問題児たちと時空間の支配者が異世界から来るそうですよ? (ふわにゃん)
しおりを挟む

設定
オリ主プロフ *ネタバレ注意‼︎


二宮蘭丸の設定を公開します。

最初に読むのはオススメしません。





名前

二宮蘭丸(にのみやらんまる)

 

性別

 

年齢

18歳(高校卒業)

 

身長

180cm

 

体重

78kg

 

容姿

桃色のポニーテール(生まれつき)が特徴。たまに外すと髪は腰の中間辺りまである。服装はスーツである。

 

 

ギフト

 

時空間の支配者

 

時空間を操ることの出来るギフト。なかなか使える場面が多い。

 

・空間を曲げて攻撃の対象をずらすことが出来る。

 

・空間ごと物体を切断出来る。

 

・触れたものを消滅させられる。(光線などの触れることの出来ない物も出来る。箱庭ではギフトも消滅させられる)

 

・空間転移が出来る。ただし使用したら5秒のインターバルが必要。

 

・体の一部を異空間に飛ばして攻撃をすり抜けさせる。

 

・浴びたものを消し去る光線を使う。使い勝手が良くなく切り札として持っている。

 

・時間を止めることの出来る。15秒以上は世界そのものに影響を及ぼす為しない。

 

・物体や人の時間を操り、対象のスピードを早めたり遅めたりする。

 

・時間を操ることで怪我を治すことのが出来る。自身には常時作用している為多少の怪我程度なら直ぐに治る。ただし病気は治せない。

 

・未来予知やサイコメトリーを使用できる。これは蘭丸が触れている物だけ。人の場合触れていれば限定だがその人の残留思念を感じることも出来る。

 

・過去に起きた事象を改変することが出来る。(例えば“主催者権限”を使用した人のその事象自体を改変することができる)

 

・空間跳躍などのギフト保持者が空間跳躍をしたらそれを追跡することができる。

 

 

等他にも様々ある。

 

 

分身

 

・自身の分身体を生み出すことができる。上限は無いが自身と同等レベルの分身は10体しか出せない。それ以上は力が弱まる。

 

・分身にはそれぞれ肉体があり思考がある。記憶を共有している。

 

 

“黒と白の渦”

“時空間の支配者”の所持者でなければ十二分の力を発揮出来ないギフト。

時空間を捻じ曲げてブラックホールを作る。

 

“次元の水晶”

“予知の水晶”の新バージョンであるが、性能も変わり、原作でも未登場の為、これも割愛。

 

“主催者権限”

後に手に入るがゲームルールは未定。

 

 

特徴

 

蘭丸はあらゆる格闘技で免許皆伝の相手でも圧倒出来る実力を持つ。箱庭でも日課としてトレーニングを続けている。ギフトを使わなくても身体能力は十六夜以上。

戦闘力も高いが頭も切れる。交渉力や金融系に長けており“ノーネーム"の財政を管理たり、“サウザンドアイズ”専属の経営アドバイザー(?)を勤めたりもする。

元の世界では頭脳優秀で一流大学への進学も決まっていた。(東大レベル)

 

 

性格

 

基本的にはクールでいながら温厚な性格であるが仲間を馬鹿にされたりすると激昂する。基本的に正直な性格である為、嘘をつくことは出来るがあまりうまくない。また恋愛に関しては恋愛のれの字も知らないくらいに鈍い。

基本は非問題児だが状況やノリで黒ウサギを弄ることもある。

 

弱点

 

ギフトが強力な反面、消耗が激しく、体力に限界がくるとギフトが不発になる。

 

 

 

 

 

 

名前

アーサー・ペンドラゴン(異世界では二宮清二)

 

性別

 

身長

198cm

 

体重

90kg

 

年齢

548歳?

 

容姿

金髪のリーゼントに似た髪型で中世ヨーロッパの騎士の鎧

 

ギフトネーム

アーサー王にゆかりのある、“エクスカリバー”などを所持しているが現在は不明。

 

特徴

もともとは“クイーン・ハロウィン”によって召喚され、傘下のコミュニティとして活動していたが女王と互角の勝負を繰り広げ、現在は独立している。(戦闘の理由は不明)

後天的な神霊として箱庭に召喚された。

 

 

性格

義理堅く、冷静沈着。だが蘭丸や白夜叉には冗談や悪戯など茶目っ気な一面も持つ。

 

 

 

 

 




以上です。

あまりネタバレを含まない為に物語は少なくしておきました。

本編を読む前に読まれてしまった方は「あ〜これはこうなるのか〜」

とか

「ん?これ設定に書かれているのと違うんじゃねえの?」

って読んでください。そして変なところがありましたらどんどんお願いします。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Yes!ウサギが呼びました
とある手紙


 

「くあ…」

 

艶やかな桃色のポニーテールの少年、二宮蘭丸(にのみやらんまる)は公園のベンチで欠伸をしていた。

 

「もう学校終わったからな…退屈だ」

 

彼は昨日高校を卒業して、退屈になっていた。ちなみに三年間皆勤である。

 

「仕方ない。今日の運勢でも見るかな」

 

蘭丸は何処からともなく空間に穴を開けて水晶玉を出現させて、それを手に取る。

 

「今日は健康運はまあまあで、金運もそこそこ、恋愛運は…相変わらず駄目…総合運は…駄目か。あーあ、凄い暇だ」

 

蘭丸は水晶玉を再び空間に穴を開けてそこに戻した。

 

「さてと、何処か遊びに…ってあれ?これは?」

 

蘭の目の前に、一通の手紙が降ってきた。その手紙を手に取り、その手紙を簡単に調べると『二宮蘭丸殿へ』と書いてあった。

 

「俺宛か…これが空からって…俺の様な空間や時間を操る力を持ってる奴でもいるのか」

 

彼は自分と同じ能力を持つ者がいるかもしれない事に驚きとまではいかないが興味が湧いていた。彼は空間を操作したり、空間を移動などができる。他にも予知能力や念動力などを使えたり、時間を操ったりなどができる。

 

「さてと…俺宛って何が書いてあるのかね」

 

蘭丸は手紙がどの様にして届けられたのかは考えるのをやめて手紙の中身を確認することにした。

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの"箱庭"に来られたし』

 

「は?ギフト?箱庭?一体なんのこと…」

 

その瞬間、蘭丸は公園から姿を消した。

 

 

 

 

(どうしてこうなった…)

 

現在蘭丸は遥か高い上空に来ていた。そして同時に落下。

彼らが見たものは地平線と世界の果てを彷彿させる断崖絶壁。

そう、完全無欠の異世界だった。

 

 

 

箱庭二一〇五三八〇外門居住区画、第三六〇工房………

 

「上手く呼び出せたかな、黒ウサギ」

 

「ですねぇ。ジン坊ちゃん」

 

黒ウサギと呼ばれる、ウサ耳を着けている少女とジン坊ちゃんと呼ばれるダボダボのローブを来た少年はそれぞれ違う表情を浮かべていた。

 

「何から何まで任せて悪いけど…彼らの迎えをお願いできる?」

 

「承りましたのですよ!」

 

「本当に彼らの来訪は、僕らのコミュニティを救ってくれるのかな…」

 

ジンは不安な表情で黒ウサギに問う。

 

「さあ。ですが主催者曰く彼らは…

 

 

 

 

 

人類最高峰のギフトの保持者だと」

 

 

黒ウサギとジンがそんな話をしている時に彼らは落下中であった。

 

「「「ど、何処だ⁈此処」」」

 

突然のことにら以外の三人はそれぞれ個人差はあれど、驚きを述べていた。

 

(ふむ、緩衝材の様な者が空中に張っているのか…)

 

落下中のさなか、蘭丸は現状の把握をしていた。

 

(他にも三人いるな、見た感じ空を飛べそうにもなさそうだしな…)

 

蘭丸は他の三人を見て空中を飛翔したり浮遊したりできないと考える。

 

「……仕方ない…むん!」

 

蘭丸が三人に向けて集中を高める。そうすると三人の体は空中で止まった。

 

「え⁈」

 

「こりゃあ…」

 

「どうなってるの?」

 

三人は自分が空中で体が止まってる事に驚きを隠せないでいた。

三人はおそらくだろうと思われる落下中の少年を見ていた。

そう…落下中である。

 

「ふう…なんとか間に合っ…ぶぶっ⁉︎」

 

他の三人に気を取られすぎた蘭丸、自分の身の心配をすっかり忘れていてそのまま大きな水柱を立てた。

 

「「「あ…」」」

 

彼が水に落ちたのを境に他の三人もそれぞれ水に落ちた。

 

 

 

「し、信じられないわ!いきなり呼びたしといた挙句、空に放り出すなんて」

 

福を絞りながら不満をこぼす、お嬢様風の少女。

 

「右に同じだクソッタレ。下手すりゃその場でゲームオーバーだぜコレ!これなら石の中に呼び出された方が親切だ!」

 

金髪の学ラン姿の少年も同じ様に文句を言っている。

 

「いえ、石の中に呼び出されたら動けないでしょう?」

 

「俺は問題ない」

 

「そう…身勝手ね」

 

 

 

「此処…何処だろう」

 

猫を抱えた少女は小さめな声でつぶやいた。

 

「さあな、世界の果てっぽいのが見えたし、何処ぞの大亀の背中なんじゃねえの?」

 

四人は少し黙った後に金髪の少年が見回しながら話し始めた。

 

「一応確認しておくが、お前らにもあの変な手紙が?」

 

「ええ。それと、そのお前って呼び方訂正して。私は久遠飛鳥よ。以後気をつけて、そしてそこの猫を抱えている貴女は?」

 

「…春日部耀。以下同文」

 

お嬢様風の少女、久遠飛鳥の呼ばれ方に不満があるのか少しムッとした顔で簡潔に自己紹介を済ませるとまた猫よ方に向く。

 

「そう、よろしく春日部さん。そしてそこの野蛮で凶暴そうな貴方は?」

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪、快楽主義と三拍子揃った駄目人間なので、用量と用法を守った上で適正な態度で接してくれよ、お嬢様」

 

金髪の少年、逆廻十六夜は飛鳥に明らかに喧嘩を売る様な物言いであった。

 

「そう、取り扱い説明書を用意してくれたら、考えてあげてもいいわ十六夜君」

 

「ヤハハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しておけよ」

 

流石はお嬢様と言ったところだろうか、十六夜の言葉を簡単に受け流した。

 

「それとそこの貴方は?」

 

飛鳥はジャケットを絞っている蘭に声をかけた。

 

「俺は二宮蘭丸、よろしく、飛鳥さん」

 

「そう…よろしく」

 

飛鳥は初対面でいきなり名前を覚えられたことに少し驚くがすぐに落ち着きを取り戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**

 

(うわあなんだか問題児ばかりですねえ)

 

黒ウサギは物陰から四人を眺めていた。

 

心からケラケラと笑う逆廻十六夜

 

傲慢そうに顔を背ける久遠飛鳥。

 

我関せずと無関心を続ける春日部耀

 

湖で水晶玉を洗う二宮蘭丸

 

彼らが協力するとは到底思えなかった黒ウサギは静かにため息をした。

 

 

「んで呼び出されたのはいいけど、なんで誰もいないんだ?そろそろ説明役が出て来てもいい頃だろうが」

 

「そうね、説明なしじゃ動き用がないものね」

 

「…この状況で落ち着きすぎているのもどうかと思う」

 

「その言葉そっくりそのまま君に返すよ」

 

(ごもっともです‼︎もう少し慌ててくれないと黒ウサギが出辛いではありませんか)

 

「仕方がねえ。こうなったらそこに隠れてる奴にでも聞くか」

 

覚悟を決めて出ようとした、黒ウサギは心臓を掴まれた様にビクッと驚いて再び木に隠れた。

 

「あら、貴方も気づいていたの?」

 

「当然、かくれんぼじゃ負けなしだぜ。そこの猫を抱えた奴も水晶玉を磨いてる奴も気づいてるんだろ」

 

「…風上に立たれたら嫌でもわかる」

 

「普通に見えるさ」

 

「へえ?お前ら面白いな」

 

どんどん四人の機嫌は悪くなり、空気も悪くなっている。

 

「や、やだなあ皆様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたらうれしいでございますヨ?」

 

「断る」

 

「却下」

 

「お断りします」

 

「どの口が言ってんだ?」

 

「あっは、取り付くシマも無いですね♪」

 

黒ウサギは降参のポーズをとっていたの。

 

(どうやら肝っ玉と勝ち気だけは及第点ですね。この状況でNOと言えるとは…扱いずらいのが難点ですね)

 

黒ウサギが冷静に四人を値踏みをしていると、黒ウサギの後ろを耀がとって

 

「えい」

 

「ふぎゃ⁉︎」

 

思いっきり耳を引っ張った。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますがいきなり黒ウサギの素敵耳を引っこ抜きにかかるとはどの様な了見ですか?」

 

「好奇心の為せる技」

 

「自由すぎるのにも程があります‼︎」

 

黒ウサギは耀から離れるが

 

「へえ、このウサ耳本物なのか」

 

右耳を十六夜が

 

「じゃあ私も」

 

左耳を飛鳥が

 

「ちょ、ちょっと」

 

黒ウサギは涙目で蘭丸を見る。

すると黒ウサギは十六夜と飛鳥のところから消えて、黒ウサギは蘭丸のいたところにいた。

 

「あ、ありがとうござ…ひゃん⁉︎」

 

黒ウサギが感謝を述べようとしたら蘭丸は黒ウサギの耳を撫でていた。

 

「このウサ耳凄い触り心地いいね♪」

 

蘭丸は目を爛々とさせながら黒ウサギの耳を撫でる。

 

「あは…ちょ、ちょっと……」

 

 

黒ウサギの壊れた様な笑い声は森に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 




今回はこの辺にします。

テスト近くてヤバイ………


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

黒ウサギ

 

「あ…あり得ないのデス。まさか話を聞いてもらうのに小一時間もかかるとは…学級崩壊とはこのことを言うに違いないのデス」

 

蘭丸に耳を撫でられた後、以外に気持ちよく、その余韻に浸っていると十六夜と飛鳥に再び耳を引っ張っていた。蘭丸は飽きたのかその弄りには参加しなかった。

 

「いいからさっさと始めろ」

 

黒ウサギは涙目で訴えるが十六夜が容赦無くズタボロにする。

黒ウサギは本気の涙を浮かべるが直ぐに気を撮り直して話し始める。

 

 

「ようこそ“箱庭の世界”へ! 我々は皆様にギフトを与えられた者だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼンさせていただこうかと召喚いたしました!」

 

「ギフトゲーム?」

 

「Yes!既にお気づきでしょうが皆さんは普通の人間ではありません。さまざまな修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵なのですよ。『ギフトゲーム』とはその恩恵を駆使して競い合う為のゲーム、この箱庭の世界は強大な力をもつギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」

 

「質問いいかしら?」

 

飛鳥が挙手して話し出す。

 

「はい、どうぞ」

 

「貴女の言う“我々”とは貴女を含めた誰かなの?」

 

「Yes!異世界から来たギフト保持者は箱庭に数多くある“コミュニティ”に属していただきます」

 

「嫌だね!」

 

「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者には主催者(ホスト)側の指定した商品をゲット出来ると言うシンプルな構造になっています」

 

「…主催者って何?」

 

耀がゆっくり手を挙げて話す。

 

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試す為の試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示する為の独自開催するグループもあります。前者の場合は自由参加が多いですが主催者が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なゲームが多いですがその代わり見返りは大きいものです」

 

「ギフトゲームはどうやったら始められるんだ?」

 

蘭丸が挙手しながら質問する。

 

「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければ!商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加してみてください」

 

黒ウサギの言葉に飛鳥が反応する。

 

「…つまりギフトゲームはこの世界の法そのものと捉えてもいいのかしら?」

 

「鋭いですね。しかしそれは八割正解二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか! そんな不逞の輩は悉く処罰しますが、先ほどそちらの方がおっしゃった様に、ギフトゲームの本質は勝者が得をするもの! 例えば店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればただで入手することも可能だと言うことですね」

 

「なかなか野蛮ね」

 

「ごもっともしかし全て主催者の自己責任でゲームが開催されております。つまり奪われたくない腰抜けは始めからゲームに参加しなければいい話のです」

 

一通り説明し終わったと思ったのか黒ウサギは一枚の封書を取り出した。

 

「さて説明は以上ですが黒ウサギは皆様の質問に全て答える義務がございますが…後は取り敢えずコミュニティに戻ってからと言うことでよろしいですか?」

 

「待てよ。まだ俺の質問が残ってる」

 

「なんでしょうか?ギフトゲームのことで何かわからないことでも?」

 

「そんな事はどうでもいい。俺が聞きたいのは一つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界は…面白いか?」

 

他の三人も無言で返事を待つ。

 

彼らを呼んだ手紙にはこう書かれていた。

 

『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と。

 

「Yes!『ギフトゲーム』は人を超えたものたちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 

黒ウサギは笑顔で答えた。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

世界の果て


二宮蘭丸の容姿

桃色のポニーテールでスーツタイプの服を着ています。




二一〇五三八〇外門

 

「ジン坊ちゃーん!新しい方を連れて来ましたよー‼︎」

 

ピョンピョン跳ねながら黒ウサギはジンに呼びかける。ジンはその呼びかけに応じて立ち上がる。

 

「おかえり黒ウサギ。そちらの女性二人が?」

 

「はい。この御四人様が……」

 

途中まで言いかけた黒ウサギは固まった。

女性二人、つまり十六夜と蘭丸が着いて来ていないのだ。

 

「え?あの〜もう二人いませんでしたっけ?全身から“俺問題児”ってオーラを出しているヘッドフォンをつけた方と、何処か不思議なオーラを出している方は?」

 

「ああ、十六夜君なら『ちょっと世界の果てを見に行って来るぜ!』って走って行ったわ」

 

飛鳥が指差す方向には断崖絶壁があった。

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか?」

 

「止めるなよって言われたのだもの」

 

「ならせめて黒ウサギに行ってくれても‼︎」

 

「黒ウサギには言うなよって言われたから」

 

「絶対嘘です。本当は面倒臭かっただけでしょう⁈」

 

「「うん!」」

 

なんの悪びれもせずにどうどうと言ってのけた飛鳥と耀。やはりこの二人も相当な問題児であると思う黒ウサギであった。

だが直ぐに次の疑問が黒ウサギの頭の中に浮かび上がり顔を上げる。

 

「そ、そういえば蘭丸さんは?蘭丸さんも十六夜さんについて行ったのですか?」

 

「ううん、蘭丸は『ちょっと急用できたから先に行ってくれ』って言ってた」

 

「あーそうですか!それなら安心……な訳ないでしょう、このお馬鹿様‼︎」

 

黒ウサギはノリツッコミで耀の頭を叩く。「理不尽」と耀はむつけた。

 

「た、大変です!世界の果ての付近にはギフトゲームの為、野放しにされている幻獣達が‼︎」

 

「幻獣?」

 

「はい、強力なギフトを持った獣で、普通の人間では太刀打ちできません」

 

「あら、それじゃあ彼等はもう既にゲームオーバーって事かしら」

 

「ゲーム前にゲームオーバーって…斬新」

 

「そりゃ…酷いな…」

 

「冗談を言っている場合じゃありません‼︎……って、え?」

 

「「え?」」

 

「?」

 

黒ウサギ、飛鳥、耀は驚きの表情を浮かべ、ジンは何が起きてるのかが分からないでいた。

 

「ら、蘭丸さん?戻って来ていたのですか?」

 

「いや、これは俺の分身だ」

 

「ぶ、分身ですって?」

 

「まあ詳しいことは機会があったら話すからさ。本体からの伝言を伝えに来た」

 

何か大切な事なのかと思い黒ウサギは耳を傾ける。

 

 

 

 

 

「『晩御飯までには帰る』って」

 

…とてつもなく下らない事を伝えて分身は消滅する様な形で消えて行った。

 

「あ、あの問題児様方はー‼︎」

 

叫んだ後、黒ウサギは地面にへにょりと座った。

 

「ジン坊ちゃん…お二人の案内をお願いします。黒ウサギはあの問題児様達を捕まえに行きます。“箱庭の貴族”と謳われる黒ウサギを愚弄したことを骨の髄まで後悔させます‼︎」

 

黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、艶のある黒い髪を淡い緋色に染めていく。

 

「半刻程で戻ります‼︎お二人はしばらく箱庭ライフをご堪能下さい」

 

黒ウサギは弾丸の様な速さで跳躍し森へと消えて行った。

 

「……箱庭のウサギは随分早く飛べるのね、素直に感心するわ」

 

風でなびく髪を抑えながら飛鳥が素直な感想を述べる。

 

「ウサギたちは箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが……」

 

ジンは心配そうな顔をしている。

 

「そう、なら此処はお言葉に甘えて、箱庭を堪能しましょう。貴方がエスコートしてくださるの?」

 

「は、はい。僕はジン=ラッセルです。十一歳の若輩者ですがコミュニティのリーダーをしています。」

 

「よろしく私は久遠飛鳥よ。そちらの猫を抱えているのが」

 

「春日部耀」

 

「ではこちらへ、軽いお食事でもしながらでもお話を」

 

ジンはそう言いながら飛鳥と耀を箱庭の外門にくぐらせる。




主人公のギフトの一部を出して見ました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

時空の歪み

 

「さて…」

 

黒ウサギと(勝手に)別れた蘭丸は森の奥深くへと来ていた。

 

「お、見つけた!時空の歪み。まさか箱庭にもあるとはな」

 

「あ、あの…」

 

蘭丸が声のあった後方を見るとそこには何処かの民族衣装の様な服を着た、今にも泣きそうな18歳程の少女と同じ様な服の体の大きい男がいた。しかし男の方は胸の辺りに怪我を負ってかなりの出血だ。

 

「君等は?」

 

「私はミロ=フリーズです。南側のコミュニティに所属している者です。こちらが私の父のスカーロ=フリーズです。貴方は?」

 

「俺は二宮蘭丸。今日この箱庭召喚された人間だ。ところで君のお父さんの怪我、俺なら治せるぞ?」

 

「ほ、本当ですか⁈では貴方は医療系のギフトを?」

 

「いや、そういう類じゃないんだがな…」

 

「まあ見てろ」と言い蘭丸はスカーロの傷の箇所に手を触れた。

 

「ちょっと動くなよ?」

 

蘭丸の手から放たれた光がスカーロを包むと、傷はたちまち塞がっていく。

 

「嘘…傷が…」

 

「今のはスカーロさんの体を怪我する前まで戻しただけだ。俺は時空間を支配する類のギフトだからさ」

 

「時空間を…支配?」

 

「まあそれはさておき、君等はこの時空の歪みについて何か知っているのか?」

 

「ああ、この時空の歪みには、俺らの仲間が飲み込まれているんだ」

 

傷から復活したスカーロがはっきりと答えた。

 

「…その話、詳しく聞かせてくれ」

 

「ああ、実はこの時空のは最近この辺に見られるようになったんだ。俺らのコミュニティはそう言ったものの調査や救助を主としたコミュニティなんだ。この歪みも“サウザンドアイズと言うコミュニティの依頼で調査しに来たんだ」

 

「なるほど、でも君等は時空間に干渉するギフトは持ってないんだろ?どうやって調べるつもりだ?」

 

蘭丸は気になった。この二人は時空間に干渉する術を持っている様に見えないからである。

 

「この時空の歪みは一定の時間で物を呑み込むんだ。その時間を見計らって飛び込もうとしたら、中から何かに邪魔されて、そして俺と娘以外の三人の仲間が飲み込まれて行ったんだ」

 

「お願いします!仲間を助けて下さい!時空間に干渉できる貴方ならなんとかなるかもしれません‼︎」

 

ミロとスカーロは頭を下げる。蘭丸は一瞬考える仕草を見せるが…

 

「おう、任せとけ」

 

蘭丸は笑顔で応じ、時空の歪みのある場所に手を添える。

 

「むん‼︎」

 

蘭丸が念じると歪んでいた場所に穴があいた。

 

「こ、これは…蘭丸さんのギフトですか?」

 

「ああ、これは“時空扉”って言ってな、こういった時空の歪みの中に侵入する為の力だ」

 

「…わ、私も同行させて下さい‼︎」

 

「…俺はいいがスカーロさんは?」

 

「行ってこい。俺はここで待っておく」

 

蘭丸とミロは穴の中へと入って行き、穴は収束し、また時空の歪みが出現した。

 

 

 

 

 

「きゃあ⁈」

 

「さてと、侵入したのはいいが…」

 

異空間に侵入した蘭丸とミロであったが、目の前には巨大な宮殿があった。

 

「他に空間は広がってないし、原因はこの宮殿で間違いないはずだが…ん?」

 

