憑依の軌跡 (雪風冬人 弐式)
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序章 ~トールズ士官学院~
プロローグ「憑依?したっぽい」
「お兄様!しっかりしてください!!」
これが、俺がこの世界に来て意識を持った瞬間に聞いた第一声であった。
脳が記憶する知識によるとどうやら、俺の名前はリィン・シュバルツァーというらしい。
後ろには、黒い長髪の少女。お兄様と呼んでいたことから、義妹であるエリゼ・シュバルツァーだと推測する。
次いで、目に映るのは熊っぽいけど見たことない獣の死体に、真っ赤に染まった自分の腕。そして、獣の体から溢れる血だまりにハッキリと映る、幼児体型で痛々しい銀髪の少年、つまり、自分の姿だった。
「な、なんじゃこりゃぁぁあああ!?」
思わず、非現実的な光景から逃避するために叫んでしまった俺は悪くないと思う。
それから、十年後。
<…次は~トリスタ~。お降りの方は、忘れ物がないようお気を付けくださ~い>
「ほら、着いたわよ。リィン、起きなさい!」
「おおう。スマン、今起きる」
列車内のアナウンスが目的地に着いたことを知らせ、一緒に移動してきた人物を俺の体を揺らしたため、寝ぼけた頭を覚醒させる。
「ほら、アンタの荷物」
「助かる」
気が強そうな外見に似合わず、不承不承といった感じながらも世話を焼いてくれる目の前の茶髪を団子状にして結んでいる少女に、礼を言いながら自分の荷物を受け取る。
そして、二人で並んで客車から降りると駅の改札を抜ける。
「しっかし、俺ら、この学校に入学するはずだよな?にしては、制服の色が違くね?」
「そうね。私たち以外にもいるにはいたけど、少ないわね」
トールズ士官学院。それが、俺らがこれから入学する学校の名前である。簡単に説明すれば、歴史がある伝統を重んじる軍人を養成する学校である。
その学校の制服を着ている俺らだが、通常は純白か緑の二種類の色しかないのだが、自分と彼女の制服の色は真紅なので、本当にここで合っているのか戸惑ってしまう。
駅を出ると、そこには一面に咲き誇るライノの花があり、元日本人として桜に似たその花のあまりの美しさに足を止めてしまう。
「綺麗なのは分かるけど、通行の邪魔よ」
「サンキュ。そこな少女もスマンな」
「いえ、こちらこそぶつかりそうになってすみません」
感慨に耽っていたら彼女に腕を引っ張られて横にずれたのと同時に、長い金髪の少女が通りすがり、お互いに会釈して別れる。
「入学式にはまだ時間あるみたいだが、どうする?」
「そうねえ、街の散策でもする?」
「それはデートのお誘いですかな?では、エスコートさせていただきましょう」
「デートってのは否定しないけど、アンタエスコートできるほどこの街の地理に詳しいの?」
「バカな!?リィがアホじゃない…だと!?」
「元からアホじゃないし!ほら、さっさと行くわよ!!」
「りょーかい」
先導する彼女を追いかけ、チラリとこちらに視線を向けて微妙に左腕を浮かせた意図を察して腕を組む。
あの日、俺がこの体で意識が覚醒してから早十年余りの月日が流れた。
そしてようやく、ようやく平穏な生活を目指して続けた努力が実を結ぼうとしている。
そう、あの十年は地獄だった!転生なのか憑依なのかよう分からんが、べつの世界に降り立った俺は、偶然にも巡り合った師匠と共に世界の情報を集めると同時に、ミッチリと扱かれた。
おかげで、八葉一刀流なる技術が習得できたし、色んな出会いがあって楽しかったが二度と経験したくはないと思えるほど苦難のたくさんあった時間でもあった。
その時間から解放され、青春には必須の学校に今日から通い、彼女とも一緒に生活できる!これを幸せと言わずとしてなんと言えるか。いや、ない!
気分としては、田舎から上京したばかりの学生、と言ったところだろう。
「この学校で、俺は青春を満喫してやる!」
「いや、無理でしょ。《蛇》からの監視役として私がいる時点で」
「忘れようとしてたのに!嘘だと言ってよ、バーニィー!」
「バーニィーって誰よ?私は、デュバリィよ」
今後の生活への誓いを口に出すが、間髪入れずに否定する、俺のすぐ隣で小馬鹿にしたように笑う彼女、知るぞ知る人から《神速》のデュバリィと呼ばれる彼女に、早くも俺の意思は砕けそうになる。
そして、リィの言葉通り俺の青春は、平凡とは程遠い激動に満ちた時代に否応なく巻き込まれることを、この時の俺は予期することはできなかった。
続く、かも?
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第一話「自己分析っぽい」
それと、感想くれた方、お気に入り登録してくれた方、ありがとうございます。
やあ、この手記を読んでいる諸君。始めまして、リィン・シュバルツァーに憑依した元日本人だ。
手記を書く理由は至って単純、年を取ってきたからボケないためだ。
憑依したと言える理由は、二次創作などで有りがちな神様に会ってはいないが、自分にはこの世界ではない世界で生活していた記憶があることだ。生憎、名前は思い出せないが。
さて、そんな別世界の住人であった俺だが、この世界について全くの無知であったわけではない。
なぜなら、俺の元いた世界においてこの世界は、軌跡シリーズと呼ばれるゲームの物語として登場していたからだ。
と言っても、俺は空の軌跡や零の軌跡といったゲームの名前と概要を友達から教わった程度の知識だったが。
そして、この俺が憑依したリィン・シュバルツァーは軌跡シリーズの一つ、閃の軌跡の主人公であった。
20年近く平和な日本でのほほんと生きていた自分が、剣と魔法のファンタジーな世界で生き残れる訳がない!確実に死ぬ!
と、最初は家に引き込もっていたが、結局は何もできず死ぬか、やるだけやって死ぬかと自問自答し、後者を選び、身体を鍛えることにした。
そして、偶然このユミルの地の温泉巡りをしていたユン・カーファイ、軌跡シリーズで多くの強者を生んだ八葉一刀流の使い手に出会ったことで、弟子入りを志願して見事目に留まることができた。
その後、自身の見聞を深めるためにも故郷を飛び出し、師匠と共にゼムリア大陸中を駆け回った。
その時のことは、これから記すことに比べれば大したことではないので割愛しよう。ただし、これも主人公の宿命なのか行く先々で厄介事に巻き込まれた。なんか知らないけど猟兵団同士の抗争に巻き込まれたり、《道化師》とか《怪盗》を自称する不審者に絡まれたり、義妹の進学する学園のセキリティチェックのため潜入したら、不審者に間違えられたりなどなど、色んなことがあった。
お涙頂戴必須な波乱の十年程の歳月が過ぎ、ある程度実力が付いたため精神的に余裕ができた俺だが、ある時ふと思った。
あれ、俺の青春って灰色じゃね?と。
それに気付いた俺は、故郷のユミルに戻り、帝国内でかなり有名なトールズ士官学院に入学することを決意する。
そして見事合格を果たし、これで俺の人生はバラ色まであと一歩じゃあ!と小躍りしたものだった。
こうして、俺は一人、ユミルを離れてトリスタの街に旅立ったのだ。
ん?あれ、俺一人でユミルから列車に乗って来たよな?
ってことは、だな。
「あ、リィン!あそこのカフェで昼なんてどう?」
「ふむ。それじゃ、そこにしようか」
リィに腕を引かれて、オープンテラスの席に座って注文をウエイトレスに注文を伝える。
「なんでデュバリィがここにいるんだ!?」
「え、今更?だから言ったじゃん。《蛇》から監視役を任されたって」
「なんでさ!」
「いやだって、聖女様を動かすなんて論外だし、《道化師》のアンチクショーはアレでも重要な立場にいるし、《怪盗》なんて気紛れでちゃんとやるか怪しいし、《死線》は今休業中らしいから、私に白羽の矢が立ったってわけ」
「俺のバラ色の青春は!?」
「血と硝煙で真っ赤に濡れたバラ色の青春ね。それとも、私といるのがそんなに嫌?」
「ぬぐ……」
活発な性格から考えられない、捨てられそうな子犬のような不安気に尋ねるリィの態度に言葉が詰まる。
これが、ギャップ萌えというやつかッ!?
「というか、監視対象にそんなこと言っていいの?」
「いいのよ。私は純粋にアンタと過ごすだけでいい、楽な任務だから引き受けただけだし。それに、平凡を目指すアンタなら、超平凡を揺るがす組織の人員の顔を覗うだろうから、釘を刺すことになるでしょ?」
「やっぱ、お前ほんとにデュバリィ?ブルブルの変装じゃね?」
「ブルブル?《怪盗》のことね。失敬ね。アイツは男で、私は女。なんなら揉んで確かめる?」
「そうやって既成事実を作るつもりですね、分かります。お前ほんとうちのエリゼに変なもん送るの止めろよ」
「あら、顔を真っ赤にして動揺するエリゼちゃん、可愛いじゃない」
「その代償に、天使から堕天使に堕ちますがね」
出てきた料理を口に運び、最後に残ったデザートのフルーツの切り身に同時にフォークを突き立てる。
「寄越しなさい」
「俺の私生活に干渉する迷惑料だ」
「こんな可愛い彼女の頼みでしょ!」
「確かに可愛いが、自分からそう言う奴が初めて見た、よ!」
「《紫電》辺りなら、いつも言ってそう、よ!」
結局、割れた切り身をそのまま口の中に放り込む。
「私も組織の計画は知らないから、安心しなさい」
「安心できねーよ」
「アンタ程度なら早々死ぬもんじゃないでしょ。あ、欠片ついてるわよ」
ナフキン片手に立ち上がったリィは、俺の口の端に付いてた欠片を取る。
「ま、なるようになるしかないか」
拝啓、ユミルの地のご両親。どうやら、貴方達の息子は秘密組織に目を付けられて、平穏を過ごせそうにないです。
「あ、そうそう。アンタのご両親は知ってるわよ、私が一緒に行くこと」
「ウソダドンドコドーン!!」
訂正、何してくれとるんじゃ!?外堀埋められたぞ!!
