コズミック変態と哀れな最悪の精霊さん。 (冬月雪乃)
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ナイトメア

活動報告で書いてた奴が膨らみやがったので形を与えてみました。


--なんでこんなことになったのだろうか。

 

現界した直後に、時崎狂三はここ数年でもう数え切れないほど思った疑問を再び考える。

 

「あぁ、ようやく現れたね我が女神よ」

 

--あぁ、そう、この変態だ。この変態がわたくしの平和……とは言い難いかもしれないがそれでも平穏な時間を奪うのだ。

 

時崎狂三は苛立ちと共に口を開く。

 

「どうしているんですの?」

「女神が居る所には私が居るのだよ」

 

質問に対する答えになってない。

自分が現界する際には必ず隣で自分を出迎えている。

空間震で起きた破壊の渦の中心に居る筈なのに、彼の周りにだけはそれがない。

というか、長身の彼が纏うマントらしきぼろぼろの布すら傷一つつけられない。

永劫破壊だかなんだか知らないがチートここに極まれり、だ。

彼の周りを破壊する筈だったそれはどこに消えたのだろうか。

いや、それはすでに分かっている問いだ。

というのも、以前にそれとなく聞いたところ、

 

『我が女神よ。女神が現界する際の産声ともいえるそれを、ただただ私が逃がすとでも? もちろん空間ごと時空を切り取って保管しているとも』

 

などというもはや変態の域に収まらないハイスペックさをサラッと披露された。

というかどうやってだ。

蒼く、太ももまである長さの整った顔立ちからか、気持ち悪さのない髪をかきあげながらのドヤ顔でもあったが。

かといってこちらの攻撃は一切通らず、一度など時を止めて蜂の巣にしたのだが弾丸を喜んで回収される始末だ。

気持ち悪いを通り越して感嘆すら覚える。

怖いが。

それはまぁ、とにかく。

 

--わたくしにとっても悪い事だけではありませんし。

 

こうして開き直るまでに三年掛かったが。

それでも彼を巻き込んで時を喰らえばふざけてるくらい効率的に時間が集まる。

霊力すらもだ。

それゆえにまぁそばでウロウロするのは我慢していたのだが。

 

--そういえば一度だけ、誰も居なかった時がありましたわね。

 

あの時は平和で気楽だったが……こう、喉に引っかかるような違和感みたいなのがついてまわって嫌だったのを覚えている。

変態がいるのが当たり前になっている自分に戦慄が走る。

 

「さて女神よ。今宵はどこに向かうのかな?」

「どこにもなにも。いつも通り時間の収集ですわよ」

「ふむ。ご同席しても?」

 

拒否しても気配消してついてくるクセに。

 

「えぇ。構いませんわ」

 

今日も変態と時間採取し、ASTに殺害され、変態と別れた。

そういえば、いつだったか自分の死体をどうしたのか聞いたことがあった。

あの青いポニテ娘は気まずそうに、しかし同情と憐れみが入り混じった表情で顔を背けたが。

 

「あの、〈メルクリウス〉のヤローがですね……」

「それ以上は結構ですわ」

「賢明でいやがりますね」

 

--さすがにそれ以上は嫌な予感がしたので聞きたくなかっただけだ。

 

 




尚、この作品内の水銀っぽい何かの性格は
水銀+終わりのクロニクルの佐山・御言
を想定してます。


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水銀

私もかつては成り代わり転生者として苦労したものだ。

悪夢みたいな世界で、原作を壊したくないからこそ必死に立ち回り、黄昏を愛するフリを続け、時折はっちゃけてストーカーしたりして黄金や刹那に張り倒される。

そんな殺伐とした日常は第六天によって打ち砕かれ、友人などを一気に失った私は原作のようにもう一度第六天と戦う気力すら起こらず。

黄金には悪いが、私は疲れたのだ。

水銀である事に。

折れた心を立て直すことも出来ずに敗走した。

幸いにして第六天はこちらから触らなければ害をなさない。

ならば世界を飛び越え、遠く、遠くに逃げていればいい。

……申し訳ない。申し訳ないが、私は水銀になれなかった。

勝手に水銀に作り変えて送り込んだ神様を恨んで欲しい。

跳んで、飛来して、逃げて。

そうして辿り着いた幾つか目の世界で。

--私は女神と邂逅した。

あぁ、原作水銀よ。君の言いたいことが何よりもわかる。

一度など第六天に触れるリスクを侵してまで原作水銀らしき水銀に黄昏のコレクションを渡しに行ってお互いの女神について六回帰分くらい語り合ったくらいだ。

水銀が二柱もいると世界がすぐダメになっていかんね。

多分あっちの水銀は気にしてないどころか世界の一つ二つと引き換えに黄昏コレクションが増えたことを喜んでるが。

最初はなんだ貴様と言わんばかりな敵意全開だった彼が懐かしい。

 

『私だ』

『お前だったのか』

 

とかリアルな神がやるもんじゃないね。

しかも如何にも暇を持て余してるニート神が。

真面目な話。

君が黄昏を愛したように。

私は私の女神を愛そう。

我が女神の名前は時崎狂三。

身長は157cm。

スリーサイズはB85W59H87。

好きなものは動物。

嫌いなものは人間。

体重はどうやっても教えてくれなかったが、おそらく四十前半。

身長とバスト、ウエストから見たカップ数はD。

アンダーバストは66。

などと如何に私が女神を知っているのかを本人に知らしめたら時を止められて蜂の巣にされかけた。

腐っても第四天『永劫回帰』水銀の蛇の時間を一介の精霊が止めたのは快挙に近いだろう。さすが我が女神。記念日にして国民に知らしめたいね。

ともあれ。

幾星霜もの時間を共にした世界と友を見捨てた先で、私は真実の未知を知った。

こんな激情、私は知らない。

もっと知りたい。

彼女の全てを私が得たい。

ありていに言えば劣情で、けれども叶わぬ夢と知っているために片思いの思春期君みたいなモジモジ感を私は楽しんでいる。

既に座には私が座っているので、女神が目的を達成したらすぐ様回帰しているが。

女神を幸せに出来るのは、多分あの本来の主人公だけだ。

それまでいくらでも回帰しよう。

既視感に悩まされる人もいるだろうが知るか。

我が女神の幸せ以上に大事なものはない。

それ以外は塵だ。

さぁ、どうやら女神が目的を達成したようだ。

今宵もまた回帰しよう。

 

あぁ、最後に一つ。

おめでとう、我が女神。

そして、残念だ。

 

 



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天宮入りと女神と

ど変態注意


「ふむ。中々に良い場所ではないかね」

「……なんでわたくしの家に当たり前の様に居て、当たり前の様に寛いで、当たり前のように下着を持ってるかはもう問いませんわ。けれど一つ」

「どうかしたのかね女神」

「--カリオストロ超気持ち悪い」

 

時が凍った。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カリオストロさん。貴方、これからどうするつもりですの?」

「それこそ愚問。私はいつまでも女神のそばにいるとも」

 

時折、彼が分からなくなる。

自称神。呼び名は数多とあるが、最近使ってるのはカリオストロとメルクリウス。あと水銀の蛇。

メルクリウスは識別名ともなっているし、カリオストロはわたくし以外に呼ばれると思わず手が滑って消し炭にしかける。

長身で青い髪を綺麗に太ももまで伸ばし、胡散くさい整った顔立ち。

服装は本人曰く裸マントか黒い軍服。

言動はわたくしの事を第一においたものが多く、滅多に自分の要求を口に--訂正。まともな要求を口にしない。

そして彼が分からないのは今更だ。

一万人もの人間を殺害した穢れた罪人に、どうしてこんなにも優しくしてくれるのか。

それが一番分からない。

 

「……はぁ。まぁ良いですわ」

 

なにやら奇声をあげてカリオストロが喜びわめいているが無視。

構うと悪化する。

 

「これからわたくし、天宮というところに行こうと思うのですわ」

「では参ろう」

 

手を差し出してきた。

今日は裸マントじゃないので普通に手を取る。

目を閉じて、開くとビルの屋上だった。

 

「……ッ!?   !!?」

 

思わず驚愕にカリオストロを見れば、今まで見たことが無いような頼もしい表情で町並みを見ている。

 

--きっと、彼となら。

 

普段の変態性が無ければ頼もしいのだ。

最初に会った、あのままの彼なら。

 

 

 

 

 

#side  水銀

 

 

 

 

 

ようやく原作舞台!!

ここまで来るのに何十万回回帰した事か……。

まさか原作の流れが奇跡と奇跡の組み合わせで出来た流れだと誰が想像出来ただろうか。

次は天宮だと女神が言った瞬間に歓喜のあまりアクトエストファーブラしなかった自分を褒めたい。

いやいやまだ安心はできない。

いつだったかの回帰時の士道は落とした精霊と女の子をその日のうちにベッドに連れ込み孕ませる鬼畜だった。

女神が落ちかけたので回帰したが。

今回もああだとは思いたくはない。回帰時に芽は潰したつもりだが、それでも不安は消えないのだ。

と、決意も新たに町並みを眺めていると、我が女神が微笑みで私を見ているのに気付いた。

速攻で時を止めて写真に撮り、女神コレクションに追加しておく。

ふふふ、これで642896472812546754つ目のコレクション……!

そう考えると妊婦な女神もコレクションに加えるべきかと後悔した。

多分あれだけで百万枚はコレクションが増えただろうし、母親な女神まで含めれば何垓ものコレクションが増えたのだ。

あぁ!あぁ!

しかし、後悔ばかりではいけないね。

……いっそ私が……いやいや、ならんならん。

いわば異物である私が率先して世界を破壊するわけにはいかないのだ。

女神の幸せを考えるならば。

 

「カリオストロさん?何をしているんですの?」

「すまない女神。考え事を、ね」

「貴方が長い考え事なんて、珍しいですわね」

 

そうだろうか。

 

「何、女神に比べれば大したことでは無いよ」

「あらあら。カリオストロさんはわたくしに夢中なんですのね」

「もちろんだとも女神よ!君が産まれる以前より君に焦がれ、恋していたのだからね」

「……気持ち悪い……」

 

聞こえているぞ女神よ。

だが追撃だ。

 

「あぁ、貴方に跪かせていただきたい。触れる栄誉を与えていただきたい。華よ。貴方に、恋をした」

「……ッヒッ……」

 

あぁ、あぁ!

その引いた顔も素敵だよ女神。

早速コレクションに加えよう。

後ずさりして分かりやすく怯えを顔に貼り付けるが、優しい女神は私を傷つけないように手を取って跪いた私を引っ張り起こすのだ。

そんな女神もコレクション。

 

「ま、全く……殿方が簡単に頭を下げるべきではありませんわよ」

「女神の前では如何な事情も考慮にいれる価値はないよ。女神を唯一神として宗教を立ち上げてもいい位だ」

「自称神が率先して宗教を立ち上げるのはどうなんでしょうか」

「私の前には些細な事だよ女神」

「とにかく。やめて下さいまし」

「女神がそう言うならば私に是非は無いよ」

 

まぁ何回目かの回帰時にやったが。

中々の熱狂ぶりだったね。

ASTもDEMも恐れぬ肉壁役として中々使えた。

 

「さて。女神よ。悪いがこれより私とは別行動だ。本体に招待されていてね。しかし、何かあったら呼びたまえ。君もまた女神なのだから」

「……分かりましたわ。何かあったら助けを呼びますので、きっと来てくださいまし」

「是非もない」



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原作突入……

ちょっと短めです。


「やぁ、我が女神」

「……どうやったら完全に隠れてるわたくしを見つけられるんですの……」

 

統計と愛で。

とは言わずに笑顔で腕を広げた。

 

「……念の為に聞きますがそのポーズは?」

「もちろん女神を包み込むポーズだとも」

「仕方ありませんわね。その代わり今日の分はたっぷり頂きますわ」

 

時間と霊力の事だとわかっていても興奮せざるを得ないね!

 

「……はぁ。全く……」

「さて。それはともかく。如何なされるおつもりか?」

「しばらくは様子見に徹しますわ」

 

ではしばらく二人で日常生活だね。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

 

私は今、識別名〈プリンセス〉と五河士道が出会っているのを見ている。

正確にはその上空から二人を眺めて居るのだが。

あ、気絶した。

さて。

せっかく水銀もどきなのだし。

ようやく原作に近い形を得た記念に少しやってみよう。

 

「では一つ、皆様私の歌劇をご観覧あれ」 

 

腕を指揮者のように振り上げて前を見る。

あぁ、懐かしき既視感に溢れた地獄よ。

 

「その筋書きは、ありきたりだが」 

 

私は今。

 

「役者が良い。至高と信ずる」 

 

ようやく『私』として生きていける。

 

「--ゆえに面白くなると思うよ」

 

だから始めよう。

私の喜劇を。

私だけの既知を。

 

「……。とはいえ。いつになっても少し恥ずかしいなコレは」

 

女神がやったらまず間違いなく鼻血モノだが。

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

ともあれ。

無事に女神の元に帰り、廊下に女神の髪が落ちているのを回収。

漫画やアニメを見ていたラフな格好の我が女神の純白のトライアングルゾーンを観察する。

 

「いつもの倍頂きますわよ……?」

「構わないが」

 

女神が吐いたため息を周囲の空間ごと切り取って保管し、それを合図に起き上がった女神が展開した〈時喰みの城〉を受ける。

急激に吸い取られる感覚が襲いかかるが、ヒャッハー中尉の創造よりマシだ。

 

「ふぅ……う、限界ですわ……」

「横になるといい。今宵の夕餉は私が担当しよう」

「つ、作れるんですのね……」

「任せたまえ。私は全知全能だ」

 

任せましたわ、とフラフラと横になる女神を写真に収めてコレクションする。

私の霊力が強すぎて女神は酔ってしまうことがままある。

吸い取りすぎると体に毒な訳だね。

まぁ私は神様なのだから仕方ないね。

 

「さて。どうしようかね。あの様子ではあまり固形物を口にしたくはあるまい」

 

まぁ酔って気持ち悪くなっているのだから当然か。

無難にお粥にしようか。

……ふ。

 

「ふ、ふ、ふは、ふははははは!まるで看病しているようでは無いか!」

「楽になったのでやっぱり自分で作りますわ」

 

そんなご無体な。



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肉食系ヤンデレと校舎と八つ当たり

空間震が最近頻繁に訪れるらしい。

井戸端会議をやってる女性の集まりからそんな声を聞いた。

世界が滅びる予兆--やれやれ、まったくナンセンスだ。

 

「……おや」

「〈メルクリウス〉……なぜここに」

 

少し暗がりの裏路地から私に向けて殺気というか。

かゆくなる視線を浴びたのでそちらを見ると、鳶一折紙が私を見ていた。

目が合うと彼女は今にも切りかからんばかりの表情で私を睨みつけて質問を飛ばしてくる。

 

「なぜも何も。これより喜劇が始まるのだよ」

「何をーー」

 

折紙は問いかけて、ハッとした表情になるとさらなる殺意を顔面に漲らせて私を睨んだ。

 

「ユーラシア大空災、EUでの特大空間震、アメリカ大陸の大破壊。その全てに貴方はいた……」

「肯定しよう」

「今度は日本を破壊する気……?」

 

……なぜそんな結論に達したのだろうか。

EUもアメリカも女神にちょっかいを出し過ぎたからちょっとグレートアトラクっただけだし、ユーラシアに至っては見学してただけだ。

グレートアトラクったのは少し反省している。

もうちょっと被害の少ないのを作ったから対策バッチリだ。

 

「しかも貴方はしかるべき装置もなく魔法を使っている」

「ふむ」

「つまり貴方は精霊……!」

 

どうしてそうなった。

 

「精霊は女性だけではないのかね?」

「……貴方は、女性……!」

 

彼女は錯乱しているようだ。

 

「少し落ち着いてみるといい。私は男だよ」

「信用ならない」

「よろしい。ならば脱衣だ」

「それはいい」

 

なんでだ。

 

「………………そういえば。君は精霊を目の敵にしているそうだね」

「精霊は私の両親を奪った。当然の帰結」

「ならば、君は向ける殺意を間違えているよ」

 

どうにかして話を逸らしてこの場から離脱せねば。

 

「……どういう意味」

「そのままの意味だよ鳶一折紙。君の殺意は向けられるべき方向に向いていない」

「〈メルクリウス〉--戯言を言っているなら--」

「疑うならば五年前に戻ると良い。そこで、全てが分かるだろう」

 

今だ!