蘭丸が宮殿の前で倒れている人を三人見つけた。

 

「こいつらはさっき言っていた仲間だろう。」

 

「はい、私達のコミュニティの仲間です」

 

蘭丸はすぐさま三人の生死を確認する為、脈を確認する。

 

「…手遅れだったか…すまん」

 

「そんな…」

 

蘭丸は彼等を並べ、黙祷をすると、宮殿へと足を運び始めた。蘭丸は宮殿の扉に一枚の黒い羊皮紙が貼ってあった。

 

【ギフトゲーム “夢幻宮殿の魔神”

 

・プレイヤー

この空間に入り込んだ者

 

・クリア条件

宮殿の奥にいるホスト、魔神グールの撃破

 

・敗北条件

この空間に二時間以上の滞在

上記の条件を満たせなくなった場合

 

・宣誓

上記を尊重し、旗と誇りとホストマスターの名の下ギフトゲームを開催します。

 

“魔神グール”印】

 

「これが契約書類(ギアスロール)か…取り敢えず二時間以内にこの魔神グールとか言う奴を倒せばいいんだろ?案外簡単なのか?」

 

「ええ、ですがこの契約書類、魔王のギフトゲーム⁈」

 

「魔王?」

 

「はい、この箱庭では魔王と呼ばれる者が存在します。この黒い契約書類は魔王のギフトゲームの証と言ってもいいものです」

 

「ふーん」

 

蘭丸は興味なさそうに扉に手を掛けるが、扉に弾かれて触れることができなかった。

 

「うお?」

 

「蘭丸さん⁈大丈夫ですか?」

 

「これは、何かさわれないような力でも働いているのか?なるほど、どうりでこの辺りには沢山の死体が…」

 

蘭丸の周り、正確には扉の周りには沢山の亡骸があった。人の骨格をしていれば、そうでない骨もあった。

 

「ん…じゃあ触れなきゃいいか」

 

「え?」

 

蘭丸はあっさりそう言うと、ミロの手を掴み今度は扉に向かって歩く。すると蘭丸は扉をすり抜けた。

 

 

 

 

 

 

「なんだこんな程度なら魔神とやらも弱いんじゃないのか?」

 

「ら、蘭丸さん…」

 

宮殿内に入った蘭丸は不満の声を出していると目の前には三メートルはある巨大な鬼の様な生物が二体立ちふさがっている。

 

「へえ…こんな世界だと鬼とかも当たり前にいるのか?まあ似たようなやつなら俺の世界にもいたけどな」

 

「「Guwaaaaaaaa‼︎」」

 

 

 

雄叫びを挙げながら鬼は手に持っていた斧を振り回しながら走ってくる。

 

「ちょっと離れてな」

 

「え?蘭丸さんは?」

 

蘭丸はミロを少し離れた場所に移動させると向かってくる鬼に対して突っ立っていた。

 

「蘭丸さん‼︎」

 

鬼は蘭丸に斧を振り下ろす。ミロは目を瞑り、巨大な音がなった。

 

…が蘭丸にはその攻撃は蘭丸の体の真下の地面に穴が空く。

蘭丸は瞬間的に一体の鬼の背後に回り込むと、何処から取り出したかわからない刀で鬼を切る。

 

「Guwaaaaaaaa‼︎」

 

「え?」

 

ミロは切られた鬼を見て仰天した。

切られた鬼は真っ二つになっておりその間には裂け目ができていた。

 

「嘘?これって」

 

「ああ、この鬼を空間ごと切り裂いた。そして」

 

蘭丸は刀を鞘に収めると鬼はその空間の裂け目に吸い込まれた。

 

「こうやって証明させることもできる」

 

蘭丸の背後からもう一体の鬼が走ってくる。

 

「デカイわりには対したことはないな‼︎」

 

蘭丸は今度は鬼に一瞬で近づき、鬼の体に触れる。鬼の体は一瞬で消えた。

 

「え?今度は?」

 

「俺は触れた物を消すこともできるのさ」

 

「へえ〜すごいのですね蘭丸さんって」

 

ミロは目を輝かせて蘭丸を見る。

 

「ははは。すごいかわからないけど確かに龍の守護獣を宿す者は村では珍しいからな」

 

蘭丸とミロは小走りで宮殿を走っていると目の前に今度は猿の様な生物が飛びながらこちらに向かってくる。

 

「お?今度は猿か」

 

「蘭丸さん、ここは私が!」

 

ミロは蘭丸の前に立った。

 

「はあっ‼︎」

 

ミロが猿の様な生物を見つめるとその生物は突然の爆発を起こした。爆発後には何も残っていなかった。

 

「すっげ……なんだよ今のは」

 

蘭丸は驚いてミロと爆発のあった場所を交互に見る。

 

「今のが私のギフトの“核生成”空気中で核融合を起こして核爆発を起こすことができるのです」

 

「そりゃすごいギフトだが、制御は大変だろう?」

 

「はい、父からは暴走すると星一つ爆発させるかもしれないと」

 

「マジかよ…俺でも星を消すことくらいは出来るが爆発させるのはな」

 

「それでも大概です‼︎」

 

二人は魔王のギフトゲームだと言うのに呑気に進んで行った。

 

 

 

 

 




今回はすごく長く掛けました。次回、魔王戦です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔神グール



蘭丸対魔王です。

…こんなに最初から魔王戦でいいのか?


 

蘭丸とミロは途中に現れる異形な生物を消滅させ、爆発させながら、奥へと進んでいく。

 

「うーんなかなか歯ごたえのない連中だ。なあミロ」

 

「蘭丸さん……凄すぎ……ます……」

 

ミロは肩で大きく息をついていた。

だが気づくと二人は広いところに出ていた。そこは宮殿の外であった。

 

「おい魔神グールとやら!きてやったぞ」

 

蘭丸が軽い調子で呼ぶと目の前に黒い霧が発生し、形を作っていく。その姿は二メートル程の巨大な人型の魔神であった。

 

『ふん!よくきたな人間よ!だが時間は大丈夫か?お前らはかなり宮殿で時間を潰した様だが?』

 

「まああと10分しかないしな。まあ……」

 

「蘭丸さん?」

 

『お前は邪魔だ小僧。暫くその中でおとなしくしていろ‼︎』

 

そしてグールはミロへと視線を移す。

 

 

「魔神グール‼︎よくも私達のだけではなく多くの命を‼︎」

 

ミロはグールの周辺を爆発させる。

 

『ふふふ、小娘が!儂は実態を持たぬ者、そしてこの姿も仮の物故に儂は死なん!』

 

「そんな…」

 

ミロは次々と爆発を起こすがグールはそんなの御構い無しにミロとの距離を詰めて来る。

 

「きゃあっ‼︎」

 

グールはミロの連続で鳩尾に拳を入れる。ミロは空へと吹き飛んだ。

 

(やはり魔王は強い。私では倒せないの?仲間の仇も打てないの?)

 

ミロは思い出していた。死んだ三人を含めた仲間達と、父と様々な者を救助しながら、笑あった日々を…

 

(これがいわゆる走馬灯ってやつなの?私死ぬの?)

 

『終わりだ小娘‼︎』

 

グールはミロにとどめの一撃を放つ、ミロは覚悟を決めて目を瞑ったがいつまでも痛みは来ない。それどころか体に暖かみが伝わる。

 

「大丈夫かミロ⁈」

 

「蘭丸……さん…?」

 

ミロの目の前には笑顔でこちらを見る二宮蘭丸がいた。

 

「ごめんな?あの空間に閉じ込められた時にちょうどインターバルが来て少し時間を経過させてた」

 

『おのれ小僧‼︎貴様何をした⁉︎どうやって儂の魔宮牢から逃げ出した⁈』

 

「ただお前の空間から抜けて、瞬間移動でミロをこっちに移動させただけさ」

 

 

「つーかあんな程度で俺を閉じ込められると思っているのか?」

 

『おのれ!…いくら貴様でもこの私を倒せるのか?あと三十秒だぞ?』

 

「ああ、お前の倒し方ならとっくにご存知だぜ?」

 

蘭丸は空間の行けるところまで瞬間移動で行き、壁となる場所に手を当てるとその一からどんどん空間が消えていく。

 

『ま、まさか…』

 

グールは驚愕の表情で蘭丸の下へ向かおうとしたが途中で壁にぶつかったかの様な感覚に襲われ、跳ね返される。

 

『馬鹿な!儂は実体を持たないもの物に妨害されるはずが…』

 

「俺は時空間を支配することができる。いくら実体がなかろうが空間に存在しているならどんなものでもおれの思うがままだ‼︎」

 

そう言いながらも空間が消えていく速度はどんどん早くなっていく。

 

『辞めてくれ‼︎降参だ‼︎降参するから‼︎』

 

「残念ながらルールに降参は無かったはずだ!お前は俺がここで消す」

 

空間はもう九割程消えかかっていた。

 

『嫌だあぁぁぁぁ‼︎』

 

「らしくない絶叫だな。このゲーム俺らの勝ちだ‼︎」

 

そして魔神グールと異空間は消え去った。

 

 

 

 

 

 

「な、なんだ歪みが収まっていく?」

 

その頃森で待っていたスカーロは突然のことに驚いていた。

そして歪みは完璧に消えた。

 

「って事はゲームがクリアされたのか?蘭丸とミロはどうなった?」

 

「後ろだよスカーロさん」

 

スカーロが後ろを向くとそこには娘と仲間を抱えている蘭丸が立っていた。

 

「蘭丸‼︎」

 

「ああ、スカーロさん…すまなかった仲間は助けられなかった」

 

スカーロはすでに死んでいる仲間をみる。

蘭丸は申し訳なさそうに顔を俯けている。

 

「気にするな蘭丸。むしろ感謝したいくらいさ。お前がこの時空の歪みを消滅させてくれて、仲間の遺体を運んで来てくれた。こいつらは最後まで戦おうとしてたんだろうな、顔が物語ってる」

 

スカーロは目に涙を浮かべながら蘭丸に笑顔を見せる。

 

「う……ん…」

 

「ミロ‼︎」

 

「ミロ、目が覚めたか?」

 

目が覚めたミロは辺りを見回し、現状を確認すると顔を紅くし、とっさに爆発を起こした。

 

「「へ?」」

 

素っ頓狂な声を出した二人は爆発に呑まれた様に見えたが二人とも無傷であった。

 

「ふう…危ない危ない」

 

「蘭丸、お前何をしたんだ?」

 

「ああ空間を壁の様に作って防御壁に…」

 

「いや、そうじゃなくて娘にだ。あんな顔を真っ赤になったミロは初めて見た」

 

ミロは少し蘭丸から離れて顔を隠している。おそらく真っ赤っかであるのはスカーロは容易に想像できた。スカーロは少し考える様に指を顎添え、何か思いついた様にニヤけていた。

 

「よし!ミロお前蘭丸が入るコミュニティに入れ‼︎」

 

「ちょっと、父上?何を」

 

ミロは真っ赤にしてスカーロに詰め寄る。スカーロはミロにだけ聞こえる声でささやく。

 

「…何があったか知らんがあんないい男そうなやつすぐに他に取られるぞ?」

 

「〜‼︎」

 

「と言うわけだいいか蘭丸?」

 

「俺は構わないがミロは…」

 

蘭丸はミロに視線を移す。ミロは俯きながら

 

「よろしく……お願いします」

 

消えそうな声で言った。

 

「そっか。ならよろしくな」

 

蘭丸はニコッと笑みを見せる。ミロは一段と顔を赤くする。その様子をニヤニヤみるスカーロ。なんとも下世話な父親である。

そんな空気を出していると

 

「見つけたのですよー問題児様……って貴方達は?……………………ってスカーロ様でございますか⁈」

 

黒ウサギは自称素敵耳をピーンと貼りスカーロに驚いていた。

 

「おお!その弄りがいのある耳はやっぱり黒ウサギか?久しぶりなもんだ」

 

「ええ、お久しぶりで……ってその覚え方辞めて下さい‼︎傷つきますよ⁈」

 

黒ウサギのノリツッコミ彼女は今日で何回ツッコミをしているのだろうか?

 

「ヤハハハ!わかるじゃねえかオッサン」

 

黒ウサギの後ろから十六夜が笑いながら歩いて来ている。

 

「オッサンって……まあもう42歳だもんなオッサンか…」

 

「相変わらず礼儀知らずだな十六夜」

 

スカーロは十六夜にオッサンと呼ばれ凹み、蘭丸も十六夜の礼儀知らずに呆れていた。蘭丸は自分は例え問題児だとしても人への最低限の礼儀は守る事を心情にしていた。

 

「あ、黒ウサギコッチの娘が俺が入るコミュニティに入りたいって言うからさ、入れてもいいかな?」

 

「え?」

 

「あ、あの…黒ウサギは一向に構わないのですが…スカーロ様はどう思われるのか…」

 

「ああ、俺はいいぞ?」

 

スカーロは黒ウサギがしどろもどろになっているところを遮ってアッサリ承諾した。

 

「え?」

 

「え?じゃない。俺はいいって言ってるんだ。だが今のコミュニティの状況をちゃんと蘭丸に話さないとな」

 

「わかりました。蘭丸さん…黒ウサギのコミュニティの現状を包み隠さずお伝えします」

 

蘭丸は黒ウサギからコミュニティの状況について聞いた。三年前に魔王によってコミュニティの旗と名前、人間までが奪われて行ったこと、今はジンがリーダーをやっているのだがまだ小さい為黒ウサギがほとんどコミュニティの事をやっていることなど。

 

「いいぞ。お前のコミュニティに入っても」

 

それを聞いた蘭丸は暫く黙っていたが普通にOKした。

 

「え?本当ですか蘭丸さん」

 

「ああ、そんな状況のコミュニティを見捨てられないしな。で、ミロはどうする?ついてくるの考え直すか?」

 

「いえ、私は蘭丸さんの側にいると約束しましたので、何処までもお供しますよ」

 

ミロは蘭丸に笑顔で答える。その笑みは本当に美しく見えた。

 

(へえ…こりゃ面白いな蘭丸を弄るネタが出来たぜ)

 

十六夜は密かに蘭丸弄り計画を立てていた。

 

 

「ではもうそろそろジン坊ちゃん達と合流しましょう、大分遅くなりましたし」

 

「じゃあ俺が一瞬で連れてくよ」

 

蘭丸は黒ウサギの前に時空の穴を開けた。

 

「これは?」

 

「ほら、早く」

 

「待ってください蘭丸さん」

 

「本当おもしれえなお前」

 

蘭丸に続きミロ、十六夜、黒ウサギの順に穴へと入って行った。

 

「…元気でな‼︎ミロ!」

 

スカーロは娘を笑顔で送った。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

サウザンドアイズと和装ロリ


前回にイキナリ魔王戦に持って行ってしまったからこれから蘭丸の設定が難しくなってしまった……

なんとかしなければ…


 

 

「な、なんでこの短時間で“フォレス・ガロ”のリーダーと接触して、しかも喧嘩を売る状況になったのですか⁈」

 

黒ウサギが十六夜と蘭丸を追いかけている間に箱庭を堪能している筈の飛鳥、耀、ジンの三人はこの辺りを支配しているコミュニティ“フォレス・ガロ”のリーダー、ガルド=ガスパーと接触し、喧嘩を売りギフトゲームをする状況になっていた。

黒ウサギは次から次へとくる災難に顔を青ざめながら叫んでいる。

 

「しかもゲームの日取りは明日!しかも敵のテリトリーで戦うなんて!準備している時間もお金もありません!どういう心算があってのことですか⁈…聞いているのですか?三人とも!」

 

「「腹が立ったから後先考えずに行動した。反省はしている」」

 

「黙らっしゃい‼︎」

 

口裏を合わせるかのような言い訳に激昂する黒ウサギ。

 

「いいじゃねえか黒ウサギ。別に見境なく喧嘩を売ったわけじゃないわけだし」

 

「十六夜さんは面白ければいいと思っているかも知れませんが、このゲームで得られるのは自己満足だけなのですよ。このギアスロールを見て下さい」

 

十六夜は黒ウサギからギアスロールを受け取りそれを読み上げる。

 

「“参加者”が勝利した場合、主催者は参加者の言及する罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する”まあ確かに自己満足だな。時間をかければ立証出来るものだがわざわざ取り逃がすリスクを負ってまで短縮するんだからな」

 

「時間さえかければ彼らの罪は暴かれます。だって肝心の子供達はもう……」

 

黒ウサギも“フォレス・ガロ”の噂は聞いていたがまさかここまでとは思っていなかった。

 

「そう。人質は既にこの世にいないわ。その点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。だけどそれには少々時間がかかるのも事実。あの外道を裁くのにそんな時間をかけたくないの。それにね、黒ウサギ。私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲で野放しにされることも許せないの。ここで逃がせば、いつかまた狙ってくるに決まってるもの」

 

「ま、まあ確かに逃がせば厄介ですが…まあいいでしょう“フォレス・ガロ”程度なら十六夜さんか蘭丸さんのどちらがいれば楽勝でしょう」

 

「何言ってんだ?俺らは参加しねえぞ?」

 

「当たり前よ。貴方達なんて参加させないわ」

 

十六夜と飛鳥は怪訝そうな顔をして鼻をならす。

 

「ん…まあ当然かな?残念」

 

蘭丸は残念そうに見えない微笑を浮かべ肩を竦める。

慌てて黒ウサギが間に入る。

 

「だ、駄目ですよ!皆さんはコミュニティの仲間なのですから協力しないと…」

 

「そうじゃねえ、この喧嘩はこいつらが売って奴らが買った。なのに俺らが手を出すのは無粋だって言ってんだよ」

 

「あら、わかってるじゃない」

 

「ああ、もう好きにして下さい…」

 

今日一日でかなり問題児達に弄ばれた黒ウサギはもはや突っ込む元気も無かった。

 

「ところで蘭丸君。そこの女性はどなたなのかしら?」

 

飛鳥は蘭丸とその隣に立っているミロに視線を移していた。

 

「はい。私はミロ=フリーズと言います。今日からこのコミュニティでお世話になります。よろしくお願いします」

 

ミロは深々と頭を下げる。

 

「そう、よろしくねミロ」

 

 

 

 

 

 

 

“フォレス・ガロ”との一悶着を終えて、黒ウサギ達は信仰のあるコミュニティにギフト鑑定をしてもらうことになった。

 

「“サウザンドアイズ”?」

 

「YES。サウザンドアイズは特殊な“瞳”のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」

 

「ギフト鑑定って必要か?」

 

「自分のギフトを把握しておけば引き出せる力は大きくなります。皆さんも自分の力の出所は知りたいでしょう?」

 

黒ウサギは同意を求めるが十六夜、飛鳥、耀、蘭丸の四人は少し複雑な表情を浮かべていた。

辺りは日が暮れて、街灯が灯り始めていた。街路の脇に生えている桜の様な木を眺めていた。

 

「桜の木……ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けているはずがないもの」

 

「いや、まだ初夏に入ったばかりだぞ?気合の入った桜が咲いててもおかしくないぞ」

 

「……今は秋だと思うけど」

 

 

「俺らは異世界から来たんだから時間軸とかがずれてるんだろ?ちなみに俺の世界では春で桜が咲き始めた頃だぞ」

 

三人が「ん?」と疑問になった時に蘭丸が助言を入れた。

 

黒ウサギとミロは「お?」という顔で蘭丸を見る。

 

「蘭丸さんの言う通りです。皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているので時間軸の他にも歴史や文化、生態系など違う箇所がある筈です」

 

「へえ、パラレルワールドってやつか?」

 

「近いです、正しくは「正しくは立体交差世界論というものですが…これを説明するには時間がかかりすぎるのでまた今度でいいですよね黒ウサギ?」

 

「は、はい……ミロさん…黒ウサギの台詞を取らないで欲しいのデス…」

 

黒ウサギは台詞を取られてがっかりしているが少しがっかりしている。

そうこうしているうちに“サウザンドアイズ”の支店に到着した。

店の前では割烹着姿の女性店員が看板を下ろそうとしていた。黒ウサギが慌てて止めにいく。

 

「待っ………」

 

「待ったはなしですお客様。ウチは営業時間以外営業していませんので」

 

黒ウサギは待ったをかけられなかった。流石は超大型商業コミュニティと言った対応である。

 

「な、なんて商売っ気のない店なのかしら!」

 

「全くです!閉店時間の五分前に締め出すなんて!」

 

「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

 

「出禁?これだけで出禁とはお客様舐めすぎでございますよ⁉︎」

 

黒ウサギはギャーギャーと喚くが女性店員も冷めた目で黒ウサギを軽蔑するかの様に見る。

 

「なるほど、確かに“箱庭の貴族”である兎のお客様を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を伺いますのでコミュニティの名前をよろしいですか?」

 

「……!」

 

黒ウサギは答えられなかった。黒ウサギに変わってか十六夜が躊躇いなく答える。

 

「俺たちは“ノーネーム”ていうコミュニティなんだが?」

 

「ほほう、ではどの“ノーネーム”様でしょうか?できれば旗印を確認させてもらってもよろしいでしょうか?」

 

「……ミロ、これがさっき言ってた“ノーネーム”の対応か?確かに名もないコミュニティは信用されないわな」

 

「はい。しかも“サウザンドアイズ”は“ノーネーム”お断りの店ですからね、ここは引き上げたほうが……」

 

「いぃぃぃぃやっほぉぉぉぉ!久しぶりだな黒ウサギィィィィィ‼︎」

 

「きゃあぁぁぁ……!」

 

突然現れた着物を来た白髪の少女がフライングボディアタックを決めて黒ウサギと共に街路脇の水路に落ちた。

 

「…おい店員。この店にはドッキリサービスもあるのか?あるなら俺も是非別バージョンで」

 

「ありません」

 

「なんなら有料で」

 

「やりません」

 

二人はなんとも馬鹿らしい会話であるがその顔は本気である。

 

「し、白夜叉様?どうして貴方がこんな下層に?」

 

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしてたに決まっておろう。フホ、フホホホホホホ!やはりウサギは触り心地が違うのう。ほれ、ここが良いか、ここが良いか?」

 

「白夜叉様……取り敢えず離れて下さい‼︎」

 

黒ウサギは白夜叉を引き剥がすと、店の方に投げつける。クルクルと縦回転で迫ってくる白夜叉を十六夜が足で受け止める。

 

「てい」

 

「ゴハァ!お、おんし飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様じゃ‼︎」

 

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

 

「うう……どうして私まで濡れなきゃいけないのですか?」

 

泣きながら黒ウサギが水から上がってきた。

 

「因果応報…かな?」

 

「貴方、この店の人?」

 

「おお、そうだとも。この“サウザンドアイズ”の幹部様で白夜叉さまだ。仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育がいい胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

「オーナー、それでは売り上げが伸びません。ボスに怒られますよ」

 

白夜叉のセクハラを女性店員が冷静に釘を刺す。

 

「ふふん。おんしらが異世界から来た新しい同士か。ということは…」

 

白夜叉は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「ついに黒ウサギが私のペットに!」

 

「なりません‼︎どういう起承転結があってそうなるんですか⁈」

 

黒ウサギが耳を逆立てて怒る。

 

「さて、冗談はこれまでにして、話があるのだろう?話なら店内で聞こう」

 

「よろしいのですか?彼らは名も旗もない“ノーネーム”のはず。規定では」

 

「“ノーネーム”だとわかっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する侘びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」

 

女性店員は不満そうに眉を寄せる。それをよそに白夜叉は黒ウサギ達を店内に引き入れる。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

白き夜の魔王

 

 

 

「生憎店は閉めてしまってな。私の私室で勘弁してくれ」

 

六人は白夜叉の私室に通された。部屋に入ると香の様なものが焚かれており、鼻を擽る。

 

個室としてはやや広い部屋の上座に腰をかけて白夜叉は六人を見渡す。

 

「もう一度自己紹介をしておこうかの。私は四桁の三三四五外門に本拠を構える、“サウザンドアイズ”の幹部の白夜叉だ。そこの黒ウサギとは少々縁があってな、コミュニティが崩壊した後にもちょいちょい手を貸してやってる器の大きい美少女と認識してくれ」

 

(こいつ自分のことを美少女と…まあ確かに顔立ちはいいけどさ)

 

蘭丸は心の中で突っ込んだ。

 

「その外門って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心に近く、同時に強力な修羅神仏が住んでいるのです。箱庭の都市は上層から下層まで七つの支配層に分かれており、それに伴ってそれぞれを区切る門には数字が与えられています」

 

「そして私のいる四桁から上が上層と言われる場所だ」

 

「つまり、上層は修羅神仏が集う人外魔境と言ったもんなのか?」

 

「まあそんなところかの」

 