だがしかし、この後にまだ衝撃的な出来事が待っているのだった。
書いてて気づいたこと。…まだ、主人公とデュバリィ以外のキャラが出ていない!
次回から出てきます。多分。
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第二話「入学式っぽい」
入学式の時間が迫ってきたため、散策を切り上げ校舎に向かっていると、リムジンのような導力車と何台もすれ違う。
「やっぱ金持ちは違うねえ。俺んとこと比べたら雲泥の差だな」
「他の貴族や平民への示威行動ってとこじゃない?昔みたいに、貴族は偉い、って風潮が薄れてきたからしね」
「世知辛いねぇ。うちみたいに、皆で仲良く暮らせばいいのに」
「アンタのとこは、例外中の例外よ。ん?あれは……」
リィの足が止まり、とある女子生徒に視線が固定される。
釣られて見ると、制服は俺らと同じ真紅で、群青の長髪をポニーテールで結んでいる少女だった。
「ではお嬢様、ご武運を」
「爺やも壮健でな」
執事らしき人物と別れた少女から、視線を外さず歩き出すリィ。
「はいストーップ」
「グエッ」
そのリィの襟首を掴んで止めると、気管が詰まったのか咳き込む。
「何すんのよ!?」
「こっちこそ、何しようとしてた?剣なんか抜いて」
「別に何もしないわよ!あいつ、アルゼイドの人間だから、痛め付けようなんて思ってないんだからね!!思ってないんだからね!!」
「はい、どうどう。落ち着け」
忍び寄って後ろからブスリ、とでもやるつもりだったのか。
「放しなさい!」
「入学式早々に、殺人事件なんて起こさせねえよ。あの嬢さんは関係ないだろ。八つ当たり、カッコ悪いぞ」
大方、アリアンロード関連で何か因縁があるのだろうが、今日から学友になる人が一人減って、俺の彼女が殺人犯なんてシャレにならん。
そうこうしている内に、青髪の少女はいなくなって大人しくなったので手を離す。
「さっさと行くぞ、リィ。遅刻は勘弁だからな」
「あいこらさっさー」
少し歩くと、学院の校門を潜り抜け、校舎の全容が見えてきた。
「でかいなー。うちの屋敷以上の大きさだな」
「だから、アンタの比べる対象は例外物件よ」
「えーと、新入生のリィン・シュバルツァー君とデュバリィ・シュバルツァーちゃんかな?」
リィと校舎を見上げていると、正面から茶髪の小柄な少女と黄色いつなぎを来た少年が近づいてきて声を掛けられた。
「ええ、如何にも私はデュバリィ・シュバルツァーです」
「おい待て。いつからお前は我が家の養子になった!?」
「養子じゃないわ!めかk…愛人よ!!」
「予想を斜め上行く回答だった!?」
「ちなみに、本妻はアルf」
「それ以上は言うな!!」
何か出てはいけない名前が出そうになるが、リィの口を塞いで強制的にカットする。
よし、俺は何も聞いてない。何かの弾みで義妹がポロッと漏らした、ハーレム計画のことなんて思い出してないんだからな!!
目の前の小柄な少女は、突然の展開に困惑しているのかオロオロしている。何この天使、一家に一人欲しいんですけど。
「まあ、俺達が件のリィンとデュバリィで間違いないですよ。で、何か用があったのでは?」
「はっ!?ご、ごめんね。私はトワ・ハーシェル。えーと、荷物を預かりに来たんだけど」
「僕はジョルジュ・ノーム。入学の説明書に書いてあったよね?」
「ああ、了解しました。お願いします」
「モガーモガー」
「えと、そろそろ放してあげたら」
おっと、いけない。リィの口を塞いだままだった。
「さて、今は時間が惜しいから見逃すが、今夜は覚悟しておけ」
「寝かせないつもりで来なさい!」
「止めようねー。まだ純粋な人がいる前で、その発言は」
リィの言葉からナニを想像したのか、顔を真っ赤にしてアワアワするトワさんに荷物を預けて講堂へ移動する。
「若者よ、―――世の『礎』たれ!!」
ハッ!?気が付いたら、もう始業式が終わってた。
まあ、どの世界でもお偉いさんのスピーチが長ったらしくて子守唄になるのは、共通事項らしい。
「ほら、リィ。起きろ!」
「止めて!乱暴にするつもりでしょ!?ウス=異本みたいに!あ、お早う」
「どんな夢か非常に気になる寝言だね」
互いに寄りかかって寝てたらしく、周囲の視線、特に男子から棘が含まれているように感じる。
「あははは。なんか難しいこと言われちゃったね。僕はエリオット・クレイグ。同じ色の制服ってことは、一緒のクラスだよね?よろしく」
「こちらこそ頼む。リィン・シュバルツァーだ」
「デュバリィ・シュバルツァーよ。よろしく」
ヤバイ。リィが本気で外堀を埋めにかかってる。しかも、おそらく義妹だけでなく両親も懐柔済みと見る。
そうなると、ガチでアルの計画が成功することになっちまう。
嗚呼、また平穏が遠ざかる。
「リィン、行くわよ」
「へ?」
「話聞いてた?私達は、他のクラスとは別でオリエンテーリングがあるんだって」
「移動するって、さっき僕らの担任だって言ってたサラ教官が」
見ると、俺達と同じ真紅の制服の生徒が入口に移動していて、講堂に残っているのは俺達だけになっていた。
考え事をしていたから、聞き逃したのか。
「…リィン、早くしないとサラが鉄拳だって」
「それは困る、ってフィー!?」
「ん。久しぶり、デュバリィも」
後ろからボソリと声を掛けられ、振りぬくとそこには眠たげな目をした銀髪の少女、フィー・クラウゼルがいた。
「もしやと思ったけど、サラってあのエクレアかしら?」
「ん、その通り。元気そうでなにより」
「フィーもね」
「げっ。エクレアもいるのか」
同名の別人だと思っていたが、あのエクレアが担任というか、教師になるとは。世の中どうなるか分からんな。
ってことはだな、俺の平穏がさらに遠ざかるじゃないか。
「サラ教官を知ってるの?」
「一応な」
他のメンツを追いかけながら、エリオットと話す。
しばらく前の生徒の後を着いていくと、やがて本校舎から少し離れたところにある旧校舎へと到着した。
というか、すごい見覚えのある建物だなぁ。具体的には半年ほど前に、《怪盗》から、お宝の匂いがする、と教えられてスネークした建物に。
「リィン、リィン」
「なんだ?」
「現実は非常」
「受け入れるしかないわ」
俺を諭そうとする二人だが、目の焦点が合ってないので全然説得力がない。
ジッとしていても仕方ないので、中に入ると増々もって見たことあるような錯覚に陥る。
そうこうしている内に、檀上にこれまた見覚えのある女性が立っていた。
「それじゃあ、聞き逃した人もいるから改めて、自己紹介といきましょうか。私はサラ・バレスタイン、あなた達《Ⅶ組》の担任を勤めさせてもらうわ」
その女性、サラはそう言ってウインクをした。
《Ⅶ組》という言葉に何人かの生徒が戸惑っている中、
「へぇ~、あの酒乱が出世したもんだ。アデッ」
声に出ていたのか、イイ笑顔のサラから額にゴム弾をくらった。
ほんと、俺の青春は一筋縄でいきそうにない。
おそらく、次回から戦闘入る予定。
駄文で申し訳ない。
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第三話「特別オリエンテーリングっぽい」
さらに、るろ剣とルパンの実写見てテンションもアゲアゲ。(ルパンはちょっと残念だったけど)
初の一日に二回投稿!
