戦士咆哮シンフォギアK【加筆修正作業中】 (名無しのごんべい)
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戦士たちの邂逅編
第一話 「邂逅」


 八千八声 啼いて血を吐く ホトトギス

 「アハハ! アハハハハ!! アハハハハハハハ!!!!」

 その小さな鳥は、血を吐きながら、歌を歌い続けると言う。

 「ぉぉおおりゃぁああああ!!!」

 私の大切な人たちも、命という名の歌を歌い続けた。

 「ハハ!! ハハハハハ!!! アハハハハ!!!」

 血を流しながら、歌い続けた。

 「おぉぉおおお!!! はぁっ!! ぁぁぁああああああ!!!!!」

 私の大切な人たちは、戦場で、歌を歌い続けた。

 「ハァハっ!! アハハハハハ!!!! /おおぁっ! ああああああああああ!!!」

 血を吐きながら、歌い続けた。








 二年前

 

 大通りから外れた路地裏。

 人目につかない場所のさらに奥、ビルとビルの合間に不自然にできた広場に、二つの人影が見えた。

 

『師匠!!』

 

 赤い鎧のようなものを纏った男が、倒れる男に叫びながら駆け寄る。

 駆け寄る途中で鎧は空間に解けるように消え、中からまだ中学生ほどの少年が現れた。

 

「師匠!! 師匠ぉ!!!」

 

 少年は涙を流しながら男の体に縋り付く。

 幾度かの呼びかけで男はようやく目を開けた。

 

「!! 師匠ッ! 待っててください、すぐ病院に!!」

 

「……無駄だよ……俺はもう助からない……」

 

「諦めないでくださいッ!! 貴方は……貴方はこんなところで死んでいい人じゃないんだ!! 貴方がいれば、俺なんかよりももっと多くの人を!!」

 

「いや、俺はここまでだ……。……いいか……君が、今日から『クウガ』なんだ……。 今まで代々……続いてきたように……君が『クウガ』なんだ……」

 

 遠くで爆発が聞こえる。

 爆音に紛れて悲鳴も。

 だが、少年は男の傍を離れない。

 

「無理です!! 俺、師匠からまだ教えてもらってない事がたくさんあるんですよ!? なのに……なのに!!」

 

「だいじょう……ぶ」

 

 そう言って男は右手をゆっくりと持ち上げ、握りこぶしを作り親指を立てる。

 

「『サムズアップ』……だ。君ならできる……。なんて言ったって……俺の弟子……なんだからな……」

 

 それを見た瞬間、少年から大粒の涙がボロボロと零れ、とめどなくあふれてくる。

 少年が男の弟子になってから一番最初に教えてもらった、男の象徴ともいえる『技』。

 それが、少年にとって男からの最期の教えになったのだ。

 

 少年は泣き続けた。どうして、なぜ、とその口からは力ない声が漏れだしていたが、何かを決心したのかしばらくして顔を上げる。

 

「師匠。俺、決めました」

 

 男は目だけで先を促す。

 もう男に言葉を話すほどの力は残っていなかった。

 

「師匠の名と、夢を借ります。今日から、俺は『五代 雅人』と名乗ります。そして、師匠の夢を! 『誰かの笑顔を守るため』に戦います!!」

 

 男は何か言おうとし、しかし叶わずに目を閉じる。

 次第にサムズアップをしていた腕も支えられなくなっていく。

 

「必ず!! 師匠の代わりに!!!」

 

 そして男の腕は倒れ、どこかで一際大きな爆発が起こった。

 

「師匠ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして『誰かの笑顔を守るため』に戦い続けた男『五代 雄介』はその生涯に幕を閉じ、師の夢を借りてしまった弟子である『五代 雅人』の『ノイズ』との戦いの日々が、幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2年後、時は現代へ。

 特異災害対策機動部二課本部指令室。

 多数の計器やモニターが並ぶそこでは、数十人の男女が作業に当たっていた。

 その中の一際体格がいい赤色のシャツの胸ポケットにネクタイをしまった赤髪の男と白衣を着た女性が、空中に浮かぶモニターを見ていた。

 

「また……か」

 

「ええ、またね」

 

 モニターに映るのは木々が生い茂ったどこかの森の中。自衛隊を背に、青い髪の少女が人型の異形に刃を振り下ろす。そこから少し離れた場所では白い全身鎧をまとった男……体つきから判断しているが推測でしかない……が青髪の少女と同じように異形と向かい合い、その拳を異形……『ノイズ』に向けて叩き付けていた。

 

 『ノイズ』。

 それは有史以来存在する人類の天敵であり、不倶戴天の敵である。

 奴らに意志はなく、ただ機械的に人を襲う。

 『ノイズ』に触れられた人は炭素の塊となってこの世から去ることになる。

 

 現代兵器はすり抜けてしまうだけでまったく効果がない。

 

 どこに隠れても壁をすり抜けて現れるため逃げ場はない。

 

 その『ノイズ』に唯一対抗できるのは『シンフォギア』と呼ばれる兵器だけ……だった。

 

 今から約一年前。

 二課のメンバー全員がまだ『天羽 奏』の死を引きずっている時、奏の相棒であった『風鳴 翼』が『ノイズ』を討伐しようと出現地点に急行した際にこの白い戦士を目撃した。

 何の武器も持たずに素手で『ノイズ』と戦い、倒していく。

 しかし、あのような『シンフォギア』も聖遺物も二課のデータバンクに存在せず、『アウフヴァッフェン波形』と呼ばれる聖遺物や『シンフォギア』が起動する際に発生する特殊な波形パターンも観測されていない。

 つまり、あの『ノイズ』と戦う戦士は聖遺物を用いた鎧を着ているわけではないと言うことだ。そして、それは今まで「『ノイズ』は『シンフォギア』でしか倒せない」と思っていた彼らにとっては衝撃的なことだった。

 

「これまでに確認されたのは、白い奴が32回。赤い奴が3回程度ですね」

 

「どちらも、出現時にそれらしき反応は無し。これまでの35回の出現データから聖遺物でないのは確実です」

 

 現場と指令室をつなぐオペレーターの2人、『藤尭 朔也』と『友里 あおい』が二人の会話にデータを出しながら入る。

 

「出現率は、白い奴の方が圧倒的に高いが……」

 

「強さで言えば、赤い奴の方が圧倒的ね」

 

 彼らの視線の先には白い鎧を纏った男が戦っている映像と、赤い鎧を纏った男が戦っている映像が流れている2つのモニターがある。

 そのうち左のモニターでは白い戦士がノイズを5~6発の拳打で消し去っているのに対し、右のモニターでは赤い戦士が1~2発の打撃でノイズを倒していた。

 

「この白い奴と赤い奴が同一人物なのか……そもそも人なのかすら、わかりませんからね……」

 

「二課の中だけでも、米国の新兵器だとか宇宙人だとか、はたまた同じ『ノイズ』同士で仲間割れしてるだとかで意見が割れてるからね」

 

 朔也とあおいが言ったように、現在二課内部でも情報が錯綜していて答えの出ない議論が続いている状態にある。

 唯一この『2体』両方との接触経験がある防人……翼は、「黙して語らず、こちらが何を問いかけても何もしゃべりませんが、白い方の拳からは迷いが見て取れました」と言っていた。

 彼女には「無理せずに捕獲できそうなら捕獲しろ」との指令が出されている。だが『ノイズ』の殲滅が最優先とも同時に厳命されており、人々の盾であり剣である彼女は言われなくとも『ノイズ』を優先するだろう。

 

「いつまでも白いの赤いのじゃ呼びにくいわね~。なんか名前を付けてあげましょ?」

 

「名前?」

 

 白衣を着て眼鏡をかけた女性、『櫻井 了子』の場違いな明るい声に、赤いシャツの大男でありこの二課の司令である『風鳴 弦十郎』が疑問の声を上げる。

 

「そうよ~。名前と言うよりコードネームね。翼ちゃんがわざわざ『迷い』なんて言うからには、彼には明確な意思があるはずよ~。だから、仮称として白い方を『未確認生命体一号』。赤い方を『未確認生命体二号』でどうかしら~?」

 

「意志があるからには命がある。だが人間かわからない。だからこその『未確認生命体』か」

 

「ただ白い奴、赤い奴なんて呼び方じゃ味気ないでしょ?」

 

「ふむ……。ではこれから、白い方を『未確認生命体一号』。赤い方を『未確認生命体二号』と仮称する。略称は『一号』『二号』だ!」

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

 弦十郎の一言に、元気のいい返事が指令室に響き渡る。

 相も変わらず謎だらけであり、『ノイズ』も一号も二号もなにが目的なのか全くわからない。

 

(だからこそ……俺たちは少しづつ前に進むしかない)

 

 小さなことでも一歩ずつ。

 弦十郎はそう決め、了子と今後の一号と二号への対応を話し合い始めた。

 

 二課本部に警報が鳴り響いたのは、それからわずか10分後のことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『立花 響』はひたすら走っていた。

 無我夢中で死の恐怖から逃げていたため、いつの間にか知らない工場の中に入り込んでいた。

 背負っているのは幼い命。

 可愛らしく、将来美人に成長するだろうと思わせる姿。すくすくと育ってくれればどんな分野でも活躍し、やがて多くの人を笑顔にしてくれる。そんな希望を抱きたくなる可能性の塊。

 だが、そんな可能性に満ち溢れている命も、響が足を止めればたちまち『ノイズ』に奪われてしまうだろう。

 だから、響は止まらない。

 転んでもすぐに立ち上がり、転んだ拍子に一緒に倒れてしまった少女を背負い直し、再び鉄塔が森の様にそびえたつ工場地帯を走る。息が切れても、膝が笑っても、肺が痛みを訴えてきても走り続ける。段差があれば飛び越えて、行き止まりなら壁をよじ登って、地上を歩く『ノイズ』では追いかけてこれないであろう上空へ逃げるために長い長い梯子を上る。

 やがて一際高いところへたどり着くと、辺りに充満していた濃厚な死の気配が遠のいた。

 流石にここまで高いところには追いかけてこれなかったのだろう。

 『ノイズ』は自然に発生するが、消える時も自然消滅である。

 ここにいれば飛行型の『ノイズ』が出てこない限り大丈夫だろうと思い、背負ってきた少女と一緒に大の字で地面に寝転ぶ。

 

「私たち、死んじゃうの?」

 

 少女が涙声で聞いてくる。

 響は体を起こし、微笑みながら首を振り、少女を見つめる。

 励まそうと口を開こうとした直前、目の前の少女が正面を見て悲鳴を上げる。

 慌てて響も正面を見ると、そこには『ノイズ』の群れがあった。

 

 逃げるスキマはない。

 背後は崖。

 少女を胸に抱き、自らの震えを押し殺して考える。

 

(私にできること……!)

 

 ――心臓の鼓動がうるさい。

 

(きっと何かあるはず……!)

 

 恐怖、悲哀、諦観。

 2年前と同じようにさまざまな感情が頭の中を駆け巡っていく。

 今、あの時のように自分のピンチに駆けつけてくれるヒーローはいない。

 だから響は考える。

 決してあきらめることなく、腕の中の少女を励ますために、自らを鼓舞するために。

 

 ――奏さんのように、助けるんだ!

 

 響の胸の内に深く刻まれた言葉を叫んだ。

 

「生きるのを諦めないでッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その歌は、唐突に響の胸に湧きあがった。

 

「~♪」

 

 2年前、阿鼻叫喚の大混乱の中確かに聴いた歌と同じ旋律を持つ歌を、響は口にした。

 瞬間、響の胸から……正確には2年前に負った消えない傷から……一筋の光が伸びる。

 光はだんだんと大きく、強くなっていき、そして響は自分の体が何かに作り変えられていくのを感じた。

 あまりの苦しみに眼をいっぱいに見開き、獣のような唸り声を上げる。

 ただ座っていることもできなくなり、地面に手を突き四つん這いになる。

 

 背中に鋭い痛みが走る。

 

 自分の体の中から何かが出て行って、それが力強くなって自分の中に返ってくる感覚。

 何かが出ようとするたびに悲鳴を上げ、次の瞬間には先ほどの苦しみが嘘のように消え、逆に力がみなぎってきた。

 

 改めて自分の体を見下ろす。

 

 橙色と黒と白の3色のぴっちりとしたボディースーツ。

 両腕には大きめのガントレットがついており、両足は黒い装甲で覆われている。

 ジャケットの襟は高く、胸元には何かの宝石のようなものがある。

 頭を触ってみると、角のようなものまであった。

 

 それを確認すると同時に、どこからともなく音楽が流れてくる。

 

「お姉ちゃんかっこいい~~!!」

 

 いつの間にか響の隣にいた少女が、状況も忘れて目を輝かせながら言う。

 

 それだけで、覚悟は決まった。

 

 少女に手を伸ばし、ぎゅっとその手を握った後すぐに動けるように抱き抱える。抱えた少女の体は先程とは違い羽のように軽く、だがその重さはしっかりと響の腕の中にある。

 つないだその手を離さないまま、胸の内から溢れる様に生まれた歌詞を口ずさむ。

 つないだ手から温かさを感じ、力が溢れてくる。

 諦めかけていた心に灯がともる。

 

(跳べる!!)

 

 人間では絶対に不可能。

 だけど今の響には確信があった。

 自分自身の直感を信じて、『ノイズ』の壁を飛び越えようと跳躍。

 すると、響が想像した以上の距離を飛び、そのまま正面の何が入っているのかもわからない巨大なタンクにぶつかることが頭があまりよろしくない響にもすぐにわかった。

 ぶつかる寸前で体を入れ替えて、背中からタンクに激突。

 響とタンクの間に少女が押しつぶされることは回避できた。

 

 そのまま手を伸ばし、一本のパイプを偶然掴む。

 改めてありえない距離を跳んだ自分に驚愕し、真横で起こった爆発音にハッとする。

 見れば体長が優に20メートルは超えるであろう巨人型の『ノイズ』がこちらを向いていた。

 それと同時にかすかに聞こえた風切音。

 

 自分と少女を支えていたパイプから迷わず手を離し、落下する。

 するとさっきまで響たちがいた場所に棒状になったノイズが突き刺さった。あと1秒でも遅ければ少女ごと串刺しになっていたかもしれないことを自覚し、冷汗が流れる。

 だが状況は待ってくれず、今響と少女は20メートル以上の高さから落下している最中である。それでも溢れ出るこの力を信じ、空中で崩れかけていた姿勢を何とか立て直し、足から地面に着地する。

 衝撃で両足にジーンとした痛みがやってくるが、走るのに支障はない。

 

 すると唐突にあたりが暗くなる。

 いや、違う。

 

(後ろ!)

 

 振り向くと、眼前には四肢を大きく広げて響たちを押し潰そうと飛び掛かってきたカエル型の『ノイズ』。

 回避はもう間に合わない。既にそんなことができる距離ではない。

 

 咄嗟に少女に覆いかぶさるような体制になり、『ノイズ』に背を向ける。

 せめてもの抵抗として握りしめた拳を自分の背に飛び掛かって来るであろう『ノイズ』に向かって我武者羅に振り回した。

 

 それは、諦めなかった少女が手繰り寄せた奇跡だったのか。

 

 何の抵抗にもならずただ炭になって消えるはずの少女の拳は、カエル型の『ノイズ』の横っ面に直撃。

 そのまま『ノイズ』は炭素の塊となって空気に流れ、消えていった。

 

(……私が……倒した?)

 

 自分で自分がやったことが信じられず放心していると、どこからかバイクのエンジン音が聞こえてきた。

 それと同時に、またもや響に跳びかかろうとする『ノイズ』。

 今度こそやられる。

 そう思った響が目をつぶり、次にくる衝撃から少女だけでも守ろうと身構える。

 

 だが、いつまでたっても予想していた衝撃は来ない。

 

 恐る恐る目を開いてみる。

 

 そこには白い鎧をまとい、両手を上げて圧し掛かろうとしている『ノイズ』を両手で抑えている男の姿があった。

 男は一度腰を少し落とし、反動をつけて『ノイズ』を右手一本で持ち上げると、空いた左手で『ノイズ』を数発殴りつけた。その拳打はすばやく、響の眼には何度『ノイズ』を殴ったのかわからなかった。

 殴られたノイズの体が浮き上がり、そのまま只の炭になって消えていった。

 

「呆けない。死ぬわよ。貴方はその子を守ってなさい!」

 

 いつの間にか響の後ろにいた青髪の少女……どこかで見た覚えがある。いや、今日学食で顔を合わせることができた憧れの先輩、『風鳴 翼』だ……が響に警告し、『ノイズ』に向かって走り出す。

 すると翼の体が光り、青と白、そして黒を基調としたぴっちりとしたボディースーツを身にまとい刀を持った状態で現れた。

 

 そのまま翼は手に持った刀を振り上げる。すると、刃が巨大化し幅の広い大剣となった。大剣の刀身に刻まれた青い溝が発光し、バチバチと音を立てながらスパークが走る。

 翼は、手に持った大剣を上段から振り下ろした。

 刃の形をした衝撃波が翼の持った大剣から放たれ、地面をえぐりながら『ノイズ』の集団に向かい、数体の『ノイズ』を切り裂いて爆発する。

 いつの間にか飛び上がっていた翼が両手を広げると、無数の刃が降り注ぎ『ノイズ』を串刺しにする。

 

 その戦いに見惚れていると、響のすぐ近くまで『ノイズ』が炭化しながらゴロゴロと転がってきた。

 転がってきた方向を見ると、先ほど響を助けた白い戦士が大勢の『ノイズ』に囲まれながらも奮戦していた。

 

 『ノイズ』の爪を男は躱し、空いた腋に鋭い蹴りを放つ。

 『ノイズ』がよろめいたところを男は1発、2発と殴り、『ノイズ』が怯んだ隙に渾身のハイキックでとどめを刺した。

 すると周りを囲んでいた『ノイズ』のうち3体ほどが棒状になって男に襲い掛かったが、それを読んでいたのか男は素早く跳び上がって迫り来る『ノイズ』を躱し、そのまま近くにいた人型の『ノイズ』にドロップキックを決めた。

 男は地面に着地し、後ろから襲い掛かってきたカエル型の『ノイズ』の腹を振り向きざまに左のアッパーで突き上げ、その浮いた体に右の拳を叩き付けて地面に撃ち落とす。地面に叩き付けられたカエル型の尻尾をそのまま掴み、ジャイアントスイングで周りの『ノイズ』を巻き込みながら振り回した。巻き込まれたノイズが次々と倒れていく。男はすぐ近くに立っている『ノイズ』がいないことを確認し、掴んでいたカエル型を投げ捨てた。

 男は起き上がってきた一番近くにいた人型の『ノイズ』を確認すると、その肩を掴んで無理やり正面を向かせ、渾身の右ストレートを叩き込む。

 男に殴られた『ノイズ』は起き上がろうとしていた周囲の『ノイズ』を巻き込みながら吹き飛んで行く。

 ゴロゴロと転がっていく『ノイズ』はすぐに立ち上がろうとしたが、その体に何かの模様が浮かびあがり、『ノイズ』は苦しむように腕をばたつかせて浮かび上がった『紋章』を叩く。が、やがて耐え切れなくなったかのようにその動きをぴたりと止めると周囲の『ノイズ』を巻き込んで爆発した。

 

 翼の華麗な戦いとは違う、あまりにも泥臭い戦い方に目が離せないでいると、またもや周囲が暗くなる。

 見上げると先ほど見た巨人型が四つん這いになって響に向かって吠えていた。

 咄嗟に拳を握りしめ―――。

 

 

 その巨人を更に巨大な刃が貫いた。

 

 

 刃の上、柄の部分に立つ翼と目が合う。

 

 一瞬だけ、その目が鋭くなった気がした。

 

 

 

 




 ……書いてしまった。

 初めましての方は初めまして。

「てめぇ!3作目とはどういうことだぁ!?ふざけんじゃねえ!!」という方はごめんなさい!
 名無しのごんべいです!

 いや、14年ぶりにクウガを見てたらどうしても書きたくなっちゃったんですよ!
 ホントどういうことなんでしょうね?

 さて、本作のクウガですがかなり設定が変更されています。
 まず、クウガは古代にススアレスのうちの一人の天才の手で生み出された対ノイズとか用の兵器。
 セギギブズではありません。
 そして原作では死ぬまではずれないアークルですが、今作では装着者が死ぬか、何らかの理由で戦えなくなった場合も外れます。
 クウガは代々一人だけ弟子を取り、自分が戦えなくなったら弟子にアークルを託します。
 つまり家のオリ主君は五代さんの弟子ってことですね。

 え?タグ詐欺だって?
 やだなぁ~ちゃんと出てるじゃないですか~!

 さて、本作ですがタグにも書いた通りグローイングの出番が多数あります。
 って言うか原作シンフォギアのゴワレアタリラデズッオグソーギングデグ。
 そして本作は「テンプレに喧嘩を売る」をコンセプトにしています。

 1、主人公が原作キャラと何の接点もない少年。
 2、二課の面々とすぐに仲良くなったりしない。
 3、別にツヴァイウィングのファンでもなければ昔あってたなんてことも無い。

 こんな作品ですが、素晴らしい原作とクウガ×シンフォギアの先駆者様に敬意を表して言ってやります!














「ついてこれる奴だけついて来いッ!」



*ネタバレ防止のため一部グロンギ語。
 知りたければ自分で翻訳してね?

*2015/11/19大幅な加筆修正。これで見やすくなったはず。


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第二話 「名前」


 目指せ平均5千文字!

 *2015/11/19大幅な加筆修正。3000文字も増えてしまった。


「なんでだ!! どうして『赤』になれない!!」

 

 もう日も落ち、『ノイズ』出現の警報が鳴ったせいで人気が全くない夜の街、『立花 響』が『ノイズ』と遭遇した工場地帯から幾分か離れた場所にある商店街。その大通りから少しそれた所にある路地裏。

 そこで少年……『五代 雅人』が叫びながら壁を殴りつけていた。

 

 先の工場地帯での『ノイズ』との戦闘があった時、雅人は白い鎧の男……『クウガ』としてその戦闘に参入していた。『クウガ』としては『ノイズ』と戦うのは当然のことだが、今まで歴史の表舞台に出てこなかった『クウガ』のことは当然政府に知られているわけがなく、雅人を捕まえようと今まで幾度となく『ノイズ』との戦場で出会ってきた青い髪の少女……『風鳴 翼』のことだが、雅人は彼女の名前を知らない……が剣を向けて投降を呼びかけてきた。が、すぐそばにいた少女……『立花 響』の事である。無論、初対面なので雅人は知らないが……がその場に座り込んでしまい、そちらに翼が気を取られた際にできた一瞬の隙をついて雅人はその場を離脱。

 戦闘の事後処理のためか、翼はその場を動けないようなので雅人は楽々逃走に成功した。

 

「覚悟が足りないのか!? そんなことはない。覚悟ならできてる!! 師匠の夢を引き継ぐんだ!! なのに、どうして認めてくれないんだ!! 『アークル』!!」

 

 誰もいなくなった街中に、雅人の叫びだけが木霊する。

 雅人は『戦士』……『クウガ』である。

 先代の『戦士』『五代 雄介』に選ばれ、雄介の下で様々なことを学び、そしてとうとう二年前雄介がある事件で亡くなってしまったため雅人が未熟ながらも雄介の跡を継いだのだ。

 

 戦闘技術は悪くない。

 ヤクザ10人に囲まれても『クウガ』になるまでも無くなんなく撃退できるだろう。

 

 だが、どれだけ覚悟を固めて『クウガ』になろうとも『赤のクウガ』になることができない。

 

 『クウガ』にとって戦うための覚悟というものは重要なものだ。『クウガ』の力は強大なモノであり、邪な心を持つものが使えば災いを呼ぶ。それを防ぐための安全装置がいくつかあるが、戦う覚悟をすると言うのはその一つだ。

 

 これまで『赤のクウガ』になれたのはたったの5回。

 その時は今までにない力を発揮できたが、次に『クウガ』になるときは『白のクウガ』に戻ってしまう。

 

「ちくしょお……ちくしょおぉ…………!」

 

 何度も壁を殴り、拳から血が流れるもお構いなしに殴り続ける。

 

 雅人はただただ悔しかった。

 

 二年前、死にゆく雄介に「代わりになる」と言っておきながら、未だに雄介の足元にも及ばない自分が雅人には許せなかった。助けられなかった人もいる。間に合わなかった人もいる。助けられたはずなのに、力が及ばず救えなかった人もいる。

 

(師匠なら……師匠ならこんな無様は晒さなかったはずなのに!)

 

 悔しさのあまり壁を更に殴り続ける。雅人の拳からは血が噴き出しており、殴りつけた壁はひび割れてへこんでいる。

 

 そんなことをしばらく続け、しかし意味のない事だと気付いて今まで殴っていた壁を背にして座り込む。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 すると、座り込んでいる雅人を心配したのか不意に声を上げながら誰かが駆け寄ってきた。

 髪を白いリボンで後ろに束ね、どこかの制服を着ている少女。その少女は、一度雅人が背を向ける壁を見てから座り込む雅人を心配そうにのぞき込み、ふいに視線を下に向けるとあちこちから血が流れている雅人の拳を見て青ざめた。

 

「! 手、血が出てるじゃないですか!」

 

「……こんなの、ほっとけばすぐ治る」

 

「何言ってるんですか!? いいから来てください!!」

 

「お、おい!」

 

 そして雅人は少女に腕を引っ張られていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後。

 少女が住むと言う寮の一室に連れてこられた雅人は、そこで少女に治療を受けていた。

 

「……ずいぶん、手慣れてるんだな」

 

「同室の親友がよく怪我をして帰ってくるんです。その子の手当てしてるうちに慣れちゃって……」

 

 少し照れた様子の少女が、俯きながら話す。

 ようやく自室に同年代らしき異性を連れ込んだことに思い至ったようだが、自分から連れてきた手前追い出すわけにもいかない。

 雅人は雅人で今だに先ほどのことを引きずっているためそこまで意識が回っておらず、また異性と接することも無かったのでここが少女の部屋だと知っても特に何も思うことはなかった。

 

「……自己紹介まだでしたね。私、『小日向 未来』って言います」

 

「……『五代 雅人』だ。手当てしてくれてありがとう」

 

「いえ……それで、どうしてあんなことを?」

 

 そう言われて言葉に詰まる雅人。

 話す義理はないのだが、手当てしてもらった恩があるため、そしてこの未来と名乗った少女の持つ雰囲気のせいか、どうも強く出られない。

 

「小日向さんは、どうして俺を助けてくれたんだ?」

 

 なので、雅人は悪いとは思いながらも質問に質問で返した。

 

「……親友のが移っちゃったと思うんです。あの子ってすぐに何でも首を突っ込んじゃうし、人助けが趣味だーって言っちゃうような変わった子ですから、私も当てられちゃったのかもしれません」

 

 そう言って親友のことを話す未来は、迷惑そうな口調とは裏腹にその表情は穏やかだった。その表情を見るだけで、実際未来は迷惑しているがそこまで嫌がっているわけではないことを雅人は気付いた。

 そのことに少し興味がわいた雅人は、さらに質問を重ねた。

 

「こんな時間に外に出ていたのは、今出掛けてるその親友のため?」

 

「……はい。あの子、今日発売の新しいCDを買いに行くって学校の帰りに町のコンビニに行っちゃって……。響が行った方角にノイズが出たって聞いて……。そしたら、いてもたってもいられなくなって!」

 

 ――この子は、その親友のことが本当に大切なんだな。

 

 目の前で涙を流す少女を見ながら、雅人は思う。

 かつて、もう随分前のことだが、自分にもこんな風に自分のために泣いてくれる存在がいたはずだ。

 もう、雅人自身には心配してくれる人間はいない。だが、目の前で泣いている未来やその親友の子、他にも大勢の人たちは誰かを心配しているし、心配されている。

 だから、今のままの雅人ではだめだ。

 『白』ではなく、『赤』にならなければ誰も護れない。『五代 雄介』の代わりが務まらない。

 

 ――それでも、今泣いているこの子の涙を止められるのなら……。

 

「大丈夫」

 

 雅人は未来を安心させるために笑みを作り、サムズアップをする。

 今だに本当の意味で使えたことがない技。

 今はただ安心させるためだけの見せかけの技。サムズアップをする手は震えていて、笑顔だって引き攣っているかもしれない。だが、いつか本当の意味で使えるようになるために、目の前で泣いている少女を笑顔にするために、雅人は無理やり仮面をかぶる。少しでも、『五代 雄介』になるために。

 

「あんたがその親友を大切に思っているように、きっとその親友もあんたのことを大切に思ってるはずだ。 そんな子がキミを悲しませるようなことはしない……それはあんたが一番知ってるはずだろ?」

 

 師匠である雄介に似せた笑みで、なるべく口調も雄介に似せて励ます。

 雅人は他人とほとんど関わったことがないから励ますなんて無理だが、雄介は違う。

 励ますとか安心させるとかは雄介の得意分野だった。だからこそ、『五代 雄介』は必要で、雅人は『五代 雄介』になろうとする。

 

 ―――――今はまだ遠い背中だけど、いつか追いついて貴方の代わりになって見せます。

 

 雄介の真似をしたのが功を奏したのか、未来は初対面の男に泣き顔を見せたのが恥ずかしかったのかそのまま顔を伏せ、それでも目の前の少年がぎこちないながらも励まそうとしてくれていたのを悟った。

 

「ご、ごめんなさい。見苦しいところを見せちゃって……」

 

「いいって。誰にだって泣きたいときはあるさ。ま、全部師匠の受け売りなんだけどね」

 

「ふふっ! なんですかそれ!」

 

 そのまましばらく二人で笑い合う。

 

 ――笑うのなんて何時ぶりだろう?

 

 雄介が死んでから、雅人は今まで全く笑うことなく生きてきた。いや、笑うと言う行為を忘れて生きてきた。『ノイズ』が現れた場所に行き、ただ戦う。『五代 雄介』の代わりになると言った雅人が『笑顔』を忘れてしまうと言うのは何という矛盾だろうか。

 

 そうして誰かと談笑すると言う行為を約2年ぶりに楽しんでいた雅人の首筋のあたりに、ピリピリとした感覚が走る。

 『クウガ』になってから2年、最初の頃はなれることはなかったが今ではすっかりお馴染みになってしまった、『ノイズ』が現れる予兆を腰の『アークル』が察知して雅人に知らせているのだ。

 

「手当てありがとう。その親友が帰ってきた時に面倒なことになるだろうから、俺はそろそろ行かせてもらうよ」

 

 そう言いながら立ち上がった雅人を見て、未来も同じように立ち上がる。

 

「あ、送ります」

 

 未来の通っている学校は女子高であり、学生寮ももちろん女子寮だ。今回は雅人が怪我をしていたのと緊急用の医務室が既に使われている状態だったため特例として雅人を部屋まで上げたが、本来男性が中に入るには少し面倒な手続きが必要であり、また一人で寮内を歩かせるわけにもいかない。そんな事情もあって雅人と未来は寮の玄関まで二人で歩いた。

 

「じゃあ、今日はサンキューな。小日向さんと話せてよかったよ」

 

「私も、五代さんと話せてよかったです。じゃあ気を付けて」

 

「うん。じゃあな」

 

 雅人は走る。

 走り始めて20秒ほどたってからあたりのスピーカーから警報が鳴る。『ノイズ』が発生したことを市民に知らせ、避難を促すための警報だ。

 雅人はそれを無視しながら走り、自分なりに覚悟を固めて『クウガ』になる。

 

 それでも色は、『白』。

 

 そのことに舌打ちしながら、雅人は先程までとは比べ物にならない速度で走る。

 これ以上、誰かの涙を流させないために。『五代 雄介』に少しでも近づくために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ノイズ』の気配をたどって雅人が辿り着いたのは、左右を田んぼに挟まれた一本道の町はずれの道路。田んぼの奥には民家がちらほらと見え、片方はそのまま町までつながっているが、もう片方は田んぼの奥に山があり、木々が生い茂っている。避難警報のおかげで周囲に人影はない。まぁ、『ノイズ』が現れたのだから当然と言えば当然なのだが。

 町側から来た雅人は、民家の影に体を隠してそっと道路を覗き見る。既にノイズの気配はなく、代わりに『クウガ』になって強化された雅人の眼に見えたのは3つの人影と荒れ果てた道路。

 何かが爆発したのかと思うぐらいえぐれ、10メートル台のクレーターができているアスファルトの道路。よほどの衝撃があったのか地面は抉れるだけに止まらず、めくれ上がったアスファルトなども確認できた。

 その中心で拳をプラプラさせて、倒れている青髪の少女に近付いていく赤髪の大男。

 その後ろで尻餅をついている、工場で助けた少女。

 雅人は知る由もないが、青髪の少女……『風鳴 翼』が味方の筈の工場で助けた少女……『立花 響』に剣を向け、それを見た赤髪の大男……『風鳴 弦十郎』が翼の大技を拳で受け止めた際にできたのがこの惨状である。

 

 雅人がそっと観察する中、風に乗って3人の会話が聞こえてくる。

 

『お前泣いて……』

 

『泣いてなんかいません! 涙など……流していません! 風鳴 翼は、この身を剣と鍛えた戦士です! だから……』

 

『あのっ……私、自分が全然ダメダメなのはわかっています。だから、これから一生懸命頑張って……頑張って、奏さんの代わりになってみせます!』

 

 そう響が言った瞬間、響は翼に頬を打たれた。

 

 その一幕を見て、雅人は自分の中で急激に響に対して興味がわいてくるのを自覚した。

 

 ――あの子は『奏』という人の代わりに戦おうとしている?

 

 ――俺と同じで、大切な人の代わりになろうとしているのか?

 

 ――一度、話してみたいな。

 

 周囲に『ノイズ』の気配はない。

 雅人は『クウガ』から人の姿に戻り、夜の街を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とは言ったものの……どこの誰かも知らないんだから無理だよなぁ」

 

 未来と出会い、修羅場を見た翌日。

 コンビニで買ったおにぎりを頬張りながらこれからの予定を立てる。

 最優先にすべきはやはり『ノイズ』退治。

 これは何千年も続いてきた『クウガ』の絶対のルールだ。

 1つ、『クウガ』は一子相伝なり 無用な秘術の拡散は避けるべし。

 2つ、『クウガ』は人々の盾なり 『クウガ』は人々の剣なり。

 3つ、『クウガ』は歴史の影なり 光射すところに『クウガ』の居場所はない。

 主な掟はこの3つだが、掟は『クウガ』である以上絶対だ。

 すでに3つめは雅人が翼に見つかってしまったため意味のないものになってきているが、昔と今では事情が違う。

 雄介も隠し通すのが無理だったから警察官の1人と秘密裏に協力していたと言う。

 

 するとまたしても首筋のあたりにピリピリとした感覚。

 またどこかで『ノイズ』が現れたのだろう。

 感覚が強くなる方へおにぎりの袋を捨てながら走る。ポイ捨てに少し罪悪感を覚えるが、ごみ箱を悠長に探している暇はないため心の中で掃除をする人に謝りながら駆ける。

 少しして警報が鳴り、逃げ惑う人の波に逆らい人と人の間を走り抜ける。

 

 やがて人が誰もいない街中、目の前に『ノイズ』の軍団を見つけた。その足元にはいくつかの炭の塊が見られることから、既に何人かの少なくない犠牲者が出ていることがわかる。

 

 ――護れなかった……だけど!

 

 腰に『アークル』を出現させ、クウガになる。

 

 またしても『白』。

 

 それを気にする余裕は今は雅人にはない。目の前の『ノイズ』に向けて駆け出し、すれ違いざまにラリアット気味に殴りつけた。

 空中で縦に一回転した人型『ノイズ』が地面に倒れるのを確認すると、追撃とばかりにその頭を踏みつける。だが、『白』の『クウガ』の攻撃力ではそれでトドメとはいかず、踏みつけられた『ノイズ』はいまだ健在。あまり一体の『ノイズ』にばかり時間をかけていては他の『ノイズ』から手痛い反撃をもらうことになる。

 そう判断した雅人は、人型『ノイズ』の額についた角のような触覚を掴み、そのまま振り回した後、投げつける。

 振り回された『ノイズ』に数体が巻き込まれるも、健在な『ノイズ』はすぐさま雅人に狙いを定めて襲い掛かる。

 人型の大柄な『ノイズ』が爪を振るう。それを察知した雅人は屈みながら爪を躱し、爪を振るってきた『ノイズ』の懐に入りこみ、その腹にパンチを連打する。

 6発目で目の前の『ノイズ』は炭に変わり、それが崩れ落ちる前に雅人の前にいた『ノイズ』のうち3体の『ノイズ』が体を棒状にして体当たりを仕掛けてきた。

 時間差で突っ込んでくる『ノイズ』の1体目を雅人は横っ飛びのステップで躱し、2体目はタイミングを合わせて拳を添えてカウンターを叩き込む。3体目は2体目を殴った反動を利用してぐるりと一回転し、回し蹴りで撃ち落とす。

 『ノイズ』の猛攻は終わらない。

 ナメクジ型の『ノイズ』が自身の体の前面にある8本の触手を伸ばして雅人を攻撃してくるが、雅人は伸ばされた触手を見切ってまとめて掴み、力任せに引っ張る。

 触手を引っ張られたナメクジ型『ノイズ』はしばらく踏ん張っていたが、やがて力負けしたのか体が浮く。

 そのままナメクジ型の巨体が雅人に迫る。人の身長を優に超える巨体が迫ってくる中雅人は動じず、右腕を弓のように引き絞り、目の前まで来た『ノイズ』に向けて叩き付けた。

 人の腕力を超える力で殴られたナメクジ型は、殴られた反動で雅人に握りこまれた触手を根こそぎ引きちぎられながら錐もみに回転して吹き飛ぶ。その巨体故に目の前の『ノイズ』が巻き込まれていき、その場に立っているのが雅人だけになる。

 ナメクジ型はごろりと反動をつけて起き上がり体を元の姿勢に戻したが、その体の前面に『刻印』が浮かび上がるとバタバタと痛みからの逃れようとするかのように体をばたつかせる。が、急にぴたりとその動きを止め、その一瞬後に起き上がろうとしていた周りのノイズを巻き込んで爆発した。

 その何度目かもわからいない光景に、雅人は内心首をかしげる。

 

(師匠が殴って刻印が出て『ノイズ』が崩れ落ちることはあっても、爆発することはなかったよな……。いつも思うけど、この爆発は何なんだ?)

 

「危ない!!」

 

 思考にふけっていた雅人は、その声で正気に戻る。

 見れば生き残っていた『ノイズ』……最初に投げ飛ばした『ノイズ』だ。とどめをさせていなかったらしい。……が雅人に向かってアイロンのような手を振り下ろそうとしていた。

 

『う、ぉぉおお!!』

 

「たぁぁあああ!!」

 

 二つの雄叫びが重なり、雅人の拳が『ノイズ』の腹を、警告してくれた少女の拳が『ノイズ』の後頭部に当たる位置を貫く。

 

 ボロボロと炭素となって消えていく『ノイズ』。

 

 後に残ったのは拳を振った体勢でお互いを見つめ合う雅人と少女。

 どちらからともなく拳を下ろし、構えを解く。

 

 見れば、そこにいるのは昨日の夜に工場で助け、その後雅人が見た修羅場の渦中にいた少女。

 雅人としてはできれば少し話がしたいが、昨日の様子を見ればこの少女……響が、あの青髪の少女……翼の所属している組織に属している、または関係があると言うのは確実だろう。

 ということは、今この瞬間もその組織の人間に見られている可能性がある。

 

 『クウガ』はあまり人に見られていいものではない。それにもし『クウガ』の技術が拡散してしまえば、それが火種となって争いを生むかもしれない。

 ならば、この少女と話をすることはできない。

 そこまで考えた雅人は踵を返し、響に背を向けて走り出そうとする。

 

「ま、待って!」

 

 しかし呼び止められ、つい立ち止まってしまう。

 そして響の方もつい呼び止めてしまった何を離せばいいのか考えておらず、結果思ったことをそのまま口にすることにした。

 

「昨日は、助けてくれてありがとうございました! 私、『立花 響』って言います! よければ、名前だけでも……」

 

 響はまず自己紹介をし、昨日のお礼を言う。その後、名前を聞いてみたが言葉の最後の方が尻すぼみになってしまった。

 話をしている最中も響の方を向かない雅人を不安に思っったのだ。つい昨日も話の最中に翼を怒らせてしまったばかりの響だ。振り向く気配も、喋ろうとする気配もない目の前の男の態度に不安を感じ、また自分は誰かを怒らせてしまったのかと思っても仕方のない事だろう。

 

 雅人も雅人で、この状況でどう動くか決めあぐねていた。

 一度話をしてみたいと思っていた少女の方から声をかけてきてくれたのは嬉しいが、正直今話しかけてくるのは迷惑でしかない。

 しかし、このまま何も話さずに帰ってしまったらいつか話し合うときに支障が出るかもしれない。

 

『…………『クウガ』』

 

 やむなく、雅人は名前だけを短く名乗ると駆けだした。

 ちらりと後ろを振り向くと、青髪の少女……翼がこちらに来ていたのが見えたからだ。響とは話をしてみたいと思ったが、明らかに政府の人間である翼とはきっと話をしてもややこしいことになるのは目に見えている。

 路地裏に入り、入り組んだ道を進みながらたまに建物の中を通って追ってきているかもしれない誰かを撒く。

 『ノイズ』の現れた現場から十分に距離を取った場所にある、薄暗い路地裏で立ち止まる。

 物陰に入り、辺りを警戒しながら『クウガ』の姿から人の姿に戻り、溜息を吐く。

 

「……俺は何でこんな泥棒みたいな真似をしてるんだ?」

 

 既に翼との追いかけっこは何度か経験しているため慣れっこになってしまったが、正直疲れるので放っておいてほしいのが雅人の本音である。

 

「クウガの正体も存在も秘匿するべしと言う掟がなければこんな苦労をする必要はないのに……」

 

 ――いっそ師匠のように例外を作ってしまおうか。

 

 そんなことを思いながら、雅人は大通りに戻るために暗い路地裏を進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『クウガ』……と。そう名乗ったんだな?」

 

「はい。私が名前を聞いたら、確かにそう言いました」

 

 所変わって特異災害対策機動部二課本部指令室。

 そこで、『未確認生命体一号』と呼ばれている存在に接触した響は司令である『風鳴 弦十郎』に対してそう報告した。

 

 響も『未確認生命体一号』と『未確認生命体二号』のことは、今日の出撃前に聞いている。

 どこからともなく現れ、『ノイズ』だけを倒し、どこかへ去っていく。

 今まで現場で出会った翼がしたどんな呼びかけにも応じず、喋れないのではないかと疑っていた二課の面々も、この響の報告には度肝を抜かれる思いだった。

 

「先ほど説明したように、『一号』も『二号』も俺たちの呼びかけにこの1年間答えたことはない。だが、響君の呼びかけに立ち止り、そして名乗った。これはどういうことだ……?」

 

「『融合症例』である響ちゃんに反応してるのかしら? それとも『ガングニール』に反応してる? ……だめね、情報が少なすぎるわ」

 

「……私の勘違いでなければ、『一号』は私を見て逃げ出したように見えました」

 

 翼の言葉に、一同が唸る。

 

「ん~。なら響ちゃんと『一号』を二人っきりにしてみるとか?」

 

 そう言った了子の声に、すぐさま反発したのは現場と指令室をつなぐオペレーターである『藤尭 朔也』だ。

 

「いや、それは危険すぎますよ了子さん。まだ訓練前でまともに戦えない響ちゃんをあんな得体のしれないやつと二人っきりになんてさせられないじゃないですか」

 

「や~ね~、冗談よ♪」

 

 朔也の言葉におどけてみせる了子だが、響以外の人には彼女が本気で言ったのが分かった。

 当の響は、妙に張りつめてしまった空気の中一人取り残されていた。

 

「いずれにせよ、『クウガ』と名乗ったとしても俺たちにとって奴の正体も目的も何もわからない現状では、やつの言葉を鵜呑みにすることはできん。これまで通り、『未確認生命体一号』『未確認生命体二号』と呼称する! 以上だ!」

 

 弦十郎のその一言で『未確認生命体対策会議』は終わりをつげ、全員が元の仕事に戻った。

 一人納得いかないと言った様子の響を残して。

 

 

 

 

 

 




 今回のテンプレに売った喧嘩。
 響の『奏の代わり』宣言に切れるどころか同意する。
 オリ主と二課の仲がとことん不仲。

 今話後半と次話はシンフォギア原作でスルーされた1か月の話です。
 ちょっとオリジナル展開。

 オリ主の雅人君は覚悟ふわふわタイムを目指してたりします。
 たやマさんと仲良くなれそうですね。
 前にも言いましたが、今作のクウガは原作とだいぶ設定が変わってます。
 掟なんてのもありますしね。

 因みに五代さんに協力してた警察官はご存じあの人です。
 流れた劇場版で変身する予定があったとか……小説だっけ?

 『変身!』とか『超変身!』とか期待してる人はもうちょっと待ってください!
 今はまだその時ではない。

 前回入れ忘れちゃったし次回予告でも入れるかな。

 でわまた次回!




 次回予告

「えーっと……紹介するね、響。この人がこの前話した怪我してたから手当てした……」

「立花さんが、小日向さんが言ってた「かわった親友」?」

「また秘密の用事?」

「『未確認生命体一号』……一緒に来てもらおうか」

「私にだって! 守りたいものがあるんです!! だからッ!!」

 ―――――代わりに戦って、何が悪いんだよ。



                  『葛藤』



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第三話 「葛藤」

 日雇いのバイトって今あるんですかね?

 ところで作者はおにぎりは昆布が好きです。
 次点で梅干しです。

 *2015/12/08大幅な加筆修正。2000文字追加。




 今日も今日とてコンビニでおにぎりを買って飢えをしのぐ雅人。

 

 とある事情から戸籍などがないため学校にも行けず定職にもつけず、できることと言ったら日雇いのバイトを見つけて小金を稼ぐことくらい。

 高校1年生の平均身長より少し低いため雇ってもらえるところが少ないが、それでも預けられた雄介の口座の金に手を付けるよりよっぽどいい。

 

 雄介には「俺に何かあったら自由に使っていい」と言われているが、雅人には使うつもりは一切なかった。

 

 ふと、商店街を歩いている最中に目についたのがアルバイト募集の張り紙。

 年齢問わず、無経験大歓迎のお好み焼き屋、名前は「ふらわー」。

 今どこにも当てがない雅人は、当たって砕けろの精神で突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響は今、悩んでいた。

 学校は楽しい。弦十郎からの出動要請がなければ、だが。

 『ノイズ』とは、一般的には自然災害と同じ扱いをされている。

 地震や台風と同列に扱われているのは、『ノイズ』の性質ゆえに何時どこで発生するのか予測できないからだ。

 授業中、ご飯中、遊んでいる最中、寝ている最中、『ノイズ』はこちらの都合などはお構いなしに出現する。『ノイズ』と戦えるのは『未確認生命体』を除けば響と翼だけのため、どんな用事があったとしてもそれをキャンセルして『ノイズ』撃退の為に出動しなければならない。

 

 そして『ノイズ』が発生するたびに、響はいつも一緒にいる未来に嘘をつかなければならない。

 

 遊ぶ約束をドタキャンしたこともあるし、一緒にご飯を食べている最中に突然席を立ったことも一度や二度ではない。

 響自身、頭では納得している。

 『ノイズ』に対抗する手段が『シンフォギア』だけで、それを扱えるのが響と翼だけだと言うのもわかっている。

 だが、未来に申し訳ないと言う気持ちやどこにでも現れて人を殺す『ノイズ』に対しての嫌悪。

 そしていまだに翼と連携が取れず足手まといにしかなっていない自分のふがいなさ。

 いろんなものがごちゃまぜになって最近の響はストレスでいっぱいになっていた。

 

 そんな響の様子を敏感に察知し、「今日の晩御飯はふらわーでいっぱい食べよう」と言ってきた未来に、響は一生頭が上がらないだろう。

 

 よく動く響は、自然とよく食べる。

 そんな響にとって、ふらわーのお好み焼きはうまい、早い、安い、多いのいいことずくめの四拍子だった。

 

 ここ最近ですっかり常連客になった響と未来が、ふらわーの引き戸を開ける。

 

「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」

 

 だが、そこにいたのはいつも笑顔のおばちゃんではなく響と同年代くらいの少年だった。

 黒い髪に黒い目、響よりも少し大きな身長に白いシャツの上から「ふらわー」の名の通り花の刺繍がされたエプロンを着たその姿は、昨日までこのふらわーにはなかったもの。その少年を見て、響の隣にいた未来の眼が大きく見開かれた。

 

「……五代さん!?」

 

「あれ? 小日向さん? ……と…」

 

 どうやら未来はこの少年と知りあいらしい。

 だが、響にとってそれはまだ重要ではなかった。いや、響の知らない未来の交友関係というものも興味があるが、今響が気になっているのはそこではない。重要なのはこの少年の声に聞き覚えがあると言うことだ。

 

(どこかで……つい最近聞いたような?)

