タウイタウイの美少女? 提督とアレな仲間達 (ゆっくりいんⅡ)
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扶桑・山城編 姉妹愛も程々に

オリジナルの合間の息抜きに一つ書いてみました。まあ……我ながら、これは酷いとしか言いようがない。

こっちはオリジナルが躓いたら順次書いていく予定です


(扶桑視点)

 皆様始めまして、私は扶桑型戦艦の一番艦の艦娘(かんむす)、現在は航空戦艦となった扶桑と申します。只今私達の上司、提督に呼ばれて執務室に向かっているところです。

 あ、知らない方に説明しますと、艦娘というのは太平洋戦争、一般的には第二次世界大戦でしょうか? その戦争で活躍した日本の帝国海軍が使用していた軍艦が、何らかの理由で人、それも全員女性の形として生まれ変わったもの。それが私達です。

 そして、そんな私達を指揮し、導いてくれるのが提督。その他にも私達と人類共通の敵である深海凄艦や、鎮守府のことなど話すことは色々あるのですが……そちらはまた別の機会、別の艦娘にお任せしましょう。

「提督、失礼しま――」

 さて改めて、私はノックしてから扉を開けたのですが、途中で言葉を詰まらせてしまいました。

「ああ、来てくれたか扶桑。急に呼び出してすまんな」

 座って出迎えてくれたのは、襟元に中将の階級章が輝く、私達の提督。私の失言(?)を気にした様子もなく、気遣いの言葉を掛けてくださいます。

 それにしても、相変わらず提督は綺麗な方です。腰まで伸びた艶やかな黒髪、白い軍服に包まれた肢体は華奢で、肌は雪のように真っ白。白百合のような美しさを連想させます。

 二十代らしいですが、十代の少女でも通る若々しさで愛らしく、声も高いのでどこか幼く感じさせます。目付きはちょっと悪いですが、それも魅力の一つですね。

 もっとも、提督本人にそれを言うと、凄く微妙な顔で「その賛辞に、男である俺はどう反応したら正解なんだ」と仰られますが。

 ……ええそうです、男性です。私達艦娘も羨む美貌を持つ提督は、れっきとした男の人なのです。人の身になってつくづく思うのですが、世の中は不平等で、提督は生まれる性別を間違えています、本当に。

 でも提督に、「男と比べるな、大体お前だって美人だろ。大和撫子系の」と臆面もなく言われると、嬉しいやら恥ずかしいやらなのですが――

「扶桑?」

 ……いい加減、逃避してないで現実を見ましょう。

 とはいえ、執務室にいるもう一人、扶桑型二番艦、つまり妹の山城が床に倒れて気絶している状況を見て、どうすればいいのかは思いつきませんが。

 ……一体、何があったのでしょうか。

「あの、提督? 山城はどうしたんですか? 何か失礼なことでも」

 私が尋ねると、提督は困った顔になります。僅かな変化ですが、常に仏頂面なこの人にしては珍しいことです。

「急に入ってきたと思ったら、「扶桑姉様の仇!」って言いながら襲い掛かってきた。勢いで返り討ちにしてしまったんだが……

 仇って言われても心当たりがないし、扶桑は何か知らないか?」

 ……何をやっているのでしょうか、我が妹は。上官である提督に理由もなく暴力を振るうなど、軍令違反とかそういうレベルを超えています。

 幸いにも、提督に怪我はないようです。というか、仮にも人の形をしているとはいえ、軍艦である山城を返り討ちにするあたり、提督も大概非常識ですよね……

 まあ、提督に(物理的に)やられる艦娘達の光景は、この鎮守府では日常と化しているのですが。

「いえ、私も何も……」

 物言いは皮肉っぽいですが、提督はお優しい方です(本人は否定するでしょうが。つんでれ、というのでしょうか?)。私はこの方に返しきれないほどの恩をもらっていても、恨まれるようなことは何一つされていません。

「(小)……伊勢日向よりも重宝してもらってますし、錬度も上ですし」

「何か言ったか?」

「あ、いえ、何も。とりあえず、山城を起こして話を聞いてみては?」

 手っ取り早い解決方法を提案してみますが、提督の表情は変わらず。あまり乗り気ではないようです。

「また襲われても困るんだが……(小)ぶっちゃけ面倒だし」

 ……提督、聞こえてます。

 でも確かに、山城が再び提督に襲い掛かるのも困りますので、私が起こすことになりました。

「山城、起き――」

「姉様!?」

 声を掛けると、言い切る前に白目の気絶状態から飛び起き、私の肩を掴んでくる我が妹。……そういう超反応は、戦場で役立てて頂戴。

「姉様、大丈夫ですか清いままですか!?」

「あ、あの、山城?」

 山城は真剣な顔ですが、私には何を言っているのか分かりません。というか清いって、それは、その……

 『そういう意味』だと理解してしまい、自然顔を赤くしてしまう私を見て何を勘違いしたのでしょうか、山城は沈痛表情で顔を伏せてしまいます。

「おいたわしや扶桑姉様、下衆提督に身も心も穢されてしまったのですね……かくなる上はこの山城、全身全霊を以て姉様を癒します!」

 展開に付いていけずにいると、山城の手は私の服にかかり、顔も徐々に近付いてきます。息が荒いわよ山城?

「山城ダメよ、提督の前でこんな……」

「寧ろ見せ付けてやりましょう姉様。私達が愛し合っている様を目に焼き付ければ、提督も二度と手を出さなくなる筈です」

 その理屈はおかしいと思うわよ、山城……そもそも、前提からしておかしいのですが。

 どうすればいいのか分からないでいる私を見て了承の合図と取ったのか、山城は益々密着して潤んだ瞳で私を見てきます。

「大丈夫です扶桑姉様。私に身を委ねて――」

「やめんかアホタレ」

 ヒュ、ゴスン

「あいた!?」

 提督が投げ付けたCDケースがクリーンヒットした事で、山城はようやく止まってくれました。

 痛そうにはしていますが、仮にも艦娘なので怪我はないでしょう。

「何するんですか下衆提督!? もう少しで姉様と念願の蜜月を果たし――癒して差し上げられたのに!」

「隠す気ないのかお前は。黙って聞いてれば、お前の欲望を満たすために冤罪+百合シーン強制視聴なんていう罰ゲームを喰らわされる俺の身にもなれ」

「……まさか、提督も交ざりたかったんですか? (小)……姉妹丼とか、流石は下衆の極み……」

「何をどう解釈したらそうなる。というかお前、扶桑に何する気だったんだ」

 溜息を吐いている提督に、山城は私から離れて目を見開き、

「もちろん、〔ピーーー〕した後、全身を〔ピーーーー〕して〔ピー〕して〔ピー〕もして、最後に〔エラーが発生しました〕ですあいたたたたたたた!?」

「誰が詳細を言えと言った」

 鼻息荒くその、女性が言うべきではない言葉を連発する山城の顔に、提督のアイアンクローが入りました。

 ギギギギギギギギギギ

 山城は逃れようともがきますが、提督のアイアンクローは決まったら最後、離してくださるまで痛みに悶えるしかないそうです。

 良くこれを喰らっている一人の五十鈴さん曰く、「0フレームでガード不可とかどうしろっていうのよ……」とのこと。やられたことはないのでよく分からないですが、凄いそうです。

 メキメキメキメキメキメキメキ 

 頭蓋からしてはいけない音が聞こえ始めた辺りで、提督が手を放しました。

「落ち着いたか?」

「はい……」

 顔をさすりつつ提督を睨む山城ですが、今のはあなたが悪いわよ……

「で、俺が扶桑に何したってしょうもないデマ流したアホはどいつだ? (小)大体予想付くが。あとはコイツの妄想か」

「自分は潔白だと言い訳するつもりですか? 男って皆そうですよね……」

「こんな時だけ男扱いするな」

 溜息を吐く提督と、睨みつける山城。当事者である私は置いてけぼり気味ですが、黙って見ているのが賢明でしょう。

 ちなみに山城は、『提督を女の子にしようの会』というのに参加しているらしく、事ある毎に提督を女装させたり女喋りにさせようと画策しているそうです。

 え、何でそんなことを知ってるか、ですか? ……本人が嬉々として私に語っていましたから。「形だけでも提督が本当に女の子だったら、色々許せる気がするんです」とは山城の弁ですが、何を許す気なんでしょう?

