空の冒険 (もみの木)
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ジャヤ編
プロローグ


短めに。


JS事件から1カ月が過ぎた。

事件で活躍した機動六課の元に新たな仕事が来た。

運搬中のロストロギアが強奪される事件が発生した。その犯人グループの逮捕とロストロギア確保が今回の任務だ。

ミッドチルダがJS事件の爪痕も深く、その中で比較的動けてロストロギアの対応の経験もある六課にお鉢が回ってきたのだ。

すぐに動けるメンバーとしてファワード4人、スバル、ティアナ、エリオ、キャロがすぐさま駆り出された。

そして――結論から言うと、郊外に逃げ込んだ犯人グループはすぐに捕まり、ロストロギアも確保できた。

 

「ティア~なんか拍子抜けだったね」

 

頭をかきながら相棒のティアナに話しかけるスバル。

犯人たちはすでにバインドで縛られて身動きが取れない。

ティアナもそれに賛同して気のない声を出す。

 

「まーね。最初聞いた時はもっと重大な事件かと思ったけど」

「まあ、事件が惨事になる前に収められてよかったです」

 

エリオは嬉しそうに笑う。

今回の犯人グループは四人。全員魔導士で、強奪した後非合法組織に売り捌く腹積もりだったらしい。

魔導士だけで構成されたグループなのでそこらの管理局員では手に余るかもしれなかったが、

そこはかつての事件を潜り抜けた六課のメンバー、大した苦戦もなしに片付いた。

エリオとスバルで突撃し、ティアナとキャロでロストロギアの確保、接敵から僅か三分で事件は終わった。

ティアナが手をパンパンと叩く。

 

「さ、さっさと撤収するわよ!私は犯人たちを連れていくからスバル、エリオ、キャロ、あんたたちはロストロギアのほうを頼むわよ」

「わかったー」「「はい!」」

 

ティアナは犯人たちを立たせ、スバルたちは例のロストロギアのほうに駆け寄った。

ロストロギアはNo.1111002と書かれている。ナンバリングしてあるが本来の名前はない。

最も、レリックなどと違い名前が明らかになっていないロストロギアは数多くある。

形としては青い宝玉に白い石がスイカの黒い部分のように包まれている。真ん中で青く怪しい光を放ち続けている。

それをエリオが拾い上げた。

 

「特に傷とかもついていません。無事なようです」

「何もないならよかった。キャロ~こっちこっち」

「待ってください二人とも。すぐに…!?」

 

キャロの言葉が途中で途切れた。

エリオが持っているロストロギアが、突然光を増し始めたのだ。

 

「なっ!?」

「何これ!?」

 

持っているエリオだけではなく、近くにいたスバルまで光に飲み込まれ始めた。

 

「スバルさん!エリオ君!」

「キュー!」

「キャロ!ダメだ!来るな!」

 

エリオの声で駆け寄ろうとしたキャロが辛うじて立ち止まる。そして異変が更に続いてるのに気が付いた。

 

「これは、次元振動!?」

 

キャロの声が恐怖で震えた。

例のロストロギアの影響なのは間違いない。かなりの小規模ではあるが宝玉を中心に引き起こされている。

光を増し続け、エリオとスバルを完全に呑み込んだ宝玉は次の瞬間、光が消えて地面に落ちた。

二人の姿はどこにも見当たらなかった。




ここらは適当に。ミッドチルダ側の視点はこれくらいかも。


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偉大なる海へ

――人が空想できるすべての出来事は
  起こりうる現実である。
  物理学者ウイリー=ガロン


――とある偉大なる航路

 

「空から」

「……」

「ガレオン船…!?」

「……!?」

「何で」

 

麦わら帽子を被った骸骨の海賊旗を上げる帆船、ゴーイングメリー号。それを支配する麦わらの一味。

彼らは今起こった現実が信じられない、とばかりに目を丸くした。

何かが天から降ってきて、雨かと思い空を見たら、降ってきたのはメリー号の何十倍もありそうな巨大なガレオン船だったからだ。

 

突然の異常事態に一味は自分たちの船を守るために必死で動き、あるいは夢かと思い目を瞑って更に目を開け、

現実であることを認識して慌てふためく者もいる。

とにかく彼らは必死だった。一切の常識が通用しないこの偉大なる航路で、それでも信じがたい状況を乗り越えるために。

 

 

「野郎ども!上に舵をとれ!」

「上舵いっぱーい!」

 

船長である麦わら帽子の少年、モンキー・D・ルフィは上に指をさして叫んだ。

すぐにロビンに口を封じられた直後、降ってきたガレオン船を見つめた。

 

「おいウソップ!あの船を調べよう。何かわかるかもしんねえぞ」

「おっけーいキャプテン!」

 

周りがとめる前に腕を伸ばし、二人で乗り込んだ。

船はひっくり返った状態で降ってきて、そして沈んだため、動ける範囲が酷く少ない。今もどんどん浸水していってる。

 

(空島だってよ!?聞いたこともねえ!これはすっげえ冒険の匂いがするぞ!)

 

ルフィはそれだけの考えでどんどん船を見回っていく。ウソップは逆方向から調べているようだ。

まだ浸水していない部屋を開ける。部屋中を見回したルフィは机の上の紙を見て真っ先に飛びついた。

 

「これは、海図!」

 

古ぼけた海図を広げた。スカイピアと書かれていて、一つの島を指しているようだ。

それを握りしめ、部屋を出ようとして、ふと気づいた。

 

「なんだあの部屋?光ってるぞ?」

 

この部屋には繋がっている奥の部屋があるようだ。それだけならなんともないが、部屋から光が漏れている。

好奇心旺盛なルフィがそれを放置するはずもなく、ドアノブを手にかけて開けようとしたが、錆びているのか開かなかった。

すぐさま扉を蹴飛ばして中に乗り込む。そこでルフィは驚きに目を見開いた。

青みがかかった短髪の少女と赤い髪の少年が倒れていたのだ。死体ではなく完全に生きている状態で。

光っていたのは少年が握っている宝玉だ。ルフィが部屋に乗り込んだと同時に光が消えていった。

 

「おいお前ら!大丈夫か!?」

 

声をかけ、体を揺さぶるが反応がない。ルフィは二人を小脇に抱えて部屋を飛び出した。

外ではウソップが待っていた。

 

「ルフィ!そろそろ沈むぞ!早く脱出を…ってなんだそいつら?」

「話は後だ!とりあえずこの二人をチョッパーに診せるぞ!」

「お、おいおい大丈夫かよ。そんな得体の知れない奴らを船に乗せるなんて…って話は最後まで聞けェ!」

 

ウソップの断末魔が響く中ルフィは一顧だにせず二人を片腕で抱えて腕を伸ばしてメリー号に飛び乗った。

 

 

――ここは…?

 

エリオは揺れる感覚の中で目が覚めた。

床は木製で、不定期に揺れている。なんだろう?

目を開けて最初に見たものは、オレンジ色の髪をした恐らくフェイトと同じくらいの年齢の女性だった。

 

「チョッパー。こっちは目が覚めたわよ」

 

恐らく初めて見る人の聞きなれない声。

身体はどこも痛くない。異常はないようだ。エリオはむくりと身体を起こす。

 

――ここは…船?

 

まず見たのは船であること、そして見知らぬ年上の人たち。

 

「君、大丈夫?あの船の中にいたけど、一体どうしたの?」

 

親身になって聞いてくる女性にエリオは戸惑う。

 

――一体どうなっているんだ?さっきまで山岳地帯にいたのに、いつの間にか海にいるなんて。

 

混乱するエリオに追い打ちをかけるように、今度は麦わら帽子を被った男性がエリオの顔を覗き込む。

 

「起きたのか。おい大丈夫か?」

 

無造作に聞いてくるその男性に何故か不快感などは覚えなかったが、いまいち状況が把握できないエリオはとりあえず答えた。

 

「あ、はい、大丈夫です」

「そっか。ならいいや」

 

にんまりを笑顔を作った麦わら帽子の男性。今度はオレンジ色の女性が聞いてきた。

 

「ねえ君、どうしてあの船の中で倒れていたの?見た限り健康そうだけど、あの船の中にいたらただじゃすまないでしょ?」

「あの船…?どの船です?」

「ほら、あそこに沈もうとしているガレオン船よ」

「…?」

 

質問の内容が分からずオウム返しに聞いたエリオに、女性は指をさした。

そこには沈み続けている帆船があった。大部分は沈んでしまっているがとりあえず確認はできた。

そしてエリオはようやく例の宝玉――ロストロギアを握りしめていることに気が付いた。

それを見たエリオは一時考え、そして声を出した。

 

「す、すいません。ちょっといいですか?」

「何?」

「ま、まず失礼ですがお名前をなんと言いますか?」

「私?ナミよ」

「僕はエリオ、エリオ・モンディアルです。ちょっと聞きたいことがあるんですが…ここはどこです?」

 

 

(確かこれが光った時に次元振動が起きていた…だとするともしかして)

 

エリオは握りしめていた宝玉をじっと睨む。

 

まず確認できたことを整理してみる。

ここは偉大なる航路という海であること。

当然のことながらそんな海はミッドチルダには存在せず、つまりここはミッドチルダでもなければ管理世界でもない。

ここは管理外世界であること。自分が完全に知らない土地であるということだ。

そしてここに来た原因はまず間違いなくこのロストロギアだろう。

その折をナミを始めそこにいた者たちに説明した。

 

「そんなことが…!?」

「おいおい空島の次は異世界かよ」

「聞いたことないわね…」

「すげェなおい!よーし舵を異世界に切れ!」

「いやできねーよ」

 

反応は様々だったが、頭ごなしに否定する者がいないのを見てエリオは意外に思った。

管理外世界で(管理局のことはぼかしたが)この手の話は信じてもらえないらしいと聞かされていたエリオである。

 

「あの…僕が言うのもなんですが…信じるんですか?」

 

そこで長身の黒髪をした女性が答えた。

 

「信じるというか、寧ろその方が可能性としてはありだと思うわ」

「え…それってどういうことです?えーと」

「ニコ・ロビンよ」

 

ロビンと名乗った女性はふわりと微笑み、話を続けた。

 

「この海では疑うべきなのはまず自分の中にある常識よ。それにあのガレオン船は200年は彷徨い続けていたのよ?

 その船の中に二人の子が元気な状態でいられるわけがないわ」

「200年…え、ちょっと待ってください。〝二人”?僕の他に誰かいたんですか!?」

「ええ、そうよ」

 

エリオが完全に思慮外のことで焦った。よく考えたらあの場にはスバルとキャロも近くにいた。同じく飛ばされた可能性はある。

血相を変えたエリオに今度はナミが答えた。

 

「もう一人のほうは今チョッパーが診てるわ。ほらあっち」

 

ナミが指をさした方向にエリオは視線を移す。すると倒れたスバルともこもこしてる何かがいた。

 

「スバルさん!」

 

すぐさま駆け寄ったエリオはスバルの顔色を見た。目はまだ覚ましていないが、呼吸は整っている。生きてはいるだろう。

するとそばから声がした。

 

「この子はスバルっていうのか。安心しろ。少し頭を打っただけだ。すぐ目を覚ますさ」

「あ、ありがとうございます――って」

 

声の主に礼を言って気が付いた。さっきの帽子を被ったもこもこがこちらを向いて喋っている。

 

「た、狸?」

「狸じゃねえ!おれは、トナカイだ!」

 

トナカイを名乗るもこもこ生物に目を丸くする。フリードなどで奇怪な生物は見慣れているつもりだったが、

明らかに人に見えない生物が人間の言葉を話すのには流石に驚いた。

後ろからナミがからかうような声をかけた。

 

「初め見たらびっくりするわよね~。まあチョッパーはこう見えてもうちの船医なのよ」

「あ、えと、すみません」

「まあいいけどよ。それよりこの子は大丈夫だ、直に目を覚ますさ」

「う、うぅん…」

 

いう通りスバルは目を覚まし、身体を起こした。そして周りを見渡し、エリオを見た。

 

「…あれ、エリオ?ここどこ?」

「スバルさん…実は僕たち」

「お、もう一人のほうも目を覚ましたみてェだな!」

 

船首にいた麦わら帽子の少年がこちらに気づいて跳んできた。

 

「まだこっちの自己紹介が済んでないな。オレはルフィ!海賊王になる男だ!」

 

麦わら帽子の少年――モンキー・D・ルフィが胸を張って宣言した。

 

(海賊王って…)

(…何?)