 

 掴めそうでつかめない記憶をたどって四苦八苦する響。そんな響をよそに、ふらわーの店長がいつもの様に挨拶をしてきた。

 

「あぁ響ちゃん! 未来ちゃん! いらっしゃい!」

 

「こ、こんにちわ、おばちゃん」

 

「ああ店長。その様子だと常連ですか?」

 

「そうだよ! 知り合い?」

 

「小日向さんとはちょっと縁があって……」

 

 少年が喋るたびに、響の中でもどかしい思いが大きくなっていく。

 未来とともにいつものカウンター席へ座ってからも、響はジーッと少年を見続けた。そんな響の様子を見ながら、未来は遠慮がちに紹介を始めた。

 

「えーっと……紹介するね、響。この人がこの前話した怪我してたから手当てした……」

 

「五代 雅人だ。えーっと……」

 

「あ、立花 響です」

 

「うん。よろしく」

 

 響と雅人は簡単な自己紹介を済ます。そのまま雅人は響たちに注文を聞こうとしたが、その前に先ほどまでお好み焼きを焼いていた店長が雅人に声をかけた。

 

「五代君。今日は初日だし、もう上がっていいよ。ついでに未来ちゃんたちと一緒にご飯食べていきな!」

 

「え!? いや、それは……」

 

「いっつもコンビニのおにぎりなんだろう? うちで働いてる間は賄いくらい出したげるからさ」

 

「……じゃあ、お言葉に甘えます」

 

 店長の言葉を受けて、雅人はエプロンをはずして一度カウンターの奥に入り、少ししてから店の入り口から入ってきて未来の隣のカウンター席に座る。そして響と未来、雅人の三人が注文を終えると未来が雅人に話しかけた。

 

「ここで働いてたんですか?」

 

「今日からだな。日雇いのバイトで食いつないでいくのも限界が来てたからさ」

 

「学校とかは?」

 

「行ってないなぁ……。勉強は師匠が教えてくれたから全然困らなかったし。それに俺にはやらなきゃいけないことがあるからさ」

 

 響から見て、雅人は不思議な雰囲気の少年だった。あまり同年代の男子と交流を持ったことはないが、それでも響のイメージする同級生男子よりも落ち着いた雰囲気を感じた。さっきの会話だけでも目の前の少年が学校に行っていないことがわかるし、雅人が「やらなきゃいけないこと」と言った時の顔は、翼や2年前に一度だけ見た『天羽 奏』のような『戦士』の顔をしていた。

 

 ――浮世離れ? していると言うか、なんというか。

 

 響の雅人に対する第一印象は「不思議な人」だった。

 そんな風に考えながら響は未来と雅人の会話を聞いていたが、その会話の矛先が急に響の方に向いた。

 

「立花さんが、小日向さんが言ってた「かわった親友」?」

 

「ちょッ! 五代さん!」

 

「未来、そんなこと言ってたの!?」

 

 驚愕である。まさか親友だと思っていた未来からそんな評価をされていたとは思わなかった響は、頬を膨らませて未来に抗議の視線を送る。その様子を見ていた未来は焦り、雅人は「余計なことを言ったかな?」といった感じでバツが悪そうにしている。

 

「あれ? 言っちゃまずかったか……」

 

「もうッ! 五代さん! ごめんって響~!」

 

「ふ~んだ! かわった私と付き合ってる未来はも~っとかわった子だもんね~!」

 

「付き合ってる?……そ、そう言うことだったのか。うん。まぁ趣味は人それぞれって言うし……」

 

「そう言う意味じゃありません!!」

 

 雅人の間違った解釈の意味をすぐに察した未来が、真っ赤な顔でそれを否定する。

 当事者の響は雅人の言った言葉の意味を理解しておらず、頭の上に疑問符を浮かべていた。

 そんな風に一通り騒いだ後、雅人が話題を変えようと口を開いた。

 

「にしてもびっくりしたなぁ~。まさかここの常連だったなんて……」

 

「それはこっちのセリフですよ」

 

 そこで雅人は少し真面目な顔をする。

 

「小日向さんと立花さんって、高校生だよな?」

 

「え?はい。1年生ですけど……」

 

「ということは15~16歳だよな?同い年だから敬語使わ無くてもいいさ。喋りにくいだろ?」

 

「え~っと…」

 

 答えづらそうにする響と未来。

 

「? なんか不都合でもあったか?」

 

「いや、そう言うわけじゃ、ないんだけど……」

 

「ただ、同い年の男の子とあんまり話したことがなかったから……」

 

「ずっと女子校だったのか?」

 

「いや、中学まで普通に共学だったんだけどね」

 

「ふ~ん……」

 

 そこで雅人は追及をやめる。答えづらそうな響たちを見て察してくれたようであり、そんな雅人の気遣いが響にはありがたかった。

 ちょうどその時、出来上がったお好み焼きが目の前に並べられた。

 

「ハイよ! おばちゃん特製のミックススペシャルだよ!」

 

「おぉぉおお~~!! おいしそう~~!!」

 

「こ、これを食ったらもうコンビニおにぎりの生活に戻れなくなりそうだ……」

 

「いや、戻ったらダメでしょ?」

 

 未来のツッコミを聞きながら響たちはお好み焼きにかぶりつく。

 

「あっちゃ~~!! あづい!!」

 

「出来立ては熱いからねぇ~。はい水」

 

「ありがとうございます店長!」

 

 火傷しそうになったのか、雅人は水を口いっぱいに含んで舌を冷やす。

 その後は響と未来に雅人を加えた3人で談笑しつつお好み焼きを食べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お好み焼きを食べ終わり、響は未来と一緒にふらわーを出ようとしたところでポケットの携帯がなっているのに気付いた。

 険しい表情で携帯の画面を見る響を見て、未来は呆れたような、そして少し心配そうな顔をする。

 

「また秘密の用事?」

 

「……うん。ごめんね、未来」

 

「ここ最近いつもだね。いいけど、体壊さないようにね」

 

「うん。ホントごめんね!」

 

「玄関の鍵、開けとくからね」

 

 そう言って未来は一人寮に帰って行った。その背中は寂しそうで、そんな未来を見るたびに響の胸は締め釣れられるように痛む。いっそのことすべて打ち明けてしまいたいが、そんなことをしてしまうわけにもいかず、隠し事だけが増えていく。

 

 せめて早く帰るために、そして困っている人たちを少しでも早く助けるために。

 響は未来が帰っていった方向とは逆方向に歩きながら改めて電話に出た。

 

 一方、響が出て行った正面の入り口とは逆の裏口から外に出る雅人。

 更衣室代わりに使わせてもらっていた一室から荷物を回収した雅人は、『ノイズ』の気配がする方へ走る。しばらく走って誰もいない場所に来てから覚悟を固め、クウガになる。

 

 色は、再び『白』。

 

 いつまでたっても『赤』になる糸口を見つけられないまま、雅人はまた闘いの中に身を投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は夜。弦十郎から聞いた『ノイズ』の出現地点である倉庫街に響がたどり着いた時には、月が天高くそびえ、響を照らしてた。

 人気のない倉庫街はドラム缶や鉄骨などがあたりに散乱しており、響が一歩踏み出すたびに踏みしめた砂利がザクザクと音を立てる。響が今いる場所よりも奥から『ノイズ』の特徴的な声や何かを殴る音が聞こえてきた。そちらに歩を進めると、次第にところどころ炭の塊がころがっているのに響は気付いた。

 胸の内から溢れてくる歌詞に従って聖詠を奏で、『シンフォギア』を纏って戦闘音がする方に駆けつけてみると『一号』……『クウガ』が多数の『ノイズ』に囲まれながら戦っていた。

 

 『クウガ』はボクシングの様にワン・ツーを決めてからの左フックを『ノイズ』の横っ面に突き刺す。それによってよろめいた『ノイズ』の頭を『クウガ』は掴み、そのまま膝蹴りを叩き込んだ。炭になった『ノイズ』を『クウガ』は最後まで見ることなく、後ろから襲い掛かる『ノイズ』に右肘でカウンターを叩き込み、肘を打ち込んだ反動を活かして左に回転しながら裏拳を叩き込んだ。

 『クウガ』は裏拳を喰らって倒れた『ノイズ』を放置し、人型の『ノイズ』が振るった爪をしゃがんで躱し、ノイズの顔と腹をめがけて起き上がる反動を使って勢いよく両手で突いた。空手の技で「山突き」と呼ばれるそれは、当たったノイズを炭に変えながら吹き飛ばした。

 その後『クウガ』は大きくバックステップを取り、体制を整えてから再び『ノイズ』と対峙する。

 

「たああああああ!!!」

 

 そこへ響が雄たけびを上げながら突っ込む。

 拳を握りしめ、何の策もなしに真正面から。それは人間相手には愚策だが、動きが緩慢な『ノイズ』相手なら関係ない。その動きは誰がどう見ても素人だが、『シンフォギア』は装者に対して多大な恩恵を与える。たとえば、身体能力の強化。

 気付いた『ノイズ』が振り向いたときにはもう遅く、響に殴り飛ばされたノイズは一発で炭素の塊に変わった。

 

 ――羨ましいな、あの力は。

 

 響の倒した『ノイズ』だった者を見ながら、『クウガ』……『五代 雅人』はそんな風に思った。

 『クウガ』が連撃を叩き込んでようやく一体だと言うのに、響は大した戦闘経験がない状態でも当たれば一撃で『ノイズ』を倒すことができた。これだけでも『シンフォギア』という兵器がどれほどの性能を有しているのかがよくわかる。

 

 ――だけど、一撃後の隙が大きすぎるな。

 

 響は先程全力でパンチしたためバランスを大きく崩し、体が泳いでしまっている。そんな響を見逃すはずが無く、一体の人型『ノイズ』が響に襲い掛かった。

 『クウガ』は今相手をしている『ノイズ』を正拳突きでよろけさせ、その隙に響を庇うように響の前に移動し、迫りくる『ノイズ』と取っ組み合いになる。『ノイズ』は爪で、『クウガ』は両手でお互いの肩を掴む形になるが、『クウガ』はそのまま右足を『ノイズ』の腹部に引っ掛け、そのまま『ノイズ』を思いっきり蹴り飛ばした。

 蹴りをもろに喰らった『ノイズ』は、体に『刻印』を浮かべながら数歩後ずさる。蹴り飛ばした反動から宙に跳び上がっていた『クウガ』はそのまま着地し、左膝と左手を地面につけ、何が起こってもすぐに動けるような体制を取りながら目の前の『ノイズ』を見つめる。『クウガ』と体勢を立て直した響が見詰める中、しばらく暴れていた人型『ノイズ』は、やがて周りの『ノイズ』を巻き込んで爆発した。

 

 まだ多数のノイズが残るその戦場へ青髪の少女……『風鳴 翼』が到着する。

 群がる『ノイズ』に向けて走りながら大剣を一閃。衝撃波が奔り数十の『ノイズ』をまとめて消し飛ばした。そのまま『ノイズ』の集団の中心に突っ込んだ翼は、逆立ちになり足のブレードを展開。コマのように回りながら次々と『ノイズ』を切り裂いていく。切り裂かれたノイズは次々と炭素に変わり、炭が舞い散る戦場を彼女は駆け抜けていく。

 ギアを使いこなした彼女の参戦により、戦闘はあっさり終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘が終わり、倉庫街には再び静寂が戻ってきた。『クウガ』と響は背中合わせになっており、翼は一人少し離れた位置から『クウガ』の様子をうかがっているようだ。

 何とか今日も戦い抜けたと雅人が安堵している時に、事件が起こった。

 

「『未確認生命体一号』……一緒に来てもらおうか」

 

 そんな言葉と共に、今まで一緒に戦っていた翼が『ノイズ』に向けていた剣を『クウガ』……雅人に向けてきたのだ。

 

 ――みかくにんせいめいたいいちごう……俺のことか!?

 

 いきなり訳のわからない名前で呼ばれ、雅人は軽く混乱した。

 それもそのはず二課といっさい接点がない雅人は、二課内部で自分が何と呼ばれているのか全く知らない。以前響に名前を聞かれ、その際に名乗ったから普通に『クウガ』と呼ばれると思っていただけにその衝撃は大きかった。

 が、雅人がいくら動揺していても『クウガ』は仮面をかぶっているのだ。表情がわからない『一号』にたいし、翼は「やはり答えないか……」と諦め、響は怒らせてしまったのかとオロオロしている。

 実際はあんまりな呼び方にショックを受けているだけだが、そんなことは全く知らない翼は『一号』に向けて刀を振るった。

 警告なしの斬撃に驚きながらも雅人はギリギリしゃがんで躱し、そのまま地面を転がりながら距離を取る。

 

「『未確認生命体一号』……お前を連行する」

 

 ――この少女は人のことを何だと思ってるんだろう?

 

 確かに今まで雅人と翼は何度も共闘しており、翼の方はそのたびに雅人に対して接触を図ろうとしていた。そんな翼の呼びかけに一向に応えなかったことは雅人に非があるが、雅人にだって応えられない事情がある。

 クウガの情報を拡散してはならない。『クウガ』の掟でそれは明言されているし、歴代の『クウガ』もその掟を護り続けてきた。これまでの『クウガ』がずっと守り通してきた掟を、すでに形骸化してきているとはいえ気軽に破っていいわけがない。が、翼はそんなことはお構いなしに剣を構えた。

 

「抵抗するな。下手に動けば命の保証はしない」

 

「ちょ!? 翼さん!?」

 

 翼の行動に驚き今まで呆然としていた響も、さすがに聞き捨てならない言葉が聞こえてきたので、頭を切り替えて『クウガ』を庇うように前に出て翼に抗議する。

 

「ダメですよそんな……この人と戦うなんて! 私たちが戦うのは『ノイズ』であってこの人じゃないです!」

 

「……貴女はあれを人だと言うの? 聖遺物を使うわけでもなく、『シンフォギア』も纏わずに素手で『ノイズ』を葬るあれを……」

 

「それは……」

 

 翼の言葉に響は逡巡する。正直、翼の言うように素手で『ノイズ』を倒す『一号』を本当に人と呼んでいいのかどうか響にはわからない。だが、響は確かに『一号』の言葉を聞いたのだ。ならば、響がすることは一つだけだった。

 

「わかりません……。だけど、意思の疎通はできるんです! 話せるんですッ! 私たちには言葉があるんだから戦う必要なんて……」

 

 そんな響の言葉を、翼は真っ向から否定する。

 

「その意思の疎通ができたのは貴女一人だけよ。それに、あれが『ノイズ』と別物だという証拠もどこにもない。『ノイズ』を殺しつくした時、いずれ私たち人間にも牙を剥くかもしれないのよ?」

 

「そんなの、勝手な推測じゃないですか! 翼さんが勝手に決めつけてるだけです!」

 

「黙りなさい!! ろくな覚悟も持たず、『アームドギア』も無しに戦場にのこのこ出てくる貴女に何がわかるの!?」

 

「私にだって守りたいものがあります!! それを否定することは、たとえ翼さんが相手でも許しません!!」

 

 二人の口論は次第に激しくなり、やがて睨み合いになる。

 一触即発の空気の中、翼は一度ため息を吐き、口論の間に詰め寄る形になってしまっていた響から距離を取る。

 

「なら、貴女の『覚悟』を見せて見なさい。数日前の続きよ。構えなさい」

 

 その手に持つ刀を正眼に構え、翼は響と正面から向き合う。

 翼の威圧感に響は一瞬気圧されるも、それでも拳を握りしめて構える。

 

(本当は、翼さんと戦いたくなんてない……。ノイズを倒して、人を助けるための『シンフォギア(この力)』を人に向けたくない……。だけど、私にだって譲れないものがある。守りたいものがあるッ!)

 

「私にだって! 守りたいものがあるんです!! だからッ!!」

 

「『奏の代わりに戦う』だなんてバカなことを言うあなたが何をッ!!」

 

 叫びながら、同時に飛び出す二人の戦姫。

 響が拳を振りかぶり、翼が刀を振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを、途中で止めたものがいた。

 

 響の拳を右手で受け止め、翼の刀を左手で握りしめて止めた『未確認生命体一号』……雅人である。

 刀を握りしめているため、その手からはとめどなく紅い血が流れている。

 

『――――――』

 

「え?」

 

 『一号』はギリギリ聴こえない声量で何か言った後、その場を駆け出して行った。

 その後姿を呆然と見ながら、響はかすかに聞こえた言葉を思い出す。

 

 ―――――代わりに戦って、何が悪いんだよ。

 

 翼には聞こえなかったようだが、響には確かに聞こえたような気がした。

 




 今回のテンプレに売った喧嘩。
 響と翼の仲が原作より険悪。
 貧乏オリ主。

 前回までに入れ忘れた喧嘩。
 クウガ原作の流れは入らない。

 どーも皆さん!名無しのごんべいです!
 第三話、今だにグローイングのままです!
 ビッキーとSAKIMORIもだんだん険悪な中になり、なんか書くのが楽しくなってきました!
 今回は前回言った通りシンフォギア原作の空白の1か月の一幕です。
 ビッキーはまだ弱い。

 感想!批判大募集!ただし誹謗や中傷は勘弁な!
 皆さんの感想が作者の餌になります!
 まぁ、無くても投稿し続けるんですけどね。

 因みにオリ主の雅人君の見た目とか書いときます。

 身長は165㎝。
 体重は64㎏。
 黒髪黒目の日本人らしい顔立ち。
 SAOのキリト君を童顔じゃなくした感じですかね?一番近いのがそんな感じです。
 ジーパンに黒いジャケットを着てます。

 ……こんなところかな?





 では次回予告!どぞ!





「1月たっても、噛み合わんか……」

『止めてください翼さん!! 相手は人です!! 同じ人間です!!』

「私のテッペンは、まだまだこんなもんじゃねえぞォッ!!!」

(俺の……クウガのやることは変わらない!)

「防人の生き様……覚悟を見せてあげるッ! 貴方の胸に、焼き付けなさいッ!!」

「俺のやりたいこと…………」

                  『覚悟』



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第四話 「覚悟」

 シンフォギアキャラの内面を掘り下げていくのが楽しくて仕方ない。

 2016/4/6修正完了。ほとんど戦闘回だったこの回はやっぱり戦闘描写中心の修正。




「1月たっても、噛み合わんか……」

 

 モニターを見ながら、弦十郎は溜息を吐いた。

 彼が見ているモニターには、連携をとる気など全くないと言わんばかりに別々に戦う2人の少女が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、夜の倉庫街で響と翼が私闘一歩手前までお互いの気持ちをぶつけ合った日以来、二人の仲はますます険悪になっていた。

 以前は響から歩み寄ろうとして翼が拒否すると言う構図だったが、今では二人とも顔を合わせようともしない。

 響自身、今のままでいいなどとは思っていないが、和解のきっかけが全くないのではどうしようもない。

 この1か月『一号』と共闘してきたが、響は『一号』が人にその拳を振るう場面を想像することがどうしてもできなかった。

 相変わらず響が呼びかける前に『一号』は戦場を去ってしまうが、それでもいつか言葉を交わせると響は信じていた。

 

 そんな響の態度が、翼を苛つかせていた。

 翼にとって響のやっていることは只の無駄でしかない。

 戦場で言葉は不要。ましてや、ただの一言も喋らず、翼の呼び掛けにも答えないだけでなく、『シンフォギア』を用いること無く素手で『ノイズ』を打倒する。そんな得体のしれない存在と共に戦うなど、翼にとっては論外だった。

 翼にとって、立花 響という人間は絶対に相容れない存在だった。

 大した覚悟も持たず、へらへらと笑いアームドギアも出せない半端もの。

 そんな彼女にあろうことか『奏の代わり』などと言われたのが何よりも我慢できなかった。

 

 そんな二人の確執をさらに深める事件が、倉庫街での戦闘の直後に起こった。

 

 あの時、翼も響も刃を握りしめて止める『一号』から、確かに『赤い血』が流れているのを見た。

 人と同じ血が、『一号』にも流れている。つまり、『一号』は同じ血の通った人間である可能性が高い。採取した『一号』の血液を分析してみても、普通の人間と何ら変わらない数値が出た。

 それを聞いた響は喜び、翼は認めなかった。

 

 

 

 

 

 そんな二人をよそに、雅人は今日もふらわーで労働の汗を流していた。

 日雇いの時とは比べ物にならない給料は、長い孤独な生活で荒んでいた雅人の心に余裕を持たせることに成功した。

 常連客とも世間話するようになり、よく来る響や未来とは友達と言える仲になっている。

 今では世間話ついでに師匠である雄介と共に世界各地を冒険していた時のことを話したりもしている。もちろん、『クウガ』のことは伏せているが。

 そんな雅人はもちろん、未来も最近響の様子がおかしいことは知っている。

 妙に苛ついているときがあるし、最近は響一人でいる時はたいてい仏頂面だ。

 ある程度の事情は見て知っている半分当事者の雅人と違い、未来は何が原因なのかわからず、たびたび一人でふらわーに来ては雅人やおばちゃんに相談することがある。

 どうにかしてあげたいと思う雅人だが、あいにく原因の場面に遭遇する時は雅人ではなく『クウガ』だ。

 『クウガ』の姿で首を突っ込むのも難しいし、かといって雅人のまま響と話しても雅人が知りえない情報を持っていたら疑われる。そもそも、響と翼の確執の原因の半分は『クウガ』だ。『クウガ』である雅人が何かしても、余計に悪化する未来しか見えない。

 一番てっとり早いのが雅人が正体を明かすことなのだが……。

 

 ―――――『クウガ』の正体を明かすのはなるべく最後の手段にしたいが……そうも言ってられなくなるかもな。

 

 いずれは雄介のように例外を作らなくてはならなくなるだろう。

 今の時代、誰の目にも触れないように『ノイズ』と戦うのは困難だ。

 事実、一年前に翼と遭遇してしまってから翼の所属している組織は躍起になって『クウガ』……二課では『一号』と呼ばれているらしい……を捉えようとしている。

 

(バイトと政府の組織への対応と立花さん達の問題といつまでたってもなれない『赤のクウガ』……やることが多すぎて眩暈がするな)

 

 賄いのお好み焼きを食べて、ふらわーを出る。今日は早めに上がっていいと言われたので、厚意に甘えて夕暮れの街を散歩する。

 雅人には、昔から何か考える時は散歩しながら考える癖がついている。雄介の冒険に同行していたため、移動の際歩くことが多かったからそれに合わせていたらいつの間にかこうなっていた。

 

 雅人が考えているのはもちろん、『赤のクウガ』のこと。

 

(覚悟はある。師匠の代わりに『誰かの笑顔を守るために』戦うんだ。なのに……どうして『赤』になれないんだ? 誰かの代わりに戦うのはそんなに悪い事なのか?)

 

 答えのでない問題に悩む暇もなく、首筋にチリチリとした感覚。

 この二年間で馴染みの深い、だが慣れたくはない『ノイズ』が出現する感覚に従って、雅人はいつの間にか夜になっていた町の中を走り抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ノイズ』の気配がした公園へと雅人が駆け付けた時、そこには三人の少女がいた。いつもと違うその状況に、雅人は咄嗟に植え込みに隠れる。

 三人の少女、その内の二人はもちろん響と翼だ。雅人にとっても見慣れた二人は、揃って三人目の少女を見ている。

 三人目の少女は、銀色だった。

 厳つい銀色の鎧を身にまとい、両肩には棘のようなものが何本も伸びており、そこから垂れ下がる銀色に輝く鞭のようなものをその手で弄んでいる。その顔は目を隠すバイザーに覆われていてよく見えない。

 

 何か会話しているようだが、植え込みに隠れて様子を見ている雅人には風向きの関係からか聞こえてこない。

 やがて鎧の少女に向かって翼が大剣を構え、鎧の少女も鞭と、そして盾とも杖とも取れるものを構える。

 

『止めてください翼さん!! 相手は人です!! 同じ人間です!!』

 

『『戦場で何をバカなことをッ!!』』

 

(息ピッタリだな……)

 

 剣を構える翼を止めようと響が抱き着くが、翼と鎧の少女は逆に響を一喝する。

 

 雅人がどうでもいいことを考えているうちに、戦闘が始まった。

 鎧の少女が左手でしならせた鞭を翼たちに向かって振るう。

 咄嗟に響を突き飛ばした翼は跳躍し、空中で大剣を振り上げた。スパークが走り、振り下ろした大剣から三日月状の衝撃波が出る。それを鎧の少女は鞭を一振りすることで弾き、不敵に笑う。

 翼は一瞬表情を変えるもすぐに着地し、大剣を少女に向けて横一文字に振るった。少女は振るわれた大剣をヒラリと躱し、翼は躱されて体勢が崩れる。転びそうになると見せかけ、翼は足のブレードを展開。そのまま足を振りかぶりブレードを少女に向けて振るうが、またも躱された。

 そして鎧の少女の鋭い蹴りが翼の腹部を的確に捉えた。

 

「ネフシュタンの力だなんて思わないでくれよなァ!! 私のテッペンは、まだまだこんなもんじゃねえぞォッ!!!」

 

 今度は鎧の少女の猛攻が始まった。

 鞭を振るい、叩き付ける。

 地面がえぐれ、翼が足場にした木が半ばから折れる。

 戦いを止めようと響が鎧の少女に向かって走り出すが、少女が右手に持った杖のようなものを響に向けると、そこに『ノイズ』が出現。『ノイズ』はまるで鎧の少女に操られているかのように動き、響を拘束する。

 

 今まで戦いの様子を静観していた雅人も、『ノイズ』が出てきた時点で動き出した。

 

 今までは会話がほとんど聞こえなかったため状況がわからず、また、相手が人間ということもあって出しゃばることもできなかったが、『ノイズ』が出てきたとなれば話は別。植え込みから出ると同時に『クウガ』になり、鎧の少女に向けて駆け出した。

 相変わらず『白のクウガ』のままだが、それでも常人を超えた脚力で鎧の少女を強襲。

 雅人が狙うのはただ一つ、『ノイズ』を操っていると思われる杖。

 

 背後から近付いてくる『クウガ』に気付いた鎧の少女は、咄嗟に鞭を振るう。横薙ぎに振るわれる鞭を『クウガ』は前転で回避し、すぐさま起き上がって杖に向けて右拳を振るった。

 だが、目標である杖が遠ざかる。

 鎧の少女が『クウガ』の拳を躱すように体を回転させ、『クウガ』に向かって回し蹴りをしたからだ。

 『クウガ』は左腕で咄嗟に少女の足を防いだ。

 それでも尋常でない脚力によって吹っ飛ばされ、公園の芝をゴロゴロと転がる。

 

「てめぇが第二目標か……。聞いた通りの弱そうなやつだな!」

 

 『クウガ』は少女の声に答えず無言で立ち上がり、周りの状況を把握する。

 翼は『クウガ』と鎧の少女を見て警戒しており、響はノイズに捕まっている。

 

(俺の……『クウガ』のやることは変わらない!)

 

 『クウガ』の力は人間同士が争うために振るう力ではない。

 だからこそ、雅人はこれまでどれだけ翼に攻撃されようと反撃しなかったし、さっきの攻撃も杖だけを狙って拳を振るった。

 

 『クウガ』は杖はひとまず諦めて響の方へ向かう。

 響を捉えているために動かない『ノイズ』に向けて飛び蹴りを放ち、着地した瞬間に拳を連打。

 7発目のパンチで炭になったのを確認すると次の『ノイズ』を攻撃する為に動き出す。

 

「てめェ……! あたしを無視してんじゃねえッ!!」

 

 絶叫と共に叩き付けるように振るわれた鞭を『クウガ』は横っ飛びで躱し、そのまま2体目の『ノイズ』に攻撃を仕掛ける。

 あくまで『ノイズ』のみを狙う『クウガ』に対して激昂した鎧の少女が鞭を振るうが、『クウガ』はそれを利用して『ノイズ』との同士討ちを狙った。

 『クウガ』の狙いは見事に命中した。少女の大振りを誘うためにあえて空中に身体を晒していた『クウガ』は、自身を狙って振るわれた鞭を空中で体をひねって回避した。『クウガ』を素通りする形となった鞭は、響を拘束していた『ノイズ』を全て真っ二つにした。

 唖然とする鎧の少女に向かって翼が攻撃をしかけた。

 

「あの男にかまけて、私から気を逸らすかッ!!」

 

 だが、鎧の少女はそれを一蹴する。

 

「のぼせ上がるな人気者ォッ!! 誰もかれもが構ってくれるなどと思うんじゃねえッ!!!」

 

 そのまま鎧の少女は公園内に大量の『ノイズ』を召喚。翼が鎧の少女と戦いながら『ノイズ』を蹴散らしていくが、次から次へと召喚される『ノイズ』の数に追いついていない。

 

 それを見た『クウガ』は駆け出し、一番近くにいた『ノイズ』に走りながら体重を乗せたパンチを放つ。殴られた箇所に刻印を浮かべながらゴロゴロと転がっていった『ノイズ』は、『ノイズ』の集団の真ん中で止まりそのまま爆発。爆発を利用して10体近くをまとめて倒した『クウガ』は、それを確認するとまた別の『ノイズ』を狙って攻撃を仕掛けた。

 棒立ちする『ノイズ』の腹に正拳突きを放ち、よろめいたところにハイキックをかます。大振り後の隙を狙って一体の『ノイズ』が『クウガ』の背後から襲い掛かる。それを『クウガ』が迎撃しようとした瞬間、『ノイズ』の腹部から拳が突き出され、『ノイズ』が炭へと変わった。

 見れば、『クウガ』の後ろで響も拳を振るい、見よう見まねでパンチを繰り出していた。

 『クウガ』と響の幾度目かの共闘。二人は何時かの時と同じように背中合わせになって拳を振るった。

 だが、たった二人では無数にいる『ノイズ』に対処できず、やがて囲まれる。二人が背中合わせに構えながら『ノイズ』と対峙していると、ひときわ大きな爆発音が聞こえた。

 

「まぁるで出来損ない…」

 

 見れば翼が地に伏せ、鎧の少女は無傷で立っていた。

 

「翼さんッ!!」

 

 飛び出そうとする響を『クウガ』が手で静止する。

 二人は『ノイズ』に囲まれている状況にあり、下手に動けば無数の『ノイズ』に押しつぶされることになる。

 

「確かに……私は出来損ないだッ……!」

 

「ハァン……?」

 

 翼がボロボロの体に力を込め、その手の刀を杖代わりにして起き上がる。

 

「この身を一振りの剣と鍛えてきた筈なのに……あの日、無様に生き残ってしまった。出来損ないの剣として、恥を晒してきた……。

 だがそれも今日までのこと……。奪われたネフシュタンを取り戻すことで、この身の汚名をそそがせてもらうッ!」

 

 ボロボロで、満身創痍になってなお立ち上がる翼。

 立ち上がった翼の眼には、覚悟が見えた。

 そんな翼の姿になにかを感じたのか、鎧の少女の声は先程までの挑発的なものではなく、一瞬穏やかなものになっていた。

 

「……そぉかい。だったら……ッ! なに!?」

 

 だが、その一瞬が隙となった。

 鎧の少女が翼に止めを刺そう一歩踏み出そうとした瞬間、何かに阻まれたように動きを止める。

 見れば鎧の少女の影に短刀が突き刺さっており、それが動きを阻害しているようだった。

 

「こんなもんでッ! あたしの動きォッ! ッ!」 

 

 再び激昂し、拘束を無理矢理解こうとした少女は、何かに気付いたように動きを止める。

 バイザーで覆われたその表情は、驚愕に満ちていた。

 

「まさかお前……歌うのか!? 『絶唱』をッ!?」

 

 驚愕と焦燥に少女の声が震える。そんな少女に向け、翼は笑みを浮かべてゆっくりと語りかける。

 

「月が出ている間に、決着をつけましょう……」

 

 雲が流れ、月光が翼と鎧の少女を照らす。

 そして翼は刀を響に向ける。

 

「防人の生き様……覚悟を見せてあげるッ! 貴方の胸に、焼き付けなさいッ!!」

 

 翼にまっすぐ見つめられた響は、金縛りにあったかのように動けない。

 

 そして翼は刀を天に掲げ、歌った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『絶唱』を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 圧倒的な破壊の奔流が公園を襲う。

 鎧の少女一人だけに向けられたはずのそれは、余波だけで公園にいた全ての『ノイズ』を駆逐する。

 『クウガ』は、咄嗟に後ろにいた響を庇うように抱きしめた。地面に踏ん張って襲い掛かってくる衝撃に耐えるが、『クウガ』の抵抗も虚しく体が浮き上がり響と共に公園の端まで吹き飛ばされた。

 それでもなお続く破壊に耐えるため、歯を食いしばる。

 

 やがて光が止み、あとに残ったのは『クウガ』と響に背を向けて立ち尽くす翼と数十メートル吹き飛ばされた鎧の少女だった。

 あの威力の攻撃を食らってもなお少女の鎧は健在だった。ところどころ欠け、罅が入っているが戦闘は問題なくできるだろう。

 『クウガ』は吹き飛ばされた衝撃で揺れる視界の中懸命に立ち上がり、少女がいつ襲い掛かってきてもいいように構えをとる。だが、鎧の少女はしばらくその場で蹲ると、『クウガ』と翼を一度睨み付けた後どこかへ飛んで行ってしまった。

 

 

 

 

 

「翼さぁぁああん!! 翼さぁぶっ!!」

 

 ようやく衝撃から立ち直った響が翼に駆け寄るが、途中でえぐれた地面に足を取られてこけてしまう。

 

 すると黒塗りの車が翼の前に止まり、そこから雅人がいつか見たことがある赤い髪の大男が出てきた。

 

「翼ぁ! 無事かッ!?」

 

 大男の声に反応したのか、今までピクリとも動かなかった翼がゆっくりと声を発した。

 

「私は……人類守護を務める防人……」

 

 震えた声で言いながら、翼は緩慢な動作で響と大男の方へ振り返る。

 そこには、目や口から夥しい量の血を流し、それでも赤髪の大男に笑いかける翼がいた。

 

「こんなところで……折れる剣ではありません……ッ!」

 

 言った直後、自分が流してできた血だまりに倒れ伏す翼。

 

「翼ぁッ!!」

 

「翼さぁぁぁぁあああああん!!!!」

 

 響の絶叫が、夜の公園に響く。

 

 すぐに男に担がれた翼は車に運び込まれ、響が翼の名を呼びながら同乗する。

 運転席にいたメガネの女性が一瞬だけ『クウガ』の方を見るが、すぐに車を走らせ公園から去っていった。

 

 しばらくその場で呆然としていた『クウガ』は、公園を出て人気のない路地裏でもとの姿に戻った。

 血を流しながら笑う翼の顔が、雅人の瞳に焼き付いて離れない。

 

《防人の生き様……覚悟を見せてあげるッ!》

 

 翼は響に向けてそう言った。

 あんな風にボロボロになって、それでも笑っていられるのが覚悟だと言うのだろうか?

 人を容易に殺せる力を放って、自分も死にそうになるのが覚悟なのだろうか?

 

《覚悟とか……そんなに難しいものじゃないよ。ただ、自分がどうしたいのか、何がしたいのかをちゃんと考えるんだ。俺は、それが『誰かの笑顔を守るため』だっただけだよ》

 

 かつて雄介が言った言葉を、雅人は思い出す。

 

《君にもきっと見つかる。自分がやりたいこと。やるべきことが……》

 

 やるべきことはわかっている。

 『クウガ』となって、雄介の代わりに『誰かの笑顔を守るために』戦う。

 それが雅人の義務だ。

 

 だが……。

 

「俺は…………」

 

 脳裏に浮かぶのは先程の光景。

 血を流しながら歌う翼の姿。

 

 あれが覚悟だと言うのなら…………。

 

「……クソッ!」

 

 誰もいない路地裏で、雅人が壁を殴る音だけが響いた。

 

 

 

 夜が明けるまで、響き続けた。

 

 




 今回のテンプレに売った喧嘩。

 ギスギスしてきた二課。
 クリス説得フラグ立てない。
 翼さん絶唱から救出無し。

 どうもみなさん。名無しのごんべいです。
 そろそろグローイングの出番も終わりが近づいてきました。
 再登場するから心配するなよ!

 にしてもあれですね。
 響の成長とか翼さんが考えを整理する時間とか、そう言う面でも翼さんの絶唱は結構不可避なイベントだと思うんですけど、他の二次創作見てると絶対オリ主が絶唱を回避してるんですよね。
 って言うわけで今回も「そのテンプレをぶち殺す!!」というそげぶならぬそてぶです。
 テンプレは壊すもの。

 にしてもうちの雅人君も結構なボッチになってきたな。
 当初はこのあたりで二課と合流する予定だったのに。

 感想でアルティメットについて聞かれたんでついでに言っておきます。
 ライアルは出ません。
 断言します。

 ラ イ ア ル は 出 ま せ ん。

 感想!批判大歓迎!ただし誹謗中傷は勘弁な!

 そろそろ大まかな設定を説明する回を入れたい。




 では、次回予告、どぞ!


「今は、俺たちにはやるべきことがある。」

「『一号』と言えば、最近まったく『二号』を見ませんね」

「五代さんも、元気ないね」

「だったら簡単よ。前に『赤』になった時のことを思い出して、その再現をすればいいのよ!」

「五代君ってクウガでしょ?」

「仮面……ライダー……」

「だから見ていてくれッ!! 俺の!! 『変身』ッ!!!」

                   『変身』




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第五話 「変身」

 クウガを題材にするうえでこのタイトルは外せない。

 2016/4/6修正完了。まさかの8000文字超えでさすがに草。




「翼ちゃんについてなくていいの?」

 

「今は、俺たちにはやるべきことがある。それに、そんなことをすれば逆に翼に怒られる」

 

「それもそうね♪」

 

 特異災害対策機動部二課本部指令室。

 そこで弦十郎と了子は、数日前に起こった夜の公園での戦闘について話し合っていた。

 

「『ネフシュタンの鎧』か……行方不明になっていた完全聖遺物が、こんな形で現れるとはな」

 

 『ネフシュタンの鎧』。

 それは、かつて二課が保有していた完全聖異物であり、彼等にとって因縁深い物であった。

 

「それと、あの子が持っていたノイズを操る杖……あれもおそらく完全聖遺物よ」

 

「何!?」

 

 突然の了子の発言に弦十郎は驚愕した。

 

 完全聖遺物。

 今、現存する聖遺物のほとんどは長い年月を経て欠片しかない状態のものばかりだ。翼や響の纏うシンフォギアである天羽々斬(アメノハバキリ)やガングニールも、現代にかろうじて残されていた聖遺物の欠片から作られたものだ。

 だが、完全聖遺物は違う。長い年月をかけても劣化することなく、完璧な状態で保存されたもの、それが完全聖遺物だ。その希少度は通常の聖遺物の比ではなく、欠片の状態で使っているシンフォギアよりも強力だ。

 そんなものが二つも敵対する者の手に有るのだ、弦十郎の驚愕も当然だろう。

 

「詳しいことはまだわからないけど……1週間頂戴。丸裸にしてみせるから」

 

「頼んだぞ、了子君」

 

「お任せあれ~♪」

 

 そして二人の会話が一段落すると同時にあおいがモニターを操作する。先程までネフシュタンの鎧の少女が映されていたモニターが切り替わり、そこには『未確認生命体一号』が映し出された。

 

「今回で新たに分かったことと言えば、『未確認生命体一号』は『ノイズ』しか狙わないってことかしら?」

 

「だけど、ネフシュタンの少女も攻撃してますよ?」

 

 朔也がモニターを見ながら言う。

 そんな朔也に対し、了子はモニターを指差しながら反論した。

 

「んもぅよく見なさい! 彼が狙っているのはネフシュタンの子じゃなくて杖の方でしょ?」

 

「ホントだ……」

 

 了子の言葉通り、『一号』は少女ではなくその手にある杖を狙っているようにも見える。また、『ノイズ』が出現するまで全く姿を現さなかった事から、本当に『ノイズ』のみを狙っているのかもしれないと、弦十郎達は考えている。

 

「迎撃されてから攻撃されても一切反撃せず、『ノイズ』だけを狙い続けてる……」

 

「『一号』の狙いは、『ノイズ』……またはそれを生み出す聖遺物だけということか」

 

「もしくは、『ノイズ』を倒すことだけをプログラムされているか……」

 

「了子さんは、『一号』が機械だと思ってるんですか?」

 

 不意に了子が漏らした言葉に、あおいが訪ねる。

 

「あらゆる可能性を検討しているだけよ。なんせあれは聖遺物でもないのに『ノイズ』を倒せる未知の力……。考えすぎくらいがちょうどいいのよ」

 

「『一号』と言えば、最近まったく『二号』を見ませんね」

 

「もともと『二号』の方は出現回数が少ないからね。『一号』以上に謎に包まれてるし……」

 

 朔也とあおいが同時に唸る。

 『一号』はその出現率の高さからある程度行動原理のようなものが解明されてきていた。

 『一号』は『ノイズ』だけを狙い、こちらから接触しようとしても逃げてしまう。何時かの翼のように攻撃しても決して反撃せず、逃げに徹する。また、人を襲うことはなく、『ノイズ』の消滅と同時に逃走する。格闘戦の技術は高いが、翼なら互角どころか勝ちを狙える程度の実力。

 そして、人と同じ赤い血が流れている。

 そして何よりも重要なのが、響の呼びかけにだけ答えたことがあり、翼の『絶唱』使用時も響を庇っていた。

 

「こうして並べてみると、『一号』にとって響ちゃんは特別みたいね~」

 

「やはり、響ちゃんと融合したガングニールの欠片と何か関係があるんでしょうか?」

 

「そう考えるのが自然だね……『一号』のことは、響ちゃんに任せた方がいいかもしれませんね」

 

「そうだな……みんな聞いてくれ! 翼は重傷でしばらく動けん。一命を取り留めたとしても、回復までに一か月はかかるだろう! その間、響君一人で『ノイズ』と戦ってもらわなければならん! そして件の『未確認生命体一号』にも、場合によっては助力を求めることがあるだろう! だが、俺たちがやることは一つだ! 響君を全力でサポートする!! やるぞ!! お前ら!!!」

 

「「「「「「はい!!」」」」」」

 

 ネフシュタンの捜索、『一号』と『二号』の謎の究明、『ノイズ』への対処、響のバックアップ。

 二課にとってやることは山積みだが、それでも一つずつ解決していくしかない。

 それがすべて解決できた向こうに、平和があると信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五代さんも、元気ないね」

 

「へ?」

 

 休日のお昼。

 珍しく一人で来た未来に突然言われ、雅人は驚く。

 

「この前まで、響も元気無かったの。遅い時間に返ってきたと思ったらずっと落ち込んでて……。最近は吹っ切れたように体を鍛えてるんだけど……。二人とも、何かあったの?」

 

 未来にそう問われ、どうしようかと悩む雅人。

 響に何があったのか、雅人も知らない。この前の戦闘が影響しているのだろうが、雅人としての自分と響の関係は店員と常連客。よく世間話をするが、そこまで踏み込んだ会話をすることもない。

 そして、雅人の悩みである『赤のクウガ』。

 正直に答えた場合、未来に『クウガ』の存在を知られることになる。それは掟としても不味いし、未来から響に情報がわたるのはもっと不味い。だが、雅人の事を本気で心配してくれている未来を、適当にあしらうようなことは雅人もしたくはない。

 

「じゃあ、ちょっと相談に乗ってもらってもいいか?」

 

 悩んだ末、雅人は重要なところはぼかして相談することにした。

 

「えーっと……なんて言ったらいいんだ? ここに、『赤』と『白』がある」

 

 そう言って、雅人はソースの入った赤い瓶とマヨネーズの入った白い瓶を未来の前に置く。

 

「いま俺は『白』なんだけど、本当は『赤』にならないといけないんだ。ただ、その『赤』になる方法はわかってるし、それを実践してるけどどうしても『赤』になれないんだよ……」

 

「……実践してるのに『赤』になれないの?」

 

「そう」

 

「『白』のままじゃダメなの?」

 

「そう!」

 

 うーん、と二人で唸る。

 

 そこで未来がハッとする。

 

「今まで『赤』になった時ってある?」

 

「ん?」

 

「今まで五代さんはずっと『白』だったの?」

 

「あ~……いや、何回か『赤』になったけどすぐに『白』に戻ったな」

 

 そこで未来は微笑む。

 

「だったら簡単よ。前に『赤』になった時のことを思い出して、その再現をすればいいのよ!」

 

 そう言われて、雅人もハッとする。

 そう、雅人は過去に何度か『赤』になっている。それならば、未来の言う通りかつて『赤』になったときの事を思い出せばいい。

 そんな事に全く気付かなかったことに雅人は恥ずかしくなり、照れ隠しに頬を掻く。

 

「そう言えばそうだよな……なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだろ……。ありがとう、小日向さん」

 

「どういたしまして。お礼はサービスしてくれるだけでいいよ?」

 

「……だってさ店長」

 

「ハイよ! 料金は五代君の給料から引いとくから遠慮せずお食べ!」

 

「ありがとうございます!」

 

「ひでぇよ!!」

 

 雅人の悲鳴に聞き耳を立てていた他の常連客も一緒になって笑う。

 今のふらわーの名物は女子高生2人と店員1人と店長による漫才となっている。

 いつもは響が無駄に騒ぐので気にならなかったが、多くの視線が自分に向いているのに気付いた未来が顔を真っ赤にしながら俯く。

 そんな、お昼時の一幕であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(『赤』になった時の……気持ち)

 

 未来に言われたことを、雅人はさっそくバイト中に思い出す。

 雅人が『赤』になった時。それは、何も考えていない無我夢中の時だった。

 『ノイズ』を見つけ、それと同時に『ノイズ』に襲われている人も見つけた。

 いつもは覚悟を自覚し、ちゃんと思い出してクウガになるのだが、その時ばかりは何も考えずにクウガになった。

 そしたら、『赤のクウガ』になれた。

 

(何も考えなければいいのか?)

 

 そんなわけないと雅人は頭を振る。

 結局、謎が深まっただけで進展はない。

 

 そうして雅人は目を逸らす。

 『赤』になれない本当の理由から目を逸らして、気付かない振りをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふらわーでのバイトを終わらせ、雅人はいつものように夕暮れの町を散歩する。

 道中、色々な人とすれ違う。

 会社帰りのサラリーマン、買い物帰りの主婦、下校中の学生、友達に手を振って別れを告げる子供。

 雅人が……『クウガ』が守るべき光景がそこにある。だからこそ、雅人はいつまでも『白』のままではいられない。

 

(もっと強くならないと……『赤』になって、強くなって……そしていつか……)

 

 そしてふと前を見ると、そこにはジャージ姿の響が雅人の前に立っていた。

 

「立花さん? どうしたんだ?」

 

「五代君を待ってたんだよ」

 

「俺を?」

 

 首を傾げる雅人。

 響の表情は晴れやかで、昼に未来が心配していたような様子は全くない。

 とりあえず道端で話をするのも何なので、雅人は響とともにこの前の戦場とは違う公園に行く。

 

「それで? どうして俺を?」

 

「……単刀直入に聞いてもいい?」

 

「ああ」

 

 雅人は自販機で缶コーヒーを2本買い、片方を響に渡しつつプルタブを開けて飲む。

 

「五代君って『クウガ』でしょ?」

 

 飲んでいたコーヒーを吹きだした。

 

「うひゃぁッ!? ビックリしたぁ……」

 

「ゲホッゲホッ! ……オマッ! ……ゲホッ!」

 

 口を拭きながら、雅人はどう誤魔化そうかと考える……が、噴き出した時点で答えを言っているようなものだと気付き、表情を引き締めて響を見据えた。

 

「なんでわかったんだ?」

 

「だって、私に名前を言ったときに一度話したでしょ? その時聞いた声が五代君の声に似てたからずーっと引っかかってたんだぁ……。それで、もしかしたらって思ったのはこの前の翼さんの絶唱の時。あの時、五代君は気づいてなかったみたいだけど私を庇うときに「立花さん」って言ってたよ?」

 

「あー……」

 

 雅人自身のミスだった。

 

「何で正体を隠してたの?」

 

「……特に意味はないな。ただ、掟だったからそうしてただけだ。立花さんは、このことを…?」

 

「心配しなくても、誰にも話してないよ。ただ、お礼が言いたかっただけ」

 

「お礼?」

 

「うん。ありがとう、私を何度も助けてくれて!」

 

 お礼。

 それは、雅人が予想もしていなかった言葉だった。

 

 クウガは孤独だ。

 誰にも知られることなくノイズと戦い、その命を散らしていく。

 共にいるのは次代の弟子だけであり、その歴史は闇に葬られていく。

 そんなクウガが、誰かに礼を言われるなんて思わなかった。

 

(この子に言われるのは、これで二度目か)

 

「ああ。どういたしまして」

 

 言われたお礼は、素直にうれしかった。

 たったの二回だが、それでも雅人は、今までの自分の戦いが肯定されたような気がした。

 

「なんだかね、私にとって五代君は憧れなんだ」

 

 突然、響は雅人にそう告げる。

 

「俺が……? 俺はそんな上等な奴じゃないぞ?」

 

「そんなことないよ! 誰かを助けるためにさっそうと現れて、お礼も貰わずに去っていく。たった一人でたくさんの『ノイズ』相手に怯むことなく戦う……。まるで、五代君は……『クウガ』はね、私が小さい頃見た『仮面ライダー』みたいだなって、初めて見た時から思ってたんだ!」

 

「仮面……ライダー……」

 

「うん! みんなのヒーロー! 『クウガ』だから、『仮面ライダークウガ』!!」

 

 その時、雅人の中で変化が起こった。

 誰とも関わらず、二年間ひたすら独りで戦い続けた雅人は、無意識の内に疑問を持っていた。

 

 自分は正しいのか? 間違えていないか?

 

 雅人が気付かない間に、そんな疑問はどんどん膨れ上がっていた。が、今、立花 響という自分の……『五代 雅人』の今までを肯定してくれる存在ができてしまった。

 

 ―――――俺は……このことに教えてもらうために……今まで……。

 

 ガチリ……と、歪な音をたてて雅人の心は噛み合った。

 

 思えば、ここで出会わなければ、未来はまた、違う形になっていたのかもしれない……。

 だが、既に二人は出会ってしまった。

 

 もしもの話に、意味はない。

 

 そんな時、雅人は『ノイズ』の気配を感じ、それとほぼ同時に響の端末が鳴る。

 

『響君! ノイズが出た! 修業はまだ完全とは言えないが、頼めるか?』

 

「はい!!」

 

 端末をしまい、駆けだそうとする響の腕を雅人が掴む。

 

「五代君?」

 

 それから雅人は何度か口ごもり、10秒ほど時間をかけて口を開く。

 

「俺に……なれるかな? 『仮面ライダー』に……」

 

「なれるよ!! だって、五代君は私の……みんなのヒーローだもん!!」

 

 そう言い残して、響は今度こそ駆け出した。

 その背中を見送り、雅人の覚悟は固まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響の後を追って雅人がたどり着いたのは商店街にほど近いオフィス街。背の高いビルが建ち並び、朝から晩まで人波が途切れることはない。

 逃げ惑う人の波を逆走し、たどり着いた場所では響がすでに多数の『ノイズ』と戦っていた。

 この前見た時よりも、響は強くなっていた。

 まだ腰が引けているが、しっかりとパンチに体重をのせ、キックも様になっている。が、それでも多勢に無勢。

 やがて爪を持った『ノイズ』に響が吹き飛ばされる。

 

「立花さん!」

 

 倒れる響に駆け寄る雅人。

 

「五代君!?」

 

 響を庇うように前に立ち、目に前の『ノイズ』の集団を雅人は見据える。

 

「俺……俺はッ! 覚悟とか、まだちゃんとできてないかもしれないッ! だけど、君が言ってくれたように! 俺が君やみんなのヒーローになれるならッ!!