 ちなみに提督はその話を聞いて、「ウチの優秀な連中はどうしてこんなのばかりなんだ……」と天を仰いでいました。……ご愁傷様です。

「とぼけてもネタは上がってるんです! 鈴谷さんが懇切丁寧に教えてくれたんですから!」

「おいちょっと鈴谷呼べあと熊野も」

 ビシリと指を刺す山城を無視し、提督は傍の受話器で早口に指示を出します。私もその名前を聞いた途端、今回の全貌が見えてしまいました。

 最上型重巡洋艦三番艦、現在は航空巡洋艦の鈴谷さん。彼女は提督も認める優秀な方なのですが……

 その、ハレンチなことに関してあることないこと言って回る癖がありまして、提督へのセクハラも日常と化している、ちょっと困った人です。

 彼女の話を真に受ける人はほとんどいないのですが、どうやら山城はその数少ない例外だったようで――

「チーッス提督、どしたの急に?」

 軽い挨拶をしながら入ってくるのが鈴谷さん、その後に入ってくるのは鈴谷さんの姉妹艦で四番艦の熊野さん。

 大体事情を察しているのか、鈴谷さんを見る熊野さんの目は呆れています。

「おい鈴谷、山城に何吹き込んだ」

 嘘は許さんとばかりにギロリと鈴谷さんを睨む提督。この目で睨まれて言い逃れが出来る艦娘は、我が鎮守府には一人もいません。

 バッと勢いよく目を逸らす鈴谷さん、冷や汗も流れてます。心当たりがありまくるようです。

「こっち見てキリキリ吐け」

「いやー、その、さ? 昨日扶桑さん秘書官だったじゃん? しかも皆出撃やら遠征でほとんど出払ってたから二人っきりなんだし、つい出来心で憶測を」

「本音は」

「山城に面白がってあること無いことエロイこと吹きこんぢった♪ 具体的には〔ピー〕とか〔ピーーー〕とか〔エラーが発生しました〕とか」

 てへぺろとサムズアップする鈴谷さん。

「熊野」

「承りましてよ。とおお↑おぅ↓!!」

 ゴミを見るような目の提督が熊野さんの名前を呼ぶと、

 ゴスン!!

「グベァ!?」

 熊野さんのラリアットが綺麗に極まり、鈴谷さんはその場にひっくり返りました。艦娘同士だとダメージが違うのか、中々起き上がれそうにありません。

「まったく鈴谷は、はしたないことばかり言うものではありませんわよ?」

「ラリアットははしたないとかそれ以前の問題じゃないかなくまのんー……?」

「レディの嗜みですわ。あとくまのん言うなですわ」

 倒れた鈴谷さんを見下ろしながら手を払う熊野さん。とりあえず、ラリアットは淑女の嗜みと違うと思います。

「提督、終わりましたわ」

「毎度悪いな熊野。後で茶でもご馳走するぞ」

「あら、お気になさらなくてもいいですのよ。親友が間違った道を歩もうとしてるなら、説得して道を正すのが親友ですもの」

「説得(物理)ってありなん……?」

「ですが折角ですし――貰ってあげてもいいけど?」

「そうしてくれると助かる、男の面子って奴だ」

「鈴谷のこと無視ですかーそうですかー……」

 ウインクをする熊野さんと、男の面子を語る美少女提督(♂)。間で無視されてる鈴谷さんが若干哀れですが、自業自得です。

「さ、鈴谷。提督の執務を邪魔してはいけませんわ。帰ったらお説教ですわよ」

「この上説教とかどんだけー……提督、ぷりーずへるぷみー。お礼にイイコトするよー?」

 ヒュ、ゴスン

「いでっ!?」

「少し頭冷やせ」

「お説教、プラス一時間ですわね」

 投げた本の角が額に当たり、悶絶しつつ熊野さんに引きずられながら鈴谷さんは消えていきました。

「という訳で山城、誤解だった訳だが」

「提督、私は信じてました!」

「どの口が言うか。大方嘘だと分かってて扶桑とナニする口実にしたんだろ」

「ナ、ナンノコトデショウカ?」

 バン!

「ナニすると聞いて!」

 ドゴス!!

「ぐぺぇ!?」

「お説教プラス三時間ですわね」

 ズルズルズル。

 引き摺られていく鈴谷さん、提督に睨まれて盛大に眼を逸らす山城。

「……クスッ」

 混沌とした状況に、思わず笑いが込み上げてしまいます。

 轟沈や理不尽な命令はなく、妹や提督、仲間が欠けることなくいる日常。少し騒がしいが、あの時に比べれば望外に幸せな状況でしょう(小)提督のお陰で、伊勢や日向にも勝ってますし

 どうかこんな日が、いつまでも続きますように。

「綺麗に終わらせようとしても願い下げだ」

 ……提督、立場上(ツッコミ)大変なのは分かりますが、山城を睨みながら心を読まないでください。

 

 余談

 後日、山城は罰として主砲を全て外し、艦載機を満載して潜水艦狩りに出撃しました。

 出撃前、「こ、これで勝ったと思わないことですね!」と提督に言っていましたが、MVPを取る戦果を上げた山城は、嬉しそうに戦果を語り、提督のことを褒めていました。

 ……山城も、提督に対してはつんでれなのかしら? 

 

 

 

 

 




扶桑姉さまは癒やしキャラだと思うんですが、どうですかね? そして山城……姉妹愛とは行き過ぎるとこういうものかと思って(嘘
あとこれ、どこに謝ればいいのかな……提督の皆さん、嫁艦がアレでも最後まで読んだら作者を許してくださいね?(はぁと)

感想・誤字脱字指摘、よろしくお願いします。

次回:春雨(予定)


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金(を握るもの)は暴力よりも強い(文月編だよぉ~)

「な~が~と~さ~ん~? ちょおっといいですかぁ?」

「!? な、なんだ文月か。何か用か?」

「はい、御用ですよぉ~。娯楽品関係のことで、お聞きしたいことがあるので」

「(字がおかしいような……)私は経理関係に携わってないのだが」

「い~え~、大したことではないですよぉ~。ただちょっと、用途不明の購入品があったので聞いて回ってるのです」

「な、なんのことだ?」

「目が泳いでますよ~?」

「急に海が恋しくなってな」

「あと、心当たりがない人が『なんのことだ?』はおかしくないですか~? 普通詳しくない人は『そんなのがあったのか』、って言うと思いますよぉ?」

「言葉の綾だろう。そんな探るような目で見られては、変な言い回しも出てしまう」

「そうですか? そうかもしれませんね~。ごめんなさい、疑い深くなっちゃってたみたいです(´・ω・`)ショボーン」

「気にするな、それが仕事だからな」(しょんぼりしてる文月可愛いなあ)

「あたし、探偵さんじゃないんですけどね~」

(苦笑してる文月も可愛いなあ)

「ところで長門さん」

「ん、何だ?」

「最近、皐月お姉ちゃんにクマさんのぬいぐるみをあげたらしいと聞いたんですが~」※軽巡の方ではない

「あ、ああ。皐月が女の子らしい部分もあることをアピールしたいと聞いたからつい、な。それがどうした?」

「あれって、外地でしか買えないものですよね~?」

「それはほら、あれだ。ネット通販があるからな」

「自由に使えるお金がないのに~?」

「あ」

 …………

「な~が~と~さ~ん~?」(ニコニコ)

「い、いやその、あれだ。そうだ! 提督に頼んで」

「しれーかんに頼んだとしても、経費で落とす時はあたしに報告が来るんですけどねぇ~?」

「……忘れていたのではないか? 提督も忙しいのだからな」

「しれーかんがそんなミスをするかなぁ~?」

「提督も人の子だからな、間違いもあるだろう」

「まあそうだ、間違いは誰にでもある。もっとも、お前からそんな頼みを受けた記憶は欠片もないが」

「!!??」

 後ろから声を掛けると長門は心底驚いた顔で振り返り、俺――提督の姿を見つける。次いで冷や汗がダラダラと流れ出す。

 ちなみに、話は廊下の曲がり角で最初から聞いていた(気配を消して)。長門は気付いていなかったが、文月は――気付いていたとしてもそんなに不思議には感じない。

「提督……これはだな、あの」

「人のせいにしようとかいい度胸してるな、長門」

「しれーかんのせいにするなんて、罪は重いですよぉ~?」

 いつも通り淡々とした自分とニコニコ顔の文月に詰め寄られ、長門はジリジリと後退しながら口を動かしていたが、やがて目を鋭くしてキリッとした顔つきになり、

「たかだか数千円だろう、鎮守府全体からすれば小銭――」

「小銭だろうと金は金だ」

「ちょっとでも盗むのはいけないんだよぉ~?」

 開き直ろうとしたので先手で叩き潰した。そんな理屈は握り潰す。

 そして文月の笑みが深まった。これは怒りゲージが上がっている証拠である。

「前回から懲りてないですね~。これはぁ……『お仕置き』も倍かなぁ?」

 ビクゥ!!!

 それまで虚勢を張っていた長門は一気に顔が青くなり、震えながら文月に視線を移す。

 世界のビッグ7が旧型駆逐艦に脅えている。一見すると信じられない光景だが、この鎮守府で似たような光景は多々ある。

「ま、待て文月!! 私が悪かった、だからお仕置きは勘弁」

「だめで~す。さぁ~、悪い子はどんどんしまっちゃおうねぇ~」

「い、いやだあああぁぁぁまだ死にたくなーーーーい!! せめて戦いの中で!!」

「あは~、大袈裟だよぉ長門さん。ちょ~~~と、『オハナシ』するだけだよぉ~?」

 さあ行きましょうね~、と文月にドナドナされていく長門。普通に考えて重量も馬力も段違いな長門を引きずるのは不可能なのだが、細かいことを気にしたら負けだ。

 そして残された俺はというと、

「仕事に戻るか」

 放置である。所詮長門の自業自得だし、文月に任せれば『しばらくは』大人しくしているだろう。

 どいつもこいつも懲りないので、また似たようなことをやらかすだろうが。

「……」

 懲りない連中(艦娘)の顔を思い出し、俺は溜息を吐いた。

 

 

