ソードアート・オンライン 白と黒の剣士 (紅薔薇)
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《ソードアート・オンライン編》
第一話 「はじまり」
一撃目の、低く右下から斬り上げる斬撃。
次いで、左から右へと薙ぎ払う第二擊。
右上から鋭く振り下ろす第三擊めで、俺は完全に相手のHPゲージを削り取る。
隙の少ない片手剣三連擊ソードスキル、《シャープネイル》。
ポリゴンの塵になって消えていくモンスターを横目で流しながら、俺は経験値やドロップアイテムなどが記されたウィンドウを閉じる。
「何とか死なずに済んだ……まぁソロでやっていってる時点で死んでもしょうがねーってことなんだけど」
純白の愛剣を背中の鞘に収め、ポーチから《転移結晶》を取り出す。
今日はもう帰ろう。
「転移……《リンダース》」
リズベット武具店にでも行って、久しぶりに研いでもらうか。
面倒だけどしょうがない、かな。
転移結晶によってもたらされる青い転移エフェクトに包まれながら、ふと、あの日のことを思い出す。
二年前――このゲームが始まった日を。
今日、ついに俺の夢が叶う。
絶対に手に入らないと思っていたけど、絶対にプレイできないと思っていたけど、絶対にログインできないと思っていたけれど。
ついに俺の夢が叶うんだ。
満を持して発表された、世界初のVRMMORPG――《ソードアート・オンライン》。略称SAO。
俺はそのSAOのβテスターに当選し、片手剣使いとして二ヶ月間のテスト期間を楽しんだ。
元々学校でもそこまで目立つ方ではなくて、むしろ地味な一学生としていてもいなくても変わらないような生活をしていた俺には、アバター名《Reito》として過ごすSAOの世界はまさしく《もう一つの現実》だった。
学校にいる間も頭の中で装備のことについて思考を巡らせ、学校が終わると家に全力で走って帰り即行でログインして試す。そんなことを毎日繰り返していた。
そして、SAO正式サービスが開始される二〇二十二年十一月六日日曜日午後一時、当然俺は一秒と遅れずにログインした。
ログインしてしばらくはβ時代に少しだけ組んでいた仲間からのギルドの勧誘を受けたり、操作感を確かめたり、武器防具を揃えてソロでmobを狩ったり、SAOでの通貨――《コル》を稼いだり、はたまた可愛い女性を探してみたり。
自分から喋りかけることなんてできるわけないけれど。いやまぁ今の俺はイケメンだし身長も高いし、何とかならないこともないかもしれない。
いや、無謀だな。
頭を振って雑念を払い、これからしばらく相棒になる片手剣に手をかける。
まぁ当然、βテスト時代から使っていた片手剣でゲームを進めていくわけだ。相棒は大事に末永く使っていかなければならないし、スペック的な限界が来るまで使い続けるつもりだ。
「――《ホリゾンタル》ッッ!」
右手に握る剣が描いた水色の《ライトエフェクト》、そして体を加速させてソードスキルを必殺技とさせる《システムアシスト》とともに水平切りを繰り出す。
うん、やっぱりこの感覚だ。
ビッ、と剣先にエネルギーが来た時に、自分の心を剣に乗せてバーンっと開放する感触。
その後、練習がてらしばらくソードスキルを使いながら一通り周囲のmobを狩り尽くし、落ち着いたところで石に腰掛けて休憩。
右手の人差し指を中指を揃えて掲げ、真下に振って《メインメニュー・ウィンドウ》を呼び出す。
鈴の音のような交換音とともにウィンドウが出現する。
時刻は五時二十五分。
一度ログアウトして、飯を早めに食って英気を養い、もう一度ログインしてから本格的にゲームを進めていこうと思う。
そこまでする必要もないのかもしれないが、明日提出しないといけない宿題をまだやっていないからな。それにやりすぎも良くないだろうし、ってか別に俺はトッププレイヤーになりたいわけじゃないしな。のんびり自分のペースで進めていこう、と既に決めている。
「さて、ログアウト……ログアウト……あ? れ? はぁ?」
ログアウトがない。
指先を一番下まで滑らせて、現実のコンピュータで言えば再読み込みするかのように一度ウィンドウを閉じてもう一度開く。
また指先を一番下まで滑らせてみるも、ログアウトのメニューは無し。
「まぁ、運営のミスだろ。とりあえず、もう一休憩くらいしてからでもログアウトするのは遅くねぇし」
一人呟いてから、重たい腰を上げる。
「って、うわわ、何だ!?」
リンゴーン、リンゴーン、という鐘の音が響く。
あれか、お子様はもう帰ってください的なあれなのか? 夕焼け小焼けでまた明日、みたいな感じか。違うか。
びっくりして少しだけ飛び跳ねた俺の体を、今度は青い光の柱が包んでくる。
これは……転移?
なぜ? どこに?
そういう疑問を抱きつつも、俺はされるがままに転移した。
青い光が薄れると同時に、俺の視界に飛び込んできたのは既に見慣れた草原ではなかった。
百の層からなる、SAOの舞台《浮遊城アインクラッド》の第一層。《はじまりの街》。
そこには、おそらくは俺と同じく第一層の様々な場所から無理矢理転移させられたのであろう一万近くのプレイヤーが屯していた。
何でだ?
ログアウトができないことに対するお詫びか? いや、それだったらメッセージでいいはずだよなぁ……何が始まろうとしている?
まぁ考えてもわからないものはわからないので、ひとまず周りを見回してみる。
全くもって、眉目秀麗な人々――いや、アバターたちがたくさんいる。カラフルな髪の色、多種多様な防具、武器。身長の高低。
おそらくこの中にはネカマもいるだろうし、現実の自分よりも格好良くしている人間が大半なのだろう。もちろん俺もその例に漏れていない。
しかし、こうやって強制的に転移させられたのに揃いも揃って呑気なものだ。もう少し慌てていたりしてもいいだろう。
俺なんて今から何が始まるかガクガクブルブルもんなのに。
心臓に剛毛生えてるわこいつら。
大衆の喧騒に耳を澄ませてみると、「これでログアウトできんだろうな?」とか「何が始まるんですかねー」とかとか。
皆そんなもんか。
しかし、その中の誰かが、ひときわ大きな声で怒鳴るかのようにして叫んだ。
「あっ……上を見ろ!」
反射的にその声で上を見る。
そこには異様な光景があった。
百メートル上空、まぁつまり目指す第二層の底を真紅の市松模様が染め上げていく。
よく目を凝らして見てみれば、それは二つの英文がパターン表示されているものだ。《Wrarning》、《System Announcement》と書いてある。
何のこっちゃ、と頭の悪い俺は思考を巡らせてみて、ようやく「やっとログアウトできるんだな」という結論に思い至る。
どうやらそれは俺の隣の黒いイケメンも同じだったらしく、肩の力を抜いているようだった。
しかし、その期待は一瞬にして裏切られる。
放送がかかるのか、と思いきや、空を埋め尽くす真紅のパターンの中央部分が、まるで巨大に血液の雫のように垂れ下がった。高い粘度――スライムのような動きで、ゆっくりと滴っていく。
そのまま落下するのかと思いきや、赤い一滴な空中でその形状を変えていく。
出現したのは、およそ二十メートルはあろうかという真紅のローブをまとった巨大な人の姿だった。
いや――違う。
俺たちは下から見上げているから、深く下げられたフードの中が見通せるが……そこには何もない。
袖の部分からも、ただただ虚無が広がるだけ。
一応ローブの形には見覚えがある。
まだSAOがβテスト時代だった頃、アーガスの社員が務めるGMが必ずまとっていた衣装だ。しかし、あれは男性なら長い白髭の魔術師っぽい奴、女性なら眼鏡の女の子のアバターだった。すげぇ可愛かった。
このログアウトできないという事件に対して、急いで運営が対応にあたっていてアバターが用意できなかったのだろうか。
いや、でもローブだけ出すとかやめてくれ怖いから。
俺そういうホラー番組とか見れない人間だからね。こ、怖くなんかないんだからねっ!
ひらりと広げられた袖口から純白の手袋が覗いた。しかし、袖と手袋は明確に切り離されていて肉体も見えない。
続いて、左袖もゆるゆると掲げられた。
一万のプレイヤーの頭上で、低く落ち着いたよく通る男の声が響いた。
『プレイヤー諸君、私の世界へようこそ』
あ、これはどうもご親切に。
とりあえず心の中でそう返すしかなかった。
何これ、とりあえず対応が間に合わないからチュートリアルでもやっといて時間稼ごうぜみたいな感じかい?
つーか意味がわからん……。
まぁ確かに、ある意味では私の世界と言えるだろう。GMは世界の操作権限を持つ、言わば神のような存在なのだから。
そして、赤ローブくん(ちゃん?」は続いて口を開いた。
『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
茅場――晶彦、だと!?
誰だそいつ?
いや、聞いたことはある。このゲームの開発者だとかうんたらかんたら。
すまん文字読むの面倒くさくて茅場のインタビューとか全く読んでないんだ。
『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消失していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様である』
わけがわからないです本当にありがとうございましたー。
……仕様? つまり、ログアウトさせませんできませんってこととが、SAOの本当の形、ってことか?
俺のそんな思考を流すかのようにして、アナウンスは続く。
『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』
この城……?
《浮遊城アインクラッド》のこと、か?
『また、外部の人間による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合――』
一万人が息を詰め、次の言葉を静寂とともに待った。
僅かな間。
『――ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』
そこから、茅場が何を言っていたのか俺にはよくわからなかった。
暗くなっていく視界。
心では理解を拒んでも、一周回ってひどく冷静になった俺の頭は容赦なく現実を俺に叩き込んでくる。
死ぬ。
口ではそう軽く言えても、たった二文字でも、それが現実になってしまう。
わけが、わからない。
俺が放心したまま茅場のご高説をBGMとして聞いていると、突然皆がアイテムストレージを見ていたので、俺も震える右腕を左腕で抑えながら《メインメニュー・ウィンドウ》を開きアイテムストレージを覗いてみると、手鏡があった。
んだよ茅場ちゃん優しいじゃねーかとか場違いなことを呟きながらその手鏡を見てみると、あらまぁ何ということでしょうか俺の容姿がリアルの俺になってしまった。
イケメンの俺も、身長が高い俺も、消えてなくなって、あとには中肉中背の冴えない俺が映るのみ。
ますますわけがわからないよ。
慌てて周りを見渡してみると、皆俺と同じかもしくは極端に横幅が凄まじい人間がほとんどだった。
もちろん中には女性の姿もほんの少しだけ見えなくもないが、それはごく僅か。
そういや、背が高かった隣のアバターはどうなったのやらと見てみるとあらかわいい。
俺と同じ、いや俺より身長が僅かに低いだろうその少年……少女? いや少年か?
まぁとにかくそいつは中性的な幼い顔立ちの少年になっていた。まぁ俺がリアルの容姿な以上、こいつもおそらくはリアルの容姿なのだろうけれど……。
いや、それよりも、このゲームをどうかしないといけない。
このデスゲームから、ログアウトしなければならない。
そういった衝動に駆り立てられ、俺は誰よりも早く宿を確保しに向かった。
ちゃんとした宿屋ではなく、ただのポーション売りのお姉さんの家の二階を借りるようにして、最低限にまで宿にかかる費用を抑え、そしてNPCが営む武具店に駆け込んで武器を研いでもらい、ポーションを自分の所持金が許す限り買う。
初期装備のままだと防御面が心もとないため、盾を買う。
今の俺にできることは――、
少しでも街を攻略して、皆に希望があると伝えること。
そうすれば皆が動き出して、それは後にSAOの世界を切り開いていく《攻略組》に成長するはず。
まずは《はじまりの街》の北西ゲートから街を出て、その先にある民家のクエストをクリアして、βテストの時も俺の相棒となってくれた相棒――《アニールブレード》を手に入れなくてはならない。
迷宮を攻略する上での、心強い味方になってくれるはずだ。
生き残るためには、そうするしかないだろう。
決心した俺は、レベル上げのために《はじまりの街》を飛び出す。
果て無き俺の冒険は、今、始まる。
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第二話 「キリト、アスナとの出会い」
盾持ち剣士
装備
右手:アニールブレード
左手:バックラー
「二千人……か……」
一ヶ月で二千人が死んだ。
百人が二十個分。馬鹿っぽい表現かもしれないが、リアル中二の俺にはこれが精一杯だ。一次関数もよくわかっていない俺が人の死を理解できるはずがなかろう。
そして、一ヶ月で二千人が死んだ――唐突だがこれが事実だ。
そんな事実を聞かされても、にわかには信じがたいことだろう。
いやそりゃそうでしょ?