 俺は戦う!! 『クウガ』として、『五代 雅人』としてッ!そして……『仮面ライダークウガ』として!!」

 

 雅人は叫ぶように言いきってから、自らの腰に手を添える。

 すると、不思議な音を立てて雅人の腰に赤い石をつけたベルト……『アークル』が出現する。

 雅人は、かつて師である雄介が戦う時、『クウガ』になるためにしていたポーズをとる。

 左手を腰のベルトに添え、右手を左胸の前に構えた後ゆっくりと右胸の前まで移動させる。

 

 それは、戦うための儀式。

 自分の中のスイッチを切り替え、自らの心を『戦士』として覚醒させるための動作。

 

「だから見ていてくれッ!! 俺のッ!」 

 

 『クウガ』に変わる。その行為を雅人の師匠である雄介は……、

 

 

 

 

 

「『変身』ッ!!!」

 

 

 

 

 

 そう言っていた。

 

 

 

 

 

 

 ベルトの左腰の部分に左手の甲を添え、右手を左手の上に被せ、そのまま力強く押し込む。

 それと同時に雅人は飛び出し、目の前にいた『ノイズ』を右腕で殴り飛ばす。殴られた『ノイズ』は炭素に変わり、雅人の腕が赤い鎧のようなものに覆われる。その光景は、雅人の背後にいる響には見えなかった。

 『ノイズ』を殴った体勢で残心する雅人の身体は、どんどんと変わっていく。左腕、右足、左足、そして胴体。全身が黒く染まり、身体の各部位がどんどん盛り上がっていき、赤い鎧に覆われる。そして最後に顔が仮面に覆われる。

 黒い体表に、赤い複眼。そして、黄金に輝く二本の角。

 

 呆然とする響の前に現れたのは通称『未確認生命体二号』。本来の名前は、『赤のクウガ』。

 

 戦う覚悟を決めた、『戦士』へ『変身』した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(体が軽い!)

 

 いつもの『白のクウガ』とは比べ物にならない力が、身体の内側から溢れてくる。雅人……『クウガ』は躊躇うこと無く、『赤のクウガ』に変身した自分の拳を振るう。

 その一撃だけで、『クウガ』の目の前にいた三体の『ノイズ』が炭素に変わる。

 次々迫りくる『ノイズ』相手に、立ち直った響と共に拳一つで立ち向かう。

 振るわれた爪を躱し、懐に潜り込んでボディーブロー。『白』の時とは比べ物にならない威力を秘めたその剛腕は、直撃した『ノイズ』に耐えることを許さない。『クウガ』の右拳を腹部に喰らった『ノイズ』は、一撃でその身を炭の塊へと変える。

 後ろから『クウガ』を狙って降り下ろされたアイロンのような手を、振り返った『クウガ』は瞬時に掴み取り、そのままがら空きの腹部を抉るように蹴りつけた。『クウガ』を狙った『ノイズ』は、蹴りが直撃した腹部から真っ二つに別れてボロボロと崩れ落ちた。

 ナメクジのような『ノイズ』から伸ばされる触手をすべて手刀で叩き落とし、体を棒状にして飛んできた『ノイズ』に拳を合わせてカウンターを叩き込む。

 飛び掛かってきたカエル型をアッパーで突き上げて、左右から突っ込んできた別の『ノイズ』と共に回し蹴りで三体同時に止めを刺した。

 『クウガ』から少し離れた場所では、響が迫りくる『ノイズ』の足をキックで叩き潰し、振るわれる爪を掴んで逆に『ノイズ』を振り回していた。

 次々群がってくる『ノイズ』たちを迎撃しあらかた片づけると、ビルの影から巨人型の『ノイズ』が出てくる。

 

「うぇぇええ!? こんなの来るなんて聞いてないよぉお!!」

 

 響がこの『ノイズ』を見るのは初めてではない。が、こういった大物は今までは出てきた瞬間に翼が対処していたため直接戦うのは初めてだった。だからこそ、予期せぬ巨人型『ノイズ』の出現に響は混乱し、隙をさらしてしまう。

 

『立花さん!』

 

 上から叩きつけられる巨人型の腕から呆然としていた響を守るために、雅人は降り下ろされた『ノイズ』の腕に自分の拳を叩き付ける。

 剛腕と剛腕がぶつかり合い、衝撃波が発生する。『クウガ』の足は地面にめり込み、小さなクレーターを作った。発生した衝撃波が周囲に拡散し、建物の窓ガラスが砕け散る。僅かな拮抗の後、巨人型の右腕の肘から下が炭になって弾け飛び、『クウガ』は数歩たたらを踏んで後ずさった。

 

「あ、ありがとう五代君!」

 

『ああ。にしても、こんな街中でこいつが出てくるなんてな……』

 

 再び振るわれる腕を、『クウガ』と響は左右に躱す。

 振るわれた腕は道路をえぐり、停められていた車を破壊した。

 

「何とかして止めないと……!」

 

 そう言った響が巨人型の足を殴るが、巨人型はそれを鬱陶しそうに払いのける。

 ならばと響は今度は飛び上がり、頭に向かって飛び蹴りを仕掛ける。

 見事に命中するも、顔の半分が崩れただけで致命傷にはなっていない。

 

「ダメだ……! 今の私じゃあいつを倒せない! せめて師匠との修行がちゃんと終わってたら…!」

 

『俺はダメージを与えられるけど、腕や足を狙うだけじゃ倒せないな。足を殴って転ばすか?』

 

「それはダメ! ギアの効果でノイズは今実体化してるから今転ばしたら……!」

 

『周りへの被害が大きくなる……か。『赤』じゃあいつの顔までジャンプしても届かないし、『青』じゃきっと威力が足りない。それに俺はまだ『赤』と『白』意外になったことがないからこんなぶっつけ本番で他の色を試したくないな』

 

「色?」

 

『こっちの話だ』

 

 そう言って『クウガ』は目の前で暴れる『ノイズ』を身た後、響をじっと見つめる。当の響はウンウンと唸りながらどうやって『ノイズ』を倒そうか悩んでいる。

 そんな響を見ていた『クウガ』は、ハッと閃いた。

 

『…………なあ、立花さん』

 

「なに?」

 

『その姿でいる時って、男一人分の体重支えれるか?』

 

「へ?」

 

 そして『クウガ』は今さっき思い付いた作戦をすばやく響に伝える。

 響はその作戦を聞いた後驚き、少し悩んだが、やがて覚悟を決めた。

 

「……分かった! やろう!」

 

『よし! 行くぞ!』

 

 『クウガ』の声と同時に響が走り出し、少し遅れて『クウガ』も走り出した。

 振るわれる『ノイズ』の腕をかいくぐり、『ノイズ』の眼前まで来た直後響は反転して『クウガ』の方を向いて両手を腰の前で組む。

 

 そして、響に向かって『クウガ』は駆ける。

 一歩アスファルトの道路を『クウガ』が踏み締める度に、『クウガ』の右足が熱を持っていき、やがて熱は炎になる。

 そして『クウガ』は歩幅を合わせ、響の組まれた両手に向けて軽くジャンプして両足で飛び乗る。

 

「いっけぇぇぇぇええええええ!!!!」

 

 『クウガ』が飛び乗ると同時に響が叫び、トランポリンの要領で両手を思いっきり持ち上げた。

 その反動に押され、『クウガ』は空中に放り投げられる。

 二人の想像以上の早さで空中に投げ出された『クウガ』は、眼下で『クウガ』を見上げる『ノイズ』をしっかりと見据える。

 

 思い出すのは雄介が止めに用いていた十八番。雅人が何度も見て、そして教わった必殺』技』。

 姿勢を制御し、空中で勢いをつけて身体を一回転させる。

 遠心力を味方につけ、勢いを殺さないように右足を前に出し、邪魔にならないように左足を折り畳む。

 

 その姿は、見る者が見たらこう言うだろう。

 

 

 

 

 

 

 『ライダーキック』と。

 

 

 

 

 

『おりゃぁぁぁああああ!!!』

 

 右足が炎を纏い、『ノイズ』の顔に直撃。

 そのまま『クウガ』は『ノイズ』を突き抜け着地するが、勢いが止まらず右足で道路を抉りながらブレーキを掛ける。

 ようやく『クウガ』が勢いを殺して止まると同時に、巨人型の『ノイズ』は貫かれた顔に刻印を浮かべ、爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やったやったやったぁぁああ!! やったよ五代君!!!」

 

 はしゃぎながら響が『クウガ』に駆け寄る。

 着地して片膝立ちの姿勢だった『クウガ』も、脱力しつつようやく立ち上がる。

 『クウガ』は自分の目の前に手を持ってきて、何度か開いては閉じてを繰り返す。

 最後は右手を力強く握り、そのまま親指を立てて響に向けた。

 

『ああ! やったな!!』

 

 サムズアップ。

 雅人のその姿は、まさしく『仮面ライダー』だった。

 

 

 




 今回のテンプレに売った喧嘩。
 特になし。


 とうとうマイティフォーム登場!
 そしてビッキーとの合体マイティキック!

 雅人君は五代さんの修業を受けているのでいきなり強化マイティキックです。

 決意する場面の前後で雅人君の口調がおかしいと感じるかもしれませんが仕様です。
 二人称が「あんた」から「君」になってるのも仕様です。

 ビッキーが弱く感じるのはまだ弦十郎さんとの修行途中だからです。
 時系列はデュランダル移送前ですね。

 次回は説明会につき戦闘はありません。
 ここまでさんざん話がこじれてきましたが、ついに雅人君が二課と合流します!

 次回と次々回で本作のクウガの設定を公開します。
 感想!批判大歓迎!ただし誹謗中傷は勘弁な!




 では、次回予告どうぞ!





「どうやら、『二号』も響ちゃんを特別視しているみたいね」

「やっぱり、『二号』は圧倒的ですね」

「いいの!? 掟なんじゃないの!?」

「では、ご同行お願いしていいですか?」

「櫻井 了子よん♪ よろしくね」

「改めて……特異災害対策機動部二課へようこそ!」


                『交流』


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第六話 「交流」

 前書きと後書きはなぜか埋めたくなる。

 オリジナル設定が多いです。
 この話と次の話はそんな感じです。





 特異災害対策機動部二課本部指令室。

 

 シンフォギア装者をサポートするため、『ノイズ』の動向を探るために大勢の職員が日夜通いつめているその場所は、今は不気味な沈黙が保たれていた。

 その原因は、彼らが見つめている巨大モニター、正確にはそのモニターに映っている映像である。

 背中合わせで戦う響と『未確認生命体二号』。

 

 今まで謎の存在であった『未確認生命体』と自分達がサポートするシンフォギア装者が、まるで旧知の間柄であるかのように連携し、協力して『ノイズ』と戦っている。

 その光景は、今までのシンフォギア装者と『未確認生命体』の関係を知っているものにとって驚愕以外の何者でもなかった。

 

「響ちゃんと……『未確認生命体二号』が……」

 

「一体、どうなっているの?」

 

 朔也とあおいの言葉は、今この場にいる全ての職員の気持ちを代弁していた。

 確かに、今までシンフォギア装者と『未確認生命体』が共闘することは何度かあった。だが、これまでの戦いにおいて『共闘』することはあっても『連携』することは無かった。

 当然だろう。特異災害対策機動部二課において、『未確認生命体』は謎の存在。『ノイズ』を倒すために一時的に協力する事はあっても、二課としては……否、政府としては『ノイズ』を倒す手段は独占しておきたいものだ。だからこそ、政府直属の組織である二課は『未確認生命体』を捕らえようと今まで何度もアプローチをかけてきた。

 だが、結果はすべて惨敗。確保は絶望的かと思われた直後に今回の戦いだ。二課からすればどうしてこうなったのか訳がわからない。

 

 そんな空気の中、了子が口を開いた。

 

「どうやら、『二号』も響ちゃんを特別視しているみたいね」

 

 不気味なほど静かな空間に、了子の声が響く。ややあって、弦十郎が答えた。

 

「……謎は深まるばかり……か」

 

「私たちがモニターを回すまでの間に、現場にはいつの間にか『二号』が出現していて響ちゃんと共闘していた……。そして今は響ちゃんも『二号』と一緒に戦うのを当然のように受け入れている……」

 

 指令室が『ノイズ』発生から現場にカメラを回すまでは幾ばくか間があった。と言うのも、二課のモニターは『ノイズ』発生時や有事の際に監視衛星を使って現場をモニタリングしている。その性質上監視衛星とリンクしていなければ現場の映像は拾えない。

 そして、今回の『ノイズ』発生時にどこかからハッキングを受けたため一時的に監視衛星とのリンクが切れたのだ。ハッキング自体は頻繁にあるため深く考えなかったが、衛星とのリンクが回復し、現場の映像が出たと思ったら響と『二号』が連携して戦っていたので、二課の面々は度肝を抜かれた。

 

「もしかしたら響ちゃんは『一号』と『二号』について何か知っているのかもしれないわね」

 

 その言葉に、指令室の空気が凍り付く。

 

「つまり、響ちゃんは『未確認生命体』のことを知ってて私たちに隠してたって言うんですか!?」

 

「了子さん……いくらなんでもそれは!」

 

「や~ね~! 可能性の話よ! あの子が嘘や隠し事が下手だって言うのは、普段のあの子を見てれば分かるわよん♪」

 

「いずれにせよ、響君には詳しく話を聞かないとな」

 

 モニターでは、響と『二号』が協力して巨人型の『ノイズ』を打倒したところだった。

 『二号』の跳び蹴りが炸裂し、『ノイズ』が爆発する。

 

「やっぱり、『二号』は圧倒的ですね」

 

 響が笑顔で『二号』に駆け寄り、『二号』は響に向かってサムズアップをしてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響が『クウガ』……雅人とともに『ノイズ』を倒した喜びを噛み締めていると、二課本部から通信が入る。

 

「あ、はい! 響です!」

 

『響君……どうして目の前にいる『二号』を確保しない?』

 

「し、師匠!? いえ、これはですね~~……その~~……」

 

 言葉に詰まり、響の視線が右往左往する。

 『クウガ』を見て、虚空を見て、また『クウガ』を見て、足下を見る。

 

「え~~っと……あの~~……!」

 

(どうしよ~~! 師匠になんて説明したらいいんだろう!! 五代君も今までずっと正体を隠して戦ってきたのにそれが私のせいでばれるなんてことに~~!!)

 

 響は迷い、頭から煙が出るほど迷い、そして……。

 

「師匠、チョーっと待っててくださいねー!! 今この人を説得しますからー!!」

 

 と言って、通信を切った。

 要するに、逃げた。

 

「どうしよ~!」

 

 そう言いながら、響は未だに『クウガ』のままの雅人に泣きついた。

 

『いや、そんなこと言われてもな。正直もう隠し続けるのも限界だし、いっそのことばらしてもいいと思うな』

 

「いいの!? 掟とかなんじゃないの!?」

 

 響の驚愕を『クウガ』はさらりと流す。

 

『そりゃ、今まで従ってきた掟を破るのは抵抗があるけどさ。だけどこれからは立花さんみたいな『ノイズ』と戦える人が多く出てくるかもしれないだろ? その時に要らない誤解を受けて『ノイズ』退治に支障を出したくないんだよ』

 

「な、なるほど……」

 

『掟が作られた当時と今じゃ状況が全然違うしな。俺の師匠も警察官の一人と秘密裏に協力してたみたいだし、しょうがないだろ』

 

「しょ、しょうがないんだ……」

 

 そんな話をしていると、二課の車両が何台も到着する。

 中から厳つい黒スーツにサングラスの男たちが出てきたのを見て、響は既視感を覚えた。

 

(うわー……私の時とおんなじだー……)

 

 出てきた黒服たちを警戒してか、『クウガ』の雰囲気が少し変わったのを感じた。

 

「驚かせてしまってすいません。司令が念には念を入れてと言うことなので、こんな大勢で押しかけることになってしまって」

 

 すると、黒服の中の一人がサングラスを外し、顔をさらす。

 

「緒川さん!!」

 

 現れたのは、緒川 慎次だった。

 

「お疲れ様です。響さん。では、『未確認生命体二号』さん……いえ、響さんの話で言うなら『クウガ』さん……ですかね? この名前は貴方とよく似た白い方の名前ですか?」

 

『……いえ、どちらも一緒です』

 

 『クウガ』が慎次の問いに警戒しながら答える。

 すると、慎次は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに元の笑顔に戻った。

 

「すいません。あなたの話は何度か翼さんから窺っていたんですが、まさか喋れるとは思ってなくて」

 

『いや、あんたたちと話をしようとしなかったのは俺です。それについては失礼なことをしたと思ってます』

 

「礼儀正しいんですね。もっと武骨な方かと思っていました」

 

『目上の人への礼儀は弁えているつもりです』

 

(大人の会話みたいだー……)

 

 『クウガ』と慎次の会話を横で聞いていた響は、そんなことを思っていた。

 実際は雅人は響と同い年だが、今は『クウガ』の姿な為実年齢よりも大人っぽく感じてしまうようだ。

 

「では、ご同行お願いしていいですか?」

 

『……わかりました』

 

「じゃあ車に乗ってください。響さんも」

 

「あ、はい!」

 

 二人は慎次に導かれるまま車に乗り、オフィス街を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ここって……学校だよな?』

 

「うん。このリディアン音楽院の地下に基地があるんだ!」

 

『へ~……こんなところに……』

 

 リディアンの教員棟についた『クウガ』と響と慎次の3人は、慎次を先頭に廊下を歩く。

 響はリディアンの制服に戻っており、雅人は『クウガ』のままだ。

 

 そのまま3人はエレベーターに乗り、慎次がエレベーターの認証装置に端末を当てると扉にシャッターがかかり手すりが出てくる。

 

「あ、掴まってた方がいいよ」

 

『? おう……ッ!!!』

 

 強い浮遊感が『クウガ』を襲う。

 ギリギリで悲鳴を抑えて手すりを強く掴むと、『クウガ』の握力で手すりがひしゃげる。

 

「あ……」

 

「あ……」

 

『あ……』

 

 冷たい沈黙が流れる。

 

『す、すいません……』

 

「いえ、いいですよ。先に言わなかった僕らが悪いですし……」

 

 赤い鎧をまとった戦士……『未確認生命体二号』が、申し訳なさそうに縮こまっていると言うある意味レアな光景を見た慎次は忍び笑いを漏らす。が、そんな慎次が考えているのは全く別のこと。

 

(咄嗟に強く握ってしまったのでしょうが、鋼鉄製の手摺をあんなにあっさりと……。僕たちが思っている以上の力を有している、と言うことですか)

 

 一連の騒動の中、コッソリと警戒を強めた慎次と改めて手摺を持った『クウガ』、そして先に雅人に言っておけば良かったと密かに後悔している響を乗せて、そのままエレベーターはどんどん地下へ。

 

 やがて降下スピードが落ちていき、止まった先には長い廊下が続いていた。

 正面から見て六角柱のような形をした通路は、所々に談話用のソファーと机があり、一緒に自販機もおいてある。途中にある横道には一切入らず、真っ直ぐに進む。時折行き交う職員の姿がちらほら見え、皆『クウガ』の姿を見てはビクリと身体を硬直させる。その有り様に響は『クウガ』の様子を盗み見るが、その表情は分厚い仮面に覆われて伺えない。

 

 やがて職員の姿も見えなくなったが、それでも目的地には着かない。

 

『…長い廊下だな』

 

「リディアンのかなり地下深くに建造されていますからね。緊急時のシェルターの役割もしているんです。この本部だけで、この町の全員は収容できますよ」

 

「へ~……そうだったんですか~」

 

『…なんで立花さんが知らないんだ?』

 

「あ~……あはは」

 

 そんな会話をしていると、ようやく通路の奥に扉が見えた。

 

「さ、着きましたよ? この扉の奥が、指令室です」

 

 そして慎次が一際大きな扉の前に立つと、扉が開く。

 

「ようこそ。『特異災害対策機動部二課』へ」

 

 中に入ると、司令室で作業していた人が全員『クウガ』を見る。

 それは好奇の視線だったり、警戒や不安、緊張などいろいろな感情が込められていた。

 正面には『クウガ』も何度か見たことがある赤髪の大男と眼鏡をかけた白衣の女性がいた。

 『クウガ』が白衣の女性を見た瞬間、『クウガ』の腹部にあるベルト、『アークル』から奇妙な感覚が流れてきた気がした。が、すぐに元に戻った。

 それに首を傾げていると、大男が声をかけてきた。

 

「君が、『未確認生命体二号』……いや、『クウガ』か」

 

「近くで見るとまた威圧感があるわねぇ…」

 

 慎次が『クウガ』に座るように促す。

 それに従い、『クウガ』は用意されていたソファに座る。その隣に響が座り、大男……弦十郎と白衣の女性……了子が正面に座る。慎次は弦十郎の後ろ立っている。

 

「あったかいもの、どうぞ。って、飲めますか?」

 

 先ほどまで座って作業していた女性が全員にコーヒーの入った紙コップを渡していき、『クウガ』にもそう聞いてきた。

 

『ありがとうございます』

 

 それに礼を言って『クウガ』は受け取る。

 ふと周りを見ると、信じられないものを見るような目で響と慎次以外の全員が『クウガ』を見ていた。が、やがて『クウガ』の訝しげな雰囲気に気付いたのか弦十郎が一度咳払いをしてから口を開く。

 

「……いや、すまない。我々はこの1年間、君は喋ることができないと思っていたからな。響君や緒川からの報告で分かっていたとはいえ、直に見るとどうしてもな……」

 

『いえ、気にしていません』

 

 『クウガ』の言葉を聞き、弦十郎は改めて気を引き閉めた。

 

「そうか、それは助かる。さて、自己紹介から始めさせてもらおう。俺はこの『特異災害対策機動部二課』をまとめている風鳴 弦十郎だ。隣にいるのは、響君たちが使っている『シンフォギアシステム』の開発者でもあり、この二課の技術開発局の局長の……」

 

「櫻井 了子よん♪ よろしくね」

 

 櫻井 了子と名乗った女性に話しかけられた瞬間、先程のように『アークル』から何かが流れ込んでくるような感覚が『クウガ』を襲う。まるで、『アークル』が『クウガ』に対して警告を促しているような感覚だった。

 そのことに顔を顰めながら……実際は仮面によって顔は見えないが……『クウガ』も自己紹介をする。

 

『……『クウガ』です。本名は……』

 

 そこで『クウガ』は迷った。正体を明かすべきか、このまま『クウガ』のままでいるべきか。だが、横で『クウガ』を心配そうに見ている響が目にはいる。

 

(……まぁいいか。ここまで来たし、なるようになるだろ)

 

 元々正体を明かす気で『クウガ』はここまで来た。なら、今更迷うことはないと『クウガ』は腹をくくる。

 

『五代 雅人です』

 

「五代……」

 

 『クウガ』の言葉に、二課の面々はさらに混乱した。

 

(名前からして日本人……よね?)

 

(少なくとも、東京都内には同姓同名の人物はいないか……)

 

「失礼なことを聞くが、君は……人間……なのか?」

 

『そうですね。確かにこのクウガの姿とは別に、俺にはちゃんとした人間の姿があります。ですが、俺はそれを貴方たちの前に晒すべきか迷っています』

 

「それはどうして?」

 

『……クウガには、いくつか掟があります。本来、貴方たちとこうして話をしているだけで、その掟を曲げているんです。正直、俺も失礼な言い方になりますが、掟を曲げてまで貴方たちと協力するメリットがあるのか、今はそれを考えているところです』

 

「掟ということは、君の他にもクウガがいるのか? あの『一号』……『白いクウガ』のように」

 

『いえ、クウガは俺一人です。貴方たちの言う『一号』も俺です』

 

「鎧の色が変わるのね……ますます今日興味深いわぁ♪」

 

「オホン! つまり、我々の呼びかけに答えなかったのも、姿を見せなかったのも、その掟があったためという事でいいのか?」

 

『はい。そう言うことです』

 

「では単刀直入に聞こう。どうしたら我々を信用してもらえる?」

 

 そこで、雅人は考える。

 なるべく多くの人に知られないように、そしてクウガとして支障なくノイズ退治ができるようにするにはどうするか。

 また、今までと同じ生活ができるようにするにはどうするべきか。

 

『……クウガの使命はただ一つ。表舞台に立つことなく人々をノイズから守るための盾になり、ノイズを葬るための剣になることです。今までは何の問題もなくそれが行えていましたが、ここ最近……3~4年あたりで貴方たちが言うシンフォギアを持つ少女たちが戦場に立つようになり、それも難しくなってきました。1年前にはついに俺の姿を確認され、歴史の影から人々を守ると言うこともできなくなりました。だから、この際貴方たちと協力してノイズ退治に当たる方が効率的です。

だけど、クウガの存在はなるべく人の目に触れさせたくないんです。だから、俺が貴方たちに協力する代わりに、クウガの存在は伏せてくれませんか?できればこの二課内部だけで押さえてくれるといいんですけど……』

 

 それを聞いて、弦十郎は考え込む。

 今のクウガの言葉の中に、無視できないワードがいくつかあったからだ。

 

 これまで二課の面々は、クウガ……『未確認生命体』は1年前から現れたと思っていた。

 だが、クウガ本人の話を聞く限りでは、少なくともシンフォギアシステム開発以前からノイズと戦っていたようだ。

 さらに掟という言葉から察するに、今は目の前の五代と名乗った男一人のようだが、クウガはこれまで複数人いたと考えられる。

 それに、五代という男本人も決して非協力的ではなく、掟に従って姿を隠していただけのようだ。

 

 問題は、クウガの情報を二課内部だけで押さえると言うこと。

 

 すでにクウガ……『未確認生命体』の情報は政府の上役に報告している。

 対応は二課に任せられているとはいえ、そこには報告の義務がある。

 所詮、二課も政府の組織の一部。

 御上の意向には逆らえない。

 

 だが、

 

(気付いてる? 弦十郎君?)

 

(ああ……おそらく、クウガの中身はまだ子供だろう)

 

 そう、弦十郎の見立てでは、クウガはまだ子供……響とそう変わらない年であると結論づけていた。

 仮面で声がくぐもり低く聞こえ、さらに敬語を使っているため分かりづらいが、言動の節々に子供っぽさが垣間見える。

 さらに、弦十郎は今までに何人もの大人と接してきたのだ。

 たとえ顔を隠し、声を変えようと大人と子供の見分けはすぐにつく。

 

 そして、この特異災害対策機動部二課の人間は、子供を戦場に送り出さなければならないと言うことから子供に対して甘いところがある。

 

 風鳴 弦十郎と櫻井 了子も、例にもれずその中の一人だった。

 

「わかった。上の方には何とか話を通しておく。正直すでに君の存在は政府の方に話してしまっている。最悪君のクウガの姿はシンフォギアシステムによるものということになるが、それでもかまわないか?」

 

『……わかりました。それでお願いします』

 

「わかってくれてありがとう。これからは、我々も全力で君をサポートする」

 

『ありがとうございます』

 

「じゃあ、そろそろ素顔を見せてくれないかしら~? あんまり焦らされると私も困っちゃうから♪」

 

『わ、わかりました』

 

 了子に話しかけられるたびに『アークル』が何かを訴えるように反応するが、それが何なのかわからないので無視する。

 

 そして雅人はクウガの変身を解く。

 現れたのは響とそう変わらない15歳くらいの少年。

 予想はついていた弦十郎と了子、そして慎次はあまり驚かなかったが、他の二課のメンバーは驚愕した。

 

(こんな子供が……今までたった一人でノイズと戦ってたのか?)

 

(まだ響ちゃんや翼ちゃんと変わらない年のはずなのに……たった一人で!?)

 

 朔也とあおいも、その表情を驚愕に変える。

 雅人は変身を解いたことで顔を出せるようになったので、ぬるくなったコーヒーを飲んでいた。

 

「できればあなたの体を調べたいんだけどぉ……」

 

 了子がそう言った瞬間、雅人が少し警戒した表情になる。

 

「……流石にそれは勘弁してほしいです」

 

「あらぁ? どうして?」

 

「…………なんとなく、です」

 

「その辺にしておいてくれ、了子君。では、クウガ……いや、雅人君……で、いいかな?」

 

「はい」

 

「では、雅人君。改めて……特異災害対策機動部二課へようこそ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、つまりどうなったの?」

 

「これからは一緒に戦うってことだな」

 

「ホント!? やったね五代君!!」

 

「ああ!」

 

 そう言って雅人は響に向けてサムズアップをする。

 

 サムズアップして笑い合う雅人と響を見て、弦十郎たちは微笑んだが、すぐに作業に戻った。

 

 




 何も書くことがない。
 今回は只の説明会だしテンプレもない。
 だけど後書きとか何も書かなかったら気持ち悪い。

 あ、二課と合流できたのでこれからちょっとギャグが入るときがあります。
 大体シリアスです。
 シリアルにならないようにしたいですね。

 にしてもビッキーの慌てた声とか叫びとか表現しにくい。
 碧ちゃんの演技って言葉に表すとすっげーやりにくいんだよね。
 今後の課題かな?


 では、次回予告どぞ!







「一子相伝の秘術……ゆえに私には調べさせないってわけね。興味深いわぁ~♪」

「って言うか、五代さんってどこに住んでるの?」

「では、作戦を説明する!」

「五代君!! ……だよね?」

「こいつが『デュランダル』か……」

『超変身!!』

               『移送』


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第七話 「移送」

 テスト……それは地獄への招待状。
 テスト期間……それは地獄を生き抜くタイムアタック。

 ↑が遅れた理由です!申し訳ありません、このような作者で。





「つまり、クウガは我々がノイズと戦い始める何年も前からノイズと戦っていたと言うのか?」

 

「一子相伝の秘術……ゆえに私には調べさせないってわけね。興味深いわぁ~♪」

 

 特異災害対策機動部二課本部司令室。

 ここでは今、雅人が弦十郎と了子にクウガについて説明しているところだった。

 

「纏めると、クウガはそのお腹のアークルという名のベルトによってなることができる古代から伝わる戦士。戦う理由……つまり、『覚悟』を決めて変身しないと白い状態に強制的になってしまう。赤い姿が本来の姿で、白い状態は変身が失敗したイレギュラーな姿。赤い姿以外に9色の姿があり、それぞれ決まった武器と特性がある。うち1つは絶対になってはいけない禁忌の姿。古くからノイズを倒せると言われているけどどうして倒せるのかは不明。力を込めてノイズを攻撃するとノイズの体に刻印が浮かび上がり爆発するが、雅人君の師匠……つまり先代のクウガは爆発しなかった。ノイズに対して探知能力があり、それのおかげで今まで私たちより早くノイズの出現地点に行けたけど大まかな方向しかわからない。あくまでノイズと戦うための力であり、人には絶対に向けない。

白いクウガの時は使えなかったけど、ゴウラムと呼ばれる独自の移動手段がある。生涯で1人だけ弟子をとる。お腹のアークルは死ぬか戦えない体になるまで外れず、戦えなくなるとと次代のクウガにアークルを受け継ぐ。こんなところかしら?」

 

「はい、大体そんな感じです」

 

 相変わらず了子に話しかけられるたびに『アークル』が反応するが、それを無視して雅人はうなずく。

 

「つまり、君はその年で……いや、2年前から戦っているという話だったから13歳か。そんな小さなときから戦っていたと言うのか?たった一人で?」

 

「本当はもっと後になるはずだったんですけどね。師匠が思ったより早く限界が来たんで、仕方なく……」

 

 そう言って笑う雅人の表情には寂しさが含まれていたが、弦十郎はあえて指摘しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふらわー。

 今日も雅人はバイトに精を出す。

 二課から生活保護をしてもらえると言われたが、雅人は今までの生活を捨てる気はなかったので結局断った。

 

「って言うか、五代さんってどこに住んでるの?」

 

 そんなことを学校帰りの未来に聞かれたのが、始まりだった。

 

「公園だ」

 

「……え? 今なんて?」

 

「だから、公園だよ。キャンプセット一式持ってるからそこの公園の林の中で寝てるんだ」

 

 それを聞いた響と未来は、開いた口が塞がらないと言わんばかりの顔をしていた。

 隣で聞いていた店長のおばちゃんも、少し早い晩ご飯を食べていた周りの客も、信じられないものを見るような目で雅人を見ていた。

 

「あんた、今までそんなことしてたのかい!?」

 

「あ、大丈夫です。ちゃんと1日に2回、朝起きた時と夜寝る前に近くの銭湯に入ってますから衛生面はばっちりです」

 

「そう言う問題じゃないよ!!」

 

「そうだよ五代君! それじゃ野宿だよ!?」

 

「いや、旅暮らしだったし野宿くらい慣れてるんだけど……」

 

「慣れてるからって野宿なんてしちゃダメ!!」

 

「そうだぞ坊主!」

 

「せめてホテルに泊まるとかしろ!!」

 

 響や未来、店長に、さらには客にまで言われる雅人。

 これにはさすがの雅人も困惑するが、困惑したのは周りの方である。

 

「あんた、帰るところがないんなら早く言いなよ! 今日から住み込みでいいから!」

 

「え!? いや、そこまで面倒を見てもらうけには……」

 

「子供が遠慮してんじゃないよ!」

 

「そうだぞ坊主!」

 

「甘えとけ甘えとけ!」

 

 子供という言葉にピクリと反応し、反論しようとした雅人だが、その前に言葉を重ねられそれもできない。

 周りの集中砲火に、遠慮していた雅人もついに折れ、その日から雅人はふらわーの住み込みバイトとして働くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 特異災害対策機動部二課本部司令室。

 

「広木防衛大臣が殺された……だと!?」

 

 弦十郎の言葉に、司令室にいた全員が顔色を変える。

 

「……誰です?」

 

 そんな中、雅人は隣にいた朔也に問いかける。

 

「うちの設立に大きく関わってくれた人だよ。広木防衛大臣がいなきゃ、うちへの風当たりもひどくなっていただろうね……」

 

「風当りって……ここって政府の組織なんですよね? 一体どこから非難されるんです?」

 

「それは……」

 

「大人の世界も、いろいろ大変なのよん♪」

 

 二人の会話に、何かのケースを持った了子が割り込む。

 

「大人……ですか?」

 

 突然現れた了子二面を食らいながら、雅人は問い返す。

 その表情は少し硬い。

 

「そんな怖い顔しなくても、誤魔化そうとしてるわけじゃないのよ。元々シンフォギアシステムもお偉いさんからは半信半疑の技術だったし、この二課は周りから見たら「訳の分からない力を使ってノイズと戦う得体のしれない集団」にしか見えないしね」

 

「……なんというか、色々めんどくさいんですね。大人って」

 

「お前ら!今から緊急ミーティングだ!」

 

 弦十郎の号令によって、この会話は打ち切りとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特異災害対策機動部二課本部ブリーフィングルーム。

 

「では、作戦を説明する!」

 

 そこでは、今回のデュランダル移送作戦の説明がなされていた。

 それは、現在私立リディアン音楽院の遥か地下1800メートルの最下層『アビス』に厳重に保管されている完全聖遺物『デュランダル』を、永田町最深部の特別電算室、通称『記憶の遺跡』に移送すると言うものだった。

 

「そもそも、完全聖遺物って何ですか?」

 

「……そう言えば、雅人君には聖遺物について説明していなかったな」

 

「というわけで! 了子さんに、お任せよん♪ 聖遺物とは、世界各地の伝説や伝承に登場する超常の武具のことよ。現在では製造不可能な異端技術の結晶であり、世界各地の遺跡からその欠片などが発掘されてるわ」

 

「欠片、なんですか?」

 

 『アークル』の反応を無視しながら訪ねる雅人。

 いい加減慣れてきたので顔には出さないが、これのせいで雅人は了子が苦手になりつつあった。

 

 了子の性格なども大いに苦手意識を誘発しているが。

 

「そう。その欠片を元に私、櫻井 了子が提唱した『櫻井理論』を使って開発したのがシンフォギア。ここまではいい?」

 

 黙って頷く雅人。

 

「よろしい。では、完全聖遺物とは何か……。さっき話した通り、各地の遺跡から発掘される聖遺物は長年の劣化や損傷から欠片の状態が多いわ。ただ、ごく稀に伝承の当時の姿のまま完全状態で発掘される聖遺物があるの。それが完全聖遺物。聖遺物の欠片が元に作られたシンフォギアは、歌を媒介にしないと起動できないし、ノイズを倒すこともできない。だけど、完全聖遺物は一度起動してしまえば歌を使わなくても力を発揮することができるの。それこそ、誰でもね」

 

「誰でも……風鳴さんや櫻井さんもですか?」

 

「そう! ただ、本当に貴重なものだからおいそれと使えるものではないし、そもそも今回移送する『デュランダル』はまだ起動していないの。今のところ起動が確認されているのは、『ネフシュタンの鎧』とそれを纏っていた少女が持っていた『ソロモンの杖』の2つだけね」

 

 そこで了子は少し間をあける。

 

「私は最初貴方のクウガの姿も完全聖遺物によるものと思っていたけど……見てみる限り使われている技術に共通点は見られるものの根本は違うみたいね。ホント、興味深いわぁ♪」

 

「……」

 

 無言で了子のそばから離れる二課の面々。

 

「や~ねぇ~! 冗談だってばぁ~!」

 

「……オホン! では、移送の際はデュランダルを乗せた車を聖遺物に詳しい了子君が運転してくれ! 護衛として響君も同乗してくれ!俺はヘリで空から全体の指揮を執る」

 

「はい!」

 

「りょうか~い♪」

 

「え!?」

 

 響の元気のいい返事の後に了子の間延びした返事がし、そして最後に雅人の驚いたような声が上がった。

 

「どうした? 雅人君」

 

「いやどうしたじゃなくって……襲撃するとしたらあの鎧を着たやつなんですよね?」

 

「その可能性が高いな」

 

「だったら、ノイズが出てくる可能性が高いんですから風鳴さんや櫻井さんがいたら逆に足手まといになります。俺と立花さんだけで運んだ方がいいと思うんですけど……」

 

 少し興奮しながらも弦十郎へと訴える雅人。

 

「ダメだ」

 

 だが、雅人の言葉を弦十郎は一蹴する。

 

「!? ……なんでですか? 指揮ならここからでもできる。何より、もしもあんたたちが狙われた時はどうするんですか? 特に風鳴さんは司令なんでしょう?そんな偉い人が最前線に出張ってきてどうしようって言うんですか?」

 

 部屋中の人間の視線が雅人に注がれている。

 そんなこともお構いなしに、雅人は言葉を弦十郎に叩き付ける。

 

 それでも、弦十郎は動じずに応えた。

 

「それは、俺たちが大人で、君が子供だからだ」

 

「……はぁ?」

 

 その応えは、雅人の想像の斜め上の応えだった。

 

「大人って……そんなの関係ないだろ……」

 

 あまりにも意外な答えだったため、いつも年上相手につける敬語を忘れて呟く雅人。

 

「ある。君たち子どもを守るのが、俺たち大人の役目だ。何より、ここには君たち子どもだけを戦場に送り込むのをよしとしている大人は一人もいない」

 

 そこで弦十郎は真面目な顔をやめ、いつもの笑顔に戻る。

 

「そ れ に! 君と響君だけでどうやってデュランダルを運ぶんだ? 永田町までだいぶ距離があるが、車はおろかバイクにすら乗れない君たちだけで運べるのか? ん?」

 

 その弦十郎の言葉に、雅人は反論できなかった。

 

「決まりだな。移送の準備をするぞ! もちろん! 雅人君にもデュランダルの護衛と同時にノイズが出てきたときの対処をしてもらう。あれだけ啖呵を切ったんだ。やれるだろう?」

 

「……ッ! 当然!」

 

 挑発的な弦十郎の口調に、雅人は苛つきを抑えながら返す。

 そんな雅人の頭を、弦十郎は乱暴に撫でたがすぐにその手を跳ね除けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高速道路を、5台の車が走る。

 4台の黒塗りの車が、紅塗りの車を囲むように疾走する。

 

(……ヤクザに捕まってるみたいだな)

 

 それをクワガタのような形をした飛行体……ゴウラムの上に乗って上から見ていた雅人は、そう心の中で感想を漏らした。

 その雅人の上空にはさらにヘリが1台とんでおり、そこから弦十郎が全体を見渡し指示を出していた。

 

(ノイズが出てきたとして……ここにいる人たちを全員守り切れるか? やっぱり俺と立花さんだけでゴウラムに乗って運んだ方がよかったんじゃ……? いや、逃げ場のない空中では狙い撃ちにされるだけか)

 

 雅人はいまだに先ほどのことを引きずっていた。

 クウガにとって何よりも優先すべきはノイズではなく目の前の人命。

 それは今までの歴代のクウガもそうであったし、雅人自身もそうだ。

 クウガは人々の盾でなければならない。

 

(そもそも掟自体矛盾の塊だ。ノイズから人を守れって言ってるわりに人に見つかるなって言ってる。こんなの両方守り切れるわけないのに……初代はどういう意図でこの掟を立てたんだ?)

 

 そんなことを考えているうちに、車は川を超える高速道路に差し掛かった。

 

 雅人の見ている前で、高速道路の一部が崩れ、そこに1台の護衛車が突っ込んでいく。

 それを見た雅人は瞬時にゴウラムを飛ばし、護衛車が道路の穴に落ちる前にゴウラムの角で救い上げた。

 

『大丈夫ですか!?』

 

「あ、ああ!」

 

 そうしてまた雅人はゴウラムを飛ばす。

 

(やっぱりこうなったか! ノイズが出てきてないだけマシか……。この分だと他の車も……!)

 

 今度は護衛車がマンホールの上を通った瞬間にマンホールが弾け飛び、それに押されて車が宙を舞う。

 あわや響と了子が乗った車に激突すると言うところでまた雅人が割り込む。

 

『超変身!!』

 

 ゴウラムの上に乗った雅人がそう叫んだ瞬間、クウガの姿が変わる。

 その鎧は銀色になり、ところどころに紫のラインが入っている。

 赤かった目も紫色になった。

 

 その雅人が、降ってきた車を受け止めた。

 ボンネットがひしゃげ、中にいたSPの苦しそうな声が聞こえるが、車を下ろした際に確認してみたが命に別状はなかった。

 

 回収は源十郎たちに任せ、雅人は響たちの乗る車を追う。

 途中で何度かピンチになったSPを助けるが、全員これ以上の護衛は無理だと判断して放っておく。

 やがてたどり着いた工場地帯では、響がノイズ相手に戦闘を繰り広げていた。

 

『超変身!!』

 

 さらに気合を入れてもう一度変身。

 今度は鎧が青に変わり、目も青に変わる。

 そのままゴウラムにつけておいた伸縮式の警棒を手に取り、一気に飛び降りる。

 

「五代君!! ……だよね?」

 

『ああ。加勢する!』

 

 そう言った直後、警棒が姿を変え、青いロッドに変わる。

 横薙ぎに振るい前方の3体のノイズをまとめて薙ぎ払い、手元で回転させながら走る。

 伸ばされた触手をロッドを地面に突き立て、棒高跳びの要領で跳んで回避する。

 そのままロッドを大上段から振り下ろし、ナメクジ型のノイズを炭に変える。

 響を見てみると、今までの戦闘とは全く違う動きをしていた。

 ノイズの爪を躱しハイキック、拳を構えて走りながらワン・ツー。

 後ろからとびかかってきたノイズに肘打ちを食らわし、目の前のノイズに上段蹴り。

 ナメクジ型から伸ばされる触手をすべて華麗な身のこなしで躱し、一気に近づいてから中国拳法の『崩拳』。

 カエル型に肘を打ち下ろし、ヒト型に右ストレート。

 爪を躱してノイズの懐に入り、その腕を掴んで体全体を使ってノイズを投げ飛ばす。

 そして足を踏みしめて肩からノイズに体当たり……中国拳法の『鉄山靠』……その衝撃波で回りのノイズを一掃する。

 

(……1か月前までは素人だったんだよな?)

 

 少なくとも雅人が初めて見た時は戦い方なんて何も知らないただの少女だった。

 改めて響の才能に驚愕しながらもノイズ達をロッドを操り倒していると、ネフシュタンの少女が現れる。

 突然の奇襲に反応し、振るわれた鞭を避けて跳び上がったまではよかったが、響はその後の跳び蹴りをもろにくらい吹っ飛ばされる。

 

 それと同時に了子のいた方から何かが壊れる音。

 振り向けばそこには一振りの剣が浮かんでいた。

 

「こいつが『デュランダル』か……」

 

『! 待て!!』

 

 雅人が静止するが、時すでに遅く。

 ネフシュタンの少女は飛び上がって『デュランダル』に手を伸ばす。

 

 その手が『デュランダル』に届く寸前、響が少女に向けてタックルをした。

 

「!? なにッ!?」

 

「渡すものかぁぁぁあああああッ!!!」

 

 そしてネフシュタンの少女ではなく響が『デュランダル』を掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、空気が変わった。

 

 着地した響は苦しそうにうめき、やがて『デュランダル』を高く掲げる。

 

「覚醒!? 暴走!?」

 

 了子の声が聞こえるが、雅人は響から目を離せなかった。

 やがて掲げられた『デュランダル』はその姿を変える。

 

「ォォォォォオオオオオオオオオオオッ!!!!!」

 

 欠けたような外見だった刀身は完全な姿を取り戻し、溢れだしたエネルギーの奔流が20メートルを超える巨大な刃を作り出す。

 

「ッ!! そんな力を見せびらかすなァッ!!」

 

 ネフシュタンの少女が叫び、ノイズを召喚する。

 だが、その行動は火に油を注ぐだけだった。

 

 響の真っ赤に染まった眼がネフシュタンの少女に狙いを定める。

 

「ヒッ!?」

 

 怯えたようにその場から飛び立つネフシュタンの少女。

 響はそんなこともお構いなしにノイズに向かって『デュランダル』を振り下ろす。

 

『(マズイ!!)超変身!!』

 

 もう一度『紫のクウガ』になり、防御を固める雅人。

 その直後、工場地帯で巨大な爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雅人君! しっかりしろ雅人君!!」

 

「……う……くっ!」

 

 弦十郎の呼びかけで目を覚ます雅人。

 起きてすぐに周りの状況を把握するべく首をめぐらす。

 

 そこは、瓦礫の山だった。

 

 無事なものは何一つなく、全て瓦礫に変わっていた。

 

「気が付いたか……。大丈夫か?」

 

「……はい。立花さんは?」

 

「あそこだ」

 

 弦十郎の指さした方を見ると、リディアンの制服に戻った響が担架に乗せられて運ばれていくところだった。

 

「無事……なんですか?」

 

「見たところは……な。外傷はなかった」

 

「何があったんですか?」

 

 今だに混乱している頭を働かせ、弦十郎に問う雅人。

 

「覚醒した『デュランダル』の暴走だ。『デュランダル』の暴走に引っ張られて響君の『ガングニール』も暴走……そしてこうなったと言うことだ」

 

「完全聖遺物……櫻井さんの説明を聞いたときは便利なものだと思いましたけど……。やっぱり、危険なモノなんですね」

 

「ああ。どんな力にも、リスクはある。それが強大であればあるほど、そのリスクも相応の物になると言うわけだ。それは響君たちが使っているシンフォギアもそうだし、君のクウガの力もそうだろう? ま、今回は『デュランダル』も奪われなかったことだし、結果オーライだ!」

 

 そう言って弦十郎は笑いながら雅人の頭をグシグシと撫でる。

 

「ちょっ!? やめてくださいよ!!」

 

 その手をすぐに跳ね除ける雅人。

 

「遠慮するな! 今回の功労者は間違いなく君なんだ! 雅人君のおかげで、死者を誰も出さずに事を済ますことが出来た! SPの奴らも、君に感謝していたよ! 「ありがとう」ってな!!」

 

「……」

 

 その言葉に、雅人は大きく揺れる。

 響の時もそうだったが、雅人はお礼というものを言われ慣れていない。

 これまで誰にもばれないように戦ってきたせいか、人と関わりを持つことが少なく、関わったとしても日雇いのバイトの時くらい。

 面と向かってのお礼は言われ慣れていなかった。

 しかもお礼を言ったのは雅人が足手まといと言った人達なのだ。

 うれしいやら申し訳ないやら、いろんな感情が雅人の胸を渦巻く。

 

「お! なんだ照れているのか?意外とかわいいところがあるじゃないか!」

 

「う、うるさい!! 触るなおっさん!!」

 

「お、おっさんとは何だおっさんとは!?」

 

「おっさんなんかおっさんで十分だ!! これからはおっさんって呼んでやる!!」

 

「おいまてやめろ! 俺もいい年だが面と向かってそう言われると流石に傷つく!!」

 

「知るか!!」

 

 そんな二人のやり取りはまるで仲のいい親子のようで、周りで何事かと見ていた二課の面々も、いつの間にか笑顔でそのやり取りを見ていた。

 

 

 





 かつてここまでゴウラムを乗り物扱いしたオリ主がいるだろうか?
 仕方ないんだ! まだ15歳なんだ!法律的にバイクに乗せられないんだ! 16歳にしておけばよかった!!

 と言うわけで作者です。今回は超変身のバーゲンセール!ハブられたペガサスさんェ…。
 要望もあったしここでバイク登場させようかと思いましたが、雅人君の年齢とかプロットの流れとかで泣く泣く断念……これから長距離移動する機会もプロット上では存在しないし、二部に入るまでゴウラムさんには乗り物でいてもらおうと思います!

 感想でたくさんアドバイスをもらったので、それをどうにか生かしたいと思って加筆修正を加えれば七千文字オーバー……それでもよくなっているのかと言われれば微妙。
今度こそは……今度こそは必ず!