「さあ、《Ⅶ組》の特別オリエンテーリングを開始するわ」
パチン、とサラが指を鳴らすと、床が傾き落とし穴へと変わった。
「クッ!前のようには!! 」
「ならない!!」
他の面々が落ちる中、フィーはワイヤーを使ってぶら下がり、リィは拳を床に突き刺して体を固定した。
ちなみに、俺は普通に床板の隙間を掴んで留まっています。
「アンタ達、落ちてくれないとオリエンテーリングが始めれないでしょ」
「嫌だ!あの地獄に可愛い生徒を落とすなんて、アンタは鬼か!?」
「そうよ!パワハラ反対!!」
「…訴訟も辞さない!」
二人とも、あの地獄、《蛇》の執行者並みの魔物が闊歩していた空間を思い出したのか、必死で抗議する。フィーなんか、若干涙目になってる。
「何がアンタ達を駆り立ててるのか知らないけど、さっさと落ちなさい!」
フィーにはナイフを投げてワイヤーを切り、俺とリィにはゴム弾を撃ち込んで穴底に落とすサラ。
「鬼ぃ!」
「悪魔ぁ!」
「無駄乳寄越せぇ!!」
「フィー!!アンタ、そんなキャラだったぁあ!?」
フィーの捨て台詞にツッコミを入れる、サラの言葉を尻目に俺達は暗闇の中に落ちた。
少しすると、ぼんやりと明かりが見え、底に着いたことが分かった。
「あの乳女、今度会ったら揉みしだいてやる」
「むしろ、悦ぶから止めなさい」
「許すまじ、サラ・バレスタイン」
底に降りると、石畳の部屋になっており、先に落ちた面子と隅に人数分の大きさがバラバラの箱が置いてあった。
〈アーアー。皆、聞こえるかしら?〉
これからどうしようか考えていると、突然サラの声が部屋の中に響いた。
「一体どこから?」
「ん、これからだね」
そう言ってフィーが取り出したのは、合格通知と共に送られてきた導力器だった。
〈どうやら通じたようね。その部屋にある箱の中には、貴方達が預けた武器とちょっとしたプレゼントが入っているわ。開けて見なさい〉
各々が導力器を取り出して、サラの指示通り自分の武器が入った箱を開ける。
そこには、自分の武器と宝玉ような物が一緒に入っていた。
「これは、マスタークオーツか?」
箱の中身に驚く中、続いてサラから様々な説明があった。
今回支給されたこの導力器、戦術オーブメントが、ラインフォルト社とエプスタイン財団による共同開発によって生まれた新型であるということ。結晶回路〈クオーツ〉と呼ばれる石をセットすることで導力魔法〈アーツ〉が使えること。その他の機能は追々話すということらしく、それぞれ用意されたクオーツを各自セットして欲しいとのことで各々準備を始める。
俺も同様にオーブメントにクオーツをセットし、他の皆は武器も用意されていたようでそれぞれ手にとって感触を確かめている。
そうして準備を終えて皆が再び部屋の中央へ集まると、突如奥にある石の扉が開いた。
〈その先はダンジョン区画になっていてね。進んでいけば、元の一階へ辿り着けるわ。ちょっとした魔獣なんかも徘徊してるけど、何だったら全部そこの彼女を侍らすリア充に押し付けなさい。いっそ、爆破してもいいわ〉
「おい、それが教師の言うことか!?」
サラの言葉に戦慄するが、どうやらクラスメイト達は苦笑する人や労わる視線を送る人ばかりだったので、背後から襲われる事態は避けられそうだ。多分、きっと、Maybe。
〈ま、そういうわけだからさっさと登ってきて頂戴。このオリエンテーリングが終わったら文句でもなんでも聞いてあげるわ。……なんなら、ほっぺにチューでもいいわよ♪〉
サラから激励を受けて単独、あるいはチームを組んでダンジョンに各々が向かい出す。
その際に、貴族がどうの平民だからどうのといった小競り合いが起きたが、この帝国内では然して珍しいことではないので割愛する。
結局、女子チームと男子チーム、俺らのチームといった具合に別れての探索となった。金髪貴族くんとメガネ平民は単独で行動するようだが。
前回来た魔界のような空間は広がっておらず、感じる気配も大した脅威になりそうなものもないので、彼等なら大丈夫であろう。
ちなみに、自己紹介もしたので軽くおさらいしよう。
最初に、駅で合った金髪の少女はアリサ・R。隠しているつもりらしいが、ルーレ出身でRと言ったらラインフォルトだろう。あのエセメイドから、よく自慢されるお嬢様のことで間違いないだろう。
校門前でリィが絡みそうになった青髪の少女はラウラ・アルゼイド。彼の《光の剣匠》の娘さんだ。あと、リィ。そんなに敵意を向けるな。困ってるじゃないか。
メガネをかけた三つ編みの、いかにも委員長といった容姿の少女はエマ・ミルスティン。主席で合格したことから、ますます委員長キャラっぽい。なぜか、俺を観察するように見ているので注意しておこう。
そして、エリオットと金髪貴族くんと平民メガネくんを除いた最後の、日に焼けた肌の長身の男子は、ガイウス・ウォーゼル。ノルド高原から来たそうだ。
それなりの実力者もいるから、パーティ編成はその三つで十分だろう。むしろ、俺らが混ざったら経験を積む機会を潰すことになるかもしれない。元猟兵に、聖女様の直弟子だし、何より、俺は教えるの苦手だし。
その点、ラウラとガイウスなら問題ないと思われる。面倒見も良さそうだし。
こうして、ちょっとしたトラブルもあったが特別オリエンテーリングが始まった
いつもながら、感想ありがとうございます。
みなさんの応援のおかげで、どんどん進みます。
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第四話「《Ⅶ》組の設立っぽい」
ちなみに、自分は一回目はフィーをメインでイベント進めてました。
「疾ッ!!」
手に持つ太刀を袈裟懸けに一閃すると、白銀の軌跡と共に魔獣を切り裂く。
「ヤッ!」
「ハアッ!!」
隣では、フィーが牽制で撃ち込んだ銃弾に魔獣が怯んだ隙に、デュバリィが接近して斬り込み、フィーが身軽に動いて追撃している。
「ふう。片付いたか」
キン、と納刀した時の鞘と柄が当たった音を耳にしながら、周りの気配を探る。
「ん。このぐらいなら、らくしょー」
「そうね。アレは本気で地獄だったものね」
リィの言葉通り、半年前に潜った迷宮は本当に地獄だった。
認めたくないものだな。若さ故の過ちを。
あの時は丁度金銭に困ってた時期でもあり、腕を鈍らせないための訓練代わりに最適だったことや、報酬に釣られたこともあってこの学院、当時は知らなかったが、に暇してたリィと来て、学院の下見に偶然来ていたフィーとメイドを誘って、興味を示したライダースーツの女子生徒も巻き込んで潜ったんだっけ。
結果、想像以上の死闘を繰り広げることになり、お宝発見かと思きや蓋を閉めた方が良さそうな《遺産》を見つけることになって、全員で見てないことにしたんだよな。
そして地上に出た後は、摩訶不思議なダンジョン内で一週間程過ごしたはずが、外では三時間程しか経っていなかったことにも驚かされた。
まあでも、「生きてるって素晴らしい!」とか、「太陽ってこんなに綺麗だったんですね」とか、無言で何かを噛み締めて居たりとかして、皆悟りを開いてる状態だったからそれどころじゃなかったけどな。
「リィン、リィン!」
「どうしたフィー?」
半年前のことを思い出していると、フィーが制服の袖を引っ張る。
「出口っぽい。でも、声が聞こえる。それに、人じゃない気配も」
「苦戦しているみたいね。どうする?」
「行こうか」
フィーが指した先には確かに明かりも漏れていて、階段もあることからこの迷宮の出口なのだろう。
そして、先に着いた他の面子が、迷宮の最後で定番のボス魔獣と戦っているのだろう。
案の定、階段を登り切ると、そこではガーゴイルのような堅そうな体表の魔獣を俺ら以外のメンバーが囲んで攻撃していた。
ただ、数の上では有利だが戦いなれていない人もいるため、膠着状態が続いている感じだ。
「加勢するわ」
俺らの中で一番足が速く、最初に合流したリィが前に出て、盾でガーゴイルの振り下した腕を受け止める。
「隙あり!」
後ろに回ったフィーが、ガーゴイルの肢の関節の裏を斬りつけて、体勢を崩す。
「弧影斬!!」
ガーゴイルの胴体に剣撃が叩き込まれ、ダメージが通った苦痛からか雄叫びを挙げた。
すると、俺達の体が青白い光で包まれて、まるで以心伝心になったかのように言葉に出さずともラウラが跳び、大剣を喉元に突き立ててガーゴイルの首を跳ねた。
途端に、ガーゴイルの動きは止まる。
生物的な体表が、石に変わったからこれで終わったのだろう。
他の面々はそう判断して武器を仕舞う。
こうして戦闘が終わり、暫くして俺達はスタート地点の時と同じように輪を作り、さっきの現象について話し合った。
あの淡い光はなんだったのかと。
この場に居る誰もが、それを気になっていた。
俺達がそう不思議がっていると地上へと続いている階段の方から『【ARCUSアークス】の真価ってワケね』と拍手をしながらサラが降りて来た。
サラが俺達のすぐ手前で止まり、『特別オリエンテーリング』は終了だと言うが、自分たちをこんなところに放り込んで戦わせた張本人が現れたことで10人の殆どが様々な文句を吐き散らす。
その中で金髪貴族くんが単刀直入に俺達の組、特科クラス《Ⅶ》組は一体何を目的としているのだ?と問い掛けた。
俺も含めてその問いの答えは全員が聞きたかったので、全員の視線がサラの口に集中する。
皆の期待に応えて、サラは説明を開始する。
結局のところ、俺達が《Ⅶ》組に選ばれたのは色々な理由があるそうだが、一番の理由は【
この【ARCUS】を持てば、多種多様な魔法アーツが使えるようになったり、通信機能が使えたりと他にも多彩で便利な機能が秘められているらしいが……。
真価は《戦術リンク》、さっき俺達が体験したお互いの感覚がリンクしたかのような不思議な現象のことだ。
例えばの話、戦場でその《戦術リンク》が齎す恩恵は絶大だとサラは語る。
しかし、戦場において革命を起こし得るかもしれないこの機能、現時点では適性が有る者でしか使用出来ず、新入生の中でも特に高い適正を示したのが俺達10人だった為、身分や出身に関係無く、俺達はこの《Ⅶ》組のメンバーに選ばれたとサラは打ち明けた。
「さて約束どおり、文句の方を受け付けてあげる。トールズ士官学院はこの【ARCUS】の適合者として君たち10名を見出した。やる気のない者や気の進まない者に参加させるほど予算的な余裕があるわけじゃないわ。それと、本来所属するクラスよりもハードなカリキュラムになるはずよ。それを覚悟してもらった上で《Ⅶ組》に参加するかどうか――改めて聞かせてもらいましょうか?」
全ての説明が終わり、今度はサラが俺達に《Ⅶ》組への参加の意思があるかどうかを訊ねた。
「あ、俺は」
「そうそう。こんなの預かってるんだけど」
明らかに面倒事に巻き込まれるフラグがビンビンに立っていたので、断ろうとしたらサラに遮られた。
そしてサラは、懐からボイスレコーダーもどきを取り出して電源を入れた。
〈闇に呑まれて消えろッ!!〉
「グッハァ!!」
「リィン!?しっかりして!傷は、……深いわね」
「えーせーへー!!」
再生された音声に、物凄く聞き覚えがありすぎて蹲ってしまう。具体的には、《蛇》で知り合ったとある炎を操る兄貴のコスチュームに感化されて、自分も同じような衣装を着て口調も真似ていた時代の俺の声だ。
ぶっちゃけ、黒歴史です。あの頃は若かった。
リィとフィーが駆け寄って何か言っているが、全く耳に入らない。
「な、なぜそれを!?」
「匿名の投稿があってね。断わりそうなら使えって」
「ジブンハ、ヨロコンデサンカイタシマス!」
「宜しい。で、他の皆はどうする?」
その後、また金髪貴族くんとメガネで一悶着あったらしいが、忘れ去っていた過去の記憶を呼び起こされていた俺は、それどころではなかった。
ク!?静まれ、俺の左腕よ!