 

「〈メルクリウス〉--ッ!」

 

全力で逃げた。

怖いよあの肉食系ヤンデレ。

めんどくさい事この上ない。

 

「さて。すこし歌劇を進めるとしよう」

 

見上げる先には校舎。

先ほど空間震警報が喧しく騒ぎ立てていたのでプリンセスと士道が色々やらかす頃合いだろう。

 

「--止まれ」

 

転移してこっそりとロッカー内に現れると、凛とした声色が出迎えた。

さぁ出ようと扉に手をかけた瞬間だったので思わず硬直した。

しばらくの硬直があった後、今度は男の声がする。

 

「--人に名を訊ねるときは自分から名乗れ。……って、な、なに言わせてんだよ……っ」

 

ほとんど同時に破砕音。

 

「これが最後だ。答える気がないのなら、敵と判断する」

「お、俺は五河士道!ここの生徒だ!敵対する意思はない!」

「--そのままでいろ。おまえは今、私の攻撃可能範囲内にいる」

 

しばらくの乳繰り合いが始まった。

あぁ、青い。些か青すぎる嫌いはあるが、しかしそこが良い。

青いという事はつまり、まだ伸び代を残しているということなのだから。

校舎を凄まじい爆音と震動が襲う。

 

「--あ」

 

ロッカーを貫通した弾丸が私ごと女神の写真を撃ち抜く。

連射されたそれは、教室などを破壊しているだろう。

 

Ducunt volentem fata(運命は従う者を導き)

nolentem trahunt.(従わぬ者を引きずって行く)

 

外で盛大な爆発音がする。

今放ったのは要は、メテオだ。

 

「--至高の女神を写した我が聖遺物を破壊した罪、身を持って償え」

「〈メルクリウス〉……」

 

外に転移すると、折紙と愉快な仲間たちがいっぱいいた。

折紙はしばらく教室を見ると、忌々しげに私を睨み、高速で教室内に突っ込んで行った。

 

「ふむ。数はおよそ百や二百といった具合か」

「〈メルクリウス〉……今日こそ貴様を……ぐあぁ!」

「--いつしか我が友にも言ったが、数が質を超えるなどと説いた覚えはない。もしもそれで私を倒せる気でいるのなら」

 

思いっきり振りかぶって木の棒を投げつける。

フォームは我が友、黄金の獣を真似たものだ。

 

「--可愛いな。抱きしめたくなるほど可愛いぞ貴様ら」

 

ここに、一方的な暴虐が始まった。



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水銀無双(物理)

ビームや剣撃、衝撃に射撃が私に殺到する。

 

「……それで終いかね?そろそろ飽きたのだが」

 

まったくのノーダメージだが。

 

「化け物め……!」

 

災害レベルの被害が出るとしても女の子を追っかけ回して殺害したり拷問したりする集団が何を言うのだろうか。

 

「塵が何を言おうが塵。いくら貴様らが死のうと『ああそうか』とも思わん」

「くそっ……!」

 

相手側からすればこれ以上の無理ゲーもあるまい。

物理含めて直撃させようともノーダメージ。

しかし私の攻撃はかするだけでも大惨事だ。

 

「そもそも私を倒すというには望みが足りない。というか何もかもが不足だぞ貴様ら」

 

再びメテオ。

一番威力低いのコレだけなのだ。

占星術って不便。

 

「あぁ、あぁ、哀れだ。ただただ哀れである。自らがどのような立ち位置にあるかも知らず、無為に散って行く舞台装置。所詮その程度の意義しか持たされぬ劣等種。建前の目的を盲信し、ただ執行するだけの道化でしか無い」

「戯言を……っ!」

 

男が斬りかかるが避けずに受ける。

薄皮一枚切ることもなく額で受け止められる。

造作も無い。

 

「何かしたかね?」

 

デコピンをすると、きりもみしながら吹き飛びグラウンドへと頭を擦り付けながらスライディングで着地。

そのまま動かなくなる。

 

「あぁ、しかして愚昧である事は罪では無い。無知で蒙昧。それこそが貴様らに与えられた役割なのだからね」

 

今度は一斉に襲いかかって来た。

皆、表情に恐怖を貼り付けている。

 

sic itur ad astra.(このようにして星に行く)

Dura lex sed lex.(厳しい法ではあるが、それでも法である)

 

グレートアトラクター。

襲いかかる塵を衝撃で叩き潰した。

 

「……あぁ、すまない。少し気分が乗ってしまってね。君たちは覇道神(私達)と比べて強度が足りなかったね」

 

黒円卓や我が息子と愉快な仲間たちが私の基準となっているのでついつい無造作に放ちがちだ。

私が回帰の原因になるなど笑えない。

しばらく気をつけるとしよう。

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

どうやら主要な役者は被害から逃れたらしい。

いやはや、校舎を中心とした街の一角が完全崩壊。

DEM社の社員に死傷者多数。一般市民も被害が出た。

テレビのニュースをジトっとした目で見ながら女神がため息を吐いた。

 

「やりすぎですわよ」

「すまない女神。弁明のしようも無い」

 

結構抑え気味だったのだが、まだまだ足りなかったらしい。

ちなみに破壊された街並みは次の日には戻ってた。

かがくのちからってすげー。

また溜息。

…………………。

 

「女神が触れた大気などそれだけで至高の聖遺物……!」

「だからといってわたくしの吐いた息を回収して回らないでくださいます!?」

 

額を撃ち抜かれた。

 

「怒った顔も素敵だよ、女神」

「……変態ですわね……っ!」

 

あまりの可愛らしさに理性が滅尽滅相されかけた。

さすが女神。

言葉一つで私を倒すに至るとは……。



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十香デットエンドー完

不満ーー人類が欲求が満足に達成されない場合に抱く感情である。

つまり、何が言いたいかといえば。

 

「……女神と遊園地デートとかしたい」

「死んでもお断りですわ」

 

残念。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

原作のイベントは詰まっている。

プリンセスと士道がデートしているのを眼下に眺めて女神とのデートスポット探しを開始する。

まったく羨ましい。

あぁ、そうだ。以前までの回帰で折紙が士道を狙撃して精神崩壊した事があったね。助言しておこう。

あれで未来に女神と絡む人材だ。

 

「という訳で鳶一折紙。何かをスコープ越しに狙う時はしっかり、冷静に、ゆっくり狙うといい。焦りや余分な感情はおまえの予期せぬ未来を呼ぶ。狙うべきを狙い、そうして引き金を引くと良い」

 

まぁ、歴史の流れを永劫破壊もなく変えられるとも思わないが。

 

「〈メルクリウス〉!?」

 

わざわざ擬音にするなら『びっくぅ!!』といった具合で飛び跳ねて折紙が驚いた。

君の影から頭を出しているだけでは無いかね。

普段大人しめな君にしては面白い反応ありがとう。

 

「ではね」

 

なにか言われたりするまえに影に沈んで逃げた。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

「……助言はしたのだが……」

 

やっぱりダメでした!

 

「さて、どうするべきか。防戦一方というか、戦意喪失しているな、あれ」

 

プリンセスを重力で押さえつけても良いがね。

というか、いたいけな肉食女子が嬲られてるのを助けに行かないで見ているだけとか結構鬼畜だなAST。

まぁ、私が手を出すまでもあるまいね。

おや、こちら側に斬撃が。

被害を確認していたASTが私に気づいた。

 

「〈メルクリウス〉……!」

「おや。ASTの諸君。奇遇だね」

「答えなさい……あなたは何を企んでいるの……!」

 

隊長格の女性が私に銃を向けて詰問する。

私にそれを聞くとは、愚問だね。

 

「我が女神の安寧を」

「その為に折紙をっ!」

 

乱射。

しかし、無意味だ。

 

「学習しないのかね?無知蒙昧、あまりに無為。あまりに滑稽。滑稽過ぎて笑ってしまうよ」

「……折紙は、あなたに狙撃に気を付けろと言われたといっていたわ」

「運命の流れを変えるには少々力が足りなかったようだね」

「………………。総員。退避」

 

憎しみを込めた瞳は私を変わらず視界に収めている。

あの瞳は我が息子や黒円卓の面々を思い出すね。

かつてはあのような目で良く見られたものだ。

 

「逃げるのかね?」

「ーー覚えておきなさい。貴方が何を企んで折紙を狙ったかは知らないけど……私は貴方を許さない……!」

 

あれ。

これもしかして黒幕認定受けてる?

折紙が狙撃ミスって士道に風穴空けたのも私が仕組んだことになってる?

善意の助言だったのだが。

 

「……私は善意で助言したのだが」

「信じるわけが無いじゃない」

 

まぁ、敵だし。

私としてはそこらの瓦礫と同じ認識だが。

 

「……過剰に敵意を持たれているところ申し訳ないが、一応言っておこう。私にとって女神以外は心底どうでもいい。お前たちは路傍の石を運ぶ際、運ぶ為に策を巡らせるかね?つまり--私にとっておまえ達はわざわざ策を巡らせて排除する程価値のある存在では無いのだよ」

 

これなら分かってくれるだろう。

出かけ先で絡まれるのも面倒だ。

潰してしまうのは簡単だが、それでは歴史が変わってしまう。

再び最善策を練るのも面倒くさい。

 

「故に、路傍の石よ。さっさと折紙を回収して消えるがいい」

「……一つだけ聞かせて。折紙を狙った……助言をしたのはなぜ?」

「思い付いたから、だが」

 

苦々し気な顔をして折紙を回収して撤退を始めたASTを尻目に、全裸のプリンセスを抱きしめて顔を赤くしている士道を眺める。

どうやら初心を忘れて居ない、純情な士道らしい。

これなら女神を近づけても安心だ。

次のハーミットでそれをきっちりと確認する。

鬼畜士道はハーミットを落とした後から発現するからね。

プリンセスでもそれが出てないかと言われればキスの時にディープな方でやってたりやたらと女慣れしてる傾向はあったが。

その分今回は大丈夫だ。

そろそろ帰路につこう。

今日の夕餉担当は私だからね。



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全部雨のせい

「納得行きませんわ……」

「私が料理すると毎回言っているね」

「何度でもいいますわよ!普通どころか一流レベルの料理技術持ってるなんてあり得ませんわ!変態なのに!」

「私は全知全能なのだが」

「……最近否定しにくくなってきましたわね……」

 

ともあれ。

私の料理を女神が美味しく頂いてくれるのは非常にありがたい事だ。

 

「わたくし、女として自信が無くなって来ましたわよ……」

「そんな女神も私は愛しているよ」

「……貴方はブレませんわね……」

 

はぁ、と物憂気な溜息を保存したところで外を見る。

 

「最近やけに溜息を吐くのは雨のせいなのだね。どれ、少し晴れにしてこよう」

「貴方のせいですわよ!」

「なるほど、照れ隠しの溜息と」

「……もうそれで良いですわ……」

 

完食。

……あ。

 

「女神の唾液付き食器……!」

「本気で気持ち悪いからやめて下さいます!?」

 

脳天を撃ち抜かれた。

 

「……貴方と話していると脳が溶けそうですわ……」

「脳が蕩けそう?それは参ったな女神。私には共にベッドインするしかやれる事が無いのだが」

「助走付きで殴り飛ばして欲しいんですの?」

「女神ならば悦んで」

 

女神(分身体)のロケットパンチが私の顔面を捉えた。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

「さて。どうかね。たまには散歩でも」

「今度は何を企んでいるんですの?」

「女神にもそう見えるのかね……」

「……あの、いじめてるわけではないので三角座りやめて下さいまし」

 

小声で気持ち悪いと言ったのがはっきり聞こえた。

とはいえ演技だ。

 

「では女神よ。デートと行こう」

「……えっ」

「ドイツ仕込みのデートをこれでもかという程味わわせよう」

「えぇっ……いえ、あの、私は--」

 

有無を言わさず連れ回した。

最初は乗り気じゃなかった女神だが、少しずつ笑顔が増えてきたので良かったとしよう。

あまり家に篭りきりでも良く無いのだから。

 

「わたくし、あなたに聞きたいことがありますの」

 

帰り。

通りすがりに寄ったゲーセンで手に入れた獣殿似のぬいぐるみを抱く女神が、いきなり立ち止まって口を開いた。

 

「何かね女神」

 

その目は真剣そのものだ。

 

「なぜ、貴方はわたくしにこんなにも良くして下さいますの?」

 

簡単な問いだ。

 

「私が女神に恋してるから……では不満かね?」

「……えぇ」

 

こんな時、獣殿だったら甘い言葉を吐いて一気にベッドインな訳だが、私にはそんな技術はない。

 

「ならば、私には答えようがないよ。真実、私はあなたに恋をして、愛しているが故にこうしているのだからね」

「……嘘っぽいですわよ」

 

見れば、震えている様にも見える。

なにか不安にさせたのだろうか。

雨か。雨のせいか。

おのれ許さん。

 

「証明が必要かね?」

 

なるべく優しく。

女神を抱き寄せる。

 

「キスとかでは嫌ですわよ」

 

この流れでそう来るかね……。

……難儀な……。

 

「ふむ。では結婚届を書いて提出しよう」

「……割と生々しい本気ですのね……」

 

伝わった様で何より。



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吹雪の日と嫌な夢

私と女神は天宮市市街地戦闘の余波で破壊されたビルの内部に来ていた。

 

「さ、寒いですわね……」

「ふむ。外ではハーミットが暴走しているからね」

「……会ったら蜂の巣ですわ……」

「ふむ」

 

とりあえずマレウスの軍服を再現したものを上から羽織らせる。

暖かさで言えば獣殿なのだが、マレウスコスの女神を見たくなっただけだ。

 

「それはさしあげよう」

「……なんでこんなにピッタリなんでしょうか」

「あと十二種類あるが、欲しいかね?もちろん女神サイズだが」

「……軍服にバリエーションって必要なんですの?」

 

よくよく考えると下半身が寒いので私の軍服を渡す。

 

「……あっても問題あるまい」

 

素直に羽織る女神かわいい。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

唐突に吹雪が始まった。

ドーム型に見える吹雪の中心にハーミットが居るのだろう。

というか近いな!

