Tiny Dungeon ~next to generation~ (いどさん)
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プロローグ&第一章:憧れた世界とその始まりの一日

TinyDungeonの二次創作小説です。

この小説は本編プロローグにも書いておりますがEndlessDungeonの後の話になります。
主人公、ほかヒロインも完全オリジナルです。
設定もかなりオリジナル含んでます。(姫たちの卒業後を勝手に考えた上での小説なのでかなりオリジナル性が高いです)
そういった作品が苦手な方はお控えください。
原作主人公、ほかヒロインらもおそらくほぼ全員後々登場します。
かってにアフターストーリー書いてみたぜ!的なものとお考えください。
できるだけさくさく更新していきたいと思います。
大体1万文字弱くらいの分量で。
正直こういった小説をあげるのは短編以外では初なのでかなり読みにくいかもしれませんがご了承ください。
誤字脱字は注意しておりますがそれでもかなりあると思います。
すいませんがそのときはご指摘のほうよろしくお願いいたします。
もしよろしければ感想もどうぞよろしくです。



 

 

プロローグ

 

この話は、元勇者ゲンと現勇者の白鷺姫が戦い白鷺姫が勇者の称号を引き継いだ後、3階級に上がり妹の皇女やリンセ、ニコたちがトリニティに入学してきたあのころから数えて、二年後。

 

受け継がれ紡がれる、勇者白鷺姫の後輩たちの物語。

 

 

第一章:憧れた世界とその始まりの一日

 

 

「ここがトリニティ……四界において戦士や勇者を目指す者のほとんどが集まる学園。そして去年師匠が卒業した場所か」

俺は学園の門へと通ずる大通りで立ち止まりその巨大な城のような建物を見上げた。

ここは四界からトップクラスの実力を持った同年代のやつらが集まって一般教養とともに戦闘技術を学ぶための場所、トリニティだ。

今日はその入学式。

はれて今日からこの俺、仙城青葉もこの学園の生徒というわけだ。

この時をどれだけ待ち望んだことか。

去年のちょうど今頃、それ以前からこのトリニティに関心はあったけど明確にこの場所を見据えたのはまさにあの時、がむしゃらに強くなろうとしてたあの時にあの人に出会ってからだ。

そう思うと感慨深くもある。

「青葉、学園に行く前にひとつだけ覚えておくんだ。かつて俺たちが学園に通っていた頃よりはましにはなってるだろうけど、基本的にほかの種族は人族にたいしての目は厳しい。日常の中で常に差別的な目で見られるだろう。辛いだろうし厳しいだろうけど、周りの目なんてのは気にするな。わかってくれるやつはわかってくれるし、味方になってくれるやつも絶対にいる。それに世間の目なんてのは己の力で変えることもできる。だから、頑張って学園生活を送れよ。」

学園に入学が決まってすぐに師匠に言われたことを思い出す。

そうだ、学園に来れたからって浮かれるな。

この場所は俺にとってあこがれ望んだ場所なんかじゃないかもしれない。

「よし」

俺は覚悟と期待を同時に内に秘めるような思いで、立ち止まっていた脚を動かそうとした。

「あんた、こんなところで立ち止まって何してん?入学式に遅刻するで?」

「え?」

歩き出そうとした刹那に声をかけられ、俺は驚いて即刻出鼻をくじかれてしまった。

振り向くとそこには茶髪のメガネをかけた竜族の女の子が立っていて、不思議そうな顔をこちらに向けている。

「あ、いや何でもない。ちょっと感慨にふけってただけだ」

「そうかい、まあ確かにここでこうやって実際のトリニティを見るとすごいもんなぁ。写真とは比べ物にならへん」

竜族の女の子は気軽な口調で俺の話に乗ってくる。

俺の髪の色はもろに黒だし、身体的にも完全に人族よりだ。

この竜族の女の子は確実に俺を人族だとわかって話しかけてきている。

「まあとりあえず歩こや、ほんまに遅れるで」

「あ、あぁそうだな」

よくわからない関西弁のようなしゃべり方をするこの竜族の女の子はいったい何なのか。

俺の中では思考がぐるぐる回る。

ついさっきこの世界は甘くないと覚悟しなおしたばかりなのだ。

どうしてもこういう疑り深い目で他種族を見てしまう。

だが一応神族と魔族に比べれば竜族はかなり人族に友好だったはずだ。

だがかといってここまで親しげに話しに来るものなのか?

「なぁ、君は竜族だろう?」

「うん?そりゃ見たらわかるやろうに。この獣耳は偽物じゃないで?」

「いや別に竜族であるとこを疑ってるわけじゃないんだが、何故俺に話しかけた?」

不思議に思い、俺は直接聞くことにした。

「何故って、まあ道のど真ん中で突っ立ってたら気にもなるやろ」

「いやまあ、そうなんだが。こういう言い方はどうかと思うんだが俺は人族だろう?」

「せやな、まあそっちも見たらわかるわ」

「人族が他種族からどういう目で見られてるのか知ってるか?」

「あーまあ知ってるしわかっとるけど、今はその風潮だいぶ和らいできてるやろ。それこそ四界宣言で」

四界宣言。

半年ほど前、各世界の代表ないし代表格が同時に宣言した協定だ。

協定の内容は細かいところを言い出すと様々なものがあるが、一番大きいのは四界の代表をそれぞれを選出し、一つの四界の代表組織を設立することにある。

それぞれ各界が様々なことを提案し実行しようとしても、その実行には当然行う世界の代表とその組織に属したほかの世界の代表の同意を得ない限り実行できないというものである。

四界で四竦みの中、可能な限り協力を行おうという案の元に設立されたそれは全世界でかなりの衝撃を及ぼした。

当然、その各界が行うさまざまなことというのは今はそこまで細やかに厳しく設定されているわけではない。

主に戦争が起きた場合の処置などが対象だ。

一番の理由はやはり滅界戦争の再来を防ぐ、というのことなのだと思う。

そしてその組織に名を連ねたのが、魔族より魔界の黒翼ヴェル・セイン、竜魔の紅刃フォン・テルム、神族より神界の銀月ノート・ルゥム、神界第二王女アミア・ルゥム、竜族より最後の金竜ウルル・カジュタ、そして人族より、俺の尊敬する現勇者白鷺姫。

当然補佐が何人も存在しており、その中には魔族デイル・グラン、ラーロン・ハデラ、竜族オペラ・ハウス、人族白川紅、秋みや、神族サン・ミリオなどの名前がある。

それとは別枠の名誉顧問の名目で現魔族代表トリア・セイン、現神族代表ルアン・ルゥムの両名が連なっている。

まさしく各界のトップレベルの集まりというわけだ。

そういった人らが集まって我々はそれぞれを尊重し共存し合うべきだ、という宣言を行った。

これにより各界の人らは衝撃を受け受け入れるもの、反対するものと意見は数多く出たものの、世間はある程度、その協定と組織をよしとする方向に向かっている。

それより魔族と神族の犬猿の仲や人族を差別するといった風潮も徐々にだが和らいでいる。

まあ内情を知ってる方からすると、ただ姉さん達が師匠と一緒にいたいってだけで立ち上げた組織にしか見えないわけなんだが。

「それにもともと竜族と人族の関係はめちゃくちゃ仲いいとは言わんけど悪くはなかったはずやろ?」

「それもそうか」

さすがに考えすぎだったのかもしれない。

いくら忌み嫌われてる人族だとはいえ俺が思ってるほどではなかったということなのだろうか。

「さてそれじゃ中入ろや、確か入学式は直接闘技場に集合やったよな?」

「あぁ、闘技場にクラスでわかれて待ってればいいはずだ」

「あ、あんたクラスどこよ?って、そういや名前も聞いてなかったな」

「俺は仙城青葉だ、ちなみにクラスは剣」

「おぉ!クラス一緒や!あ、うちはエル・ミラドールっていうんよ、エルって呼んでくれたらええで」

「俺も青葉で構わない」

「おけ!てか思ったんやけど当然新入生やんな?」

「新入生じゃなきゃトリニティの校舎に感慨なんか受けないだろ」

「そうやんな!いやー入学式って在学生も出席するらしいしもしかして新入生じゃないっていう可能性も……って今思ったんやけどまあ違うわな」

「とりあえず闘技場へいこう。そろそろ時間がやばい」

そう俺が言った途端に予鈴のチャイムが鳴りだした。

「ほんまや、はよいかな!」

そういって俺たち二人は闘技場に向かって歩き出した。

闘技場は人で埋め尽くされ、正直どこがどのクラスなのか一切わからない状況だ。

「これどこが剣クラスなんだ?」

「人多すぎて何が何やらわからんなぁ」

ざわざわと騒ぐ生徒たちの中でとりあえず新入生の集まっている場所らしきところには着いたが、その後俺たちはどこに行ったらいいのか一切わからない状況だった。

そんなときにだ。

「おい、また新しい人族が来たぜ!」

その声は俺の近くにいた魔族の生徒から放たれた一言だった。

また?

つまりすでにここには何人かの人族がいるというわけだ。

それもこのあたりはおそらく新入生が集まってる場所だから在校生じゃなく新入生で俺以外に人族がいるということ。

珍しい、正直ここに来てる人族は俺一人だけだと思っていた。

「ん?なんだ、何か用か?」

師匠が言っていた差別的な目線。

まさしくそれを受けながら俺はあえて挑発するようにそっけなく返答してみせた。

「何で人族がこんなところにいてんだっつってんだよ!」

「ここにいたらいけない理由でもあったのか?俺はちゃんと入学試験をパスしてきたんだが。あぁそれとも俺が入るクラスはこの場所じゃなかったか?」

「はぁ!?何言ってやがる!」

今度は別の魔族も騒ぎ出した。

「ここはトリニティだぞ!わかってんのか、人族なんて言う雑魚が来るような場所じゃねぇっつってんだよ!」

「青葉、さんざんな言われようやな。すまん、さっきの言葉、撤回するわ」

「いやまあこんなもんだろとは思ってたけどな」

「何竜族とぺちゃくちゃしゃべってやがる!今すぐここから消えろ人族!」

 

---

 

「なあ、あっちの新入生の方なんだか騒がしくないか?」

カミシアちゃんが私に怪訝そうな顔をしながら言ってくる。

「確かに、騒がしいかも」

私もその方向に目を向けると何やら新入生が騒いでいるようだ。

「また人族がどうのって言ってるぞ、あれは。おい、皇女、実行委員としてあれは注意しないといけないんじゃないか?」

「あーうん、ヴェルさんもここに来るのにもう少しかかりそうだし、っていうかカミシアちゃんも実行委員でしょ」

「いやー私は何というか、ああいういさかいを止めるのは苦手というか、逆に炎上させてしまうだろう?」

「まあ言いたいことはわかるけど」

「というか、この光景を見るとまさしく私たちが入学した時のことを思い出すなー。あの時はフォンちゃんやヴェルママが止めてくれたけど、今回は皇女、お前が止める番だ!」

「それもそれでどうなのかな」

まあカミシアちゃんに任せるのも心配ではあるから結局私が行くんだけど、なんというか釈然としない感じ。

「ほら、カミシアちゃんも実行委員なんだから一緒に行くよ!」

「しょーがないなぁもう」

新入生の方に歩き出して、騒ぎを起こしてるところを除くと一人の人族の男の子と魔族の男の子数人が言い合いをしてるみたいだ。

その一人の人族の男の子を見て私は気が付いた。

「あ、そうかあの子が」

「ん?どうかしたのか皇女」

「ううん、何でもない」

「なら早く止めに入れ、余計に騒がしくなるぞ」

「あーうん、でもちょっと待ってもう少し様子を見よう」

「??」

カミシアちゃんは不思議に思ってるだろうけど、私はもう少し見てみたいのだ。

あの子がこの学園に来て、この現状を見てどう対処するのかを。

 

 ---

 

「はぁ」

俺はあほくさくなってため息をついた。

こいつらはこんなくだらないことを言って何が楽しいんだろうか。

「おいなんかいったらどうだ!人族ってのはみんなこうなのか?さっきのあいつもずっとだんまりだしよぉ!」

「さっきのあいつ?」

「あそこにいる子ちゃう?」

エルの指さした方に顔を向けると、背の小さな金髪の女の子が一人震えながら立っていた。

神族の金髪とは違う、いわゆる俺の住んでいた日本とは別の国の髪の色、人族の世界で言う外人だ。

神族は魔力を有するがゆえに白っぽい金髪になるがこの子は茶髪よりの金髪だった。

「お前もトリニティの新入生なんだよな?」

俺は魔族の相手なんかを一切無視してその女の子の近くまで歩み寄った。

「よろしく、俺は仙城青葉だ」

「え、あのえと」

女の子は恐怖でか、緊張でなのか声を震わせていてまともに返答ができていない。

「おいてめぇ!!俺たちを無視してんじゃねぇぞ!!」

突然だった。

後ろにいた魔族が無視したことにキレたのか、腰につけていた剣をぬいて俺に後ろから切りかかろうとしてきたのだ。

だがまあ俺もそんなことにいちいち驚いたりもしない。

そもそもそんな殺気ダダ漏れで後ろから攻撃したところで、今から攻撃しますよと言っているようなものだ。

一瞬。

相手の動きを完全に制したうえで。

俺は後ろの魔族が剣を抜き切る前に自分の剣を抜いて相手の魔族の喉元に突き付けていた。

突然の出来事に周りの連中が唖然としている。

一種の居合術だ。

足運びは何度も練習していたし剣を抜く速度も師匠と姉さんたち直伝で教わっている。

「おまえら程度じゃ俺には勝てねぇよ」

やっと状況を把握したのか、剣を突き付けられた魔族の男は一歩後ろに下がろうとして足をからませしりもちをついた。

「次は斬るぞ」

そういい終わってから俺は見せつけるかのように俺ができる最速の速さで剣を収めた。

「君たち、何してるの!」

そこでタイミングを見計らったように外から声がかかった。

「ここで騒ぎを起こしたら、私が入学式実行委員の権限で強制退場させます。わかった?」

おそらく、三階級の先輩だろう。

声の主をたどるとそこには黒髪の人族の女性と金髪の神族の女性が立っていた。

これはまさか。

「白鷺……皇女、先輩か」

俺は小声でそうつぶやいた。

---

 

(へぇ、さすが)

私は内心で感心していた。

あの子、仙城青葉君の実力にだ。

今ならともかく、明らかに私が一階級だった頃なんかよりは圧倒的に強いだろう。

ほんとにさすがは、って感じだね。

「ふふっ」

自然と笑みがこぼれてしまった。

「何だ、急ににやけだして」

「いやいや何でもないよ」

「それより、何かやけにあの人族の少年を気にしていたようだが」

「後で話すよ、ともかくもうすぐにヴェルさんが来て入学式始まると思うから、私たちも自分の場所に戻ろう」

「そうだな」

 

 ---

 

「新入生のみんな、入学おめでろう」

学園長の話はそんな一言から始まった。

登場するや否や、主に新入生から驚きの声が上がる。

なぜかというと、このトリニティの現学園長は、魔族王女、別名魔界の黒翼と呼ばれしヴェル・セインなのだ。

本来会うことすらほぼ無理な人物であるし、まさに四界宣言で時の人となっている。

この驚きは当然のことだろう。

「あれが魔界の黒翼。なんというか、さすがやな」

小声でエルが俺に話しかけてくる。

「あれが実質上の現魔族トップだ。トリアさんは名目上は現魔族代表だけど、ほとんど仕事を押し付けてるからな」

「そうなん?てかトリアさんて、知り合いちゃうねんからそんな気安く呼んだらだめやって」

一応は知り合いなんだが。

「これで私の話は終わりだし、入学式は終わりよ」

学園長の話がちょうど済んだようなので俺たちも私語は慎む。

「あ、そうそう忘れてたわ。これはただの連絡事項なんだけど新入生の仙城青葉、入学式が終わったらすぐに学園長室へ来なさい。それじゃ」

「以上で入学式を終了といたしますわ。学園長に呼ばれた生徒仙城以外は皆、それぞれの教室へ移動すること」

学園長が下がり、ピンクの髪をした竜族の女性が生徒に指示を出した。

「ちょ!あれデモンハントやん!滅界戦争の英雄やん!」

「バリアリーフ・クリート。ここにいるってことは、おそらく教員なんだろうな」

「さすがトリニティやなー、化け物みたいなのがごろごろいるわ」

「確かにな」

「確かにて、青葉もさっきの何よ。あんだけ速い居合も相当化け物やと思うで?」

「へぇ、見えてたのか」

「辛うじて、やけどなー。けどあんなもん避けれるきせぇへんわ。気麟でガードすんのがやっとやと思うし」

「あの速度に反応できると確信してる時点でエルも大概だと思うぞ」

「そんなことないて、正直戦闘はそんな得意ちゃうんよ。まあでも人族よりは戦闘には特化されてるのは確かやなぁ、気麟もあるし。だからさすがに魔族の子が切りかかってきたときは対応しようとしたけどそれよりも早く青葉が動いとったからなぁ」

「まあさすがに対処しないと今後的に問題が出そうだったからな」

「というかこんなのんびり話してる場合ちゃうやろ!なんか学園長に呼び出しくらっとったやん!魔界の黒翼の呼び出して、死刑宣告みたいなもんやん!今後のこと考える以前に何したんやあんた!」

「いや、単純に話がしたいだけだろ」

「そ、そんな軽いもんなんか?うちが呼び出されたりなんかしたら持てるだけの最強装備で理事長室向かうけどなぁ」

「最強装備ってお前な。というかそろそろ移動しないといけないだろ。俺は学園長室に行ってくるしエルは先に教室に行っといてくれ」

俺はエルにそういうと振り返って学園長室に向かおうとする。

すると振り返った先にはさっきの小柄な人族の少女が立っていた。

「あ、あの」

「え、あ、あぁ、さっきは大丈夫だったか?俺が来る前に何かされたりしてないよな」

「は、はい。大丈夫なのです」

「そうか」

「この子も人族やんな!うちはエル・ミラドールっていうねん!新入生同士よろしくな!」

「あ、あう、よ、よろしくお願い……します」

俺の後ろにいたエルが意気揚々と少女に話しかけてくる。

やはりこいつの人族への反応はいささかおかしいと思うんだが。

「そういえば、まだ名前を聞いていなかったな」

「わ、私はリノ・ルイヴィル・A・ヴァーモントと申しますです」

ルイヴィス・A・ヴァーモントだと?

偶然か?

それとも親族かなにかか?

「長いなぁ、リノって呼んだらええの?」

「はい……そう呼んでいただけたら」

俺は一瞬聞くべきか迷ったがそれ以前にもうおしゃべりしている時間がなさそうだ。

「っと話の途中で悪いがそろそろいかないとやばい」

闘技場にいる生徒のほとんどはもう出ており俺たちもすぐに移動しなければならない。

「話はまた後で昼飯でも食べながらしよう。俺はとりあえず学園長室に行ってくる。すまんがエル、リノのことを頼む」

「ほいほい、任された。それじゃ青葉もいってらっしゃいなー」

そこで俺は二人と別れ、少し急ぎ足で学園長室へ向かった。

トリニティに来ること自体初めてなので学園長室がどこにあるのかわからなかったが途中の案内板なんかを見ながら、とりあえず俺は学園長室にたどりつきドアにノックする。

「入ってー」

中から声が聞こえ、俺は失礼しますと声をかけながら部屋の中に入っていった。

「久しぶりね、青葉」

「御無沙汰してます、ヴェル姉さん」

中にいてるのは当然、現学園長であるヴェル・セイン。

「どう?トリニティは」

「そりゃ師匠とかそれこそヴェル姉さんとかほかの姉さんから聞いてたから知識としては知ってたけど、やっぱすごいね。校舎見たときは感動した。っとそうだ。正式な学園長就任おめでとう」

「ありがと、まあ完全に母様に仕事押し付けられてるだけなんだけどね」

「まあトリアさんだしな」

俺は苦笑しながらトリアさんの顔を思い浮かべた。

「あぁ、そうそう。あの子も正式な女子寮の管理人になったわよ」

「あの子って、ノート姉さんか」

「そ、今はまさしく新入生の受け入れでてんやわんやしてるでしょうけど、まあなんだかんだでもう管理人代理の時から数えたら三年目だから大丈夫でしょ」

「後で、挨拶に行ってくるよ。修行の際はノート姉さんにも世話になったし」

「というかね、青葉。あなたの寮なんだけど、そのノートがいる女子寮なのよ」

「ん?」

「いや、今年は例年よりも男子が多くってね。申し訳ないんだけど女子寮に入ってくれない?」

「俺に師匠の真似事をしろと?」

「あぁ、大丈夫よ。今回はちゃんと相部屋じゃなくて一人部屋だから」

「そういう問題ではない気がするんだが」

「ん、まあ正直なところどうしたってあなたは人族なわけだし今年は男子の人族ってあなただけなのよ。それなら少なくともノートのいる女子寮の方がまだましかなって。それに今年の人族の入学者はあなたともう一人いるんだけど」

「リノだな」

「あら、もう会ったの?」

「一応、少ししゃべった程度だけど」

「そう、私はまだちゃんと顔を合わせたことがないんだけど。まあその子のこともあるし、できたら青葉には女子寮に入ってほしいと思ってるわけよ。言った通りあなたのためでもあるのよ?」

「ふむ、まあ今更変更もめんどくさいだろうから、それで構わないよ。ヴェル姉さんやノート姐さんの仕事を増やすのもなんだし」

「助かるわ。そもそもあの子は本来ならここに来るような子じゃないのよね」

「ルイヴィス・A・ヴァーモント、聞いた時は正直偶然かとも思ったけどやっぱり違うんだな」

「えぇ、あの子はHDOのトップであるキンストン・ルイヴィス・A・ヴァーモントの一人娘よ」

キンストン・ルイヴィス・A・ヴァーモント。

この名前は人族の中ではかなり有名な名前だ。

滅界戦争終了後、荒れた人族の世界をここまで立て直したのはこの人の功績だと言われている。

年はそれこそトリアさんたちと同じくらいだったはずだ。

今現在、人族は数多くの国によって成り立っている。

なので以前、はるか昔は国同士で戦争を起こしたりをよく繰り返していたそうだが、ほかの世界からの影響が出始めたころから他の人種とかかわりができ、それにより人族の中に何々人という国ごとの人間という区切りではなく大きく種族としての人族という共通認識が生まれた。

そのころに生まれたのが主に他世界への外交などを務める組織。

ある程度の力のある国が人選をし、他世界との交渉、貿易など様々なつながりを管理し決める組織である。

その組織の名をHDO。

俺の国の言葉に直訳すると人間代表機構だ。

まあこの場合は人族代表機構となるんだろうけど。

ともかくとして、その組織の現代表、トップがこのキンストンだ。

だが問題はそこじゃない。

「人族の代表の娘がなんでよりによってトリニティなんかにきてる?そりゃ、ヴェル姉さんやノート姉さんとかウルルさんとかならわかる。そもそもが戦闘に特化している、ないし特化させられる能力を持っているからこそ、いても不思議はない。けど人族に関しては例外だろ?」

そう、まさしく俺が今聞いたことだ。

何故そんな子がこの学校に来ている?

「そうなのよね。けど正直私にもわからないのよ。一応、本人による希望でということらしいんだけど」

魔族に脅されて震えてるような子だぞ?

ここに来たくて来たとは思えないんだが。

「正直なところそういう事情もあるから、あなたにあの子のことを頼みたいのよ」

「……まあ、しょうがない。請け負うよ」

「悪いわね、めんどくさい事情に巻き込んじゃって」

「まあしょうがないだろ。それにこれからはリノもこの学園の一階級の中では俺を除く唯一の同族なんだ。同じ人族としてリノに事情があろうとなかろうと普通に手助けくらいはするよ」

「まあ何かと大変だろうけど、何かあったらこっちも手を回してあげるわ。そういえば入学式でも騒がれていたんでしょ?」

「まああのくらいなら俺一人でどうにかなるし、最悪の場合は頼むけど、とりあえずは頑張ってみる」

俺がそういうとコンコンと突然にドアをノックする音が聞こえた。

「失礼しますわ、学園長」

そういいながら中に入ってきたのは入学式でも見たピンク髪の竜族、デモンハントと呼ばれたバリアリーフ・クリートだった。

「あら、バリアリーフ先生どうしたの?」

「学園長、一応わたくしもかつてのように生徒ヴェルと呼ばないように注意していますのに、あなたがそのままの呼び名で私を呼ぶのは示しがつきませんわ」

ため息交じりにバリアリーフは答えた。

「えーいいじゃない、別に。おかしくはないんだし」

「そこはちゃんと示しをつけませんと。っと、あなたは生徒仙城でしたね」

「はい」

「私は1階級剣クラスの担任のバリアリーフ・クリートです。先ほど教室では紹介をしてきましたが、あなたはここにいたようなので、改めて」

「仙城青葉です。滅界戦争の英雄に会えるのは光栄です。何卒ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」

「ええ、よろしくお願いしますわ」

「それでどうしたの?」

「あぁ、わたくしがホームルームをしている間に生徒仙城が帰ってこなかったので、まだここにいるのかと思って、連絡をしに来たのですわ」

「すいません、わざわざ手間を取らせてしまって」

「いえ、構いませんわ。それとこれは入学に際してや今後の授業などに関する書類ですわ。今日はもう寮に帰ってかまいませんから、明日に備えて体を休めておきなさい。明日からはすぐに授業が始まりますから。それと寮の場所や教室の場所もそちらの書類に記載されていますわ。しっかりと目を通しておくように」

「了解しました」

「私の話は以上ですわ」

「私からもこれ以上は特にないわ」

「それじゃ、俺行ってくるわ」

「はい、行ってらっしゃい」

失礼しました、と言いながら学園長室のドアを閉め、俺はバリアリーフ先生から受け取った書類を見て女子寮に向けて歩き出した。

 




基本的には原作で出てる部分は忠実に行きたいと思ってます。
一応名前とかもw
ちなみに主人公の仙城青葉の名前は白鷺姫が姫路城であるように仙台城(別名青葉城)からとってます。
リノはアメリカの州とか地名を並べて作ってます。
エルはまんま遺跡の名前です。(残念ながらオーストラリアの遺跡じゃありません。オーストラリアにいい感じの名前がなかったので;)

とまあこんな感じなのですが、逆にここおかしいんじゃね?ってところがあったら教えてくれれば直します
原作大好きなので原作は壊さずあくまで忠実にまさしくアフターストーリー的な感じで進めていくんでどうぞよろしくです!


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第一章:憧れた世界とその始まりの一日(2)

初めのほうはサクサク更新します!

けどたぶんとたんに遅くなると思うのでその時はあぁ、ストックが切れたんだな、と思ってください

※少しだけ変更しました。
リンセの主人公の呼び方と皇女の呼び方のところです。


「あの子が学園長が言っていた子ですか」

バリアリーフはあのヴェル・セインと親しげにしゃべる新入生を見て不思議に思っていた。

「ええ、まあ私たちの弟みたいなものかしらね」

「今年も期待できそうな生徒が入ってくれて何よりですわ。でも、あの生徒を見ていると生徒白鷺を思い出しますわね」

感慨深そうにバリアリーフは言う。

「今後が楽しみね」

二人ははそういって、生徒が出ていったドアの方を見つめながら微笑んだ。

その後、すぐにトントンとドアをノックする音が聞こえた。

青葉が出て行って一分たたないくらいの間に学園長室には新たな来訪者のようだ。

「どうぞ」

ヴェルがそう答えると失礼しますと言いながら入ってきたのはどうやら女子生徒のようだ。

「あら、あなたは」

バリアリーフが入ってきた生徒を見て反応を示す。

「あぁ、いらっしゃい、バレッド。久しぶりね」

ヴェルはその生徒をすでに知っていたようで、 軽い挨拶を述べる。

バレッドと呼ばれた女子生徒はバリアリーフを一瞥して無言で礼をすると口を開いた。

「お久しぶりです。ヴェル様。学園長就任、おめでとうございます」

「えぇ、ありがと。そういえば、あなたも今年からここに入学するんだったわね」

「はい、今年からの3年間よろしくお願いいたします」

「生徒バレッドも学園長のお知り合いでしたの?」

バリアリーフもすでにこの生徒を知っていた。

何せさっきまで自分がいた教室にいた生徒の一人なのだ。

つまり自分が担任をすることになった1階級の剣クラスの生徒の一人というわけだ。

だが流石に、この生徒がどういった生徒なのかまではまだ把握しきれていない。

「えぇ、この子は私の親戚なのよ。つまりは魔王の血族ってことね」

そう、この生徒はフルネーム、バレッド・ジンス。

ヴェルの親戚にして魔王の血族。

今年入った新入生の中でも間違いなくトップレベルの実力者というわけだ。

「それはまた、今年も本当に優秀な生徒が多いようですわね」

「あの子も含めて確かに期待の新人たちね」

「すいません、ヴェル様。おひとつお伺いしたいことがあります」

「どうしたの?」

「先ほどここから出てきた生徒を見かけました。あの生徒は入学式でヴェル様がお呼びになった生徒ですよね?どんな用件で人族などを呼び出したのですか?」

バレットがその言葉を放った瞬間、学園長室の空気が一気に固まった。

ヴェルが明らかな怒りを露わにしているからだ。

バリアリーフは特に態度を変えず小さなため息をついている。

バレットは驚いて体を固まらせた。

「あなた何も変わっていないのね、バレッド。あの子はもともと知り合いだったから、話しておくこともあったし呼んでおいたの。それとね、人族などなんて言い方をしてるとあなたこの学園で生き残れないわよ?」

ヴェルの発した空気に固まっていたバレッドだったが、今のヴェルの言葉で顔色が変わった。

バレッド憤りを感じたのだ。

たとえヴェル様の言葉であっても、今の言葉はまさしく自分が人族などより劣ると言われているようなものだ。

「ヴェル様、私はあのような人族に負けるほど弱くはありません」

怒りを隠そうともしない口調でバレッドはヴェルに言う。

「そう、まあでも直に思い知ることになると思うわよ」

「それに、わたくしもそもそもそういった初めから差別的な目で見るのはいかがなものかと思いますわよ?」

バリアリーフがヴェルの言葉に同調して意見を述べる。

「……本日は入学に際し挨拶に伺った次第です。私はこれで失礼いたします」

バレッドは居心地が悪くなったのか、簡素な言葉を言って学園長室を出ようとする。

「待ちなさい、バレッド」

呼び止められて否応なくバレッドは振り返る。

「何でしょうかヴェル様」

「ここはね、世界中からいろんな種族が集まってくる。だからここは世界を集約したような場所よ。その中で自分の常識や固定概念から外れるものもいっぱい現れるでしょう。だけどね、そういう違いや変化を拒絶したらだめよ。受け入れなさい。あなたには力がある分難しいかもしれないけれど、そうしないとさらに強くはなれないわよ」

「……肝に銘じます」

それではといってバレッドは学園長室を後にする。

青葉を見送った後とは違い、二人は軽い溜息をつく。

「悪い子じゃないんだけどね。お堅い子なのよ。悪いけど、あの子のこともよろしくね」

「えぇ。私のクラスにいる以上、面倒は見ますわ」

二人は苦笑を浮かべながらバレッドが出て行ったドアを見送った。

 

 ---

バレッド・ジンスはイラついていた。

理由は当然、あの仙城青葉とか言う人族がヴェル様に贔屓目に見られているからだ。

正直なことを言うと別に人族のことを特別嫌っているわけではない。

差別自体あまりいい行為だとは自分でも思っていないし、だからこそさっきの教室でもああいう行動をとった。

だが、私が気に食わないのは何よりヴェル様に特別視されているという点。

たかが人族が魔王の血族である私にかなうはずがない。

ヴェル様がどう言おうと私の実力にかわりはない。

「待っていろ、仙城青葉。私は貴様を叩き潰す」

小声でそういいながら私は学園長室を後にした。

 

 ---

 

俺は学園長室を後にして、寮には向かわずまず教室に向かった。

一応教室の場所を確認しておきたかったのと、まだエルとリノが残ってる可能性があったからだ。

とりあえず教室に着いた俺はドアを開くと、ほとんどの生徒は帰っていたようだが数人の生徒はまだ残っていた。

その数人の生徒は俺が教室に入ってくるなり奇異の目や蔑む様な目を向ける。

俺はそんなこと気に留めず、教室を見渡した。

どうやらエルとリノは先に帰ったようだ。

「ふむ」

いないのなら俺も寮に向かうとしよう。

女子寮なのだから行けば二人に会えるだろうし。

俺は振り返って教室を出てドアを閉めた。

毎日この視線が続くのか、なるほどこりゃ頑張らないといけないなと俺は考えながら教室を後にしようとすると。

「ちょっと待ってくれないか!」

後ろから突然声がかかった。

俺に向けられた言葉かどうかはわからなかったが声に反応して意識的に振り返るとそこには神族の男子が立っていた。

さっき教室に残っていた数人の一人だ。

正直、エルとリノを探す目的で見渡していたから見逃していたが、この神族。

かなりの銀髪保有率だ。

それこそ、ミリオさんと同じレベルだぞ。

こいつ、神族の王家の親戚とかか?