 

聞いたことのない単語に、エリオとスバルの頭にクエスチョンマークが躍った。

 

 

スバルとエリオは、ナミとロビンから聞いた情報をとにかく今の自分たちの立ち位置を含めて整理した。

まずこの世界は管理外世界なこと。つまり自分たちは次元放浪者であること。

理由はエリオが持っていたロストロギアの影響と見て間違いないだろう。

今はこのロストロギアの宝玉の光は収まっている。暴発の危険性はないと見ていい。

再度魔力を込めて向こう側に帰れないかと思ったが、未知数すぎる上にロストロギア指定を受けた代物である以上リスクが大きすぎる。

特にこの船を、下手すると世界を巻き込みかねない。そう判断して方法を断念した。

エリオとスバルは結局管理局側から何かアクションが来ることを期待して、帰る方法を考えるのを中断した。

次元振動を起こして移動した以上、痕跡を辿るのは容易なことである。後はなのはやフェイトたちに託すしかない。

 

そして今度はこちらの世界の事と、助けてくれた船員たちだ。

麦わら帽子を被った少年、モンキー・D・ルフィ。彼がこの船の船長である。

次にエリオが一番最初に接触したオレンジ色の髪の女性がナミ。航海士である。

長身の黒い髪をした女性がニコ・ロビン。考古学者。

もこもこした頭身の低い生物がトニートニー・チョッパー。船医でフリードのように大きくなったり小さくなったりする能力を持っているらしい。

緑色の髪をした男がロロノア・ゾロ。三本の刀を持っている。

金髪でぐるぐる眉毛のサンジ。コック。

そして鼻の長い男がウソップ。狙撃手である。

彼らが海賊と聞かされた時には驚いたが、同時に自分たちが思っている海賊とはなんだかイメージが違う。

とても略奪行為をしそうな〝賊”には見えず、寧ろなのはやフェイトに通じる優しささえ感じた。

 

とにもかくにも何も知らない世界でうかつに動くのを嫌った二人は、その海賊団にしばらく身を預けようとしたが――

 

 

「ナ、ナミさん…さっきの一体何なんですか…!」

「私が聞きたいわよ!」

 

エリオが荒い息をつき、スバルも同じく肩で息をしている。ナミを始め一味は全員疲れたように座り込んでいる。

 

一言で状況を説明するなら、想像を遥かに超えたハプニングの連続だった。

空島(この時点で既に眉唾物)なる島に行くべく沈んだガレオン船を調査するべく、一味は海底に潜った。

するとマシラ海賊団なる沈んだガレオン船を引き揚げようとした海賊団と接触した。

刺激せず事なきを得ようとした一味だが、そこから驚愕の事態が続く。

まるで聖王のゆりかごを一飲みに出来そうなほど巨大なウミガメに遭遇。

その後突然の夜が来て、極めつけは巨大なカメがまるで普通サイズのように映るほどの巨人たちが三人。

何かの言葉を発する前にスバルとエリオと一味は、一目散にその海域から退避した。

 

一味は平静さを取り戻し(何気なく一緒に乗ってたマシラを蹴り飛ばし)、海底から引き揚げた残骸を調べた。

ナミは空への手がかりなど何もないのを憤慨した。錆びた鎧に武器に食器その他、空への有益な情報になりそうなものは何もない。

それでも引き続きエリオとスバルは残骸を漁ってみた。

宝玉が乗っていたガレオン船なのだ。何かしらの情報がつかめるかもしれない。

ただ待っているだけよりも何かしてるほうがいいと思ったからだ。

 

「二人とも何やってんだ?」

 

緑髪の剣士、ゾロが声をかけた。

 

「僕たちをこの世界に飛ばした宝石を持っていた船ですから、調べれば何かあるかもしれないと思って」

「んー、でもこれじゃわかんないかなぁ。古ぼけた武器や鎧に骸骨だけだもん」

 

手に取ってちょっと指で突っつくだけですぐ穴が開く鎧を放り出して、スバルは体を伸ばす。

サンジが片手にたこ焼きもって厨房から出てきた。

 

「おーいスバルちゃん。レディ限定かつてないたこ焼きできたよォ~♡」

「え、いいの?ありがとう!」

 

スバルはサンジから差し出されたたこ焼きを手に取り、頬張る。とても美味しかった。

そこでしばらく黙っていたゾロが重々しく口を開いた。

 

「おい二人とも、ちょっといいか?」

 

スバルはたこ焼きを持つ手を止め、エリオは漁っていた残骸から手を離した。

こちらを向いた二人組に対し、ゾロは続けた。

 

「ちょっとごたごたがあってそれどころじゃなかったんだ。だが状況が落ち着いたからこそ聞かせてもらう。

 お前らは一体どこから来たんだ?お前らは何者だ?」

「「……」」

 

一瞬黙った二人。そういえばこちらの状況を把握するためにいろいろ聞いたが、こっちのことは殆ど話していないことに気が付いた。

基本的に管理外世界で自分たちの素性は秘密なのだ。おいそれと話すわけにもいかない。

だが、黙ってこちらを見るゾロを誤魔化せそうな気がしない

スバルとエリオはすぐさま念話を繋ぐ。

 

(エリオ…どうする?話しちゃう?なんだか信頼できそうな人たちだけど)

(スバルさん…でもまずくないですか?管理局のことを他の世界に知られるのは)

(すぐに帰れそうな感じじゃないし、かといってここから逃げられそうにないし、何よりこの世界は訳が分からないし)

(そうですね。緊急時ですし、ケースバイケースです)

 

意を決した二人は、口を開く。

 

「これから話すことは、他言無用でお願いできますか?広く知られるととっても困るんです」

「かまわねェ。他には絶対に喋らねェよ」

「ありがと。じゃ、私たちが来た世界の事なんだけど――」

 

 

空島の針路をとるために情報を集めるべくジャヤへ針路をとった麦わらの一味。

その一味は全員目を丸くして二人の話を聞いていた。

ミッドチルダという世界から飛んできたこと。ガレオン船の宝玉の力で飛ばされたこと。

そして魔法を使って戦う生業であること。ここで敢えて管理局の名前は伏せた。

一味が特に食いついたのは、魔法の部分だった。

 

「おめェら魔法が使えるのか!?すっげぇ!」

「魔法…そんな技術がある世界なんて」

「ほんっと今日は次から次へと…」

 

ルフィたちは目を輝かせ、ナミは頭を抱えた。

 

「どんなことができるんだ!?みせてくれよ!」

「「俺も俺も~」」

 

ルフィ、ウソップ、チョッパーが肩を組みつつ催促してきた。

エリオとスバルは顔を見合わせた。

 

(どうする?見せちゃう?)

(はい。ここまで来たら見せておいたほうが得策だと思います)

 

この海の異常さは既に認識した。自分たちが魔法を使わずに切り抜けられる可能性は0に近いだろう。

見せびらかすものではないが、ある程度世話になる以上は知っておいてもらう必要もある。

スバルとエリオは待機状態のデバイスを片手に掲げた。

 

「「セット・アップ!!」」

 

二人は光に包まれ衣装が変わる。

スバルは青い衣装と鉢巻きに大型で重厚な篭手を装備し、インラインスケート型のブーツをはいている。

エリオは赤と白と基調とした衣装で、目につくのは大型の長槍。

変身が終わるとそれまで静まり返っていた一味はどっと大声を上げた。

 

「「「すっげェーーーーー!!!」」」

「本当に存在するんだ…魔法なんて」

「へェ」

「全くこの海は、常識が信じられないぜ」

「異世界…魔法…興味深いわね」

 

エリオとスバルは照れ臭そうに顔を赤らめた。

 

春風が吹く。そろそろジャヤの西海岸が見えてくる頃だ。

 

 

――ミッドチルダ

 

「周辺地域での二人の反応は?」

「今のところ確認できません」

 

フェイトはため息をつく。

先の事件でロストロギアが暴走、次元振動を起こし、エリオとスバルが巻き込まれた。その報告は六課に激震が走った。

何しろフォワードの二人が行方不明になったのだ。影響がないわけがない。

犯人グループは既に引き渡し済みで、ロストロギアも確保している。今は厳重な保管がされていてその上で解析が進んでいる。

周辺地域で一応の調査をしてみたが、結局二人からの反応はなしだ。元々望み薄だったがやはりがっかりする。

とすると――フェイトは副官のシャーリーに尋ねた。

 

「シャーリー。例のロストロギアの解析は?」

「少し時間がかかると思います。次元振動と二人の飛ばされた先を特定するには三日はかかるかと」

 

この時点で分かっていることは、ある程度のエネルギーを使ってどこか特定の世界に転移できるタイプのものであること。

そして大量のエネルギーが消費されるが、そのエネルギーに比例して転移できる質量も増やせることだ。

一歩間違えればとてつもない被害を起こせる極めて危険な代物である。

危険なので運搬中はエネルギーを空っぽの状態にしていたが、恐らく犯人グループが魔力を注ぎ込んだのだろう。

そして捕まえた腹いせに遠隔操作で力を暴走させたのだ。逮捕した犯人たちからも証言を既に得ている。

今の時点では二人を飛ばしたのにエネルギーを使い果たしたようだ。

しかし次元振動の跡を辿れば行先を特定するのは容易だ。兄の力も借りることになるだろう。

 

「シャーリー、後を任せられる?」

「勿論ですよ。フェイトさんは休んでください」

 

シャーリーは意気込み、フェイトは副官を頼りに思いながら微笑んだ後、部屋を出た。

外にはキャロとティアナが不安そうな顔で立っていた。

 

「二人とも…どうしたの?」

「あ、あの…フェイトさん」

「スバルと、エリオは」

「シャーリーに次元振動の跡を追跡してもらってる。二人ともすぐに見つけるよ。大丈夫だから」

 

フェイトはふわりと微笑んだ。キャロは素直に安堵し、ティアナは今回の一件を悔いているかのように悔しそうに顔を歪める。

フェイト自身も本音で言えば心配で仕方ないが、必要以上に二人を不安がらせるのもよくないと思い、安心させるように気遣った。



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情報収集

時は大海賊時代――かつてこの世の全てを手に入れた海賊王〝ゴールド・ロジャー”。
彼が死に際に放った一言は、世界中の男たちを海に駆り立てた。
「俺の財宝か?欲しけりゃくれてやるぜ…探してみろ。この世の全てをそこにおいてきた」
『ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)』を巡って、多くの海賊たちが旗を掲げた。

恐らく、管理外世界の中でも極めて端的な世界情勢だろう。そのありとあらゆる世界構図も――


ジャヤについた麦わらの一味。

一見リゾート地のような印象を受ける島だが、海岸沿いに一斉に並ぶ海賊船、船をつける前に上がる悲鳴――明らかに異常な島だ。

そんな危険な地にルフィとゾロが降りた…どう見ても何らかのトラブルを巻き起こすと判断したナミが二人を追った。

エリオもナミに連れそって船を下りて彼らを追った。情報がほしいのと、単純にこの世界を見てみたい、という願望もあった。

ナミが行くなら自分も、とサンジも降りようとしたが、ウソップとチョッパーの懇願で戦力が落ちると言われ留まることにした。

 

「ちょっといいかしら」

 

ウソップたちが修理しようと木材や機材を運び出したので手伝おうとしたスバルはロビンに声をかけられて振り返った。

ロビンは着替えて外出しようとしている。

 

「なんですか?」

「情報収集してくるけど、ちょっと付き合ってくれないかしら」

 

ロビンが手招きしたので、スバルは大して考えず船を飛び下り、ロビンの後を追った。

 

後で女が一人もいなくなったことをサンジがぼやいたのはまた別の話。

 

 

モックタウンに入るロビンとスバル。

 

「あの、どうして私を?」

「フフッ」

 

ロビンはスバルに微笑んだ。

 

「まあ前に言った空島に関する情報収集と、あなたと槍使いくんの服を見繕うためにね。いつまでもそんな堅苦しい服は嫌でしょ?」

「…あ」

 

そういえば(当然といえば当然だが)突然飛ばされたためこちらに来てから自分とエリオの服は管理局員用の制服しかない。

海賊船にお世話になる以上ある程度ラフな服は持っておいたほうがいいだろう。

 

「…でも」

 

今度はスバルから切り出す。

 

「それだけではないでしょう?多分ですけど」

「……」

「なんとなくですけど、ロビンさん、こっちのことを知りたがっていたようですし」

 

スバルとしてはなのはたちよりも年上なロビンに対してはっきりと言うのに少し抵抗があった。

ロビンはまたも微笑んだ。

 

「ええ。私が生きている間に異世界、ミッドチルダなるものは聞いたことがないわ。魔法という技術も全く、ね。

 最も、この海には常識では測れない物事があまりにも多すぎる。それこそ空島のように。

 私は考古学者だもの、そういった文献でも見たことのない情報には興味を持つのも当然でしょ?」

「そういう気持ち、わかります。私だって興味があるものには飛びつきますし。でも……言えないんです」

「魔法を生業とした職業についているそうね。恐らく警察や軍隊のような組織に所属していたのかしら?」

「大きくは違いません。ただ、魔法が発達していない世界で私たちの所属する組織については話せないんです。

 魔法のことも……本当なら喋っちゃ駄目だったんですけど」

「ある程度は信用できたということね?私を――というよりあの子たちを」

「はい。海賊と聞いたけど、全然悪い人に見えなくて……親切にしてくれましたし」

 

ロビンは苦笑する。

 

「まあ、あなたたちのことを知りたがっていたのも確かだけど、私としてはちょっと個人的に聞いてみたいことがあったからよ」

「……?なんです?」

「異世界人の、この世界の事を全く知らない人たちから見て、この世界はどう映ったかしら?」

 

ロビンの質問に、スバルは少し詰まった。そしてしばらく考え込む。

 

「難しく考えなくてもいいわよ。ありのままの思ったことを言ってくれればいいわ」

「私としては……なんだかすっごい時代だなって思いました」

 

スバルは頭をかいた。

 

「なんと言うか……大海賊時代なんて、つまり海賊が高い影響力――ということですよね――を握ってるなんて無茶苦茶です。

 司法や法律が世界を支配していないなんて」

「……」

 

ロビンはスバルの言葉を黙って聞き続ける。

これはロビンが知りようがないが、スバルは時空管理局に勤めているのだ。相棒のティアナからバカ呼ばわりされるが、

元々座学の類はそれほど成績も低くなく、管理世界における管理局、管理外世界における王政や大統領制などの政治も多少はかじってる。

それ故に、一般の人間を守る気などさらさらない海賊(犯罪者)が世界の影響力を持つなど考えにくいのだ。

スバルは続ける。

 

「でも、ルフィたちがただの犯罪者には全然見えませんでした……確かルフィってかなりの懸賞金がかけられているんですよね?

