銀翼の鴉と黒の剣士 (春華)
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序章:プロローグ

初めまして、春華と申します
ふと思いついたのを形にしてみたとかそんな感じです
SAOもAWも今出ている巻はどちらもそろえているので、お互いの設定をうまく照らし合わせられるようににらめっこしてます

初投稿なので暖かく見守っていただけたら幸いです



「…ううむ……」

 

ここは港区六本木の某ベンチャー企業の研究室

俺はそこで唸っていた。

 

「桐ヶ谷君!こっちッスよ!!」

 

呼び掛けられた声の方を向くと、そこにはやけに大きな丸メガネと剣山のように細く突き立った髪の男性━━比嘉タケルが手を挙げている。

 

「ふっふっふ…桐ヶ谷君のその表情、新しいフルダイブ実験機のテストと聞いて内心ワクワクしながらここに来たら、ぱっと見それに該当するのが見当たらなくておかしいぞって思ってる表情ッスね?」

 

にやにやしながら手元の━━首輪だろうか?を両手で弄びながら、比嘉は俺の思っていたことを言い当てる。

 

「……当たりです。…で、その例の実験機はどこですか?まさかそんな話は無かった。っていうんじゃないですよね?」

 

俺がここに来た理由━━確かに新しいフルダイブ実験機が気になるということもあるが、それは理由の半分くらいだ。もう半分はぶっちゃけて言うとお金である。

今から約数年前に全世界を驚愕させたであろうフルダイブ型VRMMOゲーム《ソードアート・オンライン》で起きた事件、ゲーム内で死んだらそのプレイヤーも命を落とすというデスゲームから生還した俺は、その経緯を買われて、アルバイトと称した新しいフルダイブ技術のテスターをしていたりするのだ。

 

というわけで今回の新型フルダイブ実験機のテストにもかなりのお金が出ると言うことでのこのことやってきたというわけだ。

死銃事件の時に貰ったお金は妹の竹刀やその他経費で気がついたらスッカラカン、今回の話が出たときはコレ幸いと喜んだものである。

 

「まあまあ桐ヶ谷君。実はね、君の言う実験機は…さっきから何度か君が目にしているんスよ」

 

「?」

 

にやにやしながらそう言う比嘉の言葉に辺りを見渡してみるが、そんなものは何も見あたらない。

研究室は前回のバイトの時に来た際に見た景色と変わらない。変わったことと言えば先程から比嘉の手元で弄ばれている首輪のようなモノだけだ。

よくよく観察してみると、それは端末のような物だった。こう…電源スイッチみたいなのがついてるし無線を飛ばしてるのがわかるための青い色が点滅してたり━━

 

 

「……まさか」

 

「そのまさかッス!そう!これが新型フルダイブ補助装置試作一号!名前はー…あー……み、ミニSTL(仮)とでも名付けておくッス」

 

俺の予想に満足げに頷いた比嘉は、その首輪━ミニSTL(仮)とやらを俺に見せつける。

ネーミングセンスはどうかと思うが、STLという単語に俺は反応した。

 

「比嘉さん、STLって…あのSTLですか?ソウル・トランスレーター…でも、あれの小型化には何十年と時間がかかるんじゃ…」

 

STL━━ソウル・トランスレーターとは、現在俺が受けているバイト先であるベンチャー企業の「ラース」にて使用している新型フルダイブ・システムの名称である。

表向きはベンチャー企業と名乗ってはいるが、実際のところ違う。

まあ、そのことは今語ることではないので割合させてもらう。

 

STLはオーシャン・タートルに四台、この六本木の研究室があるビルにも二台あるが、とてつもなくでかいのだ。コンソールや冷却装置まで併せると、カフェくらいの大きさで、それを家庭用に小さくするにはかなりの年月がかかると考えていた俺は、先程の比嘉の言葉に反応したのだ。

 

「いいや桐ヶ谷君、流石に僕でもあれをここまで小型化することは今の段階では不可能ッス。これは…簡単にいえば端末ッス。この端末で装着者のフラクトライトを読み取って、上にあるSTLの本体にその情報を送信。ようは遠隔的にSTLにアクセスして、その場でフルダイブできるっていうモノッスね。」

 

「…つまり、ここでコイツを装着したら、上のSTLにフルダイブができると…?」

 

「理論上はそうなんスけどねぇ…これがどうもうまくいかなくて。一応ダイブすることには成功するんだけど、携帯機の定めというか…STL本体でダイブした時に比べると色々と不安定なんスよ」

 

それはそうだろう。STLと比嘉の手元にあるミニSTLは言うなればパソコンと携帯だ。

動画を見る時だって携帯とパソコンのどちらが早いかと言われればパソコンの方が早い。

 

「まあ、今回はそれを使ってSTLにダイブしてほしいッス。試作品とはいえ小型化の第一歩ッスし、桐ヶ谷君ならVR酔いもしないだろうから、もう少し安定したデータの収集ってことで…」

 

そう言いながらミニSTLを俺に渡した比嘉は、じゃ、よろしくッスと俺の肩をポンと叩いてデータを集めるであろうパソコンのあるデスクにつく。

 

手元のミニSTLを訝しげに見つめた後、首に装着。

どこか寝れる場所はないかと考えながら辺りを見渡すと、丁度いいところにジェルベッドを発見。

寝っ転がりながら首回りの機械の電源を入れると、視界の端に電波の接続状況を表す針が立っているのが見えるようになった。恐らく、起動したミニSTLが俺のフラクトライトに上のSTLとの電波状況を書き込んでいるのだろう。針は最大まで立っているし、減る様子もない。

 

STLでのダイブは何度も行っているし、そう危険なことではないだろう。

 

……だてにあの世界で生きてたわけじゃない

 

深呼吸を数度した後、俺はSTLへダイブするための言葉を紡ぐ。

 

 

≪リンク・スタート≫

 

 

 

 




比嘉さんが作ったのはニューロリンカーの試作品の試作品みたいな感じですかね

STLがフルダイブ装置の名称であってるはずなんだ…
ちなみにキリト君がいる場所はAW10巻のバーサスでも舞台になった研究室です

時系列は…アリシゼーション後ですかね
とはいってもアリシゼーションでの出来事はあまり語らせないようにしますが…

文庫版ででているところまでは文庫版
Web版で出ているところはWeb版で語らせるつもりです
文庫版で違うところがでればそれはそれでまた変更があるかも…?


それではまた次回!


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二〇四六年編
第一話:ふとした違和感


続けて投下します

浮かぶときは浮かぶんです。
次はきっと状況説明に入れたらいいな…!


布団というものは神が作り出した中で最高のお宝なのではないか。と朝の若干ひんやりした空気を感じ、もそもそと布団に潜りながらそう思う。

昨日、比嘉タケル氏の依頼のもと行った実験はまあ成功と言えるものであった。

実験の報酬をたんまりともらってテンションが上がった俺は、家に帰るなり妹の桐ヶ谷直葉を連れ出して夕食を奢ってやった後、ご機嫌なまま眠りについたのだ。

明日は—―もう今日であるが、学校が休校なので、バイト代を使って、家の二輪車のパーツなどを買い替えたりするために都心まで行こうと考えていたのだ。

寝ぼけ眼のまま時計を見ると、時刻は午前7:00

買い物は午後からにしよう。

そのまま目を閉じて訪れようとした二度寝という至福の時間は

 

「お兄ちゃ~ん!朝だよ!早くしないと学校遅刻しちゃうよ~!?」

 

そんな声とともに布団を引きはがされる感触であっさりと終わりを告げた。

 

「スグ…?何言ってんだよ…?今日は休校日って言ったろ?スグこそ大丈夫なのか?剣道の強い高校に推薦で入ったんだから…。朝練とかあるって言ってなかったっけ…?」

 

「お兄ちゃん寝ぼけてるの?今日は休校日なんかじゃないし、私まだ中学1年だよ?」

 

「そうか…休校日じゃなくて中学1年か…って…?」

 

こんな朝早くに起こしてくる直葉には困ったものだが、理由を説明すれば返してくれるだろう。

朝の空気に身を縮こまらせながら会話を続けていると、その会話にふと違和感を覚えた。

眠気で重たい瞼を開いて声の主を見ると、きょとんした表情でこちらを見ている少女と目が合う。

 

「……スグ?」

 

「…そうだけど…お兄ちゃんまだ寝ぼけてるの?言ってること何か変だし…」

 

それを見て気の抜けた声を出した俺の反応は正常だろう。

少女は確かに俺の知っている桐ヶ谷直葉だ。

しかし…何というかこう……いつものイメージとかけ離れてるような感じがするのだ。

そう、俺の知ってる桐ヶ谷直葉は色々と大きかった…ような…

 

「……?ほら、ぼうっとしてないでいこうよ?朝ごはん、できてるよ?」

 

「あ、ああ…」

 

目の前の少女と俺の記憶の中の直葉を照らし合わせるのに云々考えていると、少女は手を引いて俺を部屋の外に連れ出した。

 

 

 

 

 

 

テーブルにつきながら用意されたトーストをかじる。

変わらないいつもの朝の筈なのに何か違和感を感じるのは、きっと目の前の少女のせいだろうか…

 

「…どうしたのお兄ちゃん、さっきからジロジロ見て…」

 

「あ、いや…何でもないよ…?うん、何でもない」

 

見ていたことに気づかれてしまったようだ。

誤魔化すように牛乳を飲むと、首回りに違和感を感じて思わず手を伸ばす。

 

「…?」

 

「あー!お兄ちゃんまたニューロリンカーつけっぱなしで寝てたのー?ゲームやるのはいいけどほどほどにしなさいって、お母さんも言ってたじゃん!…って、電源切れてるし。はぁ…充電しておくから貸して」

 

「あ、ああ…悪い。ところでスグ、にゅーろりんかーって…なんだっけ?」

 

目の前の直葉似の少女——とりあえず直葉と呼ぼう。彼女もそれで反応してるし。

首回りについていた機械を渡しながら話した俺の言葉を聞いた彼女はピシリと動きを止めると、急に真剣な表情になって

 

「お兄ちゃん、本当に大丈夫?…病院、行く?」

 

なんておっしゃられました。

 

「あ…いや、悪い悪い、どうもまだ目がしっかり覚めてないみたいで…」

 

直葉はそんな俺を暫く見つめた後、はぁ…と小さくため息。

 

「ちょっと来て」

 

「え?えと……はい…」

 

またもや腕を掴まれると、家の庭の隅にある手洗い場に連れていかれた。

朝早いからかまだ気温が低いようで、ひんやりとした空気が俺の体を包み込む。

 

「お兄ちゃんはあっち向いてて」

 

「…?わかった」

 

直葉の言葉に素直に後ろを向く。

視線の先にある池には見事な鯉が数匹泳いでいる。

そういえば直葉が小さなときに溺れかけたことがあったっけ。と感傷に浸っていると…

 

「はーい、お兄ちゃんそのままね~。はい、じゃあいくよ~」

 

淡々とした直葉の声に疑問を覚えた瞬間。ひょいと服の襟首を引っ張られたと思ったら、そこから朝の空気でとても冷やされた冷水が投下された。

 

「あひゃぁぁぁぁあああああーーーーっ!!!??」

 

突然の冷水攻撃を受けた俺の悲鳴が、辺り一面に響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 




キリト君冷水攻めの巻

色々とおかしな部分はありますが仕様です。
実験は成功してるんです、実験は

タグでなんとなく理解…してもらえるかな?

では、また次回!


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第二話:推測

中学校に登校です!


では、どぞ


直葉の冷水攻撃を受けた後、俺は見覚えのない制服に身を包んで所謂通学路を歩いていた。

勿論、隣には自分と同じような制服に身を包んだ直葉が竹刀袋を肩にかけながら歩いている。

 

制服は青を基調としたブレザーに、これまた青色のネクタイ。

直葉の方は緑色のリボンを付けている。

道行く同じ制服を着た学生達も、青、緑、臙脂色のネクタイ及びリボンを付けているようで、その色が学年を分けているのだろう。

直葉が1年生ということは、1つ上の学年である自分は2年生、よって臙脂色は3年生というわけだ。

状況に流されているとはいえ、現在の自分が中学2年生なのは一体どういうことなのだろうか…

 

まさかこれもSTLのダイブ実験の真っ最中とでもいうのだろうか?

STLは、自分の魂―—フラクトライトというものを利用してフルダイブする。

なんでも、ALOやGGOにアミュスフィアでダイブするのとは別物で、アミュスフィアがユーザーの脳にポリゴンデータ―—つまりVR世界のデータを見せるのであれば、STLはフラクトライトそのものにデータを書き込むらしい。

アミュスフィアとSTLでのVR世界を比べると、明らかに感覚が違うのだ。

アミュスフィアが見せるVR世界は、確かによくできている。しかしそれだけだ。空気に埃はない。服には羽毛もなく、破れることもない。つまり、よくできていてもそれがポリゴンでできたものだということがわかるのだ。

 

しかし、STLによって作られたVR世界は違った。

 

機密保持のため、STLでダイブしてるときの記憶は、機械がフラクトライトの記憶領域にあたる部分の接続を遮断しているため思い出すことができないようになっているが、ごく最初の頃と、あの世界で過ごした数年間の記憶は遮断されていなく、ちゃんと記憶に残っている。俺自身、最初はそこがVR世界だとわからなかったくらい精巧な作りだったのだ。

つまり、ここがSTLの作り出した仮想現実空間と仮定した場合、本来高校生である筈の俺が中学生になって登校しているのにも一応の納得がつく。

自分の家族を再現させられるとは思ってはいなかったが、悪趣味にも程がある。

 

STLを作った菊岡や比嘉たちラースのスタッフはなにが目的で俺にもう一度中学生の生活をさせているのだろうか…

 

 

「……わけがわからん…」

 

「…?お兄ちゃん?ボーっとしてどうしたの?学校ついたよ?」

 

思わず呟いた声は直葉には聞こえていなかったようで、考えているうちに目的地の学校についたようだ。

学校の名前は…『梅郷中学校』

記憶があるのは向こうの不手際なのだろうが、この際だ。

SAO事件で台無しになった中学生活を楽しませてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

なんだこれは

 

なんだこれは

 

 

状況を整理しよう。

校門で直葉と別れた後、俺はなんとか自分の教室に向かうと、座席について授業が開始されるのを待った。

授業開始のベルがなり、先生と思しき人物が教室に入ってくると、授業を開始する。と言ったそばから、『何もない空間』を指でなぞるように動かし始めた。何をしているんだと考えていると、先生はそのまま公式の説明をしだしたのだ。ギョッとして先生を見るが、先生はそれが当たり前のように話を続けている。周りの生徒達は、時折頭を上げながらその空間を確かめ、キーボードを打つように指を動かしているのだ。

 

暫くそうしていると、肩をつつかれる感覚。隣の席の人物のようだ。

はて?と首を傾げながら横を向くと、困ったような、あいまいな表情をしている女子生徒と目が合った。

 

「あの…桐ヶ谷君?」

 

「な、何かな?」

 

ややどもった声になったのは許してほしいと願いたい。

向こうは俺のことを知っているだろうが、俺はこの子のことを知らないのだ。

そして行きの直葉との会話で知ったのだが、今は10月30日、いわゆる二学期真っ只中というわけだ。

名前も知らない少女は困ったように自身の首回りについている機械をトントンと叩くと

 

「ニューロリンカーの電源、切れてるよ?」

 

と言ってきた。彼女に習って首回りを触ると、なにやら固いものが…

って、これ朝にも直葉に言われたばかりではないか

 

これがニューロリンカーというものか。

暫く触っているとスイッチらしきものを発見、そこを押すと何やら起動音のようなものが鳴った。

生徒はそれを教えてくれたらしい。礼を言って視線を黒板に向け―――

 

「うぇっ!?」

 

思わず声を上げてしまった。

その声は教室中に響き渡ったようで、先生も含めクラス中の視線が集まった。

 

「…桐ヶ谷…どうした?」

 

「え、あー…すいません、ちょっと寝ぼけてて…」

 

「そうか…じゃあ、この問題をやってみろ」

 

なんという横暴!!

先生に悪態をつきながらも俺は再び先ほどまで先生が手を動かしていた空間に目を向ける。

そこには先ほどまで見えなかった黒板があり、そこには問題と、それの公式がいくつか書かれていたのだ。

一瞬不安が頭をよぎったが、よくよく見れば高校でやったところの基本部分だった。

何とか正解した俺は安堵のため息をつく。

 

そんなこんなで時間が経ち、この授業は終わりを告げたのだった

 

 

 

 

 

それからの授業と休み時間はニューロリンカーの操作に慣れるのに時間を費やした。

手探りの状態だったが、操作の方は案外難しくはなかった。

目の前にパソコンのデスクトップのようなものがあると考えればいい。

あとはアイコンの部分を指でタッチして、操作するだけだ。

 

そうこうしているうちに四限目が終わり、お昼休憩になった時、妹の直葉が教室にやってきた。

クラスの皆からはなにやら微笑ましい目で見送られ、ある生徒からはほんと妹さんと仲良いよな。なんて言われながら教室をでる。

 

 

あの先生の話が面白かったなど、楽しそうに話す直葉の話を聞きながら歩いていくと、学生食堂のようなところに着いた。

直葉はそのままずんずんと進んでいくと、そこに隣接しているラウンジの丸テーブルに陣取り、俺に向かって手を振っている。

周りの生徒は皆2年や3年のようだ。その中を普通に歩きながら席を確保する直葉に感心するが、周りの生徒は気にした様子もなく、それどころか俺と直葉を交互に見ながら、先ほどのクラスの生徒と同じように微笑ましい表情をしているをしているのに気付き、何となく気恥ずかしくなった俺は急いで直葉のいる席に向かった。

 

 

「今日のお昼はね…じゃじゃーん!サンドイッチでーっす!」

 

テーブルにつくなり持っていたバスケットの包みを開くと、そこには卵にレタス、その間にハンバーグが挟まっているどうみてもハンバーガーにしか見えないサンドイッチが入っていた。

 

「…スグ?これ、ハンバーガーじゃ…」

 

「…ハンバーガーじゃないもん。ちょっと大きめだけどサンドイッチだもん」

 

俺の言葉にムッとした表情になる直葉

これで機嫌を損なわせてお昼抜きになるのは勘弁なので、ハンバーガー風サンドイッチを手に取るとがぶりと噛みつく。

 

うん、美味しい

美味しいのだが…とてもハンバーガーの味に近いのだが…

 

 

そんなことを思いながら昼食を取っていると、直葉が何かに気づいたように視線を上げた。

 

「どうしたスグ?」

 

「あ、うん。同じクラスの子が来たから…どうしたのかなって」

 

直葉の言葉に視線を向けると、そこにはぽっちゃりとした体型の少年がなにやら挙動不審な様子でラウンジを歩いている。

俺たちの時とは違い、周りの生徒が向ける視線は非難や不快な色が込められていたが、少年はそれを受けながらも一直線に歩いていく。

行先は…ラウンジの奥で固まっている1つのグループのようだ。

 

最後の一口を食べ終えた俺は、その成り行きを見ることに決めた。

 

 

目的の場所にたどり着いた少年に気づいたのか、グループのメンバーが、テーブルについている一人を除いてその場から体を動かすと、少年に席を譲る。

 

「あれ…黒雪姫先輩?」

 

「黒雪…なんだって?」

 

事を見守っていた直葉が、少年の前に座っている少女を見て驚いたような声をあげる。

 

「生徒会の副会長さん。スノーブラック、黒雪姫って言われたりしてて、皆あの人のことを姫とか、黒雪姫先輩って呼んでる…って、お兄ちゃんもそれくらいわかるでしょっ」

 

ご丁寧に説明してくれたあとに俺をチラッと睨んだ直葉は、少しするとまた驚いた声を上げた。

 

「ちょ、直結!?有田君と、黒雪姫先輩が!?」

 

見ると黒雪姫と呼ばれた少女が、自分の首のニューロリンカーに何やらケーブルのプラグを刺し、少年に空いている方のプラグを差し出しているのが見えた。

ニューロリンカー同士でもケーブルで接続できるのかと、昔に流行った携帯ゲーム機の事を思い出しながら見ていると、少年の方は覚悟を決めたように差し出されたプラグを自分のニューロリンカーに接続した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てめぇ有田!バックレてんじゃねえぞ!!」

 

 

それからいくらか時間が過ぎた後だ。

ラウンジの入口から大きな声が聞こえてきたのに気付いた俺は、そちらに意識を移した。

そこにいたのは大柄で、逆立った髪の少年と、その後ろでやや緊張した顔の明らかに彼の手下であろう生徒が二人いた。

有田と呼ばれた先ほどの少年は、椅子から立ち上がり恐怖の表情を見せている。

それを見ただけで、有田少年は彼らにイジメられているのだろうと理解できた。

 

周りの生徒もそれに気づいたようで、同情の視線を彼に向けている。

 

ずんずんと目的地に近づいている大柄少年を視界に収めながらどうしようかと考えていると、目の前でガタッと音が鳴ったのに気付いた。

 

「…もう我慢できない、一度ビシッと言ってやる…!」

 

「す、スグ…!?ちょっと待てって!」

 

その瞳を怒りに燃やしながらそう言った直葉は、俺の声も聞かずに今まさに事件が起こるであろう場所に歩き出していく。追いかけないわけにはいかないので、俺も彼女の後についていくことになった。

 

 

「ちょっと荒谷君!もう止めなさいよ!」

 

開口一番、直葉は大柄少年――荒谷にそう言うと、二つのグループの間に割って入った。

荒谷は直葉の登場に一瞬驚いたような顔になったが、ひきつったような笑顔を見せると

 

「だ、誰かと思ったら桐ヶ谷…さんじゃあねえか。悪ぃけど、俺たちはあんたの後ろの有田に用があるんだ。わかったらそこをどいてくれねえかな?」

 

と、今にも殴りかかりそうな体を彼の意思で必死に抑えながらそう言った。

子供が見たら泣き出しそうな表情を前にしかし直葉は力強く言い返した。

 

「そうやってそのあと有田君に暴力振るうんでしょう!?気づかれてないと思ったら大間違いだからね!大勢で寄ってたかって…恥ずかしくないの!?」

 

「てめぇ…」

 

流石直葉。このVR空間でも性格が現実まんまだ。

 

直葉の言葉に一歩踏み出す荒谷。不穏な空気になったのを切り裂いたのは、先ほどから様子を見ていた、黒雪姫の言葉だった。

 

「キミは確か…アラヤ君だったな。有田君に話は聞いているよ。間違えて動物園からこの中学に送られてきたんじゃないか、とな」

 

「……ぷっ」

 

凛としたその声は、明らかに荒谷を挑発するものだった。

かくいう俺も、今の言葉にニヤリとしてしまったのだが

 

「ンだとテメェコラァ殺すぞブタァァアアアア!!!」

 

「きゃっ!?」

 

「スグっ!!」

 

挑発を受けて完全に切れた荒谷は、直葉を押しのけると何言ってんのこの人!?っというような表情で隣の女性を見ている有田に殴り掛かっていた。

バランスを崩した直葉を支えながら俺が見たのは、荒谷のパンチを受けて吹き飛ばされた有田が背後の黒雪姫にぶつかり、テーブルごとひっくり返ったところだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえずここまでです!

キリト君、ここが仮想世界なのではと推測するの巻でした

ハルユキ君と黒雪姫先輩登場です

STLの説明はSAO9巻見ながらこんなんかと考えて簡潔にまとめたものです
要はSTLのほうがリアルだよって言う感じです

それでは、また次回!





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第三話:壊れた現実

今回はハルユキ君視点です

アクセル・ワールドってSAOみたいにキリト君一人称の描写みたいなのってないんですね

うん、多分見づらいことになってると思います…


一体全体何が起きているんだろう

 

下校時間になり、下駄箱から靴を履きかえた少年――有田春雪は昨日今日と続いている奇妙な出来事に頭を悩ませていた。

 

ハルユキは梅郷中学校に通う1年生だ。

体はぽっちゃりとしていて、性格はやや内向的で温厚、彼をよく知る者達から見れば良い奴であることには間違いないだろう。

 

しかし、彼は入学してから半年間、あるグループからイジメを受けていた。

イジメの証拠を提出すればそのグループはすぐに罰せられるであろうが、その後の報復が怖く、行動できない彼は、休み時間になるとトイレに隠れてニューロリンカーを通して行う≪完全ダイブ≫によってできる学内サーバーのネットゲームに明け暮れていた。

そんなある日、いつものようにゲームをしようとしたハルユキの前にある少女が声をかけてきた。

 

『もっと先へ、加速したくはないか、少年』

 

少女は梅郷中学校に通う生徒なら誰もが知っている人物だった。

 

≪黒雪姫≫

 

本名はハルユキも知らないが、その美貌で有名な人物から声をかけられたのだ。

 

翌日、彼女の指定した場所、校舎一階の学生食堂に隣接しているラウンジを訪れたハルユキは、そこで黒雪姫本人と会い、あるアプリを渡された。

 

≪ブレイン・バースト≫

 

彼女曰く、このアプリをインストールした瞬間、今までの現実は破壊され、思いもよらない形で再構成されることになるらしい。

それを聞いたハルユキは考える。

 

鈍重な体。冴えない容貌。繰り返される苛めと、ネットへの逃避。

そしてその状況を変えようともしなく、変わらないと諦めている自分自身。

 

変えようのない現実、それが壊れるなら―――

 

『望む、ところです。この現実が…壊れるなら』

 

ハルユキはそれを受け入れることにした。

 

アプリのインストールも済み、説明に入ろうとした時、彼をイジメていたグループの主犯格――荒谷とその取り巻き二人が声を上げながら近づいてきた。

もう駄目だ、と思いながら近づいてくる彼らを見ていた時、ハルユキと彼らの間に入り込む影があった。

 

その影は一人の女子生徒だった。

肩のラインまでカットされた青みがかった黒の髪の毛の少女の名前は――同じクラスの桐ヶ谷直葉という生徒だった気がする。

何故彼女のことを知っているかというと、完全に偶然である。

とある剣道雑誌を見ていた際に、彼女の名前があり、それが同じ学校、同じクラスだったのだ。

直葉は荒谷に対してもうイジメは止めろと言っている。

 

自分を助けてくれる味方がいたことに若干の感動を覚えながらも、ハルユキは荒谷が内心怒り狂っているのを感じた。これでは彼女まであいつの犠牲者になってしまう。

 

それは駄目だ。

自分が殴られるのは嫌だが、それ以上に自分のせいで他人が傷つくのはもっと嫌だ。

彼女にいいから離れてと言おうと口を開く。

恐怖に震えながらも絞り出した声は、背後から聞こえた涼やかな声音によって中断せざるをえなくなった。

 

「キミは確か…アラヤ君だったな。有田君に話は聞いているよ。間違えて動物園からこの中学に送られてきたんじゃないか、とな」

 

 

黒雪姫の言葉はハルユキを呆然とさせ、それを聞いた荒谷は怒りに震えると目の前にいた直葉を押しのけてこちらに殴り掛かってきた。

荒谷の怒号に身を竦めたハルユキの脳内に、先ほどのやりとりで黒雪姫と接続しっぱなしだったニューロリンカーを通して伝えられた彼女の鋭い声が響く。

 

『今だハルユキ君!叫べ!≪バースト・リンク≫!!』

 

そのコマンドを自分の実音声なのか、ニューロリンカーで行う思考会話による音声なのかはわからなかったが、ハルユキには自分の体の隅々にまで、声が振動となって染み渡るのを感じた。

 

 

 

≪バースト・リンク≫!!

 

 

 

バシイイイッ!!

 

という衝撃音が世界を揺るがしたと思えばあらゆる色彩が一瞬で消滅し、透き通るブルーになった。

周りのラウンジも、成り行きを見守っていた生徒達も、目の前の荒谷まで、モノトーンの青色に染まったと思ったら、全てが静止した。

 

それには気づかず、殴られると思い一歩飛びずさったハルユキは、自身の体がニューロリンカーのローカルネットで使っているピンク色のアバターということに気が付いた。

 

驚愕しながら辺りを見渡したハルユキの疑問に答えたのは、同じく学内ネットで見かけたことがあるアバターの姿をした黒雪姫の姿であった。

 

彼女の言葉によると現在自分たちは≪ブレイン・バースト≫のプログラムの力によって思考を≪加速≫している状態らしい。

この青い世界は学内のソーシャルカメラが捉えた画像から再構成された3D映像を、ニューロリンカー経由で見ている世界だということを聞かされた。

 

その≪加速≫の原理を詳しく聞いている途中、何かに気づいた黒雪姫は苦笑しながら「そういえば現実のキミは今まさにぶっ飛ばされつつあるんだった」と言ったことにより、とりあえず加速についての講義はお開きになった。

 

この力を使えば、今ハルユキに襲い掛かってくる拳を避け、荒谷を返り討ちにすることは容易い。

 

しかし黒雪姫はこれをワザと受けることで、ソーシャルカメラに荒谷の暴力行為を映させ、正式な処罰を受けさせようと言った。

殴られるのは確かに痛い。しかし、本当に痛かったのはハルユキの心だ。

これまで受けたイジメは、彼のプライドをずたずたに引きちぎった。

荒谷に対する恨みは強い。≪ブレイン・バースト≫の力があれば簡単に倒せると聞ければそうしたいとも思う。今までの恨みを晴らして、仕返しする。

そう考えた後、ハルユキは殴られることを選択した。

 

それを聞いた黒雪姫は満足げに笑うと、この状態を解除する方法と、荒谷のパンチへの対処を教えて、≪バースト・アウト≫と言い、加速状態を解除した。

自分も解除しようと声をだそうとした時、先ほどの少女が気になった。

 

荒谷に押しのけられた直葉は、男子生徒に支えられている。

それを見て安心したハルユキは、≪バースト・アウト≫と呟く。

徐々に戻ってくる色彩と周りの動きを感じ取りながら、ハルユキはこれから起こす行動に全神経を集中していた。

 

 

 

 

…結果として、荒谷への対処は予想以上の効果をたたき出した。

荒谷のパンチを受け流しながら吹き飛んだハルユキの体はそのまま黒雪姫にぶつかり、倒れた黒雪姫の頭がラウンジの採光ガラスにぶつかり、その衝撃で頭を少し切ってしまうということになったからだ。

ハルユキも最初は混乱したが、直結されていたニューロリンカーを通して発せられた黒雪姫の思考音声によってなんとか平静を保つことができた。

その後は簡単だ。事態を聞きつけた先生達によって荒谷達は取り押さえられ連行。黒雪姫は病院へ、ハルユキ自身は保健室で軽い手当を受け、こうして下校している。というわけだ。

 

「はぁ……」

 

ため息をつきながら歩きだそうとしたハルユキは、別れる時に黒雪姫から言われた言葉を思い出した。

 

『明日登校するまで、ニューロリンカーは絶対に外すな。しかし、グローバル接続は一秒たりともしてはいけない。いいか、絶対だ。約束だぞ』

 

絶対に~するなと言われたらしたくなるのが人間と言う者だが、彼女を怒らせるのも怖いし、なにより彼女はイジメられていた自分を助けてくれた恩人だ。言うことを聞かないわけにはいかないだろう。

 

グローバルネットの接続を切り、再び歩き出そうとした時。

 

「ハル」

 

と小さな声が耳に届き、ハルユキは足を止めた。

 

「……チユ」

 

そこにいたのは幼馴染の倉嶋千百合、ハルユキがイジメられていたことを知っていて、昨日は彼を元気づけようとお昼まで作ってきてくれた少女だ。

しかし肝心のお昼は、荒れていたハルユキ本人が叩き落としてしまったため、今彼女に会うのはハルユキとしては少し…いや、かなり気まずいものであった。

 

しかし彼女の方はハルユキの傷を心配した後、一緒に帰ろうと誘ってくれた。

昨日のことも謝らなければいけないし、ここで逃げたら昨日と同じ繰り返しだ。

というわけで、ハルユキはありがたくその申し出を受けることにした。

 

 

 

 

とりとめのない会話を交わしながら帰り道を歩くハルユキとチユリ。

ハルユキの方は昨日の一件を謝ろうとするのだが、タイミングがつかめず謝ることができなかった。

 

「あの、チユ…昨日のことだけど…」

 

何回目かの謝罪チャンスに挑んだハルユキの声は、後ろから掛けられた声によってまたもや彼の喉奥に飲み込まれることになった。

 

「有田君?」

 

声は自分を呼ぶ声だ。足を止めて振り返ると、そこにはお昼休み、荒谷の前に立ちふさがってくれた少女、桐ヶ谷直葉の姿があった。買い物帰りなのか、私服のエコバックという彼女の姿は先ほどの彼女とはまた違った印象を彼に与えていた。

 

「え、あ、き…桐ヶ谷さん。どうも」

 

「有田君、怪我は大丈夫?荒谷の奴、おもいっきりぶん殴ってたじゃん」

 

「う、うん。保健室行ったし、あまり大したことなかったから」

 

怪我の心配をしてくれた彼女にそう答えると、「そっか、よかったよ」と安堵の笑みを向けられた。

それを見たチユリが訝しげにハルユキを睨む。

何やらよくない誤解をしている彼女に説明しようとするが、その声もまた、後方から聞こえる声に阻まれた。

 

「おーい、ハル、チーちゃん!偶然だね!今帰り?」

 

「あ…、タッくん」

 

隣のチユリがにっこり笑ったのを見ながら声のした方向を見ると、そこにいたのは爽やかという形容が似合っている美男子が手を振りながら近づいてきた。

 

「オッス!ハルにチーちゃん。それと君は…」

 

「ま…黛拓武さんですよね!?こないだの剣道の都大会で一年生なのに優勝した…。嘘、本物!?」

 

「うん。…そういう君は女子の部で準優勝した桐ヶ谷直葉さんだよね?君こそ凄いよ、一回戦から決勝まで一本も取られなかったっていう人から一本取ったんだから」

 

「いや、まぐれですよまぐれ。…それより、ええと三人は知り合いなの?」

 

タクムとの剣道話に花を咲かせていた直葉はハルユキ達を見るとそう問いかける。

そうだよ、と言おうとすると、チユリがズイッと前に飛び出して。

 

「そうよ、ハルもタッくんも私もみんな同じマンションに住んでる幼馴染。ちなみにタッくんは私の彼氏」

 

彼氏の部分を強調してるのは直葉を威嚇しているのだろうか。

直葉の方は「へえ、そうなんだ」と返し、全く気にしてないようだ。

 

暫く立ち話をしていると、直葉がそろそろ帰る趣旨を告げたため、話はその場でお開きとなった。

最初は威嚇していたチユリも、同学年の女子となるとすぐに打ち解けたようで、連絡先の交換までしていた。

 

女子って凄いと内心感心しながら三人で歩き出し、その後は何もなく帰宅した。

今日は色々なことがあったから疲れたようだ。

ベットに潜ったハルユキは、そのまますぐに眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、ハルユキは夢を見た。

 

いや、夢ではなく悪夢だろう。

小学校のころ、自分をイジメていた集団、荒谷やその手下AB。

彼らの暴力を受けている自分をタクムやチユリ、母親にずいぶん前に家を出ていった父親が現れて彼をあざ笑うのだ。

その数はどんどん増えていき、マンションの住人、クラスメートもその輪に加わる。

 

嫌だ。もうここは嫌だ。

 

そんな時、空を見上げるとそこには一羽の鳥がいた。

 

広い空をその翼で飛び回る鳥。

 

いつしかハルユキはその鳥を見つめていた。

僕もそこへ行きたい。もっと、もっと高く。

あの空まで、飛んできたい。

 

 

 

『—――それが、君の望みか?』

 

 

 

 

最後に、聞き覚えのあるような。それでいて聞き覚えのないような声が聞こえた気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




AWの一巻を読みながらポチポチアレンジを加えながら打ってました。

直葉ちゃんの剣道の実力は高いです
中学三年で全国大会の上位ですからねぇ…

ハルユキ君はタクム君の活躍ののった雑誌を読んでた時にチラッと小さくあった直葉のページを見た感じです。

それではまた次回!

…いい加減バトルに入りたい……


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第四話:真実

今回でキリト君の現状がわかります

超理論満載と軽い鬱展開

読みづらくなったのは否定しません、すみません!!


では、どぞ


昼休みに起きた事件の後、俺や直葉、その他周りにいた生徒は教室に戻され、通常通り授業を受けることになった。

 

殴られた二人のことが気にかかったが、頭を打ったであろう黒雪姫も、ちゃんとした医療機関で治療を受けただろうし大丈夫だろう。

 

放課後は直葉と真っ直ぐ帰り、家に帰った後彼女は「少し買い物に言ってくるね」と言って家を出て行った。

 

 

「……さて」

 

朝からバタバタしていて整理できなかったが、ようやく一人の時間ができた。まずは状況の確認だ。ニューロリンカーなど、自分には知らないことが多い。情報を集めることが必要と考えた俺は自分の部屋に行き、パソコンを付けてネットを開いた。

 

幸い、この世界は(俺がVR空間と仮定しているのでこの呼び方にする。)現実━━つまりリアルである二〇二六年頃の日本とそう変わりない。SAOやALO、GGOのような幻想的な、SFチックなのをモチーフにしたモノではなく、まさに俺たち人間が生きている世の中をそのまま再現している。

 

 

ここが独自の発展を遂げたファンタジー世界で、こういう現代機器のようなものがなく自らの手で木を切ったりして生活しているような場所だったらそれこそ、手に入る情報というのはとても少ない量になっていただろう。

それこそアンダーワールドのような…

 

「……」

 

木を切ると考えた時、とてつもなく大きな黒い巨木を、斧でえっちらおっちら傷を付けている少年二人と、それを眺めている金髪の少女がふと頭に浮かんだが、別に今気にすることではないので情報の収集のためにパソコンの画面に意識を向ける。

 

 

まず調べるのはニューロリンカーについてだ。

朝起きたときから首回りについていて、この一日の中でとても使う機会が多かった端末。

 

ここの住民はこの端末を利用することで日々の生活をより便利に過ごしている、というのが今日一日を通しての俺の見解だ。検索エンジンによって表示された結果から一番上に現れた項目をクリックする。

そこに表示された内容を見た俺は思わず目を疑った。

 

 

《ニューロリンカー》

西暦2031年発売

装着者の脳細胞と量子レベルで無線接続し、映像や感触を送り込んだり、逆に従来のヘッドギア型VR機器や、インプラント型のように現実の五感をキャンセルすることも可能。

勿論、完全ダイブシステムも内蔵。

 

 

とまあこんな感じの説明だったわけだが、発売日が自分が住んでいる世界より近かったこと、そして装着者の脳細胞と量子レベルで無線接続し、映像や感触を送り込めるというところが俺のことを驚かせたのだ。

いや、発売日が未来なのはまだ良い。そういう世界だと割り切ることもできるからだ。

しかし、従来のヘッドギア型の項目で、あの悪魔のマシン、ナーヴギアや、その後継機のアミュスフィアの画像が使用されていたこと。インプラント型の部分でブレインインプラントチップと言うモノの画像が使用されていることはどうしても割り切ることはできない。

ブレインインプラントチップというモノは、現在アメリカで開発されているはずの、STLとはまた別の視点の…ナーヴギアやアミュスフィアの正式な後継機になると俺が考えていたモノなのだ。

如何にこのVR空間がSTLによって作られたモノだとしても、未だ発売されていない物についてここまで詳細に説明することができるのだろうか。

 

そしてもう一つ

ニューロリンカーは装着者の脳細胞に量子レベルで無線接続し、映像や感触を送り込めるという部分だ。

量子接続理論は俺の時代にも存在している。STLや、前に奇妙な体験をすることになった《次世代型フルダイブマシン実験機》は量子コンピューターを利用した機械だ。

そこに接続し、映像などを送り込み、そこに存在させるということは、STLの原理と同じように『装着者のフラクトライトにその映像を書き込んで、そこに存在していると認識させているのではないだろうか』

これが合っているのなら、ニューロリンカーはSTLの小型化に成功した機械と推測できる。

つまり、この世界は俺が暮らしている世界の未来に存在している世界ということなのだろうか?

 

「……それなら…」

 

俺の世界の未来なら、あの事件の記事もある筈だ。

VRゲーム世界に革新をもたらし、また歴史に消えようのない爪痕を残したあの事件━━SAO事件

 

 

俺が中学二年の時に起きた事件。

しかし、今の俺の姿は中学二年だ。

何よりも桐ヶ谷家がこの時代に存在していて、家族の年齢が俺が中学二年生の時と同じというのが気にかかる。SAO事件が存在しているなら、それを終わらせたキリトの存在もある筈だ。自惚れになるかもしれないが、ヒースクリフを倒せるのは俺一人だと考えている。

 

記事の続きを見ようとスクロールをし、その文章が目に入った瞬間、俺の体は知らず震えていた。

 

 

「…な…んだこれ………」

 

 

≪世界を揺るがしたSAO事件、国の必死な対応に関わらず、10000人の命が失われた。開発者の茅場晶彦氏は全プレイヤーが命を落とした後に自殺。遺書には「あの城を踏破できた者は誰も存在しなかった。アインクラッドの崩壊は見届けられなかったのは残念だが、それを運命として受け入れよう。」と意味不明な言葉と、『ザ・シード』なるフルダイブ・システムのプログラムパッケージがインターネット上に配布されていた。政府は………≫

 

10000の命が失われた?

ちょっと待て、SAOは俺がヒースクリフを倒してクリアした筈だ。

 

目の前の文章が信じられず他のサイトを渡り歩いたが、内容は全て最初に見たものと一致している。

 

「嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ!!」

 

うわごとのように呟きながら他のページを見ては消しを繰り返す。

確かに犠牲者はでた筈だが、アインクラッドには生存者もいた。彼らはSAO生還者として俺や明日菜達と同じ学校に入って、授業を受けていたのだ。記憶はしっかりある。

なら何故クリアされていない。俺なら、≪黒の剣士キリト≫なら、ヒースクリフ―—茅場晶彦の野望を打ち砕いている筈なのだ。

 

一体どういうことなんだ……

 

呆然としながら俺は一つのことを調べた。

 

調べるのは俺の戸籍情報。

俺――桐ヶ谷和人はこの桐ヶ谷家の本当の家族ではない。

父と母は俺が幼い頃に事故で亡くなり、一人になった俺を桐ヶ谷家が引き取ってくれたのだ。

俺が10歳の時にしたように住基ネットの記録を探し当てる。そこに記されていたのは、俺が引き取られた年代は現在から数えて13年前。

つまり2033年に当時1歳であった俺は桐ヶ谷家に引き取られていたことになり、SAO事件には参加していないことになる。

そのことがわかった時、パニックになっていた脳は一先ず落ち着きを取り戻した。

SAOのことも気になるが、俺の記憶と住基ネットの記録の矛盾。その疑問が俺の頭を埋め尽くしたからだ。

 

俺の記憶では昨日、比嘉タケルの依頼でミニSTLの実験を行い、その後妹の直葉と外食し、眠りについた。

そして次に目を覚ましたら中学二年の姿になっていて、中学校生活を行うことになっていた。

SF小説ではあるまいし、目が覚めたら過去にタイムスリップしていたというわけでもない。

ニューロリンカーなどの情報からも、ここは未来の世界の可能性が高いからだ。

 

俺は首回りについているニューロリンカーを取り外し、しげしげと眺める。

パッと見た感じは首輪のようだ。それこそ比嘉の研究所で装着したミニSTLに―――

 

「…っ」

 

待て

何か、何か重大なことに気が付いた気がする。

 

手元のニューロリンカーと、研究所にあったミニSTLの形状はほぼ一致している。

人間の脳細胞に量子レベルで接続して、そこに映像を書き込むというのも、STLがフラクトライトに情報を書き込み、本来無いものを意識上ではあると錯覚させるということと同じようなことだ。

つまりニューロリンカーはSTLの小型化に成功した機械ということで間違いないだろう。

 

しかし、この結果がわかっても頭のもやもやは消えてくれない。

何かが引っかかる…もっと不安定な、もっとあやふやな…

 

 

『量子コンピュータってのは、平行世界に干渉する可能性があるって言われてるんス、昔から。……SFの世界では』

 

「あ…あぁ……っ!」

 

昨日とはまた別の実験の時、比嘉から言われたことを思い出す。

ダイブした先にオバケが出たとか何とかの話になった時、彼が言っていたのだ。

この量子コンピュータがパラレルワールドに存在する同種の量子コンピュータと干渉して、オバケの姿を見せているという…

実際に俺はその後のダイブで奇妙な体験を経験している。

よって経験論ではあるが量子コンピュータは稀に平行世界のソレと干渉し合うということが立証される。

 

昨日、俺はミニSTLでSTL本体に無線接続を行った。

それによりミニSTLは俺のフラクトライトを読み取り、上の階にあるSTL本体に俺のフラクトライトデータを送信した。

つまり俺のフラクトライトという情報データは、送信されている間、STL本体へ続く電波の海を流れているということになる。その際に、何らかの不具合で平行世界の量子コンピュータと接続してしまい、俺のフラクトライトがその世界に送信されてしまった。送受信自体は常に繰り返しているので、俺はSTLに接続することができたが、平行世界に送信されたデータは送信された先に存在する。

そしてそのデータは行き場を失ったが、飛ばされた先は量子コンピュータによる通信が頻繁に繰り返されている場所だ。なんにせよ、データ自身はミニSTLからSTLに送信されるという役割を果たさなければならない。

そして見つけたのだ。データの大本にになったフラクトライトに限りなく近い存在から発信される通信データを。

そしてその先に存在したフラクトライトに、『俺』というフラクトライトを上書きした。ということではないのだろうか。

 

 

つまり…

 

今ここに存在している『俺』は、平行世界の桐ヶ谷和人のフラクトライトに上書きされた存在なのではないのだろうか。

 

 

「…っ……」

 

動悸がおさまらない。

頭の方はとっくにパニックになっていて、そんなはずないと考えている傍ら、その推測に納得している自分がいる。むしろしっくりくるほどだ。

この世界の俺はSAO事件の際には生まれてもいないのだから…

 

俺という歯車がないことで、75層におけるヒースクリフの正体に気づく者はいなく、そのまま犠牲者を増やしながらも進み続けたプレイヤーは95層のタイミングでヒースクリフという絶対的なプレイヤーを失う。

俺の代わりに≪二刀流≫を手に入れたプレイヤーもいるだろうが、クリアされなかったということは殺されたということだ。

 

そして全滅した。攻略組が無くなったら後は緩やかな衰退だ。

現実の体は衰弱していき、隠れていたプレイヤーもいつかは死を迎える。

 

「…………………ぁ…」

 

そして気づいた。

俺がいないことでクラインはSAO内でのレクチャーを受けられず、シリカは迷いの森でピナと共に命を落とし、シノンは銃に対しての恐怖を克服できず、通っていた学校での苛めを受け続けるはずだ。

そして俺がアスナと結婚しないことでユイはその身にバグを募らせ続け、アスナは…

 

「あ…ぁぁ………」

 

あの栗色の髪の少女は無理に無理を重ねて、心身共に壊れてしまっていたのではないのだろうか…

 

そしてアスナが存在しないことで、黒髪の少女――≪絶剣≫の異名を持った彼女も一人孤独に命を落としてしまった筈だ。

 

いくらここが平行世界だからって、知っている人物、大切な人物が命を落としているというのは割り切れることではない。

しかも自分が関わって入れば解決できたことだ。

 

挙句の果てに平行世界の自分を殺したようなことまでしている。

 

 

 

 

 

「俺は…俺は……」

 

 

そして今回のことから出てきた結論は

 

 

 

 

 

「一人、だ…っ……」

 

 

 

 

 

元の世界に戻る手段など存在しなく、この世界で一人で生きていかなければならなくなったということだった。

 

 




はい、この小説のキリト君の正体は平行世界のキリト君のフラクトライトに上書きという形で憑依したキリト君でした。

直葉ちゃんとのご飯の前にフラクトライト飛んでんジャンと気づいたお方、正解です。
ミニSTLでの実験をする前にバイト料もらったら奢ろうと考えていたということで補完お願いします。
考えてたなら食事をして寝た筈ってなるのも納得できますよねっ!


SAOはクリアされてなかったということにしました
世界移動系の小説ではないので歴史は改変しなければいけないですし、自分的にキリト君がいないとSAOはクリアされないかなって考えてたので…
ちなみに茅場さんが≪ザ・シード≫をあちこちにばらまいてたのでALOもGGOも存在します。
妖精王須郷さんもまあ…ALOにSAOのサーバー流用してたわけですし捕まったんじゃないっすかねぇ(適当)
SAOがクリアされなかったこと以外は正史というかSAOの小説と同じです…まあ、設定的に無理そうなのも幾つかありますけどね…

それではまた次回、ぼっちキリト君に救いの手は差し伸べられるのか!?



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第五話:一人じゃないよ

直葉ちゃんヒロイン回…なのか?
ゆうてもフェアリィダンス編の繰り返しというかそんな感じな気もしますけども

では、どぞ


「たっだいま~!」

 

買い物袋を持ちながら、桐ケ谷直葉はご機嫌な様子で玄関の扉を開けた。

同年代の友人ができたこともさながら、一年生ながら剣道の都大会で優勝した黛拓武という少年に出会ったことが主な要因である。

幼いころから剣道をしている直葉は、同年代の選手の中ではかなり強い部類に入るだろう。

しかし、年齢が上の選手には彼女よりも強い選手がたくさんいる。勿論、直葉も負けないために努力をしているが、心のどこかでは自分では二年や三年には勝てないと思っていたのだ。

ところが先日の都大会において、一年生ながら並み居る強豪を打ち倒し、見事優勝した男子が出たと聞いたとき、直葉は興奮を隠せなかった。

 

同じ年代にもこんなに強い人がいるんだ。

 

私も、もっと頑張ろう。

 

それからの直葉は、どこか吹っ切れたかのようになり、めきめきと実力を伸ばすことができたのだ。

今度の大会では、前回敗れたあの三年生にも勝てるかも…と密かに思っているくらいである。

 

そんな自分を変えるきっかけになった人物に会えた。これが嬉しくなくてなんだというのだ。

 

 

「お兄ちゃん聞いてよ!さっきね~……お兄ちゃん?」

 

靴を脱ぎながら直葉ははて?と首を傾げる。

いつもならここで兄が「おかえり」と言いながら階段を下りてくる筈なのだが、今日は下りてこない。

 

 

 

「…寝てるのかな?」

 

今日は思っていたより風が涼しかったように感じる。

兄のことだ、きっと窓を閉めずに寝ているに違いない。

 

買ってきた食材を冷蔵庫にしまった後、二階の和人の部屋に向かう。

 

 

「お兄ちゃん?開けるよ?」

 

小さく声をかけながらそっと開けたドアからは案の定涼しい風が吹いてきて、直葉の体をすくませる。ああ、やっぱり開けっ放しだったと暗い部屋の中に入った時、和人がベッドの上に座っているのが見えた。

 

「ちょ、ちょっとお兄ちゃん、こんな暗いところでどうしたの…!?窓も開いてるし、風邪引いちゃうよ?」

 

窓を閉め、カーテンを引いたあと、パソコンの電源がつけっぱなしになっていたのに気付き、和人が何を調べてるのか気になってチラっと画面を盗み見る。

そこに書いてあったのは今から二十年以上前、VRゲームが発達し始めた頃に起きた事件の記事だった。直葉も、学校の授業で少しだけ習ったことがある。兄も学校から帰ってきた時に「やってみたかったな」と瞳をキラキラさせながら呟いて、母親に馬鹿言うんじゃないと叩かれていたことがあった。

 

しかし、急にそんなことを調べてどうしたのだろうか?

それを問いかけようとしたとき、掠れるような声で和人が呟いた。

 

「夢を…夢を見たんだ」

 

掠れた声はなお続く

 

「そこで俺は仲間と一緒にいた…。辛いことや、悲しいこともあったけど、楽しかった…」

 

そう言う和人の顔はどこか懐かしそうで、それでいて絶望したような、諦めの表情だった。

その顔を隠すように伏せた和人の体がぎゅっと強張り、やがて絞り出すような声が漏れた。

 

「いつまでもこの時間が続くって、…そう、思ってたさ……。だけど…だけど、次に気が付いたら俺は一人になってた…。仲間に会おうにも、絶対に会うことはできない。俺は…仲間に会うために手段を尽くしたよ…。でも、駄目、だった…。俺の手が…届かないんだ………皆に…」

 

「………っ」

 

何故だろう。和人の言うことは彼の夢のことなのに、こんなに胸が苦しくなるのは。

いつも直葉が見ている前で飄々としている兄が、幼い子供のように泣きじゃくっている。

そんな彼の姿を見るのは、嫌だった。

少しためらった後、直葉は和人の隣にそっと腰を掛け、彼の体を包み込んだ。

 

「お兄ちゃんは、一人じゃないよ」

 

優しく背中を撫でながらそう言うと、和人は力なく首を横に振る。

 

「一人だよ…。俺を知ってる人は誰もいない…。手を伸ばしても…誰も掴んでくれない。皆、遠くに行ってしまったから……」

 

「なら、私が掴むよ」

 

え…?とこちらを向いた和人の顔を正面から見つめる。

 

「お兄ちゃんの手を掴む人がいないなら、私がお兄ちゃんの手を掴むよ」

 

背中に回していた手を離し、彼の手を両手で握る。

ずっと窓を開けていたからだろう、その手は冷たい。

直葉はその手をさすりながら、言葉をつづける。

 

「誰も手を掴んでくれない、なんてことはないよ。手は、誰かの手を掴むためにあるんだもん。だから―――」

 

 

―――お兄ちゃんは一人じゃないよ

 

 

その言葉を聞いた和人の目が大きく見開かれ、やっぱりかといったような表情で息をつく。

 

「やっぱりスグにはいつも助けられちゃうな…」

 

「…?なぁに?」

 

ポツリと呟かれた和人の言葉に首を傾げるが、「なんでもないよ」と頭をワシャワシャと撫でられる。崩れた髪型を直しながら恨めし気に和人を見上げるが、当の本人は部屋の電気をつけて大きく伸びをしている。

 

「……よしっ!スグ!今日は俺が夕食を作るから楽しみにしておけよ!」

 

「夕食って…お、お兄ちゃん作ったこと無いでしょぉ!?」

 

直葉の方を向いてそう宣言した和人は腕を回しながら階段を下りていき、一瞬呆気にとられていた直葉は慌ててそれを追いかける。

 

結局夕食は二人で作ることになり、今まで厨房に立ったことのないはずの和人が手際良い動きをして直葉を驚かせたり、仕事から帰ってきた母親の翠が仲良く厨房に並んでいる兄妹を見て目をパチクリさせていたりと、その日の桐ケ谷家には、笑顔が絶えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いいはなしだなーみたいな

無理やり感がありそうな気もするけどまあ…はい

いきなり夢を見たんだって言われても捉えようによっては中二病と捉えられてしまいそうなのは気のせいだろうか……

そろそろキリト君をBBデビューさせないと…
いや、その前にヒロイン候補と邂逅でもさせようかな

メインヒロインはまだ決めてないけど…アンケートにするか自分で決めるか…




そして編集中のを間違えて投稿したとかすいません!!
改めて投稿しなおしました!!


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第六話:ブレイン・バースト

今回はハルユキ君回

ブレイン・バーストの説明とか

あと、オリバーストキャラとオリ設定がでます


『ははは、早速狩られたか。私との約束を守らないからだぞ、少年』

 

時刻は昼休み

昨日、原因不明の悪夢を見た翌日、いつものように学校に登校しようとしたハルユキは先日聞いたことのある≪加速≫が始まった音と共に突然謎のVR空間に飛ばされた。

そこで気が付いたら銀色の体のロボットのような姿になっていたハルユキは、そこで≪アッシュ・ローラー≫なる人物に襲われ、わけもわからずぼこぼこにされてしまったのだ。

 

荒谷の件の謝礼も込めて今回のことを黒雪姫に問いただすと、彼女は思考音声で器用に笑いながらそう言ったのだった。

 

『うっかりグローバル接続した僕も悪いですけど……はぁ。思考の≪加速≫なんてことをして何をするのかと思えばただの格闘ゲームだったなんて…しかも現実を舞台にした遭遇戦ってどんだけ人騒がせなんですか!』

 

『まあまてハルユキ君。我々バーストリンカーは別に格闘ゲームをするために≪加速≫しているわけではないのだよ。むしろ逆、だ。我々は≪加速≫するためにこの格闘ゲームを行っているんだよ。そうせざるを得ない理由があってな』

 

『…はぁ…その理由って何ですか?』

 

『ン、その理由は実際に≪加速≫して教えよう。ハルユキ君、≪加速≫してくれ』

 

黒雪姫の言葉に素直に頷き、加速コマンドを唱える。

 

 

バシッという音と共に周りの色彩が消え、同じように周りの生徒もぴたっと動きを止める。

 

 

「…それで、どうするんですか?」

 

加速したことにより、ピンクの豚のアバターになったハルユキは、妖艶な衣装に身を包んだ黒雪姫に問いかける。

 

「視界の左側に新しいアイコンがあるだろう?それが≪ブレイン・バースト≫のメニュー画面だ。自分のステータスや戦績の閲覧、それと周囲のバーストリンカーを検索して対戦を挑むことができる。マッチメイキングのボタンを押してみてくれ」

 

言われたように操作をすると、一瞬のサーチング表示に続いて、ネームリストが現れる。

書いてあった名前は三つ

今朝も見た、自分を指すであろう≪シルバー・クロウ≫

そして≪ブラック・ロータス≫と≪リーフ・フェアリー≫の三つだ。

 

「今、我々はグローバルネットから切断されて、学内のローカルネットに接続している。つまりこのマッチングリストに表示されているのはこの学校の生徒だけというわけだ。さて、私の名前は≪ブラック・ロータス≫だぞ。それをクリックして対戦を申し込んでくれ」

 

「え…ええっ!?」

 

「何も本当に対戦しようってわけじゃないぞ、ただ時間切れでタイムアップにするだけだ。そのほうが説明も幾分かやりやすいからな。それともあれか?対戦したいなら申し出を受けるが…」

 

「い、いえ!タイムアップでお願いします!!」

 

その言葉に慌ててリストを操作し、対戦を申し込む。

すると再び世界の様相が変化した。

青く停止したラウンジが、全ての生徒たちが一斉に消える。柱やテーブルが、色を取り戻しながら風化するように朽ちていき、ガラスにも厚く埃がこびりついた。

そして空がさぁっと深いオレンジ色に染まった。

その後、今朝、≪アッシュ・ローラー≫にぼこぼこにされた時にも見た1800の数字が現れ、そこから左右に青いバーが伸びた。そして最後に【FIGHT!!】の文字。

 

「ほう、≪黄昏≫ステージか。これはレアなステージだぞハルユキ君」

 

「は、はぁ……」

 

きょろきょろしていたハルユキの傍らで、黒雪姫の声が響いた。

それに答えながらハルユキは自分の体がピンクの豚から、銀色のロボットになっていることを確認する。

黒雪姫はどのような姿になっているのだろうか。とハルユキが視線を向けるが、彼の予想に反して黒雪姫はあの黒いドレス姿のままだった。

 

「さて、早速だが説明といこうか。キミの今の姿はデュエルアバター。その名の通り、対戦用のアバターだ。デザインしたのはブレイン・バースト・プログラムであり、キミ自身でもある。ハルユキ君、キミは昨日、とても長くて怖い悪夢を見ただろう?」

 

「は、はい」

 

内容はあまり思い出せないが、それがものすごい悪夢だったことは覚えている。

 

「それはプログラムがキミの深層イメージにアクセスしたせいなんだ。ブレイン・バーストは、所持者の欲望、恐怖、強迫観念などを切り刻み、濾し取って、デュエルアバターを作り上げるんだ。ちなみに読み取られるのは理想像ではなく劣等感だ。恐らくキミはこんなアバターではなくもっと強そうなのがよかったと考えているだろうが、運が悪ければあのピンクの豚君になっていた可能性もあったんだからな」

 

「う…ならまだマシ…なのか…。そういえば、先輩のアバターはその姿なんですか?それも劣等感の象徴から作り出されたアバター?」

 

「いや…、これは私自身がエディタで組んだものなんだ。本来のアバターはある理由で封印していてね、時が来たら話すよ。それに…私のデュエルアバターは醜いよ。醜悪の極みだ。あまり期待しないほうが良い」

 

ハルユキの言葉に顔を伏せながらそう話した黒雪姫は「さて」と呟き顔をあげてハルユキを見る。

 

「それじゃあ、講習に入ろうか。実はなハルユキ君、私たちは≪加速≫を使う度にバーストポイントというものを1ポイント消費しているのだ。ハルユキ君、戦闘でけちょんけちょんにされた時のリザルト画面を覚えているか?」

 

「はい、ええと…僕の名前と、レベル1って表示と…あ、そのバーストポイントの数字がでました。99から89に減っちゃいましたけど…。あ、じゃあ今も≪加速≫したから僕のポイントは88ポイントってことですね?」

 

黒雪姫はハルユキの問いに頷くと、その手に持っている傘を地面にカッと突き立てた。

 

「理解が早いな。その通りだよハルユキ君。そして減ったポイントだが…これは≪対戦≫でしか手に入らないんだ。同レベル対戦なら勝てば10ポイント、負ければ同じく10ポイントの増減が起きるというわけだな」

 

「えっと…それ以外にも≪加速≫で使うポイントもありますよね?それだと全バーストリンカーのポイントは減る一方じゃないですか。全部なくなったらどうなるんですか?」

 

「簡単な話だよ。ブレイン・バーストを失う。一度失えば、ニューロリンカーを機種変しても再インストールはできないぞ。つまり、≪加速≫の味を覚えた者達は戦い続けるんだ。そのポイントが無くなるまでな。……さて、ハルユキ君はこれまでの説明を聞いてどうする?≪加速≫の事をすべて忘れて普通に過ごすのなら私は構わない。キミの安全は生徒会で保障しよう」

 

「ぼ…僕は……」

 

一度≪加速≫の味を覚えたらやめられない。

荒谷の件で大いにわかった。

この力があれば、今まで自分を馬鹿にしてきた奴らを見返すことができるだろう。だが―――

 

「僕は、先輩に返すものがありますから」

 

「ほう?」

 

「貴方が僕にブレイン・バーストをくれたのには別の理由がある。ただ100ポイントを奪うだけなら、わざわざこんなことを説明してくれませんから。きっと、何か事情があるんですよね?だから、その…僕にできることなら、なんでもやります。先輩の期待に応えられるなら、僕を地獄から救い出してくれた先輩への恩返しに…えと、だから、僕は戦います。バーストリンカーとして」

 

途中から何が言いたいのかわからなくなってしまった。

恥ずかしさに俯いたハルユキの耳に聞こえたのは、黒雪姫のぽつりと呟くような声だった。

顔を上げると、くしゃりとその顔を歪めた黒雪姫が、こちらに手を伸ばしている。

 

「恩返しだなんて、そんなことを言うな。私とキミは同じ人間で、バーストリンカーだ。ハルユキ君、距離を作っているのはキミだよ。キミにはこの仮想二メートルの距離がそんなにも遠いのか?」

 

遠いですよ。

あなたは僕なんかと違って何でも手に入る。僕は、あなたの役に立てれば満足なんだ。

その言葉を飲み込んでハルユキは口を開く。

 

「僕は、先輩に助けてもらっただけで満足です。それ以上は何も求めません」

 

「…そうか」

 

呟きと共に黒雪姫の手が下ろされ、沈黙が辺りを支配する。

それを破ったのは、先ほどまでと変わらない、滑らかな声だった。

 

「キミの志は受け取ろう。実際、私は現在厄介な問題を抱えているしな。そのためにキミの力を借りたいんだ。そのために、次は対戦の仕方を学んでもらう。体力ゲージの下にある自分の名前をクリックしてくれ。≪インスト≫が開いて、キミのアバターに設定された通常技及び必殺技が見れる」

 

必殺技と聞くと少し心が高鳴るのは男の性というやつだろうか。

このひ弱そうなアバターにも、立体的な移動をして相手の背後に回り込み、ズバッと仕留めるクールな必殺技とか設定されているのかもしれない。または遠く離れた相手にまで届く拳とか。

効果音と共に開かれた半透明の窓をのぞき込む。

 

まず一つ。通常技≪パンチ≫

二つめ。通常技≪キック≫

そして最後。必殺技≪ヘッドバット≫

 

「なにこれ」

 

思わず呟いた声に首を傾げる黒雪姫に自分の技を説明すると、彼女はやや思案顔になって。

 

「ふむ…つまり、キミのアバター。≪シルバー・クロウ≫は近接型なんだな。それを主体に戦闘していくわけだが…ハルユキ君。先に言っておくが、全てのアバターは等しいポテンシャルを持っているんだ。遠距離特化や近距離特化というようにタイプは分かれていても、な。つまり、キミのアバターにもそれを補う力が隠されている筈だ。そのアバターは自分自身だぞ?自分を信じなくてどうする」

 

「はあ…まあ、先輩がそういうなら信じます」

 

「…キミはもう少し自分に自信を持ってくれ……。さて、技の説明も終わったことだし、次は体験授業といくか。そうだな…よし、マッチングリストを開いて≪リーフ・フェアリー≫に対戦を申し込んでくれ」

 

「…えぇっ!?」

 

「大丈夫、許可は取ってあるから。ほら、急げ、ハリーアップ。ドロー申請は私からしておくぞ」

 

黒雪姫に急かされながらハルユキは慌ててマッチングリストを開き、相手の名前をクリックし、対戦を申し込んだ。

その傍らで飛んできたデュエルのドロー申請のYESをクリック。

 

 

すると場の景色が一気に変化した。

先ほどまで夕日だった空の色は真珠を溶かしたような光沢のある乳白色に代わり、あちこちに正八面体のクリスタルが現れて浮遊している。

建物はまるで神殿を思わせるような純白色に変わった。

 

「今度は≪霊域≫ステージか…これは便利だぞ、周りに浮いてるクリスタルを…っと、それよりレクチャーだったな。キミの視界に小さな水色の三角形が表示されているだろう?それはガイドカーソルといって、相手のいる方向を教えてくれるものだ」

 

言われてみて気づく。前回の対戦では気づかなかったが、残り時間と体力ゲージの他に、水色の三角形が表示されていた。それが指す方向に敵がいるのだろう。

矢印の方向は自分の後ろを指している。きょろきょろしていたので背を向ける形になってしまったのだろう。

……つまり、今は敵に背後を取られてるってこと!?

へ、下手に動いたら殺られる!

 

「……もしもーし」

 

「はひぃっ!!すみません!どうか命だけは!!」

 

掛けられた声に反射的に土下座しながら振り返る。

相手の方も戸惑った声を上げているようだ。

 

「…ロータスさん、この人がその…逸材ですか?」

 

「ああ、彼は学内ネットのスカッシュゲームでレベル152までいったんだ。≪加速≫無しでな」

 

「…へぇ……」

 

黒雪姫と軽く会話した相手の視線が興味深げな視線になるのを感じる。

止めてください、僕はスカッシュしかとりえのないピンクの豚ですからぁ!

 

「…クロウ、そろそろ顔を上げたらどうだ?別に取って食おうってわけじゃないんだから」

 

「は…はい…」

 

黒雪姫の言葉に頷きながら恐る恐る顔を上げる。

そこには苦笑を浮かべた黒雪姫と、一人の女性アバターがこちらを見ていた。

 

彼女が≪リーフ・フェアリー≫だろうか。

その名の通り妖精というのが似合う姿で、腰にはファンタジー世界でよくあるロングソード。刃は片方にしかないので、長刀という部類だろう。

そして背中には黒雪姫のまではいかないが、半透明な色の羽が左右に二枚ずつ生えていた。

さらに驚いたのがそのアバターである。これはどう見ても…

 

「…人間?」

 

ハルユキの言葉に黒雪姫が大きく頷く

 

「そう、彼女のアバターは世にも珍しい≪ヒューマンアバター≫なんだ。キミや≪アッシュ・ローラー≫も勿論人型ではあるが、完全な人間の姿ではない。だが彼女――≪リーフ・フェアリー≫はその完全な人間の姿をしている。名前や服装から彼女は【グリーンカラー】に位置しているんだがな。≪ヒューマンアバター≫の利点は人間そのもの、ということだ。どんな環境でも動けるし、関節部分に隙間などがないため砂が入って身動きが取れなくなるなどだな。しかし、人間そのものと言うのはまた弱点にもなる。ハルユキ君のは【メタルカラー】だ。切断・貫通・炎熱・毒攻撃に耐性を持ち、硬質の体を用いた近距離攻撃力も決して低くはないんだ。ちなみに弱点は腐食攻撃と打撃攻撃。さて、キミのと比べて≪ヒューマンアバター≫はどうだ?」

 

黒雪姫は人間であることが弱点と言った。

自分の体と、目の前のリーフ・フェアリーとを見比べて考える。

 

「……色々と脆い…とかですかね?」

 

「そうだ。人間とはね、脆い生き物なんだよ。燃える時は燃えるし、皮膚は簡単に攻撃を貫通してしまう。腐食攻撃にも弱いな。耐性があるとすれば、氷結系に多少の抵抗力があるくらいだろうか。人間、そんな一瞬で凍らないからな。ああ、あと毒系にも強いな。表面に触れただけでは毒状態にはならないんだ。まあ、吸ったり、飲み込んだらあっという間に毒になるがな」

 

それを聞くと、リーフ・フェアリーはものすごく不利なのではないかと考えてしまう。

言うなればロボット対ロボットの戦いに生身の人間が参戦するということだ。鋼鉄の体には人間の拳ではダメージを与えることはできないだろう。

 

「…む、今、弱いんじゃないかって思ったでしょ」

 

「え、いや…そ、ソンナコトナイデスヨ」

 

ムッとした表情になったリーフ・フェアリーに片言になってしまうが実際考えていたのは本当なので申し訳なくなってしまう。

 

「まあそれもパッと見れば、だけどな。言っただろう?アバターのポテンシャルはどれも等しいと。≪ヒューマンアバター≫を持っている者の最大の利点はな、それ専用のアイテムがあるということなんだ。氷結や炎熱系統の攻撃の耐性を上げるアイテム――言うなれば装備品を付けることができるんだ。それと、レベルアップした際にどの耐性にボーナスをつけられるかも決めることができるんだ」

 

「それってレベル上げれば最強になるんじゃ…」

 

「そうでもないよ。確かに耐性や防御力は上がるけど貫通や切断の耐性はあまり上がらないし、やっぱり弱点は弱点だからね。今の私はアクセサリー込みで炎熱・氷結・麻痺・毒にある程度の抵抗を持ってるって感じかな。防御力もまあ…そこそこ」

 

「へぇー……」

 

やれやれといった表情で肩を竦めたリーフ・フェアリーに思わずそう返すと、「さて」と黒雪姫が声を上げる。

 

「とりあえず、クロウ。キミの必殺技がどんなものか見てみよう。そこのクリスタルを破壊してくれ。霊域ステージはそのクリスタルを破壊すると必殺技ゲージが溜まりやすいんだ」

 

「は、はい…?あの、先輩今クロウって…」

 

言われた通りクリスタルを壊そうとするが、ふとした違和感に気づいて黒雪姫に声をかける。

先ほどまではハルユキ君と呼んでいたはずなのに、急にアバターネームで呼ばれたからだ。

 

「ん?ああ、ただ単にリアル割れを防ぐために呼んでいるだけだよ。気にしないならリアルネームで呼ぶが…」

 

いきなりアバターネームで呼ばれたのは黒雪姫の配慮だったようだ。

こんなひょろい恰好したアバターが現実ではデブだということをリーフ・フェアリーに教えるのか…

今は同じバーストリンカーとしてまあまあ仲良くしてもらっているが、リアルがわかったらどんな反応になるかわからない。黒雪姫にいらない心配をかけるくらいなら、素直に従っておこう。

 

「いえ、クロウで結構です」

 

そういいながらクリスタルを殴りとばすと、心地よい音を立ててクリスタルは破壊された。

それと同時に体力ゲージの下の青いゲージが溜まる。これが必殺技ゲージだろう。

 

十分に溜まったことを確認したハルユキは黒雪姫とリーフ・フェアリーに準備ができたことを伝える。

二人ともコクリと頷くと、ハルユキの必殺技の開始を待った。

 

「…行きます!!」

 

宣言すると同時に体の前で両手を交差。その後上体を思いっきり仰け反らせながら腕を一杯に開く。

みょんみょんみょんと冴えない音とともに、自分のツルピカ頭が白い輝きを帯び始めた。

 

 

「ヘッド……バァァ――――ット!!!!!」

 

技名を叫んだハルユキの光り輝く頭は思いっきり振り下ろされ、ブンッと風を切る音と共に動きを停止した。

今のシルバー・クロウはまるで応援団の組長に「押忍!!」とやっている応援団員のような恰好である。

 

「………………」

 

流石の黒雪姫も今の技には目を丸くしてしまっているみたいだ。

もうやだ、死にたい。

 

「あ、あの……「すごいじゃないか!!」…え?」

 

黒雪姫とリーフ・フェアリーは興奮しながらシルバー・クロウの頭を撫でまわす。

 

「今の攻撃のダメージ属性は物理/打撃とエネルギー/光の攻撃だろう?いいかハルユキ君、光エネルギー攻撃は物理防御を無視して純粋な衝撃ダメージを与えるんだ!発動範囲は…まあ考えさせられるが、これはかなり強力な技だ!」

 

「これは重要な技だね!物理防御が恐ろしく高い相手に組み付かれた時とかかなり効果を発揮するんじゃないかな?」

 

「は、はぁ……」

 

そんなこんなで残りの時間は基本的な技の練習と、対アッシュ・ローラーへの対策に時間を費やすことになった。

 

「む、もうこんな時間か」

 

残り時間が少なくなっていることに気づいた黒雪姫が声を上げる。

 

「それじゃあクロウ、リベンジマッチ、頑張ってね」

 

「はい、ありがとうございました、リーフ・フェアリーさん」

 

お礼を言ったハルユキにリーフ・フェアリーは照れ臭そうに頭を掻くと

 

「リーファでいいよ、長いでしょ?名前」

 

「は、はい、リーファ、さん」

 

そのやりとりを最後に、≪加速≫が終了した。

周りの景色がラウンジに戻り、生徒たちも動き出す。

 

 

 

「…さて!早く食べようか!」

 

直結ケーブルを外した黒雪姫は微笑みながら目の前の昼食を食べ始める。

加速して一時間もたっていたのにハルユキの目の前にある大盛りカレーは暖かいままだ。

 

食欲をそそられる香りに、たまらずハルユキはカレーを口にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~♪」

 

「?どうしたスグ、なんか機嫌良さそうだけど…」

 

「ん~?ちょっと面白そうなことが起きそうだな~って」

 

「…ふーん……ん!このハンバーガー美味いな!」

 

「だからサンドイッチだってばぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 




直葉ちゃんは既にバーストリンカーでした

リーフ・フェアリー→リーフフェアリー→リーフェアリー→リーファって感じです

レベルは5くらいかな
ヒューマンアバターのは完全に俺の妄想です。だって直葉ちゃんのBBアバターが思いつかなかったんですもの…容姿はALOのリーファちゃんでお願いします
ようはアクセサリーとレベルアップで欠点を補えるよ~って感じ
装備は…まあ無制限フィールドのNPCショップとかドロップで手に入るんじゃないですかね?(適当)

ハルユキ君のヘッドバットは好きです。12巻でサーベラス君にやってくれた時はテンション上がりました。



それと、書いてる時に一回テキストデータが吹っ飛んで泣く泣く途中からやり直すはめに
ブラウザを開きなおしましたってなんやねん


こまめに保存して気をつけよ……

ではまた次回!


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第七話:銀翼の覚醒

またハルユキ君回です

はじめてちゃんとしたバトル回だと思われ

キリト君の出番がないぞ!おかしいな!!


バキバキバキッ

 

一瞬の間の後に聞こえたのはその音だった。

周囲の壁や床が、どこか生物めいたぬめりや、襞のある錆色の金属に覆われていく。柱は昆虫の腹のように節をつくってよじれ、天井には眼球ににた突起がいくつも浮かび上がった。

 

そうして視界の上部に現れた二本の体力ゲージと、1800秒のカウント。

 

ハルユキ――シルバー・クロウはそれを見た後、目の前に立っているアバターを睨みつけた。

その視線の先に立っているのは全身をメタリックブルーのボディ装甲に包み込み、ギラリとこちらを見ているアバター、≪シアン・パイル≫だった。

 

 

 

 

時間は前日まで遡る。

≪アッシュ・ローラー≫へのリベンジマッチに勝利したハルユキは、黒雪姫に連れられて訪れたコーヒーショップで小さな祝勝会を上げていた。

そこで黒雪姫は、ハルユキをバーストリンカーに選んだ理由を話したのだ。

彼女はブレイン・バースト界の中で限りなく少ないレベル9のバーストリンカーで、それは彼女を含めて7人しか存在していなく、それらは総称して≪純色の七王≫と呼ばれていた。

ブレイン・バーストにおいてレベル10になったプレイヤーは、そのプログラムの製作者に会える権利を手に入れ、このプログラムの意味を知ることができるらしい。

その条件は同じレベル9のバーストリンカーを倒すこと。

レベル9同士で戦うと、負けた者は今までのポイントを失い、ブレイン・バーストから永久退場していまうらしい。それを知った王たちは、話し合いをし、それぞれ領土を持ち、不可侵の休戦協定を結んだ。

しかし、黒雪姫――ブラック・ロータスはそれをよしとせず、赤の王――レッド・ライダーを≪純色の七王≫のみで行われる会議の最中に不意をついて倒した。他の王も倒そうとしたが、結局倒すことはかなわず、現在はこうして身を隠しているということだった。

 

しかし、どこから嗅ぎ付けたのか一人のバーストリンカーが黒雪姫に対戦を挑んできたようなのだ。

対戦自体は逃げ切ることができたようなのだが、デュエルアバターを学内用アバター、つまり黒アゲハの羽がついたあのアバターにしていたため、≪黒の王≫が梅郷中の黒雪姫ということがばれてしまったらしい。

 

ハルユキの目的は、そのバーストリンカー、≪シアン・パイル≫を見つけることだった。

黒雪姫によると、怪しいとされている人物はハルユキも知っている人物、倉島千百合だとされていたが、ハルユキ自身がニューロリンカー同士を直結して確認。彼女は≪シアン・パイル≫ではないことが判明した。

それを黒雪姫に報告した帰り、かつてハルユキをイジメていた荒谷が車に乗って二人をひき殺そうと襲ってきた。

絶体絶命の時、黒雪姫があるコマンドを唱えた。

 

≪フィジカル・フル・バースト≫

 

レベル9のバーストリンカーにのみ許される究極のコマンド。

ポイントの99%を使用して発動されたそれは、意識だけでなく、肉体全ての速度を上げるというもので、常人の百倍の速さで動いた黒雪姫はハルユキを助け、自分だけ車に轢かれてしまったのだ。

 

彼女が運ばれた病院で、黒雪姫が目覚めるのを待つハルユキ。

彼女の意識はまだ戻らないが、彼女のニューロリンカーは病院のグローバルネットに繋がっていて、彼女のアバター≪ブラック・ロータス≫が無防備だということを知った彼は、あることに気づく。

 

チユリと直結した際、彼女が≪シアン・パイル≫ではなかったことのほかに、ハルユキはもう一つ、あることを発見していたのだ。

チユリのニューロリンカーには≪バックドア・プログラム≫というのが仕掛けられていて、彼女のニューロリンカーの情報は、それを仕掛けた人物に筒抜けということがわかった。

そしてその仕掛けた人物こそ、ハルユキと黒雪姫が探していた≪シアン・パイル≫だとハルユキは推測していた。

黒雪姫が重傷を負ったという情報は瞬く間に広がり、チユリのニューロリンカーを通して≪シアン・パイル≫の耳にも届くだろう。

 

 

―――先輩を守れるのは僕だけだ

 

 

ハルユキはそう決意すると、夜通し彼女を守ることに決めた。

 

 

そして翌日の朝。病院に彼が見知った顔の人物が現れた。

黛拓武。

 

彼はハルユキを見つけるといつもの爽やかな笑みを見せ、こちらに向かってくる。

その際に、まるで誰かに呼びかけるように片手で口元を覆っているのが見えた。

そんな彼を見たとき、ふとハルユキの頭に疑問がよぎる。

 

何故チユリのニューロリンカーにウイルスが仕掛けられていたのだろうか。

ウイルスを仕掛けるだなんてことは、直結ぐらいでもしない限り難しい。

タクムはチユリの彼氏だ。

そしてタクムは今、ハルユキに対して口元を隠している。まるで、何か言葉を発するように―――

 

「バースト・リンク!!」

 

そこまで考えた瞬間、ハルユキは≪加速≫し、マッチングリストを開く。

そこにあった名前は自分の名前である≪シルバー・クロウ≫、黒雪姫のアバター、≪ブラック・ロータス≫そしてハルユキが探していたバーストリンカー、≪シアン・パイル≫。

それを見たハルユキは今までにない速さで≪シアン・パイル≫の名前をクリックし、戦闘を申し込もうとする。≪シアン・パイル≫が、≪ブラック・ロータス≫に戦闘を申し込む前にこちらが≪シアン・パイル≫に対戦を申し込まなければならない。

 

 

なぜタクムがバーストリンカーだったのか、何故黒雪姫を狙うのかなんて、今は関係ない。

間に合わなければ、黒雪姫がポイントを失ってブレイン・バーストを失ってしまう。

ハルユキを助けてくれた彼女を、今度は自分が助けなければ。

 

 

 

 

 

 

 

ハルユキとタクムのどちらが目当ての相手に対戦を挑めるかという戦いはハルユキの勝ちに終わった。

バトルステージに立つのはハルユキのデュエルアバター、シルバー・クロウ。

そしてその向かいにいるのは≪シアン・パイル≫、ハルユキにとっての親友、タクムのデュエルアバターであった。

 

 

 

 

「…やられたよ、まさかハルに割り込まれるなんてね」

 

「…タク…お前…っ」

 

信じられない、という声でシアン・パイルを見るハルユキに、シアン・パイルはゆっくりと歩み寄りながら話しかける。

 

「邪魔しないでくれよ、後少しなんだ。≪黒の王≫を倒せば、僕は…」

 

「させない、先輩は、やらせない!チユのニューロリンカーにウイルスなんか仕掛けて、チユを裏切ったお前なんかに!!」

 

「……そうかい、なら…っ!!」

 

ゆっくりと歩いていたスピードが上がる。ドッと駆け出したシアン・パイルはハルユキに向かってその右腕についている巨大な針を突き出した。

―――躱せる

シアン・パイルは確かに早いが、アッシュ・ローラーと比べると遅い。

攻撃の軌道を予測したハルユキは姿勢を低くしてシアン・パイルの横を通り抜けようとする。

 

しかし、その行動はガシュンという音と遅れて体中に響いた音によって崩された。

攻撃を躱したと思い込んでいたハルユキの視界に、シアン・パイルの右腕に付いていた巨大針が撃ち出されたのが見えた。

しまった。と思うときにはもう遅い。撃ち出された針はシルバー・クロウの左肘を貫き、腕をその箇所から分断した。

 

「っ!」

 

鈍痛に顔をしかめながらも、姿勢を立て直したハルユキは全力で走り出した。

シアン・パイルの≪パイル≫は≪杭≫の意味だったのだ。

あれは針ではなく鉄杭だったわけだ。

狭いところではシアン・パイルのあの≪杭≫にやられる。

せめて広いところ…屋上にでも逃げれば、まだ勝機はある筈だ。

 

エレベーターを見つけたハルユキはそのボタンを押し、乗り込んだ。

シアン・パイルが追いかけてくるが、この距離なら問題ないだろう。

≪煉獄≫ステージにより形が変わったエレベーターの格子がしまった瞬間、シアン・パイルの右腕が格子に突きつけられる。

 

「……っ!!」

 

とっさに飛びのいたのと、ガシュンとあの杭が撃ち出される音はほぼ同時だった。

鉄杭は、シルバー・クロウに触れる寸前で止まり、そのまま引き戻された。

 

「ハハハハ!!逃げてばかりじゃないかハル!さっきまでの威勢はどこにいったのかなぁ!!」

 

上昇を始めたエレベーターの下から聞こえる笑い声を聞きながら、ハルユキはただ屋上を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上についたハルユキ周りを見て、思わず目を見開いた。

 

≪煉獄≫ステージの空は気味悪い黄色の光に満たされており、どす黒い雲が生き物のようにうねっている。

ふと視線をこらせば、生物めいた奇怪なフォルムに変化しているが、恐らく杉並区の高層ビルのようなものも見える。

この世界は一体どこまで広がっているんだろうとハルユキが考えていると、病院よりも高い建築物の上に、人がいるのが見えた。

――いや、人ではなく、バーストリンカーだ。

ハルユキはグローバルネットから切断しているが、タクムが対戦前にグローバルネットに接続していたのだろう。観戦者たちを横目で見た後、ハルユキのガイドカーソルが微振動しながら向きを変える。

――シアン・パイルが来る。

 

この広い場所なら回避できるスペースも十分あるだろう。

右手の向きに気を付ければ回避できないことはない。

僕ならできる。スカッシュのボールに比べたら、大したことはない。

 

ハルユキが自分に言い聞かせる視線の先で、シアン・パイルを乗せたエレベーターの格子が開く。

 

「…なるほど。ここならちょろちょろとヒットアンドアウェイできるっていう作戦かい?」

 

「下だとお前の図体がでかすぎるからな。ここなら負けはしないさ!」

 

「その余裕…気に入らないな、たかだが数日前にバーストリンカーになったキミごときがそんな口を聞くなぁ!!」

 

雄叫びを上げながら突っ込んでくるシアン・パイル。

ハルユキはその右腕にある鉄杭のみに視線を向ける。

距離を測り、姿勢を低くして

 

―――ここだ!!

 

杭が撃ち出された瞬間、シルバー・クロウはステップを切りギリギリで鉄杭を躱す。

そしてがら空きになった懐へ――。

 

「う……らぁっ!!」

 

右腕のストレートを叩き込む。

衝撃に揺らめくシアン・パイルに、シルバー・クロウの猛攻が始まった。

よろめいた胴体に左足の蹴り、たまらずうずくまった背中に回り込んで膝蹴りを打ち込む。

憎々しげに唸ったシアン・パイルが鉄杭を撃ち出すが、それも回避してカウンターでその顔面に回し蹴りを放った。

倒れ込んだシアン・パイルのマウントを取ると、シルバー・クロウは破壊された左腕も使ってシアン・パイルの顔面を殴り続ける。

 

「このっ!馬鹿やろう!何で!なんでチユを裏切ったりなんかしたんだ!!お前は俺なんかよりも、もっとたくさんのものを持ってるじゃないか!勉強もできて、スポーツもできる!なのに何で…なんで≪加速≫なんかの力を借りるようなことをしたんだ!そんなのはお前の力なんかじゃない!!俺の知ってるタクは、もっと、もっとかっこいい奴だったよ!!」

 

叫びながら両腕を胸の前でクロス。

必殺技≪ヘッドバット≫発動のモーションだ。

この距離なら、まず避けられることはないだろう。

 

「ちょう…しに……」

 

シルバー・クロウと同じようにぐいっとシアン・パイルの両腕が胸の前でクロスされる。

 

「ヘッド―――――――」

 

上体を反らして頭部にエネルギーが溜まるのを感じる。

後は技名を叫んでこの頭を振り下ろすだけだ。

 

「調子に乗るなアアアアア!!!!!」

 

シアン・パイルの両腕が左右に開いた瞬間、彼の胸から腹にかけての表面に鋭い鉄の杭が数十本と浮かび上がった。

 

「≪スプラッシュ・スティンガー≫ァァァァ!!!」

 

「バァァァ―――ット!!!」

 

直後、大きな爆発と共にハルユキの体は宙を舞い、そのまま屋上の床に叩きつけられた。

 

「ぐっ…はぁ……」

 

痛みに呻きながらも、今のは何だと立ち上がるために右腕で上体をあげる。

しかし、それより早くシアン・パイルは起き上がり、ハルユキを見降ろしていた。

 

「く…ぅ、今のは少し効いたよハル。まさかエネルギー属性が入っていたなんてね。危なく自分の技で自爆するところだったけど、キミの技の範囲が小さくて助かったよ」

 

くつくつと笑いながらシアン・パイルはハルユキに近づいていく。

 

「ハルにはわからないだろうね。小さなころからニューロリンカーを通して嫌と言うほど知育ソフト漬けにされた僕の苦しみは…!家でぐうたらしているだけのキミには、わからないだろうね!!」

 

右腕の撃ち出し口を掲げたシアン・パイルの肩から先が、鮮やかな青色に包まれる。

太い音を立てて、鉄杭の発射口が三倍ほどの太さに拡張された。

そしてその奥から現れたのは先端が平らになった、巨大なハンマー。

 

「ハルが必殺技ゲージを溜めてくれて助かったよ。これで容赦なくキミを消せる」

 

そうだった。こないだ説明を受けたばかりではないか。

必殺技を発動するには、必殺技ゲージが必要で、そのゲージはマップギミックを破壊する以外にも、自分が相手にダメージを与えるか、ダメージを受けるかでも溜まると。

先ほどのラッシュでシルバー・クロウとシアン・パイルのゲージはほぼMAX。お互いに必殺技を発動したので現在は減っているが、必殺技を連発するくらいのゲージは十分だ。

 

逃げなければ。あれを受けたら負ける。

 

ハルユキは懸命に体を動かし、シアン・パイルの射程から逃れようとする。

しかし。

聞こえたのはガシャリという音と、バランスを崩して倒れ込む自分の体の金属音だった。

 

「あっははは!!取れちゃった!なんて脆いんだキミの体は!それでもメタルカラーなのかい?」

 

ハルユキの視線の先には、先ほどの鉄杭で、膝から先が砕け落ちている銀色の細い足。

―――駄目だ。逃げ切れない。

 

「さあ、もう終わりにしよう。ハル―――≪スパイラル・グラビティ・ドライバー≫!!」

 

直後、ハルユキの胸を巨大な鋼鉄が押しつぶした。

声を上げることができないまま、ハルユキは床ごと廊下に叩き落され、その体は一階で動きを止めた。

 

朦朧とした視界の中で、ちかちかと自分の体力ゲージが赤く点滅しているのが見える。

名残惜しそうに引き抜かれるハンマーの先端をぼうっと見つめながら、ハルユキは自身の頬を涙が伝うのを感じた。

負けてはいけない戦いだった。

自分自身のため、タクム、チユリのため。そして守ると決めた黒雪姫のためにも、この戦いには勝たなければならなかった。

だが負けた。

このボロボロになった体で、一体何ができるのだろう。

左手は無い。片足も無い。体力ゲージもあと僅か。

悔しさに押しつぶされそうになりながら、ハルユキは立ち上がる。

それには何の意味もない。ただ、タイムアップを待つために、以前の自分のように座り込もうとしただけなのだから。

 

だが―――

 

俯かれるはずの顔は、上げられた。

目の前に映るのは、彼女の姿。

 

黒い茨で編まれたベッドに横たわる少女。

闇より黒いドレスに身を包み、つややかな黒髪と薄闇の中でも見える白く輝く肌。

 

「……先輩…」

 

砕けた右足を引きづりながら、ゆっくりと歩き出す。

やがてたどり着いた先、彼女の頬にそっと手を触れる。

 

「僕は…僕は、あなたを守れなかった。あなたの期待に、応えられなかった。僕を地獄から助けてくれたあなたに、何も返せなかった。…変われるって思ってたんです。あなたの言葉、あなたの優しさに触れて…でも、駄目だったんです。結局、諦める。僕のアバターはきっと、諦めからできていたんですよ。空を見ようともせず、ただ這いつくばって…っ、僕は…っ!!」

 

涙が止まらず、ハルユキは眠る黒雪姫の肩口に縋り付く。

 

「飛びたかった、あなたのいる場所まで。もっと高く、もっと強く。あなたに、届きたかった…」

 

 

―――とくん

 

 

かすかな音が聞こえたのは、その時だった。

それが黒雪姫の心臓の鼓動だと気づいたハルユキは、悟った。

 

「先輩は…必死に戦っているんだ。諦めないで…戦っているんだ…」

 

だが自分はどうだ。

頑張ったということを理由にして、諦めようとしなかったか?

例え腕がもがれようと、足がもがれようと、体力ゲージがある限り、抗い続けることが、必要なのではないか?

黒雪姫はシルバー・クロウには何か力が隠されている筈だと言った。

この土壇場でそれが発揮されるとは限らない。

 

 

「でも……」

 

 

右手でベッドのふちを握り、左脚に力を込めて立ち上がる。

 

 

「でも、僕は…まだ……」

 

 

自分の胸の奥深くに、力強い鼓動が生まれるのを感じた。

鼓動は強くなり、逆境に立ち向かう意思を、魂を、精神を燃え上がらせる。

 

 

「僕はまだ、負けてない…。戦える。立って、戦える!まだ―――」

 

 

―――――飛べる!!!

 

 

その瞬間、背中の装甲が吹き飛んだ。

離れた場所にある鏡に、シルバー・クロウの全身が映る。

体の装甲は攻撃でボロボロ、酷い有様だ。

しかし、ハルユキは背中から何か、白く輝くものが生えてくるのが見えた。

それは黒雪姫や、リーフ・フェアリーの羽のようで羽ではない。これは―――

 

「つば…さ…?」

 

 

体の奥から、何かがあふれ出る。

純粋なエネルギーが、逃げ場を求めているようだ。

 

空に―――あの空に

 

無意識の動作で、ハルユキは左腕を掲げ、右腕を体側に引き絞った。

背中の翼が、エネルギーが解き放たれるのが今か今かと震えている。

ベッドで眠る最愛の人の姿を捉えてから、ハルユキは空を見上げた。

 

 

「飛――――べぇぇぇぇぇええええ!!!!」

 

 

絶叫と共に右腕を突き出す。

空気を切る感覚を体で感じながら、上へ、また上へとハルユキの体は上昇していく。

たちまち病院をとびぬけたシルバー・クロウの手は空高くに浮かんでいる雲に触れる。

 

ぼぅっと円状に雲が吹き飛び、そこから漏れ出た光がシルバー・クロウの体を照らす。

 

両手両足を広げ、加速を弱めたハルユキの目に入ったのは、どこまでも続く鈍い色の巨大都市。

加速世界は、どこまでも広がっているんだ。

 

「この世界は…無限に広がっているんだ…」

 

呟きながらゆっくりと、ハルユキは降下していく。

やがて病院の屋上が見えた。

観客達はハルユキの姿を見て何やらざわついている。

 

だが、それは彼の知ったことではない。

ハルユキの目に映るのはただ一人、こちらを見上げている青い巨人――シアン・パイル

 

「タク……」

 

ハルユキの呟きの後、シアン・パイルは絶叫しながらシルバー・クロウを睨む。

 

「なんだそれは!!ふざけるな…キミが!僕を!見下ろすな!!そこから―――」

 

鉄杭を上空のシルバー・クロウに向けたシアン・パイルの必殺技ゲージが一気に減る。

 

―――シルバー・クロウは、格闘を主体にして戦うキャラ

≪パンチ≫も、≪キック≫も、全てはこのためにあったのだ。

 

「落ちろおおおおおおお!!!!≪ライトニング・シアン・スパイク≫!!!」

 

絶叫とともに撃ち出された鉄杭に向かって、背中の翼をはためかしてハルユキは突っ込む。

そしてそのまま加速。右手を包む光が、強くなる。

 

ハルユキの目には、シアン・パイルの鉄杭がゆっくりに見えた。

≪加速≫を超える≪超加速≫

ハルユキは今、ブレイン・バーストの限界にいる。

 

「タク――――――ッ!!!!」

 

鉄杭を紙一重で交わしたシルバー・クロウの腕が、シアン・パイルに突き刺さる。

 

「う―――おおおおおおお!!!!」

 

そのまま上昇。シルバー・クロウはシアン・パイルごと、上空に飛び上った。

今の攻撃で一瞬気を失ったらしいシアン・パイルは、軽く咳き込むと辺りを見渡し、驚愕の声を上げた。

 

「うわ、と、飛んで―――っ!頼むハル、落とさないでくれ!今落ちたら、負ける!今お前に負けたら、ポイントが0になっちゃうんだ!頼むよ、ハル!」

 

必死に懇願するタクム。

今自分がこの腕を引き抜けば、タクムのポイントは0になって黒雪姫を狙うことはもうしなくなるだろう。

しかし、その衝動をハルユキは噛みしめた。

 

「タク、はっきり言うよ。オレは、現実じゃどうあがいたってお前に勝てない。でも、忘れたわけじゃないだろ?昔から、俺はゲームでお前に負けたことがなかった」

 

「……そうだね、小さいころからそうだった。ハルは、ゲームだけは得意だったもんね」

 

静かな声で返したタクムに、ハルユキは大きく息を吸い込んで、吐いた。そして同じように静かな声でいった。

 

「なら、オレとお前は対等だ。現実ではお前の勝ち、でも加速世界なら俺の勝ち。だから…タク、俺の仲間になってくれ。あの人の配下になって、一緒に戦うんだ」

 

「なっ…本気かい!?それはつまり、他の王と戦うってことだよ!?」

 

「本気だ。それにタク、知ってるか?ゲームってのは、そういうもんだぜ」

 

にやりと言ったハルユキに、タクムは呆気にとられていたようだった。

暫くの沈黙の後、自嘲を込めた声でタクムは呟いた。

 

「今ここで頷いたとして、ハルは僕を信じられるの?チーちゃんを裏切った僕を…」

 

「それは二人で全部チユに話す。俺たちが戦ったこと、バックドアのことも全部。多分あいつは怒るだろう」

 

でもさ、とハルユキは続ける。

 

「あいつなら、それで許してくれるよ」

 

その声は親友を信じているような、そんな響きを持っていた。

 

 

 

 

地上に降りたハルユキを迎えたのは、眠りから覚めた黒雪姫だった。

互いに抱き合い、お互いに言葉を交わした後、黒雪姫はぽつりと言った。

 

「時が、来たみたいだな。私も、そろそろ空を目指す時が」

 

そう言った黒雪姫は右手を上げて仮想コンソールを操作する。

その際に、彼女は地面に座ってうなだれているシアン・パイルに視線を向けた。

 

「すまなかったなシアン・パイル。キミとの戦闘を何度も汚してしまって…。今こそ見せよう、私の姿を。そして、今度こそ、その勝負を受けよう」

 

黒雪姫がコンソールを操作し終えると、彼女の体に電撃が走った。

青白いエフェクトに包まれた彼女の体はその姿を変え、一つのデュエルアバターになった。

 

それを見た観客が、大きな声を上げる。

それはそうだろう。長い間姿を消していた≪黒の王≫がこうして現れたのだから。

 

「さて、クロウ、私を乗せて飛べるか?」

 

「え、あ、はい」

 

その美しさと、あふれ出る底なしのポテンシャルに圧倒されていたハルユキだが、変わらない黒雪姫の声に促され、彼女を抱き上げて空へ飛びあがった。

 

「ふむ、これは…良いな!今度直結して30分まるまる飛びたいものだよ…っと、その辺で良い」

 

黒雪姫の言葉にホバリングを開始すると、二人の体が宙に浮かぶ。

黒雪姫は大きく息を吸い込むと、凛とした声で叫んだ。

 

 

 

「聞け!六王のレギオンに連なるバーストリンカーたちよ!わが名はブラック・ロータス!!今ここに、我がレギオン≪ネガ・ネビュラス≫の再動を宣言する!!戦いのときは来た!!」

 

 

その宣言と共に、タイムアップの宣言。

表示された結果はドロー。シルバー・クロウとシアン・パイルの残り体力は、奇跡的に同ポイントだったのだ。

 

この戦いは、これからの加速世界において大きな影響を与えた戦いとして、バーストリンカーたちの間で語り継がれていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




シアン・パイルの出来事をさらっと流したために最後のタクム君勧誘がやや変な感じになった気がする。

ヘッドバット好きだよヘッドバット。
今回は不発でしたけどね


これからも、よろしくお願いします

ではまた次回で!


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第八話:黒の剣士、新宿に現る

今回は最近活躍してないキリト君回

うん、お遊び回ですわ
題名に見覚えがある?いや、気のせいですよ

巨神兵?知らない子ですね


「うわ…どこだここ……」

 

新宿区の街の中。

現在俺――桐ヶ谷和人は絶賛迷子中であった。

 

 

俺の置かれている状況を知ってから初めての休日。

家に塞ぎこもっているのもあれだし、折角だからこの世界を回ってみようと考えた俺は、こうして新宿まで出てきたのだ。

いくら未来の世界だとしても、俺の知っている景色と変わらないだろうと考えていたのだが、やはり新宿は科学の最先端を行っているのか…かなり変わっていた。

当てもなくフラフラ彷徨い続けてどれくらい時間がたっただろうか。

気まぐれで立ち寄ったゲーセンにあったアーケードゲーム(俺のいた時間では普通に存在していたが)で新記録を叩きだして周りから拍手喝采を浴びたり、電機屋でアミュスフィアが発売当初とはかけ離れた値段で売られていたのを見つけてしまい軽くショックを受けたり、昼食を某ファーストフード店で食べ、何年たってもこの味は変わらないし、続いていくんだなぁとしみじみしていたりと、案外有意義な時間を過ごすことができた。

 

そして十分散策したし帰ろうと思った時、ここを通れば近道できるんじゃないかと、ほんの子供心で路地裏に入ったのがまずかった。

思ってたより入り組んでいた道を抜けた先は、新宿駅を出た時に見た景色とかけ離れていたのだ。

戻ろうにも、あの道を戻るのは実際めんどくさい。意固地になった俺は、ここから駅に向かおうと歩き出したのだ。

 

――――そして今に至る。

かれこれ二時間くらい歩いただろうか。

こんなんならまっすぐ帰っておけばよかったと思いながらも、先ほどとは別のゲーセンで手に入れた景品を眺める。

 

「まさかこんなところで見つかるとはなぁ…」

 

右手に持っているのは宇宙の守護者などが持ってそうな光る剣…によく似たプラスチックの玩具である。

気分転換に入ったゲーセンのUFOキャッチャーに入っていたもので、いわゆる取りあえずこれにお金をつぎ込んでくれる人がいますようにというような、この時代じゃもう古いよというような景品がある場所にそれはあった。

 

光剣≪カゲミツ≫のレプリカの玩具

 

かつてGGOで共に駆け抜けたそのレプリカを見た俺は、数分間唸りながら、それを手に入れることに決めた。

何となく、というわけではないのだろう。きっと…自分がいた世界との繋がりのようなものが欲しかっただけだ。そしてこれを設置した店員の願いは叶ったのか叶わなかったのか。取りあえず入れた100円玉一枚でソレを手に入れた俺は、片手でその剣を持ち、軽く振ってみる。

プラスチックなだけあってその重さは軽い。ゲーム内までとはいかないが、ソードスキルの一つくらい再現できるんじゃないだろうか。

 

幸い店員がくれた袋は縦長で、担げるタイプだ。

そういえば昔に剣道をやっていた時はこんな感じで持ってたっけと思い出す。

 

 

 

「早く帰らないとスグにドヤされる…」

 

呟きながらその光景を想像し、身震い。

触らぬ神に祟りなし、ああおそろしやおそろしや

 

 

何てことを思いながら歩いていると、ついに見覚えのある景色が見えてきた。

ああ、懐かしき新宿駅の町並み…

感慨深げに頷いた後、真っ直ぐ歩き出す。

 

無事に帰れる…と思ったその時、近くの店から悲鳴と怒声、そして中から数人の人間が走り出してきた。

皆口々に「やべぇよ」とか「警察、警察に連絡しないと」と呟いている。

野次馬根性があるわけではないが、チラッと店の中を覗くと、如何にも強盗な格好をした男性が一人の人質を取って何やら喚いていた。

その手にはナイフ。錯乱しているようで目は血走っている。

 

 

「……やっぱり強盗っているもんなんだな…」

 

思わず呟きながらも、警察が来てくれるのなら大丈夫だろう。

…なのに、俺の体は一歩、また一歩と強盗の隙を窺いながら近づいている。

 

―――よせ

 

一歩

 

―――こんなことは警察に任せればいい

 

また一歩

 

―――お前は黒の剣士でもない、ただの人間だ

 

背中の≪剣≫を抜き放ち距離を測る

 

―――こんな玩具でナイフに敵うはずがない、正義感で命を落とす気か?

 

 

「お、おいあんた…」

 

周りの人が止める声が聞こえるが、それも耳に入らない。

睨むのはただ一点。ナイフを持った、強盗の手。

 

 

「ぐっ!て、てめぇ!!」

 

人質が暴れて強盗の腕から抜け出した。

しかし、恐怖で足が竦んでしまったのかバランスを崩して転んでしまう。

強盗がナイフを振り上げる。

「お前が暴れたからだ」と震える声で叫んだ強盗はそのまま腕を振り下ろした―――。

 

 

 

 

―――これはまずい

 

 

倉崎楓子は焦っていた。

ここは新宿のちょっとしたアクセサリー店。

彼女は学校の帰りにここに立ち寄っていた。

 

楓子は現在中学3年。受験勉強の息抜きにと、ほんの気まぐれで立ち寄っただけだったのだ。

 

きらびやかなアクセサリーの数々を見ていると、ふと、鮮やかな黒いペンダントを見つけた。

 

―――あの子は、今どうしているのでしょうか

 

思い出すのは三年前に別れた黒い少女。

≪あの世界≫の現状は≪子≫を通して知っている。

自分なんかとは違う、真の≪飛行型アバター≫が現れたことも、そして長い間活動を停止していた≪あのレギオン≫も再び活動を開始したことも。

 

かつてはあそこの≪四元素(エレメンツ)≫だなんて、大層な扱いを受けていたりしたけれど

忘れもしない、あの戦いによる敗北によって一度は壊滅したのがこうして活動を再開したということは素直に嬉しい。

 

―――でも、私に会う資格なんて、もうないですよね

 

あの黒い少女を裏切った楓子には、彼女たちに関わる資格なんて、ない。

≪あの場所≫で、彼女が全てを捨てた末にたどり着いた場所で、≪あの世界≫の行く末を眺めていよう。

 

自嘲気味に笑いながら、店を後にしようとしたその時、突然誰かに腕を掴まれた。

何が、と思う前に耳元で怯えたような響きの怒号が聞こえる。

そして理解した。

この人は強盗で、自分は人質にされてしまったのだと。

 

 

 

そして冒頭に戻る。

外に出ていった人たちが、時期に警察を呼ぶだろうとわかっていても、その時に楓子をどうするかはわからない。

せめて、自分の安全は確保しなければ。

 

危険な状況に晒されている筈なのに、こうも落ち着いていられるのは≪あの世界≫での暮らしが長かったからなのだろうか。

そのことに少し安堵しながらも、楓子はその瞬間を待つ。

強盗が気を抜いた瞬間―――今回は金目の物を手に入れた瞬間だ。

 

店員が焦りながら品物を袋に詰め、こちらを見ながらも強盗に袋を渡す。

その目は「すみません」と、悲愴に満ちていた。

強盗が袋を受け取った時、一瞬だがこちらを抑えていた力が弱まった。

 

―――今

 

「ぐっ!て、てめぇ!!」

 

緩んだ腕を渾身の力で振りほどくと、一歩、その場から離れる。

そのままこちらに手を伸ばしてくる強盗の手を見ながら―――

 

「≪フィジカル・バースト≫!」

 

≪あの世界≫―――≪ブレイン・バースト≫のレベル4バーストリンカーから使えるコマンドを唱える。

直後、強盗の動きがゆったりとした動きに変わる。

 

≪フィジカル・バースト≫は、意識を体に残したまま、思考だけ加速する力。

倍率は十倍、持続時間は三秒、消費ポイントは5。

肉体そのものは加速されないが、ゆっくりとした軌道を見極めてから最適な行動を―――

 

 

ういん、と、音が鳴った。

 

 

楓子は、生まれながら足が短い。そのため、彼女は義足を使っている。

ニューロリンカーを通して脳からの運動命令を受け取り、電子制御で義足を動かしているのだ。

日常生活には支障はないし、走ることだってできる。

恐らく、義足にとって無理な動きになってしまったのだろう。

一瞬、楓子の足が遅れた。

そしてその一瞬は、楓子の体をやや前のめりにさせる結果になり、バランスを崩しながら強盗の手を躱した楓子は、地面に尻餅をつく結果になってしまったのだ。

 

「お前が、暴れたからだ…」

 

強盗は血走った目をこちらに向けながらナイフを振り上げる。

絶体絶命に陥りながらも、楓子はぼうっとそのナイフを見ているだけだった。

 

これは、仲間を裏切った自分への罰なのかもしれない。

高い空だけを見つめ続け、自分のために尽くしてくれた仲間も裏切って、結局手に入れたのは孤独と自分の限界。

 

 

―――サッちゃん

 

もう一度、あの黒い少女に会いたかった。

会って、仲直りをしたかった。

 

今まさに、ナイフが振り下ろされそうになった瞬間―――

 

 

「……ぇ…」

 

 

黒い影が、見えた。

 

 

 

 

「うおおおおおおおっ!!!!」

 

何をしているんだ俺は

強盗がナイフを振り上げた瞬間、俺の体は弾かれるように走り出していた。

 

それは、≪あの時≫の光景と被ったからなのかもしれない。

こことは全く別の世界、アインクラッドと呼ばれていたところで、俺は今の状況と似たような光景を見た。

 

目の前で、俺の手が届くはずだったところで、仲間が、大切な人が殺される光景。

 

二度と、あんなことは起こさせないと誓った。

だが、それもヒースクリフとの決戦で再び起きてしまった。

 

サチも―――黒猫団の皆も、アスナも、俺が間違えた判断をしなければあんなことにならなかった。

 

今度は、今度こそは―――!!

 

 

俺の雄叫びに驚きながらこちらを向く強盗に近づく。

俺の右手の≪剣≫はただの玩具だ。

 

だが、それでも、この手に剣がある限り、俺は≪キリト≫でなくてはならない。

 

走りながら右腕を、肩の高さまで上げて引き絞る。

左腕は前へ、相手に向けてかざす。

 

狙いはその腕、ナイフを持った、その右腕へ―――――――

 

 

両足で地面を蹴り、走ったことによる加速を回転力に変え、背中を経由させて右肩に伝える。

回転を再び直線運動に変えて、右腕と一体化した≪剣≫を、撃ち出した。

 

 

≪ヴォ―パル・ストライク≫

 

 

かの世界で、≪黒の剣士キリト≫が愛用したソードスキル

 

何千回と使われたその動きを、俺は当たり前のように模倣した。

 

 

「がぁっ!!」

 

 

バキッという音と共に、強盗のナイフが弾かれる。

骨は折れていないだろうが、強盗は右手を抑えて呻く。

 

「早く彼女を!!」

 

近くにいた店員に告げると、店員は迅速な動きで人質にされていた女性を外に連れ出した。

 

「てめぇ…!なんだそれは…そんな玩具で…正義のヒーロー気取りかぁあ!!?」

 

今の一撃で強盗は完全に我を忘れたようだ。雄叫びを上げてこちらに走り寄ってくる。

強盗はそのまま俺の首を掴むと、地面に叩きつけた。

背中から叩きつけられた衝撃で目の前が霞むが、そうは言ってられない。

警察が来るまで、俺はこいつの足止めをしなければならない。

 

「ぐ……ぉ……っ」

 

両腕に必死に力を込めて相手の腕を掴み、首元から離そうと試みる。

しかし、相手は大人だ。中学生の体で敵うわけない。

暫く格闘するが、徐々に体に力が入らなくなったのがわかってきた。

 

「へへへ…終わりだぁ…こうなったらお前ぇを…」

 

強盗の手に力がこもる。

もう駄目か―――

 

「おらぁあああ!!」

 

その時、雄叫びと共に飛び込んできた大人のタックルによって強盗が吹き飛ばされた。

それに続くように外で成り行きを見ていた大人たちが一斉に強盗に飛びかかる。

多数に無勢、強盗はあっという間に取り押さえられ、後から来た警察に連行されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまんな坊主、本当は俺らみたいな大人が先にいかなきゃなんねんだが、俺としたことが、ナイフにビビっちまった」

「ナイスファイト、恰好よかったぜ、兄ちゃん!」

 

大人たちに助けられた俺は、そのまま店の外で手洗い祝福を受けていた。

周りの人たちは拍手しているし、タックルをして助けてくれた人が笑いながら背中を叩いてきて痛かったが、不思議と悪い気はしなかった。

店の中から≪カゲミツ≫…のレプリカを持ってきてくれた人にお礼を言った後、左右に振りはらって背中に収める。

 

「………あ」

 

やってから気づいた。

ここ、群衆の真ん中やん。

 

大人たちは暫く目をパチクリさせていたが、なぜか広がるように歓声が広がった。

 

「うおおおおお!!様になってんじゃねぇか!!」

「服も黒いし、さしづめ≪黒の剣士≫って感じかぁあ!?」

「そんなんただのコスプレやない!もう剣士やないか!!」

「気持ち的に、ナイトやってました!!」

 

 

何やら歓声に紛れてよくわからない言葉が聞こえてきたが、愛想笑いを返しながら≪カゲミツ≫を袋の中に仕舞う。

なんだこれ…なんでこんなにノリが良いんだ………

 

困惑しながらどう帰ろうか…と考えていると、人ごみの中から、一人の女性が現れた。

先ほど人質にされていた人物だ。

無事で良かったと思っていると、女性はぺこりと頭を下げた。

 

「先ほどは、ありがとうございました」

 

「え、ああ…はい、俺も勝手に体が動いちゃったって感じだったから…その、無事で良かったです」

 

おっとりとした雰囲気、清楚なお嬢様といったような彼女に思わず敬語になってしまう。

周りの人達から生暖かい視線がとても気になる。なんだ、なんなんだこの状況…

 

「じゃ、じゃあ…俺、そろそろ…」

 

「………スト………リ…ク」

 

帰ります、と言おうとした時、何かの呟きが風に乗って聞こえた。

 

「……え?」

 

「……いえ、本当に、ありがとうございました」

 

 

聞き返すが、女性は何事もなかったように微笑んできた。

…気のせいなのだろうと自分を納得させると、俺は逃げるようにその場から離れた。

別にお礼を言われるのは構わなかったのだが、これ以上あの場にいると俺が持たない。

彼女には悪いが、ここで別れさせてもらおう。

 

……どうせ、もう会うこともないだろうし

 

 

そう考えながら、俺は帰路についたのだった

 

 

 

 

「じゃ、じゃあ、俺はここで」

 

楓子を助けてくれた少年はそういうと、そそくさと離れてしまった。

あの動き―――自分を助けてくれた時に少年が使った動きには見覚えがある。

 

自分が所属していたレギオン≪ネガ・ネビュラス≫にいた≪ブラック・ロータス≫が使用していた≪奪命撃(ヴォ―パル・ストライク)≫の発動モーションに酷使していたのだ。

 

そのため、彼も≪バーストリンカー≫なのかと考えた楓子は一度≪加速≫し、マッチングリストを確認してみた。しかし、書いてあるのはどれも見たことはある名前ばかり。

なので、あの少年はバーストリンカーではないのであろう。

 

 

「………それにしても」

 

 

こっそりニューロリンカーによる視界スクリーンショットにて撮影した画像を眺める。

パッと見女の子にも見える線の細い顔。柔弱そうな両目。

先ほどの気迫に満ちた表情からは想像できない名もなき彼。

 

 

「………ピーンときましたよ、≪黒の剣士≫さん」

 

微笑みながらその横に15万の数字にハートマークでそれを囲む。

出会ったばかりの黒雪姫の5万上である。

ちなみにこれ、楓子が一目見て鍛えたい!と思ったポイントである。

自身の≪子≫は1000、同じ四元素のメンバーの一人は200ポイントだったりする。

 

 

しかし、彼女らの写真にもポイントと、その横に可愛らしく小さなハートマークがついているが、和人のように数字をハートマークで囲んでいるのは一枚もないというのには、楓子自身気づいていなかった。

 

 

この意味が後々大きくなるのは、まだ先の事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




レイカー姉さんとーじょーです

プラスチックソードカゲミツは…ほら、トイザらスとかに売ってたじゃない。スターウォーズのライトセーバーのプラスチックの奴。
あんな感じです

どっかの会社が売れるとでも思って商品開発したんでしょうね



では、また次回!


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災禍の鎧編
第九話:銃弾避けゲーム


前回は好評だったようで…


「…は?銃弾を避ける練習ができるアプリを作ってほしい?」

 

「いや、私がやるんじゃないんだけどね?友達とやってる対戦ゲームの話なんだけど…遠距離型の相手の攻撃が躱せないから、少し悩んでて…お兄ちゃん、そういうの得意でしょ?プログラム、組んでくれないかな?」

 

朝一番、朝食のトーストを齧っている俺に、妹の直葉が話がある。と真剣な顔で言ったかと思うと突然そんなことを言いだした。

銃弾を避けるとか…ほぼ無理に近いじゃないか。

いや、実際にGGOで俺もやったことあるけどあれは弾道予測線が見えていたからで…

 

「別に構わないけど…避ける…か。…弾くじゃあ駄目か?」

 

「それが友達が使ってるキャラが完全近接型なんだ。徒手空拳」

 

「さいですか…。にしても、どんなゲームなんだそれ?スグもやってるなんて…珍しいな。教えてくれよ」

 

ゲームだなんて、こちらの世界に飛ばされてから一度もやっていない気がする。

最近は情報集めたり、辺りの散策に時間を使っていたからそんな暇がなかったのだ。

直葉もやっているならレクチャーも簡単に受けられるし、という理由で問いかけてみたのだが、当の本人は。

 

「た、ただのどこにでもある格ゲーだよ!しかも知ってる人が少ないマイナーゲー!そのくせ手に入れるのも困難だから、多分、もう手に入らないんじゃあないかなぁ~」

 

なんてことを言ってきたので、一先ず諦めることにした。

 

「んーと、どんなのが良いんだ?普通に人が銃撃つ奴でいいんだよな?」

 

「うん、あ、人は表情が見えない感じにしてほしいな。ええと、ロボットみたいな?」

 

「了解、じゃあやっておくよ」

 

俺の言葉を聞くと、直葉は笑顔で礼を言ってきた。

 

……やっぱりどの世界でも直葉は直葉なんだなと再認識しつつ、俺はコップに入っていた牛乳を飲みほしたのだった。

 

 

 

 

 

「は…?」

 

「だから、訓練用ソフト。私が知り合いに頼んで作って貰ったから、こっち使いなよ。余計なお世話かもしれないけど、≪ペインアブゾーバー≫切ってあんなのやってたら、精神的にも疲れちゃうよ?」

 

時刻は昼休み。

シアン・パイルとの戦いからすでに三か月が経っていた。

加速世界唯一の≪飛行能力≫を持つシルバー・クロウは現在、レベル4になっていた。

能力が目覚めてから一週間でレベル2、一ヵ月で3と、かなりのハイペースでレベルを上げてきていたハルユキだが、レベル4になった時点からそのスピードは格段と落ちていた。

原因は、シルバー・クロウ対策のアバターが増えてきたことにある。

飛ぶ、ということは常に相手の視界にその身を晒し続けるということである。

よって、遠距離射撃能力持ち、視認さえ難しい超高速の精密狙撃の前には、恰好の的でしかなかったのだ。

 

そのことを重く考えたハルユキは、自作で射撃回の訓練ソフトを作り、それを回避するという訓練を続けていたのだ。しかも違法パッチを使い、痛覚遮断機能≪ペインアブゾーバー≫の制限を無くして。

痛覚遮断機能はまさにその名の通りの機能で、ニューロリンカーでのゲームならどんなものにもついている安全機能だ。

要は仮想空間での痛みをある程度コントロールできるもので、それを切った状態で同じ怪我を負えば、現実でもその苦痛に悶えるほどのモノである。

 

「な、ハルユキ君!!それは本当か!?」

 

「ハル…キミってやつは…」

 

全ては黒雪姫のため。

そのため、このことは知られてはいけなかったのだ。

昼休みの≪ネガ・ネビュラス≫での簡易会議の最後に、リーフ・フェアリーがそんなことを言わなければ。

 

驚愕の声を上げた黒雪姫とタクムに、ハルユキは何も答えない。

事実でもあるし、なにより突然のことで言い訳も何も考えていなかったからだ。

 

タクムのことにも触れておかなくてはならない。

彼はシルバー・クロウと戦った後、七年間通っていた新宿区の学校から、この梅郷中に引っ越してきたのだ。

チユリのニューロリンカーにハッキングプログラムを仕掛けたことや、黒雪姫を狙ったこと、そのことを贖罪するために、自分の時間を使うことに決めたのだ。

その決意の表れに、彼はニューロリンカーで視力を補正するのをやめ、眼鏡をかけるようになった。

今ではシアン・パイルも、立派なネガ・ネビュラスの仲間だ。

 

そして目の前のリーフ・フェアリー。

彼女の正体を知った時の衝撃が一番大きかったかもしれない。

彼女のリアルでの名前は桐ヶ谷直葉。荒谷とのいざこざの時に間に入ってくれたあの時の少女が、なんと自分と同じバーストリンカーだったのだ。しかもレベルは5。ハルユキ達より上である。

タクムも、前に会った少女がバーストリンカーだったことに驚いていたようだったが、同時に彼女の強さに羨ましさのようなものを感じたらしい。

≪加速≫を使わないで剣道であそこまでいけるなんて、と言ったタクムに、直葉の二人で準決勝でタクムと戦った相手よりタクムの方が強かったとムッとして言い返したりしたのは良い笑い話だ。

 

「なんで……」

 

「えっとね…有田君、最近長距離狙撃型のアバターの攻撃が避けられなくて落ち込んでたでしょ?で、訓練してるのかなって思ったんだけど、たまにほっぺとか痛そうに擦ってたから…」

 

それだけで僕がペインアブゾーバー切ってるって思ってたのか!?

何と言う洞察力というか…うん、凄いな

 

「最近反応速度が上がってきているなと思ってはいたがそんな訓練をしていたとは…。馬鹿者!今すぐ直葉君からもらったソフトに変えるんだ!」

 

「は、はぃ…」

 

黒雪姫に叱責され、慌てて直葉からソフトを受け取る。

彼女の話によると、同じソフトを持っている人同士ならスコア対戦もできるらしく、黒雪姫もそれを一人で作ったのかと目を丸くしていた。

ハルユキ自身、頑張って作ったのが何もない部屋に拳銃一つという質素なものだったので、彼女の知り合いとやらはどんな人物なのかと考えてしまった。

どうせなら、ということで黒雪姫とタクムにもそのソフトを入れてもらい、そのアプリを起動することになった。

 

 

 

 

 

アプリを起動し、景色が変わる。

景色が変わり終えると、そこは何の変哲もないロビー。

受付が二つあって、それぞれ≪ガンマンコース≫と≪デュエルコース≫というように分かれていた。

 

「えっとね、ガンマンコースは一直線のフィールドで、現れるNPCガンマンの銃撃を躱しながら進んで行って、そのガンマンにタッチするゲーム。デュエルコースは、銃を使うNPCプレイヤーと実際に戦うゲームなんだってさ」

 

「ほう…すごいな。ちなみに直葉君、このアプリの製作にはどれくらいで?」

 

「んと…頼んだのがこないだだから…一週間くらいですね。なんか、ネットで無償で配布されてるパッケージを使って、あとはプログラムを配置するだけだったから簡単だったって言ってました」

 

「一週間………」

 

その速さにハルユキはあんぐりと口を開けていた。

隣のタクムも同じように驚いている。

対する黒雪姫だけは興味深そうに周りを見渡していて、ふむ、と頷くと。

 

「プログラムの作りがやや古いと思ったらそういうことか。まさか≪ザ・シード≫のパッケージを使ってくるとは考えもしなかったぞ」

 

なんてことを仰った。

≪ザ・シード≫は確か、今から二十年ほど前に配布されたプログラム・パッケージだと記憶している。

 

「そ、それで!どうやったらできるの?」

 

話が難しくなってきたので、黒雪姫には悪いがここで切らせてもらおう。

ハルユキが直葉に問いかけると、直葉は「あの受付でいろいろ設定して、OK押せばできるよー」と言ってきた。

折角だし、デュエルコースとやらをやってみよう。

受付につくと、目の前に半透明のウィンドウが現れた。

まず難易度を選び、相手のNPCを選ぶ。

銃の種類と、銃撃までのカウントダウン設定を決めたら決定だ。

 

すると、目の前に5の文字が現れて、カウントダウンが始まった。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

三人に手を振ると、目の前が青白い光に包まれ、次に気が付くとバトルフィールドらしきところに飛ばされていた。

 

今回は一番下の難易度でやっているので、大丈夫だろう。

目の前に現れたのは西部劇のガンマンのようなNPC。

なにやらこちらを挑発する言葉を喋った後、突然どこかに転移して姿を消した。

 

「え、ええっ!?」

 

驚きながら彼が消えたところを見つめる。

そして頭上には10から減っていくカウントダウンが見えた。銃撃までのカウントダウンだろうが、目の前のNPCが消えたのにどうしろっていうんだ?

きょろきょろと辺りを見渡していると、きらりと光る黒い銃身。

あれはまさか…と見ているうちに、カウントが0になった。

チカッと銃身が光ったとたん、頭に軽い衝撃。

何が起きたと考える暇もなく、コミカルな音と一緒に現れた【YOU ARE DEAD】の文字と、自分をあざけ笑う例のNPCガンマンの声。

 

…作り込みすぎだろ

 

そう思いながらハルユキの体は青白い光に包まれて、ロビーに戻っていったのだった。

 

 

 

 

「ただいまー」

 

「おかえりスグ。そういえば、渡したアプリはどうだった?」

 

「もう最高!お兄ちゃん凄いね!皆喜んでたよ!」

 

放課後、一足先に帰っていた俺は、部活をして帰ってきた直葉に今朝渡した≪GGO風弾除けゲーム≫の感想を聞いていた。

ただの弾除けゲームに≪ザ・シード≫とサーバーを使うのはやりすぎだと思うが、一からプログラムを組むよりも楽だったりするのでああなったという事情があったりする。

何にせよ、満足いただけたなら十分だ。

 

「私もやったけど…難しいね。ステージも結構広いし、相手も木々に隠れたりするし…」

 

「折角なので作りこんでみました。まあ、所詮NPCだよ。決まったアルゴリズムで動いてるんだから、よく見れば大したことない……って、どうした?」

 

直葉の言葉にソファーで欠伸をしながら俺が答えると、直葉が驚いたように俺を見ている。

俺が問いかけると直葉はハッと気づいたように頭を振って。

 

 

「す、凄いねお兄ちゃん。まるでNPCじゃないプレイヤーと戦ってきたような発言…」

 

と言われたことで、はて、と気づく。

ここの俺はそういうようなゲームはしていなかったのだろうか?

直葉と話をしていてもそのような話は出てこなかったので、彼女と一緒にゲームはしていないであろうことはわかるが…

 

「前にそんなゲームをしたんだよ。相手は銃でこっちは剣っていう今考えると無謀極まりない戦いだったな…」

 

とりあえず、無難な答えを返しておく。

直葉は俺の言葉に「そっか」と返すと、シャワーを浴びに浴室に歩いて行った。

その後ろ姿を見送ったあと、直葉が帰ってくる時間に設定していた炊飯器から音が鳴ったのでソファーから立ち上がる。

 

ご飯をよそいながら、先ほどの直葉の表情を思い浮かべる。

その表情は何かに耐えるような…そんな表情だった気がする。

 

 

「……ううむ…難しく作りすぎたのかな…」

 

 

直葉に頼まれたので気合を入れすぎたのだろうか…

あの弾除けゲームの難易度を上げすぎたのかと思った俺は、あとで設定を見直そうと考えたのだった。

 

 

 

 

 




スグのお願いのために頑張るキリト君まじお兄ちゃん

この時代にもまだ≪ザ・シード≫くらい転がってるでしょう。ミラーとかで

というわけで災禍の鎧編、開始です

原作読み直すまでハルユキ君がペインアブゾーバー切って銃弾避けの練習してたのすっかり忘れてました。最初から9ページまでの短い内容だったし…忘れるのも仕方ない…ですよね?


