【遊戯王古代編】いつか、友としてディアハを (生徒会副長)
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【遊戯王古代編】いつか、友としてディアハを
この約五十日の間に、あまりに多くの出来事があった。
盗賊王の王宮襲撃。神官二人の戦死。
異国から逃げてきた彼女と通わせた想い。
我が父にして師の闇との契約。
権力抗争の中で命を落とした愛する女性。
闇の大神官の最期。
そしてまた……。私の心労となる出来事が起こる。
――ファラオの様子がおかしい。
――――――
「償いの瞬間だぜ……。マインドクラッシュッ」
「うわああああ――――!」
また、か。……これで何人目だ?
闇の大神官との戦いが、千年錘へのアクナディン封印という形で完結した後、復旧作業もそこそこに王宮裁判は再開された。
――いや、もはやこれは王宮裁判と呼べるものではないのかもしれない。
千年輪・千年眼・千年秤の後継者は決まっていない。マハードの弟子の少女が立候補はしたが、千年宝物の邪念を抑え込むにはあまりに未熟だった。
千年輪がなければ心に邪念や魔物を持つ者を前もって探知することはできない。
ファラオが下した決断は「疑わしきは捕らえよ」というものだった。
本来なら、捕らえられた罪人は千年錠によって心に住まう魔物の存在が明かされるか、心の歪みを千年錠の力で正される。
そこから、千年眼による魔物の解放。千年錫杖による魔物の封印ないし決闘。千年秤による罪と罰の測量。千年タウクによる未来予知。――このように王宮裁判は進むはずなのだ。
しかし最近のファラオはそれらの過程を無視して、いきなり千年宝物で最大の力を持つ、
千年錘による心の崩壊――結束の力と対を為す『マインドクラッシュ』の刑に処することが多くなっていた。いま囚人棟には、『マインドクラッシュ』を受け、心の欠片の再構成――端から見れば廃人にしか見えない――をしている罪人が19人収容されている。奴は20人目となるだろう。
市井では、アテム陛下を『魔王』と呼ぶ不届き者も出ているという。
さすがに諫言申し上げなければ……。
裁判が終わった後、私は陛下の自室に赴いた。
「ファラオよ。ここ最近の王宮裁判は、目に余る様です。我ら千年宝物を司る者は、罪人であろうとも慈悲を以て事に当たるが務めのはず。どうか今後の王宮裁判は、御慈悲を以て世に聖徳をお示し下さい。」
平伏して諫言申し上げる私に対して、ファラオの態度は冷たかった。
「目に余るも何も、別に血が流れた訳じゃないだろう? それに、いちいち魔物を始末するより心を一から作り直したほうが確実でいいんじゃないか? 闇の大神官との戦いで、お前ら神官が疲れているだろうと気を遣って、千年錘を有効活用してるんだぜ?」
「ファラオの慈悲を必要とするのは、我ら神官ではなく民草と罪人達です。お考え直し下さい……」
しかし、こんな言葉はファラオのお心にいささかも響かなかったようで、陛下は溜め息を吐いた後、こう尋ねてこられた。
「そういえば、お前と似たようなこと言ってた神官がいたような……。誰だっけ? アク……なんとかみたいな……」
お互い忘れているはずがない。この短期間で。
我が師にして父、闇の大神官、アクナディンのことだ。
私を脅しておられるのか。
「でもアクなんとかより、お前は優秀で従順で忠義に厚いもんな! そんなかわいい臣下の頼みだ。聞き届けてやるよ。16人目を出すのはなるべく遅くするようにしよう」
16人目などという数字はどこからきたのか。『マインドクラッシュ』は今日が20人目なのですよ。5人はもはや記憶から消えたのか。
だが私はそれ以上、何か言う気にはなれなかった……。
――――――
「キサラ……」
独りきり、石版の神殿で、私は白き龍の石版を見上げながら、その龍の真名にして愛した彼女の名を静かに呼ぶ。
「お前は……何のために死んだんだ?」
だが、その声に答える者はない。
キサラを直接手にかけたのは我が父だ。私を次代の王にするために。ファラオを打ち倒す兵器を得るために。
親子の情と心の揺さぶりにつけ込まれ、私は一度洗脳される形でアクナディンの軍に付いたが、キサラの光で洗脳が解けた後はファラオの軍に付いた。
私が王になるのではなく、私が王を支えるために。
愛する彼女の遺言を信じて。愛する彼女を殺された怨みを晴らすために。
しかし、最近のファラオの御様子を見ていると、迷いが生じてきた。
――これで本当に正しかったのか?