 でも、それほどの悪人に見えないです」

「それはそうね。実際彼らのような海賊は本当に極一部よ。海賊団が10あったら1あるかってくらい」

「やっぱり、そうなんですね」

「そうよ。だからあの子たちが例外で、他の海賊はあなたたちが考えているものと同じよ」

 

ロビンがそう言い切った途端、前方の飲食店で爆発が起きて扉や窓が吹き飛んだ。

そのまま怒号と罵声と銃声が響き、大量の男たちが店から飛び出して剣で斬り合ったり銃で撃ちあったりしている。

逃げ惑う通行人に野次馬のように見に来る通行人もいる。巻き添えを食らって倒れる者もいる。ケンカしている男たちも何人か倒れる。

それでも不思議と止めようとしたり通報しようとする人がいない。

 

「面倒ね…迂回しましょう」

「あ、はい」

 

ロビンの言われるがままにスバルは喧噪に巻き込まれないように道を曲がる。

しばらくしてロビンが再び口を開いた。

 

「わかった?あんな感じなのよ。あれがこの世界の海賊の大多数の姿よ。このジャヤは海軍の手が伸びてないようだけれど、

 それでもあんなのが日常茶飯事なの」

「……」

 

スバルは口を紡ぐ。

あんな光景はミッドチルダ、いや管理世界で起こったことはない。そんなことが起きれば新聞の一面に出て、

トップニュースで騒がれるに決まっている。しかしあの場にいた人たちは明らかに慣れていた。まるでいつもの光景のように。

ロビンもそんなスバルを見て、さらに声をかけた

 

「気持ちはわかるわ。海賊に襲われる事件や海賊同士、もしくは海賊と海軍の戦いなんて毎日のようにあるのが普通なのよ。

 情報が行き渡ってないこともあるけど、そう見ていいわね。

 だからこそ、この時代を疎んでる人も大勢いるわ。普通の人からすれば迷惑でしかないものね」

 

ある種の諦めに似たようなロビンの答えに、スバルはポツリと呟く。

 

「ワンピースって、そんなに凄いんですか?」

「……」

 

ワンピース。ひとつなぎの大秘宝。海賊王ゴールド・ロジャーが残した財宝。

実在するかもわからず、どんなものかすら知られない、それでいてその名前を知らぬ者はいないとされる伝説の代物。

この世の全てを手に入れると信じられ続けた。事実それを手にしたゴールド・ロジャーは海賊王となり世界の頂点に君臨した。

世界の全てが手に入る。その言葉に魅了される者は数多く、そして多くのものが海賊に憧れている。

毎日海賊が消えては増え、増えては消えの繰り返し。今のこの時代に海賊の存在を無しには回らないほどに。

手にすれば世界を手に入れられる――夢のような話だが、スバルにはそれがどういうものなのか想像もつかない。

 

「…海賊王、世界の頂点に君臨したいと思う人間はどの時代にも数多くいるわ。そのプロセスを比較的簡単に踏めるなら、

 自分にも世界を握れるチャンスがあるなら、やってみようとおもうんじゃないかしら」

「私には……よくわかりません」

 

スバルは続ける。

 

「私の夢は、災害や犯罪者から助けを求める人たちを助けることです。災害の中で自分が無力なのが悔しかったんです。

 そして私を助けてくれた恩人はとっても輝いていて…その人を目指してずっと頑張ってきました。

 誰もが平和に過ごせるように…だから、世界が手に入るって言われてもピンときません」

「あなたは――とてもいい子ね」

 

ロビンは優しそうなまなざしでスバルを見つめる。そして不意に、ある質問をした。

 

「あなたがどういう組織に所属しているか知らないけど、法で動く組織と思ったうえで一つだけ聞くわ。

 もし、1000人の犠牲で100万の人命が救える、と聞かされたら躊躇なく実行できる――そんな連中をあなたはどう思う?」

「えっ…」

 

一瞬言葉に詰まるが、質問の意図が分からず逆に聞き返してみた。

 

「それってどういう状況なんですか?1000人を犠牲にすれば100万人が返ってくるっていう意味ですか?」

「ちょっと違うわね。正確にいうなら凶悪な犯罪者がいて、将来的に大勢の人を殺す力を持っているとして、

 1000人の犠牲を払えばその場でその犯罪者の息の根を止められる、もしくは捕まえられる、ということよ。

 ここでいう100万人って言うのは、いうなればその犯罪者を逃がした時に出る未来の犠牲の数といったところかしらね」

「そんなの、おかしいです!それじゃその犯罪者と何も変わらないじゃないですか!」

 

スバルは思わず憤慨した。

恐らく六課の人間なら誰も賛同しないような暴挙だ。考えてみたことすらない非道だ。

もし自分がそんなことをすれば一生自分自身を軽蔑して生きるだろう。

ロビンは優しそうなまなざしを崩さない。

 

「そういう極普通の感覚、これからも忘れちゃだめよ。―――この辺でいいかしら」

 

話を打ち切り、ロビンが指示した先は大通りから少し離れた小さい酒場だ。ロビンとスバルはドアを開けて中に入る。

中は薄暗く酒の匂いと男たちの笑い声で支配された空間だった。

珍しそうに周りを見るスバルと、一顧だにせずカウンターを目指すロビン。

 

「マスター、コーヒーを。この子にはジュースでも。あとできたら地図があればくれないかしら」

「酒場だってのに変わったもん欲しがるな、嬢ちゃんたち。この島は初めてかい」

「えぇ」

「は、はい」

 

緊張するスバルと慣れたような対応をとるロビン。

店主はすぐに二つのコップをだし、同時に地図も出してくれた。

 

「マスター、この辺で何かいい服屋はないかしら?」

「ああ、ここから大通りを抜けて右手に――」

 

店主の声がそこで止まる。スバルは振り返ると酒場で酒をあおっていた男たちが赤ら顔でこちらに寄ってきている。

 

「おーうねえちゃんたち。なかなか綺麗じゃねえか。こっち来て一緒に呑もうや」

「あ、い、いえ結構です」

 

酒の匂いにスバルは若干引き気味になりながらも断る。すると店内がギャハハハハハ!と笑い声が響く。

 

「おいおいフラレちゃったよオレ!」

「おめーはかおがきたねえからだバーカ!オレが行くぜ!」

「おうおう嬢ちゃん、可愛い顔して言うじゃねえか!こっち来いよ!」

 

男の一人がスバルの腕を掴もうとする。顔を引き攣らせながらも反撃してやろうかと思ったスバル。

そこでようやくコーヒーをあおったロビンが振り返る。

 

「あなたたち、この辺の海域に詳しいかしら?」

「は?知らねえな。俺たちはこの島に住んでるわけじゃねえし、航海士じゃねえんだ。興味もないな」

「だったら、この辺の海域について詳しい事情を知ってる人を教えてくれないかしら」

「はぁ?」

 

よくわからないことを聞く女だ、と言わんばかりの反応の男に、隣の男が耳打ちする。

 

「はみ出し者のクリケットのジジイがいただろ。あのジジイなら詳しいんじゃねえか?」

「クリケット?」

「ああ、モンブラン・クリケットっていうジジイがいるんだよ。阿呆みたいに夢ばっかり語るバカだ」

「そう。じゃあその人がどこに住んでるか、教えてもらえないかしら」

「おいおい嬢ちゃん、さっきからこっちに聞いてばっかで不公平じゃねえか?」

 

店内全員の男たちがロビンとスバルを取り囲む。スバルは酒の匂いで顔を歪めたままだがロビンは平然としている。

スバルは待機状態のマッハキャリバーを握る。男の一人がにやけながらロビンに顔を近づけた。

 

「こっから先の情報はタダじゃねえ。嬢ちゃんたちの頑張り次第ってとこだなぁ」

「そう。そういうのなら――海賊らしく」

 

顔を近づけた男を含め、突如肩に咲いた手。男たちは、スバルは、その光景に驚愕した。

 

「なにこれ!?」

「こ、この女!?」

「能力者かッ!?」

 

彼らの言葉を一切耳に傾けず、一言下す。

 

「〝三十輪咲き「ストラングル」”」

 

一斉にヘッドロックをかけた。男たちはもれなく泡を吹き白目を向いて気絶した。―――いや

 

「調子に乗ってんじゃねえぞ女ァッ!」

 

ロビンの死角に潜んでいた一人の男が血管を額に浮かべ片手にサーベルを持って飛び込んできた。

これではロビンの反応が間に合わない――と思われたが、それでもロビンは一切表情を変えない。

男の横からとびかかる青い人影。

 

「ハァッ!」

 

スバルが拳を振るう。男のサーベルにぶち当たり、手から離れてくるくる飛び、天井に刺さる。

男は血走った眼でスバルを睨み、飛びかかろうとしたところで、今度は背中と床から咲いた手によって両手を後ろに掴まれ、

両足は固定されてしまい、バランスを失った男はそのままあっけなくドシンとうつぶせに倒れた。

ロビンは倒れた男を顔だけ強引に上にあげ、ジャヤ島の地図を見せながら言う。

 

「あなたたちがさっき言っていた、そのモンブラン・クリケットという男の居場所を教えなさい」

 

男は黙ってこくこくとうなずくだけだった。




ジャヤはアクション少なくてつまらないなぁ…能力も中々見せ辛い。
ダイジェクトに進めて5話くらいにはもう空島に突入させようと思います。

そういえばこの頃のロビンはまだ名前呼びじゃないんだよなぁ…エリオは槍使いくんにしたけどスバルはどうしよう…


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空島――常識的に考えればそんなもの存在するはずがない。
しかし同時に、〝存在しない”ことを証明できた者などいない。
空想の産物――それにしては遥か昔の文献には当然の存在のように書かれているものもあるのだ。
ことに偉大なる航路……疑うべきは常識のほうなのだ。


嘲笑、暴力――

エリオは、生まれて初めて見る悪意の嵐を見る。

 

「このケンカ、絶対に買うな」

 

ルフィはそれだけを言って、こちらからは一切の手出しをせず、反論さえしない。

ナミは悔しさを滲ませながら悲鳴を上げる。それでもルフィたちは一向に顔色さえ変えない。

殴られ、蹴られ、酒をぶっかけられ、嘲笑われ…それでもルフィたちは苦しそうな顔さえ見せない。

エリオは今までにかつて見たこともない悪意悪意悪意――どうしてこんなことができるのか、と声を大にして叫びたかった。

ストラーダを掲げて黙らせてやりたかった。しかしそれすらルフィは黙って腕を抑えて制した。

 

――こっちから手を出すな。このケンカだけは絶対に買うな。

 

こちらを一度だけ一瞥し、またもベラミーに向かって立つ。

彼らの行動がエリオには理解できなかった。

ここまで嘲笑され、傷つけられ、夢すら嗤われて、なぜここまで平然としていられるんだろう。

それが不思議でならなかった。だが同時に、彼らの眼差しにエリオは喉を鳴らし、反論する言葉を失う。

 

結果、一方的な暴力に飽きたベラミー一味から追い出されるように、ナミはルフィを引っ張り、エリオはゾロを引きずる形で店を出た。

ナミが悔しさで歯を食いしばり、エリオがルフィの意図を把握できずに複雑な顔をしていたその時

 

「何を悔しがるんだねーちゃんにボーズ…さっきの戦いはそいつらの勝ちだぜ」

「え…?」

「あんたさっきの…」

 

そこには先ほど店主の前でルフィと張り合っていた巨漢が座り込んでいた。

ゼハハハハ、ここのチェリーパイはやっぱり最高だ、と道の真ん中で先ほど買ったパイを頬張っている。

 

「おめェの啖呵も大したもんだったぞ!肝っ玉の据わった女だ!小僧、おめェもチビのくせによく暴発を堪えられたな!ゼハハハ」

 

エリオはこの男が何を言っているか理解できない。自分が堪えられたのはルフィが制したからだ。

もし自分一人だったらどうだったかはわからない。いや――

仮にもし、自分ならどうする?自分の大切な人が嗤われているなら容赦なく拳を振るえるかもしれない。反論したかもしれない。

だけど――

 

「〝アイツら”のいう新時代ってのは、クソだ」

 

ルフィが立ち上がり、男に向く。ゾロは視線だけを合わせた。

 

「海賊が夢を見る時代が終わるだって…!?えェ!?オイ!ゼハハハハ」

 

豪快に腕を広げる。

 

「人の夢は!終わらねェ!! そうだろ!?」

 

ルフィは無言のままだ。エリオはそんなルフィと男を交互に見る。

 

「人をしのぐってのも楽じゃねェ!笑われていこうじゃねえか!