 二時間後、書類仕事を一通り終えてから報告があるため、俺は鎮守府内の『内務長官室』とプレートに書かれた部屋をノックする。

「はぁ~い、空いてますよ~」

 少し舌っ足らずで甘い声が中から聞こえ、ドアを開く。

 元は質素な執務用の部屋だったが、現在は部屋の主によりぬいぐるみや簡易ベッド、鏡台やお菓子入れなどが溢れた女子らしい部屋になっている。その真ん中には、実用性と愛らしさを兼ね備えた机の前には、

「あ、しれーかーん。いらっしゃ~い」

 ニコニコ笑顔でこちらを出迎えてくれる、部屋の主文月。机の上には『内務長官』の札が立てられている。

 この鎮守府には大まかに二種類の部署が存在し、それぞれ『実務班』と『内務班』と呼ばれている。

 実務班は海域の攻略や掃討作戦への従事、遠征など他の鎮守府でも艦娘達が行っている業務全般を指し。

 内務班は経費の管理や上層部に提出する書類や許可証の処理など、一般に提督・秘書官が行う雑務を業務とする。

 その中で『内務長官』は内務班における最高権力者、要するに内務班のトップである(名前は適当)。

 ちなみに文月は二代目長官で、初代は我がタウイ伯地の初代秘書官だ。

 まあ何が言いたいかというと、幼い外見に反して鎮守府屈指のやり手である。

「邪魔する。上層部からの新海域に関する報告、持ってきたぞ」

「あ、もうできたんだぁ。ありがとぉね~しれーかーん♪」

「礼はいいから確認してくれ」

「も~、しれーかんはせっかちさんだなぁ」

 ぷう、と愛らしく頬を膨らませながらも書類を受け取り、端に設置したソファに移動する文月。手招きされたので俺も座ることにする。

 ちなみにソファは一脚しかないので、必然隣り合うことになる。以前は買えよと突っ込んでいたが、「隣で一緒に座るのがいいの~」と文月が頑固に主張するため、好きにさせている。

「旗艦は秋津洲にしようと思うんだが」

「う~ん、秋津洲さん、練度は大丈夫かなぁ?」

「私見だが、問題ない範囲だろう。何より『ようやく戦闘で提督のお役に立てるかも!』と言ってたからな」

「そこまで張り切ってると応援したくなっちゃうねぇ。じゃあ遠征のサイクルを変えてぇ」

 一枚の書類を見ながらなので肩と肩が触れ合う距離で話しているが、いつものことなので別段意識はしない。一々気にしていたら仕事にならないからだ。

「これでどうかなぁ?」

「……ん、最適だな。いつも助かる」

「えへへ~、しれーかんに褒められた~。じゃあ、お仕事終わり~?」

「そうだな、これが終わったから余裕はある」

 書類をしまいながら告げると、文月はこれまでとは違う甘えた感じの笑みになり、

「じゃ~あ~……これでもくらえ~」

 などと言いつつ、こちらの膝に飛び乗ってきた。羽のように軽いので大した衝撃はないが、突然来るのはやめて欲しい。

「毎度乗る時にそれを言うのはなんなんだ」

「これ言うと、乗ってやったぜ~って気分になるんだ~」

「つまり深い意味はないと」

「そうだね~。だがそれがいいんだよ~」

 そう言いながら、嬉しそうに頭をぐりぐりと押し付けてくる。少しくすぐったい。

 文月は公私の態度は分けるが、反動か仕事が終わると極端に甘えたがる。(他の連中と違って)邪なものは感じないし、相応の結果は出しているので拒みはしない。

 寧ろ、仕事量を考えればこれでも少ないくらいだ。本人は「アタシはこれで充分だよ~」と言っているが、今度何か礼をするべきかもしれない。

「ね~ぇ~しれいかーん、髪結んで~」

「ん」

 頷いて文月を抱えたまま前を向かせ、髪を解いて用意してあった櫛を髪に通す。

「ん~、ちょっとくすぐった~い」

「我慢しろ、引っ掛かるぞ」

 解いた茶色の髪は癖のないストレートで、長いこと触っていたくなる柔らかさだ。ほのかに甘い匂いが漂っているようにも感じられる。

「んふ~。しれーかん、髪梳くのじょ~ず~」

「毎回やってるしな。自分のもあるし」

 俺の髪は文月と同じロング。寝起きや風呂のあとに整えるのが面倒なのだが、切るのも勿体ない気がするのでそのままにしている。

「こうやって髪ほどくとさ~、あたしとしれーかんって姉妹みたいだね~」

「お前は姉がいるだろ。あと毎回言うが、俺となら姉妹じゃなくて兄妹だ」

「え~、でもしれ~かん、暁ちゃんに『理想のれでぃ』として見られてるでしょ~」

「……」

 たしかに髪だけでなく体躯も男にしては華奢、顔立ちは女寄り「というより美少女だね~」割り込むな心読むな。

 後は無意識だが動作の一つ一つが女らしさに溢れているらしく、声が高いのもあって女に間違われることは多い。反面口調はかなり荒いはずなのだが。暁が言う『理想のれでぃ』に関しては色々な誤解と偏見があったのだが、まあ今はどうでもいい話だ。

「にゅふふ~、お姉ちゃんが増えた~」

「だからお姉ちゃんと呼ぶなと……」

「ふにゅう~……ねむ~い」

「おい抱きつくなこっち向くな寝るな、髪結べないだろ」

 眠そうな文月の飴玉(いちごみるく味)を放り込んで覚醒させ、髪を結っていく。髪型をいじるのは恒例で、自分で言うのもなんだが手付きは慣れたものである。

「できたぞ」

「ころころ~……わあ、かわいい~♪」

 鏡を見せてやると、ツインテール姿の文月が映っていた。五十鈴や瑞鶴などのツインテールを参考にしたが、気に入ったようで何よりだ。

「しれーかん、写真撮ってしゃし~ん♪」

「はいはい」

 無邪気にはしゃぐ文月の頼みに従い、ポケットから携帯を取り出して何枚か写真を撮る。文月が天使と言われるのも何となく分かるな、と笑顔をフィルムに収めながら益体のないことを考えつつ。

 横で燃え尽きたように真っ白になり、「金は命より重い……金は命より重い……」と延々呟いている長門がいなければ、素直にそう思えたのだが。

 その後しばらくは文月とじゃれあっていたが、仕事で疲れていたのか抱きついたまま眠ってしまい、服を掴んで離さないのでベッドに移し、そのまま寝かせてやることにした。甘えている時はつくづく離してくれない奴である。

 長門? 面倒なので放置してた。その後どうなったかは知らん。

 余談だが、文月は『怒らせてはいけないランキング』のベスト3に入っている。一位は知らないが、多分加賀とかだろう(すっとぼけ)。

 




後書き
 腹黒というよりおっかないキャラになった、次は腹黒感のギャップを出していきたい。そして文月に「あは~」と言わせたいだけだった。反省も後悔もしていない。
 どうも、ゆっくりいんⅡです。前回の艦これ小説投稿から何ヶ月たったかな……まあ、過去は振り返らないでいこうと思う(言い訳
 今回はツイッターのフォロワーさんからのリクエストで、文月を書かせていただきました。ちなみに作者も文月教入信者です。世に文月のあらんことを(真顔
 ちょっと短めかもしれませんが、ぶっちゃけ五時間の突貫作業で書いたものだ、許せ。嘘ですすいません今度はもっとしっかり書きます。ではもう眠気がやばいので、おさらば。

 夏イベ楽しみですね!(白目

追記
 こんな遅筆かつ未熟な作者ですが、書いて欲しい艦娘がいるという方がいましたら、コメントに記入してください。喜び勇んで書かせていただきます(良く知らない艦娘だと今回のものよりヒドイ出来になるかもしれませんが……すいません)。
 ツイッターのアカウントも掲載しますので、良ければそちらからでも大丈夫です。ただ悪戯を防ぐため、フォローしていただいた方限定とさせていただきます。
 
おまけ キャラ紹介
提督
 今回は大人しめだったドS男の娘提督。結果主義だが努力を蔑ろにしているわけではない。
 真面目に頑張っている相手には、無自覚ながら少々甘い。変態が多いゆえの反動か。
 鎮守府内の『お姉ちゃんと呼びたいランキング』1位(本人は知らない)。

文月
 内務長官。立場は提督より下だが権限は実質提督と同クラス。彼女に指図できるのは一部の秘書官と提督くらいである。
 別名『鎮守府の金庫番』。お金には厳しいが司令官には甘く、多少私的に使っても見逃すつもりである(提督はそういうことをしない性格だが)。
 なお長門がどうやってああなったかは――知らぬが仏である。

長門
 ロリコンビッグ7。駆逐艦の艦娘達に何かしてやっては下心ありで近付こうとするが、度々やっているので誰からも警戒されている。
 実務班だが諸事情により海域に出ることはなく、演習で新人の訓練を主に担当している。
 ちなみに今回の横領は初犯でないどころか既に二桁を数えられる回数である。「次やったら『お仕置き』は三倍かな~」とは文月の言。


 勘違いれでぃ。詳細はいずれ語る時があれば。


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頑張り屋に愛の手を(三日月編、です)

「ちょ、鈴谷さん!? どこ触ってるんですか!!」

「いやー、三日月ちゃんの女としてのクオリティをチェ」

 

 バキッ ゴキン

 

 セクハラしている艦娘を出会い頭に折檻する俺――提督は悪くないと思う。訂正、悪いわけがない(確信)