気が付いたら、寮の部屋にいて夜になってました。
ちなみに、あのボイスレコーダーはサラの手元にあり、脅しに使われることになりそうだ。
こうして、初日からすでに平穏からかけ離れた、俺の青春が始まるのだった。orz
憑依リィンだけど、他作品の剣術を使わせようか考え中。
個人的には、るろ剣とか刀語とかムスブギョーの技を使わせたいけど、出番がないなあと悩み中。
どうしたものか。
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閑話「軌跡通信 《神速》特集・前」
ああ、どうも初めまして。貴方が軌跡通信の記者の方ですの。
ご存知かと思いますが、デュバリィ・シュバルツァーですわ。
それにしても、長いこと裏に関わっていますが、裏の人間を専門に特集する《軌跡通信》なる物があるとは存じ上げませんでしたわ。
あら、すみません。変なことを言ってしまって。
そうですか。お気遣い痛み入りますわ。
それで、私に取材したいこととは?
リィン・シュバルツァーとの関係?
それはもちろん、彼女ですわ。
馴れ初めを教えて欲しい?
ふむ。貴方も裏をご存じですので、話しても大丈夫ですわね。
そう、リィンと逢ったのは、あれは3年ほど前でしたわね。
貴方も知っての通り、私はアリアンロード様直属部隊である《鉄機隊》のメンバーの一人ですわ。
その日は偶々、他の《鉄機隊》のメンバーであるアイネスとエンネアの三人共任務もなく聖女様からの修行も休みであったため、街に出かけることにしたのですの。
「申し訳ありませんがお客様、相席でも宜しいでしょうか?」
昼食を食べようと、兼ねてから美味しいと評判のレストランに三人で入ったは良かったのですが、店内は予想通り混んでいるため座れる場所が限られていました。
店員が示した座席には、メニュー表で顔は隠れていましたが、一人の少年が座っているのが見えました。
「どうしましょうか?」
「私は問題ない」
「私も」
「それでは、相席で構いませんわ」
二人の了承も得られたので、相席することになりました。
「あ、店員さん丁度いいところに。注文お願いします」
私達が席に着くと同時に、少年は顔を上げたため私達は彼と目を合わせることになりました。
「……タイプ」
アイネスが何か言った気がしましたが、私には聞こえませんでした。
少年は私達を見て驚いた顔をしましたが、すぐに荷物をわきにどけてスペースを作ってくれました。
「相席となって申し訳ないですわ」
「構いませんよ。今の俺にとって、別嬪さんに囲まれるという状況だけでも癒されます」
ハハハ、と疲れた声で笑いながらため息をつく少年。どうやら、年の割りに苦労してそうだなと感じました。
「失礼だが、名前を教えてもらって良いだろうか?私は、アイネスと言う」
「リィン・シュバルツァーです。当てのない、旅の剣客ですよ」
少年、リィンは傍らの納刀した太刀が押し込んであるリュックを指しながら名乗りました。
「剣客か。もし良かったら、手合せを願いたい。……二人っきりで」
「フッ、御嬢さん。男の前でそう言うことを言うもんじゃないぜ。勘違いしちまうだろ」
「べ、別にそんな意図があったわけではない!」
「俺に惚れると火傷するぜ」
「ないわー」
「だな。俺も自分で言っておいてなんだが、鳥肌が立った」
「キャッ。でも火傷程度、この《剛毅》のアイネスにかかれば!」
「「えー……」」
「ところで、貴女は?」
「ああ、すまないわね。私はエンネアよ。で、こっちがデュバリィ」
「短い間だが、よろしくですわ」
「ああ、こちらこそ。一名はそうならない可能性があるが」
「そうね。貴方的にはどう?」
「まずはお友達からで」
「だそうよ。良かったわね」
「そんな。結婚なんて」
「「オイコラ」」
というか、アイネス。普段は無口の貴女が、一番しゃべるなんてどうなさいましたの。
それと、エンネア。貴女はいつの間にリィンと意気投合しましたの。
その後、アイネスが積極的に会話し、エンネアがおちょくる以外にこれといったことはなく、リィンと私達は別れました。正直、私だけ除け者にされた感じがあって少し寂しかったのは内緒ですわ。
この時、私が彼に感じたのは不思議な方といった印象でしょうか。それと、明るい性格のようですが上手く表現できませんが違和感を感じましたわね。
最初の邂逅は、こんな感じでしたわね。
当時、後で分かりましたが、恋に現を抜かすようになったアイネスやアイネスをからかうエンネアを見て、聖女様の修行中でも態度が変わってきましたので、鬱憤が溜まるようになりましたわね。
ええ。私にとって、聖女様のような武の頂点に立つことが何よりの目標でしたので。
次の邂逅は、半年程後の日でしたわね。
その日、私はアイネスとエンネアと合同で任務を達成した夜のことでした。
結社が用意した拠点で休んでいた所、不意に殺気を向けられたのを感じましたの。
視線を合わした私達は、素早く行動に移りました。
エンネアは狙撃手として屋上に、私とアイネスは襲撃者を探るため表に出ました。
ですが、すぐに殺気は消えてしまい、居場所を突き止めるのには骨が折れそうですわね、とアイネスと軽口をたたきながらも、警戒しながら周囲を探っていました。
いつまで経っても襲撃はなく、一旦拠点に戻ろうとした瞬間、轟音と共に拠点としていた建物が崩れました。
戻った私達の目に映ったのは、瓦礫の上で赤く染まったエンネアを地面に降ろす人影でした。
「何者ですの?」
「ククク。《槍の聖女》様の直弟子がこの程度とは。聖女様が泣くぜえ?」
「お前ぇぇえええ!!」
「止しまさい!!」
明らかに挑発と分かる、粉塵で見えないが声音で分かる男の言葉に、エンネアを傷つけられたことなどから冷静さを失ったアイネスが、ハルバートを構えて突進してしまう。
「う……そ……」
アイネスのハルバートを躱した男の顔を至近距離で見たアイネスは、どういうわけか一瞬、動きが止まってしまう。
その隙を逃すはずもなく、男は持っていた太刀を振り抜きアイネスの胸を貫いた。
何もできず、アイネスが倒れるのを私は見ていることしかできませんでした。
「貧弱貧弱ゥゥウウウ!!この分じゃ、聖女様も大したことなさそうだなあ」
「クッ!貴様!!ッ!?」
粉塵の中から現れた男を見て、私はアイネスと同様に驚愕しました。
なぜなら、この半年間ずっと私に鬱憤を与えていた、リィン・シュバルツァーでした。服装のセンスは、《劫炎》の服を真っ黒にしたようなものに変わっていましたが。
なぜか背後に幽霊でも控えてそうな、人体の構造を無視したポーズを取っていたことに気にならず、私はただ目の前の敵を倒すことだけを考えていました。
「アリアンロード様を侮辱したな!死にやがれですわ!!」
「だが断る。ほら、どうした?敵はここにいるぞ。来ないのか?Halley!Halley!ハァァアアアリィィィイイイ!!」
「言われなくとも!」
「はい、ざーんねん」
こちらを苛立たせるような挑発を続ける彼に突撃しようとした瞬間、背後から声が聞こえ、やられた、と気づきましたが、すでに遅かったですわ。
目の前にいたのは、幻術か分け身で作った本物ではなかったことを気づけませんでした。
後頭部に衝撃を感じ、倒れながらも振り返った私には彼の顔が映りました。
「……こんなものか」
その時、私は彼に感じていた違和感の正体に気付きました。
まるで、自身が生きているのを実感してない、主観ではなく客観で見ている、そんなような浮いていると言えばいいのでしょうか?
芯を持たずに、フラフラしていつ倒れても可笑しくない。
彼の態度をそう評価したまま、私は意識を失いました。
ああ、もちろん死んだわけではないですわよ。そうでしたら、今ここでお話なんてできませんもの。
おや、一旦休憩ですの?わかりましたわ。
今更ながら、ファルコム学園の二期決定を知りました。
ファルコム社員はほんとに病院に行くべきだと思う。(褒め言葉)
ゴーファイ!