あのお方は、私が支えるに、忠誠を誓うに値するお方か? 私は単に、「王を支える」という生き方に縛られていただけではないか? 兵法としてどちらかの軍勢に味方するしかなく消去法でアテム陛下を選んでしまっただけではないか?
――『闇に囚われてはなりません……。』
私の洗脳を解いたあのキサラの遺言は、闇の大神官に味方するなという意味ではなく、
憎しみに囚われず、父と共に国を治めよ、という意味だったのか? 私は刹那の憎しみに身を委ねて、愛する師にして父を、殺してしまったのではないか?
結果としてキサラはアクナディンに殺されたが、必要に迫られたならアテム陛下も、キサラに仇なす者となり得たのではないか?
事実――アテム陛下は私が軍勢に加わった時、手を叩いて喜んでいた。この力は恋人のかけがえのない命を代償に、望まずして得た力だというのに。
いくら自問自答を繰り返しても、答えは出なかった。
――あの日、魔王アテム陛下からあの命令を受けるまでは。
「なあ、セト。俺の権威を世に示すには、更なる国力増強が必要だ。そこで頼みがあるんだが、白き龍の所有権を俺に譲ってくれないか? てか闇の大神官の息子のお前には過ぎた玩具だって自分でわからないか? 危なっかしいんだよ。
……なんだよ、その不服そうな顔は。
ああ、なるほど。タダじゃ無理か? 仕方ねぇな。三幻神やエクゾディアは渡せねえし……。マハードと交換ならいいだろ? なあ、セト!」
――人の命を……!
――何だと思っている!!
その日から私は……。魔王を討つ計画を進めた……。
――――――
――我がセト軍とアテム軍は、闇の大神官との戦いの傷跡が大地から癒えるのを待たずに、戦争に突入した。
アテムは司法以外に、行政や軍事に置いても圧政を布いていたため、我が軍は民衆、もとい兵からの信頼が厚く、戦局は有利に進んだ。
とはいっても、戦況は苛烈を極めた。
どれほどかと言えば……。神官シャダと神官アイシス、宰相シモンが命を落とし、マハードの弟子・マナが師と同じ道を辿るほどだった……。
――そして今。私はファラオと真正面から対峙している。
「フン……。無残にも王宮は崩れ堕ち、貴様も今や裸の王同然……」
もはやこの戦争の決着はついた。だが、ファラオが従える三幻神やマハードは私でなければ倒せない。そしてファラオに降伏の意志はない。だから私はここにいる。
「セトよ。お前が俺に刃向かうのは、やはり闇の大神官たる父の後を継ぐため。そして父の仇を討つため。それで違いあるまいな?」
「勘違いするな。俺は闇に服従するつもりなどない。だが貴様に手を貸すつもりもない。」
師父も君主も恋人も、もはや私にとって過去の遺物。取り戻すことなど叶いはしない。
「それでも――」
――そうはわかっていても。
今でも思い出す。貴方と真正面からディアハをした懐かしい日を。
力で押す私の魔物を、貴方が罠と特殊能力でうまく捌いた日。
別の日、団体訓練では、貴方の指揮を受けたシャダやマハードはいつも以上の強さを見せたものです。
盗賊王の対策として行ったディアハでは、剛力の脆さ、結束の力の価値を思い知らされました。
――間違いなく、私は貴方とのディアハで友情を感じていたのです。
「――私は、こんな形で、貴方とディアハをしたくはなかった!!」
「――だったらそちらが降伏するか?逆臣」
私の最後の叫びも、ファラオのお心に届きはしなかった。
「貴様なりの大義名分を以て挙兵したならば、その志を貫いてみせよ。そこに情が入る余地などない」
無情の宣告とともに、魔王は人差し指を掻いて私を挑発する。
「来いよセト! 友情なんか捨ててかかってこい!」
――いいだろう。だが、私は友情を捨てるのではない。
この最後のディアハに、貴方との友情の全てを込めよう。貴様への憎悪の全てを込めよう。
「我が名はセト! 全力で参る!」
「我が名はアテム! 受けて立つ!」
「「ディアハ!!」」
「神をも超える我が下僕! 白き龍を召喚!」
「石版に宿りし、漆黒の魔術師を召喚!」
私が召喚するのは、キサラの成れの果てたる『白き龍』だ。純白の肌、強い意志を感じさせる青い瞳にその面影を残す。
対するファラオの下僕は、神官マハードが精霊と化した姿、『漆黒の魔術師』である。顔立ちと体格は生前と変わらない。かつてマハードに宿っていた精霊と同じ黒装束に身を包んでいる。
――おかしい。
「なぜ三幻神を出さない!?」
白き龍の力は三幻神に匹敵すると、私は考えている。そしてマハードは三幻神には敵わないはず。
「貴様が本当に友情とやらを捨てたのか……こいつで試してやるよ」
まだファラオは本気になっていないということか。
いいだろう。貴方の、貴様の本気を出させる為なら、かつての同僚とて容赦はしない。
「天を震わす我が聖なる下僕の力、思い知るがいい! 貴様の下僕ごと、跡形もなく消し去ってやる!! いくぞ!!」
白き龍は空へ舞い上がり、魔術師は身構える。
私たちの、最後のディアハが始まった――。
――――――
長い長いディアハに、とうとう決着がついた。だが――。
「な、ぜ……だ……」
私は、納得がいかない。こんな不条理を、許してたまるか……!
