もっともな戦隊はごもっともな変態!? (阿弥陀乃トンマージ)
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第1章
オープニング


                 オープニング

 

「ぐわあああっ!」

 

 全身黒のタイツを着た兵士たちが軒並み倒される。

 

「どうだ! 参ったか! 悪の組織め!」

 

 強化マスクで顔を覆い、特殊なスーツに身を包んだ五人の戦士――レッド、ブルー、イエロー、グリーン、ピンクの五色に分かれている――が得意気に勝ち誇る。

 

「くっ……」

 

「お前たちの悪の組織の野望は俺たち、『最上戦隊ベストセイバーズ』が打ち砕く! この世界をお前たちの好きにはさせないぞ! 平和は俺たちが必ず守ってみせる!」

 

「ちっ、て、撤退だ!」

 

 隊長格の兵士の号令の下、黒タイツの集団がその場から撤退していく。

 

「ふん、またベストセイバーズの連中が邪魔をしてきおったか、まったく忌々しい……」

 

 悪の組織のとある基地内の一室に、年老いた男の声が響く。どうやらその場所にはおらず、別の場所から、声だけで通信を行っている模様である。

 

「は、はい……」

 

「しかし、貴様らも不甲斐ないのではないか? 毎度毎度やられっぱなしではないか!」

 

「も、申し訳ございません……首領」

 

 幹部クラスと思われる者が慌てて頭を下げる。首領と呼ばれた男が呆れ気味に呟く。

 

「そういう謝罪もすっかり聞き飽きたわ……」

 

「や、奴らはなかなかに強力で……自らを『最上』と称するのも頷けると言いますか……」

 

「そういう弁明ももはや聞き飽きた! というか、納得してしまってどうする‼」

 

「は、はい!」

 

 幹部クラスの者が背筋をビシっと正す。やや間を置いてから首領が口を開く。

 

「……何も正攻法で挑む必要もあるまい。搦め手を使うのだ……例えば潜入などだな」

 

「せ、潜入ですか……?」

 

「そうだ、奴らの懐に入り込み、徹底的に調査をするのだ。そうすれば、やれ最上だ、やれベストだと言っても、弱点のひとつやふたつ、必ずや見つかることだろう……」

 

「……そうであれば、首領、私にお任せください……」

 

 黒いレオタードと網タイツに身を包み、黒いマスクで顔の半分を覆った女性が、黒い髪をなびかせながら前に進み出て発言する。首領がそれに反応する。

 

「ほう、ミスコン……貴様に出来るのか?」

 

「……ミスコンプリートです……それはともかく、奴らの正体に関しては大体の目星は既に付けております。私ならばベストセイバーズを『完全に』丸裸にすることが出来ます」

 

「さすがだな……それでは、早速潜入調査を命じる!」

 

「はっ、吉報をお待ちください……!」

 

 ミスコンプリートは身を翻し、黒いハイヒールをカツカツと鳴らしながら、部屋を出る。



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第1話(1)通学

                  1

 

「……いきなりしくじった!」

 

 おろしたての制服――上半身はブレザー、下半身はスカート――に身を包んだ、若い女性がこれもまた新品のローファーを履いて、歩道を慌てて走る。

 

「まさか目覚ましのアラームをセットし忘れるなんて!」

 

 綺麗な黒髪をなびかせながら、女性が顔をしかめる。それによって少々歪んでしまっても、なおも綺麗な顔立ちをしている。すれ違う人が思わず振り返るほどの美貌だ。ただ、この場合は違う意味で振り返っているのだが。女性は声を上げる。

 

「このミスコンプリート! 完全なるミス!」

 

 そう、この女性の正体は悪の組織に所属する女幹部、『ミスコンプリート』である。若手のホープとして順調に出世し、まだ末席ではあるものの、組織の幹部にその名を連ねている。運動能力は一般人に比べると高いため、同世代の女性と比べてもかなりの俊足だ。すれ違う人々が振り返ったのはその為である。

 

