変わった世界でやり直し。〜ずれた世界をあの娘と共に〜 (清谷ペン太郎)
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プロローグ

人生をやり直せたら。

誰もが一度くらいはそう思う、と言っても多分言い過ぎではないだろう。

ちなみに俺は毎日思ってる。なんならたまに夢で見る。そして起きたら絶望感にさいなまれるのだ。

 

今日のコレもそんな夢の中の話だろう。俺は若干ぼんやりする頭でそう思った。

いつもと違うのは夢であることを認識していることと、いつもより幼いこと。

周りを見渡した感じ、小学校の入学式だろうか?俺はその式に、新入生として参加しているらしかった。

しかしまぁリアルな夢だ。特に視界がめちゃくちゃクッキリしてる。高校時代から眼鏡が手放せなかった俺の視界は、壇上で祝辞を述べる校長らしき人物が、髪の毛の一本一本すら捉えられるほどクッキリと写っていた。

体を見つめると、名札があった。「かんざきとうや」俺の名前だ。

 

これ以上キョロキョロすると悪目立ちしちまうな。俺は大人しく座って、成り行きに身を任せた。

そうしてしばらく、式はつつがなくおわり、俺含む新入生たちはそれぞれガヤガヤとおしゃべりしながら各々のクラスの教室へと向かうこととなった。

そして行われる自己紹介。名前と好きなもの。テンプレみたいな自己紹介を順番に行なっていく。チラホラと覚えのある名前が出てくる。

全員ではないにせよ、この中のほとんどは六年間一緒にいたのだ。流石にある程度は覚えている。

俺は自分の番を無難に終わらせ、成り行きを見守る。

そうすると、『あの子』の番が回ってきた。

「かむらきょうこです!よろしくおねがいします!」

香村響子。俺の初恋相手にして、今後高校までの長い付き合いになることになった女の子。そして……そして、俺はこの夢を見た理由をなんとなく察した。

それは俺が眠りにつく少し前のこと。

 

「自殺?」

「あぁ、お前も覚えてるだろ?香村響子。あの子、自殺しちまったんだってよ」

「そう…….か。あの香村さんが……」

俺はあの子が好きだった。でもそれを口に出せず、心に閉まっていた。

そうしていたら彼女はおそらく中学二年ごろから荒れ始め、ガラの悪い友達とツルむようになり、高校を中退してしまう頃には、ザ、ギャルって感じになっていた。

それ以降名前も聞く機会はなかったが、そうか……。

「まぁなんでも、男関係らしいぜ。詳しくは知らねーけど」

「そうか……」

数少ない高校時代からの友人からそれを聞き、俺はその日ずっとショックを感じながら、眠りについたのだ。

そして、今。

 

俺の目には、将来美人になることが約束されたような可憐な少女が写っていた。

そして、彼女もこちらに気がついたのか、目が合った。

彼女は間違いなく俺の視線に自分の視線を絡めると、にっこり笑って席に座った。

カワイイ……いや、コレじゃ俺キモいロリコンじゃん。見た目は同い年とはいえ自意識はおっさん手前のアラサーだ。あー、キモいキモい。

そう頭で念じて、気の迷いを振り払った。

 

そして、教科書やらが配られ、少しすると解散の時間となった。

「ふぁぁあ」

と、軽く伸びをしながら大きなあくびを一つ。

流石に退屈だった。

「やほ」

「ん?んん……香村さん……」

懐かしい。彼女は友達の少ない俺に、たまにこうやって「やほ」って言って気を配って話しかけてくれていた。

なんとも再現度の高い夢だ。

「久しぶりだね、元気してた?」

「あー、まぁぼちぼちかな」

「ふふ、そっか。また君に会えるなんて夢みたい」

「うん。だね」

彼女も未来を知っている?しかも俺のことを懐かしんで、会いたかったと言ってくれている。こりゃまた都合のいい夢だ。

「その感じだと、未来のこと知ってる系?」

「ま、ね」

「なーんだ。逆光源氏計画は始まる前から潰えたかー……残念っ!」

「はは、なんだそりゃ」

懐かしい。中学の頃に戻ったみたいだ。まぁ小学生だけど。

「んで……どこまで記憶あるの?」

「んー、とりあえず、君のことなら最期まで」

「そっ……か」

「なんでってのは、聞かない方がいい?」

「うん。ごめん、今はまだ」

「了解」

そして、俺たちの間に沈黙が落ちる。

懐かしいがそれ以上に気まずい。

「とりあえず、ウチくる?」

「え、いいの?初めてだね?君んち行くの」

「それはそう。誘ったことないし」

「ゲヘヘ、エロ本探しちゃおっかな〜」

「うぇ!? って今俺小学一年、持ってるわけねーべ」

「またまた残念! ま、いいや。せっかくのお誘いだし、ぜひぜひ」

「じゃ、いこかー」

「ゴーゴー!」

そんな感じで、俺たちは俺の家へ向けて学校をでた。

 