「何故手を抜いた! ――マハード!!」
私が勝ち、魂(バー)を使い果たしたファラオは、まだ息こそあるが、既に膝を着いていた。
勝因は、どう考えてもマハードだ。
奴は攻撃の無駄撃ちや無駄な防御ばかりを行い、こちらを倒す意志がまるで感じられなかった。さらに、業を煮やしたアテムの撤退命令すら無視して戦い続けた。
これなら『勝つな』というほうが無理な話。こんなディアハでは、私の心に宿る友情も憎悪も、満足できるはずがない!
「貴様ぁぁああ!! どういうつもりだ!マハード!」
『……説明が遅れて済まない、セト』
――!
この脳裏に響く声は、間違いなくマハード! いまの私が憎むべきは、この声の主!
近づいてくる漆黒の魔術師に、私は罵声を浴びせた。
「説明も何もない! 殺すだけでは済まさん! 貴様は我が下僕にした上で、人の身では味わえぬ苦痛を与えてやる!」
『すぐにわかるから落ち着いてくれ! ファラオを見ろ!』
まだ言いたいことは山ほどあったが、それでもアテムに目を向ける。
アテムは……光のない瞳でこちらを凝視していた。
「よくやった……セト」
アテムが口を開く。その声はひどく低く、掠れたものだった。
まるで……何かに取り憑かれているような――。
――――まさか。
「ファラオがバーを使い果たしたことで――。やっと表に出られた――。マハードめが何か企んでいるようだが――。そんなものは関係ない――。」
――いま、アテムに代わって話をしているのは……!
「さあ――。この父をもろともに――。憎きアクナムカノンの息子の肉体を殺し――。王となるのだ――。セトよ――!」
我が父にして、我が師にして、闇の大神官、アクナディン!!
『ファラオは千年錘から漏れ出た、アクナディンの邪念に侵されていたのだ』
マハードとアクナディンが真実を話し始めた。
「そのまま無理に、身体を乗っ取ろうとすれば――。ファラオやお前たちにバレるのは、目に見えていたからな――。」
『そして私が気づいた時にはもはや手遅れ……。乗っ取られたのではなく、ファラオの人格そのものが歪められたというのも実に厄介なことだ』
「もう諦めろ、マハード――。この国を治められるのは――。邪念に染まったファラオではなく――。我が息子、セトよ――。」
『断る! 私はファラオとセト、そして結束の力を信じる!』
マハードは私のほうへ向き直り、提案した。
『セト。私ひとりの力ではどうにもならなかったが、今なら貴公がいる。我々の秘術と魔力を結束させ、アクナディンを倒そう!』
……。
マハードよ。私に真実を伝えてくれたことには礼を言う。
だが、私はお前のそういう、非現実的なまでに真面目で、義理深いところが嫌いだ。
王宮を丸裸にするまで進撃した我が軍はどう始末をつければいい?
アクナディンを殺した後に残る、邪念に染まりきったファラオは、元に戻るまでの間どうするつもりだ?
そもそも元に戻るのか? あの慈悲深い我が師にして父があんな姿になるほど、邪念というものは強大なのだぞ?