「三日月、お疲れさん」

「……」

 状況に追いつけないのか、三日月はその場でフリーズしている。

「三日月?」

「……あ、お疲れ様です司令官。あの……鈴谷さんは大丈夫でしょうか?」

 セクハラしてきた相手を心配する心優しい少女、三日月。白目剥いて倒れている鈴谷を本気で案じているようだ。

「これくらいで死ぬなら、死んだ回数は3桁に達してる」

「まあ、それはそうですが……」

 そこで倒れてる航巡やビッグ7(笑)が倒れている姿は、この鎮守府では日常の光景である。三日月も赴任してからそこそこ長いのでその辺りは慣れている筈なのだが、心配するのは

 

生来の真面目さ故か。

「とりあえず、医務室に連れていきます」

「どうせすぐに復活するから薬が勿体ない。ああ羽黒、このバカ部屋に捨てといてくれないか?」

 ちょうど通りかかった羽黒に声を掛けると、足を止めて不思議そうな顔で振り返り、

「どうしました司令官さ――わ!? 鈴谷さんが死んでます!?」

「死んでない。殺してもどうせ死なん」

「それは流石に言い過ぎじゃ……」

 少し困り顔で控え目に発言する三日月。否定できないのは『そうかもしれない』と心の中で思っているからかもしれない。

「えっと、じゃあお部屋に連れていきます」

「すまんな、頼む」

 軽く頷くと羽黒もそれに応じて頷き、

 

 鈴谷の襟首を掴み、引きずり出す。

 

 当然そんなことをすれば首が絞まるので、「ぐえ!?」と女が上げるべきではない声が鈴谷の口から出てくる。

「ちょ、はぐろん!? 絞まってる、首絞まってるからぁ!?」

「え、でもこれが運ぶの楽なんですが……」

「鈴谷が別の意味で楽になっちゃうから!! というか離して、自分で歩くから~!?」

 ギャーギャー騒ぎながら引きずられる形で鈴谷がフェードアウトしていく。俺と三日月は無言で見送り、姿が見えなくなってから三日月が口を開く。

「……いいんですかね、あれ?」

「死なないからいいだろ」

「いいのかなぁ……」

 そわそわしている三日月。今からでも助けに行くべきか迷っているようだ。セクハラしてきた相手に真面目というか優しすぎだと思う。

 

 

 三日月から遠征に関する報告があるらしいので、場所を替えて提督執務室。俺は報告書を見ながら三日月の話に耳を通していく。

「以上です。何か不備はありませんか?」

「……遠征の終了時刻が抜けてるな」

「え? ……あ! すいません司令官……」

 直立不動の状態を解き、慌てて書類に時刻を記入していく。

「私ったら……以後気を付けます」

「気にするな、間違いは誰にでもある」

「いえ、些細なミスがとんでもない事態を引き起こすこともありますから」

「……」

 確かにそうだが、書類上のミス一つでそれは大袈裟だろう。これは挽回できる失敗である。

「ところで司令官、お昼食べましたか?」

「いや、まだだが」

 昼前に急遽上層部の人間が訪問に来てその後すぐ仕事に移ったので、食べ損ねていた。「急にすまないね」などと訪問者は言っていたが、そう言うくらいなら急に来ないで欲しい。

「良かった、じゃあ無駄にならなかったですね」

 安堵した表情で三日月が取り出したのは、水色のシンプルな布に包まれた弁当箱。どこにしまっていたのだろうか。

「お口に合うといいんですが……」

 包みを解いて弁当箱が開かれると、中に入っていたのはサンドイッチ。卵、ツナ、ジャムとオーソドックスだが、それ故に食欲を誘われる。

「いただきます」

 遠慮がちに出された弁当箱から遠慮せず卵のをもらい、口に放り込む。卵と程よく交ざったマヨネーズ、パンの柔らかさが見事にマッチングしていた。

「美味い」

 一言それだけだが、三日月は花が咲くほど嬉しそうに相好を崩す。分かりやすい、そして愛らしい表情である。

「文月姉さんもどうぞ」

「わ~、ありがとぉ三日月ちゃ~ん。お腹空いてたんだ~」

 嬉しそうに笑い、ジャムのサンドイッチを抜き取る秘書官文月。三日月は苦笑しながら「先に卵かツナにしましょうよ」と言い、文月は「え~」と不満そうに頬を膨らませる。和む光

 

景だが、これではどちらが姉か分からない。

「美味しいよ三日月ちゃ~ん」

「すまんな、遠征帰りで大変だろうに」

「いえ、大したことではないので。司令官と姉さんにそう言ってもらえるだけで、元気になっちゃいます」

 そう言って笑う三日月。本心からの言葉からだろうが、目元に浮かぶ僅かな違和感は見逃せなかった。

「……」

「あの、司令官? 私の顔に何か付いてますか?」

「まあ、付いてるといえば付いてる」

「え? やだ、私ったら」

 こちらの指摘に顔を赤くし、三日月は自分の顔を触りだす。どうやら調理時に何か飛んだと思っているようだ。

(目元の隈がな)

 後半の言葉は飲み込む。就寝時間まで休もうとはしないし、休むのを勧めても固辞するのは既に経験済みだからだ。

 休むことの重要さを説いても良いが、それはまた今度にして横を一瞥する。それだけで察しのいい文月は、

「うん~? なんでふかふれ~ふぁん」

 ……ジャムパンに夢中で全然察していなかった。子供か。

 あと、それは俺の分です。

「姉さん、顔にジャム付いてますよ」

 顔に付いたものを探すのに夢中だった三日月は、姉が提督の分を食べているとは思わず甲斐甲斐しく顔を拭いてやっている。もう三日月が姉でいい気がする。

 姉妹の和む光景を尻目に、俺は執務机の引き出しから『あるモノ』を取り出して二人に見せる。

「? 司令官、これは?」

「間宮券だが」

 言ったとおり俺が出したのは、艦娘垂涎の甘味が食べられる間宮券である。普段は功績のある艦娘に対し渡しているそれを二枚、三日月に握らせる。

「誰かに渡せばいいんですか?」

 頭に疑問符を浮かべながらも受け取る彼女は、『自分に提督がくれた』という発想は微塵もないようだ。

 心中溜息を吐きもう一度文月の方を見ると、今度は気付いたようで三日月にニッコリ微笑む。

「三日月ちゃん、これは頑張ってる三日月ちゃんにってしれーかんがくれたんだよー」

「私に、ですか……? そんな、ありえないですよ姉さん。これは戦功のある人にお渡しするものですし」

「んーでもぉ、三日月ちゃん頑張ってるから、しれーかんが特別にくれたんじゃないかなぁ?」

「いやいやそんな」

 苦笑しながらこちらを見る三日月に、頷いてやる。

「もう一枚は文月の分だ」

「わーい、やったぁ」

 無邪気に喜ぶ姉の横で、妹は驚いた顔をした後顎に手を当てて難しい表情になり、

「司令官、お気持ちはありがたいのですが」

 ガシッ

「さぁー三日月ちゃん、しれーかんのご好意に甘えて間宮さんにれっつごぉ~」

「え、ちょ、姉さん!? 私まだ仕事が」

「すぐ片付けなきゃいけないのは終わってるよ~。だから大丈夫、問題なぁ~い」

「いやそれ問題ある返事ですよね!? それにしたってまだ業務時間内ですよ!」

「じゃあ今から休憩だよぉ~。しれーかん、いいですかぁ?」

「いいぞ、まだ休めてなかったからな」

 再度頷くと「これでおっけぇ~」と微笑み、まだ何か言おうとする妹の口を人差し指で封じる文月。それで諦めたのか、三日月は苦笑するだけで抵抗することはなくなった。

 自分のペースに巻き込むのを得意とする文月に券を渡して三日月を強引にでも休ませようと考えたのだが、上手くいった――

 ガシッ

「しれーかんも一緒に行こ~? 休憩まだだったよねぇ?」 

 腕を掴まれる感覚で思考から現実に戻ると、眼前にニコニコ顔の文月、そして後ろに申し訳なさそうな三日月。

「……」

 断れる気がしなかったので、俺(提督)は仕事を中断した。

 

 

「ごちそうさまでした」

「でした~」

「でした」

 所変わって場所は甘味処『間宮』。三人揃って季節限定艦橋パフェ(特盛)を綺麗に平らげる。本来は重巡以上向けのサイズらしいが、デザートが別腹というのは艦娘でも同じのよう

 