感想とかは、また空いた時間に返したいと思います。
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閑話「軌跡通信 《神速》特集・後」
「ギブギブギブ!!」
「乙女の純情を利用した罰と!」
「乙女を弄んだ罪を!」
「「受け取れぇぇえええ!!」」
「WARYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」
目を覚ました私の視界に映ったのは、殺されたと思っていたエンネアとアイネスにアイアンクローを掛けられながら、無理矢理エビ反りに固められて床で悲鳴を上げるリィンの姿でした。
私が茫然としていると、部屋の扉が開いてある人が入ってきました。
「どうやら、無事に目が覚めたみたいですね」
「アリアンロード様!?」
「うっすアリア」
「まだ懲りぬか!」
「くらえやぁぁ!!」
「ユニバァァアアアス!!」
現れたのは、私が敬愛して止まないこの世界の武の頂点に立つ御方、《槍の聖女》アリアンロード様でしたわ。
その御方に気軽に声を掛けたリィンは、また二人から制裁を受けてましたが。
「デュバリィ、申し訳ありませんでした。まさか、あんなことになるとは」
「え、ええ!?ど、どうしたんでしか、アリアンロード様!?」
リィンを見ていたら、急にアリアンロード様が謝罪をされ、頭を下げられました。
理由が分からず、私は狼狽するだけでした。
「実は、彼に貴女達を襲うように依頼したのは私です」
アリアンロード様の突然始まった暴露話に、私は目を白黒させることしかできませんでしたの。
「貴女達の鍛練に丁度良いと考えたのですが……」
「だから申したであろう。闇より深き深淵より生まれし、“可能性の獣”、またの名をユニコーンたる俺の実力を持ってしても、未だ眠れる獅子たる俺が勝つには奇襲に搦め手を使わないと無理だと」
「ようは、まだ未熟だと。主に《道化師》や《怪盗紳士》、《殲滅天使》、《死線》から気にかけられ、《剣帝》や《却炎》から教えを受けているから、と過大評価し過ぎましたか」
「その通りッス。だから執行者並みの実力を持つ《鉄騎隊》と正面から戦うなんてムリムリ。ぶっちゃけ、レンやシャロなんかは研究仲間ですしおすし」
自慢することではない筈なのに、胸を張って主張する彼に、イラッときた私は悪くない筈ですわ。
「ま、そういうことにしておきましょうか。それでは、デュバリィ」
「は、はい!!」
不意に名前を呼ばれ、身体を強張らせてしまいました。
「貴女に新たな任務を与えます。そこの少年を鍛えなさい」
「えぇ!?な、何故ですの!?」
私にとって、理解できない任務に思わず声を上げてしまうのでした。
「理由ならば、簡単です。貴女と彼が似ているからですよ」
「似ている?」
「ええ。そういうわけで、似ている二人で切磋琢磨すれば伸びるのでは、と考えたわけですよ」
「確かに一理ありますが……」
「期限は一年。無事達成できた暁には、私が直々に相手をしましょう」
「もちろん、やらせていただきますわ!このデュバリィに、お任せくださいですわ!!」
「ふふ。頼りにしていますよ」
アリアンロード様と直接手合せできるという名誉に、私は目が眩み引き受けることにしましたの。
「ではデュバリィ、一年後を楽しみにしていますよ。それと、貴方もですよ。執行者No.番外《虚刀》のリィン・シュバルツァー」
「遠慮します。というか、俺は一言も《蛇》に入るといった記憶なんてございませんが」
「当然です。ブルブランが変装した貴方が代わりに、加入式に出席しましたから」
「アイェェエエエエ!ナンデ!?皆の天使、レンちゃんとキャッキャウフフしてたからなの!?」
「いえ、カンパネラ曰く、その方が面白いから、だそうです」
「おのれ、これもゴルゴムって奴が変身したクラシスの仕業なんだ!全部、あいつのせいなんだ!!」
番外とはいえ、執行者として数えられたことは初耳であったらしく、リィンは、いあいあ、などと呟きながら現実逃避に入ってしまいました。
「アイネス、エンネア。許可します」
「さーて、患者さん」
「診察のお時間でーす」
「オデノガラダハ、ボドボドダァー!!」
そう言えば、ここ病院でしたのね。
なぜか看護服を着ているエンネアとアイネスに担ぎ上げられて連れ去られるリィンを見ながら、私は今更ながらそんなことを思うのでした。
そういうわけで、退院した私は早速リィンと共に修行することになりましたの。
帝国各地を走り回ったりしましたが、主にリィンの故郷であるユミルに滞在していました。
で、色々ありながらも一年が過ぎ、私の任務は終わりました。
その後はご存知の通り、結社から指令を受けて再びリィンの元に参ったわけですわ。
あら、どこで惚れたのか、ですって?
うふふふ。流石にそれは恥ずかしいので、お話できませんわ。
そうですわね。強いて言うならば、私にも王子様に助けられるお姫様の願望があった、ってことですわね。
え?最後に何故、リィンと話す時だけ口調が違うのか教えて欲しい?
クス。それぐらいでしたら、構いませんわ。
単純ですわよ。彼の隣では、私はただのデュバリィですもの。
この口調は、私が武の頂点に立つ者としてのたしなみとして、自身に課したものですので。
ええ。それではご機嫌よう。
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第一章 ~交易都市ケルディック編~
第五話「新生活っぽい」
楽しみで寝れないぜ!
「アア、アアァァァァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアアアアアア!!」
真っ白な景色しか映らない荒野の中、その中心には一人の少年が横たわる人影の前で膝を付いて慟哭していた。
「泣くなよ、リィン。オレは、満足だ」
「嘘だろおい!クロスベルに行くのが夢なんだろ!!」
つなぎを着て真っ白な地面に横たわる少年に、旅人のボロボロのマントを羽織る少年、リィンが肩を揺すりながら声をかける。
「ああ、だけど叶えられそうにない。なあ」
「代わりに行ってくれなんて、言うなよ。俺は行かないからな!お前がいなきゃ、意味がないだろ!」
「厳しいな。実はさ、オレってこんな恰好だけど女なんだ」
「そんなこと知ってたさ。ほら、帰るぞ」
「タハハハ。そうか、気づかれてたか。リィンには敵わないな」
「バカなこと言うな。俺はお前よりもノーザンブリアの地理を知らない」
力無く笑う少年、否、少女の言葉を担ぎ上げ、リィンは移動しようとする。
「そうか……。やっと、リィンに勝てたよ。クロスベルに行けないのは、残念だけどな」
「おい!冗談は止めろって!目を閉じるな!!頼むからさ!!」
「……ありがとう」
その言葉を最後に少女の目が閉じられ、腕や足が力が抜けたようにダラリと垂れる。
「シュリィィィィイイイイイイイ!!」
空を睨みながら絶叫するリィンの瞳が紅く染まり、髪も銀色の輝きを放ち出す。
「チッ!間に合わなかったか」
「一足遅かったようだね」
「気を静めるんだ!リィン君!!」
リィンの傍に駆け寄って来た三人の男性が、リィンの様子を見ると苦虫を噛み締めたような顔をする。
「マクバーン兄貴。俺、できなかった。俺には力があったのに……」
「それで、テメエはその力を何に向けるつもりだ」
「正義を気取るつもりはないけど、《盟主》様のためにも止めさせてもらうよ」
「然り。私もこれ以上、美が減るのを見たくない」
「カンパにブルブル。世話になった」
炎を生み出し、アーツを起動させ、真っ白な杭を取り出して構える三人に対して、リィンは抜刀したものの、ダラリと腕を垂らした自然体のまま動かない。
「止めて、お兄ちゃん!」
「再考の余地はないのですか!?」
いつの間に接近したのか、背後からスミレ色の髪の少女がリィンの首元に身の丈程の鎌を突き付け、メイド服の少女が鋼糸で太刀を持つ腕を縛っていた。
「あぁ、スマンな。レンにシャロ。上手い菓子を作る約束を破ることになって」
儚い笑みを浮かべたリィンに一瞬呆気に取られた隙を逃さず、左手で鎌に触れ、右腕に力を込めただけで、鎌の刃は溶け出し、拘束していた鋼糸は溶け落ちた。
「この人数相手に勝てると思ってるの!?」
「ご自愛ください!!」
必死に呼びかけるレンとシャロに対し、リィンは表情を消し、取り囲んでいる五人にグルリと視線を送る。
「どうした《蛇》?俺の勝機は、千に一つか?万に一つか?それとも、億か兆か?那由多の彼方かも知れない?それがどうした!?能書き垂れてないで、来いよ。俺はここに居るぞ?
リィンが自らの力を吐き出した瞬間、辺り一面が深紅の閃光に染められた。
「いい加減、働けぇぇぇえええ!!」
「働かざる者、食うべからずです!!」
「それが、俺に課せられた義務だとしても働きたくないでござるぅぅううう!!」
「何だ、夢か。……知らない天井だ」
「何言ってるのよ。学院に入って寮生活になったんだから、当然でしょ」
「そりゃそうか」
色々と波乱万丈だった昨日のせいかなあ。
懐かしい夢を見たもんだ。というか、死にたい。
朝から何、恥ずかしい忘れ去りたい記憶を掘り起しちゃってるの俺!?
頭の中の混乱を悟られぬよう、それでいて隣で寝ていたリィが落ちないように気を付けながらベッドの上から身を起こす。
いや待て。ステイステイ。
おかしいな。昨日、俺はこの部屋で寝る時、確かに一人でベッドに入った筈だ。
それなのに、だ。
「何故、リィがいる!?」
「押しかけてきたからに決まってるじゃない」
「私もいる」
「のわッ!?」
ふと声が聞こえた床を見ると、ベッドの下から寝袋に包まったフィーがゴロリと転がり出てくる。
「お前ら、ほんと逞しくなったよな。というわけで、出てけ」
「いいじゃない。あと一年このままにさせて~」
「どこぞの会う度に、殺し愛を囁く奴よりはマシだが、俺は平穏を満喫したいの」
「すでに侵略されているでゲソ」
「フィーすけ、お前はどこの娘だ」
おそらくふざけてだろうが、看過できないことを言うリィとフィーの襟首を掴むとそのまま引きずって部屋の外へ放り出す。
「あ~れ~」
「いけずぅ」
俺は抗議の声を上げる二人を無視して扉を閉め、これから始まる学校生活のための準備に取り掛かるのだった。
そうして半月程経ったある日の放課後。
教室でエリオットやガイウス達と談笑していると、教室にサラが入ってきた。
「良かった。まだ残ってたわね。リィン、頼みたいことがあるのだけどいいかしら?」
「選択権を与えているようで、そのボイスレコーダーをチラつかせて一択に絞る行為はどうかと思いますが」
「あら、これを流してもいいのね?」
〈邪王真眼!エターナルフォースブリザード!やみのま!!〉
「もうすでに流してるじゃないですか、ヤダー。やります!不肖、このリィン・シュバルツァー、全力で事に当たります!」
「じゃあ、生徒会室に行って、受け取ってきて欲しい物があるのよ」
「イエス、マム!」
これ以上、この場にはいられるかッ!!
