GOD EATER ~堕ちた救世主~ (elsnoir)
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プロローグ

主人公
名前 日暮 心葉(ひぐらし このは)
性別 男
年齢 16歳
身長 155cm
髪色 黒色
髪型 ショート
瞳色 空色
服装 黒コート
性格 大人しく控えめ
神機 新型・カリギュラ装備(白一色に塗装)
   チャージスピア
   スナイパー
   バックラー


「神機使い喰らい…?なんだそりゃ?」

「ここ最近現れた、とある神機使いだそうです。文字通り神機使いを喰らうとの噂だとか」

「えー…そんな物騒な神機使いがいるのー?」

「あくまで噂です。皆その人を神機使いを救世主と例え、救世主喰らい(メシアイーター)。そう呼んでいます」

「救世主喰らい…どっかで聞いたことあるな…」

「…前にコウタさんが言ってたような…?」

 

 

 

 人間誰もが運がいいとか運が悪いとかよく思ったことがあるだろう。今本当に運が悪いとつくづく思った。

 

「ちっ…こりゃー参ったな…」

 

 右手の金色のガントレットを抑えながら、一人の神機使いがつぶやいた。長身で白いコートに身を包んだ黒髪の男性。極東でかなりのベテランの神機使い。名前は、雨宮リンドウ。

 

「まさか…堕ちた者に出会うとはな…」

 

 視線の先には道路の中心に立っている一人の神機使い。その神機使いの右腕の神機は変化し、異形と化している。おそらくオラクル細胞に取り込まれたのだろう。

 堕ちた者。簡単に言ってしまえばアラガミ化した神機使い。この状態になってしまえば、元の人間に戻ることは不可能である。

 

『リンドウさん、すぐに撤退をお願いします!』

 

 耳元で凛とした女性の声が聞こえた。通信だ。

 

「おい、堕ちた者はどうするんだよ」

『早く撤退してください!リンドウさんまで殺されますよ!!』

 

 言っている意味がわからなかった。「俺が殺される」ならまだわかる。「俺まで殺される」。その意味が分からなかった。

 だが、その意味はこの後嫌でもわかるようになってしまった。

 スタァン。と軽い銃声の音が鳴った。おそらく神機のスナイパーの音だ。だが、同時に異変を感じた。スナイパーであそこまで軽い音は聞いたことがなかった。いろんな神機使いを目にしてきて、いろんな音を聞いてきた。だが記憶をあさってもそんな音は一切出なかった。

 そして、軽い音が鳴ったと同時に堕ちた者の右肩から下が消えていた。堕ちた者も何が起きたかわからずにいた。その直後、堕ちた者は奇声を上げた。たぶん痛みによる悲鳴だろう。

 

「…っ…ごめんなさい」

 

 どこからか幼い声が聞こえた。その直後には堕ちた者の胸部は吹き飛んでいた。正確には心臓のある部分。堕ちた者は倒れ、二度と動かなくなった。

 

「…いったい何が起きてるんだ…?」

 

 たった数十秒の出来事にリンドウは呆然としていた。ヒバリの言っていたことが実現しそうで、足が震え始めた。自分もさっきの堕ちた者みたいに腕を撃たれ、心臓を撃ち抜かれるのだと。

 

「おいおい…冗談じゃねぇぜ……今日はすげぇ厄日だな……」

 

 逃げたくても足が動かない。足に力が入らない。立つだけで精いっぱいだ。

 

「………………っ」

 

 突如、物陰から一人の少年が現れた。背が低く、黒いコートに身を包んだ少年。少年の腕には赤い大きな腕輪と白の神機が握られていた。神機は銃形態で、砲身が長く伸びていた。誰が見てもスナイパーだった。どうやら先ほどの堕ちた者を殺したのはこの少年だったようだ。

 

「…ウソだろ…?あれを殺したのが、あの少年だっていうのか…」

 

 驚きを隠せなかった。堕ちた者は通常の神機使い比べ、圧倒的な戦闘能力を持っている。それをたったスナイパーの2発で沈黙させたのだ。過去に堕ちた者と刃を交えたことはあるが、その時はかなり苦戦した。

 少年が堕ちた者の死体に歩いて行った。その際に近くにある縦長の長さの違う木材を二つ拾い、死体のそばに近づき、コートの中のポケットからロープを取り出した。木材を十字に置き、ロープで固定し、それを堕ちた者の死体の頭のそばに刺した。簡易的な墓だ。

 

「……っ……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 少年は泣きながら、堕ちた者の死体に誤っていた。堕ちた者を殺す。すなわちそれは人を殺すもしくは味方を殺す。という意味を持つ。これほど苦しいことはない。

 リンドウはこれ以上はいられないと思い、動かない足を殴りつけ、足早に去った。去る時に少年が発した言葉が心に深く突き刺さった。

 

「………僕は…あと…何人殺せばいいんですか?」

 




オリジナル要素強すぎました。


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1話 黄色と真相

★フェンリル極東支部・神機保管庫

 

 薄暗く、蒸し暑い部屋に二つの影があった。一つはターミナルを操作し、神機のメンテナンスをしている整備士の女性。名前は楠リッカ。もう一つの影は、保管庫の隅っこで膝を抱え、小さくなっている真っ黒なコートを来た神機使いの少年。

 

「……前から思ってたんだけどさ、もうちょっと前向きに行動できないの?」

 リッカがターミナルから目を離さずに口を開いた。

「…リッカさんも知っているでしょ?僕の役目を…普通の神機使いの仕事とは違うってことを」

「でもさ…16の少年がこんな暗くてどうするの?」

「……ならあなたは僕と同じことをして前向きに生きていけますか?」

「………ごめん」

「…いえ、僕も言い過ぎました…すみません…」

 

 僕の仕事は…ただの神機使いとは違う。僕の存在意義は…人々を守るのではなく…アラガミと化した神機使い、堕ちた者(フォールマン)を………殺すこと。

 

 

 堕ちた者が現れるケースは一つの支部では稀。だが、それは一つの支部の話。彼はこの世界の全ての支部の堕ちた者を殺すのが役目。基本は極東に所属しているが、堕ちた者の知らせを受ければ、どこにでも行く。そして殺す。神機使いたちは、心葉のことを神機使いを救世主と例え、救世主喰らい(メシアイーター)と呼んでいる。

 

「ね、ごはん食べ行こっ」

「いえ、僕は一人で行きますから…」

「そういわずに。ほら立った、立った」

 

 リッカに強引に手を引っ張られ、ラウンジまで連れていかれた。

 

★ラウンジ

 

 ラウンジに入ると早速、カウンターの少女が出迎えてくれた。

 

「心葉さん、リッカさん、いらっしゃいませ!」

 

 エプロンを着た少女、ムツミが快く声をかけてくれた。

 

「こんにちわー」

「……こんにちわ」

 

 カウンターの真ん中の席に座り、早速リッカが注文した。

 

「オムハヤシ2つお願いします」

「はーいっ」

 

 心葉は相変わらずうつむいたままだ。

 

「…………………」

「…むーっ………えいっ」

 

 突然リッカが心葉の頬を引っ張った。

 

「いふぁい、いふぁいですー!りっふぁさん、やめてください~」

「……やだっ」

 

 頬に込められる力が一層強くなった。このままだと頬が伸びてしまう。

 

「ぼ、僕が悪かったですから~」

「よし」

 

 リッカは心葉の頬を引っ張るのをやめた。頬がひりひりする。

 

「まったく、そんなにうつむいてると根暗になるよ」

 

 もうすでに根暗だと思うんだ。僕。

 

「今どうせ、もう根暗です。なんて思ったでしょ」

 

 図星だった。こうなると何も言えなくなる。

 

「あれ、心葉君?」

 

 後ろから一人の女性に声をかけられた。銀髪で白い服の自分より少し年上の女性。彼女が来ている白い服には見覚えがあった。独立支援部隊クレイドル。クレイドルはサテライト拠点候補地の探索、建設予定地に防衛を主要任務としている。この部隊のメンバーは皆熟練者。中でも彼女、アリサ・イリーニチア・アミエーラは有名である。

 

「久しぶり~っ、元気にしてた?」

 

 出会ってそうそう、頭を撫でられた。

 

「はい。って子ども扱いしないでください!」

「だって可愛いんだもん」

「へ?」

 

 素で変な声が出た。僕が可愛い?アリサさんはいったい何を言っているんだ?

 

「アリサもそう思う?私も思ってたんだ」

 

 リッカも続いてそういった。心葉は感じた。これは新手のいじめなのだと。恐る恐るどうしてそんなことを言うのか聞いてみた。

 

「あ、あの、どうして僕が可愛いんですか?」

「なんか守ってあげたい弟みたいだから」

「弟…」

「兄弟とかそういうのわからないけど、心葉君って弟て感じがするの。おどおどしたところとか、大人しいところとか」

「……………」

 

 言葉が出なかった。なんて言ったらいいかわからなかった。

 

「おまたせしました。オムハヤシ3つです」

 

 席にオムハヤシが3つ置かれた。心葉とリッカとアリサの前に。ムツミが気を利かせて、もう一つ作ってくれたのだろう。

 

「あっ、ムツミちゃんありがとうございます」

「はいっ」

 

 笑顔で返事し、自分の仕事に戻った。彼女が作るご飯は絶品である。今までレーションなど味気のないものをよく食べていたが、彼女が来てから大きく変わった。

 

「…おいしそう」

 

 ついそんな言葉が出た。普段は誰かと食事するのは避けている。自分がいては飯がまずくなるのではないか、と思っていた。だからここに来たのも初めてで、今までレーションしか食べていなかった。

 

「心葉君」

 

 隣に座ったアリサに肩をつつかれ、声をかけられた。

 

「はい」

 

 アリサのほうを向くと、スプーンが向けられていた。

 

「はい、あーん」

「えっ、え!?」

「ほら、口を開けてください、落ちちゃいますよ?」

「えっ、あ、あれ?」

「えいっ」

 

 あわてている僕のすきを見て、アリサはスプーンを口入れた。アツアツのオムハヤシが口の中に放り込まれた。

 

「!?」

 

 熱さで吐き出しそうなのをこらえ、租借した。ムツミが作ったオムハヤシは、卵がふわふわで、ソースがコクがあり、濃厚でさらにまろやかであった。

 

「!!!」

 

 今まで食べてきた中で一番おいしいと思った瞬間でもあると思った。

 

「お、おいしい!」

 

 オムハヤシに感動した心葉はものすごい勢いでスプーンを動かし、オムハヤシを口に運んだ。

 

「おお………」

「わあ………」

 

 アリサとリッカが呆然としている間、オムハヤシの半分は心葉の胃の中に放り込まれていた。

 

「ご馳走様でした!!」

 

 オムハヤシは作ってから、わずか5分で心葉の胃の中に消えた。食べ終わった心葉の目はとてもキラキラしていて、表情はいつもは暗く、全てに無関心そうな表情をしていたが、笑顔に満ち溢れていた。

 

「私、こんな心葉初めて見たかも」

「僕、こんなおいしいもの初めて食べました!ムツミちゃん、ありがとうございます!」

「ふふっ、どういたしまして。リッカさん、アリサさん食べないと冷めちゃいますよ?」

「「あっ」」

 

 二人はすぐに自分の料理と向き合い始めた。次の瞬間、

 ピリリリ!

 と心葉のコートから電子音が鳴り響いた。心葉はコートから電話を取り出し、応対した。

 

「はい…………………そう…ですか……」

 

 心葉の表情が曇った。

 

「…はい…わかりました。すぐに行きます」

 

 電話を切り、コートの中にしまい、席を立った。

 

「ごめんなさい!少し用ができたので、失礼しますっ」

 

 そういって足早にラウンジを去って行った。心葉の表情にさっきの笑顔はなかった。

 

「…心葉……また…」

「リッカさん、どうしたんですか?」

「ううん、なんでもない。さ、食べよ」

「はい」

 

 

 神機保管庫から自分の白い神機を持ち出し、外で待機している、フェンリルのエンブレムがついたヘリに乗り込んだ。中には操縦士と副操縦士の二人しかいなかった。

 

「……………今回はどこですか?」

「極東から少しに離れた地。昔でいうなれば、神奈川県の横浜です」

「…いつも通りでいいんですね」

「ええ」

「…………………………早く…お願いします」

 

 ヘリに揺られること1時間、景色が止まった。

 

「目標ポイントに到着しました。これよりロープを降ろします」

 

 副操縦士が声を発した。

 

「心葉君、準備はいい?」

「……はい」

 

 ドアから下がったロープを握った。

 

「………せめて…一思いに…お願い」

「……わかってます」

 

 そう言葉を残し飛び降りた。

 

「…………こんな事、あの子に耐えられるわけがない…いつか壊れてしまう……」

 

 操縦士の声は震えていた。

 

★ラウンジ

 

「私がいない間に、少し変わったんだね」

「うん。心葉も帰ってきて、皆少しずつ今の環境を改善しようと頑張ってる」

 

 アリサの発言に、リッカが少し微笑みながら答えた。

 

「私は最近、新しい整備士にいろいろ教えているところ。なかなか言うことを理解してくれなくてね、ちょっと困ったりしてる。でもその分教えがいがあるんだけどね」

「へぇー、リッカさんも大変ですね。そういえば、ちょくちょくこんな噂を耳にするんですが」

「どんな噂?」

「ええ、なんでも神機使いを喰らう神機使いがいるとか」

「っ!」

 

 リッカの表情が崩れた。

 

「…どうしたんですか?」

「……そっか…アリサは…何も知らないんだよね…」

「えっ」

「………神器使いを喰らう神機使い。正確には堕ちた者を喰らう神機使いと言ったほうがいいね」

「堕ちた者を喰らう神機使い……」

「うん。それは噂じゃなくて事実」

「…よかった、その人に出会ったら私も食べられるのかと思ってましたけど、堕ちた者なら問題ないですね」

「……私もアリサもすでにその人に出会ってるよ」

「えっ…誰…ですか?」

「………言ってもいいの?」

 

 アリサは少し迷い、頷いた。

 

「……いいんだね。後悔しないでね。この世界には知っておいていいことと、悪いことがあるってことを後悔しないのなら、私は言うよ」

 

 アリサは力強くうなずいた。

 

「その堕ちた者を喰らう神機使いは………」

「…………」

「……………h」

『緊急事態発生!外部居住区に堕ちた者の反応を確認!各神機使いは、ただちに住民を避難させてください!!救世主喰らいが到着するまで持ちこたえてください』

 

 緊急のアナウンスだ。ほかの神機使いが慌て始めた。

 

「…アリサ、この答えは自分で見つけて。行けば…出会えるから」

「わかりました」

 

 アリサはラウンジを飛び出て、神機を持ち外部居住区に向かった。

 

「救世主喰らい…いったい誰なんだろう……」

 

 

■次回予告

 

 私もリッカさんも知っている人?誰も思いつかない。本当に誰だろう。

 

次回「知る真実、消える過去」




閲覧してくださった方、どうもありがとうございます。


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2話 知る現実、消える過去

side:心葉

 

「はい…えっ?…わかりました。今すぐ行きます…失礼します」

「…………堕ちた者ですか?」

「うん…場所は極東支部外部居住区のC地区。今極東の神機使いたちが住民を避難させてる。住民を避難させた後、空き地に移動させて…」

「僕が叩く…ということですか?」

「そういうことね……行ける?無理なら無理と言って」

「…行かせてください」

「無理はしないでね。もうすぐでポイントに到着するわよ」

「…どうか皆さん…無事でいてください」

 

★極東支部外部居住区C地区

 

side:アリサ

 

「こっちだ!!」

 

 神機使いたちが市民たちを誘導し、安全地帯へと向かわせていた。誘導している神機使いたちの中にはアリサもいた。

 

「皆さん、落ち着いてください!ほら、押さないでください!!」

 

 市民は皆不安な表情で安全地帯へと移動していた。それもそのはずだ。堕ちた者が来れば戦闘は免れない。その戦闘で自分の居場所が失われる可能性があるのだから。

 

「よし、避難終了!各員堕ちた者を探し、発見次第、空き地へ誘導させるんだ」

 

 防衛班隊長、大森タツミが各神機使いに声をかけた。その後何人かのグループに分け、各場所に移動させた。

 

「アリサは俺と一緒だ。空き地から少し離れたところに行くぞ」

「はい!」

 

 アリサは神機を握り、走り出した。

 

side:心葉

 

「避難は終わったようね。心葉、いい?」

「はい!行きます!」

 

 心葉はロープを握り、ヘリから飛び降りた。着地地点は廃ビルの頂上。

 

「堕ちた者はそこから北に1kmほど離れたところよ」

 

 操縦士が通信で教えてくれた。

 

「了解しました」

 

 そう呟いて、階段を駆け下り始めた。

 

side:アリサ

 

「見つかったかっ!」

「誘導ポイントへ!!」

 

 堕ちた者に見つかったアリサとタツミは誘導ポイントの空き地へと走り始めた。うまく誘導できると思っていた。だが、そううまくいかないのが現実だ。堕ちた者の足はかなり速く、50m程離れていたが、あっという間に追いつかれていた。

 

「アリサ!!」

 

 タツミに呼ばれ、振り向いてみると自分の後ろで神機を振りかぶっている堕ちた者がいた。殺される。そう思った瞬間足がもつれて、転んでしまった。

 

「やめろぉ!!」

 

 タツミが神機を振るい、堕ちた者の神機を弾いた。堕ちた者が声を上げ、神機を振り上げ、タツミに切りかかった。タツミは盾を展開したが、堕ちた者の力に押され、吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐはぁっ!」

「タツミさん!!」

「だめだぁ!逃げろ!!」

 

 他人のことを気にしている場合ではなかった。目の前の堕ちた者はすでにアリサに切りかかる体勢に入っていた。

 

「っ!!」

 

 堕ちた者の神機が振り下ろされた。避けなければ、真っ二つは確実。とっさの判断で、目をつむり、神機を横に構えどうにか防ごうとした。だが、いつになっても鈍い音も、神機への衝撃も来なかった。恐る恐る目を開けてみると、堕ちた者の神機は自分の神機にあたる直前で止まっていた。

 

「…何が…起きたの?」

 

 堕ちた者に何かがあったようだ。

 

「アリサ、今のうちに逃げるぞ!」

 

 腹部を抑えながら、タツミが叫んだ。同時に通信が入った。

 

『皆さん、救世主喰らいが作戦エリアに到着しました!各員撤退もしくは隠れてください!』

 

 やることはやった。あとは任せるだけだ。

 

side:心葉

 

「着弾を確認……速度特化型ですかね……」

 

 神機のスコープを除き、心葉がつぶやいた。先ほど心葉は麻痺弾を堕ちた者に向けて数発撃ちこんでいた。その際、誰かが襲われていたが、ちょうど建物の陰で見えなかった。

 堕ちた者にもいくつか種類がいる。攻撃特化型、速度特化型、バランス型などなど。それぞれ体の部位にいくつか特徴が出ている。今回の堕ちた者は体が細く、神機も小さめである。少しでも早く行動するために、進化した形だ。稀に異常な進化をする個体もいる。

 

「……周りは居住区…そのための空き地ですか…」

 

 神機を握り、堕ちた者へと歩き出した。

 

「………行きます」

 

 自分の手に力を込め、堕ちた者へと肉薄した。

 

「……ッ!!」

 

 堕ちた者がこちらに気付いた。堕ちた者も同じようにこちらに向かってきた。

 

「…ふっ!」

 

 心葉は息を軽く吐き出し、跳躍した。普通の人の跳躍と、神機使いの跳躍では、ものが違う。心葉が飛んだ高さは堕ちた者の身長を超え、約2m程飛んだ。

 

「……申し訳ないけど、あなたの力、いただきますっ!」

 

 飛ぶと同時に神機を捕食形態に変形させていた。神機の先端が異形の怪物と化した。

 

「…喰らって!!」

 

 堕ちた者を飛び越える直前で、攻撃を放った。

 

「!?」

 

 心葉の神機から放たれた異形のオラクル細胞は堕ちた者の左腕に食いついた。その後着地した心葉が神機を振り、力ずくで腕を引きちぎった。堕ちた者の左腕からどす黒い血が大量に噴出した。引きちぎられた腕から、白い骨のようなものが見えたりした。

 

「ォォォォォォ!!」

 

 堕ちた者が悲鳴を上げた。

 

「…ぅ…」

 

 バキバキ、ボキボキと自分の手元から嫌な音が聞こえてくる。その音に顔をしかめるしかなかった。

 

「ガァァァァ!!」

 

 怒った堕ちた者がこちらに高速で接近してきた。それに対し心葉は神機を構えた。高速で振り下ろさせる神機を槍の先で受け止め、それを流し、胴薙ぎを繰り出し斬り抜けた。斬り抜けた直後、神機を銃形態に変形させ銃口を後ろに向けた。自分の後ろには先ほど斬りつけた堕ちた者がいる。

 

「…撃つ」

 

 斬り抜けた大勢で弾丸を2発打ち出した。スナイパーの軽い音が続けて響く。細い銃身から放たれた2つの弾丸は堕ちた者の両膝を打ち抜いた。堕ちた者の膝が砕け、両足がもげてしまった。当然体は倒れた。

 

「………っ」

 

 ひどい絵だった。だがこれは自分でやったことなのだ。生きるため…自分の存在意義を見出すため。

 

「グ…ァァァ…」

 

 堕ちた者が地を這いながらこっちに迫ってくる。終わりにしよう。心葉はそう思った。スナイパーの銃口を堕ちた者に向けた。

 

「………ごめんなさい」

 

 そう謝り、引き金を2度引いた。1つは神機に向けて。1つは心臓に向けて。弾丸は神機を砕き、肩を貫き、心臓を貫いた。堕ちた者は2度と動かなくなった。動かなくなった堕ちた者を見て、目が熱くなってきた。

 

「……っ………ごめん…なさい…」

 

 心葉はまた木材を集め、ロープで固定し、十字架を作った。その十字架を堕ちた者のそばに刺し、近くにあった花を少し摘み、添えた。

 

「………僕は…僕は……」

 

 足が崩れ、涙があふれてきた。数多くの堕ちた者を殺してきた。そしてその数、墓を建ててきた。その分泣いてきた。何度殺し、何度墓を建て、何度涙を流したか、もう覚えていない。正確には数えたくない。数えてしまえば自分が壊れてしまいそうだったからだ。

 

side:アリサ

 

「救世主喰らい……いったい誰なんだろう」

 

 先ほど通信で堕ちた者の死亡を確認したとの連絡があった。アリサは自然と空き地に向かって歩いていた。

 

「………私もリッカさんも知ってる人……」

 

 そのことを考えるとすごく胸騒ぎがした。だが、今は考えなくても胸騒ぎがした。今すぐ引き返したほうがいい。自分がそう言っているような気がした。同時にリッカの言ったことを思い出した。

 

「この世界には知っていいことと悪いことがある………」

 

 もうすぐ空き地だ。救世主喰らいを知る好奇心と、何かを恐れる不安の気持ちでいっぱいだった。

 だが、それはこの後、後悔の一言に変わる瞬間だった。

 

「……あれが……」

 

 不格好な十字架の前に堕ちた者の死体と一人の人がいた。黒いコートに身を包んだ人。その姿には見覚えがあった。背の低く、可愛くて、少し頼りない幼い神機使い……

 

「………この…は………くん?」 

 

 日暮心葉が墓の前で泣き崩れていた。

 

「っ!?」

 

 自分の呼ばれた心葉が、振り向いた。心葉の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。

 

「…ぁ…ああ………あああ………」

 

 驚愕した表情で、声にならない声を上げていた。そして、心葉は自分の神機を握り、どこかへと走って行った。アリサから逃げるように。

 

「うそ……です…よね……心葉君………ねぇ……」

 

 リッカの言うとおりになってしまった。あまりの衝撃に神機が手からするりと落ちてしまった。

 

「……心葉…君が……救世主喰らいなんて………ウソですよね……」

 

 涙があふれてきた。もう自分が知っている心葉はいなくなっていた。アリサが知っている心葉は消えた。今の心葉は、堕ちた者を…神器使いを殺す神機使いとなっていた。

 

 

■次回予告

 

 君たちには知ってもらわなければならないことがある。救世主喰らい。それが私たちにとって重要であることを。

 

次回「情報ときっかけ」



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3話 情報ときっかけ

今回では出番は数行ほどですが、新キャラ

名前 白羽 詩音(しらは しおん)
性別 女
年齢 19歳
身長 162cm
髪色 薄い紫
髪型 ロング
瞳色 水色
服装 クレイドルの上着、黒いスカート
性格 お気楽
神機 新型
   ショート
   アサルト
   バックラー


★極東支部サカキ博士の部屋

side:アリサ

 

「夜遅くに集まってもらってすまない。君たちには一つ知っておかなければならないことがあってね…」

 

 奇抜な衣装に身を包んだ、メガネをかけた男性、サカキが口を開いた。

 

「あいつとサクヤを除いた元第一部隊、現第一部隊、クレイドル、防衛班、ブラッド……すごいメンバーだな…」

 

 リンドウがつぶやいた。小さな部屋にかなりの人数で入っているため、少し狭かったりする。

 

「サカキ博士。知っておきたいこと…とは?」

 

 銀髪のツインテールの様な髪をした女性、ブラッド副隊長シエル・アランソンが切り出した。

 

「うん。救世主喰らいのことだ」

「っ!」

 

 アリサは背筋に寒気を感じた。数時間前、その救世主喰らいの正体を目撃していた。

 

「救世主喰らい。いったい誰がそう名付けたかは私も知らない。この正体を知っているのはごくわずかだ。フェンリル本部、各支部の上層部。極東では、ツバキ君にリッカ君、オペレーターと私ぐらいしか知らないはずだ」

「どうしてリッカの名前が入ってるんだ?」

 

 リンドウが口を開いた。救世主喰らいのことをごくわずかの人間しか知らないはずなのに、整備の人間が知っているのだろうか。

 

「救世主喰らいの所属はここ、極東だからね」

「「!?」」

 

 ここにいたアリサと博士を除く全員が驚いた。

 

「少なくともこの場所にはいないよ。今頃部屋でお休みしていると思うよ」

「…御託はいらない……その救世主喰らいはいったい誰だ?」

 

 ドアの近く、褐色の肌の長身の男性、ソーマ・シックザールが不機嫌そうに言った。

 

「おお、そうだね、救世主喰らいとは少しは面識があるはずだ。リンドウ君たちは少し知らないかもしれないね……日暮心葉っていう子を知っているかい?」

「いや、知らない。その子がどうしたっていうんだ?」

「彼が救世主喰らいなんだよ」

 

 サカキの発言に、皆唖然とした。

 

「……ウソだろ?」

「…博士、今日は4月1日じゃないぜ?」

 

 カレル、シュンが同時に口を開いた。数か月前、心葉は皆のところで少し活動している。新人神機使いとして。

 

「事実だ。といっても信じられないか……」

「…なあ、その心葉っていうやつ、もしかして黒いコートを着た槍使いで、15、16歳くらいの少年だったりするのか?」

「その通りだよ、リンドウさん。もしかして目撃したんですか?」

 

 コウタが言った。

 

「ああ…ちょうど堕ちた者とやりあってる時だったな」

「その状況、詳しく教えてくれないか?私も彼が闘っているところは聞いたことも見たこともないんだ」

 

 サカキの問いにリンドウが頷いた。

 

「あれは、俺がある任務で単独で行動していた時だった。いざ帰ろうって時に、ばったり堕ちた者と出くわした。幸い俺は見つかってなかった。だが、どこからか飛んできた弾丸が、堕ちた者の右肩を吹き飛ばした。神機も含めてな」

「待て。肩を吹き飛ばした?どういうことだ?神機の弾丸ごときじゃ、人間の肩吹き飛ばすのは不可能なはずだ」

 

 ソーマが話をさえぎり、意見を述べた。神機の弾丸はアラガミに対抗すべくつくられたもの。決して人間に撃つものではない。例え命中しても衝撃が軽く来るぐらいで腕がもげる、吹き飛ぶなんてことはありえない。

 

「いや、確かに見たんだ。堕ちた者の肩が吹き飛んで、大量の血が噴出していたのを……」

「………確かリッカ君が、特殊な弾丸を心葉君に渡したと言っていたな……続けてくれ」

「ああ。そのあと2発目が飛んできた。今度は心臓の部分だ。大体直径1cmくらいの穴を開けて貫通していったな……そんで物陰から少年が現れた。堕ちた者の死体に近づきながら、木材を拾って十字状に縛って、死体のすぐそばに刺してたな。その時そいつは泣いていた……」

 

「「………」」

 

 救世主喰らいの噂は、殺した堕ちた者のそばに十字架の墓が立っている。その近くには黒い神機使いが近くにいるという噂だ。リンドウの話と合わせるとほとんど合っている。

 

「あの……」

 

 アリサが口を開いた。

 

「私も…心葉君の姿…見ました……数時間前、堕ちた者が死亡したあとのこと………同じように墓の前で泣いてました………」

「「………」」

 

 これで証明された。心葉が救世主喰らいだということが。

 

「それでっ、私たちはどうすればいいの?心葉君を支えてあげればいいの?ひたすらにスキンシップとってあんなことや、こんなことするまでもちこめばっ!?」

「…隊長、まじめにやってくれ」

 

 薄い紫色の髪をした女性、詩音がギルバートに拳骨をもらっていた。これでも、ブラッドの隊長なのだ。

 

「うー…3割くらい冗談だってばー」

「「3割なのかよ………」」

「だが、彼女の言うとおりだ。少しでも彼を支えるんだ。それが、彼の安全と私たちの安全につながるんだ」

「?どうして私たちの安全にも関わるの?」

「彼が暴走したらひとたまりもないからね。さっきも言った通り、人間の体を吹き飛ばすバレットなんか撃たれたら、致命傷は避けられない」

「………心葉が暴走する原因としては、精神圧…といったところか?」

 

 ギルバートが言い出した。それに対しサカキは頷いた。

 

「心葉君もそろそろ精神的にかなり来てるはずだ。今のまま、堕ちた者を殺し続けていれば、近いうちに精神圧に負け、暴走および、堕ちた者またはアラガミ化する可能性だってある」

「そうなった場合は、弾丸に吹き飛ばされるか、俺たちがあいつを殺す羽目になるのか………」

「それだけは絶対に避けたい…みんなそうだろう?」

 

 全員頷いた。

 

「ありがとう。さっきも言ったが、皆できる限り彼を支えてあげてほしい。堕ちた者を彼の代わりに殺せとは言わない。彼の心の負担を極力減らすんだ。それが、彼の未来と私たちの未来につながる。これで私の言いたいことは終わり。それで、質問のある人はいるかい?」

「サカキ博士、一つ疑問があります」

 

 シエルが手を挙げ、答えた。

 

「なんだい?」

「なぜ、心葉君が救世主喰らいなのですか?神機使いなら他の支部にもたくさんいます。その中でなぜ心葉君だけが救世主喰らいでなければいけないんですか?」

 

 シエルの言うとおりだ。何か特別な理由がある。そうとしか思えない。

 

「ああ、申し訳ない。なぜ心葉君が救世主喰らいとして選ばれたのかそれを話さなければならないね。それは彼のオラクル細胞に理由があるんだ。いや、正確にはオラクル細胞にかなり似た特殊な抗体といったところか」

「どういうことですか?」

「彼のオラクル細胞が何らかの進化または変化を遂げたんだ」

 

 アラガミは捕食して進化する。アラガミはオラクル細胞の集合体でもある。それは心葉が何かを捕食した可能性があるということだ。

 

「彼のオラクル細胞を変えたトリガーはある任務に同行していた元第一部隊隊長、菊池零君の死亡だと思われる」

「…確か彼の初陣だったよね…」

 

 エリナが口を開いた。その時のメンバーは零、エリナ、エミール、心葉だった。討伐対象はコンゴウ1体で、すぐに討伐できた。帰ろうとしたときに、零が乱入してきた堕ちた者から心葉をかばい、戦死した。その堕ちた者は逃走したが、後に他の神機使いが殺した。

 

「問題はそのあとだったんだ。彼が体の調子がおかしいと言い出したから、検査したんだ。もうその時にはさっきの抗体ができていたんだ」

「その抗体にはまだ何か隠されているんですか?」

「ああ。この抗体が救世主喰らいでなければならない理由なんだ。この抗体はオラクル細胞でありながら、アラガミよりも堕ちた者や神機使いに強く反応する。その原因は研究を開始してから、いまだにつかめていない」

「ちょっと待ってください、サカキ博士。神機使いに強く反応する抗体を持ちながら、なぜ心葉君の体にいて、その抗体が体を壊さないんですか?」

 

 シエルの言うとおりだ。神機使いとはいえ、体内にオラクル細胞を持っている。彼の体の中にオラクル細胞に反応する抗体を持っているなら、その抗体が反応しないわけがない。抗体が反応すれば、オラクル細胞は破壊、消滅する。堕ちた者もしくはアラガミ化の原因としては、体内のオラクル細胞の極端な増加、減少、偏食因子の暴走が関わっている。

 

「普通ならそうだね。彼のオラクル細胞自体も変化、進化している。オラクル細胞でありながら、自分の抗体に反応しないようにね」

 

 進化は常にしている。それはアラガミに非ず、人に非ず、すべてにおいてだ。

 

「神機は使用者のオラクル細胞に反応して能力を発揮する。ブラッドアーツがいい例だね。心葉君の場合は、オラクル細胞でできたの抗体、それが神機に生かされ、堕ちた者に対して有効な力を得ているんだ。これで言いたいことは終わった。シエル君ほかはあるかい?」

「いえ、ありがとうございました。私からの質問は以上です」

「そうか」

 

 サカキは少し満足そうな表情をしていた。

 

「まあ、というわけだ。彼に暴走されたら彼の中にある抗体が我々に猛威を振るう。一撃でも喰らえば致命傷は免れない。その事故を防ぐためにお願いしたいんだ。忙しいかもしれないが、彼のことを頼む。今日はもう遅い、皆各自部屋に戻って休んでくれ」

 

 全員が頷き、それぞれ部屋を出て行った。

 

★廊下

 

「ねえ、コウタ」

「ん?」

「心葉君のことどうする?」

 

 彼のことを支えるとは言ったが、きっかけが見つからない。普通に声をかけても、何も変わらないと思った。

 

「んー…ああーっ!」

 

 コウタが思いついたようだ。

 

「明後日、ユノさんが帰ってくるじゃん。その時に心葉も誘ってパーティーでもやって何とかしようぜ!」

「そうですね……少しでもきっかけを作っていかないと…とりあえず明日皆にこの提案を持ち込んでみましょう。コウタにしてはなかなかいい案を出しますね」

「おう!って、酷いいいようだな…」

「褒めてるんですよ。じゃあ、また明日」

「ああ、お休み」

 

 アリサはコウタに軽く手を振り、自分の部屋に入っていった。

 

 

■次回予告

 

 これで事態が動くなら、動いてほしい。心葉に少しでも助けられるなら…そのためにこのパーティーを成功させるんだ!

 

次回「仲間 ~たとえ罪があっても~」



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4話 仲間 ~たとえ罪があっても~

数々の閲覧、お気に入り登録、評価してくださった方、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

私はいつもメモ帳に打ってから、こっちにうpしています。なので時々文章の区切りがおかしかったりします。どうかご了承してください。


★極東支部エントランス

side:心葉

 

「僕に何の用ですか?」

「いや、大した用じゃないんだ」

 

 エントランスの椅子に面接でもするかのように、コウタ、エリナ、エミール、心葉が座っていた。

 

「もし、よければ…な、俺たち第一部隊に入ってくれないか?」

「僕…がですか?」

「うん。無理にとは言わない」

「…僕なんかでよければ、お願いします」

「よぅし!決まりだな。じゃ、今日からよろしく頼むぜ」

 

 コウタがガッツポーズし、手を差し出してきた。握手するつもりのようだ。

 

「よろしくお願いします」

 

 心葉も手を差し出し、握手を交わした。

 

「よろしくね!」

 

 コウタに続いて、エリナも手を差し出してきた。

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 心葉はエリナよりも年上だが、神機使いとしては先輩にあたる。心葉と同じ年の人は、ブラッドのシエル、オペレーターのフランがいる。

 

「うむ。君がいてくれると心強い!私からもよろしくお願いする!」

 

 エミールも手を差し出してくれた。

 

「は、はい…こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 正直、今の自分が握手するのはとても気分がいいものではなかった。自分の手は汚れている。どんなに綺麗にしても落ちない汚れがついている。罪悪感と、神機使いの血で濡れているのだから。

 

★ラウンジ

side:コウタ

 

 コウタは今、歌姫芦原ユノが帰ってきたことを祝うパーティーの準備をしている。ほかにもムツミ、ナナ、テルオミ、ウララがいる。ムツミとナナに料理を担当させ、コウタ、テルオミ、ウララの3人でパーティー会場を作っている。

 

「招待状終わりました!」

 

 テルオミが招待状の束を持ち、机をセットしているコウタに近づいた。招待状はクレイドル、ブラッド、防衛班、サカキ、リッカ、オペレーター、そして新第一部隊に送られる。

 

「じゃあ、それを皆に配ってくれる?」

「了解しました」

 

 テルオミが去って行った。

 

「看板はこれでいいですかー?」

 

 看板を立てていた、ウララが声をかけてきた。

 

「OK!ばっちりだよ。それで、ウララちゃんはテルオミ君の手伝いに行ってくれるかな?」

「はいっ」

 

 元気よく返事し、ウララも去って行った。

 

「ご飯はいつでもいいよー!」

 

 ナナが言った。

 

「了解!あとは皆のところに招待状が届くのを待つだけだな」

 

 コウタはそうつぶやいた。これはただのお帰りパーティーではない。自分たちの未来がかかっている。このパーティーは心葉を支えるきっかけになる一歩のためだ。

 

side:ユノ

 

 1時間後、約束のパーティーの時間が来た。皆それぞれに招待状が届いたようで、ぞろぞろと入ってきている。その中に心葉もいた。このパーティーの司会は、コウタだ。開会式をはじめ、簡単に挨拶を済ませ、ユノにマイクを渡した。

 

「あの、まず最初にただいま。皆さん無事そうで何よりです。皆さんの頑張りもよく聞いています。これからもがんばってください」

 

 会場から拍手が鳴り響いた。

 

「……すみません、やっぱりこういった挨拶はなれてなくて…」

「大丈夫大丈夫です。次に、このたび新しく第一部隊に入った、日暮心葉君の挨拶です!心葉、一言お願いします!」

「ふぇっ!?」

 

 心葉が変な声を上げた。まさか自分にマイクが回ってくるとは思わなかったのだろう。

 

「…あの、挨拶しなきゃ…だめですか?」

「だーめ。さ、持った持った」

 

 コウタが強引に心葉にマイクを渡し、ステージに立たせた。

 

「えっと…その…このたび、第一部隊に所属になりました。日暮心葉です…数か月前は各支部を転々と移動していました。……その…不束者ですが、どうか、よろしくお願いしますっ!」

 

 ぺこりと頭を下げ、挨拶を済ませた。その直後、拍手が巻き起こった。

 

「はぁい!心葉君ありがとうございました!それでは、皆さん楽しんでください!」

 

 コウタが開会式を終わりにし、皆それぞれパーティーを楽しみ始めた。コウタも食べ物をとろうと思ったとき、ユノのマネージャー、サツキがコウタを引っ張った。

 

「ねぇ、あの心葉って子、すごく陰気くさいね」

「サツキ!」

 

 確かに陰気くさかったが、うちに引っ込めてればいいはずのことだ。

 

「…ちょっと話があるんで移動しませんか?ユノさんも」

 

 コウタの表情が変わった。何か大事な話なのだろう。

 

★エントランス

 

「話って何?」

 

 サツキが切り出した。

 

「心葉のこと。今回のパーティーを開いたのは、心葉のためでもあるんです」

「その上には楽しんでなさそうだけど」

 

 パーティーが始まってから、心葉はラウンジの端っこで小さくなっていた。

 

「いや、本人が楽しめる状況じゃないんだ………救世主喰らいって知ってますか?」

「ええ。神機使いを喰らう神機使い。何をトチ狂ったのか味方を殺すなんてね…それがどうしたの?」

「………心葉が救世主喰らいなんです」

「「!?」」

 

 信じられなかった。あの幼い子がそんなことをするとは思えなかった。

 

「信じられないでしょうけど、事実なんです。正確には、神機使いのなれの果て、堕ちた者を殺すのが正しいんですけどね…心葉のオラクル細胞が特殊だから、あんなことをしているんです。堕ちた者殺しはフェンリルの上層部が決めたことです…今回のパーティーを開いたのは、彼を支えるきっかけを作るためです」

「……そうね、無理やり人殺しなんか続けてれば、精神が持たないわね…」

 

 そのあと簡単に心葉のことについて説明した。皆で支えようとしていること、彼が暴走されると極東にとって、神機使いにとって最大の脅威になることを伝えた。

 

「…わかりました。少し話してみます」

 

 ユノが切り出した。

 

「ありがとうございます。じゃあ、戻りましょう」

 

★ラウンジ

 

「ごめんなさい、少し仕事の話があって…」

「仕事の話なら仕方ないね。さっ、パーティーパーティー!」

 

 ユノの謝罪に、詩音が言った。

 

「…ユノ、慎重にね」

 

 耳元でサツキが言った。ユノは頷き、心葉を探した。心葉は最初と同じように、一人静かにしていた。他の皆も時々心葉を見ている。きっかけを探っているのだろう。

 ユノは心葉に向かって歩き出した。

 

「隣いいですか?」

 

 声をかけた瞬間、心葉ビクッとし頷いた。何か話そうと思ったが、話せそうになかった。接触はしてみても、話すことを考えていなかった。いきなり救世主喰らいについて話すのも問題があると思った。

 

「…心葉君は何を悩んでいるの?」

 

 考えていたつもりが、いつの間にかそう言っていた。

 

「……何も、悩んでいません」

「…そうは見えませんよ」

 

 誰が見ても悩んでいるようにしか見えなかった。

 

「…………心葉君のこと聞いたよ」

 

 心葉がまたビクッとし恐る恐るユノの顔を見た。心葉の目に光はなかった。あるのは闇と苦悩だけだった。彼は今にも泣きそうな表情で、ユノを見つめていた。

 

「…そう…ですか……」

「…皆心葉君のことを心配してる」

「………」

「…それと心葉君の少しでも支えになりたいと思ってる」

「………僕は…救世主喰らいですよ……」

「関係ない。心葉君は第一部隊の一人で、皆の仲間ですから」

「……僕は…人殺しですよ……いつか皆さんを殺すかもしれないんですよ……だから……放っておいてください…」

 

 いずれ殺しにやってくる可能性がある。その時は心葉を殺すことになる。彼を殺すとき、少しでも感情のためらいがあれば、自分が殺されるかもしれない。だったら最初から仲良くしなければいい。それが彼なりの意志表現なのだろう。

 

「放っておけません」

「…………お願いです、放っておいてください」

 

 ユノは心葉の右頬を引っ張った。

 

「んぅ!?」

「心葉君がなんて言っても、心葉君は心葉君。救世主喰らいでも、人殺しでも関係ない。心葉君は私たちの仲間で、友達なんだから…悲しいこと言わないで……私たちは君を見捨てない。君が暴走したら、私たちが止める」

「………」

「心葉君は一人じゃないから…私たちがついてる。辛くなったら慰めてもらえばいい。そのために私たちがいるんだから。心葉君を第一部隊に誘ったのは、君を信頼して、仲間だと思っている証拠です」

「………っ」

 

 心葉の目に涙が浮かび始めた。

 

「…皆、そうでしょ?」

 

 全員が頷いた。

 

「心葉君、私たちがついてます。ですから、悩んでも一人で抱えないでください。私たちが心葉君を支えます」

 

 シエルが言った。

 

「俺は心葉はほんとは優しい奴だって知ってる。第一部隊に誘ったのだって、心葉を一人にさせないため。一人で悩むより、皆で悩めば、解決するさ」

 

 コウタも続いた。

 

「私は、心葉君が救世主喰らいでも、関係ないと思ってます。心葉君は心葉君で一人の神機使いで、私たちの仲間ですから」

 

 カノンも口を開いた。

 

「ほら、皆もそう言ってます…それでも…放っておいてといいますか?」

「………僕は……人殺し以外の何者でもありません……いつか暴走して皆さんを殺すかもしれません……それでも、僕を支えるって言うんですか?」

 

 心葉の問いに、全員が頷いた。

 

「……っ…皆さん…ありがとう……っ……ございます……」

 

 心葉は泣き崩れた。ユノは心葉の背中をさすってあげた。

 

★神機保管庫

side:シエル

 

 あの後皆で楽しく会話しながら、パーティーを終えた。心葉も会話に混じり、楽しんでいた。シエルも心葉と会話した。

 

「お忙しいときにすみません」

 

 今はリッカと話がしたく、神機保管庫に来ていた。

 

「いやいや、そんなことないよ。それで、何か用?」

「特に大したことではないのですが……心葉君に渡した特殊なバレットについて詳しく教えてほしいのです」

「えっ…それを聞いてどうするの…?」

「いえ、ただ人の体を吹き飛ばすほどのバレットです。少し仕組みが気になりまして……」

「…悪用したりしない?」

「ええ。約束します」

 

 人間の体を吹き飛ばすバレットが悪用された暁には、この世界には地獄絵図しか残らない。

 

「わかった…まず対物ライフル、アンチマテリアルライフルって知ってる?」

「はい」

「その対物ライフルの弾丸を改造して、作ったの。最初は人間にダメージを与えるって話から、徐々にエスカレートして、こうなったの。バレットの仕組みは弾丸が直撃してから、小さな爆発、その後もう一つオラクルの弾丸が発射されるの」

「使い切りということになるんですね…いつかなくなるのも時間の問題というところですか」

「それが、アラガミの素材をうまく合成すれば、対物ライフルの弾丸に似た物が作れるらしいの。これの作り方は心葉君しかしらない」

「………」

 

 さすがに弾丸の作り方までは知りたくないし使いたくない。だが、彼が使っている弾丸がよほど強力で、凶悪だということが分かった。

 