だ。

「美味しかったね~、特に一番上のケーキ~♪」

「クッキーも捨てがたいですね。ふぁ……あ、すいません」

 食後で気が緩んだのか、三日月から小さく欠伸が漏れる。本人はバツの悪そうな顔をしているが、別に気にしないと手を振って答える。

「さて、じゃあ後半もお仕事頑張りましょう!」

 そう言って立ち上がるが、休憩を始めてからまだ三十分も経っていない。

「まだ時間あるぞ」

「いえ、もう十分休みましたから。司令官、ご馳走様です」

 ぺこりと頭を下げる彼女は何も言わなければ本当に行ってしまいそうなので、どうするかと文月に視線を送ると、

「むにゃ……しれ~かぁ~ん……」

 舟を漕いでいた。子供か、と突っ込みたい衝動をかろうじて抑える。

「……姉さん、眠そうですね」

「寧ろ今すぐ寝そうだな。……三日月、悪いが文月を部屋まで運んでくれないか?」

「え、私は構いませんが、内務班は大丈夫なんですか?」

「たまにはいい、扶桑には俺が話をつけておく。『アタシ一人抜けてダメになるほど腑抜けさせてないよ~』って言ってたし、多分問題ないだろう」

「姉さん、普段内務班で何してるんですか……?」

 ちなみに睦月型のほとんどは実務班の遠征担当のため業務中は顔を合わせることが少なく、文月の『裏の顔』を知っているのは同型ではほとんどいない。

「分かりました。ほら姉さん、お部屋行きますよ」

「ふみぃ~……みーちゃん、おぶって~……」

「無茶言わないでください。あとみーちゃんって呼ぶのは部屋いる時だけに」

 は、とまばらながら周囲に人がいることに気付き、三日月は慌てて周囲を見渡した後、こちらに視線を寄越す。

「司令官、あの、これは」

「どうした?」

 弄っていた髪から視線を三日月に向ける。聞いていない振りをするのが大人のマナーだろう。

「あ、えっと、なんでもないです、それでは」

 僅かに赤い顔は安堵に変わり、姉に肩を貸して二人は去っていった。

 そして十分後。

『ん~、み~ちゃぁ~ん~……』

『ちょ、姉さん離してください!? どこ触ってるんですか!?』

『み~ちゃんも一緒に寝よ~よ~』

『いや、私は仕事が』

『ね~ぇ~、お願い~……』

『……はあ、仕方ないですね。ちょっとだけですよ?』

『やったぁ~、じゃあお休み~……ふみゅう』

『はい、お休みなさい姉さん……んぅ、私も眠いかも』

 更に五分後

「ふみぃ……ふみぃ……」

「くぅ……すぅ……」

「……第二段階完了」

 持っている気配遮断能力を最大限に発揮し、抱き合ったまま眠っている姉妹を見て静かに呟く。しかし姉の寝息は何だろう、可愛いけど違和感を感じる。

 一人では寝れない文月に三日月を同行させ、無理矢理でもいいから一緒に寝させる。食べた後というのもあり、咄嗟の思い付きではあるがうまく言ったようだ。

「まあ、たまにはゆっくり休むといい」

 布団を掛けて、それぞれの頭をそっと撫でる。文月が三日月の腹辺りに抱きついているため一苦労したが、まあ別にいいだろう。妹だけでなく姉も人一倍働いてオーバーワーク気味な

 

のだ、多少休んでも罰は当たらないだろう。

 しかし、寝ている二人の姿は、そう、天使である。見てて非常に癒される気分だ。

「……これ以上居るのもあれだな」

 様子を見ていたのに、気付いたら変態扱いされるのは御免である。ウチの艦娘だけで十分だ。

「……で、お前は何してるんだ?」

 扉の前で屈み聞き耳を立てている長門(カメラ持参)にジト目を送る。

 中に自分が居るとは思わなかったのか興奮していた様子の長門は緩んでいた顔がすぐさま青くなり、

「ち、違うんだ提督! 偶然通りかかって人の気配がするからつい」

「この時間に偶然通りかかるわけないだろ常考」

 反論を許さずジト目が睨みつけるにランクアップすると、長門は開き直ったのかすっくと立ち上がり、

「そうだ! 私は文月と三日月のかわいい姿をカメラに収めようと機会を伺って」

 ゴキン バキン

 艦娘の貞操を守る義務はないが、この変態(ビッグ7)を彼女達に近付けさせない程度の良心は俺にもまだ残っている。

 

 

「……で、なーんで鈴谷がお仕事変わんなきゃいけないんですか~? はぐろんにセク、スキンシップをしようと」

「仕事しないなら長門と同じ末路を辿ってもらうが」

「ワーイスズヤオシゴトダイスキー」

 やはり変態はこりないし頑丈である(溜息)。

 

 

 




後書き
 重巡クラス以上全員が変態ではない、どのクラスにも変態はいるのだ(真顔)。
 どうも、ゆっくりいんⅡです。今回もツイッターのリクエストで三日月メインでお送りしたのですが……もう文月とセットでいいんじゃないかなこれ(オイ
 というわけで私はここに『ふみみか』という新ジャンルを提唱します! だれか絵描いてくれないかな~(チラッチラッ
 ……とまあくれくれ厨発言は置いといて、今回は以上です。感想・ご指摘いただけたら幸いです。 

 夏イベまでに阿武隈改二間に合うかなあ……(白目

追記
 遅筆かつ未熟な作者ですが、書いて欲しい艦娘がいるという方がいましたら、コメントに記入してください。喜び勇んで書かせていただきます(良く知らない艦娘だと今回のものより

ヒドイ出来になるかもしれませんが……すいません)。
 ツイッターのアカウントも掲載しますので、良ければそちらからでも大丈夫です。ただ悪戯を防ぐため、フォローしていただいた方限定とさせていただきます。
ID:@dust_it


おまけ キャラ紹介
提督
 どんな時でも無表情なタイプ。『無表情以外を見たものは呪われる』という鎮守府伝説がある。
 普段は小食だが、食べようと思えば大量に食える。普段食べないのはエコ体質を目指しているため。
 変態艦娘をシメル回数は一日平均8回。

三日月
 失敗するのが怖いタイプ。生来の生真面目さもあって色々無理してでもこなそうとする頑張り過ぎる子。
 内務と遠征双方で活躍する。影に日向に他人を助ける縁の下の力持ち。
 頼られると弱い。あと甘味限定で大食らい(周囲には隠している)。 

文月
 誰か一緒じゃないと寝られないタイプ。いつも睦月型の誰か(稀に他の駆逐艦)と一緒に寝ている。
 私生活では姉妹に世話を焼かれること多し。ただし望月は別。
 彼女の『お願い』攻撃は絶大。これを断れるものは血も涙もない冷酷非道と言われる。

鈴谷
 一話にも登場した変態航巡。男女問わずセクハラをするのが淑女の嗜み(という本人の談)。流石に暁でも信じない。
 提督や熊野にしばかれても五分以内に復活する。でも痛いものは痛いらしい。
 こう見えて秘書官の一人で優秀な人材。しかしセクハラのせいでそちらは評価されない。

羽黒
 実務寄りの秘書官の一人。性格に反して重巡武闘派の筆頭。鈴谷の首根っこ引っ張るのはいつものことである。

長門
 前回に続いて登場のロリコンビッグ7。正直登場予定はなかった。大体いつもこんな感じである。
  


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年末年始の後始末(曙編よ!)

 どうも、提督です。皆さんは年始というと何を思い浮かべますか? 

 お参り、お年玉、新年会、もち、年始番組……色々あるでしょう。だがその中で敢えて俺はそういういいものじゃなくて嫌なものを挙げたい。それは、

『酔っ払いどもが汚した場所の後片付け』だ。

 ……何でそんなものを挙げたかって? ただいま絶賛片付け中だからです、三箇日が終われば現実に戻るんだよ。

 ぽいっ

 はあ、ようやく廊下が終わった。さて次は……

 ぽいっ

 大広間か、多分ここより酷くなってるんだろうな。

 ぽいっ

 その後は食堂と演習場と……今日中に終わるか微妙なところだ。

 ぽいっ

「……ねえちょっと、提督」

 声を掛けられたので振り返ると、そこには別の場所を掃除していた特型駆逐艦、曙が立っていた。服装はいつもの制服ではなく紫を基調とした艶やかな晴れ着姿で、手には箒とちりとり、腰には白の前掛けエプロン。年末の大掃除でも見掛けた姿だ。

「ああ曙、どうかしたか? 駆逐寮の掃除は?」

 ぽいっ

 すると曙は何故か呆れた顔で、

「いやどうかしたかじゃなくて……何を当然のように艦娘を投げ捨ててるのよ? あと、頼まれた場所は全部終わったわ」

「助かる、流石に早いな。じゃあ次は」

「投げ捨てをスルーすんな」

 ペシリと額を叩かれた。別に説明する必要もないと思うが。

「掃除の邪魔だから」

「……その気持ちは分かる、すっごい分かるわ、あたしもそう思ったし。でもさ、声くらい掛けてもいいんじゃない?」

「最初はそうしてたけど、どいつもこいつもあーとかうーとかしか言わんから面倒くさくなった」

 ちなみに今現在、俺達がいる廊下には艦娘達が死屍累々と、映画の戦闘シーンみたいに転がっている。漂っている匂いは血じゃなくて酒だがな。

「要するに無駄なく合理的に動いた結果だ」

「そこは無駄でも声掛けなさいよ」

 そう言いつつ、曙は倒れている皐月に「ほら、掃除の邪魔だから部屋戻んなさい。綺麗にしといたから」と声を掛けている。しかし返事は「うう、もう飲めないよう……」だった。酔っ払って更に飲んでる夢見てるのか。

「ああもう、起きろっての!」

「それくらいじゃ動かないぞ」

 ぽいっ

 とりあえず、手近な部屋に放り込んだ。

「……優しくしなさいよ」

「今日中に掃除が終わるならそうするが」

「……」

 何か言いたげだが黙ってしまった。一々声掛けしてたらそれだけで日が沈んじまうからな。

 くいくい

 不意に後ろから袖を引っ張られたので振り返ると、

「提督さん、夕立を呼んだっぽい~……?」

 二日酔いで辛そうな夕立が立っていた。着ている晴れ着は微妙に乱れているので、簡単に直してやる。

「呼んでない。呼んでないから部屋戻ってろ。じゃないと適当に投げておくぞ」

「ぽいされるのは嫌だからお部屋に戻るっぽい~……」

 ぽいぽい言いつつ千鳥足で去っていった。倒れなきゃいいが、放り込むのも正直面倒だからな。

「……何で呼ばれたと思ったのかしら」

「知らん」

 擬音に反応したのかもしれんが、もしそうだったら超人というより芸人の域だぞ。

 