 

「あぁ、そんなに寒いのかね?まだ軍服は山ほどあるが」

「あなたのマントをわたくしは所望します」

「確かに軍服よりは風通しは悪いが。良いのかね?あちらこちら破れていて女神に合わないと思うが」

「つべこべ言わずに下さいまし!寒いよりマシですわ!」

 

あぁそんな強引な。

下に軍服着ていてよかった。

というか女神重ねすぎだろう。

下からマレウス・獣殿・私の軍服・マント。

 

「あったかいですわ……生き返る様ですわ……」

 

ともかく。

後でしっかりと匂いのついた服達は回収しておこう。

 

「女神はそこで見ていたまえ。私は外に出て来る」

「……あ。あ、えぇ、分かりましたわ。ここで待ってますから、必ず帰って来て下さいまし」

「もちろんだとも。私の帰る場所は女神の元以外にないのだから」

 

いつもより心配性な女神が愛らしくってもう士道なんて放置じゃダメかな。ダメか。

女神が幸せに至る道には必ず士道が必要なのだ。

ハーミットの方も原作通り終わったし。

この士道ならば安心だ。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

夢を見た。

黄昏の世界と、極大の外道。

必死に迎撃する黄金の爪牙と息子のレギオン。

 

「カール。逃げたいのだろう?」

 

黄金が私に問うた。

 

「……何をおっしゃる獣殿。私が。水銀の王ともあろうものが黄昏を置いて逃げると?」

「カールよ。このままでは私達は全滅だ。卿が座につき直す隙も無いだろう」

 

それはまぁ、その通りなわけだが。

 

「少しなら注目を惹きつけられるだろう。その隙に一旦退却せよ」

「獣殿はどうなさるのか」

「決まっているだろうカール。私の愛は破壊の情--故に、()す」

 

頼もしく笑う黄金にはすでに片腕が無い。

それでも黄金は私に道を示した。

『私がどうにかするから対抗する手段を整えて戻れ』

あぁ、なんと頼もしいのか。

なんて甘いのか。

そういえば、黄金は愛するものを喪いたくないのだったか。

--親友、か。

 

「ならば任された獣殿。申し訳ないが、少しの間持ちこたえて欲しい」

「無論だ。私は約束を違えないのでな」

 

「滅尽滅相ォォオォ!!」

 

私が次元を跳躍した瞬間。

次元の彼方にまで響き渡す下衆の声が聞こえた。

飛来するは黄金の槍。

魂を幾万も乗せたそれを迎撃し、瞬時に次元跳躍。

追跡は無かった。

 

寝覚めは、最悪だった。



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いってきます

「大丈夫ですの?随分うなされていた様ですけれど……」

「あぁ、すまないね女神。だが心配には及ばないよ」

 

目が覚めると女神の顔がアップであった。

表情は心配に歪み、気遣わし気に私を見ている。

 

「少し、昔の事を、ね」

「そうですの……」

 

ありがたい事だ。

しかし、申し訳なくもある。

何せ今日は転校して士道に接触を試みる日なのだ。

今日は本体が行くことになっている。

つまりは、制服だ。

 

「……女神よ。少し直立していただけるかな」

「はい?」

 

疑問をあげつつも言った通りに直立してくれる女神はまさに至高。

あまりの愛らしさに思わず鼻からも(ことわり)的にも流れ出そうになる。

流出--女神至高天・天元突破。

聖遺物は女神の制服(使用済み)。

危ない危ない。

 

「あぁ、もうよろしい。女神の貴重な制服成分を補給出来たのでな」

「殿方って制服好きですわよね……」

「真理ではあるな」

 

女神自慢の時に制服の話で大分盛り上がったのを思い出す。

自分でも思い出すと引く程話し合った気がする。

 

「カリオストロさんはどうするんですの?」

「無論、女神のそばにいるよ。このような貴重な時間を無駄にしたくはないのでね」

「……盗撮は禁止ですわよ……?」

 

撮影などはしないとも。

ちょっと時空間から切り離して保管するだけで。

 

「さて、ではいってきますわ」

 

この刹那も空間から切り取って保管しよう。

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

「今日から教育実習で来たカール・クラフトだ。得意科目は天文学。趣味は占いと歌劇だ。仲良くしてくれるとありがたい」

 

そばにいるとは言ったが、影に引っ込んでるとは言ってない。

学校に潜入する為の情報操作など、運命を決めることに比べれば片手間以下だ。

憮然とした表情の女神を視界に収めつつ、私は教室の後ろに立つ。

ふふ、しかし女神も茶目っ気があるのだね。

開口一番に『わたくし、精霊ですの』とは。

分かっているが可愛いものだ。

あの笑顔は忘れない。スタンバイ時に鼻血を抑えるのが大変だった。

折紙と目があったので笑かけてみた。

職員室で合流した際にも受けたが、女神からの冷たい視線が中々ゾクゾクする。

あぁ、可愛いものだ。

家を出る時間をズラした甲斐があるというものだ。

今回最大の英断だったね。

 

「ど、どうしたんだ折紙?」

「……別に。なんでもない」

「……むむぅ、なんだかあのカールとかいう男、変な感じがするぞ」

 

プリンセスは野生の勘が冴え渡っているね。

まぁとはいえ、私の正体にまで至るわけではあるまいから放置だ。

 

「まさか精霊……?」

「えっ……」

 

プリンセスの声に士道が絶望感溢れた声を出した。

私もごめんだがね。

士道とキスなど。汚物で口をすすぐ所存である。

……女神に嫌われるので泥水にしよう。

だから女神は『面白そう』みたいな顔で見るのをやめてもらえるかね。

可能性としてはこれからの動きによっては十分あり得るのだ。

BLなど誰得だ。

恐ろしい。

 



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夢は荒唐無稽だからこそ夢

座に来訪者が現れた。

 

「ここは女神の為の場所だ。故に、貴様の着席を許す訳にはいかない。さぁ、踏み込み過ぎた役者にはご退場願わねば」

 

誰であろうと、どんな渇望だろうと許されない。

 

「……お前が……お前が全部糸を引いていたのかカール先生……!俺がこうなったのも……あんたを好きになったのも……!」

 

五河士道。

我が女神を救うため、止む無く永劫破壊を組み込んだ新たなる使徒。

 

「然り然り。他力本願は私の十八番。お前の好意も私にとっては塵同然の価値しかない」

「嘘だったっていうのかよ……あの時のキスも甘い言葉も--------ッ!」

「はてさて。どうであったかな。覚えておらんなそんな事。どうであっても、ここに辿り着いた時点で潰し合う運命にあるのは自明の理。黄昏でもあるまいに、共存など出来ぬのだ」

「……----なら、俺も俺の望みを--絶望が無い世界を叶えるため、あんたを、今この刹那に超越(こえ)る----ッ!」

 

--彼の渇望が世界を塗り替える--。

 

Lux. (光よ。)

Sanans vulnera,(傷を癒し、)

Sum disciplinam, et mente(心を育む)

Lucem sanctam.(聖なる光よ。)

Et absterget Deus tenebris(暗闇を拭う)

Salus autem mea in luce quae a calido.(暖かな光こそ我が救い。)

Etiam hic nocere eggplant,(ここでは害なす人も、)

Tum abest auctor.(蔑む人もいない。)

Cum turbæ irruerunt in sacrum characterem(聖なる印を押された民は)

Semper beate vivere,(永劫幸せに暮らし、)

Ego pacem.(安寧を約束される。)

Coniecto desperes quia nunc(きっと今の絶望は)

Eadem illa felicitas(いつか来たる希望への過程なのだと)

Et habebis fiduciam.(信じていられる様に。)

Promissio(私は皆に約束しよう。)

Quisque et nunc(これより誰一人として)

Non laedas(傷付ける事叶わん。)

Atziluth(流出)--

Ullus lux(光あれ)--Lux in tenebris ut(絶望掻き消す一筋の光)

 

全力で飛び起きた。

なんだこの電波(未知)

こんな未知いらない。

目覚めは昨日に引き続き良いものでは無かった。

私が攻略されると士道が流れ出るのか。

恐ろしい話である。

余談ではあるが、夢の原因は寝ている私の耳元で『士道さんとくっつく』などと囁いていた女神だったようだ。

女神のいたずらなら仕方あるまい。

 

 

 

 

 

 

#side  鳶一折紙

 

 

 

 

 

〈メルクリウス〉--世界で二番目に観測されつつも、登録されたのは七番目となった男性体の精霊。

その戦闘力は他の比ではなく、この精霊に関しては直接の戦闘を避ける事を推奨されている。

吐息で部隊が瞬殺されただとかの報告書多数。

天使は不明。

特徴として、演技がかった口調と、胡散臭い動き、神出鬼没などがあげられる。

様々な事件を裏で操っているともされ、彼が把握していない事件を探すことはおそらく困難。

最も際立つ特徴として、精霊〈ナイトメア〉を女神と呼び慕い、コレに被害を与える事を非常に嫌うこと、女神以外は塵だと言って憚らない事があげられる。

--そんな存在が教育実習とか言って現れた。

 

「……何を、企んでいるの……?」

 

決して届かない問いをこぼすが、答えは無い。

こんな場所から届いたら怖い。

そもそも届いたとして答えてくれる事は無いだろう。

五河士道には既に近寄らないで欲しいと告げてある。

どうであっても彼に〈メルクリウス〉を近づけないようにしないとならない。

彼は、私が守る。

 

「だから、こうして撮影しているのは必要な事。うん」

 

現在、ナイトメアに士道が学校案内しているのを追跡中だ。

プリンセスと共に。

 

「さっきから何をしておるのだ?」

「あなたには関係無い」

「むぅ……見せるのだ!」

 

あ、だめ、そんなロッカーの中で暴れたら--。

ばたん。

開かれた扉、倒れこむ私達。

……プリンセスに押し潰される私。

 

「……お前ら……何やってるんだ……?」

「仲がよろしいんですわね」

 

重い。どいてホルスタイン。

 

「ほ、ほるすた……?なんだそれは。うまいのか?」

「乳牛ですわよ」

 

ナイトメアのツッコミにプリンセスが泣いて逃げた。

 



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水銀のドキドキ追跡デート

こちら水銀の蛇(スネーク)

女神と士道のデートを追跡中。

すこしばかり暗黒天体を創造してもよろしいだろうか。

嫉妬心だけで回帰してしまいそうだ。

本家水銀はなんてこんな苦行を受け入れられたのだろうか。

いや、分かっている。

黄昏を何よりも優先した水銀だから。

ぬ、女神を剥いて自分好みの下着を着させるとはこやつ……。

 

「マジ引くわぁー」

 

まったくだ。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

デートも終盤。

流れとしては女神が猫をいじめている集団を血祭りにあげて士道に見られる。

そして、士道の実妹に返り討ちにされる訳だが。

もちろん、それだけは許容しない。

 

Gravis ira regum est semper. (王の怒りは常に重い)

 

超新星爆発を芥くらいに弱めた爆発魔法だ。

トドメを刺さんと振り上げられた剣を爆発させる。

 

「やっぱりいやがりますか、〈メルクリウス〉……!」

「……」

「カリオストロさん!」

 

まぁ向かわせるのは息子似の人形な訳だが。

 

「ぬい……ぐるみ……?」

「ち、今回は眷属だけでいやがりますか……」

「おい!あいつは……!」

 

女神を回収して人形を帰還させる。

 

「危ないところだったね女神」

「ありがとうございますわ」

「何、礼には及ばないよ」

 

人形を消して、女神を横抱きにする。

 

「では、帰投するとしよう」

「えぇ」

 

転移して女神の分身を本体の影に収納した。

 

 

 

 

 

 

#side  ラタトスク

 

 

 

 

 

 

 

「特殊な霊波確認。特定しました!」

「〈メルクリウス〉……ね」

 

居るとは思ってたけど。

とラタトスク司令官、五河琴理は呟いて飴をくわえなおす。

 

「どうします司令。これでは手出し出来ません」

「そうかしらね。今回〈メルクリウス〉はASTの妨害があって初めて現れたわ。つまり……」

「〈メルクリウス〉は時崎狂三の封印を邪魔する気はない。ひとまずそう考えてもいいだろう」

「そうね。令音」

 

謎が多い精霊〈メルクリウス〉。

その行動原理はある一人の精霊の為に、というものだという報告があり、何回かの出現理由を吟味して行けばそれが事実だと誰でも思うだろう。

 

「しかし、参ったわね。〈メルクリウス〉の狙いがまったく分からないわ」

 

曰く、〈メルクリウス〉はかの精霊を愛している。

曰く、ソレ以外は塵。

本人が何回か発言しているそれを加味すると、どう見ても士道に寝取られようとしているようにしか見えない。

 

「分かりますよ!愛するものがポッと出の男に奪われる快--ブレバッ!?」

「ふん、ブレバだって。反動ダメージでも受ければ良いんだわ」

 

とはいえ、〈メルクリウス〉が特殊性癖を持って居ないとは限らない。

そうなると今度は〈メルクリウス〉攻略が難しい訳だが。

 

「……〈ナイトメア〉の好感度メーターは?」

「士道君に対してはそれなりに高い数値。〈メルクリウス〉に対しては比にならないくらい高い数値だ」

「……まぁ、士道と会うまでにかなり騎士様してくれてるみたいだし、当然の結果といえば当然か……」

 

士道にはこれを超えてもらわないとならないわけだ。

琴理は真っ赤になった円グラフと半分ほど赤く染まった円グラフを見比べてため息をついた。

 

「どんな最難関ヒロインよこれ……」

 

しかも自動的にNTR付きと来た。

士道の訓練に追加するしかないわ、と琴理は憂鬱になるのだった。



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13話

「さて、そろそろ一石を投じるとしようか」

「ロクなことにならないので手を出さないで下さいまし」

 

酷い。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

というわけで女神を全力で守り抜いた後、私達は普通に登校していた。

敵意全開で睨みつけてくる折紙が怖い。

 

「あなたたちの目的はなに?」

「ふむ。人目につかない場所を選んだのは失策ではあるね」

「きひっ、全くですわ」

 

女神があっという間に折紙を影で拘束。

百合百合しい展開が始まった。

 

「あっ、やめ……触らないで……」

「きひひひひ……」

 

ぴろりん。

冷たい視線が二組私を貫くが気にせずポケットにカメラをしまう。

携帯に付属しているカメラで撮影など言語道断……!

 

「……こほん。興奮し過ぎましたわ。ともあれ、わたくしは士道さんを頂く為にここに居ますの」

「私は女神をストーカーする(守る)ために」

「あなたは黙って」

「……何か今ぞわりとしましたわね……」

 

勘がいいね。

私が考えていることが分かる、つまり、そう、つまりこれは私と女神が以心伝心している証……!

 

「……あの、悶絶しないで下さいません?」

「〈ナイトメア〉。あなたは側に置く人をもう少し考えた方がいい」

「……おや、最近私の株は急上昇しているはずなのだがね」

「今のでマイナスですわよ」

 

これは手厳しい。

 

「おや。そろそろ私は戻らねばならん。女神も教室に戻らねば遅刻だぞ」

 

女神が遅刻したら情報操作するが。

 

「分かりましたわ。では戻りますわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

さて。時間は飛んで。

現在屋上で女神と士道が向かい合っているのを上空から見ている。

あ、飛び降りた。

女神に抱き抱えられるなど……許すまじ……!

 

「俺は、お前を救うって、決めたんだ……!」

 

よし、第一のターニングポイント通過だ。

ポカンとした表情をしている女神も可愛いよ。永久保存だね。

第7952496318967個目のコレクション。女神のポカン顏、と。

これだけであと七京回は回帰出来る。

私の隣の空間が軋みをあげ始め、私の腕を抱き込むように巻き込んで行く。

--痛い痛いでも女神の空間震……!