お前らは私に――。
二度も父親殺しをさせるつもりか――?
「王になるのだ、セト!」
『ファラオをお救いしよう、セト!』
答えの出ない自問自答に、2人の声がうるさく割り込む。
自らの他に答えを持ちうる者がいるとするなら……。
「キサラ……。俺はどうすればいい……?」
白き龍に私は問う。すると白き龍は私に目を向けた後、その身を霧散させてしまった……。
どちらとも戦うな、ということか――。確かに理想ではあるが……。ファラオを殺さず、父上も殺さない……そんな選択肢など、あるはずが……。
――。
――――。
――――――いや、ある。
だが、それは違う意味では、2人とも殺すことになるとも言える……。それにこの方法は、この国や未来の時代に、災いをもたらすやもしれん……。
しかし……。
「闇に染まったファラオに――。国を治められるはずがない……!」
思考の渦に沈んでいた聴覚が、都合のいい言葉だけを拾った。
――そうだ。どうせ、千年アイテムの所有者を失い、2度の内戦に見まわれたこの国は、
近い将来に滅びる。大国の運命は変えられない。
だが――3人だけ。3人だけの運命なら、遥かな時の流れの中で変えられるかもしれない。
私は覚悟を決めた。
「マハードよ……。少しの間でいい……」
『! 時間稼ぎか?』
「寝てろ」
千年錫杖の一振りに魔力を込め、マハードを無理やり石版に押し込める。奴の力量から考えれば、5分ほどで脱出してしまうだろう。
――それでいい。5分もあれば、引き返せないところまでは行ける。
アクナディンは勘違いしているようで、アテムの顔で喜色を浮かべている。
「そうだ、それで良いのだ。セト。さあ、あとは憎きアクナムカノンの息子を殺すだけ――。そして、王になるのだ――。」
……この様子なら逃げられる心配はなさそうだ。なるべく自然に、アテムの身体に歩み寄る。ただし、今から己がしようとしていることを考えると、喜びの意を示すなどという
器用な演技はできないが。
千年錫杖を"静かに"アテムの身体に当てる。
「……?」
『殺さないのか……?』とでも言いたげに私の意を解せない父が呆けている隙に、私は詠唱した。
私と、ファラオと父。その別れとなる呪文を――。
「千年錫杖よッ!
アクナディンとアテムの魂を――!
千年錘に封印せよ!!」
「!? まっ、まて! セ――――」
次の瞬間、千年錫杖と千年錘から凄まじい光が迸った――。
――――。
――マハードがまだ石版にいるということは、やはり5分とかからなかったようだ。
ファラオの肉体からは全ての魂が抜けている。アテムとアクナディンの魂は、千年錘に閉じ込められた。
だが……まだ足りない。こんな封印は1日も持たない。故に私は、この封印を、千年の時代にすら通用するものに変える、最後の切り札を使う――!
「千年錘よ――。
その内に封印された
魂と記憶と邪念をもろともに――。
その身を砕き! 千年パズルに姿を変えよ!!」
私の魔力を乗せ、千年錫杖で千年錘を打ち据える。
千年錘にヒビが入る。そして、ファラオと父の魂を内包したまま――。
王国の秘宝、千年錘は砕け散った――。
――――――
「くぅっ……!なぜっ……なぜ!!」
なぜ、こんなことになってしまったのか。
これが、考えうる最善の選択肢だったからだ。
君主と師父。二人の魂はこうすることで、千年パズルの中で生き続ける。そして千年パズルが千年錘として完成した時、二人はこの世に復活する。
邪念が砕け散り、元々の、カリスマと人望を併せ持つファラオの姿で。厳格かつ慈悲深い師父の姿で――。
ただし、完璧な選択肢ではない。千年パズルが完成する為にかかる時間、二人の邪念が浄化されるのにかかる時間は、果てしないほど長いだろう。
百年……千年……いや、もっとか……。
その時まで私が生きているはずなどない。輪廻転生に賭けるしかないが……どうせ来世の私は二人のことを覚えてなどいないだろう。
私は、千年を超えた未来での奇跡の為に、現世で、君主と師父を殺したのだ。
「うっ……うぅっ……」
無念と後悔で頬を濡らしながら――。
パズルの破片をその手に握りながら――。
魂なき器を腕に抱きながら――。
――私は、凱旋した。
――――――
私は第18王朝ファラオ・アテムの葬儀を、葬祭殿まで建てて盛大に行った。