 

「ところでク、提督、その格好はなんなのよ?」

 移動中、曙はつっかえながら質問してきた。多分クソ提督と言いかけて慌てて直したのだろう。

 他所での曙は俺達(提督)のことを『クソ提督』と呼び、それに苦笑したり一部喜ぶ変態もいるらしいが、ウチの曙は普通に提督と呼ぶ。時々今のように呼び掛けるが。

 あれだろうか、初対面の際に比叡をアイアンクローで吊り上げていたのが原因だろうか。他人が作ったカレーを隠し味という兵器で台無しにしてくれたからお仕置きしていただけなのだが。以前「別にクソ提督でもいいぞ」って言ったら青い顔になって、全力で首を横に振っていたし。普段は平然としているが内心怖がられているのだろうか。

 閑話休題。さて曙がいう俺の服装だが、彼女と同じく晴れ着で色は鮮やかな藍色だ。流石に足を見せる気はないので裾は長めにしているが。

「動きやすいから」

「……そんなんだから『男の娘提督』とか『我らのロマン』とか言われるんじゃないの」

「子って年齢じゃないんだが」

「違う、そうじゃない。というか前から疑問なんだけど、あんたって幾つよ?」

「数えてないから正確に覚えてない。というかこの晴れ着は大本営経由で注文したら何故か届いたのがこれだったんだが」

「……上層部はアンタの性別間違えてるんじゃないの?」

「流石にそれはない……と思う。注文を五十鈴に頼んだのがまずかったか」

「絶対それでしょ」

 名取型軽巡洋艦、五十鈴。我が鎮守府において水雷戦隊の長を務めており、秘書官も兼任する有能な人材。……なのだが、事ある毎に女物の衣装を着せようとする妙な性癖を持っているのだ。

 この前なんか『童貞を殺す服』とかいう怖気の走るネーミングの衣装を渡されたし。「あ、あなたに似合うと思って……悪い!?」とかツンデレ気味に言われてもどう反応すればいいんだよ、あとどうやってサイズ知った。

 それ以外の面では面倒見が良く仕事にもきちんと取り組むため性質が悪い。ド変態の鈴谷と違って〆める理由が少ないし、他に水雷戦隊の隊長格は夜戦馬鹿とだらし姉(アレな奴等)だし。

 ちなみに話題の本人は自分の部屋で横になっていた。普段は周囲のストッパー役だが、年末年始というこの時期だけは騒ぎたくなるようだ。

 閑話休題。目的の大広間に辿り着くと、廊下よりも酷いことになっている。あちこちに落ちている皿(食べ残しは無い、この辺は艦娘のいいところか)、空き瓶、あと言いたくないが口から撒き散らしたもの、そして死屍累々と転がっている我が鎮守府の戦力たち。もう呑んでいるものはおらず、部屋は色々なものが混ざった異臭と唸り声に包まれている。

 まあ、四日ぶっ続けで騒いでいればこうなるだろう。こういう時に頼りになる間宮や鳳翔、秋津洲辺りの面子はほぼ不眠不休で料理等の準備をしていたため、別の意味でダウンしているし。お陰で動けるのは俺と曙を含めた数名程度だ。

「……酷いわね」

「酷いな。とりあえず曙は皿とか酒瓶を片付けてくれ。俺は落ちてるものの処理をするから」

「ああうん、お気遣いどうも……とりあえず、朧達だけでも起こしていい?」

「別に構わん」

 というわけで、作業開始。布を使って床や壁に飛び散ったのを拭き取ったり、もはや障害物と化している部下達を一箇所に集めてごみの山みたいに積み上げたり、寒空の中窓を全開にして換気をしたり。

 なお、曙を除く第七駆逐隊の面々は朧が比較的軽症で、ぶっ倒れている潮と漣を二人で背負い部屋に運んでいた。二人とも普段はあまり呑まないのだが、これが正月パワーか。じゃなければ重巡か戦艦連中辺りに無理矢理呑まされたか。もう一々犯人を特定してしばき上げるのも面倒なので、勘弁して欲しい。

「……なんでこんな積み方してるの? 有り得ないと思うんだけど」

「外に放り出さないだけマシだと思うが」

「……ドS」

 戻ってきた曙が小さく何か言っているが、心外だ。年明けから面倒事を押し付けられた怒りと思って欲しい。

「そういえば、鈴谷さんや金剛さんは? 真っ先に見掛けそうな気がするんだけど」

「大本営から通達された新春任務に行かせた。二日酔いのままで」

「ドSというより鬼畜ねあんた……」

「第七駆逐隊に行ってもらってもいいが」

「尊い犠牲ね、感謝を忘れちゃいけないわ」

 誰だって自分の身は可愛いのだ。

 

 

「つ、疲れた……」

「お疲れ」

 結局、片付けが終わったのは夜の八時だった。正直日付が変わるのを覚悟していたので予想より随分早かったが、それでも手伝ってくれた数人はぐったりしている。

 とりあえず掃除用具の片付けも終わり、現在食堂に集合している。

「ほら、お茶とお汁粉」

「疲労に甘いものは必要よね……というかなんであんたが一番元気なのよ」

「慣れだな。トラブルの後始末なんて日常茶飯事だし、正直書類仕事より楽」

 艤装持ち出して喧嘩されれば、壁とか壊して修理するのも然程珍しくはないし。工廠を半壊させた時はガチギレしたが。

「……あんたも大変ね」

「部下のトラブル処理は上司の宿命だからな。ああそうだ曙、これ」

「? え、これって」

 懐から取り出したのは、正月でおなじみポチ袋。猫柄なのは個人的な趣味だ。

「まあ、大分遅いがお年玉ってことで」

「お、お年玉って……いいの?」

「今回手伝った子と調理組は特別にな。正月はあまり楽しめなかっただろうから、せめてと思って」

 ほとんどの連中が騒いでる中、裏方で頑張ってくれる面子と言うのは重要なのだ。

「……お礼は言わないわよ」

「いらん、働きに見合う正当な対価だ。遠慮せず受け取れ」

 さて、他の面子にも配らないとな。中身が足りてるか自信ないが。

「……ありがと」

 背を向けた際に曙が小さく呟いたのが聞こえたので、

「どーいたしまして」

 振り返らず手だけ上げて応える。「き、聞こえてたの!?」と叫ぶ声が聞こえ、多分真っ赤になってる曙が見られるだろうが、わざわざ振り返ったりはしない。

 

 

 




登場人物紹介
提督
 女性の晴れ着を着用させられた男の娘提督。本人は動きやすければいいのであまり気にしていない。髪型は巫女さんがやってるアレ。
 余談だが配り終えた後、過労で倒れている調理組の看護をしたりお年玉を上げていた。やっぱり働く面子には若干甘い。ちなみにお年玉の代金は自腹。
 
 

 皆大好きツンデレぼのたん。当鎮守府では提督が容赦ない上に真面目なため『クソ』を付けることは自重している。誰だって好き好んでアイアンクローを受けたくはない。
 後日お年玉の中身を確認したら、間宮券五枚+特別休暇四日分+現金が入っており、後日司令室に「多いわよ!?」と抗議(という名のツッコミ)を行ったそうな。
 他所様の鎮守府に比べると普通に提督と接している。これを見た別の鎮守府の艦娘が驚くこともしばしばあるとか何とか。
 
 
後書き
 三箇日が終わってから思い付いたお話。七日までにはうpするつもりがこんな遅くなってしまった……だ、大丈夫、まだ正月グラアプデされてないし(震え声)
 というわけでこちらではお久しぶりです、ゆっくりいんⅡです。更新は以前三日月のお話を上げて以来ですから……半年は経ってますね。アリアの作品にかまけてたらこんなに開いてしまって、しかも感想でリクエストの会った第六駆逐隊じゃねーし(汗)
 とはいえ、こちらの作品は気まぐれ更新になると思います。アリア終わらないとですしねえ……いつ終わるか作者自身分かりませんけど。
 あ、第六駆逐隊の話は既に思いついてはいます。いつになるかは分かりませんが、書き上げたら暇つぶし程度にご覧になってください。
 それでは今回はここまで。感想・質問・リクエスト、お待ちしています。
 
 
 


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理想のれでぃー(暁編、なのです)

 私、暁型の一番艦である暁は宣言する。

「というわけで、明日のおやす、休暇は司令官の一日を観察することにするわ!」

「いや、いきなり言われても意味が分からないんだが」

 半目で即座に返してくるのは、私の妹二番艦の響。そうね、これだけじゃ言葉が足りなかったわ。

「明日はお休み貰ったじゃない?」

「そうだね、司令官の配慮で私達姉妹まとめて休み貰えたね(お休みを休暇に訂正するの忘れてるけど……まあ、言わなくていいか)」

「で、遠出はちょっと無理そうで行き先も迷ってたじゃない?」

「一日だけだしお金も心許ないしね(主に私が)」

「だったらお出かけなんてせずに、司令官の行動を見てレディー力を上げましょう!」

「なるほど、話がまるで分からないということが分かったよ」

 肩を竦める響に不満を覚える。もう、何で分からないのかしら。

「大体、何で司令官を見たらその女子力みたいなのが上がるんだい?」

「レディー力よ。そんなの、この鎮守府における一番のレディーが司令官だからに決まってるじゃない!」

「何かが致命的に間違ってる気がするんだけど……性別とか」

「レディーに性別は関係ないのよ!」

「なにそれこわい」

 熊野さんとかいるだろうにと響は呟いている。たしかにあの人はレディーと呼ぶに相応しいけど、

「正直、鈴谷さんをしばいているイメージしかないのよね……」

「それには同意するよ」

 それか拳法の練習してるところね。紅茶飲んでる姿は金剛さんのイメージが強いけど、あの人をレディーと呼ぶのは……ねえ?