「博士曰く、人にあたった時の反応が、一段目で骨ごと貫き、二段目で骨を粉砕して、三段目で吹き飛ばすって言ってた。その一段の流れをコンマ2秒で終わりにする設計ね」

「…とんでもないバレットですね」

「そう。さっきも言ったけど、この話、悪用しないでね。悪用されたら、余計な死人が増えるから」

「わかっています」

 

 シエルはそのあと、リッカに感謝し部屋に戻って行った。リッカは一つの白い神機に目を向けた。心葉の神機だ。いつも鏡のように光を反射している槍にうっすらと黒いシミとひびが入っていた。そして、コアの色は濁っていた。これは前からだった。彼が堕ちた者を殺し、帰って来ると色が濃くなっている。そしてコアは、まるで堕ちた者の怨念でも吸っているかのように、黒く濁ってきていた。

 

「…何事もなければいいけど……」

 

 

■次回予告

 

 僕は歩き出す。一人じゃない。支えてくれる人たちがいる。あと少しでも皆と仲良くなれるといいな。

 

次回「わずかな時間」



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5話 わずかな時間

前回と同じようなことを書きましたが、皆様の数多くの閲覧で、UAが1000超えました。本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

ご意見、感想お待ちしております。

ちなみに今回はかなり雑です。ご了承を。


★極東支部外部居住区

side:心葉

 

「ごめんなさい、勝手に連れ出して」

「いえ、大丈夫です」

 

 心葉は今、ユノに外部居住区に連れ出され、2人っきりで歩いている。他人から見ればデートにしか見えない。ユノは空色のワンピースに黒い伊達メガネをかけていた。ユノに対し心葉は、黒いシャツと灰色のズボンと色合いのない服装だった。

 

「今日は休んでこいってコウタさんにも、詩音さんにも言われましたし」

「そうじゃないの」

「ふぇ?」

「私と出かけてること、見つかったら面倒ですよ?」

 

 ユノは苦笑いしながら答えた。世界の歌姫と神機使いが二人っきりで出かけているなんてことが知られたら、問題になる。

 

「…いいですよ、別に」

「そう。じゃあ、行きましょうか」

「はい」

 

★極東支部エントランス

side:シエル

 

「ああ~、また負けた~」

 

 詩音は持っていたトランプを机に投げた。先ほど詩音、シエル、エリナ、アリサ、ナナの5人でババ抜きをやっていた。

 

「隊長、これで10回目中、10回目ですね」

「言~う~なぁ~~」

 

 詩音はそう言って、机に突っ伏した。

 

「先輩って何考えてるか、すぐわかるんですよね」

 

 エリナが言った。

 

「顔に出てるってやつですね」

 

 アリサも続いた。2人の言うとおり、詩音は考えていることや、感情がよく表情に出る。よくというより、常に出ている。

 

「…そういえばさ、心葉君はどうしたの?」

「私、誘ったけど出かけますーって言って外部居住区に行ったよ」

「ナナさん、それいつの話ですか?」

「んー?20分くらい前だと思う。それがどうしたの?」

「いえ、ただ聞いてみただけです………隊長、心葉君を呼んでも勝つのは難しいと思いますよ」

「…ぅぅ」

 

★神機保管庫

side:リッカ

 

「どうだい?」

「…うん、数日前より鋭くなってる」

 

 神機保管庫に、リッカとサカキが訪れていた。二人の前には白銀の槍の神機が設置されている。心葉の神機だ。素材はカリギュラというハンニバル種の接触禁忌種のアラガミからだ。カリギュラの体は蒼いが前使用者が白く塗りつぶしていた。

 リッカはターミナルを操作し、ひたすらにモニターを眺めていた。

 

「そうか……この前のパーティーの出来事が影響しているかもしれないな」

「使用者に影響したっていうことですか?」

「そうなるね。どういう原理かはわからないが、神機もまた進化しているということになるな」

「でも、そんなケース聞いたことありません」

「私もだ。また一つ研究すべきことが増えたな」

 

 サカキは満足そうにつぶやいた。

 

★ラウンジ

side:コウタ

 

「いやー、なんとか心葉も心を開いてくれてよかったよ」

「そうですね。これもユノさんとこのパーティーを開いてくれた、コウタさんのおかげですね」

 

 テルオミが微笑みながら言った。

 

「いや、俺はそこまでしてないし…実際ユノさんがあいつを変えた。俺はほとんどしてない」

 

 コウタはテルオミの言葉を否定した。

 

「なあ、話は変わるけど、心葉って女装すれば女そっくりに見えるんじゃないか?」

 

 唐突にハルオミが言った。

 

「ハルさん、バカなこと言わないでください」

 

 ギルバートが頭を押さえながらつぶやいた。

 心葉は男だが、少々女の子のように可愛かったりする。顔立ちが女性よりというべきだろう。

 

「コウタはどうだ?」

 

 ハルオミの目は少し本気だった。

 

「…まあ、そんな気はしますね……」

「だろう。心葉は女性陣から好かれているから、提案を持ち込んでみないか?」

「ハルさん、本気っすか?」

 

 コウタは少しあきれていた。テルオミを見ると、ため息をついていた。

 

「ああ、本気だ。それに、あいつにとって役に立つ可能性あるかもしれないぞ」

「例えば?」

「変装、潜入…意外とできるんじゃないか?」

「何のために……」

 

 これ以上は追及しても無駄と思った。

 

「ん?そういえば心葉はどこ行ったんだ?」

「ああ、外部居住区行くってi」

「このエミールただ今買い物より帰還した!」

 

 コウタの話をさえぎるようにエミールがラウンジに入ってきた。

 

「おお、エミールか。そういえば、心葉見かけたか?」

「ん?心葉なら見かけたぞ。その時に一人の女性と歩いていたな」

「「!?」」

 

 まさかとは思うが、心葉が外部居住区に行ったのはデートするためだったのかもしれない。

 

「…エミールその女性について詳しく教えてくれないか?」

「うむ……ユノ殿だったな」

「「何ぃ!!」」

 

 コウタとハルオミが血相を変えて、立ちあがった。

 

「心葉めぇ!」

 

 心葉が世界の歌姫とデートするなんて考えられなかった。

 

★外部居住区

side:心葉

 

 ユノと二人で外部居住区を歩き、買い物をしているうちに夕暮になった。

 

「今日はありがとうございました」

 

 両手に袋を持ったユノが言った。この袋の中身は服や、お菓子、雑貨などだ。

 

「いえ、こちらこそありがとうございました」

 

 ユノのおかげで充実した時間を得られたと思った。誰かと話、歩くなんてことを数日前までは想像していなかった。ずっと一人で、この世界を歩いていくと思っていた。

 

「それじゃあ、私帰ります」

「はい。お仕事頑張ってください」

「うん。心葉君もね。ばいばい」

「ばいばい」

 

 ユノが笑顔で手を振り、心葉も手を振った。

 

「僕も帰ろう」

 

 ユノに背を向け、自分の帰るべき場所へ歩き出した。

 

★エントランス

 

「すみません、遅くなりました」

「おかえりなさい」

 

 帰ってくるとヒバリが出迎えてくれた。

 

「ごはん食べに行きましょうか?詩音さんが待ってますよ」

「わかりました。行きましょう」

 

 ヒバリの誘いを受け、ラウンジへ歩き出した。

 

★ラウンジ

 

 心葉はラウンジの扉を開けた。開けた瞬間、2つの影が迫った。そして拳が降ってきた。心葉は避ける間もなく、殴られた。

 

 

 

「本っっっ当にすみませんでした!!」

「まったく!!」

 

 詩音、アリサ、エリナが仁王立ちしている先に頭部にいくつか瘤を作った、コウタとハルオミが土下座していた。

 一方、

 

「……ひぅ……ぐすっ……2人とも…ひどいです……」

「よしよし」

 

 訳も分からず2人に殴られた心葉は、ヒバリに頭を撫でられながら、慰められていた。

 

「いくら心葉がユノさんとデートしていても、殴る必要はないじゃないですか!!」

 

 女性陣は皆怒っていた。よくわからないが、極東の女性陣は心葉に対してかなり優しい。

 

「まあまあ、今回の件は彼らの勘違いだ。その辺にしてやってくれ」

 

 サカキが口を出した。

 

「…サカキ博士が言うなら仕方ないです。でも、今度心葉君に手を出したら許さないからね!言っておくけど、今のセリフ、男性全員に向けてだから!!」

 

 詩音が言った。

 

「「は、はい」」

 

 コウタたちが、おびえながら返事をした。極東の女性陣は基本気が強いほうに該当する。逆に言えば、気が弱い人が少ないのだ。

 

 

■次回予告

 

 久々の出張。僕は自分の役目を忘れかけていた。僕は神を喰らうものなく、救世主を喰らうものだ

 

次回「覚醒と意志の芽生え」



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6話 覚醒と意志の芽生え

★エントランス

side:心葉

 

「えっ?出張ですか…?」

 

 今日が新しい第一部隊初の任務ということで、張り切っていた心葉だったが…

 

「はい。今回カナダ支部にて堕ちた者が確認されました。この堕ちた者の被害件数は18件。軽傷、重症、死亡など多数出ています。そのため救援要請が入りました」

 

 自分は神機使いではあるが、ゴッドイーターではなく、救世主喰らい(メシアイーター)なのだ。堕ちた者を退治するのが自分の仕事だ。

 

「…わかりました」

 

 心葉はシュンとなった。出張となれば当分の間は皆に出会うことができない。それが痛かった。いろいろな支部に行ってきたが、カナダは初めてだ。つまりあっちに行けば一人ぼっちになる。

 

「では、行ってきます」

 

 ヒバリに背を向け、出撃ゲート近くにあるエアポートに向かおうとしたが、腰の部分がやけに重かった。後ろを向いてみると

 

「心葉君~~行~か~な~い~でぇ~~」

 

 涙目になりながら詩音が心葉の腰に抱き着いていた。

 

「詩音さん!?手を離してください!」

 

 心葉は詩音をずるずると引きずりながら、エアポートまで歩き出した。が

 

「行かないでよ~」

 

 今度はナナが心葉の右手をつかんだ。

 

「何で!?ぼ、僕は、出撃しますから~~」

 

 ナナに手をつかまれ、うまく動けなくなった。さらに

 

「行かないでください!」

 

 アリサに左手をつかまれた。これが両手に花という図なのだろう。

 

「何で皆さん邪魔するんですかぁぁぁ!!」

 

 その悲鳴はむなしくも届かなかった。逆に新たに障害を増やしただけに終わった。

 

「行かせはしません」

 

 シエルが後ろから抱き着いていた。こうなると動くこともできない。ただの案山子同然だ。

 

「……ヒバリさん…助けて………」

 

 心葉は涙目になりながらヒバリに助けを求めた。が

 

「ほんとは私も行ってほしくないんです」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 極東の女性陣の大半は敵だと確信した瞬間だった。今の自分の周りに見方はいない。そう思ったとき、救世主が現れた。

 

「お前ら…いい加減にしろぉ!!」

 

 突如現れたギルバートが拳を振り上げた。

 

 

「…心葉、大丈夫か?」

「…はい、ありがとうございます」

 

 ギルバートの前には、詩音、シエル、ナナ、アリサがそれぞれ正座している。皆頭部に瘤を作っていた。

 

「…お前ら、何か言うことは?」

「「すみませんでした」」

 

 皆頬を膨らませながら答えた。

 

「すまなかったな心葉。後でちゃんと叱っておくから」

「……お願いします」

 

 大丈夫です。と言おうとしたが、やめた。今回のケースは少しぐらい叱ってもいいと思う。

 

「わかった…………いくら心葉のことが気に入ってもな、仕事ぐらい邪魔するな」

「「………」」

「返事は?」

「「…はーい」」

 

 ギルバートが詩音たちを抑えてくれたおかげで、出撃ができるようになった。

 

「ギルバートさん、ありがとうございますっ!」

 

 ぺこりとお辞儀をし、エアポートへ走り出した。

 

 

★エアポート

 

「すみません、遅くなりました!!」

 

 エアポートに駆け込むなり、すぐに頭を下げ謝罪した心葉だった。

 

「いいのよ。それより久しぶりね」

 

 顔を上げるといつの日かお世話になった操縦士がいた。その隣には同じ日にお世話になった副操縦士もいた。

 

「あっ、お久しぶりです」

「なんかね、君の専属パイロットになったみたい。それより、行きましょうか」

「はいっ」

 

 目の前にあるヘリに乗り込んだ。

 

「離陸するわよ」

 

 操縦士が言った。次の瞬間、世界が動きふわりとした感覚が体を襲った。この感覚は好きだった。どうして好きだとかはわからない。ただ、好きなのだ。

 

「移動時間はなかなかよ。だから、そこにあるレーションなりお菓子なり食べて過ごしてね」

 

 自分の隣には、山積みになったお菓子とレーション、飲料があった。心葉はその中からレーションとジュースを取り出し、レーションを少量、口の中に放り込んだ。

 

 

★カナダ支部エアポート

 

「ここが……」

 

 数時間かけてやっと到着した。ヘリの中も暇だったので昔のカナダのパンフレットを読んでいた。カナダはアメリカと比べなかなか大きい。領土の約50%が森林で占められている。そして非常に寒冷な気候を持っている。あくまでそれは昔の話だ。

 

「………うう…寒い………それにしても……緑はどこに…?」

 

 寒いのは正しかった。だが、近くには緑なんて一切なかった。あるのは平地と廃墟と化した街、そして荒野にたたずむフェンリルカナダ支部。

 

「支部長が待っています。行きましょう」

 

 副操縦士が言った。操縦士が歩き出し、心葉もそのあとに続いた。

 

 

★カナダ支部エントランス

 

 カナダのエントランスは極東と大きく変わると思っていたが、そうでもなかった。エントランスはどこに行っても同じような形をしていた。

 心葉はまずオペレーターと挨拶することにした。

 

「このたび極東支部から出張してきました、日暮心葉です」

「よろしく。俺はレオス。レオス・アリアスだ。ここではオペレーターを務めている」

 

 青年、レオスがオペレーターを務めていた。極東で唯一の男性オペレーターであるテルオミと同じかそれ以上の年齢だった。

 

「心葉、支部長室へ。支部長が待っている」

 

 レオスは無関心そうに言い、パソコンと向き合ってしまった。心葉はエレベーターに乗り、支部長室へと歩き出した。

 

 

★カナダ支部支部長室

 

 重圧そうな扉を開けると、少し大柄な男性が座っていた。

 

「ようこそ、カナダ支部へ。心葉君。いや、救世主喰らいと言ったほうがいいかね?」

「……あまりその名前では呼んでほしくないです」

 

 その名前で呼ばれると、胸がチクチクする。

 救世主喰らいの名前は自分では否定している。読みはメシアイーターが正しいが、読み方を変えれば「ひとごろし」でもある。

 

「いや、すまなかった。まさか、君みたいな少年がこんなことをしているとは思わなかったよ」

 

 大体、救世主喰らいの名前を聞いて思いつく人物は狂気のある青年と思っている。だれも大人しく、謙虚な少年が救世主喰らいとは思わないだろう。

 

「君のことは極東から出張した新人神機使いということで話を進めてある。君は第1部隊配属になる。この話が終わったら、挨拶でもさせる予定だ。今回君を読んだ理由はわかっているね?」

「はい。今回数多くの被害を出した堕ちた者の退治…でいいんですよね?」

「ああ。話が早くて助かる」

「それで、僕は堕ちた者を倒したらすぐに帰っていいんですよね?」

「まあ、そうなるが、無理に帰らなくてもいいはずだ」

 

 支部長の言うとおりである。だがすぐにでも帰らなければいけない理由が極東にある。

 

「あっちですごく待っている人がいますから」

「君を待っている人?女かい?」

「そうなんですけど……ちょっと心配で……」

 

 今にも極東の女性陣が発狂してないか心配だった。それでギルバートやほかの人に影響が出たらどうしようかと思った。

 

「…何かと事情がありそうだが、君の役目が終わったら自由にするといい。短い間だが、よろしく頼む」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

 ぺこりと頭を下げ、支部長室を後にした。

 

★休憩所

 

 操縦士と、副操縦士はいろいろと歩き回っているから気にしないで。と言ってどこかへ行ってしまった。自分の部屋も個人部屋で用意されていた。操縦士建ちは相部屋になっていた。

 心葉は外を眺めながら、自販機で買ったココアを飲んでいた。

 

「ギルバートさん、大丈夫かな………」

 

 極東よりギルバート本人が心配だった。彼女たちに振り回されて怒ったりしているのだろうか……そんなことを考えた。ちょっとだけ自分がいない極東支部はどんな感じか気になった。そう思った時にはコートのポケットから、携帯を取り出し、ギルバートに電話をかけていた。電話はすぐにつながった。

 

「心葉、どうした?」

「いえ、ただ僕のいない極東支部ってどんな感じかなーって思っただけで……」

「………心葉」

 

 ギルバートの声は重かった。

 

「はい?」

「…頼むから早く帰ってきてくれ。このままじゃ俺がストレスで倒れる」

 

 ギルバートがいったい何を言っているかわからなかった。向こうでいったい何が起きているんだろうか……

 

「わ、わかりました……ちなみにあとどれくらい持ちこたえそうですか?」

「わからない。今日かもしれない、明日かもしれない……悪いが切るぞ」

 

 ブツリと電話が切れる音が耳元でなった。本当に早く帰ったほうがよさそうだった。

 

「すまない、待たせたな」

 

 後ろから、声をかけられた。振り向くと自分より少し年上ぐらいの銀髪の青年と桜色の長い髪の女性がいた。

 

「こいつが迷子になってな」

 

 青年が隣の女性を指さしながら、言った。女性は頬を膨らませていた。

 

「いえいえ、こっちもついさっき来たばかりです」

「そうかい。俺はセシル・クラウン。君が入る第一部隊の隊長だ。こっちがシィ・エルダリアだ。もう一人いるが本日は別任務中だ」

「日暮心葉です。短い間になると思いますが、よろしくお願いします」

 

 心葉はぺこりと頭を下げた。

 

「こちらこそ、よろしく」

「ねね、いきなりで悪いけど、心葉君の神機見せてくれない?」

 

 シィが口を開いた。

 

「いいですけど…」

 

 自分の神機なんか見てどうするのか疑問に思った。

 

「こいつはもともと整備士だ。適合する神機が見つかったから今ここにいる」

「なるほど…僕の神機は保管庫に入っていると思いますけど…」

「わかったー!」

 

 シィは保管庫の方向へと駆けて行った。

 

「行くか」

 

 シィに続いてセシルも歩き出した。その後ろを心葉がついて行った。

 

 

★神機保管庫

 

 ここの神機保管庫も薄暗く少々蒸し暑かった。だが、極東と比べ広かった。壁側一面にずらりと神機が並んでいた。その中でひときわ目立つ白い神機があった。

 

「おおっ!?新しい神機!!」

 

 その白い神機向かってシィが走って行った。その白い神機が心葉の神機だ。

 

「あれが君のか」

「ええ。装備は前使用者のおさがりなんですけどね」

 

 自分の神機の正面に立った。その前でシィが神機を眺めている。

 

「チャージスピアでカリギュラ一式……しかも全部最終強化済み……おまけに白塗装ね…」

 

 シィは神機を眺めた後、神機の前のターミナルを操作しだした。このターミナルには神機の状態を示す数字やグラフがある。どの部分が調子が悪いとか、この部分が破損しているとか、そういったことも分かる。

 

「…数値、状態、破損状況……すっごい!!!」

 

 シィは一人興奮していた。

 

「こんなに調整されている神機初めて見た!!」

 

 心葉とセシルはシィのテンションに唖然としていた。

 

「君の神機の扱いも丁寧ですごいけど、極東の整備士の技術力もすごい!!」

 

 自分では結構雑に扱っているつもりだが、どうやら神機のメンテナンスや扱いには素人にわからないことがたくさんありそうだ。

 

「ねぇねぇ!早く出撃しよっ!!心葉君の実力見てみたい!!」

「…心葉、あいつはああなったら止まらない。シィ、本日の任務は全部片付いたそうだ。あとは夜当番のやつに任せておけ。やっても模擬訓練程度だな」

「ぐぬぬ……じゃあダミーで我慢します」

 

 どうやら自分が神機を振るうのは確定しているようだった。

 

 

★訓練所

 

 心葉は堕ちた者以外に神機を振るうのはだいぶ久しぶりだった。ダミーなんか最初に神機を振るった3日以来相手をしたことも、見たこともなかった。

 

「…まあ、ダミーごとき苦戦するようじゃすぐに帰ってもらうが、心配ないだろう」

 

 スピーカーからセシルの声が響く。心葉の目の前には小型アラガミ、オウガテイルに似せたダミーが10体。

 

「機器の準備はオッケーだよ。いつでもいいよ。やっちゃって!」

 

 シィが言った。

 

「行きます!」

 

 軽く息を吐き出し、目の前の一番近いダミーに肉薄した。神機を握る手に力を込め、ダミーの頭部めがけて振り下ろした。白い槍はダミーにめり込み、砕いた。そして神機を横に薙ぎダミーを吹き飛ばした。

 

「次!」

 

 すぐそばにいた2体目のダミーを神機で突き刺し、素早く引き抜いた。

 

「ガァッ!」

 

 ダミーが後ろから飛びかかってきた。いくらダミーとはいえ、中身は金属。直撃すれば痛いでは済まない。心葉は飛びかかってきたダミーに対し、ステップをし、ギリギリ当たらない程度まで動いた。そしてすぐに神機を薙ぎ、切り裂いた。

 

「まだまだっ」

 

 神機を銃形態に変形させ、こちらに迫ってくるダミーに向けてバレットを放った。今放ったバレットは対堕ちた者用のバレットではなく普通のバレットである。心葉の放ったバレットはダミーの脳天を貫き、あたった弾丸から、複数のオラクルの弾丸が形成され、そこからさらに弾丸が放たれた。その数合計3発。ダミーの頭部は砕け、消滅した。

 このバレットは過去にリッカから教わったバレットで自分が愛用しているバレットの一つでもある。

 

 

side:セシル

 

「驚いたな」

 

 新人とは思えないほどの動きであった。新人神機使いは基本周りがよく見えていない。だが心葉はよく見ている。単体の敵に集中せず、全体的に見て敵の攻撃を判断し、ほかの敵も確認した後、反撃か回避している。

 

「たぁっ!!」

 

 心葉は飛び上がったダミーに神機を空に薙ぎ反撃した。その後背後から迫るダミーをバックフリップで背後に回り込み神機で突き刺した。

 

「……本当に新人か?」

 

 今まで数多くの新人を見てきたが、これほど動ける新人はいなかった。センスがある、という次元を超えいていた。センスがある神機使いでもここまで動ける新人は見たことがない。

 

「…シィ、どう思う」

「………新人には思えない…ずっと前から闘ってるような……それもオウガテイルとかザイゴートとかそういった小型ばかりの相手じゃなく、大型の乱戦を体験している感じ……いや、それ以上…?」

 

 パソコンから目を離さず、シィは自分の意見を出した。

 

「…考えてみれば、普通素人がカリギュラ装備をあそこまで軽々扱えるわけないもんね」

「そうだな。あれは接触禁忌種の装備だ」

 

 話しているうちに心葉はダミーを殲滅していた。

 

 

side:心葉

 

 開始から5分、ダミーをすべて殲滅した。どのダミーも頭部が砕けたりと胴体から下がないとか、滅茶苦茶になっている。

 

「ふぅ…」

 

 小さく息を吐き出した。額の汗をぬぐい、コートを脱いだ。

 

「お疲れ様。いろいろと見せてもらったよ。シィはデータ整理したいって言うから、あそこにこもっている。もう寝たほうがいい」

「わかりました。お先に失礼します」

 

 神機を保管庫に返し、、自分の部屋に向かった。

 

 

★自室(仮)

 

 用意された部屋はホテルのプライベートルームのようにベッドとクローゼット、テレビに小さな棚と水道があるくらいだった。トイレとシャワールームは別の部屋にあった。ここ近辺にはどうやら誰もいないらしい。コートをハンガーにかけ、シャワールームに向かった。

 シャワーを浴びながら、自分は華奢な体をしていると思った。これが自分の数少ない悩みの一つ。

 

 

 部屋に戻ると携帯が鳴っていた。発信元はギルバート。不安がこみ上げてきた。電話を恐る恐る手に取り、電話に出た。

 

「は、はい」

「すまないな、夜遅くに」

「いえ、大丈夫です。それより、どうかしたんですか?」

「いや、ただ大丈夫かどうかってな」

「そ、そうですか…」

 

 今自分の中で何か嫌な予感がするのを感じた。ギルバートの声の後ろでドドドドドドドと何かが迫ってくるような音がしているのだから。

 

「ん?詩音!?やめろ!!ぎゃあああああああああああああ!!」

 

 その予感は見事的中した。ギルバートが悲鳴を上げた。何が起きたか容易に想像できたが、想像したくなかった。携帯が落ちた軽い音と同時に、ドサリと思い音もした。

 

「もしもし!このh」

 

 詩音の声を聴いた瞬間に自分の指は自然と電話を切っていた。そしてそのまま電源を落とした。これ以上考えると寒気がしそうだった。早いうちにベットに潜り込み、眠りに落ちた。

 

 

★旧市街地

 

「本日はヴァジュラ目当てだが、俺がやる。二人は小型を頼む」

 

 セシル、シィ、心葉は旧市街に足を運んでいた。外は廃ビル、永遠に色がつくことも変わることもない信号機、もう過去の平和だった市街地はなくなっていた。

 

「心葉、昨日の動きを見て君ひとりでも行動できると見た。行けるか?」

「やります」

 

 自信満々に答えた。

 

「よし、頼む。何かあったら各自連絡を」

 

 シィと心葉が頷き、3人それぞれ別方向へと走り出した。

 

 

side:セシル

 

「いたか」

 

 行動を開始してから早くも討伐目標を確認した。トラの様な巨大なアラガミ。今まで何度も戦ってきている。特に苦戦するような相手ではない。

 

「こちらセシル、これよりヴァジュラと交戦する」

 

 通信を一言入れ、神機を握り、ヴァジュラに向けて走り出した。

 

「グォォォォォ!!」

 

 ヴァジュラが吠える。戦争の開幕だ。

 

 

side:シィ

 

「よっと」

 

 ロングブレードの神機を薙ぎ、小型アラガミを倒していく。神機のメンテナンスもしっかりしてある。破損個所もなし、オラクル細胞の数値も問題なし。絶好調であった。

 

「…さて、次行きますか」

 

 そう意気込み、走り出した瞬間、通信が入った。オペレーターからだった。

 

「緊急事態発生!!作戦エリアに堕ちた者が侵入した!!今すぐ逃げろ!!」

 

 オペレーターのレオスが叫んだ。

 

「このタイミングで!?」

 

 驚くしかなかった。セシルと自分はよしとしても、この場には新兵の心葉がいる。かなりまずい状況だ。

 

「2人ともいいか!?任務のことは気にせず今すぐ逃げろ!!」

 

 セシルの言うとおりだ。任務よりまず命が大切だ。シィは駆け出した。が

 

「そんな…」

 

 逃げようとした先に堕ちた者がいた。堕ちた者はじっとこちらを見つめている。

 

「くっ…」

 

 見つかった以上交戦は免れない。神機を握る手に力を込め、堕ちた者に肉薄した。

 

 

side:心葉

 

「…来ましたね」

 

 本来ここにいる理由はアラガミを倒すのではなく、堕ちた者を倒すために来ているのだ。これからが本当の仕事になる。

 通信が入った。

 

「ちっ…シィと堕ちた者が交戦中だ。誰か援護を!!」

 

 レオスが舌打ちをし、叫んだ。同時に通信機の画面に交戦ポイントが表示された。心葉はアラガミの屍を通り過ぎ、ポイントへ走り出した。

 

 

side:シィ

 

「きゃぁっ!」

 

 堕ちた者の素早い攻撃により、吹き飛ばされた。堕ちた者が追撃を仕掛けてくる。

 

「くっ」

 

 痛む体に鞭をうち、立ちあがった。そして神機を振るった。だが、堕ちた者の圧倒的な力を前に、また吹き飛ばされた。ゴロゴロと体が転がり、廃ビルの壁に激突する。

 

「っ!?」

 

 さらに堕ちた者が追撃を仕掛けてくる。シィは神機の盾、重圧かつ巨大なタワーシールドを展開した。ガキィン!と堕ちた者の異形と化した神機の様な武器と盾がぶつかり、嫌な音が響く。これで少し落ち着いて反撃を狙おうとした。だが、堕ちた者は反動をものともせず、連続で盾に向かって武器を突き刺している。弾かれてもまだ突き刺す。自分がいつまで持つかわからなかった。それでも救援の時間稼ぎにはなるだろうと思った。

 

「…お願い…もう少しだけもって…」

 

 その願いは砕かれた。タワーシールドが悲鳴を上げ始め、堕ちた者の武器の先端が少しだけ貫通し始めた。

 

「あ、ああああああああああ」

 

 最初は少しだけ貫通していた部分も、時間が立つにつれ、穴も大きくなり、場所も増えてきた。

 

 

side:心葉

 

「見つけた!」

 

 心葉は駆け出した。堕ちた者は何かに向けてひたすら右腕を振るっている。よく見るとシィの神機のタワーシールドだった。

 

「ああああああああああああああああああ」

 

 

 シィの声が聞こえた。

 

「シィさん!」

 

 堕ちた者はいまだ武器を振るっている。タワーシールドもあまり持ちこたえそうではなかった。鈍い音が鳴り響いている。

 

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 シィが悲鳴を上げた。まだ間に合うと思った。が

 

「ごふっ!」

 

 鈍い音が鳴りやみ、タワーシールドの陰から赤色が滲み出していた。それ以来、シィの声も聞こえなかった。

 

「ッッッッ!!!!」

 

 自分の中で何かがこみ上げるような感覚がした。怒りとは別の何かが。

 心葉は高速で堕ちた者に接近した。

 

「シャァッ!」

 

 堕ちた者がこちらに気付き、声を上げた。接近してくる心葉に向けて、武器を振り下ろした。心葉はそれを神機で薙ぎ、振り払った。そして神機で堕ちた者の左肩あたりを突き刺した。槍の先に蒼白いエネルギーが集中していた。次の瞬間、エネルギーが爆発し堕ちた者を吹き飛ばした。大きく吹き飛ばされた堕ちた者はそれ以降動かなくなった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 急に疲労が体を襲った。きっと先ほどの爆発によるものだと思った。自分でも何が起きていたかよくわからなかった。

 

「…はぁ…はぁ…堕ちた者は…動かない…?」

 

 堕ちた者に近づきながら長さの違う角材を拾った。死体に近づくと、左側の胸部から肩、腕が消し飛んでいた。

 

「…ごめんなさい…」

 

 死体に謝り、角材を十字架に組み合わせ死体のそばに刺した。

 

「っ!シィさん!!」

 

 ふと思い出し、タワーシールドに駆け寄った。近くによるとガシャリと音を立て、神機が倒れた。そこには腹部を貫かれ内臓をさらけ出しているシィの死体があった。

 

「…ぁぁぁ」

 

 声が出なかった。

 

「シィ!!」

 

 背後からセシルが走ってきた。

 

「なんなんだよ…これはぁ!!」

 

 セシルが声を上げていた。無理もない。こんな無残な姿で死んでいるのだから。

 

「シィ!おいシィ、シィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 セシルの叫びは空しく空に響いただけであった。

 

 

★エアポート

 

「…すみません」

「君が気にすることではない。君はやるだけのことをやっただけだ」

「でも…もっと早く行けば、守れたかもしれない」

 

 心葉のは今にも泣きそうだった。

 

「この世界、犠牲無しでは生きていけない。それはわかるだろう」

「…はい」

「せめて、彼女のことを忘れないでくれ」

「…わかりました。短い間ですが、ありがとうございました」

 

 ぺこりと頭を下げ、ヘリに乗り込んだ。

 

 

★カナダ支部エントランス

side:---

 

 一人の青年が帰還した。エントランスにはいつもと違う騒がしさがあった。

 

「レオス、何があった」

「…バゼル、言いにくいが、シィが堕ちた者に殺された」

 

 レオスの言ったことにバゼルと呼ばれた青年の表情が真っ青になった。バゼルは第一部隊の一人でもある。

 

「…………なんでだよ…」

「…シィが堕ちた者と遭遇、その後交戦。そして死んだ。その後堕ちた者は何者かによって殺されていた」

「…変な話だな。ありえないと思うが救世主喰らいか?」

 

 一般の神機使いは救世主喰らいについてまったくと言っていいほど情報は知らない。ただ神機使いを喰らうということしか知らない。

 

「…不明だ。その場にはセシル、シィ、そして極東から派遣された心葉という新兵がいた。そしてそれ以外の人間は立ち入っていない。最初から最後まで」

「その新兵が堕ちた者を殺せるわけがない。そうなればセシルか?」

 

 その問いにレオスは頭を横に振った。

 

「セシルはその時ヴァジュラと交戦中だった。信じがたいと思うが堕ちた者は心葉がやった可能性が高い」

「…どんな奴だった?」

「大人しく健気なやつだ。15、16の幼い少年だ」

 

 そんなやつが堕ちた者を殺せるわけがない。そう思うしかなかった。だが話を聞く限りでは、心葉というやつしか堕ちた者を殺すことはできないはずだ。さらに話を聞くとセシルが駆け付けたころにはすでに堕ちた者は死んでいたという。

 

「…偶然…か、それともそいつが救世主喰らいか?」

「…参考までにしてほしいが、最近救世主喰らいの噂で、神機使いだけでなく、堕ちた者も喰らうという噂が回っている」

「そうなれば……救世主喰らいがやったという可能性が高いのか」

「そう見たほうが早そうだ。こっちで少し心葉のことを調べたが、どう考えても救世主喰らいではない」

「なぜ言い切れる?」

 

 レオスがパソコンを向けた。

 

「この記録がそうだ」

 

 パソコンには心葉の活動内容が書いてある。どれも極東支部を中心に小型アラガミの討伐、ベテラン神機使いによる指導などなど。これは5か月前続いていた。そして心葉が神機使いになったのは5か月前。

 

「なら誰がやったっていうんだ?」

「………」

 

 レオスは答えられなかった。正確にはどう答えたらいいかわからなかった。今のバゼルの目には怒りと殺意しか見えなかったからだ。下手に口を出せば自分の命まで危険にさらされると判断した。

 そしてバゼルの怒りの矛先は…

 

「救世主喰らい……お前さえいなければ………!」

 

 救世主喰らいへと向けられた。

 

 

★極東支部エントランス

side:心葉

 

「……………」

 

 カナダから帰ってきた心葉はエントランスの椅子に一人黄昏ていた。誰かいると思ったが帰ってきた時間が1時を回っていた。当然夜番の人以外誰もいなかった。

 

「………」

 

 シィのことが頭から離れなかった。初めて自分の目の前で人を守れなかった。それが悔しかった。

 

「…なあ」

 

 上から声をかけられた。見上げるとソーマがいた。

 

「一人黄昏て、何を考えている?」

「…………守れませんでした」

「…何をだ?」

「……向こうの神機使いです」

 

 ソーマが隣に座った。

 

「俺も過去に仲間を一人失ったことがある……」

「…後悔…しましたか?」

「ああ、後悔した……常に死と隣り合わせとはいえ、仲間との別れはいつになっても慣れない……」

「……ソーマさん」

「…今日は寝ろ。明日は忙しくなるかもしれないぞ」

 

 そう言ってソーマ去って行った。

 

 

★廊下

 

 ソーマの言うとおり自分もすぐに寝ることにした。気のせいかもしれないが誰かにつけられている感覚があった。考えすぎなのだろう。そう思って、ドアに手をかけた次の瞬間、

 

「むぐぅっ!!」

 

 突然自分の口と鼻にに布が当てられた。その直後強烈な眠気に襲われた。

 

「ぅ…ぁ…」

 

 夜遅い時間というだけあって、最初から眠気はあった。体は後ろに倒れ、頭はふくよかな感触のある何かにあたっただけはわかった。それ以降のことはわからなかった。心葉は眠ってしまった。

 

 

■次回予告

 

 うまくいきました。明日心葉君の反応が楽しみですね

 

次回「僕は女の人じゃなくて、男(男娘)の人です!!」



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7話 僕は女の人じゃなくて、男(男娘)の人です!!

前回からだいぶ空きました。すみませんでした。





★自室

side:心葉

 

「…ぅん……?………朝…?」

 

 目を開けるといつもの見慣れた天井があった。先日何者かによって強制的に寝かされた。どこかに連れて行かれるのかと思ったが、いつもの自室にいた。

 

「…ふぁ……今は……8時………朝ごはん………ぅぅ……眠い………」

 

 心葉は朝にめっぽう弱い。原因は低血圧でもあるが、一度寝るとなかなか起きない体質でもあるからだ。だが、今の時間起きないと本日の朝食を見過ごすことになる。

 

「……………眠い…」

 

 ベッドから嫌々出て、クローゼットを開けた。クローゼットの中にいつもの真っ黒なコートが入っている…はずだったが、なかった。それ以前にクローゼットの中が空っぽになっていた。いつもは支給された制服や、私服も入っているが、それすらも入っていない。

 

「…もしかして…ほかの人の部屋……?」

 

 どちらにせよ、今のままでは正常な判断ができないと思った。一度目を覚ましてから判断をしていこうと思った。近くにある蛇口の取っ手をひねり、水を出した。その水を手で汲み、顔につけた。冷たい水が目を覚まさせる。目が覚めたところで近くにあった小さな鏡を見た。少しだけ表情が変わったような気がした。あくまで気がしただけだった。

 

「………?」

 

 心葉は疑問に思った。さっきから足が妙に寒い。心葉は基本ロングパンツしかはかない。それなのに足が寒いのはおかしい。そう思い、顔を下に向けた。その1秒後、驚愕し悲鳴を上げた。

 自分では今まで一番の悲鳴だと思った。

 

 

★ギルバート自室

side:ギルバート

 

 ギルバートは朝食をすでに食べ終えていて、部屋でたまたまあった観光雑誌を読んでいた。当然数十年前のものだ。どれも興味深かった。写真とはいえ自分の見たことのない世界が広がっていた。昔はこうだった。あれがこうなった。今の世界を思い浮かべながら、雑誌の写真と照らし合わせていた。

 

「………終わったか…」

 

 最後のページをめくり、つぶやいた。今まであまり過去の世界には興味はなかった。だがこの雑誌を見て少し興味を持ち始めた。

 次の雑誌を探そうと席を立った瞬間、隣の部屋から、

 

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 誰かの悲鳴が聞こえた。隣の部屋は心葉しかいない。

 

「あいつらッ!また動きやがったか!!」

 

 スライド式のドアを強引に開け、心葉の部屋に向かった。心葉の部屋はドアノブ式だ。そのドアノブを握り、力強く開けた。

 

「この………は…?」

 

 ギルバートは驚いた。目の前にいたのは心葉ではなかった。

 黒く短く切りそろえられたサラサラな髪、空色の涙ぐんだ瞳、力を入れれば折れてしまいそうな細く華奢な腕、少し膨らみかけた胸。そんな特徴の少女がいた。

 

「み、見ないで…くだ…さい…」

 

 自分の手で胸のあたりを押さえ、おびえながら少女が言った。ギルバートは帽子を深めにかぶり、少女を見ないようにした。

 ギルバートは知った。あいつらが動き出したのではなく、すでに動いた後だったのだ。

 

「……ひぅ……」

 

 とうとう少女が涙を流してしまった。

 目の前にいる少女は、被害にあった心葉だった。

 

 

「…ありがとうございます」

 

 ギルバートはクローゼットの中に何か着る服があるだろうと思ったが、何もないため仕方なくベッドの布団で心葉をくるんだ。

 

「…さて、どうするか…」

 

 心葉から事情を聴き、ギルバートは今ターミナルを見つめている。ターミナルには一つのメールがあった。送り主は詩音。内容を簡単にまとめると今日一日中女装すること。それに従わなかった場合、心葉だけでなく極東の男性神機使い全員が女装することになる。さらに部屋に引きこもる、服を貸してもらうなどといった行為をすれば男性全員女装行きだ。

 

「……とりあえず、博士のところ行くぞ」

 

 

★サカキ博士の研究室

 

「…ということがあった」

 

 ギルバートはサカキに会い、心葉がこのような目に合っている理由を話した。

 

「……それは参ったね…心葉君…人助けだと思って今日一日演技をしてくれないか…?」

「…はい」

 

 心葉の声は小さかった。当然だ。朝起きてこんな姿になってればショックは受ける。

 

「…だが、どうする?」

 

 今の心葉の服装は、紺色のドレスシャツに藍色のスカート。そしてニーソックス。誰が見ても女性だ。今のところ心葉はタオルを巻いて座っている。

 

「心葉君のデータを改ざんしよう。今の君は一日派遣された神機使い。心葉君は出張中。ということにしておこう」

「…そうなれば名前が必要になるか」

「…名前…」

「偽名だね」

 

 心葉は少し考えた後口を開いた。

 

「…弥生…風間弥生」

「決まりだね。じゃあギルバート君、タオルをとってあげてくれ」

「!?い、いやっ…」

「…悪く思おもうなよ」

 

 ギルバートは強引に心葉のタオルを取り上げた。心葉の華奢な体が現れた。

 

「これも少し演技の勉強だと思ってくれ。皆には話を進めておくよ…だが似合ってるじゃないか。ギルバート君もそう思うだろう」

「ええ、最初見たとき男には見えませんでした」

「…ぅぅ…変なこと言わないでください……」

 

 顔を真っ赤にした心葉がつぶやいた。

 

「じゃあ弥生君、幸運を祈るよ」

 

 サカキが笑顔で手を振り、心葉を部屋から出させた。

 

 

★廊下

side:弥生

 

「…僕何も悪いことしてないのに……」

 

 廊下を一人トボトボと歩きながらつぶやいた。 

 

(よくよく考えてみれば、自分のキャラを作らなければいけないのかな…無口?活発?……)

 

 いろいろと考えているうちに一人の男性とすれ違った。

 

「ん?アンタ、見ない顔だな」

「ひゃぃっ!?」

 

 いきなり声をかけられたこともあるが、自分の声がかなり裏返っていた。

 声をかけたのは銀髪でガタイのいい男性、防衛班のブレンダンだった。

 

「新入りか?」

「あっ、あの、ぼ…私今日一日派遣された風間弥生って言います!」

 

 僕と言いかけ、詰まりながら自分の名前を言った。

 

「そうか。よろしく」

 

 包帯のまかれた手を差し出してきた。

 

「はいっ、よろしくお願いしますっ」

 

 にっこり微笑みながら手を差し出した。そして握手した。これで自分の正体がバレないか不安に思ったが平気だった。そしていつの間にかキャラを作り上げていた。

 

 

★エントランス

 

 歩いているとまた自分の中で問題が発生した。スカートだ。今まで通り歩いていると下着が見えてしまうのではないかと考え、廊下でひたすら歩き方を試行錯誤していた。5分くらい歩いて、なんとか不自然ではなくなった。それでも歩き方は不自然ではないか?下着が見えていないかどうか不安だった。

 

「あら?新入りさん…ですか?」

 

 考え事をしているとまた声をかけられた。今度はアリサに声をかけられた。

 

「えっ、あぁっはい!今日一日派遣された風間弥生です!」

「弥生ちゃんね。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 弥生はぺこりと頭を下げた。

 

「今時間あいてますか?」

「はい」

「じゃあここを少し案内しましょうか?」

「いいんですか!?ありがとうございます!」

 

 ここの大体のことを知っているが、断るわけにはいかなかった。

 

「まず、ここがエントランス。下でオペレーターから任務を受けたりします。後ろにあるのが、出撃ゲートです。この奥に神機保管庫があります」

 

 錆びた階段を下りながら口を開いた。

 

「ここで任務を受けます」

 

 今は少し暇である。新人オペレーターのウララがヒバリにレクチャーを受けているところだった。そのヒバリがこちらに気付いた。

 

「アリサさん、そちらの方は…?」

 

 新人神機使いは大体オペレーターにも情報は入る。初対面で疑問に思われれば何かしら問題がある。

 

「あっ、ヒバリさん。この子一日派遣の風間弥生ちゃんです」

「風間弥生…?…ウララさん少しいいでしょうか?」

「あっはい」

 

 ヒバリがコンピュータを慣れた手つきで操作し始めた。

 

(…僕の人生終わりましたね)

 

 終わった。 このコンピュータには極東支部の神機使いの情報がすべて入っている。新人から派遣された神機使いまで。派遣された神機使いのデータに弥生の名前がなければ大問題になる。自分の正体がバレるのも時間の問題だろう。

 

「……あっ、ありますね。風間弥生。沖縄支部から一日派遣ということになっていますね」

 

 どうやら神とサカキはまだ見捨てていないようだ。

 

「先ほどは失礼しました。私オペレーターの竹田ヒバリです。こちらは新人オペレーターの星野ウララさん。短い間ですが、よろしくお願いします」

「どうかよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 3人それぞれ挨拶を交わした。

 

「それでは、次に行きましょう」

 

 アリサに手を引かれ、歩き出した。

 

 

★ラウンジ

 

「ここがラウンジです」

 

 ラウンジは他の場所と比べ少し明るい。入ってくるたびに少し目が痛かったりする。

 目の前のカウンターにはコウタ、テルオミ、エリナ、ジーナがいた。

 

「こんにちわー」

「アリサ、その子は?」

 

 コウタが言った。

 

「あっ、私今日一日派遣された風間弥生です」

「一日派遣…ですか、僕は真壁ハルオミです。こちらは第一部隊隊長の藤木コウタさん、それで」

「私はエリナ。エリナ・デア・フォーゲルヴァイデ」

「ジーナ・ディキンソンよ。よろしくね」

 

 それぞれ挨拶を交わし、アリサがカウンターの席へ進めてくれた。

 

「コウタ、弥生ちゃんに手を出したらダメですからね」

「出さないって」

 