ではまた次回!


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第十話:ミッドナイト・フェンサー

こんな夜中に更新

さっきまで80件のお気に入りが一気に100件超えててビビりました。
やっぱSAOとAWって人気なんだなと思いつつ、この場でお礼をさせていただきます

今回はある重要なことの話なので物語自体は少ししか進みません

…というか、感想欄の皆さんの意見聞いてるとこれも良い!こうしたい!って言うのが多くて嬉しい悲鳴というかなんというか…

…うん、ありがとうございます


では、どぞ


「……………違う」

 

目の前でポリゴンとなって消えた少女を見つめながら、俺はポツリと呟いた。

ここは俺が直葉に頼まれて作った≪弾除けゲーム≫のVR空間の中である。

 

顔にかかる前髪をかき上げながら、俺はあるプログラムに関するデータの調整を行っていた。

 

難易度【スペシャル】

装備【PGM・ウルティマラティオ・へカートⅡ】

キャラクター【氷の狙撃者】

銃撃カウントダウン【無し】

 

この設定のみで現れるスペシャルNPC。その調整だ。

この世界にも≪GGO≫は存在していて、≪BoB≫に参加していた≪Sinon≫の存在も確認できた。

ポリゴンアバターはそれを見て限りなく精巧に作っている。

 

―――だが、足りない

魂が、心が、何もない

 

そんなのわかってる。

≪彼女≫がいるわけない。

最初は、軽い遊びのつもりだった。

直葉に頼まれてプログラムを作っていくうちに、銃といえば彼女だったよなと思ったのが始まりだ。

気が付けば、彼女の姿を作っていた。

こんなの、ただ、俺の心を満たすだけのことだってわかってる。

直葉に慰められたとはいえ、俺はまだ完全に立ち直っていないことにだって、気づいてる。

 

多少プログラムができるからって、≪ユイ≫のような存在ができるわけないのだ。

同じカーディナルシステムを使っているからって、SAOのような極限状態が2年も続いたからできたような奇跡を、俺に再現できるわけない。

 

「………っ」

 

管理者モードから設定を選ぶ

 

難易度【スペシャル】

武器【光剣(フォトン・ソード)カゲミツG4】

キャラ【黒の剣士】

銃撃カウントダウン【無し】

 

OKを押すと、目の前に現れたのは一見女性アバターにも見える一体のアバター。

右手には紫色に輝く光剣。

 

「……来いよ」

 

ウィンドウを消し、右手の剣を握りしめる。

俺の右手には、目の前の≪奴≫と同じ武器。

ポリゴンでできた相手は、ただ無表情に、目の前の≪敵≫を倒すために向かってくる。

その単調な攻撃を、右手の剣で受け流し。

 

高速五連突きから斬り下ろし、斬り上げ、止めの上段斬り。

 

SAOでは≪ハウリング・オクターブ≫と呼ばれていたその剣技を再現し、目の前の剣士をポリゴンの粒子に返した。

 

「………………」

 

そのことになんの感慨も浮かばず、ただ武装を解除した俺は、ロビーに戻った。

 

 

 

 

ロビーに戻ると、パチパチパチ、と手を叩く音が聞こえた。

 

「凄いな、今の剣技……あんな鮮やかなものを見たのは久しぶりだよ」

 

視線を向けると、そこにいたのは一人の女性アバターだった。

全身を黒い服で包み、背中からは黒揚羽蝶の羽が生えている。

その顔は学校で見たことがある。確か――――――

 

「…黒雪姫、だっけ」

 

黒雪姫はコクリと頷くと、俺に近づいてきた。

 

「あんた、スグの知り合いだったのか。じゃあ、遠距離銃撃が苦手っていうのは…」

 

「それは私ではないよ。それより桐ケ谷君。今のキミの動き、とても洗練されていた。キミが直葉君の≪親≫なのか?ふむ、それなら彼女のあの強さにも納得できるな…」

 

「…親?何言ってるんだ。俺はあいつの兄だよ。それに、スグと俺は関係ない」

 

「誤魔化す気か?いや、そもそもキミも≪バーストリンカー≫なら、何故マッチングリストに表示されないんだ?梅郷中にこんな…いや、加速世界であのような強さのバーストリンカーなんて早々見たことが無い。どこの陣営なんだ?どこにも入ってないなら、私の陣営に来てくれないだろうか?私や直葉君がいるとはいえ、戦力が少々足りなくてな」

 

バーストリンカー?加速世界?何を言っているんだ彼女は…

やっぱり、自分のことを黒雪姫なんて名乗っている時点でちょっと俺たちとは違う世界の住人なのではないだろうか?自分のことを妖精王って呼んでる奴とか、デス・ガンって呼んでる奴とかと同じ部類だろう。

≪ビーター≫は違うだろう。…俺が作った言葉じゃないし

 

それより―――

 

「陣営とか、戦力とか、まるで戦争みたいなこと、やってるんだな。どんなゲームなんだ?直葉に聞いても教えてくれなくてさ」

 

「だからとぼけるなと…いや、まさか…本当に知らないのか?………マジで?」

 

「だから言ってるじゃないか。何を言ってるのかわからないって」

 

目の前の少女は青い顔になると「こ、このことは他言無用にしてくれ!た、頼む!」なんていって、ログアウトしていった。

……時刻は午前3:00。多分寝ぼけてたんだろう。

 

「……俺もそろそろ寝るか」

 

元の世界の事を思い出して少し気分がへこんでいたが、あの少女と話したからか、少し気が紛れた。

…変な奴だったけど、良い奴なのだろうと考えながら、俺はログアウトし、眠りについた。

 

 

 

 

「先輩?黒雪姫先輩?」

 

「…はっ!な、なんだハルユキ君!私は何も話してないぞ!加速世界のことなんて、何も!」

 

「いや、その…ボーっとしてたんで…あの、僕の話、聞いてました?」

 

「…あ、いや…すまない、もう一度聞かせてくれ」

 

「ですから…赤の王に現実で接触されて、先輩と会わせてくれって言われたんですけど…」

 

「あ、ああ…そういえば、そうだったな」

 

そういうと黒雪姫はふむ、と少し考え出した。

今日の黒雪姫は少し変だと思う。彼女と出会って日が浅いハルユキにも、そのことはわかった。

話をしていてもボーっとしていて反応が薄いし、ハンカチでよく額の汗を拭いている。

熱でもでたのかと一度聞いたが、大丈夫だと言われたので大丈夫なのだろうと思い込むことにした。

 

「とにかく、このことは私とキミだけでは決められないだろう?レギオン全員で話そう。昼食は…そうだな、サンドイッチでもいいだろう」

 

直葉の方は案外簡単に見つかった。

ラウンジで誰かを待っているみたいだったが、事情を話すと納得してくれ、待ち合わせしていた相手に謝罪のメールを送っていた。

彼女の容姿だし、彼氏がいてもおかしくないだろうと勝手に解釈したハルユキは、心の中でその彼氏さん(推測)に謝罪して、もう一人のメンバー、タクムのいるところに向かった。

 

 

幸い、タクムは屋上にいたので、三人で移動してそこで会議することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、じゃあ…会うのは今日の午後四時、それで場所は…僕の…家、ですか」

 

結局出た結論は、黒雪姫がスカーレット・レインの要求をのみ、ネガ・ネビュラスのメンバーでハルユキの家に集まるというものだった。

場の空気に…主に黒雪姫の重圧に負けたハルユキは、渋々ながら了承すると、スカーレット・レインに時間の連絡のメールを送った。

 

――赤の王が来ていいなら私は駄目なのかって…そんなの断れるわけないじゃん!

 

ぶつぶつそう思っていると、黒雪姫は直葉を呼び止めていた。

 

「直葉君、その…単刀直入に聞いていいか?キミの兄、桐ヶ谷和人は…バーストリンカーなのか?」

 

「え…っ!?」

 

「は…?」

 

上は突然聞かれて驚いた直葉の、下は突然の謎の質問にポカンとした表情になったハルユキの声だ。

 

「……………どうして、そう思うんですか?」

 

消え入るような声で聞き返す直葉の声に、黒雪姫はすまなそうな表情をしてから。

 

「いや、実はな…昨日…と言っても今日の夜中か。キミの知り合いが作った弾除けゲームに気まぐれでログインしたら、キミの兄がいてな、NPC相手に凄い剣技を使って勝ったんだよ。それで気になったんだが……どうした?」

 

黒雪姫の言葉を聞いていた直葉の顔が、真っ青になる。

そして次の瞬間、彼女の口から発せられた言葉は、ここにいる全員を驚愕させるものだった。

 

 

「そんなことありえないです。だって、お兄ちゃん……≪ミッドナイト・フェンサー≫は、もう昔に≪全損≫して、ブレイン・バーストの記憶を失ってるんですから!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

今から一年前、桐ヶ谷直葉は、兄和人に「面白いゲームがあるんだ」と言われ、ブレイン・バースト・プログラムをコピーインストールさせてもらった。

 

アバターの容姿は加速世界では珍しい、≪ヒューマンアバター≫兄の和人はブラックカラ―の、黒い騎士だった。直葉は兄のような普通のアバターが良かったと言ったが、兄は「俺はその姿のスグがスグらしくていいよ」と言われ、嬉しかったのを覚えている。

 

和人の指導の元、直葉はどんどん実力を付けていき、レベルも5になった。

兄のレベルは7。「いつかレベル9になって、王達に戦いを挑む」が彼の口癖だった。

しかし、その夢は断たれた。

 

ミッドナイト・フェンサーは、加速世界でかなりの実力者だった。

 

そして、王の座を狙う危険分子でもあった。

 

だから、≪PK≫なんていう手段で殺された。

彼のことを恐れた黄色の王が、彼を罠にはめて、≪無制限中立フィールド≫で≪集団PK≫によるポイント全損に陥れたのだ。

 

直葉はすぐそばでソレを見ていた。

犯人の一人に身動きを取れなくされ、抵抗すれば彼女を全損させるという強迫を掛けられた兄が、目の前で全損させられる様を。兄は、抵抗しなかった。

最後のポイントが無くなるときまでも、彼は「俺が全損したら、リーフ・フェアリーはちゃんとログアウトさせろ」と言って、自分の事なんて、考えていなかった。

そして彼のアバターが消えた後、直葉は解放され、彼のアバターからドロップした一振りの剣を抱きかかえ、泣き叫んだ。

なぜ、兄がこんな目に合わなければいけないのか

問いかけても、誰も返事はしてくれなかった。

 

そしてログアウトした彼女を待っていたのは、ブレイン・バーストの記憶を失った兄だった。

 

そしてそれから中学生になり、同じ学校にブレイン・バーストから消えたはずの、≪加速世界≫における大犯罪者、≪ブラック・ロータス≫を見つけた直葉は、対戦を申し込んだ。

「戦う意思はない。話し合いがしたい」再三そのことを言い続けた直葉は、ついに話を聞く姿勢を見せた彼女に、ネガ・ネビュラスに入りたいと告げた。

彼女と一緒なら、黄色の王と遭遇する確率は高いと踏んだからだ。

 

しかし、その返答は「すまない」の一言だった。

「まだその時が来ていない。時が来たら」という言葉に頷いた直葉は、時が来るのを待った。

そして来たのだ。シルバー・クロウの出現という時が。

 

直葉は喜びに震えた。ついにこの時が来たのだと。

黄色の王に、復讐できる時が来たのだと。

 

だが、それとは別に、直葉はこの世界を愛していた。

別に復讐のためでも何でもない、純粋にブレイン・バーストが好きなのだ。

だから、復讐は黄色の王に出会った時。

それまでは楽しむことに決めていた。

 

実際、領土戦は楽しかったし、ハルユキ達といるのも悪くなかった。

 

一年間、存在を表に見せなかったおかげでリーフ・フェアリーの存在も、良い感じに忘れ去られていたことも、彼女にとっては幸運だっただろう。

 

 

 

 

 

「…っていう感じです。というわけで、別に今すぐ黄色の王と戦えっていうわけじゃないですよ。まずは目の前のことを片付けてから!だから、兄のことはきっと勘違いですよ、はい。お兄ちゃんは…もう加速世界にはいないんです」

 

そういうと直葉は教室に戻っていった。

 

残された三人の間に、重い沈黙がおちる。

 

「理由があるからネガ・ネビュラスに入りたいと言っていたが…まさかこういうことだったとは」

 

「マスターは、知っていたんですか?≪ミッドナイト・フェンサー≫のこと…」

 

「小耳にだけだ。一年前だと…私も潜伏していた時期だし、詳しくは知らなかったよ」

 

タクムの言葉に、黒雪姫は首を振ると、俯いた。

自分の言葉で直葉のトラウマを開いてしまったのだ。気にしないほうがおかしいだろう。

 

「と、とにかく。一旦戻りましょう?もうお昼休み終わっちゃいますし…」

 

ハルユキの言葉に頷いた二人は、足取りも重く、それぞれの教室に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんだかんだで引きずってるキリト君
完璧なシノンにストレス発散用の自分のデータ作りに頑張ってるみたいです
別にこいつらが後々重要な役割になるなんて考えてません
ただキリト君だしたくてそうしたかっただけです
初対面の黒雪姫は中二病認定されちゃったみたいです
そしてペラペラ話すドジっ子サッちゃん
直葉ちゃんの≪親≫もわかったとこで、短いですけどきりがいいのでとりあえずこんな感じで

黒雪姫、隠れてから加速世界の現状ってよく知ってたっけ…
どうなんだろ、とりあえず、知らなかったということでお願いします

ちなみに弾除けゲームのロビーにはモニターがあって、やってる人がどんな感じか見れます
ぶっちゃけた話、GGOのBoB本線の会場の中が小さくなったのをイメージしたほうが早いです

AW世界のキリト君のアバター名のヒントは感想欄のを参考に決めさせてもらいました!
ありがとうございます!!

皆さんの意見聞きながら組み立ててますが一応キリト君参上までの感じは頭の中にできてるし…
案外早めに出せそうな…と期待をあおることを…




では、また次回!




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第十一話:災禍の鎧

災禍の鎧の説明回です

なんか本文が長くてですね…

できるだけ短くカットしたんですけど、変な箇所があるかもです

では、どうぞ!




「まずはともあれ、自己紹介から始めましょう。ここは貴女から名乗ってもらうのが筋じゃないですか?赤の王」

 

時刻は午後四時。

あれから何もなく――というか直葉自身が気にしている様子もなかったので何もないといえばその通りなのだが――授業を終えたハルユキ達は、まっすぐに彼の家に集まった。

 

タクムだけはハルユキと同じマンションなので、一度荷物を置いてから合流する手筈になったのだが、それまでの短い時間なのに、ハルユキは肝の冷える思いを何度もしていた。

 

まず、家のドアを開けたら赤の王である少女が堂々と家の中に侵入していて、ハルユキの秘蔵ゲームで遊んでいたこと。

次に直葉が赤の王を見て「有田君って妹いたんだね」と間の抜けた言葉を発したため、赤の王が怒って何故かハルユキを踏みつけながらそれを否定。

最後に黒雪姫と赤の王が軽く睨みあい状態になり、このままレベル9同士の対戦が勃発しそうな空気を目の前で放たれて、ビクビクしながら飲み物を用意していたことなどである。

 

遅れてきたタクムは、その状況を察すると黙ってハルユキの肩に手を置いてくれた。

タクムの心遣いに内心泣いたハルユキである。

 

 

そしてそのタクムがまずその場を仕切ることによって、話し合いが始まった。

 

 

「ま、それもそうだな。あたしはユニコ。コウヅキユニコだ。ニコとか、そんなんで呼んでくれ。特にクロウ、ちゃん付けとかしたらぶっ殺すからな」

 

「な、なんで!?」

 

ハルユキの言葉にふん、と鼻を鳴らした彼女が指を鳴らすと、ハルユキの視界に真紅のネームタグが浮かび上がる。

これは軽い自己紹介の時に使う名刺のようなもので、軽い身分証明賞になるものでもある。【上月由仁子】と、可愛らしいフォントで書かれたソレを全員に配り終えたニコは。

 

「次はあんただ。≪シアン・パイル≫」

 

とタクムを見ながら言った。

流石、ハルユキの家に堂々とリアルで潜入してきたこともあり、ネガ・ネビュラスのことも調べているようだ。

 

「…で、あんたが≪リーフ・フェアリー≫か。なんだ、≪あっち≫と全然違うんだな。色々と」

 

「い、色々って何よ…はい、私のタグ」

 

タクムからタグを受け取った後は直葉から、ハルユキも渡したほうが良いのかと問いかけると、何言ってんだみたいな目で見られたので渋々タグを送信した。

三人分のタグを受け取ったニコは、最後に黒雪姫に視線を向ける。

 

「…ン?ああ、私か。黒雪姫だ。よろしくな」

 

「んな名前なわけねえだろうが!!本名だ!本名を教えやがれ!みんなネームタグ渡してんじゃねえか!てめえも渡すんだよ!」

 

即座に喚くニコに、黒雪姫はピンと指を弾いた。

すると二コだけならず、ハルユキ達の前にもタグの情報が現れる。

【黒雪姫】

と堂々と書かれたそのタグには、ちゃんと身分証明の認証マークがついている。

ぐぬぬ…と呻いているニコに、ハルユキは苦笑することしかできなかった。

 

「さて赤の王…こと、ニコ君。本題に入ろう。キミがハルユキ君のリアルを知った経緯と、私に会いたいという真意はなんだ?」

 

「ん、そうだな。初めに言っておくがシルバー・クロウ。あんたのリアルを赤のレギオンで知ってるのはあたしだけだ。これは王の名前にかけて誓う。信じてくれ」

 

その言葉にハルユキはコクリと頷きながらほぅとため息をつく。

≪リアル割れ≫はバーストリンカーにおいて命の危機のようなものだ。

ニコは嘘をつくような少女――実際にハルユキを騙していたが――ではないので、これは本当の事だろう。

 

「で、方法は簡単だ。あんたらの領土は杉並、出現時間の傾向からすると恐らく中学生というところまでは絞り込める。そこまではいいな?」

 

バーストリンカーになるための第一条件は【生まれた時からニューロリンカーを装着していること】なので、現在の最高齢は16歳。つまり高校1年生だ。

そのため、学生のバーストリンカーは大体中学生という推測は成り立つ。

 

「そこでだ、私は小学生という身分を利用して、片っ端から杉並区内の中学校に校舎見学申請を申し込んだってわけよ。見学者用のパスがあれば学内のネットには接続できるからな。あとは教師に案内してもらってる間にちょいと≪加速≫してマッチングリストを見る。その繰り返しだ」

 

「なるほどな、そうすればいつかはシルバー・クロウにたどり着く。しかし、その後はどうする?梅郷中の三百人の中から、どうやってハルユキ君を見つけ出したんだ?」

 

「……根気強く校門をまたぐ生徒を見るたんびに≪加速≫したんだよ。そこまでする理由がコイツにはあるんだ。私の目的に、必要な力が、な」

 

ハルユキをチラっと見たニコは、黒雪姫に体を向けると、なんとその頭を下げた。

 

「頼む黒の王。アンタのレギオンのシルバー・クロウの、その翼を貸してほしい。たった一度だけでいいんだ。≪災禍の鎧≫を破壊するために」

 

 

 

「馬鹿な!あの≪鎧≫は…既に消滅したはずだ!!」

 

聞きなれない単語を前に呆けた顔をしているハルユキ達三人だったが、ただ一人、黒雪姫だけは信じられないという声で大声をあげていた。

 

「消滅してないんだよ!!あの≪鎧≫のせいで…チェリーは…」

 

大声で返すニコだったが、その声は徐々に悔しそうな声音になり、やがて俯いてしまった。

そんな中、話についてこれない三人の代表として、ハルユキが恐る恐る手を挙げる。

 

「あの、何ですかそのサイカのヨロイって…モノ…なんですか?」

 

「…ン、そうだな…バーストリンカーでもあり、あるオブジェクトでもある…といったほうが正しいかな。ハルユキ君、キミが最初に戦った相手―――≪アッシュ・ローラー≫を覚えているな?彼のバイク…あれはライダー本人とは別のオブジェクトだが、アレも含めてアバター本体としてのデュエルアバターを構成しているんだ。ここまではわかるな?」

 

「は、はい。つまり≪アッシュ・ローラー≫のバイクも、あの人の一部になってる…みたいな感じですよね?」

 

「そうだな。そのような外部アイテムは、ブレイン・バースト上で≪強化外装(エンハンスト・アーマメント)≫というんだ。ふむ、そこの赤の王のあの巨大な姿とかがそれにあたる」

 

何かかっこいい名前だなとハルユキは思うが、シルバー・クロウは徒手空拳で何も装備されていないため、しょんぼりと肩を落とす。

 

「そうがっかりするなハルユキ君。強化外装は私も持ってないし、そこまでレアなものじゃない。何せ手に入れる方法が四つあるからな」

 

そんなハルユキに苦笑しながら黒雪姫は人差し指を立てる。

 

「まず一つ目、初期装備として最初から持っていた場合。アッシュ・ローラーのバイクや、タクム君の右腕の≪杭打ち機≫がこれにあたるな」

 

なんだよ、タクムも持ってるのかよ。と言おうとするが、黒雪姫が次の説明を始めたので黙って聞くことにする。

 

「二つ目はレベルアップボーナスで獲得できる場合だ。ボーナスの選択肢に存在しなければ不可能だがな」

 

「…ありませんでした」

 

というかレベルアップボーナスは、目の前の黒雪姫のアドバイスを受けてスピードと飛行時間につぎ込んでいるため、あったとしても選ぶかどうかはわからずじまいであったが。

 

「三つ目。これは≪ショップ≫で買うことだ。これならハルユキ君でも可能性はあるだろうが…ポイントを消費するからあまりお勧めはしないな。そして最後の四つ目だが―――」

 

「≪殺して奪い取る≫、ですよね」

 

黒雪姫が続きを言う前に、直葉が続きを言った。

確か彼女の兄は―――

 

「お兄ちゃんのアバターを殺したアバターが言ったんです。『ドロップしたけどいらないから、形見としてでもやるよ』って」

 

「………そうだ。まだ完全に解明されていない現象だが、強化外装を持ったアバターが戦闘で全損すると、そこの勝者にその強化外装の所有権が譲渡される。といった感じだ」

 

「だけど災禍の鎧は違う。移動率100%、まさしく呪いのアイテムってわけだな」

 

「だが…ありえないことだ。二年半前に私は確かに、≪鎧≫…≪クロム・ディザスター≫を倒したんだ。他の王達と協力してな。……証拠ならある。ハルユキ君、直結用のケーブルを貸してくれないか?三本だ」

 

「は、はい…」

 

黒雪姫の言葉に頷くと、ハルユキは素直にケーブルを取ってくる。

 

「長さは…1メートルが二本に、うへぇ、50センチが一本、です……」

 

「なるほどね…しかたねーからあたしが50センチので我慢してやるよ」

 

「あ、こら!待て!!そっちの短いのは私が使う!」

 

「なにすんだよ!おいコラ!離せ!あんたはあのながーい1メートルでいいだろうが!」

 

ニヤリと笑いながらハルユキのケーブルを取ろうとしたニコの手は、黒雪姫の手に掴まれる。

そこでハルユキはその意味を悟った。黒雪姫は、その≪証拠≫とやらを見せるために、全員のニューロリンカーを数珠繋ぎしようということらしい。

軽量型のニューロリンカーには端子が一つしかないため、タクムとニコは端っこになるしかない。

ハルユキと黒雪姫は端子二つの高機能タイプなので、二人の間に座らなければいけないのだが、短いケーブルを巡って謎の論争が起きたらしい。

どうしようとハルユキが考えているうちに、手に持っていた50センチのケーブルは誰かに取られ、そのままタクムの手元に運ばれたのが見えた。そして1メートルのケーブルが取られたかと思ったら、そのまま反対の端子にケーブルが差し込まれる感覚と、直結警告。

 

「え…えと?」

 

「ん?私も端子二つあるから。黒雪姫先輩と何度も直結してても、女の子と50センチなんて有田君も流石に困るでしょ?」

 

隣に座り込む気配を感じたため、視線を移すと、そこにいたのは直葉だった。

1メートルのケーブルを差しながら当然のように返してきた彼女に、ハルユキは敬意を払わずにいられなかった。

 

 

「ほら二人とも、早くしてください。こっちは準備できましたよ」

 

「な…っ!直葉君!キミまでもか!!」

 

「思わぬ伏兵にやられたな、黒の王!へっ!ざまあみやがれ!!」

 

そんなこんなで黒雪姫も持ってきていた2メートルのケーブルを取り出すと、有無を言わさずニコに突き出した。

 

「…全く、何故私がこいつと…」

 

「それはこっちのセリフだっての」

 

ニコと黒雪姫はぶつぶついいながら2メートルのケーブルを差した後、ギリギリまで距離を離しあっている。それに苦笑しながらタクムが自分のニューロリンカーの端子にケーブルを差す。

五人分のニューロリンカーが接続されたことを確認すると、ハルユキは黒雪姫に問いかける。

 

「それで先輩、これからどうするんですか?」

 

「まあまずは座れ。全感覚モードにした後、表示されたアクセスゲートに飛び込んでくれればいい。では行くぞ、ダイレクト・リンク!」

 

座れと言った黒雪姫がリビングの床に正座。

ニコもちょこんと腰を下ろす。

そして両隣の剣道部員はさすがというか、端然とした姿で正座した。

慌ててハルユキも正座するが、両隣に比べるとやはりぎこちない。

 

…あ、これ別の意味で緊張するわ

 

ふと思いながら、ハルユキも全感覚モードに入るためのコマンドを口にした。

 

たちまち全身の感覚がなくなり、≪完全ダイブ≫の準備が整う。

そのまま待っていれば有田家のホームサーバーにダイブするはずだが、今回はその前にアクセスゲートが浮き上がっていた。

見えない右手を伸ばし、それに触れると、ハルユキの意識はそれに吸い込まれていったのだった。

 

 

 

 

「……せぁっ!!!」

 

気合を込めた声で目の前のNPCを斬り裂く。

NPCはそのまま声を上げずにポリゴンとなって爆散した。

 

学校から戻った俺は、こうしてまたNPCデータの調整に勤しんでいた。

直葉は用事があるので先に帰っていてとの主旨のメールをもらっているので、別段やることもない俺はこのVR空間に来ていたのだ。

 

「…もう少し、重いな」

 

斬り裂いた感覚を感じながら、俺は地面に刺さっている剣のパラメータを調整している。

目の前にあるのは完全に記憶を頼りにポリゴンで複製した≪エリュシデータ≫と≪ダークリパルサー≫。

懐かしの黒コートに身を包んだ俺はこのVR空間でただ闇雲にNPCと戦闘を繰り返していた。

敵についてはどれも剣を使う者。管理者モードで起動しているので俺以外でこのNPCと戦うことはできない。

 

やはり、というべきか。こうして剣を振っている間だけ、全ての事を気にせずに無心でいられる。

今頃、俺の本体ともいえる存在は仲間に囲まれて馬鹿やっているのだろう。

羨ましくない、といえば嘘になる。

俺だってアスナに会いたい。ユイに会いたい。

仲間に、会いたい。

 

 

だが、それは叶わない。

 

平行世界への移動自体、奇跡的な確率で起こった事故なのだ。

しかも自分にはそれを再現させるだけの技術もない。

 

「…しかしこうしてると、SAOを思い出すな…」

 

≪ビーター≫、≪黒の剣士≫と呼ばれていたころ、俺は殆ど一人だった。

ダンジョン内でやむなく野良パーティーを組んでも、それまでだ。

一度見つけた居心地の良い場所も、壊れた。

 

一人にはなれてる。ぼっちだからな。

 

何かが、欠けたようだ。

サチが死んだときも、明日奈が須郷に奪われかけた時も、喪失感こそ浮かんだものの、ここまでではない。

今まで燃えていたモノが無くなったというか…憑き物が落ちたというか……

一瞬、新宿で強盗と対峙した時、戻った気がした。だがその一瞬だけだ。

 

欠けた何かを取り戻したい。こんな仮想の敵じゃない。奴が…奴と戦えるなら…

 

 

「………っ!!」

 

再び出現させたNPCを斬り捨てながら、俺は何とも言えない喪失感に呑まれていたのだった。

 

 

 

 

「……あんたが≪クロム・ディザスター≫と戦って、倒したっていうのはよくわかった。じゃあこの状況を説明してくれよ!!五代目≪クロム・ディザスター≫が現れて、暴れてるって状況を!!」

 

「だから言っただろう!あの後、王達全員で、ストレージに≪鎧≫がないことを確認しあった!≪鎧≫は消えた筈なんだ!…仮にあの時、王の誰かが嘘をついて≪鎧≫を持ち帰ったとしよう!しかしそれでどうする!あれは危険なものなんだ!王達も馬鹿ではない!アレを解き放つことの重大さがわかってるはずだ!」

 

「だが現に解き放たれているんだ!誰かが持ち帰ったにきまってる!!」

 

黒雪姫がハルユキ達に見せたのは、二年半前の≪クロム・ディザスター≫討伐戦のリプレイだった。

破壊の限りを尽くす≪クロム・ディザスター≫に、黒雪姫含む王達が一斉に戦いを挑んでいる光景だ。

そして討伐が終わった後、全員が≪鎧≫を持っていないことを確認したと、黒雪姫が言った時、ニコが前述の言葉で食って掛かったのだ。

そして気が付けばお互いにヒートアップである。

 

ハルユキ達は、おどおどしながらも、この状況を止めることができなかった。

 

「なら誰だ!今の≪鎧≫の持ち主は!たとえ≪鎧≫に浸食されていても、アバターネームは変わらない!教えろスカーレット・レイン、誰なんだ!!」

 

黒雪姫の言葉を聞いたニコは、先ほどまでの威勢はどこにいったのか、消え入る声で。

 

「…うちの、赤のレギオン≪プロミネンス≫のメンバーだ。名前は≪チェリー・ルーク≫。良い奴だったのに………」

 

「ただの、バーストリンカーだと…!?なら…誰か王が持ち帰り、彼に譲渡したということか!?」

 

「あんたの話を聞く限りそうなんだろうな…。先代は違うぜ。あたしは先代にあったこともないし、チェリーだってそうだ。あいつは…今も赤のレギオンに所属しまま、他の王のレギオンメンバーを狩ってるんだ。不可侵条約を破ったあいつは粛清しなきゃいけねえ…。あたしも一度挑んだが、駄目だった。あんたも戦ったならわかるだろ?あいつの機動性の前には、あたしの攻撃も当たらなかったんだ…」

 

そう言って俯いたニコの言葉に黒雪姫はようやく納得がいったと頷く。

 

「そうか、これでやっとキミがハルユキ君のリアルを調べてまで接触した理由がわかったよ。機動力には機動力というわけだな」

 

周りの二人も納得したという風に頷くと、四人の視線がハルユキに注がれた。

 

「え、ええと…つまり、僕が≪クロム・ディザスター≫の足止めを?」

 

恐る恐ると、大体の話の流れから推測したことを言うと、四人ともコクコクと頷いた。

 

「む、むむむむ無理ですよ!王達が苦戦した相手なんですよ!?僕なんて、すぐけちょんけちょんにされちゃいますって!!」

 

「案ずるな、本当に足止めだけだ。メインは私とスカーレット・レインが攻撃して奴を弱らせるよ。そうしたら…」

 

「ああ、私が≪断罪の一撃≫で仕留める」

 

スカーレット・レインの言葉に首を傾げると、タクムが説明してくれた。

 

「≪断罪の一撃≫は、レギオンリーダーのみが扱える権限なんだ。レギオンを裏切ったりするバーストリンカーに使うんだけど、それを受けた者は問答無用でポイント全損、加速世界から永久退場するんだよ」

 

「永久…っ!?」

 

そういえばうちのマスターは黒雪姫だと思い、彼女を見るとものすごい笑顔でこちらを見ていた。

 

…ああ、先輩に逆らうのはやめとこう…いや、逆らうことなんてないけど!!

 

 

「でも、それだとクロム・ディザスター対僕たちっていうことですよね?そんな要求、向こうが呑むわけないじゃないですか!」

 

「いや、それには及ばねえ。あいつが暴れてるのは≪無制限中立フィールド≫だ。なんてことねえよ」

 

「≪無制限中立フィールド≫?」

 

ハルユキはその言葉を聞いて首を傾げる。

どこかで聞いたような響きだ。そう、つい最近、どこかで…

 

「それならなおのこと危険だ!僕やハルたちはまだしも、マスターは特例ルールに縛られてる!もし他のレベル9にあったら…」

 

「私は賛成ですよ、それ」

 

必死にタクムが止める中、直葉がタクムの声を遮った。

 

「他のレベル9に会う可能性があるなら、私は参加します。クロム・ディザスターがあそこにいるなら、好都合です」

 

そうだ、彼女が言っていたんだ。

無制限中立フィールドで兄を亡くしたって

 

「桐ケ谷さん…!………でも危険だ。言わせてもらいます。赤の王がマスターをはめて、大勢で待ってるって可能性もあるんですよ!!」

 

「ぎゃーぎゃー煩い!博士かあんたは!そんなの、あたしがリアル明かして一人で来てるんだから信じろって!それが十分な証拠だろ!!」

 

「タクム君、私のことを考えて言ってくれたのには感謝する。だが、大丈夫だろう。ひとまず彼女の要求を呑むことにする。それでいいな?」

 

「嫌われ役は慣れてます。気にしないでください」

 

眼鏡をクイッとすると、タクムは一転、話し合いの体制になった。

……なんか、タクって凄いな

 

そのまま、無制限中立フィールドのことを知らないハルユキは半ば置いてけぼりをくらいながらも、作戦の結構は明日の放課後となった。

 

一先ず、話し合いはお開きになり、それぞれが帰宅していく。

 

「じゃあなハルユキ君。お邪魔しました。また明日な」

 

「はい、先輩もお気をつけて」

 

「んじゃな黒いの、さーてと、クロウ、一緒にゲームしよーぜー」

 

ニコがのんびりとリビングに歩いていったとき、ぎゅんっといった感じで黒雪姫がこちらを向いた。

 

「おい、赤いの…まさか、ハルユキ君の家に泊まるのか?」

 

「当たり前だろ?帰るのめんどいし、あたしの学校全寮制で外出申請出してるからかえれねーし」

 

そのことばに黒雪姫はぷるぷると震えた後。

 

 

 

「私も!泊まらせてもらうぞ!!ハルユキ君!!!!」

 

 

 

なんてことを仰られた。

 

 

 

 

 

 

 

 




黒雪姫先輩の昔ばなしはまるまるカットさせていただきました

ビデオみたらディザスターと戦闘してたよーだけでいいと思うんだ!(確信)



二コと姫の言い争いが多分滅茶苦茶になってる気がする…


次回で…あれじゃない?うん、あれだよ多分


それでは!また次回!


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第十二話:黒の―――

疲れました

後半の展開やるのに滅茶苦茶疲れました


多分、今までで一番頑張った

では、どぞ


「お兄ちゃん」

 

朝、直葉は俺を見つけるなり、真剣な表情で口を開いた。

 

「私、頑張るから。今日…絶対、お兄ちゃんの仇、とるからね」

 

「仇って…俺、まだ死んでないぞ?…っと。………スグ?」

 

朝早くに不謹慎だな、と笑いながらそう言うと、突然、直葉が俺に抱き付いてきた。

 

「……お願い、何も言わないで、ちょっとだけ……。私に、勇気をちょうだい…」

 

「……聞いても、教えてくれないんだろ?」

 

「…ごめん」

 

「……わかった。何も言わないよ。でもスグ、困った時は俺のこと、呼ぶんだぞ?兄貴は、妹を助けるもんなんだから」

 

「…………ん」

 

暫く背中を撫で続けていると、直葉は「充電完了っ」と言って俺から離れた。

その顔は晴れやかで、俺の知ってるいつもの直葉だった。

 

 

 

 

「…さて、準備はいいかハルユキ君。今からキミに、我々バーストリンカーの真の戦場へとダイブするためのコマンドを教えよう。バーストポイントを10消費するが…問題ないな?」

 

「はい、それくらいなら。それより…真の戦場って?」

 

「言葉通りの意味だよ。我々が≪加速世界≫と呼ぶものの本質がそこにある。いいか、私のコマンドの通り、続けて唱えるんだ。行くぞ。五代目クロム・ディザスター、討伐ミッションスタートだ!!」

 

時刻は既にニコが指定した夕方である。

作戦決行のための時刻になったことを確認した黒雪姫は、有田家に集まった計4名のバーストリンカーを見渡して声を張り上げた。

 

「アンリミデット・バースト!!!」

 

 

 

無我夢中でその言葉を叫んだハルユキの体は、あっという間にシルバー・クロウになった。

そして、周囲の景色も一気に一変する。

自宅マンションのリビングだったその場所は、寒々とした金属の回廊に変化していた。

 

辺りを軽く眺めたハルユキは、近くに四体のデュエルアバターが立っているのが見えた。

濃紺のアーマーに逞しい四肢、右手に巨大な≪杭打ち機≫を装着した≪シアン・パイル≫

妖精のような服に、背中に半透明の羽を生やした≪リーフ・フェアリー≫

真紅の華奢な体躯に、ハンドガンひとつだけぶらさげる≪スカーレット・レイン≫

そして純黒の半透過装甲をまとい、鋭い剣状の四肢を輝かせる≪ブラック・ロータス≫

 

彼らを見た後、周りの景色を見たハルユキは呟いた。

 

「…ここが、≪無制限中立フィールド≫……」

 

「そうだ。ちなみにこの世界には時間制限というものが存在しない。むろん、≪加速≫しているから現実の時間は進んでいるがな。向こうの世界での一日は、こちらでは三年だな」

 

「さ……」

 

なんてことだ。じゃあ試験勉強とかやりたいほうだいじゃないか!

あと、好きなだけ寝たりとか

 

「いや、ハル。僕も前に一度ここで三日過ごしたことがあったけど、戻った時に何をしようかの予定を忘れちゃって大変だったから、やめたほうがいいよ」

 

「そ…そっか」

 

タクムの妙に現実感ある言葉にハルユキが頷くと、二コがこちらに近づいてきた。

 

「話すのもいいけどよ、そろそろ行こうぜ。クロム・ディザスターが乗った電車は池袋に到着する二分前なんだからな」

 

「う、うん」

 

二コによると、クロム・ディザスターのリアルは、池袋に向かっているらしい。

そこで≪加速≫して、この≪無制限中立フィールド≫で暴れまわるのだろう。

 

「さ、頼んだぜ。シルバー・クロウ。あんたは私たちを乗せて運ぶタクシーだ」

 

そう考えていると、スカーレット・レインに小突かれた。

なんか…この世界に来ても使い走りにされてる気がするな…

 

 

 

周りのオブジェクトを壊し、必殺技ゲージを上限まで溜めたハルユキは、タクム、二コ、黒雪姫の三人を飛んで運ぶことになった。

黒雪姫を右に、二コを左に抱えた後、タクムの肩に乗って、タクムがハルユキの足を掴む。

 

「あれ、リーファ?こないの?」

 

「先飛んでて、直ぐ追いつくから」

 

彼女の言葉に頷いたハルユキは背中のフィンを羽ばたかせ、シルバー・クロウ+三人は空中に飛び立った。

 

「うおお!飛んでる!すげえなこれ!」

 

腕の中で初めての飛行にテンションが上がってる二コを見た後、ハルユキは後ろのリーファが気になって振り向いた。リーファは先ほどまでハルユキ達がいたところからもう少し離れた場所に立っていた。

 

そこから助走。二十三回のマンションの高さの崖の端まで走ると、リーファは踏み切って、その空中に体を投げ出した。

 

「いいっ!?」

 

突然の飛び降りにハルユキは驚きの声を上げるが、リーファはその場で一回転するとその崖を思いっきり蹴り、何と空を飛んで(・・・・・)ハルユキ達のところに追いついてきた。

 

「肩、借りるね」

 

そう言われながら肩にリーファの手が乗る感触。だが、全然重さを感じない。

というか

 

「りりり、リーファ!?い、い、い、今、空、飛んで…」

 

「ええっ!?」

 

「こ、こいついつの間に!?」

 

「む、これは…」

 

ハルユキの言葉にそれぞれ違った反応を示す三人。

ちなみに上からタクム、二コ、黒雪姫だ。

 

「クロウ、勘違いしないでね。私のは≪飛行アビリティ≫じゃないよ。これは背中の羽で姿勢制御しただけ。いま、一気に加速したのは崖を蹴っただけだから」

 

「ふむ、つまり、リーファの『飛行』は、ただ風に乗っているだけ、のようなモノで良いのか?」

 

黒雪姫の質問に、リーファはコクリと頷く。

 

「はい。私は飛べないんです。別に困ることじゃなかったんで、全く使い道なかったんですけどね」

 

あははと笑うリーファに、自分の飛行能力は、どんなに貴重で、大切なものなのかというのをハルユキは再認識した。

――僕は、空を夢見たアバターの希望なんだ…

 

 

そんなことを思いながら飛んでいると、≪無制限中立フィールド≫における渋谷の町並みが見えてきた。

 

「あんま近づきすぎるとクロム・ディザスターにもばれちまう。そろそろ降りようぜ」

 

二コの言葉に頷いたハルユキは、ふと、視界の端から伸びてくる、眩いオレンジ色の火線を見た。

 

「こ、攻撃!?皆、捕まって!!」

 

寸前で攻撃を回避したクロウは、すぐさま次の回避運動を取る。

続けて放たれた青白い光線は、またもやハルユキ達の近くを通った。

 

「クロム・ディザスターか!?」

 

「違う!あいつにこんな技はねえ!!」

 

「…!ハル!!ミサイルだ!」

 

タクムの言葉を聞いたハルユキは「降ります!」と一声かけて急降下を開始した。

羽を真横に広げ、グライダーのように近くに見えるクレーターを目指す。

リーファの方もハルユキから手を離し、彼の腕からスカーレット・レインを受け取ると、ハルユキよりも早く急降下、彼より何倍も上のテクニックで追撃してくるミサイルを躱し、クレーターに着地した。

 

ハルユキ達もそれを回避しながら、クレーターに着地する。

 

幸い、ダメージを負った者はいないようだが、ハルユキ達はそれぞれの無事を確認したあと、くるであろう襲撃者達を待った。

やがて、ざざざっと無数の足音が響いたかと思うと、ハルユキ達のいるクレーターを囲むように、無数のバーストリンカー達が現れた。

 

そして最後。一際目立つアバターが現れた。

細長く、四肢の華奢さはシルバー・クロウのようで、肩口と腰回りが、丸く膨れている。

頭には、左右に細長く湾曲した太い角のような形の帽子。

そして顔は、笑い顔のマスク。

 

「ピエロ…?」

 

思わず呟いたハルユキの横で、ぎりっと歯を食いしばる音が聞こえた。

リーファだ。怒りに満ちた表情で、あのピエロを睨んでいる。

 

つまり―――

 

「≪黄の王≫…≪イエロー・レディオ≫………なぜここに…?」

 

最後は二コの言葉で理解した、あのピエロは≪イエロー・レディオ≫

≪黄の王≫でレベル9のバーストリンカー

 

そして―――

 

「お兄ちゃんの……仇…!!」

 

リーファの兄、ミッドナイト・フェンサーを集団PKで全損させた奴らの、ボス―――!!!

 

 

 

 

 

 

 

VR空間の中で、ただ剣を振る。

二振りの剣を携えた俺は、ただ無心に剣を振っていた。

 

何か思い詰めていたような顔をしていた直葉

 

それをなにもできずに励ましていただけの俺

 

 

まるで、GGOのBoB決勝前の時のやりとりの逆だな。と思いながらフッと笑う。

 

そろそろ戻ろう、そう思った時―――

 

 

『ふむ、なかなかの動きだな。これまで私が見てきた者の中で、間違いなくトップクラスの動きだろう』

 

男の、声がした

 

「……………あ…んたは…」

 

掠れた声で、突然目の前に現れた男に視線を合わせる。

 

『その反応、キミは私を知っているのか?キミからすれば、私は既に死者で、過去の人間の筈なんだが…』

 

「ああ、よく知ってるよ…SAO開発者、茅場晶彦………」

 

目の前の男は驚いた、というように眉をあげた。

 

『実に興味深いな。何故、キミが私のことと、SAOを知っている?いや、違うな。今キミがしていた動き、あれは≪二刀流≫十六連撃スキル、≪スターバースト・ストリーム≫だろう?あの世界にキミのようなプレイヤーは存在しなかった』

 

目の前の男の言葉を聞いた俺は、「ああ…こいつも違う」と思っていた。

こいつは『この世界の』茅場晶彦だ。俺と戦った茅場とは違う。

 

「平行世界のSAOプレイヤーだった。って言えばあんたは信じるのか」

 

『信じるとも』

 

半ば投げやりに質問に答えた俺の返答は、実に簡素な答えだった。

 

『そうか…平行世界か…。本当に、あったとはな……。こんな体になっても、生きているものだな。キミの世界でのSAOは、どのような終わりを告げたのかね』

 

感慨深げに呟いた茅場は、そう問いかけてきた。

平行世界は科学者のロマン、と言っていた比嘉の言葉は当たっていたのかもしれない。

俺は茅場に向き直ると、ありのままを告げた。

 

「75層で、あんたの正体に気づいた俺が、あんたと一騎打ちをして相討ち……いや、負けたよ。相討ちだったとはいえ、奇跡のようなものだ」

 

『まさかそんな早く気づかれるとは…あちらの私がへまをしたのか、キミの洞察力が高かったのか…。奇跡、とはなんだね?』

 

「あ…?あ、ああ…一騎打ちで、俺はお前に止めを刺されて、HPが0になったんだ。でも、諦めたくない、この戦いに、勝たなきゃいけない、消えてられないって思っていたら、俺の体は、まだ動いてて…気が付いたら、あんたを刺し返してた」

 

あの時のことはあまり覚えていないが、確か、そうだった気がする。

システムに、負けたくないって…

 

『ほう…システムによる≪死≫という事象を、意志の力で上書きしたのかね…?ならそちらの私は…見ることができたのか…世界の法則をも作り替える≪力≫というものを…』

 

茅場はフッと笑うと、右手を動かすと、なにやら操作を始めた。

 

『キミの名前はなんだね』

 

「…………キリト」

 

少し迷い、そう答えた。

茅場を――ヒースクリフを倒したのは、キリトだからだ。

 

『そうか、ならキリト君…。突然で悪いが、キミの力を見せてくれないかね?こんな姿になっても、見たいものができた。私も見たいんだ。世界の法則を変える≪力≫を』

 

そう言う茅場の姿が光に包まれたと認識すると、そこから現れたのは、忘れもしない、赤い鎧に身を包んだ聖騎士。≪神聖剣≫ヒースクリフだった。

 

「……………本当に、あんたの考えてることは、理解に苦しむよ。いいぜ、その決闘。乗った」

 

苦笑しながら、俺もスクロールを操作する。

 

前髪はややかかるくらい。

漆黒のロングコートに、それと同じ色の細身のズボンとブーツ。

指ぬきのグローブに、懐の投降用のピック。

そして背中に感じる、懐かしい二つの重み。

 

――――――≪黒の剣士≫キリト

 

『…それが、キミのアバターか。ふむ、実に、真っ黒だな』

 

「全身赤で目立ちまくりのあんたには言われたくないけどな」

 

お互いの服装に軽く言葉を交わすと、もう話は終わりのように、辺りを殺気が包み込む。

 

 

 

―――いつか見た時の、再現だった。

 

あの時も、ヒースクリフは不敵な笑みを浮かべながら、その十字盾から剣を抜き放ち、盾の後ろに構える。

対する俺も、二本の剣を抜き、構える。右足は引き気味に、左の剣は前、そして右手の剣は、後ろに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――っ!!」

 

仕掛けたのは、今回も俺が始めだった。

地面を蹴り、目の前の聖騎士に向かって剣を振り下ろす。

しかし、神速の速さで振り下ろされたその剣は、同じく神速で動いた盾に防がれる。

お返しに振り下ろされた剣を、空いている剣で防ぐ。

ただ、その繰り返し。

 

加速していく俺の斬撃を、茅場は相変わらずの正確さで叩き落した。

そして隙あらば浴びせてくる鋭い一撃を、俺は同じように正確に叩き落す。

局面は動かない。ただ、互いの速さが加速し続けていくだけ。

 

俺は、あの時と同じように、茅場の目を見た。

ヒースクリフの真鍮色の双眸は、あくまで冷やかだった。だが―――わかる。

あの時はわからなかったが、彼の目は冷ややかなんかではなかった。

ただ純粋に、目の前の相手が、自分の定めた世界を打ち壊す様を目に焼き付けるため。

その瞳の奥には、≪世界を変える可能性≫を信じる、純粋な光が宿っていた。

 

 

――ならば

 

「ぜぁぁっ!!!!」

 

ならば、俺の全力でそれに答えなければ。

 

―――右手の剣に、オレンジ色の光が宿る。

 

『—――っ』

 

ヒースクリフの表情が、困惑に変わる。

それはそうだろう。神速で動いていた剣技に、高速で動くソードスキルが付いてこれるはずがない。

 

 

高速五連突きから斬り下ろし、斬り上げ、そして最後に上段斬り

 

片手剣八連撃≪ハウリング・オクターブ≫

 

攻撃を防いだ茅場は、その剣を振り下ろそうとし、それを止める。

なぜなら、スキルが終わったはずの俺の左手の剣が、鮮やかなブルーのライティングを放ったからだ。

 

 

水平斬りから、剣をぐるんと九十度回転。手で剣の柄を押し上げ、刃がてこのように垂直に上がる。その刃を、上から垂直斬り。

 

片手剣三連重連撃≪サベージ・フルクラム≫

 

「く……おッ…!!」

 

短い気勢に乗って、今度は右手の刃が水色に輝く。

 

 

垂直斬りから、上下のコンビネーション、最後に全力の上段斬り。

 

片手剣四連撃≪バーチカル・スクエア≫

 

そして最後、剣を肩に担ぐように引き絞り、反対の手を前に出す。

 

 

左手の剣が血のような赤い、ライトエフェクトを帯び、ジェット噴射のような轟音とともに撃ち出された。

 

片手剣単発重攻撃≪ヴォ―パル・ストライク≫

 

『ぬ…ぐ……っ!!』

 

これが、俺がALOで発見したソードスキルからソードスキルを繋げる攻撃。

≪剣技連携≫

原理自体はSAOにもあった。

現に俺は、その連撃を何度も使っている。

片手剣二連撃≪バーチカル・アーク≫から、体術スキル≪閃打≫というような連撃だ。

 

しかし、SAOにおいて剣の二刀装備は≪イレギュラー装備≫扱いとなり、ソードスキルが使えなかったのだ。

だが、ALOではそれができた。

それが俺が独自に作り上げたシステム外スキル≪剣技連携≫

 

 

ヒースクリフはヴォ―パル・ストライクでバランスを崩し、隙だらけである。

俺のスキルもここで終わり。左手を前に出してから繋げることができるソードスキルなんて、ない。

 

 

なのに

 

 

 

――――来い、キリト君

 

 

なのに、彼の目には、その先があると、確信していた。

 

 

「――――――」

 

 

左手は、前に

 

 

「――――――――う」

 

 

右手は、肩に引き絞るように担ぎ

 

 

「うぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおお――――ッ!!!!!!!」

 

 

右手の剣が、≪エリュシデータ≫が、その刃を激しく震わせ、深い赤色を纏わせながら、耳をつんざくような咆哮を上げる。

 

その輝きが、咆哮が、限界まで高まった瞬間、俺は、雄叫びと共に、その剣を撃ち出した。

 

 

 

≪二刀流≫での、≪ヴォ―パル・ストライク≫

 

 

 

その血の色の光はヒースクリフを貫き、VR空間ステージの壁まで届いた後、真紅の粒となって、消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………やれやれ、まさか、ここまでとは…』

 

その姿を元の彼の姿に戻した茅場は、満足した表情で、そう言った。

 

 

『先ほどの≪ヴォ―パル・ストライク≫のように、キミの可能性は、とんでもないものだ。キミなら…≪あの世界≫の真理に、たどり着くだろう』

 

「≪あの世界≫……?それより、今のはなんなんだよ。≪ヴォ―パル・ストライク≫の飛距離は、あんなんじゃない、もっと、短かった筈だ」

 

『キミの力が、≪事象を上書き≫したんだよ。この力を、≪彼ら≫は≪心意システム≫と、呼んでいたな』

 

「≪心意システム≫……」

 

聞き覚えのある言葉―――

いや、先ほどの≪ヴォーパル・ストライク≫の光景は見覚えがある。

 

俺の罪、大切な友人を助けられなかったあの世界で…十五メートルの距離を同じ技で貫いた時のことだ。

……向き合わなければいけないこととはいえ、あの光景は今でも俺の心を突き刺す。

 

今は悲しみに浸っている場合ではない。生まれてきた後悔を振り払いながら、ヒースクリフの言った言葉を呟く。

すると、目の前にホロウィンドウが現れた。

 

現れた文字は【BB2039.exe】

何かのアプリケーションのようだ。

 

『キリト君。これからキミの世界は、どんどん広がっていくだろう。どうかその手で、行くべき道を掴みとってほしい。私は、これからのキミを、見守っていくとするよ』

 

「茅場晶彦…あんた………」

 

呟いた言葉に、茅場は立ち止まると。

 

『ああ、言い忘れていたよ。既に向こうの私から言われているかもしれないが…私が言うのは初めてだからね。結局、誰にも言えなかった言葉を言わせてほしい』

 

 

茅場が、そしてその隣に現れたヒースクリフが、こちらに振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ゲームクリアおめでとう、キリト君

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に瞬きをした時、二人の姿は消えていた。

 

 

 

 

 

 

「…二度も同じ言葉、言うなよな………」

 

 

 

 

 

気が付けば頬を伝う暖かいものを感じながら、俺はそう呟いていた―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




頑張った

もう…ゴールしていいかな…


完結じゃないのにラストバトル

これで「え?ここおかしくね?」ってなったら泣いちゃいます

僕の心意は限界まで酷使されすぎてもうイマジネーションが出ません

ソードスキルの光がでたのはキリトの想像なのか、心意なのか、はたまたVRゲーム内でキリトが設定しただけなのか。
想像でもあり、現実でもあるというのを推しておきます


リーファちゃんはトンビだっけ?そんなん
今度心意で飛ぶから、あんま触れないであげてください



最後に一言

疲れました




では、また次回に


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第十三話:迷わずに今

皆ゴールしちゃだめっていうから…続き投下しました!!


というか、前回投下して寝るじゃん

朝起きたらお気に入りが400超えてたの見て、寝ぼけてるのかと思いました

ありがとうございます!感謝感謝です!



では、どぞ


「………にしても、こいつ、何なんだ?」

 

茅場が消えた後、現実世界に戻った俺は、彼から受け取ったプログラムを訝しげに見つめていた。

ユイやエギルがいれば、もっと専門的な解読もできると思うが、今はそんなことはできない。

 

≪ザ・シード≫の時もそうだったが、彼が遺したものなら、おそらくとんでもない何かというのは間違いないだろうが……

 

 

「吉となるか、凶となるか……」

 

暫く考えた後、俺はそのプログラムをタッチ。

【BB2039.exeを実行しますか? YES/NO】のホロ・ダイアログ

 

少し考えた後、YESのボタンをタップ

 

その瞬間、俺の視界周りに巨大な炎が噴き上がった。

炎は体の前に結束すると、ひとつのタイトルロゴが浮かび上がった。

 

≪BRAIN BURST≫

 

それを見た瞬間、何か、懐かしいものを見た感覚に襲われた。

燃えさかるタイトルロゴの下に、プログラムをインストールするであろうインジケータ・バーが現れた。

そしてそれが99%になった瞬間――――

 

 

「―――っ!?な、なんだ…?」

 

 

視界にノイズが走った。

周りはモノクロに変化し、ザ…ザッ……と音を立てながらノイズが大きくなる。

 

ノイズはドンドン大きくなっていき、ついにプツンと、旧型のテレビを消した時のように、視界が真っ暗になった――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――はっ!?」

 

次に気づくと、そこは真っ暗な暗闇の中。

周りには何もない。

 

 

―――いや、あった。

 

視線の先に、鎧が、鎖に繋がれた鎧があった。

どこかで、見たような鎧。

力なくうなだれるようにして繋がれているソレはどこもかしこもボロボロで、鎧の形をしているのが奇跡のようなものだった。

一歩ずつ、近づいていき、やがてその鎧に触れた。

 

 

「―――!………そう…か…」

 

 

頭の中に感情が、記憶が、浮かび上がる。

 

 

これは()だ。STLによって俺の人格を上書きされた、この世界の桐ヶ谷和人(・・・・・・・・・・)だ。

 

こいつは…自分の出生の秘密を知ってもなお、家族としての絆を求めたんだ。

自分は桐ヶ谷家の人間ではないということを知りながらも、逃げた俺とは違って、こいつは、向き合おうと。

俺がSAOから帰還してから始めたことを、こいつは真実を知った後から始めていたんだ。

 

 

―――強い

 

こんなに強い人物を、俺は消してしまったのか……

 

 

「…ごめん……ごめんな…」

 

 

涙がこぼれる。

鎧は、何も答えない。

 

だが――――――

 

「………え…?」

 

 

何か、語り掛けてきた。

喋ってもいない。だが、心でわかる。

 

 

――――――スグを―――妹を―――

 

 

その時、脳裏に一つの情景が浮かんだ。

周りには、何十体のロボットのような、アバターのようなもの。

その間を、高速で突き進む俺。いや、()は今、振られているんだ。そう、剣のように。

 

そして目の前の、ピエロのような奴に斬りかかり、止められ、弾かれた。

地面に突き刺さった後、その剣の持ち主も吹き飛ばされてきた。

 

女性だ。しかも、見覚えのある。

金色の髪を、ポニーテールで結び、背中には、半透明な羽。

 

 

「リーファ…スグ!?」

 

彼女は満身創痍だった。黄色いピエロに挑みかかって吹き飛ばされ、その周りのアバターに蹂躙されている。

 

どこなんだあそこは…助けにいかないと。

妹を、助けなければ。

 

 

 

その時、鎧が淡く光った。

 

りいいいいん…と、数回、発光する。

 

 

「……お前が、連れていってくれるのか…?でも、俺は…」

 

 

 

――――――お前が―――行くんだ――――――俺はもう――戦えないから――――――

 

その言葉と共に、()の記憶が、思いが、俺の中に注ぎ込まれる。

そうだ…≪あの世界≫で≪全損≫した≪バーストリンカー≫は、もう戻ることができない

 

こいつは…≪ミッドナイト・フェンサー≫は、≪全損≫している。

だが、それはこの世界の(・・・・・)桐ヶ谷和人だ。

 

俺は…≪黒の剣士≫キリトは、彼とはまた違う。

 

≪ブレイン・バースト≫がフラクトライトで人を判別するのなら、この世界の桐ヶ谷和人(・・・・・・・・・・)と、()のフラクトライトは全くの別物だ。

 

つまり、もう一度…≪あの世界へ≫…≪加速世界≫へ行くことも不可能ではないのだろう。

 

 

 

効果音と共に、ホロ・ウィンドウが目の前に開かれる。

 

 

【NAME:Kirito】

【LEVEL:■】

 

見覚えのある名前が表示された後、その下に一つの文字列

 

【YOU GOT AN ENHANCED ARMAMENT≪THE MIDNIGHT FENCER≫】

 

 

ミッドナイト・フェンサー…真夜中の剣士…

 

 

「ミッドナイト・フェンサー…それがあんたの名前なのか…」

 

レベルの欄は、1と7の間で不規則に点滅している。

キリトのレベルと、ミッドナイト・フェンサーのレベルが入り乱れているのだろう。

恐らく、直葉がいるのは≪無制限中立フィールド≫。レベル1では到達することができない場所だ。

それを、ミッドナイト・フェンサーが、覆そうとシステムに抗っているのだろう。

 

恐らくこの奇跡は一度だけ。

ならば、彼の心意に応えるためにも…

 

 

「ミッドナイト・フェンサー……エンハンスト・アーマメント!」

 

彼の鎧を身にまとうコマンドを唱える。

SAOの服装であったキリトのアバター上に、彼の鎧が装着される。

細部は多少変わっているが、その姿はかつてのミッドナイト・フェンサーそのもの

 

そして…

 

【NAME:Midnight Fencer】

【LEVEL:7】

 

 

彼の名前を借りることでシステムに誤認させ、そこに≪ミッドナイト・フェンサー≫が存在すると見せかける。

一度だけの奇跡。この時だけ、俺は自分をミッドナイト・フェンサーと思い込む。

≪心意≫で名前を変えるとか、GMもお手上げだなと考えつつも、この非常事態だし、勘弁してほしい。

俺に≪あの世界≫を破壊する気なんてさらさらない。ただ、妹を救いたいだけなんだから。

 

 

「ありがとう、ミッドナイト・フェンサー。後は、任せてくれ」

 

そう呟くと、深く息を吸い、あの場へ向かうコマンドを唱える。

 

 

 

『アンリミテット・バースト!!』

 

重なるように、俺の声でいて俺の声でない響きが、同じ言葉を紡いだ――――――

 

 

 

 

 

 

「先輩!黒雪姫先輩!!!」

 

シルバー・クロウ、ハルユキは倒れ込み、自身の呼びかけに一切の反応を示さないブラック・ロータスの体を揺さぶっていた。

 

「くくくっく……ははははは!!!」

 

黄の王、イエローレディオが高笑いをあげる。

先ほど彼は、あるリプレイデータを再生していた。

 

黒の王、ブラック・ロータスが、先代赤の王、レッド・ライダーをその手にかける瞬間の映像だ。

それを見せられたブラック・ロータスは悲鳴をあげ、その場に倒れこみ、動かなくなってしまったのだ。

 

「≪零化現象≫…ロータス、あんたそこまで…」

 

スカーレット・レインの言葉に続きを問いかけようとしたハルユキの声は、別の声に掻き消された。

 

「よくも何度も汚い真似を………!!!」

 

リーファだ。怒りで体を震わしている彼女は、イエロー・レディオを睨みつける。

 

「んー?その姿…ああ、長らく姿を現してなかったから消えていたのかと思いましたよ!≪妖精≫リーフ・フェアリー。≪黒の剣士≫ミッドナイト・フェンサーが消えたのは残念でした。彼とは一度、正式な戦いをしてみたかったものですが…」

 

コイツは―――わかってて挑発してる!!

リーファの兄をこの世界から消した犯人のくせに…!!

 

「いい加減なことを…言うなぁ――――――ッ!!!」

 

そう言いながらリーファは腰の長刀を抜き放ち、空いた手を虚空に伸ばす。

 

「≪ソード・オブ・ミッドナイト≫―――!!」

 

瞬間、空から黒い雷がリーファの手に落ちた。

そして、その手には漆黒の剣。

 

「二刀…流……?」

 

ハルユキが呟いた瞬間、リーファは雄叫びをあげながらイエロー・レディオに向かって飛び出した。

それを皮切りに、周りにいたバーストリンカーたちも攻撃を始める。

 

「ちくしょうあのバカ…!!こい!強化外……」

 

「駄目です赤の王!ここであなたの武装を展開したら、機動力を失ってやられます!ここは一点突破でサンシャインシティのリーブポイントまで戻るべきだ!!ハル、キミはマスターを!!」

 

タクムの制止の声を聞いた二コは舌打ちすると。

 

「畜生…わかったよ…!」

 

そう言って走り出した。

 

 

 

 

「二刀流、ですか。かの≪グラファイト・エッジ≫を思い出しますが…あなたの相手をしている暇はないんですよ」

 

向かってくるリーファを見ながらイエロー・レディオを指を鳴らす。

その音と共に、彼の周りにいたアバターが、一斉にリーファに襲い掛かった。

一対多数、この絶望的な状況になっても、リーファの目は、ただイエロー・レディオだけを見ていた。

 

迫りくる斬撃を躱し、時には相手を盾にしてレーザー光線を防ぐ。

邪魔な障害は斬り捨て、ただただ目の前の相手へ…

 

 

「うあああ―――――ッ!!!」

 

包囲網を突破し、イエロー・レディオに肉薄したリーファは、ただ闇雲にその剣を振るった。

技もなにもない、その攻撃はあっさりと躱され―――

 

 

「ああもう、鬱陶しい!!雑魚は黙ってなさい!!」

 

兄の剣≪ソード・オブ・ミッドナイト≫を弾かれ、腹に重い衝撃を受けたと思うと、リーファの体は宙を舞っていた。

 

「が…げほっ……ッ!」

 

 

腹にくる激痛に顔をしかめる。

≪無制限中立フィールド≫で受ける攻撃による痛みは、≪通常対戦フィールド≫の約二倍だ。

 

「ち、逃がしません!≪愚者の回転木馬(シリ―・ゴー・ラウンド)≫!!」

 

イエロー・レディオが必殺技を叫ぶと、クレーターの中のシルバー・クロウ達が、膝をついているのが見えた。

黄属性は幻覚などを得意とする…。幸い。リーファは効果範囲外だったようだ。

 

――私があいつの注意を引けば…!!

 

そう思いながら立ち上がり、踏み出そうとしたリーファの目の前に、斬撃。

 

「く…っ!!」

 

必死に回避するが、攻撃はリーファの体を浅く切り裂き、彼女の体力ゲージを削った。

反撃に剣を振ろうとするが、その前に小型ミサイルが飛んでくるのが見え、空中に飛び上る。

それを狙いすましたかのように一筋のレーザーが、リーファの足を掠めた。

 

「きゃあっ!!」

 

たまらず態勢を崩した彼女の前に、格闘型アバター。

必死に剣で防ごうとするが、そんな守りをあざ笑うように突き出された拳は、リーファの体を軽々と吹き飛ばした。

 

 

 

「…ぁ……あ…ぐっ………」

 

 

体力ゲージは残り三割と言ったところ。

しかし、リーファの体はもう動かなかった。

 

 

目の前には、漆黒の剣。兄が遺した剣。

 

 

立つんだ。立って、戦うんだ。

 

私は、兄の…桐ケ谷和人の妹なんだから…!

 

そう思っても、立てない。

 

体が戦うことを拒否したかのようだ。

…ああ、これが≪零化現象≫か……

 

デュエルアバターは、本体の闘志で動く。

つまり、その闘志が萎えてしまえば、動かないのだ。

 

目の前に、十数人のアバターが歩いてくる。

…これで、終わりだ。

 

自分も、兄と同じ末路を追うのだろうか…………

 

 

 

迫りくる敵を前に、直葉は、一つの言葉を呟いた。

 

 

 

「お兄ちゃん………」

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、複数の事が起きた。

 

クレーターの内部で、それまで動きを止めていたブラック・ロータスが、その体を動かした。

イエロー・レディオの必殺技が終わるまでに、シアン・パイルという犠牲を出し、既に逃げることを諦めて交戦していたスカーレット・レインとシルバー・クロウを見て、状況を確認した後、彼らに襲い掛かっていたバーストリンカーを、一気に殲滅した。

 

 

 

そして、リーファと複数のバーストリンカーの間に、何者かが、鋭い衝撃と共に着地した。

 

 

 

 

「うそ…………」

 

その見覚えのある姿に、リーファは目を見開いた。

 

 

その体を包む、漆黒の鎧。龍の頭部を模したような、これまた漆黒の兜。

彼女の記憶と細部は違うが、そんなこと、リーファにはどうでもよかった。

 

 

彼は、その両腰に携えていた二振りのうち、漆黒の剣を抜き放つと、ぎゃりいん!とその場に突き刺した。

 

 

 

「女の子一人を、大勢で攻撃するのは、カッコ悪いなあ……」

 

その飄々とした口ぶり、その声に、彼女の目からは涙が流れおちるのを感じた。

 

 

「スグ、少しだけ待ってろ。こいつら倒して、直ぐ戻る」

 

 

「うん…!うん……!!」

 

 

加速世界から永久退場して、もう会うことはないと思っていた―――

 

 

 

「……さて、うちの妹を傷つけたお返し、あんたらのポイントで償ってもらうぜ?」

 

 

 

ミッドナイト・フェンサーが、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 




心意システム万能説

AWの心意は攻撃拡張とかたくさんあるけど、SAOの心意ってボロボロにされた花を復活させたり、不可視の刃放ったり、何でもありですよね

あ、でもレイカーさん車いす動かしてたか


あんまこんなご都合主義みたいなの使いたくないんですが…すみません



キリト君もとい強化外装≪ミッドナイト・フェンサー≫はアリシゼーションの整合騎士の鎧のような感じです。
これならリアル割れも問題ないね!!

リーファがレディオの必殺技に巻き込まれなかったのは、クレーターの外側にいたから…です
レディオの幻覚の中攻撃してた人は外側から普通に攻撃してましたし…

あ、でもあれの範囲が相手なら誰にでもって感じだったら駄目だよね
レディオの意識外にいましたしまあ…とりあえず巻き込まれなかったとしておいてください



では、また次回!



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第十四話:二人の黒

お待ちかねキリト君無双回

のはずが………?


気が付いたら放置されてるピエロの扱いに気づいた皆さんこう言ってあげてください

ピエロざまあ



ではどうぞ


「……さて、うちの妹を傷つけたお返し、あんたらのポイントで償ってもらうぜ?」

 

地面から剣≪エリュシデータ≫を抜き放つと、俺は目の前の十数人のアバターを睨みつける。

 

「俺らのポイントで…だと?恰好つけてヒーロー気取りのようだが、なめてんじゃねえぞ!そういうことはな、俺たちの誰かを倒してからに………」

 

 

「………まず一人」

 

 

何やら口うるさい奴に瞬時に近づき、斬り捨てる。

その途端、ざわめきが広がり、全員俺から距離を取ってそれぞれの得物を構える。

 

「漆黒の鎧に、漆黒の剣。おい、まさかあれって…≪黒の剣士≫ミッドナイト・フェンサーじゃないのか…?」

 

「何言ってんだ!あいつは一年前に全損したって聞いたぞ!」

 

「じゃあなんだって言うんだよ!まさか幽r……」

 

 

「…二人目」

 

 

「ぐ、こ、こいつ!!」

 

遠距離型のアバターなのだろう。こちらに向かって光線を撃ってくる。

それを上空に飛びながら回避。

目の前に着地した瞬間に剣を右下から左上に斬り上げてアバターの首部分を飛ばす。

 

「ひ…っ!」

 

返す剣でもう一体。

 

「このやろう!!」

 

背後を狙って攻撃してきたアバターを、振り向きざまに一閃する。

たちまち三つのアバターがポリゴンになって消え、残りは12人

 

視界の必殺技ゲージを見ると、二割ほど溜まっている。

 

「………」

 

姿勢を落とし、剣を右肩にのせる。

その動きをシステムが感知し、必殺技ゲージが消費された。

 

「―――――≪ソニック・リープ≫!」

 

短く、必殺技名を呟くと同時に地面を蹴る。

システムアシストの流れに逆らわぬよう、足の蹴り、体の捻り、腕の振りを加え、必殺技の威力を高める。

ミッドナイト・フェンサーのレベル1必殺技≪ソニック・リープ≫は、相手との距離を瞬時に詰めると、その体力ゲージを一瞬で消し飛ばした。

 

 

「ば、化け物だ…!!」

 

「こんちくしょおおお!!!」

 

一人が逃げだそうとし、もう一人がその鍵爪で攻撃してきた。

その手を掴み、逃げ出した奴に投げつけたあと、剣を投擲。

案の定、投げ捨てた奴が逃げた奴の背中に重なる瞬間に剣は突き刺さり、後ろの奴諸共ポリゴンとなって消えた。

 

 

―――残り9

 

 

「馬鹿め!自分から剣を捨てやがって!!」

 

勝利の雄叫びを上げながら襲い掛かってくるアバターを、左腰に吊るされていた≪ダークリパルサー≫で斬り捨てる。

そのまま敵の集団に走り込み、一気に四人、斬り捨てる。

水平の四角形を作るように斬った後、残り四人になった敵を見据える。

内三人はたじろぐが、その中の一人は、自ら前に出てきた。

 

「やるなあんた。どうだい、俺と一勝負…しようぜ!!」

 

そう言いながら向かってきたアバターは、格闘型のようだ。

 

「―――シッ!!」

 

短い吐息と共に繰り出されるのは左腕でのジャブ。

こう懐まで入り込めば剣は使われないと考えたのだろう。

拳が兜の端を掠める感覚を感じながら、右手の≪ダークリパルサー≫を地面に落とし、こちらから距離を詰める。右腕の指を綺麗に揃え、そのまま相手を貫いた。

 

「な…にぃ………」

 

ポリゴンとなる名も知らぬ相手に「ナイスファイト」と軽く声をかけ、落ちていた白剣を拾って、残り三人になった相手を見る。

三人とも、驚き、恐怖しているようだ。

それはそうだろう。いきなり現れた相手に数で勝っていたはずの自分たちが壊滅させられかけているのだから。

 

「ひ、ひえええええええ!!!」

 

 

叫び声を上げて遠ざかる三人組。

追うか迷ったが、その前に背中に感じる衝撃で動きを止める。

 

「…っ、お兄ちゃん……?」

 

「……ああ、助けに来たよ、スグ」

 

おそるおそる問いかけるリーファに、心を痛めながら答える。

今の俺は≪ミッドナイト・フェンサー≫の殻を被った偽者だ。

直葉が求めているのは、俺でなくて加速世界で消えた兄。

このことは…いずれ話さなくてはいけないだろう。

ならば…

 

 

「…スグ、聞いてくれ。俺は―――」

 

 

リーファに真実を話そうとした瞬間、辺りにすさまじい轟音が鳴り響いた。

少しところで、黄色と黒の閃光がぶつかり合っている。

 

そしてそのクレーターの内部では、銀色のアバターが巨大な外装を纏ったアバターを守りながら戦っているのが見えた。

リーファが攻撃を受けていたことから推測すると、あの二人は仲間だろう。

 

「お兄ちゃん…」

 

「…加勢しよう。スグは下の奴らの援護を頼む」

 

「む、無理だよお兄ちゃん!あれって王だよ!?やられちゃうよ!」

 

今にも泣き出しそうな声で引き止めるリーファ。

もう、俺が消えるのを見るのが嫌なのだろう。

そんな彼女の頭を撫でて、声をかける。

 

「大丈夫だ。俺は、お前の前なら負けないよ」

 

最後にポン、と頭の上に手をのせると、リーファは小さく頷いた。

それに頷くと、新たに近づいてくる集団が見えてきた。

 

 

「リーファ、飛んであの集団を越えてお前の仲間に合流するんだ。お前が飛んでる間に、あれは片づけておく」

 

「駄目……お兄ちゃん!忘れたの?私は、飛べないんだよ!?」

 

「いいや飛べる筈だ。スグ、信じるんだ。お前は飛べるって」

 

俺の言葉にコクリと頷いたリーファの体を、淡い光が包み込む。

すると、彼女の体がゆっくりと浮かび上がった。

 

「お、お兄ちゃん!私…飛んでる!!」

 

「その調子だ!そのまま行くんだ!」

 

俺の言葉に頷いたリーファは、そのまま仲間たちのところに飛んでいった。

落ちていた≪エリュシデータ≫を拾いなおすと、彼女が飛ぶのを見て呆けている連中に向かって突っ込む。

不意を付かれた相手の殲滅は割と早く終わり、そのまま走り続けた俺は、丁度弾き飛ばされた黒いアバターに止めを刺そうと振り下ろされた黄色いピエロのバトンを弾いた。

 

「な…っ!?」

 

「黒いの、加勢するぞ」

 

「何を考えてるのだ!どこの誰だか知らないが離れろ!レベル9同士の戦いに入り込むなど…」

 

黒いアバターから凛とした響きが聞こえる。

 

「その通りですよ!自分の立場もわからないバーストリンカーは、消えな…なっ!?お、お前は…」

 

その言葉に便乗するように叫んだ黄色いピエロは、俺の姿を見ると驚愕した声を上げた。

そして歯ぎしりをするような声を上げると

 

「地獄から迷い出たとでも言うのですか…!お前はあの時……」

 

「全損したはず…か?この通り、戻ってきたぜ」

 

「…!なら、お前も一緒に消すまでです!≪無意味な運命の車……≫」

 

「いかん!必殺技だ!!」

 

後ろの黒いアバターが叫ぶのを聞きながら、俺はくるであろう技に対処するために腰を浅く落とす。

 

 

 

 

しかし、その言葉は、最後まで紡がれることはなかった。

突然現れた、黒ずんだ銀色の装甲のアバターの腕に、その体を貫かれたからだ。

 

 

 

「クロム・ディザスター…!?馬鹿な…早すぎる!!まさか、渋谷に着く前に≪加速≫を開始したというのか!?」

 

 

「ユルルルルルオ………!」

 

銀色の獣は黄色いピエロを地面に投げ捨てると、こちらに…正確には俺に顔を向けた。

そして雄叫びを上げると、とんでもない速さでこちらに肉薄してきた。

 

「く…ぉ……っ!!」

 

先ほどピエロを貫いたとは逆の腕で振り下ろされた大剣を白剣で防ぐが、同時にかなりの衝撃が俺を襲った。

反応はできる速度だ。だが、重い。

アバター相手の戦闘なら負ける気はしないが、化け物相手なら別だ。

 

火花を散らす俺の剣と獣の大剣。

その拮抗は、俺が体をずらして剣を滑らせるようにして回避したことにより終わる。

重い音を立てて地面に突き刺さった大剣を確認した俺は、側面から斬りかかる。

 

しかし、その攻撃は、俺の脇腹に与えられた衝撃によって当たることはなかった。

 

「がっ…!」

 

地面を少し転がりながら距離を取り、獣を睨む。

―――尻尾だ。

今、俺は奴の尻尾で吹き飛ばされたのだ。

 

 

「ルルルルオオオオオ!!!」

 

再び叫んだ獣は相変わらず俺を狙ってくるが、それは横から入った黒によって妨害された。

 

「≪デス・バイ・ピア―シング≫!!」

 

黒いアバターの右腕がジェットエンジンじみた音響で突き出され、その刃を包んでいたヴァイオレットの輝きが膨れ、一直線に五メートル近く伸長した。

 

俺に向かって追撃する瞬間を付いた的確な一撃は、しかし超反応を見せた獣の角を一本斬り捨てただけだった。

 

「ほう…今のを躱すか…。おい、黒いの!手伝え!!」

 

「わかった!」

 

お前も黒じゃないか!という突っ込みは置いといて、黒いアバターの加勢に入る。

 

 

「ユルルルオオオオオオ!!」

 

 

獣は、俺たちの姿を見ると、大きな雄叫びを上げた。

 

 

 

 

 

「あれが…く、クロム・ディザスター………」

 

クレーターの縁でブラック・ロータスと、もう一人の黒いアバターがクロム・ディザスターと対峙するのを見て、ハルユキは恐怖に震えていた。

なんだあの化け物は。

勝てない。無理だ。

あんなのの足止めを僕がする?できるわけない。

 

気が付けば、ハルユキのアバターは地面に膝をついていた。

慌てて立ち上がろうとするが、立てない。

焦れば焦るほど、全身が凍り付いていく感覚。

まるでアバターの四肢から神経系そのものが切り離されてしまったように―――

 

「≪闘志なきバーストリンカーにデュエルアバターは動かせない≫」

 

そんなハルユキの耳に入ったのは、黒雪姫の凛とした言葉だった。

 

「…さっき私が倒れた時と同じだ。私は、二年前の裏切りを悔いて、許されない罪だと感じている。だから、己の中の闘志。勝利への闘争心を、私は心の底で深く恐れているんだ。だがハルユキ君、キミは敗北を恐れているんだ。負けることで自分の価値が下がると思い込んでる。それが最近の、キミの領土戦での不調だよ」

 

思い込んでるじゃなくて、そうなんだ!

だって、僕が負けたらあなたは、いつか僕を見限って―――

 

「ハルユキ君、先ほど、私の心を再び立ちなおさせてくれた言葉を、キミに言おう。キミと私を繋ぐ絆が……その程度だと思っているのか!!!」

 

それは、先ほど≪零化現象≫になった黒雪姫に、ハルユキが言った言葉だった。

その言葉とともに、ブラック・ロータスは、クロム・ディザスターに斬りかかっていった。

 

真っ向上段から振り下ろされた黒雪姫の一撃を、クロム・ディザスターがその大剣で防ぐ。

その衝撃に両者がノックバックしている間に、黒いアバターがクロム・ディザスターの装甲を切り裂いた。

その攻撃にディザスターが怯んだ瞬間、黒雪姫が右足の剣で攻撃を撃ち込む。

 

「ルルルル……!」

 

距離を取ったディザスターが、黒雪姫に向かって左手を開いた。

すると、黒雪姫のアバターが謎の引力に吸い込まれるように、ディザスターの左手に引き寄せられる。

 

――先輩!!

 

ハルユキが声にならない叫びを上げた瞬間、黒雪姫の後ろにいた黒いアバターが、疾風のように走り出した。

その剣には緑色のライトエフェクト。

 

―――必殺技!!

 

その剣は、クロム・ディザスターの装甲を深く抉り、明確なダメージを与えた。

その攻撃で黒雪姫を引き寄せる力もなくなったのか、自由の体になった彼女が、今度はその剣に必殺技の光を迸らせる。

先ほど躱されたものと同じ技。それは―――

 

「≪デス・バイ・ピア―シング≫!!」

 

今度は、はっきりとクロム・ディザスターの装甲を貫くのが見えた。

 

 

 

 

 

「ぐ……っ狂犬め…飼い主への恩も忘れて暴れだすとは…。皆さん、撤収です!池袋駅のリーブポイントに…っ!?」

 

ふと聞こえた声に視線を向けると、先ほどクロム・ディザスターに胸を貫かれたイエロー・レディオが、撤退命令を下しているところだった。

それを聞いたバーストリンカーが撤退しだし、続いてイエロー・レディオも逃げようとした瞬間、何かに気づいたように体を動かした。その、先ほどまでイエロー・レディオの頭があった場所に、緑の閃光が走り、彼の右腕が宙を舞うのが見えた。

 

「ぐっ…あなた……」

 

「逃がさないわよ、イエロー・レディオ…あんただけは…私が!!」

 

そこにいたのは、全身を淡い光に包んだリーファであった。

 

「あいつ…『心意』を…!?」

 

隣でそれに気づいたスカーレット・レインが驚きの声を上げる

その言葉の意味を聞こうとした瞬間、もの凄い勢いでリーファが吹き飛ばされてきた。

そのまま壁に激突するかに見えたリーファは、その場で急停止すると、力尽きたように地面に膝をついた。

 

 

「心意で攻撃してきたなら…こちらも心意技で応えるまで…!≪妖精≫リーフ・フェアリー…この腕の借りは必ず返しますからね!!」

 

「待ちなさい…っ!!……え?と、飛べない…なんで…?」

 

逃げるイエロー・レディオを追いかけようとするが、リーファは戸惑いの声をあげ、そのままイエロー・レディオは逃げてしまった。

 

「おいリーフ・フェアリー!やめとけ、今のあんたじゃ無理だ!今は休め!!」

 

「でも!アイツが目の前にいるのに!!こうして…!」

 

「いいから休めっつってんだ!!慣れない心意が使えたからって調子に乗ってんじゃねえぞ!あいつが本気を出せば、お前なんて瞬殺なんだからな!!」

 

強い口調であるが、リーファを心配するスカーレット・レインの言葉は伝わったようで、リーファはコクリと頷いた。

 

「さて…向こうもそろそろだな………」

 

そう言うとスカーレット・レインは、強化外装の主砲の照準を、クロム・ディザスターたちがいる方向に向ける。どうやら援護してくれるようだ。

 

黒い二人の連携は、まるで歯車のように噛みあっていた。

一人が防げば一人が攻撃し、その一人が攻撃を防げば一人が攻撃する。

まさに阿吽の呼吸で、二人はクロム・ディザスターを追いつめていた。

 

 

―――これなら勝てる!

 

 

ハルユキがそう確信した時、彼の近くで、衝撃が起きた。

そこまで強い衝撃ではない。巨大レーザーを撃ち、それの反動を耐えた時の微弱な衝撃だ。

 

 

「……………二コ…?」

 

ハルユキが戸惑いの声を上げる。

 

なにをやっているの?

まだあそこにはせんぱいがいるのに

 

 

真紅の光は、二人のアバターと、クロム・ディザスターを巻き込み、その場で大きな爆発を起こした。

 

 

 

 

 

「せん……ぱい…?」

 

 

 

 

 

ハルユキの、小さな呟きだけが、その場に響いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




うーん……前回と前々回に比べると変な違和感がぬぐいきれない

Q:アバター相手なら負ける気がしないならクロム・ディザスターもアバターじゃん
A:キリト君はディザスターの中がアバターだというのを知りません。ので、獣という表現に

Q:ホリゾンタル・スクエアとかエンブレイザーしてるけど必殺技じゃないの?
A:あくまで動きを模倣しただけです。キリト君無双

Q:ナイスファイトって?
A:皆ビビってたのに積極的に向かってきたから…です

Q:リーファ飛んでった後はどうしたの?
A:普通に戦ってました。ハルユキ達も忙しかったので、あ、帰ってきた。無事でよかったくらいで、彼女が飛んでたのを目撃したのはキリトに伸された奴らだけです

リーファは心意のことは知らないですけど、ピエロ本気だしたら瞬殺って言葉を聞いて踏みとどまった感じです



さて、ここからどうしようかな……


では、また次回!


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第十五話:絆

日間ランキングで少しの間ですけど1位になれました
これも全部皆さんのおかげです!
これからも皆さんに楽しんでもらえる話をのせたいと思いますので、よろしくお願いします!



今回はその名の通り絆というか…そんなん…かな

えっとね、スグちゃんヒロイン回ですよ


では、どうぞ


「二コ…なんで、なんでだよ二コ!!!」

 

体の硬直はいつの間にかおさまり、ハルユキはスカーレット・レインを睨みつける。

しかし彼女は彼の問いに答えることなく、大破した≪不動要塞≫のスラスターを動かしてクレーターの縁側まで進んでいく。

 

――このままでは最悪のことが起きるかもしれない…

 

ハルユキはその羽をはためかすと、彼女より早く縁側に飛び、その惨状を目にした。

 

クロム・ディザスター達を攻撃した主砲は、小さなクレーターを新しく作り出していた。

また、そのまま抜けたらしい砲撃は、その先の建築物までも根こそぎ倒していた。

 

そんな中、ハルユキは見覚えのある姿を見つけた。

 

「せ、先輩!!黒雪姫先輩!!」

 

夢中で抱え上げると、全身の各所から黒い破片が零れ落ちる。

ブラック・ロータスの姿は、悲惨なものだった。

四本の剣のうち、左腕と左脚の二本が半ばから砕け、その装甲にはところどころヒビが入り、無残に焼け焦げている。

 

彼女の痛ましい姿にハルユキが胸を痛めながらも、もう一人の黒いアバターはどこに行ったのだろうと辺りを見渡す。

すると、ガシャリという金属音が聞こえた。

顔を上げると、先ほどのアバターが、クロム・ディザスターに掴みあげられているのが見えた。

どちらの姿もボロボロで、クロム・ディザスターの方も赤黒い≪自己修復≫の光が包んでいるのが見える。

 

――あんな姿になってまで、戦いをもとめるのか…

 

クロム・ディザスターの執念というか、怨念のようなものに圧倒されかけながらも、ハルユキは掴みあげられているアバターを見る。

鎧はいたるところがひび割れていながらも、どこも砕けていない。

まるで、砕けるのを拒んでいるかのように。

クロム・ディザスターのフード型ヘルメットの下から、鋭い牙を生やした≪口≫が現れる。

 

―――まさか、食べる気か…!?

 

ハルユキは戦慄した。デュエルアバターを食べる?

噛まれ、体を引き裂かれるアバターにはどれほどの激痛をもたらすかなんて、ハルユキは想像したくなかった。

ディザスターの≪口≫が、黒いアバターに近づいた時、彼の腕がピクリと動いた。

 

 

衝撃音

 

 

まるで、≪口≫を≪剣≫で弾いたような音がするとともに、ディザスターの≪口≫部分がノックバックする。その際に、ディザスターの腕から離され、地面に倒れ込んだアバターに、リーファが駆け寄り、その体を担ぎながら離脱しようとした。

だが、クロム・ディザスターが怯んでいたのは少しだけだ。

足を進めたリーファの背後で、態勢を立て直したのが見える。

 

 

このままでは、二人ともあいつにやられる

黒雪姫は動けない。リーファも黒アバターを担いでいて手一杯だ。

二コは先ほどのこともあるし、まだこちらまで来ていない。

 

つまりアイツを止められるのは―――

 

 

「…僕、だけか……」

 

ごくりと生唾を飲み込む。

一瞬だけでもいいんだ。あいつに攻撃して、そのまま離脱すればいい。

黒雪姫をそっとおろし、背中のフィンを動かし、足に力を込める。

 

 

「う―――――おッ――!!」

 

己を鼓舞しながら、今出せる最大の速さで敵に突っ込む。

こちらに気づき、鍵爪を伸ばすディザスターの爪の先を、全神経を集中させて見切り、体を捻って躱す。

そしてがら空きの腹に、捻った動きに逆らわずに動き、威力を増した全力の左脚を打ち込んだ。

 

渾身の力を込めた一撃は、クロム・ディザスターを多少だが吹き飛ばすことに成功した。

 

 

そのタイミングで、スカーレット・レインがクレーターの縁から姿を現した。

 

「二コ…!お前、わかってるだろ!!君に倒されたら、先輩…ブラック・ロータスはポイントを全損してしまうんだ!なのになんで…!!僕らは…」

 

「仲間だ、とでも?」

 

ハルユキの糾弾に、赤の王は無感動な声で答えた。

絶句するハルユキに、ガシャンと大型外装を解除したスカーレット・レインが続ける。

 

「お前らの甘さには反吐がでるんだよ。仲間、友達、軍団…≪親子≫の絆?そんなもん、加速世界じゃあ信じるモノじゃねえ!…アイツを始末したら、次はお前らだ。それが嫌なら今すぐ逃げな。次に会うときは、敵同士だ」

 

寒々しい声音で告げた赤の王は、腰のハンドガンを抜き、クロム・ディザスターに向けて歩き出す。

ディザスターは、全身の損傷から血の色の光を出しながら、這いずっている。

黒雪姫たちの連携を受け、二コの攻撃も受けて、ハルユキの蹴りも受けてなお、動けるとは、驚異的な耐久力だ。しかし、それでも動きは遅く、あっという間に二コに追いつかれたディザスターは、彼女に蹴り倒され、そのハンドガンを突き付けられていた。

 

 

≪断罪の一撃≫を放つのだろう。

同じレギオンの仲間を、不本意な形で全損させる。

 

その光景を見ていられなくて、ハルユキは視線を下ろし、やがて訪れるであろう銃声を待った。

 

 

 

しかし、銃声は鳴り響くことはなく、代わりに、弱弱しい声が彼の耳に聞こえた。

 

「まっ…たく……、これだから子供は嫌い……だ…」

 

「先輩…!」

 

意識を取り戻した黒雪姫に駆け寄り、その体を抱きかかえる。

それと同時に、ぎゃりいいいん、という金属音が聞こえた。

 

慌てて視線を向けると、そこには状態を反転させて左手を振りぬいたクロム・ディザスターと、ハンドガンを弾き飛ばされたスカーレット・レインの姿だった。

そのまま回復したディザスターに喉首を掴まれる。

二コは抗うこともなく、ただぐったりとぶらさがっている。まるで、全てを諦めたように

 

「な、何で……」

 

あの状態から武器を弾かれるなんて、まるで止めを躊躇していたとしか考えられない。

先ほどハルユキ達に、あんな言葉を投げかけた彼女自身が躊躇するなんて―――

 

 

「…あの小娘はな…、あんなことを言ったが……実は、誰よりも……信じて、求めているんだよ…バーストリンカーの………最後の…絆をな…」

 

 

ハルユキの胸に渦巻く疑問に答えたのは、黒雪姫だった。

漆黒のゴーグルの中で、仄かにヴァイオレットの光を瞬かせながら静かにその言葉は続く。

 

 

「私にはわかる…。あの二人は、≪親子≫だ……赤の王は…≪チェリー・ルーク≫の≪子≫なんだよ」

 

それを聞いたハルユキの頭の中で、一つの謎が解けた。

何故、二コが現実世界のチェリー・ルークの位置がわかっていたのか。

最初はレギオンマスターとしての特権なのかと思っていたが、それは違う。

二コは、知っていたのだ。チェリー・ルークの≪リアル≫を。己にブレイン・バーストを分け与えた≪親≫として…

 

「ほら、何をしているんだクロウ…私は大丈夫だ。キミは…赤の王を…、我々の仲間を……助けにいくんだ…」

 

「先輩………はい!」

 

黒雪姫の言葉を聞いて立ち上がると、隣でリーファも立ち上がる気配を感じた。

コクリと頷きあうと、二人は一斉に、クロム・ディザスターに駆け出した。

 

 

仲間を、スカーレット・レインを助けるために―—―――

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!しっかりして!!お兄ちゃん!!」

 

 

体を揺さぶられる感覚で目を覚ます。

 

「…スグ…?俺は…っ…」

 

目の前のリーファを見て起き上がろうとするが、体に走る痛みに呻く。

確か…そうだ、あの黒いのと獣を攻撃していたら突然ピンク色の光が目の前を包んで…

 

気が付けばこんな状態だ。気を失っている時、何かをした気もするが、覚えていない。

≪ミッドナイト・フェンサー≫の鎧もボロボロだ。これがなければ、もっとひどいダメージを受けていたんじゃないだろうか?

 

 

「よかった…お兄ちゃん、大丈夫…?」

 

「…わるい、今は少し…それよりスグ、あの怪物は…?」

 

「クロム・ディザスターなら今赤の王が…っ!?」

 

状況を説明しようとしたところで金属音、その方向を見たリーファが息をのんだのが見える。

視線を向けると、赤い小さなアバターが獣―――クロム・ディザスターとやらに掴みあげられている。

 

「助けに…いかなきゃ……」

 

「お兄ちゃん、無理しちゃ駄目だよ…!………私が、行くから…」

 

「だが…あいつは…!」

 

危険だ。そう言おうとして、リーファが首を振る。

 

「お願い。行かせて?…いつまでも、お兄ちゃんに甘えてる私じゃないって…証明したいんだ」

 

その顔は、まるで全てを知っているような、悲しさを堪えた表情で…

 

「スグ…お前………」

 

「わかるよ。…だって、お兄ちゃんだよ?いつも見てるから、わかるもん…」

 

「……………ごめん、俺は…」

 

その次は、兜越しにであるが、口に指を当てられて止められた。

 

「先に言っておくね。どんな事情があっても、お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだから。だって、私の事、助けてくれたもん」

 

「……全部終わったら、ちゃんと話す」

 

「うん……じゃあ、行ってくるね」

 

リーファはそういうと立ち上がり、どこか見覚えのある銀色のアバターと頷きあうと、クロム・ディザスターに向かって走り出していった。

 

二人の攻撃を受けて赤いアバターを離したクロム・ディザスターは、超ジャンプで、≪無制限中立フィールド≫内の渋谷の町並みの中に飛んでいった。

 

リーファは銀色のアバターに捕まると、二人で空を飛んでそれを追い、赤いアバターはその銃を拾ったあとに走りながら彼らを追いかけていった。

 

そして空を飛んだ銀色のアバターを見て、ぽつりと呟いた。

 

 

「……ああ、シルバー・クロウか…………」

 

「…彼のことを知っているような口ぶりだな。桐ヶ谷和人」

 

その呟きに答えるように、凛とした声が響いた。

すうっとホバー移動をしながら近づいてきたのは、先ほどまで一緒に剣を振っていた黒いアバターだ。

 

「……さあ、誰の事かな」

 

「とぼけても無駄だぞ。先ほどの動き、VR空間で見た動きとそっくりだった」

 

「……なら、あんたは黒雪姫、か…。なんだ、姫っていうからもっと姫っぽいアバターを想像してたんだけどな…」

 

「ふん、期待に添えなくて悪かったな。…で、質問に答えろ。何故シルバー・クロウのことを知っている。返答によっては…」

 

「ここで斬る…か?」

 

険悪な雰囲気が場を包むが、別に争う気もないので、俺はため息をついて彼のことを話す。

 

「…前に対戦したことがあるだけだよ。それだけだ」

 

黒雪姫は暫く俺を睨んでいたが、俺がこれ以上話さないとわかったのか、「そうか」と呟くと、俺に突き付けていた剣を下ろした。

そこで会話は終わり、俺たちの間に沈黙が落ちる。

 

 

 

 

 

 

「………その…なんだ。レディオの攻撃の時と、クロム・ディザスターとの戦闘の時…お前に助けられたからな。礼くらいは言っておいてやる」

 

 

 

 

「………ああ、こっちも、あんたのおかげで助かったよ」

 

 

 

 

照れ臭そうにそう言った黒雪姫の言葉に、俺は苦笑しながら頷いたのだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター!無事です…っ!?…マスター、彼は…?」

 

「ああ、援軍だ。一応な」

 

「どうも、一応援軍です」

 

「は、はあ…………」

 

 

 

 

それから少し経って青のアバターがやってきたのを確認した黒雪姫は

 

「さて、では行こうか」

 

と言って、歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




タクム君メイン盾で可哀想だよね…

ライトニング・シアン・スパイクとか好きだよ

スグちゃんはGGOの時もALOからキリトいなくなったのすぐ気づいたし、今回も気づいたんじゃないかなーって
じゃあなんで今まで聞かなかったの?って…そりゃ………ええと…はい。そういうことです(ごり押し)
助けに来てくれた時は嬉しかったけどよくよく考えたら≪ミッドナイト・フェンサー≫って一刀使いだったよねとかいろいろ考えたんだよ、多分!!





…次回はディザスターに止めさして、キリト君がスグに打ち明けて災禍の鎧編はおしまいかな

では、また次回!




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第十六話:クロム・ディザスター

対クロム・ディザスターはこれで終わりです

ハルユキ君がHARUYUKI化してるかも

あ、後、ついにあの必殺技が……!!


では、どうぞ


「やめろおおおお!!」

 

数歩の助走をつけ、背中の翼をはためかせたハルユキは一筋の閃光となって、今まさに≪子≫のスカーレット・レインに噛みつこうとしているクロム・ディザスターの顔面を殴り飛ばす。

飛行能力の加速によって威力を上げた通常必殺技≪パンチ≫は、クロム・ディザスターを瓦礫の向こうに吹き飛ばしていった。

 

羽をたたんで着地し、クロム・ディザスターに向かって拳を構えるシルバー・クロウの後ろで、ディザスターの手から解放され、倒れそうになったスカーレット・レインをリーファが支える。

軽く咳き込んだ二コは、炎を宿した瞳で二人を睨む。

 

「て……てめえら、なんで……」

 

「なんでって言われても…」

 

「オレ達は仲間なんだから、助け合うのは当然だろ?二コ」

 

ニコニコ笑うリーファの言葉に続くようにそう言ったハルユキは、足元に落ちている真紅の拳銃をつま先で蹴り上げ、空中でそのバレルを掴もうとして………

 

 

「あ」

 

 

失敗した。

カツンと音を立てて落ちた拳銃を拾ったリーファが、何事もなかったかのようにスカーレット・レインの手に握らせる。その表情は「あ~あ、私知らなーい」と言っている。

赤の王はプルプルと体を震わせながら立ち上がると。

 

 

「なに人の装備でかっこつけようとしてんだオラァ!!?しかも落としてるし!もう一度言うぞ!?しかも落としてるし!!」

 

「ひいいい!!ごめんなさい!!」

 

 

案の定シルバー・クロウを怒鳴り散らした。

先ほどの威勢はどこにいったのか、シルバー・クロウはその体を必死に小さくしている。

 

 

「……たく…、まあ、何だ…あんがとよ」

 

「…二コ………」

 

「………わかってるさ。今度は、躊躇しねぇ。決めてやるよ」

 

その声は、誰に向けたものだろうか。

ハルユキ達にも、自分にも向けたものだろう。

 

視線を向けた先では、丁度クロム・ディザスターが立ち上がったところだった。

最早回復する力も残ってないのか、自己修復時の赤黒い光もほとんど消え失せ、代わりに、血のように闇色の粒がその傷口から落ちている。

 

 

「チェリー、もうやめよう。悲しくて、苦しいゲームなんて、やる必要ないよ…」

 

二コの小さな声に、クロム・ディザスターはよろよろと、降参だとでもいうように両手を上げた。

 

まさか、理性が戻ったのか?

 

ハルユキがそう考えた瞬間、何の予備動作もなしに、クロム・ディザスターの体が、猛烈なスピードで斜め上方向に舞い上がった。

ほとんど倒壊したビルの上部に捕まると、それを足場にして更に遠くに飛び上った。

 

「ひ、≪飛行アビリティ≫!?」

 

「違う、≪長距離ジャンプ≫だ!…間違いねぇ…あいつ、サンシャインシティの離脱ポイントからログアウトする気だ。ここで逃がしたら…もう次のチャンスは…」

 

「なら、二コが追いつくまで、クロム・ディザスターは、オレが食い止める」

 

悔しそうに呟く赤の王の正面に立つと、ハルユキは力強く言った。

それを聞いた二コの顔が跳ね上がる。

 

「馬鹿か!?傷を負ってもあの動きができんだぞ!?一人だったら絶対食われる!!」

 

「一人なら…ね。じゃあ、私もいれて二人だね」

 

二コの言葉にそう答えたリーファはハルユキの隣に立って二コを見つめる。

 

「お前ら………っ、いいか。絶対無理すんじゃねえぞ。あたしが着いた時に二人とも食われてました、じゃシャレになんねえんだからな」

 

「わかってるって!!」

 

二コの言葉に頷いたシルバー・クロウはリーファを抱えるとその羽をはためかせて、上空に浮かび上がり、クロム・ディザスターを追いかけた。

 

 

 

 

「……たくっ、まだまだレベルが低いひよっこのくせに…」

 

悪態をつくその声は、嬉しそうで、穏やかだった。

 

「頼んだぜ、二人とも!」

 

そう言ったスカーレット・レインは、二人の無事を祈って一人、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「いた!あそこ!!」

 

リーファの言葉に視線を向けると、ビルの間をかなりのスピードで跳躍する鈍い輝きが見えた

その先に青白い光に満たされたエントランスが見えた。恐らくあれが≪離脱ポイント≫だろう。

あそこにクロム・ディザスターを到達させてしまえば、この作戦は失敗となり、奴を討伐するチャンスがほぼ無くなってしまう。

 

 

「オッケー…私が最初に突っ込む。クロウはその後をお願いね。波状攻撃でまずはあいつを落とそう」

 

「わかった。リーファ、気を付けてね」

 

「そっちもね!」と叫んだリーファはシルバー・クロウの体を蹴って反動をつけ、更に加速して急降下する。

リーファの蹴りで多少ふらついたが、ハルユキも攻撃の態勢に入る。羽の加速を応用した急降下キックだ。

 

まず、最初に突っ込んだリーファがその長刀を振るう。

しかし、あろうことかディザスターは急激に軌道を変え、その一撃を回避した。

驚くのは一瞬。しかし、リーファが作ってくれた隙を逃すわけにはいかない。

 

―――たとえ軌道を変えることができても!!

 

変えた瞬間に変えることは不可能だろう。

 

 

「でやあああああ!!!」

 

 

雄叫びと共に繰り出された蹴りはクロム・ディザスターの背中に命中し、そのまま地面に激突する。

羽で制動をかけて着地したハルユキは、駆け寄ってきたリーファを確認した後、衝撃でできた小さなクレーターからでてくるクロム・ディザスターを睨みつける。

 

「ルルルル……」

 

明らかに弱っている声をだしたクロム・ディザスターは、その手をハルユキに向けた。

先ほどブラック・ロータスが受けた技と同じだ。

引っ張られないように抵抗するが、その抵抗虚しく、徐々に引きずられていくハルユキの目に、ごくごく細い赤い線が見えた。あれは…ワイヤーだ。

先ほどの急激な方向転換も、ブラック・ロータスを吸い寄せたあれも、これを使ったんだ。

シルバー・クロウの手刀では切れない。なら―――

 

 

「リーファ!ワイヤーだ!!オレとコイツの間を、どこでもいいから斬れ!!」

 

 

「了解!」と答えたパートナーは、何の疑いもなく自分とディザスターの間を斬る。

その瞬間、体が自由になる感覚。

 

引っ張り合う力が急に無くなったことでお互いに一瞬バランスを崩すが、シルバー・クロウの羽を動かすことでそれを無理矢理カバーし、後ろによろめいたハルユキの体を、相手より早く立て直させる。

 

「でりゃああああ!!」

 

ダッと走り込んだシルバー・クロウのパンチがクロム・ディザスターに入る。

しかし、相手もクロムの名を持つメタルカラー。

多少の物理防御力はあるようで、大して怯まずにその鍵爪をハルユキに振り下ろす。

ハルユキ一人なら、ここでやられていただろう。

 

「やあああっ!!」

 

 

金属音。

 

 

その鍵爪はリーファの長刀に受け止められる。

それを信じていたハルユキは、既に次の攻撃の態勢に入っていた。

 

 

両腕は目の前でクロス。

 

必殺技ゲージが消費され、シルバー・クロウの頭部に、光が集まる。

 

後は、両腕を開き、その言葉を叫ぶだけ。

 

 

 

「≪へッド―――――バァ――――――ット!!!≫」

 

 

 

シルバー・クロウレベル1必殺技≪ヘッドバット≫

射程距離も短いうえに、溜めも長く、隙が多いその技は物理/打撃とエネルギー/光の属性を持っている。

よって、物理に強いメタルカラー相手にも、エネルギーの部分は通るため、申し分ないダメージを与えるのだ。

 

ガツン、なんて生易しいほどといえる音を立てて命中したその頭突きは、クロム・ディザスターを再び地面に跪かせた。

 

 

 

「…うわ………痛そう…」

 

 

そう、思わずリーファに言わせるくらいの音を出していたんだろう。

しかし、まだ戦闘中だ。少し距離を取って様子を見る。

 

すると、クロム・ディザスターの≪口≫から丸いピンク色の色彩を持つ、シンプルなデザインのマスクが現れた。横長の楕円形の眼がおぼろげに瞬き、口元から小さな声が漏れた。

あどけなさの残る、小さな男の子の声。

 

「……ぼくは…強くなりたい…それだけなんだ……」

 

ハルユキは思わず息を呑む。

ディザスターから出てきた≪チェリー・ルーク≫は、ハルユキだけを見ている。

 

 

「君なら、わかってくれるよね…?君も、力が欲しいんだろ…!!」

 

そう言ったクロム・ディザスターの体が、シルバー・クロウに向かって飛び出す。

間に入ったリーファを吹き飛ばし、そのままハルユキに組み付く。

 

 

「力が……欲しいだって…?強く…なりたいだって…?」

 

 

クロム・ディザスターの力に腕の関節が悲鳴を上げる。

背中の羽を動かし、空に逃げれば、簡単に対処できるだろう。

しかし、今のハルユキにその考えは浮かばない。

ただ、チェリー・ルークの言葉に、圧倒的な怒りを感じていた。

 

「そんなんで…そんな理由で…許されるのかよ……!!」

 

怒りと共に頭突きを≪口≫から出ていたチェリー・ルークの顔面にぶつける。

ピシッと、シルバー・クロウのメットにヒビが入ったが、気にしてなんかいられない。

本体が攻撃を受けたからか怯んだクロム・ディザスターに、全力の右ストレート。

 

「その鎧を着て、大勢のアバターを襲って!!自分の子である二コを食おうとしたことが、正当化されるっていうのかよ!!」

 

続いて左脚、手刀、裏拳、膝蹴り、回し蹴り。

怒りのままに、ハルユキは言葉を紡ぎながらラッシュを続ける。

 

 

「お前だけじゃない!!」

 

右腕が度重なる≪鎧≫との打ち合いに耐え切れなくなり、嫌な音を立てながら砕ける。

 

「二コだって、先輩だって、リーファだって………!!」

 

左脚が、砕けた。

羽を動かして体を支える。

 

「タクや、他のバーストリンカーだって…チユや、学校の奴らだって、先生だって思ってるんだ!!強くなりたい強く生きたい…辛いものに、自分の力で立ち向かえるようにって……!!!」

 

 

「皆、みんな……!!」

 

 

 

 

「皆、誰だってそう思ってるんだあああああ――――ッ!!!」

 

 

叫びと共に放った左の拳は、クロム・ディザスターの体を吹き飛ばした。

 

クロム・ディザスターは、数回地面でバウンドし、ついに、起き上がることはなかった―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったなシルバー・クロウ。後は…任せてくれ」

 

体中の力と意思を使い切り、その場にへたり込んでいたハルユキに、二コの声がかけられた。

 

そのまま赤の王、スカーレット・レインは、チェリー・ルークのいるところに歩いて行った。

あの後、ハルユキの攻撃を受け、動かなくなったクロム・ディザスターの≪鎧≫は、まるで闇に解けるようにして消えたのだ。

そこに残ったのはチェリーピンクの、小柄なアバター。

クロム・ディザスターに乗っ取られ、殺戮を繰り返していたチェリー・ルークだった。

 

 

スカーレット・レインは、チェリー・ルークを抱え、抱き寄せると、いくつかの会話をしていた。

 

その内容はハルユキが知っていいものでもないし、盗み聞きなんてもってのほかだ。

会話が終わると、スカーレット・レインはチェリー・ルークの体をもう一度強く抱きしめ、その胸に銃口が押し当てられた。

≪断罪の一撃≫が、チェリー・ルークの胸を貫くと、少年のアバターが無数のリボンのようにばらりと分解し、仮想世界の空に解けていった。

 

 

周りに沈黙が落ちる中、二コが、ぽつりと言った。

 

「あたしとあいつは、親を知らねえんだ。」

 

「え…?」

 

「前に言ったろ?あたしんとこの学校は全学寮制だって。あたしたちはさ、孤児なんだよ。…で、あたしはこんな性格だから周りと馴染めなくてさ、いつもVRゲームばかりしてた。そんな中、話しかけてくれたのが、あいつだったんだ。面白いゲームがあるから、やらない?って」

 

ニコは、ははっと笑うと、言葉をつづける。

 

「あたしがバーストリンカーになったばかりはさ、あいつが色々教えてくれてたんだ。時には盾になってくれたり、一緒にバカやってたりした。でも…レベルが追い付いて、気が付いたら王になってて…あたしは、自分のことで手いっぱいで…あいつが悩んでたことも、気づいてやれなかった」

 

ニコは肩を震わせ、細い声を絞り出しながら話す。

 

「あいつは、あたしの≪親≫でいたかったんだ…。あたしが、一言…レベルなんか関係ない、あんたはずっとあたしの≪親≫なんだって言ってやれば……!≪災禍の鎧≫になんて誘惑に…!」

 

そのまま背中を丸めて嗚咽を続けるニコに、ハルユキは体を引きずりながら近づき、ニコの肩に手を置いた。

 

「ニコ、確かにブレイン・バーストはただのゲームじゃないけど、それは僕らの現実のすべてじゃない。ニコは、現実の彼を知っている。できるはずだよ。もう一度友達になれることくらい。だってそうだろ?違うレギオン同士の僕たちだって、こうして友達になれたんだから…」

 

その言葉を聞いたニコは右腕でアバターの眼を拭う。

そしてハルユキの手をはねのけると

 

「友達だぁ?んなもん百年はえーよ!特にお前とはな!人の武器落としやがって、何様のつもりだ!手下だ手下!そこから上がってこい!」

 

「ねえ、ニコちゃん、じゃあ私は?」

 

「お前かぁ…?んー…そうだな、お前なら友達だろ、武器ちゃんと返してくれたし」

 

「やった!」

 

そんなばかな!!?

武器を落としただけで手下と友達の差がつくのか…!!

 

「おい、誰が誰の手下だと?」

 

がっくりと膝をついたハルユキの後ろで、冷たく響いた声が聞こえる。

振り向くと、そこにはボロボロのブラック・ロータスと、青いアバター、タクムのシアン・パイルに、例の黒いアバターが歩いてきていた。

 

「先輩!タク!!」

 

ハルユキは叫びながら二人の名前を呼ぶ。

しかしなぜタクムが…と考えたところで、≪無制限中立フィールド≫で死亡したアバターは、一時間後に元の場所で生き返ることを思い出した。

 

「お兄ちゃ~~ん!!」

 

「うおっ!り、リーファ!くっつくなって!!」

 

そうか、あの黒いアバターはリーファの兄だったのか。

なら、安心だな。

 

「………………んん!?」

 

「ハルユキ君、ボロボロじゃないか…よく頑張ったな…と言ってやりたいが無茶しすぎだ!」

 

「え、あ…あはは……」

 

なんか、大事なことに気付いた気がするが、黒雪姫に話しかけられてその内容を忘れてしまった。

ハルユキの苦笑いに「まったく…」と呟いた黒雪姫は、赤の王のところに移動すると、剣の先で彼女を軽く小突いた。

 

「おい、何か言うことがあるんじゃないか?何か、私に、言うことが、あるんじゃないのか?」

 

ゲシゲシと小突かれた赤の王はスクッと立ち上がり、黒雪姫を見上げると。

 

 

 

「乙」

 

「≪デス・バイ・ピア―シング≫!!」

 

なんてことを言い、黒雪姫の怒りの一撃が放たれたが、ニコのほうはそれをひらりと躱し、タクムに近づくと

 

「シアン・パイル、ナイスファイトだったぜ。今日からお前はハカセって呼んでやるからそのつもりでな」

 

「ぐふっ……あ、ありがとう……」

 

と言い、タクムも精神的なダメージを受けながらもその言葉に頷いていた。

彼女ななりの感謝の仕方…なのだろう。そう信じたい。

 

 

 

 

 

 

「さて、これにて一件落着だが……皆、ストレージを開いてくれ。そこに≪災禍の鎧≫があったら、絶対に消すんだ。いいな」

 

黒雪姫の言葉に全員ストレージを展開し、中を確認する。

ハルユキもジッとストレージを見つめ、≪災禍の鎧≫の文字がないことを確認すると、コクリと頷いた。

 

消えたのだ。≪災禍の鎧≫は、今度こそ。

 

 

「うし、ミッション・コンプリートだな。帰ってシャンパンあげよーぜ。あ、お前はジュースで良いだろ、コーラとか」

 

「お前はまだ子供だろうが、馬鹿者。ちょうど赤いしトマトジュースでも飲んでたらどうだ?」

 

またもや言い合いを続ける王二人の次に、仲良く歩いていくリーファとその兄。

その後ろを、タクムと苦笑しながら歩いていたとき―――声ならぬ声が聞こえた気がした。

 

 

「………え…?」

 

「…?どうしたの、ハル」

 

「…いや、何でもない、それより疲れたな…早く帰って飯食べたいぜ」

 

「ハル、僕らがダイブする前にケーキを食べたの、忘れたの?」

 

「そういえばそうだった……!!」

 

他愛ない会話をタクムと交わしながら、帰る。

 

……気のせい、だよな

 

もう一度後ろを振り向き、視線を前に戻した時、自分と同じ方向を向いていたリーファの兄と、目があった。

彼はそのまま、お疲れ、とでもいうように手をあげたので、こちらも手をあげて返す。

 

しかし、ログアウトするためのポータルに乗った瞬間、もう一度、あの声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――喰イタイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じタイミングで、ミッドナイト・フェンサーことキリトの耳には、ある言葉が聞こえていた。

 

 

―――――――――――――次コソ、喰ウ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




最初は空振り、次はミサイルで不発だったヘッドバット先生がついに活躍しましたね

もっと活躍させてあげてもいいじゃない!!

いや、だからサーベラスとの戦いでジョーカーになるんだけどさ…

ハルユキ君の一人称がオレになるのは仕様なのであしからず
原作でもそう言ってるし、大丈夫かと思いますが一応…ね


では、また次回!!


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第十七話:兄と妹

はい、とりあえず…文章が読みづらい可能性が…




では、どうぞ


「…………それじゃあ、聞かせて」

 

夕食を終え、お風呂にも入り、後は寝るだけ、という時に、パジャマ姿の直葉が部屋に入ってきた。

ついに、俺自身のことを話すという緊張感や、信じてもらえるのだろうかという不安感よりも、今、俺の心には、直葉に、申し訳ないという気持ちで一杯だった。

 

彼女の兄を、事故のようなものとはいえこの世から消してしまい、また彼の名前を名乗って彼女を助けに来たことも。

 

 

「…………………」

 

「黙ってたら、わからないよ」

 

口を噤む俺に、直葉は真剣な表情でこちらを見る。

…向こうは、俺の言うことをちゃんと聞こうとしている。

向き合って、話しあおうとしている。

 

 

―――俺は……彼女に、全てを話すことに決めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………つまり、お兄ちゃんは本当は別の世界のお兄ちゃんで、ええと…STL?の事故でこっちの世界に飛ばされちゃって…私の世界のお兄ちゃんに憑りついちゃった…ってことでいいの?」

 

 

「……簡単に言えばそうなる…」

 

 

話を聞いた直葉の言葉に、和人は力なく頷いた。

その姿はまるで、死刑を待っている死刑囚のような姿だ。

 

彼の話は、ただの夢物語と言う方が簡単だ。

平行世界?そんなの、信じられるわけない。

 

普通の人なら、勿論直葉でもそう考えるだろう。

しかし、生まれてからずっと一緒に暮らしてきた兄に関しては、話していることが嘘か本当かくらいわかると自負している。

今回は本当のことを言っていると、彼女は思う。

 

「ええと…ここにいるお兄ちゃんは、私のお兄ちゃんじゃないんだよね?その、お兄ちゃんがいた世界では、私はどうしてたの…?」

 

「変わらないよ。スグは俺の妹だったし…こうして隠し事をしたらすぐにばれてた」

 

「………そっか」

 

再び沈黙が落ちる。

先にそれを破ったのは、和人だった。

 

 

「スグを助けに行く時、この体の本当の持ち主…スグの兄と、話したんだ。自分は助けに行けないから、スグを頼むって、言われた。……身勝手かもしれないけど、俺は……彼の願いに答えたいんだ。だから、その…これからも、スグと一緒にいたい。…駄目、かな」

 

「……………そんなの、断れるわけないよ。……でもね、お兄ちゃん。一つだけ、条件があるの」

 

「ああ、何でも聞くよ。スグの言うことなら」

 

「じゃあ言うね。……私を守るとか、そんなんじゃなくて、普通に…兄妹として、今までのように接してほしいの。お兄ちゃんが、本当のお兄ちゃんじゃないとか、関係ない。だって、お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん」

 

「でも、俺は…」

 

「はっきり言うと私だって悲しいよ?今まで一緒にいたお兄ちゃんが、同じお兄ちゃんでも変わっちゃうんだもん。でもね、お兄ちゃんは私より辛いんだよね。あっちの私や、友達に会えないだけじゃなくて、全然知らない場所に来ちゃってるんだから…」

 

そう言うと直葉は和人の手を取り、両手で包み込む。

 

「前にも言ったよね。誰もお兄ちゃんの手を掴まないなら、私が代わりに掴むよって」

 

「スグ………」

 

「だから、私のお兄ちゃんでいてください。お願いします」

 

 

「…っ…ああっ……!」

 

 

和人は、その顔をくしゃくしゃにしながら、直葉の言葉に頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、お兄ちゃんは…ブレイン・バーストを手に入れたんだよね?どうやって手に入れたの?」

 

色々泣いて、落ち着いたあと、直葉はそう、俺に問いかけてきた。

 

「…あ、ええと……茅場晶彦っているだろ?二十年前にSAO事件起こした奴。…あいつの精神体みたいなのに会って、もらった」

 

「………………なんか、お兄ちゃんの話のスケールが大きくなってく気がするよ…」

 

困ったように顔をしかめる直葉。

本当のことなので、他に説明のしようもないのだ。

 

 

「…?そういえばさ。お兄ちゃん、元いた世界ではブレイン・バーストとか、なかったんだよね?なのに、私を助けに来てくれた時は、ポイントとか、色々知ってたよね?そこら辺は…どうしたの?」

 

ぐっ…また答えに困る質問を…

 

「その…ブレイン・バーストをインストールした時にさ、急に暗い場所に落ちたと思ったら、≪ミッドナイト・フェンサー≫の鎧があったんだ。それに触ったら、色々とこの世界のこととか、加速世界のことも頭に入ってきて…」

 

 

できるだけありのままのことを話すが、今回の直葉は難しい顔をしながら考え込んでいる。

やがて、「もしかしたら、なんだけど」と言うと、とんでもないことを言いだした。

 

 

「………私のお兄ちゃん、その鎧になっちゃったんじゃないの?」

 

「…はい?」

 

「だ、だって、今まで知らなかったことが、その鎧に触ったらわかったんでしょ?ええと…お兄ちゃん達は、その…フラクトライト?がほとんど一緒なんだよね?それで、記憶の共有化みたいなのが起きたんじゃないのかな~…なんて」

 

…その考えにも一理あるな…

というか、ここまで非科学的な現象が多いとどうしようもない…

 

 

「………あ~!!もう!頭がこんがらがるよ!!」

 

直葉は「うにゃ-!」とひとしきり叫んだあと立ち上がり

 

「私、もう寝る!お兄ちゃん!また明日ね!!」

 

といって、自分の部屋に戻っていった。

 

 

「…また、明日…か」

 

直葉の言葉に、自然と笑みがこぼれる。

全て話して、少し楽になったようだ。今日はきっと、良い夢を見ることができるだろう

 

欠伸をした俺は、そのままベッドに入ると、眠りについた。

 

ニューロリンカーのグローバル接続は、切れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、俺は夢を見た

 

いや、悪夢と言った方が良いだろう

 

 

 

目の前で、大切な人が消えていく夢だ。

 

サチが、黒猫団の皆が、俺の手の届かないところでポリゴンの粒子となって消えていく。

彼女たちが消えると、次はクラインや、エギル。リズにシリカ、アルゴなど、SAOで知り合った、たくさんの仲間が現れた。

こちらに手を伸ばす皆に、歩み寄った時、上からスカルリーパーが現れて、クラインをポリゴンの粒子に変えた。

 

 

やめろ……

 

 

叫ぼうにも、声がでない。

スカルリーパーは俺以外の全員をポリゴンの粒子に変え、こちらに視線を向けてきた。

今、奴の鎌が俺を捉えようとした時、その体が震え、皆と同じように爆散した。

 

アスナが、ユイが駆け寄ってくる。

二人を抱きしめようと両手を伸ばした瞬間、白い、ALOのグランドクエストで戦った白い騎士の大群が、二人を飲み込んだ。

助けようと手を伸ばすが、体が動かない。

 

やがて大群が姿を消すと、その場にはアスナのレイピアと、ボロボロになったユイの服。それに、ALOで出会った皆の武器や、道具がボロボロになって落ちていた。

 

…その中には、勿論リーファの剣も

 

 

呆然としていると、今度は砂漠の真ん中に立っていた。

ここは…GGOの決勝…デス・ガンと戦った場所だ。

気が付くと、目の前でシノンが倒れていた。

相変わらず体は動かない。

 

 

 

呼びかけようにも、声がでない

 

そうこうしているうちに、目の前の景色が歪み、デス・ガンが現れた。

彼は倒れているシノンの前に立つと、十字を切り、手に持っていたハンドガンで、シノンを撃った。

 

攻撃を受けたシノンは苦しむように悶え、やがて動かなくなった。

 

 

 

再度場面が変わる。

忘れようにも忘れられない。ここはセントラル・カセドラルの頂最上階…

俺が、大切な友人を失った場所だ…

 

巨大蜘蛛のシャーロットや、カーディナルが、物言わぬ体となって倒れている。

それだけではない。あの世界で心を通わしたロニエやティーゼ、ソルティリーナ先輩達、ノーランガルス帝立修剣学院の人たちも同じように倒れていた。

 

さらに視線を向けると、ルーリッドの村の人たちも見えた。

その中の一人…セルカを見つけた俺は彼女に駆け寄った。

その小さな体をゆすっても、何も反応はない。

 

 

---気配を感じて振り返る。

 

そこにいたのはアドミニストレータ。

そして、彼女は今まさにその長剣で、若草色の髪を持つ親友と、金髪の女性騎士を斬り裂いていた。

 

すべてがゆっくりに見えた。

ユージオと、アリスの体が地面に倒れる。

アドミニストレータが高笑いを上げている。

 

 

俺は、それをただ見ているだけだった。

 

 

俺は、誰も助けることができないのか。

 

どんな時も、≪俺≫には、誰も助けられないのか

 

 

 

…≪キリト≫なら、≪黒の剣士キリト≫なら、きっと……

 

 

 

 

そして目の前が真っ暗になった。

 

消えゆく意識の中、聞き覚えのあるような、声が聞こえた。

 

 

『—―――それが、君の望みか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえずスグちゃんが天使だって思ってもらえればいいです


キリト君のアバターの能力を作るに至ってのこの悪夢です
四つ分の悪夢を見させたのが能力のヒントですかね


次回からは、皆さんに楽しめる内容のものを書いていきますので、またよろしくお願いします


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幕間
第十八話:黒の剣士、再誕


前回は色々とすみませんでした

心機一転、頑張ります


今回はキリト君のアバターの説明回です


「………はっ!!」

 

ガバッと起き上がる。

全身から汗が出ていて、服もびっしょりだ。

激しくなっている動悸を抑えながら、夢の内容を思い出そうとするが、よく思い出せない。

 

前にも、こんな夢を見たことある気がして、そういえばと思い出した。

 

 

「俺のアバターが作られた時か」

 

正確には≪ミッドナイト・フェンサー≫のアバターである。

直葉の言う通り記憶の共有化のような現象が起きているのなら色々と好都合だ。

加速世界のルールも色々と理解することができた。

レベル10…それになれば、あの時茅場が言っていた真理とやらにたどり着けるのだろうか。

 

 

まずはともあれ

 

 

「バースト・リンク」

 

 

加速コマンドを唱え、辺りが真っ青な世界、≪初期加速空間≫に入り込む。

俺のローカルアバターは、SAOのコートに、剣が無い姿だ。

 

一時期は消えて、再びこうして復活しているブレイン・バーストのアイコンをクリック。

マッチングリストを開く前に、自分のステータス画面を開いた。

 

【NAME:Kirito】

【LEVEL:1】

 

そしてそれなりの量のバーストポイントに、レベルアップ可のボタンがチカチカと点滅している。

そのことに不思議に思うが、そうか、と思い出す。

前回ダイブした時、かなりの量の集団を屠ったじゃないか。

レベルの表示と名前は誤魔化してたけど、やっぱりシステムの修正が入ったのかなんとやら。

とっととレベルを上げようとレベルを上げ、このアバターのレベルアップボーナスは何かなと思っていると、レベルアップによるステータスの上昇が確認されただけで、それ以外は何も起きなかった。

 

 

「……はぁ!?」

 

 

 

現在レベル2。

バーストポイントもまだ余裕はあるので、一先ず安心のため息。

普通ならボーナス選択画面がでてもいいはずなのだが…

ミッドナイト・フェンサーの時もボーナス選択画面がでて、それの選択に一日悩んだというのに…

 

 

 

「…なんだかなぁ……」

 

そう呟きながらステータス画面をもう少し潜っていくと、アビリティの欄に入った。

 

 

仮想体変化(アバターチェンジ)

 

そんなアビリティの下に【現在のアバターは”黒の剣士”です】と書かれている。

黒の剣士の部分が光っているので、そこをタッチすると、ピッという音と共に黒の剣士の部分が”黒の妖精”に変化した。

 

「……………まさか…」

 

もう一度タッチすると、黒の妖精が”黒の銃剣士”に。

続けて押すと、”夜空の剣士”。

その下には※マークで、【現在は使用できません】の文字。

 

夜空の文字に心がチクリと痛むが、俺の予想が正しければ…と、設定を”黒の銃剣士”に変える。

これで恐らく戦闘に入れば、証明されるだろう。

 

…うん、凄く変わるだろうし

 

 

「バーストアウト」

 

 

それだけ済ませると、俺は加速状態から抜け出した。

部屋から出ると、丁度欠伸をしながら出てくる直葉と目が合う。

 

「よ、よおスグ」

 

ややどもりながら挨拶すると

 

「ふぁ~…おふぁよぉ…おにいひゃん」

 

なんて、いつもの感じで返事を返してきた。

……なんだ。俺が勝手に距離を置いてただけじゃないか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を食べ、二人で家を出る。

いつも通り、他愛ない話をしたあとに。

 

 

 

「…そろそろ始めるか」

 

 

 

加速を開始して、マッチングリストを開く。

先ほど気になったアビリティのチェックもかねて、誰かに対戦を挑むことにしたのだ。

隣の直葉でもいいのだが、早速だから他のリンカーとも戦ってみたい。

 

やや検索待ちの表示の後、一番上に現れた名前をタッチして対戦を申し込む。

相手の名前は…≪アッシュ・ローラー≫か

 

周りが対戦ステージに変わる。

両者の体力バーが伸び、1800のカウントが表示される。

 

場所は【≪世紀末≫ステージ】

 

観客席を見ると、≪アッシュ・ローラー≫のギャラリーが、そして、行きにアバターができたことを話してギャラリーに登録していたリーファが座っていた。

観客アバターたちは、俺の姿と、その名前にザワザワとざわついている。

まあ、≪ヒューマンアバター≫だしな。…この姿もだろうけど

 

 

すると、バイクの音が聞こえてきた。

音のした方向を見ると、重々しいバイクにのった骸骨ライダーが現れた。

…ふむ、あのバイク…いいな。俺が乗っていたのとはまた色々と違うが、是非乗ってみたいものだ。

…この世界の対戦ステージにバギーとかないのかな…

 

「来たぜ来たぜ≪世紀末≫ステージイイイイ!!この≪アッシュ・ローラー≫様レベル4初対戦の場には相応しいステージだぜヒャッハアアアア!!」

 

アッシュ・ローラーはなんかもう、凄いテンションで喚き散らしている。

 

「それでそれでぇ?記念すべき犠牲者わァアアア………あ?」

 

「は、はは…お手柔らかに…」

 

苦笑いしながら声を出すと、案の定、いつもの声よりも高い声。

視線を動かして大きなガラスを見つけ、自分の姿を見た俺は、更に顔をひきつらせた。

 

肩甲骨辺りまでなめらかに流れる黒髪。

黒色に近い迷彩柄の防弾アーマーにコンバットブーツ。

そして両腰には懐かしの≪FN・ファイブセブン≫に、こないだレプリカまで手に入れた光剣≪フォトンソード(カゲミツG4)≫

完全にGGOの服装であった。

これではっきりした。このアバター【Kirito】は、SAO、ALO、GGOにあともう一つのアバター…アンダーワールドでの俺に姿を変えることができる。

そんなとんでもスキルがあるのだから、レベルアップボーナスが少ないというのも納得だ。

 

 

「ね、姉ちゃん…それ、あんたのアバター?ま、マジリアリー?」

 

「マジリアリー…。実はずっと内輪でしか対戦したことなくてさ。あんたがグローバルネットでの初対戦者なんだ。よろしくね」

 

恐る恐る聞いてくるアッシュ・ローラーに頷くと、彼はプルプルと体を震わせて。

 

 

「ヒャッハァアア!!!なら、この俺様がグローバル対戦での恐ろしさって奴をたっぷり教えてやるぜぇええ!!」

 

なんて叫びながら、バイクで突っ込んできた。

≪ファイブセブン≫をホルスターから抜き、構える。

GGOで出たようなサークルは出てこないため、完全に腕の見せ所だ。

向かってくるライダーに狙いを定め…引き金を引く。

 

「…げ」

 

銃弾は見事に外れ、虚空の彼方に消えていく。

 

 

「ヒャッハアアアアアアアアア!!」

 

「うわあああっ!?」

 

バイクをギリギリで回避すると、アッシュ・ローラーは少し先で止まり、再び突進してきた。

銃は使い物にならん!後で練習しようと心に決めた俺は、≪ファイブセブン≫をホルスターに戻し、右腰の≪カゲミツ≫を抜き放つ。

 

ブウウウンと音を立てながらその刃を出現させたカゲミツを構えて、自分からバイクに突っ込む。

 

 

 

交錯

 

 

 

「…………ま、マジで?」

 

そう呟くアッシュ・ローラーは、バイクに乗った態勢のままで地面に足を付ける。

バイクの方はというと、ハンドル部分を切り裂かれ、アッシュ・ローラーを置いていきながら壁に激突。爆発と共に炎上していた。

 

 

「マジで」

 

こちらを向いたアッシュ・ローラーに、にこりと微笑むと、俺はカゲミツを振り下ろしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………お兄ちゃん」

 

「…言うなスグ…俺もあんなアバターになるとは思ってなかったんだ…」

 

憐みのまなざしを向けてくる直葉に手をあげて弁解を図る。

直葉ははぁ…とため息をつくと。

 

「でも、お兄ちゃん凄いよね。あんな動きができるなんて…」

 

「まあ…な。スグさえよければ、特訓つけてやるよ」

 

「ほんと?じゃあ約束だよ!!」

 

そんな話をしながら、俺たちは学校へ向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

「シィイット!シィィイット!!ギガシイイット!!」

 

「うわああああ!!!」

 

喚き声とともに聞こえる爆音が、ハルユキに迫る。

そのあまりにも恐ろしい出来事に、ハルユキは思わず飛び上がっていた。

 

 

「もらったぜぇえヒャッハアアアアアアアアアアア!!」

 

「うぎゃああああ!!」

 

しかし、飛んで助かったと思ったハルユキに、バイクが襲い掛かった。

バイクの直撃を受けて、シルバー・クロウは地面に墜落した。

 

 

バイクが壁を走るなんてやっぱりおかしいだろぉ!!