 高みを目指せば、出す拳の見つからねェケンカもあるもんだ!」

 

ゾロは既に背中を向けて歩き出す。大男も「いけるといいな、空島へよ」とだけ残して立ち去る。ルフィも歩き出す。

エリオはわからないことだらけだった。ただ、少しだけ腑に落ちた部分がある。

なぜあれだけの悪意をぶつけられて、平然としていたのだろう。腹が立たないんだろうか。

 

 

ゾロとルフィを治療し、ロビンとスバルと合流した一行はモックタウンを離れ、モンブラン・クリケットという男を訪ねるべく出航した。

道中でマシラ海賊団と遭遇し、船が多少損壊したが、目的地に辿り着いた。

 

倒れたモンブラン・クリケットを治療するべく家に運び込んだ仲間とは別に、船で戻るゾロ。

手持ち不沙汰で昼寝を始めたゾロを、エリオは不思議そうに見つめた。

 

「ゾロさん」

「んぁ?」

 

こっちを見ずに目を閉じたまま返事だけをするゾロ。エリオはそのまま聞いてみた。

 

「さっきのモックタウンでの喧嘩、なんで手を出さなかったんですか?」

「なんだ、そんなこと気にしてたのか」

 

相変わらず体制を変えず、ぼやくゾロ。

 

「お前もナミみたいにぶっ飛ばしちまえばよかったって思ってんのか?あの女、最初はケンカするなって言ってたくせに勝手な奴だ」

「……でも、ナミさんのいうこともわかります」

 

エリオは続ける。

 

「あれはどう見てもあの海賊たちのほうがおかしいです。やり返せばいい、とまでは言うつもりはないですが、抵抗くらいすべきです」

「……」

「なのに、何もしないなんて相手はエスカレートするだけです。怪我させられて、バカにされて、こっちは散々じゃないですか」

 

その時の光景を脳裏に甦らせたせいか、エリオの口調に悔しさが混じったのをゾロは感じた。

エリオとしてもナミみたいにやり返せ、とまでは思わなくとも、あそこまで一方的にやられるなんて考えられない。

だからこそルフィとゾロの考え方が理解できない。納得がいかない。

ゾロはむくりと身体を起こす。

 

「エリオ」

「……はい」

「お前、ケンカしたことあるか?」

「……え?」

 

エリオは一瞬ゾロが何を言ったかわからなかった。

 

「えっと……ケンカですか?」

 

生まれてこの方、ケンカというものをしたことがない。

多少の意見の対立くらいはあっても、誰かと暴力や暴言をぶつけ合うことなど全くなかった。

明確な目的をもって敵と戦ったことはあっても、そう言った経験はないのだ。

 

「ない…です」

「そうか」

 

ゾロは首を鳴らす。

 

「ケンカってのは相手が目の前に立ちはだかって初めてケンカって呼ぶんだ。あいつらは別に俺たちの前に立ちはだかったわけじゃない。

 殴り合っても同情しか残らねえなんて虚しいだけだろ」

「それは――」

 

ゾロの答えにエリオは反射的に出そうとした言葉を詰まらせた。

その答えが少しだけわかった気がする。それは――ほんの少し前に似たような光景を見たことがあるからだ。

 

フェイト――自分の母親代わりの女性だ。

かつてエリオは親に捨てられ、自分の出生に絶望し、目に映ったもの全てを傷つけようとするほど荒れていた。

そんな自分から攻撃を受けても、フェイトは黙って自分を抱きしめた。

そうだ。かつての自分が別にフェイトの前に立ちはだかったわけではないように、あの海賊団はルフィたちに立ちはだかったわけじゃない。

違うのは暴力の理由と、救う対象にあったかどうかだけ。

出す拳が見つからない――それはつまり、力をもって付き合う必要があるかどうか、目の前に立って邪魔をしているかどうか。

 

「結局オレたちが我慢してれば終わるのさ。つまんねえことに付き合う必要はねえ」

「…だったら、もし自分だけじゃなくて仲間にも手を出そうとしたときはどうするんですか?」

 

この時初めて、ゾロの瞳から峻険な光が走った。

 

「だったら話は別だ。オレたちにケンカを売ったならキッチリ買うまでだ」

 

エリオはその眼光に心を突かれた。

やはりこの人たちは自分が知っている賊とは違う。海賊を名乗っているのに、こんなに人間ができていて、器が大きい。

興味が湧いてくる。この人たちのことをもっと知りたい。エリオの中でそんな思いが膨れ上がってきた。

我知らず口から声が滑る。

 

「ゾロさん。僕と――一騎打ちをしてくれませんか?」

 

目を閉じていたゾロが目を丸くしてこちらを見る。そしてすぐに面白そうにエリオを眺めた。

 

「真剣しかねえが、それでも構わねェか?」

 

 

一味がモンブラン・ノーランドから空島絡みの話をしている間に、少し離れたところにエリオとゾロは向かい合った。

 

エリオは既にバリアジャケットを装備し、ストラーダを両手で構えた。

対するゾロは、三本の刀を抜く。白い刀は口で咥えた。

 

「三本…ですか?」

「珍しいか?オレァ三刀流なんだ」

(あんなふうにして、剣を振れるのだろうか)

「船じゃ相手を使った稽古なんてできねェからなァ」

 

ゾロは嬉しそうに笑う。ゾロのいう通り、初めて見る構えにエリオは驚きつつも、冷静に足を踏み出す。

稽古とゾロは言っているが、エリオとしてはゾロが、しいてはこの一味の真価を見てみたいという思惑がある。稽古のつもりではいかない。

 

『サンダー・レイジ』

 

先手必勝といわんばかりにエリオは大きく振りかぶった。その軌跡を描いた金色の斬撃がゾロに向かって飛ぶ。

 

「ヘェ…〝飛ぶ斬撃”か。面白ェ技だな」

 

ゾロは難なく一刀を元に斬撃を真っ二つに切り捨てた。エリオはその隙を見逃さず、

 

『ソニック・ムーヴ』

 

音速となりゾロの背後に回り、死角から突きをみまう。

シグナムなどの歴戦の猛者相手にはこの手の単純なやり方など通用しないが、大抵の相手はこれで片が付く。

ゾロならまずどう対処するか――エリオは目を見開いた。

 

「高速移動の技か、魔術師ってのは中々面白ェな」

 

エリオとストラーダの突きを右腕の刀一本で受け止めた。軽々と。

そのまま跳ね飛ばすこともせず力を使わないで受け流し、改めてエリオに向き直った。

 

「エリオ。魔術師ってのはみんなそんなもんなのか?」

「魔術師ではなく魔導士です。あと、僕みたいな近接戦闘型を騎士、と呼んでます」

「騎士、か。悪くねェ」

「向こうには、僕よりもっと強い人たちがいっぱいいます。僕は、あの人たちに追いつきたいんです」

「そうか。じゃあその力、もっと見せてみろよ」

 

ゾロはどっしり構える。こちらのどんな攻撃をも受け止めてしまいそうな安定感を臭わせて。

エリオもこれ以上喋らない。不意打ちが通用しなかった以上、真っ向からぶつかるのみ。

一気に踏み出す。身体を極限まで前に倒し――

 

『ソニック・ムーヴ』

 

そのまま突っ込む。ゾロはそのまま刀を振り下ろす。

刹那、刀が届く間合いの寸前で、エリオは空に飛び上る。

低い姿勢のまま突っ込み迎撃させ、速さにものを言わせて上から奇襲をかける。

相手が大柄で速度がないと不可能なフェイク――幼いながらも考えているエリオにゾロはにやりと笑った。

そのまま両手ががら空きになったゾロに対し、エリオは渾身の突きを繰り出し――止められた。

 

「……なっ!?」

「言っただろ。オレァ三刀流ってなァ」

 

口で咥えていた刀だけでエリオのストラーダを受け止めたのだ。エリオは愕然とする。

体重と速度と魔力強化による一撃必倒の突き。それを咥えた刀だけで受け止めてしまったのだ。

恐るべき顎の力と首の筋肉だ。普通なら顎が壊れて刀など弾き飛ばされてしまうだろうに。

余りの力の差にそのまま吹き飛ばされたエリオは尻餅をついてしまった。目の前で起こったことが信じられず、足に力が入らない。

ゾロは刀を収めてエリオに手を差し出す。

 

「楽しかったぜ。〝騎士”」

「は、はい」

 

完敗したというのに悔しさが湧き上がらない。それよりもゾロという一人の剣士に対する敬意が増した。

ゾロはにやりと笑った。

 

「お前はすげェな。俺がお前くらいの頃はただのバカガキだった。見込みはあると思う。自信を持てよ」

「でも、まけちゃいました」

「オレァ世界一の大剣豪を目指しているからな。こんなとこで負けているわけにはいかねえ」

 

エリオはゾロを呆然と見つめている。

海賊と名乗っているにも拘らず、やはり彼らをただの犯罪者と見ることができない。まだ知り合ってわずかにしか経っていないが、

それでも彼らのことが分かってきた気がする。

特に今の一騎打ちを通して、彼らの持っているものが自身に誇りを持ち、真摯な思いから得たものだという確証も持てたのだ。

だからエリオは自然と口から疑問がでてきた。

 

「ゾロさんは」

「ん?」

「ゾロさんは、なんで海賊をやっているんですか?」

 

エリオの問いに、ゾロは頭をバリバリ書きながら苦笑して答えた。

 

「最初のきっかけはあのバカ――ルフィに誘われたからだ。一応あいつには命を救われちまったからな。

 今この船に乗っている連中もみんな似たようなもんだ。ルフィに助けられたってのもあるが、アイツに惹かれたんだろうな」

「でも、さっきは世界一の大剣豪になるって言ってました」

「アイツがオレを仲間にする時に言ったんだよ。海賊王の部下なら世界一の大剣豪〝くらい”にはなってもらわないとオレが困るってな」

 

横暴な話だ、とエリオは思った。しかしゾロはそれに対して何の違和感もなく受け入れている。彼らの信頼関係がそれだけでわかる。

大海賊時代、海賊王、ワンピース…管理外世界の事は管理局でも把握し切れていないし自分でも理解が追い付かない。

ただ、そこにいる人たちが全力で生きている人たちのことをもっと知りたいと思えた。

ここは自分のいるべき場所じゃない、いつかは帰らなきゃいけない。それでも学べることは多い。

 

「話は済んだみてェだな」

 

ゾロは小屋のほうを見やる。するとクリケットの腰に抱き付いて涙と鼻水で滅茶苦茶になってるウソップが殴られていた。

それを見てゾロはそちらに向かい、エリオも後に続いた。

 

 

モンブラン・クリケットと猿山連合の助けを借りることによって、空島へ行くことが決まった。

料理を作っているサンジと酒の場を用意する一同。

その中でスバルも手伝いをしていた。

 

「スバルちゃん、なんか飲み物いるか?」

「んー、ジュースがあればいいかな」

「おうわかった。後でロビンちゃんに何か欲しい飲み物あったら聞いておいてくれ。野郎どもには適当にビール用意しておくさ」

 

サンジはそう言って眺望に戻っていった。

一通りの用意を終わらせたスバルは、エリオを連れて一度小屋の外に出た。

 

「どうしたんですか?スバルさん」

「エリオ…」

 

スバルは雲一つない夜の空を見上げた。

 

「あたし、今日の朝にこっちの世界に飛ばされたのに、なんだか物凄くいっぱいのことを経験した気がする」

「……僕もです」

「ティアたち、心配してるかなぁ」

 

いつも一緒に戦ってきた同僚の顔を思い浮かべる。

 

「きっと六課の人たちが、僕たちのことを探してるはずです。心配いりませんよ」

 

エリオはフェイトたちのことを思い浮かべ、心配そうな顔したスバルを励ました。

とは言えエリオの言ってることはわかる。次元転移を起こしたロストロギアは既に回収済みで、転移した場所から解析をすれば、

それほど長い時間をかけずとも自分たちの居所を突き止めることが可能だろう。

管理局では有り触れた技術である上に、精鋭の集まっている機動六課なら造作もないことなのだ。

そう、造作もないことなのだ。だからこそ――

 

「だから、僕はもう少しあの人たちと一緒に行動しようと思います」

「エリオ?」

 