 出されたら大変なことになる。外は女だが中身は完全に男だ。どうなるかは言うまでもない。

 

「今日たまたまムツミちゃんが休みだから、何か食べさせてあげたいけど、ごめんね」

「いえいえ、大丈夫ですから」

 

 いろんな人に説明されているが大体は知っていることだった。稀に知らないことも出てくる。そして話しているうちに夕方になっていた。ムツミがいないので自分たちで作ることになった。

 

「むぅ…」

「弥生さん、どうしたんですか?」

「あの、私料理とかしたことなくて……ごはん無駄にしちゃったらどうしようかなって」

「だったらみんなで作りましょう。皆で協力して作れば問題ないはずです」

「じゃあそうしよう!」

 

 エリナが言った。ハルオミの意見には全員同意した。まず何を作るか意見を上げた。当然意見はバラバラだ。そして自分たちで作れるかどうかの問題も発生した。6人で20分間悩んだが、まともな意見は出なかった。その意見に終止符を打つかのように弥生が提案を出した。

 

「あ、あの、もしかしたらターミナルに料理の作り方とか書いてあったりしますかね…?」

「それだ!!」

 

 コウタが声を上げた。ターミナルにはいろいろなデータがある。もしかしたら料理関係のデータもあるかもしれない。データを探すため早速移動を開始した。

 

 

★エントランス

 

 6人で一つのターミナルにのめりこんでいた。操作しているのはハルオミ。皆で「これがいい」、「これもよくない?」、「これは難しそうだね」、などといろいろな声が上がっていた。そしてあるページで手が止まった。カレーのページだった。

 

「カレー…ですか?」

 

 弥生が言った。

 

「皆でやるならこれが簡単かつおいしくできるものかと思いまして」

「そうね…これなら料理ができなくても平気ね」

 

 全員納得した。

 

「で、問題は誰が何を担当するかだ」

 

 コウタが言った。

 

「材料はあるけど、誰が何を切ったりするかだな」

「あの、恨みっこなしでくじ引きにしませんか?」

 

 今の自分の発言に口が滑ったというレベルでは済まないと思った。

 

「それもいいんじゃないですか?ね、皆さん」

 

 アリサが口を開いた。皆頷いた。どうやら誰が何をやってもよかったようだ。

 コウタが簡単なくじを作り、それぞれを引いた。弥生は人参担当だった。コウタが玉ねぎ、アリサがキノコ、ハルオミがジャガイモ、エリナが鶏肉、ジーナがナスを担当することになった。カレーのルーは全員担当だ。

 

 

★ラウンジ

 

 担当が決まったことでラウンジに戻り、それぞれ作業を始めた。

 少々ぎこちないがそれなりに包丁を扱っていた。

 

「…どんなふうに切ればいいのかな…?」

 

 正直料理なんかしたことがない。そのため大きさ、形がさっぱりわからない。今のところ直感で切っている。横目で他の人を見ると黙々と作業をしていた。

 

「…私もがんばろう」

 

 結局直感でザクザクと人参を切り出した。

 

 

 出来上がった具材を鍋に入れ煮込み始めた。少し煮立ち始めたところでカレーのルーを入れた。そしてまた煮込んだ。あっという間にカレーができた。具材の大きさがそれぞれ違い、個性が出ているような気がした。皆好きな分をお皿によそり、カウンターに座った。

 

「よっし!いただきます!!」

「「いただきます!」」

 

 皆スプーンを動かし始めた。弥生もスプーンを手に取り、自分の切った人参をすくった。それをじっと見つめ口に運んだ。人参が少々大きかった気がしたが問題はなかった。

 

「…おいしぃ」

 

 自分の表情に自然と笑みがこぼれていた。男性陣は早くもお代わりをしていた。女性陣も喜んでいた。

 もしできることならもう一度、「弥生」ではなく今度は「心葉」として皆と料理を作りたかった。

 

 

★自室

 

 皆で夕食を食べた後すぐに寝ることにした。一日過ごせばコートが帰ってくるのだ。だったら早く一日を終えるには寝るのが一番だ。寝た時間は9字になった。

 

 

AM 1:00

 

 突然目が覚めた。少し寒かったりした。たまたま布団が落ちただけだろうと思い、手を動かそうとした。だが、自分の両手は何者かに押さえられていた。

 

「…っ?」

 

 暗くてよく見えないが、誰かが自分の手を押さえているようだ。

 

「…あら、起きちゃった…」

 

 低い女性の声が聞こえた。眼帯を付けた女性、ジーナが自分の腰の上に馬乗りになっていた。

 

「…ジー…ナ、さん?」

「…そうよ、さすがに服はまずかったかしら」

「え…服…?」

 

 起き上がることができないので、頭を上げ、自分の体を見た。ドレスシャツのボタンは外され、パッドもブラジャーもなく、自分の肌が見えていた。

 

「!?!?」

「驚くのも無理はないわ…弥生ちゃん、いや…心葉君」

「ぁ…ぁぁ…」

 

 服を脱がされれば女装しているなんてわかることだった。

 

「…い、今さっきそれを知ったんですか…?」

「いいえ…弥生を最初に見たときからよ」

「ッッッ!!!」

「他人の目はだませても、私の目はだませないわ」

 

 さすがスナイパーを扱っているだけあって、観察力はあるようだ。

 

「な、何をするんですか…?」

「そうね…ちょっと可愛がるだけよ」

 

 そう言ってジーナは心葉に顔を近づけた。

 

「やっぱり、いつみても可愛いわね…」

「え、ぇえ…」

「顔を真っ赤にしたところも…ね」

 

 心葉は戸惑っていた。抵抗しようにも抵抗できない。このままジーナにいろいろされるのだろうと思った。

 

「そうね…君の弱点…とか探ってみたいわ…こことか…ふー」

 

 ジーナがつぶやき、心葉の耳に息を吹きかけた。

 

「ぴゃぁっ!!!」

 

 心葉は小さな悲鳴を上げた。

 

「いい反応ね…」

「い、いや…やめて…ください…」

 

 心葉の目から涙があふれ出した。

 

「そんな反応されると、やめるわけにはいかないわ」

 

 今度は心葉の目から流れた涙を下で舐めた。

 

「ぅんっ」

「ほんと可愛いわね…名残惜しいけど、可愛そうだからやめてあげるわ…」

 

 そう言って、ジーナは心葉から降りた。

 

「ごめんなさいね、それじゃ…おやすみ」

 

 ジーナは心葉の部屋から出て行った。

 

 

 翌日、クローゼットの中にいつものコートがかけられていた。他の服もきれいに畳まれていた。先日来ていた服はどうしたらいいかわからず、とりあえず畳んでクローゼットの奥にしまっておくことにした。

 

 

■次回予告

 

 僕は出会った。一人の女性に。もしかしたら外部居住区の誰よりも優しい女性なのではないかと思った。

 

次回「出会い」




いまさらですが、前回出てきたバゼルは後の大きな伏線に入ります。


捕捉みたいな感じですが、心葉の性格はGEBのレンの黒いところを取っ払った感じです。レンが可愛すぎて、GEBの中で断トツで出撃回数が多かったです…

今回投稿がだいぶ遅れた理由に心葉のキャラエディットに時間がかかってしまったことに原因があります。私は心葉や詩音のキャラは一度GE2で作りそれをもとにしています。
GE2は個人的に女性キャラの服がバリエーションが少なく、組み合わせにくいと思っています。特にスカートとか。それに比べ男性キャラは服装の組み合わせが簡単で……前作同様にスイーパーノワールの下がどれだけ汎用性が高いことやら……

↓心葉女装時服装
上 ディギティスター
下 クォーツスクール


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8話 出会い

★エントランス

side:心葉

 

「いやー、さすがだな心葉、びっくりしたぜ」

 

 任務から復帰したコウタが言った。その後ろには心葉、エリナ、エミールがいた。新第一部隊初の出撃であった。

 

「突然神機兵が現れたときはどうなったかと思ったぜ」

「これも心葉のおかげだな」

 

 いろいろ褒められているが、正直思い返したくない。何を思ったのか普段の自分からはありえないような発言もしたし、わけあってエミールを蹴っ飛ばしたし。

 

「あんとき、邪魔をするなら、僕の前から居なくなれぇー!!って言ってた心葉、かっこよかったぜ」

「い、言わないでくださいー…」

 

 どうしてそんなことを言ったのかはわからない。自分の中の化け物が声を上げたのかもしれない。

 

「槍の腕もなかなかだったしね……別に負けを認めたわけじゃないから!心葉なんてまだまだよ!」

 

(当然ですよ…僕の戦い方、形すらなってないですから。今の形だって堕ちた者と戦う時から派生したような感じだし…)

 

 階段を降り、カウンターへ向かった。カウンターではヒバリが笑顔で出迎えてくれた。

 

「任務お疲れ様です。新第一部隊初の任務、息ばっちりでしたね」

「そんなことない。結構バラバラだった。実際心葉が俺たちに合わせていた感じだったし」

 

 大げさにコウタが言うが、実際ただ皆をこまめに援護しただけで合わせていたつもりはなかったし、邪魔しているだけだと思った。

 

 

★支給エリア

 

 最近よく支給エリアに来るようになった。ここは外部居住区の市民への食糧といった生活必需品を支給する場所。どうして来るようになったかというと、ここの荷物を少し整理、配達するようになった。さらにどうしてそんなことをするようになったかというと、係員が配達する暇もなく、支給がおろそかになりかけている。という理由だ。そのため少し時間が空いているときにその配達を手伝っている。当然、支給品の数も数、場所も場所ということで係員には遠方への配達を重視するようにしている。

 

「今日は…教会?」

 

 カウンターにある荷物の行先を記した紙に場所が書いてある。本日は教会だった。

 

「心葉さん、かなりの荷物になりますが、よろしくお願いします」

 

 係員に頼まれた。近くにある荷台に高く積まれた段ボールを指さしながら。

 

「…あの、これを押しながら市街地を通って、教会に行くんですか…?」

「はい」

 

 いつ倒れてもおかしくないほど高く積まれている。

 

「…わかりました」

 

 

 荷台を押し、歩き出した。

 

 

★外部居住区 教会前

 

「はぁ…はぁ…やっと、着いた…」

 

 息を切らしながらやっとのことで到着した。道中荷物が崩れ、詰み直したりした。

 

「………やっぱり、古い」

 

 目の前にある教会は壁が所々崩れている。ステンドグラスも割れている。

 軽く息を吐き、ドアをノックした。次の瞬間、ドドドドドドと何かが迫ってくる音がした。そしてドアが勢いよく開いた。心葉はドアの前に立っていたため、ドアに飛ばされた。後頭部を打ち付け意識がもうろうとした。

 教会の中から子供たちと一人女性が現れた。

 

「あ、いつも…あああ!!!」

 

 その女性が声を上げた。当然だ。支給物資が来たと思えばドアの前で人が倒れているのだから。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

「…みゅぅ……」

 

 心葉は気絶していた。

 

 

★教会

 

「……ふぇ?」

 

 目を覚ますと見知らぬ天井があった。自分が倒れたところは教会の目の前だ。どうやらここに運び込まれたようだ。

 

「…ん?」

 

 体を起こす。心葉は教会の長椅子に横になっていたようだ。おまけに毛布まで掛けられている。教会の奥にある祭壇らしきところには巨大な女神像が立っていた。

 

「…神…こんな世界にちゃんとした神様なんているのかな…」

「私はいると思います」

 

 突然背後から女性の声が聞こえた。振り向くと緑色の髪を長く伸ばした優しげな表情が特徴の女性。

 

「うわっ!?」

 

 びっくりして椅子から落ちてしまった。

 

「あっ!だ、大丈夫ですか!?」

「は、はい、僕は大丈夫です」

 

 女性は手を差し出した。華奢で簡単に折れてしまいそうな腕。だがその腕にはところどころに包帯が巻かれ、絆創膏が貼ってあった。心葉は差し出された手を握り、立ちあがった。

 

「先ほどはすみませんでした…」

「い、いえ、僕もドアの前に立っていたのが悪かったんですし…」

「そんなことありません。あの子たちにもよく言っておきます」

「あの、あの子たちって…?」

「ここ孤児院なんです。それで行き場を失った子供たちを私が保護しているんです」

 

 女性は心葉に背を向けた。彼女の視線の先には一つのドアがあった。

 

「今はお昼寝中ですけどね」

「そうですか…あっ、物資」

「物資ならすでにいただきました。神機使いのあなたが運んできてくれたんですよね?」

「ええ」

「ありがとうございます」

 

 女性が頭を下げた。神機使いに対して、ここまで礼儀正しい人はなかなか見ない。

 

「自己紹介がまだでしたね、私、暁榛名って言います。年は18です」

「僕は日暮心葉。見ての通り神機使いです。年は16です」

「よろしくお願いします」

 

 榛名がニコリと微笑んだ。

 

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

「よろしくお願いします。あの、一つ聞きたいんですけど…」

「なんですか?」

「性別は女性…でしょうか?」

 

 初めてだ。初対面で性別を聞かれたのは。

 

「ぼ、僕は男ですっ!」

「すみません!あまりにも可愛いから…てっきりボクっ娘なのかと…」

「かっ…かわいい………」

 

 心葉の顔が真っ赤し、うつむいてしまった。

 

 

side:榛名

 

「先ほどはすみませんでした」

「いえいえ、こちらこそ…それにお茶まで…」

 

 さすがにずっと立って話もするのも変なので、心葉を教会の椅子に座らせた。その際にハーブティーもふるまった。

 

「このハーブ、教会の裏で育てているんです」

「へぇ…あっ、あの」

 

 心葉が何か思いついたようだった。

 

「もしできればでいいんですけど…そのハーブを少し分けてくれませんか……」

 

 透き通った空色の瞳が自分を見つめる。

 

「はい、大丈夫ですよ。それに私から何かお礼もしたかったので、ハーブなんかでよければ…」

「とんでもないです!!せっかく作っているんですし…」

 

 今までいろんな神機使いを見てきたが、ここまで謙虚な神機使いは見たことがなかった。

 

「ふふっ、お気遣いありがとうございます」

 

 そう言って、彼の頭を撫でてあげた。

 

「こ、子ども扱いしないでください!」

 

 心葉は少し身長が小さいことを気にしているようでもあった。

 

「子ども扱いなんてしていませんよ」

「ふぇっ」

 

 いちいち反応が可愛い少年だった。このままずっとなでなでしてあげたいが、それは怒られる。

 

「あの、もしよければ、またここに来てくれますか?子供たちにも挨拶させたいので」

「僕なんかで、よければ」

「では、またいつかよろしくお願いします」

 

 ぺこりと頭を下げた。

 その後ハーブを心葉と一緒に採取し、それを袋に詰め渡した。

 

 

side:心葉

 

「今日はありがとうございました」

「こちらこそです。それに、ハーブこんなにもらっちゃって…」

 

 心葉が手に持っているハーブは小さな袋にぎゅうぎゅうに詰められている。それでもまだまだハーブは残っているらしい。

 

「気にしないでください。これはお礼ですから」

「お礼なんて、ただ物資を運んだだけです」

「それもありますけど、そうではないんです」

「?」

「私たち市民は、いつも心葉君たちゴッドイーターに救われて今を生きています。だからこうやってお話もできているんです。私にとってそれが一番感謝したいことです」

 

 榛名の言葉が胸に刺さった。自分は彼女たちに何もしてやれていない。自分は榛名たちが思っている希望のなれの果てを始末する処刑人だ。そう思うだけで苦しくなる。息がしにくくなる。

 

「…心葉君?」

 

 榛名が声をかけた。その声で我に返ることができた。

 

「…ぁあっ、ごめんなさい。大丈夫です」

「そう…ですか。なるべく無理しないでくださいね…」

「はい。では、また」

 

 榛名に挨拶をし、この場を立ち去った。

 

 

★エントランス

 

「あっ、心葉!」

 

 エントランスに戻ると、エリナが迎えてくれた。彼女の手に一枚の紙があった。

 

「これ見て!」

 

 エリナに渡された紙を見た。どうやらお知らせのようだ。タイトルは『新型?改良型?新種の神機兵出現!?』

 

「神機兵…」

 

 神機の制御機構を応用活用した人型機動兵器。簡単に言えば一般人の動かし制御できるロボットである。これが過去に悪用されたこともある。神機兵は巨躯のくせに動きが速い。その上一撃も重い。そんなやつの新型と言われたらまた厄介だ。

 

「小型の神機兵…?」

 

 今まで通常、暴走、白銀の神機兵と三種類いた。だが今回通常の神機兵の半分のサイズの神機兵が現れたという。これは神機兵・小刀型と言われるようになったようだ。動きが通常の神機兵よりさらに速いそうだ。だが、かなりもろいらしい。目撃者によるとアサルトのバレット5発で沈黙したようだ。

 

「これなら、僕も倒せるのかな」

「バカ言わないでよ。ここをよく見なさい」

 

 エリナがある部分を指さした。その部分にはアンダーラインが引かれていた。そこには「注意。この神機兵は20以上の群れを成して行動する。目撃した場合逃げることを推奨する」と書いてあった。

 

「うぇ……」

「まあ、いつか倒せるようになるわよ」

 

 エリナが肩をぽんぽんと叩いてくれた。

 

「…努力します」

 

 

■次回予告

 

 近いうちに外部居住区で祭りが開かれるんだって。でも私たち第一部隊は行けないからね。ほんとは私も行きたいけど、さすがにね…

 

次回「騒がしき平和に裁きを」




すみません。大分間が空きました…最近ツイキャスとかやりだして…


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9話 騒がしき平和に裁きを

本来次回と一つにまとめるつもりでしたが、分割しました。


★エントランス

side:心葉

 

「えっ!?祭りやってるんですか!?」

 

 唐突に聞いたことだった。本日外部居住区で小さな祭りが開かれてるそうだ。榛名が近いうちにイベントみたいなものがあるといっていたが今日だとは思っていなかった。

 

「ああそうなんだが、俺たち第一部隊は行けないぞ」

 

 コウタが言った。

 

「な、何でですか…?」

「これ…」

 

 コウタが一枚の紙を差し出した。それは他のフェンリル支部との会議で自分たち第一部隊が参加することになっているのだ。

 

「そ、そう…ですか…」

「まあ、終盤くらいは行けるだろう」

 

 心葉がシュンと暗くなった。

 

「とりあえず、行こうぜ。早く行って帰ってくれば行けるから」

 

 そう言ってコウタが歩き出した。

 

 

★外部居住区イベントエリア

side:榛名

 

 榛名はイベントエリアで子供たちを連れてコンサートを見ていた。芦原ユノまでとは言わないが有名な人が何人も登場している。どれもテレビでよく見た人たちだ。歌手もいればコメンテーター、お笑い芸人など数々の有名な人が集まっていた。

 

「すごい…」

 

 榛名は感動していた。見ることのないと思っていた人たちが目の前に集まっている。子供たちも面白がってみている。

 

「…心葉君も連れてきたかったな」

 

 ふとそんなことを言っていた。深い意味はない。ただちょっとだけ気になった。今頃どうしているだろうか。

 

 

★訓練場

side:心葉

 

「特殊装備……ですか?」

 

 会議から帰ってきた後、リッカに呼ばれ何もない訓練場に呼ばれていた。

 

「そう。これ博士からの提案なんだけどさ、ちょっと使ってみてよ」

 

 そう言って渡されたのは小さなグローブに小さな四角い筒がついたものだった。

 

「…なんですか?これ」

「アンカーランチャー。これ説明書」

 

 そして数枚の紙を渡された。その紙には大量の文章と図で説明された画像がいくつかあった。簡単にまとめるとアンカーの先にはフックがついていて、そのフックはアラガミにも刺せる。アンカーを飛ばし何かに突き刺しそこに飛ぶ。これで立体的な戦闘が可能になるということだ。グローブの手のひらと人差し指と中指の第二関節のところに小さなボタンがついていた。手のひらのボタンはアンカー射出。人差し指のボタンはワイヤー引き寄せ。中指はアンカーを外すボタンだ。

 

「えーと…これをこうして…」

 

 アンカーを左手につけ、アンカーを壁に飛ばしてみた。アンカーは鈍い音を鳴らし壁に突き刺さった。アンカーを刺したら次はワイヤーを巻く。

 

「これで…うわぁっ!?」

 

 アンカーにつなげられたワイヤーは巻く力が強く、心葉の体は簡単に飛んだ。

 

「こ、これ…うまく使えば…」

 

 壁に張り付きながらつぶやいた。その姿はまるで昔の映画にいた蜘蛛男のようだった。

 

「おおー。初めてにしちゃ、いいんじゃないかな?」

 

 リッカも納得していた。

 

「で、これで…」

 

 ガキンという音を鳴らしアンカーを外した。すとんと着地した。

 

「うまく使ってね。私、神機のメンテするから、じゃあね!」

 

 リッカが背を向け、走り出した。

 

「…これ、日常でも使えるかな?」

 

 手に付けられたアンカーを眺めながらつぶやいた

 

 

★エントランス

side:ヒバリ

 

 ヒバリは今カウンターで待機していた。特にアラガミが現れたという連絡も来ない。

 

「ずっとこんな時間が続くといいな…」

 

 誰もが望んでいることだ。

 

「…でも、続かないんですよね…」

 

 そう言って手元のターミナルに目を向けた。ターミナルにはエリアマップが表示されている。そのマップの一部分が一瞬だけ赤くなった。

 

「っ?」

 

 赤くなったところは具体的にはわからないが、アラガミ装甲壁のすぐ近くだった。

 

 

★外部居住区イベント会場

side:榛名

 

 もうイベントも終盤だ。会場の盛り上がりもピークだ。司会者が叫んだ。最後の最後で大物の登場だと。そして轟音が響いた。

 

「っ!?」

 

 轟音が響く場所がおかしい。普通会場から響くはずだが、轟音は背後から聞こえた。その後誰かの悲鳴が聞こえた。その悲鳴にこたえるかのようにさらに悲鳴が上がった。

 

「何、何が起きてるんですか!?」

 

 榛名は状況がつかめずにいた。周りの人は逃げろ逃げろと叫び、走っている。人が少なくなったところで状況がつかめた。視線の先に鈍色に光る機会の塊が見えた。一時期テレビでも話題になった、人類の希望の一つ。神機兵がそこにいた。

 

「…っ…走ってください!!」

 

 子供たちに声をかけ、走り出した。

 

 

★訓練所

side:心葉

 

 アンカーをうまく扱えるように、何度も壁に刺し、そのたびに飛んだ。20分くらいの練習でうまく扱えるようになった。ワイヤーを引き寄せながら、アンカーを外し、跳躍することができるようになったりした。

 

「よしっ」

 

 小さくガッツポーズをし、訓練場を後にしようとした。次の瞬間、

 

『緊急事態発生!!外部居住区に多数の神機兵が出現、ただちに向かってください』

 

 スピーカーからヒバリの声が聞こえた。

 

「そんなっ!今はイベント中なんじゃ!!」

 

 市民が集まる中、神機兵の襲撃。かなりの被害が予測される。

 

「心葉、すぐ行きます!」

 

 訓練所をすぐに飛び出し、神機保管庫から自分の神機を乱雑に取出し、走り出した。

 

 

★外部居住区市街地

 

「よっ…とっ」

 

 アンカーを壁に刺しては巻き上げる途中で外し、浮遊している状態からまたアンカーを打ち出しては壁に向かって飛び、そして巻き上げてはアンカーをは外してを繰り返している。これで高速で動くことができている。スタミナも消費しないですむ。ただ、失敗した時のダメージは大きい。

 

「…早く…もっと…早く!」

 

 

side:榛名

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 子供たちは先に逃がし、今は自分で神機兵のおとりになっている。今子供たちは避難シェルターにいる。

 

「ここまでくれば……」

 

 榛名は建物の物陰に隠れていた。これで安堵できる。そう思った瞬間、すぐ近くで轟音が響いた。自分の真後ろに神機兵がいた。

 

「…ぁぁ」

 

 声が出なかった。本来希望となるはずの機械が今は絶望を振りまく災厄の機械となっている。

 

「ォォォ!!」

 

 神機兵が声を上げ武器を振り上げた。これから殺されるという恐怖で動けなかった。足が動かない。死ぬ。そう思った。これからこの神機兵に叩き潰される。そして神機兵の巨大な武器が振り下ろされた。

 

「……ごめんなさい…」

 

 ただ謝ることしかできなかった。子供たちに、そして心葉に。

 

 

■次回予告

 

 僕は守るものを守れるなら自分がどうなっても構わない。僕が神機を手にした時からその覚悟は決めていたから。

 

次回「意思/暴走」



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10話 意志/暴走

 神機兵の巨大な武器が振り下ろされた。生存本能が働き、目をつぶってしまった。それでも殺されることは変わりなかった。

 だが、いつになっても衝撃も痛みもなかった。恐る恐る目を開けてみた。目の前には小さな黒い影があった。

 

「何で……ここに…いるん…ですかっ!?」

 

 心葉が神機で神機兵の一撃を受け止めていた。ぎしぎしと嫌な音が響く。

 

「ぅ…ぁあ……」

 

 心葉の口から小さな悲鳴が聞こえる。

 

「……ぐっ…このぉっ!!」

 

 受け止めていた武器を地面に受け流し、隙が現れたところを、神機を横に薙ぎ神機兵の足を砕いた。情報通りもろかった。足を失った神機兵は後ろに倒れた。その神機兵に神機を突き刺し、とどめを刺した。

 

「はぁ…はぁ…はぁ………どうしてここにいるんですか!?」

 

 心葉が叫ぶ。

 

「…心葉君……」

 

 二度と見ることができないと思っていた幼い顔に、二度と聞くことができないと思っていた声。

 

「心葉君っ!」

 

 自分は心葉に抱き着いた。2度と会えないと思っていた少年にまた会えたことが本当にうれしかった。心葉の小さな体がいつもより大きく、たくましく見えた。

 

「…………」

「…ごめんなさい……子供たちを助けるのに……必死で…」

「…お願いです。榛名さんがいなくなったら、子供たちはどうするんですか…」

「…ごめんなさい…」

 

 心葉が榛名の手を取った。

 

「早く行きましょう。あとは僕たち神機使いに任せて、シェルターに避難してください」

「はいっ!」

 

side:心葉

 

 

 人気のない外部居住区を榛名の手を引っ張りながら走った。道中小型の神機兵も現れた。

 

「はっ!」

 

 神機を振り回し、襲いかかる神機兵をなぎ倒し、榛名を守りつつシェルターに移動していた。

 

「もう少しでシェルターです!」

 

 これで榛名を避難させることができる。そう安心した。が、その安心は簡単に砕かれた。

 

 

★極東支部エントランス

side:ヒバリ

 

 現在極東の神機使い、ブラッド、クレイドルが総員で神機兵の討伐にあたっている。だが、皆がどういった状況か全くつかめない。理由は先ほどから強力なジャミングが発生している。マップの状況がわからず、通信も取れる人が少なからず出ている。

 突然マップの外部居住区に赤い波紋が広がった。

 

「そんな!!」

 

 この波紋は感応波を表している。ブラッドではない。アラガミの感応波だ。ジャミングのおかげでなんのアラガミが来たかすらわからない。そしてこのことを伝えても誰に伝わるかわからない。それでも伝えなければならない。それがオペレーターの仕事だ。

 

「緊急事態発生!!外部居住区に感応種が現れました!!みなさん注意してください!!」

 

 感応種は皆強力だ。生半可な戦力では倒すことは厳しい。そしてこの極東で唯一ブラッドアーツを取得していない心葉だけが一番感応種との戦闘が不利になる。

 

 

★外部居住区

side:心葉

 

 シェルターまであと50mまで来た。もう少しだ。が、

 

「うぁっ!!」

 

 榛名が悲鳴を上げた。

 

「榛名さん!?」

 

 榛名を見た。彼女の左腕に冷気をまとった巨大な羽が突き刺さっていた。その羽は強烈な爆発を起こした。

 

「きゃぁっ!!」

「うわっ!!」

 

 二人とも爆風に飲まれ吹き飛ばされた。心葉の手は今も榛名の手を握っている。当然ともに吹き飛ばされる。ゴロゴロと転がり、廃墟にぶつかり止まった。

 

「榛名さん!!」

 

 榛名に向けて叫んだ。

 

「……………」

 

 反応がない。

 

「ッッッッッ!!!!!」

 

 今自分の目の前で死んでいった神機使いの姿が浮かんだ。何もできずただ彼女の未来を消してしまった。今もそうだ。自分は彼女を救えず未来を消した。そして子供たちの未来も消しかけた。

 振り向くと別の廃墟の上に青い鮮やかな羽をもったアラガミがいた。シユウ種によく似ているが堅そうな体はしていない。全く知らないアラガミだった。だが、そんなことはどうでもいい。今の自分には怒りと、殺意とそして目の前の敵をすべて殲滅できる力が湧き上がってきた。神機をさらに強く握った。鮮やかなアラガミに加え、さらに神機兵が姿を現した。今度は小さい神機兵だけでなかった。真っ赤に染まった神機兵もいた。

 

「………くも…………よくも、榛名さんを!!!!!」

 

 心葉の目にきれいな空色は消え、紅色に染まっていた。

 

 

★極東支部エントランス

side:テルオミ

 

「な、なんですか!?これ!!」

 

 パソコンの外部居住区のマップが一瞬にして真っ赤に染まった。これ全て何かの偏食場パルスによって真っ赤に染まっている。

 

「き、緊急事態発生!何らかの偏食場パルスが発生!みなさん大丈夫ですか!?」

 

 この声に防衛班のタツミが答えた。

 

「こっちは大丈夫だ!けど、なんか体が変だ!」

「変!?どういうことですか!?」

「いや、ただ力がみなぎってくる感じがする!」

 

 パソコンを再度確認した。どうやら神機使いのステータスに変異が発生している。どれもいい方向に。

 

「こ、これは……これを好機と見ましょう!」

「ああ!!」

 

 通信が途切れた。このまま何もないことを祈るだけだった。

 

 

★外部居住区

side:心葉

 

「……倒すッ!」

 

 神機を握る手に力を籠め、赤く染まった神機兵に肉薄した。神機兵がこちらに気付き、武器を振り上げた。だがそのころには心葉は自分の間合いに入っていた。

 

「はぁっ!」

 

 神機を横に薙ぎ、神機兵の足に槍をたたきつけた。正確には切りつけた。神機兵の足はバターを切るように体から離れた。

 

「ゥオ!?」

 

 神機兵の体が崩れ、地に叩きつけられた。

 

「ふっ!」

 

 心葉は軽く跳躍し、神機を構え神機兵のコアめがけて突き刺した。その直後、小型の神機兵が迫ってきた。

 

「くっ!」

 

 神機を素早く神機兵から抜き、迫りくる小型の神機兵に向けて投げつけた。神機は神機兵の顔面を貫いた。

 

「じゃまっ!」

 

 神機兵を蹴り飛ばしながら神機を握り引き抜いた。

 

「次っ!!」

 

 まだ数多くの神機兵がいる。そして見たことのないアラガミ。今自分はそのアラガミに一番殺意を覚えていた。そいつが廃墟から降り自分の目の前に立った。

 

「……殺すッ!!」

 

 左手につけていたアンカーを鮮やかなアラガミ向けてはなった。アンカーは高速で顔面に突き刺さった。

 

「ォォォッ!?」

 

 そしてワイヤーを巻き上げ、接近した。心葉の神機の先端には蒼いエネルギーの様なものが集中していた。そして胸部に槍を突き刺した。

 

「シャァァァァア!?」

 

 蒼い光が一層強くなる。

 

「消えろ!!!」

 

 心葉が叫ぶと同時に蒼い光がアラガミの内側から爆発した。アラガミの上半身が肉片となって飛び散った。返り血でコートや髪が赤くなる。本当に血なのかどうかわからないが。鮮やかなアラガミは倒れ、動かなくなった。

 

 

side:詩音

 

 神機兵を殲滅しているとき、突然体に悪寒の様な何かが走った。偏食場パルスではなく、もっと違う何か。少し違う気がするが、自分がブラッドアーツに目覚めた時と同じような感覚。

 

「これって!?」

「隊長!まさかブラッドアーツ…」

 

 シエルもナナもギルバートも感じたようだ。

 

「ブラッドアーツを唯一習得していない神機使い…心葉!?」

 

 極東支部で唯一ブラッドアーツを習得していないのは心葉だけになる。今ブラッドアーツを目覚めさせるカギとなる自分は心葉の近くにいない。何らかの影響ですでにブラッドアーツに目覚めていた。という可能性が高い。

 

「…なんか嫌な感じがする…気分が悪いっていうのかな…」

 

 ナナの表情が曇った。ナナだけではない。シエルもギルバートも表情を曇らせていた。

 

「ああ…なんなんだこの感情……」

 

 詩音も同じだった。この悪寒が走ってからずっと胸がズキズキする。少し苦しい。

 

「この感じ………感情の変化…?」

 

 シエルの言葉に3人が振り向いた。

 

 

★エントランス

side:ヒバリ

 

 時同じくしてエリア全体にも影響が出ていた。

 

「な、なにこれ……偏食場パルスがさらに増大!?神機使い全員にバーストレベル3強制発動!?」

「リッカのリンクサポートか!?」

 

 通信に反応したタツミが言った。

 

「違う!リンクサポートしようにも神機が動かない!!」

 

 リッカがターミナルを操作しながら答えた。

 

「みなさん!急いで原因を見つけ、この偏食場パルスを止めてください!!」

 

 このままさらに偏食場パルスが増大すれば、何が起こるかわからない。何かが起きる前に止めなくてはならない。

 

 

★外部居住区

side:心葉

 

 自分の手によって無数の神機兵が瞬く間にバラバラになっていく。神機兵のガラクタが積まれていく。神機を振り払えば粉々になっていく。そんな光景を自分の内側から見ていた。体が言うことを聞かない。自分の体はただ目の前の敵を蹴散らしているだけの存在だった。

 

(……僕は……どうなるの…?)

 

 ただ消えていくアラガミと神機兵を意識で見つめることしかできなかった。体の感覚も分からない。ただ朦朧とした意識で世界を見つめていた。

 

 

襲撃から1時間後、アラガミを殲滅した。自分の体はボロボロでところどころ地肌が見え、血がにじんでいる。コートに関しては穴だらけになっていた。

 

「…はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……っ!榛名さん!」

 

 榛名のことを思い出し、横たわる彼女に駆け寄った。

 

「榛名さん!榛名さん!答えてください!!榛名さぁん!!!!」

 

 必死に声をかけた。

 

「…………んぁ……ぁう……」

 

 傷口が痛むのか榛名が苦しそうにしていた。

 

「…よかった……急いで治療しないと!」

 

 コートの内ポケットから奇跡的にきれいに残っていた小さな救急箱を取り出し、応急処置をとった。大きな傷はなく、羽が突き刺さったことと凍傷で済んだ。念のため極東支部で適切な治療をしてもらおうと思い、榛名を担ぎ、走り出した。

 

 

 数時間後目を覚ました榛名は寒いと言いすぐに温かい紅茶をもらっていた。ちなみにエミール特製の。

 

「あの、大丈夫ですか…?」

「はいっ、ちょっと痛いですけど大丈夫です」

 

 にっこりとほほ笑む。彼女の左腕には包帯が巻かれている。少し赤くにじんでいる。突き刺さった羽と凍傷によるものだ。彼女は大丈夫と言っているが、本当は我慢しているのだろう。自分に心配させないため。

 

「少し大人しくすれば、何とかなりますから」

「そう…ですか…あ、あの、僕にやれることがあるなら言ってください!力になりますからっ」

「あ…じゃあ、その…できれば、ご飯食べさせてくれませんか…?」

「えっ…榛名さんに…ですか?」

 

 少し顔を赤くしこくんと頷いた。近くにはお粥がある。看護師が先ほど出したものだ。心葉はお粥とレンゲを手に取り、お粥をレンゲですくい、榛名の口に運んだ。

 

「あーん…でしたっけ」

 

 心葉の問いに榛名が答えたが、何か言いたそうだった。

 

「あの…もしかしてだめでしょうか?」

「その…熱そうで……その…冷ましてほしいな…なんて」

 

 要約すると息を吹きかけろという意味だろうか。そう思い榛名の表情をうかがいながらレンゲですくったお粥に息を吹きかけた。榛名は特に嫌そうな表情をしなかった。むしろちょっとだけ嬉しそうな表情をしていた。その後お粥を食べさせた後、榛名は横になった。それが体を治すのに一番いい。

 

「榛名さん、おやすみなさい」

「はい…あの…心葉君」

「はい」

「…………………ます」

 

 榛名がかすれそうな声で言った。なんていったかよく聞こえなかった。

 

「?榛名さん、なんですか?」

「…なんでも…ありません………おやすみなさい」

 

 今日は聞こえなかった言葉を訪ねる気はなくなっていた。でも、何か感謝じみた言葉だったような気がした。

 

 

■次回予告

 

 降り注ぐ冷たい刃は僕の身を凍えさせる。それでも目の前の現実に向き合わなければならない。だから僕はここにいる。いつか雨は止む。この冷たい刃と僕が降らせている血の雨は。きっと止むってそう信じている。

 

次回「斬雨(きりさめ)」




勝手ながら次回予告を付けさせていただきました。

リクエストがあった件ですが、本当にすみません!その次にさせてもらいます。本当にすみません。ケースが難しすぎて…


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11話 斬雨(きりさめ)

★アラガミ装甲壁 外部エリア

side:心葉

 

 この日は雨だ。空には分厚い入道雲が見える。神機を握る手が濡れ、何度も握り直している。なぜ、神機を握っているかだって?だって目の前に堕ちた者(フォールマン)がいるからだ。

 

「………っ」

 

 神機を構え、戦闘態勢に入った。目の前の堕ちた者の右腕は神機と同化し人の腕らしきものは見えない。それは巨大な剣のような武器だった。それを肩に担ぎ立っている。いかにも一撃が重そうに見える。この手のタイプは火力型と心葉は呼んでいる。動きが少し遅い代わりに一撃が強力である。一撃でビルをたたききることも出来る。心葉とは少し相性が悪い。だが、動きが遅い分丁寧に立ち回り、一瞬のすきを見つけ突き刺せば勝てる話だ。

 堕ちた者が武器を構えだした。

 

「…来るっ!」

 

 堕ちた者が動き出した。武器を引きずりながら高速で駆けてきた。

 

「…許してくださいねッ…」

 

 心葉は地を蹴り、堕ちた者に肉薄した。心葉と堕ちた者の接近する速度は圧倒的に違う。たった3秒でお互いがお互いの間合いに入った。堕ちた者が振りかぶる。そして振り路される武器に対して、地を蹴り横に避けようとした。だが体は横ではなく下に倒れて行った。

 

「なっ!?」

 

 雨で地面がぬかるみ、ちゃんと地を蹴ることができなかった。隙だらけになった心葉に、堕ちた者が重圧な一撃が振り下ろした。武器を横に構え受け止めようとしが、まともな体制がとれていないため、受け止めることができず簡単に吹き飛ばされた。

 

「うわぁっ!!」

 

 心葉の軽い体はゴロゴロと転がり、手を地面にあて吹き飛んだ体を止めた。コートや顔が泥だらけになった。

 

「ぐっ!」

 

 神機を握り直し、再び肉薄した。神機に力を込めた。その時、槍の先端が分かれ、さらに鋭い矛先が現れた。これがチャージスピアの本当の姿。これにより威力がまし、さらに間合いも広がる。

 

「一気にっ!」

 

 神機を握る手にさらに力を込め、駆けた。堕ちた者が再び構える。

 

「はあっ!!」

 

 神機を振り上げ、接近した。堕ちた者も同時に武器を振り上げ、槍を弾こうとした。心葉は反撃が来ると予測していて、一度武器が届かない距離までバックステップをし、回避した。空振りをし、隙ができた堕ちた者に神速の突きを繰り出した。神機は深々と胸部に突き刺さった。だが心臓は貫いていない。まだ甘い。そう思った矢先、右腕をつかまれた。

 

「!?」

 

 心臓を突き刺してなくても致命傷のはず。それでも目の前の堕ちた者は平然としていた。堕ちた者は突き刺さっていた神機ごと心葉を投げ飛ばした。

 

「ぐあっ!」

 

 体が地面にたたきつけられる。何度も転がり近くにあった岩にぶつかり、ようやく動きが止まった。

 

「こほっ…こほっ………血…?」

 

 自分の手元と地面が赤く染まっていた。どうやら内臓をやられたようだ。視界が少しだけぐらつく。神機を握り直し再び接近した。二度と一撃を喰らうものか。そう思った。ぬかるんだ地を踏み、間合いに入った。そして槍を構え突き刺そうとした。次の瞬間、堕ちた者が地面を蹴った。空振りでもなく、心葉を蹴ろうとしたわけでもない。だがそれが狙いだった。堕ちた者が蹴った地面から泥が飛び散った。その泥が目に視界を奪った。

 

「っ!?」

 

 前が見えない。それが一瞬の命取りで最大の隙だった。堕ちた者が隙のできた心葉に強烈な横なぎをした。

 

「ああああああああああああああああ!!」

 

 奇跡的に握っていた神機の柄の部分に武器が当たり直撃は免れた。それでも威力はかなりのものだ。体が吹き飛ばされ、はるか後方にあった、アラガミ層後壁にぶつかった。

 

「かはっ」

 

 血を吐き出した。視界がゆがむ、意識が朦朧とする。体全体が痛む。足元がおぼつかない。

 

「ああ…っ………」

 

 死ぬ。そう直感的に思った。悲鳴を上げる体に鞭をうち、走り出した。ここで下がるわけにはいかない。下がれば無数の命が危険にさらされる。堕ちた者がゆらりゆらりと近づく。間合いに入った堕ちた者が再び武器を振るった。

 

「もう…やられる…もんかっ!!」

 

 心葉も神機に力を込め、振り下ろした。神機と武器がぶつかり、みしみしとひびが入るような音を響かせた。負けていられないとさらに力を込めた。次の瞬間、ガラスが砕けるような音が響き、一瞬にして神機が軽くなった。

 

「ッッッ!!!!」

 

 ちらりと神機を見ると、白い破片が空を舞っていた。自分の神機が力負けしたのだ。

 

「くっ……そぉ!!」

 

 柄と砕けた神機パーツだけになった神機を全力で振り、堕ちた者の足を叩いた。堕ちた者は体制を崩し、後ろに倒れこんだ。これが最後だ。そう思い、空を舞っていた一番大きく、鋭い白い破片をつかんだ。チャージスピアの先端に隠されている矛だ。倒れこんだ堕ちた者を踏みつけ動きを止め、破片の先端を心臓部に突き刺した。鮮血が飛び散る。生暖かい血が顔にかかった。堕ちた者は体を一度震わせ、動かなくなった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ………あぅっ…」

 

 膝の力が抜け、心葉も倒れこんだ。コートの中から回復錠を取り出し、口の中に放り込んだ。あくまで応急措置でしかないが少しだけ体が楽になった。

 

「…………ごめんなさい……」

 

 自分の隣を見て、横たわる死体を見て涙があふれた。自分が生き残る結果がこれだ。彼らを殺さないと生きていけない。自分が殺される。これが現実だ。空が泣くかのように雨は土砂降りになった。

 

 

★外部居住区

 

 心葉は土砂降りの中外部居住区の道を傘をささず一人歩いていた。コートが雨を吸い重くなる。ただでさえ足が重いのに動かなくなりそうだ。

 

「心葉君?」

 

 数分くらい歩いたところで声をかけられた。自分が知っている数少ない外部居住区に住んでいる女性。暁榛名だった。

 

「は…るな…さん?」

「心葉君!?」

 

 榛名が傘を捨て駆け寄ってきた。

 

「大丈夫ですか!?」

「僕…のことは…いいですから…」

 

 口があまり開かず、うまく声が出ない。

 

「そんなことありません!」

 

 榛名に手を引っ張られ、教会の中に連れて行かれた。

 

 

★教会 孤児院

 

 榛名に教会に連れて行かれ、すぐに手当てを受けた。榛名の手際はよく、治療はすぐ終わった。心葉は外傷だけでもかなりの大けがだった。頭、腕、胸部と体の至る所に包帯が巻かれた。手も絆創膏や包帯まみれになった。

 

「これでよし…」

「…ありがとうございます」

 

 榛名に一言お礼をし、砕けた神機とボロボロになったコートを手に取り立ち上がろうとした。が、

 

「今行っても外は土砂降りですよ?」

 

 そう榛名に言われ止められた。

 

「傘がなくてもいいとか言ってはダメです。心葉君が風邪を引いたら困りますから」

「…すみません」

 

 神機とコートを置き、椅子に座った。

 

「…なんで僕なんかを助けてくれるんですか?」

「何でって…」

「僕たち神機使いは外部居住区の方から見て、邪魔者。それでいてあなた達とは違う生活をしています。なのに何でここまでしてくれるんですか?」

 

 外部居住区では神機使いへの風当たりは強い。無数の人から冷たい目で見られる。それは生活環境、食糧その他もろもろ。外部居住区にはなく、支部にはあるものがそろっているからだ。

 

「それがどうしたんですか?私と心葉君が違う生活をしていても、同じ荒廃した世界を生きる人間です。私たちは心葉君たち神機使いにいつも助けてもらっています。この前の神機兵とアラガミの襲撃だって心葉君が助けてくれたじゃないですか」

「…………」

 

 言葉がでなかった。彼女は知らない。自分が何者か。自分が神機使いの中で最も最低な神器使いだってことを。

 

「…あなたは僕のことを普通の神機使いとしか見てないんですよね…」

「ううん。心葉君は私の命の恩人。それでいて私たちの救世主。そう見ています」

「…………僕はその救世主を殺す神機使いですよ…」

 

 唐突に発言したことに榛名が止まった。

 

「…僕は普通の神機使いとは違う。アラガミよりも神機使いや、アラガミ化した神機使い、堕ちた者に強く対抗できる特殊な神器使いなんです」

「………」

「……………僕は…もう数えきれないほど殺してきました。それでも普通の神機使い……救世主というんですか?」

「………はい」

 

 榛名の答えに心葉が凍りついた。

 