 ちなみにミスコンプリートというのは、コードネームのようなものだ。彼女の『完全な、完璧な』仕事ぶりから付いた名前である。彼女自身もこの名を気に入っていた。ただ、その名に似合わぬ、初歩的なミスを犯してしまっているのだが……。

 

「……はっ! いやいや、私としたことが……」

 

 ミスコンプリートは走りながら首を左右に振る。

 

「今の私は一般人だ。一般社会に自然に溶け込むように振る舞わなければ……」

 

 ミスコンプリートはそう呟いてから考える。

 

「……はて? どう振る舞えばいいのかしら?」

 

 ミスコンプリートは首を傾げる。

 

「う~ん……」

 

 ミスコンプリートは考えを巡らせる。

 

「……そうだ! あれだわ!」

 

 ミスコンプリートは何かを思い出す。

 

「これを口にくわえて……」

 

 ミスコンプリートは肩にかけていたカバンからトーストを取り出し、口にくわえる。

 

「さらに……ああ、思い出した!」

 

 ミスコンプリートは続けて思い出す。

 

「いっけな~い、遅刻、遅刻~!」

 

 ミスコンプリートは、令和の時代とは思えない口調のセリフを口に出してしまう。

 

「ふっ、これで完璧ね、完全に周りに溶け込んでいるわ。さすが私……」

 

 自画自賛をするミスコンプリート。完全に浮いてしまっているのだが。

 

「……はっ⁉」

 

 勢いをつけ過ぎたミスコンプリートが、曲がり角で人とぶつかってしまう。

 

「うおっ!」

 

「きゃあっ⁉」

 

 ミスコンプリートは派手に尻もちをついてしまう。ぶつかった相手も体勢を崩して、ミスコンプリートと同じ様に尻もちをつく。

 

「……」

 

「ちょ、ちょっと、あなた!」

 

「お、俺が吹き飛ばされただと……?」

 

 尻もちをついた人物が信じられないといった様子で呟く。その人物は男性だ。まだ少年と言っても良いかもしれない。さほど大柄ではないが、体つき自体はほどよく引き締まっている。その少年は少しボサっとした真っ赤な髪と意思の強そうな眼が印象的であった。

 

「あ、あなた! 聞いているの⁉」

 

「……え?」

 

 少年は体勢を立て直しながら、ミスコンプリートの方に視線を向ける。

 

「え?じゃないわよ! どこを見て歩いているのよ⁉」

 

「……それはお互いさまだろうが」

 

「はあっ⁉ まさか、この完璧な私のせいだと言うの⁉」

 

「なにが完璧だよ……むっ⁉」

 

「え? ……はっ⁉」

 

 少年の視線の先をたどったミスコンプリートは自分のスカートの中身がすっかりあらわになってしまっていることに気が付き、慌ててそれを隠す。少年が呟く。

 

「く、黒……」

 

「~~! どこを見ているのよ! エッチ!」

 

「どわっ⁉」

 

 体勢を立て直したミスコンプリートが鋭く強烈なビンタを少年の左頬にお見舞いする。

 

「まったく! 警察にでも突き出してやりたいところだけれど、わたし、今急いでいるから! 運が良かったわね!」

 

 スタっと立ち上がったミスコンプリートがその場をさっさと後にする。

 

「ぶ、ぶたれた……?」

 

 少年は左頬を抑えながら呆然と呟く。それから少し時間が経って……。

 

「……はい、皆さん、お静かに……少し時期が外れましたが、今日からこのクラスに転入生が一人加わります。皆さん、どうぞ仲良くしてあげてください。それでは自己紹介を……」

 

 促されたミスコンプリートが前に進み出て、口を開く。

 

「皆さん、初めまして。亜久野あくの美み蘭らんと申します。よろしくお願いします……」

 

 亜久野美蘭と名乗った、ミスコンプリートが丁寧に頭を下げる。そう、彼女は今日から悪の組織の女幹部から女子高生になるのである。



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第1話(2)最上学院

「亜久野さん、どこの学校から来たの?」

 

「え? あ、ああ……ランヴィ学園からです……」

 

「? 聞いたことないな~どこにあるの?」

 