(^U^)<いい台詞だ 感動的だな

だが無意味だ>(○^U^)つ)))作Д者)・:’.,.<ぐわぁ

 さて、今回の冒頭で大体のクウガの設定は明かしました。原作と大きく変わっており、ややこしい個所もあるかもしれません。
 まあ、
「クウガは古代の戦士だが数千年封印されていたわけではなく現代までアークルの装着者を変えて活動を続けて来た」
「これまでの活動でクウガの各フォームの研究や金についての研究も終わっており、それも次代に受け継がれている」
「人に見つからないように隠れながら戦ってきた」
「決して人に対してクウガの力を振るわないようにしてきた」
 の四つを覚えていてくれたらいいと思います。
 今回の話で雅人君が簡単にドラゴンやタイタンになれているのもすでに五代さんがお手本を見せていたからですね。四苦八苦しながら各フォームの特性を把握すると言うことがない分、その辺の面白みもかけてしまっているかもしれませんね。他のクウガ二次とは違う魅せ方を意識しなければ……。

 雅人君のスタンスとしては、ノイズと戦う力のない人間=守る対象ですから、OTONA=足手まといとなってしまう……故の今回の反発です。
 OTONAが足手まといになるなんてどんな魔境なんでしょうね?

 にしてもやっぱり人間ドラマに関しては要練習ですね。
 身近にアドバイスを聞ける人がいないんで、皆さんの感想とかすっごく助かります!
 今回こうやってお待たせしてしまっておいて恐縮ですが、「こここうやった方がもっと良くなる」や「あら、こんなところに誤字がありますわよ?書き直し!」や「なんで 作者はこんな文才がない体に生まれた!(ドン)」みたいなことがあれば遠慮なく感想をどうぞ!(米稼ぎ)



 では、次回予告!





「あ…あ……つ、翼さんが!?」

「それで……あなたが『未確認生命体一号』……クウガね」

「おい!弱い者を虐めるな!!」

「あたしは歌は大っ嫌いだ」

『ぉぉぉおおおりゃああああぁぁぁッ!!!』



            『岐路』



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第八話 「岐路」

 予約投稿って便利ですね。たまに1時と13時を間違えそうになるけど……。

 あと誤字ってどうやったらなくなるんですかね? 大体五回くらい見直してるんですけど何故か後から見つかる……。





 特異災害対策機動部二課医療施設。

 リディアンに隣接して作られたこの病院は、表向きは普通の総合病院だが、シンフォギア装者の治療やノイズによる被害での負傷者や死亡者についてのデータをとる研究施設としての側面も持っている。

 

 そこに、シンフォギア装者風鳴 翼は入院している。

 

 つい最近までは意識不明の重体だったが、今では回復し松葉杖を用いれば何とか歩けるほどになっている。

 

 その病室の前で、雅人と響は深呼吸をしていた。

 響は久しぶりに会う憧れの先輩……だが仲は険悪なままな為どう話を切り出せばいいのかわからず緊張しており、雅人は単純に今まで無視し続けてきた負い目から緊張している。

 やがて決意を固めた響が扉をノックし、開ける。

 

 そこには、荒れ果てた部屋が広がっていた。

 服はあたりに散乱し、花瓶は倒れ、コップも倒れて中身がこぼれている。

 床に脱ぎっぱなしの服や下着、それがどうやったらいいのか机の上やカーテンの上にまで散乱している。

 食べっぱなしのお菓子の袋もそのまま床に放られ、踏み場所を探すのも難しくなっている。

 

(病院……だよな?)

 

 それが雅人の感想だった。

 衛生面を最重要視しなければならないはずの病院で、なぜこんなゴミ屋敷が広がっているのか?

 

(そう言えば緒川さんが最後に「頑張ってください」って言ってたけど……こういう事か……)

 

 最初は響に対しての仲直りの激励と雅人に対しての謝罪の激励と思っていたが、どうやら雅人と響はうまくハメられたらしかった。

 

 そんなことを考えていたら、隣にいた響が持っていた花束を落とす。

 

「立花さん?」

 

「あ…あ……つ、翼さんが!?」

 

「何を突っ立っているの?」

 

 すると、後ろから翼が話しかけてきた。

 響の奇行に気を取られて気付かなかった雅人は、思わず身構えてしまう。

 

「つ、翼さん!? 大丈夫なんですか!? いや、それより警察に連絡を!!」

 

「? 何を言っているの?」

 

「だって、ほら!!」

 

 そう言って響は室内を指さす。

 翼と雅人も響のその言動と室内を見て、ようやく響が何を心配しているのか気づく。

 そのことに気付いた雅人は天井を仰ぎ、翼は顔を真っ赤にして俯く。

 

「え? あれ? え~っと……あ~! ……え~~……」

 

 響の声だけが空しく院内の廊下に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、まずは片付けましょう!」

 

 そう言って響が制服の上着を脱ぐ。

 雅人も来ていた黒いジャケットを脱いで中に入ろうとし、響に止められる。

 

「五代君は、この花束と私の上着を持って外で待機!」

 

「? なんで?」

 

「……この部屋は散らかっています」

 

「ああ。だから片づけるんだろ?」

 

「……散らかっているものの中には女の子の大事なものもあります」

 

 そこで翼は響が何を言っているのかに気付き、再び顔を真っ赤にして俯く。

 だが、当の雅人は響が何を言っているのかわからず、首を傾げる。

 

「? でも片づけるんだろ? 大丈夫だ。これでも清掃のバイトをしたことがあるから片付けは得意だ」

 

「……下着があるから男子は入室禁止!!」

 

 そうして雅人は翼の病室を追い出される。

 響の上着とお見舞いの花束を持って呆然と立ち尽くす雅人。

 その後ろでぴしゃりと扉が占められる。

 

「……え?」

 

 何がなんだかわかっていない雅人はそんな声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪かったわね、立花」

 

「はい?」

 

 突然の翼の謝罪に、響は困惑する。

 

「結局、あなたが正しかったわ。『未確認生命体一号』……クウガは、あなたが言った通り敵じゃなかった。そんな貴方を疑い続け、あまつさえ剣まで向けてしまったことについて謝るわ。ごめんなさい」

 

そう言われ、頭まで下げられ、響は狼狽する。

 

「そんな! 私の方こそ翼さんに対して失礼なことばかり言って済みませんでした! それに、その言葉は私じゃなくて五代君に言ってあげてください。翼さんの呼びかけに答えられなかったこと、ずっと気にしてたみたいですから」

 

「……そうね。そうさせてもらうわ」

 

 二人は、確かに険悪だった。だが、それも過去の話。

 今の二人の間には、確かに和やかな空気があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 掃除が終わり、響と翼が屋上に行くと言うので響に上着を返しながらついていく雅人。

 そこでは響が弱音を吐き、翼が励ますと言う一幕があった。

 

(「私が護りたいのは何でもない日常」……か。それを守ることが一番難しいことだって、立花さんは気付いてるのかな? ノイズが潜むこの世界で、その日常を守ることは容易じゃない。それでも、それがなんてことも無いように言いきれる立花さんが羨ましいよ)

 

 その時の響の姿が、かつて「誰かの笑顔のために」と言った雄介と重なったように、雅人には見えた。

 

 そしてその一幕が終わり、ようやく翼が雅人の方を向く。

 

「それで……あなたが『未確認生命体一号』……クウガね」

 

「ああ。今日は……これまでの事を謝りに来た」

 

「……大体の事情は緒川さんに聞いています。貴方にも貴方の事情があって私の呼びかけに応えられなかったと言うことも、好きで私を無視していたわけではないと言うことも」

 

「それでも、何も事情も語らずにあんたを無視し続けたのは俺だ。そのせいで、あんたもそんな傷を負ってしまった……。俺が事情を話していれば、もっと早くに共闘できて、あんたが傷を負うことも無かっただろうから……。

 すまなかった!」

 

 雅人はそう言って頭を下げる。

 その姿を見た翼は、嘆息を一つ。

 

「顔をあげなさい。たら、ればの話はしても意味がない事よ。あの時ああしていれば、こうできていればという仮定の話はするだけ無駄。そんなことをする暇があるのなら、する必要がないくらい強くなればいい。私は、そうしてきたわ。それに、貴方もこれからは私たちとともに戦場を駆け抜ける仲間。私もいきなり攻撃したりして、悪かったわ。……ごめんなさい。

 もうこの話は終わり。これからは共に戦いましょう。

 クウガ……五代 雅人」

 

「……! ああ!」

 

 手を差し出す翼。

 その手をしっかりと握り、二人は固い握手を交わす。

 

「やったね五代君!!」

 

「ああ!」

 

 そうしてサムズアップをする雅人と響。

 

「…? それは?」

 

「ああ、これはサムズアップって言ってな。自分の行動に満足、納得ができた人間だけがすることを許される仕草なんだ」

 

「え!? そうだったの!? 知らなかった~……」

 

「立花……貴女知らずに使っていたの?」

 

「いや~なんだかシックリきたんで~……つい~……」

 

 そんな響の答えに、しばらくの間屋上に笑い声が響く。

 

(そう言えば、奏もよくそうしていたわね……。聞いたことはなかったけど、奏は意味を知っていたのかしら? ……知らずに使っていそうだ)

 

 それは、戦士たちの束の間の平和の一幕だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦士たちに平和は長くは続かなかった。

 雅人がノイズを感知し、それと同時に弦十郎からノイズ出現と『ネフシュタンの鎧』の反応を検知したと言う報告を受ける。

 

「立花さんはネフシュタンの方を頼む。ノイズは俺がやる」

 

「分かった」

 

「俺もなるべく早くノイズを倒して駆けつける!」

 

「五代君も気を付けてね!」

 

 そして雅人と響はそれぞれ逆方向へと走り出す。

 

 これが、響にとって運命の分かれ道となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴウラムに乗り、ノイズの出現した街中に素早く駆け付けた雅人。

 すでに『赤のクウガ』に変身しており、そのまま飛び降りて飛び蹴りを放つ。

 その一撃で数体のノイズを消し飛ばし、そのまま構える。

 数十体のノイズの奥に、巨人型のノイズと巨大な芋虫型のノイズも確認できた。

 

(こいつは……少しきつそうだな)

 

 心の中で舌打ちし、まずは一番近くにいたノイズに向けて左ストレート。

 ゴロゴロと転がりながら炭素に変わるノイズを見届けることなく、次々と迫りくるノイズを迎撃する。

 アイロンのような手を躱し、その手を掴んで前方のノイズ集団に向かって投げつける。

 後ろから振るわれる爪をしゃがんで躱し、足を殴ってこかす。

 跳びかかってきたカエル型に、立ち上がる反動を利用してガゼルパンチ。

 回し蹴りで数体のノイズを巻き込んで倒す。

 

(キリがないな!)

 

 原因はあの芋虫型のノイズ。

 あのノイズが次から次へと新しいノイズを生み出してるので、キリがない。

 

(まずはあいつから!)

 

『超変身!!』

 

 そう決めた雅人は『青のクウガ』に変わり、跳躍。

 一気に飛び上がり近くのビルの屋上に降り立つ。

 そのまま助走をつけて跳び上がり、空中で一回転。

 

『超変身!!』

 

 もう一度『赤のクウガ』に変身し、空中から勢いのついたキックを放つ。

 

『ぉぉぉおおおりゃああああぁぁぁッ!!!』

 

 芋虫型のノイズの腹を突き抜け、着地する。

 貫かれた腹に刻印を浮かべ、ノイズは爆発。

 その爆発に巻き込まれ、周りにいたノイズもあらかた一掃される。

 

 着地した雅人に、巨大な影がかかる。

 それを察した瞬間、雅人は無理やり横っ飛び。

 さっきまで雅人のいた場所が巨人型のノイズの巨大な腕によって叩き潰される。

 

『ゴウラム!』

 

 雅人はゴウラムを呼んでジャンプする。

 そこへゴウラムが来て、雅人はその手を掴んで空中へ避難。

 

『超変身!!』

 

 今度は『紫のクウガ』へと変身。

 ゴウラムにつけておいた警棒をとると、雅人はゴウラムの手を放し巨人型のノイズの真上に飛び降りる。

 

 空中で警棒がみるみる姿を変え、一振りの剣に変わる。

 

『ぉぉぉおおおお!!!』

 

 そして剣を巨人型のノイズに向かって振り下ろす。

 重力によって加速のついた剣は、ノイズを真っ二つに切り裂く。

 しばらくノイズはその場を微動だにしなかったが、斬られた箇所に刻印が現れると同時に切断面から左右に分かれ、そして爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おっさん。こっちはノイズの掃討完了したぞ』

 

『わかった。響君の方も……今終わったところだ。そのまま帰投してくれ』

 

『はいよ』

 

ゴウラムに括り付けていた通信端末を切り、再びゴウラムを飛ばして二課に戻る。

 

『……?』

 

 途中であちこちのビルや電柱を足場にしながら跳んでいく人影を見るが、二課と反対方向だったので追いかけることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました……って、風鳴さん? 病院にいたんじゃ?」

 

「ああ、五代か。この通り十全とはいかないが、それでも戦闘はできる」

 

「そんなわけがないだろう。翼はまだポンコツだ。その間、響君のサポートを頼むぞ、雅人」

 

「おっさんに言われなくてもやるさ。それで、その立花さんは?」

 

「ああ。実は……な」

 

「……?」

 

 歯切れの悪い弦十郎に、怪訝な目を向ける雅人。

 そんな雅人の疑問に答えたのは朔也とあおいだった。

 

「実は、響ちゃんの親友にシンフォギアを使って戦っているところを見られちゃってね……」

 

「それで、私たちの方でもできるだけ説明はしたんだけど、それでも心配だから響ちゃんには早めに帰ってもらったのよ」

 

 椅子を回して雅人を見ながら話す朔也と、いつの間にかコーヒーを入れて雅人に渡しながら話すあおい。

 

「親友ってことは……小日向さんにばれたのか……」

 

「知っているのか?」

 

「立花さんと同じ俺のバイト先の常連だよ。ふらわーってお好み焼き屋だ。来たらサービスしとくよ。おっさん意外な」

 

「あ、じゃあ仕事帰りに寄らしてもらってもいいかな?」

 

「私も」

 

「おい、自然に俺をはずすな」

 

「おっさんはおっさんだからな」

 

「理由になってないだろうが!」

 

 ゲンコツの構えをとった弦十郎と、迎え撃つ形でファイティングポーズをとる雅人。

 暗い雰囲気があった司令室内部のメンバーも、それを見て明るい雰囲気に変わる。

 

「ま、そっちは心配しなくてもいいと思うぞ。あの二人はまだ知り合って間もない俺から見ても仲良しに見えたし、俺たちが心配しなくても解決すると思うぞ」

 

「……そうだと、いいんだがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二課からの帰り道。

 外はすっかり暗くなり、せっかくだから散歩しながら帰ろうと立ち寄った公園で、雅人は泣いている兄妹に出会った。

 

 兄から話を聞こうにも妹が泣き止んでくれなく、どうしたものかと考えていると、後ろから足音が聞こえてきた。

 

「おい!弱い者を虐めるな!!」

 

 長い銀髪を二つにくくり、後ろに垂らしている少女がそこに立っていた。

 歳は見たところ雅人とそう変わらないだろう。

 顔立ちも整っており、美少女と言われる類の少女だろう。

 

「別に虐めてるわけじゃないさ。迷子みたいだからどうにかして泣き止んでもらおうと思ってただけだ」

 

 二人の会話を聞いて、ますます泣く妹。

 

「虐めるなって言ってんだろ!!」

 

「虐めてねえって!! ……ちょっと待ってろ」

 

 雅人は着ていた黒いジャケットを脱いでまさぐる。

 そして目当ての物を見つけ、取り出す。

 取り出したのは3つのボール。

 

「? そんなもんでどうすんだよ?」

 

「まぁ見とけって……よ!」

 

 そして雅人はジャグリングを開始する。

 それを見ていた兄は歓声を上げ、妹と少女も雅人に目が釘付けになる。

 

「兄貴の方! ジャケットの中のボールを投げてくれ!」

 

「え!? え~っと……これ?」

 

「おう!」

 

「……えい!」

 

 兄は少し躊躇した後、雅人に向かってボールを投げる。

 雅人はそれをキャッチし、新たに4つになったボールでジャグリングを続ける。

 

「「「おぉ~~!!」」」

 

 観客の3人の声が重なる。

 

「ほれ!」

 

 そして雅人はタイミングを計り、ボールを1つずつ全員に放る。

 ゆっくりと放物線を描いたボールは、1つ目が妹の手に収まり、2つ目を兄がキャッチし、3つ目を少女がとる。

 最後に残ったボールをキャッチした雅人がゆっくりとお辞儀をすると、拍手が起こった。

 

「お兄ちゃんすご~い!!」

 

「なぁなぁ!僕にも教えて!!」

 

「(泣く子相手には師匠の真似が一番だな)よしよし、わかったからそんな引っ付くな。それよりお父さん探すんじゃなかったのか?」

 

 そして雅人は兄妹と少女を連れて夜の街に繰り出した。

 

 妹の手を少女が握り、その隣を歩く兄の隣を歩く雅人。

 しばらく歩くと少女が鼻歌を歌い始め、兄妹と一緒にそれを聞きながらゆっくりと歩く。

 

「お姉ちゃん、お歌好きなの?」

 

「は? 歌? ……なんで?」

 

「だって、楽しそうに歌ってたよ?」

 

「……は! そいつは残念だったな。あたしは歌は大っ嫌いだ。―――特に、壊すことしかできない、あたしの歌は……」

 

 その少女の言葉に兄妹はそろって首を傾げる。

 雅人も少女が首から下げているペンダントを見てハッとするが、二課で少女を見たことがないのを思い出し口を閉じる。

 

 しばらくすると、兄妹の父親が見つかり仲のいい兄妹に向かってどうして仲がいいのか聞いたが、その答えは「喧嘩しても仲直りするから仲良し」という単純なものだった。

 

 雅人はいつか再会した時にジャグリングを教えると約束し、少女と一緒に親子を見送る。

 

「さて、これで俺たちの仕事も終わりだな!」

 

 そう雅人が言い終わるか否かというところで、少女が雅人に背を向ける。

 

「お、おい、何も言わずに行くことないだろ」

 

「知るかよ」

 

「ここであったのも何かの縁ってやつだろ? 自己紹介くらいしとこう。俺は五代 雅人だ。あんたは?」

 

「……」

 

 無言で歩いていく少女。

 

「あっそ。ならあんたのことは少女Aって呼ぶからな。じゃあな、少女A!」

 

「おい! 勝手な名前つけるな! あたしには雪音 クリスって名前があるんだ!!」

 

「そっか。ならまた会おうぜ、雪音さん」

 

「……ふん!」

 

 名乗った後で乗せられたことにクリスは気付くが、ここで反論しても相手の思うつぼだと気付き、再び雅人に背を向けて歩き出す。

 

「あんたもジャグリング教えてほしかったら何時でも来いよー!」

 

 そう叫ぶ雅人から逃げるように、クリスは走っていった。

 

 

 





 クリスちゃんの扱いをどうしようかと悩む今日この頃。
 どうも作者です。モンハン4Gしてますか?フロンティアの方でシンフォギアコラボしてると聞きましたがネットで調べてもそれらしい情報が見つからず購入をためらっている作者です。
 モンハンで武器カテゴリ「手甲」が出るのはいつになるんでしょうね?ラージャンと熱い殴り合いとかしてみたいです。その時こそシンフォギアコラボとかもほしい……。

 今回の話で原作後半戦に突入。これからの展開はちょっと駆け足になります。一四話当たりで第一部は終わりかな?原作より一話増えてしまうと言う罠。

 さて今回ですが、まずは翼さんの汚部屋シーン。ビッキーの戦う覚悟の話が原作ではありますが、覚悟云々は雅人君が何回もしてるので思い切ってカット。どうしようか悩みましたが書いたとしても原作垂れ流しになるのでビッキーの顔ばれとかクリスちゃんとの戦闘とかもカットしちゃいます!……この小説の主人公は響ではなく雅人君なので。
 と言うか防人口調で無い翼さんの口調が安定しない……。いっそのこと最初から防人口調だったら書きやすいのにな~。
 他のシンフォギアSSで結構見る「クリスちゃんが兄妹を泣かす→オリ主登場」ではなく「オリ主が兄妹を泣かす→クリスちゃん登場」にしてみた。
 テンプレにケンカ売る? なんですかそれ? (すっとぼけ)
 そして五代さんの十八番であるジャグリング! 雅人君もしっかり継承してます! 泣いてる子供が五代さんに勝てるわけがないんです! あんなおにいちゃんが作者もほしかったです!

 ここで本編では語られないであろう裏設定を少し。
 奏さんはみのりさん(雅人君の師匠である五代 雄介の妹)の保育園に通っていてその時に五代さんに会ったことがあり、成長してから五代さんの顔も思い出せないくらいあっていなかったけど五代さんを象徴するサムズアップだけは覚えていたのでそれからも頻繁に使っていた。五代さんと雅人君が二年前に日本に帰ってきたのは五代さんが奏さんのことを覚えており、成長した奏さんの歌を聞くためだった。だがライブ会場へ行く途中に起きたある事件のせいで五代さんは死亡。同時刻にライブ会場の惨劇が発生し、二人はほぼ同時刻に息を引き取った。

 多分奏さんと五代さんの関係は本編では出ないと思います。だけどこのまま設定だけにするのは寂しいのでここに載せてみた。妄想全開!

 とりあえずこれで雅人君も残すはクリスちゃんとの絡みだけですね。それが終わったら最後にフィーネ戦。多分最終戦は空気になるかも……。巨大怪獣は戦隊ものかウルトラマンでやれって話です。仮面ライダーで巨大怪獣は分が悪いのです! ……龍騎でもやれるかな?(ドラグレッダーを見ながら)




 では次回予告ぅ!



「それは未来ちゃんに任せときな! 覗こうとするんじゃないよぉ?」

「知らないの!? 緊急避難警報よ! ノイズが出たのよ!」

「関係ェねェ奴らのところに行くんじゃねェッ!!」

『なんであんたが前線に出てくんだよ!!』

(俺は……あの子たちを救えないのか……?)

『そこだッ!!』



               『悲痛』


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第九話 「悲痛」

 ある意味タイトル詐欺回。

 クリスちゃんホントにどうしようかな……。






 

 

 早朝、ふらわーの二階にある自分に割り当てられた部屋で雅人は目を覚ます。

 一瞬だが、ノイズの気配を感じたからだ。

 だが、それはほんの一瞬であり、気付いたときにはノイズの気配はもう消えていた。

 

(……なんだったんだ?)

 

 首を傾げながら、目が覚めてしまったので起き上がって布団を畳む。

 店開きにはまだ早い時間。

 掃除でもしようかと下に降りて倉庫から箒と塵取りを取り出す。

 再び店内に戻ると、未来と店長が入り口で話をしていた。

 

「あれ? 小日向さん?」

 

「ああ五代さん! ちょうど良かった! ちょっと手伝って! 外で人が倒れてたから、おばちゃんがとりあえずうちで寝かせようって話になって!」

 

「人が?」

 

「そうなの! とにかく早く来て五代さん!」

 

「あ、ああ」

 

 未来に言われるがままついていくと、そこにはつい先日知り合ったばかりの少女、雪音 クリスが倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、今日はお休みだよ」

 

「わかりました。雪音さんのことは……」

 

「それは未来ちゃんに任せときな! 覗こうとするんじゃないよぉ?」

 

「しませんよ」

 

 苦笑しながら店内の掃除を続ける雅人。

 上の階がドタバタと騒がしい気がするが、気にしないことにして掃除を続ける。

 テーブルを拭き、床を掃き、窓を磨く。

 綺麗になった店内で満足そうに頷いていると、ノイズの気配を感じた。

 その直後、けたたましい警報が鳴る。

 

(これは……緊急避難警報か)

 

 掃除用具を壁に立てかけて外に出ようとすると、おばちゃんと未来とクリスが駆け下りてきた。

 3人は店の入り口から外を見る。

 

「おい、一体どうしたってんだ?」

 

「知らないの!? 緊急避難警報よ! ノイズが出たのよ!」

 

 怪訝そうに聞くクリスに、未来が答える。

 それを聞いた瞬間、クリスは逃げまどう人波に逆らって走り出していってしまった。

 

「クリス!?」

 

「小日向さんは店長と一緒に逃げてくれ!雪音さんは俺が追いかける!」

 

「五代さん!!」

 

 悲鳴に近い声で雅人を呼ぶ未来に対して、大丈夫という意味を込めて走りながらサムズアップ。

 そのまま前を走るクリスを追う。

 

「おい少女A!! 止まれって!!」

 

「あたしはそんな名前じゃねェッ!! ……ってお前は!?」

 

 驚いて足を止めたクリスに追いつく雅人。

 

「何してんだ! とっとと逃げるぞ!」

 

「来んじゃねェよ!! あたしが招いた結果なんだ!! あたしがケリ付けなくてどうすんだよ!!」

 

「……お前が?」

 

「そうだ!! あたしがこんなにしちまったんだ!!

こんな事じゃないのに…………あたしがしたかった事はこんなことじゃないのに!!

なのに……あたしがやる事はいつも……ッ!!

いつもいつもいつもぉ!!」

 

 少女の慟哭が響く。

 その場に崩れ落ち、地面を殴りつけるクリス。

 その両の眼からは、涙が流れていた。

 

 後ろから迫りくるノイズ。

 見れば左右からも来ており、三叉路であるこの通路は完全にノイズに囲まれていた。

 

「……お前はあたしの後ろに下がってろ。

さぁ、あたしはここだ。だから……。

関係ェねェ奴らのところに行くんじゃねェッ!!」

 

「お、おい!」

 

 ノイズが体を棒状にして飛び出す。

 それとクリスが歌いだすのは同時だった。

 

 突っ込んでくるノイズを躱しながら歌うクリス。

 だが、ここまで全力疾走してきて、さらに先ほど泣いたせいか思うように歌えず咳き込む。

 そんなクリスに向かって飛行型のノイズが体をドリルのような形に変えながら突進してくる。

 

 クリスがやられそうになり、雅人がクリスの前に躍り出てクウガに変身した直後、雅人とクリスの目の前を大男が遮った。

 

「オルァアアッ!!」

 

 その大男は、震脚でアスファルトをめくりあげて盾とし、盾にしたアスファルトを殴って石つぶてをノイズに向けて放つ。

 

「ハァァァァァアアアア…………ッ!」

 

『……何つぅとんでもなおっさんだ』

 

「おっさんというなと言っているだろう」

 

『……いや、そうじゃない! なんでまたあんたは!』

 

 雅人が声を張り上げた瞬間、左からノイズの攻撃が迫る。

 大男……弦十郎は、無言で先ほどと同じことをする。

 そして呆然としている雅人とクリスを両脇に抱えて跳躍。

 近くの家屋の屋上に避難した。

 

(跳躍力は『青のクウガ』並……力は『金』と同等かそれ以上……。

あのおっさんに勝てる人間が師匠くらいしか思いつかないな……ってそうじゃない!)

 

 あまりの出来事に現実逃避しかけていた雅人は、あわてて思考を戻す。

 

「大丈夫か?」

 

『それはこっちのセリフだおっさん! なんであんたが前線に出てくんだよ!!』

 

 弦十郎の手を振り払い、雅人は叫ぶ。

 

『あんたは一発喰らったら終わりなんだぞ!? なのに何でそんなに簡単にッ!!』

 

「前も言っただろう? それは俺が大人だからだ」

 

『だから、そんな理由でッ!!』

 

 二人が言い争っている最中に、聞こえてくる風切音。

 一斉にそちらを振り向くと、飛行型のノイズが屋上にいた3人に狙いを定めていた。

 

 そして戦場に響く歌声。

 

 それと同時に雅人たちを囲んでいたノイズに向けて打ち出される無数の矢。

 

「てめぇがあの『未確認生命体二号』……クウガだったんだな……。

……ごらんの通りさ! あたしのことはいいから、てめぇらは戦えないやつの救助でもしてな!

ついて来い屑どもッ!!」

 

 クリスの放ったガトリングの銃弾やミサイルが、ノイズを蹂躙していく。

 それを悲しそうな表情で見る弦十郎。

 

『……話は後か……』

 

「ああ。俺は避難誘導を進める。雅人。お前は……」

 

『片っ端からノイズを片付けるさ! だからもうおっさんも出てくんなよ! 足手まといだ!』

 

 言い終わるのが早いか否か、雅人は飛び上がり空中で待機していたゴウラムに乗る。

 

(俺は……あの子たちを救えないのか……?)

 

 銃口を煌めかせながら駆ける少女と飛び去る少年を見て、弦十郎は自問した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノイズを蹴散らしながら市街地を飛び回った雅人。

 街中のノイズは一掃し終え、遠くから感じるノイズの気配を追ってたどり着いたのは町から随分離れた山の道路だった。

 悲鳴が聞こえゴウラムを飛ばすと、落ちるタコ型のノイズと崩れ落ちる道路、そして一緒に落ちていく未来が見えた。

 

(小日向さん!? なんでこんなところに……。間に合うか!?)

 

 雅人の下に響が猛スピードで飛んでいるのが見えたが、これでは間に合わない。

 ノイズは落ちながらも未来にその触手を伸ばしており、ゆっくりとだがどんどん未来に近付いている。

 

『超変身!!』

 

 ゴウラムに括り付けていた弓を取り、片手で構える。

 弓はみるみる拳銃のような形状に姿を変えていき、後ろには取っ手ができる。

 それと同時に雅人の姿も変わる。

 装甲は緑色になり、肩当は左肩だけになる。

 両目も緑になり、五感が鋭敏になる。

 

『――――――ッ!!』

 

 押し寄せる情報の津波に悲鳴をあげそうになるが、必死に耐えながらゴウラムの装甲に弓の取っ手を引っ掛けて引き絞る。

 そして、余計な情報をすべて無視して視覚だけに集中する。

 

 ノイズの本体は見る限り装甲が厚く、『緑のクウガ』では貫けそうにない。

 それでも、未来は助けなければならない。

 初めてできた、雅人の二人しかいない大切な友達だから。

 

(絶対に……助けるッ!!)

 

『そこだッ!!』

 

 狙いを定め、引き金を引く。

 

 拳銃とも弓とも違う独特の発射音を響かせながら、限界まで引き絞られた矢が飛ぶ。

 矢は狙い違わず未来を狙う触手を貫き、刻印を浮かべて爆発する。

 

 その爆発の衝撃で未来とノイズの間が空き、そして響がノイズに向かって突っ込む。

 腕のガントレットは肘のあたりまで延ばされており、それが拳のインパクトの瞬間に勢いよく元に戻る。

 衝撃は、遅れて雅人をも襲った。

 殴られた方とは逆側がはじけ飛んだノイズ。

 そしてそのまま爆発。

 落ちていく未来を響が抱きかかえ、一緒に落ちる。

 マズイ、と思った雅人が急いでゴウラムを飛ばし、間に合わないと判断して飛び降りる。

 斜めに空中をすべり込みながら響たちの下に入り込めたと思った瞬間、響の足のバンカーが雅人を貫いた。

 

『!?!?!?!?!?!?』

 

 バンカーの激痛と衝撃、そして着地時の轟音が、『緑のクウガ』になって強化された五感に響く。

 バンカーと雅人という二重のクッションを間に引いても響たちは止まらず、そのまま坂道を転げ落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひとしきり泣いて、笑い合った響と未来。

 改めて二人は友情を確かめ合い、美しい友情を祝福するかのように川も夕日を受けてキラキラと輝く。

 そして二人は笑いながら街に帰る。

 

 そう綺麗に終わるはずだった。

 

「そう言えば、未来を抱きかかえて着地する瞬間に、なんか「グエーーーッ!!」って声を聴いたような気がするんだよねぇ……」

 

「そんなのじゃわかんないよ?」

 

「う~ん、なんて言ったらいいかなぁ~~? カエルみたいな鳴き声だった?」

 

『ほう……カエルか』

 

 突然の声に、響と未来はそろって振り返る。

 そこには白い鎧をまとったクウガがいた。

 

「ご……五代君じゃん!! どうしたの!? 奇遇だねこんなところで!!」

 

 響はとぼけているが、未来のところにブースト飛行する際にゴウラムに乗って飛ぶ雅人のことをしっかりと確認しており、さらに雅人のアシストがなければ間に合わなかったと言うのも知っている。

 そして着地時に緑色の影が響たちと地面の間に割って入ってくれたことも、今になって思い出した。

 その証拠に響の声は若干震えている。

 

「え!? 五代さんなの!?」

 

『ああ。ちょっと待っててくれるか小日向さん? 俺は今から身を挺して庇ってくれた人をカエル呼ばわりした奴にお仕置きしなきゃいけない』

 

 白い鎧を纏ったまま響に近付いていき、拳を鳴らす雅人。

 

「そ、そうだ!! どうして白いクウガなの!? 最近ずっと赤とか青とか紫だったじゃん!」

 

『緑の力を使い過ぎたのとダメージの許容限界を超えたからかなー。最後の着地の瞬間の足のバンカーが腹にクリーンヒットしたからなー』

 

「そ、そうですか……」

 

 そこで雅人はぴたりと足を止める。

 

『ま、バンカーに対してはそんなに怒ってないんだよ。俺が間に合わなかった場合はそうしないと二人ともつぶれたトマトみたいになってただろうしな。

じゃぁ、俺が怒ってるのは何でだと思う?』

 

 響は必死に思考を巡らせる。

 ここで回答を間違えれば確実にお仕置きが待っているだろう。

 抵抗しようにも目の前の怒れる男の強さはこの1か月一緒に戦ってきた響自身がよく知っている。

 ギアを纏った状態ならば弦十郎との特訓のおかげで何とか戦えるだろうが、生身の状態では響に勝ち目はない。

 そもそも、ギアを纏う隙など与えてくれないだろう。

 

 夕暮れの河原に、沈黙が流れる。

 

「……カエル……ですか?」

 

 意を決して言った響の答えが、これだった。

 

 その答えを聞き、雅人は変身を解く。

 素敵な笑顔で響に笑いかけ、つられて響も笑顔になる。

 

「ハッハッハッハッハ……」

 

「あ、あはははは……」

 

「ハハハハハハ!!!」

 

「あははははは!!!」

 

「その通りだよバカ野郎!!」

 

「ごめんなさーい!!!」

 

 逃げようとダッシュした響を捕まえた雅人が、膝立ちになりその膝の上に響のお腹を乗せる。

 そして響のお尻をひっぱたいた。

 

「いったぁぁあああ!!!」

 

「カエルに加えて倒れた俺を放置して帰ろうとしたからだよ!! あんた目が合ったよな!? 着地直前で俺と目があったよな!? その後の仲直りは俺も感動したよ!! だけど俺を放って帰ろうとしたところで涙も引っ込んだよ!!」

 

「ご、ごめんなさーい!! ゆるしてーー!! やめてとめてやめてとめてやめてとめてやめてとめて痛ぁぁあああ!!!!」

 

「……………………」

 

 夕暮れの河原に、2人の声が響く。

 雅人は散々響を叱りながらお尻ぺんぺんを続け、響はひっぱたかれるたびに悲鳴を上げる。

 

 そして状況に取り残された少女が1人。

 

 どうして雅人があんな鎧を着ていたのかとか、雅人も事情を知っていたのかとか、そもそもどうやってここまで来たのかとか、聞きたいことを何も聞けずにただ状況に流される少女……小日向 未来。

 

 やがて未来は携帯を取り出し、カメラモードで起動。

 逆光の処理をし、いまだにお尻ぺんぺんを続ける二人にピントを合わせ、シャッターを押す。

 

 カシャリ。

 

 夕日をバックにお尻ぺんぺんをする雅人と、それを受けて涙目になっている響というよくわからない写真を見て一言。

 

「……なに? これ?」

 

 雅人の怒りは日が落ちるまで治まらず、その日から丸一日の間響はお尻を抑えながら生活した。

 

 

 






 と言うわけで第九話、今まで空気だったペガサスさんの登場です! 本来の使い方をされてゴウラムさん歓喜!

 にしてもやっぱりシンフォギアの二次は少ないですね。もっと増えてくれてもいいのにどうしてこんなに……増えないのなら自分で増やせばいいか!
 それにしてもまさかお気に入りが40を超えるとは思いませんでしたねぇ。当初は「シンフォギアもマイナーな部類だし数ある仮面ライダーとのクロスだからお気に入りが10超えればいい方かなー」なんて思ってたのにさらに増えるとは……逆に感想が増えないんですけどね。アドバイスをしてくださる方もありがたいです。どうでもいいことで感想を書いてくださってもいいのよ? 皆さんのリアクションが見れるのが一番ありがたいですからね。

 さて今回の話はクリスチャンと未来さんの対面、ノイズの襲撃とOTONAの活躍、響と未来さんの仲直りの3本立て! これをすべて一話以内に収めてしまうシンフォギアの勢いに改めて驚嘆します。

 ふらわーのおばちゃんの出番はこれ以降あんまりありません。原作の方でも最終話で少し顔を出した後Gの最終話まで出番有りませんでしたしね。ふらわーもボロボロになったので本格的な出番は第3部までお預けです。
 そう言えばこれまで書いた話を読み直して気付いたんですが、実は主人公たちをメインに据えすぎてモブの描写があまりできてないんですよね。シンフォギアではバンバンエキストラの人達が死んでいくことでも有名ですし……まぁ一期は一話と十二話くらいしか死亡描写ないんですけどね。助けたられた人たちがいるということは必ず助けられなかった人たちがいると言う事なんで、その辺が悩みどころです。

 あとの大きなイベントは翼さんのライブと本部襲撃と最終決戦ですかね。何回か原作にない閑話を入れる予定です。下書きしてみたら最終決戦で雅人君が本格的空気になってました。だって彼空中戦とかできないし。こうなったらゴウラムにファイナルフォームライドするしか……!

「俺自身が……ゴウラムになることだ」

 ギャグですね。止めときます。

 では次回予告。


(……あたしは……これからどうすれば……)

「なんで、ノイズが大量にいる前線に出てきたんだ?」

「こういうのはね? 変に溜め込むよりもどこかで発散させる方がいいのよ。それに、2人とも男の子だしね」

「……どうした? 変身しないのか?」

「ホント……興味深いわぁ♪」

『俺は、あんな奴らのせいで誰かが泣いてるなんて許せないんだ』

             『大人』


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第十話 「大人」

 気分が乗って早めの更新。

 ……やらなきゃいけないことに直面した時、作者の執筆速度は加速する。




 

(ボール……返せなかったな……)

 

 夜の街。

 人気の全くない場所でクリスは一人、ゴムボールを手にして佇んでいた。

 

 思い出すのは昼間のこと。

 今まで何度かクリスの邪魔をしてきたクウガと、あの時夜の公園で出会った少年が同一人物だったこと。

 あの夜に受け取ったボールをまだ持ったままで、返せなかったこと。

 赤髪の大男……弦十郎が言った、「大人だから」という言葉の意味。

 

(大人だからなんだって言うんだ……。大人はみんな敵だ……!)

 

 クリスは2年前まで虐待を受けていた。

 否、虐待というほど生易しいものではなかっただろう。

 両親を紛争によって目の前で殺され、その後捕虜として生活。

 さまざまな大人がクリスに乱暴を繰り返した。

 クリスが何を言っても誰も耳を貸さず、そんな生活が数年間続いた。

 

 2年前にやっと解放され、それ以降はフィーネのもとに身を寄せていたが、結局フィーネにも裏切られた。

 

(……あたしは……これからどうすれば……)

 

 クリスは歩き出す。

 どこにも行く当てはなく、唯一信頼していた人に裏切られた少女は、夜の街をただ歩く。

 自分がどこに向かっているのかも、どこに向かいたいのかもわからないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特異災害対策機動部二課本部司令室。

 改めて未来に事情を説明するためと言われて集合がかけられた響と未来が見たのは、睨み合う雅人と弦十郎の姿だった。

 

「……なにがあったんですか……?」

 

 隣で状況を静観していた了子に問いかける響。

 

「ん~……。ま、いくら大人ぶっていてもやっぱり男の子だったってことかしらね?」

 

「へ?」

 

 訳が分からず間の抜けた声を出す響。

 状況を全く呑み込めず困惑する未来。

 そんな二人のために朔也とあおいが説明を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遡る事数分前。

 最初に翼が到着し、その次に雅人が司令室に入ってきた。

 その時点で雅人は周りから見ても一目で苛立っているとわかった。

 そして最後になった響と未来を待つために、ソファに座り翼と了子が談笑していた時のこと。

 

「おっさん……」

 

 それまで一言も喋らなかった雅人が口を開いた。

 

「おっさんと呼ぶなと……なんだ?」

 

「なんで、ノイズが大量にいる前線に出てきたんだ?」

 

 それは、つい先日の戦闘のこと。

 ピンチになったクリスを助けようとして前に出た雅人の、そのさらに前に出てノイズから二人を庇った時のこと。

 

「あの時も言っただろう? お前たちが子供で、俺が大人だからだ」

 

「理由になってないんだよ! 一歩間違えたら死んでたんだぞ!?」

 

「それは普段の君たちも同じだ」

 

「同じじゃねぇよ! 俺にはクウガの鎧があるし、風鳴さんや立花さんたちもシンフォギアがある! だけど、あんたは生身の人間だろ!? なのに何でそう簡単に出てくるんだよ! 力もないくせに、なんで俺の前に出てきたんだよ!」

 

「力がない……か」

 

 雅人の言葉に、弦十郎は雅人をまっすぐに見つめながら言葉を返す。

 

「何度でも言ってやろう。俺がお前を守るのは、力の有る無しではなく、俺がお前よりちょっとばかし大人だからだ。俺たち大人の役目は、お前たちが何の心配もなく伸び伸びと成長していくのを守ることだ。お前たち子どもが、安心して暮らすための盾になることだ。それは、翼や響君たちはもちろん、お前もそうだ」

 

「なんだよそれ……意味わかんねぇよ……。大きなお世話だ! あんたに守ってもらわなくても、俺は負けない!

俺は! なんの力もないただ逃げ回るだけの大人になんか守ってもらわなくても生きていける! それを証明してやる!!

勝負だ! 風鳴 弦十郎!」

 

「……いいだろう。それでお前の気が済むなら、付き合ってやる。そして、お前に教えてやる。世の中は、そんな大人だけじゃないと言うことを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うことがあったんだよ」

 

「元々司令も熱くなりやすい性格だし、売り言葉に買い言葉ってところね」

 

「青春よね~♪」

 

「いやいやいやいやいや! 誰か止めましょうよ! それでこんな、訓練場まで使って!」

 

 所変わって、特異災害対策機動部二課本部特別訓練場。

 そのすべてが一望できる展望エリアに、響たちは集まっていた。

 朔也とあおいが説明を始めたころに、勝負をする二人のために思い切り体を動かせる場所に移動。

 その場所が、ここだった。

 

「こういうのはね? 変に溜め込むよりもどこかで発散させる方がいいのよ。それに、2人とも男の子だしね」

 

「……関係あるんですか?」

 

「大有りよ♪」

 

 未来の問いかけに、人差し指を立てながら答える了子。

 そんな彼女たちの下で、今まさに二人の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が勝ったら、あんたは二度と俺を守ろうだなんて考えるなよ。足手まといに守ってもらうほど俺は弱くない」

 

「自分が強いと思っているうちは、まだまだ子供だ。それがわからないお前じゃないだろう?」

 

「……ッ! 後悔するなよおっさん!」

 

「ああ……」

 

 雅人が弦十郎に向かって拳を振り上げ、その顔を殴る。

 それを弦十郎は微動だにせず受ける。

 

「……なんで、避けないんだよ……」

 

「どうした? それで終わりか?」

 

「ッ! おぉぉおお!!」

 

 雅人はさらに弦十郎を殴り、弦十郎は全く避けずに雅人の拳を受け止め続ける。

 

「なんで……なんで!」

 

「……どうした? 変身しないのか? お前の手でどうにかなるわけではないと言うのはわかっただろう? 変身して攻撃しても、俺は文句は言わん」

 

「クウガは! ノイズと戦うための力だ! 人を護るための力だ! 人に向かって振るう力じゃない!」

 

「わかっているじゃないか」

 

「え?」

 

 弦十郎の突然の言葉に、雅人は手を止める。

 

「お前のその手も、その力も、人を護るための力だ。そしてそれと同じように、俺たち二課も人を……誰かを護るために力を使っている。お前が言う人の中に俺たちが入っているのと同じように、俺たちが言う誰かの中にはお前も入っている」

 

「……俺も?」

 

「ああ。いいか? 雅人。

 人を護るために戦う……それは素晴らしいことだ。だがな、お前だけが誰かを護っていると思うな。お前が護っていると思うな。それはただの思い上がりだ。お前が誰かを護りたい……そう思うのと同じくらい、お前を護りたいと思っている者たちがいる。今までお前は独りだったんだろう。だが、今お前は独りじゃない。お前が護りたいと言った仲間がいる。お前を護りたいと思う仲間がいる。だから、何でも一人で背負い込もうとするな。背伸びをしようとしなくていい。これからは、俺たちを頼れ。

 無理に俺たち大人に合わせる必要はないんだ。……だからそんな泣きそうな顔で我慢するな。泣きたければ泣けばいい」

 

「……ッ」

 

 独りじゃない。

 

 雅人は、この二年間ずっと独りだった。師である雄介が死に、たった独りでノイズと戦ってきた。

 それでも生きていくためには金が必要で、そのために日雇いのバイトを探して稼ぎ、日本中を旅しながらノイズと戦ってきた。

 当時14歳の少年にとって、それは過酷な旅だった。

 人のぬくもりと言うものを忘れてしまうには、十分な時間だった。

 

 雅人が忘れてしまったぬくもりを、弦十郎は取り戻させたかった。

 それは大人としての義務だと感じていたし、何より弦十郎自身がそのような雅人を見ていたくなかった。

 

 雅人の眼からは涙があふれてきていたが、本人はそれに気づいていない。

 そんな雅人を、弦十郎は抱きしめる。

 雅人が忘れてしまった人のぬくもりを思い出させるために。

 

 それからしばらくの間、雅人は子供のように泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特異災害対策機動部二課本部訓練場前通路。

 

 風鳴 弦十郎はそこで膝をついた。

 その額からは汗が滝のように流れ、呼吸も荒い。

 

「流石の弦十郎君も、今回は危なかったみたいね?」

 

「……了子君か」

 

 現れた了子は、弦十郎に肩を貸しながら通路を歩く。

 

「まったく、無抵抗で殴られ続けるなんて無茶するわねぇ。でも、正直あなたがここまでボロボロになるなんてちょっと想定外だったわ」

 

「……どうして……分かった?」

 

「お説教してる間、何度か膝が笑ってたわよ。う~ん……罅は入ってるけど折れてはなさそうね。普段から鍛えてるおかげね」

 

「……俺も、ここまでとは思わなかった」

 

「それは私もよ。体内に聖遺物と同等の物が埋め込まれているから何かあるとは思っていたけど、まさかここまでとはねぇ」

 

 了子がいくら記憶を掘り返しても、目の前の大男が膝をつく光景を思い出すことはできない。

 それほどまでに、風鳴 弦十郎は人間として規格外の存在だった。

 トラックに跳ね飛ばされても、次の瞬間には何事もなかったかのように起き上る。むしろ、トラックを吹き飛ばすかもしれないと言う妙な信頼があった。

 

 そのもはや人外の域に到達しようとしていた弦十郎を相手に、こうも簡単に膝をつかせることができる。

 五代 雅人と言う存在は、了子の中ではすでに人外にカテゴリされていた。

 

(理由は多分一つだけ……その体に埋め込まれた『アークル』……あれを見るたびに記憶が刺激される。はるか昔……どこかで見た覚えがある。興味は尽きないな)

 

「ホント……興味深いわぁ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺は、あんな奴らのせいで誰かが泣いてるなんて許せないんだ』

 

 青年が言葉を紡ぐ。

 どこかの山奥で、大きな石に腰掛けた青年とその隣で青年を見上げる少年。

 少年は問う。

 

 ―――――どうして、戦うんですか?

 

 その問いの答えを、青年は既に見つけていた。

 

『あんな奴らのために、誰かが泣いてるのなんて見たくない。みんなに笑顔でいてほしい。だから、俺は戦うんだ。だって、クウガだから』

 

 そう答える青年が、少年には眩しく見えた。

 

 ―――――僕も……戦えますか?師匠のように。

 

『俺自身、君が戦う必要がない世界にしたいんだけどなぁ……。君が修業を終えるまでにあいつらを倒しきるのが、俺の目標の一つだし。

 だって、俺は君が修業を受けるのにも反対なんだ。できれば、君にはクウガになってほしくない』

 

 ―――――僕が、弱いからですか?

 

『違うさ。君がまだ子供だからだよ』

 

 ―――――子供?

 

『そう。俺たち大人はさ。子供の前では格好つけたいんだよ。それが君たちには鬱陶しく感じるかもしれないけど、それでも人生の先輩として、君たち子どもを護る義務が俺たち大人にはあるんだ。

 だけど、それでも君は俺のもとで修行をすると言った。だから修行では手は抜かないし、君が一人前のクウガになれるようにする。俺の感情とは別にね』

 

 ―――――……よくわかりません。

 

『う~ん……まぁ、君がなんて言っても俺が君の師匠をやめるつもりはないって覚えておいてくれるだけでいいよ。君がこの道を選んだんだからね。途中下車は無しだよ。君も、そして俺もね。

 そんな君の問いに今度は俺が返すよ。

 

 君が、戦う理由は何?君が、クウガとして戦うときに掲げる『覚悟』は?』

 

 ―――――…………僕は、――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠の跡を継ぐ」

 

 そして、雅人は目を覚ます。

 見上げる天井は以前使っていたテントではなく、ふらわーの自分の部屋の天井でもない。

 二課の仮眠室。先日のノイズによる町の襲撃によってふらわーも住める状態ではなくなった為、雅人は二課で寝泊まりをしている。

 雅人が記憶を掘り返すと、夢を見る前は演習場で弦十郎の暖かな言葉に涙を流した後そのまま眠ってしまったらしい。

 

「そう、夢だ」

 

 体を起こす。

 思い出すのは先程の懐かしい夢。

 まだ雄介のもとで修業を初めて1年もたっていない頃の夢。

 

(俺に、師匠を殺してしまった俺に、自分の覚悟を語る資格はない。

 だからこそ、師匠の夢を引き継ぐんだ。俺のせいで夢半ばで倒れてしまった師匠の代わりに、俺が『誰かの笑顔のため』に戦うんだ)

 

 腰に……アークルがある位置に手を当てて、改めて決意する。

 

 かつて決意した自らの戦うための『覚悟』を捨て、雅人は借り物の『覚悟』で戦うことを決意する。

 

 その危うさと歪さに、まだ誰も気付いていない。

 

 

 

 

 

 

 

 






 これ、大人出来てるよね?