「とにかく、手早く仕事をこなし他人に気遣いが出来る、それに一つ一つの動作が優雅な理想のレディーである司令官の姿を見ていけば、私が一人前のレディーとして扱われるのに一歩近付くわ!」

「そこだけ聞くと確かにそれっぽいね、そこだけ聞くと。まあ、面白そうだから私も参加するよ」

「決まりね! それじゃあ早速司令官に許可を貰いに行きましょう!」

「……別に見るだけなら何も言わなくていいと思うけど」

「いいえ響、何の理由かも分からずに見られているなんて、司令官からすれば嫌でしょう? だったらきちんと理由を告げて、堂々と見せてもらった方が私たちのためでもあるし、司令官のためでもあるわ」

 それと、許可を貰うのは礼儀ね。形式だとしてもこういうのはきちんとするべきだわ。

「……姉が一瞬レディーっぽく見えた気がします、響です」

「レディーっぽいじゃないわ、レディーよ響」(ドヤァ)

「アアウンソウダネ。まあ許可を貰うのは了解したけど、今司令官大規模作戦のせいで休みがないから機嫌悪いと思うし、気をつけなよ? この間なんて「バレンタインと作戦重ねやがって、仕事回るかってのああキレそう」とかボヤいてたし」

「大丈夫よ。今は作戦も落ち着いてきたし、司令官だって子供じゃないんだから機嫌も直ってるはずよ」

「そうだね。……暁よりは大人なんだし」(小声)

「……何か言った?」

「いいや、何も」

 響は素知らぬ風に顔を背ける。っといけないいけない、レディーはこれくらいで取り乱さない、KOOLになるのよ暁。

 深呼吸して落ち着いたところで、響と二人司令室へと向かう。扉をノックするも反応なし、留守かしらと扉を少し開けて声を掛けてみる。

「司令官、いる? ちょっとお願いがあるんだ」

 

 

「いっぺん、死んでみる?」

 艤装を付けたままの那智さんと足柄さんが、司令官のアイアンクローで吊るし上げられていた。

 

 

「……」

 無言でなるべく音を立てないよう扉を閉める。

「暁、どうしたんだい?」

「……響、扉を開けちゃダメよ。フリじゃないわ、開けたらその先に見えるのは人が見ちゃいけない光景よ」

 妹を発狂に追い込まないためにも、扉を背にして真剣な顔で告げる。だってさっきの司令官の顔、すっごく怖かったんだもん。以前見た姫とか水鬼クラス以上の殺気と威圧感も放ってたし、レディー力が足りなかったら気絶してたかもしれないわ(←イミフ)

「私達は人のカテゴリーに入れていいのかな?」

 疑問に思うのそこじゃないわ響。

 

 

 どうも、提督です。大規模作戦が一段落着き、酒と食料を大量にちょろまかしていた那智と足柄(阿呆共)を私刑、もとい折檻した後、明日非番の暁と響から珍妙なお願いをされた。

「要するに、明日一日俺の行動を見ていたいと?」

「ええ司令官、暁のレディー力を上げるためにお願いします!」

「……根本的な問題として、俺男なんだが」

「暁曰く、レディーに性別は関係ないそうだよ」

「意味が分からん」

 こいつ俺のことひ〇ゴトの主人公か何かと勘違いしてるんじゃないか。そもそも一人称『俺』だというのに(←有川ひ〇くんも一人称『俺』です)

 しかし暁に憧れの感情を向けられているのは感じていたが、まさか『理想のレディー』などと評されるとは。彼女的には絶賛してるんだろうが、どう反応すれば正解なんだそれ。精々『れでぃー』だろ、性別的に考えて。

「……まあ、仕事の邪魔にならない範囲なら構わんぞ」

 別段拒む理由はない。暁が俺を見て何を学ぶのかは知らんが、休暇くらい好きに使わせていいだろう。響が何でいるかは知らんが、多分面白いからだな。

「あ、ありがとう司令官!」

 暁は花が咲いたような笑顔を浮かべ、俺の手を取って飛び跳ねている。そのまま「明日に備えて早く休むわね!」と言って執務室を去っていった。まだフタフタマルマルなんだが。

「ところで司令官、そこで発狂しながら倒れてる那智さんと足柄さんはどうするんだい?」

「外に捨てる」

「ドSだね」

「お前が言うか毒舌娘」

 小声で言ってダメージ受ける様を楽しむ奴に言われる筋合いはねえよ。

 

 

 さて、暁と響が観察をするというので、時間毎に起こった出来事を語っていこう。

 

マルフタマルマル

 起床。冷水で眠気を飛ばし着替え、部屋から出ると待っていた暁、響と合流。響はいつも通りだが暁は「おふぁよう……ねみゅい」と今にも睡魔に負けそうだった。あと「司令官がどう過ごしてるか興味あるわ!」と朝から元気な雷と、「なの、です……」と半分夢の世界に旅立ったままの電も加わっていた。計らずも暁型全員集合という訳だ。

 食前の軽い柔軟と運動を全員で行う。響以外息を切らしていた、前線出てる癖にだらしねえな。

 

マルロクマルマル

 運動服から軍服に着替え、食堂へ。暁が制汗スプレーを使うこちらをじっと見ていたのは気のせいだろうか。

 先に来ていた鳳翔、秋津洲、大鯨等調理組の面々に挨拶をし、調理開始。暁と雷が手伝いを申し出、暁は俺に、雷は秋津洲につく。電は眠気と疲労のせいか机の上で眠り、響はつまみ食いをして「司令官、いいお嫁さんになれるよ」とサムズアップしながらのたまいやがったのでデコピンして(秘孔を突いて)おいた。通りかかった大鯨がその光景を見て青い顔をしていたように見えたが、別に問題ない。五体満足だし。

 手伝わないのはいいがつまみ食いするんじゃねえよ、配分量狂うだろ。

 

マルナナマルマル

 食事の匂いに釣られて電が目を覚ます。腹の虫が鳴って「はわわわわ」と恥ずかしそうな顔をしていた。ついでに倒れていた響も復活する。

 起きてきた艦娘たちへ配膳と一言声を掛けていく。今日印象的だったのは物欲しそうな顔をしながらも配膳をしていた暁と、朝から酒盛りをしようとしていた隼鷹をハイキックで沈めたことくらい。朝昼に酒持ち込むなっつってんだろ、いい加減覚えて懲りろ。

 

マルキュウマルマル

 遅れてきた艦娘の対応も終わり、調理組で朝食を取る。片付けを手伝った暁・雷・電の三人(ついでに響)に礼として大福を渡す。試作品だが好評のようで何よりだ。

 「れ、レディーは施しを受けるものじゃないわ!」とか言って食べるのを渋る暁(ただし目は欲しがりのそれ)に、「レディーなら貰ったものはありがたくいただくべきだろ」と言ったらハッとした顔をした後、嬉しそうに食べ始めた。その様にほっこり癒やされてる面々多数。お前等飯食えよ。

 なお、暁のデザートに手を伸ばしていた響はチョップで沈めておいた。雷、そんな奴救助しなくていいぞ。

 

ヒトマルマルマル

 午前の執務開始。本日の秘書官は大和。「このレディー力は……!?」とか暁が言っていたが、司令官としては一刻も早い乗換えを推奨する。しない? ああそう。

 暁達も資料運び等で手伝ってくれる(響除く、ソファに寝転がって漫画読んでやがった)。その様を大和が微笑ましく見ている、長門と違ってロリコンの気があるわけじゃないので安心だ。

 

ヒトフタマルマル

 昼食、再び調理開始。遠征と出撃で出払っているもの以外なので、一時間以内で終了。思い付きで作ってみたカルボナーラが意外と好評、暁達も美味しそうに食べていた。

 

ヒトサンマルマル

 腹ごなしも兼ねて近接訓練へ。接近戦での対処法ということで始めた希望制の訓練だが、始めに比べて随分人数が増えた。

 本日MVPと呼べるのは不知火。もう少しで一太刀入れられるところだった、予想以上の成長である。「一本入れるまではまだまだです」と謙遜していたが、少し嬉しそうなのは気配で伝わってきた。

 ちなみに俺の立ち回りを見て暁と電が目をキラキラさせていた。「これがクールビューティ……!」、「か、カッコイイのです……!」、後者はともかく前者は違うだろ。

 なお、終わった時の隙を突いて攻撃してきた響はハリセンで撃退しておいた。何がしたいんだお前。

 

 