「か、海外ですね」

 

「海外⁉ それじゃあ、英語喋れるの?」

 

「ま、まあ、多少ではありますが……」

 

「すご~い!」

 

 ホームルームが終わり、ミスコンプリートこと美蘭がクラスメイトたちから質問攻めに合う。美蘭は多少面食らってしまう。

 

「どうしてまた、こんな時期に転校なの?」

 

「ち、父親の仕事の都合です……」

 

「お父さんは何のお仕事をされているの?」

 

「え? そ、そうですね……ちょっとばかり首領を……」

 

「しゅ、狩猟?」

 

「え、ええ……」

 

「え? この辺でハンティングとか出来るの?」

 

「い、いや、それが案外あるのですよ」

 

「そうなんだ~」

 

「穴場スポットなのです……」

 

「へえ~」

 

「知らなかったな~」

 

(よし、上手く誤魔化せている……! 完璧だ!)

 

 美蘭は皆から見えないように拳を強く握る。もちろん誤魔化せてはいない。周囲が勝手に勘違いしてくれているだけである。

 

「なんでまたこの学校に?」

 

「え? や、やはり、この東京で一番とも言える学校ですから……」

 

「そうかな~」

 

「そうですよ、千代田区、中央区、港区のいわゆる『都心3区』に跨るように置かれた広大な学校、『最上学院』! ここに通うことが出来るというのは、それだけでもはやひとつのステータスですから!」

 

 美蘭が熱弁を振るう。

 

「そ、そうなんだ……」

 

「ステータスって、自分たちではあまり実感が湧かないよね~」

 

「そうだよね~」

 

「ほとんどみんな、子どものころから通っているからね~」

 

 クラスメイトたちが互いの顔を見合わせて頷き合う。

 

「子どものころから……うん?」

 

 教室内にチャイムが鳴る。クラスメイトたちが首を傾げる。

 

「校内放送?」

 

「珍しいね、なんだろう?」

 

 クラスメイトたちと美蘭は、スピーカーに耳を傾ける。

 

「ああー……2年V組の亜久野美蘭、直ちに生徒会室まで来い……以上」

 

「!」

 

 放送はそれだけで終わる。

 

「あ、亜久野さん!」

 

「な、なんですか?」

 

「生徒会から呼び出しなんて……一体全体、なにをしたの?」

 

「さ、さあ……?」

 

 美蘭は首を傾げる。

 

「生徒会が一般の生徒にコンタクトを図るだなんて、よっぽどのことだよ⁉」

 

「そ、そうなのですか?」

 

「そうだよ!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください……生徒会なのですよね?」

 

「うん」

 

「生徒と交流をするのは至極当然のことなのでは?」

 

「いいや、違うよ!」

 

「違う?」

 

「うん! うちの生徒会は特別なんだから!」

 

「特別……」

 

「そう、代々権力を持っていたけれど、今の代になってからは特に!」

 

「はあ……」

 

「最上の名に恥じないくらいの尊い存在なんだよ、わたしたち一般生徒ではとてもとても畏れ多くて、近づくことすら出来ないんだよ」

 

「そ、それでは生徒会としての機能を果たせないのでは?」

 

「準生徒会とか、そういう組織が代わりに動いているから問題はないよ」

 

「生徒会の意味とは⁉」

 

「それはともかくとして……うちの生徒会は男子生徒しか出入りすることが出来ないという不文律があるんだけど……亜久野さん、ひょっとして……」

 

「! いいえ、わたしは女子ですよ! れっきとした!」

 

「ああ、そうなんだ……」

 

「とにかく、呼び出しとあれば、行ってきます……!」

 

 性別も偽るなんて面倒なことをするわけがないだろうと思いながら、美蘭は席を立つ。

 

「き、気をつけてね」

 

「無事に戻ってきてね」

 

「武運を祈るわ」

 

「お、大げさではありませんか?」

 

 クラスメイトたちからの言葉に美蘭が困惑する。

 

「そ、そりゃあねえ……?」

 

「前代未聞のことだからね」

 

