ!」

「かぁー……お前やっぱ駄目だなぁ。そんなありきたりな意味しか答えられないわけ?」

「じゃあなんだよ!」

「簡単だよ。背負っちまったもんを……プライドを……意地を……戦うわけを……覚悟を手に込めてそれを握るから【握り拳】って言うのさ……最初は重いかもなぁ……拳を振るのすら苦労するかもなぁ……でもな、それを我慢し手に握り続けてるとな……ある日気付いてると重くなくなってるのさ……そして重かったはずのものは拳で殴った時の重さに変わってる……何時しか重さは消え失せ邪魔だったものは力になってる……それがねぇ拳何ざ炭酸の抜けたサイダーみたいなもんだ。どんなに力強くても中身のねぇ拳ほど軽いのはねぇんだよ……」

「………………」

 

一毅は一心をみる。

 

「そんな拳でやる喧嘩何ざあとでむなしくなるだけさぁ……つまんねぇ勝負だよ……そしてその重さはなぁ……俺たちの性を抑える重石になってくれる」

「重石に?」

「ああ、俺たちの戦闘欲求はもう病気レベルさ。どうしようもねぇ、血を求め……力を求め……強者を求め……死を求める。それはもうどうしようもねぇことだ。それを否定しちゃなんねぇよ……認めるしかねぇよ……受け入れるしかねぇよ……だけどなぁ……それに振り回されちゃあイケねぇ……あくまでそれは自分の内にあるべきものだ。それに呑まれちゃなんねぇ……それに使われちゃあなんねぇ……それに振り回されたらな、ただの信念の無い人斬りさぁ……犬畜生にも劣る人のクズだよ……」

 

一心の言葉に一毅は何時しか聞き込んでいた……口を挟まず……ただ真摯に聞いていた。

 

「孫にそうはなってほしくないんだよ、俺はさぁ……それにきっとお前の大切なやつらもそう思ってるぜ?」

「皆が……?」

「ああ、お前はさっき生きるも死ぬも自分の責任だと言ったな?でもそれは間違いなんだよ。確かに命をどう賭けるかっていうのは自分が決めることさ……でもな、お前が命を賭け……お前がいなくなったとき、お前に涙を流すものがいる。そうなった時点でお前の命はお前の責任で散らすわけにはいかなくなっていくのさ……」

「爺ちゃん……」

「俺たちは戦いを求める……でもな、それでも忘れちゃなんねぇ物がある。絶対に目を背けちゃなんないものがある……消しちゃなんねぇ意思がある……その身が鬼となろうと色褪せちゃならないものがあるんだよ……」

「忘れてはならないもの……」

 

一毅はゆっくり反芻していく……脳裏に浮かぶのは今までの思いで……レキの初めて作った飯がダークマターでキンジを巻き添えにして顔を引きつらせながら食べたこと……レキと午後の昼下がり一緒にテレビをみたこと……キンジと一緒に強盗を捕まえたら何と相手が機関銃取り出してきて慌てたこと……アリアがキレて銃を乱射してキンジを追い回してるのを見て笑ったこと……ライカと一緒に訓練したこと……レキとライカとロキの三人で一緒にお昼寝したこと……白雪が暴れたのをキンジと一緒に止めたこと……理子のおふざけに一緒にやったら後でキンジに膝詰め説教されたこと……あかりへ未だにはっきりしない辰正をからかって遊んだこと……陽菜の珍行動に頭を抱えたこと……志乃から逃げ回ったこと……たくさんあった。何れも思い出だ……捨てようとした記憶……

 

「俺たちはな……自分の性を抑えたりとか……折り合いつけようとか……そんな器用なことできないしそこまで頭良くねぇ……一明みてぇな例外はあるが基本的にアイツも含めて俺たち桐生はその身に狂気宿してる……だがその時にこそ何を手に握ってるのか思い出すんだ。桐生は戦いでその狂気を使う……特にお前は一種の先祖帰りなんだろう。歴代の中でもトップクラスの狂気だ。だが同時にそれだけじゃない、俺達の周りには何時だって俺たちを思ってくれる仲間がいてくれる……それを忘れちゃならない。折り合いをつけようとか考えるな。抑えようとかするな。だが同時にそれを全てにするな。そして命を粗末にするな……生きるんだ、這いつくばってでも、何度やられても、繋がりと言う糸を使って立ち上がれ……色んな背負っちまったもんを手にした握り拳で相手をぶっ飛ばせ……生き様を見せつけるんだ……その果てが死か……はたまた伝説なんて呼ばれるか……それは分からない。神さえも知らないだろうな……」

「生き様……か……」

 

一毅はうつむいた……すると膝に水滴が落ちた……

 

「本当は怖いんだ……」

 

一毅は漏らす。

 

自分はどんどん人間ではなくなっていく。最初は笑ってすむレベルだった。だけど段々そんなものでは済まなくなっていくのを感じた。

 

いつか皆が自分を腫れ物を触るような目で見るんじゃないだろうか……そんな恐怖が何時だってあった……

 

そして一番怖かったのはこのままでは自分の居場所がなくなる気がした……

 

「俺さぁ……勉強全然だめなんだ……努力してみたことだってあるんだ……でも全然だめなんだ……知恵熱出たときなんかマジかと思ったよ……家事とかできるけどさぁ……そう言うのじゃなくて戦いに役立つ能力も剣術とかくらいで……狙撃は無理だし盗みとか無理だし超能力は使えない……キンジみたくヒーローぽい事もできない……思うんだ。俺って別にいなくても大丈夫なんじゃないかって……俺みたいな戦闘以外じゃ役に立たない奴は居なくたって困んないんじゃいかって……そりゃあアリアとキンジの仲を取り持ったりもするけどあれだって別に俺がいなくなってうまくやるよ……そんな風に思ってたら今度は呂布だ……マジで強くて……引き分けにすんのがやっとだった。今回に至っては負け……俺から強さを抜いたら何も残んねぇよ……戦闘以外では役に立たねぇ上に一番にもなれない中途半端な化け物なんてさぁ……」

 

ずっと一毅の中にあった感情……ずっと一毅のなかで沸き上がってた感情を吐露した……

 

「そりゃそうだ。俺たちは化け物……だが全てが完璧じゃない……勝ちもするし負けもする……どうしようもなくなって助けを求める……それが普通さ……でもな……別に良いじゃあねぇか……化け物だからって全部一人でやるのか?違うだろ……それに、耳を済ましてみな」

「?」

 

一毅は顔をあげた……すると微かに聞こえてきた……

 

《一毅》《一毅さん》《カズちゃん》《カズッチ》《一毅先輩》《桐生殿》

 

「あ……」

 

トクン……と一毅の中で何かが跳ねた……皆の声が聞こえる。

 

「色んな奴がお前を呼んでる。お前を信じてる。お前の心配ももっともさ……でもな、もっとアイツらを信じてやんな……」

「うん……」

 

一毅は眼を拭った……

 

「さっき言ったようにお前は歴代でも最高クラスの狂気だ……生まれたときからそれは分かってた」

「え?そうなのか?」

「赤ん坊って開いた手に指を入れるとギュッと握るだろ?」

 

一毅もそれは知ってるのでうなずく。

 

「あれを俺がやったらな……お前いき なり俺の指へし折ったんだぞ」

「マジで?」

「おお、それで確信したぜ。こいつはヤバイってな……こいつは俺とは比べ物にならん狂気……いや、狂鬼を持ってるってな。だからお前の名前は【一毅】って決めたのさ」

 

一心は空中に軌跡を描く。

 

「【その身に一匹の狂うてる鬼を宿し者】……だが同時にそんな鬼にも負けない【(つよ)い】人間になってほしい……だから【一鬼】ではなく鬼の部分を毅に代えて【一毅】としたんだ」

 

そう言えば自分の名前は祖父がつけたと父に聞いたがまさかそういう意味があったとは……

 

「だがもうお前は名前と言う(まじない)で縛らずとも大丈夫だろう……例え一鬼になったとしてもお前には一緒に歩いてくれる奴等がいる」

「ああ……」

 

一毅が頷くと一心は笑う。

 

「なら行け……このまままっすぐいけば着く……」

「わかった……なあ爺ちゃん。ありがとな……」

「ふ、さっさと行きな」

 

一心は頬を赤くしてそっぽ向いた。ツンデレだ。

 

「あ、そうだ。鐡に会ったら言っといてくれないか?」

「なに?」

「あの世にはなぁ、そりゃもう美人さんが多くて天に昇る心地だって」

「死ねエロ爺」

 

しかももう既に天に昇っているじゃねぇか。

 

まあとりあえず気を取り直して……

 

「じゃあ行ってくる」

「おう、帰ってくんなよ」

 

そんなやり取りをして一毅は走り出す。

 

今までずっと回ってた歯車……それが呂布とであって一度外れかけて……また嵌まった……しかも今度はもう外れないように強固だ。

 

折れた芯は元通り?違う。前とは違う。色んな意味で違うのだ。比べ物にならない。

 

足りなかったものが嵌まった……くっついた……理解した……

 

(今度は……もう倒れない)

 

一毅は新たな一歩を歩み出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お……おぉ……」

『っ!』

 

一毅が僅かに動く……それを見た皆は驚きつつも……

 

「やっと起きたかよ……」

 

キンジの言葉を聞いて一毅は笑う……

 

「なぁキンジ……俺は何だ?」

 

一毅の言葉……それをキンジは理解し笑って答える。

 

「チームバスカービル最強の馬鹿で脳筋で俺達の最高の仲間で……俺の一番の親友だ。兄弟(一毅)

「そうか……そうだよな……兄弟(キンジ)

 

一毅は腕に力を込める……少し体が浮く……それを見てキンジも力を込めた……

 

「レキ!ライカァ!」

『っ!』

 

一毅は二人をみる……

 

「俺のこと……好きか?」

 

一毅の問いに二人は笑いながら愚問と言う。答えは決まっている。今更なんだと言うのだ。変わるはずもない。確定事項とも言える答えだ。

 

『大好きです!』

 

それを聞いて更に体をあげる……

 

「皆ぁ!一言だけ頼む!」

『?』

 

キンジの言葉に皆は首をかしげた。

 

「頑張れって……言ってくれ……そしたら頑張るから」

 

キンジが言うと皆が笑った。

 

『《頑張れ》《負けるな》《勝つって信じてる》《応援してます》《この程度ではないでしょう!》《まだ行けるでござるよ》《まだいけますよ》《立ってください》二人とも!』

 

あれ?っと全員で顔を見合わせた……ここに来ても面白いほどバラバラだ……だが……それでこそ皆だ。だからこそ力がわいてくる。

 

「なあキンジ……ここは俺の死に場所じゃあねえよなぁ……」

「当たり前だろうが…………ここが地獄じゃあるめぇし……死ぬかよ」

「なら……生きようぜ……」

「それも当たり前だ……二人で勝って……皆で帰るぞ!!!!!!!!!」

「おう!!!!!!!!!」

 

一毅とキンジは立ち上がる……そして一毅は刀を拾って二刀流となる。

 

「そうだ……これで終わりじゃないよな、お前と俺は同類だ!まだ戦えるよなぁ!」

 

そう呂布が吠える……すると一毅はフッと笑って呂布を見た。

 

「確かに俺とお前は似ている……だけど……やっぱ違う……」

「なに?」

 

呂布の驚愕を他所に一毅は刀を上にあげ……ゆっくりおろす……

 

人間(じんかん)……五十年(ごじゅうねん)……」

 

余りにも……場違いなほど美しい敦盛だった……元々武芸者の嗜みであり武の稽古から発達のだから一毅が踊る敦盛は一流も一流……超一流の美しさだ。だが何故踊れるのか?いや、踊り方なんぞ一毅は知らない、ただ体が自然と動き口も自然と動く。

 

 

 

呂布と自分は同じだとおもった……戦いが大好きで血を求め強さでしか自分を表現できない……

 

下天(げてん)(うち)をくらぶれば……」

 

だけど桐生一毅は呂布とは違う……それでも一毅には仲間がいる。自分の勝利を信じてくれる。例え自分がなんだろうと自分を愛してくれて……親友と呼ぶ友がいて……自分は果報者だ……だからお前とは違うんだ……

 

夢幻(ゆめまぼろし)の……」

 

だから戦おう……自分は血を求め戦いを求める……だがそれでもそんな自分の欲や功名心……名声等よりも大切なものを見つけたものは……自分の力を越える……無欲のようになりその実誰よりも欲深いのだが真っ直ぐな物になる。

呂布のように自分しか見ない者にはたどり着くことはない領域の力を使うことができる。

 

たった一人の女の子のために二刀とこの力を振るった最初の桐生がいた……主君を守るために愛する我が子を主君に頼んで渡し己は全身に矢を受け戦った桐生が桐生と名乗るよりも遥か昔の一毅の先祖もいた……桐生は……大切なものを見つけたときに強くなる……友愛・恋愛・家族愛……多くの愛を受けて与えて生きる一族である。

 

そして……遂に……一毅の深奥に置かれていた力が解放された……

 

(ごと)くなり」

 

一毅の体から溢れ出すヒート……だがその色は今までの純白や蒼、紅とは違う。一毅の体に感じる力も違う。

 

その色は緋色……大切なものを見つけ……それを守ろうと誓い……想った桐生が使うことができる最強のヒートにして最高のヒート……その名も極めし者のオーラ(クライマックスヒート)……

 

「決着をつけようぜ……呂布」

 

さっきとは明らかに違う一毅の雰囲気…… それにたいして呂布は困惑した……

 

自分とはそれでも違う……何をいっているのか呂布には理解できない。

 

「気になるならよ……(これ)で語ろうぜ……」

 

 

 

 

 

 

 

「立ったか……遠山」

「ああ……一毅がたった……皆が応援してくれた……だからまだ戦うよ……」

 

キンジの体からまた深紅のオーラ(レッドヒート)がでる……先程とは比べ物にならない……更にキンジの眼も更に加速する。

 

「俺はバスカービルのリーダーだ……頭が負けられるわけ無いだろう……」

 

そう言って腰を落とす。今度は違うと孫は理解した。一毅が完全に覚醒したことでキンジはもう一毅に意識を割く必要はなく更にこの二人は片方が進化するともう片方も追従するように強くなる。

 

何処まで行っても親友なのだ。

 

「なら今度こそ終わらせる……」

「散らせるもんなら散らせてみな……」

 

 

 

 

 

 

 

こうして……最後の戦いの最期の幕が上がった……




次回予告

本当の意味での力とは何かを学んだ一毅は覚醒、更にキンジもフル稼働。体調は最悪だが精神は最高潮の二人の戦いに終止符が打たれる。


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龍達の決戦 決着

「オォオオオオオオ!!!!!!!!!」

 

キンジの飛び蹴り……それを孫は躱すが先程とは比べ物にならない速度を持っていた。

 

「やればできるじゃないか!」

「今度は一毅を気にしなくていいからね……君だけを見て君を倒すことだけを考えればいい」

 

そう言ってキンジは更に蹴りあげる。

 

「シャア!」

「だが甘いぜ!」

 

孫はそれを正面から受けた。更にそこからキンジの腹へと拳を振るう……

 

「オォ!」

 

だがそれを橘花で受けて絶牢……更に桜花で加速させる。

 

「逆転の極み!」

「ぐっ!」

 

自らの攻撃力とキンジの桜花で加速させた蹴りが合わさった一撃に孫は吹っ飛ぶ……しかし孫は吹っ飛ぶ方向に自ら飛んで衝撃を軽減する。

 

本来であれば眼からのレーザー……正式名称は如意棒でさっさと終わらせたいが先程撃った際に一毅に打ち消されてしまったためもう使えない。だが元々身体能力が人間じゃないので素手でもキンジと戦える。それにキンジは少なくとも拳勁を既に二発喰らっている。普通の人間であれば末に死んでるし生きていても内蔵がボロボロだろう。なのにキンジは立ち上がる。そして拳を……いや、足を振るう。どこにそんな底力があったのだろうか……確かにキンジは人間をやめたような技を使うし身体能力も十分人間をやめている。だがそれでもキンジの根っこは人間なのだ。雷に当たれば痺れるし内蔵も壊れる。一毅とは違うのだ。孫はそれが謎であった。

 

「不思議そうな顔だね」

「まあな……どこにそんな力があるんだよ」

 

孫の呟きにキンジは笑った。

 

「いやね、もう本心としては倒れていたいんだよ……寝ていたいし……白旗あげたいよ?降参したい。フラフラするし明日はたぶん血尿がでるだろうしさっきから肺の辺りがズキズキ痛むし口が血の味一色なんだ……」

 

だけどさ……とキンジは言いながらネクタイを緩めた……

 

「俺はバスカービルのリーダーだ。何度でも言うけどね。だからかな……皆に応援してもらえるだけでさ……何処からともなく力が湧いてくるんだ。立ち上がらなきゃって思っちゃうんだ……そして立ち上がっちゃうんだよね……」

 

元々リーダーと言う立ち居ちはアリアが勘でキンジなら向いてると言って他の面子がそれで納得したためであり別に望んだ立ち居ちじゃなかった。だけど……気づけば自分なりにリーダーであろうとしていた。それは素でも変わらない。

 

何でだろう……いや、多分と言う感じは理解している。多分……皆が色んな戦いの中で自分なりのプライドをもって命を賭けているからだ……皆自分より凄いところを沢山持ってる。弱かったり強かったり才能なかったりあったり……色んな人間が踏ん張って……時にはそんな凄い皆が自分に力と命を預けてくれる……ならそんな皆がいるなら……自分も命を懸けようと想ったんだ。皆のために戦おうって……皆が命を賭けるなら自分も命を懸けようって……そしてもうひとつある……それはアリアの隣にいても変じゃないように……

 

(素の俺が好きってことは……ヒスってたって同じなんだよ……)

 

良く素の自分はヒステリアモードの自分とは人格が違うと言う。それは外れてない。でも一つだけ言っておきたい。ヒスって居ようと居まいと心は同じだ。好きになる相手も同じだし嫌悪する相手も同じだ。だからよくヒスってる時の好意は違うと言い分からなくなっている。だがヒスっている自分が好きな相手と言うのは素でもそうなんだ。そこを間違えないでほしい。

 

だって何時だってアリアの言葉は一番力になったんだ……アリアがいるだけで大丈夫な気がしたんだ……アリアに対して明らかに他の皆とは違う感情を持っていたじゃないか……だけどその感情に名前をつけてしまったらもう避けられない。その感情に眼を向けなければならない。背いてはならなくなるし出来なくなる。

 

(俺だって……アリアが好きなんだ……)

 

少し甲高いアニメ声も……ちっちゃな背丈も……すぐ怒るところも……照れ屋な所も……一生懸命なところも……全部好きだ。確かに女性的な美しさはない……胸も平坦で幼児体型かもしれない……だけどそんなことはどうでもいいくらいアリアが好きなんだ……

 

今まで色んな理由をつけて思おうともしなかったけど……釣りのあとに自覚させられて……そうしたらもうどうしようもない。自覚したら止められない……逃げられない……

 

思えば普通の武偵に拘ったのはそのせいかもしれない。アリアの隣に本気でいようと思ったら普通じゃダメだ。だけどアリアと自分は釣り合わない。普通じゃなくなって、好意に向き合ったとき……それが怖かったから普通の武偵と言ったのだろう。結局いつも自分は逃げてばかりだ……

 

(でももう逃げない……)

 

キンジはボタンを2、3と外す……キンジの本気モードである。

 

「皆の期待のためにも……俺自身の為にも……もう逃げるのをやめたんだ。バックギアを壊してきてるんだ」

 

一層キンジの深紅のオーラ(レッドヒート)が強くなった。これは感情がトリガーだ……キンジの覚悟に同調するようにその力は増大する。

 

「やっぱお前は良い男だぜ……遠山」

「ありがとう。だけど手加減はないよ」

「かまわない」

 

そう言って孫はキンジに肉薄する。

 

「オォ!」

 

孫の拳をキンジは橘花で受ける。だが今度は絶牢からの返しをできないように孫は攻めてくる。だがキンジの万象の眼が孫の動きを読む……それにより全ての攻撃が決定打にならない。

 

「ウッシャア!」

「っ!」

 

キンジは孫の一撃を回避するとその隙を使って後ろ回し蹴り……それを孫はガードしたがそのままキンジは回転しキンジの渾身の蹴り……

 

「ぐぅ!」

 

なんとか孫は防ぐとお返しとばかりに蹴り返す。

 

「くっ!」

 

それをキンジは蹴りで迎撃する……

 

『オォオオオオオオ!!!!!!』

 

そこから次々と蹴りを放ち合う。キンジの深紅のオーラ(レッドヒート)による肉体を強化した蹴りと孫の元から常人を越えている脚力から放たれる蹴り……どちらも一歩も引かない。

 

『ウラァ!』

 

既に数えるのも難しいほど蹴りがぶつかり合い交差した……だが孫がその均衡を破る……

 

「ガァ!」

「っ!」

 

キンジの蹴りをギリギリで回避しつつ密着する孫……そして両拳が添えられた。

 

「憤!!!」

「がっ!」

 

本日3度めの拳勁……何度食らっても慣れることのない衝撃がキンジの体を襲う……

 

「もう終わりだ……」

 

幾らキンジでも三発もこれを喰らったら立ち上がれるわけがなかった……と言うか死んでもおかしくない。

 

そう思いながら孫は背を向けた。キンジの体がゆっくり沈んでいく……だが、

 

「この桜吹雪……」

「っ!」

 

キンジは口から血を吐き捨てながら恐らく最初で最後のチャンスに動き出した。

 

「散らせるもんならぁ!!!!!!!!!」

「ぐぁ!」

 

キンジの渾身の蹴り上げ……それにより孫の体が空中に吹っ飛んだ……そして、キンジも飛び上がる。

 

この体制はエアストライク?それとも派生技?狙いは後者だ。何故なら通常のエアストライクでは孫に返されるから……なら派生技の方だ。だが三発もいれる体力はない。一発で決めよう……

 

そう覚悟を決めてキンジはオーバーヘッドキックの体制に入った。そしてその表情は……笑っていた。

 

何処までも苛烈に……熱く……燃え上がりそうな炎……そんな笑顔であった。楽しそうに……嬉しそうに……最後の一撃を放つ。

 

「散らしてみやがれぇええええええええ!!!!!!!!!!!!」

 

アルファドライブ、ベータドライブ、ガンマドライブと3種の蹴りを叩き込んで相手を倒すエアストライクの派生技……それから更に研ぎ澄まして作り出したのがこの技である……相手を必ず倒すと言う覚悟と意味を込めてこう名付けた。

 

「ファイナルドライブ!!!!!!!!!」

 

キンジは重力と遠心力と深紅のオーラ(レッドヒート)……そして脚力……全ての要因を味方に着け孫を空から地面へと蹴り落とす。

 

その衝撃はたった一発の決定打でありながら孫の体力を一気に持っていくほどの圧倒的な破壊力……キンジに欠けていた破壊力を体現した必殺の蹴り技に孫は地面に叩きつけられた……

 

「がは……」

 

そしてそのまま孫は地面にめり込む……孫は……立ち上がらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

一毅はトンっと軽く地面を蹴ると呂布の視界から消えた……

 

「ちぃ!」

 

だがどんな動きをしようと呂布に一毅同様心眼がある。それにより呂布は咄嗟に防御した。だが呂布は冷や汗が垂れた。

 

およそ十メートルあったはずの距離を一毅は一瞬で詰めてきた……身軽とか足が速いとかそういう領域の速度ではない……しかも、

 

「オォ……」

「っ!」

 

一毅が少し力を込めただけで呂布が押される。

 

「オラァ!」

 

だが呂布も深紅のオーラ(レッドヒート)をだして押し返す……だが一毅はそれでも微動だにしない。

 

まるで巨大な氷山を押してるような錯覚……しかも一毅はこれまでずっと右手の殺神(さつがみ)だけしか押してない……つまり両腕の呂布に対して一毅は片腕……

 

明らかに普通じゃない。速度も腕力も……だがそこで終わる呂布ではない。

 

「喰らえ!」

「…………」

 

呂布はS&W M500を抜くと一毅に至近距離で発射した……これだけの口径だ……カスるどころか近くを通っただけでも凄まじい衝撃になる……だが一毅は最低限回避しただけだった……

 

「なっ……」

 

衝撃はあったはず……だが一毅には衝撃の効果がない。つまり……常軌を逸していまの一毅は頑丈でもあると言うことだ。幾らヒートが肉体を強化して頑丈さも上げるとはいえ可笑しい。人間じゃない!!!

 

「何故だ!」

 

呂布は距離をとって檄を銃で撃って加速させると一毅に降り下ろした。

 

「お前は俺と同じのはずだ!戦いでしか自分を表現する場所がない!強さが全てでそれ以外に手にするべきものはない。その筈だろう!」

「そうだな……お前のいってることは正しいよ……」

 

一毅はフッ笑った。その笑みは何処までも静かで…… 清流のように……穏やかな笑みだった。余りにも戦いの場には似合わない。

 

「確かに俺たちは戦いに全てを捧げるのが王道なんだろうな……」

 

だけどな……と一毅は続けた。

 

「王道が全てなのか?」

「え?」

 

呂布は疑問符を浮かべた。

 

「俺はまだガキだ。だから色んな道を模索したいって思う。王道だけじゃない。時には邪道だって試したいと思うんだ……」

 

一毅の言葉に呂布は呆然として聞いた。

 

「それにさぁ……俺はやっぱり戦いが好きでも……平穏も好きなんだよ……だから……今のままで良い。俺は表舞台にいなくて良い人間だ。いや、いたら迷惑をかけるんだ。だから俺はキンジの下にいる。キンジの邪魔するやつぶっとばして序でに戦闘欲求満たしながらその後に皆でバカ騒ぎするんだ……楽しいだろうぜ」

「ばかな……それでは俺たちにスポットは当たらないんだぞ!例え遠山キンジが英雄やヒーローと呼ばれるようになったとしても!お前はその部下のなかで一番強かった奴、で終わるんだぞ!」

 

一毅は頷いた。その通りだ。でも……

 

「それで良いよ……俺はそれで良いよ」

 

どんなに戦いが好きでも勝った後に皆で讃え合えないのは寂しすぎるんだ。終わった後にお疲れてって言い合えないのは静かすぎるんだ。自分に称賛をくれるのは……仲間だけで良い。

 

「それに俺はさ……別に世界に見られなくて良いんだ。世界最強にならなくて良いんだ。俺は仲間の行きたい道を邪魔する壁を壊す役割で良いんだ。だからもしお前が世界で一番弱かったら……俺は世界で二番目に弱い男の程度の強さで良い。でももしお前が世界で一番強かったら……俺はそれを越えていく。俺にとっての強さなんてその程度でよかったんだよ……」

「………………」

 

呂布はなにも言えなかった。そんな程度の志でありながら……今の一毅の実力は自分を大きく上回る。

 

「そして戦い続けて怪我もして苦しみもして……負けたり勝ったりして……最後に俺は惚れた女たちを侍らせて……孫達でも膝にのせて……桜でも見ながら酒を飲んで……笑うだけ笑って……そして笑顔で死んでいけたら良いと思うんだ……そして死ぬときに言うんだ。《苦しかったし、もう嫌だと思ったこともある。膝をつきたいこともあったし間違いもして馬鹿もやった。だけど……生まれ変われるなら同じ人生を歩みたい。悔いなんてない……そんな最高の人生だった》……てな」

 

戦いの中でしか輝けず……戦いの中でこそ生きる……そんな男であるのに一毅はそれでも平穏の中で死ぬことを望む。それは明らかに歪で異形で異常……変異だ。

 

戦いでしか満たされぬ欲求をたまに満たせれば良い。そんな程度で良い。そんな自分の我が儘……高名……名声……光り……そんなものより皆と一緒に歩ける暗闇を望む。一緒なら……先の見えない暗闇も歩ける仲間達がいれば一毅は満足で……暗闇に迷っても自分を見つけてくれる少女に自分のあとを追いかけてくれる少女がいれば良い……それが一毅の本心……一毅の答えであった。

 

一毅の強さは……繋がりである。繋がるからこそ……仲間の期待を背負うからこそ一毅は力を発揮する。

 

いや、一毅に限らず誰しもそうなんだろう。背負ってしまったものを強さに変えて戦えるものこそが真の強者となり戦える。

 

「言っただろ?お前と俺は同じだ。でもそれでも限りなく別物だ。俺にはいざってときに声を出す仲間がいる。俺が勝つのを信じて《立って戦え》っていってくれる奴等がいる。俺はそれこそが堪らなく嬉しくて……力になるのさ」

 

呂布は意味がわからなかった。呂布には……いや(ルウ)には理解不能……

 

「さあ来いよ!」

 

一毅は叫ぶ。とは言え一毅の肉体は限界に近い。新たな力である極めし者のオーラ(クライマックスヒート)は力が半ば無制限に上がっていく。しかも深紅のオーラ(レッドヒート)より遥かに早く、しかも感情などの高揚がないのにだ……しかも先程人知を越える速度で走ったがそれは一毅も少し予想外なほど速度が出ておりそのためか足の筋肉がかなりブチブチとやってしまった。だが痛みはない。同時に後で凄まじい激痛に襲われるだろう。まあ良い事だ。

 

今は呂布のことだけを考えれば良い。勝って……皆で帰るのだから……

 

「く……オォオオオオオオ!!!!!!」

 

呂布の銃で檄を弾き加速させた一撃……だが一毅の心眼が捉えあり得ない速度で止めて弾く。

 

「オラァ!」

 

一毅は呂布をぶん殴った……

 

(重い……)

 

呂布は素直に思った……そして思い出すのは静幻だった……そう、静幻と同じだ。静幻は藍幇を背負い戦っていた……呂布にとって静幻とは衣食住を提供してくれたものである。故に藍幇には恩義は感じぬが静幻にはある。だからか静幻がいなくなったあとは藍幇を抜けて世界中旅をしても良いと考えていた。いや、別に藍幇に愛着がないわけじゃない。だがここに自分の居場所がない……とそう考えていた。呂布は素直にここに居ても良いかと聞く気概も素直さも持ち合わせていない。腕力でしか自分を示す術を知らない呂布はどうすれば良いのか知らない。

 

だが呂布は実際最も自分の居場所に対して執着しているのかもしれない。それ故に一毅に妄執にも近い感情抱いたのだろう。

 

隣の芝生は青い……と言うように自分にないものを一毅は持っている。羨ましいなんてもんじゃなかったのだろう。嫉妬なんて生易しいものじゃなかったのだろう……憎しみにも近い……言わば逆恨みでもあるのだが……一毅はそんな呂布の心も受け入れる。

 

「ウルァアアアアアア!!!!!!」

 

一毅は呂布の檄を全て弾く。まだまだ弾く。もっと弾く……避ける?そんなわけなかった。全て呂布の感情の結晶……ならば受けるのが礼儀だ……男として……

 

『ウラァアアアアアアア!!!!!!!!!』

 

爆音にも近い二人の大気を揺るがす声と武器がぶつかる音……だが、どこかその音は悲しげだった……まるで呂布の攻撃は子供が人の楽しそうな玩具を羨ましがって駄々を捏ねてるみたいで……一毅はそれを受け止めてるみたいだった。いや、事実呂布は恐らく心をあのゴミ山に置いてきたままなのだろう……名無しのバラガキだった頃のまま……呂布は強くなってしまったのだろう……それに対し一毅は同情もなにもない。ただひたすらその全てを受け止めた……一毅だって一歩間違えればそうなったから……だがそれでも一毅は気づいたのだ。

 

「オォオオオオオオ!!!」

 

呂布と一毅が押し合う……

 

「はぁ……はぁ……」

「考え直してみな……」

 

一毅は頭をそらした。

 

「テメェのことを見てる奴だっているんだよ!俺と同じで!お前が気づいてないだけだ!」

 

ガツ!っと一毅の頭突き……

 

「ぐぁ……」

 

無論キンジほどの石頭ではない。だが一毅だって大概だ。その頭突きが呂布を後ずらせた。そして一毅が走り出す……これが最後……

 

「二天一流!!!!!!!!!」

 

呂布は一毅に檄を突き出した……が、一毅が視界から一瞬消え……そして、

 

『んなっ!』

 

呂布だけじゃない。それを見た全員が驚愕した。何と一毅が四人に分裂した。いや、正確に言うとあまりの速度に残像ができておりそれが一毅を四人になっているように見せているだけなのだがそれでも普通あり得ない速度が出ている。そして四人の一毅は呂布の四方を囲む……その時点で呂布の心眼が発動しなくなった。

 

何故か?それは心眼とは本能が体を動かす。だが逆に言えば本能が不可能と思ってしまえば……心眼は使えなくなる。つまり呂布は心の底で敗北を感じ取ってしまったのだ。

 

「オォオオオオオオ!!!!!!」

 

そこから一毅は四体の残像のうち正面に陣取った一体から空中に飛び上がりそこから呂布に襲いかかった。まるでそれは四方を守護する四神のうち東を守護し天空から外敵に鋭い牙を剥く青き龍……【青龍】を思わせた。

 

「ラァアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」

 

最初に叩き込むは凄まじき速さの連斬撃……一斬一斬に威力はない。だが回数が重なればダメージになるしなによりこの斬撃によって反撃の隙はない。故にこれで良い。一手目はただひたすらに速く速く速く!!!その速度のみを追求したその斬撃を放つ姿はまさに……【疾如風】(疾きこと風の如く)

 

「フウウウウゥゥゥゥ…………」

 

静かに……余りにも静かで同時に基礎を忠実に守った斬撃……冷静に厳かにだが余りにも美しい……その姿はまさに……【徐如林】(徐かなること林の如く)

 

「ウォオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

攻める……とにかく攻めて攻めて攻めて攻めて攻めて攻めて攻めて攻めまくる!!!!!!防御など考えない。自分のも相手のも……攻撃こそ最大の防御と言わんばかりに相手を攻めまくる……切って殴って蹴っ飛ばす!その怒濤の攻めの姿はまさしく……【侵掠徐如火】(侵掠すること火の如く)

 

「……………………」

 

呂布の体は完全に無防備となった……完全に体をさらけ出していた……そしてすでに一毅は最後の攻撃体制……呂布は既に受けると言う現実を受け入れることしかできなかった。

 

一毅は腰を落とし力を込めて地面を踏み込んで大きく二刀を振り上げる……その出で立ちは不動。そして放たれるは機動力は皆無に等しい……だが今の呂布に受ける以外の道はなかった。重く……力強い一毅の放った斬撃はまさに……【不動如山】(動かざること山の如し)

 

「……………………」

 

最後の一撃を一毅が放った瞬間不気味なほど静まり返った……余りにも鮮烈で激しい攻撃に対してその直後の静けさは不気味だ……だが一毅は自然に刀を鞘に納めていく……

 

「極技……」

 

一毅が見せた連続斬撃……この技は二天一流にはない。いや、今のような形態がない。言わば一毅が作り出した別の二天一流……

 

そして極めし者のオーラ(クライマックスヒート)を使ってるときに使う数多くの戦いと絆を作り出した一毅の進化途中でありながら極まりしといっても過言じゃない領域の剣撃を放つのが【極技】である。

 

最上級にして現段階では一毅の全力の技……それを呂布に叩きつけた。自分のありったけをぶつけた……自分の全てをぶつけれた……

 

「――風林火山――」

「がっ……」

 

呂布はそのまま倒れ一毅は刀を天に掲げた……

 

「俺の……いや」

 

一毅が首を振るとキンジが隣に来た。

 

「ああ……俺達の」

 

二人はパァンっと手を叩きあった。

 

『完全勝利だ!』

 

 

 

――――勝者・遠山キンジ及び桐生一毅……よってこの戦い、チームバスカービル及び一年生達の完全勝利。更にこの勝利によってアジア方面は師団(ディーン)優勢となった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃とある海の上では巨大な石油タンカーがあった……別に海上に石油タンカーがあるのは普通だ。科学が進歩した現在においても会場での輸送が多い。だが、その船には逆卍……つまりナチスの文字だ。しかしその中は異様な空気になっていた。

 

「なぜお前がここにおる……」

 

船にいたのは眷族(クレナダ)のパトラと同じく眷族(クレナダ)のカツェ・グラッセと言うものだった。そしてその二人の前には一人の男がいた。

 

身長は凡そ180後半……体格は一見細身に見えるがその実一切の無駄がない完璧なまでの筋力が内包された実践的な肉体であった。更に腰には太刀と小太刀……恐らく日本人だともわかる。だがもっともその男を形容しているのは全身黒一色の服装だった。

 

黒い帽子、サングラス、黒のロングコートに黒のスーツ……何れ一つをとっても黒ばかり……しかし同時にそれが異様に似合っていた。

 

「何故ってなぁ……ちょいと中国でお粥が食べながら戦いを観戦したらいきなし霧が出てきてそしたらこのデカイ船が来たからな……なんか怪しいと思って乗り込んできたんだよ。あ、爆弾は既に解除済だからな」

 

そう言って男は二人の足元に爆弾を捨てた。

 

「一体どういう事かな?あ、極東戦役とか言う子犬がじゃれあってるみたいな戦いの奴かな?そう言えば今桐生も戦ってたよな……いやぁあいつもすげぇな、あそこまで一気に強くなるとは思わなかったよ」

 

男は軽快な口調で話す。

 

「もしかして……ああそうか。ここであいつらに勝たれちゃうと賭けが成り立たなくなったどっかの国のお偉いさんがお前らに指示飛ばしたんだろ?いや~汚い事情ってやつか?それとも香港藍幇がこのままだと遠山キンジに着きそうな気がして怖くなった?恐ろしくなっちゃった?出る杭打っとかないと歩けなくなっちゃった?実は魔女連隊ってビビりの集まり?」

 

すると男の周りに砂の人形が現れて取り囲み同時に銃弾が放たれた……

 

「テメェ……」

 

だが男は銃弾を刀の柄で弾いた。

 

「だけど態々あんなボロボロのあいつらに手を出すなんて野暮はやんなよ……KYは嫌われるぜ?だから今すぐ引き返しな。出ないとおじちゃん暴れちゃうよ?少なくとも……そんな泥団子じゃ俺には……まあ勝てないだろ?」

『舐めるな!』

 

パトラとカツェが男に攻撃を放った……それを男はみて笑う。

 

「お前ら倒す前に一つ聞こう……お前らをボロボロにしたら泣く奴はいるか?」

 

そう言って男も駆け出した……

 

 

 

 

 

 

 

数分後……タンカーは見た目は綺麗なままだが誰も乗っていない幽霊船になってしまった……




次回少し後日談やって終わりです。因みに最後の奴の性でカツェはヨーロッパ編まで退場。因みに二人とも元気です。ピンピンしてます。傷一つ負わされること無く優しく優しく倒されました。

更に今回名前は出してまない男は次回に名前と少しは出します。登場事態は初めてのキャラです。名前だけは一度だけ出ました。


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龍達の決戦 幕引き

「…………う…………」

 

呂布は薄く目を開けた……一毅の新たな二天一流の【極技】の技である――風林火山――を受けて意識を失っていたらしい。

 

すると目の前には貂蘭の顔があった。と言うか呂布の頭は貂蘭の膝の上にある。

 

「貂蘭……俺は負けたのか……?」

「そうよバカ……」

 

ポツリ……と呂布の頬に滴が落ちた。貂蘭の目から流れたのは見て分かる。

 

「ホント……バカなんだから……」

「やめてくれ……お前が泣くのは嫌いなんだ……」

 

そう言ってソッと……壊さないように優しく呂布は貂蘭の頬に触れて滴をぬぐった。

 

「俺は……これからもここに居ても良いのだろうか?」

「寧ろ居て貰わないと困ります」

 

そう言って来たのは姜煌だ。

 

「…………まあとりあえず……お疲れ様です」

「…………ああ」

これから香港藍幇は生まれ変わっていくだろう……少なくとも呂布……いや、名無しのバラガキは自分の居場所を見つけたような気がした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「近くにあるものほど見えないもんだよなぁ」

 

それを一毅たちは遠くでみながら笑った。因みにココたちはお尻ペンペンされて逆さに吊るされている。あと、お尻ペンペンした一毅は極めし者のオーラ(クライマックスヒート)状態のままでやったため冗談にならない痛みと悲鳴が辺りに響いたのは余談である。

 

すると、孫が立ち上がった……

 

「さすが遠山だ……強いなぁ……」

『っ!』

 

全員が身構えた……だが孫は両手をあげる。

 

「降参だよ……まあ孫悟空にも飽きてたしちょうど良いや」

 

孫の言葉に全員が首をかしげた……すると、孫は笑った。

 

「また会おうぜ」

「っ!」

 

孫は突然倒れた……だがその直前に確かにアリアをみていた……まるで探していたものを見つけたような顔だった……何だったのだろうか……

 

そんなことを考えていると孫が……いや、猴が立ち上がった。

 

「うみゅ……ここは……」

「……まあ」

 

キンジは制服のボタンを留めてネクタイを締める。

 

「これで一件落着だね」

「そうだな」

 

一毅もそう言って極めし者のオーラ(クライマックスヒート)を解除した……次の瞬間、

 

「いでででででででででででででででで!!!!!!!!!!!!」

 

全身に走る激痛……あまりの痛みに一毅はひっくり返った。

 

「大丈夫かよ一毅!」

皆も慌てて一毅に駆け寄った。

 

だが当然の副作用でもある。元々先程の出した速度だって明らかに人間ではない。

 

「恐らく全身の筋肉が断裂したんでしょうね」

 

そう言って静幻が来た。と言うか最初から脱出しようと思えばできたらしい。それをしなかったのは……キンジたちが勝つ方に賭けたからだ……

 

「お前は何が目的だったんだ?」

「今の貴方なら推理できるはずですよ?」

 

口調的にヒステリアモードを知っているようだった。だがキンジもそういわれ思考を動かす。そして思い至った。

 

「お前らを俺たちを使ったな」

「はい」

 

静幻はうなずいた。

 

「私たちは大きくなりすぎた。そして増長してしまったのです。故に敗北させるしかなかった。前回の日本のようにちょっとした小競り合いではなく……完全なる敗北を……だから使わせてもらいました。今回の戦いをね」

「負けるのは読みのうちってことか」

「いえ、実は私の読みでは孫とルウ君は勝つはずなんです」

『え?』

 

全員が静幻の言葉を聞いて呆然とした。

それを見て静幻は笑った。

 

「ですから賭けです。何せシャーロックホームズですら打ち破った二人の予想を上回る力を信じてね。いやぁ~ポーカーで言うならファイブカードを一発で引けた気分です」

 

ようはあり得ない勝利だったと言うことだ。それを聞いてキンジは頭を掻いた。

 

「それで決まりました?」

「何が?」

 

いきなり言われてもキンジは何のことやらだ。すると静幻はニコニコ笑って、

 

「言ったじゃないですか。藍幇を貴方にと」

「ああ、それか」

『ええ!』

全く聞いてなかったキンジ以外の仲間達は驚きすぎて座ったままジャンプしそうになった。いつの間にすごいことになってる。

 

「凄いじゃんキー君!藍幇みたいなおっきい組織もらえたら将来安泰だよ?」

「落ち着け理子……何で君が興奮するんだ」

「だってそしたら毎日酒池肉林だよ?」

「それは別に要らないんだけどねぇ……」

 

今でも一杯一杯だ。

 

「ですがキンジさん。キンジさんが国外に逃亡する事態になったら逃げ場確保できますよ?」

「いやレキ……どんな事件に巻き込まれたら俺が国外逃亡する事態になるんだい?」

「キンジだからよ。何をするか分かったもんじゃないわ」

 

アリアが言うと全員が納得した顔になった。

 

「酷いな……」

 

冷や汗をかきながらキンジは静幻をみた……まあ答えは最初から決まっているんだ。

 

「すまないが遠慮させてもらうよ。俺はバスカービルのリーダーでね。これ以上は許容量オーバーだ」

「そんな気はしてましたよ……」

 

静幻は肩を竦めた。その辺も読めていたんだろう。

 

「でしたら少し付きまとってみますかね」

「は?」

「ほら、私の先祖は三回誘われましたからね。まだ私は一回目です。なら先祖にならってしつこく勧誘してみますよ」

「お前は勧誘された方だろう」

「ですから今度は私が誘います」

 

それを聞いて今度はキンジが肩を竦めた。

 

「なら精々長生きするんだな」

「ええ、長生きして貴方を勧誘しますよ」

 

そう言って二人は笑った。

 

『やっぱりキンジ先輩って……』

「何言ってんだ!」

 

一年生の引き気味の視線にキンジが叫んだ。すると、

 

「ん?」

 

静幻の所に誰か来た。確か昨日接待してくれたときにいた女中の一人だ。

 

「……分かりました」

「どうした?」

 

キンジは聞くと静幻は答えた。

 

「突然巨大な石油タンカーが沖に止まってきたと言う情報が入りましてね。中はもぬけの殻で誰も居らず少し騒ぎになっているらしいので少し見に行ってきます。あ、このあとまた今日も宴会の用意をしてありますからどうぞお楽しみください」

「準備良いんだな……」

 

静幻は笑って誤魔化すと外に出ていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外に出た静幻は沖には向かわず町の方に入っていく……入り組んだ裏路地をあっちこっち移動していくと……

 

「あなたの仕業ですね?」

 

そう声をかけた……振り返ったのは全身黒尽くめの男だ。

 

「ん?おー久し振りじゃん。まだ生きてたのか?んで何が?」

「タンカーですよ」

「ああ、あれね。いやだってさぁ~せっかくいい感じに終わろうと言うのに水を指そうとするしなぁ~。あ、今の上手くね?厄水の魔女だけに水を指すってね。座布団一枚くらいくれないか?」

 

ヘラヘラ笑いながら男は言った。

 

「相変わらずですね……亜門 丈鬼さん」

「お前もな。諸葛 静幻」

 

亜門 丈鬼……どこの国にも属さずどこの国にも靡かない流浪の男だ。だがその強さは出鱈目だった。その余りにも出鱈目な強さは世界各国が常に警戒しアメリカは人工衛星で常に同行を見張っていると言う徹底ぶりである。だが最もな出鱈目さはその性格である。

 

近衛兵が子供を突き飛ばしたと言う理由でイギリス王室まで乗り込んでなんとイギリス国王自身に子供へ土下座させたり(本人いわくペットの問題は飼い主の責任らしい)気に入った絵を偶々そこで起きたマフィアの抗争で壊されぶちギレたあげくどっちも壊滅させたり人質とった犯人をビルの壁面に飛び付いてヤモリのように上がっていき(なんと40階建てビルの最上階に陣取ったらしい)犯人の顔を自らのグーの形にヘコませたり……他にもあるが本人いわく大体全部ムカッと来たから……らしい。

ようはムカついたからぶっとばしたにすぎない……GⅢも口ではそう言ってるが内心は違う。だが丈鬼は正義もない。悪もない。いや、正義はあるのだ。丈鬼にとって正義とは己である。ムカつけば悪。ある意味純粋で分かりやすい超絶理論である。

 

「まあ取り合えず肉まんとか食いてぇな~。あ、やっぱり白い米ははずせねぇな」

「一つお聞きしますが……乗り込んでいたやつらは生きてるんですか?」

「おう。ゴムボートと一緒につまんでポイしたから今頃は海のど真ん中で鮫と戯れながらヨーロッパに帰ってんじゃね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃……二人は……

「おいパトラ!そっちに鮫が来た鮫!」

「ぬぉ!ゴムボートに穴が!急いで塞ぐんじゃ!」

 

と、中々デンジャラスな目に遭っていたがそれは置いておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ですがなぜあなたがここに?」

「桐生がいたからさ……一応なんかうちの一族とは因縁があるらしくってさ……まあはっきり言ってうちの一族の運命なんて下らないっつうか負け犬が自分じゃ勝てないから子孫に押し付けてるだけだしな。因縁事態に興味はないけど桐生事態は一度見てみたかったんだよね。いやぁ~強いなぁ。あいつマジで強いよ。でもまだ俺の方が強い。だから戦わない。ほら、蝶々だって羽化したばかりで触るとダメだろ?それと同じだ」

 

逆に言えば強くなれば戦ってみたいと言うことだ……一毅も中々面倒な相手に目をつけられた。

 

「つうわけで美味しい食べ物が俺を呼んでるからな。あばよ静幻」

 

そう言って静幻の横を丈鬼は通りすぎようとした……だが静幻は通す気はなかった。何故ならいずれ桐生 一毅に仇をなすと言うことはキンジにも被害が出る。静幻は真面目にキンジに藍幇を渡す気なのだ。このままでは危険すぎる……そして静幻は拳を振り上げるべく拳を握った。命賭ければこの男の不意打ちの分も含めイケる……が、

 

「っ!」

 

静幻の手は丈鬼の人差し指によって抑えられた。

 

「命は大切にしとけよ……病気のお前には手心加えるけどさ……死にたがりの相手はごめんだぜ」

 

静幻の体に冷たいものが走る。

 

「お前じゃ俺には勝てない。呂布でも今の桐生でも遠山でも……俺には勝てないよ……それに不意打ちは俺の眼には見えてるし見てなくても俺には感じ取ってしまうんだ……意味がない」

「なっ……」

 

静幻は力を抜くと丈鬼も手を離した。

 

「と言うわけでな……今度こそあばよ」

「…………」

 

そう言って丈鬼は夜景の中に姿を消した……

 

「…………はぁ!」

 

静幻は息を吐ききると急いで吸う……そして吐く。一瞬だけ見せた丈鬼の本性……その本性は一毅と同質……であるが同時に一毅とは比べ物にならない恐ろしさが混じった狂気だった。

 

(殺されていた……)

 

自分の読み間違えに静幻は汗が止まらなかった。忘れていた。丈鬼が世界になんと言われているか……

 

【異常者】(イレギュラー)……そして何者にも繋がれず……言うことを聞かすことができないと言う意味から【繋がれざるもの】(アンチェイン)

 

どちらもこの男の異常戦闘能力を表す言葉だ……

 

「私もまだまだですね……」

 

刺し違えるなんておこがましいほどの強さを目の当たりにしつつも静幻も藍幇城に向かう。

 

こうして……中国での長い戦いは幕を卸したのであった……

 

 

そしてこの戦いでチームバスカービルの名前は裏社会で大きく出ることになるのだがそれはまた別の話である。




次回やっと日本に帰ります。そしたらこの欧州編に行こうと思います。と言うか前回今回で終わるようなこといっておきながら長くなってしまいました。マジでごめんなさい!次回こそ終わります。本当に終わります!

と言うわけで次回こそ中国編最終回です。

因みに今回登場した亜門はしばらくまた出ません。そして亜門の強さですが……現段階では作中トップです。一毅の新しい力使っても勝てません。と言うか極めし者のオーラ(クライマックスヒート)を含め全ヒートは亜門も使える設定です。最強の敵ですが同時に戦う予定はないです。

と言うわけまた次回!


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龍達の帰京

戦いを終えた次の日……キンジ達は日本に帰るため空港に来ていた。そして藍幇の皆はわざわざ見送りに来てくれた。

 

「何かあったら呼べよ。何時でも力になる」

 

と、呂布は全身包帯状態なのにわざわざ来て一毅の手を差し出した。

 

「ああ」

 

一毅もその握手に答える。一毅は取り合えず自分で動くくらいには支障がないくらいにはたった一日で回復した。

 

全員でどういう回復力をしているのか突っ込みたくなったが本人いわく「飯をたくさん食べて酒を飲んで寝たら回復する」とのこと。だが未だに一毅の胸には呂布の斬撃による傷がしっかりあるしあくまで自立歩行ができるくらいの回復であり体はまだまだ痛みが走っている。当分は安静だ。

 

「しかし無理して見送らなくたって良かったんだぞ?」

「いえいえ。これくらいはしませんとね……あとキンジ様にお話がありましてね」

 

キンジの言葉にそう言ったのは静幻だ。静幻は昨夜青い顔で帰ってきたがなにも言わず聞いても答えなかった。だが、

 

「その前に様づけはやめろ」

「それは無理ですね。それで話ですが……」

 

普通に断られた。だが静幻の雰囲気が冗談でないことを感じてキンジも表情を引き締める。

 

「亜門 丈鬼と言う名をご存じですか?」

「っ!」

 

キンジには聞き覚えがあった。確かシャーロックが言っていた奴だ。前に自分を三分で倒しカップ麺を煤って帰っていった男……

 

「知っているようですね。そう、シャーロック卿をも簡単に打倒した男です。そして言っておきますが彼がそうしたのはおよそ二年前……今の彼はその当時とは比べ物にならない。桐生の一族と同じく彼も修行による強さはなく全て実戦の中で培い、時の流れが肉体を鍛え上げていく。まるで宇宙が未だに広がっていくように彼もまた無限に強くなっていく」

 

一毅と同じく……と言ったがまさにそうだ。時間経過で強くなっていき実戦でその強さを更に跳ね上げる……それが一毅だ。亜門もそういうタイプか……

 

「だがなんだ急に……」

「もし桐生 一毅が強くなれば戦いたいといっていました」

「まさか昨日……」

「はい」

 

静幻の言葉にキンジは絶句した。

 

「一つ聞いていいか?」

「はい」

「どれくらい強いんだ?」

「…………今まで亜門には私たち中国も含め膨大な数の刺客が送られていきました……超人……超能力者……軍隊……暗殺者……スナイパー……化学兵器もあったそうです。ですが今はされていません。なぜだと思いますか?」

「……全て……負けたから……?」

「はい。どれもが一流も一流……超一流と言っても差し支えない人選でした。ですその全てがかすり傷を負わせることすら出来ないまま倒された上に所属の国に空輸で簀巻きにされて帰ってきたそうです。しかも刺客達には目立った外傷は一切なく全て優しく優しく倒されしかも簀巻きにする際に手紙を入れておくそうです」

「手紙?」

「はい。個人での襲撃であれば襲撃してきた人間に《あなたの弱点はココとココとココであるためこういう風に改善すればもっと強くなれます。後なんか胃腸が悪いようですね。見た感じ胃が荒れてるだけでしょうから帰ったら休養をおすすめします……》と書いたり、隊で行けば《貴方の隊はとんでもなく練度が高く感動さえ覚えました。ですが臨機応変さが足りませんもう少しそこを改善すればもっと良い隊に生まれ変わると思います。後、隊長さんの腰が悪そうだったのでマッサージして置きました》……と相手の国の首相や大統領の簀巻きにした連中ごと返すそうです」

「ま、マッサージって……」

「正確には倒された方は髪や眉を整えられ服の汚れは洗われ全身の骨盤のズレを整復されて身を綺麗にされて空輸されるようです」

 

まあ冗談のようにも聞こえるかもしれないが真実です……と静幻は言う。

 

「寧ろ戦いに行って倒されたあとの方が元気にされる……自分がどれだけ必死になっても亜門は常に相手を怪我させないように優しく戦う……しかも超一流ともなれば己の技に自負があります。それを簡単に打ち破ってしかも欠点を指摘して来る……しかも優しく倒されたあとです……これ以上の屈辱はありませんね。戦いのあと引き込もってしまった人間も一人や二人じゃありません、中には00シリーズや日本の公安0課や武装検事も送られたらしいのですが……結果は似たりよったりのようなものだったらしいですね。ですから彼に今は喧嘩を売る国はいません。もし彼を怒らせれば核兵器をもったとしても自国の完全敗北は見えていますからね」

「だがそんなやつ自分の国に引き込もうとか思わないのか?」

「思った国もいますが誰にも靡かなかったようですね。国家予算の半分を月々に払うと言う案を持ちかけた国もあったと聞いていますが聞き入れなかった……かなり自由奔放な……いや、彼が信じるものは自分自身の正義だけのようです。誰よりも自分勝手で……誰よりも純粋な正義です。故に引き込めない……だからと言って倒すこともできない。そういう男なんです」

「…………何か一毅みたいだな……」

 

一毅は自分の下にいてくれる。リーダーと呼んでくれる。だがそれは自分の中にある正義がキンジを助けることであるから……実際チーム決めの際に一毅は実は結構あっちこっちから勧誘が来た。良しとされないが金銭的なやり取りがあったと言われている。だが一毅は最後までキンジたちのところにいた。

 

一毅にとって正義とは仲間と共にあること……亜門の正義は……多分ムカッと来ないこと……どちらも毛色は違えど互いなりの正義がある。行持があるんだろう。

 

「恐らく……シャーロックと戦った時より強いんだよな?」

「それは間違いないでしょう……彼を倒せるのは恐らく同質の者……超人であろうと何者であろうと人間では勝てません。文字通り見も心も化け物な者……」

「………………」

 

キンジは無意識に一毅を見た……何となくだが……昨夜の戦いを終えたあと一毅の雰囲気が変わった……だが、

 

「まあ、当分はぶつからないんだろう?」

「そうですね」

「……なら、俺も一毅も強くなっておかないとな」

 

キンジはフッと笑った。

 

「怖くありませんか?」

「怖い……さ。やっぱり俺はそういうところは人間だからさ」

 

普通じゃない覚悟は決めた……だがどんな覚悟を決めても化け物にはなれない。

 

「だけど兄弟(アイツ)のとなりに立てるのは俺だけだ……あいつが強くなるって言うならその分俺だってついていけるくらいには実力あげないとな」

 

まあ追い付くのは無理だろうけどな……とキンジは苦笑いした。

 

「そう言えば桐生 一明って知ってるか?」

「ええ、存じてますよ。元武装検事局出身にして間違いなく世界の五本指には入る実力者……そして桐生一毅の父親ですね。更に貴方のお父様とも相棒関係だった」

「流石だな……それでなんだが……二人は戦ったことあるのか?」

「いえ……ですが亜門丈鬼の父親、亜門 丈一と戦ったことがあると風の噂で聞いたことがあります。七日七晩にもその死闘は続き最終的な勝敗は桐生一明の辛勝と聞いています。……まあそれでも桐生一明の方も殺すほどの体力は残っておらず互いに生きたままの決着になったと聞いています」

「じゃあ亜門丈鬼は一明さんクラスじゃないってことか?」

「…………それは分かりません」

「え?」

 

静幻は顎に手を添えた。

 

「亜門の一族の慣例として成人して一番最初に父親と戦い殺すと言う慣習があります。無論父親の方も殺す気で迎え撃つ……勝った方が生き残り強さを後世に伝える。そして亜門 丈鬼は生きている……意味するのは亜門 丈一は既に亜門丈鬼によって殺されている……桐生一明と亜門丈一との実力に大きな差はありませんでした。ですが少なくとも丈一より丈鬼の方が強くなければ慣習によって丈鬼は死んでいます。私は桐生 一明を見たことはありませんが亜門 丈鬼が本気で戦ったところを見たことがない。何時だって壊れ物を触るように敵と戦いそれによって本来の実力の百万分の1も出てないでしょう」

 

まあ戦えば分かりますが……と静幻は言うがそんなことになったら日本の地形が変わりそうなので勘弁願いたい。

 

「取り合えず大体わかった。亜門丈鬼には気を付けておく」

「はい。ではどうですか?一晩たったら藍幇ほしくなりません?」

「ならん」

 

静幻はやれやれと肩を竦めた。

 

「石頭と言うか頑固ですねぇ」

「石頭は先祖譲りでね。シャーロックにも負けてねぇ」

「全く……まあ腰を据えて勧誘するつもりですからね。あ、そうそう。少し贈り物を送ったので分かったら連絡ください」

「贈り物?」

 

そうしてると、

 

『おーい!』

 

皆がキンジを呼んだ。

 

「じゃあ行くな」

「はい。またお待ちしてます」

 

キンジは頷くと静幻に背を向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、皆が呼んでるから俺もそろそろ行くな」

「そうか」

 

一毅は呂布から手を離す。

 

「なあ桐生 一毅」

「ん?」

「お前はどうやって仲間を作った?」

「……はい?」

 

昨日までの呂布からは信じられない発言に一毅は呆然とした。

 

「なんだ急に……」

「ふと思っただけだ」

 

それを聞いて一毅は苦笑いした。それは人に聞くもんじゃないだろう……だが呂布なりに必死なのは痛いほど伝わる。

 

「よく俺も良くわかんねぇ……ただ一つ言えることは……信じるんだよ。裏切られるかもしれない……バカを見るかもしれない……それでも自分がバカになって信じれば仲間なんじゃないかな」

「……そうか。バカになる……か」

 

呂布は笑った。初めて見る優しい笑みだった。

 

「あとな、もう少し周りの心にも気を配ってやれ。貂蘭が特に可哀想だ」

「可哀想?」

 

呂布は首をかしげた。好意を向けられた方は全く気づいていないらしい。全く……自分の周りは好意に鈍感なやつらばかりだ。

 

『一毅(さん)(先輩)には言われたくないでしょうね』

 

と、いきなりレキとライカに突っ込まれた。そこまで自分は鈍感か?

 

「ま、とにかくそろそろ行かないと飛行機に乗り遅れますよ」

「あ、そうか……」

 

そう言って一毅は呂布に背を向けた。

 

「またな、ルゥ!」

「ああ!一毅!」

 

あえて呂布ではなくて……あえて一毅で……その言葉の意味は互いに理解している。

 

「さ、行こうぜ」

 

一毅は手を出した……それを見てレキとライカは笑う。

 

『はい!』

右手にはレキの左手を……左手にはライカの右手を重ねた。

 

暖かくて……小さな手だ。別に繋ぐのは初めてじゃない。だが何故か今日のは特別違って感じた。優しくて安心する感覚……

 

「幸せだ」

『え?』

「いや、何でもないよ。さ、行くぞ」

 

一毅の呟きは二人には届かなかったがそれは別に良いことだ。と、一毅は二人をつれて歩き出す。

 

「遅いぞ」

「ワリィワリィ」

 

一毅はキンジに謝りながら飛行機に向かう。

 

「……なあアリア」

「なによキンジ」

「……ありがとう」

「…………は?」

 

アリアの呆然とした顔を尻目にキンジは飛行機に向かった。

 

「ちょ、ちょっとキンジ!どういうことよ!なによいきなり!」

「何となくだ。気にすんな」

 

キンジはカラカラ笑いながら搭乗口に入った。

 

「ほら辰正!急がないとおいてかれるよ!」

「う、うん」

 

あかりは辰正を引っ張りながら飛行機に乗り込む……

 

「白雪お姉さま。酔い止めは飲まれましたか?」

「うん。大丈夫だよ」

「さぁて!帰りの飛行機は勝つ!」

「残念ながら理子どの。それは拙者の台詞でござる!」

「違うよ私だよ!」

 

白雪と理子と陽菜がバチバチと火花を散らす。

 

「あのぉ……飛行機に遅れますし既にアリア先輩が隣に座っちゃいましたよ?」

『なにぃ!』

 

志乃は冷や汗を滴ながら指摘しつつ飛行機に駆け込む三人についていく……

 

これで全員だ。日にちとしては凡そ三日ほどしかここに滞在してないのに長かった気がする。だがこの修学旅行では全員がそれぞれの形で成長できた。ある意味学を修めれた中国での戦い……きっとこの体験はこれからの大きな意味合いを持ってくるんだろう。

 

また来るときは戦いは無しで来たいものである。

 

「そう言えば一毅」

「ん?」

「お前食いたかったもの食えたのか?」

「あ!本場の餃子食ってねぇ!チャーハンは食えたけど!」

「俺も藍幇城の上から父さんの言ってた夜景は見れたけど本場のラーメン食ってなかったんだよな……」

 

キンジはボヤく。すると一毅は名案を思い付いたような顔をした。

 

「ならいつか俺たちの子供に話してさ。行かせてみないか?」

「成程……一毅にしては良い案だな。まあ互いに生きて結婚できたらの話だがな」

「だからお互い死なないようにな」

 

一毅が言うとキンジも笑って頷いた。

 

「そうだな……そう言えば……」

 

キンジは首をかしげる。

 

(さっき静幻が言っていた贈り物ってなんだ?)

 

キンジは飛行機が飛び立つまでずっと考えることになった。だがこれが僅か数日後に発覚して驚愕することになるのだがそれはその時に話せば良いことであろう。

 

とにかく今は……一件落着であった。




中国編はこれで終わりです。次回対談やったあとに正月の辺りを少しやって欧州編に行きます。


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談話
対談Ⅸ


咲実「さぁさぁやって参りました皆さんお楽しみの対談ターイム!」

 

キンジ「いるのかそんな人」

 

一毅「居るんじゃね?少し位」

 

 

皆「というわけで始まるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア「まずは作者……文句言って良いかしら?」

 

咲実「お前は次に《一体何なのこの長さは!異常よ!》と言う!!!!!」

 

アリア「一体何なのこの長さは!異常……(ガチャ)」

 

咲実「ちょ!何で銃抜いちゃうの!怖いよ!」

 

白雪「でも確かに長すぎだよねぇ……疲れちゃった」

 

咲実「それに関しては申し訳ないと思ってる。書きたいことを書ききった感じがするくらい書きまくりました。ただ後悔はしてない!そしてまだちゃんと続く!」

 

理子「確か今回は其々のキャラにスポットライト当てるのが狙いだっけ?」

 

咲実「うん。其々の決意を語らせたいと思ったらえらい事になった。後悔はないけど実際書いてて死ぬかと思った。だってさ、最後の一毅とキンジの部分なんて二人分とはいえ9000文字越えたからね!」

 

レキ「自業自得ですね」

 

志乃「でも結構楽しかったですよ」

 

ライカ「確かに何だかんだで楽しかったよな」

 

あかり「でも知ってますよ。皆の戦闘シーン書くのに知恵熱だしそうになったのを……」

 

辰正「でも僕はあかりちゃんに意識してもらえて何だかんだで役得だったかな」

 

キンジ「そう言えば今回恋とか愛とみたいな表現多くないか?」

 

咲実「やっぱり愛は世界を救うからね。はぜろお前ら!」

 

一毅「彼女いないからって八つ当たりはやめてくれ」

 

咲実「キィー!作者権限でお前ら別れさせるぞ!!!!!」

 

レキ「それをやったら読者さんが怒ると思いますよ?」

 

咲実「ちっ……おぼえてろよ一毅……欧州編では壮絶な目に会わせてやる……」

 

一毅「そんなに彼女がほしかったら好きな人くらいいないのか?専門学校にも女はいるだろ?」

 

アリア「因みに作者は現在18才の専門学生よ」

 

咲実「いや、大体彼氏持ちだったりするしねぇ……それにだよ、プロのスポーツトレーナーの先生に鍛えてるの?って聞かれるくらいガタイは良いんだけどそんな男が吃りながら会話してこいよ……ガタイが良いくせしてコミュニケーション下手だぞ?そんな男がいたらどうよ」

 

白雪「うん、良い雰囲気なんてなるわけないね」

 

咲実「別に良いんだよ。俺は小説かければ今は満足だしね。ただイチャつくカップル見ると核弾頭撃ち込みたくなるだけだよ」

 

キンジ「周りの被害を考えろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「と言うわけでして行程の質問コーナー……まずはこの方!ブルーデステニィー様から!」

 

【キンジは中国編が終わったあと、バスカービルを離脱しますか?あと、バスカービルのメンバーは休日は何をしているのですか?】

 

咲実「ええと、まずこの質問に答える前に何で離脱云々の話が来たか説明だね」

 

キンジ「じゃあ俺がするな。まあこれはリメイク作でこれの前が存在するのは周知だと思うがこれはリメイク前から知っている人だからこういう質問来たんだな。リメイク前では色々あって原作では俺がバスカービル離脱したんだけどその時はしなくてすんだんだよな……それでこれでもそうなのか聞いてきたんだろう」

 

咲実「ハイ!と言うわけですが……秘密です!と言うか中国編の最後で静幻が……これ以上は言えない!!!!!」

 

アリア「後は他のメンバーの休日ね。まずアタシは結構早起きよ?それから目覚めの桃饅食べて、それから朝御飯にシュガーミルクと桃饅食べて、それから買い出しとかキンジを荷物もちにさせて行くわね。それからお昼に紅茶と桃饅食べて、それから午後も買い物して、3時のおやつにコーラと桃饅食べて、夕飯まで本とか読んで夕飯に桃饅と……」

 

レキ「さぁ問題です。アリアさんは平均毎日どれだけの桃饅を食べてるでしょう」

 

白雪「私わね。朝にキンちゃんのご飯をつくって、起こしてあげるの。そして起こすときはこういうんだよ……起きてあ……あ……あ、あな……ケプァ!!!!!」

 

ライカ「あ、鼻血だした」

 

キンジ「そう言えば最近白雪が起こしに来ると何故か鼻血でできた血の海になってるんだよな……」

 

理子「理子わねぇ。まず目覚めにゲームやって~、お菓子食べながらゲーム進めて~……あれ?他にかにやってたっけ?」

 

辰正「理子先輩ゲーム以外やってましたっけ?」

 

キンジ「俺は白雪の鼻血の海を抜けたら着替えて白雪の飯を食べたらアリアに銃を突き付けられながら買い物に付き合わされ選択肢ミスって蹴られながら買い物済ませてお茶してカップルに間違われたら理不尽なパンチ喰らって顔を抑えながら帰宅すると理子が要らんこと言って切れたアリアの八つ当たりから逃げて最後は疲れて死んだように寝るな」

 

陽菜「師匠……よく生きてるでござるよ……」

 

レキ「私は起きたら朝御飯を作りますね。それからライカさんが早朝トレーニングを終わらせたのに合わせてご飯を出して一毅さんを起こします。あと基本的にハイマキの散歩や日向ぼっこで終わりです。まあ一毅さんが作った料理とか食べたりしてますがそれ以外には特に代わり映えはありませんね」

 

志乃「あのぉ……なにか趣味とかしないと暇じゃありませんか?」

 

レキ「いえいえ、水と日光を利用して体内にエネルギーを生成するのが忙しいので平気です」

 

レキ以外(もしかして葉緑素があるのだろうか?)