 

「さぁ、撤回して下さいませ!」

 

おぉ、白熱している。

 

「必死な女神も可愛いね。この情景もまた、時空間から切り離して保存しよう。……おや、言いくるめられている。ふふ、悔しそうな顔も素敵だよ我が女神」

 

本体たる女神が女神を腕で刺し殺して登場。

少し心が痛いが、仕方あるまい。

折紙と十香も登場。

さらに実妹である祟宮真那も登場。

役者は出揃った、という事か。

 

「あなたにわたくしは絶ェ対に殺し切れませんわァ!」

「貴様を殺す。それが私の存在理由ってわけです……!」

 

戦闘開始、というわけだね。

 

「さぁ、私達の舞台を始めよう。他ならぬ女神の幸せの為に」

 



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女神エスケープ

と、勇んで言ってみたはいいが、私は女神に手出しを禁じられた身。

 

「仕方あるまい。なれば、私に出来ることなどここから女神の勇姿を撮影することくらいか」

 

屋上を埋め尽くす女神。ぱしゃり。

あっという間に真那を瞬殺。十香も折紙も拘束。勝者の余韻に浸る女神。ぱしゃり。

さて、そろそろ二つ目か。

〈イフリート〉が士道ごと女神を殺害する。

これが回帰のターニングポイント。

とはいえ、私がさせんが。

士道が死んでも女神は救うとも。

私が決意新たに屋上を見ると、その若干上に炎が舞った。

それは徐々に球形を成し、中から鬼の角のような装飾を頭につけた和装の少女が現れる。

 

「--琴、理……?」

 

折紙の視線が琴理に向く。

その瞳に映るのは、復讐の情熱。

 

「あぁ、万象、ここより舞台は加速する。さぁ、失望させてくれるなよ、五河士道--」

 

「士道。少しの間、力を返してもらうわよ。--焦がせ〈灼爛殲鬼(カマエル)〉!」

 

灼熱が巨大な戦斧となり、琴理はそれを構えて女神に突貫する。

女神も興奮気味に応戦するが、その再生能力には手を焼いているようだ。

そして、ターニングポイントに差し掛かる。

破壊衝動に呑まれた琴理が我が女神に戦斧を向ける。

戦斧は形を変え、巨大な砲身へとなる。

その一撃で六人もの女神分身体が焼滅した。

さて、次だ。

 

「銃を取りなさい。闘争はまだ終わってないわ。あなたが望んだのよ。--立ち上がらないというなら、死になさい」

 

砲身に炎がチャージされる。

圧縮され、打ち出されるそれは間違いなく女神を焼き滅ぼすだろう。

 

(メギド)

 

士道が女神をかばう。

ターニングポイント通過、だ。

しかし、メギドを逸らすのが若干遅いらしく、女神の直撃コースを走っている。

ならば。

 

「--私が盾になるしかあるまい」

 

じわり。と士道の前に湧き出てみた。

 

「カ、カール先生!?」

「然り然り。私はカール・クラフト。そして、君たちの言うところの〈メルクリウス〉でもあり、かつて水銀の蛇と呼ばれた男でもある。五河士道。感謝しよう。我が女神をその身を呈してかばった事は借りの一つ二つでは賄えない程の偉業である」

「カリ、オストロさん……」

「うそ……砲が……片手で……」

 

片手で圧縮した炎を握り潰す。

座の本体であれば一睨みで消しされる訳だが、端末もしくは触覚である私には無理だ。

 

「あぁ、ぬるい。ぬるいぞイフリート。私を焼こうというのなら、あと一億度は温度を高めねばならないよ」

「焼くつもりなんか無いわよ!」

 

知っている。

 

「ふ、申し訳ないが五河士道。女神の攻略はまた後だ。落ち着いた頃にまた来よう」

 

しゃがみ込んで死の恐怖に震える可愛らしい我が女神を抱き上げる。

 

「ま、待ってくれ!」

「何かね?」

「あんたは、本当に精霊なのか……?」

「さて。人外である事は確かではある。そら、士道。そろそろフラクシナスに救援を呼ぶといい。折紙、真那両名共に救急車を手配した。私の事は折紙か真那がよく知っているだろう」

 

今度こそ私達はその場から消えるように逃げ去った。

 



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お風呂回

とりあえず私達は今。

温泉に来ている。

しかも混浴!

水着着用が残念だが、別に裸体をみたいわけでは無い。

 

「ふふ、ふ、ふはははははははははははははははははははははは------ッ!そう、私は今--生きているッ!!」

「カリオストロさん。わたくしが身体を洗ったあとのお湯と泡を回収するのやめて下さいまし。あと浸かった後のお湯も」

「なんという拷問。女神に触れただけでもはや至高の聖遺物だというのに……!」

 

思いっきり踏まれた。

私にとっては褒美に近いものがあるのだがね。

女神の華奢で柔らかく小さな足裏の感触を堪能出来るのだし、さらに視線を上に向ければ、あぁ!あぁ!

 

「獣殿。至高天は、ここにあった」

「カリオストロ気持ち悪いですわ……」

 

それすらすでにご褒美……!

 

「とてつもない変態ですわねッ!!」

 

何を今更。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

「あの……カリオストロさん」

 

温泉から出た後、浴衣姿の女神がもじもじといじらしく私に話しかけて来た。

あぁ、そんな奥ゆかしい女神も素敵だよ。

 

「あの、わたくしの事、どうしてそんなに……あの、あ、愛して下さいますの?あなたを置いて士道さんとデートに行ったりしているのに……」

 

そういう女神の顔は真っ赤に染まっている。

自分の事を聞くのは誰でも恥ずかしい事だ。

 

「女神が女神であるだけで私は女神に恋するのだよ。そして、私の目的は女神に幸せに暮らしてもらう事。--あなたが消える事など、私には耐えられない」

「……。あなたが、分かりませんわ。でも、なんででしょう。貴方になら、わたくしの目的を否定されても嫌じゃないですの」

「あぁ、予言しよう。私はいつか、君の目的を邪魔する最大の敵として立ちふさがる」

「怖いですわね。越えられる気がしませんの」

「しかし、それでいても、私は君に恋を続けるだろう。万象全ては君の幸せの為に」

 

その為にこの世界を回し続けているのだから。

 

 

 

 

 

 

#side ラタトスク

 

 

 

 

 

隔離部屋。

そこで士道と琴理は相対して居た。

 

「私をデレさせなさい!」

「……はっ?」

「あの時。私の攻撃は確かに士道ごと狂三を焼くコースを走っていたわ。〈メルクリウス〉が止めてくれたおかげで大事には至らなかったけれど」

「お、おう」

 

士道は目の前に急に現れて炎を握り潰した教育実習生を思い出す。

あらかたの説明で〈メルクリウス〉が〈ナイトメア〉につきまとう精霊だ、というのは聞いたが、的外れで無いものの、当たりではない事は知らない。

 

「怖いのよ、私が。いつか誰かを殺してしまうんじゃ無いかって。だから--」

「……琴理……?」

「--たすけて、おにーちゃん」

 

確かにこの瞬間。

舞台は定められたルートを外れた。

この場に〈メルクリウス〉が居たならば、その意味を知覚し、先を予測。

全てを女神に都合良く回す為に調整に走っただろうが、ここに彼は居ない。

座の本体が知覚していても、今は女神の浴衣に夢中だ。

本格的にダメなニートだった。

 



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ぶらり散歩

ぶらり女神と時間補充の旅。

適当にDEMやASTの駐屯地に突入して吸い上げるだけの簡単なお仕事だ。

 

「どうかね女神」

「まずいですわね」

 

あまり美味しくはないようだ。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

晴天である。

超晴れ。

女神も日焼け止めを念入りに塗っている。

--そう、水着で!

黒のシンプルなものだがそれが却って普段フリルだらけな女神の細さを強調し、その白い肌と相余って……!

 

「あえて言葉にさせていただくならば、エクセレント。ブリリアント。もしくはちょーかわいーといった具合か。よく似合っているよ、我が女神」

「……マント脱いだらどうなんですの……?」

「裸だが」

「熱中症で死んで下さいまし」

 

あぁ、女神が私の心配をしてくれている!

この浜辺も時空間から切り取って保存しておこう。

 

「……はぁ」

「保存、と」

 

おや。

これは……足跡……!

ビーチ素晴らしいな!

 

「足跡も回収しないで下さいまし!」

 

眉間を撃ち抜かれた。

真っ赤に染め上がった表情が素敵だよ女神。

 

「ウザいですわ……」

 

はっはっ。

私を止めたければ私の自滅因子を連れてくるのだね。

ともあれ。

なんとも今回の回帰はコレクションが増える増える。

喜びが天元突破である。

 

「〈ナイトメア〉捕捉」

「……Gravis ira regum est semper. (王の怒りは常に重い)

 

なんと無粋な。

バカンスしてたらDEMに囲まれた。

女神を背後に隠してDEMの木偶人形を吹き飛ばす。

 

「〈メルクリウス〉捕捉」

 

以下略である。

意識を割く時間すら勿体無い。

あまりに無意味。

吐息で沈むような芥に割く様ならば目の前であまりの敵の数に若干怯え入ってる女神を撫で回したり写真撮ったりくんかくんかするね。

 

「あぁ、女神、あぁ!女神!」

「鬱陶しいですわ……」

 

そんな殺伐とした日常。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

しかし、ある時に転機が訪れた。

私達の元に、二人の男女が訪れたのだ。

 

「見つけたぞ第四天……!」

「変態の聖遺物を埋め込んでくれた恨み……」

「「今!ここで晴らす……!」」

 

ぶっちゃけ転生してきた人らだった。

なんだかよくわからない怒りと共に理解したことは、第六天から逃げる時に黄昏コレクションを落としていた訳だが、そのコレクションもやはり黄昏の残滓。神の片鱗のようなものが宿っているらしい。

今のところ一番強い特典を寄越せ、ついでに世界観を移動できるようにしろといった願いを叶えさせて手に入れたのは黄昏の女神のコレクション。

砂浜に残った足跡(女神の残り香付き)とブロマイドだ。

永劫破壊じみた何か別の術も施されているらしく、永劫破壊でいえば形成段階にあるらしい。

女神をマントの中に抱き込んで交戦に入る。

 

擬似形成(イエッツラー)--正義の御御足(ジャスティス・ワン)

擬似形成(イエッツラー)--封時の鏡面(ミラー・ザ・シール)

 

女の背後に巨大な脚が現れる。右だけだが、女性のもので、しかして脚だけで十分色香を放っている豊満さを持っているが、どこか未完成な危うさを持った美少女を思い浮かべるものだ。

男の手には写真機。

こちらに向けてシャッターを切るのでポーズを決めてみた。

周囲の景色が消し飛んだ。

続いて畳み掛けるように御御足が降ってくる。

なるほど、脚フェチにとってはまさに正義の一撃だろう。

女神の脚なら迷わず受け止めて舐め回す所存であるが、黄昏のものなら本家水銀か息子にでもくれてやるさ。

全くもって、舐められた話である。

形成位階。それも疑似的に似せられた贋作風情が正真正銘の流出に叶うわけがない。

 

「ふむ。これで終いか?ならばこちらから行くが」



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不動プレイ

「うそ……いくら形成だからってこれは……」

「あぁ、いい加減に脚を退けてくれるかね」

「そこだっ!」

 

また撮られたのでポーズを決める。

また周囲が消し飛んだ。

どうやら被写体を写真に封じ込める能力があるらしい。

 

「なるほど、興味深い能力ではあるが、それだけだ」

 

吐息で形成された聖遺物ごと吹き飛ばす。

腕を振るう気すら起きない。

 

「おまえたちは使い方を勘違いしている。もしもそれが我が永劫破壊(エイヴィヒカイト)だと仮定するならば、まず、渇望が足りん」

「う、わ、……っが」

 

鼻息で女の方が死にかけている。

 

「これが、位階の違い……」

 

位階どころかまず施されている術式がそもそも似ているだけの別物な訳だが。

胸板を唐突に叩かれた。

女神だ--あぁ、なんて可愛らしい。

癒しだね。

 

「あっあの!はやく出して下さいまし!後生ですから早く!迅速に!出来れば今すぐッ!」

 

慌てたような声だ。

そんな声も素敵だよ女神。

 

「今だしたら消し飛ぶが……それでもかね?」

「あぁ出して--消しッ!?」

 

マントの中で硬直した女神を出そうとマントをゆっくりと剥ぎとろうとすると、中から女神の嫋やかな手指が高速で私のマントを掴み、それ以上動かないように固定される。

 

「……五分。五分だけ我慢しますわ。五分で終わらせて下さいまし!あぁ!動かないで!」

 

五分で片付けよとの命を受けた。

しかも不動でとの縛りプレイだ。

獣殿や息子以外では余裕の行いだが。

 

「あのマントの下に女の子がいる!?」

 

この変質者め!と男が叫ぶが、その原因を作ったおまえにだけは女神も私も言われたくない。

 

「我が女神、時崎狂三である。さて。この即興劇もカーテンコールといこう。早く終わらせて早く遊びたいのでね」

 

腕を振るった。

それだけで空間震もかくやというほどの衝撃が前方を薙ぎ払う。

 

「仮にも。擬似とはいえど聖遺物の使徒ともあろう存在がこの程度かね」

「んな、わけ、ねぇだろ!」

 

濛々と立ち込める土煙を吹き飛ばして男が飛び出してきた。

一箇所だけ吹き飛んで居ない部分があるので、薙ぎ払いを被写体として撮影したのだろう。

女はもうだめだ。

脚で軽減させようとしたが、形成位階程度が何をしようと蟻と象がタイマンするようなものだ。

あっという間に脚が壊れ、女はボロ雑巾のように吹き飛んだ。

多分死んだと思う。

 

「ふむ。自慢気に出て来たところすまないが。Ira furor brevis est(怒りは短い狂気である).

sequere naturam(自然に従え)

 

この日、〈メルクリウス〉が起こした災害として最大規模のものが記録に載った。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

「悪夢でしたわ、夢に出そうですわ……」

 

更地になった中心で頭を抱えて涙目で呻いているのは女神だ。

 

「どうしたのかね?」

「どうしたって……貴方のっ……何言わせようとしてますの!?」

 

長い方の銃で頭を殴られた。

もはやそれすらご褒美……!

羞恥で染まった表情などもはや絶頂すら覚える……!

さすが我が女神。一挙一動が私を左右する……!

 

「さて、次はどこに参ろうか、女神よ」

「そうですわね……北海道で蟹を食べたいですわ」

「仰せのままに、我が女神」

 



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蟹。

蟹。

それは高級食材とされ、家族で食べる際には無言の空間が広がるものとゾーネンキント(腹黒)が言っていた。

星座で言えばそのまま蟹座で、占星術的な言い方をするならば巨蟹宮。属性は水で、活動宮であり、男女で表すならば女性宮。支配惑星は月で、月とは銀の属性をもつ。

蟹座が双子座や乙女座の位置にあれば蟹座が水星……つまりは水銀の属性をもつ惑星に対応し、女神に占星術的な意味で食される感覚を味わえたというのに……。

星座を動かすか……?

次の回帰では考えておこう。

もちろん回帰しない事が一番良いのだが。

 

「カリオストロさん?どうかしましたの?」

「あぁ、すまない。少し女神に見惚れてしまってね」

「……あぅ」

 

女神はまた静かに蟹を食べ始めた。

もくもくと食べるその姿はまさに小動物。

あぁ、あぁ、なんと可愛らしい。なんと可憐。私の貧弱な語彙ではその姿を正しく表現出来ない。

故に、女神の食べ残したカスや女神が触れた蟹の甲殻を回収し、保存し、愛でることしか私には出来ん。

 

「カリオストロさん?そちらはわたくしの食べカスですわよ。こちらを食べてはいかがですの?」

 

女神に回収を阻止されたが、女神から直接手渡しで蟹を渡された。

 

「女神。あーんしてくれると嬉しいのだが」

「…………………………仕方ありませんわね。一回だけですわよ?」

「本当か女神!!」

「やっぱりやめましたわ」

 

もぐ、と女神は差し出しかけた蟹を自分で食べた。

くれ騙しするなんて可愛らしい……!!