「何か用か?」

今現在、教室を出たすぐの廊下には俺とこの神族の男子しかいない。

ならば必然的にさっきの言葉は俺に向けられた言葉だ。

「呼びとめてすまない、君と一度話しておきたかったんだ」

「ん?俺と話しておきたい?何故?」

エルに続いてまた新たなおかしいやつの登場か?

何故神族なんかが俺と話したがる。

竜族ならまだしも、どうなってるんだ。

「似た者同士、としてかな」

神族の少年は苦笑交じりな声でそう答えた。

「似た者同士?俺とお前がか?人族と神族だぞ?」

「いやまあそうなんだけどね、なんというか僕も嫌われてるんだよ。特に神族からは」

おいおい、同族に嫌われてるってどういうことだよ。

しかもその銀髪保有率でだぞ。

俺がいぶかしげな眼を向けていると神族の男子は続けて言う。

「僕はもう寮に帰るところなんだけど、一緒に話しながら帰らないかい?」

正直何を考えてるのか一切わからん。

何者だこいつ、単純に怖いもの見たさのような感覚で俺に近づいてきてるのか?

「途中までしか俺は付き合えんぞ」

「途中まで?何か用事でもあったのかい?」

「いや、そもそも俺は男子寮に入れられてないらしい」

「……え?それじゃ君はどこに住むんだい?」

「誠に不本意ながら女子寮だよ。男子寮に空き部屋がなかったんだとさ」

まあそれ以外にもヴェル姉さんと話した通りの意図があるわけだが、今話すつもりはない。

「君たち人族は思った以上に扱いが酷いみたいだね。教室でも少し騒ぎがあったようだが、謝罪するよ。似た者同士といったけど、僕の方がよほどましらしい」

女子寮での生活と聞いて、ハーレムだなんだとこいつが思い浮かばなかったのはそれだけ人族の扱いがぞんざいということを理解したからだ。

「特に気にしてない。まあこんなものだろうとは思っていたしな。というか教室で何かあったのか?」

「あぁ、知っているかい?君以外にもう一人少女の人族がいるんだが、その子が魔族二人に絡まれていてね」

「リノか!」

「やっぱり知っているんだね」

「どうなった!何かあったのか?」

「あぁいや、別にどうってことはないよ。一触即発の空気ではあったけど、かのバレッド・ジンスが止めに入って実際は何も起こらなかった」

「バレッド・ジンス?」

「知らないかい?とはいえ、僕もさっき教室で魔族の子が話しているのを聞いただけなんだけれどね。どうにも魔王の血族らしい」

「……なるほど。魔族には知られているわけだ」

魔王の血族は魔族の中でもかなり強い魔力を持つ家系のことを言う称号のようなものだ。

貴族、なんかと同じ扱いのようらしい。

「まあ何もなかったのなら良かった」

俺の安堵する様子を見て神族の男子生徒は不思議に思うように顔を傾ける。

「何故そこまで心配するんだい?同じ人族とはいえ赤の他人だろう?」

「まあこっちにもいろいろと事情があるんだ。それに、赤の他人だろうとここでは同じ学年の唯一の人族だ」

「まあそれもそうだね」

納得したように男子生徒は息を吐いた。

「というか、立ち話もなんだ。途中までは一緒に帰れるだろう?なら途中までで構わないから帰らないか?」

話を戻り、俺は一瞬考えたがまあこれが罠であれ何であれ乗っておくのが正解だろうと思った。

人族だからといってこちらから突き放す態度を示していは状況改善にはほど遠い。

そのことを考えるなら、こういう相手から話しかけてくるやつは貴重だ。

ある意味でこういう機会は大切にしないといけない。

「あぁ、まだ名乗っていなかったね。僕はトレス・サーテンス。見ての通り神族だよ」

「俺は仙城青葉。知ってるだろうけど人族だ」

俺たちは歩きながら自己紹介を行った。

「というか、さっき似た者同士だのなんだのと言ってたけどあれはどういう意味だ?というか俺なんかといていいのか?お前の評判も落ちるぞ?」

「評判もなにも、そもそもそんなもの無いさ。僕はね、神族の中でもかなり貧困した地域の出なんだよ。それのせいでもともと蔑んだ目で見られるのにもかかわらずこの髪だ。なんであんな奴がこんなに銀髪をって感じでね、嫉妬の念やらなんやらで完全に神族の中では僕は差別の対象なのさ」

苦笑交じりにトレスは言う。

神族の中にもそういうのはやはりあるのか。

まあその辺はどこの世界でも変わらないか。

それにしても神族というのはたまにそういうことが事が起こるらしい。

家系的に魔力が強いわけでは無いのにもかかわらず突然変異なのか、いきなりこういう、かなりの魔力を持ったやつが時々生まれるらしい。

ルアンさんももともと庶民の出だと聞いたことがあるし、そういうパターンがあるのだろう。

「だが仲間意識を尊重する神族にしては珍しいな。いや、逆に力が全ての魔族の中だったらこうはなっていないのか」

「まあ流石に慣れたからどうとも思わなくなったけど、せっかくトリニティに、新しい学園に来たのだから友達の一人や二人は欲しいなと思って、けど神族の中では僕は完全にアウェイだから君に話しかけたんだ」

「同じ貉同士仲良くしようってか」

「まあそれもあったけど。さっき入学式での君たちをみていて、思ったんだよ。君なら仲良くなれそうだってね」

「魔族がちょっかいをかけて来たから対処しただけだ、対したことはしてないだろ」

「そんなことは無いよ。君の動きは尋常じゃ無いくらい洗練されていた。聞く限りじゃそれこそここは力が全てなんだろう?君と組めばここの連中を見返すことが出来そうだと思ってね」

笑顔でテレスが俺に語って来る。

というより、正直あの場であの居合を認識出来たのは近くにいたエルだけだと思ってたんだが。

「お前にも見えてたのか」

「まあね、とはいえこの一階級の中じゃあれをよけれるのはかなり少ないんじゃ無いかな」

「これでも一応自信はあったんだがな。流石はトリニティ、そう甘くはないか」

「十分自信を持っていい実力だと思うよ。だからこそ、僕は君にかけてみたいと思ったんだ」

「……」

認めてくれる奴は認めてくれる、か。

いつかの師匠の言葉を思い出す。

これはそういうことなのかね。

「あ、そろそろ分かれ道だね。君は女子寮だからそっちだろう?」

気がつけば俺たちはもう女子寮と男子寮の分かれ道まで来ていたようだ。

「それじゃ、またあしただな」

「うん、これからよろしくね、青葉」

「あぁこちらこそな、トレス」

突然だったがぼっちの神族となぜか仲良くなった。

まあ悪いことではないだろ。

とりあえず女子寮に向かおう。

ノート姉さんにも会いに行かないといけないし、エルやリノも結局あれっきりだ。

今日のうちに少なくとも女子寮に住むことになったっていうことを伝えておきたい。

俺はバリアリーフ先生からもらった書類を頼りに女子寮へと向かった。

「ここが女子寮だな」

女子寮には特に苦も無くたどり着いた。

まあ学園から遠いわけでもなく、迷うような道でもない。

が、俺は女子寮を前に入るのをためらっていた。

さっきはヴェル姉さんの手前、一応素直に女子寮に入ることを承諾したがやはり抵抗がある。

正直ノート姉さんのことだから外で掃き掃除でもしてるだろうと思っていたが、今は入学式が午前中に終わりまさしくお昼時。

あの人のことを考えれば今いるのはまさしく女子寮の中にある食堂の厨房の中だろう。

誤算だった。

ノート姉さんと話しながらその流れと勢いで女子寮の中に入ろうと企んでいた俺としてはこの状況はとても苦しい。

だがかといってここで立ち止まっていたらそれこそ不審者扱いされてしまう。

「仕方ない、これも慣れるしかないな」

ため息をつきながら俺は女子寮への一歩を踏み出そうとする。

「あのー、何か女子寮に御用ですか?」

そんな時にいきなり後ろから声がかかった。

振り向くとそこにはやや金色の混ざった銀髪に龍族の特徴である耳をつけた二人の女子生徒が立っていた。

「あっ!」

「えっ!」

二人は俺が振り向いた瞬間驚いた表情を浮かべている。

正直俺はこの二人とは面識が無い。

ならなぜ俺を見た瞬間驚いた?

というよりこの髪の色と耳、どういうことだ?

耳があるから竜族なんだとは思うが、髪の色は完全に神族のそれだ。

ハーフ?

いや、でもフォン姉さんは竜族とのハーフだが特にあの大きな耳があるわけでは無いよな。

「青葉さんじゃないですか!」

「これは、驚きました。そういえば青葉様もトリニティの卒業生でしたね」

二人の女学生が俺の名前を呼ぶ。

しかも一人はさん付け、一人は様付けと来た。

なんで俺の名前を知ってるんだ?

可能性があるとすれば完全に師匠関係だ。

俺はずっと人界にいたから他種族に知り合いなんて全くと言っていいほどいない。

師匠の知り合いで、俺のことをすでに知ってる人間……

「あ」

俺はふと以前師匠が話してた師匠達がまだ学園にいた頃の話を思い出した。

あのときは未来から突然娘達が来ていろいろと大変だったとか言ってたが、確かその未来から来た娘達が今だこの時代のトリニティに通ってるって言ってたっけ。

名前は確か……

「リンセさんとニコさん?」

「私たちのこと知ってるのですか!?」

正直どちらがリンセさんでどちらがニコさんなのかわからないが、髪の長い方の女学生が勢い良く答えた。

「主様に話を聞いていたのだと思います。私たちは未来でお世話になりましたから当然知っていますが、こちらの青葉様は私たちと会うのは初めてですから名前以外はなにも知らないのではないでしょうか?」

続けざまに喋ったのは髪の短い方の女学生だ。

だがやはり

「反応を見る限り、やっぱり師匠の娘さんですよね。一応話は聞いてますよ。俺たちがまだトリニティにいた頃、突然未来の娘が来て大変だったって」

「ぶー、お父様ひどいです。大変だったなんて。若い頃のお父様に会いたい一心でがんばって未来から来たっていうのに」

「あああ、あのときは主様に大変なご迷惑を」

「もう、ニコ。あのときのことはもういいって言ってるでしょ」

「ですが……」

「それより、今は青葉さんです!いやー若いですねぇ。こっちに来た頃にもお父様や母様の若さにびっくりしましたけど、やっぱりすごいです!」

「二人は俺のことを知ってるんですか?」

師匠から一応話は聞いている。

が、正直二人が俺のことを知ってたというのは予想外だ。

「えぇそりゃ知ってます。なんたって、私たちに基礎の戦闘技術を教えてくださったのは青葉さんですから」

「正確には未来の青葉様ですね。主様は何かと忙しい身ですから、私たちの戦闘訓練に付き合ってくれたのは主に青葉様です」

「時々は母様達にも教わりましたけどね」

未来の俺、と来ましたか。

そりゃ未来から来てるなら当然その可能性はあるわけだ。

俺は半分呆れつつ、納得の表情を浮かべた。

そこでまた後ろから二人の女子生徒が歩いてきた。

「あっ」

俺はその二人に気づいて、思わず声をあげてしまう。

「ん?リンセとニコじゃないか。どうした?こんなところで」

「あぁカミシアちゃんと皇女ちゃん」

「あれ、君は」

皇女先輩が俺に気づいて声をかけて来た。

「今、女子寮の前に青葉さんがいたのでお話をしていたんですよ」

「おぉ、こいつが皇女の言ってた子か!ふむ、なるほどなぁ」

皇女先輩の隣にいた金髪の女学生が俺に近づいて興味深そうに見てくる。

「白鷺、皇女先輩ですよね」

「うん、話はお兄ちゃんから聞いてるよ。青葉くん」

「私はカミシアだ、パパの娘だぞ」

娘?

娘ってリンセ先輩とニコ先輩だけなんじゃないのか?

「あーうん、その自己紹介も間違ってはないんだけどさ」

「カミシアちゃんずるいです!私が正式なお父様の娘なんですよ!というわけで、リンセ・ホワイトキャッスルです!よろしくお願いします、青葉さん!」

「私はニコ・テンプルです。一応私も主様の娘ということになります。それと未来の青葉様には大変お世話になりました」

「未来の、と言われても俺には正直実感が無いんですけど。ていうか正式なってどういう」

「カミシアちゃんとニコのことはお兄ちゃんの娘のようなものと思ってれば問題ないかな」

皇女先輩が付け加えるように言うと私だってちゃんと娘なんだぞ!と後ろでカミシア先輩が騒ぐ。

だがそれも気にしないで、と皇女先輩が苦笑気味に言った。

「もう皆さん知ってるようですけど、仙城青葉です。今年からトリニティに入ったのでよろしくお願いします」

「うん、よろしくね」

「うむ、こちらこそだ」

「よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしくお願いします」

4人それぞれがそれぞれの返答をくれる。

「そういえばいつものメンツにしてはひとり足りないな」

「あれ、ルルウちゃんはどうしたんですか?」

「あぁ、さっきルルウちゃんにあったけど一階級の竜族の子達に追いかけられてたよ。竜族の中じゃやっぱりまだあんまりもうひとりの金竜って知られてないみたいで、興味本意の子やウルルさんの重度な信者の子達に追いかけられてるみたい」

「あー、そういえば去年もそんなことあったなー」

「まあ入学したときと去年はまだウルル姫がいましたし、特に問題はなかったようですが」

「今年は止めれる人がいないと。まあ少ししたら落ち着くだろ」

なにやら俺が知らない師匠関連の人がまだいるようだが、まあ特に気にしないでおこう。

今でなくともここにいたらいずれ知り合う機会はあるだろう。

「それで、結局青葉はなんで女子寮にいたんだ?誰かに用があったのか?」

ここでようやく俺がここに来た理由に話が戻った。

「あーいや言いにくいんですけど、俺この女子寮に住むことになったみたいで」

「えっ」

カミシア先輩以外の3人が驚いた表情を浮かべる。

だがカミシア先輩だけは特に驚きもせず

「ほう、パパと一緒だな」

なんて答えてる。

「え?なんで?そりゃたしかに姫兄は住んでたけど、あれは例外であって」

「まあ、いろいろと事情があると言いますか。詳しくはヴェル姉さんに聞いてください。もしくはノート姉さんに」

俺は正直説明するのがめんどくさくなって全部あの二人に押し付けた。

まあこのメンバーには別に隠す内容じゃないし普通に話してくれるだろう。

「おー、このころから青葉さんはヴェル母様やノート母様のことを姉さんって呼んでるんですねぇ」

「一応、師匠だけに教えを受けたわけじゃないし、いろんな人に修行をつけてもらったから親しみを込めて姉さんや兄さんって呼んでるんですよ。師匠だけは師匠なんで別ですが」

「兄さんって誰のことだ?」

「デイル兄さんとラーロン兄さんですよ」

「あーなるほど」

「というかそろそろ中に入りませんか?青葉様もノート姫に会いに行かなければならないでしょうし」

女子寮に入るということは当然ノート姉さんに顔を合わせておかないといけない。

俺の方の事情は伝わってると思うが、まあ部屋がどこなのかとかも含めて聞いておかなければならないことがいくつかあるだろう。

「そうだね、行こうか」

そういって俺達5人は女子寮の中に入った。

突然だったが、きっかけができて本当に良かったと俺は内心で思っていた。

 

 




というわけで前書きでも書きましたがほとんど時間をおかずに続きを投稿です。
皆さんほんと、勘違いしないでください。
私が単に小説書くのが早いわけではありません。
ストックが少しあるだけです(汗)
なんで基本はそんな更新速くないんですいませんがそこんとこよろしくお願いします←

でもまあ第一章はとりあえずなんとかすぐに行けそうですが、第二章からとたんに遅くなると思うんでご了承ください;

というわけで
今回もまた新キャラ登場です。
バレッド・ジンスはパレ・ド・ジュスティスをすげーもじった結果こういう名前になりました。
トレス・サーテンスはトレス・サポーテスをもじってます。

前回書いてなかったけどリノのフルネームのAはアトランタです。
リノ・ルイヴィス・アトランタ・ヴァーモントが正式名。
まあそんなこと本編に何にも関係ないからどうでもいいんだけど(複線とかでは一切ない)←wwwwwwwwwww

それとたぶんこれ以上新キャラは出ません。
というかヒロインはこれで打ち止めです。
ラストオーダーです←w
出てきたとしても敵とかだと思います。

実はもうすでにキャラデザも(シャーペンで書いた落書き程度ですが)あったりするのですよw
けどこのサイトは画像載っけれないっぽいのでまああげる機会はなさそうなんですけどね

あ、一応明記しておきますがメインヒロインはリノです。
のちの展開で無駄にエルが活躍したりするかもしれませんがメインの座はリノです。

がしかし、作者はバレッド派です←wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww



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第一章:憧れた世界とその始まりの一日(3)

3回目の更新ですー
ノトにゃん登場ですね!


時は少し戻って、入学式後。

「んじゃ、青葉も行ったし、うちらは教室にいこか―」

「はい、です」

うちらは学園長室に向かう青葉とわかれて教室へ向かって歩き始める。

「あー、別にうちに対してはそんなにかしこまらんでいいよ?同学年なんやし、別にうちは人族がどうのとか思ってないから。というかむしろ人族に興味津々や!」

「人族に、ですか?」

「うん、人族の技術はすごいからなぁ!そや、リノちゃんも儀式兵器持ってるやろ!」

正直、この子は付き合いが苦手みたいやからうちはリノのことをちゃん付けで呼ぶことにしていた。

そっちの方が親しみがあっていいやろうし。

「もち、ろん、持ってますけど」

何というか、毎回毎回会話がたどたどしいんよなぁ。

まあ慣れてくれば治ると思うけど。

「なあなあ、今度でええからじっくり見さしてくれへん?儀式兵器!」

「はい……構いませんけど」

「いっやっほう!念願の儀式兵器を拝めるで!」

とそんな会話をしていたら教室に着いたようだ。

「ここやね、剣クラス。ってそういやクラスは剣やんな?」

正直うちと青葉は正直どこがどのクラスかもわからずに並んでたから自分が並んでたクラスが剣やったんかどうかがいまだにわからんのやけど、リノちゃんがいるってことはたぶん剣クラスなんやろうな、と入学式中に考えて思った。

人族をわざわざクラスでわけるなんて言うえげつないこと、さすがにこの学園はせえへんやろと思ったからやけど、それは単なる予想であって確証があるわけじゃない。

けどそんなことは杞憂で、リノちゃんは頭を小さく動かしてうなづいて見せた。

やっぱ予想どうりやったってわけや。

「んじゃ教室は入ろか」

そういって二人で教室に入ったが、そこもまあやっぱりって感じでクラスにいた生徒の目線がすべてリノちゃんに向かった。

「おいおい、人族と同じクラスかよ」

「こりゃ完全に外れくじ引いたな」

「なんで人族なんかと一緒に授業受けなくちゃいけないのよ」

それぞれがそれぞれ、さんざんな言葉を交わす。

リノちゃんは俯いて、黙っているようだった。

流石のうちも見かねて、声を出した。

「あんたらなぁ!」

「何を騒いでいますの!」

そう、うちがしゃべろうとした瞬間、後ろからより大きな声が響いた。

後ろに立っていたのは入学式で見たピンク髪の竜族、言わずと知れたデモンハント、バリアリーフ・クリートその人だった。

「あなたたちも教室の入り口で何をしていますの、早く座りなさい」

正直驚きで声も出なかったが、バリアリーフの一言で教室も静かになっていた。

はい、ただ今!と言いながら、うちらはそそくさと適当な席へ移動し速やかに着席する。

そうして、教師バリアリーフによるホームルームが始まった。

やはり、バリアリーフはこの学園の教師でなんと私たちの担任らしい。

これはえらい人が担任についたもんやと私は驚いた。

他のクラスメイトもそのようで、さっき外れくじを引いただのなんだのと言っていた生徒も唖然としている。

そんなこんなで連絡事項をいくつかバリアリーフ先生が言った後、20分もしないうちにホームルームは終了し、各自明日に備えるようにとだけ言われ、本日の学校は終了した。

まあ当日はこんなもんやろと思ってたし、そもそも明日からすぐに授業っていうのもなかなかハードではある。

寮に届けてある荷物の整理などもしないといけないし、とりあえずは寮に戻るのが一番やろと思いうちはリノちゃんに声をかけた。

「んじゃ、寮にいこか」

こくり、と返事をするリノちゃん。

こういう仕草が何気にかわいいな、と思いつつ私たちは席を立つ。

「そういや青葉結局帰ってこんかったなぁ」

まあホームルーム自体がすぐに終わってしまったので間に合わなくても仕方ないといえば仕方ないんやけど。

「まあ明日になれば会えるわな」

そう、どちらにしろ彼もこのクラスなのだ。

態度から察するに別に学園長にとって食われてるわけでもないやろうし、別に心配することもないとうちは考えた。

「あのデモンハントが担任なら、そこにいる人族は一瞬でつぶされるな。なんたって竜族が苦手な魔族すらも相手にならないってことで有名なんだ、俺たちなんかよりもよっぽど劣ってる人族なんて簡単にやられて終わりだぜ」

「そりゃ言えてるな、模擬戦闘でも10秒も持たねぇんじゃねぇか?」

とそんなことを考えていると後ろからまたウザったい声が聞こえる。

こいつらは入学式で青葉が脅しを利かせた生徒とは別の魔族のようだ。

ほんまにこういうやつらはいくらでもわいて出てくるんやなとあきれつつ、うちは正直無視したままリノちゃんを連れて教室を出ようと考えた。

そうしてリノちゃんの方を見ると、おびえた表情を必死で隠しながらそのまなざしはくだらないことを言っていた魔族の二人組に向けられていた。

「あ?なんだ、気に入らないことでもあったか?」

「……っ」

ちょ、そこでケンカ売るんかい!?とうちは驚き、即座にうちも対応すべきかと考えていると、

「貴様ら、くだらないことで言い争うでない」

別の方面から声がかかった。

その声の方に目を向けると、魔族で長身の女学生が立っている。

「戦闘がしたいならこれから先、授業で模擬戦闘などいくらでもあるだろう。その時間に行え。相手が気に食わないのなら、私闘などではなく公式の場で、なおかつ実力で勝負したらどうだ?」

かなり上から目線での言葉だが、そこに差別的な意味合いはない。

あくまで公平な意見。

「は?お前何様だよ」

「おい、やめろ!あいつバレッド・ジンスだぞ!」

一人の魔族がその女学生に喰ってかかろうとしたが、もう一人の魔族が小声で押しとどめた。

名前を聞いてか食ってかかろうとしていた魔族は小さく舌打ちをして、二人ともども教室を出て行った。

一触即発の空気から抜け出して、うちは盛大にため息をつき一安心する。

「ちょ、リノちゃん。いきなりケンカ売るからびっくりしたで」

「……」

リノちゃんは黙ってうつむいている。

んー、なんというかなかなか心開くには大変な子みたいやなぁ。

うちはひとまずリノちゃんのことは置いておいて、口を挟んで留めてくれた女学生に声をかける。

「助かったわー、ありがとうな止めてくれて」

女子生徒もすでに帰ろうとしており、首だけこちらに向けて返事を返す。

「別に構わん。ここで戦闘を始められてはかなわんと思っただけだ」

「それでもやて。あ、うちはエル・ミラドールっていうんや、よろしくなー」

「……バレッド・ジンスだ」

そういってバレッドと名乗った少女は教室を出て行った。

「それじゃ、うちらもいこか」

というわけで、うちは俯いているリノちゃんを引き連れて教室を出るのだった。

 

 ---

 

俺と先輩たちは寮に入ってすぐに食堂の方に向かった。

俺が想像していた通り、この時間ノート姉さんはやはり食堂にいるようだ。

始めてはいる女子寮を目線だけ周りに向けて周りを見る。

流石にきょろきょろと周りを見るのはどうかとも思ったし何より男が女子寮にいるのだ。

人族以前にこいつ何してんの?的な目で見られるのが普通だろう。

そんな中で興味ありげに周りを見回すのは流石にいかがなものかと思ったので、さとられないように見回す。

とはいえ、見渡すほど広い建物というわけでもない。

入ってすぐの大きな階段には目を見張ったが逆に言えばそれ以外は何もない。

そこからすぐに部屋が並んでいるようだ。

まあ寮なんて言うのはこういうものだろう。

いやむしろ寮にしてはいささか豪華だと言っていいレベルである。

「食堂はこっちですよ」

とリンセ先輩に言われ俺は4人の後をついていく。

食堂の場所もちゃんと覚えておかなければ。

食堂に入るとすぐにノート姉さんは見つかった。

エプロン姿で給仕をしている。

管理人だからといってそこまで働かなくてもいいと思うのだが、と思いつつまあノート姉さんだからかと自己完結で納得する。

「あ、みんなお帰りなさい」

ノート姉さんがこちらに気付いたようで当然のように挨拶してきた。

この姿を新入生も見たんだろうなぁと思い浮かべるとちょっと笑えてくる。

まあ神界の銀月がお出迎えなんて、普通ならありえない光景だからな。

「ただいま、ノートさん」「うむ、ただいまだノートママ」「ただいま帰りましたノート母さま」「ただ今戻りました、ノート姫」

これもまた4人がそれぞれの返事を返す。

するとノート姉さんもこちらに気付いたようで。

「お久しぶりです、ノート姉さん」

俺もノート姉さんに挨拶する。

ヴェル姉さんともそうだったけど何気に会うのは久しぶりだ。

「青葉君、お久しぶりです」

久しぶりだったが、相も変わらない笑顔でノート姉さんは返事をくれる。

「女子寮に来たってことはヴェルちゃんとはもう話してきたんですよね」

「うん、入学式早々全生徒がいる前で呼び出しをくらったよ」

ちょっと皮肉交じりな返事を苦笑交じりに言う。

「そうですか、それじゃあらかた話は聞いてるんですね。こちらの都合ですいませんがお願いしますね。まあでも姫君も通った道ですから」

ノート姉さんは逆に申し訳なさげに笑いながら返事を返す。

「そういわれると、俺としては頑張るしかないよ。まあ慣れるまで大変そうだけど」

もうこの時点で昼時であるからには当然のように多くの生徒が食堂に集まっている。

その中の結構な数が、俺に対して不思議に思うような視線を向けている。

明らかに邪険にするような目線もその中にはいくつかあった。

「まあ今の3階級の子たちは姫君がここで生活していたことは知っていますからそれほど問題はないと思います。それに姫君のおかげで人族に対してもほとんど差別的な目線はもう持ってません。2階級と1階級の子たちが問題ですけど何かあったら僕に言ってください。もともとそういう意図もあって青葉君をここに入れたわけですし」

「うん、まあどうしようもなくなったら頼むよ」

ヴェル姉さんの時と同じ返しをする。

ひとまずは自分で頑張ってみないと、最初からノート姉さんを頼っているようじゃ何も変わらない。

「みんなご飯はまだですよね、空いてる席に座ってください。僕はみんなのご飯を作ってきますので」

「ノートママもまだ食べないだろ?」

「なら一緒に食べましょうよ!」

「そうですね、それじゃ僕の分も一緒に運んできますね」

そういってノート姉さんは厨房の中に向かっていった。

「それじゃ私たちは席についてようか」

「そうですね」

「あれ、青葉やん。こんなとこでなにしてん?」

皇女先輩の言葉にうなづいて席へ向かおうとすると後ろから声がかかった。

女子寮で俺の名を知る知り合いがいるとすればそれはここにいるメンバー以外だとおもに二人しか思い浮かばない。

それにあのしゃべり方だ。

振り向くとそこには当然思い浮かんだ人物が立っていた。

「エルとリノか」

二人で食堂にご飯を食べに来たようだ。

俺が頼んだ通りエルはきっちりリノのことを見ていてくれたらしい。

「昼ご飯を食べに来たのか?」

「いやまあそうやねんけど」

エルはここに俺がいることや、俺の周りにいる先輩たちを見て不思議に思っていおるようだ。

リノはエルの後ろに若干隠れながら様子をうかがっている。

「へぇ、さっそく友達ができるなんて私たちが心配する必要はなかったかな」

そんな中で皇女先輩が俺たちの話に入ってくる。

「えーと、先輩の方やんな?」

エルが俺に目を向け話しかけてくる。

「あぁ、白鷺皇女先輩、カミシア先輩、リンセ・ホワイトキャッスル先輩にニコ・テンプル先輩だ」

よろしくね、とそれぞれの先輩が言う。

「う、うちはエル・ミラドールって言います!新入生ですが、なにとぞよろしくお願いします!」

「あ、この子たちが」

「そうですね、リンセ。この方たちがのちの」

先輩の前で緊張したのか、声が詰まりながらエルが答える。

それを聞いたリンセ先輩とニコ先輩が何か小声で話しているのが聞こえたが、まあまた未来関係だろう。

「それで、後ろの子がもう一人の人族だよね」

皇女先輩の言葉にリノがびくっと体を震わせ、おずおずと前に出てきてリノは自己紹介をする。

「あの……リノ・ルイヴィス・A・ヴァーモントといいます」

「ルイヴィス・A・ヴァーモント……」

皇女先輩が驚き顔でリノの名前をつぶやく。

ほかの先輩は気づいていないようだが、やはり人族である皇女先輩はわかるか。

「皇女先輩、その件は後で話します」

俺は小声で皇女先輩に注意を促した。

全員身内とはいえ、ほかの人に聞こえる可能性がないわけじゃない。

あまり他言して噂になどはしたくないのだ。

「あぁ、うん。わかった」

俺の意図をすぐ理解したのか、皇女先輩も小声で返事をくれる。

「リノ、か。こちらもよろしくな」

カミシア先輩の言葉を皮切りにほかの先輩もよろしくと声をかける。

「二人ともこれからご飯なんですよね、よかったら一緒に食べませんか?」

「あー、うちは構いませんけど」

そういってエルはちらっと、リノの方に顔を向ける。

リノは小さくこくりとうなづいた。

「んじゃ御邪魔させてもらいます」

そういって俺たちは食堂の席に着いた。

「悪いな、リノのことを任せて。助かった」

エルが席に座るタイミングを見計らって、俺はリノに聞こえないように小声でエルに言った。

「まあ構わんよ、あの子ほっとくと危なっかしいし」

ありがとうとつぶやき、俺はリノの隣の席へ座った。

そして、声を普通のトーンに戻して話題をふる。

「そういえば、教室で騒ぎがあったみたいだな」

「あー。あの時は肝を冷やしたで」

「何々、何かあったんですか?」

リンセ先輩が俺たちの話に首を突っ込んでくる。

俺とエルは教室であったことを大まかに説明した。

「大丈夫だったか?」

話し終わった後に再度声をかける。

「まあ何事もなかったといえばなかったしなぁ」

「相変わらずそういうゴミな連中はいるんだよなぁ」

気付けば全員がこの話題に入っていた。

「まあ、多少はましになってるんだけどね」

「青葉様にご迷惑がかかる用でしたらニコに言っていただければ排除しますが」

「いやいや、さすがにそこまでしなくても」

「……物騒な先輩やなぁ」

エルが小声で正直な感想をつぶやく。

「というより、そもそもなんでリノはそんな喧嘩を売るようなことをしたんだ?」

俺はリノに向かって問いかけた。

正直、入学式からしかリノのことを見ていないがそんな好戦的な性格には思えない。

「入学式の……」

「ん?」

「入学式の……仙城君を見て、私も立ち……向かわないとって、思って」

「あぁ」

つまりは、俺があの時魔族を威嚇して見せたから、ここではそういう態度を示さないと見る目は変わらないと考えたのか。

「わた、私は人族……だからそういう目で、見られるっていうのは……知ってました。けど……何もしなければ、何も言わなければ……何もされないだろうって高を括ってました。でも、そんなことは……なくて」