黒ウサギが紙に箱庭を上空から見た簡単な図を書いた。

 

それを見て

 

「超巨大タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな、どちらかといえばバームクーヘンだな」

 

「俺はバームクーヘンに一票かな?」

 

「私にはタマネギに一票ですね」

 

五人の身も蓋もない感想に黒ウサギはガックリとする。

 

「ふふ、うまいこと例えるの。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番皮の薄い部分にあたるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所になる。あそこはコミュニティに属してはいないものの、強力なギフトを持ったもの達が住んでおるぞ………その水樹の持ち主などな」

 

白夜叉は黒ウサギの脇に置かれている水樹と呼ばれる苗木を指差す。

 

「して、その水樹は誰がどのようなゲームで手に入れたのだ?知恵比べか?それとも…」

 

「いえ、この水樹はここにいる十六夜さんが素手で叩きのめしたのですよ」

 

「なんと⁈知恵や勇気ではなく、力とは、その童は神格持ちの神童か?」

 

「いえ、そうは見えません。もしそうなら黒ウサギは見ればわかりますし」

 

「ふむ、しかし神格を倒すには同じ神格を持つ者か、あるいは種族のパワーバランスが大きく崩れた時だ。ちなみに人間と蛇はドングリの背比べだぞ」

 

「神格ってなんだ?」

 

「神格とは生来の神そのものではなく種の最高のランクに体を変幻させるギフトのことだ。例えば蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に。人に神格を与えれば現人神や神童に。鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。多くのコミュニティは神格を手に入れるために上層を目指すのだ」

 

「なるほどな…」

 

「それと、私からも質問していいか?」

 

白夜叉は蘭丸の隣のミロに視線を移す。

 

「ミロ、何故おんしがここにおるのだ?確か、おんしのコミュニティ“レンジャー”にはあの歪みの調査を依頼したはずだが?もしや調査が終わったのか?」

 

「はい、あの歪みの原因はましこの蘭丸さんが歪みの中にあったゲームをクリアしてくれたのです」

 

「なんと!ふむ、グールとは…それにそこの童もそのグールを倒すとはの」

 

白夜叉は最初こそ驚いたが、不敵な笑みに表情を変える。黒ウサギや十六夜達も驚きや好奇の目で蘭丸を見ている。人に注目されるのが苦手なのか、大袈裟に咳き込んで白夜叉を見る。

 

「話を戻すが…白夜叉はあの蛇と知り合いなのか?」

 

「知り合いも何もあの蛇に神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年前の話だがな」

 

「へえ、じゃあお前はあの蛇より強いのか?」

 

「当然だ。私は東側の“階層支配者”だぞ。この東側の四桁より下のコミュニティで右に出るものがいない最強の主催者だぞ」

 

“最強の主催者”その言葉に十六夜、飛鳥、耀の三人は目を輝かせる

 

「そう。では貴女のゲームをクリア出来れば私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティということになるのね?」

 

「無論、そうなるの」

 

「ちょうどいい探す手間が省けたぜ」

 

十六夜、飛鳥、耀の三人は闘争心を剥き出しに白夜叉を見る。

 

「抜け目のない童達だ。私にギフトゲームで挑むと?」

 

「み、皆さん?」

 

「よいよい黒ウサギ。私も遊び相手ちは常に飢えている」

 

「ノリがいいわねそういうの好きよ」

 

「後悔すんなよ」

 

「お前ら元気だな」

 

クスリと笑う蘭丸の他の三人は嬉々として白夜叉を睨む。

 

「そうそう、ゲームの前に一つ確認しておく」

 

白夜叉は着物の裾から“サウザンドアイズ”の旗印―――向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し笑みを浮かべている。

 

「おんしらが望むのは“挑戦”かそれとも“決闘”か?」

 

刹那、六人の視界は意味を無くし、脳裏を様々な情景が過ぎる。

 

黄金色の穂波が揺れる草原、白い地平線を覗く丘、森林の湖畔。

 

五人が投げ出されたのは、白い雪原と湖畔……そして、水平に太陽が廻る世界だった。

 

「なっ………⁈」

 

黒ウサギを除く五人はあまりの光景に言葉を失った。

 

「今一度名乗り直そうかの。私は“白き夜の魔王”太陽と白夜の星霊、白夜叉。おんしらが望むのは試練への“挑戦”か?それとも対等な“決闘”か?」

 

白夜叉は先程の笑みとは違う圧倒的な実力を裏付ける笑みを浮かべている。

 

「水平に廻る太陽と……そうか白夜と夜叉。そうかあの太陽とこの土地はお前を意味しているのか?」

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそが私が持つゲーム版の一つだ」

 

「これだけ莫大な土地がただのゲーム盤⁈」

 

「如何にも。して、おんしらの返答は? “挑戦”であるならば、手慰み程度に遊んでやる。だがしかし“決闘”を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

「………」

 

五人は言葉を失った。白夜叉はこの箱庭でも最強クラスの魔王である。十六夜達問題児四人がまとめてかかってもかなわない程に。

 

「降参だ白夜叉」

 

十六夜が降参のポーズを取るかのように両手を上げる。

 

「ふむ、では試練を受けると?」

 

「ああ、これだけのゲーム盤を用意できるんだ。あんたにはその資格がある。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

プライドの高い十六夜らしい可愛らしい意地の張り方だと思い白夜叉は笑った。

 

「くく…して、他の童達も同じか?」

 

「ええ、私も試されてあげるわ」

 

「右に同じ」

 

飛鳥と耀も同じ様に試練を選んだ。黒ウサギとミロはホッと胸を撫で下ろす。

 

「して、そこの童はどうするのだ。おんしの返答を受け取ってないが」

 

白夜叉はこのゲーム盤に来てからずっと黙っている蘭丸が気になっていた。蘭丸はふと笑みをこぼし、

 

「俺は…決闘だ」

 

黒ウサギとミロはピシッと体を固めた。問題児の中で一番冷静に分析できそうな蘭丸が白夜叉との決闘を選ぶとは思っていなかった。ましてやミロはグール戦で蘭丸の実力を見たがそれでも白夜叉とは戦うには程遠いとわかる位白夜叉は強いのである。

 

「おんし…本気か…」

 

「ああ、正直勝てるかはかなりキツイが面白くはできるぜ?最悪、遊び相手位にはな」

 

蘭丸は絶対な自信と言った顔で白夜叉を睨む。

 

(こやつの目…なるほど面白い)

 

「よかろう!おんしの顔は本気だ!魔王としておんしと命と誇りをかけて戦おう‼︎」

 

白夜叉も本気のオーラを出していた。

だが黒ウサギとミロは大慌てで蘭丸に詰め寄る。

 

「ちょっ…ちょっと待ってください蘭丸さん‼︎」

「そうですよ!考え直して下さいいくらグールを倒したからとはいえ…」

 

「落ち着け、それはわかってる。だが、俺の本能が戦いたいって疼くんだ。心配するな」

 

蘭丸は笑いながら二人の頭をポンっと叩く。

 

「まあ最初はこの者達の試練をやらせてくれ」

 

「ああ、いいさ。お楽しみは最後にってね」

 

こうして“白き夜の魔王”白夜叉と“時空間の支配者”の異名を持つ蘭丸の戦いが起ころうとしていた。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

“白き夜の魔王”対“時空間の支配者”

今日は二回の投稿です。

今更ですが駄文で申し訳ありません。


【ギフトゲーム名 『鷲獅子の手綱』

・プレイヤー 逆廻 十六夜

         久遠 飛鳥

         春日部 耀

           ・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

 ・クリア方法 “力”“知恵”“勇気”の何れかでグリフォンに認められる。

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                             “サウザンドアイズ”印】

 

【ギフトゲーム名 『白き夜の魔王との決闘』

・プレイヤー 二宮 蘭丸

白夜叉

 

・勝利条件 相手プレイヤーの降参。

相手プレイヤーが戦闘不能になった時。

・敗北条件 降参か戦闘不能不能になるか。

相手を殺害する。

・宣誓上記を尊重し、誇りと旗とホストマスターの名の下ギフトゲームを開催します。

“サウザンドアイズ”印】

 

「よし、こんなもんかの」

 

白夜叉は二つの契約書類を作った。一枚は十六夜達“挑戦”のギフトゲーム。もう一つが蘭丸と白夜叉の“決闘”である。

 

蘭丸のギフトゲームの前に十六夜達の“挑戦”がおこなわれた。ゲームを行ったのは耀。グリフォンは“誇り”を耀は“命”を賭けた。最初は飛鳥、黒ウサギ、ミロが止めようとしたが十六夜と白夜叉、蘭丸が制し、ゲームがおこなわれた。

結果は耀の勝利であった。空中を踏みしめる様に走るグリフォンにしがみつく耀、壮絶なスピードと極寒の山脈に差し掛かり、普通の人間では生きていられないレベルであるが耀はなんとか耐えた。そして耀の勝利が確定したその瞬間、耀はグリフォンの背中から落ちた。

慌てて助けようとする黒ウサギだったがそれを十六夜が止め、耀を見ると耀は奇跡を起こした。不慣れながらも空中を踏みしめながら降りてくる耀に全員の視線は釘付けになった。

 

 

 

 

 

そして、いよいよ蘭丸と“白き夜の魔王”白夜叉のギフトゲームが始まる。

現在二人は距離を取り相手と向かい合っている。

 

「ふふ…さて、楽しませてくれ」

 

「ご期待に添えるようにやってみるけど…さっ‼︎」

 

蘭丸は地面を蹴り白夜叉へと疾風の如くの速さで向かっていくと蘭丸は白夜叉を殴りにかかる。しかし白夜叉はそれを平然と躱す。続けて蘭丸はどんどんと攻撃をするがパンチもキックも当たる気配がしない。

 

「どうした?まさかこんなもんではあるまい」

 

「当たり前だ。こんなのまだ5%も出してないぜ‼︎」

 

蘭丸は一回後ろに下がると、さっきよりも速く白夜叉の懐へ飛び込み蹴り挙げようとする。白夜叉はまだ躱そうと身を返すが白夜叉は後方から蹴られる感覚を感じ、その隙ができて今度は腹部に蹴りが命中した。

 

「…ふむ、なかなか面白い」

 

「どうだ?まずは驚いたか?」

 

その光景に白夜叉も少しは驚いていた。目の前の少年は二人存在していたからだ。

 

「これは…分身?そういえば‼︎」

 

黒ウサギには覚えがある様だ。そう、蘭丸が伝言を伝える際に分身を利用していたのを思い出した。

 

「分身が彼のギフトなのかしら?」

 

「いや、これはまだまだ序の口だぜ」

 

蘭丸は分身を二体から五体に増やし、白夜叉に走る。

 

「調子に乗るなよ童。私もいつまでも攻撃を受け続ける事はないぞ?」

 

白夜叉の口調にはまだまだの余裕を感じられる。白夜叉は一瞬のうちに分身を全滅させ、蘭丸の背後に回り込み、蘭丸を蹴ろうとした。

しかし、白夜叉の蹴りは蘭丸の体をすり抜け、白夜叉の体すら蘭丸をすり抜けた。

 

「何⁈」

 

これには流石に驚いたようである。除けたわけでもなく、防いだわけでもなく、体をすり抜けたのである。おどろくのが当然である。

 

「俺は身体を異空間に飛ばすことで攻撃をすり抜けることが出来る。基本的に物理的な攻撃は当たらないぜ?」

 

蘭丸は空中を掴むと何処にあったわけでもなく出現した刀を白夜叉に振り下ろす。

 

「フハハハハ‼︎面白いぞ小僧‼︎」

 

白夜叉は扇子で刀を防ごうとするが扇子はなんの意味をなさず切れた。いや、正確には分断されたというべきか。白夜叉はすぐその場から離れるが切られた空間がずれていた。

 

「これは空気…ではなく空間を切っているのか?おんしまさか⁈」

 

「ああ、俺のギフトは時空間を司るギフトでな」

 

「面白い、これなら私も本気で掛かる価値がある。喜べ小僧‼︎」

 

白夜叉は途轍もない速さで蘭丸を蹴る。

 

「ゴハァッ‼︎」

 

流石の速さに反応出来なく、すり抜ける暇すら与えられなかった。それでも白夜叉は攻撃を続ける。手から小さい太陽と言える火の玉を蘭丸に飛ばす。

 

「くっ!はぁっ‼︎」

 

蘭丸が火の玉に触れると火の玉は跡形もなく消滅した。蘭丸は瞬間移動でその場を脱出すると、また刀を振り下ろす。切断された空間は刃となって白夜叉に迫る。白夜叉はそれを手で弾くと、蘭丸を殴る。蘭丸は吹き飛ぶが、蘭丸は幻のように消えていく。

 

「分身かっ」

 

「こっちだよぉ‼︎」

 

蘭丸は後方から斬りかかる。だが白夜叉は回し蹴りの要領で刀を蹴り刀を折り、そのまま蘭丸に火の玉をぶつけた。

蘭丸は火の玉をすり抜けた。蘭丸は一旦地上に着地した。

白夜叉はまだまだ体力には余裕があるようだが蘭丸は肩で大きく息をしていた。

 

「ふむ、かなり疲れておるようだな」

 

「くそっ化け物かよ!……ッチッ!これが最後の攻撃だ‼︎」

 

蘭丸は、分身を二体出し、三人で白夜叉に突っ込む。

 

「⁈」

 

一瞬にして蘭丸は三人から一人へと変わっていた。

 

(分身の解除でも瞬間移動でもないとすると…ん?この感覚は……まさか時間を止めたのか⁈…馬鹿な?そんなやつ数える程にしかいないぞ?)

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎」

 

蘭丸は拳に白いオーラをため白夜叉に向かう。白夜叉はそれをくらったらまずいと思ったのか、よけようとする。

が体が動かなかった。確認すると、分身が白夜叉のことを抑えていた。

 

「終わりだ……」

 

蘭丸が殴る直前、分身が一気に消え、さらに目の前にいた蘭丸も消えた。

 

「馬鹿な‼︎ぐあっ!」

 

その衝撃は後ろからきた。蘭丸のパンチで空間にヒビが入っていた。

白夜叉はそのまま吹き飛ばされ地面に引きずられていた。

白夜叉はすぐに立ち上がり不敵に笑った。

 

「フハハハハ‼︎本当に面白い。さあ私の本気を出させるとは誇りに思え‼︎」

 

「悪いが……もう降参だ」

 

「何⁈」

 

蘭丸はそう言うと地面にへたっと尻餅をついた。

勝者は白夜叉となり白夜叉も残念そうに戦意を抑えた。

 

「おい、おんしなぜあそこで降参したんだ?」

 

白夜叉はそれだけがわからず尻餅をついている蘭丸に話しかける。

 

「いや、俺の時空間を操るギフトの弱点は精神や体力に負担がデカすぎるんだ。しかもあんたのスピードに反応するために何度時間を止めたか、こんだけ体力を使ったのは初めてだ」

 

「ふふ、やはり時間も止めていたのか」

 

蘭丸はゼーハ肩で大きく息をしながら苦笑する。

 

「信じられません。白夜叉様とあそこまで戦うなんて」

 

唖然としていたメンバーを代弁するかのように黒ウサギが口を開く。

 

 

 

「へえ、やっぱりあいつは面白いな」

 

十六夜は新たな好敵手を見つけたかのような笑みで蘭丸を見ていた。

 

 

 

 




ここで終了にします。

二回目はキツイ………………


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ギフトカード

保存日時:2014年09月23日(火) 09:53

 

 

 

「え?白夜叉様でも鑑定出来ないのですか?今日はギフト鑑定をお願いしようかと思ってきたのですが」

 

ギフトゲームも終わり、黒ウサギの要求にばつの悪そうに顔を歪める。

 

「よ、よりによってギフト鑑定か…専門外どころか無関係も良いところなのだがの」

 

どうやらゲームの褒章として依頼を無償で引き受けるつもりだったらしい。

白夜叉は困ったように顔を挙げ、四人を見る。

 

「ふむ、さっきの小僧もそうだがおんしら四人とも素養が高いのは分かる。しかし、これではなんとも言えんな。おんしらは自分のギフトをどのぐらいまで把握しておる?」

 

「企業秘密」

 

「右に同じ」

 

「以下同文」

 

「さあ、どうだろうか」

 

「うおぉぉぉい‼︎いや、まあ仮にも対戦相手だった相手にギフトを教えるのが怖いのは分かるがそれでは話がすすまんだろうが‼︎それに最後のおんしも言ってるようで言ってないではないか‼︎」

 

「別に鑑定なんて要らねえよ。人に値札貼られるのは趣味じゃねえ」

 

ハッキリと否定する十六夜とそれに同意する飛鳥と耀。

 

「ん?でも白夜叉はさっきやったから大体わかるんじゃないか?」

 

困ったように頭をかく白夜叉。突如何か名案を思いついたのか、ニヤリと笑った。

 

「ふむ。何にせよ“主催者”として、星霊のはしくれとして、試練をクリアしたおんしらには“恩恵”を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度良かろう」

 

「いや、俺クリアしてな……「よいから黙っとれい‼︎」

 

蘭丸が突っ込もうとするが、白夜叉の凄い迫力で喋れなくなった。

白夜叉はパンパンと柏手をする。

すると十六夜、飛鳥、耀、蘭丸の目の前に光り輝く四枚のカードが出現した。

 

コバルトブルーのカードに逆廻十六夜

ギフトネーム“正体不明(コードアンノウ)

 

ワインレッドのカードに久遠飛鳥

ギフトネーム“威光”

 

エメラルドのカードに春日部耀

ギフトネーム“生命の目録”(ゲノムツリー)

“ノーフォーマー”

 

 

カードを見るとそれぞれの名前と体に宿るギフトの名前が記されていた。

 

「ギフトカード‼︎」

 

「お中元?」

 

「お歳暮?」

 

「お年玉?」

 

「引き換え券?」

 

「ち、違います!というかなんで皆さんそんなに息が会っているのです!?蘭丸さんは妙にリアルなこのギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードですよ!耀さんの“生命の目録”だって収納可能で、それも好きな時に顕現できるのですよ!」

 

「つまり素敵アイテムってことでOKか?」

 

「だからなんで適当に聞き流すのですか⁈あーもうもうそれでいいですよ‼︎」

 

十六夜に適当に言われ黒ウサギも投げやりに返した。

 

「我らの双女神の紋のように、本来はコミュニティの名と旗印も記されるのだが、おんしらは”ノーネーム”だからの。少々味気ない絵になっているが、文句は黒ウサギに言ってくれ」

 

「そのギフトカードは、正式名称を“ラプラスの紙片”、即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった”恩恵”の名称。鑑定はできずともそれを見れば大体のギフトの正体が分かるというもの」

 

「へえ…じゃあ俺のはレアケースな訳だ?」

 

十六夜の言葉にん?と彼のカードを覗き込む白夜叉。そこには“正体不明”と書かれていた。

白夜叉は慌てて彼からカードをとる。

 

「“正体不明”だと?全知である“ラプラスの紙片”がエラーを起こすなど」

 

「なんにせよ鑑定は出来なかったってことだろう?俺にとってはラッキーさ」

 

十六夜は白夜叉からカードを奪い返す。だが白夜叉は十六夜を見つめる。

 

(そういえばこの童…………蛇神を倒したと言っていたな。種の最高位である神格保持者を人間が打倒する事はありえぬ。強大な力を持っていることは間違いないわけか。……………しかし“ラプラスの紙片”ほどのギフトが正常に機能しないとはどういう……………)

 

ここで白夜叉の中で一つの可能性が浮上した。

 

(ギフトを無効化した⁈いやまさかな…………)

 

この箱庭ではギフトを無効化するギフトは珍しくないのだが十六夜のような強大な奇跡を持つ者が奇跡を打ち消すのは矛盾する。

 

それならまだ“ラプラスの紙片”がエラーを起こしたと考える方が筋が通るのである。

 

「そういえばミロは前から箱庭にいたんだから自分のギフトカードは持ってるのか?」

 

「あ、はいこれです」

 

蘭丸の言葉にミロは自分のギフトカードを見せる。

 

グレーのカードにミロ=フリーズ

ギフトネーム

“核融合”

“爆弾化”

 

「…へえなかなかえげつないギフトだな。とても元・救助系のコミュニティとは思えんな」

 

「ははは、そうですね」

 

蘭丸の言葉にミロは少し落ち込みながら苦笑いをする。

 

「そういえば蘭丸のギフトってどんなのだよ?」

 

「そうね私も気になるわ」

 

「見せて」

 

「黒ウサギも気になります」

 

「ふむ、先の決闘ではまだ出してないギフトもあるのだろう?」

 

「蘭丸さんも見せてくださいよ?」

 

ゲリラの様に自分に質問され、顔を歪める蘭丸だが十六夜に自分のギフトカードを投げる。

 

ショッキングピンクのカードに二宮蘭丸

ギフトネーム

“時空間の支配者”

“写し水晶”

“念動力”

“分身”

 

それをキャッチして見た十六夜は目を輝かせて笑う。

 

「おいコラ‼︎これはどういうことだよ?面白そうなギフトばっかじゃねえか‼︎」

 

「…ほう、これは…」

 

各メンバーがそれぞれ違う表情をしていた。

 

「おいおい、そんな顔すんなよ。俺のギフトだって箱庭では珍しくないだろ?」

 

「ええ…確かに空間支配者系のギフトを持つ方はおりますが」

 

「時間を操るギフトはなかなか稀なのだ。しかも空間も持ち合わせているなど、私も始めて見たしな」

 

「マジかよ…」

 

蘭丸は自分のギフトのあまりの希少さに驚いていた。

 

「しておんし。この“写し水晶”。これはどう言ったものだ?」

 

「ああ、これのことだ」

 

蘭丸はそう言うとおもむろに何処からか直径三十センチ程の水晶球が現れた。

 

「え?」

 

「ふむ、これか」

 

「まあ名前の通り未来を予知したり、占いもできるだけのギフトなだけだけどな。俺も未来予知やサイコメトリーができるからあまり使わないんだがな」

 

蘭丸はそう言いながら黒ウサギに水晶の水準を合わせ、水晶を通して黒ウサギを見る。

 

「黒ウサギは今日は全ての運勢が最悪だってよ。それに今日は初めて会った人や普段お世話になっている人には注意しな」

 

「…だってよ黒ウサギ」

 

「そうね注意しないと」

 

「はい。黒ウサギも気をつけます…ってそれは貴方達でしょうがこの問題児様方‼︎」

 

黒ウサギも何処からか出したのかわからないハリセンで飛鳥と耀の頭を叩いた。

 

「なんと!なら今日黒ウサギは私が世話を……」

 

「貴女も充分危険なのですよこの御馬鹿様‼︎」

 

目が血走った白夜叉をまたもやハリセンで叩く黒ウサギ。

 

そしてその光景を黙って見ていた十六夜は

 

「蘭丸の奴…出来る‼︎(黒ウサギ弄りが)」

 

と蘭丸の(黒ウサギ弄りの)実力に驚いていた。




終了です。


あと蘭丸さんのメインヒロインを募集しようかと思います。
期間は一週間から二週間程を予定しております。
一票も集まらなかったら私がアミダで決めさせてもらいます。

ちなみに投票権は一人最大二回までOKにします。好きなキャラに二票入れても良し。それぞれ違うキャラに入れても構いません。

一票でも全然OKです。

できればたくさんの方に票を入れてもらいたいです。よろしくお願いします。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

魔王の爪痕



だいぶペースが遅いですが頑張ります。



蘭丸さんのメインヒロイン

黒ウサギ 1票
白夜叉 1票
レティシア 1票
ペスト 1票



まだまだ募集してるのでどんどんどうぞ‼︎


 

 

蘭丸のギフトで質問攻めが終わりその日はお開きとなった。

現在、暖簾の下げられた店先に移動していた。

 

「今更だが聞いて良いか?おんしらは自分たちのコミュニティの状況を理解しておるか?」

 

「ああ、名とか旗の話か。それは聞いたぜ」

 

「ならそれを取り返すために魔王と戦うことになることも?」

 

「ああ、それも承知だ」

 

「ふむ、ではおんしらは全てを承知の上で黒ウサギのコミュニティに加入するのだな?」

 

白夜叉の言葉に黒ウサギは唾を呑んだ。

 

「そうよ打倒魔王なんてカッコイイじゃない」

 

「格好いいで済む話ではないのだがの……全く。無謀というか勇敢というか。まあ、魔王がどういうものかはコミュニティに帰ればわかるだろ。それでも魔王と戦う事を望むというなら止めんが……そこの娘二人、それにミロ、おんしらは確実に死ぬぞ」

 

白夜叉は飛鳥、耀、ミロを指差す。飛鳥と耀は反抗しようとしたが、白夜叉の凄みに何も言えずにいた。

 