スバルがエリオのほうを向く。エリオは苦笑した。

 

「勿論海賊になるってわけじゃないし、ずっと一緒にいるわけでもありません。でも、あの人たちは、僕が目指すものを持っているような

 気がしたんです。もっといろんなことを経験して、立派な騎士になるためにも、学べることはいっぱいあると思います」

 

モックタウンで見た彼らの姿、目指す高み、自信に満ちた立ち姿と実力――エリオが憧れていたものを全て持っていた。

そんな彼らがエリオにはとても輝いて見えて、羨ましかった。

恐らくそんなに一緒にいられる時間はないだろう。だからこそ、学べるものは学びたい。

エリオの言葉を聞いて、今度はスバルが苦笑する。

 

「あたしも。ちょっと無茶してティアに怒られるかもしれないけど」

 

見ず知らずの人間を快く受け入れてくれた麦わらの一味。彼らが悪人にはどうしても思えなかった。

それにこの世界は自分の知らないもので満ち溢れている。好奇心が刺激されたのだ。

どうせ今すぐには戻れないし、逆にいつまでも滞在できない。ならこの状況を楽しむのも悪くない。

 

「おーいスバル―エリオ―、宴やるぞー!」

 

小屋からルフィが駆け寄ってきた。

 

「ルフィ」「ルフィさん」

「んあ?なんだ?」

「「しばらくお世話になります」」

 

スバルとエリオが揃って頭を下げた。一瞬目を丸くしたルフィだが、すぐに大声で笑った。

 

「なーにかしこまってんだ。オレたちもう仲間だろ」

 

有無を言わさずルフィが二人の腕を引っ張った。

 

 

――惨劇、そう呼ぶとしか言いようのない光景。

 

サウスバードと呼ばれる鳥を捕まえに麦わらの一味とエリオスバルがその場を離れていた時にそれは起こった。

マシラとショウジョウ、クリケットは重体に、小屋と船は破壊され、金塊は奪われた。

置き土産とばかりにベニヤ板に塗りつけられたマーク。昼間ルフィ達と出会ったベラミー一味のマークだ。

状況を把握するのは容易かった。酷く単純で――惨たらしかった。

 

(どうしてこんな酷いことが――)

 

エリオは怒りに拳を握る。スバルも眉間に皺を寄せ歯軋りした。

相手は海賊、こんな略奪行為を行うなんて意外にも感じないだろう。

ロビンは言っていた。ルフィみたいな海賊がまれであって大部分の海賊がこれなのだ。

それでも、こんな惨状を見せつけられて、心が静まるわけがない。

 

「朝までには戻る」

 

こちらからでは表情が窺えず、だが声色に怒気を込めたルフィが指を鳴らし、海岸に沿って走り始めた。

 

「あたしもいく!」

「僕も行きます!」

 

ルフィの姿に反射的に奏したのか、スバルとエリオもその後に続いた。

 

「待って二人とも!時間がないって言ってるでしょ!」

「行かせてやれよ、ルフィが遅れないためにも必要かもしれねェし、心配はねえだろ」

「そうだぜナミさん、ルフィ一人じゃどっか寄り道して遅れるかもしれねェ。そっちのほうが困る」

 

ナミが制止の声を上げたがゾロとサンジに宥められ、彼らの言い分もわかるので制止をやめた。

振り返るとロビンが三人が飛んでいった方向を未だに見つめている。

 

「あの子たち…きっとまっすぐ育ってこれたのね。目に純粋に正義感だけを映してたわ」

 

 

海岸線を疾走して行ってるルフィにバリアジャケットをまとったスバルとエリオはようやく追いついた。

 

「お前ら、どうしたんだ?」

「僕たちも行きます!連れていってください!」

 

勢いよくエリオは返した。

 

「いいよ一人で」

「ダメです!あのベラミーたちはクリケットさんたちを襲って大事な金塊を奪い取ったんだ!こんなことを許していいはずがないんだ!」

「だからあたしはあの海賊たちに――」

「スバル、エリオ」

 

彼らの声を遮って、ルフィが言う。

 

「ベラミーをぶっ飛ばすのはオレだ。手を出すなよ」

 

スバルとエリオは息を詰まらせて次の言葉が出せなかった。ルフィはそれ以上こちらを見ずに前だけを見た。

 

 

モックタウンに到着した三人はすぐに高い建物の屋根に陣取り、ルフィが大声でベラミーを呼び出す。

すぐさま酒場からベラミーが姿を現した。すぐにバネバネの力でひとっとびに屋根に飛び乗った。

 

「あれが……悪魔の実……!」

 

これまで見たこともない奇怪な能力にスバルとエリオは目を細めた。ルフィを表情を変えない。

ベラミーは厭らしい表情でこちらを視線で嘗め回す

 

「今お前の噂をしてたとこだ…今度はガキ2匹なんて連れてなんか用かァ?」

「クリケットさんの金塊を返せ!」

 

スバルが威勢よく叫び構えた。くっくとベラミーは笑う。

 

「返す…?返すも何も、あれはオレが海賊として奪ったんだ。同じ海賊のお前らにとやかく言われる筋合いはねェはずだぞ?」

「何をぬけぬけと……!」

 

エリオが勢いに任せて踏み込もうとしたのをルフィが手で制した。激情に震えるエリオとスバルとは違い、ルフィは一切表情を変えない。

 

「あるさ…おっさんはオレの友達だ。だから俺が奪い返すんだ!」

 

まるで最高のギャグでも聞いたかのように片手で腹を抱えてベラミーは笑い出した。

 

「ハハッハハハッハハハハ!聞くがお前、戦闘ができるのか!?パンチの打ち方を知っているのか!?ハハハハハハッハ!

 てめェみてェな腰抜けに何ができる!昼間みてェに怯えて突っ立っていても俺からは何も奪えやしねェんだぜ臆病者が!!」

「何を!ルフィさんはお前なんか相手にしていないだけだ!」

 

ベラミーの中傷に耐え切れずエリオがストラーダをベラミーに突き付けた。だがそれすらもルフィは制する。

 

「ルフィさん……!」

「エリオ、手を出すなって言ったはずだぞ。こいつをぶっ飛ばすのは、オレだ」

「でも…!」

「ほお…オレをぶっ飛ばす、だと?」

 

こちらを舐め切ったようなニヤケ顔のベラミーがこちらを覗き込む。ルフィはまだ表情を変えず答えた。

 

「そうだ。昼間の事は別の話だ」

「ハハッハハ!そうか…一体何が違うんだ!?じゃあ今度は、二度とその生意気な口を聞けねェようにしてやる!」

 

突如屋根が吹っ飛んだ。

ベラミーが蹴り飛ばすかのように跳躍した衝撃で建物の一部が吹き飛ばされたのだ。

エリオは慌てて崩れた態勢を立て直し、スバルは身を低くして横に飛びすがり、ベラミーの次の動きを見た。

一瞬の出来事だった。ベラミーが別の建物に飛び移ってきた時には弾丸のようにルフィに突っ込んでいく。

ルフィは回避するべくその場から飛びすがり、そのまま地上に頭から落下していく。

 

「ルフィさん!」

「エリオ、早く降りよう!ルフィが…え?」

 

無事に飛び降りたスバルとエリオはルフィの落ちた場所を見て驚いた。

ルフィが何事もなく立ち上がったのだ。あの速度、あの高さから、頭から落下して。

高いところから下衆じみた声が響く。

 

「ハハッハ!その程度で死んでいちゃァショーが盛り上がらねェぜ!〝スプリング・ホッパー”!!」

 

ベラミーの姿が掻き消えた。と同時に、町中が銃弾でも浴びたかのような爆音と衝撃が走った。

姿が見えなくなるほどの速さで飛び跳ね、攻撃に転じればどこからでも一瞬で終わらせられるだろう。

エリオは冷や汗をかきながらストラーダを下段に構え、相手の動きを探る。

スピード勝負なら負ける気は全くないが、初速というものがある。最高速度を保ち続けているベラミーの隙をつくのは難しい。

後手に回ってしまった以上、相手の攻撃をかいくぐり、凌ぎ、反撃するしかない。

スバルはシューティングアーツの構えをとり、相手の攻撃を探る。

持ち前の防御力がベラミーにどこまで通じるかわからないが、あんな奴の一撃にやられるわけにはいかない。

スピードはエリオもいる。一度受け止めてしまえばこちらが勝つ。

船医をむき出しにする2人をよそに、ルフィは前に出てまたも二人を制した。今度は何も言わない。

 

「友達だって!?ハハッハッハハハハ!」

 

跳び回るベラミーが更に卑しい声を上げた。四方八方から声がする。

 

「そういやおめェらもあのジジイもサルどもも同類だな!何が黄金郷!何が空島!笑わせるんじゃねェ!

 夢見る時代は終わったんだ!海賊の恥さらしどもがァ!!」

 

夢を見る時代は終わった…?その言葉にスバルとエリオは強い反発を覚えた。彼らもまた、夢のために走ってきたからだ!

自然と拳の力が入る。そこで初めてルフィが表情を変えた。

何を映しているかわからないような虚のような目でため息をつき、指を鳴らす。

 

「パンチの打ち方を知ってるかって…?」

「あばよ!麦わら――」

 

 

最初はルフィに向かうベラミーを止めるべく動こうとしたエリオ。

最初はルフィを討とうとするベラミーと叩き落とすべく拳を振るおうとしたスバル。

間に合わなかった。――否、必要なかった。

 

全ては一瞬のうちに決まった。

 

風の音だけが強く響く静寂。そこにいた一同はルフィを除いて状況が理解できなかった。

大男はハイエナのベラミー。懸賞金5500万の大型ルーキーで、たった今までショーと称してルフィに必殺の一撃をくれようとした海賊。

その男が倒れている。横っ面に拳の跡を残して。

そして、その拳の跡と全く同じ形をした拳から自分のものではない血を滴らせる麦わらの少年。

実に単純でありながら、ベラミーの海賊団には現実として受け入れきれなかった状況。

 

「……は!おい…冗談はよせよベラミー……!ナァ……!」

 

副船長のサーキースが明らかに狼狽えた様子で訴えかけた。倒れているベラミーに。

喋っている間に現実が理解でき初めて、だんだん声色に余裕がなくなってきた。

 

「……からかってんだろ…?何とか言えよ!オイ!サァ…立ち上がっていつもの〝ショー”を見せてくれよ!ベラミー!

 お前は5500万の大型ルーキーだぞ!」

 

もはや何の意味もない必死な言葉が静かなモックタウンに響く。

そんな言葉を無視してスバルとエリオは呆然とルフィを見つめていた。

 

「す、すごい…!」

「ルフィ凄い!今のどうやったの!?」

 

殆ど憧れの視線をルフィに注いだ二人。ルフィは何でもなさそうな様子でずれた麦わら帽子を直した。

あんな芸当は自分たちには無理だ。超高速でどこから突っ込んでくるかわからない相手を一発の拳だけで沈めるなど、常識技ではない。

あの速度で移動する相手よりも速く自分に届く寸前に一撃で仕留めるパワーを持って拳を振り下ろす。

下手をすれば六課の隊長たちですら不可能な芸当だ。

それを難なくやり、特に誇る様子も見せず、ごく当たり前のようにふるまうルフィに対して、二人の中で敬意が込みあがった。

 

「そんなことより今はおっさんの金塊が先だろ」

「「あ…」」

 

そこまで言って二人は最優先事項を思い出した。改めてベラミー海賊団に向き直った。取り乱した連中はぎょっとしてこちらを見る。

 

「おっさんの金塊、返せよ」

 

モックタウンについてから一度も変えなかった声色でルフィは言った。

一同は一斉に一目散に逃げ出した。悲鳴を上げ、中には転びながらもその場を離れようとする。

視界からいなくなったルフィたちは聞くのをあきらめ、奴らが出てきた酒場に入っていった。

金塊はすぐに見つかった。まるで戦利品のように酒台に置いていて、包まっている袋が酒臭い。

 

「お、あったあった」

 

ルフィはそれの中身を空け、金塊が入っていることを確認して、すぐさま背負った。

酒場を出たルフィたちはモックタウンを離れるべく歩き出す。

 

「待てェ!麦わらァ!」

 

背中から震え交じりの怒号が聞こえた。エリオとスバルはぎょっと振り返ったが、ルフィは頓着せず歩き続ける。

 

「まだ俺がいるだろうが!かかってこい!俺たちが夢見がちなバカに負けるわけねえ!テメェどこに行く気だ!」

 

サ―キースが大きなナイフを抱えてこちらに走り出した。スバルとエリオは構える。

そこでルフィが言った。

 

「スバル、エリオ、オレの〝ベラミーとの”ケンカは終わった。好きにしていいぞ」

 

サ―キースが大型ナイフを大きく振りかぶった。

 

「ビッグチョップ!!」

 