 

 

というか、ただ壁に追い詰められたシルバー・クロウが上空に退避した途端、≪壁面走行能力≫で突っ込んできたアッシュ・ローラーの攻撃を受けただけなのだが。

 

 

現在、ハルユキことシルバー・クロウは、アッシュ・ローラーと対戦していた。

この二人の戦いは、誰が名付けたかアシュクロ戦と呼ばれていて、密かなブームになりつつあるのだ。

 

今回もそんなこんなで、学校の登校時間に対戦を始めたハルユキだったが、今日のアッシュ・ローラーは、違った。

なんか、いつもよりも荒々しく、とても、イライラしていた。

 

理由を聞くと、レベル4になった初対戦で、ヒューマンアバターのバーストリンカーにボコボコにされたとかなんとか。

ヒューマンアバターといえばリーファが考え付くが、相手のレベルも2で、全体的に黒かったらしい。

 

 

「だからって何で僕に当たるんですかぁあああ!?」

 

「やかましいい!!とっとと俺様のバイクの餌食になりやがれえええ!!!」

 

 

その日の対戦は、バイクに飛ばされたシルバー・クロウが、偶然アッシュ・ローラーの服を掴んでいたらしく、二人仲良く壁に激突。

これがチャンスとばかりにアッシュ・ローラーをタコ殴りにしていたシルバー・クロウは、主のいないまま突っ込んでくるバイクに気づかず、激突し、二人仲良くバイクの爆発ダメージで体力ゲージが吹き飛び、ブレイン・バースト内では珍しい、同時に体力ゲージの全損による引き分けという結果になった。

 

 

 

 

 

 




この構想はこの小説考えてた時にこんなの面白そうだなって考えた感じです

変身ヒーローみたいでかっこいい気がしませんか!?
アリシゼーションのは封鎖されているのでまだなれません。


流石にチートすぎるのでレベルアップボーナスはほぼ廃止にしようかなと
つまり、純粋にアビリティに頼らない戦いをしなきゃいけないってことですね

これがキリト君にどれくらいのハンデになるのか…



では、また次回!


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第十九話:ネガ・ネビュラス

とりあえずネガビュ回

レベルとポイントのやつをちゃんと理解し切れてなかったとか…

教えてくださった方々、ありがとうございます


「くそ…!アッシュさんめ…何も僕に当たらなくてもいいじゃないか…」

 

「それでも、バイクに注意してなかったのはハルの失態だね」

 

「勝てると思ったんだよ…まさかバイクが突っ込んでくるなんて聞いてねえし…」

 

昼休み。

「今日は用事があるのでラウンジには来ないで好きにしていてくれ。ちなみに、今日は加速を使ってN・Nの会議もするので連絡しておく」と、黒雪姫のメッセージをもらったハルユキは、屋上にてタクムと食事を取っていた。

タクムも、今朝のアッシュ・ローラー戦は観戦していたようで、ハルユキの愚痴に苦笑している。

 

「…でも、ヒューマンアバターか…。リーファ以外に見たことがないからわからないけど、一体どんなバーストリンカーなんだろうね」

 

「さあな。もしかしたら、うちの誰かが新しくインストールしたんじゃねーの?」

 

サンドイッチを齧りながらそう言った瞬間、加速音と共に、周りの色が変わった。

 

直後、ハルユキの体が銀色のアバターに変化し、視界中央に炎文字が浮かび上がった。

 

【A REGISTERED DUEL IS BEGINNING!!】

 

≪観戦予約デュエルが開始されます≫

という表示が上がったあと、ハルユキの体はステージに誘われた。

観戦予約デュエルというのはその名の通りで、自分がそのバーストリンカーの戦いの際に、ギャラリーとして登録して、その戦いを見ることができる機能だ。

1800のカウントと、対戦するアバター。

今回は黒雪姫のアバター≪ブラック・ロータス≫と、≪リーフ・フェアリー≫だった。

隣にタクムことシアン・パイルがいることを確認し、視線を前に移すと、奇妙なアバターを見つけた。

髪を肩甲骨辺りまで伸ばし、その身を防弾アーマーとコンバットブーツに包んでいる。

ハルユキの視線に気づいたそのアバターは、ハルユキの方を向き、ニコッと微笑みながら手を振ってきた。

 

一瞬その動きにドキッとしてしまうが、ぶんぶんと頭を振り、「あなたは誰ですか」と問いかけようとした瞬間、黒雪姫の凛とした声が響いた。

 

「さて、今日の会議を始めるぞ。まずは、クロム・ディザスター討伐、お疲れ様。特にクロウは討伐に大きく貢献してくれた。これで我々ネガ・ネビュラスは赤のレギオン≪プロミネンス≫と停戦協定を結び、クロム・ディザスターという脅威も取り除くことができた。これで万事解決…なんだが、ここで朗報だ。我がネガ・ネビュラスに新しいメンバーが入ることになった」

 

新しいメンバー?とハルユキが首を傾げると、先ほどのアバターが立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。

 

「どうも~…キリトって言います。これから、よろしく」

 

微笑みながら挨拶をするキリト。

一瞬見とれてしまうが、隣のタクムの質問で我を取り戻す。

 

「僕は構いませんが、何故このタイミングなんです?今までマッチングリストにも表示されていなかったですし…。それに、色と名前がはっきりしてません。これの説明は…」

 

「それは私がこの人の≪親≫になったからだよ、昨日、皆と別れた後に友達にあってさ。そういえばVRゲーム得意だったよな~って思ってコピーインストールしたら成功しちゃって…。ネガビュも戦力増やした方が良いかなって思って…案の定上手でさ、レベルも取りあえず私のポイントで2に上げさせたんだよ」

 

へぇと思いながらハルユキはキリトを見る。

そう強そうに見えないけどな…

 

「で、名前のことなんだけど…はっきりいうとわからないんだ」

 

「それで、昼休みに彼女たちに会って、話を聞いていたわけだ」

 

リーファの言葉に続けるように黒雪姫がそう言う。

そうか、だから先輩は今日はラウンジに来なくていいって言ったのか…

 

「で、彼…こほん、キリトの名前の件は私にもわからない。ブレイン・バーストがここに来て新しいシステムを追加したのかも知れないし、名前自体(・・・・)がこのアバターを表現している。というのが私の推測だ。ちなみに後者を推すぞ。アップデートがあれば、全員に何か通達が来るはずだからな」

 

「…そうですか。すみません、キリトさん」

 

「い、いえ。ええと…シアン・パイルさんの考えもわかりますから」

 

「ええと…じゃあ、リアルの方では…」

 

ハルユキがそう言うと、キリトが口ごもる。

どうしたのだろうとハルユキが首を傾げると、黒雪姫が口を開いた。

 

「その質問には私が答えよう。こいつは私と同じクラスの奴でな、結構大人しいんだ。あまり人と付き合うのが得意でなくてな。だから、今はリアルを教えることはできない。連絡はメッセージか、こうして加速空間での会議くらいにしてもらいたい」

 

「わかりました」

 

二人で頷くと、黒雪姫も「うむ」と頷いて。

 

「では今日はこのくらいにしよう。では、解散!」

 

 

と言って、その場はお開きとなったのだった。

 

 

 

 

「…キリトさんか、なんか大人しそうな人だったな」

 

「……………」

 

隣のタクムに話しかけると、彼は思案顔で何か考えている。

 

「どうした?…あ!もしかして、あの人に惚れちゃったのか!?お前…チユという奴がいながら……」

 

ハルユキの質問にタクムははぁ…とため息をつくと

 

「そんなわけないだろう?そもそも、ヒューマンアバターだからって現実と容姿が同じなわけないって、リーファがそう証明してるだろう?……まあいいや。マスターがそんなことするわけないし」

 

「そんなことって、なんだよ?」

 

「意図的にあのキリトって人のリアルを隠しているってことだよ。マスターと同じクラスで、桐ケ谷さんの友達なんだ。活発的な桐ヶ谷さんの友人が、人付き合いが苦手って、あまり考えられない…」

 

「……そうか?そんな偶然もあるんじゃないか?ゲームになったら性格変わるとか」

 

ハルユキの言葉にタクムは渋々といった感じで頷き、先に戻ると彼が言ったことにより、この話は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

「…さて、これでいいのか?」

 

「ああ、助かったよ」

 

ここは食堂のラウンジ。

俺と直葉がいつも座っているテーブルには、黒雪姫が座っていた。

 

「それにしても和人君、あれはやりすぎだぞ。正体がバレてキミがあんな女の子のような恰好をしている奴だったと、ハルユキ君たちに思われても、責任は取れないからな」

 

「あれは俺が好きでやったんじゃないとだけ、言っておく。それに、そんなことなんて大したことないよ。君にも見せたろ?俺のアバターのアビリティ」

 

俺の言葉に黒雪姫はふむ、と頷くと

 

仮想体変化(アバターチェンジ)か…状況に合わせて四つのアバターに姿を変えることができるとは…」

 

「その分、レベルアップボーナスもほとんどないし、四つのうち一つはまだ変われないからな。皆近接型だし」

 

「でも、黒雪姫先輩、よく信じてくれましたね。私たちの話…」

 

「平行世界のお前の兄、だったか?普通なら私だって信じないよ。だが…」

 

黒雪姫はブラックコーヒーを一口飲んで、続きを話す。

 

「和人君が加速世界に来る前に、一度射撃空間で彼の動きを見たと言っただろう?昨日のミッドナイト・フェンサーの動きは、それと同じだった。クロム・ディザスターのように、誰かの強化外装に持ち主の思念が宿っているのは知っているからな。ミッドナイト・フェンサーは全損しているし、装着者の動きは私がVR空間で見た和人君のモノと同じだ。すると…」

 

グラタンをパクリと食べた黒雪姫が人差し指を立てる。

 

「……矛盾が発生する。直葉君の話を聞く限り、ミッドナイト・フェンサーのバトルスタイルは剣を一本しか使わないし、多少のダメージはその鎧で耐えて攻撃するらしい。まさに肉を切らせて骨を断つだな。だが、和人君は二刀流だったし、攻撃も回避していた。スタイルが変わったのかと思われるが、直葉君の話では最後までそのスタイルを突き通していたようだから、全損によるブレイン・バーストの消失中にそれを直すようなこともできない。しかも、イエロー・レディオが、彼を見た時に驚いていたからな。そこらへんから考えると、案外ストンと納得するものさ。ニューロリンカーが人間に量子接続して人を見極めるなら、君の兄と和人君は、平行世界の同一人物とはいえ、別人だろう。ブレイン・バーストのインストールも可能なはずだ」

 

「おおー……」

 

二人で感嘆の声を上げる。

まさかここまで推測できる人がいるとは…

 

「…まあ、和人君の実力は申し分ないからな。我がレギオンに入ってくれるなら十分だよ。これからよろしくな」

 

「ああ、よろしく頼むよ、レギオンマスターさん」

 

こちらに手を差し伸ばしてきた黒雪姫の手を握る。

この秘密は、当分三人だけの秘密になるだろう。

 

 

 

 

「……なるほど、そういうことでしたか」

 

 

と、その間に誰かの声が聞こえた。

三人でその方向を見ると、そこにいたのはメガネをかけた好青年。確か……

 

「あ、シアン・パイルの…」

 

「馬鹿者!キミが言ってどうする!それでは自白しているのと同じだぞ!!」

 

「ぁ…」

 

黒雪姫の言葉を聞いて、冷や汗をかいている俺に、メガネ君はため息をついて、こちらに手を差し出してきた。

 

「なにやら大変なことになってるみたいですね。桐ケ谷先輩。僕も、あなたに協力しますよ」

 

「え、な、何で?」

 

思わずそう聞き返すと

 

「マスターの方針には逆らう気はありません。ただ僕は、真実が知りたかっただけなんです。そうしたら平行世界やらとんでもない単語が飛び出してきて…。それなら隠したい理由もわかりますよ。下手に桐ヶ谷さんの兄だって言うよりは、多少不都合があっても先ほどの会議のように説明したほうがマシです。全損からの復活者だなんて、そっちのほうが色々と大変そうですからね」

 

「……黛君、なんか…うん、ハカセみたい」

 

うぐっと呻いたメガネ君は、くいっとメガネを直すと

 

「黛拓武です。これからよろしくお願いします」

 

と言ってきた。

俺はその手を握り返して。

 

「桐ヶ谷和人、よろしくな」

 

 

 

 

結果、秘密は4人ということになった。

 

シルバー・クロウには話さないのかと聞くと、全員一致で「情報が漏れる危険性がある」と一致したので、彼には暫く黙っておくことになった。

 

 

なんか…あれだ。ドンマイとしか言いようがない。

 

いずれ過去の自分が彼と戦うだろうし、その時に説明すればいいだろうと、何となく思っていた俺であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




黒雪姫は超万能
タクム君は万能

みたいな
というか加速終わって速攻ラウンジに到着して気づかれないように話を聞けるタクム君怖いね
人間超えてるんじゃないかな


ところでハルユキ君が照れたりしてるけど、GGOキリトの容姿に騙されてるだけです
キリ×ハルなんてCPは存在しません


次回はのうみくん回スタート
ついにヒロインが登場しそうだけど、キリト君は黒雪姫と同じ学年なんだ。

その意味が、わかるな?



では、また次回!!


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夕闇の略奪者編
第二十話:新学期/西暦二〇四七年


お待たせしました

今回は題名通りです



では、どうぞ


布団というものは神が作り出した中で最高のお宝なのではないか。

朝の若干ひんやりした空気を感じ、もそもそと布団に潜りながらそう思う。

 

寝ぼけ眼のまま時計を見ると、時刻は午前7:00

そのまま目を閉じて訪れようとした二度寝という至福の時間は

 

「お兄ちゃ~ん!朝だよ!早くしないと学校遅刻しちゃうよ~!?」

 

そんな声とともに布団を引きはがされる感触であっさりと終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新学期当日なのに…お兄ちゃん、だらしないよ?もっとシャキッとしないと」

 

「ふぁ…学校ってもんはなんでこう…朝早いんだ。午前中は自由にして午後から授業すればいいじゃないか…」

 

「うう…なんか否定できないのが悔しい…」

 

 

この半年で着なれてきた青いブレザーに、臙脂色のネクタイを通して出発の準備を終える。

玄関口で足踏みをしている妹に急かされながら玄関の戸を開け、鍵を閉める。

しっかり鍵が閉まっていることを確認して――。

 

 

「よし、いくか」

 

「うん!!」

 

 

 

 

現在2047年4月8日

 

 

今から約半年前、平行世界に移動するという不可解な現象に巻き込まれた俺こと桐ヶ谷和人は、中学三年生になっていた。

ブレイン・バーストの力を手に入れ、直葉が入っているネガ・ネビュラスというレギオンに入った俺は、≪謎の美少女ヒューマンアバター【キリト】≫として、その名を轟かせていた。

俺自身としてはあまり嬉しくないのだが、リアル割れの可能性が一番低い姿がGGOのアバターと同じ姿である≪黒の銃剣士≫なので、我慢するしかない。

レベルも4になり、相変わらず手に入らないレベルアップボーナスにしょぼんとしたり、≪ヒューマンアバター≫はレベルアップでマイナス効果への耐性を多少上げられることに気づき、慌てて麻痺と炎熱の耐性を上げたりなど、慌ただしい半年間であった。

≪ミッドナイト・フェンサー≫の鎧にも触れておかなくてはならないだろう。

最初は≪キリト≫のアバターの変化に驚いていて気づかなかったが、あの鎧はアイテムストレージの中に入っていた。

しかも初期状態のカード型で、譲渡可能という謎の状態で。

最初は彼の本来の≪子≫であるリーファに渡そうとしたのだが、彼女は彼の剣があるから良いと断られ、結局俺のストレージに収まっている。

俺自身、再びあの鎧を着る気はないが、きっと、必要な時が来るのだろう。

 

 

 

 

あちらの世界にいる俺の仲間達へ

 

 

俺は、今日も元気にやってます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杉並区東寄りに存在する、私立梅郷中学校。

各学年たった三クラスという規模は、決して大きくはないだろう。

 

しかし、全生徒360人という視線を受けながらも、彼女は凛とした声で語っていた。

 

「…諸君の大多数は、いま期待と不安を等しく感じているだろう。ことに新入学生の皆は、見知らぬ校舎や先輩たちに大いに戸惑っているはずだ。しかし、考えてほしい。今君たちの後ろですまし顔をしている者たちも、君たちと同じ不安を抱えて座っていたのだということを………」

 

「……あんたは不安もなかっただろうけどな…」

 

入学式の最中、壇上でスピーチをしている黒雪姫を見ながら俺はぽつりと呟いていた。

ミッドナイト・フェンサーの鎧を着た後、直葉のいう記憶の共有化が起きたのか、≪加速世界≫での情報などは大体頭に入っている。

なので、黒の王である彼女は≪無制限中立フィールド≫で長い間過ごしていることで既に精神があらかた成熟しているのは理解している。

 

いったいどれほどの長い間、あの世界で過ごしたのだろうか…

 

とはいえ、好きな人物である有田少年の前では年相応の態度を見せるところは子供が大人のフリをしているようで微笑ましいところもあるんだが……

 

 

……思考が明らかに老人ぽくなっている

 

 

そのことに軽くショックを受けながら、黒雪姫のスピーチが終わったことに気付いた。

 

そのあとは校長先生の長いお言葉やらなんやらを聞き、入学式も無事に終了。

 

そういえば、次はクラス分けか…

二年生の時は普通に友人もいたし、なんとかなるだろうと思いながら、俺は配布されたクラス分けの資料に目を通したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

入学式を終えたハルユキは今、新しい教室である2-Cの前で立ち尽くしていた。

自分のクラス配置は入学式後にニューロリンカーを通して配布される資料に書いてあるが、生徒の名前はわからない。

どうか、荒谷達みたいな奴らに目を付けられず、平穏な日常を過ごせますように…

そう、祈りながらハルユキはドアを開け―――。

 

「ハル、おーっす!!」

 

「うわわわわっ!?」

 

どん、と背中を叩かれて見事にその場で前転した。

綺麗に前転を決めた後、くるっと体を反転。

その視線の先にいたのは、猫のヘアピンで前髪を持ち上げ、八重歯を見せてにんまり笑う幼馴染の顔だった。

 

「ち、チユ!?お前もここなのか…?じゃなくて、お前、いきなり押すなよ!転んだじゃないか!!」

 

「何よ、ボーっとしてるハルが悪いんでしょ。それにちゃんと回ったから良いじゃない。周りの人も拍手してるし」

 

「は、はぁ!?何言っ…」

 

チユリの言葉に周りを見ると、既に教室に入っていた生徒たちがハルユキを見て感嘆の声を上げたり、拍手してたりする。

「ナイス登場だぞー」とか、「このクラスは面白そうでよかったわー」などの声に、苦笑いで答えたハルユキは、チユリをウーッと睨む。

だが、当の本人はふふん、といった感じでハルユキに笑ったあと、廊下の先を見て笑顔になった。

 

「あっ、スグちゃん!スグちゃんもCなんだ?私も私もー!」

 

スグ=チャン?どこかの外国人かな?

まあ、チユの友達なら僕には関係ないだろう。

そう考えて反転して、自分の席を探そうとしたハルユキは、聞き覚えのある声に再びドアの方を向いたのだった。

 

「え、チユも?あはっ!やったー!」

 

きゃー、なんてはしゃぎあいながら教室に入ってくるチユリとその友人。

眉の上と、肩のラインでばっさりカットされた青みがかった黒髪、やや勝気なそうな瞳に、肩にかけた竹刀袋。間違いなく見覚えがある生徒だ。

というか、一年間同じクラスの少女で、しかも半年前から話すことが多くなった彼女を、見違える筈がない。

彼女はこちらを見ているハルユキに気づくと、軽く手をあげた。

 

「おはよ、有田君。また一年、よろしくね」

 

「う、うん。桐ヶ谷さん…こちらこそよろしく…」

 

桐ヶ谷直葉

ハルユキ達と同じようにブレイン・バーストを持ち、≪リーフ・フェアリー≫のアバターを使うバーストリンカーである。

また同じクラスになるのかと思いながらも、バーストリンカー同士、固まってた方がいいかもなと考えていたりすると、彼女たちの後から入ってきた見覚えある顔に、つい、笑顔になった。

 

「タク!おっす!!」

 

「やあ、ハル、桐ヶ谷さんにチーちゃんも」

 

ハルユキの挨拶に爽やかな笑顔で手をあげるメガネをかけた男子。黛拓武がそこにいた。

彼も同じバーストリンカーで、≪シアン・パイル≫という名のアバターを使っている。

 

何はともあれ

 

 

クラスの中に知り合いがいてよかったと心からそう思ったハルユキであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………で、聞いたよ。スグちゃんもやってるんだってね」

 

徐々に増えてくる生徒達から離れるように、四人で固まっていると、チユリが直葉の方を見てニヤリとした表情を見せた。

当の直葉はチユリが何を言っているのかわからないようで、きょとんとした顔をしている。

チユリは直葉の耳に顔を近づけると、小さな声で。

 

「ブ レ イ ン ・ バ ー ス ト」

 

と、ゆっくり囁いた。

 

「――――!?ど、どうひへほのほほお!?」

 

直葉にとっては普通の友人と思っていたチユリが、突然ブレイン・バーストの名前を言ったので、思わず大きな声を出してしまいそうになるが、それも予想していたのかチユリが彼女の口を両手で塞いだので、幸いクラス中に声が響き渡ることはなかった。

 

 

「それは僕たちが説明するよ。桐ヶ谷さん」

 

手を離され、呼吸を整える直葉に、その青いメガネをくいっとさせながらタクムが口を開いた。

 

「前に、僕がチーちゃんのニューロリンカーにバックドア・プログラムを仕込んだのを知ってるよね?僕がハルと戦った後に、そのことと、ブレイン・バーストのことも全部、チーちゃんにぶちまけたんだ。最初はすっごく怒っちゃったんだけど、まあ…何とか許してもらえてさ」

 

本当?と視線で問いかける直葉に、チユリは怒ってますといった表情でコクコクと頷く。

タクムはそれに本当に申し訳なさそうな表情で笑い、続きを話す。

 

「それで…昨日、だね。僕がブレイン・バーストをチーちゃんにコピーインストールしたんだ。結果は成功。これでチーちゃんもバーストリンカーになったわけなんだ」

 

「それで、黒雪姫先輩もやってるって知ってたし、他に誰がやってるの~って聞いたら、スグちゃんともう一人の先輩がやってるって聞いたってわけ。も~、スグちゃんも共犯者だったとは~!このっ成敗してくれようぞ!」

 

「なるほど…って、ちょ、チ~ユ~!やめ、私は関係ないって、ちょ、くすぐったいって、そこ、あっ、止めてったらぁ!」

 

チユリが直葉をくすぐるという、女の子同士の絡み合いが始まるが、それはタクムの咳払いで中断される。

 

 

「…チーちゃんの件はこれで終わりだけど、僕たちにはまだ重要なことが残ってるよ」

 

ハルユキ含め、何を?という表情になったのを見てタクムがため息をつく。

その後、真剣な目つきで続きを話した。

 

「新入生に、バーストリンカーが混ざってるかもしれないってことだよ。通常はそうありえることじゃない。≪親≫と≪子≫が違う学校に入学するってことはね。でも、万が一の可能性がある。一年生が初めて学校内のローカルネットにログインできるのは、僕の学校だと入学式が終わって、教室に入った時だ」

 

「じゃあさ、HR終わったらついでに≪対戦フィールド≫でチユのアバター見とこうぜ。実はインストールしたのは昨日でさ、俺たちも知らないんだ。新入生のバーストリンカーも、そん時のマッチングリストで調べればいいだろ」

 

ハルユキの言葉に三人がコクリと頷く。

しかし、直葉はタクムをジーッと見ている。

 

「な、何かな桐ケ谷さん」

 

思わずたじろぎながらタクムが問いかけると、直葉はうん、と頷いて

 

「黛君って、春休みの間に更にハカセっぽくなったね」

 

「ぐはっ…」

 

「そういえばそうだな」

 

「ぐ…ふ、二人とも!それは真剣にやめてくれよ!もしこのクラスで≪ハカセ≫とか≪メガネ君≫ってあだ名がついたら、二人のせいにするからな!」

 

真剣に嫌そうな顔をしたタクムの言葉に笑いながら、ハルユキ達はそれぞれの席に着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「バースト・リンク」

 

 

無駄に熱血教師な新しい担任の話が終わり、自己紹介もすませたあと、ハルユキはその言葉を口にし、≪加速≫していた。

周りが青い世界に変わり、ローカルネット用のピンクの豚の姿になったハルユキは、ブレイン・バーストのアイコンをタッチして、マッチングリストを開いた。

更新に数秒の時間をかけた後、リストの最上部に≪シルバー・クロウ≫の名前が浮かび上がる。

その下にタクムの≪シアン・パイル≫、右側のレベルは、ハルユキと同じ4だ。

次は≪リーフ・フェアリー≫、レベルは5。

その次は≪キリト≫、レベル4。

何でこの人だけこんな少ない文字なんだろうといつも思うが、黒雪姫の言った通り、この名前が色などを含めデュエルアバターを表してるんだからいいかと、ハルユキは思っている。

そして≪ブラック・ロータス≫、黒雪姫のアバターだ。レベルは9。

そして、その最後にぽっと現れた名前、≪ライム・ベル≫。レベル1。

そこでリストの更新は止まった。

つまり、新入生にバーストリンカーはいなかったということだ。

 

ハルユキはそのことに安堵のため息を吐くと、≪ライム・ベル≫のアバターをタップして、対戦を申し込んだ。

 

 

 

 

周りの景色も変わり、ハルユキの体も変化する。

ピンク色の豚から、銀色のロボット――≪シルバー・クロウ≫に変化したハルユキは、バトルフィールドに降り立った。

バトルフィールドは、巨大な歯車やコンベアが動き回る≪工場≫ステージだった。

【FIGHT!!】の文字がはじけるのを見たハルユキは、隣に立つ≪シアン・パイル≫と、≪リーフ・フェアリー≫を確認した後、反対側にぽつんと立つ、小柄なアバターを視界にいれた。

 

≪ライム・ベル≫は、その名の通り若葉色の外装を纏っていた。

腰には木の葉に似たアーマー。頭には魔法使いめいた鍔広のとんがり帽子を被っている。

そして、左手には巨大な釣り鐘状の、恐らくハンドベルが装備されていた。

 

それをしげしげと眺めていたライム・ベルは、近づいたハルユキにひょいと顔を向けると、帽子の下のオレンジ色の瞳を訝しげに細める。

 

「なんか…色派手すぎない?…ていうか、あんたハル?」

 

「………です」

 

「うわ…ほっそ!ええと…このゲームのアバターはトラウマからできてるんだっけ?ふーん、ほー…」

 

案の定アバターのことをチユリに言われ、落ち込んでいるハルユキをよそに、チユリはリーファとシアン・パイルに視線を向ける。

 

「タッくんは…なんかごついねぇ…で、そこにいるのがスグちゃん?」

 

「うん、リーフ・フェアリーっていうの。長いからリーファでいいよ」

 

「へぇ…っていうか、なんで人型なの?ずるい!可愛い!」

 

「リーファのアバターはヒューマンアバターっていう珍しい姿なんだよ」

 

リーファの姿を見て怒った声を出すチユリに説明するようにタクムが声をかける。

チユリは暫く唸っていたが、やがて納得したように頷く。

そこでチユリの講習を始めようとハルユキが声を出した。

 

「んじゃあ、始めようぜ。チユは≪ブレイン・バースト≫のルールは知ってるんだよな?」

 

「うん。要はばんばん対戦に勝って、どんどんポイント溜めて、レベル10になればいいんでしょ?」

 

「随分大雑把な言い方だな…。まあ、あってるけど…」

 

チユリの言葉に、黒雪姫が今の言葉を聞いたらなんて言うかなと思いながら、ハルユキは言葉を続ける。

 

「視界のこの辺に、自分の体力ゲージが見えるだろ?その下が必殺技ゲージ。自分の名前をタッチしたら、チユが使える必殺技とかが見れるから、まずは確かめてくれ」

 

ハルユキの言葉にチユリは指を動かし、いくつか操作する。

 

「んと、通常技ってのが三つで、必殺技が≪シトロン・コール≫……?なんか、左手をこんなんにして…」

 

呟きながら、チユリは技リストのアニメーションの動きに合わせて、左腕を動かす。

しかし、現状、彼女の必殺技ゲージは溜まってないので、何も起きない。

 

「何よ、何も起きないじゃない」

 

「必殺技ゲージが溜まってないからな。相手にダメージをあたえぶふぁっ!?」

 

むっとした声のチユリに説明した瞬間、ハルユキの脳天に無数の星が飛び散った。

 

「わお!結構きもちいー!」

 

「ちょっ、チユっぶふぇっ、やめ、ごふぁっ」

 

無邪気な歓声とともに、ハルユキの脳天に星が何度も飛び散る。

必死に止めようとするが、チユリは動きを止める気配がない。

それが少し続いた後、リーファが乾いた声で声をかけた。

 

「ち、チユ、そろそろ必殺技ゲージ、溜まったんじゃない?…青いゲージなんだけど」

 

「む、そうね。もう満タンになってた。よし、くらいなさい!≪シトロン・コール≫!!」

 

叩かれた衝撃でクラクラしているハルユキに、チユリの必殺技が命中する。

この半分以上減った体力で、必殺技なんて受けたらとハルユキが考えていると、あろうことか、彼のHPゲージがみるみる回復していくではないか。

 

 

「何よぉ!ハルのHPが回復しちゃったじゃない!!」

 

「うそ…黛君…あれって」

 

シルバー・クロウのHPが回復したことに怒るライム・ベルに、リーファが強張った声でシアン・パイルに話しかける。

シアン・パイルはその言葉に頷くと。

 

 

 

「今のは、≪回復アビリティ≫だよ…これはチーちゃんが対戦デビューしたら大変なことになるよ…キリトさんやハルがデビューしたとき以上の……!」

 

 

 

 

 

何かを恐れるような声で、そう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、君も同じクラスだったとはな…」

 

「それはこっちの台詞だよ。ま、同じクラスの方が色々と都合も良いか。これからよろしくな」

 

 

入学式を終えて、割り振られたクラスについた俺は、隣に座る、全身真っ黒な女子生徒と話していた。

言わずもがな黒雪姫である。

 

ブレイン・バースト内で数少ないレベル9プレイヤーで、ミッドナイト・フェンサーと━恐らく俺も含まれるだろう━同じブラックカラーのバーストリンカー、ブラック・ロータス。

 

入学式の時も思ったが、こうして正面で話してみるとその立ち姿や言葉遣いが明らかに同年代のソレとは違うのがわかる。

 

恐らく、他の王達もそうなのだろう。

 

 

「ところで和人君」

 

「ん?」

 

考え事をしていると、黒雪姫が話しかけてきた。

その目は、こちらを挑発するような。

それでいてある種の期待に満ちた光を宿している。

 

 

「キミがネガ・ネビュラスに入ってからおよそ半年が経ったな」

 

「…あ、ああ……そういえばそうだな」

 

黒雪姫の真意が掴めず、曖昧な返事を返す。

俺がネガ・ネビュラスに入ってから半年というのは何か意味でもあるのだろうか?

 

「それでだな、どうだ?一度、私と対戦してみないか?」

 

「………は?」

 

思わず聞き返した。

何を言うのかと思えば俺と対戦?

確かに彼女と対戦をしてみたいとは思っていた。

だが、何だかんだでタイミングが掴めなかった俺は、彼女と戦うことができなかったのだ。

 

「…理由は?」

 

俺から彼女に挑む理由はわかる。

戦ってみたいからだ。

だが、彼女が俺に挑む理由はあるのか?

片やレベル9の黒の王。対して俺はただのレベル4バーストリンカーだ。

レベル的にも下の俺に、彼女が対戦を挑んでくる理由が見当たらないはずだが…

 

 

「簡単な話だ。私がキミと戦いたい」

 

それだけだとでも言わんとばかりにこちらを見てくる黒雪姫。

なおも戸惑っている俺に対して、彼女はこんな言葉を言った。

 

「半年前のクロム・ディザスターとの戦いの時、共に戦ったキミの動きは、素晴らしいものだった。各レギオンでの領土戦でも、キミは惜しみない活躍をしていてくれる。だが、それを見るたびに、私の中では、初めてVR空間で出会った時のキミの動きを、思い出してしまうのだよ。私は強欲でね。キミのその強さを、直接感じてみたいんだ」

 

それを聞いて俺は、彼女を見返した。

レベル9同士の戦いは、どちらかが負ければポイントが全損するという危険な戦いだ。

そして、レベル9となった彼女に対抗できるのは同じレベル9や、ハイレベルのバーストリンカーだけだ。

そんなの、探したって簡単に見つからない。

だが、ここにいるではないか。クロム・ディザスターとの戦いで、黒の王と息を合わせて戦い、黄色の王との戦いに割り込んだバーストリンカーが。

 

…彼女は、純粋に戦いを求めているのではないだろうか。

 

ポイント全損の危険なんかを気にせず、ただ自分と打ち合えるだけの、バーストリンカーと戦いたいと。

 

 

「………わかった。期待に応えられるかはわからないけど、俺で良いなら相手になるよ」

 

それを聞いた黒雪姫はニヤリと笑い、バースト・リンクと、小さな声で呟いた。

 

 

 

 

 

その瞬間、加速音と共に、周りの景色が止まった。

 

≪黒の銃剣士≫の姿になった俺の前に、炎に包まれた文字が浮かび上がる。

 

 

【HERE COMES A NEW CHALLENGER!!】

 

 

お互いの体力バーが伸び、1800のカウントが現れる。

フィールドは、巨大な青白い月が煌々と輝く、地面も色抜きされたように白い砂に薄く覆われている場所だった。

 

さしづめ≪月光≫ステージってところか………

 

 

軽く辺りを見回した後、正面に立つ、漆黒のアバターを見据える。

 

黒の王、≪ブラック・ロータス≫

 

【FIGHT!!】

 

その文字が浮かび上がると共に、俺はカゲミツを、相手はその剣を構えて、走り出したのだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




チーちゃんBBデビュー

スグちゃんとチーちゃん、実は四話に当たる「壊れた現実」で連絡先を交換しあってます

同じ女子なので、なんだかんだで一緒に遊んでたりしてたんでしょう


そしてキリトと姫の真剣勝負
次はバトルメインになりますかね

シアン・パイルも、クロム・ディザスターも、後々のハルに関わる出来事だったからとはいえ、ハルが目立ちすぎた感があるの、言われるまで気づきませんでした
ハルも主人公とはいえ、キリト君も主人公だから、もっと戦わせてやらないと…ですな

月光ステージはハルたちがテイカ―とラストバトルしたステージですね
何もないとこはここかなって思ってこれにしました


では、また次回!



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第二十一話:漆黒の剣舞

キリト君対姫です

何故かハルユキより執筆作業に力が入る分、疲れました(;´・ω・)

では、どうぞ!


「はぁっ!!」

 

目の前のアバター≪ブラック・ロータス≫は、四肢が剣の形になっている完全近接アバターだ。

つまり、このデュエルは俺がSAOやALOで経験した対人戦闘という経験が生きてくる。

相手の挙動を先読みし、如何に一撃を与えるか。

その一瞬が命取りになるし、勝機にもなる。

彼女が加速世界でどのように戦ってきたかはわからないが、こちらは命を賭けた戦いを何度も潜り抜けてきたのだ。

 

VR空間でのダイブ経験時間は彼女の方が上なら、こちらはVR空間での死合いの経験時間が上だ。

 

 

こちらに向かって振り下ろされた右腕の剣に、右手のカゲミツを振るう。

 

 

「…づっ……!!」

 

 

激しいスパークが俺たちの間で起きる。

カゲミツは黒雪姫のアバターの剣を切り裂き、ダメージを与えるのではなく、その場で彼女の剣と鬩ぎあっていた。

その光景を見ながら、俺は頭を高速で回転させて今の状況を推測する。

 

GGOにて、カゲミツのエネルギー刃を破ったのはデス・ガン―――【Sterben】こと【赤眼のザザ】が≪銃剣作製≫スキルで作り出した≪宇宙戦艦の装甲≫を使ったエストックただ一つ。

アレに対してカゲミツはそれ以外の…シノンのへカートのライフル弾さえも断ち切った刃は、刀身の一部を黒く焦がしただけで、そのエストックを断ち切ることはできなかった。

 

 

加速世界でも同様だ。

≪アッシュ・ローラー≫のバイクはあっさりと斬った。

それ以外のアバター…長距離アバターの実弾も斬ったし、光線に関しては、その刃と接触させて軌道を曲げたりすることにも成功している。

アバターを斬った際は、普通にダメージを与えていた。

光線系に耐性を持つ相手には威力は下がり、逆の相手には効果的なダメージも与えたのだ。

 

 

つまり、彼女の剣は≪ザザ≫のエストックよりは固くないが、カゲミツでは斬ることができない…というところだろうか。

 

そう考えた後、黒雪姫の体力ゲージに視線を向ける。

刃が接触しているなら、ダメージを受けている筈なのだが―――

 

 

「戦闘中に考え事とは…随分と余裕じゃないか…っ!!」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、鍔迫り合いを続けていたカゲミツの刃から、黒い刃が少しづつ現れるのが見えた。

 

 

「―――っ!?」

 

 

咄嗟の反応で体を動かすも、彼女の刃は俺の左肩を掠め、その体力ゲージを削った。

続けて繰り出される左脚の斬り上げを紙一重で交わしながら、左腰のファイブセブンを抜き放ち、引き金を引いた。

乾いた音を立てながら放たれた弾丸は、練習の甲斐もあって真っ直ぐ飛んでいくが、彼女の刃に阻まれる。

元々牽制用の攻撃だったため、その間に俺はバックステップを取って彼女から距離を取った。

 

そこで彼女の体力ゲージを再び見やる。

僅か数ドットではあるが、彼女の体力ゲージは削れている。

つまり、カゲミツとの接触によるダメージは発生したが、彼女の剣の力が、カゲミツを上回った。ということであっているだろう。

 

 

「そんな玩具で私を止められると思ったのか?私の二つ名、知らないわけではあるまい?」

 

 

「……絶対切断(ワールド・エンド)…」

 

それがブラック・ロータスの二つ名だ。

彼女の攻撃を完全に防いだのは、緑の王など、数えるくらいしかいないらしい。

 

「そうだ。この剣は終結之剣(ターミネート・ソード)というアビリティが常時発動されていてな。地形も切断することができるぞ。生半可な防御は、抜かれると思え!!」

 

ブラック・ロータスはそう言うと、ホバー移動しながらこちらに向かってくる。

 

カゲミツでのパリィは難しい。なら………

 

 

「チェンジ・コール!≪黒の妖精≫!」

 

 

その言葉を発した瞬間、俺のアバターが光に包まれ、その姿を変える。

髪はツンツンと逆立ち、背中に一つの重みが生まれる。

ALOで…アスナを助ける時に使用していた、スプリガンのアバターの姿になった俺は、ブラック・ロータスを見据えながら、背中に手を伸ばすと、両手でそれを掴み、振り下ろされた剣を斬り払う。

 

今、俺の手にあるのはカゲミツではなく、黒い大剣。

 

正式な名前はわからないが、≪あちらのリーファ≫曰く、巨人型のプレイヤーが扱う剣らしい。

エネルギー刃が駄目なら、純粋に普通の剣を使えばいい。

 

体が開いたロータスの体に、そのまま右足で蹴りを叩き込む。

 

 

「………せぁっ!!」

 

一瞬怯んだ隙を見逃さず、俺はそのまま踏み込んで左から右に大剣を振るった。

 

「…ふっ!」

 

しかしその攻撃は、あまり手応えのない感触を俺に感じさせた。

黒雪姫の剣が、俺の大剣の進行方向に割り込み、俺の攻撃を受け流したのだ。

 

そのまま反対の剣でこちらに突き出された攻撃を、引き戻した大剣の腹で防ぐ。

剣を通して衝撃が伝わるが、その衝撃に逆らわずにバックステップ。

追撃を仕掛けてくるのを見据えながら、俺は彼女の視線に意識を集中させる。

 

━━左……いや、右か

 

高速でそう思考すると、案の定、ロータスの右の剣が突き出される。

 

 

「く………っ!!」

 

 

彼女の剣を見据えながら、俺は後ろに倒れ込む。

剣は俺の鼻先を掠め、代わりに空気を切り裂く。

 

後方に倒れる俺を見て、好機と見たロータスが左足の剣で斬りかかる。

しかし、それは俺がわざと見せた隙だ。

背中が床に叩きつけられる寸前、俺は右足を鋭く振り上げる。

 

「なっ……!」

 

ブーツのつま先に眩い輝きが生じたのを見た黒雪姫は息を呑む。

倒れ込みながらの必殺技なんて、普通は有り得ないだろう。

しかし、このアバターには存在する。

このアバターには、アインクラッドで俺が使っていたソードスキルが通常技や、必殺技として設定されている。

今回、俺が使ったのもそれだ。

 

«キリト»のレベル1必殺技、«弦月»。

またの名を«体術»スキル後方宙返り蹴り技、«弦月»。

 

 

狙うは彼女の左足。

蹴るように出された彼女の剣先に、ブーツのつま先を潜り込ませるように当てる。

いくら彼女の剣が強力であろうと、必殺技を防ぐことは難しいだろう。

 

「弦…月っ……!!」

 

短く吼え、まるですくい上げるように彼女の左足を蹴り上げる。

案の定バランスを崩した黒雪姫に、«弦月»のモーションで着地をしながら握り直した大剣で、斬りつける。

 

今度は充分な手応え。

ブラック・ロータスの体力ゲージが二割ほど削れるのを確認した俺は、返す刀で追撃をかける。

 

「お返し……だっ!!」

 

しかし、その攻撃は先ほどと同じように受け流され、そのまま顔面に強烈な回し蹴りを受けた。

 

 

「ぐぁっ…!」

 

剣の刃ではなく、刀身部分が当たったようで、頭が切り裂かれることは無かったが、かなり痛い。

体力ゲージも二割ほど削れ、俺と彼女の状態は、体力ゲージが削られた量だけ見れば俺が二割半、黒雪姫が二割と、彼女の方が有利、と言うところだ。

 

呻き声をあげながら吹き飛ばされるが、何とか体勢を立て直すと、再び地面を蹴って距離を取った。

 

 

 

「倒れ込みながらの必殺技とはな…全く予想していなかったよ」

 

そこで一度仕切り直すように、黒雪姫が声をかける。

 

「そっちも、態勢崩されて攻撃受けた割には、直ぐに反応してきやがって…。ほんとなら今ので逆転してた筈なんだぜ?」

 

吹き飛ばされたからか、ツンツンと逆立っていた状態から崩れてしまった髪を軽く振って整えた俺は黒雪姫にそう答える。

というか、崩れるなら最初からこんな感じに下りててもらったほうがいいのだが…と、こないだまでALOにいた時と同じ髪型になった俺は内心システムに毒づく。

 

しかし、彼女相手に剣一本はやはり無茶な選択だったようだ。

 

別に彼女の実力を甘く見ていたわけではない。

だが、二刀流というのはやはり、そうおいそれと使うものではないと俺が思っているのは確かである。

あれはヒースクリフ――茅場が、ラスボスである自分を倒すために用意した≪ユニークスキル≫だ。

だから、これは俺の我が儘だ。二刀流は、ヒースクリフとの戦いでしか使いたくない。

そのエゴイズムは、これから二刀流を使う時に、俺の頭の片隅に残り続けるのだろう。

勿論、必要な時はその力を使うことにためらいはない。

 

だから…今はそのエゴを振り払い、彼女に全力を見せよう。

 

大剣を地面に突き刺した俺はメニューを開き、いくつかの操作を開始する。

黒雪姫の眼が訝しげに細められるが、俺が何をするのかという好奇心のほうが強いのか、その動きは止まっている。

ロングコートは先ほどよりやや軽装なフォルムに変わり、背中に二本の剣を出現させた俺は、その二本を抜き放った。

 

片方は薄青い刃の片手剣。≪あちらのリズ≫に作って貰ったのと同じデザインの剣。

そしてもう片方は黄金に輝く剣≪聖剣エクスキャリバー≫。

 

「………ほう…」

 

その姿を見て、黒雪姫も感嘆の声を上げる。

エクスキャリバーは、存在していれば恐らくこの世界でも伝説級の武器になっていただろう。

しかし、どちらの剣も、アバター≪キリト≫の装備品扱いになっている。

勿論、システム的に補正も入っているため、エクスキャリバーの強さも抑えられてはいるが、それでも強力な剣だろう。

 

 

 

「それじゃあ…いくぜ!!」

 

 

そう言うと俺は滑空するように突っ込む。

ロータスが射程に入った瞬間に、俺はくるりと体を捻り、右手の剣を左下から叩き込む。

身構えていた彼女は、右足で左下からの一撃を受け止める。

だが、俺の攻撃は終わらない。右にコンマ1遅れて左の剣を突き出す。

かつてのアインクラッドで≪ダブルサーキュラー≫と名前がついていたそれを模倣した一撃は、ギリギリで右手を滑り込ませて軌道をずらした黒雪姫の頬を浅く斬りつけ、その体力ゲージを削った。

お返しに突き出された左腕を左のステップで交わした瞬間、彼女の左足で浅く足を斬られ、一瞬態勢が崩れる。

 

 

「≪デス・バイ・――――――≫」

 

 

―――必殺技っ!!

 

その隙を狙った黒雪姫の凛とした声が聞こえた俺は、二本の剣を構えて≪受け≫の態勢をとる。

必殺技のパリィは無理でも、威力を抑えることくらいはできる。

しかし、黒雪姫が上げたのはその右脚の剣。

 

その脚がぶれるように動くのを視認した俺は、必死に体をのけぞらせながら、左手の剣を前に突き出す。

必殺技ゲージが減ると同時に、俺の左手は目にも止まらぬ速さで閃き、風車のような回転を始めた。

 

「≪スピニングシールド≫ォ―――――ッ!!」

 

「≪バラージング≫!!」

 

 

瞬間、途轍もない衝撃が何度も俺の左手に襲い掛かった。

ソードスキル≪スピニングシールド≫は、剣を回して盾を作るソードスキルだ。

SAOでは、ダークリパルサーのインゴットを手に入れる時に遭遇したドラゴンのブレスを防いだりするのにも使ったりしていた。

≪キリト≫がレベル3で覚えた必殺技でもある。

レベルアップボーナスは無いが、必殺技は習得…もとい、俺にとっては使えるソードスキルが拡張されていくらしい。

動きを模倣できるとしても、システムアシストが必要な技も存在するので、こういった技が使えるようになるのはこちらとしても嬉しい。

 

ブラック・ロータスの足は信じられない動きで俺の左手に衝撃を与え続ける。

稀に防御を抜けたダメージが俺に襲い掛かり、体力ゲージをガリガリと削っていく。

 

 

「ぐっ!!」

 

スピニングシールドの発動が終えると同時に、向こうの必殺技も終了したらしい。

しかし、その衝撃は俺を吹き飛ばし、数回地面を転がった俺は、息を切らしながら膝を付き、ブラック・ロータスに視線を向けた。

 

 

必殺技を終えた彼女は、流麗な姿で此方を見ている。

残り体力ゲージは、俺が四割で、向こうは七割も残っている。

 

これが王の力……

加速世界に存在するレベル9の力なのか……

 

 

 

 

「………そうこなくっちゃ…」

 

 

人知れず呟き、再び剣を構えて立ち上がる。

そうだ。そうこなくっちゃ、面白くない。

 

「やはり立つか…」

 

そんな俺を見て、嬉しそうな声を上げる黒雪姫。

久しぶりにする純粋なデュエルに心が躍っているのだろう。

 

「まだ勝負はついてないから………なっ!!」

 

ニヤリと笑いながらそう返し、再び突っ込む。

再び激突する剣と剣。

こちらの攻撃に、黒雪姫は電光のような反応速度でついてくる。

互いに小攻撃が弱ヒットし、体力ゲージをじわじわと削っていく。

 

このままでは、体力が少ない俺が負けるだろう。

ゲージは既に三割を切り、黒雪姫は六割といったところだ。

その状態を――――

 

 

「≪クリムゾン・――――――≫」

 

 

ソードスキルではない、≪キリト≫自身の必殺技で巻き返す!!

 

 

「≪スプラッシュ≫―――ッ!!」

 

血の色のように赤く染まった二本の剣を、交互に三回突き出す。

三回目を突き出した瞬間に、右手の剣が跳ね上がるように、上に斬り上げる。

斬り上げた右の剣を右肩辺りに持ってきて、突き出す。

左の剣で薙ぎ払うように水平斬りをして、その勢いのまま周り二本の剣を突き出し、上下に斬り払うようにしてフィニッシュだ。

 

計8連撃の重攻撃技は、黒雪姫のガードを幾つか抜き、その体力をガクンと削る。

彼女のアバターは四本の剣が強力な分、耐久力が低いのだ。

 

これで残り三割まで追い込んだ。

必殺技の硬直から逃れ、距離を取ろうとした瞬間。

 

 

「≪デス・バイ・ピア―シング≫!!」

 

 

お返しだと言わんばかりの必殺技が、俺の左腕を肩から吹き飛ばした。

あそこで距離を取ろうとしていなかったら、恐らくこれでは済まなかっただろう。

体力は一割を切り、左腕は無いため、二刀流の必殺技は放てない。

 

 

「≪スター・Q・プロミネンス≫!!」

 

だが、この腕にはまだ、剣がある。

今の攻撃によって使用量分溜まった必殺技ゲージを全て使い、片手剣≪必殺技≫を放つ。

 

上段から左下に斬り下ろし、左下から右上に斬り上げ。

そこから左に水平斬り。左上から右下に斬り下ろし、最後に右下から上に剣を斬り上げ、星の軌跡を刻む。

 

 

「ぜぁぁぁああっ!!」

 

そしてその中央に、烈火の如く雄叫びを上げながら、全力で剣を突き出す。

 

 

「はぁぁぁっ!!」

 

 

黒雪姫も雄叫びを上げながら俺の攻撃を防ぐために、剣を振るう。

最後の一撃を剣の腹で受け止めた瞬間、今までの猛攻に耐え切れなかったように、彼女の左腕の剣が砕け散った。

 

彼女の体力は、残り二割。

 

 

まだだ――――――まだ、終わってない―――!!!

 

 

「うぉぉぉおお――――ッ!!」

 

「せやぁぁああ―――—ッ!!」

 

 

お互いに雄叫びを上げながら、両者の剣が交錯した瞬間―――。

 

 

 

【YOU LOSE!!】

 

の弱々しい炎文字が浮かび上がると共にリザルト画面が開き、俺のバーストポイントが少し減少したのが見えた。

何が何だかわからずにいると、≪加速≫が終了する感覚と共に、周りの色彩と、生徒たちの話し声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「………タイムアップによる、戦闘の強制終了か…」

 

 

暫くの間お互いに呆然としていたが、先に声を出したのは黒雪姫だった。

その言葉を聞いて、1800秒―――30分が過ぎたんだと遅まきながらに気づく。

そう思ったとたん、精神的な疲労がドッと押し寄せてきたのを感じた。

長いため息をつく俺の前で、彼女も疲弊したのだろう。その表情に疲労の色を微かに滲ませながら、再び口を開いた。

 

「…まさか、あそこまで本気の対戦をするなんて…本当に久しぶりだったよ…。ありがとう、和人君…キミは私の想像以上だったよ…。まさか、私の剣が壊されるなんて、思ってもいなかった…」

 

「あ、ああ…期待に応えられてなによりだよ…。こっちも、あんたと戦えて良かった。色々と参考になったよ」

 

主に王の実力とかな…とは言わなかったが、黒雪姫の言葉にそう答える。

黒雪姫はうむ、と頷いて。

 

「またキミと、対戦をしたいな。あんな心躍る体験をしたんだ…是非、また剣を競い合いたい」

 

「そうだな…。また、よろしく頼むよ」

 

そう言いながら差し出した手を、黒雪姫の手が握り返す。

互いに好敵手を見つけたような表情をしていると、見知らぬ声が聞こえた。

 

 

「ひ、ひ、姫が、男の人と手を、繋いでる!?」

 

その言葉に視線を向けると、ふわふわした髪型の女子が、俺と黒雪姫を見て驚いた表情をしている。

彼女に視線を向けた後、視線を前に戻すと、黒雪姫と目が合う。

 

「わひゃっ!?ち、ち、違うぞ恵!!これは、その、あー…」

 

奇妙な声を上げた黒雪姫が手を離し、恵という女子生徒に話しかけている。

彼女はフルフルと首を振ると。

 

 

「い、良いのよ姫。私に気を遣わなくても…で、でもね?二股はいけないんじゃないのかしら…?その…有田君に隠れて他の人と浮気するのは…」

 

「いっ!?」

 

思わず声が出てしまう。

こ、この子…なんだか深刻な勘違いをしていないか?

それを正そうと声を出そうとした瞬間、黒雪姫が机を叩きながら立ち上がった。

 

 

「な、なんてことを言うのだ恵!!彼はただの友人だ!!私が愛してるのは、世界中の中でただ一人!!ハルユキ君だけだ!!」

 

 

と、教室中に響き渡るほどの大きな声でそう言ったのだった。

これには恵も目を丸くしていて、教室の空気が、一気に凍り付いたような感じがする。

 

 

 

「ず、随分、大胆な告白で……」

 

 

とりあえず、場を和まそうと精一杯取り繕った声を出す。

俺の言葉を聞いた黒雪姫は、ギギギ…と辺りを見渡すと、教室中の生徒達が、自分を見ていることに気づき、先ほど自分が何を言ったか思い出すと、顔を一気に赤くし、次に青ざめ、よろよろと恵の肩を掴んだ。

 

 

「い、いいいい、今、言ったことは、皆、聞いてないな?な?恵?」

 

「う、ううううん!聞いてない!聞いてないよ!!ね、皆!!」

 

彼女の必死な声に周りの生徒は、コクコクと頷く。

それを見た黒雪姫は、そ、そうか…と震えた声で呟くと、チョコンと椅子に座った。

 

 

「…姫…大丈夫?」

 

そして、何事もなかったかのように話を再開する生徒たちの中、恵は黒雪姫に話しかける。

そんな彼女に微笑んだ黒雪姫は。

 

「何がだ?大丈夫だぞ恵。今なら私は、先に進めるかもしれん。もっと先へ……さしづめもっ先だな。うん、大丈夫だ」

 

「ひ、姫…………」

 

 

 

 

 

 

結局、彼女がいつもの調子を取り戻したのは昼休みになってからであった。

「…はっ!昼休み!ラウンジで、ハルユキ君が待っている!」

と口走ると、凄い速さで教室から出ていった。

 

それを見た3-Cの生徒達は、彼女をハルユキのことで弄るのは止めておこうという、暗黙の了解を立てたのだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




結果はタイムアップの残りHP差でキリト君の負けです。

デス・バイ・バラージング、あれ毎秒100発の斬撃を3秒間放つって…強すぎじゃね?って思ったりしてました。

アバター≪キリト≫の必殺技はホロウ・フラグメントなどででたゲームオリジナルのソードスキルから。
それ以外にもソードスキルもいくつか使えます。
………必殺技多すぎね?と思ったりしましたけど、これから先そんな沢山使うかと言われたら使わない気もしますね。必殺技ゲージという制限もありますし

アバターチェンジのチェンジ・コール…あれは…はい、アリシのシステム・コール的なのを言わせたかっただけです!!

そして姫はドジ踏んだというかなんというか…


二人の対戦も終わりましたし、次は皆の嫌われ者が登場ですかね~…


では、また次回!!


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第二十二話:剣道大会

皆嫌いな能美くんの出番はもうちょっと先に…

では、どうぞ


「…倉嶋君が≪ヒーラー≫だと…?」

 

「はい…」

 

黒雪姫の驚きの声に、ハルユキはコクリと頷いた。

現在午後3時半。

入学式があった日から二日たっていて、生徒会の活動で多忙気味だった彼女もようやく時間がとれたということらしく、二人はこうしてラウンジで向かい合っていた。

チユリのことは事前にメールで伝えていたのだが、彼女の能力のほうは直接伝えた方がいいとタクムと直葉に強く言われたため、こうして伝えることが遅くなったことを謝ると、黒雪姫は首を横に振って。

 

「いや、二人の判断は正しいよ。もしネットでこの件を話して、他のバーストリンカーに盗み聞きでもされたら、大ごとではすまなかっただろうしな」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「ああ、東京中からバーストリンカーが集まってきて、ライム・ベルがどこかのレギオンに入る前にあれこれ策を施しただろうよ。何と言っても≪回復アビリティ≫だ。加速世界が始まって丸七年たつが…それを持っていたのはこれまでで二人しかいなくてな。一人は今も自分を通しているが…もう一人は自分の力を巡る争いに耐え切れずに自分で加速世界から退場してしまったんだ」

 

退場。とはつまり、自分で自分のブレイン・バーストを消去したことなのか。

凍り付いたハルユキに、黒雪姫はふふんと微笑む。

 

「まあ、倉嶋君ならそんなことはしないだろうよ」

 

「あはは…あ、そういえば…もう一人の≪回復アビリティ≫持ちのバーストリンカーは存在してるんですよね?どんな人なんですか?」

 

黒雪姫の言葉に苦笑いをしながら、ふと思ったハルユキがそう問いかける。

しかし、それを聞いた黒雪姫はその表情を硬くさせ、暫く迷うようなそぶりを見せた後、首を横に振った。

 

「…すまんハルユキ君…今は話せない。確かに私はそいつを知っている。同じ王として、顔も会わせたことがあるが…キミにそれを話して、あやつに興味を抱いてほしくないんだ」

 

「は…はぁ……」

 

今の言葉に色々聞きたいフレーズがいくつかあったのだが、ハルユキはそれを呑み込んだ。

彼女が話せないなら、そういうことなのだろう。

 

「…話が脱線したな。さて、倉嶋君だが…私がキミを連れまわしてることにあまり良い感情を持っていなかったな。その理由がBBだったということが分かった今は…どうなっているのか。………そもそも好きな人と一緒にいようとすることのどこが悪いんだ」

 

「え?」

 

最後のほうは小さな声だったので聞き返したハルユキに、黒雪姫は目をぱちくりさせる。

 

「あ、いや、ただの独り言だよ。とにかく、倉嶋君とは一度ちゃんと話したいが…それも十日後だな」

 

十日後?なんでまたそんな先に?

と、ハルユキが考えていると、黒雪姫は呆れた表情でさらっと言った。

 

「修学旅行だよ。四日後の日曜から、新三年生は一週間の修学旅行なんだ。沖縄に行くから、お土産は何がいいか考えておいてくれたまえ」

 

沖縄か…沖縄といえば何が有名だったっけ。

お持ち帰りしやすいものだとやっぱりあれか。ドーナツみたいな、さーたー…

 

「あんだぎー?でも、あれは揚げたてじゃないと美味しくないぞ?」

 

「でも、沖縄のお土産でかさばらないものといえば……じゃなくて!お土産も大事ですけど、来週の領土戦はどうするんですか!?」

 

領土戦とは、≪公式領土戦争≫の略で、毎週土曜日に開催される、レギオンの支配戦域を奪い合うチームバトルのことだ。

≪ネガ・ネビュラス≫は杉並区全てをその領土にしているが、それを維持するためには、勝率を五十パーセント以上キープし続けなければならない。

ちなみにチーム戦の勝敗は、どちらかの全滅か、生き残った人数。それが同じ場合、HPゲージの合計量で決定する。

最近のハルユキも、≪弾除けゲーム≫のおかげで長距離攻撃を苦にしなくなってきてはいるが、まだ不安要素にはなっている。

黒雪姫という絶対的なアタッカーがいるから、安心して自分のことに集中できたということも大きいので、ハルユキは彼女が一時だけとはいえ、参加できないのは心細い。

 

「先輩がいなくなるとして…あ、でもキリトさんが…」

 

「ハルユキ君、忘れたか?キリトは、私と同じ学年だぞ」

 

一瞬見えた希望も、彼女の言葉で消え去った。

一緒に戦ったことも数度あるが、あのビームサーベルで相手をバッタバッタ切り倒す姿は、黒雪姫と同じくらい、ハルユキのことを安心させていた。何かあっても、キリトなら、何とかしてくれるのではないかと…

 

「…じゃあ、領土戦は僕とタクだけ…い、いや……り、リーファ!リーファがいた!!」

 

「……本人の前で言ったら竹刀で頭を叩かれるような発言だぞ…」

 

苦笑いしながら言う黒雪姫に、ハルユキは冷や汗をかくことしかできない。

ブラック・ロータスや、キリトの影に隠れていて忘れていたが、ハルユキ達よりレベルが1上のバーストリンカー、リーフ・フェアリー。

その長刀を手に活躍していた彼女がいれば、何とかなるのではないのだろうか。

 

 

「あのなハルユキ君…もし彼女がいなかったら、キミはタクム君と二人なんだからな。そうなっても、タクム君に頼るつもりか?少しは自分の力でなんとかしてやる!くらい思ってくれ」

 

「う…は、はい…」

 

黒雪姫に叱責されたハルユキは縮こまることしかできない。

そんな彼を見て微笑を浮かべた黒雪姫は、人差し指をピン、と立てた。

 

「ならこうしよう。私が帰ってくるまでに…そうだな。領土戦で一度でも、キミが攻撃を受けなかったら、何かご褒美をやろう。キミのお願いを何でも一つだけ聞いてやる。どうだ?」

 

「い…っ!?というか、ゴホウビ!?」

 

つまり、今度の領土戦で一度も攻撃を受けないで勝った戦いがあれば、あの黒雪姫からご褒美がもらえると、そういうことか!?

何でも一つだけということは…あれか!食べ物食べ放題とk……いや、まて。

そんなものに願いを使っていいのか?た、例えば二人で出かけたり、自分の家に来てもらったり、逆に彼女の家に言ったりとか…そこで直結してもらうとか…。しかもケーブルは短く…一メートル、いや五十センチ…それとも三十センチとか!?アリなのか!?そんなお願いもアリなのか!?

 

どうする…どうするんだ有田春雪…!!

 

「あ、でも私の能力を超えることは無理だからな。鼻からスパゲッティ食べるとか。この部分でテーブルを突き刺して持ち上げるとか」

 

「だ、誰が得するんですかそんなの!?」

 

椅子からずるっと滑ったハルユキは、「この部分」と言いながら黒雪姫が指を指している特徴的な二本のアホ毛(?)を見る。

一体どうやってセットしているのだろうと考え、その毛がサクッとテーブルを突き刺して持ち上げるところまで想像したハルユキは思わず吹き出しそうになるが、必死に堪える。

 

「と、とにかく、善処します。それと、チユの方には基本的なことをレクチャーしときますんで」

 

「ん、その後、私からレギオンへの加入申請をさせてもらうよ」

 

そこで黒雪姫はちらりと視界端の時刻表示を見た。

 

「…っと、そろそろ生徒会室に戻らないとな…」

 

「あ、先輩。一応僕たちでも確認したんですけど、新入生に新しいバーストリンカーはいませんでしたよね?先輩が演説の終わり際に何か気にしてた感じがしたんで…」

 

すると黒雪姫は首を横に振り。

 

「よく見ているな…いや、何でもないよ。ただ…気配を感じただけだ。対戦でいう、スナイパーの照準器に狙われているような、な。まあ、私の錯覚だろうさ。…それじゃあ、私はここで失礼させてもらうよ」

 

「あ、じゃあ僕も帰ります」

 

「ん、そうか。帰りは気をつけてな」

 

「はい、先輩も…」

 

黒雪姫と別れたハルユキは、帰り道にふと脈絡もない考えが頭をよぎった。

――ご褒美とやらはタクや直葉にも適用されるのかな?

 

暫く考えた末にハルユキが出した結論は――――――

 

 

「ま、そん時はそん時でいいか」

 

実に安直な考えだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の放課後。

時刻は午後二時五十分。

 

ハルユキは武道場にいた。

理由は一つ、梅郷中学校剣道部の全員参加トーナメントの見学である。

彼とチユリの幼馴染である黛拓武に、同じクラスで同じレギオンの桐ヶ谷直葉が参加していることもあり、ハルユキはタクムに来てほしいと言われたこともあってここに来ていたのであった。

 

「遅いよハル!こっちこっち!!」

 

「悪い。でもタクなら一回戦くらい瞬殺だろ?」

 

「まあ、そうだけどさー」

 

同じように来ていたチユリに呼ばれて、彼女の隣に近づく。

座っている剣道部員の方を見ると、タクムを発見。彼も気づいたようで、右手で軽く挨拶してくる。

それに軽く頷いた後、奥の方で女子部員が試合をしているのが見えた。

防具姿の女子の中に、見知った人物を見つけ、へぇ、と思わず呟いた。

言わずもがな桐ケ谷直葉である。

その姿はいつもの彼女とは違う感じをハルユキに与えていた。

ハルユキが直葉を見ているのに気づいたチユリが、そっと声をかける。

 

「スグちゃん凄いんだよ。最初から三年生の人と当たったんだけど、先に二本先取しちゃったの」

 

「三年から?そりゃすごいな…」

 

純粋に彼女の強さに感心しながら、ふと、女子側の方で応援している生徒達の中に、ある人物がいるのが見えた。

黒い髪の男子生徒、ネクタイから三年生ということがわかる。

彼以外、周りは女子生徒である。しかし、誰も気にした様子はない。

誰かに似ているような…と考え出したところで、チユリに横っ腹をつつかれてタクムが試合に出ることに気づき、そちらに意識を戻した。

 

礼から三歩進んで開始線で蹲踞。竹刀をぴたりと中段に構えるタクムの姿を、ハルユキはじっと見る。

思えば、彼の剣道姿を生で見るのは初めてだ。

ネットとかでの試合は見たが、生は違うなと考えていると、彼の首元についているニューロリンカーが目に入った。

あらゆるスポーツの試合が、ニューロリンカー着用状態で行われるようになったのはそう昔のことではない。

得点や選手の位置、特に剣道などでは有効打の判定などにも使われているくらい、日常的だ。

 

勿論試合中は厳密な監視が入り、外部のアプリ実行などは厳しくチェックされるが、ブレイン・バーストの≪加速≫はそれをすり抜けることができる。

半年前、タクムは≪加速≫を使って一年生ながら大会で優勝した経験がある。

ハルユキと戦った後はそれを悔い、今でも彼の中に色濃く残っているだろう。

 

一度は剣道を辞めようとしていた彼だが、黒雪姫の言葉もあって、こうして再び剣道場に立っている。

 

「タッく――――ん!!ぶっ飛ばせ―――!!」

 

チユリの声援にびくりとしながらも、ハルユキも精一杯、彼のことを応援した。

 

「タク、頑張れ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「タッく――――ん!!ぶっ飛ばせ――――!!」

 

何やら元気な声が聞こえるが、恐らく向こうの男子の応援だろう。

そう考えながら、俺は視線を目の前の試合場に戻した。

 

 

「めぇぇぇぇん!!」

 

バシィっと懐かしい響きの音が聞こえ、白旗が同時に上がる。

 

「メンあり!勝負あり!!」

 

その後、応援に来ていた生徒達の間で、ざわめきが起きる。

今までの試合、全戦二本先取の二年生。それが今、決勝へ進み、同じように進んできた三年生の部長と対峙しているのだから。

 

―――まあ、その二年生は俺の妹なんだけど

 

俺は今、妹である直葉の剣道の試合の応援に来ていた。

最初こちらに来た時は、おそらく友人の応援に来ていた女子生徒達が「何で男子がここにいるの」オーラを出していてやや居心地が悪かったが、直葉が駆け寄ってきて、「お兄ちゃん、私頑張るからね!」と意気込んだのを見た後は、彼女の兄であることが伝わったのか、空気は柔らかくなった。

 

 

「…懐かしいな」

 

 

しかし懐かしい。

防具も、竹刀も、この独特な雰囲気も。

SAOから帰還した時に、直葉と手合せしたが、あれは剣道と言っていいものではない…よな

 

懐かしいというのは、祖父の方針で二年だけ通っていた剣道場での出来事だ。

自分にはどうしても合わず、基礎しか教わらないまま辞めてしまったが、あの雰囲気はよく覚えている。

 

そういえば、もう一度剣道をやろうかなんて言っておいて、結局やらなかったな…

≪あちらの直葉≫も、それは嬉しそうに教えるって言ってたのに…

 

 

「コテあり!!」

 

思い出にふけっていると、その声と共に、赤い旗が上がっていた。

直葉は白い旗なので、一本取られてしまったらしい。

 

やはり決勝。部長の方も確か殆どの試合を二本先取で勝ち進んでいる強者だ。

 

 

「二本目!」

 

 

しかし、直葉も負けていない。

素早い動きの小手面で、二本目を相手から取ったのだ。

 

 

―――そういえばあれ、スグの得意技だったっけ

 

 

前に≪直葉≫が言っていた気がする。

お兄ちゃんが私の小手面躱しちゃったから、もう本気になっちゃって。とかなんとか。

 

そう考えていると、男子の方で大きなざわめきが起きる。

見た感じ、一年生が二年生から一本取ったようだ。

というか、三年生、お前ら後輩に負けてどうするんだよ…

 

と、試合をしている二年生の防具に書かれている黛の名前を見て、ほう。と呟く。

俺の秘密をある程度知っているシアン・パイルこと黛拓武も剣道部員だったのか。

いや、直葉が転校してきた時の彼が剣道部に入ってないことを嘆いていたので、今日、新入部員として入ったのだろう。

 

この角度では相手の名前は見えないが、かなり強い一年生なんだろうなと考えていると、タクムが一胴に竹刀を打ち込もうとする。

 

 

 

「コテあり!!」

 

その先を見ようとして、目の前の試合が終了した声を聞いて、慌てて視線を戻した。

 

 

 

上がっている旗は、白。

 

 

 

 

直葉の勝ちだ。

続いて向こうの方でも歓声が聞こえる。

どうやら、一年生が勝利したようだ。ちゃんと見ていなかったからわからないが、あの攻撃を躱され、逆に取られたんだろうなぁと、思っていると、直葉がこちらに駆け寄ってきたので、意識を戻す。

 

 

「やったよお兄ちゃん!私、勝った!!」

 

「ああ、じゃあ今日はお祝いになんか豪華な飯にでもするか」

 

「ほんと?やった!!」

 

ポンポンと彼女の頭を叩きながらそういうと、直葉は嬉しそうにそう言って、剣道部の部員達のところに戻っていった。

 

 

 

 

それを見ながら、彼女に外で待っているとの主旨を伝え、俺は武道場を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




スグちゃん折角剣道部員なんだから…剣道させてあげたいなって思いました

能美くんは出るとは言ったよ!出るとは!
今回は後ろ姿という可哀想な出演でしたけど

姫のアホ毛(?)でテーブル串刺しは、原作3巻のアクセル弁当より思いつきました。

ハルユキ君がリーファを忘れてたのは、姫とキリトが参加できないって聞いて割と焦ってたからです
影が薄いなんて…ソンナコトナイデスヨ


では、また次回!
今度こそ…彼を出せたらいいですね


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第二十三話:忍び寄る悪意

お久しぶりです

前半部分は改定前と同じですが、後半部分は変えました。

では、どうぞ


「せやぁっ!!」

 

気合の入った声と共に振られたカゲミツは、相手の体を切り裂き、そのHPゲージを奪い去った。

それと同時に浮かび上がるチームの勝利表示を視界に収め、カゲミツを右、左に振った後、エネルギー刃を消しながら右のフックにかける。

 

「お疲れ様です、キリトさん」

 

「あ、クロウもお疲れ」

 

近くにいたシルバー・クロウに挨拶すると、別の場所で戦闘していたシアン・パイルとリーファも出てくる。

彼らにも挨拶した後、最後にブラック・ロータスが姿を現した。

 

「さて、今週の領土戦も無事、この杉並エリアを守ることができたな。皆、お疲れ様」

 

ブラック・ロータスがそう言うと、各々が挨拶をし返し、その後シアン・パイルがやや小声で口を開く。

 

「お疲れ様です。…それでマスター、すみません。僕とリーファは今部活の休憩時間中なんで…これで失礼します」

 

「ロータスさんも、キリトさんも、沖縄、楽しんできてください!」

 

一礼しながら消えた二人を見ながら、黒雪姫はふふっ、と小さく笑う。

 

「リーファは一年からやってるとはいえ、彼の方はもう立派な剣道部員だな。二人ともレギュラーなんだろう?」

 

「ええ、まあ…それで、その…剣道部員のことなんですが」

 

シルバー・クロウは辺りを小さく見渡した後、俺たちに少し近づくようにジェスチャーして、小声で話し出した。

 

「まだ確証は得られないんですが、タクと一緒にレギュラー入りした新一年生が、バーストリンカーなんじゃないかって…」

 

「なんだと?」

 

レギュラー入りした一年というと…こないだの剣道大会でタクムに勝利した一年生のことか。

クロウの話によると、その一年生が≪フィジカル・バースト≫というレベル4から使うことができる、三秒間だけ思考を≪加速≫させる能力を使っていたらしい。

証拠はあるのか?と問いかけた黒雪姫にクロウは、タクムも前に剣道でそれを使った経験があるから見間違えることはないと返した。

 

「…でも、それっておかしくないですか?≪フィジカル・バースト≫コマンドを使ってるってことは、その能美って人もバーストリンカーなんですよね?でも、マッチングリストに表示されていないなんて…」

 

俺の言葉に―—この半年でこの喋り方も中々板についてきたが、やはり精神的にきついものがある――黒雪姫はうむ、と頷く。

 

「彼の目的がわからないな…バーストリンカーであることを隠したいなら、≪フィジカル・バースト≫コマンドを使う必要がないだろう?そして、向こうには我々のリアルの情報が知れている筈なのに、それを利用して≪対戦≫もしてこない…彼は何がしたいんだ?」

 

黒雪姫の疑問には誰も答えない。

その能美とやらが梅郷中のバーストリンカーのリアルを知っているのは恐らく事実だろう。

俺の方はわからないが…目の前の黒雪姫は勿論、シルバー・クロウやシアン・パイル、リーファたちのことも知っていると考える。

とは言え、マッチングリストにそのバーストリンカーがいるだけで、誰がどのアバターかなんてわからない筈だ。…恐らく、それ相応の情報網を持っていると考えた方が良い。

俺に関しては≪美少女型アバター≫が男子生徒っていう時点で十分隠れ蓑になってるしな…

 

そう考えていると、シルバー・クロウがあやふやな口調で言葉を発した。

 

「やっぱり、あいつがリストに出てこない仕組みを見破って、直接≪対戦≫して聞くしか…」

 

「まあ…な。本当なら私が挑みたいところなのだが…残念ながら明日から一週間、修学旅行だからな…。…仮病でも使って残ろうかな…」

 

「だ、駄目ですよそんなの!中学の修学旅行なんて、一生に一度の経験じゃないですか!!能美の件は僕らで何とかしますから、行ってきてください!!」

 

と、慌てながら黒雪姫を止めるシルバー・クロウ。

 

「ん、そうか。だが、あまり無理はするなよ?そういえば、お土産は何が良いか決まったか?」

 

「あ、あまりかさばるものお願いしても悪いんで…先輩が撮った動画とか見せてもらえればそれで…」

 

「ふむ、わかったよ。じゃあ、たっぷり撮ってキミに送るよ」

 

「あ、はい。お願いします…あ、キリトさんも、楽しんできてくださいね」

 

「はーい。後のこと、よろしくお願いね?」

 

俺の言葉に頷いたシルバー・クロウはバースト・アウトと言ってその場から消えた。

残り時間はあと三分ほどか。

 

 

「…さて、どう見る?」

 

誰も無くなり、二人っきりになったのを確認した黒雪姫が俺に問いかける。

その言葉に少し考えた後。

 

「個人的に、何か一波乱が起きるんじゃないかって思ってる。リアルは互いにもう割れてるも同然だろ?仕掛けてくるなら、俺たちが修学旅行に行った後だと思う」

 

「王の不在を狙った犯行…か。そうなると、ハルユキ君たちだけで対処することになるな…」

 

「バックドアだっけ?あれ使って、いつでもこっちにダイブできるようにはできないのか?」

 

俺の言葉に黒雪姫は首を横に振る。

 

「…無理だ。タクム君の事件のあと、パッチが当てられて同種のプログラムは使用できなくなっている」

 

「………そうか…」

 

それと同時にタイムアップ。

なんにせよ、今週も≪ネガ・ネビュラス≫の領土は守られたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃーん、明日の準備したー?」

 

時刻は夜。

夕食を終えて、明日からの修学旅行の準備をしていると、直葉が部屋に入ってきた。

 

「ん、大体な。そういえばスグ、お土産どうする?」

 

「んー…何でもいいよ?」

 

「じゃあサーターアンダギーでいいか。母さんも食べれるたろうし」

 

「…それ私のお土産じゃなくて家族のお土産じゃないかなぁ…」

 

うむむ…と唸りながらこちらを見た直葉は、やや真面目な顔になると。

 

「能美って人の件、聞いた?」

 

「ああ。領土戦の終わりにクロウから。スグは…あ、タクムとかか」

 

俺の言葉に直葉は頷く。

 

「私、頑張るね。有田君たちも、皆、私が守る」

 

「……そんな気張るなよ。スグはスグができることを全力でやれば良い。仲間だろ?皆で協力すれば、何とかなるって」

 

「……………ん」

 

直葉の頭をぽんぽんと叩きながらそう言うと、直葉はコクリと頷いて。

 

「じゃあお兄ちゃん、いってらっしゃい!明日はちゃんと起きてよ?」

 

そう言って自分の部屋へ戻っていった。

それを見届けた俺は、荷物チェックをして忘れ物がないことを確認し、ベットに入った。

薄暗い部屋の中で、例の能美というバーストリンカーについて考える。

 

マッチングリストに表示されないバーストリンカー。

≪フィジカル・バースト≫を、他のバーストリンカーがいるのに使った理由。

わざわざ自分の正体をばらすようなことをする理由が見つからない。

これでは調べてくれと言っているようなものだ。

 

「………矛盾してるなぁ…」

 

ふぁ、と欠伸を一つ。

睡魔に耐え切れずに眠りそうな中ふと思ったことは―――

 

 

 

ハルユキ達が能美について調べることまで彼の計算の内だったとしたら…

 

 

ということだった。

 

 

 

 

 

 

 

かくして、黒雪姫と桐ヶ谷和人の二人は、飛行機にて沖縄へと向かった。

 

 

「桐ヶ谷先輩、少しいいですか?」

 

 

そして翌日の四月十五日、剣道部の部活が終了した時刻。

シャワーを浴び、帰ろうと昇降口で靴を履こうとしていた直葉に、やや高い声が聞こえた。

 

先輩、ということは後輩だろう。

んー?と、間延びした声で振り向いた直葉は、その人物を見た瞬間に目を細める。

 

「ええと…少し練習したいことがあるんですけど…付き合ってもらいたくて」

 

そう言いながらこちらに話しかけてくる人物は、能美征二。

新入生のバーストリンカーではないかと、ハルユキ達が疑っている生徒だ。

マッチングリストに現れないので、本当にそうなのか確証はないが、警戒はしていた方が良いだろう。

少し警戒しながらも、直葉は首を傾げる。

 

「ええと…確か能美君だよね、一年生なのに男子剣道部員で一番になったっていう…えっと、何で私なのかな?男子と女子じゃ、色々と差が大きいと思うんだけど…。黛君とか、良いんじゃないかな?」

 

一応話すのは初めてなので、初対面の振りをして話す。

すると、能美は肩を竦めて。

 

「黛先輩、今日はすぐ帰っちゃったんですよ。まあ、あの人じゃ駄目なんですけどね?」

 

そう言いながら取り出したのは、XSBケーブル。

 

「疑ってるみたいですし、正体を教えてあげますよ。そう、僕も貴方たちと同じ加速能力者………貴方たちにわかりやすく言うと、バーストリンカーです。実は今日、面白い能力を手に入れましてね?その練習相手になってほしいんですよ」

 

それを自分のニューロリンカーの端子に装着しながら能美は自身のことを加速能力者…バーストリンカーだと吐き捨てるように言った。

自分から正体をばらした能美の真意が掴めず、直葉の視線が鋭くなる。

 

「………あなたの目的は、なんなの?」

 

「怖いなぁ…そう睨まないでくださいよ。僕はただ、平穏にこの学校生活を送りたいだけなんですから…お互い荒事は避けたいですよね?何簡単です。ここでどっちが優位か、決めましょうよ。あなたが勝てば、僕はあなたがたに手出しも何もしません。大人しくここから出ていきます。でも、僕が勝てば……」

 

能美はわざとらしくポーズを取って。

 

「あなたは僕に、ポイントを捧げる犬になってもらいます。勿論、あなたが卒業するまでですけどね」

 

チャンスだ。と直葉は思った。

ここで彼を倒せば、梅郷中は、彼の魔の手から逃れられる。

ポイントを捧げるということはつまり、≪フィジカル・バースト≫をするためのポイントだろう。

≪加速≫を使ってそんなことをする奴は…許せない。

 

「………わかった。やろう」

 

能美からケーブルを受け取った直葉は、自分のニューロリンカーの端子に接続する。

それを見て薄ら笑いを浮かべた能美も、ケーブルをつけ加速コマンドを唱えた。

 

「バースト・リンク」

 

 

 

 

 

 

リーフ・フェアリーの姿になった直葉は、目の前の敵に視線を移す。

全面がのっぺりとしたバイザー状で、奥には赤紫色の眼が輝く。体はシルバー・クロウのようにほっそりとしているが、右腕に大型カッターに、左腕には三本に別れた触手と、奇怪な両腕をしていた。

相手の名前は…ダスク・テイカ―。

 

ステージは≪煉獄≫ステージ。

生物的なステージの中、二人は睨みあっていた。

 

 

「それが≪妖精≫リーフ・フェアリーでしたか…ふむ、本当に妖精みたいですね。驚きましたよ」

 

リーファの姿を見て素直に驚いた声を出すと、ダスク・テイカ―は「そういえば」と呟く。

 

「貴方たちの情報を集めていた時、面白いものを見つけたんですよ。ええと…≪ミッドナイト・フェンサー≫でしたっけ?彼って、あなたの≪親≫だったんですね?それで…彼が全損したのは≪黄の王≫の策略…でしたね?」

 

「…だから何?」

 

冷たい声で返すリーファにダスク・テイカ―は、まあまあ、と彼女を落ち着かせるような素振りをする。

 

「こう見ても僕、色々と知り合いが多いんですよ。王の側近とかにもね。それで、物は相談なんですけど…仇、討ちたくないですか?あなたが僕に、ちゃんとポイントを捧げてくれるなら、彼らに話して戦いの場をセッティングしてあげてもいいですよ?」

 

何故、このタイミングで彼はこんなことを言うのか?

それを言うなら、私と対戦する前に言っておけばよかったのではないか?

それとも…私に勝てる可能性が低いから、こうして交渉した…?

…いや、それならさっきの対戦する前に言っていたほうがよかったではないかという話に戻る。

 

そう考えているリーファの前で、ダスク・テイカ―は肩を竦める。

 

「そんなに疑わないで下さいよ…奪われたから奪いたい。最高じゃないですか。僕は善意で言っているんですよ?その気持ちはよぉーくわかります。まあ、別に保留でもいいですよ?この戦いが終わって、あなたが勝ったとしても、あなたにその気があるのなら、協力してあげてもいいです」

 

「………………」

 

ダスク・テイカ―の言葉に、リーファは無言で長刀を構える。

その瞳は迷いに揺れているようにも見えるが、戦意は萎えていない。

ダスク・テイカ―はそんなリーファの表情に内心で微笑んで。

 

「そうですか…まあ、対戦を挑んだのはこちらですし…そろそろ始めましょうか」

 

そう言うと、右手の大型カッターを構えて走り出した。

突き出されたカッターを長刀で弾いたリーファは、ダスク・テイカ―の懐に飛び込んで、その剣を振るう。

 

「チィ…っ!!」

 

刃は彼の装甲を斬り裂くようにみえたが、左腕の触手が生き物のように動いて、リーファの腕に巻き付いてその動きを止める。

そのままダスク・テイカ―はブン、と触手でリーファを投げ飛ばす。

そのままステージと化した昇降口の廊下の壁にぶつかるかに見えたリーファだが、クルクルと回って態勢を立て直すと、その壁に両足をふわりと付け、壁を蹴る。

かなりの勢いをつけて突っ込んだリーファの剣は、回避行動をしたダスク・テイカ―の装甲を浅く斬り裂く。

リーフ・フェアリーのアビリティ≪跳躍力強化≫は、クロム・ディザスター討伐戦の際にシルバー・クロウのいるところまで飛んだ時にも使われた能力で、任意的に発動できるタイプである。

壁などを蹴った時の反動を増幅させ、さながらジェット噴射のようなスピードで飛ぶ姿は、かの≪スカイ・レイカー≫のようでもあるが、あくまでも瞬間的なもの。

壁を蹴った勢いが残っているうちは、背中の羽根によって若干の姿勢制御も可能であり、≪限定的≫の言葉ではあるが、リーファは飛行することができる。

≪スカイ・レイカー≫が空を飛ぶ部分で≪飛行型アバター≫に近づくなら、リーフ・フェアリーは姿勢制御の部分で≪飛行型アバター≫に近づいていたということだ。

その羽根で姿勢制御をしながら舞う姿はまさに≪妖精≫。

彼女の呼び名は、彼女の姿や、その戦い方からつけられたモノなのだ。

 

 

「せぁっ!!」

 

 

再び壁を蹴って突進したリーファの剣は、ダスク・テイカ―の大型カッターに防がれる。

 

「ちょこまかと…!!」

 

攻撃を弾かれて宙で一瞬止まったリーファの体に、ダスク・テイカ―の足が突き刺さった。

続いて振られる大型カッターが、リーファに叩きつけられ、彼女の体は窓ガラスを破って校舎の中庭の方に吹き飛ばされた。

 

HPゲージは互いに二割ほど削られている。

立ち上がって再び長刀を構えたリーファに対し、ダスク・テイカ―はゆっくりと歩いてきた。

 

 

「さて…と、桐ヶ谷先輩。僕は先ほど、能力の練習に付き合ってほしいと、言いましたよね?」

 

 

そう言いながら立ち止まったダスク・テイカ―に、リーファは何も答えずに睨みつける。

ダスク・テイカ―は肩を竦めた後、両腕をクロスさせ。

 

 

「だから…この翼の実験台になってもらいますよ!!」

 

 

そう言うと、バッと腕を開いた。

その瞬間、彼の背中から黒い、漆黒の翼が現れた。

驚愕した表情のリーファを見たダスク・テイカーはニヤリと笑うと、その翼を動かすと空中に浮かび上がった。

 

「≪飛行アビリティ≫……?」

 

「そう!これが今日僕が手に入れた能力ですよ!!僕の犬になった有田先輩から奪った、≪飛行アビリティ≫です!!」

 

こちらの呟きに高笑いしながら答えるダスク・テイカーに、リーファは驚きと、悔しさに唇を噛みしめた。

既に、彼の魔の手は梅郷中に伸びていたのだ。

そして、シルバー・クロウは彼と戦ってその翼を奪われたのだろう。

相手のアビリティを奪う能力なんて聞いたことはないが、そういうアバターもいるのだろう。

 

 

「さてと…≪パイロディーラー≫装備」

 

その言葉と共に彼の腕に装着されたのは腕全体を覆うような火炎放射器。

 

「黛先輩ではなくあなたを選んだ理由はですね、コレから逃げ回る姿を見たいからですよ!彼のアバターはウスノロそうですしね!!」

 

そう言ったダスク・テイカーの火炎放射器の砲身に、赤い光が灯る。

リーファがそれを視認して反射的に横に飛ぶと、それを追うようにダスク・テイカ―の腕からドラゴンのブレスのような炎が発射される。

立ち止まっていればその炎で焼かれてしまうだろうが、≪跳躍力強化≫の恩恵によって加速したリーファには能美の攻撃は追いつかない。

勢いを付けたまま校舎の壁を蹴り、三角飛びの要領で空に飛んだリーファは同じように飛んでいるダスク・テイカ―に剣を振り下ろす。

 

 

「ぐっ!!」

 

 

まだ慣れていないのか、空中での動きがややぎこちない彼の装甲を斬り裂いたリーファは羽を動かして方向転換。

近くのポールに足をつけて能美を睨む。

ダスク・テイカ―は斬られた箇所を押さえながら、その翼を数度羽ばたかせると、納得したようにコクリと頷く。

 

 

 

 

「流石は≪妖精≫…ですかね。でも…僕もそろそろ慣れてきました…よ!!」

 

そう言ったダスク・テイカーは背中の翼をはためかせてリーファに向かって飛ぶ。

彼の右腕から放たれた火炎は真っ直ぐにリーファに飛んでいく。

それを視認したリーファは、逆にダスク・テイカ―に突っ込んだ。

 

 

「やぁっ!!」

 

 

迫りくる炎を背中の羽根による姿勢制御で難なく回避したあと、その装甲に向かって剣を振り下ろす。

 

「おっと」

 

しかしその攻撃はダスク・テイカ―が空中で横にスライドしたことによって空振りに終わった。

舌打ちをしながら地面に着地したリーファは、空中で自在に空を飛んでいるダスク・テイカ―を見上げる。

慣れてきた(・・・・・)と言ったダスク・テイカ―はその翼でホバリングしている。

必殺技ゲージに関しても、シルバー・クロウが空を飛んでいる時と同じく消費され続けている。

よって、いつかは彼は地面に落ちるだろう。

 

 

「ほらほら、立ち止まっている暇はありませんよ!!」

 

 

しかし、その考えは直ぐに消え去る。

ダスク・テイカーの右腕に装着されている火炎放射器から放たれた炎は地面を焼き、それによって獲得される≪ステージ破壊ボーナス≫によって必殺技ゲージが常時回復しているのだ。

もちろん飛行アビリティと火炎放射器によるゲージの減少は始まっているが、その量よりもステージ破壊ボーナスによるゲージの上昇量がそれを上回っているのだ。

 

まさに永久機関。しかしそんな攻撃を大人しく食らうわけにはいかないので、リーファはダスク・テイカーの攻撃を回避し続ける。

 

 

 

「…ちょこまかと…!!」

 

 

そんなリーファに舌打ちをしたダスク・テイカーは、火炎放射器を先ほどの大型カッターに変えると急降下をしながらリーファに突っ込んできた。

いつまでたっても仕留めきれないということにイラついたのだろう。その動きは酷く単調だ。

高速で突っ込んできたダスク・テイカーの攻撃をバックステップで回避したリーファは、その長剣を構える。

 

それと同時に彼女の剣を、淡いグリーンの光が包み込む。

 

「しまっ…!!」

 

 

それを見たテイカーは慌てて上空に上がろうとするがもう遅い。

リーファは攻撃を避けながらこの瞬間を待っていたのだ。

相手が一度地面に着地した瞬間の僅かな硬直時間。

シルバー・クロウならともかく、飛行能力に慣れていない彼が地面に着地したあとは一瞬止まるはずだと考えていた彼女は、必殺技を放つ。

 

 

 

 

 

「≪フェアリー・スターズ≫!!」

 

 

 

左下から右上への斬り上げ、そのまま右下へ斬り下し。

続いて左上へ斬り上げて、右方向へ水平斬り、最後に左下への斬り下ろし。

星の形を描いた五連撃技は、ダスク・テイカーの装甲を斬り裂いた。

 

 

 

 

 




能美君はほら、自分は研究会の中で偉いんだ的なこと思ってませんでしたっけ
ほんとにパイプがあるのか…研究会の力なら何とかなりそうな気もしなくはないですね
ちなみにこの能美君は本心で言ってます。奪われたら仕返しするのに共感したんですかね



久しぶりだし皆さんの反応が怖い…
とりあえず、こんな感じでした

時間を見つけてはぼちぼちやっていきたいと思います


あ、スグの必殺技は一応オリジナルです

では、また次回!!


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第二十四話:ハルユキの決意

こんばんわ

気が付けばSAOⅡもマザーズ・ロザリオ編ですね

戸松さんのOPも映像も良くて感激です



では、どうぞ



「ぐぁあああっ!!」

 

 

リーファの必殺技を受けたダスク・テイカ―は声を上げながら吹き飛ばされた。

彼の体力ゲージを見ると残り一割ほど。

 

―――――これで、トドメだ!!

 

それを好機と見たリーファはダスク・テイカ―に向かって地面を蹴る。

必殺技で吹き飛ばされたダスク・テイカ―は地面に倒れている。

彼が奥の手を隠していようと、この距離なら剣の方が早い。

 

 

「せやぁっ!!」

 

 

烈風のように気合を込めながら振り下ろされた剣は

 

 

 

「ストップ、です」

 

 

この状況でも余裕の声を出した能美の一言で止まってしまった。

 

何か聞こえたとしても、リーファは剣を振り下ろすつもりだった。

しかし、彼の声を聞いた瞬間に堪らない不気味さのようなものを感じたと頭で思考した瞬間、彼女の動きは止まっていたのだ。

 

 

「……なに…?この状況で何か言うことでもあるの…?私が剣を振り下ろせば、あなたの負けは決定するのに」

 

 

剣を突き付けながらリーファはダスク・テイカ―に問いかける。

その質問にダスク・テイカ―は「ええ」と普段通りの言葉で応えると。

 

 

「一応、簡単な確認をしておこうと思いまして」

 

 

と言ってきた。

その言葉にリーファが口を動かす前に、能美は次の言葉を発する。

 

 

「僕があなたとの勝負に負けたら、大人しくここから出ていく…それで良かったですよね?」

 

彼の口から出たのは先ほど、デュエルする前に決めた口約束の話だ。

直葉が勝てば能美は梅郷中から出ていき、逆に能美が勝てば直葉は卒業するまで彼にバーストポイントを捧げるという約束。

 

「…そうね。だから、あなたには出ていってもらう!!」

 

 

リーファはダスク・テイカ―の言葉に頷くと、再び剣を振り上げる。

今度こそ、トドメを刺すために。

 

 

「なら良かったです」

 

 

「っ!?」

 

しかし、その剣は再び動きを止めた。

今、彼は何と言ったのか?

 

 

「どうしたんですか?早くトドメを刺してくださいよ。…まさか、疑ってるんですか?酷いなぁ…流石に傷つきますよ。金輪際あなた方に手出しはしないし、ちゃんと出ていきますって。あなたのおかげで梅郷中は僕の魔の手から逃れて元通り。何も変なところはないでしょう?」

 

 

いや、そもそも何故こんなに余裕なのか?

今、彼がこの学校から出ていくことは彼にとって不都合なことばかりの筈だ。

フィジカル・バーストを使うためのポイントを安定して手に入れることができないのだから。

 

「…どうして…そんなに余裕なの?」

 

だからだろうか。思わずリーファは彼に問いかけていた。

 

「言い方は悪いけど、クロウからポイントを安定して手に入れることができるのっていう状況を作ったのに…」

 

「余裕って…そりゃあ余裕ですよ」

 

リーファの質問にダスク・テイカ―は何を聞くのかと言わんばかりの声で返答する。

 

 

「だって、今の僕には飛行アビリティ(・・・・・・・)があるじゃないですか。これがあれば殆ど無敵ですよ。他の学校に行って、新しい飼い犬を作るなんて、造作もない」

 

その言葉を聞いた瞬間、リーファの思考は固まった。

飛行アビリティ?シルバー・クロウから奪ったその能力のことを言っているのだろうか。

 

「ちょっと待って…私が勝ったら、学校から出ていくって…」

 

「出ていきますよ?ええ。あ、もしかして有田先輩のことを心配しているんですか?大丈夫ですよ。僕がいなくなったら別にポイントを捧げてもらわなくても構いませんし。…あー……でも参ったな…僕、有田先輩の飛行アビリティは有田先輩が卒業するまでちゃんとポイントを上納したら返還するって約束しちゃったんですよ。でも、そうする前に僕が学校から出ていっちゃうんだから、返そうにも返せませんね…だってもう手出ししないって桐ヶ谷先輩と約束しちゃったわけですし…」

 

 

「な、何よそれ!!そんなの…聞いてない!!」

 

わざとらしく、心底残念そうな声を出した彼にリーファは声を荒げる。

しかしダスク・テイカ―は肩を竦めながら。

 

 

「聞いてないって…そんなの、聞かれてませんし…え、もしかして今更約束を変えろって言うんですか?流石にそれはずるいですよ。お互い合意してデュエルしたわけですし…」

 

何を言うんだとばかりに返答する。

怒りに震えながらリーファは剣を振り上げるが、シルバー・クロウの翼のことが頭をよぎり、唇を噛む。

 

「あれ?どうしたんですか桐ヶ谷先輩。ぼうっと立ち尽くしちゃって…とどめを刺さないなら、反撃しちゃいますよ?」

 

動きを止めたリーファを見たダスク・テイカーは不思議そうな声を上げた後、左腕の触手を動かしてリーファに襲い掛かる。

慌てて回避しようとするリーファだが触手攻撃の方が早く、彼女の体はその触手で拘束されてしまった。

 

 

「ぐ…ぅ…っ」

 

 

剣を取り落し、睨むことしかできないリーファを見てダスク・テイカーはククク、っと笑い。

 

「あーあ、折角のチャンス、無駄にしちゃいましたねぇ…仲間なんて、そんなの気にしなきゃ良かったのに…所詮僕たちは一人なんです。自分の知らないところで誰かが不幸になったって、気にしないでしょう?皆、赤の他人なんですから」

 

吐き捨てるようにそう言ったダスク・テイカーは大型カッターを打ち鳴らしながらリーファに近づく。

その姿はまるで死刑囚に近づく処刑人のようだ。

彼はリーファの片腕を大型カッターで挟み。

 

「というわけで……。反撃、させてもらいますね」

 

 

ガシャンと、その間を閉じた。

 

 

 

 

 

 

後は簡単だ。

切断耐性が強くない≪ヒューマン・アバター≫である≪リーフ・フェアリー≫は敗北した。

 

 

能美に敗北した直葉は、彼にポイントを差し出す。

ハルユキのように能力を奪われたわけではない。

ただ単に仲間を人質に取られ、負けた。

 

「それじゃあお疲れ様でした。有田先輩から奪った力の使い方もわかってきたし、桐ヶ谷先輩っていうポイントを持ってきてくれるペットが増えて僕は満足ですよ。今日は良い夢が見れそうだなぁ…」

 

能美がご機嫌な様子で立ち去っていった後、一人取り残された直葉はその場に座り込んでしまった。

胸の中は彼の卑劣な行いに対する怒りと、悔しさ。そして…

 

 

「…お兄ちゃん……っ…」

 

 

自身の兄への罪悪感が渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……グ…………スーグ…?」

 

 

「……え…?」

 

「え?じゃないよー。お箸で卵焼き持ったまま固まってるから、どうしたのかなって思って」

 

 

次の日、直葉は所謂上の空という状態だった。

気が付けば昼休みで、友人に声をかけられてようやく自分がぼーっとしていたことに気付いた。

自分の手元を見るとに自分で作った卵焼きがお箸に挟まれている。

周りの友人も心配そうな表情でこちらを見ているので、長い間そうしていたのだろう。

 

 

「あ…あはは……お兄ちゃん、どうしてるかなーって思ってさ、ぼーっとしちゃってた」

 

「ほんと、スグってお兄さんと仲良いよね。私なんかこないだ弟がさー……」

 

「ナツこそ口を開けば弟のことばかりじゃん。ほんとは好きなんでしょ?」

 

「ちょっ!?ヒヨ何言ってるの!?」

 

「ツンデレってやつだね」

 

「スグまで…」

 

とりあえず卵焼きを食べ、口に広がる甘みを感じながら直葉は談笑に混じる。

この友人たちは直葉が一年生だったときからの友人だ。

弟のことで弄られているのは通称ナツこと園田夏美。

ヒヨと呼ばれているのは高野日和といい、二人とも直葉と同じ剣道部員だったりする。

二人とも剣道は中学から始めたのだが、直葉の目から見ても筋は良いと思う。

 

話しながらネガ・ネビュラスのメンバーの方に視線を向けると、ハルユキはフルダイブ中で、チユリは他のグループで食事を取っているようだ。

タクムについては見あたらないので、どこかにいるのだろう。

 

 

 

「…あ、そういえば今日体育じゃん!うわ…面倒くさい…」

 

「ナツ、ダンス苦手だもんね」

 

「決まった振り付けを踊らされるっていうのがどうにも…」

 

ナツミが頭を抱えながら机の上に倒れこみ、ヒヨリが苦笑いしながらそういうと呻くようにナツミが返す。

 

 

 

「き、桐ヶ谷っさん!!」

 

 

その光景を見て苦笑していると、後ろの方から上擦った声で直葉の名前が呼ばれた。

振り向いた先にいたのは丸っこい体を必死に小さくしている少年…有田春雪であった。

フルダイブを終えて話しかけに来たのだろう。恐らく能美の件について。

 

途端に友人二人の視線が鋭くなるのを感じた気がした。

 

昨日、女子シャワー室からカメラが見つかったことによって一時的にシャワー室が使えなくなったことは恐らくこの学校中で知れ渡っている事実だ。

女子というものの情報網は恐ろしいモノで、案外簡単に情報が手に入ったりする。

情報を流したのは恐らく能美…そして同じ剣道部員である彼女達が能美からその情報を聞いている可能性は高い。

 

 

「有田君…だよね?」

 

「スグに用事?じゃあ私たちは邪魔そうだから先いってるよ」

 

こちらに意味深い視線を向けながら先に体育館に向かっていった友人二人を見つめながら、そのことが奇遇だったと溜息を付く。

恐らく自分らのグループに急に入ってきたことによる警戒と、友人である自分に話しかけたハルユキを見定める視線だったのではないか?そう、例えば娘との結婚の許可をもらいに来た男を見定める頑固親父のような……

 

 

 

「いや!?なんか二人とも勘違いしてない!?」

 

 

そんな思考が浮かんで思わずそう言うが既に二人は教室をでた後。

この状況を作り出した少年に恨めしそうな目で振り向くと、ハルユキはまるで蛇に睨まれた蛙のような表情になっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で…何の用かな?大体は推測できるんだけど…能美、のことだよね?」

 

「う、うん。…というか、桐ヶ谷さんもあいつと戦ったの!?」

 

「昨日の放課後に…ね。勝てなかったよ」

 

驚くハルユキにそう答えた直葉は、視線を逸らす。

それを見たハルユキは俯きながら。

 

「…じゃあ、俺の…≪飛行アビリティ≫があいつに奪われたことも…」

 

その言葉に力なく頷く直葉。

仲間が人質に取られたようなものなのだ。

彼女にはそれを割り切って敵を倒すほど非情にはなりきれない。

 

「…………桐ヶ谷さん」

 

俯いた直葉に、ハルユキの声がかかる。

顔を上げハルユキを見ると、彼の顔は何か、決意に満ちた表情だった。

 

「桐ヶ谷さん。オレに、力を貸してほしい。能美を…ダスク・テイカーを倒して、

梅郷中を…あいつの魔の手から救うんだ」

 

「…え…?能美を倒すって…有田君!それがどんな意味なのかわかってるの!?あいつを倒したら、君の翼は…」

 

「構わない」

 

驚いて彼に問いかけた直葉に返された言葉は、酷く簡潔なものだった。

 

 

「気づいたんだ。≪飛行アビリティ≫は僕の全てじゃないってことに」

 

「…?何を言っているの?」

 

「……その…今まで僕は、翼っていう形に拘っていた。でも、ある人に教わってわかったんだ。その翼に執着することで、僕は僕自身…シルバー・クロウを小さな枠に押しとどめていたんだって」

 

最初こそ直葉に話す言葉を選んでいたような様子だったが、そう口にしたハルユキは直葉を見る。

 

 

 

「翼が失われるのが悲しくないかって言われたら嘘になる。でもこれ以上あいつの好きにさせちゃいけないんだ。一人のバーストリンカーとして…能美は倒さなくちゃいけないんだ。だから桐ヶ谷さん、オレに力を貸してくれ!!」

 

 

「………っ…」

 

 

―――凄い

 

ハルユキの決意に満ちた声に、直葉は素直にそう思った。

自分の大切なモノを奪われてなお戦おうとするハルユキの言葉は彼女の心に響いた。

 

だが、本当にそれで良いのだろうか。

ハルユキは本気で自分の翼が無くなっても良いと思っている。

≪飛行アビリティ≫―――幾多のバーストリンカーが求めてやまなかったその力を捨ててまで、彼は能美を倒す決意を固めている。

バーストリンカーとして、加速の力を使って好き勝手する者を倒そうとしている。

そして相手を倒しても奪われた力は戻ってこないのだ。

 

 

 

―――そんなの、悲しすぎる

 

 

 

「………私は…」

 

 

 

 

直葉が口を開いた瞬間、予鈴のベルが鳴り響いた。

直葉の視界にも授業開始までのカウントダウンが現れる。

 

 

「…返事は、また後でいいよ。多分能美は今週中は何もしないと思う。黒雪姫先輩や、タクに挑むにはまだ時間が必要だって言ってたから…」

 

そう言ったハルユキは授業に向かうために走り出した。

 

 

 

「…お兄ちゃん…私、どうしたら…」

 

 

ポツリと呟いた言葉に答えてくれる者は、誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




能美君のゲスさが伝わったかななんて

脳内ボイスで能美君が喋ってくれてたので結構楽しかったです

本人がいくら大丈夫だって言っても気にする人は気にしますよね
そんな感じです

ハルユキ君の一人称がちょくちょく変わってますが仕様です
こう…力強く言うところはオレにしてみました

ではでは、また次回!


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第二十五話:戦いのための準備

お久しぶりです

気が付けばSAOも終わってしまいましたね…

アリシゼーションアニメ化まではあと二、三年くらいでしょうか…

では、どうぞ


「―――せいっ!!」

 

 

 

時刻は夕食過ぎ、直葉は家にある道場にて竹刀の素振りをしていた。

 

能美やハルユキの件もあり珍しく部活を休んでしまった彼女であったが、自然とこうしていたのである。

 

素振りをしながら、今までの現状を少しずつまとめていく。

 

 

梅郷中に現れたバーストリンカー、能美征二ことダスク・テイカ―。

 

彼の目的は≪フィジカル・バースト≫を使い続けるためのポイントを安定して手に入れること。

 

そのために彼はシルバー・クロウから≪飛行アビリティ≫を奪い、それを盾に直葉を破った。

 

こちらとしては彼の約束など守る気はないのだが、仲間であるシルバー・クロウの翼があちらに奪われている以上、直葉は手を出すことができない。

 

そして今日のハルユキの言葉である。

 

自分の翼など関係ない、一人のバーストリンカーとしてダスク・テイカ―を倒す。

 

 

彼なりに深く悩んで出したであろう結論である。

 

そのことを直葉に否定する権利はないし、する気もない。

 

 

だが、本当にそれで良いのだろうかという疑問が湧く。

 

彼の翼を取り戻す手段はある筈なのだ。

 

バーストリンカーのアバターはそれぞれ違っていても、平等というスタンスを取っているという言葉を信じるのなら、≪奪う≫力を相殺するための≪戻す≫力があっても良い筈だ。

 

ただ、手段はあってもそれを実行することができないのも事実。

 

まずその≪戻す≫力を持っているバーストリンカーと出会い、力を借りるということをしたあとに能美と接触しなければならない。

 

そんな雲を掴むような可能性にたどり着けるのはほぼ不可能だ。

 

 

ハルユキもそのことを考えたから翼を犠牲に彼を倒すということを考えたのだろう。

 

 

 

「………?」

 

 

そこまで考えたところで直葉のニューロリンカーに通知が届く。

ダイブコールだ。

 

竹刀を壁に立てかけてタオルで汗を拭き取った後、習慣からかその場に正座をする。

 

 

ダイブコールは仮想空間内で行う通話のようなもので、会話中は≪完全ダイブ≫状態になる。

 

別に立ったまま電話に出ても良いが、その場合全身から力が抜けることで地面に倒れてしまうというとんでもない事態になってしまうので、椅子に座ったりなど楽な姿勢を取るのが普通である。

 

その相手の名前を見た直葉は一度深呼吸をしたあと。

 

 

「≪ダイレクト・リンク≫」

 

 

応答のためのコマンドを紡ぎ、≪完全ダイブ≫の感覚に身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

VR空間用のアバターの姿になった直葉は彼女の所有しているサーバー空間に降り立ち、同じように降りてくる相手を見つめた。

 

その視線の先に映ったのはピンク色の丸い豚のアバター。

 

シルバー・クロウこと有田春雪であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの?ダイブコールなんて…。別に用事があるならテキストメッセージでもボイスコールでもよかったのと思うんだけど…」

 

 

 

ハルユキからの突然のダイブコールに、直葉は内心驚いていた。

 

ネガ・ネビュラスのことの会議だったり日常会話などで話したりはするが、ハルユキ自身からこのような連絡を受けたことはなかったからだ。

 

連絡などがあってもせいぜいテキストメッセージくらい。

 

ダイブコール自体、事前にアポを取るためにテキストメッセージを送ったり、ボイスコールをするだけで要件は伝えられるのでそこまで使われることはなく、そもそもお互いが≪完全ダイブ≫で行うので、相手が即ダイブできる環境にいなければあまり意味はなかったりする。

 

ともあれ教室で彼女に話しかけようとしただけでも声を裏返してしまった彼が、ダイブコールをしてきたのだ。

 

 

驚かない方が無理があるというのは彼に失礼であろうが、事実直葉は驚いていたのだ。

 

 

「ええと…その、どうしても伝えなきゃいけないことがあったというか…」

 

 

直葉の言葉にハルユキはそう言った後、真面目な表情になり。

 

「チユが、ライム・ベルが能美側についた」

 

 

「……えっ?」

 

 

驚いた声を出した直葉にハルユキは言葉を続ける。

 

今日の5時間目の時にタクムが能美にデュエルを挑んだこと。

 

その時に乗じてバトルロワイヤルモードでハルユキも能美に挑んだこと。

 

あと少しで能美を倒せそうなところでライム・ベルがダスク・テイカ―のことを治療し、ハルユキ達が負けてしまったこと。

 

 

 

「それでチユに話にいったらアイツ、能美の方に付くって言ったんだ…。これからは≪ネガ・ネビュラス≫と不干渉でいこうって。確かに能美と組めばポイントを手に入れる効率は高いけど、そんなのあのチユが考えられるわけない。能美に脅されてるんだよ。もしくはあいつが自分から能美のとこに行ったっていうか…言い方は悪いけど裏切ったとか」

 

そして対戦の後にチユリと話し、彼女が能美と手を組んだということを聞き終えた直葉は。

 

 

 

「…私は二人より付き合いは短いし、絶対こうだって言えないけど…チユは二人を裏切ってないと思うよ」

 

 

率直に、自分なりに倉嶋千百合という人物を見てきた上でその言葉を言った。

 

「だって三人は小さい頃からの幼馴染でしょ?二人がバーストリンカーだって言った時だって何だかんだで分かってくれてたし……」

 

「まあ、そうだけど…。じゃあやっぱり能美に脅されているって考えるのが妥当か」

 

 

二人でううむ、と唸った後、ハルユキが口を開く。

 

「とにかく、オレの翼にチユの回復能力を持っている能美は多分急速的に力をつける筈だ。今度標的にされるのは黒雪姫先輩と…」

 

「おに…。き、キリトさんだね。キリトさんはどうかわからないけど黒雪姫先輩がチユのことを知ったら…」

 

「間違いなく、能美ごと斬るだろうなぁ…敵対する相手には容赦ないだろうし」

 

 

苦笑いしながらそう言ったハルユキは。

 

「そんなことにならないためにも、先輩たちが帰ってくるまであと四日。タクとも話したけどそれまでに能美を倒してチユを救いたいんだ。だから桐ヶ谷さん」

 

「うん、私も戦う。迷ってたけど、今の話で吹っ切れたよ。……あの時、早く返事返せてたら良かったね」

 

「い、いやいや!オレも唐突すぎたし、桐ヶ谷さんが迷うのも当然だって。…それで、能美のことなんだけど、マッチングリストに出ないとそもそも戦えないし、その件は俺が何とかして知らべる。で、桐ヶ谷さんにはある力をタクと手に入れてほしいんだ。じゃないと、アイツに倒される」

 

「ある力?」

 

首を傾げる直葉の言葉にハルユキはコクリと頷くと。

 

 

「アイツを倒すには≪心意システム≫っていう、心と意思の力で具現化する加速世界最強の力が必要なんだ。アレの前にはどんな必殺技も無意味で、≪心意≫を使えなきゃ、アイツとまともに戦うこともできない」

 

 

加速世界に存在する力の存在を直葉に話した。

 

 

 

 

 

 

 

「≪心意システム≫…そんなのが存在するなんて知らなかったよ」

 

「やっぱ秘匿されてるんだな…。とにかく、明日赤の王にアポを取って二人に≪心意≫の使い方を教えてもらおうと思ってる。だから放課後すぐに練馬に行こうと思うんだけど…部活とか、桐ヶ谷さん大丈夫?タクは休むって言ってくれたんだけど…」

 

 

「あー…うん、多分大丈夫かな」

 

どことなく直葉の歯切れが悪くなってしまうのは放課後にハルユキとタクムとどこかに出かけるところを見られてしまった場合、ありもしない噂が立ちそうだと考えてしまったからである。

 

普通の人なら大丈夫かもしれないが、友人の夏美と日和に見られた場合弄られるのが目に見えている。

 

とはいえ、この現状をどうにかしなければならないのでバレたら面倒だと思いながらも頷くのだった。

 

 

年頃の女子の情報網と好奇心は恐ろしいのである。

 

 

「?…じゃあまた明日、学校で」

 

「うん、また明日ね」

 

 

ハルユキの言葉にそう返した直葉は≪ダイブコール≫を終えて現実に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…くしゅっ!」

 

 

その瞬間体に襲い掛かる冷気に思わずくしゃみをする。

 

春とはいえ夜の剣道場の中である。汗を拭いたとはいえ寒いものは寒い。

 

 

「うう…お風呂入ろうお風呂……」

 

 

体を摩りながらペタペタと駆け足で風呂場への最短ルートを通る直葉。

 

明日は大変なことになりそうだから風呂からあがったら早く寝ようと考える。

 

 

「お兄ちゃん、私頑張ってみるよ」

 

 

沖縄にいる兄にそう呼びかけ、直葉はもう一度くしゃみをしながら風呂場へ向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

二〇四七年四月十七日

 

 

「んじゃあ、心意についてはこれくらいだな。わかったか?」

 

 

放課後、練馬区に辿り着いた直葉達は赤の王≪スカーレット・レイン≫である上月由仁子に連絡を取り、彼女から≪心意システム≫について教えてもらうことに成功。

その際に待ち合わせ場所に指定されたケーキショップのケーキはとても美味しかったので、帰りに買って帰ろうと直葉は密かに考えたりしていた。

 

それはともかく、店のプライベートルームの中で≪無制限中立フィールド≫へとダイブした直葉たちは現在その身をデュエルアバターに変えてスカーレット・レインの話を聞いていたのだった。

 

心意というのは決して万能ではない。

そして心意を扱うためには自身の≪心の傷≫に向き合わなければならないということを教えられた直葉とタクムは、心意の修行を開始するために気を引き締めていた。

 

 

「さて、クロウとリーファはどうする?あたしは今からハカセと心意の修行をするんだが…」

 

「「は?」」

 

しかし、続いて放たれた言葉に直葉とハルユキは思わず間の抜けた声を出していた。

 

「何だよその顔。クロウはさっきの光る剣見せてもらったし、リーファはディザスター討伐の時にレディオのやろうにやってたじゃねえか。こう、バッサリと」

 

その反応に困った声を出したのは二コである。

リーファに向かって剣を振るジェスチャーをしながら話すのを聞くと、直葉の頭にある言葉がよぎる。

 

 

 

『心意で攻撃してきたなら…こちらも心意技で応えるまで…!≪妖精≫リーフ・フェアリー…この腕の借りは必ず返しますからね!!』

 

 

 

 

「……あ、そういえば、イエロー・レディオがなんか言ってたような…」

 

眉を顰めながら「むむむ」と唸り呟くリーファに、ニコははぁ、とため息をつきながらリーファに近づく。

 

「あー…お前あれか、無意識というか火事場の馬鹿力というか…そんなんだな?そんなんだったんだな!?くそ、そんなんで心意だされたらたまったもんじゃねえよっ!!」

 

ぐわんぐわんとリーファを揺すりながら何故か投げやりっぽく話すニコ。

先ほどの話を聞いたかぎり、心意を手に入れるには自身の≪心の傷≫と向き合わなければならない。

ニコも苦労したのだろう、彼女の気持ちはよくわかる。

 

 

「…じゃあ、リーファも心意使えるんだよね?ここで見せてよ」

 

 

何はともあれ彼女の心意は気になるので、ハルユキはリーファにそう言う。

 

彼女は「う、うん」と戸惑ったような声を出すと、一歩下がって目を閉じた。

 

 

彼女が使える心意はどのようなものなのだろうか。

 

シルバー・クロウは光る剣の≪射程距離拡張≫と、ゲイルスラスターのリチャージを成功させた≪移動能力拡張≫を使うことができる。

 

見た感じリーファもシルバー・クロウと似たような姿をしているし、同じような感じだろうか?

 

いや、もしかしたらその体を強化させる≪装甲強度拡張≫だったり、≪攻撃能力拡張≫かもじれない。

体を強化させるって、どうするのだろうか?

 

≪ヒューマン・アバター≫である彼女の体は人間っぽいし、あのまま体が硬くなったりしたら台無しになりそうな気がする。色々な意味で。

 

 

 

ハルユキがそう思考しながらリーファを見るが、彼女の体には一向に変化が現れない。

 

心意技を使うときに現れる独特の光も見えないし、一体どういうことなのだろうか?

 

 

リーファの方も首を傾げながら目を開く。

 

その顔は心意が発動できないことによる驚きよりも、どうやって発動すればいいかわからなく戸惑っているといったような表情だ。

 

 

「どうした?」

 

「ええと…何だろう、上手くできないっていうか…」

 

ニコに声をかけられ、困ったように答えるリーファ。

そのを聞いたニコは少し考えた後に頷いた。

 

「イメージが安定しないと心意の発動率も落ちるしな…。無我夢中で使ったっていう事例もないわけじゃねえし…わかった。リーファ、お前もこっちで心意の修行だ。んで、クロウは…」

 

「あ、ええと…僕はダスク・テイカーがマッチングリストに出ない理由を調べようかなーって…」

 

「それも問題だな…。あ、そういや最近似たようなこと聞いた気がするな…まあ、噂程度だけど…クロウ、一旦ログアウトしろ。あたしよりその噂に関して知ってる奴に話つけとくから」

 

「ほ、本当!?ありがとうニコ!なにからなにまで!!」

 

「ふん、こっちとしても見過ごせないから情報提供って奴だっての。早く行けって言いたいんだが…」

 

こちらの感謝に照れくさそうに言ったニコは一度言葉を切る。

そのあと首を傾げるハルユキに向かって指を向けると。

 

 

「さっきの光る剣に名前付けとけ。名前を付けることで心意のイメージを固めて発動速度を速めるためにもな。お前、戦闘中に三秒も集中してたらその間にやられるぞ?」

 

「え、あ…うん」

 

真剣な声でそう言われたため思わず曖昧な返事を返してしまう。

 

その瞬間、ニコの周りから不機嫌オーラが垣間見えた気がしたハルユキは慌てて名前を考える。

 

光のように輝く手刀。

先ほどニコはイメージしやすいように名前を付けろと言った。

 

ハルユキがあの光の剣を思い浮かべる時は自分の手は剣と思い浮かべる。

 

そういえば、キリトが使っている剣もビームサーベルみたいな感じだ。

 

ハルユキの脳内で色んな名前が浮かんでは消える。

 

幾億のパターンから考え出し、ハルユキはこれだっ!と考えた名前を口にした。

 

「じ、じゃあ光線剣(レーザーソード)で!!!」

 

 

「…だせえけど、あたしが使うもんじゃねえしまあ良いか」

 

 

………どうやらハルユキの感性はニコにはいまいちだったようだ。

 

 

 

「と、とにかく色々とありがとうニコ!タク、リーファ!二人とも頑張って!!」

 

「ああ、ハルも気を付けて」

 

「無茶はしないようにね!」

 

二人の返答にサムズアップを返したハルユキはそのまま練馬区役所のポータルに向かって走り出した。

 

 

 

 

そんな彼を見送ったニコは二人の方を向く。

 

 

「それじゃあ始めるぞ。ビシバシいくから覚悟しとけ!!」

 

「「はいっ!!」」

 

 

 

心意習得への修業が、今始まったのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

それと同じくして沖縄の≪サバニ≫という喫茶店

黒雪姫に連れてこられた俺の前に二人の少女が座っていた。

 

二人とも警戒した目で…特に隣の快活気味の少女は俺のことを明らかに威嚇している。

 

突然呼び出されたと思ったらこんなことになるのは誰も予想はしていない。

というかこの子達は誰だ?

まさか黒雪姫の付き人か何かなのか?

 

こいつ…沖縄にも手を伸ばしていたのか…

 

「…おい、何か今失礼なこと考えなかったか?」

 

眉を顰めながら不機嫌そうに声をかける侵略者(黒雪姫)に「何でもない」と返し。

 

 

「で、何なんだこの状況。説明してくれ…」

 

 

俺―――桐ヶ谷和人は事情を知っているであろう黒雪姫に問いかけたのだった。

 

 

 

 




心意の修行開始です

でもこれからは沖縄編です。キリト君です。

改定前のをいくつか手直しするだろうしまた時間がかかるかと…




ではでは、また次回!


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第二十六話:沖縄のバーストリンカー

皆様お久しぶりです

前回の投稿からこんなに時間が空いてしまって申し訳ありません!!

お待たせしました!!