いきなり目の前に顔見知り程度の人間が現れて「二千人死んだぜ」って言われてどうする? まともな反応できるわけないじゃん。
まぁ、冗談は置いておこう。
もう一度繰り返す。
一ヶ月で二千人が死んだ。
これはれっきとした事実だ。
このペースでいけばあと四ヶ月でSAOにログインしている全ての人間が死ぬことになる。
そんなことにはならないようにしたいが……。
しかし、現状をどうにか変えないことにはそんな綺麗ごとも言ってはいられない。ゲームが始まって一ヶ月経っても、俺たちは未だに第一層すらクリアできていないのだから。
現実世界でベッドに寝ている俺たちの体だってそう長く持つわけじゃない。
排泄物、栄養、筋肉などのことをろくすっぽ知らない馬鹿者の俺補正が入り、なおかつ長く生きれると見積もって三、四年。その時に生き残っているプレイヤーは千人もいるのだろうか。
引きこもっている連中がいるから、千人くらいはいるのか。
いや、話を戻す。
俺たちは進まなければならない。
そんな俺に、一つの朗報が届いている。
今日の夕方、第一層迷宮区最寄りの街《トールバーナ》で一回目の《第一層フロアボス攻略会議》が開かれるそうだ。詳細についてはよくわからないが、とにかくフロアボスを一刻も早く倒さなければいけないことは自明の理。
せめて五十人程度は欲しいところだが……今のSAOを精力的に攻略しようとしている人間はそう多くない。
まぁ、俺がこの間迷宮区に潜っていた時に見た、ケープをかぶったレイピア使いのソードスキル《リニアー》。あれほどに美しく研ぎ澄まされたソードスキルが使える奴らが多く揃っていれば少しは攻略も楽になるし、良いこと尽くしなんだが……まぁいい。
今の俺にできることをやるだけだ。
結果として、最初の攻略会議に集まった人間は四十四人。
これからもっと増えていくと信じてみたいが……。
とりあえず、手近な椅子に腰掛けて会議の開始を待つ。
俺の予想していた人数よりは少ないが、しかしこれだけでもSAOを攻略しようと思ってくれている人間がいることは素直に嬉しい。
ぐるっと見渡してみる。
名前を知っているプレイヤーは三人、最前線で戦っているところを見たのが六人ほど。ケープをかぶった《リニアー》が凄まじいレイピア使いさんと、それと一緒に戦っていた黒髪のコート剣士も含んで、だ。そして、あとは知らない奴らばっかり。ってか男でレイピアなんてもの好きな人もいるもんなんだね。俺なんて最初に握ったのが片手剣だからただただ惰性で使い続けて他の武器が使えないからずっと使ってるだけだぞ。「両手剣格好良いな……でも使えないぜ☆」みたいなことが何回あったか!
いや、片手剣には盾持てるっていうすごくいいところがあるから!
ま、まぁそれはともかく、パーティ組んでとか言われても無理だぞ、俺……そんなに話せる人いないし……というかずっとソロでやってきたから《スイッチ》したことあるのなんて両手の指あれば足りるくらいなもんだし。
まぁマイナスに考えたってどうにかなるもんでもあるまい。
とりあえず何とかなる。
「はーい! それじゃ、五分遅れだけど始めさせてもらいまーす!」
「おう?」
中央広場にある噴水の縁に助走なしで跳び乗る声の主。
蒼髪のイケメン……というのが、第一印象。
あの高さをワンジャンプ、ってことは俺と同じで筋力と敏捷性に振ってあるんだな、というのが第二印象。
イケメンだな、爆発してくださいというのが第三印象。
と、俺が馬鹿のような思考を巡らせていく間にも会議はあれよあれよと進んでいく。
終わらない思考の渦を断ち切ったのは、《ディアベル》と名乗った蒼髪男剣士の放った一言。
「それじゃ、早速だけど、これから実際の攻略作戦会議を始めたいと思う! 何はともあれ、レイドの形を作らないと役割分担もできないからね。みんな、まずは仲間や近くにいる人と、パーティを組んでくれ!」
「……は? パンティー?」
下ネタをかましている場合ではない。
俺の最も恐れていたことが起こってしまった。どうしよう数少ないフレンドは皆もう仲間内でパーティ組んじゃってるし最前線で戦ってる攻略組の皆さんも既に決まってるだろうしあああああああああああああどうしようどうしよう仲間がいないよ一人ぼっちだよーっていうか何でお前らそんな一分くらいでパーティ決まるの俺はわけがわからないよ体育かよ二人一組のストレッチかよマジでやめてくれよあんなん二列に並んでるんだから隣の奴同士でやらせりゃいいじゃんうううううそんなこと言ってる間にもう俺一人だしー!
マジで俺だけがぼっち……では、なかった。
荒ぶっている俺の視界に留まったのは、二人の剣士。
ケープ剣士とコート剣士の二人だった。おそらくあいつらはパーティを組んでいるだろう。なら俺もそこに混ぜてもらおう。人数が少ない分には来るもの拒まずだろうし。
俺は席を立って、二人の剣士に近い席へ腰を下ろしてから二人に話しかける。
「なぁ、俺もアブれてさ。俺をパーティに入れてくれないか?」
黒髪の剣士が苦笑しながら答える。
「おう、アブれた奴どうし仲良くやろうぜ」
パーティへの参加申請がくる。承認のボタンを押し、これで俺もパーティに加入したということになる。
途端、視界に表示される二本のHPゲージ。
【Kirito】。
それが黒髪剣士の名前だった。
「キリト、か。よろしく。あ、そっちのケープさんも」
「……よろしく」
端的に述べられた挨拶を受け取り、視界の端に追加された二つのHPゲージのうち、下のほうを見る。
【Asuna】。
それが凄まじい《リニアー》使いさんの名前だった。……ていうか、顔立ちと名前からして女性プレイヤー?
一瞬頭に浮かんだ雑念を振り払う。
実力さえあれば、ひとまずは誰でもいい。
この城の頂を極められるほどの精神力、実力を持っている奴なら、誰だって拒む理由なんてない。
そして、ディアベルは指揮面でも優秀だった。
出来上がった七人の六つパーティを検分し、少しの人員入れ替えで
まぁ、確かに定石をついているし、そこに目をつけたのはむしろ聡明な判断だと言えるだろう。
これは初のボス戦。
βテスト盤と仕様が変わっている部分もあるかもしれないし、勝敗云々よりも負けない、死者を出さない戦いをしなければならないからだ。
シンプルゆえに破綻することも少ない良い作戦だ、と俺が「ほー、へー」と間抜けな声を出しながら尊敬の念を向けている横で、どうやらキリトもディアベルの采配に感心していたらしい。
最後にディアベルちゃんは俺たちの前にやってきて、フロアボスの取り巻きの取り零しを処理してくれよ、と爽やかな笑顔で告げた。
つまり大人しくしてろと。
うるせえ爆発しろ。
とまぁ、俺のそんなどうでもいい苦悩を知ってか知らずなのか、攻略会議はトントン拍子で進んでいった。
途中《キバオウ》はん? とかいう人の乱入もあったけど、《エギル》って人が論破してくれた。ありがたやーありがたや。
まぁ確かに、βテスターがズルしてるって言われて反論できるほど俺は肝っ玉が座っちゃいない。実際俺は皆よりも早くレベリングしているし、コルの効率良い稼ぎ方なども秘密にしている。こんな精神が攻略組全体の怠慢を招いている、と言われればそれはそれまでのことだ。
「……キリト、あ、キリトって呼んでいいか?」
「ん? あぁ、構わない。俺もレイトでいいか?」
「おう。俺たち、ただの邪魔者だなー」
「そうだな、ボスに攻撃できないまま終わっちまうな……ちくしょうLAボーナスが」
俺はキリトの言葉に、無視できない単語を見出す。
LAボーナス、なぜその言葉をキリトお前が知っている?