先ほどのベラミーに比べたらよほど大したことない相手だ。何より相手はビビっている。この程度、魔法を使うまでもなかった。

拳一つだけでその場を収めたルフィのように。

シグナムやゾロに比べたら拙い得物の使い方だ――そう思ったエリオはすれ違うように突きを見舞う。

金属どうしがかすり、回転を続けていたサ―キースの体制がわずかにずれた。――それだけで十分だった。

スバルはリボルバーナックルを動かさず、大胆に踏み込み、脇腹に拳をつく。振動拳の要領でヒットと同時に止め、体中に衝撃を与える。

 

「かはっ……!?」

 

たまらず身体をくの字に折り曲げて脂汗を額にびっしり浮かべたサ―キース。そんな相手にスバルは凍えるような声をだした。

 

「人の夢を嗤うような奴は、あたしは絶対に許さない」

 

拳をひっこめる。同時に腹を抱えて苦しみだすサ―キース。

そこでふとルフィがこちらを見た。

 

「どこに行くかだって?決まってんだろ。空だ」

 

 

空への出発には間に合った。

時間があるし虫取りに行こう、と言い出すルフィを、時間が迫っているとスバルとエリオが引っ張った。

ゴーイングメリー号が改造され、猿山連合軍は待機状態、準備は万端だった。

船に乗り込み、そのまま順調に空の旅が始まった。途中で多少のごたごたはあったが、それはまた別の話。

 

ノックアップストリーム。

 

それが空への道だ。海から爆発するかのように空へと突き上げる海流の名前だ。

その突き上げる海流と爆発的に吹く上昇気流によって飛ぶ船。航海士ナミの腕前で成せた奇跡だ。

スバルは目の前で起きている現実がにわかに信じられない。何もかもが自分の常識を全て覆す出来事だ。

今も、何千年と姿を変えない超巨大な大雲に突入しようとしている。あの上に何があるのかわからない。

だが、またも自分の常識をひっくり返す出来事が起こるのは間違いないだろう。

 

「エリオ!私たち、すっごい世界に飛ばされたね!」

「はい!」

 

エリオは勢いよく返した。

こちらの世界に来たのが昨日の朝なのに、これまで生きてきた10数年からでは考えられないような出来事が起きた。

 

常識から疑う魔の海グランドライン。

海賊が支配する時代、大海賊時代。

夢を追い求める海賊に、嘲笑う海賊。

毎日を必死で生き、人情溢れた麦わら海賊団。

そしてルフィの器の大きさ――

 

何もかもが六課でも味わえなかった摩訶不思議な体験ばかりだった。

六課が自分たちを見つけてくれるのを待つしか帰る方法はない。だけど、もう少しでいいからこの人たちと一緒にいたい。そして、この人たちが見たものを共有したい。

間違いなく自分たちのかけがえのない経験になる。

 

スバルとエリオは無邪気に突っ込んでいってる雲を見上げているルフィの背中を見た。




前の投稿が一か月前だと…
もう面倒かつアクション薄目で面白くないんでジャヤ編はこの話までで終わりにしました。次回からはメインの空島編です。
相変わらず不定期なので今後ともよろしくお願いします。

キャラが微妙に合ってないかもしれないので一度なのはsts見直して修正しようか思案中。


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神の国スカイピア編
雲の上にて


雲…それははるか上空に集まった水滴または氷の粒。物体が乗ることなど有り得ない。
動力があるわけでもない。地面があるわけでもない。
そんな摩訶不思議な世界を、この海では当然の物のように扱う者たちもいる。


「おい!みんな見てみろよ!船の外っ!!」

 

全員が倒れている中、船長のルフィがまず声を上げた。

ノックアップストリームによって積帝雲に突っ込んだゴーイングメリー号フライングモデル。

その辿り着いた先が――一面真っ白な白世界だった。

 

スバルとエリオは勿論、麦わらの一味と全員が目を丸くした。

 

まさにお伽噺ですらないような夢ですら見ない一面真っ白な世界。雪国でもここまで白い光景にはならないだろう。

雲とは水蒸気の塊――物体が乗ることができるなどありえない。

だが確かに乗っているのだ。この白い海に、船が。

 

「どういう原理かわからないけれど……つまりこれが、雲の海ってわけね」

 

ナミが現状を確認し、結論を出した。

 

「見て、ログポースはまだこの上を指しているわ」

「ということは、ここはまだ積帝雲の中層って言ったところかしら」

「まだ、上があるってことなんですか?」

 

エリオは頭上を見上げた。一面とは言ったが当然上も青空が見えず真っ白だ。

上に行ける手段があるかはともかく、〝島”はまだ上のほうにあるということだろう。

その時、ウソップが船から海に飛び込んだ。

 

「どうしたんですか?」

「ウソップの奴がさっそくこの海で泳いでみようってよ。ったく得体が知れない海だってのに」

 

サンジが呆れたようにぼやいた。

しばらく経っても、ウソップは上がってこない。一同が心配そうな顔になり、スバルが代弁する。

 

「どうしたんだろう。おぼれたのかな」

「ねえ……ちょっと待って」

 

先ほどまで座っていたロビンが焦ったように汗をかきつつ、ウソップが飛び込んだところを眺めた。

 

「上空に飛んでいるのよね……だとして、この海に〝海底”なんてあるのかしら」

 

一同は血相を変えた。

 

「まさか…!」

 

そもそも雲に底など存在するはずがない。あるとして――そこから自分たちは突き破ったのだ。

ならば――

 

「あの野郎!雲から落ちたのか!」

「だから言ったんだあのバカ!」

「ウソップ―っ!」

 

ルフィが無我夢中で腕を伸ばそうとする。

 

「待ってルフィ!あたしも一緒に!」

 

スバルがバリアジャケットを見に包み、ルフィの腕に捕まる。

海面から全く海の中が窺えず視界が悪すぎる中、あてずっぽうで腕を伸ばすより、ある程度感知できる自分を飛ばしたほうがいい。

ウソップは魔導士ではないから感知がやりづらいが、何もないよりははるかにましだ。

説明する時間も惜しかったし。ルフィも説明を求めなかった。すぐさまスバルの捕まった腕を勢いよく雲の海に伸ばした。

 

「頼むぞスバル!」

「わかった!」

 

ルフィの伸びる腕に捕まりながら凄い勢いで雲の中を突っ切るスバル。

予想通り、いや予想以上に視界が悪すぎる。その割に抵抗が本来の水より遥かに少なく、勢いよく突っ切れる。

だがウソップの姿はどこにもない。やはり落ちてしまったのか?

しばらくすると雲をついに突き抜けた。そこはノックアップストリームで飛び込む前の積帝雲の下の、上空だった。

すぐさまスバルは見回してウソップを探した。すると悲鳴を上げながら落下していってる。

 

「相棒!」

『ウィングロード』

 

すぐさま青いウィングロードがウソップまで伸び、スバルも走る。見事キャッチし、脇に抱えて戻ろうとした時、スバルは気が付いた。

ルフィの腕が伸び切っていたため、戻り始めている。

ゴムの特性を持った能力ならば当然のことだろうが、タイミングが悪すぎた。

急いで戻りルフィの手に捕まろうとして、手を伸ばし、掴めなかった。このままじゃ――

一瞬絶望しそうになったスバルの腕を掴む手があった。

 

「これは…?」

 

ルフィの手ではない。ルフィの腕から生えた手だ。よく見るとルフィの手首に目が付いている。

更に何本も生えて、スバルを掴む力が強固なものになった。この能力はモックタウンでスバルが見たロビンの力だ。

スバルもロビンの手を強く握り返す。ルフィの戻る腕に連なる形でスバルも引っ張られた。

雲の中を戻る中、スバルの体に絡みつく太いものがあった。

 

(な、なにこれ!?)

 

巻き付いたそれも一緒に引っ張り上げられる。そのまま雲の海を脱出し、巻き付いたものを見て、驚愕した。

超巨大なタコと、ウミヘビだ。

 

 

引き揚げられたスバルを見て、一同は歓声を上げ、一瞬で悲鳴に変わった。

 

「よし上がっ……いやああああああああ!」

「何かついてきてるぞ!」

「スバルたちを食う気だ!」

 

戻ってきたスバルがすぐさま船に着地した。ウソップをチョッパーのほうに持っていく。

 

「チョッパー!ウソップをお願い!」

「ギャアアアアアア…お、おう、任せろ!」

 

悲鳴を上げていたチョッパーがウソップの治療を始める。

代わりにゾロとエリオが前に出る。

 

「そうビビるもんでもないだろ……エリオ!長い奴を頼むぞ!」

「はい!」

 

今にも船に手(足)を伸ばそうとするタコにゾロが切りかかった。

すると、風船が割れるかのように足がもげる。

 

「なんだこりゃ!」

 

驚くゾロを見て、エリオは目の前の巨大ウミヘビを見る。今にもこちらに噛みついてきそうだ。

 

『ソニック・ムーブ』

 

ひょいとかわして、真下を素通りさせる。そのままエリオは空中で腰だめに構えた。

 

「紫電一閃!」

 

雷撃を込めた拳を振り下ろした。電撃を浴びた巨大ウミヘビは雄たけびをあげてノびた。

船に着地したエリオは、その時感じた身体の異変に気が付いた。

 

(なんだ……疲れてる?)

 

何でもない攻防だったはず。機動六課での訓練メニューを長くこなしてきた自分がこの程度で疲れを感じるはずがない。

ゾロのほうを見やると、彼もまたただ一撃を見舞っただけなのに息を切らしていた。

嫌な予感を感じたエリオに畳みかけるように、ウソップを寝かせた後双眼鏡で海を眺めて板チョッパーが悲鳴を上げた。

 

「チョッパーどうした?」

「牛が四角く雲を走ってこっちに来るから、大変だ~~~!」

「わかんねぇおちつけ」

「なーに言ってんだ」

「ちょっと待って!みんなあっち誰かが近づいてる!」

 

スバルが先ほどまでチョッパーが眺めていた方角を指さした。すると仮面を被った何者かがこちらに襲い掛かってくる。

猛スピードで雲の海を走り、片手にはバズーカ砲を持っている。明らかに戦う気満々だ。

そいつは一言だけ喋った。

 

「排除する」

 

やる気らしい。一味は臨戦態勢に入る。

エリオもストラーダを構えた。やはり妙に体が重い。だがそうはいってはおれない。

仮面の男は船についた途端、とても軽い動きでこちらに向かってくる。対処できる速度――なのに身体が何故かついてこれない。

エリオはそのままなすすべもなくストラーダごと蹴り飛ばされた。

 

「エリオ!」

 

スバルとサンジがこちらに向かおうとして、同じく仮面の男に蹴り飛ばされる。

ゾロもルフィも同じく腕を振るうことさえなくあっけなく蹴倒された。

相も変わらず軽い動きで船を離れ、バズーカ砲の方向をこちらに向けようとして、それを何者かに邪魔された。

 

「何!?今度は誰!?」

 

すっかり涙目のナミのその言葉に答えるかのように軽やかに船の上に着地した者が答えた。

 

「ウ~~~ム、吾輩、空の騎士!」

 

槍を持ち、甲冑に身をまとった老人だった。

 

 

仮面の男が退いていくのを見届けた老人がこちらを向き、質問した。

 

「おぬしら、青海人か?」

「なにそれ?あなたは誰?」

「吾輩は空の騎士。青海人とは雲下に住む者の総称だ。つまり青い海から上ってきたのか」

「ああ、そうだ」

 

ルフィが答える。

 

「そうか…ならば仕方あるまい。ここは青海の遥か7000mの上空にある白海。

 更にこの海の上層にある白々海に至っては一万mにも至っているのだ。通常の青海人では身体が持つまい」

 

嘆かわしそうに空の騎士が言う。

なるほど、ならば身体が妙に疲れていたのもわかる。空気が薄いのだ。それほどの上空にいて身体が普通通りに動くはずがない。

エリオは拳を握り、そして開く。

するとルフィが呼吸を整えているかのように息を吸い込む。

 

「よ~し……だんだん慣れてきたぞ」

「そうだな。さっきよりだいぶ楽になってきた」

「いやいやいやいや、ありえん」

 

こうして空の騎士と名乗る老人との交渉(?)が進み、何故か一度だけ助けを求められるように話がまとまっていった。

そして空の騎士が去っていった。

 

「結局何も教えてくれなかったわ」

「振出に戻ったな」

 

結局一同は状況を打破するべく船を進めて上に上がれる場所を探そうという意見でまとまった。

微妙に手持ち部沙汰になったエリオはゾロに尋ねた。

 

「ゾロさん」

「どうしたエリオ」

「僕まだこの空気の薄さに慣れなくて…なにかコツ、ないですか?」

「なんだそんなことか」

「あ、あたしも聞きたい!」

 

スバルも食いついた。サンジがからかう。

 

「よせよせ。どうせこのマリモのことだ、筋肉で何とかするとか言い出すんだろ。参考になりゃしねえ」

「うるせェ」

「どんな風にやるの?」

「どんな風にっていうか…まず空気が薄いことを意識することだな」

 

ゾロが拳を握る。

 