「それで、自分も態度を示さないとって事かいな」

エルの言葉にリノは頷く。

「……怖かったけど、それでも」

話を聞いていた、全員が複雑な表情を浮かべていた。

それは当然だろう。

ここはトリニティ、完全実力主義を歌った学園だ。

俺たちはリノという少女の実力を知らないが、それでも人族だ。

それなりの修練をしていたとしても普通なら魔族数人に囲まれたらまず勝ち目はない。

喧嘩を売ったところで対処しようがない。

ならどういう対応が正解なのか、それを思いつけないから周りの先輩とエルは複雑な表情を浮かべているのだ。

だがそれでも、俺はふっと軽く笑みを浮かべて言い放った。

「俺が守ってやるよ」

「えっ」

全員が俺の方に顏を向けた。

リノは驚いて声すら漏らしている。

「リノがそんな心配をしなくても俺が守ってやる。ついでに人族への差別の目も消してやるよ」

「え、あの」

戸惑っているリノに俺は隣の席から体をリノの方に向けて頭を撫でてやった。

「だから、俺に任せろ」

頭を撫でられたことが恥ずかしかったのか、リノは頬を染めて俯きながら小さくうなづいた。

「これだけ大勢の前で女の子を口説き落とすとは、なかなかやるじゃないか青葉。流石はパパの弟子だ」

「いやーびっくりしたで、やるなぁ青葉。こりゃこれから頑張らなあかんでな!」

「んふふーいいですね、リノちゃん。こういうとこから、のちの青葉さんパーティが生まれるんですね!」

「青葉さんパーティ?」

俺は自分の名前を言われて思わず聴き直した。

「えぇ、未来では青葉様のパーティも有名なのですよ。主様のパーティを補佐する次世代の戦士たちとして世界で名前が知られています」

「実感ないなぁ」

未来のことを語られて俺は苦笑気味に言った。

「なんの話をしているんですか?」

そんな時、声をかけてきたのは厨房から料理を運んできたノート姉さんだった。

「あ、うちら話に夢中で注文するの忘れてるやん!」

あ、とリノも小さく声を漏らす。

「テーブルに二人ほど増えているのが見えたので、二人分多く作ってきましたよ。寮のお昼のメニューは決まってますから」

ノート姉さんは笑顔で二人に応える。

「ていうか、よくよく見たらその銀髪……」

話に入ってきたのが誰なのか、エルはうすうす気づいたようで遠慮気味に声を出す。

「あ、自己紹介が遅れました。この女子寮の管理人をしてます、ノート・ルゥムです」

「ノ、ノート・ルゥムって神界第一王女、グランルナの!!?」

「まあ驚くよね」

苦笑交じりに皇女先輩が言う。

「う、うう、うちはエル・ミラドール言います!な、なにとぞよろしゅうお願いします!」

緊張してかエルはどもりながら声を出す。

「リ、リノ・ルイヴィス・A・ヴァーモント……です」

これにはさすがのリノも驚いたのか、声を震わせながらエルに続いて返事を返す。

「はい、よろしくおねがいしますね」

ノート姉さんはそんな二人に笑顔で返す。

「ノート母さま、今まさに青葉さんがリノちゃんを籠絡したところなんですよ!」

話を戻すようにリンセ先輩がうれしそうに声を上げる。

「ちょ、リンセ先輩!籠絡って」

「いやまあ間違ってはいないんじゃないか?」

そんな俺の反論を無視してカミシア先輩からリンセ先輩への援護射撃が来る。

「カミシア先輩まで!」

「まあさっきのはなかなかかっこよかったで、青葉」

「話を蒸し返すな、エル!おい、ほらリノが恥ずかしがって俯いちゃってるぞ!」

やんややんやと俺たちは騒ぎを繰り返す中でノート姉さんは笑顔で俺たちを見守っている。

黙ってるノート姉さんを不思議に思って俺は声をかけた。

「ノート姉さん、どうかした?」

「……安心しました。青葉君やリノちゃんがこの学園でちゃんと仲良くやれてるみたいで」

あぁ、と俺は納得する。

ノート姉さんはかなり面倒見のいい人だ。

どこをどうしたって俺たちは人族であり、それは変わりようがない。

そこがやはり心配だったのだろう。

「俺は大丈夫だ、そう簡単に折れはしないよ。リノもちゃんと守って見せる」

「はい、それでこそ私たちの弟子です」

そんな会話をしながら俺たちは昼食を食べ終わった。

 

---

 

学園長室を出た後、私、バレッド・ジンスは寮に向かった。

届けられている荷物を受け取って部屋を少し整理した後、ルームメイトが途中で部屋に来たので挨拶をしておいた。

魔族の女の子のようだが、私のことを知っていたようでかなり委縮させてしまったようだ。

ここでは同じ学園の生徒なのだから、気を遣わなくてもいいとは言ったが、態度を変えてくれるかどうかは微妙なところだ。

挨拶と同時にお昼ご飯でも一緒に食べないかと聞いたが、もう食べたのでということで断られてしまった上に部屋を出て行ってしまった。

私は別に魔王の血族のことを鼻にかける気はない。

もちろん、魔王の血族ということに誇りはもっているが別にそれを理由に偉そうな態度をとるようなことをする気はない。

正直、対等な関係の方が望んでいるので、ああいう態度は正直こまるのだが。

まあそのうち慣れるだろう。

時間は昼から少し過ぎている。

ルームメイトに断られてからもう少し片づけをしていこうと思ったがゆえに昼ごはんをまだ食べていない。

とはいえ時間的にはまだ食堂は空いているだろう。

そう思って私は食堂に向かった。

食堂にはまだそれなりの人数の生徒が残っていて私は空いている席を探して食堂を見渡す。

すると一つのテーブルに目がいった。

そこには予想外の人物が座っていたからだ。

「……仙城青葉」

先ほどまで抱いていた怒りがふつふつとまた上がってくる。

何故あいつがこの女子寮にいてしかも食堂で飯など食っている。

自分が何のために食堂へ来たのかも忘れ、私は目に留まったテーブルへ足を進めた。

あいつは気に入らない。

ヴェル様に気にかけられ、あのような言葉を言わせたのはあいつだ。

あいつは何が何でも私の力で叩き潰す。

「おい、貴様」

そうして私は食堂にいた仙城青葉に声をかけた。

 

---

 

食器を片づけてきますね、と言って立ち去ったノート姉さんを除いて俺たちは食後の休憩を取っていた。

「んで結局、なんで青葉がここにおるんよ?」

当然思っていただろう質問がエルから出てきた。

「まあいろいろ事情があってな、俺も女子寮に入ることになった」

ため息交じりに俺は言い放つ。

「え、ちょ女子寮にって、マジかいな!?」

「うん、まあ一応学園長の指示だ」

「あー、入学式で呼び出されてたのってこの件かいな」

「まあ、理由についてはいろいろあるんだけどそれはおいおい話す。悪いけど、今は納得しといてくれ」

「いやまあ、うちは……複雑やけど、なんや事情があるみたいやし納得するんもやぶさかじゃないけど、ほかの子が黙っとらんのちゃう?」

「それはもはや頑張るしかないな」

「ま、その辺は私たちも気にかけておくし大丈夫だろ」

カミシア先輩が軽い一言で話に入ってくる。

「ノートさんもいるしね」

皇女先輩もそれに続いて言う。

まあこの辺の先輩たちが俺たちの味方でいてくれることはかなり大きいだろう。

ありがいことこの上ない。

「すまないが、リノもよろしく頼むな」

「わ、私は大丈夫、です」

リノはすんなり納得してくれたようだ。

「てか青葉、なんでノートさんみたいなすごい人と知り合いなんよ!」

「え、あぁそれはな」

「おい、貴様」

ノート姉さんのことを聞かれそれにこたえようとしていたとき、突然声がかかった。

声の方に顔を向けると、長い黒髪をなびかせた長身の魔族の女の子が立っている。

その鋭い眼は完全に俺に向いていた。

どうやら俺に用があるようだ。

「あれ、バレッドはんやん。どしたん?」

エルが気軽な声で返事をした。

バレッド……そういえばさっきトレスが言っていた名だな。

魔族の中でもトップとされる魔王の血族の一人だとか言ってたか。

「エル、といったな。私が用があるのはそこの男だ。あなたには用はない」

そういって一呼吸置いた後に言葉をつづけた。

「貴様、仙城青葉だな」

「あぁ、そうだ。そういうあんたはバレッド・ジンスか?」

「私のことを知っているのか」

表情は一切変えず淡々と言葉を紡ぐバレッド。

なぜかは知らないがこいつはかなり苛立っているようだ。

「教室でリノとエルが世話になったようだな、助かった。ありがとう」

「貴様に礼を言われる筋合いはない。あの場で騒ぎを起こされてもかなわんと思っただけだ。そんなことよりも」

「なぜ貴様がここにいる?ここは女子寮だぞ?」

なるほど、これが本題のようだ。

食堂に来てみれば人族の男がいた。

それに不信感を抱いてわざわざ聞きに来たってとこか。

「いろいろと事情があってね、女子寮に入ることになった」

「なに?」

「事情だよ、悪いけど理由は今は話せない。でも少なくとも俺が望んでここにいるんじゃないってことだけはわかってくれ」

何を言っているのかわからないといったようにいぶかしげな顔をバレッドは浮かべる。

「事情だと?そんな理由で異性と一つ屋根の下で暮らせと?そんなバカげた話があってたまるものか!」

バレッドは怒りが爆発したように声を上げた。

周りに残っていた生徒たちも何事かとこちらを見ているようだ。

まあ正直な話をすればその意見は全く持って正論ではあるだろう。

俺はともかくとしても、女子寮に住む女子生徒からしたらたまったものではないだろう。

「おい、新入生。あんまりこういう場で堂々と騒ぐのはどうかと」

「カミシア先輩」

そんなことを考えていると、聞き耳を立てていたカミシア先輩が口を挟んできた。

だが俺はカミシア先輩の名前だけを言って先に続く言葉を遮る。

この件は俺が片づけなければならにことだ。

正論云々は置いておくとして女子寮で生活することになった以上、こういう話はこれから絶えないだろう。

そのたびに先輩の手を借りていたらきりがない。

「まあ正直、俺もそう思うけどな。残念ながら決定事項だ。学園長の指示でもある」

「ヴェル様の指示だと!何故ヴェル様がこんな人族を!」

その一言で周りに座っていた皇女先輩やリンセ先輩の顔色が変わる。

リノとエルは心配げな顔で俺たちを見ている。

「私は認めないぞ、仙城青葉。人族の男が女子寮に入るなどありえない!」

「とはいえこちらにも理由と事情がある」

苦々しい顔をバレッドは浮かべた。

こちらとしてはバレッドの言い分もわからなくはないため少し申し訳なくなる。

だがバレッドは一度目を閉じ、心を落ち着かせて一呼吸置いた後に言い放った。

「……勝負をしろ、仙城青葉。私が勝てば、貴様は女子寮を出ていけ。お前が、お前自身でヴェル様の指示を断れ」

何を馬鹿な、と周りの先輩たちは思っているようで顔をしかめている。

正論だとは思ったが認められている以上、バレッドの言い分はただのわがままでしかない。

事情があり、それを学園側が許可している以上それは正式な決まりなのだ。

「ふむ」

俺は考える。

下らんわがままだというのは簡単だろうが、少なくともこの女子寮の中には俺のことを聞けばそう思う人もいるだろう。

かといってこの勝負、俺が勝っても直接的なメリットは一切ない。

そして負ければヴェル姉さんからの頼みごとを取り消さなくてはならなくなる。

単純に見れば、リスクしかないというわけだ。

だが

「いいだろう、受けよう」

それでもこの無茶な提案を俺は受けることにした。

テーブルに座っていた俺以外の全員が驚く。

「ちょ、ええんかいな青葉!?」

エルは真っ先に声を上げる。

「大丈夫だ」

とエルに俺は軽々しく答えた。

がそれがバレッドには気に喰わなかったようだ。

「ずいぶんと余裕だな」

睨みつけるように言葉を放つバレッドに気圧されないように俺はバレッドを見つめる。

「何を騒いでいるんですか」

そんな時に騒ぎを聞きつけたのか、ノート姉さんが厨房から出てきた。

「管理人、か。神界第一王女ノート・ルゥムに尋ねる。あなたもこの人族の男が女子寮に入ることを認めているのか?」

それを見たバレッドはノート姉さんに声を投げかける。

「はい、認めてますよ。今年は男子寮もかなりぎりぎりですし、一応事情もありますから」

俺の言葉が嘘ではないということが分かったのか、より顔をゆがませる。

「だが私は認めていない。女子寮に男がいるなど納得できないのでな。だから今しがた決闘を申し込んだ」

「決闘、ですか?……管理人としてはとてもそんなこと認められません」

やはりノート姉さんは止めに入る。

それは当然だろう、女子寮の管理人として学生を受け持っているのだ。

そこにいる生徒たちが喧嘩を始めるなどと言い出したら止めるに決まっている。

「何故だ!ここは女子寮だろう!男がいるなど明らかにおかしいではないか!」

それでも食って掛かるバレッド。

よほど俺のことが気に食わないらしい。

つまりこの件をノート姉さんが制してバレッドを引かせたとしても、いずれまたすぐに同じようないざこざが起こるというわけだ。

それなら早めに対処しておく方がいいだろう。

そう思って俺は二人の会話に割って入っていく。

「悪い、ノート姉さん。俺からも頼む。バレッドと決闘させてくれ」

「青葉君!?」

ノート姉さんは驚きと困りが混ざったような表情で俺を見る。

「その代り、ノート姉さんに決闘の立ち合いを頼みたい。何かあった時、ノート姉さんがいれば大丈夫だろうし。バレッドもそれでいいだろう?」

「私は構わない。むしろ神族王女のノート・ルゥムが決闘の結果を証明してくれるのだ。これ以上ないほどの立会人だ」

バレッドも二つ返事で言葉を返す。

自分の力に自信があるんだな。

微塵も自分がまけることなんて考えちゃいない顔をしてる。

「青葉君はいいんですか?」

「あぁ、構わない。それと悪いけど俺が負けた場合はちゃんと約束を守れるようにしといてくれない?」

「……えぇ、わかりました。立ち合いも約束も僕が保証します」

流石はノート姉さん。

本来なら間違いなくこんなふざけた決闘止めるべきであるのにもかかわらず、俺の意をくんでくれたようだ。

申し訳ないけど、こういうところはほんとにありがたい。

「なら時間は本日の夕刻だ」

すぐにでも決闘をしたいとでも言いたげなバレッドは今日の夕方を指名してきた。

時間にしていえば数時間後だ。

「場所は?」

「闘技場は使えませんから、丘の方ならできるとは思いますが」

「まああそこくらいしかできそうな場所はないな」

「ですが、広さ的にも十分かと」

いつのまにか先輩たちも会話に参加する。

「なら場所はその丘で、だ」

「わかった」

「立ち合いも受けましょう。ですが二人とも、私が危険だと思った場合はすぐに止めに入ります。そうなった場合は抵抗しないように」

ノート姉さんは真面目な声音で俺たちに言い聞かせるように言った。

まあ今の言葉はおもにバレッドに対してだろうけど。

「わかってる」

「了解した」

二人とも同時に返事をする。

それに続いてバレットが俺に向かってつぶやく。

「私はお前を倒す。そしてヴェル様に私の実力を証明して見せる」

そういって、バレッドは踵を返して歩いて行った。

「いやいやいやいや、なんや大変なことになってるやん。大丈夫なん青葉?」

エルはかなりあわてているようだ。

リノも心配げな目線を俺に向けている。

「まあ大丈夫だろ、それより悪いねノート姉さん。俺のわがままを聞いてもらって」

「正直こういうことを管理人の僕が了承するのはかなり問題があるんですが、まあ今回のことを止めてもバレッドさんはまた青葉君と衝突するでしょう?」

「まあそうだろうね。俺は自分から喧嘩を売る気はないけどあちらさんはいつでも売ってくるだろうから、買うなら早いに越したことはない」

「青葉君がそう思ってると思ったから僕も了承したんですけど」

ノート姉さんは心配そうにこちらを見てくるが、大丈夫だってと俺は軽く答えた。

「けど、正面から堂々と言ってくる子がいるなんてね」

「確かに、びっくりしちゃいましたよ」

先輩たちはみんなやれやれといった感じである。

「ニコがあの生徒を消してきましょうか?」

「いやいや、大丈夫ですってニコ先輩」

「けど青葉君、あの子もかなり強いですよ。さすがにヴェルちゃんほどじゃありませんけど、かなりの魔力を持ってます」

「だろうね、立ち振る舞いもそうだったけど魔王の血族らしいから」

「ほんとに大丈夫なのか?」

魔王の血族という単語を聞いてカミシア先輩も心配げな声を上げる

「まあ何とかしてみせますよ。それにこの学園に来てすぐにこんなところで躓いてちゃ先には進めませんしね」

それじゃ、とりあえず戦闘準備してきますとそういって俺は食堂を一人で後にした。

 

 




やっと説明が終わって小説らしくなってきたような気がします;w

小説らしくかけているかどうかは置いておくとして←

小説書いておいて何言ってんだって感じなのですが、リノの口調がまだなんというかなれません;
だから多少おかしいところがあるかもですがそういうとこは見つけ次第直していきたいと思います。

今回は、主人公である仙城青葉に関してもうちょっと詳しく書いときます。
儀式兵器は刀。
進化はまだしていません。
ちなみにゲンの根性刀のような伸縮したり消えたりだとかの能力もありません。
姫の弟子ですが姫と出合ったのは1年前くらいです。
時系列的には姫がトリニティを卒業してすぐ、ですね。
そこから姫にくっついてトリニティ以外の世界をぐるぐるしたりします。
とはいっても主人公もこのころは当然学生なのでちゃんと学んだのは長い休みの間(夏休みとか)だけです。
まあそれでも学校をさぼったりなんだりはしていたので実際はそれより日数的には多かったりするおですがそれは又本編でw
姫との出会いとかも書く予定なのでそのときにまた詳しく書きます
まあだいぶ先の話になりそうですがw

さて、ここからやっとストーリーがちゃんと動きはじめますね
次回はがっつり戦闘ですw
やっと戦闘シーンまでたどり着いたって感じですけど←w
ぶっちゃけ作者まともに戦闘シーンなんて書くの初めてなので次回はより温かい目で見守ってください←ww



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第一章:憧れた世界とその始まりの一日(4)

やって来ました、バトル回!
というわけで更新ですー

※ダミーシルエットの説明を追加、変更しました!

「まあ、ダミーシルエットっていうちょっとした魔法があってな。まだまだ未完成な上に、俺は儀式兵器を軸にしないと作れないから今の段階じゃほとんど実用的じゃないんだけど、今回は役に立ったな」

から

「あ、あの仙城君、お怪我は」

までが変更、追加分です。


夕刻はすぐに訪れた。

ノート姉さんたちに案内されて俺たちは丘に向かうとすでにバレッドは来ているようだった。

決闘の立ち合いはノート姉さん。

観客は先輩たちにエル、リノ、それ以外に食堂で話を聞いていたのか何人かの生徒が集まっている。

全員で20人弱ってところだろうか。

「来たか」

「あぁ、決闘を反故にしたりはしない」

「二人とも、準備はいいですか?」

ノート姉さんが最後の確認を行う。

「うん、大丈夫だ」

「問題ない」

「それでは」

ノート姉さ んの合図を俺たちは両者互いににらみながら待つ。

「はじめ!」

合図を皮切りに俺たちは同時に動き出した。

 

---

 

管理人さんの合図で戦闘が始まる。

私は不安だった。

正直、私は仙城君が女子寮に来ることになった理由にはだいたい想像がついていたのだ。

多分、仙城君が女子寮に来ることになったのは私のせい。

私がただの人族だったなら何も問題は無かっただろう。

けれど、私はリノ・ルイヴィス・A・ヴァーモント。

人族代表キンストン・ルイヴィス・A・ヴァーモントの娘なのである。

この事実は私が気にしなかったとしても周りはそうは見ない。

私のことは人族の代表の娘として見るだろう。

そしてそういう風に見た学園側の処置が、仙城君ということなんだろう。私のおもり役、というわけだ。

よくはわからないけど仙城君は学園長とも知り合いみたいだしまさしく適役だったのだろう。

だから、彼がここにいるのは私のせい。

そして彼が今戦っているのも私のせい。

申し訳ないという気持ちがこみ上げてくる。

そしてそれ以上に彼をこんな戦いに巻き込んで傷でも負ったらと、不安になる。

でも今の私じゃ何もできない。

何もできない私自信を変わるためにここに来たはずなのに。

何も変われてない。

それ以前に世話まで焼いてもらってしまっている。

「……っ」

だから私はギュッと目を閉じて祈った。

仙城君が無事でありましように、と。

今の私には祈ることしか、できないから。

「大丈夫ですよ」

私の表情から気持ちを察したのか管理人さんが私にやさしく囁く。

「青葉君は強いですから」

管理人さんの言葉にあっけにとられて私はまたなにも返せずにいる。

「お手並み、拝見させてもらおうやリノちゃん。青葉はそう簡単には負けへんと思うで」

あたふたしていると隣にいるエルちゃんからも声が飛んでくる。

そんな二人を見て、私も目をつぶらずにしっかりこの戦いを見ようと思った。

そうだ、さっき食堂で自分で言ったばかりじゃないか。

あの入学式の時の青葉君のような勇気を私も身につけなくちゃいけない。

それなのに、青葉君に目を向けずに閉じてるなんてダメだ。

私はあの人に助けられるためにこのトリニティに来たんじゃないのだから。

私はしっかりと目を開いて二人の戦闘を見始めた。

 

---

 

合図と同時に俺は走り出した。

走りながら魔法の詠唱を行う。

バレッドの武器は長槍のようだ。

悠然と構えており、こちらに向かってこない。

かすかに魔力光が光る。

バレッドも魔法の詠唱をしていたようだ。

「炎の矢!」

よく使われる戦闘魔法だ。

系統によって種類もある矢ないし槍系魔法だがある意味では基礎レベルの魔法だろう。

「こりゃまたたくさん撃ってきやがって!」

だが数が尋常じゃなかった。

ゆうに30本は放ってきてるレベルである。

もはや矢の雨だ。

魔族の血族の大量にある魔力を使った物量作戦。

バレッドは速攻で勝負を決めるつもりらしい。

というより、正直この一手はかなり予想外だった。

魔族に関して言えば魔力の総量は高いが魔力運用に関しては神族などに比べたらそれほどうまくはない。

なので力の強い魔族といえば力任せな大規模魔法を放つというイメージがかなり大きい。

デイル兄さんなんかはかなり魔力効率をうまく操るが、それは魔族の中では珍しい部類だろう。

そういうこのバレッドもいわゆるその例外に入る部類のようだ。

炎の矢自体はそれほどだが、あれだけの数を撃つとなるとかなりの魔力制御力が必要になる。

神族に並べるほど、魔族ではトップレベルといっても過言ではないほどの魔力制御力だ。

そんな力を持った奴が魔王の血族特有の莫大な魔力を持っている。

これはかなり厄介な相手かもしれん。

そう考えつつも、俺もそう簡単にやられてやるつもりはない。

一瞬で反撃の一手を組み上げ、実行に移す。

「水の槍!」

とっさに魔法を組み上げ水の槍を放った。

いくつかの炎の槍とぶつかり水が蒸発して霧を生む。

「ちっ!」

一瞬の目くらまし。

バレッドが舌打ちする姿が最後にちらっと見えた。

俺の放った水の槍は大体炎の槍が来る位置はわかっていたから計算通りの数を相殺できたようだ。

だがそれでも炎の槍は全部かわしきれないのでいくつかは被害を最小限にするため刀で逸らしながら次に準備していた魔法を発動する。

「韋駄天、発動!並びに風の回廊、展開!」

俺が掛けた魔法によって俺の速度は跳ね上がる。

そして空中に固定した空気を蹴り上げ、俺は残りの炎の矢を空中で回避する。

正直刀で逸らしたとはいえ炎であるがゆえに服が焦げ付いて少し傷を負ってい るがこの程度は何でもない。

「煉獄の爆風!!」

先ほどの水蒸気をバレッドは強力な風魔法で一気に跳ね飛ばした。

「!?どこだ!仙城青葉!」

完全に俺を見失っているバレッドは周囲にいない俺を必死で探している。

俺はバレッドの真上くらいの位置から自然落下し魔法を唱える。

「月華の氷槍!!」

「な!?」

ドォン!!と大きな音を鳴らして俺の魔法がバレッドに直撃する。

俺はかけておいたままの風の回廊を使って地面に着地し、同時に自分にかけていた風の回廊の魔法を解いた。

バレッドの方を向くと膝をついて苦しそうにしているのが見えた。

それなりに強力な魔法を打ち込んだんだ。

流石に反撃してこないだろうと高をくくっていた。

勝負は割と一瞬で着いたなと 俺が考えているとノート姉さんが宣言をする。

「バレッド・ジンス戦闘不」

「まだだ!!」

まさしくノート姉さんが戦闘不能と言いかけた瞬間、その言葉はバレッドによって遮られた。

バレッドはゆっくりと立ち上がりこちらをにらむ。

「私はまだ負けていない!」

するとバレッドが周囲を圧倒するほどの魔力を放出する。

みれば背には黒い、6枚の羽根が生えていた。

今のヴェル姉さんは10枚羽だ。

だがもともとは8枚羽だったと聞くし、トリアさんも8枚羽だ。

ヴェル姉さんが10枚羽になったのは儀式兵器の進化が理由だって聞いた。

だからヴェル姉さんの10枚は例外として、魔族の最高峰はおそらく8枚。

それには劣るにしても、さすがは魔王の血族。

ラーロン兄さ んと同じ6枚羽とは。

「これからが本番、ってわけか」

そうして俺たちの戦いは二戦目に突入した。

 

---

 

「なぁ、青葉の今の魔法って」

カミちゃんが驚きながら二人の戦いを見て皇女ちゃんたちに話を振っている。

「えぇ、あれは紅姫の」

それに対してニコちゃんはどこか誇らしげな顔をしている。

やはり未来から来たニコちゃんたちは青葉くんの戦闘スタイルを知っているようだ。

「えぇ、そうですよ。青葉君の使ってる魔法は紅ちゃんの魔法です」

僕はカミちゃんに種明かしをするようにそう答えた。

「一時期、僕たちが青葉君の訓練に付き合っていましたから。その時に紅ちゃんに教わったんだと思います。それに紅ちゃんの魔法はやっぱり人族に特化してあるところがありますから、青葉君も使い勝手がよかったみたいです。僕やヴェルちゃんも魔法をいくつか教えましたけど一番自分に合ってるのは紅ちゃんの魔法だって言ってましたから」

「なるほどね、でもすごいな青葉君。姫兄と青葉君が会ったのって確か一年前でしょ?その一年で紅さんの魔法を習得しちゃうなんて」

隣で一緒に話を聞いていた巫女ちゃんが関心したように言う。

「えぇ、青葉君はすごく吸収が早いんですよ。だから私たちもすごく教えがいがありました」

今の戦闘、僕が青葉君に訓練していたころよりも動きがよくなってる。

姫君も扉の事があったとはいえ、その成長速度はかなり早いですけどそれに負けず劣らず青葉君も十分すぎるほどに上達速度が速い。

自分の教え子の成長を見るとやはりうれしいものがある。

この決闘に関しては立会人であるため当然公平に二人を見てはいる。

だがそれでも笑みがこぼれてしまうノートだった。

 

---

 

ゆったりと顔をあげたバレッドはさっきよりも断然真剣な目で俺を見ていた。

正直に言うとさっきの俺の魔法が直撃したのは間違いなくバレッドの油断があったからだ。

人族なんかに後れを取るはずがない。

どうせこの一撃で終わるはず、なんていう慢心があったからこそ俺の空中からの一撃がきれいに決まった。

だがその考えを完全に捨てきったようだ。

「前哨戦はここまでだ。行くぞ、仙城青葉」

「あぁ、来い!」

そうして、決闘の第二幕が上がった。

今度は両方ともに走っていく。

ガギンッ!!

俺の刀とバレッドの槍がぶつかる。

「ふっ」

ぶつかった瞬間、バレッドが小さな笑みをこぼす。

その顔を見て俺が違和感を感じてすぐに後ろに引こうとしたが遅かった。

「業爆の魔弾!!」

バレッドは槍に添えていた左手を俺にかざして、至近距離でいきなり爆撃魔法を放ってきた。

「ぐふっ」

風の回廊はすでに解除していたが、韋駄天だけはまだ魔法をかけたままだ。

バックステップで辛うじて直撃だけは避けたが、それでもかなりダメージをもらってしまった。

「炎の矢!」

畳み掛けるように魔法を放ってくるバレッド。

今回は大量にではなく5連ほどの的を正確に把握した追撃だ。

「風の、回廊っ!」

何とか魔法を組み上げて必死に体捌きで避けるがわき腹に一撃もらってしまった。

一応ではあるものの軽い魔法障壁は体に掛けているのでこのレベルの魔法なら致命傷にはならない。

だがダメージとしてはかなりいいのをもらってしまった。

俺は必死になりながらバレッドから距離をとる。

が、バレッドはこちらに向かって走って追いかけてきていた。

休んでいる暇はない。

相手の次の一手を読むことに集中する。

俺は反撃に向うでもなくその場で魔法を詠唱し始める。

バレッドがすぐそばに迫った時、俺は魔法を発動した。

「瞬時加速術式、旋風!」

名の通り、瞬間的に動きを加速させる紅姉さん直伝魔法だ。

俺の後ろには魔方陣が展開され瞬間的に強い風が後ろから吹いてくる魔法だ。

それを利用しバレッドの横を一気にすり抜けた後、俺はバレッドの後ろに回り込んだ。

「なに!?」

「行くぞ!!」

その一瞬のすきをついて俺は刀を振りおろす。

ガキンッ!

当然のように槍で防がれる。

もともと俺も当たるとは 思っていない。

だが、バレッドはかなり無理な体制からの防御だったため体制が一気に崩れる。

むしろこれが俺の狙いだ。

一気にバレッドは勢いをなくし俺が畳み掛けるように攻撃を仕掛ける。

「はぁ!!」

ギン!!ガギン!!