「……………心葉君は心葉君。人殺しでも救世主。心葉君が私や仲間を避けているのはわかります。でも私たちはあなたのことを必要としています」

「…堕ちた者を殺してもらうためですか?」

「そうじゃありません。人として神機使いとして仲間として、私たち住民の救世主としてです」

「………それが人殺しでもですか?」

 

 心葉の問いに榛名は力強くうなずいた。

 

「もし心葉君が邪魔な人なら、私は君を手当てしていません。それに心葉君のそばにいる同じ神機使いさんは、どうでしょうか?あなたを信頼して、そばにいてくれるじゃないですか」

 

 榛名の言うとおりだった。皆心葉のことを人殺しだと知っていても皆近くにいてくれる。いつの日にかアリサに自分が怖くないのかと聞いたことがある。それに対しアリサは怖くない。だって大切な仲間だからと答えた。

 

「………本当に…邪魔じゃないんですか…?」

「…当たり前です」

 

 そう言って榛名は心葉を優しく抱き寄せた。

 

「わわっ」

「…私は心葉君のことを信じてます。あの時私を救ってくれたのは心葉君でした。だから人殺しでも私たちのことを救ってくれる、救世主だと信じてます」

「………僕はいつ牙をむくかわかりません。そして救世主を喰らう者です……それでも僕を…救世主としてくれるんですか…?」

「はいっ」

 

 榛名がニコリとほほ笑んだ。彼女の微笑みが少しだけ気持ちを楽にさせた。

 

「…ありがとうございます」

「いえいえ………雨、止んだようですね」

 

 いつの間にか雨の音は消え、ステンドグラスから光が差し込んでいた。

 

「前にも言ったかもしれないですが、時間があったらまたここに来てくれませんでしょうか?」

「…僕でよければ、また来させていただきます」

 

 榛名のようにニコリと笑ってあげた。コートと神機を手に取り、扉を開けた。

 

「またね、心葉君」

「はいっ、またいつか」

 

 扉を開けると、数十分前の入道雲はどこかに行き、透き通った青空が広がっていた。

 

 

■次回予告

 

 未定




大分長らくお待たせしました。何かリクエスト(こんな話をしてほしい)等のことがありましたら、感想またはメッセージお願いします。極力答えられるようにします。リクエスト等で期待したような作品が出来上がらない可能性が高いのでそこはご理解お願いたします。


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11.5話 距離

★外部居住区 教会

side:心葉

 

 心葉は教会に足を運んでいた。ただ神機が壊れ、出撃することも出来ないので神機が直るまで長期休暇という形で遊びに来ていた。

 

「こんにちわ」

「あっ、心葉君、いらっしゃい」

 

 教会に入ると、榛名が笑顔で出迎えてくれた。

 

「子供たちは…寝ているんですね」

「ついさっき、皆寝たところです」

 

 子供たちにお菓子を渡して喜んでいる姿を見たかったのだが、どうやら空振りに終わったようだ。

 

「心葉君、私お茶入れてきますから、そこに座って待っててください」

 

 榛名は近くにある長椅子に心葉を座らせ、奥の扉に駆け込んだ。

 

「…いつみてもボロボロ…」

 

 教会内はボロボロ。今にも落ちそうなシャンデリア、割れたステンドグラス、砕けた女神像、剥がれた床と壁、足が折れた椅子に机。他にもいろいろあった。外部居住区のものは大体こんな感じだ。古いものを拾うか、買う。もしくは廃材から組み立てる。それができるのならいいが、ここには榛名しかいない。組み立てるなら自分か、近隣の人にお願いするしかない。

 

「お待たせいたしました」

 

 榛名がトレーにポットと2つのカップ、それとお菓子の入った箱を乗せ持ってきた。そして心葉の隣に座った。

 

「お菓子まで……いつもありがとうございます」

「いいえ。こちらこそ、いつも守ってくれてありがとうございます」

 

 榛名がニコリとほほ笑んだ。彼女の笑顔を見るのがなんだか恥ずかしかった。少し目が合っただけで顔が赤くなりそうだった。

 

「ふふっ」

 

 榛名が口に手を当て上品に笑う。

 

「何がおかしいんですか」

 

 少しだけ頬を膨らませ言ってやった。

 

「やっぱり心葉君は可愛いなって思っただけです」

「か、可愛いとか言わないでください!」

 

 今度は頬を完全に膨らませた。自分が子ども扱いにされているのは本当に嫌だ。癪に障るというのだろうか。

 

「ふふっ、そういったところが可愛いんですよ」

「もうっ!からかわないでください!!」

「ごめんなさい」

 

 榛名が笑いながら誤った。心葉は紅茶を少し飲み、落ち着いた。完全に榛名のペースに飲まれていた。ハーブの香りが落ち着かせてくれる。

 

「心葉君知ってる?昔お菓子を使ったある遊びがあったの」

「遊び…聞いたことないです」

「じゃあ、やりましょうか。ルールは私から説明しますから、ちゃんと聞いて従ってくださいね?」

「わかりました。僕なんかでよければ」

 

 榛名はお菓子の箱から細長い菓子を一つ取り出した。クッキー上の棒に持ち手を除いた部分にチョコがコーティングされている。昔はポッキーと呼んでいたそうだs。

 

「こっちの部分だけ私が咥えて…」

 

 榛名が菓子の持ち手の部分を加えた。

 

「で、心葉君がもう片方を咥えます」

「ふえっ!?……ううぅ」

 

 ゲームだからと自分に言い、恐る恐る咥えた。榛名の顔が真正面に見える。今まで榛名の顔をまじまじと見つめたことはないので、とても恥ずかしい。

 

「それで」

 

 サクッ。榛名がクッキーの部分をかじり、距離を縮めた。

 

「!?!?!?」

「はい、次は心葉君の番。このゲーム先にお菓子から口を離したら負けです。あと、負けたほうが罰ゲームですからね」

「~~っ!」

 

 声が出なかった。自分の番となれば、さらに距離を縮めることになる。

 

「ぅぅ、失礼します…んっ!」

 

 このまま食べて榛名に倒れこんだら問題になるので、両手を榛名のかけ、安定させ、菓子を大胆に食べてやった。榛名との距離がさらに短くなった。

 

「大胆ですねっ」

 

 榛名も負けずと、大胆にかじった。顔との距離は約2センチ。もう自分のターンで彼女の唇と自分の唇が接触するだろう。

 

「~~~っ!?」

 

 顔が真っ赤になる。恥ずかしすぎて熱い。

 

「ほら、心葉君っ」

 

 榛名が言う。

 

「あうぅぅ……」

 

 意を決して口を動かした。あとはかじるだけだ。そのあとのことは考えないようにした。

 

「……………………っ…」

 

 顔を近づけようとした。

 

「……やっぱり僕には無理です~~~!!」

 

 咥えていた部分だけをかじり、顔をそらした。

 

「ふふっ、私の勝ちです」

「ぅぅ」

 

 恥ずかしすぎて、顔を手で覆った。

 

「じゃあ、罰ゲームですね」

「…はぁい」

 

 どんな罰ゲームが来るのか。最初によぎったのは女装だった。彼女も少なからず女装すればよく見えるだろうと思っているはずだ。

 

「…罰ゲームは、また明日もここに来ることです」

「ふぇ?」

 

 呆けた声が出た。

 

「それでおしまいです。心葉君だって忙しいのですから、そのうえで心葉君に来てもらいます」

「……そんなのでよければ…」

 

 それで今日のことはすべて終わった。なんだか散々な時間だった。




大変遅くなりました!!本当にすみません!!

時間に乗るということで12話よりも先にこっちを作り上げることにしました。しかも夜10時20分ごろから…

最近になって別の小説も投稿しました。DMMさんのソーシャルゲームの「魔法少女大戦TACTICS」の小説を投稿しました。よろしければ、そちらも見てください。


閲覧していただいている皆様には申し訳ないですが、今まで以上に投稿が不定期になります。本当にすみません。


追記:11時11分でなくてすみませんでした。でもPM11時だから…!


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12話 二人目の異端者(セカンドイレギュラー)

★エントランス

side:???

 

 今目の前に数多の激戦を生き抜いてきた神機使いたちが自分の前に立っている。皆少し驚いたような顔をしている。そんなに本部から送られてきた人が珍しいか?それとも自分に驚いているのか?

 

「…碓氷 咲良(うすい さくら)。新型よ。よろしく」

 

 簡単に自己紹介を済ませた。

 

「彼女は本部から派遣された子だ。今この子は本部の命令で訳あってパートナーを探している。で、ここの皆の中から一人彼女のパートナーになってもらうということだ」

「…問題ないが…、パートナーってことは常に一緒にいなければならないってこと?」

 

 第一部隊隊長、コウタが口を開いた。

 

「いや、パートナーとして行動するのは自由だ。だけど、任務は絶対にパートナー同士で行動することが義務付けられている」

「そんなことはどうでもいい。こいつがパートナーになって俺たちに利益はあるのか?」

 

 カレルが面倒くさそうに言った。

 

「当然。彼女は優秀だよ。たった一か月でロシア支部のベテラン以上の成績を出したぐらいだ。彼女がパートナーになれば、戦力の大幅な上昇が期待できる。戦力が上昇すれば今よりももっと難しい任務に行くことができる。任務は難しければ難しいほど報酬が良いのは君たちも分かっているよね……まあ、それ以前に彼女がパートナーとして認めてくれればの話だけどね。咲良君、パッと見でパートナーにできそうな人はいるかい?」

「いない」

 

 即答してあげた。突然本部から送られた人間にパートナーになってくれと言われて即答できる人はまずいない。誰しも不安がる。今だってそうだ。皆不安な表情をしている。表情がそう見えなくても目が語っている。結局ここにもいないのだろうか。

 

 

★神機保管庫

side:心葉

 

 リッカに呼ばれ、心葉は神機保管庫に来た。そしていい報告が来た。

 

「……これが…僕の新しい神機…」

 

 つい最近まで壊れていた神機がとうとう直った。今までの神機パーツをすべて外し、オラクル細胞以外を取り換えた。部品から持ち手となる柄、その他もろもろ…

 

「本部オリジナルだってさ。なんか試験運用ってことでいろいろなシステムを導入しているって」

「システム…ですか?」

「本部が言うには今までの神機の常識を超えた神機って言ってた」

 

 常識を超えた神機。目の前にある今まで使っていた真っ白な神機とは違い、真っ黒だった。そして一つだけ除いて普通の神機だった。何がおかしいというと銃身が二つほど見えるのだ。アサルトのような銃身とスナイパーのような銃身。

 

「ちょっと訓練場行きましょう」

 

 そう言って心葉が神機に触れた。次の瞬間、

 

「っ!?」

 

 触れた指をすぐに引っ込めた。

 

「どうしたの…?」

「なんか…冷たい…温度とかそういった類じゃなくて…なんていうんだろう……」

 

 表現の仕方がわからない。寒気がする、と言ったほうがわかりやすいかもしれない。

 

「…この神機の素材、何使っているんですか…?」

「…本部曰く、死んでいった神機使いの形見や、墓、壊れた神機から作ったって…」

「…悪趣味ですね……とりあえず行きましょう」

 

 

★訓練場

 

「準備はいい?」

「いつでもいいですよ」

 

 神機の仕組みはすべて教わった。だがリッカにも知らないシステムがあった。本部は隠し種としか伝えていない。

 

「…悪趣味な神機にどれほどの力があるのでしょうか…」

 

 手に握られている神機はシンプルな形だ。先端は鋭い楕円形。中心には同じく楕円形の穴が開いている。そういうデザインだろう。そして銃身達は同じくシンプルな筒型。盾は丸型。バックラーだろう。そして見た目に反して以上に軽い。前に使っていた神機を鉄と例えれば、今使っている神機は紙だ。それぐらい軽い。

 

「…ちょっと握りにくい…?」

 

 今まで使っていた神機とは違い、柄にいくつかボタンのようなものがついている。そのボタンを押して神機のシステムを動かす。

 

「まず、小型3体。はじめ!」

 

 リッカの声が響き渡る。オウガテイルに似たようなダミーが3体同時に現れる。

 

「最初は普通にっ!」

 

 地面を蹴り、一番近いダミーに肉薄した。槍を振るい突き刺した。漆黒の槍はダミーの頭に深く突き刺さった。まるで豆腐に箸を突き刺すかのように簡単に突き刺さった。神機の突き刺さったダミーを蹴り飛ばし、神機を銃形態に切り替えた。銃身は二つあるが、基本はスナイパーのようだ。そういったところは前のことを考え、考慮しているようだった。

 くるりと後ろを向いた。目の前に飛び上がったダミー。いくらダミーとはいえ直撃すればけがは待ったなしだ。

 

「撃ちます!」

 

 引き金を引いた。甲高い音を鳴らし銃身から弾丸が放たれた。弾丸はダミーのど真ん中にあたった。その次の瞬間、ダミーが破裂した。爆発とかそういったものじゃない。文字通り破裂した。

 

「っ!!」

 

 驚きを隠せなかった。もしこれがダミーではなく堕ちた者(フォールマン)だったらどうだ。肉片があたりに飛び散り、鮮血はあたりを赤く染めるだろう。そう考えるだけでぞっとした。だが、今は考えている暇はない。また背後からダミーが飛びかかってきた。

 

「くっ!」

 

 ボタンを押し、神機のシステムを一つ起動させた。リッカは「エッジフォーム」と呼んでいた。ボタンを押した瞬間、槍の楕円が稼働し、巨大な刃先を持つ薙刀へと変化した。そして心葉は神機を×字にダミーを切り裂いた。切り裂かれたダミーは4分割し、ぶつかることなく、心葉の後ろへと飛んで行った。

 

「なっ……」

 

 リッカも心葉も絶句していた。言葉が出なかった。

 

「………」

 

 カランと神機を落としてしまった。その後膝の力が抜けた。

 

「心葉っ」

 

 リッカが部屋に入ってきた。

 

「………っ」

 

 手が震える。恐怖だ。この神機がどれだけの力を持っているか、嫌でもわかる。まだダミーだからいい。だが、これが堕ちた者ならどうだ。この神機の前では無残な姿になるだろう。そう思うだけで怖くなってくる。

 

「……僕は…こんな力なんて望んでない……………でも…闘わなければいけないんですよね…?」

 

 

★ラウンジ

 

 あの後少しだけ一人になって落ち着いた後、ラウンジに向かった。そこでギルバート、ハルオミ、コウタの3人組と会話することにした。3人とも同じ方向を向いていた。窓側。心葉もも目を向けてみた。そこには見慣れない一人の女性がいた。肌が白っぽく、空色の長い髪が特徴的な女性。ここにいるということは神機使い、もしくは神機に携わる仕事をしている。もしくはフェンリルの従業員ということになる。だが、彼女の腕にはあの赤い腕輪があった。

 

「あの、皆さんしてどうしたんですか?」

「ああ…アイツのことだが…」

「本部からの派遣だ」

「本部…」

 

 リッカが言うには見知らぬ神機と神機パーツが届いていたというが、どうやらその見知らぬ神機が彼女の神機みたいだ。彼女がこっちをみた。

 

「あっ、こっち見た」

 

 見たというよりは睨んだといったほうが近そうなぐらい視線が怖かった。が、心葉はぼーっとしていた、もしくは見とれていた。そして彼女がこちらに向かって歩き出した。

 

「君、名前は?」

 

 唐突に名前を聞かれた。

 

「ぇっ、あっ!す、すみません!心葉です!日暮 心葉です」

「心葉…そう君が…」

 

 何かを思い出したかのようにつぶやいた。

 

(本部から来たということは、僕の情報も…)

 

「なんでもない……ふむふむ……ほう……大分女々しいな。いや、女装か?」

 

 いろいろと考えていたら、自分の体がペタペタと触られていた。腕、足、胸などなど…

 

「ひゃぁっ!?なななな何するんですか!!」

「うん。決めた。心葉、私のパートナーになって」

 

(…………はい?)

 

 話が全くつかめていないため、何を言っているかさっぱりわからない。唐突に名前を聞かれ、体をぺたぺたと触られ、挙句パートナーになってほしい。いったいどういうつもりなんだろうか。

 

「ああ…心葉、そこは説明する」

 

 ハルオミが間に入り説明した。

 

「…そういうことですか……僕なんかでよければ」

「いうと思った。私は咲良。碓氷 咲良。よろしく心葉」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 

 握手を交わした。彼女の手に触れた瞬間、懐かしい感じがした。

 

(………なんだろう、この人、どこかで…)

 

 一度であったことのあるような無いような。知っているようで知らないような。とても複雑な感じだった。




またも遅れました。本当にすみません。失踪するつもりはありません。ちゃんと作り上げるつもりでいます。

大体ストーリーは構成できているのですが、そこまでのつなぎがうまくできないので、よく積んでいます。

次回はなるべく早めにあげられるといいなと思っています…私の気分次第でまた新作を打ち始めるのではないかと不安に思っています。掛け持ちするなら2作にしておきます。


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13話 波

★旧市街地

side咲良

 

『お二人とも準備はいいですか!?」』

 

 通信。今自分たちの視線の先には小型アラガミの群れが見える。ゲリラだ。突如として小型のアラガミが群れをなして極東支部へ向かってきているのだ。その数ざっと200。サカキ曰く「質より数」らしい。数こそは多いが、単体の戦闘力は普通の小型アラガミと比べ低いようだ。

 

「心葉、準備はいいかい?」

 

 隣にいる少年がうなずいた。

 

「これより作戦を開始する。行くよ心葉!」

 

 神機を構え走り出した。

 

「全力でサポートします!!」

 

心葉が神機を銃形態(スナイパー)に変形させ、弾丸を2発放った。放たれた弾丸は自分に接近していたザイゴートの目玉に直撃し、文字通り破裂した。降り注ぐ血の雨を走り抜け、接近してくるオウガテイルを淡い空色の神機で切りつけた。オウガテイルは斜めに真っ二つになった。

自分が使っている神機は、ブラッド隊長の詩音と同じくブラッドのギルバート、そして極東の整備士リッカによって作られたシロガネシリーズをベースに強化改良したものを使っている。改造したのは本部だが。本部はそのシリーズをプラチナシリーズと呼んでいた。色は白銀ではなく、薄い空色で鏡のように世界を写している。

 

「はあっ!」

 

声を上げ、さらにアラガミを切りつけた。近くに寄ってくるアラガミ全てに目を配り、どのアラガミが攻撃してくるか常に考えていた。そうこうしているうちに左右からオウガテイル2体が飛びかかってきた。咲良は飛びかかってきた左のオウガテイルを叩き切った。その横でオウガテイルは頭を漆黒の槍で貫かれていた。

 

「さすがね」

 

心葉が神機を槍に切り替え、攻撃していた。

 

「僕だって後ろばっかりにいるわけじゃないですから」

 

 突き刺した槍を引き抜き、さらに前進した。前進してくるアラガミを踏み台に心葉は跳躍した。群れのど真ん中に向かって。何か策がある。万が一最悪の事態になるかのせいもある。その時は全力で救いに行かなければならない。

 

「行きますっ!」

 

心葉の神機の楕円が開き、巨大な薙刀に変形した。心葉が使っている神機は、試験採用中の神機。普通の神機は剣形態、銃形態それぞれ一つずつしか存在しないが、心葉の神機はそれらが二つずつ存在する。槍の状態から変形する薙刀形態(エッジフォーム)、アサルトとスナイパーの銃身。装備が増えれば戦い方も増える。前衛後衛両用できる用設計されたらしい。

 

心葉が群れのど真ん中に着地すると同時に、神機で周りのアラガミをなぎ払った。アラガミは動きを止め、ゆっくりと体の半分から上をずらしながら倒れた。

 

「私も負けていられない」

 

神機を大きく振りかぶり、目の前にいる3体のアラガミを横薙ぎに叩き切った。

 

「このまま一気に!」

 

心葉が叫び、再びアラガミを切りつけた。

 

『作戦エリアに中型アラガミが侵入しました!お二入とも迎撃をお願いします!』

 

ただでさえ、乱戦中だというのにさらに乱戦することになる。できることならなるべく相手したくなかった。

 

「咲良さん!中型のアラガミは僕に任せて、小型のアラガミをお願いします!」

 

アラガミを切りつけながら心葉が叫んだ。

 

「ありがとう!頼むよ!!」

 

心葉がアラガミの群れから離れ、侵入してきた中型アラガミと交戦し始めた。

 

「さて…あとどれくらいかな…」

 

 単体が弱いため、あっさり片づけることができる。いろいろとやっている間に100は倒したようだ。あと半分といったところだ。神機を構え直し、気合を入れ直した。

 

 

side:心葉

 

 侵入したアラガミはシユウ1体だった。一人で相手するのには問題ない。

 

「アサルトでっ!」

 

 神機を銃形態に切り替え、さらにスナイパーからアサルトに切り替えた。アサルトの銃身の下には薙刀状態の刃が飛び出していた。

 

「ギャアッ!」

 

 鋼のような翼を広げ、飛びかかってきた。心葉は軽く跳躍し神機を突き刺した。漆黒の刃はやすやすと鋼の体を貫いた。

 

「大人しくっ…してて!!」

 

 突き刺したままバレットを連射した。当然零距離で弾丸がシユウの背中に命中している。

 

「ガァッ!?」

 

 突然の攻撃に驚いたシユウは立ち上がることなく地面削りながらを滑った。地を滑るシユウにOPが切れるまで無慈悲に撃ち続けた。OPが切れたと同時に神機を引き抜き、神機を薙刀形態に切り替えた。激昂したシユウは右腕を振り上げ、殴りかかってきた。振り下ろされた拳を紙一重で交わし、薙刀を高く振り上げた。振り上げられた刃はシユウの右腕を肩から切り離した。堅い装甲をきれいに切り裂いた。

 

「ギシャァッ!!」

「はあっ!!」

 

 さらに心葉は神機を横に薙ぎ、足を切り裂いた。悲鳴を上げたシユウに一瞬の時間を与えない。それが命取りになる可能性だってある。足を切り裂かれたシユウは仰向けに倒れこんだ。

 

「とどめっ!!」

 

 神機を槍形態に切り替え、柄を両手で持ちシユウのコアの部分を貫いた。シユウから飛び散った血が顔にかかる。生暖かい温度が気持ち悪い。シユウは体をびくりと震わせ、動かなくなった。

 

 

 シユウのコアを回収し、咲良のもとへ向かった。彼女は首を上に向け、満足そうにしていた。彼女の視線の先には大量に積まれたアラガミの死体の数々…ちりも積もれば何とやらというが、まさにこのことだろう。

 

 

★トレーラー内

 

「さすがね」

「いえ、そんなことないですよ」

 

 任務終了。かなりの大群だったが、あっさり片づけることができた。大体咲良が片づけたが。

 

「…やっぱり変わらないね」

「?」

「いや、なんでもない」

 

 咲良が呟いたことに疑問を覚えた。「変わらない」そう言った。彼女は自分のことを知っている。だけど自分は彼女のことを知らない。昔の記憶を探っても出てこない。忘れているのかもしれない。自分は11歳までの記憶がない。記憶がないときに彼女と出会っているのかもしれない。記憶がないのは医師によれば何らかの原因で脳に障害が出たらしい。今のところ記憶喪失だけで済んでいるが、この先どんな症状が出るかわからない。

 

「………僕は…あなたと過去に出会っている…のですか?」

 

 初めて出会って握手を交わしたとき、どこか懐かしいような感覚がした。どこかで出会ったことがある。どこかで話したことがある。そんな感じがする。

 

「…心葉、この世には知らなくていいことがたくさんある。昔のことは忘れたほうがいい。いや、思い出さないほうがいいって言ったほうがいいのかな…どちらにせよ、それが心葉の身のためになるから」

 

 窓の外を見ながら静かに答えた。彼女は知っている。自分のことを。彼女は何者だ?

 

「…着いた。さあ、帰ろう」

「…ぁっ、はい」

 

 

★サカキ博士の部屋

side:サカキ

 

「やはり……これは、心葉君が…しかし、なぜ……」

 

 サカキはパソコンから一つの結果を見つけた。過去にあった神機兵の外部居住区への襲撃。そのときに発生した偏食場パルス。その発信源が心葉だということがわかった。だが、問題が一つ発生している。

 

「…詩音君は日常程度でしか彼に干渉していないはず……そうなれば彼個人に異変が発生していることになる…零君が戦死した時からすでに変異していた……いや、もしくはそれ以前……神器使いになる前……それはありえないな……」

 

 1人唸っていた。パソコンから一つ通信が来た。本部から送られてきた碓氷 咲良だ。

 

「君か…何のようだい?」

『伝えるべきことがあります』

「そうか…どうぞ」

「失礼します」

 

 入ってきた彼女の表情は初めて出会った時と比べ真剣さが増していた。

 

「……何かとても重要そうな話かね?」

「…ええ。これについてです」

 

 そう言って咲良は2枚の紙を差し出してきた。1枚目には写真と文字の列。2枚目にはグラフや数字が表示されていた。写真は自分もよく知っているイレギュラーの一人…オラクル細胞が原因不明の突然変異を起こしたそのオラクル細胞が闘う理由となっている一人の少年…日暮 心葉の写真だった。

 

「……これは…」

「………この際だから言っておきます」

 

 彼女の口から衝撃的な言葉が無数に放たれた。彼女について、心葉について、そして2人の出会いが初めてでないことを。

 

「…なるほど…それならこの現象は発生してもおかしくない。むしろ遅かったのかもしれない」

「ええ。本来ならもっと早くああいった道を歩んでいた」

「こんなことが許されていいのか……!!」

 

 くしゃりと手に持っていた紙を握りつぶしていた。紙のタイトルには「対強化神機使い・神機使い 日暮 心葉」と書かれていた。




そろそろストーリーを中盤に向けさせるところです。



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14話 一つの過去

★エントランス

side:心葉

 

「またカナダですか?」

 

 受付で聞きたくない情報を朝一で聞いた。フランも申し訳なさそうに言っている。

 

「…出発は?」

「1時間後です」

 

 カナダ。過去に出張に行き、そこで自分の目の前で堕ちた者(フォールマン)に仲間を殺された。そこでまた堕ちた者が現れたという。また数多くの被害を出しているらしい。話によれば出会った神機使いは蜂の巣状態になって見つかるという。

 

「……エアポートで待機してます」

 

 

 一時間後、エアポートにヘリが到着した。心葉はヘリに乗り込んだ。パイロットはいつもお世話になっている機長と、おなじくお世話になっている副機長。乗ってすぐにまぶたが重くなった。到着にはかなりの時間がかかるというから少し寝ても問題ないと思った。彼らの操作ミスさえなければ次に目を覚ますときは、カナダ支部のエアポートになる。

 

「少し寝ます」

 

 そう告げて眠りについた。

 

 

★カナダ 旧市街

 

 少しと言っておきながら大分寝ていたようで、いつの間にかカナダに到着していたようだ。窓の外からはすたれた街並みが見えていた。

 

「?」

 

 心葉は道路で何かを見つけた。鈍く光る何か。目を凝らす。小さくてわからないが筒のような形をしている。嫌な予感がする。いや、正確には嫌な予感がしていた。そう思った時にはヘリに衝撃が来ていた。

 

「な、何!?」

「機体に損傷!墜落します!!」

 

 どうやらその筒らしき何かが攻撃を仕掛けてきたようだ。

 

「皆パラシュートは!?」

 

 機長が叫ぶ。自分は乗る際にちゃんとパラシュートは身に着けていた。アラガミが撃墜しに来ることもよくあるケースだ。

 

「私はつけています!」

「僕もつけています!!」

「じゃあ、脱出!!」

 

 足元にある神機を握り、ドアを蹴りつけた。バコォン!という音を鳴らしドアが落下していった。

 

「心葉、任務開始します!」

 

 ドアから飛び出した。横を見ると同じように機長も副機長も飛び出していた。

 

 

 

 墜落するヘリから脱出した心葉はそのあと正体不明の襲撃者に撃墜されることなく着地した。

 

「……あの一撃、きっと…」

 

 自分が予想にするに堕ちた者。事前情報にあった出会った神機使いは皆ハチの巣になって見つかるという情報で、銃撃戦が想定されると思っていた。

 

「……………行こう」

 

 旧市街を歩き出した。色のつかない信号機、引き裂かれた看板、割れた窓ガラス、飾るもののない店。どこも一緒だ。

 

「………いる」

 

 とん。どこからか音が聞こえた。少し遠いような近いような。かち。今度ははっきりと聞こえた。後ろからの音。何かが切り替わるような音。

 

「っ!」

 

 咄嗟に横に飛んだ。轟音が響き、自分がさっき立っていたところが爆発していた。飛んでいなければ今頃消し炭なっていただろう。

 

「……お出ましですね」

 

 銀色の髪が目立つ、重圧そうな筒状の武器を持った堕ちた者が廃ビルの2階の窓際に立っていた。右腕は筒状の武器と一体化している。大体の堕ちた者は腕と神機が一体化している。その堕ちた者が飛び降り、自分の目の前に立った。よく見ると筒の先端から煙が上がっていた。先ほどの爆発はこの堕ちた者の仕業だったようだ。

 

「…覚悟っ!」

 

 神機を強く握り、駆けた。同時に堕ちた者が武器を構えた。筒がこちらに向けられる。轟音と同時に筒というより銃口から砲弾が発射された。

 

「っ!」

 

 地を蹴り飛び上がった。靴が砲弾をかすめる。飛び上がった心葉は神機を構え、斬りつけようとした。横薙ぎで叩き、その後追撃で殺す計算だった。が、堕ちた者は後ろに一歩下がり、心葉の間合いから距離を取った。かちりと音が鳴った。堕ちた者の右腕からだろう。

 

「今度は…何を」

 

 銃口がうっすらと光りだした。エネルギーをためているような雰囲気だった。

 

「……なんだか…すごくやばそうな……」

 

 危険を感じ、走り出した。同時に堕ちた者も走り出した。銃口をこちらに向けながら並走していた。そして銃口から無数のオラクルが放たれた。

 

「ガトリング!?」

 

 自分の過ぎ去ったあとを無数のオラクルが貫いていく。これなら蜂の巣になる理由に納得がいく。が、そんなことを考えている暇はない。自分がハチの巣になるのかもしれないのだ。建物の柱や、がれきをうまく盾にしながら走り抜けた。銃口はずっとこちらを向いている。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、あれに、弾切れって存在しないんですかっ!?」

 

 かれこれ数分は走り続けているが、一向に弾切れを見せない。このまま走り続けても反撃ができない。スタミナが切れ、隙を突かれてハチの巣になるだけだ。何かこの状況を打開できる策を必死で考えた。がれきの陰に一瞬だけ隠れて、過ぎ去った堕ちた者の背後から奇襲。その案で行こうとしたががれきがない。がれきがあったところで、隠れてもそのままオラクルが貫通して打ち抜かれる。失敗案。こちらもアサルトに切り替えて、銃撃戦を展開。不可。あそこまで性能は良くないし、オラクルが切れる。

 

「いったいどうしろと!?」

 

 相手は簡単にまとめると、サブマシンガンぐらいの大きさでガトリング並みの連射性と威力を兼ね備え、弾は無限というチート性能の銃を持っている。それに銃相手で挑むのは問題があった。だが、一つ気づいた。

 

「銃…そいういえばバレット……」

 

 スナイパーのバレットで一つだけ使っていないバレットがあった。正確には訓練した時に使用を控えるよう頼まれたバレットだった。バレット名は空間制圧バレット・ノヴァと名付けられていた。この状況を打開するにはこのバレットしかない。何が起こるかわからないが、これに託すしかない。即座に神機をスナイパー形態に切り替え、

 

「空間制圧バレット・ノヴァ!」

 

 声を上げ、放った。がくん、と大きな反動とともに銃口から弾丸が放たれた。反動のせいで照準がぶれた。弾丸は標的をそれて、奥のビルの壁に突き刺さった。次の瞬間、巨大な爆発が発生した。爆発は堕ちた者を巻き込み、心葉を爆風で吹き飛ばした。

 

「うわああぁっ!?」

 

 どうりで使用を控えるようにと言われたわけだ。もし訓練中で使えば自分も爆発に巻き込まれていた。黒煙が晴れると、ボロボロになった堕ちた者が立っていた。

 

「まだ…でも、今ならっ」

 

 神機をアサルト形態に切り替え、突撃した。

 

「ッッ!?」

 

 堕ちた者が気づいたころには心葉は銃口の下にある刃を胸に突き刺していた。そしてオラクル弾を10発連射し、左足で蹴り飛ばした。そして神機をエッジフォームに切り替え、吹っ飛んだ堕ちた者に追撃した。刃を振り下ろし、右腕を切断した。異形と化した右腕から鮮血が噴き出す。神機を振るいさらに慈悲の無い一撃を叩きこんだ。

 

「はあっ!!」

 

 ボロボロになり、立つのがやっとの堕ちた者にさらに追撃を叩きこむ。ごろごろと転がっていく堕ちた者にとどめを刺すべく、神機をスナイパー形態に切り替えた。そして

 

「………………ごめんなさい」

 

 伝わるかどうかわからない謝罪をし、引き金を引いた。

 

 

 動かない堕ちた者を見て、涙があふれてきた。そして簡単な十字架の墓をつくった。いつものことだ。いつも堕ちた者を殺しては涙を流してきた。どれだけ殺し、どれだけ泣いて、どれだけ墓を建てたか忘れた。墓を建てたときに堕ちた者の首もとで光る何かを見つけた。

 

「………ロケットペンダント…?」

 

 開閉式の楕円形のペンダントだ。この中に写真を入れるのが一般的だ。その中の写真が気になった。きっとこの人には恋人や家族がいる。殺した人の過去を見るのはとても嫌気がさしたが、それ以上に自分の興味が勝っていた。いままでそういったものを見たことがなかったからだ。

 そっと手を伸ばし、ペンダントを手に取った。そしてそのペンダントをゆっくりと開いた。そこに一枚の写真が入っていた。そこに見覚えのある青年と少女がいた。銀髪の長身の男性と、桜色の長い髪の少女。そしてふたの部分に「Cecile Crown」と書かれていた。心葉は英語にかなり弱い。そのためすぐに読むことができなかった。

 

「…せ、し…れ……くろ…うん………」

 

 呼んだもののわからなかった。「セシレ クロウン」どこか知っているような気がした。もう一度読んだ。確かeの字でもuと発言するケースがあったと思った。

 

「…セシ……ル…っ!?」

 

 自分の知っている名が出来上がった。「セシル クラウン」。ここでお世話になった一人の神機使い。冗談だと思いもう一度ペンダントを除いた。写真には銀髪の男性、文字を読めばセシル クラウンの文字。

 心葉は自分の知っている人を殺した。いままで見ず知らずの人を殺していたが、今度は違う。自分のお世話になった人を殺した。恩をあだで返すと同じだ。

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 心葉は悲鳴を上げた。今までにない感情が自分を混乱させる。今まで以上の罪悪感と悲壮感がこみ上げてきた。

 

 

★極東支部 廊下

 

 心葉は極東に戻ると同時にすぐに自分に部屋に戻ろうとした。そこでアリサとであった。

 

「あっ、心葉君。おかえり」

 

 そう言って彼女が手を刺しのばしてきた。

 

「………っ」

 

 ぺしっ。

 

「えっ?」

 

 心葉は差し出された手を払った。アリサは突然の出来事に驚きを隠せなかった。

 

「…………ごめんなさい。今は一人にさせてください」

 

 心葉はそう言い残し、足早に部屋に戻って行った。その時の心葉の目にいつもの明るい空色はなく、深海のように深い青色があった。



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15話 わかっていた未来

14~16話は第6話からつながっています。


★荒野

side:バゼル

 

「とうとう…」

 

 何もないただの荒野に一人の神機使いが立っていた。重圧そうな刃を持つ巨大な大剣、同じように太い砲身が目立つ神機。盾も巨大だ。

 

「………これで仇を」

 

 ここに来た理由は一つ。ある人物の首を取りに来ただけだ。

 

 

★極東支部 神機保管庫

side:心葉

 

 心葉は一人神機保管庫の隅でうずくまっていた。過去に同じ場所で同じように悩みながら隅っこにいたと思う。

 

「…………………っ」

 

 さっきから自分についていた。自分について考えるたびに、膝を抱える腕に力を入れていく。少しの命を守ることと多くの人を殺すことしかできない自分が憎たらしい。もし殺せるのならすぐにでも殺したい。どんな手段も問わない。殺してほしかった。この罪は決して償えないが、自分の命を払うだけで少しでも罪が償えるなら、殺してほしかった。さっきから自分で死のうとした。包丁の刃を自分の喉にあて、引こうとした。引けなかった。天井に輪を作り、それで首をつろうとした。もう少しで死ねるという所で輪を自分で切った。結局死のうにも死ねなかった。

 

「…僕は何のために…生まれてきたんですか…?」

 

 どんなに聞いても答えは返ってこない。誰に聞いても答えは出ない。せめて帰ってくる答えは無だけだ。

 

 

★ラウンジ

side:咲良

 

「…心葉は?」

 

 ラウンジで紅茶をもらい、一服していた咲良は心葉がどこにいるか聞いた。いつからか姿が見当たらない。正確に言えば今日の朝から。朝食のときすら見ていない。

 

「いや、それが俺たちも見ていないんだ」

 

 近くにいた第一部隊隊長のコウタが答える。心葉は第一部隊所属。ゆえに体調が知っていると判断したが甘いようだった。

 

「こっちも見ていない。それに隊長もシエルも何もしていない」

 

 続いてブラッドのギルバートが言う。

 

「なら、どこに…」

 

 心葉は自分のパートナーだ。極力手の届く居る所にいると安心できる。彼が危険な以上、なるべく目を離さないようにしなければならない。紅茶を一気に飲み干し、ラウンジを出た。

 

 

★エントランス

 

 見つからない。ラウンジを出てから1時間探し回ったが見つからない。誰に聞いても知らないとのこと。電話をかけても出ない。

 

「いったいどこに……もう一度探し回ろう」

 

 心葉の部屋からすべて隅々まで探すことにした。刹那、

 

「「緊急事態発生です!外部居住区から約10キロ離れたところに堕ちた者(フォールマン)が現れたとのことです!ただちに対応をお願いします」」

 

 スピーカーからヒバリの声が発せられた。

 

「とのこと…?確定した事実ではないということ?」

 

 何か変だった。いつもは確定した情報を流すはずなのに、今回はあいまいだ。咲良はカウンターに向かい、ヒバリに声をかけた。

 

「堕ちた者の話の出所は?」

「それが、不明なんです。ただ、堕ちた者が現れたこととその出現ポイントがメールにあっただけで…」

「…メール?」

 

 おかしすぎる。出現情報の出所が不明。そして情報は正体不明のメール。

 

「………心葉は?」

「少し待ってください………………っ!今、心葉君が一番近いところにいます。目標から1キロ離れたところです!」

「くっ!」

 

 踵を返し、神機保管庫へ走った。

 

 

★荒野

side:心葉

 

 堕ちた者が現れたという情報を耳にし、そのポイントまでやってきた。だが、そこにいたのは一人の神機使いだった。金色のボサボサの髪がよく目立った。こちらに気付いた神機使いが声をかけてきた。

 

「こんなところに何の用だ?」

「………あなたには関係ないことです。それにここのポイントで堕ちた者の目撃情報があります。ただちに隠れるなり避難してください。極東まで送っていきますから」

「その必要はない」

 

 神機使いは言った。とげのあるような声で。

 

「俺はあんたに用がある。日暮 心葉………いや、」

「なぜ、僕の名前を…」

「救世主喰らいッ!」

「っ!?」

 

 血の気が引いた。彼は自分の存在を知っている。救世主喰らいの存在を知っている人はごくわずか。それも大体上層部の人間。

 

「俺は仇を取りに来た。そのための情報だ。堕ちた者の情報なんて全て嘘だ。救世主喰らいをここにおびき寄せるための罠だ」

 

 仕組まれていた。何も疑わなかった。正確に言うには疑う余地がなかった。

 

「ようやく会えた…………お前を殺す!!」

 

 いつか来ると思っていた。こんな日がいつか来ると思っていた。人殺しを続けて入ればいつかはこうやって自分を殺しに来る人が現れると思っていた。

 

「…そうですか………ならさっさと殺してください」

「!?」

 

 神機使いの顔が凍りついた。当然か。いままで仇を取る相手をようやく目の前に現れたというのに、殺してくれと言われる。

 

「…もう僕はいやなんです。人を殺し続けるのが。自分で死のうにも死ねませんでした。だからいっそのことあなたに殺してもらったほうが、楽だと思うんです。そうすれば、あなたとしては仇も取れます。そして僕も死ねます。それがお互いのためになります。だから…殺してください」

 

 もう嫌だった。これ以上人を殺すのも、殺して泣き続けるのも、嫌だった。

 

「………だったら、望み通り殺してやるっ!!」

 

 神機使いが心葉に肉薄し、巨大な刃を振り下ろした。



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16話 怨念の刃

★荒野

side:心葉

 

 僕の人生は終わる。まだ希望のある人を無慈悲に殺していくだけの人生に終止符が打たれる。それで目の前の神機使いにも、僕にも一つの幸せが訪れる。向こうは仇がとれ、僕は死ぬことができる。お互いがお互いのためになる。それでいいはずだ。でも、僕はまたそのチャンスを無駄にした。

 

「…お前、何が殺してくれだ……」

 

 そう。僕はチャンスを無駄にした。僕は殺してほしかった。でも、僕自身は、生きていたいんだと思う。

 

「……神機を構えて…ふざけてんのかっ!!」

「…ふざけてるつもりなんて…一切ありません!僕は死ぬことを望んでいます!でも、僕の体はまだ生きることを望んでいる……だから死ねないんですよ」

 

 重い一撃を盾で押さえ止めた。一撃による衝撃で手が痛い。

 

「だったら、今ここで…眠らせてやる!!」

 

 神機使いは神機を振るい、心葉を吹き飛ばす。吹き飛ばされた心葉は空中で受け身を取り、着地する。

 

「お前がいなければ、今頃あいつらはっ!!」

 

 神機使いが高速で迫ってくる。重い神機を気にせず駆けてくる。

 

「救世主喰らい…お前が……シィを…セシルをッッ!!」

 

 シィとセシル。自分がカナダに行ったときにお世話になった神機使いだ。シィは堕ちた者によって殺された。セシルは堕ちた者となり、自分が殺した。

 

「シィさんはっ…あれは、単なる事故ですっ!」

「セシルは殺しただろう!!」

「確かに…確かにそうですけど…」

 

 事故。そんなたやすい言葉で済む話ではない。もう取り返しのつかないことになっているからだ。二度と帰ってくることのない命。どうしようもない現実がそこにある。

 

「人殺しにはわからないよなぁ!!仲間を殺される気持ちが!!」

「わかりますよっ!少しの間でも、仲間としてくれたシィさんが死んだときはっ」

「たった少しだよな!!長い間過ごしてきた仲間じゃないよな!!ええ!?」

 

 神機使いがさらに猛威を振るう。重い刃による一撃がさらに強くなる。心葉は盾で守り続けている。なるべくこの神機使いにけがをさせてはいけない。ただでさえ、神機使いや、堕ちた者に対抗する力が強い自分が神機を振るえば、あっという間に倒せるだろう。

 

「どうした!!生きたいだろう!!だったら神機を振るえよ!!じゃねぇと殺されるぞ!!」

「………もう僕は…人殺しなんてしたくない…!!でも…生きるには……っ!!」

 

 神機を薙刀形態に切り替え、横薙ぎに振るった。漆黒の刃は空を切り裂くだけに終わった。

 

「やっと本気になったか…さあ、殺しに来いよ救世主喰らい!!」

 

 神機使いが吠える。

 

「もう…どうなっても知りませんからね!!」

 

 心葉は神機を構え地を駆けた。自分の意志では怪我をさせる程度ではいたのかもしれないが、きっと殺すつもりでいるのだろう。神機を握る手にかなりの力が込められている。

 

「ふっ!」

 

 高速で接近し、神機を振るった。漆黒の刃と巨大な刃がぶつかり合う。ぶつかり合うたびに、金属音が響く。音が響くと同時に腕に衝撃が伝わってくる。振り下ろされる刃にあわせ、体を少し動かし、隙ができたところに一撃を叩きこむ。その一撃に対し、相手も体を動かし攻撃をかわす。今のところ神機同士でぶつけ合っているか、刃が空を切るかのどちらかだ。

 

「どうした!その程度かよ!!」

 

 神機使いが神機を高速で振るってくる。心葉はその猛攻を最低限の動きで回避する。隙を探っているが攻撃が激しすぎて一撃を叩きこむ暇がない。

 

「ふんっ!!」

 

 神機使いが神機を横薙ぎに振り回した。心葉は咄嗟に神機を地面に突き刺し一撃を受け止めた。

 

「ほう」

 

 神機使いが少し驚いたように声を出した。

 

「…救世主喰らいを…侮ってもらっては困ります!!」

 

 神機を槍形態に切り替え神機使いに突撃していった。

 

 

★フェンリル本部 技術部

 

「さて、どうなるかな」

 

 フェンリル本部にある技術部の主任がモニターを見て、一言つぶやいた。

 

「主任、あの神機はどういうことですか?」

「ああ、あの試験運用中の黒い神機か…あれ、言ってなかったっけ」

「そのような話は一つも聞いていません」

 

 秘書が冷たく答える。

 

「で、何が問題だと思ったんだい」

「神機の素材並びに試験運用中でまだ完成していないあのシステムについてです」

「ああそれね。素材に関してはまあ、裏ルートだが、システムは完成させた」

「ですが…!」

 

 運用する前は問題があった。制御しようにも制御しきれず神機のオラクル細胞が暴発していた。そのおかげで何本神機を無駄にしてきたことか。

 

「運用に失敗するには問題がいくつかあった。だが、完成させた。一日でシステムの根本をすべて改善した。時間とかオラクル細胞の量でシステムを発動させるのが問題だった。あの子の状況なら感応現象を利用して、意志の力を利用して発動させるようにした」

 

 彼女にとって意味が分からないと思う。そう思い再度わかるように説明した。

 