それはβテスターしか知らないはず。LAボーナス、ってのはフロアボスに対して
「LAボーナスをなぜ知ってる?」
「……大きな声では言えない。だけど、俺もβテスターだったんだ。レイトもだな?」
「そうだ。俺もそうだった。
……そういえば、キリト、お前、片手剣、しかもアニールブレードなんだな」
背中にある片手剣の鞘を見て、思ったことをそのまま口にする。
「そうだけど……お前もなんだな」
二人でしばらく見つめ合う。
そして五秒後に同タイミングでがっちりと堅い握手。
それをケープ剣士ことアスナさんは冷たい視線で見ていた。
「……気持ち悪い」
バッサリと切り捨てられる俺たちの友情であった。
「ぐっ」
「がっ」
せっかく、同じ片手剣愛好家を見つけたと思ったのに……だって攻略組で片手剣使ってる人少ないんだよ……まぁあのディアベルちゃんも見た感じ片手剣だったけど。
「ん、んんっ」
わざとらしく咳払いをして、話を戻す。
「さて、俺たちの出会いを祝して、この会議が終わったあとどこか場所を変えて話でもしないか?」
「俺はいいけど」
キリトはどことなく楽しそうだ。
「アスナさん……あぁもう面倒くさいからアスナで。アスナはどうだ?」
アスナはどことなく俺を警戒しているような雰囲気だ。
「わたしも、構わない」
「決まりだな。んじゃ、場所はキリトの宿にしよう」
「何で俺なんだよ……まぁ、いいけど……」
それから俺たちは攻略についていろいろなことを話した。
アスナには俺とキリトがβテスターだということは明かさなかったが、どうもアスナはこの手のゲームが初めてらしく、俺たちが話す内容について全く理解していないようだった。学年十位キープしていたいとか言ってたということで、リアルでの偏差値ならボロ負けのようだが。
そんなアスナにいろんなことをレクチャーしつつ、話に花を咲かせていった。
人と話すのがこんなに楽しいと感じたのは、いつぶりのことだろうか。
次回予告
「いや、俺リアルでは竹刀も握ったことないんだぞ」
「スイッチの練習とか俺涙目なんだけど」
「キリト、《デュエル》……しようぜ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「――《バーチカル》!」
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第三話 「二人の剣」
攻略会議があったその日の夜、俺はキリトやアスナと散々飲み明かし(当然俺は中学生なので酒ななんて飲めやしないが)、それから自分の宿へ帰るところだった。
いくらこのSAOがリアルにできているゲームだとは言え、俺たちが生きているのが仮想世界だとは言え、それでも俺たちに人間の三大欲求は発生するものだ。
性欲についてはよくわからないが、少なくとも食欲と睡眠欲は確かに存在する。
ゲームが始まってからの一ヶ月、俺はアバターとしての自分の限界を調べるために三日ほど迷宮区にヒッキーしてレベル上げをしようと目論んだことがある。
結果から言ってみると、失敗だったわけなんですけれどもー。
朝から潜り込み、朝と昼を抜いた一日目の夜にとてつもない空腹が俺を襲い、二日目の朝には腹が減ってぶっ倒れそうだった。
そこでさしもの俺もリタイアし、あらかじめNPCショップで購入してストレージに入れておいたゲキマズな食べ物(サンドイッチに似た何かだな)を食べ何とか空腹を紛らわせた。
どうやら、リアルでは睡眠を削ってステータス上げに勤しむ俺らでも、このSAO内では規則正しい生活を要求されるらしい。
まぁそりゃそっちのほうが体にもいいのだろうけど。
風邪なんてひくことはなくても、やっぱり規則正しい生活を送るに越したことはないよなっと三日間徹夜でネトゲ廃人やってた俺が通りますよ。
あ、そうそう、一応キリトとアスナとはフレンド登録した。
まぁパーティ組んでる以上、登録してないと呼び出しとかで不便だしな。
明日は迷宮区でスイッチの練習とかをやるらしい。
「スイッチの練習とか俺涙目なんですけど……」
実際のところ俺はスイッチの練習ができるほどβ時代に友達がいたわけじゃない。
あくまでも適当にボス攻略のために組まされた野良パーティで何回かそれらしきことをやったことはあるが、俺が二連続スキルを当てて相手が面食らったところにもう片方が突っ込んでトドメをさすというのはスイッチと言えるのだろうか。どう考えても俺が尻に敷かれているだけだな。
まぁ、一層に出るモンスター自体はそこまで強いわけじゃないし、俺ソロでも充分やっていけるとは思うが、ボス戦ばかりはしょうがないしな。四十八人レイドがいくつかあって、苦労せずに倒せるレベルぐらいなもんだし。
キリトとアスナの足を引っ張らないよう頑張らないとね。
とりあえず明日の朝八時にアラームをかけ、布団を頭までかぶる。
寝てしまおう。
いつも通りにうるさいアラームによって否応なく叩き起こされ、意識の覚醒を迎える。
皮肉にも現実世界っぽく、僅かに開いたカーテンから朝の光が差し込む。
これが、ナーヴギアによって見せられている世界なんて……俺にはまだ、信じることはできない。いや、きっと何日何週間何ヶ月何年経っても、心の底から信じることなんてできないだろうな。
そもそも現実世界に信じられる人間がいないし。
……いや、余計なことは考えたらダメだな。
攻略組のプライドか、元βテスターとしての意地かどうかはしらないが――とにかく、死ぬわけにはいかないんだ。
俺が皆と協力して、この世界からいつかは脱出できると思わせなければ……。
とりあえず、耐久値にもそろそろガタがきている部屋着から、くたびれた白いボロボロのロングコートに着替える。迷宮区に潜った時にモンスターからドロップしたもので、それなりの防御力があり敏捷性に補正があることから俺はこの《ホワイトコート》を愛用している。
速さを重視している以上、極力重くならないような装備でいきたいし、な。
《メインメニュー・ウィンドウ》を操作して、《アニールブレード》を装備する。
次に、アイテムストレージを確認。
ポーションなど、回復アイテムがしっかりと補充されていることを確認してから部屋を出る。
NPCの女の子が作ってくれた朝食を食べ、一旦ソロで草原に出て単発ソードスキルの練習。まだアニールブレードのずっしりとした感覚に慣れないところがあるからな。
キリトやアスナとの待ち合わせは十時からだから、軽く素材集めでもして金稼ぎといきますかね。
左手に持ったバックラーで、《フレンジー・ボア》の突進をいなす。
運が良いのか当たり所が良かったのか、HPは減らない。
奴が突進をいなされ体勢を崩しているところに――ッッッ――!
「――せァァッ!」
がら空きになった《フレンジー・ボア》の腹に、踏み込みながら単発の基本ソードスキル《スラント》を叩き込む。
基本技ゆえに威力もなく射程も短いとデメリットが多いが、しかし俺のようなソロプレイヤーからしてみれば、技後硬直がとても短いというそれを補って余りあるメリットも持ち合わせている。
つまり、基本のソードスキルを通常攻撃の合間に挟み、回避を組み込み一つのコンボとすることで、事実上ほぼ途切れなしに攻撃をし続けることができるということになる。
とりあえず、一度バックジャンプで大きく距離を取り、息を吐いて体を落ち着ける。
「……よし、決めるっ」
剣を握り直し、《フレンジー・ボア》に向かって走り勢いをつけ、そのままの体勢で――《レイジスパイク》。
片手剣の短い射程を補う突進技であり、片手剣スキルの熟練度がもう少し上がれば覚えるソードスキル《ソニックリープ》と違って前にしか突進できないが、しかしそれでも序盤では咄嗟の攻撃を相殺できたりするので俺はβテスト時代も愛用していたソードスキルだ。
突進の予備動作に入っていた《フレンジー・ボア》のHPを完全に削り取る。
よし、こんなもんか……。
っと、《ソニックリープ》習得したな。早速mobが湧き次第使ってみねぇと。
「レイト!」
後方から俺を呼ぶ声。
振り向いてみると、
「よう、やってるな」
ダークグレーのコートを羽織ったキリトだった。
俺と似た出で立ちに、思わず苦笑する。
「お前は俺のソックリさんかよ」
キリトも同じことを思っていたのかしかめっ面になる。
「そうかもな」
「ところで、どうしてここに? 待ち合わせは迷宮区入口だろ」
「いや、まだ時間があるし、ちょっと体動かしとこうと思ってな」
年に似合わない――いや、俺も正確な年齢までは知らないし聞くつもりもないんだが――シニカルな
笑みを浮かべ、背中の《アニールブレード》を抜き放つキリト。
「とは言っても、ここにはモンスターはもう出ないぜ」
俺があらかた狩り尽くしたからな。
「そうだなー……どうするか」
さすがにそれは予想していなかったのか、弱ったぞと呟くキリト。
いや、そうだな、キリトの実力を見るいい機会でもある。それに、パーティを組むわけだし……これは、《デュエル》してみてもいいのかもな。
「なぁ」
「どうした?」
「キリト、《デュエル》……やろうぜ?」
俺がこの一言を放った瞬間、それまでキリトが浮かべていたシニカルな笑みが崩れ、次に浮かべたのは嗜虐的な戦いを好むバトルジャンキーのような目。
「あぁ、そうだな……お互い、パーティを組む相棒なわけだし」
「やりますか」
俺からキリトに《デュエル》の申請をする。
「《初撃決着》でいいな?」
「あぁ、構わない」
キリトが《初撃決着》を選択し、俺も元々それを希望するつもりではあったので受け入れる。《デュエル》の対戦方式を決めるのは申し込まれた側だが、さすがに《全損》を選ばせるわけには行かないんでな。
キリトが《初撃決着》を選択した、その途端。
頭上に《キリトVSレイト》のウィンドウが出現する。
そして、お互いに六十秒の猶予期間が与えられる。
俺もキリトも、どちらともなく武器を構える。
俺は剣を下段に構え、左手のバックラーをキリトの全身が見える程度に緩めに構える。
キリトも同じく剣を下段に構えているが、これがそのまま下段から斬り上げてくるとは考えづらい。フェイクだろう。片手剣に限って言うなら、現段階のスキルで下段から発生するソードスキルはほぼないに等しい。あるとすれば、右利きの俺が左肩から右下に向けて斬るか左下から右上に向けて斬るが選べるスキル《スラント》ぐらいのものか。二方向どちらからでも発生させられることは強みではあるが、下から繰り出すほうは腕の向きとは合っていないので少々スピードが落ちる。
ならば、俺が選択するソードスキルは――。
既にシステムが放つ音声など俺に聞こえてはいない。
この集中力が、システムによってもたらされているのかそれとも俺自身の力なのか知ったことではないが――しかしそれでも、俺は今キリトとの戦いに期待していることは否定できないだろう。
残り時間は五、
四、
三、
二、
一――
二人の間に紫の火花が散り、【DUEL】の文字が現れて消える。
やはり予想通りと言うべきか、キリトが選択していたのは片手剣の突進スキル《ソニックリープ》。当たるかどうかの保証はなかったが、やはり俺の勘は正しかったらしい。
「おぉぉっ!」
そして、キリトの気勢と実力が合わさり加速した《ソニックリープ》を砕くべく俺が選択したソードスキルは――
「――《バーチカル》!」
片手剣の基本ソードスキル、《バーチカル》。
緑色の鮮やかなライトエフェクトをまとい、突進してくるキリトの剣が俺に向かって振り落とされる、ソードスキルが最も威力が高まるその瞬間に――
《バーチカル》を、タイミングを狙ってキリトの剣の根元に向かってぶち当てる。
これにより、【俺の筋力+アニールブレードの攻撃力+《バーチカル》】-【キリトの筋力+アニールブレードの攻撃力+《ソニックリープ》】というシステム的な計算が発生する。
だがしかし、その答えを俺は既に知っている。
すなわち、答えは0。引き分け。
俺の剣とキリトの剣が交錯し、それらしき火花を上げて両者の剣が弾かれる。