俺は相手に反撃されないように何度も剣戟を打ち込む。

無理な体制からの防御だったため俺の攻撃を次第にバレッドは崩れていき、足を踏み外す最後の一手で俺は今までよりも重い一撃を打ち込んだ。

「ぐあっ、……まだだ!」

これも槍で受け止めるだろうと俺は思っていたが、バレッドは体半分をほぼ倒れながら避けた。

いや、実際には直撃を避けたという意味で俺の攻撃はバレッドの肩に当たっている。

だがそれすらも意に介さず、バレッドは半ば倒れながら勢いよく自分の槍を地面にたたきつけた。

ドッガァァァン!!!

「がはっ!」

「ぐぅ!」

槍を地面にたたきつけた瞬間、そこで爆発が起こった。

バレッドが自分の魔力を槍に込めてそのまま叩き付けたのだ。

自分がまきこまれるのも承知で玉砕覚悟の引きはがし。

今ので俺もバレッドもかなりのダメージを負った。

人族の儀式兵器は異常なほどの強度がある。

バレッドもおそらくそのことを知っていたのだろう。

いくら槍に魔力を込めたところで儀式兵器を壊せない。

いくら槍に魔力を込めても身体強化とは違うので儀式兵器を介してでは魔力を込めていようとこめてなかろうと関係がないのだ。

もちろん地面を爆破させたように魔力を放出することはできるだろうが、それを刀と槍がぶつかった時に行えば自分への被害も尋常じゃない。

場合によっては自爆にすらなりうる。

だからこそのこの一手なのだろうがそれにしたっていささか無茶が過ぎる。

下からの爆破だったため、俺は上に吹き飛ばされる。

「風よ、俺を導け!」

なんとか体制を立ちなおしながら魔法を使って地面に着地する。

ノート姉さんに教わった風系魔法だ。

こういう着地時の緊急回避の場合はこういう神族がよく使う身体強化系、体にまとう系の魔法の方が都合がいい。

風の回廊は空気を圧縮して足場を作る魔法のためこういう落下時からの立て直しにはそんなに向いていない。

逆に空中へ駆け上がることに特化している魔法だといっていい。

そして俺は着地と同時に魔法を放つ。

「駆けろ !隼!!」

隼は攻撃が当たればそこで風が起こる魔法だ。

攻撃力はそれほど高くないが立て直しの時間が取れる。

だが一瞬遅かった。

「炎の障壁!」

「ちいっ!」

俺の方が爆発を意識していなかった分着地から反撃の時間が長かったようだ。

バレッドはすでに防御系の魔法を唱えていた。

俺は防がれたことに構わず、そのまま突進する。

「ッ!!くっそ!」

バレッドの防御壁の後ろからかすかに魔力光が見えたのだ。

それ以前にかなりの魔力がバレッドに収束しているのが肌でわかる。

あれを食らってしまえば俺は終わる。

このレベルの魔法を防御できるだけの魔法障壁をはれる自信は正直俺にはない。

だからこそ、俺はバレッドに突っ込んでいった。

だが、爆発のせいで地味に距離が開いてしまっている。

ぎりぎり間に合わない!

「食らうがいい、今現在私の持つ最強の魔法だ!ダーインスレイヴ!!」

バレッドからその一撃が放たれた。

異常なほどの魔力量。

赤く黒い光をばらまきながらレーザー砲のような魔法が一直線に俺へと向かってくる。

「いけない!」

外野にいたノート姉さんが切羽詰った表情でこちらに向けて走ってきているのがちらっと視界の隅に写った。

だがそれでも俺は気にも留めずバレッドの攻撃に向かて走る。

「……未完成版、発動」

そういって俺は儀式兵器である自分の刀を地面に突き刺した。

ドオォォォォン!!!!!

そして周囲にはこの戦い始まって一番の爆音が鳴り響いた。

「終わったな」

バレッドは小さくつぶやく。

完全に自分の魔法を食らう仙城青葉の姿が見えたからだ。

魔法を撃った場所は爆発のせいで土煙が上がっておりどうなったのかは一切わからない。

だが、あれを食らってまともに動けるものなどまずいないだろうとバレッドは確信していた。

そう、まさしく気を許したその瞬間だった。

 

「氷の鎖!!」

 

上から声が響いたのだ。

驚いてバレッドは顔を上に上げるとその瞬間に俺が放った拘束魔法がバレッドの体に直撃した。

「な!!?」

自分が拘束魔法にかかったことよりも、俺が健在であることによほど驚いているようだ。

「集え!集え!集え!右腕に集え雷光!!」

まっさかさまに落ちながら俺は魔法を声に出して詠唱する。

落ちる先はもちろんバレッドだ。

そして俺は言う。

「この程度で終わると思うなよ、バレッド!」

「くっ!」

「食らえぇ!!デイル兄さん直伝、零距離雷撃魔法!ライトニングバンカー!!」

「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

爆裂音とともにバレッドの悲鳴が響き渡る。

「がふっ!」

自分で撃った魔法だが真上からの空中で発動なんていう無茶を行ったため俺も少し巻き込まれて爆風に投げ出された。

俺はかろうじて立ち上がり地面に突き刺した自分の刀をとってバレッドの方へ歩く。

この魔法は威力だけは高いが、零距離で打たないと意味がない上に魔力消費が半端ない。

本当に決められるときにしか使えない一撃だ。

「はぁはぁ」

肩で息をしながら歩く。

俺の方もほとんど余力は残っていない。

全く、バレッドのことを無茶だと一切言えない。

俺も相当無茶な戦い方をしたものだ、と内心で苦笑しながらバレッドのすぐ近くまでにたどりついた。

バレッドは当然のごとく倒れている。

もはや起き上がる気力もないようだ。

「ふぅ」

溜息を吐いて、目を閉じる。

いったん落ち着いてからそうして俺は自分の刀を鞘に収めようとする。

その時、バレッドの方で槍を引きずる音が聞こえた。

「はぁ!!!」

音が聞こえた瞬間、もう一度バレッドの方を向くと槍は寸前まで迫っていた。

バレッドの余力を振り絞った最後の一撃。

その攻撃に俺は無意識に反応していた。

師匠に教えてもらって、何度も何度も練習して繰り返して習得した技だ。

「っがあああ!!!!」

槍に沿うように刀が滑り俺に当たるはずの槍の 方向がずれていく。

相手の攻撃を受け流しながらその勢いで相手に攻撃する、切り札。

師匠直伝の、カウンターだ。

俺はぎりぎり、バレッドの喉元で刀を止める。

一瞬硬直する二人。

そのすぐ後にバレッドは倒れこんだ。

本当にすべてを振り絞った一撃だったのだろう。

俺は今度こそ、刀を鞘にしまった。

外野は全員唖然としてこの戦いの最後を見守っていたが、俺が刀を鞘に入れた瞬間、ノート姉さんが高らかに宣言した。

「バレッド・ジンス戦闘不能!よってこの勝負仙城青葉の勝ちとします!」

うおぉぉぉぉ!!!!

その言葉により集まった20人弱の観客の生徒たちから歓声が上がった。

「人族が、他種族の歓声を浴びることになるなんてな」

と自虐的に笑いながら俺は その場に座り込んだ。

流石に少しの間休憩したい。

かなりハードな戦いだった。

「青葉君!」

ノート姉さんたちが走って駆け寄ってくる。

「バレッドに早く回復魔法をかけてやって。気を失ってるようだから。俺はまだ大丈夫だし」

「はい、わかりました」

そういっててきぱきとバレッドに回復魔法をかける。

「ふむ、じゃあ私が青葉に回復魔法をかけてやろう」

そういって一緒に駆け寄ってきたカミシア先輩が回復魔法をかけてくれる。

「あんまりかけすぎるとリバウンドが来るからな、さすがに全回復とはいかないが」

「いや十分ですよ。ありがとうございます」

回復魔法をかけてだいぶましにはなった。

そりゃ疲れが全部取れてるというわけではないがまあ掛けてもらわな いのと比べれば雲泥の差である。

そうしているうちにギャラリーの生徒たちは帰って行ったようだ。

ただ、ギャラリーだったうちの三人くらいがこちらに近づいてきて、

「すごかったぜ!人族ってこんな強いんだな!」

「あ、あのかっこよかったです!」

「なかなか面白いものを見せてもらいました。人族という種族の認識を改めますわ」

そんなような感想を言い残して帰って行った。

やはり、この戦い。

受けた意味は大きかったな。

「お疲れ様やな青葉!ほんますごかったで!こんな激戦初めて見たわ」

エルとリノが二人で俺に近寄ってきた。

エルの言葉にリノもうんうんと大きくうなずいている。

「必死だったけどな。さすがは魔王の血族様だよ、さすがに最後のあれはやばか った」

「いや、けど見てる方は焦ったで。あんなどでかい魔法ぶっ放すんやもん、顔面蒼白なったで。あれどうやって避けたんよ?」

「まあ、ダミーシルエットっていうちょっとした魔法があってな。まだまだ未完成な上に、俺は儀式兵器を軸にしないと作れないから今の段階じゃほとんど実用的じゃないんだけど、今回は役に立ったな」

そう、俺がバレッドの放ったあの魔法をよけれた理由はダミーシルエットだ。

かつてミリオさんが開発し、ノート姉さんに、そして俺に受け継がれた神族の魔法。

ちょっとした、なんて言い方をしたがあれはかなり高度な魔法だ。

魔力運用のレベルも半端ない上にかなり精密な魔力制御が必要になる。

だから俺に受け継がれたとは言ったものの俺はほとんど術式を知っているだけにすぎない。

実際はまともに発動できないし、できるようになるのに何年かかるかわかったものではない。

ただまあ裏ワザというか、なんというか。

俺達人族には儀式兵器がある。

あれは魔力を持っていない人族が魔法をつかうために開発した魂を基にして作られる魔力収集装置だ。

その儀式兵器を軸にして発動したのが今回の自動型ダミーシルエット。

儀式兵器にダミーシルエットの魔法術式を付与し、儀式兵器が収集する魔力によって動くダミーシルエット、というわけだ。

いちいち指示を出さなくていい半自動型の幻術魔法。

もちろんそれ用に術式も少しいじっている。

アミアさん協力のもとだ。

だがまあ正直に言うと俺はこの自動型すら満足に発動できない。

術式もだが、その他もろもろ、未完成なのだ。

現に、この魔法は欠点が多すぎる。

まず何より儀式兵器を軸にしないと成り立たない。

この魔法を使った時点で俺は武器を手放さなければならないわけだ。

そして何より、儀式兵器に込められる魔力量が少ない。

つまり魔法の発動時間がかなり短いということ。

魔力収集装置とはいえ、魔力タンクではないのだ。

儀式兵器の魔力収集速度とダミーシルエットの使用魔力が明らかに釣り合わない。

すぐに許容値を超えてしまうのだ。

まあその辺は別で魔力を付与しておくとか対処はできるのだが、いかんせん俺の魔法レベルはそこまで達していない。

修行不足というわけだ。

ぶっちゃけ今はまだ10秒くらいしかもたない。

だから今は本当に最後の緊急回避手段としてしか使えないのが現状。

だがその魔法に今回は助けられたな。

そんな説明を軽くしてやると、なるほどなぁといやに真剣な表情でエルはつぶやいた。

そんな中、おずおずとリノが近づいてきた。

「あ、あの仙城君、お怪我は」

「あぁ、大丈夫だ。カミシア先輩にもう回復魔法は掛けてもらったし。特に問題ない」

「そう……よかった」

ほっとした様子でリノは安心した顔になる。

「うぅむ」

そんな時、気を失っていたバレッドが目を覚ました。

そばでノート姉さんが様子を見ているが俺は立ち上がってバレッドのそばに行った。

「おいバレッド、大丈夫か?」

「う、ん?貴様は……」

「俺が誰だかわかるか?」

「仙城青葉、だな。……あぁそうか私は負けたのだな」

寝転びながら腕を目の上に載せる。

少ししたら起き上がろうとしたので、俺は手を貸すと、

「すまない」

なんて言って俺の手をつかみながら起き上った。

そしてそのまま立ち上がろうとする。

「あ、まだ立ち上がらない方が」

「大丈夫だ」

ノート姉さんの声も制してバレッドは立ち上がった。

そして俺の方へ向き直る。

「すまなかった」

そうして放ったのは謝罪の言葉だった。

律儀に頭も下げながらである。

「何が? 」

俺は素直に驚きながらそう聞き返す。

どんな言葉が飛び出してくるかと思えば、まさか謝られるとは。

「私はお前のことを、人族のことを馬鹿にしていた。いくら何と言おうと私よりは所詮下の存在だと思っていた。だが、お前は私に勝った。私よりも強かった。それは私の認識が間違っていたということだ。今ならヴェル様に言われたこともわかる気がする。食堂で言った数々の非礼は謝罪する。改めて、すまなかった」

バレッドの放った言葉にこの場に残っていた全員が驚いた。

自分の非を理解してなおかつそれを認められるというのは本当に難しいことだ。

人には誰しも建前やプライドというものがある。

だが目の前にいるバレッドという少女はいとも簡単にそれを脱ぎ去って見せた。

魔王の血族という魔族の中では貴族に値するほどのものが、素直に自らの非を認めているのだ。

バレッドの物言いは手のひらを返すような発言だったが、それでも存外手のひらを返すという行為は難しいものなのだ。

俺はずいぶんと素直な子なんだなと、そう思った。

「構わんよ、別に。そもそもそんなこと気にもしていない」

「だが、今回の件は私が全面的に悪い。ほぼすべての非が私にあるといってもいい。ここで謝らなければ私の主義に反する」

「ならその謝罪は受け取ろう。そんで許そう。今後別にこの件でバレッドが気にすることはない」

「……わかった。ありがとう」

バレッドはそういって申し訳なさそうに顔を俯かせた。

「管理人殿もお手を煩わせてしまった。申し訳な い」

そういって今度はノート姉さんに謝罪をしだした。

「いえいえ、僕は大丈夫ですよ」

「本当にすまなかった。それと人族に対して今後は一切態度を改めるとする」

「バレッドがそういってくれるなら俺はこの決闘を受けたかいがある」

「それと仙城青葉、あなたにも力あるものとして敬意を表す。あなたは本当に強かった」

「魔王の血族にそういわれると素直にうれしいな」

俺は軽く笑いながら冗談めかして言う。

正直同世代の、それも実力ある者にここまで素直に褒められたのがちょっと恥ずかしかったのもあった。

「今まで私は負けというものを全く経験したことがなかったのだ。だから負ける自分という姿が想像もできなかったし負けることなんて微塵にも思っていなかった 。でもそんな私にあなたは勝った。私は純粋にあなたの実力に敬意を払う。できたら今後もよろしく頼む」

「あぁ、こちらこそな」

そういって俺たちは握手を交わした。

初めはこんな結末になるとは思っていなかった。

一度負かしておけばとりあえずはおとなしくなるだろうくらいにしか考えていなかったうえに魔王の血族が黙ったおかげでほかの魔族もそれほど騒がないようになってくれたらうれしいなとそれくらいの残念な考えしか俺は浮かべていなかったからだ。

もちろん決闘を受けた理由はそれだけではない。

魔王の血族に勝つことで魔王の血族を黙らせられるのも一つだが、何より魔王の血族に勝ったという事実が周りを黙らせてくれるだろうという考えがあったからこそこの決闘を受けたのだ。

そう言うと俺が勝つのが当たり前のような物言いになってしまうが、別に自分の実力を過信してるわけでもバレッドを侮っていたわけでもない。

俺は師匠たちとの修行で魔王の血族との決闘は慣れている。

さまざまな魔法を使う神族と違って、魔族というのは戦い方がある程度似てくるのだ。

それにまあ、一応奥の手だってあるにはある。

ゆえに自分の実力でも十分相手になれると判断したからこそ、この勝負を受けたのだ。

まあ単純に戦ってみたいって気持ちもあったけど、一番は風評を受けるため。

主にそれだけの戦いだった。

だがまさかその魔王の血族がこんな子だったとは。

力に対する順列に素直な魔王の血族、か。

まあそれはそれで魔族らしいといえばらしいし、それ なりに自分の筋は通しているみたいだ。

悪い子ではなさそうだな。

「さて、私たちも帰りましょうか」

「そうですね、見ごたえのある戦闘も見れましたし」

「青葉さん相変わらずいろんな人の魔法を使ってましたねー!なんだか私たちとは違う意味でサラブレッドですよね」

「おいおい、自分で自分のことをサラブレッドとか言ってどうするんだ、リンセ」

「私とニコは4人の母様たちから生まれた文字通りサラブレットですもん!お父様と、お母様たちの愛の結晶です!」

先輩たちはがやがやと雑談しながら歩いていく。

「あかん、この人らが何を言ってるのか、うちにはさっぱりわからへん」

エルは先輩たちの話を聞きながらハテナを浮かべてるが、まあ気にしなくていいだろう。

「 ほら、リノも行こう」

俺の言葉にリノはうなづいてとてとてと歩いて近寄ってくる。

「バレッドさん、大丈夫ですか?まだ辛いようなら」

「大丈夫だ、管理人殿。歩ける程度にはもう回復した」

ノート姉さんはバレッドの心配をしながら声をかけているがバレッドの足取りはしっかりしている。

本人の言っている通り特に心配はなさそうだ。

「あぁ、そうだ」

そういってバレッドが思い出したかのように立ち止まった。

「あ、あの仙城青葉」

「ん?どした?」

「あなたのことを、その……青葉と呼んでいいだろうか」

うん?と俺はハテナを浮かべる。

いちいちそんなこと聞かなくてもいくらでも好きなように呼んだらいいと俺は思うのだが。

というかそもそも俺自身がバレッドのことをそのまま名前で呼んでるわけだし。

「まあそれは全然構わないが」

「そうか!」

そういってバレッドは無邪気な笑顔を浮かべた。

薄く頬を染めて無邪気に笑うその顔はまぶしいくらいの笑顔だった。

こんな顔もできるのか、と俺は一瞬驚いて固まってしまった。

「何してるんですかー!早く帰りますよー!」

リンセ先輩らが少し離れたところでそう呼びかけるいる。

「行こうか」

固まっていた俺はその声ではっと気が付き、リノとエル、ノート姉さんとバレッドに向かってそういった。

先輩たちが待つ方に向かって歩いているときにふとエルが俺に質問してきた。

「なあ、青葉。あんた魔族王女の学園長と知り合いやったり、神族王女の管理人と知り合いやったり、しかも人族で異常に強いって何者なん?」

まあ何も知らなければそれは疑問に思うことだろう。

これだけの著名人とかかわりがあるなんて普通ではありえない。

だが俺にはそれがある。

何故かと、それは簡単な一言で表せられるのだ。

俺はエルの方に向きなおして言った。

 

「俺は白鷺姫の、現勇者の弟子だよ」

 

こうして俺たちのこの学園に来てからの長い一日はやっと終わりを告げたのだった。

だがしかし、この苦難の一日はまだ終わりではなかった。

みんなで夕食を食べ部屋に帰ってから、俺は自分の部屋の荷解きが一切できてないことに気が付いた。

明日の準備や寝間着なんかも一切段ボールの中でありこの中にあるものを少なくとも明日をしのげるくらいには整理しなければならない。

徐々に出てきた疲労感、じんわりと押し寄せてくる眠気。

落ちるのは目に見えていた。

だから落ちる前に風呂に入って目を覚まそうとしたときに気付いたのだ。

「ここ男子風呂なくね?」

とりあえずノート姉さんのいる管理人室に行って話を聞くことにした。

話を聞けば女子の時間が終わった後に入れる、らしい。

時計を確認すると、風呂が空く時間まであと1時間半。

俺の風呂までの絶望の1時間半がここから始まるのだった。




やっと入学式の一日が終わった!!

そしてストックが尽きた!!←wwwwwwwwww


というわけで、第一章終了です。
次からは第二章に入ります。
いやー
戦闘シーンって書くの楽しいですねw
難しかったですけど

もしゲームだとここの終わりでOPムービーが流れますね←w

今回バレッドの使った魔法「ダーインスレイブ」
名前はレーヴァテインやらトールハンマーなんかと一緒で北欧神話からとってます。
まあこれたしか剣の名前なんですけどね;
それと青葉くんが使ったダミーシルエット未完成版。
これにもいろいろ設定があります。
がちょっと書いてみたら長くなったのでちゃんと書いて後で挿入します←w

そんなわけで
4万文字使ってやっと一日終わりました←wwwwwwwwwwwwwww
この調子で行くとやばいほどの文字数になりそう;
まあでも出来るだけ頑張って書いて行くのでこれからもどうぞよろしくお願いします!

次回予告!
竜族歓喜!ついにウルルちゃんが登場!(ついでにアミアもwあとオペラさんもw)
の予定です←w


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第二章:勝利の噂と迷宮試験(1)

第二章突入ですー!

この辺からはこまごまと投稿していこうと思います。

ウルル様登場回です!

※少しだけ文章変更しました。




朝。

昨日の夜の荷解き作業は何とか今日を乗り過ごせるくらいには終わり、それなりに睡眠をとることはできた。

ちなみに朝と言っても時間はかなり早い。

ほとんどの学生はまだ寝ているだろう。

俺は服を着替えて外に出た。

師匠に言われて毎日行っている修行だ。

師匠は夕方か夜にやってたみたいだけど、俺は早朝に行うことにしている。

今まで人界に居た頃は日によっては師匠たちに訓練を付けてもらっていたりしたので、この時間が一番安定していたのだ。

だから前から俺はこの時間に訓練をしている。

基礎訓練を毎日行う事。

師匠に珍しく何度も言われたことの一つだ。

だから俺は毎日欠かさず1時間ほどの訓練を行っている。

「っふ」

そういって俺は刀をふり始めた。

訓練で使うのは儀式兵器ではなく刃を抜いた訓練用の刀だ。

流石に個人訓練でわざわざ本物の刀は使わない。

無駄な怪我を負う可能性があるからだ。

「はっ!」

俺は集中して訓練に取り組み、気が付くと40分ほどたっていた。

いつもより刀の訓練を長く行っていたみたいだ。

今日から初授業なのである。

無意識にその事実が俺を集中させていたのかもしれない。

「さて」

俺は訓練用の刀を鞘に納め、持ってきておいた儀式兵器を腰につける。

そして目をつぶって魔力循環の修行を行った。

魔法を発動する時の速度や魔力効率などに意識を向けてそれを以前よりも早く効率的に行えるように訓練する。

まあ傍から見ればただの精神統一だったりするわけだが、神族なんかが見たら俺の行ってることがわかるだろう。

それを30分ほど行った後、俺は腰につけていた儀式兵器に手をかける。

いつもの訓練の最後のしめに行っていることだ。

心を落ち着かせて姿勢を低くし、俺は腰につけている刀にゆっくり手を伸ばす。

そうして数秒間の静寂ののち、俺は動いた。

「ふっ!」

居合切り。

いかに早く、いかに鋭く、いかに正確に最強の一撃を放てるかを考えながらこの一瞬にすべてを捧げる。

俺はいつも訓練の最後にはこの居合切りをしている。

これも当然訓練の一つだ。

「ふぅ」

と、ため息をついて俺は刀をしまった。

そうして寮の扉がある方に顏を向ける。

するとそこには皇女先輩が立っていた。

実は途中からこっちを見ているのはわかっていたのだが、声をかけてこない様子を見るととくに用があったわけでもないようなので俺は気にせず訓練を続けていた。

「朝から精が出るね」

皇女先輩はすでに制服に着替えていた。

訓練を初めて一時間以上たっているとはいえ、まだ登校する時間にはそれこそ一時間くらいある。

この人、朝はかなり早いのだろうか。

「まあ日課ですから」

「ほんとに姫兄の弟子なんだね、そういう訓練をするところを見てたらほんとに実感する」

「師匠に言われてますから、基礎訓練は何よりも重要だって」

「私も言われたなぁ、それ。普段の努力が大切な時に自分の身を守ってくれるって」

2人で師匠の話に興じる。

新しく入学してきた俺たち二人を除けばこの学園に去年いた人族はこの皇子先輩ただ一人だ。

それでいて生徒の半数が上がれないと言われている三階級に今在籍している。

今現在でトリニティを卒業した生徒は師匠と紅姉さんただ二人だ。

この人の実力はわからないが、ここの三階級に名を連ねているという時点でかなりの実力だという事がわかっている。

間違いなくこの人は人族で三人目のトリニティ卒業者になるだろう。

とそんなことを考えていた時にふと昨日のことを思い出した。

昨日の事とはリノの件だ。

そういえば皇女先輩には後で説明すると言っていたんだった。

丁度いい、この機に話しておこう。

「そういえば昨日のことをまだ説明してませんでしたね」

「昨日のこと?」

「リノのことです」

「あぁ。やっぱり、あの子って」

「えぇ。ご察しの通り、あの子はキンストン・ルイヴィス・A・ヴァーモントの一人娘だそうです」

そういって俺はヴェル姉さんから聞いた話と、学園長室で話した内容を皇子先輩に話した。

「なるほどね。まあ人族には王制っていうのがないから全然違うのではあるんだろうけど、ただの人族ならいざ知らず代表の娘ってなるとほかの王女たちと立場的には似たようなものだもんね」

「ヴェル姉さんも正直対応に困ってるって感じでしたし、だからまあ俺がここにいるわけですけど」

「青葉君も大変だね」

「まあ師匠たちの頼みですから全然かまわないんですけどね。あぁ、それとこのことはできたら内密にお願いします。身内なら大丈夫ですが、学園中にこの事実が知れ渡ると正直リノに被害が出るかもしれません。俺たちは人族ですから」

「うん、わかった。私たちの方でも注意しておくよ」

「ありがとうございます」

「さて」

俺の話題が終わったところで皇女先輩は区切りをつけるように言った。

「朝ごはん食べに行こうか」

 

---

 

私は窓から彼のことを見ていた。

別に盗み見ていたわけではないがたまたま朝起きて空気を入れ替えようと思い窓を開けたら目に入ったのだ。

私も朝は早いほうだが、彼、青葉のほうがより早いらしい。

「仙城青葉、か」

私はなんとなく、自分を唯一負かした彼の名を呟いた。

私は当然、魔王の血族としての誇りを持っているしその力を自覚している。

うぬぼれているわけではない。

ただ力あるものはその力同様に力を持つ者としての責任があるということだ。

ノブレス・オブリージュという考え。

だからこそ私は私自身の力に責任と誇りを持っていた。

そう持っていた、過去形だ。

それはいとも簡単に崩されてしまった。

よりによってトリニティに入学したその日に、だ。

だが、私は晴れ晴れとした気分だった。

自分は負けて、自分支えとなっていた自信を粉々に砕かれたにもかかわらず。

私の気分は良かった。

悔しくなかったわけではない。

昨日の戦闘の後、気がついて負けたと自覚したその瞬間の悔しさは今もまだ胸の中にある。

だけどその悔しささえ、今は心地が良かった。

そうだ。

私は昨日のあの戦いが楽しかったのだ。

人生で初めて本気を出して戦った。

いつもは本気も出せずに相手を倒してしまう。

当然上には上がいることは分かっている。

私がヴェル様やトリア様に挑んだところでまず勝てはしないだろう。

だが、実際勝てはしないと理解しててもそれを経験したことがない自分は、本気で戦ったことがなかった自分はわかってはいても理解はしていなかったのだろう。

それも今だからこそわかることだ。

私は初めて、本気を出して戦って負けた。

私が本気で戦っても倒れることなく、私を負かせる者がクラスメイトにいる。

その事実が、今まで一切期待していなかったこれからの学園生活が彩られた未来に変えていく。

「ヴェル様が言っていたのはこういうことだったのか」

まさしく、すぐに思い知った。

思い知らされた。

「世界は広いな」

私は一人笑いながら青葉の訓練に目をやる。

「う、んん。あ、おはようございます」

ルームメイトが起きてきたようだ。

「あぁ、すまない。起こしてしまったか」

私は声がしたほうに振り向いて声をかけた。

彼女とは昨日話をして少しは気軽に話してくれるようになったのだ。

それでも敬語はまだなくならないのだが。

「いえ、私はいつもこのくらいに起きるので」

「そうか」

そしてふと横目で窓の下を見る。

青葉はまだ訓練を続けているようだ。

「私も訓練でも始めるかな」

「え?何か言いました?」

何気なくつぶやいた一言が彼女に聞こえてしまったようで、私はすぐにいやなんでもないと言ってごまかすのだった。

 

---

 

「できたー!やっとできたよー!」

ここはトリニティの町中にある四界協定本部の事務所。

そしてその地下の研究所。

アミアは一人、朝早くから大声で騒いでいた。

「おはようございます、アミアちゃん」

「おはようございます、アミア様」

そこに大声につられたのか、ウルルとオペラがアミアに朝の挨拶を言いながら研究室に入ってきた。

「おっはよぉ!ウルルちゃん、オペラさん!というか今日は二人とも早いね」

アミアも無駄に高いテンションで挨拶を返す。

この三人はここ、四界協定の事務所で寝泊まりしている。

ヴェルやノートが学園で仕事がある以上、それ以外で誰かがこの事務所の代表を務めなければならなかったのだ。

そこで名前が挙がったのがウルルだった。

姫を代表に置くという話が有力だったが、そもそもの知名度的な面でやはり問題が多くとりあえずはウルルがということで、今はまだウルルがこの組織の代表になっている。

「今日は少しトリニティでお仕事がありますから」

アミアの言葉にオペラがそう返すとアミアは納得したように頷いた。

「あー、迷宮試験のことだっけ」

「はい、そうです。ノート様も新入生が入ったばっかりで忙しいですし、ヴェル様だけじゃ手が回らないからフォンさんが帰ってくるまででいいから手伝ってって言われたので」

それに対して今度はウルルが返事をする。

「フォンさん、今魔界だっけ?」

「はい、今はもともとの仕事だったトリア様のお手伝いをしに魔界へいってるはずです。全部片付くまでもう少し掛かるってこの前言ってました」

「なるほどねー」

「それで、アミア様?朝から何を騒いでいたのですか?」

オペラは事も無げに騒いでいたと表現する。

相手を気遣っているのか気遣っていないのかわからないような言葉遣いだ。

まあそれがオペラ・ハウスなわけだが。

「んっふー!よくぞ聞いてくれましたぁ!遂に完成したんだよ!この魔法が!」

そう言ってアミアは一枚の紙を二人の前に突き出した。

そこには魔方陣やらなんやらがいろいろ書いてあるが当然ウルルには何が書いてあるかわからない。

ラビットフォームで魔法が使えるとはいえ研究者ではないオペラは少しはわかるようだが全部は理解しきれないようだ。

「これは……転送魔法ですか?」

「おぉ、さすがオペラさん!そう!この魔法はある程度の範囲内なら好きな所に転移できる空間魔法!」

そう、アミアのテンションが高かった理由は自分の組み上げた魔法がやっと完成したからだ。

達成感で気持ちが高ぶっているのである。

「あれ、でも転移魔法って普通にありませんでした?」

ウルルはうろ覚えの魔法知識で指摘する。

自分が使っていないとなかなか覚えられないものなのだ。

「いやいや、この魔法のすごいところは生物が転移できるところなんだよ!物だけならいままでにもあった転移魔法で運べるんだけどね、生物を生かしたまま飛ばせるっていうところがこの魔法のすごいとこ!」

「それは、確かにすごいですね。日常生活でも戦闘においてもかなり実用性の高い魔法です。ていうかそんな魔法、正直チートのような気もしますが」

「少し前にやっと魔法の基盤ができて昨日から徹夜でやっと完成だよぉ。というわけで、早速実験しないと!ウルルちゃん、ちょっと手伝ってくれない?」

アミアのその一言にウルルは一瞬で微妙な表情を浮かべる。

「ウルルですか?……あのー、爆発とかしないですよね?」

「大丈夫大丈夫!この魔法は爆発する要素ないし!この魔法は術者さえいれば儀式兵器を持ってない人族でも魔法を使えない竜族でも転移できるから!」

「あのーやっぱりウルル、心配なんですけど。……オペラぁ」

ウルルはオペラに助けを求めようと名前を呼びながらオペラを見る。

「わくわくどきどき」

「オペラぁ!」

オペラは一切助ける気などなかったようだ。

「そんなに心配しなくても大丈夫だって!それじゃ始めるよ!」

「え、あ、あのちょっとまっ」

「魔法詠唱完了!インスタントワープ!!」

アミアが魔法を発動すると部屋に魔法光が走り、一瞬でウルルの姿は消え去る。

「いっよし!成功!」

ウルルの消える瞬間を見てアミアが叫ぶように言う。

オペラは感心するようにそれを見ていた。

がしかし。

その直後ウルルと入れ替わるようにズドン!と大きな丸い石のようなものがウルルのいた場所に落ちてきた。

「……石?」

アミアとオペラは一瞬固まった。

二人の心情は「え、何この石」である。

「あのーアミア様?これはウルル様が石になった、とかいうオチではないですよね?もしそうなったら全竜族がアミア様に牙をむくことになりますが」

「いやいやいやいや!だ、大丈夫だよ!さすがに石になって帰ってくるなんてことはありえないから!と、とりあえず飛んだ場所に確認しに行こう!」

「飛んだ場所はどこです?」

「女子寮の食堂に設定したよ!」

「では、急いでまいりましょう!」

二人は急いで外へ出て女子寮に向かって走って行った。

 

---

 

俺と皇女先輩は二人で食堂に向かった。

カミシア先輩はまだ寝ているようらしいが直に起きてくるだろうとのこと。

俺は今日の朝ごはんは何だろうなぁとそんな軽いことを考えていた。

まさしくその時。

「うにゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

突然誰かの悲鳴が聞こえた。

「なんだっ!?」

「なに!?」

俺たちは突然の出来事に思わず声を上げた。

さっきの声、なんだか聞き覚えがあるんだが……。

「とりあえず食堂からみたいだし、行ってみよう!」

皇女先輩はそういうとおもむろに走り出した。

俺も皇女先輩と一緒に走り出す。

食堂はすぐ目の前だ。

俺たちはすぐに食堂に着いた。

そして、見た光景は……。

「「え……?」」

俺たちは唖然とした。

とりあえず、見たままの光景をそのまま話すと、

食堂の壁から下半身が生えていたのである。

おそらく女の子のおしりが思いっきり突き出されてる。

「壁に、埋まってるのか?」

そんなことを言ったとたん、食堂の中から声が聞こえる。

「抜けません!動けません!ウルルはいったいどうなっているんですか!!?」

声を聴いた途端、俺はやっと気が付いた。

ここに埋まってるのはウルルさんだと。

とりあえず中に入ってみようと皇女先輩がいい、俺たちはウルルさんが埋まってる壁の隣にあるドアをくぐって中に入った。

そこにいたのは案の定、ウルルさんだ。

「あの、ウルルさん?何してるんですか?」

皇女先輩がウルルさんに話しかける。

 

ウルルさんはやっと俺たちの存在に気が付いたのか、顔をあげて話しかけてきた。

「あ、皇女ちゃん!あのあの、ウルルはどうなっているんでしょうか!?」

どうやらだいぶパニックになっているようだ。

「壁に埋まってる、っていえばいいでしょうか?」

皇女先輩も若干疑問形で説明をする。

パニックになりすぎて、ウルルさんは俺の存在にすら気づいていないようだ。

すると食堂の外から声が聞こえる。

「うえぇ!!?なにこれ!?」

「こ、これはウルル様の!!」

これまた何とも聞き覚えのある声だ。

「まさかこんな形でウルル様のパンツを見ることになろうとは……。アミア様、ぐっじょぶ!」

「ぐっじょぶ、じゃないって!完全に失敗じゃん!」

「あ、あのーここに顔うずめてもいいですかね?」

「え?オペラ!?何しようとしてるの!?」

「え、本当に顔うずめるの?」

「それでは、いっただっきまーす!!」

「いやぁぁぁぁぁ!!ドラゴンブレス!!!」

「え、ちょ、まっ!!」

俺たちはどうしたものかと唖然としながら傍観していたとき、ウルルさんの気麟が一気に跳ね上がる。

「いや、ちょ!」

「やばっ!」

俺と皇女先輩は一気にウルルのそばを離れる。

緊急回避だ。

ドゴォン!!!