「…ご忠告ありがとう。肝に命じておくわ。次は貴女の本気のゲームを挑みに来るから覚悟しておきなさい」

 

「ふふ、望むところだ。私は三三四五外門に本拠を構えておる。いつでも遊びに来い。…ただし黒ウサギをチップにかけてもらうがの…」

 

「嫌です‼︎」

 

白夜叉のセクハラに黒ウサギはすぐに返す。

白夜叉は口を尖らせすねる。

 

「つれないことを言うなよ。私のコミュニティに所属すれば生涯遊んで暮らせることを保証するぞ?三食首輪付きの個室を用意するのに」

 

「首輪付きってそれもうペットじゃないですか‼︎」

 

黒ウサギは半泣きで怒る。

 

「まあまたリベンジに来るさ。今度はもっとこの力を引き出せるようになってるからな」

 

「うむ。おんしはなかなか面白かったからな。私もまだ本気ではなかったしな」

 

こうして蘭丸達は無愛想な女性店員に見送られ“サウザンドアイズ”を後にした。

 

そして現在二一○五三八○外門“ノーネーム”本拠の前に来ていた。

 

そして彼らは魔王の所業を見て、言葉を失っていた。

 

「これは……⁈」

 

そこには風化した廃墟とかしたものだった。飛鳥と耀は息を呑み、ミロは悔しがるようにその光景をじっと見つめ、十六夜と蘭丸はその光景に瞬きをせずに眺めていた。

そして十六夜は廃墟の残骸を手に取り軽く握った。すると残骸は音もなく崩れる。

そして蘭丸は目を瞑り左手を翳す。

 

「おい黒ウサギ、魔王とのゲームがあったのは何百年前の話しだ?」

 

「わずか三年前にございます」

 

「ハッ!マジで面白いぞ。風化しきったこの光景が三年前だと?」

 

十六夜の言う通り“ノーネーム”のコミュニティは何百年の時間をかけて自然崩壊したようにしか見えなかった。

 

「断言するぜ!どんな力が加わってもこんな壊れ方はあり得ねえ。長い時間をかけて自然崩壊したようにしか思えねえ」

 

十六夜は笑いながらも冷や汗をかいていた。十六夜ですらここまでの魔王の力に驚いていたのだ。

 

「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」

 

「…生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて…」

 

飛鳥と耀もそれぞれに表情を曇らせていた。

 

「これが魔王か…グールとはわけが違うな」

 

そして目を開いた蘭丸は哀しみの表情を浮かべていた。

 

「そう言えば蘭丸は時間を戻すギフトがあったよね?それで壊れる前にまで戻せないの?」

 

耀が蘭丸の方を見る。

 

「いや、さっき試みたが無理だった。規模がデカすぎる。……まだまだ修行が足りないな」

 

チッ、と蘭丸は自分の不甲斐なさに腹を立てているように舌打ちをした。

 

「魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊ぶ心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ・・・・コミュニティから、箱庭から去って行きました」

 

魔王の残した壮絶な爪痕。彼らは自らの力を誇示するために白夜叉のようにゲーム盤を用意しなかったのだ。

 

 

「魔王…か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか…!」

 

「…コミュニティの再建はかなり大変だな」

 

十六夜がいつもの笑みで笑い、蘭丸は廃墟を見てコミュニティの再建の膨大さを感じていた。

 

六人が居住区を通り抜け、貯水池にやってきた。十六夜が手に入れた水樹の苗を設置するために訪れたのだ。

 

「あ、皆さん!水路と貯水池の準備は整ってますよ!」

 

貯水池にはジンとコミュニティの子供達が清掃道具を持って水路の掃除をしていた。

 

「ご苦労さまですジン坊っちゃん♪皆も掃除を手伝っていましたか?」

 

「黒ウサのねーちゃんお帰り!」

 

「眠たいけどお掃除手伝ったよ!」

 

ワイワイと騒ぐ子供たちが黒ウサギの周りに着く。

 

「ねえねえ、新しい人達って誰?」

 

「強いの?カッコイイの?」

 

「Yes!とても強くて可愛い人達ですよ!皆に紹介するから

一列に並んでください」

 

黒ウサギが、パチンと指を鳴らすと黒ウサギに群がっていた子供たちは一斉に並んだ。

 

その数は20名程で中には猫耳や狐耳と言った子供もいた。

 

(マジでガキばっかだな。半分は人間以外のガキか?)

 

(じ、実際目の当たりにすると想像以上に多いわ。これで六分の一?)

 

(・・・・・私子供嫌いなのに大丈夫かなぁ)

 

(ふーん、この獣耳をした子供たちは獣人系のギフトか…でもゲームに参加出来るもんじゃないのか)

 

四人が四人、それぞれ感想を心の中で呟く。

 

「それでは紹介します。右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、二宮蘭丸さんです。こちらのミロさんも何度かお世話になってあるから分かると思います。皆も知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加できない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません」

 

「あら、そんなにしなくてももっとフランクに接してくれても…」

 

「駄目です‼︎それでは彼らのためになりません!」

 

飛鳥の申し立てを黒ウサギが今までで一番厳しい声で断る。その迫力に飛鳥は驚いた。

 

「コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼らのもたらす恩恵で初めて生活が成り立つのでございます。これは箱庭の世界で生きていく以上、避けられない掟。子供のうちから甘やかせばこの子供達の将来の為になりません!」

 

事実である。コミュニティが崩壊してから三年、ここまでやって来てこれたのは全て黒ウサギのおかげである。その言葉には説得力があった。

 

「なるほどな、それがここでのルールってんなら従うが、子供だ。あまり無理はさせるなよ?俺も出来ることならやるからさ」

 

そしてその後、十六夜が手に入れた水樹の苗を貯水池に置き、水事情はかなり助かったらしい。

その後十六夜と蘭丸が“フォレス・ガロ”の刺客からガルドを倒して欲しいと言われリーダーであるジンが倒すとジンが言い(勝手に)その条件として、十六夜と蘭丸に“サウザンドアイズ”のギフトゲームに参加して欲しいと言われた。なんでもその仲間は元・魔王であった。戦力に乏しい“ノーネーム”には貴重な戦力になるはずである。

 

そして皆明日のゲームに備え早めに就寝したが蘭丸ただ一人バルコニーで夜空を眺めていた。

 

「…ふぅ」

 

「あれ?蘭丸さんはまだ起きていたのでございますか?」

 

そこに黒ウサギが近づいてきた。

 

「おう黒ウサギ。ちょっと考え事をしていてな」

 

「それはなんでございますか?」

 

黒ウサギが耳をカクンと傾けて蘭丸を見る。

 

「ああ、俺のギフトって実を言うと、世界を崩壊させるかもしれない代物なんだ」

 

「ええ⁈」

 

さらりと、そして重みのある言葉に黒ウサギは大きな声で驚いてしまった。

 

「すいません。でも世界を崩壊させるかもしれないとはどう言うことですか?」

 

「俺のいた世界って俺のような異能の人間はさほど珍しいわけではない世界だったわけだ。俺も生まれつきこの力を

持っていてな、七歳頃に精神が不安定になり暴走させて、世界の四分の一程を消滅させかけたんだそれで大切な仲間や友達も殆ど死んだ」

 

蘭丸から語られたのはそれは耳を疑いたくなるようなものであった。

問題児の中で一番大人っぽくで情に厚く、強い心を持っている蘭丸からは想像できなかった。

 

「だからさ、ここにいたらさまた大切なものを失ってしまうんでないかと考えてしまうんだ。そう考えると…」

 

「蘭丸さん」

 

蘭丸が目尻に涙を浮かべながら話すのを黒ウサギがその手を取り、優しく制す。

 

「大丈夫ですよ!ここにはそれを聞いてもどなたも蘭丸さんを拒絶したりはしませんよ。それに…もしそうなったら黒ウサギ達全員で止めますから。だからそんなご自分を責めないでください」

 

黒ウサギは笑顔で蘭丸に語りかける。それを見て安心したのか蘭丸は黒ウサギの頭をポンと触れた。

 

「サンキューな黒ウサギ。いやー本当にありがたい。俺、箱庭に来れてよかったな」

 

蘭丸の口調はいつもの落ち着いた雰囲気に戻っていた。

 

「黒ウサギと話したらスッキリしたわ。俺は寝るな。おやすみ黒ウサギ」

 

そうして蘭丸はバルコニーを後にしたがしばらく黒ウサギはバルコニーにいた。

 

「ふふ、蘭丸もちゃんと弱い所もあるのですね」

 

黒ウサギは顔を少し赤らめていた。

 

 

 

 

 

**

 

「二宮…蘭丸」

 

時を少し遡り白夜叉は私室で今日の人間の一人であった、二宮蘭丸のことを思い浮かべていた。

 

「なんであの時気づかなかったのだろうか…考えればすぐに分かったのに…。二宮蘭丸あやつは

 

 

 

 

 

 

 

“人類最終試練”の一角であるかもしれないことに」






これで終了です。

最後にトンデモないことになりました。その辺は蘭丸の過去編を出した時に詳しく説明しようかと思います。

あとメインヒロインアンケートもまだまだやっておりますので是非是非お願いします‼︎


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『ハンティング』


ガルドのギフトゲームです。蘭丸が出ないんでゲームとは関係ないですが…

蘭丸のメインヒロインアンケート

黒ウサギ 4票
白夜叉 1票
レティシア 1票
ペスト 1票

現在黒ウサギがリード中‼︎

まだまだアンケートは募集中なのでドシドシお願いします‼︎


夜が明け、今日は“フォレス・ガロ”とのギフトゲームである。

 

「ふあ……」

 

朝一に起きた黒ウサギは屋敷内を歩いていた。昨日少し寝るのが遅かったのか表情が眠そうだ。

 

「今日は飛鳥さん達の始めてのギフトゲームです。黒ウサギが出来ることはなんでもやらせてもらわなければ」

 

眠い顔を無理やり引き締めて悠々と歩く黒ウサギ。そして屋敷から外へ出ると黒ウサギは驚いた。

そこには普段のスーツ&ワイシャツ姿では無くジャージ姿の蘭丸が座禅を組んでいたのだ。

 

「…蘭丸さん、こんな朝早くから座禅とは…」

 

黒ウサギは声をかけようかと思ったがそれは無粋だと思いひとまずそのまま近くの石に座っていた。

 

しかし彼はそのまま一時間動かなかった。

いくら朝とはいえやっと日が登り始めたばかりで肌寒くなってきた黒ウサギは戻ろうと腰を上げた時

 

「ふぅ…」

 

蘭丸が目を開けるとともに一つため息を吐いた。どうやら座禅は終了したようだ。蘭丸も戻ろうとしたのか屋敷の方へと身体を回転させた。そして黒ウサギは蘭丸と目線があったのであった。

 

「あ…」

 

「うひゃあ!」

 

思わず黒ウサギは蘭丸から視線を外す。いきなり視線が合えば誰でもそうなるだろう。

 

「おはよう黒ウサギ。黒ウサギはやっぱり朝早いな」

 

「お、おはようございます蘭丸さん。蘭丸さんこそまだ明け方ですよ?黒ウサギは一時間前からいましたがいったいどれだけ座禅を……あっ‼︎」

 

とここで黒ウサギはしまったと言うように手で口を塞ぎ顔を赤らめた。

 

「まあ、座禅の他にも武術の鍛錬やトレーニング入れても三時間くらいだぞ?」

 

「さんじっ……‼︎」

 

「それにしても…」

 

蘭丸は黒ウサギの額を指で突く。

黒ウサギは「あうっ!」と軽い呻き声を上げた。

 

「一時間も外にって、風邪引くぞ?俺は寒さには慣れているから平気だけど流石に寒いだろ」

 

確かに現在の黒ウサギはいつものミニスカにガーターソックスと言った扇情的な格好ではないものの薄い寝巻きであったため寒そうであった。

 

「ほら、これ着てろ少しはマシだ」

 

蘭丸はそう言うとジャージの上を黒ウサギにかける。

 

「あ、ありがとうございます。蘭丸さん///」

 

黒ウサギは赤くしながらジャージを羽織る。

 

 

そしてその後十六夜に見つかり飛鳥、耀に冷やかされ黒ウサギはあわあわなっていたが蘭丸は笑いながらそれを流していた。

それを見た黒ウサギは少し残念そうにしていた。

 

 

**

 

「……おい黒ウサギ。“フォレス・ガロ”は動物愛護団体でもあるのか?」

 

「い、いえそんなはずは……」

 

“フォレス・ガロ”の居住区画に到着した“ノーネーム”はその景色を不思議そうに見ていた。

 

それも無理もない。居住区画はまるでジャングルのように木が生い茂っていたのだ。黒ウサギとジン曰く“フォレス・ガロ”は普通のコミュニティらしい。

 

ジンは近くの木に触れて何かを確信したかのように手を離す。

 

「間違いない鬼化してる!」

 

「ジン君。ここに契約書類が貼ってあるわよ」

 

飛鳥が木に貼ってある契約書類を見つけ全員がそれに注目する。

 

【ギフトゲーム名 『ハンティング』

 

・プレイヤー

久遠 飛鳥

春日部 耀

ジン=ラッセル

 

・勝利条件

ホストの本拠地内に潜むガルド=ガスパーの討伐

 

・クリア方法

ホスト側の指定した武具でのみ討伐可能

指定武具以外は“契約”によりガルド=ガスパーを傷つけることは不可能

 

・敗北条件

降参かプレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合

 

・指定武具

ゲームテリトリーにて配置

 

・宣誓

上記を尊重し、誇りと旗の下“ノーネーム”はゲームに参加します

 

“フォレス・ガロ”印】

 

「これは…まずいです」

 

契約書類を読み終えるとジンは表情を曇らせた。

 

「このゲームはそんなに危険なの?」

 

「いや、ゲーム自体は単純だ。問題なのは指定武具以外では奴を傷つけることは“契約”により不可能ってことだろう?」

 

「はい、すいません僕の落ち度でした。あの場で契約書類を作っておけば…」

 

ジンは申し訳なさそうに頭を下げる。これは経験不足が生んだことだが仕方が無いことである。

 

「で、ですが何かしらヒントがあるはずです。もしそうでなければ“フォレス・ガロ”の反則負けとなります。黒ウサギが審判を勤めている間は反則は許しません」

 

「まあこっちとしては五分五分の勝負で面白そうだけどな」

 

十六夜は笑いながら面白そうだと言った。

 

「まあ、負けはないだろう。俺からのアドバイスは自分らのギフトを把握して使える場所を分かっておけ。お前らなら出来るはずさ」

 

「ええ、そのつもりだわ」

 

「わかってる」

 

「はい!」

 

蘭丸に激励され、意気込む三人。そして十六夜とジンは何かを耳打ちしていた。

そして三人は門をくぐりゲームスタートとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**

 

「暇だ、黒ウサギ見に行ったらまずいのか?」

 

ゲーム開始からしばらく経って退屈になった十六夜は黒ウサギに尋ねる。

 

「お金を取って観客を招くこともありますけど今回は最初に取り決めてないので無理です」

 

「なんだよつまんねえな。ジャッジマスターとそのお付きってことでなんとかなんねえのか?」

 

「黒ウサギの素敵耳ならここからでも大まかの状況は分かります。状況確認できない隔離空間でもない限り侵入は禁止です」

 

「…貴種のウサギさんマジ使えねえ」

 

「せめて聞こえないように言ってください‼︎凹みますから」

 

黒ウサギは泣きながら十六夜に突っ込む。

 

「はあ…お前らならこれでも見るか?」

 

蘭丸は呆れながら自身の所持するギフトの一つ“予知の水晶”を二人の前に出す。

 

そこには森を歩く飛鳥、耀、ジンの三人が映し出されていた。

 

「これは⁈」

 

 

「“予知の水晶”はこんな使い方も出来るんだよ。まあリアルタイムでは見れないからなギリギリの十秒の映像だ」

 

「へえ、やっぱりお前のギフトって便利だな」

 

こうして残された三人は水晶に映し出されている映像を観戦していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**

 

 

しばらくしてゲームが終了したのを伝えるかのように木が一斉に霧散して行った。

 

それと同時に十六夜、黒ウサギの二人は走りだそうとしたが蘭丸に止められた。

 

黒ウサギが慌てる理由はゲーム中に耀が重傷を負ったのである。

 

「話してください蘭丸さん!このままでは耀さんが」

 

「落ち着け‼︎俺の方が早い」

 

蘭丸は黒ウサギと十六夜の手首を掴み“空間転移”を使用し耀の前に一瞬で移動した。

 

「耀‼︎」

 

蘭丸はすぐに耀へ駆け寄った。耀は右腕からおびただしい量の血を流していた。

 

そして蘭丸はその負傷箇所に右手で触れる。

 

「“修復”‼︎」

 

すると耀の血液はどんどん腕に戻って行き、そして傷は綺麗さっぱりとなくなった。

 

「凄い…傷が」

 

黒ウサギがそれを見て呆気に取られている。

 

「怪我をする前まで戻した。だが体力は戻ってないからな。少しは休ませた方がいい」

 

「そう。ありがとう蘭丸君」

 

耀は今蘭丸の腕の中で眠っている。

 

「さて、戻るとするか」

 

「だな」

 

そして六人は“ノーネーム”の本拠へと戻って行った。

 

「あれ?そう言えば蘭丸のギフトで本拠に戻らねえのか?」

 

「「「「あ………」」」」

 

その場にいる全員が動きを止めた。

 

 

……決して蘭丸のギフトは作用していない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





なんとか終わりました。


オチはちょっといつもと違う締め方にしました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゲーム中断と吸血鬼ロリ


久しぶりの投稿です。

私の多忙で更新が遅れました。申し訳ありません。



メインヒロインアンケート途中結果

黒ウサギ 7票

ペスト 3票

白夜叉 3票

レティシア 1票


 

 

“フォレス・ガロ”とのギフトゲームに勝利した“ノーネーム”は現在本拠で十六夜と蘭丸の出るギフトゲームのことを話していた。

 

「そう、貴方達も面白そうなゲームをやろうとしてるのね」

 

飛鳥が紅茶に口を付けながら十六夜を見る。

 

「…もぐもぐ……なんか私達のゲームより……もぐもぐ…面白そう……ゴックン」

 

耀は怪我の影響は無く今は蘭丸が用意した簡単な団子をほうばっていた

 

「今黒ウサギが“サウザンドアイズ”に参加の申し込みをしに行ってるからな」

 

「ヤハハハ!まあ俺と蘭丸なら無敵だろうけどな。なあ、このチート野郎が」

 

十六夜は笑いながら隣のソファに腰掛けている蘭丸に肘打ちをする。

蘭丸は怪訝そうにその肘を払いのけ、十六夜の頭にチョップをかました。

 

「お前には言われたくない。それに俺のギフトにもちゃんと弱点はあるぞ?例えば…」

 

ガチャリ!

 

「……ただいま戻りました」

 

蘭丸が十六夜達にギフトの説明を始めようとすると同時に黒ウサギが“サウザンドアイズ”から帰ってきた。しかし何故だかその表情は曇っていた。

 

「おかえり…黒ウサギ?」

 

「どうかしたの?黒ウサギ」

 

飛鳥も耀も黒ウサギがいつも通りで無いことに違和感を覚えていた。

 

「黒ウサギ…まさかだとは思うが…」

 

「はい。ゲームが中止となりました」

 

黒ウサギは泣きそうな声でそう言った。

 

「中止?なんてつまらないことになったんだ。中止ってそんなに出来るものなのか?」

 

十六夜はつまらなさそうに不満を漏らす。

 

「どうやら巨額の買い手が着いてしまったようで」

 

「金か…まあ高く買ってもらえる所にうるのは商売の定石だがそれは白夜叉に言ってどうにかならないものなのか?」

 

「残念ながら…どうにもならないでしょう」

 

「チッ!本当につまんねえな。“サウザンドアイズ”も所詮は売買組織ってことか。エンターティナーとしては五流も良い所だ。巨大商業コミュニティとしての誇りはねえのかよ」

 

十六夜は盛大に舌打ちを打った。

 

「仕方ないですよ。“サウザンドアイズ”は群体コミュニティで、白夜叉様の様な直属の幹部が半分、傘下のコミュニティの幹部が半分なのです。それに今回の主催は“サウザンドアイズ”の傘下のコミュニティの幹部の“ペルセウス”双女神の看板に傷付くのもためらわないほどお金やギフトに執着しているのでお金を積まればゲームの撤回くらい容易にやるでしょう」

 

黒ウサギは悔しそうに口を開く。

 

箱庭においてギフトゲームは絶対だ。それ故に仲間を奪われたらギフトゲームで取り返すしか無いのだ。

 

かつての仲間を取り返すチャンスを失ったのは悔しいのだろう。

 

「“ペルセウス”とか言うコミュニティは名前負けのコミュニティだな。まあ今回は運が無かったってことだな」

 

「蘭丸の言う通りだな。次回に期待するしかねえ。そういやその仲間ってのはどう言うやつなんだ?」

 

「そうですね・・・・一言で言うなら超絶の美人さんです。その上思慮深くて黒ウサギよりも先輩でとても可愛がっていただきました。何よりも印象的だったのはスーパープラチナブロンドの髪です。指を通すと絹糸みたいに肌触りが良くて湯浴みの時は濡れた髪が星の光でキラキラと輝いて・・・・」

 

黒ウサギはかつての仲間を思い起こし、嬉しそうに語った。

 

「へえ、よくわからんが見応えはありそうだな」

 

十六夜がニヤリと笑った。

 

「まあ、俺も興味が無いわけじゃないけどさ」

 

そう言いながら蘭丸は席を立った。そして窓の鍵を開けた。

 

「まず、お客様をお招きするのが先じゃないか?」

 

 

「ふふ。どうやら嬉しいことを言ってくれてた様だが」

 

蘭丸が開けた窓から金髪の少女がふわふわと浮いていた。

 

「レ、レティシア様⁈」

 

黒ウサギがその少女の姿を確認して驚きの声を上げた。

 

「様はよせ。今の私は他人に所有される身。“箱庭の貴族”がモノに敬意を払っていたら笑われるぞ」

 

レティシアは笑いながら中に入ってくる。

 

「まあそう言うな。あんたは黒ウサギにとっては大事な存在なんだ。敬意を払いたい気持ちは分かってやりな」

 

蘭丸はそう言いながらレティシアを中へ招く。黒ウサギは慌ててレティシアのお茶を用意しに席を立った。

 

「ふむ、君が蘭丸か。白夜叉に聞いた通りかなりの切れものと見るな」

 

「へえ、あんたがレティシアか。前評判通りの美少女だな。目の保養になるよ」

 

十六夜がニヤリとレティシアを見て口を開く。

 

「ふむ、そして君が十六夜か。白夜叉の行っていたとおり歯に衣着せぬ男だな。しかし鑑賞するなら黒ウサギも負けてないと思うが。あれは私とは違う可愛さがあるが」

 

「ウサギは可愛がるより弄んでナンボだろ」

 

「ふむ、否定しない」

 

「否定してください!」

 

戻ってきた黒ウサギがティーセットを持ちながら涙目で叫ぶ。

 

「まあ落ち着け黒ウサギ。弄ぶのはともかく黒ウサギは可愛いからさ」

 

「ふにゃ⁈」

 

蘭丸は黒ウサギの頭を撫でた後、黒ウサギからティーセットを取り、レティシアに持っていく。

黒ウサギは変な声を上げて顔を赤らめた。

 

「あわわわ……」

 

黒ウサギは恥ずかしさからかろくに喋れていない。

 

(ああ、こりゃあ確定だな。蘭丸の方はその気はなさそうだが…)

 

(なるほど…黒ウサギは……)

 

十六夜とレティシアはニヤニヤしながら蘭丸を見ていた。

 

「全く…何でニヤニヤしてんだよ。んで、何の用だよ。ちゃんと用件があるんだよな」

 

「そ、そうです!どうしてここに?」

 

黒ウサギは直ぐに表情を戻して真剣な顔でレティシアを見る。

 

「お前達の力を見て見たかったんだ。異世界から来た人間をな。だが君達には申し訳ないことをした」

 

つまりガルドのゲームを裏から操っていたのはレティシアだったのだ。

 

「まあそれはいいさ。それであんたの目にはどう映った?」

 

蘭丸がそれを問うと飛鳥と耀は食い入る様な目をしていた。

 

「生憎ガルドでは当て馬にもならなかったよ。ゲームに参加したそこの少女二人はまだ青くて評価し難い」

 

その言葉に飛鳥と耀は少し残念そうな顔をしていた。

 

「今のお前達になんて声をかければいいか…だが解散を呼びかけるのには遅すぎた」

 

「違うだろ?」

 

そこで先程まで黙っていた十六夜が口を開く。

 

「アンタは言葉をかけてくてここに来たわけじゃない。仲間が今後自立した組織としてやっていけると確信したくてここに来たんだろ?だが不安が残ってる。だったらその不安

払拭する方法があるぜ?」

 

十六夜はニヤリと笑う。蘭丸もなるほどと肩をすぼめる。

 

「"ノーネーム"が魔王を相手に戦えるのかアンタがその力で試せばいい。どうだ?元・魔王様」

 

「ふ、確かにそうだな。下手なことを考えずに始めからそうすればよかったな」

 

「あ、あの…」

 

黒ウサギは止めようとするが二人は耳にしない。

 

「ルールはどうする?」

 

「どうせ力試しだ。双方が共に一撃ずつ撃ち合いそして受け合う」

 

「最後に立っていた方の勝利ってか。いいね!シンプルイズベストだ!」

 

二人はもう臨戦モードである。黒ウサギはどうしようかとオロオロしている。

 

「ら、蘭丸さん…止めてください」

 

黒ウサギは蘭丸に助けを求めるが

 

「まあ大丈夫だろう。レティシアも十六夜もそこは承知してるだろうし、万が一のことがあったら俺がなんとかする。だからこの場はあいつらに預けようぜ?」

 

蘭丸が笑顔で言うと黒ウサギは仕方なくかあきらめたようだ。

 

 

……ちなみに顔が赤くなっているのは黒ウサギだけの秘密だ。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

“ペルセウス”

 

 

 

現在蘭丸達はレティシアと力試しを行うために“ノーネーム”本拠の庭に来ていた。

ルールは互いにランスを投擲し合い受け止められなかった方の負けというルールである。

 

そして今レティシアと十六夜が向かいっている。

 

「私から行かせてもらうぞ」

 

レティシアが翼で飛翔しながらランスを構える。

 

「ああ、いいぜ」

 

十六夜も笑みを浮かべながら戦闘態勢を取った。

 

「はあぁぁぁぁぁぁっ‼︎」

 

怒号と共に放たれたランスは空気摩擦を帯びて流星の如くの勢いで十六夜に迫って行く。

 

「ハッ!しゃらくせぇ‼︎」

 

十六夜はそのランスを殴りつけると、ランスはレティシアが投擲した時よりも早いスピードでレティシアへと向かっていく。

 

(まさかこれ程とは…いや、これならコミュニティを任せられる)

 

レティシアは安堵の表情を浮かべながらそこから動かない。

レティシアは諦めるように目をつぶる。

 

「レ、レティシア様‼︎」

 

黒ウサギは慌ててレティシアへと走り出す。だが黒ウサギとレティシアの距離は離れており黒ウサギの走力でもとても間に合わない。

 

(くっ!間に合わない!)