「単純だがまずはそこからだ。水も慌てて飲むと喉を詰まらせるだろ。同じように身体を動かすには酸素がいる。

 そいつを身体の中でコントロールするようなイメージを持てばいい」

「コントロール…?」

「酸素の消費に合わせて、身体をどんな風に動かすかのイメージを作ればいい。後は慣れだ。早い話が〝呼吸を知る”ことだな」

「呼吸を知る……」

「難しいかもしんねえな。実際オレもつい最近までよくわからなかった。だがな、ある意味戦闘行動の奥義みたいなもんだ。

 どんなものにも呼吸ってものがある。無機物にもな。だがまずは自分の呼吸を知ることだ。そうすれば他の呼吸もわかるようになる。

 時間がたてばある程度は慣れるだろうが、空気の薄さ自体は変わらねェからな。どう動けばいいかわかってくるだろ。

 言葉ではこれ以上説明しにくいな。あとは自分で考えて慣れるこった」

 

そういってゾロは立ち上がった。取り残されたエリオとスバルは顔を見合わせた。

今の話がどういう意味なのか、よくわからなかった。空気の薄いことを認識するのはいいが、呼吸そのものを知れとは。

だが、六課でも聞かなかったことを二人は強く噛み締めた。

しばらくすると雲の滝が見えてきた。そこには巨大な門もあった。

 

「HEAVENZ'S GATE…〝天国の門”だと……」

「縁起でもねえ……まるで死にに行くようなもんじゃねえか」

「……いや案外オレらもう全員死んでるんじゃねえか?」

「ははっそうか、ならこのおかしな世界にも納得がいく」

「ええ!?オレ達死んだのか!?」

「確かにその方が納得はいくかも……まだ死にたくないけど」

「僕もです」

「おいあそこ、誰か出てくるぞ!」

 

ウソップが門番の側面を指さす。すると羽をつけた老婆がカメラを持ってこちらを撮っている。

 

「観光かい?それとも戦争かい?まあどちらでもいいさ。ここを通りたければ一人10億エレクトル置いて行きな。それが法律」

 

法外な額に聞いたことのない通貨で入国料を提示した。

 

「え、えと、もしお金がなかったら……?」

「通っていいよ」

「そうだよな~っていいのかよ!」

 

ウソップが突っ込む。入国料をせしめておいて通っていいとはどういうことだろうか。

すると老婆は何やら含みがある物言いで続けた。

 

「それに、通らなくてもいいよ。あたしは門番でも衛兵でもない、アンタたちの意思を、聞くだけ」

「……?まあいいや。じゃあ行くぞオレ達は空島に!金はねェけど通るぞばあさん!」

「そうかい。――9人でいいんだね」

 

老婆がそう言った途端、下から巨大なエビがゴーイングメリー号を持ち上げた。

 

「うお、なんか出てきた!動き出したぞ!」

「滝を登るつもりか!まだまだ上に続いてる!」

「どうなってんだこりゃ!雲が帯状になって川みてェだ!」

「とても自然でできたようには見えないわ」

「自然じゃねえだろこんなもん!」

「こんな世界があるなんて……!」

「空ってすごいですね!」

「ヤッホー!」

 

一味は勢いよく上層めがけて突っ切っていった。

 

 

「天国の門」監視官アマゾンより

全能なる〝神”及び神官各位

神の国〝スカイピア”への不法入国者九名

〝神の裁き”にかけられたし




デバイスは日本語で統一しようと思います。
英語にしようかと思ったけれどワンピースの世界は基本世界共通だし変だと思ったので。


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空の島

青い海に住む人間には想像ができないだろう。
雲の上に文化を作り上げている存在のことなど――。


「見ろ、島だ!空島だ~!」

 

雲の道の出口で巨大なエビに投げられた先は、神の国スカイピアという島だった。

真っ白な雲の地面に幾つかの植物や道、建物がある。紛れもない島だ。ルフィとウソップとチョッパーは船が着くなり真っ先に飛び移った。

サウスバードを放したナミが置いてあった地図を持ちだす。

 

「航海士さん、スカイピアって」

「えぇ、ルフィが見つけた地図にあった名前よ。空から降ってきたあのガレオン船も200年前にこの島に来ていたのね。

 あの時は正直こんな空の世界想像もできなかったけれど……」

 

浅瀬に向かってナミは飛び降りた。

 

「ハハ!ほら、体感しちゃったんだもの、疑いようがないわ!エリオ、スバル、アンタたちも早く来なさいよ!」

 

満円の笑みでナミが手を広げる。

 

「は、はい!」

 

エリオは未知の海と陸に興奮を隠せず、しかし多少の不安もあり、ごくっと唾をのんで飛び込む。

雲は普通の水よりも抵抗が少なく、それでいて感触が気持ちいい。水の下にある島雲が海雲があるにも拘らずフカフカしている。

これまでの人生で感じたことのない経験にエリオが歓喜に顔をほころばせた。

 

「凄いです!こんなに不思議な体験、初めてです!」

「フフ、私もよ。じゃ、行きましょ?」

 

ナミがエリオに手を差し出した。エリオはその手を握って丘のほうに走る。

その光景を見ながらロビンが遠くを見るような目をした。

 

「航海や上陸が冒険だなんて、考えたこともなかった……」

 

飛び降りようと階段を下りたロビンは、何かと足の見ているスバルがいたのに気が付いた。

そういえばまだ船から降りていなかったようだ。

 

「あら、何をしているのかしら?」

「いや、ちょっと、マッハキャリバーで海雲や島雲を走れるのかなって。相棒、いける?」

『わかりません。保証は出来かねます』

「頼りないな~。まあ試してみよっか!」

 

スバルは跳躍し、海雲に飛び込む。先ほどはルフィの腕に捕まって海雲の中を突っ切っていったが、今度は自分で走れるか。

マッハキャリバーは応えた。海雲に滑るように着地し、そのまま滑走する。

 

「あはっ!いけた!」

「アラ…」

 

ロビンは少し驚いたようにスバルを見た。

一方先に陸に上がった彼らは既に空の世界を楽しんでいた。

 

「この椅子、雲でできてるわ。やっぱり雲を形成する技術でもあるのかしら」

「すげー。フカフカ雲と違ってマフっとしてるぞ!」

「曇ってこんな風に固まるんですね…」

 

エリオはナミとチョッパーが座っている白い雲でできた椅子を指でつんつんついている。

ビーチのほうでサンジたちの声がした。

 

「天使だ!天使がいるぞ!」

「て、天使!?」

 

これほどまでに常識外れの物を見せられて信じない方がバカらしくなってきたが、エリオはまたもすっとんきょうな声を上げた。

そこには白い肌をしたきれいな女性が立っていた。

 

「あ、あなたは?」

「私はコニス、何かお困りでしたらお力にならせてください」

「知りたいことがたくさんあるのよ。ここは私たちが知らないことだらけで」

「何でも聞いてください」

「ナミさん!危ない!」

 

コニスに話しかけてたナミの背中をエリオが押す。

そのすぐ近くをバイクのような船に乗った中年が乗り上げてきて――大樹に激突し、止まった。

 

「みなさんお怪我はありませんか」

「いやお前がどうだよ」

「コニスさんのお友達でしたか。私はパガヤと申します。これからうちに来ませんか。空の幸をご馳走しましょう」

 

一同は喜んでその申し出を受け入れた。その中でナミだけ別の物に興味を示していた。

パガヤが乗っていた奇妙な船だ。

 

「その前に聞いていい?これどういう仕組みなの?どうやって海を走ってるの?」

 

 

「降りろ~沈め~」

「ガキか!」

 

パガヤが乗っていた乗り物、操縦が難しいと言われるウェイバーを乗りこなすナミに罵声を浴びせるルフィ。

まるで路上を走るバイクのように優雅に走るナミはウェイバーを気にいったようだ。

 

「おじさんこれもう少し借りてもいい?」

「ええ構いませんよ」

 

パガヤの了承を得て、ナミは更に沖のほうにウェイバーを進めていった。

 

「ナミさーん!」

「スバル!?」

 

後ろを振り返るとバリアジャケットを装着したスバルが同じように雲を滑るかのように走っている。

 

「あんたのそれ、雲の上を走れるのね」

「はい!ウイングロードの上を走る要領で乗ってみたら走れたので」

「そう…ねえ、どうせなら付き合ってよドライブ。ちょっとあっちのほうまで行ってみない?」

「はい!」

 

ウェイバーを走らせ、その後をマッハキャリバーが追う。

周りから見た島は、建物が色々建ち、雲を切ったりと作業をしている人たちがいる。

どれもコニスたちのように独特の髪型と背中に小さな羽をつけている。

 

「民族衣装かしらね。それとも空に住み続けていたら生えるのかしら」

「本当に雲を加工しているんだ……凄い世界だなぁ……あれ?」

 

進んでいく先にスバルは奇妙なものを見つけた。

 

「ナミさん、あっちの島…地面がありますよ」

「え?空の上なのに……?」

 

近づくにつれて、その島がスバルのいう通り空の上にあるはずのない地面でできた島に辿り着いた。それだけではない。

 

「気がおっきい…てっぺんが見えない」

「どれもでかいわね。樹齢何年くらいになるのかしら。1000年くらいは立たないとここまで大きくはならないわよね」

 

まるで太古の森のように巨大な植物が根付いている。猛獣や怪鳥の鳴き声も聞こえてきて不気味さを増す。

いや――

 

「声?それに……衝撃音?……それに…だんだん近づいてる?」

 

スバルは敏感に森から聞こえる音を拾う。

ナミも何か不吉なものを感じ取ったのか、ウェイバーのハンドルを切り始めた。

 

「気味が悪いわね…ここはすぐにも離れましょう」

「は、はい…ナミさん!」

 

スバルはすぐさまナミに飛びかかった。ナミは何が起こったのかわからないままスバルに抱かれるように移動した。

刹那、背後から発射された砲弾がスバルたちのいた空間を貫き、地面の島で炸裂した。

 

(――いや!何かを狙って撃っていた?)

 

スバルは背後にいたのがゲリラなことに気が付いた。ただそのゲリラはこちらを見ずに、着弾して煙を巻き上げている部分を見ている。

どうやらこちらに気にかけている様子は一切ないようだ。

 

「ちょっと、なに!?何が起きてるの!?」

 

ナミが混乱して少し涙目になっている。

スバルは何かを感じ取ったようにナミを制する。

 

「静かに!誰か出てきます!」

「え?え??」

 

しばらくして、煙の中から誰かが出てきた。そいつは怪我をしていて、しかし他の空の住人と違い背中の羽が見当たらない。

その男はナミたちを見つけた途端、必死に声を絞り出した。

 

「ナァ…頼む、助けてくれ!乗せてくれ!さっき船に乗り遅れたんだ…!礼ならいくらでも……」

「え、え、でもこれ一人乗りで、乗れるかな……わかんない」

「わ、わかりました。すぐに助けます!」

 

スバルは勢いよく返事を返した。

 

「ちょ、ちょっとスバル!?」

「怪我をしているんです。ほっとけません」

「もう、得体がしれないって言うのに……仕方ないわ」

「た、助かる。恩に着る……って、うわ!ゲリラ!?」

 

男はスバルたちの背後にいたゲリラを見て恐怖の声を上げた。それとほぼ同時だった。

天から一条の光が男の上に降り注ぎ、地面ごと男を焼き尽くした。

 

「クソ、エネルめ!よくもヴァースを!」

 

そう毒づき、滑るかのように方向転換してその場を去って行った。

余りの出来事に二人は放心状態になった。

 

「なんなのよ、今の光は……」

「あんなことができるなんて……ナミさん」

「今度は何よ……」

「島のほうから誰か来ます。隠れましょう」

「え?え?」

 

状況が整理できていないナミの腕を引っ張り、島のほうからは死角になる位置まで移動した。

すると島のほうから声が聞こえてきた。複数の男の声だ。

 

「今の男…さっき誰かと話をしていたようだが……?」

「ゲリラだ。今逃げた。命を乞うていたのだろう」

「――しかしエネル様も一体どういうおつもりか……自分でカタをつけるとは。我々は何の為に……」

「時間切れという事だろうよ」

『時間切れ?』

「次の〝不法入国者”が既にこの国に侵入している」

「またか」

「青海人を〝九人”乗せた船だとアマゾンのばあさんから連絡があった」

 

ナミとスバルはドキッと身を震わせた。

 

「九人……って言ってましたね。これってどう考えても……あたしたちのことですよね」

「不法入国…!?確かにお金は払わなかったけど……でも通っていいって」

「しっ静かに」

 

男たちは踵を返し始めた。

 

「フン。たった九人とは手応えがない」

「四では割り切れんな」

 

しばらくして声も足音も聞こえなくなったから、二人は溜息をついた。

 

「とにかく戻りましょう。早く知らせないと」

「そうね……得体が知れないし、早く動いたほうがいいわね」

 