一心不乱に学生会館にある生徒会室を目指す。
途中で50ミラを詐欺によって失ったが、今の俺には黒歴史を暴かれた悲しみの方が勝っているから、全然気にならないぜ。ヘヘッ。
余所見しながらの考え事がいけなかったのか。
「どいてどいてぇ~!!」
「ヘブッ!?」
何か重量のある物によって、腹部に尋常ならざるダメージを受けることを許してしまう。
「わわっ!?私のバイクが!って、無事かい!?」
「無理」
「って、ダーリン!?」
遠退く意識の中で、聞き覚えのある声の主が駆け寄って来るのを感じながら、俺の意識はブラックアウトした。
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第六話「再会っぽい」
閃Ⅱはまだ、第二部の終盤です。
とある昼下がり。ある林の中で二つの木箱が蠢いていた。
「こちらスネーク。目標まであと僅か」
「というか、人がいないんだから普通に行けばいいでしょ?あとリィン、スネークって、何?」
「バッキャロ、リィ。お宝のある屋敷の敷地に強制転移させられたんだぞ?万が一警備員にでも見つかれば、ブタ箱行きになるのは確実だぞ?それに、鉄道憲兵隊に引き取られてでも見ろ」
木箱の中に入って移動していたのは、リィンとデュバリィであり、会話しながらも音を立てずに進んでいた。
「あー、絶対あの嫁き遅れの耳に入るわね。っと、あれ?」
「どした?あらら?」
突然、木箱が何かに引っ掛かったのか動かなくなったことに困惑の声を上げる二人。
「突然現れた気配の正体が、まさかしゃべる木箱ですとは」
「新種の魔獣かな?」
「ゲェッ!?フィーにシャロ!?」
「な、何故二人がここにいるのですの!?」
リィンとデュバリィは、木箱の隙間から覗いた声の主が知り合いであったことに驚愕する。
「それはこちらの台詞ですわ」
「リィンとデュバリィこそ、何でここに?」
二人の奇行に呆れたようにため息とつくメイド服の女性、シャロンと、眠そうな眼で睨む少女、フィーがいた。
ブオオォォォン!
「あれは……」
「あー!!そこの人達どいてぇー!!」
すると、今度はエンジン音が響き、悲鳴も聞こえてきた。
その発生源が近づき、このままだとぶつかると判断したシャロンとフィーは飛び退く。
「え、ちょ!私達は!?」
「ヘールプ!!」
拘束されたままでうごけない二人が抗議の声を上げるが、我が身が第一なシャロンとフィーの耳には届かなかった。
咄嗟にデュバリィは、迫り来るモノを木箱は壊れたが、取り出した盾で受け流す。
「グッフゥ!?」
「「「リィン(様)!?」」」
だがリィンは受け止めようと構えていたが、タイミングが合わずに腹部に直撃し、乗っていた少女と共に宙を舞う。
「アタタタ。無事か」
「ああ。すまな…い。アッ……」
「ん?……」
駆け付けたデュバリィ達が見たのは、少女の下敷きになったリィンの手が少女の胸に当たっている場面だった。
「ヒャアァァアアア!!」
「ふ、不幸だぁぁあああ!!」
パァン、と乾いた音が林の中に響いた。
これが、後にかけがえのない盟友となる少年と少女の出会いであった。
「…ぅう。……ここは?」
懐かしい記憶を夢で見ていて、気が付けば知らない部屋のソファの上で寝ていた。
「あっ!アンちゃん、気が付いたみたいだよ!」
「だから言っただろ?私のダーリンは柔じゃないって」
声がした方に顔を動かすと、入学式の日に会った天使、トワさんとライダースーツの少女がいた。
「こ、ここは誰だ!?俺はどこだァア!?」
「はわわわわ!?ど、どうしようアンちゃん!記憶喪失になっちゃってるよ!!」
予想通りに天使は可愛らしく、はわはわ言いながら動揺してくれた。
ヤベェ。マジ天使なんですけど。
「ふむ。ダーリン、これは何か分かるか?」
天使に見とれていると、ライダースーツの少女が、パン、と柏手を打ち、人差し指と中指を立て、両手で大きな円を作り、額に手を当てて覗き込むような動作をした。
「パン、ツー、まる、見え」
「YES!ロリータ?」
「NO!タッチ!」
「「
この反応、間違いなくアンこと、アンゼリカ・ログナーだ。
半年ぶりの盟友との再会に感極まったのは、向こうも同じらしく力強く抱擁を交わす。
「ああそうだ、ダーリン。父から伝言があった」
「え?何故?」
「『娘が欲しくば、私の屍を超えるがいい!!』だってさ。というわけで、今度の休みの日にルーレ行こう」
「拒否します」
「残念。皇室からの命令だ」
「チクショウ!アルの仕業か!?いや、ギリーか!……クッ、こうなったら早急に手を打たないと」
アンから差し出された手紙を読むと、皇室の紋章が入った封とアルとギリーのサインが書かれていた。
やべえ。妹やリィがポロッと漏らした計画が実行されつつある。俺の平穏が脅かされている。
卒業後は、ユミルに引きこもって悠々自適な領地経営をしてのんびり暮らそうとしていた人生設計が崩れつつある。
取り敢えず、脳内に浮かんだ、アラアラウフフと微笑むアルと、激辛麻婆を食った後のような愉悦の表情をしたギリーにシャイニングウィザードをかまして消し去る。
「えーと、アンちゃんはリィン君と知り合いだったの?」
「半年前に出逢ってね。私の運命の相手さ」
天使が可愛らしく小首を傾げるのに対し、我が盟友はドヤ顔で腕を絡ませてくる。
「良いのか?公爵家の令嬢が、地方領主の義理息子に熱を上げてて。まあ、積もる話はあるが、俺はサラから用事を頼まれて来たんだ」
「今更だな。あの時、言ったじゃないか。私は君の《芯》になりたいと。彼女達も同じ想いだと思うよ。おっと、私も用事があるから、そろそろ失礼しよう」
頬に口づけをしようとしてきたので、額にチョップすることで阻止した。
アンは恨めしそうに睨んだが、時間が圧しているのは本当らしく退室して行った。
「ふぇえええ。お、大人だね!でも、校内で不純異性交遊はダメなんだからねッ!!」
顔を真っ赤にして恥ずかしがりながらも、注意する天使。
「大丈夫ッス。俺はそんなことしないですから。ところで、サラから頼まれて来たんですけど」
「そうだった。えーと、はい!Ⅶ組の生徒手帳だよ!」
Ⅶ組の人数分の生徒手帳があることを確認し、受け取る。
サラの奴め、これを全員に渡せと言うことか。
「確かに受け取りました」
「ごめんねー。君達、Ⅶ組は特殊なカリキュラムだから作るのに時間が掛かっちゃった」
「いえいえ。問題ないですよ」
申し訳なさそうに手を合わせるトワ先輩が、マジ天使だと確信する。
「ところで、口ぶりからすると、これはトワ先輩が作ったのですか?」
「すごいね!その通りだよ。他の先生達、特にⅦ組の担任になったサラ教官は忙しそうにしているから、生徒会長としては手伝わないわけにはいかないよ!それに、これからは、リィン君も手伝ってくれるんでしょ?」
「ヘッ!?」
トワ先輩の言葉に、一瞬固まる俺。
「なんでも、Ⅶ組のカリキュラムの一環としてリィン君は生徒会に出向扱いになってるんだって。それで、生徒会に来る色んな依頼の解決を手伝ってくれるんだよね!」
「ちなみに、それは誰から?」
「サラ教官だよ」
あの女狐ぇぇええええ!!
今度会ったら、波紋流して浄化したろうかッ!
「ふえええ!?どうしたのリィン君!?突然、悪い顔になって!」
「いえ、大丈夫です」
おっと、顔に出てたか。平常心、平常心。
さて、断りたいが無理だろうな。俺の黒歴史が暴かれるな、絶対。
何より、こんな天使に重労働されるとか、天や法が許しても俺が、許゛さ゛ん゛!
この天使の笑顔が見れるなら、俺は戦える!!
「リィン・シュバルツァー、生徒会の一員として全力で挑ませてもらいます」
「ありがとう!早速これなんだけど……」
こうして、遅くまで残り、トワ先輩と主に書類を片づけていった。
その後、夕食をごちそうしてもらい、寮へと帰るとサラが入口の前で立っていた。
「おかえり。遅かったじゃない」
「誰かさんのせいで、やることが増えたので」
「ひどいことをする人もいたもんねー」
それはアンタだよ、とツッコミたいが、痛い目を見るのは勘弁なので黙っておく。
「で、何で俺を生徒会なんかに入れたんだよ」
「偶にはさ、仕事に忙殺されるってのも悪くないでしょ」
「悪いわ!俺のプライバシーは!?」
抗議の声は、ケラケラ笑われて流された。解せぬ。
「ま、私なりのお節介よ。どう?アンタはまだ、悩んでるの?」
「さあな」
「あ、ちょっ!!」
サラを振り切り、自室に引きこもる。
そのまま着替えて布団を被り、俺は意識を絶った。サラからの疑問の答えを見つけないよう、逃げるように。
―――サラside
「やれやれ、行ってしまいましたわね」
「サラ、直球過ぎ」
さっきのやり取りを見られていたのか、厨房からフィーとデュバリィが顔を覗かせた。
「うっさいわよ。私は策士には向いてないのよ」
二人から非難がましい視線を受けるが、私にとっては知ったこっちゃないので無視する。
「しかし、先程の態度から見ると……」
「そうねぇ。まだ踏ん切りが付いてないっぽいわよねぇ」
私の言葉に、二人は顔を曇らせる。
全く、どれだけ愛されているのかやら。ま、私も人のことは言えないけどね。
「ほら、今日はもう遅いからアンタ達も寝なさい。アイツが悩んでるのは今に始まったことじゃないでしょ?」
「そう、でしたわね。彼の《芯》になれるよう、アピールしていくしかありませんわね」
「ん。やっぱり、リィンには幸せになってもらわないとね。私達だけじゃ、不公平だし」
決意を新たにし直した二人が、それぞれの自室に帰って行く。
それを見届けた私は、厨房からジョッキを拝借し、自室に戻ると樽を開けてビールを注ぎ込んで喉を潤す。
「プハー!」
この一杯のために、仕事していると言っても過言じゃないわね。
さあ、リィン。覚悟なさい。
私を含めた、女を舐めないことね。
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第七話「初めてのおつかいっぽい」
今さらだけど、ネタバレ要素もあるので注意されたし!