 

黒ウサギも目をつぶる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく…しょうがない」

 

レティシアが目を開けるとそこには一番遠くいたはずの蘭丸がランスを両手で受け止めていた。

蘭丸はまだ勢いが止まらないランスを消滅させた。

 

「君は…どうやって私を?それに一番遠くにいたはずだが」

 

レティシアは当然の質問を投げかけた。蘭丸のギフトを知っている黒ウサギ達は安堵の表情を浮かべている。

 

「俺のギフトは空間や時間を支配するギフトだからな。こんくらいの距離の瞬間移動は簡単だ」

 

「時空間のギフトか……なるほど確かに白夜叉が認める男だな。そのギフトを所持するに値する実力を持っているな」

 

レティシアは蘭丸に笑みを向ける。

 

「認めてくれたのは嬉しいけどさ、元魔王ってこれだけしかギフトが無いのか?」

 

蘭丸はいつの間にかレティシアからギフトカードを掠め取ってギフトカードを見る。黒ウサギは慌てて蘭丸からカードを取りギフトカードを見る。

 

「純血の吸血姫(ロードオブヴァンパイア)…神格が無くなってる。あれ程あったギフトがこんなに少なく…」

 

黒ウサギは悲しそうな表情を浮かべる。

 

「つまりレティシアは魔王だった頃の実力はないってことか?」

 

「はい。レティシア様は純血の吸血鬼と神格を合わせ持つ事で魔王を自称していたのです。かつての実力は殆どありません」

 

「なんだよ。どうりで歯ごたえがないと思ったぜ」

 

十六夜が残念そうに肩を竦める。

 

「いったい何があったのですか?レティシア様」

 

「それは……」

 

レティシアが言おうとした時に空から光が落ちた。そして赤褐色の光線が蘭丸の方へと向かってくる。

 

「あれは…ゴーゴンの威光?」

 

ジンがその光線を見て呆気に取られていた。

 

「っ‼︎いけません‼︎あの光を浴びては…‼︎」

 

「何⁈」

 

黒ウサギの叫びに蘭丸は手を翳し、光線を消そうと試みる。

 

「駄目だ‼︎」

 

「⁈」

 

レティシアが蘭丸を押しのけ自分がその光線を受ける。すると見る見るうちにレティシアは石へとなっていた。

 

「吸血鬼を見つけたぞ‼︎」

 

「名無しの連中がいますが?」

 

「構わん。放っておけ」

 

そうして目の前には兜に翼の生えたブーツを履いた騎士がいた。

彼等は“ペルセウス”のメンバーであった。

 

「レティシア様をどうするつもりですか?」

 

黒ウサギは彼等を睨みながら質問する。

 

「お前達に答える筋合いはない。この吸血鬼はわれわれの所有物だ」

 

「それにこの吸血鬼は箱庭の外のコミュニティに売却されるのだ」

 

その言葉に黒ウサギとジンは驚愕の表情を浮かべている。

 

「何故?吸血鬼は箱庭の中でしか太陽の光をうけられないのですよ」

 

「我らの首領が決めたことだ。お前達には関係ない」

 

「でもここは俺らの土地なんだ不法侵入は詫びることじゃ無いのか?」

 

蘭丸は今だ穏やかな声でペルセウスに謝罪を求める。騎士達は鼻で笑い。

 

「名無し風情にいちいち謝罪をしていては我ら“ペルセウス”の名誉に関わるわ!」

 

騎士の一言に黒ウサギは完全に切れたようだ。

 

「…あり得ません。献身の象徴であるこの黒ウサギをここまで怒らせるとは…」

 

黒ウサギは髪を緋色に変え、槍を取り出しそれを騎士達に投擲しようとした。

 

「えい」

 

「フギャ⁈」

 

その攻撃は十六夜が耳を引っ張る事で失敗に終わり槍はあらぬ方向へと飛んで行った。

そして“ペルセウス”の騎士達は不可視のギフトを使ってその場から立ち去った。

 

「な、何をするのですか十六夜さん!」

 

「まあ落ち着けよ黒ウサギ。この場で奴らと揉めるって事は“サウザンドアイズ”を敵に回すことになるんだぞ」

 

「そうだな。とりあえず“サウザンドアイズ”に行くとするか」

 

 

こうして蘭丸、黒ウサギ、飛鳥、十六夜の四人は““サウザンドアイズ”に事象を聞くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**

 

“サウザンドアイズ”白夜叉の私室に入ると、白夜叉と金髪で軽薄そうな笑みを浮かべる男、“ペルセウス”のリーダーである“ルイオス=ペルセウス”である。

 

「うわぉウサギじゃん!実物始めて見たよ。本当に東の端っこに本ウサギがいるなんて思わなかった!つーかミニスカにガーターソックスなんてどんだけエロいんだよ!君うちのコミュニティに来いよ。三食首輪付きで毎晩可愛がってやるからよ」

 

ルイオスに嫌悪感を覚えた黒ウサギは足を両手で隠すと、飛鳥が黒ウサギをかばう様に前に出る。

 

「先に断っておくけど、この美脚は私達の物よ」

 

「そうです!黒ウサギの脚は…って違いますよ飛鳥さん‼︎」

 

飛鳥の突然の所有宣言に慌ててツッコミを入れる黒ウサギ。

 

「そうだぜお嬢様。黒ウサギの脚は…ってか黒ウサギは蘭丸のものだろ?」

 

「そうですそうです。黒ウサギは蘭丸さんの…ってええ?い、十六夜さん!何を言ってるのですか⁈」

 

黒ウサギはかあっと顔を赤らめ、耳と髪もいつもよりも赤く染まっていた。

しかもその顔は心無しか嬉しそうにも見える。

 

「おい、なんで俺なんだよ」

 

蘭丸は不思議そうに顔をしかめている。

 

「ふむ、なら黒ウサギと蘭丸のセットをいい値で買おう」

 

「う・り・ま・せ・ん!もう…黒ウサギをこれ以上怒らせないでください」

 

「バカだなぁ怒らせてんだよ」

 

「このお馬鹿様‼︎」

 

スパーン

 

黒ウサギのツッコミが炸裂した。相変わらずである。

 

「あははは!“ノーネーム”って芸人のコミュニティ?だったらマジでウチに来いよ。最もその美脚は僕のベッドで好きなだけ開かせてもらうけどね」

 

「お断りします。黒ウサギは礼節も知らぬ殿方に肌を見せるつもりはございません」

 

黒ウサギはルイオスに嫌悪感を吐きつけるかの様に断る。

 

「黒ウサギ、その格好じゃあ説得力ないわよ」

 

「俺はてっきり見せつけるために来てたのかと思ったぜ」

 

「俺も、趣味かと」

 

飛鳥、十六夜、蘭丸の三人はそれぞれの感想を黒ウサギにぶつけた。

 

「ち、違いますよ。これは白夜叉様がこの格好で審判をすれば賃金を三割増しにするとおっしゃるので」

 

黒ウサギは嫌々着ているらしい。

 

「そんな嫌々着てるのか…おい白夜叉。ナイスだ」

 

「うむ」

 

十六夜と白夜叉はビシッと親指を立てる。

 

「この……お馬鹿様方‼︎」

 

スパーン!と音を響かせ二人をハリセンで叩く。黒ウサギは慌てて蘭丸の方を見る。

 

「さて、あそこはほっといて取り敢えず交渉はさせてもらうぞ“ペルセウス”のリーダー」

 

「話だけならな。それと僕の名前はルイオス=ペルセウスだ」

 

蘭丸はもう会話にすら入っていなかった。

 

「ら、蘭丸さん…」

 

黒ウサギは波を流して彼を見ていた。

 





メインヒロインですが黒ウサギに決まりました。投票してくださった方、ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戸惑う黒ウサギと怒る蘭丸

 

 

「嫌だ」

 

「な、何故ですか⁈“ペルセウス”の所有物であるレティシアが我がコミュニティで暴れまわり、その際に構成員が暴言を吐いたのですよ⁉︎この屈辱は謝罪だけでは収まりません!」

 

黒ウサギはレティシアが攫われ、暴言を口実にレティシアを取り戻すためのギフトゲームを組もうと考えたがルイオスはそのゲームをこばんでいた。

 

「だってさ、証拠はあるの?」

 

「彼女の石化を解けば分かることです」

 

「駄目だね。取り引きの日まではもう石化は解かない。そもそもあの吸血鬼が口裏を合わせるかもしれないだろ?元お仲間さんのためにさ。それにそっちが吸血鬼を持ち出したんじゃないの?」

 

「…!どこにそんな証拠が!」

 

「ほら、証拠が無いのはお互い様だろ?大方因縁つけてギフトゲームに持ち込もうったってそうはいかない」

 

黒ウサギ達は何も言えなかった。確かにレティシアの石化が解けたら口裏を合わせてもらおうと考えていたのである。

腐ってもコミュニティのリーダーということだ。

 

「まあどうしてもっていうならきちんと調査した上で考えてあげてもいいけど…「ちょっと待った!」ん?なんだよ?」

 

ルイオスの言葉を蘭丸が途中で遮る。話を切らされたのでルイオスも少し不機嫌になっていた。

 

「いや、証拠って言うか分からんが暴言を吐いたのを証明できる物はあるぞ?」

 

そう言いながら蘭丸は“写し水晶”を取り出すとルイオスに渡す。

 

「なんだこれはこれのどこが証拠………何⁈」

 

ルイオスは水晶を見て驚いた。そこには“ノーネーム”の本機で暴れるレティシア(正確には十六夜と力試しをしている)とレティシアを石化したのち黒ウサギに暴言を履いている“ペルセウス”の騎士達がいた。

 

「この水晶は俺のギフトの一つ“写し水晶”ってギフトだ。この水晶は未来予知やサイコメトリーを行うためのギフトだが俺自身が使う未来予知やサイコメトリーをこの水晶に反映させることができるんだ。信憑性は低いが、お前らが暴言を吐いたのを証明する一つってとこだな」

 

蘭丸はそう言うとルイオスから水晶を取り、また異空間に戻した。

 

「なるほど、確かに信憑性は薄いがなかなか面白いことをするね。まあでも、ゲームはやらないよ」

 

ルイオスがいやらしい笑みで笑うと、蘭丸は残念だという風に肩を竦める。

 

「さて、帰ってあの吸血鬼を売り払わないと。愛想のない女って僕嫌いなんだよねぇ。特にあいつは体も殆どガキだし。まあ見た目は可愛いけど」

 

ヘラヘラと安っぽい笑みを浮かべながら憎たらしく言うルイオスを黒ウサギはキッと睨みつける。

 

「気の強い女を裸体のまま鎖で繋いで組み伏せて啼かす・・・・・その手の愛好家には堪らないだろうね。太陽の光っていう牢獄の下永遠に玩具にされる美女って・・・・すっげえエロくね?」

 

ルイオスは挑発するかの様に商談相手を想像していた。

 

「貴方と言う人は…‼︎」

 

黒ウサギは耳を逆立てて叫ぶ。それに関しては蘭丸達も同じだ。普段から温厚な蘭丸も胸中穏やかではないのは目に見える程だ。

 

「しかし、あいつも可哀想だよね。箱庭から売り払われるだけでなくて、仲間の為にギフトまでも魔王に譲り渡すことになっちゃったんだから」

 

「え?」

 

黒ウサギは顔を青くし、飛鳥は何のことかわからなかった。

 

「「まさか!」」

 

それに気づいた十六夜と蘭丸は同時に言葉を発した。レティシアは黒ウサギ達に会う為に自らのギフトを魔王に渡す形で駆けつけて来たのだ。

 

黒ウサギは無力感に襲われている。

 

「ねえ、黒ウサギさん。一つ取り引きをしようよ。吸血鬼を返す代わりに………君は僕に一生隷属するんだ」

 

ニタリと外道を代表するかの様な顔をしたルイオスに飛鳥が切れた。

 

「貴方って人は‼︎帰りましょう黒ウサギ‼︎………黒ウサギ?」

 

飛鳥は黒ウサギを引っ張って帰ろうとするが黒ウサギはうつむいたまま動かない。

 

「何を悩んでいるんだい黒ウサギさん。君ら“月の兎”は仲間の為に煉獄に落ちるのは本望なんだろう?だったら……」

 

『黙りなさい‼︎』

 

飛鳥のギフト、“威光”が発動し、ルイオスはガチンと顎を閉じた。

 

「まさかここまでの外道だとは…『暫くそこに頭をつけておきなさい‼︎』」

 

口を抑えたルイオスは体を前のめりに歪ませる。だが、彼は飛鳥の命令に逆らって少しずつ体を起こしていった。

 

「おんな……そんなのが通じるのは…隠しただけだ馬鹿が‼︎」

 

ルイオスは飛鳥の“威光”を振り払うとギフトカードから鎌を取り出し、飛鳥に振り下ろす。

 

……だが。

 

ガキン‼︎

 

咄嗟に蘭丸が刀で防いだ。

 

「おいおい、会談の途中で取り乱すとは…リーダーとして未熟すぎるんじゃないか?……………まずは座れ」

 

蘭丸は笑顔でそれでいて目は笑っていない覇気を放っていた。ルイオスはその覇気に気圧され、座布団に座り直した。

 

「フン、先に手を出して来たのはそっちだけどね」

 

ルイオスは悪態を付きながら鎌をしまった。

 

「わかっております。今日の所は不問にしましょう。それと先程の件は仲間と相談して後日お返事いたします」

 

「ちょっと待って黒ウサギ‼︎」

 

飛鳥は黒ウサギの肩を掴んで正面から向き合って声を張り上げる。

 

「OK。じゃあ取り引きギリギリの一週間まで待ってあげよう」

 

ルイオスはそう言うと“サウザンドアイズ”を後にした。

 

 

 

 

こうして黒ウサギと飛鳥、蘭丸はコミュニティに戻った。十六夜は白夜叉と話があるそうで“サウザンドアイズ”に残った。

 

「どう言うつもりなの黒ウサギ⁈」

 

飛鳥は当然とも言える怒りを黒ウサギにぶつけた。

 

「レティシア様は・・・助けを求めもせずにただコミュニティの事を心配して手を尽くしてくれたんです。私は・・・・そんなレティシア様を見捨てるだなんてできません!」

 

「だからって貴方が犠牲になる意味が分からないわ‼︎そんなのは無駄よ‼︎私達が許さない‼︎」

 

「無駄ってどうしてそこまで言われなければいけないのですか⁈コミュニティにとって仲間は大事です!何にも勝るコミュニティの宝なんです!魂を削ってまでコミュニティのために駆けつけたレティシア様を見捨てては我々の義理が立ちません」

 

「あ、あの蘭丸さん何があったのですか?」

 

「………」

 

事情の知らないジンとミロがオロオロしているが蘭丸はただ黙って聞いていた。だが彼の拳からは血がにじみ出ていた。彼も我慢をしているのだろう。それでも二人の争いは続く。

 

「だけどそれは貴方が身代わりになるだけじゃない!そんなの無意味だわ!」

 

「仲間の為の犠牲が無駄なはずありません‼︎私はレティシア様の為に…」

 

ズガアァァァァァァン‼︎

 

黒ウサギの叫びは突然の崩壊音によって遮られた。音の方を向くと

 

本拠の壁を拳で破壊した蘭丸がいた。

 

「さっきから黙って聞いてりゃあ……ふざけんなよ黒ウサギ‼︎」

 

黒ウサギだけでなくてその空間にいる者全てが驚いた。その口調は何時もの優しく、柔らかい物ではない。誰もがわかった。

 

これが蘭丸のブチギレであると。

 

「仲間の為に自分が犠牲になるだあ?何をほざいてやがる‼︎そんな事して戻ってきたレティシアが喜ぶと思ってんのか?ただ悲しむだけだろうが‼︎」

 

普段と違い戸惑いからか黒ウサギは涙を流しながら蘭丸を見る。

 

「ですが…もうこれしか方法が…」

 

「誰がそう決めたんだよ‼︎まだ方法があるかもしれないだろ⁈それなのになんでお前はそうなんだよ‼︎それが箱庭に俺たちを呼んだ奴のすることかよ‼︎」

 

暫くその場には沈黙が流れた。そうすると蘭丸は舌打ちをして黒ウサギから視線を外す。

 

「チッ!もういい‼︎」

 

「「蘭丸さん!」」

 

蘭丸は開けた穴から外へ出て行ってしまった。ジンとミロは慌てて引きとめようとしたが、蘭丸がギフトで壁を修復して追いかけるに至らなかった。

 

「まさか蘭丸君があんなに怒るなんて」

 

「…申し訳ありません。黒ウサギが…」

 

「大丈夫ですよ。彼は戻ってきます。……それと今言うのもあれですが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私、来週にはコミュニティに戻ろうかと思います」

 

ミロのカミングアウトに全員が驚く、

 

「私はここにいた間、蘭丸さんにいろいろと教えてもらいました。蘭丸さんにもう教えることはないと言われたので…そろそろ戻ろうかと」

 

先程と続いて暗い話でまた暗くなったが慌ててミロは話し出す。

 

「ですから蘭丸さんと黒ウサギさんが仲直りしたのを見てこのコミュニティをあとにしたいんです。なのでどうか黒ウサギさん。彼と仲直りしてください」

 

ミロの言葉で取り敢えず今日はお開きにして、蘭丸は帰ってくると信じて待つことにした。その間黒ウサギは謹慎処分となった。

 

 

 

 

 

 

 

三日後

 

黒ウサギ、飛鳥、耀、ジン、ミロが黒ウサギの部屋に集まっていた。あれから黒ウサギも落ち着き、多少のツッコミもする程にまでなったが蘭丸だけでなくて十六夜まで戻っていない。どうしようかと考えてた矢先である。

 

ズガアァァァァァァン‼︎

 

「な、何が?」

 

「おう、久しぶりだな黒ウサギ」

 

そこには十六夜と蘭丸が立っていた。…壁を壊してだが。

 

「何をやっているのですかこの問題児様方ぁぁ‼︎」

 

黒ウサギは泣きながらハリセンで二人を叩く。

 

「まあ大丈夫だ黒ウサギ。俺が直しておくから」

 

そう言うと蘭丸は壁を修復した。

 

「まあまあ落ち着けよ黒ウサギ。ちゃんと土産もあるしな」

 

そう言って十六夜が大きな風呂敷を広げるとそこには二つの玉があった。

 

「十六夜君、これは?」

 

分からず飛鳥が十六夜に質問する。

 

「白夜叉から聞いてな。あいつらの“旗印”を賭けさせるための手段があるらしいってなそのクラーケンとグライアイを倒すだけだがな。蘭丸のおかげですぐに終わったぜ」

 

そう言って十六夜は蘭丸に視線を移す。すると蘭丸は気恥ずかしそうに黒ウサギをみる。

 

「なあ…黒ウサギ」

 

「蘭丸さん?」

 

「こないだは悪かった。俺が勝手なことを言って、今回のそれはそのお詫びだと思ってくれ」

 

蘭丸が頭を下げると黒ウサギは慌てて蘭丸に頭を上げてもらおうとしていた。

 

「蘭丸さん……ありがとうございます‼︎これでレティシア様を救うことができます」

 

「そっか」

 

蘭丸は少し目尻に涙を浮かべながら微笑んだ。その笑みは今までで一番美しい物で黒ウサギはつい見惚れていた。

 

「ありがとう。黒ウサギ」

 

「ふにゃ⁈」

 

そして感極まってか蘭丸は黒ウサギを抱擁した。突然のことで黒ウサギは慌てて変な声を上げた。

 

 

「ねえ十六夜君、春日部さん。私達はお邪魔の様ね」

 

「だな、じゃあ俺達はここで退散するか」

 

「うん、そうだね」

 

そう言って十六夜達は部屋から退散していった。

 

「じゃあ俺ちょっと疲れたから少し寝るわ。おやすみ」

 

鈍いのか、全然気にしてない蘭丸はそのまま部屋に戻った。

 

「もう。あの問題児様は……///」

 

黒ウサギは顔を紅潮させながらも嬉しそうだった。

 

 

 





次回は“ペルセウス”とのギフトゲームに移ります。


どうしようかな……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『FAIRYTALE in PERSEUS』①

「よく来たね“名無し"二度と逆らえない様に完膚なきまでに潰してやるよ」

 

“ペルセウス”の本拠に赴いた七人をいやらしい目で見るルイオス。

 

「おいおい。それは負ける奴が言う台詞だぞ?」

 

大丈夫か?と蘭丸は哀れみの目でルイオスを見る。それに他の六人がクスクスと笑う。

 

「貴様ら……いいだろう。後悔させてやる」

 

ルイオスがギフトカードを取り出すと周囲の空間が破れ、突如白亜の宮殿が姿を見せた。

 

【ギフトゲーム名 『FAIRYTALE in PERSEUS』

 

・プレイヤー

逆廻 十六夜

久遠 飛鳥

春日部 耀

二宮 蘭丸

ミロ=フリーズ

 

プレイヤー側ゲームマスター ジン=ラッセル

ホスト側ゲームマスター ルイオス=ペルセウス

 

・勝利条件

ホスト側のメンバー全員の打倒

 

・敗北条件

プレイヤー側のゲームマスターによる降伏

プレイヤー側のゲームマスターの失格

プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合

 

・舞台詳細、ルール

ホスト側のゲームマスターは本拠、白亜の宮殿の最奥から出てはいけない

 

ホスト側のメンバーは宮殿の最奥に入ってはいけない

 

プレイヤー達はホスト側(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない

 

姿を見られたプレイヤーは失格となり、ゲームマスターへの挑戦権を失う

 

失格となったプレイヤーは挑戦権を失うだけでゲームを続行できる

 

・宣誓

上記を尊重し、誇りと旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

 

“ペルセウス”印】

 

「姿を見られたら失格か………まさにペルセウスの暗殺だな」

 

「伝説だとルイオスは寝てることになるが……そうはいかないだろうな」

 

十六夜と蘭丸が契約書類に目を通した後呟く。二人はペルセウスの暗殺について知っているようだ。

 