 

「カリオストロさん、追加の蟹を注文しますわ」

「……少し食べ過……あぁ、なんでもないよ。二杯で良いかね?」

「三杯で」

 

少し本気で食べ終わったら暗黒天体で店ごと料金踏み倒したくなった。

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

腹ごなしにロシアまで足を運んでみた。

女神を小脇に抱えつつ海を歩いて渡った訳だが、認識阻害するのを忘れていてロシアの人民共に、『オゥジャパニーズニンジャ!ブラボォー』みたいな感激の視線をもらった。敵性言語?知らんな。女神が話す言語圏以外は全て敵性言語だ。

とりあえず彼らには『遺憾の意』としてディスケリーベンスしたが。

 

「たまにわたくし、自分が霞んで見えるくらいあなたがとんでもない外道に見えるのですが」

「女神が外道?そんなことはあるまい。私が保証しよう。我が女神時崎狂三は至高の神であると」

「……自分の事は否定しないんですのね」

 

回帰し続け幾星霜、やり直す端から外道外道言われ続けていれば慣れるというものだ。

 

「私の事はどうでもいいのだよ」

「……あ、見て下さいまし!狼ですわ!」

 

モフモフしたい!と目を輝かせる女神を愛でつつ、私も犬にでもなればモフモフしてもらえるかと想像してそのうち実行することを固く決めた。

 

「カリオストロさん、次はカンガルーを見たいですわ!」

「あぁ、わかった。ならば動物園にでも行こう。わざわざ国境を跨ぐというのも疲れるだろう?」

「……カリオストロさんが疲れるだけですわね」

 

女神に触れているのに疲れるわけもなかろう。



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19話

動物園で様々な動物を眺めて楽しそうにしている女神を眺めて撮影。

その後お土産としていくつかのぬいぐるみを購入し京都に予約したホテルに入る。

 

「今日は楽しかったですわ。ちょっと色々ありましたけれど」

「楽しんでいただけたようでなによりだよ女神」

 

おかげで女神コレクションが六千くらい増えた。

 

「そろそろ天宮のわたくしの報告がくる頃合いですわね」

「あぁ、士道のハーレム作成の中途報告だね」

「……身も蓋もない言い方やめてくださらない……?」

 

本当の事だと思うのだが、どうだろうか。

 

「あぁ、来ましたわね」

 

中途報告といってもただのメールだ。

双子と妹を落としたとの事だ。

確か、次は高確率でアイドルだったね。

 

「ふむ。順調にメンバーが増えているね」

「だから……いえ、もういいですわ」

「次の精霊は恐らく苦戦するだろう。何かあれば私が出向こう」

「オーバーキルも良いところですわね」

 

自重はするとも。余波で士道が死んだらどうしようもない。

 

「あぁ、あと、DEMには世界で二番目に現れた精霊とやらが幽閉されている。余裕があれば探してみると良いだろう」

「……分かりましたわ」

 

ちょっと困惑気味だ。

そんな顔も撮影しよう。

 

「……カリオストロさんはどうしてもって場合にだけ出て来て下さいまし。他はわたくしが行きますわ」

「女神がそう言うのなら、私に異論は無いよ。では、そうだね。天宮入りはしておくとして、最後にバスか何かで景色でも楽しみながら向かうとしよう」

「あら、それはいいですわね」

 

そういえば最近女神から蔑みの言葉と視線を貰っていないね。

踏んでもらいたい私としてはどうも物足りないのだが。

『踏んでもらいたいのだよ』とかつて獣殿に言った事を思い出す。

あの時は再現のため、とか思っていたが、今は本気だ。

 

「ともあれ。では明日にでも向かうとしよう」

「えぇ、ではおやすみなさい」

「あぁ、良き夢を、我が女神」

 

 

 

 

 

 

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最後の観光としてバスに揺られながら天宮に向かう。

景色に釘付けになる女神が可愛い。

さて、先ほどあった女神の分身体からの報告によると、かのアイドルは既に八舞姉妹と四糸乃、クラスメイトの三人組を洗脳し終わった段階にいるようだ。

 

「さて、そろそろ打ちのめされた士道さんと共闘してきますわね。DEMに幽閉されている精霊とやらも気になりますし。カリオストロさんはいざという時にだけ出て来て下さいまし」

「わかっているとも女神よ。美しく舞う我が女神を全力で撮影しよう」

「しなくて結構ですわよ!」

 

顔を真っ赤にしながら女神は士道の元に向かっていった。

そんな顔も撮影済みだよ我が女神。

 



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アイドル編終わりと、無粋なものの影

強いて言うなら。

私の出番は無いに等しかった。

とりあえず当たりそうなビームやらを曲げたり死角の敵を潰したりと日陰な存在となって女神を支えたくらいか。

そして、突如として出現した黒い斬撃が上空にいた大量の女神ごとDEMの兵器諸君を消し炭にする。

 

「あれは、反転十香……そろそろ出ても良いだろうか」

「ダメですわよ」

 

おや。

 

「欲しい時は呼びますから、カリオストロさんはまだ出て来ないで下さいまし」

「本体からの伝言、と言うわけだね」

 

はい、と女神分身体。

仕方あるまい。

傍観といこうか。

 

「ようやく見つけたぞ、カール」

 

そんな時だった。

黄金色の君が私の前に降り立ったのは。

ーーラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ=メフィストフェレス。

我が親友であり、自滅因子。

彼はようやく見つけた、といったが、目の前にあるラインハルト・ハイドリヒの魂は彼のものとしてはあり得てはいけないほど淀み、曇っている。

強いて言うならば、黄土色のマーブルだろうか。

 

「あぁ、黄金の獣ともあろう貴方がなんたる体たらく」

 

というか、獣殿の皮を被った偽物だろうこれ。

まぁ、私は水銀の皮を被った偽物だが。

 

「かの美しい魂は天狗道にでも犯されたのですかな。貴方の魂は、淀み、濁り、汚れてしまっている」

「何をいっているか分からんな。私はハイドリヒ。ラインハルト・ハイドリヒだ。黄金の獣以外の何物でも無い」

「……ふむ。姿形だけ真似たところで至高の黄金には届きませんぞ。以前の不愉快な贋作に味を占めた何者かがいると見た」

 

ラインハルトとしてあれ、と命令された魂と言ったら良いだろうか。

軽い自虐を含んだ言葉を金メッキの獣に放つと、分かりやすく激昂した。

そういうところが金メッキだと言うのだが。

 

「……私はッ!ラインハルトだァッ!」

「無用な役者には退場頂こう。あぁ、女神よ。我が影にでも隠れるとよろしい。我が友を騙った罪、その消滅を持って贖罪とするとしよう」

「ーー形成(イェッツラー)ッ!!聖約・運命の聖槍(ロンギヌスライゼ・テスタメント)

 

確かに彼の槍ならば形成位階でも十分に戦えるだろう。

ーーその魂が偽物で無ければ。

 

「ぐが……!?」

 

黄金ならばまだしも、金メッキのような偽物が聖槍を手にするなどおこがましい。

そもそも視界に入れるだけでも致命的なダメージとなるそれを、黄金と聖餐杯以外が使えるとどうして思うのだろうか。

聖餐杯ですら渇望となる程思い込みをしなければ槍を借用出来ないというのに。

 

「あぁ、なんと哀れな。なんと滑稽な。槍の正統後継者たる黄金の獣ならば未だしも、お前の様な芥が槍を目視することなど叶うわけもなかろう。あぁ、なんとも無様か。ただ武器を手に取っただけで勝敗が決してしまうとは」

 

それだけあの槍が規格外という証左でもある訳だが。

目の前でひび割れ砕ける金メッキに、幾つかの魔術的導線を見つけた。

線を辿ろうと手繰るが、既に切断された切れ端が現れるのみ。

どうやら、ちょっかいを出したがる何者かがここに至って現れたらしい。

正体は転生者か。それとも別次元の神とも言うべきものか。

ともあれ、無用な手出しは控えてもらおう。



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女神とモンハン

「カリオストロさん!右ですわ!」

「あぁ、女神、わかっているよ」

 

女神の焦ったような声に、金色に輝く獅子の名を冠するゴリラの叩きつけるような右フックをステップで躱す。

そして前転二回くらいの距離をとってその頭に矢を打ち込む。

 

「GUooOooo!!!」

 

怒りの悲鳴をあげてさらに金色に輝き、その体表には雷を纏う。

ラージャン。金獅子、超攻撃的生物などと呼ばれるこの存在の名前だ。

ーー私達は今、モンスターハンターをやっている。

女神は両手に武器じゃないと落ち着かないとかで双剣。私は弓。

女神はヘイト、私は火力担当だ。

弓の火力を舐めないでいただきたい。

 

「カリオストロさん気持ち悪い位お上手ですわね」

 

女神のために那由他の時間やりこんだからね。

平行世界での実地演習も行った。

いつか女神を招待してみたいものだね。

アプノトスを撫でる女神とか何それ癒される。

 

「ラージャンでも五分……わたくし逃げ惑ってるだけですのに……」

「ラージャンは好き嫌いが分かれるからだろうね。逃げ惑ってる女神も可憐だよ」

「……強撃ビン残して無傷余裕なカリオストロさん気持ち悪い……」

 

ははは。

私などまだまだ初心者だよ。

たぶん獣殿なら目を合わせた瞬間にラージャンが平伏するね。

そしてグラズヘイムに……。

なんて悪夢だ。

いやいや、現実世界に現れる前提は良く無いね。

まぁ、ゲームでも嬉々として討伐していそうだが。

 

「カリオストロさん。これからどうしますの?」

「これから?とはどういう意味ですかな」

「友達のために、友達を穢した何者かをどうにかする、とか言ってませんでした?」

「うむ。槍も無くては困るだろうし、元あった位置に戻さなくてはならない。粗製乱造の使徒といえ、この世界で暴れられても困る。まずは背後にいるものから叩かねばどうにもならない。任されよ女神。既に調査は世界中で行いつつある」

 

何の前触れも無く唐突に現れた辺り転生者だと思うが、こんなに影からこそこそやられると手がかりも掴めなくて困る。

槍には幾重もの封印を施して常人が見てもプレッシャーを感じる程度に抑えさせたが、これも早めに不二の地下遺跡に置いておかないと大変な事になるだろう。

とはいえ、私が動けば第六天もまたその身に触れるものが増えたと糞を投げつけてくるだろうしリスクがすごい。

というか、第六天がいるあの世界から槍を持って来たのか?

神域に至ったとするならば相当攻撃されそうだが。

……となれば、自分で真に迫った贋作を作ったか、それとも並行世界の何処かから槍を持って来たか。

ふむ。手強そうな存在だ。獣殿なら喜びそうだが、私としては不愉快でしかない。

 

「ふむ。次はクシャルダオラは如何かな」

「分かりましたわ」

 

とりあえず調査が終わるまでは女神と遊ぼう。



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リアルモンハンと女神

他力本願は私の十八番。

最近自分で動くことが多くて忘れていたよ。

女神ごと移動するにはリスクが高く、私が移動するというには帰還出来ない覚悟と女神から離れる覚悟を同時に決めなくてはならない。

なんという言語道断。

我が息子と親友には悪いが、私の代替品として適当にかすめた強度が強めの魂を送ったのでそれで許したまえ。

原作介入がどうとか言っていたので不二の地下遺跡には行くだろう。

現在どこまで進んだかは分からんが。

まぁ、彼が辿り着ければ勝手に分解されて消え去る定めだ。

まぁ、抵抗しても槍に仕掛けた術で地下遺跡にワープさせるが。

つまり、あの世界に着地し、槍に仕掛けた術がワープを行い、その場で魂を燃料に元あった場所に安置される。

これだけのプロセスだ。

ついでに槍には矢文ならぬ槍文を巻いておいたので、息子ならきっと私の真意を察してくれるだろう。

……あ、やっぱりつけない方が良かったか。

助走付きで殴りかかってくる息子を幻視したので後悔するが、遅い。

 

「カリオストロさん。何を神妙な顔で空を眺めているんですの?」

「あぁ、すまない。女神があまりにも眩しいので直視出来なかったのだよ」

 

それはそうと、私たちはモンハンによく似た世界に居る。というかどうしてもエスカドラ装備の女神が見たかったので作った。

女神の世界とのリンクは切ってないので、折紙が動く時にでも戻れば良いだろう。

 

「実は重いんですのね、この双剣」

 

女神がツインハイフレイムを持ちながら顔を赤く染めつつ話を逸らす。

あぁ、なんと可愛らしい。

 

「重いのであれば軽くするが」

「……具体的には?」

「魔術で」

「……お願いしますわ」

 

腕にあまり筋肉をつけたくないんですの、と差し出されたそれを女神の体温を永久保存しつつ軽く弄り、重さを調整する。

 

「さて、今回はティガレックスの狩猟との事だが、女神はそれで良いのかな?」

「ちゃんと雷属性の剣に変えますわよ。そういえば、ティガレックスが砂地で飛ばしてくる岩、なんなんでしょうね。どこから掘り出してくるのやら気になりませんこと?」

「あれならジャガイモだとどこかでもっともらしい説明と共に見たが」

「ジャガイモ!?」

 

大体三桁くらいの人数は賄えそうなジャガイモだね。

 

「まぁ、良いですわ。どうせ今日で最後ですし。思いっきり戦いますわよ!」

 

ジンオウガ装備で張り切ってる女神を保存する、と。

来て良かったとは思わんかね。思うとも。私ナイス。

 

このあとはしゃぐ女神とティガレックスをフルボッコにしていると折紙が動き出したので仕方なく帰ることにした。

 



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夜空に舞うは黒光の天使

11巻の内容とか色々あって悩むぜ……
あと女神出なすぎてすぐ、追いつく……


「……ねぇ、カリオストロさん」

「何かね女神」

夜空に舞うは黒き精霊--鳶一折紙。

「わたくしがした事は……」

折紙に自身を重ね、過去に飛ばした。

そこで折紙が得た現実は、それは残酷なものだった。

「罪を感じる事はないよ、我が女神」

「感じてなんかいませんわ」

そうだろうか。

否、女神がそういうのであればそうなのだろう。

時折飛来する流れ弾を受け流しながら私たちは会話する。

「歴史を変えるなんて……」

「神が許すのか、かね?」

安心したまえ、如何あっても女神は無罪だ。

異論は認めん。私が法だ。

「む?」

折紙が燃え上がった。

「なんと--乖離してしまったか」

灼熱の精霊〈イフリート〉五河琴理の登場だ。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

「おにーちゃん!」

居ても立ってもいられなかった。

愛しい兄がそこで戦っている。

傷だらけになりつつも精霊を封印しようと肉薄していく。

右肩から血が滴り、頭を何処かで切ったのか、顔まで血だらけだ。

回復するはずのそれらの治りは遅い。

何故か。

分かっている。私が、私の封印が緩んでいるからだ。

私に封印された力が戻るのを感じる。

悪夢だ。このままでは兄が死んでしまう。

「おにーちゃんに……触るなぁ--ッ!!」

天使を呼び出し、全力で打ち払う。

折紙は炎に包まれ、動きを止めた。

しかし、次の瞬間に炎は払われた。

中身は無傷だ。

それでも動きは止めた。

ついに兄が折紙まで辿り着き--力を封印するために唇を合わせた。

……しかし、それは無意味だった。

何の変化もない。

そうして、兄は吹き飛ばされた。

「--あぁ、やれやれ。どうやら舞台は定められたレールを外れてしまったようだ」

あわや建築物にぶつかる寸前。

兄は誰かに受け止められた。

「カール先生……!?」

「こんばんは、もしくは久しぶりだと挨拶するべきかね五河士道」

〈メルクリウス〉が何かを呟くと、瞬く間に兄の傷が癒えていく。

いつの間にか傍に立っていた時崎狂三に兄を渡すと、追撃で放たれた翼を片手で打ち払う。

「これより舞台の修正を始める」

〈メルクリウス〉を視界に認めた折紙は全ての攻撃を〈メルクリウス〉に集中させた。

「恨んでいるのかね、強く、怒りを抱いているのかね。あの時に私が伝えた言葉が真実だと知って、苛立っているのかね」

直撃しても尚、〈メルクリウス〉に傷一つない。

片手で払うのも飽きたのか、もはやされるがままだ。

その硬さを知らない八舞姉妹や美九が死んだと勘違いしたのか目を反らす。

「あぁ--君の全てを否定されたと、自身の存在意義すら勘違いの筋違いだと、そう理解したからこその醜態か」

苛烈さを増した攻撃の合間に見える〈メルクリウス〉には、やはり傷一つない。

なんて硬さだ。

あれが〈メルクリウス〉の天使が司る能力なのだろうか。

「あ、あれが〈メルクリウス〉……」

「愕然。なんて硬さでしょうか」

噂程度には聞いていたのだろうか。八舞姉妹が愕然と

〈メルクリウス〉を見つめる。

「カリオストロさん!士道さんを送りましたわ!」

「ご苦労、女神よ。では士道が戻るまでこの世界を存続させるとしようか」

流星。

まさにそれだった。

突如として召喚されたそれは折紙ごと建築物の諸々を吹き飛ばして地面にクレーターを作る。

「やり過ぎですわよ!」

傷だらけになりつつも折紙は再び浮遊。

精彩を欠き始めた攻撃を〈メルクリウス〉に集中させる。

その隙に八舞姉妹が折紙にドロップキック。

十香が斬撃を飛ばし、四糸乃が凍り付かせて地面に縫い付ける。

私が攻撃しては折紙が解放されてしまうのでフラクシナスに連携をとらせる。

「フルボッコ、もしくはリンチと言うのだろうね」

「平然と言わないでくださる……?」

緊張感のない会話が聞こえるが、今は目の前のことに集中しなければ。



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歴史の修正

お待たせ致しました。
すこしばかり短いですが。


ーー見渡す限りの焦土。

全ての生命が死に絶えた地獄の様な絶景。

 