 

レキ「……勿論冗談ですよ」

 

 

 

 

 

咲実「じゃ、じゃあ次!爆発王様からだね」

 

【ヨーロッパ編ですが、リメイク前の様にレキVSカツェ、またはレキVSメーヤはやりますか?リメイク版の普通の学校編にレキの出番が減っていたので、地味に気になりました・・・】

 

咲実「……ええとねぇ……あのねレキさん……そこで目をキラキラされても凄く困るかなぁ……後ドラグノフの銃口も向けないで欲しいなぁ……」

 

ライカ「作者が吃ってる……何か隠してるな……」

 

???「フッフッフ……残念ながら欧州編ではお姉ちゃんの出番はないんだよ!」

 

一毅「誰だ!」

 

キンジ「いや、レキを姉と呼ぶのは一人だろ……」

 

ロキ「残念だったねぇ!欧州編の出番は今までの影の薄さを払拭するかのように私なんだよ!」

 

レキ「……どう言うことですか?」

 

咲実「ヒィ!レキの背中からスタンドが見える!」

 

レキ「最近私のヒロインとしての影が薄くないですか?」

 

ライカ「ま、まあ私たち中国で目立ちましたから。ね?」

 

咲実「さ、さあ最後の質問はマダラさんだね」

 

【>そして亜門の強さですが……現段階では作中トップです。一毅の新しい力使っても勝てません。

 

これは違うのではないでしょうか?トップは断じて違うと思います。何せ、MI6の00セクションのナンバー7とか公安0課・武装検事・武装弁護士という超人を超えた超人集団やその中でも別次元の強さを誇る桐生一明。

この亜門の強さは公安0課・武装検事・武装弁護士という領域でしょう。妥当だと思いますが、どうでしょうか?】

 

咲実「これは真面目に答えないとね。亜門の製作する上でまず最初に言うなれば目指す先を考えました。そこで考えたのは《終わりなき強さ》と《一毅の到達点》でした。終わりなき強さは一毅にもありますね。時が経過すると無限に実力をあげていくことができる言わばチート能力。呂布も持っていましたが呂布は言うなれば《一毅の可能性》でした。力が全てになったとき一毅はどうなるか……それを表したのが呂布でした。対して亜門は覚醒した一毅の終点……狂気を取り込み受け入れ覚醒した化け物のたどり着く場所……それを目指しました。何者も寄せ付けない武力。それでいて彼独自の正義があって制御できないが自分を友としてもらえれば限りなく心強い……そして化け物である。人間ではなく化け物である。更に亜門と一毅は似て非なるものと言う設定もあります。限りなく近いが、個人の武力を極めたのが亜門で絆の武力を極める覚悟をしたのが一毅です。未だ一毅は発展途上でありやっとスタート地点にたったばかりでありどちらが強いとか正しいもありません。確かに世界は広く原作にはまだ出てない強敵もおりますがやはり亜門は最後に一毅の前に立ちふさがる最後の敵であって欲しい……最後の戦いでは友と共にあることで最強となった一毅と個人で才能を開花させて最強となった亜門……誰もその場に介入はできない戦いになったときどうなるのか……それを書きたいと思い亜門は敢えてトップとしました……上手く説明できたかな……しかも長い……」

 

一毅「とりあえず色々考えてはいるのは伝わっただろ……」

 

咲実「そうかな?でね、《一毅》って《一鬼》って意味もあるっていったじゃん」

 

キンジ「ああ、そう言えば……」

 

咲実「一応亜門も《丈鬼》じゃん?丈って言う字はこれ以上ないって意味があるんだ。つまり丈鬼って名前はこれ以上にないくらい限界まで強くなった鬼って言うことがあってね。名前でも一毅の先に行っていることを記したり、更に《錠鬼》と書いて常に自分の鬼……つまり狂鬼を普段は自らに取り込んで胸の奥に閉まってあるって言う意味になるんだ」

 

レキ「ほぅ……」

 

咲実「後一明だけどね。はい、一明って実は亜門に殺されようかと言う案があったりします」

 

一毅「え?」

 

咲実「いや、やっぱり父親を殺されてその上でどうするかってのも書いてみたいし……それに実はね、もっと後にしっかり書きたいんだけど一明って強いんだ。現時点では一毅よりね。だけど桐生としてはあんまり凄くない設定あるんだよね……」

 

アリア「どう言うこと?」

 

咲実「何て言うのかな……一明って頭良いんだよ。そして天才なんだ。OK?だから一明って強い。頭もよくて体格もよい。性格だって漢だ。でも桐生にはなりきれないって感じなんだよ。頭が良いだけに実際桐生が持ってる狂気自体は桐生の中で最弱って言う設定なんだよね。ほら、一心が一明は例外だって言ってたでしょ?その辺も絡んでるんだよ。どんなに強くたって一明は化け物になれないんだ。どうしても人間になってしまう……それが一明でその分は一毅に遺伝したね」

 

キンジ「だから化け物である亜門には勝てないってことか?」

 

咲実「まあ丈鬼が特別ってのもあるよ?一毅と同質だからね。まあまだ一毅の方が覚醒したばかりで戦っても着いていけないだろうけどね」

 

レキ「まあ納得されたかは別として作者の考えでした」

 

一毅「さて、質問はここまでだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「そう言えば友人達がさ、勝手にこの作品の人気投票してくれやがったんだよ」

キンジ「ガッツリ友人達に書いてるのバレてんな……」

アリア「で?誰が上位にいったの?」

 

咲実「下に書くから。確か一人につき最大五票持ってたかな」

 

十二位・蘭豹

 

十一位・宍戸 梅斗

 

十位・桐生 一明

 

九位・佐々木志乃

 

八位・間宮あかり

 

七位・呂布 奉先(ルゥ)

 

六位・風魔 陽菜

 

 

理子「おぉ~何気に今回陽菜っちとかシノノンあかりん入ってる~」

 

キンジ「何気に蘭豹が十二位って言うのに作者の友人の変人度合いがわかるな……」

 

陽菜「ニンニン♪」

 

咲実「ではベストファイブ!」

 

五位・神崎アリア

 

同率五位・火野ライカ

 

四位・遠山 キンジ

 

同率四位・ロキ

 

三位・レキ

 

二位・桐生一毅

 

一毅「まてぇえええええい!」

 

キンジ「え?一毅二位なの!?」

 

レキ「いえ、原作主人公の強みとかでキンジさんが一位とかアリアさんとかなら分かりますけどね……」

 

理子「ユキちゃん。ワンチャンあるよ」

 

白雪「うん」

 

咲実「いや、俺も驚いたんだよね。まさか一毅が負けるとは……驚きでした」

 

陽菜「そ、それで一位は……」

 

咲実「ああ、こいつだよ」

 

★一位★ 谷田 辰正

 

辰正「おれぇえええええ!?」

 

咲実「俺もビックリした。まさか原作主人公もオリジナル主人公も追い抜いてまさか辰正が映えある一位とは……因みに投票した人はね」

 

《いつも苦労してるもんな。う、う……》

 

《何時も大変だもんなぁ…………》

 

《やっと光明見えたもんな……》

 

《これからも純愛貫くんだぞ!先輩を見習うんじゃないぞ!!!!!》

 

咲実「等々多数で……」

 

辰正以外「マジかよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「現在私はとある小説を執筆しています」

 

キンジ「そのしゃべり方だと絶対このシリーズじゃないな」

 

一毅「もうひとつの方か?」

 

咲実「それとは別です!ふと思い付いたらなんか書いてた……無意識って怖い……」

 

アリア「意志力がないだけでしょ?で?何を書いたの?」

 

咲実「ハイスクールD×D……」

 

咲実以外「ああ、この前いってた……」

 

咲実「うん。でもクロスさせたの龍が如くじゃないんだよね……全く別」

 

白雪「じゃあなに?」

 

咲実「知ってる人は結構いると思うんだけど《真・恋姫無双》ってやつ……好きなんだよね」

 

理子「ああ~」

 

咲実「……いや、最近ずっとこのシリーズ書いてたしたまには別のもね……」

 

一毅「もう既に別の原作のやつがあるじゃねぇか」

 

咲実「魔法科高校の劣等生ね……あれも書いてるよ?ただ原作を読み返しつつ出来るだけ魔法理論を矛盾させないように書いてるから時間が偉くかかるんだい!浮気したって良いじゃないか!」

 

あかり「辰正を見習ったらどうですか?」

 

咲実「ごはぁ!」

 

キンジ「それに俺は知っている。お前は最近別の某有名サイトで一次小説も書き始めたことを!」

 

咲実「がふ!」

 

一毅「ついでに授業中も小説の中身考えて先生に当てられたときに慌ててることも知ってるぞ!」

 

咲実「ぐふっ!」

 

咲実以外「そしてそろそろテストが近づいてるだろ!」

 

咲実「…………………」

 

理子「あ、砂になった」

 

一毅「とりあえずだ……ここまで長くなったのに付き合っていただきありがとうございました。ダンダン最新刊も見えてきましたがこのシリーズもまだまだ続いて行きます!更に欧州編では新たな秘密が解明されます!」

 

咲実以外「と言うわけでこれからもよろしくお願いします!」




咲実「因みに友人投票……あれガチなんです。頑張れ一毅!そしてキンジ!主人公はお前達だから!」


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十二章 ヨーロッパ戦役 前章
龍達へのお知らせ


何だかんだで久々更新……さて今回からヨーロッパ編です!このヨーロッパ編では一毅の……と言うか桐生のルーツを出そうと思います。まあもしかしたら薄々感づいちゃってる方もいるかもしれませんが……まあ感想ではシーですよ。

それにしても本当が冬休み編を書いてレキやライカとイチャコリャさせようかと思ったんですけどね……全然筆が進みませんでしたので普通に始めました。




『明けましておめでとー!』

 

そう言ってチームバスカービルと一年生の面子は集まった。

 

中国から帰還して数日……とは言えその間も帰還を祝ったり遅めのクリスマスを祝ったりと何だかんだで顔を会わせてはいたりしている。まあそれでもキンジはかなめと実家に帰ってたりしてたが……

 

そして今日はお正月……と言うわけで皆で近くの神社に参拝しようと言う話になり集合したのだ。

 

女性陣は勿論着物……まあ理子のようなフリフリ多めのは本当に着物と定義して良いのか微妙だが白雪や志乃は正統派って感じで良く似合う。まあ皆似合っているがな……お陰でさっきから通りかかった男性が目を奪われたり一緒にいる彼女の腕をつねられたりしている。

 

因みに男性陣はおしゃれしても誰も得しないので普通の私服である。ジャケット着てたりコート着てたりの差があれ変わり映えがない。

 

「やっほー!ねぇキー君似合う?」

「それ……着物って定義して良いのか?」

 

何というやり取りをキンジと理子が交わすのを皆で見ながら神社の鳥居を目指し階段を上がる。

 

「あれ?かなめは?」

「金三と一緒にどっか行った」

 

正月早々忙しいやつだと一毅は言う。まあGⅢはGⅢで忙しく動いてるからな……何かあるんだろう。

 

「んで?キンジは今年は何を願う?」

「お前は?」

 

と一毅にキンジが聞き返すと、

 

「まあとりあえず皆離れ離れにならなければいいかな」

「俺もそれは良いと思うぜ。後俺は平和で大きな事件なんてない一年になってほしいとでも願うかな」

『フラグ……』

 

と、キンジの願いに絶対それは無理だろと言う目で皆見た……

 

「お前らな……」

「だってキンジ先輩って事件と女の人を呼び寄せる強力磁石みたいなひぶべばぁあああああああああ!」

「辰正!?」

 

キンジは辰正を迷うことなく蹴り落とした……無論ここは階段の途中なので辰正はゴロゴロと転げ落ちていった……あかりが慌てて辰正を回収するため降りていったのは余談だろう。

 

「お前容赦ないなぁ……」

「あいつが事実無根なことをいうからだ」

 

どこも事実無根ではないがそれを言ったらこっちが階段から蹴り落とされるので黙っておこう。

 

「さ、着いたわね」

 

と、アリアが一番乗りして鳥居の下で仁王立ちする。

 

「さてまずは手を合わせてにいくか。一年の計は元旦にありだからな」

 

と、一毅が言うとレキが口を開く。

 

「それを言うなら……あれ?間違ってませんね」

 

レキが眉を寄せ他の面子も顔が凍りつく。復活してきた辰正とあかりも固まってる。

 

「え?間違えてた?」

「いや……間違えてないんだよ……だから可笑しいんだ」

「何で間違えてないと可笑しいんだよ……」

 

と、一毅が顔を顰めるとロキがそっと額に手を当ててきた……

 

「お兄ちゃん……熱ない?」

「も、もしかして一毅先輩が不治の病に!?」

 

と、ロキとライカは揃って失礼なことをいってくる。

 

「か、カズちゃん!そんな具合悪いのに無理しなくてもいいんだよ?」

「そ、そうだよカズッチ……今から帰って寝たら?」

「それとも今年はハルマゲドンでも起きるのかしら……」

 

と白雪、理子、アリアまで失礼だ……

 

「もしくは先輩にそっくりなだけの偽物……」

 

とあかりが言い他の面子が警戒してきた……

 

「俺が諺を間違えなかっただけでそこまで怯えるのか!!!!!!」

 

一毅の怒鳴り声が辺りに響いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うわけで皆も知ってると思うけど二礼ニ拍手一礼だよ。でも一番大切なのは心だからね」

 

と、白雪先生の作法口座を聞きながら皆でお祈りをする。

 

今年は平和で穏やかで静かな一年でありますように……あ、でもアリアの殻金取り戻さないとな……なら平和的な解決方法で取り戻せますように……とは言え後取り戻さなきゃならない殻金は3つ……藍幇から取り戻した殻金はアリアの胸に戻したのでもう少しだ……

 

何てキンジは願いつつ賽銭を出そうと財布を出す……幾らにしよう……ここは奮発して五百円くらいか……いや辞めた方がいいか……

 

「幾らいれる?」

「奮発して五百円位だそうか悩んでる」

「それは大分腹を切ってるな……」

 

何て一毅とやり取りしつつやっぱり百円に持ち替え賽銭をいれた。

 

そして全員が御詣りを終えると白雪が、

 

「じゃあ私はここに用事があるから皆は先に帰っててね」

「そうなのか?じゃあな」

 

白雪とはここで別れる。そしてこのまま解散するのもあれなので皆で何処かにいくかと言う話になった。とは言え新年早々何処かの店が開いてるとは思えない。開いていても人が多すぎる。

 

「ああ、でも俺銃弾補充しなきゃな……」

 

キンジの言葉のじゃあ買いにいくかと他の面子も備品の調達をしたかったらしく武偵校方面に歩を進めだした……

 

 

それを白雪は見送ると社にはいる……そこには玉藻がいた……

 

「玉藻様……」

「ふむ……遂に桐生が目覚めたか……」

「カズちゃんの……いえ、桐生一毅のあの力はなんなのですか?」

 

白雪は呂布との決着に見せた一毅の明らかの冗談にならない底知れぬ力を思い出す……幾ら一毅でも残像が出来るほどの速力など出せるはずがない……人間と言う枠を逸脱した力を白雪は感じていた。

 

「遠い血の力じゃよ……桐生が桐生……宮本が宮本と呼ばれるよりはるか昔……武士と呼ばれるものが生まれ……巨大な二つの派閥が日の本の覇権を争った時代に生まれ落ちた……な」

「あの力は……桐生が皆持つのでしょうか?」

「持ってはおるよ。だがそれを表に出して使えるかは別じゃ。持ってはいても引き出せた桐生は一馬之介だけじゃった……巌流島での戦いで目覚め……たがその戦いの場にて一馬之介は死んだし他の桐生は片鱗すら見せなかったため儂も既に目覚めないじゃろうと思っていたが……やはりあの場にいたため共鳴のようなものを起こしたのかもしれぬな……」

「共鳴……」

「暫し気を付けておいた方が良いかもしれぬぞ……星伽巫女よ……」

 

白雪と玉藻の会話……それを一毅たちは知る由もなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなキナ臭い会話は知らないキンジたちは武偵校の購買にいた……在庫を一掃したいらしくどれも安く売っている……いやぁこれはいい。

 

「あったあった」

 

キンジは自分の銃に合う銃弾を買い一毅も刀を磨く布とかを買う。他の皆も銃弾を買ったりしている。

 

「おーい。買い終わったか?」

 

と一毅がキンジと一緒に皆の元に行く。

 

「そっちは買い終わ……っ!」

『っ!』

 

するとアリアが口を開いて止まった……他の面子も表情が固まっている……

 

「ん?どうしたんうぉわ!」

「んな!」

 

キンジが首をかしげようとした瞬間キンジと一毅を襲う浮遊感……そう、持ち上げられたのだ。

 

一毅は184㎝でキンジも170㎝ある……二人も鍛えてるので体重はあるしこの身長の二人を持ち上げられるのは……少なくとも自分より身長が高くないと不可能だ。そしてそんなことが出来るのは少なくともこの武偵高校内では少ない……なので二人は嫌な予感を感じながら後ろを向くと……

 

「遠山ぁ……桐生ぅ……元気か?」

『ら、蘭豹先生……』

 

ダラダラ嫌な汗が垂れてきた……何と強襲科(アサルト)の教師で身長がなんと2mもある蘭豹がいたのだ……しかも凄いご機嫌がいい……こう言うときはろくなことがない……しかも後ろの方では高天原先生が拍手しているし……

 

「少し面貸せや」

「は、はい……」

 

そんなやり取りを尻目にアリアたちはその場からそっと去ろうとする……だが、

 

「お前らもやぞ」

『え?』

 

蘭豹の言葉にアリアたちは唖然とした。

 

「校長からの呼び出しや、チームバスカービルおよび間宮 あかり、谷田 辰正、佐々木 志乃、火野 ライカ、風魔 陽菜は直ちに校長室に来ること……分かったな?」

『は、はい……』

 

皆は肩を落とした……因みに、

 

(良かったぁああああああ…………)

 

と、ロキは一人だけ呼び出されなかったため胸を撫で下ろしたのは秘密である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ皆さん。明けましておめでとう」

 

と校長室に入ってきた途端に言ってきたのは校長だった。入っても全然気配しなかったぞ……

 

だけどこんな顔だったっけ?そんな気もするし……違うような気もする……見える透明人間の名前は伊達じゃない。他の皆もそういえばこんな顔だったっけ?こんな声だっけ?みたいな困惑気味の表情を浮かべる。

 

「お、おめでとうございます。それでもどのような用件でしょうか……」

 

と、一応リーダーであるキンジが校長に聞いた。いきなり何のようだか分からないが嫌な予感がビンビンするのだ。

 

「じゃあまず選んでほしい。良い話と悪い話と超悪い話の3つからね」

 

いやいやいや……何で良い話一つに対して悪い話と超悪い話の二つなんですかね?もう帰りたくなりましたよ!っとキンジは内心頭を抱えたが黙っておこう。取り合えず……

 

「じゃ、じゃあ良い話から順番に……」

「分かった。では遠山 キンジくん、遠山 一毅くん、おめでとう。君たちに二つ名が着いた」

『っ!』

 

キンジと一毅は顔を見合わせた。二つ名とは名の売れた武偵につく一種の仕事名みたいなものだ。アリアに 双剣双銃(カ ド ラ)って言うのがあるようにな……

 

他の皆も驚きで口が空いてる。いや別に二人の実力なら何時着いても可笑しくなかったがこのタイミング……間違いなく中国戦が絡んでるのは明白だった。

 

「まずキンジくん。君に着いたのは〈エネイブル〉……漢字で書くと〈哿〉と書く。不可能を可能にする……そういう意味が込められている。素晴らしい二つ名だね」

「はぁ……どうも」

 

キンジは曖昧に答える。何か名前が中二病臭いなぁ……と頬を掻くしかない。いやはや遂に二つ名か……もう普通は諦めてるけどさ……それにしたって(エネイブル)って……不可能を可能にするって……そんなことしてき……ましたね……はい、してきました。

 

「一毅くんには〈オウリュウ〉……漢字では〈応龍〉と書くね。四神である青龍、白虎、朱雀、玄武の頂点に君臨し王を守護する最強の存在……バスカービル最強でありリーダーであるキンジくんのそばで戦う君には相応しい二つ名だ」

 

応龍……か、そう言えば奇しくも一毅の龍桜に刺繍されているのも応龍だったはずだ……因縁を感じるな……

 

「ありがとうございます」

 

一毅が頭を下げると校長はふと笑った。

 

「修学旅行に行った生徒は幾つかの種類に分けられる。一つは現地での事件に巻き込まれ世界の広さを身をもって知り精神を砕かれる場合、二つ目は純粋に観光を楽しんだ子達……最後に君たちのように旅行先で自分の答えを見つけた子達……君たちはキチンと学んでそれを修めてきたようだね」

 

皆は苦笑いして顔を見合わせた。確かにあの戦い以降皆変わった気がする。チームの繋がりも強くなった気がするしな……良いことだろう。

 

「さて、更に超人ランキングの順位も上がったからね」

『え?』

 

キンジと一毅が唖然とすると校長はにっこり笑った。

 

「まず遠山キンジくんは91位、桐生一毅くんは89位……いやその若さでこの順位は驚異的だね」

「ソ、ソウデスカネ……」

 

キンジはひきつった笑みで言った……誰だよその超人ランキングを着けてる奴わよ……文句言いたいけど何処で付けられてるのか伏せられているため文句も言えない。

 

「ええ、因みに君たちのような活躍により担当の高天原先生と蘭豹先生には特別給与が出るので後で受け取ってください」

『はい!』

 

凄く良い返事をしていた……成程……それで機嫌が良かったのか……

「さて、次は悪い話だけど……まあ君たちもずいぶん派手に暴れてきたようだね。中国から請求書が来たよ」

『…………』

 

全員で遠い目をした……マジでご免なさい……

 

「いや良く居るんだよ?現地ではっちゃけちゃう子達がね?だけど君たちの場合少し次元が違うよね?被害総額とか凄くて書類見たとき僕は目が悪くなったのかと思ったくらいだ。いやまあ向こうからの喧嘩みたいだけど誰かが機関銃を乱射した場所では凄い状況みたいだよ」

 

と、校長が言うと皆で今は居ない白雪を脳裏に浮かべた。お前のせいじゃないか……

 

「まあ君達が将来的に活躍したときの寄付金を楽しみにしておくよ」

 

いや全面的に白雪にたかってくださいよと言いたかったがそこは連帯責任だろう……すいません、将来少しずつ寄付金を差し上げます。

 

と言うかそれくらい藍幇が払ってくれよ……いや、敢えて文句を言わせるためにこうしてるのか?そして文句を言いに電話すると勧誘が待ってるのか?孔明の罠か!?

 

「まあそれは良いんだけどね……」

 

良いのだろうか……?

 

「問題は超悪い話だ……」

『っ!』

 

皆は表情を締めた……この口調からして相当ヤバイだろう……

 

「遠山キンジくん……君にイギリス政府からの苦情が来ている」

『っ!』

 

イギリス……どう考えてもアリア関係だろう……まあ当たり前だ。仮にもロンドン武偵局に籍を置くSランク武偵が東の島国のEランク武偵に四月では奪われてしまった……そしてチームにまではいられてしまうわ戻ってこようとしないわでアリアを引き戻したいイギリスから見ればキンジは邪魔で仕方なく目の上のたん瘤だろう……

 

「それでいったいどのような?」

「んまぁ詳しい内容は機密だけどざっくり言えばキンジくんをバスカービルから脱退させろって話だったんだよね」

「あぁ~」

 

成程……チームの連携を断ちに来たんだな……やってくれるぜイギリス政府……まぁ……チーム離されて切れるような柔な繋がりじゃないけどな。それくらいは戦い通して感じてたさ……

 

だけどそれで終わってない感じだな……校長の口調的に……

 

「そこでイギリスとの不和を恐れて君をバスカービルから脱退させよう……って日本政府が判子を押そうとしたところに今度はまた面倒なことになってね」

 

キンジは嫌な汗が出てきた……なんですかね?もう私のライフは0なんですけどまだ追い込むんですか? つうか誰だよそんな面倒起こした奴……

 

「中国だ」

『…………』

 

全員で頬がひきつった。そして序でにあの見た目ヒョロヒョロ軍師が手を振っている光景が脳裏に浮かんだ。

 

「諸葛静幻……彼が中国政府経由で手を回したみたいでね。バスカービルからうちの未来のボスの遠山キンジを脱退させるとか何てしたらお分かり?みたいなことになったんだ」

「…………」

 

キンジはダラダラ脂汗を流した……つうか誰がボスだおい……あの野郎好き勝手やってやがるな……藍幇のリーダーはやらんと言ってるだろうが。やっぱり後で抗議しとかないとダメだ。

 

「いや最近日本は中国との関係の良好化を進めていたんだが……そんな空気が出てきたところにこれだからね?日本政府はどっちに良い顔しようかで大騒ぎ状態だよ。いやもう君もあっちこっちで評価の変動が激しいね」

「あ、あはは……」

 

キンジは笑うしかない……序でに胃がキリキリ痛い……静幻が言ってた事ってこれのことか……つうか自分は相当イギリスに嫌われてるらしい……そして日本からも……

 

「いやぁ、日本政府からも君も大分嫌われててね。どうにかして消せないか何て言う話が出てるっていう噂もちらほら聞くし……」

「そ、そですか……」

 

キンジはもう聞き流すしかなかった……そのうち自分は日本に居場所がなくなるぞ……いや、もうないかも……

 

「そう言うわけだから君も少し静かにしてた方がいいね。日本に骨を埋めたいなら……そうじゃないと公安とか武装検事動くよ?取り合えず脱退の一件は一度様子見と言う形になったけどその代わり政府から割りとマジで邪魔物扱い出されてるから下手すると命狙われる構図になってしまうから気を付けておきなさい。証拠残さず事故死に見せかける方法なんて腐るほどあるしね。無論中国とのほとぼりが冷めてから……と言うのはあってもこれ以上政府にとって面倒なことを起こすと言うレッテルを張られれば抹殺(デリート)されるかもしれないしね」

「ご迷惑お掛けします」

 

キンジは頭を下げるしかなかった……もう泣きたいぜ……

 

「さて、丁度良いから蘭豹先生。一毅くんに……」

「分かりました」

 

皆は一毅を見る……何かあったか?

 

「桐生……このままやお前な……」

 

ゴクリ……と一毅は息を呑んだ……そして次の瞬間耳を疑った……

 

 

 

 

 

「お前このままやと留年するで?」

「はい?」

 

一毅があんぐり口を開いた。他の面子もポカーンとしている。

 

「お前この間のテスト何点やったと思う?全部赤点……しかも一桁やったり高くて十点代みたいなの連発したんやで?幾ら一般教養が重視されんといってもさすがにこの点数ではこのまま進級させられへんわ……」

「ええ?」

「まぁ……もう一回二年生しても良いけどね」

 

と校長が言うが一毅は首をブンブン振る。

 

「いやいやいや、そこを何とかお願いできませんか?ほ、ほら!俺実技の点数は良いですし」

「実技で穴埋めにも限度っちゅうもんがあんねん。まあ、一応救済処置を用意したんやけどな」

 

そう言って書類を出してきた。

 

「コンテスラシオンっちゅうチーム知ってるか?」

「確か……ジャンヌがリーダーのチームですよね?」

 

とキンジが言うと蘭豹は頷く。

 

「そや、あいつら今回の修学旅行をサボりおったんや。そやから三年で行う旅行を早めて冬休み明けにやるっちゅう話になったんや。そやから桐生。お前そこの監察官してこい」

「へ?」

「そこでのレポート提出で勘弁したるっちゅうことや。あと遠山。お前はこいつの子守しとくんやで」

「俺ですか?」

「何やお前はこいつを野に放つっちゅうんか?」

 

そう蘭豹に言われてキンジは頭に思い浮かべる……確かに一毅を海外に子守りなしで放ったら道に迷ったりして帰ってこなくなりそうだ。ただでさえこいつは外国語を話せないだろうし……

 

「お前はリーダーなんやからな。仲間の子守りもしっかりこなせっちゅうことや」

「分かりました。お前もそれで良いだろ?一毅」

「ああ、了解しました」

 

そう言って了承して……といっても拒否はできないのだがそれでも首を縦に振ると詳しく日程をかかれたプリントを受けとり一毅とキンジ達は校長室をあとにした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういやこの間のテストの出来は最悪だったっけなぁアハハ――いだ!」

 

アハハと笑う一毅にキンジが蹴りを叩き込んだ。もう外だから好きに蹴っ飛ばせるぞ!

 

「何すんじゃい!」

「笑っとる場合かお前は!最高十点台ってお前はのび太か!」

「あれは0点じゃないか!俺は数点は取ったんだぞ!」

「どちらにせよ威張れねぇよ!」

 

キンジにそういわれ一毅がウッと言い返せなくなる。

 

「だ、だけどお前はどうなんだよ!」

「残念だが今回は割りとできたぞ」

 

一般高校で望月に習った部分が出てたし教師役の彼女が優秀なお陰で今回はかなり余裕をもってクリアした。

 

「そうか……お前あの時に……」

「ま、どっかで知恵熱出してた奴とは違うんですよ」

「あんだとこの女っタラシがぁ!」

「誰がだこの犯罪者面がぁ!」

 

ボコボコと二人は仲良く喧嘩をしだしたため他の皆で二人を引き剥がすことになる……が、

 

「こんなとこで喧嘩してると先生たちが来ますって!」

 

と辰正が慌てて一毅とキンジの間に割って入った瞬間、

 

『オラァ!』

「はべぶ!」

 

一毅とキンジのクロスカウンターを辰正が喰らう嵌めになった……

 

『あ……』

「た、辰正大丈夫!?」

「はんにゃらひ~ん……」

 

目をグルグル辰正は目を回して倒れる……まあそれだけですんでるのも凄いが……

 

「綺麗にキー君とカズッチのパンチで顔をサンドされたもんね~。辰っちゃん良く生きてたね」

 

と言う理子に思わず他の面子も頷いてしまった……

 

「と、取り合えず運ぶか……」

 

と、一毅が背負って救護科に連れていこうとすると校庭の方で女子たちが野球をやっていたのが目に入った……ただボールは固さ、重さともに同じと言うか殆ど爆発しない以外本物と同じ手榴弾のダミーだしバットもバズーカの砲身だしお前ら何やってんじゃい……と思ってると大きな一撃……その手榴弾のダミーは高く飛んでいきそこそこ速い速度だ……と思いきやその飛んでいく先に背中しか見えないが女子がいる。しかも全く警戒していない隙だらけの格好だ……皆が叫ぼうとした瞬間キンジが飛び出す……そこからキンジは足を振り上げダミー手榴弾を蹴り飛ばした……

 

「あ、ごめーん」

 

と、野球をしていた女子が言った……ごめーんじゃねぇよ!っとキンジは叫びそうになりながら足をぶらぶらさせる。さすがに固くて少しいたかった……取り合えず野球していたやつらにも文句は言いたいがそれよりこっちだ。

 

「お前な……幾ら校舎内だからって油断してるなよ……うちの学校はただでさえ危険しかないんだから……え?」

 

キンジはそう諭しながらダミー手榴弾が直撃しそうのなった女子を見て……固まった……

 

「お、お前は……!」

「やっぱり遠山くん!」

 

ふんわりとした髪にポヨンとした胸……ムッチリとした太股……穏やかでチワワみたいな顔立ち……間違いなくと言うか間違えようがない……東池袋高校で隣の席でヤクザに誘拐までされた女の子……

 

「望月……」

 

一毅も顔が引き攣っているし他の面子も確かあの誘拐事件の時の……と顔を傾げる。

 

「な、何で!」

 

お前がここに?と言おうとすると望月が先回りして答えた。

 

「冬休みの直前に転校してきたの。あのときはちゃんと伝えられなかったしあのままお別れするのは嫌で……そしたら家族も私の意思を尊重するって言ってくれてね」

「おいおい……」

 

態々こんな危険なところの来るなよ……そんな銃だって握ったこと無いような手でこんな人外魔境の地になんてさ……

 

「ほんと私も驚いたわ……」

 

と、望月の後ろから声が聞こえて見てみると……

 

「げぇ、菊代!」

「随分対応に差がないかい?」

 

と、誘拐事件の際に仲間から裏切られ組も壊滅した元鏡高組の組長が登場した……

 

「お前も復帰したのか!?」

「まあね、科は諜報科(レザド)尋問科(ダキュラ)だ。因みに萌は救護科(アンビュラス)だよ」

「あ、菊代ちゃん」

 

と、萌が屈託なく呼ぶ……それにしても萌も菊代も選んだ科が似合いすぎだろ……

 

「二人揃ってこんな学校に来ることもにだろうになぁ……」

 

と一毅が言うとキンジもうなずいた……何を好き好んでこんな学校に……ん?何か背中がチリチリするぞ?

 

「げ……」

 

キンジが後ろを向くと何故か体から炎を燃え上がらせるアリアとやっぱりそうなるよねぇと苦笑いする理子と冷たい目を向ける陽菜がいた……序でにその三人から既に他の面子は少し離れてある……

 

「ねぇキンジ……少しお話ししましょうか」

 

うわぁ……アリアが何か金髪になりそうなくらいお怒りです……そのまま髪逆立ったりしないよね?

 

「い、いやぁ……少し遠慮しときたいば……うん」

「キー君に拒否権無いよ?」

 

と、理子がキンジの右腕をロックした……む、胸が軟らか……イダダダダダダ!洒落にならないくらいガッチリロックじゃないか!痛いぞ!

 

「ささ、師匠。少々校舎裏にご同行いただこう」

「いや、校舎裏に呼び出すのは後輩の方じゃなくて先輩だろ!」

 

とキンジがいってる間に陽菜が理子と反対側の腕をロック……そして、

 

「じゃあいくわよ」

 

とアリアがキンジの首根っこをつかんでズリズリ引っ張っていった……

 

「ああ……さよならキンジ……」

『あなたの事は忘れない』

 

と、皆で遠くなっていくキンジに向けて十字を切った……

 

「え、えと……どういうこと?」

「武偵高校では日常だよ」

 

と、望月と菊代のやり取りの後キンジの断末魔が聞こえた気がするのは……気のせいと言うことにしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにその夜……

 

「おい静幻!お前なに勝手に俺をボス呼ばわりしてんだ!」

《ですがお陰でバスカービルから弾かれなかったでしょう?いやぁ、私としてもやはりバスカービルまるごと藍幇に来てもらえると嬉しいので来ていただきました》

「ふざけんな!俺は日本に居場所がなくなりそうだ!」

《でしたらうちに来てください。衣食住全部ありますし猴も会いたがってますしね。亡命でしたらいつでも秘密裏に日本から脱出させますから》

「アホ抜かすな!」

 

と言うやり取りが深夜まで及んだのは余談だろう……




政府高官1「イギリスからは遠山キンジの脱退……中国からは下手な手出しはするな……どうすれば良いんだ!」

政府高官2「全く……今年に入って遠山キンジ絡みでの出来事が多すぎる……」

政府高官3「取り合えずこれからの処分はどうすれば良いだろう……一番は何処かで溺れたりでもして死んでくれれば良いのだが……」

政府高官4「仕方ない……ならば何時も通りのらりくらりと躱していくしかないな……」

政府高官5「成程……何時も通り決定的な回答は避けて後でどうとでも言い訳が効く曖昧な答えをし続けていくんだな」

政府高官6「となれば暫くは遠山キンジをそっとしておくと言うことで良いかな?」

政府高官7「まあ彼も中々しぶとく生き残ってはいるがその運もそろそろ使いきるだろう。さっさと何処か我らの預かり知らぬところで死んでくれれば良いのだが……」




なんていうやり取りが密かにされたと言うが定かではない……












今作ではマジでキンジに藍幇に来てほしい静幻のお陰でキンジの脱退はなしです。まあキンジがバスカービルから外れても引き込めないわけではありませんがバスカービルの面子も一緒の方が有益なのはいうまでもありませんしね。その代わりキンジは日本政府からもさっさと死んでくれ扱いを受けることに……まあ殺しても死なないのがキンジですけどね……

さて取り合えず次回からヨーロッパ編です……鬼とかセーラとか……アリスベルサイドの面子とか……あ、アリスベルサイドからもオリキャラ出ます。まぁどちらにせよ原作はもっと先なんですけどね……って原作では次巻凄い気になる展開でした。赤松先生続きを早くお願いします!

と言うわけで又次かい!


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龍と金の出立

「私は悪くない!」

『さいですか……』

 

空港にてジャンヌの声にキンジと一毅は嘆息した……

 

何故ジャンヌたちコンステラシオンが修学旅行をサボったのか……それを聞いたら頭が痛くなった……そう、何故か聞いてみたらまずチームの一人は外に出てこようとすると具合が悪くなり、もう一人は乗り物に見惚れてて大遅刻……更にこのチームには中空知もいるらしいのだがそいつは道に迷って以下略……なんだこのチームは……

 

「私は時間に余裕をもって来たんだ!なのに他のメンバーのポカでだ!事件に巻き込まれたとかなら仕方ないが何れも何かのギャグかなんかと思ってしまったんだぞ!」

「落ち着けジャンヌ……」

 

キンジがドウドウとジャンヌを落ち着かせる。

 

「そして早速一人今日来れないことが判明したしな……」

「おいおい俺の進級が掛かってんだぞ!」

「ええい!武偵高校の強襲科(アサルト)にいながら全く重視されない一般教養の点数で進級が危ぶまれるようならもう一度二年生をやってろ!」

「あんだとオラァ!」

 

一毅をキンジが後ろから羽交い締めで止めた……このままだと暴れだしそうだ。

 

「来れないならじゃあどうするんだ?」

「代わりにワトソンを呼んである。戦役もあるしな」

 

一毅とキンジは顔を引き締めた。

 

「現在アジアはお前たちバスカービルの活躍もあって優勢……よほどの事がなければひっくり返らないだろう。藍幇が裏切る……とかな。まぁそれはないだろうがな」

 

キンジは頷く……

 

「だが欧州は真逆だ。特に眷族(クレナダ)が雇った四人の傭兵のせいで欧州は眷族(クレナダ)優勢の絵になっている」

「傭兵ってありなのか?」

「ありだ。それに部外者でどうこういったらお前たちも一年を巻き込んでしまっているだろ」

『うぐ……』

 

キンジと一毅は目をそらした。

 

「で?四人の傭兵ってなんだ?」

「話にしか聞いたことないからな……良くわからないのだが一人は桐生のように二本の刀を使うようだ。全身が黒いコートのようなものを来ていて片目が怪しく光ってるらしい」

 

なんだその中二病みたいな設定……と一毅とキンジが苦笑いした。

 

「二人目は魔術の使い手だ。しかも非常に高レベルのな」

 

成程……それは面倒だな……

 

「三人目は最先端科学の鎧に身を包んでるらしい。だが明らかに数年先の技術らしいが……まあそれはおいておこう」

 

そして最後だが……とジャンヌは続けた。

 

「ゴリラ……らしい」

「……いや人間出せよ」

「いや、見た目がな……身長が何と二メートル近くあり体格も相当らしい……身体も恐ろしく頑丈で腕力も相当高いらしい。師団(ディーン)のメンバーに囲まれたさいには道路標識引き抜いてボコボコにしたらしいぞ……他にも人間を掴んで棒切れみたいにぶん回して攻撃したりするらしい」

「既に人間じゃないだろ……」

 

キンジは苦笑いからひきつった笑みに変わった。

 

「一応聞くが一毅……お前は道路標識引き抜いてボコボコとか人間を武器にってできるか?」

「できないとは言わんが……やろうと試みたこともない。つうかそんなもん引き抜けたって振り回すのだけだって一苦労だぞ……つうか重量ある一撃だしたいなら俺もう断神(たちがみ)持ってるし……」

「何か噂が誇張されてる……って言うのを信じるしかないような話だな」

「私もそう思うよ……」

 

とジャンヌがキンジに同意すると、

 

「だが傭兵四人に師団(ディーン)が押されてると言うのは本当のことだよ」

「ワトソン?」

 

とそこにワトソンがやって来た……

 

「事実欧州は眷族(クレナダ)の領域になっている……キンジたちも気を付けいた方がいいね」

「そうだな……道路標識引き抜くとかそういうのがあるのかわからないが注意だけはしとくよ」

 

そんな話をしているとフゥフゥ言いながら中空知とコンステラシオンのメンバーである島 莓 が来た……島 莓は武藤と肩を並べるほどの運転テクニックを持つ女子なのだがその見た目は完全に幼女である。アリアやあかりよりちっこい。

 

「あで!」

 

何て考えてたらキンジの足に鋭い痛みが走った……

 

「何か今すごく失礼なこと考えたでしょ馬鹿キンジ!」

「あ、アリア!?それに皆も来てたのか!?」

 

キンジはアリアに踏まれた方とは逆の足でピョンピョン飛びながら見送りに来た皆をみた。

 

「キンちゃん大丈夫!?今私が治してあげるからね!な、舐めて!」

「アホか!」

 

キンジにスパンと白雪は叩かれた。

 

「一毅さん。一応胃腸薬持ちましたか?ヨーロッパの食べ物は日本人の胃腸をダイレクトアタックしてきますからね」

「ああ、各種薬に特濃葛根湯と赤チン持ってきてるよ」

 

とレキと一毅はやり取りをしてると、

 

「そう言えば一毅先輩ロキ知りません?さっきから見当たらなくて……」

「いや?見てないが……何処かで買い物してるんじゃね?」

 

一毅はキョロキョロするが見当たらない……ライカは肩を竦める。

 

「じゃあ辰正、唯一の男としてしばらく頼むぞ」

「はい!……でも……」

 

キンジに辰正は返事をするがポソリと、

 

「皆強いですよ?」

「まぁ……そうだな」

 

キンジと辰正はアハハ……と乾いた笑いをした。皆おっかないし強いもんなぁ……

 

「ま、後はあかりとの事は頑張りな」

「ブフ!」

 

キンジに背中叩かれながら辰正は吹いた。

 

「な、なんでその事を!」

「いっとくが当人たち以外周知の事実だぜ?」

 

と、脇から一毅がこっそり言ってきた……辰正はガックシ肩を落とす……

 

「なんでバレるんですかね……」

『お前が分かりやすいんだよ』

 

と、一毅とキンジの連携に辰正は更に落ち込む。

 

「先輩たちだって分かりやすいけどなぁ……」

「何かいったか?」

「いえいえなんでも……」

 

辰正はキンジの問いに首を横に振って答えた……それにしてもこの人だって未だにアリアとウダウダやってるのだ……思えばこの人だけには言われたくない……

 

「先輩だってアリア先輩とはどうなんですか?」

 

と辰正の反撃……キンジは明らかに狼狽した。

 

「は、はぁ?俺とアリアはそういう間柄じゃねぇよ!」

「と口では言う」

 

と、一毅はいってキンジの蹴りが飛んだが一毅はひょいっと躱しその先にいた辰正に炸裂した……

 

「あ、悪い……」

「い、いえもう慣れました……」

 

顔を抑えながら辰正は大丈夫だと手で合図する。

 

「さて、そろそろ時間だ。行こうぜ」

 

と言って皆に見送られながらゲートを潜る……次にこのゲートを潜るときはどうなってるのやら……

 

「お兄ちゃん緊張してる?」

「まぁな……眷族(クレナダ)優勢らしいし結構きつい戦いになるだろ……」

「でもお兄ちゃんなら大丈夫だよ」

「ありがとなロキ……ん?ロキィ?」

 

一毅はビックリして飛び上がりキンジも仰天……ゲートの向こう側ではアリアたちもアングリしていた……

 

「ふふ、私も欧州にいくからね」

「はぃ!?」

 

一毅の腕に抱きつくロキ……圧倒的なまでの柔らかさ……レキやライカよりもずっと柔らかい……そしてレキのミントのような香りに甘さを加えたチョコミントのような香りが一毅の鼻孔を擽る……

 

『▲★◆▼☆◇○◎△▽☆!!!!!』

 

序でに後ろから何か声か聞こえるがこれは聞こえないことにしておこう……俺はなにも聞いてません……

 

「最初はね。無理矢理中国についていこうかと思ったんだけどそのままついていってもお姉ちゃんとかライカいるからさ、きっとお兄ちゃんのことだから近いうちにまたどこかにいくことになるんだろうなぁって思ってたの。そしたら的中して昨日のうちにお兄ちゃんの席の位置調べて隣に座るはずだった人を脅し……ゲフンゲフン。隣び座るはずだった人が急に席をキャンセルしたからそこに予約して着いてきちゃった」

 

今なんか脅しとか言いませんでしたかねロキさん……そう言えば監視官を言い渡されてからロキが慌ただしく動いていてレキたちと首をかしげていたが……そういうことだったのか……

 

「安心してねお兄ちゃん。私も英語もだけどフランス語やスペイン、ドイツ、オランダとかまでぜーんぶ外国語はペラペラだから」

 

そう……彼女はレキの妹だ。何気にハイスペックだったりする……

 

「案の定お姉ちゃんたちは日本で防護に回らなきゃいけないから何だかんだで私がお兄ちゃん独り占めだね」

 

と一層ロキが抱きついてくる。はぁ……何か日本に帰ってくるのが怖くなってきたぜ……と一毅は嘆息しながら飛行機の搭乗口に目指していった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃……

 

「いやぁ……ロキちゃんあそこにいたんだね……」

 

と理子が言うと皆で苦笑いした。と言うか少しずつ距離をとった……ゲートの前にはメラメラと体から炎を上げるレキとライカが一毅たちが消えていった方向を感情の消えた目でジィーッと見つめているのだ……はっきり言おう。めちゃくちゃ怖い。だが……

 

「いやぁ……今回はロキちゃんにはしてやられましたねぇ。あそこにいたなんて全然気づきませんでしたよ。まさかあそこで隠れてたとはなぁ……ん?」

 

と辰正は何の気なしに口にした……だがギココ……とレキとライカが辰正を目をキラーンと光らせながら見た……

 

「え?」

『我……ヤツアタリスルアイテミツケタリ』

「え?あの……え?」

 

辰正は慌てて周りに助けをも止めたが既に皆退避済みだった……味方は居ない……

 

「あの二人とも……な、何か目がマジですよ?」

 

辰正は涙目で言うが……二人は辰正を見据えると口を開いた……

 

『クフフ……』

「ぎにゃああああああああ!!!!!」

 

余計なことを言った辰正は二人にボコボコにされ断末魔をあげたのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?何か聞こえなかったかキンジ」

「何が?」

「いや……ぎにゃああああああああって」

「気のせいじゃないか?」

 

何て言うやり取りがあったのは余談である。



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龍の仏蘭西旅行

何気なく漢字変換して知った……フランスって漢字でかくと仏蘭西と書くんだ……


「き、キンジみろよ!外国人ばっかだぞ!」

 

飛行機に揺られながら(まあ実際は揺れなんて無かったが)数時間……ついにフランスのパリにやって来た。そして一毅の開口一番がこれである……

 

「そりゃお前外国に来てるんだから当たり前だろうが……」

「でも金髪とか多いし肌も皆白いぞ!」

「そりゃヨーロッパだからな……お前もそんなキョロキョロすんなよ……田舎から上京してきた田舎者じゃないんだからよ。つうかお前は一応監査役なんだぞ?ちったぁ落ち着きってやつをもてって」

「へいへい」

 

キンジは思わず頭を頭を抱えた……飛行機の中で今回は戦役のこともあり中空知や島を巻き込まないためこの二人は普通に行動させて他の戦役メンバーにロキを加え戦役の戦況をひっくり返すため動く手はずなのだが一毅はロキに任せることになっている……やはり自分が面倒見他方がいいんじゃないかとキンジは思ったがロキが大丈夫だといいジャンヌも後輩の前でアホなポカはしないだろうと言って一毅&ロキ、キンジ&ジャンヌの構図ができたのだ。ちなみにワトソンは中空知と島の護衛だ。

 

「なぁ、今からでも遅くないから俺が一毅みてもいいんだぞ?」

「だが遠山。戦役メンバーでフランス語ができるのは私とロキとワトソンだ。そしてワトソンは護衛で居ないから実質私とロキだけ……はっきり言ってフランス語が出来ないもの同士と出来るもの同士で組むより出来るものと出来ないものがそれぞれ組んだ方が効率もいいと思うが?」

「うぐ……」

 

ジャンヌの非の打ち所もない論理に完全にキンジは論破された状態だ。更にジャンヌは、

 

「それに遠山も馬に蹴られて死にたくはないだろう?」

「…………まぁ……そうだな」

 

とキンジが言うとジャンヌは少し驚いた顔だ。

 

「なんだ気づいてたのか?」

「そりゃ気づくだろ……まぁ一毅は鈍感だしなぁ……他人をからかう暇があったら自分に向けられる好意に気づくべきだ……ってなんだジャンヌ……そのジト目は」

「いや……お前と桐生の共通点を見つけただけだ」

「?」

 

キンジは首をかしげた。自分で言うのもなんだが一毅と自分は余り似てないと思う。性質的には全然違う。だからこそ磁石のN極とS極のように息が合うのだと思っていたが……共通点?どこだろう……

 

とキンジは暫し考える……それを見ながらジャンヌは、

 

(自分に向けられる好意に鈍感なところはお前もだがな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つうわけでもう小学生の旅行じゃないんだし俺たちが逐一監視しなくても平気だろ?今から自由行動だかいさ――いで!」

「適当すぎるわ!」

 

キンジのぶっ叩きを喰らって一毅は頭を押さえそれを尻目にキンジが補則説明だ。

 

「まあこれから自由だがお前らもわかってるようにこれで一毅がつける点数次第ではお前らも留年だ。だからお前らもレポートなどをしっかりかいておけよ。わかったか?」

「ひゃい!」

「了解ですの~」

 

そう言って全員解散したのを確認すると、

 

「俺たちも解散だな」

「じゃあまたなキンジ」

 

と一毅とロキはフランスに繰り出した。

 

「さて……んじゃあガイドのジャンヌさん頼むぞ」

「ああ、任せておけ」

 

とキンジとジャンヌも街へ繰り出したのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかしフランスの首都って言っても結構汚いんだな」

「そりゃあ花の都って言ってもね~」

 

取り合えず一毅とロキは街の一角にあるカフェテリアでのんびりしていた。

 

「で?何処に行くんだ?俺はフランスなんてエッヘン塔しか分からないからロキに任せる」

「任せて、ここに来るに当たって準備してあるからね。あとお兄ちゃん……エッヘン塔じゃなくてエッフェル塔だからね?なんでそんな自信満々そうな名前になってるの?」

「ま、まあそうとも言うよな」

「そうとしか言わないよ」

 

そう言ってロキは肩を竦める……だがその姿は何処か嬉しそうだ……

 

「何かお前機嫌がいいな」

「え?そうかな……」

「いつもお前は笑ってるけど今日は特に笑ってる。やっぱお前も海外に来て気分高揚してるのか?」

 

と言う一毅の言葉にロキはガックシと肩を落とした。どうしたんだ?

 

「そういうんじゃないんだけどさ……バカ……」

「????」

 

一毅は疑問符を飛ばす……うーん、恋愛ゲームで言うなら選択肢をミスったと言う奴だな……間違いない……しかも好感度も下がった。でも他にどういうのがある?他にある選択肢……例えばコーヒーが旨かった?いやいや……それだったら飛行機に乗るときから機嫌が良かったのは可笑しい……でも他に何かあるのか?

 

女心って言うのはよくわからん……だが機嫌が少し悪くなってしまった……ならば……

 

「なぁロキ」

「なに?」

「せっかくお洒落の国なんだし服でも見るか?ブランドものとかは無理だが一着くらいはなんとかなるぞ」

「ほんと!?じゃあいこうか!」

 

と一変して機嫌がよくなった……女の子は服を送られるのが良いと思うのはレキ、ライカで実践済だしな……

 

「ん?」

 

するとメールが来ていたのに気づく……送信者はレキ?海外でも日本からのメールって届くのかと驚きながら見てみると……

 

「どういうことだ?」

 

その文面に一毅は首をかしげる。何だこれ……レキのメールは割りと簡潔で分かりやすいのに良くわからない……

 

「ほらお兄ちゃんいくよ!」

「あ、ああ……」

 

どういうことだかわからなかったが取り合えず一毅はロキを追った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇこれどうかな」

「おぉ……」

 

そう言って服屋の奥から持ってきて体の前に当てながら見せてくる。因みに試着は日本独自らしい。

 

ゼブラのトップスに下はジーンズ……首にファーと言うマフラーみたいなのを巻くと説明してくれる……

 

「似合うけど……何か大人っぽくないか?」

 

ロキは基本的にはレキにそっくりだがそれでもレキより幾分童顔なんだ……あんまり大人っぽいと少し違和感あるんだよな……

 

「じゃあ……こっちは?」

「ぶふぅ!」

 

一毅は目を限界まで見開いて吹いた……何故ならロキが出してきたのは薄手のワンピース……といえば聞こえがいいが用は透け透けの服だ。つうかアラレもない。

 

「お、お前なに考えてやがる!」

「え~似合わない?」

「いや……」

 

似合うと思います。そう言う透け透けはロキみたいに胸がでかいと似合うだろう……レキやライカも絶対似合うけどさ……

 

「そう言う問題じゃないだろうが……」

「ちぇ~」

 

ロキは唇を尖らせたがそのあと結局コートを買った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこともあったが二人でいろんな場所を見ていく(時間が殆ど無かったもののちゃんと観光名所も回った)と日が落ちてきた……しかし……時差の影響かさすがに眠いな……ロキも少し瞼が重そうだ……

 

「何処かでなんか食うか?」

「そうだね……」

 

ふにゃりと可愛い口を開けてあくびをするロキを横目に一毅は周りを見る。見てみればマックとかもある……とは言えフランスに来てまでマックにいかなくてもなぁ……すると、

 

「ねぇねぇあそこは?」

「え?」

 

ロキにそういわれ見てみるとその先にはレストランのようなものがあった。

 

「だ、だけど良いのか?高そうだしスーツ着用の義務みたいなのありそうじゃね?」

「そんな店じゃないよ……見たらわからない?」

「わからねぇよ……つうか俺のイメージはフランスの店っていうのはブランドのスーツと時計をつけてマナー良く葉巻吸いながら食うって言う……」

「それは偏見だよ……」

 

一毅の良くわからないイメージにロキは苦笑いした。

 

「ま、何事も経験だよ。さ、行こうか」

「嫌でも俺ああいう肩が懲りそうな店で食うのは……」

「はい文句は言わない。そして今から慣れてた方がいいんじゃない?遠山キンジ先輩日本に居られなくなるかもしれないんでしょ?世界中飛び回ったら肩が懲りそうな食事も増えるよ」

 

とズリズリロキに一毅は引きずられていった……とは言え入っていった店はそこまで格式高い訳ではないのだがそれでも一毅はカチンコチンに固まっていてロキは思わず笑ってしまったのは余談だし一毅からすれば黒歴史になってしまった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつまで笑うなよ」

「御免ってば」

 

一毅はふてくされロキはまだ頬を弛ませながら謝る。二人は食事のあと今夜の宿を求めてホテルに入る。勿論交渉はロキの仕事だ。一毅では話せないから無理だし……

 

「じゃあ行ってくるね」

 

とロキはホテルの人にフランス語で話し掛ける……内容は全くわからん。チンプンカンプンだ……するとロキが戻ってきた……

 

「お、おにいちゃん……」

 

何かすごい緊張してる声だ……どうした?

 

「な、何かね……ホテルの部屋ひとつしか空いてないらしくてね?いやぁ困ったね……同じ部屋で泊まるしかないよ」

「いや……なら俺は別のホテルにすれば……」

「もう他のホテルも同じような感じだと思うから大人しくここにした方がいいよ!夜遅くなると治安悪いしね!」

「あ、はい……分かりました……」

 

一毅は大人しくしたがう……何だと言うんだ?そしてなんでホテルの人はグッと親指を立ててるの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言うわけで現在ホテルの部屋なのだがロキはシャワーを浴びてる……うん……精神衛生上良くないね……更にベット……大きいんだが1つしかない……更に大きいと言ってもベット一つ分だしガタイが無駄に良い一毅が寝たら場所とってロキとくっつきながら寝てしまうことになる……これはソファーで寝るしかないな……何て一毅が考えてるとバスルームからロキが出てきた。

 

「次どうぞ~」

「了かぶふぅ!」

 

了解……と言おうとしたが一毅は飛び上がった……何せロキの格好……昼間に見せてきた透け透けのやつだった……下着見えてるって!

 

「どう?」

「いや眼福……じゃなくて!何でお前着てんだよ!」

「こっそり買っておいたの。もっと見てもいいよ?」

 

ロキがこっちに来た……こうなれば!

「おぉ!」

 

一毅は一瞬で深紅のオーラ(レッドヒート)を発動させロキの死角に消えて着替えをとってそのままシャワー室に飛び込んだ……欧州初公開の深紅のオーラ(レッドヒート)はあんまりな登場であった……

 

 

 

 

 

「はぁ~」

 

その後一毅はシャワーを浴びるために服を脱いだがふと見てみると風呂桶にしては小さい……お湯をどうやって貯めるのかわからないが取り合えずシャワーでお湯を貯めるとそこに浸かる……ぬるいな……しかも肩まで浸かれない……仕方ないので棺桶に寝るみたいにして風呂に浸かっておく……駄目だもっと深くないとな……もしかして欧州の方では半身浴しかしないのか?

 

「文化の違いってやつかねぇ……」

 

そう思いつつロキの行動を振り替える……いや一般的に鈍い鈍感といわれる一毅でも流石に違和感を覚える……元々くっついたりしてくる女の子だったがそれでも今回は妙に機嫌がいいし何か何時もより女子女子してるし極めつけに明らかに貞操の危機管理的なものを捨てて来てる感じだ……幾らなんでもなにかが可笑しい……どうしたんだロキのやつ……

 

(まさか誰かにフラれて自棄になってるとか?)

 

と一毅の思考はだんだん可笑しい方向に向かいそうになっている……だがいやそれなら自分にじゃないだろと自己修正して取り合えず風呂から上がる。多分外国に来て気分が高揚してると言うことにしておこう……他の理由が検討つかんし……

 

そう考えつつ部屋着に着替え部屋に恐る恐る戻る……何時もからかい終われば普通に戻るとは言えそれでもやはり一応安全確認だ……

 

「あ、お帰り~」

「あ、うん……」

 

ほらな……嫌な予感がしたから見てみればロキはまだあの服だった……その服でベットにゴロゴロしてるのだから無駄にエロい……こいつには危機管理と言うやつがないのだろうか……だが下手に口にすれば薮蛇になるので言わない方がいいだろう。こう言うのはそっと視線をはずせばそれでいい……

 

「さて今日はもう寝ようぜ。俺は時差のせいで眠い」

「そうだね、はいどうぞ」

 

とロキは横にずれた……え?

 

「どういうつもりだ?」

「そう言うってベットにお兄ちゃんが入るスペースを作ったんだけど?」

「いや……俺はソファで寝るけど?」

「そんなんじゃ疲れとれないでしょ?それとも私に欲情した?」

「ち、ちがわい!」

「なら大丈夫だよね?」

「……………………」

 

一毅はこんなことになるなら素数くらい数えられるようにしておけばよかったと心で泣いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と言う訳で一毅はベットの隅っこに縮こまりながら寝ることになった……だがこれの方が寝づらい気がするんだが……不味い……何かロキのチョコミントの香りがこっちに来てる気がする……

 

(確か素数は……2、4、6、8、10、12、14…………)

 

因みにこれは素数ではなく只の偶数である……何てやっていると……背中にフッカフカの何かが当たった……もみにゅう……っと背中に当たって形を変えるソレはロキの胸だと言うのは奇しくも毎日のように当てられてるのですぐにわかる。と言うかこの部屋にいるのは自分以外ではロキだけなのでそれ以外はあり得ない。

 

「おいロキ……お前なにして……」

 

っと振り返ろうと体を一瞬仰向けにしたのがイケなかった……その瞬間にロキに組伏せられた……

 

「お、おい何する気だ……ロキ……」

「お兄ちゃん……年頃の男女が同じ部屋でベットに寝てるんだよ?することなんて一つでしょ?」

「お、おい幾らなんでもこれはやりすぎだろ……旅行先で高揚とかの次元を越えてる……」

「違うよ……」

ロキは否定した……

 

「私ね……お兄ちゃんが好き……勿論異性としてね」

「…………え?」

「そんな意外そうな顔しないでよ。お兄ちゃんだっていつだったか言ってたじゃん。私とお姉ちゃんは似てるって……男の好みも被っちゃったんだよねぇ…………アハハ……」

 

ポトッ……っと一毅の頬の滴が落ちた……

「ごめんね……お姉ちゃんの彼氏好きになるってイケないよね……ごめんね……もうお姉ちゃんやライカいるのに好きになっちゃって……ごめんね……」

「ロキ……」

 

掠れた声でロキは続ける……

 

「だから一回だけでいいから……今夜だけでいいから……私を彼女として扱って……て言うのはダメ?今夜あったことは夢だよ……って言うのはダメかな?明日にはもう姿消してるって言うのでもダメなのかな?」

 

ロキはポロポロ涙を目から落としていく……あぁ、自分は最低だな……結果として自分はロキの好意に気付かず追い込んでいたんだ……女に泣かれた時点で……男の負けは決定してるんだよ……と、いつぞやのヒステリアモードキンジが言っていた……そうだな……

 

「全部ダメだ」

「っ!――そうだよね……ごめむぐ!」

 

言いきる前にロキの顔が一毅の胸に押し付けられた。

 

「お前なぁ……俺の性格からしてそう言われたらもう見捨てらんねぇのくらい分かっとけよ……」

「…………」

 

一毅の胸でロキは顔を隠す……

 

「レキからな……メール来てたんだ」

「え?」

「【これから妹共々お世話になります……あとかえったらライカさんと一緒にビンタ一発ずつですよ】ってな……いきなり送られてきたときは意味わかんなかった。もう既に一緒に住んでるじゃんってさ……でもまぁ本来の意味はこう言う風になるのも見抜いてたんだろうな……だからロキ……その……あれだ……頼むから何処にもいくな……俺を好きでいてくれないか?」

「でもビンタだよ?」

「お前に泣かれるより良い……」

 

体の痛みは……元々痛みにも鈍いし直ぐに治るけど……心の痛みや喪失感は一生残る……ここでロキと一生の別れになったなんて言う方がずっと嫌なんだ……

 

「良いのかな……」

「良いよ……」

 

ロキは頬を染めて頷いた……

 

「ねぇ……」

「何だ?」

「ん……」

 

とロキは目を瞑って顔を突きだす……流石にこれの意味くらいはわかる。

 

「分かったよ……」

 

チュッと互いの唇をくっ付ける……暫しくっ付けたままにして離すとロキは笑った……

 

「大好きだよ。お兄ちゃん」

「……俺もだよ」

 

そっと髪を鋤いてやりながら言うとロキは嬉しそうに頬を弛ませながらそのまま一毅に抱きついて眠りについた……本当は彼女も疲れていたんだろう……まあ当たり前か……

 

「もうキンジのこと言えねぇよなぁ……全く……」

 

一毅の独り言は誰かに聞かれることはなかった……




取り合えずこれで完落ちですね……うん……一毅も大概だね。でも一毅のメインヒロインはこれで最後です。一毅にホの字になる女の子は出ますけど……

取り合えずこれを読んでくださった方が苦いコーヒーをのみたくなるような話を書きたかったのですが……まぁ難しいです。中々上手くいかない。やっぱり恋愛系は苦手です。さて次回はメーヤも登場し遂に魔女連隊との戦いになっていきます。そして前編終了時にはあいつらも出てきますし段々盛り上がっていく予定です。では又次回お会い出来たらお会いしましょう。


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対談 特別番外

今回は特別編です。


某月某日……私、桐生一毅は最新話の収録のために訪れたのですが何故か集合場所に誰もいないのです……可笑しいと思いつつも待っていると突然のメール……内容は既に皆集まってるから楽屋に来いとのこと……俺は首をかしげつつも楽屋に向かいそして……

 

『一周年記念おめでとう!』

「うぉわ!」

「ごうぇぶぅ!」

 

突然のクラッカー音に吃驚して偶然一番前にいた辰正をぶん殴ってしまったのです……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「と言うわけで今回は特別番外編!題しておめでとう一周年記念!」

 

一毅「まさかこの作品が一年になるとはなぁ……」

 

キンジ「まあ本来はもう少し早かったんだが色々な事情が重なってかなり遅れてのお祝いだ」

 

レキ「実際リメイク前から数えると二年くらいになりますけどね……」

 

アリア「でも取り合えず桐生一毅と言う人物がこの世に出てもう一年になるのね……いろんなことあったわ」

 

白雪「そうそう、笑ったり怒ったり喧嘩したりね」

 

理子「序でに最初の方と見比べると結構性格に変化出てるよね」

 

あかり「いやそれこの作品のキャラ全員に言えると思うんですけど……」

 

ライカ「いやぁ……最初は私もこの作品でヒロインに昇格するとも思ってなかったしなぁ……」

 

陽菜「拙者も思っていた以上の出番を貰えて嬉しいでござるよ」

 

志乃「まあ作中ではまだ一年経ってませんけどね」

 

辰正「でもなんかいつのまにか僕ってネタキャラになってない?」

 

ロキ「まあそんなもんじゃない?」

 

咲実「つうわけでさ……一周年記念にとある企画を考えたわけさ……」

 

レキ「企画?」

 

咲実「そう……名付けてキャラクター人気投票!」

 

キンジ「まんまじゃねぇか」

 

咲実「…………まあそれは置いておくとして、とにかく前に友人が勝手にやってくれた人気投票をやってみようって話だよ。活動報告の方でやるので投票していただけると嬉しいです」

 

一毅「期限は?」

 

咲実「9月一杯かな。十月に集計開始したいと思ってる。そしてルールですが活動報告にも載せますが以下の通りです」

 

 

・一人につき持ち票は5つまで

 

・持っている票は好きに投票して構わない。例えば一人のキャラに全部の票をつぎ込んでも良いし分配しても構わない。

 

・勿論この作品のキャラに限定する。

 

・逆にこの作品のキャラであればどんな人物でも構わない。

 

・投票の仕方はコメント欄に、キャラの名前と投票したい票の数をそれぞれ書く。

 

・他人の入れた票にたいして誹謗中傷は勿論禁止。

 

 

咲実「とまぁこんな感じかな」

 

アリア「と言うわけでこれを読んだら活動報告にゴーよ」

 

白雪「…………はっ!このランキングで上位に食い込めばもっと出番が!」

 

理子「そしてそうなれば必然的にキー君といちゃつける……」

 

陽菜「つまりこれは……」

 

白雪&理子&陽菜『脱ぐしかない!』

 

キンジ「お前らあの馬鹿どもつまみ出せ!」

 

一毅(神様どうかここは主人公の意地として一位をとらせてくださいお願いします……)

 

レキ「一毅さん必死ですね」

 

ライカ「そりゃあ先輩の友人の投票では主人公なのに2位でしたしね……」

 

あかり「でもなんだっけ……確かこう言うのって……」

 

志乃「あかりちゃん……ああいうのはこう言う風に言うんですよ」

 

ロキ「フラグフラグ♪」

 

辰正(これで一毅先輩順位低かったら多分僕がブッ飛ぶオチかな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「あ、そうそう。今回の一周年を祝いにゲストきてるよ」

 

一毅「え?ゲスト?」

 

咲実「そうそう。どうぞお入りくださーい」

 

?「いやはや忘れられたんじゃないかと思って焦ったぜ」

 

?「全くだな」

 

?「まぁまぁ」

 

一毅「なんだぁ?ゾロゾロと」

 

咲実「さ、自己紹介どうぞ」

 

大翔「はじめまして先輩。この作者が書いている小説、【魔法科高校の劣等生 欠陥品の魔法師】のオリジナル主人公。草繋 大翔です」

 

達也「同作品に登場している原作主人公、司馬達也です」

 

深雪「その妹の深雪です。はじめまして」

レオ「その友人の西城 レオンハルト、レオで良いぜ」

 

エリカ「あんた敬語くらい使いなさいよ。あ、野性動物には無理か」

 

レオ「あぁ?」

 

エリカ「やる気?」

 

美月「二人とも喧嘩は……あ、はじめまして、柴田美月です」

 

ミキ「吉田幹比古です……って僕の名前は幹比古なんだから名前の表記間違ってるよ!」

 

咲実「まあそれはおいといて、今回の一周年記念のお祝いにきてくれた面子です」

 

アリア「序でに宣伝でしょ」

 

咲実「まあそれも否定はできないね」

 

大翔「いやぁどうも先輩。お話は兼ね兼ね聞いてましたよ」

 

一毅「へぇ、そうなのか?」

 

大翔「ええ、たどり着いちゃいけない次元に行っちゃった化け物と」

 

一毅「よし誰がいったか教えろ、今すぐにそいつを打ちのめす」

 

達也「そこにいる作者ですが?」

 

一毅「おいこらさくしゃあ!歯を食いしばれぇ!」

 

咲実「ひぇ~お命だけはぁ~」

 

キンジ「何やってんだか……」

 

大翔「あ、キンジさんのも聞いてますよ」

 

キンジ「え?」

 

レオ「殺しても死なないし銃弾を素手でつかむし誘導弾逸らすしどんな方法使っても殺せない不死身の妖怪人間だって作者が……」

 

キンジ「野郎ぶっころしてやらぁあああああああああああああああ!!!!!!!」

 

咲実「辰正ガード!」

 

辰正「ぶべら!」

 

美月「今普通に盾にしましたね……」

 

咲実「辰正シールド!」

 

辰正「ごべらっふ!」

 

ミキ「あ、キンジさんの蹴りが決まった……」

 

咲実「辰正!君に決めた!」

 

辰正「あべっし!」

 

レオ「そして二人の連携攻撃からも盾にされたぞ……」

 

エリカ「……大体こんな感じなんですか?」

 

白雪「うん……」

 

理子「大体日常風景だよね~」

 

レキ「あ、お菓子ありますが食べますか?」

 

深雪「あ、ありがとうございます……」

 

ミキ「こう言うのをカオスって言うのかな……」

 

美月「多分……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一毅「そう言えばお前らって一年生なんだよな?」

 

達也「ええ、高校一年です」

 

キンジ「何か達也って高校生に見えないよなぁ……俺より年上だって言われても信じそうだ」

 

アリア「ほんとよね。私より年下って言うのは信じられないわ」

 

魔法科の皆『…………あ、そう言えば年上でしたね』

 

アリア「あ?どういう意味よ」

 

理子「そりゃあアリアどう見ても小学生だし」

 

アリア「理子……全身風穴だらけで死ぬのとその無駄な乳袋を引きちぎって口に突っ込んで喉詰まらせて死ぬのとどっちが良いか選びなさい」

 

魔法科の皆(こわ!)

 

キンジ「しかし深雪は達也の妹なんだよな?」

 

深雪「はい、そうですよ」

 

辰正「でもあんまり似てないね。よく見ると面影は似てるけどさ」

 

達也「そりゃあ兄弟なんだから似てて当然でしょう」

 

エリカ「まあ中身は超絶ブラコンだけどね」

 

深雪「エリカ……氷付けになりたいのかしら?」

 

一毅「ブラコン……ねえ……キンジのとこにもいるけどな」

 

大翔「え?キンジさんにもいるんですか?」

 

キンジ「んまぁ……なぁ」

 

ライカ「序でにキスもしましたよね」

 

魔法科の皆『妹とキス……』

 

キンジ「でぇい!無理矢理やられたんだ!ドンびくな!」

 

かなめ「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!!!!!!!」

 

キンジ「呼んでねぇえええええええ!!!!!!!こんな時に混乱するから来るなぁああああああああ!!!!!!!」

 

大翔「あれが件の妹か?」

 

陽菜「うむ……遠山かなめ殿……歳は我らと同じ16でござる」

 

かなめ「お兄ちゃんが呼ぶ声を聞きつけここに見参!」

 

キンジ「呼んでねぇよ!一切合切呼んでねぇよ!かなめのかの字も出してねぇよ!」

 

かなめ「大丈夫だよお兄ちゃん……きっちり事態は収集してあげるから」

 

キンジ「嫌な予感しかしない……」

 

かなめ「皆……私はブラコンじゃないよ……私はただ単にお兄ちゃんと一線越えて結婚したいだけだよ!」

 

一毅「アウトォオオオオオオオ!!!!!!!」

 

魔法科の皆『うわぁ……』

 

白雪「ち、違うよ!キンちゃんは確かに女の子を片っ端から落としていっていつの間にかハーレムを作ってたりするし……」

 

理子「取り合えず息するように口説くし……」

 

陽菜「フラグ建てまくっていくでござるし……」

 

白雪&理子&陽菜『でも最高の男だよ!』

 

 

ロキ「まあそれお兄ちゃんも言えるけどね」

 

一毅「ごふぅ……」

 

志乃「と言うか谷田君以外複数の女の子からですもんね……」

 

大翔「まあ達也もモテるよな?ほのかとかそこそこモテるだろ?」

 

達也「だが俺は手を出してないぞ」

 

深雪「で、でもかなめさん。兄妹でそういうのは……」

 

かなめ「呼び捨てで良いよ深雪……でも考えてみて、むしろ何がいけないの?」

 

深雪「え?それは兄妹では……」

 

かなめ「それは昔のお偉い人が勝手に決めたものだよ!それに昔のとある上流階級の人は血筋の濃さを保つため近親相姦をしてたらしいよ」

 

深雪「そ、それは……」

 

かなめ「それに考えてみて……女は良い男に惹かれるんだよ……生物学でもそれは判明してる。そして兄が良い男だったら……惹かれるのは普通だよ。つまり周りの男が対したのがいないのが悪い!私たちは悪くないんだよ!」

 

深雪「っ!!!!!!!」

 

ライカ「今深雪に電撃が走ったような表情になりましたね……」

 

一毅「何かで会わせてはいけない出会いが起きてしまったようだな……」

 

アリア「何だって妹って言うのは変なのばっかりなのかしら」

 

あかり「そう言えばアリア先輩も妹さんいましたね」

 

達也「大変そうだな……そっちも」

 

キンジ「まぁ……そっちもな……」

 

辰正「どこもお兄ちゃんは大変なのでした。ちゃんちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「でもさ……まさかこの作品が何だかんだで一年も続いて100話も突破して……実は個人的にこの作品は結構特別なんだよね」

 

一毅「そうなのか?」

 

咲実「そりゃあね。と言うかこの作品の書き方が他の作品の書き方に反映とかされてるんだよね。それにこの作品との付き合いも長いしねぇ。やっぱりどこかで特別な作品なんだよこれは」

 

大翔「まあそれも良いけどこっちの作品も少しは進めてくれよ。せめて月一……いや、二週間に一回くらい」

 

咲実「善処いたします……いやぁ、でもさ……いつかこの作品二つをコラボさせてみるのも面白そうだよねぇ」

 

キンジ「え?マジで?」

 

咲実「ほら、やっぱり一毅と大翔のオリ主対決とか一毅と魔法剣士のエリカをぶつけてみるのも面白いし……まぁ一毅の方が強いと思うけど」

 

エリカ「私だって嫌よ……せめて人間と戦いたいし」

 

一毅「失敬なやつだな……人を化け物みたいな言い方しやがって」

 

レキ「まあ一毅さんは人間にカテゴライズして良いか微妙ですけどね」

 

一毅「レキィ……そりゃああんまりだぜ……」

 

咲実「さて、突然の特別編でしたがともかくこの作品を見てくれたり登録してくれたり高評価くれたり続き待ってますなどの感想を態々送ってくれたりする方々……そんな皆様のお陰で何とか一年続きました。勿論これからも楽しみながら書いていきますのでよろしくお願いします!」

 

大翔「そしてこれで俺の出てる作品に興味が出た人がいたら嬉しいです」

 

一毅「勿論どんどん、俺も活躍してくからよろしくな!」

 

皆『と言うわけでこれからもよろしくお願いします!バイバーイ!』



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龍の仮面舞踏会

「うーん……」

 

ロキからの告白の次の日……一毅はロキと一緒にキンジとジャンヌの二人と合流していきなりスーツとかドレスとか売ってる店に連れ込まれ白スーツを着せられた……無論キンジもサイズ以外は全部同じのやつを着用済みである。

 

「こう言うかたっくるしいのは嫌いだ」

「仕方ないだろ……一応舞踏会なんだしよ」

 

と一毅の呟きにキンジは突っ込んだ。

 

「そういえばお前ロキとなんかあったのか?」

「え?何でそう思うんだ?」

「機嫌がよかったから何となくだよ」

 

この親友は自分の色恋は儘ならぬ癖に他人のには聡い……まあそこが遠山キンジクオリティーなんだがな……

 

「まあ色々っつうか……まあ察してくれ」

「……取り合えず察したよ……お前も大変だな」

「お前だってアリアと離れて寂しくなってないか?」

「んな訳ねぇだろ。フランスにきてまだ二日目だぞ。麻薬じゃあるまいし」

「でもオランダは平気だったはずだぜ?」

「あぁ……武藤が言ってたな。他にも売春とか日本じゃ違法行為なのだ殆ど合法だって」

「いつか行ったら見れるぜ?」

「その前にオランダには行くことないだろ……ちゃちゃっと欧州を優勢にして日本に帰りたいんだ」

 

アリアに会いたいからな……と一毅がキンジの声真似をしてからかうとキンジの額に青筋が走ってベレッタをちらつかせてきた……流石に抜いてくる真似はしなかったが一毅は素直に謝っておく……何てことをしてるとジャンヌとロキが出てきた……

 

二人とも綺麗だった……一毅とキンジも突然の登場……と言うか降臨した二人に唖然としてしまった。

 

女は化ける……化粧、服装、成長……様々な要因で生まれ変わったかのようになる……と昔金一が言ったのを二人は思い出していた。

 

「ど、どうかな?」

「似合うか?」

 

と聞いてくるロキとジャンヌに一毅とキンジは頷きしか返せない。反則級の変貌……女って怖いね。

 

「で?どこにいけば良いんだ?」

「ガルニエ宮殿だ」

 

キンジが聞くとジャンヌが答える。何でもそこで師団(ディーン)の戦士であるメーヤと合流するらしい。

 

メーヤか……確かバチカンのシスターででっかい剣をぶん回す人だ。少し前に話していたこともある。

 

「メーヤはとにかく運が良いからな」

「運って……幸運とかの?」

「ああ、そう言う魔女でな。武運に恵まれてると言うやつなんだ。相手取るととにかく不幸が降りかかってメーヤ有利に運ぶようになる」

「何か眉唾な話だぜ」

 

とキンジが言うとロキが口を開いた。

 

「でも昔から運とかは研究されてきたもっとも原始的な魔術なんだよ遠山キンジ先輩。それに二人の存在よりよっぽど現実的な気がするよ?」

『おい……』

 

ロキの言葉にキンジと一毅は眉を寄せた。自分達の存在は超常現象より摩訶不思議かい。

 

「ま、何にせよまずはメーヤと合流してからでないと話は進まない。行くぞ」

 

と、ジャンヌが店の前に停めておいたタクシーに一毅たちは乗り込んだのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ……」

 

店からタクシーにのって暫くすると見えてきた建物に一毅は唖然とした。

 

「でっけ……」

 

当然外見の華やかさもあるがそれを含め一毅は初めて見るものに眼を奪われた。キンジも随分金を掛けてると俗物的な感想を漏らす。

 

「さて、お前たち」

 

とタクシーを降りるとジャンヌが突然仮面を渡してきた。

 

「何じゃこれは」

「言ってなかったか?これは仮面舞踏会だ」

『……聞いてねぇよ』

 

とジャンヌが首を可愛らしくかしげたが一毅とキンジは首を横に降る。

 

「まあ良い、中ではつけていろ。後はこれだな」

 

とジャンヌは馬のぬいぐるみを渡してきた。

 

「メーヤは牛のぬいぐるみを持っている。言わば目印だ」

「ふーん」

 

一毅は仮面を着けながら馬のぬいぐるみを手でポンポンやって遊ぶ。

 

「それじゃあ行くか」

 

キンジが言うと四人はバラバラに行動を開始した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけで欧州に来て初めて放し飼い……もとい、一人行動の一毅だが人の間をすり抜けつつメーヤを探す。牛か……牛……牛乳……乳……そう言えばメーヤって胸でかかったよなぁ……

 

(って何を考えてんだ俺は……)

 

一毅は首を横に振って頭に浮かんだ意識を追い出す。それにしても人が多い……この中からメーヤだけ探せと言うのは無茶なんじゃなかろうかと考えてしまう。

 

「はぁ……」

 

とは言えこのパーティの中で景気悪いオーラを出していては浮いてしまう。さてどうするか……

 

「ん?」

 

ふと一毅が顔を動かすとその先にはバーが見えた。ふむ……フランスは確か飲酒年齢はワインやビールは16以上……蒸留酒等は18以上で飲める……一毅はまだ17才なのでまだワインやビールしか飲めないが飲んでも問題はない……

 

「飲んじまうか」

 

一毅は軽やかな足取りでバーに向かう。どうも中国以降この男は酒の味を占めてしまい日本では我慢しているがまた飲みたいと言う気持ちがあった……外国と言うことでここはひとつ飲ませて頂きましょう。

 

だが一毅は無料で種類を提供してくれるバーに向かって足を動かそうとして思い至った……

 

(俺フランス語喋れないから注文できないじゃん)

 

こっちに来てからの会話は全てロキに任せてたので一毅はフランス語を話せない……「こんにちわ」ですら未だに「ハロー」と思っており英語とフランス語の区別がつかない一毅では酒一杯の注文すら【フェルマーの最終定理】を解くのに匹敵しかねないほどの難問である。

 

因みに【フェルマーの最終定理】とはフェルマーと言う数学好きの男が死ぬ前に残した問題で数学界の最大難問と呼ばれその問題の内容は《3 以上の自然数 n について、xⁿ + yⁿ = zⁿ となる 0 でない自然数 の組が存在しない》と言うのを証明せよと言うものだ。一見簡単に見えて何とそれが発表されてから360年間誰にも証明、反論出来なかった恐るべき問題であり詳しくはグーグル大先生に聞いてほしい。

 

まあともかく日本人の意思疏通ですら言葉を間違えて覚えていて怪しい一毅が外国人の意思疏通なんてものは宇宙人との交信をするようなものだ。ムリムリ絶対無理。と一毅は諦めた。だがよく見るとバーの近くに人だかりができていた。何事?

 

「え?」

 

なんの騒ぎかと一毅は見てみると体が固まった……何せその視線の先には……

 

「プハァ……」

 

牛を小脇においてホルスタインのような胸を揺らしドデカイ剣をポイっと無造作においている女性がいた……いや、この女性は恐らく間違いないのだが……

 

「メーヤ?」

 

人混みを掻き分け近くにいくと小さな声で呟いて(勿論日本語)みた……そして、

 

「はい?」

 

とその女性は振り返った……ああ、やっぱり……

 

「よう……メーヤ」

「その声は……一毅さんですか?」

「ああ……」

 

一毅は頷くとメーヤはパァっと仮面越しでもわかる笑みを浮かべた。

 

「なんと無くここで待っていれば見つけていただける予感がしたんです」

「さいですか……」

 

そりゃあこれだけ目立てば嫌でも見つかるだろう。

 

「あ、ではこれどうぞ」

「は?」

 

いきなり渡されたのは酒の瓶だった。

 

「ほら、こういうのって確か駆け付け一杯って言いますよね?」

「ああ~」

 

使いどころを間違えているのだが外国育ちのメーヤと日本語があやふやな日本人の一毅では突っ込むものはおらず一毅は念願の酒を飲んだ。喉を通っていく独特の熱……胃袋にズシンとくる後味……結構強い酒じゃないか?

 

「どうですか?」

「やっぱり美味しいですけど俺17なんで多分蒸留酒は違法……」

「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」

 

おい、シスター……良いのかそれで……

 

「それにそんなこと気にするような方はこのような仮面舞踏会に参加しませんよ」

「どう言うことだ?」

 

諦めて貰った酒を一毅は飲みつつ解散していくギャラリーを見送りメーヤに聞く。

 

「素顔を隠しながらこのような場所にこられるのです。ここは秘密の会合や密かな蜜月を過ごすために仮面をつけ、そして楽しむ場所です」

「そう言うことか……」

 

どおりでキナ臭いオーラの人が時々いたわけだと一毅は思う。

 

「おい一毅」

 

と、突然呼ばれ振り替えると他の面子が丁度来た。

 

「おぉ、メーヤここにいたのか」

「あらジャンヌさん、それに遠山さんと……ええと」

「開幕の時にウルスの使者がいただろ?その子だよ」

「ロキです……」

 

ロキは自己紹介しながらもその視線はメーヤの胸にロックオンしていた……そして自分の胸をみて……

 

「世界って広いねお兄ちゃん」

「は?」

「私スタイルでは負けって思ったことなかったんだけどやっぱりヨーロッパはボインと言うかバインと言うか……とにかく凄いよね」

「はぁ……」

 

一毅は曖昧に頷いた……だって他にどう言えと?

 

「ま、お姉ちゃんとライカには勝ってるけどね!」

「二人に激怒されるぞ……」

 

一毅は苦笑いしつつそう言う。

 

「よし、メーヤと合流できたことだし移動するぞ」

「え?」

 

ジャンヌの言葉に一毅が嘘でしょ?みたいな顔をした。

 

「何かあるのか?」

「いやお酒をもう少し飲みたいと……」

「よしお前らこの馬鹿運ぶの手伝え」

 

と、仮面越しでも分かるほどの怒りを放出したキンジが一毅の首根っこをつかんで引きずる。

 

「いやだぁ!もうちょっと飲むー!」

「駄々をこねるなガキかお前は!つうか未成年だろ!」

「フランスでは合法だぞコンチクショウ!」

「だぁー!うっさい!行くったら行くんだよこの大馬鹿!」

「嫌じゃぁああああ!!!!!」

「嫌でも行くんだよ!」

 

と、幼馴染み二人は仲良く?その場を後にしていく。それをみたメーヤが、

 

「仲がよろしいんですね」

「うむ……時々あの二人が付き合ってるのかと思うときもある」

「いやいやお兄ちゃんも遠山キンジ先輩もノンケのノーマルだからね?」

 

何て言う女性陣のやり取りがあったことはキンジと一毅は知らない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにその頃日本では……

 

『っ!』

「ど、どうしたの二人とも?」

 

キンジ達の身を案じつつバスカービルと一年の面子は桃鉄大会を開催していたがいきなりレキとライカが立ち上がり驚愕する……突然の行動にアリアが聞くと……

 

『今喧嘩を売られました……』

『はい?』

 

二人の言葉に他の皆は首をかしげることしか出来なかった……




人気投票はまだまだ受け付けています。良ければお願いします。


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龍と金の幸運

「へぇ……」

 

一毅は感嘆の声を漏らす。

 

現在一毅たちはルーブル美術館に来ていた……なぜかと言うとメーヤと無事合流した次の日……メーヤが白雪で言う占いの託のようなものを感じここに来ると良いことが起きると言ってきたのだ。まあようは勘なのだがメーヤの幸運がこちらに来ると言う力の都合上無視はできない。どうせ行く宛てもないので皆でここに来たのだ。

 

「分かるか一毅」

「全く……つうかなんでこの絵がすごいと言われるのかも見当がつかん」

 

と、ご先祖様である宮本武蔵の描いた絵が美術館に飾られても全く何が凄いのか分からない一毅に聞く方も聞く方かもしれないがキンジもまぁ皆が凄いと言うのだから凄いんだろう……的な感想しかでない……すると突然一毅の顔が少し歪んだ。

 

「いつつ……」

「どうした一毅?」

「いや傷がまた痛んだんだ……ったく……さっさと治らんかい」

 

と呂布に着けられた傷をペシンと叩いてあまりの痛さに一毅は蹲った……バカである。

 

「ったく……気を付けろよ、戦いになったらヤバイんだからな」

「ルウ位強いやつが出てこなきゃ平気だろ……」

 

あんなのが行く先行く先で現れるとも思えない……まぁ、居られても困るが……

 

「まあそうかもしれないけどな」

 

とキンジが頷いてるとロキが来た。

 

「ねぇお兄ちゃん、あっちにモナリザがあるよ」

「ああ、モナリザの苦笑いか……」

「微笑みだ……それじゃまるで描かれるのが嫌だったみたいだろ」

 

 

そんなやり取りをしながらモナリザの辺りまで移動するとジャンヌとメーヤが角の辺りで覗き込むように角の先をみていた。

 

「何してんだ?」

「む?遠山たちか、みてみろ」

「見てみろって何を……――っ!あれは……」

 

三人も覗くとキンジは目を見開いた……その先に居たのは可愛らしい模様の眼帯に小柄な体躯……少しツンとした目付きの少女がその他大勢の女の子たちの中に紛れていた。あの顔は……カツェ・グラッセ……魔女連隊と言う秘密結社みたいなのに属する眷族(クレナダ)の代表戦士……

 

だが一毅は、

 

「誰か知り合いでもいたのか?」

『っ!』

 

ズコっと一毅以外がずっこけた。勿論一毅以外はカツェの存在に気づいてるが一毅は完全に顔や姿形を覚えていない。

 

「お前覚えてねぇのか!見てみろあの眼帯少女を!」

「……ええと……あ!そう言えば見覚えがないようなあるような……」

「ほら、開戦宣言の時にいたでしょ?メーヤさんと言い合ってた人」

「あぁ~思い出した。確か~マロン・グラッセだっけ?」

『それはお菓子の名前……』

 

皆でこそこそ話ながら一毅の大ボケに突っ込んだ。こんなところで大騒ぎなんぞしようものなら警備員につまみ出される。だが一毅のやつ全然名前覚えてねぇじゃねぇか!