ヒトフタマルマル

 射撃訓練の見学。曙が上手くいかない様子なので一言アドバイスを入れてやったら、命中率が段違いになった。「お、お礼は言わないけど」とか言ってたが、別に礼を言われるために言った訳じゃない。

 その後大和から成果報告。大規模作戦の事後処理も大半が済み、滞っていた遠征も通常の状態に戻りつつあるようで一安心だ。

 そして響、お前は何故大和の膝を枕にしている。気持ちいいから司令官もどうか? しねえよ執務中だよ、あと大和も顔を赤らめてこっちをチラ見するな。

 

ヒトゴーマルマル

 執務中に金剛がティーパーティーの準備を開始、最近大人しいと思ったら大規模作戦中で自重していたらしい。いつもよりうるさい。

 とりあえずこっちを捕まえようとする金剛と比叡を踵落としで沈め、謝罪をする榛名と大和の休憩提案に免じて一時間だけ許可。なお霧島は裏でしっかり準備を終えていた、四女が一番しっかりしてるな。

 一緒にいた暁型の面々にも概ね好評だったが、比叡作のクッキーはやはりイマイチだった。食えないレベルからは脱したが、まだまだだな。

 

ヒトヨンマルマル

 金剛姉妹が退散してから執務再開、特筆することは特になし。強いて言うなら暁がこちらの一挙一動を観察していたくらいだろうか。微妙にやり辛い。

 

ヒトロクマルマル

 執務を一旦切り上げ、調理開始。最近参入した秋月型の初月から驚いた顔をされるが、新人が来るといつものことなので気にしない。人手足りない時に飯を作っていたのがそのまま習慣化したからな、漣は飯作れなかったし。

 暁はこちらの手際を見ては何やらふんふんと頷いてメモを取っている。そんな書くようなことないと思うが。あとそこどいてくれ、(そいつ)切れない。

 

ヒトナナマルマル

 朝と夜は全員集まるのがこの鎮守府で暗黙の了解となっている。なので配膳は忙しいがいつものことなので別に問題ない。雷と電がお代わり欲しい人を聞いて回ってくれたため、手間が省けて助かる。

 途中長門が電に手を出そうとしたので、弁慶の泣き所に一撃食らわせておいた。泣きたいのはこっちだよ、どうしてこんなロリコンになった。

 

フタイチマルマル

 本日の執務終了。大和に労いの言葉を掛け、風呂に向かうと何故か極自然に暁達が付いてくる。「女はあっちだぞ」と告げると全員ハッとした顔になり、慌てて別の方へ向かう。「これがレディー力53万の力……!」とか暁が戦慄していたが、俺宇宙の帝王じゃねえから。

 あと、響は気付いてたなら止めろ。「残念」とか小声で言ってるが聞こえてるんだよ。

 

フタフタマルマル

 この時間は就寝前の趣味に使う。今日は音楽の気分なので自前のキーボードを取り出し、歌いながら弾いていく。曲は『ひとり』、D〇D2のあのシーンは涙腺に来る。

 暁達と大和の五人は黙って聴いており、何だかしんみりした空気になった。とりあえず響が大人しくしていたのが驚き。

 

 

 以上が本日一日の行動である。ぶっちゃけいつも通りなので特筆するようなことではないのだが、ロクデナシどもをしばいているの含め。

 だが暁、というか雷と電も何か勉強になるところでもあったのか、

「「「司令官、今日はありがとうございました(なのです)!」」」

 と、揃って頭を下げてきた。そこまで感謝されるようなことしてないような、寧ろ手伝ってもらって感謝しているくらいだ。

「いえ、今日は司令官がどれだけ立派なレディーなのか改めて理解したわ」

「色々大変なのに、嫌がりもせず仕事をこなしていく司令官は素直に尊敬できるわ」

「司令官さんの仕事姿を見たら、私達ももっと頑張らないといけないと思ったのです」

「……」

 レディーらしさ出してただろうかとか、嫌がんないのは慣れてるのと無表情だから顔に出ないだけだとか、お前等は十分頑張ってるとか言うことはあったが、野暮な気がしたので何も言わないでおいた。

「……そうか。まあ今日はもう遅い、明日も早いから休んでおけ。手伝いありがとうな」

 俺の言葉を受け、雷と電は笑顔で部屋を出ていった。残った暁はこちらをじっと見ている、何か言いたいことがあるのだろう。視線で促してみると、

「司令官。私今日の司令官と大和さんの見てきたことを糧に、もっともーっと素敵なレディーになってみせるから! だから暁が考えてる『理想のレディー』になるとこ、ちゃんと見ててね!」

 大きな声で真剣に宣誓する。大和も暁にとって『憧れのレディー』に入ったらしい、まあ熊野よりはお嬢様っぽいから間違ってはいない。

「そうか、楽しみにしてるぞ」

 それだけ言って俺が一つ頷くと、暁は満足したのか「お休みなさい」と頭を下げて扉をパタンと閉めた。今日一日で一番レディーぽかったかもしれない。

「ふふ。提督、今日は楽しそうでしたね」

 暁達が去ってから、部屋に残っていた大和が笑いながらそう言ってくる。

「……そう見えたか?」

「はい、大和には暁ちゃん達と話してる提督が、楽しげなものに見えました」

「……まあ、見られっぱなしで少し緊張してはいたがな。ところで大和、お前も暁の『立派なレディー』の対象になったみたいだぞ」

「そうですね、暁ちゃんと色々話したのはこれが初めてですけど、そう言ってもらえるのは晴れがましい気分です。提督には負けちゃってるんでしょうけどね」

「……お前までそういうことを言うか」

 溜息を吐くと、大和はまたもクスクス楽しそうに笑った。暁にはさっさと一人前のレディーになって欲しいものだ。

 

 

「……で、お前はいつまでいるんだ響」

「司令官、コハ〇ースの続きどこにあるか知らない?」

「……」

 とりあえず、読みたい本を貸してやってご退出願った。そしたら翌日寝坊してきたので、しばき上げたのは言うまでもない。

 

 

 




登場人物紹介
提督
 レディー力53万の男の娘。料理以外の家事全般も出来るが、『これ以上やると仕事と平行だから過労死しかねない』と艦娘達に止められている。
 今回の一件でレディー力向上に役立ったのか首を捻っているが、髪をかき上げる仕草や紅茶を飲む姿勢など、暁にとっては学ぶところが大量にあった。
 なお、地獄〇女モードは本気の折檻。喰らった相手はトラウマを背負う。でも懲りない。
 
 

 暁型一番艦の半熟レディー。提督を理想のレディーと見ている。何かが致命的に間違っているが、鎮守府内では(本人以外)全員から納得されている。いいのかそんなんで。
 当鎮守府の暁は「なりたいものがあるなら無理に背伸びするんじゃなく、今の自分を受け入れて成長することだ」という提督の言葉により、自分がまだ子供の部分があることを自覚し、周囲の憧れの対象を見て日々成長するよう努力している。
 子供扱いされてもそんなではないが、頭を撫でられると(司令官以外、早々撫でないが)怒る。
 
 

 暁型二番艦のTHE・フリーダム。ある意味今回の休暇を一番満喫していた。なおこんなんだが仕事モードの時は真面目。オンオフの落差が激しいのである。
 司令官に何度かど突かれていたが、鈴谷や足柄に比べると十分手加減されている。それでもすぐ立ち上がれない程度のダメージは受けているが。なお色々ちょっかいを出すのは「司令官の反応が楽しいから」とのこと。
 
 

 暁型三番艦の手伝いを一番頑張った娘。ぶっ飛ばされた響を何度も介抱していた。地味にご苦労様である。
 着任当時「もーっと頼ってもいいのよ!」と告げたら、「そうか、じゃあこの書類頼む」と普通に返されたので、『あ、この司令官なら大丈夫だわ』と思い、普通に接している。多分こんな反応をする提督は他にいないと思う。
 
 

 暁型四番艦の朝はちょっと苦手な娘。別にぷらずま化したりはしない、というかしたら作者が困り、提督が多分キレる。
 暁と同じく提督を尊敬している。ただし暁が『理想のレディー』として見ているのに対し、電は純粋に『クールビューティー』として見ている。どっちにしろ女としての扱いからは逃れられないらしい。
 
 
大和
 大和型一番艦。この鎮守府における秘書艦は変人かまともの二種類に分けられるが、彼女は後者である。なお既出で秘書官を務めているのは、鈴谷、羽黒、五十鈴。現在二十人ほどでローテーションを組んでいる。
 『レディー=大和撫子』と捉えているため、満更でもない様子。響が勝手に膝を使っても笑って受け入れる程度には寛大。それでもレディー力は提督に劣ると思っている(当然提督は首を傾げているが)。
 
 
後書き
 冬イベ終わったー! 初月かわいいー! ……あ、すいません、無駄にテンション高い作者のゆっくりいんⅡです。沖波? 知らない子ですね……(目逸らし)
 さて今回は暁編、というか第六駆逐隊のお話でした。ウチの暁ちゃんは他所様とはちょっと違う感じに仕上がりましたが、如何でしたでしょうか? というか女提督含め暁ちゃんが提督に憧れを抱くのなんて早々ないような……しかも実際は男(汗)
 とりあえず今回はここまでで。次回の更新は気紛れな上に何もアイディアないです。リクエストあれば何か書きますが……(チラッ)
 ねだりはよして今回はここまでで。感想、誤字指摘、評価、リクエスト、お待ちしています。
 


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