「あぁ、この光景はかつての世界創造の時を思い出す。あの時と違うのは、あちらはありとあらゆる可能性の塊だったのに対し、こちらは全ての事象の収束点ーー滅びに向かっていることくらいか」

「半分は貴方のせいでしょうカリオストロさん。どうしますのコレ。向こうで士道さんが仰天してますわよ」

「我が女神よ。案じることはないよ。私が全てどうにかしよう」

 

とはいえ、まずは苛烈さを増した折紙の攻撃をどうにか生かさず殺さず無力化しつつ均衡を保たねばならないのだが。

飛来する光を両手で打ち払い、お返しとして重力を差し上げる。

叩き落された黒衣の天使は地面に這いつくばるように五体を地面に預けるが、何も感じないかのように速度に特化させた羽を形成。射出した。

 

「ふむ。やりにくいね。女神よ。如何か」

「士道さんなら先程もう一度『あの瞬間』に向かいましたわ。わたくし達の事でしたらあなたの張った結界で無傷ですわよ」

「それは僥倖」

 

現在、矢面に立っているのは私だけ。

それ以外はぶっちゃけ邪魔なので女神と共に結界に閉じ込めた。

女神のみ三重結界なので何があっても折紙は女神を傷付けられない。

こうしている間にも折紙の攻撃は止まらない。

 

「その執着は感心するがーー残念ながら相手が悪いと言わざるを得ない」

 

一撃一撃が放たれる度に研ぎ澄まされ、洗練されていく。

その黒い閃光はいつかの白い狂犬を思い出す速度を既に叩き出している。

幾星霜、那由多の果てまで繰り返すならば弱小の神程度ならば打ち破ることが出来るのではないか。

しかし、それらは永劫、私に傷を付けることはない。

追いつくには時間が足りない。強度が足りない。思いが足りない。何よりも、渇望が足りない。

 

「次の見世物はーーあぁ、物量戦か」

 

視界を覆う程に配置された羽が照準を私に合わせる。

 

「しかし、すこしばかり遅かったな」

 

歴史が修正される。

街はあったであろうかつての可能性をいくつも模索し、精霊達は煙のように掻き消えていく。

私と女神は近くに生えたビルの屋上に退避した。

瞬く間に修正を終えた歴史。

完成したのは修正前と殆ど変わらないが、間違いなく違うパラレルワールド。

 

「さて、女神よ。歴史がーー世界が変わった感想はあるだろうか。あるならばお聞かせ願いたい」

「最高ですわね。わたくしの実験も殆ど最良の状態で終わりましたし、こうして歴史は変えられるという認識を得られーー……? なんだか同じような会話を交わしたような気がしますわね」

「気のせいだろう、我が女神」

 

既知感……なのだろうか?

だとしたならばマズイことになるのだが。

策だけでも練ることとしよう。



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番外編ーー聖夜と変態と精霊さん。

クリスマス短編。
アンコール3を読む事を【強く】【激しく】【全力で】おすすめします!
あとこれだけ。

衝動で書いた。後悔はしてない。


コズミック変態と哀れな最悪の精霊さん。

番外編ーー聖夜と変態と精霊さん。

 

雪降る天宮。

歴史改変後、実に恙無く進んだ月日は十二と二十四を数えた。

今は猫カフェでじゃれあう女神を全力の撮影をしている。

影に潜むのが女神だけの専売特許だと思わないでいただきたい。

そこの机の下。

女神が腰掛ける椅子の下。

女神に驚異的な視線を向ける五河士道の影。

様々な物陰から女神だけを見つめよう。

 

「視線が煩わしいですわよ! 一緒にお店に入ればよろしかったでしょう!?」

 

士道から逃げてきた女神に怒られた。

そんな顔も麗しいよ、我が女神。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

と、いうのは昼の話。

今は夜で、そして女神本体は女神分身体に囲まれている。

今宵は霊装ではなく、私服ばかりだ。

甘ロリ、ゴスロリ、包帯、眼帯、ちょっとファンキーな女神。

ふふ……女神にバリエーションがある……!

これは捗るな………!!!

 

「あらあらあら。カリオストロさんもこちら側ですわよ。貴方は今宵トナカイ兼ソリですから、こちらですわね」

 

甘ロリ女神が撮影に専念していた私に茶色い全身タイツを寄越した。

 

「あぁ、女神から私に衣装を……つまり下賜…………!」

 

当然頭に角がついているわけだが、異様に大きい。

大きさを誤ったわけではなく、これはこの大きさが正しいのだ。

なぜなら、

 

「女神よ。これはトナカイではなくヘラジカの角なのだが」

「……………………いいえ。トナカイですわ」

「女神がそういうならそうなのだろう」

 

次回の回帰があるならばヘラジカは絶滅し、トナカイは巨大な角を持つことになるだろう。

女神が白といえば白なのだ。

 

「……なんで神妙な顔をして四つん這いになられているんですの……?」

「私はソリだ」

 

女神は即座に言いたい事を理解したらしく、顔を真っ赤にして私の角を掴んで冷たい地面に叩きつけた。

ーーあぁ、なんたる恍惚。

素晴らしきかな聖夜。

 

「……意地でも乗らないと動かないつもりですのね……?」

「ーー踏んでもらいたいのだよ」

「士道さん助けて……」

 

結局女神が折れて私にライドオンした。

 

「あぁ、そうだ。女神よ」

「なんですの?」

「可愛らしい装いだ」

「……っ、あ、う、うぅ……」

 

ミニスカサンタコスとか正にこの世の至宝。

この刹那を永遠に留め、愛でていたい。

 

「ところでその装い、終わったならば私に預けてはくれないだろうか」

「……? 何をなさるおつもりですの?」

「少しばかり聖遺物に変えようと、ね」

「お断りですわよ!」

 

女神のかかと落としが腰に当たる。

なんとも幸せな気分である。

 

 

 



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番外編--Valentinstag

バレンタインデー短編。
お久しぶりです皆様。
中々更新できなくてすいません。


今宵、私は最早死んでしまっても構わない。

日付とするならば二月十四日。バレンタインデーだ。

私の前には丁寧にラッピングされた麗しくも美しい赤い箱がある。

 

「あぁ、今、この時ばかりは私の語彙の少なさに絶望する。我が女神のこの手作りチョコレートに、ごくありきたりな感想しか思いつかないのだから」

「あ、あの、そこまで喜んでいただけるとわたくしが恥ずかしいのですけれど……」

 

あぁ、このような感情を抱いたのはいつぶりか。

そうだ、獣殿と全力を尽くして戦った時以来だ。

 

--ゆえに滅びろ勝つのは私だ! 新世界の開闢に散る華となれ!

--ゆえに滅びろ勝つのは私だ! 女神の地平を生む礎となれ!

 

目を閉じれば鮮明にあの瞬間を思い出せる。

あの、興奮、歓喜を主とした様々な感情をドロドロに混ぜて精製したような感覚。

 

「ふふ、女神よ。感謝しよう。私は今--生きている!」

「生の実感!? わたくしのチョコでそんな事まで感じなくっても!」

「それだけの価値が女神のチョコレートには存在するのだよ。ふむ。しかし、それはともかく。士道には渡さなくてもよろしいのか?」

「あら。わたくし、チョコは一つしか作らない主義ですのよ」

 

あえて言おう。私は覇道神だ。私に打ち勝つのはともかく、傷をつけようとするならば、ある程度神性などの格が必要不可欠となる。

そも、座を巡る争いとは即ち格の問い合いでもあるのだから当然だ。

そんな覇道神で座を掌握した私は、女神の言葉一つで鼻血を垂らすこととなった。

 

「鼻っ!? カリオストロさん! 鼻血! 鼻血でてますわよ! チョコレートですの!?」

「あぁ、なんという至福、なるたる愉悦。今だけは全てを忘れ、ただこの歓喜に身を委ねたい……」

「あぁ! ダメですわカリオストロさん倒れないで! あぁ鼻血が凄い勢いで!」

 

女神にティッシュを詰められた。

チョコ? 既に時空間ごと凍結して八十枚の神域結界を用いて死守したが。

 

「もうカリオストロさんにはチョコをお渡ししませんわ」

「……え」

 

私は目の前が真っ暗になった感覚を初めて味わった。

 

「だって食べて下さらないし。鼻血出て来ますし」

「女神よ、わかって欲しい。女神の賜る--特に今宵のチョコレートは特別なのだ。世界に一つしかないそれを、安易に食べるわけにはいかない」

「い、いつも通りの変態ぶりですわね……。でも、それでも食べて欲しいと感じるのは仕方ないですわよ! 女の子なんですもの!」

 

八十枚の結界を素手でぶち破り、時空を捻じ曲げてチョコレートを口にした。

私の拘りなど女神の思いの前には塵芥以下でしかないのだ。

口に広がる甘さと程よい苦さ。

 

「あぁ、なんたる美味なのだろう。口にゆったりと広がる甘さ、それを引き立てる苦味。丁寧に作り込まれたこれは神域に迫る……あぁ、三千世界全てに知らしめたい。獣殿、私の求めた至高の天は此処にある……」

「な、泣く程……」

 

むしろ女神のチョコレートを食べて滂沱の涙を流さぬ愚か者など可能性から摘み取る所存である。

あぁ、今気を緩めたら随神相すら出現する程である……。

ゲシュタポは空いているがどうするカール。などと幻聴が聞こえた気がした。

女神には礼として花束を渡した。

ドイツ式ヴァレンタインだ。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

 

そんな朝のやりとりを終え、心なしか弾んだ我が身を諌めながら女神と街を歩いている。

女神はいつもの……ではなく、下品でない程度にフリルの縫われた黒の暖かそうなドレス。

私はといえば、初めて獣殿と出会った際に着ていた黒服だ。

 

「うぅ、寒いですわね……」

「ふむ。私の上着でよろしければ」

「ありがとうございますわ」

 

か、可愛い……!

なんとも単純にして明快、つまらない程陳腐な表現だが!

私の上着に袖を通している女神が素晴らしくて悶絶ものである。

今宵はなんと素晴らしい日か。

あぁ、今、この刹那をずっと味わいたい。

 

「ふふ、暖かいですわ……」

 

女神コレクションが素晴らしく増えていく。

 

「こんな日にスカートは少し考えるべきだったかも知れませんわね」

「女神よ、我がスボンがあるが、どうだろうか」

「履きませんわよ! 脱がないでいいですわ!」

 

残念だ。

ともあれ、今日は商店街でのヴァレンタインイベント。

カップルでのイベントが数多くある。

 

「カリオストロさん! あちらのイベント行きませんか!」

「ふむ。相方の自慢大会……」

 

負ける気はしないね。

我が愛が負けるわけがない。

 

「では、女神よ。我が愛を衆生に示そうではないか」

「これは……早まったかもしれませんわね……」

「さて。では諸君。今この瞬間に我が女神に捧ぐ愛を語ろう。まず--」

 

八時間くらい息継ぎなしで女神について自慢した。

ブレスの二秒が惜しい。そんな暇があるならば自慢する。

これでも自重したのだが、主催の男が割り込むように優勝商品のペアカップを渡されて女神に押されるように退場した。

 

「どうかしたのかね。あと一時間程あったのだが」

「自重して下さいまし!」

「自重したのだが」

「……え、あれで、ですの……?」

「うむ。自重を解くならば一年程は硬いか」

「……もう、わたくし、この商店街歩けませんわ……」

 

女神はがっくりと項垂れる。

そんな女神も可憐だよ。

その夜の女神の寝顔は心なしか微笑んでいるように見えた。

 



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影の胎動

ちょっとオリジナル展開で設定。
なにか間違いあったら教えて下さい。


--さて、緊急事態だ。

 

「……おや、ここは」

「私の覇道に抱き込んだ。メルクリウス。もはや貴様の座は終わったのだ」

 

まるで夜のように暗い霧の街。

霧は聞こえた声の向こう側から響くが、霧に阻まれてその姿は見えない。

 

「おかしいと思ったのだ。ありとあらゆるものを知っている。目的を達成してもまるで当然かのように受け止める--既知感とでもいうべきか」

「なるほど、貴様が誰かは知らんが、私の座はいずれ来たる女神にこそ与えられるものだ。どこの馬の骨とも知らぬ塵芥に渡せるものか」

「ふ、知っているさ。私がループさせる前に貴様がループさせる回があった。その際に貴様の本音を嫌という程聞かされたのだからな」

「ループさせる前にループ……あぁ、貴様〈ファントム〉とやらか」

「あぁ。そして、既知感を脱却するため、ある者からの助言により力を蓄えて高め、ここに至るというわけだ」

 

どうだ、と自慢気に嗤う〈ファントム〉だが、私はそんな事には興味がない。

特異点に来訪者があったから来ただけで、大した神威のない〈ファントム〉など物の数ではないからだ。

いくら流出、もしくは太極の位階にあったとしても、私は負けん。

獣殿に助けられ、その後女神に施しを受けた身としては、その恩、いつかどちらにも返さねばならないからだ。

 

--ゆけ、カール。

--いつか、『みんなで』楽しく一緒に笑い合いましょう。カリオストロさん。

 

別れ際の二人の笑顔が脳裏に浮かぶ。

 

「すまないが、早々に立ち去っていただこうか。女神の抜け毛を永久保存しなくてはならないのでね」

 

やめて下さいまし! 

なんだか女神のツッコミが聞こえた気がした。

 

「全ては我が女神の治世の為。全ては我が友に自慢するため。貴様には演劇の舞台に戻って頂く」

「抜かせ宇宙人。貴様の座はもはや--なんだこれは……!?」

 

鎖が霧の向こうに走り、どうやら〈ファントム〉は捕らえられたらしい。

鎖がジャラジャラと音を立ててたわんだり引っ張られたりしているので多分間違いない。

 

「鎖……! しかも座から!?」

「私はかつて第四天と呼ばれていてね。私の前には三人の前任者が居た。彼らの世代の座は単一宇宙を支配していた。外宇宙から飛来した変質者こと第四天・永劫回帰(メルクリウス)はその後座を改造し、座の支配する領域を幾つもの宇宙へと広げていった。--まだ分からんのか? 思考停止は推奨されないのだが。あぁ、ならば簡潔に述べてやろう。つまり、私ほど座の改造に慣れているものはいないのだ。私が追加した機能は幾つかあるが、その全ては侵入者への攻撃。如何に強い覇道神といえど、座るべき椅子に棘が生えていては座れない。座るならば棘を抜くか、強引に座るしかないのだ。はは、敵に機能の説明か。私の負けフラグみたいではないか!」

「ならば負けていろメルクリウス! --太・極-- 緋想天・永劫回帰!」

「貴様が永劫回帰を名乗るなおごがましい」

 

左手を一振り。

〈ファントム〉は鎖ごと特異点から追放され、そのなんだか分からん太極の大元たる渇望をその鎖で封じる。

なるほど。『今度こそ幸せに』

それが奴の渇望か。

……自分の望んだ祝福がため、その全てをもって達したいが答え。これは、本来求道であるべき渇望だろう。

しかし--仔細了解した。理解したとも。

その渇望が原点。その結果。

 

「……あぁ、その渇望。胸を打つ。私のかつてを見ているようだ。良いぞならば少しばかり手を貸してやろう。とはいえ、我が女神の幸せこそ第一。女神の治世の為、礎となるがいい」

 

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

「カリオストロさん? なんだかうなされていましたわよ?」

「あぁ、少し嫌な夢をね」

 

しかし、太極域の魂ではないはずの〈ファントム〉がどうして特異点に降りてこられたのか。

おそらくは助言をした『ある者』が関わっているのだろう。

あの下種に触らずに獣殿の槍を掠めとれ、本来行っても形成域の魂を流出域にまで押し上げる人物--。

前者は接触拒否もしくは忌避、隠密の渇望を備えた流出か概念的なものなら可能だろう。

だが、形成域の魂を押し上げるには獣殿や愚息のような軍勢変生を持たねば不可能に近い。

ならば、どうなのだろうか。

……獣殿が居たならば何か言葉をくれたか。

最近無性に獣殿に会いたい。

まるで心の隙間を埋めるような。

………………乙女か私は。

 

「……カリオストロさん? 軍服借りていきますわよ」

「後で保存するのでたくさん汗をかいてくるといい」

「洗濯しますわよ!」

 

乱暴に扉を閉めた女神の後を視界だけ着けていく。

途中風にさらわれた切れ毛や女神が着用した服から生じたほつれの糸などを回収しつつ行くと、琴里と合流した。

……!?