「Yes。十六夜さんと蘭丸さんの言う通りでしょう。恐らくルイオスは最奥で待ち構えているでしょう」

 

「でも私達は不可視のギフトを持っていないわ」

 

「ちゃんと作戦をたてないと……」

 

そう、このゲームは宮殿の再奥まで誰にも見つからずにたどり着かなければならない。

 

「見つかった者はその時点でゲームマスターへの挑戦権を失いますからね。ジン君が失格になった時点で私達の敗北になります。これは少し手間が掛かりますね…」

 

ミロは顎に手を添えて考える仕草をとる。

 

「まあ作戦はあるがな」

 

「やっぱりお前もわかっていたか、蘭丸」

 

蘭丸と十六夜はニヤリと笑っていた。

 

「この作戦は三つの役割が必要だ。まず御チビと一緒にルイオスをぶっ飛ばす役、不可視の敵を感知、撃破してハデスの兜を奪う役、そして失格覚悟で囮と梅雨払いの役の三つだ」

 

「不可視の敵は私に任せて」

 

耀が真っ先に名乗った。

 

「なるほどな、春日部なら鼻が効くし、耳も目もいいから適任だ」

 

「不可視の敵は任せたわよ春日部さん」

 

「うん」

 

耀は元気よく答える。

 

「それじゃあ不本意だけど囮と梅雨払いは私がやるわ」

 

「いいのかお嬢様?」

 

「ええ。私の“威光”はあの外道には通じないみたいだし、まともにやりあえば勝ち目は薄いもの。今回は譲ってあげるわ」

 

「済まないな、飛鳥」

 

蘭丸は飛鳥に謝る。

 

「構わないわ、その代わり必ず勝ちなさいよ」

 

「勿論だ」

 

蘭丸の笑みには絶対的な自信が見える。

 

「黒ウサギは審判を務める為直接ゲームには参加できません。ですからルイオスを倒す役割は蘭丸さんと十六夜さんにお願いします」

 

「OK」

 

「俺もかまわない。まああいつくらいなら十六夜一人でも十分すぎるけどな」

 

十六夜と蘭丸はルイオスを倒す役に決まった。

 

「ですがそう簡単に行くかわかりません。厳しい戦いになるやかもしれません」

 

黒ウサギが神妙な顔を浮かべている。

 

「あの外道はそんなに強いの?」

 

「いえ、ルイオス自体はそれ程も。ガルドよりは上ですが脅威と言う程では……問題なのは彼が所持するギフト。もし黒ウサギの推測が外れていなければ彼のギフトは…」

 

「「隷属させた元魔王」」

 

「そう、元魔王の……え⁈」

 

十六夜と蘭丸の考察に黒ウサギは驚いた。

 

「神話通りだとしたら神に献上されたゴーゴンの首がこの世界にあるはずはない。にも関わらずあいつらは石化のギフトを使っていた。大方あいつの首からぶら下がってるのは"アルゴルの悪魔"ってところだろう」

 

「恐らくあいつの首についていたチョーカーがそれだろう。ペルセウス座でゴーゴンの首にいちする星が“アルゴルの悪魔”だからだな」

 

「まさかそこまで……もしかして十六夜さんと蘭丸さんは意外と知性派だったりします?」

 

「何を今更。俺は生粋の知性派だぜ?」

 

「そう言うのは好きで調べてたからな」

 

知性派の二人は自慢気に話す。

 

「さて十六夜。そろそろ始めるか」

 

「だな」

 

二人は宮殿の扉の前に立った。黒ウサギは即座に嫌な予感を感じ取った。

 

「待っ……」

 

「待たねえよ!オラアァァ‼︎」

 

ドガアァ‼︎

 

十六夜がドアを蹴破り、蘭丸がドアを空間がひび割れる程の拳で殴りつけると、轟音と共に音を立てて崩れた。

 

たった今“ペルセウス”と“ノーネーム”のギフトゲームが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正面階段では囮となった飛鳥とミロが騎士を迎え撃っていた。

 

「水樹よ、まとめて吹き飛ばしなさい‼︎」

 

「ぐあぁぁぁぁぁ‼︎」

 

水樹から放たれた水は大波となり、ペルセウスの騎士達を飲み込んだ。

 

「このままでは宮殿が水没してしまう。上空から攻めろ!」

 

空を飛ぶ靴を履いていた騎士は上空から攻めようとしたが

 

「無駄ですよ!」

 

ズガアァァン‼︎

 

ミロが騎士達の目の前に核融合を引き起こし、近くの騎士は堪らず吹き飛んだ。

 

「ミロ……前に言おうと思ったけど…貴方のギフトってエグいわね」

 

ミロの爆発範囲に若干引いている飛鳥。

 

「私もそれには同感ですが、皆さんもとても凄いギフトじゃあないですか」

 

ミロは騎士達を爆発させながらも飛鳥と会話をしている。

 

(私と話をしながらも……やはり私もまだまだね)

 

見た所余裕に戦うミロを見て飛鳥は自負がまだまだだと心で感想を述べている。

 

「さあ頑張りましょう飛鳥さん!私達の役目をしっかり果たしましょう!」

 

「ええ。そうね」

 

水樹と核爆発のコンビは正面階段で地獄を見せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グアッ‼︎」

 

場所は変わって耀は誰もいない筈の場所を蹴った。そうすると倒れている二人の騎士の脇に兜が二つ転がっていた。これこそがハデスの兜であった。

 

「サンキュー春日部。ほら、御チビこれを被ってろ」

 

「は、はい」

 

ジンはハデスの兜を被るとその姿は消失した。

 

「いいとこ取りみたいで悪いな。これでも皆には感謝してるぜ。今回のゲームはソロプレイじゃ攻略できそうにないからな」

 

「大丈夫。だけど埋め合わせはしてもらうから」

 

耀は平坦な口調で取立てを断言した。なんともちゃっかりしている。

 

「ハハッ任しとけ」

 

「あとは俺の分だけだな」

 

蘭丸は物陰からゆらっと現れた。

 

「ああ、そうだな」

 

十六夜の声だけが聞こえる。

 

「じゃああとひと……きゃあ⁉︎」

 

突然耀が吹き飛んだ。何が起こったのか分からず蘭丸も一瞬驚きを見せた。

 

(耀が感じ取れなかったってことは本物か……)

 

蘭丸は急いで物陰に隠れた。耀はまだ起き上がれていない。

 

「仕方ない一応体力は温存しておきたかったんだけどな」

 

蘭丸は一つ深く深呼吸をし辺りを見回す。

 

だが耀が超音波で探知し不可視の十六夜が殴りつけるとルイオスの側近の男が倒れていた。

 

「見事だ…お前達はルイオス様に挑む資格がある」

 

十六夜達を賞賛すると側近の男は気絶した。

 

「大丈夫か耀?」

 

「うん」

 

「済まないな。今度飯奢ってやるよ」

 

「うんお願い」

 

耀は目を輝かせて頷く。それを見ていた十六夜は

 

(こりゃ黒ウサギに教えたら面白いものを見れそうだな)

 

何やら面白いことを考えていた。

 

 

 

 

 





誤字、感想お待ちしてます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『FAIRYTALE in PERSEUS』②

今日二本めの投稿です。

いけたら三本行きます。

……なんか調子がいいので。


不可視を手に入れた三人はルイオスのいる最奥にと到着した。

 

「十六夜さん!ジン坊ちゃん!蘭丸さん!」

 

三人の姿が見えて黒ウサギが安堵の表情を浮かべた。

 

「ふん、本当に使えない奴らだな。今回の一件で全員まとめて粛清しないと」

 

十六夜達が見上げると翼のついたブーツを履いたルイオスの姿がそこにあった。

 

 

「とはいえ……ようこそ白亜の宮殿、最上階へ。ゲームマスターとしてお相手しましょう。……あれ?そういえばこれ言うの初めてかも」

 

そう言うとルイオスはギフトカードから燃え盛る炎の弓を取り出した。

 

「炎の弓?てっきり聖霊殺しの鎌、“ハルパー”を使うかと」

 

ルイオスが予想していた武器を使わないことに疑問を抱いた。

 

「当然でしょ。空を飛べるのに同じ土俵で戦うわけがない」

 

確かに空を飛べるのならば遠距離攻撃のできる弓で戦う方が有利。理にはかなっている。

 

「それにメインで戦うのは僕じゃない。僕の敗北がそのまま“ペルセウス”の敗北に繋がる。これはそんなリスクを追う様な闘いじゃない」

 

戦う意思の無いルイオスは首にかけているチョーカーを外し、付属している装飾を掲げた。

 

「目覚めろ‼︎“アルゴールの魔王”‼︎」

 

ルイオスが装飾を外すと地面に接するのと同時に装飾は黒く光り輝き、それに封印されていた“アルゴールの魔王”が現れた。

 

「re………ra…GEEEEEEYAAAAAAAAA‼︎」

 

アルゴールは人が到底理解出来ない絶叫をあげている。言えば不協和音。それを聞いた十六夜達は不快を表した。

 

「re.GEEEEEEEE‼︎」

 

アルゴールは両腕を拘束するベルトを引きちぎりながら更なる絶叫を上げた。それと同時にアルゴールから褐色の光が放たれる。

 

十六夜はジンを抱えて柱の影に隠れ、黒ウサギも慌ててそれに続く。蘭丸はギフトでそれを躱す。

 

「なんですか今の……耳が痛いです」

 

「全くだ。女ならもっと慎ましく………」

 

ドン‼︎

 

突如として空から幾つもの巨大な岩塊が降ってきた。十六夜、黒ウサギ、蘭丸はそれに気づきそれをよける。

 

岩を躱す十六夜達を見てルイオスは高笑いを上げる。

 

「いやあ飛べない人間って不便だねえ。落下してくる雲もよけられないなんて」

 

「く、雲?」

 

黒ウサギが外に目をやるとそこにはアルゴールによって石に変えられた雲が降る光景であった。

 

「なるほど…さっきの光は恐らくこのゲームの世界全体に放たれた光だな」

 

蘭丸は落ちてくる雲を破壊したり消滅させながら考察する。

 

「そうだよ。今頃君らのお仲間も僕の部下もろとも石になってるだろうね。ま、無能共にはいい罰さ」

 

「十六夜さん、蘭丸さん、レテシィアさんはかっての魔王としての力を失っています。とても魔王に太刀打ちできません」

 

ジンは俯きながら話す。

 

「だったら諦めるか?この作戦」

 

「…いえ!でも僕らには貴方達がいます。貴方達の力、この舞台で証明してください!」

 

「OK。よく見ておけ」

 

「任せな」

 

十六夜と蘭丸は笑みを浮かべて一歩まえに出る。

 

「十六夜。アルゴールはお前に任せる。ルイオスは俺に任せな」

 

「OKだ。行くぜ」

 

そして十六夜はアルゴールへと、蘭丸はルイオスへと向かっていく。

 

 

「ふん、名無しの分際で‼︎」

 

ルイオスは上空から弓を放つ。それを蘭丸は槍を取り出すとそれを叩き落す。そして空間を踏む様に跳躍し、ルイオスの目の前にまで行く。

 

「っ‼︎くそ!」

 

ルイオスは弓からハルパーに持ち替え、蘭丸に振り下ろすが蘭丸はそれをいとも簡単に受け止める。

 

「どうした?そんなもんか?俺はまだ一割も出してないぞ?」

 

蘭丸はハルパーを弾き、ルイオスが体制を崩した隙を狙い、槍で叩き落とした。

 

「ぐお!」

 

ルイオスは地面に叩けつけられた。受け身をとれていたが蘭丸の攻撃の威力が強烈で相当なダメージを追っていた。

 

 

「くそ!アルゴール‼︎……何⁈」

 

ルイオスはアルゴールに救いを求めようとしたがアルゴールは十六夜にちょうど殴られ壁に打ち付けられていた。

 

「はははは!どうしたアルゴール!まさか今のが本気じゃないよな⁈」

 

どうやらアルゴールでは十六夜の相手にはならなかったらしい。

 

「さて、どうするルイオス?」

 

蘭丸は既に槍をしまっていた。もうルイオスに逃げ場は無いはずだった。

 

「アルゴール!宮殿の悪魔化を許可する!奴らを皆殺しにしろ‼︎」

 

「re………GEEEEEEEEYAAAAAAAAA‼︎」

 

アルゴールはふらふらと立ち上がると絶叫を上げる。それに共鳴するかの様に白亜の宮殿が黒く染まり、様々な魔獣が現れる。

 

「あーアルゴールってそんな能力もあったのか」

 

「お前らはもう逃がさない。お前らの相手はアルゴールとこの宮殿そのものだ!」

 

魔獣は蘭丸に襲いかかる。だが蘭丸は笑みを崩さない。

 

「まあ、少し面白いな………オラァ‼︎」

 

蘭丸は拳に白いオーラを溜め、そのまま宮殿を殴る。すると空間にヒビが入り始めた。

 

「な、何?」

 

「俺のギフト“時空間の支配者”は時空間を支配することができる。そしてこの技は空間を殴り、対象を空間ごと破壊する‼︎」

 

すると空間が破壊されると同時に宮殿は少しずつ壊れ始めた。

 

「バカな!この宮殿には常に結界を張っているはずだ!壊れるはずが……」

 

「たかが結界如きで俺を止められるかぁ‼︎」

 

そして宮殿の最奥は轟音とともに破壊された。しかしまだ魔獣が蘭丸に襲いかかろうとしている。

 

「す、凄い…」

 

「まさかここまでとは」

 

「ヤハハハ!やっぱりあいつは相当なチート野郎だぜ」

 

三人は被害の一番少ないところに避難していた。そこで白夜叉の時には出す暇も無かった実力を目の当たりにした。

 

「あらら、宮殿が壊れちまったな。直すか」

 

そう蘭丸が言いながら宮殿に左手をかざすとたちまち宮殿は元の形を取り戻し、さらに宮殿の悪魔化が消え、魔獣達は消えて行った。

 

「これも俺のギフトた」

 

蘭丸は怖い程の笑みをルイオスに向ける。

 

「バカな……アルゴール‼︎」

 

ルイオスは明らかに錯乱していた。アルゴールは石化のギフトを蘭丸に放つが……

 

「おいおい俺の忘れちゃ困るぜ元魔王様!お前の相手は俺だぞゴラアァァァァァ‼︎」

 

十六夜はその光を踏み砕いた。そのままアルゴールへと突っ込みアルゴールを殴り額を貫いた。

 

「re………GEE………」

 

アルゴールはそのまま崩れ落ち立ち上がることは無かった。

 

「そ、そんな……」

 

ルイオスは地面に膝をつき勝負を諦めた。

 

「このギフトゲーム、“ノーネーム”の勝利……」

 

「まてよ黒ウサギ」

 

黒ウサギが“ノーネーム”の勝利宣言を十六夜が遮った。

そして項垂れるルイオスを見て

 

「俺たちはこのゲームでお前たちの旗印を手に入れたら、今度は旗印を盾にもう一戦申し込む。

そして、次は名前を頂く。そうすればお前らも名無しだ」

 

十六夜は最高な笑みをルイオスに向ける。だがその笑みに愛嬌はなく、恐怖があった。

 

「ま、待て」

 

「そして、また名と旗印を掛けて勝負をする。お前たちから絞るだけ絞って、箱庭で活動できなくなるぐらいに徹底的に潰してやるよ」

 

「や、やめろ!僕のコミュニティがなくなる」

 

そこで蘭丸が前に出る。

 

「なら立ちな。最後まで諦めずに、ルイオス=ペルセウス、俺が相手になる」

 

蘭丸は丸腰で立つ。

 

「く……諦めてたまるかぁぁぁ‼︎」

 

ルイオスはハルパーを握り蘭丸へと走り出す。

 

「ふ、いい顔だ」

 

蘭丸の蹴りがルイオスの首筋を捉えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




バトル描写はなかなかキツイですね………

次回で第一章完結です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歓迎と別れ

これで第一章完結です。

………ここまで来るのに頑張ったな……


“ペルセウス”とのギフトゲームを終え、ミロと蘭丸は“ノーネーム”の本拠の門に来ていた。

 

「今日までお世話になりました。蘭丸さん」

 

ミロは深々と頭を下げる。

 

「良いのか?まだいても良いのに」

 

蘭丸は軽く笑みを浮かべながらも内心は別れは辛いものであり複雑な表情である。

 

「いえ、そろそろ境界門の時間なので…それに今日は次しか無いので」

 

「そっか」

 

「蘭丸さん」

 

ミロはクルリと振り向き、笑顔を見せると、

 

「本当にありがとうございました!あと黒ウサギさんと末長く!」

 

「おう。……だが何故黒ウサギだけなんだ?」

 

「本当鈍いですね。まあ頑張って!」

 

「???」

 

ミロの言っていることが全くわからない蘭丸であった。

 

「くしゅん‼︎黒ウサギの素敵耳の届かない所で噂話とは…」

 

同刻、黒ウサギがくしゃみをしていた。

 

 

 

 

 

 

**

 

 

「「「じゃあこれからよろしくメイドさん!」」」

 

「え?」

 

「え?」

 

「……え?」

 

見事レティシアを連れ戻し、レティシアの石化が解け問題児達の開口一番の発言はまさかのメイド宣言であった。

 

「え?じゃないわよ今回頑張ったの私達だけじゃない!」

 

「私なんか思いっきり殴られた」

 

「そもそも挑戦権を持ってきたのは俺と蘭丸たぞ?つーわけで所有権は俺達で2:2:3:3だ」

 

ちなみに所有権は飛鳥、耀が2。十六夜、蘭丸が3である。

 

「何言っちゃってんでございますかこの人達‼︎」

 

あまりの展開に黒ウサギのツッコミも追いついていない。

 

「ふふふっ………そうだな。今回の件で私は君たちに恩義を感じている。君たちが家政婦をしろと言うなら喜んでやろうじゃないか」

 

だが当の本人であるレティシアは乗り気である。

 

「レ、レティシア様⁈」

 

黒ウサギは当然ながら驚いている。憧れている先輩をメイドとして接さなければならないなど思ってもいなかったのである。

 

「お!レティシア目を覚ましたか」

 

そこに蘭丸が帰って来て黒ウサギは蘭丸に助けを乞おうとした。

 

「蘭丸さん。どうか黒ウサギの見方になってください!この問題児様達を……」

 

「まあ良いんじゃないか?どうせ俺が言った所でこいつらの意思は揺らがないだろうし…」

 

「おう。確かに無駄だぜ!」

 

「ええ。そうね」

 

「諦めて黒ウサギ」

 

問題児達の無慈悲な言葉に黒ウサギは耳をへにょりとへたらせ落ちこむ。

 

「私金髪の使用人に凄く憧れてたの!これからよろしくねレティシア」

 

飛鳥が目をキラキラさせながらレティシアの手を取る。

 

「よろしく………いや主従だから『よろしくお願いします』の方がいいのか?」

 

「使い勝手のいいのを使えばいいよ」

 

困惑しているレティシアに耀が助言を入れる。

 

「そ、そうか………いやそうですか?んん?そうでございますか?」

 

「黒ウサギの真似はやめておけ」

 

黒ウサギとジンは苦笑いを浮かべて笑っている問題児達とレティシアを見ていた。

 

「まあよろしくなレティシア」.

 

蘭丸はレティシアに笑顔で手を差し伸べる。

 

「……うむ、よろしく…お願いします///」

 

とレティシアは赤らめながら蘭丸の手を握る。

 

「おいおい大丈夫か?顔真っ赤だぞ?体調でも悪いのか?」

 

「ひゃん///」

 

蘭丸の行動にメンバーは絶句した。蘭丸はレティシアの額に自らの額を当てて熱を計っているのである。

 

(なんでしょうか……レティシア様がとても羨ましいです)

 

黒ウサギは羨ましそうにレティシアを見ている。

 

(ヤハハハ…やっぱこいつおもしれえな)

 

 

 

 

 

**

 

三日後十六夜、飛鳥、耀、蘭丸達の歓迎会が開かれていた。

 

「え〜それでは新たな同士を迎えた“ノーネーム”の歓迎会を始めます!」

 

黒ウサギの号令に子供達がワッ‼︎歓声を上げた。周りの長机にはささやかな食事が並んでいた。子供だけの歓迎会だが四人は悪い気はしなかった。

 

「けど、どうして野外なのかしら」

 

「うん、私も思った」

 

飛鳥と耀は何故外で歓迎会なのか疑問に思っていた。

 

「見せたいものがあるんだとよ」

 

「まあ黒ウサギ達なりの歓迎ってことだろうな」

 

蘭丸と十六夜が空を見上げながら言う。

 

ジン曰く“ノーネーム”の財政は厳しく、四人がギフトゲームに参加すればなんとかなるがそれでも100人もの子供達を養うためにはギリギリである。そのためこんな贅沢も出来ないはずである。

 

「無理しなくていいって言ったのに……馬鹿な娘ね」

 

「本当にね」

 

飛鳥と耀が苦笑いしながら顔を合わせる。

 

「それでは皆さん。これより本日の大イベントが始まります。箱庭の天幕にご注目ください」

 

黒ウサギれ言われたとおり天幕を見ると大量の流れ星が流れていた。

 

「この流星群を起こしたのは他でもありません。我々の新たな同士、異世界からの四人がこの流星群の切っ掛けを作ったのです」

 

「「「「え?」」」」

 

これには十六夜や蘭丸も驚いた。

 

「まさか……あれは“ペルセウス”⁈」

 

「Yes!箱庭の世界は天動説のように、全てのルールが此処、箱庭の都市を中心に回っております。“ペルセウス”は、敗北の為に“サウザンドアイズ”を追放されたのです。そして彼らは、あの星々からも旗を降ろすことになりました」

 

「まさか………あの星空から星座を無くすって言うの⁈」

 

つまりあの星空も箱庭の為に作られたものであると言っても過言ではない。飛鳥は当然の驚きを見せる。

 

「今夜の流星群は“サウザンドアイズ”から“ノーネーム”への再出発に対する祝福も兼ねています。星に願いをかけるのもよし。皆で鑑賞するのもよし。今日はいっぱい騒ぎましょう!」

 

黒ウサギは満天の笑顔で驚いている飛鳥に返す。

 

「こりゃあ……凄いな…」

 

「ああ、まさか異世界に来て早々こんなものを拝めるなんてな」

 

「ふっふーん。驚きましたか?」

 

星空を眺めていた蘭丸と十六夜に自慢気でいる黒ウサギ。

 

「まあ、驚いたよ」

 

「ああ、おかげで個人的な目標もできたしな」

 

「目標?それはなんでございますか?」

 

十六夜は星空を指差し、

 

「あそこに俺たちの旗を掲げる」

 

黒ウサギは絶句するがすぐに笑顔を浮かべる。

 

「それは…とてもロマンがございますね」

 

「だろ?………あれ?蘭丸の奴いつの間にどっか行きやがったな」

 

十六夜が周りを見回すと先程まで隣にいた蘭丸の姿が見えなかった。

 

「本当ですね。蘭丸さんはどちらに行かれたのでしょうか」

 

そして黒ウサギのウサ耳がピクピクと動いた。

 

「あ。貯水池の方にいますね。黒ウサギが呼んで来ます」

 

「おう。二人っきりだからな。蘭丸襲って来たりしてな」

 

「あ、ありません‼︎蘭丸さんに限ってそんな事………///」

 

ヤハハハと笑う十六夜と顔を赤くしながらも否定をする黒ウサギ。

 

黒ウサギの表情は若干嬉しそうにも見えた。そしてその場から逃げる様に黒ウサギは貯水池に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう……」

 

蘭丸は貯水池の畔で寝転がって空を見ていた。

 

「さて、そろそろ出て来ても良いんじゃないか?」

 

蘭丸がそう言うと、何も無い所にブラックホールの様な黒い渦が現れ、そこから黒髪のショートカットの少女が現れた。

 

「ぷぷぷぷ………ばれちゃったかな?久しぶりだね♪」

 

「………目的を答えろ」

 

 

ケラケラと笑うその少女に槍を突き付ける蘭丸。その表情には怒気がこもっていた。

 

「まあまあそんなに怖い顔してないでよ♪ただ今回は“あの人”からの伝言を伝えに来ただけだよ♪」

 

その少女はふざけた表情を変え

 

「『……やっと見つけた。今度は逃がさない』ってね」

 

「何⁈“あいつ”も来てるのか⁈」

 

蘭丸は驚愕の表情を浮かべていた。その表情には恐怖も見える。

 

「じゃあそれだけだから。じゃあね〜♪」

 

そう言うと少女は再び姿を消した。一人蘭丸は尋常じゃない脂汗をかいていた。

 

『お前の力はまさに神だ‼︎』

 

『お前力……俺によこせぇ‼︎』

 