『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
咆哮を上げる天井まで届きそうな背の機械の体を持つグレーの人型の魔獣。
両腕が変形した鉤爪を振り回し、人の顔を模した頭部は巨大なキャノン塔へと変形して俺達に狙いを定める。
自分を追いつめた、俺達を消し炭に変えるために。
「ごめん、リィン」
「いや、よくやったエリオット。ガイウスとアルティナも下がってろ。ここから先は、俺の
今までアーツを駆使して防御と回復に専念していたエリオットが、体力の限界が来たのか倒れ込んでしまう。
それを見て、嫌らしく体を揺らして挑発する魔獣。というか、もう完全に見た目がトランスフォーマーのロックダウンです。実写版の方の。
「いいえ、先輩」
鈴とした声が響き、魔獣の頭部付近に漆黒の傀儡と、それに乗る黒衣の少女が現れる。
「私達の
その黒衣の少女が乗った漆黒の傀儡が頭部を殴ることで射線がずれ、放たれた砲弾は俺達を外れる。
「言った筈だ、
「そうだよ!僕もまだ戦える!」
「お前ら…」
「先輩の負けですよ。……再度、状況を開始します」
『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
なぜ俺達四人とトランスフォーマーっぽい魔獣が戦っているのか。
ことの始まりは、およそ半日前。
チュンチュンチュン……
この十七年間で聞き慣れた小鳥の囀りを耳にしながら、体を起こす。
「これでも、解は出したつもりだったんだけどなぁ…」
昨夜のサラの問いを思い出し、思わず口から洩れてしまう言葉。
脳裏に浮かぶのは、己の手の中で息を引き取った
「やれやれ。どうもセンチメンタルでいかんな」
そう。アイツの分まで、俺は青春を謳歌せねば!そう誓ったじゃないか、リィン・シュバルツァー!!
と、そこへ、不意に朝日が差し込んでいた窓に影が映る。
「……グッドモーニン」
「ヘブゥ!!」
窓を突き破り、金属の光沢を放つ漆黒の腕らしき物が俺の腹部に、シュッゥゥウウウトッ!!
「オゥゥウウウ!?」
「お早うございます、先輩。……どうなさったのですか?」
「おまっ、お前がそれを言う、かッ!?」
鈍痛から床に転がって悶える俺を見下ろしながら、ダイレクト訪問をしてきた人物、長い銀髪を両肩の位置で結び、フィーと似たような眠たげな金の眼を持つ少女、アルティナ・オライオンを睨みつける。
「モーニングコールを所望されていたので、実行したまでですが。……なるほど。やはり、不埒な目的があったのですね」
「俺はそんなの頼んじゃいねえ!それと、これは不可抗力だし!!」
床に転がっているため、自然と見上げる形となりなぜか士官学院の制服を着ているアルティナのスカートの中が見えてしまう。
先輩は、黒のレースのパンツなんてまだ早いと思うんだ。
「仕方ない先輩ですね。見たいとお望みならば、道具たる私は逆らえません」
「マジで止めてください。ムショに行ったら、嫁き遅れに捕まって一生出られません」
「そうですね。流石の私も鉄道憲兵隊の目を掻い潜っての監視は、骨が折れますし」
スカートをたくし上げるアルティナの相手に頭痛を感じるが、今に始まったことではないので気にしないようにする。
じゃないと、胃が持たない。
「そういや、何で来たんだ?リベールに行ってたんじゃないのか?」
「そちらは片付いたので、本来の任務を遂行するため戻ってきたのです」
「まさか、監視だとか言わないだろうな」
「……いぐざくとりぃ」
「可愛く言っても装っても無駄だかんな!!」
しかし、文句は言ってもアルティナに任務を与えたのは、十中八九ギリーであろうから無駄だろうな。
ギリーと知り合ったのが運の尽きか。てか、何であんなに俺を気にかけてるんだろうな?
アルティナという、暗部の一人を監視役として派遣するほどにな。
ま、まさか!?奴には、そっちの気があるのかッ!?
仕事とマーボーが恋人だと思っていたが、フェイクだったのか!?
「どうしました?急に私に抱き着くなど」
「ゴメン。もう少しこのままでいい?」
「?不埒な行為をしなければ、構いませんよ」
途轍もない寒気を感じたためしばらくアルティナに癒されてると、部屋に来たデュバリィと一悶着あったがユミルにいた頃と変わりない光景だったので割愛しておく。
ただ単に、『この泥棒猫!!』『チョロリィのクセに!!』等々の不問な罵り合いと軽いキャットファイトがあっただけである。
全く、ハーレムは辛いZE☆あ、嘘です!冗談だからお願い止めて!!
その後、朝食を済ませて生徒会からの依頼を確認し、午前はトリスタの街を駆けまわる。
HEY、YOU!実家行こうぜ!!と、催促してきたアンは、生徒会の依頼を優先するからまた今度、と断る。
午後になると、本日の依頼の大本命である旧校舎の調査に取り掛かる。
探索メンバーは俺の他には、ガイウスとエリオット、そしてアルティナだ。
ちなみに、アルティナは俺が流浪の剣客をしていた時期に偶然知り合った知己であり、偶然にもこの学院で再会したのだと紹介した。
他のⅦ組メンバーは、部活だったり私用でトリスタを離れてたりしたので参加していない。
そして、校舎内の構造が変化していたことに驚きつつも探索を進め、終点らしき部屋に着いたらボス的な魔獣が現れたので倒した。
ここまでは良かったが、問題は魔獣を倒した後だった。
倒した魔獣の体が、突如分解されて一つに纏まるとトランスフォーマーっぽい姿になって復活したと思ったら再び襲いかかってきたのだった。
ここで、話は冒頭に戻る。
「くらえ!タービュランス!!」
ガイウスが槍を振り回して竜巻を発生されて魔獣の体勢を崩す。
「《クラウ=ソラス》!!」
アルティナの指示に従い、傀儡の拳が右足の関節を砕き、アルティナが投擲した槍が左足の間接を貫く。
両足の関節が機能しなくなったことで膝を着く魔獣だが、頭部のキャノン砲から砲弾が発射される。
「アマダスシールド!」
しかし、それはエリオットが駆動したアーツによって弾かれる。
「業炎撃!!」
発射後の硬直を逃さず、俺は炎を纏わせた太刀で首を斬ろうとするが、魔獣が顔を反らしたことでキャノン砲を破壊するだけに留まる。
「ブリューナク!!」
「ゲイルスティング!!」
だが、確実に隙は生まれ逃すことなくアルティナとガイウスのクラフトが叩き込まれる。
「フロストエッジ!」
今まで後衛に徹していたエリオットも、ここぞとばかりに攻撃アーツで畳み掛ける。
「これで最後だ!八葉一刀流弐の型、疾風!!」
エリオットのアーツの効果で凍てついた魔獣の体を斬り裂く。
ゴトリ、と俺の目の前に、魔獣の頭部が落ちる。
首だけになったソレの双眸は、俺と視線を確実に交わした。
『コレデ、終ワリジャナイゾ。巨イナル試シハ、コレカラ始マル』
アイエエェェエエエ!?喋ったよ、コイツ!?
というか、セリフの内容が典型的な小悪党だよ。
こうして、一抹の不安と嫌な予感を抱かせて旧校舎の探索が終わった。
「いやー、まさか旧校舎にあんなのがいるなんてね」
「全くだ。帝国の建物の地下はあんなのになっているのなら、気が休まる暇がないな。いや、だからこそ鍛練になるのか?」
「「いやいや。そんなことないから」」
ガイウスが間違った帝国観を持ちそうだったので、エリオットと一緒に否定する。
未だ疑っているようだったが、納得させて学院長室へ探索の報告へ向かう。
その際、アルティナは上に報告すべきことができてしまったとのことで、離脱する。
その後、これから月一で俺達、Ⅶ組が旧校舎の謎を調査することが決定してしまった。
おのれ、サラ・バレスタイイィィィン!!
そんなこんなで、学院生活初の自由行動日は幕を閉じたのだった。
閃Ⅱをプレイして、敵の女性も自然体で口説くなんて流石リィンお兄様!