 

「カツェ・グラッセだ……敵の名前くらい覚えとけ馬鹿」

「あはは……ま、まあ敵何ぞ名前覚えてなくたって良いんだよ、リーダーのお前がいった相手と俺は剣を交えるだけだからな」

「知ってるか桐生……それを思考の放棄と言うのだぞ?」

「…………クスン……」

 

一毅はそっぽ向いてしまった。拗ねるなよ……

 

「まぁまぁ、そこがお兄ちゃんの可愛いところだしさ」

「ロキ、あまりこいつを甘やかすな」

 

とキンジが言っていると、

 

「皆さん、向こうで動きがありましたよ」

 

一人見ていたメーヤが教えてくれたため皆でその後を追う。

 

「ん?」

 

すると入り口で止まった……そうか……これは学校の課外学習だったのか……つうかカツェは普段は学生なんだな……みた感じ友達いないけど……

 

「しかしまさか敵と会うとはな……」

 

とキンジが呟くとメーヤが、

 

「恐らくこれは私の魔術の影響です」

 

確かにこの広いパリでピンポイントで見つけるなんてよほど運が良くないと無理だ。だがあとでロキに聞いたがメーヤのような運命的なものを操る魔術は別の場所で不運な目に遭うとのことだ。

 

つまり差し引きゼロにしようと世界の理が動かす……と一毅は頭から湯気を出しそうになりながらロキの説明を一毅なりに解釈した。

 

そんな事を考えてるとカツェたちが解散した。カツェは一人残ってるけど……

 

「うまくいけば魔女連隊の拠点が分かるかもしれませんね」

「しかしあれは有名なお嬢様学校だぞ……学費も高いがな……」

「ん?なにか来たぞ」

 

少し雑談しながら待っているとカツェの元にバイクが来た。確かあれはケッテン・クラートとか言うナチスが作ったバイクのはずだ。

 

「なるほどな……追うぞ」

 

バイクが走り出すのと同時にキンジが合図をだし皆は追っていく……幸い目立つしスピードもあまりない。

 

「意外とロキさんって運動神経が宜しいんですね」

「まあね、一応鍛えてるよ」

 

何て追跡しながらメーヤとロキは話す。

 

「でも走ると胸が揺れていたいんだよねぇ」

「私もです。夏なんか汗疹できますしかわいいブラジャーもつけられないし」

「スッゴク分かる。ジャンヌ・ダルク先輩くらいが一番いいよねぇ」

「む?そうか?」

 

追跡中にどういう会話だよとキンジと一毅は内心突っ込んだが勿論なにも言わない。

 

何て茶番を交えつつ追跡を続けると飛行場にたどり着いた。そしてそこにはなんとドデカイ飛行船が……

 

「うーん……中には武器とか食料を詰め込んでるみたいだね」

 

と、ロキが狙撃銃のスコープを使って情報を教えてくれる。さて……どうするかね……カツェがあそこに入っていくのは見えてる……

 

「ハッチも緩いし潜入しようと思えば出来るのな……」

 

とジャンヌが言うとメーヤが顎に手を添える。

 

「この場合まず相手の拠点にたどり着けること……そしてそこからの連絡」

「つまり……何があっても多少のことでは死なないし荒事になっても切り抜けられる人……」

 

スゥっとジャンヌ、メーヤ、ロキの視線が固定された。

 

「……分かったよ、どうせそう言うオチなのはわかってたさ」

「ま、そうなるよなぁ……」

 

キンジと一毅はため息をつきながら立ち上がる。

 

「あ、そうだお兄ちゃん、これあげる」

「これは……カロリーメイト?」

「うん。一応何があるか分からないし持っていきなよ」

「サンキュー」

 

一毅はロキに礼を言うと持ってきておいた龍桜を制服の上に着る。キンジも同様だ。準備も万端……それじゃあ……

 

「帰ってきたら米の飯が食いたいなぁ」

「お前もう日本食が恋しいのか?」

 

と言いながら二人は飛行船に忍び込んだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかしいろんなものを詰め込んでるなぁ……」

 

一毅とキンジは仲良く忍び込んだがしばらくすると飛び上がっていくのを感じつつ物色していた。どこか丁度よく隠れられそうな場所を探してるのだがキンジは近くの箱に乗って毛布みたいなものを掛けておけば良いが一毅が隠れやすそうな場所はロッカー位しかない……しかしずっとロッカーの中では体の形が四角になってしまう……だが、

 

『っ!』

 

一瞬だけ聞こえた人の声……一毅とキンジは反射的に隠れた……

 

キンジは箱の上に埃避けの布を被って……一毅はロッカーに……

 

「お前ら揺らしたら許さないからな」

 

そう言って入ってきたのはカツェだった……なぜこいつがここに……と思っていると徐ろに制服を脱ぎ出した。

 

『っ!』

 

キンジは慌てて視線をそらし一毅は必死に息を潜めた……これでは自分達は女子中学生?と思われるカツェの着替えを覗く変態である。何としても隠れ通さなければならない。

 

「ん~」

 

カツェは凡そ年に似つかわしくない下着姿になると近くの鏡を覗きにっこり笑う。うむ……顔はいいから可愛いじゃないか。

 

「しかしまさか桐生 一毅と遠山 キンジがこっちに入ってきたってのは本当か……」

『っ!』

 

既に相手側には噂程度には知られてるらしい……流石に少し早すぎないか?いや……バレてても仕方ないが少々情報が早い……

 

(内通者……)

 

ふとその時キンジの脳裏にフランスに旅立つ前にその時はまだ同行するとは思ってなかったワトソンから聞かされていたことを思い出す。

 

もしかしたら……の存在……まだ確証はないが欧州の劣性の影には師団(ディーン)の内通者の存在があるらしい……一毅はこの事を知らない。と言うか知ってるのは仲間内ではキンジその事を話したワトソンだけだ。

 

(内通者……そんなもん居ないのを願うぜ)

 

何てキンジが考えてるとカツェは着替えを出そうとロッカーに手を……ウゲ!

 

(あれって一毅が飛び込んだロッカー……)

 

キンジは悲鳴をあげそうになった……寄りによって数あるロッカーのうち一毅の飛び込んだロッカーはカツェの着替えがあったらしい……

 

「あれ?開かないぞ?」

 

だがしかし一毅が中からガッチリ掴んでいるためロッカーは開かない……一毅の腕力にかかればカツェの開けようとする力なら余裕で勝てる。

 

「おっかしいな……扉が歪んだのか?はぁ……今日は厄日だ……くそ!」

 

グイグイ引っ張るが勿論開くわけない。頑張れ一毅!キンジが応援してると飛行船が揺れた……

 

「っ!」

 

カツェは突然の揺れに体制を大きく崩した……だが同時にロッカーの中では無理な体制で中から扉が開かないようにしていた一毅の指からスポーンと握っていた場所が滑って手から離れていった……

 

「あ……」

 

勿論その結果……

 

「え?…………」

「よ、よぉ……」

 

ロッカーの扉は開かれ中ですっぽり嵌まっていた一毅と下着姿のままのカツェの目と目が合う……瞬間……

 

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!」

 

カツェ大絶叫である。そりゃいきなりロッカーの扉が開いたかと思えば一毅が入っていれば驚きであろう。可愛らしい悲鳴をあげながら辺りにあるものを片っ端から投げつける。

 

「うわぉ!」

 

一毅は慌てて扉を閉めてガード……だがカツェは今度は銃を出してきた。こっちを殺すきかこいつは……殺すつもりだよね。と思った瞬間カツェから銃が奪われた。

 

「え?」

「俺の仲間だからな……悪いがそれを撃たせるわけにはいかないんだ」

 

と、キンジがカツェから銃を奪う。ヒスってはいない……(メザ)ヒスと言うやつだ。カツェの下着姿でも軽くではあったがヒスれた。

 

「よし……」

 

一毅はその隙にロッカーから出ようとしたがキツい……無理矢理ロッカーを少し変形させて無理に出ると、

 

「これはなんの騒ぎ!」

 

そこに現れたのは複数名の武装した女性たちとその先頭にはキツそうな視線をする一部特定の男性から好かれそうな女性……

 

「イヴィリア様……」

「…………カツェ……確かあなたは着替えにここに来たはずよね……」

「は、はい」

 

イヴィリアと呼ばれた女性が言うとカツェは頷く。

 

「ではなぜここに【(エネイブル)】とロッカーを変形させながら【応龍】が出てきてるのですか?」

「私にもさっぱりで……」

 

ですよね……とキンジと一毅は苦笑いする。

 

「まぁ、次から荷物チェックは厳しくした方がいいぜ?」

 

とキンジが皮肉を言うがこれからどうするか悩む……このままでは捕まる……いや、倒すのは容易だが相手は全員女だしな……一毅も女相手に力は出せる性格じゃないし自分は論外……となると、

 

「一毅……お前高所恐怖症じゃないよな?」

「ん?あ、ああ……どうするんだ?」

「逃げる算段だよ」

 

キンジは肩を竦めつつ言う、

 

「あら逃がさないわよ」

 

とイヴィリアが口を開いた。

 

「あぁ……パラシュート二つこっちにくれれば大人しく出ていくんだけど……」

「そう言うわけにもいかないのよ、貴方達には上が興味持っててね……もし出会ったときは連れてこいっていわれてるのよ」

「いやぁ……キンジモテモテだね」

「達ってことはお前も入ってると思うぞ」

 

だろうね……っと一毅は言いながら肩を落とす。

 

「そう言うわけだから大人しく投降して貰うわ」

「どうするキンジ?」

「お前なら何を言いたいか分かるんじゃないか?」

「ま、なぁ……仕方ない、二天一流・絶技……」

『っ!』

そういった次の瞬間一毅の体から深紅のオーラ(レッドヒート)が出る。

 

「怒龍の気位」

「何を!」

 

イヴィリアが口を開いた瞬間一毅は一瞬の間に後方の緊急用のハッチ開閉装置の前にいく。

 

「しまった!」

 

イヴィリアが驚愕する中一毅は言う。

 

「何かにしっかり捕まっとけよ、ポチっとな」

 

一毅はカチッとスイッチを押すと緊急を知らせるブザーが鳴り響きハッチが開いていく。

 

「一毅!」

 

すると突然のキンジの声……一毅は無意識に心眼を発動させ次の瞬間響いた銃声を聞きつつ同時に飛んできた銃弾を殺神(さつがみ)を瞬時に抜いて切り飛ばした。

 

「お前か……」

 

銃を撃った張本人であるカツェの顔を一毅は見る……既に服を着ている辺りは年頃の羞恥心があるらしい。

 

「てめぇ人の着替えシーン覗いといて逃げるってのか?ふてぇ野郎だぜ」

「だからあれは不可抗力だって……」

 

一毅は肩をすくめる。

 

「んなもんどうだっていい!やれ!エドガー!」

「っ!」

 

そこにカラスが突っ込んできた。爪が紫だし毒爪か?

 

「おっと!」

 

だが一毅はそれをヒョイと躱すとキンジと背中合わせになる。

 

「キャア!」

 

それと同時にハッチが完全に開閉し風が入ってくる……それにより相手のスカートがまくれ上がった……

 

「ふぅ……こう言うのも不幸中の幸いって言うのかな?」

「さぁな……」

 

と完全に今の光景でヒスったキンジと一毅は言って笑い合うと……

 

「一毅……これは殲滅戦じゃない。パラシュート取って逃げる……いいな?」

「了解。リーダー」

 

そんなやり取りをする二人をイヴィリアやカツェ達は逃がさぬように取り囲む。

 

「逃がさねぇからな覗き魔野郎!」

 

憤慨するカツェ……

 

「安心しろって……俺はアリアやあかりに興奮するキンジや辰正と違ってロリコンじゃないからお前じゃ何ともないって……」

「それはそれで失礼だぞこの野郎!」

「一毅……お前喧嘩売ってるのか?」

 

何てふざけたやり取りを交わしながら一毅とキンジは戦闘体制にはいった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃の日本では……

 

『っ!』

「ど、どうかされたでござるか?」

 

突然立ち上がったアリア、あかり、辰正の行動に他の面子は首をかしげる。

 

「今私バカにされた気がするわ」

「奇遇ですね。私もです」

「僕も今猛烈に腹が立ちました……」

『?』

 

三人のよくわからない怒りの様子に首をかしげることしか他の人間はできなかった……




一毅「まだ人気投票は活動報告の方で受け付けてるぜ、宜しくな」

咲実「あ、そうそう。これで一毅が一位とれなかったら主人公首にするからね」

一毅「え?」

咲実「勿論主人公は一位になったやつになるからね」

一毅「えぇえええええええ!!!!!」







勿論冗談ですよ?何があろうと一毅が主人公です。


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龍と厄水の受難 前編

本日9月23日はアリアの誕生日ですね。おめでとう永遠のロリータヒロインアリアさん……ん?誰か着たようだ。


「っ!」

 

一毅は飛んできたエドガーと言うカラスの爪を躱す。こいつが意外と鬱陶しい。他にもカツェ達を相手してると言うのに死角からちょいちょい攻撃してくる。心眼があるから回避は可能だがそれでも意識が割かれるため面倒である。

 

「この野郎!」

 

と一番自分に殺意をぶつけてくるカツェが来た……相当覗かれたのに腹を立ててるらしい。不可抗力なんだがなぁ……ってこういうのって何時もならキンジの仕事だよな。何だって俺がこんな目に……と一毅はぶつぶつ言いながら躱す。そうしながら、

 

「お前も女ならちったぁ言葉遣いに気を使ったらどうだよ」

「覗き魔やろうには言われたくねぇ!」

「だから不可抗力だって!」

 

と言い訳をしつつカツェのナイフを回避して一毅は距離をとる。

 

カツェの戦闘能力は高くない。勿論彼女は魔女である。近接戦闘より魔術系統が得意なんだろう。お陰で怪我した体にも優しい。だが……

 

「なら今度はこれだ!」

「っ!」

 

カツェは突然水筒を取り出すと中身をぶちまけた……するとそれが弾丸のように襲いかかる。

 

「おぉっと!」

 

一毅はその光景に少し驚きつつ回避できるのはして、できないものは刀で弾く。因みにその水弾は後ろにあった木箱を簡単に貫通しているのを考えると直撃したら結構危なそうだ。

 

「そっちは大丈夫か?」

「勿論だよ」

 

一毅はキンジの方に声をかけるとキンジは相手を優しく捌いてやりながら床に座らせる。ヒステリアモードなので極力女性には優しくだ。孫みたいなのは例外として……

 

「この!」

 

イヴィリアが銃を撃つ……

 

「ん?」

 

が、銃弾はパシッとキンジがキャッチして止める。

 

「あづづ!」

 

無論オロチをしていないので手を軽く火傷したが……

 

「あり得ないわ……銃弾を刀で弾いたりキャッチするのを普通のスキルとして使うって……」

 

イヴィリアはジトォっと言う目で見る。他の面子も同じような表情だ。失礼しちゃうぜ。

 

「さて……どうする?」

「一気にいくしかないだろ……こんな場所じゃ……」

「だよなぁ」

 

そう言って二人は意思疏通を終えると一気に足に力を込めて二手に別れる。

 

「来るわよ!」

 

イヴィリアが命令して隊列を組んだ相手が銃をぶっぱなす……

 

「おぉ!」

 

それをキンジは壁を蹴って飛び上がって回避するとベレッタをぬいて相手の銃をフルオートで全て撃ち落とす……

 

『なっ!』

「オッラァ!」

 

反対に一毅も放たれる銃弾を刀で弾いたり回避したりと心眼をフル稼働させ一気に間合いを詰めると銃を全て叩ききる……

 

「いただき!」

 

しかもそのまま相手の脇をすり抜けパラシュートを奪うと一つキンジに投げる。

 

「ありがとよ!」

 

キンジはそれをキャッチして下に着地すると二人は一気に解放されたハッチの方に走り出す……が、そこは問屋が卸してはくれなかった。

 

「やべっ!」

 

一毅たちの死角から襲いかかるエドガー……一毅は咄嗟に心眼でキンジを突き飛ばし回避したがそこを狙ってカツェが銃を撃つ。

 

「くぅ!」

 

刀で弾くがなんと無理な体勢が不幸を呼んで手を滑らしてパラシュートを落とす。

 

「あぁ!」

 

無論パラシュートはそのままハッチの上を転がりそのまま落下していった……

 

「ぜってぇ逃がすかぁ……」

 

カツェは正に死に物狂い……覗かれたのがここまで人を変えるとは……と思いたくなるほどだった……と一毅は思ってしまうほどカツェがしつこい。

 

「ナイスよカツェ」

 

こっちは全然ナイスじゃねぇよとイヴィリアの言葉にたいしてキンジと一毅は思う。さてどうしよう……もう脱出するつもりだったため開閉したハッチの上に二人はいる……もう一度パラシュートを取りに行くとなると中々面倒だ。相手は武装してる……撃ち落とされたり切られたりした相手も既に積んであった銃器で武装し直している……パラシュート一つで一毅とキンジは降りれるだろうか……どっちかがアリアやレキくらい軽かったりすれば別だが残念ながらどっちも体重はある程度はある。下手すると地面と激突だ……

 

「一毅……NOロープバンジーは平気か?」

「この高さからやったら流石に死ぬと思うんだが……」

 

だよなぁ……とキンジが苦笑いすると相手が距離を詰めてくる。

 

「どうするよ……」

「あぁ……天にでも願ってみるか?あぁ神様……どうか私たちをお助けください……何てな」

 

キンジがふざけて祈った瞬間……

 

『え?』

 

なんと突然飛行船が激しい揺れを生じた……

 

「うわわ!」

「おっとと!」

 

恐らく気流が激しいところにはいったんだろう。突然の揺れにその場の全員が踏ん張って耐えていた……

 

「おいキンジ!お前何時から祈祷師にでもなったんだよ!天候までお前は誑かしたのか!」

「知るか!……いや、もしかして……」

 

キンジはなにか心当たりがあるようだ。

 

「俺たち昨日今日とメーヤと行動しただろ?ジャンヌに聞いたんだがメーヤの幸運は多少伝染するらしい……何かしらの形で武運に影響を与えたんじゃないか?ほら……窮地を改善してくれる的ななにかをさ」

「マジかよ……ならさっさと消せ!俺たちも危ないわ!」

「出来てたらしてるっつうの!」

 

何て二人が言い合ってると激しい揺れがまたきた……

 

「くっ!」

 

一毅とキンジは素早く伏せて耐えた……だが小柄なカツェが宙を舞う。

 

「カツェ!」

 

それを見た一毅は素早く立ち上がり疾走……カツェの体を掴もうとするが揺れが激しく素早い移動は無理だ……その間にカツェの体はハッチの外に出てしまう……

 

「クソ!一毅!」

 

それを見たキンジは素早くパラシュートを一毅にパスする。

 

「助かる!」

 

一毅はそれをキャッチするとそれを身に付けながらカツェを追ってハッチから飛び降りる。

 

「くっ!」

 

気流が激しい中を飛んだため目を開けているのが辛い……だがカツェを見失わないように一毅は空気に抵抗しない体勢で一気に落下していった。

 

「さてと……」

 

一方キンジはすぐに止んだ揺れの中パラシュートも失い敵に囲まれている……一毅を追いかけるのは流石に死ぬだろうし無理だろう……そうなるとだ……

 

「はぁ……降参だ」

 

投降……しかない。幾らなんでもこの状況を打破する術はない。ならせめて敵地くらい見ていこう。

 

そう思い銃等の武器を向こうに転がす。一応銃は相手が持っていくらしいが弾は勿論捨てられた。

 

「捕らえなさい」

『はっ!』

 

向こうは警戒しながらキンジをとらえる……流石に油断はしてくれないようだ。まぁ……当たり前だろうな。

 

「カツェ……」

「大丈夫だよ」

 

カツェが落ちていった方を見るイヴィリアに手錠(滅茶苦茶頑丈だ)を付けられるキンジは言う。

 

「え?」

一毅(あいつ)がそう簡単に死ぬとは思えない。それに俺たちは武偵だからね。武偵法9条を破るような真似はしない。カツェも自分もどっちの命も守るさ」

 

キンジは一毅が落ちていった方を見ながらそう言った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カツェ!!!!!」

 

その頃一毅は急速落下しながらカツェになんとか追い付く……

 

「ち!それ寄越せ!」

「てめぇは助けに来た恩人にたいしてそう言う恩の返し方すんのか!」

 

と、追い付いたカツェからパラシュートを奪われそうになり一毅は慌ててカツェをがっちりホールドしてパラシュートを開く……

 

『っ!』

 

急激な減速……だがそれでもまだかなりの速度が出ているのにもう地面が見えてきた……これは……最悪だ、雪山である。だがもう動けない。速度は出ているが……仕方ない!

 

「カツェ!喋るなよ!」

 

と一毅は自分がカツェと地面の間に入るようにカツェを動かし地面に着地……と言うか叩きつけられる……

 

「かはぁ……」

 

そしてそのまま地面をしばらく滑り遂に止まった……

 

「イッテェ……」

「クソ!」

 

カツェは慌てて立ち上がり一毅もパラシュートを外しながら立ち上がる。

 

「窮地に一生……ってやつかね」

 

正しくは九死に一生だがここには突っ込むものはいない。だがここが斜面で助かった……平面だったら危なかったが斜面だと地面に当たっても滑って衝撃を逃がしてくれるからだ……これもメーヤのお陰か?するとカツェが銃を向けてきた。

 

「おいおい……俺に銃弾は意味ないの学んだだろ……それに雪山で銃何ざぶっぱなそうもんなら雪崩が起きる……と教科書に乗ってた気がする」

 

一毅がそう言うとカツェは舌打ちして銃をしまう。

 

「しかしここはどこの雪山だ?」

「多分道のり的にフランスとイタリアの真ん中辺りに位置するモンブランだよ」

 

へぇ、そんな美味しそうな名前の山もあるのか……さて、

 

「で?どっちがフランスだ」

「知るか!」

 

カツェがガウっと吠えてくる。触らぬ神に祟りなし……クワバラクワバラ……だな。

 

「仕方ねぇ……もう空も暗いし……ここで野宿だな」

 

雪山を暗い中歩くのは自殺行為だ。龍桜のお陰で暖かいがそれでも寒い……その中体力を無駄に消費できない。

 

「よっと」

 

なので刀を鞘ごと地面に刺してその上にパラシュートを被せる……これで即席テントだ。少し吹雪いてきたしさっさとこの中に入ろう。

 

「おいカツェ。お前も入ったらどうだ」

「お前と同じテント擬きの中だと!?ふざけんな覗き魔と一緒とか操の危機しかねぇよ!」

「誤解だっつうの!俺は好き好んでロッカーにいたんじゃないんだよ!あそこしか隠れる場所がなかったんだ!それに言ってるだろ!お前じゃ唆るもんないわ!」

「あんだとぉ!」

「あんだよぉ!」

 

グギギギ……と睨むがフンっと一毅は鼻を鳴らす。

 

「じゃあどうすんだ?お前段々吹雪いてきた中で立ち往生でもするきか?」

「お前がテントの外にいればいい!」

「俺が死ぬわ!」

 

そう言うと一毅は一人でテントの中に入っていく。だが、

 

「おらよ!」

「わぷっ!」

 

突然顔になにかがぶつかった……

 

「それ着てろ」

 

そう言われカツェはみてみると龍桜だった。

 

「お前その格好じゃ寒いだろ」

 

一毅は一応冬用の制服だ。だがカツェはタイトスカートにお世辞にも防寒性能があるとは思えない服装だ。

 

「こ、これくらいへへへへへいきききききき」

 

カツェは強がるが全然強がれてない……

 

「お前滅茶苦茶歯をカチカチ鳴らしてるぞ……」

 

カツェは一毅を睨むがこのままでは凍え死んでしまうのでバッと龍桜を着た……一毅の体格に合わせてるので裾を引き摺ってるのはご愛敬だ。

 

「おら入れ、ほんとに吹雪いてきたし死ぬぞ。安心しろって、なにもしない」

 

そう言って一毅はテント擬きに入る。

 

「……ちっ!」

 

カツェは渋々とテントに入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本格的に吹雪いてきたな……」

 

一毅は外の様子をうかがう。如何せんパラシュートをテントに見立てただけなので防寒性能は皆無だし服装が服装だし……カツェも結局寒さには耐えられず龍桜をがっちり着込んで寒さをしのぐ……くそ眠いぞ……

 

「寝たら死ぬぞ……」

「お前だって瞼が重そうだが……」

 

二人とも寝そうになりながらも必死に耐える。こんな寒さの中寝たら明日には氷付けだ。こんなところで死んだらレキたちが悲しむ。

 

「……何か話すか……」

「……覗き魔と話すのは不本意だが良いぜ……」

「だから違うって……まぁいい、お前普段は学生なんだな」

「ちっ!」

 

見られたくないもんを見られたと言う顔をカツェはする。

 

「見てたのか……美術館で」

「ああ……お前完全にボッチだもんな」

「嫌われ者だからな……魔女ってのはいつだって」

「そんなもんか?」

「ああ、それの私がナチスの関係者の血筋ってのは何処かで噂程度にはバレてるみたいでな……学校じゃ先生だって私を避けるのさ」

「……そうか」

「……何だよ、普通そう言うときって何か別の言い方あるだろ」

「お前可哀想だな……とか辛いな……とか言われて嬉しいのか?俺はお前はそう言う性格じゃないと思ってたんだが……」

「ケケケ……結構見てるじゃねぇか、魔女なんて恐れられてなんぼ、嫌われてなんぼさ……それに私には魔女連隊があるしな。私はそこの皆に理解されてればそれでいい」

「……それはわかるよ」

「お前も友達いなさそうだもんな」

「嘗めんな、俺は学校にいれば四方八方からもう皆が集まって……ごめんなさい見栄張りました」

「分かりやすい嘘過ぎて見栄にもなってねぇけどな」

 

カツェの半眼を一毅は遠い目で躱す。別に人見知りではないが話すことがある人間はいても友人と呼べるのはバスカービルの皆や一年ズだけだと一毅は思っている……キンジは親友と呼べるからある意味別枠だが……

 

「まぁ実際は俺もハブラれ気味だよ、何せこの見た目だ……一応いっとくが俺今睨んでねぇからな」

「え?そうなのか?」

「ああ、俺は普通の顔してても睨んでるみたいな顔になってしまうからうちの体育教師になんか日常的にボコボコだぜ……」

 

一毅がそう言うとカツェが苦笑いした。

 

「そういやお前と(エネイブル)は長い付き合いなんだろ」

「まぁ、物心ついたときからはな……」

 

すんでる場所が小学校まで違ったのでその間は長期休業とかに限られたがそれでもキンジとは不思議と馬があって仲がよかった……今思うと沖縄では友達ができない自分に父がお節介を焼いたのだと思うが……

 

「俺小学校の頃は避けられててな……学校の皆に」

「………………」

 

その頃から目付きが悪くガタイもよかった……無論商店街等の顔見知りも多いが同世代の友人と言うのは一毅にはいない。

 

「だから俺は結構キンジには感謝してるんだ。最近自覚したんだ。あいつのお陰で俺の世界は広がってる。あいつの出会いが俺の世界を広げる……」

 

キンジと一緒だったから……アリアに出会い……白雪とも再開し……理子とバカやったり……一年生たちとも深く付き合うようになって……

 

「あいつが武偵になるって言わなかったら……多分俺は武偵目指さなかったし……そしたらレキやライカ……ロキともで会わなかったと思うんだ」

「……恵まれてんな」

「まぁな……」

 

コックリコックリ船をこぎそうになるが首を降って意識を覚醒させながらながら二人は話す。

 

「俺は友人とか恋人には恵まれてるんだ。数より質って言うのか……まぁ俺は恵まれてる……それは自覚してるよ」

「けっ……私だって負けてねぇよ……周りは魔女だの悪魔だのと言うがそんなもん関係ない……私のとってあそこは大切な居場所だ……」

「…………お前さ」

「あん?何だよ」

「いや……意外とかわいいところあんだな」

「んなっ!ちっげぇよ!」

「ついでに結構良い奴だな。お前」

「チゲぇってつってんだろ」

 

ドゴッ!っとカツェの座ったまま放たれた足をつき出すような蹴り……それが一毅の胸にクリティカルヒットした……

 

「ぐほぅ……」

 

呂布につけられた傷がある場所への蹴りに一毅は割りとマジに顔をしかめた。

 

「お、おいどうした」

 

いきなり一毅の顔が青くなったためかカツェが気にしてきたが一毅は大丈夫だと手を振る。

 

「ほら、日が上がり始めたぞ」

「風も収まってきたし動けそうだな」

「じゃ、動くか」

「……お前ほんとに寒くないのか?」

 

一応龍桜を借りっぱなしだったのは少しカツェは気にしてたらしく聞くが……

 

「俺は筋肉量が多いからな……体温がいつも高めなんだ」

「ふぅん……」

 

そんなやり取りをしつつ外に出た……日がゆっくり上がっていき雪山がキラキラ光る。

 

「で?どうやって下山するんだ?」

「歩いてだよ」

「だよね」

 

一毅が苦笑いするとカツェは背を向ける。

 

「ほら行くぞ」

「なんだ連れてってくれるのか?」

「一応助けてもらったし龍桜(これ)を借りてるんだ。梺までの案内くらいしてやるぜ」

「そいつは助かった」

 

そう言って二人は山を降りるべくあるきだした……




レキ「残り日数も少なくなって着た人気投票ですがまだ間に合います。ご協力していただけたら嬉しいです(上目遣い)」








と言うことで今回は一毅の呂布戦を経てたどり着いた思い……と言うかあまり語らなかったキンジへの思いですね。腐的な奴ではなくですよ?

呂布との戦いを経て一毅は改めてキンジに限らず仲間内の繋がりや覚悟を決めてましたからそれを少しだけ話させたって感じです。

欧州ではそう言った一毅の精神的な変化を書いていけたら良いなぁ……とか思ってます。


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龍と厄水の受難 後編

「はっくしょい!」

 

ズビビ……と一毅が鼻を啜る音がやけに響く。

 

着地地点から歩きだして早くも半日……一毅とカツェは雪を掻き分け山を降りていく……

 

「まだ掛かるのか?」

「もう少しだよ……ってか風邪でも引いたんじゃないのか?」

「安心しろって……俺は生まれてこのかた風邪引いたことないんだ。つうか病気になったことがない」

 

昔中学二年のときにインフルエンザが大流行したとき遠山家に下宿してたのだが学年閉鎖となり更には遠山家の全員がインフルエンザに掛かったときも一毅はケロリとしていたくらいだ。

 

「ああ、バカは風邪を引かないんだよな」

 

と、今朝から歩きだしてこっちを見ようとすらせずに先導するカツェが言う。

 

「あ?」

 

一毅はビキ!っと表情を強張らせる。因みにバカは風邪を引かないのではなく引いたのに気づかないのだが……まあ一毅は(スーパー)馬鹿なのでほんとに風邪を引かないのかもしれない。

 

「ふぅ……あと一息だ」

「やっとか……」

 

それから黙って歩いてるとカツェがこっちを見てきた。

 

「少し休憩しようぜ」

「そうだな……あ、これ食うか?」

 

と一毅はカロリーメイトを半分カツェに放る。

 

「じゃあ代わりにこれやるよ」

 

とカツェは一毅に試験管にいれた水を渡してくる。

 

「雪そのまま食うと体を壊すしな」

「助かる」

 

そんなやり取りをしながらカツェは一毅の顔を見る。

 

「……お前顔色悪くないか?」

「え?そうか?」

「あぁ……やっぱ寒いんだろ」

「いや……寧ろ体が熱い」

「…………………………」

「もちろん変な意味じゃないぞ」

 

カツェがドン引きそうだったので一毅は手を振る。

 

「まぁ雪山だしな……少し位は悪くなるさ」

「…………おい脱げ」

「え?おいおい!こんな場所で脱いだら凍え死ぬって!きゃー追い剥ぎよ!」

「良いから少し裾をまくれ!」

 

とカツェが強引に裾を捲り上げてきた……そして、

 

「やっぱり……」

 

一毅の胸につけられた呂布の斬撃傷……そこには何重に幾重にもガーゼと包帯で固定しているのだがそれですら血が滲んでいた……更に元々武偵高校の制服はワイシャツまで血が着いても血の色にかなり染まり難い……それが災いしてカツェは良く制服を見なければ気づけなかった。

 

「ま、全治半年……三ヶ月はほんとは病院に入院させとけって傷だしな……」

「わ、わるい……蹴っ飛ばして……」

「いや実は着地したときには既に傷開いてたからお前蹴っ飛ばしてもいなくても血がな……」

「ばっか!こんな傷あんなら私のコートなんか貸してる場合じゃないだろ!」

 

カツェが慌ててコートを返そうとするが一毅は大丈夫だよと首を振る。

 

「どうせあと少しだしこれくらいの傷なんかで動けなくならないんだよ」

 

ただ山降りたら包帯と責めて防弾じゃなくても良いからYシャツくらいは変えたいなと一毅が笑うとカツェはコメカミを抑えた。

 

「普通だったら動けねぇはずだぞ……どんな体してんだよ」

「こんな体だ」

 

一毅が胸を張って笑った。それを見てカツェは苦笑いを返すしかない。

 

「なにもんだよ……お前」

「ん?俺は化けもんだよ……日本では偏差値低めの高校に通うただの化け物さ」

 

一毅はそう言ってまた笑う。

 

「化け物……ねぇ……」

「ああ、チームバスカービル最強の……って着くけどな」

 

そう言って一毅は先を見る。

 

「そろそろ行こうぜ。俺が倒れたってお前は俺を運べないだろうしな」

「は?倒れた場所に置いていくに決まってるだろ」

「ひでぇ~」

 

一毅は不満げな顔をするとカツェは先を歩き出す。

 

「全く……お前と話してると上が言うほど危険人物なのか分からなくなる」

「そんなに警戒されてるのか?」

 

歩きながら一毅が聞くとカツェは答える。

 

師団(ディーン)の中でもバチカン、リバティーメイソン、そしてチームバスカービルは危険組織トップ3扱いなんだよ」

「マジか……」

「特にお前らなんて組織って言えるほどの数もいないのに藍幇を下しただろ……私たちのなかじゃバスカービルってのは鬼門扱いだ」

「ま、その分癖も強いぜ?」

 

お前が言うなとカツェが眉を寄せたが突っ込まないでおこう。

 

「だからでもあるけどな」

「え?」

「その癖の強いチームを纏めてしかも藍幇まで降して……将来頭になってほしいと頼まれてすらいるんだろ?リーダーの遠山 キンジは」

「ああ」

「それが異常なんだよ、癖が強いやつを纏めてるってだけでも充分あり得ないってのに他にも一流クラスの組織からスカウトだぁ?その状況が普通じゃねぇ」

「そう言う考えもあんのか……」

「だから上の連中なんかは注目してんだぜ?」

「なに?そっからもスカウトか?」

「まぁな……だけど振り向かないなら……」

 

カツェは親指で首をかっ切るジェスチャーをした。

 

「ここで殺す……か」

「そう言うことだ。出る杭は打たれるって言うだろ?将来邪魔になるようなら消すってわけだ」

「だけど上っていったい何者だ?」

「さぁな……政治とかだけじゃねぇ……色んな企業や組織……そんなもんが複雑に絡んでるからな……私は勿論イヴィリア様だって詳しくは知らないし……知ろうとも思わねぇ」

「ヤバイ突いて蛇は出したくないって奴だな」

「…………思ったんだけどお前ちょいちょい日本語間違えてねぇか?」

「え?」

「私も日本語詳しくねぇけど多分それって【藪をつついて蛇を出す】じゃねぇのか?」

「あ……そうとも言うかも知れん」

「いやそうとしか言わねぇだろ……」

 

一毅が頬を掻くとカツェは苦笑いした。

 

「典型的な脳筋タイプじゃねぇか」

「ほっとけ……考えるのは他の連中に任せとけば良いんだよ、俺は黙って突っ込むだけだ」

「お前な……いつか死ぬぞ」

「体だけは頑丈なんだ」

 

と、一毅が言う。すると街が見えてきた……

 

「おぉ!カツェ!街だぞ!」

「ああ……やっと見えてきたぜ」

 

二人は街が見えてきて興奮ぎみである。

 

「なぁ、桐生」

「ん?」

 

まぁまだ街が見えてきたばかりなので歩くとカツェが声をかけてきた。

 

「まだ言ってなかったからな……ありがとな……助けてくれてよ……」

「あぁ~そんなことか。もういいって」

「そんなってなお前!こっちは結構緊張しながら言ってんだぞ!」

「わりぃわりぃ……でも別にその事で俺は恩義を着せようなんて考えてねぇからよ」

 

と、街に差し掛かり遂に雪を踏まなくてすむことに一毅は安堵しつつ言うとカツェは舌打ちした。

 

「お前といると調子狂うぜ」

 

そう言いつつカツェはズカズカと先に行ってしまう。

 

「そうカッカするなよ……可愛い顔が台無しだぜ?」

「んな!」

 

ボッとカツェは自分の頬が熱くなるのを感じた……少なくともカツェが10年+数年生きてきたなかで異性から可愛いと言われた経験は皆無であった。

 

「わ、私はかわいくなんか……あれ?」

 

かわいくなんかない!っと言おうとしてカツェが振り替えると一毅がいない……そしてそのまま視線を下に落とすと……

 

「き、桐生!」

 

一毅は地面に倒れ伏していた……

 

当たり前だろう……幾ら一毅でも胸に重症を残し高度からの落下……雪山での遭難……更に低気温の中のコート無し……これだけ様々な要因があれば一毅でも体力の限界に達して当たり前である。

 

「おい桐生!」

 

カツェは一毅の体を揺するが意識は混濁しており目を覚ます気配はない。

 

良くも悪くも人通りがまだない場所のため人の助けを借りれるかは微妙だ……

 

どうするか……下手に病院にもつれていけな……一毅はともかくカツェは未成年で身分を証明するものがなく下手すればここは不法入国に取られかねない……そうなれば……

 

「桐生……死ぬなよ!そこで待ってろ!」

 

そう言ってカツェは走り出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……」

 

一毅はうっすらと目を開ける……確か街に入って……あれ?そのあと記憶が飛んでいる。

 

つうかここはどこだ?と見たことない部屋を一毅は見渡す……

 

「つぅ……」

 

一毅は起き上がろうとして胸に走った痛みに顔を顰める。痛い……

 

「そうだ確か目眩して……そのままか……」

 

一毅は自分の体を見る……すると着ていた制服は着ておらず綺麗な包帯が巻かれていた……

 

「これは……」

「桐生!」

 

そこにドアが突然開かれたかと思えば水を張った桶を持ったカツェが出てきた。

 

「え?カツェ?」

「やっと目が覚めたのかよ、心配したんだぞ!」

「え?え?どゆこと?」

「お前街に差し掛かった所で気を失ったんだぞ?覚えてないのか?」

「あ~……良く覚えてねぇ……」

「お前なぁ……あの後ここに運んでお前を闇医者に見せてと大変だったぞ……」

「そうだったのか……つうかここどこだ?」

「少し過剰に親独な男が経営してるホテルさ」

「成程……で?俺はどれくらい寝てたんだ?」

「丸一日だ」

 

そんなに寝てたのかと一毅は天を仰いだ……

 

「全く……半日毎に包帯も変えなきゃいけなかったからめんどくさかったぜ……」

「……もしかしてこの包帯お前が巻いたのか?」

「私以外誰が巻くんだよ」

 

それもそうかと一毅は納得する。

 

「ありがとな……いやぁ~まさか意識を失うとは思わなかった!」

 

アハハと笑うとカツェが頭を軽く叩いてきた。

 

「笑ってる場合じゃねぇだろ、私は流石にビックリして死んだんじゃないかと焦ったんだぞ。だから慌ててこのホテルに飛び込んでお前を運んでもらって闇医者も呼んで……運良くこのホテルの眼と鼻の先に山から降りてなかったらどうなってたか……」

「メーヤの幸運が効いたかな」

 

と一毅が言うとカツェが苦虫を噛んだような顔をした。

 

「メーヤ?」

「あぁ、運良く山の斜面に落ちたのも山を降りた場所がよかったのもメーヤの近くにいたお陰かなと」

「ちっ、そういやあいつの魔術は一次的に伝染するんだったな……」

 

まぁ流石にもう運は使い果たしただろうがな……

 

「だが桐生。気を付けとけよ、あの手の魔術はどっかで損するんだ……お前も下手に近づくとろくな目に遭わねぇ……」

「そう言えばそんなこともいってたな……」

「ケッ……皆あのデケェ胸ばかり気に入りやがる、女は胸じゃねぇ!」

「とりあえず落ち着けよ……俺は女は胸だとは考えてねぇし……」

「どうだかな……ま、私はまだ成長の余地あるけどよ」

 

あるのか?とは聞かないでおこう。何せ前にアリアが同じようなことを言って理子がムリムリと言ったらガチの拳が理子の顔に炸裂し20メートルほど後方へ吹っ飛んだ上にそのまま壁にめり込んだのを見たことがある。勿論それを修復したのは一毅とキンジと強制的に呼び出した辰正である。

 

まぁ素人の修理なのでいまだにその傷跡は残ってるのがまた怖い……カツェがそんな馬鹿げたパワーがあるんとは思えないがそんなデリカシーに欠けることは言わないに限る。

 

「ま、カツェはカツェらしくやってれば良いんじゃないか?」

「お、おう」

 

と、カツェは少し照れながら答えた。

 

「ああ、そう言えば遠山キンジはうちの所で預かってるぜ」

「なぜ知ってるんだ?」

「ここに来る前に連絡したんだ。明日の朝にはここにも迎えが来る。つうわけだからおとなしく捕まれよ」

「あいあい、キンジもいるってのに無茶できるかよ……治療の恩もあるしな」

「別に治療はそっちが私を助けたんだ……相子だろ」

「そんなもんかね」

 

銭勘定や相場とかを考えるのが得意じゃない一毅は恩の勘定もあまり得意じゃない。そもそも助けたのを恩に着せてないのは言っておいた筈だから気にしなくてもいいのだ。

 

「っと、それで?傷の調子は?」

「それ一番先の聞けよ……ま、良いよ」

「ま、腕だけは良い奴に頼んだからな」

 

と、カツェは包帯を見せてくる。

 

「ちょうど良いから巻き直すぞ」

「ああ」

 

そう言って一毅は去れるがままとなる……カツェはぎこちないながらも包帯を外し血で汚れたガーゼを外し新しいガーゼを取る。

 

「ひでぇ傷だな……」

 

カツェは眉を顰めるのも仕方ないだろう。ルゥから喰らった斬撃はかなり深く入っているため縫い直してあるものの生々しい……

 

「ま、生傷が耐えないのが武偵だしな……流石にこれはひどい方にはいるけど……」

「それで軽傷扱いだったらそっちの方が驚くって……」

 

カツェはガーゼを着けながら包帯を手に取る。

 

「…………これでよしと」

「悪いな」

 

一毅は上着を探すとカツェがYシャツを出してきた。

 

「防弾じゃない普通のだけど無いよりマシだろ」

「サンキュー」

 

一毅はそれを受け取り着ると沈黙が流れる……一毅は別に平気だがカツェは気まずそうな表情を浮かべる。

 

「…………なぁカツェ」

「ん?なんだよ」

「ありがとな……治療」

「…………ケッ……」

 

カツェはそっぽ向いたが……少しだけ笑っていたのに気付いていたのは秘密だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことがあった次の日の早朝……バタバタとなにかが来る音がして一毅が跳ね起きた。

 

「仲間だよ」

 

とカツェが言うとドアが開かれ外から魔女連隊の服を着た女性が複数入ってきた。

 

その女性たちにカツェは揉みくちゃにされる。これは恐らくカツェは可愛がられていたんだろう。ま、分からなくもない。何て考えてると一毅の存在に向こうも気づいて戦闘体制に入ろうとするとカツェが慌てて止めた。外国語なので一毅には全くわからないが少なくともカツェが事情説明してるらしく相手の警戒レベルは下げられた。

 

「おい桐生。立ちな、私たちのアジトに案内してやるぜ」

「了解……っと」

 

一毅は少しふらつく頭を叩きながら立ち上がると頑丈そうな手錠をつけられた。

 

「ま、当然だよな」

 

刀は無論没収され(断神(たちがみ)は重かったらしく数人で運んでいっていた)銃もない。まああっても脱走するつもりはないが……何せ向こうにはキンジがいるし……

 

「さ、キリキリ歩きな」

「はいはい」

 

と、一毅はカツェ達に連れられ歩き出した……



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龍と魔女の追撃

「……ろ……」

「ん……」

「…きろ……」

「んん……」

「おきろぉおおおおおお!!!!!」

「んがっ!」

一毅は突然の大声に跳ね起きた。

 

「て、敵襲か!?」

「着いたんだよ」

 

一毅がキョロキョロするとカツェが呆れていた……モンブランから降りて寝込んで捕まったあと一毅は目隠しをされて乗り物にのせられなにもすることはないので寝ていたがカツェからしてみれば敵に捕まったのに平然と寝られる一毅に思わず称賛を送りたいくらいの図太さだと思う。

 

「んで?これって……博物館か?」

「流石にそれくらいはわかるか。ま、そういうことだよ。これなら堂々武器を飾ってあっても問題ないだろ?」

 

とカツェから中に入りつつ説明され見てみれば戦車やら重火器やらが飾られている……見てみればわかるが手入れがされているため今すぐにでも弾を装填すれば使えるだろう。とは言え素人にはわかるまいが……

 

「一つ聞きたいんだがここは武器庫かなんかなのか?」

「ああ、師団(ディーン)が必死に探してるが灯台もと暗し……って言うんだろ?日本では」

 

そう言うことね……こんだけ豊富に銃火器やら戦車やらが置いてあるんでは装備面でも師団(ディーン)が劣性になるだろう。

 

「カツェ!」

 

するとそこにキツめの目鼻立ちをした美人がきた……たしか名前は……

 

「イバリヤだっけ?」

「イヴィリア様だ。なんかそれだと威張りんぼみたいだぞ……っと、それよりも、カツェ・グラッセ!ただいま捕虜1名を連れて帰還しました!」

 

敬礼をしながらカツェが言うとイヴィリアも答える。

 

「ご苦労、重要人物の確保に後々特別手当てが付くわ」

「ありがとうございます!」

 

と、形式を終えるとカツェをイヴィリアはそっと抱きしめた。

 

「よかった……心配してたのよ……」

「はい……」

 

一毅はその光景を見つめるのも何なので近くの展示品を遠目に観察してるとイヴィリアがこっちを見てきた。

 

「一応礼を言うわ」

「いや、別に構わん。で?キンジは無事なのか?」

「ええ、丁重に扱わせてもらってるわ」

 

それはよかったと一毅は頷く。すると、

 

「さて、貴方も部屋に閉じ込めておくわよ」

「了解」

 

イヴィリアがそう言い一毅は魔女連隊の女達に連れられていったのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーむ……」

 

一毅は首を捻る……魔女連隊のやつらに連れられぶちこまれた部屋……小さな窓には頑丈な鉄格子が嵌められておりそこから脱出するには一毅には小さすぎる……だが内装はどうだろう、フカフカのベットにきらびやかで豪華すぎるあまり一毅は気後れして部屋の隅っこの床に正座して備え付けのお茶を飲んでいた……中身はなぜか緑茶……慣れ親しんだ味で良い茶葉なのはすぐにわかった。テレビも備え付けられ冷暖房も完備……一毅の重度の骨粗鬆症の骨みたいにスカスカの脳味噌で考えみてもこれが所謂VIP待遇というやつであることは簡単に推測できた。

 

「お、落ち着かん……」

 

一毅は部屋のなかをうろうろし始める。さしづめその姿は動物園の熊みたいだ。

 

「なにしてんだ?」

 

と、そこに聞き覚えのある声……というかさっきまで聞いていた。

 

「カツェ……?」

「檻の中を歩き回る熊かなんかみたいだったぞ……もしくはゴリラ」

「あぁ?」

 

誰がゴリラだと一毅の目が据わるとカツェは扉を閉めながらベットに座る。

 

「んで?何かようか?」

「ま、まぁ少しな……話さないか?」

 

と、若干緊張しつつカツェが言ってくるので一毅は首をかしげつつ了承する。

 

「ほら……座れよ」

 

カツェはペシペシとベットを叩いて自分の隣に据わるように促す。

 

「いや別に俺は立ったままでも……」

 

一毅はキンジほどではないがあまりアッチ方面に詳しいわけではない。知ってはいるし興味がない訳じゃないが積極的にその方面の知識を取り込んではいない。理由として実家は孤児院だ……子供達が多くいるしそう言う物を所持するのは万が一……と言うのがあるし現在では女子が三人も同居している……そう言ったものの所持は互いの生活の循環的なもののために控えている。だがそれでも男女が同じベットに座って話すと言うのが危ないのはわかっている……

 

「良いから座れよ」

 

とカツェに言われた……もしかして考えすぎだろうか……考えて見よう、カツェは自分より年下だ。そんな少女相手に緊張も何もないんじゃないだろうか……

 

自分の考えすぎだな……と一毅は考え直しカツェの隣に据わる。ん?何かカツェから良い匂いがする。キンジほどじゃないが一毅も嗅覚が……と言うか呂布との戦い以降、五感その物が鋭くなっている気がする。

 

「シャワーでも浴びたのか?」

「え?あ……ああ!まあな!」

 

カツェはお慌てる。どうしたんだ?

 

「い、一応女だからな……これでも気を使うんだよ」

「そうか……」

 

一毅は相づちを打つ。実家の遥も夏に帰った時にそう言えばお洒落とかに気を使っていた……すっかり大人びてきてアイドルとかにスカウトされても可笑しくないかもしれない。

 

「で?話ってのは何だ?」

「……お前さ……私の使い魔にならないか?」

「…………はぁ?」

「まぁあれだよ……これでも結構お前のことは気に入ったんだ。助けてももらったし……エドガーも話したらお前なら良いって言ってくれた」

「使い魔ってあれじゃないのか?突然召喚されてキスされて左手にルーンが出てどんな武器でも使えるように……」

「それは違う……知識がおかしい方に向かってるぞ……」

 

カツェは大きなため息をついた。

 

「で?どうなんだ?」

「悪いが……遠慮しておくよ。俺は師団(ディーン)だしな……眷族(クレナダ)のお前と契約はできねぇし何より俺はバスカービルに……遠山キンジに着いてんだ。これ以上誰かの下に着けるほど俺は器用じゃないんだよ」

「……ま、そんな気はしてたよ……」

「すまん……え?」

 

クラっと一毅の視界が回り出す……

 

「おいカツェ……お前何した……」

「男にしか効かねぇ特殊な香水さ……お前自分で言ったろ……魔女が古来から男と寝る際に用いた由緒正しいものだぜ……ま、毒っつうか薬っつうか……それに似たようなもんさ。何でか遠山キンジには効果がなかったみたいだ」

 

そりゃあいつは薬とか毒とかに生まれつき強い耐性があるからな……効きも悪かろうと一毅は思うが今はそれどころじゃない。とにかくカツェから離れないと……と一毅は身をよじるが力が入らない。

 

「桐生……お前は甘いよな……魔女がこれと決めた男を諦めるほどお淑やかだと思ったか?」

「あぁ、そうだな……良い勉強になった……」

 

カツェにすら組伏せられる……力が入らん……くそどうする……

 

「安心しな……私も書物でしか知らねぇけど時間はある……」

「やめ……」

 

ろと言おうとした瞬間……窓が割れた。

 

『へ?』

 

次の瞬間空気を切る音がしたかと思ったら今度は天井に火花が散り一毅の顔の真横を着弾した……連続跳弾による狙撃……背中に冷たいものが走った……

 

「っ!」

 

そして今度は爆発……一毅とカツェは吹っ飛んだ。

 

「な、なんだぁ?」

「あんたこそ……なにしてくれとんじゃぁあああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

そこに短いスカートなのも考えもせずに乗り込んできたのはロキだった……すると別方向でも爆発音……だがそれに気をとられてる暇はない。ロキの背中には魔王が降臨していた……

 

「んな!何でお前が!」

 

カツェが驚愕するのも束の間ロキはギロリと睨むと、

 

「お兄ちゃんの危機を受信したのよ!」

 

と、地獄の業火のごとく怒りを滾らせ狙撃銃を持ち替えフルスウィング……次の瞬間ゴガン!っと派手な音が響き困惑するカツェの脳天にロキは狙撃銃を叩きつけた。

 

「げごぉ……」

 

と蛙みたいな声を漏らしカツェは目を回し気を飛ばした……

 

「あとなんであんたがお兄ちゃんの龍桜着てんのよ!」

 

そのままカツェから龍桜を剥ぎ取りロキは一毅をみる。

 

「お兄ちゃん大丈夫!?」

「あ、うん……はい……大丈夫だ……でもどうやって来たんだ?」

「遠山キンジ先輩の携帯を逆探知したの。そして助けに来たんだけどお兄ちゃんの危機を感じてね……急いできてみればお兄ちゃんの操の危機だったし慌てて持ってきたプラスチック爆弾を取り付けて爆発と同時に乗り込んできたの」

「へ、へぇ……」

「あ、勿論威力とかは落としてあるよ?だから安心してね」

 

一毅は誓った……金輪際絶対にロキを怒らせまいと……ロキはレキ同様怒らせるとヤバイ……いや、過激さならレキ以上かもしれない……

 

「おいそっちは大丈夫か?」

 

と、崩れた壁からひょっこり顔を出したのは重たい断神(たちがみ)を引きずるキンジと……

 

「無事のようだな……いきなり爆発音が響いたから何事かと思ったぞ」

 

ジャンヌだった……手には一毅の刀がある。

 

「丁度良かった。おいキンジ、逃げるのに手を貸してくれ、力が入らないんだ」

「分かった」

 

とキンジの肩を借りて一毅は立ち上がり皆は逃げ出す。

 

「ま……て……」

「悪いなカツェ……ここは逃げさせてもらうぜ」

 

そういい残し一毅達は煙のなかに消えていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にっげぇ……」

 

一毅は顔を顰める……

 

一毅達は現在助けに来てくれた一人、島 苺が運転する戦車に乗っていた……他にも通信役に電子機器越しだと饒舌な中空知がいる。まぁそれは良いのだが一毅は体に力が入らなくさせる毒をジャンヌから栄養ドリンクみたいな解毒剤を貰って治していた。

 

ジャンヌいわく割りとポピュラーなものらしく男である二人が捕まってると言う話のため一応解毒剤を持ってきていたらしい。

 

「まぁ、良薬は口苦しって言うしな……」

「…………一毅が諺をまた間違えなかっただと……不吉だ」

 

と、同じ解毒剤を飲んでいるキンジが眉を寄せた。

 

「ヤバイ……何かとんでもない事態に陥りそうな予感がするよ……」

 

と目を泳がせるロキ……二人揃って失礼だ。

 

「あ、安心するんだ。私たちには祝光の魔女がついてる……ここここれくらいなんとももないささささ」

「ジャンヌテメェは何にビビってんだ!」

 

皆揃って失礼すぎる。こっちだってたまには間違いない。元旦だってそうだったし……

 

「まあ冗談は1割くらいにはしておいて」

「ほとんど本気じゃねぇか……」

「……オホン!とにかく二人とも体は大丈夫か?」

「あぁ、もう大丈夫だ」

 

と、一応体に若干の痺れがあったらしいキンジは言う。

 

「遠山の場合は耐性のお陰か……桐生は?」

「俺も治った。ジャンヌの言う通り即効性のせいで持続性じたいは皆無らしい」

 

軽く首を回して調子を確認する一毅を見てジャンヌはうなずく。

 

「じゃあこれから私たちは師団(ディーン)の領地内に帰還する。それから……」

 

と、ジャンヌが口を開いた次の瞬間……

 

「んなっ!」

 

突然の爆音とエンジン音……そして横に掛かる強い揺れと重力……一毅は慌てて戦車から顔を出して後方を確認すると……

 

「戦車だ!しかもこっちよりデカイ!」

「追ってきやがったのか!やっぱお前が諺を間違えねぇから面倒な事態だぞ!」

「俺のせいかよ!」

 

と、一毅とキンジが喧嘩をおっぱじめそうになるのをロキが止める。

 

「喧嘩してられないよ!どうする!?」

「走って逃げるってのは?」

「それは無理そうですの!今の砲撃で駆動系が少しやられてますの!」

 

と島が答えた。となると……

 

「こっちも砲撃だ!」

 

そう言ってキンジは機械を弄って砲身を相手の戦車に向けると発射……だが戦車の表面を弾いて終わった……

 

「嘘だろ……」

「頑丈な戦車だなぁ……」

 

キンジと一毅の表情が曇ると相手の戦車の方から声が聞こえる。

 

「オッホッホッホ!そんなチャチな砲撃では私たちには傷をつけられませんわよ!」

「この声は……イベリコ……?」

「イヴィリアだ。イしかあってないぞ」

 

キンジから突っ込みをいただいたところで今度は相手の戦車が砲身を向けてくる!

 

「避けられるか!」

「無理ですの!」

「なら俺がやる!!」

 

一毅は戦車の上に飛び出すと背中の断神(たちがみ)を引き抜くと同時に相手も砲弾を発射……

 

「オラァアアアアアアア!!!!!」

 

だがそれに対して一毅は臆することなく断神(たちがみ)を大きく振りかぶって……渾身の一閃!

 

「ホームランバスター!!!!!!!!!!」

 

激しい轟音と光を発しながら断神(たちがみ)と砲弾はぶつけるとそのまま一毅は砲弾を別方向に弾いた……

 

「ちっ……ライトへのファールか……いつつ」

 

一毅は胸を押さえて顔を顰める。今のでまた傷が開いた……くそったれ……

 

「大丈夫か!一毅!」

「なんとかな……ん?」

 

すると今度は戦車についた拡声器から歌が聞こえてきた……なんだろう……凄く嫌な気分になっていく……気分が滅入っていくようだ。別段音痴の歌ではないしジャイアンリサイタルが開かれたわけではない……だがそれでも気分が落ちていくような歌だ……

 

「ジャンヌ!」

「っ!」

 

次の瞬間ジャンヌが膝をつく……息は荒く視線がグルグルと動く……

 

「しっかりしろ!」

 

キンジが揺さぶるがジャンヌは反応がない……

 

「おいジャンヌ……お前ぇほんとに策士なのか?代表戦市なのか?弱い情けねぇし話しになんねぇなぁおい!」

 

という声を聞きジャンヌは全身から嫌な汗が垂れてきた気がした……

 

何時だってそうだ……何をしても中途半端……気高き先祖、ジャンヌ・ダルクと同じ名前と血を継ぎながらいつも自分は弱く……何も出来ない……挙げ句の果て重症の一毅と、藍幇での戦いを終えて間もないキンジを欧州で戦わせている……自分に何ができる?何もできやしない……自分は何も出来ない……自分は役立たずだ……

 

《皆さん耳を塞いでください!それは魔女が用いる恐怖の歌です!戦時でも用いられた相手の士気を著しく下げる歌……特にジャンヌさんのような超能力者には強い効果を発します!聞かないようにしてください!》

 

と、通信機から聞こえるのはメーヤの声……だが既にジャンヌの戦意は砕かれている……不味いぞ……傷が開いたからさっきみたく砲弾を打ち返す何て出来ないだろう……このまま砲弾を撃たれたら危険だ。

 

だがそこに怒声が響いた……

 

「いい加減にしろ!」

 

ガツッ!っとジャンヌの頭にキンジの頭が叩きつけられる……突然の衝撃にジャンヌは眼をパチクリさせながらクラクラとキンジを見た……

 

キンジのオーラはまるで野獣……そう、現在ジャンヌの心を奪われた……と解釈したキンジはヒステリア・ベルゼと呼ばれるヒステリアモードになっている。

 

「ったく!あんな敵の甘言になんか乗ってんじゃねぇよ!」

「だが遠山……私は……」

「誰がなんと言おうと関係ねぇ!俺がお前のすごさを知ってる!俺がお前を認めてやる!誰がなんと言おうと……お前は凄い奴だよ」

「っ!」

 

ジャンヌは眼を見開く……言葉だけじゃない……何故ならキンジに抱き締められたからだ。痛いくらい強く……少々乱暴で強引な抱擁……

 

「だから敵の言葉なんか気にするな……あれは外野が騒いでるだけだ……」

 

耳元で低めの声音で喋る……ジャンヌは耳まで赤い……

 

「だから黙って俺の言葉だけ聞いてろ……お前の存在意義なら俺が作ってやる……世界が否定しようと俺がお前を認める……ジャンヌ・ダルク30世……」

「本当か……?」

「あぁ……お前の可愛いところも格好いいところも抜けてるところも……全部俺は知っている。その上で言うんだ……お前は凄い……それとも俺の言葉が信じられないか?」

「………………」

 

フルフルとジャンヌは首を横に振る。

 

「おい一毅……できるか?」

「……やってやるさ」

 

何が……とは聞かずとも理解できる。全く……無茶をさせやがる。

 

「なら俺が合図したら行け」

「了解……リーダー」

 

一毅は立ち上がるとバッと上に来ていた制服を脱ぎ捨て上半身を外気に晒し包帯も外す……傷口が開いており血がボトボト出ているが関係ないと意識を集中する……それと共に純白のオーラ(ホワイトヒート)蒼いオーラ(ブルーヒート)が体を浸透していく……それと共に傷が急速に治っていく……

 

「二天一流 拳技……修羅の気位……」

 

ブラドとの戦いにも用いられたこの技……出来るなら使わずにおきたかった。何故ならこの技……傷を治す技では断じてない。正確には体の細胞分裂を強制的にヒートで促進させる技なのだ。その結果……傷が治癒したようにみえる。

 

だが生涯の細胞分裂の回数は決まっている。それを早めるのだから無論のことだが寿命をかなり削っているのだ。

 

【今】戦うために【未来】を捨てる技……これが【修羅の気位】……

 

代々短命な桐生が多いと言われるがそれも戦いに巻き込まれやすくこの技を使わざるを得ない状況が多くなりがちだからだ。事実一毅の祖父の一心も一毅が物心つく前に死んでいる……

 

だがそれでも……使わねばならない。【未来】より【今】が必要なのだ。

 

「行け!」

「あぁ!」

 

一毅は戦車から飛び出すと断神(たちがみ)を手に疾走……さらに、

 

「人間五十年……下天のうちを……くらぶれば……夢幻の……如くなり……」

 

一毅の体から溢れる緋色のオーラ……極めし者のオーラ(クライマックスヒート)……一毅の速力は高まり人を越える。

 

それを尻目にキンジはジャンヌと共に砲身を動かし狙いを定める……相手の方針の角度を……相手の狙う場所をキンジの万象の眼が様々な風景から読み取り情報としてキンジの頭に流れていく……そして、

 

「今だ!ジャンヌ!」

 

キンジが叫ぶと砲弾を発射……それと共に相手も発射した砲弾とぶつかり合い狙いが逸れていく……砲台版の銃弾撃ち(ビリヤード)……名付けて、

 

砲弾撃ち(パトリオット)……」

 

互いが撃った砲弾は逸れていき……

 

「あとは任せたぜ……兄弟(一毅)……」

 

その言葉が聞こえているわけはないがそれに答えるように一毅は爆走……だがそれを止めるため今度は機銃が一毅の方に向く……

 

「撃て!」

 

そこにイヴィリアが命令し機銃が一毅に撃たれる……が、

 

「二天一流 極技!」

 

一毅は渾身の……己の烈帛の気迫を込め……放つは乾坤の一撃……

 

「オォ!」

 

一毅は横に飛ぶ……次の瞬間一毅の四体の残像が戦車を取り囲んだ……

 

「ぶ、分裂したですって!?」

 

イヴィリアや他の面子が驚愕するなか一毅は戦車前方に密着する……断神(たちがみ)を手に剣を振る速度じたいは鈍重ながらも鬼気迫るその気迫……背後に浮かぶのは北を守護し不動を旨としつつも圧倒的なまでの威圧感を保持する亀……

 

【玄武】

 

そして飛び上がりながら全身のバネを用いた断神(たちがみ)の切り上げ……

 

「まだだぁ!」

 

だが飛び上がった一毅は再度断神(たちがみ)を振り上げた……この技は二撃必殺だ。

 

そう、【玄武】は一見巨大な亀だが尾が蛇である……そしてその蛇こそが真の武器である。鈍重な見た目に騙された相手はその蛇に命を刈られる……

 

この技もそう……一撃目の鈍重な一撃を回避しても続けざまに放たれる斬撃は躱せない……寧ろこちらの斬撃が真の狙いだと言うのに……今回は戦車のため二撃とも叩き込むのはご愛嬌……

 

というわけで終わらせよう……一毅の二天一流で……一毅の全てを込めて……一毅の思いをのせて……

 

「乾 坤 一 擲 !!!!!!!!!!」

 

ザン!っと言う音と共に一毅は戦車の後方に着地……そして次の瞬間戦車が真っ二つに割れた……

 

「ふぅ……」

 

二つに割れた戦車の中にいた連中は呆然としていた……まぁ流石に戦車を両断されるとは思わないだろうしな……

 

「き……りゅう……」

 

すると中からカツェが這い出てくる。

 

「まだ……諦めてねぇ……からな」

「好きにしな……だが悪いが俺の頭は遠山キンジだ。他の誰でもねぇ……だから俺は誰にも靡くきはねぇよ」

 

そう言いながら一毅は断神(たちがみ)を鞘に戻すとその場を後にしたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみにその後……

 

「はぁ?捕まってたときチーズフォンデュ食ってフカフカのベットで寝て悠々自適な生活してたぁ?あいだだだだ……全身がいでぇ……」

「割りと厚待遇だったしな」

「てめぇ!こっちが雪山で遭難してヒィヒィしてたときに随分いいご身分でございますなぁ!いででででで……」

「俺の性じゃねぇだろ!」

「アホかぁ!こっちは死にかけたわい!あががががががが……全身の筋やってるよこれ……」

「生きてんだからいいだろうが!」

 

ボカスカボカスカとキンジと全身の筋をブチブチやってしまった一毅が戦車の中で喧嘩を始めてロキとジャンヌが止めに入ったのは余談であろう……




ついに一毅は戦車も切ります。

と言うわけで次回で前編も終わりです。そしたら対談やって後編にいきます。後編はキンジスポットの予定です。

更に人気投票にご協力してくださった方々ありがとうございます。意外なキャラがランクインしたさいには私も驚きました。いやはや……

と言うわけで欧州編も段々ヒートアップ!それではまた次回お会いいたしましょう!


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龍と金の災厄

「うめぇよぉ!!!!!」

 

魔女連隊の追撃から逃れた日の夜……一毅は自分の顔ほどあるお握りを手に泣いていた……

 

ここの所、米のメシを食べられず雪山以降はカロリーメイトだけだ。そりゃあ腹も減ろうと言うものであり一毅はまだ師団(ディーン)領であるブリュッセルに入ったらまず米を買ってきて炊いたのだった。

 

ちなみに今師団(ディーン)の息がかかったホテルに皆は隠れている。だが形勢は師団(ディーン)不利なのは変わらない……いや、寧ろ悪化していると言っても過言じゃない……

 

だがそれでウジウジしても状況が改善されるわけではないため一毅はとりあえずメシ食って寝て体を少しでも回復させることにした。

 

極めし者のオーラ(クライマックスヒート)の後遺症で一毅の体調も絶賛不調なのは言うまでもない。胸の傷は修羅の気位で無理矢理治したが極めし者のオーラ(クライマックスヒート)を用いた【極技】は一毅の体を確実に痛めている。足の筋肉は特にひどい。まぁ残像が残るほどの速さで走るのだから当たり前なのだが……

 

「全身いてぇしキンジは贅沢して何で俺だけ不運な目に会ってんだよ……何時もなら逆じゃねぇのかよ……」

 

と、一毅はぶつぶつ文句を言う。何故か自分はヨーロッパに来てから録な目にあっていない気がする。こういうのはキンジの役目だろう……

 

「ごちそうさまでした……」

 

と手を合わせ一毅は食事を終える。まぁいつまでも文句言っても仕方ないのでぶつくさ言うのはやめて隣の部屋のロキをつれてキンジの部屋にでも乗り込もうか……と思い至り一毅は部屋を出る。するとエレベーターに乗り込むキンジとジャンヌが一瞬だが見えた……一毅の動体視力はそんな一瞬だって見逃さない……あの二人どこかいくのか?

 

「フッフッフ……」

 

そう思うと一毅は意地の悪い笑みを浮かべた。ならばここは二人を尾行するのが先決だろう。別に邪魔はしないよ?ただ少し出歯亀させてもらうだけでございますよ旦那……

 

と一毅はニヤリと笑うと全身の筋をやっているのにも関わらず階段を駆け下りていく……こう言う時の行動は早いのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

一毅は素早く物陰に体を隠しながらキンジとジャンヌを追っていく……何処かにデートだろうか……前回の一件でジャンヌのフラグは立っている可能性があるので見てる分にはスリル感がある。頑張れよキンジ……お前もたぶんアリアたちにぶっ殺されっからな……ジャンヌフラグを建築したら……

 

等とふざけたことを考えつつ二人の尾行を一毅は続ける。

 

「遠山……お前には礼を言う……」

「別に気にすることじゃない」

 

と二人は話す。礼と言うのは戦車から逃げるときの事だろう。別に気にすることじゃないし寧ろさっさと忘れてほしいのがキンジの本心だった。何せヒステリアモードの時の事だし恥ずか死ぬ……

 

「それで遠山……お前にいっておきたいことがあるんだ」

「なに?」

 

キンジは首をかしげる……その時ふと気がついた……今キンジがいるのは広場……人気はなく閑散としていて夜中と言うのを差し引いても静かだった……

 

「お前にはすまないと思っている……」

「どう言うことだジャ……っ!」

 

キンジは咄嗟に近くの街灯を見た……何故ならそこから凄まじいまでの闘志……殺気とも呼べるそれを発する何かが居たからだ……

 

「初めまして……だな」

 

街灯の上に立つのは全身が漆黒の中二病みたいなコートを着て背中に二本の刀をクロスさせて腰にはカットオフショットガンとタウラスレイジングブルと言う銃を持つ恐らく自分と同世代の男……片目が怪しく光るのがこの暗闇の中では不気味だ。

 

「ほんまに(エネイブル)なんか?」

「写真でしか見てないからな……俺もわからん、多分そうだろ」

 

視線を落とすと街灯の下に関西弁で喋る男……身長もガタイも一毅よりデカイ……いかつい見た目をしているが恐らく同世代……腕は丸太のように太く、見るからに頑丈そうだ……武器はなさそうだが男が着てるコートには違和感があった……男が着てるコートは背中に虎が刺繍されたコートなのだがそれはまるで……

 

(龍桜に似ていないか?)

 

と思いつつ周りを軽く見渡すとジャンヌがいない……どう言うことなのかわからないが……今はそれを考えてる場合ではない。

 

「おい一毅!居るんだろ……」

「何だバレてたのか……」

「お前はその体格だぞ。しかも尾行下手くそだしな」

 

と、近くの物陰から出てきた一毅にキンジは答える。

 

「んで?知り合いか?」

「知らん、あんな中二病にも一毅みたいな犯罪者顔の男にも心当たりはない」

「悪かったな犯罪者顔で……」

 

そんなやり取りをするがキンジも一毅も油断はしなかった……目の前の二人は危険大だ……戦闘能力は間違いなく桁外れ……だがなんの目的だ?

 

「あれが応龍か……写真でも見たがお前と同じく人相が悪いな……」

「やかましいで……この顔は生まれつきや」

 

と、まるでキンジと一毅のようなやり取りを相手はすると、

 

「さ、チャッチャとこいつらを片付けるぞ……大牙(たいが)

「そうやな、静刃(せいじ)

 

ゴキリと大牙と呼ばれた男は指を鳴らし静刃と呼ばれた方は刀を抜く。

 

「三分……あと75箇所と24箇所か……」

「何が……っ!」

 

次の瞬間キンジと一毅は驚愕した……なんと静刃と呼ばれた男は刀を抜いた瞬間メキメキ音をたて体が肥大化……と言うか筋肉が盛り上がり始めている。

 

「お前らを片付ける時間だ。あと75箇所って言うのはお前の隙だよ(エネイブル)……26箇所は……応龍の方だ」

「つうわけで恨みあるわけやない……ただな……あんたらが居られるとワイらが苦労すんねん……」

「そう言うわけでな……あいつらのためにも……」

『ここで死んど《いてくれ》《けや》』

『っ!』

 

キンジと一毅は息を飲む……この二人が何者なのかわからない……

 

「逃げ場なし……だな」

「クソッタレ……こんなんだったら刀の一振りでも持ってきとけば良かったぜ……」

 

キンジと一毅は構えた……

 

こいつらは何者か知らんが……だが一つだけ言える……

 

 

こ い つ ら は 敵 だ……




と言うわけで今回で欧州編も前編終了です。次回は対談して後編に入っていきます。

そしてアリスベルサイドの静刃と一緒に出ていたのはオリキャラです。

本名は【冴木 大牙】……参考キャラは龍が如くの【冴島 大河】です。個人的にはプレイヤーキャラとしてだったらかなり強キャラだと思います。


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談話
対談Ⅹ


咲実「はい皆さん!楽しい楽しい対談始まるよぉー!」

 

キンジ「つうわけでしゅうごーう!」

 

一毅「イエーイ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「つうわけで無事一周年終えて始まりました対談!」

 

アリア「それにしても今回は私たち出番のでの字もないわね……」

 

レキ「仕方ないですよ……そう言う構成ですから」

 

白雪「あーあ……私なんか暫く出番原作の方でもないしさ……」

 

理子「理子はちょびっとしかないもんねぇ……」

 

辰正「まぁまぁ、多分その内出番増えますって」

 

あかり「そう言えば次の章では遂にアレが出るんですよね?」

 

咲実「そだよ、次章は独自設定も入ってくる予定です」

 

ライカ「そう言えば台本にも色々書かれてましたね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「と言うわけで質問コーナー……今回は一人だから素早く答えて皆さんお楽しみにしているであろうアレをやります」

 

ロキ「と言うわけで質問内容はこちら~」

 

これは最新巻(特に最後の部分)を読んだ上での疑問です。

人間を超えて、更にその壁を超えたクラスである「世界最強クラスについて強さ」、はどうなってるのでしょうか?知りたいです。

個人的には

 

初代:桐生一馬の介(宮本武蔵)・亜門丈之進・・・最強の最強

初代:佐々木小次郎(柳生宗矩)・・・・・・・・・準最強

石舟斎・胤栄・丸目・・・・・・・・・・・・・・・準最強と同等かそれに近い実力

 

この辺りが歴史上でも最強もしくは大剣豪と名高いクラス、かな。下手するとさらにもう一つ壁を超えてそうですが、で

 

桐生一心・遠山鐵・・・上の上

桐生一明・遠山金叉・・上の下(一明は強くなってるから、上の中かも)

 

佐々木(父)・・・・・中

 

最新巻の東京地検特捜部の人・・下(予想)

 

と予想してます。

 

陽菜「更に同じ人から追加でござる」

 

すみません、追加の質問です。

遠山 金次の父親であるチートの権化の一人であった遠山金叉は1989年のSDAランクは8位でした。では、一毅の父親である桐生一明のSDAランクは、どれくらいだったのでしょう?