反対する者は多かった。闇の大神官の降臨を許した暗君にして、圧政を敷いた魔王、アテム。そんなファラオの為に盛大な葬儀をする必要はないと。
だが、私は葬儀の中で、来世への、死者への祈りを捧げずにはいられなかった。
それは、私自ら指示して造らせた壁画に描かれている。
ディアハに臨む二人の若者の姿――。精霊として石版に封じられ、輪廻の輪から外れてしまった恋人と同僚もそこにはいる。そこには権力も憎悪もありはしない。友情と未来を胸に、正々堂々と闘うのだ。
いつの日か……千年パズルが完成し、私がまたこの世に新たな生を受けた時――。この壁画に描かれた光景を、必ずや現実のものとしよう。
――いつか、友としてディアハを――
そんな祈りを、私はこの壁画に込めた。
遺体と千年パズルは、宰相シモンが密かに建造していた墓に納めた。もちろん、私が王墓にさらなる改造を施したのは言うまでもない。私が輪廻転生を果たす日までに、千年パズルが完成するようなことはあってはならないからな。
特に出来がいいのは「石版の回廊」だ。魔物の石版が埋め込まれた床の上を歩かなければ千年パズルに辿り着けないというものなのだが、この魔物が優秀で、千年アイテムに”縁のある者”以外はことごとく喰らってしまう。
つまり、他の千年アイテムを既に持っているか、私を含む千年アイテム所有者が転生した者でなければ、千年パズルには辿り着けないということだ。
だが、まだ終わらない。私の計画はこれでは終われない。
王位継承式典――国民が一同に会する時、私は千年錫杖を振りかざし、全ての民の記憶を弄った――。
「我こそ、先王アクナムカノンの後を継ぎし真の王、第19代ファラオ・セトである!
第18代ファラオは! アテムなどという王は! この地上に存在しなかったのだ!!」
――千年パズルが完成しファラオが復活した時、記憶を取り戻したファラオが、自分が圧政を敷いた魔王だったと知れば、きっと悲しまれる。
それに7つの千年アイテムと、冥界へ行くべき者の名があれば、冥界の扉を開き、アクナディンよりも強力な闇の契約を交わすことができる。
だから私は、歴史上からファラオの存在を抹消した。その真名を示す書物も石版も、この世には存在しない。
辻褄合わせとして、盗賊王・闇の大神官・魔王の罪を、存在するかどうかもわからない大邪神――ゾーク・ネクロファデスに被せた。
しかし、ファラオの魂が冥界へ還るための手かがりは残しておく。
墓守の一族に、王の記憶の秘密と千年アイテムを託した。そして、ファラオは三幻神を束ねし、伝説のファラオだったという事実も……。
――その後。
王国は他国によって征服された。
千年アイテムを失った王国には、もはや力は残されていなかったのだ。
国と運命を共にした私は――。
来世に思いを馳せていた――。
――屍は横たわる
――器は砂となり塵となり
――黄金さえも剣さえも
――時の鞘に身を包む
――骸に王の名は無し
――時は魂の戦場
――我は叫ぶ
――闘いの詩を
――友の詩を
――遥か魂の交差する場所に
――我を導け
『いつか、友としてディアハを』
漫画版やアニメ版と比較して、このSSにおいて辻褄があっているポイント
1、セトとキサラが愛情を育む時間はあったか?
→盗賊王の討死からアクナディンの闇堕ちまでの期間に可能である。
2、漫画版・アニメ版では、ホルアクティが大邪神を倒したけど、史実では千年錘を千年パズルに分解するだけで封印できたとかおかしくね? しかも結局千年パズルにはアテムとアクナディンしか入ってなかったと思うんだけど。
→このSSでの解釈における史実では、大邪神は現世に現れていない。漫画版・アニメ版に現れた大邪神の正体は、このSSのラストでセトが国民の記憶を弄ったときに生まれた、負の感情が具現化したもの。
3、なんで王の名前が消されているの? そしてそれが大邪神とどう関係あるの?
→このSSの、セトの最後のセリフの後ぐらいを参照。
4、セトとアテムの間に友情が生まれるとか無理じゃね?
→このSSで解決したかった一番の矛盾点。
皆さんの解釈もお待ちしています!
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