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プロローグ②

「たっだいまーっと」

俺は香村さんと駄弁りながら歩いて十数分、なつかしの我が家にたどり着いた。

今日は、いや、も、か。今日も両親はいない。共働きで、息子の入学式の日さえ忙しくしている。

まぁ俺は慣れっこだし、お詫びって形でゲーム買ってもらったので当時はむしろ喜んでいたと思う。

「はぇー、なかなか立派な一軒家だねぇ」

香村さんが、手で目の上に影を作って俺の家を見上げていた。

「普通だよ普通。縮んでるから大きく見えるだけだろ」

「そんなことないと思うけど……」

「とにかくあがってあがって。麦茶くらいはあったはず……」

俺はガチャリと鍵を開け、香村さんを家に招いた。

「洗面所はそっち、で、リビングがあっちの右のドアの先ね。

「りょーかーい」

そう軽く案内をした俺は、台所に向かって適当なお菓子を見繕い、麦茶と共にお盆に乗せてリビングへ向かった。

「ねぇねぇ、なんか懐かしい感じだね、ほらテレビもブラウン管!」

地上デジタル放送はまだない時期だ。テレビもまだ薄型液晶でなく、箱っぽい形のブラウン管だった。

「とりあえず、ほい!」

「おわっと、これ、コントローラー?」

「そそ、うちの親が入学祝いに買ってくれたんだよ。据え置きゲーム。アクションゲームやろうぜー、ミスったら交代な」

「'……へへ、実は私、こういうのそこそこうまいよ?君の番来ないかもね」

「ほほう言うね。なら、その腕前見せてもらおうか!」

「あたぼうよ!ゲームスタート!」

そうして、俺たちは夕暮れまでゲームを楽しんだのだった。

てか、ほんとに上手かった。俺の番二回しか回って来なかったし、当時の俺が数日かけたボスを彼女は楽々クリアしてしまった。

「あー、楽しかった!こんなに熱中してゲームしたの久しぶり〜!」

「そりゃよかった。楽しんでくれたなら何より」

「じゃっ、また明日ね!」

「っ……お、おう、また明日!」

俺はこちらに手を振りながら走り去る彼女を、こちらも手を振って見送った。

俺はそのあと帰ってきたら両親と夕食の食卓を囲み、二十年ぶりの、小学生の頃の自分の部屋に入った。

勉強机と一体になったベッド、パーツ数の少ないプラモデルが数体。当時やっていた特撮ヒーローのなりきりアイテムとロボット。

何もかもが懐かしい。

俺はパジャマ姿でベッドに横になる。

なんとなくだが、ここで眠るとこの夢が終わってしまう気がしていた。

まだ続けたい。その思いもあるが、急激に襲ってきた眠気に抗えず、俺の意識は気絶するかのように闇に落ちた。

 

思考の闇の中、俺は何か光を見つける。

その光はどんどん小さくなり、ソフトボール大になる。

そして、更に小さくなってゆき、しまいには卓球の玉くらいの大きさになり、突如俺の方に向かってきて、ぶつかる!と思ったら俺の体の中、胸の辺りにスッと溶け込むように消えた。

……なんだったんだ?

 

目が、覚める。

「はぁ、いい夢だったな。さて、仕事仕事……って、え?」

俺が部屋を見渡すと、そこは昨日寝た場所。すなわち、二十年前の自分の部屋……。

しかし少し違いがあった。

【おもちゃ】【おもちゃ】【カバン】【服】【床板】

なんか……文字が、見える?



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夢?現実?

視線をずらしてみても、俺の視界内に入った物体には全て文字が付け加えられている。

なんかウザいな…….消えろ、と思うと、スッと文字は消えた。

「なんだったんだ?」

夢の中で意識がこんなにもハッキリしていること、さらには寝て起きるなんて経験は初めてだ。

それに、文字。

試しに現れろ、と念じると沢山の文字が物体ごとに現れた。

それもまた消して、唸る。

「うーん。なんかこれ、知ってるような?」

俺は高校時代くらいからネット小説が好きで、よく読んでいた。

そんなネット小説にありがちな設定、それが。

「鑑定?」

刹那、ぶわっと俺の目の前に大量の情報が現れる。

目の前にある全ての物体について詳細な情報が現れ始めたのだ。

俺の視界に現れたそれは、どうやら脳にある情報を視覚化しているようで、凄まじい頭痛が俺を襲った。

「や、やめろ!」

俺は思わず半ば叫ぶようにそう口に出した。

そうすると、すんなりと情報の嵐は止まった。

「はぁはぁ、頭割れるかと思った……」

力が抜け、へなへなとベッドに座り込む俺。

「これ、現実?」

夢ではない。俺はそう確信めいたものを抱いた。

こんな異常事態なら普通は逆。夢である確信を強めそうな気もするが、これは俺の想像力を超えたリアルな質感を持った異常だった。

これは夢ではあり得ない。

俺はそう思った。

幸いにして今日は土曜、この頃は土日休みだったので自由な時間が丸2日ある。

「検証だな」

俺は自分に襲いかかった不可解な現象について調べようと思った。

「まずは……」

俺は部屋を出る。母はもう仕事で、父は部屋で寝ている。

起こすと不機嫌になるので放っておく。

俺は慣れた手つきで朝食をぱぱっと食べ、部屋に戻ってランドセルを漁った。

「あったあった連絡網」

クラス全員の連絡先が記載されているプリントだ。この頃はそう言うものがあった。

俺は家の固定電話を使い、ある番号に連絡をかけた。

『トゥルルルルルル、トゥルルルルルル、ガチャリ』

『もしもし、香村です』

『おはようございます。朝早くにすみません。響子ちゃんはいますか?』

『響子のお友達?はいはい、ちょっと待ってね。きょーこー、お友達よー………はい、もしもし、響子です』

『おはよ、香村さん』

『ん?神崎くん、どしたの?』

少し眠そうだが、香村さんの声だ。

「いや、昨日のこと……」

『あー、もしかして夢じゃないかって不安になった感じ?』

「んー、逆だけどそんな感じ」

『逆?現実だとやだった?………そっか』

「いや、俺やり直しできたらなって思ってたからそれはいいんだけど……」

『そう?そかそか』

心なしか嬉しそうに聞こえる。気のせいだろうか?

「なんて言うか、色々気になることあるから、今日会えないかな」

『んー、いいよー。君ん家?」

「いや、うち今日親いるから、市立図書館でいい?」

『オッケーわかったー。じゃあ後でねー』

そうして、俺たちは通話を終えた。



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