 

咲実「はいまずは強さ云々ですが……いつの会話だか覚えてない……」

 

キンジ「おい……」

 

咲実「いや読み返してるんだけど……どこの話だか完全に忘れてる……ダメだ見つかんない……いつの話だっけ状態です……原作読み返してもよくわかんない……」

 

一毅「おいおい……」

 

咲実「見当違いの返しをしそうだし保留!何処での話なのか、もう少し詳しくお願いします。ただ一明のランキングですがあまり考えてません。八位以降の上位ランカークラスとなると物語に深く関わってくる可能性もあるので下手に一明のランキング単純に金叉より上にはできませんし下にしても何位くらいにするか考えるのが面倒なので敢えて触れないようにしてきました。そこは自由にご想像を……って感じです。へたに確定させちゃうと後々面倒な事態になりかねないので……」

 

一毅「腕っぷしなら親父の方が強い……って感じの理解だけあれば大丈夫ですので……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「さぁ!皆さんおまちかねの人気ランキングじゃ!」

 

一毅「待ってました!」

 

咲実「同数票が多いからまずは最下位からいくぜ!第五位」

 

白雪「随分最初から順位上だね!」

 

咲実「いやだって一票しか入らない人が多くて……その代わり入った人は10人くらいいたかな~、と言うわけで今度こそ五位!」

 

☆あかり☆

☆ロキ☆

☆かなめ☆

 

あかり「あ、私だ」

 

ロキ「私もいるね」

 

キンジ「かなめもランクインだ……」

 

咲実「個人的にかなめに票が入ったのは驚きでした……いやはやビックリ……と言うわけで第四位!」

 

●キンジ●

●ライカ●

 

一毅「なんの偶然か名前表記が二人とも片仮名だな」

 

キンジ「ま、ランクインしてよかったよ」

 

ライカ「少なくとも複数は票が入りましたしね」

 

他のヒロイン(まだ呼ばれてない……)

 

咲実「と言うわけで第三位!」

 

◎一毅◎

 

咲実「さすが一毅!ベスト3には入ったよ」

 

一毅「いや微妙なんだが……三位って上にまだ二人いるのかよ……」

 

咲実「……さ、さぁ第二位!」

 

一毅「おい無視すんな!」

 

咲実「第二位はこちら!」

 

◇レキ◇

 

レキ「これがヒロイン力ですね……ってアレ?まだ上いたんですか?」

 

咲実「レキには結構入ったんだけど僅差で負けたんだよ」

 

アリア「なんか私の勘がいってるわ……嫌な予感がするってね……」

 

理子「理子の第六感がいってるよ……これは危険だって……」

 

白雪「私も占いが今日は凶日だって……」

 

咲実「では栄光の第一位……数々の人物を虜にしたのは……なんとこいつだぁ!」

 

◆♡辰正♡◆

 

辰正以外『何でやねん!』

 

辰正「僕かーい!」

 

咲実「いやぁ……数の計算間違えたんじゃないかと何度か確認したよね……」

 

一毅「いやレキが俺より高いのはいいさ!デモなんで辰正が一位何だよ!いや別に辰正嫌いじゃないけどさ!」

 

キンジ「ネタって言う側面もあったんじゃないか?ほら、作者の友人投票も辰正一位で仰天させられたし……」

 

アリア「良いじゃない……キンジはランクインしたし……」

 

白雪「掠りもしなかったもんね」

 

理子「あはは……」

 

陽菜「…………」

 

咲実「これは辰正のスピンオフ……と言うか多分AAサイドのお話書いたら辰正が主人公で書くことになりそうだなぁ……どちらにせよ辰正がここまで人気が出ると言うのは予想外だった。最初はあかりの金魚のふん感覚で出したキャラだったんだけどね……」

 

辰正「もしかしなくても俺って端役でした?」

 

咲実「端役もいいところだよ。と言うかAA面子がここまで絡むのも最初は想定してなかったしね……味方で男でオリキャラだから俺もビックリだよ」

 

志乃「でもちゃっかりかなめちゃんがランクインしてますね……」

 

咲実「そしてこれはかなめをヒロインにしろと言うお告げ……」

 

咲実以外『それは絶対に倫理的にダメだ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「そう言えばこの間友人にさ……一毅の真のヒロインはレキでもライカでもロキでもないよね……って言われた」

 

一毅「ハァ?」

 

咲実「序でにキンジのヒロインはアリアでもないと言われた……」

 

キンジ「じゃあ誰だよ……」

 

咲実「一毅の真のヒロインは……キンジだとさ」

 

咲実以外『はぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?』

 

咲実「一毅×キンジは割りとできそうだよねぇww……友人談」

 

一毅「いや作中でもオホモダチとか言われてたけどそれはないだろ!」

 

咲実「因みに一毅は攻め、素のキンジは受けでヒステリアモードだと立場が逆転だって」

 

キンジ「マジで勘弁してくれ……」

 

理子「うーん……でも確かに二人とも仲良すぎて理子たちは入れないときあるからね」

 

女子一同『それはわかる……』

 

キンジ&一毅『頼むから分からないでくれ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンジ「最近ツイッター始めたんだって?」

 

咲実「まぁね。特に意味のないこと呟いてたりするけど基本的にツィートを見て終わってる」

 

一毅「そこで何で俺の名前を使ってんだよ」

 

咲実「だって咲実って言うのは何かありきたりだしじゃあ一毅の名前を使おうってね」

 

一毅「じゃあなんで俺の名前なのにバスカービルの画像なんだよ!俺の写真使えよ!」

 

咲実「お前の写真なんてあると思うか?」

 

一毅「あ……」

 

咲実「おまえは本来原作にはいないキャラなんだよ一毅くん……どんなに足掻いたって君の写真や画像はでない!」

 

一毅「じゃあお前が描けよ!」

 

咲実「中学時代美術の時間現代のピカソと呼ばれた私に?」

 

キンジ「ある意味誉め言葉じゃね?」

 

咲実「俺はジャンヌより絵が下手くそだと言う自信はあるよ」

 

一毅「……やっぱいいです……」

 

咲実「それが懸命だね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「無事一周年も過ぎて一毅とも長くなるけどこの作品はあとどれくらい続くのやら……って思うときあるよ」

 

アリア「原作が続く限りじゃない?」

 

咲実「いやあのね……TPPとかあるしね……」

 

レキ「そう言えばそんなのもありましたね」

 

咲実「ここはひとつオリジナルも本格的に腰を据えておこうかな」

 

キンジ「そう言えば別サイトでオリジナルも書いてたんだったな」

 

咲実「他にも案自体は存在するしねぇ……因みに書きたい二次小説も……」

 

ライカ「ずっこけて打ち切りしたばっかの身空でよくそんなことがほざけますね」

 

咲実「うぐ……」

 

辰正「それでどんな作品ですか?」

 

咲実「まずひとつは【東方project】って言う作品」

 

キンジ「有名どころいったなぁ……」

 

咲実「ただ問題として私は原作をプレイできてないんでございますよ……」

 

一毅「じゃあどうやって書くんだよ」

 

咲実「東方MMDとか二次創作で得た知識にYouTubeとかのプレイ動画とかで……でもキャラ崩壊が標準装備だから原作を愛する人からぶち殺される作品を書きそうだからのまだ決めてない……つぎは最近?始めた【艦これ】」

 

アリア「これなら書けそうじゃない?」

 

咲実「艦これの世界観より戦艦とか艦隊の知識が無いんです……現在勉強してますがむずかしい……」

 

あかり「でも書くとしたらどんな作品ですか?」

 

咲実「基本的にほのぼの系かなぁ……持ってる艦娘以外口調とか分からないから自分が持ってる艦娘使うと思う」

 

辰正「どんな艦娘がいるんですか?」

 

咲実「現在我が咲実艦隊はリーダーを【鳥海】って言う艦娘を筆頭に【金剛】【比叡】【翔鶴】【山城】【扶桑】で構成されとります。重巡洋艦一人に母艦一人……戦艦四人とコストが掛かりすぎて直ぐに物資不足に陥ります」

 

ライカ「最初は普通コストが低いものでやりましょうよ……」

 

志乃「それで他に案は?」

 

咲実「あとはねぇ……オリジナルがあるくらいでねぇ……ま、暫くはちゃんとこの作品を書いていくよ。まぁ……この作品ももうすぐ更新停止かなぁって考えてる」

 

あかり「確かに原作に近づいてきてますからね……」

 

陽菜「どの辺りまでと考えておられるのでござるか?」

 

咲実「最低アメリカ……行ければイギリスまでは書きたいなぁって考えてる。だからそれまでに何か新しい小説考えておきたいんだよね」

 

一毅「ま、暫く掛かるだろうしのんびり考えな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「さて大体こんなもんかな」

 

一毅「次回から欧州編も後半戦突入!」

 

キンジ「ジャンヌのなぞの行動とはいったい!まあ原作で知ってる人もいるだろうが……」

 

レキ「では皆さん……お楽しみにしてお待ちください!」

 

アリア「次も見てくれないと嫌よ!」

 

皆『バイバーイ!』

 

咲実「あ、でも次はまだ進めないよ」

 

一毅「はい?」

 

咲実「一年生の能力図書いといたから上げとくよ」

 

キンジ「いきなりだなぁ……」



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キャラ説
一年生能力図


基本的に独断専行です。あくまで……あくまで参考程度のものです。


評価や項目はバスカービル編に準拠する。

 

 

 

間宮 あかり 年齢16歳 性格・善

 

身長 139㎝ 体重?㎏ 血液型?型

 

種族・人間

 

所属 東京武偵高校 強襲科(アサルト)E→D

 

二つ名・無し

 

習得スキル・【鳶穿(とびうがち)】【鷹捲(たかまくり)】【間宮の技】

 

所持武器・【ナイフ】【UZI】

 

【腕力】E+【速さ】C-【頑丈】A-

【反応速度】C-【異能】F【将来性】A

 

東京武偵高校に所属しAAでは主人公。

ランクは低いが殺し技は意外と高い能力を持っている。ランクが低いのは武偵に求められる能力とあかりの本来の技術が真逆のためである。

 

 

あかり本来の技術とは間宮の家に伝わる暗殺技術で不殺を旨とする武偵内では発揮されることは殆どなくあかり自身の手で不殺用にしていかないといけない技が殆どである。そのためランクは低いが最近は様々な影響の中で成長していっている。

 

 

性格は楽天家で明るく前向き、更に人見知りをしない。だがその反面騙されやすく頭もあまり良くない。武偵ランクの低さはその辺も影響している模様。だが基本的に真っ直ぐな性格で教師からも実は一目おかれてたりする。

 

 

だが前述の性格の影響か交遊関係は後述の面子を中心としているが中々広く、本編主人公のキンジより社交的な性格をしている。更に女性を引き付ける女人望と呼ばれる体質の持ち主で一種のリーダーの素質がある。

 

 

先祖は間宮林蔵と言う公儀隠密の家系で実はキンジの先祖とも関わりがあったりする。

 

 

戦闘スタイルは間宮の武術を不殺用に改造した技とナイフと銃を使う。だがもっとも驚異的なのはタフさである。タフさだけならAランククラスとまで言われるほどでそのタフさに助けられることも少なくない。だがその反面それに頼りきりな所もあったため中国戦に併せて防御のイロハ等も身につけた。

 

 

幼馴染みの辰正のことは信頼を強く寄せていて無意識に依存してしまう部分もあったりする。とは言えそれは親しい友人のような感覚だった……が、中国での出来事を通じて意識するようになった。やったね辰正!

 

 

原作と違いキンジのことはアリアの大切な人として認識していて原作ほど敵視はしてないが内心ではキンジのタラシっぷりには不満もある上にアリアの気持ちに鈍感だったり両想いなのにウダウダしているのには溜め息しかでなかったりする。だが辰正の好意に気づいていない時点であかりもあかりである。

 

酒癖はあまり宜しくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火野 ライカ 年齢16歳 性格・善

 

身長 165㎝~(最近また伸びた) 体重?㎏ 血液型?型

 

種族・人間

 

所属 東京武偵高校 強襲科(アサルト) B(ただし、現在の実際の実力はAランク相当)

 

二つ名・無し

 

習得スキル・【二天一流(ただし拳技のみ)】【CQC】【ダンス】

 

所持武器・【トンファー】【アサルトライフル】【グローブ】【髪飾りに偽装したブーメラン】

 

【腕力】C+【速さ】B+【頑丈】B【反応速度】C+【異能】F【将来性】A

 

 

恐らくキンジとあかりに続く今作で原作と立ち位置や扱いが変わった人物。

 

 

身長165越えと女子としては恵まれた身長をしており異性からより同姓からモテやすい。だが実際は化けるタイプで化粧なりを加えるとすごい美人に化ける。

 

 

性格は割りと強襲科(アサルト)らしく大雑把な部分があるが根底にあるのは女の子の心であり本人は口では嫌がるがお洒落にも興味がある普通の女の子である。とは言え一毅と知り合ってからは女の子らしい仕草が増えたらしい。

 

 

そんななので最初の頃は女男とからかっていた男子からも最近は「あれ?ライカってもしかして可愛い?」状態になっていて分かっていたら一毅に持っていかせなかったと悔しがらせてたりしている。まあそこで分かるかどうかが一毅との差であるが……

 

 

一毅とは恋仲であるがレキや後述のロキとは仲が良い。そこは一毅の人徳であろう。

一毅と付き合うようになってからは可愛い服も部屋に多くなったらしい。とは言えそれでも活動的な服が中心だがそれは仕方ないことだ。

 

 

戦闘スタイルは最初はトンファーや銃等を使用していたが対人戦では最近はグローブによる徒手空拳が主になっている。一毅からは二天一流の拳技のみではあるが教わっていて徒手空拳の実力はSランク直々の扱きの影響か同世代の中では滅茶苦茶高くなっている。更に最近は新たな技と戦闘スタイルを未完成ながらも作り出し一毅とは違った方向性の成長をしていっている。

 

 

この作品を書くとき実は本来ヒロインにならない予定だったが気づいたらヒロインになっていた。恐ろしい子である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐々木 志乃 年齢16歳 性格・善(若干不安定)

 

身長 155㎝ 体重?㎏ 血液型?型

 

種族・人間

 

所属 東京武偵高校 探偵科(インテスケ)Aランク

 

二つ名・無し

 

習得スキル・【巌流】【燕返し】【飛燕返し】

 

所持武器・【ハンドガード付きの日本刀】【物干し竿】

 

【腕力】D【速さ】B+【頑丈】D【反応速度】C+【異能】F【将来性】A

 

 

一年生ズの剣士で、ガチユリさん……だった少女。この子も割りと立場が変わった子かもしれない。

 

 

実家は有名な武装検事の家でお金持ち……そしてパイプもあっちこっちにある。羨ましい限りである。

 

 

見た目は長い黒髪の長髪美人で落ち着いた大和撫子……性格もお淑やかで料理も上手で友達思い………………と言うのは表向きで実際はかなり危ない性格で友達思いもあかりが相手だと想い過ぎる。所謂ヤンデレ気質である。戦徒(アミカ) の白雪をそこまで見習わなくても……

 

 

だが本人も自分の想いは実ることはないと自覚しており中国編であかりとか一番の友達であり続けると言う覚悟を見せた。きっとこれからも彼女はあかりの一番の友達として一緒に戦うだろう。

 

 

戦闘スタイルは鞘無しの居合い術……巌流。と言うか、それ以外は使えない。ある意味一極集中であり

、その居合いは相当な速さを持つ。だがその反面威力と言う点においてはまだまだであり、それはこれからの成長によるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風魔 陽菜 年齢16歳 性格・善

 

身長 ?㎝ 体重?㎏ 血液型?型

 

種族・人間

 

所属 東京武偵高校 諜報科(レザド)Bランク

 

二つ名・無し

 

習得スキル・【武器術】【情報収集】【風魔の技】

 

所持武器・【忍者刀 】【火縄銃】【鎖分銅】【煙玉】等々

 

【腕力】C【速さ】B+【頑丈】C-【反応速度】C【異能】F【将来性】A

 

伝説の忍び……風魔小太郎の子孫。だがその正体は相当なドジっこ娘である。

 

忍法と称して様々な技を使うもののそれもどこか抜けていて失敗する。忍びとして致命的な性格である。

 

 

だが性格はまっすぐで素直……まあ単純ともいうがそれ故に騙されやすいがキンジから何だかんだで面倒を見てもらっている。

 

 

因みに顔は相当な美人の卵さんである。普段は素顔を隠してるがマスクの下はキンジも認める可愛さである。

 

 

キンジとの距離は原作より近くなっており積極さも上昇している。

 

 

戦闘スタイルは暗器等を含めた多数の武器を使用する武器術……中国編で使用した武器はまだ一部で実際はもっと隠し持っている。まさに歩く武器庫である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

谷田 辰正 年齢16歳 性格・善

 

身長 185㎝ 体重85㎏ 血液型O型

 

種族・人間である。男子の先輩と違い人間である。

 

所属 東京武偵高校 強襲科(アサルト)C(只し、実際の実力はAランク相当)

 

二つ名・無し

 

習得スキル・【合気術】【柔術】【関節技】【ヒート】

 

所持武器・【ラドムVIS wz1935】

 

【腕力】A【速さ】C-【頑丈】B+【反応速度】B-【異能】F【将来性】S

 

ヒート使用時 【腕力】A+【速さ】B+【頑丈】A+【反応速度】B【異能】F【将来性】S

 

あかりの幼馴染みにして一毅、キンジと並ぶ数少ない男子キャラ。

 

顔立ちは不知火に並ぶイケメン……そのためモテるがあかりしか眼中にないため噂がたたない。

 

性格はよくも悪くもお人好しと言うかNOを言えない日本人も典型。少し頼りなかったりする場面もあったりする……だが惚れた女であるあかりのために戦える男である。

 

 

自分はヒーローにはなれないと自覚しており、武偵に入ったのもあかりが行くからである。そのため実力はあるのにずっとCランクに甘んじていた。

だが中国での戦いを経て皆のヒーローにはなれずともあかりのためのヒーローになることを決めて戦うことにした。きっとこれから彼は大きく成長していくだろう。

 

 

体重があるがこれは太っているのではなく鍛えていて筋肉質だからである。比較的着痩せするものの、所謂脱ぐと凄いんですタイプ。まあそれはキンジや一毅も同様だが……とは言えそんななので一部の特殊な性癖の男性からもモテる。だが本人はノンケである。

 

 

戦闘スタイルは素手による受け流しや関節技、更に純粋な身体能力任せの殴り合いと言う泥臭い戦いもするが割りと近接戦闘は器用である。しかし周りにいるのが可笑しい先輩たちなので影が薄い。

 

 

辰正は自分は弱いと思っている。まあ確かにまだまだ未熟であるが一つ注意してもらいたい。それは辰正は弱くないのである。寧ろ身体能力を見ての通り一年の中ではダントツだし身体能力だけなら理子や白雪(鬼道術使えば少し変わってくるが)、レキなどよりも上である。ヒートによる強化だって出来る……勿論身体能力が高ければ必ず勝つわけでも無いが辰正は充分人間離れした部類にいる方だ。

 

だが周りにいるのが男性を限定にしてもエアストライク何て言うニュートンの万有引力の法則に喧嘩売ってるとしか思えないような技を使い、銃弾を掴んで止め、噛んでも止め、誘導弾を素手で逸らし音速の打突を放つキンジや電撃で肩凝りを治し、深い斬撃を喰らって全治数ヵ月の怪我でも戦い、挙げ句の果てに呂布との戦いで遂にリアル残像拳を会得した一毅である。どう考えても人間が行ってはいけない領域に行ってしまってる二人が目の前にいればそりゃ自分は弱いよなぁと思ってしまうわけである。だがいっておこう。二人が可笑しいだけで辰正も充分超人的である。

 

 

やはり彼を語る上で外せないのはその不幸体質と言うか巻き込まれ体質と言うか苦労人体質であろう。何せ彼の不幸はまずあかりとかに巻き込まれる事件多数……しかもわりと録な目には会わず戦いの怪我よりももしかしたら巻き込まれてのダメージの方が大きい可能性がある……更に日常生活でもキンジからアリアの暴行の盾がわりにされたり、不運にもアリアの怒りを爆発させて(本人に悪気なし。悪いのはタイミングだ)しまったり割りとギャグと言うかネタにされまくってる。彼を酷い目に遭わせればギャグになる感じなので作者も重宝している。

 

 

そんな彼だが恋愛は滅茶苦茶一途である。キンジと一毅とは違い女の子にモテモテ(二人もモテるがそれは少し変わった女子に……と言う注釈がつく)ではあるがあかり以外には絶対靡かない。無論顔を赤くしたり照れたりするもののどんなときもあかり一筋である。そのためか作者の友人からはもっとも人気があるキャラで投票でも一位を獲得し、ハーメルン内の投票でも主人公の一毅を押し退け一位を獲得した。これからの活躍に期待である。

 

キャラクターモデルは、龍が如く4に登場の谷村 正義と同じく龍が如く5に登場した品田 辰雄である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロキ 年齢16歳 性格・善

 

身長 153㎝ 体重(乙女の秘密) 血液型A型

 

種族・人間

 

所属 東京武偵高校 狙撃科(スナイプ) Aランク

 

二つ名・無し

 

習得スキル・【跳弾狙撃】【ポイズンクッキング】その他多数

 

所持武器・【H&K PSG】

 

【腕力】E【速さ】D-【頑丈】D+【反応速度】B+【異能】F【将来性】A

 

 

リメイク前から登場しているレキの妹……狙撃距離はレキに遠く及ばないが跳弾を得意としていてトリッキーな狙撃を使う。

 

 

性格は自由気ままで猫みたいな性格。姉のレキとは違い社交性が高く喜怒哀楽が激しくよく笑う。

最初はレキの隣にいきなり現れた一毅に対して八つ当たりのような感情を抱いたがその後一毅を知ることで好意を抱く。

 

 

一毅の部屋には半ば強引に住み着き一毅によく甘える。それを見たレキやライカがキレて喧嘩になるのはすでに日常風景……頑張れ一毅!

 

 

戦闘スタイルは勿論狙撃……跳弾を用いて死角から弾丸を当てる銃技が得意である。一毅には心眼で外されたが普通なら回避が難しい技術である。

 

 

顔立ちはレキそっくりではあるが身長もレキより高く、スタイルはレキどころかライカも目じゃない。既に白雪クラスと一毅に言わしめさせるほど……胸の柔らかさはモニュンモニュンといった感じだろうか……

 

 

作者としては三人目にして一毅の最後のヒロイン枠である。無論一毅を気に入る女子はまだでるがメインを張らせるのは彼女で最後にするつもりである。

 

 

リメイク前から割りと人気が高いオリキャラで彼女のヒロイン昇格の声が結構見られてフランスでの告白を経てヒロインへの昇格を果たした。



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十三章 ヨーロッパ戦役 後編
龍と金と傭兵戦士


気がつけば総合評価が400越えていた……ありがとうございます。期待に応えられるように頑張らねば……


ネットリと体に纏わりつく殺気……それに一毅とキンジは頬を汗が伝っていく……

 

「行くぞ……」

「ちっ!」

 

キンジはベレッタを抜くと静刃と呼ばれた男に向けて発砲……だがそれを刀を振った……そして弾かれた弾丸は足元の街灯を弾き辺りを暗闇が包んだ……

 

「っ!」

 

今のは恐らくわざとやったんだろう……刀で弾いて街灯にぶつけるとは……刀版の銃弾撃ち(ビリヤード)だ……一毅だってやらないぞあんなの……まるでどう弾けばどう弾丸が跳ぶか見えてるみたいな感覚だ……

 

「油断しとる場合じゃあらへんで……」

「キンジ!」

 

一毅はとっさにこっちに突っ込んできた大牙と呼ばれた男とキンジの間に入り止めた……大牙が放ったのは体当たり……だがその破壊力はまるで大型トラックが突っ込んできたような衝撃だった……筋肉痛なのも合間って踏ん張りが利かなかった一毅の体が中に浮く……

 

「猛虎……轟牙!」

「っ!」

 

空中に浮いた一毅を大牙は片手で掴むとそのまま地面に叩きつけるように投げる……

 

「ちぃ!」

 

だがそれを一毅は二天一流 拳技 猫返りと言う投げや打撃によって倒されたさいにその反動を利用して回転しそのまま受け身をとって立ち上がる技で体制を戻すとそのまま拳を握り間合いを詰める。

 

「二天一流 拳技……死中活拳!」

 

この技は猫返りの派生技で猫返りから体勢を戻すとそこから相手の反撃に転じる技だ……この技はその性質上反撃の機転には持ってこい……だが、

 

「っ!」

 

一毅の拳は大牙に入るが大牙はコキリと首を鳴らすだけ……

 

「くっ!」

 

一毅は一旦離れる。だがそれを大牙は追うと拳を振り上げる……

 

「くらぇ!」

「チィ!」

 

大牙の拳はガードのために交差した腕に直撃する……だがそれでも一毅を後方へと吹っ飛ばした……

 

「かは……」

(不味い……下手に防御すると簡単にぶち抜かれる……なんつうパワーしてんだよ……)

 

一毅は吹っ飛んだ先で立ち上がり腕を振る……腕が痺れてやがる……

 

だが今のでわかった……この大牙と言う男は完全なパワーファイター……先程のキンジへの突進や今の間合いの詰める速さを考えると速力は然程じゃない。一毅の方が上だ……だがそれを補って有り余るほどのパワー……そして頑丈さ……一毅も頑丈でパワーもあるが大牙には及ばないだろう。こんなだったら刀とか持ってきとけばよかった……体も筋肉痛だし……

 

だが無駄に拳を打ち込んでも体力の無駄遣いだ……数より質だ……生半可な一撃ではこの男に効かない……

 

「行くで?」

「あぁ……」

 

大牙の突進……一毅は拳を握って腰を落とし……

 

「二天一流 拳技!」

「猛虎!」

 

二人の一撃が瞬きほどの一瞬に交差する……

 

「虎落とし!」

「龍墜!」

 

一毅の相手の攻撃の瞬間に打ち込む拳技……カウンター技である虎落としを放つ……が、それに合わせて大牙が頭突きを一毅の額の叩き込んだ……一毅の虎落としと同等のカウンター技……しかしコンマ一秒先に一毅の額に叩き込まれた大牙の一撃は一毅を昏倒させた……不味い……脳震盪を起こした……

 

「これで終いや……」

「ぐっ……」

 

一毅の胸ぐらをつかんだ大牙は一毅を持ち上げるとそのまま一毅を空高く投げた……どんなパワーしてんだ!

 

「猛虎……パワーラリアットの極みぃいいいいいいい!!!!!」

「っ!」

 

大きく大牙は拳を後ろに引きフルスィング……

 

「がっ!」

 

それは重力に則って落ちてきた一毅の背中に着弾した……

 

「ぶっとべや」

「っ!」

 

グン!っと体に掛かる空気抵抗と共に一毅は吹っ飛んだ……そしてそのまま頭からゴミ箱に突っ込む……

 

「一毅!」

 

キンジは一毅の方の援護に向かおうとしたがそこに立ち塞がるのは静刃と呼ばれた男……

 

「どけ!」

 

キンジは静刃に上段蹴りを放とうと足に力を込めようとした……だが、

 

「ぐっ!」

 

その前に蹴りあげようとした足を静刃に踏まれ蹴りを止められた……

 

「安心しろ……20%で相手してやる」

「がっ!」

 

キンジの腹に静刃の膝が叩き込まれる……

 

「ごふっ……」

 

その膝蹴りはえげつないほど的確にキンジの鳩尾に叩き込まれる……完璧な角度……完璧な体制……的確な位置……何れをとっても気味が悪いほど正確でまるで何かのナビゲーション受けてるようだ……

 

「弱いな……」

「ち……」

 

静刃はそう呟きつつ空に浮いたキンジを手に持つ双刀で峰で挟み持ち上げる。

 

「お前本当に(エネイブル)か?俺が聞いた話ではどんな手や策略をもってしても殺せない……不死身の男だと聞いたんだがな……」

「うるせぇ……」

 

キンジは自傷覚悟で刀を掴もうとする……だが、それを静刃の方が止めた。

 

「止めておけ、俺の妖刕はカミソリみたいに切れ味がいいんだ。指がボトボト落ちるぞ」

「っ!」

 

さっきからこっちの動きを先読みされている……それ自体はキンジの万象の眼でも可能だ。だが万象の眼は極限化した観察眼……それを用いるにはその見たものを処理する並外れた判断能力を必要とする……故にキンジはヒステリアモード時でなければ使えないし使わない……あのシャーロックも条理予知を併用した。だが今言いたいのはそこではなく観察眼である以上自分がどうするべきかの行動の判断は使用者に委ねられてると言うことだ。逆に返せば万象の眼は相手の動きは教えてくれてもどう動けばいいかまでは分からない。だが相手はまるでどう動けばいいのかまで理解している……相手の動きまで分かった上でだ……

 

「…………ちっ!」

 

怪しげな緋色の瞳を動かし静刃はキンジを放すと爪先でキンジの脇腹……正確には腎臓にダメージが入るような蹴りかただ……これはかなり微妙な角度で蹴り込まないといけないため狙って打つのは難しいのだがそれをしている辺りやはり違和感を感じる。

 

「スナイパーか……」

 

静刃は刀を振って突然飛んできた狙撃弾を斬る……すると突然刀がリリン……リリン……と鳴り出した。

 

「……ちっ……いくぞ大牙、多分こいつらは影武者だ」

「そうやな……明らかに手応えが無い……アリスベルや貘から聞いた話やともっと尋常じゃないはずや……」

「顔だけは似た奴をよく見つけたもんだ……ま、世界には四人はそっくりさんがいると言うしな」

 

そう言いつつ静刃は刀を納めた。

 

「おい偽物の(エネイブル)……今回は見逃してやるから後で本物の(エネイブル)に伝えとけ……」

「あぁ?」

 

キンジは生まれつきネクラと呼ばれる目付きで睨むと静刃は鼻で笑った。

 

「藍幇にはこれ以上関わるな……お前のせいでこっちが尻拭いしなきゃいけなくなった……お前のお陰で散々だ……これ以上流れを変えられると問題なんでな……死にたくなかったら藍幇には関わるなよ……とな」

「ほな……」

 

そう言って二人は闇に消えていった……それを見送りキンジは口を開く。

 

「おい一毅……生きてるか……」

「あぁ……背中痛いし腕も痛いけど……な……」

 

一毅は吹っ飛んだ拍子に頭から突っ込んだゴミ箱から頭を引き抜く。

 

「クソッタレ……極めし者のオーラ(クライマックスヒート)の反動なければ素手でもマシだっただがな……流石にいてぇ……」

 

そう言いつつ一毅はキンジの手を取り立ち上がるのを手伝う。

 

「俺もだ……ヒステリアモードなら勝負になったが素の俺じゃ相手にならん……」

「ま、そのお陰でお前は偽物判定受けたんだろ」

「お前もな……」

 

二人はため息をつく。

 

「だが顔は覚えたな……」

「あぁ……もう忘れん。武偵はやられ多分はやり返すのが信条だ。次会ったときは絶対に打ちのめしてやる」

「バスカービルの皆で御礼参りでもするか?口調的に他にも仲間いるっぽいし」

「それは悪くねぇな……徹底的にやってやる……」

 

二人はニヤリと笑った。するとそこに駆けてくる人影……

 

「大丈夫お兄ちゃん!」

「二人とも無事かい!」

 

さっき恐らく狙撃してくれたであろうロキとワトソンが来た。

 

「待ちくたびれたぜ。だけど何でロキが?」

「うん、お兄ちゃんの部屋に行ったんだけど居なくて丁度ワトソンさんと会ったんだけど……」

「先程リバティーメイソンの情報網に妖刕と猛虎の目撃情報が入ってね……危険だから外に出ないようにと言いに来たんだが……遅かったか……」

「あぁ……となるとあれが……妖刕と猛虎……」

 

二人は制服についた埃を落とすとワトソンをみる。

 

「あぁ、眷族(クレナダ)が雇った傭兵のうち二人だよ」

「そうか……で?これからどうする?」

「取り合えず場所を変えよう。着いてきてくれ……別の隠れ家に連れていく」

「分かった」

 

キンジと一毅はうなずきワトソンの案内のもと歩きだした……だがこれが始まりの合図だったのだと知るのは……この直ぐ後の事だった。




一毅「…………」

咲実「ねぇねぇどんな気持ち?後輩に人気投票で差をつけられた気分は?」

一毅「死ね!」

咲実「けばっぶ!」

投票のご協力改めてありがとうございました。またいつかやりたいですね、キャラ投票ではないですけどこういう感じのは……


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龍と金の裏切り

「これでよし……っと」

 

現在一毅とキンジはリバティーメイソンの隠れ家(寝泊まり予定だったのとは違う場所だ)で傷の治療を受けていた。傷といっても然程じゃない。とは言え軽症と言うほどでもない。少しばかり微妙だがこういう傷を嘗めて掛かると後々泣くことになるのでワトソンにされるがまま治療を受けると完了したようだ。

 

すると部屋の扉が開かれる。

 

「っ!」

 

一毅は咄嗟に身構えそうになったが落ち着いて見ればメーヤだった。その後ろにはメーヤに負けず劣らずの胸を持つシスターもいる。

 

「どうも、お二人ともご無事みたいで良かったです」

「まぁきっちりやられたけどな……」

 

一毅は座り直しながら肩を竦めた。

 

「それでそっちの人は?」

「バチカンに所属するローレッタと申します」

「そうか……」

 

と一毅はうなずくと天を仰いだ……全身は重いしダルい……

 

「それでこれからどうする?」

「まぁ今はかなり不利だからね……どうにかして逆転の一手を打てないと危険だ」

「すみません……私の力が及ばないばかりに……」

「しっかりしなさい、メーヤ……この程度前回の戦役に比べればまだまだです。何せまだローマは無事なのですから」

 

そうローレッタが言うと扉がまた開かれた。

 

「まるでフランスとかはどうでも良いような言い分だな」

 

入ってきた男が言うとローレッタは首を振る。

 

「そうは申してません」

「どうだかな……」

「カイザー……」

 

ワトソンがカイザーと呼んだ男はワトソンを見る。

 

「そっちは無事だったみたいだな。ワトソン」

 

そう言ってカイザーは部屋にはいる。空気が重い……するとローレッタがキンジに話しかけてきた。目を瞑っているのを考えると盲目だろうか……

 

「貴方が遠山キンジさんですね?カナさんから聞いています」

「兄さ……ゲフンゲフン!カナを知ってるんですか?」

「はい、大変綺麗な方だとか……盲目なのが悔やまれました」

「あはは……」

 

キンジは頬を掻くしかない。メーヤも頷いてるのを考えるにカナが男だとは誰も知らないんだろう……

 

それにしてもどうも今のやり取りでわかったが欧州は歩調が揃ってないようだ。これではなぁ……

 

「さて、まずは情報を擦り合わせよう」

 

まず今回の襲撃……撤退し隠れ家に隠れたのにその日のうちに襲撃を受けた。恐らく内通者がいる……と言うのがカイザーの見解……そして、

 

「それでジャンヌを最後に見たのはいつだ?」

 

と、この場に居ないものに疑惑が向くのは避けられなかった。

 

「ホテルで部屋に移るとこまでかな?」

「僕もだ」

 

と、答えたのはロキとワトソン……

 

「遠山キンジ、桐生一毅、君達はどうなんだ?」

『………………』

 

カイザーの問いに二人は沈黙する。一毅は答えようとしたのだがキンジがアイコンタクトでストップをかけたのだ。なら大人しく黙っておくことにしよう。

 

だがそれに対しカイザーは眉を寄せる。

 

「なぜ黙っている……言いたくはないが……妖刕と猛虎の襲撃を受けたそうだがあの二人の強さはよく知っている。なのになぜ生還した?君たちの強さも聞いてはいるがな……特に遠山キンジ、君は随分と魔女連隊から熱心に勧誘されたそうじゃないか」

「………………」

 

カイザーは……恐らく内通者かもしれないリストにキンジもいれてあったらしい。確かに勧誘はされたが……それを言えば一毅も使い魔に勧誘されたらしいが……恐らくこの情報は入っていないんだろう。

 

「藍幇も随分あっさり君に降ったらしいが……今のままでは私としては君が前から眷族(クレナダ)と通じてい他としか考えられないんだが?そもそも君とジャンヌが共にあるいてたと言う情報も……」

「やめるんだカイザー」

 

と、それを止めたのはワトソンだった。

 

「ここでそんなことを言い合っても仕方ないだろう。眷族(クレナダ)の狙いはそこかも知れないんだぞ」

「あ、いや……そのだなワトソン……現状を考えてもジャンヌやこの男が怪しいのは事実だし……桐生一毅だって……言い切れない部分もある……」

 

どうしたのだろうか……突然カイザーがしどろもどろし始めた……と言うかワトソンに怒られてしどろもどろって……まるで意中の女の子に怒られたような反応……ワトソンって実は女だってバレてんじゃね?

 

「とにかく!どうなんだ遠山キンジ」

 

本当は偽物だと勘違いされたんだが……キンジは口を開き放った言葉は……

 

「どうだかな……」

「…………ワトソン……構えろ」

 

カイザーの中でキンジ=内通者と言う構図が完成したらしい。全く、もうちっと信じちゃくんないかね……

 

「おいやめろカイザー!」

「ここで争っても意味がありません!」

 

と、ワトソンとメーヤが止めるがカイザーは既に戦闘体制だ。するとキンジは立ち上がり、

 

「なら教えてやるよ、まず……カナは男だ」

『……………………は?』

 

カナはメーヤやローレッタだけじゃなくカイザーやワトソン……ロキも顔くらいは知っている……なのでキンジのカミングアウトに固まった……更に、

 

「あと、ワトソンは女だ」

『え?』

 

今度はロキが唖然としなかったが他のカイザーやメーヤ、ローレッタがワトソンを見た。

 

「ち、違う!遠山も何をいって……」

『っ!』

 

次の瞬間部屋を煙が包み込んだ。キンジが持っておいた武偵弾……その一つだろう。使う機会がなかったがここで使うことになるとは……

 

「Smoke!」

 

カイザーも驚きそのなか突然銃声と共に窓が割れる。皆は窓からキンジが飛び降りたように感じただろ……だがキンジと一毅はソッとドアから退室したのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?どう言うことだよ!」

 

二人は急いで細い路地裏に隠れると一毅はキンジに聞く。

 

「お前ほんとにジャンヌが裏切ったと思うか?」

「どうだかな……状況だけなら怪しいけどな……」

「ならやってねぇな」

 

キンジの言葉に一毅は首をかしげる。

 

「仮にも策士名乗ってるやつが頭に脳みその代わりに糠味噌いれてるお前に怪しまれるような策を建てるか?雑すぎんだよ、ジャンヌがやったにしてはな。今まで上手くバレないようにやってたにしてはいきなり俺たちに怪しまれるような行動だぜ?まだ戦役は続くってのに早計すぎんだろ、大方別にいるぞ、内通者がな……多分俺達が邪魔でどうにかして消したいから俺達に眼が向くように仕向けたんだ」

「うん、最初の方が滅茶苦茶失礼なのは置いておいても確かにそうかもな」

 

誰が脳みそじゃなくて糠味噌じゃいと一毅は顔を顰めた。

 

「ふん、小学6年の時点で九九が四の段で挫折した男がよく言うぜ」

「馬鹿め……俺だって日々成長してんだ!今じゃ九九くらい簡単だぜ!……七の段まではな!」

「九九って言うのは九の段まで覚えて初めて完璧だからな?」

 

キンジは肩を落としつつ言う。

 

「じゃあ3×4は?」

「12」

「おぉ、じゃあ4×3は?」

「ええと……4、8……12だ!」

(今こいつ足して考えたぞ……)

「じゃあ、6×8は?」

「ええと……48!」

「なら最後、8×6は?」

「………………お前なぁキンジ、俺は七の段までしか覚えてねぇっていったの忘れたのか!」

「威張るな大馬鹿!しかも掛け算って言うのは数字の順番を逆にしても同じ答えになるって言うのを覚えてねぇのかよ!」

「えぇ!マジで!?」

 

キンジは頭を抱えた。

 

「お前ほんとどうやって武偵高校に受かったんだよ……武偵高校の入試だって筆記あっただろ……いくら重視されないって言ったって限度があるぞ」

「ああ、五角鉛筆転がした」

「ほんとお兄ちゃんって運良いよねぇ」

「そうだなロキ、この運で宝くじでも……って!」

『ロキィ!?』

 

キンジと一毅は驚愕してスッ転んだ。

 

「やっほ~」

「お前なんでここに!」

「目眩ましして窓を壊してまるで窓から飛び降りたように偽装しつつ扉からこっそり出ていくって神崎アリア先輩にやる手でしょ?私だけじゃなくてチームバスカービルと一年生なら見たことあるもん」

「そうじゃなくて何でここに……」

 

一毅は困ったような表情を浮かべるとロキが肩をすくめる。

 

「だって彼処にいたって何か分かるわけでもないしきっと何か事情があるんでしょ?あんな態々犯人じゃないのに犯人みたいな事をいってたのは」

「俺は裏切ってないって思ってるのか?」

「裏切ったの?」

「いや、違う」

「ならよし、だってお兄ちゃんの親友だもんね、そんな不義理なことはしないだろうしさ」

「買われてんな、一毅」

 

とキンジが一毅を肘でつつくと一毅は苦笑いする。

 

「で?どうする?」

「とにかくここから離れよう。そうしないとまず話にならないしな……」

 

そう言って三人は立ち上がると路地裏を抜けようとし……止まった。

 

「早いな……もう俺達を見つけたのか……」

 

一毅は自分達の行き先に居るものを見る。

 

「メーヤ」

「何となくこちらの方にいる気がしてきただけなので運が良かっただけです。それでなのですが皆さんが抜けた直後に突然襲撃を受けました。偶然か……それとも貴方達を逃がすための手引きなのか……それは分かりませんが捕まってはいただけないでしょうか?私は……皆さんを信じます」

 

信じます……か……確かに信じていそうだ……でも……違うんだよメーヤ……それはな。

 

どちらにせよ襲撃か……それで追撃がメーヤだけで済んだのか……とにかく時間が惜しいな。

 

「キンジ、ロキ……お前らはこのままにげろ」

『っ!』

 

キンジとロキは一毅を見る。一毅はそれを尻目に前に出る。

 

「お前正気か」

「ああ、糠味噌の頭でも時間がないのはわかってる。ここでチンタラすれば援軍が来て全滅の可能性がある。ならここで誰かを切り捨てなければならねぇだろ、時間稼ぎ兼……囮要因がよ」

「だが……」

「……行こう、遠山キンジ先輩」

 

ロキの言葉にキンジは反論しそうになるがとっさに黙った……ロキの辛そうな表情……くそ!

 

「命令は三つだ。一つはメーヤを片付けろ」

「おう」

「二つ目は追っ手を引き付けてくれ」

「あぁ」

「最後は……死ぬなよ」

「……了解、キンジ(リーダー)

 

キンジはそういうとロキと共に走り出した。

 

「…………やはりこうなるんですね」

「まぁな、頭潰されれば俺たちの敗けさ、なら俺のような配下が相手をする……頭を守るためにな。常識だろ」

「…………残念です」

 

メーヤも背中から大剣を抜いた。

 

「最後に聞きます。投降していただけませんか?私も一毅さん達が裏切ったとは……」

「……なぁメーヤ……確かにお前は俺達を信じてくれてるんだろうな……分かるよ……それくらい感じてる……だけどさ……」

 

違うんだよ……お前の信じ方って……

 

「お前の信じてるってのは義務から来てる信用だ……」

「っ!」

「そうしなきゃならない……そう言う思いが何処かにある信用の仕方だ……シスターなら当たり前かもしんない……けどな……俺たちはそう言う信じてるってのはわりぃが御免なんだよ……そんな信用なくたって良いんだ……」

「ですがこのままでは眷族(クレナダ)だけではなく師団(ディーン)すら敵に回します……そうなれば……」

「それでもあいつは真実を見つけてくるさ……俺はそう信じてる」

 

喧嘩したことだってある……軽口言い合って……馬鹿やったり……一緒に戦ったりだってした。殴りあったりもした……背中を任せたこともある。だから信じれるんだ。

 

「あいつは裏切ってない。犯人見つけてみんなの前につきだしてくれる……」

そう言って一毅は殺神(さつがみ)を構える。だから黙って自分は体を張るだけだ!

 

「いくぞ……メーヤ!」

 

一毅は足に力を込めて駆け出す……その瞬間……

 

「へ?」

 

地面に落ちていたバナナの皮に滑った……

 

「なんのギャグ漫画だよ!」

 

咄嗟に受け身をとったがいきなりの事態に一毅が目をパチクリさせるとメーヤが飛び込んできた。

 

「隙あり!」

「ちぃ!」

 

一毅は横に転がって避ける……だが、

 

「わぷっ!」

 

メーヤの大剣は地面に埋め込まれた水道管を叩いたらしく水が勢い良く発射され一毅の顔に直撃。生理的な反応として眼を瞑った一毅に向けメーヤが大剣を一閃……

 

「ちぃ!」

 

壁にぶち当たるもメーヤの大剣は壁を壊しながら一毅を狙う。一毅は瞬時に心眼を発動……素早く伏せて躱すと切り上げた……

 

「くっ!」

 

メーヤはそのままバックステップで距離を取る……

 

(…………不味いな)

 

一毅は舌打ちする……細い路地である以上一毅は殺神(さつがみ)を振る方向を縦にするしかない……横に薙ぐと壁に刺さる可能性があるからだ。だがメーヤは重量と遠心力に物を言わせて壁を破壊しながら切れる……つうかどういうパワーしてんだ?

 

「運良く壁のなかでも脆い部分にいったようですね」

「お前の超能力は単純な分対処ができねぇじゃねぇか……」

 

そう言って一毅は殺神(さつがみ)を鞘に納め代わりに神流し(かみながし)を抜く……

 

二天一流 組小太刀の構えと呼ばれるのだが一毅はこの構えが苦手である。むしろ嫌いといってもいいくらいだ。それゆえに前に一度使ったきりだがこの細い路地裏には刃渡りが短いこれの方が都合がいい……

 

「……おぉ!」

 

そこからメーヤは大剣を振ると一毅は下がって躱す。小太刀である神流し(かみながし)では強い攻撃にたいし正面から受けるわけにはいかない。回避に専念だ……が、

 

「うぉ!」

 

突然に足を襲う引っ掛かり……何のことはないさっき地面を叩いたときに地面が少しめくれそれが一毅の足に引っ掛かったのだ。

 

「ちぃ!」

 

一毅は咄嗟に後ろに転がる。

 

「はぁ!」

 

そこにメーヤが飛びかかる。

 

「くそったれ」

 

一毅は下がる。筋肉痛だし猛虎こと、大牙の攻撃で痛いし狭いから刀は振りにくい……対してメーヤはさっきから運良く壁や地面の脆い部分……と言うか、目のような部分があるのだがそこを沿って切ってるためスイスイ壁を切り裂き一毅を襲う……なんかすべてが敵の気分だ。

 

「ちぃ!」

 

一毅は飛び上がって壁を蹴るとメーヤの斬撃を回避と同時に転がって避けつつメーヤの上を飛び越えると相対しなおす。

 

「すぅ……」

 

一毅は一度息をたっぷり吸い全部吐く。さてどうするか……メーヤ超能力の影響か不運続きで攻めきれてない。カツェがいってた通りだな。今この瞬間祿な目にあってない。さてどうするか……と考えて思わず笑ってしまう。何時からそんなことを考えるようになった?

 

「はぁ……」

 

自分は馬鹿だ……だからこそ……黙って突っ込む以外に道はない!

 

「ぐちゃぐちゃ考えても仕方ないよな」

「っ!」

 

一毅は飛び掛かる……メーヤはそれにたいし防御体制を取る。メーヤの超能力は武運上昇……今回のように運良く相手が隙を作らざるを得ない状況に持ってたりすることもあるかなり戦闘の際に有利な超能力だ。それに対し一毅は考えなく突っ込んだ。

 

メーヤは冷や汗を垂らす。今まで相対してきた相手は皆自分の能力を見れば撤退か……超能力のガス欠……その他何かしらの策を講じる。だが一毅は違う。ほんとにただ自分の本能赴くままに間合いを詰めてきた。一毅が狙ったことではないのだがメーヤにしてみれば精神的な圧迫感を与える状況でしかなく生物の本能的な恐怖を感じさせる行動だった。

 

「くっ!」

「ルァ!」

 

一毅の神流し(かみながし)の突きをメーヤは伏せる……だがその伏せて場所めがけて一毅は飛び上がり浴びせ蹴りと呼ばれる回転踵落としを放つ。

 

「っ!」

 

メーヤは運良く偶々剣を上にして伏せたためそれで止めた。そこを押し返すと、

 

「ハァアアアア!」

 

メーヤは一毅との間合いを詰める……

 

「ウォオオオオ!」

 

それを一毅は迎え撃つ……そして次の瞬間……

 

「かは……」

 

メーヤは組伏せられ一毅は上に乗ると神流し(かみながし)を首筋に突きつける……

 

「二天一流 組小太刀……巴狩り……」

 

相手の攻撃に巴投げであわせそこから更に倒した相手の上に乗り小太刀でトドメ……と言うのが一連の流れのこの技……一毅が苦手な技のひとつだが……

 

「焦ったな……メーヤ……」

 

一毅が感じさせた本能的な恐怖ゆえか……超能力のガス欠前に決めたかったのか……あるいはその両方かは分からない……だがメーヤは負け、一毅は生殺与奪の権利を得た。

 

「ま、殺さないけどな」

 

武偵法9条あるしな……と一毅は手錠を出すとメーヤに着ける。まぁ、超偵用のじゃないが……持ってないしメーヤの目にもう戦意はない。でも一応な……

 

「さて……俺も行かないとな……」

「どうしてですか?」

「あん?」

「全てを敵にして……何を思ってキンジさんは動いてるのですか?」

 

メーヤには分からなかった。メーヤはとある事情があるとはいえキンジが犯人じゃないと思っているのは本当だった。少なくともカイザーのは些か強引と言うか状況証拠しかない。だがキンジはあえて自分がわざと疑われることをしている……だが一毅の返答に耳を疑った。

 

「そんなん知るか」

「…………え?」

「俺はあいつの全てをはわからない。そんなこともある。だけどな……あいつには何かしらの考えがある。そう信じてる。親友だからな、世界があいつを犯人だといっても……99%あいつが犯人だといわれても……俺は1%を信じる……あいつと笑ったり馬鹿やったり喧嘩したり……そんな日々のなかで少しだけわかったあいつを信じる。わからないことの方が多くても信じることはできる。何がなんといわれようとな」

「死ぬかもしれなくとも?」

 

その言葉に一毅は刀を納めつつ口を開いた。

 

「親友疑って……何を信じてりゃ良いのかわからなくなったら……そんなもん死んでんのと同じじゃねぇか」

「っ!」

「うまく言えねぇけど……俺は馬鹿だからさ……そんな器用にはできないんだ。だから一回信じようって思ったやつを信じるのが精一杯だ。何信じりゃいいのかわかんないけど……今いろんな情報あっけど……そんなの関係ない。俺はキンジを信じる」

 

あいつが信じるならジャンヌもやってない……きっと何か別があるんだろう。と一毅は言葉にはしないが胸にきっちり刻んでる。

 

「つうかな……もしキンジが犯人だったら……そんときはお前らの手なんか煩わせねぇよ……そんときは、俺が斬る……」

「っ!」

「何を驚くんだよ。俺たちは確かに仲が良いだろうよ……認める。でもな、俺とキンジはなぁなぁで一緒にいるんじゃねぇんだよ。なし崩しでいるんじゃねぇんだよ……親友だと思ってるからこそ俺はあいつが間違えたんだったら手加減も遠慮もねぇ……俺がきっちり締める。あいつをボコボコのする、それでも止まらねぇなら……」

 

武偵法9条破りも念頭にある……と一毅は言う。だけどな……一毅は続けた。

 

「俺が間違えたらあいつが止めるだろうさ……俺をボコボコにするだろうさ……そう言うもんだろ?親友ってのはさ……」

 

ま、実際やったらキンジ以外にもバスカービルの面々や一年生たちまで敵に回すけどな……と一毅は笑った。

 

「状況が不利でも信じて……それでも真実なら俺がケリを着ける、それくらいの覚悟はあるんだよ」

「一毅さん……」

「それが俺の……生き方だ」

 

そう言って背を向けた。

 

「また生きてたら会おうぜ、メーヤ」

 

そう言って一毅は走り出すと通りに出た……その姿に……メーヤの胸が熱くなったのは……一毅は知らないだろう。

 

「さてと……どうすっかな……」

 

そういった瞬間目の前を銃弾が通る、

 

「やっべ……もう追手かよ……」

 

一毅は慌てて走り出したのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

その頃キンジとロキは下水道にいた……

 

「…………くそ……」

「遠山キンジ先輩……」

「分かってる……少し感情整理させてくれ……ああするしかなかったのはもう理解してる……一毅なら大丈夫だ……」

 

そう呟いてキンジは自分の頬を軽く叩いた。

 

「よし……俺たちは一旦逃げて真犯人見つける」

「そうだね」

 

そう言って二人は下水道を進む、すると?

 

「ん?」

「誰かいる?」

 

下水道は暗いがそれでも整備用に灯りがある……だが曲がり角の先に誰かが俯いていた……周りにあるのは……血か?

 

「……ロキ……安全装置だけ外しておけ」

「うん……」

 

二人は銃を構えながらそっと近づく……そして……

 

『動くな!』

「ひぃ!」

 

振り返ったのは……きれいな髪をした可愛い女の子だった……




今回は一毅に言わせたかったセリフを出せて満足です。なにげに書き上げてから思いましたが……超能力の代償として味方を疑うことを出来ないようにされたメーヤと誰を信じるのも自由の上でキンジを信じる一毅……何気に相反してるって言うか……わりと結果的にメーヤ皮肉ってる?何て少し思いました。ただメーヤとの会話はうまく書けただろうか……納得いく形で書いてますが中々シリアス一毅は……いや、一毅に限らずシリアス系統は結構苦手です。ま、恋愛よりは良いかな……とかおもいますが。

一毅「おい作者……台本見てみたんだが……次回から俺の出番無くねぇか?」

……さ、皆さん次回会いましょう。

一毅「おいまてこら!おいぃいいいいいい!!!!」


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金とメイド

総合評価450突破……ビックラこきました。なんでかと思いきや高評価入ってたんですね。ありがたや……というわけで今回から少し一毅の出番なくなります。


「と、トオヤマ……キンジ……」

 

宝石のような色の瞳……マシュマロのように白く、柔らかそうな肌……そんな少女には似つかわしくない血のついた服と地面に落ちてるのは弾丸だろうか?更に腹部には傷がある……既に縫い合わせてあるが弾痕なのは見ればわかる。まさか自分で治療したのか?

 

「おい、こんなところで何してるんだ?しかも俺の名前をどこで知った?」

 

キンジは警戒しながら少しずつ近づくと突然相手の少女は平伏……と言うか土下座をしてきた。

 

『へ?』

 

キンジとロキがあっけにとられると少女は口を開く。

 

「わ、私は眷族(クレナダ)のリサ・アヴェ・デュ・アンクともうします!師団(ディーン)へ投降させてください……」

『………………』

 

キンジとロキは銃を降ろす。突然の申し出に困惑中だ。だが嘘をいってる感じはない。しかし……

 

「残念だったな……リサ。俺たちは師団(ディーン)じゃない」

「え?ですが……トオヤマ……キンジさん……ですよね?」

「悪いがさっき裏切り者認定されちまってな……仲間一人おいてきてなんとかここまで逃げ延びたんだよ」

「じゃ、じゃあ……」

「悪いな、俺も追われる身だ」

「そんな……」

 

リサと名乗った少女は肩を落とす。

 

「つうか……お前なんで怪我してたんだ?」

「はい……取り合えず塞ぎましたが……私は師団(ディーン)の秘密基地にロケット弾を撃ち込むように言われて撃ち込んだのですが銃で撃ち返され……」

「…………」

 

この弾丸の大きさ……考えるにたぶんワトソンの銃弾じゃないか?多分そうだ。あいつ遠慮なしに撃ったんだな……

 

「だが感染症とか良いのか?」

「私は体質でそういうのは大丈夫なんです。更に回復も早いですし……」

 

恐らくそういった体質もあるから任されたんだろう。つうかタイミングよく起きた師団(ディーン)の隠れ家の襲撃の犯人いやがったよ……こっちが疑われた一端お前のせいじゃねぇか。

 

「ですがもう痛みで動けなくて……もう降るしかないと考えていたのですが……」

「そうか、じゃああとは頑張れよ」

 

心配ではあるがここで止まってるわけにもいかない……こっちも追われてる身なんでな……ジッとしているわけにもいかないとキンジはロキを連れてリサを尻目にして先を急ぐ。

 

「良いの?」

「誰かの心配してる場合じゃねぇだろ、こっちも命狙われてんだし……」

「…………ならひとつ聞くけどなんで十歩ほど歩いて踵返してるの?」

 

とロキは呆れた視線を投げ掛けるがキンジは無視を敢行した。

 

「?」

 

リサはいきなりキンジが戻ってきたため何なのかわからず首をかしげた。それを見ながらキンジは胸ポケットの武偵手帳から注射器をだしリサに渡す。

 

「痛み止めだ。一回切りしか使えねぇが無いよりマシだろ、感謝しろよ……俺も脇腹が痛いんだ……あるやつに蹴っ飛ばされてな」

 

今思い出してもムカッ腹がたつあの中二野郎を思いだしキンジが苦い顔をする。

 

「はい?」

 

だがリサはなぜ渡されたのかわからないといった表情だ。

 

「ここでお前をそのままにしていくと夢に出そうなんでな。安眠は大切だ……それに俺が男だし痛みにも慣れてる。だがお前はどう見たって非戦闘員の女だろ?考えるまでもなくお前に優先権はある」

 

そういって今度こそ先に進むため背を向けた……すると、

 

「ま、待ってください!」

「……今度はなんだよ」

 

キンジは突然リサに話しかけられ眉を寄せながら振り替える。

 

「ど、どうやって師団(ディーン)から逃げるんですか?」

「…………宛はないが取り合えずリバティーメイソンやバチカンの追撃が来ないところまで離れる」

 

そういったキンジを見ながらリサは口を開いた……

 

「でしたら……私に任せてもらえませんか?」

「なに?」

「私に逃亡先に心当たりがあります」

 

リサの突然の提案にキンジは更に眉を寄せたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷふ……ぷふふ……」

「ロキ、静かにしてろ……怪しまれる」

 

リサの提案のあと……キンジとロキはリサの提案を受け入れる形でリサに連れられオランダ行きの電車を待っていた。なんでもリサはオランダに土地勘があり言語や更に師団(ディーン)だけではなく眷族(クレナダ)の影響も比較的少ない場所。と説明を受けやって来たのだがそこを目指す格好が不味かった。と言うかバレないために変装させられたのだがリサとロキは従者の格好……そしてキンジは……

 

「俺だって女装するなんて予想外だったぞ……」

「大丈夫ですよキンジ様、よくお似合いです」

「嬉しくない……」

 

そう、キンジは欧州にてヨーロッパ美人にされてしまった。少しきつめの美人……髪が黒いだけで完全に銀河鉄道999のメーテルだ。クロメーテルとでも名付けたろうか……だがそのあまり似合いっぷりにロキは横隔膜を痙攣させ腹筋に絶大なダメージを受けていた……

 

「写メとってお姉ちゃんたちに送っていい?」

「やろうとした瞬間お前の携帯に風穴開けるぞ……」

 

キンジはわりとガチの怒り口調だった。だが喋るとキンジの声なので大きな声は出せない……兄の金一は女装の達人で声もカナの時は変わっていた……今度習うか、何て考えて自己嫌悪に陥るのを既に数十回やっている……こんな罪な才能はいらなかった……もうマジで泣きたいぜ……一毅がこの場にいたらその場を転げ回っていただろう。笑い死んでしまうこと請け合いだ。

 

「しかし遅いな……」

「キンジ様、よくあることですのであまりキョロキョロしないでくださいね」

「そうだよ、日本みたいなのが珍しいんだから」

 

キンジはマジかよと頭を抱えた。日本じゃ三分遅れたって謝罪のアナウンスが入るってのに……これが文化の違いってやつか?

 

「ん?」

 

すると、やっと電車が来た。見た目がなんか汚れてて犬の鼻みたいな形状の電車だがそれにリサを筆頭にキンジたちは乗る。

 

「ここです」

 

とリサに言われ個室に入る。

 

「なぁ、こんな高そうなの大丈夫なのか?」

「ヨーロッパの電車は個室が多いんだよ?」

 

それは初耳だ……全く、文化の違いってのは恐ろしいぜ……何て考えつつ外を見る。一毅は無事だろうか……あいつが死ぬとは思えないが怪我したり腹をスカせたりしてないだろうか……なんと言うか……ヨーロッパに来てからろくな目に遭ってない。普段のメンバーがいないと言うのも精神的にも負担をかけているのはキンジも理解していた。慣れない土地に慣れない人物たちとの会話……ロキはまだマシだがそれでも実際これだけ会話するのはヨーロッパに来てからだ。なんと言うか……一毅がいない状況と言うのは喋りなれた相手がいないと言うことだ。それだけでも気が滅入る。

 

「ん?」

 

すると、隣に部屋で何か声が聞こえた……

 

「切符の確認に来たようですね……キンジ様、寝た振りをなさってください」

「え?あ、ああ……」

 

キンジは慌てて寝た振りだ。そこに切符の確認にきた乗車員が入ってくる。数度言葉のキャッチボールが(外国語だから分からんが)交わされリサが声をかけてきた。

 

「もう大丈夫ですよ」

「何だったんだ?」

「あの車掌さん遠山キンジ先輩も起こしてくれないかって言ってきたんだけどリサさんがとある名家のご令嬢であるのに2等車に乗る倹約家の人がお疲れなのに起こすのか?って返したんだよ」

スゴいです(モ ー イ)、ロキ様はオランダ語もお分かりなのですね?」

「触りくらいね」

 

触りくらいでそれだけわかれば上等な気がするが……

 

「だがなんで倹約家なんだ?」

「オランダは質素倹約し、その貯まったお金を募金するのが美徳とされているからです。あの車掌さんはオランダ訛りがありましたのでもしやと思いやったら成功しました」

「スゴいな……」

 

キンジは拍手したくなった。分かったってバレないために演技力は必要だ。あんなピンチの状況でもリサは相手の特徴から推理し切り抜けて見せた……簡単なことではない。

 

「そんな……これくらいなんでもありません。私なんか臆病者ですし……喧嘩だって強くありません」

「いや……喧嘩が弱くたってそんな恥じる必要ないだろ……寧ろ……うちの周りなんか女が強すぎるくらいだしな……」

「今の録音しとけばよかったなぁ~」

 

キンジはロキの呟きを流しつつ言葉を続ける。

 

「そ、そうでしょうか……」

「ああ、だから気にすんな」

 

リサはハニカミながら笑うとキンジも頷いて外を見直す。

 

「それで何処にむかってんだ?」

「オランダのブータンジェと言うところです」

 

オランダと言うと……風車が思い付くキンジだが前に武藤がオランダとかは日本で違法なのも規制が緩いとか言っていた気がする。

 

「じゃあ暫くゆっくりできるね。そう言えばリサさんって何で戦役なんかにいるの?」

 

確かにキンジもそれは気になった。数回言葉を交わして感じたがこのリサと言う少女は戦い向きではない。さっき体質で鉄砲玉紛いのことをさせられていたのは察する事はできたがそもそもまず戦役に参加してることからして可笑しい性格だった。

 

「…………勇者様を探しているんです」

『…………は?』

 

キンジとロキはポカーンとした。

 

「勇者って……魔王とか倒す?」

「正確には私が支えるべき主人を探しているんです。私の一族は代々メイドや従者をし、そう言った御方に仕え、その方と交わっていくことで続いてきた一族です。私の母や祖母もそうやって続いてきました。でも私はまだ……見つけてません」

「そんな焦んなくたって見つかんだろ……のんびり探して行けよ、仕える相手なんぞ焦ったっていいもの見つかりゃしねぇもんだろ、時間かけて見定めた方がいいだろうし」

「…………そうですね、見てみようと思います」

「……?……いや、俺を見るんじゃなくてお前が主人になってほしい相手を見ろって話だぞ?」

「はい」

 

にっこりリサは笑いキンジは首をかしげる……それを見てロキはやれやれまたかと肩をすくめたのであった……




【バスカービル日記】

某月某日……執筆者・キンジ

ある日アリアが突然チーム親睦のために全員で交換日記やるわよと広辞苑みたいな厚さの日記帳を買ってきた。今日からやるらしく取り合えずリーダーである自分かららしい……めんどくさいが書かないともっとめんどくさいので取り合えず書くことにする。

取り合えず今日はアリアから朝に40発、昼間に30発、夜に55発撃たれた……もしかしなくても犯人に撃つより俺に向けてる方が多いんじゃないだろうか?今度集計してみようと思う。以上……

次は一毅らしい。


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主として……

最近この作品の登録がまた少し増えました……評価はグンっと上がりました。たぶんあれですね……AAのアニメの影響ですかね。今度はDVD化もするらしいですし今から楽しみです。

あとはあれかな……龍が如くの新作が年明け出ますしね。え?龍が如く何か知らない?なら年明けにでる【龍が如く 極】をかいましょう。龍が如くの初代のリメイクなので初めての方々でも全く問題ないです。ps3とps4にて発売します。私は勿論買いです。

キンジ「お前ってセガの回し者かなんかだったのか?」

違います。と言うわけでもう一人の主人公、キンジの物語の開始でございます。


「穏やかだなぁ……」

「穏やかだねぇ……」

 

キンジ女装Ver……改めクロメーテルキンジと従者に扮したロキはオランダのブータンジェという土地にいた。

 

「それで?このあと何か作戦でもある?」

「……取り合えずジャンヌの疑いを晴らして俺たちの疑いも晴れらさないといけないからな……作戦なんてない」

「行き当たりばったりだねぇ」

「仕方ねぇだろ、急だったんだからよ」

 

なんて言い合っているとリサが帰ってきた。

 

「あ、戻ったんだな」

「はい、まずは銃弾と薬に当面の潜伏地まで」

「仕事早いな……」

 

キンジは舌を巻く。そうしながらリサが買ってきたのを見つつ、

 

「んで?幾らかかったんだ?金はだす」

「え?そんな、良いですよ」

 

そういうがキンジは首を振る。

 

「こういう金銭関係はしっかりしてた方がいいからな。で?いくらだ」

「で、では銃弾と薬の費用だけ……」

 

キンジにそう言われリサは金額を口にした……だが……何か明らかに少なくね?

 

「いやあのなリサ……俺は海外の金額に疎いしお前に脇腹が痛むから買いにいかせた……だから寧ろ吹っ掛けられはしても金額が少なくされるというのはビックリなんだが?しかも金額に疎い俺でも少なすぎなのはわかるぞ?」

 

と、キンジが言うがリサは首を振る。

 

「いえ、本当にそれくらいしか掛からなくて……」

 

そう言ってリサがレシートを見せた。

 

「ほんとだ……全部最低でも三割引の印がついてる……」

 

と、唖然とするロキを尻目にキンジもポカンとする。

 

「マジかよ……」

「私は割引やネギれる店がわかるのです。最大で七割まで値引いて藍幇のココさんに嫌がられたことがあります」

「そ、それは凄すぎだな……ん?ココ?」

 

キンジは首をかしげた。

 

「ココって……あの四つ子の?」

「はい、昔私はイ・ウーにいましたから。眷族(クレナダ)に居たのもそのツテで……」

「そ、そうだったのか……やっぱりイ・ウーに居たのも勇者探しか?」

「はい、そのためです。あそこには強い方が大勢いましたから……」

 

だがリサで言う勇者には出会えなかったといったところか……可哀想にな……何て思っていると、

 

「ん?」

 

突然そこにキラキラと夕日に反射しながら大量の蝶が飛び回る。

 

「クロケットマダラ……渡り蝶です。暖かくなったらまたここオランダに帰ってきます……」

 

キンジはそれみて……なにか決めた表情になった。

 

「リサ……」

「はい?」

 

キンジは財布から現金と……クレジットカードをだした。

 

このクレジットカードはアリアが海外にいくなら持っていた方が決済の時などの時に良いし札を下手に持ち歩くより小銭とクレジットカードの方が手っ取り早いからと半ば無理矢理作らされたものだ。

 

「え?」

「これから食料とか他にも色々かかるだろうしな……預ける。ナンバーは0923だ、しないと思うが無駄遣いだけはしないでくれよ」

「そ、そんな……どう言うことでしょうか……」

「はっきり言って言語だけならロキがいるしなんとなる、でもこういう風に安く装備を仕入れてくれたりするには無理だし俺なんか論外だ。だから仕入れはお前に任せたい。その代わり戦闘は俺がやる。お前は戦いが嫌いだろ?何となく感じたけどさ……」

「……はい……」

 

リサはうなずく。

 

「だから俺がお前の代わりに戦う。火の粉を払う。俺たちは追われる身だ。だからできることを分担した方がいい。お前は俺が守る、お前には危害を加えさせない」

「っ!」

 

そう言ってキンジは呆然とするリサに少々強引に渡す。すると……

 

「シャーロック卿はこれを予知してたのですね……」

「なに?」

 

シャーロック卿……と言うのはリサがイ・ウーにいたことを考えるに恐らくシャーロック・ホームズのことだろう。それくらいは簡単に推測できた。

 

「どういうことだ?」

「シャーロック卿に言われたのです。私の勇者が見つからなくて悩んでいたときに……」

 

《君にはいずれきちんと勇者が現れる。その勇者は東からくるんだけど目付きは悪くてぶっきらぼうで女心のおの字もわからずその癖フラグだけはきちんと立てていく女たらし》

 

「あ、それ遠山 キンジ先輩じゃん」

「全然チゲぇよ!俺は女誑しじゃねぇしそもそもフラグなんぞ一個もたってないだろうが!俺は女からモテたことなんぞ昔から一度だってない」

 

だいたい女が気に入るのはいつだってヒステリアモードのほうの自分なんだからな。とヒステリアモードを知らないロキの目の前心に収めながら言うとロキは、

 

「あ、そ……」

 

何言ってんだかこの人は……みたいな目で言うのでキンジのコメカミが痙攣するが……

 

「他にもシャーロック卿は……こうも言ってました。きっとその出会いは……美しき渡り蝶の下で果たされる……と」

「……………………」

 

確かに……渡り蝶が真上を飛んでいるが……いやいや、それだけでって言うのは無理矢理過ぎやしないか?

 

「お願いしますキンジ様……私は貴方に仕えたいと……思えました。どうか貴方のメイドにしてください……」

「リサ……」

 

キンジは苦い顔をする……ここまで言わせて嫌だと言えないだろう……ロキもニヤニヤしてキンジをみている。どんな答えを返すのかわかっている顔だ……

 

「……分かった。お前には身の回りの世話を任せる。それでいいか?」

 

そう言うとリサがパァっと表情を輝かせた。

 

「はい!身の回りの世話は任せてください。キンジ様……いえ、ご主人様が望むのならば私は慈しむ姉にも……貴女を慕う妹にもなります……ご主人様がリラックスできるように致します。ですからご主人様も家族と過ごすように思ってください。これより頭から爪先までご主人様の所有物です」

 

そういうリサにキンジはぎこちない笑みを浮かべて返したのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなキンジとリサのやり取りから三日ほど……まず三人はリサが準備した宿に向かった。取り合えず分担で家事を頼んだリサの家事能力だが一般的な水準を大きく上回ってるのは火を見るより明らかだった。キンジでもそう思うほどだ。

 

そもそもキンジ達がいるのはアパートみたいな所なのだが内装はまぁそこそこ……と言う感じだったのにリサはあっという間に住み心地がいいように飾り付け掃除を終わらせると印象がまるで違った……

 

掃除だけじゃない。食事も美味しく……それでいて栄養を取れるものばかり……それでいて無駄に量を作ることもない。その時その時の食欲を先読みして適量を作ってくれるのだ。多すぎず……かといって少なすぎず……アホみたいな量を作る白雪やケーキつくって粉塵爆発を起こすアリアにイタズラを必ず仕込む理子とは違う。お陰でキンジは妖刕にやられた傷を癒すのに専念できた。

 

「しかし平和なのはいいんだが……」

 

とは言えキンジとしては師団(ディーン)眷族(クレナダ)の追撃が気になってしまう。ここまで何もないと実は既に潜伏地が割れててここに静かに集結しにきてんじゃないよなと疑ってしまうほど静かだった。

 

「ご主人様。お薬をお持ちしました」

「ん?ああ、そうか……わる……んな!」

 

そう言えばまだ痛み止めの薬のんでねぇやとキンジはリサの言葉で思いだし振り替えると飛び上がるほど驚愕した。

 

リサの格好は初めて見たときの格好ではなくなんと武偵高校のセーラー服だった。勿論短いスカートまで再現してある。なんだこの再現度は……

 

「ビックリだよねぇ、私のセーラー服見ただけでここまでそっくりなの作るなんてさ」

「そうかロキのを真似て……」

 

キンジは一旦深呼吸してからリサを見る……深呼吸したときにリサの甘ったるい匂いが鼻を攻撃したが無視しておく。

 

リサは総じてスタイルがいい身長もチビと言うほどでなくそこそこあるし胸は大きく足も長い……そして望月 萌にも言えるが非戦闘員らしいむっちりとした太もも……非常にヒステリアモード的な意味でも宜しくない。つうかスカートの中から靴下を繋げてるヒラヒラしたのはなんだ?

 

「なぁ……そのヒラヒラしたのはなんだ?」

「ガーターですよ?お気に召しませんか?」

 

そう言って裾を持ち上げる。

 

「わわ!馬鹿!持ち上げんでいい!」

 

キンジは慌てて目を塞いだ。一瞬スカートの中の布地が見えたきがしたが……気のせいだ。そうにちがいない。

 

「と、兎に角スカートもう少し長く出来ないか?」

「畏まりました」

 

リサは薬を置きながら恭しく礼をしてスカートの丈を直しにバスルーム引っ込んだ。

 

「プクク……」

 

ロキが後ろの方で腹を抑えて笑っていたのに思わず殺意が湧いたのは余談だろう。そしてベレッタを抜くのを割りと真面目に考えたのも仕方ないだろう。

 

「でもさぁ、リサさんって胸大きいよねぇ~嫉妬しちゃうわぁ」

「ロキ様もスタイルが宜しいではないですか」

 

そんな話をバスルームで二人はしているのが聞こえる……

 

「でもリサさんって何て言うか黄金比率って感じのスタイルだよねぇ、腰なんかこんな細いしさぁ」

「ぁん……く、くすぐったいですよロキ様」

「なに?ここ?ここがくすぐったいの?」

「ぅん……ぁあ……だ、ダメです……」

「ここだね?ここがいいんだね」

「………………」

 

キンジは黙ってテレビを着けて音量を大きくした……

 

「おー……本田圭佑出てるじゃん……」

 

そのままバスルームから聞こえて来るおふざけ声のロキと艶めかしいリサの声を耳に入れないようにしてヒステリアモードの血流を押さえつつキンジはテレビに没頭したのであった……




バスカービル日記

執筆者 桐生一毅

亡月亡日

浅から充劇がきこえた……他聞キンジとアリアが献花でもしたんだろう。お景で根亡しなくてすむ。それからレキがつくった浅後飯を一所に食べた。それからがっこうにいった……五全中の異っ版強化は千千わからない。五語の受行は火差渋りにクエストがなかったのでがっこうの法に蚊尾を出した。そしたららんぴょうがいて、紙を子越し身近く気っていたため、「あたま行かれたんですか?」といったらぶっとばされて天上に虐戌髪家というやつにされた。いたい……その火の依はおれが判後飯をつくった……妬き肉鈍にした。おいしかった。その依は斗なりの部谷からきこえる充静小森詩にねた。冬り……



誤字脱字がひどいため代筆者が訂正。

代筆者・レキ

某月某日

朝から銃撃がきこえた……多分キンジとアリアが喧嘩でもしたんだろう。お陰で寝坊しなくてすむ。それからレキがつくった朝御飯を一緒に食べた。それから学校にいった……午前中の一般教科は全然わからない。午後の授業は久し振りにクエストがなかったので学校の方に顔を出した。そしたら蘭豹がいて、髪を少し短く切ってあったため、「頭いかれたんですか?」と言ったらぶっとばされて天井に逆犬神家というやつにされた。痛い……その日の夜は俺が晩御飯をつくった……焼き肉丼にした。おいしかった。その夜は隣の部屋からきこえる銃声を子守唄に寝た。終わり


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主従として

「ふわぁ~」

 

オランダに潜伏して数日……キンジは窓を見ながらのんびりとしていた……妖刕にやられた傷は大分よくなった。血の小便が出てたのももう治まったし余程の無茶をしなければ傷がぶり返す事はないだろう。

 

そんなある日のことである……

 

「休みがほしい?」

「はい」

 

朝食を食べていたときにリサが休みがほしいと言ったのだ。ロキがそれに続く。

 

「今日はお祭りがあるんだって、それにリサさんと一緒に行こうかって話をしてたの、遠山キンジ先輩も行く?」

「いや、俺の場合女装しなきゃならんから遠慮しておく」

 

キンジは首を横に振った。それを聞いてリサが少しばかり残念そうな顔をしたのは余談だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな訳でキンジは 一人で部屋でテレビを見ながらベレッタの整備を始める。今は平和そのものだが何時襲撃を受けるかわからない。なので準備だけは何時も万端にしておく必要があった。すると、

 

「それでは行ってきます」

「あぁ――っ!」

 

リサとロキが着替えて行ってくると言っていたので出ていく前に声を掛けておこうと思ったのだろう。だが二人の服装にキンジは驚いた。

 

「その服……」

「え?ああ、オランダの民族衣装です」

「似合う?」

 

そう言って二人はその場でクルリと回って見せる。

 

二人はサイズ以外は同じオランダの民族衣装だった。そもそもオランダの民族衣装と言っても地方によって差異があって違うのだがこれは北フォラント州のフォレンダムと言われる地方で着られるオランダの民族衣装と言われて真っ先に思い付くであろう割りとポピュラーなものだ。だが実際眼にしてみると似合うのだ。

 

一見すれば上下が一体となり腰の部分をカラフルにして繋げた服だ。それだけに派手にも聞こえるかもしれないが見てみればそんなことはない。あれだけ派手な柄の布を部分的に使ってはいるが何処か清楚で……何処か華やかで……何処か美しさを持っている……何よりもいいことなのは露出が少ないことだ。だがその反面体にぴったりとした服装のためか二人のスタイルが際立ってる。

 

リサはそこそこ背がある(勿論キンジより低いが)のに胸は大きく腰は細い……だが恐らく中にコルセットをつけているのか何なのか強調されているのだ。スベスベの白いマシュマロのような肌に綺麗な髪……何処を取っても美人というのに相応しいだろう。

 

そしてロキ……胸の大きさなら白雪……いや、望月萌とかすらをも将来性的にも現時点でも上回ってそうな彼女だが身長はそこまで高くない。レキより若干高いくらいだ。だが前述したように胸の大きさはレキとは天と地程の差がある。一年の中では志乃やライカもスタイルはいいがロキには遠く及ばないだろう。バスカービルの中でも勝負になりそうなのは白雪だが下手すら負ける。アリアじゃまず同じ土俵に立つことすらできないそんなスタイルのロキがだ……オランダの民族衣装を着るとコルセット着用も相まって胸が物凄いことになってる……だが何時もならだらしなくユッサユッサと揺れる胸も服装の影響かしっかりと今の位置を保ってる……そしてレキとは対照的な笑顔である。太陽のような笑顔は今の服装にぴったりだ……ってどんだけ長々語ってるのだろうか……

 

「ま、まぁ可愛いんじゃないか?」

「だってよリサさん。良かったね」

「あ、ありがとうございます」

 

リサが頭を下げるのをキンジは苦笑いを返して答える。

 

「ロキは一毅に見てもらいたかったんじゃないか?」

「そうだねぇ~、これ写真に撮っておこうかなぁ」

 

ロキはニコニコ笑いながら言う。

 

「でも素直に誉められるとは思わなかったなぁ」

「何でだよ。俺だってそう言う感性くらいあるぞ?」

「だってお兄ちゃんいってたもん《キンジはロリコンだからな……可愛い女見てもまずロリじゃないとなんとも思わんかもしれん》って言ってたよ」

「よしあいつを見つけたらぶち殺してやる」

 

キンジはベレッタの整備を何時も以上に熱を入れてやることにした。

 

「ではいってきます」

「お土産買ってくるねぇ~」

 

そう言って二人は出掛けていった……

 

「ふぅ~」

 

キンジは背伸びをするとベレッタの整備に取りかかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カランコロンとオランダの伝統の木で出来た靴を鳴らしリサとロキはお祭りを観光する。

 

「一緒に来ればよかったのにねぇ」

「無理は言えませんから」

 

そんな話をしながら二人は歩く。

 

「ですが流石ですね」

「何が?」

「ご主人様はお仲間の桐生 一毅様が生きてるのを信じておられるので」

「そもそもお兄ちゃんは殺しても死なないからね。そう言う意味では遠山キンジ先輩も同じだけどさ。お兄ちゃんも《その内あいつは心臓止められても死ななくなるんじゃないだろうか……》何て言ってる位だしね」

「流石にそれはないかと……」

「うん、私もそう思う……」

 

リサとロキは苦笑いした……あながち冗談にも聞こえない……

 

「でもこの町の人は元気だねぇ……」

「はい」

 

活気溢れる町の雰囲気にロキは楽しそうに笑うとリサが同意する。元々ロキはお祭り騒ぎと言うかこう言う賑やかな場所を好む。姉のレキも生粋の狙撃手の(さが)なのか静かな場所を基本的に好むが仲間内で遊びに行くのは嫌いじゃない。表情には出さないが……因みにライカはイベント系は大好きであるのでこの場にいたら楽しんでいただろう。

 

何て考えてると、

 

「ん?何か踊ってない?」

「あ、そのようですね」

 

見てみれば広場のような所で楽しそうに踊っている集団が見えた。

 

「よーし、私たちも行こう!」

「踊れますか?」

「こう言うのは勢いで飛び込んで躍りながら覚えるもんだよ」

 

とロキが言うとリサがクスリと笑う。

 

「では最初は私がリードいたしますので一緒に踊りましょう」

「はーい」

 

とロキはリサを引っ張り踊ってる広場に乗り込んでいった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………」

『………………………………』

 

美しい女性だった……その場を通るだけで人目を思わず引き付ける艶やかな黒髪……何処か虚ろな瞳……黒いコートを着込み男性だけじゃない……女性ですら羨望の眼差しを向ける……彼女の名は……

 

(死にたい)

 

クロメーテル……またの名を遠山キンジ♂(17)である。

 

とまあ銃の整備も終えてキンジはテレビにも飽きてしまい仕方なく女装して外に出てきたのだ。太陽光にたまには当たっておかないといけないしな……

 

「■◎▲◇○◆」

「………………」

 

さっきから何度目かの恐らくナンパ……キンジはそれを一瞥だけして去る。そもそもオランダ語が分からない声はいつもの男声なので出したら女装してるのがばれる。それだけは避けておこう。

 

それにしても外に出る前に鏡で一応軽くチェックしておいたのだがその際に「うん、これなら誰も男とは思わないな」とか思ったときには軽く鬱になってしまった。なんだってこんなに自分で言うのもなんだが女装が板についてんだよと……

 

「…………?」

 

キンジ――もとい、クロメーテルが歩いてると店で大量の酒を呑んで観客ができていた。なんだありゃ……

 

「ぷはぁ!」

 

酒を飲み干すとコップをおきおかわりを要求する……一瞬メーヤかよと思ったがそもそも男だった。全身黒で固め帽子すら黒い。サングラスをかけていて全身黒尽くしだ。ある意味では悪趣味とも言える格好の男は先程からあり得ない量の酒を飲んでるらしく彼の周りには人だかりができていた。

 

「ごちそうさん……っと」

(あいつ日本人だったのか……)

 

流暢な日本語にキンジは驚いてるとその男と目があった。

 

「ヘーイそこの可愛いボウヤ、そんなに見つめられると照れるぜ」

「っ!」

 

キンジは驚愕のあまり目を見開いた。こいつは自分の女装を一目で見抜いてる……自慢したくないがそんな一目で見破られるような変装じゃ……

 

「見りゃわかるさ」

「っ!」

 

ホンの一瞬だった……僅かに一瞬その男から視線を驚愕したときにはずしただけ……その瞬間で目の前にその男は立っていた……

 

「君……遠山キンジだろ?中国で一度見たからな……分かるよ」

「…………」

 

キンジは息を呑む……だが周りからは美女に迫る男の図に見えるらしく歓声が聞こえるがキンジには関係なかった。

 

「身長凡そ170㎝と少し……体重は60後半……鍛えてるな。体脂肪率は10%台だろ?足腰を鍛える特有の立ち方と歩き方もしてる……銃は肩にかかってる重量から凡そ9㎜……ナイフを懐にしまってるってことは折り畳み……いや、比較的頑丈なバタフライだな」

「………………」

 

何でそんなにわかるんだよ……とキンジは口パクした。好きで声を出さなかったんじゃない……出せなかった。こいつは……間違いなく異常だ。

 

「同じ眼を持ってるんだ。分かるだろ」

「っ!」

 

同じ……だと?つまりこいつの眼は……

 

「元々の才能じゃないんだけどな……ま、そんなのはどうだっていい。気を付けておきなボウヤ」

 

男は……ニヤリと笑った。

 

「あんた……死相出てるぜ?」

「…………」

「死相って言ってもなんつうか直感つうか本能的なもんだ。でも大丈夫。君は長生きするよ。その死相は心配するものじゃない。俺の本能は必ず当たるんだ」

 

男はケラケラ笑うと背を向ける。

 

「んじゃな……せっかくオランダに来たんだ。ここはひとつ日本じゃ風営法に引っ掛かるような店に行ってこようかね」

 

そう言って歩きだそうとして……止まった。

 

「あ、俺は亜門 丈鬼だ。桐生一毅くんにもよろしく言っといてくれ」

 

そう言って男は……いや、亜門 丈鬼は人混みの中に消えていった……

 

「…………」

 

キンジはその場から一刻も早く離れるため反対方向に向かって走り出した。

 

(くそ……)

 

キンジは亜門 丈鬼という男に近寄られた瞬間動けなかった。静幻から聞いていた男があいつだと認識するのにも時間がいった……何故なら本能的な恐怖を感じてしまったのだ。今まで数多くの奴が戦って負けたと言うがキンジはその敗者たちを誉めたくなった。少なくとも戦えたのだ。自分はダメだ。目があっただけで身構えることすら放棄した。

 

今までいろんなやつを見てきた……そこそこの危険人物を見てきたと思ってる。そのせいか見ただけである程度は相手の危険度を計れる……そのキンジの目で見たのだがアイツはそんなのとはレベルが違う。レベル?ちがう……次元……いや、住む場所が違う。目の前に立って戦う処か立つのすら拒否したくなる……そんな相手だ……なのに……

 

(何で一毅を思い出すんだ……)

 

顔は似てない……だが持ってるオーラが似ているんだ……腹が立つくらいにな……被っちまったんだ。一毅というか自分達よりずっと年上(二十代後半が精々だと思われるが)だが一毅と被っちまった……

 

(はぁ……)

 

キンジは暫し落ち着くまで歩くと歩みの速度を落として息をつく……せっかくの祭りだぞ……ここで気を立ててどうするって言うんだ。アイツは戦いに来たわけじゃない。心配はいらないはずだ。

 

(ほんと世界ってのは広いぜ……)

 

そこそこの強さはヒステリアモード限定であればあると思っているが妖刕といい猛虎といい亜門といい……欧州にきてからここ最近のオーバースペックな相手としか戦っていない気がする……何て考えてると……

 

(ん?)