 どうも作者です。かっこいい大人って難しい。いやほんとに。
 迷走するクリスちゃん、一歩ずつ二課と歩み寄っていく雅人君。少しずつ和解フラグを立てていきます。
 弦十郎さんとの殴り合い〈一方的〉。
 当初はほんとに殴り合いさせるつもりでしたが、あの弦十郎さんが素直に殴り合いに応じるのかと思い直してこのような形に。結果的に最初考えてたものより良くなったと思うので満足です。セリフは勢いで言わせました。
 そしてあの弦十郎さんが膝をつくと言う異常事態。クウガを知っている人ならアークルがどういうものかわかりますよね?そう、フラグは少しずつ立てていきます。
 雅人君の夢は当時の修業の最中、どこかの山奥での一幕です。五代さんと雅人君の当時の様子が分かる貴重な一幕。不穏な言葉も出てきて物語は加速していく。



 では次回予告。




「平和……ですかねぇ?」

(あいつは敵だ。さっきのクウガだって敵だ! なのに……なんなんだよ、このイライラは!)

「翼さんのマネージャーもやってます。これから、風鳴 翼をどうぞごひいきに」

「歌……か……。戦い以外で歌を聞くのは、2年ぶりだな」

『今まで1人で、ずっと戦ってきたんでしょ? だから、今日は五代君はお休み!』

(……何やってんだろ……俺…)


               『歌女』


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第十一話 「歌女」

急に歌うよ~♪




 

 特異災害対策機動部二課本部廊下。

 先日のノイズ騒動で店長が怪我をし、ふらわーが臨時休業になったため、雅人は散歩ついでに本部を探検していた。

 地下という広大な空間名だけあって、本部の大きさはそこらの建物の比ではない。

 いつもは司令室の廊下だけしかと通らないから、別の通路は全く同じに見えても新鮮だった。

 

(やっぱり師匠の言った通り『緑』の扱いは難しいな。30秒持たないとは思わなかった)

 

 散歩しながら、今現在雅人が使えるクウガのことを考える。

 

 大体は雅人の師匠……雄介が言った通りの性能だった。

 白は全色の中で最弱、覚悟ができていないものの証。

 赤はバランス、クウガ本来の姿で攻守ともに優れた性能を発揮する。

 青はスピード、素早い動きとリーチの長いロッドで多くのノイズを一度に葬れるが、打たれ弱い。

 紫はパワー、頑丈な装甲と攻撃力の高い剣でノイズを圧倒できるが、剣ゆえのリーチの短さと動きが他の色に比べて鈍く、さらに装甲の耐久値を超える攻撃に対しては脆い。

 緑は超感覚、研ぎ澄まされた五感と射撃武器によって精密な射撃ができるが、五感が強化されすぎるせいで長く変身することができず、限界を超えると白に戻り2時間変身できないデメリットがある。

 

 そして今はまだ発現したことがない各色に『金』を足した色。

 クウガの長い歴史の中でも相当な鍛錬をしたものでなければ発現しないと言われている『金』の力。

 各色の強化形態のようなもので、その力は圧倒的。

 発現すればそこらのノイズには負けることがないが、『究極の闇』に近付くと言われている。

 

 雅人は半人前だ。

 

 本来クウガになるには10年~15年の修業期間が必要であり、その修行の合間に師匠の戦いを見てクウガの技を盗む。

 そして修行が終わり、クウガを受け継ぐ準備ができた時に師匠から『アークル』を受け継ぐ。

 それが今までのクウガの継承だった。

 

 だが、雅人はある事件によってクウガの修業が5年しかできていない。

 修業が不十分なままクウガになり、その後は実戦に次ぐ実戦。

 何時何処でノイズが出てもすぐに戦いに行き、二課の眼から逃れるために隠れながら生活していた。

 そしていつもなるのは『白のクウガ』。

 1人で戦ってきた雅人にとって、自分が出来ることと出来ないことを把握することは必須だった。

 

(無理だってわかってるけど……『金』の力は欲しいよなぁ)

 

 翼は汎用性の高い技を多数持っており、クリスはその大火力でノイズを一掃できる。

 響も強力な必殺技を身に着けたのに対し、クウガの基本技はパンチかキックのみ。

 『赤』以外の色は武器を使えるが、それでも翼やクリスのようにどこからでも出せるわけではない。

 

 つまり、雅人はシンフォギア装者より劣っているのだ。

 

(……はぁ)

 

 思わず心中で溜息を吐く。

 

(師匠が俺に「戦いに向いてない」って言った時は貴方が言うなって思ったけど、やっぱり俺は弱いんだな)

 

 翼相手には青で戦ったとしても決定打はないだろうし、クリス相手は紫で戦ったとしてもいずれ鎧の耐久力に限界が来る。

 緑で戦ったとしても単発では勝てないだろう。

 今はまだ雅人の方が強いが、響の成長にも目覚ましいものがある。

 いずれ雅人も追い抜かれるだろう。

 

 それに少しの嫉妬と多くの期待を感じながら、雅人は歩く。

 雅人の後ろを歩いている者がいたら、その背中にわずかな黒いオーラが見えただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「平和……ですかねぇ?」

 

「ノイズも現れてないんだし、平和でいいんじゃないの?」

 

 椅子の上で大きく伸びをしながら言った朔也の言葉に、あおいが返す。

 前回町に現れてからノイズの出現もなく、二課本部は久しぶりにゆったりとした空気が流れていた。

 翼の復帰ライブが決まり、響の問題も解決し、クウガという心強い味方もいる。

 以前の翼がたった一人で戦っていたころに比べれば、安心感が全く違う。

 響も強くなり、あとに残った問題はノイズと雪音 クリス、そしてフィーネという謎の女性。

 クリスの方はかつてのクウガと同じようにノイズを標的にしているようで、問題はないだろう。

 一番の謎はフィーネ。

 ネフシュタンの鎧とソロモンの杖の2つの完全聖遺物を所持しており、ノイズを操って何がしたいのか全くの不明。

 クリスにネフシュタンの鎧とソロモンの杖を渡し、響を捕獲するように指示し、デュランダルを回収するように命令した女。

 聖遺物を集めているのはわかったが、集めた聖遺物で何がしたいのか不明。

 そしてつい先日はクリスを切り捨てた。

 目的がわからない以上、対処のしようがない。

 

 結局、二課は後手に回るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寂れた住宅街。

 そこにそびえる寂れたマンションの一室で、雪音 クリスは空腹を耐えていた。

 わずかにあった持ち合わせはすべて使い切り、室内にはコンビニの袋が散乱している。

 毛布にくるまり、飢えをしのぐクリス。

 その耳が、近付いてくる足音を捉えた。

 すぐに警戒するクリス。

 毛布を捨て、扉の影に隠れていつでも飛び出せるようにする。

 足音が近づき、足音の主を攻撃しようとクリスが飛び出そうとした瞬間、扉から野太い腕が伸びた。

 

「ほらよ」

 

 それに驚いているうちに、腕の主は室内につかつかと入ると部屋の中央でどかりと座る。

 その男は、風鳴 弦十郎だった。

 

 弦十郎はクリスの名前からその経歴を調べ、かつて弦十郎がいた部隊が保護しようとしていた少女だと言うことを突き止めた。

 

 与えられた仕事を最後まで全うするのが大人。

 

 そう言った弦十郎は再びクリスを保護するためにたった一人でここまで来たのだ。

 

 だが、クリスは大人を嫌っていた。

 クリスがいくら叫んでも、大人は聞いてはくれなかった。

 クリスにとって、大人とは嫌悪するべき相手でしかない。

 信じた相手に裏切られ、追い詰められた少女には、救いの手は届かなかった。

 

 少女は窓を割りその身を空に躍らせ、歌う。

 ギアを展開したクリスは雨の中街を疾走する。

 適当なところで立ち止まり、ギアを解除する。

 

「あたしは……なんで……」

 

「やっぱり、あんたもそう思うよな」

 

 横からいきなり声をかけられ、そちらに勢いよく振り向くクリス。

 見れば、そこには傘もささずに立ってクリスを見る雅人がいた。

 

「お前……」

 

「あのおっさん、大人なのに夢みたいなことしか言わない。理想論ばっかりで、俺のことをいつも子供子供って言ってからかってくるし。雪音さんもそんな感じだろ?」

 

「……」

 

「正直、俺はあのおっさんが嫌いだった。大人は子供を守るものだって、力もないのに出張ってきて。あんたもそう思うだろ?」

 

「……ああ」

 

「そうだよな。だからさ、一発分からせてやろうと思ったんだよ。俺は弱くない。あんたたち大人に守ってもらうほど子供じゃないって。そしたらさ、負けちまった。本気で殴ってもびくともしない。次第になんで俺はこんな事してるんだろうって思ってさ。それでおっさんに諭されて、気付いた。戦う前から、人として俺はあのおっさんに負けてたんじゃないかって。俺がいくら殴っても、おっさんは一発も返してこなかった。なんかそれがすっごく悔しくてな。ああいうのを、年季の違いとか格の違いとかいうのかもな」

 

「何が言いてぇんだよ?」

 

「……さぁ?俺もわからない。だけどさ、とりあえずおっさんが悪い奴じゃないってことだけは知っておいてほしかっただけだ。俺がこんなこと言ったっておっさんには内緒にしといてくれ。絶対にからかわれるから。じゃあな」

 

 そう言い残して、雅人は歩き去っていく。

 その後姿を見送り、クリスは考える。

 

 果たして雅人は、何が言いたかったのか。

 急に出てきて、勝手に好きかって言って、急に去って行った少年。

 思えば、クリスは彼について何も知らない。

 彼だけではない。他の出会ってきた人についても、フィーネについてですら、クリスは詳しくは知らない。

 

(……もう一度……フィーネ……)

 

 故に、クリスは再び歩き出す。

 

『私は立花 響15歳! 誕生日は9月の13日で血液型はO型! 身長はこの間の測定で157センチ! 体重は……もう少し仲良くなったら教えてあげる! 趣味は人助けで、好きなものはご飯&ごはん! 後、彼氏いない歴は年齢と同じ!!』

 

(どうして、あんな馬鹿のことを思い出すんだ? あいつは敵だ。さっきのクウガだって敵だ! なのに……なんなんだよ、このイライラは!)

 

 訳も分からずに、クリスは走り出す。

 少女に救いの手が差し伸べられるのは、まだ少し先の未来である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「五代!」

 

 雨の降る町から帰ってきた後、二課の廊下を歩いていた雅人は自分を呼ぶ声に振り向く。

 そこには翼と慎次がいた。

 

「風鳴さん、緒川さん。どうかしたか?」

 

「ああ。私の復帰ライブが決まったからな。最近ノイズの襲撃もないし、あなたにもどうかと思ったの」

 

「雅人君はノイズの襲撃がない日もずっとバイトをしているんですよね? たまには、息抜きなんてどうですか?」

 

「ライブか……行ったことがないな」

 

「では、なおさらどうぞ! あ、僕はこういうものです」

 

 そう言って慎次が雅人にライブのチケットと一緒に名刺を渡す。

 

「翼さんのマネージャーもやってます。これから、風鳴 翼をどうぞごひいきに」

 

「緒川さん……」

 

 呆れたような翼の視線も何のその。

 慎次は常々翼の歌は戦いの歌だけではないと言っている。

 慎次自身も翼の歌のファンなので、戦いの歌以外で翼の歌が世に広まってくれればいいと言うのが慎次の願いだった。

 

「歌……か……。戦い以外で歌を聞くのは、2年ぶりだな」

 

「今まで聞かなかったんですか?」

 

「聞く暇がなかったんですよ。いや、余裕がなかった……かな? 覚えている歌なんて、師匠がよく歌っていた歌くらいだ」

 

「五代君のお師匠さんがですか……」

 

「良ければ、どんな歌だったのか聞かせてくれない?」

 

「曲名は覚えてないんだ。だけど、歌詞は全部覚えてる」

 

 そう言って雅人は目を閉じる。

 頭の中で歌詞を思い出しながら、かつてよく聞いた歌を歌う。

 

「重いに~もつを~、枕に~したら~♪」

 

 一字一句しっかりと思い出しながら、かつて雅人が一番好きだった歌を歌う。

 まだ雅人が子供で、雄介と出会い弟子になった直後のこと。

 いつも俯いて暗い顔をしていた雅人に対して、雄介がよく歌ってくれた歌だった。

 聞いているだけで元気が出てきて、何でもできそうな気がしてくる歌。

 それを歌うのは雅人の憧れの人で、何よりも青空が似合う男。

 

「ぼくは~、青空に~、な~る~…………」

 

 歌い終わると、雅人の胸にはぽっかりと穴が開いたような感覚があった。

 この歌を雅人が歌い始めると、いつも雄介が一緒に歌ってくれた。

 どんなにつらいことがあっても、雄介がいれば何とかなると思っていたあの頃。

 雄介のサムズアップには、どんな絶望も敵わないと思っていたあの頃。

 

 そんな幸せな時間は、もう戻ってこない。

 

 雅人が目を開けると、周りから割れんばかりの拍手が上がった。

 いきなりのことに目を丸くする雅人。

 

「五代君すごい!! 歌うまかったんだね!!」

 

「この前遊びに行った時に一緒に来てもらえばよかったね」

 

「いい歌ね。聞いている私も元気になれたわ」

 

「たしか、『青空になる』……でしたね。僕も子供のころによく聞きました」

 

「ブラァボ~! これで私もあと1000年は研究ができるわ~!!」

 

 まさかの大絶賛に目を白黒させる雅人。

 

「って言うか、立花さんたちはいつ来たんだ!? さっきまで風鳴さんと緒川さんしかいなかったのに!?」

 

「そこを通りかかっただけだよ~ん! それよりも未来! ちゃんと出来た!?」

 

「ばっちり! さっきの歌録音したよ!」

 

「ハァ!? ちょ、小日向さん!?」

 

「後で私にも送って頂戴ね未来ちゃん♪ 仕事中に聞くわ~♪」

 

「やめてくれ!!」

 

 笑い声に包まれる廊下。

 その場にいた誰もが笑顔で、雅人自身も笑顔だった。

 

 いつの間にか、胸にあいた穴は埋まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迎えたライブ当日。

 遅れた響を放っておいて、雅人は未来とともにライブ会場の入場ゲートに並ぶ。

 

「起こしてこなくてよかったのか?」

 

「何回も起こしたからいいの!」

 

「お、おう」

 

 そう言いながら、ライブ会場を見る未来の顔つきは険しい。

 理由は聞いている。

 かつて、この会場では惨劇があった。

 10万を超える人間がこのライブ会場でツヴァイウィングというアイドルユニットの歌に聞きほれ、そのうちの1万2千人がその後のノイズの大発生の餌食になった。

 響もその惨劇に巻き込まれた1人であり、その時に飛んできた破片が心臓近くに刺さり、今なお響の体の中に残っている。

 その破片が、響が使うシンフォギア『ガングニール』のシンフォギアの欠片である。

 

(まさか、おんなじ日だったとはな……)

 

 奇しくも、雅人が師である雄介を亡くした事件も、ライブ会場の惨劇と同日同時刻に起こったことであった。

 そこには、奇妙な運命を感じる。

 

(……俺は、二課のみんなに何も話していない)

 

 雄介と共に行った冒険の話や、クウガに関してのことは話している。

 だが、雅人自身の過去は誰にも話したことはなかった。

 雅人自身、あまり思い出したいものでもないし二課に協力しているとはいえ翼や響のように籍を置いているわけではない。

 

 つまり、宙ぶらりんの状態なのだ。

 

「五代さん?」

 

 未来に呼ばれて、思考の海から脱する。

 

(いけない……最近悪い方にばかり考えている気がする)

 

「どうした?」

 

「いや……五代さんが悩んでいるような気がして……」

 

「大丈夫だ。

 小日向さんは俺よりも立花さんの心配をしてやれ。もうすぐ入場時間なんだからな」

 

「……ほんとだ。もう! 響ったら!」

 

 怒る未来をなだめながら、入場時間を待つ。

 すると、いつもの首筋がピリピリする感覚。

 

 ノイズの気配。

 

「……ごめん、小日向さん。ちょっといっしょに行けそうにない」

 

「……もしかして……」

 

「ああ」

 

 周りに人が密集しているため、ノイズという単語は出さずに話す。

 人の波に逆らってノイズのいる方へと駈け出そうとした直前、未来の携帯が鳴る。

 響からの着信だった。

 

「もしもし響? 今五代さんが……へ? ……うん。わかった。五代さん!」

 

「どうした? 俺は今から……」

 

「そのことで、響から話があるって……」

 

「…俺に?」

 

 未来から携帯を受け取り、電話を替わる。

 

「もしもし立花さん? 俺だ」

 

『五代君。気付いてる?』

 

「ああ。だから今から向かうところだ。人のいないところからゴウラムを使って移動するから、俺が着くまであんま無茶すんなよ」

 

『そのことなんだけどね、五代君は未来と一緒に会場で翼さんの歌を聞いてて』

 

「はぁ?」

 

 響からかかってきたのは、確認の電話ではなく待機の電話だった。

 

『今まで1人で、ずっと戦ってきたんでしょ? だから、今日は五代君はお休み!』

 

「お休みってあんた……」

 

『大丈夫! 五代君は翼さんの歌をゆっくり聞いて今日は休んでよ! もう随分ちゃんと歌を聞いてないんでしょ? 絶対翼さんの歌を好きになるから! いつも助けてもらってるから、その恩返しってことで! じゃね!』

 

 通話が切れる。

 それと同時に入場ゲートが開かれ、雅人と未来は人の波に押されながら会場に入る。

 

「響、なんて言ってた?」

 

「あ、ああ。……要約すると、「働き過ぎだから休め」ってこと……かな?」

 

「そうした方がいいよ。響に聞いたけど、今まで誰の助けも借りずに一人で戦ってきたんでしょ? なら、1日くらい休んだって罰は当たらないよ」

 

「……」

 

 人の波にのまれながらも未来とともに渡されたチケットに記載されている席へ向かう。

 

 そして、ライブが始まる。

 キラキラと輝くステージで踊る翼。

 サイリウムを振り上げる大勢の観客たち。

 熱気に包まれる会場。

 その光景は幻想的で、多くの人を魅了する。

 

 その光景の中、雅人は1人圧倒されていた。

 

 目の前には多くの人が一つになって翼の歌とともに踊ると言う彼らにとっての日常で、雅人にとっての非日常。

 

 首筋から感じるのは今なお暴虐の限りを尽くすノイズの気配という雅人にとっての日常で、彼らにとっての非日常。

 

 日常と非日常の間で挟まれた雅人は、耐え切れなくなって観客席から出る。

 

 ライブ会場内の廊下の壁に背を預け、そのまま座り込む雅人。

 周りは誰もおらず、この空間には雅人1人。

 いまだに会場内からは割れんばかりの大歓声が聞こえ、ノイズの気配が雅人を戦いに駆り立てる。

 

 ―――――――わかっていたことだ……『クウガ』の戦いに終わりはない。仮面ライダーに休息なんてない。

 

 ―――――――俺は、クウガで、仮面ライダーなんだから。

 

 ノイズの気配が急に強くなり、今まで大まかな位置しかわからなかったものが、より正確に感じ取れるようになる。

 否、ノイズの気配が強くなったのではなく、雅人のノイズ感知能力が強くなったのである。

 まるで、『アークル』が雅人を戦いに駆り立てようとするかのように。

 

 いつの間にか雅人は会場を出て、ノイズのもとへ向かって走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがてライブが終わり、ノイズの気配も消える。

 ライブ会場とノイズが出現した地点のちょうど中間あたりで、雅人は足を止めた。

 

(……何やってんだろ……俺…)

 

 ライブを最後まで見るわけではなく、最初からノイズと戦うわけでもない。

 日常を満喫する人間としては最低で、非日常で戦う戦士としては半人前。

 どこまで行っても中途半端な己を、雅人は自嘲した。

 

 

 






 セーフだよね? 歌詞そのまま載せてないからセーフだよね? ……アウトなら歌詞の部分を全部音符に変えます。

 どうも作者です。十一話ですね。いつの間にか十話超えました。もともと息抜きのはずなのにどうしてこうなったのか……。楽しいからいいか。
 さて、今回皆さんからのツッコミは覚悟しています。こう言いたいでしょう? 「お前が歌うのかよ!」と。まさか雅人君が最初に歌うとは思いませんでしたねぇ。いや、響も翼さんも戦闘中しっかり歌ってますよ? 描写がないだけで。
 そして今回雅人君が歌ったのはクウガのエンディング曲「青空になる」名曲です。この世界では「恋の桶狭間」が出るまでランキング一位を独占していた曲です。弦十郎さんの世代にストライクの曲です。よく五代さんが歌ってたって設定です。
 クウガファンの皆さん。原作『アークル』の設定、覚えてますよね? 今回雅人君の能力が微強化されたのはそういう事です。何のことかわからない人は十三話当たりで説明を入れるつもりなのでお待ちください。
 にしても日常との対比って難しいですね。雅人君にとってノイズとの戦場こそが日常であって平和な日々って言うのは彼にとって非日常なのです。だから今回響がとった行動は戦場から帰ってきた兵士を平和な世界に放り込む行為なんです。そりゃ馴染めないですよね。さらに『アークル』が戦え戦えってうるさく言ってくるおまけつき。ノイズが出てこなければ雅人君も一日くらいは平和に過ごせたんでしょうけどね。

 では、次回は日常回を予定してます。壁と塩の用意をどうぞ!





(未来は私の陽だまりで、五代君は、私の家……な~んてね!)

「私が見てないとすぐに遊んじゃうから……。五代さんは? 勉強できる人?」

「やったー! さすが未来ー!」

「いや、その頃にはもうクウガとしての修業をしてたしな。確か、7歳のころにはもう師匠と一緒に世界を回って修行してたな」

「もう、いっつも唐突なんだから」

「じゃあ、またな! 響、未来!」

               『日常』


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第十二話 「日常」

 日常回は鬼門。




 

(五代君、しっかり休めたかな?)

 

 クリスと共闘してノイズを倒した帰り道。

 翼のライブも成功したと弦十郎から聞き、さっそく未来と雅人に合流するためライブ会場に向かう響。

 

 その足取りは軽く、思わずスキップでもしそうなほど陽気だった。

 

 つい先日、雅人の歌を聞いた響は思った。

 

 ―――――――五代君は、人を笑顔にできる。

 

 ―――――――こうしてみると、戦いなんて似合わない人だなぁ。

 

 まだ雅人と知り合ってから間もないが、それでも雅人が人を笑顔にするところを響はたくさん見てきた。

 ふらわーではよく冒険の話をして客を楽しませていた。

 二課では弦十郎をからかってコントのようなことをして他の職員を笑顔にしていた。

 一緒に町に出掛けた時も泣いている子供を見るといろいろなことをして笑顔にしてみせた。

 

 響も雅人と一緒にいると、自然と笑顔になれる。

 響は、未来とは違った安心感を雅人から感じていた。

 

(未来は私の陽だまりで、五代君は、私の家……な~んてね!)

 

 自分で考えたことに少し恥ずかしくなりながら、響は歩を早める。

 未来と雅人のことを考えていると、無性に二人に会いたくなったからだ。

 

(そう言えば五代君って師匠以外はいっつも名字で呼ぶよね~。今度名前を呼ばせてみよう! その時は、私も五代君のことを名前で呼ぼう!)

 

 いつの間にか、響は走り出していた。

 響自身の日常に帰るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 響が会場に着くと、人気の少なくなった入口で話をしている雅人と未来が見えた。

 さっそく響は二人のもとに駆け寄ろうとしたが、どうに様子がおかしい。

 

(……! 未来のあの眼は……怒ってる時の眼だ!!)

 

 響がこれまでの未来との長い付き合いで、何度も見てきた怒った未来の眼。

 それは響にとって恐怖の象徴であり、響の歩みを止めるには十分な迫力があった。

 実際、未来の迫力に押されて帰ろうとしている人が未来たちを避けて大回りして帰っているし、隣で一緒にいた翼と慎次も迫力に押されて顔が引きつっている。

 

「……もう一度聞くね? 五代さん、今までどこに行ってたの?」

 

「……トイレ」

 

「……私が外に出ようとした時、そこの入り口から入ってきたよね?」

 

「……外のトイレに行ってたんだ」

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙が続く。

 あまりの迫力に、自分が怒られているわけでもないのに響の膝は震えていた。

 

「こ、小日向、私はもう気にしていないから、そのくらいでいい。な?」

 

「……ふぅ」

 

 翼が止めると、ようやく未来も怒りを収めた。

 生きた心地がしなかった響も、ようやく未来たちのところへ行く。

 

「な、何があった……んですか?」

 

 何故か敬語で未来に話しかける響。

 

「五代さんがね、ライブの途中でどこかに行ったと思ったらそのまま帰ってこなかったんだよ。帰ってきたのなんてライブが終わったあとなんだよ?」

 

「え?」

 

 響は驚き、雅人を見る。

 その雅人は未来の怒りを間近で浴びていたせいか少し表情が引きつっているが、それでもいつもの態度を崩さない。

 

「いや、だから悪かったって。ちゃんと曲のほうは最後まで聞いたさ。

 ただ、生まれてからこれまであんなに人が集まる場所に来たことがなかったから気分が悪くなって外の空気を吸ってただけだ」

 

「……トイレじゃなかったの?」

 

「それもあるな」

 

 未来の追及をどこ吹く風といった感じで躱す雅人。

 だが、その手が震えているのを響は見逃さなかった。

 見逃さなかったが、見逃した。

 怒った未来は怖いからだ。

 

「そろそろ帰りましょう。もう遅い時間ですし、いつまでもここにいるわけにもいきませんしね」

 

 そう言った慎次の提案で、その場は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リディアンの寮までの帰り道を、並んで帰る響と未来と雅人の3人。

 先ほどのことによる気まずさからか会話はなく、ただ無言で夜の街を歩く。

 

(…………どうしよう、会話がない!)

 

 雅人はジーパンのポケットに手を突っ込んで俯いて響の右隣を歩いているし、未来もさっき怒ってしまった申し訳なさからかやや俯きがちになりながら響の左隣を歩いている。

 

「両手に花!! な~んて……あはははは……」

 

 真ん中に挟まれている響が今の状況を声に出していってみるが、効果はない。

 ただ重い沈黙が流れるだけである。

 

「……両手に花は両隣に綺麗な女性がいる場合に使われる言葉だ」

 

「……響、帰ったら勉強ね」

 

「……あるぇ~?」

 

 訂正。効果はあった。

 響にとって最悪な形で。

 

「酷い酷いとは聞いてたがここまで酷いのか?」

 

「私が見てないとすぐに遊んじゃうから……。五代さんは? 勉強できる人?」

 

「前にも言ったけど、師匠に教えてもらってるから大丈夫だ。確か、中学校卒業レベルはちゃんとあるって言ってたっけな」

 

「なら今度一緒に響の勉強見てくれない? 二人で見た方がはかどると思うし……」

 

「……いいけど、わからないところが多いと思うぞ?」

 

「その時は一緒に教えるから大丈夫」

 

 響の不用意な発言によって、どんどん勉強会の日程が組まれていく。

 二人がいつものように戻ったことをうれしく思いながらも、勉強はしたくないので必死に頭を働かせる。

 

「そ、そうだ! 今度は翼さんも呼んで4人で遊びに行こうよ! 4人全員で遊びに行ったことってなかったよね!」

 

「ああ。今度な」

 

「ええ。今度ね」

 

「「明日は勉強会だから」」

 

「…………ハイ」

 

 響の抵抗空しく、勉強会の日程は決められてしまった。

 

「……小日向さん。その……悪かったな。勝手に出て行ったりして」

 

「別にもう気にしてないよ。事情があったのは何となくわかるし、響で慣れっこだしね」

 

「うぐぁ……」

 

 雅人を許すついでに、さらりと響にダメージを与える未来。

 それからは完全にいつも通りの雰囲気になり、3人で笑い合いながらそれぞれの帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌日。

 勉強会ということだが響の騒がしさから図書館を利用すると言うことも無く、場所は響と未来の部屋になった。

 休日ということもあり、多くの寮生が寮に残っており響と未来と共にはいる雅人に向けて好機の視線が送られてくる。

 それもそのはずリディアンは女子高であり、この寮にはもちろん女性しかいない。

 それについて大丈夫なのかと雅人は尋ねたが、未来曰く「校則には寮内に男友達を連れてきてはいけないとは書かれていない」とのことだった。

 それでも一応先生の許可は取っているあたり流石優等生と言ったところか。

 

 雅人にとっては今回が二度目となるが、さして緊張することも無く部屋に入る。

 

「……改めて見ると、広いよな。下手なホテルより広いし……」

 

 リディアンの寮は高級マンションのような外観をしており、中も二人部屋だと言うことが信じられないほど広い。

 

「ちょっと待っててね、今お茶入れるから」

 

「座布団だすねー」

 

 未来が台所に、響が箪笥の方へ行ったので、手持ち無沙汰になった雅人はその場に座る。

 以前来た時は怪我を手当てしてもらっている最中で、ノイズが来たためすぐに出て行った。

 だからか、雅人はゆっくりと部屋を見回す。

 

 二段ベッドは下段にカーテンがかけられており、隙間からはいくつか荷物が入っているのがわかる。

 だいぶ大きいテレビとその隣にあるピアノ(!?)、さらに3段くらいの階段を降りたところに小さなテーブルがあり、向かい合うように椅子が二つ。

 写真立てには幼いころの響と未来の写真、その隣についこの間撮ったのであろう制服姿でボロボロの二人が見上げるような視線で撮られた写真。

 

「あったー! はいこれ!」

 

 箪笥から座布団を引っ張り出してきた響が、テーブルのところに置きに行く。

 未来の方もお茶を入れたコップをトレイに乗せ、テーブルの上に載せる。

 

「じゃあ、何しよっか?」

 

「勉強でしょ?」

 

「ちっちっちー。

 そんなすぐに勉強するはずがないじゃないですかー! 未来さんやー!」

 

「……」

 

 ふざける響をじーっと見つめる未来。

 その眼には「こいつ何言ってんだ?」的な感情がありありと見て取れた。

 

「まあ少しゆっくりしてからでもいいんじゃないか? 俺も来たばっかりですぐに勉強するのもなんだしさ」

 

「そうだそうだー!」

 

「……はぁ。わかったよ。ちょっとだけだよ?」

 

「やったー! さすが未来ー!」

 

「……どんだけ勉強したくないんだよ」

 

 3人でテーブルに座り、お茶を飲みながら他愛のない話をしていた時だった。

 

「学校ってどんなところなんだ?」

 

「どんなって……小学校と中学校も行ったことないの!?」

 

「義務教育だよ!?」

 

「いや、その頃にはもうクウガとしての修業をしてたしな。確か、7歳のころにはもう師匠と一緒に世界を回って修行してたな」

 

「7歳って……」

 

「なんでそんなこと……」

 

「俺にとって師匠は師匠であると同時にもう一人の父親でもあったからな。家族が死んで、師匠と出会って、渋る師匠に俺が無理矢理ついていったようなものだしな」

 

 雅人はそれがなんでもない事のように言うが、響と未来にとっては聞き逃せない言葉があった。

 

 雅人の家族は、すでに死んでいる。

 それにどう返せばいいのかわからず、響も未来も黙ったままでいると雅人はそれをさらりと流して話を続ける。

 

「小学校1年の頃だったかな? 俺が住んでた町がノイズに襲われてさ。後になって調べてみたことなんだけど、その時のノイズの襲撃で生き残ったのって俺だけみたいなんだ。

 それで、もう少しで俺もノイズに殺されるってところで師匠の登場だ。万はいるノイズの大群にたった一人で立ち向かって、一歩も退かなかった。

 その拳の一振りだけで、100のノイズが炭になって散っていった。一騎当千、絶対無敵、史上最強って言葉は、あの人のためにあるんじゃないかって思ったくらいだよ」

 

 目を輝かせながら雄介のことを話す雅人。

 その様は憧れのヒーローについて話す子供のようで、いつもの大人びた印象を持つ雅人からはかけ離れて見えた。

 

「その後は師匠に頼み込んで弟子にしてもらったんだ。修業はきつかったし、覚えなきゃいけないことは山ほどあったけど、幸せだったな……」

 

 雅人はそう言いながら、昔を思い出すように目を閉じる。

 すると、ゆっくりと雅人が歌いだす。

 以前二課の廊下で歌ったあの歌、『青空になる』。

 

 雅人が歌う姿を見て、響も歌い始め、未来は立ち上がってピアノまで行き鍵盤を叩きながら2人と一緒に歌う。

 

 3人による合唱は、その後しばらく続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3人で歌い、その後満を持して勉強を開始。

 雄介に中学校卒業までの学力をつけられていた雅人は、響がわからないと言う比較的簡単な問題を教えつつも自分の勉強をし、たまに未来に質問する。

 もともと学力の低い響は中学校の問題でもわからないところがあり、雅人を不安にさせた。(因みに未来は慣れっこなためこれぐらいでは動じない)

 未来はそんな2人に勉強を教えつつ、自らも次の授業に向けて予習を開始。

 

 昼頃になって未来がお昼ご飯を作り、お腹いっぱいになった響が昼寝を開始。

 それにつられて雅人まで寝てしまい、結局3人で仲良く並んで夕暮れまで眠ってしまった。

 

 最初に起きたのは意外にも響であった。

 

 起きた時にいつの間にか雅人の腕を枕にしていたことに真っ赤になって慌てるも、その反対側では未来が同じことをしていたので何とか落ち着く。

 寝ている雅人と未来をおこさないように立ち上がり、携帯をカメラモードで構える。

 そのまま撮影。

 大の字になって眠る雅人と、その腕を枕にして眠る未来のツーショット写真を激写。

 見つかった時に消されないように撮影した写真にロックをかける。

 必死に笑いをこらえながら、そろそろ限界だったのでお花を摘みに行く。

 

 響がバスルームに入ると同時に未来も目を覚ます。

 

 目覚めた瞬間に雅人の横顔がすぐ目の前にあると言う状況に混乱しつつも現状を確認。

 把握した瞬間、響がいないことに気が付き、テーブルに置かれている響の携帯を着て理解する。

 撮られたと思われる寝顔写真を消すため響の携帯を起動するが、件の写真にはロックがついていた。

 

 どうやって消そうかと考えていると響が帰還。

 携帯を握って真っ赤になっている未来を見てすごい笑顔で近寄ってくる。

 

 イラッと来た未来は自分の携帯を取り、以前撮った雅人による響のお尻ぺんぺん画像を響に見せる。

 

(にょわぁぁぁあああ!?!? なんでそんなものを~~~!?!?)

 

(消してほしかったらこれを消して!!)

 

 雅人が寝ているためアイコンタクトで会話する二人。

 

(やっと手に入れた未来の弱点なのに~~!!)

 

(早く消して!!)

 

(む~~~~!! いいもん! これでおあいこだもんね!!)

 

(響!!)

 

(消さないも~~ん!!)

 

 逃げる響。追う未来。

 その段階でようやく目を覚ます雅人。

 

 雅人が目を覚ましてみた光景は、室内を駆け回る響と未来だった。

 

「…………何やってるんだ?」

 

 響と未来の追いかけっこは、雅人が止めるまでしばらく続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は楽しかったよ。まぁ、途中よくわからなかったけどな」

 

 時刻は午後9時。

 あの後勉強を再開しようとするが、響も未来も全く集中できずにそのまま勉強は終了。

 響と未来が借りてきたDVDを3人で一緒に見る。

 その後は夕飯になり、今度は雅人が調理。

 師匠に仕込まれたと笑いながら出した料理は、未来の作るものと遜色なかった。

 食後はまたDVDを見つつおしゃべり。

 いつの間にか9時に差し掛かろうとしていたところでお開きとなった。

 

「いや~~あれは不幸な事故と言いますか~~……」

 

「き、気にしないで……!」

 

 雅人の言葉に、引き攣った笑みを見せながら答える二人。

 正直気になっているが、深い追及は避けることにした。

 

「今度は部屋の中じゃなくて外に遊びに行こうよ! 翼さんも誘ってさ!」

 

「そうだな。それもいいかもな」

 

「約束だよ!」

 

 そう言いながらサムズアップをする響。

 その隣では未来も小さくサムズアップをする。

 

「ああ、約束だ。俺と、立花さんと、小日向さんと、風鳴さんの4人で遊びに行こう」

 

 同じように2人に向けてサムズアップをする雅人。

 だが、響はその言葉を聞いて頬を膨らませる。

 

「……? どうした?」

 

「苗字呼びって距離が遠い気がする……。名前で呼んでよ! 私も未来も名前で呼ぶから!」

 

「もう、いっつも唐突なんだから」

 

「……いいのか?」

 

「「もちろん!」」

 

 響と未来の声がかぶる。

 それに苦笑しながら、雅人は2人を名前で呼ぶ。

 

「響、未来」

 

「どうしたの雅人君?」

 

「な~に? 雅人君?」

 

 しばらくして、耐え切れなくなった3人は笑い声をあげる。

 

「自分から呼ばしといて聞き返すのはないだろ!」

 

「いや~一度やってみたかったんだよね~~!!」

 

「響が変なことするから乗っちゃったじゃない!」

 

 笑い合う3人。

 そろそろ近所迷惑になると言ったところで、ようやく止まる。

 

「じゃあ、またな! 響、未来!」

 

「またね! 雅人君!」

 

「また遊ぼうね、雅人君!」

 

 笑顔でわかれる3人。

 

 この日の約束が果たされるのは、まだまだ先の話である。

 

 





 ほのぼの回。シリアス小匙の砂糖多め。こんな勉強会作者もしてみたかったです(血涙)。
 にしてもフィーネ戦のアイディアがなかなか纏まらない。書いてみた端からアイディアが浮かぶから書き直しばっかりしてる。
 フィーネ戦までしか下書きしてないので第一部終了後は更新ペースが落ちます。許せサスケ。これで最後じゃない。

 今回は雅人君の過去をちょっと書きました。原作にはないけどノイズの出現がいつもあの規模ならシンフォギアがなかった当時は町の一つや二つ簡単に滅ぼされてたと思うんだ。あの世界で人類がまだ七十億も残ってるっていうのが少しびっくりした作者です。まぁ出現頻度は響たちの周りが異常に高いだけで実際はフィーネさんが言ってたように「十年に一度の偶然」なんでしょうね。出ないと人類が終わる。
 そして五代さんですが、この作品では強さが天元突破してます。殴った風圧だけで回りのノイズが消し飛びます。分からない人には「ノイズを殴れるOTONA」とでも思ってもらったら……それなんてチート?

 そしてアイコンタクトだけで会話するひびみく。作者のお気に入りだったりします。真っ赤になった響とか未来とか最高じゃね!? 三期楽しみじゃーー!!!

 名前呼び解禁。ここまで言ってなかった気がしますがクウガの力を持った主人公だけど作者はクウガのストーリーに沿う気は全くありません! あれは「五代 雄介」の物語であって「五代 雅人」の物語ではないのです! 因みにクウガ本編のストーリーは大体五代さんが過去にやってるって設定です。そう言う意味でも雅人君が五代さんの物語を沿うということはないですね。

 次回からフィーネ戦に入ります。クウガの秘密とフィーネとの関係。狙われた学園と倒れていく仲間たち。はたして彼女たちの運命や如何に!



 次回予告ぅ!!



「ようおっさん。今日は遅いな」

「お前はスカイタワーに向かわなくていい」

(なんたって俺は、『仮面ライダー』だからな!)

「ん? しまった、殺してしまったか?」

「ずっと、パパとママのことが大好きだった! あたしが、二人の夢を引き継ぐんだ! あたしの歌は……その為に!」

「立花ァァァァァアアアアアアアアッ!!!!」

「……綺麗だ」

「シ・ン・フォ・ギ・アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」

                『戦姫』


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第十三話 「戦姫」

 第一部ラストスパート。

 勢いを保つために明日の同じ時間に次を投稿します。




 ふらわーが休業状態なため、気晴らしに二課に来た雅人。

 司令室であおいに入れてもらったコーヒーを飲んでいた。

 

 やることも無いのでどうしようかと悩んでいると、弦十郎が少し遅めの出勤をしてきた。

 

「ようおっさん。今日は遅いな」

 

「ああ、ちょっとな。響君と翼に通信をつないでくれ!」

 

 弦十郎からの話では、敵……フィーネはこの東京のどこかに『カディンギル』と呼ばれる物を建造しているらしい。

 途中で話に入ってきた了子によると、『カディンギル』とは塔を意味すると言う。

 それが何で、フィーネの目的が何かはわからないが、碌なものではないだろう……と、雅人は考える。

 

 そして雅人が感じたのはノイズの気配。

 少し遅れて二課でも感知され、4体の大型ノイズがまっすぐに東京スカイタワーに向かっていることが分かった。

 通信を切り、それぞれがスカイタワーに向かっていく。

 

「待て、雅人!」

 

 雅人も向かおうと出口に向かって走り出したが、そこで弦十郎に呼び止められる。

 

「なんだよおっさん!」

 

「お前はスカイタワーに向かわなくていい」

 

「はぁ!?」

 

 すると弦十郎は雅人に近付き、周りに聞こえない声量で話し出す。

 

「お前には、ここの防衛に回ってもらう」

 

「防衛? 誰か攻めて来るのか?」

 

「おそらく、スカイタワーは陽動。その隙に本部は襲撃されるだろう」

 

「なんでそんなことがわかるんだよ?」

 

「……おそらく、フィーネの正体は、櫻井 了子」

 

「……!」

 

 弦十郎の言葉に、雅人は絶句する。

 お人好しの弦十郎が仲間を疑うとは思っていなかったからだ。

 

「……」

 

「反論しないんだな?」

 

「櫻井さんと話してると、妙に『アークル』が疼くときがあったから……何かあるとは思ってたよ」

 

「そうか……。お前はこのままリディアンに向かってくれ。

襲撃されたとき、あそこが一番に狙われるだろう」

 

「わかった」

 

 弦十郎に背を向けて、走り出す。

 目指すは直上のリディアン。

 エレベーターに乗り込み、手すりにつかまって到着を待つ。

 

 不意に、ノイズの気配。

 すぐ近く、リディアンの校舎内。

 

「変身!!」

 

 エレベーター内でクウガに変身。

 扉が開くと同時に飛び出す。

 

 窓から見えるのは阿鼻叫喚の地獄。

 生徒たちが逃げまどい、自衛隊が必死になってノイズの進行を食い止める。

 

「きゃぁ!?」

 

「なに!? だれ!?」

 

「ノイズ!?」

 

 どうやらシェルターへの通り道だったらしく、多くの生徒が雅人の目の前で列を作っていた。

 その目に映るのは、純粋な恐怖。

 

 生徒と警戒して銃を向ける自衛隊の隊員たちを尻目に、雅人はガラスを突き破って校庭に出る。

 

『オラァ!!』

 

 近くにいたノイズを殴り、炭に変える。

 生徒に向かって飛びかかるノイズに飛び蹴りを放つ。

 体をドリルのように変えて突進してくる飛行型を避け、地面に突き刺さったところを殴る。

 自衛隊を狙うノイズの集団の中央に入り、力を込めて渾身の回し蹴り。

 ノイズの集団を一瞬ですべて炭に変え、次のノイズへと走る。

 

(これだけ衆目に晒されるともう掟だなんだと言ってられる状況じゃないよな。ま、仕方ないよな!)

 

 芋虫型に向けて跳ぶ。

 空中で体を一回転させ、右足を突き出す。

 勢いのついた跳び蹴りは芋虫型の巨体の中央にくっきりとした刻印を浮かび上がらせる。

 

 爆発。

 

 足元で生まれたばかりのノイズもろとも爆散。

 

(なんたって俺は、『仮面ライダー』だからな!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……これで全部……か?』

 

 ノイズを殲滅し、呟く雅人。

 そこには変わり果てたリディアンがあった。

 校舎は崩れ、あちこちに爆発の跡がある。

 壊れた戦車や戦車の爆発に巻き込まれて死んでいった自衛隊員。

 そして、大量の炭。

 

『流石に数が多すぎた……せめて響か風鳴さんのどっちかがいてくれれば……もっと多くの人を……』

 

 どれだけ雅人が一人で奮闘しようと、シンフォギア装者のような範囲攻撃のないクウガにとって多勢に無勢というのは厄介だ。

 シンフォギア装者なら一度に10体相手にできるが、クウガが相手にできるのは多くても3体までだ。

 故に、ノイズが雅人を狙わずにリディアンを狙った場合、被害を食い止めるすべがない。

 

『もっと強かったら……せめて『金』の力があれば……。

 ……!?』

 

 破壊の爪痕が残る校庭で一人たたずんでいると、急に『アークル』が疼きだした。

 

(これ……櫻井さんと話しているときと同じ!?)

 

 まるで何かを警告するように『アークル』は疼く。

 その疼きに従って雅人はせかされるようにエレベーターを降りる。

 どうやら下の階で止まっているようなので、扉をこじ開けて『青のクウガ』になってシャフトを飛び下りる。

 やがて見えてくるシャフトの最下部。

 

 そこに一基のエレベーターが止まっているのを見つけると、落下の衝撃を緩和するために『紫のクウガ』に変身。

 

 ズドン!!

 

 という音を響かせながら着地し、エレベーターがその衝撃に耐えきれず拉げる。

 そのまま天井を突き破ってエレベーターの内部に着地。

 目の前には未来と慎次、倒れた弦十郎、そして扉の向こうに消えようとしている黄金の鎧をまとった女。

 

『未来!! 緒川さん!!』

 

「! 雅人君!」

 

 二人に駆け寄る雅人。その歩みが、倒れた弦十郎を捉えたところで止まる。

 

『……おっさん?』

 

「すぐに、手当てをしなければ! 未来さん! 雅人君! 司令を運ぶのを手伝ってください!」

 

「は、はい!」

 

 慎次が弦十郎の肩に手を回し、未来が横に回って二人を支える。

 そんな2人を、雅人は呆然と見つめる。

 

 やがて拳を握りしめた雅人は、エレベーターに向かう2人に背を向け閉ざされた扉に向かう。

 

「雅人君!?」

 

『……おっさんを頼む』

 

「……行きましょう、未来さん」

 

「……」

 

『行け』

 

 何か言いたげに未来は雅人を見つめていたが、二人が通路から消えるまで雅人は振り返ることはなかった。

 

『……』

 

 雅人は無言のまま拳を握りしめ、固く閉じられた扉の前まで歩く。

 そしてその扉に拳を叩き付ける。

 扉が『紫』の怪力によってへこみ、それでも雅人は拳を振りかぶる。

 何度も何度も殴りつけ、ついに扉が吹き飛んだ。

 

「ほう? まさか貴様がこんなところまで来るとはな……」

 

 こちらを向いた黄金の鎧の女が雅人に向かって話しかける。

 

 その瞬間、雅人の頭に『アークル』を通して圧倒的な量を持つ情報が流れ込んでくる。

 

『櫻井 了子……いや、先史文明期の巫女、フィーネ……と言った方がいいのか?』

 

 ピクリ

 

 と、フィーネの眉が跳ねる。

 少しして、その口角が吊り上がる。

 

「まさか私を知っているとは……今までそんなそぶりを見せなかったが、どういうことだ?」

 

『この『アークル』があんたのことを知ってたんだよ。聞いたことないか? 霊石『アマダム』』

 

「……! まさか、そうか。

 再びその名を聞くことになるとは思わなかったよ。なるほど、どこかで見覚えがあると思ったらあの霊石だったとはな。ノイズを倒せるのも道理というわけか……」

 

『今更、過去の亡霊が何の用だ?』

 

「決まっている……月を穿つ!! バラルの呪詛を解き、統一言語を復活させ、私がこの世界を支配する!! そして今度こそ! 私のこの胸の思いを! あの御方に……」

 

『数千年越しの愛か……。俺にはあんたが今までどんな思いで生きてきたかなんてわからないが、それでも止めなくちゃいけない。それが、『クウガ』の使命だからな』

 

「ならばここで貴様を砕く! いかな霊石と言えど、あの御方と対等の力を持っていようと! この身の完全聖遺物『ネフシュタンの鎧』とわが心を砕くことは出来ぬと知れ!!」

 

 フィーネの鞭が振るわれる。

 それを躱し、近くにあった手すりを蹴り上げて掴む。

 

『超変身…!』

 

 雅人が『青のクウガ』に変身すると同時に手すりは変形し、青いロッドに変わる。

 

「『モーフィングパワー』……『封印エネルギー』と『浄化エネルギー』と同じく『アマダム』を代表する力の一つ……。過去にその霊石を調べ上げた天才がいたな。

 それで私を攻撃するのか? その力を人に向けるのは禁忌ではなかったのか?」

 

『あんたは例外だよ。この力はあんたとノイズ、そしてまだアークルが教えてくれないもう一つの脅威に対抗するための力なんだからな!』

 

 鞭を受け流し、突き込む。

 

『どうしておっさんを攻撃した!? 仲間だっただろう!!』

 

「仲間? 私にそんなものはいない。あの男も私の計画に邪魔だったから排除しただけだ」

 

 その突きを片手で受け止められるも、止められたロッドを支点に跳び上がり、踵落とし。

 肩に直撃するも、やはり『青のクウガ』では力が足りず、弾かれる。

 

『何とも思わないのか!? おっさんも響たちも……俺だって! あんたのことを仲間だと思ってた!』

 

「そうか……私はただの研究対象程度にしか見ていなかったよ」

 

『貴様……!!』

 

 着地し、睨み合う。

 

「……その程度か? 霊石の力の恩恵はその程度では無かろう?」

 

『……超変身!!』

 

『赤のクウガ』に戻り、真っ向から突っ込む。振るわれる鞭をかがんで躱し、フィーネの腹にボディブロー。

 

「……時間の無駄だったか」

 

 だが、雅人の拳は届かなかった。

 殴りに行った拳はやすやすと掴まれており、そのまま投げ飛ばされる。

 

「とんだ出来損ないだな。力に振り回されるだけの半人前。そんなもので『アマダム』を制御できると思っていたのか?」

 

『クッ!』

 

 またしても振るわれる鞭を躱す。

 だが、決して広いとは言えない通路の中では逃げ場は限られている。

 雅人が追い詰められるのは早かった。

 

「さて、できればお前は研究材料としてとっておきたい。『アマダム』の影響が人体にどう作用されるのかは興味がある」

 

『あんたのモルモットなんか死んでもごめんだね。アークルがうるさくて夜も眠れなくなりそうだ』

 

「安心しろ。その体はじきに眠る必要もなくなる」

 

『……どういうことだ?』

 

「遥か昔にその『アマダム』の研究資料に目を通したことがあってな。曰く、アマダムは人を兵器に変質させるそうだ。お前はいずれ、食事も睡眠も必要ない『戦うための生物兵器』になるだろう」

 

『な……なんだと!?』

 

「知らなかったのか? そう言えば修行半ばで師が死亡したらしいな。教わる前に死んだと言う事か。安心しろ。お前はこれから私の研究材料として過ごしてもらう。だから、今は眠るがいい」

 

 フィーネがそう言った瞬間、雅人の腹をネフシュタンの鞭が貫く。

 意識を失う雅人が最後に見たのは、さもおかしそうに笑うフィーネだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん? しまった、殺してしまったか?」

 

 フィーネが見詰めるその先に、血だまりの中に倒れ伏す雅人の姿があった。

 ネフシュタンの鞭が腹部を貫通し、突き刺さった場所から大量の血が流れている。

 すでに変身が解け、クウガの姿から人間の姿になっている。

 フィーネが雅人の首筋に手を当て脈を図るが、そこに命の鼓動は聞こえなかった。

 

「いかんな、風鳴 弦十郎と同じようにしてしまったが、少し加減するべきだったか。

 まぁ所詮研究の寄り道程度にしかならぬし、この男程度の力ではこれからも『アマダム』の力を引き出すことも出来ぬだろう。あの御方と同格の存在である『究極の闇』に興味もあったが、今はカディンギルが優先か」

 

 そしてフィーネはコンソールを操作し、『アビス』を後にした。

 

 あとに残ったのは光り輝く『デュランダル』とかすかに指先が動いた雅人だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっと、パパとママのことが大好きだった! あたしが、二人の夢を引き継ぐんだ! あたしの歌は……その為に!」

 

 一人の少女が、自らの夢を見つけた。

 

『あたしとあんた、両翼そろったツヴァイウィングなら……どこまでも遠くへ飛んでいける!』

 

「どんなものでも、越えてみせる!