「あのシステムは改良した。感情を数値としてその数値が一定以上に達するとそのシステムが発動するようにした。そうすれば一時的にステータスの大幅な強化。火事場の馬鹿力というやつが生まれる」

「………それはいい結果をもたらす場合と最悪の結末を迎える場合がある可能性が」

 

 秘書の目は悲しみの色であふれていた。それに対し主任の目には狂気に満ちた色が見えていた。

 

「いいじゃないか。結局はすべて未来のためだ」

 

 

★荒野

side:心葉

 

 ガキィンと刃と刃がぶつかり合う金属音が響く。神機の刃が少しボロボロになっているような気がする。

 

「はあっ!!」

 

 神機使いが大振りに神機を振るう。心葉はそれを神機で受け止めたが、力も体格も負けている心葉は簡単に吹っ飛ばされた。ごろごろと転がっていく。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 自分はこの神機使いを殺すつもりでいる。相手も殺すつもりでいる。だが明らかに向こうのほうが優勢だ。心葉と違い向こうは息の乱れどころか心葉みたいにボロボロになったりしていない。

 

「……ぐっ…!」

 

 力を失いつつある足に力を込める。膝ががくがくしている。このままでは走るどころか相手の攻撃をまともに受け止めることができないだろう。そのまま無様に殺されていく。そんな結末が見えた。

 

「……………こんな…ところで……」

 

 うっすらとぼやけていく視界の中で神機使いがこちらに歩いてくる。

 

「…もう終わりだ、救世主喰らい………死ねぇ!!」

 

 巨大な刃が振り下ろされる。心葉は避けることもできず立ち尽くしていた。この一撃で殺される。自分は望んでいた死を。向こうは待っていた仇討ちを。それでお互いが幸せになる。今度は自分の体が動ないからどうしようもない。すぐに死ねる。だが、振り下ろされると同時に金属音が響いた。

 

「……何のつもりだ」

 

 神機使いが声を出した。ぼやける視界の中で薄い空色の神機で自分をかばっている女性。つい最近のパートナーとなってくれた一人の味方。

 

「…咲良…さん」

「…………今すぐ手を引きなさい。さもなければ殺す」

 

 咲良は静かな声で神機使いに声をかけた。

 

「だったら……殺してみろ!!」

 

 咲良と神機使いが交戦した。お互いに刃をぶつけ合っている。金属音が再び響く。が、それも長くは続かなかった。神機使いの左手が伸び胸ぐらをつかんでいた。胸ぐらをつかむと同時に咲良の神機を神機で叩き落としていた。

 

「咲…良さ…んっ!」

 

 神機使いは胸ぐらをつかんだまま持ち上げ、右手の神機の刃を首元にあてた。

 

「っ!!」

「…心葉……逃げて…」

 

 彼女の首もとから赤色が流れるのが見えた。その時に意識が薄れていき、視界が真っ暗になった。意識がなくなるときに一つの機械音声が聞こえた。

 

「OracleRageSystem Standby」

 

side:咲良

 

 首もとが熱い。血が流れているのだろう。

 

「………ごめん、心葉」

 

 そう呟き目を閉じた。

 ふわりと風が吹いた。自然の風ではない。何かが突っ切ってきた時に生じる風。異変を感じすぐに目を開けた。自分と神機使いの横にボロボロになった心葉がいた。その心葉は神機を振りかぶっていた。

 

「心葉…?」

 

 その心葉は咲良ごと神機使いを横に薙ぎ吹き飛ばした。

 

「ぐっ!!」

「あああっ!?」

 

 心葉が吹っ飛んだ神機使いに追撃をしに地をかけた。さっきの状態からしてありえない動きだった。

 

「…心…葉…?」

 

 神機使いが起き上がった。立ち上がった時にはすでに心葉は目の前にいた。そして心葉は地を踏み込み、神機使いを蹴り飛ばした。

 

「ぐああああああっ!!」

 

 さっきまで圧倒していた神機使いが心葉に圧倒されている。何が起きているかわからないが、せめてわかることは心葉の体に何らかの状態異常が発生していることだ。

 

「………………」

 

 心葉は無言で無表情で神機使いを痛めつけていた。それも立ち上がっては蹴り飛ばし、殴りつけている。神機使いも圧倒いう間にボロボロになっていった。

 

「…………死ね」

 

 そう呟き神機を薙刀形態に切り替えていた。心葉の表情に今までの優しさはなく、目には淀んだ闇しか見えない。心葉は走りよろよろと立ちあがった神機使いに漆黒の刃を振り下ろした。その刃は四肢を切り落とし、再び神機使いを地に寝かせた。すでに神機使いは虫の息で、声も出せなかった。心葉は倒れこんだ神機使いに追い打ちをかけるかのように胸を神機で突き刺し、振り上げその体を上空に挙げた。振り上げた神機を捕食形態に変化させた。神機がオラクル細胞に包まれ、異形の化け物を作り上げる。咢を宙に浮いた体に向けた。

 

「………………………………消えろ」

 

 そう最後に言い、降ってきた体を喰らった。鮮血が飛び散り地を、心葉を、神機を真っ赤に染め上げた。その惨劇を目の当たりにしていた咲良は真っ青になっていた。

 

「…心葉……」

 

 震えが止まらない。今目の前にいる心葉はただの死神だ。恐怖の塊と言っても過言ではない。その恐怖がこちらを見た。心葉は少しこちらを見て、倒れこんだ。倒れこむ前の心葉の表情は少し哀しそうな顔をしていた。

 




大変お待たせいたしました。今回変なシステムを導入しました。詳しいことは次回説明するつもりでいます。

次にGEを更新する前に同時進行中の艦これの小説のほうを済ませようかと考えています。


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17話 隠された真実を明かすとき

★極東支部 ラウンジ

side:咲良

 

 堕ちた者が現れたという問題から1時間後、極東支部にいる心葉を除く神機使い、並びにオペレーターそして支部長が集められた。誰に集められたというかというと本部の技術開発部の主任だった。今巨大なモニターの前にはその姿が見えないが通信でつながっている。

 

「元気にしているかい?極東支部の神機使い君」

 

 気楽そうな声がスピーカーから響く。画面からその表情を見ることはできないがきっとニコニコしているだろう。

 

「あまりに忙しくて市民に優しくない本部様がこんなところに何の用?」

 

 咲良が挑発的に声を発した。

 

「まあまあ、ちょっとしたことさ。君たちが知らない真実を教えに来ただけさ」

「あなたのことならわかっている。心葉のことでしょう」

「やはり君は同じ神機使い同士、わかるようだな」

 

 同じもの同士。心葉は覚えていないが自分と心葉は同じようなもの同士だ。

 

「同じもの同士って……咲良も救世主喰らい(メシアイーター)!?」

 

 詩音が声をかける。彼レベルの残酷な人生は歩んでいない。だが、残酷な人生は歩んできた。

 

「違う。私は人殺しの力なんてものは持っていない。同じものっていうのは」

「同じ強化神機使いということだろう」

「「強化神機使い!?」」

 

 強化神機使い。4年前に少しだけ話題になった。どうして話題になったかというと、神機使いになるまでに非人道的な行為がいくつも行われていたからだ。洗脳、薬、特殊訓練などなど。神機使いなら大体知っている。

 

「咲良と心葉が強化神機使いだと…!?」

 

 ギルバートだけでなくここにいる咲良とサカキを除く全員が驚愕していた。ここにいる皆は知っている。強化神機使いがどれだけ血塗られた道を歩んだか。

 

「洗脳、薬、特殊訓練。その結果で今の私がいる。おかげで今を生きている。それに私は心葉のことを知っているから聞かなくていい。でもほかの皆に伝えるべきことなのでしょう?」

「その通り。まずどこから始めようか?」

 

 二人以外は皆固唾をのんで聞いていた。

 

「まず心葉ができた経緯から」

「そうだな。心葉は12の頃から強化神機使いとしてフェンリルのある施設に預けられた。その時の主任はすでに死んだが、もう一人主任がいて私だった。死んだ彼が基本仕切っていたんだけどね。まあ、話をもどそう。そこからずっと洗脳、特殊訓練、精神操作そしてある実験などいろいろ行っていた。そんなことを繰り返して今の彼がいる」

「本来なら洗脳や精神操作は2年程度で済むはずだったが、そういうわけにはいかなかった。心葉が一人の神機使いになる前にある事件が起きた」

 

 モニターを通して思い返すように主任と咲良が会話をしていく。

 

「ああ。神機の適合試験で適合したものの、薬や洗脳、精神操作によるフラッシュバック、発狂により失敗作とみなされた。そしてもう一人の主任はある決断をした」

「最後の強化神機使いとなる心葉をああいった失敗作を始末する存在として再度洗脳から訓練に精神操作を行った。そして今の救世主喰らいになる」

 

 こうして救世主喰らいはできあがった。

 

「心葉はここではなく極東で神機使いになった。それは施設にいる間適合する神機が見つからなかった。それに近いものは見つかっていたが予定されていた洗脳を行った後、彼の変色因子が大きく変化した。それが原因でずっと適合する神機が見つからなかった。そしてようやくここで適合する神機が見つかった」

「そして彼の変色因子がなぜ変化しやすいかわかることはなかった」

「ああ。今も少しだけ解析している最中だが、正直やめたいところだ。ずっと平行線。で、次の話は?」

 

 こうやって思い返しながら話すだけで心が締め付けられるような感覚がする。それもそうだ。今話していることは自分にも関係あるが全部残酷な話ばかりだ。

 

「心葉の感応現象。あの子だけは唯一特殊な感応現象を起こせる。そのことについて少し教えて。私もレポートを見たけど一部かすれてわからなかった」

「感応現象…救世主喰らいになる前に予定されていた感応現象を起こす一人の実験体として予定されていた。結果成功した」

「その実績は?」

「彼の声に答えてその力を発揮させるようになった。私たちは「感応現象・呼応」と呼んでいる」

 

 そして話によればその感応現象はブラッド隊長、詩音の接触によって変化した。感応現象ではなく血の力として。

 

「呼応の力は「主の声に呼び答えその力を発揮する」というコンセプトの元発揮される力だ。呼応の声は自分から答えるのではなく勝手に答えるようになる。過去に神機兵が外部居住区に襲撃したことがあっただろう。その時にその呼応の力は発揮された。何もしていないはずなのにステータスが大幅に上昇しただろう」

「そうだね。あの力は当初原因不明でアラガミの仕業だと思っていたが、まさか心葉君の力だとはね…さすが本部の人間にはかなわない」

 

 サカキが感心するかのように答えた。

 

「だが、その効果にはまだ続きがある。この効果は神機使いにだけ効果があると思っていが、どうやら思い違いだった。この力は状況によってはアラガミにも効果がある。ただその時の状況はどうだかわからない。アラガミに効果があると知った時は心葉に電気ショックをかけていたからな。悲鳴を上げるたびに数値が上昇し、電圧を上げるとその力はさらに力を強めていった」

「ひどい!!どうしてそんなことを…!!」

 

 詩音が声を上げていた。

 

「強化神機使いの生産はいわば実験とも等しかったんだ。こういった特殊な能力を持っている人はこういったことをして能力をできるだけ引き出し、その力を研究する。そしてこういった研究を行った場合は研究成果見出しかつ、神機使いとして戦うことができる。もしくは研究が中止された場合はそのけんきゅ対象の記憶を生活に支障がないところまで抹消する。心葉の場合は、神機が最後まで見つからず結果を残した後に記憶を抹消した。だから本人は記憶が一切ない」

 

 まるでモルモットのようだった。非人道的なことが当たり前のように行われていたのだ。それが未来の神機使いのため。そうであろうともやっていいことと、やってはいけないこともある。

 

「そのせいでフラッシュバックする可能性がある。その時は気を付けてほしい。次の話は?」

「さっきの神機使いとの戦闘で心葉に何をした?」

 

 ボロボロになった心葉が突然活発に動き出し、戦っていた神機使いを切り裂き、殴りつけ、蹴ったり。そして最後には殺した。

 

「ああ、OracleRageSystemか」

「おら…何?」

 

 ナナが首をかしげながら言った。

 

「オラクルレイジシステム。そう言ったわね」

「そうだ。簡単に言えば、一定条件を満たせばその神機使いのステータスを大幅…というより潜在能力を含めた出せる全力の力を引き出すシステムだ。極東の言葉を借りるなら火事場の馬鹿力ってやつ」

「そんなシステムを…いや、神機に搭載して何らかの条件を満たしたっていうことね。その条件は?」

「やはり君は呑み込みがいい。あの神機には神機使用者の感情を図る機械を埋め込んである。その機械は感応現象で反応している。心葉の場合は感応現象が特殊なためそのシステムが運用できる。その機械で感情をある数値として計測する。その数値が一定以上の数値を超えるとそのシステムが発動するようになっている。まあ、よっぽどのことでしか発動しないがな。例えば仲間を失うとかそう言った時の激昂、本当に守りたいものを守るときに生まれる力強い意志とかそう言った時だな。死に際に発動するといっても過言でもないか」

 

 ちょうどその時だったんだろう。もうすぐで殺されるという所で心葉が助けてくれた。助けたというには少し違う気もするが。

 

「だが、出せる力をすべて出す。ということはフィードバックもかなりのものになる。それだけは覚えていてほしい。万が一彼と敵対しそのシステムが発動した時はすぐに逃げること。神機使いが束になってもかなわないだろう。それが全員強化神機使いであってもだ」

「どうしてそう言い切れる?」

「救世主喰らいだからだ。彼がその力を使いながら暴走した暁には死しか待っていないだろう」

 

 神機使いや堕ちた者に対抗する力が異常に強い。その力のおかげもあり暴走した時は手が付けられない。一撃でももらえば致命傷は確実となる。

 

「まあ、そんなわけで伝えたいことは大体伝えた。できれば心葉の顔を見ておきたいんだが…」

「少し様子見てきます」

 

 リッカがラウンジを離れた。今心葉は医務室で寝ているはずだ。起きているのなら車いすでも何でもいいから彼を連れていって顔を合わせればいい。

 そして待ち続けて2分がたった。ラウンジの扉が勢いよく開けられた。開けたのはリッカだが様子がおかしかった。息を切らし、深刻な表情をしている。

 

「リッカ、どうしたの?」

「心葉が………心葉がいない!!」

「「!?」」

「病室にもいないし、神機保管庫に心葉の神機が存在しないの!!」

 

 

★???

side:心葉

 

 僕は極東を抜け出した。どうして抜け出したかわからない。目を覚ませば真っ白な天井が広がっていて、体は重かった。そんな体でも僕は歩き出していた。朦朧とした意識で神機保管庫に行って神機を取り出していた。そしていつの間にか荒野を歩いていた。ゆらゆらとただ目的もなく歩いていた。意志も持たず気力もない。アラガミが現れればあっという間に殺されるだろう。でも殺されるつもりなんてなかった。今は歩く。何も目的を持たず、薄れゆく意識を持ち、ひたすら歩き極東から離れて行った。




またまただいぶ遅くなりました。本当に申し訳ありません。現在になって物語の中盤の始まりになります。

中盤は大体心葉が大きく関係してきます。だいたいGEのリンドウ失踪パートみたいな形になると思います。

現在艦これの小説も更新しつつあるので交互にやっていくことになっていきます。また次の更新まで長引くと思います。


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18話 捜索

★???

side:心葉

 

道なき道を歩き続けた。極東を抜け出してずっと歩き出した。目的もなくただ一人ずっと歩き続けた。自分は極東にいてはいけない。これ以上いては皆に被害を加えてしまう。いつ自分が神機を振るい皆を傷つけるか殺してしまうかわからない。

 

「……僕はどうすれば……」

 

 神機を持ち出し、水も食料も少量しか持たなかった。リッカにもらったアンカーなど過去に引き出しにしまってそれ以来だ。

 

 

★極東支部 ラウンジ

side:咲良

 

 …心葉が消失した。神機を持ちどこかに行ってしまった。追いかければ今からでも追いつくが、それはやめておけとサカキと本部の技術部主任に言われた。

 

「なぜ止めるの」

 

 今すぐにでも連れ戻したかった。その気持ちが自分を焦らせる。万が一心葉に何かが起こったら?そう思うだけで不安になる。

 

「OracleRageSystemを使用した後は精神がだいぶ不安定になっている。その分下手に干渉すれば反撃を喰らいかねない。彼の恐ろしさは皆知っているだろう?」

 

 神機使いや堕ちた者に強く対抗できる特殊な体質なゆえ、一撃が致命傷になりかねない。

 

「………………」

 

 ぎりぎりと歯を食いしばる。心葉のパートナーでありながら今彼に何もできていない。それが一番悔しかった。

 

「悔しいのはわかる。せめて3時間後だ。そうすれば十分な作戦時間も立てることができるだろう」

 

 主任の言うこともごもっともだ。作戦も無しに挑んではどうしようもない。

 

 

★廃村

side:心葉

 

 ひたすら歩き続けた。極東からできるだけ離れる。それだけを思って歩き続けた。どれだけ歩いたか、どのくらいの距離歩いたかすらわからない。歩いているうちにある廃村にたどり着いた。アラガミの襲撃を受け誰も人の気配を感じない。所々がボロボロで一部家が倒壊している。いい加減疲れてきた。このまま死んでもいいのかもしれない。でも自分の体はまだ生きていたいようだ。お腹がすいたら持っていたレーションを食べ、喉が乾いたら同じように持っていた飲料で喉の渇きを満たす。自分では死のうとは思っていても死ぬことができない。まるで不死になったようだ。

 

「……もう、僕のことは僕の体に従おう……それが一番いいんだ……」

 

 そんなことを呟きながら歩き続けた。廃村を歩き続けて3分、この廃村の中で一番損壊率が少ない家が目に付いた。どうやら自分の体はここで寝泊まりをしよと思っているようだ。

 

「………なんだろう…少し…懐かしい…?」

 

 自分が全く知らない家に踏み入れた瞬間に思った。記憶の中にはないけど、自分の体が知っているというような感じ。

 家の中はきれいに整理されていた。棚の中にはものがほとんど入っていなかった。あるのは少量の絵本と二冊の辞書だった。そして机の上には小さなオレンジ色のアルバムと黒色の分厚い日記があった。心葉はその黒色の日記を手に取り、一ページをめくった。そこには「僕の日記」と書いてあった。少し細めで柔らかな字体だった。どこかでこんな事態を見たことがあるような気がした。とても身近にあるような………ふと思い日記に刺さっていたペンを取り出し、あまり目立たない下のほうに同じように「僕の日記」と書いてみた。書かれた字はもともと書いてあった時にとてもそっくりだった。そっくり……というよりほぼ同じだった。筆圧とか字の細さとか。

 

「もしかして…これって……」

 

 日記をひっくり返し、裏面のカバー、最後のページを開いた。そこには「日暮 心葉」と書かれていた。これではっきりとした。どうして記憶にない場所が懐かしく感じられ、日記の字と自分の字がそっくりなのか。この家は自分の住んでいた家だからだ。そうなれば隣に置いてあるオレンジの小さなアルバムは自分の過去が詰まった一つの記録になる。そうなると手が止まらなかった。2ページ目を開く。「今日から日記を書き始めた。もし僕が大人になったらこのアルバムを見て懐かしいなーなんて思うんだろうね。家にいてもやることも少ないからこの日記を毎日書くことにする」と書かれていた。この後も私生活や感想と言ったことを並べていた。どのページも年月は書かれていなかった。そしてペラペラめくって行った先に最後に今まで綺麗な字から突然雑な字に変わった。自分の字であることは間違いないが、殴り書きになっている。そこには「僕はフェンリルに連れて行かれることになった。今お母さんとお父さんとお話ししている。もしかしたら帰ってこないかもしれない。だからここに書いておくことにした。お父さん、お母さん、ありがとう。もし帰ってこなかったらごめんなさい……違う、帰ってくるから待っててね。だから心配しないで。僕も不安だけど、大丈夫だと思うから…………行ってきます」。と記されていた。

 

「………僕がフェンリルに連れて行かれた……?」

 

 昔の記憶が全くないことはわかっていたが、まさかフェンリルに連れて行かれるとは思っていなかった。どうして連れていかれる理由があったのか。その理由はある程度だが次のページにかかれていた。皐月「心葉が連れて行かれてから1日たった。私も空も心配になった。ご飯も食べるても今までと比べて遅くなったと思う。心葉の笑顔を見ているだけで幸せになれていた私たちがいた。なんで連れていかれなければいけないのか。フェンリルの技術主任に選ばれた。近くにある研究所で訓練を受けてもらう。としか説明してもらえなかった。そのあとに彼が必要なんだと強く言われ、私たちも黙らざるを得なかった。お願い、どうか無事でいて」と。

 

「………フェンリルの研究所…」

 

 こんな廃村の近くに何があるというんだ。そもそもフェンリルの研究所で訓練を受けるということがおかしい。何か裏で策でもあるとしか考えられない。

 

「………………探そう。その研究所というのを…」

 

 だが、動く前に体力が全くと言っていいほどない。空腹で、喉が渇いている。このままでは探索する以前に餓死する。せめて電気と水道が生きているぐらいだ。何かないかと日記をもう一ページめくった。また記述があった。「誰かか、心葉がこれを見ているということは俺も皐月もいないだろう。だからここに記す。俺と皐月は別のフェンリル支部にある居住区で暮らしている。もし来るならこの家の玄関から六時の方向。そしてレーションと水をこの家の床下に隠してある。ちょうどこの机の下だ」と書いてあった。。

 

「…床下」

 

 机の下をのぞいてみると少しだけ木の板がめくれあがっている。そのめくれ上がった板を強引に開け外した。そこには数多くのレーションと水があった。一か月は生きていられるだろうと思われる量だ。それらを見て自分の意志にやる気のようなものが湧き上がった。自分の過去を確かめなければならない。存在しない記憶をたどる。その研究所の場所すらわかっていないが、この周辺をしらみつぶしに探していけば見つかるだろう。当然タイムリミットもある。この食料が尽きた時がタイムリミットだ。その前に自分の過去を知らなければならない。

 

「……見つける。自分の過去を……」

 

 日記をもとあった場所に置き、自分が寝ていたと思われるシングルのベッドに寝た。

 

★極東支部

side:コウタ

 

「これより、日暮 心葉くん捜索任務を開始します。現在偵察班を動かしながら捜索をしています。表向きではアラガミ討伐のついでで心葉君を探すことになっていますが、心葉君を探すことを中心にしても問題ありません」

 

 ヒバリより任務が告げられた。

 

「なお、何が起こるかわかりません……リッカさん…」

 

 ヒバリがリッカに声をかけた。そのリッカは一つの段ボール箱を持っていた。

 

「…皆、一個ずつこれを持って。銃が使える人だけね」

 

 段ボールの中には大量のバレットが入っていた。どれも真っ黒でなんのバレットか識別不可だった。

 

「リッカ、これは?」

 

 コウタが口を開く。

 

「……対神機使い、堕ちた者用のバレット…」

「「!?」」

 

 驚愕せざるを得なかった。なぜその人を殺せるバレットを渡すのか。その理由は答えを出したくなくても、容易に答えを出してしまう。そのバレットを使って心葉を殺せ。ということだ。

 

「私だってこんなバレット作りたくなかった!でも…もし心葉君が襲ってきた場合は…そのバレットで…」

「なんで…そんな、撃てるわけないだろ!!」

 

 味方を撃つ。誤射でなく故意的にだ。誤射と故意で当てるのは全く違う。

 

「…非常につらい話だが、こうでもしないとこちらがやられるだけだ。コウタ君、わかってくれ」

 

 口を開いたサカキもとても申し訳なさそうにしている。

 

「……くっ…」

 

 歯を食いしばった。これから捜索任務が始まるが、できる限りこのバレットには触れないようにしたい。もし銃身を心葉に向ける時が来たのなら…その時は覚悟を決める時だと思った。




心葉の父→空
心葉の母→皐月

ちょっと艦これの方を少し停止してGEの方を集中しようかと思いました。


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19話 たどり着いた先は/想定されていた未来

★廃村

side:心葉

 

 早朝。あれから少し眠り、少量のご飯を食べて日記に書いてあった研究所を探し始めた。父と母の住んでいる支部の方向は知っているが、研究所については近くとしか書いてなかった。ただわかることはここに来るまでの道中、建物らしきものは一切なかった。ずっと平原が続いているだけだ。もし地下だけとか隠し通路という形でなければ、進んできた道と同じ方向を歩いていれば見つかるはずだ。早速神機を持ち出し、歩き始めた。あたりをきょろきょろして目を凝らして、探した。建物らしきものは近づいて、隠し通路がないか探して、無ければまた歩き出してを繰り返した。

 そしてずっと歩き続け日が暮れるという所である建物を見つけた。

 

「……今日はこれで終わりにしよう。まだ大丈夫だと思うから」

 

 いい加減変色因子の投与をしなければならないが、かれこれずっと投与していない。長期間外出するときは変色因子を持ち歩くケースが多いが、それが原因で堕ちた者(フォールマン)化するケースも多発している。かといってこのまま変色因子を投与しなければ自分も堕ちた者になりかねない。どちらにせよこれが最後かもしれない。この後は堕ちた者になって誰かほかの神機使いが自分を殺すことになるだけだ。

 

 

★平原

side:ハルオミ

 

 午前十時ハルオミとカノンが出撃を開始した。現在防衛班を残し、クレイドル、咲良を含めた第一部隊、ブラッド、第四部隊で活動している。真っ先に第一部隊が動き出し、その後をクレイドルとブラッドが動いた。こちらは最後ということになる。

 

「じゃ、カノンちゃん、さっさと心葉見つけて帰ろうか」

「はいっ」

 

 笑顔で捜索を始めた。すぐ見つかるそんな期待を持ちながら。

 

 

★研究所?

side:心葉

 

 家を出たのが七時。それから9時間。ようやくそれを見つけた。ボロボロになった壁面に塗装が剥げたフェンリルのエンブレムが塗られていた。

 

「…もしここならば…」

 

 錆びたフェンスをどけ、入り口に向けて歩き出した。

 

 

★研究所 玄関

 

 研究所の電気は生きていた。入って薄暗いことを想定していたが、電気がつきっぱなしだった。中は散らかってはおらず、きれいになっていた。せめていうなれば机の上に埃がほんの少しかぶっている程度だった。

 

「……やっぱり家に来た時と同じ感覚がする……僕は…ここに来たことがある」

 

 体は覚えている。この場所を。その体に従い、研究所内を歩き出した。

 

 

★研究所内 個室

 

 自分の体が行く末についた場所は一つの個室だった。個室というよりは大きな牢屋と言っても過言ではなかった。扉は鉄格子だ。その先には小さな机、ベッド、トイレ、水道など、生きるために必要なものは整っていた。カギは空いている。きぃと嫌な音を鳴らし、鉄格子を開けた。まず目についたのが机の上にあった本だった。その一ページ目をめくってみる。そこには

 

「…僕がここにきてからのこと………フェンリルに連れていかれてからここで何が起きたか…それがわかる」

 

 2ページ目をめくってみる。最初の文だ。「フェンリルに連れてこられたのはよくわからない。でもここで起きている時間は辛いことばかり。まずは体力づくりと言ったけど皆倒れてた。僕も倒れた。子供がやるようなことじゃない」。3ページ目、「体力づくりの時間が減った。でもその分新しく座学が増えた。いや、座学じゃない。単なる洗脳だ。頭に何か機械をつけてずっとモニターの映像を見せていた。集中力が途切れたりすると機械から電流が流れて……とにかくひどかった」などと書いてあった。ここから先もずっと同じようなことが書いてあった。訓練、洗脳教育、投薬などが繰り返されていた。

 

「…そんな…………こんなことって……」

 

 それから痛々しい記録が続いてある日それが変わった。「隣の人が適合試験に移った。僕はいまだに神機が見つからないから適合試験を受けられない。でもその適合した人は死んだ。神機に適合してから暴走した。上の人も殺すことをためらわなかった。失敗作だと言ってた。僕もいずれああなってしまうんだろうか」

 

「……失敗作…」

 

 選ばれた人を適合させて暴走すれば失敗作扱い。そんなことがあっていいのか。歯を食いしばりながら次のページをめくった。「僕はどうやら特殊な人らしい。投薬の中に変色因子をほんの少量混ぜていたらしい。その変色因子のおかげである力が現れたという。簡単に言えば僕の声が皆を強くするらしい。上の人は感応現象だといっていた」

 

 感応現象。自分にそんな力があるとは思っていなかった。過去にサカキに「君には何か特殊な力でもあるのかい?」と聞かれたことがある。そんなことを思い出し次のページをめくった。次のページは驚愕の内容だった。「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」

と、同じ言葉がノート一面に書かれていた。

 

「な、な…何…これ……」

 

 いつもの自分の字で呪うかのように書かれていた。その次のページには「どうしてこんな目に合わなくちゃいけないの?僕が何をしたっていうの?誰か…助けて」と。痛みが伝わってくる。胸が苦しくなってくる。日記はこれで最後だった。どのページにも苦しいことしか書いてなかった。

 

「………所長室だ。そこに行けばある程度のデータがあるはず…」

 

 

★研究所 所長室

 

 ジャキンジャキンと何かを切り裂く音が響く。音に続いてロックのかかったドアが心葉の神機によって切断されドアとしての機能をしなくなった。セキュリティがなくなった所長室に足を踏み入れた。いかにも偉い人が座るような机の上にパソコンが置かれていた。心葉はパソコンの前に立ち、キーボードを打ち始めた。奇跡的にロックがかかっておらずデータは簡単に覗くことができた。デスクトップ上には大量のフォルダがあった。その中に二つだけ目に入ったものがあった。一つは「日暮 心葉」。二つ目は「世界喰らい」というフォルダだった。最初に自分の名前の付いたフォルダを開いた。そこにはいくつかのテキストファイルと、動画があった。まずテキストファイルに目を付けた。個人情報、実験データ、投与した薬、変色因子ぐらいしかわからないが、まだまだほかにある。そして動画ファイル。その動画を再生してみた。まず現れたのはオウガテイル一体、その視線の先には目隠しをされ椅子に座った人がいた。その人の手や足には枷がしてあった。オウガテイルと人の間には何枚かのアラガミ装甲壁と思われる壁が置いてあった。

 

「何……………ッ!!」

 

 急に吐き気と頭痛が襲ってきた。立つことすら難しいレベルだ。息が苦しい、呼吸ができない。コートの上から胸を握りしめた。

 

「…はぁ………ぐ……はぁ………くる……しぃ…………ぁぁっ…………ぅぐっ……」

 

 画面上で何が起こっているかわからないが、悲鳴が聞こえる。幼い声で必死に助けを求めるかのような悲鳴が聞こえる。何が起きているか確認しようにも確認できない。

 

「……はぁ…はぁ………ぁうっ………ぐ」

 

 動画が終わってから少しした後、ようやく息が整ってきた。さっきの動画を見ればまた同じことが起きる。そう判断し、自分のフォルダを閉じた。そしてもう一月になっていた「世界喰らい」というファイルを見た。そこには自分でも信じられないことが書いてあった。自分の存在意義を疑った。

 

「………僕は…何のために神機使いになったんですか…?」

 

 神機使いや堕ちた者を殺すことが目的の神機使いだけでなく、もう一つの使命があった。その使命ひとつで世界が変わって見えた。

 

 

★平原

side:咲良

 

「どうして心葉が私たち神機使いや、堕ちた者に強く力を発揮するか。その理由は詳しくわかっていないけど、大体の原因は彼に投与した変色因子に問題がある。彼に投与した変色因子は神機使いから抽出したオラクル細胞を加工して変色因子にした」

 

 心葉を探しながら心葉について自分が知っていることを改めて話していた。

 

「なあ、どうして心葉のことを詳しく知っているんだ?」

「いい質問ねコウタ。あの研究所が潰れて誰もいなくなった後そこのデータをすべてコピーしてきた。そのコピーしたデータを全て話しているだけよ」

 

 パスワード入力が面倒だったからパソコンのパスワードを解除して、次の人がパスワードを打ち込まなくても使えるようにしてやった。私優しい。

 

「……心葉、早く見つかるといいね」

 

 エリナが心配そうにつぶやく。

 

「そうね…あの子は、いや強化神機使いは皆変色因子を投与しなくても平気な体質をしているから大丈夫だけど…」

 

 

★廃村

side:心葉

 

 研究所から歩いて自分が住んでいた家に戻ってきた。

 

「ただいま」

 

 薄暗い部屋が心葉を出迎えてくれた。壁にある証明のスイッチを一つだけ入れる。暗い部屋が明るくなる。机の上にあるペンをとり、黒い日記の最後のページに文章を書き込んだ。

 

「お父さん、お母さん。ごめんなさい。お父さんとお母さんに会いたいけど、もう会うことはできない。」

 

 安らぎを与えてくれた数少ない場所、温かい記憶が残った居間、どんなにつらくても忘れさせてくれたベッド、自分の存在を残すために記した日記、家族との記憶が全て残ったアルバム。それらに背を向け家を出た。その時心葉は、

 

「さようなら」

 

 と一言言った。

 

 

★荒野

side:ハルオミ

 

 あれから探し続けて結局心葉どころかアラガミすら目撃しなかった。単なるピクニックになってしまった。

 

「楽しかったですねー」

「あ、ああ……まあ、明日にしようか、もう遅いし」

 

 外はもう太陽が半分沈みかけていた。これ以上は探索するにも危険だ。夕日に背を返し、歩き始めた。が

 

「あ、あれ…?」

「ん?カノンちゃん?」

 

 カノンが何か見つけたようだ。ハルオミも背後を振り向き、カノンの視線の先をとらえる。黒い小さな人の影があった。ボロボロのコートを身にまとい、右手には槍のような武器が握られている。そして腕に例の大きい腕輪がついていた。夕日のせいでよくわからないが、シルエットだけで大体姿がわかった。突然姿を消した一人の仲間。

 

「心葉君!」

 

 日暮 心葉がこちらに向かって歩いていた。ようやく見つけた。これでいつもの日に戻れると思った。

 

「心葉君…?」

 

 様子がおかしい。いつもなら声をかけられるとすぐに声を返すのに何もしゃべらない。何よりも彼の放つ覇気だ。柔らかな空気とかそう言ったものは一切ない。

 

「カノンちゃん…………」

 

 心葉が足を止めた。彼の持っている神機が鋭い楕円型の槍から三日月の薙刀に切り替わった。切り替わると同時にハルオミはリッカにもらったバレットを装填していた。

 

「カノンちゃん……神機を構えろ」

「ふぇっ!?な、何を言っているんですか!?」

 

 最悪の結果は少しだけ予想していたが、まさかこうも早く来るとは思っていなかった。目の前にいる心葉は神機を構えた。

 

「……カノンちゃん……残酷な現実だが……」

 

 そういうと同時にハルオミも神機を構えた。心葉の目が紅く光る。

 

「……アイツはもう…………………俺たちの知っている心葉じゃない」

 

 

★極東支部 エントランス

side:詩音

 

「……遅いですね」

 

 現在時刻は午後八時を回っていた。ブラッド、クレイドル、第一部隊皆収穫はなく極東に帰ってきた。だが、第四部隊のみ帰ってきていない。さっきから電話をかけているのだが応答しない。通信すらダメだった。

 

「…隊長、探しに行きたい気持ちはわかります。ですが、この状況で探しに行くのは危険です。捜索をするなら明日の早朝にしましょう」

 

 シエルが口を開いた。こんなことをしている間に二人が生きているかどうか心配になった。

 

「…二人とも…ぶ」

 

 無事にいて。と言いかけた瞬間、ドアが勢いよく開けられた。そこにいたのはボロボロになったカノンを左肩に乗せたハルオミだった。ハルオミもハルオミでボロボロになっていた。

 

「ハルオミさん!カノンちゃん!」

 

 皆が二人に駆け寄った。カノンは気絶していて目を閉じたままだった。ハルオミもハルオミでダメージがひどいのか顔をしかめていた。

 

「大丈夫ですか!?早く救護!」

 

 医療班が駆け付けてきた。一度ハルオミを座らせ、カノンを寝かせた。医療班が応急治療をしている間に何があったか聞くことにした。

 

「…………この…………は………が………」

「な、何?もう一回言ってっ!」

 

 ハルオミの声は小さく聞き取ろうにも聞き取れなかった。

 

「心葉…………が……心葉が…やった…………アイツは……俺たちの……知ってる…心…葉……じゃ……な………」

 

 言葉を言いかけて、気絶した。

 

「ハルオミさん!ハルオミさん!」

「…………まずい……こんなにも早く……」

 

 咲良が歯を食いしばっていた。



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20話 決意

★極東支部 病室

side:詩音

 

 ハルオミとカノンが病室に搬送されてまる一日たった時のことだった。ようやく二人が目を覚ました。

 

「…大丈夫ですか?」

 

 詩音が言った。二人は顔をしかめて起き上がった。

 

「ぐ……なんとか…な…」

「どうしてこんな目に……心葉っていってたよね…」

 

 倒れる前に「心葉がやった」というようなことを言っていた。あの心葉が仲間に攻撃をするとは思えなかった。

 

「実際に私たち攻撃を受けたんです……帰投するときに心葉君を見かけたら、突然攻撃を仕掛けてきて…」

「それで、俺たちは心葉に打ちのめされた……反撃すらできずに、ただ斬られ、殴られ、蹴られるだけだった」

 

 二人には切り傷に加え多くのあざができていた。その傷はさっき言った殴られたり、けられたりした傷だろう。

 

「……二人の傷は全治一か月程度。けど、神機の修理も含めると戦場に戻るにはプラス二週間必要ね」

「神機の修理……」

「これを」

 

 咲良がそう言って携帯に移った一枚の写真を見せた。

 

「ふたりを病室に運んだあと個人で行ってきたの。その場にあったものよ」

 

 そこに移されていたのは神機としての役割を果たすことができない状態になっていた。ハルオミの神機は盾が横に真っ二つになっており、銃身も裂けている。刀身はまるでカッターナイフの折った刃のように切られていた。その断面は綺麗で凹凸すらなかった。カノンの神機は銃身がハルオミの神機と同じように裂けていて、神機本体と銃口が切り離されていた。パーツとしてでなく、部分としてだ。

 

「…神機が……」

 

 アラガミの一撃を受けても問題ない神機がこんな風になっている。ありえない光景だった。

 

「……これ以上は心葉を放っておくことができない。すぐにでも止める必要がある。いつ誰が次の被害者になるかわからない」

「ねぇ、どうして心葉はこんなことをするの……咲良さん、あなたは知ってるんでしょ?」

 

 後ろにいる咲良に問いかけてみる。

 

「…申し訳ないけど、今は言えない。今すべてを話せば皆混乱する」

「………さっき放っておくことができないって言ってたけど……どうやって止めるつもりなの……?」

「…………聞いてたところでわかっているんでしょう?」

 

 咲良の言うことは正しかった。わかっていた。でも聞いてしまった。

 

「…できる限り行動を止める程度の攻撃をするしかない。足、または腕を切り落とす。神機を破壊する…」

 

 咲良が言葉を連ねていく。その言葉に首を横に振った。

 

「やめて……やめて…」

「……神機を破壊、腕を切り落とすといったことをしたところで別の暴走をする。それは正直問題がある………だから一番手っ取り早いのは……………………彼を殺すこと」

「やめて!!」

 

 詩音は咲良の肩をつかみ後ろの壁に叩きつけた。

 

「どうしてそんなこと言うの!!仲間でしょ!パートナーでしょ!!」

「私だって殺したくない!!」

 

 咲良が叫んだ。

 

「………私だって…殺したくない……でも、わかってほしい……この世界人を救うことが全て、救済ではないことを……」

 

 咲良は詩音から目をそらしてうつむいた。

 仲間を殺したくないのはみんな一緒だ。咲良が言っていた救うこと全てが救済ではない。その言葉が胸に突き刺さった。

 

「ごめん、少し一人にさせて」

 

 詩音はうつむいたまま病室を出て行った。

 

 

★廃墟

side:コウタ

 

 本日は第一部隊とクレイドルのみでの捜索だ。二人が襲撃にあってから詩音から連絡が来た。二人を攻撃したのは心葉本人で自分の意志で攻撃をしてきたという。

 

「……心葉君、何があったんだろ…」

 

 普段は優しくて仲間意識の強い子だった。そんな彼が突然失踪した挙句仲間を攻撃した。

 

「………エリナ、君はもし心葉君に出会ったらどうする?」

 

 エミールが聞いてきた。その声はいつものテンションとは違い、低かった。

 

「…そんなのわかんないっ…」

「向こうが敵意を持ち、こちらに攻撃してきた場合、エリナは神機を振るえるか?」

「………無理だよ…だって、仲間だよ!!そんなことできるわけないじゃない!!」

 

 いつもの二人の口げんかとは違う。本気で悩み、苦悩を伝え合っているだけの会話。

 

「…エミールは?」

「…僕も、心葉君に向けて神機を振るうことはできない…」

「…………っ」

 

 きょろきょろと歩いているうちに人影を見つけた。遠くてわからないが、黒い影だった。

 

「…二人とも行くぞっ」

「「っ!」」

 

 コウタが駆けだした。エリナとエミールは一度驚き、少し遅れた後コウタの後をついて行った。

 

 

 少し走るとようやく人影の正体が判明した。背の小さくて黒一色の少年。ボロボロのコートを身にまとい、手にはそのさまざまなものを切り刻んできたと思われる巨大な槍が握られていた。

 

「…あれって」

「ああ……アイツは…」

 

 捜索を始めて発見が困難だと思われていたが、そうでもなかった。ようやく見つけた。だが見つけた感動より、本当にちゃんとした意志を持った心葉なのかという不安があった。

 

「………………」

 

 その当の本人は無言でこちらに近づいてきた。

 

「心葉!!」

 

 意を消して彼の名を呼んだ。自分の中の不安を消し、いつも通りの対応をすることにした。

 

「やっと見つけた!さあ、早く極東に帰ろう!なんでどこかに行ったとかは帰ってからだ。さあ、」

 

 行こうぜという前に彼が口を開いた。

 

「………あなたも同じことを言うんですね」

「えっ」

 

 彼の紅い瞳がこちらを見る。普段は透き通った空色の瞳だが、まるで血のように真っ赤だった。

 

「…………こ、心葉?」

 

 声をかけた次の瞬間。

 

「これ以上何を話すつもりですか」

 

 呼びかけた声も届かず、漆黒の矛がこちらに向けられた。距離はまだ大きく離れている。それでもその矛がまるで喉に突き付けられているような感覚がした。

 ……なんだよ…なんだこのプレッシャー……ほんとに…心葉…なのか…?