 クラスメイトたちは再び顔を見合わせる。

 

「……生徒会室の場所は分かりますか?」

 

「……さあ?」

 

 クラスメイトたちは揃って首を捻る。

 

「わ、分からないのですか⁉」

 

「う、うん……」

 

「下の三年生のフロアじゃないかな……」

 

「ああ、そうですか……」

 

「……噂では」

 

「噂⁉」

 

「ま、まあ、とにかく、下のフロアのはずだよ、職員室とかもそこに固まっているからね。その中でも特に立派な部屋を探せば良いんじゃないかな?」

 

「は、はあ……分かりました。ありがとうございます」

 

 美蘭は教室を出て、生徒会室へと向かう。

 

(……生徒会が何の用だ?)

 

 美蘭は下のフロアへと降りながら、考える。

 

(……まさかとは思うが……)

 

 美蘭が顎に手を当てる。

 

(……潜入を勘付かれたか?)

 

 美蘭は首を左右に振る。

 

(いいや、IDなどの偽造は完璧だ。見破られるはずがない……)

 

 美蘭は顎をさする。

 

(しかし、文字通り最上級の高校でも、最上位に位置するような組織のようだ……それを見破るとまではいかなくても、私を怪しいと見る生徒がいてもおかしくはない……)

 

 美蘭はふっと笑う。

 

(『虎穴に入らずんば虎子を得ず』とも言う……これはひょっとすると、わたしの目的に近づける好機なのかもしれない……しかし……)

 

「広いな! この学校!」

 

 美蘭は長い廊下を歩きながら、思わず大声を上げてしまう。



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第1話(3)生徒会室での問答

「……や、やっと着いた……」

 

 美蘭が『生徒会室』とネームプレートの付いた、立派な部屋の前にようやっとの思いでたどり着く。多少早歩きをしたとはいえ、肩で息をしてしまうほどだ。この最上学院の広大さというものを、身を以って実感する。

 

「こ、ここが、生徒会室ね……」

 

 美蘭は生徒会室の醸し出す雰囲気にやや気圧されてしまう。ここに至るまで、職員室や、校長室、理事長室などの前を通過したが、それらよりも立派な部屋なのだ。もちろん、学校というものは、生徒あってのものではあるが、ここまで特別扱いする必要が果たしてあるのだろうかと美蘭は首を傾げる。なんといっても扉である。生徒会室は通常の教室とは違い、外側から内側に向かって押し開く内開き型のドアであった。劇場などでよく見かける重厚なタイプである。ドアの色は赤茶色で、ドアノブは真鍮色である。

 

「貴族さまでもお住まいなのかしら……?」

 

 美蘭が苦笑交じりに呟く。美蘭は咳払いをひとつしてから、ドア越しに声をかける。

 

「2年V組、亜久野美蘭、只今参りました……」

 

「……入れ」

 

「失礼します……」

 

 美蘭は重いドアを押して、部屋の中に入る。部屋にはふかふかとした赤絨毯が敷かれ、座り心地の良さそうなソファーが並べてあり、それに挟まれるように、大理石のテーブルが置かれている。だが、そこには人はいない。ソファーを囲むようにコの字に机が置かれている。左右に二つずつ、奥に一つだ。その一つの机の椅子が窓の方を向いている。これまた立派な回転する椅子だ。その椅子がくるりと回り、美蘭の方に向き直る。椅子に座っていた人物が声をかけてくる。

 

「待ちくたびれたぜ、亜久野美蘭……」

 

「!」

 

 美蘭は驚く。椅子に偉そうに座っていたのは、今朝がた、道でぶつかった赤髪の少年だったからである。赤髪の少年は笑みを浮かべながら尋ねてくる。

 

「さては……迷子になったな?」

 

「……」

 

「まあ、無理もねえわな、この学院はあまりにも広すぎるからな……」

 

「………」

 

「生徒会室にもどうしてだか、人は寄り付かねえし……小耳に挟んだが、場所を分かっている生徒の方が少ないらしい……それで、生徒会の機能が果たせるのかねえ……って、他人事のようなことを言っちまったな……」