 立花ァァァァァアアアアアアアアッ!!!!」

 

 一人の防人が、その身を賭して世界を守った。その歌は、世界に確かに届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私立リディアン音楽院跡、現カディンギル出現地点。

 

 そこには、一本の塔がたっていた。周りは荒れ果てて瓦礫だらけ、かつてあった校舎は見る影もない。

 圧倒的な破壊の爪痕が残るこの地で、黄金に輝く女性と橙に煌めく少女が向かい合っている。いや、向かい合っていた。

 

「誰もお前を助けになど来ないさ。学院は崩壊し、風鳴 弦十郎はこの手で貫いた。ただの二課の職員が私に敵うはずもなく、雪音 クリスはカディンギルの直撃を受けて堕ち、忌々しい風鳴 翼はその身を犠牲にしてカディンギルを……私の夢を破壊した! もはや残っているのは貴様と私のみ! ここまですればお前の心も折り砕けると思っていたが、何を支えに立ち上がった?」

 

「私だけじゃ、ない! まだ、雅人君がいます! 翼さんも、クリスちゃんも、未来も、二課のみんなも学院のみんなもきっと生きている! だから、私は!」

 

 涙を流しながら叫ぶ響。

 響自身、翼とクリスの生存が絶望的なのはわかっている。

 だけど、「絶望的」であるだけでまだ「死んだ」と決まったわけではないのだ。

 それに今は姿を見せないが、雅人もまだいる。雅人と合流した後二人でフィーネを止め、すぐにみんなを探す。それが響の考えだった。

 

 雅人が姿を現していないこの状況こそ、響にとってまだ希望が残っていると言う証明だった。

 

 

 

 だが、その希望はあっけなく潰える。

 

「雅人……クウガか。あの男ならもうこの世にはおらん」

 

「…………え?

 な、なにを?」

 

「信じられないか? お前が来る前に私に挑み、すでに死んでいる。このリディアンの最深部、『アビス』にて眠っているさ」

 

「え?……あ……うそ……」

 

「嘘ではないさ。何度も貴様たちを打ち付けたこのネフシュタンで、あの男の腹部を串刺しにした。ちゃんと脈も確認したが、あっけなく死んでいたよ」

 

 その言葉と同時に、響が膝をつく。

 展開していたギアが粒子となって消え、その眼から光が消える。

 

「そ……んな……」

 

「お前は楽観視しているようだが、カディンギルの一撃は月を穿つ。その一撃を減衰したとはいえ正面から浴びたクリスが生きているとは思うか? 先ほどの爆発で、風鳴 翼が生きていると思うか?」

 

「翼さん……クリスちゃん……」

 

「お前が来る前に学院にノイズを放った。抵抗する術のない学院の生徒が、果たして生き残れると思うか? カディンギルは遥か地下からせり上がっていた。同じ地下にいた二課の人間が、巻き込まれなかったと思うか?」

 

「未来……師匠……みんな……」

 

「如何にクウガといえど、その生命活動が止まってしまえばここに現れるすべもない。お前が慕う五代 雅人は死んだのだ」

 

「雅人君…………あ……ぁあ!」

 

 

 

 その日、少女の慟哭が夜空に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ひ……びき?」

 

 特異災害対策機動部跡最深部、『アビス』。

 そこで、死んだはずの雅人は目を覚ました。

 腹部に空いていたはずの穴はふさがり、血も止まっている。だが、流した血までは戻らなかったのか、ふらふらとおぼつかない足取りで出口を目指す。

 

「……声が……聞こえた……行かないと」

 

 その腰にはむき出しの『アークル』があり、まるで心臓の鼓動に合わせるように点滅していた。

 

 雅人が『アビス』を出て行ったとき、輝きを失っていた『デュランダル』が再び眩い光を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雅人が目を覚まし、地上を目指す間にも自体は進行していく。

 

 戦意を失い、膝をつく響をいたぶるフィーネ。

 その声はボロボロになった二課の生きているスピーカー全てを通して聞こえており、その声が聞こえるたびに雅人は倒れそうになる体に喝を入れて進む。

 途中で倒れている二課のエージェントから拳銃を拝借し、壊れて動かないエレベーターを迂回して長い非常階段を上る。

 やがて見えた出口を開け、外に出る。

 

 雅人が外に出ると、そこには橙に光る粒子が舞い、おそらくリディアンの生徒達であろう彼女たちの歌声が響く変わり果てたリディアン音楽院だった。

 

 そのことに一瞬呆気にとられながら、雅人は周囲を見渡し、そして見つけた。

 

「響ィィィィィイイイイイイイイイッ!!!!!」

 

 地面にうつ伏せに倒れている響を見つけ、叫ぶ。

 

「……!」

 

「な、なんだと!? 確かにその鼓動は止まっていたはず!?」

 

 響が雅人の声に顔を上げ、フィーネが驚愕する。

 

「雅人君……そうだ、私を支えてくれるみんなはいつだって、一緒に戦ってくれるみんなはいつだって傍に……。

 みんなが歌ってるんだ。だから、まだ歌える。頑張れる! 戦えるッ!!」

 

 響が叫んだその時、響の体からあふれ出したエネルギーの奔流がフィーネを弾き飛ばした。

 大きく後ろに下がったフィーネの表情は驚愕に満ちている。

 

「まだ戦えるだとッ? 

 何を支えに立ち上がる……ッ?

 何を握って力と変えるッ!

 鳴り渡るこの不快な歌の仕業かッ?

 そうだッ!……お前が纏っているものは何だッ?

 心は確かに折り砕いたはずッ!

 なのにッ!何を纏っているッ!?

 それは私が創ったものかッ!?

 

 お前が纏うそれはいったい何だッ!?

 

 ――――――何なのだッ!?」

 

 

 

 三色の光が立ち上る。

 

 森からは赤い光が、カディンギル頂上からは青い光が、そして目の前からは太陽に似た暖かい光が。

 

 翼を広げ、ギアから伝わる音色に合わせて大空を飛び、その声を響かせる。

 

「……綺麗だ」

 

 雅人は無意識に言葉を零した。

 

 ――――――本当に、綺麗だ。

 

「シ・ン・フォ・ギ・アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」

 

 戦場に、再び歌声が響いた。

 

 

 

 

 







 というわけでちょっと駆け足気味な十三話。
 原作10話~12話を一纏めにした内容。だけど三人の初共闘の描写はない。入れると雅人君が中心の話なのに出てこないと言う事態になるし流れも原作と変わらないのでカット。

 出てきたアークルの設定。クウガ本編と変わらず装着者を人外へと変えていきます。2年間装着していたけど雅人君は基本グローイングだったので進行が遅いのです。あと、この辺は後で説明するつもりですが五代さんや他の歴代のクウガはクウガ原作のようにハイペースで戦っていないのでアークルの影響は少なめです。大体1年で20回程度です。ノイズとのエンカウント率自体「人が一生で通り魔に出会う確立」らしいですし、いくら感知能力を持っていても元の発生率が低いのでこんな感じです。

 死亡→蘇生はクウガでもやった流れ。アークルの性能を考えれば当然ですかね。近くにデュランダルという高エネルギーを発生させる聖遺物があったのもちょっとしたフラグ。回収されるのは少しあとかな?



 では次回予告。

「高レベルのフォニックゲイン……こいつは二年前の意趣返し?」

「行け! 響!」

「俺のことはどうでもいい。些細なことだ」

「この程度で終わりだと? 笑わせる! 私は悠久の時を生きる巫女、フィーネなのだッ!!」

「響ぃぃぃぃぃいいいいいいい!!!」

                『希望』


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第十四話 「希望」

 第一部最終回。




「みんなの歌声がくれたギアが、私に負けない力を与えてくれる。

 クリスちゃんや翼さんに、もう一度立ち上がる力を与えてくれる!

 歌は、戦うだけの力じゃない。命なんだ!」

 

 朝日に照らされながら、大空を飛ぶ響の声が聞こえる。

 響と翼とクリスが、フィーネと向かい合う。

 

「高レベルのフォニックゲイン……こいつは二年前の意趣返し?」

 

 フィーネの言葉にクリスが拳を振り上げる。

 

「念話までも……」

 

 クリスが何か言っていたようだが、雅人には聞こえない。

 

(念話? ……ダメだ、何も聞こえない)

 

 雅人が状況を把握できない間にも、話は進行していく。

 

 やがて話が終わったのか、フィーネが響たちに向かってソロモンの杖を構え、ノイズを弾丸のように放つ。

 響たちが空中で回避した瞬間、その隙をついてフィーネがソロモンの杖を天に向ける。杖の先端にエネルギーが集まり、それが一気に解放される。

 

「怖じろぉぉぉぉおおおおおッ!!」

 

 解放されたエネルギーは周囲に飛び散り、町を覆い尽くすノイズに変わる。

 それを見たクリスは一目散に町まで飛び、響と言葉を交わした翼も町へ向かう。

 そして響は一度地上を見る。

 響を見て不敵な笑みを浮かべるフィーネの後ろ、壁に手をついて息を切らせながら響を見上げる雅人がいる。

 

「……雅人君」

 

 幻ではなかった。生きていた。

 自然と、響は涙が込み上げてくる。

 

 響は雅人に声をかけようとして、雅人に制される。

 

「行け! 響!」

 

 サムズアップをしながら叫ぶ雅人。

 それを見て同じサムズアップを返して、響は町へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう手品だ?」

 

 フィーネと二人きりなった雅人。

 ふらふらと揺れる体を支えるために壁に寄りかかっているところを、フィーネに声をかけられる。

 

「……なにが?」

 

「確かにお前は死んだはずだ。脈が止まったのをこの手で確認した。なのになぜ生きている?」

 

 そう、フィーネは確かに確認した。雅人の脈が止まり、その体が冷たくなっていく様を。

 そこでフィーネは何かを考えるように顎に手を当てる。

 

「いや待て、聞いたことがあるぞ。『アマダム』は宿主の身体構造を変質させる。宿主の危機に合わせてその生命活動にさえ影響を及ぼす……!? 宿主を私から護るために仮死状態にしたのか! 私の目を欺くために心臓を止め、私が出て行ってから体を治療したと言う事か!」

 

 フィーネは一つの答えにたどり着く。

 フィーネ自身、『アマダム』のことは当時の天才から聞いた程度の知識しかない。宿主を守るための機能があると言うことを聞いただけだ。

 

「俺のことはどうでもいい。些細なことだ」

 

「なに?」

 

「バラルの呪詛を止めるのはいい。だけど、ただ「あの御方」とやらに会いたいと言うだけでこんなことをされると迷惑なんだよ!」

 

「黙れッ!! 恋心も知らぬ子供がッ!!」

 

 激昂したフィーネが鞭を雅人に叩き付ける。

 だが、雅人はその鞭を掴んだ。

 

「確かに俺は恋心なんて知らない。だけど何度でも言ってやる! あんたは間違ってる! だから俺はあんたを止める! 使命を負ったクウガとして! そして短い時間とは言え肩を並べた仲間として!

 変身ッ!!」

 

 『アークル』がまばゆい光を放ち、その輝きの中から紅蓮の鎧をまとった戦士が現れる。

 

『たとえこの体が人じゃなくなっていくのだとしても、俺の心は人間だ! 人間のままあんたを倒して、この戦いを終わらせるッ!!』

 

「やってみるがいい……クウガァァァアアッ!!」

 

 使っていなかったもう片方の鞭が横薙ぎに振るわれる。

 雅人はとっさに掴んでいた鞭を離して、持っていた拳銃をベルトに引っ掛けながら大きくバックステップ。

 

 だがそれは悪手にしかならない。

 

 『ネフシュタンの鎧』に備わっている鞭の射程に限界はない。下がれば下がるほど、雅人が不利になっていく。

 縦横無尽に振るわれる鞭を時には避け、時には腕で防御する。

 いつもの万全な状態の雅人ならば、防御することなくすべて避けようとしただろう。だが、今の雅人は血を流しすぎて意識が朦朧としている。うまく働かない頭のまま戦闘を続ければ、悪手を選んでしまう。

 振るわれた鞭を右腕で防御した瞬間、鞭が腕に絡みつく。

 

「かかったなッ!!」

 

『なッ!?』

 

 そのまま力任せに鞭を振り上げられ、雅人は抵抗する暇もなく地面から持ち上げられる。

 

「堕ちろぉぉぉぉッ!!!」

 

 そしてそのまま地面に叩き付けられる。

 叩き付けては持ち上げられ、また叩き付けられる。

 体を丸めて衝撃を殺そうとしても、掴まっている右腕がひっぱられるので体勢が崩れる。

 

 やがて地面に叩き付けるだけでは満足できなくなったのか、カディンギルの残骸にまで叩き付け始めるフィーネ。

 

「貴様がッ! 貴様らのせいでッ! 私の夢がッ! この胸の想いがッ! 貴様がァァァァアアアアアッ!!!」

 

『ッ! いい加減に……しろッ!!』

 

 地面に叩き付けるために鞭を振り上げる時、その頂点に達して力がかかっていない時を選んで雅人は空いている左腕で右腕を掴んでいる鞭を殴りつける。

 銀色に光る鞭が殴られた衝撃によって軋み、歪む。

 歪んだ箇所を更に殴りつけ、ついに雅人を拘束していた鞭が破壊される。

 

 地面に着地し、体勢を整えてフィーネと向かい合う雅人。

 

『鬱陶しいんだよ! あんたは!』

 

 ベルトに掛けていた拳銃を取り出し、構える。

 やがて雅人の姿が『赤のクウガ』から『緑のクウガ』に変わる。持っていた拳銃も形状を変え、撃鉄の部分がレバーのようになり銃口は弓のように変わる。

 レバーを弓を引くように引き絞ると、銃口の弓の部分がしなる弓のように引かれていく。

 

「その程度の豆鉄砲で何ができるッ!」

 

 狙いを定めたまま動かない雅人に向け、両の鞭を振るう。

 

 それはフィーネの必殺の一撃。

 弦十郎と翼には躱されてしまったが、目の前の動く気配のない男に当てるのは容易い。『緑のクウガ』については射撃しかできないと聞いている。一度映像で見た時も移動は『ゴウラム』に任せきりだったので、ネフシュタンの鞭を避けることは不可能。

 そう考えて振るった必殺を、雅人はあっさりと右に体を逸らすことで躱した。

 

「なッ!?」

 

 確かに『緑のクウガ』は射撃型だ。だがそれは、『緑のクウガ』の能力をいちばん活かせるのが射撃だからである。

 

 『超感覚』。

 それが『緑のクウガ』本来の能力。五感を人間の限界以上に研ぎ澄まし、肉眼では捉え切れないほどの高速で動くものを捉え、人間では聞こえない微かな音を確実に拾う。

 五感全てが鋭敏化されるため痛覚も酷くなるが、それを補って余りあるアドバンテージを得ることができる。

 鋭敏化された聴覚で相手の体が動く音や心臓の鼓動を聞き取り、強化された視覚で相手の筋肉の動きを見て攻撃のタイミングを掴む。振るわれた鞭すらスローモーションに見えるほど強化された視覚でそれを避ける。

 故に、この結果は必然だった。

 

『ッ!!』

 

 体を逸らしたまま、引き金を引く。

 銃口から吐き出された弾丸は狙い違わずネフシュタンの装甲が薄い腹部に吸い込まれていった。

 

「……ごふッ」

 

 弾丸が貫通し、腹部に風穴を開けたフィーネが血反吐を吐く。

 腕一本分の穴が開いた腹部には刻印が浮かび上がる。

 

『……終わりだ、フィーネ。さっきまで響いていた爆音も止んでる。町を埋め尽くすノイズも全部響たちが倒したはずだ。あんたの野望は、ここで終わりだ』

 

 『緑のクウガ』から『赤のクウガ』に戻りながら言い放った言葉は、嘲笑によって返された。

 

「終わり? …………ふ、はははははは!!」

 

 雅人の言葉を聞いたフィーネが、高笑いをし始めた。

 それと同時に、雅人がつけた傷が急速に回復していく。

 浮かび上がっていた刻印も徐々に薄くなり、完全に消えた。

 

「この程度で終わりだと? 笑わせる! 私は悠久の時を生きる巫女、フィーネなのだッ!!」

 

 フィーネが絶叫し、持っていた『ソロモンの杖』を再生した腹部に刺す。

 

『なにっ!?』

 

 貫いた腹部から伸びたヒモ状の組織が杖を飲み込んでいき、さらに生き残っていたノイズがフィーネを覆っていく。

 

「ノイズに……飲み込まれて……」

 

「そうじゃねぇ……!あいつが呑み込んでんだッ!」

 

 やがて大量のノイズを飲み込んだフィーネの姿があらわになる。

 『ネフシュタンの鎧』の形状が変わり、黒く裾の長いドレス状の服に変わる。『ソロモンの杖』は見当たらないが、その手には『デュランダル』が握られている。

 

 そしてフィーネを中心に万を超える数のノイズが寄り集まってできた超大型のノイズが姿を現す。

 全長は高く、背後にある崩れたカディンギルには及ばないもののその半ばくらいまでの大きさがある。腹部にフィーネが立ち、悠然と雅人たちを見下ろしている。

 頭部は龍のアギトのようにこちらを見下ろしており、背後には触手とも羽ともつかないものが無数にうごめいていた。

 息をのむ雅人たち。

 

 その頭部から発射されたレーザーのようなものが、町を焼き払う。

 無数のミサイルがクリスから発射されるがそのすべてが堅い装甲に阻まれ、お返しとばかりにノイズから発射された弾丸がクリスを追い立てる。

 翼の剣からいつもより数倍は威力を伴った衝撃波が腹部に佇むフィーネに向かって放たれるが、フィーネはそれを装甲を閉じることっでシャットアウトする。

 響の拳が頭部を貫きその衝撃が裏まで貫通するが、おそらくネフシュタンの再生能力ですぐに何事もなかったかのように反撃してくる。

 

 その光景を、雅人は少し離れたところで見ているしかなかった。

 繰り広げられるのは神話にも似た頂上決戦。その剛腕は大地を砕き、その一振りは空間を斬り、その一射は全てを貫く。

 相対するは破壊の権化。その一息は町を焼き、その羽ばたきは周囲を薙ぎ払い、その身は全てを拒絶する。

 

 そんなことが当たり前に行われる世界に、ただその拳一つしか持たないチッポケな存在である雅人が立ち向かえるはずもなかった。

 

(……俺は)

 

 知らず知らずのうちに、拳を握りしめる。

 守るべき友も、幾度か拳を交えた戦友も、これから友になる筈だった者も、全て雅人の手が届かない領域に行ってしまった。

 強くなったはずだった。家族や友達の屍を乗り越え、師を亡くした悲しみを乗り越え、そして2年の月日を経て至ったかつての師と同じ姿。今だにその背中は遠いが、それでも叫べば声が届く距離まで来たと思っていた。

 だが、この光景を見ればわかる。

 かつての師はこれを超えた場所にいる。彼女たちを超えたその場所に辿り着いてやっと、その背に手が届く。

 

 ならば、未だにあの場所に至らない雅人に何ができるのか?

 

 戦いは終局に向かっている。

 翼とクリスの捨て身の攻撃でフィーネからデュランダルを引きはがし、響が再びデュランダルを手にする。

 飲まれそうになる意識を必死につなぎとめ、響はその負の感情を制御する。

 

「……響」

 

 意図せず声が漏れると同時に、雅人のちょうど対角線上にあったシェルターの扉が吹き飛んだ。

 そこから顔を出すのは雅人がよく知る人達と知らない人達。

 みんな響が負けないように、その想いを伝えるためにここまで来た。

 

 響を飲み込もうとするデュランダルと、抑えようとする響。

 その背を支えてくれる仲間たちと、手を取って共に戦う仲間たち。

 応援も、声援も、彼女たちに任せればいい。

 

(だから、俺は……!)

 

 響に向かって触手が殺到する。

 

『超変身!!』

 

 再び銃を取り、構える。

 『緑のクウガ』の弓は装弾数一発。外せば終わりで、当たったとしても4本ある触手のどれか一本だけ。

 だけど、遠距離攻撃だけが『緑のクウガ』の特性ではない。

 

 超感覚によって研ぎ澄まされた感覚で見極める。

 最高のタイミングを、最高の一射を。

 

 トリガーを引き絞ると同時に弓にスパークが走る。

 

『そこだッ!!』

 

 まさに響たちに触手が到達する直前、4本ある触手が一度固まった瞬間を狙った最高の一撃。

 スパークを発しながら着弾した弾丸は触手に刻印を浮かび上がらせて爆発し、その爆発が周りの触手を飲み込む。

 あとに残ったのはボロボロになって使い物にならなくなった触手だけ。

 持ち前の再生能力で修復しようとした触手に刻印が浮かび上がり、回復が阻害される。

 その瞬間、限界が訪れたのか鎧が『緑』から『白』になる。

 

「貴様……クウガァァァァァアアアアアアアアッ!!!!」

 

 フィーネの絶叫が響く。

 

『行けッ!! 響ッ!!』

 

「響ぃぃぃぃぃいいいいいいい!!!」

 

『響き合うみんなの歌声がくれた……シンフォギアでぇぇぇえええええええええッ!!!!!!』

 

 その一振りは、まさに奇跡。

 この町に住む者たちの想いを束ねた希望の剣。

 想いを束ねて力に変える響と、無限の力を生み出すデュランダル。響が呑み込まれないように共に戦い続けた仲間たちと傍で支え続けた友達、そして彼女の帰りを信じる大切な親友(ひだまり)と、支えるのではなくただ彼女の前にある障害から彼女を守るために戦った彼女の友達(いえ)

 誰が欠けても叶わないであろう究極の一刀(Synchrogazer)

 響き合う歌声がもたらした希望を、人々の絶望の象徴たるノイズにぶつける。

 

 絶望が、希望に敵うはずもない。

 

 光は収束し、やがて爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……クウガか」

 

 瓦礫の中で倒れ伏すフィーネを、雅人は見下ろす。

 すでに変身は解かれており、雅人自身もボロボロの状態だった。

 

「……はぁ」

 

 溜息を一つ吐き、雅人はフィーネの隣にあった瓦礫に腰掛ける。

 

「……何の用だ?」

 

「別に? ……ただ、あんたはクウガについて結構物知りらしいからな。教えてもらおうかと思ったんだよ。いつかのように授業してほしいもんだね、櫻井さん」

 

「……私はフィーネだ」

 

「俺にとってはどっちでもいいんだよ」

 

 フィーネが雅人を睨みつける。

 だが雅人は瓦礫に座って空をボーっと眺めたままフィーネの方を見ようともしない。

 

 やがてフィーネは諦めたように嘆息した。

 

「クウガは……『アマダム』は聖遺物と同じく古代からこの世界に存在するものだ」

 

 そこでようやく雅人はフィーネの方を向き直る。

 

「私もこの手で調べたわけではないから詳しいことはわからないが、私が生を受ける前から『ルル・アメル』……人類の希望の象徴として祭り上げられていた。

 触れた物質を原子構造から変えまったく別の物に変えてしまう『モーフィングパワー』。悪しき存在をその身の内に封印し、自らの力に変える『封印エネルギー』。悪しき存在を浄化する『浄化エネルギー』。代表的な力はこの3つだ」

 

「『モーフィングパワー』……『封印エネルギー』……『浄化エネルギー』」

 

 復唱し、その言葉を噛み締めるように覚える雅人。

 

「お前の話と実際に戦った感覚からして、どうやらお前は『浄化エネルギー』を生み出す力が常人より強いようだ。ノイズが爆発するのは強すぎる『浄化エネルギー』が対象のノイズから純粋なエネルギーとなって漏れ出すからだろう。逆に『封印エネルギー』は常人よりも遥かに低いがな。お前が2年間クウガとして戦っているのに対してこの程度の力しかないのはそれが理由だろう」

 

「悪しき存在をその身の内に封印し、自らの力に変える……ノイズを自分に封印して力に変えるのか……そうか、だから師匠は……」

 

 ブツブツと自分の思考に没頭し始める雅人。

 だが、そんな雅人にお構いなしにフィーネは言葉を続ける。

 

「精々気を付けるんだな。2年もクウガとして戦い続けたと言うことは、その分『アマダム』の浸食も進んでいると言うことだ。……お前が人として生きられる時間も、もう長くはあるまい」

 

「……」

 

 沈黙が下りる。

 雅人はすでに聞くべきことは聞いた。フィーネも本来なら雅人と会話する気など毛頭なく、ただの気まぐれで喋っていただけだった。

 

「雅人く~~ん!! 了子さ~~ん!!」

 

 やがて、雅人にとってこの数か月ですっかり聞きなれてしまった元気な声が聞こえてくる。

 見ると、響が空を飛びながら雅人たちに向かって手を振っていた。

 

「……お~~う!!」

 

 それに対して雅人は手を振り返し、それを見た響が嬉しそうに笑いながら降りてくる。

 

「大丈夫? 二人とも?」

 

「俺は……大丈夫じゃないな。血が足りない」

 

「え!?」

 

「いや、この辺で適当に寝とくから粗方終わったら起こしてくれ。それとフィーネ……櫻井さんの方は知らん」

 

「う、うん。本当に大丈夫?」

 

「自業自得だろう。私の目を逃れるために一度心臓を止め、そのあと無理やり動かしたんだからな」

 

「俺がやったことじゃないんだが……まぁいいか。じゃぁ響。あとは任せた」

 

 そう言って雅人は地面に座り、瓦礫を背もたれにして目を閉じる。

 

「……うん。あとは任せて。さ~て了子さん! みんなのところに行きましょう!」

 

「おい待て、私は……」

 

「いいからいいから!」

 

「だから待てと……ええい! 何なのだッ!」

 

 遠ざかっていく足音を聞きながら、雅人は眠りにつく。

 分かったことは多くある。

 クウガのこと、フィーネのこと、そして……自分自身の弱さ。

 今だにその背は霞むほど遠く、さらにその背を隠すように新たに立ちはだかった3人の少女。

 そして最後に見えた……『金』の力の一端。

 

(まだ、俺は強くなれる。だけど今のままじゃダメだ。

 そうだ、冒険に出よう。『ソロモンの杖』は二課が回収することになるだろうから、しばらくはノイズの被害も減るはずだ。冒険に出て、いろんな場所を回って、いろんなところで鍛えなおそう。

 そして強くなって、師匠の……代わりに……なるんだ。それが……俺の…………)

 

 そうして雅人は、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空で、一際大きな光が輝いた。

 

 

 




 というわけで第一部最終回でした。
 次回はエピローグをして、その後に設定紹介でも入れようと思います。第二部は投稿するまで少し時間がかかるかと思います。

 では補足でも。

 響たちとフィーネの念話を用いた会話。雅人君には聞こえていません。アークルと聖遺物は違うと言うことをここで明確に描写したかったんです。聖遺物同士での念話はできても聖遺物とアークルで念話なんてできないのです。つまり雅人君には延々と響たちとフィーネが睨み合っているようにしか見えません。

 雅人君VSフィーネ(二戦目)。
 一戦目はあっけなく負けてしまいましたが、今回はペガサスさんの超感覚を用いて一応勝利。マイティでは防戦一方になる。ドラゴンでは火力が足りず、タイタンでは鞭を避けれない。そこでペガサスさんによる一発回避と一閃必中の射撃を用いました。
 当初最終戦で雅人君が活躍することはないと思っていたらこの結果。さらに出すとしてもマイティで頑張ってもらおうと思ったらまさかの今まで作者も扱いに困っていたペガサスアニキが活役。自分で描いた物語なのに展開が読めなかった……。

 響・翼・クリスVS黙示録の紅き龍。
 トンでも怪獣なんて今まで書いたことなかったのでテレビの迫力を表現できたかはいまいち不安。良ければ皆さんの感想がほしいところです。ここら辺の会話はほとんど念話で行われているので、雅人君からではどんな会話をしているのかはわかりません。当然フィーネの名言「逆さ鱗に触れたのだ」云々も聞こえていません。そしてあんな戦いに踏み込めるほど雅人君は強くありませんし、近くにいたら邪魔になるとわかっているので少し遠くに退避中。せめてライジングになれたらもうちょっとマシな介入ができたんでしょうね。ここで力不足を実感するのは第二部のための布石です。

 そしてまたしても大活躍のペガサスアニキ。草葉の陰でグローイングアニキとドラゴンアニキとタイタンアニキが寂しそうな目でこちらを見ている。作者もまさかここまで大事な場面で活躍するとは思わなかったです。ライジングフラグをこっそり立てつつ戦闘終了。一度悪役に言わせてみたかった怨嗟の念がこもった叫び。「この身、砕けてなる者かァァァァアアアアアア」を初めとしてこういう叫びが似合うラスボスは今では貴重。何気にフィーネが一番書いてて楽しかったかもしれない。

 戦闘終了後の一対一の会話。
 フィーネを櫻井了子として呼ぶ→「私はフィーネだ」→雅人君は「どっちでもいい」、響は「了子さんは了子さん」。ここでちょっとした対比になってます。雅人君にとってフィーネが櫻井了子であろうとフィーネであろうとどっちでもよく、響にとってフィーネは櫻井了子という仲間であると言うスタンス。似ているようで少し違う対応になってしまったのは、フィーネと出会ったことでアークルが古代のフィーネの情報を雅人君に伝えた為。アークル開発理由は「ノイズの殲滅」「フィーネの野望の阻止」「明かされていないもう一つの理由」の三つです。多分前話で情報を結構出したから気付いている人は気付いているはず。
 あと、浄化エネルギーについてはオリジナルです。ちょっと展開的に必要だったんですよ。

 響合流、終了。
 雅人君はフィーネとの戦闘に介入しただけでルナアタックそのものには関わっていません。といううか無理です。「宇宙キターーー(゜∀゜)ーーーー!!!!!」じゃなんですから無理です。


 ここまで作ってたストックを使い切ったので更新速度がだいぶ遅くなります。少なくても二話分のストックができてから投稿するつもりです。ここがこの作品の一区切りになりますね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました!。



 次回予告。



「で、月に突っ込んでボロボロになって帰ってきたのか」

「すごい……雅人君とクリスちゃんが師匠を倒した!」

「っていう事は……私たち死んだことになってるんですかぁ!?」

「これはお前のレントゲン写真だ。腰の部分に見えるのが、お前の言う『アークル』だろう」

「初めまして、クウガ。いや、五代 雅人君。私は一条 薫、君の師匠の親友だ」

「師匠からの……プレゼント……」

「うん! またね、雅人君!」

「また……会えるよね。響。雅人君……」

                『贈物』


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第十五話 「贈物」

 ……過去最長記録更新。

 お菓子でも食べながらゆっくり読んでください。


 

 特異災害対策機動部二課仮設本部司令室。

 数日前起こった『ルナアタック』の際、リディアン音楽院地下に存在した本部が崩壊したことによって急遽用意された潜水艦が仮設本部である。

 その仮設本部内は、今大いに賑わっていた。

 

 シンフォギア装者たちの発見と五代 雅人の意識の回復。

 

 『ルナアタック』の際月の欠片を破壊するために宇宙空間に飛び立ち絶唱を放った装者たちはその後行方不明となっていたが、つい先ほど彼女たちを発見、保護したとの知らせがあった。

 さらに朗報は続く。

 フィーネとの戦闘の後、響に言われた場所に辿り着いた弦十郎たちは意識を失った状態の雅人を発見。酷く衰弱した状態だったため命の危険を危惧されたが、響たちが発見されたと言う報告より数分後に覚醒。起き上がることはできないがハッキリと喋れることから後遺症などはなくこれからの生活にも問題はないと診断された。

 

「一時はどうなる事かと……」

 

「まったくね。これでみんな無事じゃなかったら私この仕事辞めてたかもしれないわ」

 

「あおいさんもですか?」

 

「あら? 藤尭君も?」

 

 笑い合うあおいと朔也。二人だけじゃなく、周りの者たちも一様に安堵の表情をしている。

 肩を叩きあって喜ぶもの。抱き合って喜ぶもの。涙しながら喜ぶもの。

 その様子は様々だが、みな変わらず笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、月に突っ込んでボロボロになって帰ってきたのか」

 

「いや~……ホントにだめかと思った」

 

 所変わって数時間後の医務室。

 既に回復し自由に歩けるようになった雅人と、おとなしく安静にしている響たちが話をしていた。

 

「俺が寝てる間にそんな事態があったとはな……」

 

「五代、お前は動いて大丈夫なのか? 数日間全く目を覚まさなかったらしいが……」

 

「寝てただけですしね。風鳴さんたちよりはよっぽど軽傷ですから」

 

「うわ……敬語似合わねぇなクウガ」

 

「目上には敬語を使うべきなんだよ雪音さん。あとクウガ言うな。名前で呼べ」

 

「嫌だね!!」

 

「ちょ、喧嘩はやめようよ雅人君、クリスちゃ~ん!」

 

 仮にも医務室だと言うのに対してこの賑やかさ。

 中に入ろうとしていた弦十郎も、これには溜息を吐いてしまう。

 

 その顔が嬉しそうにニヤついていたのを、一緒に来ていた慎次は見逃さなかったが。

 

「お前ら……病室だと言うのに静かにできんのか?」

 

「御久しぶりです、皆さん」

 

「師匠! 緒川さん!」

 

「司令……緒川さん……」

 

「……ふん」

 

「ようおっさん。緒川さんもお久しぶりです。全然そんな気がしませんけど」

 

 それぞれの特徴がよく出たあいさつの返し方である

 

「仕方ないですね。五代君はずっと寝てたわけですし」

 

「雅人……なぜ緒川と俺でそうも態度が違う? あとクリス君。それは挨拶ではないぞ」

 

「そりゃぁ……」

 

「……だって」

 

「「おっさんだし」」

 

 雅人とクリスの息の有ったコンビネーションに弦十郎はたまらず膝をつく。

 

「すごい……雅人君とクリスちゃんが師匠を倒した!」

 

「あの司令に膝をつかせるとは……見事だ、二人とも」

 

「息ピッタリでしたね」

 

 ハッとクリスが雅人を見る。

 雅人はクリスが自分の方を見ているのに気付くとクリスに向かってサムズアップをするが、クリスはすぐにそっぽを向いた。

 それに残念そうな顔をする雅人たち子供組だが、弦十郎と慎次の大人組からはクリスが真っ赤になっているのがよく見えた。

 

 クリスが彼女たちに馴染む日も、そう遠くはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、本題に入ろう」

 

「本題?」

 

「漫才しに来たんじゃなかったのか?」

 

「そんなわけあるか。本題というのは雅人を除いたお前たち三人のこれからについてだ」

 

 それは、大人たちの都合に子供が巻き込まれると言う本来あってはならないこと。

 曰く、現在シンフォギアの存在が先の戦いによって公になってしまったため各国から憲法違反だ、という批判と追及が日本政府に行われていること。

 曰く、米国などの一部の国が櫻井理論の開示とシンフォギア装者の個人情報の開示を要求していること。

 曰く、今の日本政府にとってそれら全てを退ける力はないと言う事。

 

「だから、公式にはシンフォギア装者三人は『ルナアタック』によって死亡したと言うことになっている」

 

「っていう事は……私たち死んだことになってるんですかぁ!?」

 

「おいおっさん、それはいくら何でも……」

 

「話は最後まで聞け。死亡したのは『シンフォギア装者』だ」

 

 その弦十郎の言葉に、疑問符を浮かべる雅人と響とクリス。

 逆に翼は合点がいったような表情をする。

 

「なるほど、そういう事ですか」

 

「え? ……どういうことですか?」

 

「つまりシンフォギア装者はいったん死亡したことにして、今回のごたごたが収まるまで責任を追及できないようにするんだ」

 

「何時までになるかは解りませんが、それでも皆さんに対しては少し不自由を強いてしまいます。本当にすみません」

 

「我々の都合で勝手に振り回すようなことをして、本当にすまん」

 

 弦十郎と慎次が頭を下げる。

 それに慌てたように返したのが響と翼であり、クリスはあまり気にしていないようだった。

 因みに雅人は蚊帳の外だ。

 

 それからは響たちの今後についての話があった。

 

 何時までになるかはわからないが、しばらくはこの仮設本部から出られないこと。

 死亡ということにしたため、事情を知ってしまった一般人の人達には響たちはいまだに見つかっていないと話していること。

 あと数日で響たちの捜索を打ち切ると言う設定になっていること。

 それまではこの仮設本部で自由にしていていいと言う事。

 

「未来にも、話せないんですか?」

 

「……ああ。すまない」

 

 それを聞いて落ち込む響。

 

「雅人、お前にも話がある」

 

「ん? なんだよおっさん」

 

「ここではできない話だ。別の部屋に行くぞ」

 

 そう言って移動する弦十郎と慎次。

 

「何だろうな……まぁちょっと行ってくる」

 

 それに続いて雅人も部屋を出る。

 

 そして通されたのは一般的な病院の診察室と似た作りの部屋だった。

 照明代にはレントゲン写真が掛けられている。

 

「これが何かわかるか?」

 

「……さぁ?」

 

「これはお前のレントゲン写真だ。腰の部分に見えるのが、お前の言う『アークル』だろう」

 

「へ~……」

 

「……ここを見ろ。『アークル』から神経のようなものがお前の全身に伸びている。結論から言うと、お前は確実にその『アークル』に蝕まれている」

 

 それは通常のレントゲン写真ではありえない光景だった。

 腰のアークルから伸びた神経が体全体に伸び、もうすぐ頭まで到達しようとしていた。

 

「お前が気を失っている間に精密検査させてもらったが、お前の体は普通の人間とは逸脱したものになりつつある。このままいけばお前は……」

 

「戦うための生物兵器だろ? それくらい知ってるさ」

 

 まるで世間話のような気軽さで、雅人が言葉を発した。

 

「「……」」

 

 あまりに普通に、あっけカランと言い放つからか、弦十郎も慎次も固まってしまった。

 

「クウガの歴史だって長いんだ。何もせずに戦い続けたやつがどうなるかなんて知ってるさ。それを防ぐ方法もちゃんと師匠から教わってる」

 

「そ……うか。そうか、よかった」

 

 ホッと安堵したように一息つく弦十郎とその後ろで胸をなでおろす慎次。

 この仕草だけで二人がどれだけ雅人を心配していたかがわかり、がらじゃないと思いつつも雅人も少し嬉しくなる。

 

(ま、嘘なんだけどな)

 

 確かに生物兵器にならない方法を雄介は知っていたのかもしれないが、少なくとも雅人は聞いたことがない。さらに最後に話したフィーネの言葉からして、治療法はないと思っていいだろう。

 だけど雅人に後悔はない。

 

(たとえどんな存在になったとしてもノイズと戦い続ける。誰かの笑顔のために、師匠の代わりに戦い続ける。だけど、その為には……)

 

 今の雅人では圧倒的に力が足りない。

 

「おっさん」

 

「……なんだ?」

 

「そういう事だから、俺はちょっと冒険に行ってくるよ」

 

「待て、どういう事だ?」

 

 雅人の急な言葉に、さすがの弦十郎も慌てる。

 

「修行だよ修行。今回の戦いで自分の力の無さを痛感したからな。一度昔のように冒険しながら自分を鍛えなおすことにするよ」

 

「……ここで修行するわけにはいかないのか?」

 

「仮にも一子相伝の秘術とかあるからな。なるべく人目に付くところではやりたくないな」

 

「そうか……寂しくなるな」

 

「ええ……雅人君はムードメイカーでしたからね」

 

「やめてくださいよ。それは響の役目ですし、俺じゃそう言うのはできないですよ」

 

「それで、いつ行くんだ?」

 

「準備ができ次第……ですかね」

 

「そうか……」

 

 室内に沈黙が下りる。

 

「それでさ、冒険をしようと思ったら足が必要だと思うんだ」

 

「足?」

 

 唐突に言った言葉に理解できなかったのか、弦十郎がおうむ返しに訪ねてくる。

 

「一番いいのはバイクかな。免許を取りたいんだけど、おっさん融通できる?」

 

「バイクか……確かお前は響君たちと同い年だったな。

 ということは今年で16歳か……いいだろう。その代わり、しっかり試験は受けてもらうからな」

 

「わかった」

 

「冒険という事なら、パスポートも必要ですかね? 国外に行くのなら入用でしょう」

 

「今まではどうしてたんだ?」

 

「……」

 

 雅人はそこで、今思い出したと言うかのように固まる。

 

「……どうした?」

 

「いや……そう言えば師匠はどうやって俺のパスポートを用意したのかな……と」

 

「……え?」

 

 室内に、異様な沈黙が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後、雅人は自分の病室で荷物をまとめていた。

 さすがに響たちと同室にするわけにはいかないので、別の部屋を使っていた。

 既に試験は終わっており、無事免許を手に入れている。

 あとはどうやってバイクを確保しようか……と考えていたところに扉がノックされる。

 

「はい!」

 

 返事をすると、弦十郎と見知らぬ男が2人入ってくる。

 

(……? だれだ?)

 

「彼で……間違いないんですね?」

 

「ええ」

 

「……」

 

「ああ、済まない。自己紹介をしないとな」

 

 そしてスーツを着こなした弦十郎より少し年上に見える50過ぎの男が居住まいを正し、白衣を着た同じく50歳に見える男も少し真面目な顔をする。

 

「初めまして、クウガ。いや、雅人君。私は一条 薫、君の師匠の親友だ」

 

「俺が椿 秀一……君の師匠の世界でたった一人のかかりつけの医者だ。よろしく」

 

「……え? あ……はい。よろしく、おねがいします」

 

 いきなりの事態に混乱を隠し切れない雅人。

 

「ほら見ろ一条。だから急に来るのはまずいって言ったんだ」

 

「む……だが今日でないと意味が」

 

「だからって事前に連絡を入れるなりなんなりやり方があっただろう。そう言うところは変わらないなお前」

 

「え、ちょっと待ってください! 師匠の親友って……?」

 

 その雅人の言葉に逆に2人は驚いたような表情をする。

 

「……あいつ俺たちの事言って無いのか?」

 

「……当時の話だけして名前を言ってないかもしれないな」

 

「ああ、なるほど」

 

 ポンッと手を打つ秀一。

 薫が苦笑しながら雅人に声をかける。

 

「聞いてないか? 当時あいつが作った例外の話」

 

「例外……もしかして、師匠の相棒の刑事さん?」

 

「その通りだ」

 

 はっきりと頷く薫。

 それを聞いて、雅人はどう反応していいのかわからずに呆然としている。

 

「レントゲンは見せてもらった。まさかたった2年間でここまで浸食が進むなんてハイペース過ぎやしないか? 適度に戦闘間隔をあけていたら浸食も抑えることができるのに、今までどんなペースで戦ってきたんだよ」

 

「あ、えっと、週に3,4回くらい……」

 

「はぁ!? どういう生活してんだよ!?」

 

「ここ数年は日本のノイズの発生確率が段違いに高くなっていたからな。五代の時とは状況が違う」

 

 驚く秀一と薫。日本に出現したノイズは、それほど異常な量だった。

 

「とりあえず死にたくなかったら1か月はクウガになるのは禁止な。わかったか?」

 

「……わかりました」

 

「よし、あとは一条の方だな。ほら」

 

「ああ」

 

 薫はうなずくと、細長い箱を雅人に手渡した。

 

「……なんですか? これ」

 

「五代からの誕生日プレゼントだ」

 

「師匠から……!?」

 

「自分に何かあった時に君が16歳になったら渡してくれと頼まれていた。予定していた日に取りに来なかったから、何かあったのだろうと思っていたが……」

 

「ここに来るまでに聞いた話じゃ、やっぱり無茶やったみたいだな……」

 

 二人が悲しそうな顔をする。

 それを見た雅人は、まるでその話題を逸らすかのように話を進める。

 

「それで、中身は?」

 

「ん? ああ、五代から預かっていたものだ。中身の物を使いたいなら、ここに行くといい。きっと、クウガである君にとって役に立つものだ」

 

 そう言って薫が渡してきたのは一枚の地図。

 場所はどこかの倉庫のようで、雅人から見ても少し古いものであることが分かった。

 

「昔話もしたかったけど、俺も一条も忙しいからまた今度だな。ちゃんと体を労われよ?」

 

「名残惜しいが、またの機会に五代について語ろう。あいつは話題には事欠かない男だからな」

 

「……はい、機会があれば必ず。ありがとうございました」

 

 去って行く薫と秀一に向けて頭を下げる雅人。

 二人は手を振って弦十郎と共に部屋を後にした。

 

「師匠からの……プレゼント……」

 

 それは、もう二度と貰えることがないと思っていた物。

 雄介は雅人の誕生日には必ず何かプレゼントを用意していた。

 それは旅暮らしの邪魔にならないように小さな物だったが、それでも雅人は嬉しかったのを覚えている。

 

 今回もそれだと思っていた雅人が箱を開けると、中から出てきたのは一本の棒と鍵だった。

 

「……棒?……いや、ハンドルか?」

 

 自転車やバイクに使われるようなハンドル。

 ボタンが付いていて、押し込むと先端部分が伸び伸縮式の警棒のようになる。

 

「……ここに行ってみるしかないか……冒険の最初の目的地は決まったな」

 

 呟きながら、用意した荷物を背負い、部屋を出る。

 

「あれ? 雅人君?」

 

 部屋を出た先に、響がいた。

 

「響? 起きて大丈夫なのか?」

 

「うん! 丈夫なのが取り柄だしね。雅人君のその荷物は? どこかに出かけるの?」

 

「ああ。また冒険に出ようと思ってな」

 

「え?」

 

 雅人の返答を聞いた響が固まる。

 

「元々クウガの活動範囲は世界中だ。いろんな場所を冒険しながらノイズを倒す当てのない放浪の旅だ。今まではこの日本で立ち止まっちゃってたけど、ここでの戦いも一段落したみたいだし……これからは元の旅暮らしに戻るさ」

 

「……急……だね。どうしても行くの?」

 

「悪いとは思ってる。だけど、必要なことなんだ。このままここにいれば、俺は一歩も踏み出せなくなる。二課は居心地が良すぎるから……クウガの力が必要なのは、ここだけじゃないからな」

 

「……」

 

「日本は響たちに任せる。俺は、世界中を回ってノイズを倒してくる。別にこれでもう会えないってことじゃない。年に一回は戻るようにするし、呼んでくれたらすぐに駆けつける。

 ……だから笑ってくれ。響は、笑ってるのが一番だから」

 

「うん……うん!」

 

「風鳴さんに、いつか手合わせしようって言っといてくれ。雪音さんには、次に会ったらお手玉を教えるって。二課のみんなにはお世話になりましたって。おっさんには……別にいいか、おっさんだし」

 

「そ、それは流石に……」

 

「未来と店長には自分から挨拶に行くよ。……名残惜しいけど、もう行く。次に会うときは、俺はもっと強くなる。だから、またな、響」

 

「うん! またね、雅人君!」

 

 それだけ言い残し、雅人はサムズアップをしながら出口に向かって歩き始める。

 その背中が見えなくなるまで、響は雅人と同じようにサムズアップをしながら見詰め続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうかい……寂しくなるねぇ」

 

「店長も、早く怪我を直してください。店長のお好み焼きがいつまでも食べられないのは常連客にとっては辛いでしょうから」

 

「あんたたちの漫才が見れないことを寂しがる人達の方が多そうだねぇ……。頑張ってきな。部屋は空けておいてあげるよ」

 

「! ……ありがとうございます。お世話になりました!」

 

「行ってらっしゃい。気を付けていくんだよ」

 

「はい!」

 

 店長へのあいさつを済ませ、店を出る。

 その足で今度はこの間の騒動で家を無くした人たちがいる仮住宅地へと行く。

 そこには自らの家を無くして呆然としている人たちの姿があった。

 前回のノイズの出現は過去に例を見ない規模だと言われており、あまり建造物などを破壊しないノイズでも、今回ばかりはその限りではなかった。

 いくつかのビルが倒壊し、町を襲ったフィーネの攻撃によって家を無くしたものも大勢いる。

 

 だが、この仮住宅地に一番多く住むのはリディアン音楽院の生徒たちである。

 

 騒動の直前で多数のノイズに襲撃されており、さらにはその地下から出てきた『カディンギル』のせいで学院は崩壊。その被害は生徒寮にまで及んでおり、部屋が無事だった者も倒壊の危険があると言われ出入りできなくなっている。

 結果、全寮制であるリディアンの生徒は全員が帰る場所を失う羽目になり、実家に帰った者たち以外はこの仮住宅地で生活することになった。

 現在はリディアンも仮校舎と仮の学生寮を探しているところであり、寮生はそれが見つかるまでの我慢が必要になる。

 

 そんな場所から少し離れた空き地に、小日向 未来はいた。

 

 来ている服はリディアンの学生服で、夏が迫ってきている時期には暑いと判断したのかブレザーは脱いで腕にかけている。

 彼女はここ数日はいつも空を……正確には欠けて少し不細工になった月を見上げている。

 

「まんまるお月様……あと数年もしたら無くなる言葉かな?」

 

 その問いかけは、まるで隣に誰かがいるかのような問いだった。

 彼女自身、答えが返ってくるとは思っておらず、ただの逃避だと言うことも自覚している。

 

 だが、その問いに返すものがいた。

 

「お月見はだいぶ形が変わるかもな。団子じゃなくて三日月型のクロワッサンでも飾るかもな」

 

「……雅人君?」

 

「おう」

 

 未来の隣に立ち、共に月を見上げる雅人。

 未来はそんな雅人を少しの間見ていたが、やがて同じように月を眺め始めた 

 

 しばしの沈黙が流れる。

 

 先に沈黙を破ったのは雅人だった。

 

「俺さ、あの時寝てたんだよ」

 

「……うん」

 

「響たちが頑張ってあの月からとれたでっかい欠片を破壊しようとしているとき、あの塔の下で1人寝てたんだよ。情けないよなぁ。みんなが頑張ってる時に、俺だけへばって動けなくなるなんてよ」

 

「……仕方ないよ。雅人君も頑張ってたって緒川さんから聞いたよ? 学校が襲われたときに1人で戦ってくれたし、その後だって1人であの人を追って死にかけたって……」

 

「それでもだよ。そんなことじゃダメだ。もっと強くならなきゃならない。強くなって、師匠に追いつかないといけない。今の俺じゃあ響たちにも勝てないんだ。こんな事じゃいつまでたっても師匠に追いつけない。

 だから、俺冒険に出ることにした」

 

「え?」

 

 未来からの驚いたような声を無視して、雅人は語り続ける。

 

「今のままじゃ、いつまでたっても俺は弱いままだ。だから、旅に出て自分を鍛えなおすよ。今日ここに来たのは、その挨拶だな」

 

「……雅人君も、いなくなるの?