直後、食堂の壁が一気に壊れる音が聞こえた。

「うっひょーい!」

寮の屋根を突き破ってオペラさんが飛んでいくのがかすかに見えた。

「ふぅ危ない危ない」

アミアさんはきっちり防御してたみたいだ。

「きゅー……」

ウルルさんは自分が埋まってる壁を破壊した衝撃で伸びている。

俺たちはどうしようもできずただただ、唖然としていたら食堂の奥から声が響いた。

「何の騒ぎですか!!」

騒ぎを聞きつけて、ノート姉さんが現れたのだった。

 

---

 

「す、すみませんでした」

食堂の片隅でアミアさんが正座させられてノート姉さんに説教を受けている。

「だからあれほど新しい魔法を使うときは注意しなさいって!」

それを傍目で見ながら俺たちは食堂の席に座っていた。

「うぅ、ひどい目に遭いましたぁ」

席にはウルルさん、オペラさんと途中で食堂に来たカミシア先輩、それにもともといた俺と皇女先輩だ。

ちなみにオペラさんはさっき何事もなかったかのようにケロッとして帰ってきた。

「さんざんだったなぁ、ウルルちゃん」

俺たちはウルルさんたちに今朝の事情を聴いていたのだ。

つまり、朝早くからアミアさんが魔法の実験をしてそれを半ば強制的に手伝わされたウルルさんが女子寮の壁に挟まる形で魔法が発動されてしまったと。

つまり、転移魔法の座標がずれて壁のある場所が転移場所に選ばれてしまったというわけである。

挙句にオペラさんの暴走によりウルルのパニックが最大になった挙句ウルルが食堂の壁を粉々に壊したと。

まあそんな感じらしい。

「けど久々の再開がこんな形になるとは思わなかったな」

俺は苦笑まじりに言いながらオペラさんとウルルを見る。

「まあ確かにそうですね。改めまして青葉様、お久しぶりです」

「お久しぶりです、青葉君」

二人が改めて挨拶してくる。

この二人ともノート姉さん、ヴェル姉さん同様、前から面識があった。

「お久しぶりです。二人とも変わってなさそうで何より」

「私も散々だったよぉ」

そこでやっと説教から解放されたのかアミアさんが話しかけてくる。

「もう、アミちゃんはもっと反省してください」

ノート姉さんも一緒に話の輪に入ってきた。

「アミアさんも久しぶり」

そこで俺もアミアさんに話しかけた。

二人同様、アミアさんとも当然知り合いだ。

「久しぶりだねー、青葉君」

アミアさんも俺に返事を返してくる。

「でも、完全転移魔法なんてよく作れたなぁ。さすがアミアちゃんだ」

カミシア先輩がさっきの話で出ていた魔法に感心するように言う。

「でも失敗しちゃったしなぁ。なんで座標がずれたんだろ。座標の固定をもっと正確にしないとなぁ」

アミアさん的には納得していないようだ。

ちなみに、ウルルさんが壊した壁はノート姉さんの修復魔法で元通りだ。

流石ノート姉さん。

俺には絶対できない真似事だ。

「朝ごはんをお持ちしましたよぉ」

すると、メイド服を来た竜族の女の子が朝ごはんを運んできた。

ちなみにオペラさんではない。

「おはようございます、みなさん」

そういって竜族の女の子は俺たちに挨拶を交わした。

「今日も手伝ってるんだな、ルルウ」

カミシア先輩が竜族の子に話しかける、どうやら知り合いのようだ。

だが、俺はその竜族の子を見て不思議に思っていた。

「金髪の竜族?」

そう、金髪なのだ。

金竜は竜王家の証であり、その生き残りはウルルさんしかいないはず。

「あぁ、青葉君は初めてだよね。こちら、ルルウちゃん」

俺が怪訝そうな顔で考えていると皇女先輩が俺に紹介してくれる。

「ご紹介に預かりました。ルルウ・アキ・カジュタと申します」

「カジュタ……」

俺はそうつぶやいてウルルさんの方を見た。

「はい、ルルウちゃんは本物の金竜ですよ。私の妹になります」

なるほど、ウルルさんが認めている以上そうなのだろう。

俺は納得した顔でルルウと名乗った少女に向きかえった。

「仙城青葉です。よろしくお願いします」

「一階級の方ですよね?あの、なぜ女子寮に?」

「まあいろいろ事情があって。後で私が説明するよ。それとこの青葉君、姫兄の弟子なんだよ」

皇女先輩と普通に話している様子をいると在学生のようだし、この人も俺の先輩にあたるようだ。

「姫君のお弟子さんですか」

驚いた様子でルルウ先輩は俺のことを見る。

「ええまあ、師匠以外にもいろんな人に教わったりはしていますが」

「なるほど、そうですか。ではこれからよろしくお願いいたしますね。困ったことがあればお助けいたしますので」

笑顔を浮かべながらルルウ先輩は言ってくる。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

と俺も挨拶を返した。

そんなこんなで俺たちは朝食をとり始める。

朝のごたごたの件で結構いい時間になっていたのだ。

食べ終わった後はウルルさんたちは学園に向かい、アミアさんは研究所に戻っていった。

俺たちは一度部屋に戻って学園に行く準備を始める。

そうして、トリニティに入学して初授業を控える俺の一日の始まりはどたどたと騒がしいものになったのだった。

 




というわけで、第二章入りましたー

ストックがなくなったので文章はちょっと少なめです;
このくらいでたぶん更新してくのでよろしくお願いします。

そんでもって、

ウルル様登場!!

ウルル様バンザーイ!ウルル様バンザーイ!!

はい、まあ今回はなんかゆったりと朝のどたどたって感じですねw
こんな調子で話書いてたら全然話が前に進まない気もしないでもないですがそこはまあ頑張ってかきます;←wwww

原作勢が今回で結構出てきましたねw
これからもバンバン出てくるのでご期待くださいw

そんでもって今回挿絵が入れられるってことに気が付きましたのでキャラデザを載せようと思います。
(※顔しか色を塗ってない上にかなり適当な落書きですがイメージをつかめれば幸いだと思います;ww)
以下キャラデザ

仙城青葉

【挿絵表示】


リノ・ルイヴィス・A・ヴァーモント

【挿絵表示】


エル・ミラドール

【挿絵表示】


バレッド・ジンス

【挿絵表示】


トレス・サーテンス

【挿絵表示】


絵的にはリノが一番気に入ってます
が、しかし作者はバレッド派です←wwwwwwwwwwwww
青葉君の髪の色は黒ってなってますが若干青が混ざってます。
これは一応設定上そうなってるので黒じゃないじゃん!ってとこはスルーしてください;←www


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第二章:勝利の噂と迷宮試験(2)

遅くなりましたが更新です

ここ最近はコミトレ(同人イベント)とかがあってわちゃくちゃしてたので小説を書く時間がありませんでした(汗)
遅くなってしまいすいません

さて、本編はやっと授業開始です

お待ちかねのあの人が出ます!←


俺は登校する準備を整えて、部屋を出た。

寮の外に出るとちょうど出たばかりだったのか、リンセ先輩とニコ先輩が居たので俺は声をかける。

「おはようございます、先輩」

その声に気付いたのか二人は振り返って俺の方を見た。

「あ、おはようございます!青葉さん!」

「おはようございます、青葉様」

「先輩も今から登校ですよね、ほかの先輩方は一緒じゃないんですか?」

「時間が合えば一緒に行くこともありますけど、基本はみんなそれぞれ適当に出ていますね」

「そうですねぇ、ルルちゃんなんかは食堂の手伝いをしてるので遅くなりがちですし」

なるほど、みんなやはりそれぞれの都合というものがあるようだ。

そうして俺たちは三人でトリニティに向かった。

「そういえば、ルルウ先輩ってウルルさんの妹だって言ってましたけど」

俺は歩きながら思い出したように、二人の先輩に質問した。

こういうことは正直本人に聞いたほうがいいのかもしれないが、ウルルさんの朝の表情と俺がウルルさんに聞いたときにオペラさんが一切反応しなかったことをかんがみるにそれほど重たい話題ではない、もしくはすでに解決した問題だとわかる。

「ルルウは少し特殊なんですが、前竜王様の隠し子だそうで最初はウルル姫もオペラさんもその存在を知らなかったようです」

ニコ先輩が俺の質問に答えてくれる。

「しかもそれがわかったのが私たちがこの世界に来た頃、つまり約二年前なので竜界でもまだそのことはほとんど知られてないみたいで、このトリニティに来て初めてそのことを知った竜族の子たちがルルウを追いかけたりしてるんですよ」

それに続いてリンセ先輩が補足するように言う。

というかこの前話していたのはそれか。

そのあと、二人はかつてあったさまざまなことを簡単にではあるが話してくれた。

皇女先輩が選んだ未来の事やニコ先輩のこと、リンセ先輩とニコ先輩の種族のこと、それに最初ルルウ先輩は師匠のことを狙ってたとかそういうことなどだ。

そんなこんなを話しているうちに俺たちは学園に近づいていった。

そうして学園に近づくにつれ、周りには同じように登校してきている生徒が多く見えるようになった時だ。

俺はふと違和感に気付いた。

「ん?」

周りを見ると、なぜか何人かの生徒が俺の方を見てひそひそと話している。

一人や二人ならともかく、周りにいる数名が同じように俺を見てくる。

これはどういう状況だ?

「なんか、やけに見られてますね」

「そうですねー、なんででしょう」

俺とリンセ先輩は首をかしげながら考える。

そんな時、気付いたかのようにニコ先輩は口を開いた。

「……おそらく、昨日の青葉様の決闘が話題になっているんじゃないかと」

あぁ、と俺たち二人は納得した。

まあ新入生がいきなりあれだけ騒げば噂になるのは仕方がないか。

「昨日の青葉さんはすごかったですからね!噂になって当然です!」

俺とは考えが違うようでリンセ先輩は普通に俺が注目の的になっていると思っているようだ。

まあ多少はそういう目で見ている奴もいるのかもしれないが、俺はやはり人族なのでそういう楽観視はできない。

いやしないようにしている。

「まあ気にしてても仕方ないし、行きますか」

俺の言葉に二人は同意して、俺たちはトリニティの校舎の中に向かった。

当然階級が違うので教室は別の場所にあり、俺たちは途中で別れ俺は剣クラスの教室へ向かう。

昨日一度は訪れているから場所はわかっている。

だがまあ周りがどういう反応を見せるかはまだまだ分からない。

俺は教室のドアの前に立ち一呼吸おいて教室へ入った。

入った瞬間、注がれる視線、視線、視線。

ただ、それは少し異質な視線だった。

何というかこう珍しいものを見るような。

少なくとも昨日感じた、見下したような目線ではない。

昨日立ち寄ったのは置いておいて、俺がこの教室にちゃんとした形で入るのはこれが初めてだ。

だが、まあ入学式なんかでも騒ぎにはなってたし俺がこのクラスにいるということはすでにこのクラスのやつらはわかっているようだ。

だからこいつもこのクラスなのかよ、といったような視線もあまり感じなかった。

ということは、消去法で行くとさっきの噂がもう教室にも広まってるということになるんだが。

そんな視線の中、周りを見たがリノとエルはまだ来ていないようだった。

朝食の時に見かけなかったし、まだ寮にいたのなら待っていてもよかったかもしれないなと俺は思いつつも、俺は適当な席に歩いていく。

すると、鞄を持って近づいてくる人の影が見えた。

「おはよう、青葉」

声をかけてきたのは昨日帰り際に話したボッチ神族のトレスだ。

「あぁ、おはようトレス」

「ねえ青葉、さっき小耳にはさんだんだけど昨日いきなりやらかしたそうだね」

トレスは俺の隣に座りこんで話をしてくる。

「やらかしたってなんだよ」

「バレッドと決闘したんだろう?」

「あぁやっぱりそれが噂になってるのか」

「うん、結構な噂になってるみたいだね。そりゃ入学早々、魔王の血族と決闘なんてやろうと思う人はそうそういないからじゃない?それも人族で」

「しょうがないだろ、喧嘩を売られたんだから。まあこちらとしては願ったりではあったんだけどな」

俺はため息交じりに返事を返す。

「それで結果はどうだったの?」

トレスは何気なく聞いてくるが、俺はちょっと驚いていた。

「なんだ、聞いてるんじゃないのか?」

「いや、僕が聞いたのは新入生の人族の男と同じく新入生の魔王の血族が決闘するって話だけだよ。その噂だけが飛び交ってて結果は全然聞かないんだよね」

なるほど、あの食堂での騒ぎが一番噂として流れてるってことか。

まあ決闘を見に来てたのは20人弱いたとはいえ身内を抜けば数人だったし、そうなるか。

「いやまあ勝ったぞ」

俺の一言に、トレス以外の周りにいたやつらも反応した。

トレスはへえ、さすが青葉、なんて言っているがほかのやつはどうにもそのことが信じられないようだ。

「おい、人族!お前何適当なこと言ってやがる!」

後ろにいた魔族の男が俺に向かってそう言ってくる。

「バレッドさんは魔王の血族だぞ!人族程度が敵うはずねぇだろうが!」

続けてほかの魔族も言葉を重ねる。

「どうせすぐにばれる嘘なんてつきやがって」

その裏で神族が俺に聞えよがしに言う。

そんな中、俺はどういい返してやろうかと考えているとバン、と教室のドアが開く音が聞こえた。

教室の中の全員が教室の入り口に目を向けると、そこには噂の中心人物のもう一人、バレッドが立っていた。

「?なんだこの空気は」

バレッドはこの緊張したような空気の中、不思議そうに首をかしげながら俺の方に向かって歩いてくる。

「おはよう、青葉」

そうして俺に挨拶した。

周りのやつらにとってはその何気ない挨拶が異様な光景にでも見えているようだ。

「おう、おはようバレッド」

俺もなんともなしに気軽にあいさつを返す。

「なあ、青葉。一つ聞きたいのだが、この空気は何だ?なぜか私、いや私たちが注目されてないか?」

バレッドは小声で俺に聞いてくる。

それに対して、俺は普通に周りに聞こえるような音量で返事をした。

「昨日の決闘が噂になってるようだぞ」

それを聞いたバレッドはあぁ、と納得したように頷いた。

そして俺の一言を皮切りにさんざんな雑談や質問が開始する。

「バ、バレッドさん!この人族、バレッドさんに勝ったとか言ってるんですけどそんなわけないですよね!」

「人族の嘘が一瞬ではがれるな」

「というかそもそもあのバレッドとか言うやつほんとに強いのか?」

いろんな奴がいろんな話を繰り広げる中、俺はそれを聞くバレッドを見守っていた。

バレッドは表情を一切変えずそいつらの言葉を聞いている。

隣りにいるトレスも俺と同じく様子をうかがっているようだ。

そして、少しの間騒いでいた連中にしびれを切らしたのかバレッドが口を開いた。

「黙れっ!!」

バレッドの一言で教室内は静まり返る。

そうしてバレッドは言葉を続けた。

「貴様らが言っているように私と青葉は決闘を行った。そして負けたのは私だ。決闘を行った私自身が負けを認めた。誰が何と言おうと、昨日の決闘の勝者は青葉だ。文句があるやつは私に言って来い。私自身の力で納得させてやる」

バレッドの放たれた言葉によって教室内の連中は引き下がった。

誰も彼女の強い言葉に反論できなかったのだ。

何より、納得がいかいないものは自ら相手をするとバレッドは言った。

そこに挑戦するほど酔狂なやつは現時点のこの教室にはいなかったようだ。

「やるね、彼女」

トレスは隣で感心したようにつぶやく。

ふん、鼻息を鳴らしたバレッドは言いたいことを言い終えたようで、俺の真後ろの席に座った。

丁度その時、教室からエルとリノが入ってきて、

「え、なになんでこんな静かなん?」

「??」

と、二人はつぶやきながらバレッドとは別の意味で不思議そうな顔をしている。

教室内は俺に向けられた蔑みなど感情とバレッドの言葉を信じられないといったような戸惑いが満ち溢れた異様な空気で満ち溢れていた。

 

---

 

「おはようございますわ、みなさん」

バリアリーフ先生が教室へやってきて俺たちが授業を受けるトリニティでの最初の一日が始まった。

先生はホームルームで今日一日の予定や授業の流れなどを説明していく。

そもそも俺も昨日もらった書類にほとんどの事が書いてあったのでそれをなぞって軽く確認している感じだ。

「続いて今日の午後に関してですが、本日の午後の授業は戦闘訓練の授業です。この授業は3階級と合同で行うことになっておりますわ。ですので、初めは3階級の戦闘訓練の見学をすることになります」

先生の発言に小さくざわめきが起こった。

やはり先輩の実力というのは気になるものだろう。

それは当然、自分たちがトリニティを進んでいけば得られる力と同義なのだから。

「ですが、私は3階級の戦闘訓練の担当でもありますので、あなたたち1階級の生徒には別の教師が付くことになります。彼も戦闘に関してはかなりの実力ですからそこは安心していいですわ」

俺たちの戦闘訓練の担当はバリアリーフ先生じゃないのか。

周りを見るとその事実に何人かは不服を持っているようだが、別で俺たちに付く先生の実力は今まさしくバリアリーフ先生が保証したばかりだ。

誰も表だって文句を言うやつはいないらしい。

まああのバリアリーフ先生に口答えする勇気がそもそもあるかどうかがまず疑問だが。

「ですので皆さん、午後の授業はしっかりと3階級の実力を目に焼き付けることですわ。そのあとで、1階級は1階級で訓練が始まると思いますが、それぞれの実力を出し切って精進してほしいと思います。特に今年の生徒はなかなか優秀なものがそろっているようですし」

そういってバリアリーフ先生は何人かの生徒に目を向けた。

特に俺とバレッドに長く目線が向けられる。

これは昨日のことを軽く注意されてるな。

俺は苦笑いを浮かべながら目線をそらしたのだった。

「それとほどなくしたらトリニティに入学して最初の大きな課題、迷宮試験がありますわ」

先生が新しい話題を振ると何人かが反応する。

やはり知っている奴は知っているのだろう。

俺も当然師匠たちに話は聞いているから概要だけは知っている。

「1階級最初の試験ですから難易度はそこまで難しいものではありませんわ。ですが、それでもそれなりの難易度ではあるので皆さん覚悟して試験に臨むように。それと詳細に関しては時期が近づき次第追々説明していきますわ」

バリアリーフ先生の言葉を教室にいる全員が静かに聞き、それぞれの覚悟を浮かべる。

脅しというわけではないが、新入生を引き締めるには十分な言葉だったようだ。

「それではさっそく授業を始めますわよ」

そういって、午前の授業が始まったのだった。

 

---

 

「失礼しまーす」

そういって学園長室に入ってきたのは竜族王女のウルルとそのメイドたるオペラだった。

「いらっしゃい、ウルルにオペラさん」

ヴェルは二人を笑顔で出迎える。

そう、二人はまさしくヴェルの仕事の手伝いに来ていた。

「二人が来てくれて助かるわ。フォンはまだ時間がかかるみたいだし」

「ウルルもそう聞いてます。それで、えーと今日は迷宮試験に関して、ですよね」

二人が頼まれた仕事とはまさしく迷宮試験に関して。

まだ一応日にちがあるとはいえ、トラップの設置位置やモンスターのレベル、それにそもそも迷宮に不備がないかなど確認しなければならないことは山ほどあるのだ。

のんびりやっていては間違いなく間に合わない。

「そう、今日は二人に迷宮に入ってもらって破損してる場所がないかと、トラップの設置場所を決めてきてもらいたいのよ」

「確認しながら迷宮を回ってきたらよろしいのでしょうか」

「ええ、そうね。今回はトラップに関しては全部オペラさんに任せることにしてるからそっちはよろしくね」

「はい、話は伺っております。このオペラ・ハウス、全力でトラップを設置しますね」

前々から話していたことだけれど、オペラさんはトラップが自分の得意分野であることから結構ノリノリでこの話を承諾してくれていた。

「在校生の試験は新入生の後だし、最初は入ったばかりの新入生用だからあんまり力は入れないようにね」

ヴェルはやんわりとオペラの自重を促す。

こうでも言っておかないと本気を出しかねないのだ。

「とりあえず今から行って来てくれる?職員に言って話を通して迷宮を開けてもらっておくし、見てきてくれないかしら」

「わかりました。行こう、オペラ」

「はい、ウルル様」

「頼むわね」

そういって二人は学園長室を出ていった。

「さて、これで迷宮試験のことはとりあえずいいとして」

ヴェルは独り言をつぶやきながらウルルたちが来る前までやっていた仕事に再び手を付ける。

「今日は午前中までに今日中の仕事を片付けないとね」

そういいながらいそいそと仕事を再開し始めるのだった。

 

---

 

「終わったー!」

そういいながら両腕を伸ばし伸びをしているのは俺の前の席に座るエルだった。

今丁度午前の授業がすべて終わったのだ。

「さて、お昼ご飯いこ!」

「そうだな、腹減ったし」

俺は同意しながら筆記用具なんかを片付ける。

「僕もご一緒して構わないかい?」

隣りで話を聞いていたトレスが俺たちの話に入ってくる。

エルとリノは誰?という顔でトレスのことを見ていた。

朝は紹介している時間はなかったし、なんだかんだで他の休憩時間もこいつのことを話タイミングがなかった。

俺の隣に座ってるのは誰だろうと不思議には思っていたようだが、二人も聞くタイミングを逃していたようだ。

「あぁ、こいつはトレス・サーテンス。昨日帰りに知り合ったんだが、ただのボッチ神族だ」

俺は二人にトレスのことを紹介する。

「ボッチ神族はひどいんじゃないかな」

トレスは苦笑しながら言う。

俺も冗談で言っているので間違ってないだろと笑いながら返す。

「紹介を受けたとおり、僕はトレス・サーテンス、神族だ。よろしくね」

二人に向けて改めてトレスが自己紹介をする。

「よろしゅうなー、うちはエル・ミラドールっていうねん」

「あ、あのリノ・ルイヴィス・A・ヴァーモントです」

二人も答えるように自己紹介をする。

ふと思い至って、後ろに座っているバレッドにも声をかけようとすると彼女はすでにほかの生徒から声をかけられているようだった。

邪魔をしては悪いなと思い、それじゃ行くかと3人に言いながら俺たちは席を立った。

当然食堂に向かうためだ。

食堂は賑わっていたが、席の数はそれなりにあり俺たちは一つのテーブルに着く。

それぞれの好きなものを頼み、雑談しながら飯を食べた。

話題は当然、午後の戦闘訓練の授業についてだ。

「午後からは運動やからなー、しっかり食べとかな!」

「なんだエル、戦闘は苦手とか言ってなかったか」

「まあ戦闘自体はあんま得意ちゃうねんけどな、まあそれでもうちの力がどれだけ通用するんかはやっぱ気になるやん」

「なるほどな。というか俺は二人の実力が一番気になるんだけど」

そういって俺はリノとトレスを見た。

「僕はそれほど大したことないよ?」

「わ、私も、大したことないです」

二人は謙遜してなのか俺の言葉を適当に流す。

「その銀髪含有率で何言ってやがる」

そんなトレスに俺はつっこみを入れる。

「リノも一応はこの学園に来ているんだからそれなりには戦えるんだろう?」

「私なんかは、あの、まだまだなので」

まあ、それも授業が始まればわかるか、と思い俺はこれ以上聞くことをやめた。

「せやせや!リノちゃんに青葉、今度時間があるときえええから儀式兵器見せてぇな!」

エルがなぜか突然興奮するように言い出した。

「?いやまあそれは構わんが」

「は、はい。私もこの前約束しました、し」

「いやーほんまうれしいわ!一回じっくり見てみたかったんよ、儀式兵器!」

「エルちゃんはそんなに儀式兵器が気になるのかい?」

「いやー、人族の最高傑作やで、儀式兵器は!その生成方法から、クオリティまで、最高の出来や!どうやったらこんなん作れんねんと思うほどやで」

「他種族から見ればそういうものなのか?」

俺はエルの反応に戸惑いながらトレスを見る。

「いや、まあ確かに興味深いとは思うけど、ここまで興味が引かれるわけではないかな」

トレスも若干戸惑いながら俺の言葉に応える。

「まあ別に俺たちにとっては珍しくもないし今度見せてやるぞ」

「約束やからな!」

テンションの高いままエルが言う。

と、その時丁度校内にチャイムが鳴り響いた。

「昼休みも、もう終わりだね。教室に戻ろうか」

「そうだな、午後の授業の指示があるだろうし」

そういって俺たちは教室に戻っていった。

そこからは、すでに黒板に指示が書かれており俺たちは指示通りに更衣室に向かって戦闘服に着替えた後、闘技場に向かった。

そこではすでに3階級の先輩たちが軽く訓練を開始している。

すると俺たちに向かって大きな声が放たれた。

「1階級はこちらに並べ!お前たちにはまず3階級の訓練の見学をしてもらうからな」

え、と俺はその声に驚きを覚えた。

聞き覚えがあったのだ。

というか、何度も聞いたことのある声だ。

声の先を見ると、やはりというべきか、なんというか。

そこに立っていたのは俺のよく知っている人物だった。

声で予想はできていたものの、想定外の出来事で頭が追いついてこない。

俺は驚きを隠せないでいた。

「ラーロン兄さん、だとっ!!?」

 

---

 

「お前たちの戦闘訓練の教師を担当することになった、ラーロン・ハデラだ。私のことは、教師ラーロンと呼ぶがいい」

俺たちは並んで、前に立っているバリアリーフ先生が言っていた戦闘訓練担当の先生の話を聞いている。

それなりの実力者だとは言っていたが、まさかラーロン兄さんだとは。

名前を聞いた生徒の中には少ないが何人かは驚いているようだ。

知名度的に言えばラーロン兄さんはそりゃヴェル姉さんとかに比べたら低い方ではあるのだが、そもそも四界宣言に名を連ねている一人であることは確かだ。

そういう方面で知っている人がいてもおかしくはない。

知っている人は知っているというやつだ。

「さて、それでは3階級の生徒がこれから本格的に訓練を開始する。よく見ておけ、これが二年後、お前たちがこのトリニティを進んでいけば手にできるであろう力だ」

そういってラーロン兄さんも俺たちと同じように3階級の訓練を見始める。

俺たちもそれと同時に3階級の訓練を見始めた。

 

---

 

「お、1階級の生徒たちが来たみたいだぞ」

カミシアちゃんが1階級の子たちがいる方を見ながら私に言ってくる。

「毎年恒例だからね。私たちもあそこで姫兄たちを見たんだし」

「そうだな、今度は私たちが見せる番だぞ?」

「そうだね、張り切らないと」

「そうです!青葉さんにかっこいいところを見てもらわないといけませんから!」

リンセもいつも以上に気合が入っているみたいだ。

「ニコも、頑張ります」

ニコもそれに触発されるように意気込んでいる。

「それでは、私の御相手をお願いできますか?」

「よろしくお願いします!ルルちゃん」

どうやらリンセとルルちゃんが模擬戦をするみたいだ。

「生徒リンセに生徒ルルウ、1階級の前だからといって、あまりやりすぎて周りを巻き込んではいけませんよ!」

バリアリーフ先生が軽く注意してくる。

まあしょうがないよね、この二人の戦闘だし。

はーいと二人は軽い返事を返し、模擬戦をするために離れていく。

さて、私はどうしようかと考えているとどうやらニコはカミシアちゃんと模擬戦をするみたいだ。

「ニコ、今日は本気で来てもいいぞ?」

「え、いやそれはさすがに」

「ふふん、心配するなニコ。今日はとっておきがあるのだ」

「はぁ、そうですか。わかりました、それでは全力でいかせていただきます」

本格的に相手がいなくなってしまった私はとりあえず4人の戦闘に目を傾けることにした。

少しの間見ていると、神族の男の子に声をかけられた。

「あの、白鷺さん。もしよければ自分の相手をしていただけないでしょうか」

戦闘を見ていたとはいえ、私も手が空いていたし快く引き受ける。

今の3階級の中で人族を邪険に扱うような人は姫兄の影響もあってほとんどいないので、こうして私にもいろんな人が模擬戦を申し込んでくれる。

「それじゃ、始めようか」

「よろしくお願いします」

こうして私たちのそれぞれの模擬戦が始まった。

 