 

「…………」

 

「どうした? 黙り込んで?」

 

「の、の、の……」

 

「の?」

 

「覗き魔!」

 

 美蘭が赤髪の少年のことを指差す。赤髪の少年は慌てて椅子から立ち上がる。

 

「だ、誰が覗き魔だ! 誰が!」

 

「あなたよ!」

 

「俺が⁉」

 

「そうよ!」

 

「いつ、何を覗いたんだよ⁉」

 

「そ、それは今朝、わ、わたしの下着を……」

 

 美蘭が恥ずかしそうにスカートの裾を抑える。

 

「あ、あれはたまたま見えちまっただけだ!」

 

 赤髪の少年が釈明する。

 

「ま、まじまじと見ていたじゃないの!」

 

「そ、そんなには見てねえよ!」

 

「ご丁寧に色まで声を出して確認して……!」

 

「いや、なかなか大人っぽいのを着けているなって思って……」

 

「はあ⁉」

 

「ち、違う! 思わず口に出してしまっただけだ!」

 

 赤髪の少年が手を左右にぶんふんと振る。

 

「……ちょうど良かったわ」

 

「ちょうど良かった?」

 

「飛んで火にいる夏の虫のなんとやらよ!」

 

「もうほとんど言っているじゃねえか! 虫の後に何が続くんだよ!」

 

「今朝も言ったけど、警察に突き出してやろうと思っていたのよ! あなたから接触してきてくれるとは、余計な手間が省けたわ!」

 

「け、警察だと⁉」

 

「ええ、そうよ!」

 

「い、いや、あれは不可抗力だ……警察もまともに取り合ってくれねえと思うぞ?」

 

「む……」

 

「と、とにかく少し落ち着け……」

 

「ならば社会的に抹殺するまで!」

 

「ぶ、物騒なことを言うな⁉」

 

「ふん!」

 

 美蘭がスマホを取り出して、赤髪の少年の方に向ける。

 

「ど、どうするつもりだ?」

 

「『この男、下着覗き魔です』って、SNSを使って拡散するわ」

 

「やめろ!」

 

「やめない!」

 

「そ、そういうことをしても恐らく逆効果だと思うぞ? むしろ、お前のアカウントが炎上するんじゃねえか?」

 

「……どうして?」

 

「自分で言うのもなんだが、俺は結構な有名人だからな。スカートをめくった動画でもない限りは、世論の大半は俺の味方とは言わないまでも、俺寄りになると思うぜ」

 

「……結構な有名人? あなた、誰なの?」

 

「……赤千代田強平(あかちよだきょうへい)……この最上学院の『最強』の生徒会長だ」

 

「せ、生徒会長⁉」

 

「ああ、そうだ、一応な……」

 

「み、見るからにガラが悪そうなのに⁉」

 

 スマホを落とした美蘭が強平と名乗った少年を指差す。

 

「人のことを指差すやつに言われたくねえよ! 大体な、この学院は素行がすべてじゃねえんだよ……敷地だけでなく、器もでっけえんだ」

 

 強平は両手を広げて笑う。

 

「い、いや、素行こそ大事にすべきことだと思うけれど……」

 

「やることはしっかりやっているから問題はねえんだよ……」

 

「やること?」

 

 美蘭が首を傾げる。

 

「ああ、そのおかげで、生徒会としての活動がなかなかまともに行えていないというのが目下の課題ではあるんだが……」

 

 強平が自らの後頭部をさする。スマホを拾った美蘭が少し落ち着きを取り戻して問う。

 

「最強(笑)の生徒会長さまが、転入生に何の用?」

 

「(笑)を付けるのやめろ……口調で分かるぞ……実はな……うん⁉」

 

 室内にブザーが鳴る。強平が舌打ちする。

 

「悪の組織が侵入⁉ 現在出動出来るのは……俺だけか……」

 

 強平が美蘭の方をチラッと見る。美蘭が首を捻る。

 

「?」

 

「まあ、見られても良いか……『セイバーチェンジ』!」

 