 響があの空に消えちゃって、帰ってこないのに……雅人君も?」

 

 未来は、響が生きていることも知らない。今は元気に二課の仮設本部でクリスと漫才を繰り広げていることを知らない。雅人は、知っているけど言えない。

 

「元々クウガは世界各地を飛び回るからな。そもそも2年間も同じ場所にいたのがイレギュラーなんだ。

 それにさ、未来は響が死んだと思ってるのか? 響が、高々石ころ一つ壊しに行った程度で死ぬと思うか?」

 

「……」

 

「だから、未来は信じて待ってればいいんだ。周りがどう言おうと、どう決めようと気にせずに信じて待ってるだけでいいんだ。響は絶対帰ってくるってな」

 

「……うん」

 

「俺も、また帰ってくるから。ちゃんと強くなって帰ってくる。だから、それまで響と一緒に待っててくれ。

 約束、ちゃんと覚えててくれよ?」

 

「約束?」

 

 首を傾げる未来。

 そんな未来を見て苦笑しながら、雅人はかつて交わした約束を口にする。

 

「俺と、響と未来と、風鳴さんで。今なら雪音さんも一緒で、またどこかに遊びに行くって」

 

「……あ」

 

「ちゃんと覚えててくれよ。いつになるかわからないけど、絶対にその約束を果たしに戻ってくるから」

 

「うん……!」

 

「じゃあ、またな!」

 

 そして雅人は未来に向けてサムズアップをする。

 未来も控えめに、だけど確かに雅人に向けてサムズアップをして雅人を見送った。

 

「また……会えるよね。響。雅人君……」

 

 その呟きは、風と共に誰にも聞こえないまま消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ここか?」

 

 郊外の倉庫街。

 無数にある倉庫のうちの一つの前で立ち止まった雅人は、そう呟いた。

 町から離れたところにあるため前回の騒動の時の被害はなく、比較的きれいなまま残っている。

 

 雅人は薫から受け取った箱から鍵を取り出し、倉庫の鍵穴に突き刺す。

 鍵はぴったりだったようで、問題なく開いた。

 

 扉を開けて中に入ると、中は真っ暗だった。

 

「……電気は……これか?」

 

 手探りのまま照明のスイッチを探し、それらしきものを発見した。

 そのままスイッチをつけると、倉庫の中央に当たる部分にあった照明が付く。

 

 その証明に照らされて姿を現したのは、1台のバイクだった。

 

「……バイク? ハンドルが片方ない……」

 

 箱からハンドルのようなものを出し、バイクに突き刺してからひねる。

 その瞬間、バイクは息を吹き返したかのように唸りをあげた。

 

 それと同時に、目の前のバイクから音声が流れてくる。

 

『誕生日おめでとう、雅人』

 

「……師匠?」

 

『君がこれを聞いてるってことは、俺は君の誕生日に直接これを渡せなかったんだろう。それはとても残念だし、そんなことは考えたくはない。それは、俺が君の成長を見守れないと言うことだから。

 だけど、俺はクウガだから、そう言う事態になった時のためにこの記録を残しておく』

 

 それは、雄介からのバースデープレゼント。

 自分が死んでもなお雅人のために用意した、師から弟子への最期の祝福。

 

『このバイクの名前はビートチェイサー。俺が君と出会う前、まだ日本を活動の拠点にして戦っていた時に使っていたものだ。いろんな人に協力してもらいながら『ゴウラム』と適合するように作ったから、どれだけ融合しても金属疲労による崩壊や故障は起きないはずだ。これからの君の戦いに役立ててほしい。

 俺のおさがりでごめんな?』

 

「そんなことはない……そんなことはないです師匠……。

 今までの、どんなものよりも…………うれしいです」

 

『俺が、君にどれだけ多くのことを伝えられたかはわからない。ちゃんと師匠をできていたのかも、不安で仕方がない』

 

「最高の師匠でした……。多くの、本当に多くのことを教えてもらいました!」

 

『君には、俺に関わらずに幸せに生きてほしかった』

 

「幸せでした! 貴方と過ごした日々は、俺の一番の宝物です!」

 

『それでも君がこれからもクウガとしての道を歩み続けるのなら、どうかこれを受け取ってほしい。

 ……体に気を付けて、無理はしないように。何かあったら、一条さんや椿さんを頼ってくれ。

 あんまり長く喋るのもあれだし、ここまでで。

 誕生日おめでとう。これからの君の人生が、どうか平和で幸せなものでありますように……』

 

 雄介からの祝福が終わっても、雅人は動かない。

 俯き、肩を震わせ、涙をこらえ、それでも堪え切れなかったのか両の眼からとめどなく涙があふれてくる。

 

 やがて雅人は服の袖で涙をぬぐい、顔を上げる。

 

「……もう一度、貴方の声が聞けて良かった。

 ビートチェイサー……確かに受け取りました」

 

 ビートチェイサーのハンドルに引っ掛けてあったヘルメットをかぶり、その席に跨る。

 留め具を蹴って地面と平行に立たせ、エンジンをふかせる。

 

 それと同時に倉庫のシャッターが勝手に開く。

 ゆっくりと開いていくシャッターを見ながら、かつて雄介に教わったことを思い出す。

 

「行こう、ビートチェイサー。俺達で師匠の代わりになるんだ。誰かの笑顔の為に!」

 

 シャッターが開き切ったところでハンドルを回す。

 普通のバイクとは違う少し高い音を響かせながら、雅人はビートチェイサーに乗って走り出す。

 

 6月9日。

 この日を境に、クウガは日本から姿を消す。

 

 彼がこの地に戻ってくるのは、それから3ヶ月後。

 

 新たな力と僅かな闇を抱えて日本の地に降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 というわけで第一部エピローグ代わりの十五話。嘗てない長さでお送りしました。
 当初はこの半分くらいの長さだったのにどうしてこうなった! 前後編に分けてもよかったんですけど、どこで切ろうか悩んで結局そのまま投稿。この長さはこれ以降ないと思いたい。

 今回と次回は戦記絶唱しないシンフォギアあたりでしか語られなかった響たちが行方不明になってから本編開始までの間の話。そして雅人君の旅立ちです。ちょっと時間がかかったのはプロットの大幅変更をしたからです。というのも、当初は雅人君はここで一度二課から離脱させるつもりだったんですよ。冒険中に行方不明になり音信不通。戻ってきたらF.I.Sと一緒にいた的な構想を考えてたんですが、途中で今考えているストーリーを思いついて路線変更。どっちにしろウェル博士には散々な目にあってもらいますがね。要望があればIFルートとしていつか載せます。

 そして登場したのは一条さんと椿さん。口調が若干違ったり立場が違うのは五代さんの世代からだいぶ時間がたってるからです。イメージとしては二人とも40代後半~50代前半ですね。なぜ仮設本部に入れたかというと、そこまで偉い地位に上り詰めちゃったからです。因みにこれ以降出番は考えていません。今回限りのゲストです。ポレポレ書きたい。

 ひびみくとの別れシーン。この時の未来さんの心情を考えると結構つらかった。親友はお空の上で今も見つかってなくて仲良くなった気になる男の子が遠い国に言っちゃうとか……作者は鬼畜ですかね? でも仕方ないです。雅人君強化フラグを立てたかったんです!

 そしてみなさんお待ちかねのビートチェイサーさん。トライチェイサーアニキはすでに全国の白バイ警官さんの標準装備にされています。ここにあるのは五代さんが長年使い続け、雅人君を弟子に取ると同時に一条さんに預けたものです。この録音を残している時点で、五代さんは自分の命が長くないと確信していました。


 パスポートは突っ込んじゃダメよ? 作者との約束だ☆!

 うん、ごめんなさい。いい理由が思いつかなかったからはぐらかしただけです。た、たぶん一条さんとかに頼んだんじゃないですか?(震え声)
 誰かいい案が浮かんだら教えてください。



 というわけで次回から第二部! みんな大好き杉田博士の登場だよ!



 次回予告……第二部からはシンフォギア風の予告になります。



 異国の地、たった一人修行の旅に出た戦士は狂気と出会う。

 狂気を狂気と気付かず、彼は一人、異国の地にて戦い続ける。

 師に、友に、戦友に追いつくために。

 第十六話 『帰還』

 新たな力を手にした戦士は狂気と共に祖国の地を踏む。

 ここに、世界終焉へのカウントダウンが刻まれる。


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戦士たちの激闘編
第十六話 「帰還」


 みんな大好き面白杉田博士。



 

 米国、某所。

 何もない、ただ舗装された道路だけがある道を、延々とバイクで走る1人の少年がいた。

 彼の他には、誰もいない。

 遠い前を見ても誰もおらず、遥か後ろを振り返っても人一人いない。

 完璧な、彼一人の空間だった。

 

「まるで世界で人間が俺一人になったような感覚だな」

 

 彼の呟きに応えるものも、誰もいない。

 再びバイクを走らせながら、彼は溜息を吐いた。

 

「……一人旅っていうのは、寂しいもんだな」

 

 彼……五代 雅人は、今日も一人で走り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雅人がバイク、『ビートチェイサー』を手に入れてから早1ヶ月。当てのないたびに既に心が折れそうになっていた雅人。

 

「よ~くわかった。俺に一人旅は無理だな。1年前とかならどうにでもなったんだろうけど、ここ何か月かはずっと誰かと一緒にいたからな……」

 

 寂しさを紛らわせるための独り言も、全くの効果なし。

 逆に一人と認識してしまうためさらに悪化してしまう。

 

「……戦士は寂しいと死んじまうんだよ~」

 

 シ~…………ン。

 

「…………このストレスは全部お前らにぶつけてやるよ」

 

 バイクを止め、雅人が睨む先にいるのは無数のノイズ。

 道路を埋めるように進むノイズを睨みながら、雅人はあの戦いですっかり馴染んでしまったフレーズを口にする。

 

「変身!!」

 

 それと同時に雅人の姿が変わっていき、現れたのは紅蓮の鎧を纏う戦士。

 

『ちょうどいい……ようやくコツが掴めてきたところなんだ。実験台になってもらう!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、ノイズが観測されたその場所から半径3キロに及ぶ大爆発が観測された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「米国某所で謎の爆発! 何かの実験か!? ……ねぇ。こんなの見て意味あるの~? み~く~?」

 

「響は全然新聞読まないんだから、ちょっとは読んどいたほうがいいよ?」

 

 リディアン音楽院仮生徒寮。

 そこで立花 響は唸りながら親友の小日向 未来を睨んでいた。

 

「こんなの見ても面白くないよ~~!!」

 

「文句言わない。音楽誌とかファッション誌とかはずっと読んでるんだから新聞くらい読めるでしょ?」

 

「む~り~だ~よ~! 第一、その2つと新聞を一緒にするのは失礼だよ!」

 

「そうね。新聞に失礼だったわね」

 

「ち~が~う~! そっちじゃな~い!」

 

 あの事件から1ヶ月。

 今だに壊れた町は復旧作業中だが、それでもいろんなものが元通りになりつつある。

 立花 響と小日向 未来もそうだ。

 

 雅人が旅に出てから1週間後、未来がノイズに襲われる事件があった。

 その直前で響たちの外出禁止が解除されていたので、翼とクリスを含む3人は急いで出動。

 フィーネとの戦いの際に行った限定解除……エクスドライブモードの影響から強化されたギアの一撃をもって、未来に迫っていたノイズを殲滅。

 未来は涙を流しながら響との再会の喜びを分かち合った。(余談だが、泣きながら駆けよってきた未来を抱きしめた響は、そのまま未来に胸部で駄々っ子パンチを連打され別の意味で涙目になった)(さらに余談だが雅人が実は響たちの生存を知っていたことがここで判明。帰ってきたら説教だ。とは未来の談)

 

 それからはたまにノイズの襲撃で響たちが出動するが、特に怪我もなく帰ってくるのでいつも未来は胸を撫で下ろしている。

 

「それよりさ! 今度のライブ、楽しみだよね~!」

 

「翼さんと……たしか、マリア・カデンツァヴナ・イブの一夜限りのスペシャルコンビでしょ? 響だけじゃなくてみんな楽しみにしてるよ」

 

「未来も?」

 

「私も。この前みたいに寝坊しないでね?」

 

「が、頑張ります!」

 

 そこでいったん話が途切れる。

 2人が考えているのは、同じ人物の事。

 

「雅人君……呼んだら来るかな?」

 

「響は連絡先知ってるの?」

 

「あ……」

 

「ダメじゃない……」

 

 2人にとって五代 雅人という存在は大きなものになっていた。

 いつか響が称した様に、響にとって未来は「あったかい陽だまり」であり、雅人は「響と未来を包み込んで護ってくれる家」のように思っていた。

 その根底には、響が雅人をヒーローのように思っていると言う信頼があった。

 

 響と雅人の初対面はまさにそれだ。

 

 ピンチの子供を助けに来たヒーロー。

 響が雅人のことを仮面ライダーみたいだといったのも、これが理由である。

 

 未来にとっての雅人は、気の合う友人であり、放っておけない人であり、少し気になる異性である。

 響と違い、雅人が戦う姿を未来は見たことがない。フィーネと雅人の戦闘の時は、直前のノイズの大量発生のせいでモニターが乱れていて見ることが叶わなかったからだ。

 リディアンが襲撃された際も、戦っていることは知っていたが避難誘導に必死で見ている余裕がなかった。

 

 2人の雅人へのイメージは違うが、それでも2人の共通の大事な友人であることには変わりない。

 

「早く会いたいね」

 

「うん」

 

 寂しさを感じているのは、2人も同じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 8月のある日。

 いつも通りの一人旅を続ける雅人。

 

 そんな雅人のもとに、一つの連絡が来た。

 

『久しぶりだな! 雅人!』

 

「おっさん? どうしたんだよ急に」

 

 弦十郎からの唐突な連絡に驚く雅人。日本を旅立ってから1ヶ月、誰かから連絡が来たのは初めてのことである。

 

『実は今度翼のライブがあるんだが……』

 

「それなら知ってるよ。世界中で話題になってるのはおっさんも知ってるだろ?」

 

 弦十郎が言うのは2ヶ月後に開催されるスペシャルライブ。

 日本を代表するアーティスト、風鳴 翼とデビューから1ヶ月の間という異例の速さで米国チャートの上位にランクインし、近いうちにチャート1位に上り詰めるだろうと言われているマリア・カデンツァヴナ・イヴ。

 この2人が一夜限りのユニットを組むスペシャルライブが2ヶ月後に開催されると告知があったのだ。

 

『そうか。それならその日』

 

『おお~雅人君だ! 久しぶり~!』

 

『ほんとだ! 今どこにいるの!?』

 

 弦十郎が何か言おうとした瞬間、割り込むように響が入り、それに続いて未来も来る。

 

『てめ、クウガ! てめぇが勝手にいなくなるからこっちは大変だったんだぞ!』

 

『せめて行くときに何か一言言ってほしかったものだ。急に居なくなってはさすがの私も心配する』

 

 それに続いてクリス、そして今話題に出していた翼も入る。

 4人が好きかっていうので通信越しの雅人にはなんて言っているのか全く分からなくなっている。

 

『お前らぁ!! 静かにしろぉ!!』

 

 弦十郎の一喝が響き、うるさかった通信も静かになる。

 

「……もういいか?」

 

『ああ。さっきの話の続きだ。

 2ヶ月後に開催されるスペシャルライブ、その日の前日に『ソロモンの杖』の移送日が決定してしまってな。できればお前にも護衛を頼みたい』

 

「杖を? 二課で持っておくんじゃないのか?」

 

『ああ。米国と共同で研究することが決まってな。

 護衛には響君とクリス君の二人に頼むつもりだったんだが、お前もいた方が安心だと思ってな』

 

「その2人だけで十分じゃないか? ……まぁ了解した。間に合うように戻るよ」

 

『うむ。助かる』

 

 そう言って弦十郎との会話が終わり、雅人は通信を切ろうとする。

 

『ちょ~~っとまった~~!!』

 

 そこを響が止めに入る

 

『なんで切ろうとするの!? 久しぶりだしもっとお話ししようよ!』

 

「お話って……何話すんだ?」

 

『え~~っと……お話?』

 

 通信越しにその場にいた全員がずっこける音が聞こえた。

 

「……切っていいか?」

 

『あ~~待って待って! ごめんなさい! 急だったから何も思いつかなかったんだよぉ~~!』

 

 響のなさけない声が通信越しに雅人に届く。

 響にとって、今回雅人と連絡が取れたのは本当に急なことだったで何も話題を用意していなかった。

 そんな響に翼が助け船を出す。

 

『お互いの近況報告でもしてみればどうだ? 一月も離れていたのだ、積もる話もある』

 

「……どうでもいいけど風鳴さん口調変わった?」

 

『そんなことはない』

 

 それから雅人と響たちはお互いのことを話していく。

 

『南米国をまわって今は米国? 地球一周でもする気なの?』

 

「行先を決めずに進んでいたらいつの間にかな。ノイズが現れない限りは平和だよ。

 そっちは何か変わったことがったか?」

 

『クリスちゃんがリディアンに通うことになりました~!!』

 

『あ! バカおま!!』

 

「あの雪音さんがか? ……」

 

『おい! その沈黙は何だ!! 今度会った時覚えとけよ!!』

 

「他は何かあったのか?」

 

『聞けよ!!』

 

『あとは、リディアンが新校舎に移ったのと翼さんが海外進出を考えてるってくらいかな』

 

『お、おい小日向……』

 

「風鳴さんが?」

 

『考えているだけだ。すべてはノイズを倒した後だ』

 

『雅人君はどこを回ったの?』

 

「この前大渓谷を見てきたよ。まあ2回目なんだけどな」

 

『えぇ~いいなぁ~!』

 

『ナイアの滝は!? 行ったのなら感想聞かせて!』

 

「やけに食いつくな未来。行ったけどすごかったぞ」

 

『……私も今度ついていこうかな』

 

『未来が行くなら私もー!』

 

『あたしはパスだ。このバカとあいつも一緒だなんて御免だね』

 

『え~行こうよクリスちゃ~ん!!』

 

『だぁ~~もう! 抱き付いてくんな!!』

 

『お前ら何時まで話してるんだ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二課との通信を終え、雅人は再び冒険を続ける。

 そんな雅人が、一人の科学者と出会う。

 

「五代 雅人さん……いえ、戦士「クウガ」……ですね?」

 

「……あんたは?」

 

 銀髪にメガネ、そして白衣を着たいかにも科学者といった風な男がメガネの位置を直しながら雅人に話しかけてきた。

 

「失礼。僕はジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス。ある人物とともに聖遺物の研究をしている者です。気軽にウェルとでも呼んでください」

 

 この出会いが、後に目覚めさせてはならない究極を目覚めさせることとなる。

 

 そのことを、まだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9月下旬。

 ビートチェイサーを押しながら空港から出てくる雅人の姿が、そこにあった。

 弦十郎に言われたとおり、『ソロモンの杖』の移送の護衛をするための一時帰国である。

 その雅人の隣には、彼が旅の途中で出会った科学者……ウェルの姿があった。

 

「日本はいいところですね。米国のような美意識もなく雑多に詰め込んだかのような都市とは違って趣がある。ここなら僕の研究も捗りそうです」

 

「……あんまり褒めるとワザとらしく聞こえるぞ」

 

「おやおや、嫌われていますねぇ」

 

「どうも、あんたは信用しちゃいけないと感じてしまうんだよ……悪いな」

 

「いえいえ、偶にあることです。

 よく知り合いからも「胡散臭い」だのなんだのと言われていますからね」

 

 自嘲気味に笑うウェル。

 雅人としても、ここまで1ヶ月間ウェルと行動を共にしてきたが、何故ウェルのことを信用できないのか判断できずにいた。

 人柄もよく、爽やかな笑顔は多くの人を惹きつけるものだろう。

 少し度が過ぎた言動をとることもあるが、それは科学者ということもあって仕方ないところもある。

 気の利くところもあるし、その職業のことも相まって博識でもある。

 人として好感がもてるところも多々あり、事実、雅人もウェルという人物のことが気に入っている。

 

 だが、それでも雅人の奥の奥、本能とでもいうべき部分がウェルへの警戒を解くなと訴えてきていた。

 

 雅人の直感はよく当たる。

 虫の知らせとでもいうべきか、悪い予感というものは雅人自身のことに限っては旅暮らしで鍛えられたことも相まって外れることがあまりない。

 そのせいで、雅人は「ウェルに好意的な態度をとっているが信用や信頼は欠片もしていない」というよくわからない対応をとっていた。

 

「では、僕は現地の研究所の方に行かなければならないのでこの辺で。

 貴方との旅はなかなか楽しかったですよ。また機会があれば……」

 

「ああ。またな」

 

 お互いに別れを告げて逆の方向へ進む。

 

「……2ヶ月……いや、3ヶ月ぶりか。みんな元気にしてるかな?」

 

「元気ですよ。元気すぎて僕も司令も振り回されてます」

 

「……いきなり後ろから来るのはやめてください緒川さん」

 

 声が聞こえた方に雅人が振り向くと、そこにはいつもの黒いスーツを着込んだ慎次がいた。

 

「見違えましたね。見るだけでわかります。

 随分強くなったんですね」

 

「……以前のように、俺だけ何も出来ないのは嫌だったんで。

 響たちに負けないように、いつか彼女たちを追い越していけるように頑張りましたよ」

 

「響さんたちは、自分たちよりも雅人君の方が強いと思っているみたいですけどね。必死に貴方に追いつくために鍛えていましたよ」

 

「……どうして俺の方が強いと思ったんだ? 買被りもいいところだ」

 

「……櫻井女史が最後に爆弾を残していきまして……」

 

「……あの人は……」

 

 軽い近況報告も交えながら歩く雅人と慎次。

 粗方情報の交換も終わったところで、本題に入る。

 

「杖の移送……いつになりました?」

 

「以前伝えた時と変わっていませんよ。メンバーも変わらず貴方を含めた4人です。

 響さんの成長ぶりを見ればあなたも驚くでしょうね」

 

「響の成長スピードは異常でしたからね。3ヶ月もあれば強くなるのも当たり前でしょう。……でもなぁ」

 

「やっぱり、割り切れませんよね。僕も響さんの成長スピードには軽い嫉妬にも似た感情を覚えましたしね」

 

「俺が5年かけて師匠に叩き込まれた技術を、あいつはほぼ1ヶ月で越えていきましたしね。嫉妬するなって方が無理ですよ」

 

 『ソロモンの杖』の話題だったのが、いつの間にか響の話題に変わっていた。

 というのも、雅人や慎次が言った通り響の成長スピードは異例を通り越して異常の域である。

 7歳のころからクウガとしての修業を始めた雅人の努力をあざ笑うかのように、わずか1ヶ月の戦闘経験と1週間ほどの訓練で雅人に並び、そしてその後の数回の戦闘でついに雅人を超えてしまったのだ。

 もちろんそれはシンフォギアを纏った状態での話であり、生身での戦闘なら雅人の方に分があるだろう。

 

 それがわかっていたとしても、雅人は響に嫉妬を抱くことを抑えられない。

 

(なんだかなぁ……友達に嫉妬するってのも、器が小さいっていうか……。師匠だったらこんな風に思わないんだろうなぁ)

 

 一人旅を始めてから、雅人は雄介を思い浮かべることが多くなっていた。

 雄介だったこうする、雄介ならこうした。そう思考することが増え、自身と雄介を比べることが日増しに多くなっていた。

 

(……こんなことじゃ、いつまでたっても師匠の代わりになんか……)

 

「? どうしました? 雅人君」

 

「え? ああ、何でもないです」

 

 いつの間にか思考に耽っていた雅人は、慎次の声で我に返る。

 

「では行きましょう。響さんたちも首を長くして待っていますよ」

 

「……そうですね。行きますか」

 

 そう言って慎次がどこから取り出したのかフルフェイスのヘルメットをかぶり雅人の方を向く。

 それに苦笑しながら雅人もヘルメットをかぶり、ビートチェイサーに乗り、その後ろに慎次が乗る。

 

 2人を乗せたビートチェイサーは軽快な音を鳴らしながら青空の下を走り出した。

 

 

 

 

 

 





 冒険中のお話でした。
 と言ってもたった一話で終わる修行編、あんまり長くしてもネタがないのです。

 杉田……もとい、ウェル博士はネコをかぶるのが得意。爽やかイケメンスマイルだけど裏にある狂気を感じさせない演技。作者も最初は騙されました。

 そしてここでは雅人君と普通にお話ししている未来さんですが……。

 この3ヶ月間、雅人君は必死に修行しました。新しい力もちゃんと手に入れましたが……それでもXDモードの響たちと比べてしまって修行すればするほど響たちへの嫉妬が大きくなっていく状況です。因みに了子さんが残していった爆弾のせいで響たちは雅人君の方が強いと思ってます。爆弾の内容はそのうち本編で。

 ……ビートチェイサーの初の二人乗りが緒川さんってどうなの? 響か未来を後ろにのっけてラブコメさせたかったのに……。




 次回予告!


 狂気を伴って戦士は帰還した。

 欠けた月が睥睨する中、走る鉄の箱は雑音によって妨害される。

 新たな力を発揮する戦士は、より強くなった戦姫を前に決意を固める。

 次回、第十七話 『雨中』

 降り注ぐ雨は更なる雑音を呼び、戦いをより困難なモノへと変えていく。

 曇天に覆われた空の下、黄金の輝きが稲妻となって雑音をかき消す。



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第十七話 「雨中」

 G編になってから書くのが楽しくってしょうがない。




 

 スパン!

 と、気持ちのいい音が廊下を響き渡る。

 特異災害対策機動部二課仮設本部廊下。

 

 そこで雅人は再会した瞬間に未来に思いっきりビンタされていた。

 

「なんでビンタしたか……わかる? 雅人君」

 

「……悪い、わからん」

 

 一緒に再会を喜ぼうとしていた響とその響に引っ張られてきたクリス、そしてその二人の後ろからついて来ていた翼も目を丸くしながら状況を眺める。

 雅人と共に帰ってきた慎次も驚いており、いつもの微笑みが若干引き攣っている。

 

「……雅人君、響が生きてたの知ってたでしょ?」

 

「あ、ああ」

 

「うん。私がどれだけ……どれだけ心配したかわかってる? 雅人君だってそうだよ。急に冒険に行くとか言って、そっちからは全く連絡よこさないんだから……心配する方の身にもなってよ……」

 

「……ごめん、悪かった」

 

 それは、まぎれもない未来の本音だった。

 彼女は装者ではない。

 それ故にいつも響たちが戦いに出る時は見送るしかできない。

 そのことを彼女はいつも悔やんでいるが、それを表に出したことはなかった。

 だが、この3ヶ月間雅人は源十郎が連絡した以外自分からは全く連絡を入れなかった。

 遠くへ行ってしまった雅人のことを未来はいつも心配していた。故の今回のビンタ。

 心配をかけ続けた雅人へのお仕置きである。

 

「携帯、確か持ってないんだよね?」

 

「あ、ああ。おっさんとの連絡ならビートチェイサーに着いた通信機能で事足りるしな」

 

「なら決まりね。響」

 

「い、いえすさー!!」

 

 未来の迫力に思わず敬礼をしながら答える響。

 

「今度雅人君の携帯を見に行くわよ」

 

「いえすさー!!」

 

「あと、sirは男性につけるもので女性はma’amよ。今日帰ったら勉強ね」

 

「い、いえすまむぅッ!!」

 

 完全なとばっちりを受けた響は涙を流しながら返事をした。

 そこで慎次が声を上げる。

 

「ではみなさん! 再会を喜ぶのもいいですが司令がお待ちです。司令室まで行きましょう」

 

 その慎次の言葉に続いて呆れたように嘆息したクリスが続き、微笑を浮かべながら翼も続く。

 

「あ、待って雅人君!」

 

 雅人も続こうと歩き出した瞬間、今まで隅でさめざめと泣いていた響に呼び止められる。

 

「どうした?」

 

「未来、行くよ!」

 

「う、うん! せーの!」

 

「「おかえり!」」

 

 響と未来のいきなりの言葉に面を食らう雅人。

 2人はニコニコと雅人の方を見ながら返事を待っている。

 雅人はどう応えようか迷い、

 

「……おう」

 

 とだけ答えて逃げるように慎次たちの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう雅人! おかえり!」

 

 司令室に入った雅人を迎えたのは、またしてもその言葉だった。

 

「ああ、久しぶり、おっさん」

 

 それだけ答え、雅人は壁にもたれて腕を組み、目を瞑る。

 その態度に怪訝な顔をする弦十郎だが、すぐに気を取り直す。

 響たちが遅れて入ってくるのを確認し、弦十郎は改めて今回の任務に就いて話し出す。

 

「今回の任務は、『ソロモンの杖』の移送だ。誰の目にもつかないように夜中に開始する。時刻は深夜2時、メンバーは響君、クリス君、雅人、友里の4人だ。現地で『ソロモンの杖』は米国連邦聖遺物研究機関より出向された「ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス」博士に渡す手はずになっている。これからは彼とともに聖遺物の研究を進めていくことになるだろう」

 

 弦十郎が説明を行うと、朔也とあおいがディスプレイにそれぞれわかりやすいように写真を表示する。

 その中には『ソロモンの杖』やウェルの顔写真もあった。

 

「何か質問はあるか?」

 

「はい! 師匠!」

 

 響が元気良く手を上げながら質問をする。

 

「お? 何だ響君?」

 

「翼さんのライブには間に合いますか!?」

 

「そのことか……今回の任務は予定通りに行けば朝の7時には終わるだろう。それからすぐに移動すれば十分に間に合う予定だ。いつもよりハードだが、頑張ってくれ!」

 

「押忍!」

 

「他にはないか? なければ解散だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 弦十郎からの説明を終え、雅人はあてがわれた部屋のベッドで横になる。

 

(お帰り……か。言われたのはずいぶん久しぶりだな)

 

 考えているのは先程響たちから言われた言葉。

 雅人はその言葉に返す言葉を言わなかった。

 

 そもそも、この言葉を聞いたのは雅人にとって2年ぶりになる。

 ふらわーで住み込みで働いているときは、帰宅するのがだいたい深夜の店長が寝静まった後であるため言われなかったし、言われたときも生返事で返していた。

 

(……師匠や家族以外に……言われる時が来るなんてな。あの3人には悪いことしたな……だけど、本当に俺はこの言葉を言っていいのか? ここを、俺の帰る場所にしていいのか? ……俺に、帰る場所があっていいんですか? 師匠)

 

 その日、雅人は返ってくるはずのない問いを虚空へと投げながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして迎えた移送任務当日。

 各々があいさつを交わしている中、雅人に近付く男が一人。

 

「お久しぶりです、五代さん」

 

「……あんたか、ウェル。そう言えばあんたにソロモンを預けるんだったな」

 

「はい。僕たちの方で大事にさせてもらいますよ」

 

「え? 雅人君、知り合いなの?」

 

「冒険の最中に知り合ったんだ。まぁ……いいやつだよ」

 

「随分間がありますねぇ……では改めまして、ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスです。気軽にウェルとでも呼んでください。立花 響さん」

 

「あ、はい! よろしくお願いします!」

 

 ウェルの自己紹介に慌てて頭を下げる響。その後ろでウェルを睨みつけるクリス。

 

「おい、クウガ」

 

「ん? どうした雪音さん」

 

 するとクリスは雅人を引っ張り響とウェルから離れる。

 

「あいつ、信用していいんだな?」

 

「……するしかないだろ。物が物なんだ。おっさんの人選を信じるしかないさ」

 

「……」

 

 2人が話している間にも紹介は終わり、雅人たちと『ソロモンの杖』を乗せた列車は進み始める。

 列車の進行方向には、どんよりとした雲が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 列車が進み始めて早2時間。

 空は雲に覆われており、激しい雨が窓を叩いている。

 今は交代で仮眠をとっている最中で、響が気持ちよさそうに丸くなっている。

 

「こいつは本当に……緊張感ってもんがねぇよな……」

 

 溜息を吐きながら愚痴を漏らすクリス。

 あおいがそれに苦笑しながらずれた毛布をかけなおす。

 雅人も、その光景を眺めながら写真でもとってやろうかと響と未来に選んでもらった携帯を取り出そうとした直後、首筋に慣れしたんだピリピリとした感覚が走る。

 

「……ノイズだ!」

 

 雅人が部屋を飛び出すのと同時に爆発音と警報が鳴り響く。

 

「うわひゃぁぁああ!? なになになになに!?!?」

 

「ノイズが襲撃してきたんだよ! 寝ぼけてないでさっさと起きろこのバカ!!」

 

 漫才を繰り広げる2人を尻目に、雅人はノイズがいる列車後部へと駆け出す。

 

「雅人君!? 待ちなさい! 1人じゃ危険よ!」

 

「様子を見てくるだけです! みんなは『ソロモンの杖』を!」

 

 それだけ言い残して、雅人は走る。

 たどり着いた列車の最後尾は炎に包まれていた。

 

「間に合わなかったか……!」

 

 気配を感じて横っ飛びをすると、飛行型のノイズが先ほどまで雅人がいた場所に一斉に突き刺さる。

 

「! 変身!!」

 

 咄嗟にクウガに変身し、降り注ぐノイズたちを拳で撃ち落とす。

 

(室内じゃ不利だ!)

 

 そう考えた雅人は跳躍。ノイズがあけた穴から屋上に出る。

 そして雅人が見たのは空を覆い尽くすノイズの群れ。

 そのすべてが飛行型で構成されており、空を飛べず遠距離攻撃の手段に乏しい雅人ではどうすることもできかった。

 

『……勘弁してくれよ!』

 

 一斉に降り注ぐノイズ。

 可能な限り撃ち落としていくが、そのすべてを2本しかない腕で撃ち落とすこともできず、何体かは雅人を素通りして列車に突き刺さる。

 

『クソッ!』

 

 雅人が悪態をついたその時、先ほどノイズが突っ込んだ車両の中から歌声が響く。

 それと同時に車両の天井を突き破って現れる2色の光。

 

「鳥雀どもがうじゃうじゃと!」

 

「どんな相手だって、今日まで練習してきたあのコンビネーションがあれば!」

 

「あれはまだ未完成だろ? 実戦でいきなりブッコモウなんて考えんじゃねぇぞ」

 

「うん! 取っておきたいとっておきだもんね!!」

 

「……ふんッ! わかってんなら言わせんな!」

 

 雅人は久しぶりに見るシンフォギアを纏った2人に対して少し驚く。

 

 纏っている空気が違うのだ。

 以前の響からは感じられなかった威圧感、弦十郎などが纏う強者の雰囲気を、雅人は響とクリスから感じていた。

 それにギアの意匠も変わっている。

 以前の黒かった部分が少なくなり、白や橙などの明るい色が目立つようになったスーツ。

 一回り大きくなったガントレットと風にはためく2尾のマフラー。

 

 この3ヶ月間で逞しく成長した響の姿がそこにあった。

 

「背中は預けたからな」

 

「任せて!!」

 

 それだけ言うと、クリスはノイズの大群に向かってその手に持った弓の引き金を引く。

 嵐のような弾幕にノイズが巻き込まれていくが、それをかいくぐったノイズがクリスを仕留めようと接近する。

 

「スリー、ツー、ワンゼロ!!」

 

 それと同時に、響が飛び出す。

 空中でノイズを殴り、その反動でもう一度跳び上がってはブースターで姿勢を正しつつ次々とノイズを仕留めていく。

 

(……俺要らなかったんじゃないか?)

 

 その光景を前にして、雅人は空いた口がふさがらなかった。

 当然、クウガである雅人にあんな芸当はできない。

 精々『青のクウガ』で高く跳び上がるくらいである。

 

『……黙って見てるなんてできないけどな! 超変身!』

 

 気合を入れ直すためにあえて大声を出し、『青のクウガ』へと変身する。

 懐からビートチェイサーのハンドルであり起動キーでもある『トライアクセラー』を取り出し、『青のクウガ』専用武器である棒へと変形させる。

 そのまま跳躍。

 上空にいたノイズを足場にして空中を駆け上がる。

 

『飛べないなら飛べないなりのやり方がある!!』

 

 足場になりそうなノイズだけを残し、他のノイズはすれ違いざまに棒を一閃。

 空母型ノイズの上に降り立ち、その中心へと棒を突き立てる。

 

『堕ちろ!!』

 

 突き刺さった棒を中心に刻印が浮かび上がる。

 すぐさま跳躍して離脱。

 爆炎を上げながら空母型ノイズは墜落して行った。

 

「下がれクウガ! でかいの喰らわせてやる!!」

 

 クリスからの指示に従い、ノイズを足場に死ながら列車まで戻る。

 着地すると同時にクリスの弓から放たれた2本の極太の矢がノイズを貫きながら舞い上がる。

 矢は空中で分裂していく。

 1本から4本へ、4本から8本へ、8本から16本へ。

 倍々に増えていき、空が矢で覆われる。

 

 一斉に降り注ぐ万を超える必殺の矢。

 一つ一つは細かくとも、それが万を超えるとなれば話は別、避ける隙間さえない矢の雨の中、巻き込まれたノイズは例外なく炭へと還っていった。

 

 それでもすぐさま到達するノイズの援軍。

 

『キリがないな』

 

「あいつだ。あいつが取り巻きを率いてやがる」

 

 クリスが指差した先には、光の尾を引きながら高速で接近してくる巨大なノイズが1体。全長がこの列車の一車両ほどもある大型のノイズだった。

 そのノイズに向けて、クリスは腰に収納されていたミサイルを一斉射撃。

 直撃すると思った瞬間、ノイズは下半身とも呼べる部分を切り離した。

 すると切り離された下半身が動き出し、上半身と共にミサイルの弾幕をかいくぐる。

 

『合体ノイズ……ロボットっぽいな』

 

「だったらァァアアアッ!!」

 

 クリスは持っていた弓をガトリングに変え、撃ちだす。

 狙いは上半身のノイズ。

 流石によけきれないと思った直後ノイズが変形し始め、先端が鋼鉄に覆われた姿になる。

 その先端で、弾丸を弾き返しながらクリスに迫る。

 

「クリスちゃん!!」

 

 響がガントレットを引き延ばしながらクリスの前に出て、跳躍。

 ノイズを殴りつけるが鋼鉄に尖った部分の側面で打撃を逸らされる。

 その隙に、下半身のノイズが迫る。

 上半身よりもはやい速度でクリスを貫かんと迫る。

 

『させる……かッ!!』

 

 クリスに当たりそうになった直前で、跳び蹴りを放つ。

 右足が見事に側面に命中し、機動がずれた為クリスのすぐ傍を通り過ぎるだけになる。

 

「わ、わりぃ。助かった」

 

『怪我がないならよかった。友里さん!! 聞こえますか!?』

 

『聞こえてるわよ雅人君!』

 

 クリスを通じてあおいと会話する。

 

『銃をください! 『緑』で仕留めます!』

 

『少し待って! ……受け取りなさい!』

 

 その声と同時に、響たちが出てきた穴から拳銃が飛び出てくる。

 それをキャッチした雅人は、心を落ち着かせる。

 

『……超変身』

 

 『緑のクウガ』に変身し、高速で動き続ける下半身のノイズに狙いを定める。

 

『……行くぞ』

 

 その声とともに、『アークル』から雅人の体全体にかけてスパークが飛び出す。

 バチバチと音を立てて雅人の鎧と持っていた拳銃が変化する。

 鎧はところどころ黄金のラインが走り、持っていた弓も刃のように鋭くとがる。

 緑色だった『アークル』は黄金の輝きを発している。

 

 トリガーを引き絞ると、バチバチと音を立てながら力が弓の先端へと集中していく。

 

『そこだッ!!』

 

 引き金を引くと稲妻を発しながら3発の銃弾が飛び出す。

 

 1発目は外れ、2発目と3発目はノイズの体の真芯を捉える。

 刻印を浮かび上がらしてノイズは何度も爆発を起こしながら雨の中消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ッ!!』

 

 膝をつく雅人。

 先ほどまで『緑』だった彼は膝をついた途端『白のクウガ』へと変わる。

 

「雅人君!?」

 

『大丈夫だ! 俺よりそのノイズを何とか……!!?? 危ない!!』

 

 叫ぶと同時に雅人は思いっきり足場にしている車両の天井を踏み抜く。

 『白のクウガ』と言えどその力は常人の数倍はある。鉄でできた床を踏み抜くなど造作もない。

 そのまま雅人があけた穴に巻き込まれるように響とクリスは列車の中に落ちる。

 

 列車がトンネルに突入する直前のタイミングだった。

 

「わりぃ、助かった!」

 

「あ、ありがとう雅人君」

 

 受け身を取って二人が雅人の方を見れば、雅人はクウガの変身を解いていた。

 

「お、おい! 元に戻ってどうすんだよ! まだノイズは山ほどいるんだぞ!?」

 

「いや、悪い。あとは任せた」

 

「ハァ!?」

 

 驚愕するクリスをよそに、雅人は説明を始める。

 

「『金』の力はまだ使いこなせてないからな……使った後は強制的に変身が解けるんだよ。あと2時間は待ってもらわないと変身できないな」

 

「そんなもんを実戦で使ったのかよ!?」

 

「だから悪かったって。俺も一緒に打開策考えるから」

 

「当たり前だ!」

 

「そうだッ!」

 

 雅人とクリスが言い争っている最中、響が閃いたと言わんばかりに手を打つ。

 

「? 何か思いついたのか?」

 

「師匠の戦術マニュアルで見たことある! こういう時は、列車の車両をぶつければいいんだ!」

 

 響の打開策に、クリスが溜息を吐く。

 

「おっさんのマニュアルってば面白映画だろ? 第一、列車をぶつけてもノイズはすり抜けるだけだ」

 

「ふっふふ~ん! ぶつけるのはそれだけじゃないよぉ?」

 

 その響の応えに、雅人とクリスはそろって首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果的に、響の作戦はうまくいった。

 トンネルを抜ける前に車両を切り離し、ノイズの機動力を削いだうえで遮蔽物の向こう側からの重い一撃。

 逃げ場のない閉鎖空間でおこった爆発は他のノイズも巻き込み、残っていたノイズの全てを殲滅した。

 

 呆然とするクリスの横で、雅人もまたその光景を眺めていた。

 

(響は……どんどん強くなってる。それに比べて……俺は『金』の力の制御すらおぼつかない……もっと強くなるんだ。もっと力を)

 

 

 

 彼は貪欲に力を求める。

 それがどんな結末を生むかも知らずに。

 

 

 

 

 

 





 Gの一話に当たる今話、未来さんのヒロイン力が留まるところを知りません。
 当初ビッキーヒロインにするつもりだったのに気付けば未来さんの株が作者の中ですごいことに……そのせいか井口病を発症しかけている作者です。宇宙からの電波が来ないの……。

 電撃FCをやったりして「雪花狼つえー! 古城先輩使えねー!」と叫んでいる作者です。古城先輩は良アシスト(震え声)。

 ただいまを言わない雅人君。今だに帰る場所を決めきれていない彼です。第二部では彼はどんどんネガティブ思考になっていきます。

 再び登場ウェル博士。だけどセリフはこれだけ。次回は名前だけで登場すらしない。基本雅人君よりの視点なので仕方ないです。

 そしてGに入って「お前ホントに人間か!?」と言いたくなるくらい戦闘力が上がった響。あれ絶対空中で二段ジャンプしてるよね。二段ジャンプって格ゲーの世界かるろ剣の雪白さんちの縁君くらいしかできないと思ってたよ……。雅人君はちゃんと足場使ってます。踏んだ瞬間に崩れていくからタイミングシビアですけどね。

 そしてついに発現したライジングペガサスアニキ! やっぱりペガサスアニキは有能でした。今回あの高速飛行ノイズさんを少し強化したのは雅人君の見せ場を作るためです。一発外したのはご愛嬌。
 そして不完全です。そうです、そう易々とライジングは使わせません。どのライジングであれ、「使った後は2時間変身できない」デス。「使用時間10秒」です! つまり五代さんのように暫くライジングのまま戦うと言うことはできません。一撃必殺ようです。外せば負けます。
 この制限が解除されるとき、それは作者が考えたオリジナルフォームが解禁されるときです……先は長いかなぁ。




 次回予告。



 奪われてしまった杖。滅亡へと時を紡ぐ世界。

 壇上の共演は競演となり、饗宴はやがて狂宴へと移ろう。

 善を目指した少女は、黒き少女にそれを偽と吐き捨てられる。

 次回、第十八話 『極光』

 Gの咆哮――猛る虹色の輝槍は、覆う闇を突き穿つ。

 あの日、手を繋ぐ少女が起こした奇跡の再現は、夜明けの光となりうるか。



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第十八話 「極光」

 やばい、ストックが尽きた。



 ライブが始まる。

 会場は言わずもがな超満員。空いている席はなく、そもそも誰も座っていない。

 これから始まる一夜限りの奇跡に皆興奮し、立ち上がってその手のサイリウムを振り上げる。

 そこに老若男女問わず、国籍すら問わず、誰もかれもがステージに釘付けになる。

 会場で見れたものはこの日の為だけに運を使い果たしたと言い、見れなかった者は自室で、または町に設置されている大型モニターで会場の者たちを羨みながら見る。

 興奮が熱気を作り、今か今かとはやる気持ちが足踏みとなって現れ、幾千幾万の者たちの足踏みが地鳴りのごとく響く。

 彼らが、あるいは彼女らが待つのはただ二人、もう二度と実現することがないスペシャルユニット。

 

 会場の照明が消えると同時に、人々は静まり返る。

 

 ステージが照らされ、照明が次々と点灯していき、現れるのは二人の歌女。

 

 会場のボルテージは最高潮に達した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あぁ……翼さんの……ステージ……」

 

「ここからでも見れるんだからいいじゃねぇか」

 

「そぉんなことないよクリスちゃんッ!! ライブっていうのは生で見るからすごいんであってこんなモニター越しからじゃあの迫力は全然伝わらないよっていうかクリスちゃんはライブ行ったことないよねだからそんなこと言えるんだよ今度翼さんのライブがあるときは絶対にぜっっったいにぜっっっっったいに生で見せるからその時クリスちゃんは初めてライブを見た私の時と同じように興奮するからそれから翼さんのファンに」

 

「だー!! もうッ!! うるせぇしちけぇし暑苦しぃんだよッ!! 離れろぉぉぉおおおお!!!!」

 

 ただでさえ狭い室内が、響とクリスが暴れることによりさらに狭くなる。

 

 あの移送任務からおよそ12時間、雅人たちは今ヘリの中にいた。

 『ソロモンの杖』の移送が無事終了し、研究所を後にしようとした直後ノイズが研究所を襲撃。

 雅人がいまだに変身ができない状態だったため響とクリスが二人でノイズに対処した結果、死者行方不明者合わせ40人を超える惨事になった。

 行方不明者の中にはウェルの名前もあり、現場には『ソロモンの杖』が入っていたはずのトランクケースが空っぽの状態で放置されていた。

 本来ならば雅人たちもライブ会場で翼のライブを生で見ているのだが、ノイズ襲撃の事後処理などで時間がかかったため先ほどまで動くに動けなかったのだ。

 

 その結果が、今のこの状況である。

 

(……また、杖が敵に回るのか。今度はだれが、なんの為に? ……なんにせよ、俺がやるべきなのはノイズの殲滅。他の人間が相手だった場合はおっさんたちに任せよう)

 

「……? 雅人君、大丈夫? 酔った?」

 

「ん? ああ、大丈夫だ。というかもう少し静かにできないのか?」

 

「クリスちゃんにライブの良さを伝えると言う大事な使命があるんだ! ちょっと我慢して!」

 

「お、おう」

 

 響の横から「黙ってないで助けろクウガ!!」なんて声が雅人には聞こえたような気がしたが、気にしないようにする。

 因みに席順は雅人、響、クリスの順で、あおいは助手席に座っている。

 

「それよりいいのか響? ライブ始まるぞ?」

 

「おおっとそうだったぁ! ちょっと詰めて、雅人君!」

 

「ああ」

 