そして、俺たち二人ともに初撃決着させられるだけのダメージが入ってデュエルは引き分けになり終了。
これが俺の狙っていた結末。
正直なところ、キリトの剣術には敵わないだろうと既に頭が理解している。
ソードスキルがバックラーでいなしきれないのなら、剣で無理矢理ソードスキルを封じ込めるまで。
これが、俺がβテスト死ぬほど特訓して編み出した剣技だ。
名前はまだない。ドヤッ。
「……ってて、やるな」
アニールブレードで左右に切り払い、そして鞘に収めながら キリトが語る。
「サンキュー。お前もやるな」
俺が差し出した右拳に、キリトが右拳をぶつけて笑い合う。
……友達って、いいもんなんだな。
何だかんだ話してみると、キリトは面白い奴だった。
βテストで積んだ様々な経験を生かした《システム外スキル》を考えていることや、俺が既に思いついていた《システム外スキル》について討議を交わすなど、朝から非常に密度の濃い一日になった。
迷宮区への道中、キリトと話しながら、《メインメニュー・ウィンドウ》を開く。
「……あ。キリト」
「どうしたんだ、レイト? ……あ」
あまりにも俺たちの議論が熱くなりすぎて、約束のことを忘れていた。
ウィンドウを可視モードにしてキリトに見せる。
現在時刻、アインクラッド標準時で十時十一分。
二分前に届いた新着メッセージが一件、送り主は【Asuna】。
迷宮区への待ち合わせは、十時。
結論。
俺たちオワタ。
「はっ走れキリト! 走らないなら置いてくぞ!」
「おい待て、俺だけを犠牲にするな!」
二人とも敏捷性に寄っているステータスをフルに使い全力ダッシュして五分で迷宮区の入口ににたどり着き、入口で散々アスナ様の説教を喰らいましたとさ。
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第四話 「第一層攻略前夜」
次からはコボルドさんを狩っていきますよ。
俺とキリトが遅刻による説教をアスナからくらい、スイッチの練習をして、その他もろもろ連携の確認をしたその日の夜。
俺は一人、宿のベッドで意識を投げ出していた。
今日だけで俺のレベルも一つ上がり、既にレベルは12。
キリトはどうやらアスナを宿に誘い、風呂を貸しているようだ。風呂から飛び出たアスナとキリトが遭遇……なんてことがなければいいけどな。まぁ、あるわけない、か。
「……はぁ」
ため息の一つもつこうというものだ。
俺自身、ステータスだけで言うのならきっと攻略組の中でもトップクラスだろう。パーティに入った元βテスターは、「自分はβテスターだった」などと言い出せるわけがない。つまり。いくら効率的な狩場を知っていようと、いくら強い武器を知っていようと、それがパーティの皆に伝わらない以上レベリングの速さは製品版からの連中と同じになる。
だが、俺は違う。
ひたすらにソロで強いmobや、低確率ではあるが良い武器をドロップするmobを狩り続けた。
片手剣のソードスキルも一定のレベルまでは達した。何とか、明日のボス攻略までに二連続のソードスキルまでは身につけておきたかったからな。
そして、今日だけでもキリトやアスナの実力は充分なほど理解した。
俺もそれなりにやれたかなとは思うが、しかしあの二人には届かないと思っている。アスナなんて製品版からのプレイヤーなのに、目を見張るようなある種完成された動きの美しさがあった。
二人とも、俺にはないソードスキルの《重さ》。そして、《一撃の威力》がある。
今日キリトやアスナと共闘してわかったのだが、俺はキリトよりも多く敏捷値に振っているらしい。朝のデュエルではキリトの《ソニックリープ》に対し、俺がジャストのタイミングで当てられたから《バーチカル》でも良い勝負ができただけだろうと踏んでいる。
まぁ、もとより俺のスタイルとキリトのスタイルでは少しながら差がある。
俺は素早く、威力の小さい攻撃を何発も叩き込む手数で、
あいつは、筋力要求値ギリギリの片手剣で叩き込む一撃の重み。
そこにはゲームを攻略するにおいて明らかな差が生じる。
アスナはちょうど俺たちの中間と言ったところか。
「……あー、何かもう、よくわっかんねぇな」
髪の毛をぐちゃぐちゃのわしゃわしゃにして、頭を抱える。
明日のボス攻略。
それを考えるだけで体が震えるし、怖い。
自分で自分の体を抱きしめる。
何となく《メインメニュー・ウィンドウ》を開き、そこから悪い意味での思い出のアイテム――《手鏡》を取り出す。
手鏡に映る自分の顔に、ひどい呆れを覚える。
元々俺はかなり女性的な顔立ちをしている。
認めたくはないが、父親……あのクズもかなり綺麗な顔立ちをしているし、母親、まぁ、ゴミ人間もそれなりには美しいと思えるような容姿だったと思う。容姿だけならあいつらは本当に完成されている。
そんなゴミ二人の遺伝子を受け継いでしまったのは誠に不愉快ではある。
それに、女性的な顔立ちのせいか、野暮ったいコートとか俺に全然似合ってないしな。まぁ敏捷値補正があるし、着続けるけど。
そういや、今日の迷宮区での狩りの最中、バックラーも何かレア物がドロップしたようで、少しだけだが俺の防御力も上がっている。まぁ布地のコートだけでは心元なかったし、良かった。
何だかんだで俺は今、攻略の最前線を走っているんだろう。
……製品版からのプレイヤーを引っ張ってくれているディアベルに、少しだけ申し訳ない気がするけどな。
いや、やめよう。
余計なことを考えて、これ以上何か考えるのはあんまりよろしくない。さっさと寝てしまうのが得策だ。もう夜も遅いしな。
おやすみなさい。
明日は、死ななければいいな。
……
そう――どんな過酷な日だって、朝は、いつも通りにやってくる。
いつも通りに設定したアラームに叩き起され、いつも通りNPCの女の子が出す朝飯を食べて、白いレザーコートに着替え、装備を整え、アイテムを確認し、そして外に出る。
討伐部隊の集合場所に行き、キリト、アスナと軽くを交わしてからボス部屋へと進む。
きっといつか、これも日常になるのだろう。
いよいよボス戦。
ディアベルが右手を左腰に走らせ、銀色の長剣を音高く抜き放ち――
「…………勝とうぜ!!」
湧き起こる、巨大な鬨の声。
それはいつかのチュートリアルの時に怒った悲鳴や怒号、負の感情を結集したそれらに少しだけ似ているように思った。
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第五話 「星なき夜のアリア(1)」
原作の雰囲気も忘れずに描写していきたいなと思っていますので、SAOプログレッシブ「星なき夜のアリア」の話の中、レイトくんが何を思い、どう行動するのかを主体としてお送りします。
レイトくんTUEEE(白目)
レイトくんKOEEE(ガタガタ)
レイトくんKAKKEEE(呆れ)
午前十一時に迷宮区到着、そして午後十二時半最上階踏破。
ひとまず、ボス部屋の手前までで死者が出なかったことは幸いと言える。
その事実に、俺は少しだけではあるが胸を撫で下ろしていた。
とはいえ、途中なかなかにヒヤッとさせられる場面もあったりはしたのだが――まぁそれはディアベルの株を上げるだけになってしまうので端折るとして。
とにかく、俺とキリト、アスナのパーティは誰一人欠けることなく、相変わらずのアブれパーティとして総勢四十五名のレイドとして地道に道中のコボルドさんたちを狩ってきていた。もう素材
βテスト時と変わっていないのなら、ボスこと《イルファング・ザ・コボルドロード》の周りには取り巻きの《ルインコボルド・センチネル》が何体かポップするはず。
それを逃さず、確実に始末するのが俺たちの部隊の仕事なわけだが、結局仕事なんて仮のものでしかない。いくら俺たちはレイドパーティに所属しているとは言え、最後の最後まで役目をやり通すほどできた人間でもないんだ。
βテスト時代には戦いの中で律儀に役目を守ろうとして死んだ奴も少なくない。
しかしこれはβテストじゃない。
SAO内で死んだら現実でも死ぬかもしれない、という恐怖がある以上、勝つこと以上に負けない戦いをするべきなのだろう。
しかし、アブれてこそいるもののレイドに所属している以上、リーダーを信じるのも、ある意味ではレイドメンバーの大事な役目だ。
――などと、俺は認識を改めておく。これから先、何が起きても慌てることのないように。
いや、改めることなどこの世界ではもはや何の意味も持たないんじゃないかと俺は思う。既に俺の常識からかけ離れすぎているこの世界を、自分の認識なんて浅はかなもので計ってはいけないはず。
きっと、いつか甘い認識では死ぬ時が来る。
そして、俺の視界の先に……そんなとめどなく流れる思考を断ち切るほどの仰々しい見た目をした巨大な二枚扉が現れる。
まるで俺の恐怖を内包した心そのものを嘲笑うかのような。
扉にはデミヒューマンのレリーフが施されている。
他のRPGでは、最初の街辺りに出てくるmob……まぁ、チュートリアルのようなものなんだろうが、このSAOでは侮ることは決して得策ではないと言えよう。
人型である以上、奴らは武器を使いこなし、同時に武器を使えるということはつまりソードスキルも使えるのだから。ソードスキルを使える、それすなわち、凄まじい速度で、攻撃があたる部位も補正がされた強力な攻撃が俺たちを襲うということだ。
βテスト時代散々上の階層で刀スキルを使うmobに苦しめられたからこそ言えることだな。
まぁ、リアルもやしな俺でもそこら辺の階層で戦えるのだから、キリトはもっとハイレベルな戦闘をしていたのだろうが……。
そんなことを思いながらキリトのほうを向くと、何やらアスナと話しているようだった。
まぁアスナはボス攻略自体が初めてだから、どれだけ心配してもしきれないところはあるのだろう。キリトも過保護だなぁ。リアルジョブお兄ちゃんか何かか? いや、さすがにそれはないか。
さて、俺も頭の中で思い出すだけではあるが今一度対処法を確認しておくことにする。
ボスの《イルファング・ザ・コボルドロード》さん(以下コボルド王と略す)は、序盤中盤までは右手に握る斧と左手に握る盾で戦う。四段あるうちのHPゲージが最後の一つになった時、タルワールに武器を持ち替える、というのがβテスト時代のスタイルだ。ちなみに対処そのものだけで言うのならばタルワールに持ち替えてからのほうがやりやすい。上手く立ち回りさえすればダメージを受けることはそこまで多くないし、攻撃も直線的になるから回避しやすくなるからだ。
そして、それの取り巻きの《ルインコボルド・センチネル》は、常にコボルド王の取り巻きとして左右の壁からポップし続ける。武器はポールアックス。弾きやすい部類だと思う。
通常、コボルド王の攻撃を、高い防御力を持つタンク部隊が攻撃を受け続け、その隙を狙ってアタッカー部隊が攻撃する、というのが基本的な戦術になるだろうと思うが……まぁ、どんな仕様変更がされているのかわからない以上うかつに攻め入ることもできないだろうか。
前を向くと、今回のレイドリーダーディアベルはんが七つのパーティを綺麗に並ばせ終わったところだったらしい。
さしものディアベルでも、ここで「いこうぜ!」「やろうぜ!」などと鬨の声をかき鳴らすわけにはいかない。そんなことをすれば俺たちは一斉に人型モンスターの襲撃を受けることになる。基本的に、人型モンスターはプレイヤーのシャウトにも反応するという厄介な性質持ちだ。
そのことをわかっているのだろうディアベルは、銀の長剣を高々と掲げて一度大きく頷く。
次いで、俺たち他のレイドメンバーもそれぞれの武器をかざし、頷き返す。
俺はしてないが。
青いロングヘアをなびかせ振り向き、そして、
「――――行くぞ!」
短い一言に己の気持ちを乗せ、吐き出した。
こんなにも広かったのか――
それが、第一層迷宮区ボス部屋に入った俺の感想だった。
左右の幅二十メートル、扉から奥の壁までが百メートルといった広めの構成になっているのだから当然と言えば当然なのかもしれないが、しかしそれにしても広い。