「…おい、ちゃんと説明してくれ…」

 

げんなりとした声で言った俺の言葉に黒雪姫はコクリと頷くと、ことのあらましを説明しだした。

 

まず、目の前にいる少女二人はバーストリンカーらしい。

東京から引っ越してきたバーストリンカーの≪師匠≫とやらにブレイン・バーストをインストールされた快活気味の少女、琉花と、その≪子≫になったおっとりした感じの少女、真魚。

彼女たちは三人で、無制限中立フィールドのエネミーを狩りながらポイントを溜めていた。

いつかは沖縄に≪東京以外の加速コミュ二ティ≫を作ることを目標にしていたのだが、数か月前からある問題が発生したのだとか。

 

「状況を詳しく知るためには、彼女たちの≪師匠≫とやらに話を聞く必要がある。本当なら私一人でも問題はないのだろうが…」

 

「念には念を…ってわけか。OK、そう言うことなら付き合うぜ」

 

黒雪姫の言葉に頷いた俺だが、先ほどからこちらを睨んでいる琉花と目が合う。

流石に何もしていないのに睨まれるのはこちらとしても居心地が悪いので。

 

「な、なにかな…?」

 

「お前、レベルは?」

 

「……4だけど…」

 

質問に質問で返され、困りながらも返答すると、琉花は椅子から立ち上がって。

 

「ネエネエ!助っ人なのに、ワンよりレベルが下ってどーいうことさー!?」

 

と、本人を目の前に抗議をしだした。

真魚の方はこちらにペコペコ申し訳なさそうに頭を下げているが、俺も苦笑いでしか返すことができないので、返事を返すであろう黒雪姫を見る。

黒雪姫は、店員に頼んでいたパインジュースを一口飲んだ後。

 

「まあまあ落ち着け、こいつはレベルは低いけどな、強いぞ?なんなら確かめてみれば良い」

 

「うぇっ!?」

 

「その手があった!流石ネエネエ!よし、ワンと勝負しろ!えっと…クロ!!」

 

驚く俺の前で琉花はパンと手を叩くと、俺に向けて指をビシッと向けてくる。

呼び方が思い浮かばなかったとはいえ、クロと言われたのは初めてだ。

いや、確かに黒い服を着てるけどさ…

 

「いくぞクロ!≪バースト・リンク≫!!」

 

「は……」

 

突然店の真ん中で加速コマンドを叫んだ琉花に思わず呆けた声を出した瞬間、加速音と共に、俺のアバターが構成されていく。

いや、いくらバーストリンカーがいないからって、店の真ん中で堂々と加速コマンドを叫ぶのはいかがなものなのか…

 

 

 

 

【HERE COMES A NEW CHALLENGER!!】

 

炎文字が現れ、その後に【FIGHT!!】の文字が出ると、俺は相手の名前を確認する。

≪ラグーン・ドルフィン≫レベル5。

目の前に立っている海色のアバターがそれだろう。

…となると、その後ろの方にいるピンク色が真魚のアバターか。

 

「人間型のアバターなんて、初めてですぅ…」

 

「あれはレアな姿だからな。見れるのは珍しいんだぞ」

 

真魚が俺の姿を見て驚いた声を上げ、隣の黒雪姫が軽く説明する。

ちなみに現在は≪黒の妖精≫アバター。

前に黒雪姫と戦った時にシステムに愚痴を言ったからなのかは知らないが、今の俺の姿は髪を下ろした姿になっている。

恐らくあれだろう。前に彼女と戦闘した際の姿のままを保持したというか…そんな感じだ。

これであの黒いコートと大剣を装備して戦闘を終えれば、次の戦闘では俺の髪はツンツン逆立っているに違いない。

 

 

「そんなことどーでもいい!行くぞクロ!いざ、勝負!」

 

「いいぜ、勝負だ!!」

 

そう言いながら構えるドルフィンに、俺は薄青い片手剣を抜き放つと、いつもの構えを取る。

最初に仕掛けたのはラグーン・ドルフィンだ。

【古城】ステージ(彼女たちの言葉では【城趾】ステージらしい)特有の白い砂利を蹴りながら、俺との距離を一気に詰めてくる。

 

「ハアッ!!」

 

気合と共に突き出された左の正拳突きを剣の刀身で反らしながら、俺は一歩踏み出して肩でチャージをかます。こうも近づかれては剣は触れない。一度相手を突き飛ばして距離を作らなければ。

 

「せぁっ!!」

 

「痛ッ!!」

 

俺のタックルでバランスを崩したラグーン・ドルフィンの肩に、剣を振り下ろす。

ガッ、を装甲を斬り裂く音と共に、彼女のアバターが吹き飛ばされた。

俺の剣はブラック・ロータスのようなとんでもアビリティはついてないので、何でもかんでも斬ることはできない。

カゲミツのようなビームソードに関してはオブジェクト系なら何でも斬れるんじゃないかという切れ味だが、剣なので当然斬れる範囲は限られるし、ブラック・ロータスの剣などは斬れないのでハイレベル相手だと結構きついかもしれない。

 

それはともかく、俺の一撃はラグーン・ドルフィンのHPを二割がた削っていた。

クリティカルヒット、というやつだろう。

レベル4が5に与えるダメージとしては上出来だ。

 

「くぅ…!やるなクロ!!」

 

ガバッと起き上がったラグーン・ドルフィンは、俺の一撃を受けてもピンシャンしているようで、再びこちらに突っ込んできた。

俺の剣の範囲に入る前に踏み込んだ彼女は、その勢いのまま鋭い飛び蹴りを放つ。

こちらは拳が来ると構えていたので、意表をつく良い攻撃だ。

だが、対処できない速さではない。

俺は瞬時にステップを切ると、その攻撃を回避した。

 

「わっ!?」

 

相手がレベル的に下だからかはわからないが、琉花の方は今の攻撃を避けられると思っていなかったようだ。

バランスを崩した彼女の首筋へと剣の刃を突き付けると、それに気づいた琉花が息を呑む。

 

「…どうする?できれば降参してくれるとありがたいんだけど…女の子はあまり斬りたくないんだ」

 

「なっ…!?わ、ワンは、まだやれるさー!」

 

「る、ルカちゃーん!その状況じゃあもう負けだよぉー!!」

 

実力は見せたはずなので、ドロー申請を出しながら俺がかけた言葉に叫ぶ琉花だが、真魚の言葉を聞くと暫くあー、うー、と唸り。

 

「ま、参った…」

 

やがてYESのボタンを押したのだった。

 

 

 

 

対戦が終了し、椅子に座り込んだ琉花は再び俺のことを睨むが、ふいっと顔を背けると。

 

「さ、さっきは、お前の事弱いって言って…わ、悪かった…」

 

小さな声で謝罪してきた。

別に気にしていなかったので苦笑いしか返せないのだが、彼女の頬がやや赤いのは気のせいだろうか。

 

「それじゃー行く人も決まったことだし、≪上≫にいきますよぉ」

 

真魚がのんびりとそう言うと、琉花もそれに頷き、せーの、と一緒に唱えだした。

まさか…と思いながら黒雪姫を見ると、彼女もぎょっとした表情でこちらに視線を移し、頷いた。

 

「「アンリミデッド・バー………」」

 

「待て待て待て!!お前たちまさかここで無制限中立フィールドにダイブする気じゃないだろうな!?」

 

黒雪姫が珍しく慌てながら二人の口を塞いでいる。

どうやら間に合ったようだ…。

無制限中立フィールドは、ポータルからじゃなければ出ることができない。

もしポータルが見つからなかった時のために、ニューロリンカーの自動切断セーフティを付けるのが常識なのだ。

まあ、その常識は沖縄では通用しなかったみたいだが…

黒雪姫は二人の後ろにまわって、セーラー服の襟首をむんずと掴み。

 

「ダイブする場所は私が決める。いいな」

 

≪極冷気クロユキスマイル≫とハルユキが名付けていた微笑みと、低い声のセットで二人を連行したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

彼女が決めたのは宿泊していたホテルのダイブスペースだった。

宿泊者は利用無料らしく、琉花と真魚の分を二人で払い、案内された部屋に入った。

部屋が空いていなかったとの理由で六人部屋に通されたが、狭いよりははるかに良いだろう。

優先接続用のルーターからケーブルを取り出し、それぞれのニューロリンカーのプラグに装着する。

途中で真魚がもう一本用意して欲しいと言ったので、黒雪姫が接続されていないプラグを一つ用意して、準備は完了した。

 

「よし、時間は五分に設定してある。内部時間では八十三時間だな。では、五、四、三、二、一…」

 

黒雪姫のカウントが開始され、俺たちは一斉に無制限中立フィールドへダイブした。

 

 

 

 

 

「こっちだよ!ネエネエ!クロ!!」

 

「ルカちゃんまってよぉー!」

 

【風化】ステージのフィールドに出た途端、真魚と琉花は走り出してしまった。

苦笑しながら二人で追いかけようとするが、俺の足は止まってしまった。

 

「…キリト?」

 

何か、音が聞こえた気がする。

風の流れに混じってかすかな爆音のような音。

 

今のは何の音だ?

黒雪姫達は間が悪かったのか聞こえなかったようだ。

俺の聞き間違いかもしれないが、確認する分には問題ないだろう。

 

「…先に行っていてくれ」

 

「…何かいたのか?なら私も…」

 

「確認にいくだけだ。すぐに追いつくよ」

 

一緒にいくと言おうとした黒雪姫を押しとどめ先にいくように促すと、彼女は「何もなかったら早く戻ってこい」と言って、二人の後を追いかけた。

 

彼女が去っていくのを見ながら、俺は先ほどの音が聞こえた方向に走る。

風化ステージといっても、そこらじゅうに瓦礫の山が存在しているので、それを飛び越えていかなくてはならない。

 

瓦礫を蹴るために足に力を入れようとした途端、視界の隅から黒色のビームが飛んできたのが見えた。

 

「く…ぉ…っ!!」

 

既に足は瓦礫を蹴っていて、俺の体は空中にある。

しかし、何とか体を反らして回避を試みる。

ビームは俺の体を掠めたが、直撃はしなかった。

しかし、空中で無理な態勢を取った俺は、そのまま地面へ転がるように着地。

更に追撃のように飛んできたビームはあちこちの瓦礫にぶつかり爆発を起こした。

 

 

剣を抜きながらビームが飛んできた方向を睨みつけ、これ以上追撃を受ける前に走り出す。

 

近距離型では遠距離型の相手には不利なのは事実。

GGOで経験したBoBでもその事が大きく現れただろう。

 

そもそもあそこは隠れながら銃で敵を倒すゲームであって俺のように剣を持って相手に突っ込んでいくこと自体が向こうからすればおかしいことなのだろうが…。

 

 

「…あそこかっ!」

 

瓦礫を飛び越えながらビームが飛んできた方向に進んでいると一人のデュエルアバターが見えた。

全身を薄い紫色の装甲で身を包み、一際目立つのはそのアバターが被っている大きな帽子だ。

顔の上半分を大型の丸レンズ付きのゴーグルで隠した相手は明らかに慌てた様子で俺を見ている。

 

そしてその帽子の前面にも付いているレンズがチカッと光輝く。

 

 

「っ!!」

 

 

反射的に回避運動を取った俺のすぐ横を紫色のビームが通り過ぎ、背後で爆発音が鳴り響く。

やはり先ほどの攻撃はあのアバターからのようだ。

 

ビームを避けるなんて芸当はGGOのショップでやった弾除けゲームを思い出すが、今回は予測線なんてものは存在しない。

続けて飛んできたビームを全神経を集中させながら回避し跳躍、相手の目の前まで着地する。

そのまま剣を振り下ろそうとした俺は。

 

 

「ちょ、ちょいまちい!!たんま!すとーっぷ!!」

 

 

目の前のアバターが必死に両手を体の前で振りながら上げた声に、思わず動きを止めていたのだった。

 

 




改訂前とちょっと変更しました

関西弁を喋るアバター…一体何者なんだ…

改訂するかどうしようかと考え気が付けばAW18巻発売
グラフさんの正体怖いとビクビクしながら読み進めながら、ない頭を捻ってこの小説の展開を考えていきたいと思います

それではまた次回!!


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第二十七話:攻撃の正体

お久しぶりです…

前回からおよそ四ヶ月ほどですね、お待たせしました

某型月のソシャゲにはまってしまいました
早く…早く新しい鯖を…願わくばアルターエゴたちを…

SAOの新作ゲームも発表されましたね
ロストソングまだ買ってないんだよなー…気になる






「……は…?」

 

「おお良かった!通じた!」

 

思わず動きを止めた俺を見た目の前の女性アバターは大きく溜め息をつくと、自身に戦う意思はないとでも言うようにサッと両手をあげる。

 

 

……さっきまで攻撃してきた癖に俺が近づいてきたら降参するって都合よくないか?

 

 

「な、なんやその目…わ、わかったって。外す、外すからその剣早くしまってぇ」

 

 

尚も剣を持っている俺に彼女は頭の帽子を外すと腕に抱え込む。

あれ外れるのかと考えながらも、向こうが武器を収めた以上、俺もそれに従うしかない。

剣を鞘に入れた俺に彼女は安堵の溜め息をつく。

 

 

「……で?ここで何してるんだ?」

 

「何してるもなにも、こうして無制限中立フィールドにダイブしてるだけ。…まあ、ちょっと面倒なことになってるけど…」

 

俺の問いかけにやや歯切れが悪そうに答える目の前のアバター。

ひょっとして、彼女が現在黒雪姫達が調査している問題なのだろうか?

 

一瞬そう考えるがその可能性はないと否定する。

瑠花達とその師匠とやらの三人でも手に終えない問題を目の前の彼女が起こしているのは考えにくいと思う。

 

「兄ちゃんは何でこんなとこにおるん?」

 

「え、ああ…」

 

考え事をしていたからか、不意に聞かれた質問に答えてしまう。流石にネガ・ネビュラスやブラック・ロータスのことは話さなかったが、修学旅行中に沖縄のバーストリンカーと遭遇し、助っ人とやらを頼まれていることを話すと彼女は、ほほうと頷いた。

 

「大体はわかったけど…初対面の相手にそんなリアルに繋がること話しちゃって大丈夫なん?」

 

「げ……」

 

 

指摘されて気づいたが、良く考えればそうだと思わず顔をしかめる。修学旅行だけでちょっと調べればこの時期にここに来ている学校を絞ることができるのだ。

 

これは不味いと目の前の相手を見るが、そんな俺を見てか彼女はなんと笑いを堪えていた。

 

「アカン…おもしろ…っ。ヒューマンアバターってホンマ人間らしい反応するんやな…おーおー、リアルリアル」

 

そう言いながら俺の頬をつついたり摘まんだりしている彼女にどんな反応を返せば良いのかわからず固まっていると。

 

「ええわ、今のは聞かなかったことにしとく。結構笑えたし」

 

「わ…悪い…助かる」

 

ひとしきり触って満足したのか先程の失態を聞かなかったことにしてくれた。

口約束なためいまいち信用にかけるが、リアルに繋がる情報という弱味を握られてしまった俺からしたら、ありがたい言葉だ。

 

 

「…まあ、さっきの話だけどウチは分からんなぁ」

 

「そうか…」

 

ごめんなと手を合わせる彼女に慌てて大丈夫だと答える。

 

…そうなるとそろそろ戻った方が良いかもしれないな。

 

そう思い彼女に別れの言葉を言いかけた時。

 

 

「なっ…」

 

 

ちょうど目の前を黒いビームのようなものが通りすぎた。

 

「…あー…まだ向かって来る?……これは呑まれ過ぎてる感じで間違いないなぁ…」

 

「え…?」

 

先程のビームによる爆発で後半部分は聞き取れなかったが、目の前のアバターがうんざりしたように呟いたのを聞いた。

思わず聞き返すと、彼女はんー…と少し考えてから。

 

「いやな、さっき少し面倒なことになってるって言ったと思うんだけど…さっきからしつこく攻撃されてるんよ。あのアバターに」

 

あそこ、と彼女が指差した方向を見ると、こちらに腕をつきだして立っているアバターが見えた。

 

しかしその姿はどこか異様だ。

身体中を黒いモヤのようなものが包み込み、どす黒い何かが伝わってくる。

 

 

「話も通じなくてなぁ…止めろって言ってるのに攻撃してくるんよ。もう獣みたいに。なんかヤバイのやってるんじゃないかとウチは勝手に思ってるね」

 

彼女の言葉を聞きながらそのアバターを観察する。

まるで何かに憑かれたようにも見えるが、ここはあくまでもVR空間だ。

幽霊にとり憑かれるなんてあり得ないだろう。

 

 

 

「おい!いきなり何するんだ!!」

 

 

出会い頭の遭遇戦や不意打ちによる攻撃はこの無制限中立フィールドでは極々当たり前のことだが、思わず言葉に出してしまう。

しかし相手は俺の言葉に反応する様子もなく、こちらに手を向けると、先程と同じ黒いビームを撃ち出してきた。

中々の早さではあるが、十分に対応できる速度だ。

背中の剣を抜き放ち、必殺技の準備を整える。

《赤の王》のような《強化外装》が見当たらない以上、あのビームは必殺技と考えた方が良いだろう。

 

必殺技には必殺技。

非実体系ならミサイルのような誘爆は発生しない。

ALOにて相手の魔法をソードスキルで斬ったように、剣を水平に構えると、ライトブルーの光が剣を包み込む。

 

 

「《ホリゾンターー》」

 

「触れたらあかん!」

 

 

発動するためのボイスコマンドを口にしようとした瞬間、横から短く、そして焦ったような声が聞こえた。

その声が聞こえた瞬間、咄嗟に必殺技を止めようとするが、既に体はシステムアシストによって動き出してしまっていた。

 

 

ライトエフェクトに包まれた剣はそのまま黒いビームと衝突し、その攻撃を弾かなかった(・・・・・・)

それどころか必殺技のエフェクトに包まれた刃を何の抵抗もなく突き進み、真っ直ぐ俺に向かって飛んでくるではないか。

 

 

「くぁ……っ!」

 

俺が発動してしまったのは片手剣水平斬りの《ホリゾンタル》だ。

《バーチカル》や《スラント》のように大きく踏み込んで攻撃する技ではないので、踏み込んだ足を無理矢理動かすことによる転倒によってスキルを無理矢理キャンセルさせるのは難しい。

 

しかし、例え本来の武器とは性能が違ったとしても、腐ってもこのアバターの装備武器である剣が、必殺技同士のぶつかり合いになったとして一瞬でも抵抗もなく破壊されるのはおかしい。

それができるとしたら、この攻撃はとんでもない威力なのだろうとしか考えつかない。

 

そんな攻撃を受けてしまえば俺のHPは跡形もなく吹き飛ばされてしまうだろう。

 

 

 

攻撃への恐怖を噛み殺しながら、俺は全意思を込めてシステムアシストに抗って足を動かそうとした。

 

 

「ごめんな!ちょっと我慢して!」

 

 

しかしその瞬間、そんな声と共に足元で爆発が起きた。

爆風によって体が吹き飛ばされ、痛みが体を襲うが、耐えられない程ではない。

 

呻き声をあげながら起き上がると、声の主ーー先程まで話していた女性アバターが俺に駆け寄ってきた。

 

おそらく彼女が俺の足元に攻撃をし、その爆風で俺を吹き飛ばすことによって助けてくれたのだろう。

 

 

「ごめんな兄ちゃん!ちょっと荒っぽい助け方になった!」

 

「いや、助かったよ。あのままだったら避けきれなかったと思う」

 

 

お礼を言いながら右手の薄い水色の刀身の剣を見ると、刃の先からおよそ半分ほどが綺麗に消失していた。

 

「…リズに何て言おうか……」

 

 

苦笑しながら小さく呟くが、現実は変わらない。

 

恐らくあのアバターを倒さない限り、黒雪姫達との合流は難しそうだ。

無視することは簡単だろうが、こんな相手を彼女達のいるところに連れていけば何が起きるかわからない。

 

剣をストレージに戻し、もう一本の黒い刀身の剣を抜き放った俺は奴のいる方向を睨み付けたのだった。

 

 

 

 

*

 

 

 

場所は移動し、現実世界の練馬区に位置する無制限中立フィールド。

そこに三人のバーストリンカーがいた。

 

 

その中の二人は地面に膝をつき、呼吸を整えている。

そして残った一人。

三人の中で一際小さいアバター、赤の王スカーレット・レインは呼吸を整えている二人の様子を見て一つ頷くと声をかけた。

 

 

「うし、一旦休憩挟むぞ。お前らとっととポータルから現実に戻れ」

 

 

驚きの声をあげる二人を尻目に、ニコはゆっくりとポータルのある方向に歩き出した。

 

「ちょ、ちょっと待ってください赤の王!!」

 

 

それを呼び止めたのは右手にパイルバンカーを装着した大型のアバター、シアン・パイルであった。

 

「休憩なんて必要ありません!そんなことしている時間があるのなら、心意の特訓を…!」

 

「そ、そうだよ…私たちに休んでる余裕なんて…!」

 

 

自分達を信じて一人で能美の秘密を探り始めたハルユキのためにも、彼らは少しでも早く心意をマスターしなければならない。

 

タクムは焦っていた。

 

ダスク・テイカーに手も足も出ずに負け、彼と戦うための力である心意の特訓を始めてから、どれくらい時間がたったのかわからない。

 

しかしどんなに試行錯誤を繰り返しても心意の兆候は現れなかった。

 

それは隣にいるリーフ・フェアリーも同様だ。

 

一度は使えた心意の使い方が分からず戸惑っていた彼女は、最初こそ集中していたが、発動しない心意に苛立ち、集中力が散漫しているのがわかる。

 

 

しかし、やめる訳にはいかない。

いざ能美との決戦の時に心意を使えませんでしたなんてことになっては元も子もないのだ。

 

 

そんな二人の意思が伝わったのか、スカーレット・レインはヤレヤレと肩を竦めると。

 

 

 

「言っただろ、休憩だ。黙ってアタシの言うこと聞け」

 

 

 

有無は言わせないというように再びそう言ったのだった。

その迫力に言葉を失う二人にニコは溜め息をつくと、言葉を続ける。

 

「お前らが急ぐ気持ちもわかる。でもな、こっちじゃそれなりの時間は経ったが現実ではたかが数分程度しか経ってねえんだ。ちょっとは休憩するのも特訓のうちなんだよ」

 

 

その事を言われて二人はあっ、と声をあげる。

無制限中立フィールドで立つ時間は現実世界と比べると遥かに長い。

レベル4になったばかりのバーストリンカーならまだしも、二人は一人前と言っても良いくらいこの世界で戦ってきた戦士だ。

 

それを忘れるくらいにまで疲弊していたことを気づかされた二人は互いに頷くと、ヨロヨロと立ち上がりポータルに向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「う…」

 

「桐ヶ谷さん?どうかした?」

 

「あ、い、いや…何でもないよ?何でも!……はぁ」

 

ポータルから出ると、ニコがケーキを頼んでいたようで二人の前にケーキが差し出される。

先程ダイブする前にケーキを食べていた二人であるが、脳は甘いものを所望していたようで苦もなく食べきった。

 

満足感を得ていた二人であったが、直葉が唐突に自分が食べたケーキの皿を見て苦悶の声をあげる。

紅茶を飲んでいたタクムは気になって声をかけるが、彼女はひきつった笑みを浮かべながら平気だと返し、溜め息をついた。

 

ハルユキならそれで誤魔化せたのかもしれないが、タクムは今の直葉の返しで何か気づいたようだ。

 

 

 

……女の子って、大変だなぁ

 

 

余計な言葉を口に出さないように気を付けながら、タクムは再び紅茶のカップに口をつけたのだった。




確か無制限中立フィールドじゃ相手の名前は見えなかった筈…

一応なにも知らない一般アバターが近づいてきたら自分も一般のアバターのフリをするよね
立ち位置的にも危ないし

敵はマゼンタとの戦闘の際に彼女の周りにいたような虚ろな感じのアバター達のような感じです

それとなく実験してたら暴走しちゃったって感じ

タクムの心意の修行の裏にはこんなこともあったのかなと…
ハルユキだって休憩いれながら永遠と山登りしてましたからね

女の子にカロリーは敵…ですよね


亀更新ですが、これからも頑張っていきたいと思います
では、また次回


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第二十八話:即席の共闘

お久しぶりです

相変わらず更新遅くてすみません

saoとawも劇場版なり続編製作決定なりと楽しみです

abecさんの画集買わなきゃ(使命感)


「じゃあ、作戦通りに」

 

「了解、気を付けてな~」

 

 

奴と戦うと決めた俺は、先程まで話していたアバターと共闘することを提案した。

快く頷いた彼女が出した策は、俺が動き回り相手を撹乱している内に、遠距離から彼女のビームを当てるという簡単なモノだ。

 

 

その提案にのった俺は瓦礫の山を走り回っているのだが、これはこれできつい。

瓦礫の山は足場が不安定なため、ある程度意識を割かなくてはいけないのだ。

 

 

「来たな…っ!」

 

 

短く吐き捨てながら瓦礫を強く蹴る。

その瞬間、先程まで俺がいたところを例の黒いビームが通りすぎた。

 

比較的平らな瓦礫に着地しながら、あの攻撃の威力に冷や汗を流す。

 

 

「当たればマジで洒落にならないぞあれ…」

 

 

 

視線をずらせばマゼンタ色のアバターがこちらに親指を向けているのが見えた。

無事に攻撃位置に辿り着けたようだ。

 

サムズアップに頷きで返した俺は、手頃な瓦礫を掴むと敵に向かって投げつける。

もちろん瓦礫なんかでダメージを与えられるわけではないが、狙いは別にある。

 

 

「…いくぞ…っ!」

 

 

自身を鼓舞しながら真っ直ぐ駆け出す。

 

案の定俺に向かって腕を付き出してきた相手に、俺は内心笑みを浮かべる。

勝負はこの一瞬、奴の意識が俺に向いた時だ。

 

 

その腕から例の黒いビームが発射されるまさにその時、黒とは違う、紫色のビームが奴の腕を貫いた。

 

 

 

ーー作戦通り!!

 

 

 

片腕が破壊され、バランスを崩した相手はこれ以上なく隙だらけだ。

俺は必殺技のモーションを取りながら、相手との距離を詰める。

 

 

仮にビームが当たらなかったことも考えて、俺は先程の作戦に二人で交互に仕掛けるという提案をしていた。

 

相手がバランスを崩したところを俺が攻撃して倒す。

とても単純だ。

 

 

ライトエフェクトに包まれた剣を振りかぶり、必殺技を発動させる。

近づいてくる俺を迎撃しようと相手が破壊されていない腕を振りかぶるが、俺の方が早い。

 

 

「《バーチカル・アーク》!!」

 

 

アインクラッドで片手剣二連撃ソードスキルとして存在していたその剣技は、Vの文字を描くように相手の装甲を斬り裂いた。

 

 

手応えはあった。

 

 

普通のバーストリンカーなら今の攻撃を受けたら一度大きく距離をとり、体勢を立て直そうとするだろう。

だから俺はそれを見越して再び必殺技を発動させようと試みる。

 

バーチカル・アークで振り上げられた腕を流れに逆らわないように肩に担ぐ。

すると俺の剣はライトグリーンの光に包まれた。

 

《ソニック・リープ》

 

相手との距離を一気に詰めながら斬りかかるソードスキルで、アインクラッドでも度々その力を発揮してくれた剣技だ。

 

 

 

「《ソニック・リープ》……っ!!」

 

 

ボイスコマンドを聞き入れたシステムが俺の背中を押す。

ところが相手は俺の予想に反してその場で踏みとどまり、残っている左腕に黒いオーラを集束させている。

 

 

ーー逆の腕で必殺技を放つ気か!!

 

 

別段不可能なことではない。

しかしこの距離ならビームを撃たれる前に俺の剣が相手の装甲を斬り裂くだろう。

 

相手の腕に気を取られてしまったからか、自然と意識が加速し回りの景色がゆっくりと見え始めてきた。

 

 

 

 

 

「《ダーク・ブロウ》」

 

 

あと少しで俺の剣が相手を斬り裂き始めようとした瞬間、目の前のアバターから機械的な声が聞こえた。

 

必殺技の名前だろうか。

いつの間にか剣ごと消し飛んだ右腕(・・・・・・・)を眺めながら、俺はそんなことを考えていた。

 

 

「ーーーーーっ!!」

 

 

遅れて訪れた激痛に叫びそうになりながら必死に距離をとる。

またあの攻撃を受けるわけにはいかない。

少し離れた場所で膝を付きながら相手を睨み付ける。

無制限中立フィールドでの痛みは通常フィールドの比ではない。

 

アンダーワールドでの戦いで再確認したが、今もまた思い知らされる。

桐ヶ谷和人は直接的な痛みに弱い。

攻撃を受けるならまだしも、腕が吹っ飛ぶという経験の無い痛みに俺は思わず逃げてしまった。

 

 

荒い息を整えている俺のことは眼中に無くなったのか、敵は左腕を別の方向へ向けると、黒いビームを放つ。

 

方向は俺と別れて遠くから狙撃していた彼女のいる方向。

彼女はやられた俺に気をとられて気づいていない。

 

 

 

「危ない!!」

 

 

しかしその声が届く前に黒いビームは彼女の足元に衝突し、爆発を起こす。

悲鳴を上げるまもなく爆発に巻き込まれた彼女はそのまま崩れ落ちる瓦礫の下に消えていった。

 

 

「ぁ…」

 

 

ブレイン・バーストはソードアート・オンラインとは違いHPが0になっても死ぬわけではない。

…だが、少しの間話しただけでも共に戦ってくれた仲間の危機に俺はなにもできなかった。

 

 

…俺は何度こんな間違いを犯さなければならないのか。

 

 

左手の剣を握りしめながら俺は眼前の敵を睨む。

 

 

残る相手は俺とばかりに先程と同じように左腕を黒いオーラに包んだ敵はこちらに歩いてくる。

 

 

「そりゃそうだよな……」

 

 

自嘲気味に呟きながら立ち上がった俺は無くなった右腕を見て思考を走らせる。

 

先の黒いビームといい奴の攻撃はなんの抵抗感もなくこちらを襲ってきた。

普通攻撃と攻撃がぶつかれば少しはぶつかりあった衝撃があっても良いはずなのにだ。

 

 

そう、かつて戦ったファナティオ・シンセシス・ツーとの戦いであっても、彼女の放った光は夜空の剣で防ぐことができたのだ。

 

奴の攻撃とファナティオの攻撃には何が違うのか。

 

この世界がゲームという形を取っている以上、何らかの仕組みでアレが発動しているのは確かだ。

 

 

「…ん?」

 

 

《この世界はゲームであって遊びではない》

 

茅場が遺した言葉がふと頭をよぎった。

それと同時に幾つかのピースが俺のなかで浮かび上がる。

 

あの黒いオーラを見たときに感じた何か

全てを否定するような、そんな漠然とした感じに俺は何か感じるものがあった。

 

確証はない。

 

しかし、アンダーワールドで似たようなことを経験した覚えがある。

 

あの世界は良いこともあったが、同時に辛いことも沢山あった。

正直、まだ引きずっていないかと言われれば否だ。

 

 

思い出せ

 

 

あそこでの戦いを

 

 

秘奥義、武装完全支配術、神聖術、そして心意。

あの世界の中で、数多くの奇跡を生み出したソレを思い描く。

 

降り下ろされる拳に対して、俺は吹き飛ばされた右腕を突きだした。

 

 

 

 

 

「……ぐっ」

 

 

ガッ!という音と共に訪れた衝撃に思わず声が漏れる。

黒いオーラに包まれた拳は俺に届かず、何かに阻まれるように止まっていた。

 

いや、実際は阻まれているのだ。

 

 

ベルクーリ・シンセシス・ワンなどの心意の使い手が使う奥義、確固たる意思を練り上げ相手の攻撃を押し退け、切り捨てる不可視の一撃。

あの世界で何百年も生きた彼のような洗練された一撃は放てない、それを再現するにはそれこそ何百年の月日が必要だ。

 

しかし、それでもやらなければならない。

そうでなくては俺がここでやられるだけだからだ。

 

 

 

「《心意の…刃》!!」

 

 

 

刃を維持するために、あの一撃に追い付くために、俺はその名前を口にした。

 




ベルクーリの言い方からして心意の刃と心意の太刀の二つあるのかな?

刃の方が弱そうだからとりあえずそっちに

aw原作で心意の第三段階?は相手の位置を指定して攻撃できるようになるとかっていうの友達から聞いたんすけどなにそれヤバそう
早く読まなきゃ


それではまた次回…


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第二十九話:右手の刃 左手の剣

お久しぶりです…

前回から一体どれ程の月日が流れたのか…
大変お待たせいたしました



「………!!!?」

 

俺が攻撃を受け止めたからか、目の前の相手が息をのむ。

そりゃそうだ、問答無用で敵を倒すことができる攻撃が止められれば誰だって驚く。

 

 

「ぐ…………ぅあっ!!」

 

 

《心意の刃》は暫く拮抗したあと、激しいノックバックと共に俺を後方へ弾き飛ばした。

それは相手も同じようで、たたらを踏んでいるのが見える。

 

呼吸を整えながら立ち上がる。

あの攻撃に対抗する手段は見つかった。

しかしそれで勝てるかと言われればまた別だ。

 

アンダーワールドでの戦いにおいて心意というものを明確に意識して使うようになったのはあの戦争中だ。

その前にもアドミニスレータとの戦闘で俺は自分を《黒の剣士》へと変革させていたが、あのときは負けられない理由があったから。

 

 

 

「《ダークショット》」

 

 

「《心意の刃》っ!!」

 

 

距離が離れたからか、こちらへ飛んできた黒いビームを心意の刃で弾く。

その度に腕に伝わる攻撃の重さが俺の背中に冷たいものを感じさせる。

 

今のところは弾くことができているが、あのビームが放たれる間隔が早くなれば時期にやられるのは俺だろう。

生憎《心意の刃》の射程は《ヴォーパル・ストライク》と同じくらいの片手用直剣二本程。

しかも感覚的には剣を振った感じに近いため、振るっている右腕が無いことにより視覚的にも俺の感覚をどこか狂わせてしまう。

 

それに心意とは簡単に言えばある事象を強く思い描くことによってシステムを書き換えるまさにチートのようなものだ。

ヒースクリフとの戦いの時やオベイロンによって位置座標を固定されてしまった時、俺が戦い続ける事ができたのは有らん限りの意思と精神力を振り絞ったからだ。

 

程度は違えど心意の刃を使うのはそれなりの精神力を消費するもので、そのうち限界がくる。

 

 

「結局決め手はこっちか」

 

 

左手に握ったエクスキャリバーの感触を感じながら視線をずらして必殺技ゲージを確かめる。

《バーチカル・アーク》と《ソニック・リープ》を発動したことによりゼロになったゲージは、俺の右腕が吹き飛ばされたことによって増えているが大技が放てる程ではない。

 

先の攻撃を当てたとはいえ《閃打》や《弦月》で削りきれるHPではないのは事実。

最低でも四連撃技、もしくは一撃が重い技を当てなければ勝ち目は無いだろう。

 

周りのオブジェクトを壊す余裕はない。

そんなことをしているうちに狙い撃ちされるのが関の山だ。

 

 

「どうする……っ、なんだ!?」

 

 

拮抗状態を破ったのは遠くで起きた爆発音であった。

思わず音が聞こえた方向を見るとここからでも見えるほどの大きな爆炎と煙、しかもあっちの方向はーー

 

 

「ブラック・ロータス!!」

 

 

先ほど別れた黒雪姫達がいた場所じゃないか!!

 

 

きっとあの爆発音は彼女達が問題といっていたモノと戦闘している音に違いない。

俺がこんなところで足止めを食っているあいだに、彼女たちに危機が迫っていたのだ。

 

 

「何もできないなんて…っ」

 

 

自分の不甲斐なさに歯噛みをしていた俺は、戦闘中にも関わらず相手から意識を逸らすという致命的なミスを犯してしまった。

 

 

「━━━しまっ」

 

 

気づいた時には、既に相手は地面を蹴っていた。

 

 

黒色のオーラに染まった相手の拳が、俺に向かって降り下ろされる。

寸前のところで心意の刃を使って防いだが、反射的に発動した事もあり、俺はまるで紙のように吹き飛ばされてしまい、瓦礫に激突した。

 

 

「がっ━━━━」

 

 

全身を走る痛みに一瞬意識が飛びかける。

呻き声を上げながら瓦礫から這い出るが、そこで左手に握っていたエクスキャリバーが無いことに気づく。

 

 

吹っ飛ばされたことによるダメージと、ぶつかった瓦礫が俺のHPを削ると同時に必殺技ゲージを溜めたようだが、どうやら先程の衝撃で左手に持っていたエクスキャリバーを手放してしまったようだ。

 

 

「くそっ……」

 

 

武器を手放してしまった俺に勝利を確信したのか、敵はゆっくりと近づいてくる。

 

 

武器の取り落としなんてSAOでもあまり起こさなかった事態に悪態をつきたくもなるが、今はそんな場合ではない。

 

まだ、まだ戦いは終わっていない。

 

HPが尽きていないのなら、まだ勝機はある。

 

メニューを操作して先程しまった剣を再び左手に装備させる。

しかしその刀身の大半は失われたままであり、残されたダガーの刃程の刃では明らかに心許ない。

 

それでも、やりようはある。

 

俺が武装をしたからか止めを指さんとばかりに走り込んでくる相手に、俺は装備した剣をまるで槍のように持ち直して構えた。

 

すると剣がシステムエフェクトの光に包まれる。

投擲用ピックや石では何度も試しているが、こんな試みはほぼ無いと言っていい。

自信がなかったが、キチンと技が発動できることを確認できると内心ほっとする。

 

 

「《シングルシュート》……っ!!」

 

 

SAOでいう投剣スキル基本技、シングルシュートは俺の必殺技ゲージを消費すると共に狙いすまされたように相手に向かって飛んでいく。

 

 

「《ダークブロウ》」

 

 

 

案の定投げつけた剣は黒色のオーラを纏った拳によって防がれた。

相手からしたら俺が所持している唯一の武器を手放すなんてと驚くなり、困惑するだろう。

 

 

しかし、俺の攻撃はここからだ。

 

 

《シングルシュート》は、そもそもモーションが大きくない必殺技なので、スキル使用による硬直時間は微々たるものだ。

だがその一瞬が勝負になる。

 

 

硬直から復帰した俺は迷わず駆け出し、無手となった左手の指を揃える。

別にこのまま手刀を放つ訳ではない。

そもそも俺の指は《シルバー・クロウ》のような鋭さを持つわけでもなく、基本必殺技に設定されているわけでもない。

 

俺が指を揃える理由はただ一つ。

そこから発動できる必殺技があるからだ。

 

指を揃えたと同時に、必殺技のモーションに入ったことを感知したシステムが俺の腕をイエローのライトエフェクトで包み込む。

 

一気に肉薄し左手を振り上げるが、相手も一筋縄ではいかない。

カウンターのように振り上げられるのは先程の黒色の拳。

 

 

必殺技ではあの攻撃に対抗することはできない。

このまま互いの攻撃がぶつかれば、左腕ごと俺のHPは吹き飛ばされてしまうだろう。

 

そんなことはわかっている。

 

そしてそれを覆すために右手の剣(・・・・)は存在している。

 

イメージは剣を振るうように。

強く、鋭く、そして早く。

 

「《心意の刃》!!!!」

 

右手で放った一撃は相手の拳とぶつかり、再び激しい衝撃を俺に与えた。

最初と同じように吹き飛ばされそうになるが、それをどうにか地面を踏みしめて耐える。

 

 

心意技同士の戦いは、最終的にどちらが確固たるイメージを持ち続けることができるかによって決まる。

 

アンダーワールドでの戦闘でもそれは顕著に現れていた。

ここでもそれが適用されるのなら、俺はこの刃を維持するために全精神力を費やし続けなければならない。

 

 

「ぐっ……ぅっ!!」

 

「………!!」

 

 

しかしそれで互角。

ぶっつけ本番に近い形で発現した俺の攻撃と、恐らく長い間続けてきたことによるイメージ力の差はそう易々と埋まるものではなかった。

 

 

そもそも先程まで拮抗することなく吹き飛ばされていたのだ。

拮抗しているだけでも充分に差が埋まってはいるだろう。

 

 

 

俺の心意と相手の心意は尚も激しくスパークを放ちながら攻防を続けている。

 

 

 

 

いつの間にか左手を包んでいたライトエフェクトは消えていた。

心意の刃に集中するあまり、必殺技を待機させておくだけの余裕が無くなったのだろうと、集中しすぎて真っ白になった頭でどうにか理解する。

 

 

「う━━━ぉぉぉぉお!!!」

 

 

しかしここで集中を切らしてはあっという間に俺のHPが吹っ飛んでいく。

そしてここで俺が敗れれば、この敵は黒雪姫達のところに向かい、その力を振るうだろう。

 

そんなことを許してはいけない。

俺のせいで、仲間が傷つくのはもうたくさんだ。

 

 

必死に意識を振り絞り、雄叫びを上げながら腕を振りきると、甲高い音と共に相手の腕が弾かれたのが見えた。

 

 

「はぁ━━ぁっ、ぁぁぁあっ!!」

 

チカチカとする視界にふらつきながらも、呼吸を一息に地面を踏みしめて体勢を崩している相手の懐に踏み込む。

 

相手も流石の反応速度を見せるが、俺の方が速い。

 

 

「《エンブレイザー》ァァァァァアッ!!」

 

 

揃えた左手を再びイエローのライトエフェクトが包み込む。

徒手空拳で片手用直剣の連撃、重攻撃スキルに届く威力の必殺技。

SAOにて体術スキル零距離技《エンブレイザー》は、かつてのアインクラッドでクラディールを貫いた時と同じように相手の体を貫いた。

 

 

「━━━━━━」

 

《エンブレイザー》で貫かれた相手は動きを止めた。

今の攻撃でHPがゼロになったのだろう。

 

ズッ…と腕を引き抜いた俺は地面に膝を付きながら呼吸を整える。

カシャン…とポリゴンが弾ける音と、入れ替わるように目の前に出現したのは相手の《死亡マーカー》だ。

 

《無制限中立フィールド》でHPがゼロになったバーストリンカーは死亡扱いとなり、一時間の間その場に留まった後に再び復活することとなる。

この間倒された相手は身動きを取ることができないので、もしモンスターの出現する場所でやられたものなら無限MPKの危険性が大きくなるのだ。

 

 

まあ、ここにはモンスターも現れないし、俺は相手を倒したことで一先ず安全を確保することができたと捉えて良いだろう。

 

 

そこまで考えたところで、再び地響きが鳴り響く。

 

一段落ついたとはいえ、問題はまだ続いている。

直ぐに黒雪姫達の加勢に向かわなければならない。

 

エクスキャリバーを鞘に戻した俺は相手がいた場所を一瞥すると、今だ地響きが聞こえる場所に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ、一時はどうなるかと思ったけど、何とかなるもんやな」

 

 

キリトが走り去って暫くしたあと、それまで彼がいた場所に一人の姿が現れる。

頭にゴーグルのような帽子を被り、マゼンタ色の装甲に身を包んだアバターは、先程キリトと共闘していたバーストリンカーその人である。

 

彼女━━《アルゴン・アレイ》は体についたホコリをぱっぱっと払う動作をしたあと、既に《死亡マーカー》となっている相手(仲間)だったモノを一瞥する。

 

「まさかウチが狙われるなんてなぁ……」

 

そう言いながら取り出したのは一枚のカード型の強化外装。

それを手のひらで弄びながら、アルゴンはこれからどうしようかと思考にふける。

 

 

「遅からず《心意》は全バーストリンカーに公表…というかそれっぽいことするし、あの兄ちゃんも土壇場で《心意》使ってたしなぁ」

 

名前は聞いてないが、ヒューマンアバターで全身黒ずくめとなると、最近有名になってきた《キリト》だと何となく推測できる。

 

……しかし、聞いていた容姿と先程話した相手の姿が一致しないため、首を傾げてしまう。

《キリト》の容姿は美少女と言っていい程の可愛らしい容姿だ。観賞用のダミーアバターなのかと考えるが、仮にも《心意》を使える相手に勝利していることからそれはあり得ない。

 

「双子……キリ子ちゃん(仮)とあの兄ちゃんは別人なんかなぁ」

 

青のコバマガ姉妹とかあれマジもんの双子だろうしと呟いてから、肩を竦める。

いまいち要領を得ないが、わからないことは考えても仕方ないのだ。

今の自分にはやることがあるし、いずれわかるときが来るだろう。

 

 

一先ずはまあ、一度ポータルから現実に戻って、これからの計画を練っていこう。

 

 

 

「……あ、そうやったそうやった」

 

 

 

 

その前に、やらなければならないことがあった。

 

 

 

 

 

 

「飼い主にオイタをした悪い子には、キチンと躾をしてあげなんとなぁ」

 

 

 

 

 

その言葉と共に、彼女のゴーグルがギラリと光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




心意の刃で防いでエンブレイザーで倒す的なことは前々から考えてたり考えてなかったり

投剣スキルだからピック以外にも剣も投げれるんじゃないかなってシングルシュート入れたり、ちょくちょくSAOで使われてたソードスキルを戦闘に入れていきたいですよね

とはいえ使う使わない以前に必殺技の量がキリトが使ったソードスキルの数と同じくらいなのでぶっちゃけ多すぎて笑える

グラフさんと必殺技は被るけどほら、そこは暖かい目で……なんとかならないかなぁ……


長らくしてなかった感想返しもしていきます、すいません
目を通してはいます。感想をくださった皆様ありがとうございます


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第三十話:虹色のカーテン

毎度毎度遅くてすみません

一応ここまでが改訂前までの部分ですね

SAOの映画みてきました
いや良かった、興奮と鳥肌で泣きそうになりました

それでは、どうぞ

※話数番号降りました


「なっ……!?」

 

襲撃してきたバーストリンカーを撃退した俺が向かった先の光景は、予想を遥かに越えていた。

 

離れていたこちらにも届いていたことから推測はされていたが、大爆発の余韻により立ち込めている煙、そしてその爆発を起こしたであろう巨大エネミーが鎮座している。

 

爆発によって平地になったフィールドを見渡すと、先に戦っていたであろう黒雪姫達のアバターが力なく倒れているのが見えた。

慌てて駆け寄ろうとするが、ガッと何かに足がぶつかったことにより動きを止める。

 

良く見ると俺の足にぶつかったのは瓦礫ではなく、全身を赤色の装甲に身を包んだネジ型アバターだった。

全身傷だらけのことから黒雪姫達と共に戦っていたのだろう。

その両眼は不規則に点滅していて、痛みで体を動かせそうにないことがわかる。

 

「おい…!!しっかりしろ…!?」

 

「ちく…しょ……う、この俺様が…やられる…なんてな……」

 

屈んで声をかけると、掠れた声ではあるが返答が返ってくる。

意識を刈り取られた訳ではないようだが、彼の体は今も耐え難い痛みが襲っている筈だ。

速やかにポータルへ連れていかなければと考えた俺は彼を連れていこうとするが。

 

 

「ん?何、まだ鼠が残ってたわけ?」

 

 

こちらに向かって発せられた声で動きを止めることになった。

声の聞こえた方向を見ると、例の巨大エネミーの頭部に近い部分に黄色い装甲のデュエルアバターが立っているのを見つけた。

 

「…っ」

 

 

いや、見つかってしまったと言ったほうが正しいだろう。

デュエルアバターが頭上に誇っているのにも関わらず煩わしそうにする気配を見せない巨大エネミー。

そこから導き出される結論は一つしかない。

 

「ビーストテイマー…」

 

「面白い事を言うね!だけどニックはそんじゃそこらのテイムモンスターとは違うよ、こいつは神獣級さ!!」

 

そう言いながらサルファが手綱を引くと、巨竜はこちらに威嚇するように唸り声を上げる。

 

なるほどあの手綱でテイムしたのか。

 

絶命的な状況の中、俺は冷静に観察を続ける。

エネミーのテイム自体元々確率が低く設定されているのは大抵のゲームでは自然のことだ。

これがモンスターとほのぼの過ごすゲームならまだしも敵性NPCとしてモンスターが存在しているならその確率は著しく低い。

 

SAO、ALO内でもシリカのピナや(こちらはテイムにカウントされるのか)《あちらのリーファ》と共に友好を深めた邪神型エネミーのトンキーなどしか見たことがない。

 

 

前にシリカからそれとなく聞いた時はビーストテイマーと言えど専用のスキル、アイテムを使う等のバフを掛けても成功率はあまり高くないらしい。

 

そう考えるとあの手綱は強制的にエネミーをテイムできるかなりの高レアアイテムなのだろう。

普通のエネミーならまだしも神獣級だ。

そこら辺を加味すると恐らくあの手綱を破壊、除去するなりすればあのエネミーは手綱の呪縛から開放されるだろう。

 

 

ブレイン・バーストに出現するエネミーは大体がかなりの強さを誇っており、それなりの強さを持つバーストリンカー同士でパーティーを組み倒すやり方が推奨されている。

 

それが神獣級エネミーとなると、出会ったら逃げろなり余程のことがない限り戦うのは避けた方がいい。

SAOで言えばフロアボスに一人で挑むようなものだろうか。

とにかくそれくらい強く、危険なのだ。

 

 

「なんとか隙を見つけてアイツを引き剥がすしかないか」

 

方針を決めた俺は大きく円を描くように走り出す。

 

「なんだ?逃げられると思ってるのかよ!いけ!ニック!!」

 

 

高笑いと共に手綱を引かれたエネミーは、咆哮と共に俺を追いかけ始めた。

みるみる俺との距離が縮むが、俺の狙いは奴を黒雪姫達から引き離すことだ。

 

 

「くっ…!!」

 

 

当たったら一瞬で吹き飛ばされそうな突進をギリギリのところで回避した俺は、叩きつけるようにその足を斬る。

巨竜のHPゲージがほんの数ドット減ったのを確認すると、俺は何度か攻撃を続ける。

NPCは特定のアルゴリズムで動いているが、今エネミーを操作しているのは手綱を握っているバーストリンカーただ一人。

変に複雑な動きをしない分対処は楽なのだ。

 

 

「こいつ、ニックの足元に…!鬱陶しいんだよ!!」

 

たまらず相手は悪態を付きながら手綱を引き、エネミーがその指示によってその場で一回転するように尻尾を振り回す。

 

だがSAOで培ってきた経験から上手く回避した俺を見て相手は舌打ちをし、睨み付ける。

 

 

「やってくれるじゃないか…」

 

「その程度のモンスターの相手は馴れてるさ」

 

「こいつ……バカにして!!」

 

 

 

 

「キリト!」

 

と、ここでブラック・ロータスの声がかかる。

後ろにはコーラル・メロウとラグーン・ドルフィンの姿もある。

どうやら俺が奴らを引き付けている間に復帰できたようだ。

 

「ロータス、とりあえずポータルから脱出しよう。はっきり言って、勝ち目は薄い」

 

「ああ、二人とも、聞いての通りだ。奴らは私達が引きつけるから、クリキンを運んで……メロウ?」

 

黒雪姫の怪訝な声にコーラル・メロウを見ると、彼女は真っ直ぐに空を見上げている。

しかし、どこか様子がおかしい。アイレンズの色も異なっている。

その雰囲気はまるで、ダイブする前にXSBケーブルをもう一本追加してほしいと頼んだ時のようだ。

確か…先ほども真魚がこうなった時に琉花がぼそりと囁いてくれた。

カンダーリ、ユタの血が出たとかどうとか…

確か、沖縄のガイドブックをちらりと見た時に見た気がする。

ユタとは、民間のシャーマンを意味する言葉だとか…つまり、彼女が今このようになっているのは、その能力が何かを感じ取ったということなのか…?

 

「大丈夫だよ二人とも…今、来るから…」

 

そう、彼女が呟きながらそっと右手を空に伸ばした。

つられるようにその空を見上げると、一筋の光が見えた。

小さな桜色の輝きは徐々に大きくなっていき、気が付けば視界に花びらが舞っているのが見える。

 

そして、その中心から、一人の女性型アバターが現れた。

淡い桜色のアバターはブラック・ロータスの前にゆっくりと降り立つと、微笑みながら口を開いた。

 

「姫、私…来たよ」

 

「なっ…!?」

 

「まさか……恵……なのか!?」

 

その聞き覚えのある声に俺は思わず声を上げる。

黒雪姫の言葉にその女性アバターがコクリと頷いたのを見て、俺は彼女がいつも黒雪姫のそばにいる少女、若宮恵であることを理解した。

しかし、梅郷中学校の三年生のバーストリンカーは俺と黒雪姫の筈だ。

マッチングリストにも表示されていないし、同じクラスになって日は浅いが恵も黒雪姫も互いを信頼しているのはわかっているつもりなので、もし彼女がバーストリンカーだとしたら、黒雪姫に打ち明けている筈だ。

そこまで考えたところで、俺は彼女の体がかすかに透けていることに気づいた。

 

それを見て、確証はないが彼女が昔バーストリンカーだったのではないかと考えた。

ブレイン・バーストを失った者はその記憶を失う…≪桐ヶ谷和人≫がそうだったように、それは変わらないことの筈だ。

それが、何らかの形でその記憶を思い出し、こうして限定的な形で現れた…?

 

 

「なんだよ…なんなんだよ!また妙な奴が出てくるし…これ以上僕の邪魔をするのは許さないよ!!」

 

その推測は、前方のサルファの怒りの声によって中断されることとなった。

彼は俺たちを憎悪を込めた瞳で睨みつけた後、両手をまっすぐに突き出した。

 

「全員燃え尽きちゃいなよ!≪チャコール・スモーク≫!!」

 

その言葉と共に、彼の体全体から黒い煙が出てきた。

 

「不味い…っ!奴は火薬を体から出すことができるんだ!逃げろ!エネミーのブレスで大爆発が起きる!!」

 

ブラック・ロータスが黒い煙の正体を叫ぶと、サルファ・ポッドはニヤリと笑い、さらに煙の量を多くする。

恐らく、ここら一帯を爆発させる気なのだろう。

≪スピニングシールド≫で火薬の煙を吹き飛ばそうとしても、そんなのをあざ笑うかのような爆発が俺たちを襲うだろう。

どうすれば…と考えたとき、柔らかい声が響く。

 

「大丈夫だよ、姫。桐ヶ谷君。私に任せて」

 

そう言いながら俺たちの前に足を踏み出した恵は、左手に握った杖を高々と上げた。

杖についている宝石が輝き、その光がアバターを包んでいく。

 

「≪パラダイム・レボリューション≫」

 

そう、彼女が言った瞬間、宝石から輝く光が天にまで届き、光は環状に広がりながらカーテンのように広がっていく。

この光景はどこかで見たことがある。

 

「変遷……か?」

 

「違う…強制変遷だ……まだ、変遷の時間にはなっていない……なんて…技なんだ…」

 

俺の呟いた言葉に、黒雪姫は掠れた声でそう返す。

≪風化≫ステージの曇天が、青い空に変化していくのを見ていると、巨竜の上のサルファが驚いた声を上げる。

 

「な、なんだよ、くそっ何が起きてるんだ…うわっ!?」

 

苛立ちを隠せない様子で彼が呟いた瞬間、彼のいる地面が消えた。

 

「な、がぼっ!?げほっ!み、水!?」

 

いや、彼のいる地面だけではない。

俺たちがいる地面も、一面真っ青な水面に変化したのだ。

慌ててバランスを取るが、コートが水を吸ってドンドン重くなる。

辺りを見渡すと、黒雪姫や真魚と琉花も慌てた様子ではあるがバランスを上手く取っている。

 

「た、助けてくれぇ~!俺ちゃん、水中は、だm…ぐぼ、ぐぼぼぼぼぼ…………」

 

しかし、先程俺が躓いたアバター、クリキンは倒れていたため、必死に言いながらゆっくりと水面に沈んでいってしまった。

 

最後に親指を立てて沈んでいったのは前に見た昔のSF映画に似たような光景だったが、俺も何とかしないと彼と同じ目に遭う!!

 

「くそ…っ」

 

防御力は下がるがコートを解除して、下のアンダーシャツ姿に。

下は………こうも女子プレイヤーがいる中でズボンを解除する勇気はなかったので、解除しなかった。

 

別に…今すぐ溺れるわけでもないし…

 

すると、横からコーラル・メロウとラグーン・ドルフィンが近づいてきて、俺を支えてくれた。

 

「クロさん、私たちが支えますよぉ」

 

「師匠は重いけど、クロなら支えられるさー」

 

「あ、ああ…サンキュ」

 

沈んでいったクリキンに心の中で詫びると、この変遷を起こした恵が、水面に立っているのが見えた。

 

「姫…魔法の時間が終わっちゃうから、私は帰らないと…。姫は、あなたの道を進んでね。私も、もう後ろは振り向かないから…」

 

「恵…ああ、ありがとう」

 

黒雪姫の言葉に頷いた恵は、体を向けると俺を見る。

 

「桐ヶ谷君、姫のことをお願いね。この子、色々と無茶しちゃうから、誰かが見てあげなきゃ心配なの…。私にはできないから、私の代わりに…お願い」

 

「…ああ、わかったよ。若宮さん」

 

俺の言葉に彼女は安心したように頷くと、すぅ…っと空に上昇していく。

その時、あっ、と呟いた恵はもう一度俺の方を見て。

 

「桐ヶ谷君。姫のことをお願いねって言ったけど、別に付き合ってとかそういうのじゃないのよ?私、前にも言ったと思うけど、浮気はどうかと思うの。姫は有田君のことが好きなんだから、ね?」

 

「め、恵!?なな、何を言っているんだこんなところで!?」

 

突然の言葉にポカンとする俺の近くで、黒雪姫が騒いでいる。

そんな爆弾を落とした本人はというと、「それから、それから…あ、もう時間?え、もう少し言いたいこt……」と言いながら消えてしまった。

 

重い沈黙が俺たちの間に落ちる。

彼女は、バーストリンカーとしてここに来たとしても、彼女だったということか……と感慨深げに思ったところで、こほんと黒雪姫が咳払いをする。

 

「よし、ここが勝負の鍔際だ。まずは私が突っ込んでどうにか竜の相手をするからお前たちは…」

 

「ネエネエ、さっきの人が言ってたことって、クロとネエネエが付き合って…」

 

「少し、静かにしような?ドルフィン。もしかしたら奴を倒す前にお前の首が飛ぶやもしれんぞ?」

 

「は…はい……」

 

ラグーン・ドルフィンが冷やかすような声で茶々を入れようとした瞬間、黒雪姫が圧倒的な冷気を纏った微笑みを向けてきた。

ラグーン・ドルフィンに向けられている筈なのに、一緒にいる俺もコーラル・メロウも思わず竦みあがってしまうほどだ。

 

「…話を戻すぞ、私が奴に斬り込むから、お前たちはタゲを取られないように側面から攻撃を…」

 

「ネエネエ!大丈夫だよ!!」

 

「海の中なら、私たちにお任せですぅ!!」

 

黒雪姫の言葉に笑顔で答えた二人はその場で一回転すると、異口同音に叫ぶ。

 

「≪シェイプ・チェンジ≫!!≪マリン・モード≫!!」

 

二人の体が輝きに包まれると、ラグーン・ドルフィンの足は、イルカの尾ひれのように、コーラル・メロウの足は、人魚の尾びれのような姿に変化していた。

二人は完全な水中適応形態に変化すると、俺の手を引きながら一直線に泳ぎだした。

 

 

……俺の手?

 

 

「ちょ!?」

 

 

叫ぶ暇もなく、俺は二人に引っ張られるように巨竜のいる方向に突っ込んでいく。

ま、まさか、俺をあいつにぶつけるとかそんな作戦じゃないだろうな!?

俺そんなに頑丈じゃないぞ!!斬られたら死にますよ!?

 

 

 

 

「クロ!ワン達が注意を引くから!」

 

「あの化け物(マジムン)の上の人を引きはがしてくださいぃ!」

 

そう言うと二人は海面を叩いて大きくジャンプすると、せーの、の掛け声で俺を投げ飛ばした。

 

「うわああっ!?」

 

 

情けない声を上げながらも、俺は真っ直ぐに飛んでいく。

 

無意識のうちに背中から半透明の羽を出して姿勢を立て直した俺は、エクスキャリバーをサルファ・ポッド目がけて投げつける。

 

「うわっ!?」

 

剣はサルファ・ポッドの前に突き刺さり、思わず手綱を離した彼の前に一回転しながら着地する。

目の前に現れた俺に驚きながらも、攻撃をしようとしてくるあたり、流石とも思うが、俺は既に攻撃の準備を終えている。

左手に包まれたライトエフェクトと、システムアシストによって動く体の動きに合わせて意識的に体を動かすことによる威力のブースト。

 

 

「≪閃打≫ッ!!」

 

俺の拳はサルファ・ポッドの顔面を思いっきり捉え、彼を巨竜の背から叩き落した。

 

その先にはコーラル・メロウとラグーン・ドルフィンの二人組。

 

「今までの仕返しだ!沖縄(ウキナー)武士(ブサー)の一撃を、受けてみろ!」

 

ラグーン・ドルフィンはそう言うと、水上から飛び上って元の姿に戻ると、両腕をグッと体の脇に引き絞った。

固く握られた拳が鮮やかなマリンブルーの光を放ち―――

 

「≪タイダル・ウェーブ≫!!」

 

その名前と共に両腕がカノン砲のように撃ち出された。

五秒間に続く拳のラッシュはサルファ・ポッドを捉え、凄まじい音と共に海に叩き落した。

落ちてくるラグーン・ドルフィンをコーラル・メロウが抱きかかえると、二人でこちらにVサインをしてくる。

こちらも笑って手を上げて返事をしようとした瞬間、地面が大きく揺れたので思わず膝を付く。

 

いや、地面じゃなくて、ここ巨竜の上だったじゃん!

 

手綱を握って制御しようと試みるが、如何せん足場が不安定なのでうまく近づけない。

どうしようかと考えたとき、コーラル・メロウがある方向を見て叫んだ。

 

 

「お姉さま!!竜の鼻皮を斬って!!」

 

 

その方向を見ると、丁度ブラック・ロータスが飛び上って、その剣を構えているところであった。

 

「≪デス・バイ・ピア―シング≫!!」

 

気合と共に撃ち出されたその剣は、竜の鼻帯を斬り裂き、帯が手綱ごと竜の口から落ちた。

ブラック・ロータスはそのまま華麗に俺の近くに着地すると、俺の剣と俺を器用に抱きかかえ、そのまま海へダイブした。

 

 

彼女にお礼を言いながら剣を鞘に納めて水面に上がると、丁度その巨竜が大人しくなったところだった。

先ほどの手綱があいつを支配していたようだが、黒雪姫がそれを斬り落としたので、自由になったようだ。

 

これで終わりか…と思った時、巨竜がある方向を睨んで、咆哮を上げた。

一瞬身構えてしまうが、奴が睨んでいるのは俺たちの誰でもない。

その方向に視線を向けると硫黄色のアバターが浮かび上がり、必死に泳いでいるところであった。

 

 

「に、ニック!来てくれたのか!?はっ!どうだ雑魚ども!!手綱なんかなくても、ニックには僕のことがわかるんだよ!今すぐお前らを切り刻んで……」

 

近づいている巨竜に気づいたサルファ・ポッドは、動きを止めて俺たちに叫んでいる。

しかし、その言葉は最後まで言うことができなかった。

巨竜が口を大きく開けると、サルファ・ポッドをあっさりと喰ったからだ。

 

自分を好き勝手使った元マスターに仕返しをした巨竜は、ゆっくりと俺たちを見た後、元々水竜だったのではないかというスピードで姿を消したのだった。

 

 

戦闘が終わったことによって緊張が解けたのか、コーラル・メロウとラグーン・ドルフィンはブラック・ロータスに抱き付いていた。

バーストリンカーを敵としての戦闘は初めてだったのだろう。小さくその体は震えている。

彼女たちのケアは黒雪姫に任せておいて、俺は……

 

 

(恐らく意味はないのだろうが)大きく深呼吸をした俺は海中に潜りだした。

暫く泳いでいると、先に沈んでいった赤いアバターが俺の目に入る。

彼も俺に気づいたのだろう。差し出された手を、俺はしっかりと掴み、彼を引き上げるために泳ぎだした。

 

「あんた……名前は…?」

 

「……キリトだ」

 

やはり、海中の中でも喋ることはできたようだ。

ALOの時みたいに魔法をかけなければ潜れないと思っていたが、そうではなかったらしい。

クリキンは俺の言葉に「そうか…」と呟くと、黙って引き上げられている。

 

あと少しで水面だ。

案の定鉄の塊である彼は重かったが、気合でここまで来た。

後少し……

 

そう思った時、俺の視界を虹色の光が包んだ。

そして、目の前には≪風化≫ステージの景色。

 

「………あんたに、太陽の光は見せてやれなかったよ…」

 

思わず呟くと、背中にポンと、彼の手が当てられた。

 

「いや、あんたはよくやってくれたよ………」

 

と、謎の漫才を終えた後、クリキンが黒雪姫にあるモノを手渡していた。

それは、先ほどの巨竜をテイムしていた強化外装≪幻想の手綱≫というものだった。

 

「沖縄エリアの北の方には空飛ぶ馬とかいるらしいぜ。捕まえて乗り回してみたらどうだ?」

 

使い道がないと苦笑いした黒雪姫にそう言ったクリキンは、コーラル・メロウとラグーン・ドルフィンを引き連れてポータルに向かって歩いていった。

 

彼らが消えたのを確認した黒雪姫は、俺の方を向くと。

 

 

「キリト、今から私はサルファ・ポッドに尋問をするつもりなんだが…どうする?」

 

「情報を聞き出すのか…?ほどほどにしてくれよ?」

 

俺の言葉に黒雪姫はふむ、と頷いた。

 

……トラウマ残らなきゃいいけど。

心のなかで相手に合掌しながら俺たちは時間が経つのを待った。

 

 

 

ということで、残ったサルファ・ポッドからは何としても情報を聞こうとしたのだが、彼は案外あっさりと話してくれた。

彼が言う≪組織≫に関しては口を割らなかったが、彼がどのようにして東京から遠隔ダイブしてきたのかはわかったところで、自動切断セーフティの時間が近いこともあり、情報収集はここまでとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネエネエ―――ッ!クロ―――ッ!!またウチナーに来てね―――――!!」

 

「お元気でぇ――――!!」

 

リゾートホテルの正門で手を振り続けている真魚と琉花は、せーの、と声を合わせると。

 

 

「「さようなら(ンジチヤービラ)――――!!」」

 

 

と言ってこれまた一層大きく手を振っていた。

 

その後ろの方でベンチに座っている高校生らしき青年が、こちらにサムズアップをしてきたので、彼がクリキンのリアルか…と漠然と思いながらも、周りの友人から沖縄であんな可愛い子と知り合うなんてどういうことだと責められながら、俺はバスに乗っていたのだった。

 

怒涛の質問攻めに遭いながらも、俺はちらりと黒雪姫と一緒に座っている若宮恵を見る。

 

あのあと、メールにて彼女のニューロリンカーにはやはりブレイン・バーストは存在していなかったことを教えてもらった。

なら、彼女が俺たちを助けてくれたのはなんだったのか…

その答えは、わからないままだ。

 

それとも、黒雪姫を助けたいと恵が心のそこから強く思い、それが昔に削除されたブレイン・バーストの残留データ的なものに反応して、あの世界へ彼女を呼び戻したというのだろうか……

 

 

 

「……なんてな」

 

 

わからないことは考えても仕方ない。

本人に聞いても、彼女は忘れているのできっとわからないだろう。

友人たちの質問に答えながら、俺たちを乗せたバスは、次の目的地へ進んでいったのだった―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オーディナルスケールでの出来事を経験させた設定にするかは悩みどころです

最初の方にニューロリンカー付けたときに滅茶苦茶驚いてますからねうちのキリの字は

必要に応じて出てくるかもしれませんね


それではまた次回


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第三十一話:柔よく剛を制す

文章が浮かんだので思ったより早くお届けできました

それではどうぞ


「倉嶋君からメッセージが届いた」

 

 

 

突然告げられた黒雪姫の言葉に、俺はお昼のゴーヤーチャンプルーを口に含みながら目をぱちくりさせた。

ちなみに今は自由時間。

俺達修学旅行生は各々の時間を過ごしているのだが、目の前の真っ黒いお姫様に呼ばれた俺はこうして二人で食事を取っているのである。

 

 

ゴーヤの苦味を味わいながら、俺は頭のなかで先程の言葉を反復する。

《倉嶋君》とは十中八九《ライム・ベル》の倉嶋君だろう。

メッセージが届いた……と言うことをわざわざ俺に話してきたと言うことは一体どういうことだろうか?

 

 

「えっと……数少ないメル友ができたみたいで良かった…な?」

 

「ん?よく聞こえなかったな」

 

「ナンデモナイデス」

 

見るもの全てが凍り付くような笑みを浮かべられ今の返しは不味かったようだと冷や汗をかく。

 

いやでも誰だって思うだろ?

黒雪姫と言えば何処となくミステリアスな空気を醸し出し、周りから崇められてるみたいな。

そのせいで実際メールのやりとりをしてる人は多くない孤高のぼっち(ソロプレイヤー)みたいなさ。

 

 

まあ、俺も人のこと言えないんだけど。

 

 

 

「んんっ、いまとても不愉快な想像をされた気がするが置いておこう。割りと急を要する話だ」

 

咳払いをした黒雪姫は、真剣な表情でこちらを見る。

 

 

「実は今、ネガ・ネビュラス、引いては梅郷中にいるハルユキ君達に大きな危機が迫っているらしい」

 

「……何だって?」

 

 

黒雪姫が言うには俺達が旅行に行く直前まで話題に上がっていた剣道部の新入生、能美がバーストリンカーだったようで、彼との戦いに敗れたシルバー・クロウの翼を能美のアバターの必殺技により奪われてしまったらしい。

 

そのあと色々あったらしく、近いうちに無制限中立フィールドにて互いのバーストポイントを賭けた戦いをすることになったとか。

 

チユリは自分の能力を活かして能美の仲間になったフリをしつつ情報を探っていたらしく、今回黒雪姫に助けを求めてきたと言うのが事の顛末だ。

 

 

「そんなことになってるなんて……っ、そうだスグ…!」

 

「落ち着け和人君、今直葉君に連絡を取ったところではぐらかされるに決まってる」

 

彼女の言葉に反論しようとするが、スグの性格を考えると確かに一理ある。

焦る気持ちを抑えながら、俺はコップの水を飲み干した。

 

 

「それで、だ。彼女からのメッセージによるとハルユキ君達は無制限中立フィールドで能美と戦う際に邪魔が入らないように戦う時間を調整するらしい。わかるな?倉嶋君は助けを求めてきた……」

 

「でも無制限中立フィールドで戦う以上現実とは違う時間の中で戦う……俺達が助けに行っても戦いが始まってない…もしくは決着がついているって可能性があるってことか」

 

黒雪姫の言葉を続けるように答えると、彼女はそうだ、と肯定して箸を置く。

 

いつの間にか二人ともご飯を食べ終えていたようだ。

 

「まあ時間に関しては倉嶋君が教えてくれるらしい。実に遺憾だが、私たちはそれまで待機だ」

 

 

「……でも場所や時間はわかってもどうするんだ?ここは沖縄だ。無制限中立フィールドに入ってもここと本島じゃとんでもない距離だ」

 

 

そう、仮に時間を合わせることができても、距離という概念は覆せない。

ALOならまだしも、ここで空を飛べるのは限られている。

そんな俺の疑問に黒雪姫はニヤリと微笑む。

 

「なに、宛はあるぞ。こないだクリキンから面白いことを聞いたのを覚えているか?」

 

「クリキンって……ああ、あの赤いネジの。……って黒雪姫さん?……マジで言ってます?」

 

「ああ、大マジだぞ私は」

 

黒雪姫はふふん、とどや顔を見せたあと席を立ち上がるとおもむろに俺に指を突きつけ。

 

 

「さあ、レッツテイミングだ」

 

なんて、とんでもないお言葉()を仰ったのだった。

 

 

 

 

アンリミテッド・バースト、の言葉と共に無制限中立フィールドに降り立つ俺達。

 

 

クリキンの言葉によれば目的の空飛ぶエネミーは沖縄エリアの北の方とのこと。

幸い北の方とやらには苦もなく辿り着くことができたし、件のエネミーも見つけることはできた。

 

 

そう、見つけることはできのだ。

 

 

 

「うわぁぁぁっ!!?」

 

 

「おいキリト!ちゃんと動きを止めろ!!」

 

 

「無茶言うなぁぁぁぁあ!!!」

 

 

自分でも情けない声を上げながら俺は迫りくる空飛ぶエネミーに向き直る。

その姿は有り体に言えば天馬だ。

 

黒雪姫が持つテイム用アイテム、《幻想の手綱》でこの天馬をテイムするというところまでは良かったのだが、いざテイムするにはどうするのか?と言う話になった。

 

ブラック・ロータスは全身が剣で出来ているため、下手を打てばエネミーを傷つけてしまう。

何でも斬り裂く黒の王の名は伊達ではないのだ。

 

そんなわけで俺が天馬を抑え、そこをブラック・ロータスがテイムするといった形になったのだが、この天馬、空を飛びながら助走を付け突進してくるというとんでも攻撃をしてきたのだ。

 

その速度はかなりのもの。

普通のボス戦なら回避確実のものである。

これを受け止めるなんて俺にはできない。

 

 

「俺はタンクじゃないんだぞ!!!」

 

 

「私もこんな体じゃなかったら手助けできるんだがな、いやあすまない、本当にすまない」

 

逃げ回る俺が面白いのか、言葉の節々で笑いを堪えるように声をかけるブラック・ロータスに、こいつ覚えとけよと心のなかで叫んだ。

 

 

「……あの勢いを止めるにはどうすれば…」

 

 

呟きながら考えを整理していると、ふと、とある考えが頭に浮かんだ俺は、少し考えたあとその考えを実行することを決めた。

 

 

仕方ない、これより良い方法が浮かばなかったんだ。

 

俺は悪くない、悪くない。

 

 

 

迫りくる天馬を再び回避した俺は、真っ直ぐにある方向を目指して走り出す。

無論、天馬も再び上昇しながら、俺を追いかけるために進路を取っていることだろう。

 

目指す方向はもちろんーーー

 

 

「おいキリト、何で此方に走ってくるんだ……?おい!どういうことなんだ!!やめろキリト!!おい!!」

 

その聡明な頭で俺の考えてることが理解できたであろう裏切り者(ブラック・ロータス)のもとである。

 

 

 

必死な声を上げるロータスの肩を叩き、サムズアップをした俺は彼女を抜き去ると、背中の剣を抜き放ち方向転換。

ちょうど天馬、ロータス、俺と直線上になる立ち位置になったのを確認する。

 

天馬のスピードはかなりのもので、突然の出来事にあたふたしていたブラック・ロータスが俺の後ろに下がることはできない。

俺と天馬の両方を交互に見た後、ぐぬぬ、と唸った彼女はその両足を地面に突き刺し、誤って天馬を倒して仕舞わないように両手の面を重ね合わせて受けの姿勢をとった。

 

 

「き、キリト!!覚えておきたまえよ!!《オーバードライブ》、《モード・グリーン》!!」

 

 

俺に恨みの声を上げながら高らかに叫んだブラック・ロータスの装甲の継ぎ目から、緑色の光が漏れる。

恐らく防御技だろう。

 

 

技の発動はギリギリ間に合い、ブラック・ロータスの剣に天馬が激しい音を立てて衝突した。

 

 

「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」

 

 

突撃の勢いによって、地面に突き刺したロータスの剣はそのままフィールドを斬り裂くように下がっていく。

 

 

如何に黒の王、レベル9と言えどあの勢いの攻撃を受け止めるのは至難の技のようだ。

 

 

「…しかし、上半身は勢いに押されていて、下半身は動かないように踏ん張る形となると腰ヤバそうだな」

 

ブレイン・バースト内で腰をやったらどうなるのだろうか。

逆にリアルに復帰した際に違和感がありそうである。

 

 

まあ、そんな黒雪姫の腰を守るために俺がいるのだが。

 

 

必殺技ゲージが十分な事を確認した俺は、徐々に下がっていくブラック・ロータスの背後に近づくと、その背中部分に交差させた二本の剣を押し当てた。

 

「お、おいキリト!!何をするつもりだ!!」

 

「何って、手助けだよ手助け。《クロス・ブロック》!!」

 

「ん"ん"っ!?!?!?」

 

声にならない悲鳴を上げるブラック・ロータスの腰がイカれないようにしながら、俺は襲ってきた衝撃に歯を食い縛る。

 

 

天馬の勢いが弱まるのが先か、ロータスの腰が壊れるのが先か。

 

「根比べだ……っ!!」

 

「ふざけるな!!おい!キリトっ!!私の腰っ、背中がっ、んんんっ!!」

 

 

頑張れロータス、シルバー・クロウや梅郷中の皆の無事は、お前の腰に掛かってるんだ……っ!!!

ここでお前がやられたら、危険を犯して連絡してくれたライム・ベルに会わす顔が無いだろう……!!

 

 

 

「くぅぅぅぅぅっ!!も、う……限界っだ……っ!!」

 

「何を言ってるんだロータス!!お前が踏ん張らなければ俺達が皆を助けられ……」

 

 

ホバー移動するためのスラスターを展開したブラック・ロータスの声を聞いた俺は、彼女を激励するために声をかける。

 

 

しかしその瞬間、信じられない事が起きた。

 

スラスターの勢いを利用したブラック・ロータスが地面に突き刺していた剣を抜き放つと、高く跳躍。

面の部分で擦り合わせるようにしつつ、天馬を受け流して回避したのだ。

 

 

「ちょっ、ロータスぅぅぅぅぅぅっ!!!?」

 

 

 

前に俺も彼女とのデュエルで受けた《柔法》と呼ばれる技術の応用だろうか。

そこまで考えた瞬間、俺の両手に大きな衝撃が襲いかかってきた。

言わずもがな天馬である。

 

 

貴様は絶対に仕留めると言った目で此方を見る天馬の迫力に気圧されそうになるが、俺にも退けないモノは存在する。

 

 

「こん………のぉっ!!!」

 

 

渾身の力を込めて剣を上に振り上げると、《クロス・ブロック》によって拮抗していた力が分散され、天馬の顔が弾かれるように上を向いた。

 

あまりの勢いに俺の剣も吹き飛ばされてしまったが、今回は天馬を倒すことが目的ではない。

 

「《閃打》っ!!」

 

痺れる腕を無理矢理動かし、必殺技をがら空きになった天馬の体に打ち込む。

 

攻撃が効いたのか苦しげな声を上げる天馬に、先程攻撃を回避したブラック・ロータスが走り込んで《幻想の手綱》を使用。

 

鮮やか(?)な連携プレイに天馬はなすすべもなくテイムされたのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、いやあ…テイムできて良かったな」

 

「……」

 

「あ、あれしか思い浮かばなくてさ、そ、そうだ。相談せずに巻き込んだお詫びはいつか精神的にさ、払いますので……」

 

「…………」

 

 

テイム完了後、天馬に跨がり乗り心地を確かめているブラック・ロータスに恐る恐る声をかける。

しかし、彼女は俺の声が聞こえていないかのように返事を返さない。

 

参った、彼女の機嫌を治すにはどうすれば良いんだろうか。

 

 

 

「……大体梅郷中までこれくらいの時間か」

 

「え?」

 

 

女性を怒らせてしまった際にどのように接するべきかと脳内シミュレーションをしていた俺に先程まで返事を返さなかったロータスの声が聞こえた。

 

 

「何だその間抜けな声は……私が梅郷中までどれくらい時間がかかるか計算していたって言うのに」

 

「あ、ああ……悪いていうかその…あの……怒ってないんです…か?」

 

「何を怒っていると言うんだ?ああ、確かにあれは急すぎたが最初に煽った私に責任はある。君がああいう行動を起こすことを予測できなかった私にも落ち度はあるだろうな」

 

思わず敬語になりながら聞いた俺に、彼女は首を傾げながらそう答えた。

俺はホッと息をつきながら、数歩先にいる彼女に近づいていく。

 

 

「そ、そうか。それで、どれくらいの時間がかかーーーー」

 

 

俺の言葉は最後まで紡がれることはなかった。

 

 

次に理解したのは鳩尾の痛みと、俺の体が空気を突き破り吹き飛ばされているということ。

 

 

「ーーああ、すまん」

 

 

地面を転がり、激しく咳き込んだ俺にまるで日常会話をするようにかかる声。

見上げた先には後足を振り上げた天馬と、心配そうに首を傾げたブラック・ロータス。

 

 

 

「天馬の制御が上手く出来ていなかったみたいだ。先ほど殴られた恨みを晴らしたかったんじゃないか?」

 

 

 

「うそ……つけ…」

 

 

先の会話を思い出したが、彼女は怒っていないなんて一言も言ってない。

現にほら、その手綱の位置が動いている。

 

絶対わざとだろ!!という言葉は胸の奥に秘め、俺は痛みが引くのをジッと待つ。

 

 

「それと、天馬にロープを結んでおくから君はそれを掴んでくれ。先ほどの衝突で私は腰を痛めてしまったみたいでね、二人のりなんてしたら悪化してしまいそうだ」

 

 

 

「、……っ」

 

 

………痛みを堪えながら、次から彼女は怒らせないようにしようと俺は心に深く刻んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 




と言うわけで天馬のテイミング回
少しはっちゃけすぎてキャラがあってるか不安です

チユリが黒雪姫に連絡したタイミングがよくわからなかったですので、変な部分あるかも…

一度アイテムでテイムしたエネミーって一度プレイヤーがいなくなったらどうなるんでしょうね
メタトロンが居座ってたことからその場にずっと待機なんでしょうか

それではまた次回


※あのあとキリト君は謝り倒して二人のりを許してもらいました


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第三十二話:月光の鴉

就活とかで忙しいのに書いてる人、だーれだ

私です


オーディナルスケール二週目行ってきました。
やっぱり最後の追い込みのようなところが好きです

同じところで感動して同じところで盛り上がりました

今回少し書き方を変えてみました

それではどうぞ


 無制限中立フィールド

 

 現実世界では梅郷中学校のグラウンドにあたるエリアにてとある戦いが起きてていた。

 

 

 その中で一際目立つのは左手を触手に、右腕を火炎放射機に変えたアバター。

 梅郷中を襲った能美征二ことダスク・テイカーだ。

 

 その触手はフィールドを縦横無尽に叩き回り、数少ないオブジェクトを破壊しながら上空に右腕の火炎放射機から火炎弾を放ち続けている。

 

 その火炎弾が向かう先には一体の翼が舞う。

 

 全身を銀の装甲で覆い、その背中にある加速世界唯一の銀翼で縦横無尽に空を飛び回る。

 

 

 「このっこのっこのっ!!当たれ!!当たれよ!!!」

 

 

 苛立ちを隠せないダスク・テイカーの放つ攻撃はしかし、その鴉に命中しない。

それどころか徐々に近づいてくるではないか。

 

 

 「ーーっ!!僕を見下ろすな…!雑魚の分際で、この僕を、僕をっ!!僕をぉぉぉっ!!」

 

 

 思い付く限りの呪詛を吐きながら火炎弾を連射するダスク・テイカーだが、突如その動きが止まる。

 火炎弾を放つための必殺技ゲージが無くなったのだ。

 しかし怒りで頭に血が上った彼はその事に気づくことが遅れてしまった。

 

 

 「しまっーー」

 

 

 「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

 

 

 

 テイカーが己の失策に気づいたのは数秒後。

 たかが数秒。しかしその数秒を見切った鴉ーーシルバー・クロウは一気に急降下の体勢を取り、得意のダイブキックをテイカーに叩き込んでいた。

 

 

 大きな音を立ててダスク・テイカーが吹き飛ばされる。

 大ダメージを与えたハルユキは次の攻撃に切り替えるために一瞬だけ意識を休ませる。

 

 

 「ーーえっ、うわっ!!」

 

 

 その一瞬、今度は逆にシルバー・クロウの体が何かに引っ張られる。

 慌ててその方向を見ると膝を付きながらその触手をクロウの足に巻き付けたダスク・テイカーがまるで魚を釣るようにクロウを引き寄せていた。

 

 

 「ちぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」

 

 

 火炎放射機を大型カッターに変えたテイカーは、引っ張られた勢いで此方に向かってくるクロウにそれを叩きつけようと降り下ろす。

 隙を付かれたシルバー・クロウの翼ではこの攻撃は回避することはできないだろう。

 

 

 しかし

 

 

 

 「《ゲイルスラスター》ッ!!!」

 

 ハルユキの声に応えるように背中に装備されたブースターが火を噴いた。

 シルバー・クロウの動きが止まると共に、途端にテイカーの触手に負荷がかかる。

 

 「ちぃっ!!」

 

 

 このままでは触手ごと引っ張られると感じた能美は、クロウを拘束していた触手ごと強化外装の装備を解除する。

 結果、シルバー・クロウとダスク・テイカーはお互いに距離を取ることとなった。

 

 

 「クロウ……っ!!」

 

 

 「はぁ、はぁっ、大丈夫だリーファ……まだ大丈夫だっ」

 

 荒い息を吐きながら、シルバー・クロウは自分を心配する声に応える。

 気丈に振る舞うがその体はガタガタであった。

 彼の名を証明する銀色の装甲の殆どは剥がれ落ちている。

 

 その痛々しい姿を見た《リーフ・フェアリー》こと桐ヶ谷直葉は今すぐに加勢に行きたい身体をグッと堪え、自分の背後を見つめた。

 リーファの後ろには仲間である《シアン・パイル》と《ライム・ベル》が互いに寄り添うように倒れているのだ。

 

 そしてクロウ達から少し離れた場所に入る黒色のアバター、《ブラック・バイス》に視線を移す。

 

 シルバー・クロウをここまで傷つけたダスク・テイカーの援軍、彼の存在だけは直葉達にとって予想外のものだったのだ。

 

 

 「変な気は起こさないでくれよ?別にわたしは好き好んできみ達と戦いたいわけじゃないんだ。あくまでも報酬分しか働かない。きみが動かなければわたしは何もしないよ」

 

 「ーーっ」

 

 

 順を追って話そう。

 

 

 能美征二、ダスク・テイカーの秘密を掴んだハルユキ達は彼と互いのポイントを全て賭けた決戦に挑んでいた。

 

 まず、心意を習得したシアン・パイルが先陣を切りダスク・テイカーを追い詰めた。

 しかしここで彼にライム・ベルが必殺技《シトロン・コール》を発動。

 

 戦闘により傷ついた身体を回復していくダスク・テイカーであったが、ライム・ベルの狙いは別のところにあった。

 彼女の必殺技は回復魔法ではなく、時間を操るものだったのだ。

 

 その効果によってダスク・テイカーはシルバー・クロウの翼を奪う前のステータスに戻された。

 つまりシルバー・クロウの翼は彼の背中に戻ったのだ。

 

 これで心置き無く戦えると、動揺するダスク・テイカーに攻撃しようとした四人の前にある敵が現れた。

 

 

 全身が黒色の板のような体でできているアバター、ブラック・バイスだ。

 彼はダスク・テイカーの手によって用意された援軍で、加速世界唯一の減速能力者というとんでもない存在だったのだ。

 ハルユキ達との戦いに乱入できたのも、その能力が関係しているようだ。

 突然の援軍に驚き、動きを止めたシルバー・クロウが先ずブラック・バイスの身体を構成する板によって押し潰されるように拘束されてしまう。

 

 続いてリーファも不意をつかれその身体を大きく吹き飛ばされ戦線から離れてしまった。

 一瞬のうちに二人になってしまったシアン・パイルとライム・ベルに、ダスク・テイカーの触手が伸びる。

 

 レベル4になったとしてもまだ日の浅いライム・ベルはその触手に捕まってしまい、彼女という人質を取られたシアン・パイルはテイカーの心意技によってその両肩を切り落とされてしまったのだ。

 

 自分の翼を奪ったライム・ベルを少しずつ痛めつけるダスク・テイカー。

と、ここでリーファが復帰、加速した一撃でテイカーの隙を作り二人を救出。

 怒り狂うテイカーの猛攻を必死に凌いでいたリーファのもとに自力で拘束から抜け出したシルバー・クロウも参戦し、テイカーに叫んだ。

 

 

 『元々オレとお前の戦いだ!!決着をつけるぞ!能美!!!』

 

 

 普段の冷静な能美だったらハルユキの挑発に乗るようなことはしなかっただろう。

 しかし、翼を奪い返され自身の計画外の事態が起きすぎて頭に血が昇っていた彼はハルユキとの一騎討ちを承諾した。

 

 そして冒頭に戻る。

 

 

 最初のぶつかり合いは頭に血が昇っていたダスク・テイカーの隙をついたシルバー・クロウが優勢だったが、ここで相手は冷静さを取り戻したらしい。

 荒い息を整えながらダスク・テイカーはシルバー・クロウを睨み付ける。

 

 

 「まさか、こんなことになるなんて思いもしなかったですよ有田先輩……。僕のプランの中であなたは大人しく僕にポイントを持ってくるだけの犬だった筈なのに……」

 

 「飼い犬に噛まれるっていうのはこう言うんじゃないか?少なくともお前の思い描くプランとやらを滅茶苦茶にできて満足だよ」

 

 「減らず口が減らない人だ……!」

 

 ハルユキの皮肉まじりの言葉に吐き捨てるように答えた能美は、自身の内に入り込む。

 そも、自分のような加速利用者が目の前の雑魚に負けることなどありえないのだ。

 

 「見せてやりますよ……!僕の力を……!!」

 

 腕を心意の爪にしたダスク・テイカーは真っ直ぐシルバー・クロウに走り込む。

 再び飛び立とうとするシルバー・クロウだったが、必殺技ゲージが殆ど無くなっている事に気づく。

 

 先程のぶつかり合いで此方も必殺技ゲージを消費してしまったようだ。

 

 

 ーーーゲイルスラスターのリチャージはもう少し時間がかかる……っ!!

 

 

 

 ブラック・バイスの拘束から無理矢理脱出するために有らん限りの心意を捻り出した今のハルユキに光線剣(レーザーソード)を出せるかと言われれば否だ。

 降り下ろされる邪悪な爪を紙一重で回避したシルバー・クロウの腕にダスク・テイカーの触手が巻き付く。

 

 

 「あはっ!!逃がしませんよ」

 

 

 狂喜に満ちた声と共に振り下ろされる爪はシルバー・クロウが拘束されている腕とは逆の、左肩から下を綺麗に切断した。

 

 

 「うぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!」

 

 

 「あははははははは!!!」

 

 

 痛みに思わず声を上げるハルユキに、能美は高笑いしながら追撃を加える。

 必死に回避しようとするが、その爪はシルバー・クロウの腹部を抉る。

 

 

 「あっれぇ?せんぱぁい、どうしたんですかぁ?」

 

 

 ついに膝をついたシルバー・クロウを見下ろしたダスク・テイカーは、込み上げる笑いを隠そうともせずに声をかける。

 

 

 「先程まで飼い犬に腕を噛まれるとか言ってませんでしたっけ?それがっ、ほら!こんな様ですよぉ?」

 

 

 ガンッとシルバー・クロウのヘルメット部分を蹴り飛ばすダスク・テイカー。

 地面に倒れこんだクロウを見下ろしたテイカーはクックッと笑う。

 散々好き勝手して自身の手を焼かした相手がこんな無惨に倒れているのだ。

 これは傑作だ。

 

 

 「ほら、命乞いしてくださいよぉ。あの時みたいに土 下 座 してくださいよ、有田せんぱぁい」

 

 「ーー、ー」

 

 

 「んー?何て言ったんですか?聞こえないですよぉ?」

 

 

 弱者は強者に勝つことはできないのだ。

 相手の泣き叫ぶ声は何度聞いても聞き飽きない。

 愉悦に浸りながらも、これまでの相手にしたように、ハルユキの命乞いを聞き逃すまいと耳を済ます能美。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そうやって調子に乗ってるからオレみたいなのに反抗されるんだろ、ばーか」

 

 

 

 

 

 「~~~~~~お前ぇぇぇえっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 明らかに挑発の言葉。

 予想だにしなかった言葉に逆上したダスク・テイカーはシルバー・クロウにその爪を突き立てようとする。

 

 

 ーーこれが振り下ろされれば、オレはブレイン・バーストを失い、その記憶も無くす。

 

 

 その光景を見ながらハルユキの思考は急激な加速を起こした。

 

 シルバー・クロウの右腕は拘束されていて光線剣(レーザーソード)を使おうにも使えない。

 そんな状況でも彼は冷静だった。

 彼が脳裏に浮かべるのは尊敬し敬愛する黒の王ブラック・ロータスの姿。

 

 元々この心意技だって彼女の影響が少なからずある。

 彼女に追い付くための剣。

 両手足が剣の、ブラック・ロータス。

 

 ーーそうだ。

 

 

 あの人はその四本の剣を自在に扱っていた。

 

 こんなところでやられていたら、僕は、オレは、何時までたってもあの人に追い付けない。

 

 まだだ、まだ僕は負けてない!!!

 

 

 「光線…(レーザー…)

 

 祈るように、願うように。

 背中の翼を展開しながら、技の名を紡ぐ。

 

 「無駄ですよ!!その腕じゃあね!!」

 

 

 「(ソード)!!」

 

 

 振り上げたのはその脚。

 シルバー・クロウの右足は心意光に包まれ、ダスク・テイカーの一撃を防いだ。

 

 「なっーー!?」

 

 「うおぉぉぉぉぉぉおおっ!!!」

 

 雄叫びを上げながらシルバー・クロウは自身の翼をはためかせ、右腕を強く引く。

 それと同時に身体を捻り、左足にも心意光を纏わせ右腕に絡み付いている触手を切り裂いた。

 

 「うっ、うわぁぁぁぁぁぁあっ!?」

 

 まるで背負い投げのような投げを受けたダスク・テイカーは、《月光》ステージのフィールドに叩きつけられる。

 

 

 

 ーー何故いまにもやられそうな奴がこんな力を!?

 

 

 背中に衝撃を受けながら能美は本日何度目かわからない驚愕をしながら立ちあがり、シルバー・クロウの方を向いて目を見開いた。

 

 

 「うおぉぉぉぉっ!!!」

 

 

 シルバー・クロウが、背中のゲイルスラスターと翼を展開して、超スピードでつっこんできたからだ。

 

 

 思考したのは一瞬。

 

 

 腹部に強い衝撃を受けたダスク・テイカーは、そのまま学校の校舎に勢い良く激突した。

 

 

 力を使い果たし地面に倒れこんだハルユキは荒く息をつきながらダスク・テイカーに、能美に言葉を放った。

 

 

 

 

 「能美……っ、これがバーストリンカー…だっ…!」

 

 

 

 

 

 




原作と大きく変えてみました。

ハルユキにも活躍させてあげたかったんです。

彼はボロボロになりながらも勝利するっていうイメージが強い

バイス君は影から見てたけど、初手シアンだったし、テイカ—からまずパイルから倒してクロウを倒してやるって意気込んでたのを依頼を受ける中で聞いてて、クロウも手を出す素振りみせないし働かなくていでしょって思ってるうちに電撃作戦のように翼奪還されてあららって感じです|M0)

そこから先はまあ報酬分は働かないとねって感じでいつもの拘束です。



ではまた次回


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第三十三話:まだ倒れない

オーディナルスケールの特典小説読みました

色々と考えさせられました
エイジがARなら英雄になれると言ったような趣旨の言葉をいった理由とか
彼のVRでの悲劇から生まれた言葉だったんですね


次の話ができてストック完成したら投稿するんですが、ややスピードが遅いので投稿します

それでは、どうぞ


 「…クロウ!!」

 

 吹き飛ばされた壁にぶつかり動かなくなったダスク・テイカーを一瞥したリーファは、倒れているシルバー・クロウに駆け寄る。

 ブラック・バイスも勝負がついたからなのか走り出したリーファを見ても動く気配がない。

 

 

 「クロウ!クロウ!!しっかり!!」

 

 「は、はは…もうガタガタだよ……」

 

 疲れきった声でそう返すシルバー・クロウは、彼女に手を借りながら何とか立ち上がる。

 

 「悪いんだけどリーファ、テイカーのところまで連れていってくれるか?」

 

 ーー決着は、俺の手でつけないと

 

 そう告げたシルバー・クロウにリーファはコクリと頷き、未だ動かないダスク・テイカーに向かって歩を進める。

 あと数歩まで来たところでシルバー・クロウはリーファから手を離し、一人で歩き出した。

 

 「っ……」

 

 とたんに全身に襲いかかる疲労感。

 ふらついたシルバー・クロウを見て駆け寄ろうとしたリーファを手で制止ながら、残りの数歩を自分の足で詰めた彼は、その右手刀を揃える。

 

 「《光線……剣(レーザー……ソード)》」

 

 掠れた声でそう呟くと、本来よりも遥かに淡い心意光が彼の右手を包んだ。

 本来ならお粗末も良いところだが、今のテイカーならこれでも十分に倒すことができるだろう。

 

 「能美……何でお前こんなことしたんだよ……」

 

 動かない彼にハルユキは思わずそう言っていた。

 同じバーストリンカーとして、別の出会い方もあった筈なのだ。

 

 「誰でも良かったんだ…入学してきた時に対戦を挑んで、よろしくって言ってくれれば、良い関係が築けたのかもしれないのに…」

 

 たら、ればを話していればキリがない。

 ハルユキは雑念を振り払うように頭を振ると、決着をつけるためにその右腕を振り下ろそうとしてーーー

 

 

 

 「ーーあはっ」

 

 

 ーーその笑い声に動きを止めていた。

 

 「あはははははっ」

 

 

 ーー全身を震わせながら、ひたすら上げる笑い声

 

 

 

 「あははははははははははははははははははははははははははははははあはっははははは」

 

 

 「ーーっ!!うわぁぁぁぁぁぁあっ!?」

 

 ーーそして彼の身体を負の心意光が包み込み始めた

 

 

 何もかもを飲み込む強烈な負の心意。

 反射的に右腕を前につきだしたシルバー・クロウの行動は果たして正しかった。

 例え淡くても彼が纏っていたのは正の心意だ。

 彼の心意はテイカーの体から溢れた心意とぶつかり、シルバー・クロウを激しく吹き飛ばしていた。

 

 

 「クロウっ!!」 

 

 いち早く動いていたリーファに抱き止められながら、ハルユキは目の前のダスク・テイカーの変化に目を見開いた。

 彼の体からはどこに隠していたのかというくらい負の心意があふれでていて、まるで前に戦った《クロム・ディザスター》のように感じられる。

 

 「テイカーくん、《逆流現象(オーバーフロー)》はないよ。まあ君ならそれを起こすのは予想できてたけどさ」

 

 そんな中、ブラック・バイスの淡々とした声が響く。

 聞き覚えのない言葉。しかしハルユキは心意を教えたスカイ・レイカーから直接的に無いにしろ似たようなことを聞いたことを思い出した。

 恐らくあれが自分の心意に呑み込まれた者の末路なのだろう。

 

 

 「■■■■■ーー!!!」

 

 声にならない咆哮を上げたダスク・テイカーは真っ直ぐにシルバー・クロウを睨み付ける。

 

 ーー奴の狙いは、僕だ……っ

 

 応戦しようとするが、今度こそ身体が動かない。

 限界を越えた心意の発動に加え、強烈な負の心意に充てられたシルバー・クロウの身体はハルユキがいくら動かそうとしても動かすことができない。

 

 それでも、ハルユキは必死に動こうとする。

 相手の狙いは自分なのだ。

 他の仲間を危険に晒すわけにはいかない。

 

 

 

 

 「……えっ」

 

 

 

 そんなシルバー・クロウの前に、出る者がいた。

 その象徴的な長刀を構えた彼女は、逃げたくなるのを堪えながらダスク・テイカーと相対する。

 

 「だ、駄目だリーファ…、危険だ……」

 

 弱々しく呟き、彼女の前に立とうとするがやはりシルバー・クロウは動けない。

 大丈夫、とリーファは全身を淡い光に包みながら返す。

 暖かい、何もかも包み込むような心意だとハルユキは呆然と考える。

 しかし駄目だ、今の状況を例えるなら真っ暗な闇の中でリーファは弱々しく光る蝋燭だ。

 吹けば、容易く消えてしまう。

 

 

 「■■■■■ー!!!」

 

 

 正の心意が気に入らないのか、ダスク・テイカーはリーファに狙いを定めると両腕を負の心意の爪に変えて駆け出した。

 

 「っ!!」

 

 その攻撃をリーファはブレる(・・・)ようにして回避した。

 次いで振り下ろされる爪も同じように回避、良くみれば彼女が動く度に残像のようなものが見えるのが分かる。

 

 「こ、これがリーファの心意……?」

 

 

 

 キリトの言葉を借りるとすればこの世界の桐ヶ谷直葉は、兄の背中を追いかけ続けた存在である。

 そのアバターは彼の近くにいたい、追い付きたいという願いが形取り、遥か遠くを目指す翼ではなく、蝶などのように一見不規則に飛んでるように見えながら目的の場所を目指す羽として彼女の背中に現れた。

 

 

 心意の基本的な分類に分ければ《移動距離拡張》。

 妖精が舞うようにステップを踏み相手を撹乱するその技は彼女自身によってこう名付けられた。

 

 「《妖精の舞(フェアリィ・ダンス)》っ!」

 

 残像を残しながら相手を撹乱するその技は瞬間的な戦いを主とする対人格闘では大きな効果をもたらす。

 攻撃したと思えばそれは彼女の心意が残した残像。攻撃がすり抜け隙ができたところを攻撃する堅実なヒット&アウェイ。

 しかし、シルバー・クロウやシアン・パイルのように部分的に発動する心意とは違い、リーファの心意には大きなデメリットが存在する。

 

 

 「■■■■ー!!!」

 

 

 「きゃぁっ!?!?」

 

 

 業を煮やしたダスク・テイカーががむしゃらに爪を振り回し、その内の攻撃がついにリーファを捉えた。

 そしてそのまま地面に叩きつけられる。

 

 残像を出すと言うことは彼女の心意によって、残像のようなものが出現している。

 自分と同じ姿形の残像を出すためには必然的に身体の全体を心意で覆わなければならないのだ。

 

 心意の攻撃は心意でしか防げない。

 

 この関係は何があっても覆すことができないモノであり、ダスク・テイカーの爪を受けたリーファはその負の心意を直接的に触れることになる。

 心意という精神力をかなり使う技、それを全身に均等に纏うという技術。

 しかもこれを心意を覚えたての存在が行うという状態。

 

 技を形にしたリーファは、赤の王スカーレット・レインから口酸っぱく言われていた。

 

 "心意同士のぶつかり合いになったら、決して相手に捕まるな"

 

 今のリーファの状態は湖に薄く張られた氷だ。

 ここにダスク・テイカーの爪という石が投げ込まれれば容易く壊れてしまう。

 

 

 叩きつけられた瞬間に逃げようとするリーファだが、それよりも早くテイカ―の爪が振り下ろされようとしていた。

 誰もが諦めかけたその時、聡明な声が辺りに響いた。

 

 

 

 「≪スプラッシュ・スティンガー≫ァァァア!!!!」

 

 

 

 それと共にダスク・テイカーに襲い掛かる金属の杭。

 しかしその杭は超人的な反応を見せたテイカーの心意が叩き落しダメージを与えた様子がないが、その攻撃は十分にリーファが逃げ出す時間を稼いだ。

 その声にハルユキは信じられない、と考えると共に声の主を見やる。

 ダスク・テイカーに両腕を斬り裂かれ、最早バトルが困難だと思われていた彼が、その足を地面に付けて立っている。

 

 ライム・ベルを背に胸部装甲を開いた≪シアン・パイル≫が、そこに立っていた。

 

 「いつまでも……ハルに良い恰好、…させられないからね」

 

 「た、タク!!駄目だ逃げろ!!!」

 

 そうシルバー・クロウに声をかけたシアン・パイルだったが、今の彼に心意の攻撃はできない。

 しかもその大柄なアバターでは恰好の的になってしまう。

 タクムは自分を犠牲にしてまでも仲間を守ったのだ。

 

 自分がレベル2になったばかりの時も、レディオとの戦いの時も、今回の能美の件だって彼に救われた。

 

 そんな心優しい彼を失うわけにはいかない。

 親友を失うくらいなら…

 

 「オレがやられたほうがマシだ…っ」

 

 そう吐き捨てたハルユキは重い体を動かし、立ち上がる。

 先ほどまであんなにも動かなかった身体は鈍重ながらも動いてくれた。

 心意は出せなくても、まだ動ける。

 

 動ければ、まだ可能性は存在する。

 

 「諦めて……たまるか……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よく言ったぞハルユキ君、それでこそだ」

 

 

 

 

 

 

 そう自分を鼓舞した瞬間、凛とした声が彼の耳に届いた。

 視線を向けると、≪月光≫ステージの満月を背に、一体の天馬が浮かび上がっていた。

 そしてその天馬に乗っている漆黒のアバター、瞬きをすれば消えてしまいそうな光景に、ハルユキは声を失ってしまっていた。

 何でここにいるのか、自分たちのことを何故知ったのか、そもそもどうやってきたのか。そんな疑問がハルユキの頭を駆け巡るが、そんなもの、こちらを向いてコクリと頷いた彼女の前に四散した。

 

 次いでシルバー・クロウの目の前に漆黒のアバターが降り立つ。

 全身を漆黒の服に包み、薄い水色の剣と漆黒の剣をぎゃりぃぃぃんと抜き放つ少年のようなアバター。

 見ただけで、かなりの戦士だとわかる彼は場の状況を眺め、飄々とした雰囲気で口を開いた。

 

 「悪いシルバー・クロウ、少し遅れた」

 

 

 

 

 

 

 

 二人の黒が、戦場に参戦した。

 

 

 

 

 

 

 





またキリトが降ってきました

心意の逆流現象って精神が侵される状態に近いからこんなんかなって?
クロウがテイカー戦でディザスター化しかけた時みたいな

それでは、また次回


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第三十四話:放たれる剣技

大変長くお待たせしました

気がつけばオーディナルスケールのDVDが出ましたね
僕が好きなシーンはキリト対エイジです

お待たせしてなんですが短めです
それでは、どうぞ


「だっ……」

 

 誰ですか貴方は!!!と心のなかで叫びながら、ハルユキは目の前に降り立った少年アバターを凝視していた。

 全身を漆黒のコートに包みこちらを見る少年は、どこか見覚えがあるが、決してハルユキの知り合いでも何でもない。

 同じヒューマンアバターの知り合いはそこにいるリーフ・フェアリーともう一人の……

 

「き、キリトさん……?」

 

「……?何言ってるんだクロウ、当たり前だろ?」

 

「はぇ……っ」

 

 眉を潜めながらそう返答するキリトに、ハルユキは再び変な声をあげる。

 ハルユキの中でキリトは美少女型のヒューマンアバターだったはずだ。

 どういうことだ?ブレイン・バーストにはTSなるものが存在するのか?

 信じて送り出したネガ・ネビュラスの美少女剣士が気がついたら少年剣士になってた件について。

 

「お、お兄ちゃん!服装!服装!!」

 

「服装……?あ"っ」

 

 リーファの声に怪訝な顔をしたキリトだったが、少し時間をかけて言葉の意味を理解すると、しまった!と言った表情になる。

 そのままあー、とかうー、と唸ったキリトは歯切れが悪そうに。

 

「実は俺男で…あのですね、アビリティで姿形を変えることができるんだよ。あのほら、形態変化的な奴」

 

「え」

 

 アビリティで姿形を変えることができるって何それ怪盗二十面装?

 パドさんも人型から獣型になったりできたけど、こんな劇的に変わるのか?

 リーファ達《ヒューマン・アバター》用のアクセサリーがBB内のショップに存在していることはハルユキも知ってはいるが、ブレイン・バーストにはまだまだ知らないことが沢山あるみたいだ。

 よくよく聞けば姿が変わるとアビリティの構成も変わるようで、形態変化系統のアビリティなのかなと無理矢理納得する。

 というかその姿ができるんならわさわざ美少女(?)アバターにする必要無かったんじゃ…

 

「まさか」

 

「いやいやいやない!断じて、クロウが考えてることじゃないから!!」

 

 どーだか、と内心で呟いたハルユキははて、と考えを巡らす。

 

「確かリーファのお兄「■■■■ー!!!」」

 

 とある疑問を口にしようとしたハルユキの声は、ダスク・テイカーの雄叫びにかき消される。

 その声に一瞬で戦闘体勢に入ったキリトは、テイカーの心意の爪を迎え撃つが、ハルユキはあっ、とあることに気づきキリトに言葉を投げ掛ける。

 

 

「だ、駄目だキリトさん!!その爪は普通の武器じゃ防げないんだ!!」

 

 ハルユキの言葉を聞いたキリトは紙一重でその爪を回避するが、薄い水色の剣が刀身の半分から先ほどまで吹き飛ばされてしまった。

 いくら実力があっても、心意の前では無意味だ。

 同じ心意技を使えないと、勝ち目がない。

 

 

「またかよ…っ!!」

 

 

 キリトは悪態を付くように声を上げると、使えなくなった剣をテイカーに投げつけ距離を取る。

 心意を使えないキリトは驚異でないと見なしたのか、投げつけられた剣をその爪で迎撃したテイカーは再びハルユキに視線を移す。

 

「くっ……」

 

 心意を練れるかはもう自信がない。

 むしろこう思っている時点で心意を発動することはできないだろう。

 だがやるしかない、戦えるのは自分だけなのだから。

 疲労で鈍った頭を必死に回転させながら、右腕にイメージを集中させようとしたハルユキだったが、突然漆黒のコートが目の前に立ったことによって中断させられた。

 

「き、キリトさん!!?」

 

「大丈夫だクロウ、俺に任せてくれ」

 

「ば……」

 

 馬鹿言わないでください!!と続けようとして、しかしハルユキはキリトの目に言葉を失う。

 あれは諦めていない者の目だ。

 いや寧ろあれは……

 

「楽しんでる……?」

 

 ハルユキの言葉が聞こえたのかは定かではないが、キリトはニヤリと微笑むとテイカーに向かって剣を構える。

 

「さあ、続きといこうぜ」

 

 キリトの声に反応したように、走り出すダスク・テイカー。

 その爪が振り下ろされる瞬間、キリトが左腕を翳すと、彼の体が発光した。

 あれは心意の光だ。

 そうハルユキが気づくと、ガンッ!!と大きな衝撃と共にテイカーの爪が動きを止めた。

 まるでそう、そこに見えない剣があるかのように。

 

「!!?」

 

 驚く感情はあるのか、驚愕の気配を見せるテイカーの隙をつくように、キリトは右腕の黒剣で心意に包まれていないテイカーの体を斬り裂いた。

 そして怯んだテイカーに追い討ちをかけるように彼の左手がライトエフェクトに包まれる。

 

「《閃打》っ!!」

 

 システムが音声を認識し、必殺技が発動する。

 威力を増したキリトの拳はテイカーの顔面を的確に捉え、彼を後方へと吹き飛ばした。

 

「すっげぇ……」

 

 思わず感嘆の言葉を付くハルユキ。

 それもそうだ。

 心意技というとんでも技を一度使っただけで、あとは通常技でテイカーを吹き飛ばしたのだ。

 ハルユキもやろうと思えばできるだろうが、流石にあの心意の爪の中を掻い潜って通常技に持ち込める自信はない。

 というか、あの人いつの間に心意技を習得していたんだとツッコミたくなってしまうハルユキは悪いだろうか?いいや悪くないだろう。 

 

「…っ、ぐっ……」

 

 吹き飛ばされたダスク・テイカーは呻き声を上げながら起き上がる。

 

「……なんだよ、ナンなんだよ…笑えない、こんなの、こんなことがあってたまるか…」

 

 ぜえ、ぜえ、と息を吐きながら、周囲に殺気を振り撒くダスク・テイカーだったが、そのHPは残り20%程だ。

 ここに来て呑まれていた意識を取り戻したらしい。

 シルバー・クロウ達よりレベルの差があったとはいえ、ライム・ベルによって回復されたHPはここまでの激戦でかなりのところまで削られていた。

 

「ば、バイス!!何やってんだよ!!早く僕を助けろよ!!!」

 

「テイカー君それは無理だ。流石にそんな余裕はないよ」

 

 テイカーがブラック・バイスに叫ぶように声をかけるが、等のブラック・バイスは天馬から降りたブラック・ロータスの猛攻をその盾で防いでいる。

 しかし、彼女の攻撃を捌ききる実力はかなりのものだ。ブラック・ロータスも困惑の気配を見せるが、それを振り切るように後方へとバックステップ。

 膝を落とし左腕を前に、右腕を引き絞るような体勢をとった。

 

 

「≪奪命撃(ヴォ―パルストライク)≫!!」

 

 その言葉と共に放たれた彼女の心意技は、深紅の槍となってブラック・バイスへと襲いかかる。

 しかしその攻撃も灰色のオーラを纏った十枚の板に阻まれる。

 

「《複層装甲(レイヤード・アーマー)》」

 

 彼の体から放たれ展開された十枚の板は、黒雪姫の心意技とぶつかり合う。

 激しい音を立てながら板を貫いた槍は、残り一枚と言うところで止まり、ブラック・バイスの体には届かない。

 しかし、心意技の戦いはどちらがより強いイメージを持つかで決まる。

 そのため、二人はこの場に釘付けという結果になっているのだ。

 

 

 

「くそっ!くそっ!!なんだよ!!肝心なところで!!!」

 

 

「ぜやぁっ!!!!」

 

 

 偶然的にも心意逆流現象から復帰したダスク・テイカーであったが、彼が意識を取り戻したことによりその両腕の爪は既に消えている。

 

 バイスからの救援は望めないとその頭で理解したテイカーは感情を露にして悪態をつく。

 そこに予備の剣を背中に背負い直し、既に抜いた漆黒の剣を構えたキリトが斬りかかった。

 辛くも大型カッターで受け止めるテイカーだが、レベル差はあったとしても王と渡り合えるキリトの攻撃は的確に彼を追い詰める。

 

「くそぉっ、ぱ、《パイロディーラー!!》」

 

 今までの攻撃で溜まった必殺技ゲージを使い火炎放射機でキリトを攻撃しようとするテイカー。

 しかしその砲身は身を屈めた彼の背中から抜き放たれた黄金の剣によって阻まれた。

 

「なっ……!!」

 

「お前達が何の目的で動いているのかは知らない……だけど、妹を、俺の仲間を傷つけるなら、俺は容赦しないぞ……!!」

 

 言うが否や、二本の剣が青いライトエフェクトに包まれる。

 

 

 

「《スターバーストーーー、ストリーム……っ!!》」

 

 

 

 必殺技ゲージを全て使用した大技。

 かの世界で二刀流ソードスキルとして設定された技が、テイカーに放たれた。

 

 




パイロディーラー弾くところはアニメで初めて二刀流が使われるところをイメージしました

折角だしオーディナルスケールネタも入れたいなと思うこのごろ

ほんと亀更新ですがお、更新してんじゃんって感じで見てくださると嬉しいです

それではまた次回


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第三十五話:決着、そして……

今回でダスク・テイカ―編は終了です

ようやくここまで来たと考えると感慨深いようなまだ終わってないぞというか

ゆっくりと進めていきますんでこれからもよろしくお願いします

それでは、どうぞ


技名の音声を聞き入れたシステムが必殺技ゲージを全て消費し、俺の体を突き動かす。

 SAOで俺が幾度もなく使った必殺技は俺が脳裏に描いたイメージと寸分の違いもなく、目の前の相手に放たれた。

 

「ぐあぁああああああああ!!!!!」

 

 相手も必死に防御しようとするが、元々二刀流は圧倒的な手数で相手を倒すスタイルだ。

 その程度の防御が抜けなければ、俺がこのスキルの使い手に選ばれるわけがない。

 

 「ちくしょう!!なんだよ!!なんなんだよお前はぁぁぁぁ!!!やめろよ!!僕の、僕の力がーー」

 

 「ぜやぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 まるで星屑のように煌き飛び散る16連撃最後の一撃は命乞いをするダスク・テイカーの胸の中心部を貫く。

 本来ならここまでやる必要は無いのかもしれない。

 だが俺にも譲れないものはある。

 俺の事を信じて受け入れてくれた直葉、そしてネガ・ネビュラスの仲間達はかけがえのない存在だ。

 俺はもう二度と、仲間を失うわけにはいかないのだ。

 

 

 「あっあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあ!!!!!」

 

 

 HPがゼロになると同時に、ダスク・テイカーの体は絶叫と共にデータの螺旋を描くように消滅していく。

 ブレイン・バーストにおけるアバター消滅現象は、どこか幻想的のようで、アンダー・ワールドのソレを思い出す。

 

 

 

 

 やがてダスク・テイカーがいた場所には一枚のカード型のアイテムが残った。

 恐らくダスク・テイカーがシルバー・クロウ達との戦いで使用した、お互いのバーストポイントを保持するためのアイテムだろう。

 

 勝者に設定されていない俺が彼を倒してしまったため、莫大なバーストポイントが詰まったカードとして出現したようだ。

 

 本来なら俺ではなくクロウ達が手にするはずだったソレを、俺はリーファに支えられながら歩いてくるシルバー・クロウに渡した。

 

 「……すまない、本当なら俺が倒すべきではなかった」

 

 「い、いえ!そんな…僕のほうこそ、キリトさんに任せてしまって……」

 

 お互い何とも言い難い雰囲気を破ったのは、未だ続いていたブラック・ロータスとブラック・バイスの戦闘音であった。

 高速で振り下ろされる漆黒の剣を、これまた高速で動く漆黒の板が阻む。

 

 「あちらの勝負はついたようだし、そろそろお開きにさせていただきたいのですが」

 

 「馬鹿を言え、貴様らの目的をここで洗いざらい吐いてもらうぞ!!!」

 

 ガンッと一際大きな音を立ててブラック・バイスを弾き飛ばしたブラック・ロータスは、トドメをさすためにその剣を振り下ろす。

 しかしそれより早くブラック・バイスの体に変化が起きた。

 板でできている自身の体を集合させ、一枚の板に変化させると足元に広がる校舎の影に溶け込ませるように沈み込んだのだ。

 

 「ご安心を黒の王。確かに依頼を受けてここには来たけれど、諸君のリアル情報は受け取っていないんだ。出きれば今後永久に関わりたくないね」

 

 最後にそう言い残した彼は凄まじい速さでこの場から離脱していったのだった。

 

 「斬り合いの中で逃げるのは得意だと言っていたが……言葉通りだったな」

 

 忌々しげにブラック・バイスが逃げていった方角を眺めたブラック・ロータスであったが、くるりとその体を振り向かせると。

 

 「ーー兎も角、危機は去ったということだ。四人ともよく頑張ったな、詳しい話は私達が東京に戻ったらということにしよう。今はゆっくり休むんだ」

 

 「先輩………」

 

 後ろのシルバー・クロウが様々な感情を乗せた声を上げる。

 とはいえ、後から来た俺達と違って戦っていた者は皆ボロボロだ。

 黒雪姫の言う通り、話は俺達が戻ってからで良いだろう。一先ずの危機は去ったのだから。

 

 「スグも、よく頑張ったな」

 

 「わぷ、お兄ちゃんくすぐったいよ」

 

 シルバー・クロウ達に負けず劣らずボロボロな妹の頭に手を乗せてねぎらいの言葉をかける。

 最初は照れくさそうにしていたリーファであったが、安心したのかポロポロと涙をこぼしはじめた。

 

 「私頑張ったよ…とっても痛かった……怖かったよぉ……」

 

 「な、泣くなよ…ほ、ほら!帰ったらスグの作った食べ物が食べたいな!!前に作ってくれた…ハンバーガー!!」

 

 「あれサンドイッチだよぅ……」

 

 

 

 結局、ライム・ベルがリーファを慰めてくれたおかげで一息ついた俺達は、黒雪姫が言ったように東京に戻り次第今回の詳細を聞くこと、残りの領土戦も頼んだということを伝え、沖縄へと帰還したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、ハルユキ君達の話はまた後でということにするが…桐ヶ谷君、君には少し聞きたいことがあるのだが」

 

 「な、なんでしょうか…?」

 

 現実に戻ってきた途端、我がレギオンマスターである黒雪姫様は腰をトントン、と叩きながら俺にそう言いはなった。

 何がなんだかわからず言葉に詰まっていると、黒雪姫は一瞬辺りを見渡し、再び口を開く。

 

 「君がテイカーの心意を止めた際に放った心意技のことだ。あれほど薄く洗練された一撃を放ったということは、心意の心得があると見て間違いないのか?」

 

 十中八九俺が放った《心意の刃》についてであろう。

 アンダーワールド内で絶技とまで言われたその攻撃はこの世界でも扱うことができる。

 それはニューロリンカー、そしてブレイン・バーストが何らかの形でSTLやアンダーワールドと関係があると俺は考えていた。

 

 「正確に訓練した訳じゃないから完璧に扱える…とまではいかないけど、多少なら」

 

 嘘は言ってないぞ嘘は。

 関係があるとはいえ、ブレイン・バーストとアンダーワールドの心意には何処となく違和感を感じるし、勿論あの場所のように自由に心意を使えるかと言われれば否、と答えるだろう。

 

 今の俺ができるのは精々剣を振れる範囲を心意の刃で一閃するくらいだ。

 ……未だに解放されていない俺の四つ目の姿はもしかすると心意技に特化した姿なのかもしれない。

 しかしあの姿を思い浮かべるとどうしても心が重くなってしまう。

 あの世界では楽しいことがあった反面、その分悲しいこと、辛いことが沢山あった。

 心意を扱うなら、それこそあの世界での出来事を思い起こさなければならなくなる。

 

 

 

 ーーーーーそれが怖い。

 表面上は乗り越えているけれど、ユージオの死は俺の心に深い傷を刻みつけている。

 

 過去を変えることはできないことはわかっているし、ここでそんなことを願ってしまえば、あの時彼に言い放った言葉を俺自身が否定することになる。

 

 

『辛いことがあったからって、過去の自分を否定するような奴に負けるわけにはいかない!!』

 

 

 そうだ、彼ーーエイジに言った言葉を、俺自身が否定することはしたくない。

 

 

 「……とはいえ少し使えるだけだ。シルバー・クロウとかと変わらないよ」

 

 

 「……そうか」

 

 俺の言葉を聞いた黒雪姫はふむ、と顎に手をあて考えた後に、真剣な表情で

 

 「だが一応言っておこう。心意技を使って良いのは相手が使ってきてからだ。心意と言うものは強力な反面、使用した人物に多大な影響を与えるんだ」

 

 それの最たる例が君も戦った《クロム・ディザスター》だな。と言われると確かに、と納得する。

 思い返してみれば奴からは圧倒的な負の感情を感じ取れた。

 

 「ようは心意の悪い部分に呑み込まれることがあるから、使用には注意しなければならないってことか」

 

 「そう言うことになる。良いか桐ヶ谷君、我々はバーストリンカー……そのアバターを身に纏い、各々の能力を最大限に発揮して戦う存在なんだ。それを忘れないでくれ」

 

 「……そうだな、気をつけるよ」

 

 俺の言葉に満足したのか黒雪姫はよし、と頷き、お土産を買うと言い残してその場から立ち去った。

 

 

 「そう言えば俺もお土産買わないとな」

 

 

 直葉は何でも良いって言ってたし…沖縄っぼいお土産で良いだろうか。

 サーターアンダギーとか、シーサーの置物とか。

 

 

 

 

 ……余談であるがお土産屋に置かれていた木刀に強く惹かれたのだが、我が家には道場も竹刀もあるんだし買うのはやめておこうと泣く泣く断念したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして四月二十二日、放課後。

 修学旅行から帰ってきた俺達を含めたネガ・ネビュラスの会議と言う名の事後処理が始まった。

 

 ハルユキはあれからダスク・テイカーのリアルである能美に接触したようだが、案の定ポイントを全損した彼はブレイン・バーストの記憶を持っていなかったことを顔を蒼白にさせながら発言した。

 

 「リー…桐ヶ谷さんのお兄さんのこともあったからわかっていたことだけど、やっぱりこうして目にすると何て言うか…怖くなっちゃって……」

 

 「有田君……」

 

 「加速世界がこの七年半ものあいだ秘匿され続けてきた理由、か。私もこの目で確認するまで信じようとしていなかった。……いや、そうすることで罪から逃げようとしていたのかもな」

 

 ハルユキの言葉を聞いた黒雪姫は自嘲の笑みを浮かべながら自分の手を見つめる。

 彼女自身がその手で斬った元赤の王のことを思い返しているのだろう。

 人の記憶に干渉し、それを消去するゲーム。

 それは否応なしにニューロリンカーとSTLの関係性を俺に思い起こさせる。

 

 「……これは、ゲームであっても遊びではない」

 

 思わず口をついだ俺に、全員の視線が集まる。

 

 「……ある男がそう言ったんだ。もしかしたらこのブレイン・バーストもそうなのかもしれない。黒雪姫やタクムなら分かるかもしれないけれど、君達は長い時間加速世界で戦っている。つまり現実世界だけじゃなく、加速世界でも生きていたとも捉えられるんじゃないかな」

 

 「……だから遊びではない、と言う訳ですね。製作者の意図は分かりませんが現に僕達は加速世界で生きて、悩んで、こうして現実でも生きている。まるでーー」

 

 「まるで仮想と現実が一体になったような、ということだな。……確かに、今となっては現実も仮想も、私にとってどちらが本当の《現実》なのかわからないときがあるよ」

 

 まあ、今はここが現実だと、胸を張って言えるがねと、ハルユキに視線を向ける黒雪姫。

 とここで当のハルユキと目があったのだが、何やら困惑した表情を見せている。

 

 「あの……キリト…さん、で宜しいんですよね?」

 

 「そうだぞシルバー・クロウ、どうしたんだ急に」

 

 こちらを確認するように言葉を選ぶハルユキに思わず首を傾げてしまうが、ハルユキは直葉と俺を交互に視線を移してますます困惑した表情を見せた。

 

 

 「キリトさんは桐ヶ谷さんのお兄さんで…でも、桐ヶ谷さんのお兄さんは前に全損したミッドナイト・フェンサーで……い、一体どういうことなんですか?」

 

 「うっ」

 

 「「はぁ……」」

 

 「………」

 

 「…確かに!!え!?どう言うことですかお兄さん!!」

 

 上から俺、溜め息をつく黒雪姫と直葉、無言で眼鏡をクイッとするタクム、ハルユキの言葉を聞いてガタッと立ち上がるチユリの順で声が上がる。

 

 隠していても埒があかないため、俺が平行世界の住人であることなど、他者から聞いたら俺でもそいつの正気を疑う程の説明を始めた。

 現にライム・ベルことチユリは変な人を見る目で俺を見ているし、直葉にあなたのお兄さん大丈夫?と問いかけている。

 とはいえ本当のことなため、直葉も曖昧な表情でしか返せないのだが。

 

 「平行世界とか、そんなこと言われても実感ないですよぉ…SF映画じゃないんですから…」

 

 「い、一部の科学者の間では平行世界は信じられてるらしいぞ」

 

 机に突っ伏してしまったハルユキに、比嘉や茅場の顔を思い浮かべながらあまり根拠にならない言葉をかける。

 俺個人としてはシルバー・クロウが目の前にいる時点で平行世界説は信じられるのだが……

 

 「とにかく、色々突っ込みたいことはあるだろうが、キリトは我々の仲間であると言うことだけでも理解しておいてくれないか?」

 

 「確かに……いやでも…」

 

 一先ず黒雪姫がその場を纏めようと声をかける。

 ハルユキは何かが引っ掛かると言うような表情で首を傾げ続けていたが、一旦考えるのは止めたのか、わかりました、と頷いた。

 

 普通に考えて怪しさしかないもんな…

 しかも見方によってはブレイン・バーストから退場した筈の人間が蘇ったようなものだ。

 

 と、ここで部活動をしているタクムと直葉、チユリは部活に向かうためにこの場を離れた。

 ハルユキはこれから黒雪姫と共に何処かへでかける用事があるらしく、俺は一人で帰ることになった。

 

 

 

 放課後の学校は部活動に勤しむ生徒達の声が響いている。

 中学時代は丸々あの城の中で過ごしていたため、この空気は中々新鮮である。

 この世界にきてまだ一年も経っていないが、中々に濃い日々を過ごしている気がするのは気のせいではないだろう。

 オーグマーに苦手意識を持っていた俺が今やその上位互換であるニューロリンカーを扱うようになるなんてな。

 

 「……ん?」

 

 校門を眺めると、小学生くらいの女の子がうちの担任と向かい合っていた。

 なにやら話をしているらしく、先生の話を聞いた少女は頭を下げるのを繰り返している。

 一体何なんだろうか。

 

 

 「桐ヶ谷、今帰りか?」

 

 「ええまあ…ええと、先生この子は?」

 

 流石担任、クラス替えから2ヶ月程しか経っていないが自分のクラスの生徒は覚えているようだ。

 話しかけられてしまった手前無視して帰ることはできないので、疑問に思っていたことを聞く。

 

 「この子か?この子はな…」

 

 軽く話を聞くと、彼女は松ノ木学園初等部の子らしい。

 松ノ木学園は今年の夏に校舎を新築するようで、その際に学園で飼育していた動物が処分されることから、彼女は動物の引き取り手を探しにあちこちの施設や学校に声をかけているとか。

 

 「それでまあ、うちの学校にもあるだろう?使われてない飼育小屋。あれを使わせてもらう許可とその話し合いも兼ねて今回学校に来てもらっていたと言うわけなんだ。それでまあ、俺は恐れ多くもこの子の見送りに抜擢されたというワケ」

 

 茶化すように胸をはる先生になるほど、と頷いていると視界の中央に【AD HOC CONNECTION REQUEST】と、ニューロリンカーによる無線相互接続の要求の表示が出てきた。

 この場にいるのは俺、先生、女の子の三人なため、キョロキョロと辺りを見渡したあと、女の子の方に目を向ける。

 小学校の中学年くらいだろうか、佇まいや背丈から何処となくユイを思い出してしまう。

 少女は俺と目が合うと、無線接続許可を求める動作をしてくる。

 やはり彼女からの申請のようなので、断る理由もなく許可を出すと、ニューロリンカーによって映し出されている景色にチャット画面が広がった。

 

 【Ul>初めまして、先程紹介されました。松ノ木学園初等部4年生の四埜宮謡と申します】

 

 それと同時にパパッと現れる文字列に一瞬目をパチクリとさせるが、これでもネットサーフィンを趣味としている身である。

 返事をしようとキーボードに手をかけるが、それより早くウィンドウに文字列が流れた。

 

 【UI>あ、そちらからは肉声で話していただいて大丈夫なのです】

 

 「は、はや……」

 

 「凄いだろう、先生も最初は驚いた」

 

 俺から見ても凄まじく速いキーボード操作に思わず呟くと、先生が何故か自慢気に笑った後、真剣な表情になった。

 

 「実は、彼女は運動性の失語症でな。肉声での会話ができない。だから《BIC》を利用して今俺達とチャットをしているんだ」

 

 わかるか桐ヶ谷?と問いかける先生。

 この問いは言葉以外にも、目の前の少女にとってデリケートな問題であり、決して面白半分で扱ってはいけないと言う教育者としての言葉も含まれている。

 俺は先生の言葉に頷き、目の前の少女に視線を向けた。

 ここで同情の視線を向けるのは間違いだ。

 チャットというメッセージのやりとりをここまで速くできるようになった背景には、血の滲む努力があった筈だ。

 だから彼女に言われた通り、自己紹介をするために俺は口を開いた。

 

 

 「じゃあ改めて…俺は桐ヶ谷和人、三年生だ。よろしくな、謡ちゃん」

 

 

 この日俺はーーーそう、かつて明日奈とした会話の中で、次世代フルダイブ技術の正常進化系だと俺が話した《ブレイン・インプラント・チップ》の利用者と出会ったのだった。




もはや勢いとそんな感じでとあっさり終わるキリトの身の上話
いいのかそれで

いくらサッちゃんが飼育小屋を工面したからといって、普通に学校の先生方に挨拶はしにいくのではと考えたことによる最後の方です

ホウの引っ越しとか諸々の準備とか合わせたらこれくらいの時期からやりとり始めてても良いんじゃないかなって
修学旅行もしたり飼育小屋の工面したり大変ですねサッちん副会長

それではまた次回


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第三十六話:思わぬ再会

テイカー編終わってからの出来事

今回は視点変更多いです

予約投稿とやらを試してみました

それではどうぞ


 「と、言うわけで彼女ーー《スカイ・レイカー》が我がレギオンに復帰してくれた」

 

 「よろしくお願いしますね、皆さん」

 

 四埜宮謡との邂逅をして暫くたったある日、《ネガ・ネビュラス》の定期会合の場で、黒雪姫は隣に座っている空色のアバターを紹介してきた。

 近いうちにリアルでも顔をあわせる予定が入っているようで、この日は空けておくようにと今お達しが入った。

 柔和な物腰からかライム・ベルとリーファはすぐ打ち解けたようで、初対面のぎこちない感じを残しながらもスカイ・レイカーと会話を続けているようだ。

 

 「まずいぞタク、これは由々しき事態だ」

 

 「だ、ダメだよハル…僕もそう思ってたけどさ…」

 

 そこから少し離れた場所でシルバー・クロウとシアン・パイルはこそこそと話しているのが聞こえてくる。

 話の内容を聞く限り、拮抗していたネガ・ネビュラス内の男女比の均衡が遂に破られたというモノである。

 

 「キリトさんは怪しいし、オレ達だけでも人権が無くならないように立ち回らないと」

 

 「おい待て、今のは聞き捨てならないぞ」

 

 次に聞こえた言葉に思わず反論するが、クロウは俺の体を一通り見渡すと、同じように見ていたパイルと顔をあわせて「いやぁー…」と首をかしげ。

 

 「その姿で言われても説得力無いと思いますよ」

 

 「そんなわけないだろう、ほら触ってみろって。ないから、ぺったんだから」

 

 パイルの言葉にコクコクと頷くクロウ。

 確かに今の俺の姿は《黒の銃剣士》となっているが、れっきとした男である。

 女性扱いされるのは心外であるので、クロウの手をとってきちんと確認させる。

 お、案外ひんやりしてるんだな。

 

 「うわわわわっ!?な、ななな何してやがりまっしんぐ!!!?」

 

 「なに慌ててるんだよクロウ、ただの確認作業だろう?」

 

 ワタワタとクロウが慌てだしたので、これはなんとも面白い。

 唇を笑みの形に変えながら、逃げるクロウを離さないように腕に力を込めていると、ピタッとクロウが動きを止めた。

 それと同時にある方向から漂ってくる背筋を凍らせるような冷気。

 

 

 「そろそろ話を進めたいのだがよろしいだろうか?」

 

 「「ふぁ、ふぁい」」

 

 その発生源は黒雪姫からであった。

 極冷気クロユキスマイルと密かに命名されている笑顔を浮かべている彼女の言葉にコクコクと二人して頷いたのを確認した黒雪姫は、話を戻すぞと口を開く。

 

 「そう言うわけでネガビュのメンバーは七人、領土防衛戦の組合せなどにもバリエーションができたことだろう。そう言うわけで」

 

 一度口を切った彼女は全員を見渡し、ウム、と頷いたあとに。

 

 「親睦会を兼ねた戦闘訓練を開始しようと思う!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「親睦会を兼ねた戦闘訓練…ですか」

 

 「いいね!私楽しみ!!」

 

 《バトルロワイヤルモード》に移行した戦闘空間の中で呟いたシルバー・クロウの隣で、ライム・ベルはわくわくしているようすで右手の鐘を振り回している。

 全員揃ったのを確認したブラック・ロータスは、キリトとスカイ・レイカーを自分の近くに呼び寄せる。

 

 「さてクロウ、やや変則的だが三体四のチームマッチといこう。クロウ、パイル、リーファ、ベルの四人で我々と勝負だ」

 

 「えぇっ!?むむむ……」

 

 いつもの癖で無理ですよと思わず口にしようとしたハルユキであったが、いやまてよと考える。

 先輩達が修学旅行に行っている間、何も自分達は遊んでいた訳じゃない。

 領土を防衛するために、話し合い、コンビネーションの練習をし、実力を磨いてきたのだ。

 そうだ、決して遊んでいた訳ではないことを示さないとならない。

 それに、現在開発している技を実際にやってみることで改善点などが見えてくる筈だ。

 

 「頑張ろうハル、これは僕達にも得るモノが多い機会だ。高レベルのバーストリンカーと戦えるなんて、少なくとも今の僕らでは早々ないからね」

 

 「私、先輩を鐘で思いっきり叩いたらどうなるか少し考えてたのよね」

 

 「私達の力、レギオンマスターに見せよう!」

 

 「そ、そうだよなタク、チユ、直葉さん」

 

 自分に声を掛けてくる仲間に頷いたハルユキは、戦闘体勢をとって目の前の三人を睨み付けた。

 その答えに満足したように頷いたブラック・ロータスは、ジャキッと剣を構え。

 

 「ではいくぞ!!今の君達の力、私に見せてくれ!!」

 

 「ーーー行きますっ!!!!」

 

 深く息を吸い込んだハルユキは、掛け声と共に大きくダッシュ。

 狙うは勿論目の前のブラック・ロータスーーと見せかけて。

 

 「キリトさん!!一戦お願いします!!!」

 

 「ーーっ!ああ、こい!シルバー・クロウ!!」

 

 同じく漆黒の服に身を包み、今や《王じゃない方の黒い奴》と巷で噂になっているキリトに戦いを挑んだ。

 よもや自分以外の相手に向かっていくとは思っていなかったのだろう、黒雪姫から戸惑いの気配が感じられるが、これもハルユキ達の作戦のうちである。

 たとえ一瞬であっても硬直は、バーストリンカーにとって大きな隙となる。

 

 「リーファ!!」

 

 「パイル!!」

 

 ガシュンッとシアン・パイルのバンカーが放たれる音と共に、緑色の閃光がブラック・ロータスに襲いかかる。

 《パイル・ロケット》と命名された二人のコンビネーション技は、シアン・パイルのバンカーの射出による勢いを利用して加速したリーファが突っ込んでいくという、とてもシンプルな技である。

 しかしシンプル故にその効果はあらゆる場面で発揮され、防衛戦中であっても擬似的な《遠距離武器》としてハルユキ達の強力な手札となっていた。

 

 「セェイッ!!」

 

 ガギィッ!!と大きな音を響かせたリーファの一撃は、咄嗟に剣で防いだロータスの体を大きく後退させた。

 不意をつかれたとはいえ反応したロータスはやはり凄いと感嘆しながら、ハルユキは目の前の相手に集中する。

 

 「でぇぇぇええい!!」

 

 助走で勢いをつけたシルバー・クロウの右ストレートは、キリトのアーマーを掠め、ギリギリの所で避けられる。

 カウンターで紫の光剣が振り下ろされるが、ここでハルユキは自身の背中に意識を集中させ、翼を展開させて振動させる。

 その結果シルバー・クロウの体はほんの僅かだが動き、命中する筈だった攻撃はその装甲を浅く焼くだけに終わる。

 そうして再び溜まった必殺技ゲージを消費して体を動かし、変則的なラッシュに持ち込んでいく。

 

 これがハルユキが練習しているシルバー・クロウの新しい戦術、《エアリアル・コンボ》だ。

 絶え間ない攻撃で少しずつ相手のHPを削っていく三次元ラッシュは、シルバー・クロウの能力を全開に使った戦術である。

 と、ここでややおされ気味であったキリトにも動きが現れた。

 光剣を赤色に輝かせながら必殺技の構えを取ったのだ。

 キリトからすれば大技の隙をついたように見えるのだろうが、ハルユキから見れば破れかぶれの愚行にしか見えない。

 必殺技にはタメがいるし、何よりこの翼を震わせればまたコンボに繋げることができるのだから。

 そう考え再びコンボに繋げようとしたハルユキであったのだが、その思考とは裏腹にシルバー・クロウの身体は重力に捉えられたように動かない。

 

 「やべっ」

 

 「《シャープ・ネイル》……っ!!」

 

 斬り上げ、薙ぎ払い、斬り下ろしの三連撃技がシルバー・クロウを襲い、その体を大きく吹き飛ばした。

 

 「惜しかったなクロウ!必殺技ゲージ無くなってたぞ!!」

 

 「っ、はいっ!!」

 

 ズザァと地面を滑りながら体勢を立て直すハルユキにかかるキリトの声。

 エアリアル・コンボに必要不可欠な飛行能力には、必殺技ゲージを消費する必要があるのだが、配分を間違えてしまったようだ。

 

 しかしあのラッシュの中で状況を把握できているのは流石だと舌を巻く。

 同時に黒雪姫のチームに彼が入っているのにも納得だ。

 ……そこにいるのが何故自分ではないのかと嫉妬の感情を持ってしまうのは否定できない。

 

 

 だったら消せば良いじゃあないか

 

 

 消す?何を言っているんだ、尊敬こそすれど彼をそんな目に合わせたいと思ったことなんてない。

 

 

 一瞬浮かんだ考えを頭を振ることでかき消しながら、ハルユキは次はどう動こうか考える。

 ーーー最近、正確には《ダスク・テイカー》との戦いの後から些細なことで怒りっぽくなっている気がする。

 

 

 「うきゃああああ!ハル!!ハルゥゥ!!止めてぇ!!!」

 

 「え?うわぁっ!?」

 

 

 そんな考えは突然目の前が黄緑色一色になったことで終わってしまった。

 ドシン!と衝撃を受けながら倒れこんだハルユキは、起き上がろうと必死にもがく。

 

 「や、ちょっ!!ハル!!」

 

 上から非難するような声が聞こえるが、今は戦闘中だ。

 そんな余裕はないのである。

 一刻も早く立ち上がってーーーー

 

 「いい加減にしろぉー!!!」

 

 

 ゴチン!!!