「⁉」

 

 強平が左腕に着けた腕時計を操作すると、赤い眩い光に包まれ、ヒーローの姿になる。

 

「ちょっと待っていろ! 悪の組織を片付けてから本題に入る!」

 

「レ、レッドセイバー⁉」

 

 窓から飛び出していった強平の背中を美蘭は驚きの目で見つめる。



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第1話(4)最強のレッド

「クモ怪人さま!」

 

 全身黒タイツの者が蜘蛛の顔をした怪人に近寄り、敬礼する。

 

「……どうだ?」

 

「はっ! 学院の敷地内への侵入に成功しました!」

 

「それは分かっている!」

 

「ええっ⁉」

 

「ええっ⁉じゃない! 現にこうして私もここに立っていいるではないか!」

 

「た、確かに……」

 

「感心している場合か……」

 

 クモ怪人が呆れる。

 

「えっと……」

 

「敷地内の重要施設は抑えたのか?」

 

「はっ! 現在それを実行に移そうと検討している段階です!」

 

「検討している場合か! さっさと実行に移せ!」

 

「はっ! おい!」

 

 戦闘員が他の戦闘員を促す。クモ怪人が笑いながら呟く。

 

「ふふっ、この最上学院を占拠してしまえば、大変なことになるぞ……」

 

「そうなのですか?」

 

「ああ、ここには政治家や官僚、大企業の社長などの金持ちの子どもらが多数通っている……ということは……どうなる?」

 

「ど、どうなるのですか?」

 

「わ、分からんのか?」

 

 クモ怪人が戸惑う。

 

「まったく分かりません!」

 

「まったく分からないのに作戦行動をしているのか?」

 

「はい!」

 

「返事は良いが……疑問は抱かないのか?」

 

「ええ、まったく! 我々は悪の組織に絶対の忠誠を誓っていますから!」

 

「そ、それは結構なことだが……少しは考えた方が良いと思うぞ?」

 

「我々は所詮、組織の歯車です! 歯車が意思を持つ必要はありません!」

 

「う、うむ……ある意味見上げた意識だ……とはいえ、目的は把握しておけ……この学院の子どもを人質に取れば、多額の身代金が得られる……」

 

「! な、なるほど!」

 

「理解したら、行動に戻れ」

 

「はっ!」

 

「待て!」

 

「!」

 

 赤いスーツを着た男がその場に駆け付ける。

 

「てめえらの悪事もそこまでだぜ!」

 

「レ、レッドセイバー⁉ 何故にこんな場所に⁉」

 

 クモ怪人が驚く。

 

「何故って、そりゃあ……」

 

「そりゃあ?」

 

「い、いや、言う必要がねえだろう!」

 

「ちっ……」

 

「あ、危うく引っかかるところだったぜ……」

 

「む……」

 

 クモ怪人が周囲を見回す。レッドセイバーが尋ねる。

 

「どうした?」

 

「貴様一人か? 他の連中はどうした?」

 

「今日は俺一人だ」

 

「なにっ⁉ な、舐めているのか?」

 

「それはこっちの台詞だ。たったそれだけの人数で、この巨大な学院を占拠しようだなんてよ……考えが甘すぎるぜ」

 

「ふん! 貴様さえ片付ければ、それもたやすいことだ! おい、かかれ!」

 

「はっ! 行くぞ! お前たち!」

 

 クモ怪人の指示を受け、戦闘員たちがレッドセイバーを包囲する。

 

「戦闘員か……雑魚が何人集まったって一緒だぜ?」

 

 レッドセイバーが呟く。

 

「我々は戦闘員の中でも選抜された面々だ! お前にだって勝てる!」

 

「へえ、選抜ねえ……それじゃあ、お手並み拝見といこうかな?」

 

「舐めるなよ! 行け!」

 

「おおっ!」

 

「えっ……?」

 

「おりゃあ!」

 

「……」

 

「がはっ⁉」

 

 向かってきた一人の戦闘員をレッドセイバーがパンチ一発で倒す。

 