実際にはこの距離が意外と面倒なものなのだが。
ボス戦の場合、ボスは絶対に部屋から出てこないので、入ってきた扉から部屋を出れば退却することが可能ではある。しかし、ボスに背中を見せて走ると長距離攻撃をくらうし、かといって体をボスに向けたままの後退となると、これがまた神経を使うものだし、それに扉までの道のりが途方もなく感じる。
ある程度攻略組が奥に進んだところで、暗闇に包まれていたボス部屋の左右の壁で粗雑な松明に火が灯った。それはどんどんと奥へ続いていき数を増やしていく。
部屋に光源が増えるたびに、内部の明度も上がっていく。
ひび割れた石床や壁、その各所に飾られている大小無数の髑髏。
部屋の最奥部には、粗雑かつ巨大な玉座が設けられている。
黒いシルエットとしてそこに座するは、この層のボス――《イルファング・ザ・コボルドロード》。
ディアベルが、掲げたままの長剣をさっと前に振り下ろす。
それを合図に――総勢四十五名のレイドパーティは、巨大で盛大な鬨の声を上げながらボスへと突進していった。
俺たちがいるのは一番後ろ……まぁつまり殿なわけだが、ひとまず一番前の戦闘部隊がボスまで残り二十メートルほどの距離まで近づき、そしてそこで一度静止する。
それまで微動だにしていなかっ黒いシルエットが凄まじい跳躍能力を見せ、そして空中でぐるりと一回転。10.00とでも言えばいいのだろうか。
地響きをさせながら着地した獣人、コボルド王。
βテスト時代と変わらない、恐怖すら感じさせるその風貌。
無骨なタルワールを高々と振り上げ、そして振り下ろす。
それをヒーターシールド持ちのA隊ががっちりと受け止め、とてつもないライトエフェクトと衝撃音を走らせる。
その音が合図だったのだろうか――左右の壁高くにいくつも空いた穴から、無数の取り巻きこと《ルインコボルド・センチネル》が飛び出してくる。
キバオウたちと、それを支援する部隊が手近な《センチネル》に飛びかかっていく。
俺たちもボヤボヤしていられないな。
まずはアスナが自分の体でブーストをかけた、流星の如き《リニアー》を首筋にピンポイントで炸裂させる。
それだけでもHPゲージの二割弱を持っていくのだから、全く天才とでも言うべきプレイヤースキルを持っている。
攻撃を危なげなく無駄がない動きで躱し、衛兵のポールアックスを跳ね上げる。
「《スイッチ》!」
キリトが片手剣用ソードスキル、《ソニックリープ》による突進切りをあて、衛兵のHPが六割ほどになる。
振り下ろされるポールアックスを《バーチカル》で弾いたキリトが、衛兵との間に空間を作るタイミングに合わせて。
キリトが叫ぶそのタイミングで、俺は前に駆け出す。
「――《スイッチ》!」
「了解っ!」
キリトの声に、それだけで返事して、思いっ切り体を入れ込んで《ホリゾンタル》で衛兵の首を真一文字にたたっ切る。クリティカルヒットの感触とともに、僅かに一ドットほどHPが残る、が、すかさずアスナが首をちょこんと突いてHPをゼロにする。
一応こんな雑魚の取り巻きでも、この部屋だけの限定mobなのでそれなりの経験値とアイテムを落とす。ありがたい。一度もボスに攻撃できずに終わってしまうのは、まぁ少々残念だが。
早くも一匹目を片付け終えた俺たち――いや、キリトとアスナは別の方向を向いているから気づいていないのか――の目に飛び込んできたのは、
五メートルほど前方で、短剣を装備している女性プレイヤーに向かってポールアックスを振り下ろす衛兵、
ソードスキルのライトエフェクトをまとったソレが煌き、
一方女性プレイヤーのHPゲージは真っ赤に染まっていて、
「――――――――届けェェッッッッッッ!」
全力で、《レイジスパイク》を発動させ飛び出した。
間一髪とでも言うべきか、ギリギリ横からポールアックスを弾き飛ばし、ソードスキルを不発にさせる。
衛兵のAIが次に僕と女性のどちらを狙うか決める前に、僕は湧き上がる負の感情に己を任せ、全力で二連擊ソードスキル《バーチカル・アーク》を振り抜く。
元々HPがあまり残っていなかったのだろう衛兵は、空中で倒れた状態のまま静止し、そしてポリゴン片になる。
きっと、リアルの僕の心拍数は尋常ではないことになっているだろう。際限なく高まっていく心拍数を、僕は今間違いなくこのデータで構成された体で感じていた。
声を出すのも辛いほどに心臓がうるさいのだけれど、喉から絞り出すかのようにしてようやっと声を出す。
「……あんた」
「はっ、はい」
「死なない、ように、しろ。死んだら、終わり、かも、しれないんだよ」
完全には自分を制しきれていないのだろう、かろうじて放った言葉は途切れ途切れの情けないものだった。
「……わかりました。ありがとう、ございます」
「わかってるなら、いい。僕は戻る」
「あっ、あの!」
「あ゛?」
「私は《Youra》っていいます! 助けてくれてありがとうございました!」
「ユウラ、ね……僕はレイト。んじゃ」
手をヒラヒラと振って、これ以上話すことは何もないというボディランゲージを示す。
ユウラのほうを見ないまま、キリトやアスナの元に、ゆっくりな足並みで戻る。
意識もはっきりとしないままに、
「キリト、アスナ……俺たちは死なない……誰も、死なせない……!」
「あぁ、わかってる」
「……そういうあなたが、一番死に近い」
「あぁ、そうだな。悪かったよ」
「ったく、無茶するよなぁ。肝が冷えたよ」
こいつらとの会話の中でいつもの調子が戻ってきたのか、言葉もリズミカルなものになっていく。
「わりーわりー。まぁ心配させた分は働きで返すからよ。……次の《センチネル》、いくぜ!」
「おう!」
この時、この瞬間、確かに俺は仮想世界を生きていると実感していた。
あんなことになるなんて、知りもせずに。
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第五話 「星なき夜のアリア(2)」
だから俺が消えようとも、俺の中の大事なものまでは消させないために――お前を殺す。
コボルド王――《イルファング・ザ・コボルドロード》とその衛兵《ルインコボルド・センチネル》対俺たちレイドメンバーの戦いは、結論から言えばかなり良い状態で進んでいると言えよう。
ディアベル率いるC隊、その他D、E、F隊がメインになってコボルド王のHPゲージを効率的に削っていった結果、既に残り一本近く――、いやもう残り一本に差し掛かったところだった。
そしてそう、俺たちのパーティのメンバーもまたかなりの実力を持っている。
キリトのゲームセンスには目を見張るものがあるし――まぁきっと、SAOをプレイする前から様々なゲームをプレイして培ってきたものがあるのだろう――アスナの剣速には俺ですら到底及ばない。細剣の基本ソードスキル《リニアー》を体でブーストさせて放っているのだろうが、敏捷よりの俺のステータスをもってしてもアスナと同等レベルの加速はできないというのが正直なところだ。
(さて、ここからだな)
気を引き締めなおす。
そういえばまだ話していなかったように思うのだけれど、この《センチネル》は、一応レアモンスター扱いになっている(この場所でしか現れないからな)ので、割と多い経験値とコルを落としてくれる。コルはレイドメンバーで自動分配されてしまうシステムになっているが、経験値は俺とキリト、アスナに入るようになっているし、ドロップアイテムについてはファーストアタックをとったプレイヤーに確率ボーナスが与えられる。
実際のところキバオウたちは自分たちで全部倒して手柄を横取りしたいんだうがそんなことはさせない。
キリトは何やらキバオウから因縁をふっかけられているようなので、俺はこの間に先ほどの少女――ユウラ、といったか――ともう一度話をしてみたくなり、少女を見つけるべく周りを見回……すまでもなく、目と鼻の先にいた。センチネルとの戦闘はどうやら一段落ついているらしく、肩で息をしながらポーションをがぶ飲みしているようだった。SAOのポーションってまずいんだけどなぁ。
一応気を引き締めたままに、声をかけてみる。
「ユウラ、さん」
一瞬さん付けしたほうがいいのかと悩み、まぁ失礼に値するなという考えからさん付けするに至ったのだが。
「あ、どうも、お疲れ様です。何か用が?」
暖かい微笑みを浮かべながら挨拶を返してくれる彼女は、天使とでも言ったほうがいいのだろうか。
そう思わせるほどに優しげな雰囲気を放っていた。
「あ、いや、そういうんじゃなくて……何というか、こう、ちゃんと戦えてるかなって思ってさ。
失礼な言い方かもしれないけど」
「あはは……いえ、その考えももっともだと思います。でも、今のところ大丈夫です。……先ほどは本当にありがとうございました」
「気にするなよ、さすがにこのデスゲーム内では困ったらお互い様だし」
「優しいんですね」
「まぁ、何だろうな、そうしなきゃっていう使命感に駆られてるだけなのかもしれないし。偽善者って言ったほうが早いのかも」
そうやってすぐに自虐に走り、相手に自分の存在を認めてもらおうとするのは俺の悪い癖だと知っている。
だがしかし、息をするように自虐をしてしまうのだ。しょうがなかろう。つーかこの癖は俺が悪いんじゃなくてあのクソ親どもが悪い……ということにしておこう。
「いいえ、例え偽善者だとしても、誰かのために行動を起こせることが大事だと思います」
「あはは、そう? そう言ってもらえると嬉しいね。
――それとさ、敬語はやめてくれ。どうせ同世代だろうし、気遣いなしでいこうぜ」
「はい、わかりま……ううん、わかった。よろしくね、レイトくん」
「よろしく、ユウラ」
二人して微笑み合う。
たかがネットゲームの中、されどネットゲームの中。ここで芽生えた友情はなくならないと信じたい。
俺とユウラの手が同時に伸び、握手しようとしていた、その瞬間にコボルド王の咆哮。いや、慟哭。
そうだ――まだこいつを殺したわけじゃない。センチネルは何度でも蘇り続ける。ったく、さっさとこいつに止めを刺してくれよ、ディアベルさんよ。
俺は息を思いっ切り吐き出す。
不安と優しさをそれに乗せて、捨てる。
「キリト、アスナ、いくぜ……ん、どうしたキリト」
放心状態とでも言えばいいのだろうか。
「いや……。――まずは、敵を倒そう」
俺が声をかけた途端に、表情を引き締めた。
「あぁ」
「…………ええ」
一言だけで返事して、俺とキリト、アスナは向かってくるセンチネルに剣を向けるのだが――
「ぅ、あ……?」
メイン戦場のほうに、《何か》を感じた。
直感? 虫の知らせ? 錯覚? とにかく何でもいい、すぐにメイン戦場のほうを見なければならないという衝動に駆られて、一瞬だけ俺は視線をセンチネルから逸らしメイン戦場へと向ける。
ちょうど、コボルド王のHPゲージが残り一本になっていて、見ると右手に握った骨斧と左手に持った盾を投げ捨てたところだった。
そして、右手を腰の後ろへと持っていき、ぼろ布が巻かれた柄をがしっと握り、そして凶悪に
β時代、それこそ脳裏に焼き付くほどに見慣れた攻撃パターン変更モーション。
武器を変更したコボルド王は、ここから死ぬまでずっと曲刀カテゴリのソードスキルだけを使ってくる――がしかし、対処だけなら今までよりもやりやすい。使ってくるソードスキルが、直線長距離のものばかりだからだ。
うまく立ち回れば、レイドの平均HPを残り八割程度に保ちながら撃破することも可能だろう。
ボスに貼り付いても大丈夫だしな。
それにしてもあのタルワール、随分と細いな……β時代には、もう少し無骨と表現してもいいレベルのごっつい武器だったと記憶しているんだが。
――細い?
違う、普通ならタルワールはあそこまで細いわけがない。
そんなわけがない。
片手剣カテゴリに分類されていて、あそこまでの細さを持つものはレイピアと片手剣(武器によって刀身に差はある)、そしてもう一つは……ッッッ!?
まさか!?