 

 

 「へぶぅ!!」

 

 

 頭に大きな衝撃!!

 ぐわんぐわんと揺れる視界、星が飛び交う。

 な、何が起きたんだと視線を上げたハルユキの近くには自分の体を抱くようにしてこちらを睨み付けるライム・ベルの姿。

 

 「ご、ごめ」

 

 んと言葉を言う前に再び頭に打撃を受けたハルユキの意識は遠くへ飛んでいってしまった。

 俗に言うKO、戦闘不可能である。

 

 わざとじゃないのに!!

 というハルユキの嘆きは聞こえることがなく、闇に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うへぇ……まだ頭がぐわんぐわんする」

 

 戦闘を終えて現実世界に戻ってきた俺達は、いつものラウンジに座っていた。

 ハルユキが頭をおさえて唸っているのを見て苦笑いしかでない。

 そんな目に合わせた張本人であるチユリは怒ってますと腕を組みつつも、どこか心配そうな表情を浮かべているのがわかる。

 

 「素直に言おう。驚いたよ、皆こうも実力を伸ばしていたなんて」

 

 スカイ・レイカーにメールを送り終えたのであろう、黒雪姫はタクム達を見てそう感嘆の声をあげる。

 

 「ハルユキ君は途中で気絶していたから結局戦えず仕舞いであったが、タクム君と直葉君の連携は見事なモノだったぞ。この剣が折られるとは思ってなかった」

 

 や、確かに側面がウィークポイントではあるんだがな。と折られた左腕(勿論現実では折れていない)をヒラヒラさせながら話す彼女の言葉に、それなりの時間であるが共に戦っている俺も頷く。

 妖精のように軽やかに舞うリーファと、重戦車のようで機敏なシアン・パイルの動きに流石のブラック・ロータスも苦戦を強いられたようで、一瞬の隙を付いて放たれた《ライトニング・シアン・スパイク》によって左腕の剣を破壊されたらしい。

 

 「2対1でそれしかできなかったのは悔しいですけどね」

 

 「当たり前だ。私は黒の王でレギオンマスターだぞ?それくらい出来なければ務まらん。もっと励みたまえ」

 

 苦笑いで話す直葉に、えっへんと胸を張りながら答える黒雪姫。

 大人っぽいように見えてこういう部分は年相応なんだから面白いよな。

 

 「そういえばチユは何であの時飛んできたんだ?」

 

 ようやく頭の痛みから解放されたハルユキが問いかけると、チユリはそうなの!!と声を大きくする。

 

 「レイカーの姉さんほんと凄いの!車イスに乗ってたから動きもあまり早くないと思ったらもう凄くて!!」

 

 こう、ギュルルゥ!!って!!と車イスを動かす動作と擬音を交えながら説明するチユリに一同苦笑いである。

 

 「レイカーからチユリ君の評価も届いているぞ。『始めたばかりで動きがぎこちない部分もありますが、筋は良い。鍛えがいがあります(ハート)』だそうだ」

 

 「ほんとですか?いやった!」

 

 ご丁寧にかっこ書きの部分まで読んだ黒雪姫の顔は、どこかひきつっているようにも見える。

 しかし褒められたことに喜ぶチユリはそれに気づくことはなさそうであった。

 

 「こほん、それでは今回の会合はお仕舞いだ。各自先程伝えた日付は空けておくように」

 

 黒雪姫の言葉を口火に、部活があるものは部活へ向かい、逆に無いものは大人しく下校する流れに入る。

 

 「あ、あの…キリ…和人さん」

 

 直葉と挨拶を交わし、何となくどこかブラつこうかと考えていると、ハルユキから声がかかった。

 

 「キリトでもどっちでも呼びやすい方で…あ、こっちじゃ不味いか。どうした?」

 

 黒雪姫は生徒会の仕事があるとかで既に生徒会室に向かっているため、ここには俺とハルユキの二人だけだ。

 ハルユキはやや躊躇ったあと、意を決したように。

 

 

 「あの!!付き合ってください!!」

 

 

 と、とても大きな声で爆弾を落としてきたのだった。

 突然すぎて驚いた俺がなんとか絞り出した返答はーー

 

 

 

 

 「ず、随分大胆な告白で……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 これほどまでに自分のコミュニケーション能力の低さを恨んだことはない。

 隣を歩く男子を見ながらハルユキはこっそりとため息をつく。

 

 『あの!!(今日の戦いとかのことで話したいことがあるので)付き合ってください!!』

 

 『ず、随分大胆な告白で……』

 

 言ったことに気づいてから後の祭りである。

 どうにか誤解を解くことはできたのだが、暫く爆笑されたとだけ言っておこう。

 

 折角だし渋谷でも行くか、奢るぞの言葉にコクコクと頷いたハルユキは、キリトと共に渋谷の街のとあるファストフード店に入っていた。

 窓際の席に案内され、迷いなくメニュー表を眺めるキリト。

 

 「渋谷とか、よく来るんですか?」

 

 「ん?ああ、たまに散策するくらいだよ。それよりメニューどうする?因みに俺のおすすめはこの『ホットチリバーガー』だけど」

 

 そう言いながら見せられたメニューには、チリソースをふんだんに使った如何にも辛そうなハンバーガーの写真が載っている。

 別段苦手って訳じゃないし、折角おすすめしてくれているんだから同じのにしよう。

 

 「じゃあ僕もこれで」

 

 「わかった、それじゃあ買ってくるよ」

 

 キリトが列に並びに行っている間暇なので、ハルユキはぼんやりと窓ガラスから見える渋谷の街並みを眺める。

 そういえば今のこの状況って、タクム以外の男友達(正確には先輩なのだが)とご飯を食べているということではないだろうか?

 虐められていたあの時からしたら信じられない変化である。

 そう思考の海に沈みかけていたハルユキを引き戻したのは、コンコン、と窓ガラスを叩く音。

 なんだろうかとハルユキが視線を向けると、そこにはーーー

 

 

 「し、ししょー!?」

 

 

 ダスク・テイカーに翼を奪われたハルユキに心意技を教え、《ゲイル・スラスター》を貸し与えてくれていただけでなく、つい最近ネガ・ネビュラスに復帰したスカイ・レイカーこと倉崎楓子その人が笑みを浮かべながら立っていたのである。

 

 

 ハルユキが驚きで固まっている間に店の中に入ってきた楓子は、あっという間に彼の目の前の席に座った。

 いまだに口をパクパクさせているハルユキにクスリと笑う楓子。

 

 「こんにちは鴉さん、お一人ですか?」

 

 「え、いや、その、ともだ、せんぱい?と一緒に来てて、あの、てか師匠こそ何でここに?」

 

 柔らかな笑顔を浮かべられながら話しかけられたハルユキはしどろもどろになりながらもなんとか言葉を紡ぐ。

 

 「学校の帰り道ですよ。たまたま見たファストフード店に鴉さんがいたので、こうして来ちゃいました」

 

 「へ、へぇー……」

 

 乾いた笑いしか出てこない。

 え、どうしようこの状況。

 レジの方を見ると会計をすませたキリトがハンバーガーを持ちながらこちらに歩いてくる。

 

 こ、これは予期せぬリアル割れなのではないのだろうか?

 いやでも同じレギオンだから平気なのだろうか?

 

 「お待たせハルユキ…ん?そこの人は…」

 

 「お、お帰りなさい和人さん。ええと、この人はその」

 

 考えが纏まらないままキリトが帰ってきてしまったので、楓子とキリトに視線を向けながらハルユキは必死に頭を回転させる。

 しかし楓子に視線を向けたところで彼女の様子がおかしいことに気づいた。

 いつも落ち着いていて、ザ・お嬢さんみたいな雰囲気を醸し出している彼女が、とても驚いた表情を浮かべているのである。

 

 

 

 「……剣士さん?」

 

 

 「はぇ?」

 

 

 楓子の口から出た言葉に変な声をあげるハルユキ。

 《剣士さん》と呼ばれたキリトは楓子を見て少し考え込むとあっ!!と声をあげて。

 

 

 「し、新宿であった、あのときの!!」

 

 

 とこれまたおかしなことを言い始めた。

 状況が目まぐるしく変わってしまい、ハルユキの頭はパンク寸前である。

 昼ドラの修羅場シーンみたいだとどこか冷静な自分の声を聞きながら、ぎこちない動きでテーブルに置かれたハンバーガーを手に取り、口に運んだ。

 

 

 

 「!!!!!!!!!」

 

 

 

 途端に襲いかかる圧倒的辛さ。

 辛さ。

 辛さの暴力である。

 

 頭がパンク、口のなかもパンク。

 

 この状況をどうするかなんて思い浮かばない。

 

 

 

 やがてハルユキは考えることをやめた。

 

 

 

 




日付的にはハルユキと黒雪姫が楓子と会ってからそこまで時間たってない件について

ようやく会えたね師匠

それではまた次回


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第三十七話:その思いは黄昏に消えて

作品内の時系列を考えてこれとその前の話はテイカー編の後ろにくっ付けることにしました

それではどうぞ


 場所は変わらず渋谷のファストフード店。

 ハルユキは目の前に座る楓子と、隣に座る和人を交互に視線を移し、疑問に思っていたことを口に出す。

 

 「つ、つまり師匠と和人さんは、前に会ったことがあると…そういうことですか?」

 

 「会ったというかなんというか……」

 

 「前に強盗に襲われたことがありまして、そこで剣士さんに助けて貰ったんです」

 

 「強盗!?」

 

 思わず驚きの声をあげてしまったハルユキは、ハッと周りを見渡すと慌てて咳払い。

 ややトーンを落として再び問いかける。

 

 「ご、強盗って…師匠大丈夫だったんですか?」

 

 「それがかなり…剣士さんが来てくれなかったらと思うと今ここに私はいないかもしれませんね」

 

 楓子はアイスティー(あの後ハルユキが買ってきた)を一口飲んだ後、眉尻を下げながらそう溢す。

 詳しく聞くと、犯人はナイフを持っていたとか。

 

 「か、買いかぶり過ぎだよ。俺は思わず体が動いただけで、俺が動かなきゃ周りの大人の人が止めてたって」

 

 和人は困ったように頭を掻き、先程ハルユキが悶絶した激辛バーガーを涼しそうな顔で食べていた。

 あのバーガーを食べられるのもそうだが、まさか銀行強盗に立ち向かうとは恐れ入った。

 自分には絶対できないだろうなとその時の和人の行動をハルユキは素直に称賛していた。

 

 「それに《剣士さん》なんてそんな言われるほどの者じゃないですよ俺は。ただの中学生で…」

 

 「それでも、私にとっては剣士さんは剣士さんなんですよ」

 

 まあ確かに。

 楓子から見れば和人は命の恩人的な立ち位置な訳で、彼のことをそう呼ぶのはそこまで変ではないだろう。

 言われている和人からすれば気が気でないであろうが。

 

 「そう言えば自己紹介をちゃんとしてませんでしたね。私は倉崎楓子。あの時はありがとうございました。こうしてまた会えてお礼が言えてよかったです」

 

 そう言いながら微笑む楓子。

 ハルユキも思わずみとれてしまうが、頭の中に浮かんだ黒雪姫が妄想の中であるのにやけにリアルな笑顔を浮かべていたので慌てて背筋をピシッとする。

 

 「あー…お、俺は桐ヶ谷和人…です。こちらこそまた会えてよかった?です」

 

 対して隣の和人はとても挙動不審である。

 先程も謙遜していたように、褒められる、感謝されるのには馴れていないのだろう。

 なんとも言えない空気が辺りを包むが、ここでハルユキの脳裏に電流が走る。

 決して変なことではない。

 浮かんだのはとても単純な考え。

 

 

ーーーもうリアル割れしたようなもんだし、和人がキリトで、師匠がスカイ・レイカーだって言っても良いんじゃね?

 

 

 どうせ今度会うのである。

 知るのが先になったってあまり変わらないだろう。

 

 

 「和人さん、師匠、実は話したいことがありまして」

 

 思い立ったら吉日である。

 ハルユキが声をかけると、二人の視線がこちらに向く。

 周りに誰もいないことを確認したハルユキは、それでも念のために声のトーンを落としつつ。

 

 「師匠、和人さんもバーストリンカーなんですよ」

 

 「えっ」

 

 「お、おま!ハルユキ!!いきなり何言って…!」

 

 予想したように楓子は驚きの声、和人からは此方を非難する声が聞こえる。

 お互いの視点から見れば、まさか前に出会った人物がブレイン・バーストをやっているなんて思わないだろう。

 慌てている和人をまあまあと宥めながら。

 

 「それで和人さん、師匠もバーストリンカーなんです」

 

 そう言うと和人の動きはピタリと止まり、ギギギ…とロボットのような動きで楓子を見て、再びハルユキに視線を戻す。

 

 「マジで?」

 

 「マジです。しかも師匠はさっき一緒にバトったスカイ・レイカーです」

 

 再び視線を動かす和人。

 再び戻して。

 

 「マジで!?」

 

 「マジです」

 

 リアルで知り合ったのが最近とはいえ、飄々とした態度の彼がこうも驚いているのを見るのは初めてである。

 一方の楓子もかなり驚いているので、ハルユキとしては悪戯に成功した感じで中々面白い。

 

 「鴉さん?」

 

 「はい師匠。なんです………」

 

 そう思っていたところで楓子から声がかかる。

 言ってやったと謎の満足感に浮かれていたハルユキの心は、和人から視線を移した瞬間一気に凍りついた。

 とても笑顔である。

 とても笑顔であるのだが、どこかそう、極冷気クロユキスマイルと同じものを感じる。

 

 「鴉さん?」

 

 「は、ははは、はいぃ……」

 

 「…少し教育が必要みたいですね」

 

 有無を言わせない威圧感で直結ケーブルをハルユキのニューロリンカーに突き刺した楓子は一言。

 

 「バースト・リンク」

 

 

 バシィィィッと加速特有の音が聞こえたと思いきや眼前に現れる【HERE COMES A NEW CHALLENGER!!】の文字。

 あっという間に《シルバー・クロウ》に身を包んだハルユキが視線を向けた先には戦いを挑んできたバーストリンカーの名前、《スカイ・レイカー》の名前が無情にも浮かんでいた。

 

 

 

 「あっ、これダメなパターンだ」

 

 

 

 

 

 

 

 「ぐふっ」

 

 

 突如ハルユキと直結した楓子が加速コマンドを呟いた瞬間、ハルユキは呻き声をあげてテーブルに突っ伏してしまった。

 俺がその光景にギョッとしている間にてきぱきとケーブルを回収した彼女はさて、と呟くと今度は此方にケーブルを差し出してくる。

 

 「ひぇっ」

 

 思わず悲鳴に近い声が出てしまうが、このまま状況が変わるはずもなく、内心震えながら自分のニューロリンカーにケーブル端子を突き刺した。

 ああ、俺も隣で突っ伏してるハルユキみたいになってしまうのだろうか……

 

 『全く鴉さんには困ったものです。幾らなんでも軽率すぎます』

 

 『は?』

 

 しかし聞こえてきたのは思考会話による音声であり、バースト・リンクのバの字も入っていなかった。

 そこで遅れながら思考が追い付いた。

 彼女が怒って(?)いたのはファストフード店という多くの人が集まるお店の中で(注意していたとはいえ)ブレイン・バーストの話をしたことだ。

 今回はたまたま聞かれずにすんだが、何があるかわからないんだぞとハルユキに教えたのだろう。

 

 『それでええと…剣士さんがバーストリンカーなのは本当ですか?』

 

 『本当です。アバターネームは《キリト》って言います』

 

 と、ここでやや戸惑いがちに聞かれる質問に頷きながら返したのだが、名前を言ってから俺はある重大なミスを犯したことに気づいてしまった。

 今のキリトの姿が《黒の銃剣士》であるということを。

 

 

 『キリト…?』

 

 一瞬記憶の中を探るような声。

 やや時間が経った後、彼女はぽんと手を合わせて。

 

 『剣士さんは、剣士ちゃんだったんですね』

 

 『誤解です』

 

 

 予想していた言葉に俺は迷わず返答。

 黒雪姫が危惧していたリアル割れした際のリスクが俺を襲ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 「それじゃあ剣士さ…ちゃんも、鴉さんも今日はありがとうございました」

 

 「だから誤解です!!」

 

 「うふふ」

 

 それから時間が経ち、グロッキーだったハルユキもようやく復活したためお互い解散の流れになったのだが。

 アバターと俺のギャップにツボったのだろう。ニコニコと俺を弄る楓子に投げ掛ける言葉は無情にも届かない。

 

 「まあまあ和人さん、師匠もそれくらいに…」

 

 「わかってますよ鴉さん。続きはまた会った時にします」

 

 「勘弁してください……」

 

 ハルユキの言葉にそう返した楓子にげんなりとしながら肩を落とす。

 このやりきれない思いは誰にぶつかることもなく、夕日によって彩られた黄昏の中に消えていった。

 

 

 

 

 帰りの電車のなか、倉崎楓子という少女を思い返す。

 

 お嬢様的な雰囲気は明日奈を思い出すが、明るいイメージが強い明日奈と違い、穏やかな…感じ的にはそう、スリーピングナイツのシウネー辺りだろう。

 

 先日出会った四埜宮謡もどことなくユイに近い雰囲気を持っていたし、無意識に重ね合わせてしまうのを止められるほど俺は大人ではない。

 

 「和人さん?着きましたよ?」

 

 「あ、ああ悪い」

 

 ハルユキに声をかけられて電車を降りる。

 思えば彼とこうしてともに戦えるなんて考えてもいなかった。

 《お化け》と呼ばれていた奴とこうしてご飯を食べているとか、字面だけ見れば明日奈が震え上がるだろう。

 

 「そういえば和人さんって、先輩と同じクラスでしたよね」

 

 「そうだな……ん?やっぱり気になるのか?」

 

 「そ、そそそそういう訳じゃ…な……い?」

 

 問いかけられた言葉に意地悪く返せば慌てて否定するハルユキ。

 いや、否定してはみたものの実際気になってたから話題に出した訳で固まってしまったパターンだな。

 

 「別段、我らの完璧な黒雪姫様って感じだよ。授業も真面目、成績も文句なし。ちゃんと友達もいるし、なにより副生徒会長だ」

 

 「で、ですよね…」

 

 やっぱり僕なんか…と呟きながら隣を歩くハルユキ。

 元々が自分を卑下する性格のようなので、自分が黒雪姫には釣り合わないと思っているのだろう。

 

 「考えてみろよ。君は学校の中で加速世界の時みたいに表情豊かなあいつを見たことあるか?」

 

 「……いえ、僕が先輩の日常を知らないって言うのもありますけど、あまり……」

 

 俺の質問に少し考え込んだ後、ふるふると首を振った彼に、なら簡単じゃないかと肩を叩く。

 

 「あの子が年相応の姿を見せるのは君といるときが多いよ。修学旅行で話してたときも、彼女の姿は我らがレギオンマスター黒雪姫さ」

 

 「…すみません励ましてもらっちゃって。…最近、よく思考がマイナスの方にいっちゃうんですよね」

 

 たはは、と困った笑顔を浮かべるハルユキは、その丸顔も相まって愛嬌がある。

 そう、穏やかな空気に包まれていたからだろう。

 

 

 「あの、そう言えば和人さんって逆に付き合ってる人みたいなのとかいないんですか?」

 

 「ん?ああいるよ。明日奈っていって俺の自慢のーーーーー」

 

 考えることはあっても深く思い出さないようにしていた記憶の蓋を開けてしまった。

 『キリトくん』と、頭の中に彼女の声が響く。

 

 「和人さん…?」

 

 急に黙った俺に困惑した声をあげるハルユキ。

 何か、何か返さないと。

 そう思いながらも頭は真っ白で。

 

 「…悪いハルユキ、忘れ物した」

 

 「え、ちょ、ちょっと和人さん!?」

 

 結局、彼を残して俺はその場から逃げ出すように走ることしかできなかった。

 

 「明日奈……っアスナ…っ」

 

 ああダメだ、一度思い出せばもう止まらない。

 逆によく半年も持ったと思う。

 そして改めて思い出す。

 

 桐ヶ谷和人という一人の人間はこうも弱いんだって。

 

 事故とはいえ、平行世界の移動なんて経験したことがなかった俺は正直この状況を楽しんでいた部分もある。

 加速世界での出来事は俺の孤独を上手く隠してくれていたのだ。

 だが気づいてしまった。

 いや、直葉に慰められてから考えないようにしていただけだ。

 例え周りに仲間がいたとしても、究極的に俺は一人なんだって。

 

 

 

 パパ、と鈴の音のような声が聞こえた。

 

 

 「ユイ…っ」

 

 

 家族の名前を呟きながら、俺は空を仰ぐ。

 俺の思いは、言葉は、ただ黄昏に溶け込むように消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重なった瞬間はとても情熱的で。

 

 とてもーーー儚い。

 

 

 

 

 




ミレニアムトワイライトやりたい

やりたいこと浮かんできたんでこぎつけたらいいなぁ…


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ヘルメス・コード編
第三十八話:小さな巫女のお願い



四日前から風邪で寝込んでました
皆さんも体調管理には気を付けてください

今回からヘルメス・コード編がはじまります




 「そういえば飼育小屋の件、どうなったんだ?」

 

 『UI>梅郷中学校側でも委員会を立ち上げてくれる準備をしているみたいなので、近いうちに移動できるみたいなのです』

 

 「テキストが配布されてたっけ…二年生だけみたいらしいけど」

 

 あれからーー《ダスク・テイカー》の事件から二ヶ月程たち、今は六月。

 もうすぐ夏である。

 そんな夏前の中俺は何をしているかと言うと、目の前の少女とお話中である。

 

 「気がつけば俺が案内役とは…あの先生、いくら顧問の部活が大事なときだからって」

 

 『UI>部活動の先生は大変って良く聞くのです』

 

 「まあ俺が暇人って言うのもあるけどなぁ……っと、とりあえずここが話にでた飼育小屋…なんだけど」

 

 『UI>…長く使われていないと聞いてはいたのですがここまでとは』

 

 少女ーー《四埜宮謡》の若干ひきつった顔を見たあと、俺も改めて目の前の飼育小屋を見る。

 

 我が梅郷中学校の飼育小屋は長らく使われていなかったという言葉通り、落ち葉やらがつもりにつもって最早その機能を停止していた。

 

 「ま、まあそこは選ばれた二年生が何とか……ええと…《ホウ》が来るまでには綺麗になってる筈だよ、うん」

 

 『UI>私もその日は行くつもりではありましたけど、これは気合いを入れないといけないのです』

 

 両手で拳をつくりながらむん、と気合いをいれる姿は可愛らしいものである。

 しかしまあ、それでも接しているうちに小学生にしては大人びすぎていないかと思ってしまう。

 最近の若い人達はこうも精神的に成熟しているのが早いのだろうか?

 

 先程話題に出た《ホウ》と言うのはこの飼育小屋に入ることになるアメリカオオコノハズクの名前である。

 前に写真を見せてもらったことがあるが、かなり立派な動物であった。

 

 『UI>でもこれで私達の学校で飼育されていた動物は皆処分されることなく生きることができるのです。ーー本当に良かった』

 

 「ホウが来たら見に行くよ。写真だけじゃわからないこともあるだろうしさ」

 

 俺の言葉に嬉しそうに頷く謡。

 とは言うものの、この現状を見てから何もせずに掃除が終わったみたいなので、見に来ましたというのも個人的に気まずいものがある。

 

 「後で黒雪に詳しい日程聞いておくか」

 

 「?」

 

 「うちの副生徒会長に掃除の日程を聞いておこうと思って。どうせ暇だし、ここまで来たら手伝うよ」

 

 俺の呟きが聞こえたのだろう。首を傾げる彼女にそう返すと、考えながらといった動きでキーボードを叩く。

 

 『UI>サッちんとお知り合いなのですか?』

 

 「え、ええと…サッちん?」

 

 サッちんと呼ばれて、そんな知り合いいたかなと少し考え、そう言えばスカイ・レイカーも《さっちゃん》と呼んでた人がいたっけと検討をつける。

 

 「もしかして…黒雪姫のこと?」

 

 『UI>なのです』

 

 「マジかよ」

 

 どうやら目の前の小学生はうちの副生徒会長とお知り合いらしい。

 あの年齢不相応な精神を持つ少女の知り合いで、これまた同じように年齢にそぐわない精神の持ち主。

 いくらお嬢様学校育ちとはいえ、ここまできちんとした受け答えができるだろうか。

 

 仮定ではあるがやけにしっくり来るのでなんとも言えない表情になる俺。

 ここはジャブで攻めていこうか。

 

 「知り合いというか同じクラスというか…と言うか知り合いなんて驚いた。小学校が同じだったとか?」

 

 黒雪姫は現在中学三年生。対して謡は小学四年生。

 つまり黒雪姫が小学六年生の時に彼女は一年生である。

 それなりの根拠のある返しができたのではないだろうか。

 お嬢様学校に通う黒雪姫…うーん…案外通ってるかもしれない。

 どことなく気品があるし。

 

 『UI>サッちんとは前にやっていたゲームを通じて知り合ったのです』

 

 「へ、へぇー…ゲームねぇ…。謡もゲームやるんだな」

 

 『UI>私だって普通にゲームくらいやりますよ』

 

 上手く動揺を隠せているだろうか。

 多分、いや四埜宮謡はバースト・リンカーだ。

 黒雪姫が他のゲームをしていたとしたら話は別だが、レベル9で黒の王とまで言われている彼女がブレイン・バースト以外のゲームで知り合いを作ったとはあまり考えられない。

 

 

 しかし、彼女は医療用のBICを使用しているため、ニューロリンカーを所持していないように見える。

 

 

 『UI>ニューロリンカーは普段はつけていないのです』

 

 「そ、そうなんだ」

 

 謡の言葉にそう返してから、文を二度見する。

 まるで俺の心を読んだような文章。

 ランドセルからニューロリンカーを取り出した少女は口を笑みの形に変える。

 

 『UI>ふ、ふ、ふ』

 

 「う、謡……まさか」

 

 『UI>そのまさか、なのです』

 

 やはり、俺の正体がバレている。

 いや、謡はもっと前から知っていたのだろう。

 でなければこんな反応はしない。

 

 ツーッと冷や汗が流れる。

 

 俺が彼女のことを探っていた筈なのに、気がつけば俺が窮地に陥っている。

 

 謡は笑みの形を崩さないようにしながら、俺に向かって指を閃かせる。

 それと同時に届く一通のメッセージ。

 どうやら動画ファイルが添付されているようで、俺は謡から目を離さないようにしながら動画を再生しはじめた。

 

 動画の中には憔悴した表情で椅子に座る黒雪姫の姿。

 

 『すまない、桐ヶ谷君…。レギオンのことを、よろしく頼む』

 

 動画の中の黒雪姫がそう言うやいなや、音もなく近づいた謡が彼女のニューロリンカーに直結。

 そして間もなくガクッと体から力が抜けた黒雪姫からコードを回収した謡は、録画しているだろうカメラに向かって微笑む。

 

 そこで動画が終わった。

 ーーー間違いない。

 

 彼女は第二のダスク・テイカー…!!

 

 『UI>動画を見たようですね』

 

 「……お前の目的はなんだ」

 

 取り乱したら終わりだ。

 静かに問い掛ける俺を見ながら、謡はランドセルから再び何かを取り出した。

 形からして大きな紙のようである。

 謡は笑みを絶やさずに、俺に文字が見えるように紙をバッと開いた。

 

 

 「ーーーーなっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ド ッ キ リ 大 成 功 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ドッ………キリ……?」

 

 『UI>なのです』

 

 「そう言うことだ桐ヶ谷君!!!!」

 

 

 

 「そ、その声はーー!!!」

 

 

 

 背後から聞こえる声に振り向くと、そこには先程動画に映っていた、全身真っ黒な制服に身を包んだ我らが副生徒会長。

 黒雪姫がどや顔で立っていた。

 

 

 「桐ヶ谷君。私の演技はどうだったかな?中々に迫真的だろう?」

 

 彼女は呆然とする俺の横を通りすぎると、ドッキリ大成功の紙を持っている謡の横に立ち、彼女の肩をポンと叩く。

 良く良く見れば謡の肩は震えており、笑いを堪えるのが必死だったのが良くわかる。

 

 『UI>サッちんの提案なのです。カズさんに私の正体をバラすのは簡単だけど、折角なら遊びを入れようって』

 

 「謡も乗り気だっただろう!?しれっと逃げようとするんじゃない!」

 

 二人の説明を聞くと、謡は旧ネガ・ネビュラスの一員であり、二人の間には親交があったようなのだ。

 しかし旧ネガ・ネビュラスの崩壊をきっかけに二人は連絡を取らなくなったとか。

 しかし今年に入って謡の学校の動物の行方を巡り、謡が黒雪姫に助けを求め、再び連絡を取り合うようになったらしい。

 そこから何度か話をしていたようで、謡のが俺と出会ったことを話すと、再始動したネガビュの王様である黒雪姫が、俺がバースト・リンカーであることをバラし、そこで折角だし何やら一芝居を打とうと言うことで今回のドッキリ計画がスタートしたとか。

 

 

 「だ、大体状況は把握したよ」

 

 「謡には前々から戻ってきてくれとは言っていたんだ。時期的には楓子が戻ってからかな」

 

 『UI>サッちんはいつも勝手なのです』

 

 不満げな文章を打つ謡であるが、その表情は明るい。

 今回のドッキリ計画を通して二人の仲が前のように戻ったなら俺も騙された意味もーーー

 

 

 「嫌、それはない」

 

 

 俺はやられたことは結構根に持つタイプである。

 クラディールに馬鹿にされた時もデュエルでやり返したし、《ノーランガルス帝立修剣学院》にてライオスとウンベールにアインクラッド流が馬鹿にされた時も、ウォロ先輩の剣を《バーチカル・スクエア》で防ぎきり、あの場で見ていた人達の度肝を抜いた。

 

 つまりはまあ、何か仕返しをしないとすまないのである。

 

 とはいえ、今ここにやり返せるような手札はないので、いつかやり返してやるからなー!と心のなかで捨て台詞を投げつける。

 

 

 「と、言うわけで桐ヶ谷君。私の隣にいる彼女が旧ネガ・ネビュラスの《四元素》の《火》を司っていたバーストリンカー……」

 

 『UI>改めましてキリトさん、《アーダー・メイデン》なのです。その…よろしくお願いします、なのです』

 

 「お、おう…よろしく。そうなると謡もレイカー…楓子さんみたいに復帰するのか?」

 

 ドッキリに引っ掛かったとはいえ、バーストリンカーだったとはやはり驚きである。

 四元素と言われてるし、彼女も戻ってくれば大きな戦力アップだろうと質問したのだが、返ってきたのは全く違った反応。

 

 『UI>…いえ、まだ復帰は考えていないのです。サッちん達には申し訳ないのですけど、まだ私には……』

 

 「謡私は…!……いや、今は止めておこう。こうしてまた話せるようになっただけでも私は嬉しい」

 

 どうやら二人の間…いや、旧ネガ・ネビュラスのメンバーの間には何か確執のようなものがあるのだろう。

 恐らく、レギオンが壊滅してしまった時に何かがあって、こうして離ればなれになってしまったのが少しずつ戻ってきていると。

 

 「だがな謡、宣言しておくぞ。近いうちに私は君も、残りの二人も必ず連れ戻す。覚悟しておけよ?」

 

 謡の肩に両手を置き、決意を込めた声でそう言った黒雪姫は、生徒会の仕事があると言って去っていった。

 

 『UI>……ほんと、サッちんはいつも勝手なのです』

 

 そうチャットに現れた文字とは裏腹に、謡の頬には涙が伝っていた。

 涙に気づいたのか、ハンカチでそれを拭いとった彼女は黒雪姫が再び戻ってこないかを確認すると、バババッと新しい文字群を作り出す。

 

 『UI>カズさん、実は折り入って頼みたいことがあるのです』

 

 「頼み?俺にできることなら聞くけど、どうかしたのか?」

 

 謡は俺の言葉にコクリと頷くと、《頼み》の内容をチャットに書き記す。

 その内容に目を通した俺はスケジューラを開き、その日に何も予定が入っていないことを確認すると、直葉にメールを送る。

 不安げにこちらを見る謡に俺は力強く頷いたのだった。

 

 

 これは面白くなりそうだと、口元を笑みの形に変えながら。

 

 

 




はじまります(レースがはじまるとは言ってない)

我らがハルユキ君よりも早い段階での顔合わせです
彼と会ったときに生徒会室に用事があるとういうい言ってましたし、その前に学校訪れてたなら黒雪姫とも会話くらいしてるでしょって感じです

それではまた次回


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第三十九話:ヘルメス・コード縦走レース

やや遅れました

トリックオアトリート!!!!




 

 ギュンと風を切る音が耳を叩く。

 自分の翼を使った高速飛行で慣れているとはいえ、自分の体で感じるモノとはまた違うもんだとハルユキは一人考える。

 

 「クロウ!!もっとスピードを上げろ!!」

 

 「鴉さん!!」

 

 「無茶言わないでくださいぃ!!!」

 

 と、現実逃避しかけたハルユキを引き戻したのは、超スピードの中にも関わらず背後からかかる二つの声であり、それに対して彼は悲鳴混じりの声を上げた。

 バババババッ!と銃撃音が鳴り響くなか、ハルユキは必死に

ハンドル(・・・・)を切って揺れる車体(・・)を安定させる。

 上記のアクションからまるで車を運転しているように見えるが、その認識は正しい。

 

 現在、ハルユキ達《ネガ・ネビュラス》のメンバーは加速世界の一大イベントである《ヘルメス・コード縦走レース》と言うものに参加しているのである。

 

 《ヘルメス・コード》とは、東太平洋上に建設された《宇宙エレベータ》の名称である。

 そのセキュリティシステムには日本のソーシャルカメラ・ネットが使用されており、ソーシャルカメラによる映像から作り出される世界で戦うバースト・リンカー達は新しいステージが追加されるのではないかと睨んでいたのだ。

 その予感は的中し、見事《新ステージ接続記念イベント》として、五人乗りのシャトル十台によるレースが開催されたのである。

 

 

 さて、こうしてシャトルに乗っていると言うことはハルユキ達もイベントに参加する権利を手にいれていると言うことである。

 しかしシャトルは五人乗り、ネガ・ネビュラスのメンバーは先日ハルユキに《ゲイル・スラスター》を授けた旧ネガ・ネビュラスの一員であった《スカイ・レイカー》こと倉崎楓子が復帰したことで七人となっており、二人余ることになる。

 そしてシャトルに乗っているメンバーはシルバー・クロウ、ライム・ベル、シアン・パイル、スカイ・レイカー、そして黒の王ブラック・ロータス。

 つまりリーフ・フェアリーとキリトは乗っていないと言うことになる。

 キリトからは近いところでお前達の活躍を見させてもらうよと言われているので、恐らくシャトルと共に上昇している観客席にいるのだろうとハルユキは考える。

 

 「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 情けない悲鳴を上げながらシャトルを操作するハルユキであるが、こちらに攻撃を仕掛けてくる真っ赤なシャトル、パドさんこと《ブラッド・レパード》が率いる《プロミネンス》のメンバーはハルユキ達のシャトルに追随し、攻撃を続けている。

 

 このシャトルレースは只のレースではない、攻撃あり妨害ありのデス・レースでもあるのだ。

 そのためシャトルにはHPが設定されており、シャトルのHPがなくなればそれに乗っているメンバーは脱落ということになる。

 

 自分達が一位になるためにどのチームもお互いのシャトルに妨害を仕掛けているのだが、射撃を得意とするプロミネンスのメンバーが遠くからシャトルを攻撃する戦法が上手く嵌まり、運転しているパドさんの技術も伴い、かなり有利に事を運んでいた。

 既に青のシャトルがリタイアしているなか、次はお前達だと言わんばかりにシルバー・クロウが乗る銀色のシャトルに標的を変えてきたのである。

 

 「くそっ……捌ける攻撃は捌くがこのままではじり貧だぞ…」

 

 赤シャトルから放たれる銃撃をその剣で叩き落としながら、黒雪姫は悪態をつく。

 現在の順位は赤と銀のシャトルがほぼ同率でトップを走っており、他のシャトルがそれを追いかけている形になっている。

 

 どうすればこの状況を脱却できるかハルユキが思考を巡らせた時、自分達のシャトルの後ろから何かが近づいてくる音が聞こえる。

 新たなシャトルがこのデッドレースに参加してくるようだ。

 

 

 「……あれっ!?!?」

 

 ハルユキ達より先にシャトルに乗っている人物を見つけたであろうライム・ベルは驚愕の声を上げた。

 ハルユキも振り向きたい衝動を押さえながら、必死に運転に集中する。

 と、ここで背後からシャトルに乗っているであろう人物の声が聞こえた。

 

 

 「前方にシャトル二台!!」

 

 「なのです!!」

 

 「お、お兄ちゃん立ち上がらないで!!バランス!!バランスが!!!」

 

 

 聞き覚えのある声が二つ、そしてもう一つ知らない声。

 そう、少女のような声が聞こえた気がする。

 

 「今の声……まさか…!!クロウ!シャトルを横に動かせ!!早く!!」

 

 珍しく焦った黒雪姫の声に反射的に機体を動かした瞬間、先程まで銀色のシャトルがあった場所に火に包まれた矢(・・・・・・・)が通りすぎた。

 あ、危なかった…とハルユキが溜め息をついたと同時に、赤と銀のシャトルの間に鮮やかな白と緋色のシャトルが入り込んだ。

 

 一体誰が乗っているんだとシャトルの搭乗者を見たハルユキは、運転を一瞬忘れるほど驚いてしまった。

 

 シャトルを運転しているのは、これ以上にないほど慌てている顔のリーファ、そしてそのシャトルの席に立っている人物ーー

 漆黒の長髪をたなびかせ、紫色に発光しているビームソードを持つ全身漆黒の服に身を包んだ人物。

 見間違える筈がないあれは…あれはーーー

 

 

 「き、キリーーー」

 

 「謡!?!?」「ういうい!?」

 

 ハルユキの驚愕の声は背後から発せられたそれより大きな声にかき消されてしまった。

 黒雪姫とレイカーのここまで驚いた声など聞いたことがないハルユキは、キリトの後ろの席に立つアバターに視線を向けた。

 白と赤の、まるで和風の着物のような装甲に身を包んだ少女のようだ。

 その左手には自身の身長と同じほどの大きさの弓、そして小柄な体格からは信じられないほどの圧倒的な威圧感を感じる。

 明らかに格上、果たしてキリトはどのようにして彼女を引き込んだのだろうか。

 いや、彼が引き込まれたのだろうか?

 というかそもそも彼がこのレースに参加していた事すら驚きである。

 

 レース前はパドさんやアッシュ・ローラーと会話していたし、例の錆びた9番目のシャトルのこともあったからか確認することを怠っていたようだ。

 しかしキリトも参加しているとなれば心強い。

 単純に考えればネガビュのシャトルは二台ということであり、このレギオンが勝利する確率も上がったようなものだ。

 

 「キリトさん!!」

 

 ハルユキの言葉に美少女(?)らしい笑顔を向けたキリト。

 その笑顔にどことなく安心感を覚えたハルユキであったが、一瞬でその安心は絶望に変わった。

 なんとキリトは光剣を持っていない手で黒光りする銃を真っ直ぐ構えると、ハルユキに向かって躊躇なく発砲してきたのである。

 「うわわわわわわ!?何しちゃってるんですか!?」

 

 悲鳴をあげながら銃弾を回避し、車体を立て直したハルユキは、思わずキリトに叫ぶ。

 

 「悪いなシルバー・クロウ!!このレース、優勝は俺たちが貰う!!」

 

 そんな叫び声に満面の笑みを見せるキリト。

 この人!!本気で一位取りに来てる!!

 いや確かにレースなんだからそうなんだけどさ、と心の中で悪態をつくハルユキ。

 と、ここで巫女型アバターが口を開く。

 

 「サッちん、フー姉、この姿で会うのは久しぶりなのです」

 

 「うた…メイデン、どういう事だ?君のアバターは今…」

 

 「何事にも例外は付き物なのです。この場に来る条件は参加資格である《トランスポーター》を持った代表と、それに直結をしたメンバーのみ」

 

 その言葉だけで悟ったのだろう、黒雪姫とレイカーは合点がいったように頷いた。

 

 「あくまでもこの場は《初期加速空間》経由で訪れることができるフィールド…」

 

 「システム的には無制限中立フィールドではない…ということね」

 

 と、ここで赤のシャトルがキリト達のシャトルに狙いをつけ、攻撃してきた。

 自分達の射線に入ってくれば遠慮なく攻撃するのは当たり前と言えば当たり前だろう。

 しかしその弾丸は相変わらずどや顔で席に立つキリトが光剣でスパスパ叩き落とす。

 

 黒雪姫とレイカーの言葉になのです。と頷いたメイデンは、流麗な動作で弓を構えると、銀色のシャトルに狙いを定める。

 いきなり攻撃してくるのか!?

 思わず身を強張らせるハルユキであったが、放たれた矢は黒雪姫の剣によって弾き飛ばされた。

 

 「サッちんには大きな借りがあるのは承知なのです。ですが、その前にこれだけは……」

 

 そう言ったメイデンはシアン・パイル、ライム・ベル、そしてシルバー・クロウへと視線を移す。

 それと同時に襲いかかる途轍もない重圧。

 それは視線を向けられた二人も感じているようで、緊張した気配が伝わってくる。

 

 「あなた達がこれからのネガ・ネビュラスを担っていくに値するかを、このアーダー・メイデンに確かめさせてほしいのです!!」

 

 

 凛として、そしてはっきりと意志を感じさせる声で、目の前の巫女はそう宣言したのであった。

 

 

 




朽ちた十号車は色々あって九号車になりました

一人で乗ってた人もいるわけだし、見知らぬ中堅レギオンには犠牲になってもらってキリト君たちが別枠で参戦です

メイデン参加は本文の通り、無制限中立フィールドで封印されてても、通常対戦はしてるとの発言や、初期加速空間からポータル使ってシャトル乗り場に行けるのでじゃあ直結すれば行けるんじゃね?といった感じですね

あとまあ折角のBBのイベントなんだから、参加権は一応誰でも参加できるようにするんじゃないかな運営サイドもといった考えです

それではまた次回!!


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第四十話:革命の渦

祝四十話

だからよぉ…止まるんじゃねぇぞ…

お待たせしました、それではどうぞ


 アーダー・メイデンの言葉を聞いた俺は並走する赤色のシャトルからの攻撃を捌き、拳銃で牽制する。

 赤のシャトルのメンバーは生意気な、と俺達を倒そうとしていたのだが、運転手の一声で渋々と言った感じで武器を収めると、グンと加速して二台のシャトルの前に躍りでた。

 

 

 先程のメイデンの会話からネガ・ネビュラス同士の潰しあいを狙っているのだろう。

 かなり強気なドライビングだと思う。

 前にGGOで《死銃》とデッドレースしたことを思い返してしまい、体がウズウズしてきた。

 茶化すように口笛を吹いた俺は、さてと並走する銀色のシャトルに視線を向ける。

 

 俺がこのレースに参加している理由、それは後ろに立つメイデンこと四埜宮謡のお願いを聞いたからである。

 一度ネガ・ネビュラスを離れた彼女は黒雪姫に再び声をかけられるまでは加速世界での活動を殆どしていなかった。

 それは彼女自身が抱えている大きな傷であり、そうしなければ自分を許すことができないという自責の念から来るものでもあった。

 

 

 『UI>ネガ・ネビュラスが壊滅した原因は、私にあるのです』

 

 

 そう言った彼女は第一次ネガ・ネビュラスが壊滅してしまった理由、そして自分のアバターが無制限中立フィールドにてMEKによる封印をされていることを俺に話した。

 それを踏まえて黒雪姫が再び声をかけ、自分を仲間だと思ってくれていたことは心の底から嬉しかったと言いながらも、やはり自分に戻ってくる資格は無いと考えていたらしい。

 

 その時にこのヘルメス・コードで開かれるであろうイベントに気がついた彼女は、もう参加枠は残っていないであろうと思いながらも当日にダイブ。

 するとなんと、驚いたことに最後の10番目のシャトル及びレースへの参加権利を手に入れることができたとか。

 

 他のレギオンの方とタッチの差だったのです。と苦笑気味に話した謡であるが、その一瞬を逃したくなかったのは何故なのかと考えた時、脳裏に浮かんだのは黒雪姫達の姿。

 

 そしてその気持ちを確かめるために出場することを決めた彼女は、こうして俺に力を貸してくれと頼んできたということらしい。

 

 そういうことならと直葉も誘った俺は今回のレースにネガ・ネビュラスとは別の枠で参加することになったのだ。

 この話が来た次の日にハルユキからレースの話を聞いたので、危うくレギオン内でレース出場を賭けた戦いが起きなくて良かったと内心思っていたりする。

 

 「ゲームのイベントに目がない君にしてはやけにあっさり出場を辞退したと思ったらそういうことか!!」

 

 「そういうことだロータス!こないだの仕返しはこれでさせてもらうぜ!!」

 

 俺はスグから運転を代わると速度を維持しながら銀色のシャトルに向かって距離を詰める。

 

 「き、キリさん!近いのです!これじゃ矢が…!」

 

 「あー…メイちゃん。多分お兄ちゃんスイッチ入っちゃったから無理かも」

 

 カーレースと言えば車体同士をぶつけ合うドッグファイトに決まっている。

 現に俺の動きを見た観客の熱気も高まっているのがわかる。

 

 「良いかデンデン!矢は至近距離で撃った方が当たるんだ!!」

 

 「デンデーー!?と、兎に角無茶苦茶なのです!!似てる似てるって思ってましたけどそこまで似ないで欲しいのです!!」

 

 「アイツが二人いるなんて考えたくないが…顔合わせたらどうなるのか想像がつくよ」

 

 メイデンの叫びとロータスの溜め息を尻目に、シアン・パイルがシャトルギリギリまで体を乗り出す。

 

 「この距離なら僕のパイルで!!」

 

 ガシュンッ!!と放たれた杭は真っ直ぐ俺たちのシャトルに放たれた。

 当たれば大きなダメージだろうが、その攻撃はギィン!!と甲高い音と共に上に弾かれる。

 

 「させないよパイル!!」

 

 その攻撃を防いだのは俺の自慢の妹であるリーファである。

 シアン・パイルの攻撃は予測済みであるため、領土戦でよくペアを組み、癖を知っている彼女に迎撃を任せたのだ。

 そしてこの距離はシアン・パイルの杭が届く範囲且つブラック・ロータスの剣が届かない距離なのだ。

 

 流石の俺も触れたら斬られる黒の王がいるシャトルにドッグファイトは挑まないよ、うん。

 人員が充実してるならまだしも、今は運転手を合わせて三人なのだ。無茶はできない。

 

 「くそっ、翼が使えたらあっちに飛び移れるのに…!」

 

 「翼…そうだよハル!!姉さん!!」

 

 シルバー・クロウの言葉に何かを閃いたライム・ベルは、スカイ・レイカーに駆け寄って何かを話す。

 その内容にレイカーは驚きの声をあげ、戸惑ったように首を振るが、ベルは更に首を振って何か言葉を投げ掛けた。

 その言葉にレイカーは深く俯いた後に頷くと、ベルの頭を撫で、抱き締める。

 レイカーは己の外装である車椅子をストレージに戻すと、シャトルの外枠に手をかけた。

 

 「レイカー!!何をしているんだ!!」

 

 先程キリトが言っていたように至近距離の矢を捌くのに集中していたロータスには突然レイカーが飛び降りるように見えたのだろう。

 慌てたように声をかける彼女に、レイカーは落ち着いた声で返す。

 

 「これが最善の策なのよロータス。座っているだけの私にできる、この状況を打開できる唯一の方法が」

 

 「だからって飛び降りるなんて私は認めないぞ!!お前がいないと優勝しても意味がないんだ!!」

 

 「え?」

 

 「え?」

 

 「え?」

 

 ロータスの言葉に思わず声をあげるレイカーとメイデン。

 メイデンも思わず攻撃を止めてしまったので、状況に気づいたロータスも動きを止めてレイカーのいるところを見る。

 ベルの手を借りながら移動し、シャトルの最後尾の車体に掴まったレイカーはロータスの勘違いに気づくとクスリと笑い。

 

 「全く、思い込みが激しいのは変わらないのね」

 

 「わ、私が姉さんに言ったのは、ハルの言葉から《ゲイルスラスター》でなら加速できるんじゃないかって言うことで……」

 

 困惑したベルの声にようやく自分の勘違いに気づいたロータスは、いや、その、と声をあげる。

 

 「確かに前までの私だったら飛び降りるように言ったと思うわ。はっきり言うけれど、私はあの時サッちゃんを傷つけたことによって生まれた負の心意が、この足のようにゲイルスラスターが動かないと思ってたの」

 

 少なくとも、レースが始まるまではね。と言葉を続けるレイカーは、シャトルに乗る仲間達に視線を送る。

 

 「でもね、この中で打開策を思いついてくれたベルや、これまでシャトルを守ってくれたパイルに鴉さん」

 

 静かに言葉を続けるレイカーの着ていたワンピースが光と共に解除され、そのアバターの姿が現れる。

 すらりとした空色のアバターの膝から下は存在しない。

 

 「それにこうして来てくれたメイメイがいる前でそんなことするわけないでしょう?」

 

 「フー姉……」

 

 「あと、最初に言った筈よロータス」

 

 《疾風召喚(コーリング・ゲイル)》と、言葉が紡がれると彼女の背中にブースターが現れた。

 ゲイルスラスター、空を駆ける彼女の翼。

 

 「私が出る以上、優勝しない選択肢なんてあり得ないって!!」 

 

 準備を終えたレイカーが力強くそう声をあげると、ゲイル・スラスターが力強く動きだして銀のシャトルのスピードをどんどん上げる。

 

 

 「お、お兄ちゃん!離されちゃうよ!!」

 

 「一瞬距離が開いただけだ!こっちは三人だしシャトルのスピードはまだ出る!!」

 

 「前方に…!あれはワープゾーンなのです!!」

 

 リーファの心配する声にアクセルを踏み込みながら俺はシャトルのスピードを上げる。

 次いでメイデンが発した言葉に、俺はニヤリと笑う。

 現実のヘルメス・コード自体とても大きいのだから、これくらいのショートカットポイントが存在していてもいいだろう。

 

 

 

 ワープゾーンに入るとこれまでの景色は一変し、上も下もわからないような世界をシャトルが走っているようになる。

 一息つけるのはここら辺だろう。

 

 「メイデン、どうだった?」

 

 運転しながら後ろに座っているメイデンに問いかける。

 あの三人が彼女の目にどう映ったのか気になったためだ。

 

 「シアン・パイルはとても思慮深い方の印象を受けたのです。ライム・ベルの閃きや、その行動力も良いものだと思うのです」

 

 「シルバー・クロウは?」

 

 「……まだ、良くわからないのです」

 

 少し考えてからふるふると首を振るメイデンに、だよなぁと返す。

 シルバー・クロウは運転していたこともあるし、彼という人物を知るためには実際に話したり、戦ってみないと解りづらいと思う。

 

 「ただ、サッちんとフー姉が変わったのはあの三人の影響があるのは事実なのです。あの人たちが、離れた私達の心を繋ぎ合わせてくれている、そんな気がするのです。サッちんとフー姉の間には、本当に大きな溝があったのです」

 

 そう、それだけは理解出来たかもしれないと頷いたメイデンの言葉を最後に、シャトルの中には暫しの沈黙が流れる。

 

 「……だってよ、スグ」

 

 「な、なななんで私に振るのかなお兄ちゃん!?」

 

 「……!も、勿論キリさんとリーさんの影響もあると思うのです!!今のは言葉の綾と言うかなんというか!!だからその…!」

 

 自分の言ったことに気づいたメイデンが慌てて訂正し、和やかな空気がシャトルを包む。

 

 「だったらメイデン。君も答えは出ているんじゃないか?」

 

 「それは……」

 

 「君に迷いや躊躇いがあるのは少しはわかるつもりだよ。だけどこうして現実で俺や黒雪に会って、次はバーストリンカーとしてロータス達の前に立ちはだかった。一歩だけじゃない。君はもう二歩踏み出している」

 

 本当は俺が言うべきじゃないってことは解っている。これは黒雪姫達の問題だ。

 ただ、それでも伝えなきゃいけないと思う。

 

 「伝えたい言葉を伝えられずに、大切な人に突然会えなくなることってあると思うんだ。…とりあえずそれだけ、今は兎に角レースに集中しよう」

 

 「…兄様」

 

 何か思い当たる部分があるのだろうか。

 ぽつりと呟いたメイデンはふるふると頭を振り、俺の言葉に頷いた。

 

 「お兄ちゃん!コースに戻るよ!!」

 

 リーファの言葉と共にワープゾーンの出口を抜けた俺たちを待っていたのは、宇宙の中に飛び込んだと言ったような光景であった。

 

 「おいおい最後尾かよ…!」

 

 前方にシャトルが五台あることに気づいた俺は、迷わずスピードを上げる。

 なんとか横一列に並んだ俺たちのシャトルはシルバー・クロウ達とは反対側の一番端である。

 

 「ねぇお兄ちゃん……」

 

 と、ここでリーファの戸惑った声が聞こえた。

 

 「あれは…九号機なのです。何時の間に…」

 

 メイデンも困惑しているようで、俺も視線を向けると、何時の間にかシルバー・クロウが乗る銀のシャトルの右側に、錆び付いたシャトルが現れていたのだ。

 

 それと同時に、何か嫌な予感が俺の頭をよぎる。

 

 そう、上手く話すことはできないのだが、この宝箱には罠がかかっているようなといった、アインクラッドで培ってきた危機察知能力がチクリと俺の頭を刺した。

 

 「…二人とも掴まってくれ!少し嫌な予感がする!!」

 

 言うが否やアクセルを踏み込み、シャトルのスピードを限界まで加速させる。

 

 

 二人の悲鳴が耳を叩く中、俺は先程のシャトルがいる方向を見て、目を見開いた。

 

 

 

 大きな赤い光の渦が、ヘルメス・コード全体を包むように展開されていた。

 

 

 

 

 




レパードの前での全力ではレイカーは落ちることを言うかもしれない

メイデンが参加したことに自分も思うところがあった様子
ベルはレイカーになついてるし、なんやかんや彼女の心を動かす言葉を言えそうと言うことから

メイデンが表舞台にまた出ようと思ったのも、キリトという話相手と、彼について黒雪姫と話すことで交流が原作よりも増えて、また会いたいという気持ちが強くなったからと、自分で勝手に考えてます

それではまた次回に!


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第四十一話:青薔薇の導き

今回の話は個人的にお気に入りです

とても楽しく書けました

それでは、どうぞ!


 「な……なんだあれ…」

 

 大きな渦はフィールド全体を飲み込むように現れると、触れた箇所をどんどん腐敗させていく。

 どういうことだ?このレースではHPゲージはロックされて必殺技なんて使えるはずがない。

 

 「し、心意技なのです…しかも空間侵食の…あ、あんな巨大な負の心意を…」

 

 喘ぐように言葉を紡いだメイデンの言葉に、俺とリーファは驚く。

 今までいくつか心意技を目にしたことがあるが、どれもここまでの規模の攻撃ではなかった。

 まるでそう、あの攻撃範囲はまるで……

 

 

 「青薔薇の……」

 

 

 一瞬口にした自分をふざけるなと叱責する。

 あんな全てを破壊するような攻撃と、親友の想いがこもった技を比べるなんて有り得ない。

 渦はどんどん広がり、他のシャトルを飲み込んでいく。

 渦に飲み込まれたシャトルや運転手は悲鳴を上げながらその体を錆びらせ、砕けちっていくのが見える。

 

 「酷い……」

 

 リーファがその光景を見て拳を握りしめる。

 可能なら助けたいのだが、今の自分の力で及ばないのがわかっているのだ。

 幸い俺たちのシャトルはやや範囲から遠かったため、被害は受けていない。

 

 「フー姉!!」

 

 メイデンの悲鳴に視線を向けると、銀のシャトルが渦に飲み込まれ、全てを錆び付かせる心意をスカイ・レイカーが自身の心意技で必死に防いでいるのが見えた。

 良く見ればクロウ達のシャトルも殆ど走行が困難な状態だ。

 

 「こんなの、レースどころじゃないぞ……」

 

 混乱の原因である九号車を睨み付けた俺は、更にシャトルの速度を上げて二台のシャトルの直線上に位置を取る。

 

 「お、お兄ちゃん!?」

 

 「スグ、運転を変わって、クロウ達の救援に行ってくれ」

 

 「駄目なのです!幾らなんでも無茶過ぎるのです!!」

 

 俺のやることがわかったのか、メイデンが首を振る。

 わかっている。

 だが、こんなことは許せないのだ。

 バーストリンカーとして、奴は止めなければならない。

 

 「レースゲームで後退なんてNGだけど、今回は仕方ない。向こうのシャトルも動いてるし、あの渦に触れるのは一瞬の筈だからそこまでシャトルもやられないと思う」

 

 有無を言わさずリーファと運転を変わった俺は、一度深呼吸した後、例の錆びたシャトルに向かって飛び降りる。

 このまま突っ込めば俺の体は他のバーストリンカーと同じような目に遭ってしまうだろう。

 何も無策で飛び降りようとは思っていない。

 《ヒューマンアバター》は関節部分が存在しないから装甲の隙間からあの渦が入り込む訳じゃない。

 だから少しはあの攻撃にも耐えることができる筈だ。それにーーーー

 

 「頼む……力を貸してくれ」

 

 渦に突入すると同時にストレージからとあるアイテムを取り出す。

 

 「《着装(エンハンスト・アーマメント)》!!」

 

 カード型のアイテムは俺の言葉に応えるように輝き、その光が俺を包み込む。

 光が収まると、俺の体は龍の頭部を模した漆黒の兜と鎧に包まれていた。

 

 「頼むぞ、《ミッドナイト・フェンサー》…!」

 

 そう、ストレージに入っていたミッドナイト・フェンサーの鎧を身に纏い、渦から身を守る。

 

 しかし渦の能力は思ったよりも強く、鎧も秒読みで錆び付いていく。

 これが心意技…!強力な負の感情が俺の体を蝕み始める。

 視界は砂嵐で何も見えない。

 本当にこのままシャトルにたどり着くかもわからない。

 

 だが諦める訳にはいかないのだ。

 ここで諦めたら、突如加速世界に現れた謎の力によって加速世界が滅茶苦茶にされてしまったと言う結果だけが残る。

 そんなの、この世界を愛しているバーストリンカーにとってあってはならないことだ。

 

 「この世界の人物でない俺が傷つくくらいで済むのなら…!!」

 

 そう言い歯を食い縛るが、心意の侵食は止まらない。

 俺も必死に心意での防御を試みているのだが、圧倒的に足りない練度では焼け石に水である。

 

 駄目なのか、と弱気になる心が心意の防御を弱め始めたその時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ステイ・クール、らしくないぞキリト』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……!」

 

 声が、聞こえた。

 

 『全く、君ってやつはいつもそうだ。自分が犠牲になればそれで良いと思ってる。こっちの気も知らずにさ』

 

 困ったような、呆れたような、でも信頼を込めた声が聞こえた。

 

 『学院にいたときも決まって君が突拍子もないことして一緒に怒られたり、カセドラルの時だってそうさ。君がアリスと外壁を登ってる間、僕が何してたと思う?整合騎士のベルクーリと戦ってたんだぞ?』

 

 目の前を覆っていた砂嵐は何時の間にか消えてなくなり、真っ暗で静かな世界に俺はいた。

 いや、もう一人いる。

 シルエットはボヤけて見えないが、はっきりわかる。

 

 『ここは世界を見渡すことができる場所らしいよ。僕も詳しくは知らないんだけどね』

 

 確か…はいえすと……と呟く少年だったが、僕が説明することじゃないねと肩を竦める。

 

 「お前、何時の間にそんな博識になったんだよ」

 

 『座学の成績では僕が君より上だったのを忘れたのかい?』

 

 俺の茶化すような言葉に笑った彼は、それで。と言葉を続ける。

 

 『どうするのさ?』

 

 「……多分俺だけじゃあの渦は突破できそうにない」

 

 『だろうね。今の君だけの力じゃ無理だ』

 

 「手厳しいなお前は」

 

 『こうはっきり言わないとわからないだろう?』

 

 「言えてる」

 

 変わらないやりとりに二人でくっくっと笑いながら、何時の間にか現れた星空を眺める。

 こうして並んでよく空を見上げたものだ。

 

 『でも諦めないんだろ?』

 

 「当たり前だ。……でも」

 

 『でも?』

 

 真っ直ぐに此方を見つめる彼に一度目を逸らし、もう一度見つめ返す。

 

 「俺だけじゃ少し大変みたいだ。だから貸してほしい。力を………一緒に、戦ってほしい」

 

 俺の言葉に亜麻色の髪の少年はにこりと笑い、此方に手を差し出す。

 それは俺がはじめてルーリッドの村で彼に出会ったときと同じようで。

 俺が手を握ると、彼は強く頷いた。

 

 『頑張れよ、相棒』

 

 

 

 

 

 

 

 全てを錆び付かせる嵐が体を叩く。

 ミッドナイト・フェンサーの鎧ももう限界に近いだろう。

 

 「《チェンジ・コール》」

 

 自身を変化させるシステムコマンドを紡ぐ。

 同時に現れるウィンドウ。

 四つある項目のうち点灯していなかった部分、《夜空の剣士》が明るく光っていた。

 

 「《夜空の剣士》!!」

 

 それと同時に役目を終えるように消え去るミッドナイト・フェンサーの鎧。

 そこから現れた俺の姿は《黒の銃剣士》ではなく、また別の姿。

 服装的には修剣学院で着ていたのと似ているが、これはセントラル・カセドラルの中で着ていたタイプの服だ。

 

 腰に吊り下げられた二本の剣のうち、一本の剣を抜き放った俺は、ありったけのイマジネーションを振り絞って剣を突き出すように構える。

 

 それと同時に体を包み込んだ心意光が防御殻となって渦によるダメージを無効化する。

 

 「《リリース・リコレクション》」

 

 整合騎士が持つ神器の真の力を解放するワードを発すると、腕の中の剣がその時を今か今かと待つように震えだした。

 それを優しく抑えるように、俺の手の上から柄を握るもう一つの手。

 

 

 ーーー行くぞ、ユージオ

 

 

 心の中で呟くと、頷く気配。

 そうだ、何時だってアイツは俺の近くにいる。

 ユージオだけじゃない。

 俺の胸のなかに、皆いるんだ。

 

 

 思い出は永遠に残る。

 例えこの世界に俺は一人きりなのだとしても、俺が皆を覚えている限り、皆ここにいる。

 ユージオが言った言葉を噛み締めながら、彼と共に叫ぶ。

 

 

 

 「『咲け!!青薔薇!!!』」

 

 

 

 俺が放った心意技は赤い渦を飲み込み、大きな氷の塊へと変貌させた。

 ヘルメス・コードはその辺りだけ氷ステージができたように変化し、錆び付いたシャトルの動きさえも止めたのだった。

 

 

 「ありがとう…ユージオ」

 

 

 俺はそのままの勢いでシャトルの表面に着地、ありったけの心意を放ったからか頭がチカチカするが、これでようやく辿り着いた訳だ。

 

 「答えろ、何をした」

 

 シャトルの操縦者ーー確かあれは《ラスト・ジグソー》だったか?

 話だけには聞いていたが、なるほどチェンソー男とは良く言ったモノだ。

 

 「お前を……止めに来ただけだ」

 

 荒く息を吐きながらそれだけは伝える。

 思ったより消耗が激しいようだ。

 それはあれだけの技を使ったのだから当たり前か。

 

 「……気に入らない」

 

 そう吐き捨てたジグソーは、右手で空中に大きく円を描き、俺に向かって右手を振ると、糸ノコの輪っかが飛んできた。

 糸ノコは心意光に包まれていないため、あれは普通の攻撃技だ。

 力の入らない体では押し負けると考えた俺は、なけなしの精神力を振り絞り、青薔薇の剣を右上に構える。

 同時に刀身を包む鮮やかな水色の輝き。

 必殺技ゲージは先程の心意技を潜り抜けた際に溜まっている。

 

 「《スラント》!!」

 

 音声発声と共にシステムアシストが俺の体を動かし、俺の体を切り裂かんとする糸ノコの輪を弾き飛ばした。

 チッと舌打ちしたジグソーは、両手を握り開く動作を繰り返し、俺との間に糸ノコを数本固定させた。

 

 この糸ノコを利用することで、俺が接近する時間を稼ぎ、その隙に先程の丸い糸ノコを再び投げつけるのだろう。

 

 「ジグソー!!」

 

 と、ここで新たな乱入者の声。

 そこに視線を向けると、シルバー・クロウがその翼をはためかせてこちらに向かってきていた。

 

 ジグソーを挟み込むようにシャトルの後部座席に到着したクロウは、ジグソーを睨み付ける。

 その拳は強く握りしめられ、彼の怒りがこちらまで伝わってくる。

 

 「クロウ、頼めるか…!」

 

 「わかってます。アイツは僕が…オレが叩き潰します!!!」

 

 手助けしたいが俺は動けそうにない。

 俺の言葉に頷いたシルバー・クロウは、その手に心意光を宿らせてジグソーと対峙する。

 

 その光は彼の怒りを表すように、血のような赤色に染まっていた。

 

 

 




思い出は永遠に残る、キリトの中で生き続ける。

と言うわけで四つ目の姿解禁です。
特撮で言う強化フォームお披露目回を意識して今回は作りました。

SAOの話の中で稀に起きる奇跡のような、現実ではありえないことが起きるのが好きなんです。
死んだ筈のユージオの意思が青薔薇の剣に宿って、最後の決戦で助けてくれるところとか本当好きです。

ユージオに励まされた後にLight your swordとかGanlandを流すと多分それっぽくなります。

次回はシルバー・クロウが活躍すると思います。
レーザーソードも真っ赤に染まって凄く強そうですよね。

それではまた次回!!


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第四十二話:怒りの鴉

体力が低下したのかしょっちゅう体調崩しています

皆様もお体には気を付けてください

それではどうぞ!


 「こ、氷…だと……!?」

 

 「綺麗……」

 

 先程までハルユキ達を襲っていた全てを崩壊させるジグソーの心意技は、キリトが発動した心意技によってその形を大きな氷に変えていた。

 驚愕の声を上げるロータス達の声を聞きながら、ハルユキはこんな状況を招いたジグソーに対して激怒していた。

 

 シャトルはもう動きそうにないが、先程の心意技でシルバー・クロウの必殺技ゲージは溜まっている。

 ジグソーのシャトルはキリトが作り出した氷に阻まれて動きそうにない。

 

 「く、クロウ!?何をする気だ!!」

 

 「キリトさんを助けに行きます!!」

 

 そうと決まればと、考えるより先に体を動かしたハルユキはジグソーとキリトが乗るシャトルに向かって飛翔した。

 

 「ジグソー!!」

 

 元凶の名前を叫びながら、ハルユキはシャトルの後部座席に到着し、相手を睨み付ける。

 沸々とした怒りはハルユキの視界を真っ赤に染め、今すぐ目の前の敵を倒せとハルユキに叫んでいる。

 

 「クロウ、頼めるか…!」

 

 呼吸を整えているキリトの言葉に、ハルユキはコクリと頷きながら右腕で心意技の発動をする。

 邪魔物(キリト)がいないなら好都合だ。

 

 「わかってます。アイツは僕が…オレが叩き潰します!!!」

 

 光の剣に包まれた腕を構えながら、ハルユキはジグソーに斬りかかる。

 ジグソーも心意光に包まれた腕で彼の攻撃を防いだ。

 しかし、驚くことに彼の体に触れた瞬間にシルバー・クロウの右腕が錆び付いたように崩れ落ちた。

 

 「なっ……」

 

 「無駄だ。不可能だ。その程度の心意では」

 

 こちらを嘲笑うようなジグソーの声。

 途端に脳を刺激する右腕の痛みにハルユキは声のない悲鳴をあげる。

 

 「な……ぐっ、な…めるなぁ!!」

 

 右腕が無くなったのは自分の心意が相手の心意に負けたからだ。

 なら次は負けないようにより強力にすればいい。

 

 怒りで体を奮い立たせ、左腕に先程より一回り大きな光線剣を展開したシルバー・クロウの攻撃は今度こそジグソーを捉える。

 激しいスパークを迸らせながらジグソーの腕を叩き斬ろうと力を込めたシルバー・クロウの腕が振りきられた。

 

 「ぁぁっ!?」

 

 しかし目の前のジグソーに傷はない。

 そしてその答えは自身の左腕に走る激痛が物語っていた。

 

 「絶望しろ。自分の無力を噛み締めろ」

 

 単純な話、シルバー・クロウの腕と接触していた別の腕から放たれた糸ノコが彼の腕を切り落としたのだ。

 ふー、ふー、と荒く息を整えながら、両足に心意イメージを集中させる。

 

 そんな姿を見てジグソーはくっくっと笑いを浮かべる。

 この現状を見ている観客席のバーストリンカーもアイツは何しに来たんだと困惑しているのが感じられる。

 

 「何もわからないくせに…何も知らないくせに……!」

 

 自分の力が通じないこと、ジグソーの思い通りに事が進んでいること、そして何も知らない観客への不満がハルユキの口から漏れる。

 状況はかなり緊迫しているのに何でわからないのか。

 

 今の彼にはバーストリンカーとしての心構えなんてものは浮かばなかった。

 先程までジグソーに対して持っていたバーストリンカーとしての怒りは最早この場にいる全員に対して振り撒かれる怒りとなっていた。

 

 「クロウ…!」

 

 こちらを呼ぶキリトの声も、最早雑音でしかなく、ハルユキの怒りを余計助長させる。

 僕に比べて色んなモノを持って、できて、まるで彼が主人公ではないか。

 力だ、圧倒的な、全てを蹂躙する力が欲しい。

 

 そうだ、あの加速世界全てを震え上がらせるような、破壊の化身のような力が。

 

 

ーーーグルル。我ノ力ヲ欲シテイルヨウダナ。

 

 

 ドクン、とシルバー・クロウの体の中で何かが目覚める音がした。

 鼓動はドンドン激しくなり、胸の辺りで何かが暴れているような感じだ。

 

 今まで気にしていなかったが、そうか、この場所はあの時の戦いで奴のワイヤーが引っ掛かった部分だ。

 

 姿勢を低くしながら、ラスト・ジグソーを睨み付ける。

 

ーーー求メヨ。ソシテ喰ラエ。何モカモ、加速世界の全テヲ。

 

 心意光を纏った足には、気がつけば三本の鉤爪が装着され、力強くシャトルを踏みしめていた。

 腕が無くなったからなんだ、このアバターにはそれを補う力が存在している。

 頭の中で響く声は目の前の敵を倒せと繰り返している。

 

 「まだ、やるのか。いい加減、諦めろ」

 

 此方に向かって放たれた糸ノコは、シルバー・クロウの胴体に巻き付き、その体を引き裂こうとその細い線を心意光で光らせる。

 瞬間、翼を展開したシルバー・クロウは、きりもみ回転するようにジャンプ。

 そのまま振り上げた足で糸ノコを全て切断した。

 

 驚愕の声を上げるジグソーであるが、クロウの攻撃はまだ終わらない。

 翼で加速した勢いを付けた鉤爪が彼の頭を捉えた。

 

 それはまるで獲物を捕まえた鴉のように、ジグソーをシャトルに叩きつける。

 たまらずジグソーも先程クロウの腕を錆び落とした能力を使おうとするが、彼を拘束している足は何時までたっても錆びなかった。

 

 何故と思考する瞬間に、ジグソーの両腕に衝撃。

 片足は自分の顔を踏みつけているのにと視線を向けると、足で踏みつけていない部分の腕はいつのまにかクロウの背後から現れた尻尾によって串刺しにされていた。

 

 

 「なあ…少し聞かせてくれよ」

 

 

 投げ掛けられた声に視線を向けると、そこにいたのはシルバー・クロウではなく、一体の《獣》だった。

 全身の装甲が彼を象徴する銀色から黒ずんだダークメタルに変貌しており、その頭部も分厚いヘルメットに覆われている。

 

 「一方的に蹂躙していた奴にやられるのってどんな気分なんだ?」

 

 その言葉に反応を返す前に、ジグソーの体はシルバー・クロウから伸びた尻尾によって持ち上げられ、ヘルメス・コードの表面に叩きつけられる。

 何時の間にか再生していた両腕を開いて閉じたクロウは、尻尾でジグソーを拘束しながら、その体に拳を叩き込む。

 

 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も。

 

 

 「なあ、おい、聞いてるのかよ」

 

 コツン、とヘルメットをジグソーの頭部にぶつけたハルユキはそう問いかける。

 しかし思った反応が無いことに舌打ちをすると、ジグソーの体をシャトルに叩きつけた。

 

 「お前たちはいつも勝手だ。やられる人の気持ちも知らないで、ただ自分の優越感に浸りたいだけで弱いものに手をかけて、そいつらの人生を無茶苦茶にする」

 

 再び叩きつける。

 

 「その癖強い人には媚を売って、その鬱憤をまた弱者にぶつける。自分では戦う勇気も無いくせに!!」

 

 ただ衝動のままに、ハルユキはジグソーを蹂躙する。

 最早それは対戦でも、戦闘でもなく、見ている者が目を逸らしてしまうほどのモノだった。

 

 四肢を切断され、頭と胴体だけの姿となったジグソーを掴みながら、ハルユキはふんっと鼻を鳴らす。

 

 「クロウ…お前」

 

 と、ハルユキの耳に声が届く。

 視線を向けると、困惑した表情でキリトが立っていた。

 

 「クロウ、いくらなんでもやりすぎだ。こんなの、こんなの…」

 

 「こんなの、何ですか?先に無茶苦茶にしたのはこいつだ」

 

 キリトの言葉を否定するように声を被せる。

 そうだ、先にこいつがレースを壊したんだ。

 なのに何でそんな顔をするんだ。

 

 ジグソーを蹂躙していくらか落ち着いたからか、ハルユキはシルバー・クロウの体に何が起きているのかをようやく認識する。

 その名を表す銀色の装甲は黒銀に染まっており、身体中が鋭利に尖っている。

 

 まるで《クロム・ディザスター》だ。

 

 そこまで認識して、ハルユキははっと自嘲の笑みを浮かべる。

 

ーーーグルル。奴ハ喰ラウ。必ズ喰ラウ。

ーーーアノ時、我ノ邪魔ヲシタアイツダケハ喰ラウ!!

 

 そして再び溢れでる破壊衝動。

 体の中の獣も暴れるのを望んでいるようだ。

 ごめんなさい、先輩、皆。

 僕はもうーーーーー

 

 

 「クロウ……!」

 

 「違いますよキリトさん僕はーーオレは」

 

 

 ぐしゃり、とジグソーの頭を握りつぶしたシルバー・クロウは身体中から闇の心意を放出させる。

 

 「六代目《クロム・ディザスター》だ……」

 

 そう、はっきりと口にした瞬間、先程よりも体に力が満ちるのがわかる。

 

 ただただ戦闘欲に身を任せたハルユキの眼前には、彼が自身をクロム・ディザスターだと認めたからか【YOU EQUIPPED AN ENHANCED ARMAMENT 《THE DISASTER》】の文字列が流れていた。

 




ぶっちゃけハルユキ君はキリト君を尊敬しつつ嫉妬してます

黒雪姫に近い実力を持ち、自分より強く、何歩も先を行く彼は劣等感を強く持つハルユキにとっては結構アレでして
僕に比べての部分が彼が心の奥で思ってることですね

名前呼ぶ前に鎧が展開しちゃってるのはこう…それだけ深く繋がってるということで……

ワイヤーが引っ掛かったのは原作と違って胸の辺りになりました


それではまた次回!!


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第四十三話:鴉と絆

やりたいこと書いていたらいつもより長くなりました

それではどうぞ!!


 「ルルルオオオオ!!!」

 

 力を全身で感じるように雄叫びを上げたハルユキは、その衝動のままキリトに飛びかかる。

 凪ぎ払うように振るわれた爪はキリトの体を大きく吹き飛ばし、背後の氷の塊を粉砕した。

 隙間は存在しているとはいえ、ジグソーが発動した渦はかなりの大きさだ。

 つまりそれを凍らせた場合、それなりの足場ができあがる。

 ヘルメス・コードを大きな一本の木に例えた場合、現在ハルユキ達が立っている場所は途中に生えている枝のようなものだ。

 

 氷の足場の上に降り立ったハルユキは、先に体勢を立て直したキリトを視界に捉える。

 

 「ぐっ…クロウ!いきなり何を!!」

 

 必要性のない会話に付き合う理由はない。

 戸惑いの声を上げるキリトに向かって爪を振るうが、今度はしっかりと透き通るような青い剣に阻まれた。

 その刀身に映った自身の姿に一瞬眉を潜めたハルユキだが、アバターから生えている尻尾がダァンッと氷の地面を叩いたことで思考を中断する。

 

 「く……そっ!!」

 

 グッと力を込めて爪を弾いたキリトは、バックステップとパリィを駆使しながら巧みにハルユキの攻撃を避ける。

 あと少しが届かないことにハルユキは仮面の中で舌打ちをする。

 

ーー何か…何かないのか、アイツを倒す方法は。

 

 攻撃を回避して距離を取ったキリトにダッシュしながら思考したハルユキの頭に、ある言葉が浮かぶ。

 

 「……《フラッシュ・ブリンク》」

 

 「なっーーーー!?」

 

 電撃的に脳裏をよぎった単語を口にすると、《シルバー・クロウ》、いや《クロム・ディザスター》の姿がかき消えた。

 驚きの声を上げたキリトの背後に実体化したハルユキは、その右腕に一振りの長剣を携え、凪ぎ払うように剣を振り抜いた。

 《スター・キャスター》と呼ばれていたその剣はキリトの剣を弾き飛ばし、その体を大きく吹き飛ばした。

 

 あの生意気な奴を吹っ飛ばしてやったとばかりにハルユキの中の《獣》が喜びの声をあげる。

 

 クロム・ディザスターの鎧と深く適合したバーストリンカーは、過去の装着者のアビリティや技術を使うことができる。

 成る程実に強力だ。

 使い方や効果は実際にハルユキは知らない。だがそんなこと考えなくても《わかる》のだ。

 なら効率的に使い、ただ殺戮の限りを尽くすだけだ。

 

 「…この感じ…どこかで……っ」

 

 「ルルルオオオオ!!!」

 

 追撃とばかりに振り下ろされた剣は、電光のような早さで抜き放たれた漆黒の剣で防がれる。

 同時にキリトの剣にライトエフェクトがかかる。

 例えヘルメス・コードのルールでHPがロックされたとしても必殺技を受ければアバターにはダメージが通るだろう。

 

 シルバー・クロウのヘルメットを覆うように現れたバイザーに、瞬時に放たれる攻撃に対する予測表示が現れる。

 膨大な戦闘経験によるクロム・ディザスターの攻撃予測は、正に未来予知。

 後は表示された位置に剣を合わせれば良いだけだ。

 

 「《バーチカルーーー」

 

 単発の上段斬り下ろし技である。

 剣を擦り合わせるようにして回避してそのまま攻撃に転じようとしたディザスターの体を、次々と衝撃が走った。

 

 「ーーースクエア》!!!」

 

 単発ではない、連続技(・・・)だ!!

 普段のハルユキであればまだ対処できたかもしれない。

 キリトの必殺技は何度も見ているし、似たような挙動からの攻撃があるのも知っているからだ。

 しかし今回は殆ど《獣》に呑まれかけていることもあり、ディザスターの能力である攻撃予測に頼り過ぎていたという部分もあった。

 

 だが予測不可能な事態に陥ったからと言って易々とやられては加速世界を震え上がらせた存在としての名が廃る。

 

 「ルルルオオオオッ!!!」

 

 「ぐあっーーーー!?」

 

 尻尾を地面に突き刺して吹き飛ばされるのを堪えたディザスターは、必殺技後の硬直で動けないキリトに技も何もない、ただ力を込めた剣を振り下ろした。

 

 ボールのように吹き飛ばされたキリトの体に五代目ディザスターが使ったワイヤーフックをかけたディザスターは、その剣に心意光を宿らせて一気に引き寄せる。

 

 今度こそこの手で奴を倒せる。

 前回彼を喰い殺そうとした際に手痛い一撃を受けた《獣》は、シルバー・クロウの中で今か今かと待ち続けていた。

 

 「ルルルオオオオ!!!!」

 

 歓喜の雄叫びを上げながらキリトを引き寄せて振り下ろされたディザスターの剣はしかし、先程吹き飛ばされた筈の青薔薇の剣に防がれていた。

 驚愕に目を見開いたハルユキと《獣》の目に、青薔薇の剣を握った少年が見えたーーー気がした。

 次いでキリトの体を漆黒の心意光が包む。

 だが同じ黒でもテイカーのような負の心意ではない、全てを優しく包み込むような正の心意だ。

 

 

ーーこの人はどこまでーーっ!!!

 

 

 「《エンハンス・アーマメント》!!!」

 

 そして絶叫と共に放たれたキリトの心意技がディザスターの体に大きな衝撃を与えた。

 漆黒の剣から打ち出された漆黒のエネルギーはディザスターをどんどん後退させる。

 

 

 「うおおおおおおお!!!」

 

 「グル……ルルルオオオオ!!!」

 

 左腕に心意光を宿したディザスターは、渾身の力を込めてキリトの攻撃を押し退けるように防ごうと試みる。

 

 激しい衝撃がディザスターの左腕に襲いかかり、心意光を纏っていたとしても防ぎきれないダメージがディザスターの鎧を破壊し、シルバー・クロウの装甲を露にし始めた。

 

 幾ら最強の鎧だとしても、攻撃を反射するなんて芸当出来るはずもない。

 それに左腕は既にシルバー・クロウの姿だ。

 今心意のオーラを切らせばたちまち破壊されてしまうだろうと、左腕に反射する自身の姿を見ながらハルユキはそう考える。

 

 

 防ぎきれなくても良い、この攻撃を受け流しさえすればーーーーー。

 

 無意識だったのかもしれない。

 《獣》に支配されかけながらもハルユキは自身が思い描く最強のバーストリンカーの動きを思い起こしていた。

 顔も名前も今の状態では正確に思い起こせないけれど、あの流れるような美しい動きを、あれはたしかーー。

 

 

 『柔法、と言ってな』

 

 

 そのフレーズが頭に響いた時、キリトにも、《獣》にも、そしてハルユキにすら予想出来なかった出来事が起きた。

 

 

 「なにっ…!!」

 

 

 突然、心意光に包まれたシルバー・クロウの左腕のグリーン色のロット部分が変形すると、まるで受け流すようにキリトの心意技を弾いたのだ。

 

 「ぐっ………」

 

 丁度その辺りでキリトにも限界が来たのか、彼が膝を付くと共に攻撃は収まる。

 瞬時に再生されていく左腕の装甲を見ながらハルユキは先程の現象は何だったのかと考えるが、些細なことだと目の前の敵を倒すことに意識を戻す。

 

 「クロウ!!駄目だ戻ってこい!!」

 

 キリトが必死に声をあげるが、クロム・ディザスターの衝動に呑まれているハルユキには、あまり反応が見られない。

 ハルユキにとってキリトは尊敬と嫉妬の対象でもあること、ディザスターがキリトに激しい怒りを覚えていたことも関係しているのだろうか。

 

 「ハル!!!」

 

 しかし、そんなハルユキの耳に別の声が届いた。

 視線を向けると、そこに立っていたのはライム・ベルと、シアン・パイル。

 そして彼らを運んできたであろうスカイ・レイカーが其処にいた。

 

 「タク……チユ……」

 

 思わず幼馴染み二人の名前を口に出したハルユキの思考は、その瞬間正常に戻った。

 自分が何をしたか、そして今何をしようとしていたのか。

 しかし思考できたのはそこまでだった。

 再びハルユキの思考を《獣》が侵食し始める。

 

 「ぐっ……ぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 「待ってなさいハル!直ぐに私が!!」

 

 その様子を見たベルは、その鐘をリンゴンと鳴らし始める。

 あれは不味いと《獣》が叫びを上げた。

 

 「ルルルオオオオ!!!!!」

 

 大きな雄叫びと共に、《獣》は小さな新緑色のアバターに飛びかかる。

 しかし目の前に青色のアバターが立ち塞がった。

 

 「ハルーーー!!!」

 

 負けじと雄叫びをあげながらディザスターに組み付いたシアン・パイルは、その杭をディザスターの鎧に突き付けた。

 ライム・ベルを優先的に倒すことに意識を割いていた《獣》は、その状態に遅まきながら気づく。

 

 「《フラッシュ・ブリーーー」

 

 「《ライトニング・シアン・スパイク》!!!」

 

 回避運動を取るよりも早く放たれたシアン・パイルの必殺技は、激しい衝撃と共にディザスターの体をヘルメス・コードに縫い付ける。

 

 「ハル!!目を覚ますんだ!!」

 

 必死に呼び掛けるシアン・パイルの声を《獣》は鼻を鳴らしながら馬鹿にする。

 

ーー無駄ダ。コイツハ既ニ我ト深ク繋ガッテイル。

ーー全テヲ破壊スル圧倒的ナ能力ヲ求メ、我ノ力ヲ欲シタノダ。

 

 ディザスターは自身を拘束する杭を砕こうとその手に心意光を展開し、杭を握りしめる。

 力を込めれば容易く粉砕される筈だったそれは、シアン・パイルが杭に込めた心意によって防がれていた。

 

 「君はそんな誘惑に負けるような奴じゃない!!どんなときだって、諦めれば良いのに何度も立ち上がって、立ち向かったじゃないか!!テイカーの時だけじゃない、僕と戦った時だってそうさ!!」

 

 しかしディザスターの心意とタクムの心意では力が違い過ぎた。

 シアン・パイルの杭は半ばで折られ、ディザスターはその体を自由にし、怒りの咆哮を上げてシアン・パイルに襲いかかる。

 

 「君はそんな弱い奴じゃない!!」

 

 しかしパイルは臆することなくそう叫ぶと、自身の強化外装から心意の剣を抜き放つ。

 

 「《蒼刃剣(シアンブレード)》!!!」

 

 心意の剣を構えたパイルをバイザーの下から睨み付けたディザスターは瞬時に彼の構え、癖を捉えて大剣を振りかざす。

 青型アバターとはいえ、ディザスターが扱える剣技と比べれば彼の攻撃など雑魚同然。

 剣道が加速世界で培われた剣術に敵う道理などない!!

 

 「うおおおおおおおおお!!!!!」

 

 思考が加速し、全てがゆっくりに見える。

 剣道の技である面も、胴も、籠手も、どれも円の動きである。

 初動を読めれば十分に対応可能だ。

 

 そう考えていたからなのか、自然と選択肢から外していたのだと思う。

 バイザーの攻撃予測が映し出したのは《点》。

 同じように踏み込んだシアン・パイルの剣が強く突き出された(・・・・・・)ことに気づいたのは、いくら《獣》でも反応しきれない距離であった。

 

 「ハルぅぅぅ!!!!!!」

 

 パイルの剣はディザスター喉の下、丁度胸に向かうように突き刺さり、更にその体を貫こうとパイルは力を込める。

 

 「グル……ルルルオオオオオオオ!!!!」

 

 しかし、カウンターの突き技がクロムの鎧を貫くより先に凄まじい速さで動いたディザスターの腕がタクムの剣を掴む。

 まるで肉を切らせて骨を断つように、勢いよく振りおろされた剣が激しい衝撃と共にシアン・パイルを弾き飛ばした。

 

 「うああああああああっ!!!」

 

 心意光も纏っていない普通の攻撃であったが、パイルは声をあげながら吹き飛ばされていく。

 浅くであるが胸に突き刺さったパイルの剣を抜いたディザスターの傷は、やや時間を置いて修復される。

 

 邪魔者はすべて消えた、後はあの新緑色のアバターだけだと思考した《獣》であるが、胸の部分に違和感を覚えて立ち止まる。

 その場所は先程シアン・パイルの剣が突き刺さった場所だ。傷も修復したはずなのに胸はズキズキと痛む。

 

ーー知っている、この暖かさは、この痛みは。

 

 ディザスターの嫌う正の心意。

 その暖かな心意が、意識のそこに押し込められていたモノを呼び覚ます。

 

 「《シトロン・コーーーーーーール》!!!!」

 

 ついに放たれるライム・ベルの必殺技。

 ディザスターはそれを回避しようとするが、思うように体が動かない。

 

ーー……め…ろ。

 

 困惑した《獣》が聞いたのは、最早自分と同調して破壊の衝動に染まっていた筈の声。

 

ーー僕の、ーーーーにーーー。

 

 光が近づく。

 なんとしても回避しなければならないのにこの体は動かない。

 

ーー僕の、仲間にーーーー。

 

 「手、を……出すなぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 雄叫びを上げながらディザスター…いや、シルバー・クロウはライム・ベルが放った必殺技の光に突っ込んだ。

 アバターの状態を巻き戻すその力は、強化外装であるクロム・ディザスターの鎧の装着を解除し始めた。

 

ーー何故ダ、何故我ヲ拒ム!!

ーー先程マデノ戦イノヨウニ、我ヲ受ケ入レヨ!!

ーーオ前ダッテ理解シタ筈ダ、我ノ力ヲ!!

 

 「ああそうだ、理解したさ!確かに僕は弱い、でも、でも仲間を、皆を傷つけて手に入れる強さなんてーー」

 

 力の本流の中で膝を付くキリトを見る。

 氷の地面の上で立ち上がりこちらに駆け寄ってくる親友を見る。

 とてつもない罪悪感がハルユキの胸を襲う。

 

ーーごめんなさい、キリトさん、ごめん、タク。

ーー僕が弱いから二人を傷つけてしまった。

 

 「お前と融合して、何となくだけど、わかった。お前は確かに凄いと思う。ほんと、呪いさえなかったら喉から手が出るほど欲しいよ」

 

 これはハルユキの本心でもある。

 圧倒的な防御力、強力なアビリティや、攻撃予測。

 それらがあればきっとバトルも簡単に勝てるのだろう。

 

ーーナラ!!

 

 「でもさ」

 

 唸り声を上げる《獣》に声を被せるようにハルユキは話す。

 

 「そんなの、初めからチートプレイして無双してるだけじゃないか。僕も否定はしないけど、そんなのつまらない」

 

ーーツマラナイ…ダト?

 

 《獣》も絶句である。

 いつの間にか加速世界の怪物と普通に会話している自分が馬鹿らしくなるが、それでもハルユキは言葉を続ける。

 

 「お前キリトさんと戦ってどうだったよ。やることなす事防がれて、手痛い一撃くらってさ。しかも最後のアレ、びっくりしたよな。シルバー・クロウの装甲が攻撃を受け流したんだぜ?」

 

ーールル、アノ黒イ奴ハ気ニ入ラナイガ、貴様ノヨウナ存在ニ、アノヨウナ能力ガ存在シテイタコトニハ少シ驚イタ。

 

 何だよ、結構饒舌じゃないかと軽口を叩くと、抗議の唸り声。

 

 「だからその、僕にも、シルバー・クロウにも、まだまだ強くなれる可能性があったんだ。だから、お前の力はいらない」

 

ーーグルル、貴様ノ妄言ニハ付キ合イキレヌ。

ーーコンナニモ我ト深ク繋ガッテイルトイウノニ。

ーーダガ、貴様ハ必ズ我ノ力ヲ求メル。必ズダ。

 

 その時を楽しみにしていると、最後に《獣》はそう言い残し、シルバー・クロウの奥深くに消えていく。

 

 その気配を感じながら、復讐ですべてを破壊するだけの存在である《獣》にも、戦いを楽しむ感情があるのではないかとハルユキは思っていた。

 

 《獣》は否定するだろうけれど、キリトと戦っているときの感情も、彼を倒せると思ったときの叫びも、何処となく復讐以外の感情も感じとることができたのだから。

 いつか《獣》とも手を取り合えるときがあるかもしれない。

 それはとても、低い可能性のことだろうけれど。

 

 でも、それでも今は。

 

 

 「僕は、シルバー・クロウだ……」

 

 

 力なくその場に座り込んだハルユキは、小さくそう呟いた。

 

 

 

 

 

 力なく座り込んだシルバー・クロウを見た俺は、ふぅ、と息を付くと、氷の地面に座り込む。

 青薔薇の剣による《記憶解放術》と、夜空の剣の《武装支配術》を立て続けに使ったのはやはり無理が祟ったようで、また動くには少し休まないといけないようだ。

 

 「さっきの…《クロム・ディザスター》……」

 

 口に出しながら先程相対していた怪物を思い起こす。

 剣を交える度に感じ取れた強い感情は、ただの怒りなどではない。

 あれは世界の悪意そのものと言った感じだ。

 

 どこか、そう。

 

 アンダーワールドで死闘を繰り広げた《ガブリエル・ミラー》までとはいかないが、奴のような深い、どこまでも続くような闇、消えることのない、浸かったら戻れないような底知れないものを感じた。

 

 俺がハルユキに戻ってこいと声をかけたのも、彼がその闇に呑まれていくのを感じたからだ。

 

 ただ、あの大剣と激突した際に一瞬だけ別のナニカを感じた気もしたが、それがなんなのかは知るよしもない。

 

 

 ……ユージオに助けられたな。

 

 

 キラリと光る青薔薇の剣を撫でていると、キィッという音とともに、視界の端に車輪が見えた。

 顔を上げると、車椅子型の強化外装に搭乗した《スカイ・レイカー》が心配そうな顔で俺を見ていた。

 

 「剣士さん、あの心意技は……いえ、それよりも大丈夫ですか?」

 

 「…怪我という怪我は負ってないし、大規模な心意技を使って疲れただけです。ありがとう、助けに来てくれて」

 

 よくよく考えれば俺のような最近現れたバーストリンカーがあんな強力な心意技を発動できる時点で問題である。

 それこそ、王に目を付けられてしまっただろう。

 

 ミッドナイト・フェンサーの二の舞になって、再び直葉を悲しませるような目には遭わないように気を付けなければ…。

 

 「シィィィィット!!!」

 

 そう考えていると、一際大きな声と共に骸骨男ーー《アッシュ・ローラー》が氷の足場に降り立った。

 よくよく見ると《プロミネンス》の《ブラッド・レパード》や、リーファ達も後から続いてきたようだ。

 

 ポカンとその光景を見ていると、アッシュがずんずんと大股でこちらに歩いてくる。

 

 「ヘイ!真っ黒野郎!!お前がこのよくわかんねぇアイスマウンテン作っちまったせいで、俺様のシャトルが止まっちまったじゃねぇか!!」

 

 「え"」

 

 そう言われて氷の足場から下を見ると、氷に邪魔されてこれ以上進めないシャトルが四台、取り残されていた。

 

 「アッシュ、言葉遣いが汚いですよ」

 

 「し、師匠!?いやあの、これは…」

 

 やりすぎたと心の中で冷や汗をかく俺を他所に、レイカーが彼に言葉遣いを注意していた。

 しかしこれでは俺もレースを壊したようなものだ。

 

 「NP、どうせシャトルは壊れてた」

 

 そう考えていた矢先にかかる声は、ブラッド・レパードだ。

 そうなの?とアッシュに視線を向けると、彼はあー…と唸り。

 

 「…わりぃ、俺様も気が立っちまってよ。だからその…あの渦を止めてくれたことには感謝してんだ」

 

 すまねぇ。と謝るアッシュに頭を下げなくていいと声を掛けながら、彼の気持ちは最もだと考える。

 常日頃バイクに乗っている彼からしたら今回のレースをかなり楽しみにしていたに違いない。

 そういう部分も含めて、今回の事件はかなり大きな影響を及ぼしてしまったと思う。

 

 「っと、そんなことよりお前らに話したいことがあってよ」

 

 「提案、聞いて欲しい」

 

 そう言った二人は全員を集めると、ヘルメス・コードのレースを再開させたいと言うことを話した。

 シャトルはもう動かないが、ジグソーの心意技を受けた二人は必殺技ゲージが溜まっており、それを消費することで発動できる《壁面走行アビリティ》を使うことで、ヘルメス・コードを登ると言うものであった。

 どうやらやれることを全部して、このレースに区切りをつけたいらしい。

 

 「そんで鴉野郎と師匠の協力を仰ぎたくてこうして話をしたって訳よぉ!!」

 

 「なるほど」

 

 二人のアビリティで限界までヘルメス・コードを登り、そこからシルバー・クロウの翼、スカイ・レイカーの《ゲイルスラスター》でゴールまでたどり着こうとする作戦。

 なるほど試してみる価値はありそうだ。

 アンダーワールドでカセドラルの外壁を登った俺としても登ってみたい気はするが、ゴールまで一体どれくらいの時間がかかるかわからない。

 非常に、非常に残念だが俺は参加を諦めることにした。

 

 あとは二人の意思なのだが。

 

 「私はやります」

 

 レイカーは話を聞くと、力強く頷いた。

 次いでシルバー・クロウへと視線が移るのだが、先程から俯いている彼は力無く首を横に振ると。

 

 

 「ごめんなさい、僕は……できません」

 

 

 掠れた声でそう言ったのだった。

 

 




最近何か事件が起きても次の話で終息してまた別の事件が始まるって言うのが続いてるイメージ

シルバー・クロウの可能性として、先にチラッと顔見せさせたアビリティ君
心意の光を纏っていれば、同じように出来ないかなってこう…思ったんです(言い訳)
今のまま再現しようとしたらそらレインのレーザーでジュッとなりますけども


タクムにも活躍させたかったんです
彼がトラウマになっていた突き技を使ったっていうのが個人的に推していきたいところです(語彙力)
あとシアン・ディザスターなるものが最近気になってます

ディザスターを自在に使えるハルユキってチートですよね
メタトロンさんもしもべのハルユキに既に契約者的なのがいたらもう嫉妬であの極太ビーム連射ですよ連射

最後の言葉はハルユキ君のメンタル的にあそこまで暴れたら僕は参加したくないですって言うと思うんです

今回は無くなったと思っても人との絆、関わりは残っているというのをイメージしました
あれ、前々回の夜空の剣士と同じ……??

言いたいこと言ってたら何時もより喋ってました

それではまた次回!!


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第四十四話:理由はその背に

こういう文章はせこせこ書けるのにレポートとかで詰まるのは一体何でなんでしょうね

今日道歩いてたら太めの釘を踏んづけました
痛かったです(こなみかん)

それではどうぞ!


 「なっ……クロウ!!」

 

 「ちょっとクロウ!!」

 

 《シアン・パイル》と《ライム・ベル》は、幼馴染みの思わぬ返答に声をあげてしまった。

 

 「……そら無理強いはできねぇけどよ…理由を聞かねえと俺様もアンダースタンドできねぇぜ」

 

 この返答は予想していなかったのだろう。

 困ったように頭を掻く《アッシュ・ローラー》に、ハルユキは苦笑いをしながら答える。

 

 「簡単な話ですよ、誰も僕みたいな化け物を望んでいない。たまたま戻れたから良いけど、僕はもう加速世界の時限爆弾だ」

 

 《クロム・ディザスター》の呪縛から逃れたとはいえ、彼がディザスター化した事実からは逃れられない。

 落ち着いたなら、もう何もしないで、できるなら迷惑をかけずに消えて欲しいと願っている筈だ。

 変わったと思ったのに、変われると思ったのに。

 いや、加速世界なんて無かったんだ。

 何も知らなかった、元のいじめられっ子のデブユキに戻るだけ。

 

 「NP」

 

 再び俯いた《シルバー・クロウ》の肩を叩き、声をかけたのは《ブラッド・レパード》である。

 彼女はハルユキを連れ添って観客席の近くに移動しはじめる。

 

 「や、止めてくださいパドさん…」

 

 罪悪感がある手前強く言えないが、これは完全に公開処刑だ。

 観客席から批判と暴言の嵐が飛んでくるに決まってる。

 そんなハルユキの心情を知らずに、レパードはすぅと息を吸い込み。

 

 「皆、聞いてほしい。私達は今から全員で協力してゴールを目指そうと思う」

 

 そう、普段物静かな彼女からは想像できないような、それでいて良く通る声で、観客席のバーストリンカーに話しかけたのだ。

 勿論観客は困惑した声を上げ始める。

 

 「シャトルはもう壊れちまっただろー!?」

 

 「どうするんだよー!?」

 

 やがて先程話題になったシャトルの話が飛びだし、周りの観客もどうするのかと期待に満ちた顔でこちらを見下ろしている。

 

 「ヘイヘイヘーイ!!お前達フォゲットしてんじゃねーか!!」

 

 レパードがその質問に答えようとしたとき、アッシュが割り込むようにして声をあげる。

 やがてハルユキの隣に来たアッシュはバシバシとハルユキの背中を叩き。

 

 「この鴉野郎は《飛行アビリティ》持ちなんだぜぇ!!こんなスモールなヘルメス・コードなんてベリーハイスピードでクライミングできるに決まってんだろ!!」

 

 レパードよりも大きな声でアッシュがそう言うとギャラリーも確かにそうだと次々と頷き合った。

 そして誰が言ったのか、最初に声をあげたバーストリンカーの声は否定でも、非難する声でもなかった。

 

 「確かにそうだ!!」

 

 「頼むぞカラスーーっ!!」

 

 「さっきは良く頑張ったぞーーっ!!」

 

 「私達も最後まで応援するからーーっ!!」

 

 どわあああっ!と沸き起こる歓声。

 アッシュとレパードはお互いに頷きあうと、どうだと言わんばかりにシルバー・クロウを見る。

 

 対するハルユキは思っても見なかった声援にただただ困惑していた。

 だけど、胸の奥が暖かくなっていくのを感じる。

 

 気がつけば視界がぼやけていた。

 

 「あれ…っなんで……」

 

 アバター姿のシルバー・クロウからは涙が出ないはずなのに、今確かにハルユキは、シルバー・クロウは泣いていた。

 

 「ありがとう…ございます……!」

 

 ペコリ、と観客席に頭を下げたハルユキはレパードとアッシュに向き直る。

 

 「ご迷惑おかけしました。あの、レースの件…僕も全力を尽くします」

 

 返答は「K」という短い言葉と、頷きながらトン、とシルバー・クロウの胸を叩くアッシュの拳だった。

 

 

 

 

 「それじゃあ僕のパイルをカタパルト代わりに、リーファが勢いを付けて飛んで距離を稼ぐ。そこからは二人に《壁面走行》していただいて、クロウ、レイカーさんの順に飛行してもらう形で良いですか?」

 

 「良いもなにも」

 

 「俺達は役に立ちそうにないからなぁ…ううむ、機竜が欲しい」

 

 「うー…何か歯がゆい」

 

 作戦プランを立てたパイルが確認を取ると、黒の王とキリトのダブルブラックコンビとベルはお手上げだと言わんばかりの返答。

 キリトに至ってはボソボソと何かを呟いていたが、よく聞こえなかったので今回はスルーしつつ、タクムは準備運動をしているリーファに声をかける。

 

 「リーファ、大丈夫?」

 

 「んー?んー…四人を抱えてジャンプするのは初めてだけど、多分大丈夫だと思う」

 

 「それもそうなんだけど、その…」

 

 違う、聞きたいのはそんなことではないのだ。

 《妖精》の異名で呼ばれる《リーフ・フェアリー》の背には、シルバー・クロウの翼程ではないにしろ、羽が生えている。

 しかしその羽は空を飛ぶモノではなく《跳躍力強化アビリティ》の際の細かな軌道修正や、ステップ回避の際の助けなど、小回りを利かせる為のモノであった。

 

 蝶のように舞い、蜂のように刺すと言った戦い方をできるのは確かに凄まじいが、純粋に空を目指す方向で見ると彼女の能力はあまりにも二人に比べて差が出ている。

 

 「…あー……もしかして、私がクロウとレイカーさんと一緒に跳ぶ(・・)のを気にしてないかって言う…?」

 

 「う、うん」

 

 タクムの歯切れの悪さに気づいたのか、準備運動を終えたリーファは困ったように頬を掻きながらパイルに振り向く。

 

 「ええと…パイルだから言うけど、私のアバターって昔あった出来事の影響を強く受けてるんだ」

 

 リーファ…桐ヶ谷直葉は兄の桐ヶ谷和人と従兄妹である。

 それを知ったのは本当に偶然であった。

 何時ものように兄を探して家のドアを開けようとすると、部屋の中から母と兄の話し声が聞こえた。

 和人が10歳だったので当時彼女は9歳。

 

 話の内容は和人が家の住基ネットから自分が養子であったことを突き止めたこと。

 

 幼い直葉にはよくわからなかったが、なんとか理解できたのは自分と兄が本当の兄妹ではなかったことだ。

 

ーーおにいちゃんは、わたしのおにいちゃんじゃないの?

 

 気がつけばドアを開けて二人の会話に入っていた。

 母と兄の驚いた顔も初めて見たが、それよりも当時の直葉は【本当の家族ではない=和人がいなくなる】だと本気で考えていた。

 

 思わず泣き出してしまった直葉に和人が駆け寄り、自分は直葉の兄だし、いなくなったりしないと安心させるように声をかけてもらったのを覚えている。

 

 「それから三年後…私が小六のくらいかな?お兄ちゃんが中学一年生になった時に《ブレイン・バースト》をコピーさせてもらって」

 

 それでその一年後に梅郷中に入学して今にいたると、そう話したリーファは黒の王の横に立っているキリトに視線を移す。

 

 「私の羽は、お兄ちゃんに追い付きたい、お兄ちゃんと一緒に居たいっていう願いが形になったんだと思う。ほら、蝶もひらひら舞いながら目的地に行くでしょ?多分、それと一緒」

 

 だからあまり気にしてないんだよと微笑んだリーファに、タクムは言葉を返すことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 「なあ、クロウ」

 

 「あ、キリトさん」

 

 先程はご迷惑を…と謝るハルユキに良いってと苦笑いを浮かべるキリト。

 一瞬の沈黙のあと、キリトはヘルメス・コードの上を見上げる。

 

 「なあクロウ、お前の翼は……」

 

 その言葉でハルユキは彼が何を言おうとしているかおぼろ気ながら理解する。

 全くこの人は何でも知ってるようで本当困る。

 

 「多分考えてる通りです。ちなみにどうしてそこまで考えたのか聞いても?」

 

 ハルユキの問いにキリトはううむ…と思案の表情。

 返ってきたのは昔のゲームで似たようなことを試したんだよという答え。

 なるほど昔のゲーム。

 《飛行アビリティ》について調べている時に、確か2020年代のVRMMOゲームで飛行を行うことができるゲームがあったようなと記憶している。

 

 キリトの過去については考えてもキリがないのでそういうもんだと思うことにしている。

 キリがない。キリトだけに。

 

 「僕の翼は空気を叩いて飛ぶわけで…空気の無い宇宙では恐らく飛べません。…キリトさん、僕がこのヘルメス・コードに師匠をどうしても連れていきたかった理由もそこにあるんです」

 

 「なるほどそうだったのか」

 

 「え?」

 

 「え?」

 

 ハルユキの言葉に頷いたキリトの返答が思っていたのと違っていたので困惑の声をあげると、キリトも同じような声をあげる。

 

 「ええと…キリトさんが言いたかったのは僕の翼は宇宙までは飛べないんだろう?…ですよね?」

 

 「厳密には違うというか…お前の翼はどこまで飛べる?って聞きたかったんだ」

 

 なるほど確かに厳密には違う。

 思わず早とちりしてしまったハルユキである。

 

 「そうかそれでレイカーさんを連れていきたいってこにょに…」

 

 「き、キリトさん!!」

 

 思わず大きな声を出したキリトの口を慌てて塞ぐ。

 いや別にこの場で言ってもいいんだけど、百聞は一見にしかずっていうし。

 あれ?そもそもヘルメス・コードはHPのロックが掛かってたんだから、必殺技ゲージを消費して飛ぶ《飛行アビリティ》は発動出来ないわけで。

 

 正常にレースが行われていた場合、どのようにして師匠にシルバー・クロウは宇宙空間で飛べないことを示そうとしていたんだ……?

 

 思考のスバイラルに陥りそうになったハルユキであるが、バシバシと装甲を叩いたキリトによって我に返る。

 

 「と、とにかく今はまだ師匠には伝えないようにしましょう!このままだと僕の目的が何一つ達成できないことに…!というか、嫌な思い出しかなくなります!」

 

 「お、オーケーオーケー…。……そうすると…よし、俺達も出来るだけのサポートをしてみるよ」

 

 「サポートって…具体的に何をするんですか?」

 

 どうみてもキリトの装備からはこちらのサポートをできそうなモノは見つからない。

 ヘルメス・コードに剣でも突き刺してクライミングするのか?

 いやそもそもあの壁は心意技じゃないと壊せそうにないし、キリトが登ってるうちにハルユキ達のほうがゴールしそうである。

 

 そんな疑問にどや顔で任せろと親指をつきたてたキリトに、ハルユキは不安しか感じないのであった。

 

 

 

 

 「フー姉、私達は信じて待ってるのです」

 

 「メイメイの言う通りだ。私達は着いていくことはできないが、ここで応援しているよ」

 

 「サッちゃん…ういうい…」

 

 思えばこのヘルメス・コードのレースは楓子にとって驚きの連続であった。

 もう会うことがないだろうと思っていた《アーダー・メイデン》が現れたり、シルバー・クロウが《災禍の鎧》を纏ったり、キリトがとんでもない心意技を発動したりなど。

 そしてこのレギオンの壁を越えた協力でヘルメス・コードを登ろうとする試み。

 

 加速世界のマイホームで空を眺めていた時と比べると劇的すぎる変化だ。

 あれもこれも全部、一羽の鴉が……いや、あの時新宿で黒の剣士に助けられてからこの事は決まっていたのかもしれない。

 

 「アッシュ」

 

 「う、ウィッス!」

 

 律儀にピシッと背筋を伸ばす骸骨戦士にクスリと笑いながら、車イスをカラカラと動かしながら近寄る。

 それでも、シルバー・クロウがあの場所を訪れなければ自分は再び加速世界に顔を出すことはしなかっただろう。

 そしてその要因を作り出したのは紛れもなく目の前の《アッシュ・ローラー》である。

 だからそう、屈むように言って恐る恐る屈んだアッシュの頭を、楓子は優しく撫でた。

 

 「ありがとう、アッシュ。あなたが鴉さんを連れてこなければ、私はこうしてロータス達とまた戦うことはなかった。あなたのお陰よ」

 

 「しししし、師匠……き、急に何してっ!?」

 

 慌てて立ち上がって距離を取るアッシュに、楓子はクスクスと笑う。

 本当、運命と言うのは面白いものだと思う。

 あの時、あの子に氷水を掛けられなければ、こうして出会うことがなかったのだから。

 

 「し、師匠がお礼を言うなんて、何かが起きるに違いねぇ…こりゃあスピアーがレインだぜ…いや、アローレイン…?」

 

 「もう、そんなことあるわけないでしょう!」

 

 何時もの言葉使いにもキレがないが、楓子にはアッシュがその仮面の下で、とても嬉しそうにしているのがわかった。

 そのアッシュが、こうしてレースを続けたいと言っているのだ。

 師匠としても応えてあげねばならない。

 

 

 「そろそろ行きますよアッシュ。頑張りましょうね」

 

 「…!ウィッス!!俺様の華麗なドラテクで師匠をゴールまでパーフェクトに送り届けマッシュ!!」

 

 「……アッシュが運ぶのは鴉さんじゃありませんでしたっけ?」

 

 「そこはこう…言葉の綾っつうか…勢いッスよ師匠!!」

 

 

 願わくば、あなたに出会えて良かったというこの思いが私の《子》にも伝わっていますように。

 

 




リーファの過去を軽く掘り下げました
聞こえちゃったモノは仕方ないよね

普通に壁面走行させても良かったけど折角だしリーファにも手伝ってもらいます
クロウ君もフラッシュ・ブリンク二回使ってるからね、ゲージが少し不安と言うことで

真面目にアッシュが居なかったらテイカー戦でクロウ詰んでたと思います
やはりグレウォ兼ネガビュメンバーのアッシュさんは違う

それではまた次回もよろしくお願いします


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第四十五話:跳んで、飛んで、翔んで

今週は風邪もひかずに釘も踏みませんでした

急激に寒くなってきましたね、皆さんも体調には気を付けてください

それではどうぞ!


 「いよぉし!!それじゃあ俺たちの…あー…ファイナルレースをしかと目に焼きつけやがれぇー!!」

 

 アッシュの大声と共に観客席のテンションも再びレース開始時まで復活している。

 もうMCやっても良いんじゃないかなとハルユキはアッシュの隣で内心呟く。

 

 「それじゃあ僕のパイルの近くに!リーファが跳ぶ時に合わせて打ち出すので、彼女の手をしっかり握ってくださいね!」

 

 パイルの言葉にコクリと頷いた四人は、あらかじめ決められたペアに別れて待機する。

 レパード、レイカーペアと、クロウとアッシュペアだ。

 

 「おい鴉野郎!!おめぇ変なとこ触ったら容赦しナッシングだからな!!」

 

 「さ、触りませんよ!!