「ああっ⁉ この部隊でも随一の力自慢をワンパンで……な、ならば、お前が行け!」

 

「うおおっ!」

 

「いや……」

 

「うおりゃあ!」

 

「………」

 

「ぐはっ⁉」

 

 レッドセイバーが向かってきた戦闘員の突進をかわし、キック一撃で倒す。

 

「ああっ⁉ この部隊でも随一のスピード自慢を一撃で……そ、それならば……!」

 

「お前ら、数の優位性というのを活かせよ……」

 

 レッドセイバーが呆れたように呟く。

 

「はっ、そ、そうか! よし! お前ら、一斉にかかれ! どおりゃあ!」

 

「よっと! ほっと!」

 

「なにいっ⁉ あ、当たらん⁉」

 

 一斉に飛びかかってきた戦闘員たちをレッドセイバーは軽々とかわしていく。

 

「お前らの攻撃が当たるかよ……そらよ!」

 

「げはっ⁉」

 

 レッドセイバーの反撃で、戦闘員たちはあっという間に全員倒される。

 

「ふん、選抜と言ってもこんなもんか……むっ⁉」

 

「はははっ! 隙ありだ! レッドセイバー!」

 

 レッドセイバーの体にクモ怪人が放った糸が絡みつく。

 

「むっ、蜘蛛の糸ってやつか……」

 

「ただの蜘蛛の糸ではないぞ! 鋼鉄並みの硬度を誇る! 貴様はもう動けん!」

 

「……ふん!」

 

 レッドセイバーが蜘蛛の糸を引きちぎってみせる。

 

「‼」

 

「『最強』の俺の前では無駄なことだ……そらっ!」

 

「ごはあっ⁉」

 

 レッドセイバーのパンチでクモ怪人は遠くへ吹っ飛ばされる。

 

「終わったな。戦闘員どもの確保は警察にでも任せて……さてと……」

 

 レッドセイバーは生徒会室に窓から戻り、変身を解いて、強平に戻る。美蘭が問う。

 

「……私の前で変身しても良かったの?」

 

「まあ、知られても構わない。アンタには聞きたいことがあるからな……」

 

「! 聞きたいこと?」

 

 美蘭が身構える。潜入がバレたのかと考えていると、強平が近寄ってくる。

 

「いや、頼みたいことと言った方が良いか……」

 

「頼みたいこと? !」

 

「頼む! 今朝みたいに俺をビンタしてくれ! 俺が強すぎるあまり、誰も俺の体を満足させてはくれないんだ! だが、アンタの強さなら、俺の望みは叶う!」

 

「⁉ へ、変態⁉」

 

 目の前で土下座する強平を見て、美蘭は困惑する。



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第2話(1)強平の提案

                  2

 

「……来たな」

 

 生徒会室に入ってきた美蘭を見て、強平が笑みを浮かべる。

 

「……」

 

「それじゃあ、あらためて……」

 

「………」

 

 強平が美蘭に歩み寄る。美蘭が体を強張らせる。

 

「ビンタをしてくれ」

 

 強平が右の頬を美蘭に向かって差し出す。

 

「だ、だから、するわけないでしょう!」

 

「何故だ?」

 

「する理由がないからよ!」

 

「理由なんてこの際どうだって良いだろう」

 

「どうでも良くないわよ!」

 

「ほら……」

 

 強平が右の頬を突き付ける。美蘭が戸惑う。

 

「ほ、ほら、じゃないわよ!」

 

「安心しろ……」

 

「え?」

 

 美蘭が首を傾げる。

 

「右の頬を打たれたら、左の頬も差し出す」

 

「どこかのイエスみたいなことを言うな!」

 

「決して反撃はしない」

 

「当たり前でしょ! そもそも、ビンタをしないけれど!」

 

「え……しないのか?」

 

「ええ!」

 

「そんな……」

 

 強平が肩を落とす。

 

「そ、そんなに露骨にガッカリされても!」

 

「じゃあ、なんで……」

 

「は?」

 

「なんで生徒会室に来たんだよ⁉」

 

「はあ?」

 