「――来るよ!」
しかし、俺の思考の渦はひとまずそこでアスナの声によって断ち切られる。
まぁ、まずはこいつを倒すことからだな。
キリトが《センチネル》の振り下ろしてくるハルバードを《スラント》で跳ね上げ、アスナがそこにすかさず急所めがけて流星の如き《リニアー》を打ち込む。
やや遅れながら、のけぞった衛兵の首に俺の《ホリゾンタル》がヒット。僅かに削りそこねたHPゲージについては、アスナがちょこんと首元をついて削り切る。
落ち着いた俺は、今一度戦場全てを見回す。
そこで俺は、一つおかしなことに気づいた。思わずそれに視線を固定する。
――そこには、いくら攻略本を事前に読んでいるとは言えあまりに的確すぎる指示を出すディアベルの姿があった。いくらあの攻略本に様々なことが記載されているとは言っても、しかしそれにしては頭が回りすぎている。そう、
その瞬間、全身に何かが駆け抜けたかのような衝撃が走る。
そして脳裏に浮かぶは先ほどの思考の続き。そう、あれはタルワールと呼ぶにはあまりにも細すぎるんだ。あの形状、俺のβテスト時代の記憶を照らし合わせてそれに該当するものは、野太刀。
想定される最悪の自体のことを考えると声が出なくなりそうになるが、それでも恐怖などないと信じ込んで叫ぶ。
「いくな、ディアベル! いくな、いくな、そのままじゃ死ぬぞ――――ッッッ!」
俺の横のキリトも同じタイミングで絶叫した――がしかし、俺の声はコボルド王が始動させたソードスキルのサウンドエフェクトによってかき消されてしまう。
俺が毒づく前に、コボルド王は既に真紅のライトエフェクトを纏った野太刀をディアベルたちに叩きつけ――
「あ……あぁ、あ……ああ……」
もう何が起こったか、俺は考えるのもやめてしまった。
何となく覚えている事実だけを抜き出してみるのならば、キリトがディアベルの元へ駆け寄るが結局ディアベルは死んでしまったというところ。
レイドはリーダーの死去によって大混乱に陥るが、俺はそれすらも意識していなかった。
「あぁ……」
ディアベルが死んだ。そう、俺の目の前で、一人の人間の命が失われてしまった。
「あぁ……」
せっかく第一層攻略の勝機を掴みかけていたのに、取り逃してしまった。
「あぁ……」
このままでは、他にも多数の死人が出るかもしれない――いや、現状レイドは壊滅の危機にさらされているんだ。
「あ゛ぁ……」
だったら俺に今、出来ることは何だ? 決まっているだろう。いや、俺はこの世界にログインしたその瞬間から、こうなると決まっていたのかもしれないな。
「あ゛ぁ゛……っ」
コボルド王もセンチネルも、俺が殺るしかないだろ。
「あ゛ぁ゛……っ!」
決心してからの行動は、まるで何かに突き動かされているかのように速かった。
ありったけの力を込め、全力でコボルド王へ向かって走る。
システム的な限界にぶち当たろうとも、それすら打ち砕くつもりで走った。
刀の三連擊ソードスキル《緋扇》が飛んでくるが、しかしワンテンポ僕よりも遅い。
「クスクス……思ってたよりも遅いんだね」
上、下から凄まじい速さで飛んでくる刃を左右へのステップで躱し、一拍おいて放たれる突きは左手のバックラーでギリギリいなす。一歩間違えれば死ぬ躱し方だが、しかし今僕は絶対に死なないという根拠のない自信があった。
「せあぁ……ぁぁっ!」
全身全霊でソードスキルにブーストをかけて踏み込みざまに放つ《スラント》。
やはり筋力に振っていない僕の攻撃では全然削れやしないな。
「キリト、アスナ!」
振り向かずに叫ぶ。
あの二人なら。
「――わかってるッ!」
キリトの咆哮とともに、アスナが俺の目の前に飛び込みながら《リニアー》をコボルド王の足に叩き込む。
「頼もしいね……ありがとう、二人とも」
口の中で呟いて、僕も今一度気を引き締め直す。
「キリト、アスナ! 僕がヘイトを稼いでタゲを取り続けるからっ……あとは任せた」
コクッ、と頷き返してくれたのがわかった。そう、言葉なんていらない、言葉がなくても繋がっているような一体感を僕は今まさに味わっていた。
まずは迫り来る野太刀に、ブーストをかけた《バーチカル》をぶち当てる。
「ッ!?」
僕の体ごと弾き飛ばされてしまう。
このままじゃ、僕が追撃をくらってしまう。死ぬ、のか……?
「大丈夫、わたしたちがついてるよ!」
澄み渡った声とともに、大きく吹き飛ぶはずの僕の背中を支えてくれたのは――見目麗しき美少女、ユウラだった。
「君がポーション飲み終えるまで、わたしたちが支える。だから、絶対に死なないで……!」
そう言われちゃ、死ぬに死ねないじゃないか。
「わかったよ……そうだ、二層に上がったら、いい宿屋を紹介してあげるよ……っ!」
ポーションをがぶ飲みし、空の瓶を全力で放り投げてからHPゲージが完全に回復していないままにユウラの支えから飛び出す。
野太刀を《ソニックリープ》で跳ね上げ、そして全身に余りある気勢を全てこの愛剣に乗せて振り抜く。
「――うるあぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!」
連擊ソードスキル、《バーチカル・アーク》。
一撃目でコボルド王の胸を深くえぐり、そしてシステムアシストによって跳ね上がった刃が肩口から飛び出す二擊目。
しかしそれでも、まだコボルド王のHPゲージは数ドット残っていた。
獰猛な笑みを浮かべるコボルド王と同時に、僕の視界には――こちらもまた、獰猛な笑みを浮かべて剣を構えるキリトがあった。
「お……おおおおおおッ!!」
気勢とともに、激戦を戦い抜き数箇所刃溢れしたかのようなデザインになった剣を思いっ切り振り抜くキリト。
一撃では終わらない。
二擊目が左肩口から飛び出し、凄まじい衝撃を走らせる。
そう、僕が先ほども放ったソードスキル。片手剣二連擊、《バーチカル・アーク》――。
コボルド王の巨体が、力を失い後ろへよろめく。
狼とでも形容すればいいのだろうか、とにかく狼のような顔を天井へと向けて、細くそして高く雄叫びを上げる。
それは命を失う寸前の獣のように。
それはディアベルの死によって敗北を悟った俺たちのように。
それはSAO始まりの日に始まりの街で巻き起こった悲鳴のように。
その咆哮が止み、そして体にビシッという音とともに無数のヒビが入る。
腕に力強く握っていた野太刀が、不意に床に落ちる。カラン。
そしてその直後に、アインクラッド第一層フロアボス《イルファング・ザ・コボルドロード》はポリゴン片へと爆発四散して跡形もなく消え去った。
そう、今ここに、第一層はクリアされた。
思わず息を吐きだす
文章に少し納得がいっていないので、修正が入る可能性大です。
更新が遅れてしまい申し訳ありません。
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第五話 「星なき夜のアリア(3)」
遅れてしまって申し訳ありません。
コボルド王の消滅が合図だったのだろう――後方に残っていたセンチネルたちも、儚くポリゴン片へと姿を変えて消え去った。
そう、俺たちは勝利したのだ。
勝利したにも関わらず、俺は右手の剣と左手の盾を構えたまま完全に安心しきることをしていなかった。
思わずあたりを見回し、もう一度あの獣人が蘇ってくるのを恐るかのように剣を構える。
そんなことはない――ないはずなのに、俺の心はざわめきを隠せていなかったのだ。
これで本当に終わりか? これから、まさかセンチネルが大量に沸いてくるとか、縁起でもないが文字通りの初見殺しがあるのではないか?
という、とめどない俺の思考にピリオドを打ったのは、ユウラの雪のように白く、そして細い腕だった。
俺の右腕の剣を下ろさせ、そして、呟く。
「……終わったんだよ、レイトくん」
「あ、あぁ……」
呆然。
とでも表せば良いのだろうか、とにかくどこかに恐怖を抱えたまま腑に落ちない感じではあるが、俺は右手に握り締めたままの愛剣を背中の鞘に仕舞う。
ユウラの整った顔立ち、そう、言うなれば美しさと可愛らしさがちょうど良く同居したかのような顔立ちをただただ見つめたままに、俺は全身の力が少しづつ抜けていくのを感じた。
肩まで伸びる、黒髪のショートカット。
しなやかに伸びた、白く細い手足。
全体的に少しだけ高めの身長。
それが、改めて確認したユウラの容姿だった。
こんな美しい人間がこの世にはいるのか、例えどんなゲームのどんなアバターでもユウラには敵いっこない……そう思わせるほどに完成された容姿を持っていた。
「レイトくん、第一層攻略、お疲れ様」
その一言で、そう、その一言で俺は確信した。
現状として八千人のプレイヤーを閉じ込めているこの百の層を持つ城、その第一層を守る障害が今消えたのだ、と。
そして、俺がそう認識するのを待っていたかのように、改めてウィンドウが出現する。倒したあと、放置しっぱなしだったからね。
獲得経験値とか、獲得したコルとか、そしてドロップアイテムとか……そういう、同じものを見たその場の全員が、俺と同じように、表情を取り戻す。疲労と恐怖に染まった表情から、抑えきれないほどの歓喜の表情へ。
一瞬の溜めのあと、凄まじい歓声がこの広場で弾けた。
様々なアクションで喜びを表しているプレイヤーたちの間、床から立ち上がりこちらに近づいてくる影が一つ。
エギルだった。
俺はあまり面識はないが、戦闘中キリトとアスナのサポートをしてくれていたようだ。俺は主にユウラの隊にサポートされていたから、あまりわからなかったが。
キリトと何やら言葉を交わしてから、彼は右の拳を差し出していた。キリトは照れくさそうに、せめて拳だけでも合わせておこうといった感じなのだろうか。やや戸惑いながらも拳を差し出していた。
そして、キリトとエギルの拳がぶつかる、その瞬間。
「――――なんでだよ!!」
泣き叫んでいる、と形容すればわかるだろうか。
怒りに任せたのだろう、少し裏返っているその叫びが、広場の歓声を一瞬で静まり返らせた。
「――――なんで、ディアベルさんを見殺しにしたんだよ!!」
その叫びの発生元のプレイヤーは、今は亡きディアベルが率いていたC隊のシミター使いだった。
なんで、か。
もしその問いに対して、俺に回答権があるとするのならば、俺は少々辛辣にモノを言わずにはいられない。LAボーナスを狙い、単身突撃していった結果、彼は死んでしまったのだと。
そして、LAボーナスの存在を知っている以上、ディアベルもまたβテスターなのだと。
だがしかしそれを伝えてはならないだろう。
ディアベルは己の信念を貫き、そう、貫き通して製品版からのプレイヤーを引っ張ってきた。その心を無碍に扱うなど、人でなしでなくて何だというのか。
俺がそんなことをうすらぼんやりと考えていると、先ほどのプレイヤーが今度は「お前らはボスの使う技を知っていただろ、それをなぜディアベルに伝えなかった」という旨の叫びを放った。
どうやら、キリトも対応に困っているようだった。
そしてその声に便乗するかのように、今度は他のレイドメンバーがざわつき始める。確かにまぁ、刀スキルは、いくらβテスターと言えども、βテストが終わる前の一番上の層の、それも一番奥でポップする刀スキルを使うmobを散々相手取っていなきゃわからないだろうからな。キリトも刀スキルを見極めることができていたということは、きっとキリトもあそこで詰んで刀のソードスキルの初動モーションを全て覚えようとしたクチだろう。まぁそれもしょうがない。刀のソードスキルはまさに文字通りの初見殺しと言っても差し支えないからな。
確かにこの叫びに、俺やキリトの他にもいるであろうβテスターは反論する権利を持たない。
今まで情報を隠し、効率のいい経験値の稼ぎ場を使い誰よりも早くレベルを上げて、強い武器防具のドロップ場所を独占してきた。いわば、俺たちβテスターは罪人。
製品版からのプレイヤーからすれば憎みや妬み、とにもかくにも負の感情をぶつけたいのはやまやまだろう。
何か、この場を収められる方法はないか……何か。
そう考えた俺は、先ほどドロップしたアイテムを睨んでいた――そして。
まるでそのコートは、俺がそれに目を留めるのを待っていたかのようにそこにあった。
《コート・オブ・ピュアホワイト》。
性能がおかしい。
LAボーナス並みの性能。どうなっている?