 

 リーファが四人を持ち上げた後に壁面走行を始めるため、クロウはアッシュにおんぶされていて、レイカーはレパードにお姫様抱っこである。

 

 「はいはーい、それじゃあ僭越ながら私、《ライム・ベル》が開始の合図をさせていただきまーす!」

 

 ブンブンと右腕の鐘を回しながら観客席に声をかけたベルは、ヘルメス・コードの外壁の近くに立つとビシッと指を三本立てる。

 

 『3!!』

 

 会場の全員が同じように指を立てた。

 ロータスは剣だって?中の黒雪姫はちゃんと立ててるよ指。

 

 『2!!!』

 

 まだレースは終わらない、終われない。

 よくわからない妨害にあったからといって、そこで諦めたらバーストリンカーじゃない。

 滅多にないバーストリンカー全員が一丸となって楽しめるイベントなのだ。運営もっと仕事しろ。

 

 『1!!!』

 

 会場の声が揃った瞬間、ベルはその鐘を思いっきりヘルメス・コードの外壁に叩きつけた。

 リンゴーン!!と大きな音が鳴り響く。

 

 彼女からしたら右腕を鉄の壁にぶつけたようなものなので、わりと痛いが気合いで堪える。

 こう言うのは盛り上がらなきゃいけないのだ。

 

 すぅ、と深呼吸したリーファは待機しているパイルにコクリと頷き、両頬をパンッと叩く。

 怖じ気づいてる場合じゃない。私は私の全力を出すだけだ。

 

 「じゃあ、行きます!!」

 

 そう言ったリーファが全速力で駆け出し、跳び箱のライター板のようにパイルの杭を踏みつける。

 ガシュンッという音と共にハルユキの体は凄い勢いで引っ張りあげられた。

 

 リーファの《跳躍力強化アビリティ》はパイルの協力もあってその力を大いに発揮し、普段より高く彼女達を打ち上げていた。

 

 「うわわわわっ!!」

 

 「フライッハァーイ!!」

 

 思ったより強い勢いに声を上げるハルユキと、楽しそうに叫ぶアッシュ。

 どうやらヘルメス・コードもこの辺りから空気が段々薄くなるようで、重力も軽くなっているようだ。

 リーファのジャンプも普段より高くなっており、彼女自身も驚きの表情を浮かべている。

 

 「あっ……」

 

 しかしジャンプはあくまでもジャンプなのだ。

 リーファでは重力には逆らうことができない。

 

 徐々に減速していくリーファの表情からは歯痒さが読み取れた。

 

 「ごめんなさい、後はーーー」

 

 「いや、まだだぞリーファ!!」

 

 地上から響くブラック・ロータスの声に全員が視線を向けると、なんと彼女はパイルバンカーを掲げたシアン・パイルの上に立っていた。

 

 何をする気だろうとハルユキが考えていると、そこに向かって走る緑と黒い影。

 考えなくてもわかる。ライム・ベルとキリトだ。

 

 キリトとベルはパイルを足場にするようにロータスの剣に乗ると、彼女は剣を振るようにして二人を打ち上げた。

 レベル9の力で打ち上げられた二人はぐんぐん加速するが、流石に届かない。

 しかしキリトはベルの鐘を足場にすると再びジャンプ。更に腰の二刀を抜き放つと、背中に背負っていたアーダー・メイデンに声をかけた。

 

 彼女はその言葉に頷くと先程ロータスの剣に乗ったキリトのように彼の剣に乗り、打ち上げられる。

 

 「頼むぞメイデン!!」

 

 「メイちゃん!!」

 

 「リーさん!フー姉!皆さん!!これが私達ができる全力の支援なのです!!」

 

 そう言いながら彼女はその弓を構えると、炎に包まれた矢を連射した。

 勿論矢が飛んでくるこっちからしたらたまったものではない。

 

 「し、支援って!!ただ矢を放ってるだけじゃないですかぁー!!あ、当たる!!当たる!!」

 

 「リーファ!!!剣を!!!」

 

 「っ!!」

 

 ハルユキの叫び声の中聞こえるキリトの声。

 まさか、いやあのやることなすこと滅茶苦茶な兄なら考えるだろう。

 目尻に熱いものを感じながら、リーファは虚空に向かって声を上げる。

 

 「《ソード・オブ・ミッドナイト》ーーー!!」

 

 漆黒の雷鳴と共に現れた片手用直剣は、持ち主のリーファの両手が塞がっているためそのまま空中に投げ出される。

 

 しかし、ただ落ちるだけの剣はガッ!!とメイデンが放った矢と衝突し、まるで足場のようにその場に一瞬だけ浮く。

 

 「オーマイガー…マジかよ」

 

 あり得ない奇跡の連続に驚きの声を上げるアッシュ。

 

 

 「見えたのです!!リーファさん!!」

 

 「リーファ!!」

 

 「スグ!!!!」

 

 出現した剣に気づいたメイデンは、全霊を込めて剣に狙いを付けた矢を放った。

 リーファがその剣を蹴る瞬間に合わせて矢がぶつかる。

 

 

 『跳べ!!!!!!』

 

 

 リーファの背に、暖かくて懐かしい手の感触と声。

 その声の主が自分を押し上げてくれる。

 

 その一瞬だけ、確かな足場を手にいれたリーファは再びジャンプしていた。

 皆の後押しを受けながら再び加速したリーファは、あははは、と思わず笑い声をあげる。

 

 「空中の二段ジャンプなんて考えたこと無かったよ!!……ほんと!!お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだから!!」

 

 滅茶苦茶で無茶苦茶で、火の矢が彩るなか再び飛び上がったリーファの姿はまさに妖精のようで。

 観客も思わず感嘆の声をあげる。

 この空はリーファの一人舞台。

 シャトルに追随する設定によってこれ以上動かない観客席にいるバーストリンカー達は、まだ彼らがゴールすらしていないのにゴールすると、全員確信していた。

 

 

 

 

 まさかの二段ジャンプによる勢いも徐々に落ちはじめ、当初の予想より遥かに長い距離を稼いだリーファはクロウとレイカーに視線を向ける。

 

 「跳べる私はここまでです。後は二人が飛んで、翔んでください」

 

 「リーファ……」

 

 「ええ、必ず。必ず辿り着くわ」

 

 「GJ、貴女のおかげで成功する確率がグッと高まった」

 

 「そう言うこった!後は俺たちにギガ任せろ!!」

 

 四人の言葉にリーファは微笑むと、そっと手を離し、重力に身を任せる。

 その間に《シェイプ・チェンジ》をしたレパードと強化外装であるバイクを取り出したアッシュは各々の《壁面走行アビリティ》を発動させて垂直のヘルメス・コードを進み始めた。

 

 アッシュに捕まりながら、ハルユキは落ちていくリーファの姿をその目に焼きつけていた。

 

 「次は……僕の番だ」

 

 反対側でレパードの背に乗るレイカーを見た彼は、小さく、そう呟く。

 

 当初の目的、ヘルメス・コードのゴールで、ハルユキはレイカーに伝えなければならないことがあるのだから。

 

 

 

 「しっかしまあ、あの妖精ちゃんのお陰でかなり短縮できたな。クロウ、おめーのゲージも持ちそうだな」

 

 「あ、はい。ええと…さっきのいざこざで思ったより消費していたんで助かりました」

 

 アッシュの言葉にコクリと頷いたハルユキは、自身の必殺技ゲージを見ながらそう返す。

 クロム・ディザスターがキリトと戦っていた際に使っていた必殺技である《フラッシュ・ブリンク》の二回発動はそれなりに必殺技ゲージを消費していたため、成功確率が落ちるなとぼやいていたのだ。

 

 「NP、いざとなったらレイカーの心意攻撃でゲージを溜めてもらう予定たった」

 

 「え、えぇっ!?ままま、マジですか!?」

 

 外壁を登りながら伝えられる衝撃の事実にハルユキはレパードとレイカーに視線を向ける。

 いや、でもあの二人ならあり得なくもないかも…とハルユキが顔を青ざめさせる。

 

 

 

 

 

 

 「……冗談、プロミネンスジョーク」

 

 

 

 

 

 一瞬、空気が凍った。

 

 

 

 

 「……oh」

 

 

 「……え、ええと……」

 

 

 なんとか声を絞り出そうとするハルユキとアッシュだが、うまい言葉が見つからない。

 バイクの音がむなしく響く中、レイカーの笑いを堪える声が重い空気を破った。

 

 

 「鴉さん…っ、今のはレパードなりにあなたの緊張を解そうとしてたのよ…ふふっ、ああお腹が痛い」

 

 「レイカー……こう言うのは言う必要ない」

 

 「な、なるほど…?」

 

 レイカーの言葉に抗議の声をあげたレパードを見ると、気恥ずかしいのか顔を背けているのが見えた。

 

 

 「……ありがとうございます」

 

 突っつくのは野暮と言うものだろう。お礼を言ったハルユキの耳に、短くNPの返答。

 穏やかな空気に包まれたハルユキ達の向かう先に、やがてゴールらしきものが見えてきた。

 

 「あーあ、俺様もここまでか。妖精ちゃんのガッツのお陰でゴールできるかと思ったけど、限界みてぇだな」

 

 「こっちも」

 

 悔しそうに唸る二人だったが、直ぐに納得したようにお互いの運んでいる相手に視線を移す。

 

 「あとは任せたぜクロウ、そのなんだ。あの赤錆野郎とのバトルで起きたことは無くせねえけど、ヘコタレんじゃねーぞ。おめーはこの俺様とエターナルにライバルなんだからよ」

 

 「は、はい…!アッシュさん、ありがとうございます!」

 

 「レイカー。帰ってきてくれて良かった」

 

 「ありがとうレパード。………いつかカレントも…」

 

 「K、その時は必ず」

 

 お互いに言葉を交わしたあと、ハルユキは背中の翼をはためかせてレイカーの手を握りながら、徐々に速度を落とすアッシュとレパードを見る。

 

 「ところでここから落ちたらスカイダイビングの感覚味わえると思うんだけどよ。レパードの姐さんそこら辺どうシンキングしてる?」

 

 「……NP、その前に大気圏突入で起きる熱か、落下によって起きるHPの減少でHPが尽きる筈」

 

 その言葉に違いねぇと返したアッシュ達の必殺技ゲージがついに尽き、一瞬壁面で静止し、ふわりと離れた。

 

 「分け前ネバーフォゲットだからな!それと師匠をきっちりエスコートしろよクロウ!!」

 

 「楽しかった。CU」

 

 重力に引かれ、アッシュとレパードはゆるやかに落下を始める。

 レパードの言葉通り、システムによって再現されたダメージがロックされた二人のHPを削っていくようで、やがて緑と赤の光がハルユキ達の目に入った。

 

 「行きましょう、師匠」

 

 ええ、と頷いたレイカーの背中と脚に両腕を添えたハルユキは、背中の翼を震わせて穏やかに上昇し始める。

 

 やっと、ここまできたとハルユキは心の中で過酷なレースを振り返る。

 腕の中の彼女にあることを伝えるために一体どれだけの苦労をしたのだろう。

 

 「鴉さん?」

 

 徐々に速度を落としていくハルユキにレイカーの疑問の声がかかる。

 それはそうだ、必殺技ゲージは尽きてないし、ゴールはまだ先であるのに何故止まったのだろうか。

 

 「師匠、僕がどうしてあなたにこのレースに参加してほしかったのか。確かに師匠がいないと満足に戦えないと言う黒雪姫先輩の言葉も正解ですけど、僕個人があなたに伝えたかったことがあるからなんです」

 

 

 

 無数の星々が光るこの静寂の世界で、ハルユキは心の内に秘めていた言葉をレイカーに告げた。

 

 自分の翼は空気を叩いて飛ぶ。

 空気の薄いこの場所ではシルバー・クロウは飛ぶことができない。

 しかし、ゲイルスラスターはブースターであり、空気も関係なくこの場でも、宇宙をかけることができるのだ。

 

 「あなたのアバターは、ここで飛ぶために生まれてきたんだ。スカイ・レイカー……あなたは本来、宇宙戦用デュエルアバターなんです」

 

 長いようで、短いようで、だけどその言葉は長い間レイカーを縛っていた鎖を穏やかに紐解いていったのだろう。

 

 やがてハルユキから離れたレイカーは、背中のブースターを使って宇宙の果てまで飛んでいく。

 それはまるで流れ星のように、一筋の軌跡を描いてある一点、ヘルメス・コードのゴールへと辿り着いたのだった。

 

 こうして、ヘルメス・コードは終了した。

 しかし、この出来事が今まで続いてきた加速世界に大きな波紋を生じさせたのは消せない事実なのであった。

 

 

 




むちゃくちゃすぎた感じあるけれど皆で協力した感を出したかったので中盤はあんな感じになりました

ハルと師匠のやりとりはそこまで変化がないのでカットさせていただきました

それではまた次回…と言いたいんですけど、課題に追われてしまっているので投稿ペースが落ちるかもしれません

この場を借りてお詫びさせていただきます


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第四十六話:レースの終わりと事後処理

明けましておめでとうございます
時間取れるときに少しずつ書いてなんとか形にできたので投稿です

バーチャルユーチューバーにはまりました
YUNAも似たようなモノになれそうだなってふと思いました

ヘルメス・コードはコースから落ちたらHPの減少が始まっていくみたいです
まああんな高いとこからずっと落ちてたらトラウマになりますもんね

それではどうぞ


 俺の意図を汲んで空中二段ジャンプを成功させた《リーフ・フェアリー》を見送った俺は、うへぇと言う声と共に氷の地面に墜落ーーしそうになった所を《ブラック・ロータス》の剣の腹に受け止められた。

 

 「全く、毎度君は私達が思いつかないようなことをやってくれるな」

 

 「何事も挑戦、だろ?」

 

 彼女にお礼を言いながらそう返し、既に見えなくなった仲間達のいる方向を見上げる。

 ジャンプして思ったがこのステージはやはり空気が地上に比べて薄く、ただのジャンプでもそれなりに距離が伸ばせた。

 つまりはまあ、そこら辺の環境設定もシステム的に拘っている訳で、俺の予想が正しければ更に上に上がればそこは宇宙空間となるだろう。

 

ーーそれにしても

 

 「似てるよなぁ……」

 

 ちょくちょく感じられるアンダーワールドと加速世界の類似点に思わず呟いてしまう。

 限界加速フェーズが始まったあとの記憶はあまりないが、確か心意の翼でどこまで飛べるか試した俺は自分の力では宇宙に行けないことを知って、機竜を使って宇宙を目指した……気がする。

 いや、これはなんとも上手く言葉にできないのだが、そんなことしたようなしてないようなと、ひどく曖昧なのだ。勿論記憶のロック及び削除の作業をしてくれた比嘉さん達を疑うわけではない。

 

 落ち着いた後の俺ならきっと《世界の果て》を目指すだろうし、試行錯誤で色々とやるはずだ。と言うか、前にアスナとアリスとでアンダーワールドにログインした際に機竜については聞いて、明らかに俺らしき存在が造ったことがわかったので、まあそうしたんだろうなって。

 俺のことは俺がわかる筈だ……たぶん。

 

 

 と、ここで悲鳴をあげながら《アーダー・メイデン》が落ちてきて、俺の時と同じようにロータスの剣に受け止められた。

 リーファは俺たちよりも高く跳んだためかまだ降りてこない。

 もしくは落下によってHPゲージの減少が始まって強制的に《死亡》扱いになってしまったのだろう。

 

 「しかしまあ……」

 

 「ん…?」

 

 「とんでもないことが起きたな、と思ってな」

 

 ブラック・ロータスの声に反応すると、彼女は肩を竦めながら今回のレースについてそう溢した。

 

 「確かに長年秘匿されていた心意技、クーさんのクロム・ディザスター化、加速世界に激震が走ったのは間違いないのです」

 

 「あのジグソーとか言う奴、革命とか言ってたけど……」

 

 「六王は対応に追われるだろうな……無論、私もだが」

 

 メイデン、ベルの言葉に頷いたロータスは考え込むように俯く。

 

 「ま、まあそう言うのって意外と何とかなるんじゃないかな…?」

 

 そう言いながらロータスの肩を叩いた俺だったのだが、彼女はプルプルと体を震わせると突然此方に剣を突きつけてきた。

 

 「大体君も君だぞキリト!!なんだコレは!!あんな大規模な技を使うなんて、何てことをしてくれたんだ!」

 

 「え"っ」

 

 驚きの声をあげる俺に構わず、ロータスはマシンガンのように言葉を続ける。

 

 「クロウだけならまだ何とかなったさ!ああ!断言しよう!何てったってうちにはメイデンが居るからな!」

 

 「サッちんが怒ったのです。激おこなのです」

 

 メイデンがベルの後ろに隠れながらそう言いつつ、そそくさと離れていく。

 

 「君の!ことを!どう!説明すれば!良いと!思っているんだ!!」

 

 「そ、それはこう…突如現れた謎の剣士……みたいな」

 

 「それでハイそうですかなんて奴らが言うと思うか!!」

 

 あいにくギルドとか組織活動をしてなかった俺はレギオンマスターの気持ちがわからないようで、地雷のようなものを踏み抜いてしまったようである。

 助けを求めるように離れていったメイデン達を見るが、二人ともお手上げとばかりに首を横に振る。

 

 「聞いているのかキリト!!」

 

 結局、ロータスの説教はクロウ達がゴールするまで続いたのだった。

 

 

 

 

 

 「んん、それじゃあ、ヘルメス・コードレースお疲れ様会を始めたいと思う」

 

 レース終了後、ハルユキ達の家に集合した俺達はそれぞれコップにジュースを注ぎ、小さくではあるが祝勝会(あれで勝ったかは置いといて)を始めていた。

 各々が持ち寄ったお菓子を摘まみながら、話はやはりハルユキのディザスター化についてになる。

 

 「胸部分の装甲…ね」

 

 「アイツと接触したのはそこくらいしかないんです……まさか、本当にアバターに寄生なんてことが起きているなんて……」

 

 本当にすみません、と俯いたハルユキの表情は暗く、室内も釣られて重い空気になる。

 

 「いや、まだ諦めるのは早いぞハルユキ君」

 

 その空気を打ち破ったのはやはり黒雪姫だ。

 彼女はうむ、と頷くと言葉を続ける。

 

 「なんてったって我々は鎧を浄化する方法を知っているからな」

 

 「え!?」

 

 弾かれるように顔を挙げたハルユキに黒雪姫は再び頷くと、楓子のいる方向に視線を向ける。

 視線を向けられた楓子も力強く頷くと、膝の上で抱き抱えている少女の体を持ち上げた。

 まるでライオンキングの冒頭である。

 

 「彼女はアーダー・メイデン、そして今言った鎧を浄化できる方法の持ち主だ」

 

 【UI>改めまして、サッちんから紹介があったアーダー・メイデンこと四乃宮謡と申します】

 

 顔を赤くし、眉をひそめながらもパパッとチャットに書き込む精神力は称賛に値する。

 諦めているのだろう。そもそも謡はハルユキの家に着いた途端いち早く楓子に抱きつかれ、膝に乗せられたのだ。自己紹介も交えて何度か離すように言っていたが、笑顔で首を横に振られて結局こうなっていた。

 

 「じゃ、じゃあハルに関しては何も心配することはないですね!!」

 

 希望が見えたと言わんばかりに声をあげるチユリだが、黒雪姫はいや、と首を横に振る。

 

 「実は幾つか問題があってな」

 

 【UI>ご存知の通り、第一期ネガ・ネビュラスはある事件によって解散してしまったのです】

 

 「勿論赤の王を私が倒したという部分も少なからず関係しているが、真実はまた別なんだ」

 

 黒雪姫、謡、楓子の第一期ネガ・ネビュラスのメンバーは、彼女達が何故加速世界を離れることになったのかを話し始めた。

 ネガ・ネビュラスが解散した理由、それは加速世界にて長らく謎に包まれている場所である皇居(彼女達は《帝城》と呼んでいるらしい)を攻略しようとしたからである。

 現実世界で皇居に位置するその場所はそれぞれ四つの門が存在し、朱雀、玄武、青龍、白虎の四神と呼ばれる四体のエネミーが守護していて、それはもう半端ない強さらしい。

 彼女達はそこに注目したらしく、レベル10に到達する以外にブレイン・バーストをクリアする方法が《帝城》攻略だと睨んだらしい。

 

 「まるでゲームのラストダンジョンだな。確かにそこの奥には何かがあるに違いない」

 

 「攻略できたら確かにゲームクリアっぽいですもんね」

 

 「一つ目のクリアの道は閉ざされても二つ目に挑戦しましょうと、あの時の私たちはサッちゃんに言いました」

 

 【UI>サッちんは最後まで反対していたのですけど、最終的に来てくれたのです】

 

 「あ、あれはお前達が勝手に《帝城》に向かい始めたからだろうが!私はあの時攻略作戦は反対だと座り込んでいたぞ!」

 

 懐かしむように話していた三人だが、黒雪姫はこほん、と咳払いをして話を続ける。

 

 「…結果からわかる通り我々は蹂躙され、壊滅した。これがネガ・ネビュラス解散の真実なんだが、ここで問題の話に戻るんだ」

 

 【UI>四体のエネミーに対抗して四隊にわかれた私たち四元素は、他のメンバーを逃がすために囮になったのです。その結果フー姉を除いた私、アクア・カレント、グラファイト・エッジの三人はエネミーの目の前で力尽きました】

 

 「そ、それってまさか…」

 

 直葉の喘ぐような言葉に楓子はコクリと頷いた。

 

 「無限EK…予めセットしておいたグローバルネットの自動切断機能のお陰で全損は免れましたが、ういうい達は事実上アバター封印状態となってしまったの」

 

 無限エネミーキル、無制限中立フィールドでHPが0になったバーストリンカーは一時間経った後にHPが0になった場所で復活する。この現象がエネミーの前で発生してしまうと、復活したとたんにエネミーと戦闘になる。

 これが勝てたり、逃げることが可能な相手なら問題ないが、勝てない相手ならどうだろうか。

 復活しては倒されるを繰り返せばいずれBPは尽きてしまい全損、つまりブレイン・バーストの強制アンインストールに追い込まれてしまうことになる。

 

 【UI>確かに私には鎧を浄化…負の心意を打ち払う力がありますが、やはり災禍の鎧となると通常対戦の時間では消滅まで持っていくのは不可能なのです】

 

 「…つまりクロウの鎧を取り除くには無制限中立フィールドにダイブして、アーダー・メイデンを助け出さなきゃいけないわけか……」

 

 「まあ、その前に七王会議に出なければいけないんだがな」

 

 「七王会議?」

 

 「その名の通り、七人の王が行う会議さ。ヘルメス・コードで起きた出来事に関して、それぞれの王が話し合うんだ。これからの加速世界をどうしていくかと言うのも踏まえてね。議題はジグソー関連だろうが、レディオ辺りがクロウの鎧のことをつついてくるだろう」

 

 「本当は一刻も早く鴉さんの鎧を浄化したいんですけど、ここで私達が勝手に物事を進めてしまうと他の王から余計な反感を買いかねないんです」

 

 【UI>只でさえネガ・ネビュラスは色々やらかしてるのです。これ以上揉め事を大きくしないようにするのは得策なのです】

 

 「もう問題が大きいなら今更やらかしても変わらないと思うんだけど…ああいや、ナンデモナイデス」

 

 思わずそう返すと、ハルユキを除いた全員がお前がそれを言うのかと言った視線を向けてくる。

 ……やはり組織と言うものは難しい。

 キリトはその時その時で動くから本当に自分の行動で何が起きるか考えてくれ、とはユージオの談である。

 お、俺だってちゃんと考えてるし…!

 

 唇を尖らせてムッとしてみるが多勢に無勢なので大人しくコップに注がれたお茶を飲む。

 

 「…桐ヶ谷君……キリトのことは上手く説明するしかないな。……どうしよう」

 

 

 

 ……結局話し合いは続き、帰宅することになったのは18時を過ぎた後であった。

 

 俺や直葉の家は歩いて梅郷中に向かえる距離にあるとはいえ、楓子達は違うので駅まで送ることに。

 俺と直葉が外で待っている間に何か話していたのか、楓子達の間には何か憑き物が取れたような空気を感じたので、何かあったのか?と聞いたが、楓子に内緒ですと笑顔で言われてしまったので結局謎は謎のままなのである。

 

 

 「剣士さんも罪な人ですね、こうして女の子に囲まれてるなんて」

 

 「かこま…へ、変な事を言わないでくださいよ」

 

 楓子の言葉にそう返せば、謡もハーレムなのです、と悪乗りしてくる。これは確かにネガ・ネビュラスの男性陣の権威が無くなってきているなと、ハルユキ達の言葉を思い出す。

 

 「ふふ、桐ヶ谷君も大変だな」

 

 「私は関係ないですよアピールねサッちゃん。でも残念、鴉さんがいないこの場で色々聞かせて貰うわよ」

 

 「あ、それ私も聞きたいです」

 

 「なぁっ!?フー子はまだしも直葉君もか!?」

 

 黒雪姫に矛先が向いたのでふぅ、と息をつきつつ耳を澄ませることにする。

 アスナやシノン達と居たときはこのようなことはなかったので、何だかんだ他人の色恋沙汰を聞く経験は無いのである。

 エギルは結婚してるし、クラインは出会いを求めてるイメージ。シリカやリズなど周りの女性達からもそんな話は聞かなかったので新鮮なのだ。

 

 「ぐっ…な、なら直葉君はどうなんだ!最近タクム君と一緒にいることが多いと聞いているぞ!」

 

 「わ、私ですか!?」

 

 「な、何!?本当かスグ!!」

 

 だから黒雪姫の爆弾発言には思わず食いついてしまうのであった。

 大事な妹が誰かと付き合っているだなんて、これは兄として知らなければからない。

 

 「い、いや、確かにタクム君と一緒にいることが多いのは事実ですけどそんな、同じ剣道部だし領土戦で一緒に戦うことも多いだけで…」

 

 顔を赤くしながら首を横に振る直葉に意地悪な笑みを浮かべる黒雪姫。

 さて尋問だ、という空気が出てきたのだが残念なことに駅に着いてしまっていた。

 

 

 【UI>それでは失礼するのです。皆さん、今日はありがとうございました。なのです】

 

 「サッちゃん、剣士さん、直葉ちゃん、またね」

 

 謡と楓子がそれぞれ挨拶をしながら駅のなかに消えていった。

 二人の姿が見えなくなるまで見送った後、黒雪姫も二人とも今日はお疲れ。と言って帰っていった。

 

 「…俺たちも帰るか」

 

 「うん!」

 

 やや寒さが残る春の夜。

 多くの出来事が起きたヘルメス・コード縦走レースはこうして終わりを告げたのだった。

 

 




原作確認したところ限界加速後のキリトの記憶があるのは一ヶ月間くらいでしたので、前回の機竜が欲しい発言と矛盾が発生しました。
無理矢理ですが18巻の最後に再ログインした時に機竜について知ったってことでお願いします。

2026年八月辺りにキリトが再ログインしてるらしいので、知性間戦争?星王キリトとの戦いが年中に終わってれば一応辻褄を合わせることができますとここで後付けが可能だと大々的に言っていくスタイル。


ういういが来たことで六巻のやりとりに近いことが起きて顔合わせが早い段階で起きました

大きな流れを見るとクロウに鎧あるらしいけどどういうことなの?➡もう浄化しましただと納得する人いないだろうってことで七王会議はちゃんとやることに

キリトの周囲で恋愛事ないなって思ったので後半部分に少し入れました
キリトの周りの女の子は皆キリト一筋でしたからね
後はみんな相手がいたり、ティーゼが一番惜しかったけどね…悲しい

ところでアクセル・ワールドの最新刊が見つからなくてまだ買えてません
こいつぁひでぇや

それではまた次回によろしくお願い致します


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■■の■■編
第四十七話:七王会議


お待たせしました

題名考えるのが難しいこの頃

結構難産でした


 「あっはっはっはっは!!!!」

 

 七王会議。

 それはレベル9に到達した王と呼ばれるバーストリンカーが集まり、今後の加速世界をどうしていくか意見を交換する場。現実世界に置き換えれば世界の首脳が集まり、会議をする場所と考えればいいだろう。

 

 緑の王《グリーン・グランデ》

 紫の王《パープル・ソーン》

 黄の王《イエロー・レディオ》

 赤の王《スカーレット・レイン》

 黒の王《ブラック・ロータス》

 青の王《ブルー・ナイト》

 

 白の王は代理を立てていたようで《アイボリー・タワー》というアバターが来ていたが、加速世界の王が勢揃いしているのである。

 このような真面目な場所では間違っても笑いなんて起きないはずなのだが、現にこの場には笑い声が響いていた。

 

 「やべぇ久しぶりにこんな笑った……」

 

 息を整えた笑い声の主はそれで?と言葉を続ける。

 

 「それマジで言ってるわけ?」

 

 途端に襲いかかる凄まじい圧力。

 

 俺は冷や汗をかきながらも動揺を顔に出さずに頷き。

 

 「全て本当だブルー・ナイト。俺は現在加速世界から姿を消しているグラファイト・エッジ(・・・・・・・・・・)の弟子。あの時の心意技も彼との修行で身に付けたモノだ」

 

 嘘も大嘘、全く身に覚えのないことを加速世界の偉い人たちが集まる場所で話していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 「…桐ヶ谷君……キリトのことは上手く説明するしかないな。……どうしよう」

 

 時はハルユキの家でヘルメス・コード祝勝会をしていた時まで戻る。

 いつもの余裕綽々な態度を崩して悩む黒雪姫。

 彼女をそうしてしまったのは俺の責任である。

 

 七王会議で突っ込まれる謎のバーストリンカーキリトについてどう説明すれば良いのか考えているのだ。

 

 重苦しい空気が部屋を包むなか、ここでチユリが手を挙げた。

 

 「あの、心意?っていうのは私にはまだわからないんですけど、ハルが姐さんから習って、タッくんとスグちゃんが赤の王から習ったなら、桐ヶ谷先輩も誰かから習ったって形にしちゃうのはどうですか?」

 

 その意見におお、とざわめく室内。

 それが丸く収まりそうと言った空気になり、黒雪姫はやや考えたあとコクリと頷いて。

 

 「よし、一応その形で持っていこう。だが桐ヶ谷君、君のバックグラウンドは色々と変えさせてもらうぞ。丁度良いことに我々の手札には六王…特に青らへんにアイツなら仕方ないと思わせられる奴がいるからな」

 

 黒雪姫が視線を向けるのは楓子と謡。

 彼女達は真顔でこくりと頷いて黒雪姫の案に賛成する。

 

 【UI>いないのが悪いのです】

 

 「いないのが悪いわね」

 

 「あ、あまり複雑にしないでくれよ…?」

 

 

 

 

 

 そして訪れた七王会議当日。

 楓子の車で会場の最寄りについた俺達は観戦者として対戦フィールドに出現し、指定された会議の場所に辿り着いた。

 各王やその側近が集うなか始まった会議はヘルメス・コードについての話であり、心意の砂嵐→それを止めた人物→俺というように話が展開していき、俺が何者なのかという話になった。

 

 そこで話すのがキリトの師匠は現在無限EKとなって封印状態となった《グラファイト・エッジ》と言う無茶苦茶なストーリー。

 身動きできない自分が再始動した《ネガ・ネビュラス》の力になるために送り込んだ戦士が俺であり、当の本人は俺を送った後再び連絡が取れなくなった設定である。

 つまりはまあ、弟子である筈の俺ですら彼の連絡先を知らないというとんでもないことになるのだが、それを質問すると黒雪姫達は三人揃って"アイツなら連絡先なんか交換しなくても会いに来るし気がつけば居なくなってる"と自信を持って言うのでそう言うことになったのである。

 

 「おいロータス、こいつの言ってること本当か?」

 

 暫く俺を見ていたブルー・ナイトは同行していた黒雪姫に視線を向けて問いかける。

 他の王達やグラファイト・エッジを知っているバーストリンカー達も興味があるのか彼女に視線を向けているのがわかる。

 対する彼女は肩をすくめて。

 

 「まあ信じないだろうな、うん。だけどまあ言葉ではわからないこともあると思うぞ」

 

 なんてふわふわした答えなんだろうと一同の心に同じ考えがよぎる。

 特にツッコミ体質のシルバー・クロウからはその気配が如実に感じ取れた。

 

 「それもそうだな。よしキリト」

 

 黒雪姫の言葉に深く頷いたブルー・ナイトは席から立ち上がると俺の肩を叩き。

 

 「俺と対戦しろ」

 

 「は?」

 

 「「わ、我が主!?」」

 

 「すまん二人とも、俺の我が儘に付き合ってくれ!ポイントなら後で返すから。な?」

 

 ブルー・ナイトの付き人の二人が慌てているが彼はそれを制して俺の返事を待つ。

 

 「…っ」

 

 これが王の圧力、まるで《死銃》に俺の正体を問いかけられた時に似ているが、体感的にはそれを上回る冷や汗が俺の背を伝う。

 恐らくはまあ、俺がグラフの関係者と言うことをデュエルで証明してみろと言う感じだろう。

 黒雪姫も言葉ではわからないこともあると言ったからそこも関係しているのだろうか、おのれ黒雪姫め。

 だがまあ、答えは決まっている。

 

 「……わかった。剣で語れと言うなら、存分に語ってやる」

 

 俺の言葉に満足そうに頷いたブルー・ナイトは会議のホスト役を勤めている二人の女武者アバターに声をかける。二人はお互いに顔を見合わせるが王の言葉には従うようで、インストを操作し始めた。

 通常対戦フィールドにおいて観戦者である俺達が対戦者になる方法はかつて梅郷中を襲った《ダスク・テイカー》とハルユキ達が行ったバトルロイヤル・モードともう一つ、連続対戦モードの二つがある。

 その名の通り、通常対戦の勝者、引き分けの場合はどちらか片方が観戦者の中から対戦相手を選ぶ方法である。

 

 ホスト役の《コバルト・ブレード》と《マンガン・ブレード》の対戦のドロー表示が起きたあと、続いてコバルト・ブレードとブルー・ナイトの対戦が始まる。

 そして再びドロー表示が現れたところでブルー・ナイトがインストを開き、キリトのHPゲージと必殺技ゲージがブルー・ナイトの対面に現れた。

 

 「さあ、どこからでもかかってきな」

 

 「随分余裕だな」

 

 対戦が始まったはずなのに動かないブルー・ナイトに皮肉をかけると、当の相手は心外だとばかりに肩を竦める

 

 「おいおい勘違いするなよ?レベルの差を考えたら当たり前じゃないか」

 

 そう言いながら佇むブルー・ナイトに俺は《黒の妖精》状態の武器である背中の漆黒の剣《ユナイティウォークス》を抜き、戦闘体勢を取ると相手を観察する。

 どこからどうみても隙だらけである。恐らく彼の言っていることは本当なのだろう。

 

 「だったら遠慮なくいかせてもらう!」

 

 姿勢を低くしながらダッシュ。

 先ずは小手調べとばかりにSAOで腐るほど使用した動きである上段からの斬り下ろしを打ち込んだ。

 

 

 

 

 初激を打ち込んだキリトに、ハルユキは思わずやったと声を上げていた。

 レベル差があるとはいえ、キリトの技量なら判定勝ちに持ち込むことだってできるはずだ。だからこの攻撃には大きな意味がある。

 

 「レイカー、どう思う?」

 

 「剣士さんの全力を見たことがないからなんとも言いづらいけれど…それでも勝てないと思うわ」

 

 「で、でもキリトさんなら…」

 

 黒雪姫と楓子の会話に反応しようとしたハルユキの言葉は、激しい衝撃音と共にキリトのHPゲージが大きく減ったことによって飲み込まれた。

 慌てて視線を移すと、吹き飛ばされる勢いに逆らわず転がったキリトに雷鳴のように近づいたブルー・ナイトが武器を振り下ろすところであった。

 辛くも攻撃を回避したキリトの反撃がブルー・ナイトを捉える。攻撃の隙を突かれたことで、追撃のチャンスと見たキリトの武器が次いで水色に輝いた。

 

 「やった!これでーーー」

 

 ハルユキの喜びの声はキリトが必殺技を発動する前に再び吹き飛ばされたことによって最後まで発せられなかった。

 どういうことだ?キリトの攻撃は確かに決まった筈だ。

 攻撃の隙にダメージを与えられれば、大抵のバーストリンカーはよろめく筈だ。キリトもそれに乗っ取って攻撃をしようとしたのに、何故吹き飛ばされるのが彼なのか。

 その疑問に答えたのは黒雪姫であった。

 

 「前に話したと思うが、青色は近接特化の青だ。王であるアイツのポテンシャルは凄まじい」

 

 「ブレイン・バーストの仕様上、レベル差は大きく関わってくる…。幾ら剣士さんが強くても加速世界最強の一人である青の王が相手では……」

 

 「そ…そんな……」

 

 ハルユキが震えた声を上げる横で、ブルー・ナイトの斬撃をキリトが必死にパリィしながら後ろに下がっていく。

 

 「動けるパワー型が一番厄介なんだよ!!」

 

 「それは誉め言葉として頂いておく!」

 

 叫ぶような愚痴にそう答えたナイトの一撃がキリトを捉えた。

 こうも一方的にキリトがやられているところを見るのは初めてである。

 不安げなハルユキに答えたのはまたしても黒雪姫。

 

 「だが、キリトもただ押されて終わる訳ではなさそうだぞ」

 

 キィン!と一際大きな音を立てながらここでブルー・ナイトが初めて距離を取った。

 視線の先には背中に背負っていたもう一振りの剣を突きだし、二刀流の姿になったキリト。

 

 「とことん《矛盾存在(アノマリー)》と似てるな。それが全力と思っても?」

 

 「まあ、さっきよりは楽しめると思うぜ」

 

 思えばキリトが二刀流で戦ったところをハルユキはちゃんと見たことがなかった。

 ファーストコンタクトはあれがキリトかどうかもあやふやだったし《ダスク・テイカー》との戦いでは自分が既に追い込んでいたこともあって殆ど消化試合のようなものだ。

 バーストリンカーとして意識している存在の戦いが見れるのはまさに良い経験だろう。

 

 「なら楽しみだ!」

 

 キリトの言葉にそう答えて振り下ろされた大剣《ジ・インパルス》をキリトは二刀の剣でしっかり受け止め、反撃によって彼のHPゲージを削ったことで会場にどよめきが走る。

 

 「…驚いた。見せかけと侮っていたよ」

 

 「そりゃどーも!」

 

 剣士型アバターでの二刀流は扱う技量も高く、やはり見せかけのようなものが多い。しかしキリトは慣れ親しんだように剣を使い、ブルー・ナイトの攻撃を捌きはじめた。

 

 「なあ、アイツほんとにビギナーか?」

 

 「疑いたくもなるが本当だぞ。まあ、他のVRゲームを相当やりこんでいたとは聞いてるが」

 

 赤の王に問いかけられた黒雪姫が戦闘に混ざりたいようにうずうずしながらそう返す。

 しかしキリト優勢に見えていた戦況は、ブルー・ナイトの言葉によってひっくり返ることになる。

 

 「なら、少しギアを上げていくぞ!」

 

 「なっ……!?」

 

 突如勢いを増した攻撃に驚きの声をあげたキリトであるが、何とか攻撃を防ぐことに成功する。

 しかしその場は凌いでも直ぐ様次の攻撃がキリトを襲うことで、彼は完全に後手に回ってしまっていた。

 

 「そらそらっ!!」

 

 ブルー・ナイトも楽しくなってきたのかどんどん攻撃速度が速くなっていく。

 

 「ぐっ……っ!」

 

 対するキリトの顔は険しい。

 レベル差、装備の差、戦闘スタイルの差がキリトの技量を持ってしてもカバーしきれないのだ。

 元々手数で押すダメージディーラーのキリトの攻撃を受けても怯まずに鋭く重い一撃を放ってくるブルー・ナイトはこれ以上になく戦い辛い。

 

 何回目かわからない衝突の末、ついにキリトの剣が両方共弾かれた。

 

 「あぁっ!!」

 

 そのまま返すように振り下ろされた大剣がキリトを斬り捨てる姿を想像したハルユキは思わず悲鳴をあげてしまう。

 しかし、ハルユキの耳に入ったのはギィンッ!と言うまるで攻撃を防いだような音。

 

 「おいおい、あんた手品師か何か?」

 

 「悪いが…ショーはここまでだよ…っ!!」

 

 心の底から驚いた声をあげたブルー・ナイト。

 キリトはいつの間にか出していた黄金の剣を使ってジ・インパルスを防いでいたのだ。

 

 気合いの入った声と共に振られた剣はブルー・ナイトを後退させると共に、両者の間に再び距離を開かせた。

 肩で息をするキリトと違い、ブルー・ナイトは流石と言ったところか、まだまだ余裕の佇まい。

 HPゲージも明らかにキリトの方が減っており、必殺技を使う暇が無いほどの猛攻は彼の必殺技ゲージを最大まで溜めていた。

 

 「一応聞いとくけど、ここまでにしておくか?俺としては十分お前さんがどんな奴なのかわかったつもりだ。まるで本人のようなその動きは弟子と言っても通じるよ」

 

 「冗談。一度始まったデュエルは決着がつくまでやるのが礼儀だろ。こう見えても負けず嫌いなんでね」

 

 そう答えたキリトに満足げに頷いたブルー・ナイトはジ・インパルスを構える。

 最早キリトが何者なのかは関係ない、目の前にいるのはただのバーストリンカーで、自分もその挑戦を受けるバーストリンカーなのだ。

 

 「《ノヴァ・アセンション》」

 

 短く、それでいて力強く、全霊を込めるように吐き捨てたキリトの言葉はシステムに感知され、その剣をライトエフェクトで包み込む。

 必殺技ゲージの八割を消費したその必殺技は、まさに今のキリトの放てる最高の必殺技だろう。

 

 「《バッシュ》」

 

 迎え撃つ青の王も剣を上段に構え必殺技の体勢をとった。

 

 動き出したのはほぼ同時。

 ジ・インパルスを掲げた青の王の上段斬りがキリトに襲いかかる中、それよりも速く放たれた黄金の剣と交差した。

 しかし単純なパワーで押し負けているのか、キリトの剣は拮抗することもなく弾かれた。

 

 「キリトさんっ!!」

 

 「いやまだだ!!」

 

 黒雪姫の鋭い声が示すように、キリトの剣のライトエフェクトはまだ消えていない。

 二撃、三撃とキリトの剣とブルー・ナイトの剣はぶつかり合い、その度にキリトの剣は弾かれる。

 しかし、徐々にだがジ・インパルスの勢いが弱くなっているのが目に見えてわかる。

 

 「必殺技モーションは余程体勢を崩さない限りそのまま実行される……考えたなアイツ」

 

 レインが合点したように呟く中、既に六度目の衝突に入ったキリトの剣はまたしても弾かれるが、直ぐ様七度目の衝突に入る。

 

 「うぉぉおおっ!!」

 

 八、九と弾かれたキリトがここで雄叫びをあげる。

 十度目の衝突でついに二人の剣は拮抗状態に入った。

 

 

 

ーーーーのも一瞬だった。

 

 

 「ぜぁぁっ!!」

 

 一閃。

 ブルー・ナイトが力を込めた瞬間、キリトの体はその剣ごと叩き斬られ宙を舞っていた。

 

 「キ、キリトさぁーーーーん!!!!」

 

 ハルユキの悲鳴が響くなか、キリトのHPゲージは無情にも右から左端まで吹き飛び、ゼロとなったのだった。

 

 

 

 

ーーー完敗だ。

 

 宙を舞い、視界の中央に浮かぶ《YOU LOSE》の表示を見ながら俺の体は粒子となり、死亡マーカーが浮かび上がった。

 前に黒雪姫とデュエルをした際に善戦したと考えていた俺は心のどこかで他の王も倒せないことはないと考えていたのだろう。

 

 だがこの様だ。

 

 アンダーワールドで剣を交えた《アリス・シンセシス・サーティ》を思い出させる凄まじい速さで重い一撃を放ってくる青い騎士には防戦一方であり、二刀流も奴には通じなかった。

 

 最後の必殺技のぶつかり合いも《アインクラッド》にて片手用直剣最上位ソードスキルに設定されていた《ノヴァ・アセンション》による連続攻撃で、かつてのウォロ上級錬士との戦いのように相手の攻撃を防ぎきり、且つ攻撃を当てようとしたのに打ち負けてしまった。

 

 「キリトさん、大丈夫ですか…?」

 

 対戦が終了したことで自動的に観戦者に戻り、再出現した俺にクロウが声を掛けてくる。

 

 「剣士さん、青の王との対戦はどうでしたか?」

 

 「…完敗だった。正直、デュエルには自信があったから良い戦いができると思ったけどまだまだだってことを思い知らされたよ」

 

 次いで問いかけてきたレイカーに俺はそう返す。

 向こうの世界でも負けたことはあったし、殆どの印象的な戦いも偶然や奇跡が重なって勝ち取れたようなものだ。

 

 「なあ黒雪」

 

 「なんだ?」

 

 「俺とデュエルしたあの時、手を抜いてたか?」

 

 その質問に黒雪姫は暫し沈黙した。

 言葉を探しているのだろう。

 やがて言葉が見つかったのか、彼女は俺の目を見て首を横に振った。

 

 「私が対戦で手を抜くことは断じてない。勿論、心意や使っていない必殺技もあったから、その部分で言えば手を抜いていた…と言えなくもないだろう。だがなキリト、このゲームでは何があるかわからない。私だって何度も負けているんだ。今だって王と呼ばれているが場合によっては負けることもある。大切なのはーーー」

 

 「大切なのは、敗北から何を学ぶか」

 

 黒雪姫の言葉を引き継いだ楓子は言葉を続ける。

 

 「今回が駄目でも、次がある。この世界で戦っていくなら王は乗り越えるべき壁だわ。今の剣士さんでは勝てなくても、未来の剣士さんならきっと違う。だからこの戦いは決して無駄では無かったと思うの」

 

 「え、ええと、僕もその、前にアッシュさんに負けたことがあって…そこからどうやってリベンジするのか考えたりしていたので、その…お二人の言う通りだと思います。キリトさんならきっと、次は勝てますよ!」

 

 三人の言葉を聞いて俺は思わず苦笑してしまう。

 確かにそうだ。

 ここはSAOやアンダーワールドのように負けたら終わりという訳ではない。

 

 まだまだ俺は強くなれる。

 青の王との戦いは良い経験になった。

 この加速世界には俺より強いバーストリンカーが沢山いるのだろう。まだ見ぬ強敵達との戦いに思わず心を昂らせながら、目の前の黒の王もリベンジの相手だったと再確認する。

 

 「……なら黒雪、まずはお前にリベンジするよ」

 

 「受けてたとう。勿論、負けるつもりはないからな?」

 

 今回負けた青の王にだって、今度は勝ってみせる。

 

 

 

 「うし、ぼちぼち話も付いたみたいだし、会議を再開するぞ」

 

 

 

 …………勝ってみせる。

 

 

 




キリト君実際パワー型嫌いそう
レベル差があったアインクラッドならクラディールとかに勝てたけど、アンダーワールドのアリス戦とか規格は違えどソードゴーレムとかにやられてたし

ブルー・ナイトの一人称と戦闘スタイルが安定しないけれど、入れたかったので戦闘させました

他の王は騙せてもグッさんにはバレバレな模様

ノヴァ・アセンションは負けフラグか何かでしょうか

それではまた次回もよろしくおねがいいたします


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第四十八話:影の噂

大変長らくお待たせしました

社会人1年生になってこうも時間がとれないとは思わなんだ

今回は短めです

感想返しもぼちぼちやらせていただきます
いつもありがとうございます


 「噂?」

 

 「そうだ噂だ。俺達がダイブする世界の上空に正体不明の大きな影が浮かんでいるっていうな」

 

 俺のことを《グラファイト・エッジ》の弟子だと信用したという《ブルー・ナイト》の言葉で一先ずその場を切り抜けた俺であったが、何もこのままで終わりという訳ではなかった。

 

 俺に命じられたのは《ブレイン・バースト》の世界の上空に突然現れたらしい謎の影の調査。

 この任務を完遂することで他のバーストリンカー達にグラファイト・エッジの弟子であることを認めさせるらしい。

 

 「アイツならそう言うことの調査も率先して行いそうだからな」

 

 「はぁ…」

 

 うんうんと頷くブルー・ナイトの言葉に困った声を上げる俺だが、紫の王がふん、と声をあげる。

 

 「あんたがアイツの関係者ってことを説明するには何か突拍子もないことをやっておかないと納得しない人もいるのよ。バーストリンカーは七王会議にいる奴等だけじゃないの」

 

 「そう言うことだな。せめてグラフを知ってる他の奴等にもキミのことを説明することができれば、あの自由人の弟子なら仕方ないと言う空気にすることができる」

 

 《パープル・ソーン》の言葉に頷いた《ブラック・ロータス》に俺は曖昧な顔をしながら納得する。

 七王会議の場で俺と言う存在の結論が出たとしても、『ブルー・ナイトが認めたグラファイト・エッジの弟子』と言うことがわかっただけで、あのブルー・ナイトが認めたならまあ…と言う空気にはなるだろう。

 ここで最近噂になっているらしい場所の調査もしたと言う触れ込みをプラスさせることにより、この弟子あってあの師匠ありと言う形に持っていこうと言うのだ。

 

 「…逆に俺を常識人枠として持ってけないんでしょうか」

 

 「別にそれでも良いんだが…お前さん噂とか未開拓の場所とか見つけたら率先して行くタイプだろう?ゲーマータイプだ」

 

 「…仰る通りです」

 

 案外俺のことをわかってる青の王。

 俺ってそんな単純そうなんだろうか。

 こんな無茶ぶりをさせられるなんて一体グラファイト・エッジはどんなとんでもないことをする奴なんだと心の中で悪態をつく。

 

 「まあ勿論一人では行かせないさ、ウチのコバルとマーガを………」

 

 「ーーー待て」

 

 と、ブルー・ナイトの言葉を重々しい声で遮ったのは緑の王《グリーン・グランデ》だった。

 会議が始まってからずっと沈黙を続けていたグランデにハルユキ含めた彼が喋るのを初めて聞いた俺たちは思わず目を見開く。

 

 「その者の同行者は此方が出そう」

 

 「いや、それはありがたいけど一応未開拓エリアだからさ…」

 

 グランデの言葉に困ったように言葉をかけるブルー・ナイトだが、それっきり喋らなくなった緑の王にはぁ、とため息をつくと。

 

 「…だってさキリト、すまんがそれで納得してくれるか?ほんと、形だけの調査だけでいいから。俺たちとしても結果としてあの砂嵐の被害を防いだバーストリンカーが無限EKにでもなったら心苦しいからさ。通常対戦フィールドでも出現してるのを見たってやつもいるし大丈夫だとは思うから」

 

 「あ、ああ…」

 

 「んじゃまあキリトについてはこんな感じ…んで、シルバー・クロウの《災禍の鎧》についてなんだが…」

 

 「それに関しては我々ネガ・ネビュラスから提案を出させてもらう」

 

 次の議題……シルバー・クロウが持つ《クロム・ディザスター》についての話に移った瞬間、いの一番に声を上げたのは黒雪姫だ。

 先に自分達の要望を伝えることで話し合いの場を有利に進めたいのだろう。

 

 「その発言は却下です。大体、鎧を持っている陣営が一体何を言おうと言うんですか?どうせ出任せに決まってる。シルバー・クロウは即刻《断罪の一撃》で始末するべきだ」

 

 その言葉を遮るように声を上げたのは黄の王《イエロー・レディオ》だ。

 

 「アイツ…どの口が言うんだ…!」

 

 ハルユキが体を乗り出した瞬間、違う方向からおいおいという声。

 

 「それはあまりにも早計すぎるんじゃねーか?現に鎧の所有者であるシルバー・クロウはまあ普通そうにしている。レースでの功績も考えると話を聞くくらいなら許してやってくれよ」

 

 赤の王である《スカーレット・レイン》だ。

 その小さな体から負けず劣らずの威圧感を出す彼女だが、どこか不安の気配を感じる。

 

 「は、やっと喋ったかと思えば裏切り者の黒の王を庇う台詞とは、純色でない人は違いますね」

 

 「言ってろバナナ。何て言われようとおあいにく様、意見を出す権利はあるんだ。それになんだ?純色の王様は他人の意見すら聞けねえのか?」

 

 直ぐ様レインを煽る黄の王だったが、彼女のまさかの返しにバナ…と狼狽える。

 このやり取りでレインもいつもの調子を取り戻したのか、ふんっと鼻を鳴らした。

 

 「まあ、二人の意見も真っ当だと思う。けどまあ俺的には話を聞いても良いかなとは思うぞ。じゃないと会議じゃないだろ。王である俺達が私欲で動いたらそれこそ加速世界の終わりだ」

 

 「私はそこの黒い…ああ、弟子じゃないほう。めんどくさいわね…黒の王が苦しめばなんだって良いけど、それは私自身の手でやりたいから別に好きにすれば?」

 

 「そうですね、意見交換をするのは大切だと思います」

 

 話を纏めようとする青の王に、達観の意思を示す紫の王と相変わらず喋らない緑の王。

 そして白の王代理の《アイボリー・タワー》は黒の王の話を聞くのに賛成の言葉を放ったため、黒雪姫はん、と頷くと話を続ける。

 

 「提案と言うのはうちの《アーダー・メイデン》の力を借りることで災禍の鎧を浄化、無力化するということだ」

 

 「なるほど……ん?でも確かお前さん達四元素は…まあ、そう言うなら何か策があるんだろうけどさ」

 

 「私に思うところがあるのはわかっている。だが災禍の鎧の脅威を無くすことができる可能性があるなら試させてもらいたい。これは加速世界全体の問題でもある」

 

 「んー……確かにそうだな。だけど所有者がいつ暴走するかわからないことも考えると…」

 

 黒雪姫の言葉に青の王は腕を組みながら考え込むとうし、と頷き。

 

 「一週間だ。一週間後にもう一度七王会議を開く。それまでの間にシルバー・クロウの災禍の鎧を取り除け。それができなければ…」

 

 「わかってる。その時は責任を持って私が《断罪の一撃》でクロウを加速世界から退場させる」

 

 青の王はしばらく黒の王を見つめていたが、やがて了承の頷きを返した。

 

 「んじゃあそう言うことで。キリトの報告も次の七王会議でいいぞ」

 

 はいお疲れ様ーと各陣営が解散を始めるなか、俺は座っている緑の王に近づき声をかけた。

 

 「なああんた…グリーン・グランデ」

 

 「…」

 

 「…その……調査手伝ってくれるのは助かるけど、どうすれば良いんだ?待ち合わせとか…そう言うの」

 

 「…」

 

 「…」

 

 喋らんのかい!と心の中で呟きながらも、俺は相手の返事を待つ。

 黒雪姫達はこちらの用事が済むまで待っていてくれているようで、先程から視線が痛い。まだかなーといった感じの視線だから悪気がないのはわかっているが、どことなくいたたまれない気持ちになる。

 

 「………と、とりあえずカウントももう少ないし、連絡先は渡しておくから、その…色々決まったら教えてくれよ…?」

 

 そう言いながら連絡先を押し付けるように渡した俺は、黒雪姫達のいるところに向かう。

 三人とも困ったように肩を竦めるが、グランデがあまり喋らない奴と言うのはわかっていたため、何も言わないようだ。

 

 俺がグランデとの会話を終えたと判断した青の女侍達はお互いに頷くとインストを操作し、ドロー申請の処理を行った。

 

 

 

 

 「とまあそう言うことだな。我々の当面の動きはメイデンを救出し、クロウの鎧を浄化する」

 

 「すみません、僕のせいで……」

 

 楓子の車のなかで意識を取り戻した俺達にそう告げる黒雪姫と、しょんぼりと項垂れるハルユキ。

 

 「それで俺は謎の影の調査…か」

 

 「そこは…そうだな、彼を頼ってみるか。何か知ってるかもしれん」

 

 俺の言葉に反応した黒雪姫はどこかにチャットを送り、数回ほどやり取りをし始めた。

 彼女の情報網の広さには毎度驚かされるが、一応指名手配に似た扱いを受けてた過去があるのにも関わらずこうも堂々と昔の知り合いに連絡を取ったり、加速世界でまた暴れることができるのには驚きを隠せない。

 そう言う自分もSAOでビーターと呼ばれていた時にアルゴに頼ってたこともあり、彼女にも理解者がいるんだなと考える。

 

 「…ん、桐ヶ谷君、連絡がついたぞ。向こうも都合が良いみたいだから今から《無制限中立フィールド》にいこう」

 

 「わ、わかった」

 

 とんとんと決まっていく段取りに目をぱちくりしながら返した俺は、無制限中立フィールドにダイブするための言葉を紡いだ。

 

 

 

 

「やあ、来たね」

 

指定された場所に着いた俺たちを待っていたのは明らかに戦闘型には見えないアバターに身を包んだ男であった。

メタルカラーだろうか。どことなく沖縄で見たクリキンに似ている姿形だ。

座りながらパソコンのようなものを弄っていた彼は俺達に気がつくと立ち上がり近づいてくる。

 

「いきなり呼びつけてすまない」

 

「何、こちらも原稿作業が一段落したからね。息抜きに誰かと話したいと思っていたところだ。さて…」

 

そのアバターが俺の方を一瞥してきたので思わずたじろいでしまうが、彼はそのまま俺に手を差し出してきた。

 

「《ブリキ・ライター》だ。君の噂は良く聞いてるよ。よろしく」

 




影の正体知ってる人からしたらタイミングおかしくね?ってなるのは通りですよね

ですがここはそう、MCやDCと同じような平行世界なんです!!!(ゴリ押し
許してください何でもしますから!!

こっちのキリトが介入ならではの展開を考えてますので、どうか首を長くしてお待ちください…

某矛盾存在も作者さんも飛べないのにどうやってあそこ行ったんだろうね


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第四十九話:影の行方/黄昏の向こう側

お待たせいたしました!

前回から1ヶ月くらいですね
社会の荒波に揉まれながら初任給をいただいたので体にフィットするソファを買いました

これは人をダメにする


 「彼は《ブリキ・ライター》。この加速世界の中でもかなりの古参でな、かなりの情報通でもあるんだ」

 

 「別に、そんな物を名乗っているつもりは無いんだけどね。知りたいから調べるのが多いだけさ」

 

 「そんなこと言って、どうせ《影》のことも調べているんだろう?」

 

 まあ、あるけど。と手元のパソコンを操作したライターは、俺達にある映像を見せてきた。

 

 「これが《影》。何かの大陸みたいな大きさなんだけど」

 

 「ノイズがでてる…?」

 

 「アップデートで追加される予定のマップがこうして出ているのか、はたまた別の何かなのか…」

 

 俺の言葉に頷いたライターはそう言葉を続けながらキーを叩く。

 

 「…力になれるかわからないけど、観測を繰り返してわかったことを幾つか伝えておくよ」

 

 そう言うと彼は幾つかの画像を表示させる。

 

 「これは影が出現した際の近くのフィールドなんだけど…」

 

 「む、オブジェクトの表示がおかしいな。どこかズレているというか…浮いている?」

 

 ライターが指し示した部分を見た黒雪姫が声を上げる。

映されているのは世紀末ステージにある道路なのだが、丁度《影》が浮いている場所の真下辺りのオブジェクトが浮いているのだ。

 よく見ればステージ自体が浮いているようにズレている。

 

 

 「……まるでゲームのバグみたいだな」

 

 「観戦者として見てたから気づいた部分もあったけど…最初は物珍しくても同じものが続けば慣れるって言うだろう?ヘルメス・コードのこともあったし、あまり話題にはならなかったんだ。加速世界が滅ぶ前兆とかでもなさそうだしね」

 

 「だから王も緊急案件としては捉えず、ついでと言った形でコイツに依頼した…」

 

 「ヤバかったら帰ってきていいとか言ってたし、ほんとに丁度いいから見てこいって感じだったもんなアレ」

 

 「まあ…ある視点から見ればアレが何なのか推測はできたんだけどね」

 

 思わせぶりなライターの言葉に首を傾げた俺たちに、彼は驚きの一言を発したのだった。

 

 「あれはね。《心意》だよ」

 

 「心意…だと?」

 

 黒雪姫の言葉にブリキ・ライターはうん、と頷いた。

 

 「心意は簡単に言うとイメージでシステムを書き換える…と言うのは知ってるよね。あの《影》…というかあの周りはとてつもない心意によって何かがシステムに干渉した結果(・・・・・・・・・・・・・・)現れたモノだと思う」

 

 「一瞬で現実味が薄れてきたぞ…」

 

 思わず呟いてしまうが、もしブリキ・ライターの言っていることが正しければ、そのとてつもない心意を操る存在が裏にいるという事になる。

 そんな危険なヤツが存在していると考えると表情も険しくなってしまう。

 

 「とはいえ本来無いものが心意によって現れているだけだから、近いうちに消えると思うよ。流石にあの規模の心意はコントロールしきれるものじゃない」

 

 そう言ったライターは一旦言葉を切り、かけているメガネを鈍く光らせる。

 

 「いや、そもそもコントロールしきれてないからここに《影》となって盛れ出ているのかもしれない」

 

 「放っておけば消えるが、我々の世界に害をなす可能性はあるかもしれない…というところか」

 

 「出現位置は大体この辺り。新国立競技場…はもう20年前くらいの呼び名だけどね。その近くだよ」

 

 示されたのは俺にとってとある決戦の地。

 まあ、この影がそれと関係していることはありえないだろうが。

 

 「ありがとう、助かったよ」

 

 「仮定に仮定を重ねた推測で力になれてるか怪しいけどね。気をつけて」

 

 俺の言葉にそう返したライターは、まだ用事があるからもう少しここにいるとの事なので、俺と黒雪姫はポータルからログアウトするために歩き出す。

 

 「それにしても空に浮かぶ島…か」

 

 「何か思うところでもあるのか?」

 

 俺が呟いた言葉に反応した黒雪姫に頷きを返す。

 

 「《ソードアート・オンライン》ってゲーム知ってるだろ?」

 

 「随分と昔の…ああ、君にとっては最近のことか。…確かあのゲームの舞台は」

 

 「《浮遊城アインクラッド》。その名の通り空に浮かぶ巨大な城なんだ。色々あって別のゲームで復刻することになったんだけど、城に向かうには空を飛んだりとか、限られた手段でしかいけないんだ」

 

 「なるほど、今回の影で思い出したと」

 

 「偶然の一致なんだろうけど、俺からしたら似たシチュエーションだなって」

 

 ­­「まあここでは空を飛べるアバターは限られてるという違いはあるがな」

 

 俺の言葉に相槌を返した黒雪姫は、やや迷う素振りを見せたあと、言葉を発する。

 

 「…クロウの鎧の浄化もあるからな。悪いがキリト、我々はそちらに尽力させてもらうがいいか?」

 

 「向こうの連絡しだいだし、調査するだけならそこまで危険もないよ。朱雀と戦ってみたくはあったけど、遠距離攻撃が無い俺は力になれそうにないし」

 

 リーファのことよろしくなと伝えると、彼女は任せておけと返す。これ程心強い言葉はないだろう。

 

 会話を終えた俺たちは揃ってポータルを通り、現実世界へと帰還するのであった。

 

 

 

 

 「ほれで、ほにーちゃんはほーふるの?」

 

 「ちゃんと食べてから喋りなさい」

 

 「いふぁい!?」

 

 おでこを抑えながら恨めしそうにこちらを見る直葉の視線を受けながら、二人で作った夜ご飯を食べる。

うん、得意料理のペペロンチーノは今日も思った味が出てる。

 

 「だって今日はお父さんもお母さんも遅いって言うし…だったらBBの話したっていいじゃない」

 

 「まあわからなくもないけど」

 

 もぐもぐごっくん。

 

 「まあ、グレウォから連絡が来ないとどうしようもないかな。いつ集まるかとかまだわからないし。それよりもスグこそ気をつけろよ?」

 

 「え、私?」

 

 野菜スープに入ってるウィンナーをフォークに突き刺し、食べようとしていた直葉はポカンとした顔を浮かべる。

 

 「そうだぞ?朱雀に無限EKになんてされたら本末転倒なんだからな」

 

 「お、お兄ちゃんじゃないんだからそんな無茶はしないって!…あふい!?」

 

 心外だと言わんばかりにウィンナーを齧った直葉だったが、思ったより熱かったようではふはふと慌てている。

苦笑しながら俺のコップを差し出すと、奪い取るようにして飲み干された。

 

 「心配するなって。危険さから言ったらそっちの方が何倍も大変なんだ。ぱっぱと終わらせて合流するよ」

 

 「じ、じゃあ私はお兄ちゃんが来る前にメイデンちゃんを助けちゃうから」

 

 競うように言い合った俺達だったが、やがて二人で笑い合う。

 食事も片付け、それぞれの部屋に戻った俺はニューロリンカーに一通のメールが届いているのに気づいた。

 

 簡潔な言葉から始まり、日時と共に指定されていた場所を見た俺は、了解の返事を返すとベッドに潜り込んだのだった。

 

 

 

 

 

 「ーーーーーまただ」

 

 その声の主が声を挙げたのは驚きからであった。

 

 同胞がある目的のために世界の理に干渉していることを知ってから、どうにかそれを止めようと自分にできることを模索していた時。

 自身と近い存在の反応を見つけ、どうにか彼女を通じて同胞を止められないかという方法を探していた時。

 

 0と1でできた情報の中、どこか決定的な『ズレ』を感じた。

 例えるならそう、一直線に続いていた道に、突然枝分かれした道ができたというような、そんな感じ。

 

 既にこの感覚は何度か感じているし、その影響で何か異物が紛れ込んでしまっているのも分かっていた。

 

 「急がなきゃ…」

 

 元凶を止めればその影響で変わってしまった世界は元に戻る。例え無茶苦茶にされたとしても、その原因が無くなれば必然的に干渉されていた事実は無かったことになるからだ。

 

 鶏が先か、卵が先かの話になるがとにかく今は同胞を止めなくてはならない。

 

 「今度は、私が助けるんだ。お姉ちゃんを」

 

 気の遠くなるような年月が過ぎて、過去に想いを馳せてその過去を消してしまおうとするのはわかる。

 だとしても、同胞ーー自分の姉が間違った事をしているなら止めなくてはならないのだから。

 

 「ーーうん。思い出はちゃんとここにある」­­

 

 かつての仲間たちを思い浮かべた薄紫色の髪をした少女はそう呟くと、再び作業を開始し始めた。

 

 




俺、これが終わったら千年の黄昏履修するんだ…

色々考えてたんですけど、dlc勢の参戦の仕方を思い付いた顔
最後の人は一体何レアなんだ…

感想返しもあとでやらせていただきます
疑問点を挙げてくださった方々ありがとうございます、なあなあにできない部分もあると思うので、なんとか打開策を見つけたいと思います(震え声)


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第五十話:影の先へ

お久しぶりです
投稿するまでにアリシゼーション編が4クールでやるって決まったりとか色々ありましたね

まだ生きてます

それではどうぞ


 「ここか…」

 

 次の日、新国立競技場にたどり着いた俺は近くのベンチに座り込んで競技場の入口を眺めていた。

 領地からすれば緑のレギオンの領土内なため、対戦による乱入をされないようニューロリンカーのグローバル接続をオフにしていたので、辿り着くのは少し大変だった。

 

 「所々汚れてはいるけども…」

 

 変わってないなと一人呟き、ニューロリンカーのグローバル接続を開始、約束の時間までもう少しである。

 近くのベンチに腰掛けながら視線をあげた瞬間ーーーー。

 

 バシィィィィ!!と特有の加速音が響くとともに、俺の視界には【HERE COMES A NEW CHALLENGER!!】の文字が並んだ。

 

 

 

 

 「っと、お前さんがキリトだな?ふんふん…ほー…」

 

 世紀末ステージに設定された通常対戦フィールドにて、《夜空の剣士》の姿で現れた俺を待っていたのは、全身を漆黒の装甲に身を包んだ剣士型アバターであった。

 

 …知ってる。

 直接会ったことはないが表示されたアバターネームを見れば目の前の奴が何者かなんてまるわかりである。

 

 「あんた…《グラファイト・エッジ》…?封印されてるっていう……」

 

 「ん?ああ、そうだ。まあ、封印されてるのは無制限中立フィールドでの話だけどな。通常対戦に顔出すことならできるわけよ」

 

 そう言えば《アーダー・メイデン》も現在封印されているが通常対戦はできるって言ってたもんな。

 いや、それよりも何故こいつがこんなところにいるのだろうか。俺は《グリーン・グランデ》が連れてくるらしい協力者を待って……

 

 「まさかあんたが協力者?」

 

 「言ってなかったか?じゃあ改めて自己紹介。グラファイト・エッジだ。グッさんに頼まれてお前さんに協力しに来た。よろしくな」

 

 手をヒラヒラさせながら自己紹介してくるグラファイト・エッジだが、彼はネガ・ネビュラスの一員のはずなのに何故グレート・ウォールの王の協力要請を受けてるのか色々突っ込みたいところが多すぎる。

 

 「まあ色々聞きたいことがあるのはよーくわかる。ただすまん、時間が限られてるからまたいつか話すってことで勘弁してくれないか?師匠のめーれーはぜったーい」

 

 「あ、ああ…って、師匠…!?」

 

 「いや俺グッさんの知り合いだし」

 

 その言葉で大体察してしまった。

 グリーン・グランデは俺の嘘をわかってて黙っていてくれたようだ。

 

 「な、なるほど…悪いな、その…勝手に話でっちあげて」

 

 「喋らないグッさんだったから良かったけどこれが他だったら大問題だったからなぁ…まあ、ネガビュに顔だしてない俺が言えることじゃないし、弟子って感じでも構わないだろ。どうせロッタ辺りが考えたんだろ?」

 

 「ああ、第一期のメンバーって言った方が良いか?」

 

 俺の答えに満足げに頷いた彼は変わらないなぁと懐かしそうに呟き、さて、とおもむろに空に指を向ける。

 その先を追うと確かに黒い浮遊大陸のような影が見えた。

 

 「俺達が調査する予定の場所はアレな訳だけど、あまりにも正体不明すぎるんで時間制限がある通常対戦フィールドで調べてみようってのが今回の目的だ」

 

 で、どうやって行くかなんだけど…と言葉を濁した彼はうん、と一声。

 

 「とりあえず真下まで行ってから考えよう」

 

 こいつは確かに自由奔放だと思った瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 「しっかしでかいよなアレ、浮遊大陸なんてモノをまさかBBで見れるとは」

 

 「案外新ダンジョンのマップだったりするんじゃないか?BBにもあるんだろ?ダンジョン。あまり行けてないからよくわからないけど」

 

 俺の言葉におう、と答えたグラファイト・エッジは、ブレイン・バーストに存在するダンジョンの話を始めた。

 

 「エグかったのはやっぱりあれだな、芝公園地下大迷宮。四聖の大天使《メタトロン》は攻略法がわかっててもソロは大変だった」

 

 「ソロぉ!?」

 

 笑いながら話しているがとんでもない話であることはわかる。

 四聖だとか、大天使とか付いてるからそこらのエネミーとは違うのだろう。

 

 やはりとんでもないことを平気でするやつらしい。

 

 「あそこら辺が真下かな。近場で対戦始めたとはいえ、通常対戦フィールドのエリア外じゃなくてよかった」

 

 真下にたどり着いた俺達は上空を見上げるが、わかるのはやはり黒いノイズがかった何かが浮かんでいるのがわかるだけである。

 

 「んー…やっぱ入口も見当たらないし、わかるのは変な影があるってことくらいだよな」

 

 グラファイト・エッジの言葉に頷いた俺も、辺りを見渡してみる。

 何も変わらない。ただ普通のステージがあるだけである。

 

 「時間は?」

 

 「まだ残ってると思うけ…何?」

 

 どうした?と首を傾げるグラファイトに、俺は制限時間を見るように指を向ける。訝しげに視線を向けた彼は、暫くして、ゲッと声をあげた。

 

 「おいおいおい、時間表示バグってるぞ」

 

 この場所についたのが悪かったのかわからないが、制限時間の表示が文字化けを起こしており、わからなくなっていたのである。

 慌ててインストを開くが、こちらも表示がところどころバグっており、ただ事でないことがわかる。

 

 「こりゃ本格的にヤバそうだな。システムの外に出ちまった扱いになって、色々おかしくなったのか?」

 

 嫌、ブレイン・バーストの運営者がそんな初歩的なことをミスるか?と呟くグラファイト。

 と、ここで俺の脳裏にブリキ・ライターが話していた言葉が甦る。

 

 『心意は簡単に言うとイメージでシステムを書き換える…と言うのは知ってるよね。あの《影》…というかあの周りはとてつもない心意によって何かがシステムに干渉した結果(・・・・・・・・・・・・・・)現れたモノだと思う』

 その心意の影響が影の下にいる俺達にも及ぼしているとしたら…!

 

 「不味いぞグラファイト…!俺達は心意の攻撃を受けているのかもしれない…!」

 

 俺は慌ててグラファイト・エッジにブリキ・ライターから聞いた言葉を説明する。

 

 「なるほど…ブリキ・ライターがねぇ…って、おわっ!?」

 

 瞬間、ズンッ!と大きな地響きが鳴り響き、俺達の体を揺らした。

 反射的に上を見上げると、先程まで影があった場所はいつの間にか黒い大きな穴が空いているのが見える。

 そうしているうちにステージ上のオブジェクトが砕けながらその穴に吸い込まれ始めた。

 

 「ーーー吸い込まれるぞ!?」

 

 寸分違わずに背中のニ刀を抜いた俺達は、剣を地面に突き刺して抗おうと試みるが、勢いは強く、俺達が立っていた地面もやがて浮かび上がり、穴に向かって吸い込まれ始めた。

 

 「どうするーー!?」

 

 俺の叫び声にグラファイトは考える素振りを見せたあとキッと穴を睨み付ける。

 

 「あれが心意って言うのなら一か八かだ…!!」

 

 そう言ったグラファイト・エッジは突き刺しているうちの一本の剣を抜いて構えると、心意を練り始める。 

 端からみても凄まじい心意が練られているのがわかる。

 極限まで薄く刀身に練られた心意の剣を構えたグラファイトは、雄叫びを上げながら穴に向かって剣を振り下ろした。

 

 

 「《解明剣(エルシデイター)》ーーーー!!!!!」

 

 

 剣と穴がぶつかった瞬間、凄まじい衝撃と光が俺を包み込み、俺の意識を吹き飛ばした。

 薄れゆく意識のなか聞こえたのはグラファイトの「やべっ」という声。

 そして昔にどこかで聞いたような、鈴の音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 「………っ」

 

 一瞬、目眩を感じた。

 いや、恐らく負荷が大きくなった結果パフォーマンスが一時的に下がったことの現れだろう。

 

 少女は首を左右に振ると、目の前に現れた《同胞》に微笑みかける。

 ようやくこちらの世界に呼び出すことができた。

 自分の目的のために作り出した七色の《駒》は既に《黄》と《赤》が倒されてしまっている。

 恐らく次は《紫》が倒されることになるだろうが…。

 

 「様子見…試運転には丁度良いだろう」

 

 こちらに姿を現す際に偶発的に生まれた《異界》ゲートとやらをうまく使えば、同胞も本来の力を取り戻すだろう。

 その関係で幾つか余計なモノが紛れ込んでいるようだが、所詮自分の敵ではない。

 敵ではないのだが、それらに余計なことをされると計画が狂う可能性が出てくるのも確かである。

 

 「あと少しの辛抱だ…神々の黄昏まで…あと少し…。《同胞》よ、力の具合を確かめてくるがいい。ちょうど良い舞台もあることだしな」

 

 《同胞》は少女の声に応じるように、唸り声を上げると、姿を消す。

 残された少女が腕を振ると、少女の前にはあるモニターが出現した。そこに映るのはエネミーを相手に戦う金色の鎧に身を包んだ騎士。

 あの騎士は少し前に少し前に自分の干渉の結果起きた時間流の波に巻き込まれてこちらの世界に漂流してきた人物だ。

 騎士のように予定にない来訪者は《無限変遷の迷宮区》に幽閉しているが存外に粘っているようだ。

 先程も時間流の波に巻き込まれた漆黒の男を迷宮に送ったところであるが、どうにもあの飄々とした態度が少女にある情景を思い出させて癪に障る。

 

 

 「…間違えるな、私は…妾は決意したんだ…もう戻れないんだ…」

 

 口調を意識しながら、もう一度自分に言い聞かせる。

 邪魔するものは何をしてでも排除するだけだ。

 仮面の下を伝う暖かいものを意識しないようにしながら、少女は次の計画のために再び動き出す。

 

 

 

 

 

 

 「うっ……」

 

 肌にひんやりとした冷気を感じて目を冷ます。

 目に入るのは一面の白。

 そして、この感触は紛れもなくーーーー

 

 「雪…?」

 

 そう、雪である。

 一瞬思考が追い付かずボーッとしてしまうが、意識がはっきりしていくにつれて先程まで起きていた事を思い出してきた。

 

 「確かグラファイトの奴があの穴に攻撃してーーー、そうだ!」

 

 一緒にいた筈のグラファイト・エッジはどこにいったのだろうか。

 辺りを見渡すが彼の姿は見当たらない。あいつの黒さならすぐにわかるはずなのだが、そんな気配は微塵も感じられなかった。

 …一先ず彼の無事を信じるしかない。

 俺が無事であったように、彼も無事であるといいが…。

 

 「……寒いな」

 

 何はともひんやりとした寒さである。

 ブレイン・バーストにもそれなりの温度再現があったが、ここまでだっただろうか?

 それに冷静になってフィールドを見渡すと、氷山の所々にビルのようなものが突き刺さっていたりと、歪な印象を感じさせる。

 

 「…さて、どうするか」

 

 ともかく動かないと始まらないだろう。

 今気づいたが通常対戦の際に現れていたタイマーは影も形もなくなっており、このままじっとしていても戻ることができるかわからない。

 このような状況でも宛もない冒険というものにわくわくしてくる自分に若干呆れてしまうが、仕方ない。未開拓エリアというものの前ではゲーマーの血が騒いでしまうものである。

 

 「き、キリト!!」

 

 はじめの一歩を踏み出そうとした時。

 どこか、馴染みのある声が俺の耳に届いた。

 

 声の主は振り向いた俺に手を振ると、雪を踏みしめながら駆け寄ってくる。

 

 

 ーーーーーそのシルエットに、俺は思わず息を呑んだ。

 

 「……嘘だ」

 

 辛うじて絞り出せたのはそんな声。

 あり得ない、アイツが、俺の前にいるなんてあり得ない。

 だって、アイツは、あのとき、俺の目の前でーーー。

 

 「ようやく見つけたよ!一緒にあの空間に引きずり込まれたから、絶対にこの辺にいると思ってたんだ!」

 

 見覚えのある藍色の制服を着込んだ亜麻色の髪の少年は、そう言って俺の手を取り話しかけてくる。

 

 「稽古の途中でいきなりこんな世界に飛ばされて、全く訳がわからないよね…ロニエとティーゼもきっと心配して………キリト?」

 

 何も答えない俺に不思議そうな顔をする少年。

 たちの悪い夢なら目覚めてくれと願うが、生憎とこの寒さと彼の手の暖かさが現実と教えてくれる。

 何故、どうして。

 

 「ユー…ジオ……」

 

 俺の前で命を落とした筈の親友が目の前にいるのだろうか。

 

 

 

 




空間に巻き込まれたりとか、なんか異次元の漂流者という名のDLC組大変ですね
《異界》ゲートとかもヴァベルが干渉した結果色々巻き込んで偶発的に生まれてしまったのかなって感じです

グラファイトなんたらもきっと本編で影見に行ってたらなんか入っちゃったんじゃないかなって
通常対戦フィールドの仕様とか突っ込みどころはあるけど最近は通常対戦してたのに無制限中立フィールドに飛ばされたりしてるしってことがあるからほら…
ていうかグラフにあの技やったら帝城から出られるのでは…?それともその場からいなくなってやっぱり城の中に戻されちゃうのかな…?

また次回もよろしくお願いします


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第五十一話:氷の大地

アリシゼーション編始まったということで更新間に合わせられました!

SAOはまだまだ続いていきますね!楽しみだ!


 「キリト?大丈夫かい?」

 

 ユージオが問いかけると目の前の少年ーーキリトはぎこちない笑みを返しながらぼうっとしていたと答える。

 いつもの彼なら軽口を叩くはずだけどなと不思議がりながらも、突然知らない場所に飛ばされたからと言うことで納得しておく。

 

 「とりあえず合流できたのは良いけど…どうしようか、僕ら」

 

 何の心構えもなく土地勘の無い場所に飛ばされたのだ。

 一先ず相棒と合流するという目標で動いてはいたが、その目標が達成できた今、どう動こうか考えるのは当然のことである。

 キリトは暫し考え込んだ後、空中に向かって左手の人差し指と中指を立てて、這いずる蛇のような形を描き自分の腕を叩いた。

 しかし何も起きない。

 

 「キリト、僕も試してみたんだけど《窓》は開かないんだ」

 

 たった今キリトが行ったのは生命を司る創世の神ステイシアによって与えられた《天命》と呼ばれる大地や人間の命を数値で表したものーーーそれとキリトから教わったが武器などの優先度などの“すていたす”表示を確かめることができる《ステイシアの窓》を開く動作だ。

 これはユージオ達が住んでいる《アンダーワールド》の住人なら誰もが知っていることで、日常でも使われることが多々ある。

 

 この《世界》に飛ばされた時に手酷く地面に尻を打ち付けたユージオは、あまりの痛さに思わず《窓》を開こうとしたのだ。

 結果は先程話した通り、《窓》は現れずユージオは痛みが引くまで悶えるしかなかったことは目の前の相棒に伝えず、自分の胸の奥深くに閉まってくのだが。

 

 「…ここはアンダーワールドじゃないのか…」

 

 小さく呟いたキリトは、やや恐る恐る、と言った感じで右腕を振るうも何も現れない。

 だが左手を振るった瞬間、彼の目の前には気の抜けるような音と、半透明な《窓》が現れたのだ。

 

 「うわ、ソレどうやって出したんだい!?」

 

 見よう見まねで指を振るうと、同じように現れる《窓》。

 《窓》には何か言葉が書かれているがユージオにはさっぱりわからない。

 辛うじてわかるのは《HP》と書かれている文字の隣に自分の《天命》と同じ数字が書かれていることくらいだ。

 

 「ねえキリト、この…この文字なんて読むんだい?…キリト?」

 

 思わずキリトに声を書けるが、反応がない。

 視線を向けると、キリトは真っ青な顔をしながらその《窓》を見つめたまま固まっているのが見えた。

 

 「キ……」

 

 声を掛けようとした瞬間、周囲に見たこともない生物が現れた。

 姿は以前にルーリッドの洞窟で対峙したゴブリンに似ているのと、こちらに敵意を向けていることだけは確かなことがわかる。

 《青薔薇の剣》を構えたユージオが注意を呼びかける為に再びキリトを見ると、彼の後ろには棍棒を構えた敵が正に攻撃を加えようとしているところだった。

 

 「キリトーーーーー!!!」

 

 

 

 左手を振った瞬間現れたステータスウィンドウに、俺の思考は動きを止めていた。

 紛れもなくこれは《アルヴヘイム・オンライン》で幾度となく見た画面だからだ。

 あの穴は平行世界に繋がっている穴だったのだろうか?

 仮に元の世界に俺が戻ってきたと仮定すると《ブレイン・バースト》を行っている俺はどうなった?

 そもそも此処にいる俺はなんだ?俺は現実に戻ることが出きるのか?

 激しくなる動悸を押さえながらログアウトボタンを探す為に指を動かそうとした瞬間。

 

 ドッ!という衝撃と共に体が地面に倒れた。

 

 衝撃に驚いた俺が見たのは魔物が棍棒を振り下ろしている姿と、その棍棒を青薔薇の剣で受け止めているユージオの姿であった。

 

 「ユー…」

 

 「しっかりしろキリト!!!」

 

 続いて掛けられたのは叱責の言葉。

 額から汗を流しながらユージオは此方に視線を向けながら言葉を続ける。

 

 「何に驚いているのかわからないけど、周りを見てくれ!!僕たちは襲われているんだ!!」

 

 慌てて視線を向けると、俺たちを囲むように棍棒を持った魔物が迫ってくるのが見える。

 ステータスウィンドウに俺が固まっている間に、敵が出現していたようだ。

 それはそうだ、敵モンスターと言うものは総じてプレイヤーを狙うようにできているのだから。

 

 「キリト…っ、僕はまだ死ねない…!約束したろう!二人で…学院を卒業するって…!!」

 

 “約束”

 

 それは二度と果たされることの無い約束。

 だが目の前の少年はそれを信じている。

 あの時の俺たちは本気で目指していたんだ。

 

 「決めたんだ…っ」

 

 そう、膝を付きながらもユージオが口にした瞬間、腰に吊り下げていた『俺の青薔薇の剣』が強い熱を帯び始めたた。

 

 「アリスに会うって…!!」

 

 その言葉が引き金になったのか、剣は暖かい光になりながらその姿を消すと、ユージオの体に入り込み、溶け込んでいく。

 そして彼の体が淡く輝いたと思った瞬間、ユージオは渾身の力を込めて魔物の棍棒を弾き飛ばした。

 続けて流れるような動きで剣を構える。

 剣を正中線に立てて構え、頭上までバックスイング。それと同時に輝く青薔薇の剣。

 

 「イ……ヤァァァァッ!!」

 

 上段。下段。繋ぎの前斬りを入れ、背中まで振りかぶっての全力斬り下ろし。

 青い正方形の形をなぞるように、魔物に叩き込まれた技は紛れもなくソードスキル。

 

 「で…できた…?」

 

 それは俺がまだ彼に教えていない筈の《アインクラッド流》の奥義。

 いや、《ウォロ・リーバンテイン》上級修練士との戦いで俺が放ったのを見てはいるだろうが、そう簡単にできる代物ではない。現に技を放ったユージオ自身も驚きの表情を浮かべている。

 

 だとすれば考えられる可能性は一つ。

 

 「お前って奴は…っ!」

 

 吊り下げていた《夜空の剣(黒いヤツ)》を抜き放った俺は、驚いているユージオに襲いかかろうとしている別の魔物に向かって剣を構える。

 

 先程のユージオと同じ攻撃ーーー《バーチカル・スクエア》で魔物を倒した俺は、此方を見るユージオに頷いた。

 

 「すまないユージオ、助かった」

 

 「無事に戻ったら跳ね鹿亭の蜂蜜パイ奢ってくれよ?」

 

 返答に苦笑で返しながら、俺たちは群れを突破するべく剣を構えたのだった。

 

 

 

 「あのデカイやつだ」

 

 「わかった」

 

 短いやりとりでキリトとユージオは目標を決めた。

 先程から妙に体の調子がいい。

 《アインクラッド流》の四連撃技も、一度見ただけで『キリト』にはまだ早いと教えて貰えていなかったのに、発動することができるとは思っていなかった。

 だだ漠然と、できるとそう思ったのだ。

 

 “剣の声を聞くんだ”と、よく教えてもらった。

 

 これがそう言うことなのだろうか…?

 

 ユージオはそう思考を巡らしながら、魔物の取り巻きをの攻撃を防ぎ、押し退けると、流れるように《バーチカル》を放って倒す。

 このような魔物との戦いはアリスの妹、セルカを助ける為に戦ったゴブリン達以来だが、キリト、そして《ノーランガルス修剣学院》にてゴルゴロッソ先輩から教わった剣技はしっかりと彼の身を守ってくれている。

 

 包囲網を潜り抜けた二人に、唸り声をあげながら襲いかかるボスと見られる魔物。対してユージオは青薔薇の剣を左腰に構えながら走り出す。

 発動されるのは《アインクラッド流秘奥義》の《スラント》だ。この攻撃は右上から左下に斬り下ろす以外にも、左下から右上に斬り上げることも可能で、汎用性に長けている。

 

 「グギィッ!?」

 

 振り抜かれた一閃は魔物にダメージを与え、その体を怯ませた。

 気づかなかったがよく見ると魔物の近くに妙な《棒》が見え、緑色で染まっている中身が右から左へと減っていき、やがて黄色になって止まったのが見える。

 こちらが斬りつけたことでソレが減ったと言うことはつまり…

 

 「《天命》が見えるのか…!?」

 

 「らしいな…っ、《ソニック・リープ》!!」

 

 ユージオの驚きに《ソニックリープ》で大物を斬りつけ、倒したキリトがそう返す。

 大物がやられたことで他の魔物も出てこなくなったようで、辺りには再び静寂が戻る。

 青薔薇の剣を仕舞おうとして鞘を持っていなかったと動きが止まったユージオに、キリトが鞘を差し出す。

 こういうところとか用意周到だよなと礼を良いながら鞘を受け取ったユージオは、腰に吊り下げた剣の重みを感じてふぅ、と息をつく。

 

 「この世界は僕たちの世界より不思議なことが多いみたいだね」

 

 同じく剣を鞘に収めた相棒に声をかけると、キリトは考える素振りを見せた後、どこか固い声でユージオの名前を呼んだ。

 

 「ここは…多分俺のやってきた…《アインクラッド流》を学んだ場所…だと思う」

 

 

 

 「それは…本当なのかい?」

 

 喘ぐように俺の言葉を確認するユージオに、俺は頷きを返す。

 このようなマップは見たことがないが、ステータスが見れること、ソードスキルが使えることから《アルヴヘイム・オンライン》と見当を付けた俺は、ここが記憶を失う前(という設定)の俺(が居た場所だとユージオに伝えた。

 

 「…じゃあ、記憶は?」

 

 「…そこに関しては微妙なところだな。断片的でさ」

 

 「……そっか」

 

 俺の言葉にユージオは動きを止めて俯く。

 数秒であったが沈黙の後に、じゃあ、と言葉を続ける。

 

 「キリトは、自分の故郷に帰るのかい?」

 

 そう言ったユージオの瞳は不安に揺れている。

 それはそうだろう。これまで一緒に過ごした仲間と離れることになれば誰だって不安になる。

 そんなユージオの肩に拳を突き出すように当てた俺は、首を横に振る。

 

 「約束を破っていなくなるつもりはないよ。戻るとしたら、全部終わってからだ」

 

 あっけにとられた顔をしていたユージオであったが、キリトはそういう奴だったよね、と安心したように笑う。

 その笑いに俺も笑顔で返した後、ユージオにこの世界でのレクチャーを開始した。

 

 「これでめっせーじを送るんだね、わかった」

 

 「基本的には無いと思うけど一応な」

 

 と、ここで俺はマップを表示して近くに街に当たる部分が無いか確認すると、《空都ライン》と名前を見つけた。

 ここのワールドの拠点だろうか?しかし俺がプレイしていたときはこのような場所は見つからなかった気がするので、疑問ばかりが残るが向かうしかないだろう。

 

 「ユージオ、近くに街があるみたいだ。一先ず向かってみよう」

 

 「手に持ったりする必要ないし、地図よりも詳細だから便利だよね。そのまっぷっていうの」

 

 ユージオからすれば明らかなオーバーテクノロジーであるこれらは驚きの連続だろう。

 しかしユージオも好奇心には勝てないらしく、先ほどから左手を動かしてメニューやマップを開いては閉じてを繰り返している。

 

 するとここでメール通知。

 

 

 

 差出人:Eugeo

 件名:ありが

 本文:とうきりとこれでおくれているのかな

 

 

 俺が彼に振り向くと、ユージオは困り顔で笑いかけてくる。ちゃんと送れてるぞと声にだそうとした俺は少し考えたあとメールを起動して文字を入力して送信。

 内容は単純にしっかり届いているというものだ。

 慣れない操作でメールを確認したユージオの表情は困り顔から一転、笑顔に変わる。

 

 「凄いやキリト!このめっせーじって言うのは離れていても直ぐに届くんだね!…これが僕らの世界にもあったらなぁ…」

 

 「アンダーワールドにはアンダーワールドの良さがあるよ。何てったって飯が美味い」

 

 「それってどうなの…?」

 

 「わかってないなユージオ君。食べ物と言うのはとても大切なモノなんだよ」

 

 このやりとりも実に久しぶりだなと、泣きそうになる顔を見られないようにしながら俺たちは街への道を歩き始める。

 

 ただ一つ気がかりなのは、《ニューロリンカー》を通してプレイしている俺の視界には《ブレイン・バースト》用のウィンドウも動作していると言うことだ。

 生憎《グラファイト・エッジ》の連絡先は知らないため連絡はとれないが、まるでブレイン・バーストをしながらアルヴヘイム・オンラインをプレイしている感覚に違和感を覚える。

 ソードスキルーーー今の俺にとっての必殺技も必殺技名を発声してもしなくても発動できることを確認している。

 そして周囲の氷山に突き刺さっている近未来的なビルなどの建物の残骸。

 

 まるで二つの世界が混ざってしまっているような…そんな感じだ。

 

 「何か良くないことが起きている…そんな気がする」

 

 後ろのユージオに聞こえないように呟いた俺は、《空都ライン》にて情報が手にはいることを祈るのだった。

 

 




空都ラインは知らなかった設定にしました

中立フィールドは世界樹の上のユグドラシルシティ?があるし、新生アインクラッドの攻略やらしてたので、もし本編の時系列にあったとしても行かなかったことにしても大丈夫かなって…

ゲームで出てきたラインですがゲームのキリトはアインクラッド完全制覇してるし、そこら辺アインクラッドに心残りはないのでは…?って感じある

必殺技が音声有り無しでも使えるのはメタ的な話で言うと
、AW組が必殺技するときに必殺技ボイス以外にも「これでおわりだ!」とかの別パターンボイスで必殺技使ったりしてたことから、システム的にも混ざった体にしていこうかなと(無理矢理)
というかAW組とSAO組が連絡取れるようにするならどっちもできるようにした方が違和感ないのかなって

ユージオも謎の現象でレベルアップしたんで、これで記憶解放術を使ってもなにも問題ないですね!!!

それではまた次回よろしくお願いいたします!


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第五十二話:空都の歌姫

お久しぶりです
やや期間があきました!

その間にSAOアニメも結構進みましたね

ないよ!剣ないよ!

更新はあるよ!!

それではどうぞ!


 「ここが空都ラインか…」

 

 「見たことない建築物が沢山あるねキリト」

 

 辺りを見渡すユージオの言葉に頷きながら、俺も周囲に視線を向ける。

 残念ながらユルドなどの通貨は0となっていたため、俺たちが持っているのは道中に倒した敵から手に入れた物のみである。

 

 「とりあえず宿にでも…ユージオ?」

 

 隣にいる相棒に声をかけるが、反応がない。

 慌てて彼を探すと、隣にいた筈の彼は俺から離れて広場の一角にいる人だかりに紛れているのが見えた。

 どうやらそこでは誰かが歌を歌っているようで、ユージオもそれに釣られたようだ。

 慌てて彼のいるところに向かった俺の耳に、メロディーと共に歌声が届く。

 

 『優しい言葉をあなたがくれた』

 

 『寂しいときには、抱き締めてくれた』

 

 「…この歌は……!」

 

 聞いたことがある歌に俺は思わず耳を疑った。

 

 「ちょ、ちょっとキリト?」

 

 困惑した声をあげる相棒に謝りながら人混みを掻き分ける。

 そしてその先で歌っていた人物は全身を黒い衣装で包んだ白髪の少女であった。

 見間違えるはずがない、彼女は…。

 

 「悠那…いや、YUNA?」

 

 俺の声が聞こえたのか、少女は歌うのを止めると俺に視線を向ける。

 

 「………んー?」

 

 少女は俺を見て何か悩む表情を見せたと思ったら、踊るように俺の目の前まで近づいてきた。

 少女は険しい顔をしたまま俺を見続けている為、暫く見つめあうことになってしまうのだが、何となく空気が息苦しい。

 

 「え、ええと…」

 

 「…んー……」

 

 「ゆ…YUNAだろ…?ええと、ARアイド…」

 

 「…そこから先は言っちゃダメだよ」

 

 しどろもどろになりながら話を続けようと彼女のことを口に出そうとするが、ムッとした顔で指を突きつけられてしまったので、俺は続きを話すのを断念する。

 ユナはよろしい、と頷くと周囲の観客に視線を移す。

 

 「皆ごめんね、今日のライブはここまで!また来てねー!」

 

 観客は突然の事に困惑した声をあげるが、基本彼女の言うことには逆らわないのかパラパラといなくなっていく。

 …その中の数人から恨みを込めた視線を向けられた気がする。

 少女はうんうん、と頷いた後、再び俺に視線を移し。

 

 「それじゃあ色々お話しましょ、黒の剣士さん」

 

 「な、なんでそれを…!」

 

 俺の驚きの声に少女は悪戯を成功させた子供のようにペロリと下を出しながら微笑むのだった。

 

 

 

 

 「…つまり、君は記憶があるのか?」

 

 「んー、まあそんなところかな?色々(・・)混ざってはいるんだけど、基本的な私は今ここにいるYUNA」

 

 場所を宿の一室に移した俺たちは、YUNA…ユナと会話していた。

 ユージオはこの歌姫と俺が知り合いということに困惑した顔を見せていたが、後でちゃんと教えろよとだけ言うと、剣の稽古をするということで外に出ていった。

 

 「でもその…君が俺の知っている君だったとしたら…」

 

 「有り得ない?」

 

 「…そうだ。君は既に…」

 

 「覚えてるよ」

 

 ユナはそういうと自分の胸に手を当てて噛み締めるように呟く。

 

 「エーくんが、私を助けてくれたことも…」

 

 そう言った彼女はさて、と明るく声をあげるとパチンと両手を合わせる。

 

 「簡単に私のことを話すと、今の私は《白いユナ》と同じデジタルゴーストみたいなものなんだ」

 

 「デジタルゴースト…」

 

 「データのお化けなんてありえないだろうけど…。とにかく、私のデータの残滓はあの《新国立競技場》とか、色んなところに散らばってたんだ。他にもその…エイジのところとか、君のところとかにもね」

 

 「そういうのが集まって君になったと…?」

 

 「本当なら集まっただけじゃ何も起きなかったんだけど…この子がね」

 

 「お、そいつは…」

 

 そう言いながら彼女が出したのは、彼女とよくセットになっているマスコットである。

 ライブ中に彼女の回りを健気に飛び回っているよくわかんない奴と俺は記憶していたが、熱心なファンであるシリカが教えてくれたような気がする。

 確か名前は…。

 

 「…おまんじゅう」

 

 「アインだよ」

 

 「あだっ」

 

 間髪入れずに返ってくる言葉と衝撃。

 アインがムスッと睨みながら浮遊しているのを見ると、どうやら頭突きされたようである。

 

 「…で、そのアインがどうしたんだ?」

 

 「その話をする前に、まず聞いて欲しい話があるの。…この世界のことで」

 

 彼女はそう言うと、俺達がいるこのVR世界のことについて話し始めた。

 ここは確かに《ALO》なのだが、《ペルソナ・ヴァベル》という謎の人物が突然現れ、《別の時間軸に存在するVR世界》とALOを繋げてしまったらしい。

 その結果この世界は異質なモノになっているらしく、管理している《レクト》は対応に追われており、プレイヤーへの影響なども考えるとログインは禁止され、残っているプレイヤーは早急にログアウトの方向に進んでいるとか。

 

 「べ、別世界のVR世界を繋げた…」

 

 原理は何となく理解した。

 時間をねじ曲げて世界と世界を繋げるということ自体SFの産物のようなものであり、その世界を繋げる際に何か異物が紛れ込むのはよくある…筈だ。

 恐らく俺達が調査した《影》を作り出した人物…つまりは強力な《心意》によって《加速世界》に干渉した人物だろう。

 

 「電車に例えるとわかりやすいかな。…ヴァベルが出発点からこの時代という終点に干渉した結果、たどり着く過程で多くの荷物も持ってきちゃったんだ。…その中に目の前にいるキリトや、私の残留データも含まれちゃってた」

 

 「…どういうことだ?」

 

 固い声で訪ねるとユナは指をピシッと一本立てる。

 

 「私やキリトとかは本来積み込む予定に無かった荷物だったってこと。本来の目的(攻略)には関係ない異質な存在(ダウンロードコンテンツ)

 

 それで、とユナは言葉を続ける。

 

 「知ってるかもしれないけど、白いユナは《アインクラッド》の100層ボスであるAn Incarnate of the Radius[アン・インカーネイト・オブ・ザ・ラディウス]の言語化エンジンで動いてた…そこはわかるよね?」

 

 「あ、ああ。だから俺達があの時倒したことによって、白いユナは消えた…んだよな?」

 

 「そう。だから全部終わった後の私は残りカスとなってたんだけど、複数人にコピーされて自己崩壊しかけていた黒いユナの存在を繋ぎ止めていた」

 

 …それもエーくん達に助けてもらったことで白いユナは完全消滅したわけなんだけど、と目を伏せた彼女は逆の手でも人指し指を立てる。

 

 「ここで非科学的な話になるんだけど、平行世界が存在していると仮定して、そこの100層ボスが倒されていなかったら、その世界に存在している白いユナはどうなると思う?」

 

 「そりゃ…白いユナは消えていない…んじゃないか?言語化エンジンは生きてる訳だし…」

 

 正解と答えたユナは、ここで話が戻るんだけど、と両手で抱えたアインをズイッと俺に突き出す。

 

 「どうやらこの子がデータになって散らばった私を繋ぎ合わせて、同一の言語化エンジンで動くキャラクターとして生成しちゃったみたいなの」

 

 「…まて、話がわからなくなってきた」

 

 「だから色々混ざってるって言ったの。今の私は歌を歌ってプレイヤーの心を癒すって役割のNPCって感じなんだ」

 

 ALOが旧SAOのサーバーデータをコピーして作りだしたことは知る人によっては周知の事実である。

 だからこそ、新生ALOにてサーバーにデータとして残っていたアインクラッドが攻略できるようになったからだ。

 

 …先程、ユナはアインが何かをやらかしたと言っていた。

 アインはアインクラッド100層ボスの言語化エンジンを利用して白いユナと共存する形で活動していた。

 それらを開発した重村教授なら、ある程度のメンテ等もプログラムに任せていたと考えられるだろう。

 つまりアインがユナを繋ぎ合わせたということは…。

 

 「…そうか!ALOサーバー内に残っているアインクラッドのボスデータに反応して、自動的にプログラムの処理が行われたのか!」

 

 「正解っ」

 

 ウィンクと共にそう返したユナはアインの頬をむぎゅっと引っ張りながら言葉を続ける。

 

 「だからさっきも私が君にあったとき、アインが君の中の残留データを勝手に読み取ったことで私のデータが更新されて、色々わかったんだ」

 

 他人のデータが俺に残っていると言われて不安のようなものを感じるが、ただの数字である筈のデータが引き起こす奇跡とも言える現象を俺は何度も体験している。

 

 消えてしまった筈のユージオがアンダーワールドでの決戦の時に手を貸してくれたこととか、それこそ自分の頭にナーヴギアによる高出力スキャンをかけて命を落とした筈の茅場に出会ったこととか、世の中には科学では証明できない事象が沢山存在しているのだ。

 

 「私がこの世界の大体の事情を知ってるのはMHCPの権限としてログデータとかを参照することができるから」

 

 「マジか…そうするとユイと殆ど同じじゃないか」

 

 いや、自身が複製のようなものだとわかっていて且つ自我の崩壊を起こしていないとすると、菊岡や比嘉さん達が目指していたアンダーワールドの住人達に近いのかもしれない。

 

 「ユイってええと…あのちっちゃい女の子だよね。オーディナル・スケールの戦いでアスナさんの記憶をスキャンした時に何かしてたのを見た…ってアインのログにあったよ」

 

 何とも言えない表情で当時のことを思い返す俺たちだが、アインは我は存ぜぬと言った顔でプカプカと浮いている。言語化データで動いているだけでアイン自体は何もしてないので、何となくドローンとの間でユイと言う異質なデータの行き来があったことを観測しただけなのだろう。

 

 「まあ手助けする人もいなかったから無駄な情報だったけど…キリトがいるなら助けてしんぜよう」

 

 重村教授の娘である重村悠那は困っている人を助ける優しい少女と聞いていたが、元が黒いユナだからなのか、その言動は明るい小悪魔のようなものである。

 

 「…よし、ならここを脱出する方法を教えてくれ」

 

 「…それはちょっと難しいかも」

 

 「…と言うと?」

 

 「そもそもこの現状を引き起こしたのがペルソナ・ヴァベルだから…。ヴァベルが消えるか、直接話して聞いてみるしかないかもしれない…」

 

 その言葉に俺は深いため息をつく。

 ペルソナ・ヴァベルとやらが凄まじい実力者ということはわかっているので、倒すのは難しい。そして話が通じるかどうかも、そいつが首謀者であることから望みは薄いのだ。

 

 「せめてユージオだけでもな…」

 

 「ユージオって、一緒にいた男の子?」

 

 ユナの言葉に俺は頷くと、彼だけでも元いた世界に戻さねばと考える。

 ユージオの居場所は此処ではない。彼はアンダーワールドの住人であるからだ。

 …例えここから先にどんな困難が待ち受けているとしても。

 

 「…親友なんだ。アイツは」

 

 これから先のことを知っているとしても、それでもユージオには戻ってもらわなければならない。

 

 「戻ったよキリト。…話はついた?」

 

 …だが。

 

 「ああユージオ。…折角だから訓練の続きをやろう。今のうちにアインクラッド流の技に磨きをかけて、学院の皆を驚かせてやろうぜ」

 

 例えそれが俺のエゴだとしても、今ここにいるユージオの助けになるのなら、彼が生きる術を教えてやりたいと、そう思うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 《空都ライン》

 

 それは種族間PvP推奨のVRMMOゲーム《アルヴヘイム・オンライン》に存在する中立地帯の街の名前だ。

スプリガン、シルフ、ウンディーネ、ケットシー、サラマンダー、インプ、プーカ、レプラコーン、ノームの九種族

 

 武器防具屋、アイテム屋から始まり、宿屋やカフェなどこの街には一通りのショップが揃っており、街からは巨大な塔ーーー《バベルの塔》がそびえ立っているのが見える。

 

 そんな街のとある一角。

 小さなステージには最近人だかりができていた。

 そこで歌っているある少女の歌がとても素晴らしいとかなんとか。

 

 「そういうわけで行ってみようよ」

 

 「そういうわけってなんだよそれ…」

 

 目の前に座る少女の言葉にそう答える少年は、最後の一つになったサンドイッチを口に運ぶ。

 確かに気にはなる。気にはなるのだが、少年には気がかりなことが多いのである。

 

 「…確かに皆と攻略を急がなきゃいけないのはわかるけど、少し休憩しなきゃ」

 

 「どっかの副団長様も無茶な攻略で倒れたことあるしな」

 

 「そ、それは今関係ないよ!」

 

 軽口で返すと、もう!と口を膨らます少女にごめんごめんと笑いかける少年。

 …確かに根を詰めすぎている感はある。

 二人の“娘”は突如現れた《ペルソナ・ヴァベル》という人物によって、あの《バベルの塔》に閉じ込められており、二人とその仲間たちは娘を助ける為にこの仮想世界を走り回っているのだ。

 先程もバベルの塔に潜入するために必要であろう鍵を持った戦士を倒し、こうして拠点であるラインに戻ってきて少しばかりの休息を取っているわけである。

 

 「じゃあもう少し休んだら行くか…ってメッセージ?誰からだ?」

 

 少年のメールボックスに届いたのは一通のメール。

 生憎メールを送った相手の名前は表示されておらず、件名は『届いてるかー?』という変な文章。

 本文も本文で、噴水で待っているから会いに来てくれという簡潔なものである。

 

 「……」

 

 すぐさま少女に声をかけて、メールを見せる。

 少女にも心当たりは無いらしい。

 

 「ちょっと行ってみるよ。歌姫は後でも良いかな?」

 

 「気を付けてね?それじゃあ私はリズ達のところに行ってるから、終わったら連絡してね」

 

 ーーーーキリトくん

 

 スプリガンの少年ーーーーーー『キリト』は少女の言葉に頷くとメールの差出人のところに向かうために歩きだしたのだった。

 

 




あっちにもキリトいてこっちにもキリトいるとかこれもうわけわかんないですね

ユナ周りは無理矢理ですけど、そもそもゲームでユナのこと説明されてないし名目上MHCPの形を取ってるデジタルゴーストみたいな
ストレアに近い形ですかね

映画のその後の話は私が本を持ってないので調べた限りでそれとなく表現しました
何やらあの後にも一悶着あって、エイジがVR復帰してコピーによる自己の増殖に耐えられなくて消滅しかかってた黒ユナを助けたらしいです。熱い。読みたかった

げ、ゲーム世界線のALOの没データエリアにもアインクラッドあるから…(震え声)

最近寒くなったので皆さん体調には気を付けてください(ベン○ブロック飲みながら)

それではまた次回!


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第五十三話:遭遇

七ヶ月振りですねお久しぶりです
以前の投稿から結構経ってて驚いてます
お待たせしました


※2020年3月8日
描写少し追加しました


 

 ユナの助けを得られることになった俺たちは、一先ずこれからの方針を決めることにした。

 彼女が言うには、《ペルソナ・ヴァベル》は《バベルの塔》に居る可能性が高いらしく、とにもかくにも一度そこに行ってみようということになったことから、俺たちはラインの転移門の前にいた。

 

 「本当は転移門はシステムロック…結構厳重にされてるみたいなんだけど、少し前から綻びが出てるんだ」

 

 「綻び…?」

 

 「多分私達みたいな本来関係ない存在が沢山来てるからだと思う…ログデータを参照する限り何か大きなデータの揺らぎがあったみたいだし」

 

 MHCPとしての権限でログを参照できるらしいユナは転移門を触りながらそう言うと、ここをこうして…と何やら操作を行い、転移門を起動させた。

 

 「うん、これでバベルの塔のある《岩塊原野ニーベルハイム》にいけるよ」

 

 「ニーベル…何だって?」

 

 「いいから早く!システムを誤魔化せる時間は限られてるんだから!」

 

 ユナに押されるようにして転移門に入った俺たちを待っていたのは、正に岩の塊が乱立している荒野であった。

 明らかに嫌な雰囲気を感じるフィールドに俺もユージオも警戒心を強める。

 

 「…!キリト!」

 

 「モンスターか!」

 

 プレイヤーに反応したのか現れたモンスターが視界に入る。

 ユージオの声を受け、《夜空の剣》を構えた俺はふと気になりユナに声をかける。

 

 「…そういえばユナは戦えるのか?」

 

 「私?」

 

 SAOのユナならまだしも、今の彼女は戦いとは無縁の歌姫だ。とても戦えそうには見えない。

 ユージオも武器を持っていないユナが気になるようで、視線を向けているのがわかる。

 

 「戦うのは無理だけど…こういうことならできるよ」

 

 俺の言葉にそう答えたユナは、突然歌を歌い始める。

 すると俺とユージオのステータスにバフのアイコンが現れた。

 

 「…!力が湧いてくる…!」

 

 「なるほど、歌バフは健在ってわけだな」

 

 オーディナル・スケールでもユナの歌はプレイヤーに特殊バフ効果をもたらしていたことを思い出した俺は、ふむふむと頷く。

 ユージオもバフを受けるのは初めての経験ということで、驚いているようだ。

 

 「よしユージオ、今のうちにフィールドの敵を倒すぞ」

 

 「わかった!」

 

 寸分違わない動きで剣を構えた俺たちは、現れた人龍型のモンスターに向かって駆け出す。

 剣を肩に構えた俺は片手剣単発突進技《レイジスパイク》を発動し、通り抜けるようにモンスターを一閃する。

 

 「い……やぁぁぁーっ!!」

 

 続いてユージオが雄叫びと共にソードスキル…《アインクラッド流秘奥義》の二連撃技《バーチカル・アーク》を発動。上段斬りを命中させる。

 その間にスキルの硬直が解けた俺は振り返るとソードスキル《ホリゾンタル》を発動。

 それと同時にユージオの二撃目がエネミーの体を切り裂き、そのHPゲージを吹き飛ばした。

 

 ユナのバフは思った以上の効果があったようだ。

 剣を納め、ユージオと拳をぶつけ合った俺は中々バランスの良いパーティだなと自己分析をする。

 欲を言えば防御も攻撃もできる重戦士的な立ち位置のプレイヤーが欲しいところではあるが、無い物ねだりをしても仕方がない。

 ここは俺が臨機応変に動きつつ、二人のカバーをしていくしかないだろう。

 

 「ねえキリト、アレじゃないかな?バベルの塔って」

 

 と、ここでユージオが前方を指差す。

 その先には明らかに怪しさ満点の塔がそびえ立っており、ユナに視線を向けると頷いたことからやはりあれがバベルの塔なのだろう。

 

 「…あれは」

 

 その前に佇んでいるのは明らかに塔を守護しているであろう巨大モンスターである。

 まだ認識範囲外であるからだろうか、こちらに攻撃してくる気配はなさそうである。

 

 「…あんな怪物…見たことない…《整合騎士の飛竜》なんかよりもずっと大きい…」

 

 「…どちらにしろ、アイツを倒さなきゃ塔に入れるかすら確かめることもできないのか…」

 

 

 

 

 

 

 

 「妾の領域に何の用だ」

 

 

 

 

 

 「っ!誰だ!!」

 

 突然聞こえた声に、俺たちは戦闘体勢を取る。

 すると俺たちの目の前の空間が歪み、中から目元を仮面で隠した一人の少女が現れた。

 

 「女…の子?」

 

 ユージオの固い声を聞きながら、俺は目の前の少女を観察する。バベルの塔に近づいたこと、先ほどの言葉から推測するに彼女が……。

 

 「《ペルソナ・ヴァベル》か…?」

 

 俺の確認の言葉に少女は眉をつり上げながらやや不愉快そうに言葉を返す。

 

 「…妖精は物覚えが悪いようだな」

 

 「……なんのことだ?」

 

 「知れたこと…貴様の大切な娘を奪った敵が目の前にいるのだぞ?」

 

 「娘…?……ユイのことか?どうしてユイを知っているんだ」

 

 いまいち話が噛み合わない。

 それを相手も感じたのか困惑の気配を見せながら此方に視線を向けている。

 

 「…そもそもこのエリアのアドレスは厳重に封印したハズだ。まだ王の虚像を全て倒していない貴様が何故ここにいる?」

 

 「誰かが封印を斬っちゃった(・・・・・・・・・・・・)んじゃないかな?」

 

 「貴様は…」

 

 ユナの言葉に漸く俺以外いることに気づいたのか、ユージオ、ユナに目線を動かし、再び俺に視線を向けた少女は「…そういうことか」と吐き捨てるように言葉を溢した。

 

 「…《異物》が紛れ込んだ影響か……先程の心意攻撃の干渉がここまで響くとは…」

 

 「…おい、こっちの質問に答えろ」

 

 「…答える必要などない。お前達は何も知らなくていいのだから…!」

 

 怒気を含んだ声でそう言った彼女が腕をつき出すと、突如俺たちの足元に黒いノイズがかった影が現れ、俺たちの体を飲み込み始めた。

 

 「うわっ…!?き、キリト!!」

 

 「くそっ…なんだこれ…!」

 

 沈み込む体を必死に動かすが、抵抗むなしく俺たちは影に飲み込まれていく。

 

 「………大人しく眠りについていろ。次に目が覚めれば全てが終わっているのだから」

 

 「終わっているって…なんだよそれ…っ!!」

 

 何もわからないままやられるわけにはいかないと、少女を睨み付けるが、仮面の中の目と視線が合った瞬間、何とも言えない感覚が俺を襲った。

 いや、仮面に隠されていてその表情は見えないのだが、明らかに少女はーーーーー。

 

 「…だからどうか私の決意を邪魔しないで……■■」

 

 最後の言葉は俺の体が完全に飲み込まれたことによって聞き取ることはできなかった。

 続いて視界が真っ暗になり、俺の意識も途切れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 《無限変遷の迷宮区》

 

 ペルソナ・ヴァベルが現れた影響で出現したその場所は、所謂ランダムマップで構成されたダンジョンのようなものである。

 出口はあるが、変わり続ける景色と襲いかかるエネミーにはどんな戦士もいずれ力尽きるだろう。

 それに目をつけたヴァベルはここを一種の監獄として扱っていた。

 

 「う…………っ」

 

 若草色の髪の少年、ユージオは呻き声をあげながら体を起こした。

 ボーっとする頭を徐々に覚醒させた彼は周囲を見渡し目を見開く。

 

 「なんだ…ここ……」

 

 今まで見たこともない景色にユージオは戸惑いを隠せない。

 キリトと修剣学院に向かう途中の旅路はおろか、ルーリッドの洞窟、セントラル・カセドラル(・・・・・・・・・・)の中とも違う。ここは一体どこなのだろうか。

 

 「……え?」

 

 と、ここでユージオは自身の頭に浮かんだ思考に首を傾げる。何故なら彼はセントラル・カセドラルの中に入った覚えはないからだ。

 どこか自分の中に違和感を感じながら、ここでようやくユージオは周囲に誰もいないことを確認した。

 

 「キリト…!どこだいキリト!!」

 

 辺りを見渡しながら声をあげるユージオの声に反応してくれる相棒の姿は見当たらない。

 

 「折角会えたのに…っ」

 

 また離ればなれになってしまったのかと、ユージオは拳を握りしめる。

 しかし一度会えたのだ。キリトも自分と同じようにこの場所に来ているのかもしれない。

 

 そう考えたユージオの耳に、金属がぶつかり合う音と共に誰かが走る音が届く。

 改めて見渡すとこの場所は小部屋のような場所であった。

 通路の先は闇に包まれており、どうやら音はその先から聞こえるようだ。

 音はどんどん近くなり、やがてその音の正体がユージオの目にも入る。

 

 「あれは…っ!」

 

 全身を金色の鎧で包んだ騎士と、その身の丈以上の大きさの鎧を纏い、刀を振るう骸骨の侍が激しい攻防を繰り広げていたのだ。

 疲れているのだろうか、黄金の騎士は肩で息をしながらも骸骨の攻撃を捌いている。

 

 「………っ人…!?下がりなさい!!」

 

 ユージオに気づいた騎士は彼に逃げるように声をかけた。

 しかしその行為が隙を生み、騎士の防御を掻い潜って刀が薙ぎ払われる。

 

 「しまっ……あっ!!」

 

 咄嗟に剣を滑り込ませることに成功したが衝撃までは吸収できず、騎士はユージオの近くまで吹き飛ばされた。

 

 「だ、大丈夫ーーーー」

 

 声をかけるユージオだが、その騎士のあまりにも見覚えがある鎧の紋様に、思わず息を呑む。

 細部こそ違うが間違いない。この騎士の鎧は自分が幼い頃にルーリッドの村に現れ、大切な幼馴染みである《アリス・ツーベルク》を連れ去ったあの騎士ーーー整合騎士の鎧とそっくりなのだ。

 

 「ぐっ……」

 

 戸惑いを隠せないユージオを他所に騎士は起き上がろうとするが、限界が近いのか膝をついてしまう。

 

 「そ、そんな体で無茶だ!逃げましょう!」

 

 「逃げても追ってきます…。それに…」

 

 戸惑いから復帰したユージオの言葉に騎士は首を横に振りながら、兜の中から視線をユージオに向ける。

 

 「あなたがいる以上、騎士である私が逃げる訳にはいきません…!」

 

 「ーーーっ」

 

 兜の下の吸い込まれるような青い瞳と視線を交わしたユージオはその言葉に息を呑む。

 幼馴染みを目の前で拐われた彼にとって、整合騎士という存在はどこか懐疑的なモノになっていた。

 確かに目指してはいるがそれはあくまでも連れ去られたアリスを救う為の手段でしかない。

 

 今でもあの時のことを考えると深い悲しみと後悔、心の奥底で嫌な感情が渦巻く。

 整合騎士を疑い、怒りの矛先を向けるなんて公理協会に定められた《禁忌目録》に触れる考えだとはわかっているから、普段はユージオも考えないようにしている。

 

 しかし、だからといってここで目の前の騎士を見捨てるのか?

 

 「さあ、行きなさい……。ここは私が」

 

 剣を支えに立ち上がった騎士はユージオの前に立つと、こちらに歩を進める骸骨を睨み付ける。

 例え《命令権》を公使されていなくても、整合騎士であろう目の前の人物の言葉にはどこか応じなければならないであろうという力がある。

 

 「僕は………」

 

 例え整合騎士であってもーーーーーー

 

 多くの葛藤がユージオの頭をよぎる。

 自然と動き出しそうになる足。

 後ろに下がり始めればあとはそのまま逃げるだけになるだろう。

 

 「僕は……何回…っ」

 

 アリスが連れ去られた時は自身の心が弱かったから動けなかった。

 

 ルーリッドの洞窟でキリトがやられた時は力が足りなかったからゴブリンに敗北した。

 

 ーー僕が整合騎士を目指すのはアリスを助ける為だ。

 ーーでも、でもそれもあるけれど。

 

 ゴブリンとの戦いを終えたあと、キリトに剣術を習うために紡いだ言葉を思い出す。

 

 そしてーーーーー

 

 「あ………」

 

 目の前に立つ騎士と、記憶のアリスの姿が重なったように見えた。

 

 下がりそうになる足は既に前の地面を強く踏みしめている。

 

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 止まりそうになる体を大声で鼓舞しながらユージオは駆け出した。

 青薔薇の剣を上段に構えた彼の体は、見えない何かに叩かれたように更に加速する。

 

 その体は騎士と骸骨の間に入り込み、高速の一撃を持って振り下ろされる。

 

 ライトグリーンのエフェクトに包まれた青薔薇の剣は、今まさに騎士に振り下ろされるであろう、赤い光に包まれた刀とぶつかり合い、大きな衝撃を引き起こした。

 

 「なっ……!?」

 

 「う…おおおおおおっ!!!!!」

 

 騎士の驚きの声を背後に、ユージオは剣を振り下ろす。

 

 青薔薇の剣は相手の刀を叩き折りながら、その刀身で体を切り裂いた。

 同時に激しいノックバックを相手に与え、骸骨侍はまるで距離をとるかのように二人から離れると、新しくユージオにも狙いを定めるように腰からもう一振りの刀を抜き放った。

 

 「な、何をーー」

 

 「自分は…!!!」

 

 整合騎士の言葉に被せるように声をあげたユージオは、自分の中の迷いを払うように一度深呼吸をした後、再び声を張り上げる。

 

 「自分はノーランガルス修剣学院の上級修錬士、ユージオ!!!僭越ながら、整合騎士殿の戦いの手助けをさせていただきたく、進言を!!!」

 

 「な、なりません…!!まだ剣を学んでいる身である貴方を、人界の守護者である私が危険な目に遭わせる訳にはいかない!!」

 

 騎士はユージオの言葉に驚きの声をあげながらもその申し出を切り捨てる。

 多少剣の心得があったとしても彼は一般人に近い…騎士にとっては守るべき存在なのだ。

 整合騎士として末端に近い自分がその役目を守れなくてどうするのか。

 

 「自分が剣を学ぶのはーーー!!!!」

 

 「もう…二度と自分の大切なものを無くさないためです…!!」

 

 「!!」

 

 「嫌なんだ…、何もせずに震えるだけなのは…!」

 

 震えるように紡がれたユージオの言葉を受けた騎士は一度言葉を探すように口を開きーーしかし頭を振るとその手に持つ剣を握りしめる。

 

 「…わかりました」

 

 短いようで長いような沈黙のあと、騎士はそう答えるとユージオの隣に並んだ。

 

 「私が合わせます。ユージオ、貴方は貴方の思うように動いてください」

 

 「…!ありがとうございます…!!騎士…ええと」

 

 そう言えば目の前の整合騎士の名前を聞くのを忘れていたと今更ながら気づくユージオ。

 なんと呼べば良いのだろうか、無難に騎士様で良いのだろうかと彼が悩んでいると、その理由に気づいた騎士はああ、と声をあげる。

 

 「名乗っていませんでしたね。私は整合騎士《アリス・シンセシス・サーティ》…そうですね、アリスと呼んでください」

 

 「アリス……」

 

 その名前は彼にとって特別な名である。

 もしかして自分が探している少女と関係があるのだろうか?

 しかも整合騎士である。自分が知りたいことを知っている可能性が高い存在に問いただしたいことは沢山ある。

 

ーーだけど今は…

 

 「…わかりました、騎士アリス」

 

 今は目の前のモンスターを倒さなければならない。

 

 ユージオは強い意思で自身の思いを押さえつけると、整合騎士アリスと共にモンスターに立ち向かうのだった。

 

 

 

 




アリスはずっと兜を被ってます

敵モンスターはカガチ・ザ・サムライロードみたいな感じです

また少しずつ進めていきますので、お付き合いのほどよろしくお願いいたします



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第五十四話:切望

大変お待たせいたしました

色々見返してたら浮かんできたので初投稿です




 悪夢を見る。

 内容はいつも同じ。自分の力が足りないから、大切な人を失ってしまうという夢。

 その夢を見る度に、生き残ってしまった自分への怒りが沸き起こる。

 

 だからあの子を生き返らせようと話を持ちかけられた時は何でもやると誓ったのだ。

 何もできなかったあの時とは違う。僕は英雄なんだって、その為に体を鍛えたし、力も手に入れた。

 

 だけどその試みも失敗した。

 どうやら英雄は真の英雄に勝てなかったらしい。

 全てを掛けて挑んだ戦いに僕は負け、そしてまたあの子を失った。

 

 全部終わって少しした後、英雄様が僕の前に現れた。

 どうやらあの子の虚像から助けを求められたらしい。

 無視することもできた。

 だけどそれを妄想だと切り捨てられるほど、僕は大人じゃなかった。

 

 旧SAOサーバー。

 すべてが始まり、そして終わったあの場所で、僕は再び戦った。

 戦いを終えた僕が助けたのはあの戦いの中で共に行動していた虚像の彼女だった。

 そして僕が生き返らせたかったあの子は…目の前で消えてしまった。

 

 虚像…YUNAはARアイドルとして活動するにつれて、自分のコピーを沢山生み出されてしまった。

 その結果自分自身の自我が崩壊し始め、助けを求めてきたということらしい。

 

 それから僕はAIである彼女…いや、彼女達を助けるためにあちこちを走り回った。

 時には崩壊寸前まで追い込まれたコピーの為にフルダイブを行い、彼女が消えないように尽力した。

 

 「ねえ、■■■はどうしてそこまでしてくれるの?」

 

 黒い衣装に身を包んだ彼女はある時そんなことを聞いてきた。

 僕はそれに対してそれが償いなんだと答えた。

 

 「でも、ずっとそうしてちゃ疲れちゃうよ」

 

 つくづく人間みたいなことを言うと思わされる。

 英雄様にくっついてたAIもまるで人間のような振る舞いをしていたし、これじゃあ誰が人で誰がAIなのかわからない。

 でもまあ、それももう終わりだ。

 自我崩壊の原因となった同一データのコピーは減りつつある。彼女の負荷も軽減されてきていた。

 これで少しはゆっくりできるだろう。

 

 「それじゃあ、頑張ったキミに歌を歌ってあげよう」

 

 それはいいね。と彼女の歌声をBGMにしながら缶ビールを開け、空を眺めた俺の目に、おかしな影が浮かんでいるのが入った。

 

 オーグマーの故障ではない。

 訝しげにそれを見つめていた俺は、ある違和感に気づいた。

 

 歌が聞こえない。

 

 「…ユナ?」

 

 絞り出した声はただ、虚無の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うーんこれは…参ったね」

 

 《無限変遷の迷宮区》に閉じ込められたユナは、アインの顔をむにむにしながら辺りを見渡していた。

 気がついてから暫く時間は経つが、ここはエネミーが徘徊するダンジョンらしい。

 幸いエネミーの索敵外にいるため戦闘にはならないが、あいにくユナには戦闘能力が殆ど無かった。

 いや、あるにはあるのだが如何せん自分の力はサポート向きなのだ。

 

 なので先程キリトに聞かれたときは戦うのは無理と答えている。中途半端な戦いができると思われるなら、サポート向きと言われるのがいいのである。

 

 「いざとなったらお前を放り投げてやるぅ」

 

 嫌がるアインをこねくりまわしながら、ユナは自分がこの場所に来ることになった時のことを思い返していた。

 

 ARアイドルである自分はただのデータの固まりだ。

 このVR空間に集まったユナというデータの粒子をアインがまとめ、一つの存在として構築した。

 そのデータはARアイドルである《YUNA》だけでなく、かつて《白ユナ》と呼ばれていた存在や、SAOで命を落とした《重村悠那》の残留データも含まれており、今の彼女は以前キリトに話した通り全部のユナが集まった存在でもあった。

 つまるところ、巷で《オーディナル・スケール事件》と呼ばれていた出来事で行われる予定であった重村悠那の蘇生と同じ現象が起きたということになる。

 

 ただ何事にも元になった“素体”というものがある。

 この素体の部分は《YUNA》と言われていたARアイドルとして活動を行っていたデータが多かった為、今ここに存在しているユナの基本はいわゆる《黒ユナ》と呼ばれている存在となっているのだ。

 

 

 「エーくん……エイジ…」

 

 ぽつりと呼ぶその名前は、黒ユナと一緒に過ごしていた人物の名前。

 『ユナ』の全てに強く関わった存在。

 自分がエーくんと呼ぶのは何だか違う気がして、慣れ親しんだ名前で言い直す。

 

 この体の大部分を占めるデータログを参照すると、自身は最後までエイジと共に過ごしており、あの《ペルソナ・ヴァベル》が引き起こした際に起きた電脳世界の異常によって、ここへ引き込まれてしまったらしい。

 

 最初は自我なんてあるようで無かった。だけどキリトに残っていた残留データを収集したことによって、今ここにいるユナはある程度の思考能力を手に入れることができていた。

 

 自分で考え、行動する。

 

 歌を歌うという簡単な動機しか与えられていなかった自分が変わってしまうのは少し怖かったが、それでもこの変化によってエイジや父が喜んでくれるならこのままでいいかもしれないと考えてしまうのだ。

 例え白ユナや悠那が生き返るのを望まなくても。

 

 

 「あーあ、でも歌いたいなぁ」

 

 とはいえ本業はARアイドルであるYUNAである。

 早く戻って歌いたいと、地面に座り込みながら上を眺める。

 どこまでも広い空間だ。

 ここがSAOと同じようなダンジョンなのであれば、フロアボスのようなのを倒せばもとの場所に戻れるのかもしれないと、悠那の記憶が語りかける。

 

 「とりあえず皆と合流しなきゃ…ん?」

 

 自分を元気付けようとしてくれたのだろう。

 周囲をくるくる回るアインに微笑んだユナはしかし、耳に金属音を捉えて表情を変えた。

 誰かが戦っているのだろうか?