「その力は俺に相応しい‼︎』

 

 

(まさか………“あいつ”が…)

 

「蘭丸さーん…って凄い汗ですよ?大丈夫ですか⁈」

 

蘭丸を心配して来た黒ウサギは蘭丸の表情を見て驚いていた。

 

「あ、ああ…大丈夫ださて戻ろうか」

 

そう言うと蘭丸は歓迎会に戻っていく。

 

「待ってください蘭丸さん」

 

その後ろを黒ウサギがついていく。

 

(“あいつ”はこいつらにも手を出すだろうな)

 

(“あいつ”が来たら…今度は……今度こそ大切なものを守ってやる)

 

蘭丸は黒ウサギに見つからない様に拳を強く握る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第一章はこれにて完結です。

“あいつ”は気になりますがそれはまたの機会に!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

あら、魔王襲来のお知らせ?
北への招待状


これより第二章に移ります。

また更に駄文ですがどうか温かい目で見てください。

*今回は蘭丸はほぼ出てきません。


ここは“ノーネーム”本拠内にある図書館。そこで十六夜とジンが泥の様に眠っていた。

 

そこに図書館に飛鳥、耀、リリがやって来た。

 

「十六夜君、起きなさい‼︎」

 

飛鳥は十六夜の肩を荒く揺すって起こそうとする。

 

「おはようお嬢様。じゃあおやすみ…」

 

十六夜は飛鳥を確認するとそれを適当に返し、再び眠りにつこうとする。

 

「起きなさい‼︎」

 

「させるか!」

 

「グハァ⁉︎」

 

飛鳥の飛び膝蹴り(またの名をシャイニングウィザード)を

放つが十六夜はジンを盾にしてそれをやり過ごす。側頭部にくらったジンはクルクル縦回転で吹っ飛び動かなくなる。

 

「ジ、ジン君‼︎」

 

リリは慌ててジンの元に駆け寄る。

 

「おいおい、お嬢様。寝起きにシャイニングウィザードはまずいぜ。俺ならともかく御チビは死ぬぞ」

 

「って僕を盾に使ったのは十六夜さんでしょう⁈」

 

十六夜に突っ込むジン。案外タフである。

 

「ほら、生きてるじゃない」

 

「デッドオアライブ!?というか生きてても致命傷です!飛鳥さんはもう少しオブラードにと黒ウサギからも散々」

 

「御チビも五月蝿い」

 

十六夜の投げた本がスコーンとジンに当たりまたジンは気絶した。リリがまた更に混乱している。

 

「それで…人のの快眠を邪魔したんだ。相応のプレゼントがあるんだろうな」

 

十六夜は快眠を邪魔され、軽く殺気を放っている。飛鳥はそんなの御構い無しと言う様に一枚の手紙を十六夜に突き付ける。

 

「いいからコレを読みなさい!」

 

十六夜は不機嫌ながらもその手紙を読む。

 

「何々……北と東の“階層支配者”による共同祭典“火龍誕生祭”の招待状?おい、ふざけんなよ。こんなことで人の快眠邪魔して側頭部にシャイニングウィザードを決めようとしたのかよ!?それに、なんだよこのラインナップ!?『北側の鬼種や精霊達が作り出した美術工芸品の展覧会および批評会に加え、様々な“主催者”がギフトゲームを開催。メインは“階層支配者”が主催する大祭を予定しております』だと!?クソが!少し面白そうじゃねえか、行ってみようかなオイ♪」

 

「ノリノリね…」

 

まさにノリノリである。

 

「待ってください!北側へ行くとしてもせめて黒ウサギのお姉ちゃんに相談してからにしてください。ほらジン君も起きて皆さんが北側に行っちゃうよ?」

 

「北側……北側だって⁉︎」

 

“北側”と言う単語を聞いてジンは慌てて飛び起きる。

 

「待ってください!まさか本当に北側へ行くつもりですか⁈」

 

「そうだが?」

 

「何処にそんな蓄えがあると思っているのですか⁈それにここから境界壁までどれだけの距離があると思っているのですか⁈リリもこの大祭のことは皆さんには秘密にと………………あ‼︎」

 

「「「秘密?」」」

 

ジンはしまったと言った表情を浮かべて口を手で押さえていた。

 

「そっか…こんな面白そうなお祭りを秘密にされてたんだ、私達。ぐすん」

 

「コミュニティを盛り上げようと毎日毎日頑張ってるのに、とっても残念だわ。ぐすん」

 

「ここらで一つ黒ウサギ達に痛い目を見てもらうのもいいかもしれないな。ぐすん」

 

あからさまな泣き真似をしながらニヤリと笑う問題児達にダラダラと汗を流すジン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒ウサギのお姉ちゃあぁぁぁぁぁん‼︎大変!」

 

「リリ⁈どうしたのですか?」

 

「あ、飛鳥様が十六夜様と耀様を連れて……………あ、こ、これ、手紙!」

 

『黒ウサギへ

北側の四〇〇〇〇〇〇外門と東側の三九九九九九九外門で開催する祭典に参加してきます。貴女も後から必ず来ること。あとレティシアもつれてくること。

私達に祭りの事を意図的に黙っていた罰として、今日中に私達を捕まえられなかった場合”四人ともコミュニティを脱退します”。蘭丸君はこのことは知らないので多分怒ります。死ぬ気で探してね。応援しているわ。

PSジン君は説明役に連れて行きます。』

 

「あ、あの問題児様方はあぁぁぁぁぁ‼︎」

 

黒ウサギの叫び声が響き渡る。

 

そして何も知らない所で脱退させられかけている蘭丸は不憫である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでこれからどうする?」

 

問題児+ジンは“六本傷”のの経営するカフェの一角を陣取り今後の事を話し合っていた。

 

「北にあるんだからとりあえず北に歩けば良いんじゃないかな?」

 

耀の素っ頓狂な発言にジンは溜息を吐く。

 

「もしかして北側の境界線までの距離を知らないのですね?」

 

「知らねえよ。そんなに遠いのか?」

 

「ではまず、箱庭の表面積が恒星並みだと言うことはご存知ですか?」

 

飛鳥と耀は知らないと言った表情で驚き、十六夜はそれは知っている様でそこまで驚いてはいなかった。

 

「だが箱庭の世界は殆どが野ざらしにされてるって聞いたぜ。それに、大小はあれど町もあると」

 

「ありますよ。ですがそれを差し引いても箱庭は世界最大の都市。箱庭の世界の表面積を占める比率は他の都市と比べ物になりません」

 

つまり箱庭の世界が太陽クラスであるなら地球の13000倍の大きさがあることになる。

 

「ま、まさか恒星の一割くらいを都市が占めてるとは言わないわよね?」

 

「流石にそこまでではありませんよ。比率と言っても極少数になりますし」

 

「そ、それはそうよね。それでここから北側の境界線までの距離はどれくらいなの?」

 

「ここは少し北寄りなので大雑把でいいなら……980000kmくらいかと」

 

「「「うわぉ!」」」

 

あまりの距離に三人は驚愕を隠せなかった。

 

「じゃあ“ペルセウス”の時みたいに外門と外門をつなげてもらうのは……?」

 

「境界門は断固拒否です!あれを起動させるのには相当の額がかかります。それこそコミュニティの全財産を上回ってしまいます」

 

「あーあ。こんな時に蘭丸がいれば簡単に行けたのにな」

 

十六夜が蘭丸を思い出す。

確かに蘭丸なら北側へ行くのには造作もないことだろうが現在彼は不在である。

 

「それにしても蘭丸君は何処に行ってるのかしら…屋敷の中を探し回っても見つからなかったし」

 

「蘭丸さんなら白夜叉様からの依頼で昨夜から“サウザンドアイズ”の方に行ってると思いますよ?」

 

*蘭丸said

 

「くしゅん‼︎…なんだ風邪か?ここ数年引いてないから随分と久しぶりって感じだな」

 

 

 

*蘭丸saidout

 

 

 

「へえ…“サウザンドアイズ”……そうか!送り主である白夜叉の所に行けばなんとかしてくれるんじゃねえか⁈」

 

「そうねどうしてそれを思いつかなかったのかしら」

 

「よし、こうなりゃ“サウザンドアイズ”に交渉しに行くぞゴラァ!」

 

「いくぞコラァ」

 

問題児達は目を輝かせて椅子から立つ。ジンは本日二回目の溜息を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?

感想、誤字報告、お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

北側へ

 

 

保存日時:2014年10月26日(日) 00:00

 

 

 

北側へ行く為に十六夜達は白夜叉に交渉すべく“サウザンドアイズ”の支店に来ていた。

 

「お帰りください」

 

店先で掃除をしていた女性店員に一蹴されていた。飛鳥は困った様に頭を抱える。

 

「そこそこの常連客なんだからもっと愛想良くてもいいのでは?」

 

「常連客とは店にお金を落としていってくれるお客様の事で毎度、換金しかしない者は取引相手と言うのです」

 

と飛鳥と女性店員が言い争っていると

 

「やっふぉぉぉぉぉ‼︎ようやく来おったな小僧‼︎」

 

嬉しそうな声を上げて、空中でスーパーアクセルを決めて着地した白夜叉。

 

「やれやれ、ぶっ飛んだ登場しか出来ないのかここのオーナーは」

 

十六夜は苦笑を浮かべながら白夜叉を見ていた。女性店員は頭を抱えていた。

 

「…招待ありがとう。でもどうやって北側に行こうか迷ってて…」

 

「よいよい、全部分かっておる。まずは中に入れ。条件次第では路銀は全て私が払ってやる。……秘密裏に話しておきたい事もあるしな」

 

白夜叉が一瞬ニヤリと笑う。

 

「それは面白いの?」

 

耀が白夜叉に問う。

 

「さあの。まあおんしら次第だ」

 

と問題児+ジンは白夜叉の私室に案内される。女性店員は不機嫌そうにそれを見ていた。

 

 

「さて本題に入る前に聞いておきたいことがある。おんしらが魔王関係のトラブルを引き受けているとの噂を耳にしたのだが本当か?」

 

「ええ、本当よ」

 

「それはコミュニティのリーダーとしての方針かジンよ」

 

白夜叉がジンの方を見る。

 

「はい。僕らは名も旗も無いのでこうして名を広めるしか方法がありません」

 

「ふむ、だがかなりのリスクを負うことになるぞ?」

 

「覚悟の上です。今の僕らでは上層には行くことが出来ません。だからこうして魔王に出向いてもらい、迎え撃つつもりです」

 

「まあその中で関係の無い魔王と戦うことになるがそれは望むところだ!と言うよりその方が面白いしな」

 

白夜叉に問い詰められていたが十六夜とジンの言葉を聞いて白夜叉は納得したかのように座り直す。

 

「そこまで考えとるなら良い。では、そのコミュニティに東のフロアマスターとして正式に依頼をしよう。よろしいかな、ジン殿?」

 

「は、はい!謹んでお受けします」

 

白夜叉のいつになく真剣な表情に戸惑いを見せるジンだがすぐに引き受ける。

 

「まず、北側の階層支配者(フロアマスター)の一角が世代交代は知っているか?急病で引退とか。此度の大祭は新たなフロアマスターである、火龍の誕生祭での」

 

白夜叉はさらに続ける。

 

「所でおんしらはフロアマスターについては何処まで知っておる?」

 

「私は全く知らないわ」

 

「私も」

 

「俺は少しは知ってる」

 

三人が三人それぞれの回答をした。十六夜に関しては流石博識であると言える。

 

階層支配者(フロアマスター)とは下層の秩序と成長を見守る者の事で魔王が現れた際には率先して戦う義務を設けられている。その義務と引き換えに主催者権限(ホストマスター)を与えられている。

 

「今回共同を依頼して来たのは北の階層支配者の一角、“サラマンドラ”のコミュニティでな」

 

「“サラマンドラ”⁈」

 

「知ってるの?」

 

「先代の時に親交のあったコミュニティです」

 

「ついでに言うと蘭丸は“サラマンドラ”にいるぞ」

 

「何?」

 

十六夜は驚く。

 

「あやつには私の代行として先に向かわせた。ついでにおんしらの事も売り込んでいるだろうな」

 

「それはそうと一体誰が火龍を襲名したのですか?」

 

ジンの補足

 

「次女のサンドラだ」

 

その名前にジンが驚く。

 

「そんな…っ‼︎彼女はまだ十一歳ですよ⁈」

 

「ジン君だって十一歳で私達のリーダーじゃない」

 

「それは…そうですが……」

 

ジンは恥ずかしそうに俯く。

 

「それで、今回の誕生祭は次代マスターのサンドラのお披露目も兼ねておる。じゃが、まだその幼さ故、東のフロアマスターの私に共同の主催者を依頼してきたと言うことだ」

 

「ちょっと待って。それなら他の北の階層支配者に頼むべきじゃないの?」

 

飛鳥ぎ疑問を白夜叉に向ける。白夜叉は困った様に頭をかく。

 

「それは…のう、少々わけがあってな」

 

「幼い権力者をよく思わない組織がある…そんな所だろ?」

 

「まあそれもあるが他にも色々と事情があっての…」

 

十六夜の台詞に否定とも肯定ともとれない言葉で返す白夜叉。

 

「ちょっと待って白夜叉。その話長くなる?」

 

耀が何かを思い出したかのような顔をしていた。

 

「そうだのう…短くてもあと一時間くらいかの」

 

マズイ!と言った表情の問題児達。ジンは立ち上がり

 

「白夜叉様!どうかこのまま「ジン君『黙りなさい!』」

 

飛鳥のギフトでジンは無理やり口を閉ざされた。

 

「白夜叉、今すぐ北側へ向かってくれ!」

 

「構わんが…内容は聞かなくてもいいのか?」

 

「構わねえ。事情は追い追い話す。……第一その方が面白い」

 

十六夜のセリフに白夜叉はニヤリと笑う。

 

「そうか面白いか…娯楽こそ我々神仏の生きる糧なのだからな。ジンには悪いが、面白いならば仕方がないのう」

 

ジンは絶望仕切った顔をしている。

 

やはり不憫である。

 

白夜叉はパンパンと二回柏手を打つ

 

「ほれ、北側に着いたぞ」

 

「「「「は?」」」」

 

四人は何が起きたのか分かっていない。980000kmの距離を一瞬で移動したと言うのを信じられるはずがない。

 

十六夜達は直ぐに支店の外に出る。そこには赤壁の境界壁、鉱石で彫像されたモニュメント、ゴシック調の尖塔群のアーチ、巨大な凱旋門、色彩鮮やかなカットグラスで飾られた歩廊と東側とは全く違う景色が広がっていた。

 

「今すぐ降りましょう!あのガラスの様なものも見て見たいし。いいでしょう?」

 

飛鳥が目を輝かせている。

 

「ああ、構わんよ。続きは後にでも……」

 

「見つけたのですよおぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

爆音を連れ黒ウサギが現れた。

 

「ふ、ふふ、フフフフ、ようぉぉぉやく見つけたのですよ、問題児様方!」

 

黒ウサギのその様は帝釈天の眷属と言うより仁王そのものである威圧感があった。

 

「逃げるぞ‼︎」

 

「え、ちょっと、」

 

「待って私も…」

 

十六夜が飛鳥を抱えて逃走し、耀も遅れながらも空中に飛んで逃げようとするが黒ウサギに足を掴まれた。

 

「捕まえたのですよ耀さん!アトデタップリトオセッキョウナノデスヨ…!」

 

「りょ、了解」

 

黒ウサギの迫力に耀は怯えていた。そして黒ウサギは耀を白夜叉にぶん投げた。

 

「グハァ⁉︎おい黒ウサギ!おんし最近礼節をかいておらんか⁈これでも私は東側の階層支配者…」

 

「耀さんをお願いします。黒ウサギは他の問題児様方を捕まえなければなりませんので」

 

「そ、そうか…何かは知らんが…頑張れ黒ウサギ」

 

黒ウサギは街の方へと猛スピードで消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





今回は短めです。

蘭丸が出ていませんがそこは気にせず!

「一応俺主役だぞ?」

………そこは気にせず!

「はぁ……次回をお楽しみに」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その頃そして連行


黒ウサギの他にサブヒロイン白夜叉、レティシア、ペストを追加してハーレム的なのを作ろうかとロリばっかりだなんて突っ込まないでください


「成る程な、実におんしららしい悪戯じゃな」

 

黒ウサギに捉えられた耀は白夜叉の私室に連れて来られていた。白夜叉は十六夜達の悪戯に笑っていた。

 

「だが“脱退”とは穏やかではないの。ちょいと悪質ではないかのう?」

 

「それは…少しだけ…でも黒ウサギだって悪いお金が無いことを説明してくれれば私達だってこんな強硬手段に出たりしなかった」

 

耀が少し拗ねた様に呟く。

 

「普段の行動が裏目に出たとは思わんか?」

 

そう言うと耀は俯いてしまった。白夜叉は苦笑を浮かべて耀を見る。

 

「そういえばおんしに出場してもらいたいゲームがあってな」

 

そう言うと白夜叉は袖から一枚の契約書類を取り出し耀に渡す。

 

【ギフトゲーム名『造物主達の決闘』

 

 ・参加資格、及び概要

      ・参加者は創作系のギフトを持つ。

      ・サポートとして、一名までの同伴を許可。

      ・決闘内容はその都度変化。

 ・授与される恩恵に関して

      ・"階層支配者"の火龍にプレイヤーが恩恵を進言できる

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。

 

“サウザンドアイズ”印

“サラマンドラ”印】

 

「創作系のギフト?」

 

「うむ。人造、霊造などを問わず製作者の存在するギフトのことだ。北側では過酷な環境に耐える為に恒久的に使用出来るギフトが重宝されておる。おんしの“生命の目録“に宿る恩恵ならば力試しのゲームも十分いけるじゃろう。本件とは別に祭りを盛り上げるのに一役買って欲しいのだ。勝者には強力な恩恵を用意するが……どうかの」

 

耀は契約書類から顔を上げると

 

「ねえ白夜叉、その恩恵で黒ウサギとも仲直り出来るかな」

 

「出来るともおんしにその気があるのでならな」

 

白夜叉が優しく微笑む。

 

「なら出場して見る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マンドラさん。会場の設備は完了しました」

 

一方蘭丸は“サラマンドラ”に来ていた。何故来ていたのかと言うと白夜叉の代行としてと、“ノーネーム”の存在を知ってもらう為である。

 

「マンドラさん、今回はありがとうございます」

 

「うむ。貴様は白夜叉の代行でもあるからな。それに“名無し”だが信頼に足りる人物だと証明したからな」

 

この男は“サラマンドラ”の側近を務めるマンドラである。次代党首であるサンドラのアニメであり、幼いサンドラを支えている男である。最初は“ノーネーム”だと言うことに怒っていたが蘭丸の仕事ぶりやその巧みな話術などマンドラを感服させたのである。

 

「それと…敬語はやめて良い。なんとなく貴様に敬語を使われると調子が狂うな」

 

初対面であるのになとマンドラは苦笑を浮かべいる。蘭丸は笑いながら窓から外を眺める。

 

「ん?………………なぁっ⁉︎」

 

蘭丸窓からの景色に疑問を浮かべると、その正体を確認すると蘭丸は顔が青ざめる感覚を覚えていた。

 

「どうした、蘭丸」

 

マンドラは気になって窓から外を見る。そこには何者かが高速で移動していた。

 

「な、なんだあれは」

 

「あれが俺の言っていたコミュニティの問題児とその苦労人だ」

 

蘭丸は頭を抱えて嘆く。そして一回深呼吸すると立ち上がり

 

「ちょっとあいつらにお灸を据えてくる」

 

そう言うと蘭丸は“サラマンドラ”の本陣営を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

現在十六夜と黒ウサギは互いの命令権を掛けてのギフトゲームを行っていた。だが十六夜は終始不満な表情を浮かべていた。

 

「おいコラ黒ウサギ‼︎さっきからスカートの中が見えそうで見えねえぞ!どうなってんだコラ!」

 

「およよ、怒るとこそこでございますか。これは白夜叉様のご厚意で『絶対に見えそうで見えない鉄壁ミニスカート』のギフトを与えられている物なのですよ」

 

黒ウサギはスカートの端を摘み、ふふんと鼻を鳴らす。

 

「チッ!何だよあの野郎…チラリストかクソがッ‼︎こうなりゃスカート中に頭を突っ込んでやる‼︎」

 

「黙らっしゃいこの御馬鹿様‼︎…最もそんな事を言えるのはここまでです。……黒ウサギの勝利です」

 

黒ウサギはそう言うと屋根から飛び降りる。これなら十六夜が直ぐに追ったら空中で捕まり、追わなければ黒ウサギを見失ってしまう十六夜は詰んだのである。

 

…そう十六夜が一般の考え方の持ち主ならばの話だが。残念ながら十六夜は問題児である。

 

十六夜は時計台を蹴った。時計台は倒壊した。黒ウサギは崩落に巻き込まれそうになり脱出する。

 

倒壊した時計台は瓦礫となって落ちてくる。

 

「うわあぁぁぁぁぁ‼︎」

 

「瓦礫が落ちて来るそ‼︎」

 

ギャラリーは逃げ惑う。十六夜と黒ウサギは瓦礫を破壊する為に一旦地面に着地し、十六夜は拳を握り、黒ウサギが金剛杵を取り出す。

 

だが瓦礫は空中で動きを止めていた。そしてその瓦礫の中止にいる人物を見て黒ウサギと十六夜は言葉を呑んだ。

 

「あ………」

 

「ら、蘭丸さん……?」

 

“ノーネーム”の問題児でありながら白夜叉の代行として先に“サラマンドラ”に赴いていた二宮蘭丸はもれなく笑顔と青筋のセットをと言わんばかりのオーラを放っていた。

 

「お前ら………」

 

蘭丸はギフトで時計台を壊れる前の時間まで戻した。そして瞬間移動で黒ウサギと十六夜の背後に回り込み、二人の首を掴んだ。

 

「ナニヲヤッテイタンダ?イマナラオコラナイカラショウジキニハナシナヨ」

 

「いや、…まあちょっとな……」

 

「ら、蘭丸さん……黒ウサギはただ問題児様方を…」

 

((ヤバイ(のですよ)これは完全にキレてる(お怒りなのです))

 

十六夜と黒ウサギは冷や汗をダラダラかきながらなんとか弁明を考えていた。

 

「キコエナカッタ?………………………………ナニガアッナンダヨ」

 

「「すいませんでした‼︎」」

 

十六夜と黒ウサギは瞬時に土下座をした。

 

その時間…0.01秒。これぞ神格級の土下座である。

 

そして十六夜と黒ウサギはその場で三十分程説教を受けた後、“サラマンドラ”に連行されて行った。

 

「本っ当にすまん‼︎マンドラにサンドラ‼︎」

 

蘭丸は“サラマンドラ”に着くなりサンドラとマンドラに頭を下げた。

 

「う、うむ気にするな蘭丸」

 

「え、ええそれに死傷者も無く、壊れた時計台も貴方が修復してくれたのでこの件は不問とさせてもらいます」

 

サンドラもマンドラもその事は咎めなかった。その様子を見ていた白夜叉はクックックと笑みをこぼした。

 

「おんしらよ、これは蘭丸に大きな仮が出来たな。このマンドラと言う男は頭の固い男での。蘭丸が仲介しなければどうなってたのだろうな」

 

「まあ、今回は十六夜達の方に非がある様だし、飛鳥と耀も含めて続きは後だ」

 

蘭丸はやっと怒りのオーラを閉まった。黒ウサギと十六夜はひとまず安堵の表情を浮かべた。

 

「それはそうとのさっき言った本題に移ろうかと思うかの。実はおんしらを呼んだのはこの封書が原因での」

 

白夜叉の差し出した封書には

 

『“火龍誕生祭”にて魔王襲来の兆しあり』

 

と書かれていた。

 

「魔王だと?」

 

十六夜は驚愕…と言うより子供の様に目を輝かせていた。まるで自分と戦える相手を楽しみに待っている様だ。

 

「俺の未来予知でも魔王襲来の予感はしてんだが、なんでこれだけなんだ?他に分かってることは無いのか?」

 

蘭丸が問うと白夜叉は困った様に頭をかく。

 

「それがのう、どうやら他の階層支配者が魔王と結託している可能性があってな手引きした相手は分かっているそうだが名前は出せそうにないらしくてな私でも全てを知っているわけでもない」

 

つまりその為に“ノーネーム”にはその護衛を勤めて欲しいらしい。

 

「まあ魔王はこの最強の階層支配者に任せておいておんしらはサンドラの梅雨払いでもしておいてくれ」

 

白夜叉は胸を張りドンと構えている。十六夜はそれを見てニヤリと笑う。

 

「なあ白夜叉。もし魔王が出たとして…どこかの誰かが打ち取っても問題ないよな?」

 

その言葉に白夜叉は一瞬ポカンとなるが直ぐに笑い

 

「よかろう隙あらば魔王の首を狙え」

 

「OK任せとけ」

 

「さて、俺にとっては二戦目の魔王戦か…腕が鳴るな」

 

十六夜と蘭丸はニヤリと笑っていた。それを見ていた黒ウサギは少し浮かない顔をしていた。

 

(何でしょうか?この胸騒ぎは…………)

 

 

 

 

**

 

「ぷぷぷぷぷ♪さて、久しぶりにその力を見せてもらうよ二宮蘭丸くん♪君がかつて………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界を消し去ったその力を!」

 

 

 

 

 




なんかいろいろと設定を追加してるような気が……でもそこはなんとかします‼︎

「おー頑張れ!」

ありがとうございます蘭丸さん!