スバルとナミはエンジェルビーチのほうに転進した。




引っ越しで遅くなりました。

とりあえず原作と同じ展開はできるだけ飛ばす方向で。
次でアッパーヤードまで行けるといいな。


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神の裁き

己の行動に罪を感じた時、人は最も弱くなる。
それこそ、迷える子羊――


「私たちハメられたんだわ!あのお婆さん言ったじゃない『通っていい』って!それで通ったら『不法入国』!?詐欺よこんなの!?」

「全くだぜ。――まああそこでダメだと言われててもどうせ力づくで通っていただろうってことは置いといてよ」

「お黙り!」

「いや通るんですか!?」

 

ホワイトベレーを名乗る空の刑事組織を撃退した一同。

彼らの言い分は、「不法入国」をしたとされる九名の者たちを捕えに来た、ということだ。勿論この九名は麦わらの一味のことである。

当然のことながら「通っていい」と言われたから通っただけの彼らにしてみれば理不尽極まりない言いがかりである。

更に入国費の十倍の額の罰金を払えばいいと言われ、余りの額に戻ってきたナミが反発し、事態は一気に変わる。

武力をもって制圧しようとしたホワイトベレーを苦も無く撃退し、同時にこれで空島へのれっきとした犯行となった。

ともかくこれで空の国からお尋ね者になった一味は早めにこの場を離れることを選んだ。

 

「おっさん、飯一品残らず全部持って行っていいか」

「ええもちろんどうぞ」

「サンジ、弁当!」

「抜け目ねえな」

「そういえばあたし、こっちに来てまだ何も食べてないなぁ」

「そういやそうだったな。スバルちゃんの分も弁当作っておいてやるよ」

「ありがとう!」

 

ウソップは備品をもらいに行き、ルフィとスバルとサンジは弁当をこしらえるために家のほうに向かった。

彼らの後ろ姿を見たナミは恐怖に顔を青ざめている。

 

「あいつら本気で行くつもりだわ!本当に怖いのよ!」

「知るかよ。どっちでもいいからオレに当たるな」

 

ゾロは船に上ると同時に昼寝を始めた。

 

「ねえロビン、二人でルフィを倒さない!?」

「無理よ」

「もう!せめてスバルがいてくれれば少しはわかってもらえるのに!」

「あの……何かあったんですか?」

 

嘆いてるナミにエリオが話しかけた。途端ナミは新しい協力者を得たような笑顔でエリオに寄った。

そのテンションにエリオは少しタジタジになった。

 

「エリオ!エリオならわかってくれるわよね!」

「……何をですか?」

「神よ神!あの島!本当に怖いんだから」

「何があったんですか?」

「あの島で、人追われてて、そしたらドーンって、ドーンって!」

「……」

 

あまりに抽象的かつ乱暴な言い回しに曖昧な笑みを浮かべながら、エリオはその島のある方角を見つめた。

先ほど一味と一緒に食事をしていた時に感じた、雷の力。電気変換資質を持つエリオだからこそ感じ取れた力。

逆にいうとかなり距離があるというのに感じられたほど巨大な力。

ナミとスバルが見たものが分からないが、これほど取り乱している以上その力を間近で見たのだろう。

それでもエリオはその場を収める方向で動いた。

 

「まあ、乗せてもらっている僕が船長のルフィさんに意見するのもおかしな話ですし、従うしかないと思いますよ」

「酷い!味方がまた一人……うわっ」

 

突如、船が不規則に揺れた。いや、動いた。後ろ向きに。

 

「ちょっと待って!何これ!?」

「アアアアアアアアア!?」

「エビ……!?」

 

エリオは船の下を覗き込んだ。

船が動いているのではなく、巨大なエビが船を持ち上げているのだ。額にGODと書かれている以上、野生の物ではない。

昼寝から飛び起きたゾロが素早く指示を出す。

 

「オレたちをどこかに連れていく気だ!全員船から飛び降りろ!まだ間に合う!」

「船を持って行かれたらどうするんだ!?」

「オレが残る!」

「待ってください!もう間に合いません!後ろを見てください!」

「何!?――チィッ、用意周到なこった」

 

後ろから大型空魚が牙をむき出しにしながら襲い掛かってきている。飛び込んだところで餌食になるだけだろう。

 

「手が込んでますね。ということは」

「恐らくもう始まってるのね」

「天の裁き…か。上等じゃねえか」

「じゃあ、またあの島に!?」

 

ゴーイングメリー号は運ばれていく。先は白く、まだ見えない。

 

 

「あいつら……どこ行ったんだ?」

「恐らくアッパーヤードの北東、生贄の祭壇です」

 

パガヤの言うことをまとめるとこうだ。

まず先ほどの5人と船は生贄の祭壇に贈られた。生贄という名前だが実際は人質ということで、実際に裁かれるのはここにいる四人ということ。

祭壇へは島を回り込むことが、島全体を張り巡らしている雲の川に阻まれてできず、正面から雲の川を渡っていくしかないということ。

試練と称して、実力者揃いの四人の神官の相手をしなくてはならないこと。

そして神・エネルが存在すること――。

 

一味が出発の準備を始め、コニスが外に出た時、スバルは中に残っているパガヤに尋ねた。

 

「パガヤさん、ちょっといいですか?」

「はい、どうしましたか?」

「神・エネルってどういう人物なんですか?」

 

作業をしていたパガヤの手がピタッと止まった。

 

「全能な方です。このスカイピアをまとめる神であらせられます」

「……」

 

パガヤの顔色は特に変わらなかったが、多少こわばっていたのをスバルは見た。それ以上は何も言わず、家の外に出た。

アッパーヤードでナミと共に見た、あの光、間違いなくその神の力に違いない。

魔力は一切感じなかった。恐らくこの世界の特有の能力、つまり悪魔の実の能力だとみていいだろう。

ホワイトベレーの人たちがその存在を知っていた。きっと間違いない。

 

ただスバルの中で、あの光には恐怖ではなく反発を覚えた。それは彼女自身の過去に少し似ていた光景だからだ。

絶望の中を照らす希望の光。かつて自分の進むべき道を示してくれた、あの高町なのはの光。

あの光は自分だけではなく、多くの人の希望の光として、不屈の光として、人を照らした。

だがあのアッパーヤードに降り注いだ光の力は状況は似ていたのに本質は全く逆の物だった。絶望を無に帰す無慈悲な光。

それがスバルの心のしこりとして残ってた。

 

「おーいスバル、行くぞー」

「すぐ行く」

 

スバルは荷物を抱えて飛び出した。

 

 

スカイピアの繁華街、ラブリー通りを闊歩する一味。

住民たちは明らかに不安そうな顔をしつつ避けていってる。

おかげで活気あるように見える繁華街も一味が通った後だけ妙に静かになっている。

 

「ナァ……オレたち完全にさけられてねえか?」

「あァ……もうオレたちが犯罪者だって知れ渡っちまってるんだろうよ」

「そうかなァ……」

 

挙動不審になってるウソップに意気消沈としているサンジを見て、スバルは周りを見渡す。

自分たちを恐怖しているならわかる。管理局員としては犯罪者と思われるのは少し引っかかるものがあるが、それは当然の感情だ。

だけどここの空の住人の表情は自分たちではない何かに怯えているような、何か余計なことを言わないように息を潜めているような感じだ。

もし犯罪者を見ているなら、逆に騒ぎになったり、逃げたりといったアクションをとるだろう。

なのにまるでタブーを破らないような慎重さだ。というより、何か悪事に加担しているような後ろめたさか。

そしてスバルが一番気にしているのは、今一味を先導してくれているこの女性――

 

「カラス丸です」

「水鳥ですらねぇ…」

 

船置き場まで来た一味。

 

「出口は2番ゲートです。アッパーヤードににつながる巨大なミルキーロードへ出られるので……そこを通るだけです……」

「コニス……さん」

 

丁寧に説明してくれているコニスが喋り終わったタイミングでスバルがすかさず声をかけた。

 

「は、はい」

「ここを出てからずっとでしたけど……どうしてそんなに、怯えているんですか?」

「……!?」

 

コニスは一瞬震え、顔色が変わった。

 

「そ、そう見えますか……?」

「そういやそうだな……何にビビってんだ?」

「オレたちのこと心配してくれてたのかな~~いじらしいな~~」

「おい。――だけどよ、お前らこそ大丈夫なのか、町の連中明らかにオレらのこと避けてたのに、こんなに丁寧に案内してくれて、

 船まで貸してくれるなんてよ。オレたちと共犯になっちまうんじゃねえか?」

「恐かったのか?だったらオレらだけでよかったのに」

「いえ、いえ……」

 

一向に目を合わせようとしないコニス。過呼吸を起こしてるように呼吸が激しくなっている。

 

「私、違いますよ……!」

 

ようやく絞り出た言葉がそれだった。たったそれだけの言葉。

だが周りで自分たちを傍観していた町の住人たちが一斉にどよめいた。

 

「変……ですよね……試練の「ルート」を丁寧に教えたり、ここまで自ら案内したり……まるであなたたちを誘導したみたい……」

 

ルフィ、ウソップ、サンジ、スバルにはまだコニスが何を言いたいのかよくわからない。

だがその言葉を発した途端、どよめいていた住人たちが一斉にやめろ、と叫び始めた。

それでもこちらと目を合わせようとしない。

そして、膝をくっし、顔を下げたコニスの次に発した言葉が決定的になった。

 

「逃げて……くれませんか……!?」

 

4人はようやく理解した。そして状況が一変した。

住民たちから怒号が上がりやめろ、取り押さえろ、神への冒涜だの騒ぎ始めた。

その言葉を皮切りに、コニスはまるで溜めこんでたようにぶちまけた。

 

「ごめんなさい!あの〝超特急エビ”を呼んだの、私なんですよね……!?」

「!?」

「なんだって!?」

「犯罪者を確認したら、裁きの地に誘導しないと、私たち殺されてしまうから、これが国民の義務なんですよね!

 ごめんなさい!こんなの、おかしいですよね……!何もかも!」

 

この時、スバルの中にあった心のしこりが、強烈な反発となったことを実感した。知らずのうちに拳を握りしめる。

 

(これが〝神”のやり方……!)

 

先ほど自分は、過去になのはの放つ希望の光と、神の放つ絶望の光を、対局の存在と思いつつ合わせて思い浮かべていた。

憎くもなく、それどころか本来犯罪らしいことを何もしていない人たちを、死地に追いやる。

仲良くなった人だろうが、全く知らない人だろうが関係ない、直接的ではないにしろ〝殺す”ことに加担するのだ。

まともな神経ならこんな真似出来るはずがない。余りにも惨い所業だからだ。

そして、その背後にあるのは法などではなく、あのアッパーヤードで見たあの絶望の光。

罪の意識と、絶望の力を使い、人を従わせる、それが〝神”。

だったら次に始まるのは――

 

ルフィはたまらなくなって叫ぶ。

 

「バカヤロー!仕方なかったんだろ!?だったらなんでそれを「「オレたちに言うんだ!!!」」」

「え……!?」

 

コニスはここでようやく、しかし状況を理解できてないような表情で顔を上げた。

 

「相棒!」

『レディ』

 

スバルの反応は早かった。マッハキャリバーを展開し、一気にコニスを抱える。

 

「キャッ!な、なにを!?」

「狙われているのはあたしたちじゃない!あなたなんですよ!?」

 

そのままフルスピードでその場を離れようとした。だが、何もかもが遅い。

光の塊を頭上に見た。確認するまでもない、あの絶望の光だ。大きさまで同じ。本当になのはのディバイン・バスターを彷彿させる。

 

(大きすぎる!こんなの……でも!)

 

それでもスバルはコニスを抱きしめて何とか回避しようと思いっきり跳ぶ。

 

 

一条の光が降り注ぎ、島雲に大きな穴を開けた。

サンジにウソップと周りを見渡し、スバルとコニスがどこに行ったのか探している。

先ほどまでどよめき、騒いでいた町の住人達はまるで逆らえない力に屈したかのように力なくこうべを垂れている。

 

「コニスちゃん!スバルちゃん!どこ行ったんだー!」

「二人とも無事である!」

 

空の騎士、ガン・フォールがコニスとスバルを抱える。

ガン・フォールはスバルを下した。

 

「この娘は吾輩に預けよ。みすみすエネルに狙わせはせぬ。それより――おぬしらはこの国の本心を知った…神の力もな。これよりいかに動く」

 

ルフィは愚問とばかりに鼻息をついて、カラス丸に向かう。

 

「国は関係ねェ。あの島には仲間がいるんだ」

「フム、そうか。幸運あれ」

 

そう言い残して、ガン・フォールは飛び去って行った。コニスを連れて。

残った4人はカラス丸に乗り込み、アッパーヤードを進む。

しばらくして、ウソップがスバルに話しかけた。

 

「スバル、さっきは反応早かったな。どうしたんだ?」

「ごめん……実はナミさんと一緒にアッパーヤードでさっきのを見たんだ」

「だからナミはあんなに嫌がってたのか……オレだっていやだわ」

「だがよ、スバルちゃん。なんかえらくあの後空を睨んでなかったか?」

「そ、そうかな」

 

スバルはぎょっとして誤魔化す。

カラス丸は進む。神の住む土地アッパーヤードへ。



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