 美蘭が首を捻る。

 

「ここに来たということはビンタを了承したということだろう⁉」

 

「いや、なんでそうなるのよ⁉」

 

「そうじゃないと説明がつかない……!」

 

「いくらでも説明がつくわよ!」

 

「え……?」

 

 強平が首を傾げる。

 

「あんなにしつこく校内放送で呼び出されたら、来ないわけにもいかないでしょう? 休み時間の度に放送するなんて……まったく……何を考えているのよ!」

 

「無視するという選択肢だってあったはずだろう?」

 

「当然、それも考えたけれど、周囲の視線が痛いのよ! アンタたち生徒会はこの学院では、随分と畏敬の念を持たれているみたいだからね、『その呼び出しを無視するとは一体何事か』みたいな雰囲気になるのよ!」

 

「ふむ、そうか、畏敬の念を持たれているのか……」

 

 強平は顎をさする。美蘭は肩をすくめる。

 

「……厄介なことにね」

 

「どうやら……」

 

「どうやら?」

 

「こちらの狙い通りに事は運んだようだぜ」

 

「た、性質が悪いわね⁉」

 

 得意気な笑みを浮かべる強平に対し、美蘭が声を上げる。

 

「これも生徒会の威光の為せる業だ……」

 

「威光がメッキを剥がせば偽物だということを知らしめたい気分だわ」

 

「知らしめる? どうやってだよ?」

 

「え? お、大声で言いまわるとか……」

 

「ガキかよ。そんなことにいちいち耳を傾けるやつがいるか?」

 

「が、学院内で発行している新聞に情報をタレ込むわ!」

 

「はっ、そんなことをしたら、アンタの方がひんしゅくを買うことになるぜ?」

 

 強平が両手をわざとらしく広げる。美蘭が困惑する。

 

「な、なんでそうなるのよ⁉」

 

「このご時世をよく考えてみろよ」

 

「ご時世?」

 

「ああ、今の時代は『多様性を尊重する』時代だ」

 

「……それがどうしたの?」

 

「……分からねえのか?」

 

「あいにく、さっぱり」

 

 美蘭が首を左右に振る。

 

「はあ……」

 

 強平がため息をつく。

 

「な、なによ、そのため息は?」

 

「多様性……俺のこの“ちょっとばかり特殊な性癖“も尊重されてしかるべきだ」

 

「! そ、そんなバカげたことが……」

 

 美蘭が愕然とする。

 

「タレこみか……まあ、何事もやってみないと分からねえがな……受け取り方もまた人それぞれなわけだからな……」

 

「そ、そうよ!」

 

 美蘭が生徒会室から出ようとする。

 

「まあ、落ち着けよ。少し冷静になれ……それは悪手ってもんだぜ」

 

「ええ……?」

 

 強平に呼び止められ、美蘭が振り返る。

 

「それでもしもそれなりの騒ぎにでもなったら、アンタに対して余計に注目が集まってしまうことになるぜ?」

 

「! そ、それは……」

 

「望むことではねえだろう?」

 

「え、ええ、出来る限り平穏無事に学生生活を送りたいから……」

 

「それならば、答えはひとつだ」

 

 強平は右手の人差し指をピンと立てる。

 

「は……?」

 

「簡単なことだぜ」

 

「な、なによ?」

 

「……俺を思いっきりビンタするんだ」

 

「結局それじゃないの!」

 

「それで万事解決だ」

 

「だからそれが嫌だと言っているのよ!」

 

「どうしてだよ?」

 

 強平が不思議そうに首を捻る。

 

「ど、どうしてって……」

 

「知人とじゃれ合っているようなものだと思えば良いだろう」

 

「ふ、普通は知人にそんなことしないわよ! 大体、よく知らないし!」

 

「ふむ、そうか……やはりここはあれだな……」

 

「あれ?」

 

 強平が右手を美蘭に向かって差し出す。

 

「……野久亜美蘭、アンタも生徒会に入れ」

 

「はあっ⁉」

 

 強平の突然の提案を受け、美蘭は驚きの声を上げる。



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