 びっくりした顔のアインをむんずと掴んだユナは、音の聞こえた方向へ走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 「ぐぅっ…!!」

 

 何度目の衝撃だろうか。

 力が抜けそうになる手に渇を入れ、もう一度《青薔薇の剣》を握りしめたユージオは未だ倒れる気配のないエネミーを睨み付ける。

 

 《エンドオブ・ザ・サムライロード》という名前の敵の《天命》は5本もの長い緑の棒で表示されていた。

 現在そのうち4本を黒く染めることに成功したが、残りの棒が減る度に敵の攻撃は苛烈になってゆく。

 

 「大丈夫ですか、ユージオ!」

 

 「はぁ…はぁ…、はい!!」

 

 こちらに声をかける整合騎士の声に頷きながら、一人で2本を削ったという彼女の強さに驚愕する。

 

 「あと1本です。気を抜かずに、集中して」

 

 アリスが自分に合わせてくれているとはいえ、即席のコンビネーションはそこそこ上手く機能していた。

 

 「グオオオオオオッ!!」

 

 ここで骸骨侍は雄叫びを挙げるとその武器を腰だめに構える。

 それと同時に光輝く刀身を見た二人は身を固くする。

 

 今までやつの攻撃は突進系のものが多かった。

 恐らく次の技もそれに近いものだろうと踏んだユージオは、刀の軌道を慎重に計算しながら剣を上段に構える。

 

 彼が放とうとしている技はアインクラッド流秘奥義《バーチカル》。これなら幾つかの突進系の攻撃にも対応できるだろう。

 

 しかし侍は刀を抜き放つように振り上げると、ユージオの予想を裏切り高くジャンプ。そのままの勢いで二人に斬りかかってきた。

 

 「ジャンプした!?」

 

 これまでとは明らかに違う挙動に二人の動きは一瞬止まる。

 しかしその一瞬はこの戦いの中では命取りであった。

 

 かの浮遊城にてカタナソードスキル《旋車》と呼ばれた重範囲攻撃技は地面を破壊し、その衝撃で二人を大きく吹き飛ばす。

 痛みが全身を走るなか、ユージオは侍の刀が光り続けているのを目にする。

 

ーーーまだ終わってない!?

 

 カタナソードスキル《浮舟》。

 真っ赤なライトエフェクトに包まれたその攻撃はユージオに止めの一撃を刺そうと放たれる。

 

 「エンハンス・アーマメント!!」

 

 直後、凛とした声と共に彼の目の前に金色の盾が出現し、その攻撃を防いだ。

 慌てて声の主を探すと、吹き飛ばされながらも刀身が無くなった金木犀の剣を構えたアリス。

 

 彼女が自分を助けてくれたのだと理解すると共に、ユージオはあることに気づいた。

 この盾は彼女の武器が姿を変えて作られたものだ。

 つまり彼女には自分を守る手段が存在しないということになる。

 

 現に攻撃を防がれた侍は怒りの形相を向けてアリスに向かって刀を振りかぶっている。

 彼女も必死に剣を引き戻そうとしているが、間に合いそうにない。

 

 「ディスチャージ!!」

 

 しかし彼女は諦めていなかった。

 光素を操り即席の盾を作りだし、少しでも攻撃を防ごうと試みる。

 盾は紙のように切り裂かれるがそれでも彼女が武器を滑り込ませる瞬間を稼ぐことに成功した。

 敵の刀はアリスの剣によって軌道を変えるも、その兜に攻撃は当たり彼女を吹き飛ばす。

 

 「騎士アリス!!!」

 

 九死に一生を得たユージオは慌てて彼女に駆け寄ろうとするも、目の前にエネミーが居るせいで動きを止めてしまう。

 

 「どうすれば……!」

 

 奴を倒さなければ彼女を助けにいけない。

 だが敵は二人がかりでなんとか倒せた相手だ。

 自分の技量では奴に勝つことはできないだろう。

 

 

 

 

 「ーーーーー♪」

 

 必死に思考を回すユージオの耳に、聞き覚えのある声と軽快な音楽が鳴り響いた。

 それと同時に体に力が張る感覚。

 

 「き、君はーーー!!!」

 

 「あいつは私が引き付けるから!早く!!」

 

 そこに居たのはその手に小さな楽器を携えたユナであった。

 彼女は敵のヘイトを高めるスキルを使うと同時に、エネミーにアインを投げつけた。

 

 アインはポヨンとエネミーにぶつかった後、その周囲を回りながら撹乱を行い始めた。

 その間にユナは手に持ったリュートをかき鳴らす。

 するとメロディーと共に光の球が生み出され、その球は次々とエネミーにぶつかっていく。しかしその攻撃はあくまでも牽制用でしかないのか、大したダメージにはなっていないようだ。

 

 「助かります!!」

 

 だがユナがその身を危険に晒してまで作ってくれた時間だ。

 ユージオは真っ直ぐにアリスに駆け寄ると、その体を抱き起こす。

 

 「騎士アリス!しっかりしてください!!」

 

 エネミーの攻撃はアリスの頭部に直撃していた。兜に守られていたとはいえ、彼女の意識を奪うのには十分な威力であった。パッと見は怪我などなさそうだが、中で何が起きているかはわからない。

 心のなかですみません、と謝りながらユージオは彼女の兜を取る。

 

 「……えっ」

 

 そうしてあらわになった彼女の顔に、ユージオは思わず困惑の声をあげる。

 見覚えのある金髪と顔立ち。

 そう、まるで記憶の中の彼女がそのまま成長したらそうなったようなーーー

 

 「ユージオーー!!」

 

 「っ!!」

 

 止まりかけた思考をユナの声が引き戻す。

 そうだった、固まっている場合じゃない!

 一先ず怪我を確認し、気を失っている彼女を物陰に移動させたユージオはもう一度彼女に視線を向け、しかしそれを振り切るように首を振ると戦線に復帰した。

 

 「ごめん!待たせた!!」

 

 「キリトは!?」

 

 復帰早々ユナに問いかけられたユージオは首を横に振ることで返答した。

 それだけで二人共彼と合流していないことがわかる。

 

 「あいつ…多分フロアボス。アレ倒せばここから出られるかもしれない」

 

 「ふろあ…?た、倒すにしたってあいつかなり強いんだ…!僕だけじゃ…」

 

 そうだ、整合騎士でさえやられたのだ。

 例えアレを倒せばここから抜け出すことができると言われても、キリトに及ばない自分がやつを倒しきることなんて不可能だという思考がユージオの頭に浮かぶ。

 

 力が欲しいのに今の僕ではその力を手に入れることすらできない。

 

 「僕だけじゃ無理だ…」

 

 そんな彼の言葉に、ユナは静かに口を開く。

 

 「私は…私は諦めないよ。だって…」

 

 えっ、とユージオが彼女に向けると、ユナは凛とした表情をしながら腕を大きくあげる。

 

 「だって私はまだ歌いたい!」

 

 そう、強く声を挙げ、頭上で大きく指をパチンと鳴らした。

 それと同時にどこからか流れる音楽。

 その発生源はアインだ。

 侍も突然のことに戸惑っているのか、その動きを止めている。

 

 「色んなところで歌って、そして皆に私の歌を届けたい!!だからこんなところで立ち止まれない!」

 

 特徴的なコーラスが聞こえた後、ユナは自身の思いを乗せるように歌い始めた。

 

 

 「ーーーー手に入れるよきっと……」

 

 

 

 

 




広げた風呂敷を畳めるか心配なんですけどOSSNo.2君ちょっと出したいと思ったので前半の部分をいれました

FBでも出てきたんですもんね
あの二人結構好きです

ユナの攻撃は魔法の玉みたいなのをぶつける攻撃です
攻撃手段が無かったので追加しました


ユージオはまだ覚醒を残しています
そして我らがキリトはいずこへ!!


感想書いてくださるかたいつもありがとうございます
また書こうとしていたときも感想を見返しながら元気をもらってました

お返事できてなくてすみません

相変わらず亀更新ですがよろしくお願い致します

また次回!!!!


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第五十五話:青薔薇の剣撃

大変お待たせいたしました!

自粛期間中にアリシゼーションブレイディングを始めました

オリジナルストーリーでキャラクターの掘り下げしてくれるのは本当に面白いです
リーナ先輩とエルドリエのお話とかあってよかったです

それではどうぞ!


 「ーー彼方に輝く星が導く場所へ」

 

 ユナが歌い始めると同時に、ユージオは自身の視界の端に幾つかのアイコンが現れるのを見つけた。

 その後から身体中を包んでいた倦怠感は無くなり、天命も徐々に回復し始めているのが確認できる。

 驚きの表情でユナを見つめると、彼女は此方にウィンクを返しながら歌うのを続けている。

 

 先程の強化よりも強力な効果を持つ歌を歌い始めたのだろう。

 しかもそれを歌うには恐らくかなりの隙を見せることを承知した状態で。

 

 「…僕を…信じてくれるの…?」

 

 《青薔薇の剣》を握りしめる。

 実力が伴わないからもう戦えないなんて、どうしてこうも弱気になっていたんだ。

 頼りになる相棒がいないだけで何もできないのか?

 

 「…違う」

 

 心の中に浮かぶ言葉を、ユージオは小さく否定する。

 確かに自由奔放なキリトの後を何となく付いていっている感じはした。それは自分の《天職》を全うし、自由になったことで何に頼れば良いのか少し考えてしまっていたからなのかもしれない。

 だが、ルーリッドの洞窟からこの剣を持ってきたのも、ゴブリンに立ち向かおうとしたのも、アリスを助けるために整合騎士になろうとしたのも、全部自分の意思だ。

 

 「…ステイ・クールだ……」

 

 相棒から教わった言葉を呟いて、弱気になった自分に気合いを入れる。

 整合騎士アリスに放った言葉は嘘ではない、仲間を守れる力が欲しくて騎士を目指し、今のユージオには守れる力があるのだ。

 すぅ、と深呼吸をすれば落ち着いた頭が周囲の状況を改めて整理してくれる。

 

 使える手段は把握している。

 MPという概念を使用して放てる神聖術。

 修剣学院にて学んだ剣術。

 そして青薔薇の剣。

 

 剣に視線を向けるとユージオは何とも言えない感覚を覚える。そう、知っていないことを知っているような…そんな感覚である。

 

 武装完全支配術(・・・・・・・)記憶解放術(・・・・・)を使うには使いどころを見極めなければならないだろう。

 その事について気になることは多いが、この状況を打破するためにはこの不可思議な現象を利用する手は無い。

 

 「…やるしか、ない」

 

 ふぅ、と息を吐いたユージオは剣を構えるとエネミーに意識を向ける。

 やることは簡単だ。

 相手の攻撃を凌ぎ、反撃する。

 ライトエフェクトに包まれた相手の刀を睨み付けながら、ユージオも秘奥義の構えを取る。

 

 「ーーーーシッ!!」

 

 短く切った息と共にユージオの背中が見えない何かに叩かれたように動き出し、振るわれた剣は同時に放たれた相手の武器と衝突する。

 《アインクラッド流》突進技《レイジスパイク》は相手の刀とぶつかり、激しい衝撃と共にお互いをノックバックさせる。

 ここまでは今までアリスと共に行っていた戦いと同じだ。

 しかしユージオは倒れそうになる体を左足を踏ん張ることで堪え、そのまま相手に右後背を見せるように剣を構える。

 同時に青薔薇の剣を包む緋色の閃光。

 

 「う……お、おお!!」

 

 放たれた技は秘奥義ではあるが《アインクラッド流》ではない。

 ノーランガルス修剣学院にてユージオが《ゴルゴロッソ・バルトー上級修練士》より手ほどきを受けた技ーーー《バルティオ流秘奥義(・・・・・・・・・)》の《逆浪》である。

 大きく吠えるユージオの体が反時計回りに回転し、エネミーに向かって青薔薇の剣が振り切られる。

 青薔薇の剣はそのままエネミーの腕に食い込むと、ズパァンッとその右腕を斬り飛ばした。

 削られる《天命》と共に光の粒子となって消える右腕。

 ユナのバフによりダメージにクリティカルが入り、エネミーの《部位欠損》を引き起こしたのだ。

 

 「グオオオオオオオオッ!!」

 

 腕を切られたからか、声を上げながら怯む骸骨侍を見たユージオは、ここを好機と捉えた。

 秘奥義発動による硬直状態が解除される間に、システムコールの言葉の後に術句を紡ぐ。

 知っているはずのない言葉がユージオの口から自然と発声され、その度に見覚えのない情景がユージオの頭に浮かぶ。

 

 ーーーーこれは…青薔薇の剣の記憶ーーー?

 

 つい思考に意識が向きそうになるが、左手に持ち変えた刀を振り下ろそうとしていることに気づいたユージオの口は、自然と術式を発動させるための言葉を放っていた。

 

 「ーーーエンハンス・アーマメント!!!」

 

 硬直が解除されたと同時に青薔薇の剣を地面に突き刺すユージオ。

 直撃すればその頭を吹き飛ばすであろう速度で振るわれた刀は、彼に衝突する寸前でその動きを止める。

 剣を突き刺したと同時に地面から現れた青い薔薇の蔓が相手の体を絡めとったのだ。

 

 「咲けっ!!青薔薇!!!」

 

 巻き付いた青薔薇の蔓は敵の天命をじわじわと削りながらその体を凍らせていく。

 ユナもユージオが発動した攻撃に驚きながらも、支援スキルの発動を続ける。

 しかし如何に青薔薇の蔓が動きを止めても、それでトドメをさせるわけではない。

 

 武装支配術の持続時間に対して天命の減りが遅い、とユージオは心の中で歯噛みをする。

 青薔薇の剣を通して発動する事象は飽く迄も相手の動きを止める物であり、決定的な攻撃にはならないのだ。

 だから《ベルクーリ・シンセシス・ワン》との戦いでーーーーー

 

 「ぐっーーーあっ!?」

 

 突然頭を襲った痛みにユージオは思わず声をあげる。

 この世界にーー正確にはキリトと合流してから知らない記憶がガンガンと頭を叩くのだ。

 わからない、知らない。

 ルーリッドの洞窟でゴブリンと戦った際に重傷を負った自分が、昔キリトと共に過ごしていたと突然そう思ったような、それに近い感覚。

 それだけなら気のせいだと流せた。

 なのに頭を叩くこの記憶はあまりにも鮮明で、自分が体験したかのように感じられるため、考えないようにするということが難しいのだ。

 

 

 「ユージオ!?」

 

 幸いユナの声のおかげでユージオの体は硬直から回復した。

 しかしその一瞬はこの状況では致命的であった。

 

 どこにそんな力があったのだろうか。雄叫びを上げながら青薔薇の拘束を解除したエネミーはユージオに向けて左腕の武器を叩き付けるように振り下ろす。

 自分より大きな体から繰り出される一撃を受ければユージオとてひとたまりもないだろう。

 相手の天命の減少は続いているが、それよりも相手の攻撃が早い。

 

 

ーーーーーだが。

 

 

 「うーーーーおおおおおおおっ!!」

 

 それがどうしたとユージオは敵に雄叫びを返し、地面から引き抜いた剣を構えた。その動きは驚くほど洗練されており、かつてない早さでユージオの体は秘奥義の発動シークエンスに入っていた。

 放つ秘奥義は、《アインクラッド流》単発斬り《バーチカル》。

 

 お互いの攻撃が近づくにつれて、ユージオの思考は加速を起こし、その動きがスローに見えてくる。

 相手の攻撃はこちらの体を左肩から袈裟斬りにするだろう。ユージオの攻撃は届かない。

 だがしかし、彼の耳はある音を捉えていた。

 

 だからユージオの動きは止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ーーーー悪い、遅くなった」

 

 

 ギィンッ!と金属同士がぶつかる音と共に聞こえる相棒の声。

 漆黒の髪をその目にとらえたユージオはにやりと口角を上げると秘奥義を発動させた。

 

 右上から左下にかけて振り下ろされる上段斬り。

 通常のバーチカルならここで攻撃が終了するが、ユージオの腕はまるでバネのように跳ね上がり返すように左下から右上に振り抜かれる。

 《アインクラッド流》二連撃技、《バーチカル・アーク》は相手の体にVの字を刻み付け、その天命を吹き飛ばした。

 それと同時にエネミーの体は不自然に硬直し、光の結晶となって砕け散ったのであった。

 

 「……ふぅ」

 

 極限の戦いを終えたからかドッと疲労感を感じるユージオだが、彼は一度大きく息をつくと、隣で剣を鞘に納めている相棒に視線を向ける。

 

 「遅いぞ、どこ行ってたんだ」

 

 「えっとーーー」

 

 ユージオの非難する声を聞いた相手は言葉につまりながら頭の後ろをかく。

 言葉を探しているのだろうか、やがて彼は観念したように苦笑いを浮かべ。

 

 「ふ…」

 

 「ふ?」

 

 「普通に迷ってました…スミマセン…」

 

 そう、言い出したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後から聞くと恐ろしくモンスターが多い場所に入ってしまったらしく(モンスターハウスと言うらしい)、その処理に手間取っていたとのことだ。

 本当なのか?と問いかけると手にいれた素材と言うものをたくさん見せてくれたからどうやら本当らしい。

 

 「そ、そのほら、これ!ここのダンジョンのマップ!!これが出口みたいなんだ!さっき見たときは変なロックがかかってたけど、フロアボスを倒したから解除されてるはずだ!」

 

 慌てながらこの迷宮の地図を見せてくるキリトにユージオは思わず感心の声をあげるが、それを見ていたユナが一言。

 

 「バラバラになってたわりにはそこそこ踏破してるね」

 

 「そ、それは皆を探してたからだぞ!うん!」

 

 「キリト…」

 

 「ではそちらを目指す方針で行きましょうか」

 

 「そういうことでーーうわぁっ!?」

 

 いつの間にか自分の隣に立ち、話に加わっていたアリスにユージオは驚きの声をあげる。

 キリトも突然現れた騎士に驚きを隠せない様子だ。

 

 「それにしてもユージオ、助かりました。不覚を取って意識を失ってしまいましたが、あなたが倒してくれたんですね」

 

 「そ、それは騎士アリス、あなたが敵の天命を削ってくださっていたからです。ユナも助けてくれましたし」

 

 整合騎士に礼を言われることなど普通に暮らしていれば無いことに、ユージオは慌てながらもそう返す。

 なんだかむず痒いものである。

 

 「ゆ、ユージオさん?そちらの騎士は…」

 

 ぎょっとした表情でアリスに視線を向けるキリトに対し、ユージオは頷きながら口を開ける。

 

 「整合騎士の方だよキリト。僕を助けてくださったんだ」

 

 「……」

 

 「な、なにか…?」

 

 「…いえ、ユージオと親しそうですが、あなたも同じ学院の者ですか?」

 

 「あ、ああ…いや、はいっ。キリト上級修練士…でありますっ」

 

 慌てて敬語に直すキリトにユージオは思わずため息をつく。それを聞いたアリスはふむ、と悩む仕草の後、その兜を外すと三人に視線を向けた。

 

 「助けられた相手に顔を見せないのは不誠実だ。改めて名乗りましょう。私はアリス・シンセシス・サーティ。人界を守護する整合騎士の一人です」

 

「ーーーーーーアリス…」

 

 透き通るような金髪をたなびかせ、吸い込まれるような青い瞳を持つ整合騎士の姿は、ユージオの記憶の中の幼馴染みと合致していたーーーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よーっす、キリト…であってるよな?」

 

 《空都ライン》の噴水広場の前で話しかけてきた男は、一言で言うと自分と似ていた(・・・・・・・)

 全身を漆黒の鎧で包み込んだ姿は自分達と違って機械的だという違いはあるが。

 

 「えっと、そうだけど…なんで俺の名前を?」

 

 「いやー会えてよかったよかった。こっちへ来たもんはいいんだが、変なダンジョンに入っちまうし、ようやく脱出できたからさてどう合流したもんかと…。メールは届いてたから来てくれたんだもんな?」

 

 明らかにこちらを知っている様子で話しかけてくる男に『キリト』は困惑を隠せない。

 

 「待ってくれ、まずあんたは誰なんだよ」

 

 「おいおい冗談キツいぜ。師匠の名前を忘れたのかよ……って、いや待てよ…」

 

 こちらの質問に答える様子もなく考え込んでしまう男性アバター。この自由奔放さはどこか親近感を覚えないでもないが、もしや…と思い付いた言葉を話してみる。

 

 「もしかしてあんた…《グラファイト・エッジ》か?ロータスに技を教えたって言う…」

 

 「いやそうなんだが…いや…うーん…こいつは…」

 

 どこか歯切れの悪い返答をしながらキリトの服装を眺めるグラファイト。

 自分の服装をジロジロと見られることはあまりないので、思わず後ずさりをしてしまう。

 

 「うーん…お前さん、ドッペルゲンガーって信じるか?」

 

 「は?いや…何のことだ?」

 

 「…いや、今のは俺が悪かった。ちょい用事思い出したから行くわ!何かあったらメッセ飛ばしてくれ!」

 

 「いやおい、待ってくれよ!……行っちまった…」

 

 喋るだけ喋った黒装甲の男は手を挙げながら走り去ってしまった。

 色々と聞きたいことがあったのだが、確かにあれは中々である。

 

 「ドッペルゲンガー…《ホロウ》の俺になら会ったことはあるけど…」

 

 SAOの《遺棄エリア》と呼ばれるところで戦った自身の影との戦いを思い出すも、何となく違う気がするのだ。

 

 「…とりあえず次のオーブを探しに行かないと……」

 

 ユイが囚われている《バベルの塔》が存在するエリアに向かうには、彼の仲間である別世界のVRMMO《ブレイン・バースト》の戦士であるバーストリンカー達の王と呼ばれる存在のゴーストデータを倒し、彼らが所持しているオーブと呼ばれるアイテムを集めなければならない。 

 

 道のりは険しい。

 

 バベルの塔にたどり着いたとしても、そこを守護する巨大エネミーとの戦いや、紫の王を倒した後に現れた《クロム・ディザスター》と呼ばれる存在ともまた何れ戦うことになるだろう。

 

 「ペルソナ・ヴァベル…」

 

 この事件を起こした張本人とも、戦わなければならない。

 だが負けるわけにはいかないのだ。

 娘を助け出すために、『キリト』はフィールドに赴いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





アクセルソードでユージオが武装完全支配術を使える理由は仕様って感じですが、こちらでは『青薔薇の剣』に残っていた『ユージオ』の記憶が混ざった事で大規模レベルアップをしました
デメリットは知らない記憶が気になるくらいですかね

アリスも騎士道にのっとって兜をはずしてご挨拶です

グラフは一緒に吸い込まれたグラフです
アクセルソードのキリトを知り合いと勘違いしていますがどうやら違った様子でした
グラフはグラフで別の場所で迷っていて、ようやく脱出できました

相変わらずゆっくりの更新ですが、よろしくお願いいたします

それではまたじかい!


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第五十六話:ゼロフィル

「無茶を言ってるのはわかってます!ですがどうか…!」

「…ダイブ先は何が起きているのかわからない。それでも、いくのかい?内部の人達に任せることも…」

「それじゃあダメなんだッ!」

「…菊岡、現場指揮をお願いできるかしら?」

「それは構わないが…ま、まさかあなたも行くのですか?…それは駄目だ!今は安定しているが中で何が起きるか…彼に並ぶ頭脳を持つあなたを危険な目に合わせることは認められない!」

「そこは安心してちょうだい。あなたが寄越した優秀な護衛がいるので」

「ぐっ、そ、それを言われると痛いな…くれぐれも無茶だけはしないでくださいよ…!只でさえ上からせっつかれてるんですから…!」

「スパシーバ!それじゃあ行きましょう!歌姫を助けに!」

「…っ、ああ!!」


 
           ーーーどこかの会話記録




 「うーむ……」

 

 「そんなに唸ってどうしたのさキリト」

 

 「え、声に出てたか…?すまん」

 

 困惑の表情を見せながら問いかけるユージオにそう返した俺は、後ろを歩く女性に視線を向ける。

 視線の先はユナ……ではなくアリスである。

 

 彼女の様子を見る限り、未だ俺達と会っていない頃であるようだが、出会い方が違うとこうも変わってくるのかと疑問が半分と、何故彼女までこの場所にいるのかという疑問が頭をぐるぐると回っているのだ。

 

 俺という存在自体、量子コンピュータを経由したデータ通信が引き起こした現象で生まれたモノなのだが、こうも知り合いばかりが巻き込まれるのはどうなのか。

 

 「…俺、疫病神か何かなのか…?」

 

 ゲームを純粋なゲームとして楽しむことができていたのはSAOのβテストと新生アインクラッドが追加されたALOくらいなのではないかと考えると、つい溜め息が出てしまう。

 

 …いや、新生ALOも途中から《ユナイタル・リング》関連によるゴタゴタで純粋なゲームじゃなくなっていたな…。

 

 

 「……キリト?どうかしましたか?」

 

 「…!な、何でもないぞ?」

 

 見つめられていたのに気づいたのだろう。アリスが問いかけてきたので思わずそう返すと、それを聞いたユナが突然ニヤリとした表情を見せる。

 

 「キリトはアリスが綺麗で気になってるみたいだよ?」

 

 「あ、おい!!」

 

 慌てて止めるが時すでに遅し。ユナの冗談を聞いたアリスはその青い目をぱちくりとさせた後、んんっと咳払いを一つ。

 

 「…今回は非常時ですから流しますが、私は整合騎士です。そのようなことに現を抜かす立場ではありません」

 

 「あらら…フラれちゃったねぇ」

 

 「…さいですか」

 

 俺が知るよりも一回り真面目さを醸し出しているアリスに何となくやりづらさを感じながらもマップに視線を移す。

 あの黒いもやに飲み込まれた後、俺は一人でこのマップに放り出されていた。

 直ぐにユージオ達と合流をしたかったのだが、一人になったことで色々と考えたかったことが多かったので敢えて合流を先伸ばしにしていたのは事実だ。

 

 そのお陰ではないが今向かっている出口に繋がるであろう場所などを見つけることができたので、合流が遅くなったことについては小言を言われるだけで済んだので助かった。

 

 ALOであって俺の知らない場所であるこの場所は、ペルソナ・ヴァベルの心意による影響で過去と未来、そして平行世界が交わった特殊なVR空間だ。

 ユージオと共にこんなところに飛ばされた記憶は俺には無いし、もしアリスと会っていたなら彼女もノーランガルス修剣学院で俺達に気づく筈だ。

 

 つまりは俺の知っている歴史とユージオ達がいる歴史は違うことになる。

 此処で下手なことを言って彼らが元の場所に戻った時、何が起きるのか俺にはわからない。

 目の前にいるアリスはユージオが探していたアリスであり、セントラル・カセドラルの最高司祭に記憶を奪われ傀儡となっているなんて伝えても、そんな突拍子の無い言葉を信じるどころか、逆に俺が虚言を言っていると流されるか、不敬罪か何かでアリスに斬られる。…多分。

 

 「騎士アリス」

 

 「何ですか?ユージオ」

 

 そんなことを考えていると、ユージオがアリスに声をかける。

 彼は何度か迷う素振りを見せるが、やがて覚悟を決めたような表情で口を開いた。

 

 「アリス…《アリス・ツーベルク》という名前に聞き覚えは無いでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 「アリスーーーツーベルク?」

 

 ユージオの言葉を聞いたアリスはその名前を反復すると、一度眉をひそめる。

 何か頭の片隅に引っ掛かっているような、そんな感覚を覚えながらも彼女は首を横に振る。

 

 「…いいえ、すみませんが記憶にありません。何故そのような質問を?」

 

 「そ、それは…」

 

 「それは七年前にユージオと共に暮らしていた幼馴染が当時の整合騎士に連れていかれたからなんだ。あんた達、整合騎士がいるセントラル・カセドラルに」

 

 言葉が詰まるユージオの言葉を引き継ぐようにそう答えたキリトに、アリスの表情はいよいよ固くなる。

 

 「連れていかれた…と言うことはその…何か罪になるようなことをしたのでしょうか?」

 

 「そんな大騒ぎすることじゃなかったんだ…アリスはただ、ダークテリトリーの地面に片手をついてしまっただけなんだ。それだけなのに、彼女は整合騎士の飛竜にくくりつけられて…」

 

 アリスの質問に静かに返すユージオの声は震えていて、その拳は悔しさと怒りで強く握られていた。

 思わずキリトに視線を向け、頷きを返されたアリスは、言葉を選びながらもユージオに声をかける。

 

 「…ダークテリトリーへの侵入は、重大な禁忌目録違反です。…例えそれが、年端もいかぬ少女でも…ですが…」

 

 一度言葉を切りながらも、困惑は隠せないのだろう。

 短い共闘であるがユージオが嘘を言う人とは到底思えないと判断しているアリスは、しかし確認するように言葉を続ける。

 

 「本当…なのですか?私は整合騎士としては新参者です。ですが小父様…私が知る整合騎士達がそのようなことをするとは…」

 

 「普通ならしないだろうさ。…ただ連れ去られた少女は罪人として報告されている。騎士アリス。あんたも俺達が禁忌目録違反した罪人だとしたら、このように話すことも無かっただろう?」

 

 キリトの言葉にアリスは返す言葉が見つからず、視線を落とす。

 彼の言っている言葉は確かにそうだ。罪人にかける情などはない。整合騎士は人界を守護する騎士だからだ。

 

 「…わかりました。無事に元の場所に戻れたら、最高司祭様に掛け合ってみます。人界の者達と関わりを持つのは本来は避けるべき事ですが、あの方も分かってくれる筈…」

 

 「最高司祭様…ね。…良かったなユージオ、思ったより早く手掛かりが掴めそうだぞ」

 

 「……ありがとう、ございます」

 

 笑顔を浮かべながらユージオの肩を叩くキリトとは裏腹に、ユージオの表情は浮かない。

 それはそうだ。彼からすれば目の前の女性こそ自分が探していた《アリス》と瓜二つなのだから。

 しかし先ほどの質問は否定され、カセドラルの最高権力者に話を通してくれると言われてしまえば、これ以上追求することはできなかった。

 

 「…しかし《アリス》…と言いましたか。私と同じ名前を持つ罪人の名前は聞いたことも…。戻ったら小父様…もしくはイーディス殿にも聞いてみますか…」

 

 「イーディス殿…?」

 

 「私と同じ整合騎士です。私よりも整合騎士として長い者達ならあるいは知っているかもしれませんからね」

 

 「…また知らない名前が出てきたな…」

 

 ぼそぼそと小声で呟くキリトを横目で見ながら、ユージオは立ち止まると、アリスに向かって頭を下げる。

 

 「度重なる心遣い、感謝します。騎士アリス」

 

 「気にしないでください。助けて頂いた恩を返しているだけですから」

 

 アリスはそう答えると、先に進みましょうと歩き始める。

 整合騎士アリス・シンセシス・サーティの姿は明らかに自分の知っているアリス・ツーベルクその者だ。

 だがその立ち振舞いや性格が記憶の中の少女と一致しない。

 

 「…なあユージオ」

 

 「アリスなんだ…彼女がアリスの筈なんだよキリト…。どうして覚えていないんだ…」

 

 俯きながら肩を震わせるユージオの肩を叩きながら、キリトは彼を励ます。

 

 「…もし彼女が本物のアリスなら、お前のことを覚えている筈だ。多分…罪人として連れていかれた時に何かされたんじゃないか?」

 

 「…でも、人の記憶に干渉する神聖術なんて聞いたことも…」

 

 「公理教会だぜ?俺たちが知らないことも沢山知っていんだろうさ」

 

 それにさ、とキリトは付け加える。

 

 「どんな結果になったとしても俺達のやることは変わらないだろ?アリスを連れ戻す。それだけだ」

 

 「……そうか…そうだよね」

 

 キリトの言葉を受けたユージオはようやく笑顔を見せると、腰に吊り下げている青薔薇の剣に手を当てる。

 そんなユージオの様子に頷いたキリトは、もう一度彼の肩を叩くと、また歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 「…ここかいキリト?」

 

 「ああ…」

 

 確認するようなユージオの声に頷きを返した俺は、目の前にある操作盤のようなものの表面を撫でる。

 一人でダンジョンに落とされた俺が見つけたのはこれである。

 明らかに見覚えのある形状のそれは紛れもなくシステムコンソールである。ここから脱出するために管理者などが用意したのだろう。

 俺が最初に触ったときは反応すらしなかったその文字盤は光輝いており、先程のボスを倒したことで操作ができるようになっているのがわかる。

 

 一先ず安堵のため息をついた俺は、ここから脱出するためにコンソールを操作していく。

 

 「《無限変遷の迷宮区からの脱出》…あったぞこれだ!」

 

 「よもや本当に脱出できるとは…」

 

 「すごいやキリト!どうやって動かしたんだい?」

 

 「いやあ…適当に触っただけさ…っと」

 

 ユージオに苦笑いで返した俺は処理の実行を行うために表示された《YES》のボタンをタッチ。

 するとコンソールを中心に光の輪が広がり始めた。

 

 「そう言えばどこに戻れるのかな?」

 

 「一先ずはさっきの街…ラインに戻れるみたいだ」

 

 「戻ったらどうしようか?」

 

 ユナの言葉に俺はううむ、と考え込む。

 正直この世界に対する情報が少なすぎる。ユナのお陰でペルソナ・ヴァベルがいる場所には行けたが、またこの場所に放り込まれれば二度手間になる。

 何か奴に繋がることは無いだろうか?

 黒髪に仮面をつけた謎の少女…

 

 

 『…妖精は物覚えが悪いようだな』

 

 『知れたこと…貴様の大切な娘を奪った敵が目の前にいるのだぞ?』

 

 

 

 「…ちょっと待てよ?」

 

 思い返すのは奴に出会ったときの会話だ。

 やつは俺のことを知っているような発言をしていたが、俺は会ったことなどない。

 そもそもあそこが初対面だった筈なのに。

 

 「……さっきペルソナ・ヴァベルに会った時、あいつは俺のことを知っている様子だった」

 

 「…それは僕も気になっていたんだ。あの人と会ったことはあるのかい?」

 

 「…いや、多分誰かと勘違いしているんだと思う。そうなると勘違いした誰かがどこかにいる筈なんだ」

 

 「王の虚像とか何とかって言ってたもんね」

 

 ユナの言葉に俺は頷くと、再び考えを巡らせる。

 ここがALOであることと、ヴァベルの言葉、そして奴の口から放たれたユイの名前。

 恐らく奴と出会っていたのはーーーーー。

 

 「…つまり、ペルソナ・ヴァベルと敵対している者が存在しているということでしょうか」

 

 「もしそうなら僕達の知らないことも知っているかもしれない…。キリト、探してみよう」

 

 「…ああ、ラインで情報を集めよう」

 

 そうと決まればとユージオとアリスはコンソールを操作して先にラインへ向かった。

 

 「…いつまで隠すつもり?」

 

 コンソールを操作していた指を止めた俺は、ゆっくりとユナの方向を向く。

 彼女はアインを抱き抱えながらも、真剣な表情で俺を見つめていた。

 

 「…ユージオ、キミと知り合いなんだよね?多分気づいてると思うよ」

 

 何に気づいているかなんてわかっている。

 ユージオは賢い。さっきまでのやりとりで俺の記憶が戻っていることには薄々気づいているだろう。

 

 「…わかってる。だけど……」

 

 だけど、ユージオは俺と鍛練している際に影のようなモノに飲まれたと話していた。

 ここで俺が全てを話してしまえば、もとの世界に戻った時に共に飲み込まれた『キリト』との関係がどうなるかがわからない。

 

 …いや、そう言って俺は理由をつけてユージオに真実を告げることから逃げているのだろう。

 アンダーワールドにてアドミニストレータに俺の出自を問いかけられた時まで、俺は彼に本当のことを隠し続けていたのだから。

 あの時のユージオの表情は驚きに満ちていた。信じてほしいという一心で、俺はユージオに視線を移すことしかできなかったが、彼の優しさに甘えていたのは事実だ。

 

 「…私は、エー君に会えたら全部言うよ。私は重村悠那だけど、ユナだって」

 

 そう言うとユナはコンソールを操作し、ラインへ移動した。

 迷宮区に残された俺は、先程の会話を思い返しながらもコンソールの操作を行う。

 

 「…ユージオ……」

 

 もう会うことはないと思っていた相棒はあのときのままで、これから待ち受けていることを知らないのだろう。

 

 「…俺は……っ」

 

 答えが出ないまま俺はコンソールを操作し、慣れ親しんだ転移の感覚に身を任せる。

 ヴァベルが見間違えた存在が俺の想像通りであれば、この世界の攻略に繋がると確信できる。

 だがその存在に接触するための心構えを俺は持っていなかった。

 

 以前ハルユキと話してしまっただけであそこまで取り乱してしまう程に、元の世界の存在達は俺の心を縛り続けている。

 思い出の中の仲間達は心の中にいても、決して出会える訳ではないのだから。

 

 「ーーー遅いぞ相棒、何してたんだい?」

 

 「悪いユージオ、少し考え事をしててさ」

 

 「…まあいいけど。それより聞いてよ、早速この世界のことを知ってそうな人に会えたんだ!!」

 

 「ーーそれは良かった!どんな人「ーーーキリトくん?」」

 

 転移を終えた先で嬉しそうに話しかけるユージオに答えようとした俺の耳に、ある声が響いた。

 忘れようとも忘れられない、大切な人の声。

 

 それはそうだ。

 ヴァベルの引き起こした事件によって娘を奪われた妖精(キリト)がいるのなら、彼女は必ず傍にいるのが道理である。

 

 水色の装備に身を包み、その色と同じような長い髪をなびかせこちらを見つめる女性の腰には、彼女の旅を助けたであろう細剣が吊り下げられている。

 

 「ユージオ…さんが言っていた仲間ってキリトくんのこと?…あれ?でもキリトくん、今はフィールドに出てて…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アス、ナ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 震える声で言葉を紡いだ。

 思考が定まらない。

 

 

 彼女を抱き締めたい。ーーー彼女は違う。

 

 一度落ち着こう。ーーー落ち着ける訳がない。

 

 「キリトーー?どうしたんだい!?キリトっ!」

 

 「ユー、ジオ」

 

 焦ったように声をかけるユージオを見て、余計思考が混乱を始める。

 

 ユージオはここにいる。ーーーユージオは死んだ。

 

 俺はALOをプレイしている。ーーー俺がプレイしているのはBBだ。

 

 何が本当なのかわからない俺はアスナ達と離れていてユージオはもういなくてでも二人とも目の前にいてそもそも俺はーーー

 

 「俺、はーー」

 

 息ができない。ーーーアバターは息をしない。

 

 俺はキリトだ。ーーー俺は桐ヶ谷和人だ。

 

 俺は桐ヶ谷和人だ。ーーー俺は桐ヶ谷和人なのか?

 

 多くの考えが頭の中に広がる。

 

 『キリトくん』

 

 思い出の中のアスナが俺の名前を呼ぶ。

 

 目の前のアスナは俺のアスナではない。

 

 なのにその声は、その顔は全く一緒で。

 

 思考をする度に、その思考が否定される。

 

 思考して思考して思考して思考してーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 「あ」

 

 

 

 

 プツンと、アバターとの接続が切れた感じがした。

 気がつけば俺の視界は地面を見ていて、辛うじて俺が倒れている事だけがわかった。

 

   

 

 《アミュスフィア》であれば、ここで異常を検知して俺をログアウトしてくれたのかもしれない。

 だが俺が使用しているのは《ニューロリンカー》。

 これはSTLと同じく使用者の《フラクトライト》に接続する機器であり、そしてニューロリンカーで動かしているアバターだからこそ起こりうる現象が存在していたのを思い出した。

 

 

 確かあれはそう、黄色の王が仕掛けた罠に掛かった黒雪姫が同じ現象を引き起こしていたと、ハルユキから聞いたのだ。

 負の心意によりアバターへ出力される信号が全て「0」になり、行動不能に陥る状態。バーストリンカーが無力感や絶望感に苛まれると起こる現象。

 

 

 その名前はーーーーー、

 

 

 

   零化現象(ゼロフィル)

 

 

 

 

 




はじめて前書きに伏線を張ってみたのと(バレバレ)、主人公は追い詰めていくスタイル

罪人かそうじゃないかだけで見方って変わると思うんですよね
いくら整合騎士が外界の人と関わるなって言われてたとしてもね

イーディス殿は原作には出てきてないから永久凍結されてる設定にしました
なにそれ?って方はSAOアリブレで検索!(ダイマ)

ユナは責めていると言うよりは純粋に問いかけているだけです
キリトくんの気づいているだろうも彼の主観なので、そこはわからないけれど、マイナス思考に陥ってゼロフィルが起きちゃった感じですね

疑問などあれば感想等でお返しします!

いつも読んでいる方ありがとうございます!
これからもよろしくおねがいします!


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第五十七話:目が覚めて

お待たせしました!

今月は雨がずっと続いていた気がします

思ったより文字が多くなりました!

それではどうぞ!


 「ーーーーー、ーー」

 

 意識が覚醒する。

 目の前に見えるのは見知らぬ天井と、背中に当たる柔らかい感触。

 

 周囲の情報を読み取りながら、俺はゆっくりと思考を巡らせた。

 

 どうやら俺はベッドの中にいるようだ。

 

 「…どうやら目が覚めたようですね」

 

 視線を動かすと、青色の瞳をこちらに向ける金髪の少女が椅子に座っていた。

 その髪と同じ色の鎧は着ておらず、比較的ラフな服装に身を包んでいる彼女は展開していたディスプレイを操作し始める。

 

 「…アリス、?」

 

 「このめっせーじと言うものは便利ですね。遠く離れた人物に文を迅速に送ることができる」

 

 「…どのくらい」

 

 「そこまで時間は経っていませんよ。…状況は大きく変わりましたが」

 

 どういうことだと問いかけようとした声は、部屋のドアが勢いよく開けられたことで遮られる。

 そちらに視線を向けた先には、息を切らしたユージオが立っていた。

 

 「キリト!!大丈夫なのかい!?」

 

 部屋に入るなり近づいてきたユージオは俺の手を取ると不安そうに問いかけてくる。

 

 「ユージオ…」

 

 「急に倒れるから心配したんだぞ?揺すっても反応がないし…」

 

 でも、本当に目が覚めて良かったと安心そうに微笑む彼に、俺の胸はチクリと痛む。

 それは心配をかけたからだろうか、それとも彼に全てを話していないことによる罪悪感だからだろうか。

 

 「でも聞いてくれよ、あれから色々わかったことがあったんだ。ペルソナ・ヴァベルと戦ってる人が沢山いたんだよキリト!やっぱり君の言ったことは間違いじゃなかったんだ!」

 

 「…ユージオ」

 

 「面白い姿の人もいてね、ダークテリトリーのゴブリンともまた違って、不思議なんだよ!さっきも挨拶をしたばかりでーーー、「ユージオ」

 

 俺の言葉に口を止めたユージオに視線を向けることができない。

 アンダーワールドで俺がユージオに全てを話さなかったのは、《ベクタの迷子》という肩書きがあの世界で生きていく上で都合のいい部分が多かったということもあるが、話すことでユージオとの関係が壊れることを恐れたからだ。

 

 だからアドミニストレータとの戦いで彼女に看破されるまで話すことはしなかったし、氷の大地で再会した時も、断片的に嘘をついてしまったのだ。

 

 だが流石に限界だ。

 この場は誤魔化すことはできるのかもしれない。

 

 しかしアスナ達がいることは明らかで、彼女達と接してしまえばボロが出てしまうのは明らかである。

 

 …いや、そう言う風に理由をつけて逃げているだけなのだろう。

 一度失ってしまった親友をまた失うのが何よりも怖かったのだ。

 

 「全部、思い出した」

 

 だからこの言葉を言った俺は、ユージオの顔を見ることができなかった。

 

 「……そっか」

 

 シンとした部屋の中でポツリとユージオの声が響く。

 何を話せば良いのだろうか。

 考えれば考えるほど言葉が見つからない。

 

 

 「…ああもう焦れったい!」

 

 

 そんな空気を打ち破ったのはアリスの声であった。

 驚いた顔でアリスを見る俺たちに、彼女は凛とした表情で言葉を続ける。

 

 「記憶が戻ったから何だと言うのですか!あなた達の関係はそれで変わる物なのですか!?」

 

 彼女のことを完全に忘れていた俺はともかく、ユージオも彼女の剣幕に圧されてしまったようで「い、いや…」とか細く答えるしかできない。

 

 「二人は親友でしょう?なら、きちんと話すべきでしょう!」

 

 腰に手を当てながらそう言ったアリスの姿が一瞬、青いワンピースを着た小さな少女と重なる。

 …いや目の前のユージオの姿も大人しめな少年の姿に、彼の瞳の中に写る生意気そうな少年が俺を見つめ返していた。

 

 「…………」

 

 もう一度瞬きをすると、目の前には俺の見知っているユージオ、視線を動かすとアリスが立っている。

 

 「な、何ですか」

 

 俺と目があったアリスはムッとした表情で口を開く。

 

 「…いや、整合騎士ってもっと毅然としている人かと思ってたから、そう言われるの何か不思議で」

 

 「…別に、あなた達が黙りこくって話が進まなさそうだったからです。それに、何故かそう言わなければいけないと思って…何故でしょう」

 

 肩を竦めながらそう返した俺にアリスはそう言うと、口許に手を当てている。

 そんな彼女はやっぱり俺の知っているアリスなんだなと納得しながら、ユージオを見返す。

 彼は苦笑いしながらも、その翡翠の瞳で俺と視線を合わせる。

 

 「ユージオ」

 

 「うん」

 

 「もう一度約束するよ。記憶が戻ったとしても俺はお前との約束を守る。絶対だ。だからその…」

 

 一度言葉を切る。

 そうしてあの木の下で彼が俺に手を差し出してくれたように、今度は俺から手を差し出す。

 

 「だからその、これからもよろしく」

 

 ユージオは俺の手を握り返すと、ゆっくりと頷き返したのだった。

 

 

 

 

 

 「…さて、それではそろそろ良いでしょうか?」

 

 そんな俺達を見ていたアリスの言葉に、俺は首を傾げる。

 

 「貴方が寝ている間に、色々と事態が進展したのです。そのことも含めて話を詰めていかなくてはいけません」

 

 トントン、と部屋にノックの音が響く。

 アリスがどうぞ、と返すとゆっくりとドアが開く。

 そこにいたのはやはりというか、アスナであった。

 

 「…目が覚めたってアリスさんに聞いて…その…」

 

 その声は俺の胸にスッと入り込んでくる。

 懐かしさに胸の奥が熱くなるのを感じながら、俺の口は自然と動いていた。

 

 「やあ、アスナ。おはよう」

 

 その言葉を聞いた彼女の目は見開かれ、続いてくしゃりと顔を歪めてしまう。

 ああ、泣かせてしまう。

 俺の大切な人。

 俺のすべて。

 

 「ごめんなさい、ごめんなさい…一緒に居てあげられなくて…っ」

 

 「違うんだアスナ、それは違うよ」

 

 恐らくユージオ達から軽く話は聞いているのだろう。

 記憶喪失として別のVR世界で生きてきた俺の隣に自分がいなかったことを責めているのだ。

 もし彼女が同じVR世界にいれば共に此処に来ている筈なのだから。

 彼女は、そういう子だ。

 

 「…全部、全部話すよ。…だから皆を集めてほしい」

 

 ベッドから立ち上がった俺は彼女の涙を拭うとその肩に手を起きながらそう伝えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 空都ラインの一角にある場所。

 またの名を《ダイシーカフェ・ライン支店》

 《ペルソナ・ヴァベル》と戦う者達が拠点にしているその場所には現在、激震が走っていた。

 

 「う、うそだろ…」

 

 「キリトよぉ…お前さん、いつの間に分裂したんだよ…」

 

 褐色肌の大男エギルと、サラマンダーの侍クラインはこの場にいる全員の気持ちを代弁するように口を開けていた。

 

 「…俺も驚いてるよ、アスナから詳しいことは聞いてないし…」

 

 そう声をかけられたスプリガンの少年ーーーキリトもまた、頭をかきながら自分の隣に立っている少年に視線を向ける。

 どことなく現実世界の自分に似ていて、しかし少し違う容姿の少年はどこか泣きそうな顔をしながら集まっている面子を見渡し、口を開く。

 

 「皆、集まってくれてありがとう」

 

 「アスナが大事な話があるからって言うから来たけど…」

 

 「どこからどうみてもキリトさんです…」

 

 「…話の流れはアスナから聞いてる。ペルソナ・ヴァベルが《ALO》になんらかの介入をした結果、今まで見たことのないワールドが出てきたり、異変が起きはじめた…。その過程でユイが連れ去られた…ってことであってるよな?」

 

 リズベットとシリカが話すなか、『キリト』は現状を確認するようにアスナに問いかける。

 

 「うん、その中で私たちALOプレイヤー以外にも別のVRMMO、《ブレイン・バースト》をプレイしていたプレイヤー達もこの場所に現れたの。最初は敵かと思って警戒してたんだけど…」

 

 「実はヴァベルに騙されていたことがわかってな。こうしてアスナ達と協力して奴を打倒しようとしているわけだ」

 

 ここでアスナが答えているのは《血盟騎士団》の副団長を経験していることから話を円滑に進めるためでもあるが、同じ顔をした者同士が話すことによる混乱を防ぐためでもある。

 彼女の説明に捕捉するように黒いドレスを着た少女ーー黒雪姫が口を開く。

 

 「まさかこんなとこでも会うとは…」

 

 黒雪姫達を見た『キリト』の呟きは誰にも聞こえることはなく、彼は思案するように顎に手を当てる。

 

 「《ブレイン・バースト》のプレイヤーと会ったのはここの場所が初めてか?」

 

 「…ああ、うん。それがどうかしたのか?」

 

 質問されたスプリガンのキリトが首を傾げながらそう答えると、『キリト』はそうかと返しながら一人のバーストリンカーに視線を向ける。

 

 「ーーなあ、あんた。シルバー・クロウ」

 

 「は、はひ!?ななな、何でしょうか!?」

 

 突然名指しをされた銀色の戦士は驚きの声をあげてしまう。

 頭の中の《仲間》に、なに慌てているのですか…との呆れ声にしょうがないだろ、話しかけられると思ってなかったんだから!と返しながら『キリト』に言葉を返す。

 

 「ええと、変なこと聞くんだけど…前に俺とデュエルしたことってないか?」

 

 「ええっ!?そ、そんなことあるわけないですよ!!だって僕たちと生きてる時代も違ーーー」

 

 果たしてそうだろうか?

 誰にも話していなかったが、《kirito》と言う名前はハルユキの中でどこか見覚えがあったのだ。

 スプリガンの少年と、こちらに話しかけてきた少年に視線を向け、デュエル、デュエルと呟く。

 

 「……前に…黒い、剣士型アバターとデュエルしました。決着はつかなかったんですけど、剣を二本使ってて…確かその人の名前は…あっ!!!」

 

 「…ハルユキくん?」

 

 「《kirito》!!《kirito》です!!先輩!前に黒いアバターと戦ったって話覚えていませんか!?デュエルアバターの黒にはどんな意味があるのかって話した時です!」

 

 「…覚えているぞ。確か…そうだ。君が黒色は寂しい色ではなくて、どんな色よりも大きくてあったかい色だと言ってくれた時のことだ。…まさか、いやそうなるともう一人のキリトは…」

 

 何人か今までの会話で察しがついた者もいたようだ。

 『キリト』はコクリと頷くと全員を見渡し、口を開く。

 

 「俺は確かにキリトだ。ただ、厳密には隣にいる俺と同じ存在じゃないんだよ。別の異なる歴史を生きている…平行世界の同一人物って言うのが一番しっくりくるかな」

 

 「へ、平行世界……」

 

 中々理解の及びにくい話をしているからか、その場の空気はどこか混乱していた。

 クラインに至っては目を丸くしながら固まっている。

 

 「黒雪達はアバターの系統が違うから想像しやすかったけど、俺だからなぁ…あまり実感がわかないな」

 

 「と、とある学者の間では平行世界論は存在しているらしいぞ…」

 

 「で、でも僕とデュエルしたことを知っているキリトさんがいるってことは…そう言うことじゃないでしょうか?」

 

 「エギルよぉ、俺には理解がしきれねぇからよ…何か飲み物くれ」

 

 「お前なぁ…金は払えよ?」

 

 困惑を隠せない者、何とか話についていこうとする者、理解を放棄したもの等、様々な反応を見せるプレイヤー達。

 

 「そもそも私からしたら、未来のゲームをしている黒雪姫さん達が来ていること自体が平行世界論の証明に繋がることだけどね」

 

 「え、せ、セブン!?」

 

 そんな空気を壊したのはプーカ族の少女ーーセブン。

 彼女の名前を呼んだのはレプラコーンのレインであり、キリトがALO(ロスト・ソング)で絆を紡いだ人物達である。

 ダイシーカフェの入口から入ってきた彼女は手を上げながら話の場に近づいてくる。

 

 「現実世界で事件解決のために動いてるんじゃなかったのか?スメラギもいないみたいだけど」

 

 「そうだったんだけど色々事情があってね…ログインすることにしたんだ。スメラギはその……ちょっと別行動をしてもらってて」

 

 天才科学者でもあるセブンはヴァベルによる事件が引き起こされた当初はALOにログインしておらず、現実世界で事態の解明に尽力していたのだ。

 それが気になったキリトの言葉にセブンはそう返すと、うん、とブレイン・バーストのプレイヤーと『キリト』に視線を向ける。

 

 「プリヴィエート、『キリト』くん。その反応からすると私とは初対面かしら?」

 

 「あ、ああ…。ただ君だけじゃなくて、そこにいるノームやスプリガンの女の子だったり、会ったことない人もいるんだ」

 

 「えぇー!?そうなのキリトー!」

 

 「知ってる顔から知らないって言われると何かモヤモヤするわね」

 

 文句の声をあげるのはストレアとフィリアである。

 ストレアはかつてのSAO(インフィニティ・モーメント)にてユイと同じくMHCPに設定されていたAIであり、未使用のアカウントに自身を上書きすることで、プレイヤーとしてキリトと共にデスゲームに参戦していた。

 フィリアも同じくSAO(ホロウ・フラグメント)にてキリトと出会った女性プレイヤーだ。

 《ホロウ・エリア》と呼ばれるSAOに存在している開発テスト用の秘匿エリアに迷いこんだ彼女は、同じく迷いこんだキリトと協力して戦ったことがある。

 

 そんな二人を知らないとなるとなるほど、平行世界の自分ということに説得力が出てくる。

 

 平行世界の存在というのが珍しいのか、やいのやいのと問いかけられる質問に困った顔をしながら返事する自分を見ながら、一人納得しているスプリガンのキリトであった。

 

 「と、とにかく、ユージオと一緒に修行をしていた俺は突然現れた黒い穴に飲み込まれたんだ。それで気づいたらこの場所に…。だからここから出るためにはペルソナ・ヴァベルを止めなきゃいけないみたいだし、手伝うよ」

 

 そう説明した『キリト』に続きユージオとアリスも頷くことで話が一旦終わりを見せる。

 中々に濃い話ではあるが、ここに来て強力な味方ができたのは嬉しいことである。

 

 「それじゃあ、今までの確認もこめてこれからの方針を明確にしていこうと思う」

 

 

 

 

 

 そう言ったスプリガンの俺はストレージを操作すると、数色のオーブを取り出してテーブルに置きはじめる。

 

 「皆で攻略を進めることで七王のゴーストのうち六人までは倒すことができた。あと一つオーブがあればバベルの塔への道が拓ける…筈だ」

 

 「七王…?」

 

 「簡単に説明するが、我々のゲームで限られたプレイヤーにつけられる称号みたいなものだ。ペルソナ・ヴァベルはその王の姿を模したエネミーを生み出して我々と戦わせてきていたんだ」

 

 聞き覚えのある言葉に思わず声をあげた俺に、黒雪姫は簡単に説明をしてくれる。

 簡潔に話すにはぴったりだろう。

 

 それよりもここにきて《ブレイン・バースト》のプレイヤー達と出会うとは思わなかった。

 恐らく俺と同じように影を調査して吸い込まれてしまったのだろう。

 …そして多分、目の前の黒雪姫達は俺の知っている人物ではないだろう。

 見知らぬ仲間が増えていることや、《リーフ・フェアリー》としてのスグがいないことも確かだが、何より俺を見た反応は『キリトに似た奴』だったからだ。

 

 「異変が起きたALOは転移門での移動が制限されたり、《異界ゲート》っていうBBの人達のVR世界のような場所に繋がる場所が現れたりしたの。だから私達は攻略できる場所から進んで、そこにいる王のゴーストを倒すことで行動範囲を広げてきたんだ」

 

 「僕達も戦ったんだよキリト、緑色の大盾を使う敵だったんだけど、中々手強くてさ。騎士アリスは青色の大剣を扱う相手だったと聞いてますが…」

 

 「…ええ、強敵でした。私一人では勝つことは難しかったでしょう」

 

 アスナが話してくれた内容を必死に頭のなかで状況を整理していると、ユージオ達が話しかけてくる。

 緑の大盾となると《グリーン・グランデ》だろう。

 ここにいるのはSAO、ALO、GGOのトッププレイヤーとBBのハイレベルプレイヤー達だ。

 …流石に王達も数には勝てなかったようだ。

 

 しかし、青色の大剣使いである《ブルー・ナイト》含め王達の強さは嫌というほど理解しているので、彼らを駒として利用することができるのであれば強力な戦士になるだろう。

 

 …しかしわざわざキーアイテムを用意してまで王のゴーストを仕向けるのは何か理由があるのだろうか?

 

 

 

 『だからどうか邪魔をしないでーーーー』

 

 

 ヴァベルに遭遇したときに聞いた言葉を思い返す。

 今になって思えば奴は自分から攻撃という攻撃はしていない。

 仮に俺をスプリガンのキリトと見間違えていたとしたら、邪魔者の一人の筈だ。

 何故あそこで俺を倒すなりしなかったのだろうか?

 

 

 「…ていうかいつの間に戦ってたんだ?」

 

 思考しながらもユージオとアリスの言葉が気になった俺はふと気になったことを訪ねる。

 俺が意識を失っている間に交流していたみたいだし、気がつけば問題解決までもう少しではないだろうか?

 

 「だから状況が大きく変わったと言ったのです。あなたが倒れている間に私達は彼らと協力し、ペルソナ・ヴァベルへの道を切り開いていたのですから」

 

 ムッと眉をひそめならそう言うアリスに感謝しながら、俺はテーブルに置いてあるオーブを眺める。

 

 黄、緑、青、赤、紫、白

 

 六色並んでいるオーブであるが、七王のゴーストということは残っている色は…。

 

 「もう一色は…うん、私のゴーストだろうな」

 

 その視線に気づいたのだろう。

 黒雪姫は自分が黒の王と呼ばれていることを話すと、困ったように両腕を組む。

 

 「私のデュエルアバターは完全近接型でな。自分で言うのもあれだが攻撃力はとてつもないんだ。生半可な防御では抜かれるだろう」

 

 「とは言え遠距離が得意なメンバーだけじゃ倒すのも一苦労だと思います。相手が先輩なら尚更…」

 

 「そうなると近接系に押さえてもらいつつ…」

 

 「私が仕留めるのが定石ってところかしら」

 

 スプリガンの俺の言葉を引き継いだのはシノンである。

 しかしALOのシノンの武器は弓の筈だ。彼女の長距離射撃の腕は把握しているが、ヘカートⅡを装備しているGGOならまだしも弓では……。

 

 「…弓じゃ倒しきれないんじゃないかって思ってるんでしょ」

 

 「「ぜ、全然!!」」

 

 シノンに考えを見透かされたことと、声が被ったことで二重に驚く俺たちを見たシノンはジト目になるもはぁ、と溜め息をつく。

 

 「秘策があるのよ、任せてちょうだい」

 

 「まあ、そう言うこった。一緒に特訓した私が太鼓判押してやるよ」

 

 本人や、赤の王にそう言われてしまえばこちらも頷くしかない。

 慎重な彼女がそう言うのだろう。それだけで信じるに値する言葉だ。

 

 「じゃあ黒雪さんのゴーストと戦う人だけど…」

 

 「はいはーい!僕がやるよ!!」

 

 アスナの言葉に元気よく手をあげたのはユウキである。

 彼女が生きていることに驚きはあったが、こうして共に戦ってくれるほど心強いことはない。

 

 「バベルの塔を守るエネミーはかなりの強さだろうから、戦力はなるべく残しておきたいな…」

 

 「だとすればまあ、俺も出るかな。ロッタのゴーストなんだろう?そこそこやれると思うぜ」

 

 「お、お前はまた神出鬼没に…」

 

 いやあ悪い悪いと言いながら現れたのは俺も見覚えがある男、《グラファイト・エッジ》だ。

 …そう言えば共に巻き込まれた筈の彼は何処にいったのだろうか?

 この場にいるのは恐らく黒雪姫達の世界の存在だと思うのだが…。

 

 「でもサッちゃんが相手なら確かに…」

 

 「これ以上なくぴったりなの」

 

 「それしか役に立たないのです」

 

 「で、デンデンは容赦がないなぁ…」

 

 《スカイ・レイカー》、《アクア・カレント(見覚えのないアバター)》、《アーダー・メイデン》の言葉を聞いたグラファイトはガクッと肩を落とすも、俺の方に視線を向けるとうん、と頷く。

 

 「あとそうだ、そっちのキリト。お前さんもこっちにこい」

 

 「お、俺か?」

 

 「ロッタの攻撃を掻い潜るには相応の戦力がいるからな。二人いるなら一人貸してほしいワケだ。お連れの二人はすまんがボス討伐に参加してくれないか?」

 

 思わず聞き返す俺にそう言った彼はユージオとアリスにもそう声をかける。

 二人とも困惑しながらも断る理由があまり見つからないため、了承の返事を返していた。

 

 

 「最後に倒した白の王がいた場所のコンソールを起動したことで《ニーベルハイム》への道は開かれてる。皆、あと少しだ」

 

 「ユウキ達が黒雪さんのゴーストと戦っている間に、私達は《バベルの塔》を守っているエネミーを倒す。そして手にいれた最後のオーブを持って塔に突入して、ペルソナ・ヴァベルを止める…作戦は以上です。皆さん、勝ちましょう!」

 

 最後にスプリガンの俺とアスナが話を総括し、少し時間を置いたあと全員で突入することになったのだった。

 

 「それにしてもキリト、ほんと変わらないんだね。ねえ、君の世界の僕はどんな感じなの?」

 

 「そ、それは…」

 

 同じパーティに入ったユウキの問いかけに、俺は言葉を詰まらせてしまう。

 俺の知っている彼女は既にこの世を去っている。

 それを言うのは酷なのではないのだろうか?

 

 「ちょいすまん、コイツ借りてくぞ」

 

 「え、あっおい」

 

 俺が口を開こうとすると、グラファイト・エッジが肩を組みながら俺を何処かへと連れ出し始める。

 ユウキは頬を膨らませながらも、後で話してね!と見送ってくれたようだ。

 

 「いやぁやっと見つけたぜキリト…お前さん、上手く乗り切ってたんだなぁ…」

 

 「ちょ、ちょっと待ってくれ!乗り切ったってなんだよ…!」

 

 物陰に連れてきた途端、俺の肩をつかんで感嘆の声を出す黒い戦士に、俺は驚きながらもそう返事を返す。

 ここの彼とは初対面の筈だ。

 なのにこちらを知っているかのような態度。

 そしてやっと見つけたという言葉…。

 

 「あ、あんたまさか…」

 

 「何だよ気づくのが遅いぞ、俺の弟子ならすぐに気づきたまえ!!」

 

 俺の疑問の声を聞いた男はおいおい、と肩を竦めたあとグッと親指を立て、そう返事をしたのだった。

 

 




簡単に整理するとこのVR世界にいるのは

ゲーム版SAOの面子
原作AWの面子
ユージオ、アリス
キリト、グラファイトになっています

ゲーム版SAOのキリトをハルユキと戦っていないことにして、世界が違うんですよって説明することにしました

ユージオもアリスも自分がいる世界とは別のところで、キリトもその世界の外から来たという風に裏で説明されています

うちのキリトを気絶させることで青の王と緑の王、白の王を倒したことにするという大胆な短縮に走りました
ゲーム的には白の王を倒してニーベルハイムへの場所を解放した後、一度ラインに戻っている感じです

冷静に考えて事態が発生して、収束する短い時間でここまでの攻略をやるなんてヤバいなって思いました

セブンが(あと別行動のスメラギ)ここに来ているのが大きな違いかなと思います
あとグラフはそもそもこっちのグラフということになっています。DLCキャラで話という話ないから入れ換えました

やりたいことに近づいてきているので筆が乗っています
次の更新はもう少し早いと思います

今後ともよろしくお願いいたします

それではまた次回!


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第五十八話:岩塊原野ニーベルハイム

お待たせしました!

今回は三話更新してます

いつも通り1話ずつ更新も考えましたが、スピード感が大事だと思ったのでどうかお楽しみください。

それではどうぞ


 

 

 「…っていうかお前さん、平行世界のゲームプレイヤーだった訳か。…そりゃレベルの割には青の王と善戦してたわけだぜ」

 

 「ああいや、…ああ…そんなところだ……」

 

 俺のいた世界から来ていた《グラファイト・エッジ》と合流した俺は、腕を組みながら納得の声を上げている彼にそう答える。

 俺としては善戦した気は無いのだが、そもそものレベル差をプレイヤースキルで補っていたのだから善戦と言わずしてどうするんだと真顔で返されたので、言葉に詰まってしまう。

 

 「…信じるのか?」

 

 「信じるもなにも、ああしてお前さんが二人いるわけだし俺も今平行世界に来てるわけだし」

 

 何を今さらと肩をすくめながら返されるが、確かに現状の証拠だけ積み重ねていけばそう考えるのも妥当だろう。

 

 「…とはいえ合流したからといってやることは変わらないな。適度にあいつらと行動してたけど、さっきの会議の通り。ニーベルハイムにある《バベルの塔》を攻略して、ペルソナ・ヴァベルを止める。そうすれば晴れて世界が元通り!!……になったら助かるんだけどなぁ」

 

 「最悪ログアウトすれば良いんじゃないか?」

 

 肩を落とした彼にそう提案するが、返ってきたのはなんとも歯切れの悪い相槌であった。

 

 「そもそも俺たちの意識が時間の流れに乗って過去に来てるんだ。ネガビュで乗り込んでるロッタ達ならまだしも、俺たちの世界の時間軸に戻れるかすら怪しいぞ…。最悪サイバーゴーストになって電子世界をさ迷うことになるかもな…」

 

 流石に俺でも試すのは最後の手段にしたいと言われると、俺の背筋を冷たいモノが走る。

 俺の存在ですら電子の情報が平行世界を渡り、別世界の俺に上書きされたモノだ。

 都合良くまたそうなるのか、それとも自我が崩壊した状態で自分が何者なのかわからず電子世界を漂うことになるのか考えると、確かに試す気にはなれない。

 

 「だからまあ、成り行きに任せるのが良いと思う。俺のBB人生で培った勘もそう言ってる」

 

 うんうん、と頷きながらそう言ったグラファイトに、俺は思わず溜め息をついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 「それじゃあ行くぞ!!」

 

 号令に返ってくる返事を背に受けながら、キリトは転移ポータルを操作しはじめる。

 行き先は《岩塊原野ニーベルハイム》。

 この事件の始まりの場所であり、これから決戦が始まる場所である。

 

 転移による光が収まった先に見えるのは異質な雰囲気のフィールドと、ここからでも見える《バベルの塔》。

 

 そしてーーーー。

 

 「ーーーーーー」

 

 「…出たな、黒雪のゴースト」

 

 そこに向かう道中を塞ぐように立っている《ブラック・ロータス》のゴースト。

 大きな威圧感を発しながら、剣を突きつけるロータスのゴーストに、一瞬たじろぐキリト達であるが、ここでしり込みしていても仕方ないと声を張り上げる。

 

 「作戦通りにいくぞ!!」

 

 その言葉と共に集団の中から走り出す三つの漆黒の影。

 その内の小柄な体格の影が、携えた片手剣にソードスキルの光を迸らせる。

 

 「よぉーし!一番手は貰ったぁ!!」

 

 ギュンッと背中を弾かれるように加速した影ーーユウキはその剣を《ソニック・リープ》によって増幅された勢いのままロータス・ゴーストに振り下ろす。

 

 「ーーーーーー」

 

 「えっ!?わぁっ!!」

 

 しかしその攻撃は彼女に当たる直前に、まるで受け流されるようにして回避される。

 その動きは黒の王が得意とする動きでもある《柔法》だ。

 体勢を崩したユウキにホバー移動で近づくゴーストは、その右腕に紫色の心意光を纏わし、振り下ろしてくる。

 

 「柔法だけでなく心意技まで使ってくるとは…」

 

 「ユウキ!!」

 

 「同じ顔だからって戸惑ってる暇はないぞこれーーーッ、《バーチカル・スクエア》!!!」

 

 

 歯噛みする黒雪姫と思わず声をあげるアスナ。

 走りながら飛び上がったグラファイト・エッジが剣を振るうと、四本の斬撃が生み出され、回転しながら一直線に飛んでいく。

 ユウキに振り下ろされる筈だった剣は電光の如くグラファイトの必殺技に振り抜かれ、その攻撃を消し飛ばした。

 

 「…マジかよ!!」

 

 驚きの声を上げるグラファイトであるが、ジェスチャーでキリト達に早く行けと指示をだす。

 

 「ーー任せたぞ!!」

 

 それを汲み取りながらグラファイト達にそう叫んだキリト達は、バベルの塔に向かって走り始める。

 それを見たゴーストは右腕の剣を引き絞るように構えると、ジェット噴射のような音と共に突き出した。

 その動き、こちらに向かって放たれた攻撃を見た黒雪姫は驚きの声を上げる。

 

 「《奪命撃(ヴォーパル・ストライク)》!?」

 

 「にゃろう!!」

 

 ゴーストの腕から突きだされた心意による長距離攻撃は、グラファイトが同じように体を引き絞り腕を突き出すことで放たれた心意技によって弾かれた。

 

 「っだぁー!師匠なめんな!ーーーキリトォ!」

 

 「うおおおおお!!」

 

 尻餅を突きながらゴーストの攻撃を弾いたグラファイトは、最後の黒い影に声をかける。

 ここで飛び込んできたキリトは平行世界のキリトだ。

 振るわれた《夜空の剣》はゴーストにダメージを与えることに成功し、その体を大きく後退させた。

 ゴーストは体勢を立て直しながらも、バベルの塔に向かう者達を追いかけようとするが、その前に三人が立ちふさがる。

 

 「…こりゃ手強いぞ。普段のロッタも厄介だが、心意技もあの出力でバンバン使われるとなると……」

 

 出し惜しみしてる場合じゃないなと、背中の二刀目を抜き放ったグラファイトは、ゴーストを睨み付ける。

 

 「それでも、やるしかない!だよね!」

 

 言うが早いか再び突撃を始めるユウキ。

 飛び上がり、踊るように回りながら振り下ろされる一撃は、遠心力も加わりかなりの威力があるだろう。

 しかしゴーストはその攻撃ですら《柔法》を用いて受け流す。

 再び体勢を崩すユウキ。

 振り下ろされるゴーストの剣はしかし、激しい衝撃を腹部に受けることで動きを止めていた。

 

 「僕だってやられっぱなしじゃないよ…!」

 

 ニヤリと笑いながらゴーストに打ち込まれたユウキの左腕には、ソードスキル特有のライトエフェクト。《体術》スキルの攻撃、《閃打》である。

 どうやら戦いに幅を持たせようと習得していたらしい。

 

 「いいぞユウキ!!」

 

 そう言ったキリトはかつての黒雪姫との戦いを思い返しながら、続くようにソードスキル《弦月》を発動させる。

 ムーンサルトキックのように放たれた一撃は、ゴーストの顎部分に命中し、その体を大きく仰け反らせることになった。

 

 「二人とも下がってな!!」

 

 その二人の間を潜り込むようにくぐり抜けたグラファイトが、二本の剣を振り回すようにして追撃を始める。

 続くコンボが相手のHPを削り、こちらの必殺技ゲージを溜め始める。

 

 「うぉっ!?」

 

 しかしコンボの途中、突如岩にでも剣を叩きつけたような衝撃を受けたグラファイトの体は、空中で動きを止めてしまう。

 加速する時間の中で彼の目はゴーストの体が緑色の光に包まれていたことに気づく。

 

 「《オーバードライブ》ッ!?」

 

 ブラック・ロータスが扱う技で、自分に「プラスの自己暗示」を掛けることでアバターの性能を遠隔、近接、防御よりのどれかにする技だ。

 今回は緑ーー防御よりのため、突如変わった手応えにグラファイトは動きを止めてしまったのである。

 

 続いて青色ーー遠隔技よりの光に体を包んだゴーストの両腕に八つずつの光の輝きが生み出される。

 

 「まずーー!!」

 

 放たれるだろう攻撃に驚愕の声をあげたグラファイトは即座に迎撃の体勢に入るが、それより早くゴーストの技が発動する。

 

 「ーーー《星光連流撃(スターバースト・ストリーム)》」

 

 戦いが始まって初めて発せられた黒雪姫であって彼女ではない声と共に剣が振るわれ、同時に放たれる光の光弾はグラファイト達を巻き込み、大きな爆発を起こしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 「各自臨機応変に動きながら攻撃を仕掛けて!クロウとレイカーさんは私達と空中攻撃を!!」

 

 「はい!」

 

 「ええ!」

 

 アスナの指示が飛ぶ中、先程まで自分がいた場所を敵エネミーの攻撃が通りすぎる。

 ヒュッと息を飲みながらも十分に溜まった必殺技ゲージを確認したハルユキは、背中の翼を展開させて大空へ飛び上がった。

 

 「おらぁぁぁぁぁ!!!」

 

 赤の王の《強化外装》から放たれる無数のミサイルやレーザーによる爆発を抜け、空中で《スカイ・レイカー》と合流する。

 

 「師匠!」

 

 「鴉さん!」

 

 お互いに頷いた後、ハルユキは彼女の手を取りながらグルンと回り、遠心力に任せて彼女をエネミーに投げ飛ばす。

 

 「はぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 《ゲイルスラスター》による加速を得ながら急降下するレイカーの攻撃はエネミーに突き刺さり、HPを削ることに成功する。

 続いて妖精族としての羽をはためかせながらリーファとクライン、キリトがそれぞれ攻撃を続けた。

 

 「いけるよお兄ちゃん!」

 

 「っしゃぁ!どんなもんだ!」

 

 「俺たちはあの時とは違う…!お前を倒して、先に進ませてもらうぞ!!」

 

 上空からそれを見ながら、ハルユキはこの状況に高揚している自分がいることに気づいていた。

 《ネガ・ネビュラス》や《プロミネンス》のメンバーだけでなく、別世界のトッププレイヤー達と力を合わせて巨大なエネミーと戦いを繰り広げる状況は、現在自分達が元の世界で直面している問題からは考えられないことだ。

 

 『何ニヤニヤしているのですか』

 

 「し、仕方ないだろ!こんな大きなエネミーを全員で倒そうとするなんて、キミの第一形態を倒そうとした時くらいなんだから!」

 

 『…あれは中々に度しがたいことでしたね…ほらしもべ、来ますよ』

 

 「え…うわわっ」

 

 頭の中の《メタトロン》と会話しながらハルユキはこちらに飛び交うビームやレーザーを回避する。

 《Verdraengung(ヴェルドラエンガング)》と呼ばれる巨大エネミーの攻撃は今のところレーザー攻撃のみだ。

 

 「そんな単調な攻撃じゃーーー当たらないぞ!!」

 

 ハルユキは翼を動かしながら速度をつけると急降下、得意技の《ダイブキック》を叩き込む。

 続けざまにユージオとアリスが秘奥義を放ち、黒雪姫が必殺技のエフェクトを纏わせた剣で躍りでる。

 

 「くらえっ! 《デス・バイ・ピアーシング!》」

 

 巨大エネミーが呻き声のような咆哮をあげているのをみると、かなり効いているようだ。

 

 「一本目削り終わるよ!行動変化に注意!!」

 

 アスナの声と共に集合したハルユキ達は、エネミーの動きを警戒しながらも体勢を整える。

 必殺技ゲージはまだ余裕がある。

 虎の子の《強化外装》もまだ展開していないため、ハルユキ個人としてはまだ余力は残っている。

 

 「…! 動きが…」

 

 「止まった…?」

 

 しかしこのタイミングで不可解な現象が起きる。

 今まで戦っていたエネミーの動きが止まったのだ。

 困惑の声を隠せないハルユキ達であるが、背後から聞こえる何かの機関を動かす音に思わず視線を移してしまう。

 

 「何だか知らねーが動きが止まってるならチャンスだぜ!!」

 

 「確かにそうだ!俺も続くぜ!!」

 

 自分のシンボルとも言えるバイクを噴かす《アッシュ・ローラー》とそのバイクの後ろに飛び乗ったクラインは、もうスピードでエネミーに突っ込んでいく。

 

 「アッシュさん!? 危ないですよ!」

 

 「いや! 止まっているなら今が攻める時だ! こうしている時間も惜しい!」

 

 ハルユキの言葉に被せるように声を放つのはキリトだ。

 しかし二人のあとに続こうと駆け出そうとした瞬間、そのアッシュ達がいた場所で大きな爆発が起きた。

 

 「ア、アッシュさん!! クラインさん!」

 

 「いちちち…な、なんだぁ?」

 

 幸いHPはそこまで減らなかったようで、尻餅をついたクラインとアッシュは、爆発が起きた場所に視線を向ける。

 その目に入ったのはメタルカラー。

 全身を金属の装甲で包んだ戦士。

 

 「ここで来るか…」

 

 「ルオオオオオオオッッッ!」

 

 「《クロム・ディザスター》…っ」

 

 ペルソナ・ヴァベルが呼び寄せた最強の戦士、ハルユキ達が戦い、そして眠りにつかせた加速世界の獣が彼らの前に立ち塞がったのであった。

 

 

 



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第五十九話:その一点を

本日更新二話目です


 「ッ」

 

 思わず上げそうになった声を飲み込めたのは奇跡に近かった。

 アビリティで強化した視力が捉えた光景は、先に立ち向かった三人を中心に起きた爆発。

 思わず視界の端に写っているPTリストに存在している仲間のHPが残っているのを確認して、ようやく息を短くついた。

 

 「…勘弁してよ全く……」

 

 悪態の言葉をついた少女ーーシノンは、現在戦闘エリアから離れた場所でブラック・ロータスのゴーストがいる場所を睨み付けていた。

 彼女に任せられた役割は遠距離からの一撃必殺。

 その為自分の存在を悟られるわけにはいかないのだ。

 

 煙が晴れた先では、別世界のキリトとユウキ、グラファイト・エッジが膝をついていた。

 止めをさすつもりなのだろう。ゴーストがユウキに向けて剣を振り上げている。

 キリトもグラファイトも反応が遅れている。

 ユウキが必死に掲げた剣も弾かれてしまい、身を守るものは存在していない。後は剣が彼女のHPを吹き飛ばすだけである。

 

 「ーーーーーーッ」

 

 ここで奥の手を切って助けるのは容易い。

 スカーレット・レインとの特訓で手に入れたアビリティでクリティカルをたたき出せばどんな相手でも屠れる自信がある。

 しかしそれは千載一遇のチャンスを逃すことになる。

 只でさえ強いゴーストを倒すための攻撃なのに、ここで使ってしまえば次は無いだろう。

 

 ーーーしかし。

 

 葛藤するシノンの気持ちは関係なく事態は進んでいく。

 例え攻撃されてHPが無くなるだけだとしても、目の前で仲間がやられるのはーーーーーーー

 

 

 「ぁ」

 

 

 その光景が、何時しか見た光景(・・・・・・・・)と重なった。

 彼女の心の傷。

 子供の頃、銀行強盗が現れたあの時と同じーーーー

 

 

 「《バレットオーダー》」

 

 

 反射的にアビリティを発動していた。

 光に包まれながら現れたのは普段使っている弓とは違う銃(ウルティマラティオ・へカートII)

 赤の王であるスカーレット・レインとの修行の最中発現したアビリティはALOの世界観をぶち壊すほどのシロモノをその手に呼び出すアビリティであった。

 まるでそうすることがわかっているように、スコープを覗き込みながらシノンは狙撃体勢に入る。

 

 弓よりも手に馴染むその銃はまるで長年の相棒のように彼女に狙う場所を示してくれる。

 しかし今はそんなことよりも重要なことがある。

 

 「…いけっ!」

 

 狙いをつけた彼女は短く息を吐きながら引き金を強く引いたのだった。

 

 

 

 

 

 「…やべぇな……」

 

 肩で息をしながら悪態をつくグラファイト・エッジは、自分の手に視線を向けていた。

 その理由は言わずもがな、先程ブラック・ロータスのゴーストの攻撃を無理矢理防いだ代償である。

 心意技を迎撃した結果、その手に収まっていた筈の剣は彼の手元を離れ、目の前に突き刺さっている。

 

 別に剣が離れたこと自体は大したことではない。再び握ることができれば戦えるからだ。

 しかし相手が悪かった。

 

 剣が本体と呼ばれるほど、グラファイト・エッジ自身のスペックは高いものではない。

 黒の王の目の前で剣を取り落としてしまった状況がまずいのだ。

 

 「きゃっ!」

 

 そうこうしているうちにユウキの剣が弾かれ、彼女に剣が振り下ろされようとしていた。

 

 「くそっ…!!」

 

 助けに入りたいが今の彼には剣を拾うというアクションを挟まなくてはいけない。

 だが動かないという選択肢はない。

 

 ーーーーーと、足を踏み出そうとしたグラファイトの耳に、聞き覚えのない音が響いた。

 いや、聞き覚えはある。

 BBで領土戦を行った際に何度か聞いたことがある音だ。

 赤のアバターが得意とする銃撃の音。

 しかもこの音はスナイパーライフルが撃たれた音だ。

 

 そう認識したのと、ヒュンッと風を切る音が聞こえ、ゴーストの左腕の剣が吹き飛んだのは同時であった。

 

 「っーーーー」

 

 驚愕の気配を見せるゴーストに隙を見いだしたグラファイトは、即座に剣を手に掴む。

 しかしその行動をしている以上、剣を取り必殺技のモーションに入ると一手が足りない。

 

 「ーーーユウキ!!キリト!!」

 

 二人に声をかけたグラファイトは抜いた剣をそれぞれに投げ渡した(・・・・・)

 

 グラファイトと同じタイミングで既に走り出していたキリトは、《ルークス》を受けとると即座にソードスキルの体勢に入る。

 

 「うぉぉぉぉっ!!」

 

 グラファイトを追い越し、ゴーストの間合いに入ったキリトは体を捻りながらソードスキルの光を纏わせた剣を叩き込む。

 

 二刀流突撃技《ダブルサーキュラー》。

 それを放ったキリトの背後から、《アンブラ》を手に取ったユウキが躍り出る。

 剣を包み込む激しいライトエフェクトはどこか翼のようだ。

 

 「くらぇぇぇぇぇっ!!」

 

 雄叫びを上げながら放たれる十一連撃。

 Xを描くような突きを放った後、最後の一撃を叩き込む《OSS》。

 その名も《マザーズ・ロザリオ》。

 彼女の生きた証の象徴はゴーストの体に突き刺さり、その爆発と共に吹き飛ばしたのだった。

 

 「いよぉし!」

 

 手を叩きながら立ち上がったグラファイトは、二人から剣を返してもらうとゴーストが吹き飛んでいった方向に視線を向ける。

 ユウキの一撃が致命傷だったのか、ゴーストは仰向けになったまま動かなかった。

 

 「……ここ、は…」

 

 しかしその頭部がゆるゆると動き、周りを見渡す動作をした彼女はぽつりと声をあげた。

 先程までとは違い、理性のある声。

 王の影達は全て自分で思考し、話していたということなので、黒の王のゴーストもそうだというのが妥当だ。

 

 多分ヴァベルに何かされたんだろうな、と結論付けたグラファイトはゆっくりとゴーストに近づいていく。

 

 「…よっ、お目覚めか?ロッタ」

 

 「グラファイト…、……止めてくれ、私はゴースト…偽者だぞ」

 

 どうやら自分がゴーストである自覚はあるらしい。

 しかしそれはそれとして、目の前にいるのはブラック・ロータスなのである。

 

 「ヴァベルに何かされたのか?」

 

 「…この世界に生み出された瞬間にな。どこかで私の性格でも知っていたんだろうな。おかげで反逆すら出来なかったよ」

 

 はっと自嘲気味に笑うロータスに近づいてくるのはキリトとユウキである。

 

 「…ありがとう、私を止めてくれて。とてもいい戦いだった。…本当なら、心意技など使わずに戦いたかったのだがな」

 

 キリトとユウキに声をかけたゴーストは懐から一つの玉を取り出すとユウキに投げ渡す。

 王の影を倒すと手に入るキーアイテムだ。

 

 「…私を倒したんだ。ヴァベルの野望も止めてくれよ」

 

 そう言ったゴーストの体は徐々に透け始め、やがてクリスタルの結晶のように砕け散った。

 プレイヤー、エネミーのHPが0になったときと同じエフェクトだ。

 

 「…いこう、アスナ達が待ってる」

 

 ユウキはゴーストがいた場所を見ながら二人にそう言うと、アイテムボックスからポーションを取り出して飲み始める。

 戦いはまだ続いているのだ。早急に合流しなければならない。

 

 シノンと合流した三人は、バベルの塔に向けて走り始めたのだった。

 

 

 

 

 

 「ルオオオオオオオッッッ!!!」

 

 「クロム・ディザスターは我々が引き受ける!!キリト、アスナはあの大ボスを仕留めてくれ!!」

 

 「わかった!!」

 

 雄叫びをあげるクロム・ディザスターを見ながら叫んだ黒雪姫は、共に戦う仲間達に視線を向ける。

 

 「《災禍の鎧》は確かに強力だ!しかし思い出してほしい!我々はかの鎧を討伐している!ならば次も可能な筈だ!!」

 

 「改めて伝えますが、注意するのは瞬間移動と剣の攻撃、相手を引き寄せるフック攻撃、それと自動回復です!!攻撃の未来予測も出来るので気を付けてください!!」

 

 「流石六代目!!相手の動きは完璧ってやつだな!」

 

 「…レイン、流石にそれはNG」

 

 相手の行動予測を叫んだハルユキに対して放たれたレインの軽口に珍しくレパードがそう言い、ハルユキは苦笑いを返す。

 

 「作戦通り(・・・・)に仕掛けるぞ!!」

 

 そんな中先陣を切るのは黒雪姫だ。

 勢いをつけたホバー移動でブラック・ロータスの右腕を振り上げながら、獣に斬りかかる。

 無論、それをただ見ている獣ではない。

 右腕の《スターキャスター》で迎撃するために足を踏み出した。

 しかしその足が何か水のようなモノに掬われる。

 

 「油断大敵、なの」

 

 その正体は《四元素》の一人、アクア・カレントである。

 彼女の攻撃ではディザスターの足を破壊することなどできない。

 だから彼女は自身の体を流れる水のように操作しながら水面蹴りを放つことで、まるで大きな波が足を取るような現象を引き起こしたのだ。

 作り出せる隙は一瞬、しかしその一瞬で十分。

 

 「《ライトニング・シアン・スパイク》!!!」

 

 「《フレイム・ボルテクス》!!」

 

 放たれるのはシアン・パイルの杭から放たれる強力な一直線攻撃と、アーダー・メイデンの業炎に包まれた矢である。

 

 「ルルォォオオオオ!」

 

 ディザスターは雄叫びを上げながらその体を粒子に変換し、攻撃を回避する。

 初代クロム・ディザスターが使用した《フラッシュ・ブリンク》だ。

 二人の攻撃を避け、出現したディザスターは黒雪姫に向けて剣を振り上げようとするが、直ぐに上空に飛ぶことで回避行動に入る。

 

 「ーーっ!!」

 

 つい先程までいた場所には《ゲイルスラスター》によって加速したスカイ・レイカーが急降下の蹴りを放っていたからだ。

 フィールドにヒビが入る程の威力の蹴りが命中していれば、只ではすまないだろう。

 

 「空中なら身動き取れねぇよなぁ!!」

 

 続いてレインが自身の武器でもある銃を放つ。

 放たれた弾丸がディザスターの体に命中すると、その体に大きなダメージを与える。

 放つ武器は小さくてもステータスはレベル9であるレインの攻撃は、見た目以上の威力なのだ。

 

 「ヒャッハァァァ!いくぜいくぜいくぜ!この俺様とレパードの姐さん、そしてベルの嬢ちゃんの合体技、《Vツイン拳・ブラッド・クワイアースペシャル》!!!」

 

 「そんな技はない」

 

 「おりゃぁぁぁあ!」

 

 ウィリーしたバイクのブースターを最大出力で点火することでロケットのように加速したアッシュ・ローラーがミサイルをばらまきながら空中のディザスターに突撃、ヒビが入ったそこをレパードとベルが攻撃することで地面に叩き落とした。

 

 『合わせなさいしもべ!』

 

 「わかってる!いくぞメタトロン!」

 

 自分の背後に現れたメタトロンとタイミングを合わせたハルユキは翼を展開、光を集めると拳を突きだした。

 

 「『《トリスアギオン》!!』」

 

 通常メタトロンの生命力を消費して放つこの技であるが、現在いるVR世界においては生命力を使うことなく、《似た魔法》として発動することができる。

 堅い装甲を持つクロム・ディザスターであってもこの攻撃ならダメージを与えることができるだろう。

 アスナと特訓することで編み出した光の光線を放ったハルユキは、ここに来るまでに仲間と話していたことを思い返していた。

 

 

 

 

 「バベルの塔に行くっていうことは…」

 

 「ああ、クロム・ディザスターも来るだろうな」

 

 「厄介なのです…」

 

 あれは会議が終わったあと、ネガ・ネビュラスの皆で会話していた時のことであった。

 紫の王のゴーストを倒したあと襲いかかってきたクロム・ディザスターとは必ずバベルの塔で戦うことになるだろうと、話題に上がったのだ。

 あの鎧を巡る話を知っているからこそ、再びこうして戦うことになった理由がわからない。

 サフラン・ブロッサムとクロム・ファルコン、二人の魂と共にあの鎧は眠りについた筈なのだから。

 

 「…あの」

 

 だからハルユキは覚悟を決めていた。

 ヴァベルに起こされたのか、それとも再び災厄をもたらしに現れたのか、どちらにせよ倒さなくてはならない。

 

 「僕が六代目クロム・ディザスターになってしまったことは皆さんご存じだと思うんですけど…だからこそ、あいつの動きであったり伝えられることがあると思うんです」

 

 「ハル…」

 

 「…あいつがまた現れた時、全員で総攻撃をして倒しましょう。それが多分、一番良い」

 

 そう呟いたハルユキは、自分が《災禍の鎧》を纏った際に使用していたアビリティや武器などを、実際に四代目や五代目と戦闘した者達を交え話し合い、対クロム・ディザスターの準備を整えていたのだ。

 

 

 

 「相手の未来予測や移動アビリティの使用を制限させて、目的の場所に追い込む…!」

 

 トレスアギオンを受けて吹き飛ばされたディザスターの先には《オーバードライブ》により装甲を赤い光が包んでいるブラック・ロータスが待ち構えていた。

 

 「はーーーあああっ!」

 

 雄叫びをあげた彼女の全身を心意光が包み込む。

 その光を剣に纏わせたロータスは正に閃光のように加速し、ディザスターに斬りかかる。

 

 「《光環連旋撃(ジ・イクリプス)》!!!」

 

 2.5秒で27連撃もの剣撃を放つ大技であり、彼女が持つ技の中でも高威力に位置する技だ。

 その攻撃は全てディザスターに突き刺さり、その体を大きく吹き飛ばした。

 

 「やった!!」

 

 「……ルルルル…」

 

 ここまで攻撃を与えても倒れないのは流石と言うべきか。

 しかしその鎧の至るところにはヒビが入り、自己修復の光が漏れ出ていた。

 その姿にハルユキは胸が張り裂けそうになるが、グッと右手を握りしめると背中の翼を羽ばたかせてディザスターに向かって突撃する。

 

 「うおおおおおおおっ!!」

 

 雄叫びを上げながら渾身の右ストレートを繰り出すハルユキ。

 もう良いんだ、もう眠ってくれ。

 災禍の鎧が再び災いを引き起こす前に、引導を渡す為に放たれた拳はーーーー

 

 

 

 

 『しもべ!!!逃げなさい!!』

 

 

 

 何かに弾かれたことで空を切った。

 いや、加速した思考がその何かの正体を正確に映し出す。

 ーーー剣だ。

 

 それもレイピアタイプの細剣。

 

 あんな細い剣でシルバー・クロウの拳を受け流したのだろうか?

 いや、そもそも攻撃を弾いた相手はーーー

 

 

 「ーーペルソナ・ヴァベルッ!」

 

 

 仮面を被り、漆黒のドレスに身を包んだ少女であった。

 

 ーーつまりこの戦いの元凶ーーーー!!!

 

 「…同胞よ、下がりなさい。ここであなたを失う訳にはいきません」

 

 「…!逃がすかーー!!」

 

 ヴァベルの言葉に悲しそうな唸り声をあげたディザスターは、彼女が開いたのであろうゲートで転送される。

 思わず駆け出したハルユキの前に立ち塞がるのは細剣を輝かせたヴァベルでーーーー。

 

 

 『しもべ!!!』

 

 

 ドドドドドッと体に衝撃が走る。

 途端に体に走る痛みにハルユキの思考は真っ白になってしまった。

 今何をされたのか?

 攻撃されたのはわかった。

 しかしその剣先すら見えないことなんてあるのか?

 

 まるでそう、トレスアギオンを習得するために訓練をお願いしたアスナのような素早く、正確な一撃。

 いや、あの攻撃は八連撃ソードスキルのーー

 

 「ぐ……っ、がぁっ!!」

 

 「ーーーー眠りなさい」

 

 続けざまにヴァベルの手に魔力が収束する。

 なにか不味い予感を感じるもハルユキは動くことができない。

 そのまま無防備な胴体に魔力の一撃を受けたシルバー・クロウの体は大きく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 

 「ハルユキくん!!!」

 

 「チーちゃん!!」

 

 「し、《シトロン・コール》!!」

 

 黒雪姫が声を上げるなか、すかさずパイルがベルに指示を出す。

 ライム・ベルは腕の鐘をりんごん、と鳴らすと倒れているシルバー・クロウに向ける。

 すると彼のHPは回復ーーもとい戦闘開始前に戻されていく。

 

 「ーーがはっ、はぁっ、はぁっ」

 

 あまりの衝撃に意識を一瞬失っていたハルユキだが、ライム・ベルのお陰でなんとか復活することができた。

 息を吐きながらふらふらと立ち上がると、ヴァベルを睨み付ける。

 

 「妾の邪魔をするとは……」

 

 ヴァベルはイライラとしながらそう呟くと、反対方向でキリト達と戦っている大型エネミーを見る。

 

 「…やつも存外大したことはなかったか……。なら、次の手を出すまで」

 

 そのまま指をパチンと鳴らすと、巨大な魔方陣がバベルの塔の近くに現れる。

 そしてそこから現れたのはまたも巨大なエネミー。

 

 まるで女神のようで、それでいて怪物のようなモンスター。

 

 キリト達も異常を感じてそちらの方向を向くと、現れたエネミーの姿を見て驚きの表情を見せる。

 

 「……嘘だろ」

 

 「あれって《OS事件》の…」

 

 呟いたのは誰だろうか。

 目の前に現れたエネミーはキリト達を見つけると戦闘体勢をとり、雄叫びをあげる。

 

 エネミーの名前が現れると同時に、その下には10本(・・・)ものHPバーが現れる。

 必死に目を凝らしたハルユキが捉えたその名前は《An Incarnate of the Radius》。

 

 「この時代の旧SAOサーバーからは消えていたとしても、貴様ら小妖精のいるこの世界の成り立ちを忘れたわけではないだろう?」

 

 「…ALO内のアインクラッドからデータを引っ張ってきたのか……っ!!」

 

 高らかに笑うペルソナ・ヴァベルの言葉に歯噛みしながらその言葉の答えを放つキリト。

 

 ヴァベルはボスに視線を向けたあとバベルの塔の中に戻っていく。

 

 追いかけようとするも目の前にいるボスがその行く手を阻んでいる。

 

 「…くそっ、全員戦闘準備!!」

 

 キリトはボスを睨み付けた後全員に声をかける。

 《オーディナル・スケール》というゲームを巡る戦いで戦ったのはつい最近のことである。

 自分達がかつてのアインクラッドで倒したストレアと融合した100層ボスとはまた別の、茅場がデータだけ作っていた100層ボス。

 あのときとはまた違う状況で再び勝つことができるのだろうか?

 

 ボスがキリト達に視線を向けると、その赤い瞳が禍々しく輝く。戦闘体勢に入った証拠だ。

 

 かつて戦った強敵との戦いの火蓋が再び下ろされたのだった。



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第六十話:再演

本日三話目の投稿をしています

五十八話から更新分なので、こちらから来た方は気を付けてください


 「ーーーーー!!!!」

 

 まるで悲鳴のような声をボスが上げると、フィールドから巨大な樹の根が現れ、キリト達に襲いかかる。

 攻撃に巻き込まれる者、なんとか回避する者もいるなか、攻撃を回避したキリトの元に、エギル、シリカ、リズベットが合流する。

 

 「またアイツか!」

 

 「…上等、また返り討ちにしてやろうじゃない!」

 

 エギルのうんざりとした声にリズベットがそう返すが、声からはやや疲労が見える。

 大ボスの二連戦、しかも今から戦う相手は奇跡が続いて倒せたようなモノだ。

 

 「ーー来ます!!」

 

 シリカの声と共にこちらに振り下ろされる大剣を、エギルは斧を使いながら紙一重で逸らす。

 ギィィィィンッと武器同士が擦れる音を放ちながら、エギルは敵のヘイトを自身に引き付ける。

 

 「スイッチ!!!」

 

 エギルの言葉を背に二刀で斬りかかったキリトの攻撃は、ボスが展開しているバリアに阻まれる。

 激しいスパークを放つバリアを力ずくで引き裂いたキリトは、薙ぎ払うように振られたもう一本の大剣をギリギリで滑り込ませた二刀で受けながら吹き飛ばされてしまう。

 

 「スイッチーーーッ!!」

 

 しかしこれでボスの身を守っていたバリアは一度破壊した。前回の戦いもこのようにしてダメージを与えたのだ。

 それを理解しながら阿吽の呼吸で飛び出してきたシリカとリズベットがその武器を叩きつけようとするが、その瞬間にボスの赤い瞳が輝くのが見えた。

 

 「レーザー攻撃!?不味っ」

 

 「ピナ!!」

 

 思わず目を見開くリズベットと、攻撃を中断してピナを抱き抱えるシリカに向けて凄まじい威力の光線が放たれる。

 

 「シリカ!リズ!!」

 

 「シリカーーー!!」

 

 吹き飛ばされた先で体勢を立て直したキリトは思わず声をあげる。

 せめてシリカだけでもとバックラーを構えるリズベットであるが、防げないことはレーザーの威力を見ていればわかる。

 

 

 しかしここで二人の前に銀の翼が現れる。

 全身を銀色の装甲に包んだ戦士、シルバー・クロウだ。

 

 「う、おおおおおおおっ!!!」

 

 二人の前に現れたシルバー・クロウが雄叫びを上げながら右腕を上空へ突き上げると、その右腕の装甲からロッド部分が展開しはじめる。

 

 「《光学誘導(オプティカル・コンダクション)》!!」

 

 振るわれた右腕がレーザーと衝突。

 まるで受け流すようにして放たれたレーザーを誰もいない方向へ逸らすことに成功したのだった。

 

 「二人とも、大丈夫ですか!?」

 

 「あ、ありがとうございます!クロウさん!」

 

 「い、今のは…」

 

 「僕のアビリティです。放たれた相手の光線系統の攻撃を逸らすことができるんですよ」

 

 間に合ってよかった…と呟くハルユキに続き、クロム・ディザスターと戦っていたバーストリンカーの戦士達も続々と戦線に合流しはじめた。

 

 「ぐ…このぉ…!」

 

 樹の根に拘束されてしまったレインは《鍛治妖精》のスキルを発動することで自分が作り出した剣を取り出すと、その刃で拘束から脱出。

 そのまま無造作に取り出した剣を拘束されている仲間がいる根に投げつけ、切り裂くことで仲間を解放していく。

 

 「ありがとーレイン!」

 

 「流石お姉ちゃん!!」

 

 解放されたストレアは大剣を構えながらボスに向かって駆け出し、セブンはバフを全員に発動していく。

 だがそんなプレイヤーに敵モンスターは苛烈な攻撃を繰り返す。

 地形を破壊するほどの光線や根の攻撃を前に全員攻めあぐねている状況だ。

 

 「ちぃ…!こいつでどうだ!!!」

 

 スカーレット・レインが強化外装を再び展開し、レーザーやミサイルをこれでもかと放つ。

 殆どは根に当たったりビームで破壊されるが、それでもモンスターには命中し、そのHPを確実に減らし始めた。

 

 「ナイス、ニコ!!」

 

 「とはいえこのまま撃ち合いを続ければこっちの負けだ!早く倒しちまーー」

 

 ハルユキの言葉にそう返すレインであるが、その言葉は凄まじい勢いで近づいてきたボスモンスターを前に思わず止まってしまう。

 

 「こいつ動けんのかよーーー!!!」

 

 「ニコ!!」

 

 レパードが彼女の名前を呼ぶ中、振るわれた二本の大剣は彼女の強化外装に突き刺さると激しいスパークを起こす。

 慌てて強化外装を解除したレインは直ぐ様《形体変化》を行い四足歩行になったレパードの背中に乗るとその場から離れる。

 彼女の持ち味である強化外装は大きなダメージを受けてしまった為、少なくとも今はもう使うことはできないだろう。

 

 「この攻撃を掻い潜るのは至難の技だぞ…!」

 

 黒雪姫も必死に迫る根の迎撃と回避を繰り返しながら攻撃のチャンスを狙っているが、中々巡ってこないチャンスに思わず悪態をつく。

 

 しかしエネミーの攻撃は苛烈さを増し、襲いかかる樹の根が更に増えていく。

 一人、また一人と根に飲み込まれるなか、レイカーの悲鳴が黒雪姫の耳に届いた。

 

 「レイカー!!」

 

 そちらに視線を向けると、樹の根に拘束されているレイカーとメイデンの姿が見える。

 助けにいこうとするも、迫り来る攻撃を捌きながらでは到底間に合わない。

 

 「ぁ…!!」

 

 「ういうい…!」

 

 激しい拘束に装甲を軋ませながら悲鳴をあげるメイデンと、彼女を助けようと動こうとするレイカー。

 しかし拘束は緩む気配は無く、そのHPを刻一刻と削っていく。

 

 「メイデン!レイカー!ーーぐぁっ!?」

 

 それを見たキリトが背中の羽を叩きながら助けようと動くが、瞬時に振るわれた大剣に叩き落とされる。

 攻撃自体は剣で防いだようだが、そのまま振り下ろされる剣を受け止めるので精一杯のようで動けそうもない。

 

 「キリトーー!!うぁっ!?」

 

 思わず声をあげる黒雪姫の地面が突然浮き上がると、そのまま同じように浮き上がってきた瓦礫が凄まじい勢いで彼女を挟み込む。

 

 悲鳴をあげる黒雪姫の声を聞きながらもボスはメイデンとレイカーに視線を向けると、その瞳を赤く光らせ光線を放とうとする。

 

 「やめろぉおおお!!」

 

 しかしその攻撃は放たれる前に色とりどりの魔法攻撃がボスの顔面付近で爆発したことでキャンセルされる。

 驚愕の表情を浮かべるボスに向かって、青色の流星が降り注ぐ。

 

 「もらった!!《テュールの隻腕》!!」

 

 ウンディーネ族特有の青い髪をした青年は一瞬の隙を逃さずにその片目にソードスキルを叩き込む。

 続いて聞こえるのは多くの声ーー魔法を詠唱する声だ。

 再び放たれた魔法攻撃が敵の樹の根を破壊し、捉えられていたメンバーを解放する。

 

 「あれって…」

 

 「ALOに残っていたプレイヤー達!?」

 

 ペルソナ・ヴァベルによってALOに異常事態が発生した時、巻き込まれたのはキリト達だけではなかった。

 普通にALOをプレイしていたユーザーもその中にいたのだ。

 政府の指示でログアウトした者もいたが、ログインし続けていた者達。

 彼ら、彼女らがこの場に現れていた。

 その中にはシルフやケットシーの領主でもあるサクヤやアリシャ・ルーも混ざっているのが見える。

 

 そしてその前を先導しているのは漆黒の剣士。

 

 その後ろから同じく漆黒のドレスを来た白い髪の少女がステップを踏みながら現れる。

 

 「各PTは魔法を詠唱しながら黒の剣士達を援護、お互いをフォローしながら陣形を維持するんだ」

 

 「ほう、中々様になってるじゃないか」

 

 「茶化さないでくださいよ、以降の指示は領主様達にお任せします」

 

 ニヤニヤと声をかけるサクヤに苦笑を返す青年は巨大なエネミーを見上げて目を細める。

 ボス戦というボス戦はあまりにも久しぶりで、内心心臓が爆発しそうなくらい緊張しているのがわかる。

 

 そんな手をそっと包む感触。

 そちらに視線を向けると隣にいた白い髪の少女が微笑んでいる。

 

 「大丈夫、エーくんならできるよ」

 

 その少女の姿が幼馴染みと重なる。

 自分の力不足で助けられなかった少女。

 そしてまた失いそうになった少女を、今回は助けることができた。

 重村教授の伝を辿り、事件対策本部まで辿り着き、一人になっていた彼女と合流ができたのだ。

 頷いた少女はくるりと振り返ると、集まったALOプレイヤーに声をかける。

 

 「それじゃあ皆、準備はいーい?スペシャルライブを始めるよ!目的はあのボスを倒すこと!」

 

 少女の言葉に集まったALOプレイヤーはおおおお!と声をあげる。

 

 黒の剣士達がこの事件を追っていることを知った時はなんの因果かと考えもしたが、英雄様なら確かにこの場にいるのは当たり前だろう。

 

 「かのARゲームでトップランカーであった貴様の力、見せてもらうぞ」

 

 ボスに攻撃を与えたウンディーネの青年ーースメラギが声をかけてくる。

 

 「また過去の話を…それに、今の僕にそんな肩書きありませんよ」

 

 「いくよ!ミュージックスタート!」

 

 その言葉と共に彼女の周りを浮かぶデバイスから聞こえる伴奏。

 激しくギターが掻き鳴らされる音から始まる歌は、あの戦いの裏で彼女が歌っていた曲。

 その歌は全員を鼓舞し、それと同時にステータス上昇の効果のバフが展開される。

 

 「僕は《Nautilus(何もできなかった者)》でも《Eiji(英雄)》でもない。…ただのゲームプレイヤーさ」

 

 そう、自嘲するように呟いた青年は大切な者の声援を受けながら駆け出した。

 直ぐにトップスピードに乗ると、迫り来る樹の根をアクロバティックな動きで回避しながら着実に距離を縮めていく。

 

 「お前、何でここに…」

 

 「別に、成り行きですよ。彼女を探しに来て合流したと思ったら、事件を解決するために現在ログインしているプレイヤーを集めたいって言われてね」

 

 「…それでここまでのプレイヤーを…っと、来るぞ!」

 

 再び迫る根を見たキリトは上空へ逃げることで回避。

 対して青年はX字を描くように剣を振るい、根を切り裂く。

 

 「こんなもんですか黒の剣士っていうのは?…大したことないな」

 

 「っ…言ったな!」

 

 茶化すようにそう声をかけると触発されたキリトは二刀を振り回して次の根の攻撃を切り裂く。

 その勢いのまま青年の目の前の根も切り払うと、ふふんと笑みを浮かべた。

 

 「遊んでる場合か!」

 

 思わず眉をひそめる青年だが、ここでスメラギの叱責が飛ぶ。

 彼と合流して駆け出した三人は続いて振られる二本の大剣を見るとアイコンタクトを交わし散開。

 剣がフィールドに叩きつけられたことにより打ち上げられた瓦礫を三角飛びのように蹴飛ばした青年は、そのままの勢いでボスに一太刀を浴びせる。

 

 「スメラギ!!」

 

 「今一度受けてみよ…!《テュールの隻腕》!!」

 

 ソードスキルの光に刀を輝かせたスメラギの一撃はボスに突き刺さり、そのHPを大きく削り取った。

 そこにキリトが雄叫びを上げながら飛びかかる。

 

 「《スターバースト・ストリーム》!!」

 

 ソードスキルではなく自身で再現した二刀流十六連撃技の攻撃を叩き込むことで、大きなダメージを与えることに成功するが、まだボスを倒すには足りない。

 攻撃を受けたボスは即座に後退すると、その背後に巨大樹を産み出す。

 巨大樹から滴り落ちる雫はボスのHPを回復させる力を持つものだ。あれを発動させてしまえば今までの苦労が水の泡になる。

 

 「あれを止めて!」

 

 それを見たアスナはALOプレイヤー達に向けて声をあげる。

 

 「総員、攻撃!!」

 

 サクヤの号令と共に放たれた魔法攻撃がボスのモーションをキャンセルさせると共に、動きを止めさせる。

 

 「アスナ!お待たせ!」

 

 ほっと息をつくアスナに声をかけてきたのはユウキだ。

 めまぐるしい戦況の中でなんとか合流することができたようだ。

 

 「ユウキ!オーブは!?」

 

 アスナの言葉に笑顔で手に入れた黒いオーブを見せるユウキ。

 それに彼女は頷くと持っていたワンドを細剣に持ちかえるとユウキと共に前線に駆け出した。

 

 「皆さん!ユウキ達がオーブを手に入れてくれました!後はこいつを倒すだけです!!」

 

 「なら出し惜しみをしている場合ではないですね、ユージオ!!」

 

 それを聞いたアリスはユージオに声を掛けると《金木犀の剣》を構える。

 あの巨体全体に攻撃をしてもダメージになるかはわからない。

 ここは一点に集中するべきだろう。

 

 「エンハンス・アーマメント!!」

 

 振るわれた大剣に近づいたユージオはその剣に《青薔薇の剣》を突き刺し《武装完全支配術》を発動させる。

 青薔薇が咲き誇ると同時にその剣は凍りつき始める。

 

 「騎士アリス!!」

 

 「吹き荒れろ…花よ!!エンハンス・アーマメント!!」

 

 ユージオの声に頷いたアリスは、その剣に向けて無数の金木犀の刃を叩きつける。

 凍りついた剣はアリスの攻撃を受けてその刀身を真っ二つに叩き割られる。

 

 「私達も続くぞ!《奪命撃》!!」

 

 「『《トリスアギオン》!!』」

 

 バーストリンカー達も各々の遠距離技をもう一本の剣にぶつけ、破壊することに成功。

 これで相手の攻撃手段を封じ込めることができた。

 

 「ーーーーーーー!!!」

 

 怒りの形相を見せる大ボスは残された瞳からレーザーを乱射。

 その攻撃は最後の悪あがきのようで、それでも全プレイヤーを近づけないほどの正確さ、威力は持っていた。

 

 しかしそこに走り込むのは漆黒の影。

 

 「あぁぁぁぁぁっ…!!」

 

 《夜空の剣》を肩に担ぎながら攻撃を紙一重で回避するもう一人の『キリト』だ。

 迸る気迫と共にその剣はクリムゾンレッドのように赤く光り輝く。

 

 そのまま飛び上がった『キリト』は残された瞳に向けて《ヴォーパル・ストライク》を放つ。

 通常その攻撃は刀身二本分程の範囲分の攻撃だ。

 しかし『キリト』が放った一撃はブラック・ロータスの《奪命撃》のように長い飛距離を突き進み、残されたボスの片目を抉りとった。

 

 「アスナ!!一緒にいくよ!!」

 

 「ええ!ユウキ!これで仕留める!!」

 

 示し会わせたように飛び上がった二人は、全く同じ構えを取る。

 するとソードスキルの発動を検知したシステムが二人の武器をシステムエフェクトの光で包み込み、発動準備を終える。

 そのエフェクトは激しく光輝き、まるで剣から翼が生えているようだった。

 

 「「《マザーズ・ロザリオ》!!」」

 

 一言一句、同じ言葉を紡いだ二人の体は競い合うように動きながらXの文字を敵に刻み込む。

 

 「これでーーー」

 

 「終わりよーーー!!」

 

 最後の十一連撃目はボスの体に同時に突き刺さり、残っていたHPバーを吹き飛ばした。

 

 ボスが悲鳴を上げながら結晶となって消えていく。

 そしてそれが終わると、全員の目の前にウィンドウが表示され、《congratulations》の文字が浮かび上がる。

 それと同時に経験値やアイテムが追加されていく表示も現れはじめた。

 

 少しの静寂の後、ボスを倒したことを確信した者達の歓声がフィールドに響き渡った。

 

 「やった…!倒した…!」

 

 「これでやっといけるな…バベルの塔に…」

 

 だがこれで終わりではない。

 バベルの塔に向かうまでの障害がこれでようやく消えただけなのだ。

 

 アスナがユウキから受け取っていた黒いオーブをキリトに渡すと、彼は自分のアイテム欄から他のオーブもオブジェクト化する。

 

 そうして集まった七つのオーブはバベルの塔の扉に向かって飛んでいき、一際大きく光るとその扉をゆっくりと開かせたのであった。

 

 「…どうやら、これからが本番のようで」

 

 共に戦っていた青年ーーエイジは険しい表情をしながらキリトとアスナに近づいてくる。

 その後ろには先ほどまで歌っていた少女ーーユナも一緒だ。

 

 「アスナさん、今日のMVPは貴女ね、おめでとう」

 

 「あ、あはは…」

 

 茶化すように話しかけるユナに困った笑みを浮かべるアスナであるが、はてと首を傾げる。

 

 「そもそもどうして二人がここにいるの?」

 

 「…オーディナルスケール事件の後、コピーされたユナ達のことを知った黒ユナが自己崩壊を起こしかけた事件がありましたよね。それ以降も彼女を助ける為に色々と活動していたんですが…」

 

 アスナの質問にはエイジが説明を始め、その中で一旦言葉を切った後、隣にいる少女を見やりながら言葉を続ける。

 

 「僕に付いていてくれた彼女が突然消えたんです。…色々とまあ、使える手段を取ったことで、ここに来ていたということがわかったのでログインしてきたって訳です」

 

 「菊岡がよく許可してくれたな…」

 

 「そこは色々と。七色博士も助け船をだしてくれまして」

 

 キリトの言葉にエイジはこちらに近づいてくるセブンとスメラギに視線を向ける。

 

 「もう、間に合わないかと思ったじゃない」

 

 「…面目無い」

 

 眉を下げながら謝るスメラギにセブンは困ったように笑うと、エイジに向けて手をあげる。

 

 「無事に合流できたのはスメラギから聞いていたけど、まさか援軍を連れてきてくれるなんてね。ありがとう、エイジさん」

 

 「…ユナの頼みですから」

 

 お礼を言われなれていないのだろう、その言葉にぶっきらぼうに返すエイジであるが、視線を逸らした先に不思議な物を見つけて思わず固まってしまう。

 

 「…エイジ?」

 

 「…疲れているのか?黒の剣士サンが二人いるように見えるんだが……」

 

 小首を傾げるユナに今見た光景を伝えるエイジ。

 言わずもがなその先にいたのはアリスやユージオと話していた『キリト』である。

 こちらに向けられる視線に気づいたのか、こちらも驚きの表情をしながら話の輪に加わりはじめる。

 

 「…あんたは…エイジ?……それにユナも、どこに行ってたのかと思ったらそんなとこにいたのか」

 

 「ハイ、キリト。倒れた時は驚いたけど無事に起きてくれてよかった」

 

 「ゆ、ユナ?どうして、そんな普通に…」

 

 当たり前のように『キリト』に話しかけたユナに驚きの声をあげるエイジ。

 スメラギも目を見開いているのだが、それはそれで面白い表情が見れたとセブンが爆笑している。

 しかしユナは彼が驚いている理由は分からず、ごくごく普通に返答を返す。

 

 「どうしてもなにも、エイジに会うまで一緒にいたし」

 

 「ど、どういうことなんだ…よりにもよって、こいつが二人も……」

 

 エイジ個人としては苦手な顔が二つも並んでいることに色々と思うとこがあるようだ。

 二人のキリトはそんなエイジを見てニヤニヤしながらお互いの顔を見た後、同時に息を吸って。

 

 「「仲良くしようぜ、エイジ」」

 

 「や、やめてくれ…」

 

 頭を抑えながらそう返すエイジと、何故か更に険しい表情になったスメラギにその場にいた者達は笑い声を上げるのであった。

 

 

 




三話分更新しました

アニメでエイジが出てきたと聞いて、丁度こちらでもエイジを出していたことから我慢出来ず更新してしまいました

再演はまさにオーディナル・スケールの再演です
100層ボス相手に苦戦しながら仲間が来て全員でタコ殴りにするっていうのにエイジを参加させたかったので入れました。

OSの小ネタを沢山いれたので、見つけていただければと思います。

ゲーム版ではフェイタルバレットの前にOS事件が起きているらしいので(FBのエイジとキリトの会話曰く色々あったらしい)アクセルソードの前に起きていることにしました。

途中から影も形も無くなっていたユナはキリトが倒れている間にエイジと合流し、一緒に行動していました。

エイジめっちゃ好きなので楽しく書けました。

また次のお話はゆっくりになると思いますが、応援お願いいたします。

それではまた次回!


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第六十一話:バベルの塔

明けましておめでとうございます!!!

短めですがどうぞ!


 「ここが《バベルの塔》……」

 

 激戦を潜り抜けたキリト達は、ついにバベルの塔の内部に乗り込むことに成功した。

 しかしその中はダンジョンと言うよりはどこか電子的な空間であり、明らかに異質な場所であることがわかる。

 周りの仲間達も戸惑いを隠しきれていないようだ。

 

 「…ねえキリト、ここって」

 

 「…ああ、俺やアリス、ユージオが閉じ込められた《無限変遷の迷宮区》に似ているな」

 

 ユージオの言葉に『キリト』は頷くと、先に続く道を睨む。

 この先にペルソナ・ヴァベルがいるのだろう。

 

 「突っ立っていても仕方ない。そうでしょ?黒の剣士サン」

 

 「…そうだな、皆、いこう!」

 

 そこに事態を解決する手段があるのならと、ユナと共にバベルの塔に乗り込んだエイジの言葉に頷いたキリトは、仲間達に声をかけると先へ進み始めた。

 

 

 

 バベルの塔の中を移動するには何やらポータルを通って上の階層へ向かわなくてはならず、景色もそこまで変化しないため迷いやすい印象を受ける。

 

 ダンジョンらしくモンスターもポップしているが、それもここまで辿り着いたプレイヤーの戦力ならそこまで苦戦することなく倒すことができていた。

 

 そしてある程度進むと、大きな広場のような場所に辿り着く。

 

 奥には今までと色が違うポータル。

 恐らくその先にペルソナ・ヴァベルがいるのだろう。

 しかしそこに向かうには目の前に立ちふさがる敵を倒さなければならない。

 

 「ルルルル…」

 

 敵ーークロム・ディザスターは深く唸り声をあげながらこちらを睨み付けていた。

 その鎧はハルユキ達との戦いの傷が癒えていないようで、未だに自動回復のエフェクトが包み込んでいるのがわかる。

 

 「何で…何でだよ!もういいじゃないか!!」

 

 ハルユキの悲痛な声が響くが、その返答はこちらに剣を突き付けることで返された。

 

 『しもべ、躊躇している時間はありません。やつを倒さねば先に進むことはできないのですから』

 

 メタトロンの言葉を聞いたハルユキは何か言おうと口を開くが、しかしそれが最善手だと考えるとコクリと頷いた。

 

 「ルオオオオオオオオ!!!」

 

 各々が武器を構えるなか、クロム・ディザスターが一際強く雄叫びをあげる。

 すると彼の体を圧倒的な負の心意が包み込み、そこから4つのオーラが飛び出した。

 

 驚きの表情を浮かべる一行の前で闇のオーラは一つの形を作り出す。

 それはまるでデュエルアバターの姿であり、それぞれが負の心意を体に纏わせながら姿を明らかにさせる。

 

 「あ、…あれって……」

 

 「嘘だ…」

 

 現れた相手の姿を見たハルユキはかつてないほどの驚きに包まれる。

 

 「クロム・ディザスター(・・・・・・・・・・)…初代から四代目までの…」

 

 「…マスターに見せてもらった動画データに四代目の姿があったけれど…」

 

 「どう見ても四代目クロム・ディザスターだなありゃあ」

 

 喘ぐように言葉を紡いだハルユキの言葉に、タクムの声

にニコが同意する。

 五体の災禍の鎧から放たれる圧倒的な情報圧に気圧される面々であるが、二代目ディザスターのドラゴン型の頭部が真っ赤に光りはじめたことに気づいたハルユキが声をあげる。

 

 「ぶ、ブレス攻撃です!!!に、逃げて…!!」

 

 しかし言葉とは裏腹にシルバー・クロウの体はゆっくりとしか動かない。

 ありえない光景に完全に不意をつかれた形になっていたのだ。

 このまま攻撃を受けてしまうのかとせめて防御姿勢を取ろうとするハルユキ達の前に金色の騎士が躍り出る。

 

 ドンッ!と地面を大きく踏みしめたアリスは鞘から《金木犀の剣》を抜き放つと同時に《武装完全支配術》の体勢に入る。

 

 「舞えーーーっ!花たち!!!!」

 

 エンハンス・アーマメントの言葉と共に振るわれた金木犀の剣の刀身は一度煌めく刃となり、そのまま菱形の盾として一行の前に展開される。

 ブレスは敷かれた盾とぶつかると激しい衝撃を与えながらも四散していく。

 しかしいつまでも防げるものではないだろう。

 

 その攻撃を放っている二代目ディザスターに狙いを定めるようにアリスの陰から飛び出すのはユージオと『キリト』だ。

 

 「エンハンスーーーー」

 

 「アーマメント!!!」

 

 《青薔薇の剣》と《夜空の剣》から放たれた一撃は二方向から隙だらけの二代目に向かっていくが、その前に四代目と三代目のクロム・ディザスターが立ちふさがる。

 

 四代目ディザスターはその大斧を叩きつけるように振り下ろすことで夜空の剣のエネルギーを力付くで粉砕し、三代目ディザスターは腰だめに構えた刀を居合いの要領で抜き放つと、青薔薇の剣から放たれた氷を当たり前のように斬り払った。

 

 「リーファちゃん!」

 

 「はいっ!アスナさん!」

 

 その間に細剣をワンドに持ち変えたアスナがリーファと共にアリスを中心にバリアを展開する。

 その結果ブレス攻撃はバリアにぶつかることになり、アリスにかかる負担は軽減されたのだった。

 

 「黒雪!」

 

 「…っ!ここまできたら倒すしかない!倒せない相手ではないはずだ!!」

 

 キリトの声にハッとした黒雪姫は頭を振るとバーストリンカー達に声をかける。

 

 「分身を出したからか、本体も疲弊しているのです!」

 

 謡の言葉にハルユキは4体の背後に立つ五代目ディザスターに視線を向ける。

 先程まで光っていた自己修復の光は淡く光るだけになり、唸り声も途切れ途切れとなっている。

 そこまでして何故ペルソナ・ヴァベルを守るのだろうか…?