 

「………心葉ぁ!」

 

 震えてそうな声を上げ、彼の名前を呼んだ。

 

「俺たちは仲間だろ!なんでハルさんに、カノンちゃんにあんなことをした!!」

「僕はもうあなた達を仲間とは思っていません!!」

 

 仲間思いの彼の口からそんな言葉が出るとは思っていなかった。あまりの衝撃に足が震えている。絶対にしたくなかった決断をすることになってしまった。もう彼は自分たちと敵対している。生きる選択肢は一つしか残されていなかった。

 

「……………エリナ!!エミール!!」

 

 神機を握る手に力を込め、バレットを切り替えた。リッカに渡されたバレットだ。対神機使い、堕ちた者に作られたバレット。

 

「………撃ちたくなんかない……でも!!」

 

 生きるためには、これ以上被害を出さないためには、彼を撃つしかなかった。

 

「二人とも神機を構えろ!!」

「た、隊長っ」

「心葉……許してくれ!!」



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21話 与えられし猶予

★廃墟

side:エリナ

 

 心葉は自分たちを殺すつもりでいる。コウタは気持ちを抑え彼を倒そうとしている。ここで神機を構えなかったらこちらが殺されるだけだ。彼を殺して生きるか。彼を殺さないで自分が死ぬか。その二択しか残されていなかった。

 

「………そんなこと……できないっ…!」

「………ぐ……うおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 自分の隣でエミールが声を上げながら地面をかけた。心葉も地を駆ける。そして神機通しがぶつかり合った。

 

「なぜこんなことをする!」

「あなた達にはわからないでしょうね!!」

 

 金色のハンマーを弾き、漆黒の槍を横薙ぎに振るう。エミールはそれを距離を取って回避する。

 

「僕の気持ちなんて一切わかるわけがない!!」

 

 距離を詰め再び槍を横に薙ぐ。槍はエミールの腹をとらえる。

 

「うぐぁぁ!」

 

 吹き飛ばされたエミールをしり目にコウタを見る。一方コウタは引き金を引き、弾丸を放っていた。弾丸を紙一重で回避し、距離を詰める。弾丸の雨は心葉に向かっていくがどれも交わされていく。あっという間に間合いに入られていた。心葉は一度跳躍し、コウタを飛び越えた。そして背後に着地した瞬間、再び槍を横に薙ぐ。槍は背中に直撃し、コウタにダメージを与える。

 

「ぐあっ!」

 

 紅の瞳がこちらを見る。

 

「くっ………くっっそおおおおおお!!!」

 

 槍を構え駆け出した。堕ちた者(フォールマン)なんかと戦闘したことはない。これが始めての対人戦となる。槍同士がぶつかり、金属音を響かせる。心葉が振るう槍をこちらの槍で受け止める。隙があれば振るってみるが同じように止められる。

 

「ねぇ、心葉!どうして、どうしてこんなことをするの!」

「あなた達に言ったってわかりはしない!僕の気持ちなんて………あなたにわかるものか!!」

 

 突如体に力が湧き上がるような感覚がした。過去にあった外部居住区への襲撃のことだ。リンクサポートではないブラッドによる感応派による現象でもない、正体不明の感応現象。それが今に起こった。

 

「あの時の感応現象……やっぱり心葉だったの………強化神機使いって話は……嘘じゃなかったのね…」

「!!」

 

 心葉の目にどす黒い炎が宿る。

 

「あなたなんかに……あなた達なんかに……僕の……何がわかるっていうんですか!!!!」

 

 受け止めていた槍が開き薙刀へと変貌する。心葉は一度槍を引き抜き、軽く下がった。

 

「お願い!もうやめて!!」

「うるさい!!!!」

 

 叫んだころには一瞬で距離を詰められていた。

 

「!」

 

 心葉が薙刀を振るう。その一撃を神機で受け止めた。だが無意味に終わった。振り降ろされた刃は抵抗という言葉を知らず、神機をいとも簡単に切り裂いた。

 

「神機が!?」

「もうどうでもいい!!」

 

 腹を蹴り飛ばされる。蹴り飛ばされた先にはコウタがいた。コウタと共に転んだ。さらにエミールが突撃してきたが、それも薙刀の前にバラバラにされ、同じように吹き飛ばされた。

 

「…さようなら」

 

 神機が銃形態に変わった。漆黒の砲身から一つの弾丸が放たれた。弾丸が自分たちに触れた瞬間に、意識を失った。

 

 

side:心葉

 

「助けは呼びました。ですが、次に会った時は容赦なく殺します」

 

 手に持っていた携帯を地面に置き、歩き出した。

 

 

side:詩音

 

 正体不明の救援要請を受けて、そのポイントにやってきた。そこにいたのはボロボロになった第一部隊と使えなくなった神機が転がっていた。

 

「ひどい……」

 

 三人とも意識を失っていて、体のあちこちにキズがあった。

 この後すぐに医療班に三人を任せて、撤退した。神機も回収し、リッカに任せてすぐに使えるよう修理を依頼した。




大変お待たせいたしました。申し訳ありませんでした。


RBやっていくとつくづく心葉とリヴィが似ているような気がしてならないです。


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22話 希望の終止符

★外部居住区

side:詩音

 

生ぬるい嫌な風が吹き荒れる。どうしてこうなってしまったのか。それは最初から決められた運命だったのか。それとも最初から決定していたことなのだろうか。どちらにせよ、この状況から避けられないのは事実だ。

 

「………やっぱり…殺すしかないのね………」

 

 手に握る神機をぎゅっと握る。手汗で滑りそうになる。

 

「……………」

 

 赤く濡れた瞳でずっとこちらを見つめる少年。今までともに笑いあってきた仲間だ。だが今は仲間ではない。敵だ。こちらには殺す気はなくても向こうには殺す気はある。一瞬でも気を抜けば遠く離れた距離で向けられた漆黒の矛が喉元に刺さっているような感じがする。

 

「…………ごめん、心葉君!!」

 

 一言声を上げ、地面を強く蹴った。彼を殺すことをためらった自分を押さえ、目の前にいる仲間が最初から敵だったということと言い聞かせ、堕ちた者と出会ったと言い聞かせ走り出した。

 

 

 数時間前。

 

 

★エントランス

 

 外部居住区を映したモニターに一つの紅い丸がある。赤い丸はゆっくりと外部居住区を進んでいる。

 

「…ようやく見つけた。だが………」

 

 この丸は心葉だ。だが、もう自分たちが知っている心葉ではない。殺りくを繰り返す堕ちた者同然の存在となってしまった。彼はもう自分たちのことを仲間としてみていない。

 

「…………待っていた最悪の事態が来た」

「…咲良君。こうなったらどうすればいいんだ?」

「…………………もう手遅れよ」

 

 そう冷たく言う彼女の表情は悲しかった。瞳にも色がない。

 

「………どうするの?」

「どうするとは?」

「一人で殺すか、皆で殺すか」

 

 残酷な言葉を並べていく咲良。でも今はためらってしまったら終わりだ。そのためらいが戦場で生死を左右する。

 

「強化神機使いとはいえ、あの子は神機使いに強い耐性を持つ。一撃でももらったら大けが、最悪の場合死が待ってる。一人で向かわせて被害を少なくするか、全員で行ってできる限りの被害を減らすか。私は後者の意見を尊重するけど」

 

 どちらもどちらだ。わかりやすく言えばどっちの方が被害を減らすことができるか。一人で向かえば一対一になる。その場合どちらかが死ぬだけの話になる。複数で向かえば一対複数といった形になり有利になる。だが同時に被害が大きく出る可能性もある。

 心葉の神機は槍とスナイパー。だが特殊機構により槍は薙刀に変化し、アサルトも使用可能となる。薙刀の状態であれば神機すら真っ二つになる。スナイパーには広範囲爆撃バレットがある。もしそれが放たれれば被害が大きく出る。

 

「………私が行きます……でも……皆の力も貸してほしい」

 

 沈黙するなかで一人声を出したのはブラッドの隊長、詩音だった。

 

「……わかったわ。けど、状況をモニターさせて。もし危険な状況だったら私たちが加勢する」

 

 こうして話がまとまった。そこからどうするべきか話し合った。どれも胸が苦しくなる話ばかりだ。仲間を殺さなければならない。それがどれだけ苦しいことか。そんな気持ちをずっと心葉は背負っていたのかもしれない。

 

「…………どうか…被害が出ないように…」

 

 ただ皆を信じ、ひたすら願うことしかできなかった。

 

 

 そして彼に出会った。

 

 

★外部居住区

 

 殺したくない気持ちを抑えながら外部居住区をあるていた。オペレーターの声を聴きながら、彼の場所を探した。住民はすべて非難している。言えば思う存分に暴れられるということになる。

 

「……どうして……どうしてこんなことするの……」

「あなたにはわからない話です。僕のことなんて」

「…知ってるよ……心葉君のこと………強化神機使いで…それで…」

「御託は結構です」

 

 彼から放たれるプレッシャーが一層強くなる。何を言っても無駄なようだ。つまり平行線。

 

「前にも警告しました。次会った時は殺すと」

 

 赤い瞳が睨みつける。気を引き締めていなかったら足が震えていただろう。今まであった透き通った空色の瞳はない。憎悪と憎しみ、怒りに満ちた血の色がそこにあるだけだった。

 

「覚悟はいいですね」

「……………」

 

 手汗で滑りそうな神機を再度握る。もう引き返せない。やるしかないのだ。かつての仲間を殺すことを。それが一つの救済だと信じて神機を構えた。




大分久々の更新です。最近GE2RBやって楽しいなと思い久々に書いてみようという形でした。


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23話 思い出を捨て、仲間を断つ意志へと

★外部居住区

side:詩音

 

 地面を強く蹴って心葉に肉薄する。感情を殺し、ただ殺すことを考える。そうでなければ自分が殺される。

 

「やあっ!」

「はっ!」

 

 振り下ろされる白銀の斬撃に対し、振り上げられる漆黒の突き。ガキィン!と音を鳴らし弾く。弾かれればすぐに体勢を立て直し、再び振るう。今度は横薙ぎに振るうが距離を離される。振り終わると同時に心葉が神機を振り上げる。地面を後ろに蹴り心葉から距離を離す。自分がいた位置に槍がたたきつけられる。反撃しようと神機を構えるが、一瞬で構え直し神速の突きを繰り出す。矛先は首もとを向いている。かわすことができなければ首が吹き飛ぶであろう。

 

「っ!?」

 

 とっさの判断で神機を振り上げる。突き出された矛先は振り上げた神機をとらえるが、体勢が不安定ゆえに大きく吹き飛ばされた。

 

「きゃあっ!?」

 

 地面をずさあと滑りながら、左手を手に付き体制を整える。整えている最中でも心葉は迫ってくる。表情を変えずこちらにかけてくる。再び立ち上がり、神機を構え突撃する。振るう神機が漆黒の神機をとらえる。嫌な金属音が鳴り響く。防がれればすぐに離れ、再度振るう。横に縦に斜めに。お互いがお互いの攻撃を的確に受け止めている。

 

「…心葉君!」

 

 届くかどうかわからないが彼に声をかけることにした。

 

「今更なんですか!!」

「どうして…どうしてこんなことするの!!」

「同じことを言わせないでください!!あなたには……あなた達には絶対にわかるはずのない理由があるってことを!!」

 

 彼が今こうして神機を振るっている理由。それは自分の存在意義を見出すための行為。人を殺すことが……世界を壊すことが彼の存在意義だ。

 

「私たちは心葉君を助けたいだけなの!!私は…心葉君を殺したくない!!」

「口だけの意志は………たくさんです!!!!!!」

 

 空気が一瞬で凍りつくかのような声。だが体には湯水が湧くかのように力があふれてくる。彼を興奮させてしまったがゆえに、彼の力を動かしてしまったのだ。

 

 

★エントランス

side:ヒバリ

 

「外部居住区にて神機使い全員にバーストレベル2強制発動!!心葉君の感応現象が始まってます!!!」

 

 彼が起こす感応現象がどういうメカニズムで発生し、神機使いに影響を与えるかは不明。だが、この効果が神機使いに力を与えるということは彼を倒す力になるということにつながる。

 

「………やはりか」

 

 ブラッド隊長のステータスを見る限り、全体的なステータスは上昇しているが先ほどより心葉に押されている。彼が力を発すると同時に彼自身が強化されているのだ。それもバーストなんかでは追いつけないレベルで。

 

「そろそろ動かさないとね」

「……はい」

 

 一つの決断をし、マイクに触れた。

 

「各神機使いに通達です。これより、日暮 心葉の討伐任務に当たってください」

 

 震えそうな声でそう叫んだ。

 

 

★外部居住区

side:詩音

 

 自分が強化されているというのにさっきより押されている。吹き飛ばされることも多くなり、体が悲鳴を上げ始めている。だが、一人ではの話だ。ついさっき通信で救援が来ることになった。

 

「……心葉…」

「…………………………今更…僕を助けてどうするつもりなんですか」

 

 矛先をこちらに向けたまま、長い沈黙の後に口を開いた。助けて彼をどうするか。

 

「そんなの…決まってる!!心葉君を助けて、また一緒に戦おうって」

「甘い考えは…捨ててください!!!!」

 

 神機を構え、地を蹴ってきた。彼の言うとおり甘い考えではあるかもしれない。彼はかつての仲間だ。だが今は敵だ。そしてこちら側は助けたいと言っている。だがそれは仲間としての未練があるということになる。その未練が自分を殺すことになる。それはよく理解できたことだった。

 

「僕を殺すか皆さんが死ぬか。それだけの話に今更別の話をつけようっていうんですか!!」

「違う……違う……」

「何が違うっていうんですか!!僕はあなたたちの敵で、殺そうとしている。それを助けるっていうんですか!?ブラッドの隊長でもある人はとうとう敵の区別も出来なくなったっていうんですか!!」

 

 神機を振るった一瞬の隙に、腹部に蹴りがたたきこまれる。つま先がめり込む。

 

「ごふっ」

 

 大きく吹き飛ばされ、地面を転がる。口の中が地と砂の味で広がる。

 

「なんで……なんでなの………」

 

 神機を杖にして立ち上がる。彼はいまだに息を切らさず立ち続けている。赤く濡れた瞳は相変わらず冷たく見ている。

 

「「「「「詩音!!!」」」」」

 

 背後を見ると無数の人影。ソーマを筆頭に極東の神機使い、ブラッドの神機使い。さらに他支部から応援に来た神機使いがこちらに向かってきていた。

 

「それでいいんですよ。僕を殺す。それだけの話で………さら、殺しに来てくださいよ。人の皮かぶった化け物を殺しに」

「言われなくても!!」

 

 自分の隣を抜けたソーマが吠え、白銀の巨大な神機を振り上げた。

 

 

side:ソーマ

 

 堕ちた者を殺したことは指で数えられるが、まだ意志を持った神機使いを殺すことは初めてだ。だが分類は堕ちた者に該当するのかもしれない。

 

「ふん!!」

 

 重圧かつ鋭い一撃を振り下ろす。いくら神機使いに対抗する力を持っていたとはいえ、神機がなければ戦うことはできない。そして神機さえ破壊してしまえば簡単な話になる。だが、

 

「っ!?」

 

 力を込めて振り降ろしたはずの神機は彼の華奢な左手で止められている。何もつけていない素手で。

 

「神機がなければ戦えないって思っているかもしれませんが、僕単体で神機使いに対抗できるんですよ。だからこうやって止めることも出来る」

 

 赤い瞳が怪しい光を放ちながらこちらを見る。すぐに引き戻そうとしたが戻らない。あの華奢な腕にどこまでそんな力があるのかと疑うほどに動かない。

 

「!」

 

 手に持つ神機ごと振り回され、心葉の右側に投げ飛ばされる。彼の右手には攻めようとしていたギルバートがいた。彼ごと吹き飛ばされた。

 

「次は……誰ですか…?」

 

 声をかける。だが誰も答えはしない。

 

「……………なら……死にたい方から前に出てください」

 

 心葉が放つプレッシャーが今まで以上に強くなった気がする。空気が冷たく、胸がつねられるように苦しい。だが、そんなことで止まっている場合ではない。彼を殺さなければ明日はないのだ。

 

「…言われなくても」

「やってやるよ!!」

 

 ギルバートとソーマが走り出した。彼らに続いて他の神機使いも走り出した。銃を構えた神機使いも彼を照準に定めた。今は仲間という意思を捨てる。そうでもしなければまともに戦うことはできない。そう改めて重い、走りながら神機を構え直した。

 



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24話 堕ちた救世主

★外部居住区

side:心葉

 

 多数の神機使いの視線の先には自分。今は神機使いの敵となった。

 

「どうしたんですか?殺すつもりじゃないですか!?」

「言われなくても」

「殺すつもりだ!」

 

 ギルバートとソーマを筆頭に神機使いたちが駆けてきた。振り降ろされる神機を一閃、薙ぎ払い弾く。つづけさまに迫る一撃を弾く。

 

「それで殺すつもりですか!?」

 

 一瞬の隙を突き、振り払う。視界に入った人から叩くことにした。最初に目に入ったのはギルバートだった。

 

「あの時は感謝してますけど、今は敵。倒させていただきます」

 

 ギルバートへ肉薄。同じ槍使いではあるがキャリアは全く別。だがそれは神機使いとしての、対アラガミとしてのもの。対堕ちた者(フォールマン)としてのキャリアは話は別になる。数多く殺してきた心葉の方が圧倒的に有利となる。人との戦い方だって知っている。

 

「まだこんなことを続けるのか!てめぇは!!」

「それがどうしたっていうんですか!世界を壊すために作られたのなら、そうするのが普通じゃないですか!?」

「なら、てめぇは本当に世界を壊したいっていうのか!」

「だからあなた達を殺そうとしているんですよ!!」

 

 神機を振り続け、火花を散らす。お互いの意志と意志がぶつかり合う。だが和解することはない。

 

「いい加減にしろ!!」

「うるさい!」

 

 地面を強く蹴り上げ、足を空へ向け、とんぼ返りをするかのように足を宙に向ける。蹴り上げられたつま先はギルバートの顎へ直撃し、宙へ上げる。サマーソルトキックと呼ばれるものだ。着地し、浮かび上がったギルバートに追撃をかける。

 

「沈め!」

 

 全力で神機を横薙ぎに振るい、ギルバートの腹に叩きつける。

 

「ぐああああああああっ?!」

 

 地面にたたきつけられたギルバートはそのまま動かなくなってしまった。だがあれぐらいでは死にはしない。さらに追撃をかけている暇はない。他の神機使いが迫っている。

 

 

★極東支部 エントランス

side:ヒバリ

 

 心葉との戦闘が始まってから三十分経過した。状況は劣勢どころか不利。負傷者どころか死者すら出ている。

 

「…そんな……これだけの状況で……」

 

 こちらからできるサポートは施した。だが、それすらも無駄となってしまった。心葉の感応現象によってリンクサポートは起動しない。そして支援として呼んだ他の支部の神機使いすら殺されてしまった。残ったのは極東の神機使いとブラッド、クレイドルだけ。皆熟練の神機使いだ。だがそれでもかなわない。神機使いとして対アラガミとしてのキャリアは上でも、対人間としてのキャリアは圧倒的に心葉の方が上。あの中で一番堕ちた者を殺したのは彼である。

 

「………このままでは……!」

 

 戦力は次々に減っていく。心葉の手によって戦闘不能になった人はすでに9人。ギルバート、ナナ、ソーマ、アリサ、タツミ、ブレンダン、カレル、シュン、ジーナの9人。すでに防衛班は全滅。残ったのはブラッド隊長の詩音、副隊長のシエル、クレイドルのリンドウ、そして強化神機使いの咲良の4人。たかが心葉一人の手によってかなりの戦力が削られたのだ。

 

「ヒバリ君」

「サカキ博士…」

「このままでは危険だ。一度撤退して体制を立て直したほうがいい…」

「……それが…できないんです……」

 

 その考えはあった。だが逃げている暇が一切ないのだ。心葉の猛攻を防ぐのに精いっぱいなのだ。スタングレネードのアイテムを使用する暇すらない。だが使用したとして心葉が怯むかどうかすら不明。本人が使ったことがあるのだ。防ぎ方ぐらい知っている。

 

「くっ………一体……どうすれば……!」

「…心葉君……」

 

 

★外部居住区

side:心葉

 

 神機を振るい続け、攻撃しているときに頭の中に声が響く。いろんな声で「殺せ殺せ」と言ってくる。低い声、高い声、渋い声、叫び声と様々だ。他の支部の神機使いを殺した時はその声が少し嬉しそうな声に聞こえた。この声は自分が世界の敵になるときから聞こえていた。かすかに聞こえていた声は神機使いと出会った瞬間にはっきりと聞こえるようになった。

 

「…………殺せ…か………どうして殺せないんですかね」

 

 他の支部の人は殺せた。だが自分の知っている人は殺すことはできなかった。殺すタイミングはいくらでもあった。最初のギルバートを止める一撃の時に矛を首か心臓に突き刺していれば彼は死んでいた。だがそれはせずに、地面にたたきつけることを選んでいた。

 ほんの少しだけ、まだ仲間と思っているところがある。そう感じた。だがその考えはすぐに捨てる。もう仲間ではない。自分の敵だ。だから今は頭の中で響く「殺せ」の声に耳を傾けた。

 

 

side:詩音

 

 戦況は圧倒的に不利。今残っているのは自分とシエルとリンドウと咲良の4人のみ。他の皆は戦闘不能。気絶している。銃にして距離を離そうとしても一瞬で距離を詰められる。その時点で接近戦しかできない。

 

「心葉君!」

「……いい加減僕の名前を呼ぶのも聞き飽きましたよ!!」

 

 何度声をかけても帰ってくるのは吐き捨てられた怒声。耳を傾けてもらうのは無理だろう。

 

「せめて聞かせてください!どうしてこの世界を壊そうとするの!!」

「理由………」

 

 神機同士がぶつかり合い、火花を散らす。だが心葉の動きは止まった。言葉を受け入れた瞬間だった。

 

「…………こんな理不尽な世界が……大っ嫌いだからですよ!!!!」

 

 再び心葉の動きが始まる。さっきよりも激しく、強力である。一回でも防がなかったら、致命傷は免れない。

 

「理不尽な世界……確かにそうだけどッ」

「僕はそんな世界が大っ嫌いだからあなた達を殺して、この世界を壊そうとしているんですよ!!」

「それだけの理由で……たったそれだけの理由でなの!!」

「大きな理由ですよ!!!!」

 

 自分の中で力が湧き上がる感じがした。心葉の感応現象がさらに上昇したようだ。

 

『心葉君の感応派、さらに増大!!神機使い全員にバーストレベル3の効果!!』

 

 自分が強くなると同時に向こうはさらに強くなっている。怒りと悲しみと絶望の炎を灯し、殺しにかかってくる。

 

「人は不公平に愛されて、不平等に運命を歩かされて、理不尽に殺され、死んでいく!!それが嫌なだけですよ!!」

「そんなことない!」

「どこがですか!!!!なら僕とあなたは同じ神機使いだって言いたいんですか!!??」

「違う……違うけど……!」

 

 心葉の言っていることは間違ってはいない。理不尽、不公平、不平等。この世界で存在しないことはまずない。自分と彼の差。運命に左右され一人の英雄となった自分。同じように左右されて血塗られた道を歩くことになった少年。

 

「私と心葉君は同じ人でしょ!!同じ神機使いでしょ!」

「うるさい!!人々の希望となるブラッドの神機使いと、神機使いのなれの果てを殺す救世主喰らい…その二人が一緒だとも!?」

「そうじゃない…そうじゃないの……!」

「だったら、なんだっていうんですか!」

 

 心葉の握る神機が勢いよく振り下ろされる。ガキィン!という音を響かせ、後方に吹き飛ぶ。ずさぁと音を鳴らしながら止まる。

 

「……………私たちは……」

 

 歯を食いしばり、手に握る神機にさらに力を込める。そして一気に駆けだす。彼に自分の思いを、意志を伝えるために。

 

「私たちはこの世界で生きる人で、同じ神機使いで、同じ仲間で……大切な友達だから!!!」

 

 間合いに入った瞬間に手に持つ神機に意志を込める。神機が紅い光を放つ。

 

「これが私たちの意志だから!!!!」

 

 振り下ろされる漆黒の斬撃を弾き返すかのように神機を全力で振り上げる。振り上げられた一撃は心葉の神機を大きく打ち上げた。

 

「ッ!?」

 

 今心葉の手には神機は握られていない。漆黒の神機は空を舞っている。

 

 

side:心葉

 

 神機から手が離れると同時に頭の中に響いていた声が一瞬で消えた。同時に体から力が抜けるような感じがする。立つこともままならず、そのままがくりと膝をついた。

 

「心葉君!」

「……僕は……僕は………」

 

 意識が朦朧とする。今までの記憶がはっきりとしない。ただ暴動や殺りくを繰り返していたのは覚えている。頭の中に響いていた「殺せ」の声に意識を傾け、動いていた。

 

「心葉君…帰ろうよ……もう終わりにしよう…」

「……ぁ…」

 

 目の前にいる詩音から手が差し伸べられる。ぼやける視界の中、自分も手を出す。震えながらにゆっくりと詩音の手に触れようとする。

 

「……っ」

 

 もう少しで詩音の手に触れる。そう思った瞬間、閉ざされた。打ち上げた神機が自分と詩音の間に振ってきたのだ。

 

『殺せ!!!!!』

 

 同時にあの声が頭に響く。

 

「ッッッ!!!!」

 

 今までとは違う。音響するかのように響く。頭が痛い。左手を頭に当て、痛みをこらえる。

 

「心葉!?」

 

 咲良の声が聞こえる。それすらも響く。ずっと頭の中に残るかのように聞こえる。

 

「心葉君!」

『殺せ!!』

「……もう……やめ……て………!」

 

 声がずっと響く。自分の名と殺せがずっと響く。鐘を鳴らすかのようにずっと響き続けている。

 

「心葉君!目を覚まして!!」

「心葉!!」

「心葉!!!!」

「心葉君!」

『殺せ!』

『殺せ!!』

『コロセ!!!』

『ころせ!!!!』

「……さ…い…………うる………さい………!!」

 

 さまざまな声で頭を殴りつけてくる。

 

「「「「心葉(君)!!!!!」」」」

『『『『『殺せ!!!!!』』』』』

「黙れえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 自分の中で何かが割れるような音がした。



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25話 終わりの幕開け

かなーり久々の更新………続を待ってた人っているのかっていうぐらい久々でした


★極東支部

side:サカキ

 

 ただでさえ彼の感応現象のせいで赤かったフィールドがさらに真っ赤に染まる。

 

「……………もう……終わりが近いか………」

「サカキ博士……」

 

 感応現象が起こしている状態は作戦フィールドに神機使い全員にバーストレベル4+全ステータス大幅上昇。字面だけ見ればいい方に思えるが実際はそうではない。神機使いの体に大幅に負担をかけ、最悪の場合神機の偏食因子が暴走を始める。

 

「………もっと早く、助けていれば………こんなことには…………」

 

 今更そのことを悔やんでも何も変わらない。変わるのは自分たちの状況が悪化していくだけのことだ。

 

 

★外部居住区

side:心葉

 

 神機から聞こえる頭に響く声は聞こえなくなった。その代わり視界が真っ赤に染まって見える。これが血の色か、それとも別の色かはわからない。ただ今は破壊する衝動に、殺す衝動に駆られ、神機を振り続けた。迫りくる仲間だった人を。無慈悲に壊そうとしていた。

 

 

side:詩音

 

 もう彼に声は届きそうになかった。いや届かないのだ。

 

「……くぅっ……本当に…殺すしか……!!」

 

 強制的に開放されたバーストレベルのお陰で体力が削られていく。このままでは神機使いとしてではなく、人として生きることに問題が出てくる。

 

「詩音!もう殺すしか選択肢はない!!彼を救いたかったら、殺せ!!!」

 

 咲良が叫ぶ。彼女は言っていた。生かすことが全て救うのではないと。

 

「……………くっそおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 神機を構えて突撃した。自分より前にシエル、リンドウ、咲良が出た。同時に心葉も迫ってきた。こちらが一歩踏み出して、二歩目を踏み出す頃には彼はもうすぐ目の前にいた。

 

「なっ!?」

「速すぎる!?」

 

 シエルとリンドウが声を上げ驚いていた。気づいた頃には遅かった。

 

「………ッ!!」

 

 小さく息を吐きながら神機を横薙ぎに振り回した。逃げる間も防ぐ間もなく、二人共直撃を避けられず、吹き飛んだ。

 

「がぁっ!?」

「うあっ!?」

 

 勢い良く吹き飛ばされ、住宅の壁に叩きつけられた。

 

「シエル!リンドウ!!くそっ…!」

 

 咲良が神機を再度構え、心葉に向けて振るった。甲高い金属音を鳴らし、刃と刃がぶつかり合う。咲良が1回振るうときには心葉は2回振るっていた。速度が圧倒的に違う。攻撃を仕掛けたのは咲良の方なのに、心葉の猛攻に耐えられず防戦一方になってしまった。同じ強化神機使いでもレベルが圧倒的に違う。

 

「ちっ!」

「遅い」

 

 そうつぶやかれた頃には咲良の神機が打ち上げられていた。その直後また横薙ぎに振るわれた神機は咲良の腹を捉え、吹き飛ばした。

 

「……………」

 

 戦えるのは自分一人だ。ここで自分が倒れれば支部の皆が、一般市民が、皆彼に殺されてしまうだろう。

 

「……守るんだ……私が……」

「…何ができるっていうんだ……貴方に」

 

 ゆらゆらと近づく心葉。赤い瞳がこちらを見る。

 

「……そうだね……私一人じゃ何もできなかったと思う。でも皆がいてくれた…君が…いてくれた………」

 

 息を大きく吐く。

 

「……君が堕ちた者を救ったように…今度は私が君を救う。そして皆を守る」

 

 神機を握りしめる。自分の意志が伝わるように。

 

「リッカ、ブラッドレイジの起動を」

『………わかった』

 

 神機が光を放つ。

 

『……神機の契約……無条件で履行…神機暴走率1000%!?』

「……行くよ」

『待って!こんな状態で起動したら、君は!!!』

 

 自分の体がどうなるか。そんなことはわかってる。ただでさえ体に大きな負担がかかっている状態で神機の暴走。ただの自殺行為に等しい。だがこうでもしない限り、彼を止めることはできないだろう。

 

「……わかってる……死んだら、ごめんね。ブラッドレイジ、発動!!!」

 

 神機が強く光、体の奥底から力が溢れ出した。同時にオラクル因子で構成された金色の翼が形成された。

 

「…待ってて心葉君……」

「…もう…喋らないで…」

「今度は…君が救われる番だから!!」

「喋るなあああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

『OracleRageSystem Standby』

 

 彼の叫びと機会音声と共に空気が震えた。

 

『作戦エリアにバーストレベル5の強制付与……!』

 

 先に彼を殺すか、自分の体が蝕まれるか。




年単位での更新でした……この作品もあとすこしで本当に終わりです。


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26話 さようなら

★外部居住区

side:詩音

 

 お互いに暴走状態になりながら神機を振るった。一撃がぶつかつと同時に衝撃波が生まれ、周囲の瓦礫を吹き飛ばした。それと同時に戦闘不能状態になっている仲間たちも吹き飛ばした。

 

『神機暴走率上昇中…!?1100……1200……このままじゃ……!!』

 

 体が恐ろしい速度で蝕まれていくのがわかる。神機を持つ右腕の感覚はとうに無くなっていた。今自分の体を動かしているのは殆どが意志だ。彼を救うというたった一つの意志だ。

 

 救うんだ……絶対に………!!

 

「…かはっ!」

 

 血を吐きながら神機を振るう。お互いに一歩も引けを取らなかった。

 

『くっ……援護しようにも偏食場パルスのお陰で近づくことができない……!』

 

 サカキが悔しそうに言った。今この場に立っている方が不思議な状態だ。視界が真っ赤に染まり、体に感覚が残らなくなってきた。長い時間続いているバーストレベル5、神機の極限暴走。この体が自分の神機に乗っ取られるか、アラガミになるか、そのまま息絶えるのか。それは考えたくなかった。でももう持たないのはわかっていた。

 

「……はぁ…はぁ…けほっ…ぐっ!」

 

 また血を吐きながら神機を振るう。甲高い金属音が鳴り響き、空気が響く。体力も限界に近い。だが心葉はそうでもなかった。まだ殺意の炎を灯し、殺そうとしていた。

 

「……いい加減……死ねよ!!!」

 

 横薙ぎに強く薙ぎ払われ、神機が弾かれた。体勢を崩してしまった。致命傷を避けるため、少し後方にとぼうとした。だが体力が低下しているため、動作が遅かった。飛ぶと同時に心葉の神機が上から振るわれ、自分の左肩から右斜に浅く切り裂かれた。

 

「がっ……あ……」

 

 致命傷は避けられたが、今の一撃で体全身に力が入らなくなった。限界を迎えたんだ。もう動かない。

 

「……ははっ………心葉君……強いな……」

 

 勝てなかった。後は死ぬだけだ。終わりを悟った自分には涙を流し、笑うことしかできなかった。

 

「……もう…終わりです」

 

 心葉の神機が変形した。全てを切り裂く薙刀状態の刃が向けられた。

 

「………ねぇ、心葉君」

「…命乞いですか」

「ううん…………2つだけ言いたいことがある…せめてそれだけさせて……」

「……………」

「………極東の皆、ごめんね……守れなかった……」

 

 ボロボロの体でなんとか声を出しながら通信をした。

 

「………あと1つ……心葉君……」

「…なんですか」

「……いつか……こんなズタボロな世界じゃなくて………天国でもいいから……平和な世界で君と話がしたいな………」

「……くっ………今更……何を……!!」

 

 柄を短く持ち刺す体制に入った。

 

「……さようなら、皆」

 

 目をつむり、一言呟いて死をまった。

 

 ざくり

 

 生々しい音共に神機が突き刺さる音がした。痛くない。体の感覚が無いからだろうか。恐る恐る目を開けてみる。そこには一人の女声が立っていた。咲良だった。そして彼女の胸元には漆黒の刃が深々と突き刺さっていた。

 

「咲…良……!?」

「げほっ………随分暴れたな……心葉…」

 

 血を吐きながら少し笑う咲良。

 

「……自分から……」

「…はっ………強化神機使いでいるのも……けほっ…嫌になってな……」

「咲良……なんで……」

 

 

side:咲良

 

「………言ったところで…無駄だ……理由は……自分で考えろ……心葉…」

 

 深々と刺さった神機の刃に触れようとはしない。そもそも心臓を的確に貫いている。もうすぐ死ぬ。それはわかる。だからあと少しか時間は無い。鈍い体を動かし、一歩前に出て

 

「…っ!?」

 

 彼を抱きしめた。

 

「心…葉………ごめんね………君を……愛せなくて……救えなくて」

「……ぁ…」

 

 最後の言葉を言いきると、体から力が抜けた。視界が真っ暗に染まり、音が聞こえなくなった。

 

 つまらない人生だった。本当に。やり直しがしたいぐらいに。

 

 

side:心葉

 

 今まで堕ちた者をたくさん殺してきた。普通の神機使いも殺してしまった。そして今、自分の仲間を……パートナーを殺した。今までとは違う感覚に襲われた。

 

「……僕は………っぁ……」

 

 目の前には膝をついた詩音と死体になった咲良。その二人を見て、我に返った。

 

「……………っ!」

 

 何をしていた。誰が皆をボロボロにした。誰が彼女を殺した。自分が皆ボロボロにした。自分が彼女を殺した。

 

『殺せ…!』

 

 またあの声だ。頭を殴りつけるように響く忌々しい声。

 

「…心…葉」

 

 かすれた声で自分の名を呼ぶ詩音。

 

『コロセ…!』

『心葉…』

 

 誰かが呼ぶ自分の名前と忌々しい声が交互に言う。頭が痛い。

 

「…………ぐっ」

 

 右手に握る神機に力を込めた。

 

 

side:詩音

 

 再び心葉が自分を殺そうとしていた。やはり彼の意志は変わらなかった。自分が殺されたあとは他の皆が死ぬ。そして……

 

「……」

 

 また目を閉じた。閉じる前に心葉が神機を振るう姿が見えた。今度こそ終わりだ。

 

 ざくり

 

 また生々しい音。自分の心臓は貫かれて、息絶えた。

 

「…………ぇ」

 

 はずだった。ゆっくりと目を開け、状況を見る。自分の胸元どころか体に刃は刺さっていなかった。刃は

 

「……何だよ……やれば……できるじゃないか………」

 

 心葉の腹に突き刺さっていた。自分の手で刺していた。

 

「心……葉……!?」

 

 理解ができなかった。状況を理解する前に心葉が腹に刺さった神機を引き抜いていた。引き抜くと同時に大量の血が吹き出した。

 

「……げほっ……」

 

 血を吐きながら神機をゆっくりと持ち上げる。刃は自分の首元に向かっていた。

 

「待っ………て………!!」

 

 かすれた声で叫んだ。

 

「…さようなら」

 

 手を伸ばしやめさせようとした。ただ遅かった。

 

 ごとっ、どさっ

 

 ばしゃばしゃと血が吹き出し、2つ重い音が鳴る。

 

『偏食場パルス……収まりました………』

 

 ヒバリから通信が来た。ただ彼女の通信にはすぐには応えられなかった。

 

「………ひぐっ……っ……」

 

 これで終わった。全部。でも救われなかった。守れなかった。虚無感だけが残った。ボロボロの居住区に強い雨が降る。その雨に打たれながら静かに泣き続けることしかできなかった。




次で最後になります。最後と言ってもあと二話ぐらいの予定


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エンディング

 救世主喰らいによる事件は全て終わった。被害は極東の神機使いが多数負傷。そして極東に今回の事件のために派遣されていた他の支部に所属している神機使いは全員死亡。呼応による偏食場パルスによる後遺症は幸い無かった。極東の神機使いが復帰するまでは本部から別の神機使いが極東とクレイドルの2箇所に数名手配されたが、全員が復帰するまでの間に奇跡的にどちらにもアラガミの襲撃はなかった。

 

 そして強化神機使い、心葉と咲良について。二人共先日の事件で死亡した。事件が一度落ち着いた頃、本部から心葉について詳細の話が来た。

 心葉は元々通常の強化神機使いとは違うということは皆知っていた。だがそれには続があった。彼がなぜ世界を破壊しようとしたのか。そして本人がそう作られたと言っていたことについて。彼を作る際に神機使いに特効のある偏食因子を持ったときから決められていたそうだ。何を決められていたか。世界を破壊する最終的な保険を。元々心葉の精神が不安定だからこそ企画された計画でもあった。彼を強化神機使いとして完成させたときに記憶を抹消した。そして頃合いを見て記憶を戻させ精神を不安定にさせたときに本来の役目を伝え、世界を壊させる。それが世界喰らい計画だった。

 この件について知っていたのは強化神機使いのトップの担当者だけ。本部は何一つ知らなかった。心葉のもとに例の神機が届いたのは全くの偶然だった。

 

 そして彼が使っていた例の神機。今でも残っている。極東の神機保管庫で隔離して保管してある。この神機の所有者は死亡したため、今は適合者待ちの状態だ。特殊すぎる偏食因子を持っているため、適合者は見つかるわけがない。そう思っていた。事件が落ち着いてから数日後、適合者が見つかってしまった。オペレーターもサカキも頭を抱えた。皆忘れていた。心葉の偏食因子は変異性を持っている。その為、特殊すぎる偏食因子が変化を遂げ、他人に適合できる因子に変わってしまった。

 そしてその適合者は皮肉にも心葉の知っている人だった。外部居住区の孤児院に住んでいる一般市民。名は暁 榛名。心葉も何度も話している。

 神機使いの適合は義務になっていた。後日彼女を適合神機が見つかっと連絡したら二つ返事で来た。

 

★神機保管庫

side:榛名

 

 静かな保管庫で、二人の人影。一人は榛名。一人はリッカだった。

 

「……わたしも…神機使いになるんですね…」

「………それについてだけどさ………」

 

 目の前で口を開いたリッカ。彼女はうつむいていた。

 

「…………ホントは……君に神機使いになってほしくないんだ」

「…どういう…ことですか…?」

「こっちに来て」

 

 リッカがあるきだす。その後ろをついていく。リッカに案内されたのは神機保管庫の奥の部屋。そこに一つだけ隔離されているように置かれた神機があった。

 

 

side:リッカ

 

「…これが…君と適合する神機………」

 

 彼女に例の神機を見せた。心葉が最後に使っていた呪われた漆黒の神機だ。

 

「この神機が…」

「……この神機は……最後に心葉君が使っていた神機……」

「心葉君が…」

 

 彼女は知らない。一般市民には今回の事件については強力な堕ちた者が襲撃したとしか言っていない。その際に心葉は戦死したと。一般市民が知っているのは皆ボロボロになって、派遣された神機使いが殺されたこと、心葉と咲良が戦死したことだけだ。

 

「……ほんとは……心葉君が……皆を襲ったの」

「ッ!?」

「……そして…咲良さんがブラッドの隊長をかばい、倒れた。心葉君は自分から首を切り落としたって」

 

 そしてブラッドの隊長、詩音が言っていた。神機に取り憑かれていたように殺意を灯していたと。

 

「そんな……心葉君が……!」

「……残酷なことだが、これが現実だ」

 

 入り口からサカキがきた。

 

「……この件もあって私も、彼女からもこの神機と適合してもらいたくないんだ。今度は…君が苦しんでしまう」

「………もし…これで辞退した場合、どうなるんですか?」

「今回のケースは辞退してくれて構わない。本部からも許可は出ている」

「なら…どうして…呼んだんですか…?」

「……私達が止めても君が戦うという可能性もあったからだ。」

「…………」

 

 うつむく榛名。それもそうだ心葉と榛名は何度か接触し、話もしている。市街地防衛の際は彼女のことをとても心配していたぐらいだ。

 

「……心葉くんも…やめてって言っていますかね…」

「…きっとそう思ってるだろう……」

「…そうですよね…………」

 

 そう呟いて、彼女は適合試験を辞退した。それで良いはずだ。彼の後継ぎなんて誰もしたくないし、させたくない。博士もきっとそう思っているはずだ。

 

★墓地

side:榛名

 

 神機の適合試験と同時に心葉のお墓参りも行くことにしていた。昔みたくお墓というお墓は無い。簡易的な十字の墓があるぐらいだ。

 

「……心葉君」

 

 持ってきた花束を彼の墓の前に置く。

 

「…ずっと…苦しかったんですよね……ごめんなさい…貴方を支えることができなくて…」

 

 表向きでは穏やかに笑っていた。でも中ではずっと泣いていたかもしれない。人を殺し続ける罪悪感に、潰され続けていた。

 

「………今までお疲れ様でした……辛かったですよね…」

 

 ぽつりぽつりとつぶやく。

 

「…でも、もう大丈夫ですよ…神様だって心葉君のことわかってくれますから……」

 

 彼は神機使いになって、他者を救い続けてきた。救われない神機使いを殺し続けてきた。仲間に支えられて幸せだと彼は言っていた。人殺しだと彼は言っていた。そんなことは関係ないと言ってやった。自分たちの救世主だと。市街地でアラガミから自分を守って、怒ってくれた時、とても嬉しかった。

 でも、その彼は死んだ。苦しみ続けた役目がようやく終わったのだ。

 

「…ありがとう、心葉君……私の救世主……大好きな人………おやすみなさい」

 

GOD EATER ~堕ちた救世主~ fin




これで物語としては完結です

相当な年月が経って、ストーリーの終わりでしたが、どうでしたでしょうか。楽しめたのであれば幸いです。

普通とは違う視点の神機使いの物語として書きましたが、ところどころブレがあったりと、色々ありました。

前回で後2回ぐらいとは言っていましたが、正式にはこれで終わりです。希望があったり、気が向いたらもう一つの終わりを書こうとは思います。

今まで読んでくださった皆様、今まで有難うございました。


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If Ending
1話


 もう一つの可能性の話。彼女が手に取らなかった神機をもし手に取ったときの物語。

 

★神機保管庫

side:榛名

 

 彼が残した呪われた神機の適合試験を辞退しようとした。

 

「……それでも…私は…戦います」

「!?」

 

 迷いは無い。彼がいなくなった分の埋め合わせというわけでもあるが、彼の罪滅ぼしとして戦いたかった。

 

 

side:サカキ

 

「博士、ほんとうにいいんですか……」

「我々がダメ。といっても聞くような目では無かったよ」

 

 彼女は覚悟を決めていた。目でわかった。

 

「……今は…見守っていくしかない」

 

 ホールのような試験室のモニター室で彼女の適合試験を見守ることしかできなかった。万が一に備え、神機使いは待機させてある。

 不安ではあるが、適合試験が始まった。榛名が機械に右腕を置く。その後、機械の蓋が閉じられ、腕輪が付けられる。彼女の悲鳴が響く。適合試験の悲鳴はいつ聞いてもなれない。

 

「……適合…成功…ですか?」

「…いや、様子がおかしい…」

 

 機械から神機を引き抜いたが、まだ苦しみが収まらないようだ。

 

「適合するまでの時間があまりにも長過ぎる!!バレットの準備を!」

 

 やはり並の人では到底扱えるような代物では無かった。いや、そもそもの神機の存在自体が危険すぎた。

 

 

side:榛名

 

 オラクル細胞が体に流れ込んでくる。オラクル細胞は体に馴染め始めた。苦しいのは神機からと思われる声だ。様々な声で悲鳴や叫び声が頭のなかに響く。

 

「…うぅ…いや……!」

 

 左手で頭を抑えながら小さく悲鳴を上げる。

 

『榛名君、すぐに神機を離すんだ!!』

 

 サカキが叫ぶ。このままでは自分が危ない。神機に乗っ取られる可能性がある。でも彼は

 

「……これぐらい…耐えられる…!」

 

 一人でずっと耐えてきていたんだ。

 

「…辛いのも…痛いのも…悲しいのも…苦しいのも……皆わかるよ……」

『榛名君!!』

「…今度は…私が受け止める……私が皆の声を受け止めるから………今は…私を信じて!!」

 

 叫び声と共に神機の刃を地面に突き刺す。その直後に声は止んだ。

 

「…はぁ…はぁ………止まった……」

 

 冷や汗が吹き出していた。

 

『適合…成功か…?』

「…みたい…です…ね…」

 

 急に体から力が抜け、視界が真っ暗になった。

 

 

side:サカキ

 

 神機に適合した直後、彼女は気を失って倒れた。

 

「救急班の手配を!!」

 

 ホールの中に神機使いと救急班が駆け込む。万が一のことを思ったが、彼女は気を失ったまま動かなかった。そのまま救急班にメディカルセンターへと運ばれた。

 

「……何事もなければいいが…」

「サカキ博士、彼女適合するときに皆の声を受け止めるって…」

「……きっとあの神機の声が聞こえたんだろう……」

 

 あの神機の素材は遺品や墓から作られたものだ。それに残っていた霊かなにかであろう。榛名は元々協会で孤児院をしていた。何らかの繋がりはあるのかもしれない。

 

「……次起きたときに普通だといいですね…」

 

 お互い不安のまま適合試験が終わった。

 

 

★???

side:榛名

 

『起きて…』

 

 声が聞こえる。女の子の声だ。でもどこからだろうか。

 

『起きて…』

 

 まただ。こんどは大人の男性。どちらの声も聞いたことはない。

 

「……ん……ここ…どこですか…」

 

 重いまぶたを開けると真っ暗な世界が広がっていた。そこに薄っすらと人影のようなシルエットが見える。それも無数に。そして皆じっとこちらを見ているようなきがする。

 

「……あ…あの………そんなに…見られると…恥ずかしいです……」

『…ありがとう』

「えっ」

 

 影から感謝された。それも一人ではなく皆から。そもそものこの影は何なんだろうか。

 

「………もしかして…私が適合した神機の霊……さん?」

 

 問いかけると頷いたように動く。

 

「そ…そうでしたか……」

 

 今まで神に信仰はしていたが霊と対面したり話たりするのは初めてだった。

 

「……えっと……よろしくお願いします」

『よろしくお願いします』

 

 ぺこりと頭を下げると皆同じように頭を下げた。

 

『…挨拶…いかないと』

「挨拶?」

『神機使いの…挨拶』

 

 もしここが夢みたいなものだとすれば、更に目を覚まして皆に挨拶をしなければならない。

 

「わかりましたっ!」

 

 霊達に乗っ取られるんじゃないかと思ったが、皆協力的で良い人?のようだ。

 

 

★ラウンジ

side:詩音

 

「なぜ試験の許可を出したんですか!!」

 

 先ほど例の神機の適合者が見つかり、試験に成功したという報告を聞いた。ラウンジにいる神機使いの皆は当然いい顔はしていない。

 

「…私達だって止めはした……」

「だったら、何故!!」

 

 左手でサカキの胸ぐらを掴んだ。

 

「ぐっ……」

「おい隊長!」

 

 ギルバートが声を上げる。

 

「…また……あの事故を引き起こしたいんですか!!」

 

 声を上げ、右手を握りしめ殴ろうとした。その直後

 

 バァン!