おそらくキリトにはきちんとしたLAボーナスが入っているに違いない。製品版で追加された、何らかのボーナスが俺に適用されていて、このコートという形で俺にドロップしたのだろうか? よくわからないが、このスペック……おそらく、最上の素材を用いて強化を重ねていけば、このデスゲーム攻略の終盤までこれで持ちこたえられるかもしれない。
「オレ……オレ知ってる!! こいつは、元ベータテスターだ!! だから、ボスの攻撃パターンとか、旨いクエとか狩場とか、全部知ってるんだ!! 知ってて隠してるんだ!!」
その声に、シミター使いのC隊の驚きの顔はなかった。
もちろんキリトがベータテスターだとディアベルから聞いていたとかそういうことではないのだろうが、おそらくはキリトがカタナのスキルを見極めていた時点で予測していたのだろう。
その言葉をきっかけに、さらに憎悪は膨れ上がり――ついに禁忌の言葉が、放たれた。
あの攻略本が嘘だったんだ、と。
アルゴが嘘を売りつけたんだ、と。
元βテスターがタダで本当の情報を教えるわけがない、と。
――このままこの間違いが広まれば本当に手遅れになってしまう。アルゴを筆頭とした他のテスターたちに被害が広まってしまうようなことがあれば――ゲームの攻略に、大きな差支えが出るだろう。そうしていつしかそれは、ゲーム攻略における遅れ、やがては俺たちの現実の体の死に繋がっていく……それも考えられる。
それだけは避けたい。
でも、どうすれば。あるのはこの、《コート・オブ・ピュアホワイト》だけ。
これだけで何ができるんだ……。
その声に痺れを切らしたのか、アスナやエギルが声を漏らした。
「おい、お前……」
「あなたね……」
と、その時。
葛藤を重ねていた俺……そしてアスナ、エギルを制するようにして、キリトが手を伸ばした。
「元ベータテスター、だって? ……俺を、あんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな」
見るからに作っているとわかるようなふてぶてしい笑みを浮かべ、キリトはそう吐き捨てた。
それから、彼は語った。
βテスターの抽選倍率は凄まじいものだった。だから、当選者千人の中に何人本物のゲーマーがいたのか、と。
ほとんどはレベリングのやり方も知らない初心者だったから、今のお前らの方がまだしもマシだ、と。
一般プレイヤーからしてみれば、舐め腐っているような発言であることに間違いはない――しかしこれもまた、一つの正論であるとも言える。
俺もβテスターだったからわかるのだが、実際のところSAOβ版の初日は結構なものだった。見事にゲーマーと初心者の間で壁が出来ていて、このままではSAOが剣を用いてモンスターを狩るゲームじゃなくて人を狩るゲームになってしまうのでは? と思わせるような雰囲気だったことを、今でも鮮明に思い出せる。
「レイトくん」
額にかいた冷や汗を拭っていると、いつの間にかユウラが傍に寄ってきていた。
「ユウラか。えぇと、さっきは助けてくれてありがとう。ユウラがいなかったら、多分俺死んでたよ」
事実であることに間違いはないし。
――今度はボス攻略が終わったこともあり、ゆっくりと改めてユウラの容姿について言葉で表せる。
鉄の鎧の先端からすらりと伸びる雪のように白くて細い手足。愛くるしさと美しさが絶妙に重なり合った、美少女と言って当然差し支えないような顔の造形。
今は剣と盾を握っているが、きっと現実でおしゃれをすればさぞ映える人間なんだろうなぁ、と思わされるような容姿をしている。
「そう言ってくれると、助けた甲斐があったってものだよ。いつも仲間が傍にいるとは限らないんだから、これに懲りたら無茶はしないでね」
「まぁ……善処はするよ」
どうせ未来永劫ソロプレイヤーなのだからその心配も無用だけど。と口の中だけで呟く。
仲間も巻き込んで死ぬくらいなら俺一人で死んでやる。
誰かの命を背負って死ぬには、俺の背中はまだ小さすぎる。
親を殺したいと思ったことは何度もあるが、しかしそれでも俺自身が死んでやろうと思ったことはなかった……と思う。まぁこれから先、俺がどうなっていくのかはわからないが……。
「政治家みたい」
クスクスと笑いながら、呟く。
それが案外俺にとってはクリティカルヒットだった。うぐ。政治家みたい、か……あんまり言われたくはないなぁ。
「まぁ、そうかもしれない……それはとにかく。現状、どうするか……」
「えっ?」
「いやほら、キリト――あぁその黒髪の女っぽいのがキリトで、亜麻色の髪の女の子がアスナって言うんだけど――とディアベル派の論争。丸く収まりそうにないからな」
「へー……アスナさんって人、すっごい美人さんだね」
「そうだな」
ユウラさん、あなたも負けず劣らずだと思うんですけれど。
まぁ、本人に直接言うのは恥ずかしいので黙っておくが。
いや、それにしても、どうするべきか。
キリトがディアベル派のプレイヤーたちから受ける罵声の中に、《ビーター》という妙な響きの単語が生まれ始めていた。《ベータ》の《チーター》で、《ビーター》。なるほど面白い言葉だ。
「……《ビーター》、いい呼び方だなそれ」
キリトはニヤリと作り笑いを浮かべながら、広場にいる全員を見回して言った。
「そうだ、俺は《ビーター》だ。これからは、元テスター如きと一緒にしないでくれ」
年齢相応の表情を少しだけ覗かせながら、キリトはアイテムストレージを何やらいじりだす。
指がある程度動き、止まる。
装備を変えているのか――キリトの体が一瞬光に包まれ、次の瞬間には……くたびれた灰色の生地から、艶やかさを持つ黒の生地へと変化した。
そうだ。
俺は何をしているんだ、キリトだけにこうやって重圧を背負わせて。
バカじゃねぇのか、俺は。
何に突き動かされたのか、俺も負けじとアイテムストレージから、先ほどの純白のコート――《コート・オブ・ピュアホワイト》を装備する。
俺のその純白の異型に気づいたのか、ユウラが俺に声をかけようとする――が、まさしく先ほどのキリトのように、俺は手だけでそれを制した。
いっちょやってみるか。
キリトを真似て、見るからにふてぶてしい態度の作り笑いを顔に貼り付ける。
「おい、キリト。俺をこんなテスター如きと一緒にするなよ」
俺たちに背を向けて歩きだそうとしていたキリトの足が止まる。
「お前らにも言っておく。俺も――この《ビーター》ことキリトと同じくらいの情報量を持ったβテスター。刀スキルなんて、そんなもん見飽きるくらいにこのゲームを遊び尽くしてる。
つまり――俺も、《ビーター》だ」
ディアベル派のプレイヤーの動きが少しだけ鈍る。
今俺が背にかけている剣でこいつらの首を切り飛ばすことも、不可能ではない。そう、こいつらは恐怖のあまりに警戒すらも忘れている。それこそ最大の死因となる。
「大体、これはデスゲームだぜ? 判断を誤ったプレイヤーは
キリトに負けず劣らずと言った具合で吐き捨てる。
ディアベル派のプレイヤーの皆さんはまさに怒り有頂天と言ったところだろうが、そんなもん俺には関係ない。もし仮にプレイヤー同士が結託して俺を殺しに来たとしても、俺は死なない。死ねない理由がある。
それまではどんな障害があろうと、前に進むことだけはやめない。
「レイト……」
後ろでキリトが何か言っているようだったが、声が小さいのか俺にはよく聞き取れなかった。
「……」
アスナも何か言っているようだったが、聞きたくなかった。頼むから俺の黒歴史を後世には伝えないでくれよ。
「レイトくん…………!」
ユウラはこちらに近寄りたそうにしていたが、しかし俺の剣呑な雰囲気に恐怖を感じたのだろうか――踏み出しかけた足を、引っ込めた。そう、それでいい。
これから先俺と君は違う道を歩んでいくだろう。
でも、もし君が俺と同じくゲームクリアを目指すのならば、いずれ俺たちは再開することになる。その時に、俺がどうなっているのかはわからない。もしかしたらソロプレイヤーを続けているかもしれないし、どこかのギルドに入れてもらっているかもしれない。鍛冶屋をやっているかもしれない。
そして、敵として――剣を交えることになるのかもしれない。
もちろんそんな時は来ないと信じたいが――しかしありえないとも限らない。俺は対人戦に優れているわけではないが、その時は全力で迎え撃たなければならないだろうな。
とにかく。
俺とキリトは――事実上、今日付けで攻略組から脱退した。それは普遍の事実であって、もう塗り替えられない。
正規の攻略組として俺がこのゲームをクリアしていくことはできない。
ならば必然的にソロプレイヤーとなる。
ソロは危険だ。
確かに知っている攻略法を一人で思う存分に使って攻略できるのだから、効率はかなりのものだ。だが、パーティープレイでは別に何もない麻痺ですら死因足り得る。常に最高レベルで命の危険がつきまとうし、極端な話プレイヤーに襲われた場合、襲撃者を殺すことでしか生き延びられない可能性もある。
世界は残酷だが――このゲームは、もっと残酷だ。
「ユウラ」
振り返らないままに、俺は口調を柔らかめにして言った。
目の前には、既にキリトが歩いて行った第二層への道が伸びるのみ。
「俺は、俺のやり方でこのゲームを進めていく。君は絶対に、ギルドやパーティーに入ってプレイするんだ。もし仮に勝てない相手がいたとしても、死ぬな。死にそうになったら逃げろ。そんで隠れろ。運が良けりゃ不意をついてぶっ殺せ」
あくまでも独り言として呟く。
後ろのユウラがどんな顔をしているのか、俺には到底想像もつかないが――泣き顔でないことを祈っている。
「レイトくん……二層に上がったら、良い宿屋を紹介してくれるって……言ったよね……?」
少しずつ涙が混じっているのだろう――だけれど俺はそれでも振り向かない。
「あぁ、約束、守れなくて……ごめん」
謝ることしか出来ない俺自身に、苛立ちを覚える。
でも、それ以外には何も行動を起こすことなどできなかった。
「ううん、それでも君をずっと待ってるよ……ずっと。この世界が終わるまで、ずっと……」
それは、少し重い話だ。
だから俺は、答えを出さずに歩みを進める。
この世界を終わらせる決意を、新たにして。
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第六話 「ユウラとのデュエル」
――心の中に潜むもう一人の自分との戦いの物語。
現在の最前線、七十四層で、人型の強敵《リザードマンロード》との戦いを終えた俺は、マッピングの資料を整理しながら帰途についていた。
アインクラッド第四十八層、《リンダース》。
ここが俺のホームが存在する階層になる。
最前線で戦う攻略組だから家も豪邸――なんてことは当然ない。一応《主街区》には住んでいるものの、一軒家などではなく普通のNPCの宿屋の一室を借りて生活をしている。ご飯はNPCが出してくれる料理か、美味しいところで外食。
肝心の内装はというと、これまたベッドと机、椅子、アイテムボックスぐらいしか置いていない。それ以外に特に必要性を感じていないからだ。
女性プレイヤーとは違い服もそう持っていなければ武器防具も固定されている俺には豪勢な家など必要ないと言うのが正しいか。
まぁ、基本的に俺の防具は《ピュアホワイト》一式で固定されているし、買い換えようという気がないからいいんだよ。うん。面倒くさがりなだけかもしれないが。まぁ、剣と盾については、このリンダースに住んでいるとある鍛冶屋にお願いしてかなり強化を重ねてきているが……。
「お昼……どうしようかな……っく、ふぁーぁ」
アイテムボックスにリザードマンロードの素材を突っ込み閉じる。
次いで装備の左手、俺が愛用している蒼天の盾――《グレイシアシールド》を外す。しかしここがいくら《圏内》だとはいえ、いつ何が起こるか知れたものではないので右手の片手用直剣《ホワイトレクイエム》は常に装備フィギュアから外さないようにしている。
ウィンドウを閉じて、大きな欠伸を一つして、宿屋の外に出ることにした。いや、言えば一応昼食は出してくれるのだが、さすがにお昼は量が欲しい。一応これでもリアルでは食べ盛りな年齢なんです。
「さて、どこで食べるか……」
街の中を適当に歩き回りながら、空いている飯屋を探す。
どこもそれなりに人が多いな。
「ご飯、どこにしよう……」
と、正面から俺と同じように歩いてくる女性プレイヤー。彼女も昼食をどこで食べるか悩んでいるらしい。
お互い大変ですなぁ。
と思ったところで、程よく空いている定食屋(のようなもの)が視界に入った。この際不味くてもいいから量さえ食べられればそれでいいか。
「よし、ここで」
「ここにしようかな」
声が被った。
この女性プレイヤーもここで昼食にするのか。と思いながら、ゆっくりとその女性の方へ首を向ける。
「あ゛」
「え゛」
……。
「……」
…………。
「…………」
………………。
「………………」
「ユウラじゃん」
「レイトくんだ」
そうしてなぜか、俺とユウラは一緒に昼食をとっていた。
「最近はどう? 攻略」
「安定のソロプレイ。人生もソロプレイになってるけどな。そっちは?」
「うん、まぁぼちぼちってところかな」
「血盟騎士団だったな。良かったじゃん、アスナとかいて、それに何よりあのヒースクリフが団長なんだろ? 少なくとも死ぬ可能性はかなり少ない」
「レイトくんもウチに入ったらどう?」
唐突に切り出される、勧誘。
知っている……このまま無茶を続けたらいつか絶対に死ぬことくらい。
理解している……俺一人の力などたかが知れていることくらい。
だがしかし、俺のスタイルではパーティの邪魔にしかならない。普通にパーティを組むだけならタンク役のプレイヤーは攻撃専用のスキルを磨く必要はほぼないと言っていい。俺は攻撃と防御の両立……ヒースクリフに限りなく似通ったスタイルを意識しているから、結局一人でやってしまったほうが早いのだ。
キリトのように力でゴリ押しできるわけでも、アスナのように閃光と呼ばれるほどの攻撃速度もないが、しかし耐久力だけであれば誰にも負けない。ヒースクリフを除いて、だが。
そう、ユウラが真剣に問うているのだから、俺も真剣に答えなければならない。
「……お断りさせてもらう。俺はソロプレイヤーだ。ギルドとは相容れない」
「うん――そう言うと思ってたよ」
「あぁ、悪いな。お詫びにここは払っておくから、んじゃ」
そう言って、俺が半ば無理矢理に支払いをすべく席を立とうとした時、ユウラが俺のコートの裾を掴んだ。
「まだ話があるのか?」
「待ってよ。……わたしまだ食べ終わってないし、それに、もう一つお話もあるから」
「あぁ、そうだったか。そいつは失礼した」
立とうとした席に、再び腰を下ろす。
店内は、攻略する上での殺伐とした世界から切り離されたかのように静寂を保っていた。
チラホラと客もいるが、コーヒーを飲んで仲間と迷惑にならない程度の声で喋っているとかそういうプレイヤーが大多数といったところだ。
ユウラが、艶やかな黒髪を揺らしながら問うてくる。
「レイトくん」
「ん?」
「血盟騎士団に入るのが嫌なら、わたしとパーティー組もう?