 

広場みたいな処に出た……そこではいろんな人間が踊っていたのだがその中に……

 

(リサとロキじゃねぇか……)

「あぁ!」

 

キンジはそれを遠目に見ていると目の良いロキが気づきリサを引っ張ってきた……

 

「ご、ご主人様?」

 

キンジは外で声を出すわけにはいかないので手をあげるだけにしておく。

 

「何?暇でやっぱり出てきた?」

 

まぁな……とキンジはジェスチャーというか簡単な身ぶり手振りで返した。

 

すると、

 

秂狼(ルゥ ガル)!」

 

と誰かが叫ぶ。見てみれば恐らく狼かなんかを真似たと思われる日本で言う獅子舞みたいな奴が出てきた。

 

「あれはジェヴォーダンの獣と呼ばれ日本では狼男等と称される伝説の獣です。吸血鬼のライバルと言われその咆哮はあらゆる動物を従える金獅子の獣の王……」

「詳しいんだね」

「有名ですから」

 

とロキの問いにリサは笑って答える……だがキンジは眉を寄せた。何でかわからない……が、多分勘だろうが……一瞬リサが焦ったように見えたのだ。何でだろう……

 

「さて、日も沈んで来しかえりませんか?夜になると冷えますし……」

 

それはそうだとキンジは首を縦に降った。風邪を引いたら洒落にならない……ここ最近リサのお陰で気分よく過ごさせて貰っているがそれでも体調管理は大切だ。そう思い二人をつれて来た道を戻っていったのだった……

 

だが次の日……

 

「ハァックション!ハァックション!ゲッホゲッホ!」

「ここんところマトモな生活してたからねぇ……体の免疫落ちてたんじゃない?ほら、某国民的長期連載少年漫画の主人公の警官も規則正しい生活すると体の免疫力落ちるらしいしね」

「かもなぁ……げっほがっほ!」

「ご主人様、お粥の用意ができました」

 

一気にやって来た風邪の症状にキンジは苦しむことになるのだが、そのときの話はまた次回のにしておこう……




バスカービル日記

執筆者 神崎 H アリア

某月某日

朝起きると白雪は朝御飯を……理子は昨晩から徹夜でゲームしていたと思うのだけど私とキンジしか寝室にいなかった。べ、別に特に何も意図があった訳じゃないけど取り合えずキンジを起こしてあげようと思って下に降りてキンジのベットを覗き込んだ。口開けて涎垂らしながら寝ているキンジを見たら少し安心した。す、少しよ少し!取り合えずまずは起こそうとキンジを揺さぶる……うっすらと目が開いた……が、また閉じた……折角……折角こっちが起こしてやってんのに……おはようアリア……とかくらい言ってくれても良いんじゃないの?なのに今のものすごくめんどくさそうな顔……なんか腹が立ったので……取り合えず銃を抜いて引き金を引いたわ。こっちの方がキンジはすぐに起きるしね。その直後に銃声を聞き付けて飛び込んできた白雪とバトルになったのは余談よ。

そして昼……昼御飯はキンジと理子と食べてたんだけどその時に理子がご飯を溢して胸に落としたわ……この女は性格はムカつくけど胸は大きいものね……だから取り合えず照れてたキンジを撃っておいたわ…

夜……無性に桃まんが食べたくなったのでキンジに買いにいくからボディーガードしろと言ったらお前に必要ないだろと言われた。そこまでは良い……だが、そのあとに、そもそもお前を襲う何てただの危ない性癖の奴が居ないだろ……と言われたので盛大に銃を乱射してやった。悪かったわね幼児体型で!



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金の想い

いつの間にかUAが100000越えて総評が500突破でした……嬉しいです!ちょっと早めのクリスマスプレゼントになりました。

しかしやっと再試も終わったぜ…


「ハァックション!ハァックション!ゲホッ!ガホッ!」

 

ズビビ……とキンジは鼻を啜る……

 

慣れない海外生活……あげく逃亡……ここ最近の緊張状態……様々な要因が重なりキンジは完全に風邪を引いてしまったのだ。

 

「ご主人様、お薬です」

 

前もらっていた痛み止めではなく風邪薬を貰ったキンジは水で流し込む……薬は効かないのだが折角リサが買ってきたのだ。無下にするわけにもいかず飲むだけ飲んでおく……特濃葛根湯がのみたい……

 

「まさか遠山キンジ先輩って風邪引けるとはね……」

「俺は引くんだよロキ……風邪を引かないのは一毅の方だ」

「桐生一毅さまは病気に強いのですね」

 

と、リサが言うがキンジとロキは……

 

(いや……一毅バカだし……)

(お兄ちゃんは本当に風邪の引き方を知らないだろうしね)

 

と、失礼なことを考えていた……

 

「しかしまたなぁ……何だってこんなタイミングで……」

「寧ろ今だからじゃない?」

「え?」

 

ロキの言葉にキンジは首をかしげた。

 

「そもそもお兄ちゃんと遠山キンジ先輩は無茶しすぎ。プロの格闘家だって試合と試合の間は月単位で日にちが空くのに前回の藍幇戦と幾らのインターバル置いたの?」

「それは……」

「それだけじゃないよ?次々戦い起きてるからその度に体に負担を強いってる……本人がいくら平気だと思っていても体には損傷を溜めていくんだからね?なら今のうちに少しでも体を休めて置いた方がいいんじゃないの?」

「ごもっとも……だな……」

 

キンジはロキの言葉に同意した……慣れない場所でしかもいつものメンバーと言うと今はロキのみ……身体的に限らず精神的にも本人も知らず知らずのうちに負担がかかっているのだ。リサのお陰で緩和されているとは言え……いや、寧ろリサがいたからこそ今、倒れられたんだろう。

 

「取り合えず……今日は寝るぜ」

「それの方がいいね」

「ご主人様、看護はお任せください」

 

と、リサがいってくれたのでキンジは甘えることにしたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リサが家事において文句がないことは前述したが看護と言う面でも一定水準以上を満たしていた。熱まで出てきたキンジにリサは定期的に飲み物を飲ませ、時間が来れば流動食みたくした食べ物を出した。食欲がなくなっていたキンジでも飲み込むだけで良いのだからこれは楽だった。他にも体を拭かれたり(下まで拭かれそうになったがこれは流石に遠慮した)冷やしたタオルを額に当ててもらったりと至れり尽くせり……美人なメイドにここまで面倒を見てもらうなんて経験はないだろう。いや、白雪は結構甲斐甲斐しく世話を焼いてくるが焼きすぎて鬱陶しい時もあるがリサはその辺りの機微も満点だ。

 

 

そんなされるがままの日々を二日ほど過ごした……そんな日の真夜中……キンジはふと目を覚ました。

 

「ん……」

 

キンジは時計を見る…日光はまだ上がる気配はない。

 

「ふぅ……」

 

体を起こすともう楽になっているのに気付く……頭も少しボーッとするが回る……

 

「ご主人様?」

「ん?あぁ……リサか」

 

キンジが軽く首を回していると隣のベットでロキと一緒に寝ていたリサが目を覚ます。

 

「体調はいかがですか?」

「あぁ……もう大分良……っ!」

 

キンジは眼が飛び出たような感覚に陥った……何故か?それは簡単だ、リサの服装である……リサの服装は所謂ネグリジェ……といわれるものだ。アリアも寝るときに身につける。だがリサの場合アリアとはもちろん違う。スタイルが良いのだ。そのリサが身に付けたネグリジェはヒステリアモードを呼び出しかけるのには充分だった。

 

「良かったです、顔色もよくなられたようですし……」

 

と、リサは言う……ッてなんでこっちのベットにくるんだよ!

 

「熱も下がられたようですしもう大丈夫ですね」

 

と、リサはキンジの額に手を当てながら言ってきた。確かにもう体も軽いしな……とは言え変な時間に眼が覚めたな……そのせいで眼が変に冴えた気分だ……

 

しかもリサが目の前にいる……微妙な空気だ……しかもなんかリサが少しそわそわしているような……まぁいい……

 

「何かテレビやってねぇか……」

 

とキンジはリモコンを取るとテレビをつけた……次の瞬間、

 

「え?」

 

テレビの画面に写ったのは一糸まとわぬ男女が抱きあって艶やかな声を出す映像……

 

「っ!」

 

何てこった……オランダの深夜番組ってこういうのなのか……今の映像がなんなのかくらいはキンジも流石に理解できる……くそ!ヒステリアモードの血流が少し出てきたじゃねぇか!

 

ヤバイ……何か深夜にこれってクラクラする……

 

一瞬リサと思わず目を会わせてしまい慌ててキンジはテレビを消した。こんなところでヒスってみろ……リサをあの手この手でなだめすかし取り返しのつかない事態を引き起こしかねないんだぞ……

何て考えていると……リサが寄ってきた……なんですかね?リサさん?

 

「ご主人様……」

「な、なんだよ……」

 

なんだろう……リサの眼が潤んでこっちを見てくる……

 

「そういう気分になっていられたとは……気づけず申し訳ございません」

「……は?いやいや今の事故って言うか……」

 

そもそもそういう気分ってなんだよ……

 

「思わず点けてしまうくらいだったんですよね?」

「あ、あのな……リサ……」

 

何かリサのなかでとんでもない勘違いが生まれている気がした……飽くまでも勘だが……

 

「まだ病み上がりですが……折角なので無理のない範囲でしましょう」

 

そう言ってリサはネグリジェを脱いだ。

 

「っ!」

 

目の前には真っ白な下着の上下と天下のガーターストッキングをつけたリサがいる。

 

「ま、まてリサ……俺はそういう訳じゃないんだ……」

 

キンジはここまで着てリサが何を意図していたのか漸く理解した。詳しい部分まではわからないが所謂今テレビで写った男女の行為を行おうと言う話だろう。それに気づいたキンジは何とかしてリサを落ち着かせようとした……だが、

 

「ご主人様……リサは良い子ではないのです……ずっとこういうときを待っていたのです……お願いですご主人様……もしリサを嫌いでないと言うのなら……一時で構いません、お情けをください……」

「…………」

 

もし……これが一般的な男子であったら理性がプッツンしたかもしれない……紳士でもここまで言われたらその願いに応じるかもしれない……例えその言葉の端々から見える焦りに気づいたとしても……無理だろう、日本には据え膳食わねば男の恥……と言う言葉もある、でも……

 

「…………」

「ご主人様……っ!」

 

キンジは黙ってシーツをリサに押し付けた……それが意味するのは……拒絶。それを理解するのはリサには容易だった……しかしキンジは口を開いた。

 

「ごめん……俺でも何をリサが願っているのかくらい多少は理解できた……」

「……つまり……私には魅力がありませんか?」

「違う……俺の勝手な意地みたいなもんだ……俺には好きなやつがいる。リサよりチビだし幼児体型だし口も悪くてすぐ銃を抜く……料理なんてもっての他だし家事なんて散らかすことしかできない……そんな女だ……でもな……」

 

惚れちまった……

 

「俺はそいつとの関係に決着を着けれてないんだ……いや、決着つけたら良いのかって訳じゃもちろんないぞ……でも……どちらにせよ俺はそいつとの関係を決めれてない。パートナー……って言うには距離が近い。でもそれ以上じゃない……複雑なんだ、だから……お前の思いには答えられない……誰が何と言っても……俺は……ダメなんだ」

「……………………その人がリサは羨ましいです……ちょっと嫉妬しちゃいます……」

「リサはかわいいよ……でも……済まない」

「いいえ」

 

リサはネグリジェを着ると一礼する。

 

「今晩のことは忘れてください……申し訳ございませんでした」

 

そう言って隣のベットリサは戻っていった、

 

(さてと……)

 

キンジの眼が細まる……とは言え成っちまってるんだよな……ヒステリアモード……結構ギリギリだったね。

 

(ならちょうど良い……アレを試そう)

 

 

遠山家の技にある秘技のひとつ猾経(かっこう)……この技は頭に鍵言葉を作ることで記憶を思い出しやすくする技……先祖がこれで念仏を覚えてこっぴどくしかられたらしくむかし兄とキャッチボールしていたときに庭の石を割ってしまいそこで偶然見つけた秘伝書に書かれていた技だ。

 

これでキンジは趣味である洋画で出てきた英語をヒステリアモードの頭脳で思い出し一つ一つ猾経(かっこう)で暗記していく。英語くらい話せるようにしておけば楽だろうと言う考えだ……因みにこの技……素でも有効だ。

 

そして一通り覚え終えると最後に……今回の裏切り者を考える……ジャンヌではないし勿論自分ではない。そしてヒステリアモードの思考が終わると……

 

「寝るか……」

 

ヒステリアモードのお陰で眠気が誘発されたキンジはベットに寝転がったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、今朝御飯だしますね」

「あ、ああ……」

 

と言うわけで次の日……リサとキンジはギクシャクしていた……まあ昨晩あんなことがあったのに普通にできるわけがない。そんなわけでリサが台所に下がると……

 

「いやぁ~ある意味熱烈な告白だったね」

「ぶふぅ!」

 

キンジはロキの言葉に水を吹いた……

 

「お、おま!起きてて!」

「当たり前でしょ……私だって気配察知能力は高いんだよ?ま、断ってくれて助かったよね。隣のベットでアーンなことされたら流石に困るし」

「さいですか……」

 

こいつはこいつで抜け目ない女だ……全く油断ならん。

 

「それにしても今日もいい天気だねぇ…………っ!」

「どうしたロキ?」

「見て……」

「何だ……っ!」

 

キンジとロキの眼が鋭くなる。

 

「リサ!朝食は中止だ……」

「はい?」

 

リサが顔を覗かせるとキンジは口を開いた……

 

「バチカンの連中が来てやがる」

「っ!」

 

リサの顔が凍りつく……キンジの視線の先には……シスター服を着た集団が写っていた……



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金の逃亡の終わり……

『……………………』

 

道を歩く三人の女性……それはここ最近この一帯をいい意味で騒がせる美人三人組だった。勿論……キンジとロキとリサである。

 

「お前ら……ぜ、絶対に不審な動きすんなよ……」

「そういってるそっちの方が怪しいからね……」

 

三人はとにかくオランダを抜けるため橋に向かっていた……途中でシスターとすれ違ったときは肝が冷えたのは余談だ。

 

そんなことを経て三人は橋に着いた……とにかくこの先に向かわなければならない……そう思ったときだった……

 

『っ!』

 

何か騒がしい……と思いふと視線を移したとき何と濠に子供が落ちていたのだ。

元々この濠は敵兵の進軍を止めるために作られた……そのため簡単には上がってこれないような作りになっている……大人相手にそうなのだから子供には不可能だろう。

 

そう分析しているとシスターたちまで集まってきた……それだけならまだしもメーヤまで見える……

 

「ご主人様……」

 

リサがキンジを見る。そう、ここで然り気無く通り抜ければ安全だろう……確かに危険な場所に落ちたが誰か助けるだろう……多分……大丈夫だ。それより自分達だ、命あっての物種……今は自分達の安全を優先した方がいい……のだが、

 

「お前らは逃げておけ」

『え?』

 

そう言ってキンジは走り出そうとする。

 

「き、危険ですご主人様!」

「そ、そうだよ、変装ばれたらどうすんの!」

「じゃあここであの子供見捨てんのか?俺は嫌だぜ?夢見が悪くなる……安眠は大切だ、だからお前らだけでも逃げておけ、何とかなるだろ」

 

そう言ってキンジは走り出すと人垣を掻き分け橋から飛び降りる……

 

『っ!』

 

突然の行動に周りの集まったは良いが手を出せなかった人々が息を飲んだ。当たり前だ、ここは濠は濠でもただの濠じゃない……張られているのは一見水だが見た目とは裏腹に殆ど沼なのだ。一度入ったら抜け出すのは困難である。

 

「ちっ……」

 

キンジもそれは感じた。強靭な足腰を持つキンジでも抜け出すのが難しそうだ、クソッタレ……

 

とにかく文句を言うのはあとにしてこの子供を救出しようとキンジは子供を引き上げる。さて……どうするかな……

 

と、キンジが考えたとき……

 

「っ!」

 

隣にもう一人降りてきた……助けに着たらしい……だがこれ以上増えてもな……と思っていると何故か足に絡み付く泥がキンジから離れていく……どう言うことだ?

 

すると、

 

「おーい!」

「え?」

 

キンジが声の方を見るとロキとリサがボートにのってやって来たのだ。

 

「何でお前らが……」

「ここで遠山キンジ先輩置いていったら夢に出そうだからね」

 

と、借りてきたボートの上からロキは言いつつリサとまず子供を引き上げ、そのあとキンジともう一人の救出者もボートに上がる。

 

「全くも~、後先考えずに飛び込むんだから……」

「そうですよ、ミイラ取りがミイラになったらどうするんですか?」

 

スマン……とキンジはジェスチャーで返す。

 

周りが歓声の声をあげているが後はとっとと離れた方が良さそうだな……

 

そう思いキンジたちはどうにか上に上がると周りからの称賛も流してさっさと離れようとする……あ~疲れた……

 

そう、キンジが気を緩めた瞬間……

 

「遠山さん?」

「え?」

 

その呟きにキンジは殆ど条件反射で振り返ってしまう……声の主はメーヤ……メーヤの方も反射で呟いたんだろう、向こうも驚いてる。

 

それと同時に反対方向からもガチャン!っとなにかが聞こえた。見てみればキンジと共に子供を助けた人物……顔を隠しているが多分女性だ、するとリサが驚愕の声を漏らした。

 

「パトラ様……」

「え?」

 

パトラ?パトラってあのパトラだろうか……カジノ警備の時に戦った超能力者……

 

「ふむ……キンイチ同様女装の才能があったようじゃの……遠山キンジ」

 

隠した顔を相手は晒す……その下にあったのは間違いなくパトラだった……お前顔隠してんのにわざわざ助けに来てたのか?そう言えば急に足の泥が離れてったがパトラは《砂礫の魔女》の異名を持つ魔女だ。それを使えば簡単か……

 

「しかしやっとリサを見つけたのは良かったがメーヤまで来ておったとわの……しかもリサは遠山キンジと一緒か……面倒じゃのう……しかたない」

 

と、パトラは言うと腕を軽くふる……すると濠から蛇が出てきた。

 

『んなっ!』

恐らく魔術かなんかだろう……さっきまで集まっていた一般人たちはすでに逃げ出しているがキンジたちは逃げようにも後ろにはすでにシスター達がいる……しかしシスター達も突然の蛇の大群に逃げ腰だ……すると、

 

「戦いなさい!撤退はありません!逃げようとするものには天罰を降しますよ!所詮は魔術の蛇、毒などはありません!」

 

と、メーヤが鼓舞すると慌ててシスターたちは蛇の処理にかかる。

 

「ちっ!」

 

キンジたちはその間に毒がないなら逃げようとした瞬間……

 

『あ……』

 

なにかに足が引っ掛かってスッ転んだ、見てみると蛇がキンジたちの足に巻き付いているのだ。くそ!離れないぞ!

 

「すまんの、お前たち」

 

その間にパトラはバイクのエンジンを掛ける。あいつこっちを囮に逃げる気か!

 

「待ちやがれパトラァアアアアアアアアアアアアアア!」

 

キンジは怒鳴ったがパトラはスタこらさっさと逃げ出してしまった……

 

「クソッタレ……」

 

結局……そのあとキンジたちはバチカンに捕縛されたのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふぅ……』

 

バチカンに捕縛されたあと……キンジたちは教会に軟禁されていた……

 

「しかし……教会ってのは金があんだな……」

 

あっちこっちにおいてある置物にキンジは呟く。飽くまでもここは教会の一室だ。他にも高そうなのはあるかもしれない……

 

「盗んじゃダメだよ」

「んなことは分かってる」

 

そんなロキの軽口にキンジは返す。

 

「しかしパトラのやつお前を探してたみたいだな」

「っ!……あ、はい……」

 

リサの表情が固まる……キンジはその反応に首をかしげた。

 

しかし妙だ……リサは確かに家事スキルが非常に高い……その上回復も早いようだ……だがいってしまえばそれだけなのだ、割り引く能力?いや、それだけでパトラのような腕のたつ眷族(クレナダ)の戦士が探しに来るのだろうか……パトラの口調を考えるにリサは結構重要そうな気がした……リサに何があるんだ?

 

何て考えていると、

 

「皆さん……」

「メーヤ……」

 

そこにメーヤが入ってきた。

 

「お元気そうで何よりです」

「お陰さまでな」

 

キンジはそういうとメーヤを見る。

 

「ひとつ聞かせてくれ……お前は俺達を裏切り者だと思っているのか?」

「……いいえ、私は信じています……私の能力は仲間を信じることで効果を発揮する能力ですが……本当に信じています」

 

それを聞いて……キンジは目をつむった……

 

(決まったな……お前は2割の裏切者だ)

 

すると今度はロキが口を開いた。

 

「ねぇ……お兄ちゃんがどうなったか知らない?」

 

ロキの問いにその場が静かになる……キンジも気になっていたことだ。大丈夫だと信じている……だが信じている=心配しないではなかった。それ聞いたメーヤは少しうつむいてから声を発した。

 

「分かりません……私は桐生さんに負けました……そのあと桐生さんは逃亡し……その後の足取りはわかってません。リバティーメイソンのカイザーが惜しくも逃げられたと言うのは聞きましたが……」

 

完全に行方知れず……か……あの野郎どこに行ったんだか……

 

「……桐生さんも……信じてました」

「俺が裏切ってないって?」

 

キンジが聞き返すとメーヤは頷く、

 

「疑うと言う選択肢すらありませんでした……理由はただ一つ……親友だから」

 

たったそれだけで一毅はキンジを信じた……バカみたいに……愚かなまでに……

 

「お兄ちゃんは遠山キンジ先輩が大好きだからねぇ~」

「え、お二人はそういう関係……」

「チゲぇよ!」

 

キンジはリサがショックを受けたみたいな顔になったのにたいして睨みを効かせた。自分に男色の毛はない……

 

「何に強制された訳じゃないのに……桐生さんは遠山さんを信じてました……すごいと思います……」

 

それを聞いたキンジは一度息を吸って吐ききると……天を仰いだ。

 

「そうだな……おれはあいつに信用されてる……自意識過剰でもなんでもなくそう思ってる。嫌じゃない……重いんじゃない……でも思うんだ……おれはあいつに何かしてやれたのかって……」

「ご主人様?」

 

リサがキンジを見るがキンジはリサから視線をはずしたまま立ち上がって聖母が描かれたステンドグラスを見る……

 

「俺は……あいつに信用されててもおれはあいつに何かしてやってた訳じゃない……おれはあいつに助けられてばっかりだ……」

「遠山キンジ先輩……」

「昔からそうなんだ……あいつは強くて腕っぷしでは皆から一目おかれてた……男の俺から見たって華あって……すげぇって思えるやつだった……見た目怖いくせに何だかんだであいつは人目を引くやつだッた……でもどんなときでも俺の味方だった……友達っていってくれた……でもな……」

 

そんなあいつが……俺はあいつが……

 

【大嫌い】だった……

 

キンジの言葉に……リサも……ロキも……メーヤも……言葉を失ったのだった……




最後のキンジの言葉の真意とは……それは次回です。さて、前回載せ忘れたバスカービル日記……すいませんでした!と言うわけで今回は白雪です!

バスカービル日記

執筆者・星伽 白雪

某月某日

今日は■い最近オ■プンした料■屋にいってみたよ。和食■洋食の■跡の融■がテ■マ■お店で■ごく美味しか■た。今度はこ■を再現して■ンちゃんに食べさせ■あげ■うと思う■き■とキンちゃ■も気に■るよね、あと他■もあっ■こっち■美味しいの■あったからキン■ゃんに作ってあ■るんだ。終わり■■■■

PS・お前そ■なに食ってばか■い■とまたふと【完全に血で汚れていて読めない】by一毅

PS・なぁ、何で所々血で汚れてんだ?読めないぞ byキンジ

PS・な、何でもないよ……by白雪


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魔剱と機人

キンジと一毅は何度も語ったようにかなり幼い頃から両親を通じて知り合い遊んでいる。喧嘩しかかったわけではない。子供らしい、しょうもないことで喧嘩したりしたし絶交だ!っとかいって兄の金一の執り成しを経て仲直りをしたりした……そのせいか住んでる場所は違うのに自他ともに認める親友だと思っている……だが、キンジの心中には別の感情があった。

 

一毅は凄いとキンジは思う。頭は横においておくが腕っぷしの強さはキンジも全幅の信頼を置くし背中を預けられる。それに本人は気づいちゃいないがあれだけの腕っぷしを要しているのだから何だかんだで人の視線は集まる。才能もある……だから本当は一毅は……自分の場所にいるような存在じゃないんだ。

 

「X組って知ってるだろ?ロキ」

 

X組と言うのは海外への任務が主な武偵のクラスで所謂腕っぷしが群を抜いてるような連中で構成される。それぞれの学科のSランク……の中でも選りすぐったやつらの巣窟だ。

 

そして二年進級時……一毅はそこの候補に上がったらしい。勿論それを蹴ったからこそキンジたちと同じクラスにいるのだが……

 

X組は海外を飛び回る都合上レベルが高くなければ選ばれない……故にそこを通った武偵は泣かば無条件で信用され後々の就職に役立つのは言うまでもない……だが……

 

「あいつはそれをわかった上で蹴ったんだ」

 

一毅がX組の進級を蹴ったと言う噂はあっさり広がった……キンジはその当時もう武偵をやめるつもりだったが聞いたんだ……

 

《お前X組への進級を蹴ったってのはほんとか?》

 

と、キンジの問いに一毅は答えた。

 

《ああ、海外とか言葉わかんねぇし……お前おいていけねぇじゃん》

 

その返答にキンジは……本気でぶん殴った。ギャグでも何でもなく……ガチでぶん殴って一毅もキレて殴りあいになった……

 

そのあと目も会わせず物別れ……まぁ一毅は次の日にはケロッとしてレキと一緒に顔を出すのだが……

 

だがなぜ殴ったのか?ふざけて答えたから?違う……全然違う……

 

「俺をあいつは見限れば良かったんだ」

 

武偵なんかやめるつもりで逃げたかったのに……あいつは親友だろって言って離れなかった……もう俺に構うなよと……俺なんかおいてってあっちこっちに行けばいいんだと……そうすれば好きなだけいいご飯だって食えたしフカフカのベットで寝れるだけの報酬をもらえるだけの一流の武偵になれたはずだった。ヒスってなければロクに戦えない二流……下手すれば三流な武偵の自分と一緒につるんでなければあいつは正当な評価を得ていただろう……だから……

 

「俺が……」

《あいつの将来を潰した》

 

「それは……」

 

違うとロキは口を開こうとしたがキンジは首を横に降る。

 

「多分……一毅は気にもしてない……あぁ、あいつはそういうやつだ……わかるよ……でもな……そうじゃないんだ……俺がそう感じちまったんだ……誰がなんと言おうと……俺がそうだと思っちまったんだ……」

 

だから嫌いなんだ……自分なんかおいとけばいいのに……自分があいつに何をした?なにもしてやれてないのにあいつは自分を友達だといい力になろうとするしなってくれる……でもな……結局一番嫌いなのは……一毅じゃない……

 

「そんなでもな……一毅お人好しっぷりに……甘える自分が大嫌いだ……」

 

結局あのときは兄が死んだと思い……キンジはかなり精神的に参っていた……だからこそ一毅は本能的にキンジを一人にしてはならないと悟った……とはいえ元々そんな一件がなかったとしても一毅はX組に入らなかったと思うが、それも大きな影響を与えてたのは言うまでもない……

 

「将来潰して……相手の厚意に甘えるだけで……そんな俺が……あいつを親友なんて呼んでいいのかって……思ってた……」

 

でも……二年になっていろんな事件に巻き込まれていった……一毅と後はレキとか白雪くらいが自分パーソナルスペースにいる人物だったのがどんどん増えていき……いつの間にか毎日無駄に騒がしい日々だ……そんな日々を過ごしていくなかでキンジの心構えは確かに変わっていった。そんな中でチーム作るときに聞いたことがある、

 

《お前色んなチームから声かかってんだろ……それこそ将来有望なやつらとから……》

《おう、だから俺の知ってるなかで一番将来有望な親友のチームに決めたんだよ》

 

とわらってあいつは答えた。

 

「あいつは変わんない……ずっとあいつは俺を信じてくれた……あいつは……俺を親友だっていってくれた……だからな……俺もちったぁリーダーっぽくしてようって思うようになったんだよ……あいつの言った将来有望を現実にしていこうってな……」

 

キンジは苦笑いを浮かべた。

 

「つってもリーダーっぽくって言ってもよくわかんねぇ……だから俺はあいつを黙って信じることにしてんだよ。あいつが俺を信じてくれる限りな」

 

それをいつしかその場の三人は聞き入っていた……一毅は知らない……バスカービルの面子も知らない……キンジの秘密だ。

 

「一毅さんも……同じ目をして答えました……お二人はよく似ているんですね」

「ん?あんな目付き悪くないぞ」

「いやぁ、遠山キンジ先輩も結構悪い方だと思うよ?お兄ちゃんが特殊なだけで……」

「あはは……」

 

こいつら……とキンジが半眼になった……

 

「桐生さんが羨ましいです……そうやって信じて信じられて……そんな関係が……」

 

少し複雑そうな表情を浮かべるメーヤ……それを三人は見る。

 

「ま、のんびり探せよ……多分そのうち……っ!」

 

キンジが呟いた瞬間……地面が揺れた、地震じゃない。何かの爆発だ。

 

「外に出るぞ!」

 

キンジの号令で四人は外に飛び出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体なんなんだよ……」

 

キンジ達が外に飛び出すとそこでは既に戦いが起きていた……

 

「チィ!」

 

その戦いにメーヤも素早く乗り込み爆発、火花……轟音とかなり戦いは激しい……すると、

 

「おぉい!お前ら!」

「カツェ!」

ある意味因縁の相手であるカツェ・グラッセの登場にロキは吠えた。

 

「他にもパトラに……なんだあいつは……」

 

キンジの視線の先にはチェックの服に大きな唾つき帽子の少女がいた……

 

「わかんないけど……とりあえず風車の上何て言う危ない場所にいるカツェ落としてやる!」

 

そう言ってロキは狙撃銃を構えるとそのまま発砲した……だが、

 

『っ!』

 

ロキの銃弾は弾かれた……突然矢が入り込んできたのだ。

 

「セーラ様……」

「知り合いか?リサ」

「セーラ・フット様です……風を操る傭兵です」

「ったく……傭兵が多いなまったく……」

「あなたのように次々お仲間を作ってはいませんからね……」

「あ?」

 

キンジは声のした方を見た……そこにいたのは二人の少女……片方は無表情……と言うか無感情と言うべきなのだろうか……まるではじめてあった頃のレキのような少女だ。だがそれが目に引く訳じゃない……もっとも目を引くのはその格好だ。全身鉄の鎧……と言うかあれは機械か? アリアのホバースカートの進化系と言うか武装強化バージョンと言うか……そんな感じの格好だ。

そしてもう一人……それは少しつり目で目付きはアリアを思い出す……だが残念なことに胸は圧倒的大差でコールド勝ちだ。ってそこじゃない……そんな彼女はフラフープみたいな剣を手にキンジを見据える。

 

「誰だお前は……」

 

どこかであったのか?まるで会ったことがあるみたいな顔だ……

 

「……考えるだけ無駄……あなたとアリスベルは知り合っていない」

 

と、表情を変えずにもう一人が言う。

 

「まぁ……貴方にはいろいろひどい目に遭わされましたがね……」

「?」

 

あったこともないのに酷い目に?間接的にでもやっていたのか?いや……全く心当たりがないぞ……

 

そんなキンジを尻目にアリスベルと呼ばれた少女はフラフープのような剣を構える……するとそれは急速に回転を始めた……

 

「お前ら!なにか来るぞ!」

 

キンジはそう言ってリサとロキを引っ張った瞬間発光……そしてその光はメーヤに炸裂した……

 

「な……」

 

キンジは唖然とした……メーヤ幸運をあげる能力は飛道具にたいして顕著らしい……運よく外れたり……なんだりかんだりで……それを突抜け……そのあげくメーヤを下着だけにしたのだ……ってはぁ?何で下着だけになってんの?どういう技なんだあれは?武藤辺りなら狂喜乱舞しそうだけど……

 

「相変わらず過激だなぁ……魔剱!」

 

カツェが愉快そうに言うが魔剱は興味なさげだ。

 

「楽勝じゃったのぉ、機人の機械兵器で雑魚は軽々とじゃったしメーヤもあーあっさりとじゃった……さて残ってるやつらよ……」

 

もう降参しろ……そのパトラの言葉に……逆らうものはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ……」

 

師団(ディーン)に捕まった次は眷族(クレナダ)かよとキンジは悪態をつく……眷族(クレナダ)襲撃にあっさり破れた皆は捕縛されキンジ達は連行されるところだった……そこに、

 

(エネイブル)……」

「なんだよ……」

 

いきなりのアリスベル登場にキンジは眉を寄せた。

 

「いえ、一応挨拶をしておこうと思いまして……もうできることなら二度とあいたくありませんがこういっときましょう……それではまた……」

「バイバイ……」

 

そう言って魔剱と機人の二人は背を向けて歩き出した……

 

(上等だぜお前ら……)

 

キンジはその遠くなっていく背中を見据える。

 

(やられ多分をやり返すのが武偵だ……だからお前ら今回の恨みは何年たっても忘れねぇ……妖刕も猛虎もお前ら二人も……今度はきっちり利子つきで今回の一見の恨みは返さしてもらうからな……)

 

と、キンジが恨み節を呟いたのは……誰も知らない。




今回はキンジの思いでした。キンジは一毅が孤独を感じたときに一緒にいたっていう一毅から見たら十分すぎる恩義を結果的に払っているんですがキンジはそれを知らないのでなにもしてないのに一毅は自分を助けてくれるっていう風に考えている……親友でも案外お互いのことはわからんもんですよね?って話です。
つうわけで本日のバスカービル日記……

バスカービル日記

執筆者・峰 理子

某月某日

今日は、お菓子の新作が出たのでいろいろ買ってきたよ、皆~戸棚に置いてあるのは食べちゃダメだよ?特にカズッチ、少しでも食べたらわかるんだからね?まぁ~でも、理子は優しいから夜に皆で食べたよ。一年生体も呼んでお菓子パーティだ!結構美味しかったよねぇ~、お菓子。

PS・明らかにお菓子の量が多かったので最初からお菓子パーティの予定だったんじゃないですか?byレキ

PS・知らなーいww by理子


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金たちの真実

「はぁ~……」

 

キンジは大きなため息をついた。現在キンジはリサ、そしてロキと共に飛行船に積み込まれ頑丈そうな手錠を付けられていた……しかもご丁寧によくテレビとかで出る指を脱臼させたりして手錠を外す技があるがそれをできないような作りだ……やってくれるぜ……

 

「これ……方向的に西にむかってるみたいだね」

 

銃も没収されキンジと違い近接戦闘は無力のロキは大人しく監禁されてる部屋についてる窓を見る。

 

「今この船は大西洋に向かってるぜ」

 

そう言って現れたのはカツェだ。

 

「おいおい、リサ~、そんなに落ち込むなって。お前はちゃんと眷族(クレナダ)に帰還させるんだからよ」

 

そうカツェがいうと今まですっかり落ち込んでいたリサが口を開いた。

 

「ご主人様やロキ様はどうなるんでしょうか!」

「勿論、死刑」

 

リサが目を見開くがキンジとロキは肩を竦めた。まぁ~そうだろうな……

 

「と、まぁそうなるだろうがな……安心しな、お前らは殺させねぇよ」

「どう言うことだ?」

 

キンジはカツェを見るとカツェはリンゴをかじる。

 

「お前らの処遇は裁判で決まるんだが……私を含め投票権は四人持ってる。私とパトラはお前らの死刑反対に票をいれてやる」

「そいつはうれしいんだが……パトラを抱き込んだのか?」

「お前の兄さんキンイチっていうんだろ?パトラにキンイチに恩を売れるぞっていったら簡単につれた。お前の兄さんが好きらしいぜ」

(カナを見ても兄さんが好きか……いろんな意味で凄いな……)

 

下手すると将来パトラをお義姉さんと呼ぶ日が来るのか……心の準備だけはしておこう。

 

「んで?何でそこまですんだ?俺たちに」

「お前らを助けりゃ桐生一毅に恩が売れっからだよ。あいつは絶対アタシの使い魔にすんだからな」

「あ?」

 

ロキの目付きが悪くなったがカツェはケケケと笑うだけだ。

 

「絶対いつかぶっ飛ばす……」

 

とロキの言葉は……後のきちんと果たされるのだがそれはまだ知らない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後キンジ達はワルサーを突きつけられながら龍の港と呼ばれる人工性の運河に降り立った。

 

「ようこそ……そしてここがあなたの終着点よ、遠山キンジ」

「……………………」

 

キンジはイヴィリアの言葉を黙って聞く……こいつは……またデカイし不気味だ……リサも震えている……

 

そしてそのまま滝壺の中にはいるとそこには……

 

「帆船?」

 

と言うロキの呟き……あぁ、間違いない……ナオ・デ・チーナと呼ばれる大昔の帆船だ……

 

「ほら歩きな」

 

とカツェが押してくるので歩く……奥に進むと外装とは違い電気は通ってるし内装はかなり派手だ……寧ろ派手すぎる。

 

そんな内装のなかを進むと良い匂いがしてきた……歩を進めるとそこには大量の食料がおかれていたのだ。

 

「飯だ飯だー!」

 

っと先に席についたのはキンジを突き飛ばしながら走り出すカツェ……

 

「落ち着きなさい……全く」

 

と次々にイヴィリアにパトラにセーラと座っていく。奥にはすでになにかにおにぎりの山を前にしていて顔は見えない誰かがいる……キンジたちも隅にだが座らされた。食わせてはくれるらしい……

 

(しぃっかしこの光景……異様っつうかなんつうか……)

 

柄の悪い女たちの巣窟っていう風情の食卓を見る。さらに動物たちも好き勝手に同じ場所で食っているので中々カオスだ。しかも食ってるのが各々自由すぎて栄養バランス的な部分で心配だ……すると、

 

「リサ、あなたは眷族(クレナダ)最強の一人……隅っこなんて似合わないわ」

 

とイヴィリアは言ってリサを引っ張っていった……

 

「お前の好きなオリボーレンもあるぞ」

 

他の面子もリサに食べ物を進める……これはあれだ……好きな食べ物とか進めて自分の仲間にしようっていうやつだ。だが断れば……ってやつだろう。リサもこっちを気にしてはいて半べそをかきつつも勧められるままに食べていた……

 

しかし……リサが最強?っとロキとキンジは目を見合わせて首をかしげた。

 

あの虫も殺せないリサが……最強?どういうことだ?会計や家事が得意でそっちでこき使いたいのか?だがそれでは言葉とあわない……何がどういうことなのかわからない……すると、

 

「お主が今代の遠山か?」

『っ!』

 

キンジとロキは全身が泡立つのを感じた……声の方を見るとそこには梵字と織田木工のようなアフリカ生地の服を着女性……明らかに人間じゃない……何せその額には角がある……そう、鬼だ。

 

「成程……亜門がいっていた通りの容姿じゃな」

 

キンジは喉がカラカラになった感覚に陥った……なにか喋った方がいい……少なくとも今の状況で襲われたら間違いなくワンパンで死ぬぞ……

 

「あ、亜門と知り合いなのか……?」

「正しくはあやつの遠い先祖が我が同胞……それ故に知り合いつい昨日も一緒に酒を飲んでおった」

「……え?」

 

キンジは唖然とした……遠い先祖が同胞?え?いや……もしかしたら種族を越えた仲間的な?

 

「中々面白い人間もいたようだな……」

「違う、我と同じ鬼だ」

 

はい決定……もう逃げ場ない……つまりあれか……亜門ってあいつ鬼の子孫だったのかよ……そりゃなんかこいつを見たときなんかどっかでにた空気だと思ったんだ……そうだよ……亜門にあったときに感じた圧迫感だよ……しかもつい最近までいたのかここに……会わなくてラッキーだったぜ……何てキンジがふざけていると……

 

「何を驚いている……お主にとって鬼の子孫など珍しいものではなかろう」

「んなわけねぇだろ……そんなホイホイいるわけでもなし」

「だがお前は常に共にいたはずだ……噂ではお主とは友だったときいている」

 

そう聞いて……キンジは固まった……ロキもえ?みたいな顔をしている……

 

「名前は……桐生……………………かずき……だったか?」

 

キンジは金槌で頭をぶっ叩かれたような衝撃が走った気がした…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあとリサと離されてキンジはカツェに連れられてロキと一緒に面白いやつに会わせてやると歩かされていた……だがキンジの頭に走っていたのは閻の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

昔……一体の鬼がいたらしい……その鬼は強かった……だが同時に変わり者である時鬼の一族のもとから離れ人間と共に生きたらしい……鬼の武力によって味方した一人の人間を助け……その人間に付き従いそして旅路の中で妻を娶り二つの子を残し死んだ……後にその子は道を違え時は流れ互いの子孫は亜門と宮本……いや、桐生と性を変えて続いてきた……

 

つまり……一毅も鬼の子孫と言うやつらしい……

 

 

 

 

 

(なんつうか……納得だ……)

 

キンジは寧ろ納得してしまった……そもそも一毅は……幾らなんでも頑丈すぎるのだ。ギャグとか抜きにしてだ……謎が解けた気分で寧ろキンジは落ち着いたものだ。ロキも似たような表情だしな……

 

そんな風に納得していると……

 

「ジャンヌ?」

 

そう、目の前にジャンヌがたっていた……だが、

 

「……じゃねぇな」

「ご明察だ」

 

カツェがいうとジャンヌ?の顔から砂と水が落ちた……その下はパトラの顔がある。成程な……こういうカラクリか……つまり裏切ったように見せていたジャンヌはこの手で変装した偽ジャンヌってわけだ……

 

「頼むから本物に会わせてくれ」

「ケケケ、言われなくたって会わせるさ」

 

と言ったカツェに連れられてロキ共々牢屋にぶちこまれた……そしてそのなかには先客もいる。

 

「よう、本物のジャンヌ」

「すまない遠山……」

 

暗がりの中からジャンクが出てくる……次の瞬間キンジは目をひんむいた。

 

「な、なんだその格好は!」

 

ジャンヌの格好は布地が透けたセクシードレスを着ていた……下着は水着みたいな見せ下着だったのが唯一の救いか?

 

「あぁ、なんでもジェヴォーダンの獣への生け贄の服装らしい」

「よくそんな服着せられて冷静だねぇ……」

 

と言うロキの言葉ににキンジはうなずいてしまった。まぁ……置いておこう。

 

「それで?遠山」

「ん?」

 

キンジが首をかしげるとジャンヌが半眼になった。

 

「お前リサと一緒にいたらしいな?寝る場所は違ったよな?」

「あ、当たり前だろ……」

 

実際迫られましたけどね?そこは黙っときますよ……ロキも武士の情けだよ?的な目でこっち見てくる……とにかく!

 

「少し真面目な話するぞ」

 

とキンジがいうとジャンヌとロキは表情を締める。

 

「今回の一件……当たり前だがジャンヌや俺は師団(ディーン)を裏切ってない……ならば……誰が裏切ったのか……俺が大体の目星をつけた」

「私もだ」

「え?誰なの?」

 

キンジとジャンヌは顔を見合わせた……そして同時にいう。

 

『バチカンだよ』

「え?」

 

ロキが唖然とした。

 

「正確には八割だ。バチカンは意図的に眷族(クレナダ)に情報を流していた……残りの二割はそれにメーヤは薄々気づいていた……だが知らない振りをした……会わせて十割の裏切り者の完成だ」

 

とキンジはいう……ジャンヌもなにも言わないし同じくというところだろう……

 

「少し捕捉しましょう」

 

そこに割り込む声……ジャンヌは首をかしげたがキンジとロキは知っている……

 

「よう、ローレッタさん……あんたか」

「開戦時もメーヤに言伝てを頼みましたがバチカンは戦争を望んでいません……師団(ディーン)眷族(クレナダ)どちらが勝とうと完全な敗者にならないように保険を掛ける必要があったのです」

「それが幸運強化の特性上身内を疑えないメーヤを前線に立たせてどっちにもいい顔しようっつう作戦かよ……流石二次大戦の時同盟裏切ったくせに戦勝国名乗ってるイタリアだぜ……厚顔無恥って言葉を送ってやるよ」

 

と、キンジの嫌みにもローレッタは表情を変えない。

 

「それで遠山さん……あなたは明日必ず極刑になります」

「なに?」

「明日……私があなたに極刑の票をいれるからです。故に明日は極刑と回避の票は同数には決してなりません……」

「そういうことかよ……」

 

このまま終わらなさそうな気がしてたぜ……とキンジが思うとローレッタは続けた。

 

「あなたは知りすぎました」

 

そう言ってローレッタは去っていく……

 

「どうする?」

「神にでも祈るしかもう手が思い付かねぇよ……」

 

と言うキンジに二人も息を吐くしかなかった……




はい、やっと出せたぜぇ……驚いたかたもいると思いますが……はい!一毅の先祖が判明ですね。正確には一馬乃介よりも遠い先祖が緋鬼です。そして亜門とは同じ先祖……龍が如くの原作では亜門とは血縁関係はありませんがこっちでは繋がってます。と言ってもこれまでも某所某所で緋鬼を意識して書いてましたので伏線はボチボチおいてあります。詳しくは次の談話シリーズで発表いたします。それでは今回のバスカービル日記……

バスカービル日記

某月某日

執筆者・レキ

今日は朝起きたらハイマキの散歩に行って朝御飯を作りました。今では調理もご覧の通りです。そんなことをしているとみんなも起きてきました。皆でご飯を食べ、談笑……そんな変わらない毎日……いつまでもこんな毎日が続きますように……終わり


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金は二度死ぬ

(クソ……マジでヤバイぞ……)

 

キンジは頭を抱えていた……現在キンジは本当にヤバイのだ。今キンジは入江に設置されたミサイルにくっ付けられた檻に入れられている。多少攻撃しても壊れないほど頑丈だ。そしてミサイルには科学弾頭が付けられている……これをリバティーメイソンの基地……つまりワトソンやカイザーがいる場所に打ち込むと言うのだ。このままでは自分だけではなくワトソンやカイザーも危ない……

 

だがそれだけではない……何とこの檻……一旦水に沈むと言うのだ。つまりこのままだと完全に水没して死んでしまう。遠山キンジは二度死ぬのだ。

 

(くそ……考えろ……)

 

段々足元に水が来た……このままでは水死してしまう。だが何も思い付きやしない。クソッタレ……

 

(畜生……)

 

段々腰に……そして今度は首に……キンジは悪あがきとばかりに懸垂の要領で上がると必死に水が来ない場所を探す……

 

どうにか逃げたいが……この檻は頑丈だ。何より眷族(クレナダ)の連中が安全圏から見ている……援護も期待できそうにないしそもそも援護役がいない……

 

(……不味い……)

 

水が来ない位置がもい殆どない……ほんとに沈んじまう……そう思ったとき……キンジの前に人影が出た。

 

(え?)

「ご主人様!これを!」

 

そう、リサだった。眷族(クレナダ)に半ば無理矢理帰投させられたリサもこの場に立ち会っていた……そのリサがキンジの銃とナイフと桜吹雪の刺繍が施されたコート・龍桜を持ってきたのだ。

 

「バカ!今すぐもどれ!このままだとお前も一緒に打ち出されるぞ!」

「嫌です!このままだと貴方を見捨てたら夢に出てしまいます……安眠は大切です!」

 

そう言って檻にキンジの装備をリサは投げ込む。

 

「ご主人様はすごいお方です!これがあればきっとどんな状況でも覆せます!……だから……っ!」

「っ!リサ!」

 

キンジが目を見張った……何故なら……リサの背中に……一本の矢が……深々と刺さったのだ……矢を使うものなど一人しかいない……セーラだ。

 

「だから……ご主人様は……死なないで……ください……」

「リサァアアアアアアア!」

 

ゆっくりと体を落としていくリサ……キンジはそれを見ることしかできなかた……その中完全に水に完全に沈む……

 

「ごばっ……」

 

キンジは藻掻く……だが完全に海中に沈んだ状態ではどうしようもない……

 

脳裏には今までの思い出が流れ行く……これが走馬灯なのだと理解した。

 

(皆……)

 

キンジは必死に手を伸ばすがどこにも届かない…… 気道に水が流れ込み意識が遠くになっていく……

 

いろんな記憶が想起する……アリア、一毅、理子、白雪、レキ……それだけじゃない……あかり、辰正、ライカ、志乃、陽菜……皆大切な仲間達だ……その皆との別れが来てしまった……ゆっくりと鼓動を止めていく心臓……ゆっくりと意識を遠くへ遠くへと追いやっていく脳……ゴボっと最後の空気が肺から出ていく……

 

(クソ……ったれ……)

 

キンジは悪態をつくと……完全に心臓の鼓動が止まった……意識もない……完全なる死である……そう、遠山キンジはその十七年の生涯の幕を……閉じたのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リサ……お馬鹿な子……折角眷族(クレナダ)への帰順が認められたのに……」

 

そう呟くイヴィリア……その視線の先には溺死したキンジとそれと共に飛び立ったリサ……そして操縦席にカツェがいる。

 

「さぁ、次の準備に取りかかりましょう」

 

イヴィリアの言葉で配下の魔女連隊の者達が走る。次はジャンヌとロキの刑だ。今日……生け贄を捧げるとジェヴォーダンの獣が降臨すると言う托を聞いていたためジャンヌとロキはジェヴォーダンの生け贄にされるのだ……だがそのために気づかなかった……ミサイルにくっついているリサの変化に……そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴホッ!」

 

檻の中にいたキンジは水を吐く……心臓が止まっていたはずのキンジが……何と生きていた。

 

(ギリギリセーフ……ってやつだな)

 

と、ヒステリアモードの思考でキンジは考えていた。だがどうやってヒステリアモードになったのか?

 

性的興奮ではない……これは死に際に子孫を残そうとする本能……ヒステリアモードの亜種、ヒステリア・アゴニザンテ……である。つまりキンジは一回死にかけ……その瞬間にヒステリア・アゴニザンテへと変化したのだ。無論……それだけではない……水から体が出た瞬間にキンジは自らの体……正確には心臓に桜花による衝撃を叩き込み止まった心臓を再稼働させたのだ。

 

(名付けるなら……【回天】ってところか……それよりリサは!)

 

と息を整え胸を射ぬかれたリサを見た……だが、

 

「なっ!」

 

そこには金色の体毛を見に纏い始めるリサがいた……

 

「リサ……お前……」

「逃げ……てくだ……さい……ごしゅ……じン……サマ……」

メキメキ体が音をたてリサの体が変貌していく……牙も生え……体毛がリサを覆っていく……

 

「リサ……君が……」

「……ハツドウジョウケンハ…………シニギワト……マンゲツデアルコト……デシタ……」

 

死に際と……満月……確かに今はこの条件を満たしていた……そして彼女は続けた……完全に変化してしまうと自我を失うこと……その前に逃げてほしいこと……

 

だがキンジは立ち上がるとゆっくり構えた。

 

「悪いができない相談だ……」

 

そういったキンジは服を破り完全に巨大な金狼と化したリサを見た……

 

「ここで君を見捨てると言う選択肢はないよ」

 

キンジは銃を抜く。

 

「来いリサ……今度は君を受け入れる」

 

キンジがそういった瞬間リサは何と檻の格子をぶち破って飛び込んできた。これって……壊れるのか……

 

「あっぶね!」

 

何て驚いてるとリサ噛みつきに来た。流石に龍桜越しでも痛いではすまなそうなので回避するキンジ……だが檻のなかだ……逃げ場は限られておりリサは素早い動きでキンジは追撃してきた……

 

「くっ!」

 

キンジの万象の眼がリサの動きを追う……だが非常に読みにくい。その理由はリサが現在自我を失った獣状態だからであろう。

 

キンジの眼による先読みは相手の視線、呼吸、筋肉の僅かな収縮等から読み取って行うものだ。だが今のリサはひたすら本能赴くままに暴走する獣……そういった癖が結果的にないのだ。筋肉の収縮位なら見抜けるだろうって?残念ながらあのフサフサの体毛からそう言ったのを読み取るのは難しい……故にキンジはギリギリの反射神経のみで何とか回避していた。だがこのままではじり貧になる……そのためキンジは素早くリサが開けた部分から檻の外に脱出するとミサイルの先端に来た。運転席にいたカツェと目があってなんか騒いでるのが視界に移る。

 

(何でお前がここにいるんだよ……か……っ!)

「くっ!」

 

キンジはリサの牙を躱す。次は爪……だが……

 

「っ!……」

 

キンジは舌打ちした。それはミサイルの壁面がリサの一撃でどんどん壊れていくのだ。既に高度は雲に達しつつあるあると言うのにこのままでは空中分解して全員死んでしまう。

 

「次から次へと……」

 

と、キンジは降りかかる難題に顔を顰めた。だが悩んでいる暇はない。次々襲うリサの牙や爪がキンジを狙うのだ。避けるしかない……だが下手によければこのまま壊れて落下してしまう……

 

ん?待てよ……

 

「…………一か八かやるしかないか……」

 

そうキンジは舌打ちするとリサを誘導する。

 

「がぅ!」

「くっ!」

 

キンジの体から深紅のオーラ(レッドヒート)が出た……そこからキンジの身体能力が一気に底上げされる。

 

「アストラルスウェイ!」

 

最速で行う無駄のない連続回避……それはリサでも捉えきれず攻撃は空を舞う……だがその攻撃は全てミサイルを壊す……中にいるカツェは顔が真っ青だ。まぁ仕方ないだろう。目の前で行われてる戦闘はカツェでは眼で追うのも一苦労だ。

 

ホンの僅かな隙が命に関わる攻防……だがキンジは冷静に対処した。

 

「オォ!」

 

キンジは最後にリサの背後に回り込むほど大きくスウェイで躱し一旦距離をとる。

 

「ガゥ!」

 

それを見たリサがキンジに襲いかかる。それをキンジは……

 

「もういいんだ……リサ!」

 

自らの左腕を盾にしてリサの牙を防ぐ……痛いなんてもんじゃない、メキメキ腕が音をたてリサの牙がめり込んでいく……まるでプレス機に押し潰されるような感覚……だがキンジは優しく言い聞かせるように言った……

 

「敵はいない……だから落ち着けリサ……」

 

そっとリサのフサフサの体毛指で鋤く……敵はここにいない……君はきっとこの力が大嫌いなんだろう。何せ優しい君のことだ。力に任せ暴れる事がどれだけ君の優しい心を痛め付けるか分からない。

 

「だから……もういいんだ……言っただろう?俺が戦うって……もういいから……戦うな……」

 

するとどうだろう……リサの牙が突然離れキンジの腕を嘗め始めたのだ。目も先ほどまでの狂気はない……優しい眼だ。

 

「さぁ……帰るぞ」

 

キンジがそういうとキンジの誘導とリサの攻撃によって飛び続けられなくなったミサイルは徐々に高度が下がっていき……そのまま水着水したのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミサイルからの通信が突然絶えた!?」

 

イヴィリアは甲板にてジャンヌとロキを磔にした後部下の報告に驚愕の声を漏らしていた。まさかキンジが自分で止まった心臓を再稼働させてリサの攻撃を誘導してミサイルを空中分解しない程度に破壊して危なげながらも無理矢理着水させたとは夢にも思わない。

 

(エネイブル)とは言え死とは平等に起きる現象のはずだと思い込んでいた。

 

しかし……

 

「案外生きておったのかもしれんのぅ……遠山キンジのやつ……」

 

とパトラが言うとセーラがそれは流石にと首を振った。

 

「私はきちんと(エネイブル)が死んだのを見たわ……」

「そこが盲点じゃ……」

 

キンジを仕留めたと思いきや思わぬ返し技で生きてられた事がこの中で唯一あるパトラだからこそ実際この作戦も心配だった。本当は溺死させた後灯油をかけて焼いておいた方がいいんじゃないかとマジで考えていたくらいである。

 

「あの男はしぶといからの……生きておるかもしれんぞ……」

「幾ら何でもそれは考えすぎでしょう……死とは全ての人間に訪れる真に平等な現象です」

「そうなんじゃがな……」

 

とパトラはローレッタの言葉を聞いても嫌な予感がぬぐえなかった……すると近くで立っていた鬼の閻がふと外を見て……笑った。

 

「成程……確かにしぶといものだな」

『え?』

 

閻の呟きに皆が首をかしげた瞬間水飛沫が上がる。

 

『なっ!』

 

その場の全員が驚愕した。甲板の先で磔にされていたジャンヌとロキも驚愕ものである。

 

そして水飛沫をあげて甲板に着地したのは金色の体毛から水を滴らせる狼……そしてその背に乗るのが、

 

「遠山……キンジ」

「おいおい、そんなにお化けを見るような顔は辞めて貰えないか?」

 

とキンジは垂れてくる水を払いながら肩を竦めた。

 

「む、むー!」

 

とジャンヌは驚いているし、ロキもポカーンとしている。

 

「待ってろ、リサ、頼むぞ」

 

とキンジはリサに頼んでジャンヌ達を縛っていた磔を壊し解放した。ついでに……

 

「ヨっと!」

 

ガン!っと船が動かないように縛っていたロープの繋ぎ目を蹴って壊した。古い船だ。簡単に壊れる。

 

『っ!』

 

ここに乗り込む前に他のロープはリサに切ってもらっておいたお陰で船はゆっくりと発進してそのまま外の世界に出た……

 

「くっ!だが相手は四人!しかも戦えるのは二人だけよ!」

 

そういうと魔女連隊の部下達やパトラにセーラは構えた。因みに閻は興味なさげにあくびしている。

 

「残念だけど遠山キンジ……あなたは今度こそ殺させてもら……え?」

 

イヴィリアは最後まで言葉を紡ぐ前に困惑した……それはそうだろう……突然頭が何者かに捕まれたのだ……

 

「ひぇ!」

 

次の瞬間イヴィリアの体が浮きそのまま船から投げ捨てられる……

 

『っ!』

 

全員が突然登場したキンジ達とは別の存在に注目した……服は下半分しか着ていない……持っていないのではなく水を吸って重くなったのだろう。腰に巻いている。頭には海藻を着けて顔は見えないが大柄だ……ポタポタと水を滴らせながらいることを考えてるについさっきまで泳いでいたことがうかがえる……

 

『ウ、海ぼぉおおおおおおおおおおおず!!!!!』

 

と皆は驚愕した。いや、なぜここに海坊主がここにいるのか分からないがいきなり現れて何故イヴィリアを船から投げ捨てたのかは知らないものの味方ではないだろう。因みにイヴィリアは泳げないらしくアップアップやって部下から投げられた浮き輪にしがみついている。そして件の海坊主は……

 

「誰がぁ……海坊主じゃあアアアアアアアアアア!!!!!」

 

その人物は頭に引っ付いた海藻を取って捨てる……その顔には見覚えがあった……鋭い眼光……無精髭がすごいことになっていたが見間違えるはずもない……そう!

 

「一毅!」

「お兄ちゃん!」

『桐生!』

 

キンジにとって最高の……援軍の登場だった……




遂に一毅登場!どうやって来たのかって?泳いだんですよ。何故ここにいるのかって?それは次回説明します。

次回やったら後もう一話やって欧州は終わりですね。そしたら日本編やってアメリカ編かなぁ……

と言うわけで今回のバスカービル日記!



バスカービル日記

執筆者・峰 理子

某月某日

今日は新作のお菓子と新作のゲームを買ったから遊んだよ\(^-^)/1日ゲームやってお菓子食べて全クリしたから後は縛りプレイとかRTAとかしたいなぁ~(*´∀`)あ、今度またお菓子出るからそれも買わないとねぇ~(゜∇^d)!!遊んで食べて、今日も幸せだよ(^w^)

ps.チッタァ働けbyキンジ

ps.そうだよ理子さん!油断しているとお腹周りが……by白雪


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龍は遅れてやってくる

「一毅……何でお前がここにいんだよ!」

 

キンジは突然の登場に驚愕しつつ、叫んだ。

 

「あぁ?そりゃお前……カイザーに追っかけられて逃げてきたんだよ!酷いんだぜあいつ!装甲車までひっぱりだしてきて機関銃ぶっぱなしてきたりすんだぜ!しかも町中だぞ!極めつけにロケット弾出してきて慌てて川に飛び込んだんだよ!その後はひたすら泳いだり陸に上がったりまた飛び込んだりしているうちに気がついたら海に出ててそれでも追っかけてくるから泳いで逃げ続けてたら海が荒れて遭難してよぉ~」

 

一毅は語るも涙聞くも涙の話を続ける。

 

「流石に意識が遠くなってってさぁ~。あ、こりゃ不味いと思ってたらなんか全身がビリビリ~て来てさ、なんかこっちに来たら味方いるわぁ~って感じてとにかくそっちの方に来たらなんか滝があって船あるじゃん?なんか怪しいなぁ~って思って乗り込んだら船内に山のような握り飯とかあってさ!腹も減ってたし食いながら散策してたら何かみたことある武器が放置してあって首かしげたりしてたら今度は上が騒がしくなって何ごとかと上がってきたらお前らがなんか囲まれてるし慌ててとりあえず指示とばしてたイバリヤを投げ飛ばしたんだ!」

 

と、一毅は言った。因みにイバリヤではなくイヴィリアである。

 

「いやぁ~俺ってマジでラッキーマンじゃね?勘できたらキンジたちに出会えたしさぁ~。遭難しかけたときは海のモズクになるかと思ったけどさ」

「それを言うなら海の藻屑ね」

 

とロキがつっこむとその場の面子はウンウンと頷いた。一毅はそれをみて頬をひきつらせたが……

 

「まぁそうとも言うさ。ホラよ!」

『っ!』

 

 

一毅はそう言うと手に持っていた武器をぶん投げた。一毅の肩力で投げられたそれは敵の頭上を飛び越えロキたちの足元に落ちた。

 

「私の銃!」

「私の剣ではないか!」

「やっぱそうだよなぁ~。ここに来るとき武器庫見つけてさ。そこに落っこちてた。何かみたことあるなぁって思って持っておいたんだ。俺って頭いいなぁ~」

 

アッハッハと笑う一毅……それをみてキンジは苦笑いした。

 

「こ、このぉ……」

「ん?」

 

一毅が声の方を振り替えると水を垂らすイヴィリアが船に這い上がってきたところだった。

 

「た、たった一人増えただけよ!皆!やってしまいなさい!」

『っ!』

 

魔女連隊の皆はイヴィリアの号令で慌てて構えた。

 

「フッフッフ……俺が何の対策もせずに来たのかと思ったのか間抜けがぁ!」

 

そう言って一毅は懐からベルトみたいなのを引っ張り出すとそこにくっついていたもののピンを次々はずした。

 

「久々の活躍の場だ!派手な花火と行くぜ!」

『げぇ!』

 

一毅が上空に投げたのは武器庫に保管されてた手投げ弾……更に背中に手を回すとガチャンと筒状の武器……有り体に言うとロケットランチャーをだした。

 

『げげぇ!』

「たーまやー」

 

シュボッ!っと言って発射されるロケット……それは壁に着弾して爆発を起こしたのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げほっ!相変わらず何を考えとるんぢゃ……あやつ……」

 

頭がクラクラする感覚に襲われながらパトラがいると背後から殺気……それにとっさに反応しながら回避するとそこに立っていたのはジャンヌだ。

 

「パトラ……超能力者同士……お前の相手は私がしよう」

「ふん……儂も嘗められたもんぢゃな……」

 

砂の剣を作り出しながらパトラはジャンヌを見据える……ジャンヌも一毅が届けてくれたデュランダルを構えたのだった……

 

 

 

 

 

 

「くそ……いったい何の騒ぎだ?」

 

別の場所ではミサイルから脱出したカツェがいた。ミサイルが落下したカツェだが流石にあの場に放置はしておられずキンジがミサイルをリサと一緒に引っ張ってくる形で船まで持ってきたのだ。だがハッチが開かず悪戦苦闘……そのため今までこれなかったのだ。そこに……

 

「オラァ!」

「ウワァ!」

 

問答無用の急所に向かって放たれた銃剣の一突き……ギリッギリでカツェは回避した。というかフラフラだったのが偶然幸をそうしたと言う感じだ。

 

「またあったね……()()……」

「お前は……ロキか!っつうか殺す気か」

「当たり前でしょ!でなきゃ急所を銃剣で突こうなんてしないよ!」

「日本の武偵って言うのは殺し禁止なんじゃないの!?」

「日本にはね……こんな言葉があるんだよ……《バレなきゃ犯罪じゃないんですよ》ってね。異星人様も言ってたし」

「ニ○ル子かよ!分かるかんなそのネタ!日本のオタク文化は万国共通だぞ!特にうちの組織でもBL大人気だしな!」

「マジで!?」

 

ロキは思わぬ切り返しに驚愕した。

 

「あぁ……男女の恋愛は禁止されてても同姓の恋愛は問題ないからな」

「それは別の意味で問題出そうだけどなぁ……って!ちがうちがう!とにかく!今すぐここで光になれ!」

「普通魔女の私が悪役っぽいはずなのになんかこいつの方が悪そうだな……待てよ……こいつ倒せば敵減んじゃん!よっしゃやる気出てきたぁ!!!!!」

 

と、ロキとカツェの戦いが始まり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

煙のなかで歩いてると一毅はなにかを踏んづけ下をみると何とローレッタがピクピクしていた。

 

「ヤッベ!味方踏んづけた!しかもシスターって不吉すぎんだろ!」

 

と一毅が慌てると後ろから叩かれた。

 

「安心しろ。そいつは敵だ」

「き、キンジ……」

 

一毅がそれはどゆこと?と首をかしげるとキンジが説明すると長くなるんだがと頭をかく……だがそれは長く続かなかった。

 

「成程……確かに良く似ている」

「あ?」

 

煙の中から出てきたのは一毅よりもデカイ背の女性……そんなの一人しかいない……閻である。

 

「キンジ……あの角って飾りじゃないよな?」

「俺もそれだったら助かるよ」

 

とキンジが言うと閻は笑う。

 

「角を怖がるか?お前の一族も昔はあったのだぞ?」

「……はぁ?」

 

一毅が唖然とした……当たり前なのでキンジが捕捉する。

 

「お前の遠いご先祖様が……鬼だったんだとよ」

「……え?」

「つまりお前は鬼の血を引いてるらしい」

「へぇ~……え!?じゃあもしかしていつか角はえたりすんの!?」

「それはない。長い間お前や亜門は人間と交わり続けたせいで幸運にも限りなく人間に近い体だ。いや……この場合不運か?」

「どういうことだ?」

「人間に近い体で我ら鬼の力を使ったらどういう結果になるかお前たちでも何となく想像はつくんじゃないか?」

「…………成程な……」

 

キンジは合点がいった。一毅は待ったく理解してないが……

 

まぁ閻が言いたいのはつまり、スーパーカーのエンジンのパワーを小型車に使ったらどうなるかと言うことだ。どれだけ体に損傷を溜め込んでいくか何て想像できない。

 

「まぁ……お前は亜門程ではないがかなり鬼の力に適合できてる方だ。そのせいだろう、ここに来れたのはな」

「どういうことだ?」

 

そうキンジが聞くと閻は言う。

 

「我ら鬼は身内の居場所を大体関知できる。今回桐生は危機的状況下におかれた……その時に私や亜門が同時にいた場所を咄嗟に感じ取ったんだろう。元々亜門に流れている鬼の血も同じだ。強い鬼が2体もいるこの場を感じ取っても何ら不思議じゃない」

「成程ね……一毅は分かったか?」

「……悪い……今混乱中……」

 

一毅は目をグルグル回しながら頭から湯気を出していた。そもそも亜門って誰?状態である上に待ったくわからんである。

 

「とにかくだ一毅……悩むのは後で好きなだけ悩め、今はこいつを何とかするぞ。少なくとも……多分敵なんだからな」

「お、おう」

 

一毅は頭を振って閻を見据える。

 

「一応聞くけど……戦わないわけにも行かないんだよね?」

「あぁ、折角だ。今代の遠山侍と桐生の強さ……見てみるのも一興だ」

 

そういう閻……つまり……二人まとめてこいと言っているのだ。余裕だな……だが、それが油断とは言えない相手だった。

 

「一毅……早速だが背中頼めるか?」

「任せろよキンジ……鬼退治と洒落混もうぜ!」

 

そう言うとキンジは銃とナイフを……一毅は二刀流となり一気に閻との間合いを積めた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにリサは……

 

「ヘループ!」

 

イヴィリアを口に加え魔女連隊の皆を相手に八面六臂の活躍をしていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オォ!』

 

一毅は刀を振り上げると閻はそれを金棒を止める。

 

「キンジィ!!!!!」

「オォ!」

 

だが背後から一毅を台にするとキンジが飛び上がり踵落とし……閻はそれを掴んで止めた。

 

『っ!』

「いい一撃だ……だが桐生。まだ私の知っているアイツには程遠いなぁ!」

「っ!」

 

突然の圧力……単純なパワーを押し付けてきているだけなのだがそれでもすさまじいパワーだ。一毅じゃなかったら今頃スプラックだっただろう。

 

「チィ!」

 

一毅の体から純白のオーラ(ホワイトヒート)がでる……これで少しマシだ。

 

「ほぅ……キチンとそれは使えるのだな……」

「なに?」

「元々ヒート(そ れ)は鬼の技術だ」

 

そう言った閻の体から一毅同様……いや、一毅より強い純白のオーラ(ホワイトヒート)が溢れた。

 

「んあっ!」

「人間もたまに使うものがいるがな……あんなもの殆ど見た目だけ真似た劣化版……証拠に赤しか使えん」

 

そういえばキンジや呂布や辰正も深紅のオーラ(レッドヒート)しか使えない……その辺気にはなっていたんだがそう言う理由だったのか……

 

「さぁ……もっと派手に行くぞ!」

『っ!』

 

閻はキンジの足をつかむと一毅に向けて降り下ろす。

 

「一毅避けろ!」

「くっ!」

 

一毅はキンジの命令通り受け止めなかった……キンジもただ一毅を案じた訳じゃない。そうした方がお互いにダメージが少なくてすむからだ……

 

(橘花!)

 

地面に叩きつけられる直前キンジは橘花で受ける……ダメージはないことはないがそのまま食らうよりマシだ。木造なのも味方しキンジは気を失うことはなかったはかなりいたい……だがそこに一毅が割り込み閻と対峙する。

 

「オォ!」

「ハァ!」

 

一毅の刀と閻の金棒が激しい音を立ててぶつかる……

 

「クッソ……」

 

手が痺れる……今まで会った相手の中で純粋なパワーなら比肩無しだろう。流石人外……ってな……

 

「成程……確かに亜門の言う通り良い眼をしている」

「さっきからその亜門って誰だよ!」

「お前の親戚だ。遠いな」

 

そう言いつつ閻は一毅の刀を弾く。

 

「ヤベ……」

 

一毅にできた隙……そこを見逃す閻ではない。素早く金棒を持ちかえ一毅に向けて振りあげた……だが!

 

「ウッシャア!」

「っ!」

 

桜花で加速させた上段蹴り……それで閻を蹴り飛ばした影……勿論キンジである。だが閻はガード済みだ。手は多少痺れたようだが大きなダメージはない。

 

「全く……鬼ってのは皆こうなのかい?」

「まぁ……人間よりは強いがな……私も腕っぷしには覚えがある。私より強いのは覇覇美様位だな……もう死んだものたちの中には結構いたがな……桐生と亜門の先祖もその一人だ。男に変化した鬼の一人であったしな」

「男に変化?」

 

キンジが首をかしげると閻は鬼とは基本的に女しか生まれずその中で強さを一定水準以上に強さを上げたものが男に変化しその男が女を孕ませて次代を作っていくらしい……つまり結果的に強い鬼の子供が生まれていく……逆に言えば強くないと男にならないので男になった鬼は総じて鬼の中でも化け物らしい。

 

「だが桐生たちの先祖は変わり者でな。自分の武を振るう訳を見つけたいとか言い出して人里に降りていった……仏門に入ったとか結局悟り分からず破戒僧になったとか、み……み……何とか、よし何かと言う者に付き従い全身に矢を受けて死んだ。まぁ仁王立ちで死んだのだから大したものだがな」

 

どっかで聞いたことあんだよなぁ……その話……っとキンジは苦笑いした。

 

「だが私たちもかなり最近だ。アイツに子孫がいたと知ったのはな……それが方や日の本に……もう片方は世界中放浪する者に別れ生き延びていたとは……血を感じたよ。変わり者のな」

「失礼だなアンタ……」

 

一毅はしかめっ面をした。だが、

 

「だがやはり……お前たちが本調子ではないと詰まらんな」

 

そう言って閻は闘気を霧散させて金棒を下げる。

 

「そろそろ我らも引き際だ。今回は引くとしよう」

 

そう言って閻は拳を握ると……

 

「ふん!」

『っ!』

 

床を殴り付けた……その拍子に船が軋み一毅やキンジだけではなく周りの面子も一瞬固まった……その瞬間を見逃さず閻は飛び上がるとあっという間にマストを飛び上がっていきそのまま水に飛び込むとさっさと退散していった……

 

「引くと決めると迷いないなぁ……」

 

キンジと一毅は閻の行った方向を見たが既に豆粒になった閻を見るしかできなかった……

 

「しかし……いってぇ……」

 

一毅は床に経たりこんだ。体力の限界である。ここに来るまでで消耗しすぎたのである。閻相手にするのであれば最低深紅のオーラ(レッドヒート)……いざとなれば極めし者のオーラ(クライマックスヒート)を使わねばまず身体能力に開きがありすぎて相手にならないのだが純白のオーラ(ホワイトヒート)が限界であった。

 

キンジもそうだ。いくらヒステリアモードになっているとはいえ一回死んでここに来るまででも疲れがあった……二人とも本調子とは程遠い……無論閻が化け物なのが一番である。化け物じみた……何て言うやつは結構見たが相手は本当に人外だ……

 

「しかしここで座り込んでる場合じゃないぞ……」

 

まだ戦いは終わってない……とキンジが言うと一毅も頑張って立ち上がる。この船の上には未だ多くの敵がいるのだ。すると、

 

『え?』

 

そこに無数のヘリや船が来て取り囲んできたのだ……そして、

 

「トオヤマ!」

「ワトソン!?」

 

そう、ワトソンが……正確にはリバティーメイソンが来たのだ。

 

「どう言うことだ?桐生にカイザーが撃ち込んだ銃弾に着けたGPSを追ってきたんだが何で眷族(クレナダ)との戦いになっているんだ!?」

「いや……色々あってねぇ」

 

キンジは肩を竦めた。そして息をたっぷり吸う。

 

「両者ひけぇ!」

『っ!』

 

キンジがそう怒鳴ると眷族(クレナダ)師団(ディーン)で分かれた。

 

「一旦戦闘中止だ!俺の話を聞いてもらう!これ以上戦っても眷族(クレナダ)のじり貧だぞ!」

『………………』

 

その通りである……一毅が結果的につれてきたリバティーメイソンのお陰で師団(ディーン)の戦力が優勢だ……これ以上の戦闘は眷族(クレナダ)のじり貧であるのは火を見るより明らかだった。

 

「今すぐに投降しろ!交渉にも応じる!……とそこのワトソンがいっている!」

「おい!面倒な部分は僕に押し付ける気か!」

 

と、ワトソンの抗議が入ったがキンジはウィンクして頼む。それに弱いワトソンもワトソンであるが……

 

「もう戦争は終わりだ!これ以上やるなら……うちの最高戦力が相手するが?」

「おう、相手するぜ?」

 

と、一毅も精一杯強がる。いざとなったら自爆覚悟で極めし者のオーラ(クライマックスヒート)使ってやると言う覚悟でいる。

 

眷族(クレナダ)のイヴィリアは一毅が戦車を叩ききったのをみている……下手に大暴れされると危険なのは知っているし他の面子も一毅だけでなく殺せないキンジをみて戦うのは得策じゃないと踏んだのだろう。

 

「私は良い……でもカツェや配下の子達に手は出さないで」

「君にも手は出さない。カツェは俺の親友の恩人でもあるからね。丁重に扱うさ」

「なら……もう手はないわね」

 

イヴィリアは言う……

 

「降参よ」

 

パトラも剣を捨てた。

 

「これぢゃからキンジとは戦いとうなかったんぢゃ」

 

カツェはロキと戦っていたが結局魔力がガス欠を起こしロキも銃弾が無くなり互いに手がなくなった挙げ句髪を引っ張りあい頬を引っ掻きあいスカートとか服装グチャグチャにしあうキャットファイトを繰り広げていたが……

 

「……一旦やめるぞ」

「……そだね」

 

一旦二人は離れる。

 

「一つ聞きたいんだが……遠山も敵じゃないよな?」

「……お姉ちゃんやライカと話すときあんだよね……一番の敵って実は遠山キンジ先輩じゃないかって……」

 

と言う冗談話をするくらいには通じ会えたらしい。

 

「ほんじゃまぁ……これにて一件落着!……だな?」

 

キンジが言うとリサが背後に降り立ち……

 

「アオーン!」

 

と、遠吠えを響かせた……その勝鬨にも似たその声はどこまでも……どこまでも響いていく……

 

「やっぱり……お前はうちの勝利の女神だぜ。男だけど」

「む?そうか?」

 

何て一毅とキンジはやり取りを交わす……

 

「つうか風呂入りてぇ……飯も食いてぇ……寝てぇし……あっちこっち撃たれてるからそっちも治療したい……」

「良くそんな体でここまで泳いできたもんだぜ……」

「そりゃ人間じゃないことが判明したし?」

 

と一毅が言うとキンジは言った……

 

「だがお前はお前だろ?」

「…………」

 

一毅はキンジをみた……

 

「何だ?」

「いやー……やっぱお前は変わんないなぁと」

「そうか?」

「あぁ」

 

一毅とキンジは笑う。

 

「とりあえず帰るぞ。そろそろ日本にな」

「よっしゃ!」

 

一毅はキンジと一緒に歩き出す……すると、

 

「お兄ちゃん!」

 

とロキに抱きつかれた。

 

「おーっ、久し振り」

「久し振りじゃないよ心配したんだよバカァアアアアアアア!」

 

とポカポカ胸を殴られた。

 

「お、おいおい泣くなって」

 

こうなられては鬼と戦える一毅も敵わない。慌ててフォローするしかない。

 

「桐生も女の涙には敵わないんだね」

 

と降りてきたワトソンが言うとキンジは言う。

 

「男は女の子の涙に弱い生き物なんだよ」

 

と言うとワトソンはまた笑ったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにこの一件でキンジの名が更に売れることになる。そしてあるものはこう言った、不死人(アンデット)キンジ……と。




次回でやっと欧州編は終わりです。

一毅のルーツもやっとかけた……長かった……ここまで君のに150話以上かかってます……

さて一毅もキンジも今回はお疲れ状態だったため閻との戦いは二人でもお預け状態です。閻はきっちりキンジが倒すでしょう。一毅は……閻大好きのあの鬼と戦わせましょう。

さて、今回のバスカービル日記ですが……あれ?もう全員終わりました……またキンジに戻っても良いんですが……よし、今度はあの子にしよう!