---

 

悪いことではないのだがやはり、俺の目は知り合いの戦闘に一番目を向けていた。

今もリンセ先輩とルルウ先輩の試合を見ている。

見るとどちらもパワー型のようだ。

ルルウ先輩は竜族だからわかるが、リンセ先輩の戦い方はヴェル姉さんとフォン姉さんを掛け合わせたようなスタイルだろうか。

どちらかというとフォン姉さん寄りではあるかな。

まあフォン姉さん自体が竜族と魔族のハーフであるため、模範例としてはかなりの完成度の人がすでにいるわけだから、そこに戦闘スタイルが似るのは当然なのかもしれない。

今朝まさしく第5種族とか言ってたわけだし。

パワー型同士の戦闘はいかに一撃を入れるかによって決まる。

両方ともほぼ一撃必殺の面があるからどちらが先にその一撃を入れるかで勝負が決まるのだ。

今のところは一進一退。

両方が足さばきや魔法の防御壁、気麟などで攻撃を弾き、避けている。

「すごい戦いだね」

たまたま隣にいたトリスも俺と同じところに目を向けていた。

思わず感想が漏れてしまったようだ。

「あぁ、二人ともかなり強い。両方ともパワー型みたいだが、その強さを最大限に活かす戦闘技術を持ってる」

俺もトリスの意見に返事をする。

これが3階級の実力か、と二人して驚きながら戦闘を見ていた。

「シャイニングストライク!!」

お、ルルウ先輩が勝負に出たようだ。

「勝負に出たね」

「あぁ、これで決まるかもしれん」

俺たちはより注目して二人の試合を見る。

ルルウ先輩の攻撃にリンセ先輩もそれにこたえるように剣をふるう。

「お父様のお説教!!」

ふるうのはいいがあの魔法名は何なんだろう。

と俺がしょうもないことを考えているうちに決着はつきそうだ。

両方の攻撃が衝突した瞬間、リンセ先輩の剣の動きがかすかに傾く。

これはルルウ先輩の攻撃に押されてじゃない。

自分の魔法を使って、ルルウ先輩の攻撃を受け流したんだ。

「からの空間割砕!!」

そもそもが二段構えの攻撃。

「きゃあああ!!!」

ルルウ先輩はそれを食らって、戦闘不能。

模擬戦はリンセ先輩の勝ちのようだ。

リンセ先輩は最後の攻撃、最後の最後で方向をずらしていた。

ルルウ先輩はリンセ先輩の攻撃の余波で吹き飛んだ形だ。

まあその辺はさすがに模擬戦だから当然である。

戦闘が終わるとリンセ先輩はルルウ先輩に駆け寄って手を差し出しているようだ。

「最後のあれ、お前なら対処できるかトリス」

俺は何気なくトリスに聞いてみる。

「竜族の先輩の一撃かい?無理だね、多少は威力をそげるかもしれないけど余波に吹っ飛ばされて、それを立て直すよりも早く追撃されてチェックメイトだと思うよ」

「あぁ、俺も避けれる気がしないな」

そんなことを二人で言い合いながら、俺たちは次の戦闘に目を向けることにした。

リンセ先輩たちの戦闘を見ながらも横目でちらちらと見えていた、ニコ先輩とカミシア先輩の試合だ。

こちらは何とも言い難い、よくわからない試合になっていた。

ニコ先輩は宙に舞うナイフ数本と両手に持つかなり大きめのククリナイフを武器として戦っている。

あのナイフは魔法で操っているのだろうけれど、どういう魔法なんだろう。

正直物体そのものを操る魔法はあまり見ないので珍しい。

自分の持つ武器に魔法を付与することはよくあるがあれほどの数を操るのはかなり難しいはずだ。

そのナイフをカミシア先輩に何度も放っていくが、カミシア先輩はというと。

全力で走って逃げまわっていた。

「逃げ回っているだけでは、勝てませんよ!」

ニコ先輩がカミシア先輩にそういいながら次々とナイフを放っていくが、カミシア先輩は気にも留めず逃げまくる。

「狙いがあるのか」

「まあそうじゃないと、あの先輩が言った通り逃げ回っているだけじゃどうにもならないね」

俺とトレスはそうつぶやきながらも試合を見る。

そして、その準備が整ったのか急にカミシア先輩が立ち止まった。

「よし、魔法演唱完了だ!」

そういってカミシア先輩はおもむろに腰に下げていた剣と鞘から抜いた。

「何をする気ですか!」

ニコ先輩はカミシア先輩が何かやらかそうとしているのを察して突撃する。

「あれ、あの剣って」

俺は小声でつぶやいた。

あの剣には見覚えがあるのだ。

そう、あれは師匠の。

「パパとの縁をつなぐ魔法!発動!」

するとカミシア先輩から魔力光が放たれ、その直後、突撃してきたニコ先輩がカミシア先輩を攻撃する。

振り下ろされたククリナイフにどうにもできずに終わるのかと思わせたが、しかし。

カミシア先輩は持っていた剣でその攻撃を受け止めていた。

最初から今まで、見た限りではカミシア先輩はそういう武器を持った戦闘はしないタイプだと思っていた。

足の動かし方や体のつくりで完全ではなくともある程度は相手の実力は図れるものだったりする。

だからこそ、カミシア先輩は魔法を使って相手を倒す典型的な神族のタイプだと思っていた。

逆にニコ先輩はそれなりに体を鍛えていたようだし、今朝話を聞いた限りでは竜族の特徴も受け継いでいるらしい。

なのでその体力や筋力はかなりのものだと思う。

だから正直驚いた。

そのニコ先輩の攻撃を真正面からカミシア先輩が受け止めてみせたのだから。

「どんな魔法を使ったんですか?」

ニコ先輩は不思議に思ってカミシア先輩に問いかける。

「大したことじゃない。私の持つ特殊な魔法を応用して使って、パパの力を私に憑依させているだけだ」

「主様の力、ですか」

「あぁ、そうだっぞ!」

そういってカミシア先輩はニコ先輩の剣を払って攻撃に入る。

「せいせいせいせい!」

「こ、これは!本当に主様の!」

相手に攻撃の糸口を与えない連打。

カミシア先輩がニコ先輩を追い込んでいく。

「それでもニコは負けません!」

ニコ先輩はナイフを使い何度もカミシアに攻撃を入れようとするがカミシア先輩は攻撃をしながらもそれすら避けてみせる。

俺はそれを見ながら驚いていた。

あれは完全に師匠の動きだ。

全く同じといっていい。

師匠ならあの場面でああいう動きをするだろうという動きをカミシア先輩は忠実に再現している。

これがカミシア先輩の狙いだったんだろうか。

「ここですっ!!」

そんな攻防の中で、ニコ先輩が無理やりにカミシア先輩の攻撃を弾いて中断させ、大ぶりな一撃を入れようとする。

「ふふん、その一撃を待っていたぞ!」

カミシア先輩はそれもわかっていたようにニコ先輩の攻撃に合わせて剣をふるう。

まさしく、あれは俺も習得したカウンターだ。

「なっ!?」

ニコ先輩は予想外だったようで、カウンターがきれいに決まる。

「私の勝ちだな」

首元で剣を止めたカミシア先輩がニコ先輩に対して言った。

「負けてしまいました」

ニコ先輩の言葉を聞いてカミシア先輩が剣を収める。

「なんというか、魔法でも出すのかと思ってたけどこんな剣術で終わるとは思わなかったな。なんで最初逃げ回っていたんだろう」

「いやたぶんあれ、わけありだと思うぞ」

まあでもはたから見ればそうなるな。

俺も正直そう思わないでもないが、たぶんあれはカミシア先輩自身の戦闘技術じゃない。

俺は師匠を知ってる分余計にそう思う。

あれは何かしらのカミシア先輩のからくりがあるはずだ。

魔法にしろ、何にしろ。

まあ俺でも内容をほとんど把握できない試合だったわけだし、ほかのやつには何とも不思議な試合に映っただろう。

まあこの件は後で聞けばいいとして、俺はまた新たな試合に目をやる。

今度は今まさに戦い始めようとしていた皇女先輩の試合だ。

相手は神族の男のようだ。

3階級の、それも人族の試合というだけあって今まで他の試合を見ていた1階級の生徒もこの試合に目を向けていた。

さて、師匠の妹さんの実力。

しっかりと見て参考にさせてもらおう。

 




はい、というわけで

ラーロンさんの登場です!!

弾けるキャンディラーロン・ハデラさんです!

自分ラーロンさん大好きなのでこれからもちょこちょこ登場すると思います←w

まあそれは置いておいて、
本来ならこの更新で皇女ちゃんの模擬戦と1階級の戦闘訓練も書いてしまう予定だったんですが、
思ったよりここに行きつくまでに文字数を使ってしまった;
こういうところ苦手なのですよね(汗)

それと、ちょこちょこ呼び方がおかしい場面があるかもしれません。
ニコに関しては名前を呼ぶ場面が本編上で少なく、姫のヒロインたちは大体何々姫やさんづけだったり、皇女は妹さまとかだったりするんですが、、、
ニコのカミシアに対する呼び名だけ本編に出てこない(汗)(ちなみにラーロンさんとデイルも名前を言われない)
リンセはカミシアちゃんカミシアちゃんと何度も言ってるのに!
エンドレスダンジョンを何度やり直してもニコがカミシアの名前を呼ばない(汗)

それと本編では皇女はカミシアのことをさん付けで呼んでいますが、トリニティですごし、さすがにさん付けでは他人行儀じゃないか?というカミシアの一言から皇女はカミシアのことをさん付けではなくちゃん付けで呼ぶようになったっていう裏設定がこの小説ではありますのでご了承ください。
というより、皇女のしゃべり方や性格上、同級生にさん付けがどうしても不自然にしか見えないのでそういう風に書かせていただきました。
リンセとかニコを呼び捨てなのにカミシアのことはさん付けってどうよって感じです。

あと、後々キャラデザをあげるかもしれませんが実はこの小説の皇女は髪が長いです。
ロングです。
誰もその変化を知ることがないため(カミシアたちは常日頃から見ているため髪を伸ばしていることを知ってる、そして青葉たちは逆に短いころの皇女を知らない)本編では語られていませんが、2年たってちょっと大人っぽくなってます。
ちなみにほかのキャラも微妙に変化してます。
まあ二年たってますから変わらない方がおかしいんです。
竜族だけは例外ですが。
とはいえそんな大きな変化ではなく、竜族以外のみんなが大人びてるくらいです。
ヴェルもちょっと背が伸びてます←ww
ただ竜族に変化はありません。←w
寿命の関係上、竜族はほとんど変化しませんからその血を受け継いでるルルウ、リンセ、ニコ、フォン、ウルル、オペラなんかは全く変化はありません。
あ、一番成長したのはアミアちゃんですかね。
どこがといいませんが、ウルルにドヤ顔できるくらいには成長してます、実は。
姫歓喜ですね←wwwwwwwwww

まあそんな感じで、時間があればその辺のキャラデザ、あと普通に挿絵なんかも描きたいと思いますんでちょこちょこ追加していきたいと思います。

ではでは今回は本編も結構長いのにあとがきもかなり書いてしまいまって、読んでくださった方には感謝いたします。

次回は皇女の3階級としての実力とエル、リノ、トレス明かされてない新入生の実力、能力のお披露目会です。
ぶっちゃけ更新がいつになるかわかりませんができるだけ早く書き上げたいと思います


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第二章:勝利の噂と迷宮試験(3)

更新です!

とか言いながら今回はかなり少ない文章量になります。
というのも、今まで1万文字くらいを目安に更新してましたがこれからは3000文字程度に分けて更新していこうかなと思いまして
他の作家さんの作品を見るとそういうパターンが多いようなので、これからは3000文字を数日で更新していこうと思います。
2,3日ペースで更新できたらと考えてますが、1週間とかかかる場合もあるかもしれません(汗)
特に挿絵描こうと思ったときとかは更新遅くなるかも;
もし、今まで通りの方がいいという意見があれば感想等でおっしゃってください。

ではでは、今回は皇女ちゃんの模擬戦です!



「うわー、なんか注目が集まってるなー」

1階級の子たちが集まるほうを見るとそのほとんどが私たちの模擬戦を注目してるみたいだ。

まあ人族の試合だしね。

それも3階級の。

やっぱり気になるんだろう。

「青葉君やリノちゃんのためには、人族もすごいんだぞってところを見せてあげないとね」

「では、双方よろしいですわね?」

審判を受けてくれたバリアリーフ先生が確認をとる。

「はい、いつでも」

「大丈夫です」

私と神族の彼は同時に返事を返し、静かに相対する。

「それでは、はじめ!!」

先生の合図と同時に、戦闘が始まる。

相手の子の武器は剣だ。

剣ということは、言わずもがな強化魔法などを使って接近戦を得意とするタイプ。

ゆえに相手が踏み込んで突撃してくることは予想してたから、私はバックステップを踏みながら牽制の為に速攻で攻撃を放つ。

「必撃5連!!」

単発型の矢の魔法の5連撃。

かつては一撃ずつしか打てなかったが、今ではもうほとんど予備動作なしで複数本放てるようになった。

まあそれも戦闘前にある程度魔力をためて準備していたからこそなのだが。

相手は突撃をやめて、直ちに私のはなった攻撃に対処するべく剣を構える。

相手の足が止まった。

弓使いにとっての理想の戦い方はもちろん相手を近づかせずに遠距離からの攻撃で相手を仕留める事。

この状況を維持するのが一番私にとってベストな戦い方なのだ。

「必撃-篠突く雨-!」

私の放った必中5連は2本が避けられ、3本が弾かれて消えてしまった。

その5本目の矢が弾かれる寸前で次の攻撃を放つ。

攻撃の手を止めては相手に近づかれてしまう。

近づかれた時の対処法がないわけではないが、正直に言うと接近戦は弓術より若干劣る。

だからこそ、まさしく矢継ぎ早に攻撃を放つのだ。

今放ったのはトリニティ入学当初から使っている魔法、必撃の派生形。

溜めを使った一撃の上級魔法だ。

当たればそれなりのダメージを与えられる。

だが、さすがに相手も3階級。

そう簡単に攻撃を食らってはくれない。

「煉獄の爆槍!」

私の攻撃を察知してそれをよけながら相手も攻撃魔法を放ってくる。

「フライトステップ!」

攻撃が来ることがわかっていた私は移動系魔法を使って相手の攻撃をよける。

フライトステップは足そのものに風の魔法をかけて若干体を浮かせ、なおかつ俊敏性やジャンプ力を上げる魔法だ。

紅さんが使っていた風の回廊は空気そのものを固めて足場を作るが、この魔法は足に魔法をかけるため、付与魔法に近い効果だ。

足に触れた空気の流れなども操作するから完全な付与魔法というわけでもない。

なによりこの魔法のいいところは、足にしか魔法を使わないで済むため魔力の消費が少ない点だ。

使うためにはコツがいるため、発動云々じゃなく使いこなすためにかなり時間がかかる魔法だが慣れて使えるようになればかなり使い勝手がいい。

「必中-外待雨-!」

私は攻撃を避けると同時に反撃の魔法を放つ。

必中-外待雨-は必撃5連のように単発ずつを撃つのではなく、放ったひとつの矢が6本に分かれそれぞれが別方向から対象に向かって飛んでいく包囲型の攻撃だ。

矢がわかれるという部分はかつての私の最強の技であった必殺からの応用でもある。

相手をねらって打つのではなく少し上向きに打つため、攻撃の方向が見えにくく相手に読まれにくい攻撃だ。

なおかつ追尾の攻撃でもあるので、攻撃を読んで真正面に向かってきても後ろから追撃できるようになっている。

だが相手もバカじゃない。

「リフレクションシールド!」

反射結界!

私はすぐに相手の足元に向かって攻撃を放った。

「必撃-怪雨-!」

今、相手が使った反射結界、リフレクションシールド。

これは魔力を持つ攻撃に対してその攻撃の一部を反射されるという魔法だ。

実際のところ、私の必中は一部でも反射されたところで魔法にかけた命令そのものが書き換えられるわけではなく攻撃のベクトルがそのまま入れ替わるだけだ。

なので一瞬は私の方に向かって飛んでくるがその後大きく回った後また相手に向かっていく。

が、今回はそこが問題なのではない。

相手にほとんど時間をかけずに攻撃を対処されてしまったことが一番の問題なのである。

それにこの速度で突っ込まれては、必中が大回りして相手に向かったとしても私が矢に込めた魔力が先に切れてしまい矢そのものが空中で消滅してしまう。

必中の応用技で使い勝手もいいのだが、単発の必中に比べるとやはりその辺は効果が劣る。

そして次に私が放った足止めに効果が期待できる必撃-怪雨-だ。

この魔法は矢の着弾時に別の効果を付与している。

今回の攻撃には爆発の魔法が付与してあるのだ。

だがこの魔法は二重に魔法をかけるため魔力効率はあまりよくなく、多用できない上に一撃ずつしか放てない。

だからこそ、即座に相手の足止めを行わなければならない場面では有効な手段だ。

着弾と同時にドカンッ!と矢が爆発し土煙が舞う。

「ウインドロード!」

がしかし、私の攻撃は見抜かれていたようで相手は空中へ上がって攻撃を避けたようだ。

そのまま、空中から私の方に剣を構え向かってくる。

私は苦しそうな表情を浮かべた。

このままだと接近戦に持ち込まれてしまう。

「はぁぁぁ!!!」

相手が剣を振り上げ、ほんの一メートル先のところまで近づいてくる。

「必撃-樹雨-」

私は小さく魔法名をつぶやきながらバックステップをとる。

すると真上から垂直に魔法が落ちてくる。

そう、正直私はこの展開を予想していた。

この神族の子は3階級の中でもそれなりの実力者だ。

軽く流して勝てる相手では当然ない。

まあそれはどの3階級相手でも言えることなのだが、最低でも策を練らないと攻撃を食らってはくれないのだ。

だからこそ、私は接近されたふりをして一番最初に放った必撃の避けられた2本を上空に待機させておいた。

そう、必撃-樹雨-とは避けられた矢を空中で待機させタイミングを見計らって視覚をついて攻撃する連携技の一つだ。

「フロントジェット!」

私は驚いた顔をした。

神族の彼はあの体が空中に浮いた状態から風の魔法を使って体を前に押し上げ私の必撃-樹雨-を避けたのだ。

フライトステップはいまだ発動中だ。

だからギリギリのところで行ったバックステップは魔法の効果もあってゆうに2メートル弱は離れられる。

だがしかし、その距離も今の相手の魔法で一瞬にして距離を縮められた。

「やばっ!」

すぐ真上には振り下ろされた相手の剣が見える。

ここまで距離を縮められてはどうしようもない。

そもそも接近戦が本領である相手にどうにかできるほどの接近戦闘技術を私は持っていない。

「なんてね」

だが、私はそんな状況で笑っていた。

次の瞬間、振り下ろされた剣が私に届く前に相手は私の魔法の直撃を受けて吹っ飛んでいた。

「必撃-天泣-」

幻術魔法をかけた、見えない矢だ。

相手が完全に無防備な状態だと思わせて接近したところに直撃を当てる私の奥の手でなおかつ緊急回避技でもある。

この魔法のいいところは儀式兵器そのものに幻術魔法をかけることによって魔法を準備している動作を隠せることにある。

私はこの魔法を必撃-樹雨-を撃った時に準備していた。

まあ今回に限っては、ここまでの展開がある程度読めていたので相手に悟られないように攻撃を重ねながらここまで誘ったわけだが。

「さて、最後は派手にいこう!」

一撃を食らった相手は直撃を受け吹っ飛ばされたが、この一撃で終わってくれるほど甘くないのはもちろんわかっている。

が、あの一撃を食らった時点で相手には致命的な隙ができる。

その隙を見逃してあげるほど、私も甘くない。

「必殺-五月雨-!!」

私は相手が落ちる位置を想定して魔法を組み上げ、それを上空に向けて放つ。

私が打ったのは大きな一撃の矢だ。

それが空中で何度も分裂を繰り返し、放った位置からある程度の範囲に数百本の矢の雨を降らせる。

かつては10本にしかわかれなかった私の最強魔法必殺だが、今ではご覧のとおりである。

「勝負あり!勝者、白鷺皇女!」

その一撃が決め手となり、バリアリーフ先生は皇女の勝利を宣言する。

ふぅ、真眼か割ときっちりはまってくれた。

ひとつでもミスをしたり判断が遅れたらかなり危なかった。

だが、ここはやはり後輩たちの目がある以上多少無茶をしてでもぎりぎりの泥仕合じゃなく万全の勝利を見せなくちゃならなかったのだ。

新入生として入ってきた、あの二人のためにも。

私は長い髪の毛を揺らしながら1階級の集まる方を見た。

「ちょっとは先輩としてかっこいいところを見せられたかな」

そんなことをつぶやいて、私はリンセやカミシアちゃんが集まっているとこに歩いて行った。





というわけで皇女ちゃんの模擬戦終わりました―
皇女ちゃん強いですねw
必撃、必中、必殺しか使えなかったあの頃から成長しましたねw

というわけで今回も補足説明と申しますか、
小説の設定紹介をしたいと思います。

皇女ちゃんの使っている技に関してですが、これは完全にオリジナルです。
必撃-篠突く雨-やら必中-外待雨-の事ですね
まあお分かりでしょうが、すべて雨の名前から取ってます。
それぞれ、いろんな種類の雨を適当につけているのではなく雨の特性に合わせて名前を一応付けています。
篠突く雨なんかは勢いの強い雨ということで強攻撃系
外待雨は一点集中型の雨なので一点をいくつものやが目指す攻撃に。
怪雨(これはかいうではなくあやしあめと読みます)は砂や火山灰などが混ざった雨のことで、作中では追加魔法が織り交ざった矢になってます。


それと皇女ちゃんは真眼を使ってます。
それは過去の3階級だった頃の姫レベルと同等、ないしそれ以上のレベルで使いこなしています。
かつての皇女ちゃんからは想像できないほどの成長ぶりですね。

あとこれは本編で少し話すと思いますが、皇女ちゃんの儀式兵器はすでに進化済みです。
これにより、矢を複数本同時に放てるようになっており魔力の収集率と運用能力も上がっています。
つまり、かなりの魔力を集中して打たなくてはならない最後に使った必殺技、必殺-五月雨-は進化前の儀式兵器ではどれだけ頑張ろうと打てないってことですね
(この辺はかなり自己解釈入ってますが(汗))

というわけで今回も結構書いてしまいましたが、
次回はやっと青葉君とバレッド以外の1階級の模擬戦です
残りの3人の実力と能力がはっきりします!

最後にですが、よければみなさん感想の方を募集しています
以前にもどこかで書いたかもしれませんが、何分これだけ長く小説を書くのが初めてなのでここが悪い、ここがいいなどの意見をいただけるととてもありがたいです。
出来れば、よろしくお願いいたします。


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第二章:勝利の噂と迷宮試験(4)

更新ですー

前回同様4000文字くらいの更新になります


「すごいな……」

俺は驚きながら今の戦闘を見ていた。

最初からの攻撃、動き、そして表情さえ演じきってなおかつ、相手の動きを読み切った完全な試合だった。

実力はそれなりだろうとは思っていたけれど、やっぱり師匠の妹さんだ。

俺の師匠たちとも劣らない実力者だと俺は間違いなく実感した。

皇女先輩が使っていたのは間違いなく真眼だ。

それも俺が使う中途半端なものじゃなく、間違いなく完成系に近い。

試合を見ていたほかのやつらもかなり唖然としているようだ。

最後のあの一撃、いきなり神族の先輩が吹っ飛んだあの攻撃を理解できていないやつも中にいるようでなんだあれ、やらせじゃないか?とかいってるやつも中に入るが、おそらく見えている奴には見えている。

あれは間違いなく魔法だ。

はた目から見るとよくわかる。

ちいさくではあるが確かに皇女先輩は弓の弦をひいて、相手が近づいた瞬間に放している。

あの場面で魔法を撃ったのだ。

魔力光すらもらさず隠したまま、誰もが終わったと思ったあの瞬間に。

そしてその時に浮かべていた笑みを見て俺は確信した。

あれは狙ってやったものだと、いやあれを狙ってたんだと。

しかもそのあとの広範囲殲滅魔法。

あれを避けられるやつはそうそういない。

あの量はたとえヴェルさんやリンセ先輩が使う空間割砕でもすべては対処しきれない。

出来るとすれば、ミヤ姉さんの多重防御結界くらいじゃないだろうか。

ノート姉さんが本気で防御結界を張れば防ぎきれるのかもしれないが、かなりきついだろう。

もしくは紅姉さんの神速なら発動後でもぎりぎり効果範囲を抜け出せる?

いや、抜け出せたとしても無傷とはいかないだろうな。

いつか見せてくれたアミアさんとノート姉さんの合体技、圧縮魔力障壁イージスなら防げるか。

つまりはそのレベルであの攻撃を対処しなければいけないということだ。

まずここにいる1階級のメンバーには俺も含めて到底不可能だ。

それはさっきの謎の攻撃と違ってここにいる誰しもがわかることである。

だからこそ、見ていたやつ全員が全員唖然としている。

敵わないと思い知ったのだ。

それも人族に。

それは衝撃的な事実だろう。

まあ当然同情したりはしないが。

「さて、今まさに見たのが3階級の実力だ。思うところ、感じるところもあっただろう。これからお前たち1階級の戦闘訓練を始めるが、己の実力を顧みて2年後あの実力に辿り着けるように精進しながら授業に励め。今日の授業で一番いい動きをしていたものは3階級との模擬戦ができるから、各自今持っている己の力を出し切って戦うがいい」

ラーロン兄さんの言葉で俺たちの本当の授業が始まる。

わらわらと散らばりながら模擬戦の相手を決める。

さて、俺は誰にしようか。

そう考えているとエルとトリスが俺の方に向かってきた。

「青葉ー、誰と模擬戦するんやー?」

「いや、まだ何も決まってない」

エルが話しかけてきたが、さっきの見学で頭がいっぱいでそんなことまだ全く考えていなかった。

「エルさんはともかく、僕は相手をしてくれそうなのが君くらいなんだけど」

トリスが苦笑交じりに言う。

ふむ、トリスの相手か。

確かにトリスとは一度戦ってみたいとは思っていた。

この銀髪含有率だ。

いい戦闘経験になるだろう。

「んじゃトリスはうちとやる?」

「……エルさんとかい?」

トリスはエルが相手をしてくれるなど思ってもみなかったようで驚きを浮かべている。

「いやー、まあ正直私は青葉でもトリスでもどっちでもええねんけど青葉の戦闘は一回見ちゃってるし、やっぱこういう初めて戦う場合はお互いを知らん同士でフェアにやった方がええかなーって」

「戦い方を知られただけで俺は不利だとは思わないぞ?」

「うちの戦い方を知らんのは不利やろう」

そういわれると確かに不利かもしれない。

「お、バレッドはもう始めたらしいな」

魔法がぶつかる音が聞こえて俺はその方向に目を向けた。

すると案の定バレッドの圧倒的魔力が猛威を振るっている。

俺との一件があったから、模擬戦の相手には困らなかったのだろう。

「話に聞いた通り、という感じだね。さすがは魔王の血族というところなのかな」

「いや、むしろ昨日あんだけ青葉と全力でやりあっておいてよくもまあそれだけ元気有り余ってるなーって感じやけどなぁ、うちからしたら」

「まあ一応回復魔法をかけてもらってたし、あれには一応疲労回復なんかも含まれるからな。それに俺も致命傷を与えたわけじゃないから、回復なんてそれこそ一晩で充分だろ」

そんなことを言いながら俺たちは横目でバレッドの戦いを見ていたが、自分も動きたくなったのかエルが会話の口火を切る。

「んじゃ、うちらもやろか!というわけで、トリスはうちと。青葉はそれこそ、リノちゃんと」

そう言ってエルが振り向きながらリノを見ようとしたが、そこにリノはいなかった。

というか、エルが近づいてきた時点で一人のようだったが。

「あれ?さっきまで一緒におったのに」

リノは先ほどまでエルといたようで、エルは不思議そうに周りを見渡してリノを探す。

……やばいな、こういう時こそ人族が狙い撃ちにされるっていうのに。

俺も周囲を見てリノを探す。

が、いかんせん今日は3階級もいて人数が多い。

それにリノ自身がかなり小柄なので、周りから見つけにくいのだ。

「あ、リノさんあそこにいるよ」

「あ、ほんまや」

トリスがリノを見つけたようで俺はトリスが指をさした方に目を向ける。

そこには魔族三人がリノと対峙していた。

「ッ!!」

「青葉!?」

即座にやばいと判断した俺はリノの方に走った。

エルが驚きの声を上げているが気にしている暇はない。

俺は一目散にリノのもとに走る。

そりゃ、これからこういう戦闘訓練の授業はいくらでもあるだろう。

ゆえに毎度毎度リノの様子を見ながらできるわけもない。

そもそもこのトリニティに入学してきているんだ。

それなりに実力はあるのだろう。

だがそれでも、初めのうちだけは人族を蔑んでいる奴らがむちゃくちゃな戦闘を行ってくるかもしれない。

多人数との戦闘訓練、などと詭弁を言われて集団リンチにさらされることだって全然ありえるだろう。

そういうことにならないようにしないといけない。

蔑んでいたとしてもこちらとは関わらないように、ちょっかいをかけられないようにする必要がある。

その空気作りは俺の仕事だ。

俺がほかの連中を倒してしまえば黙るだろう。

だからこそ、黙らせるだけの時間があればよかった。

だが、このままだと俺がその空気を作る前に恐れてたことが起こるかもしれない!

「リノ!」

俺はリノに近づいて名前を叫んでいた。

「大丈夫!」

俺は驚いて足を止める。

リノから返ってきたのは、今まで見た彼女からは全く想像できない大きく強い声。

「いいのか?俺たちは別に人族程度二人同時にでも構わねぇぞ?」

3人のうちの一人の魔族が俺を見ながらリノににやけながら言う。

「おい、お前ら」

「おっと、俺たちは正式に模擬戦を申し込んでちゃんとそこの人族の了承を得たんだぜ」

「3対1でもいいのかってのもちゃんと聞いたんだ。その上でOKをもらってる。お前がどうこう言う権利はねえんだよ」

「……リノ」

俺は確認するためにリノの方を向いた。

「だ、大丈夫なのです」

さっきとは違い、いつも通りの口調だがリノは首をしっかり縦に振っていた。

「あ、あの始めましょう」

そう、リノが言うと相手も模擬戦を始める準備を始めた。

「クソッ」

俺には小さく悪態をつきながら模擬戦を見ることしかできない。

思った通りのことが起きてしまった。

魔族3人相手?