 

「な、なんという事だ。未知か? 未知だな! かつて獣殿にマントの下を見られたり引っ張られたりした時は……既知だったか。ツァラトゥストラが攻めてきた時……うむ、これだ! この未知感! やはりあなたは素晴らしい。掛け値なしに素晴らしい」

 

どうやらショッピングをしているだけのようだ。

 

 

 




2/18日。指摘に伴い、前半部分数行を追加。


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日常回

もっと長く書けるようになりたい(渇望)


side  五河琴理

 

私と〈ナイトメア〉こと時崎狂三はショッピングに出ていた。

出会ったのは偶然。

黒の軍服のようなものを纏った彼女は周囲の視線も気にせず服を選ぶに勤しんでいる。

 

「……んー、これも捨てがたいですわねぇ……」

 

本日三十枚目の衣服を私に合わせて悩む姿は年相応の少女にしか見えない。

 

「……アンタ、何やってるのよ」

「何って……買い物ですわよ? カリオストロさんからお小遣いも頂きましたし、たまには女の子だけで、もしくは一人で、と」

 

前言撤回。

少女にしか見えないじゃない。丸っきり少女だコレ。

まぁ、確かにあのスーパーサイヤ人並みの強さを誇るコズミック変質者系ストーカーと毎日過ごしていればストレスも溜まるだろう。

 

「あぁ、カリオストロさんと暮らすのがストレスな訳じゃないですわよ? 最近なんだか隠し事してるみたいで……それがなんだかイライラしていまして」

「……へぇ……」

 

そして悟る。

--最難関なんてもんじゃないわよこの女……!

まだ自覚こそないし、ただの独占欲の発露かもしれないが、それでも隠し事が無いことを前提とした発言は友人等の距離感では言えない。

士道には是が否でも覚醒してスーパーイケメンになってもらわないとこの精霊は落とせない。

……あの朴念仁にどう教育すれば良いのよ……!

いや正確には朴念仁という程ではないのだが。

 

「あら、これなんか如何?」

「可愛いわね。あなたにも似合うんじゃないかしら」

「ふふ、私は良いんですのよ。可愛らしい女の子を着せ替えしてるだけで私は愉悦を得られるので」

「愉悦って……」

「あら? カリオストロさんみたいなわかりづらい形容でしたわね」

 

攻略難易度ナイトメアに違いない。マニアクスでもいい。

しかし、早めに攻略しないともっと難易度は上がっていく。

あの得体の知れない影絵のような男には理不尽と知りつつも苛立ちを感じ得ない。

 

結局、この日は一日時崎狂三に付き合って終わった。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

--あぁ、なんと可愛らしいのか。

五河琴理との買い物で手に入れた戦利品を試着したり他の服と合わせたりして具合を確かめる女神をこっそり覗きながら激写する。

ふふ、これで7542698752469852456985個目のコレクションだ。

そろそろコレクション管理用世界を増設する必要があるね。

 

「……かーりーおーすーとーろーさぁん?」

 

やけに甘ったるい声が私の真正面……つまりは女神の部屋から聞こえた。

 

「何かね女神よ」

「何かねじゃないですわよ! へんたい! へんたい! へんたい!!」

「ふふ、今のは目覚ましの音声にしよう」

「〈刻々帝(ザァァァァアフキェェェル)〉ッ!!!!」

 

目覚ましが粉々にされた。

 

「ふ、しかし、残念だね女神よ。私は回帰が出来るのだ……!」

 

目覚ましだけ回帰とかそんな器用なことは出来ないが。

--私は驚愕の表情を浮かべた女神が見たいだけだ。異論は認めん。断じて認めん。私が法だ。黙して従え。

と、いうわけで75426987524698536428547264個目のコレクション入手だ。

 

「……仕方ないですわね」

「……仕方ないと言いつつ短銃を私の眉間に押し当てるのはどういうことかね」

 

女神の攻撃を避ける等あり得ない。弾くなど言語道断。

しかし、なんとかしないとこれは死ぬのでは。

……試したことないからわからないが。

 

「死んでくださいまし」

 

無慈悲な一撃は私の眉間に赤い痣をつけるにとどまった。

弾丸はコレクションした。

触覚とは言え座の神に傷を負わせたというのは凄まじい偉業だ。

このままではいずれ神にすら至るだろう。

--今ですら女神なのに真性の神となったら正しく超女神……!

これは先が楽しみである。

 

 

 



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これが私の冴えたやり方

--まず感じたのは『憐憫』

求めしものは絶滅と幸い。

 

呪いのような言葉とともに、影が凝縮し、形を得る。

それは人。

完全な闇の中にあって尚暗い、人型の何か。

 

「ふむ、やはり完全な人間にはなれぬか」

 

それは男の声を発して呟いた。

 

「……ジョン……か?」

「やぁファントム。あの白痴の神に瞬殺されたそうじゃないか」

 

今度はハスキーな女な声。

しかし、別人ではなく、同一の場所--即ち人型--から放たれている。

人型--ジョン・スチュアートと名乗ったそれ曰く、収束し得ない可能性を操る術を施した結果、このような可能性が安定しない存在へと変わってしまったのだとか。

既知感に狂っていたある日、急に現れたソレは私に力を与えた。

白痴の神の模倣というその術式は、私を高みに導いてくれた。

それは感謝している。

 

「……ふむ、渇望を封じる、いや、これは渇望に蓋をしたような状態?」

「私に聞かれても困るのだが」

「あぁ、ごめんごめん」

 

どこが白痴の神だ。あれ以上に頭を使っている存在など見たこともない。

 

「んー、参ったなぁ。これじゃあファントムは用無しになっちゃうし……ん、まぁ、いいか」

「殺すのか?」

「まっさかぁ。私の軍勢変生で偽神化してるだけだから、軍勢変生から外すだけだよ。生憎と、妾の軍勢変生には余裕が無くってね。管理しきれなくなる前に切り捨てないとならないから」

 

私の前でジョンが柏手を打った。

同時、湧き上がっていた全能感は消滅し、ただ虚しさだけが残る。

 

「……幸福管理--お前の成す世界は優しいか?」

「誰しもが必ず幸せになれると約束しよう。故、座して待っていろ。吾輩が座を得るまではな」

「そうか」

 

今は眠ろう。

もう、これ以上無いくらいクタクタだ。

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

--へんたい! へんたい! へんたい!!

 

女神の優しい罵倒で起床した。

あぁ、なんと麗しい声なのか。脳が蕩け落ちそうだ。

年不相応に艶やかさのある、しかしまだ幼い女神の声。それはまさに過渡期にある少女そのものを象徴するような一種のエロスを持ってして卑小なる私の鼓膜を震わせ、脳を揺さぶる。

ついでに飛来した扉が私の頭を揺らした。

 

「カリオストロさぁあぁん!?」

 

女神が聖槍十三騎士団第十三位・副首領・水銀の王謹製女神型目覚まし時計を蜂の巣にしようと朝から元気に銃を乱射する。

だが残念。私の手がその全てを保存してコレクションする。

 

「カリオストロさんどいて下さいまし! そいつ壊せないですわ!」

「あぁ、すまない。つい自動的に」

「変態行為は遂に自動化してますの!?」

 

ふふ、私の気付かぬ--抜け毛さえその場で気付くのだから滅多に無いが--内に女神コレクションが捨ておかれるのはあまりに苦痛。かの既知感の地獄にも通ずるものがある。

 

「……カリオストロさん。私型目覚ましは使用禁止ですわ」

 

カリオストロは めのまえが まっくらに なった !

 

「な、何故か、聞いても構わないだろうか……?」

「誰が朝早くから自分の罵声を聞いて気持ちよく起きれますの……?」

「し、しかしだね女神……!」

「なら、私が起こしますわ。それならば問題無いでしょう?」

「--------」

 

なんという……至高……!

毎朝が楽しみになりそうだ……!

今ならばあの下種にも勝てる気がする。

流出--女神冠する第八宇宙……!

女神がいる限り私は負けん……!

 

「カ、カリオストロさん……?」

「……はっ……いやいや、あまりに甘美なる言葉が聞こえ、我が耳は蕩け、脳は沸き立ち、世界は優しい抱擁に包まれるところだった……」

「……よ、よく分かりませんが、喜んでいただけて何よりですわね。--しかし、そのにやけ顔はどうにかして下さいまし」

 

キリッとしてみた。

布団から蹴り出された。

至高のトライアングルゾーンを我が目に刻み込み、永劫忘れぬ様に座の記録に刻み込む。

 

「ふふ、柔らかで中々……」

「……では次回からは撃ち落としますわね」

 

あまりに綺麗な笑顔だったので何も言えなかった。

 

「さて、今日は如何しましょうか」

「悪いが女神よ。本日は私一人で行くべき場所がある」

「どこに行きますの?」

「……それは言えない。許されよ」

「……良いですわ。今日は私一人で士道さんでもからかいに行きますので」

 

では、と女神はさっさと行ってしまった。

なんとも名残惜しいが、残り香を素早く回収して転移する。

暗闇だけの簡素な空間だ。

ファントム居城の隣界ではなく、私謹製の異世界もどきである。

そこには五つほどの淡い燐光を放つ炎が並んでいる。

 

「さて、運がいい諸君、こんにちわ。私は君たちが言うところの神に相当する存在である」

 

ヒャッハー! 特典よこせ! だとか私はあれがいいわねとか聞こえる。

 

「あぁ、特典についてはきちんと差し上げよう。だが、その前に君たちに依頼がある。良いかね? 我が世界に異分子が紛れ込んだ。ゆえ、それを排除して頂きたい」

 

なんでもいいから寄越せオラー! とヒャッハー中尉みたいなテンションの魂を宥めて静かにする。

 

「報酬は君たちが望む特典を。それだけ現状切羽詰まっているのでね。ただし、今回の依頼中は私が支給する特典で戦って頂こう」

 

女神から離れるなど世界の終わりに等しい。

全員が合意したところで隣界に放つ。

隣界に巨大な何かが現れたのは座が感知した。

 

「……さて、これで滅してくれれば良いのだが」

 

次なる策は考えてある。

その為には彼らが全滅しないとならないのだが、まあ、良いだろう。

 

 




彼らに出番はあるのだろうか。


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30話

お久しぶりです。



「カリオストロさん。デートにいきますわよ!」

「……すまない女神よ、もう一度その可憐かつ麗しい声を震わせて言っていただきたい。私の矮小なる脳髄は貴女の声を記憶に刻むのに忙しく、理解できるまでに時間がかかるのだ」

「……カリオストロさんの奢りで……その……デ、デートにですわね……! ああもう! カリオストロさんのばか!」

 

羞恥に打ち震える女神というだけで凄まじい破壊力だというのに、最後のセリフは頂けないな。

ふふ、それでは可愛らし過ぎる。

女神のあどけなく、少女らしい素が良く出ていて、それを直視した我が目は潤い過ぎて爆発してしまいそうだ。

ふふ、なんたる至福。なんたる幸福。

もはやあのなんだかよく分からない理を流し出そうとしている変質者などどうでもよろしくなる。

 

「もう! 早く行きまーーひゃああ!? なんで何も着てないんですの!? あぁ、もう!」

 

女神が引っ張るので服……マントが脱げた。

目を逸らして女神が部屋の外に出て行くが、ふふ。

この写真のタイトルは【羞恥に顔を歪める女神】といった具合か。大きく印刷して冥王星あたりにでも展示しておこう。あそこは今女神博物館の様相を呈しているのだ。

とりあえず隣界にいるファントムとやらだと思われる個体を引きずり出してからグランドクロスを放ってから着替えつつ魂を感じてみる。

こちらの世界の魂が一つ増え、隣界には若干ながらも弱った魂が一つだけ残っている。

仕留めは出来なかったが、概ね思った通りだ。これでしばらく邪魔は出来まい。

ファントムにはまだ舞台に役割があるのでな。

送り込んだ転生者諸君には残念だが、仕方あるまい。

女神が最優先なのでな。これは不変の理である。

ジョンとやらには後で策を練るとしよう。

 

「カリオストロさん? まだですの?」

「すまない女神よ。今着替えを終えたのでそちらに向かうよ」

 

さて。

今はそんな事より女神との突発デートだ。

 

「今日はデパートに行きますわよ。たまには庶民的なデートも良いですわよね?」

「是非もない。女神が行きたいのならば最優先としよう」

「じゃあ、今日は色々買いますわよ! ショッピングデートですわ!」

 

可愛らしく微笑む女神に、もう隣界にグランドクロスと超新星爆発とブラックホールと宇宙開闢の衝撃を放って何もかもを終わりにしてしまいたくなるが、それで隣界が使えなくなっても困る事を放つ寸前で思い出して踏みとどまる。

あぶないあぶない。

 

「カリオストロさん? ……もしかして気乗りしませんの?」

「そんな事はないよ我が女神。少し考え事をしていただけなのだ」

 

私らしくもない。女神と共にあるというのに、その他の塵芥のことを考えるなど……!