 モニターは雅人の前にあり、響の位置からよく見ようとするなら必然的に雅人の方によることになる。

 席を変えればいいのではないかと思うかもしれないが、響が2人に挟まれるのがいいと主張したのと、クリスが「クウガの隣なんてなにされるかわかったもんじゃねぇ」ということとクリスもライブにはあまり興味がないのでこの席になった。

 2人でぴったりと密着してモニターを見る雅人と響を、あおいが温かい目で見てくる。

 

「……? どうしました? 友里さん」

 

「ふふ。いえ、何でもないわ」

 

 それに気づいた雅人が問いかけるが、あおいは微笑みながら受け流す。

 

「雅人君、ちょっと静かにしてて」

 

「はいはい」

 

 2人のこの体勢は、ライブが終わりマリア・カデンツァヴナ・イヴの衝撃の発表があるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翼とマリアのデュエットが終わり、会場の熱気も冷めやらぬ中翼が集まった観客たちに笑顔で感謝を伝える。

 翼の感謝が終わった後、話はマリアに移る。

 

『私の歌を、世界中にくれてやるッ! 振り返らない、全力疾走だッ! ついてこれる奴だけついて来いッ!!』

 

 マリアのその一言に、世界中が沸いた。

 その後マリアは翼と同じように感謝を述べた。

 この舞台を用意してくれた者たちと、友に歌った翼と、集まった観客たちに向けての感謝。

 

 ステージの中央で握手を交わす2人。

 だが、その時確かに結ばれた友情はあっけなく砕け散った。

 

 マリアから紡がれる、翼や響たちにとってはひどく聞きなれた旋律。

 マリアが手に持つマイクを空に投げた瞬間、その体は黒い『ガングニール』のシンフォギアに包まれた。

 

 武装組織『フィーネ』とそのリーダーのマリア・カデンツァヴナ・イヴからの突然の宣戦布告と観客席に現れる多数のノイズ。

 その本能に従うでもなくマリアの指示を受けただ立っているだけのノイズたちを見れば、操られているのは一目瞭然。

 

 それはつまり、『フィーネ』に『ソロモンの杖』を奪われたと言う事でもある。

 

 マリアは24時間以内に要求に応えなければ各国の首都にノイズを放つと脅しをかけ、国土の割譲を要求。

 かと思えば突然人質の観客たちをすべて開放し、残ったのはステージの上に立つマリアと翼だけ。

 そこから始まった翼とマリアの戦い。

 マリアがライブ中に使っていた持ち手の長いマイクを振るい、それを翼がよける。

 シンフォギアの装者は秘匿されなければならない。

 ルナアタックによりシンフォギアの存在は明るみに出てしまったが、もしその装者の存在が世間に公表されてしまえばその人物は一生普通の生活を営むことができなくなる。

 ゆえに、世界中で中継されているこの場で翼がシンフォギアを纏うことはできない。

 

 カメラが無いステージの裏でシンフォギアを纏おうとする翼と、それを阻止してカメラの眼前でシンフォギアを纏わせようとするマリア。

 もう少しでステージの裏に入ると思った直後、翼が履いていたヒールが折れ曲がる。

 マリアからの強烈な蹴りを受けた翼は吹き飛び、その先には多数のノイズ。

 

『!? 勝手なことをッ!!』

 

 マリアとしても予期せぬ事態であったようで、翼はそのままノイズの集団の中に落ちる。

 

 そこで、モニターが真っ黒になり中央には「NO SIGNAL」の文字が出るだけ。

 

「えぇ~~!? なんで消えちゃうんだよぉ~~!! 翼さん!? 翼さぁ~~ん!!!」

 

「これは……世界中で中継が中断された?」

 

「待てよ? ってことはだ……」

 

「ふぇ?」

 

 そう、中継が中断されたと言うことは、シンフォギアを纏うことを躊躇する必要がなくなったと言うことを意味する。

 

 すなわち、

 

「反撃開始だな、風鳴さん」

 

 これより、防人の舞台が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雅人たちが到着した時には、戦況は一変していた。

 背後からの奇襲によりステージのふちで尻餅をつく翼と、その翼を見下ろすマリアとその傍らの二人の少女。

 

(……あの子……)

 

 雅人が見るのは黒髪の少女。

 他の二人と同じくそのギアは黒を基調とした暗い色合いで構成されている。

 

「……変身!!」

 

 響とクリスに続き、飛び降りながらクウガに変身する。

 クリスがガトリングを乱射し、両脇の2人が一瞬で散開し、マントで防御したマリアに向けて響が牽制に拳を放つ。

 拳を躱したマリアがお返しとばかりにマントを翼に伸ばすが、響が翼に抱き付きながらその場を離脱。

 ステージの下に着地しその傍にクリスも合流、雅人は3人のすぐ後ろに着地した。

 

「やめようよこんな戦い! 今日出会った私たちが争う理由なんてないよ!」

 

「そんな綺麗事を……ッ!」

 

「え?」

 

 響が戦いを止めようと発した言葉は、黒髪の少女にたった一言で切り捨てられる。

 

「キレイゴトで戦うやつの言う事なんか、信じられるものかデス!!」

 

 金髪の少女が黒髪の少女の言葉に同調する。

 

「そんな……! 話せばわかり合えるよ! 私たちが戦う必要なんか……「偽善者……」え?」

 

「この世界には、貴方のような偽善者が多すぎる……ッ!」

 

 その言葉と同時に黒髪の少女の頭についていた二尾のアンテナが開き、中から大量の丸鋸が響に向けて飛来する。

 

「何をしている立花ッ!」

 

『止まるな、響!!』

 

 翼と雅人が響の前に出、丸鋸を弾き飛ばしていく。

 翼は双刃となった剣に炎を纏わせながら回転させ、雅人は一発一発を拳で弾いていく。

 その後ろからクリスの援護射撃。ガトリングが火を噴き、それを躱すためにマリアたちは散開する。

 金髪の少女がその手の鎌を振り回しクリスの銃弾を弾きながら接近する。

 

「近すぎんだよッ!」

 

 近づかれるのを嫌ったクリスは後ろに大きく跳躍しながらガトリングを弓に戻し、矢をばら撒く。

 それを金髪の少女は鎌を巧みに操りながら撃ち落としていく。

 

 その傍では翼とマリアがその手の剣とマントを打ち合う。

 双刃を分離させ二刀流になった翼が果敢に攻めるも、マリアが操るマントによってすべて捌かれる。

 

「フッ……」

 

 ニヤリと笑ったマリアがマントを振りかぶり、防いだ翼が衝撃を殺しきれずに大きく仰け反る。

 

 そしてそこから少し離れた場所で、響と雅人が黒髪の少女を相手取っていた。

 黒髪の少女のアンテナが展開され、そこから巨大な丸鋸が姿を現す。

 

『……超変身!』

 

 『紫のクウガ』となった雅人が響の前に出る。

 振りかぶられた丸鋸は『紫』の堅牢な装甲に遮られて響まで届かない。

 だが、それは丸鋸が一つだけならばの話。

 雅人が抑えた丸鋸の他にもう一個ある丸鋸は的確に響を狙う。

 

「わ、私は困ってる人を助けたいだけで! だからッ!」

 

「それこそが偽善ッ! 痛みを知らないあなたに、誰かの為になんて言って欲しくないッ!!」

 

 その言葉とともに、丸鋸を一度手元まで戻した少女は改めて丸鋸を振りかぶる。

 今までのような斬撃ではなく投擲、少女の言葉にショックを受けたかのように響は硬直して動けない。

 

 だから、雅人が受け止めるしかなかった。

 

 ガリガリと音を立てて削れていくクウガの鎧。

 鋸という性質から削ることに特化した刃は、容赦なく雅人の纏うクウガの分厚い鎧を削り取っていく。

 

『グッ……ァァァァアアアアア!!!!』

 

 気合を入れ、鋸を弾き飛ばす雅人。

 鎧は鋸が当たっていた両肩が大きく削り取れ、そこから血が流れてくる。

 

「!! ま、雅人……君!」

 

『……』

 

 響の呼びかけに雅人は答えず、ただじっと少女を見つめる。

 

「……あなたは、何? どうして反撃してこないの?」

 

『この力はノイズを倒す為の物だ。君を傷つけるための物じゃない』

 

「……あなたも、そこの偽善者と同じ」

 

『なんとでも言えばいい。俺は君が何を言おうとこれを曲げるつもりないし、君に指図される筋合いもない。君が俺を偽善者だと言うのならそれでもいい。俺の師匠の教えでね、「綺麗事でもやらないよりはずっといい。だってみんな本当は綺麗事がいいんだから」ってな。

 それより、君の名前を教えてくれないか?』

 

「……なぜ?」

 

『ちょっとした確認だ。言う気が無いならそれでいい』

 

 雅人がそう言った直後、会場の中央から巨大なノイズが出現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁぁぁああ!? 何あのでっかいイボイボォ!?」

 

 突然現れた奇怪な形をしたノイズを見て、響が素っ頓狂な声を上げる。

 響が奇声を上げるのも無理はない。

 その見た目は女性なら……いや、女性でなくとも嫌悪感を感じるものだ。

 例えるなら、無数のイボの集合体。

 響の「イボイボ」という言葉はしっかりと特徴を捉えていたのである。

 

「増殖分裂タイプ……」

 

「こんなの使うなんて、聞いてないデスよ!?」

 

 少女がそう言った直後、マリアが両手を頭上で合わせる。

 ガントレットが腕から外れて空中で合体、変形していき、現れたのは一振りの槍。

 翼にとってそれは二年前まで常に彼女の隣にあった槍。

 天羽 奏のアームドギアとまったく同じ、色だけが違うアームドギアがマリアの手の中に納まった。

 

「アームドギアを、温存していただとッ!?」

 

 やはり思うところがあるのか、驚愕の表情を浮かべながら叫ぶ翼。

 マリアはアームドギアをノイズに向ける。

 するとアームドギアの先端が割れ、そこにエネルギーが収束していく。

 

「おいおいッ! 自分らで出したノイズだろッ!?」

 

『伏せろッ!』

 

 痛む体に鞭うって雅人が叫ぶ。

 それと同時にマリアのアームドギアから放たれたレーザーがノイズに直撃し、爆発する。

 

 それを見届けるでもなく、マリアは2人の少女を伴って跳躍。

 一気に会場から脱出する。

 

「ここで撤退だとッ!?」

 

「せっかく温まってきたところで尻尾を巻くのかよ……!」

 

「!? ノイズがッ!」

 

 響の言葉につられて周りを見れば、先ほど爆発してバラバラになったノイズの破片が急激に膨張し、新たなノイズとなる。

 そのノイズは隣のノイズと合体し、それが連なって元のノイズのもとへ戻るころには爆発する前の二倍の大きさに膨れ上がっていた。

 翼が剣を巨大化させ衝撃波で切り払うが、消し飛んだ傍からまえ以上の大きさに再生していくノイズ。

 雅人も試しに近くにいたノイズの欠片に蹴りを入れるが、いつもの様に炭になった直後元の形に戻る。

 

「こいつの特性は、増殖分裂……」

 

「放っておいたら、際限ないってことか」

 

 自然と響のそばに集まりながら、翼とクリスが言葉を漏らす。

 攻撃した端から増えていくので、迂闊な攻撃は増殖をただ促進させるだけ。

 会場の外にはまだ観客たちが残っており、放っておいたらノイズが会場から溢れ出し、観客たちが危ない。

 

(……『金』を使うか? 確かにこいつは跡形もなく殲滅できるが……だが……)

 

 雅人は迷う。

 『金』の力を使えばこのノイズを再生させる暇もなく倒すことはできる。

 だが、雅人が使おうとしている『金』はリスクが大きすぎる。

 

 まず第一に、未だに他の色の『金』の力を使いこなせていない状態でこの力を使った場合、制御ができずに自爆する恐れがある。

 次に、この力は周りへの被害が大きい。最低でも半径3キロは何もないところで使わないと、もしここで使った場合最悪会場の外にいる観客に被害が及ぶかもしれない。

 

(どうする……!? こんな時師匠ならどうする!? 考えろ! 師匠ならきっと!)

 

「絶唱……絶唱です!」

 

 そんな雅人の思考を遮ったのは響だった。

 響が出した結論は、増殖力を上回る攻撃で一気にノイズを倒すと言う方法だった。

 

『絶唱って……あの自爆特攻か!? そんなの認められるわけないだろう!』

 

「まさか……あのコンビネーションか!? あれは未完成なんだぞッ!?」

 

「やれるのか? 立花?」

 

『風鳴さん!?』

 

 雅人は驚いて翼の方を振り向く。

 一度絶唱によって命を落としかけた翼が、響の案を肯定するとは思っていなかったからだ。

 翼の問いかけに、響は何も言うことなくただ頷く。

 その眼を見たクリスも覚悟を決めたのか、眼つきを変える。

 

 だが、雅人は認められない。

 一度絶唱によって自分が流した血の池に倒れる翼を見たことから、彼にとって絶唱とは絶対に切らせてはいけない切り札なのだ。

 

『俺ならあいつを消し飛ばせる! おっさんたちに頼んで会場の外の観客を非難させれば!』

 

『待ってください、雅人君!』

 

『……緒川さん?』

 

 弦十郎に連絡を取ろうとした瞬間、慎次から雅人の持つ携帯に連絡が入る。

 

『響さんたちを、信じてあげてくれませんか?』

 

『え?』

 

『彼女たちもこの3ヶ月間、何もしてこなかったわけじゃありません。あなたに負けないように、必死に頑張ってきたんです! 確かに絶唱は危険な技です。だけど、信じてあげてくれませんか? あなたの仲間を……友達を』

 

 慎次の言葉を聞いた雅人は、響の方を見る。

 それに気づいた響は、雅人に笑顔を向けながらサムズアップをした。

 

『……わかったよ。俺は大人しく見てる』

 

 そうして、雅人は折れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行きます! S2CA・トライバーストッ!!」

 

 絶唱が始まる。

 響を中心に翼とクリスと手をつなぎ、3人でまったく同じ旋律を歌う。

 響たちに近付こうとしたノイズを、痛みで使えない両手を使わずに蹴り飛ばす雅人。

 分厚い仮面に阻まれて、その表情は誰にもわからない。

 

 歌が終わる。

 

 瞬間、響たちを中心に眩く虹色に輝く。

 

『ッ!?』

 

 咄嗟に響たちから距離を取る雅人。

 指向性を持たない破壊の奔流は、周囲にいたノイズの欠片を、そして本体を飲み込んで会場を包み込む。

 雅人逃げきれないと感じ防御を固めるが、待ち構えていた衝撃は一向に襲ってこない。

 

『……ノイズ……だけを?』

 

 圧倒的なエネルギーがノイズだけを破壊していく。

 内側にいる雅人と翼、クリスは全くの無傷だが、代わりに響が苦しそうな悲鳴を上げる。

 

「レディーッ!」

 

 シンフォギアの装甲が割れ、そこからエネルギーが溢れだす。

 響が両手を合わせる。

 両手のガントレットが合体し、右手に大きな籠手となって現れる。

 響が右手を掲げると、周囲に広がっていた虹色の光が響のもとへ収束していく。

 

「ブチかませぇッ!!」

 

「これが私たちのぉ!!」

 

 右手を構え、ブースターを吹かして一直線にノイズへ向けて跳ぶ。

 そのまま振りかぶった右腕をノイズの本体へとアッパーのように叩き付けた。

 

「絶唱だぁぁぁぁああああああッ!!!!!」

 

 めり込んだ拳を基点に籠手が展開され、ドリルのように回転する。

 そのまま籠手が重い音を鳴らしながらノイズに打ち込まれ、衝撃が走る。

 

 それは、文字通りの竜巻。

 

 解放されたエネルギーが竜巻のように渦巻きながら天高く昇っていき、ノイズを跡形もなく吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 膝をつく響。

 絶唱を使った反動からか、敵がいなくなって気が抜けたのかいつの間にかシンフォギアを解いており、私服のまま項垂れる。

 

 心配して駆け寄るクリスと翼。

 

 そんな中、雅人も響に駆け寄りながら思う。

 

(今の一撃……人間が放てるものなのか?)

 

 雅人の中を、漠然とした不安がよぎる。

 シンフォギアの力は強大で、絶唱はその切り札。強いのは納得できる。

 

 だが、今の一撃はただの人が放てる限界を超えている。

 三重の絶唱のバックファイアを受けても、涙を流してはいるものの目立った外傷はない響。

 

「私のやってることって、偽善なのかな? ……痛いことも苦しいことも、知ってるのに」

 

 ノイズも、マリアたちもいなくなって響たちだけになった会場。

 そこで、響の押し殺した泣き声だけが響く。

 

 クリスも、翼も、雅人も、ただその光景を見守ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ライブの最中の響たちが書きたかった。後悔はしていない。

 やっぱりコメディ書くの楽しいです。響がクリスに向かって情熱をぶつける(意味深)シーンとかノリノリで書けました! 勢いって大事!
 ラブコメる雅人君と響。これが、これがやりたかったぁ! G編のノルマ一個目達成です!

 そしてマリアさんの迅速なタグ回収。またしてもノルマ達成。作者のノルマは108式まであります。にしてもこれから先の展開がうろ覚えになってる。……休日使って全部見直すか。

 雅人君は調ちゃんをロックオンしました。あの人を見つけたわけじゃないですよ? 今あの人は休眠状態でいくら雅人君でも見つけられないです。そして出番ですよタイタンさん! メイン盾としてだがなぁ! 実際ライジングにならないとそこまで強固じゃないと思うんですよね。まぁニーサンの腹パンを防ぐくらいの装甲はある……と思う。

 そしてS2CA、正直映像で見たあの迫力を表現できたかは微妙。迫力のある文章って難しいなぁ。



 次回予告。


 よぎる不安、広がる恐怖。

 打ち捨てられた病院で相対するのは狂気。

 狂気は不和を呼び、不和は争いを呼ぶ。

 次回、第十九話 『疾走』

 戦姫たちに立ちはだかるのは暴食の獣。

 時を超え、再会を果たした戦士に待ち受けるものは何か。



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第十九話 「疾走」

 また遅れた……そして相変わらずできないストック。
 早く杉田博士をぼこりたいよ……。




 武装組織『フィーネ』の出現から一週間がたった。

 

 あの事件の後、各国は警戒を強めたが首都にノイズが現れると言うことも無く、『フィーネ』側も不気味な沈黙を保っていた。

 この一週間はノイズが現れることも無く、装者たちも日常を満喫していた。

 

 否、1人だけ……立花 響だけは、日常を満喫できずにいた。

 

 私立リディアン音楽院。

 3ヶ月前にフィーネの襲撃によって崩壊した校舎の代わりとして用意されたこの場所が、今のリディアンの生徒の学び舎だった。

 以前の近代的な雰囲気はなく、よく言えば古風、悪く言えば少し古臭い中世の屋敷のような場所だ。

 というのも、この学び舎は以前廃校になって長い間放置されていたものを政府が購入、新たなリディアンの校舎として再利用するべく急ピッチで改装工事と清掃が加えられたものだ。

 最初こそ今までと全く違う校舎に多くの生徒が戸惑ったが、3ヶ月も過ごしていれば慣れたもの。もともと一年生は入学してからたった2ヶ月しかたっていない時に今回の騒動があったので、元の校舎への思い入れも少なかった。

 余談だが、以前の校舎よりも少し広くなったことと、構造も全く違うことも相まって迷子が続出。

 我らが立花 響も、涙目で校舎を徘徊する姿がよく見られていた。

 

 授業中、新しくなったリディアンの校舎で響は窓際の自分の席で空を見上げて黄昏ていた。

 思い出しているのは響のことを偽善と言った少女の事。

 

『そんな綺麗事を……ッ!』

 

『それこそが偽善ッ! 痛みを知らないあなたに、誰かの為になんて言って欲しくないッ!!』

 

 少女の言葉が、響の頭の中で反芻される。

 

 人助けが趣味。

 

 それはよく響が言ってきたことでもあるし、これからもそれを変えるつもりはない。

 困っている人がいたら手を差し伸べ、泣いている子がいたら励ます。

 義務でもなく、使命でもない。立花 響にしかできないことがあるから、それがたまたまシンフォギアを使ってノイズを倒すことで、それが多くの人を救うことにつながるから彼女は今まで戦ってきた。

 

(痛いことも……苦しいことも……)

 

 一瞬のフラッシュバック。

 塀に張り付けられた紙には罵詈荘厳が書かれ、窓から石が投げ入れられて破片が飛び散る。

 すすり泣く自分と自分を優しく抱き留めてくれる母と祖母。

 今まで仲の良かったクラスメイトからの突然の罵倒。

 

『なんで先輩が死んで、何の取り柄もないあんたがが生き残ったのよ!!』

 

 今まで心の奥底に封じ込めてきた記憶が、少女の言葉によって揺り起こされる。

 必死に頭を振り、今までの思考を振り払う。

 

 だが、一度抱いてしまった葛藤がそう簡単に消えるはずもなく……。

 後に、この迷いが彼女にとって悲劇を生むことになる。

 

 

 

 そんな響を心配そうに見つめるのは、隣の席に座る響の一番の親友、小日向 未来。

 いつもこの時間、授業中は寝ているかノートに落書きをしているかの響が、何をするでもなくただ窓から空を眺めて黄昏ている。

 それ以前に、先日のライブ会場の襲撃以来ずっとふさぎ込んでいる響を見てきた未来にとって、この状況は歯がゆいものだった。

 響は優しい。ゆえに、未来が気に掛けようものなら無理をしていつもの自分を演じる。未来に心配を掛けさせまいと、彼女は笑うだろう。「大丈夫」と、仲のいい男の子から教わった「サムズアップ」をしながら。

 

 それが、未来には堪らなく悔しかった。

 

 信頼されていないわけではないし、別に仲が悪いわけでもない。

 ただ、響が未来に心配を掛けさせたくないだけで、だけどそんな仕草が未来を心配させる。

 

 未来としては、一人で悩むのではなくもっと相談してほしい、頼ってほしいと思っている。

 

(心配くらいさせてよ……ばか)

 

 今も、じーっと窓の外を見ていたことが先生にばれて叱られている。

 先生の怒声は隣にいる未来まで萎縮させるが、真正面から受け止めている響はもっとつらいだろう。これに関しては自業自得で庇うつもりも心配するつもりもないが。

 

(雅人君なら、知ってるかな?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特異災害対策機動部二課仮設本部。

 そこで雅人は、自分にあてがわれた部屋で体に巻かれた包帯をはずしながら思考する。

 雅人が考えていることも、先日の少女の事。

 

(……面影がある……やっぱりあの子は……)

 

 雅人が包帯をはずし終えると、そこにはもう傷はなかった。

 雅人を切り裂いた鋸は『紫のクウガ』の装甲を貫通し、かなり深くまで雅人を傷つけたはずであった。

 だが、そこにはもう傷痕さえない。

 

(……まずは、名前の確認か。……もしあの子があいつなら……俺は、どうするべきなのか……)

 

 雅人は悩む。

 その悩みを表に出すことなく、誰にも悟られることも無く悩む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数時間後、深夜と言っても差支えない時間帯に雅人たちは廃病院の前にいた。

 

 少し前に慎次が様々な情報を集め、ここに不自然な物資の流れがあることが判明。

 ここが『フィーネ』のアジトの可能性が高いと言うことで装者と雅人の二課フルメンバーで出撃した。

 

 今回、雅人は病院の外で待機を命じられた。

 もし戦う場合、相手が装者だった場合雅人は戦えない。最悪3人の装者からサンドバックにされる可能性がある。

 それを危惧した弦十郎が、病院の外で待機を命じたのだ。

 

 ここでの雅人の役目は、響たちの退路の確保。また、逃げてきた『フィーネ』のメンバーの足止めだった。

 

「気を付けて行けよ。何かあったらすぐに呼んでくれ」

 

「うん。ありがと」

 

「後ろは頼むぞ、五代」

 

「一人になったからってこいつみたいにちびるなよ? クウガ」

 

「ち、ちびってなんかないよ!? 怖がってたわけじゃないってば!!」

 

 こんなところでもいつもの調子を崩さない2人を翼と共に笑いながら見ていた雅人も、3人が病院の中に入った後気を引き締める。

 ビートチェイサーに跨り、いつ呼ばれても動けるように待機する。

 

 病院内から感じるノイズの気配。

 爆音と射撃音。

 

 今にも飛び出しそうになるのを、ぐっと我慢して雅人は待つ。

 

 やがて一際大きな爆発音とともに、病院内からノイズが何かを持ちながら空を飛んでいくのが見える。

 

『雅人! 聞こえるか!?』

 

「おっさんか? 何があった?」

 

『話は後だ! 今逃げたノイズを追え! 翼も先に行っている!』

 

「……了解!」

 

 ビートチェイサーを走らせ、ノイズを追う。

 気球のような形をしているが、それなりの速度が出ているのかビートチェイサーでも徐々に差を詰めることしかできない。

 

 やがて、前方に全力で走る翼を視認する。

 

「風鳴さん!」

 

「! 五代か!」

 

「後ろに乗れ!」

 

 雅人の声に従い、翼が雅人の後ろに飛び乗る。

 そのまま雅人はエンジンを吹かし、一気に速度を上げる。

 

 徐々に差を詰めるが、やがてそれにも限界が来る。

 

「! 道が途切れてる!?」

 

「クッ!」

 

 2人が進む先の道路が途切れており、先には海しかない。

 このまま進めば2人仲良く海に入ることになる。

 

(どうする? 『緑』で狙うか? いや、師匠ならできるだろうけど運転しながら撃つなんて俺には……)

 

 2人が諦めようとしたその時、翼に通信が入る。

 

『飛んでください翼さん! どんな時でもあなたは!』

 

 慎次の通信を聞き、雅人はブレーキを踏むのではなくアクセルを更に踏んだ。

 ウィリーをしながらさらに加速するビートチェイサー。

 道路が途切れるギリギリのところで雅人はビートチェイサーを横付きに止める。

 

 その慣性に押されるように、翼は飛び上がった。

 

 足のブレードをブースターにし、空中をノイズに向かって滑空する。

 だが、あと一歩というところで届かず高度がどんどん下がる。

 

 翼が着水する瞬間、海面が盛り上がる。

 翼のすぐ下で待機していた仮設本部が、その艦首を天高く掲げながら浮上する。

 その艦首を蹴り、さらに跳躍する翼。

 今度こそノイズに追いつき、その手の刀でノイズを切り刻む。

 

 粉々になったノイズは持っていた何か……ケージのようなものを落とし、翼が滑空しながらそれを空中でキャッチ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しようとした瞬間、翼の足を何かが掠めた。

 

「くぁっ!?」

 

 体勢を崩し、海に落下する翼。

 掠めたなにか……黒い槍はそのまま海面で滞空し、その柄の先端に人影が着地する。

 着地した人影……マリアは、そのまま落ちてきたケージを片手で受け止める。

 

「時間通りですよ、フィーネ」

 

「フィーネだとッ?」

 

 いつの間にか追いついていた響たちが、ウェルを拘束しながらも会話を続けている。

 

「……ウェル? あんた……」

 

「やぁ、どうも縁があるようですね五代さん。武装組織『フィーネ』の作戦参謀、ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスです。これからよろしく」

 

 まるでいつもの世間話をするかのように話しかけるウェル。

 雅人が問い詰めようとした瞬間、海中から飛び出した翼が奇襲をかける。

 翼とマリア、火花を散らす両者の戦いを見ながら雅人はビートチェイサーを脇に停めてウェルへ問い詰める。

 

「なんであんたがここにいる?」

 

「私の目的の為です。そのために私は『フィーネ』に入りました」

 

「目的? それは……!? 避けろ!」

 

 雅人が叫んだ瞬間、無数の丸鋸が降り注ぐ。

 飛んできた丸鋸を跳躍で躱す。それと同時に雅人もクウガに変身して戦闘態勢をとる。

 

 一瞬の攻防。

 

 黒髪の少女は丸鋸をアンテナから撃ち出しながら響に迫り、金髪の少女は鎌を振り上げてクリスに迫る。

 響は飛んできた丸鋸をすべて拳で撃ち落とし、クリスは跳躍で鎌を避ける。

 だが、もともと満身創痍だったクリスにはそこが限界だった。

 雅人が援護しようと駆けつける前に鎌の持ち手による一撃を腹部に喰らい、その衝撃で持っていた『ソロモンの杖』を落とす。

 そのまま転がる杖をウェルがすばやく拾い、雅人と対峙する。

 

『……ウェル』

 

「あなたが参加すれば劣勢になるので、足止めさせてもらいますよ」

 

 杖から光があふれ、ノイズが出現する。

 通常のノイズの集団の中に一匹、他のノイズより背の高いノイズが現れる。

 

「あなたのための特別仕様です。あの列車のノイズが高速飛行型だとすると、このノイズは耐久型ですね」

 

 ウェルに耐久型と呼ばれたノイズは、周囲のノイズを呼び寄せると自らの体に付着させ始めた。

 その光景は、まるでノイズを取り込んで巨大な怪物となったかつてのフィーネの様だった。

 

 そして現れたのは先程よりも体が一回り大きく、そして鎧のようなものを着込んだノイズだった。

 

『……硬そうだな』

 

「当然です。あの1ヶ月間で、あなたのデータは取らせていただきました。どの色のクウガをもってしても、そのノイズを貫くことはできません」

 

 耐久型のノイズが、無造作に腕を振るう。

 横っ飛びで躱すが、振るわれた腕は地面にめり込みアスファルトの道路に大きな亀裂を作った。

 耐久型が腕を引き抜く前に雅人は距離を詰め、がら空きの腹部に一発。

 だが、返ってきたのは分厚い鉄板を殴ったような感触だった。

 

『ぐ……』

 

「無駄です! あなたの力は確かに素晴らしい! ですがッ! まるでッ! 全っ然ッ! そのノイズを倒すには程遠いんですよォッ!」

 

『好きかって言いやがって……うぉ!?』

 

 雅人がウェルに気を取られている隙に腕を引き抜いたノイズが再び雅人に襲い掛かる。

 振り下ろされた腕を躱し今度はその背中を蹴りつけるも、先ほどと同じく硬い装甲に阻まれる。

 そのままノイズの背中を蹴って跳躍。ビートチェイサーの近くまで飛ぶ。

 

『硬い相手なら……!』

 

 そのままビートチェイサーからトライアクセラーを引き抜く。

 

「だから無駄だと言っているでしょう? 『紫』になろうと、耐久型の装甲は貫けません。大人しくノイズに潰されなさい!」

 

『……超変身』

 

 雅人の姿が変わる。

 いつもの銀の鎧に端が紫になっている姿ではなかった。バチバチと音を立てながら雅人の纏うクウガの鎧に雷が走り、見るからに堅牢な装甲が現れる。鎧そのものが紫色になり、端が金で装飾された姿になる。その手に持った剣も一回り大きな姿になり、その先端は雷を思わせる意匠となっている。紫色の瞳に、黄金に輝く『アークル』。

 

「な、なんだ!? それは!?」

 

『……行くぞッ!!』

 

 剣を手に、走る。

 『金』の力によって異常に強化された脚力は、一歩踏みしめるごとにアスファルトの道路を抉り、耐久型との距離を縮めていく。

 『紫』はその見た目によって、見るものに鈍重なイメージを与える。だが、力が強いと言うことはそれだけ大地を踏みしめる力が強いと言うことだ。

 そもそも、『紫』の重厚な鎧をたった二本で支えている足に力が無いわけがない。

 さすがに『青』には及ばないまでも、その速力は常人が反応できる速さではない。

 

『ォォォォオオオオオオリャァァァァァ!!!』

 

 再び振り下ろされたノイズの腕を斬り上げ、がら空きになった腹部に渾身の一突き。

 『金』の力によって強化された一突きは一瞬の抵抗の後、あっさりとノイズを貫通した。

 

「なっ……なん……」

 

 剣が突き刺さった箇所から刻印が浮かび上がる。

 雅人は剣をノイズに突き刺したまま、ノイズごと力任せに剣を持ち上げた後、そのまま海に向かってノイズが刺さった剣を振りかぶった。

 腹部に剣がズルリという音を立てて抜けながらノイズは空を飛び、海に着水する前に爆散した。

 

「ば……馬鹿な……そんな力があるなんて、聞いて……」

 

「何をやってるデスか! 行くデスよ!」

 

「……撤退」

 

 ウェルが二人の少女に担がれながらいつの間にか上空に浮かんでいたヘリへと逃げていく。

 『金』になったことで力を使い果たした雅人は、ウェルと金髪の少女と共にヘリへと戻っていく黒髪の少女をじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 満身創痍、疲労困憊。

 深夜から続いた攻防は、ようやく終わりを迎えた。

 

 特異災害対策機動部2課の仮設本部となっている潜水艦も、先ほどの戦闘の余波で船体に小さくない損傷を受けて浮上中。その甲板の上で、三人の少女が背中合わせに座っていた。

 

「無事か!? お前ら!」

 

「師匠……」

 

 新たに甲板に出てきたのは赤いシャツに2メートルに届くか届かないかという大きな体躯をした男、風鳴 弦十郎。

 彼と響たちが話をしている間、一人道路に座り込んだままだった雅人のもとに近寄る人影。

 

「お疲れ様です。どうぞ」

 

「緒川さん……」

 

 緒川 慎二である。

 慎次は雅人にコーヒーを渡しながら雅人の隣に立つ。

 

「……どうでした?」

 

 主語もなく唐突に聞いてきた慎次であるが、雅人にはそれが何を意味するのかすぐに分かった。

 

「現時点では白です。あの人、マリア・カデンツァヴナ・イヴからはさっきもこの前もフィーネの気配を感じ取れませんでした」

 

 雅人が変身するクウガには三つの使命がある。

 一つは雅人自身知らないので割愛するが、残り二つは「ノイズから人々を守ること」と、「フィーネの野望を止めること」である。

 そのために、雅人がクウガになるためのベルト『アークル』にはノイズの感知能力とフィーネを察知する能力がある。

 

 だが、フィーネを名乗るマリアからは全くと言っていいほどフィーネの気配は感じられなかった。

 

「つまり……」

 

「ブラフの可能性がある、と思います。櫻井さんだけでしか察知したことが無いんで何とも言えませんけど……」

 

「……確証がとれるまで、最悪を想定した方がいいですね」

 

 気配がしないからと楽観してしまうと、そこに隙が生まれてしまうかもしれない。

 そのことを危惧した雅人と慎次は、このことは弦十郎だけに話して他の誰にも口外しないことに決めた。

 

 そして雅人は慎次と会話しながらも先ほどのことを思い出す。

 

(あの子……)

 

 日が昇り、しっかりと確認することができた黒髪の少女の素顔。

 少なくない年月が流れ、それでもなお面影を残す少女。

 口調も、性格も違う。だが、あの綺麗な黒髪は見間違いようがない。

 

(まだ……確証はない。だけど……)

 

 歯車は狂っていく。

 狂った先にあるのは悲劇か、それとも……。

 

 

 

 

 

 




 うん。頭の中のストーリーはで出来てるのにそれを文章に起こすのが難しい。最初の勢いからどんどん失速していくのが作者。仕方なくないね。ちゃんとやろうね。

 今回、ライジングはドラゴンかタイタンどっちにするか迷いました。というか、オリ主1人介入させるだけでG編は結構大変です。戦力のバランスを考えるとウェル博士に直接戦ってもらうしかないんですよね。直接って言ってもノイズでだけど。それもオリジナルノイズを使わないと相手にならないと言う。ああ……フロンティア戦まで早くいきたい。でもそこまでの過程も大事にしたい。ままならんね。

 そう言えば、ウェル博士にファンサービスさせてみたけど以外にはまってますね。なんか狂気度とかが合うのかな? これからウェル博士はパロセリフが多くなるかも。因みに博士は『金』のことを知りません。だって見てないし。列車の時は避難してたしライブ会場では使ってませんしね。修行もウェルと会った時はすでに『金』に関しては現時点と同等まで使えるくらいにしてました。

 画面の前の皆さん。タイタンは遅いと思ってませんか? 違います。五代さんの戦い方のせいで遅く見えるだけなんです。通常のタイタンの時点で100m7秒で走れるのにライジングで強化されたタイタンが遅いはずがないんです。まぁ、それでも他の形態よりは遅いんですけどね。



 では恒例の次回予告。


 解り合えなくとも、通じ合えたはずであった。

 戦士は日常を満喫し、祭りにて出会う黒に面影を見る。

 その胸に歌を秘め、戦記は叫び、戦士は絶叫した。

 次回『狂気』

 遠い日に深紅の涙は落ちて、今宵に激しく雨と降る。

 月明かりの下、残酷な世界を語る狂気は二つの闇の片鱗を垣間見る。



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第特話 「総集」

 今回は総集編です。最新話を期待された方は申し訳ない。

 多分なメタ発言を含みます。

 本編とは一切関係ありません。

 お待たせして誠に申し訳ありませんでした!

 後、今回ほぼ台詞のみです。



 風鳴邸。

 立派な桜の木がドッシリと根を張る武家屋敷の一室、桜の花びらが舞う中庭がよく見える部屋で、二人の少女が談笑していた。

 畳に腰を降ろして話をしていた少女達は、やがて何かに気付いたように中庭を見て姿勢を正した。

 

「えー……明けまして、おめでとうございます?」

 

「もう四月だよ?」

 

「いやいや、結局新年の挨拶もできずにこんな時期になっちゃったからね~……。せめて挨拶だけでもと!」

 

「もう……」

 

「では改めまして……どうもどうも! 皆さん、お久し振りです! 立花 響です!」

 

「小日向 未来です。お久し振りです」

 

「いやはや、前回の投稿から……何ヵ月だって?」

 

「もう一年と二ヶ月よ」

 

「ひぇ~そんなに!? いやーお待たせして申し訳ないと言うかーなんというかー……」

 

「待っていてくれた方は本当にごめんなさい! これからまた執筆活動を少しずつ再開するって作者もようやくやる気を出したみたいだから……」

 

「遅すぎるような気もするけどねー……。もうGXも終わって四期と五期が発表されてるのに……」

 

「ホントにずいぶん時間掛かったよね。何してたの?」

 

「えーっと? 就職して新作書いて執筆に飽きてゴッドイーターやってモンハンやってGX見てバトライド2をやってパソコン壊れてライブ行って新しいパソコン買って創生やってたって」

 

「……」

 

「……未来? 私を睨んでもどうしようもないと思うなー……そこは作者を睨まないと……って言うか怖い怖い怖い!」

 

「あ、ごめん響」

 

「うー……作者のせいでひどい目に遭ったよ。やっぱり私って呪われてるかも……」

 

「なんだかそれ久しぶりに聞いたね」

 

「うん。私も久しぶりに言った気がする」

 

「それで? 今回はなにやるの?」

 

「えーっとね、今回は投稿に時間が空いちゃったから今までのおさらいと雅人くん……『クウガ』の紹介をするんだって」

 

「一年も間が空くと色々忘れちゃうもんね」

 

「と言うわけで! 皆と一緒に今までの物語を振り返ってみよー!」

 

「おー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私立リディアン音楽院、その地下深く。

 特異災害対策機動部二課の本部がそこにある。

 最先端の技術の粋を集めて作られたこの施設指令室、そこにまたしても二つに人影があった。

 

「さて、ではここからは私達が進行を……おい雪音、何処に行く?」

 

「あ? 帰るんだよ。なんであたしがこんなめんどくさいことをしなきゃなんねーんだよ」

 

「まぁ待て。あんパンを買ってやるから、な?」

 

「な? じゃねーよ! いらねーよ! だいたい、なんであんパンなんだよ!?」

 

「雪音はあんパンが好きなのではないのか?」

 

「好きじゃねーよ! 食っててポロポロ零れねーから食べてるだけだ!」

 

「てっきり司令に買ってもらったから好きなのかと……」

 

「なんであのおっさんに貰ったからって好きになるんだよ!? って言うかいつまでこんな下らないことで尺とってんだ!」

 

「全く、雪音はせっかちだな」

 

「うるさい! いいからとっとと進めるぞ!」

 

(結局やるんじゃないか)

 

「んで? 何するんだよ?」

 

「総集編らしく、今までの出来事を振り返ってくれとのことだ」

 

「また一話から見ろ。以上、終わり」

 

「こら、そんないい加減な紹介があるか」

 

「別にいいじゃねーか。アクセス数を稼げるし、もう一回ストーリーを振り返れるし、作者も読者もいいことずくめだ」

 

「作者はともかく、読者はそうは行かないだろう。一度読んだものをもう一度読み返すなど、よほど気に入ったものでないとそうはせん」

 

「あー……もうなんでもいいから始めろよ」

 

「……はぁ、全くお前と言う奴は……。

 おほん。では、最初から振り返っていくぞ。最初は五代と立花の初遭遇からだな」

 

「クウガがまだ白かった頃だな。あの頃のあいつは一人で旅しながらノイズと戦ってたんだったか?」

 

「ああ、師匠である五代 雄介を亡くしてから二年間、一人旅を続けながらクウガとして活動していたようだ」

 

「そんなときに特異災害対策機動部二課(トッキブツ)に見つかって、掟とやらを守るためにてめぇらの追跡から逃げながらノイズと戦い続けた」

 

「ああ。だが、立花が二課に入ってから状況が動き出したのだ」

 

「あのバカの何に感化されたのかは知らねーが、あのバカを通して次第にトッキブツと交流を深めていったんだったな」

 

「その後、正体を現した櫻井女史を相手に、私たちと力を合わせて戦ったんだ」

 

「そこに至るまでの色々は言わねーのな」

 

「そこまで説明すると長くなってしまうからな」

 

「んで、戦いが終わった後アイツはアタシらになにも告げずにまた旅に出たんだ。ったく、一言言やいーのに……」

 

「なんだ、寂しかったのか?」

 

「はぁ!? どうしてそうなる!? 頭おかしいんじゃねーの!?」

 

「そこまで言わなくてもいいじゃないか……」

 

「ああもう! 次だ次!」

 

「む、ああ。

 舞台は三ヶ月後、司令からの依頼で五代は日本に帰国した。目的は……『ソロモンの杖』」

 

「アタシとあのバカとクウガ、後バックアップに一人と、そしてウェルの野郎の五人での移送任務。移送事態は成功したが、目的地が襲撃されてソロモンは盗まれた」

 

「そして私とマリアのライブ中、マリアからの突然の宣戦布告」

 

「荒らすだけ荒らして音沙汰無しの奴等のアジトを突き止めたアタシらは、夜襲をかけた」

 

「そして中にいたウェル博士を追い詰めるが、後一歩のところで取り逃がした」

 

「ってところだったな」

 

「ああ。今は文化祭を目前に控えた状態だな」

 

「あー終わった終わった! んじゃ、アタシは帰らせてもらうぜ」

 

「あ、おい雪音! 待て! まだ大事な発表が残っている!」

 

「あん? そう言うのはあのバカの仕事だろ?」

 

「その立花が全員でやろうと言っているのだ。ほら、次のコーナーは司令に任せて立花に合流するぞ」

 

「は? いやアタシは帰る……って放せ! これ以上付き合ってられるか! はーなーせー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京湾。港から三キロ離れた海中に、一隻の潜水艦が潜航していた。

 特異災害対策機動部二課の仮説本部。それがこの潜水艦だ。

 その指令室で、一組の男女がお茶を飲んでいた。

 

「こうして、了子くんと話をしていると言うのも、不思議な感じだな」

 

「そうねー。もうこんな機会は二度と無いと思っていたから、なんだか不思議ねー」

 

「もう少しこうして話をしていたいが、仕事はしっかりとこなさないとな」

 

「さて、読者の皆へ講義の時間よぉ~。メモの準備はいいかしら?」

 

「メモはいらんだろう……。では、始めようか」

 

「題して、『クウガの全てを丸裸にしちゃおう!』のコーナー!

 内容は読んで字のごとく、今作のクウガの設定について解説していくわ」

 

「本当は第一部が終わった後に設定紹介を投稿するつもりだったんだが、なんだかんだで流れてしまったからな。せっかくだからこの機会に紹介しておこうと言うことだ」

 

「では早速行ってみましょうか!

 まず、今作のクウガを語る上で一番欠かせないもの……それは、クウガが代々受け継がれていると言うことよ」

 

「元となった『仮面ライダークウガ』、所謂原作では、クウガは古代の遺跡から発掘された変身アイテムを用いて変身する。その設定上、クウガになった人間は古代のクウガと現代のクウガの二人しかいないことになる」

 

「だけど、今作ではクウガは私、フィーネと同じ年代。つまり、先史文明期からノイズに対抗するために受け継がれてきたものとなっているわ。当然、クウガになった人間も数えきれないくらいいることになるわね」

 

「故に、原作には無かった掟と言う要素があったり、雅人がクウガになる前からクウガの力はほぼすべて解明されていたりするな」

 

「と言っても、雅人くんはその辺を聞く前にお師匠さんが亡くなっちゃったからねー。戦い方は知っていてもモーフィングパワーや封印エネルギーなんかは知らないでいたみたいねー」

 

「そう言えば、原作にない要素として浄化エネルギーと言うものも有るんだったな」

 

「これについては、対ノイズ専用の力ね。作者曰く、ノイズが爆発する理由がほしかったらしいわ」

 

「浄化エネルギーをノイズに流し込み、文字通り浄化する。爆発するのはエネルギーが多すぎてオーバーフローを起こしているんだったか?」

 

「大分無理のある設定だけどねー。因みに、封印エネルギーもノイズ用に改造されていて、倒したノイズをエネルギーとして自らの体に取り込み、肉体を強化しているらしいわよ?」

 

「随分と原作から改編しているんだな」

 

「原作では敵が『グロンギ』と呼ばれる怪人しかいなかったのに対し、今作ではノイズに私までいるからね~」

 

「自分で言うことではないと思うがな。だが、その言い方だと他にもなにかいるように感じるが……」

 

「タグが全てを物語っているわね。因みに最終話までのストーリーはもう作者の脳内で出来上がっているわ」

 

「なら早く書けばいいものを……」

 

「文章に起こすのが難しいのよ~。気長に待ってあげてね?

 では次は、仮面ライダークウガとしてのスペックね。全部のせると多いから『赤のクウガ』、マイティフォームのみ掲載するわ。では、どん!」

 

 

 

 クウガ(雅人)

 

 身長 190sm

 体重 90kg

 

 パンチ力  2t

 キック力  8t

 一跳び   13m

 走力(100m) 6秒

 

 

「原作のクウガよりも随分とよわいな」

 

「ちゃんと理由があるみたいよ? 参考までに今作の雅人くんのお師匠さんの『赤のクウガ』のスペックものせておきましょう」

 

 

 クウガ(雄介)

 

 身長 200sm

 体重 99kg

 

 パンチ力  15t

 キック力  30t

 一跳び   35m

 走力(100m) 4秒

 

 

 

「……強くなっていないか? 原作より」

 

「前述の理由やその他もろもろ色々あるみたいよ? 雅人くんはここまで行けるかしらねー?」

 

「……頑張れよ、雅人」

 

「雅人くんの弱さが理不尽だと感じた子達にヒントをあげるわ。そもそも、クウガになる条件はなんだったかしら? そして雅人くんのスペックが低い理由は実は作中で何度も出ているわ。ま、全部今作独自の設定だけどねー」

 

「クウガの紹介としては、このくらいか。よし、俺たちも響くんのもとへ合流しよう」

 

「では、司会進行は風鳴 弦十郎、解説は櫻井 了子がお送りしました~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び風鳴邸。

 庭が一望できる一室に、六人は集まっていた。

 

「了子さん! お久し振りです!」

 

「久しぶりねー響ちゃん。クリスも元気してた?」

 

「……ああ」

 

「なんだ? 緊張しているのか? 雪音」

 

「バッ! ちげーよ! ああもう! 早く進めろ!」

 

「りょ、了解しました! と言うわけで! 私、立花 響から! 今作に関しての重大発表をしまーす!」

 

 ワーワードンドンパフパフ!

 

「いやーどうもどうも! あ、どうも!」

 

「いいから早くしろ」

 

「はーい。

 おほん。なんと! 今作、戦士咆哮シンフォギアKの! GX編が決定しましたー!」

 

 おー!

 

「元々、今作はG編が終わった後にオリジナルストーリーに突入するんだったか?」

 

「その通りです翼さん! 全三部予定だった今作ですが、GX放送終了と共にストーリーの再構成を行った結果! 作者から『これGX入れた方がストーリーが安定するな』というコメントが入り、その結果既に作者の脳内ではGX編が出来上がっております!」

 

「また脳内か」

 

「結局どうなるの?」

 

「元々三部構成だったのを二部と三部の間にもうひとつストーリーを挟むということか」

 

「その通りです師匠! 作者からも『こっちの方が絶対面白い』とコメントが来てます! あとはー作者のモチベーションがー維持できるかな~?」

 

「結局そこか」

 

「頑張るって言ってましたけど、その辺はどうも作者次第と言いますか……」

 

「出来れば、応援してあげてね? 感想の待ってますってコメントが作者のモチベーションを復活させた要因だから」

 

「ま、一度復活すれば作者のことだ。罵られても書ききるだろ」

 

「結局は自分の趣味で始めたことだからな。モチベーションさえ戻れば、後は誰も見なくとも書ききる」

 

「まぁ、気が向いたら応援してやってくれ」

 

「私の活躍も、まだ残ってるから期待してなさい」

 

「それでは皆さん! 今度は本編で!」

 

 

 

「「「「「「またねー!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え? 主人公なのに出番なし? …………まじ?」

 

 

 




 というわけで皆さんお久しぶりです、作者です。

 いやーまさか前回の投稿から一年も間があくとは思ってなかったですね。ほんと、待っていてくれた方申し訳ない。

 現在最新話を鋭意製作中です。久しぶりの投稿、張り切っていきます。なんですが、次話は今までと雰囲気がガラッと変わって一人称視点です。ビッキー視点でお送りしていこうかなと。理由としては、かつて次話を描いていた際なんだか三人称視点で書きづらくなっちゃったんです。もともと一人称視点ばっかり書いてた弊害ですかね? そろそろ各キャラクターの心情を一度掘り下げていきたいなーとか思ってた今日この頃、これからも何回か一人称視点が入ると思います。

 ではお決まりのセリフを言って終わりにしましょう。

 ついてこれる奴だけついてこい!




 そもそもこんなに読者を待たせてこんなことを言う作者の屑が何を言っているのか……



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