明らかに無茶だろう。

相手がどの程度なのかはわからないが、それでも魔族三人相手にするのは俺でもかなりつらい。

俺は途中で乱入する覚悟で模擬戦の始まりを待つ。

「リノちゃん、あの3人とすんの!?」

すると走った俺についてきたのか、エルが顔を見せる。

「あれは、さすがに無理が過ぎるんじゃないかな」

続いてトリスもあとから歩いてきた。

「やりすぎるようなら、俺が途中で乱入する」

俺は隣にいる二人にしか聞こえないような小さな声でそう言った。

「協力するよ、友達だしね」

「しゃーないなー、うちも手伝うわ」

予想外にも、二人は俺に協力してくれるらしい。

周りには、かなり人が集まってきていた。

皇女先輩の時と同様、この一戦はやはり気になるのだろう。

人族がどこまでできるのか。

たぶん、ほとんどのやつはそう考えているだろう。

そんなアウェイの中で、俺を手伝てくれると二人は言う。

頼もしい限りだ。

「それでは模擬戦を始めます!」

審判は竜族の女の子がするらしい。

そこはさすがに公平を期すための別種族にしたのだろう。

「はじめ!」

「なっ!!?」

「えっ!?」

「ええ!?」

竜族の子の一言で模擬戦が始まるや否や、俺たちは唖然として驚きの声をあげていた。

 

---

 

「それでは模擬戦を始めます!」

審判の次の一言で模擬戦が始まる。

私は深く深呼吸しながら、自分の儀式兵器である二丁拳銃を手に構える。

そうして、小さな声でつぶやく。

「シャットアウト」

そうして、私のスイッチは切り替わる。

意識が、見える景色が、変わる。

「はじめ!」

模擬戦は開始された。

私は特に動かない。

銃を構えたまま、微動だにしない。

「一撃で終わらせてやるぜ人族!!」

そういって前にいる相手3人がそれぞれに魔法を放ってくる。

模擬戦を始める前から準備していたのだろう。

模擬戦開始から魔法を放つまでのラグがほとんどない。

それに対して私は、正面から突っ込んでいった。

そして、

「シャットアウト」

放たれた魔法を消す。

「シャットアウト」

消す。

「シャットアウト」

消す。

3人の魔法をすべて消し終えた後もう一度、私はつぶやく。

「シャットアウト」

今度は私の気配を、消す。

そうして相手に全力で近づき、最後は。

ダンッダンッダンッ!

私の儀式兵器である二丁拳銃の弾を至近距離で数発ずつぶちかまして終了。

魔族3人と私の模擬戦は30秒もかからずに終了する。

いわゆる瞬殺。

そうして、注目された私と魔族3人の模擬戦は一瞬のうちにして終了した。

 




最初に言います。

すいません、1階級の実力お披露目リノちゃんしかできませんでした;
エルとトレスの分が入りませんでした;
なのでそこは次回持越しってことでよろしくお願いします。
むしろ、次回が完全にそれで埋まる気がする;


はい、というわけで
リノちゃんの実力が判明しましたー


まさかのこの小説内でおそらく一番最強のキャラです←wwwwwwww

主人公より強いです←wwwww


……あれ、そういえば自分この小説のタグに俺TUEEEEEEをつけてたような

ヒロインの方が強い場合でもこのタグはつけていいのか?(汗)


まあそのことは置いておきましょう←

今回もちょこちょこ小説解説していきますー

リノちゃんの使ってるシャットアウト
本編で詳しく書くので、あんまりここでは書きませんが魔法ではなくリノちゃんの固有能力です。
ゲンさんみたいなもんだと思ってください。
あ、儀式兵器に備わる能力ではなくあくまでリノちゃんの持つ能力です。

それとリノちゃんの儀式兵器、二丁拳銃に関してですが
これは皇女ちゃんの弓と一緒で、魔力で弾を生成する仕組みになっています。
ちなみに進化前です。
儀式兵器を生み出した時から二丁拳銃です。
ここで起こる疑問として、初めて儀式兵器を生成した時に複数個生成できるのかという件に関してですが、姫がヴェルの羽を4枚作ってるのでおそらく可能だと思われます。
個数制限がある場合だとヴェルの羽一枚しか再生されませんしねw
そも、魂が願った形が武器となるというのが儀式兵器なのですから、おそらく願えば何でもできると思います。
たぶん武器じゃなくても←ww
まあでもそう考えると、紅ちゃんの進化は残念な結果のようですね(汗)
もともと二刀流と祈っておけばわざわざ進化させる意味もなかったという←w
まあ性能自体も上がるようですからその辺は無意味ではないのでしょうけれど

というわけで、次回予告なのです
次回は上でも言ったように模擬戦、トリスVSエル編ですね
下手したら、リノの模擬戦の後の話で結構文字数持ってかれてそこまで行かないかもなんてこともあるかもしれませんが予定は二人の模擬戦をしますんでよろしくお願いします(汗)


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第二章:勝利の噂と迷宮試験(5)

まだこの小説を読んでくださっている方がいるのかどうか微妙ですが、、
お久しぶりです
最近忙しくて全く小説を書く時間があらずこんなにも時間が空いてしまいました(汗)

気づけば1年以上空いてる……(汗)

まあでもちまちまと書く余裕が出てきたので完全に自己満足ですがとりあえず書いていこうかと思います

もしまだ読んでくださってくれる方がおられるなら大変お待たせいたしました。
とりあえず前回の続きからです!


※落書きレベルの挿絵追加しました。
昔書いたキャラクターのイメージ画像があったのですが、
ちょっと出来があれなので書き直します←w
少々お待ちください。


「あれって……」

ヴェルは闘技場の観客席から青葉たちの模擬戦を見学していた。

昨日の夜にノートから話を聞いていたのだ。

そう、昨日の決闘の話を。

だからこそ自分の目で見てみたくなったのだ。

青葉の成長ぶりを。

だからこそ今日の仕事を急いで片付けて午後のこの時間を空けた。

実際は3回級の訓練を行っていた時から様子は見ていた。

皇女の実力が去年よりかなり上がっている。

私が最後に彼女の実力をみたのは丁度一年前だから、彼女、というより彼女たちの実力を見るのは一年ぶりなのだ。

この一年、とてもがんばって修練したのがよくわかる。

皇女だけではなく、あの5人全員がだ。

今では彼女らはトリニティ切っての実力者だろう。

それを見て満足した後、1回級の戦闘ももちろんみる。

そうして私はここにいるのだけれど。

みたのは青葉ではなくリノ・ルイヴィス・A・ヴァーモントの戦闘。

彼女は彼女で気になってはいた。

もちろん、かの人族代表の娘としてだ。

だがみてみればその戦闘は一瞬で終わった。

それも彼女の圧倒的勝利という形で。

しかもあの力……

「あれはかつての勇者の、ゲンの力……」

そう、彼女が使った能力はまさしく前の勇者であるゲンが持っていた魔力霧散化能力。

なんであの子がそんな力を持っているのだろう。

いや、どうやって手に入れたのだろう。

単なる儀式兵器の能力では成り立たない。

明らかに異常な力だ。

ヴェルは一気に険しい顔をしながら1期級の子たちを見つめた。

 

---

 

「なんだ、あれは……」

俺は唖然としながらリノを見ていた。

いや、俺だけじゃない。

俺を含めた戦闘をみていた全員が唖然としていた。

誰もが何が起こったのかわからない。

いや、あの能力を俺は知っている。

いや、聞いたことがある、というのが正しい。

あれはかつて師匠に聞いた、前勇者の……

いやそれもだ。

リノ自身が何かおかしいのが気になる。

明らかに目に光がない。

そして顔に表情がない。

リノ、お前は……

「も、戻りました」

考え事をしていたらリノが戻ってきた。

顔を見ると完全にいつも通りの表情をしている。

さっきとは全く違う、いつもの雰囲気をまとったリノだ。

「さ、さっきのはなんなんよリノちゃん!?」

エルが驚きと興奮の入り混じったような声でリノに質問する。

隣を見ればトレスも驚き顔を浮かべて興味ありげにエルの言葉に対するリノの返答を待っていた。

「あの、さ、さっきの、っていうのは」

「リノちゃんの戦闘やって!相手の魔法が突然消えたように見えたけどあれどうやったんよ!」

「あ、あれはあの、私の固有能力で……シャットアウトって、いうのです」

「シャットアウト?攻撃を遮断するのかい?」

「えと、あの」

「そこの1回級の生徒たち!戦闘が止まっているぞ!」

俺たちがリノに話を聞いている途中でラーロン兄さんの大きな声が飛んでくる。

さっきのリノの戦闘で場が止まっていたようだ。

「まあ話は後で聞こうか。今は授業を真面目に受けるとしよう」

「せやなー、とりあえずトレスはじめよか!」

トレスの言葉にエルが応じる。

教師であるラーロン兄さんの言葉を聞いて他の生徒も動き出したようだ。

二人は俺から離れて空いてる場所に向かって歩いていく。

さて、俺はどうするかな。

今のリノの一件と俺のバレッドに勝ったという噂のせいで俺に誰も俺に模擬戦をやろうと言ってこない。

まあこの状況を作り出そうとしていたのは確かなんだが、このまま一人でいるとそれこそサボリだと思われてラーロン兄さんに怒られてしまうだろう。

仕方ない、ちょっと煽って見るか。

俺はそう思いながら自分の儀式兵器である刀を抜いて叫ぶ。

「誰か俺の相手になろうって奴はいないか!!俺の手は空いてるぞ!誰でもいい!」

俺はそれなりに大きな声で叫んだが、注目を浴びるだけで誰も俺お呼びかけに反応を見せない。

「それともバレッドに勝った俺は怖くて手を出せないか?」

俺は駄目押しとばかりににやけながら周りを見渡して言う。

「いいだろう、俺が相手になってやる」

「いや、俺がこの人族を潰す」

「法螺吹きもいい加減にしろよ、てめぇ」

すると何人かの神族や魔族の奴らが名乗りを上げてきた。

その様子を見て俺は小さくにやりと笑みを浮かべる。

リノがあれだけの人数を相手にしたんだ、俺も頑張らないとな。

そう心の中でつぶやきながら俺は言い放った。

「お前ら全員、まとめて相手してやるよ!!」

 

---

 

「そこまでだ!」

不意にラーロン兄さんの声が闘技場に響く。

俺たちにとって初の戦闘訓練の授業もすでに終盤に迫っていた。

トレスとエルの二人も模擬戦を終わらせており、俺も複数の魔族を相手に立ち回っていたのだがどうやら俺たちの本格的な模擬戦はここで終わりのようだ。

ちなみにトレスとエルの模擬戦だが、どうやらトレスが勝ったらしい。

俺も自分の戦闘をこなしながら横目で少し見ていただけなので、どんな試合になったのかは詳しくはわからないが、まああの銀髪を考えると順当といえば順当ではある。

「さて、授業の初めでも言ったように本日いい動きをしていた生徒を選抜し3階級との模擬選を行わせてやる。そして今日一番いい動きをしていたのは、バレッドジンス、貴様だ。」

ラーロン兄さんが指定したのはバレッドだった。

まあ今日一番多く模擬戦をしていたようだし、そも魔王の血族だ。

バレッドが選ばれるのは特におかしくはない。

俺も選ばれればいいなくらいには考えていたが、ラーロン兄さんはそういう身内贔屓をする人じゃないし、冷静に判断した結果だろう。

だがまあこれから少なくとも1年はあるんだ。

3階級の人たちと手合わせをする機会はまた何度でもあるだろう。

俺がそんなことを考えていると、ラーロンさんが続けて声を放った。

「そしてリノ・ルイヴィス・A・ヴァーモント、貴様もだ。」

えっ、と周りから驚きの声が上がった。

リノを見てみると、そのリノ本人も驚いて混乱しているようだ。

確認するかのごとく、俺はもう一度ラーロン兄さんのほうに目を向けると、ラーロン兄さんはあらぬ方向に目を向けていた。

だがしかし一瞬でこちらに向き直って話を続ける。

「両名は前に出てくるがいい。そして、模擬戦を申し込みたい相手を指名するのだ。勝て、などとは当然言わん。誰が相手でも構わん、胸を借りるつもりで申し込むのだな」

その言葉を聞き流しつつ、俺はラーロン兄さんが一瞬目を向けていたほうを見た。

「あぁ、なるほど」

俺は小さくつぶやきながら納得する。

そこにいたのは学園長こと、ヴェル姉さんだ。

たぶん、最初から見ていたんだろうけど気づかなかったな。

そしてラーロン兄さんが目配せをした意味。

それはつまり、リノの能力の再確認ってところだろうか。

あれは確かに、俺から見ても異常な力だ。

「青葉、二人の模擬戦が始まるよ」

トレスに声をかけられ、ふと我に返る。

「あ、あぁ」

気づけばすでにバレッドは模擬戦の相手を選んで開始の合図を待っている状態だった。

がしかし、リノのほうはまだ相手を選び損ねているようだった。

ちなみにバレッドが指名したのはリンセ先輩だ。

先ほどの戦闘を見て、戦ってみたいと思ったのだろう。

だが、リノはおどおどとしており、いまだに相手を決められずいるようだ。

そんな時、3階級の中から声が上がった。

「もし、お相手を選びかねているのでしたらわたくしがお相手いたしましょうか?」

その声は、今朝知り合ったもう一人の金髪の竜族。

ルルウ・アキ・カジュタから放たれた言葉だった。

「ふむ、リノ・ルイヴィス・A・ヴァーモント。貴様は第二の金竜が相手でも問題ないか?」

そしてもうあまり時間が無いようで、ラーロン兄さんがその提案に後押しをしてくる。

「は、はい。問題ありません、よ、よろしくお願いいたします。」

「えぇ、ではこのルルウ・アキ・カジュタが全力でお相手いたしますわ」

そして両名とも相手が決まり、模擬戦の準備に入った。

一組ずつではなく、同時に離れた位置で模擬戦が開始されるようだ。

「「開始!」」

そうして、審判であるバリアリーフ先生とラーロン兄さんの声が重なり、模擬選が始まった。

 

---

 

まただ。

俺はリノを見た瞬間、そう感じた。

模擬戦が始まって数分がすでに経過している。

当然、バレッドとリンセ先輩、そしてリノとルルウ先輩が戦っているのだが、俺はバレッドには悪いがリノから目を離せなくなっていた。

戦闘が始まってからのリノの様子が明らかに普段と違う。

おどおどした様子もなければ、おおよそ感情というものが全くないような冷徹な表情をしている。

ルルウ先輩の攻撃に対して、正確な動きでそれをよけ時に反撃する。

その様はどこか機械じみたような恐怖を俺は感じた。

そしてあのリノの謎の能力「シャットアウト」。

あれは今回でも十分すぎるほど発揮されているようだ。

ここから二人までは少し距離があるため、リノがさっきの戦闘で見せたようにシャットアウトと何度も口にしているかどうかはわからないが、やはりあの戦闘はどうにもおかしい。

リノが避けた攻撃は別段何も問題はないように思える。

いや竜族ならではの、それも金竜の気麟をまとった攻撃だ。

何の問題もなくとは言うが、その威力は異常なまでのものだった。

ルルウ先輩のふるう武器は斧だ。

単純に振りかざしただけでも地面に当たれば軽く爆発したように地面が震え砂塵が舞う。

その攻撃力は普通に考えれば異常だが、金竜ということを考えればおかしくはない。

だがもっと異常なのは、その異常な攻撃を数回リノが受けきっているという点。

3階級と1階級が戦っているのだ。

当然そこには当たり前のように経験の差が表れる。

だからどんなにがんばってリノが避けようと、それを踏まえてルルウ先輩は攻撃をしてくるため最終的に避けきれなくなり、リノは攻撃をくらってしまう。

ある程度実力差があると戦闘はどうしても予想しやすいものになっていく。

詰将棋のような状態になるのだ。

そして竜族を相手にした場合、その避けられなかった一撃がまさしく命取りになる。

にもかかわらず、リノはその攻撃を数回受けておきながら、何の問題もないように立ち上がる。

「やはり、気麟すらも消せるのか」

竜族の強みはやはり気麟だ。

それがなくなってしまえば、腕力のみの攻撃になってしまう。

それでも元の体力や筋力が竜族は高いため、攻撃力そのものは高いが気麟があるのとないのを比べれば天と地ほどの差があるだろう。

ゆえに、リノは未だにダウンしていない。

だが、

「結局はジリ貧だな」

俺はリノたちの戦闘を見てそうつぶやいた。

「そうやなぁ、さすがにこのまま押し切られるっていうのが目に見えてるわ。でも、やっぱ」

「うん、正直どうやってるのかはわからないけど、もともとなかったかのように気麟が消えてるね」

俺のつぶやきを聞いていたようで、エルとトレスが返事を返してきた。

二人もやはり俺と同意見のようだ。

と、その時リノが自ら前に出てきた。

おそらくリノ自身もこのまま押し切られてしまうことが分かっていたのだろう。

ゆえに、動いたのだろうけれど。

それが3階級にどこまで通じるのか、そう考えながらリノの戦闘を見るのだった。

 

---

 

(前に出てきた?)

わたくしはこの1階級の少女の動きにいささか不自然な印象を受けていた。

今まで防戦一方だったのにもかかわらず、このタイミングで突撃。

人族ですから呪文演唱に時間がかかる魔法は一部例外はあるにしてもほとんど使えなはずですし、それをしていた様子もない。

特に時間を稼いでいたわけでもなく、新たに勝機を見出したからこその突撃でしょうけれど、いったい何が狙いなのでしょう。

悩んでも仕方がないかとわたくしは思い、前に出る少女に対処すべく動く。

もちろんルルウは勝つことが目的ではあったが、今回はちょっと特殊な事情があるがゆえに見極めながら戦わなくてはならない。

「はぁぁ!!!」

そんなことを考えながらも当然相手には全力で斧をふるう。

「ふっ!」

相変わらずぎりぎりでこの子は避けていきますが、さすがにこの子の戦い方にも慣れてきましたしそろそろ本詰めと行きましょうか。

とわたくしは考え、全力で攻めに動く。

「はぁ!!」

「くっ」

「てぇい!!」

「はっ!」

何度も攻撃をかわし続けるリノだが、さすがに動きが遅くなっている。

さすがに体力の限界なのでしょうね、と私は思いここだ、という場面で必殺の一撃を放つ。

「ここです!シャイニングストライク!!」

そういって必殺技を放とうとした瞬間、左側に一瞬きらりと光りが見えたような気がした。

そしてリノは小さくつぶやく。

「シャットアウト」

私の必殺技から気麟が消え去っていく。

だがこの動きは最初から当然読んでいた。

今の体力ではこのまま腕力だけで振り回したとしてもさすがにもう防げまい、そう考えたうえでの必殺の一撃だった。

だが、しかし。

突然左側から強力な魔法が飛んでくる。

その一発はわたくしとリノさんの間を通り抜け壁に当たって爆発する。

が、問題はそこじゃない。

さすがのわたくしも今の一瞬。

動きが止まってしまったのですから。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「っ!!リノさんは!?」

先ほどの魔法は完全に隣で戦っているペアのどちらかが放ったものだ。

もしかするとリノさんの狙いはこれだったのでしょうか。

先ほどの魔法の勢いで土煙が待っていて前がまだはっきり見えない。

「シャットアウト」

そんな時小さくつぶやく声が、前から聞こえる。

思わず前に反応してしまい、わたくしは斧で土煙を払う。

が、前にはリノの姿は非ず。

ダダンッ!!

わたくしの真後ろから銃声が聞こえてくるのでした。

 

---

 

(勝った)

リノは心の中で淡々とそう感じていた。

あのタイミングを狙っていたのは確かだ。

私とあの竜族の先輩との戦闘力の差は歴然。

勝つ可能性があるとすれば、何か別の外的要因がない限りは無理だと判断した。

ゆえにあそこで突撃したのである。

傍目に魔法を放ちそうなバレッドの姿が目に入っていたから。

まだ土煙が晴れない中、私は戦闘モードを解除しようとする。

が、その時

「!!?」

右側から衝撃が飛んできた。

それを受けて私は思いっきり吹っ飛んでしまう。

突然すぎて何が起こったのかわからず立ち上がろうとしたその時、

ルルウ先輩が寝転がる私に向けて斧を構えていた。

(さっきのも避けられてた……)

つまりはそういうことである。

「勝者ルルウ・アキ・カジュタ!」

そういって審判であるバリアリーフ先生の声が鳴り響き、1階級、3階級の合同訓練は幕を閉じたのであった。

 

---

 

帰りのホームルーム。

俺たち1階級の初授業がすべて終わったのだ。

「本日は初授業お疲れ様ですわ。初日から戦闘訓練で疲れたかもしれませんがトリニティではこれからもっと厳しい授業が待ち構えていますので気を引き締めるようになさい。では本日は以上ですわ」

バリアリーフ先生の終了の合図で教室が騒がしくなる。

「さて、うちらも寮にかえろかー。さすがに疲れたしなぁ」

エルが俺の方に顔を向けながら話しかけてくる。

ちなみにエルは俺の前に席に座っていて隣はリノが座っている。

リノもこちらに顔を向けてエルの言葉にうなづいているようだ。

「というかリノ、体は大丈夫か?ルルウ先輩に吹き飛ばされていただろ」

「確かに、あの一撃は結構重たかったんじゃない?」

俺の質問にトレスも重ねて聞いてくる。

「大、丈夫、手加減、してくれてたから」

リノは特に問題ないらしい。

さすがというかまあその辺の力加減はわきまえているようだ。

「リノ・ルイヴィス・A・ヴァーモント」

そんな雑談をしているとバレッドがこちらに近づいて話しかけてきた。

「先ほどは済まない。周りが見えていなかった。私の魔法がそちらまで飛んでしまったが、大丈夫だったか?」

どうやら先ほどの魔法のことを謝りに来たらしい。

やはりこういうところ、バレッドは律儀だな。

「は、い、大丈夫です。むしろ期待、しちゃってたので」

「そうか、問題が無かったのならいい」

ちなみにバレット対リンセはリンセの圧倒的パワーにバレッドが押されまくって、最後己の全力で打った魔法も空間割砕で反らされリンセには当たらずとどめを刺されて終わったらしい。

「さすがにバレッドはんも3階級の先輩は厳しかったみたいやなぁ」

「私も勝てるとは思っていなかったが、かなり実力差を思い知らされた。青葉との決闘もそうだったが、やはり自分がまだまだだということを思い知らされるばかりだったな」

小さく苦笑いを浮かべながらエルの言葉にバレッドが答える。

「さて、そろそろ帰ろか」

「そうだね、周りも帰り始めたみたいだし」

「すまない、俺はちょっと職員室に寄ってから帰る」

「ん?青葉なんか用事でもあるんかいな?」

「まあね、ラーロン兄さんに一言挨拶しにいかないと」

「ラーロン兄さん?今日の我々の戦闘訓練の教師か。知り合いなのか?」

「あぁ、俺に戦闘技術を教えてくれた師匠の一人だよ。というよりバレッドは一応名前くらいは知ってるんじゃないのか?あの人も魔王の血族のはずだが」

「ハデラ家、という意味で名前は一応知ってはいる。だがさすがに付き合いもないし名前までは知らないな」

「んじゃまあ青葉は用事あるみたいやし、うちらは先帰ろか」

「あぁ、トレスはまた明日。他はまた寮でな」

そういって俺たちは教室で別れるのだった。

 

---

 

俺は教室から出ると、ちょうど少し前に教室を出たバリアリーフ先生の背中が見えた。

それを追いかけ俺は先生に話しかける。

「バリアリーフ先生」

「あら、生徒仙城。どうしましたの?」

「ラーロン兄さ、あぁ、いえラーロン先生は職員室にいらっしゃいますでしょうか?」

「えぇ、まだいてるかと思いますが……。あぁ、あなたは生徒白鷺の弟子でしたわね。生徒ラーロンとも面識があるということですか」

俺は歩きながらバリアリーフ先生と話す。

というより、やはり先生は俺が師匠の弟子だということを知っているのか。

ヴェル姉さんから聞いたのだろう。

「生徒ラーロン?」

「あぁ、すいません。昔の癖が出てしまいました。今は教師ラーロンですね」

まあそれは当然か、師匠もここに通ってたし、今の師匠のパーティはここで集まったメンバーだって言ってたからラーロン兄さんも当然ここの生徒だったというわけだ。

と、そんなことを話しているうちに職員室についたようだ。

「少し待っていなさい、生徒仙城。今呼んできて差し上げましょう」

「ありがとうございます」

そういってバリアリーフ先生は職員室に入っていく。

するとすぐに先生は職員室からでてきた。

「今は職員室には不在のようですわ。もしかしたら理事長のところかもしれませんわね」

「そうですか、わかりました。では理事長室にも顔を出してみます」

「えぇ、ですがあまり学校に残りすぎて帰りが遅くならないように」

「わかりました。失礼いたします」

そういって俺は職員室を後にした。

理事長室の場所は最初に行ったから覚えている。

迷うことなく部屋まで進み、俺はドアをノックした。

「どうぞ」

「失礼します」

ヴェル姉さんが答えて俺は理事長室に入る。

すると、そこにはノート姉さん、ラーロン兄さん、オペラさんにウルルさん、それにアミアさんまでがそろっていた。

さすがに驚いていると、ヴェル姉さんから声がかかる。

「あら、青葉どうしたの?」

「あぁ、いやラーロン兄さんがこっちにいるかもしれないって聞いたから挨拶に来たんだよ」

「ふむ、確かに授業のときは話す機会がなかったからな。改めて久しいな青葉。貴様の成長は見させてもらった」

「えぇ、私も見てたわよ。かなり強くなったじゃない」

「ウルルたちも見たかったです……」

「まあ私たちはお仕事でしたからねぇ」

「私もちょっと見たかったなぁ」

「久しぶりラーロン兄さん、それでありがとう。ヴェル姉さんも」

「僕は決闘の時に見てましたけど、ほんとに1年でよくここまで成長しましたね」

「まあ姉さんたちのおかげでもあるよ。というよりラーロン兄さんが先生やってるなんて聞いてなかったんだけど」

「まあ急遽決まったからな、もともとは魔界に帰るつもりだったが、教員の空きができたからどうだと誘われたのだ」

「四界協定メンバーとしては正直トリニティにいる方が何かと動きやすいからいろんな意味で最適だったのよ」

「なるほど。それで?なんでまたその四界協定メンバーがそろってるの?」

「あー、えーと」

俺がその質問を振ると、だれもが一瞬沈黙になった。

ウルルさんは堪えていいものかためらいながらヴェル姉さんを見ている。

「リノの件、だろ?」

答え合わせをするかのように俺は溜息混じりに言い放った。

するとヴェル姉さんが苦笑交じりに答えてくれる。

「えぇ、まさしくね。さすがにあれを見ちゃうとこうして相談しないわけにはいかないのよ」

「リノの固有スキル、シャットアウト。どういうものだと思う?」

「あ、それシャットアウトっていうんだ」

アミアさんが意外そうにそう突っ込む。

みんなスキル名すら知らなかったようだ。

「おそらく勇者ゲンほど無差別なものではあるまい。あれは認識した対象を消すという能力だろう」

「でも、そんな魔法は存在しませんから、やはりリノちゃんは」

「かつての選定者、ということでしょうか」

「お兄ちゃんと同じ、かぁ」

「まあ話を聞く限りだとその可能性が高いかなぁ」

そんな話をしていると、コンコンとドアをたたく音が聞こえた。

「どうぞ」

とヴェル姉さんは客人を部屋に通す。

すると入ってきたのはルルウ先輩だった。

「あらあら、みなさんお揃いですねぇ」

「ごめんね、ルルウ。呼び出しちゃって」

「いえ、構いませんよ」

「一応ルルウの意見が聞きたくてね、どう思う?あの子」

その話の様子を俺たちは静かに聞く。

あのタイミングでルルウ先輩がリノの相手に申し出たのは意図があったということだ。

「感覚で言えば、ゲン君と戦っているのとほんとに近い感じでしたね。実際気麟を何度も消されましたし」

「やはりそうか」

「ただ、最後のあの一瞬、私はあの子を見失ってしまいました。おそらく気配そのものを消したのではないかと思います。そんなことはゲン君にもできなかったので、何とか銃撃を斧で防いで反撃しましたが、結構危なかったですわ」

「第二金竜を追い詰めるほどか、中途半端に何も知らない3階級と戦わせては負けかねんと思い第二金竜を当てたが……」

「でもラーロンくんの判断は正しかったと思います。3階級が負けてはさすがにメンツもあるでしょうし、元勇者と一番戦いなれているという点では間違いなくルルウちゃんが適役だったんじゃないかと」

やはりリノのあの能力は話に聞いていた元勇者の力に近いらしい。

だからこそこうやって四界協定メンバーが顔を連ねて相談しているわけだが。

「まあでもとりあえず様子見しかないわね。みんな、一応注意しておくくらいの気持ちでお願い」

「はい!」「あぁ」「了解です」「えぇ」「わかりました」「ほいさー」

「青葉も、よろしくね」

「了解」

そののちも少し雑談に花を咲かせてその後、理事長室を出た俺とルルウ先輩、ノート姉さんは寮に向かって歩いていた。

「そういえば、さっきノート姉さんが元勇者と戦い慣れてるって言ってたけど、あれはどういう意味?」

「あぁ、あれはですね。ルルちゃんは元勇者ゲンに育てられたからなんです。確か戦闘の仕方も全部ゲンに教えてもらったとかで」

「竜族の第二王女が元勇者にね。何かいろいろ事情がありそうだ」

「まあその辺のルルの事情は後々お話いたしましょう、姫君も交えて」

「戻ったら急いで夕飯の準備をしないといけませんしね」

そんなゆったりとした話をしながら寮への帰り道を歩いていると、前に見知った人物を見つけて声をかけた。

「お、トレス!」

声をかけられたトレスはこちらを向いて近づいてきた。

「やぁ、青葉今帰りかい」

「まあな、なんだかんだで話し込んでいたし」

「おっと、そちらは確かリノちゃんの対戦相手の」

「ルルウ・アキ・カジュタですわ」

「それで……!!?」

トレスはルルウ先輩を見たあと隣を見て突然固まった。

まあ神族の第一王女がいればそりゃ固まるか。

「神族第一王女、ノートルゥム……」

がしかし、俺は驚きで固まっていると思ていたトレスの表情は全くの別物で、苦虫をかみしめたように顔をゆがませていた。

「!?おい、トレス?」

俺は突然表情を変えたトレスに驚きを隠せなかった。

「あぁ、いやすまない。今日はもう失礼させてもらうよ」

俺の呼びかけにそれだけ言ってトレスは男子寮の方に歩いて行った。

「なんだったんでしょうか?」

「あの子は確か……」

その時、ノート姉さんはなぜか少し申し訳なさげな顔をしているのだった。

そんなことが起こりながら、俺たちは寮へを帰り着いた。

 

---

 

夜、俺は夕飯を食べるために食堂に向かっていた。

食堂に入るとやはり俺は女子寮の中では異色の存在のようで、周りからはいろいろな目線を向けられる。

不思議そうにするもの、明らかに異物を見るような目をむけるもの、中には興味深そうに見てくるもの、様々だ。

まあそれは仕方ないか。

それでも明らかに敵意のある目線は少ないように感じた。

昨日は先輩たちやリノ、エルがいたしバレッドとの一件があったから気にしてる余裕はなかった。

だが実際、かなり覚悟はしていたが思った以上に周りの目が普通だ。

注目の的であることは間違いないのだが、そこまでいやな目線ではない。

俺は少し予想外な周りの反応にはてなを浮かべながら席に着いた。

すると、おそらく先輩であろう人らが3人ほど突然俺に話しかけてくる。

なんだ?

後輩いびりの類か?