 

「「「!!」」」

 

 勢い良く扉が開けられた。

 

「…お、遅れました!!」

 

 そこにはフェンリルの正式採用している白い軍服に身を包んだ緑の髪の女性がいた。

 

「暁 榛名、本日付で採用になりました!至らないところはあると思いますが、よろしくお願いします!!」

 

 あの神機と適合した彼女がごく普通にいた。皆その光景に唖然としていた。




もしも榛名が神機を手に取ったときの物語として書きました。

完全に終わらせたつもりが結構長くなりそうです


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2話

★ラウンジ

side:榛名

 

 勢い良く挨拶をしたものの、皆戸惑っていた。

 

「…………」

 

 皆ぽかんとした表情でこちらを見ていた。中にはこちらを見たまま後ずさりする人もいた。

 

「えっと………」

 

 この状況、どう見ても入っていいタイミングではなかった。それどころか間違えた可能性すらある。

 

「……し、失礼しました!!」

 

 ラウンジの扉を閉め、全力で逃げた。

 

 

★エントランス

 

 神機使いになって初日からやらかしをしてしまった?榛名はエントランスの隅っこで膝を抱えて小さくなっていた。

 

「…あぅ……初日そうそうから……」

『榛名は悪くない』

 

 霊達が慰めてくれる。

 

「…こんなんじゃ心葉君に笑われちゃうよ……」

『大丈夫。笑わない』

「……そうですか……?」

『うん。笑わないと思う』

 

 思う。とのことだ。

 

「……笑ってる可能性もあるぅ……」

「あ、あのー…榛名…さん?」

「ひゃいっ!?」

 

 突然後ろから男性に声をかけられた。服装からしてオペレーターだ。名札にはハルオミと書いてあった。

 

「お、驚かせてしまってすみません……皆さんちょっと驚いて先ほどのような状態に……」

 

 どうやら間違ってはいなかったようだ。

 

 

★ラウンジ

 

 改めてラウンジに戻った。

 

「先ほどは申し訳なかった。皆驚いちゃってね…」

 

 サカキが言った。

 

「えっと…暁 榛名です。改めてよろしくお願いします」

 

 頭を下げ改めて挨拶をした。

 

「「「よろしくお願いします!!」」」

 

 他の皆もご丁寧に頭を下げていた。

 

「み、皆さん礼儀正しいんですね…」

「い、いつもはこんなんじゃ無いんだけどね………」

 

 リッカが目をそらしながら呟いた。

 

「あ、あの………ふ、普通で、大丈夫…ですので……」

 

 とことん警戒されているようだ。皆体はこちらを見ているが、自分の顔や目を見てくれない。こういうプレッシャーにはかなり弱い方だ。

 

「……えっと……その……あ、あの…」

「………」

「……………………ふぇ…」

 

 プレッシャーに負けて泣き出してしまった。

 

「ああっ、ごめんごめん!私詩音っていうの!ブラッドの隊長やってますっ!」

 

 詩音が慌てて挨拶をすると、彼女に続いて他の皆も挨拶をした。

 

「…ぐすっ…皆さんよろしくお願いします…」

 

 リッカに背中を撫でられ、慰めながら挨拶が終わった。簡易的な自己紹介が終わった後、訓練になった。

 

 

★訓練ホール

 

 神機の適合試験を行った無機質なホールに来た。

 

「まずは神機の扱い方だけど」

「これ、特殊な神機でしたよね…?来る前にマニュアルを読んでおきましたが…」

 

 一般的な神機とはまるで違う。槍なのに薙刀になったり、銃身が2つあったりと。

 

「よし、まずは動かないダミーを配置するよ」

 

 リッカが指示を出すと同時に、小型のアラガミのダミーが置かれた。

 

「始め!」

 

 彼女が声を上げたときには体が動いていた。無意識のうちに。

 

 ガシャン、ジャキン!

 

 状況を理解した頃には手元から音が機械音がなった後に、目の前のダミーの上半分がずれて地面に落下していた。

 

「なっ……」

「………あれ?」

 

 驚くリッカ。疑問符を浮かべる榛名。

 

「………あ、あれれ…?」

 

 いつの間に動いていたのかわからない。それどころかいつ神機が槍から薙刀に変わって、ダミーの上半分が無くなっているのもわからなかった。

 

「…まさか……次、攻撃するダミーを3体配置するよ!」

 

 リッカの声と共に同じ小型のダミーが3体設置された。その直後また体が動いていた。神機が変形し、銃携帯になっていた。砲撃音が鳴り響き、ダミーの1体が文字通り破裂した。

 

「ッ!」

 

 背後からダミーが攻撃しようとしていた。神機をまた変形させ薙刀形態(エッジフォーム)にし、薙ぎ払った。刃はダミーを捉え真っ二つにした。最後に目の前にいるもう一体のダミーを槍形態(スピアフォーム)に変えた神機で貫いた。

 

「…く、訓練終了……お疲れ様…」

 

 スピーカーから聞こえるリッカの声は震えていた。

 

「…あ、あれ……私……何を……」

 

 気がついた頃には破壊されたダミーが転がっており、訓練が終わっていた。

 

 

★サカキの研究室

side:詩音

 

 リッカに声をかけられ、サカキの部屋に詩音、シエル、リンドウが集まった。

 

「リッカ君、そんな青ざめた顔でどうしたんだい………」

「とりあえずこの映像見て欲しい……さっきの榛名の訓練の映像なんだけど……」

 

 映像が再生される。ダミーが配置された直後、破壊されていた。その後3体新たに配置されるがそれもあっという間に破壊された。

 

「…これは……」

「凄い……っていうにはおかしい…よね?」

 

 唖然とする全員。

 

「なあ、確かあの子外部居住区で孤児院やってたんだよな?」

「そうだね…」

「そんな人がここまでできると思うか…?」

 

 普通に考えて無理。

 

「…マニュアルを読んだとは言ってたけど…」

「あれだけ複雑な機構を、マニュアルを読んだだけでここまで動けるのはありえない話ですね…」

「ついでに一ついいか?」

 

 リンドウが口を開く。

 

「……あの子、オッドアイだったか?」

「え?」

「もっかい映像流してくれ」

 

 リンドウの指示にしたがってもう一度再生する。

 

「止めてくれ」

 

 映像を一時停止する。ちょうど薙ぎ払っているときだ。彼女の顔が映っているが、

 

「…右目が赤い」

「彼女はオッドアイじゃないね……」

 

 いつもは黒い瞳だが、この時は真っ赤になっていた。病気的なものではない。

 

「……あの瞳、心葉を思い出すな…」

「…だね……憎悪に満ち溢れたような、怖い目…」

 

 ここにいる3人は暴走したときの心葉と敵対している。

 

「…まさか……いや、戦闘時、神機…心葉君に乗っ取られているのでは…」

「……」

 

 シエルが口を開いた。それについて誰も否定しなかった。

 

「明日、戦場に出してみて要観察。といったところかな」

「了解。またこの3人で見ていこう」

 

 サカキの提案に乗り、翌日の予定が決まった。不安が残るまま、榛名が神機使いになって一日が終わった。



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3話

★荒れた市街地

side:榛名

 

 まさかの2日目で実際の戦場に出ることになった。一日目は少し訓練をやっただけで後は座学になっていた。それも自主的なもので。

 

「……不安か?」

 

 リンドウが声をかけてくる。

 

「はい、ちょっと緊張してますけど……」

「そうか…まあ、俺達がいる。気楽にいこうや」

 

 今回の同行者はリンドウ、詩音、シエルとトップ揃い。過保護すぎる気もする。

 

 

 さっそく索敵を開始。特に目的もいないので見つけた敵から倒すことに。

 

「止まれ」

 

 先頭を歩くリンドウが止めた。彼の視線の先には大型のアラガミ、ヴァジュラがいた。

 

「まっさか早々に大型に出会うとはな……なあ、射撃は得意か?」

「えっと……多分大丈夫です」

 

 的が大きいから当てられないことはないと思う。

 

「よし、シエルは榛名と一緒に背後から。俺と詩音は正面からだ」

「了解です」

 

 シエルが頷き、彼女の後をついていった。

 

「アラガミの死体を捕食中です。狙うなら今ですね」

「わかりました」

 

 バレットを選ぶ。もともと心葉が使っていたものだからどういうものだかはさっぱりわからない。

 

「…これかな」

 

 とりあえず名前で強そうな物を選んだ。「ノヴァ」と書いてある。

 リンドウ達が配備についたので狙い始める。

 

「狙いを定めて……」

 

 スコープを覗き、姿を捉える。出来る限り外さないように首元を狙う。ブレが収まったときにトリガーを弾いた。次の瞬間、スナイパーとは思えない発砲音が鳴り響いた。同時に強い反動も来た。

 

「ひゃあっ!?」

 

 爆音と共に熱風と黒煙を周囲に撒き散らした。

 

「げほっげほっ……榛名さん大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫です……」

 

 シエルが声を上げた。自分は反動で尻もちをついていた。ちょっと痛い。

 

『ヴァジュラの討伐お疲れ様でした』

 

 オペレーターのヒバリから連絡があった。

 

 討伐?

 

「ヒバリさん、今討伐って言った?」

 

 リンドウが口を開いた。彼の声は震えていた。

 

『はい、反応は消滅しています』

 

 風が吹き、黒煙が晴れた。そこには

 

「…おいおい…嘘だろ……」

 

 絶句する3人。

 

「………ヒバリさん…その……討伐じゃなくて……文字通り消滅しました」

『……え?』

「…消滅というより……融解した…という方が正しそうです…」

 

 詩音の報告にシエルが補足した。

 

「な、何があったんですか……?」

 

 立ち上がりながら恐る恐る聞いてみる。

 

「その……目の前…」

 

 詩音が口を開いた。詩音の言われたとおり前を見た。そこには焼け焦げた地面とヴァジュラがいたと思われる場所に浅めの広いクレーターを作っていた。

 

「………あぅ…………あの………ひぐっ…」

 

 自分がとんでもないことをしたことに気づき、泣いてしまった。思った以上に自分は涙もろいのかもしれない。

 

 

★エントランス

side:アリサ

 

 榛名を含む詩音のチームが初戦の任務が終わって帰ってくるとのことで、エントランスで待つことにした。同じ場にはリッカ、エリナ、ギルバート、ナナ、ヒバリがいた。

 

「も、戻りましたー……」

 

 皆無事に帰ってきた。が

 

「……えぐっ……ぐすん…」

 

 榛名は涙をぼろぼろ流していた。シエルが背中をなでて慰めていた。

 

「な、何があったんですか!?」

 

 急いで駆け寄った。よく見れば目が真っ赤に腫れている。

 

「まさかリンドウさん…!」

 

 エリナが睨みつけた。同時に他の皆も睨みつけた。

 

「ちょっとまってくれって………彼女も誰も悪くねぇんだ…」

「先ほどの任務で何かあったのですか…?」

 

 ヒバリが尋ねる。その問に榛名が泣きながら一つのバレットを出した。

 

「……ひぐっ……この……バレット……です…」

「どれどれ」

 

 リッカが手に取る。そしてすぐに口を開いた。

 

「あー………そういやこれ持ってたね……そう考えると、あの子が暴走した時に皆よく生きていたと思う…」

「どういうこと?」

「シエル、そのバレット…そうとうヤバいやつなのか?」

 

 ナナが疑問に思い、ギルバートが問う。

 

「すみません、私もこのバレットについては……」

「これ、この神機専用のバレット」

 

 シエルはわからなかったが、リッカはわかった。それもそうだ。あの神機をメンテナンスしていたのは彼女だ。

 

「このバレットの正式名称は、空間制圧バレット・ノヴァ」

「空間制圧バレット……?」

「これ使ったってことは3人は見ただろうけど、文字通り空間を制圧するためのバレット。広範囲に及ぶ超火力で消し飛ばすことを目的に作った。らしい」

 

 普通に聞いただけでも恐ろしいバレットだ。

 

「さっきのよく生きてたっていう発言、心葉が常時していたってことか……」

「そう……仮にに榛名君がそれを撃って、被弾または爆風に巻き込まれたとしても皆に被害は無いだろうけど…」

「もしそれがアイツが撃って被弾した場合、どうなる?」

 

 ギルバートが恐る恐る聞いた。

 

「もし心葉君が使っていれば、熱風だけでも多分大やけど……爆風で運が良くて骨折又は打撲や打ち身レベル。悪くて四肢がバラバラになるかも………直撃すれば神機ごと融解しているかもね…」

「ひっ…」

 

 ゾッとした。同時に小さく悲鳴を上げる榛名。

 

「…ひぐっ…あの…これ……」

 

 榛名がリッカに例のバレットを差し出した。

 

「……君が持ってたほうがいい…と言っても聞かないよね…」

 

 こくりと頷く榛名。

 

「わかった。預かっておく。いざっていう時になったらこれを渡すよ……あと、君は何も悪くないから、泣かないでね…?」

「…ですけどぉ……」

 

 相当気にしているようだ。

 

「……私達もこの神機についてあまり知らないことが多すぎるのは、よくないと思いました」

 

 思えばリッカ以外これについてあまり知らない。自分たちからサポートする以上、どういったものか知っておくべきだった。

 

「そうだね。この神機についてこの後説明会でも開こうか」

 

 リッカの元、ラウンジで例の神機の説明会が始まった。

 

 

★ラウンジ

side:榛名

 

 なんとか泣き止んで自分が使っている神機の説明会が始まった。心葉が使っていたものだが、リッカやサカキぐらいしかほとんど知らないというのも不思議だった。

 

「榛名君には最初から説明したほうがいいよね」

「お願いします」

「うん。まずこの神機は心葉君が使っていた神機だけど、これは2つめの神機。1つ目は戦闘時に破壊されて、これが本部から届いた。本部からは色々なシステムを取り組んだ試験も含めての配給とのこと。で、これの素材だけど、榛名君は神機が何から作られてるかは知ってる?」

「えっと、大元はオラクル細胞から。皆さんが使っているような神機は鉄などの素材にオラクル細胞やアラガミの素材を混ぜたものを加工しているんでしたっけ?」

「そうだね。で、榛名君が使っている神機は」

「…亡くなった神機使いの方のお墓や神機、一般人のお墓から作った…ですよね」

 

 とても悪趣味な神機だ。そんなものから作れば、当然霊が乗り移る。

 

「そうだね…それで榛名君はその神機に移った霊と話ができるんだっけ…?」

「ですね……皆さんからすれば嘘に聞こえると思いますけど…」

 

 定期的に霊と話している。成仏するまではせめて相手だけでもしてあげようと思う。そもそも成仏するかどうかは分からないが。

 

「さて、戻ってこの神機の特徴からかな。この神機、通常の神機と違うところが3つ」

「通常の神機ではできない特殊な可変機構…」

「その通り。槍のスピアフォームから薙刀状態のエッジフォームに変形。銃はスナイパーとアサルトで切り替えが可能。そしてもう一つ。これは榛名君以外はよく知ってるね…」

「OracleRageSystem……でしたね」

 

 シエルが言う。これについては聞いたことはなかった。

 

「特定の条件を満たせば所持者の潜在能力を引き出し、全力の力を発揮できるシステム……心葉君については心境の変化が発動条件みたいだったけど、榛名君についてはわからない…」

「それっていい機能なんですか?」

「榛名君が持っていれば…かな。ただ発動したあとは反動が激しいからちょっと怖いかな……」

 

 どこか引っかかる言い方をしていた。自分が持っていれば。と言っていた。

 

「…この神機、心葉君が持っていた時はとんでもなく恐ろしいシステムだったからね…」

「どういうことですか…?」

「心葉君が神機使いに特攻できる体質だったのは知っているよね。彼がそのシステムの条件を満たした時、神機使いを容易に殺せる力を持った状態で驚異的な戦闘力になる…」

「……その力、アラガミに戦うときには使えなかったんですか…?」

「彼が戦っていたのは基本堕ちた者だからね……話を戻すよ。潜在能力を引き出すって言ったけど、彼の潜在能力もまた強力になりすぎると危険だった」

 

 それぐらい心葉の潜在能力は危険だって言うことが改めてわかった。前に会った時はそんな雰囲気は一切なかった。

 

「彼も感応現象を起こせる力を持ってて、それが詩音君を通じて血の力っていうものに変わった。そして彼のものは「呼応」。自分を含む作戦エリアにバーストレベル3とステータス上昇を付与」

「もしかして、あのシステムでその力が…」

「そう……彼が本当に暴走した時に呼応の力も強まって、神機使いに悪影響を与えるレベルでのバーストとステータス上昇の付与された…」

 

 強い薬が逆に毒になるようなイメージだった。

 

「…とりあえず、彼の神機についてはだいたいこのぐらい」

「わかりました…」

 

 とても苦しい内容だった。ただ今は違うようだ。

 

「今はあの偏食因子が消滅しているから、そんな危険は無い」

「…なら…いいんですけど…」

 

 それでもこの神機はイレギュラーなものだということには変わりはない。



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4話

★ラウンジ

side:榛名

 

 配備されてから1週間近くはたった。そんな中で悪いニュースが入った。

 

「………」

「よし全員揃ったな」

 

 モニターの前で一人の女性が言った。オペレーターではあるが雰囲気が違う。

 

「ツバキさん、何があったんですか」

 

 詩音が言う。ツバキ。クレイドルの隊長のリンドウの姉らしい。教官もやってたけど今はオペレーターらしい。詳しい事情はまだ知らない。

 

「最近アラガミの反応が無く、偵察班が調査を行っていてあるものを見つけた」

 

 モニターに地図が表示された。一部赤い丸がついている。

 

「大中小様々のアラガミで構成された群れだ」

「……!」

「そして悪いことに進行方向はこちらに向かっている。同時に上から撮影をしてみた。確認できたのは同じような群れが5つ」

「む、群れって言っても、そんなに大きいものでは無いんですよね……?」

 

 恐る恐る聞いてみる。

 

「………1軍につき、数は200~500と予想されている」

「なっ……」

 

 最低計算でも1000体のアラガミがこちらに向かっているということみたいだ。

 

「………つまりこいつらを全部倒せ…そういうことだろ」

「無茶な話ではあるが、そういうことだ」

 

 ソーマが言う。ただレベルが違う。皆が乱戦を体験したとしてもこの数はしたことはないはずだ。

 

「……作戦エリアに入るであろうタイミングは今からちょうど一日だ。外部居住区に住んでいる人民には全員先に避難してもらっている」

「…防衛戦……私も…戦うんですね………」

 

 自分の戦闘だと邪魔になる可能性は高い。

 

「それについてだが、榛名は待機だ。ここ最近のこともある。万が一に備えてだ」

「…わかりました」

 

 その後作戦の説明がされたが、頭のなかに入れようとしてもうまく入ってこなかった。

 

 

side:コウタ

 

 作戦はそこまで難しい内容ではなかったが噛み砕いて言えばアラガミを全部倒せ。市街地に一体でも通してしまえば最悪の結果になる。

 

「……中距離で援護か……」

 

 かなりの乱戦になる。皆に弾丸が当たらないか不安である。

 

「コウタ、榛名、このあと搬送ゲートまで来てくれ」

 

 ツバキが一言言い、ラウンジを去っていった。

 

 

★搬送ゲート

 

 榛名を連れて行きながら搬送ゲートに向かった。いつも以上に人の出入りが多かった。

 

「いきなり呼んですまなかった」

「いえ、何か……」

「アレだ」

 

 ツバキが見た先にはたくさんの子供がいた。

 

「あ、榛名おねーちゃーん!!」

「え、あ、あれ?」

「そうか、避難中だったか……」

 

 子どもたちがこちらに向かってきた。榛名は元々孤児院にいたがその子どもたちが丁度避難しているようだった。

 

「榛名ちゃん、元気にしてた?」

「は、はい…とりあえずは」

 

 今孤児院の管理をしているであろう女性が言った。

 

「今はこんな風にはしゃいでるけど、皆心配なのよ…」

「おねーちゃん、私達の協会だめになっちゃうの?」

「……っ!」

 

 榛名が止まった。

 

「心配するな!俺達神機使いがしっかり守ってやるって!」

 

 自分が声を上げると子どもたちが声を上げた。少しでも心配を取り除いて上げ無くてはならない。

 

「………私、ちょっとやることがありました…!」

 

 榛名が突如動き出し、ゲートを去っていった。同時に子どもたちも挨拶をして去っていった。

 

「……ツバキさん…」

「せめて挨拶させたかったんだ。今一番危険なのはアイツだからな……」

 

 

★防衛ライン

side:詩音

 

 翌日、榛名を除く極東の全神機使いが集まった。他の支部からの救援は到着が間に合わない。

 

「……射撃部隊どう?」

 

 無線を通じて問う。

 

「こちらシエル……確認しました。物凄い数です…」

「こちらジーナ。いつもなら撃ちがいがある。なんて言うけど、そんなこと言えないぐらいの数……」

「……これが5つ来るんですよね……」

『はい。第5波が来るまでは一時間程の計算です』

「つまり、1波ごとに12分で倒さないときつくなるってことだよね……」

 

 ナナの言葉に全員が黙った。

 

「………ごめん」

「ナナの言うとおりだ……短時間で片付け、次に備える……」

「倒さなくても、行動不能にしていけばいい。腕を切るなり、足を切るなりして時間を稼げばいい」

 

 リンドウが言った。倒しきれないなら阻害していくしかない。

 

『…皆さん、第一波が作戦エリアに到達まであと1分です』

「…了解。皆…気を引き締めて…」

 

 神機を握り直す。

 

「………皆…死ぬなよ。死にそうになったら逃げろ。いいな」

 

 リンドウが言った。その声に全員が頷く。視界に無数のアラガミが見える。

 

『作戦エリア到達まであと5秒、4、3、2、1』

「行きます!!」

 

 通信が0を告げると同時に声を上げて駆け出した。その突如視界が光に染まった。

 

「ッ!?」

 

 その直後熱風が吹き荒れた。

 

「な、何!?」

『作戦エリアのアラガミ60%が消滅!皆さん、大丈夫ですか!?』

 

 一瞬の出来事で何が起きたか理解ができない。半数以上のアラガミが一瞬にして消えた。それだけしかわからない。

 

「この爆発…まさかノヴァか!?」

 

 リンドウが声を上げた。ノヴァ。そう聞いた時に納得がいった。

 

『作戦エリアに榛名を向かわせた。既に一部結果を出しているみたいだがな』

 

 ツバキからの通信だった。それが聞こえた頃には上空にヘリコプターがいた。そこから一つ黒い影が飛び降りてきた。

 

「…榛名…」

 

 目の前にいる榛名の姿は少し違っていた。心葉が着ていたコートと同じような真っ黒なコート、長い緑の髪は切られ、ショートヘアになっていた。

 

「…私だって戦います…!皆の居場所を…守ってみせます!!」

 

 

side:榛名

 

 シェルターを出た時に自分はリッカの元に向かっていた。その時にノヴァのバレットも手に取っていた。同時に自分の所持しているバレットについて全部どういうものか教えてもらった。通常のものから特殊なものまで様々だった。

 

「…リッカさん、ノヴァの再使用まであとどのくらいですか?」

「現在冷却中、再使用まであと20分……ムリしないでね」

「ありがとうございます」

 

 一言お礼をいい、地面を強く蹴り飛ばした。神機を強く握り、矛先を薙刀に変えた。

 

「俺たちも続くぞ!極力榛名を援護しろ!!」

 

 ギルバートが声を上げ皆も駆け出した。

 

「絶対に…先に行かせません!!」

 

 迫るアラガミに対し神機を横薙ぎに振るい両断する。距離が離れたアラガミについては銃形態に切り替えスナイパーで撃ち抜く。

 

「榛名ちゃん、無理しちゃダメだからね!!」

 

 詩音が声を上げた。

 

「はい、大丈夫です!!」

 

 いま自分の体は衝動だけで動いているのではない。自分の意志もはっきりしている。暴走するだけの神機使いではない。守る意志はしっかりある。



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5話

また久々の投稿です。待ってた方遅れて申し訳ありませんでした。


★防衛ライン

side:榛名

 

 ノヴァのお陰で第一波の60%は消し飛ばすことに成功した。これから20分の間は冷却が必要になるため使うことはできない。感覚では1派に付き、1回だ。他の手持ちのバレットにそれ以外の広範囲に影響するバレットはない。

 

「……あと40%…!」

『皆さん、後4派あります。体力の温存も考えてください!』

「榛名!無理だけは絶対にするなよ!!お前が死んだら心葉になんて説明したらいいかわからねぇからな!!」

 

 ヒバリの無線、リンドウの叫び声が聞こえる。この後も考えながら戦っていかねばならない。だからといってペースを緩めることはできない。いかに体力を残しながら眼の前のアラガミを処理するかだ。

 

「そんなの……わかってます!!」

 

 神機を変形させ、アサルト状態に変形させた。トリガーを引きながら自分の目の前に半円を書くように振り払った。すると目の前にはオレンジに光る球体ができていた。その数10。数秒後球体が爆ぜ、弾丸が一直線に放たれた。扇状に広がっていった弾丸はそれぞれアラガミを貫いた。

 

「次っ!!」

 

 神機を形態変化。槍にしたあとに薙刀に。迫りくる小型のアラガミを切り捨てる。

 

『第一波、残り3%!』

「これで、終わりっ!!」

 

 中型のコンゴウの顔面に神機を突き刺す。血が吹き出し、動きを止めた。

 

『第二波、残り3分で作戦エリアに到着します!』

「今のうちに回復錠剤を使っておけ!!」

 

 リンドウの指示に従い、ポーチから錠剤を取り出し噛み砕く。

 

『みんなおまたせ!!リンクバースト、全部起動するよ!!』

 

 リッカの通信だ。長期戦になることがわかっていたため、第一波が終了してから起動をすることにしていたそうだ。

 

『皆さんにリンクバーストレベル3の効果、並びに一時的にステータス上昇の効果が付与されます』

『第二波、残り1分で到達します』

 

 ヒバリ、ハルオミの通信。体に力が溢れ出すような感覚がする。だが、アラガミが迫っている。まだ半分にすら行っていない。

 

「…すぅ………ふぅ……」

 

 ゆっくり息を吸い、吐き出す。

 

「心葉君は…アラガミと戦う時…どんな気持ちでいたんだろう…」

 

 彼も少なからずアラガミとは戦っていたはずだ。倒すことだけだろうか。それとも何か別の感情を抱いていたのだろうか。

 

「………心葉君、貴方は…殺意を抱いていましたか?それとも守ることを思っていましたか?」

 

 意志とは裏腹に、そんなことを呟いていた。

 

『第二波、作戦エリアに到着!!』

 

「行くよ!!」

 

 詩音が声を上げた。だが、

 

『っ!?アラガミの群れとは別に高速で移動する個体を捕捉!!』

『外部居住区に侵入!!射撃班、対応できるか!?』

 

 ハルオミ、ツバキが声を上げた。唐突な事態に誰もが対応が遅れた。

 

「榛名、外部居住区に向かいます!!」

『その距離じゃ遅い!!射撃班にまかせ』

「私なら…この神機ならできます!!」

 

 神機を銃形態に、今度はスナイパー。銃身を地面に向け、外部居住区の方を向く。

 

「お願い、上手くいって…!!」

 

 祈りながら引き金を弾いた。直後乾いた音が鳴り響き、体が宙に飛び、あっという間に射撃班がいるアラガミ装甲を飛び越えていた。

 

「「なっ!?」」

 

 隣を過ぎ去っていったシエルとジーナは目を丸くしていた。使用したバレットはまた特殊なもの。作戦エリアの超長距離移動用の為に開発されたもので、跳躍弾と名付けられていた。仕組みは圧縮された空気の弾丸を地面に撃ち、その逆風で飛ぶ仕組みだ。これを逆に至近距離で相手に撃って飛ばすこともできる。ちなみに威力は3種類に分けられていて、弱中強の3種で今のは強のタイプだ。

 

『射撃班、榛名の援護に回れ!!榛名、危ないと思ったらすぐに引け。いいな!』

「はい!!」

 

 速度がが弱まってきた。バレットを切り替え、跳躍弾、弱に切り替え垂直に向けて地面に向けて撃つ。空砲が鳴り響き、自分の体がまた浮く。上空から市街地に侵入したアラガミを見る。

 

「赤い…!」

 

 真紅に染まった個体で、背中には巨大な翼のようなブースターしなやかな尻尾。腕にはなにか箱のようなものが付いていた。

 

『接触禁忌種…ルフス・カリギュラ…!!しかも、大きい!?』

「よりにもよって特殊な個体…!」

「榛名、足止めだけでもいい…生きることだけに専念して…!!」

 

 少しだけ座学で見た。ハンニバル種の第一接触禁忌種の変異体として見ている。通常のカリギュラですら凶悪なものが更に凶悪になった種だ。移動速度、攻撃力、凶暴性のどれをとっても上である。

 

「わかりました!!」

 

 宙に浮きながらバレットを変換。今度は跳躍の弱だ。体をルフス・カリギュラに向け、銃口は宙に向けたまま。そして引き金を引く。再度空砲が鳴り響き、体が飛ぶ。こんどはルフス・カリギュラに向けて一直線だ。神機を変形、槍形態に。そのまま跳躍弾の速度に乗ったまま、ルフス・カリギュラのブースターめがけて突き刺した。

 

「やあああああああああああああああああ!!!」

「シャアアアアアアアアア!!??」

 

 突然の襲来に驚くルフス・カリギュラ。漆黒の槍は深々とブースターに突き刺さっていた。

 

「先に…いかせるもんですか!!」

「シャアッ!!」

 

 ルフス・カリギュラはすぐに気づいた。そして巨大な手で榛名をつかみ、そのまま地面にむけて叩きつけた。行動が早く、逃げることもできなかった。

 

「きゃあっ!!」

「榛名さん!!」

 

 シエラが声を上げた。後方からスナイパーの弾丸が無数に飛んでくる。だがルフス・カリギュラはそちらに見向きすらしなかった。

 

「くっ…!」

 

 神機を杖にして立ち上がる。そのときにはルフス・カリギュラはブースターから氷を吹き出し宙にういていた。

 

「あ…やばいかも……」

 

 すぐにわかった。今どれだけヤバイ状態か。痛む体にムチをうち、すぐに神機をスナイパーに変更。

 ジャキンと音が鳴ると、ルフス・カリギュラの腕から薄い紅色の鋭い刃が展開していた。そのまま飛びかかってきた。

 

「間に合って…!!」

 

 跳躍弾を地面に放った。体が後方に吹っ飛び、自分がいた場所にはあの拳と一緒に刃が突き刺さっていた。間一髪だった。ゴロゴロと地面を転がりながら体勢を整える。だが

 

「…あっ…」

「榛名さん!!」

「榛名!!」

 

 立っていたときにはもう右手を振りかぶったルフス・カリギュラが目の前にいた。銃を構える時間すらなかった。何をするにも間に合わず、そのままルフス・カリギュラの振り下ろされた一撃をもろに食らってしまった。そのまま住宅の壁に勢いよく叩きつけられた。

 

「…がはっ…」

 

 骨をやられたかもしれない。内蔵もだ。

 

「…ごほっ……けほっ……」

 

 吐血が止まらない。一度引いて体勢を整えたくても、体が動かない。

 

「…ごめん……っ」

『榛名!?榛名!!』

 

 ツバキの声が聞こえる。だがその声すらも薄れて何も聞こえなくなっていった。視界も真っ暗にそまっていった。

 

 

side:詩音

 

 その頃詩音達は順調にアラガミの群れを処理していた。現在第三波の50%程を処理したところだ。

 

「榛名ちゃん…大丈夫かな…」

「…わからねぇ…」

『榛名!?榛名!!』

 

 通信でツバキが声を上げているのが聞こえた。

 

「榛名ちゃん!?」

『榛名さん戦闘不能!!ルフス・カリギュラ、止まりません!!』

「隊長、すみません、このままでは…きゃぁっ!?」

 

 通信だけでわかる。最悪な状態になっていた。榛名は戦闘不能、避難させようにもルフス・カリギュラが暴れているためそれができない。シエルとジーナの二人ではほんの少し動きを止めて精一杯だ。

 

「そんな……誰か、戻れる!?」

「エリナ、エミール!俺達は榛名たちの救援に行くぞ!!」

「はい!」

「わかった!」

 

 コウタ、エリナ、エミールが全力で走り出した。彼らが到着するまでに間に合えばいいが…

 

「お願い、無事でいて……!」

『緊急事態発生!第四派、予測より動きが早い!!作戦エリア、侵入します!!』

「そんな…!!」

 

 まだ第三波が残っている状態で第四派が来てしまった。前も後ろも最悪の状態になってしまった。

 

 

★???

side:榛名

 

 真っ暗な場所にいた。体の感覚はあんまりない。むしろ無いに等しいだろう。

 

「……ああ…だめだったんだ……私」

 

 あの時ルフス・カリギュラの一撃をもらい、気絶。そのまま死にいったったようだ。

 

「………あの時、他の誰かが行っていて、私が前衛にいればよかったんだな……」

 

 今更後悔しても何も起こりはしない。ただ無があるだけだ。

 

「……それにしても…ここどこだろう……初めて神機と適合した時もこんな場所だったかな……」

「それもそうですよ。ここは神機のコアの中ですから」

 

 自分の後ろから冷たい声がした。

 

「えっ……うそ……でしょ……」

 

 振り向けば自分と同じように黒いコートに身を包んだ、小さな影があった。

 

「心葉…くん……」

「何で、この神機と適合したんですか」

 

 彼は感動の再開も無いようだ。怒っていた。

 

「……せめて、貴方の後を継ぎたかった」

「人殺しの後ですか」

「違います!!神機使いとして…みんなを守る人として…!!」

「この神機、僕の偏食因子。どういうものかわかってそれを言ってるんですか?」

 

 もともと心葉の特殊な偏食因子が変わって自分が適合できるようになった。だが偏食因子の変異が完全に終わったわけではない。故にまた神機使いに特攻性のある偏食因子に変異する可能性もある。同時に、神機。無数の神機使い、市民の墓を元に作られたものだ。そしてOracleRageSystem。使用すれば火事場の馬鹿力とも言える自身の潜在能力を最大限まで発揮できるシステムもある。もちろん後遺症の可能性もあったりする。

 

「今はまだいいかもしれませんよ。いずれ偏食因子の変化がある。僕はこの神機に喰われたみたいですし、この神機のことはわかります」

「………」

「どんな変化を起こすかはわかりませんが、最悪の結果に繋がる場合もある。それこそ、惨劇を繰り返します」

 

 惨劇。心葉による咲良、派遣された神機使い数名の死亡、同時に極東全神機使い戦闘不能まで至った暴走。今度はそれ以上の被害になる可能性だってある。

 

「………」

「………嘘、ついてますね」

「……ごめんなさい」

 

 本当はもっと別の意味があった。後でわかった。最初は罪滅ぼしのつもりで適合したつもりだった。だが自分の本心は違った。

 

「………そんな生半可な覚悟で適合したんですか……史上最悪の神機と」

「………」

「……戦闘中ではありますが、貴方の体が弱まっている今なら適合を切り離すことはできます」

「…待って」

 

 震える声で言った。

 

「………せめて、私の…適合した理由だけ言わせて」

「……あの時もそうだ。口だけだ。聞きはしますが」

 

 彼の目に光はなかった。透き通った空色の瞳は曇り空だった。

 

「…………本当は……貴方のそばにいたかった」

「………」

「…この神機を使っていれば、少しでも貴方の近くにいられると…思ったの」

「……そんな……そんな理由で……貴方は……!!」

 

 心葉の声も震えていた。今にも掴みかかりそうなぐらい怒っていた。

 

「ふざけているんですか!!それだけの理由で、この神機と適合したんですか!!人を殺し続け、仲間を傷つけた最低最悪の血に濡れた神機と!!」

 

 心葉は小さな体で迫り、榛名の胸ぐらを掴んだ。

 

「ふざけてなんかいません!!」

 

 胸ぐらを掴まれているが、逆に彼の両肩を掴んだ。

 

「私は本気です!!」

「っ!?」

「………だって……だって……あのままじゃ……心葉君が…可愛そうです……」

「榛名……さん…?」

 

 いつの間にか目頭が熱くなり、涙が溢れ出していた。

 

「…知ってますか?人って一人の時や、忘れ去られたときが一番辛いんですよ……?」

「………」

「…心葉君が使っていた神機は他の人の神機とは隔離されて、ちょっと離れた場所に置いてあって………もし私が適合しなかったらそのまま暗い場所で一人で……みんなに忘れられて……そんなの…あんまりですよ……」

「……なんで…そこまで…」

「……だって…貴方は………神機使いになってから…何一つ救われていないじゃないですか……死んでも救われないなんて…そんなことって…」

「榛名…さん……」

 

 この神機に適合した後、心葉のことを神機使いになってからのことを全部教えてもらった。ずっと茨の道を歩き続けていた。一人で堕ちた者を、救われない神機使いを殺し続け、誰からも慰めも、支えもしてもらえずに。ある時に仲間ができた。それでも仕事のときは一人にならざるを得なかった。あるときは他の支部に少しでも仲間ができた。でもその仲間は目の前で堕ちた者に殺されてしまった。あるときはその神機使いの仲間が堕ちた者になり、その人を殺した。あるときはその堕ちた者に殺された神機使いと堕ちた者になってしまった仲間に逆恨みされた。そしてその神機使いすら殺した。それから、また一人になって、本当の自分を知って、仲間を傷つけ、見ず知らずの神機使いも殺し、パートナーだった神機使いも殺してしまった。そして……自殺した。

 心葉は沢山の人を救われない人を救ってきたのだろう。でも、彼が救われることは生涯で1回もなかった。むしろ救われるべきは彼のほうだった。

 胸ぐらを掴んでいた手の力が緩み、だらんとたれた。

 

「……だから……せめて……私だけでも…貴方のそばにいたかった……そうすれば…わからなくても…少しぐらい救われるかなって……」

「なんで……そこまで……」

「…だって……私は…心葉くんのことが…大好きだからです」

「……僕は…人殺しですよ……?自分のことで絶望して、みんなを傷つけた最低な人ですよ…?」

 

 こんなことを前にも言われたことがある。自分は人殺しだ。普通の神機使いとは違う。そう。でも、

 

「…前にも言ったじゃないですか。心葉君は心葉君で…私の救世主だって」

 

 あのときは抱き寄せた。けど、今度は違う。抱きしめてあげた。力強く。でも痛くないように優しく抱きしめてあげた。

 

「……あったかい…今まで…こんなの…感じなかったな…」

「…よかった…」

 

 いつの間にか心葉も自分の背に手を回し抱きついていた。ここはコアの中で、意識だけの世界かもしれない。それでも、温かった。

 

「………ねぇ、私は死んだの?」

「…いえ、まだ気絶してるだけです」

「……すぐ起きれる?」

「はい」

「………力を…貸してくれる?神機を通して貴方といたい。それに、守りたいものがあるの」

 

 まだ死んではいない。それにすぐ立てる。ならまだ可能性はある。

 

「………今出せる全力の力を。オラクルレイジを使いましょう」

「…できるの?」

「僕と…榛名さんなら…一緒にならできるはずです」

 

 

★外部居住区

side:コウタ

 

 なんとか間に合ったが、最悪の状態だった。射撃班のシエル、ジーナも戦闘不能。エリナ、エミールも重症をおってしまった。なんとか自分が抑えられている状態だ。

 

「くそっ…長くもたねぇ……」

 

 がら。と瓦礫が崩れる音がした。音の方をみるとゆっくりと立ち上がる榛名がいた。

 

「くっ…榛名…!ダメだ!!君だけでも逃げろ!!」

「……少しでも…やれることがあるなら…やります……!!」

 

 

side:榛名

 

『僕に合わせてください。そして貴方の願いを…強く思ってください』

 

 頭の中に心葉の声が響く。自分の願い。守るものを守れる力を。救済の力を。

 

『準備はいいですか?』

「うん……大丈夫」

 

 神機を強く握り、強く思う。

 

「………もう、大丈夫だから……信じてる……貴方の力を」

『…貴方ならできます。貴方の願いを…僕に見せてください』

 

「「オラクルレイジシステム、起動!!!」」

 

『OracleRageSystem Standby』

 

 今度こそ守れる。そう思った。できると思った。否、できると。だって彼がいる。二人なら、どんな困難でも乗り越えられると、そう思った。



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6話

★極東支部

side:サカキ

 

 最悪の状態だった。市街地にいるルフス・カリギュラはコウタが抑えているが、劣勢。同時にアラガミの群れを相手しているみんなも劣勢である。アラガミの群れが到着する前にルフス・カリギュラに殲滅させられる可能性だってある。

 

「……今度こそ…ダメなのか……」

 

 今榛名が意識を失っている状態から復帰した。だがそれでもボロボロだ。

 

「な、何…これは!?」

 

 フランが声を上げる。モニターを見ると外部居住区から作戦エリア全域にかけて地図が真っ赤に染まっていた。

 

「これは………!?」

「外部居住区を含む作戦エリア全域に、偏食場パルス発生……これは……感応現象、呼応!?」

「なんだと!?」

 

 死んだはずの心葉の感応現象が発動していた。

 

「皆さんにバーストレベル3付与、ステータス大幅上昇……それだけじゃない…」

「治癒能力の付与……全アラガミに弱体効果!?」

 

 フラン、ヒバリが驚愕していた。他のオペレーターも同じだった。

 

「呼応を超えた感応現象…!?」

「……まさか…榛名君の神機は…!?」

「榛名さんの神機……オラクルレイジシステム、起動しています!」

 

 オラクルレイジシステムで神機の秘められた力をすべて解放した結果が、この力かもしれない。

 

「……詩音君」

『はい』

「…いけるかい?」

『…この力があれば、負ける気はしないよ!!』

 

 自身ある返答だった。

 

 

side:榛名

 

 オラクルレイジシステムが起動した瞬間、周囲が光で見えなくなった。目の前のルフス・カリギュラですらあまりの眩しさにひるんでいた。

 

「……あっ」

 

 真っ黒だった神機はいつの間にか真っ白になっていた。何一つ汚れのない純白の神機に変わっていた。

 

「傷が…癒えていく…」

 

 倒れていたシエラがそうつぶやきながら立ち上がった。

 

「これなら…勝てる気がする…!!」

 

 エリナも同じくそういった。他の倒れていたみんなや、コウタも活気を取り戻していた。

 

「榛名…さん?」

 

 こちらを見たシエラが口を開いた。それもそうだ。オラクルレイジシステムを起動して自分の姿が少し変わっていた。背にはオラクル細胞で形成された天使のような純白の翼が生えていた。資料で見たぐらいだが、詩音だけがつかえる特殊な力、ブラッドレイジを使用した時の外見に少しだけ似ていた。あちらは黒と金色のトゲトゲとした翼のような感じだが、こちらは本当の翼が形成されていた。まるで天使、否、神が持つかのような純白で巨大な翼。

 

「………今の私…ううん。今の私達なら、どんな困難でも、乗り越えられると思います」

『できますよ……今の貴方なら。今だけでなく、これから先、未来ずっと…!!』

 

 頭の中に心葉の声が響く。今まで聞いた彼の声で、一番優しく聞こえた。

 

「…もっかい言うね。力を貸して…!!」

『はい……貴方の守りたいものの為に…この力…全て捧げます…!』

 

 神機を握り直す。今まで重量とは別で重さを感じていたが、今は無い。羽のように軽く、神機の方から支えてくれる感覚がする。

 

「シャアッ!!」

 

 突然の光により、激高したルフス・カリギュラが右腕を上げ、迫ってきた。

 

「榛名!!」

 

 コウタが声を上げる。

 

「はあっ!!」

 

 神機を薙刀形態に変形、ルフス・カリギュラの右腕をめがけて全力で切り上げた。純白の刃はルフス・カリギュラの腕を捕らえ、なんの抵抗もなく、切断した。

 

「なっ!?」

「嘘でしょ!?」

 

 エミール、エリナが声を上げた。今までまるで刃が立たなかったルフス・カリギュラが、榛名の前では無力同然だった。

 

「シャアアアアアアッ!?」

「これで……終わりッ!!」

 

 神機を薙ぎ、ルフス・カリギュラを右斜め上から斜め下に斬った。空間を割くかのような一撃はルフス・カリギュラを一瞬で沈黙させた。

 

「……これが…本当の…オラクルレイジシステムの力…?」

 

 シエラが驚き、呟いた。

 

「次、行きます!!」

 

 跳躍弾の強を装填。銃身を地面に向け、トリガーを引いた。直後体が中に浮かび上がる。中に浮かんだところでバレットを変更。冷却が終わったノヴァだ。

 

「皆さん、ノヴァを撃ちます!!何が起こるかわからないので衝撃に備えてください!!」

「わかった!」

「全員盾を構えろ!!旧型の銃はタワーシールドの後ろに隠れろ!!バックラーの装備のやつもだ!!」

 

 詩音が了承し、ソーマが全員に指示を出す。全員が構えたところを目視で確認した。

 

「行きます!!」

 

 声を上げ、引き金を引いた。勢いよく放たれた弾丸はアラガミの群れのど真ん中に着弾。その瞬間、光りに包まれた。

 

「ぐぅっ!?」

 

 かなりの距離が離れていたにもかかわらず、爆風が自分の体を飛ばした。

 

「他のみんなは…!」

『全員、後方まで吹き飛んでるみたいです。けど撤退できるいいチャンスです。全員偏食因子を投与しないとまずいレベルまで来ています』

『第三、第四派のアラガミすべて消失………ですが…皆さん、一度撤退してください!!偏食因子を投与してください!!活動時間限界、間もなく迎えます!』

 

 心葉の声と同時にフランの通信が響いた。

 

「……みんな、順番に行って!!」

「「詩音!?」」

 

 みんなが悔しそうな表情をする中、詩音が声を上げた。

 

「…………今ここで下がらなきゃ………ずっと堕ちた者と戦ってきた心葉君になんて………!!」

 

 偏食因子の投与をを遅れたり、過剰投与をすると堕ちた者になる可能性がかなり上昇してしまう。もし堕ちた者になった場合、救済は不可。殺さなくてはならない。たとえ味方だとしても。それを一人背負って彼は戦ってた。その苦しさは誰だってわかる。せめて、自分たちだけでも堕ちた者にならないようにする。それが、心葉が死んでから全員で決めた約束事だ。救われなかった、彼へのせめてのものとして。

 

「……皆さん、後は私がやります」

 

 自分だけは下がるつもりはなかった。

 