 

「……なら、よろしいですわ」

 

少し不安な面持ちにさせてしまった。

儚くも美しい横顔ではあるが、その様な顔をさせたいのではない。

出来る限り女神には笑っていてもらいたいのだ。

……コレクションにはしたが。

 

「ふふ、どのような服を着せようか悩んでいたのだ。許されよ」

「……っ、あ、うぅ……もう! 変な想像をしないで下さいまし!」

 

脛を蹴られたが女神の顔から不安は消えていた。

 

「恥ずかしい事言った罰ですわ! 私、コアラが欲しいですわね!」

「コアラ……ふむ……着ぐ--」

「カリオストロさんのコアラコスはダメですわよ」

「……女神の--」

「私が着ぐるみ着たって意味無いと思いません?」

「……正論ではあるが、私は女神のコアラコスを見てみたいと心が叫んでいるのだ」

「……張っ倒しますわよ」

 

潔くコアラを連れてきた。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

その日の深夜。

女神の素晴らしき寝顔を拝見し、起こさぬ様に細心の注意を払って布団を直しながら全力の写真撮影を行い、よほど眠かったのか、脱ぎ捨てられた衣類を回収……もとい、保護して私は自分のスペースに帰る。

--我が友よ。我が女神はなんでこんなに麗しいのだろうか。

今日だけで増えた女神コレクションを整理しながら返らぬ問いを頭の中で反芻させる。

 

「ふふ、嗚呼、もう溢れてしまいそうだ。冥王星如きでは足りないか。ならば次は海王星に飾るとしよう」

 

 --カールよ。ゲシュタポの牢にカールの指定席を用意したが。どうする。

幻聴が聞こえた気がして獣殿似のぬいぐるみを見た。

 

「……気のせいですな」

 

ぬいぐるみが若干動いた気がしたが、気のせいだろう。

隣界の魂も少し回復し始めた。

ならばここは次なる策を講じて対応するとしよう。

御誂え向きな存在もいる事だからね。

 

「さて。居るのであろう、ファントムとやら」

「……なんだ、寝首をかくつもりだったんだが」

「残念だが、そうはいかないな。我が女神の至福を見るまでは私は死なんし死ねん。そういう風になっているのだから」

 

ふん、とファントムは鼻で笑う。

私は整理を続けながらファントムを隣界に放り込む。

 

「さて、そろそろつまらぬ即興劇は終わりとしよう。こうしている間にも、我が女神は羽化の時を待っているのだ」

 

 

 

 

 



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小噺みたいなもの

——私こと、カール・クラフト、もしくはメルクリウス、あるいはカリオストロは約束を守る男である。

 

「いつか、私は犬になろうと約束したね」

「……」

「ゆえ、なってみた」

「……」

「占星術とは便利なものだね。——あぁ、感激の余り声も出ないかね。よろしい、ならばモフモフだ。存分に私をモフモフ……女神? なぜ天使を呼び出しているのだね? 女神?」

「〈刻々帝(ザアァアァフキエェル)〉ッ!」

 

蜂の巣にされた。

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

さて。

昨今の塵芥による原作再現及び女神至高天構築作戦——計画名『女神チュッチュ』は順調に進んでいる。

計画としては最終段階に入っており、後は我が本体が居座る座に女神を落とすだけなのだが。

予想外の展開によって我が計画は更に円滑に進む様だ。

なんせ、勝手に特異点の穴を作り出すのだから。

とはいえ、まだ彼、もしくは彼女も所謂力をためている、の状態なのだろう。

ちょっかいを出す様子はない。

もしくは、私の放った尖兵によって壮絶に弱っているか、だが。

 

「カリオストロさん、あのネズミ可愛いですわよ!」

「うむ? おお、アレが良いのか女神。ならば私が——」

「い、いい! 良いですわ! 何もしないで! 出来ればわたくしにだけ付いていて! そ、そうですわよ! 手を繋ぎましょう! わたくし、はぐれやすいんですの!」

 

慌てて真っ赤になってまくし立てる我が女神の愛らしい表情を惑星サイズに拡大して宇宙に浮かべること一瞬。

私は何のためらいも無く女神の柔らかくふんわりと、しかし心地よい弾力と瑞々しさを触感として持つ小さな、そして愛らしい手を優しく包む様にして握る。

——嗚呼、これだけで昇天してしまいそうだ。

 

「な、何で恋人……あぁ! なんでもないですわ! わたくしカリオストロさんとラブ握りで遊園地デートしていたいですの! 楽しい! ほぉら楽しいですわ!」

「それはなによりだ女神よ」

 

なにやらすごくヤケになっているようだが、どうしたのだろうか。

 

「あははは! カリオストロさん! 今度はあちらに行きますわよ! ほら!」

「あぁ、女神よ。そんなに引っ張ってしまっては破けて……あぁ、それはそれで素晴らしいかもしれないね?」

 

 

 

 

 

 

#side 五河琴里

 

 

 

 

 

 

私たちは現在、史上最強の精霊〈メルクリウス〉と最悪の精霊〈ナイトメア〉が遊園地デートをしている様子を見ている。

やってることは簡単だが、本当に〈メルクリウス〉が〈ナイトメア〉のことを好きであるのが見ていてよく分かる。

悪いが、士道では相手にならない。

チケットの待ち時間などは共通で盛り上がりそうな話題を絶妙にチョイス。疲れを少しでも感知したならさりげなく座らせたり、あるいは休ませたり。

〈メルクリウス〉のありとあらゆる行動の全ては〈ナイトメア〉のためにあるのだとはっきりと分かる。

 

「それじゃ、困るのだけどね……」

 

ぽつりと呟く一言に、反応する人はいない。

デレさせろと宣言したからか、士道がパートナーとして一緒に来ていたのだが、今はトイレだ。

いつの間にか恋人繋ぎをして密着度が増した二人を見て危機感を覚えるが、どうにかする手段なんかそこにはない。

なんせ相手は最強と最悪。

こちらにある札全てを切っても〈メルクリウス〉には対応出来ないだろう。

下手をすれば全世界が相手でも平然としていそうな——?

一瞬、白銀に輝く双頭の蛇を幻視した。

もちろん、そんなものは見たことがないのだが。

 

「どーしたものかしらねー」

 

ずずぞぉ、とため息と一緒にジュースを一気に啜り込んだ。

士道はまだ帰ってこない。

 

 

 

 

 

 

#

 

 

 

 

 

ま っ た く !

溜まったものではありませんわ!

カリオストロさんと遊園地——は別に良いとして! 

どうしてこんなに紳士的なのに変態行為や明らかにおかしい行動を平気で、しかもおもむろに取ろうとするんですの!?

 

「女神よ、あぁ、女神よ……!」

「どこからそんな立派なカメラを取り出してますの!?」

 

貴方自分が注目の的であるの気づいているでしょう!?

 

「やはりデートとは素晴らしい……! 女神のこのような姿が見れるのだから——」

「……カリオストロさん。わたくし、そろそろ普通のデートを楽しみたいのですけれど」

「是非もない」

 

スイッチの切り替えは早すぎますのよ! 

わたくしが対応し切れませ——ああっ!

 

 



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番外 掌編レベルの短いの

ごめんな。本編じゃ無いんだ


「今宵はなんと素晴らしい日なのか……!」

 

輝きの先。

咲き誇る光は女神のものだ。

その光に照らされた私は悪魔のように浄化されてしまいそうだ……!

 

「あの、カリオストロさん。なんで私、折紙さんのコスしないとなりませんの?」

「野暮なことを聞くのだね女神。——世界がそうあったから、なのだよ……!」

「無駄に壮大ですわね!?」

「ふふ、何度も申し上げておりますが、女神よ。この世界は女神を中心に回っているのです」

「それとこれとは関係なさそうですわよ!? って! 撮らないでくださいまし!」

「恥ずかしがる女神もやはり至高」

 

思いっきり蹴られた。

せっかくの女神のプレゼント(物理)なので甘んじて受け止めた上で衝撃を永久保存した。

 

#

 

「トリックオアトリート、ですわ」

「ふふ女神。私がトリック以外を選ぶとでも……?」

「トリートして下さったらわたくし、人生最高の笑顔が出る気がしますわよ」

 

のたうった。

究極の選択だ。女神のイタズラと女神の人生最高の笑顔。どちらも欲しい。

 

「あぁ、女神……矮小なる我が身を今ほど恨んだことはない。女神のイタズラも欲しい。されど人生最高の笑顔も見たい。あぁ、どうすれば良いのだ。ラインハルトよ、教えてくれ……」

「ラインハルトさんがどなたかは存じませんけれど、二兎を追う者は一兎をも得ず、ですわよ」

「ぐわああああ! っく、なんなる無情、なんたる絶望……ッ! 今までの回帰で最も女神からの好感度が高かったが、だからといってこのような小悪魔女神を作り出さずともよいであろう。嗚呼、しかし、そのような要求をする女神が非常に可愛らしい」

「……はぁ……。カリオストロさん。あと三十秒で決めてくださいまし」

「——両方」

「イタズラ決定ですわ」

 

笑顔でイタズラしてもらった。

拗ねた女神にお菓子を差し出した。

女神の笑顔だが——こればかりは座に保存しよう。

私の後となる神にも我が女神の素晴らしさを知ってもらわねば。

少しして機嫌を直した女神は私を見て笑う。

 

「カリオストロさん。転移系の魔法、使えますわよね?」

「もちろんだとも」

「なら——二人でお菓子を強請りに参りましょう」

 

是非もなく。

 

#

 

コスプレだが——私はメガゲンガー、女神は吸血鬼のコスプレをしている。

なぜメガゲンガーかといえば、女神の手作りだからだ。

私はそこまでポケモンに詳しいわけではないが、女神はよく対戦などをしているからか設定などに詳しい。

『カリオストロさんでも知らないことがありますのねっ!』

と嬉しそうにメガゲンガーの設定を語る女神をあらゆる角度から録画録音撮影油絵とあらゆる方法で形に残し、コレクションにした。

女神の話からすればメガゲンガーは攻撃時などに異次元から現れる……ということだ。

そんなところが私にそっくりだとか。

ふふ。可愛いではないか。

先ほど対戦している女神を覗いたところ、ゲンガーのニックネームはカリオストロとなっていた。

ふふ、いじらしくって可愛いではないか。

あぁ……! 女神への愛が溢れ出す……!

 

「さて、カリオストロさん。まずは琴里のところに向かいますわよ。異次元からトリックオアトリート大作戦ですわ!」

 

異次元から現れるというそれだけで十分悪戯になる気がするのだが、そんな事はどうでもよろしい。

私は嬉しそうにする女神の姿を全力で保存するのみ……!

なんと可憐なのだろうか。

おそらくその可憐さを衆生に語ろうとした場合、宇宙開闢から終焉までを用いても足りないことであろう。

 

「——では参ろうか、女神よ」

「いつでもよろしいですわ!」

 

……実はすでに2月なのだが、女神がハロウィンだと言い張るのだからハロウィンなのだ。

 

「というわけで来たわけだよ諸君。さっさと出すもの出したまえ」

「なんなのだおまえはいつもいつも!!」

 

〈プリンセス〉が怒りマークを額に浮かべながら苛立ちの声を上げる。

やがて同居したり遊びに来てる他の精霊なんかが集まっていく。

それぞれに遊びながら菓子やイタズラなどをしつつ実に楽しそうな女神をこの世界に存在するありとあらゆる手段を用いて記録保存保管する。

素晴らしいぞ? ん? 見せないが。

 

 



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バレンタインデー

バレンタイン。

日本においては女性から男性にその秘めたる思いや友愛を込めて菓子類を渡すイベントとなっている。

菓子類でもっともポピュラーなものはチョコレート、というのは日本に住むものであれば誰しもが知る情報である。

 

「……女神よ。これは……」

「チョコレートですわよ。ちょっと気合入れてみましたけれど、どうでしょうか」

 

さぁ、ここでこの記念すべき、いや、記念する日において私こと水銀の蛇、或いはサンジェルマン、或いはカリオストロ、或いはメルクリウス(以下略)が女神から賜ったものを見てみよう。

おそらく大地をイメージしたのであろうチョコレートをたっぷりと吸ったスポンジケーキ。

上から見ると鉤十字が描かれており、その中心には私らしき人型のチョコレートが立っている。

さらにその人型の背後からは飴細工で出来た双頭の蛇が力強く、そして繊細緻密に円を描いて互いに絡み合い、これ以上無く私の存在を示している。

その姿は籠にも見えるわけだが、その理由は簡単である。

その双頭蛇が交差した中心には懐中時計にも見える飾りが添えられており、言わずともわかるが、これは間違いなく女神・時崎狂三のことを指しているのであろう。

 

「ああ……なんと……」

 

思わず感嘆の声が漏れ出る。

その声は感動のあまり打ち震えているのが自分でも理解出来る。

 

「本当は昨年渡す予定でしたの。けれど、中々上手くいかなくて」

「……」

 

声が出ない。

あぁきっと、この気持ちを、感動を、情動を言葉にするなど無粋であると。

そういうことなのだろう。

 

「あの……やっぱりお気に召しませんの……」

「あぁ違う、そのような事はありえませんな女神よ。愚かな私を許して欲しい」

 

きっと何度も練習したのであろう。

その白魚のような指を見ながらそう思う。

あまり包丁などの刃物を使わないからか、怪我などは見られないが、時折夜中に甘い匂いがしていたのは知っている。

 

「女神よ、食しても良いだろうか」

「えぇ。もちろん。あ、わたくしが切り分けますわ」

「では、頼むよ」

 

#

 

甘い。

しかし、その中にも苦味がある。

飴細工も見事なものだ。

 

「あぁ、なんという……素晴らしいよ女神」

「うぅ、そんな全身で喜びを表さなくても……っていうかどこから出したんですのそのスポットライト……」

 

思わずポージング付きでその素晴らしさを表現してしまうほどだ。

しかし悲しいかな、私のそれでは表現がしきれない。

仕方なくこんなこともあろうかと設置していたスポットライトを使ってより『らしく』表現したが、それでも足りているとは言い難い。

なんとも惜しいことだが、もしこの女神のプレゼントを全力で表現するならば世界中の美句麗句を用い、さらに世界中の紙を全て使ったとしても表現し切ったと言い切ることはできないだろう。

惜しむらくはこのあらゆる芸術を凌駕した芸術を永劫保存することが出来ないことだ。

食物である以上、これは朽ちる。

いや、私が術式を刻めば朽ちることはないのだが、それはしたくない。

これは女神の作品で、この中には女神の想いが詰まっていると言っても過言ではない。

そのようなものに私の手が加わるなど、無粋にも程があるというものだ。

 

「女神よ」

「はい。なんですの? カリオストロさん」

「ありがとうと、感謝を捧げよう」

「いえいえ……あの、そんな泣かなくても……」

 

私、感涙。

今日は素晴らしい日となった。

 

あぁ、諸君。

Eine gluckliche Valentinstag!!



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34話

やぁ。


目が醒めると、黄金があった。

 

「ここは……」

「私の城だよお嬢さん(フロイライン)

 

男性の声。

落ち着いた声だ。

声の出た先、そこには気だるげに玉座と言うべき椅子に腰掛け、肘をついてこちらを見る『獅子』がいた。

いや、獅子ではない。人間だ。

頭を振って今しがた見た幻覚を打ち消し、礼を失しない程度に注意深く観察する。

周囲は城というように、確かに豪奢で美しいが、瓦礫だらけだ。

そして、城主であろう黄金もどこか、疲れ、ボロボロであるように見える。

 

「あぁ、すまない。我が城はもはや崩れる寸前でな」

 

いわば魂の残滓というべきか。

そう皮肉げに笑う彼はそれでも美しさを損なわない。

人体の黄金比。あの人に出会っていなければ心を塗りつぶされてしまっただろう程の色香。

そしてこの滅びかけた城ですら、この男が背景にしているというそれだけで一枚の絵画にしてしまえるほど美しく見える。

彼が口を開く。

それは似つかわしくないほど人間臭い表情で、

 

「ーーカールを頼む」

 

答えは言えず、急速に覚醒した。

 

 

 

 

#

 

 

 

ーーふむ。懐かしの波動がしたからつい女神の部屋にニュルリニュルリと侵入したが……。なるほど。貴方はどこまでも愛に殉じ、私を友として呼んでくれるのだな。

いつの間にか女神の眠る傍にある獣殿のぬいぐるみを見ながら感慨に耽る。

 

「……カリオストロさん? なんで私の部屋にいますの? 殺しますわよ?」

 

ちなみに女神は寝るときは裸族だ! ふははは! これは! わが世の春であるぞ!!!

 

ーーカール。

 

全身に均一に広がる衝撃を味わいながら諌めるような声を聞いた気がする。

 

「カリオストロさんの!!! ばかぁぁぁあ!!!」

 

ーー卿は相変わらずなのだな。

 

「えぇーー偽りであれ、積み重ね生きた時に嘘はつけない。私はいつしか『私』と胸を張って主張出来るようになったし、私だけの女神も見つけた。我が友や息子には悪いと思っているが……これは『どうしようもないもの』なのだ」

 

ーーふ、どうしようもないナマモノ筆頭が口にするとは、実に説得力がある言葉だとは思うが……。これだけは伝えておこう。我が城の牢獄はいつでも卿の帰還を待ちわびているぞ。

 

「……カリオストロさん? なんで全弾全身で受け止めてわけのわからない事を笑顔で演説しつつ悶絶してますの? ちょっと? 演出みたいな光を窓から入れないでくださいまし!?」

「あぁ、いや、やはり女神は至高だなと、そう再確認していただけだよ」

 

返事は赤面怒り照れ顔ローリングソバットだった。

とても可愛らしい。実に良い。エンジンがかかってくるようだ。

とめどなく溢れる女神への思いを口から迸らせようと口を開いた瞬間。

流れるように続くコークスクリュードライバーで意識は刈り取られた。

 



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