バスカービル日記

執筆者・間宮あかり

某月某日

何かアリア先輩たちが交換日記をしているらしく何か私たちも書かないかと来たので書くことになりました。と言うわけで最初は私なんだけど何を書こう……とりあえず最近女子から辰正と付き合ってるって聞かれるのが増えたことかなぁ……中国から帰ってきてから増えた気がする。そういう間柄じゃないんだけどね……辰正モテるし私なんかどうとも思ってないだろうしねぇ~。幼馴染みだよ幼馴染み。まぁ……便りになるかなぁっては思うけどね……やっぱり辰正も男なんだなぁって思うよ。きっと辰正にも良い女の子が現れるよ。頑張れ!

psあれ?辰正何で血の涙流してるの!?byあかり










でもやっぱり辰正に彼女できたら何かモヤモヤするんだよなぁ……


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金は更に抱え込む

「ガフガフハグハグゴクゴク!」

「お前そんなに腹減ってたのか?」

「あふぁふぃふぁふぇふぁふぉふぉ!」

 

多分当たり前だろ……言いたいんだろうなぁ、とキンジは苦笑いしつつ一毅に食べるのを促す。

 

前回の戦いから次の日……キンジたちはフランスに戻ってきて師団(ディーン)眷族(クレナダ)停戦協定が行われていた。とはいえキンジ、一毅、ロキは邪魔しないために外に出ていた。

 

そこでは一毅はまず風呂に入り全身を洗ったあと無精髭も剃ってある……そのあと船につくまで暫く殆ど飲まず食わずの状態だった一毅は満腹になるまで食って良いと言われた食事を食べていた。その量は凡そ10人前は余裕で行くであろう量だ。

 

「お兄ちゃん今まで飲まず食わずだったの?」

「いや?海泳いでたときに襲ってきたサメ食って生き延びてた」

『……は?』

「俺が流した血にわらわら寄ってきてさぁ~マジで死ぬかと思った~……あ、知ってるか!意外とサメって身の部分は引き締まっててそこそこ旨いんだぞ」

『一生知らなくても困らない知識をありがとう』

 

とキンジとロキは半眼になって言った……そりゃもうそう反応するしかない。それ以外にどう反応せいと?

 

「ったく……どういう生き残りかしてんだよって話だぜ」

「ふふ……そうですね。ある意味新鮮そのものな食事でしたね」

 

そこに来たのはカツェとメーヤだった。

 

「二人ともなんでここに?」

 

と、口に一杯いれてるため喋れない一毅に変わってキンジが聞くと……

 

「アタシはいても邪魔だしな……抜けてきた」

「私も同じようなものです」

 

と二人は言う。一応この場で火花を散らす気はないようだ。

 

そんな話を聞きながらキンジは頭をかきつつ今回の一件を考えていた。

 

まず今回は師団(ディーン)の勝ちである。そしてアジア方面は完全に師団(ディーン)の支配下で今回の一件で欧州も終わった。眷族(クレナダ)は基本的に譲歩案を探るらしく敵対はしないらしい。

 

だが例外がある……それはバチカンだ。案の定ローレッタさんは地方に左遷されることになったらしく今回の会議でもバチカンに発言件は皆無に等しいらしい。ザマァみろと思う反面完全にローレッタさんは蜥蜴の尻尾切りにあったと言うとこだ。哀れでもある。

 

「それで桐生さん……」

「ん?」

 

メーヤは一毅の前に立つ……一毅も真面目な話だと感じて口にあるものを飲み込んだ。

 

「すいませんでした……」

 

メーヤは頭を下げた……キンジには先程ローレッタさん共々頭を下げられていた……一毅の方にもローレッタさんが先程来て謝られていた……だがメーヤは事後処理もあり遅れていたため若干遅れての謝罪だ……それを聞いた一毅は、

 

「いや、俺気にしてねぇから良いよ」

 

と言った。キンジもだが武偵は騙される方も悪いのだ。今回は良い勉強になったと言うところだろう。

 

「ですが……」

「気にすんなって……俺は別に気にしてねぇからさ。まぁキンジやロキにジャンヌを殺そうとしたのは気に食わんがそれをグチグチ言うのも面倒っつうか……時間の無駄って思うし良いよ。それに俺ローレッタさんを踏んづけちまったし……」

「あれクッキリ残ってたぞ」

 

とカツェが言うとキンジは吹いた……そういえば土下座されたときに一毅の靴の汚れがローレッタさんの背中にあったのだ。一毅がロケットランチャーをぶっぱなし目を回したローレッタさんを踏んづけて慌てていたのは今でも記憶に新しい……

 

「とりあえず腹減ってるから食って良い?」

「あ、はい……どうぞ」

 

メーヤが呆気に取られる中一毅はガツガツと食事を再開する。

 

「こういうやつだよ……」

 

とキンジは肩を竦めた。すると、

 

「んぐ!んぐぐ!」

「ほら水」

 

とキンジは喉を詰まらせた一毅に水を渡した。さながら熟年夫婦のような連携である。

 

「やっぱりお姉ちゃんたちじゃなくて一番の敵は遠山キンジ先輩だよね……」

『やめろ気持ちわりぃ……』

 

とキンジと一毅が苦虫を100匹位一気に噛んだような表情を浮かべた。

 

「まぁそういうなって。うちのとこでも何かお前らのあれな話で盛り上ってたぜ?」

『マジかよ……』

 

一毅とキンジはカツェの要らない情報に頭を抱えた。

 

「そ、そういう関係だったんですね……どうりで仲が……」

『違う違う違う違う違う!』

 

メーヤまで変な誤解をしそうだったためキンジと一毅は慌てて否定した。まあ冗談ですよとメーヤは言うが二人にしてみれば冗談にならない。

 

「まぁ二人が仲良いのは事実だしね」

『それは否定しないが……』

 

否定はしない……だがそう言う関係だと思われて二人は良い顔はしないものだ。武偵高校でもそんな噂が出ているのを二人は聞き及んでいる手前そんな嘘情報が世界進出何てしようものなら二人はもう外に出れなくなりそうだ。

 

「ですが……そんなお二人が私は羨ましいですよ?」

 

そう言うメーヤに一毅は首をかしげた。

 

「そんなもんか?」

「はい……ですから……」

 

メーヤは口を開いた。

 

「……私も桐生さんを信じて良いですか?」

 

ビキッ!っとロキとカツェの空気が凍った。

 

「おれ?信じるもなにも何か約束したっけ?」

「私が勝手に桐生さんを信じているだけです……キンジさん見たく貴方を信じて良いですか?」

「別に良いけど?」

 

一毅は全く理解していないが……メーヤの場合信じると言うのは別に意味も混じってきているのは言うまでもない。

 

「おい……テメェ人の使い魔になに言ってんだよ」

「お兄ちゃんは使い魔じゃないけど同感だよ」

 

ガルルと威嚇してメーヤを睨むカツェとロキ……だがメーヤはなんのことでしょうとにこやかに笑うだけだ。

 

「……ちっ!ホラよ桐生」

「ん?」

 

カツェが投げてきた欠片を一毅はキャッチした。

 

「殻金じゃねぇか」

「今回のでまずそれの返却が盛り込まれてるからな。やるよ。あといくつなんだ?」

「鬼が持ってるので最後だ」

 

一毅が投げた殻金をキャッチしつつキンジは言う。

 

「あと……一歩だな」

「ですがうまく行くでしょうか……」

 

メーヤの言葉に皆は首をかしげた。

 

「今回で眷族(クレナダ)が譲歩案として提出するのは恐らく日本に張られている鬼払結界の解除……それも入っているでしょう……恐らく眷族(クレナダ)との戦闘も良い顔はされないと思われます」

 

そうメーヤが言うが……

 

「知るか。元々この殻金はこっちのものだしほっとくと危ないんだ。勝手にやらせてもらうだけだ」

 

キンジがそう言うと一毅は笑う。

 

「まぁ、もう少し頑張れば平和でのんびりできんだろ」

「だねぇ」

 

一毅とロキが同意する。それをみたカツェとメーヤポカンとみた。

 

「いやいやおめぇら……下手スッと眷族(クレナダ)だけじゃねぇ……今度こそ師団(ディーン)完全に敵対するかもしんねぇぞ……今回はお前が裏切ってないって思うやつらもいたが……本気で敵に回すかもしんないんだぞ」

「そ、そうですよ……」

 

だが一毅は肩を竦めて笑う。

 

「そういわれたってなぁ……うちのリーダーが決めたら俺は黙ってついてくぜ」

「お前な……」

 

カツェが口を開こうとしたが一毅が先にしゃべる。

 

「だってアリアの身も絡んでたらキンジが止まるわけねぇもん。つうか止まったら俺がケツを蹴って歩かせてやるよ」

「だそうでな……俺もアリアが殻金一個なくたって良いなら良いがそうでもないんだ……だから鬼からきっちり取り立てる。これでも俺の取り立てのしつこさは本筋からも恐れられてんだぜ?」

 

そうキンジが笑うとカツェとメーヤは目を合わせて……笑う。

 

「おめぇらの周りは飽きなさそうだな。よし、おい桐生。何かあっときはアタシに連絡しろ。力貸すぜ」

「はぁ?」

「私も同じです」

「はぁあ?」

 

一毅にしてみればいきなり何?状態である。

 

「お前の周りはいつも面白そうだ。なぁに、フルマンに借り作れるって言うならうちの連隊からも引っ張れるさ」

「なんだそれ……」

 

キンジが聞きなれない言葉に首をかしげた。

 

呪いの男(フルマン)……お前に敵対した組織はろくな目に遭わねぇからそう言う風に呼ばれるらしいぜ」

「マジかよ……」

 

それを聞いて一毅が笑うが、

 

「お前だって死神とか貧乏神って呼ばれてるぞ」

「ガッデム!」

 

随分な言われように一毅は落ち込んだ……

 

「まぁお前らも寄り一層危険視されるのは間違いないからな。気を付けておけよ」

 

そんなカツェの言葉に肩を落としていると……

 

「ご主人様」

「リサ?」

 

キンジが振り替えるとリサがいた……

 

「どうしたんだ?」

師団(ディーン)眷族(クレナダ)との対話により捕虜は帰還できるのですが……私はこれからもご主人様と一緒にいてもよいとのことでした」

「…………なにぃ!」

 

キンジがアングリと口を開けて驚愕した。

 

何でもリサの話を聞けば今回の一番の功労者、遠山キンジへの報奨……功労者への一流のメイドを進呈的なことが行われそれがリサだったらしい……いやいやそんなの要らんぞ……

 

「私は……ご主人様が例え誰を好きでいようともお慕いし続けます。いつか少しだけこちらをみていただければリサは満足ですので」

「へぇ?どう言うことだキンジ……まさかとは思うがお前俺がサメと格闘したり、リバティーメイソンから逃亡しているときお前まさかこんな可愛い子を捕まえてお世話されれたのかおい?」

 

一毅は割りと洒落にならない闘気を発しながらキンジに迫る……

 

「い、いや……色々あって生活面に世話になっただけで……」

「お前ようは心身充実のヒモ生活送ってたんだろがい!」

「ヒモじゃねえよ戦闘を俺が担当してたんじゃい!」

 

キンジと一毅は言い争いを始めた……先ほどまでの仲良し空気はどこへやらとドッカンバッキンと殴り合い……そんなことをしつつ……

 

「お前でも日本に来てどこに住む気なんだよ……」

「勿論ご主人様の居るところがリサの居場所です」

 

あ、また騒がしくなるわ……と一毅、キンジ、ロキの脳内がリンクしたのは……余談である。

 

 

そんなこんなで……欧州戦役と……今世紀の極東戦役はキンジたちの活躍もあり……幕を閉じたのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の一件の報告です」

 

とある部屋の一室……そこにいた男に書類が渡された。年の功は凡そ40台と言ったところか……眼光に隙はなく……今はスーツを着ているがその中の肉体は凡そ年齢には似つかわしくないだろう。椅子に座ってはいるが今もし襲撃を受けても何ら問題はないと書類を渡しに来た男は思う。

 

この男もいくつもの修羅場を潜り抜けた。現在いる組織……公安0課でもトップクラスの腕前をもつ。

 

「獅童君……もう少しきちんと纏める気はないのかね……」

「すいません。デスクワークは苦手なもんでね」

 

そう言った獅童と言う男の悪びれない言動に相手の男タメ息一つ吐いて終わる。

 

「遠山キンジ……か」

「最近急に名前が出てきましたね。あの遠山金叉の次男坊でしたよね……」

「……戦ったらどっちが勝つんだい?」

「間違いなく俺ですよ。あいつは強い……だがあれはアマチュアだ。所詮はガキのお遊戯ですよ」

「手厳しいね」

「事実をのべただけです」

 

獅童と言う男は謙遜も過剰評価もしない……普段の言動から想像できないかもしれないが彼はそう言った目は確かだった。

 

「そう言う点では桐生も同じです。あいつはアマチュアだ……そもそも戦いの中で動きが鈍くなるような事態に陥る時点でバカです」

「そう言う評価の時は君って人が変わるねぇ」

 

そんなことを言いつつ男は書類を置く。

 

「だが今回の一件で間違いなく遠山キンジは世界から一目おかれるだろう……なにせ極東戦役を終わらせた男だ。それに応じバスカービルと言うチーム事態が見られることになる……」

「敵が増えますね」

「だろうね……できるなら死んでもらわれると困るんだがね……」

「ですが……こいつ嫌われてますよ……あんたの下でも消した方がいいんじゃないかて言われてんじゃなかったんでしたっけ?()()……」

「今は抑えてるけどね……これ以上何か起こされると……少し面倒だな」

 

総理……そう呼ばれた男の目には何処か悲しげな……そんな色が写っていた……




今回でやっと欧州編終了……次回は対談やってそれから緋緋神編ですね。



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談話
対談ⅩⅠ


咲実「さぁ、始まるざますよ」

 

一毅「行くでがんす」

 

キンジ「ふ、フンガー……」

 

辰正「まともに始めましょうよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「つうわけで今回も元気に対談やっていこう!」

 

キンジ「ついに欧州編も終わったなぁ……」

 

一毅「いやぁ、長かったなぁ……」

 

辰正「そういえば最近なんか投稿速度落ちてません?」

 

咲実「ギクッ!」

 

アリア「そういえばそれ私も気になってたわ」

 

咲実「ギクギク!」

 

白雪「まぁ年末年始ってのもあったけどそれでも遅くなったよね?」

 

咲実「いやぁ~、ちょっと事情がね……友達にお願いされててさ……」

 

理子「お友だちいたんだ」

 

咲実「いるわい!まぁその友人がね……最近東方MMDって言うのを始めたんだよ……」

あかり「へぇ~。でも何でそれが関係があるんですか?」

 

咲実「いや、その友人が二つほど話は考えたんだけどそれ以降全くネタが思い付かん!と言い出してね……そしたらお前確か小説書いてたよな!お話考えんの得意だよな!?と言い出して……」

 

志乃「つまり脚本家にされたと……」

 

陽菜「それくらい断ればよいでござろう」

 

咲実「んなことできるか!あいつには恩があるんだよ!」

 

レキ「恩?」

 

咲実「そうだよ、あいつはクリスマスに一緒に牛丼チェーン店に行ってくれてクリスマスに用事があるから……って言えるようにしてくれたり初詣一緒に行ってくれたりする大恩人ですよ!」

 

ロキ「……一つ聞くけど……男の人だよね?」

 

咲実「うん。そうだけど?」

 

一毅「いや……ついにお前男に目覚めた訳じゃ……」

 

咲実「ちゃうわい!んなわけあるか!……でも……周りからそう言う趣味じゃないよね?とかみたいなことはちらほら聞かれる……」

 

キンジ「もしかして俺と一毅のオホモダチネタって……」

 

咲実「ああ、バラすとあれ実体験を元に書いてる部分もあるよ。俺の友人は一毅やキンジみたく人間やめてはいないけどね」

 

咲実以外『うわぁ……』

 

咲実「言っておくけど俺もあいつもそう言う趣味はないからね!」

 

レキ「ですが暫くは遅くなると言うことですか?」

 

咲実「かなぁ……でもちゃんとこっちも書いてるよ」

 

辰正「でも脚本そんなに時間かかるってことは本格的なんですか?」

 

咲実「うんにゃ、あいつのMMD操作の腕がダメすぎて戦闘シーンの変更とか動きが変で紙芝居形式の方が良いんじゃないかとか話し合ってて変更とか改稿が多くて全体的な流れの指示もしてるから脚本以外の事もしてる……」

 

アリア「それもう監督じゃない?」

 

咲実「それあいつからも言われた……まぁなので執筆は遅れぎみですが暫しお待ちください。あと、あいつが作ったMMDの小説ver上げるつもりです。勿論許可をもらってます」

 

キンジ「宣伝か……うちので宣伝になるかは難しいところがあるが……」

 

咲実「まぁね。確かにお互い有名じゃないから難しいところあるよねぇ……でも何よりあいつが小説ver?見てみたい!って言うしさ……やっぱり恩もあるし……出来るなら多少でも良いから宣伝したいって思うんだよ……さっき言わなかったけどあいついなかったら多分この小説生まれてないし」

 

一毅「え?どう言うことだ?」

 

咲実「俺元々ゲームよりラノベとか普通の本とか読む方が好きだったんだ。別にしなかったわけじゃないんだぞ?でもあんまりしなかったんだよ、でもあいつと付き合いができたときに進められたんだよ……龍が如くを……」

 

辰正「じゃあそれなかったら……この小説生まれなかったんですね」

 

咲実「ある意味お前らの生まれる一端を担ってるんだぞ?」

 

アリア「確かにね……」

 

ライカ「その人いなかったら一毅先輩に会わなかったんですね……」

 

咲実「いずれ完成したときは活動報告の方にあげると思います……そのときは見に行ってあげると多分あいつ喜びます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「と言うわけでお茶を濁し続けるわけに行かないので次の話題、今章で一毅と言うか桐生のルーツも出てきましたね」

 

白雪「案外普通に受け入れられてたね。読んでくれた方に」

 

理子「まぁ結構普通に匂わせてたしね」

 

咲実「それに武蔵だけじゃなくてもう一人の偉人の血筋だと言うのも言ったね。結局一毅はキンジやレキとは昔からの付き合いなんだよね……と言うわけで一応今まで匂わせた伏線?発表だね」

 

1、【一毅は米が好き】

 

あかり「これは結構気づいたんじゃないですかね。ことあるごとに一毅先輩ご飯食べてましたしね」

 

咲実「そもそも一毅ってプロローグのレキとのラーメン以外米の飯以外の食事描写はないはずだよ、あったら間違ってかいてる」

 

ロキ「それじゃあ次は」

 

2、【体が異常に頑丈で回復も早い】

 

アリア「まぁこれ?って思うかもしんないけどね」

 

あかり「普通雷当たっても肩凝り治りませんってやつですよね」

 

志乃「あと全般的に回復も早いですしね~」

 

3、【吉岡一門との戦いの時の一言】

 

辰正「確か蟻とかっていってましたよね?」

 

咲実「一応その辺は閻が一々蟻を潰しながら歩くのか?みたいな台詞をイメージしてます」

 

4、【遠泳ができる】

 

ライカ「たしか一毅先輩のお祖父さんもやってましたよね?」

 

一毅「まぁな。そういや閻も鬼の本拠地に泳いでいく的な話を原作ではしてたしそれイメージだな」

 

咲実「yes」

 

5、【恋愛相談の相手がアリアのみ】

 

白雪「これって確か友人にも指摘されれたよね」

 

理子「因みにその友人とは先ほど登場した友人だよ~」

 

一毅「そいつから一応一毅へアリアからの相談シーンしかないのって全員作るの面倒だから?それともメインのヒロインがアリアだから?と言う質問を受けたことがあります。勿論その辺も関係がないとは言わないけど一番はアリアの恋愛が成就するとどうなる?って言えばわかるかな」

 

辰正「あぁ、緋緋神ですね」

 

咲実「一応一毅の緋緋神の血がそれを促進させようとしている……と言う裏設定もあるのよ。一応、ね。他にもアリアや猴の緋弾の共鳴に一毅も反応を示したりするのも緋鬼の影響。一毅は歴代の桐生でもずば抜けて先祖帰りを起こしてるからね。そう言った側面もあるって訳ですよ」

 

6、【ヒロインの共通点】

 

咲実「え?ある?って思った方いると思いますがこれは個人的な考えですが……レキ、ライカ、ロキの根底にあるのは依存性だと思います。基本甘えん坊ですね。忠犬とも言えるタイプなんですがそれで閻も皆から慕われる姐御肌で津羽鬼も閻にたいしてはそんな感じだし一応その辺意識してるんだ。無作為に選んだわけじゃないよ。勿論私の好み優先ですが……」

 

7、【お酒に強い】

 

陽菜「確か鬼はザルでござるな」

 

咲実「そ、だから一毅は酒にバカみたいに強いんだよ。まぁモデルになった桐生一馬さんもお酒に強いけどね」

 

8、【我が儘なときがある】

 

一毅「これってあれだろ?欧州の時に酒のもうとしてキンジに引っ張られてったやつ」

 

咲実「あれは覇美のこの後の章で登場したときにおにぎりとか食べたいと駄々をこねた時の場面がイメージだよ」

 

キンジ「割りと気分屋な部分あるしなぁ…お前」

 

一毅「そうか?」

 

9、【バカ】

 

ロキ「この設定って鬼達の世間知らず……が元ネタなんだよね」

 

咲実「そだよ、鬼達は人間の世界の世間知らずではあってもバカではない……だけど一毅でこの設定を使うとしたらバカにするしかなかったよね」

 

10、【覚醒条件】

 

咲実「一毅の覚醒って言うか……心眼しかり極めし者のオーラ(クライマックスヒート)しかり……これらを最初に使ったときに一毅の近くにいたのはアリアや猴などの緋弾の持ち主ってわけでございます」

 

ライカ「そう言えばブラド戦で暴走したときもいましたね」

 

咲実「あれは正確に言うとレキやライカをやられて精神が不安定になったときにアリアもで緋鬼の本性が少し出たって感じかな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「主にこんな感じかな……表記し忘れたのとかもあるかもだけど大まかにはこんな感じ」

 

一毅「まぁこれみてあれも伏線だったのか……とか思ってくれるとうれしいな」

 

キンジ「さてこれでとりあえず今回やっておかなきゃなんないのは終わったか……」

 

?「でしたらお茶の用意ができています」

 

キンジ「リ、リサ!」

 

アリア「あら、ありがと」

 

白雪「そう言えばリサさんはまだ本編の方では私たち会ってないよね」

 

理子「雪ちゃんに至っては原作の方でも出会うの遅れてれるけどね」

 

辰正「そもそも白雪先輩って新キャラ登場すると結構遅れて知り合いません?」

 

志乃「そう言えば……」

 

咲実「何かの因果律的なやつだよきっと」

 

キンジ「それにしてもそろそろこの作品も休載を挟むのが近づいてきたわけだが……その辺で新しい連載どうすんだ?」

 

咲実「全く思い付かんのですよ……いや、草案は幾つかあるよ?例えばこの作品のAA視点とかね?艦これもいいよね?ただ難しいんだよ……ある程度の連載となるとね……やっぱり新しいラノベ開拓かなぁ……とか考えたりするんだけど色んなの見ても心動かずそこも停滞ぎみ……他にも考えてないわけじゃないんだけど踏ん切りつかないのもあるしねぇ……」

 

一毅「その辺りはまだ時間かかりそうだな」

 

アリア「と言うわけで今回はここまで!次回からは遂に緋緋神の確信に迫っていくわよ!」

 

レキ「是非楽しみにしててくださいね」

 

皆『次回も見ないと……風穴あけ(るわよ)(ちゃうよ)(ますよ)(るぜ)!』



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第十四章 緋の覚醒
龍達の帰国


「なんか……酷く懐かしく感じるなぁ……」

 

そうキンジは呟く。

 

欧州にて行われた極東戦役の終結から数日後……キンジ達は空港に降り立っていた……

 

「ホントだよなぁ……」

 

それに一毅が頷く。 本当に長かった……欧州では死にかけたりヒィヒィ言ってたし……マジでつらかった。

 

「いやぁ~、二人とも幸せそうだねぇ~」

 

と、言ったのはロキだ。彼女は日本での生活の方が短いので二人のような感傷はない。しかし、

 

「ここがご主人様の故郷なんですね……」

 

リサのように感動もできないのである。しかしきっちりついてきたこのメイドは……最初キンジはどうにかしてリサを置いていけないかと考えたがそこは天下のリサである。キンジの行く先に先回りしておきキンジの退路をしっかり絶っておきキンジは飛行機に乗る半日前には既に根負けしたのだ。

 

「ほらリサ、はぐれるなよ」

 

そう言ってキンジはリサを連れて歩き出す。だが……

 

「お前ずいぶん足取りが重いな……実はなんかの修行で重りでもつけてんの?」

「一毅……お前だってなんでこんなに俺の足取りが重いのかくらいわかんだろ……」

「まぁ……なぁ……」

 

これから向かうのは武偵高校の寮だ……そこには勿論アリアたちがいる……もしそこでリサと会い……そして機嫌が悪くなれば部屋でハルマゲドン待ったなしだ。特に危険なのは白雪……こいつがぶちギレたら部屋が焼けて消え去るぞ……

 

『……………………』

 

想像しただけで一毅とキンジの背中に冷たいのが走った。

 

「一毅……遺書を書いてから……向かうか……」

「………………そだな……」

「ハイハイそんなこと言ってないで帰るよ~」

 

嫌じゃ嫌じゃとキンジ達は嫌がったものの結局ロキとリサに連行されていったのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とは言えだ……結局寮には真っ直ぐ向かったりはせずに何だかんだ理由をつけて寄り道をして行った……その道中ではリサがコンビニ店員の対応に感動してたり時間通りに来る電車に驚いたりゴミが落ちてないことに我が眼を疑ったりと忙しくそれをみて暫し寮に帰ったらの恐怖を忘れることにした……しかし現実と言うのは残酷なものだ……逃げてもやって来る。遠回りして時間を稼いだって寮に帰ってこないといけないのだ。

 

と、寮の部屋のドアの前でキンジは苦い顔をした。入りたくねぇ……

 

「キンジ……骨は拾ってやっから安心して死んでこい」

「お前だって後ろ暗いんじゃないのかね?」

 

キンジが半眼で一毅を見る……一毅はそっぽ向いて口笛なんか吹き出す始末である。

 

「……まぁいい。行くぞ」

 

キンジはそういうとそぉっとドアを開けた……人影は……なし!

 

「一毅喜べ……誰もいねぇ」

「マジか!」

 

一毅もキンジの後ろから覗き混むと……確かに靴がない……

 

「だが気を抜くな……このまま奥に行くぞ……」

「おう……」

 

そう言って二人はコソコソと奥に向かった……その後ろを苦笑いするロキとにこにこ笑ったままのリサがついていく……

 

「……奇跡だ」

 

そしてリビングまで行って見渡すと誰もいなかった……そのためキンジはついついそう呟いてしまった。

 

「ん?」

 

するとテーブルの上に置き手紙があった。書いたのは白雪だ。文面を見ずとも今時和紙に筆での置き手紙など日本中探したって彼女しかいないだろう。

 

「何々……」

 

キンジはその手紙をチェックする……

 

《キンちゃんへ、少しの間星伽の呼び出しを受けたため帰ります》

 

「………………」

 

キンジはその文面に違和感を覚えた。いつもなら冷蔵庫に和菓子とかなんかの置いていったりするし文面も短い……前なんか何の大作かと眼を疑うような手紙を置いていったこともあるためキンジから見れば首をかしげてしまう。そもそも星伽からの呼び出しと言う時点で怪しい……あまり他人の家に言いたくはないが時期的に考えてもなんか怪しい……

 

(ま、白雪がいたら絶対にリサの件でヤバイことになってたし今は平和なことを祝うか……)

 

そう言ってキンジはソファに座る。だが一毅とロキとリサはずっと天井とか壁とかを見ている……

 

「お前らも座ったらどうだ?」

「……キンジ、そこアブネェぞ」

「はぁ?何い……え?」

 

次の瞬間天井からピンクと金の物体が落下してきた……

 

「ぶべぇ!」

 

勿論素のキンジに躱すのは不可能なので喰らってしまう……勿論その犯人は勿論……

 

「お前ら普通に出れねぇのか!しかもなんで隠れてんだよ!」

「その前にあんたこそなんで新しい女連れてきてんのよバカキンジ!」

「いやー!理子もビックリだよ!まさかリサ連れてくるなんてさ」

「師匠!また女子を連れ込むのでござるか!」

 

そんな光景をみて一毅はため息を吐き……そして、

 

「お前ら……もう出てこいよ」

 

そういうと床下とかクローゼットとかからわらわら出てきた。無論、いつもの面子である。

 

「一毅さんおかえりなさい」

「いやぁ……無事に帰ってきて良かったです」

「ああ、ただいま……レキ、ライカ……そしてこれはいったい何の騒ぎだ?」

「最初皆で一毅さんたちを驚かそうって話になったんです……ですが……」

 

レキはリサを見る。

 

「見知らぬ女性まで一緒だったためタイミングを完全に外しました……」

「あれはリサって言ってな。キンジのハーレムランドの新入り」

 

ボソボソと一毅は耳打ちして教えた。その間もキンジとアリアはギャイギャイと言い合ってる。

 

「ふん!まぁ良いわ、キンジが女を引っ掻けるなんて今更だしね」

「んなことねぇよ!」

 

キンジはもっと言いたいこともあったが一を言うと万になって返してくるアリア相手のためキンジは我慢しつつ言う。

 

「とにかくお茶もらえるかしら」

「かしこまりました」

 

アリアが言うとリサはにっこり笑って手早く他の皆の飲みたいものも聞いて手早く淹れていく。

 

「あら、美味しいじゃない」

「リサは他にも経理とか得意だし万年金欠のキー君には必要かもねぇ~」

 

なんて言われ照れるリサ……それをみてキンジは苦笑いしつつリサが淹れてくれたコーヒーを飲みながらテレビをつけた。

 

「というわけで向こうではどうだったの?」

 

アリアが聞いてきたのでキンジは皆に説明する。雪山の遭難とか戦車に追っかけられたとかに始まりミサイルにくっ付けられたりとか遠泳とかの下りは皆の頬もひきつったがキンジや一毅のやることに逐一驚いてると持たないので取り敢えず無事の生還を祝うことにした。

 

「他にも魔女連隊のカツェとかローマのメーヤから南花ある時は声掛けろって言われたな……一毅が気に入られてて」

「おまっ!アイッデ!」

 

一毅が余計なこと言うなと立ち上がりそうになったところに太ももをレキとライカに思いっきり抓り上げられた。マジでいたいんだぞここは……

 

「ま、ロクな目に遭わなかったけど中々勉強になったぜ」

「へぇ、そうなの?」

「……ああ、人間は心臓が止まったくらいじゃ死なないとかな」

「それはキンジ先輩だけですよ……」

 

と、辰正が言うと他の面子もウンウンと頷いた。

 

「何でも眷族(クレナダ)から師団(ディーン)に反則じゃないかと言われたらしいですよ」

「なにがだ?リサ」

 

一毅がはじめて聞くことに聞くと、

 

「殺しても死なない相手じゃキリがなくていつか負けるに決まってる!そんなのズルいと言う話が出たらしく師団(ディーン)側もなにも言えなくなったそうです」

 

リサはにこやかに言うがキンジは頭が痛くなった……存在が反則級かよ……

 

「殺しても死なない(エネイブル)に殺せない応龍と今回の一件でお二人は奇しくも名を大きくあげたようですね」

「勘弁してくれよ……」

 

キンジは本格的に何処か静かな隠れ家が欲しいと思った……リサに頼めば調達してくれそうな気がするが……あ、金がないから流石にリサでも難しいか……

 

「さて……取り敢えず理子」

「ん?なぁに?」

 

取り敢えずこんな気が滅入る話より当面片付けなきゃならんのがある。

 

探偵科(インテスケ)からの課題でてるはずだろ?ゲーム一つやっから見せろ」

「えぇ~、キー君それが人への頼み方?」

「…………ミセテクダサイオネガイシマスリコサマ」

「仕方ないなぁ……貸してあげるよ」

 

と、理子は胸の谷間からいつから隠してたのか分からんがUSBをだしてキンジに投げ渡す。何処に隠してんだこいつは……アリアなんか歯軋りで煙出そうになってんぞ……

 

「あ、今理子がほしいのはね……」

「よし、その辺の交渉はリサに任せた。頼んだぞ」

「お任せくださいご主人様」

「ちょ!リサっちはチート過ぎるから卑怯だよキー君!」

 

理子はリサの交渉能力を分かっているためビックリ眼だがキンジは知らん顔である。適材適所と言うやつだ。

 

「何か何時もの風景になってきたね」

「そうですね、あかりちゃん」

 

と、あかりと志乃が笑いながら言う。

 

「やっぱりこっちの方が落ち着くってもんだ」

「まぁ、しばらくは平和じゃない?極東戦役も終わったし平和な時間を楽しもうね、お兄ちゃん」

 

と、ロキの言葉に一毅はうなずく。

 

「ですが一毅さん……部屋に戻ったら少しお話ですからね」

「逃げちゃダメですよ、一毅先輩」

「カシコマリマシタ……」

 

例え祝光の魔女と戦えようとリバティーメイソンの追撃から逃れられようと泳げようと鬼と戦えようと……一毅は彼女たちには敵わないのであった……




バスカービル日記

執筆者・谷田 辰正

某月某日

先輩たちがやっている交換日記に僕たち一年も参加することになり今日は僕が書きます。
今日は朝、アリア先輩とキンジ先輩が何時ものごとく追いかけっこをしていて当たり前のように盾にされた……痛い……
昼、一毅先輩に声をかけられたときに背中を叩かれたんだけど力加減をミスったらしく十メートルくらい吹っ飛んで壁に叩きつけられた……先輩に謝られた、でも滅茶苦茶痛い……
放課後……あかりちゃんと話してたら刀をもった佐々木ちゃんに追いかけられた……明らかに素の身体能力が上がってた気がしたが気にしないでおく……でも怖い……
夜……あかりちゃんに「何か今日も疲れた顔してるね?」って言われて頑張れって頭を撫でられた……明日も頑張って行こう……終わり


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龍と鬼

日本に帰ってきて数日……一毅は一人で出歩いていた。レキとライカとロキは学校に用事があったらしく居ない……だが今回はありがたかった。

 

一毅はひとつ気になったことがあったのだ。こればかりはレキ達は勿論キンジたちにも相談できなかった……推理力はある方じゃない……寧ろ皆無と言っても過言じゃない一毅だがふとしたときに思い至ったことに珍しく思考を使っていた……

 

多分誰も疑問には思わないだろう……だが考えてみれば可笑しいことだった……

 

「うーむ……」

 

ブスブスと煙が出そうなほど考える一毅……お陰でまた知恵熱が出そうだ……だがあの事はなにも意味がないとは思えんのだ……自分の正体というかルーツのこともあるし……折角今日あった戦友会(カメラート)を断ってまで考えてると言うのに良いことはひとつも思い付かなかった……因みに一毅が気難かしそうな顔して歩いているので周りの人間がドン引きしているのに本人は気づかない……そんなときだった。

 

「難しそうな顔をしているな」

「っ!……お前は……」

 

一毅が目を見開いた……そりゃそうである……目の前に居たのはなんと……

 

「閻……」

「奇遇だな……桐生」

 

190近くある自分ですら見上げなきゃならないほどの巨躯を持つ鬼……今は帽子を被って角を隠しているが見間違う筈がなかった……幾ら消耗が激しかったとは言え一毅とキンジ二人がかりでも圧され気味だった相手だ……忘れる筈もなかった。

 

「なんでお前がここに……」

「少々用事でな……」

 

そいつは穏やかとは思えんな……と思いつつ一毅は腰に手を伸ばし舌打ちした……どうせ少し町に出るだけだからと刀等は全部おいてきたのだった……下手すれば素手で閻とやりあう可能性が出てきた……

 

そう思った瞬間閻が少し待てと手を伸ばす……

 

「今やりあえば無事ではすまんぞ……」

 

一毅は歯を噛む……閻の言う通りだった……ここでやりあっても怪我ではすまない……服装だった何の改造もない普通の服だ……

 

「それより桐生……お主に聞いておきたいのがある」

「何だよ……」

 

一毅は警戒しながら聞くと……

 

「何でも人間の間では、【すたば】と言うのが流行っているらしい……今度覇美様を連れていきたいのだが場所もわからぬ。案内せよ」

「……………………………………」

 

一毅がずっこけたのは言うまでもなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……変わった飲み物を人間は嗜むのだな……」

 

そんなこんなで一毅と閻はスタバで飲み物を飲んでいた……飲み物は適当に一毅が買ってきたものだが閻はなんだかんだ言いつつもお気に召したらしい……

 

しかし一毅と閻が面と向かって席を座っているので周りの客の視線が地味に痛いが仕方ない。

 

「んで?なんでここにいるんだよ……」

「用事だと言っただろう」

「その用事がなんだって話だ」

一毅が言うと閻は目を細めた……

 

「何だよ……」

「いや……やはり似ていると思っただけだ」

「あぁ、お前の仲間だった俺の先祖にか?」

「うむ……あやつは強かった……変わり者ではあったがあやつ以上の武士(もののふ)を後にも先にも見たことはない……その領域に足を踏み入れた者たちなら三人ほど知っているがな」

「三人?」

「一人はお前の先祖……一馬之介だ。とは言え……その領域への扉を開いた直後にあの男は死んでしまったがな……」

「じゃあもう一人は?」

「亜門 丈鬼だ」

 

一毅は唾をのみこんだ……名前しか聞いたことはない……だがキンジに聞いたときには……細胞レベルで対峙することを拒んだと聞いた……キンジが言うのだから並外れた者なんだろう。

 

「あやつは強い……恐らく一番近く……そして下手すればあやつすらも時を経れば上回るかもしれん武才の持ち主だ……」

「そんなに強いのかよ」

「我でも勝負にならんだろう……腹立たしいが覇美様もあの男には届かん……」

「その覇美……さまってやつの強さが知りたいんだが……」

 

覇美と呼び捨てしそうになったところで閻に睨まれたので言い直すと閻は口を開いた。

 

「我が七鬼居っても覇美さまには敵わんよ」

 

十分その覇美ってやつも化けもんじゃねぇかよ……と一毅は冷や汗を垂らした。

 

「だがお前とて我らの領域に足を踏み入れているのだぞ?」

「え?」

 

閻の言葉に一毅は唖然とした……

 

「お主が時折用いた緋色の力……あれこそその証拠だ。我らに近づきつつあると言うな」

「その内角とか生えねぇよな……」

「それはないが……力を使い続ければ徐々に肉体的な変化が起きるだろう。例えば髪色が我らと同じ朱色に近づいたり眼が金を帯びたりしてくるだろう……亜門もそうだ。それを隠すためのあの格好らしいからな」

 

初めてあったときのあんたの服装も趣味がいいとは言えないぞとは言わないのが花だな……だがつまり極めし者のオーラ(クライマックスヒート)は使えば使うほど人から離れていくってことか……

 

「だが良いことばかりではない。無論寿命は人のままだし肉体にかかる負担は大きい……所詮は弱い人間の肉体だ」

「そうですかい」

 

こいつは基本的に人間を脆いと思っているらしいな……まぁ鬼よりはそりゃ堅くはないだろうが……って重要なのはそこじゃない。また話が逸れた……

 

「用事ってのはなんだ?」

「ふむ……流石にそこまで馬鹿でもないか……」

 

やっぱり話を逸らすつもりだったんだなと一毅が思っていると閻は口を開いた。

 

「緋緋神様の目覚めが近い……それを見に来た」

「っ!」

 

一毅は驚愕して席を立ちそうになった。馬鹿な一毅でも理解できない話ではなかった。

 

「何を驚く……お主も感じてたはずだ……」

「そもそも緋鬼と緋緋神にどんな関係があるんだよ……」

「難しい話ではない。昔緋緋神様が降臨されその時に子を成した……長い月日を経てそれは我ら緋鬼と呼ばれる種へと変貌した……それだけよ」

 

一毅は唾を飲んだ……つまり緋緋神と緋鬼は親子みたいなものなのだろう……つまり……自分と緋緋神と言うのもまた……いや、それも重要だが……

 

「アリアに何かする気か?」

 

一毅の問いに閻は目をパチクリさせる……

 

「それは違う……様子を見に来ただけだ……封印が緩んでいるようだからな……だが降臨されるようなら……してもらえた方がいいのだが?」

 

それがなにか?といった感じだ……こっちとしては降臨されちゃ困るのだが鬼たちからすれば降臨してほしいようだ……そうなると……

 

「じゃあ殻金返せって言っても聞いちゃくれないよな……」

「そうなるな」

「なら力ずくで奪い返すぞ」

 

一毅がそういうと閻の眼が据わった……

 

「それは覇美さまに危害を加えると判断していいんだな?」

「好きにとれよ……」

 

一毅がそういった瞬間閻の纏うオーラの質が戦闘体制に入りその身から純白のオーラ(ホワイトヒート)が漏れだす……ヒシヒシと閻の強さの質と言うべきか?そう言ったものが一毅の体を小突いてくる……

 

だが一毅も素手とは言え前回のように不調じゃない……伊座となれば極めし者のオーラ(クライマックスヒート)だ……髪色が変わろうが構うもんか……ここで死ぬよかずっといい……

 

「仕方ない……覇美さまに危害を加えると言うのなら……ここで片付けておいた方がよいか……」

「易々やられるかよ……」

 

二人が次の瞬間拳を握ろうとした瞬間……

 

「あ……」

「ん?」

 

一毅の携帯が鳴った……それにより二人の闘気も霧散する……

 

「その電話とやらには出た方がいいのではないか?」

「……ちっ」

 

一毅はポケットから携帯を引っ張り出すとキンジからの着信だ。

 

「もしもしキンジか?どうした?」

【一毅!今どこだ!】

「出先だけど……どうしたそんなに慌てて……」

【アリアが倒れた!】

「なに!?」

 

一毅は携帯を落としそうになったが慌ててキャッチして会話を続ける。

 

「病院には?」

【もう連れてった。病院には俺も向かうんだが嫌な予感がする……お前も一緒に来てくれないか?】

「分かった。病院の地図を送ってくれ!すぐに向かう!」

 

一毅は携帯を切る……そして閻を見ると……

 

「悪いが用事ができた」

「そのようだな。行くといい」

 

閻はあっさりと見送ってくれた。一毅は急いで荷物をまとめる……それから、

 

「アリアを狙うなら覚悟しておけよ……俺もいる……バスカービルもいる……それに何より騎士様(キンジ)がいるからな」

「そうまで言うとはな……」

「俺はアリアが絡んだあいつとは死んでも戦いたくねぇ……あいつは普段から無茶苦茶だがアリアが絡むと拍車が掛かるからな」

キンジがその場にいたら否定するだろうがそいつは今は居ない……

 

「だが、ただの人間に我は遅れをとらぬ」

「残念だがアイツは人間(仮)だからな……それ人間の男は惚れた女のためなら上限なく強くなれるんだぜ?」

「何ゆえ?戦いに惚れたは関係がないはずだ」

 

閻には理解できないようだった……まぁ……そこは価値観が違うのだろう……だが一毅は笑っていった。

 

「【愛】だろ?」

そう言って一毅は閻を置いて走り出した……その背を閻は見送る……

 

「愛……とはなんぞ?」

 

閻はその背を見つつ二人が発した闘気によって人がいなくなったスタバで飲み物を飲んだのだった……




どうも本日アリアのアンソロジーとイラストブックをゲーマーズで買ってご機嫌の咲実です。

つうわけで今回冒頭から一毅がなにかを推理しようって言う謎行動……あ、だから今週末天気が荒れるって言う話なのか……すごいなぁ一毅。遂に現実まで侵食し始めたぞ……と言うわけで今回の一毅の行動は伏線は張ってはありますがこっちは多分ばれないはず……よく考えればおかしな部分がこの作品にはあったのですが多分ばれないよね……いや、作品事態が可笑しいとかは無しですよ旦那。

と言うわけでこの謎の解明は首を長くしてお待ちください……さて本日の日記は彼女が執筆者だ!

バスカービル日記

執筆者・火野ライカ

某月某日……前々から注文していた人形が遂に届いた。一毅先輩の部屋では隠す必要がないので既に部屋がこう言った人形で埋め尽くされているのだがまぁ仕方ないよな。うん……だってこれ限定仕様の奴で抽選で500人限定だったから徹夜で申し込みハガキを書きまくって注文したんだ……いやぁ~やっぱり可愛いなぁ~。

だけど最近自分は変わったと思うんだ……前だったら隠そうと必死だったけど今は堂々としてる……一毅先輩だけじゃない……一毅先輩を通じていろんな出来事があって……そんな中で変わっていったんだって思うんだ……だからこれからも変わっていける……だから先輩……よろしくお願いします!終わり


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金の潜入

アリアが緊急入院した次の日……既に厳重な警戒体制がしかれ見舞いにも行けない状態だった。

 

何せ心配したあかりが突貫してあっという間に組伏せられて外につまみ出されたのを考えても明らかな過剰警備なのは言うまでもなかった。

 

だがあかりもただでつまみ出されはせず相手の特徴を見ていたらしい。そしてあかりが見た情報を統合すると……まず一般の警備に駆り出される奴とかではない。服装や胸につけてたバッチなどから考えるとほぼ間違いなく国の直属の奴等だ……つまりこの一件は国も動いてると言うことだ……面倒なことこの上ない。と言うわけで……

 

「問題はどうやってアリアを取り戻すか……なんだよなぁ……」

 

キンジは病院を双眼鏡で覗きながら言った……他には一毅、あかり、辰正がいる……この面子は偶然見舞いに来たあかり(とそれに引っ張られてきた辰正)にキンジに頼まれて同行した一毅で構成されている。他の面子は誘わなかった。理由としては謎が多いため下手に巻き込むわけにもいかなかったのだ。そもそもキンジは一毅とあと今は居ないがもう一人以外連絡する気もなかったのだが……

 

「でも厳重ですね……正攻法でも行くのだって危険ですよ……」

「武装検事や公安0課とかMI6がついてない……ってのは唯一の救いかもな」

 

救いにならないキンジの言葉にその場の面子は頭を抱える。そもそも強引な手に出たらお縄を頂戴する羽目になりそうなので攻め手を思い付かないのだ。すると、

 

「師匠」

 

ズサっと陽菜が登場した……

 

「それでどうだ?」

 

キンジは陽菜に中の偵察を頼んでいたのだ。あかりでは無理でも専攻学科を考えたり頼みやすさを考えれば陽菜が適任だった。理子にも同じことが言えるが高くつくし何を頼まれるか分かったもんじゃない。

 

「中は相当数の警備がつけられているでござる……しかもアリア殿が入院されてる階は完全閉鎖状態……蟻一匹の入る隙間はないでござろう」

「マジかよ……」

 

一毅は頭をかく……だが陽菜は首を振った。

 

「しかし古来より攻めるものより守る者の方が疲労しやすいもの……」

「確かにな……」

 

キンジは頷く。何故なら守る側に気が休まる瞬間はないのだ。休めた瞬間それが隙になる……そうなると……

 

「潜入しかないな」

 

キンジの言葉に陽菜や他の面子は頷いた。防御が硬いなら近くで見ておき隙を作るのを待つしかない……そうなると……

 

「じゃあキンジ先輩医者にでも化けますか?」

「いや辰正……キンジ先輩じゃ医者は医者でも目付き的に闇医者だよ」

「お前ら……一毅がやるよりいいと思うぞ」

 

キンジが眉を寄せながら言うと辰正とあかりは一毅を見る……そして、

 

「一毅先輩じゃ医者って言うより死神ですよね」

「入院患者がお迎えが来たのかと思ってビビりますよね」

「おい!大概お前らも失礼だな!」

 

一毅も眉を寄せて突っ込んでおく……

 

「ナースは論外だしな……」

 

とキンジが言うと他の面子も頷く……すると、

 

「大丈夫でござる。ちゃんと中で師匠が働ける場所を見てきたでござる」

「なに?」

 

キンジがそう言った陽菜を見る……そして聞いた。

 

「なんだそれは……」

「ああ言った病院にはきちんとあるのでござる……それは……」

 

それは……と皆は唾を飲んで聞く……そして陽菜は言った……

 

「売店の店員でござる」

『……へ?』

 

皆はポカンとして聞いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(そして今に至る……と)

 

真面目アイテムとも呼べる眼鏡を掛けたキンジは病院の売店のレジに立っていた……他の面子は?と聞かれるかもしれないがそれは簡単だ。あかりと辰正は自宅通学であかりの妹と一緒に住んでおり夜中に家を旅行じゃないので毎日空ける訳に行かない。そもそもあかりや陽菜は女だ。女を昼間は学校に通う身空では夜勤にバイトに入るしかないため危ない……そして一毅だが……あいつのことだ。ポロってなんかの拍子に言っちゃならんことをいいそうだしバイトとか絶対あいつには無理だろうと言う話になった。だから外で待機してる。レキたちには適当にごまかしてきたらしい……だがあの男のごまかしはごまかしになってないときがあるので心配だ……なんて考えていたときである……

 

「おいバイト!品出ししろ!」

「あ、すいません……」

 

と、店長に怒られた。ここに来て早くも数日たつのだがすっかり舐められてる状態だ。まぁ、他人とのコミュニケーションがお世辞にも得意とは言えないキンジである……しかも、このバイト先には店長とキンジ以外女子しか居ないのだ。しかも派手な化粧はしているがそこそこ可愛い……間違いなく店長の趣味だ。そもそもこのバイトだって最近辞めた男性バイトの穴埋めのためだった。まぁ……こんな状況じゃやめるよな……何て言ったって女子たちも店長が味方だからか態度がでかい。そして女子相手となると更にシドロモドロする傍目から見れば気の弱い眼鏡の男と来ればコキ使われるのも当然だった……女子と店長は裏でゲームしたりしてるし王様気分だ……いいご身分とはこの事だな。

 

(しかも……情報は芳しくないしな……)

 

キンジはため息を我慢しつつ品出しを行い考える……

 

キンジも時間の隙間を見てアリアが入院してる階まで近付いてきたが厳重も厳重……超厳重な警備にキンジも感心しそうになった……ここまでやるかと思ったくらいの警備の人数を前にして早々に撤退してきた。

 

「おいバイト!なにボーッとしてんだ!まだ仕事あんだぞ!」

「あ、すいません……」

 

とキンジは頭を下げながら店長に指示される仕事をやる。

 

「お前なぁ、やる気ないんなら辞めて良いんだぞ?俺がパパにいっておくしさ」

「……以後気を付けます……」

 

一言そう言って仕事にかかる……因みにこいつのパパとはこの病院の院長だ。遅くに生まれた子供らしくこのバカ息子は甘やかされたらしくこの売店の店長やって女囲ってと王様気分だ……とは言えまともに取り合うとぶん殴りたくなるので適当に頭を下げて終わる……

 

しかし一般人と言うのは大変なんだな……こんなやつがいたって自分の上司なら頭を下げなきゃならん……そんでバイト料をピン跳ねされてても文句いえば首が飛ぶからな……

 

(あぁ、疲れる……)

 

キンジはペコペコしつつバイトの先輩(陽 菜)からこういうときどう知ればいいのか電話で聞きつつ雑誌を並べたりよく減る酒を出したりしつつ店長たちから見えない場所で今度こそため息を吐くのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に数日……最近はバイトにも慣れてきて怒られる回数が減った……とは言え舐められてるのには変わりない……休憩中に弁当食っててもまだ時間があるのに弁当を蹴っ飛ばされて中止させられるし……流石にこのときはアッパーを喰らわせたくなったがガマンガマン……

 

ついでだがレジに立ってると裏での店長たちの会話が聞こえる(声がでかいのもある)のだがどうもこっちは何時もボッチで女に縁もない寂しい奴と言う認定らしい……いや、友人は一毅とか辰正いるし女の縁なんてありすぎてマジで困ってんだけど!しかも全員狂暴と言うね!そう思えば店長の周りでキャピキャピしてる女子たちなんて可愛いもんだ。例え怒っても銃とか刀とかを引っ張り出さないんだからな。なんて安全な女子たちだろう。そんなときである……

 

「ん?」

 

一人の女の子が入ってきた……彼女は通称・なっちゃん……彼女は所謂万引きの常習犯でしかも上手い。カメラに映らないように盗るため捕まえられたことがない……そもそも裏にいる店長たちなんかはキンジに対応を任せると言う名の押し付けをしているので出てきやしない……一応裏のカメラを見ているようではあるのだが……

 

まぁ確かに金髪でポッケにいれた折り畳みナイフをパチンパチンと鳴らしながら歩く姿は不良と言われるかもしれないが……ナイフは多分ネット通販の奴だし金髪って言ってもてっぺんの部分が黒になりはじめててプリンみたいだし……うちんところの女子に比べれば大人しい子だとキンジは内心苦笑いしつつモップ片手に床を拭くふりしながら、なっちゃんの万引きを妨害する……すると、

 

「てめぇさっきからうざいんだよ!」

 

案の定キレた……まぁキンジは取り敢えずペコペコしておく……だがそんな態度が余計に勘に障ったらしい……

 

「お前心のなかじゃどうでもいいってのがみえみえだぞ!」

 

こいつエスパーかよ……とキンジが内心思っていると彼女の自慢が始まった。何でも自分は暴走族のリーダーの彼氏とかヤクザに知り合いとかなんとか……まぁ怖いですねぇ……とキンジが言うと彼女は気分がよくなったらしい……とは言えだ……表にはヤクザ顔負けの人相の悪さを誇る一毅とか元やくざの知り合いとか下手するとヤクザよりタチがわるい仲間達である……

 

しかも彼女……前に彼氏の作り方って言う雑誌を携帯でメモしながら読んでいた記憶がある……

 

「つうかこの腕だって抗争でやられた傷なんだぞ!」

「そ、そうですか……」

 

思うにこの傷自転車で転んだりしたときの若木骨折かなんかじゃないだろうか……もう殆ど治ってるし武偵高校だったらもう訓練に出されてるぞ……

 

「つうわけでこれに懲りたら生意気すんじゃねぇぞ!」

 

そう吐き捨て(序でにガムもホントに吐き捨てて)なっちゃんは店から出ていった……

 

(……一般人ってのは平和だなぁ……)

 

キンジはぼんやりそう思いながら床に吐き捨てられたガム片付け床の拭き掃除を終わらせた……因みに、この一件でキンジはあんな年下の子供にもペコペコする情けない奴と言う評価を頂いた……

 

 

裏から出てこない奴が何を言ってんだか……




バスカービル日記

ネタが思い付かなかったので休みです。


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金の潜入2

さて、前回紹介したプリンちゃんこと、なっちゃんだが……どうも目をつけられたらしい。入院によるストレスか知らないが暇を見つけてはここに来てキンジに八つ当たりをして行く……銃が出ないだけいいとキンジは考え聞き流しているが……

 

それよりまだアリアの状態すらわからない……このまま時間を無為に流していくのはな……とキンジは考えていた。このままバイトの定着するわけにもいかんのだ……どちらかって言うとストレス的な意味でも。一回一毅に黒服とサングラス着けさせて来店させて店長たちビビらせたい……あ、でもそれやったら俺と関係がないと言っても八つ当たりでまたバイト料引かれるか……どちらにせよこいつのこと一回相談センターみたいなところにチクってやろうか……

 

「おい聞いてんのかよ!」

「あ、はい勿論……やはりお好み焼きはご飯のオカズにならないって言う話ですよね?」

「んな話一度だってしたことねぇよ!」

 

しまった……この間武藤と喧嘩になった一件の方出しちまった……いやあいつお好み焼きはオカズだとか言うんだぜ?信じらんねぇ……お好み焼きは主食だ。っとそんなことを話したいんじゃない。こう言うときってほぼ間違いなく……

 

「てめぇやっぱ舐めてんだろ!やんのかおらぁ!」

 

胸ぐらを捕まれた……素人って何でこんなときに確認取るんだ?それに襟って一番暗器を隠しやすくて危険だからつかむなって言われるんだぞ?武偵高校の制服にだって隠し針を仕込んでおく仕掛けがあるしな……まぁキンジはつけていないのだが……

 

「す、すいません……ちょっと考え事を……──っ!」

 

キンジは慌てて頭を下げようとしたとき入り口から入ってきた人影に目を見開いた……そりゃそうである……そこにいたのは……

 

「む?遠山か」

「閻……」

「貴様!閻様を呼び捨てに!」

 

キンジは目を半眼にして身構えた……不味いぞ……今こっちは通常モードだ……やられる……

 

「おぉー!見ろ閻!握り飯が山ほどあるぞ」

 

そう言って閻の肩からピョンっと飛び降りたのは極東戦役開戦の時に居た鬼の子供だった……

 

「ひ……」

 

一方明らかにヤバイ奴等の登場になっちゃんは腰を抜かしている……それを閻はちょっと道端に落ちてた空き缶を蹴って退かすように足を振り上げた。

 

「あぶねぇ!」

 

キンジは咄嗟になっちゃんの襟を引っ張って転がって避ける。おいおい、レジの台に穴が開いたぞ……

 

「おいバイト!一体なんの騒ぎ……だ?」

 

そこに店長とその女達がゾロゾロ出てきた……おいおい余計なことしないで奥にいろって!そして……

 

『キャアアアアアアアア!』

 

と当たり前のごとくパニックになった。最悪だ……鬼たち相手にしながらこのパニックもどうにかしろってか?しかもさっきからなっちゃんはキンジの腕にしがみついて離さない……いつものキンジなら強引に振りほどくが残念な事にこの行動のせいで若干ヒスりかけてる……

 

(不味いぞくそったれ……)

 

キンジは鬼たちを見ながらゆっくりなっちゃんを引っ張り安全圏に下がる……

 

「おい閻……お前なにしに来た」

「…………」

 

何で閻のとなりにいる鬼はこっちを睨んでくんだよ……

 

「食料を取りに来た、あとこの上の者を見にな」

「そうかよ……」

 

キンジはなっちゃんからソッと離れると腰を落とす……つまり、お前らはアリアに手出しするってことだな?

 

「いい目をする……」

「そうかい……」

 

閻とキンジの視線が交差する……すると、

 

「閻様の手を煩わせるまでもありませぬ」

「津羽鬼……」

 

津羽鬼と呼ばれた鬼はキンジを見る……

 

「閻様を呼び捨てにし……挙げ句その言いぐさ……勘弁ならない」

「ならやってみろよ……」

 

キンジがそういった刹那の間を挟んだ次の瞬間……

 

「なっ!」

 

津羽鬼はキンジの目の前にたっていた……

 

(橘花!)

 

桜花を用いた減速防御で津羽鬼の一撃を防ぐ……だがそれでもキツイ……どういうパワーしてんだこいつは……

 

閻ほどの圧力は勿論ない……だがそれでも人間の枠を軽く凌駕するパワーだった……

 

(下手すると素の一毅よりはパワーあるんじゃねぇか……)

 

無論津羽鬼の一撃は力任せではない。拳撃の威力と言うかぶつかったときの威力はその物質の早さと重さ……あとは堅さによる。つまり鬼である以上人間より遥かに堅く、キンジの眼でも不意打ちと甘いヒステリアモードだったのを込みにしたとは言え危なかった速さ……そして閻には遠く及ばずとも人間の枠を軽く凌駕するパワーで殴れば普通の人間なら簡単に肉塊に変えられる。無論……ギリギリの橘花で痺れはしても肉塊にはならずに済んだが……

 

(こいつらはまだヒートを使える……)

 

キンジは軽く舌打ちした。欧州での閻の言葉を素直に受けとればヒートは元は鬼の力……ならばこいつもヒートは使おうと思えば使えるだろう……

 

(窮地もいいところだ……)

「ハァ!」

 

と、そこに更に津羽鬼の追い討ち。連続橘花で受けていくがそれでもダメージが残る……しかも後ろにはパニックを通り越して固まってる奴等や津羽鬼の方には閻や楽しそうに手足をバタつかせる覇美がいる……多勢に無勢ときて足手まとい多数……不味い状況をあげていくときりがない……

 

「うぉ!」

 

キンジは津羽鬼の角を使った頭突きを躱す……後ろの棚にあった缶に穴が開いた……

 

「がぁ!」

 

次に噛みつき……キンジは咄嗟にその穴の空いた缶を掴むと津羽鬼の口に突っ込んで隙を作り離れた……まぁその缶はあっという間にベキベキと噛み潰されてペッと捨てられたが……つうかあれスチール缶だぞ……どんな咬合力してんだ、さすが鬼だぜ……

 

だが段々追い込まれ始めてきた……何とか凌いでるがこのままだと……そうキンジが考えた瞬間津羽鬼が消えた……

 

「しまっ!」

 

瞬きほどの一瞬で間を詰めてくる津羽鬼……一瞬反応が遅れたキンジ……どちらに分があるかなど言うまでもない。

 

「終わり……」

 

津羽鬼がそう呟いた次の瞬間……

 

「むっ!」

 

津羽鬼は横から飛んできた何かを掴んで急ブレーキ……手に入っていたには……銃弾?

 

「二天一流 拳技……」

「っ!」

 

更にそこに別のなにかが来た……勿論それは……

 

「煉獄掌!」

 

ドン!っと津羽鬼に生じる衝撃……

 

「一毅!それに……」

 

キンジは入り口を見る……そこに立っていたのは、

 

「アリア……」

「なにやってんのよキンジ」

 

クルクルと銃を回しながら言うアリアにキンジは苦笑いを返した。すると、

 

「ほらキンジ」

 

一毅がキンジには銃やナイフ……後龍桜を渡す。

 

「よし」

 

仕事用のエプロンを脱ぎ着ていた武偵高校の制服の上に龍桜を着ると銃とナイフを構える。

 

「そういえば一毅、お前ずいぶん遅くないか?」

「悪い、寝てた」

「お前こんな寒空の下でか?馬鹿かよ……あ、バカは風邪を引かねぇのか」

「オイ……」

 

そんなやり取りをしていると隣にアリアも来た……これで数は同数、さて相手はどうでるか……

 

「津羽鬼……怪我はないか」

「平気です」

 

と、向こうもやり取りしている……残念ながら一毅の煉獄掌は然程効かなかったらしい……やはり素の状態ではな……

 

「俺あいつらと戦うと人間だわぁ……って気分になれるぜ」

「安心しろ……気のせいだからな」

「キンジもでしょ」

 

アリアが言うとキンジは眉を寄せた。心外だぜ……

 

「ふむ……今のところ変わりは見たとことなしか……?」

 

閻は呟くと体から白いオーラが漏れ出す……

 

「確かめてみるとしよう」

「来るぞ……」

 

閻が戦闘体制にはいると津羽鬼も体から純白のオーラ(ホワイトヒート)を漏れ出させ覇美にそこにいるように願うと閻と並んでキンジたちの前にたつ……

「……シュ!」

「オォ!」

 

津羽鬼は腰に履いていた刀を瞬時に抜刀しキンジを狙う……だがその間に蒼いオーラ(ブルーヒート)で強化した一毅が心眼も併用し刀で止めた。

 

「フン!」

 

そこを閻が一毅に向けて拳を振り上げた。

 

「シャア!」

 

だがそれをキンジは閻の腕を横から蹴っ飛ばして軌道を反らす……これくらいならいける……逸らした先に棚があってそれが当たった瞬間吹っ飛んだが……今回は仕方ないと言うことにしよう。そうしよう……

 

『オォ!』

 

その間で一毅と津羽鬼は刀をぶつけ合う……火花と轟音が店内に響き店長に至っては完全にチビっている……

 

「キンジ!」

 

その時後ろからキンジを台にしてアリアが飛び上がり銃を発砲……一毅と津羽鬼は咄嗟に離れる。無論の拳銃の天才であるアリアが跳弾でも一毅に当たる角度で撃つわけ無く銃弾は正確に津羽鬼とえんの方に飛ぶ……二人の背後には覇美がいる……ってアイツ!勝手に棚から酒を取って飲んでやがる!並べんの大変だったんだぞ!

 

っとそれは余計な話だ。とにかく飛んでくる銃弾を閻は掴み津羽鬼は切り飛ばす。

 

「火縄の時代から進歩がないようだな」

「そのようですね」

 

つかんだ銃弾をポンポン手で投げて遊びながら言う閻と津羽鬼……全然まだ余力残してるぞ……

 

無論キンジの方だって今は前回と違い元気だし余力は残してる……キンジに至ってはまだ甘いヒステリアモードだ……だがそれでも相手が強敵だと言うのは簡単に理解できる。文字通り人外だしな……当たり前と言えば当たり前だが……

 

「ふむ……津羽鬼……確認して帰るぞ……覇美様が退屈し始めた」

「ですね……」

 

そういう二人の背後では確かに飽きてきたのか売りものお菓子を勝手に開けては食べ散らかしその挙げ句欠伸までし始める覇美がいた……あのチビ鬼……どんだけこっちが苦労したと……いつかぶん殴る……

 

「ならば……」

 

すぅ……っと閻が息を吸った……まさかこれは!

 

「全員耳を塞げ!」

 

キンジの叫び……その声音に半ば無意識にその場の全員が耳を塞いだ……次の瞬間!

 

「吽!!!!!!!!」

 

たった一言だった……だがその声量はブラドのワラキアの魔笛を遥かに上回る声の砲弾だった……耳を塞いでいても前後不覚に一瞬陥るほどの声の爆発。ここが狭い室内だと言うことを差し引いても全員の動きだけじゃない……思考まで止まった……そして、

 

「やはり目覚めてはいないか」

 

閻の呟きを聞きつつキンジの目に飛び込んできたのは津羽鬼に制服の裾を捲り上げられ小振りな胸を包む布地を御開帳させられてしまい顔を真っ赤にするアリアだった……

 

ドクン!っキンジの心臓が跳ねる……血流が熱く……そして速くなる。思考が高速回転を始め集中力が高まる……

 

さて……()()()()()の出番だな。しっかり仕事をしようか……

 

「津羽鬼!退くぞ!緋緋神様は何れ来る!」

 

そう言って閻は覇美を小脇に抱え津羽鬼と一緒に猛スピードで店を出ていった。

 

「キンジ!一毅!逃がさないわよ!」

「ああ、分かってるよ……アリア」

 

キンジの口調にアリアは一瞬止まり……ギギギと効果音をつけれそうな動きでこっちを見る……

 

「あ、あんたまさか……」

「まぁ、そう言うことかな」

 

優しくアリアの頬を撫でヒステリアキンジは囁く。

 

「言いたいことはあるだろうけどそれは後にしよう。後でたっぷり話せる。二人きりでね」

「ふ、二人!」

 

ゆで蛸か何かみたいになったアリアを見てから振り替える……するとその先ではビビった店長たちを睨み付ける一毅がいた。

 

「おうお前ら……うちの頭に随分舐めたことしてくれたじゃねぇか……どう責任取ってくれんだ?」

「ひ、ヒィ!」

 

見た目だけなら本職やくざにも負けず劣らずの一毅である……その一毅が睨めば一般人はビビって当然……そもそも今回はわざと怖くした感じがある……そんな一毅にキンジは声を掛けた。

 

「一毅、もういい……それより鬼たちを追うぞ」

「あいよ、キンジ(リーダー)

 

一毅は睨むのを止めて外に向けて歩みを進めた。

 

「あ、店長」

「ひゃ、ひゃい!」

 

それと入れ替わるようにキンジは店長を見た……別に取って食う訳じゃないんだからそんな怖がらんでも……

 

「俺今日でバイト辞めたいんですけど良いですか?」

「ど、どうじょ……」

「後バイト代って今日まで出るんですか?それとも先月で終わりっすか?」

「きょ、きょうまででじゅ……」

「じゃあちゃんと払ってくださいね?」

「ひゃい!」

 

やんわりとバイト代ピン跳ねしているの知ってんだぞ?みたいな感じで言うと店長はブンブン首を縦に振って答えた。

 

「さぁ!風穴タイムよ!」

 

アリアの号令で三人は鬼を追って走り出したのだった……



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金と龍の追走

「あいつらめっちゃ速くねぇか!?」

「そうだな……見失わないのがやっとだぞ」

 

キンジと一毅は地を蹴り鬼たちを追走する……アリアとは途中で別れた、何か秘策があるらしい……しかし鬼たちを追走して思ったのは見失わないのがやっとなほどである……と言うことだ。明らかに人知を越えてる。すると、

 

「なっ!」

 

一毅が空を見て驚愕の声を出した。キンジもそれを見て絶句する……その先にあったのは何と飛空船……確かあれは……

 

「富嶽……」

「知ってるのかキンジ」

 

一毅が聞くとキンジはうなずく。

 

「大戦中に考案……及び製作されて大陸横断を前提とした爆撃機だ。だがコストもバカみたいにかかるし何より完成前に戦争が終わった……そのために日の目を見ることがなかったらしいが……まさかあんなもんを……」

 

キンジの解説を聞いてる間に鬼達は富嶽と地面を繋ぐロープみたいなのがあるのだがそれをかけ上がっていく……

 

「追うぞ!」

「おう!」

 

二人も鬼を追うためロープにしがみつくと登っていく……勿論鬼達と違いしがみついて普通に懸垂の要領で上がっていくのだが……

 

「くそ……下を見るなよキンジ」

「頼まれたって見るか!」

 

二人とも身体能力が高いためかなりの速度で上がっていく……気がつけばかなりの高度になっていた……そのため二人は下を見ないように上がっていく……別に高所恐怖症ではないがそれでもこの高度は怖い……しかし、

 

『いっ!』

 

一毅とキンジは視線を先に向けて眼を剥いた……何故なら鬼達はすでに富嶽に到着し何と津羽鬼がロープに刀の刃を立てているのだ……

 

「ば、バカやめろ!」

 

一毅が叫んだのも空しくあっさりと津羽鬼はロープをざっくり斬ってしまう……勿論そのまま重力によって……

 

『ァァァアアアアアアアアアア!!!!!!!!』

 

二人はそのまま地面に向けて落ちていく……この高さから落ちたら流石に死んでしまう!っと二人が思った瞬間今度は急に空に向かって上がり始めたのだ……

 

『あ、アリア!』

 

そう、アリアがホバースカートで二人を引っ張りあげたのだ。

 

「全く、平賀さんに改装してもらってたのを持ってきたのよ。でも持続性がまだまだだから近くまで運ぶわ。あとはなんとかできる?」

「ああ、十分だよ」

 

キンジはそう答える。

 

「だがキンジ……ワイヤーを引っ掻ける部分がないぞ?」

「大丈夫だ。俺も平賀さんに幾つか新装備貰っといたからな」

「じゃ、任せとく」

 

そんなやり取りを終えると富嶽に大分近づいた。あとは自分達で何とかなる。

 

「じゃあ投げるわよ!」

 

アリアがそう宣言すると回転し遠心力を味方にしてキンジと一毅を放り投げた……ここまで男二人を引っ張りあげて更にぶん投げるとか相変わらず体に不釣り合いな力だと一毅は思う。

 

だがそんなことを考えたのも束の間でキンジは銃を抜くと発砲……銃口からシュルシュルと何かが発射され富嶽の壁面に刺さった……

 

「アンカー弾って言うらしい……」

「そうかい……そりゃすごい……」

 

と、富嶽に二人はぶら下がりながら言ったのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゼィ……ゼィ……』

 

その後二人はヒィヒィ言いながら船に乗り込む……乗り込んだと言っても通気孔のような場所なのだがそれでも鬼達の元に近づいているのは同じである。

 

「鬼達と戦う前に疲労で死んじまう」

「そうなりかけたら心臓に衝撃ぶちこんで復活させてやっから安心しろ」

 

死んでも復活可能なことは自身の経験上分かっているキンジが言うと、

 

「お前と一緒にすんな」

 

と、一毅も返す。そして息を整えてるとキンジがなにかを投げてきた。

 

「何だこりゃ」

 

一毅はそれをキャッチする。それは一発の銃弾だった。

 

「クッション弾だ。撃って着弾するとそこにエアバックみたいなのが出るらしい。トラックにはね飛ばされたってこれひとつあれば平気だってよ」

「平賀のだしなぁ……話し半分くらいにしとくか」

 

と一毅は言いつつその銃弾を自分の持ち銃であるジェリコに初弾で出るように入れておく……これを使用することがないのが一番と言うかそもそも船の上ではトラックが突っ込んでくることはないので多分使われることはないが……

 

それからキンジもベレッタの初弾にクッション弾をセットするとデザートイーグルを抜く……それから二人は歩伏前進の要領で進んでいく……すると、一つの部屋に繋がった……そこには、

 

(あれを見ろ)

 

キンジが指で指し示す……そこから覗くと下にはあの【風のセーラ】がいた……こいつ戦役のあと姿を消したらしいが鬼と一緒だったらしい……まぁどうでもいいのだが……

 

(行くぞ)

 

とキンジが目で合図すると一毅は拳を握り通気孔をぶん殴る……その結果通気孔の弁が壊れ盛大に音をたてながらキンジと一毅は飛び出した。

 

「っ!」

 

セーラは突然の音に驚きはしたが咄嗟に弓矢を構えようとした……だが、

 

『動くな……』

 

それより早くキンジはナイフを……一毅は神流し(かみながし)を抜いてセーラの首に突きつけ動きを封じた……

 

「近距離だとナイフの方が速いときもあるんだよ……覚えとくといい。特にそっちは弓矢だしね」

 

キンジが優しく言うがセーラは睨みつけてくる……

 

「遠山キンジ……そして桐生一毅……」

「俺も知ってるのか……」

 

一毅が言うとセーラは当たり前だと言う。

 

「お前達は自分達が思ってる以上に有名……それに妖刕たちからも聞いてる」

「そういえばあいつらが何処にいったのか知らないのか?」

 

キンジはそう問うたがセーラは知らないと言う。

 

「だけど魔剱はいっていた……遠山キンジには酷い目に遭わされてるし逢っていると……何かした?」

「俺が聞きてぇよ……」

 

そう言いながらキンジはセーラから弓矢をとると一毅に弓を渡す。それを見たセーラは顔色が悪くなった。

 

「な、何を考えてる……?」

「そうだな……一毅、その弓折って使えなくしてしまえ」

「わかった」

 

そう言って一毅は弓を持つと曲げてはまらない方向にメキメキ曲げていく……次の瞬間……

 

「返せ返せぇええええ!」

『え?』

 

セーラが目に涙をためながらポカポカと一毅の胸を殴ってきた……アリアのに比べれば蚊に刺されたようなものだが……何かすごく悪いことをした気がしてきた……例えるなら子供のおもちゃを取り上げた気分だ……これは……辛いな……

 

(どうする?)

 

と一毅がキンジを見ると肩を竦めたキンジは弓を一毅から受け取り代わりに矢の方を渡す。

 

「こっちならいいだろ?」

「………………」

 

まだ不満げだが我慢してもらおう……とキンジは矢を纏めてベキベキへし折る一毅を見ながら内心呟いた……しかし一毅にかかれば毛利家の三本の矢の話は意味のないものになってしまうな……あれ結構いい話なんだけどね。

 

「さてと……まさかセーラもここにいたとはね。何だって鬼と一緒に?」

「……金払いがいい、フット家は代々傭兵の一族、そして稼いだお金を貧困の地に寄付する」

「……因みにひとつ聞くけど君を雇うとしたらいくらかかるんだい?」

「金塊30キロ……それ以下はない」

「……………………それは随分高くないかい?」

「それにそもそも今は鬼達と契約を結んでいる。契約を反故はしない、この世界は信頼がすべて」

 

成程……まぁこう言う裏社会において信頼を失ったら同時に仕事もなくなるしな……仕方ないか……だが、

 

「なら俺の弟が農業をやっていてね。食べきれないほどのブロッコリーを作らせることもできる。いるかい?」

「…………要らない」

 

今完全に迷ってたよね……とキンジは思ったが黙っておく。

 

「さてと……」

 

何時までもここで時間を使うわけに行かない。一毅も矢を全部へし折ったようだし先に進もう。

 

ということなのでセーラを人質にして奥に二人は向かう。セーラに道を聞かなくても鬼達のばか騒ぎが聞こえてくるのでそれを頼りに行く。

 

「この先だな」

 

音が扉一枚を隔ててすぐそこで聞こえるほど近くまで来た……二人は目で合図すると……そのまま一気に!

 

『動くな!……え?』

 

二人同時には扉の大きさ的に無理だったので銃もちのキンジが先にはいる……だが……キンジは扉を開けた都合上手を伸ばしていた……そのため……

 

「む?遠山に桐生ではないか」

(おぉおおおおおい!)