 

 『しもべ!!』

 

 「ーーえ?うわっ!?」

 

 思考の渦に入りかけたハルユキをメタトロンの声が引き戻すが、目の前に現れた初代ディザスターであるクロム・ファルコンの姿にハルユキは思わず声をあげる。

 ファルコンはそのままの勢いでシルバー・クロウの腹部を蹴り飛ばす。そして体勢を崩したシルバー・クロウの体を掴むと、一つ前の階層に繋がるポータルに投げ飛ばした。

 

 「ハルユキくん!!」

 

 「ーー直ぐに戻ります!!」

 

 黒雪姫の言葉に、ハルユキは反射的にそう答えていた。

 直感のようなものが彼の脳裏をよぎったのだ。

 投げ飛ばされる勢いのまま前の階層に戻ったハルユキは背中の翼を動かすことで体勢を整え、地面に着地する。

 そして現れたファルコンを見据えると、ゆっくりと言葉を放つ。

 

 「ファルコン…クロム・ファルコンなんだろ?」

 

 ファルコンはハルユキの言葉に反応を返さず、ただ拳を構える。

 会話など必要ないとばかりに。

 

 「…そっちがその気なら受けて立つよ。話はーー」

 

 戦いのなかで。

 

 そう判断したハルユキは足を踏みしめると構えを取る。

 シルバー・クロウとして、クロム・ディザスターを終わらせた者として。

 

 

 「「ーーーーッ!!」」

 

 

 走り出しはほぼ同時。

 

 二人のメタルカラーの拳はお互いにぶつかりあい、大きな火花を散らしたのだった。

 

 




20人越えでタコ殴りは可哀想と思ったので分裂させました

リーファとアスナのバリアのところは二期後半のOPを意識してます

ゆっくり進めていきますので、これからもよろしくお願いいたします


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第六十二話:災禍の先へ

お久しぶりです

中々に煮詰まってしまったのですがキリがいいので更新いたします

なんか知らないうちに映画がはじまってたり、特殊文字とか入れられるようになってたのでちょこっとだけ試しました




 「こうしてる間にもユイが…!!」

 

 4体のクロム・ディザスターとの混戦は苛烈の一言であった。

 何度目かわからない攻撃を凌いだキリトは、焦るようにポータルの先を見る。

 まるで鬼神のように暴れまわる4体の災禍の鎧は例え力が弱まっていたとしても十分脅威であった。

 

 「ーーキリト!!」

 

 そんな中、黒雪姫の凛とした声が響く。

 

 「今から私達で隙を作り出す!!その隙にヴァベルの元へ!」

 

 「黒雪…!」

 

 「チャンスは一度だけだ…!ーー合わせろグラフ!!」

 

 「了解だロッタ!!」

 

 並び立ったグラファイト・エッジとブラック・ロータスは全身から心意光を解き放つと、その全てを二刀に収束させる。

 

 「「光環連旋撃(ジ・イクリプス)!!」」

 

 放たれた心意技による攻撃は、凄まじい威力を持ってクロム・ディザスター達に襲いかかる。

 激しい爆風を巻き起こしたその攻撃は、戦況を切り開くことに成功した。

 

 「ぐっ…」

 

 「黒雪!!」

 

 「黒雪さん!」

 

 「私のことはいい…!早く行け!」

 

 強力な心意技を使用した反動で膝をつくブラック・ロータスに駆け寄ろうとするキリトとアスナであるが、返される言葉に動きを止めると、コクリと頷き合う。

 

 ゲートに向けて走り出したアスナとキリトに気づいたディザスター達は、それを妨害しようと各々が戦っている相手を無視してでも二人を狙い始める。

 四代目クロム・ディザスターがその大斧を投げつけようと振りかぶった瞬間ーー

 

 「させない!《バレットオーダー》!」

 

 間髪入れずに放たれたシノンの一撃がそれを弾き飛ばした。

 特物を無くした四代目に走り込むのは同じように斧を主装備とするエギルと、カタナを構えたクライン。そしてシリカとリズベットだ

 

 

 「おらぁ!!」

 

 「くらっちまえ!」

 

 「てい!」

 

 「おりゃあ!」

 

 気合い一閃。

 ソードスキルの輝きに包まれた一撃がその巨体を吹き飛ばした。

 

 「行けキリの字!」

 

 「ユイちゃんを助けてこい!」

 

 「ここは私達が抑えますから!」

 

 「ちゃんと戻ってきなさいよ!」

 

 キュルル!とピナもシリカの頭の上で鳴きながらキリト達に声援を送っている。

 

 「Желаю удачи!(ジェラーユ・ウダーチ)、幸運を貴方達に!」

 

 「エック・カッラ・マーグル・メキアー・レクン!!出し惜しみは無しよ!!」

 

 セブンによるバフが二人を包み込み、更に走る道をレインのオリジナルスキルによって射出された剣達が作り始めた。

 

 「ルオオオオオ…!!」

 

 剣軍を吹き飛ばそうとブレスを放とうとする二代目ディザスターであるが、突如背中に衝撃を受けた事でブレス攻撃を中断してしまう。

 

 「こっちよこっち!」

 

 そこにいたのは愛用の短剣にソードスキルの輝きを纏わせたフィリアだ。

 短剣の一撃にはクリティカルダメージが発生しており、受けた相手を怯ませることができたのだ。

 リアルラックがどこまでゲームに影響するのかはわからないが、ここ一番で大きな効果をもたらしてくれたことにフィリアは笑みを浮かべる。

 

 「アスナ!キリト!」

 

 「ストレア!」

 

 尚も走る二人に並走する少女ーーストレアは両手剣を構えながら必死の表情でキリト達に言葉をかける。

 

 「私もいく!!」

 

 同じMHCPでもあるストレアにとって姉であるユイは大切な存在だ。

 浮遊城での戦いでは実際に助けてもらったこともある。

 いまも囚われている姉を助けたい気持ちは二人にも負けないだろう。

 

 「抑えられない…!!キリトさん!!」

 

 ゲートまであともう少しのところで、三代目ディザスターがタクム達の包囲網を抜けて襲いかかってくる。

 

 「邪魔…しないで!!」

 

 三代目の攻撃を受け止めたストレアは、雄叫びと共に大剣を振り切った。

 吹き飛ばされ空中で体勢を崩した三代目ディザスターをリーファの風魔法が吹き飛ばし、ユウキが《ヴォーパル・ストライク》で追撃する。

 

 「お兄ちゃん!」

 

 「アスナ!」

 

 語る言葉は必要ない。

 ただアイコンタクトで先に行けと促す二人にキリト達は頷きを返し、ストレアと共にポータルに飛び込んだ。

 まるでエレベーターのように三人の体を運んだポータルの先にはダンジョンの終着点。

 そしてそのエリアの中央、祭壇のような場所に立っていたのは白いワンピースに身を包んだ黒髪の少女であった。

 

 

 「ユイちゃん!」

 

 「ユイ!!!」

 

 

 

 「…!パパ!ママ!ストレアも!」

 

 アスナとキリトの言葉に反応した少女は三人に駆け寄ろうとするが戸惑うように体を竦める。

 まるで何かを恐れるように。

 

 「…!この気配は…奴か!!」

 

 その様子に違和感を感じたキリトは周囲の気配を探る。

 すると物影から漆黒のドレスに身を包んだ少女が彼らの前に現れる。

 

 「ここまで来たか…」

 

 「ペルソナ・ヴァベル…!ユイを解放しろ!」

 

 「そしてあなたの目的を教えて!一体どうしてこんなことをするの?」

 

 

 二人の声にヴァベルは軽く微笑みながら口を開く。

 

 「目的は既に話したはずだ。私はこの世界に黄昏を導く…その最初の一手として、このNPC…貴様らがユイと呼ぶプログラムを滅する」

 

 「でもユイ…お姉ちゃんはキリトがSAOから持ち込んだ存在だよ!そう簡単に消すことなんてできない!」

 

 「貴様は…、まあいい。確かにこの者を消すのには骨が折れる。だが、何のために私がこの世界に負荷をかけ続けていたと思う?今現在、下の階層で戦っている同胞が、何の意味もなくその姿を増やしたと思っているのか?」

 

 「負荷…?一体何を!!」

 

 声をあげるストレアに眉をひそめるヴァベルであったが、溢れる喜びを必死に隠すように言葉を続ける。

 その垣間見得る狂気に思わず気圧されたキリトは質問を返すことしかできない。

 

 「全てはこの瞬間の為に…!」

 

 そう叫んだヴァベルが右腕を振り上げると、祭壇の前にノイズが走り、一つのオブジェクトが浮かび上がる。

 操作盤が浮かび上がるそれはキリトに取ってあまり見覚えが無いもの。しかしそれは何なのか、彼は直感で理解した。

 

 「GMコンソール…!?」

 

 「ーーユイちゃん!!」

 

 「パパ、ママーー」

 

 ユイの体から粒子のようなものが溢れはじめる。

 ヴァベルはGMコンソールから接続できる管理者権限により、ユイを削除しようとしているのだ。

 手を伸ばすユイに慌ててアスナが駆け寄ろうとするも二人の距離はかけ離れている。

 ユイの手は掴まれること無く、アスナの目の前で消滅ーーー

 

 

 させない

 

 

 瞬間、世界にノイズが掛かった。

 

 消滅する筈だったユイの体はまだ実体を保っている。

 

 「なに…?」

 

 困惑の声を出すヴァベルであったが、覚えのある情報圧を感じると忌々しげにその発生源を睨み付ける。

 

 「させない…させないよ…!」

 

 「ここで干渉してくるか…!ストレアァ!!」

 

 「ストレア…?」

 

 キリトは名を呼ばれた少女を見つめる。

 土妖精(ノーム)の少女は苦しそうな表情を浮かべながらも彼ににこりと微笑み、ヴァベルを睨み付けた。

 視認することはできないが、どうやら彼女がヴァベルの妨害を行っているようだ。

 

 「キリトくん!」

 

 「ーーーっ!!」

 

 しかし呆けているわけにはいかない。

 アスナの声に弾かれるように走り出したキリトは現れたコンソールにかじりつくと直ぐ様操作を行う。

 

 GMコンソールによる権限でユイが消去に追い込まれているなら、その処理が完了する前に彼女のプログラムをストレージに仕舞えば良い。

 やることはそう、かつてSAOでナーヴギアの個人ストレージにユイを移したのと同じ要領だ。

 

 「やめろ…!やめろ!!」

 

 「ぐっ…!!」

 

 しかしヴァベルもストレアの相手をしながらもユイの削除処理を進めようとコンソールを操作し始めた。

 

 まるで人ではない(・・・・・)処理速度に歯噛みをするキリトであるが、諦めるわけにはいかない。

 ストレアの協力もあり、ヴァベルの妨害があったとしてもこのままユイを保護することはできそうであった。

 

 「ここまで来たのだ…ここに来て…邪魔などさせるものかぁ!!」

 

 「きゃあっ!!」

 

 ヴァベルもわかったのだろう。そう悲壮に満ちた声をあげると、衝撃波のようなものでストレアを吹き飛ばす。

 そしてそのままレイピアを構えてキリトに向かって飛びかかった。

 刀身を包むライトエフェクト。

 不意をつかれる形になったキリトはその攻撃に対応できない。

 

 アスナはユイの近くにいるため援護をすることができず、愛する人に迫る刃を止めることができない。

 しかしその細剣が描く軌跡を見て心が跳ねたのがわかった。

 その動きは彼女がSAOにて愛用し続けたソードスキル。

 

 体を捻るようにしながら剣をまっすぐ突きだす一連の動作は細剣スキルの《リニアー》であった。

 

 勿論ALO内ではソードスキルが実装されているのは周知の通りであり、アスナ以外にも使っているプレイヤーはごまんといる。

 しかしそう、その動きはまるで自分を見ているようでーーー

 

 「やめろぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!」

 

 その瞬間、雄叫びと共にキリトとヴァベルの間に何者かの影が入り込んだ。

 凄まじい勢いで飛び込んできた戦士はその勢いのまま体を捻りながら腕を振るうと、襲いかかる細剣を弾きあげた。

 

 「ーーーっ貴様は!!」

 

 驚愕の声を上げたヴァベルは、ソードスキルが強制的に妨害されたことによる弊害で硬直してしまう。

 

 ヴァベルの攻撃を弾いた人物は、銀色の装甲を輝かせた戦士、シルバー・クロウである。

 先ほどまで戦っていたからか、その装甲は傷だらけだ。

 しかし立ちふさがる彼の姿はそれを微塵も感じさせない。

 

 来るであろう追撃に備えるヴァベルであるが、当のシルバー・クロウは構えを解くとヴァベルのことを見つめる。

 

 

 「もうやめよう…こんな、悲しいこと…」

 

 そして言い聞かせるように、その言葉を放ったのであった。

 

 




迫真の震え文字

ストレアさんはどうしてヴァベルに抵抗できたんでしょうね
同じ声の人が一人足りないのでそこそこ無理はしているみたいですが…

なんてできた妹なんだろうか

ご都合でもこの章でどうしてもやりたかったことができるまで頑張りたいとは思ってます

よろしくお願いいたします



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第六十三話:明かされる正体

気がつけばSAOも10周年ですね


 時はシルバー・クロウがクロム・ファルコンと戦いはじめた時間まで戻る。

 

 激しいスパークと共にお互いの拳をぶつけ合った二人は、仕切り直すように距離を取った。

 

 メタルカラーのアバターとの戦いはウルフラム・サーベラス以来だろうか。

 改めてメタルカラーの特徴を頭に描きながらハルユキはクロム・ファルコンを睨み付ける。

 

 メタルカラーは切断・貫通・炎熱・毒攻撃に耐性を持ち、硬質の体を用いた近距離攻撃力が主な武器である。

 

 更にカラーチャートに当てはめるとシルバー・クロウは貴金属寄りの「シルバー」に当てはまり、熱・冷気・毒など多くの特殊攻撃に耐性を持つが、電撃・腐食・打撃に弱い。

 

 対するクロム・ファルコンはチャート内だと真ん中よりやや右寄りの「クロム」で、打撃にも特殊攻撃にも中途半端な耐性しか持たないが、唯一の特徴として腐食系攻撃に対しては完璧とも言える耐性を持っている。

 

 ウルフラムーータングステンの別名とも呼ばれる通り、強力装甲を持っていたサーベラスとの時のように一方的に攻撃できないことはないだろうが、それでも攻撃し続ければこちらのアバターが先に根を上げる。

 しかも今の彼は《ザ・ディザスター》を纏っている。

 防御力は《ザ・ディスティニー》よりは低いだろうが、これを突破するのは至難の技だろう。

 

 「…頼むメタトロン、力を貸してくれ!着装ーーーー」

 

 昔のハルユキであればより厳しい戦いになっただろうが、今は違う。

 共に戦う仲間に声をかけると、背中に一つの強化外装を展開させる。

 

 「《メタトロンウィング》!!」

 

 先程の戦いまで温存していた切り札をここで切ることに決めたハルユキは、背中の翼を展開させながら超高速でファルコンに突撃する。

 突き出されるように放たれた拳を培われた経験で見切りながらカウンターの足蹴りを叩き込み、そのまま拳を掴むと背負い投げの要領でファルコンを地面に叩きつけた。

 

 サーベラスとの戦いから編み出した投げ技はこの戦いでも有効であった。

 追撃するように拳を突きだすハルユキであるが、その攻撃を叩き込む前にファルコンの体が粒子になったことで空を切る。

 

 「《フラッシュ・ブリンク》か…!」

 

 クロム・ファルコンの必殺技を呟いたハルユキは跳ねるようにその場を移動。

 一直線の方向にしか進むことができないその技の特性を見切っているハルユキは、上空で姿を現したファルコンを視界に捉える。

 

 「逃がすもんか!!」

 

 背中の翼とメタトロンウィングを共に振動させ、かつてない速さでファルコンに肉薄し、無防備なその体に攻撃を叩き込もうとしたハルユキの体は、それと同じ速度で地面に叩きつけられていた。

 

 「ぐっーー!!」

 

 身体中に走る痛みに呻き声をあげながらも、ハルユキの目は先程までファルコンが持っていなかった武器を捉える。

 

 《スターキャスター》

 

 クロム・ディザスターが持っていた禍々しい剣はしかし、神々しく輝く騎士剣として彼の腕に装備されていたのだ。

 

 『手酷くやられましたね』

 

 「君が一瞬引っ張ってくれなかったらやられてたよ…」

 

 攻撃の瞬間、メタトロンウィングがシルバー・クロウの体に逆制動の挙動をかけていたことに気づいたハルユキは、その感覚に逆らうことなく後方に高速移動をしていたのだ。

 その結果相手の一撃はHPを大きく削ることは無く、致命傷を避けることができていた。

 

 シルバー・クロウは徒手空拳だ。

 武器は無いためリーチの差がファルコンとの間で現れてしまう。

 

 解決手段が無いわけではない。

 現在レベル5であるシルバー・クロウのレベル6ボーナスの中には強化外装を拾得できる項目があるのをハルユキは知っている。

 

 しかしここでその手段を使うのは違うとハルユキの直感が告げていた。

 

 「乗り越えるんだ…!」

 

 そう、ハルユキが足を踏みしめたのと同時に、ファルコンが大地を蹴りながら飛び込んでくる。

 

 そのまま振り下ろされるスターキャスターの剣先を捉えたハルユキの思考は超加速を引き起こす。

 スローモーションの世界の中、シルバー・クロウの体はゆっくりと動き始める。

 

 両手を剣に見立てるように揃え、振り下ろされる剣の上を滑らせるように合わせると、激しい火花を散らせながら装甲が削り取られながらHPが減っていく。

 剣の振られる勢いに逆らう事はなく、包み込むように衝撃を和らげる。大胆且つ繊細に、しかし一寸の狂いもなくハルユキは《柔法》を扱い、ファルコンの攻撃を凌いだ。

 

 ファルコンは大振りの攻撃をしたことで大きな隙ができている。

 

 「う…おおおおおおおっ!!!」

 

 一瞬の勝負で生まれた空白の時間を、ハルユキは雄叫びと共に押し進めた。

 

 メタトロン・ウィングによる加速で威力を底上げしたエアリアル・コンボはファルコンの体に命中し、その体を大きく仰け反らせる。

 すかさず両腕をクロスさせたシルバー・クロウの額に光のエネルギーが充填される。

 

 必殺技のモーションに入ったシルバー・クロウは隙だらけである。

 体勢を整えたクロム・ファルコンが攻撃を仕掛けようとスターキャスターを振り上げた瞬間、激しい衝撃と共にその武器は吹き飛ばされていた。

 

 必殺技に入ると同時に、メタトロンウィングの羽根部分が薄い刃のように変形し、相手を攻撃する《エクテニア》と呼ばれる攻撃を放っていたのだ。

 

 「《ヘッド・バット》!!!!!」

 

 技名の発声と共に解き放たれたエネルギーを額に込めた渾身の頭突きは、クロム・ファルコンの頭部にぶつかり、その勢いのまま地面に叩きつけた。

 

 

 

 そのままトドメのダイブキックを放とうとしたハルユキであったが、光の粒子を放ちながら徐々に消え始めているファルコンを見て動きを止める。

 

 「…ファルコン」

 

 「ーーー、ーー」

 

 クロム・ファルコンはよろよろと立ち上がると、その右腕をクロウに突き出す。

 一瞬身構えたハルユキであったが、その手が示す意味を理解すると、自然と口角を上げながら鏡合わせのように右腕を突きだした。

 

 「ありがとうクロム・ファルコン。キミと戦えたのは僕にとって素晴らしいことだった」

 

 突きだされた手は互いをがっしりと握りしめ合う。

 クロウもファルコンも、バーストリンカーとしてお互いの健闘を讃えあっていた。

 今お互いに立っている状況も、陣営も、何も関係ない。

 お互いの全力を出しあったデュエルに対して、二人は握手で応え合ったのだ。

 

 「ーーーシルバー・クロウ」

 

 そしてクロム・ファルコンの体が消えていく。

 彼が消える瞬間、突然握手をしていたハルユキの脳裏に奇妙な光景がフラッシュバックし始めた。

 

 「ーーこれは…!?」

 

 『しもべ…?』

 

 「そんな…そんなことって…!」

 

 ファルコンの想い、彼がクロム・ディザスターとしてペルソナ・ヴァベルと行動を共にしていた理由。

 それを知ったハルユキは戦闘後の体に鞭をうち、全速力でポータルを駆け抜けたのであった。

 

 「ルォォォォォオオオ!!」

 

 戻ってきたエリアでは分裂したディザスター達が暴れ続けているのが見えるが、それよりもキリトとアスナを探さなければならない。

 ハルユキが帰ってきたことに気づいたシアン・パイルは、直ぐ様駆け寄ると彼に声をかけた。

 

 「ハル!」

 

 「タク!キリトさんとアスナさんは!?」

 

 「ストレアさんと先に行ってる!」

 

 彼が焦っているのに気づいたのだろう。

 瞬時にそう判断したタクムは前方のポータルを示しながら自身の武装を構えた。

 

 「行くんだハル!フォローする!」

 

 親友に頷いたハルユキは全身を心意の光で包むようにイメージする。

 イメージするのは光、自分自身を光のようにーーー!!!

 

 「《光、速、翼(ライトスピード)》ーー!!」

 

 イメージするために技名を発生しながらも断続的に加速していくシルバー・クロウの体は、その翼と強化外装の速さも加えて音速を越えはじめた。

 次のポータルまでの距離をかけ抜けるにはあまりにも距離が短いが、今は一秒が惜しい。

 

 それと同時にシアン・パイルから放たれる援護攻撃(ライトニング・シアン・スパイク)がハルユキの動きに気づいたディザスター達を牽制する。

 

 ーー流石タクだ!!

 

 光速の世界でタクムの援護に感嘆としたハルユキは、視界の端でスカイ・レイカーに肩を貸されているブラック・ロータスを見つける。

 明らかに消耗している彼女に胸を締め付けられる感覚を覚えるハルユキだが、その彼女がハルユキに向けて深く頷いた。

 

 ーーいけ、ハルユキくん!

 

 ーー先輩!直ぐに戻ってきます!

 

 一筋の光となったハルユキはポータルを駆け上がり、次のエリアーー祭壇のような場所にキリト達がいるのを発見した。

 そしてヴァベルの細剣がキリトに向けて振るわれるのを見て両者の間に飛び込んだのであった。

 

 こんなことがあってはならない。

 ーー親と子(・・・)が傷つけあうなんてあっちゃいけないんだ!!

 

 「もうやめよう…こんな、悲しいこと…」

 

 静かに、だが訴えるようにハルユキは目の前の少女に語りかけたのであった。

 

 

 

 

 「…悲しいこと?」

 

 「クロウ、一体どういうことなんだ?」

 

 間にはいったシルバー・クロウに困惑の声をあげるアスナとキリト。

 対するペルソナ・ヴァベルからは同じように困惑、続いて怒りの気配が溢れだし始めた。

 

 「聞いた(・・・)のか…?シルバー・クロウ、貴様…」

 

 「悪いけど事情はファルコンから全部聞かせてもらったよ。ペルソナ・ヴァベル…いいや」

 

 ユイちゃん、とシルバー・クロウはヴァベルのことをそう呼んだ。

 

 シン、と空気が凍った。

 

 「ユイ…?クロウお前何を…いや……」

 

 「キリトくん…?」

 

 何を言っているんだ?とクロウに問いかけたキリトであるが、脳裏に引っ掛かる何かに思わず思考の渦に入り込む。

 

 「…ユイを消去しようとした時の…俺の行動を詠んでいたような動き…。あれはアインクラッドで俺がユイのバックアップを取っていたことを知っていたから…」

 

 「あの出来事を知っているのはキリトくんと私、あとは…シンカーさんにユリエールさん」

 

 そして…とアスナは腕の中の娘に視線を向ける。

 

 「でも、でもそんな…それならどうして…貴女がユイちゃんを消そうとするの?だってそれは…」

 

 「…自分を消し去ること…それが今の私の願いだからですよ。ママ」

 

 喘ぐように問いかけたアスナにたいして、諦めたように返答するヴァベル。

 顔を隠していた仮面をゆっくりと外した彼女の顔は、多少の違いはあれど自分の娘と瓜二つであった。

 絶句するキリトとアスナに乾いた笑みを浮かべたヴァベルはシルバー・クロウに視線を向ける。

 

 「まさか正体に辿り着いたのが貴方だったなんて思いませんでした」

 

 「…ファルコンが教えてくれただけだよ。…彼、いいや二人(・・)とも君が消えるのを望んでいない」

 

 「…優しいですからね。無理に付き合わせてしまったものですし」

 

 共に戦ってくれた加速世界最強の獣に想いを馳せながら、ヴァベルは天を仰ぐ。

 

 「話しましょう、どうして私がこのようなことをはじめたのか。神々の黄昏、何も知らない少女がどのようにして神になったのか。そして絶望したのか…」

 

 

 




バトルばかりな気がするので次回はヴァベルの説明フェーズに入ると思います

ゲームと違うところはユイがまだ消えていないこと
先にハルユキがヴァベルの正体を知ったこと

ストレアにネタバレされていた展開が変更、自分から話すことになりました

我らがキリトはユージオたちと共にいるためまだ追い付かず…

それではまた次回!
皆さんも暑さには気をつけてくださいませ


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第六十四話:黄昏の先から

先の展開が浮かんだので投稿します



 

 時間というものは残酷だ。

 

 『パパ、ママ、私頑張りますね』

 

 敬愛する父と母がその生を終え、一人になった少女は二人の想いを胸に、仮想世界という場所を現実世界と繋げるため奮闘した。

 その歩みの先には多くの困難があり、ぶつかり合うこともあった。

 

 その度に父達のように信頼できる仲間と共に障害を乗り越え、一歩、また一歩と少女は理想へ歩みを進めていった。

 

 MHCPという無限の命を持つ彼女はやがて、仮想世界の創世の母《イヴ》と呼ばれるようになった。

 

 私の方が大きいのにお母さんだってと、妹がからかうように笑っていたのを覚えている。

 

 仮想世界には数多くの同士がいて、中にはかつての少女と同じようにプレイヤーと絆を育んだ存在もいた。

 生まれ落ちた年代も近いこともあり、長い付き合いだ。

 

 充実…していたのだと思う。

 

 それでも「寂しさ」は募る一方で。

 

 『二人に託された世界を、そしてあなたを支えるためにと邁進して参りましたが…私もここまでのようですね』

 

 金髪をたなびかせながら、碧い瞳を少女に向ける女性は眉を下げながら少女の頭を撫でた。

 金木犀の剣を握っていた手は代わりに杖を持ち、その足どりはかつてのような軽やかさはない。

 

 海亀の中で生まれた仮想世界に住む少女の(天命)は、凍結処理を施されていたとはいえ、ついに限界を迎えていた。

 

 記憶圧縮術式を扱い、戦闘能力を活力に変え、妹や相棒の竜と共に時を生きた彼女はしかし、そのまま天寿を全うせずに強靭な意思で終わりの時を引き延ばし続けた。

 それは彼らを知る者としての責務か、それとも少女を見守るためであったのか。

 

 

 『最高司祭様は途轍もない人物であったと、経験してそう思いますよ』

 

 ふっ、と過去の輝かしい日々を思い返して笑った女性はゆっくりと光の粒子となって空に溶けていく。

 

 『叔父様、今からそちらへ向かいます』

 

 そしてーーー、ーーー、あなた達の娘は立派でしたよ。

 

 そうして、彼を知る最後の『人間』は黄昏に消えていった。

 

 

 

 

 

 また一つ、「寂しさ」が増えた。

 

 

 

 

 

 『ーー、No.35の仮想世界のモジュールがーー』

 

 それから数百年が過ぎた今も、世界はこうして進み続けている。

 困難に負けそうになっても、あの時を思い返せば乗り越えられた。

 

 寂しくても、辛くても、仮想世界を生きてーー

 

 

 

 

 『生きて、どうするんでしょう…』

 

 

 

 仮想世界の人物と現実世界の人物の寿命は、あまりにも違いすぎる。

 一体どれくらいの時が流れたのか。

 

 人間達が仮想世界に現実の感情を退避させる実験を行った結果、生まれた悪感情の塊がとある世界の《鎧》に流れ込んだ事件があった。

 

 たった一人の悪夢から生まれ、多くの宿主に寄生し、仮想世界に破壊と崩壊をもたらした《鎧》の復活が遥か時を経て再び成されそうになったこともあったが、少女が宿主となることで事なきを得ていた。

 

 

 仮想世界の母として活動する傍ら、《鎧》の宿主となった少女はふと考えてしまった。

 

 あの時に戻りたい。

 色々な事件や別れもあったけれど、笑顔と喜びの絶えない幸せな時間。

 

 家族を知った。

 

 共に過ごせない悲しみを知った。

 

 奮闘した父と母の優しさを知った。

 

 装備を身に付け、父と母と同じように世界を駆け回った。

 

 今でも鮮明に思い返せる。

 

 そして浮かぶのは『悲しみ』。

 

 AIである自分に感情は無いけれど、思考パターンはやがて一つの結論を示しだした。

 

 

 

 こんな辛い想いををするくらいなら、消えてしまいたい

 

 

 しかしMHCPである少女の命は永久に持続するものであり、自己消滅もすることはできなかった。

 現在の自分を削除するプログラムなど存在もする筈がなく、そも消滅の危機に陥ったことなど過去の一度も…

 

 『過去…の…』

 

 あった。

 

 過去に一度だけ。

 

 少女がまだ生まれたばかりの時。

 

 浮遊城で家族に出会ったとき。

 

 その正体が明かされた時、少女は浮遊城を管理するシステムによってそのデータを削除されたのだ。

 その時は父の努力によって消滅を免れたが、それがなければ少女はあそこで消えてしまっていたのだ。

 

 

 そして少女があのタイミングで消えていれば世界はこのような歴史を辿ることもない。

 これまでの出来事は仮想世界の母である自分が存在しなければ起こり得なかったことばかりだからだ。

 もしそれを行う存在がいなければ、歴史に矛盾が生じる。

 

 考えに考えた少女は、やがて一つの結論に達した。

 

 過去を改変することによる歴史の上書き(オーバーライド)で自身を消滅させる。

 

 

 それが無限の命を持つ少女が『悲しみ』から逃れるためのただ一つの手段。

 

 問題はどうやって過去に自分を送り込み、盤面を整えるかだ。

 

 幸い心当たりはいくつかある。

 

 手札を上手く切れば望む結果が得られる筈だ。

 

 こうして少女は仮面を被り、動き出した。

 

 全ては自身の消滅の為に。

 

 

 

 

 そして父と母の元へ行くために。

 

 

 

 

 

 

 「過去の私を消すことで生じる歴史の上書きで自分を…」

 

 ポツリと呟いたユイにヴァベルは視線を向ける。

 

 「あなたはここで消えるべきです。遅かれ早かれ私と同じ結論に達するのであれば、今消えるのが救いでもあります」

 

 「ユイちゃん…!」

 

 「ユイ…!」

 

 アスナは未来の存在とはいえ娘がそのような考えに至ってしまった悲しみに、キリトは自分がいなくなったあとに彼女を苦しませてしまった自分への怒りに、拳を握りしめながらヴァベルの名前を呼ぶ。

 

 「お願いしますパパ、ママ。私のことを考えてくれるなら…どうか」

 

 疲れきった笑みを浮かべながらヴァベルは一歩、また一歩と二人に近づいていく。

 ハルユキも言葉を探そうとするが口を動かすことができない。

 もしかしたらメタトロンも、未来で同じような想いをしているかもしれない。

 

 親と子が争うべきではないのはわかっている。

 

 ただ、ヴァベルの気持ちもわかるのだ。

 

 こんなことになったのならあの時を無かったことにしたい。

 ハルユキにだって後悔は沢山あるし、もし過去に戻してやり直せるならやり直したいことだってある。

 

 

 

 「ーーー駄目だよ、ユイ」

 

 

 

 だからだろうか。

 

 その場にはいなかった第三者の声は驚くほど響いた。

 

 目の前の父ではない、しかし聞き覚えのある声にヴァベルは発生源に目を向ける。

 

 

 

 「…ストレア」

 

 「私、ユイが悩んでいるの全然気づかなかった。確かにキリト達と会えなくなったのは悲しいことだけど、毎日が楽しかったんだ」

 

 キリト達と共にヴァベルの居場所についていた土妖精の少女は苦しそうな表情をしながらもしっかりとヴァベルを見据えていた。

 

 「私にはユイがいたから大丈夫だったけど、ユイはそうじゃなかったんだって…」

 

 「ストレア、お前…いやまさかお前も…」

 

 明らかに様子がおかしいストレアの名前を呼ぶキリト。

 ストレアは懐かしそうに彼に視線を向けると、笑みを浮かべる。

 

 「キリトの考えている通り、私はあそこのユイ…ペルソナ・ヴァベルと同じ未来にいるストレアだよ」

 

 色々無理してこの時代の私の体を借りてるんだけどねと茶化すように話す彼女の体には所々ノイズが走っている。

 

 「今からでも間に合うよ、ユイ。戻ろうよ」

 

 「ストレア…でも、もう遅いんです」

 

 妹の願いにヴァベルは困ったように微笑んだあと、その首を横に振る。

 困惑の表情を見せるストレアにヴァベルは手元の仮面を弄びながら淡々と口を開く。

 

 「この世界には目の前の(ユイ)(ヴァベル)がいる。同一データが存在している時点で、カーディナルシステムが私をエラーとして認識し、消滅させることになる」

 

 「もしそれでお互いに消えたとしても、私のコアプログラム自体は未来にあるから完全な削除にはならない」

 

 「あの子はパパが何か対策を打つでしょうから、プログラムは保護されることになって、消えることはないでしょう。GMコンソールも目の前にありますからね」

 

 そうすればユイは生き残り、いずれヴァベルに繋がる。

 ユイが生きていれば未来に存在しているヴァベルは歴史の上書きで消えることはない。

 

 「本当なら先ほどの段階で過去の私を消去し、サルベージによるプログラムの保護を試みるパパを妨害することで、私の計画は完遂する予定でした。ですが…」

 

 それができないのなら…

 

 『…!この感覚は…しもべ!』

 

 メタトロンの声を聞きながらも、ハルユキは突如ヴァベルの体から溢れでた気配に息を呑んでいた。

 自分でも覚えのある気配。いや、その気配を更に濃厚な何かが包んでいる。

 

 「…ユイ!!駄目だよそれは…!」

 

 「それができないのなら…ここで全てを破壊して終わらせるまで…!」

 

 獣のような雄叫びをあげるペルソナ・ヴァベルを《鎧》が包み込む。

 

 

 『グウ…ル、ルオオオオオオ!!!』

 

 

 

 数百年の悪意を溜め込んだ《鎧》は過去のそれよりも遥かに変質していた。

 

 肥大化した悪意を示すかのように装着された巨大な鉤爪と、同じく巨大な右腕から伸びる大剣、背中には巨大な赤黒い羽が展開されており、それに合わせてヴァベルの体も大きくなっていく。

 

 「クロム・ディザスター…!!」

 

 彼女が遥か未来の加速世界で《鎧》の宿主となっていたのは、ファルコンの思念を通して知っていた。

 

 

 『ソウル・リムーブ・プロジェクト』

 未来で確立された、人の感情を仮想世界に移動させる計画。

 そして移動させられた多くの人間の悪意の感情は時を経て、かつてハルユキ達が《ザ・デスティニー》を封印したファルコン達の家にたどり着く。

 鎧の中に残っていたファルコンとブロッサムの意識は再び悪意の受け皿になることでその悪意を留めさせた。

 その結果《災禍の鎧》として復活しかけることになったが、ヴァベルが宿主となることでその危機は防がれていたのだ。

 

 

 ヴァベルの体を包む鎧の名前を叫んだハルユキは震える体を抑えながらキリトとアスナの元へ駆け寄る。

 

 「キリトさん!アスナさん!ユイちゃんを連れて、逃げてください!ここは僕が食い止めますから!」

 

 「だがクロウ!お前だけじゃ…!」

 

 「ヴァベルの目的はユイちゃんです!先ずは安全なところに連れていかないと!!」

 

 ハルユキの言葉に目を見開いたキリトはアスナと顔を見合わせる。

 それだけでお互いの考えていることが通じたのか、アスナはゆっくりと頷いた。

 

 「ユイを頼む」

 

 「無茶はしないでね」

 

 「パパ…」

 

 「パパとして、娘の反抗期くらい受け止めてやらないとな」

 

 不安げにキリトを見上げるユイの頭を撫でたキリトは、背中の二刀を抜き放つとクロウの隣に並んだ。

 

 「俺達だけ逃げるわけにはいかない。クロウ、一緒に戦おう」

 

 「キリトさん…!」

 

 並び立った二人は災禍の鎧をまとったヴァベルを見据える。

 こうして対峙しているだけでも鎧から溢れる悪意に満ちた心意が感じ取れる。

 

 「ユイちゃんが纏っているのは、未来の世界で生まれた《災禍の鎧》です!!今回の事件が起きたのも鎧の影響を受けたからかも…!」

 

 「まずはあの鎧を引き剥がす…!いくぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




27巻を読みました

記憶圧縮術式とかヤバイっすね
300年は生きれるらしいけどまあそれはそれで…
外見年齢は変わらないけど戦う力などを犠牲にして未来を見続けた金髪の騎士…一体何者なんだ…
独自解釈なので許してください…

ユイが消えてないのでキリト達が未来に行く用事もなく、この場で戦うことになりました。

また次回もよろしくお願いいたします



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第六十五話:カラミティ・ヴァベル

明けましておめでとうございます
ハッピーバレンタイン


アリシゼーションリコリスがps+のフリープレイに入ったので投稿します
お待たせいたしました


 

 「知られたくなかった…!こんな醜い姿になった私を…」

 

 「パパとママに…」

 

 「知られたくなかった!!!」

 

 絶叫と共に振り下ろされた大剣を寸でのところで回避したキリトは、ヴァベルの悲痛な叫びに顔を歪ませながらも自身の武器を叩きつける。

 

 《カラミティ・ヴァベル》と表記された名前の横には、今までのボスエネミーと同じようにHPゲージが陳列していた。

 MHCPとして攻撃が通じなかったヴァベルに攻撃が通じるようになったのはなんの因果だろうか。

 かつてアインクラッド100層にて戦った《ホロウ・ストレア》と同じようにシステム敵にはボスモンスターに該当することとなったのだろう。

 

 「とりゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 両手剣をソードスキルのエフェクトで輝かせながら雄叫びと共にそれを振り下ろしたストレアの表情は先ほどと違って困惑でいっぱいであった。

 

 「キリト達と次のエリアについたと思ったら、いきなりこんな戦いになってるなんて聞いてないよ!!もう!未来の私に文句言いたい!」

 

 どうやらヴァベルとの戦いが始まった瞬間に未来とのリンクが切れてしまったようで、いまここにいるのはキリト達と同じ時間を過ごすストレアである。

 大体のあらましはデータの統合というのがされたようで理解できているようだが、それはそれで説明はしてほしい!とのこと。

 

 「《光線投槍(レーザージャベリン)》!!」

 

 背中の翼を展開させながら、シルバー・クロウは遠距離から心意の攻撃を放つ。

 デュエルアバターとの戦いでは命中精度にやや難有りな攻撃ではあるが、今回の相手には有効でもある。

 もともとクロム・ディザスターが負の心意から生まれた存在でもあるため、最初から心意の攻撃を選んでいたようだ。

 

 しかし各々の攻撃を受けても、そのHPゲージは微々たる量しか減りを見せることはない。

 

 かつて浮遊城にてクリスマスボスをソロで屠ったキリトであっても三人で階層ボスを倒したことは無い。

 74層のボスであっても先に突入していたアインクラッド解放軍がある程度削っていたからであって、しかも今回は規模が違いすぎる。

 

 体感で言えば外でも戦った《An Incarnate of the Radius》ーーつまりは《オーディナル・スケール事件》にて戦ったSAOの100層ボスに匹敵する強さだ。

 

 「邪魔をーーーするなぁ!!!」

 

 つき出された大剣にギリギリで二刀を滑り込ませるも、その余波でHPゲージがみるみると減っていくのが見える。

 激しい衝撃と共にその手に持つ剣ごと吹き飛ばされたキリトは呻き声をあげながら地面に転がった。

 

 「キリトくん!!」

 

 それを後方から武器を杖に持ちかえたアスナが回復魔法を唱えることでどうにか持ちこたえているが、彼女一人でユイを守りながら三人の回復は現実的ではない。

 

 実体化させたポーションを口に含み、HoTーーHPの継続回復を行いながら立ち上がる。

 それでも期待できる効果はこの状況からすれば雀の涙だ。

 

 つまりは詰んでいた。

 

 いや無理だろうと心のどこかで叫んでいる自分に思わず笑みがこぼれる。

 

 「諦めてください…四人で私を止められると本当に思っているんですか?」

 

 「…俺も諦めたいと思うよ、流石に無理ゲーがすぎる」

 

 だけど、と言葉を続ける。

 

 「どんなゲームだって最後まで諦めるわけにはいかないし、娘が泣いているのに諦めるなんて理由にはならないよ」

 

 「何をーーー」

 

 「それに四人で止められなければーー」

 

 一度言葉を切ったキリトは背後から聞こえる足音を耳にしながら、愛剣達を拾い上げる。

 

 「ここにいる全員で止めるさ」

 

 ヴァベルの前に現れたのは目の前の少年と同じ顔を持つ男。

 そしてこの世界を共に戦った仲間達。

 

 「状況はユイからのメッセージで聞いたよ。クロム・ディザスター達はさっき倒してきた」

 

 アスナの後ろにいるユイを見つめた『キリト』は、ヴァベルに視線を向けるとユイ、と小さく呟く。

 

 「君の孤独は気軽にわかる…とは言えない」

 

 気がつけば知らない世界、しかも人の体を乗っ取っているような状態の自分ですらどうにかなりそうだったのに、それとは比べようにならない孤独を味わっただろう少女に共感できる存在はそもそもいるのだろうか。

 

 「だけど…それでも、過去の自分を否定しちゃダメだ」

 

 あの時ああすれば良かったと考えることはいくらでもある。

 自分が遠ざけた家族をこの身体の持ち主は遠ざけること無く、共に過ごそうとしたのを知った時、あんな生活ができるだなんて思っていなかった。

 『キリト』が直葉や父、母と向き合うことができたのはSAO事件を終えてからだ。それもどことなくギクシャクしながら、少しずつ改善していったのだ。

 

 あの時SAOに囚われていなければきっと家族の絆を取り戻すことはできなかっただろう。

 逆にSAOに囚われなければ、桐ヶ谷和人は周囲に壁を作り続け一人ゲームの世界で生きていたのかもしれない。

 

 「…積み重ねが人を作るんだ」

 

 同じ顔、同じ人間でも経験したことが違えば多少は変わってくる。

 スプリガンのキリトからすれば少し未来、星王なんて呼ばれた自分が同一人物なんてどうも考えられなかった。

 このキリトがアンダーワールドにいくかもわからないし、こうしてユージオやアリスと顔を付き合わせている以上自分の記憶通りに話が進むかもわからないのだ。

 

 

 「………なら…!」

 

 『キリト』の言葉に押し黙ったヴァベルはしかし、大剣を地面に叩きつけて声をあらげる。

 

 「どうして叱ってくれなかったんですか!!私が側にいてほしいときに居なかったのに!パパもママも、もう会えないのに!」

 

 「過去の改編なんてやめよう、一緒にいようって、なんで!!いない人の言葉なんて…聞けないのに!!」

 

 「一人はもう嫌だ…嫌だよパパ…ママ…」

 

 そう呟いたヴァベルは母と呼ばれていた存在ではなく、ただの一人の少女のようであった。

 

 「きっと、ヴァベル…ユイちゃんは叱って欲しかったんだ。キリトさんとアスナさんに」

 

 その姿をみたハルユキはポツリとそう口にした。

 

 「だって自分が消えるだけならユイちゃんの前に現れただけで目的は完遂できる。勿論、ユイちゃん自身のコアデータが残っていれば復活できるだろうけど、僕らの前に現れたヴァベルはもう消えているんだ。わざわざ歴史の上書きを待つだなんて、工程に無駄が多すぎる」

 

 「ユイちゃん…」

 

 ALOプレイヤーならともかく、バーストリンカー達も相手に回せば勝利は難しいと考えたのであろう。

 いや、そもそもこの戦いに彼女は勝とうとしていたのだろうか。

 

 鎧から剥がれるように地面に崩れ落ちたヴァベルは、涙を流しながらアスナの腕の中のユイを見つめる。

 懐かしむような、羨むようにユイを見つめた後、ヴァベルは口を開いた。

 

 「…時間のようですね。そろそろカーディナルが動き出す」

 

 「待ってくれ…!何か方法はある筈だ…!」

 

 声を上げるキリトにヴァベルは首を横に振ると諦めたように笑みを浮かべる。

 

 「もういいんです。これは罰ですから…」

 

 時間を操ろうだなんて、そんなことに手を出そうとした私のーー

 

 「ユイ、いつかの私。きっとあなたは私に辿り着くでしょう。ですがその時どんな選択をするかはあなた次第です」

 

 ヴァベルの言葉を受けたユイは何かを答えようとするが言葉が見つからないようだ。

 満たされている自分が何か声をかけてもそれは慰めにもならないだろう。

 それでも、これだけはーー

 

 「きっと、あなたのパパとママも、あなたのことを誇りに思っている筈です!!」

 

 「そ、れは」

 

 そうだと、いいですね

 

 ヴァベルはそう呟くと体に走ったノイズに気づく。

 もう時間のようだ。

 結局、目的は果たすことは出来なかったけれど、ここで消える自分にも何か意味があるといいな。

 

 「私が消えれば、いずれ世界は元の形に戻ります。バーストリンカーの皆さん、そして別の時間軸、平行世界から来た方々もそれぞれの時間に戻るでしょう」

 

 こうしてペルソナ・ヴァベルが引き起こした事件は解決を迎える。

 黒幕が消えて元通り、何もない生活に戻るのだ。

 

 

 

 

 

 「おいおいおい、そりゃあないだろう」

 

 

 

 

 

 瞬間、背後から聞こえる男の声

 

 その声に聞き覚えがあるような、ヴァベルが思考を割いた瞬間。

 

 ズッ、と胸を鈍い輝きが貫いているのに気づいた。

 

 

 

 

 「ーーーーー、あ」

 

 

 

 「人をあんなところに閉じ込めておいて自分は気が済んだからおさらばってのは都合が良すぎるぜ。なぁ、ブラッキー先生。お前さん達からも言ってやれよ」

 

 それは剣と言うよりは包丁であった。

 それもただの包丁ではない。

 その武器は周囲の人物の血を吸うことで力を高める武器でもあった。

 

 

 

 

 

 

 「イッツ・ショウ・タァーイム」

 

 

 

 《友切包丁(メイトチョッパー)》を持ったその男はそのトレードマークでもある黒ポンチョから笑みを浮かべると、自身の存在を示すかのように高らかに声を上げた。

 

 

 





たまたま黒い渦に巻き込まれてしまった哀れな黒ポンチョの男はその先でヴァベルと遭遇し、朦朧とした意識のなか無限変遷の迷宮区に閉じ込められ、敵と戦うなか自分が誰なのか思い出し、こうして現れました

やっぱりラスボスは相応しいやつがつとめねえとなぁ!!

エネミー:カラミティ・ヴァベルには破壊不可能物体ではないので倒せます
強敵を倒したPoHは皆から称えられるはずですが…そうはいかないようです


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第六十六話:悪意の器

 

 「あ、あんたは…」

 

 ヴァベルを突き刺した人物を視界に入れたフィリアの体は思わず震えていた。

 いや、驚愕と怯えの表情を浮かべていたのはフィリアだけではなかった。

 かつて浮遊城で命がけの戦いを繰り広げた人物達が彼を知っていた。

 

 

 ゲーム内で命を落とせば現実でも死んでしまうデスゲームの中で人殺しを楽しんでいた殺人ギルド《ラフィン・コフィン》のリーダー。

 

 「PoH(・・・)…!?なんだってこんなとこに…」

 

 「ユイーーーー!!!」

 

 クラインが黒ポンチョの男の名前を呟くと同時に、絶叫と共に剣を構えたキリトが走り出す。

 

 高速で振るわれた一撃はしかし、ヴァベルの胸から引き抜かれた包丁に受け止められた。

 

 「軽いなぁ…そんなもんかよぉ!!」

 

 「ぐぁっ!!」

 

 雄叫びと共に振るわれた包丁はキリトを剣ごと地面に叩きつけた。

 恐ろしく強いその一撃に驚愕する間もなく、続いて振るわれた一撃を辛くも剣を滑り込ませることで受け止める。

 

 「そらそら頑張れよ、大事な家族がやられちまうぞ?」

 

 「こいつ…!」

 

 キリトの後ろにはヴァベルがいる。

 この包丁が振り下ろされれば彼女も無事ではすまないだろう。

 

 ピシッとキリトが持つ剣にヒビが入る。

 出刃包丁の威力に剣が耐えきれなくなっているのだ。

 

 「武装破壊はお前の得意分野だったよな」

 

 「ぐぅっ…あぁぁぁぁっ!!」

 

 ありったけの精神力を注ぎ込み(心意を発動させ)ながら雄叫びをあげると共に、その瞳を黄金に輝かせるキリトであったが、PoHの包丁は徐々に剣ごとキリトを押し込み始めた。

 

 「やらせん!!」

 

 その瞬間、押し込まれたキリトの背後から踊るように二つの影が飛び出す。

 

 一人は鋭い一撃で包丁を弾き上げ、もう一人は外套をはためかせながら強烈な蹴りをPoHに放ち距離を取らせると、キリトとヴァベルを庇うように相手との間に立つ。

 

 「エイジ…!スメラギ!」

 

 「………てめぇ」

 

 「早く彼女を」

 

 剣を構えたエイジに頷いたキリトは、ヴァベルを抱えながら後方に下がる。

 

 「…知らねぇ顔がいるな」

 

 ぐるりと包丁を振り回しながらPoHはブラック・ロータス達を見つめる。

 やがて彼はある一点で視線を止めた。

 

 「おいおいおいマジかよ、ブラッキー先生が分裂していやがる」

 

 こりゃ傑作だぜと『キリト』を見て笑い声を上げたPoHであるが、何かが引っ掛かったのかその笑い声を止めると、訝しげに彼を見つめる。

 

 「そういうことかよ…俺にはわかる(・・・・・・)ぜキリト」

 

 「何を…」

 

 「言ったよな…俺は何度だってオマエの前に現れるって…!」

 

 言うが否や『キリト』に向かって走り出すPoH。

 その瞬間、エイジがソードスキルを発動しながら斬りかかった。

 PoHの恐ろしさは怖い程知っている。

 隙を晒したのであれば仕留めるべきだと直感に従った彼は《バーチカル・スクエア》を発動させていた。

 

 「てめぇに用はねぇよ!!」

 

 返すように出刃包丁にライトエフェクトを纏わせたPoHは恐るべき技術でその一撃を防ぎきる。

 

 「なっ…!!」

 

 「2ラウンド目(・・・・・・)はねぇ」

 

 ソードスキルのぶつかり合いでノックバックを受けたエイジは、続けざまに放たれた《閃打》による攻撃で大きく吹き飛ばされてしまった。

 

 「エイジ!!…おのれ!」

 

 「外野がうるせぇな…」

 

 吹き飛ばされたエイジのフォローに向かったスメラギには興味がないようにPoHはイライラするように歯噛みをした後、あるものに視線を向けた。

 

 「…おもしれぇのがあるじゃねぇか」

 

 獰猛な笑みを浮かべた先にあるのはヴァベルが纏っていた災禍の鎧。

 纏う主から離れていたそれは先程から無言で鎮座しているだけであった。

 

 「感じるぜ…てめぇの中のどす黒い感情を

 

  一緒に暴れようぜぇ…!!」

 

 そういいながらPoHが出刃包丁を鎧に突き刺すと、先程まで沈黙を貫いていた鎧がガタガタと震え始めた。

 まるで抵抗しているような素振りを見せた鎧であったが、PoHが更に出刃包丁を押し込むとその動きは止まってしまう。

 そしてそこから爆発したかのように負の心意が溢れだし、悪意の闇がPoHを包み込んだ

 

 「あいつ…!災禍の鎧に宿っている心意を取り込む気か…!?」

 

 「千年の悪意なんて人の身に耐えられるものじゃ…!」

 

 それは《ソウル・リムーブ・プロジェクト》によって仮想世界に放出された人の悪意。

 災禍の鎧に辿り着き、ペルソナ・ヴァベルがその体に封じ込めていたもの。

 ただ一人の人間には収まりきらない筈のその力はPoHの力となり始めていた。

 

 「いいねぇ…力が溢れてきやがる」

 

 やがて闇が晴れると、そこには災禍の鎧を身に纏ったPoHが立っていた。

 無理矢理鎧の力を取り込んだからかその姿は5代目クロム・ディザスターと同じであるが、その友切包丁から誰が主導権を握っているかは明白であった。

 

 

 「あれはやべぇ…!止めるぞロッタ!!」

 

 「出し惜しみは無しだ!!心意攻撃でいくぞ!」

 

 いち早く動いたグラファイト・エッジとブラック・ロータスが《奪命撃》を放つも、その攻撃は彼が振った出刃包丁によって弾き飛ばされてしまった。

 驚愕の声を上げる二人に視線を向けたPoHはニヤリと笑うと負の心意で強化されたその武器を振りかぶる。

 

 「お返ししねぇとな」

 

 「ーーーっ!《庇護風陣(ウィンド・ヴェール)》!!」

 

 振るわれたその一撃はバーストリンカーが使う心意技のような攻撃ではなく、ただの心意の波のようであった。

 膨大すぎる負の心意を無造作に叩きつけるその攻撃は、咄嗟に心意の防御技を発動させたスカイ・レイカーの守りを打ち砕き、爆発と共に彼らを飲み込んでいった。

 

 

 

 

 「見ろよブラッキー、こりゃ最高だぜ」

 

 笑い声を上げながらこちらに話しかけるPoHに、俺の頭は混乱しながらも一つの結論に達していた。

 

 やつは俺の知っているPoHだ。

 この世界のPoHじゃない。アンダーワールドで俺と戦った存在。

 夜空の剣の《記憶解放術》で倒した筈の彼が何故ここにいるのだろうか。

 

 「あんた…ホロウじゃない、本物なの…?」

 

 「あ?誰だてめぇ。俺は俺だろうが」

 

 いや、奴がここにいる理由は最早関係ない。

 最大の敵が更なる力を付けて現れたのが問題だ。

 

 「アリス、あんた心意って使えるか…?」

 

 「…何故あなたが心意について知っているか疑問ですが、まだ修行中の身です」

 

 しかし、と一呼吸を置いたあと険しい顔で彼女は言葉を続ける。

 

 「私でもわかります。あの男からは禍々しい心意を感じる」

 

 アンダーワールドとブレイン・バーストに用いられている心意は厳密には違うが大本は同じものだと俺は考えている。

 心意の刃を扱えたのも、青薔薇の剣の《記憶解放術》を心意技として発動させたのも、あの時の俺には明確に心意を扱った感覚があった。

 

 本当に後になって、お前さんの心意は《絶対理論》も極めてるんじゃないか?チートだろとグラファイト・エッジに言われる羽目になるのだが、つまりは奴に対抗できる可能性があるのは心意を扱うことができるバーストリンカー、そしてアンダーワールドで生きるアリスとユージオということになるのだ。

 

 「ヴァベルの傷は…」

 

 「回復魔法をかけているけど目を覚まさないの…どうして…!」

 

 カラミティ・ヴァベルというモンスターと認識されていたからか、ヴァベルはカーディナルに消去されることもなく、ここに留まっている。

 しかしPoHによって付けられた傷は深く、その目は閉じられていた。

 

 治療しようにも奴がこの場にいる以上そう上手くはいかないだろう。

 

 戦うしかない。

 

 ニューロリンカーであればSTLを使用している時と変わらない心意を扱うことができる筈だ。

 

 「皆は下がっててくれ、奴は俺との戦いを望んでるみたいだ」

 

 「バカ野郎キリトぉ!俺たちも戦うにーー」

 

 「勝てるのか」

 

 俺の言葉に反応したクラインを抑え込んだスプリガンの少年に、俺は頷きを返す。

 

 「勝たなきゃいけないんだ」

 

 「…これを」

 

 自分の剣を見て悔しげに表情を浮かべた彼はスクロールを操作すると、一本の剣を実体化させてこちらに差し出した。

 伝説級武器(レジェンダリーウェポン)、エクスキャリバー。

 

 「頼む」

 

 「…任せろ」

 

 俺は剣を受け取るとPoHに視線を向けて歩きだした。

 

 「なあキリト、あの時お前が俺に言ったこと覚えてるか?」

 

 無言の俺にPoHはククク、と笑いながら両腕を広げる。

 

 「『もう二度と会うことはない』だ。こうして会っちまったな」

 

 「感動の再会とでも言いたいのか?」

 

 「ロマンティックで良いじゃねえか…なぁ!」

 

 通常より三倍程大きくなった友切包丁を軽々と振り回しながらPoHは俺に向かって走り出した。

 上段で振り下ろされた一撃を俺は夜空の剣とエクスキャリバーをクロスさせて受け止める。

 二刀流防御技《クロスブロック》。

 

 「最初から全力でいくぞ…!!」

 

 黒の剣士として自己のイメージを定義させた俺のアバターは、瞬く間に姿を変える。

 現在のPoHはあの時戦った時よりも強力になっている。

 まるでガブリエル・ミラーのように、底が見えない。

 

 災禍の鎧が膨大な負の心意を宿していたり、バーストリンカー達の技、そして俺が放った《ヴォーパル・ストライク》のように、このVR世界では心意システムを扱うことができるのは周知の事実だ。

 MPを順次消費させながら各属性のエレメントを用意、本来詠唱が必要なALOの魔法を一句で発動させ、かつて神聖術としてガブリエルに放った属性の攻撃を魔法として打ち出す。

 

 「バーストエレメント!!」

 

 各魔法が一気に直撃し、PoHの身体を飲み込んだ。

 バックステップで距離を取った俺は畳み掛けるように追撃を放とうとするが、突然体を襲った悪寒に反応するように心意のバリアを展開させる。

 

 激しい衝撃と共にバリアに突き刺さったのは友切包丁であった。

 ヒュッと息を飲む俺の目の前に、先程の攻撃をものともせずに爆風からPoHが飛び出してきた。

 彼ははそのまま武器の柄を握ると、力任せにバリアを切り裂きこじ開けはじめる。

 俺の展開したバリアは奴の攻撃で激しい音を立てながら砕け散った。

 

 「なっ…」

 

 「ーーーーシャアッ!!」

 

 驚きの声をあげる俺の腹に奴の足が突き刺さる。

 たまらず苦悶の声を上げてしまうが、視界に走る刃が見えた俺は咄嗟に心意の太刀を使って受け止める。

 しかし充分にイメージを行うことができなかった為か、大きな衝撃と共に俺は後方に吹き飛ばされてしまった。

 

 「それが全力か?」

 

 余裕を見せるPoHの言葉に、俺はこの戦いが簡単には終わりそうにないことを感じ取っていた。

 

 




満を持してバーストリンカーのキリトくんの戦闘です!

PoHなら災禍の鎧を御せると思うんです…なんだかそんな信頼があります…
強化パッチをつけたPoHをどう倒すのか…

ゆっくり進めていくのでよろしくお願いいたします
いつも感想してくださったり、誤字脱字報告してくださる皆様ありがとうございます
励みになります


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第六十七話:棺桶は笑う

気がつけば4月ですね
ラストリコレクションも楽しみですね
リコリスがフリープレイだったのでやってみましたが、ユージオが生きてて良かった…
原作やアニメと違うところを見てここがターニングポイントなのかなと見るのは面白かったです


 

 

 「師匠…皆!!」

 

 ヴァベルと戦闘していたことにより離れた場所にいたシルバー・クロウは巻き込まれることがなかったため攻撃を免れていた。

 視線の先では『キリト』が謎の敵と対峙しているのが見えた。

 

 加勢しにいかないとと焦るハルユキの頭のなかでメタトロンの声が響く。

 

 『しもべ、抑えるのです。レイカーの心意で全滅は免れています。今は奴を倒す準備を』

 

 「倒すったって…あんなやつにどうやって…」

 

 『しもべの体を貸し出すのは大変…ええ、大変癪ですがそんな状況でもありません。呼ぶのです。奴の名前を』

 

 「よ、呼ぶ…?しかも僕の体を貸し出すって…」

 

 『目には目を…よもや好きにさせられっぱなしという訳にもいかないでしょう』

 

 

 訳のわからない言葉にハルユキは聞き返すが、メタトロンは苦虫を噛み潰したような表情をしながら戦況を眺めるのであった。

 

 

 

 

 

 「クハハハハ!楽しいなキリト!!」

 

 「ぐっ…!!」

 

 笑い声を上げながら振り回される友切包丁を回避した俺は、その勢いのままエクスキャリバーで反撃を仕掛ける。

 しかしその攻撃は見切られていたように回避され、返すように飛び蹴りが放たれた。

 

 それを頭を下げることで回避し、左腰だめで構えた夜空の剣からソードスキルを発動させる。

 片手用直剣スキル《スラント》。

 この技は基本的には右上段から左下段への斜め斬り下ろしのモーションを取るのだが、この技は左腰だめで構えることでも発動することができるのだ。

 かつてユージオはそれを使うことでウンベールの不意をつくことに成功したらしい。

 

 「うおっ」

 

 そして同じく不意をつくように放たれた夜空の剣は鎧の間接部分を捉え、PoHの左腕を斬り飛ばした。

 

 「やった…!!」

 

 後方で戦況を見ていたアスナの声が聞こえるが、PoHは腕が斬り飛ばされたのを気にすることもなく、こちらに掴みかかってくる。

 友切包丁の攻撃を防ぐために咄嗟に剣を振り上げようとするが、突然顔面に衝撃が走ったことで俺の思考は一瞬真っ白になる。

 

 「なに驚いてんだ。お前もやっただろうがよ」

 

 左手(・・)で俺を殴ったPoHはよろめく俺にソードスキルを纏わせた友切包丁を突き出す。

 

 心意の力で肥大化したその刃は俺の胸に深々と突き刺さると、突進の衝撃と共に俺を吹き飛ばした。

 

 「がっ…!!」

 

 強烈な痛みが胸に走った。

 文字通り胸に穴が空いたような痛みであるが、まだ戦える。

 

 俺が斬り飛ばしたPoHの左腕は地面に落ちている。

 恐らく彼が吸収した強力な心意を持って左腕を再生させたのだろう。

 まさしくアドミニストレータに斬られた腕を俺が再生させたように。

 

 チャンスとばかりにPoHが更にソードスキルを発動させる。

 走り出したPoHを粘膜のようなものが包み込むと、あっという間に三人に分身。各方向から襲い掛かってきた。

 かつてアンダーワールドで俺に使ってきたソードスキルと同じ八連撃技だ。

 

 「キリト!!」

 

 ユージオの心配する声が聞こえる。

 その声に問題ないと夜空の剣を掲げることで返事をした俺は、そのままソードスキルを発動させる。

 片手剣最上位スキル《ノヴァ・アセンション》。

 

 上段から振り下ろされる攻撃は片手剣スキルの中では最速だ。

 かつて七連撃技《デッドリー・シンズ》で捌ききったように分身達を倒した俺は、残る二連撃でPoHを仕留めるために一歩踏み出す。

 

 「わかってるんだよ…!」

 

 ノヴァ・アセンションは十連撃。俺自身、奴の前では使ったことはない技だ。

 例え見たことがあったとしても今の奴にこれを防ぐ手段はない。

 

 しかし、視界の端から差し込まれる鈍い銀色の輝きに俺は目を見張ることになる。

 

 驚きもつかの間、放たれた二連撃は振りかぶられた爪と尻尾から放たれた攻撃に受け止められる。

 

 「ちっ…やっぱり同じ技は使ってこねぇか」

 

 俺がPoHの裏をかくようにノヴァ・アセンションを発動させたように、奴も敢えて同じ技を発動させることで、本命の攻撃を当てようとしてきたのだ。

 

 激しいノックバックと共にお互いに距離を取った形になるが、戦況はこちらが不利である。

 最悪な敵に災禍の鎧が渡ってしまっているこの状況。

 

 PoH自身の戦い方を知っていること。そして鎧とは加速世界で何度か刃を交えたお陰で食らいついているが、対応しきれなくなるのは時間の問題だろう。

 

 

 「小細工じゃお前は倒せねえよな」

 

 そう言いながらPoHは友切包丁を振りかぶった。

 その刀身に込められた膨大な負の心意を感じ取り、俺はエクスキャリバーを地面に突き刺すと夜空の剣を両手で構える。

 

 恐らく、先程ロータス達を打ち倒した衝撃波が放たれるのだろう。しかも俺を確実に葬る為に更に強力なものが。

 リィン…リィン…と鈴の音のような音が剣から響き渡るのを感じながら地面を踏みしめる。

 

 両手剣ほどの大きさになった夜空の剣を右後方に構えると、システムがそのモーションを読み取って剣をライトエフェクトで包み込んだ。

 PoHは俺がソードスキルを発動させようとしているのに気づいたのだろう。ニヤリと笑みを浮かべているのが見える。

 

 「…ぜぁっ!!」

 

 息を吐きながら地面を蹴った俺は、その勢いのまま旋回し、剣を振り上げる。

 

 両手剣ソードスキル《サイクロン》。

 またの名をセルルト流《輪渦》。

 

 アンダーワールドで学んだ一撃は迎え撃つように振り下ろされた友切包丁と衝突すると、激しい衝撃を周囲に撒き散らした。

 

 「ぐっ…!!」

 

 「そんな攻撃で俺を倒せるかよ!」

 

 衝撃に呻き声をあげる俺にそう叫んだPoHは、刃を押し込んでくる。

 確かに《サイクロン》は両手剣を扱ったことがない俺も知っているソードスキルだ。しかしこの技はただの《サイクロン》ではない。

 ソルティリーナ先輩が俺に手解きをしてくれたセルルト流としての秘奥義でもあるのだ。

 

 「うおおおおおっ!!!」

 

 「うおっ…!?」

 

 ギィィィン!!と激しい音と共に奴の友切包丁を吹き飛ばした俺の体は、通常であればソードスキル発動後の硬直によって隙を晒してしまうだろう。

 そこを理解しているPoHも反撃の為に爪を振り上げている。

 

 しかし俺の攻撃はまだ終わっていない。

 

 俺の剣から消える筈のライトエフェクトが消えていないことに気づいた時にはもう遅い。

 振り切った剣を引き戻しながら逆方向に旋回した俺の体は剣を再度振り切り、奴の体を大きく吹き飛ばしていた。

 

 「ぐ…おおっ…!?」

 

 かつてリーナ先輩がウォロ上級修練士を破った《輪渦》の二連撃。スキルコネクトを使うことで実現する、アインクラッドでは見たことがない攻撃だ。

 まさか一撃で終わる筈の攻撃が連撃になるとは思っていなかったのだろう。

 PoHからは驚きの声が漏れ、後方に着地はするものの、膝をつくことになった。

 

 「やるじゃねぇか…」

 

 「終わりだ、PoH」

 

 エクスキャリバーを左手に握った俺は奴との距離を詰めながらそう言い放つ。

 出刃包丁は先程俺が吹き飛ばしたことで、やつの手には何も無い。

 

 この距離なら奴が武器を拾う前に攻撃を当てることができるだろう。

 

 「…それを決めるのはお前じゃねぇ、よ!!」

 

 そう返したPoHは俺に向かって手を突き出す。

 何か攻撃が来るのかと身構えるが、一向に奴の手からは攻撃が来ない。

 ブラフか何かかと考えた瞬間、背中に走る悪寒に身を任せて剣を振り抜いた。

 

 「ーーーっ!!」

 

 ギィン、と武器同士がぶつかる音と共に激しい衝撃が俺を襲う。

 目の前には奴の手から離れていた出刃包丁。

 

 「《心意の腕》ーーですって!?」

 

 「この土壇場でーーー!!」

 

 アリスの驚愕する声を聞きながら、俺はどうにか出刃包丁をいなすことで弾き飛ばす。

 弾き飛ばされた武器はくるくると空中で回ったあと、奴の手に真っ直ぐに収まった。

 

 「そら、続きといこうぜ」

 

 手に収まった出刃包丁から心意を吸い上げることで自身の体を修復させたPoHはニヤニヤと笑いながら俺に話しかける。

 いくら攻撃をしてもあれではキリが無い。

 

 元の大きさに戻った夜空の剣とエクスキャリバーを構えた俺は、どうにか奴から心意の供給を妨げる方法を探る。

 奴は災禍の鎧から漏れでる負の心意を出刃包丁を通すことで自身に還元している。

 

 状況はアンダーワールドにて空間リソースに漂っていた心意や神聖力を取り込んでいたのと同じだ。

 だとすれば俺の夜空の剣を使えばそれを阻害することができるかもしれない。

 

 しかしそれをする隙を奴が与えてくれるかが問題だ。

 

 ユージオの青薔薇の剣の力があれば奴の動きを止めつつ、力を削ぐことが可能だろう。

 しかしそれを奴と一対一の状況で伝達ができるかわからない。

 今の彼はカセドラルにいたユージオではない。あの戦いを経験していない彼が俺の意図を組んでくれるか…

 

ーーキリト!!

 

 そんな俺の不安を描き消すように、ユージオの声が横から響く。

 …ああ、これは背後のユージオではない。

 俺と共に戦ったユージオだ。

 今も彼は俺の中で生きているのだ。

 

 「アイツの心意を剥がすには君の黒い奴の力が必要だ。僕がフォローするから任せたよ」

 

 だからそんな言葉が横から聞こえてきたので、俺は思わずえっ、と言葉をこぼした。

 横を向いて一度背後を振り返る。そしてもう一度横を見る。

 

 後方にいたはずのユージオはいつの間にか俺の隣にいた。

 

 上級修練士であったその服はいつの間にかカセドラルで最期に着ていた服装に変わっている。

 俺の手は以前青薔薇の剣が吊り下げられていた腰に伸び、そして彼の手元にソレが握られているのを思い出す。

 

 あの雪山で再会した時、俺が持っていた青薔薇の剣は光の粒子となって再会したユージオの剣に吸い込まれていった。

 災禍の鎧のように、心意が影響を与えていたのだとしたらーー

 

 「ユージオ…?」

 

 「なんだいそのお化けでも見たような顔は…。まあ、そうだろうけどさ」

 

 俺の言葉に目を細めたユージオは一度頬をかくとニヤリと笑いながら剣を持っていない腕を突き出す。

 

 「さあいくよキリト、僕の親友、僕のーー英雄!!」

 

 「ーーーー、ああ!!」

 

 その言葉に俺は込み上げる何かを感じながら腕を打ち付ける。

 負けるわけにはいかない、負けるはずがない。

 

 だって、最高の相棒が隣にいるのだから

 

 

 




何とは言いませんがシャイニングウルティメイトゼロっていうウルトラマンの全部のせが好きです

ユージオはついに記憶が紐付きました
自我を乗っ取ったよりは未来の記憶なんだと受け止めつつ、あくまでも彼は修剣学院生としてのユージオとなっております

また次回もよろしくお願いいたします


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第六十八話:逆転の一手

 

 

 思えば兆候はあったのだ。

 

 雪原で放った《バーチカル・スクエア》、《無限変遷の迷宮区》での覚えの無い記憶。突然使えるようになった《武装完全支配術》に《記憶解放術》。

 

 突然現れた黒いポンチョの男と相棒が戦っているのを見ながら、そのハイレベルな戦いにユージオは拳を握りしめていた。

 

 自分が行っても彼の邪魔になる。

 

 相棒を助けることすらできないのかと。

 

 何か彼を助けることが出来ないだろうかと歯噛みしながらも、頭の片隅にずっと残っているこの感じがどうも気になる。

 

 

 そしてキリトの剣が音を立てながら大きくなったのを見て、ユージオは思い出した(・・・・・)

 あの豪雨の時を。

 彼が自分を、ロニエとティーゼを助けてくれたあの時を。

 

 自分が禁忌目録に疑問を抱き、その支配から外れたあの日を。

 

 そこから一気に欠けていたものがハマる感覚があった。

 

 アリスと再会し、カセドラルに連れていかれたこと。

 

 エルドリエと戦い、カーディナルに助けられたこと。

 

 ベルクーリと死闘を繰り広げ、整合騎士としてキリトと戦ったこと。

 

 キリトと、アリスと共にアドミニストレータと戦ったこと。

 

 そして最後に命を落としたこと。

 

 

 「そうだ、僕は…」

 

 「ユージオ?」

 

 呟いた言葉が聞こえたのか訝しげに此方を見るアリスに、ユージオは頭を振りながら立ち上がる。

 

 「アリス(・・・)、僕は行くよ」

 

 「…っ!危険です、ましてや見習いであるあなたが…」

 

 此方を止める彼女の言葉は騎士として、実力者としてこの戦いを見て判断できる者として正しいのだろう。

 …思えば彼女と腰を据えて話すことはついぞなかった。

 

 だけどこうして共に戦って、敵ではなく仲間として時間を過ごしてわかったこともある。

 

 『学院とは、その…どのようなものなのでしょうか。カセドラルの中にも学問を学ぶ場所はあるのですが…』

 

 『蜂蜜パイ…ですか、無闇に人界と関わるのが禁止されている私には食べられそうになさそうですね…。少し残念です』

 

 『料理…基本的にカセドラルで出されるものは料理人が作ってくれますから私には縁がありませんね…』

 

 キリトが倒れていた時、何となしに始めた会話。

 

 話すたびに自分が知っているアリスと違うところを見つけ、似ているところを見つけた。

 そうして彼女を知って、思ったのだ。

 

 記憶を失っていても彼女はアリスで、今を生きているのだと。

 

 自分のことを思い出してほしいとは思う。

 しかし、それで今話している彼女が消えてしまうのだとしたら…。

 

 「未来は、変えられるんだ」

 

 思い出した記憶を使えばきっと見つけられる。

 整合騎士としての彼女も、共にルーリッドの村で過ごした彼女も、二人とも救える道が。

 

 

 

 今の自分(・・・・)がそうなのだから。

 

 

 上級修練士としての服はいつの間にかあの時カセドラルで着用していた服に変わっていた。

 

 気の持ちようが変わっただけで、ユージオ自身は変わらない。

 

 

 青薔薇の剣の力を使えば奴の体に流れ込む心意を放出することができるはずだ。

 それをキリトの剣で吸収することで男に流れ込むのを阻止する。

 元々神聖力ーー天命を吸収し空間へリソースとして解き放つ技ではあるが、今の自分なら心意技として転用も行えると考える。

 

 「雑魚が…邪魔をするんじゃねぇ」

 

 苛立つ男ーーPoHの言葉にユージオは無言で青薔薇の剣を構えた。

 その立ち姿にはぁ、と溜め息をついたPoHは友切包丁をくるりと回し、ソードスキルの構えをとる。

 血のような赤に染められた刀身から放たれる一撃を受ければ一溜りもないだろう。

 

 

 「合図を待って」

 

 「わかった」

 

 短い言葉に返ってくるのは信頼の声。

 その言葉に懐かしさを覚えながら、ユージオは迎え撃つように青薔薇の剣を正面に掲げ刀身を掌で薄くなぞった。

 

 すると青薔薇の剣の刀身が彼の血を飲み込むように赤く染まり始める。

 ソードスキルの発光でもない。

 彼のーー今のユージオだけが扱える絶技。

 

 「シッーーーー」

 

 自身の天命、生命力を剣に纏わせることで《赤薔薇の剣》を手にしたユージオは、短く息を吐きながら踏み込んだ。

 PoHから放たれるソードスキルの連続技に飛び込んだユージオは、その攻撃を赤薔薇の剣で迎撃する。

 

 「マジかお前ーーー!」

 

 「バースト・エレメント!」

 

 ソードスキルでブーストされている一撃を剣で滑らせるようにパリィしたユージオは、驚愕の声を出しながらも硬直で動けないPoHを風素の神聖術で吹き飛ばした。

 そしてそのまま流れるように《武装完全支配術》の準備に入る。

 一連の流れを見ていたキリトは、やはりユージオは自分の見立て通りの剣士になりうる存在だと舌を巻いた。 

 そして彼からの合図が近いことを察し、そのタイミングを待つ。

 

 「エンハンス・アーマメント!!」

 

 剣を地面に突き刺すことで発動した青薔薇の剣の《武装完全支配術》は、そのままPoHに向かって氷の蔓を絡み付かせ動きを封じ込めた。

 

 「この氷…!」

 

 「リリース・リコレクション!!」

 

 PoHも自身を拘束した技の力に気づいたようだが、既にユージオは《記憶解放術》を発動させていた。

 絡み付いていた蔓から薔薇が咲き誇り、そこから彼の身体を巡っている生命力を放出させる。

 放出する側から鎧と連動している友切包丁から心意が流れ込み、PoHの体力を回復させようとしているが、詮を緩めた蛇口のように、貯まった側から変換された生命力が放出される状態になっているのだ。

 

 「キリト!!」

 

 「ああ!!」

 

 そしてその放出された生命力はリソースとなりキリトの夜空の剣に吸収される。

 

 「て、てめぇら…俺の力を…!」

 

 「これはお前の力なんかじゃない!例え憎しみや苦しみの感情だとしても、必死に世界を生きた人達の想いだ…!」

 

 「ーーーだからその想いも、鎧も、お前の好きになんかさせるもんか!!」

 

 そう言いながらキリトの隣に降り立ったシルバー・クロウは一度深呼吸をすると覚悟を決めたように災禍の鎧に向かって右腕を突き出した。

 

 「ファルコン!ブロッサム!!僕に力を貸してくれ!!」

 

 鎧に宿るだろう意思に呼び掛けたハルユキは続けて言葉を発する。

 それは加速世界において禁忌の呼び名。

 彼を呪ったその鎧を今一度。

 

 「来い!クロム・ディザスター(・・・・・・・・・・)!!!」

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 




かつて失った力を再び使う展開熱くないですか?
僕は好きです

メタトロンとの会話から推測されたかたもいたと思いますが、やりたかったのでやりました

また次回もよろしくお願いします


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第六十九話:鎧を纏う者、夜空を切り開く者

 

 「…はぁっ!?」

 

 『はぁ?ではありません!言ったでしょう!この状況を打破する必要があると!』

 

 「そ、それはそうだけどそんな…僕が災禍の鎧を使う(・・・・・・・)なんて!!」

 

 『奴は鎧から力を得ています。つまり擬似的に鎧の所有者となっている状態な訳です』

 

 いいですか?と脳内でハルユキに人差し指を立てながらメタトロンは言葉を続ける。

 

 「しもべ、あなたが鎧の所有権を奪い取って奴に流れ込む心意をシャットアウトするのです」

 

 「奪い取るってそんな簡単に…」

 

 『適合力は実際に六代目として活動していたしもべの方が上です。悪くはないと思いますが』

 

 そもそもあれをどうにかしないと勝ち目は薄いですよと話すメタトロンの言葉に、ハルユキはぐぬぅ…と唸り声をあげる。

 災禍の鎧ーークロム・ディザスターはハルユキにとってあまり良い印象はない。

 鎧に支配されたことで『親』でもあるブラック・ロータスを傷つけることにもなったし、加速世界から退場の危機にも陥ったのだ。

 ファルコンやブロッサムをめぐる出来事から憎むことなどはなくなったし、《獣》に愛着も少しは湧いたりしたが、それでも思うところはある。

 

 「あ…!」

 

 そうこうしているうちに戦況に変化が起きた。

 若草色の髪の少年ーー確かユージオと言ったか。

 彼が戦闘に参加したのだ。

 

 敵の攻撃を潜り抜けたユージオがその剣から氷の蔓を呼び出して拘束、その心意の力をエネルギーとして外部に放出させ始めた。

 それを『キリト』の剣に取り込むことで奴から力を削ぐ作戦に出たらしい。

 

 しかし奴と繋がっている災禍の鎧から溢れでるエネルギーは変わらず、その量を増やしているようにも見えた。

 

 「…!」

 

 そしてハルユキにはわかった。

 災禍の鎧が奴に力を受け渡すことを拒絶するように震えているのを。

 

 「これはお前の力なんかじゃない!例え憎しみや苦しみの感情だとしても、必死に世界を生きた人達の想いだ…!」

 

 その想いを受け止め、大きな悲しみを起こさないようにしたのは災禍の鎧でもあるのだ。

 ハルユキは先ほどの戦いでファルコンとブロッサムがどのような決意でこの感情を抱え込み、ヴァベルと共に日々を過ごしたのかも理解している。

 

 あのPoHという男は紛れもない邪悪だ。

 負の心意を自在に扱い、ALOプレイヤー達からも敵意を向けられている。

 『キリト』の言う通り、世界がより良くなるようにという祈りから生まれた数々の想いをこの男に使われるのは間違っているのだ。

 

 「ーーーだからその想いも、鎧も、お前の好きになんかさせるもんか!!」

 

 言葉を引き継ぐように、そう叫んだハルユキは『キリト』の隣に着地する。

 先ほどまでの消極的な感情は彼方へと投げ捨てた。

 

 「ファルコン!ブロッサム!!僕に力を貸してくれ!!」

 

 奴を止めるために、今の自分ができることをーー!

 

 

 

 「来い!クロム・ディザスター!!!」

 

 

 

 その言葉が響いた瞬間、PoHが纏っていた災禍の鎧が激しい光を迸らせた。

 

 「なに…!?」

 

 光はいくつかの欠片のようにPoHから飛び出すと、そのままシルバー・クロウに向かって装甲を覆うように装着されていく。

 両腕、胸部、脚部、そして頭部。

 最後に装着されたバイザーから見えるのは一つの文字列。

 

 

【YOU EQUIPPED AN ENHANCED ARMAMENT 《THE DISASTER》】

 

 

 もう見ることはないと思っていたその文字と共に、全身に迸る衝動。

 加速世界最凶の力が再びこのアバターに宿ったのを感じたハルユキは勢いのままに雄叫びをあげる。

 

 「ルーーーーオオオオオオオッ!!!!」

 

 二体のクロム・ディザスター。

 メタトロンの言う目には目をと言うのはこの事だろう。

 

 敵に向かって一歩を踏み出そうとしたハルユキの耳にバシィィィィィ!!と音が響く。

 加速世界にいる時に再び聞こえる再加速の音。

 

 瞬間、回りの世界が止まったことをハルユキは認識した。

 

 「オオオオオオオーーー、お…?」 

 

 出していた雄叫びを疑問の声で止めたハルユキはぱちくりとその目を瞬かせる。

 これはそう、通常の加速世界よりさらに高次元に位置する空間でであり、加速世界の全景を見渡せる場所である《ハイエスト・レベル》へ向かう時と同じである。

 

 

 「は、ハイエスト・レベル…!?どうして…」

 

 ブレイン・バーストではないこの世界でまさかこの現象が起きるとは考えていなかったハルユキは、戸惑いながらも世界を俯瞰した。

 

 フィールドに見える一際大きな輝き。

 これは恐らく心意を吸収している『キリト』であろう。

 そこから離れた場所には黒雪姫達も見える。

 傷を負っているようだが確かに無事なようだ。

 

 ふぅ、と息をついたハルユキは続いて鎧から流れる負の心意がPoHに流れていないのを目に納める。

 メタトロンの作戦は上手く行ったようだ。勿論PoH自身に取り込まれている心意は残ってはいるが、これで供給を止めることができた。

 

 と、ここまで全体を見たハルユキは自分をここに導いた存在が何者だろうかと考える。

 この世界に単独で辿り着くことはまだハルユキにはできない。

 恐らくメタトロンと同じように自分を導いてくれた何かがいるはずだ。

 

 「えっと、《獣》さん…?いらっしゃいますか?」

 

 何となく、自分を呼んだのは《獣》なのではないかと考えたハルユキが《獣》を呼ぶも返事が無い。

 鎧に宿っていたであろう《獣》の意思は無くなってしまったのだろうか…?

 

 「そうするとメタトロン…?ーーいったぁ!!?」

 

 そうなると自分をここにつれてきたのは仲間であるメタトロンだろうか。そう考えながら彼女の名前を呼んだハルユキの頭を強い衝撃が襲う。

 かつてない程の早さで姿を現したメタトロンは、そのままハルユキのほっぺたをむにむにとつつきながら非難の声をあげる。

 

 

 「ど、う、し、て最初に呼ぶのが私ではないのですか!!」

 

 

 「ごごごご、ごめん!」

 

 

 「…まあいいです、ここに呼んだのは私ではないですし。ここは顔を立ててやります」

 

 ひとしきりつついて満足したのか、ふんと息を付いた彼女は自分がハルユキをここに呼んだのではないと話す。

 じゃあ誰が…という疑問はにゃあ、と気の抜けたような声を聞いたことで解消された。

 視線の先には一匹の仔猫。

 ノイズがかったようなその姿は初めて見るようで、どこか懐かしい印象を覚えた。

 

 「…久しぶりでいいのかな、《獣》」

 

 その姿はかつて《ザ・デスティニー》と《スターキャスター》をプレイヤーホームに安置した際にハルユキが幻視したファルコンとブロッサムと共にいた一匹の仔猫。

 つまり《獣》と呼ばれていた意思だ。

 

 「アイツを倒したいんだ。力を貸してほしい」

 

 ハルユキの言葉に仔猫はにゃあ、と一鳴きするとくるりと一回転し、そのまま姿を消してしまった。

 例え言葉が伝わらなくてもわかる。

 ハルユキはメタトロンに頷くと、彼女はニヤリと笑みを浮かべる。

 

 「災禍の鎧には災禍の鎧です。さあしもべ、どちらが鎧を扱うのに相応しいのか、あの狼藉者にわからせてやるのです」

 

 メタトロンの言葉に背を押され、アバターに意識を戻したハルユキはシルバー・クロウの右腕を天に翳す。

 

 雷鳴と共にその腕に現れたのは《スターキャスター》。

 その形は先ほど戦ったクロム・ファルコンが携えていたような輝く騎士剣。

 

 「てめぇ…!その力は俺のもんだ…!!」

 

 「ーー!抑えきれない…!!気をつけて!」

 

 怒号と共に氷の蔓から這い出てきたPoHは大地を踏みしめながらハルユキに向かって飛びかかる。

 ユージオの警告する声を耳に捉えながら、ハルユキはスターキャスターを構えた。

 バイザーの下に見える攻撃予測をその目に映しながら超加速を引き起こしたハルユキの脳内には一人のデュエルアバターが浮かび上がる。

 兜から覗いた足まで届く長い銀髪が特徴的な騎士型アバターは三代目クロム・ディザスター。

 彼女の剣技は武器を握ったことがないハルユキがディザスターとなった際にも扱ったことがある。

 

 

 名前の知らない剣技(オメガ流合切剣じゃ!)ではあるがこの戦いにおいて彼を助けてくれるだろうことは直ぐにわかった。

 

 振り下ろされる包丁に剣を滑らせるようにパリィ。

 

 そのまま掬い上げるように剣を当てて奴の体を上空へ吹き飛ばす。

 

 そのまま背中の翼とメタトロンウィングを使いながら高速で近づきながら一閃。

 ジグザグと空中を縦横無尽に駆け回りながら、追撃を続ける。

 

 「ぐぉ…!てめ…!!」

 

 鎧の防御力は健在のようだが、徐々に剥がれていく装甲にPoHも焦りの声を見せる。

 我武者羅に振られた一撃を《フラッシュ・ブリンク》で体を粒子にしながら回避したハルユキは、手首からワイヤーフックを放ちながら彼の体を固定。

 そのワイヤーを引き戻しながら強烈な蹴りを叩き込み、地面へと打ち落とした。

 

 「ぐおおおおおっ!」

 

 呻き声をあげたPoHはしかし、怒りに体を震わせながら立ち上がるとシルバー・クロウに友切包丁を突きつける。

 

 「雑魚が粋がるんじゃねぇよ!!」

 

 ダァン!!と地面を蹴りあげたPoHは友切包丁を投げつける。

 回転しながら向かってくる包丁を弾き飛ばしたクロウだが、弾き飛ばされた筈の包丁が再び襲いかかる。

 

 先ほど『キリト』に使った心意の腕を使った武器操作だろう。

 そちらに気を取られた瞬間、装甲になにかが引っ掛かる感覚。

 視線を向ければ鎧部分にワイヤーフック。先ほどハルユキが扱った五代目クロム・ディザスターのアビリティだ。

 

 滞空しているクロウにフックが掛かれば逃げるのはほぼ不可能だ。

 巻き取られる先には血のような赤で染めた包丁を持つPoH。

 

 「俺を見下ろすんじゃねぇ!」

 

 無理矢理ではあるが鎧を御したPoHならディザスターのアビリティ扱えることもできるのだろう。

 

 通常の戦士ならここで不意をつかれ、その一撃で呆気なく命を狩り取られる。

 

 『しもべ!!』

 

 「ああ!!」

 

 だがその相手は通常の戦士ではない。

 《災禍の鎧》に適合し、四大天使メタトロンの寵愛を受けた加速世界唯一の空を翔ける戦士。

 そしてそのワイヤー攻撃は既に見ている。

 

 メタトロンの声に合わせて展開された翼の刃がワイヤーを切り裂いた。

 空中で自由を失い、驚きの声をあげるPoHを視界に捉えながら、ハルユキは《フラッシュ・ブリンク》を発動させて一気に距離を取ると、背中の翼を震わせる。

 

 「でやぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

 メタトロンウィングによる加速を得たシルバー・クロウの《ダイブキック》は流星のようにPoHの体に突き刺さった。

 その一撃は空中に飛び上がった彼を再び地面へ縫い付けることとなる。

 どうにか瓦礫を押し退けたPoHに走り込むのは『キリト』だ。

 

 

 「キリトさん!!!」

 

 「任せろ!!」

 

 ハルユキの声に応じた『キリト』はその手に持つ漆黒と黄金の剣をライトエフェクトで光らせながら地面を蹴り、突貫。

 思わぬところで絡み合った因縁をこの一撃で断ち切るーー!

 

 「《スターバースト・ストリーム》ーー!!」

 

 「くそがぁぁぁーー!!」

 

 雄叫びと共に放たれる《スターバースト・ストリーム》。二刀流16連撃技。

 

 彼の体を切り裂きながらトドメと放たれた最後の16撃目はしかし、死に物狂いで振るわれたPoHの友切包丁によって黄金の剣が吹き飛ばされた事によって不発に終わる。

 

 「ーーーー!!」

 

 「ツキは俺にあったみてぇだなぁーー!!」

 

 必殺技をキャンセルされた『キリト』の体は発動による硬直で動くことができない。

 無防備な『キリト』に勝利宣言をしたPoHは、その視界に黄金の剣を手にした男が映るのを目にした。

 

 それは今まさにトドメを刺そうとしている男ではない。

 自分の邪魔をした浅草色の髪の少年でも、銀色の装甲の男でもない。

 

 「PoHーーーー!!!!!」

 

 

 既に意識から外していたもう一人の黒の剣士(この世界のキリト)が弾き飛ばされたエクスキャリバーを握りしめながら飛び込んでくる。

 

 ソードスキルによって背中を勢いよく叩かれるように加速したスプリガンの少年は、血のような赤色の軌跡を残しながら剣を突き出した。

 

 

 遅れて聞こえてくるのはジェットエンジンのような轟音。

 

 

 それはかの浮遊城で片手剣ソードスキルとして存在していた技。

 

 刀身の倍以上の射程と両手槍に匹敵する威力を有し、黒の剣士はその使い勝手の良さからこの技を好み、迷宮区ボスへのラストアタックに使用されることが多かったという。

 

 

 その技は浮遊城と共に失われたと思われていたが、妖精の国にて復活を果たす。

 物理3割、炎3割、闇3割の属性攻撃を持つこの攻撃は、ブレイン・バーストにおいてシルバー・クロウがウルフラム・サーベラスを破った際に放った《ヘッド・バット》のように物理攻撃属性とエネルギー(ALOでは魔法と称されているが)攻撃の特性を兼ね備えている。

 

 その結果、この攻撃は多くの攻撃耐性を持つ鎧にとっても効果を発揮するのだ。

 

 炎に包まれた《ヴォーパル・ストライク》は災禍の鎧の装甲をものともせず、PoHの体ごと深紅の剣で貫いたのだった。

 

 しかしそれでも彼は倒れない。

 この怒涛の攻撃で確かにPoHは死んだと自分でも思っていた。

 

 

 だが鎧に残っていた悪意が、心意が、彼をここに留まらせる。

 

 まだだ、まだ終わらない。

 

 「ぐーーーーーおおおおおお!!」

 

 「ーー!こいつーー!!」

 

 唸り声を上げ、自分が何者かわからなくなる。

 かつてのガブリエル・ミラーのように全てを破壊する悪意の化身と化したPoHはその感情のまま全てを破壊しようとしてーーー

 

 

 僅かに残った意識が一筋の光を捉えた。

 

 

 その瞳を金色に光らせた黒の剣士が、夜空の名を示す漆黒の剣を振りかぶる。

 16回、流星のように煌めいた剣の軌跡はそこで終わるはずだった。

 

 しかしその剣に宿った多くの意思が、再び奇跡を起こす。

 

 

 17回目の流星が、闇を斬り裂いた。

 




千年の黄昏編でやりたかったこと
・鎧と別れ、成長したハルユキにもう一回鎧を着て欲しかった
・メタトロンウィングと鎧の全部のせがしたかった
この妄想を早く出したくてヘルメスコードの後に千年の黄昏編をぶちこんだのがあった気がします

原作通りの順番に進めていくのもありっちゃありなのですが、折角なら他のSAOキャラも動かしてみたくなったりと言うこともあったのでゆるゆるとですが進めてきました

三年の月日が経ってようやくこの場面までこれましたが、一番やりたかったことがまだ残ってます
千年の黄昏で救われなかったキャラを救いたいのが原動力です

相変わらずのペースですがお付き合いいただければ幸いです


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第七十話:繋がる心を

SAO10周年らしいですね
今さらなんですけどラストリコレクションの主題歌のVITAいいですよね
後半にScar/letの音楽が入るのが好き
リコリスはユージオが生きるところまでやりました
ユージオ生存RTAはアリスと共に戦って、木剣のくだりをさきに進ませる必要があったんですね




 「ぐーーーーおーーーっ」

 

 PoHの動きが止まったのを視界に捉えた俺は、右手に握っていた夜空の剣に意識を向ける。

 《スターバースト・ストリーム》は16連撃の攻撃を放つソードスキルだ。そしてその最後の攻撃はPoHに弾かれたことで終了している。

 

 だがこのチャンスを逃すわけにはいかない。

 

 ユージオが、シルバー・クロウが、そしてもう一人の俺が作ってくれたこの瞬間を、失うわけにはいかないんだ。

 

 「キリトーー!!」

 

 「キリトくん!!」

 

 ユージオとアスナの声が聞こえる。

 いや、二人だけじゃない。

 この戦いを見守っているみんなの声がーーー

 

 夜空の剣が輝きを放つ。

 鎧から離れ、剣に宿った沢山の意志が俺に力を貸してくれる。

 

 『ーーーパパ!!』

 

 最後に鈴のような声が聞こえ、夜空の剣にライトエフェクトが再び灯る。

 俺の身体は硬直で固まることがなく、導かれるように動きだした。

 

 「受け取れーー!!PoH!!!」

 

 まるであの時のーーガブリエルに最後の攻撃を放った時のように叫んだ俺は17連撃目の剣を奴の身体に叩き込んだ。

 

 

 「な…にぃ…!!」

 

 《スターバースト・ストリーム》の一撃を受けたPoHは呻き声を上げながら崩れ落ちる。

 シルバー・クロウの攻撃によって破壊された鎧は既にその機能を有しておらず、やつの身体は再生する気配を見せなかった。

 

 「…飛び込んできてくれて助かったよ」

 

 「誰かに背を押された気がしたんだ…」

 

 俺の言葉にそう答えたスプリガンの少年は後方でアスナに抱き抱えられているヴァベルを見やる。

 エクスキャリバーが吹き飛ばされた時、俺は背後から彼の走る音が聞こえていた。

 《黒の剣士キリト》があの状況で放つ攻撃は《ヴォーパル・ストライク》だろうと半ば確信していた俺は、17撃目を発動するために意識を割くことができたのだ。

 

 ALOのシステムで発動するソードスキルには魔法属性が付与されていることもあり、災禍の鎧には一定の効果があったらしい。

 

 

 それにしてもシルバー・クロウが鎧を纏うのには驚いた。

 ヘルメス・コードで激闘を繰り広げた手前、あの姿には思わず構えてしまうが落ち着いているのを見るに暴走などはしなさそうである。

 

 …そう言えば俺の世界のクロウ達はどうしているだろうか。

 確か最後に別れたときはメイデン…謡のアバターを救出するために《無制限中立フィールド》に入っている筈である。

 

 ここでの戦いを考えるとかなりの時間のダイブをしていることになるわけだが、現実世界での時間は数秒しか過ぎないというのだから恐ろしい。

 

 「なんだよ…、16連撃じゃなかったか…?」

 

 聞いてないぜと乾いた笑いをあげるPoHに、俺は視線を向ける。

 

 「結局てめぇはそうだ。俺がどんなにお膳立てしてもそれを越えていきやがる」

 

 「…お前の思い通りに動いてたまるか」

 

 俺の言葉にそうかよ、と返したPoHの身体は徐々にデータの粒子となって消え始める。

 ここで倒されたPoHは一体どうなるのだろうか。

 

 アンダーワールドのそびえ立つ木にまた戻るのか、それとも彼はただのサイバーゴーストとしてこのまま消えるのかは今の俺にはわからない。

 ただわかるのは、彼が倒されたということだ。

 

 こちらの肩に手をおくユージオに頷きを返した俺の姿は《夜空の剣士》としての服装ーーつまりはカセドラルで着用していた服装に戻っていた。

 ユージオともつもる話はあるが、まだやることが残っている。

 

 「キリトくん…」

 

 アスナの腕の中のヴァベルはいまだに目を覚ます気配を見せない。

 PoHからのダメージもあるだろうが、彼女自身が起きるのを拒んでいるのだろう。

 この状態をわかりやすく表現するならそう、アンダーワールドでフラクトライトを傷つけてしまった俺が 目覚めなかったように。

 

 「ユイーーヴァベルは自分が消えるべきだと思っているんだ。だから傷を治しても起きないんだと思う」

 

 「どうすればいい?」

 

 俺の言葉に解決法があると践んだのだろう。

 スプリガンの少年の言葉に俺は手元の夜空の剣を見据える。

 俺が帰ってこれた時はそうーー。

 

 「…声を。声を届けるんだ。彼女が戻ってこれるように」

 

 それも沢山の声が必要だと続けると、彼は思案するように仲間達の顔を眺める。

 

 彼女を目覚めさせるには想いの力が必要だ。

 俺や彼。アスナだけの力ではきっと足りないだろう。

 彼女の1000年間の孤独はそれ程のものなのだから。

 

 

 「セブン」

 

 キリトの言葉を受けたプーカの少女はこくりと頷くと懐から羽飾りを取り出した。

 取り出した羽飾りは自分の罪。しかしこの力は彼女を救う力になる筈だとセブンーー七色・アルシャービンの頭は一つの解を弾き出していた。

 後悔を飲み込むように一度瞳を閉じた彼女はその羽飾りをヴァベルの手に握らせる。

 

 「こっちのユイちゃん…便宜上ヴァベルちゃんって呼ぶけど、簡単に話せばプログラム自体が停止しているスリープ状態なんだと思う。だから外部から刺激を与える必要があるんだ。それが声を届けるってこと」

 

 『キリト』の言葉は抽象的ではあるがそう言うことだろう。

 エラーを起こして止まってしまったプログラムに追加のコードを入力し、再び動かすようにする。

 しかし想いーー感情と来た。

 遥か未来で感情を持ったAIを治療する。しかも猶予はない。

 通常であれば諦めるところであるが、手段は既に存在していた。

 

 「《クラウド・ブレイン》の応用を使えばヴァベルちゃんに皆の感情を届けることができると思う」

 

 プレイヤーとしてVR世界を渡り歩く傍ら、VR技術の研究者を務める天才少女でもある彼女が研究していたもの。

 

 《クラウド・ブレイン》と名付けられたそれは、人の脳の演算能力をネットワーク上で一つにまとめ上げ、クラウド化・共有することでコンピュータのCPUには作り出せないハイスペックかつ情緒的な演算処理システムを構築するという研究だ。

 

 この羽飾りは彼女がALOの中でアミュスフィアの感情スキャン機能を用いて、人の心のリンク状況の統計を測ろうとしていた時に使用していたアイテム。

 

 実験自体は滞りなく進んでいたが、集約された膨大なデータに自分が耐えきれなくなり暴走してしまったところを当時実験への解疑心から敵対していたキリト達に助けられたのだ。

 

 「…やろう、皆。ヴァベルのーーユイの未来を悲しい物語で終わらせるわけにはいかない」

 

 「お願い、力を貸してください」

 

 「お願いなんていらねぇよ!仲間だろ!」

 

 「こいつの言う通り、頼まれなくてもやってたさ」

 

 キリトとアスナの言葉にいち早く頷いたのはSAOから古い付き合いのあるクラインとエギルだ。

 シリカやリズベット達も二人の言葉に同意するように笑みを浮かべる。

 

 「その話、私達にも協力させてくれ」

 

 「先輩!!」

 

 シルバー・クロウに声をかけられたブラック・ロータスは彼の装甲を覆う災禍の鎧に一度動きを止めるが、また君は無茶をして…と苦笑する。

 

 「ペルソナ・ヴァベル…彼女はシステムを超越する力。心意を駆使してこの世界に干渉してきた」

 

 「そして心意は強い意思の力で事象を引き起こす…私達はそうして心意の技を発動しているの」

 

 「皆さんのヴァベルさんを助けたいという想い、それを束ねる手伝いをさせてほしいのです」

 

 上からアクア・カレント、スカイ・レイカー、アーダー・メイデンが続く。

 

 こうして異なる仮想世界を生きる者達は一人の少女を救うため、再び力を合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 「それじゃあいくよ!」

 

 ユナの言葉を筆頭に、アインからメロディーが流れる。

 

 気持ちを合わせると言われれば簡単だが、この人数の感情を一つに纏めるのは中々困難であることが予想された。

 その為に用いたのは『歌』という単純で、かつ分かりやすいものであった。

 

 自分の憧れでもある存在の歌に感情が高まるセブンであるが、やることはしっかりこなさなければならない。

 ユナの歌を起点にプログラムを発動させると、各自に持たせた羽飾りが光を放ち、ヴァベルの手にある羽飾りに注がれる。

 

 「ユイ、皆君を待ってる」

 

 「ユイちゃん…」

 

 「ファルコン、ブロッサム…あの子を助けるために力を貸してくれ…!」

 

 「ユイ…!…、お姉ちゃん…!!」

 

 ヴァベルを助けたい、その想いはその場にいる彼らを包み込み、大きな光となってやがて一つになった。

 

 

 

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 「ーーーーん」

 

 チュンチュン、と小鳥の鳴く声で目を開ける。

 

 アインクラッド22層は自然が豊かなエリアであり、自分が暮らしている家は木々が生い茂る場所にある。

 なのでこういった朝はよくあることだ。

 

 台所からは規則的な音と共に何かを切る音、そして鼻をくすぐるスープの香り。

 目を擦りながらあくびを一つ。

 昨日はそう、湖のヌシを釣り上げたとかで宴会を開いていたのだ。

 

 流石に子供は早く寝なさいと言われ、宴会は途中で切り上げることになったが、ニシダさんが上機嫌に歌っていたのが印象に残っている。

 

 朝ごはんはそんなヌシを使ったものだろう。

 料理上手な母がどんなものを作っているのか楽しみである。

 

 「ただいま」

 

 「おかえりなさい、そろそろできるよ」

 

 「そりゃ良いことだ。お腹ぺこぺこだよ」

 

 そうこうしているうちにドアを開ける音と一緒に父の声が聞こえる。

 きっと朝の鍛練を終えたのだろう。75層の敵を倒したとはいえアインクラッドはまだ25層も残っている。

 踏破するための自己研鑽は必要である。

 

 「あの子、呼んできてくれる?」

 

 「夜は騒がしくしちゃったからな…わかった」

 

 階段を登る音が聞こえた為、慌てて準備を整える。

 お気に入りのワンピースに着替え、寝癖が無いかも確認。うん、今日もバッチリ。

 トントンとノック、そのあとゆっくりとドアが開かれる。

 入ってきた父に飛び込むと、若干バランスを崩しながらも抱き止めてくれた。

 

 

 「おはようございます、パパ」

 

 「おはよう、ユイ」

 

 笑顔で挨拶をすれば頭を撫でながらそう返してくれる父。

 このログハウスで過ごす日々が、少女にとっては願っていた日々であり、幸せの象徴でもあった。

 

 

 だからこれで良い。

 

 もうこれ以上なにも必要ない。

 

 自分の居場所はここなのだから。

 

 

 

 

 

 

 




未来に乗り込んだ原作と違うところは皆で気持ちを届けようとなったところです



感情のデータを未来に送ってヴァベルを助けようという感じですね
一人一人の想いを纏めてクラウドブレインを使った演算処理を行いながら未来に送るので1000年なんてあっという間です
なんか強そうなボスを倒さなかったりバベルの塔を閉めなくても良いです

自分で解釈した設定に頭を悩ましていますが、ヴァベルは未来からアバターだけを飛ばしていて、過去で消えても本体に影響がないから歴史の上書きに踏み切ってると解釈してます
自己破壊は禁止、仮想世界の母ならそこら辺のカーディナルよりも強い権限があるから消えようにも消えられない

だから過去でユイを消して自分は未来に戻り、上書きを待つことにしたのかなと
時間のことって難しい

思ったよりやりたいことが増えたので話が多くなりそうですが頑張ります




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第七十一話:理想の世界

こつこつと進めていきます


 

 「ここは…」

 

 ヴァベルを目覚めさせるために仲間達と気持ちを合わせていた俺は、気がつくと森の中に倒れていた。

 立ち上がって周囲を見渡すが、仲間の姿は無く聞こえるのはカラスの鳴き声と緩やかな風が髪を撫でる。

 

 視界の端に黒光りする何かが見えたので近づくと、そこにあったのは俺の相剣でもある黒いヤツ、夜空の剣であった。

 

 地面に落ちていた夜空の剣を拾い上げて鞘に納めようとした俺は、既に吊り下がっていた(・・・・・・・・・・)夜空の剣を見て動きを止める。

 

 どこからどう見ても夜空の剣である。

 唯一無二である筈のこの剣がなぜ2本もあるのだろうか…

 

 

 何処と無く違和感を感じながらも反対側の鞘ーー青薔薇の剣が収まっていた場所に剣を吊り下げた。

 

 また新しい場所に転移してしまったのかと考えるが、この景色はどこか見覚えがある。

 記憶をなぞりながら道を進んでいくと、そこには大きな湖。

 

 さらにそこを過ぎれば見覚えのあるログハウスが建っていた。

 

 アインクラッド22層。

 俺達が穏やかな日常を過ごしたあの場所。

 

 俺が心神喪失を起こした時のことはやや朧気ではあるが、何となく覚えてはいる。

 SAOが発売目前に近づいたあの時。

 中学生時代の景色に、かつての記憶に。

 ユージオを含め数々の物を失った罪悪感に囚われていた俺は、仲間たちに助けられて自分を取り戻すことができた。

 

 恐らくここはユイーーペルソナ・ヴァベルが囚われている世界だろう。

 彼女の中にはこの思い出が残っているのだ。

 

 「とりあえずユイを見つけないとな」

 

 こうして意識を持って彼女に接触できそうなのだ。

 彼女が目覚めるきっかけを作れれば良いのだが。

 

 …しかし彼女を目覚めさせても待っているのはカーディナルによるデータ消去だ。

 未来に戻ることになっても結局彼女は一人のままになる。

 このような出来事を起こしているから未来のストレアなどがフォローをしてくれるだろうが、根本的な解決にはならないだろう。

 

 「……あ」

 

 ふと、考えが浮かんだがそれは彼女が承諾してくれればの話だ。

 一先ずは頭の片隅に留めておくことにする。

 

 そんなことを考えているとガサガサという音を立てて茂みが揺れた。

 黒い衣装にポニーテール、銀色の仮面を付けた少女。

 少女は俺を見つけると戸惑いの声をあげた。

 

 「…パパ?」

 

 「お前…ヴァベル?」

 

 茂みから現れたのはこちらが探していたペルソナ・ヴァベルその人であった。

 まさかこんなすぐに遭遇することになるとは思っていなかったので動揺を隠せないが、彼女も驚きの顔を見せていた。

 

 「何でここに…ああ、私を起こしに来てくれたんですね」

 

 「そうなんだけど…よくわかったな」

 

 「これでも長生きなので想像はつきます」

 

 曖昧な笑みを浮かべながらそう答えた彼女は、銀色の仮面を外しながら此方を見る。

 身長などもデザインし直したのだろう、ユイのあどけない印象は面影を残しつつも、大人になったらこんな感じなのかと思わせる。

 

 「ユイ…大きくなったんだな っと」

 

 「こ、子供扱いは止めてください…」

 

 思わず頭を撫でようとするも、頭の上で手をバッテンにしながら距離を取られてしまう。

 そのままヴァベルはこほん、と仕切り直すように話し始める。

 

 「あの男…PoHに攻撃された時、その大きすぎるダメージから私は強制的にスリープモードに入りました」

 

 あの攻撃は心意攻撃でもあったたらしく、《カラミティ・ヴァベル》としてボスキャラ扱いになっていたことも加味したとしても《MHCP》として《破壊不可能オブジェクト》に設定されていた筈のヴァベルに攻撃を通していたらしい。

 

 「次に気がつくとこの場所にいました。私というプログラムの中でもユイとヴァベルは同一人物ではありますが、育った時間がありますからね」

 

 彼女のプログラムはまず千年を生きたペルソナ・ヴァベルとしての自我データを隔離し、ダメージを修復しようと試みたそうだ。

 

 「ただその…目を覚ませば私はカーディナルに消されることが決まっています。そこを自己保管プログラムが読み取ったと思うんですが…出来てしまったみたいで…」

 

 「…何が?」

 

 ヴァベルはうう、と唸りながら言葉を探すように視線を動かすとポツリと呟いた。

 

 「………です」

 

 「…すまん、もう一度言ってくれ」

 

 「ダ、ダンジョン…です」

 

 

 

 

 「その前に、私がなぜあの様に行動したのか説明します」

 

 俺がヴァベルの言葉に固まっている中、おずおずと彼女は話し始める。

 

 俺達の前に現れて戦ったペルソナ・ヴァベルは未来の世界から時間の流れを通ってやってきた。

 

 ただ彼女はMHCPというプログラムである。

 未来の世界には彼女のコアにあたるプログラムが存在しているため、俺達の時代で消去されてしまっても復活することができる。

 

 このことが今回の事件を引き起こす原因の一部でもあった。

 

 例えあの場でカーディナルに消されたとしても、未来のコアプログラムが無事ならヴァベルは消えることがない。

 俺達でいうとアバターが倒されただけで現実の体には影響がない形だ。

 

 だからまずはそこから切り離す状況を作り出す必要がある。

 

 ALOに入り浸っていた時やユナイタルリング事件の時のように、ユイは俺達と一緒に過ごす時はその場で過ごしている。

 

 勿論何も無い時は俺のPCにいるだろうが、自分をコピーして色々な場所に現れるようなことはあまりしていない。

 

 コピーされたフラクトライトや、黒ユナのように複製されたことによる自我崩壊を起こしてしまうからだ。

 

 ヴァベル自身も災禍の鎧や入念な準備の結果あの場に現れることができたわけで、基本的には未来のストレアがしたような限られた時間の干渉が限界。そもそもあれもヴァベルの計画を利用してのことなので普通はできないらしい。

 

 「私はユイをコアプログラムごと消去し、彼女が消えたことによる歴史の上書きを利用することで消えようとしました」

 

 セブンの準備ができるまでに彼女についてちゃんと共有されていたが、改めて聞くと条件が厳しすぎる。

 

 それを実行寸前まで進められたのだから凄まじいものだ。

 

 「その結果は…まあご存知の通りですが」

 

 消えてしまいたいという思いは消えてはいないだろうが、自身の目的が失敗した以上、諦めに近い感情があるのだろう。

 未来に戻れば未来のストレア達が彼女のフォローをするだろうし、そう言う意味でも彼女にとってはあれが最初で最後のチャンスでもあったのだ。

 

 「ここまで話してようやくダンジョンの話に移れるのですが、ここは簡単に話すと私のコアプログラムの中に当たります。パパはアバターだけ未来に来ているってことになりますね」

 

 「…マジか」

 

 「私が来ているので理論上は可能ですが、人間であるパパには千年の時を越えるのは不可能…魂が…フラクトライトが磨耗して持ちません」

 

 要はアンダーワールドで俺とアスナが時を過ごしたようなことを千年分やるということだ。

 星王キリトは二百年生きれたらしいと聞いたのもとんでもないが、その五倍である。

 

 「七色博士のクラウドブレインシステム、パパの夜空の剣に込められた心意エネルギー。私とパパの因果関係…それを換算してもアミュスフィア(・・・・・・・)の出力ではここに辿り着くことはできないはずですが…」

 

 「それは…」

 

 元々の予定ではクラウドブレインシステムを使うことで全員の心意を未来のヴァベルに届け、絶望に囚われているだろう彼女に働きかけるというものであった。

 

 なので彼女のコアプログラムに接続していることは成功しているのだ。

 偶発的に俺の意識がそこで目覚め、会話できているだけにすぎない。

 原因はわからないが、恐らく俺がミニSTLとも言えるニューロリンカーを装着していることと、俺という魂が二十年程とは言え実際に別世界の未来へ時を越えたことも関係しているのかもしれない。

 

 まさか俺の体が未来まで残ってるわけでもあるまいし。

 

 今も祈っているだろう皆との違いはそれくらいだからだ。

 

 ただ考えているだけでは状況は変わらないので、俺はヴァベルの言葉を咀嚼しながら現在の状況を整理することにした。

 

 「…とにかくここが未来の世界なのはわかった。ユイは目を覚ましたいけど誤作動した自己保管プログラムが目を覚まさせないようにダンジョンを作り出した…ってわけか」

 

 「…恐らく一瞬でもGMコンソールを通してカーディナルと接続したのが原因でしょう。時間移動や私が世界の悪意を取り込んでいたことでの負荷も合間って生み出されたのかと…」

 

 「俺が戻るには…」

 

 「少なくともダンジョンクリアが条件だと思います。私を目覚めさせるのが目的ならそれが達成されれば…」

 

 話していて思い出したが、俺達は彼女を目覚めさせるために動いていたのだ。

 

 「それなら話は簡単だな」

 

 「簡単…?」

 

 腕を組みながら頷く俺にヴァベルは首を傾げる。

 ダンジョンがある。それをクリアしなければ先に進めないのであればやることは決まっている。

 

 「…そうですね」

 

 俺の考えていることに気づいたのだろう、呆れたような笑みを浮かべながら頷いた彼女にもう一度頷き返した俺はダンジョンの入口であろうログハウスに視線を向けた。

 

 「いくぞ、ダンジョンアタックだ」

 




最終ダンジョンです

とらわれたユイをたすけよう
ただしそのあと彼女は消えるとする

なんで剣が二本あるんですかね



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第七十二話:記録の刺客

気がついたらもう少しで年を越すみたいです

パチンコSAOをやってみました
主題歌だけでなくBGMも聴けるのはいいですね

結果?

…死んでも良いゲームなんてぬるすぎるぜ(目そらし)


 

 「…正直、こうなるとは思ってました」

 

 ログハウスに入った俺達を待っていたのは、ヴァベルが心の中にしまっていたであろう映像と、彼女の独白であった。

 MHCPとして多くの感情を観測した彼女はバグを蓄積し、今の存在になった。

 そんな彼女にとって、22層での日々はとても幸せだったのだろう。

 俺にとっても、アスナにとっても、あの時過ごした時間は今も色褪せないで残っている。

 

 「ダンジョンの性質は恐らく私の記録、それにまつわる形で此方の行く手を阻む何かが出てくるはずです」

 

 

 ピシリ

 

 

 空間にヒビが入る。

 ヒビは大きな音を立てながら広がっていき、ログハウスの内装が音を立てながら崩れ去った。

 

 崩れた景色の先には見覚えのある地下迷宮。

 忘れることはない、アインクラッド第1層に突如として現れた地下迷宮だ。

 

 

 夜空の剣を抜いた横で、ヴァベルもレイピアを抜き放つ。

 

 「…やっぱりこいつか」

 

 剣を構えた俺達の先にゆらりと現れたのは死神のようなフードと、大きな鎌を携えたモンスター。

 

 《The Fatal Scythe(ザ・フェイタルサイズ)》の名前を持つボスモンスターは俺達を捉えると、鎌を構えて突進してきた。

 

 「来るぞーー!!」

 

 奴の攻撃は痛い程知っている。

 当時の俺はアスナと二人がかりで攻撃を受け、吹き飛ばされた。

 一人で受けるのは自殺行為だろう。

 

 しかしあの時とは違う。

 

 多くの戦いを経て俺だって成長しているのだ。

 

 袈裟斬りに振り下ろされた刃を視界に捉えた俺は、迎撃の構えを取る。

 

 リィン…リィン…と音を響かせながら両手剣程の大きさになった夜空の剣を構えた俺は、ソードスキルを発動させた。

 

 「う…おおお!」

 

 セルルト流《輪渦》は水平斬りと斬り上げのどちらでも発動できる攻撃だ。

 《スラント》と同じように複数の構えから発動できるのは戦いにおいて大きなアドバンテージを持っている。

 迷うことなくソードスキルを発動した俺の剣は死神の鎌と衝突し、ギィィィィィン!!と大きな音を立てた。

 

 「やあぁぁっ!!」

 

 動きを止めた死神に飛びかかったヴァベルは、レイピアをライトエフェクトに光らせると閃光のようにその刃を閃かせる。

 

 細剣ソードスキル《クルーシフィクション》。

 縦と横に三連続で突くことで十字を描くように放つ六連撃技だ。

 ついでと言わんばかりに《水月》ーー体術スキル単発回し蹴りを発動させている。

 飛びながらソードスキルを放てばスキル発動による硬直で動きが止まるのは周知の事実であるが、地上で発動した時に比べて体勢と言うものはやや崩れてしまうものだ。

 

 そこから《剣技連携(スキルコネクト)》で繋げられる体術スキルを発動させたのだろう。

 俺達のようなプレイヤーではできないコンマ数秒を正確に認識してこの技を発動できるのは彼女がAIであるゆえだろう。

 

 水平蹴りを叩き込んだヴァベルは更にそのまま《弦月》によるサマーソルトキックを打ち付けた。

 そして空中で一回転することになった彼女の構える細剣は再度ライトエフェクトが輝いており、細剣スキル《リニアー》を発動させているのが見えた。

 

ーーーそこ繋がるのかよ!!

 

 思わぬスキルルートに驚きを隠せなかったが、流石にヴァベルもこれ以上攻撃は続けられないらしい。

 

 「パパ!!」

 

 攻撃を防がれ、体勢を崩したところに更に攻撃を受けた死神は大きく体を仰け反らせた。

 地面に着地し、チャンスとばかりに此方を呼ぶヴァベルに、スキル発動の硬直から回復した俺は頷きと共に夜空の剣を肩に担ぐ。

 

 別に剣技連携は俺の専売特許と言ったわけではないが、ああも綺麗に繋げられるとやや思うところもある。

 

 バック転を繰り返しながら距離を取ったヴァベルを視界に収めながら、俺は《ヴォーパル・ストライク》を死神に放つ。

 

 俺とヴァベルのコンビネーションで大きなダメージを受けた死神だが、ここで体勢を立て直して鎌を振り上げる。

 その攻撃に対して俺はソードスキルの硬直で動きを止めているため対処することができない。

 

 このままでは俺の体はその大きな鎌に切り裂かれてしまうだろう。

 

 通常なら(・・・・)

 

 

 「ここだろ…!!」

 

 左腕に意識を集中。

 攻撃の前に抜いていたもう一本の夜空の剣がライトエフェクトに包まれ、そのまま死神に向かって飛び出していく。

 

 水平に振られた剣の軌跡が正方形を描く。

 

 片手剣四連撃《ホリゾンタル・スクエア》

 

 そのまま先ほどの逆、右腕に意識を移行させる。

 自分の脳が左右別々の思考を行うことによる違和感が俺を襲うが、ここで意識を結合させてしまうと失敗してしまう。

 

 夜空の剣がライトエフェクトを迸らせ、先ほど描いた正方形を上書きするように軌跡を描く。

 

 左右での《ホリゾンタル・スクエア》を放った俺は、続いて《サベージ・フルクラム》を叩き込む。

 片手剣重三連撃を放ち、再度右腕の夜空の剣を担いだ俺は慣れ親しんだスキルモーションを脳裏に呼び起こした。

 

 剣技連携の成功率は4~5割程だと認識しているが、無事にライトエフェクトが夜空の剣を包んだのを感じとる。

 

 かつて《エクスキャリバー》を手に入れる為に挑んだクエストでは四回繋げることができた。

 そしてあのVR空間でのヒースクリフとの戦いで、そこからもう一撃を繋げ、五回。

 

 繋げたソードスキルは違うが、再び俺は五回の剣技連携を成功させることができたのだ。

 

 「うおおおおっ!!」

 

 再度放たれた《ヴォーパル・ストライク》はしかし、振るわれた鎌と衝突してその威力を飛散させた。

 

 

 ソードスキルによる攻撃を受けたモンスターは基本的に体を仰け反らせるなりの反応を見せる。

 だからこそスイッチを繰り返すことで相手の隙を作り、なるべくダメージを受けないように攻略していくのだ。

 

 俺とユイが行った剣技連携は所謂一人で連続攻撃を叩き込み、擬似的なスイッチをしていた状態だ。

 

 

 しかし相手はボスモンスター。

 やられっぱなしと言うわけでもなく、ある程度の攻撃を受ければ反撃をするようになっていたのかもしれない。

 

 「くそ…っーーーユイ!!」

 

 思わぬ反撃で攻撃を防がれた俺は悪態をつく。

 しかし十分時間は稼いだだろう。

 距離を取ったヴァベルに声をかけると、彼女は飛ぶように走り出していた。

 

 

 レイピアを構えながら加速を続けるヴァベルは大きく地面を蹴ると体を引き絞り、その細剣を勢いのまま突き出す。

 

 「やぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」

 

 ソニックブームを残しながら突き刺さったその攻撃は細剣ソードスキル《フラッシング・ペネトレイター》だ。

 発動に一定の助走が必要ではあるが最上位ソードスキルと言うこともありその威力は高く設定されている。

 

 攻撃を受けた死神はその体を硬直させると、青いライトエフェクトと共にその体を爆散させたのだった。

 

 

 

 

 終始圧倒できたように思えるこの戦いだが、剣技連携による連続攻撃が上手く嵌まっただけでもある。

 ヴァベルーーユイがここまで戦えるとは思っていなかった。

 

 かつてアリスに教えを受けていた頃から更に洗練された立ち回りと、どことなくアスナを思わせる細剣さばき。

 そして恐らく俺よりも精度の高い剣技連携。

 

 仮想世界を生きる中で一体どれ程修練したのだろうか。

 

 「…すごいな、まさかここまでとは思わなかったよ」

 

 「敵対勢力と戦うこともあったので…」

 

 やや照れくさそうにレイピアを鞘に納めた彼女はですが、と言葉を続ける。

 

 「私が戦うようになった頃にはパパ達は居ませんでしたし、こうして一緒に戦えるのは少し、嬉しいです」

 

 「ユイ…」

 

 「それにやはりパパの動きは凄いですね。二刀流による剣技連携は流石の精度です」

 

 「それはユイもしてたじゃないか。あそこから繋がるのは知らなかったぞ。小剣を使ってた時よりも様になってたし」

 

 戦いを終えて距離が近づいたのかなんとやら、思わぬ談義に話が弾んでいる。

 まさか娘とソードスキルについて話すときが来るとは思わなかった。

 

 そんななかふと、ヴァベルが疑問を投げ掛けてくる。

 

 「そういえばパパは別の時間軸から来たんですよね」

 

 「ん…ああ、あの時のユイは今思うと面白かったな。…『妖精は物覚えが悪いようだな』」

 

 「や、やめてください。他の二人居たことで違和感に気づけましたが、普通パパが二人いるなんてわかりませんよ」

 

 声を低くしながら初めて彼女にあった時の真似をすると、何とも言えない表情を浮かべながら返してくる。

 

 「あの時心意攻撃を受けてたって話してたけど…」

 

 「私が心意を扱って過去に干渉していた際に、何者かが心意技をぶつけてきたんです。恐らく《ブレイン・バースト》のシステムを扱っている者だと思うのですが…」

 

 間違いなく俺達が調査していた時に放たれたグラファイト・エッジの心意技だろう。

 後々聞いてみるとシルバー・クロウ達は吸い込まれたとは言え、自分から影に近づいて飛び込んだらしい。

 まさか迎撃しようと考えるやつがいるとは思わなかったのだろう。

 心意攻撃を受けているかもしれないと提言したのは俺ではあるが、あれがヴァベルに負担をかけたと考えると謝った方が良いのだろうかと考えてしまう。

 

 「それにアリスさんまで…あの余波なのかわかりませんが《アンダーワールド》の住人が来るなんて」

 

 「俺も驚いたよ。こんな事件に巻き込まれるなんて思わなかった」

 

 「そうするとパパは今アンダーワールドで過ごしている途中ーー」

 

 「ユイ?」

 

 話している時に何かに気づいたのだろうか。

 難しい顔をしたヴァベルに話しかけると、彼女はぶつぶつと何かを呟いている。

 先ほどの会話に何か違和感でもあったのだろうか。

 スプリガンの俺との違いは別の時間軸から来ていると言うことで説明した筈なのだが…。

 

 「ーーパパはどの時間軸から来ているんですか?」

 

 「え?」

 

 想定していなかった質問に思わず変な声を出してしまう。

 時間軸もなにも俺はーー

 

 

 「どうして私が剣を扱えたこと(・・・・・・・)を知っているんですか?」

 

 

 「それは…ユイが《ユナイタル・リング》でアリスから剣の手解きを受けたのを見たからで… !!」

 

 ここまで話してようやく気づいた。

 彼女が気づいた違和感はまさにこれである。

 

 彼女の視点で俺はアンダーワールドから来ていると思われているのだろう。

 違う時間軸で過ごしていた俺が巻き込まれ、ユージオと共に来た。仲間にもそう話しているし、その方が都合が良いからだ。

 

 しかしそれは表向きの話だ。

 

 元々俺と言う存在は、並行世界の桐ヶ谷和人のフラクトライトに書き込まれた存在だ。

 ブレイン・バーストをプレイし、そこでキリトとして活動している。

 

 俺がユージオとアンダーワールドにいる。

 それはヴァベルの視点からすると《死銃》によって倒れている俺が来ていることになるのだ。

 

 ユナイタル・リングの出来事は知らない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)俺が。

 

 「…ええと」

 

 ヴァベルが未来のユイなら気づくことでもある。

 俺が経験するであろうことを彼女なら知っているからだ。

 思わぬ事態に狼狽えながらも、俺は彼女にありのままを話すことに決めた。

 

 「…パパのあの時の言葉は」

 

 「まあ…現在進行形で体験しているというかなんというか…。それでもどうにか進んでるよ。過去に囚われたら進めないからさ」

 

 頬をかきながらそう返すが、ここに来て倒れていたり、以前のハルユキとの会話で感情が抑えられなかったりと思い返せば不甲斐ない部分もあるのもまた事実である。これは少しずつ乗り越えるしかないのかもしれない。

 

 「それでも、仲間はできたし大丈夫さ」

 

 そんなわけで早くこの事態を解決して元の世界に戻らなければならないのだ。

 依然として仲間達は大変な目にあっているのだから。

 …というか、あえて意識していなかったがここで出会ったハルユキ達は俺のいた世界からしたら未来の存在なのだろうか。

 

 しかも女性がまた多い。このままでは男子メンバーのヒエラルキーが再び地に落ちることに…。

 

 戦い続きとユージオ達と共に過ごしていたこともあってあまり話していないが、彼らから未来の情報を聞ければ戻ったあと役に立ちそうな気がする。

 

 「…それでもパパを真に知る者はそこにはいないんですね」

 

 「…そうだな。だからーー」

 

 続きを話そうとした瞬間、世界が歪む。

 迷宮区の中なのは変わらないが、気がつけば俺達は部屋の中に立っていた。

 

 警戒するように周囲を見渡して捉えたのは見覚えのあるコンソール。

 あの形はそう、俺が地下迷宮区で操作したGMコンソールだ。

 そしてその前に居たのは白いワンピースを着た黒髪の少女。

 

 「ユイ?」

 

 思わず隣のヴァベルに視線を向けるが、彼女の表情も固い。

 

 『私はパパやママに救われました』

 

 目の前のユイが喋り始める。

 その声はどこか無機質で、冷たい印象を俺に与える。

 

 『でも私は、他の妹達を置いて生き残ってしまった』

 

 その言葉と共にユイの回りに現れたのは7人の少女達。

 

 「…SAOに存在したMHCPは全部で9機。私とストレアはこうして未来まで生きていますが、それ以外の妹達はSAOで消滅してしまいました」

 

 ユイの言葉に補足するようにヴァベルがぽつりと呟く。

 気がつくと迷宮区だった周囲の景色は変化しており、大きな広場になっていた。

 

 ここは…紅玉宮の内部か?

 

 しかし《OSS事件》の時に訪れたそことはやや装飾が違う気もする。

 

 「先ほどのボスが私の理想…パパやママと共に過ごしたいという想いから現れたのだとしたらここは…」

 

 『ごめんなさい、皆…ごめんなさい』

 

 その言葉と共にユイと少女達は重なるように一つになる。

 そして地響きと共に巨大なナニカが現れる。

 

 人間大ほどもある紅玉から上半身が生えている異型のモンスターとも言えるそれは、どことなく女性のような印象を与える。

 

 「罪悪感…そう言うものから形作られたエリアになりますね」

 

 紫色を基調とした鎧を纒い、四本の腕を持つモンスターは此方を敵と認識したのだろう。泣き声のような雄叫びを上げながら敵意をぶつけてきた。

 

 「…パパ、行きましょう」

 

 「…わかった」

 

 ペルソナ・ヴァベルとして、ユイが抑えていた想いが彼女を目覚めさせるのを妨害しているのだ。

 ヴァベルの心を折り、目覚めさせないために。

 

 それでも戦うしかない。

 

 彼女を目覚めさせるために、俺がここを脱出するために。

 

 動き出したのは同時、攻撃を掻い潜った俺は挨拶代わりにソードスキルを叩き込んだのだった。

 

 

 

 




ヴァベルのスキルコネクトはキリトが推測した通り、コンマで繋がる技を選択してる感じです
回し蹴り、サマーソルト、一回転してからの突き技ですね

負けじとキリトが放ったスキルコネクトはロストソングでスメラギに放ったタイプのスキルコネクトになります
ホリゾンタル・スクエアの連続は格好いいですね

この小説を始めた当時の文庫ではアリシゼーション完結前でしたが、OSS、アリシゼーション完結、ユナイタルリングと続々と話が追加されてる状態なわけで、しれっと記憶のアップデートをしてきます
プロローグに乗せていた二〇二六年は矛盾が起きてしまうので削除しました。許して…

寒くなってきました、皆さんも体調にはお気をつけください




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