レイトくんと久し振りに攻略してみたいな」
「それも断る」
「む、何でよ」
「俺、ソロプレイヤー。つーか《ビーター》。オーケー?」
とはいえ七十四層まで来てしまえば、もはやビーターや一般プレイヤーなどの隔たりは意味をなしていない。単純にプレイヤースキルの問題だろうな。
「オーケー」
「君、血盟騎士団。んでトッププレイヤー。オーケー?」
「まぁ、そうかも」
「よし、これでわかったな」
察してください。
「わかるわけないでしょ!?」
「いやいや。だって俺だぜ?」
「だっても何もないっ。ほら、わたしとパーティー組むっ」
「…………えぇー」
正直転移結晶使ってでも逃げ出したい気分だった。
ボス攻略でもパーティーを組むことはなかった。今までの攻略で、第一層以外、ただの一度も。
一人は気楽だから。
死んでも生きても、それは俺だけで噛み締められるから。
SAO内での感情表現がかなりオーバーになっていることもあり、ユウラの表情はかなり創作物チックな雰囲気になっている。頬を赤らめて、上目遣いで、それに頬をぷくーっと膨らませて。
「……わかりました。そんなにわたしとパーティーを組みたくないのね」
怒らせてしまったか?
それならそれで非常に面倒くさいことになってしまうので早いところ謝り倒してこの場から逃げ出そう。
「いや、別にそういうわけじゃなくて、そのぅ」
「ならわたしがレイトくんより強いって証明すればいいのよね」
「ドウシテソウイウコトニナルンデスカー」
「デュエルしましょう、レイトくん」
「だが断る。……おごぉっ」
待て待て。
今この子ナイフでソードスキル発動させようとしたんですけれど。
圏内だからダメージはないってわかっていても、凄まじい殺気が放たれているんですけれども。
――あぁ、面倒くさい。
けれども、納得させるためにデュエルで勝つしかなさそうだ。
だったら、やる他ないな。
「いいぜ、受けて立つ」
デュエルは、広い広場のところで行うことにした。
俺は別に盾で防いで剣でチマチマ斬っていくチキンスタイルなので広さがどうだろうと関係ないのだが、ユウラが両手剣なので、空間が広くないと振り回しずらいだろうという配慮だ。
初撃決着モードで、俺も一応のところのガチ装備。
右手には純白の剣――ホワイトレクイエム。
左手には蒼天の盾――グレイシアシールド。
コートもきちんとピュアホワイトシリーズ一式。
何でたかが一デュエルでここまでガチにならなきゃいかんのやら。
考えれば考えるほど面倒くさくなってくるので、サクッと勝って終わらせよう。
「レイトくん、覚悟してね」
殺気を放ちながら、ユウラが赤と白両手剣――《スカーレットクロス》を正中線に構える。血盟騎士団のコートと合わせて良く似合っているその姿は、さながら俺と対を成しているかのような。
「そっちこそ」
ニヤリと余裕のある笑みで殺気を受け流し、こちらも盾を半身前に出し、剣は切っ先を地面にだらりと地につけない程度に下ろして構える。
周りにはいつの間にか野次馬が集まっていて、俺とユウラのデュエルを観戦しようとしている。まぁ別に見るくらい構わないが。攻略組でも友達がいないぼっち中のぼっちとして既に悪名高い俺の名前はSAOの中層プレイヤーでも知っているレベルだ。
既に視界のカウントは、5を切っている。
さぁ、戦いの時。
《3》、
《2》、
《1》。
「――はぁぁぁぁぁぁッ!」
ユウラがソードスキルを使わずに突進してくる。
それは正しい判断――ソードスキルは対人では読まれやすい。
だけれども
だって、そのおかげで僕がわざと一瞬
突進とともに繰り出される、勢いの乗った上段斬りを思いっ切り正面から力ずくで受け止める。
ゲーム内だというのに火花が散り、その突進がどれほどに凄まじい威力だったというのかを実感させられる。きっと防御なしで直撃していれば、この一撃でデュエルは終わっていただろう。
STR-AGIに特化している僕のステータスであれば、ほんの少々、カスリ傷程度のダメージを受けるだけで済む。
無防備になったユウラを盾で突き飛ばし、先ほど発動させていた片手剣のソードスキル《ソニックリープ》で斬りかかる――が、それをあと一歩というところで躱されてしまう。反射神経に任せた回避だったが、さすがというところか。
カウンターと言わんばかりに、起き上りざまに体重を乗せて突きを繰り出してくるが、盾で受け流して、今度はこちらがカウンターとして《スラント》を繰り出す。
ユウラはかなりのバックステップでまたしても躱す。
躱してばっかりじゃあ決着つかないんだけどね。
「いくよ――ッッ!」
両手剣のソードスキル、《アバランシュ》で突っ込んでくる。
それは安易すぎる。
だって、突進系のソードスキルは――躱されたら完全に無防備になるのに。
構えていた盾で防ぐのではなく、僕はアバランシュをそのままサイドステップで躱した。
盾で受け止めても、初撃決着には充分なダメージが入るだろうという目論見のもとのアバランシュかもしれないが、さすがにそのくらいは僕でも判断がついている。
そうして、完全に無防備になった背中に回り込み、《バーチカル》を叩き込んで終わり。わざと急所に当てなかったからか、体力の約一割程度しか削れていないが、それでもまぁ充分だろう。
実にあっさりとしたデュエルだった。
地面に手をついたままのユウラに手を伸ばして、立ち上がらせる。
「ふぅ……負けちゃったね。それと、ごめん。いきなりデュエルなんて申し込んじゃって」
「別にいいよ。俺も楽しめたし。……それと、ユウラ」
「何?」
「ん、ほれ。……俺とパーティー、組んでくれよ」
――結構強いみたいだし。と口の中で呟く。
パーティーの申請をユウラに送信する。
一瞬こいつ何言ってんだ的な感じでウィンドウを見ていたが、すぐにその表情は嬉しさを含んだものに変わる。
「ありがとう! 一緒に迷宮攻略頑張ろうねっ」
「おう。ところで血盟騎士団のノルマとかいいのか?」
「……あ」
表情が二転三転するところは見ていて非常に面白いのだが、今しがた衝撃の事実判明。この子、団長に言ってすらなかったらしい。
「別にうちのギルドにノルマとかはないんだけど……報告はしないと……」
「いや絶対パーティーの件なかったことにされるだろ。ヒースクリフはそこらへん厳しい奴だろ?」
「うん、アスナもそう言ってた」
「……期待はしないでおく。ヒースクリフの奴と話すのは任せた。俺はあいつのことが苦手でな」
「そうなの?」
「そうなんだよ……まぁ、別にあいつのことが嫌いなわけじゃない。むしろプレイスタイルとしては尊敬してる。あいつと話すのが苦手ってだけでね」
あいつの何を考えているかわからない、見通すことのできないような態度は気に食わないといったところか。
しかしパーティーを組むと約束してしまったのは紛れもない事実なので、ヒースクリフとじっくり話す良い機会だと考えておこう。それに奴のユニークスキル《神聖剣》についても知りたい。現状、攻防一体の無敵の陣を敷く最強クラスのスキルということだけしかわかっていないのだ。それに、これは俺の予想だが……おそらく奴の神聖剣、盾の部分にもダメージ判定があるのではないか? と思う。本来俺も例に漏れず、盾には攻撃力が設置されていないので、それ単体でダメージを与えることは不可能だ。例えば盾を用いて高いところから突き落とし、それによる落下ダメージは受けても盾自体にダメージ判定はないってことだ。しかし奴の神聖剣には、盾にもダメージ判定があるような雰囲気が見て取れる。なぜわかるのかは……まぁ、アレだ。同じ片手剣と盾の組み合わせのプレイヤーどうしの勘ってことで。うん。
「団長は時々何考えてるかわからないところがあるもんね。でも、すごく強いから、やっぱり慕ってる人も多いんだよ」
「だろうね。ソロの俺でも奴の噂をよく聞くんだから、きっと実際に戦えば相当の奴なんだろうな、と思う」
「神聖剣……実際に同じギルドで戦ってみないとわからないかもしれないけど、あれは本当にゲームバランスを崩せるスキルだと思うよ」
「それがなきゃ攻略組が何人死んでたか見当もつかないな」
「でもレイトくんだって、ピンチのプレイヤーがいたら助けてるじゃん。ソロって言っても」
「そりゃ目の前で死なれると気分良くないからな」
「嘘だー」
「本当じゃー」
実際のところ、どうして毎回ソロの俺が体張って他のプレイヤーを助けているかと思わなくてない。自分でも正直よくわからない。
でも、盾はあくまで相手の攻撃で死なないためのもので、剣は相手を殺すためにあるものだ。ならば本来の用途に従うのが当然というやつで、だったら俺のとっている行動は間違いではないんじゃなかろうか、と考える。
「でも、レイトくんは優しいから……きっとわたしが死にそうになっても、助けてくれるよ」
「……さて、そいつはどうだか。ほら、さっさヒースクリフにパーティーの話つけに行くぞ」
「あっ、待ってよ!」
血盟騎士団の本部がある第五十五層の主街区、《グランザム》へと向かうことにする。
ユウラに話をつけてもらうのはもちろんだが、俺個人として奴と話してみたいという気持ちもある。
「……でもまぁ、これでパーティーも組めたし。一歩前進かな……」
ユウラの呟きは風に消され、俺の耳まで届くには至らなかった。
「何か言ったか?」
「ううん、何でもなーいっ」
「そうか?」
そういうユウラの表情に喜色が浮かぶ。なぜだろうか?
まぁ、何でもいいのだが。
爆死! 爆死! 爆死!
更新遅れてしまってすいませんでした。
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