 

一毅が突っ込む。何せキンジは何と閻の乳をがっちり掴んでいるのだ。相手の方は然して気にした様子はないが閻はガタイが良いくせにこういったところはちゃんと柔らかいらしい。アリアのように存在するのかしないのかが判断しにくい胸も何だかんだで柔らかいのだからある意味必然なのだろうか……

 

「す、すまない!」

 

キンジも慌てて離れた。流石のヒステリアモードでもこれはビックリしたらしい。そして閻の背後の方では……

 

「と!とと!とおやま!何てうらやま!じゃなくて閻さまに破廉恥な!」

 

と、津羽鬼がキンジに殺気を飛ばしている……それを見た一毅は苦笑いしつつ閻も随分慕われてるのだと思った。

 

「よ!ミスターラッキー助平男」

 

と、序でにからかい、スパコンっとキンジに叩かれてから、

 

「とにかくだ……覇美はいるのか?」

『っ!』

 

閻や津羽鬼だけじゃない……他にも複数の鬼がいたがそれらが全てキンジへ視線を集める。序でに殺気や闘気も混じってるぞ……その為一毅も何時でも刀を抜けるようにしておく……

 

「ん?おー!」

 

その時である。奥から山のようにおかれた酒瓶から顔を覗かせた影……それが覇美であった。

 

「よく……来ラ!!」

 

多分……よく来た!っと言いたかったのだろうが微妙に呂律が回ってない……顔も赤いし……こいつさっきも勝手に棚から飲んでたのにここでも飲んでやがったな。

 

「うわ……こいつはいい酒だ。旨いわ」

「お前も何勝手にご相伴預ってんだよ」

 

ポカッと床に落ちてた酒瓶から飲んでた一毅にキンジは叩いておく……しかし今気づいたがいつに間にかセーラのやつ鬼達の方に逃げてやがる……まぁ仕方ない、ハッタリやらなんやらで誤魔化すしかないな。

 

「まぁいい、おい覇美」

「ん~?」

 

周りの奴等が更にキンジを睨むが知らんし覇美も然して気にした様子はない。

 

「お前殻金持ってるよな?」

「ん~……ああ、持ってるぞ」

「何処にあんだ?今すぐだせ、でないと強制的に取り立てるぞ」

 

キンジがそういった瞬間……ダン!と聞こえた……そして次の瞬間には一毅と刀をぶつけ合う津羽鬼がいた。無論背後で起きたことなのでキンジは見えてないが音的に大体そんなもんだろうと踏んでいた。

 

「ふむ遠山よ……今殻金は覇美様の鬼袋の中にある……それを奪うと言うのは即ち覇美様に危害を加えるということ……延いては我らへの宣戦布告と受けとるが?」

「もう受け取ったやつもいたようだけどな」

 

ガチガチと刀を鳴らし津羽鬼の圧しに耐えてた一毅は弾き返し津羽鬼は一旦距離をとる。

 

「おー!喧嘩か!よし!やろう!」

 

と、一人楽しそうな覇美……こいつは気楽そうでいいな……

 

「なら勝った奴等の言うことを聞く!以上!」

 

つまりバトルロワイヤルってやつか……簡単にいってくれるぜ……

 

そう二人が苦い笑みを浮かべながら思ったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝負は一対一……か」

 

その後二人は富嶽の翼に出ていた……それに相対するのは鬼……一毅は津羽鬼と、キンジは閻と戦うことになっている……だが、

 

「大丈夫か?津羽鬼も厄介だが閻なんて俺たちどっちも疲労してたとはいえ二人でも苦戦したんだぞ」

「何とかするさ……殺されたって勝つまで生き返ればいい」

「そうだった。比喩でもなんでもなくお前は殺しても死なないんだった」

 

と、二人は軽口を叩き会う……さてと……

 

「勝つぞ」

「おう……!」

 

キンジと一毅はそれぞれの相手へと飛びかかったのだった……



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龍VS緋鬼

「ウォオオオオオ!」

「ダァアアアアア!」

 

ガギィイインっと派手な音をたてて一毅と津羽鬼の刀が火花を散らす…… 少しでもバランスを崩せば富岳の翼から落っこちて死んでしまうだろう……そのため一毅は足場の不安定さも考えながら戦わなくてはならなかった。幾ら靴の裏にスパイクを出しているとは言えこの津羽鬼を相手にしながら戦うのは骨がおれた……

 

「ガッ!」

「ちい!」

 

何せこの津羽鬼の速力……まず、肉眼でとらえるのは無理であった……ならば心眼……と言うわけで心眼で対処するが今度は肉体的なスペックが一毅を苦しめた……

 

今までの戦いの中で一毅は肉体的なスペックと言う点では比較的優位にたっていた……無論ルゥや他にも化け物じみた身体能力のやつは腐るほど見てきたがこいつは化け物じみたではなく正真正銘の化け物である……なら!

 

「くっ!」

 

一毅の体から純白のオーラ(ホワイトヒート)が溢れ一毅の身体能力を引き上げる……これでなんとか打ち合える……

 

「ハァ!」

 

そこに呼応するように津羽鬼の斬撃……それを一毅は飛び上がって回避すると同時に刀を交叉……そこから放つのは二天一流 必殺剣!

 

「秘技!円明!!!!」

「っ!」

 

津羽鬼は刀でそれを防いだ……だが防げたのは二刀のうち一刀……もう一刀が津羽鬼を狙う……だが!

 

「んなっ!」

 

ガギィン!っと言う音と共に津羽鬼はもう一本の刀の刃を噛んで止めた……そして次の瞬間津羽鬼の体から純白のオーラ(ホワイトヒート)がでた。

 

「ガァ!」

「がはっ!」

 

メキィ……っと言う音が肋骨に響いた……ドロリとした血の味が口に広がる……蹴られたと判断するのに時間はそうかからなかった……

 

「ごふっ!」

 

そもそも鬼の蹴りを喰らって生きてること自体が普通じゃないが一毅の体にたった一発で尋常じゃないダメージを叩き込んでいた……一毅はそれでも立ち上がって構え直す……まだ動けるし戦える……なら立ち上がるだけだった。

 

「ふぅ……」

 

一毅は一旦純白のオーラ(ホワイトヒート)を静めると次に蒼いオーラ(ブルーヒート)で体を覆った……ダメージが入ったがこのヒートで無理矢理体を動かせば戦える。

 

「おぉ!」

 

一毅は飛び上がると津羽鬼に接近する。

 

「っ!」

 

津羽鬼と刀をぶつけ合う一毅……純粋な身体能力にはやっと着いていくといった感じだがそれでも一毅は恐怖でもないかのようにぶつかる……津羽鬼はそれに冷や汗を流した……

 

鬼にとって人間とは弱気者のことである。極まれに自分の同胞を討つものがいるがそれが例外だ。鬼を見れば人は恐れる……戦えば絶望の表情をする……そう言うもののはずだ。なのに一毅は戦う……いや、こいつは自分の同胞の血が入ってるからなのだろうか?だが津羽鬼はそれをすぐに思考の角に追いやった……この程度なら……

 

「ハァ!」

 

津羽鬼の体から出ていたヒートが純白から蒼に変わった……この変わりかたの早さは流石に自分の力だったと言うだけはある…… 慣れている……

 

「くっ!」

 

放たれる斬撃を一毅はバックステップ……だが津羽鬼の人外の速度が一毅を追う……しかし一毅はそれを利用し刀を握った……

 

「二天一流……必殺剣!」

「っ!」

 

追撃をギリギリで回避し放つカウンター斬撃……

 

「二刀瞬斬!!!!」

 

津羽鬼の斬撃とすれ違いながらの斬撃……だがそれも津羽鬼は殆ど直角に曲がって避けた……

 

「厄介な野郎だ……」

「私は野郎じゃ……」

 

津羽鬼は姿勢を低くした……そして、

 

「ない!」

 

ドゴン!っと地面を踏みしめながら突貫する津羽鬼……それに一毅は正面から迎え撃った。

 

『ラァ!』

 

幾度も刀をぶつけ合わせ叩きつけ会う……

 

(い……てぇ……)

 

一毅は蹴られて折れたであろう肋骨の痛み耐えながら戦う……はっきり言ってかなり不利だった。

 

そもそも足場が不安定すぎる。一毅の二刀流は足場がしっかりしているのが重要なのだ。それの引き換えこの富岳の翼は富岳事態の揺れもありそっちの神経もいる……更に一毅の反射神経では捉えきれない津羽鬼の動き……一毅は反射神経も動体視力もずば抜けてはいる……だがそれを上回る速さだ。完全に心眼に頼りきらないと反応しきれない……

 

心眼を使うと言うのはそれだけ神経をすり減らすのだ。常に気を張った状態にする……常に極限の緊張状態を半ば強制的に体に強いるのだ。疲労が半端じゃない……

 

普段は反射神経等で心眼の負担する部分を減らすが今回は常に全開状態だ……これはキツイ……だが……

 

「何がおかしい」

「え?」

 

一毅は自分の顔を触れる……確かに……笑っていた。それに気づいて一層笑みを強くしながら一毅は言う。

 

「まぁあれだ……お前くらいの化けもん相手だとよ……楽しいんだよ……」

 

俺の中のバケモンを楽しませるには……上等な相手だと一毅は一層口角をあげていった……

 

「っ!」

 

ゾクッと津羽鬼の背に悪寒が走る……間違いなかった……この男が体に飼っている()()と言う名の鬼は……並の鬼じゃない……だがそれをみた津羽鬼も笑う……

 

「お前もだ……普通の人間じゃない……壊れなさそうだ」

 

鬼は……戦いを求める……血を……慟哭を……だがそれは己の快楽のためだけじゃない……己の……捧げるべき者のための唄なのだ。

 

【鬼畜】……等と言うが真の鬼はそのように言われるようなことはしない……己が捧げ……支える……そういうものに対しては従う……勝てと言われれば勝つ……言葉に発せられずとも……無言の内に受け取り無言の内に完了させる……

 

『さぁ……』

 

二人はニィッと笑った。

 

「キンジの勝利のために消えろ」

「閻姉様の勝利のために死んで」

 

一毅の体から深紅のオーラ(レッドヒート)が溢れだす……津羽鬼の体から蒼いオーラ(ブルーヒート)が溢れる……一毅は極めし者のオーラ(クライマックスヒート)を使うわけには行かない……なぜなら背後にはまだ鬼が控えている……それを相手取るにはここで極めし者のオーラ(クライマックスヒート)を使うわけには行かない……故に深紅のオーラ(レッドヒート)……()()としての桐生一毅が出せる全力だった。

 

迎え撃つのは津羽鬼の蒼いオーラ(ブルーヒート)……深紅のオーラ(レッドヒート)も勿論使える……だがこれは全力を出すわけに行かない……人間のとして戦わざるを得ない一毅への気遣い?違う……

 

この瞬間を楽しむための枷だ。この男との戦いを少しでも長くするための枷……深紅のオーラ(レッドヒート)を使えば勝てるだろう……それだけヒートの上昇率は鬼が使うと文字通り桁違いなのだ。故に加減……この男との力比べを楽しむために……

 

「おぉ!」

 

二人の刃が常人では見えぬほどの速度で交差しあう……

 

「ガァ!」

 

刀が折れるのではないかと錯覚してしまう程のパワーでぶつけ合う……このパワーに耐える刀にも称賛を送りたい……

 

『ウォオオオオオオオオ!』

 

一瞬の隙をついて一毅の二刀が弾かれた……

 

(っ!)

 

今!っと津羽鬼の刀が一毅の腹部を深々と指し貫く……

 

(終わった……ん?)

 

だが津羽鬼はふと気付く……刀が今いる位置より深く入らなければ抜けもしない……

 

「二天一流 拳技……金剛の気位……」

 

吉岡 清寡戦でも見せた筋肉に力を込めて絞めることで防御や相手の武器を肉体で咥えとる無茶技……しかも今は深紅のオーラ(レッドヒート)でのそれだ……効果が高まっていた……

 

余談だが一応内臓とかは当たらない角度で受けてる……一毅もGⅢの内臓避け(オーガン・スルー)は見ていたから……

 

「くっ!」

 

津羽鬼は離れようと力を込めた瞬間一毅は逃がすものかと胸ぐらを掴みあげた……自慢の速度もこれで役に立つまい……

 

「離せ!」

 

津羽鬼は一毅の顔面に拳を叩きつけた……鬼の膂力でパンチ……それがどんな破壊力を産むか想像したくない……だが一毅は正面からそれを受けながらも耐え抜く……そして、

 

「二天一流……絶剛……」

 

一毅は背中の断神(たちがみ)をゆっくり抜き天高く掲げる……

 

「っ!」

 

ヤバイ……津羽鬼は本能的にそれを悟った……一層一毅を殴るが一毅はペッと血を吐き捨てニィっと笑った……

 

「俺の勝ちだ」

「っ!」

 

一毅は断神(たちがみ)を振りおろす……渾身の刃は津羽鬼の体を確実にとらえた……

 

龍 尾 鉄 鎚(りゅうおてっつい)……」

 

その姿は龍の裁き……龍の裁きによって落とされ続ける尾は如何なる者も討ち滅ぼすまで止まらない……

 

そういう思いを込めて名付けられたその技と放たれた剣の巨大さを利用した連続叩きつけ……それは津羽鬼の意識が飛ぶまで何度でも何度でも……その刀身を津羽鬼に叩きつけたのだった……



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金VS緋鬼

「さて……こっちはこっちでやるとしようか」

 

そう言ってキンジと閻は対峙した……互いの視線が交差する中閻は金棒を……キンジは胸元を緩めながら銃とナイフを構える……すると、

 

「ふむ……やはり似ておるな……」

「なにがだい?」

 

閻の言葉にキンジは首をかしげる。

 

「源頼光だ……」

「あの酒呑童子を退治したとかで有名な?」

 

キンジがそう聞くと閻は頷きを返した。

 

「源頼光は二つの秘技を用いて酒呑様を討たれた……案外同じ血筋なのかもしれぬな」

「そういわれれもねぇ……源頼光が俺の先祖だと言う証拠もないし何百年も前の話だろう?」

 

まぁ……遠山家の家系図もかなり適当で金四郎以前のは残っていないしもしかしたらって言うのもあるかもしれないが……

 

だが閻は違うらしい。

 

「我には昨日の事のように思い出せる……まぁよい……見せてやろう、源頼光が用いた秘技のひとつだ……」

 

そう言って閻が腰を落とした瞬間……

 

「【羅刹】!」

「っ!」

 

突然だった……突然閻がキンジの胸に打撃を叩き込んだのだ……だがそれだけじゃない……キンジの心臓が止まったのだ。

 

所謂殺し技だ。相手の心臓を狙って止める技……

 

(回天!)

 

キンジはとっさに回天で止まった心臓を再稼働させる……危なかった……一回死んでたぞ……

 

キンジは荒く息を吐きそれから頭を振って閻を見据える……よし、ヒステリア・アゴニザンテになったぞ……とキンジは内心ガッツポーズを取ると閻は可笑しいな……みたいな顔だ。まぁ……そうなるよね……

 

とは言えキンジは肩をすくめていう。

 

「おっかない技を使うねぇ」

「確かに決まったはず……」

 

そりゃ心臓を止めた相手がピンピンしてたらそうなるよね……しかし羅刹か……多分こうやって……

 

(こうだ!)

「っ!」

 

ドン!っとキンジの見よう見まね羅刹……それが閻に決まった……閻は半歩をほど足を後ろに引くと少し吐きそうになる……だがそれだけだ……体の出来が違う……叩いた瞬間にわかった。やはり人間じゃない。一毅も一瞥すれば苦戦ぎみだ。

 

「ふむ……やはり血筋か……」

「いや悪いんだけどこの技は今回が初めてだよ」

 

もしくは……兄の金一に伝わったかだろう。遠山家の技は最大で百個まで自分の子に自分の技や先祖代々の技を伝えることを許されている。じゃあほかのは?それは簡単だ。道を踏み外した遠山を殺すための隠し玉として取っておくのだ。

 

一毅にも幾つか遠山の技を見せてはいるが全部じゃない。一毅の知らない技もある。わりとオープンに技を見せる一毅たち桐生にたいして結構隠し技も多くある遠山……そういう意味では結構対局だったりする。

 

まぁそんなことは良いのだ。どちらにせよこの羅刹と言う技は人には使えない。不殺が前提だしな。武偵は……

 

「ならば……次はこれで行こう……」

 

そう言って閻が持ち上げたのは金棒……鬼に金棒とはこれは危険だな……持っただけで雰囲気がヤバイのを感じる……

 

だがこうしてみると……やはりなんと言うか一毅と似たオーラを感じた……

 

「全く……おっかないったら無いね……」

 

そう言いつつキンジが胸元を緩めつつ腰を落とすと同時に閻が突っ込んできた!

 

「ちぃ!」

 

キンジは目をカッ!と開くと閻の動きを万象の眼で読む。リサの時と違い人型である以上キンジの万象の眼はしっかりと閻を読み上げていく。

 

(まず降り下ろし!)

 

横にとんで躱す……音速に匹敵する速度の影響か桜花と同じ現象が閻の金棒に起きているがそんなのは後回しだ。続いて閻の……

 

(横凪ぎ!)

 

キンジはバック転で回避する……しかしこの速度と質量で来るのだ……掠らずとも近くを通るだけで攻撃力がある……危険すぎるのだ。

 

だがまだ閻の攻撃は終わらない。文句はあとだ。

 

(突き!)

 

閻の金棒による突き……それをキンジは飛び上がって回避した……そしてそのまま金棒の上に乗って閻と視線を交わす。

 

「ふむ……天狗のような男だ……」

「そう……かい!」

 

そこからキンジは再度飛び上がると閻に飛び蹴りを放つ……普通に打ってもダメだ……と言うわけで桜花の要領で放つ……が、

 

「ふん!」

「っ!」

 

蹴り足を空中でつかんだ閻はそのままキンジを後方へ投げ飛ばした。

 

「くっ!」

 

キンジは空中で体制を戻した……しかしそこに駆け出してきた閻……それに対しキンジはとっさに平賀印の新装備の一つ……腕の前腕まで覆うように作られたオロチの改良版を出して対抗する……金棒が来たらこれで防いでそのまま逆転の極みで行こう……そう思っていた。だが閻の次の一撃はキンジの予想を上回っていた。

 

「な!」

 

キンジは目を開く……それはそうだろう。何せ閻が行ったのは何の秘密もないただの……()()()()だったのだ。

 

「くっ!」

 

頑丈なはずのオロチが軋みを上げていく……何て咬合力だとキンジは舌打ちをひとつして銃を閻に向け発砲……至近距離だったのに閻は表情一つ変えずに弾を掴み取った……だが、そこで終わりじゃない。キンジはそのまま桜花の要領で閻の顔の真横に膝蹴りを叩きこんだ。

 

「ぐっ……」

 

閻が多少怯む……その怯みさえあれば良いのだとキンジは腕を引き抜いた。だが同時に閻が腕を振る……

 

「がっ!」

 

キンジは胸に走った痛みに息を吐く……

 

そのまま一旦安全圏まで下がるとまず胸を見て舌打ちした……龍桜のお陰で深くはない……致命傷にはほど遠い……しかししっかりとつけられた爪による引っ掻き傷と言うよりは鋭い刃による切り傷……それが胸にザックリと刻まれていた。龍桜は良いが制服なんか凄いことになってる。無論これがなかったら恐らく致命傷クラスの傷になっていたが……

 

(いってぇ……)

 

読めなかった訳じゃない……だが完全に失念していた。自分が退治しているのは鬼だ。腕力や頑丈さだけが厄介なんじゃない。牙も爪も人間と違ってあるのだ。なまじ人間に似た姿のためかどうも……やはりヒステリアモードだしな……女には甘いんだろう。と言うことにしておく。それにしてもだ……

 

と、今のオロチの状況に眉を寄せた。これは……殆どもう使い物になら無い……

 

(全力桜花1発……ってところか……)

 

閻に放っていた自損しない程度では閻に見きられてしまう。ならば……全力桜花を閻に叩き込むしかない。血が止まらんが……まぁ死んでも生き返るし大丈夫だろうと良く分からない自分への喝を入れて手を軽く振る……

 

「さて……」

 

キンジはスゥっと全く関係ない方向へ視線を動かす。それに釣られ簡単に閻は自分から視線をはずした。随分と簡単に視線誘導に引っ掛かった……だが関係ない。これを待っていたのだから……

 

「おぉ!」

 

ドン!っと足を踏み鳴らしキンジは一足目から全力疾走……

 

「むっ!」

 

閻も気づいたがもう遅い。キンジは拳を握ると関節の連続加速……腕につけていたオロチが音速の壁にぶつかり崩壊していくがここまで来ればOKだ。そのまま全力桜花を叩き込めば良い。

 

だが……その時だった。突然閻は体の重心を自分の体の中心に持ってきた。そう……まるで回転扉のように……この姿は知っているぞ!

 

(絶牢!?)

 

キンジは驚愕したが今さらブレーキは掛けられない。どうすれば良い……

 

今さら何をできる……どう足掻いてもこのまま桜花を打ち込んでそれを返される未来しかない……

 

(クソ!本世に俺の先祖だったのかよ!)

 

キンジのヒステリアモードの頭脳がフル回転する。どうにかして考えねば死んでしまう……

 

(一か八か!)

 

瞬時に思い付いた逆転の一手……だが成功するかは分からない。それでも……やるしかない!

 

「桜花!」

 

キンジの全力桜花が閻に炸裂……しかしそれと共に閻の絶牢が発動した。やはり間違いなかったようでキンジの桜花を利用して発動させた絶牢(それ)はキンジの頭を狙う……このままいけばキンジの首から上は吹き飛ぶだろう……

 

だが諦めなかった……そのままキンジは瞬時に重心を自分の体の中心に持ってきつつ減速防御技である橘花を発動し閻の絶牢を受ける……更にそこから絶牢……それと共に反撃の蹴り足で桜花!

 

橘花……絶牢……桜花と繋げるのは逆転の極みでもやる流れだ。しかしこれは相手が絶牢をしてきたのを返す。絶牢を絶牢で返す対カウンター技……絶牢返しとも言えるその技は名付けて、

 

絶花(ぜっか)!!!!!」

「っ!」

 

閻もこれは予想外だったらしい……まぁそうなるよな……まさか相手の攻撃を返す技である絶牢を更に絶牢で返すなんて予想外だよな……とキンジは思いつつ渾身の蹴りを閻の頭に叩き込む……

 

「がぐっ!」

 

閻は大きく体を仰け反った……同時に閻の二本の角のうち片方が折れて吹っ飛ぶ……周りのギャラリーが悲鳴を上げる中キンジは着地した……

 

危なかった……今のはマジで危なかった……危険なんてもんじゃない。二度とごめんだ。そんなことを思いながら閻を見る……そして!

 

「っ!閻!」

 

ゆっくりと閻の体が富嶽の翼から落ちていく……

 

「クソ!」

 

キンジは咄嗟にデザートイーグルにアンカー弾をセットすると閻に向ける。

 

「閻!捕まれ!」

 

発砲と共に放たれるアンカー……それを閻は目を見開くと掴み……そして!

 

「いっ!」

 

()()()()()()()()()()()のだ。

 

「嘘だろ……」

 

突然キンジを襲う浮遊感……自分が富岳の翼から落ちていくのは明らかだった。

 

「やべ……」

 

キンジはそのまま重力に逆らうことはできないので閻と共に落ちていったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キンジ!」

 

津羽鬼を文字どおり叩きのめした一毅は翼から落ちていったキンジを探す……だがすでに豆粒に見えるくらい遠くだ……

 

「ちっ!」

 

一毅は周りを見る……いるのは自分と鬼達……交渉は苦手だ。となると……

 

「今行くぞキンジ!」

 

全身が痛いが多分なんとかなるだろうしキンジも何とかしてることを信じつつ一毅も翼から飛び降りた。

 

風圧とかが凄いが何とか目を開け一毅は銃を抜く。そして見えてきた地面……うぉおお!メッチャクチャこええ!

 

「っ!」

 

響く一発の銃声……そこから発射されたのはキンジから受け取っていたクッション弾だ。それが打ち出されるとそのまま偶然駐車してあった車に当たりクッションがでた。

 

2トンの衝撃に耐えられる作りのそれに一毅は突っ込むと下敷きになった車はグシャグシャになりクッションと一毅は大きくバウンドして吹っ飛んだ……

 

「………………………………………………つぅ……」

 

一毅は地面に大の字になったまま体に走る痛みに歯を喰い縛って耐えた…… とりあえず生きてる……

 

だが……痛い……尋常じゃない。痛みで気を失いそうになるがその痛みでまた正気に戻る感じだ。

 

「ふぅ……ふぅ……」

 

何とか呼吸を整え痛みが去るのを待つ……どうにか痛みが引いてきた……よし……

 

「何とか……生きてたな……」

 

体を起こし折れたりしてる場所はないか探す……取り敢えずはない。津羽鬼にやられたのだけのようだ。これが大きいのだが……

 

「とりあえず生きてるしな……案外死なないもんだ」

 

一毅は立ち上がりながらスマホを出す。あ……画面が割れてる……

 

「ギリギリ……使えるか……」

 

それでも電話だけなら大丈夫そうだ。それで一毅が電話を掛けたのはキンジへ……掛けるとすぐに出た。

 

「よ、生きてるか?」

《まぁな……案外死なないもんでな》

 

と、同じようなことを言いつつ、

 

「で?今どこだ?」

《近くにアミューズメント施設があるのがわかるか?》

「あぁ……見えてる」

《その近くの公園だ。悪いが来てくれ》

「あぁ、分かった」

 

そう言って一毅はスマホをしまいつつ走り出す。肋骨とかが痛いがそういってる場合じゃなさそうだ。キンジの声音が若干弱かった。何かヤバイ状況なのは丸分かりである。

 

そういって人混みを掻き分け一毅は走る……運良く人気の無い公園でキンジはすぐに見つかった。

 

「大丈夫かキンジ!」

「あぁ……やっぱり血が足りなくてな……」

 

見てみればそれなりに血が流れていた……一毅はそれを見て……

 

「ちょっと待ってろ」

 

そう言ってキンジのところから一旦離れると五分ほどで戻ってきた。

 

「出血は激しい訳じゃないがそれでも動いてたし落ちたしな。治療しとこうぜ」

 

そう言って一毅は近くのコンビニで買ってきた道具をキンジに見せた……

 

「なぁ……」

 

それをもたキンジは眉を寄せる。

 

「なに?」

「俺にはそれがどう見ても治療道具には見えないんだが……」

 

と、キンジは一毅が買ってきた《瞬間接着剤》》と()()()()()を見て言う。すると一毅は笑った。

 

「この間授業でやったんだ。傷口さえ塞げれば実は接着剤でも良いんだって。後はガムテープでもキツめに巻いとけば血止め位にはなるんだとさ」

「いやでも包帯くらい探せよ……」

「この当たりに薬局とかがなかったことを恨むがよい」

 

そう言って一毅はキンジの服の裾を上げて傷口に接着剤を着けてその上にガムテープをキツめに巻く。

 

「後は血をどうするかだな……」

「輸血パックなんてもんはねえしな……」

 

すると一毅は良いこと思い付いたみたいな表情をした。

 

「何か嫌な予感がするんだが……何か思い付いたのか?」

 

キンジがそう聞くと一毅はうなずき痛み止めの注射器を取り出す。これはフランスでの逃亡の際にリサへキンジが渡したものと同じものだ。

 

「んでこれをよ」

 

そう言って一毅はキンジに痛み止めの注射を打つ……そしてそれを抜いて軽く拭くと……

 

「お前って……変な病気はもって無いよな?」

「……無いはずだが……いきなり何を……って!」

 

キンジが答えると一毅は自分の腕に注射を打って血を抜く……それを限界まで入れると……

 

「さぁキンジ。お注射の時間だ」

「おいおいおいおいおい!まさか正気かお前!」

 

キンジはやっと事態をのみこんだ。この男は自分に流れて足りなくなった分の血を注射器で採って与えようと言う魂胆なのだ。

 

「そ、そもそも俺とお前は血液型の型が違うだろうが!」

「平気平気、O型は誰にやっても平気な筈だから。もらえねぇけど」

「バカ!それは表面的なことだ!他にもいろいろパスしなきゃならん項目あるし日本じゃ同じの同士しかやらねぇよ!」

「緊急時だし、仕方ないって」

 

そう言ってキンジを捕まえるとブスッと注射を射す一毅……

 

「これで変な病気になったりしてしんだら化けて出てやる……」

「文句言うなって。俺だって肋骨いてぇし注射大嫌いなのを我慢してるんだからさ。あと俺も血液感染するような病気はないぞ」

 

そう言って一毅は再度注射器を自分に刺して血を抜き始める。

 

「ホントは注射器は一回ごとに消毒が原則だけどな……」

「不死身の(エネイブル)と鬼の子孫だぞ?そんな病気に負けるかよ」

「妙な説得力だけはあるから嫌になるな……」

 

もうキンジはされるがままで言う……注射はキンジも好きではないが仕方あるまい。

 

「これでよし、後は何も起きないことを祈っておこう。南無阿弥陀仏……っと」

 

と、何回か血を抜きそしてあげるを繰り返したあとに一毅は言う……すると、

 

「それは死人にいうもんだ!おれは死ぬ気はない!」

 

死んだらマジで化けてやるけどな!っとキンジは言いつつゆっくり立ち上がる……悔しいが足りなくなったぶんの血を補充しただけで楽になったような気がする。

 

「あぁくそ……このままなんともなく天寿を全うさせてくれよ……」

 

キンジは頭をかきつつ言うと一毅も立ち上がる。

 

「いてて……折れてはいるが……内臓には刺さってないことを祈るか」

 

まぁ内臓に傷くらいはついていそうだが……死ぬことはあるまい。

 

「で?これからどうするんだ?」

「とりあえず俺は部屋に戻って制服を予備のやつに変えてくる……それからそうだな……アリアとの合流だな」

「そっか……じゃあ俺は適当に時間を潰してるわ」

「戻らないのか?」

「レキ達は巻き込めないだろ」

 

そう言うと成程とキンジはうなずく。部屋に戻ったりすればすぐに見つかるだろうしな。

 

「じゃあ女子寮の近くのビニールハウスあるだろ?後でそこに来てくれ。多分……そこにアリアはいる」

「何で分かんだ?」

「勘だ」

 

キンジの言い分に一毅は苦笑いを返した。ずいぶんな理由ですな。ホントに。

 

「じゃあ適当に時間潰してからそこに行くよ」

「あぁ」

 

そう言って一毅とキンジは一旦別れたのだった……




久々の更新でした。あと二回くらいでこの章も終わりですかね。

つうわけで久々のバスカービル日記です。

バスカービル日記

執筆者・佐々木 志乃

○月×日

今日は学校で皆とご飯。最近は当たり前のようになった二年生の先輩方も交えた昼食で遠山先輩に白雪お姉さまが重箱の弁当を持ってきていた。お弁当は皆の顔がよくでると思う。桐生先輩達は同じ弁当だしあかりちゃんは谷田くんと同じ売店のパンとかで済ませちゃう。

最近は大分慣れたと思う。あかりちゃんとは友達として……仲良くさせてもらってる。うん。今日も元気です。


あ、ちょっと知り合いからLINEが来たので今日は終わります。

終わり


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金の覚悟

「よし……」

 

一毅と一旦別れたキンジは部屋に戻ってきていた。リサがスヤスヤ寝ているのを起こさないようにコソコソと血だらけボロボロの制服を脱いで新しいYシャツと替えの制服を着る……

 

「つ……」

 

その際に傷が痛みキンジは思わず顔を顰めた。胸の傷が熱い……だがそれを一回静かに深呼吸をして誤魔化すとネクタイを締めて着替えを完了させた。

 

それからペンと紙を取り奨学金を自由に使ってほしいとかこれから帰ってこれる保証はないけど心配するなとかリサ宛てに幾つかの遺言みたいなのを書き寮の入り口に手をかける……

 

「行くか……」

 

気合いを充電。キンジは外へと足を進めた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後キンジはまっすぐ一毅に言っておいた女子寮の近くのビニールハウスに来た。

 

前回も言ったが別に確信はない。ただ……何となくここにアリアがいる気がした。そんな気がするだけだ。そんなことを思いながら行くと……そこにはいた。

 

お馴染みのピンクの髪に幼児体系……カメリア色の瞳の少女……それが立っていたのだ。

 

「よう、アリア」

「待っていたわ……キンジ。良くここが分かったわね」

「何となくな……」

 

キンジはビニールハウスで栽培されてる花を見てからアリアと視線を合わせる。するとアリアは笑っていた。

 

「流石キンジね。それもヒステリアモードの勘って奴?」

「どっちもだな」

 

キンジは頬を掻きつつ答えた。だが同時に何となくなく違和感を覚えた。アリアのやつ……何かを言い出そうとしてタイミングを計っているのだと……

 

「それでねキンジ……私考えたの」

「ん?」

 

来たか……とキンジは目を細めた。それにアリアは気後れすることなくキンジをまっすぐ見つめ口を開いた。

 

「あんたも一毅も……これ以上巻き込めない。鬼って言うのは予想以上だったわ……だから別れましょう」

「何いってんだ……お前一人になんて……」

「じゃあ!何でそんな怪我してんのよ!」

 

ギクッとキンジは表情を凍らせた……

 

「見れば分かるわよ……あんた自分の顔色見た?そんな真っ青な顔して……必死に痛みに耐えたような顔をして……」

 

そんなひどい顔だったのかとキンジは苦笑いした……それがアリアの癪に触ったのは言うまでもない。

 

「何が……可笑しいのよ……」

「いや……良く見てるなって思ってな……」

「パートナーなんだから……当たり前でしょ……」

 

と、アリアは言う。それを見てキンジは口を開いた。

 

「あのなアリア……お前はようは俺に今すぐ降りろって言ってるんだろ?」

「そうよ……それ以外に何があるの……」

 

アリアがキッと睨み付けてくる……いつもより力の無い睨みだ。

 

「これ以上ね……アタシの事情にあんた達は巻き込めない……これ以上巻き込んだら……死んじゃうかもしんない……それだけは嫌なのよ!」

 

キンジを見て言うアリア……真っ直ぐと……真っ直ぐと……キンジを見つめて言う。そこにあるのは……なんなのかキンジにはわからない。だが何かがあるのはキンジには分かった。だからこそ……キンジも言う。

 

「死なねぇよ」

 

アリアは目を見開く。キンジは畳み掛けるように言う。

 

「俺は不死身の(エネイブル)だ……だから死なねぇよ……」

「そんなの通称じゃない!」

「それにな!」

 

キンジはアリアの言葉を遮る。

 

「ここでケツ捲るようなことすれば俺は一生後悔する……そんな……寂しそうな顔した女を一人で行かせるようなカッコ悪い真似できるか!」

「っ!」

 

今度はアリアが表情を凍らせる番だった……それを見つつキンジは更に捲し立てる。

 

「俺は……チームバスカービルのリーダーとしても……お前のパートナーとしても……一人の男としても……背は向けるつもりはねぇよ……例えヒステリアモードじゃなくたって……それは変わらねぇ……お前を一人にはしない!」

「……………………」

 

アリアはキンジを見つめる。

 

「だから……お前の本心を聞かせろ……お前は俺にどうしてほしいんだ?言えよ……アリア!」

 

言葉を少し乱暴にして言う……1拍の間があった……静けさがその場を包んだ……ゆっくりと……アリアは口を開いた。

 

「キンジ……あたしは……」

「………………」

 

キンジは口を閉じて続きを促した。

 

「一人は……嫌よ……でも……今度はホントに危ないわ……だけど……私は……キンジに……一緒にいてほしい……」

 

ポロポロと涙を流し……何度も言葉を止めながらも必死に言葉を紡いだアリア……それを見たキンジは優しげな表情を浮かべた。

 

「なら一緒に居ろよ……これからも……ずっと一緒に居るぞ……」

 

特に他意はなく言った言葉……しかし端から聞けばプロポーズにも聞こえそうな言葉にアリアは堪らずキンジに抱きついた。無論……どうせ意味なんかわかってないのはアリアは百も承知だ。それでも……キンジの温もりが欲しかった。

 

「そもそも最初に俺を巻き込んだのはお前だぞアリア……今さら引き下がれるかよ」

 

と、ドキマギしながら言うキンジ……アリアは自分の顔をキンジの腹に擦り付け頷いた……

 

さてと……

 

「さて……覗き見はいい趣味とは言えないぞ……玉藻」

「え?」

 

キンジが振り返りながら言うとアリアが顔をあげた……その視線の先には一個の鞠……それがドロンっと言うと狐耳と尻尾を持った玉藻が現れた……しかも……何か刀持ってるしヤバイ感じだ……

 

「想像以上じゃった……まさかアリアがここまで緋緋色金に適合するとはな」

 

そう言いながら玉藻は刀の鯉口を切る……咄嗟にキンジはアリアを庇う姿勢をとった。

 

「遠山……こっちへこい。今ならば……儂とお前で討ち取れる」

「ふざけんな、今の聞いてたろ……俺は……アリアの味方だ」

 

キンジはベレッタに手を掛けていう。

 

「そもそもまだ大丈夫なはずだ。鬼からの殻金を奪い返す……それじゃ駄目なのか!」

「だから言ったはずじゃぞ……想像以上にアリアが緋緋色金に適合しつつある……その影響は桐生にも出ていた」

「一毅に……?」

「このままでは緋緋神が戻る方がはやいやも知れぬ……」

「だが絶対じゃない……違うか……?」

「遠山……」

 

玉藻とキンジの視線がぶつかる……その時だった。

 

「無駄だぜ玉藻……そういうときのキンジは馬鹿みたいに頑固だからな」

「……桐生か」

 

少し肩を上下させた一毅がビニールハウスに入ってきながら言うと玉藻は一毅の方にも視線を送る。

 

「言っとくが……俺はもちろんキンジの味方なんでね……キンジと事を構えるつもりなら……俺もお前さんと戦わなきゃならん……」

 

一毅も鯉口を切りつつ言う……玉藻は……どれくらい強いのかわからん……だがここで引くわけに行かない。絶対にだ……

 

そう思いつつ静けさがその場を包む……数十秒ほどだったが永遠に感じられる中……玉藻は刀を戻した。

 

「全く……昔から遠山侍も桐生も自由すぎるんじゃ……」

 

ホゥっと一毅とキンジは緊張を解く。

 

「好きにせい……但し、期限をつける」

 

その期限は3月30日まで……と玉藻は着けてきた。それ以上は絶対に待たないらしい。それを過ぎれば……まぁご察しというやつだ。

 

「悪いな」

 

と、キンジが言うと玉藻はため息をつく。

 

「全くじゃ……」

 

そう言い残し玉藻は夜闇の中に消えていく……それを見送ってから一毅はキンジたちの方に来た。

 

「とりあえずセーフか?」

「ま、そんなところだな」

 

そう言いつつキンジはアリアを見た。

 

「これからどうする?」

「そうね……下手な場所に身を隠せないし……」

 

そうアリアが言うとキンジは顎に手を添えた。

 

「なら……俺の実家に来るか?」

「…………え?」

 

アリアはカチン!っと固まった。それを見変な人でもいるのかと思われたのかと思ったキンジは弁護しておく。

 

「安心しろよ。実家には爺ちゃんと婆ちゃんしかいないはずだし二人ともまともだ」

 

あ、爺ちゃんはとんだスケベ爺だが……まぁいいさ……沈黙は金だ。

 

「それにじいちゃんの腕っぷしは信用していい。並みの相手なんか歯牙にもかけないだろうさ」

 

流石に年は喰ったけどさ……とキンジは付け加えておく……そうしている間にアリアも正気に帰った。

 

「そ、そそ!そうね!ソウシマショ!」

 

何故に片言?とキンジは首をかしげ一毅は肩をすくめる。

 

まぁそんなことがあったものの、とりあえずその日は男女で別れ次の日にキンジの実家の最寄り駅で待ち合わせようという話になっったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことがあった次の日……

 

「アリアのやつ遅いな……」

「そうだな……」

 

ポチポチとスマホを弄りつつキンジと一毅の二人が待ってると……

 

「マ,マタセタワネ……」

「あ、ああ……」

 

キンジはアリアの声を聞いて振り替えると眉を寄せた。

 

「お前どうした?」

 

そう聞くのもわからなくもない。何せアリアの格好はそういうのに鈍いキンジでも分かるほど気合いの入ったものだった。

 

「べ、ベツニ!」

 

見てみれば何か薄くだが化粧までしている……どうしたんだ?アリアはそういった類いのものを持っているのは知っている。それに顔だけは美少女だ。似合うのだが……

 

「サ、サァイキマショウ!」

「アリア緊張しすぎだイデェ!」

 

と、からかい口調で言う一毅にアリアの強烈なローキックが炸裂した……何でこいつ緊張しているんだろう……と思いながらキンジはアリアを自分の実家に案内し始めたのだった……



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緋弾の挨拶

「ほらアリア……何してんだよ」

「ウ、ウン……」

 

キンジの実家に向かってテクテクと歩いている間アリアはおとなしかった。話し掛けてもどこか上の空だった。どうしたんだ?

 

「む?キンジか」

 

と、キンジの実家の門の前で箒を掃いていたのは祖父の鐡だった。

 

「あ、爺ちゃん。また暫くここで住むことになった」

「そうか」

 

キンジが特に何か言った訳じゃないが鐡は快く了承した。するとそのまま視線はキンジの隣を歩いていたアリアに向く。

 

「あ、あの!か、かか、神崎 ホームズ アリアです!」

 

そう言ってスカートの裾を軽く摘まんで挨拶をする。それを見てキンジと一毅は珍しいと目を丸くした。基本的にアリアはホームズの部分はHで済ませるしな……

 

「こりゃまた別嬪さんを連れてきたのぉ!」

 

と、笑う鐡さんはアリアを連れていく……あのエロ爺は……とキンジと一毅はため息をつく。まぁアリアのポシェットに入ってるマガジンに簡単に気づいた辺りは流石だがね……何て思ってると中から祖母のセツが出てきた。

 

『あ……』

 

勿論そんな鐡を成敗とぶっ飛ばしセツにアリアはパス……軽く十メートルは吹っ飛んだが……まぁあの人ならすぐに復活するだろうとキンジと一毅も家に入ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キン……じゃなくて遠山くんと桐生くんとは同じクラスで……二人にはいろいろとお世話に……」

 

現在私遠山キンジは鳥肌がたっていた。何せアリアがこれである。遠山くんなんて呼ばれたことがないのだが……と言うかアリアの奇行はこれだけにとどまらずお茶を出すときに祖母のセツを手伝ったりさっきから妙に大人しいと言うか……

 

「あらあら、キンジもちゃんと男の子だったわねぇ」

「うむ、一毅と変な道を歩まぬか内心少し心配じゃったが……」

 

変な道ってなんだよ……とキンジと一毅は突っ込みそうになったが黙っておこう……しかしさっきからなんかアリアの顔が赤いし大丈夫だろうか……

 

何て心配しているとそ人祖母は席を離れた……二人の足音が遠くなると……

 

「あ……うぅ……」

パタリ……とアリアは倒れてしまった。何事かとキンジと一毅が心配して見ると……

 

「あ……足……足が……痺れ……」

『あぁ……』

 

西洋人は日本人と骨格が少し違うため正座すると足が痺れやすいらしい。それでさっきからなんか赤かったのか……と言うことで、

 

「よしマッサージしてやるよ」

「え!?ちょまきゃう!」

 

キンジはアリアの足を掴むとグリグリと押してやる。わはははは!アリアが悶絶しておるわ! いつも威張り散らしてるアリアがても足も出ないとは!

 

とキンジが悪役面でアリアに悪戯しているといきなりアリアの足の指がキンジの指を絡めとった。

 

「ご苦労様キンジ……お陰で痺れがとれたわ……お礼にバリツの小技を教えてあげる!」

「イゴャアアアアアアアアア!」

 

バキメキゴキィ!っと普通なら聞くことのない音がキンジの指から発せられた……ちなみに指が曲がっちゃいけない方向に完全に曲がっている……

 

「お前らイチャイチャすんなよ……」

『イチャイチャなんかしてない!』

 

と、ジト眼で見る一毅にキンジとアリアは叫んだのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とまぁそんなこともあったあと、指をやたら痛みを伴う遠山式整復術で治したキンジは一毅と一緒に遺品準備をやっていた。

 

と言っても別に一毅は特に整理するものはなく(そもそもキンジの実家にそんなに一毅の物は多くない)キンジの部屋にてクマの木彫りとかタペストリーとかをかなめ用と金三用に分けていただけだ。

 

そんなことをしているとアリアが顔を出す。

 

「なにしてんのよ」

「巣鴨の平和維持」

 

あのバカ妹とアホ弟はキンジが絡むと見境がない上に加減と言う言葉を知らないので遺産の取り合いなんてことをおっ始めたら巣鴨が地図から消えかねないので仕方なくキンジは身辺整理を行い、一毅はそれを手伝っていた。

 

「そう、なら手伝うわ」

 

そう言ってアリアも参加してきた。ほんとになんか今日はおしとやかと言うか……

 

「何か機嫌良くないか?お前……」

「そんなことないわ……って何これ……」

『あ…………』

 

アリアが押し入れの中から出したのはこれまた際どい水着のお姉さんとかハダケた着物を着たあられもない格好のお姉さんが写る写真集……しかも全部巨乳ときたもんだ。ほら……アリアの機嫌がどんどん悪くなっていくぞ……

 

「こういうのが好きなんだ……」

「いやそれは俺のじゃなくて……」

 

キンジがシドロモドロ言い訳するのを遠目に見ながら一毅は整理の手を進める……すると、そこに出掛ける準備をする鐡さんとセツさんが出てきた。

 

「爺ちゃんどこかに行くのか?」

「うむ、金一のところにな」

 

言い訳を一旦中断して祖父に声を掛けたキンジに鐡さんはそう答えた。

 

それを聞きキンジも金一さんに話したいことがあったのか自分も行くと言い出す。まぁ確かに最近あってないし兄弟で話したいこともあるだろう。

 

一毅にとっても遠山 金一と言う男は兄貴分であり、弟や妹のようなのはいたが、うえがいないためか、血は繋がっていない兄のような存在である。居場所が分かりにくいため会えるときにあっておくのもいいかもしれないな……

 

「だけど生きてるって知って驚かないんだな」

「遠山の男にとって死んだり生き返ったりするのは宿命みたいなもんじゃからな」

 

嫌な宿命だな……とキンジと一毅とアリアの三人は苦笑いしたのだった……



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金と兄の推理

金一さんは既に実家を出ており割りと高級なマンションに住んでいる。キンジや一毅も何度か遊びに行ったことはあるし場所も知ってはいるが今回は鐡さんが運転するオンボロ車でそこに向かう。

 

とは言え車が小さいため後ろに乗るキンジと一毅とアリアは若干キツそうに身を捩っていた。

 

「ほれ、お前たちは先に降りていろ」

 

と、金一さんのマンションに着くと鐡さんはそう言った。気を使ってくれたらしい。それにはありがたく礼を言って三人は車から降りる。

 

「キンジのお兄さんって結構良いところに住んでるのね」

 

鐡さんたちの前では大人しかったアリアが口を開く。

 

「まぁ一年の殆どを外で飛び回ってるような人だけどな」

 

そうキンジは答えながらマンションを三人で上がっていく。金一さんがすんでる場所はわかってるしさっき鐡さんが連絡したときには今日はいるとのことだしインターフォンでも押せばいいだろうと部屋の前に立つとポチッとキンジは押した。すると、

 

「キンイチー!」

「うご!」

 

ドアが突然開かれ中から出てきた人影に抱きつかれた……ってこいつは!

 

『パトラ!?』

 

三人が驚愕するとパトラは一瞬驚いたかおをして……

 

「なんじゃキンジの方か……似てるから間違ってしまった……顔を直してこい」

「きょ、兄弟なんだから仕方ないだろ!」

「なら生まれ直せ!」

 

機嫌悪!悪かったな兄さんじゃなくてと言いたかったがその前に中に戻っていくパトラに声を掛けた。

 

「何でお前が兄さんの部屋にいるんだよ」

 

靴を脱ぎなら聞く……すると次の瞬間衝撃の言葉がきた。

 

「一緒に住んでおるんじゃ。同じ部屋で当たり前じゃろう」

『え?』

 

また三人が固まった……

 

「お前兄さんと同棲してたのか?」

「うむ」

 

そういや……何かカツェがパトラは兄が好きだといっていた気がする……大方極東戦役が終わりそれを機会に同棲を始めたと言ったところか……

 

「しかし良い匂いだな」

 

と一毅が鼻をヒクヒクと動かす。確かに部屋からは良い匂いがする。

 

「食事じゃ。今日はお前たちだけではなく金一の祖父と祖母も来るからの」

 

一応気を使ってるらしい。と言うか何か緊張の面持ちって言うやつだ。あれなのか?うちの祖父と祖母は相手を緊張させる何かでもあったのか?

 

「まぁ良いわ。ちょっとパトラ、あんたもちゃんとママの裁判にはでなさいよ。今度と言う今度は逃がさないわ」

「安心せい」

 

そう言ってパトラはクイッと顎をしゃくりベランダに出るように促した。

 

「その辺の話をしに行かんか?料理も一段落ついたしの」

「良いわよ」

 

そう言ってふたりはベランダに出た。すると、パトラは胸を手すりに乗っけてそれを見たアリアは真似をして引っ掛かる部分が皆無なためズリッと落ちて顎を打った揚げ句ポシェットの中身をぶちまけていた……無理はイカンね。

 

と、キンジと一毅が苦笑いしていると扉が開けられた。そこにいたのは金一さんだ。

 

「ん?キンジたちはもう来ていたのか」

「久し振り、兄さん」

「元気そうですね」

 

キンジたちが既に到着していたことに若干驚きつつ金一さんは再配布された武偵手帳をテーブルに置くとキンジの目に左手の薬指に嵌めた指輪が目に入った。

 

「何だよ兄さん。指輪つけっぱなしだぞ……()()になったときに外しわすれブベ!」

 

キンジの言葉は最後まで続かなかった……何故ならその前に金一さんの鉄拳がキンジに炸裂したのだ。

 

「俺の前で……」

 

ゴゴゴゴゴ……と金一さんの背後に阿修羅が降臨した。

 

「カナの名をだすなぁあああああああああ!」

 

金一さんの強烈な蹴りがキンジに放たれ慌ててキンジは逃げ出す。忘れていた……この人は戦闘時にカナになりはするが超恥ずかしいらしくカナの名を出すだけでブチキレるのだ。このヒステリアモード嫌いの辺りは兄弟だね。

 

「キンジィ!貴様カナは男だと言ったそうだな!お陰でバチカンから問い合わせの電話が着たんだぞ!」

 

げっ!その話かよ!っとキンジは顔色を悪くした。そして……

 

「いや!一毅も言ってた!」

「おい!」

 

さらっとキンジは一毅も巻き込んだ。一毅は血の気が引く……金一さんは、

 

「ほぅ……」

 

スゥっと銃を抜き一毅とキンジを補足する……

 

「オマエラ……ソコニナラベ」

 

ヤバイヤバイ!コレ真面目にヤバイよとキンジに目配せすると既にキンジは距離をとっていた……

 

「ニガスカ!」

『ギャアアアアアアアアアア!』

 

ドッカンドッカン情け容赦無しに銃をぶっぱなす金一から逃げるキンジと一毅……突然の銃声にアリアとパトラが何事かと中に入ってきた。

 

するとそこに救世主……もとい、鐡さんがセツさんと一緒に入ってきた……次の瞬間!

 

「このバカ孫が!」

 

ガッ!っと言う音と共に金一さんが鐡さんの拳で吹っ飛んだ……

 

「今まで便りも寄越さず何をしておった!」

そう言う鐡さんの目にはうっすら涙が浮かんでいた……そうだよな……何を言ったって孫が死んだら悲しいし生きてればうれしいもんだよな……とキンジと一毅は思う。

 

「ゴメン爺ちゃん……」

 

そう金一さんが言うと鐡さんは鼻を鳴らす。

 

「それで?一体何のようじゃ?」

 

鐡さんがそう問うと金一さんは口を拭きながら衝撃の事実を発表した。

 

「国際結婚する……そこにいるのが奥さんだ」

『……え?』

 

と、固まったのはキンジ、一毅、鐡さんの男性陣だ。対してアリアとセツさんの二人は「え?気づいてなかったの?」みたいな感じでこっちを見る。パトラは照れてるのか顔を真っ赤にしていた。

 

そういえば左手の薬指に指輪……しかも今気づいたが見てみるとパトラも同じのをしていた……しかも左手の薬指に……

 

「お、お前……こんなきれいな嫁さんを連れてくるなら早く言わんか!儂は脇に穴が開いたジャンバー着て来てしまったんじゃぞ!」

 

と、鐡さんが言うとその場に居た皆が思わず笑ってしまい結果的に空気を自分で変えたのは……まあ余談だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとう、兄さん」

「あぁ……まああれとはイ・ウーのときからついたり離れたりしていた」

 

そんなことがあった日の夜……キンジ兄と一緒にベランダで話していた。

 

その日に行われた兄の告白は祖父と祖母を驚かせたものの笑って受け入れられ終始和やかな空気だった。祖父もパトラの作るエジプト料理には満足してパトラも一安心……といった感じだったのは今思い出しても少し笑えた。

 

そんな祖父と祖母はキンジたちはここに残ると伝えたら二人だけで帰っていき、一毅はパトラに入浴剤が切れていたのを忘れていたらしく買いにいかされアリアはパトラと一緒に裁判の話をしながら皿洗いを手伝っていた……アリア何があったんだ?まぁ良い、本題に入ろう。

 

「俺も断片的なのだけどわかったよ……緋弾ってのはなんなのか……さ」

 

キンジは早速だが今までの一件の話し合いをすることにした。

 

「俺も同じだ……()()()()教授(プロフェシオン)ですら解明しきれてなかったし、俺も彼の研究を見ていただけだからな」

 

それでも分かることは増えてる。そこから導かれた答えをキンジは兄へ言った。

 

「緋緋色金って言うのは成分みたいなのはわからないが一種の特殊能力を持たせることができる超金属なんだろ?ただしその金属事態に人格みたいなのがあって所有者を乗っ取ろうとする」

「そうだ、緋緋色金……いや、緋弾には適合すればその身は不老不死となり時間や空間を超越し死者すらよみがえらせる……不完全ながらも成し遂げたのが教授(プロフェシオン)だ。彼は人格を乗っ取られずに不老不死の力を使っていたからな」

 

兄の言葉にキンジはうなずきを返す。それから、

 

「その別パターンが香港の猴だろ?如意棒や金斗雲は力の1つで使えてはいたけど心を半分乗っ取られていた」

 

と、キンジのヒステリアモードの時に浮かんだ説を唱えると今度は金一がうなずき、言葉を返した。

 

「そうだ、別に猴だけではない。未だに緋緋色金を使いこなせたものはいない」

「だから兄さんは……緋緋色金が……いや、緋緋色金の中にある人格である緋緋神が目覚める前にアリアを殺そうとしたんだな?」

「緋緋神は危険だった。お前も猴と戦っただろう?だがあれでも本来の力を全く引き出せてはいない。だがアリアは違う。猴よりも……教授(プロフェシオン)よりも……ずっとずっと深くまで緋緋神を繋がれる器だった」

 

そう言えば昔緋緋神が目覚めて暴れて一毅や白雪に自分のご先祖様たちが戦ったと言うのを聞いたことがある……相当やばかったらしいしな……

 

「まぁ……お前はアリアを信じる道をとった訳だがな」

「パートナーだからな……」

 

そう言ってキンジは兄から一旦視線をそらす。

 

「兄さんの言いたかったこともわかるんだ。だけど俺にはそぐわなかったんだ」

「良いんだ」

 

そう言って兄はベランダにもたれた。

 

「その結果アリアは一時的に緋弾の力を引き出すことになった」

「パトラの時だろ?」

 

あのピラミッドの屋根を吹き飛ばしたときの話だ……

 

「そうだ、お前がアリアの鍵となった」

「だけど何で俺なんだ?俺が何故緋緋色金の一件に必要になるんだ?」

 

そう、GⅢもいっていたが自分はアリアの力を解放する要のような存在らしい……しかし何故自分なのか……そう言うと兄は「若いな」と笑ってから、

 

「白雪はどうしている?」

「あいつなら星伽に里帰りだ」

 

そう言うと兄は口を開いた。

 

「さっきの質問に少し答えてやろう。俺たち遠山や一毅が……いや、桐生が巻き込まれる定めにあったのは星伽巫女が絡んでいるからだ。星伽巫女は古来より緋緋色金の研究を行ってきた一族だ。教科書に乗ってる卑弥呼も高レベルで色金を扱った者らしい」

「……………………」

 

キンジは黙って続きを促した。

 

「三年ほど前星伽の巫女たちに予言が降りた。《母を救うために緋緋色金の適合者が日本にやってくる》とな。巫女たちはそれを何度も占いそして、東京武偵高校にやって来ることをつきとめた」

「その為に本来外に出ないはずの白雪がきたってことか?」

「ああ、本来外に出ないし出さないが宮内庁を通じて白雪はやって来た。そしてすぐにアリアが適合者だと疑念を持ったが直ぐには動けなかったらしい。とは言え再開した時点で巻き込まれるのは時間の問題だっただろうがな」

 

さて、こんなところだと兄が言うとキンジはありがとうと言う。コレだけ聞ければ十分だ。

 

「さて、それからお前にいっておくことがある」

「え?」

 

突然の言葉にキンジは眉を寄せた。

 

「俺はこれから緩やかにだが引退する。コレからの遠山の義士の筆頭はお前だ、キンジ」

 

引退?どう言うことかと聞くと兄は答えた。

 

「俺たち遠山の一族のHSSは性的興奮をトリガーとした人格の変化を伴った全神経の強化だ。だが愛と性は切っても切れない関係だ」

 

うむむ、苦手な話かもしれん……だがここで折れるわけには行かない。仮にも兄が引退だと言ってるんだからな。

 

「結婚すれば二人は愛だけではなくなる。その先の感情へと移っていく。そうなっていき、だからといって別の女で興奮するのは憚られる。結婚とは……HSSの引退の一里塚なんだ」

 

それに……と兄は続けた。

 

「加齢もある。男性は年を取ればとるほど興奮しにくくなるものだ。つまり……HSSへなりにくくなる」

 

それは遠山の男にとっての大幅な弱体化だ。キンジにもその辺の理論はわかる。昔はキスシーンでひっくり返る程の騒ぎだったが今は黙って冷静にその場面を早送りできるしな……だがキンジは兄に言う。

 

「だけどまだ諦めなくても良いんじゃないか?ほら、爺ちゃんや父さんのはどうかと思うけど金三は美術品や音楽でなってたしな」

 

そう言ってキンジは笑うと兄も小さく笑ってから静かに部屋に戻っていった。さて……取り合えず言葉の反芻か……何てしていると、カサッと枯れ葉が擦れる音がした……猫でもいたのかとベランダを覗き混むと……

 

「何やってんだよ……アリア……」

 

ピンクブロンドがビクッ!と動く……それから顔をあげると困ったような顔をした。

 

「お前覗きの趣味でもあったのか?」

「違うわよ!」

 

ガルル!っと威嚇するアリア……まぁ大方さっきぶちまけてたポシェットの中身を集めていたんだろう。

 

「で?全部あったのか?」

「一応ね」

 

アリアは自分のポシェットを確認しつつ言う。それから、

 

「丁度良いわキンジ、ちょっと散歩にいきましょ」

「散歩ぉ?こんな寒空にか?」

「い・い・か・ら……行くわよ」

 

そう言うアリアに仕方ないとキンジはため息をつきつつ、靴を履いてくるから待ってろと行って靴を履きに行ったのだった。



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緋緋神降臨

「寒くないか?」

「平気よ」

 

兄の家から出てキンジとアリアは二人で近所を散歩していた。すると見えてきたのは神社……

 

乃木神社というこの神社は今は誰もいない。それにしてもなんか変な空気だ。アリアがずっと何か考え事してるし……

 

「それにしたって兄さんとパトラが結婚するとはな……」

 

取り合えず話題を出さないと……と言うわけでキンジが言うとアリアはこっちを見た。

 

「まあね、コレからはあんたのお義姉さんなのよ?」

「それなぁ……未だに違和感だぞ……」

 

義理とは言え姉かよ……カナと言うある意味では姉と呼んで良いのか微妙な存在とは違うマジの義姉である。

 

「しかし……引退か……」

 

どうせ話を聞かれてたんだし良いかと思って言うと、

 

「大変ね、チームバスカービルのリーダーやってそっちもやって」

「ホントだぜ。チームバスカービルのリーダーってだけでも大変なのによ」

 

とキンジはため息をつくとアリアが笑った。すると顔に冷たいものが当たる……何かと思い上を見るとユラユラと雪が降ってきたのだ。

 

「…………なぁアリア」

「…………ねぇキンジ」

『……………………』

 

同時に声を出して二人は固まる……互いに先に言えよみたいな雰囲気だ。

 

そんな譲り合いをしてからアリアの方が先に動いた。

 

「ねぇ……今日何日かわかる?」

「ん?2月14日だろ?この時期が近づくと蘭豹が殺気立つからな……嫌でも意識するよ」

 

2月14日のバレンタインデー……この日は蘭豹が前にとある男性にチョコをあげたらその男が逃げて蘭豹は大層傷ついたらしくカロリー的にどうこうとか言ってそういった類いの行事は完全に禁止されてるのだ。まぁこっそりやってるやつはいるけどな。だがそれがどうしたんだとキンジは言う。

 

するとアリアがポシェットに手を突っこみゴソゴソと謎の物体を取り出した。

 

「はい、バレンタインチョコ……昨日作ってみたの」

「……………………え?」

 

キンジは我が耳を疑った……え?バレンタインチョコ?自分に?しかも作った?リンゴジュースが飲みたいからとリンゴを握り潰して飲んでたアリアが?

 

そもそもこいつ料理できたの?

 

「ほら!受け取りなさいよ!」

「あ、はい……」

 

おずおずと受けとる……目が開けろと行っている……ヤバい……逃げ場なしだ。

 

「あ、開けるぞ」

 

キンジは危険物でも扱うように優しく開けた……中にあったのは……茶色の物体?

 

「なんだこれは……」

「チョコ桃饅よ」

 

いやいやいや!確かに言われてみれば桃饅っぽい形してるけど!フォルムにてるけど!何か茶色で明らかにヤバいものでしょこれ!

 

「ほ、ほら!食べなさいよ!」

 

こ、これを?この危険物体Xを食せと?非常に……嫌な予感しか……しないです……

 

だがここで食わないとアリアにぶっ殺される……まだ死ぬわけにはいかない……となればだ。

 

「いただきます……」

 

そう言ってキンジはチョコ桃饅を食う……ブニュウっと言う生地の食感の中にガリゴリと固いチョコの歯応え……味は苦いのか甘いのかよくわからない微妙な味……そして調理家庭で混入したと思われるチョコを包んでいた銀紙がアクセントになる……これは不味い!

 

「どうかしら?」

「まず……まずまずだな」

 

不味いと言いかけこのままだとぶっ殺されると判断したキンジは慌てて当たり障りない言い方した……だが次の瞬間にアリアの手がキンジの顎をがっしりと掴む。

 

「ごめん、よく聞こえなかったわ。もう一回言ってもらえる?後私ビリヤードの玉を握りつぶせるのよ」

「うまい!うますぎる!」

 

キンジは全く冗談には聞こえないアリアの言葉に慌てて誉めちぎることで回避を試みた。顎を握りつぶされるなんて嫌だ。

 

「じゃあなんでないてるのよ」

「こんなうまいものを知らなかった今までの人生を嘆いてるんだ」

 

と言うとアリアはキンジの顎から手を離し端から見てもわかるほどデレッデレになった。

 

危機は去ったらしい。

 

「良かった。こういうのってしたことないから……キンジはたくさんもらってたでしょうけど」

「いや………そう言うのは……」

 

ないな……去年は白雪から貰ったが……だけど……こういうのは初めてか、何か嬉しいもんだ。後で腹壊しそうだけど……

 

「来月ちゃんと返すから……」

「う、うん……」

 

なんだろうな……互いに顔が見れない。冬なのに、雪が降ってるのに……体が火照ってるようだ。

 

「だ、だけどパトラ幸せそうだったわね」

「あ、あぁ……」

 

今度はアリアの方が持たなかったらしくキンジが金一のを話題にしたのに対してパトラをアリアが出してきた。

 

「好きな人同士で結婚するって……ああいう感じなのね」

「…………」

 

アリアも……いつか結婚するんだろうか……自分の見たことない男と一緒にヴァージンロード歩いて……手を繋いだり……キスしたり……

 

「キンジ?」

「あ、悪い……」

 

何か良く分からない感情がキンジの胸を被った。いや、嫉妬だ。自分でもわかる。

 

誰にも渡したくない……誰にも触られたくない……誰のところにも行ってほしくない……そんな独占欲。

 

人間誰もが持ってる感情……今キンジはそれをハッキリと感じていた。

 

「じゃ、じゃあ……アリア……」

「なに?」

 

アリアはどうしたのか?といった顔でキンジを見た。ヤバい……口が乾く……でも……頑張れ俺とキンジは自分を奮い立てた。

 

「俺を……好きになってみないか?」

「………………………………へ?」

 

アリアは一瞬固まった……だがゆっくりと思考が回復していくと顔が赤くなっていく……

 

言い方は遠回しだが……意訳すれば好きな人同士で結婚する幸せを感じさせてやると言ってるのだ。つまり……キンジは……

 

「い、言い方悪かったか?つまりな……」

 

キンジが説明しようとするとアリアは首を横に振った……

 

「ちゃんとわかってるわ……キンジ……でもバカねあんた……」

「え?どう言うことだよ……」

「だってさ……私だって…………す……」

「アリア?」

 

突然アリアがうつむいたかと思えば何かを言いかけ止まった……そしてニタァっと笑みを浮かべる……この表情は知っている……キンジは歯が欠けるんじゃないかと思うほど強くかんだ……

 

「き……だぞぉ……トオヤマァ!」

「何でだよ……何でお前が出てくんだよ!」

 

キンジはギロっとアリアを……いや!

 

「孫!」

 

キンジの目には……怒りの炎が燃え上がっていた……



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談話
対談ⅩⅡ


咲実「さあてやって参りました章終わり毎にやっていく雑談コーナー」

 

キンジ「今日も変わらずいつものメンバーでやっていくぜ」

 

一毅「つうわけでスタート!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア「というわけだけどついに私が緋緋神に目覚めたところで終わったわね」

 

あかり「ですねぇ……これからどうするんですか?」

 

咲実「一応活動報告の方でも少し言ったけどしばらくこの作品は休むよ。原作がある程度いったら再開するつもり」

 

辰正「あれ?でもアメリカまではやるって言ってませんでしたっけ?」

 

咲実「そのつもりだったんだけど色々思うところがあってね。この先書くなら原作がもうちっと進んでもらえると嬉しいんだよ」

 

白雪「そっかぁ……じゃあしばらくはこの作品は更新しないんだね」

 

咲実「そうなるね。まぁ他にも書いてるのとかあるしそれを書いたり友人に頼まれてる東方MMDの脚本書いたりしていくから別に何も書かなくなる訳じゃないけどね」

 

レキ「しばらくはこれを中心に……みたいなのはあるんですか?」

 

咲実「特にないかなぁ……気が向いたのを書いてって更新になると思う。ぶっちゃけ書きたいネタは多くあるしまだ構想の段階でだったらありすぎて困ってる状態だしね……」

 

理子「とは言えこれ以上増やすと本当に書ききれなくなりそうだしねぇ」

 

咲実「色々考えてはいるのよ?ハイスクールD×Dと魔法科高校の劣等生のクロスとか真・恋姫無双とゼロの使い魔のクロスオーバーとか他にもこの作品の外伝とかその他諸々……」

 

一毅「ちょいちょいこの作品のAA視点をみたいって言う声はあったしな」

 

ライカ「まあ原作とは違う場所も多いでしょうけどね」

 

咲実「この作品だとAAのメンツの方もたくさん出てるしね……」

 

志乃「でも原作の方でも私たちがちょいちょい登場はしてましたね」

 

陽菜「まあその辺もいれると大分AAの方でも話の流れは変わってくるでござるな」

 

咲実「まあ書きたいとは思っても今かいてるのが優先だけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリア「でも一応話の全体的な部分は同じだけどこの章も結構違うわよね」

 

咲実「まあ一毅の存在もあってキンジの性格も違ってたりもするしね」

 

キンジ「とは言えちゃんと俺の方が自分から言うって流れになったんだな」

 

咲実「そこはちょい悩んだけどね。キンジに男を見せてもらいましたよ」

 

一毅「これで後は辰正だけになったな」

 

辰正「うげげ……そう言えば俺とあかりちゃんってくっつくんですか?」

 

咲実「予定ではね。あくまで予定だけど。断言はしないけどね」

 

ライカ「でもキンジ先輩と一毅先輩がとちゃんと言ったんだから辰正もいわないと男じゃねえよな」

 

辰正「うぐぐ……」

 

咲実「まあその内頃合いを見つけてくっつけるさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一毅「でも今回の章で緋弾の秘密も少しずつ明らかになっていったな」

 

キンジ「全部じゃねえけどな。とは言えお前俺と兄さんが話してるときいなかっただろ」

 

咲実「まあその頃一毅は肋骨の痛みに耐えながら買い物中だけどね」

 

理子「て言うかさ。地味にキー君もカズッチも重症だよね?」

 

レキ「キンジさんに至っては一毅さんから輸血してもらってましたしね」

 

白雪「二人とも人間じゃないからね」

 

キンジ「いや白雪……一毅はともかく俺は人間だろ……」

 

一毅「え?いやいや、お前はともかく俺は人間だろ……」

 

キンジ&一毅「ん?」

 

辰正「どっちもどっちの癖に……」

 

キンジ&一毅「あぁ?」

 

アリア「ただ真面目にO型だからって他人に血を分けるのはダメだしね。あくまで緊急事態に限ればだし体液による感染とかもあり得るしぶっちゃけ小説じゃなかったら危ないなんてもんじゃないからね……」

 

あかり「あとO型って血をあげることはできても貰えないんでしたっけ?」

 

キンジ「そうだな。ただ確かAB型はAからもBからも貰うことはできたんだったよな?」

 

咲実「そうだっけ?良く覚えてないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲実「んじゃあ今回もここまでにしようか」

 

一毅「と言うわけでしばらくはこの小説はお休みになるけど他にも書いてる小説はあるしよかったら見ていってくれよな」

 

キンジ「まあ次がいつになるか分からないがのんびり待っていてくれ」

 

全員『つうわけでまた会いましょう!バイバーイ!バイバーイ』



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第十五章 自由の国
VS緋緋神


「何でテメェが……」

 

グッと拳を握りつつヒステリア・ベルゼとレガルメンテが同時に発動したキンジはアリアの肉体を乗っ取った孫を睨み付けた。

 

キン……っと脳裏にそんな音が響く感覚と共に万象の眼も発動する。だがそれ以上にキンジの体はマグマでも注入したかと思うほど熱を帯びた感覚があった。

 

怒りが爆発する……と言う言葉があるがそれも振りきれると静かになると言うのをキンジは知った。口を開くと言うのにすら面倒くさくなる。それよりもどうやってこいつを倒すのか、と言うのに思考がいった。

 

だがそれを孫はニヤニヤと笑いながら見つめていた。

 

「良いなぁ遠山……この体すげぇぞ。猴なんかとは訳がちげぇ、今なら何でもできそうだ!」

 

トンっと軽く地面を蹴った孫はフワリと鳥居の上まで簡単に飛び上がる。たったそれだけでも今の身体能力の高さが分かると言うものだった。

 

だがキンジは驚きはしても気後れはしない。そこはベルゼが良い意味でも作用した。バックギアを壊して戦うベルゼの力は恐怖心を抑えてくれる。

 

だがそんな様子を孫は楽しそうに見ている。

 

「良いなぁ遠山……俺はお前のその目が気に入ってるんだ。不可能を可能としようとする目だ。不況を……不条理を……乗り越えようとあがく目だ。ゾクゾクするよ」

 

大口を開けて笑う孫にキンジは苛立ちを募らせた。アリアはそんな笑いかたをしない……だからこそ余計にアリアを好き勝手に使われてると思うのか血か熱くなっていく。

 

「だめだぁ……我慢できねぇ、おい遠山……ちょっと付き合えよ。加減はしてやっからよ」

 

そう言うと孫はスカートからガバメントを抜く。

 

「っ!」

 

それをキンジは万象の眼で先読みしキンジはベレッタを抜くと孫の放った銃弾を銃弾撃ち(ビリヤード)で迎撃する。しかしその間に孫は間合いを詰めてきた!

 

「ちぃ!」

 

ゴゥ!っと空気を切りながら拳が迫る。それをキンジは橘花で受ける。だが孫は気にせず次々と拳をキンジに向けて放つ。

 

(アリアの体じゃなければ……)

 

キンジは思わず舌打ちした。孫の身体能力は厄介だがそれよりも厄介だったのはアリアの体だと言うことだ。アリアの体だからこそ攻撃が出来ない。

 

孫もそれを分かっているのだろう。さっきから防御をほとんど考えていない。だがだからと言って攻撃ができるわけでもない。完全にじり貧だった。

 

「おらどうした遠山!」

 

空気を切るどころか今度は弾きかねないほどの破壊力の拳……まともに受けたら死んでしまう一撃をキンジは橘花ではなくスウェイで躱す。流石にそろそろ痛くなってきた。だが、

 

「逃がさねぇよ!」

 

キュイイン……っと左目が光だした。あれは間違いない……レーザー改め如意棒だ!

 

「まずい!」

 

あの時は一毅の断神(たちがみ)で助けられたが今度は違う。半ばキンジは反射的に孫との距離を詰めるために走り出した。

 

如意棒にはチャージする間がある。その間にまず顔を逸らさせないとまずい!そう思ったが……

 

「キンジ……」

「っ!」

 

ギクッとキンジの体が硬直した。今の声は……アリアの声だった。孫は意識して発しただろうその言葉に不覚にも気を乱した。その一瞬の間があれば孫は十分だと言うのに……

 

「残念だったな……」

「っ!」

 

孫が如意棒を放とうとした次の瞬間!

 

「オッラァ!」

「ぐぇ!」

 

孫の真横から突然なにかがぶつかり孫は吹っ飛び如意棒を中断させられる。そのぶつかったのは勿論、

 

「一毅……」

「よう、で?これはいったいどういう状態だよ……」

 

折れた肋骨の部分を擦りながら孫に体当たりをぶちかました一毅はキンジに聞きながら買ってきた洗剤を地面におき腰の殺神(さつがみ)の鯉口を切った。すると、

 

「成程……目覚めてしまったようね」

「え?」

 

三つ編みにした真っ黒な髪を揺らし、肩で若干息をする女性?

 

「カナまで!」

「儂もおるぞ」

 

と、カナの背中から顔を出したのはパトラ。しかし……何故カナ?さっきまで金一はカナになっていなかったはずだ。カナになるには服装や髪を結んだりと意外と手間がかかるのでもしこの事態に気づいて来たのだとしても早すぎる……何かあったのか?

 

「丁度そこであってな」

 

そんなキンジの考えに一旦ストップをかけるようにコキリと一毅は首を回す。

 

「ったく……何か急に体が熱くなって嫌な予感すると思えばよ……」

 

と、一毅がボヤくと孫はゆっくり立ち上がった。

 

「おいおい、ずいぶん派手にやったな……」

「加減は苦手なんでな……」

 

だが一毅も攻め手に迷っていた。体当たりは咄嗟だったが今のアリアの体に一毅も切りつける訳にいかない。

 

「どうする?」

「俺も考えてんだよ……」

 

アリアの体に孫がいる以上強引な手に出るわけにはいかない。しかしだからと言って孫を追い出す方法があるのだろうか……そう思っていると、

 

「二人とも。私に策があるわ」

「策?」

 

カナに話し掛けられキンジがカナを見る。

 

「えぇ、そのためには隙をつくってもらえるかしら?そしたら私が止めを指す」

「まて!殺す気か!?」

 

カナの言葉にキンジは目を見開き抗議する。それに対してカナは柔和な笑みを浮かべた。

 

「別に命は取らないし怪我もさせない、ただちょっと動けなくなってもらうだけよ。未来の義妹(貴方のパートナー)を傷つけたりしないわ」

「そ、そうか……」

 

何か今別のに服音声があった気がしたが気のせいだろう。うん……

 

「んじゃ……俺とキンジで行くか……」

 

一毅はそう言って左手で神流し(かみながし)も抜き二刀流となる。

 

「援護は儂がやる。安心して行くがよい」

 

そう言ってパトラの周りに砂が集まりだしたのを合図にキンジと一毅が駆け出す。

 

「おぉ!桐生も一緒か!来い!」

 

そう言って孫はガバメントを撃つ。それをキンジの前に出た一毅が刀で弾いた。更にそこからキンジが入れ替わるように前に出ると孫の腕をつかんで一本背負い。

 

殴るわけにいかないが投げて抑え込む位なら……と考えていたのだが、

 

「ちぃ!」

 

軽い……とキンジが気づいたのは投げた直後だった。幾ら孫が乗っ取っているアリアの体が小さいとは言え投げた瞬間があまりにも軽すぎたのだ。

 

(自分から飛んだのか!?)

 

投げの動作が完了したキンジが顔をあげるとその目の前には思わず見とれそうなアリアの顔があった。

 

そう、孫は自分から飛び上がることで空中で体勢を整え地面に綺麗に着地したのだ。

 

「良い投げだったぜ……ただもうちょい殺す気で投げねぇとなぁ!……あぁ!?」

「そうかい、良い勉強になったぞ!」

 

無事着地した孫がキンジに反撃しようと拳を構えた瞬間再度浮遊感に襲われた。今度は一毅が孫を持ち上げたのだ。

 

抵抗感はあるがキンジほどではない一毅は孫を片手で持ち上げそのまま勢いよく地面に叩きつける!

 

「ぐっ!」

 

だが顔をしかめたのは一毅の方だった。孫は一番遠心力などの力が低い瞬間を見計らい孫は一毅の緋鬼との戦いで付けられた傷に蹴りを叩き込んだ。そうすることで思わず手を離したため実際見た目ほど地面には強く叩きつけられた訳じゃない。

 

「やっぱおもしれぇなぁお前らぁ!」

 

そう叫ぶ孫は一毅に襲いかかる…が、

 

「っ!」

 

突然の砂塵吹き、孫は思わず目を瞑る。

 

「くっ!パトラァ!」

「儂を忘れたのが運の尽きじゃ」

 

更に、その砂塵の中孫は僅かに開けた目で見た……長い黒髪を揺らし、巨大な大鎌を振り上げる美女……

 

「っ!」

「ハァ!」

 

ヒュン!っとカナの大鎌……スコルピオ横凪ぎ一閃!

 

「あ……う……」

 

すると突然孫が膝を着いた。見たところ傷はない。まさか……

 

「脳震盪を起こさせただけよ。顎をかすらせてね」

 

とカナはにっこり笑い、キンジと一毅は一先ず孫の動きが止まったことに安堵すると共にこれでどうするんだ?と目で問う。

 

それに対してカナは分かってるとばかりに頷き、

 

「安心しなさい。これで終わりじゃないわ。キンジ、私があげた緋色のバタフライナイフを使いなさい」

「これをか?」

 

そう言ってキンジはいつも持ち歩くバタフライナイフを懐から出すと気づく……緋色の光が点っていることに。

 

「それを孫に近づけて」

 

そう言われキンジはナイフを孫に突きつけるとパトラが何かを呟いた。するとナイフの刀身が更に強く光り、孫が苦しみだす。

 

「や……めて……キ……ンジ……」

「っ!」

 

わざとアリアの口調で言う孫にキンジは僅かに動揺するが今度は油断しなかった。寧ろ殊更強くナイフを突き付けた……次の瞬間!