デュバリィちゃんもいいキャラしてたし、次回作はヒロイン入りを期待。
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第八話「実技テストっぽい」
ちなみに、タグが増えてます。
それと、感想が返せず申し訳ないです。皆様のご指摘やエールのおかげで作者は生きています。
「ふんふんふ~ん♪」
空が明るみ始めて徐々に光が差してくる森の中、たき火を焚いて鍋を煮込んでいる栗色のツインテールの女性の鼻歌が聞こえる。
「さて、こんな感じかしら」
「ただいまー」
「あら、早かったわね」
そこへ、漆黒の髪と琥珀色の瞳の短髪の男性が兎らしき獣を抱えて現れる。
それを見た女性は目を輝かせる。
「朝食にしては、豪勢になるかしら?」
「昼に回すかい?っと、それよりも」
「ええ。……来たわね」
何かの気配を感じたのか、男性は腰に下げた双剣を、女性は身の丈程の棍棒を手に取ると構える。
「チッ!バレちまったらしょうがないな」
二人が見据えた先の木陰から、ニヤニヤと下品な笑みを顔に張り付けた男と、その男を囲むように数人の全身黒タイツの人影が現れる。
「一応聞くけど、素直に投降する気は?」
「無いに決まってるだろ。そっちこそ、俺のハーレムに」
「死ね、クズ!」
女性は男が言い終わる前に、起動させていたアーツで火球を生み出して放った。
「チィ!オリ主に逆らうとどうなるか、教えてやる!!聞いて驚け!そして、慄け!俺は、アルテリア」
「
火球を躱して自慢げに語り出す男の話など、気にすることなく女性は握る棍棒にタロットカードを触れさせると、棍棒が装飾が施された深紅の槍へと変化した。
「
「な、にっ!?」
そして、一瞬で肉薄すると男の心臓に槍を突き立てる。
「Fateの能力、だと!?まさかッ!?」
「残念。アタシも転生者だけど、これはアタシが開発したクラフトよ」
女性が槍を引き抜くと、白い光で包まれると元の棍棒とタロットカードに戻ったが皺が入り、燃え尽きたかのように真っ黒になって手の中からこぼれ落ちる。
「うむむ。まだ改良の余地ありか」
女性は悔しそうに眉を顰めるが、気を取り直して伏兵がいないか警戒する。
しばらくすると、茂みをかき分けて既に帯刀した男性が現れた。
「終わったかい?」
「ええ。そっちは?」
「こっちも問題ないさ。しかし、粗方狩ったとはいえ、まだ生き残りがいたのか」
「これからも増えるかもしれないわよ。何せ、クロスベルとエレボニアで始まったんだから」
「一応、街に着いたら彼等に連絡入れておくか」
「そうしましょ。ご飯冷めてないといいんだけどな~」
二人は得物をしまうと、焚き火の元へ戻って行った。
そして、二人を襲った男達はその場に置き去りにされていたが、体が透き通っていき消えてしまった。
まるで、この世に存在しなかったかのように。
〈……っということがあったのよ〉
「そうですか。わざわざありがとうございます」
〈いいのよ。先輩として、後輩の面倒も見ないとね〉
「痛み入ります。これからクロスベルに向かわれるんですか?」
〈そうよ。原作に巻き込まれるのは面倒なんだけど、レンがいるらしいし〉
「救えなかった俺が言えた義理じゃないですが、頼みます」
〈気にしなさんな、後輩。じゃ、これからクロスベルの彼にも連絡しないといけないから〉
「お疲れ様です。あ、それからヨシュアさんとの結婚式には是非呼んでくださいね。子安も楽しみにしてましたよ」
〈止めて、リィン君!あの子安はただのテラ子安になっちゃうから、絶対に教えないでよ!!〉
「了解です。それでは」
導力通信が切れたのを確認し、アークスを閉じる。
あっちの原作が終わったと思っていたが、まだ狙われてるのか。
思い出すのは、一年前。
リベールで起きた事件の裏側で、何人もの転生者が組織を創って暗躍していることに気付いて殴り込みに行ったんだよな。
その時に組織や国籍、種族関係なしの転生者討伐隊が結成されて、俺も師匠に連れられて参加させられて辛かったわぁ。なんなのあの人達。剣術でどうやって、隕石落としなんてできるんだよ!?
「なーに言ってるのよ?」
「リィか」
声を掛けられて振り向くと、心配そうに覗き込むリィがいた。
おっと、体験した世の中の理不尽さに憤っていることが声に出てたのか。
「何でもない。それより、どうしたんだ?」
「ほら、実技テストが始まっちゃうから移動するわよ」
「待たせたみたいでスマンな」
「べ、別にアンタのためじゃないんだからね!彼女だから、当然のことをしたまでなんだからねっ!」
ツンデレるリィに思わず頬が緩むのを感じながら、アークスをしまってグランドへ向かう。
そこで、サラが呼び出した実技テストの相手がどこかで見たことある代物だったが、リィの反応からして《工房》製かなと考えながらも、無事に倒してテストを終える。
その後、サラより明日から行く特別実習の班分けと実習地の発表がされた。
そう、されたのだ。
俺はアリサ、ラウラ、エリオットの四人で大市などの交易が盛んなことで有名なケルディックへ行くことになったのは、問題ない。
問題なのは、リィ、フィー、エマ、ガイウス、マキアス、ユーシスの班だ。
どう考えても地雷です。過剰な戦力と人員にしたのは、地雷処理を期待していることが目に見えて分かる。
「エクレア様、冗談は二つ名だけにしていただけないでしょうか?」
「サラ、その無駄乳を寄越せ。あと身長も」
「確かにあの二人が、同じ実習地になる組み合わせになったのは私の責任でもあるわ。だが私は謝らない」
キリッとドヤ顔を決めるサラに、蔑む視線を送るリィとフィー。
しかし案の定、サラはそれに動じることなく立ち去り本日の授業はお開きとなった。
それにしても、ケルディックか。
行ったことがない街だから楽しみなのだが、何か嫌な予感がするな。
そして後日、俺はこの時感じた予感がある意味正しかったことを実感するハメになるのだった。
実技テストなのに、なぜ戦闘描写を書かないのかだって?
ぶっちゃけ、ネタ的な戦闘を思いつかなかったためです。
期待してた方、申し訳ない。
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お知らせ
以下のアドレスで投稿していますので、まだ興味がある方は是非お付き合い下さい。
http://syosetu.org/?mode=write_novel_submit_view&nid=70610
『ザクロ!』『フルーツバスケット!』
「…変身」
『ハッ!ブラッドザクロ・アームズ!極・アームズ!狂い咲きサクリファイス!大・大・大将軍!』
「これこそが、真の救世主の姿だ。私がこの世界を正す
どこかの遺跡の中。地面に刻まれた文様が怪しく発光する中、その中心に立つ異形が両腕を広げながら自分に酔い痴れるかのように宣言する。
「いいや、違うな」
「まだ生きていたのか。〈禁断の果実〉の真の力を求めぬ者共に興味はない。せっかく見逃した命をここで終わらせる気か?」
そこにボロボロでありながらも、互いに支え合ってなんとか力強く立ちはだかる五人の姿があった。
「この世界に、救いは必要ないさ。誰もが皆、与えられた幸福だけの世界では生きていけない」
「そうよ。苦しみがあるからこそ、幸せの価値を知り、それを求めるから人は生きている幸福を実感できるのよ」
「だから俺達は、一人で背負うんじゃない。一緒に背負う道を選んだんだ!」
「下らん。誰も私の邪魔はさせん!私が世界を救うのだ!!」
鮮血のような真紅に染まったオレンジの断面を模した刀身の刀を構え、異形は五人に斬り掛かる。
「柄じゃないけど、この世界を壊されるわけにはいかないな」
「私もまだ、追い求める美があるのでね。抵抗させてもらうよ」
「私をさんざんコケにしてくれた礼は、倍返しにしてさしあげますわ」
「私は、ただ貴方に付いて行きますわ。愛、故に」
「ここからが、俺達のステージだ!いくぞ皆!!」
小馬鹿にするかのように、肩を竦める異形に不敵に笑みを浮かべながら五人はそれぞれベルトを巻く。
「「「「応ッ!!」」」」
『カチドキ!』『リンゴ!』『JOKER!』『A LUPAN!』『シャチ!ウナギ!タコ!』
「「「「変身!!」」」」
『カチドキ・アームズ!いざ出陣!エイエイ・オー!!』『リンゴ・アームズ!desire forbidden fruit!!』『JOKER!!』『チューン!A LUPAN!』『シャッシャッシャウタ!シャッシャッシャウタ!』
五人は異形と似た姿へと変身すると、各々の武器を手に異形が行う儀式を止めるために動き出す。
「無駄だ」
しかし、異形が一言発して右手をかざすと、遺跡の床や壁、天井の隙間から蔦状の植物が生えて鞭のように五人に攻撃を加え、遂には拘束してしまう。
「所詮はその程度か。一時でも、お前達に世界の救済を協力してもらおうとした、私が愚かだったよ」
「ふん。ようやく、自分がお馬鹿さんだと気づいたんですの?」
「それにまだ、戦いは終わっちゃいないさ」
「その通り…です!」
五人が入ってきた入口から、黒い車体に空色の流れる線が走る車が重厚なエンジン音を響かせながら乱入してきた。
「お前は!?」
『タイヤフエール!!』
「オールタイヤアタック…です!」
赤い車から飛び出した無数のタイヤが植物を引きちぎり、五人を拘束から解放する。
「何故だ!《運命の巫女》、何故お前が生きている!?」
「センパイ達のおかげですよ。もう私は、考えるの止めてフルスロットルで走り抜く!《クラウ=ソラス》!!」
『OK!Start our misson!!』
少女の背後に出現した案山子のような宙に浮く漆黒の傀儡が、ベルトとミニカーへと姿を変化させる。
『Fire!All engine!!』
「変身!!」
『ドライブ!タイプ・ネクストトライドロン!!』
「お待たせしました、センパイ。皆で、未来を掴みましょう!」
「ああ。ミックスジュースにしてやるぜ!」
かくして、世界の危機に立ち向かう六人の仮面の戦士の戦いの火蓋が切って落とされたのだった。
「と、いう感じの事実をもとにした映画を作ろうと思うんだが」
「これ、最後どうなるの?」
「もちろん、何もかも爆破して綺麗さっぱり無くなって終わるのさ!美しいだろう?」
「爆発オチなんてサイテー!!」
「全部、私のせいだ!アッハッハッハッ!!」
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