「だめだよ!!榛名さんだけでも!」

「行ってください!!」

 

 神機の刃を地面に勢いよく突き刺す。

 

「………やるだけやります。それに…皆さんとは少し出が遅れてます。私だけ活動時間はまだあります」

「けど……」

「……詩音さん」

「……何…?」

「…貴方が皆さんの頼りなんです………どうか…今だけは…」

 

 このまま彼女を返さなければブラッドレイジを使っただろう。そうなった暁にはどうなるか。オラクルレイジシステムと違って、時間が経過してしまえば効果が終了してしまう。当然反動も凄まじい。ただでさえ大量を消耗してる状態だ。

 

「………リンドウ…」

 

 ソーマが呟いた。

 

「……ああ。全員下がれ!!」

「リンドウさん!?」

「うるせぇ!!ここは榛名にまかせて、全員戻るぞ!!」

 

 リンドウが声を上げた。全員が驚愕した。

 

「まって、私も残る!!」

「ッ!!」

 

 全員が混乱してる中で、リンドウが詩音の胸ぐらを掴んだ。

 

「……俺だって…こんなことはしたくねぇんだよ……!!」

「………」

「けど……お前が言ったとおりだ…ここで下がらなけりゃ、堕ちた者になる……」

「……皆さん、心葉君の為だと思って…今は…!!」

 

 ゆっくりと足音が聞こえだした。少しずつ遠ざかるように聞こえる。

 

「………榛名ちゃん……」

「……大丈夫ですから。今は、心葉君も一緒にいます」

 

 後ろは向かず、左手を横に伸ばし、サムズアップした。

 

「……絶対に帰ってきて…」

「……約束します」

 

 その一言を最後に、足音が聞こえなくなり始めた。

 

 

★極東支部

side:ヒバリ

 

「榛名さん!!」

「榛名、下がれ!!さっきから通信を聞いていたが、そんなことが許されると思ってるのか!!」

 

 自分とツバキが声を荒げる。

 

『……そうですね…戻ったらお説教は沢山聞きます』

「ふざけたことを言うな榛名君!!今どういう状態かわかってるのか!!」

「今君の体はボロボロでオラクルレイジシステムでどんどん蝕まれているんだよ!!」

 

 サカキ、リッカも同じように声を上げている。

 

『……少しの間でしたけど、おせわになりました……またのときは…お説教からですかね』

 

 穏やかに呟いた一言の後、通信にノイズしか走らなくなった。

 

「くそっ!!」

 

 ツバキが机を殴りつけた。

 

「何がおせわになりましただ………お前が死んだら…孤児院の市民に……それに心葉に……!!」

 

 

★作戦エリア

side:榛名

 

 最後の一言を終わりに、インカムを潰した。

 

『……死ぬ気ですか?』

「ううん。ちゃんと帰ります。でも、保証は無いですかね……」

『……僕が約束しますよ。貴方をちゃんと帰すって』

「……今のはプロポーズかなにかですか?」

『……解釈はおまかせしますよ』

 

 アラガミが作戦エリアに入る前で、心葉との会話を並べた。

 

『……でも、貴方は帰らないと行けない』

「…もちろんです。孤児院の皆さんにちゃんと守れたって言わないと」

『そうですよ……さて、もう来ますね』

 

 目の前に群れが並ぶ。ノヴァは冷却中の為使用は不可。自分たちでなんとかするしか無い。

 

「………私、こうして貴方と一緒に戦うのを少しだけ願っていたのかもしれません」

『………僕は……傍にいたかった……のかな。そんなことを死ぬ前までもしかしたら思っていたのかもしれないですね』

 

 作戦エリアにアラガミが侵入し、最後の戦いが始まった。たった一人でも負ける気はしなかった。彼がいるだけでも十分だった。

 

 

★極東支部

side:詩音

 

 榛名以外全員極東支部に戻ることができ、偏食因子を投与しながら簡易的な治療を行っていた。

 

「……ひぐっ……っ……」

 

 詩音は泣いていた。また守れ無いのかと。頑張っていれば、まだ戦えたかもしれない。榛名を後退させることができたかもしれない。

 

「……偏食因子は間に合ったが…再度動けるやつは…いなそうだな…」

 

 同じく簡易的に治療を受けていたギルバートが口を開いた。皆腕や足に包帯を巻いている。出血だけでなく被弾時に打撲しているケースもあった。

 

「………隊長」

「……また………また…私は……」

「……アイツを信じよう」

 

 今は彼女を信じることしかできなかった。言ったところで足手まといになるのは自分もわかっていた。

 

 

★作戦エリア

side:榛名

 

 最後だけあって数がやたらと多い。いくら感応現象の効果で治癒しているといっても、疲労は別物だ。体がどんどん鈍くなっていくのがわかる。

 

「……もう少し!!」

『後少しです……!』

 

 最後に一体だけ特異な個体を見た。これも資料だけのものだ。白と黒の体にしなやかな体、大きないくつかの尻尾。

 

「マガツキュウビ……!!」

『アレさえ倒せば、全部終わります!!』

 

 倒せば終わる。だが簡単にはいかないようだ。マガツキュウビから偏食場パルスが発生しはじめた。

 

「……体が…重い……!?」

『マガツキュウビの偏食場パルスです。徐々に体力が蝕まれていきますよ!!』

 

 早急に終わらせなければならない。だが、マガツキュウビだけではない。他の大型もいる。

 

 ガチャン

 

 手元から音が鳴る。ノヴァの冷却が終わった合図だった。

 

「……やるしか…無いですよね…!」

 

 そうつぶやき、決意した。他のアラガミを無視して、マガツキュウビに向かて全力で走る。神機を途中で変形させ、アサルト形態に。銃口の下には鋭い刃がでている。突き刺してゼロ距離で弾丸を放つ前提の設計だ。マガツキュウビがこちらに向かって突き進んでくる。好都合だった。

 

『………いいんですか?』

「……活動時間を大幅に過ぎてるんです。それにこのシステムのこともあります……後先短いのは見えてます……」

『……せめて…貴方だけでも返します。今は…目の前のことだけを!!』

 

 もうすぐ近くまで迫っていた。銃口をマガツキュウビに向け、刃を顔面に突き刺す。

 

「……皆に嘘ついちゃいました……ごめんなさい。きっと…帰れない」

 

 その一言を最後に、引き金を引いた。目の前が光りに包まれ、体の感覚が無くなっていった。

 

 

side:詩音

 

 偏食因子の投与が終わった直後にアラガミ反応がすべて消失したと連絡が入った。つまり戦闘が終わった状態だ。急いで榛名を迎えに行っているところだ。今は装甲車で周りを注意して見ながら走っている。

 

「……お願い…無事でいて…!!」

『榛名さんの反応、すぐ近くです!』

 

 ヒバリから通信が入った。

 

「急ごう!!」

 

 搭乗していたのは自分とリンドウ、シエルの3人に看護師一人だ。

 

「あそこだ!!」

 

 降りてすぐにわかった。白い神機が見えた。そこに榛名は倒れていた。

 

「榛名ちゃん!!」

 

 駆け寄ってみると、全身ボロボロで気を失っていた。少しだけ手が冷たい気がする。けれど、手に握っている神機は力強かった。

 

「脈はまだあります……!」

「けど…冷たい…!?」

「とりあえず急ぐぞ!!」

 

 シエルと看護師で榛名を担ぎ、急いで装甲車に戻った。

 

 

★???

side:榛名

 

 目を開けると真っ白な場所にいた。足元には見たことのない真っ白な花園があたり一面に広がっていた。

 

「………ここ……ああ…そっか……」

 

 さっきまでのことを思い出した。ゼロ距離でマガツキュウビにノヴァを撃った。その爆風で叩きつけられて死亡したか、そのまま爆風にやられたかどちらかだと思った。

 

「………あーあ……やっぱり、私ってダメな人……」

「…貴方はだめな人なんかじゃありませんよ」

 

 振り向けば心葉がいた。けど、少し違った。体格や表情は以前見たときと変わらずだった。だが髪色が黒色から真っ白になっていた。

 

「僕が保証します」

「心葉君……あの、ここどこだかわかりますか……?心葉君がいるなら神機のコアの中ですか?」

「……ここばっかりはわからないです」

 

 彼の表情が曇った。

 

「…さっきとは違うんですか?」

「…わからないんです。僕が見てきたのはずっと真っ黒な世界だったから…あの神機が真っ白になった時のせいかもしれませんが……でも」

「でも?」

「……この状況なら僕含め、皆成仏したって考えられてもおかしくないんですよね……」

 

 神機にすら残っていない。完全に死の世界だ。周りを見渡しても花園しか見えない。見たことのない花なのも、きっとそういうことなのかもしれない。

 

「………ははっ……そっか……あれ………?」

 

 いつの間にか涙が頬をつたっていた。悲しいのだろうか。

 

「……悲しいんですかね………」

「………」

 

 心葉は何も言わなかった。けど、小さな体で自分を抱きしめていた。

 

「…………何で抱きしめられてるのかな……」

「……こうすれば…少しは和らぎますかね…?」

「……はい」

 

 少し心葉に甘えることにした。孤児院の子どもたちにしてあげたことを、今されていた。ふと思った。もしここがコアの中だとすれば、今自分の体はどうなっているのだろうか。

 

 

★極東支部

side:詩音

 

 こちらはこちらで状態は悪化していた。榛名の呼吸がどんどん荒くなっていき、心拍数も低下している。体温は低下していく一方だ。

 

「くそっ、どうなってる!!」

 

 医師たちも混乱していた。外傷は致命傷までには至っていない。内蔵も大きなダメージは無い。それでも体は徐々に衰弱していっている。

 病室の扉越しにも怒号が聞こえてきている。

 

「いや……嫌だよ……」

 

 詩音は扉の前で崩れていた。また目の前で仲間を失うかもしれないのだ。それも、また自分が関わっておきながら。

 

 

???

side:榛名

 

「………帰りたいですよね」

 

 心葉が呟いた。

 

「……帰れるなら」

「……オラクルレイジシステムのせいで、神機も僕の意識も大分ボロボロになってきてるんです」

「……どういう…ことですか…?」

 

 聞かなくてもわかってしまうことを聞いてしまった。

 

「……近い内にこの神機のコアが壊れるはずです……そうすれば……僕はもう二度と…」

 

 彼の意識はコアにある。そのコアが壊れてしまえば、何もかも無くなる。コア自体は修復すればまた使える。

 

「……辛いようですけど、最後の選択肢です。僕と一緒にここにいて、神機のコアの損壊と同時に消滅。または、貴方はもとに戻り、僕は神機のコアの損壊で消滅。どちらかしか道はありません」

 

 ずっと真面目な表情で榛名の顔を見つめる心葉だった。大事な選択肢だっていうのはわかっている。けど、その選択をするにはあまりにも時間がなかった。



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エンディング

★神機のコアの中

side:榛名

 

 時間はあまりにもなかった。選び直すことのできない選択肢を決めるには時間がなかった。

 

「………後どれくらい…時間はありますか…?」

「…わからないです。けど、そう長くは無いと思いますよ……貴方の意志は今神機のコアの中にあります。あっちの体はただの抜け殻……徐々に衰弱してるはずです」

「………そっか……私が生きるか、一緒に死ぬかの二択なんですよね…」

 

 簡単に言ってしまえばその二択だ。

 

「……僕は…貴方に生きていてほしい」

「…皆さんの約束もあります…でも、それ以前に……僕が…生きてほしい。そう思っているんです」

 

 彼の目はまっすぐにこちらを見つめていた。

 

「………結局…だめなんですね………心葉君とは…一緒にいられない…」

 

 自分が神機を手にとったのは心葉と少しでも近くにいたかったから。だが、そういうわけにはいかなかった。すべての物事に終わりがある。ずっといられるわけではない。

 

「……でも…貴方の願いなら…受け入れます……」

「……それで…いいんです……」

 

 お互いに抱きしめあった。

 

「……心葉君は……これで…すくわれた…?」

「…わかんないです…でも、心地よく終われそうです…」

 

 ふと彼の体をみると、徐々に透け始めていた。

 

「………あぁ……」

 

 もう時間が無い。どんどん心葉の体が透けていく。

 

「……そんな声…出さないでください…上で…見守ってますから」

「………ずっと…見ていてくださいね……」

「…はいっ」

 

 最後ににっこりと笑った。その笑顔で、彼は消えていった。同時に目の前が真っ暗になっていった。

 

 

★???

 

 目が痛い。眩しいのだろうか。体も重い。右手はずっと何かを握っている。

 

「………戻ってきたんですね」

「榛名ちゃん!!」

 

 目を覚ますと詩音を始めに、皆がかけよってきた。

 

「………神機……」

 

 右手にずっと神機をにぎっていたようだ。神機のコアを見ると元々はオレンジ色に光っていたものが、今では色がなくなり黒色に。そしてコア全体にヒビが入っていた。心葉の言ったとおりだった。

 

「………榛名ちゃん?」

 

 詩音が声をかけた。

 

「……ごめんなさい、今日は……一人にさせてくれませんか……」

 

 神機の柄を杖にしながらベッドを降りた。

 

「…えっ、ちょっと待ってって」

「隊長、今はやめておけ」

 

 行こうとしたところを、ギルが止めた。そして無言で首を横に振った。

 

「………ごめん」

「……いえ………すみません、少し行ってきます」

 

 かすれるような声で一言告げ、ゆっくりと歩き出した。

 

 

★心葉の部屋

 

 神機を保管庫にしまい、おぼつかない足取りで、心葉の部屋に来ていた。心葉の部屋といっても、自分が使っていいと支持された部屋である。普段は別の場所で寝ていたから、入ったのは初めてだった。入ってすぐに崩れ落ちるかのようにベッドに倒れ込んだ。

 

「……………ひぐっ……」

 

 大粒の涙がこぼれ始めた。彼がもうどこにもいないと改めて自覚した。ここにいても彼がいるわけでもなく、彼の残り香がするわけでもない。彼がいたという形しか残っていない。

 

「…心葉君っ……心葉君っ……っ……うあああああああああああああああああああああっ!!!!!!」

 

 初めて大声を上げて泣いたかもしれない。涙は止まること無く、ベッドを濡らし、彼女の声は静な部屋に響き渡るだけだった。どんなに叫んでも、どんなに泣いても、彼はもういない。

 

 

 

 それからのこと。

 榛名はあったことをすべてサカキに話した。神機のコアの中に心葉の意識があったことを。そして1週間待機命令が出された。この前の後遺症があるかどうかの検査も含めの待機だ。後遺症があるないにもかかわらず、神機のコアを修復するのに2週間はかかるらしく、動けるようになるまでそれぐらいかかる。他の皆はいつもどおりにやっていた。榛名も…変わらずにやれていた。強いて言えばお墓参りの時間が前より長くなったことぐらいだ。回数も増えた。朝と夕方に必ず行っている。

 

 

★ラウンジ

side:サカキ

 

 上への報告等が終わり、ようやく一息付けるようになった。

 

「…はあ…これで終わりだ…」

 

 ムツミからコーヒーをもらい口にする。

 

「……サカキ博士」

「なんだい?」

 

 隣にいたリッカが口を開いた。

 

「…榛名君の神機、治ったんだけど……」

「なにかあったのかい?」

「……オラクルレイジシステムが全壊していたの」

「……そうか…それは…良いことのはずだ…」

 

 オラクルレイジシステムは、使用者に大きな負担がかかる。体にも意識にも。心葉の件もあり、設計者の上層部はデータ含め今あるものをすべて破棄したそうだ。そして心葉と榛名が使っていたものも壊れた為、もう存在しなくなった。

 

「………榛名君にはブラッドのような血の力もない。心葉君みたいに特殊な人でもない。あの時感応現象が使えたのも、きっと……」

「…そうだろうな……リッカ君」

「なんですか?」

 

 ふと思ったことがあった。心葉について。

 

「………君は…あの子がこれで救われたと思うかい?」

 

 血塗られた道を歩み、仲間を殺して、自分で死んだ。そして神機のコアの中に残ってしまい、榛名と会話をした。そして最後に消えた。成仏した。といったほうが正しいかもしれない。

 

「……私は…救われたと…思う」

「…………私は…そうじゃないと思うんだ。科学者が根拠もなしに言うのはどうかと思うがね」

 

 本当に彼が救われたかどうか、定かではない。もう彼を縛るものは無い。けれど、未練は沢山あったかもしれない。もっとやりたい事もあったかもしれない。笑っていたかったかもしれない。幸せになりたかったかもしれない。どれも叶わなかった。

 

「…せめて、今亡き彼のぶんまで、我々が精一杯生きよう。そして彼のような悲劇や惨劇を起こさないためにも、我々が注意するべきだ」

 

 

 榛名がもとに戻った時に、とある動きがあった。堕ちた者をこれ以上出さないためにするための運動。詩音とユノを筆頭に、その活動をしていた。各支部に行ったり、CMを流してみたりした。ただ注意するだけじゃない。日暮 心葉という人がどれだけ辛い目にあったか。そのことも含めながら離していた。二度とその惨劇も出さず、その辛い目に合わないためにもと。榛名もその活動に参加していた。泣きながら訴えていた。

 

「……死んだ心葉君の為にとはいいません…!ですが…今聞いてる皆さん自分自身の為に…仲間の為に…どうか…よろしくおねがいしますッ!!」

 

 

 

 今自分にできることは守るべきものを守ること。そして、心葉のぶんまで精一杯生きる。それだけは必ずすると。彼が願ったのだ。自分には生きていて欲しいと。その願いに答えるために、今日もまた榛名は歩き出した。

 

 

GOD EATER ~堕ちた救世主~ If Ending fin




急ぎ足のような終わり方になりましたが、榛名神機使いルート、If Endingがこれにて終わりです。

可能性からつながる物語。次が最後になります。救われなかった少年が救われる物語


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True Ending
1話


選択肢の可能性から生まれた本当の終わり。失われた一つの未来は救済される。


★ラウンジ

side:榛名

 

 自分が神機使いになってからそれなりに長い時間がたった。心葉のことが終わった後に、また別口で問題事が起きてしまった。螺旋の木というものが異常を起こし、大問題に。終末捕食を起こしてしまったが、それをブラッドの皆がなんとか防いでくれた。そして驚いたことに死亡していたはず…正しくは螺旋の木で終末捕食をとどめていたジュリウス。そして仲間を守るために戦死したロミオ。この二人が帰ってきたのだ。理屈はよくわからないとのこと。聞いても理解できそうに無いぐらい難しい話なのはわかった。全員が全員帰ってくるわけではない。ブラッドのメンバーだけが帰ってきたようだ。心葉は…当然いなかった。

 

「榛名、隊長を見なかったか?」

 

 任務後のジュリウスに声をかけられた。先程までジュリウス、ロミオ、リヴィと自分の4人で周囲のアラガミの調査に行っていた。調査と言ってもただの見回りに等しい。

 

「あー…多分お墓参りかと……」

「墓参り?」

「はい。あっ…ジュリウスさんたちはちょうどいなかったときのことでしたね…螺旋の木の出来事が起きる前に極東でとある事がありまして…その被害者の神機使いの方のお墓参りです。名前は日暮 心葉って子です」

 

 その墓は巨大なモニュメントとして聖域と呼ばれるアラガミが立ち入ることができないところに建てられた。

 

「私も行ってきますね。向こうで詩音さんに伝えておきますので」

「……私達も同行していいだろうか?」

「………大丈夫だと思いますよ。あのお墓、心葉君だけじゃなくて色んな人のお墓でもありますから…」

 

 それから移動して聖域に到着した。そこには詩音だけでなくブラッドの他の面々、オペレーターまでいた。黙祷する者もいれば涙を流している者もいた。

 

「……オペレーターまでいるって……そんなに悲惨だったのか…」

 

 ロミオが呟いた。

 

「……………とっても…それも…どんなに足掻いても救われないほど……」

「……いったい何があったんだ?その日暮 心葉って子は」

「…………私だけじゃ…きっと全部話しきれないと思います。あまりにもあの子の苦しみは長くて…辛くて…悲しくて……」

 

 詩音に話したらサカキを主体にまとめて話そうということになった。サカキのところに一連の書類もある。

 

 

★サカキの研究室

 

 集まったのはブラッドのメンバーの全員、榛名、そしてコウタだ。

 

「どうしてコウタがいるの?」

「元々心葉は第一部隊にいたし、そもそもあいつを見つけたのが元隊長の零なんだ……いたって言っても幽霊隊員みたいな感じだったけどさ」

 

 ほとんど堕ちた者を喰らう為に個人で動いていたのだ。

 

「コウタ君、とりあえず一から話してみてくれるかい?」

 

 サカキが言う。心葉のことはいくつか聞いていたが、すべての始まりは聞いたことはなかった。

 

「……初めて心葉を見つけたのは零…元第一部隊隊長の菊池 零なんだ。帰投中に物陰に倒れてるのを見つけたんだ。あの時零がいなかったらそのままになっていた可能性はあったと思う。服にフェンリルのマークがあったからフェンリルの関係者と思ってサカキ博士のところに搬送したんだ」

「その後メディカルチェックを受けたが一つを除いてすべて平常値。その一つというのが神機使いでもないのに体に微量の偏食因子を持っているのを確認したんだ」

 

 本来ならば普通の人には入るわけがない。元神機使いだとしてもあの腕輪は外すことができない。その場合できなくするというより封印するといったほうが正しい。

 

「それで目を覚ました本人に聞いたんだ。だが基本的なこと以外は何も覚えていなかった。自分がフェンリルの関係者ということすら覚えていなかったようだ」

「博士はその後零と俺に報告してくれたけど、結局偏食因子の出処はわからなかったんだよな…わからないまま保護することになったんだっけ」 

「そうだね。ブラッドのみんなからすれば詩音君が神機使いになる1ヶ月ぐらい前かな」

 

 その後心葉には適合する神機がすぐに見つかったようだ。

 

「適合する神機が見つかった途端、彼の座学が始まったが彼の取り組み具合がとてもすごくてね」

「すごい…とは?」

 

 シエルが首をかしげる。

 

「とにかく真面目だったんだ。わからないところは何でも聞いてきたんだ。防衛班のみんなが基本教えていたんだが、とにかく質問攻めで教えがいがあるけど大変な子だったと言っていたよ」

「明るい頃の心葉君みたい」

「ロミオも少しは見習ったらどうだ」

「うるさいやい!」

 

 ナナ、ギルバート、ロミオが言う。

 

「驚いたのはもう一つあってね、彼のノートなんだけどとにかく字が綺麗だしとても見やすかったね」

「俺も見させてもらったけど、まるで教科書みたいだったよ」

「あまりに良かったから、後々の神機使いへの座学の資料としてコピーはさせてもらったよ。これが実際のノート」

 

 サカキが本棚から一冊の古びたノートを取り出し、開いた。そこにはまるで端末から印刷された同然ぐらいの綺麗な文字で書かれた神機使いから現状にいたるまでの記録、歴史、アラガミのことが書いてあった。そしてなによりも見やすかった。

 

「うわぁ……すごい」

 

 詩音が呟いた。それにみんな頷いた。参考になるの一言しかでない。

 

「で、彼の取り組み方なんだがこのノートを書いた時に毎度毎度零君に見せていたんだよ。私もたまたま初めて見せた時にいたんだけど、ノートを見た彼が大笑いしだしてね」

「零はいつも無表情でめったに笑わないんだけどさ。そんなあいつが大笑いしだしたからほんとどうしたんだって思ったよ」

「その零さんってジュリウスみたいな感じ?」

「ナナ」

「外見はジュリウスさんよりもっと冷たいよ。とっても仲間思いだったけどな」

 

 ノートをめくりめくり見ていると自分よりはるかに真面目に取り組んでいたのがわかった。時折デフォルメされたようなアラガミが書かれていてちょっとかわいらしいとか思った。彼は本当は無邪気で純粋な子だったのだろうか。

 

「……まあそういうこともあって彼は神機使いになったんだ。けど」

「………心葉にとっての初陣が悲劇の始まりだったのかもしれないな」

「それって……零さんの事故…ですか」

 

 ターミナルで自分で見れる限りの情報は見た。そこに彼は死亡してることは書いてあった。

 

「ああ。心葉の初陣の時に…な。俺たちも予測してなかった堕ちた者が現れたんだ。心葉は最初怪我人だと思ったんだ。それで近寄ろうとしたんだが、真っ先に心葉を狙ってきてな……それを零が庇った。胸元を神機で突き刺されて致命傷だったよ」

「私達も出会うとは思っていなくて堕ちた者については一切教えなかったんだ。それをまさか初日で出くわすなんてなおさらだ」

「…そうだったんですね…」

「………彼の死がきっと心葉君にとってのトリガーになってしまったんだろうな」

「トリガー?」

「……救世主喰らいのトリガーだ」

 

 彼の死と救世主喰らいに関連性は一切見えない。強いて言えば零が堕ちた者に殺されたということと、救世主喰らいは堕ちた者を殺すということだ。

 

「その後何が起きたかっていうと、心葉君は自分のせいで零が死んだことをだいぶ悔やんでいたんだ。食事もろくに取れないぐらいショックを受けていたよ」

「部屋からほとんど出てくれなくてな。俺たちはただ部屋の前に簡単に食べられそうなものを置くことしかできなかったんだ」

「どうしようかと迷ってるうちに彼の方から私の研究室に来たんだ。体の様子が変だと」

「それってただご飯食べてないだけじゃないの?」

 

 ナナが口を開いた。けれどサカキは否定した。

 

「本人もそういう次元ではないと言っていた。実際にメディカルチェックを受けたらそんなものではなかったよ」

「…それが彼の偏食因子の突然変異…でしょうか」

「シエル君の言うとおりだ。彼の中にあった微量の偏食因子が突然変異を起こしたんだ」

 

 それがあの神機使いに特攻する性質をもった偏食因子のようだ。

 

「……調べてみてにわかには信じられなかったんだ。困惑した私は本部に聞いてしまったんだ。今となってはそれをとても後悔しているよ」

「……けど…もしそのままにしていたら……」

「ああ…最悪のケースが見えただろう……時間はあったはずだ。なのにだ……」

 

 サカキはうつむいていた。自分も同じ立場だったらきっとそうしていたはずだ。そのままにした場合、万が一誤射した時なんて想像したくもない。ましてや銃身がスナイパーだ。そういった後々のリスクを考えれば正しかったのかもしれない。

 

「本部はすぐに彼をよこすように言った。私も従わざるを得なかった」

「…それで帰ってきたときはどうなってたんですか」

「…彼が帰ってきたときはブラッドの皆が赤い雨と終末捕食を食い止めてくれたときのことだ。それまでは本部を中心に各支部を異動していたようだ……彼を見たときは見違えたと思った。とても悪い意味でね」

「…………あの真っ黒でとても悲しそうな表情をしてる心葉君はその頃に…」

 

 コウタが言うには普段はとても無邪気な笑顔を振りまき、とても真面目に取り組んでいて、コミュニケーションも積極的だったらしい。ただ帰ってきたときにはどれも無かったそうだ。

 

「……心葉君が本部に行ってから一度だけ連絡が来たんだ。もうすぐで帰るって連絡がね。その時の連絡は今でも忘れない程怖かったよ」

「…どんな報告だったんですか」

 

 榛名が恐る恐る聞いた。

 

「……今日まで約100人近くの堕ちた者を殺してきました。ってね。その時私は電話を一度落としてしまった。手が震えて数分間動けなかったよ。電話を手にとったときには切れててね……」

「100人って……あのモニュメントの3分の1じゃないですか……」

 

 聖域にあるモニュメントには約300人程の名前が刻まれてる。モニュメントは堕ちた者化した神機使いだけじゃなく、堕ちた者に殺された神機使いや一般市民の名前もある。モニュメントの半数近くの堕ちた者を殺していることになる。

 

「私はどういうことだと本部に聞いたんだ。そして返ってきた返答は、彼を生かしたかったら堕ちた者討伐を主体とした神機使いになってもらったと。もしそれを拒否するのであれば神機使いにとって危険だ。どうなるかはわかっているな。とね」

「そんな……」

「……あんな事故があったのに彼に危険だから死んでくれなんて到底言えるわけがない……だから私は止めることができなかった」

 

 それからは皆知っての通りだ。救世主喰らいの名前が付き、堕ちた者の報告があり次第すぐに殺しに行く。暗い心葉が作られた経緯はこの通りだった。

 

「なあ、どうしてその心葉って子の二つ名はメシア…イーター…だっけ?になってたんだ?」

 

 ロミオが口を開いた。その名前の由来は単純だった。

 

「私達神機使いのことを人類の救世主、メシアと例え、それを殺すまたは喰らう。そのことから神喰いとは違い、救世主喰らいと名付けられたそうです」

「…そっか……」

 

 この名前が付けられたのは偶然心葉と堕ちた者との戦闘を目撃した人からの情報だったそうだ。

 

「…少し話がそれるけど、そもそも堕ちた者。今までは発生することは稀だったんだ。どうしてだかわかるかい?」

「赤い雨か?」

「いえ、赤い雨は黒蛛病を引き起こすだけのはず。堕ちた者とは一切関係がないはずです」

 

 ギルバートの問にシエルが正す。堕ちた者になる理由は偏食因子の過剰摂取または活動時間外を超えても摂取をしなかった場合に発生するケースが多い。

 

「これはブラッドの皆がよくわかってるはずなんだけどね」

「ブラッドの皆……んーわかんないよー」

 

 ナナが頭を抱える。

 

「俺たちブラッドが関係している……まさか感応種…!?」

 

 ジュリウスが口を開いた。

 

「そのとおりだ。最近になって分かったことだけど、ブラッドが動き出してからの堕ちた者になるケースの約9割が遭難者だということがわかったんだ」

「…通常の神機使いでは太刀打ちができない。全員でまとめて逃げればそのまま感応種が追いかけてくる…そのために誰か一人が囮になり撤退。そしてその囮になった神機使いが……」

「シエル君の言う通りだ。だから極東で堕ちた者が現れること自体がかなり珍しかったんだ。極東はブラッドの皆が対応してくれたからね」

 

 サカキが心葉の活動記録を見せてくれたが、確かに極東での行動はアラガミの討伐以外は片手で数えられるぐらいだ。大半が極東以外の支部で堕ちた者の討伐になっていた。

 

「……それから月日が立って皆の知っての通りだ。本人の暴走だ。暴走した理由は彼の過去にある。彼は強化神機使いの一人として作られていた。ただそこで事件が発生した。彼がブラッドのような感応現象に目覚めてしまった。その結果から強化神機使いではなく、世界を破滅に導くための存在として作られたんだ」

 

 強化神機使い。幼少の頃から投薬、洗脳、特殊訓練を繰り返して育ち、通常の神機使いとは違う形で適合した神機使いのことだ。戦闘能力はブラッドまでとは行かないが、通常の神機使いは超える。本部からの調査で非人道的とのことである程度作られたあとにこのプロジェクトは止めさせられた。

 

「どうしてそんなことを…」

「当時の研究者達は心葉君の中にある微力な偏食因子に神機使いに抵抗することを知っていたようでね。何もかも絶望した時に彼に壊してもらうつもりだったようだ」

 

 その企画は世界喰らい(ワールドイーター)計画として実行されかけた。

 

「……彼の暴走による被害はあまりにも大きかった。あの頃の本人の心はかなりボロボロでね、それで自分の本来の使命を見つけてしまったんだ。そうしたらそれが間違いだとしても信じるしかなかったようでね…」

「神機はまるでバターのように切り裂かれたりしたさ。怪我人も多くて、神機の修理も含めれば丸一ヶ月は戦えなかったよ」

 

 コウタがつぶやいた。彼も当然心葉に攻撃されている。

 

「…その時の被害は極東の神機使いが全員負傷。援護に来ていた別の支部の神機使いは全員死亡。それと…極東にある神機使いがいたんだ。心葉君と同じく強化神機使いのね。その神機使いも死亡したよ」

 

 これだけの数を負傷から殺害まで追い込んだ。以下に戦闘能力が高かったのかがわかる。

 

「……そのもうひとりの強化神機使い…咲良君。彼女が詩音君が殺されるところを庇ったんだ。それが終わりの引き金でもあったね」

「…心葉君が私を神機で突き刺そうとしたらそれを咲良ちゃんが庇ってくれて……そしたら…心葉君がまた苦しんで…」

 

 詩音がスカートをギュッと握りしめていた。

 

「……ロミオが死んでから絶対に誰も死なせないって思って、ジュリウスも終末捕食を止めるためにいなくなって……二度と犠牲を出してたまるかって思った。あのときの私は彼を……心葉君を…救えるだけの力はあった……!けど……けどぉ……!!」

 

 彼女の手に大粒の涙がこぼれ落ちる。多数の被害を出した心葉は最終的には自らの首を断った。

 

「……私は…心葉君のことを救えなかった…!手を伸ばしても…届かなかった…ひぐっ…なんにも…彼のためにできなかった…っ…」

「…詩音さん……」

「……ごめんね……ちょっと一人にさせて……」

 

 詩音が目元を袖でぬぐい、部屋をあとにした。

 

「…シエル、隊長のことをちょっと頼む」

「はい」

 

 ギルバートがシエルに言い、シエルも部屋をあとにした。

 

「…俺もな…隊長の気持ちはわかる………」

 

 帽子を深めにかぶりながら言った。

 

「…ロミオのときの葬式も…泣いてだけどな。それ以上に泣いてたよ。大声あげながら子供のようにわんわん泣いてた。それだけあいつにとって辛かったんだよ。守れる力も救うための力もあった。けど……救えなかった。それは俺たちも同じだった」

「……救世主喰らいの話はこれで終わりだ。3人がいない間これだけのことがあったんだ」

「「「………」」」

 

 ジュリウス、ロミオ、リヴィの3人は口を開こうにも開けなかったようだ。

 

「今日はこのぐらいにしよう…他にも知りたい情報があったら私に声をかけてくれればいつでも話すよ」

 

 その一言を最後に全員何もしゃべること無く研究室を出た。



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エンディング

★ロビー

side:詩音

 

 先日の救世主喰らいについての話し合いのあと後日、その後どうなったかについて報告した。心葉が使っていた神機は榛名が適合。神機のコアの中にはまだ心葉の意思が残っていたようだが、その神機の特殊機能、オラクルレイジシステムを使用後に全損。同時に心葉の意思も消滅した。完全に抜け殻になったのだ。

 

「……はぁ…」

「…詩音さん…」

 

 ジュリウス、ロミオが返ってきたことで皆喜んでいたが、改めて心葉の話をしてから空気が重いことがあった。コウタやロミオがなんとか持ち直しをしているが、特に詩音は落ち込んだままだった。危険性を考えて出撃には行かせていない。榛名もとても心配していた。

 

「………ごめんなさい、こういう時になんて言えばいいかわからなくて…」

「いいよ。私がずっと思い悩んでるだけだから………ちょっとお墓参り行ってくる」

 

 以前は墓参りのときは誰かしらついてくることはあったが、最近はすこしそっとしてあげようとしているみたいで、だいたい一人で行っている。今は一人でいたい。

 

 

★聖域

 

 豊かな花園にそびえ立つ無機質なモニュメント。そこにいつも通り近くで下ろしてもらい、モニュメントに向かって歩いていた。いつもどおりの墓参り。けれど今日だけは違った。

 

「……民間人…?」

 

 白いコートのような服装に身を包んだ子供?だった。神機使いかと思ったが右手にも左手にも腕輪はない。そもそも聖域に子供一人で来れるわけがない。ただ、後ろ姿のシルエットはなんだか見覚えがあった。

 

「…んん……保護して先に連れて帰ってからまたお墓参り来よ」

 

 子供に近づく詩音。その後、結局その日聖域に戻ってくる必要は無くなってしまった。

 

 

★ラウンジ

side:ユノ

 

 ラウンジに入るとなにやら準備をしているようだった。飾り付けをしている人がいれば料理を作ったりといろいろだ。

 

「えーっと、そちらの飾りは壁に。看板はあっちに設置を。あ、それはこっちに」

 

 どうやら設営は榛名が仕切っているようだ。

 

「あ、ユノさんにサツキさん」

「またパーティーでもするんですか?」

「たまたま詩音の誕生日が今日だって言うからさ、榛名がどうかなってことですぐ開くことになったんだ」

「そうだったんですね。コウタさんは今何を?」

「また司会だから一応台本を頭に入れようと思って」

 

 彼の手には少し大きめのメモ用紙が握られていた。

 

「会場は榛名さんがやってるんですか?」

「榛名はもともと孤児院育ちだからこういったことはよくできるみたいでさ。レイアウト見せてもらったらとってもよかったから指揮をとってもらってるんだ」

 

 榛名も手伝いながら会場の設営を行っていた。レイアウトを見ながら他の皆に指示を出していた。

 

「次はその飾りをモニターのところに。ああっ、その飾りは最後でお願いします。あっ、リンドウさんつまみ食いしちゃだめです!!」

「悪い悪い」

「まったくもう」

 

 さしずめ先生のようにも見えた。

 

「あ、ユノさんにサツキさん。お疲れ様です」

「榛名さんこそお疲れ様です」

「すみません、会場設営中に……あっ、よかったら作った料理の味見とかしていかれますか?」

「ううん、大丈夫だよ。始まるまで楽しみにしてるから」

 

 ちょっと魅力的に見えたが今はおとなしくしていよう。

 

「では私が」

 

 となりからサツキが動いた。榛名はそれを見逃さずに小さいお皿に盛り付けた。卵焼きのようだ。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとう。うん、美味しいですね」

「よかったです。これ私が作ったものでして」

「榛名さん、料理もできるんですね」

「子供たちの面倒を見るために、必死になってましたから」

 

 流石といったところかもしれない。

 

「あー、でも片付けとかは…ちょっと苦手でして…えへへ」

 

 人差し指同士ををつんつんと合わせながら目をそらす榛名。

 

「まあ誰にだって苦手なことの一つや二つありますよ」

「サツキにはもう少し安全運転を学んでほしいな…」

 

 慣れてきてはいるが切実な願いだ。

 

「そういえば詩音さんは…?」

「えっと……お墓参り行ってからまだ戻ってきてませんね」

 

 詩音が動き出したのは午後3時ごろらしく、今は6時だ。いつもなら時間かかっても一時間で帰ってくる。

 

「どうしたんでしょうか?」

「ちょっと電話してみるよ」

 

 コウタが連絡をしはじめた。電話はすぐにつながったようだ。

 

「もしもし詩音?ずいぶん遅いけど大丈夫?そっか、皆でご飯待ってるからさ。うん気をつけてな」

 

 どうやらすぐ戻ってくるようだ。

 

「今から聖域から戻るって。30分すれば到着するらしいし」

「今のうちにもう少しなにかできそうですね」

 

 榛名が顎に手を当て考え始めた。つい先程レイアウト通りの形にはなったらしい。

 

「んー………あっ、そうです!」

 

 どうやら何か思いついたようだ。

 

 

side:榛名

 

 30分以内に思ったことを実行。とりあえず新聞紙を折って三角形のものを作る。全員分にそれが行き渡った時にちょうど扉が開いた。

 

「たっだいまー!」

 

 予想通り詩音が帰ってきた。そこで作ったものの出番だ。

 

「せーのっ!」

 

 掛け声とともに作った三角形のものを振り下ろす。次の瞬間、パァン!と乾いた音が何度も響き渡る。

 

「おぉっ!?」

 

 突然の音に驚く詩音。何を作ったかと言うと紙鉄砲と呼ばれるものだ。パーティーで使われるようなクラッカーの音を模したような音がでる。

 

「え、皆どうしたの…?」

「今日は詩音さんの誕生日じゃないですか」

「あ、あれそうだっけ……あはは…ごめんごめん…気を使わせちゃったよね」

「…皆心配してたんですよ」

 

 何日も暗い表情をしていたんだ。心配しないわけがない。けど今は暗い表情は見えない。吹っ切れたのだろうか。

 

「そうだよね。ごめん。えっと……これ私の誕生日なんだよね」

 

 会場を見渡しながらつぶやく。

 

「そうですね。主役が来たんですから、始めましょうか」

「ごめん!!これ…私の誕生日で祝う会じゃなくなってもいい?」

「どういうことですか…?」

「えっとね……ちょーっと待ってて」

 

 一度扉の後ろを見た後に、そう言って扉の外に出た。その後

 

「こら逃げるなー!!」

 

 他に誰かいるようだ。

 

「「「????」」」

 

 どういう状態かまるでわからず、皆首を傾げていた。少しすると

 

「…の、やっぱ…」

「大丈夫だって言ってるでしょ!極東の皆が敵になっても、世界中の皆が敵になっても、私はずーっっっと味方でいるから!!」

「って、うわぁ!?」

 

 詩音とどこかで聞いたことのある声と共に勢いよく扉が開かれた。扉からは詩音と真っ白な人影が現れ、床に顔面から叩きつけられた。

 

「うわ痛そう……けど…誰なんだ…」

 

 となりでコウタが呟いた。同じように周りから誰?知らない?と聞こえてきた。自分はしっかりわかる。その姿を知っている。皆知らなくても自分はわかっている。

 

「……心葉君!!」

 

 

side:心葉

 

 乱暴に扉を開けられ、顔から転んでしまった。ちょっと鼻が痛い。ゆっくりと顔を上げ前を見る。当然そこには極東の皆がいる。皆いい表情はしていない。驚いている。当然だ。自分の居場所はここではない。だから詩音に保護してもらって皆に会う直前で拒否したのだ。

 

「……そうですよね、ごめんなさい、すぐに出ます」

 

 すぐ逃げようとした。足早に立ち上がろうとした途端、

 

「……心葉君!!」

 

 前から一人の女性が自分に抱きついてきた。ここにいないはずの榛名だった。

 

「心葉君…心葉君…っ……このはくん……!!」

 

 榛名が泣きながら自分の力強く抱きしめる。少し痛いぐらいに力強い。ただ彼女の右手の手首あたりに違和感を感じた。あの腕輪がついていた。見なくても体に触れただけでわかる。

 

「……なんで…」

「…心葉、俺達が怒ってる顔してるか?」

 

 コウタが自分の目の前でしゃがみながら言った。そう言われ改めて皆の表情を見る。怒ってなさそうな表情はしていた。実際はわからないが。

 

「ギルは怒ってるように見えるよー」

「そうだぞー」

 

 ナナとロミオがニヤニヤしながら言う。

 

「おいお前ら……これでも表情柔らかくしてるつもりなんだがな……心葉、俺は怒ってねぇよ」

 

 ギルがぎこちなく軽く笑っていた。なぜ怒っていないのだろうか。わからない。

 

「ソーマ、他人事のように聞いてると思うが、お前もだからな」

「うるさい。言っておくが心葉、俺もお前には怒っていない」

 

 リンドウとソーマもそんなやりとりをしていた。

 

「…何で…ですか……僕は……僕は……」

 

 皆を傷つけ、人殺しまでした。そんな自分を見て、なぜ怒らない。わからない、わからない、わからない。

 

「仲間だからに決まってるんだろ」

 

 コウタがこちらの目を真っ直ぐに見ながら言う。

 

「……僕を仲間だって言うんですか……まだ……まだ仲間だって言うんですか…」

「当たり前だろ。最初出会ったときからずーっと仲間だ」

「………わからないです…なんで僕を仲間だって言うんですか………僕は…たくさんの人を殺して……みなさんを傷つけて…他の支部の方や咲良さんまで殺したのに……どうして……」

 

 それでもまだ仲間というのだ。

 

「…心葉君、何度も言わせないでください」

 

 榛名が震える声で口を開いた。

 

「もし心葉君が邪魔なら…今頃こうやって抱きしめてもいませんし、声もかけていません。心葉君は心葉君。人殺しでも関係ありません。私達の……大切な仲間で…かけがえのない人ですから……!」

「……っ…!!」

 

 目頭が熱い。涙が頬を伝う。

 

「…僕は…ここにいていいんですか……」

「…当たり前です」

「………ありがとう…ひぐっ……ございます…っ…」

 

 小さく嗚咽しながら言った。震える自分を優しく撫でてくれる榛名の手はとてもあたたかく感じた。

 

 

 しばらくしてようやく落ち着いた。

 

「大丈夫ですか?」

「…はい、もう大丈夫です」

 

 目元を袖で拭って答える。

 

「…ずっといい表情をするようになりましたね」

「……そう…でしょうか?」

「今までよりずーっといい笑顔です。空のような綺麗な表情です」

「……それ女の子扱いしてません?」

 

 頬を膨らませ目を細めながら言う。

 

「可愛い表情ですけど、心葉君は男の子じゃないですか」

 

 榛名が人差し指で頬をつっつきながら笑った。

 

「…むぅ…………でも……そんな気は…ちょっとします」

 

 前よりなんだか笑えるような気がしている。自然と表情が緩んでる気もする。

 

「さて、主役二人になったことだし、早速はじめ"ッ!?」

 

 ゴーン

 

 司会を進行しようとしたコウタの頭にどこからともなくマイクが飛んできて、直撃し反響音を響かせる。

 

「司会なんだからマイクないとだめでしょー」

「だからって投げるなよ……」

 

 どうやら詩音が投げたようだった。

 

「……ぷっ」

 

 そんなやり取りを見て自然と笑っていた。それを見た皆は一度驚いて微笑んでいた。

 笑うってこんなに楽しくて面白いことだったんだ。

 

「さ、早速始めましょう!まず詩音さん誕生日おめでとうございます!そして」

「「「おかえりなさい、心葉(君)!!!」」」

 

 皆の声に今できる全力のとびっきり明るい笑顔で声を上げて応えた。

 

「…はいっ!!皆さん、ただいまです!!!」

 

 

 

~GOD EATER 堕ちた救世主 True Ending Fin~




これで正式な全てのストーリーが終わりです。最後ちょっと乱雑なところもありますが、これにてストーリーは終わりです。苦しみ続けてきた心葉を救って終わりになります。

なのですが、ストーリーとしては終わりですが、アフターを書いていく予定です。1話につきいくつか小さいストーリーが入っているような形で書いています。これもまた不定期なので気が向いた程度で見ていただければ幸いです。

長い間読んでいただきありがとうございました


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