 

『なっ!』

 

突然のことにその場の全員が驚愕する……何故なら突如孫はキンジが突きつけていたナイフの刀身に噛みついたのだ。

 

「ちっ!」

 

それを見た一毅は慌てて孫に近寄ると引き剥がす……だが孫は満足げに笑った。

 

「これで、もうそれは使えねぇ……次は……もう防げねぇだろ……」

 

孫は呪詛のように呟くと……ゆっくりと目を閉じた。それを見てパトラが息を吐く。

 

「緋緋神は去ったようじゃな……じゃが」

 

パトラはキンジのナイフの刀身を見た。一毅も見てみれば既にそれは緋色の刀身ではなくただのナイフの刀身となってる。

 

「それはもう使えないわね」

 

と、カナが言うとパトラも頷いた。それを聞いたキンジはナイフをしまいつつ、どういうことかと問うと、それにはカナが答えた。

 

「それは元々星伽が遠山にくれた匕首である使うイロカネトドメを打ち直したものなの。まぁちょっとした緋緋色金の発動なら抑えられる色金関連用のお守りみたいなものね」

 

そうカナは言いつつ続けた。

 

「ただほぼ無制限に使える上に強力なイロカネアヤメと違ってそれは有限なのよ。この一年大質量の緋緋色金の持ち主と何度も出会ってるでしょ?だから大分力が弱くなってたんだと思うわ。それに加えて最後に無理矢理力を緋緋神が使わせてもうこれを使えなくしたと言ったところでしょうね……」

 

カナは一通りの説明を終えると、キンジはアリアを抱き上げた。

 

「なぁ、じゃあもう打つ手は無しなのか?」

 

これが使えないと言うことはもう緋緋神に出られたらアリアを戻せない……つまりアリアが討伐されると言うことだ。それに対してカナは首を横に降って否定した。

 

「いくつか方法はあるわ。まず緋緋神に覚醒する条件は二つ。戦と恋……ならばあなたとアリアがもう会わないこと……あなたへの恋心で覚醒したのでしょう?ならその根本を絶つ……アリアが武偵であれば覚醒するほどの戦……と言うかこの場合殺し合いなんだけどそうなる可能性は少ないでしょうけど……それでは納得しないでしょ?」

「あぁ……」

 

キンジがうなずくとカナは、ならばと言葉を続けた。

 

「ならキンジ、神崎 かなえに会いなさい」

「かなえさんに?」

 

突然告げられたのはアリアの母である神崎 かなえの名前だった。驚愕したキンジの復唱にカナは頷きを返し言葉を続けた。

 

「貴方も可笑しいと思わない?何故彼女があれだけ証拠を揃えても未だ有罪なのかを」

「それは……」

 

確かに可笑しいとは思っていた。明らかに異常なのは分かっていた……だがその理由はわからないままだった。しかしこのタイミングでそれを出すと言うことは……

 

「緋緋色金関係なのか?かなえさんが釈放されない理由は……」

 

キンジの言葉にカナは肯定の意思を示す。

 

「正確には彼女は教えられただけ……何処までかは判らないけど少なくとも私達より深く緋緋色金の知識をね」

「教えられた?」

 

緋緋色金のことを自分達以上に理解した人物がいる……カナはそう暗に言っているのだ。まだ分からないことが多く、シャーロックですら読みきれないと言った緋緋色金を……

 

「彼女に会いなさいキンジ」

「なぁ、その前に何者なんだ?かなえさんに緋緋色金のことを教えた人物って言うのは……」

 

キンジは問う……それにカナは答えた。

 

「アリアの妹、メヌエット・ホームズ……アリアがシャーロックの【武】を受け継いだのならその逆……メヌエットはシャーロックの【知】、この場合頭の良し悪しではなく、【推理力】を受け継いだ者よ」




久々の更新にキャラのしゃべり方とかその辺からちょっと四苦八苦しつつ再開です。


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龍と希望

緋緋神への覚醒から次の日……キンジとあの後すぐに目を覚ましたアリアに一毅はアリアの母、かなえさんがいる拘置所に来ていた。

 

さっさと手続きを済ませ、面会場所に通され待つこと五分……かなえさんは監視役に連れられてやって来る。

 

かなえさんはアリアを見たあとキンジと一毅も見た。こうして直接会って話すのは四月ぶりだ。だがかなえさんもこっちを覚えていたらしく、

 

「あら?貴方たちは前にも……アリアはまた友達をつれてきたのね?」

 

ふふ……と柔和な笑みを浮かべるかなえさんにキンジは時間がないとアリアに眼で合図し了承を得ると口を開いた。

 

「昨晩アリアが緋緋神に覚醒した」

「っ!」

 

そうキンジが言葉を発した次の瞬間、浮かべていた柔和な笑みが一転し、かなえさんの笑みが凍りつく。事態を飲み込むのに少しの間を置き、かなえさんは先程までの笑みをやめ、表情を引き締めた。

 

「戦い……ではないでしょうね。誰でなったの?」

「俺でだ……多分……」

 

自分でなった……それはつまり戦ではない以上アリアは自分に恋心があると公言するようなものなため最後の語尾が思わずキンジは弱くなる。

 

因みにアリアは既に顔が真っ赤だったがそんな二人を見てかなえさんは息を吐く。

 

「何時までも子供だと思ってたけど……アリアもちゃんと成長してたのね。良くも悪くも……」

『……』

 

かなえさんの言葉に三人は目を伏せた。だが何時までもそうしているわけにはいかない。これからどうするかを考えなければならないのだ。

 

「なぁかなえさん。あんたは何を知ってるんだ?どうやったら緋緋神を倒せる?」

「そうね……私が知ってることは全てではないと言うことは最初に言っておくわ。寧ろ知らないことの方が多い。ただ緋緋神と言うのは緋緋色金介して所有者に乗り移る精神体のようなもの……つまり此方から干渉する方法はない存在よ」

「それってつまり……」

 

キンジが代表して言葉を発したがアリアも馬鹿といわれる一毅でもかなえさんの言わんとしてることがすぐに理解できた。

 

「そう。緋緋神が宿った肉体を殺すことはできる。でも緋緋神自体を殺すどころか倒す方法はない。キンジさん、緋緋神を倒すのは不可能なの」

「っ!」

 

ギリッとキンジは強く歯を噛み締めた。冗談じゃない。緋緋神に直接的に干渉する方法がないのだとしたらアリアはこれからずっと緋緋神に乗っ取られる可能性をもって生きていかなければならないと言うことだ。そんなのあんまりすぎる。

 

「だからアリア、キンジさん……二人はもう会わないようにしなさい。そうすれば恋心で緋緋神に乗っ取られる事はないわ」

「じゃああんたはこれからアリアはずっと一人でいろってことかよ!」

「そうは言ってないわ!でも恋はダメ……同性のパートナーを探せといっているのよ!」

「まだ長い人生の中ずっとかよ!これからアリアは誰も好きにならずにチベットの修行僧でもやってろってのか!そんなの無理だろ!」

「ふ、二人とも……」

 

思わず二人は声が強くなり、アリアはオロオロとフォローしようとしている。

 

二人ともアリアのことを考えてる。だがどちらも意見がぶつかるのに引くわけにいかない状態なのだ。

 

キンジは一人の男として……かなえさんは一人の母として……

 

そんなときだった。ずっと黙って取り合えず事態の把握に思考の全てを使っていた一毅が口を開く。

 

「ったく……これじゃもう神様にでも頼んで緋緋神におとなしくしてもらうように言うか?同じ神様なら少しは話聞いてくれるだろ」

 

そんなことできるわけないだろ……そうキンジが口を開きかけたときだった。

 

「それだわ……」

『え?』

 

突然のかなえさんの呟きに三人はどう言うことかわからない。そのためどういう意味か問うように見た。

 

「可能性の話よ……この世界のある色金は緋緋色金だけじゃない……これは知ってるかしら?」

 

その問いに三人はうなずく。ちらっと玉藻に聞いたが確か……

 

「ウルスが所有する璃璃色金と……あとどっかにある瑠瑠色金……だったはずだ」

 

キンジがそう言うとかなえさんは説明が省けて助かるといった風に頷いた。

 

「そう、ならば考えてみて?緋緋色金介して干渉する緋緋神がいるなら……それらの色金を介して干渉する他の神はいないのかしら?」

『っ!』

 

ここまで言われて三人もかなえさんの言いたいことを理解した……つまり緋緋神がいるなら璃璃神や瑠璃神もいるんじゃないかと言うことか。

 

「飽くまで可能性よ……確かなことはないし瑠璃神や璃璃神がいるなんて聞いたことがない。多分メヌエットならきっとわかるんでしょうけど」

「やっぱりメヌには一度会わなきゃいけない……か」

 

昨晩にも言われた人物であるメヌエット・ホームズはアリアの妹らしい……年は14歳で推理力が高く性格が悪い(アリア談)とのことだがとにかくそっちに会いに行けば更なる情報がつかめると言うことか……

 

「あとどこにあるか分からない瑠瑠色金もな……」

 

キンジはそう言うとこれは前途多難だな……と息を吐く。だが希望も同時に見えてきた。とにかく今は璃璃色金の発見と、メヌエット・ホームズに会うことが必須だと言うことだ。

 

(また命懸けにならなきゃいいけどな……)

 

と、まぁ無理だろうなとキンジは一人静かに覚悟を決めるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り合えずどうする?」

 

その後、面会時間が終わったため拘置所出てきたキンジたち三人はこれからのことを話し合おうとしていた……が、

 

「見つけたのですよ……アリア女史ぃ……」

 

ん?と突然声を掛けられ三人は声の方を見た。

 

その先にいた二人組の男女だ。片方の女はトレンチコートを引き摺りそうなほど小さい……そんな相手にアリアは「うげっ……」と呟いた。

 

「誰だ?」

「銭形 乃梨……外務省勤務の、まぁ滞在中の私専用の連絡役みたいなもんよ」

 

キンジの問いにアリアは短く答えた。すると銭形は歯をギリギリさせながら地面を踏む。

 

「全く!どれだけ苦労したか……あなたが急に病院から姿を消してくれやがったお陰で始末書を書かされたのです!まあそれは今はおいておくとして……さぁアリア女史!貴方には国外退去命令が降りてるのですよ!」

『んなっ!』

 

突然言われた言葉にキンジと一毅は目を見開いた。なぜこんなときにそんな命令が降りたのだと言う目……だがアリアは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる辺り知っていたらしい。

 

そんな三人の反応を尻目に銭形は自分の懐をガサガサ漁る。

 

「序でに内閣総理大臣直筆の書類もあるのです!……ええと……」

「これやろ?」

 

そういって今まで沈黙を保っていた金髪をオールバックにした大柄な男が懐から一枚の紙を出しアリアに放り投げた。

 

「確かに本物みたいね……」

 

アリアはそれをキャッチすると、ざっと目を通しその大柄な男を見る。

 

「で?あんた誰よ……」

 

キンジと一毅はアリアも知らないのか?と思いつつその男を見た。この男はさっきも言ったように銭形とは反対の大柄で刀を鞘に入れたまま肩に担いでいた。

 

鞘の装飾から見るに相当な値打ちものだと思われるがそれ以上に服の上からでもわかる発達した筋肉に一毅以上のガタイで霞みそうなほどだ。

 

そんな男は頬を掻きつつ口を開く。

 

「まぁ……名乗るのは礼儀やしな。ワイは郷田(ごうだ) 龍騎(りゅうき)……正式に名乗るんなら【内閣特別警護官】郷田 龍騎や。ほなよろしゅう……」

 

そう大柄な男は深々と頭を下げた……だが三人は気づいていた。この男に一片の隙もない。そして強いと言うことも……もし一瞬でも殺気を見せれば、次の瞬間には自分達が殺されることを……



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金達と援軍

内閣特別警護官……そんな役職は表向き存在しない。だが飽くまでそれは表向きだ。殆ど一般的には都市伝説扱いをされ、稀に噂になるがそれだけと言えばそれだけ……よく聞く陰謀説と同じようなものだ。

 

何をしているのか……どうやったらなれるのか……そもそも存在してるのかも全てが謎。

 

だがそんな噂程度の役職の男が目の前にいる……と言うのに三人は驚きを隠せなかった。

 

「さて……神崎 H アリアに用はないんや。ワイが用があんのはお前ら二人でな」

 

そういって郷田 龍騎と名乗った男はキンジと一毅を見た。

 

「ふん。よう似とるのぉ……金叉はんと一明はんに」

「っ!父さんを知ってるのか!?」

 

郷田の口から語られたのは父の名前……その言葉にキンジは思わず反応する。

 

「よう知っとるわ。これでも前は武装検事やってたんや。若い頃にお前らの父親には世話になったんよ」

 

そう言いつつ郷田は懐から煙草を取り出し一本出すと次はライターを取り出して火を着けた。

 

「せやからほんまに心が痛むわ……」

そう言い郷田は煙草を加えたまま刀の鯉口を切る。

 

「お前らを今から始末するんやからな」

『え?』

 

三人が声を漏らした次の瞬間!キンジの目の前に郷田が刀を抜きつつ迫った!

 

「キンジ!」

 

一毅は咄嗟にキンジと郷田の間に入り殺神(さつがみ)を鞘から半分抜いて(と言うか抜ききる暇がなかった)防ぐ。

 

「ほぉ?中々ええ反応するやないか」

「ぐっ!」

 

ギリギリと押し合いを演じるが一毅は郷田の押してくる力に圧倒されないように必死だった。まだ傷が全快してないとは言えここまで圧倒的な力を感じるのは呂布以来のことだ。

 

「ふむ……なら少し力いれよか」

「っ!」

 

そう言った郷田の上腕がミキミキと隆起し力を込めてくる。

 

「ぐっ!」

 

必死に押し返そうとするが郷田は子供を抑えるかの如く一毅を押し始めた。

 

「一毅!」

 

そこに一毅の後ろからキンジが飛び出しハイキック……が、

 

「むっ!」

 

パシッとそれを簡単にキャッチし止める。更にその間も片手で一毅を押すことを止めることはない。

 

言っておくが、一毅は両手で押し返している……

 

「この!」

それを見かねたのかアリアがガバメントを抜こうとした。そこに!

「っ!」

 

ビシッ!っと地面に何かがめり込みギクッとアリアが動きを止めた。

 

「アリア女史。お前は動くななのです」

 

チャリ……と手の中で金属が擦れたような音をならしながらアリアを見るのは銭形だ。

 

「内閣特別警護官の仕事は基本的には政治家……特に内閣総理大臣を筆頭とした与党幹部の護衛……と詠ってはいますが実際は事前に日本の不利益となる存在の抹殺も許されているのです。しかもそれは警護官個人の裁量でも決めてよいとなっています。武装検事や公安0課も殺しの自由が与えられていますがあくまでも向こうは証拠を揃え、且つそれなりの手続きが必要……でもあいつらは違う。完全に自由に殺しを許可された……いや、寧ろ殺せと言われている存在。それがあいつなのです。あいつに邪魔と判断されて間違って殺されたら始末書じゃすまないのですよ」

 

そういって二人は睨み合う。銭形は身なりこそ幼く見えるが有事の際には自己を守る術をきっちり持っている。少なくともアリア自身が逃げても追いかけ半ば強制的にでも自分を連れていくと言う手を選択肢に入れられるくらいには……

 

「さぁアリア女史!お前はこっちにくるのです!そいつらの始末は日本の問題なのですから!」

「ふざけんな!」

 

二人が言い合いながら隙を伺う中でも一毅とキンジは郷田一人に苦戦を強いられる。

 

「この!」

 

一毅は腰から神流し(かみながし)も抜き二刀流となると郷田の体を狙う。

 

「ふん!」

 

だがそれを郷田は体を捻って躱しながら掴んだキンジの足を振り一毅にキンジをぶつける。

 

『カハッ!』

 

そのまま後方に吹っ飛ばされた二人だがキンジの方が先に体を起こしベレッタを抜く。

 

「なんや?」

 

パンパンと乾いた音が響くが郷田は刀を軽く振って弾く。

 

「ダメか……」

「当たり前やろ?こんな曲芸誰でもできるわ」

 

そういってキンジの呟きに律儀に返した郷田は刀を持ち直し爆走。間合いを一気に詰めた……その次の瞬間だった。

 

「あん?」

 

プップー!とクラクションが鳴り入ってきた1台の車に郷田は吹っ飛ばされのだ!

 

「乗って!」

 

そして郷田を轢いた車のドアが開くと中にいたのは、

 

『理子!?』

 

キンジと一毅が思わず驚いてポカンとするが理子の声で正気に戻される。

 

「急いで!逃げるよ!」

「っ!分かった!アリアも行くぞ!」

「うん!」

キンジは素早くアリアにも指示を飛ばすと一毅を押しながら理子が持ってきた車に飛び乗った。そして、

 

「捕まってて!」

 

グン!っと理子はアクセルを踏むと一気に加速する。

 

「……」

 

キンジが後ろを振り替えるとそこには地団駄を踏む銭形と車に轢かれてもピンピンしてる郷田が立ち上がるところだった。

 

「マジで化けもんだな……」

 

キンジはそう呟きつつ前の運転席で運転してる理子の方を見る。

 

「しかしよくここが分かったな」

「と言うかみんな急に三人が消えるから探し回ってたんだよ。そしたら理子が偶々見つけたの!」

と、プンプンと言う効果音が似合いそうな口調で言う理子にキンジはスマンスマンと素直に謝るしかない。

 

「今度理子の買い物に付き合ってもらうからね」

「わかったわかった……って、アリアなぜ俺をにらむ……」

 

キンジは助手席から態々振り替えって睨み付けてくるアリアに若干ビビるが平静を装う。

 

「しかし銭形 乃莉かぁ……」

「なに理子、あんた知り合いなの?」

「ん~?パパの代でちょっとね」

 

そう言って理子は苦笑いを浮かべる。これを見る限り相当な、なにかがあったようだが突っ込まないでおこう。

 

そう理子以外の三人が思った次の瞬間!

 

『っ!』

 

ビシィ!っと突然リアガラスにヒビが走り、四人は慌てて振り替える。そこには……

 

「待つのです!アリア女史ぃいいいいいいい!」

『いぃ!』

 

パルルルルルル!とエンジン音を響かせ爆走する銭形 乃莉がいた。

 

「あいつら足も用意してたのか!」

「逃げるななのです!」

 

キンジが驚愕してる合間にも銭形はなにかを投げつけてくる。

 

「うぉ!」

 

遂にリアガラスは完全に割れ、風が舞い込んで来た。さっきからなにを投げつけているんだ?等と思いつつもそれを調べる余裕はないためキンジはベレッタで応戦する。

 

だがピンチと言うのは立て続けに来るようで……

 

「なっ!」

 

ドン!っと上から音がしたかと思えば次の瞬間刀の刀身が突き破ってきた!

 

「ぐっ!」

 

咄嗟にキンジと一毅は体を捻って回避しつつ、体を窓から出して車に飛び乗った郷田を視界に収めた。

 

「悪いが満員だ!」

 

そう言ってキンジがベレッタを向け発砲……だが、

 

「むっ!」

 

刀を引き抜いた郷田は軽くその弾丸を弾く……しかしその隙があれば、

 

「悪いな!」

「ぬっ!」

 

今度は一毅が郷田のズボンの裾を掴み引っ張った。さらに!

 

「落ちろぉ!」

 

グィン!っと理子がハンドルを右へ左へと回し車体を振る……流石にここまでやられれば郷田も体勢を保てず……

 

「くっ……」

 

車から落ちた。

 

「今だ!もっと飛ばせ!」

「もう限界だよ!」

 

郷田が落ちたのを確認してからキンジは理子に指示を飛ばしたが既に車は限界速度に達している。幾ら叫んでも速度は変わらない。しかし、

 

「ん?」

 

一毅は新たに別の音が近づいてくるのを聞いた。それは車のエンジン音ではなく……

 

「ヘリだ!」

『っ!』

 

そう。ヘリのローター音だ。素早く他の3人も一毅の視線の先を見ると、その先には確かにヘリが飛んできていた。

 

「おい!撃ち落とせないのか!」

「無茶言うな!」

 

一毅にそうキンジは返しつつヘリを睨み付ける。そしてそのヘリは一気に速度を上げるとキンジ達の進行方向に着陸する。

 

「ちっ!」

 

流石に突っ込み訳にはいかず、理子が急ブレーキをかけてとまる。遠心力でぶん回されそうになりながらもキンジはヘリの方を見る。

 

ヘリから降りるのは黒いコートに身を包んだ明らかにただ者ではない男……

 

「ヤバイわね……」

 

完全に動きを止めた車で先に口を開いたのはアリアだった。

 

「多分MI6の奴よ……前に見たことがあるわ」

「おいおい……俺達を追い掛けるだけで随分お迎えが丁寧過ぎやしないか……」

 

そう言いつつキンジとアリア……それに続くように一毅と理子も外に出た。

 

「で?どうするの?」

「こうなったら今はやるしかないか……外交問題待ったなしだけどな」

 

そう言ってキンジはベレッタを構える。しかし、

 

「おい、後ろのやつらも追い付いてきたぞ……」

 

一毅がキンジと背中合わせになりながら見るのは追いかけてきた郷田と銭形までいた。

 

「おいおい……MI6が何しとんねん。ここは日本やで?」

「ふん……何を今更。我々は神崎 H アリアを連れ戻しに来ただけだ。そちらこそ随分本気じゃないか……総理最強の懐刀言われるお前が出張るとはな」

 

顔見知りだったらしい二人は他愛のない?会話をするが隙がない。こちらが動けばすぐにでも攻勢に移るだろう。

 

「流石に大ピンチって奴よね……」

「あぁ……」

 

アリアの言葉にキンジが返す。どうにかしてこの場面を逃げ切らねば自分達は殺され、アリアは連れ戻される。理子風に言うならバットエンドと言うやつだ。そんな事をさせるわけにはいかない……

 

そうキンジが思った次の瞬間!

 

「ふふ、お兄ちゃん……助けに来たよ?」

「え?」

 

背後から聞こえた言葉にキンジは思わず振り替える。すると突然バチバチと音をたて、目の前に姿を現したのは……ボブカットのクリッとした眼をした可愛らしい顔立ち……見間違いじゃない。彼女は、

 

「かなめ!?」

『え!?』

 

キンジの声に他の三人もなぜかなめが?と驚き、その方向を見た。

 

「私だけじゃないよ?」

 

そうかなめが言うとまた背後の方でドゴン!っと言う音と共に地面が振動するような感覚……今度はあっちかと振り向き直すとそこにいたのは……機械?

 

「何者だ……」

 

突然現れた物に警戒心を抱くMI6の男に、機械は高らかに宣言する。

 

「I am USA!」



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金と弟のSOS

「はぁ……今回こそは死ぬかと思った」

 

ふらついた足取りで実家の門を開けたのは、今回もどうにか生き延びたキンジで、その後ろには一毅やアリア、理子にかなめ達がいる。

 

さて、前回《内閣特別警護官》やら《MI6》やらに追い詰められたものの、突如現れたかなめや機械人間(後で聞いたら、あれはアーマーのようなもので中にはアトラスと言う男が入っていたらしい)が乱入し、暫くにらみ合いが続いた後にこれ以上の戦闘は人が集まるとの理由で解散となりその後MI6と郷田、銭形はどこかに消え、アトラスはアーマーを隠すため帰っていき、かなめだけが残った。

 

「そう言ってキー君死なないくせに~」

『うんうん』

「やかましい!」

 

とまあそんなわけでふらつく足取りで帰ってきたキンジ達だが、さてこれからどうしたものか……と、頭を悩ませている。

 

そんな中でも実家に戻ってきた理由は、なんとGⅢ……もとい、金三が実家で待っているらしいのだ。

 

アレの性格上本人も乱入してきそうなものだが、それがなかったのは理由があるのだろうか……等と考えつつ奥の部屋に入ると、

 

「おぅ、兄貴。待ってたぜ」

『なっ……』

 

部屋に入るとそこには金三と、確か九九藻?とか言う玉藻の親戚みたいなやつが居た。それだけならまだいい。一番驚いたのは、GⅢが全身包帯グルグル巻きのミイラ状態でキンジの部屋に寝そべっていたのだ。

 

「お前どうしたんだ?」

「ん?まあ……ちょっとドジってな」

 

ヨイショっとGⅢは立ちあがり首をコキコキと鳴らす。見た目より怪我は良いのか……それとも痩せ我慢か?

 

まあコイツの性格を考えれば限りなく後者だろう。

 

「ちょっとドジった何て言う怪我かよ。誰にやられたんだ?俺が仇を討ってやるよ。まあ色々今立て込んでるからそれが終わってからになるが……」

「まぁそう急かすなよ。どちらにせよその辺の話をしに来たんだ」

 

と、キンジに仇を討ってやると言われたのが嬉しかったのかGⅢはにやつきながらそういった。

 

「まあまあ取り合えず何でこうなったのかを……だな?まあいっちまえばあるやつと戦ってやられたんだが……」

 

おいおいマジかよ……キンジだけではなく周りにいた他の面子も頬がひきつる。

 

GⅢの強さはよく知っている。特にキンジは殴りあって勝ったものの運が良かったと今でも思うくらいだ。 そのGⅢ相手にここまでやったのか?

 

「良いとこまでは行ったんだがよ。あと一歩が足りなくてそんで兄貴に力借りようと思って来たんだ」

「成程な……」

 

それでわざわざこんなボロボロ状態の体で寝転んで待っていたわけかとキンジは一人納得した。だが、

 

「だがなGⅢ……協力したいのは山々なんだが今言ったみたいにこっちも立て込んでてな……探さなきゃならんもんがあるんだ」

 

そうキンジは言った。先程仇を討ってやると言ったが、今急いで片付けなければならない案件は色金関係だ。それ片付けないことには……

 

すると、そんなキンジの様子を見たGⅢはニヤリと笑う。

 

「兄貴が探してんの……瑠璃色金か璃璃色金だろ?」

「っ!」

 

何故それを……と言う言葉が詰まるほどキンジは驚愕して眼を見開いた。

 

だがそんな反応を面白そうにGⅢは見ながら、

 

「俺も色金関係が必要なもんでな。んで色々調べてる過程で見つけたのさ。恐らく所在がはっきりしない唯一の色金と思われる物が保管してある場所がな」

「それって……」

 

アリアの緋緋色金、ウルスが所有するらしい璃璃色金、そして最後に来ると言えば……

 

「璃璃色金か?」

「そう言うことだ」

 

パンっと膝を叩きニッと笑うGⅢ……しかし、

 

「だが何で俺が探してるって知ってるんだ?」

 

そう、キンジの疑問はそこだった。そこが一番の疑問点、まさかテレパシー持ってるわけじゃあるまいし……

 

等と考えているとGⅢはソッと耳打ちしてきた。

 

「神崎 H アリアも危ないんだろ?」

「っ!」

 

GⅢの言葉にキンジは唾を飲んだ。成程、いきなり近づいてきてなにかと思ったがGⅢなりに気を使ったらしい。アリアも自分の状態は知ってるからな……相変わらず口は悪いが中々気を使えるやつじゃないか。等と思いつつキンジはGⅢの話を聞く。

 

「驚くことじゃない。うちの九九藻はその辺に詳しいしな。緋緋神が色金を介して干渉する精神体みたいなものだとかくらい調べはついてる……そして場合によっては緋緋神に意識を乗っ取られる危険があることもな。んで神様のことは神様にでも頼もうってなる……違うか?」

 

やっぱお前テレパシー持ってるだろ……と思わず突っ込みたくなる弟に、キンジは苦笑いを浮かべる。

 

「分かった。なら一枚噛ませて貰うよ。しかしよくそこまで分かるもんだな」

「弟だからな、兄貴の考えくらい分かる」

 

ふん!っと偉そうに鼻をGⅢを見つつキンジは肩を竦めた。どうしてこううちの弟(GⅢ)といい(かなめ)といい重いんだろうか……

 

等と考えつつ、ふと周りを見渡すといつのまにか一毅達がソッと距離を置いているではないか……

 

「なにしてんだ?お前ら……」

「いや、俺たち邪魔者かなって」

 

は?とキンジは首をかしげたが、よく考えてみればGⅢはキンジの肩に顎をおき、耳打ちしている……この光景、確かに兄と弟で抱き合ってるように見えるのだ!

 

「お前ら……なんか変な考えかたしてないか?」

『キノセーキノセー』

 

と、片言で返してくる面子にヒクヒクと頬が動くが、敢えてそこは黙っておく……下手に喋れば墓穴を掘りかねないからだ。

 

すると、

 

「キンジ」

「ん?どうしたんだ?婆ちゃん」

 

ヒョコっと顔を覗かせたのはキンジの祖母のセツさんで、それを見た瞬間アリアと何故か理子までビシッと背筋を伸ばしにっこり笑った。

 

「あら可愛らしいキンジのお友だちが増えたわね。あ、そうそう。キンジのお友達がたくさん来たから上がってもらったわよ?」

「友達?」

 

と、キンジが首を傾げると現れたのは……

 

『いたぁ!』

『げっ!』

 

キンジだけではなく思わず一毅とアリアまで眼を見開き驚愕……そう、そこに現れたのは既に見飽きる程見たいつもの面子……と言うかお前ら、人を見た瞬間指差すなよ。

 

何てキンジは思っていたが、いつもの面子はピタリと動きを止め……そして!

 

『キンジ(さん)(先輩)が弟にまで走った!?』

「ちがうわぁああああああああああ!」

 

皆の失礼すぎる発言にそこは全力で突っ込んでおく。と言うか陽菜、お前はなに泡を吹いて固まってるんだよ……リサも私は気にしませんみたいな眼を向けんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急に消えるから心配したんですからね?」

 

と、言ったのは辰正で、その言葉に他の面子もそれに合わせ頷く。片手にはキンジの祖母のセツさんお手製のいなり寿司付きだ。

 

「それで今度は何あったんですか?」

「まぁ……色々あってな。ちょっとMI6とか都市伝説だと思ってた内閣特別警護官に追いかけ回された」

 

いやほんとになにしたんですか……と聞いてきたあかりだけではなく他の皆も眼を細めながらそんな視線を向けてくる。

 

「と言うわけで俺はちょっとGⅢと一緒に行くことになりそうだ」

「何かあるんですか?」

 

と聞いてきたのは志乃で、それにキンジは頷いて返す。

 

「そこに璃璃色金があると思われるらしいからな」

 

と、何て言うことの無いようにキンジが言う……すると、

 

『いろかね?』

 

と首をかしげたのは一年ズ……それを見てあれ?とキンジが首をかしげた。

 

「あれ?話してなかったっけ?色金関係のこと……」

『全然知りません』

 

あるぇええええええ!?っとキンジは思わず口に出しそうになったのを飲み込む。因みに一毅やアリアもあれ?話してないんだっけ?みたいな感じである。

 

動じてないのはレキと、ヒルダから少しだけだけど聞いたよ~っと手を振る理子……星伽から帰ってきてないためここにはいないが白雪も多分知ってるだろう。なんか色金の関係者っぽいし……

 

「兄貴……あんたその辺の説明なしでこいつら巻き込んでたのか?」

 

と若干一年生達に同情めいた視線を向けるGⅢにキンジは頭を掻いた。

 

いやはや何か色々あったしこいつらも知ってるつもりだったけどその辺の話を全くしてなかったか……となれば、

 

「よしお前ら。今言ったことは忘れて速やかに帰宅しろ。おつかれさーん」

『できるか!』

 

ですよね……とキンジは肩をすくめ、少し真面目にやるかと眼を細めた。

 

そんなキンジを見て一年生達も背筋を伸ばす。

 

「良いかお前ら。今の忘れろって言うのは別にふざけてたわけじゃねぇ。この一件で俺はさっきまで地獄の逃走劇してたわけだからな」

 

ゴク……っと誰かが息を飲んだ。それを聞きつつキンジは言葉を続ける。

 

「お前ら。ここからが一線だ。この一線を越えたらお前らも眼をつけられるだろうな。だからお前ら……少しでも嫌ならすぐに帰れ。そして忘れろ」

 

そうキンジは言った。MI6や内閣特別警護官のヤバさは身をもって味わった。これ以上こいつらを巻き込むのは余りにも危険すぎる。

 

そう思ったのだが、

 

「聞かせてください。ちゃんと」

 

最初に口を開いたのはあかりだった。そしてそれに続くように、

 

「俺も聞きます」

 

口を開いたのは辰正で、それを皮切りに皆は言葉を発さずとも、眼を見れば分かる位真剣な顔で頷きを返した。それを見た一毅はニヤリと笑い、

 

「だそうだぜ?|キンジ先輩」

 

そうキンジに言い、キンジはため息を吐く。それから、

 

「なら話す。だがまだ判明してないことも多くてな。わかってることだけの話しになるぞ?」

 

そうキンジは前置きをしてから話し出す。

 

色金のこと、その内緋緋色金は元々はシャーロックが持っていたが今はアリアの胸にあること、そしてそれを介して宿主を操る緋緋神の存在、最後に完全に操られるまで時間がないことも……

 

それをすべて話し終え、キンジはリサが淹れ、置いてくれたお茶を飲んだ。

 

「何かまだ私たちの知らない事情がありそうな気はしてましたけど……」

 

と、口を開いたのはライカで、他の一年も今までモヤついていた物の正体が分かったと言う感じだ。

 

「まあそう言うわけだ。はっきり言って今回の話はやべぇぜ?何せ相手は神様だからな。しかも戦のだ。しかもアリアに乗り移ったときの奴は猴の比じゃない。俺と一毅と俺の兄とその嫁さんの四人がかりで一時的に追い払ったけど同じ方法はできない。そしていつまた乗っ取られるかも分からない。んで、まず他の色金にも同じような神様が居ないか探すのと一緒にその一件について詳しいと思われる人物に話を聞きに行こうって話だったんだよ」

 

と、キンジは一気に言うと、またお茶を啜った。すると、今度は志乃が口を開いた。

 

「それでGⅢさんとはどこへ?」

「アメリカだ。んで、色金関係に詳しいやつがいるらしいんだが……」

 

そいつには私が会いに行くわ。とアリアが口を挟み、キンジは大丈夫なのか?と聞くと、

 

「仕方ないわ。知らないやつが言っても危ないからね」

 

と、遠い目をしながら言うアリアにどう言うことだ?と聞くが、まあちょっとねとはぐらかされてしまう。気になるが余り突っ込んでも教えてくれない感じだろう。すると、

 

「じゃあ今回はみんなで別れる感じですか?」

 

と言うライカの問いに、キンジは苦笑いしつつ答えた。

 

「いや、今回はチーム単位では動かない」

 

え?と、一年たちにはキンジの言葉に首をかしげられた。それに対してキンジはため息をつく。

 

「お前らな。今俺はMI6や内閣特別警護官に追われてるんだぞ?一緒にいきたいか?」

『……』

 

ス……と視線を外す一年生たちに、若干薄情なやつらと自分から言っといてなんだが思ってしまうのは我が儘だろうか……ってそれを言いたい訳じゃない。

 

「と言うのは半分冗談としてだ。今回のは一旦は俺の場合アメリカに行くがその後どうなるかわからん。それこそ世界中を飛び回る可能性だってない訳じゃないんだ。だから固まって歩くよりある程度人数を絞った方がいい。そして向こうから別の場所に行かねばならんときはそれぞれの体調をみて場合によっては日本に帰らせて別のやつと現地で合流……って言う風にしていった方がいいと思うんだ。何せアメリカにはGⅢの仲間もいるから頭数だけならそこまで切羽詰まってないしな」

「であるならば師匠。どのようにメンバーを分けるのでござるか?」

 

そう陽菜が言うとキンジはさらに口を開く……が、

 

「俺の方には一毅が……」

「あとは私も行きます」

 

と、いきなりしゃべったのはレキだった。その突然の言葉にキンジは驚くが、レキ曰く少々気になることがあるらしい。

 

まあレキのスナイパーとしての能力はあって困ることはないだろうと言うことで了承し、アリアをみた。

 

「アリアもだれか連れてけよ」

「でも……いやそうよね」

 

こっちの方は最初からドンパチしに行くのが前提だが、別にアリアの方はドンパチしに行く訳じゃない……だがそれでもMI6も動いてた以上行くなら誰かいた方がいい。流石にMI6とまともにやりあえるやつはいないが誰かがキンジたちにSOSを出すことは出来るし、こっちが動けなくても日本に残ってる奴等で援護に向かうことができる。そう言う点から大勢で行くことは出来ないが少し位は誰かと一緒の方が安全だろう。

 

「ならあかりと……あと辰正いきましょ」

「あ、はい!」

 

と、アリアの声掛けにあかりは殆ど条件反射に返事をしたが、うぇ!?っと声を辰正は漏らした。

 

「俺っすか?」

「荷物持ち兼肉壁ゲフン!にね。あんたが一番あかりと連携が取れるし」

「いま肉壁って言いませんでした!?」

 

気のせいよ……と目をそらしてアリアは流す。まぁ辰正は何だかんだでもうそう言う役回りだし……

 

「まあ安心しなさいよ。こっちは別に戦いに行く訳じゃないわ。序でに観光くらいできるわよ?」

「……」

 

アリアにそう言われ辰正が黙る中、何故彼女が彼をつれていこうとしたのかをあかり以外の面子は理解した。

 

ようはコイツ、余りにも亀の歩みすぎる二人に気を使ったと言うことか……確かにこの二人中国の一件以降明らかに意識しあってると言うのに付かず離れずを繰り返しているため非常にもどかしい。

 

全く、とっとと素直になってくっつけばいいものを……ん?人のこと言えるのかだって?聞こえんな。

 

(それにしてもGⅢを倒したやつか)

 

一先ず話を終え、キンジは一息つきながら背後で包帯が鬱陶しいと外そうとして九九藻に止められているGⅢをチラ見しながら思考を回転させる。

 

さっきも言ったがコイツをボロボロにするなんてどれだけの強敵なのだろうか……等と考え若干鬱になった自分にキンジは自嘲気味に笑った。例えどんな奴だったとしてもやることは変わらない。勝たねばアリアの身が危ないのだ。なら黙って勝つだけ。

 

(また命掛けか……)

 

と、いつのまにかそんな危険に飛び込む事に全く抵抗しなくなりつつある自分にキンジはまた思わず笑いつつ残ったお茶を飲みきったのだった……



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金達の旅立ち

「まぁ気を付けなさいよ?」

「お前もな」

 

そう言ったやり取りをキンジとアリアは成田空港にあるカフェでお茶をしていた。

 

さて先日の決定から行動はすぐに開始され、アリアは送還命令を受け入れる形であかりを連れてイギリスに帰ることになり、先程銭形にニコニコ顔でやって来たが書類をいただき仕事に戻っていった彼女を見送ったあと搭乗時間まで時間があったためお茶を飲んでいたのだが……

 

(か、会話が全く続かん)

 

とキンジは内心頭を抱えていた。

 

飛行機で別れれば暫く会えなくなるし、少し話したかった。そしてちょっとお茶でもと思ったのだが、想像以上に話が続かない。

 

なんと言うかこうのんびりとした空気だと緋緋神に体を乗っ取られかける直前のあのやり取りを思い出してしまい照れ臭くて仕方ないのだ。それはアリアも同じらしく耳まで赤くして注文したコーヒーにアホほど砂糖いれてみたりミルクを溢したり熱いのにいきなり口にいれて熱くて吹きそうになったりと落ち着きがない。かくゆう自分もさっきからコーヒーをスプーンでかき混ぜ続けてみたりとあまり冷静とは言えないが……

 

しかしだ。なんと言うか今までとは違う。今までは普通に話していた筈なのにこうして顔を見るだけで落ち着かない。それに顔をみてみればなんかアリアがかわいく見えると言う謎仕様である。これは俺の目が何かの病気になったんだろうか……等と思っているとアリアが口を開いた。

 

「ね、ねえキンジ。アメリカは良いとこよ?」

「へ、へぇ?行ったことあるのか?」

 

ま、まあ仕事でねと錆たブリキのオモチャかなにかかと思ってしまうような喋りにキンジもガチガチになってしまう。

 

勿論そんなことをしていると、

 

「あ、時間……」

 

とアリアが時間を確認するともういかなくてはならないようで、立ち上がる。キンジもそれに会わせて立ち上がると、

 

「キ、キンジ」

「ん?」

 

アリアが何か意を決したようにこちらをみてくる。その姿にキンジも思わず背筋を伸ばす。

 

「ちゃ、ちゃんと全部終わって……緋緋神の心配がなくなったら……今度こそ言うからね!」

 

そうアリアは一気に捲し立てながらそう言うと背中を向けて砂塵をあげながら爆走していきキンジが声を掛ける間も無く居なくなってしまった。

 

それにしても今度こそと言うのは、まぁ一昨日のあの事だよな?それはその……うん。なんか顔が熱い。なんか頬が緩みそうだしこのままだとやばそうなのでキンジもGⅢたちと待ち合わせている場所に急ぐ。

 

なんでもGⅢは自分で飛行機を持っているので、アメリカにもそれで向かうらしい。ホント兄弟なのに色々とスゲェよあいつは……

 

何て思いながら集合場所に向かうと、既にそこにはGⅢだけではなく、その仲間に一毅やレキも待っていた。

 

「よう兄貴。別れの挨拶はすんだか?」

「あぁ。問題ない」

 

何て言い合っていると横からドンッと衝撃が走り、キンジが見てみると頬を膨らませたかなめである。

 

「お兄ちゃん酷い!可愛い妹が桐生一毅に絞め落とされていたのに無視して他の女のところに行くなんて!」

 

と、水饅頭みたいな胸をムニムニ押し付けながらかなめは言う。そう、先程アリアに挨拶に行くと行ったときも付いていくと言い出した彼女だが、即刻一毅に首を絞められそのまま気絶……その間にアリアのところに行ったのがお気に召さなかったらしい。

 

「はいはい。んじゃあ行くか。金三」

「だからその呼び方止めろっつってんだろ!!!」

 

空港中に響き渡ったんじゃないかとおもうほどの怒声に、周りの人の視線が集まりGⅢは慌てて口を塞ぎ、キンジを睨み付ける。

 

そんな弟を尻目にキンジはプライベートジェット用のゲートを潜っていくと、それに続くようにGⅢの仲間たちも入っていき、一毅とレキも続く。

 

「ちっ!」

 

GⅢもとりあえず諦めたのかキンジの隣まで小走りで走ってくると隣にならんで歩く。

 

「しかしお前の飛行機で行くにせよ誰が運転するんだ?まさか雇ったのか?」

「んなわけあるか。知らねぇやつなんぞ信用できねぇ。アンガスとアトラスが交代で運転するんだよ」

 

アトラスは確か今後ろにいるガタイのいい白人の男で、確かアンガスと言うのは……

 

「お待ちしておりました。GⅢ様」

 

と、恭しく待っていた初老の男性は此方にお辞儀をする。そうそう、GⅢと戦ったときも居た気がするよ。

 

しかし……

「なんだこの機体……V-22(オスプレイ)か?」

X-19C(サジタリウス)だ。Xプレーン位全部覚えとけよ」

 

無茶言うなよ……とキンジは息を吐いているとその間に他の皆は乗り込んでいき、一毅が横に来る。

 

「なぁ、誰か来るぞ?」

「え?」

 

一毅にそういわれキンジがその方向を見ると、確かに数名の黒いスーツに身を包んだ男に囲まれてやって来る男が来た。

 

「ようGⅢ。元気そうじゃないか」

「なんだニシキヤマ。あんたこそこれから外交か?」

 

ニシキヤマ。そうGⅢが呼んだ男に一毅は首をかしげる。

 

「何だか金三と知り合いっぽいぞ?」

「お前……マジで分かんないのか?いや、すまん。分かんないだな」

 

はぁ、とキンジは頭いたいと呟く。その光景に一毅がますます首をかしげていると、レキが口を開いた。

 

「今の日本で一番偉い人ですよ」

「んん?」

 

と、一毅はますます首をかしげ相手を見ると、

 

「あぁ!思い出した!」

「ん?あぁ、お前らは金叉さんと一明さんの息子じゃねぇか」

 

そう言った男は此方にやって来る。そしてその言葉にキンジは眉を寄せた。

 

「父さんたちを知ってるんですか?」

「まあな。俺は一個下だったがよく無茶するあの二人の後始末を良くやらされたもんさ」

 

と、男はそこまで言ってからひとつ咳払いをして、

 

「まあ知ってるかもしれないが一応名乗るか。俺は第100代目日本内閣総理大臣、錦山 京平だ。正確には二期目だから99代目でもあったけどな。丁度切りが良いから覚えやすいだろ?」

 

そう言いながら男は……いや、錦山総理はニッと笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

錦山 京平。元武装検事と言う異色の経歴をもつ現在の日本と言う国のトップ、内閣総理大臣。

 

そいつがまさか父や一明さんと知り合いだったとは……いや、まあ武装検事と言うのも狭い世界なので知り合いでもおかしくはないのだが……

 

「よう兄貴。ニシキヤマのことを考えてるのか?」

「ん?あぁ、と言うかお前知り合いだったんだな」

 

と、アンガスが運転するX-19C(サジタリウス)に乗って高級ホテル並みの内装のソファに座っていたキンジの隣に来たGⅢに返事をするとGⅢは当然だと言う。

 

「これでもRランク武偵だぜ?顔は広いのさ」

「みたいだな。しかし父さんたちとも知り合いだってのは驚いたぜ」

 

何て言って溜め息を吐くキンジに、GⅢは少し真面目な目をしてから、

 

「気を付けろよ兄貴」

「なにをだ?」

 

突然謎の忠告をしてくる弟にキンジは驚きながら見返す。

 

「アイツは気さくな顔してるが油断ならねぇ奴だ。未だに表沙汰にはなってねぇがかなり危ない手も使うって噂だし、元武装検事だ。いざとなりゃ何でもする。引き金が歴代の総理大臣に比べて軽すぎるくらいでな。良く総理大臣になれたもんだぜ」

 

そう言えば聞いたことはある。あくまでワイドショーレベルではあるが裏じゃ何でもやってて票集めに脅しを使ってるとか色々黒い噂も絶えない。まぁ武装検事や公安0課何て未だに人殺しの集団かなんかと思ってるやつも多くて廃止運動が起きることもある。まぁ流石にそれをやったら日本の国防的に危ないため通ることはないが……

 

いや、今は関係ない話だった。とにかく錦山総理のことだ。

 

「分かった。まぁ態々総理直々に目をつけられるようなことは……うん。してないな。だから心配すんな」

「なに言ってやがんだよ。(兄貴)。とにかく気を抜くんじゃねぇぞ。さっきだって俺や桐生がいなけりゃ……」

「あ?」

 

あいや、何でもねぇ……そう言い残し、GⅢは立ち上がると席を移った。

 

他の皆もそれぞれのやり方で時間を潰しているし、こっちはどうするかなぁ。と思いながら天井を仰ぐ。しかし今何かGⅢは言いかけたが一体なんだ?まあ問いただしても答えやしないだろうが……

 

しかしアリアのやつはちゃんと飛行機に乗れたのだろうか……と言うか辰正のやつアリアとあかりに振り回されて苦労するだろうが大変そうだな……

 

等と同情紛いの思いに思わず苦笑いが漏れていると今度は後ろから一毅が声をかけてくる。

「よぅ。キンジ。ずいぶん静かだけどそんなにアリアとの暫しのお別れは寂しいのか?」

「そんなんじゃねぇよ。さっきの錦山総理について考えていただけだ」

 

あぁ、あの人かと一毅は頭を掻く。

 

「いやぁ、なんかみたことあると思ったんだけど総理大臣だったんだな」

「お前自分の国のトップ位覚えておけよ……」

 

そうキンジが言うと、一毅はあははと笑う。するとそこにレキがやって来た。

 

「しかしレキからみてどう思う?あの総理は」

「油断なりません」

 

一毅がそう聞くと、レキは間髪いれずにそう答え、それから続けて。

 

「友好的に見えますが先程キンジさんにちょっかいをかけようとした素振りもしてきましたし余りお近づきにはなりたくないですね」

「はぁ!?」

 

今さらっとすごいこと言わなかったか?とキンジは目を見開くと、

 

「キンジさん気づいてなかったんですか?錦山総理(あの人)は何度かキンジさんにたいして危害を加えようと隙を伺ってましたよ?」

「マジかよ……」

「えぇ、一毅さんやGⅢさんが警戒してましたのでなにもしてきませんでしたが……」

 

つうかいまGⅢが言いかけたのはそれか?と言うか何で自分が総理直々に攻撃されかけなければならんのだ……

 

「またお前なんか面倒なことに巻き込まれてんじゃねぇか?」

「やめろ……フラグをたてんじゃねぇ」

 

キンジは頭が痛いと自分の頭を抑える。なんだってアメリカいったりアリアの緋緋神騒動があるってのに総理大臣にまで目をつけられるんだよ……

 

「キンジさん……」

 

するとレキがいつもの感情のない声音ではなく、珍しく優しげなトーンで話し掛けてくると、

 

「フラグはもう立ってます。遅いです」

「やかましぃわぁあああああああ!」

 

こうして大空にキンジの悲痛の叫び声が響き渡って行ったのだが、余りの煩さにGⅢからうるせぇ!と怒声が飛んだのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、防弾処理を施された車に揺られながら錦山総理は書類に目を通していた。

 

そんな中でも思い出すのは先程出会った遠山金叉と桐生一明の息子……まだまだ確かに聞いていたように甘いが中々将来有望そうじゃないか。

 

「さて、毒となるか薬となるか……楽しみにさせてもらうよ」

 

そう呟いた錦山総理は口端をあげ、小さく笑ったのだった……



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金達の渡米

アメリカ……世界経済の中心にして様々な民族が集まる巨大国家。

 

自由の国と言われ、車の数も多くその上ばか高いビルも多い。因みに今自分が足を踏み入れたビルはGⅢが所有しているビルらしい。

 

GⅢ曰くこんだけビルがあるなら自分のビルがあってもおかしくないだろうとのこと……我が弟ながら羨ましい限りである。あとこんな感じでGⅢ派が占める地域にはこんなビルや建物を持ってるらしい。

 

「しかしGⅢ派ねぇ……」

これはアメリカに着いてからGⅢに聞いたのだが何でもアメリカにはGⅢに味方をするGⅢ派と、GⅢと対立する反GⅢ派が存在し地域ごとにそれぞれ違うらしい。ここに来るときも反GⅢ派の地域は避けながら来るほどで、味方も多いが敵も多いようだ。

 

何て思いながらビルの中に入ると、まずはエントランスに来たのだが、そこにはなんと大量の手形が壁や床に天井までびっしり張り付けてある。

 

「なんだこりゃ……」

 

と一毅まで目を点にしているとGⅢはフフンと鼻をならすと、

 

「ここにあるのは俺が100%勝てないと認めた奴の手形さ」

 

偉そうだなおい……とキンジは思わずひきつった笑みを浮かべながら見てみるが、成程……これはあのパワードスーツで戦う社長に盾がトレードマークのあの人や蜘蛛をイメージした全身タイツのヒーローに段ボール愛好家で有名なあの人とか……お、ヒノバットのもある。

 

こうやってみてみると結構知った名前もあるなと見ていくと……ん?

 

「おいGⅢ……」

「ん?どうした兄貴」

「これは何だ?」

 

と、キンジが指差すとそこにはエントランスの一番目立つ場所にあったのは手形はないが名前の部分に【Kinji Tohyama】と刻まれている金属の板であった。因みに隣には一毅のもある。

 

「そうそう。兄貴と桐生も後で手形とらせてくれよ」

「アホか!なんで態々そんな危ない有名人リスト入りせねばならんのだ!さっさとはずせ!」

 

そう言ってキンジはGⅢに抗議を始めていると、両目の左右で色の違う銀髪の少女が顔を出した。

 

「おうロカ。何かなかったか?」

「なんかウロチョロしてたやつらがいたけど多分マッシュの手先かな」

 

と返すロカと呼ばれた少女を見ると、ネクラそうだが中々服装はお洒落だ。

 

「ネクラはあんたの代名詞でしょ」

「え?」

 

何て思っていたらいきなりそう言われポカンとキンジはしてしまう。そして思い至ったのは、

 

「お前超能力者(ステルス)か?」

「あんたの悪い頭でもそれくらいはわかるのね」

 

ふんっと鼻を鳴らしながらロカは奥にいってしまう。その後ろ姿を眺めていると、

 

「何だ随分嫌われてんな」

 

と、一毅がやって来て話しかけてくる。それにたいしてGⅢは苦笑いした。

 

「あいつはどうも人間嫌いだからな」

 

とGⅢが言うとキンジはうちの高校にも心が読める先輩がいたのを思いだす。あの人も結構人間嫌いだったし、心が読めると言うのは人間の汚い部分も見なければならないと言うことだ。そりゃひねくれもするか……と、キンジが思うとGⅢは更に続けてくる。

 

「だがあいつが12歳の時にロシア連邦保安庁……旧KGBの命令で俺を殺しに来た奴でよ。今までで一番俺を追い詰めた」

「へxぇ、そりゃすげぇじゃねぇか」

 

そうキンジが言うとGⅢは肩を竦めながら、

 

「殴り合いなら負ける気がしねぇが超能力(ステルス)ってのは苦手だぜ」

 

それは同感……と、キンジと一毅は頷きながらGⅢに案内されて歩いていく。

 

「因みにアトラスは元陸軍特殊部隊(グリーンベレー)だしコリンズはSEALsどっちも俺を殺しに来たのさ」

「もしかしてアンガスさんも……」

「アイツは元デルタフォース(CGA)だよ」

 

なにこの弟……部下が全員揃ってやベェやつじゃねぇか。しかも全員GⅢには高い忠誠心を持っているようだし……

 

うちのように間違っても桃まんを買いにいかせたり蹴ったり殴ったり発砲したり人の家を占拠したり服置き場にしたり刀ぶん回したり……あぁもう!挙げていくと切りがないがそんなことはしないだろう。

 

ホント金も人望もあるし何が俺たちを分けたのだろうか……

 

「あ、そうだ兄貴、桐生」

『ん?』

 

すると、GⅢは何か思い出したように声を出すと、

 

「ついて早々悪いがまずは体型を図らせてもらうぜ?」

 

GⅢはそう言うと、ニッと笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、キンジ様は流石サード様のご兄弟。少しの調整ですみそうですな。桐生様もアトラスのを元に弄ればそこまで難しくはないでしょう」

 

と、アンガスさんに言われながらキンジはGⅢがつけているようなプロテクターの着心地を試していた。

 

他にもブーツや、オロチのような前腕甲もあり、全部つけてみるが驚くほど軽い。と言うか軽すぎて着ているのが分からない。 更に勿論防弾製で9mm弾(ルガー)でテストしてみたがはたかれたようにしか感じなかった。これならアリアの暴力の方が効く。

 

まあちょっとメタルヒーローっぽくて人前で着るのが恥ずかしいものの、それを除けば滅茶苦茶良いじゃないか。隣で着ていた一毅も同じ感想のようで、さっきから軽く腕を振ったり蹴りを出してみて動きを阻害しないか試しては驚いていた。

 

「なぁ、ものは相談なんだがこれを服の下に着れるようにできないか?」

 

だがやはりこのメタルヒーローっぽさは慣れそうになれないのでアンガスさんにそう聞くと、

 

「可能ですが少々防御力を削ることになりますが宜しいですか?」

「どれくらい落とすんだ?兄貴は俺の流星(メテオ)と同じ技を使うぞ?」

 

そうキンジに変わってGⅢが聞くと、

 

「マッハ2までなら大丈夫でしょう」

 

とアンガスさんが返した。因みにマッハ2は過剰すぎだ。桜花はマッハ1が限界である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

試着を終え、作業に移ると言ってアンガスさんがどこかに消えたあと、一毅はキンジ達と別れ自室として宛がわれた部屋に戻ってきた。

 

キンジはGⅢの仲間達と話すと言っていたが、それを辞退してきた。まあちょっと色々あってな。と言うわけで部屋に入る。それから、

 

「おいレキ。出てこいよ」

 

一毅はそう言うと、一毅の視線の先の空間がわずかに歪み、そこからフード付きマントのレキが出てきた。

 

「よくわかりましたね」

「んまぁ、何となく?」

 

このフード付きマントは見た目とは裏腹にかなりの高性能だ。光屈曲迷彩(メタマテリアルギリー)と呼ばれるもので、GⅢ達も使っているものだが今のようにまるでカメレオンのごとく周りの景色に同化して姿を見えなくすると言うものなのだが、まあ一毅の場合は直感的なもので親しい相手であれば何となくわかるのだ。

 

「それでどうしましたか?一毅さん」

「まあちょっと話したかったんだ。二人でな。日本だと二人ではできないし」

 

そう一毅が言うと、レキは一毅の言いたいことを分かっているようだったが、

 

「何でしょうか?」

 

レキがそう言うと一毅は口を開く。

 

「少し前から疑問だった。俺の勘違いかもって思ってたんだけど考えれば考えるほどやっぱりおかしいなって思うんだ。だからさ、一つ聞いても良いか?」

 

一毅の問いにレキは黙って頷き、更に一毅は一呼吸置いてから続けた。

 

「あのさレキ。ウルス……いや、璃璃神はなんで俺を選んだんだ?」

 

そう口にすると、レキは口元をわずかに固く結ぶ。だが一毅はそれでも言葉を続ける。

 

「俺に告白したのは強い血をウルスに取り込むためで風の命令だったんだよな?でも改めて考えると変だろ?だって俺の強さとお前の種類が違いすぎる。俺は近接戦闘特化だしお前は遠距離からの狙撃だ。いくら強い血を求めてたとしてもそんな手当たり次第良さそうなのをかき集めたって中途半端になるだけだ。だったら狙撃が得意なやつや、もっとお前達に役立つ能力を持ってるやつは武偵高校の中に限定したっている。なのになぜだったんだ?」

 

そう一毅が一気に言うと、レキは暫し口をつぐんでいたが、やがて口を開いた。

 

「風が璃璃神と言うのはキンジさんの入れ知恵ですね?」

「ああ」

 

そう、これはキンジがレキと真面目な話をといったときに察してくれたのか教えてくれたことだ。

 

まあ色々小難しい理屈があるらしいのだが、他の神と言う話になった後でキンジなりに推理していたらしい。それがレキの昔言っていた風が璃璃神なのではないかと言うことだ。他にも情報はあるらしいが一毅の頭にはさっぱりわからなかった。

 

だがとにかく璃璃神がいる……それははっきりした。これはアリアを助けるのに役立つ。さて、次はなぜ自分だったのかを聞こうではないか。

 

「何故一毅さんだったのかでしたね?確かに一毅さんの力は私たちにものとは違います。全くの別物です。色んな力を取り込んで……何て言うのは漫画やアニメだけで実際は本当に強い血を取り込んでいくにしてももっと範囲を絞った方がいい。そういう意味では一毅さんではダメです。一毅さんも分かってるようですが改めていっておきます。確かに本当の目的は貴方をウルスに取り込むことではありませんでした。いえ、正確には今もですが……」

 

そう言ってからレキは少し息を吸うと、一毅の目を改めて見直してから言った。

 

「本当は一毅さん。貴方を……歴代で最も狂気を受け継いだ強い桐生である貴方を……」

 

また少し息継ぎをして、レキは最後の言葉を続ける。

 

()()ためでした」



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龍と秘密

大分更新に間が空きましたが更新やめたわけじゃないんです。すいません。

もう少しこっちも定期的に更新せねば……


「俺を殺すため?」

「はい」

 

レキの言葉に、一毅は不思議なくらい冷静だった。寧ろ納得すらしている自分がいる。

 

「理由を聞いてもいいか?」

「風は……璃璃神は17年前、日本に新たな桐生が生まれたのを感じました。強く、強靭で何よりも歴代でもトップクラスの狂気を持った桐生。それが貴方です」

 

レキは珍しく饒舌に喋り始め、そのまま言葉を続けた。

 

「危険でした。遙か昔狂気に呑まれ、当時の遠山と星伽に討ち取られた桐生よりも遥かに一毅さんは強かった。まぁ飽くまでも才能では、ですけどね。まだ赤ん坊でしたし」

 

何てジョークを挟みつつ、レキはまた言葉を続ける。

 

「だから今度こそ、風は我らウルスと桐生との誓いを果たすため、私は一毅さんに近づきました」

「ウルスと桐生の誓い?」

 

それには一毅は驚く。無理もないだろう。ウルスと桐生の間に交流はないはずだ。父もレキを見ても何も反応しなかった。

 

しかしレキはそんな一毅の心中を察したのか、

 

「一明さんも知りませんよ。この誓いは昔、桐生が桐生ではなく、別の名前を名乗っていた頃の誓いですから」

 

別の名前?と一毅が呟くと、

 

「私の先祖はチンギス・ハン。ですがその前に名乗っていた名前があります。それは源義経」

 

それは知っていた。レキと初めて会った頃、光一に調べてもらった。そう言えば、レキには言ってなかった気がする。

 

「源義経は、昔一人の鬼と出会いました。その名は武蔵坊弁慶。突出した強さを持ち、男へと変化した緋鬼の一人。その鬼は武を振るう理由を探していて、ならば自分がその理由になるといった義経は、弁慶と共に暴れ回りました。暴れて戦いながら、友を作り、愛する家族を作っていきます。しかしある時、義経は裏切りに会い、弁慶は義経を……そして家族を逃がすために一人戦い、その命を散らした。その後、義経は弁慶の妻とその間に生まれた双子の子を連れ、星伽に助力を願い、海外に逃れました。しかし、双子の片割れが一人日本に残ると言い、行方をくらまします。理由は父の敵討ち。いえ、それは正しくありませんね。彼は父から鬼の狂気を強く継いでおり、それに伴い強さへの欲が強かった。何れ父を超えてみせると常々思っていたようです。ですがその目的を奪われ、その子供は新たな目的を求め飛び出しました。そしてもう一人の子供は母に着いていき、共にチンギス・ハンと名乗った義経と共に戦う中、彼も妻を娶り、子を成します」

 

そして50年後、物語は動き出します。そうレキは続け、

 

「50年後。海を超え星伽から連絡が入りました。もう一人の双子が見つかったと。しかしそれは喜べる内容ではありませんでした。一人孤独に強さを求めた片割れは、遂に国を壊そうとします。父を殺した国を壊せば、それは父を超えたことになると言いながら、恐るべきは当時もう70近い老人だったこと。ですが緋鬼の血を濃く受け継いだ影響か老化速度が遅く、肉体強度は未だ全盛期。そんな彼がたった一人で起こし、国を大混乱させた戦い。たった一人にこんな自体を起こされた。と記すのが恥ずかしかったのか、当時の国はそれを【寛喜の飢饉】と記して事実とは異なる事を歴史としたようですがね」

 

まぁ、当時の星伽も情報操作にはかなり関与していた様ですが、とレキは言うと、少し喉が渇いたのか水を口に含む。

 

「レキ。何故白雪……じゃない、星伽はそこまで力を貸したんだ?」

「星伽は古来から色金の研究をしてきた一族です。その際緋鬼も知ったのでしょう。そのため義経のため、と言うより弁慶を気にしていたようです。義経の逃亡の手伝いは、弁慶への義理が大きかったと聞いてます。今で言うなら、弁慶や子供達は貴重なサンプルでありモルモットでもあった様ですからね」

 

色々あったみたいですよ。とだけレキは言う。少なくとも、義経が最後に星伽を頼る程度には信頼があったようだが、色々あったらしい。

 

「とはいえ、モンゴルへの逃亡も星伽に仕組まれてたようですがね。当時の星詠みで義経たちをここに逃がせと出ていたみたいで、当時の巫女たちはそれに従っていただけみたいです。恐らく璃璃色金の存在に気付いていたのでしょうし、その辺りが関係してると思われますが、その辺りは聞いていないのでわかりません」

 

なるほどね、と一毅は頷き、

 

「話を遮って済まない。続けてくれ」

「はい。そしてその知らせを受けた母親について行った方の子供……と言っても、彼も緋鬼の血の影響で若々しかったようですが、それでも70近い老人だった彼は日本に戻り、星伽の案内で双子は再会し、その直後に殺し合いに発展。両者引くことの無かったそうです。日本に残った方は勿論1人武を磨き、母親について言った方も長い間戦場で磨いたその武は引けを取らず、戦いは10日続いて最終的に、日本に残った方の死亡によって決着。ただ生き残った方も瀕死の重傷を負い、治療と療養のため日本で3年程過ごした後に、国に帰ったそうです」

 

成程、と一毅は頷く。しかしまだウルスと桐生の関係がはっきりしない。と思っていると、

 

「ですが、その3年の間に当時案内をしてくれた星伽の人間とも恋仲になってたようで、彼女は妊娠してたようです。勿論共にウルスに連れて帰ろうとしましたが、彼女はそれを拒否。厳密には星伽がそれを拒否ですね。何せ彼女が孕んだ子供は緋鬼の血を引く者です。ましてや星伽の力も持った子供となれば、まぁ手放せないでしょうね」

 

勿論身柄の取り合いで、あわや戦争に……となったところで、とレキは続け、

 

「彼女は日本に残ることにしたそうです。色々思惑があったのかもしれませんが、星伽と争うのを良しとしなかったのが大きかったようです。そして別れの際、二人は約束しました。もしこの子供が、緋鬼の強さだけではなく、狂気まで色濃く受け継ぎ、日本に残っ片割れのようになったら、この子がそうならずとも、もしこの先そのような者が産まれたら、殺してでも止めてほしいと。そう誓い、ウルスに彼は帰り、女性はその後出産。しかし、子供は緋鬼の血を引いた証である髪色も瞳の色も受け継げず、かと言って星伽の力も使えない。謂わば欠陥品でした。星伽は失望し、女性と子供は半ば追い出される形で家を出ました。その後は星伽の影響を受けない片田舎に住み着き、そこで出会った女性と子供は結婚し、血は脈々と受け継がれていき、その一人がこう名乗りました」

 

宮本 武蔵とね。とレキは一毅の目を見ながら言い切った。

 

「一方。ウルスに帰った後。男も長生きして後に死んだあとも、その血は受け継がれていきました。ですがその中で、璃璃色金の意思によってウルスは剣を持たなくなっていきました。璃璃色金は無を好む。肉を斬り、血を浴びて高揚する剣は、謂わば相容れぬもの。そして同時に自分たちの中にある狂気を抑え、鎮めるには剣を捨てるしかなかった。そうして長い時を経て、自らを否定し続け、狂気を少しずつ削ぎ落とし続けた。そして同時に、もし日本でまた同じ事態が起きたときに、どうすれば倒せるか考えていました。何せ自分たちは剣を捨てることで狂気を捨てた。それに対し、日本にいる方は、狂気を捨てていない。狂気を内包しつつ、それを飼い慣らすわけでもなく、どちらにでも転びかねない危険な均衡を保ちつついた。そこで生まれたのが狙撃術です。昔は弓矢でしたが、それを用いた遠距離戦術。それを編み出し、私達は剣から弓矢に、そして狙撃銃と心を殺し、更に外から優秀な遺伝子を取り込み続けることで有事の際に桐生に対抗する道を選んだ」

「そうだったのか……ん?」

 

待てよ、と一毅は首を傾げ、

 

「つまりだ。俺とレキ……と言うかウルスはその弁慶の子孫なのか?義経じゃなくて」

「いえ、何せその男の嫁というのは、チンギス・ハンの娘です。さっきも言ったように緋鬼の血のせいで寿命が長かったようで、結構あっちこっちの女性に手を出してたらしいですよ?その中にはチンギス・ハンの縁者何かも結構いたそうです。そのせいで、現在のウルスの大半は家系図を辿っていくと何処かにその男の名前が載ってます。何せウルスを何世代にも渡って見守っていたそうですからね」

 

なんてことを聞きながら一毅は思わず感心しつつ、

 

「そりゃ随分長生きしたんだな」

「大体個人差はあれど4世代目位までは緋鬼の血の影響で比較的長生きだった様です。まぁ星伽との間の子供には、殆どそういった影響も無く、当時としてはガタイがよく身体能力が常人と比べて優れてる程度だった様ですが、宮本 武蔵の代で覚醒して以降は、それぞれの代で多少の上下はあれど、その力と狂気を取り戻したようです。寿命は人間基準ですがね」

 

レキは椅子に腰を下ろし、一毅の目を見つめた。

 

「この辺りが私が璃璃色金に選ばれ、璃巫女となってから教えられた歴史です」

 

一毅は腕を組んで息を吐き、

 

「幾つか聞かせてもらっていいか?」

「いいですよ」

「じゃあ最初になんだけど、確か歴代の桐生に居たんだよな?狂気に呑まれた奴が」

「はい」

「その時にはウルスは動かなかったのか?」

「正直に言うと、侮っていました。所詮は既に何世代にも渡って緋鬼の血は薄まり、そこまで危険性はない。と考えていたんです。ウルスが実際そうで、その頃にはウルスも殆ど人間と変わりませんでしたからね。幾ら自分達のように緋鬼の力を否定していなかったとしても、宮本 武蔵のように完全に覚醒してるわけでもなく、更に言うと、当代の桐生はそこまで狂気が生まれつき強いわけではなく、後天的に様々な事件に巻き込まれることで歪んだと聞いてます。後は当時のウルスも色々ゴタゴタしてたらしいです」

 

だから今回は万全を期してレキが来たと?と一毅が問うと、レキは首を振り、

 

「それも無関係ではありません。ですが今回はそれだけではありませんでした。璃璃色金は感じていたんです。近い将来。緋緋色金が目覚め、緋緋神が降臨する気配を。緋緋神は恋と戦の神。戦いを求め、血と肉を求める狂気に支配された桐生とは引き合う運命にあった。ましてや歴代でもトップクラスの狂気を持っていた一毅さんは、緋緋神に惹かれ、共に戦う未来もあった。そうなれば日本だけじゃない。世界中にとっての驚異。だから璃璃色金は私を選んだ。一毅さんと同じ年だった私は、生まれたときから璃璃色金と共に過ごし、いざという時を差し違えてでも貴方を殺す一発の弾丸として育てられたのです。それがプランA」

「プランA?」

 

まだあるのか?と一毅が疑問符を浮かべると、

 

「私が作戦中に命を落とした場合、ウルスから引き継ぎ役の人間が送られる予定でした。それがBです。飽くまでもまだ一毅さんと私が出会った頃は、観察対象でしたから、武偵としての任務を優先することを許されてたので」

「成程。だからあの時自爆しようと出来たのか」

「はい。一毅さんは緋緋神引き合えば驚異であると同時に、緋緋神と戦う上で切り札ともなる存在でしたので、殺さずに味方にできるなら、それに越したことはありません」

 

もしかして初対面で結婚を申し込んできたのは……と一毅は問うと、

 

「桐生は情に弱い。同世代の恋人であれば、それは顕著でしょう。だから接近しました。いざという時、最も近くで貴方を撃ち抜ける存在になるためにね。狂気に呑まれた桐生も、当時の遠山と星伽に討たれたのも、結局は情に流され、その隙を突かれてだと聞いています」

「今は違うのか?」

 

その一毅の問い掛けに、レキは頷きを返した。

 

「実はシャーロック・ホームズと戦いの後、キンジさんの所に行くように璃璃神にいわれました」

「なに?」

「理由は一毅さんが目覚めようとしてたからです。ヴラドとの戦いで目覚め、シャーロック・ホームズによって完全に一毅さんの堰は壊れました。後はただ濁流が流れるように一毅さんの力が増すだけ。実際それ以降の一毅さんの成長速度は異常でした。それを予見した璃璃神は、キンジさんに付き、一毅さんを殺すように命令してきました。まぁ断りましたがね」

 

信じてましたから。と笑みを浮かべるレキに、一毅は頬を掻く。

 

「そして一毅さんは狂気を持ったまま、桐生 一毅としての限界を超えてみせた」

「それが極めし者のオーラ(クライマックスヒート)ってことか?」

 

はい。とレキは頷き、

 

「璃璃神も予想しなかった、人のまま緋鬼の力と狂気を纏う新たなヒート。それが極めし者のオーラ(クライマックスヒート)でした。正気のまま狂気を纏う。そんな矛盾した存在は、本来ありえないはずですから」

「成程」

 

一毅は頭を掻いて息を吐くと、

 

「修学旅行の時にな。白雪の妹の風雪に話されかけたんだ。多分話そうとしてたのは、この話だと思う」

「でしょうね。恐らく星伽から見た話や、こちらでは分からない話もあったと思いますよ」

「それでもお前から聞きたかったからさ」

 

と一毅は笑うと、

 

「でもまさかお前と俺が親戚だとは思わなかった」

「親戚と言うには、少々遠いですがね」

 

狂気を宿しながらも、それを否定することなく血を残し続けてきた桐生と、狂気を否定し続け、外から優秀な血を入れることで鬼を捨てたウルス。海を超えて異なった緋鬼の子孫たちが、こうして出会ったのだと思うと、何だか感慨深いものがある。

 

「しかし俺を殺しにか。それが今じゃこうして一緒にいるんだから分からないもんだな」

「怒らないんですか?」

 

まさか。と一毅は肩を竦めて笑うと、

 

「俺は殺される気はない。だってお前と生きたいんだ。いや、お前だけじゃないな。ライカやロキ。チーム・バスカービルの皆。一年共だってそうさ。だがアイツらは直ぐ色んなものに巻き込まれてるからな。そして離れ離れになっちまうかもしれない。いや、なるだろうな。だけど俺がそれをさせない。どんなに離されても、邪魔するもんを全部ぶった斬って、離れた奴らを全員引っ張り戻す。それが俺の……チーム・バスカービル所属。二天一流現継承者・【応龍】桐生 一毅の仕事だ」

 

そう言ってニッと笑う一毅に、レキも釣られて笑みを浮かべた。しかしレキはまたシリアスな表情に戻すと、

 

「ですが一毅さん。気を付けてください」

「なんだ?ウルスからまたなんか刺客でも来るのか?」

 

いえ、と一毅の問いにレキは首を横に振りながら否定すると、

 

「ひとまずは極めし者のオーラ(クライマックスヒート)に目覚め、危険性はおちついたと判断されている様ですからね」

 

レキは言いつつ、

 

「一族は狂気をウルスや桐生とは違い、否定も受け入れもしなかった。寧ろ求めた。もっと強い狂気を。もっと強い力を。もっと強い遺伝子を、とね。何世代にも渡って狂気を宿しながら、強さを求めて優秀な遺伝子と交わり続け、強い次世代だけを残し続けることでその強さを増し続けてきた」

「まるでウルスと桐生のいいとこ取りみたいな一族だな」

 

優秀な遺伝子取り込みながらも狂気を否定し続けたウルスと、狂気を宿しながらも、遺伝子には拘らず自分の愛した相手と交わり続けた桐生。

 

「だがそいつ狂気を宿してるってことは、緋鬼の子孫なのか?」

「えぇ、と言うか日本に残った弁慶の息子の子孫です。どうも気まぐれに孕ませた女性がいたらしくてですね。ですがその子供は星伽との間に生まれた子とは違い、緋鬼の力を受け継いでいたようで、歴史の闇の中にてその牙を研ぎ続けていたようです。そしてその中で名乗った名前は、亜門」

 

一毅もその名前に聞き覚えがあった。確かシャーロックとの戦いで聞いた名前で、あのシャーロックですら手も足も出なかったやつの名前が、亜門だったはずだ。

 

「その中、互いの素性を知らずに宮本武蔵……あぁ、その時は桐生一馬之介と名乗ってたようですが、二人は出会い戦った。そして桐生一馬之介が勝ち、亜門と桐生には因縁ができた。亜門はその当時から既に優秀な遺伝子を取り入れ、狂気を高め続けていた。ですが桐生に破れ、更にそれはエスカレートし、代を変えながら亜門と桐生は互いの素性を知ってたり知らずだったりとしたようですが、争ってきたと聞いています。まるで運命のように、敵対する間としてね」

 

とレキは続け、

 

「最後の戦闘は今から20年前に起きた、現役の武装検事だった一毅さんの父である一明さんと、亜門 丈鬼の父である丈一の戦いで、僅差で一明さんが勝ったようです。そして今、それぞれ息子がいる」

 

レキの言葉に、一毅も言おうとしていることは理解できた。

 

「いつか今代の亜門は俺の前に現れるってことか?」

「はい。今の亜門は間違いなく一族最高傑作と言っていい存在です。今まで幾度となく世界中から刺客を送られ、その全てを打ち負かし、何にも縛られることなく自由に生きている。私が知る中で、異常という言葉があれほど似合う人はいません」

 

会ったことがあるのか?と言う一毅の問いに、レキは頷きを返すと、

 

「海外の仕事で、一毅さんに会う前に一度だけあります。会った時、不思議な懐かしさを感じると同時に、恐怖しました。感情を殺し、一発の弾丸だった当時の私が、初めて感じた恐怖。強いとかどうとかそういう次元ですら無く、そして何よりも、狂気と正気を両立させた一毅さんと違い、彼は狂気が正気です。悪意も善意もない。ただただ己の純度100%の狂気を宿し、そこからくる異常なまでの戦闘欲求と力。それが亜門 丈鬼です」

 

そう言いながら、レキは自分を抱き締めるように腕を交差させると、

 

「私は怖い。いつかあの怪物と一毅さんが対峙する時が。私は一毅さんを信じています。誰にも負けない。そう思っています。でも亜門だけは違うんです。あれはダメです。あれだけはダメです。全く勝てるビジョンが浮かばない。何よりも襲い掛かってくる刺客達に優しく相手をしているのも、また強くなって再度襲い掛かってくれば己の戦闘欲求を満たす事ができるから。でももし一毅さんと出逢えば、きっとそんな考えは吹っ飛んでしまう。だって一毅さんと亜門は持っているオーラが似ている。いや、似すぎている。きっと出逢えば響き合ってしまう。そうしたら最後、どちらかが死ぬまで止まらない。止まれない。私は一毅さんが死ぬところはもちろん見たくない。だけど誰かを殺すところも見たくない。でもどうすれば良いのかわからなくて……ずっと考えても答えは出なくて。そんなことを考えてる間にも、もしかしたら出会ってしまうんじゃないかって」

 

気づけば、レキは泣いていた。ポロポロと涙を流して泣いていた。

 

ずっとレキが抱えていたもの。それを吐露し、レキは泣いている。

 

そんな彼女の姿に、一毅は思わず抱きしめ、

 

「大丈夫」

 

たったそれだけ。先程とは違い、たったそれだけ言う。だがレキは、それだけで安心した。

 

それだけで、大丈夫な気がしている。

 

「一毅さん」

「何だ?」

 

レキに見つめられ、一毅が見つめ返す。

 

「信じますよ?」

「あぁ」

 

レキの問い掛けに、一毅は頷くと、レキは笑みを浮かべ瞳を閉じた。

 

それに一毅は応えるように、瞳を閉じると唇を重ねる。

 

ゆっくりと唇を合わせ、舌を絡めながら離れ、そのままソッとレキをベットに押し倒すと、

 

「レキ」

「はい」

「もう俺に言ってない秘密はないよな?」

 

そう問うとレキは少し考えて、

 

「いえ一つだけありました」

「それは?」

「気づいてなかったと思いますけど、私一毅さんが思ってる以上に一毅さんを愛してて依存してます。一毅さんがいない世界なんて考えられないほどに」

 

なんて言われ、一毅は思わず緩みそうになる頬を引き締めると、

 

「そんなこと知ってるよ」

「あ……」

 

そのままレキをベットに乗せたまま、自分もベットに上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふわぁ』

 

そんな次の日、一毅とレキ二人は大きな欠伸をし、

 

「何だお前ら。昨日寝れなかったのか?」

「ったく。ちゃんと寝るのも武偵の仕事だろ?」

 

とGⅢとキンジに言われたものの、

 

「んもう。二人共、そんな野暮なこと言わないの」

『?』

 

なんてコリンズにフォローを入れられ、

 

「うぅ……」

 

更に鼻血を出してティッシュを鼻に詰めながら、後ろ首をトントン叩くロカの姿があったのだが、それはきっと余談だろう。




やっとこの話ができました。この設定や話自体はこのシリーズを書き始めた頃から考えてて、現在の原作では合わない部分があったり、これからも出てくるであろう部分です。なのでまぁこのシリーズの設定だと思いながら読んでいただければありがたいです。

さて明かされたのは、実はレキもと言うかウルス自体も実は一毅同様緋鬼の血を引く者たちだったと言うことですが、桐生のようにそれを背負うことはせず、否定し拒絶し続けることで狂気を捨てた一族でした。そのため現在は一毅や亜門と違い、緋鬼の特性は持っていません。

そして亜門と桐生の因縁も明かされましたね。こっちの世界の亜門と桐生は、代を変えつつ幾度となくぶつかったという設定です。スタンド使い同士は引かれ合うレベルで引かれあった2つの一族ですが、桐生は甘いので亜門の一族をその都度見逃し、亜門は更に強い次世代を作っていくうちに、とんでもない怪物を生み出しました。それが今作の亜門 丈鬼です。

とまぁずっと書きたかった部分を書けたし此処から先はもうちょいトントン話を勧めていく所存ですので皆様気長にお付き合いいただければ幸いです。


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