などと俺は少し警戒していたのだが……

「ねぇ君、皇女ちゃんに聞いたんだけど白鷺先輩の弟子なんだって?」

「え?あぁ、はいそうですね。姫さんは俺の師匠なので」

おぉ!とかうわぁ!とか先輩たちは驚きの声を上げる。

俺は思ってもいないことを突然聞かれその反応にも驚きながら返答する。

「ほんとなんだぁ!先輩の弟子ってことはやっぱりかなり強いのかな!私、一度先輩と模擬戦したことあるけど全く歯が立たなかったもん」

「そうだねぇ、皇女ちゃんも強いもんねぇ。勝てる気がしないよほんと」

「うん、すごい」

「いえ、自分はまだまだですよ」

「でもいいなぁ、私も白鷺先輩に弟子入りして訓練してもらいたいかも」

まさか師匠がここまで人気だったとは。

さすがだなぁ、あの人は。

「む、青葉か」

そんな雑談を交わしているとバレッドが近づいてきた。

彼女もこれから夕飯のようだ。

「おやおや、もしかして昨日決闘したっていう魔王の血族ちゃん?」

「たぶんそうだと思う」

先輩らはバレッドはバレッドで気になるようだ。

それに昨日の一件はやはり全校生徒の中でも噂になっているらしい。

まあ昨日女子寮の食堂であれだけ騒げば噂にもなるか。

「よぉバレッド。今から夕飯?」

「あぁ、そうだ。あ、そのもしよければだが、一緒にいいだろうか?」

「もちろん、構わんよ」

「ありゃ、昨日やりあったとは思えない感じだね?」

俺とバレッドの会話に先ほどの先輩の一人が入ってくる。

まさしく昨日の今日の出来事だ。

ここでまた騒動が起こるかもと先輩たちはもしかして心配していたのだろうか。

「昨日の一戦で、私は青葉のことを認めましたので。それに約束もありましたし、もうこれ以上青葉に何か言ったりすることはありません」

「へぇ、雨降って地固まるというかなんというか」

「確かに、ちょっと意外」

「そりゃまあうちらは白鷺先輩の件で女子寮に男子がいるっていうのはなんていうか慣れてるからあれだけどねぇ」

「でもまあ、私たちはもうご飯食べたし二人の邪魔しちゃ悪いからそろそろ行こっか」

「いや、二人の邪魔って俺とバレッドはそういうのでは」

「まあまあ」

「一緒の席に座っていいか?って聞いてた時の血族ちゃんの顔を見てるとねぇ」

「先輩がた、さすがにそれは反論させていただく」

俺の講義は聞き流され、バレッドが反論しようとした瞬間に先輩たちは歩き出した。

「決闘から始まる、恋もある……と思う」

最後に相槌しか打っていなかった先輩がとんでもないことをつぶやきながら去って行く。

もう一人の先輩が去り際にこそっとバレッドに何か耳打ちしていたようだが、さすがに俺には聞こえなかった。

最後に一人はまたねーといいながら手を振って去って行った。

「まあとりあえず飯食うか」

「あ、あぁそうだな」

バレッドはなぜか少し頬を染めてそっぽを向きながらそっけなく俺に返事をした。

先輩に何を言われたのやら。

 

---

 

「がんばれ、後輩ちゃん」

名も知らぬ先輩に去り際にそんなことを言われて私は思わず頬を染めてしまった。

いや、まだ別に青葉の事が好きだとかそういうわけではない。

多少好意はあるもののそれは恋愛のそれとは違う。

ある意味で尊敬に近い感情、のはずだ。

そう自分に言い聞かせながら平静を装う。

いや、そもそもこの程度のことでどうかしてる自分が少し恥ずかしかった。

青葉はことあるごとにこちらに話を振ってくれるのでそれにたどたどしく対応しながら頼んだメニューが来るのを待つ。

「お待たせいたしました」

すると、夕飯が運ばれてきたようで私は声のした方に顔を向ける。

「ルルウ先輩」

「どうもです、青葉さん。晩御飯をお持ちしましたよ」

どうやら青葉の知り合いらしい。

なんだかんだで青葉はなぜか知り合いが多い。

ここの管理人である神族王女のノート・ルゥムとも知り合いのようだったし、なぜだろうか。

それになぜか綺麗所がおおい。

「青葉の知り合いなのか?」

「あぁ、まあね。知り合ったのは今日の朝だけど」

「そうか」

「先輩はまたお手伝いですか?」

「えぇ、時間があるときはほとんど手伝っていますね。これもずっと続けてることですし」

「あ、そうか、バレッドは丁度戦ってたからわからないか。今日リノの対戦相手をしてくれた先輩だよ」

そういわれてあぁ、と気づく。

「初めまして、ですね。ルルウ・アキ・カジュタと申しますわ。よろしくお願いしますね」

「バレット・ジンスです」

互いに軽い自己紹介を済ませ、ルルウ先輩は一応手伝いとはいえ仕事があるので俺たちのご飯を並べて去って行った。

そうして二人で食事を食べ始める。

「うまいなぁ、やっぱりノート姉さんのご飯は」

「?これは管理人が作っているのか?」

「そうだと思うよ、あの人はルアンさんと同じで面倒見のいい世話好きな人だから」

「とても神族王女とは思えんな」

「それは誰もがノート姉さんを見ればいうセリフだよ」

ここで私は人族である青葉がどこで神族王女と知り合いになったのかを聞こうかと思ったのだが、そんなことより私は青葉に話したいことがあった。

今日の朝の青葉の様子を見てから考えていたことで、たまたまだがこういう機会ができたのだ。

話してみてもいいかもしれんと、食堂で青葉を見つけたときに考えがよぎってきた。

そうして話す機会をうかがっていたが、ここらで話してみても大丈夫だろう。

「あー、その青葉」

「なんだ?」

「今日、たまたま早朝に訓練しているのを見かけたのだが、あれは毎日やっているのか?」

「あぁ、師匠の教えでね。日々の努力が実力につながるって毎日自主練をするように言われてるんだ」

「その自主練なのだが、私もその……参加してもいいだろうか?」

「自主練に?」

「あぁ」

そう、青葉に昨日負けてから私は私自身をもう一度鍛え直さなくてはいけないと思った。

でないと、うかうかしていたら青葉以外の者にも負けることになりかねない。

この学園はそういう場所だということを立った二日で思い知ったのだ。

「あぁ、別にかまわないぞ」

「っ!そうか!」

青葉の返答に思わず声を上げてしまった。

なんだ、私はこんなにも青葉と自主練することを期待していたのか。

「では明日から頼む」

「あぁ、よろしくなバレッド」

「うむ!」

そのあとは何時から始めるだとか普段どんな自主練をしているだとかで話が盛り上がり、食事を終えそれぞれの部屋に戻ったのだった。

 

 




というわけで

前回トレスやらエルのお披露目的なことを書いておきながら全スルーという体たらく←

二人の活躍はちょっと待ってね(汗)
(決してトレスのバトルスタイルが思い浮かばなかったとかじゃないんだよ!決して!←www)

久々の投稿なのでとりあえず1万文字ちょっとあげておきます。
ここまで書くのに文字数を使いすぎな気がするのでここからはテンポを上げていこうかと;w

ここまで来てやっと次迷宮試験ですよ、、、

というわけでここで第二章の半分がやっと終わったわけですが;w

これからもちまちま更新していければと思うのでよろしくお願いいたします。
また止まったらすいません(汗)
気長に待っててください(汗)


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第二章:勝利の噂と迷宮試験(6)

更新ですー

といっても前回の4分の1程度ですが……(汗)



二日目からは俺にとって怒涛の日々だった。

約束した通りバレッドと朝訓練したり、座学が思ったより難しかったり、模擬戦で大体のクラスメイトの力量がわかってきたり、エルやリノ、トレスやバレッドたちと町に遊びに行ったり。

気が付けばトリニティでの生活はすでに10日ほどが過ぎていた。

そんな中、やっとトリニティでの日常というものに慣れてきたかなという矢先。

新たな話題で1階級は埋め尽くされることとなる。

それは。

「これから迷宮試験についての説明をいたしますわ」

そう、今しがたバリアリーフ先生が言い放った迷宮試験についただった。

「1階級の皆さんには初の試験になりますわね。これは最初の実力を見るための重要な試験ですわ。みな気を引き締めてかかるようになさい」

そうして事細かな迷宮試験の説明が先生からなされた。

チーム制で5人以内でパーティを編成すること。

ダンジョンを攻略することを一番とするが、それ以外にも加点、減点となる対象があること。

それらの点数全てを含めて最終評価を決めるということなどの説明を先生は話していく。

そうして説明が終わる際には、クラス中は誰とパーティを組むかで盛り上がっていた。

まあ俺たちにはあまり関係のない話か。

組む面子は大体決まっているだろう。

「というわけで、必然的にこうなるわけだが」

集まったのは俺と、リノ、それからトレスの3人だった。

バレッドは別のチームで参加するらしく、

「以前のリベンジだ」

といってさっそく俺に宣戦布告してきた。

まあそうなるかなとは思っていたが、またバレッドとやれると思うとそれはそれで楽しみではある。

ちなみにいつもならエルもいてそうなんだが、今回は竜族オンリーでパーティを組むらしい。

まああいつもこの数日で結構知り合いを増やしていたようだし、明るい性格だから友人も増えやすいのだろう。

というわけで、あぶれた俺たちは3人で迷宮試験に参加というわけだ。

「さて、なんというか結局この3人みたいだけどいいかい?」

「俺は問題ない。もともとそうなるだろうとは思っていたしな」

リノもうんうん、とうなづいている。

迷宮試験は来週の週末行われるらしい。

つまりあと1週間ほどというところだ。

「とりあえず、一位目指して頑張ろうぜ。この面子なら狙えるだろうし」

「まあリノさんのシャットアウトっていう奥の手もあるしね」

「あれはできれば使わない方がいいかもな、正当に評価されない可能性がある」

俺は苦笑交じりにリノを見ながら言った。

「できるだけ、使用は、控えます」

「あぁ、いざというときだけで頼む」

「それじゃ頑張ろうか」

「あぁ!」

そういって俺たちのトリニティ最初の試験が幕を開けた。

 

---

 

「迷宮試験かぁ、私たちもやったねぇ。懐かしいなぁ」

「私たちの時は全階級合同だったからあれは特殊だったな」

昼休み、俺たち3人は昼ごはんを食べながら迷宮試験の相談をしようということになり食堂に向かうと丁度皇女先輩とカミシア先輩の二人と丁度鉢合わせて一緒にご飯を食べることになった。

「全階級合同?」

「あぁ、まあ私たちは皇女とニコと3人でパーティを組んだがな」

「これでも一応姫兄に一矢報いたもんね」

「まあ誰かさんの甲冑のせいで台無しになったがな」

自分が1階級だったころのことを思い出しながら懐かしむように二人は談笑している。

「ところで先輩、その迷宮試験の事なんですけど、何か注意しとかないといけないこととかあるんですか?」

「それは確かに聞いておきたいですね」

このまま昔の師匠がいたころの話を聞くのも俺はいいのだが、もともと3人で作戦会議をするために来ているのだ。

ここは聞いておくことは聞いておかないと。

俺の発言にトレスもかぶせて言ってくる。

リノは話を聞くことに徹するようだ。

「そうだね、まあまず迷宮試験はチームワークが一番重要かな。評価、という意味でも確かにそうなんだけどチームワークがきっちりしてないとそもそもほかのチームに各個撃破されちゃうし、罠とかに引っかかってすぐ脱落しちゃうしね」

「うむ、そりゃもちろん個々人の戦闘力は重要だがな、それだけでは勝てないのが迷宮試験だ。まあヴェルママやノートママクラスだと一騎当千もできなくはないんだが」

「まあそれは例外でしょうね」

俺たちは姉さんたちの規格外さを思い浮かべながら苦笑を浮かべる。

「しかしチームワークか」

そういって俺はリノとトレスを見た。

リノはきょとんとしていて、トレスは小さく苦笑交じりに笑っている。

「まあ青葉の言いたいこともわかるよ。トリニティに入ってまだ数日、相手のことも何も知らない中でチームワークといわれてもってことだよね」

「それはそうだな、私たちはまあパパつながりで一種絆みたいなものがあったからあれだが、ふつうはそうはいかないな」

「なら、その辺を重点的に考えて特訓でもするか」

「それはいいかもね。あ、でも迷宮試験にはトラップの解除とかもあるからその辺の知識とかもちゃんと復習して身に着けておかないとだめだよ?」

「一通りは師匠に習っているけど、まあでも確認しておかないとですね」

そこで俺たちの会話は一区切りついて、明日からバレッド丘の上で特訓することになった。

個々人の力量というよりほか二人の実力の把握、それを踏まえたうえでのフォーメーションの構築なんかが中心だ。

その場しのぎになる可能はそれなりにあるが、それでもまだ1週間ある。

それなりに形になるまではいけるだろう。

そうして今日の放課後から早速、俺たちの特訓を始めたのだった。

 

---

 

そうしてやってきた迷宮試験当日。

俺たちはあれから何度も模擬戦を繰り返して、互いの長所と短所を見つけあいどういう戦法で行けばいいのかを考えてある程度戦略を固めることができた。

なんだかんだで先輩たちも手伝ってくれたのがかなり大きい。

当然教師側である、ヴェル姉さんやラーロン兄さん、ノート姉さんなんかに話を聞くわけにはいかないので自重したが、巫女先輩たちは何より力になってくれた。

「さて、いよいよだね」

「あぁ、作戦は頭に入ってるな?」

リノは力強く頷き、トレスももちろんと答える。

今回の迷宮試験は1階級が全員闘技場に集められている。

ダンジョンへの入り口はこのトリニティのいろんな場所にあるようだが、今回は最初ということもあり全員同じスタートから始めるようだ。

俺は周りを見渡すとバレッドの姿が目に入った。

バレッドのチームは全員魔族で戦闘訓練でもそれなりに強かったやつらが集まっているようだ。

ほかのクラスにも何人か強敵はいるが、リベンジだと言っていた分俺たちを狙ってくる可能性は高い。

そういう意味で一番注意しなくてはならないチームだろう。

「さて、それでは迷宮試験を始めますが、その前に学園長からお話がありますわ!心して聞くように」

バリアリーフ先生の声が響くと同時に前にはヴェル姉さんが出てきた。

「こんにちは、新入生のみんな。これから迷宮試験が始まるわけだけれど、この試験は一番早くゴールについたものが一番評価が高くなるっていう単純な試験じゃないわ。どういう場面でどういう戦闘をしたか、どういう得点の集め方をしたのか、などそういった部分も加点対象になってくる。もちろん減点対象もあるけれど、間違えないでね。逃げることは原点対象に絶対なるなんてことはないということを。逃げた後にどう対処するか、その方法によってはただ倒しただけよりも加点が入ることだってあるということ。仲間を犠牲にして勝利するのと、何度逃げても全員無事のまま敵を追い返して見せる。もちろん状況によるけどこの場合評価されるのどちらなのか。少なくとも私は後者に票を入れるわ。もちろんただ逃げ回ってるだけじゃ評価に値しないけれど、そういった部分を考えてみんな取り組んでね。それじゃ、私からはこれくらいにしとこうかしら。みんな準備はいい?」

ヴェル姉さんの問いかけに生徒たちがおぉ!!と応じる。

「それじゃ、迷宮試験開始!」

そうして迷宮試験は開始された。

 




というわけで3000文字程度の更新です。

上げるだけ上げてしまおうと思い、区切りのいいところまでささっと書いてしまって更新しました;w
すいません、これでまたストックがなくなったので1週間以上は空くと思います(汗)

3000文字程度しかあげていないので代わりに簡単なキャラデザだけ上げときます。
完全に落書きですが、イメージが浮かべば幸いです;w

【挿絵表示】


今回は完全に迷宮試験までの間を埋めるためだけの文章だったのであれですね、あんまりおもしろくはないかも;w

次回で迷宮試験書き切れるかなぁ(汗)
まあでもそこまで深い内容にはしないつもりなので(後々の展開的に)
さくっと進めたいと思います。

あ、それと感想お待ちしております←ww
感想くれればくれるほど作者の制作スピードは上がります(きっと)
ですのでよかったら感想お願いいたします


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第二章:勝利の噂と迷宮試験(7)

どうもお久しぶりです。
ここ最近はコミトレやらなんやらで絵ばっか描いてたのであんまり小説かけずに更新が遅くなりました
すいません(汗)

というわけでとりあえず迷宮試験編更新ですー

ほぼ説明回になってしまってる気がする上に会話文ばっか(汗)
後々修正するかもしれませんがよろしくですー


突然の開始宣言に一瞬全員が戸惑う。

え?もう行っていいの?

みたいな会話がところどころから聞こえた。

「随分と突然の開始宣言だね」

「あぁ、そうだな。だが、おそらくこれもヴェル姉さんの狙いだと思う。突然の出来事への対処法ってのを見るためなんじゃねぇかな」

「なるほど」

「俺たちももたもたせずに行こう。トレス、頼む」

「任せて、インビジブルサイド!」

トレスの放った魔法により、俺たち3人の姿は周りから見えなくなる。

幻術魔法の一つ、インビジブルサイド。

この魔法は発動した本人または指定した人物や物の姿を見えなくすることができる魔法だ。

あくまで幻術魔法の一つなので、見えなくするだけ。

魔法が使われているということはつまりそこに魔力反応はあるわけで、神族はおろか魔力感知にたけた魔族にも姿は見えずとも簡単に見つけられてしまう魔法ではある。

人族、ないし竜族に対しては一応有効な魔法ではあるが、幻術を解く魔法自体はそこまで難しくはないため、人族にも魔法の原理がわかっていればすぐに解かれてしまう。

だが、今は1階級がひしめき合うこの状況だ。

敵が1対1でないこの状況において、しかもほぼ全員が混乱している中ではこの魔法は非常に有効なのである。

姿は見えないが、何かが近くを通り過ぎた。

と感じるものは多いだろうがそれにすぐ対処できるものはまず少ないはず。

そう、この魔法は主にかく乱が目的の魔法だ。

ゆえに初手でこの魔法を使い一気に迷宮の入り口まで走り切って切り抜けるという手段は実に有効なのである。

俺たちはほかの生徒の間を素早く走り抜け、かなり早い段階で迷宮に入ることに成功するのだった。

ちょうど俺たちが迷宮に入った後くらいに、広場から魔法の爆発音なんかが聞こえてくる。

予想通り、状況を理解した生徒たちが乱戦を始めたようだ。

「あれに巻き込まれるとなかなか厄介だったね」

「あぁ、ここでひとまず俺たちは一歩リードだ。だが油断せずに追いつかれる前に先に進もう」

「ひとまずは予定通り、だね」

俺たちは当然、このことを予想して作戦を立てていた。

数日前の俺たちの特訓と話し合いで決めた作戦だ。

俺はその時のことを思い出していた。

 

---

 

「さすがは神族、それもその銀髪保有率だな」

俺は今しがた終わったトレスとリノの模擬戦を見て深々と呟いた。

今は放課後で、例の特訓を丘の上でしているところだ。

ちょうど俺が審判係でトレスとリノが模擬戦を終えたところだった。

「いやぁ、それでもやっぱりすごく戦いにくかったよ。リノさんのシャットアウト」

これはそれぞれの実力をそれぞれがちゃんと把握するために行った模擬戦だ。

誰がどんなことができるのか、どんな戦い方をするのかで得意なことも苦手なことも見えてくる。

パーティでの参戦なのだから苦手な部分があればフォローしなければならないし、してもらわなければならない。

長年付き合っていればそういうのは自然と身につくのだろうけれど、俺たちは何分トリニティに来てから知り合った中でまだお互いを知らなさすぎる。

もちろん、授業の戦闘訓練で何度か戦いを目にすることもあったが、授業は授業。

自分も当然訓練をしないといけないわけで、なかなかじっくりと確認することはできなかったのだ。

だが、改めて能力、実力の把握という面を踏まえてトレスとリノの戦闘を見たのはこれが初めてだった。

リノに関していえば最初の時点で戦闘は見てはいるが、シャットアウトの原理も何もかも謎だったし、その衝撃ですべて持っていかれたような感じだったので、あれはノーカンに変わりない。

「で、でも負けてしまいました……」

リノが少し残念そうな声で下を向いている。

そう、先ほどの模擬戦はトレスの勝利で終了したのだった。

「まあ、僕はリノさんがそういう固有の能力を持っていることを前提に動いていたしね」

「あぁ、さっきのはすごかったな。リノを止める方法として魔法の糸でがんじがらめにした後に身体強化の魔法をかけたうえで体に直接打撃を与える。糸そのものが見えないっていうのがリノの対処に有効なわけだ」

「もともと、僕の戦闘スタイルは細かい魔力操作を使った戦闘だからね。僕の得意な魔法がリノさんに有効だったっていう偶然に近い形なんだけど」

そう、トレスの戦闘スタイルは魔力の糸を生成してそれを操り、それを攻撃のかなめにするスタイルだ。

一本でもその糸が相手に巻き付いていればそれを伝って魔法を放つことも可能だし、何よりその魔力の糸は目視できないというのが厄介な点だ。

魔力を限りなく少なくしておけば、魔力感知に特化した神族でも判別が難しいという点も含めると、

かなり優秀な魔法技術の一つであると感じられる。

それは当然トレスだから可能な芸当だ。

見た目でわかる銀髪保有率、その才能は単純に魔力保有量に比例するといわれているが、正確には違う。

銀髪保有率は様々な魔力、魔法の運用能力に特化している場合でも保有率は左右する可能性があるということ。

同じ魔力量でも銀髪保有率に差が出る場合があるのはこのためである。

トレスの場合、魔力自体も並み以上のものを持っているのは間違いないが、総合的な魔力量はおそらくアミアさんにはかなわない。

ではなぜ、アミアさんと同レベルの銀髪を保有しているのか。

それは神族の中でも圧倒的に優れた魔力操作の能力によるものだ。

普通はあそこまで精工に細く正確な魔力の糸を生成し、それを何本も操るなんて芸当はできないし、考えられないほどの異常なのだ。

ゆえにこの戦闘スタイルはトレス唯一のものであり、トレスの能力を存分に発揮できるものだともいえる。

「ただまあ予想はしていたが、見事に全員前衛よりだな」

俺は思った通りの感想を口にする。

トレスの実力をはっきりと把握したうえで考えるとやはりそうなのだ。

トレスの実力は魔力の精密操作にある。

つまり、大規模な魔法はできなくはないが得意ではないという感じ。

変わって、リノだがこちらもほぼ前衛向きといっていい。

シャットアウトがあるため後衛として防御に徹すれば無敵ではあるが、それでもトレスが先ほどの戦闘で勝ったように割と穴がある。

せいぜい後衛補佐がメインになるだろう。

攻撃に関してもリノの儀式兵器は二丁拳銃。

魔法に比べると射程距離はどうしても短くなるし、瞬間的な火力は出そうにも出せない。

本来銃とは一撃必殺、一発でも当たれば致命傷になりえるからこそ優秀な武器なのであって、ことこういった集団戦闘にはあまり向いていない。

シャットアウトという固有能力があってやっとまともに機能する攻撃手段といっても過言ではないのだ。

そうして俺自身。

儀式兵器は刀で、もうその時点で前衛しか向いていない。

後衛で守りに徹する以前に自分を守るだけの防御力しか持たず、砲台としての活躍も人族ゆえに難しい。

というわけで、それぞれ実力はあるものの随分とバランスが悪いパーティになってしまっているようだ。

「まあ仕方ないといえば仕方ないと思うよ。そもそも人族は後衛にはどうしても向かないだろうし」

「そうなんだよな、3人中2人が人族な時点で無理があるか」

「あ、そうだ結局リノのシャットアウトについてまだ詳しく聞いていなかったな。聞かせてくれないか?」

「あ、は、はい」

「僕らの印象だと、魔力と気麟を消滅させる能力という印象なのだけど」

「それで、間違っていない、です。強いて、言うなら魔力とか、だけじゃなくて気配とかも消せます。あとはやったことないけど、もしかしたら、存在とかも」

「存在までって、おいおい。想像してたよりも異常な能力だな……」

俺とトレスはリノの発言を聞いてかなり驚く。

存在を消す、という定義がどういう風に解釈されてどういう影響が起こるのかはさておきそもそも気配そのものを消せるという時点で異常なのだ。

「い、異常……」

そんな俺の発言にリノは若干ショックを受けたようで少しうつむいてしまう。

「あぁ、悪い。別に悪い意味で言ったわけじゃないんだ。思ったより強力な能力だったから」

「そうだね、ほんとにそれが可能なら正直想像もつかないけどやりたい放題なんじゃないかい?」

「そうだな。あ、それとリノが戦闘中に表情というか雰囲気が変わるのはそれが原因なのか?」

「それは僕も気になってたかな」

「それ、は、戦闘中は自分自身にシャットアウトをかけて、感情を消してるん、です」

「感情を消す?」

「攻撃するときに、罪悪感とか、そういうの感じちゃって、普段のまま、だと、まともに戦えないから」

「自己暗示の類か、なるほど」

「まあでも確かに戦闘中は普段のリノさんからは想像つかないような動きをするからね」

そうやって会話を交わしながら俺は考える。

リノの能力が思った以上に幅広く使えること。

シャットアウト、つまり遮断。

その言葉の通り、様々な現象や物事を遮断できる能力のようだ。

だが、さっきの戦闘を見る限りでは……

「リノ、そのシャットアウトは物理にも反映されるのか?」

「??」

リノは俺の質問の意味が分かっていないようで首をかしげる。

「単純な話、運動エネルギーを遮断できるのかどうかという話だ。俺がリノを殴ったとして、その俺のこぶしをシャットアウトで受け止められるのかどうかってことだが」

「それは、できないです」

「物理法則そのものを無視できるわけではないんだな」

「うん、そうだね。もしそうだったとしたらさっきの僕の攻撃なんかやルルウ先輩と戦ってた時の攻撃も全部無力化で来ていただろうし」

「まあなんとなくは気づいていたんだが、一応確認しとこうと思ってな」

「そういう意味では、強い力かもしれないけれど常識の範囲は超えないのかもしれないね。気配も達人の域までいけば自分の意志で消せるらしいし、存在の遮断も行ってしまえば他人から認識されなくなるってことだろうから、幻術魔法の最上位互換ってところじゃないかな」

「そう考えると、多少はわかりやすくなったという感じだが、まあひとまずはそれでいいだろう。とりあえず現状を踏まえて作戦を立てよう」

「う、うん」

「そうだね」

ある程度情報が出そろったところで次は俺たちの戦略を考えなくてはならない。

俺は少し考えて、二人に提案する。

「俺の結論としては、ある役割分担だけして全員前衛ってことでいいんじゃないかと思うんだが」

「わ、私はあんまりそういうの詳しくないから、ごめんなさい。何とも、言えない」

「まあ、それぞれの良さを殺してまで役割分担してもという気はするね。僕も別に代替案があるわけじゃないから異存はないよ」

「ならそれで行こう。戦闘時のフォーメーションは後である程度考えるとして、ダンジョンを進むにあたっての役割分担は俺がトラップ解除、リノが先行して偵察、トレスが後方注意。基本はこんな感じか」

「この中でトラップ解除ができるのが青葉だけだしね」

「リノはどうだ?シャットアウトを一番生かすにはこれしかないと思っていたが」

「あんまり、自信はないけど、あの、がんばります」

「よし、それじゃとりあえずダンジョンの攻略ルートをまず決めるか」

そういって、俺は持ってきていたカバンから地図を広げた。

迷宮試験には事前にダンジョン内の地図が渡される。

それを見ながらチェックポイントをいくつ経由してゴールするかなど、ある程度の目標を決めてそれに合わせてルートを決め、ダンジョンを攻略していくのだ。

「この辺に関しては、巫女先輩たちに少し話を聞いてきたんだが、どうやら最短ルートは避けたほうがいいらしい」

「なぜだい?チェックポイントがあるとは言っても、ゴールした順位がかなりの影響で評価の対象になってくると思うんだけど」

「いやそれが単純な話、最短ルートには当然そういう考えのやつらが集まるから、最短のルートを通ったとしても別グループと戦闘が度重なって結局他よりも遅くなることのほうが多いらしい。当然モンスターも出るし、トラップの対処なんかも含めたら当然戦闘のやつは一番苦難が多いしその分後ろからは追いつかれやすい。まあよくよく考えればわかることではあるんだけどな」

「なるほどね、言われれば確かにそうかもしれない」

「そこで、俺たちなんだが一番遠回りなルートで行こうと思う」

「遠回り?さすがにそれはやりすぎなんじゃないかな」

「あぁ、いや、違うな。正確に言うと一番遠回りに見える道で行こうと思う」

「遠回りに見える?というとこの道かい?」

トレスが地図を指さしながらいう。

「あぁ、その道は実際距離はあるんだが、遠く見せてるだけで実際に図ると見た目ほど差があるわけじゃないんだよ」

「そうなのかい?」

「まあこれも巫女先輩に教わった攻略法なんだが、渡される地図はこうやってトリックアート的なことが意図的に仕組まれてるらしい。全部図ってみたら、一番遠そうに見えるこの道は実際にはそこまで距離はなかったしな。まあ最短距離がここなのはわからないが、実際に一番距離がかかるのはこの道だ」

俺も地図を指さして説明する。

「ここは、見た目だけなら3番目か4番目に早そうに見える道だね。なるほど、安定を取ろうとすると余計に時間がかかるわけだ」

「というわけで俺たちはこの道を進もうと思うんだが。あ、それと巫女先輩から一つ言われてたんだが、迷宮に入る前にもしかするとひと騒動あるかもしれない」

「というと?」

「今回の迷宮試験は1階級全員が闘技場に集まってスタートするらしいんだが、当然順番に入っていくなんて言うことはなくて、突然開始宣言された後のそれぞれで迷宮に入るらしい。つまりはそのスタートの時点で戦闘がおこる可能性がある」

「なるほど、ダンジョン攻略以前の問題なわけだね。ということはそういうのは迷宮試験で毎回起こる出来事ってことなのかな?」

「ふつうは、スタート地点が分かれてたりするらしいからそこまで大規模な戦闘にはならないみたいだけど、今回は全員がスタート位置一緒だしな。巻き込まれたらどうしようもない」

「あ、あのシャットアウトで駆け抜ければ何とかなる、と思う」

「シャットアウトって他人にも使えるのか?」

「3人くらいまでなら、何とか、なる、と思う。そんなに持たない、かもしれないけど」

「気配遮断に使ったとして、流れ弾に当たってたら意味がないしそれはちょっと難しいんじゃないかな」

「そうだな。まあでもリノのいうことは正しい。まともにやりあうよりもどうやってその場から抜け出すかを考えるのが賢いだろうし。トレスの使える魔法で何かないか?」

「うーん、そうだね。あ、インビジブルサイドっていう魔法は使えるよ。本人の姿だけを隠す幻術魔法なんだけど」

「乱戦の場合はありだな。それ3人同時に魔法かけれるか?」

「それこそ僕の得意分野だからね、魔力操作は問題ないよ。魔力消費の大きい魔法じゃないし」

「よし、ならそれで行こう。ひとまず、それで迷宮まで入るとしてそこからはルート通りに、だな」

さて、と俺は立ち上がりながら地図をたたんだ。

「ルートに関しては明日にでも先輩に意見をもらいながら詰めてみよう。とりあえず今日はこんなところでお開きにしとくか」

そう、そろそろ日も傾いてきて特訓を始めてからかなり時間がたっていた。

「そうだね」

「さって、迷宮試験まで頑張るか!」

「う、うん」

「あぁ!」

そういって俺たちは迷宮試験対策の特訓を終えるのだった。

 

---

 




迷宮試験、ダンジョンに入るまでに何文字使ってるんだ(汗)←www

というわけで、

まさかのここでトレスの戦闘能力説明回←

いやもっと適当に流したかったのですが、

書いてたらもうなんかどうしようもなく長くなっちゃいましたね、、、

地味ーにリノちゃんの能力説明もあるのですが、
まあたぶんこれ以上リノについては説明はないと思います。
わかりにくかったらすいません(汗)

次回で迷宮試験は終了の予定です!
予定です!!←ww

正直まだまだ話あるのでさっさとこの辺は書き上げてしまいたい(汗)

早く第三章に入れるように頑張ります;w

あ、
感想もできたらお願いします←
感想書いてくれればその分だけ作者にやる気がたまっていって投稿スピードが上がるかもしれません←

というわけで次回もできればよろしくですノシ


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