では次回もお楽しみに‼︎

「誤字、感想お待ちしてます」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

らってんふぇんがー‼︎

 

 

十六夜と黒ウサギが追いかけっこをしている間、飛鳥とレティシアが祭りを堪能していた。

 

「レティシア、これは何?」

 

「クレープだ。食わず嫌いか。美味だぞ」

 

「いえ、そのまま噛り付くのね…」

 

飛鳥はレティシアの口の周りにクリームが着いているのに少し抵抗を覚えるが意を決してクレープに噛り付く。

 

「美味しいわこれ!とっても甘いわ」

 

「それは良かった これくらいで二の足を踏まれたのでは南側には行けないからな」

 

「なんでなの?」

 

「南側では“切る、焼く、食う”が基本だそうだ」

 

「そう、春日部さんが喜びそうね………あら、レティシア、あれは?」

 

飛鳥の指差す方向にはとんがり帽子を被った手のひらサイズの少女がいた。

 

「ああ、あれは「精霊か?」ん?」

 

レティシアが説明しようとすると後ろから声が聞こえたのでレティシアは声の方を向くと、そこには蘭丸がいた。

 

「ら、蘭丸⁈………あっ!」

 

レティシアは慌て少し距離を取ろうとあとずさむがレティシアは足を引っ掛けてよろけた。

 

「おっと。大丈夫か?」

 

「あ、あああああ………///」

 

それを蘭丸が受け止めた。しかも抱え方が悪く、顔と顔の距離がかなり近い。レティシアはまるでゆでだこの様に紅くなった。

 

レティシアは慌てて蘭丸から少し離れた。蘭丸は自分が何か悪い事をしたのかと戸惑っている。飛鳥は一人置いてけぼりになっていた。

 

「オッホン!……でこの精霊は?」

 

「あ、ああ、あのタイプの小精霊通常は集団で行動する群体精霊だからな、あの精霊は恐らくはぐれだろうな」

 

「ふーん」

 

飛鳥はレティシアの説明を聞きながらその精霊に近づく

 

「!ひゃあ〜〜‼︎」

 

精霊は驚いてそこから逃げ出した。

 

飛鳥は追いかけると言ってレティシアに自分のクレープを渡し走り出した。

 

「蘭丸、私は飛鳥を追ってくる。先に“サウザンドアイズ”に戻っていてくれ」

 

レティシアは自分と飛鳥の分のクレープを渡し、飛鳥を追おうとした。

 

「了解!ん?レティシア、ちょっと待て…………ほらクリームついてるぞ?」

 

と蘭丸はレティシアの頬についているクリームを指でとりそれを舐めた。

 

「………///!で、では飛鳥を追ってくる!」

 

ふたたび顔を紅くしたレティシアは翼を生やし、凄いスピードで逃げる様に飛んで行った。

 

「ったく…俺がなにしたってんだ?」

 

蘭丸は苦笑いを浮かべながら受け取ったクレープを人かじりした。

 

「ん!甘いなコレ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと捕まえたわ」

 

飛鳥はやっとの事で小精霊を捕まえた。

 

「安心して、別にとって食おうってんじゃ無いから」

 

「ひゃあ〜」

 

どうやらおなかが空いているらしい。そう見て取った飛鳥は懐から買ったクッキーを取り出す。

 

「はいこれ。友達の証よ」

 

「‼︎」

 

焼きたてのクッキーの香りに誘われてクッキーを受け取ったその小精霊はうれしそうにクッキーを齧っている。

 

「私は久遠飛鳥よ言える?」

 

「……あすかー?」

 

「ちょっと伸ばしすぎね。最後はもっとメリハリをつけて疑問形は無しよ」

 

「あすか!」

 

「ふふ…ありがとう」

 

「じゃあ貴女のお名前は?」

 

「らってんふぇんがー!」

 

飛鳥はその小精霊の堂々とした態度で語られる名があまりにも似つかわしくないものであった為か、困惑していた。

 

「らってんふぇんがー?それが貴女の名前なの?」

 

「んーん、コミュ!」

 

「コミュ、コミュニティのことね。でも貴女のお名前は?」

 

「??」

 

飛鳥の言葉に小精霊は首を傾げる。この小精霊には名前がないらしい。

 

「あすか!」

 

「何かしら?」

 

飛鳥が思考に陥っていると小精霊が声をかけてくる。そしてその指差す方向には展覧会の会場があった。

 

飛鳥はせっかくだと言うことで展覧会を見ることにした。

 

「わあ…素敵」

 

飛鳥は会場に置かれた数々の出展物に目を奪われる。様々な煌びやかな出展物は飛鳥が今までに見てきたどの美術品よりも美しく、繊細なものであった。

北側は創作系のギフトが豊富である。この展覧会の規模はそこまで大きくはないがそれでもその北側がいかに創作に力を入れているのかがうかがい知れる。

 

「それに凄い数ね。沢山のコミュニティが出店してるのね」

 

「きれー」

 

その美しい作品の数々に飛鳥は魅了されていた。

 

「もっと奥があるようね。あっちが会場の中心かしら?」

 

飛鳥は会場の奥へと足を運ぶ。

会場の奥の開けた空間には、燃えるような紅で彩られた鋼の巨人がそびえ立っていた。

 

「紅い鋼の巨人?」

 

「おっきー!」

 

「凄いわね一体どんなコミュニティが…」

 

「らってんふぇんがー!」

 

飛鳥が巨人の脇にある制作コミュニティの欄には“ラッテンフェンガー”と書かれていた。

 

「これって貴女のコミュニティが作ったの?」

 

「えっへん!」

 

飛鳥の問いかけにその小精霊は胸を張る。

 

「『ディーン』・・・・それがこの巨人の名前なのね。すごいわね。"ラッテンフェンガー"のコミュ二ティは」

 

飛鳥は『ディーン』と“ラッテンフェンガー”に感心しながら奥へと進んでいく。

 

…が突如として吹いた風により、会場の松明は消え、辺りは暗くなった。

 

「どうした⁈急に暗くなったぞ?」

 

「と、取り敢えず近く明かりを付けるんだ!」

 

飛鳥も近くのろうそくに火をともそうとした時に、突如不気味な明かりが灯った。

 

『……ミツケタ。ヨウヤクミツケタ……』

 

そしてその明かりからさらに不気味な言葉が響く。

 

「卑怯者‼︎姿を隠さず出て来なさい‼︎」

 

飛鳥の声が反響するが、反応は無い。

 

『嗚呼、ヨウヤクミツケタ………“ラッテンフェンガー”ノ名ヲ名乗ル不埒者‼︎』

 

一喝すると壁がうようよと動き出す。その声の正体は大量のネズミだ。

 

「こ、この……『大人しく巣に帰りなさい‼︎』」

 

飛鳥が“威光”で追い払おうとするが、ネズミは止まらない。

 

(“威光”が通じない⁈)

 

飛鳥は咄嗟に白銀の十時剣で数匹薙ぎ払うが数匹倒れても数十匹が襲ってくる。

 

(まさか…この子が狙われてる?)

 

ネズミの狙いに気付いた飛鳥はその小精霊を服の中に押し込む。

 

「ムギュ⁈」

 

「大人しく入ってなさい!落ちては駄目よ‼︎」

 

飛鳥はそのまま走り出す。その際に十時剣で薙ぎ払いつつ、ネズミから逃げる。

 

(駄目…追いつかれる!)

 

「ネズミ風情が!我が同胞に牙を向けるとは何事だ!」

 

怒号と共に黒い竜巻のようなものがネズミ達を殺戮する。声の主は幼い幼女の姿から大人の女性と言った姿に変わっていたレティシアであった。服装もメイド服も真紅のレザージャケットに代わり拘束具のような奇形なスカートを履いている。

 

「術者は何処にいる!姿を見せよ!往来の場で強襲したにはそれ相応の覚悟があってのことだろう!コミュニティの名を晒し、姿を見せ口上を述べよ!」

 

レティシアが叫ぶが、反応は無い。どうやら既に術者は姿をくらませた様だ。

 

「貴女、レティシアなの?」

 

「ああ」

 

「貴女ってこんなに凄かったのね」

 

「あ、あのな主殿。褒められるのは嬉しいがその反応は流石に失礼だぞ。神格を失ったとはいえ、私は元魔王で純血の吸血鬼で誇り高き“箱庭の騎士”。ネズミごとき幾千を相手にしても遅れをとるはずがない」

 

レティシアは拗ねたような口調で言った。

 

「それより飛鳥。怪我は無事か?」

 

「ええ、この服に加護があったおかげで大きな怪我は無いわ。流石に噛まれた箇所は服が破けたけれど」

 

「あすか!」

 

急に飛鳥の胸から小精霊が飛び出し、飛鳥に抱き付いた。

 

「あすか!あすかぁ!」

 

小精霊は今にも泣きそうだが飛鳥は「大丈夫よ」と言いながらその小精霊の頭を撫でる。

 

「やれやれ、取り敢えず日も落ちて来たことだ。今日はその小精霊を連れて帰ろう」

 

「ええ、そうね」

 

レティシアの飛鳥は“サウザンドアイズ”に戻ることにした。

 

 






誤字、感想、お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

作戦会議

 

 

「直ぐにお風呂場へ行ってください‼︎その様な身なりで“サウザンドアイズ”の暖簾をくぐらせるわけにはいきません!」

 

女性店員は飛鳥の姿を見るなり半ば強引な形で風呂場へと連れて行った。そしてその後、黒ウサギ、白夜叉、レティシア、耀も風呂場へと向かった。

 

そして十六夜、ジン、蘭丸の男三人も風呂に入っていた。

 

「んで蘭丸は一体どうして北側に来てたんだ?」

 

「俺は今日だけじゃなくてもいろいろ“サウザンドアイズ”の商談とかにやってるし、今回は展示会の打ち合わせとかで白夜叉の代わりって事で来てた」

 

マンドラを宥めるのは大変だったと苦笑しながら髪を掻き上げる。

 

女風呂からスコーン‼︎と桶の音が聞こえた。恐らく白夜叉がセクハラをしたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして十六夜とジンは風呂から上がって談笑していた。

 

「あら?そんなところで会談中?」

 

そこに女性陣が姿を出した。

 

「ほう。こりゃあなかなかいい眺めだな御チビ」

 

「え?」

 

十六夜の言葉にジンはわけのわからない顔をしていた。

 

「黒ウサギやお嬢様の薄い布の上からでも分かる二の腕から乳房にかけての豊かな発育は扇情的だが、それとは相対的にスレンダーながらも、健康的な素肌の春日部やレティシアの髪から滴る水が鎖骨のラインをスウッと流れ落ちる様は自然に慎ましい胸の方へと視線を誘導するのは確定的にあ……」

 

スコーン‼︎

 

「変態しかいないの⁈このコミュニティは⁈」

 

「白夜叉様も十六夜さんもみんなお馬鹿様です!」

 

「お、落ち着いてください…」

 

怒る黒ウサギと飛鳥を慌てて宥めるジン。傍らでは十六夜と白夜叉が同士を見つけた様に腕を組む。

 

「そう言えば主殿、蘭丸はまだ風呂なのか?」

 

レティシアの言葉に皆がハッ!となった。確かに男性陣は上がっているのに蘭丸だけが上がっていない。

 

「いや、上がる時には同じだったんだが……」

 

「おいおい、今また十六夜と白夜叉辺りがアホなことをやったのか?」

 

「「「!!!!」」」

 

上がってきた蘭丸の姿を見て女性陣は絶句した。正確には黒ウサギ、レティシア、白夜叉の三人である。

蘭丸の髪や顔がツヤツヤであって形容しにくいが強いて言うなら女子力の塊をまとった蘭丸がいたのだ。

 

「ら、蘭丸さん……まさか遅かったのって」

 

「ああ、髪のトリートメントや洗顔とかやっててな……北側でいい石鹸とか手に入ったからな、それの試しを兼ねてだがな」

 

蘭丸はさもや当然の様に言っているが三人は凹んでいる。

 

(蘭丸がまさか美容にも気を使っていたなんて…)

 

(と言うより女でもここまで出来る人はそういないぞ?)

 

(い、一瞬別人に思えたぞ)

 

と黒ウサギ、レティシア、白夜叉の順番で凹んでいる。

 

「おい、俺がなんかしたのか?女ならこれ以上のことやってんじゃ無いのか?」

 

と蘭丸は途轍もない爆弾を投下した。

 

「「「蘭丸(さん)…それはおんし(お前)(貴方)が言っていい言葉ではない(のです‼︎)‼︎」」」

 

「お、おう…なんかすまん」

 

その怨念ともとれる声に蘭丸は後ずさる。

 

「ねえ十六夜。蘭丸って…」

 

「ああ、鈍いしデリカシー無いしな。そのうち刺されるぞ」

 

「蘭丸君ってある意味凄いわね…」

 

と問題児三人は黒ウサギ達を哀れんでいた。

 

……………

 

「…おい白夜叉。お前いつの間に蘭丸に惚れてたんだよ」(ヒソヒソ)

 

「うむ、実はの、二週間程前程かの…//」(ヒソヒソ)

 

まさかの白夜叉にもフラグを建てていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして場は白夜叉の私室へと移動して明日の作戦会議と………

 

「それでは…第一回黒ウサギの衣装をエロ可愛くする会議を……」

 

「始めません!」

 

「始めます」

 

「始めません‼︎もう、ちゃんと話を進めてください」

 

やはりこうなったのである。白夜叉のセクハラと十六夜の悪ノリにウサ耳を立てて怒る黒ウサギ。

 

「だが審判の件は事実だぞ?おんしらが騒ぎを起こして“箱庭の貴族”が来ているという事になってな。公に出さなければなと言うことになったんだ。頼まれてくれるかの?もちろん報酬もつける」

 

「分かりました。この黒ウサギ謹んでお受けしましょう!」

 

黒ウサギはぴょこんとウサ耳を立てて了承する。

 

「……では明日の黒ウサギの審判衣装は例のスケスケビスチェスカートを」

 

「着ません‼︎」

 

「着ます!」

 

「断固着ません!」

 

とまた話は脱線して行くのである。そこで耀が思い出したかの様に白夜叉に詰める。

 

「…そう言えば白夜叉。私の明日の相手のコミュニティって何処?」

 

「すまんがそれは不公平だからの、教えられんのだ。主催者として教えられるのはこれくらいだ」

 

と白夜叉はゲームの契約書類をテーブルに置く。

 

「“ウィル・オー・ウィスプ”に“ラッテンフエンガー”やはり強いのか?」

 

と契約書類を見た蘭丸は黒ウサギに質問する。

 

「はい、どちらとも一つ上の階層のコミュニティですので……」

 

(“ラッテンフエンガー”ですって⁈)

 

飛鳥は自分が洞窟であった出来事を思い出していた。

 

十六夜は顎に手を当てて契約書類を眺めている。

 

「それにしても“ラッテンフエンガー”ねえ、さしずめ相手は“ハーメルンの笛吹き”ってところか?」

 

「え?」

 

「どう言うことだ小僧。いやすまん実は“ハーメルンの笛吹き”とはとある魔王の下部コミュニティだったものの名だ」

 

「魔王だと?」

 

魔王と言う言葉に全員に緊張が走る。

 

「魔王のコミュニティの名は“幻想魔導書郡”。全200篇にも及ぶ魔書から悪魔を呼び出した驚異の召喚士の統べたコュニティだ」

 

「ですがそのコミュニティのリーダーは既に敗北しこの世を去ったはず」

 

「しかし十六夜さんは"ラッテンフェンガー"が"ハーメルンの笛吹き"だとおっしゃいました。それに例の"予言"のこともあります。滅んだ魔王の残党がラッテンフェンガーの名を騙ってこの祭りに忍び込んでいるかもしれません。もし何かご存知なら万が一に備えてご教授をお願いします」

 

「事情はわかった。だが俺が知っているのは童話としての“ハーメルンの笛吹き”だけだ」

 

と十六夜はジンに耳打してジンに説明を任せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、それがハーメルンの笛吹きか」

 

「でもその隠語がなぜネズミ捕りの男なのかしら?」

 

「それはグリム童話の道化師が鼠を操る道化師だからです」

 

(鼠を操るですって?)

 

飛鳥は展示会の出来事を思い出していた。

 

「それにしても驚きました。ジン坊ちゃんは何処で“ハーメルンの笛吹き”をご存知に?」

 

いつの間にかそこまで知識をつけていたジンに驚きながらも賞賛する黒ウサギ。

 

「それは十六夜さんと地下の書庫で未読の書籍を読み込んだ時にだよ」

 

「そういう知識は神話や伝承を備えた相手の対抗手段になる可能性があるからな」

 

「なるほどな…」

 

「…………」

 

蘭丸は一人外を眺めていた。

 

「白夜叉、話が終わりなら少しお前に話しておきたいことがある」

 

そう言うと蘭丸は白夜叉以外を退出させた。私室から退出した。

 

(蘭丸さん…一体どうしたのでしょうか…話を聞いてなさそうですが…)

 

黒ウサギは心配そうに蘭丸を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「して蘭丸よ。話とはなんだ?」

 

二人になった白夜叉は何時もより真剣な口調で蘭丸に問う。

 

「ああ、俺が箱庭来て直ぐにグールを倒したことは覚えてるよな?」

 

「うむ、あやつのゲームの難易度が高く、最近推定五桁の魔王と言われたばかりだ」

 

魔神グール、別名魔王グールは実体が存在しなくそのゲーム盤を破壊しなければ倒せなく、しかもその破壊箇所を見つけなければ破壊出来ないかった。その難易度故、グールは五桁の魔王と推定されたのだ。

 

「実はあいつが出現したのは俺が関係していると思うんだ」

 

「何⁈」

 

「俺のギフトって時空間を支配するギフトだが、実はこれで半分なんだ」

 

「ふむ…半分とは?」

 

白夜叉は素朴な質問をぶつける。

 

「黒ウサギには言ったことがあるが俺は昔地球の四分の一を消し去ったんだ」

 

「なんだと⁈そこまでの実力なら下層にいていい訳が…」

 

「だから今はそこまでの力は無い。俺のギフトを欲しがった奴が俺のギフトを半分持って行ったんだ。恐らくあいつも此処に来る。火龍誕生祭の混乱に乗じてな。」

 

白夜叉は息を呑む。

 

「俺はあいつらを巻き込みたくないんだ。あいつとは俺がケリをつける。だから…」

 

「“ノーネーム”を抜けると?」

 

「⁈」

 

意を突かれた蘭丸は目を開く。その蘭丸を白夜叉は優しく抱擁する。

 

「白夜叉?」

 

「あやつらはそんなことは気にせんよ。それに明日はこの私もいるのだ。万一の時にはおんしは私が守るからの」

 

「白夜叉……サンキューな」

 

白夜叉のその小さな身体からは想像出来ない程の白夜叉の胸の中の大きさそれに蘭丸はホロリと涙を流した。

 

 

 

 

 

「して何故この話を今のタイミングで?」

 

白夜叉の疑問はそこだ。それを隠しておく必要があったのか。

 

「いや、ただなんとなくだ。明日は魔王が来るかもしれないからなタイミングとしては悪くないかと思ってだな」

 

「おんしはよくわからない男じゃの…」

 

白夜叉は呆れてため息を吐く。だが白夜叉は微笑み

 

「…だがそこが此奴の魅力の一つだがな…」

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「な、なんでもない!それより一杯どうだ?いい酒があるぞ」

 

と白夜叉は酒瓶を取り出した。

 

「お、いいね!流石白夜叉」

 

蘭丸は未成年だが白夜叉からグラスを受け取ろうとした。

 

「何をやっているのですかこのお馬鹿様あぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

が障子を勢い良く開けた黒ウサギによってそれは阻まれた。

 

「明日は耀さんのギフトゲームなのですよ⁈それに蘭丸さんはまだ未成年のはずですよね⁈」

 

「俺の世界だと酒に関しては成人してなくても呑めるぞ?」

 

「それでもお酒は明日終わってからですよ!」

 

と黒ウサギは酒瓶とグラスを取り上げた。

 

「悪かったよ黒ウサギ」

 

蘭丸は微笑を浮かべながらも謝罪する。

 

「い、いえもういいのですよ」

 

黒ウサギは素直に謝罪した蘭丸に驚いたが直ぐに取り直した。

 

「…そ、それにお酒を呑むなら黒ウサギもご一緒に…」

 

「ん?何て?」

 

「な、なんでもありません!///」

 

黒ウサギは紅くして出て行った。

 

「なあ白夜叉。俺黒ウサギに嫌われてんのかね」

 

蘭丸は黒ウサギのいた所を見ながら呟いた。

 

「いや、むしろおんしは黒ウサギに好かれておるぞ」

 

「そうかね」

 

ため息を吐きながら蘭丸は自室に戻るべく腰を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 





誤字、感想、お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

“火龍誕生祭”

 

「くあっ……」

 

明け方、まだ日が登らない程の時間に二宮蘭丸は目を覚ます。そこからトレーニングウェアに着替え、外に出るとストレッチを始める。

 

「さて、今日は腕立て五百と腹筋五百、スクワット五百に一時間半のランニングだな」

 

今日もいつもの通りのハードメニューから彼の一日は始まるのであった。

 

「ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!……」

 

一時間半かけてゆっくりと筋トレをした後、蘭丸は“サラマンドラ”の街を走っていた。ちなみにそのスピードは一般的なランニングとは比にならない速さである。

 

「ふう〜。取り敢えず今日は此処までだな………ん?」

 

蘭丸は息を整える為に歩いていると、ネズミと道化師の描かれたステンドグラスであった。

 

「このステンドグラス……昨日言っていた“ハーメルンの笛吹き”のやつか……そう言えば、走っている間とかこの間黒ウサギと十六夜を止めた時にも数枚同じやつを見かけたが」

 

蘭丸は見覚えのあるステンドグラスを凝視している。出典コミュニティは“ノーネーム”と書かれていた。

 

(そう言えば展示品の輸送の手伝いをしてた時にも同じやつを見たな……確か…百枚位だっけかな?祭りが終わったら白夜叉にでも聞いてみよう)

 

蘭丸は疑問を胸の奥にしまい込み、“サウザンドアイズ”の支店へと向かった。

 

**

 

「蘭丸さん⁈どこへ行っていたのですか⁈」

 

戻ると黒ウサギが蘭丸に詰め寄って来た。だが蘭丸はまだ皆寝てると、黒ウサギを鎮めた。

 

「どこって、いつものトレーニングをやってただけだけど…」

 

蘭丸は黒ウサギが持っていた水の入っているコップを取るとそれを一気に飲み干した。

 

「あっ!」

 

「ん?どうした?」

 

黒ウサギが驚いたことに蘭丸も少し驚いた。蘭丸は水を飲んだだけで何を?と思っている。

 

(く、黒ウサギの飲み掛けの水を…///)

 

つまり蘭丸は間接キスをしていたのだ。

 

「ああ!これ黒ウサギが飲もうとしてたのか?悪い黒ウサギ!」

 

蘭丸は黒ウサギにコップを返すと直ぐに謝った。

 

「い、いえ……むしろボソボソ…………///」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「な、なんでもありません‼︎///」

 

黒ウサギは顔を真っ赤にしてその場を逃げる様に去った。

しかしその顔は少し嬉しそうなのは黒ウサギしか知らない。

 

蘭丸は何が起きたのか分からずその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「長らくお待たせしました!これより火龍誕生祭のメインギフトゲーム“創造主の決闘”を行いたいと思います。進行、及び審判は“サウザンドアイズ”の専属ジャッジでお馴染みの黒ウサギが務めさせていただきます」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ‼︎月の兎が本当に来たあぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

「黒ウサギイぃぃぃぃぃぃぃ‼︎お前に会う為に此処まで来たぞおぉぉぉぉぉ‼︎」

 

「今日こそ、スカートの中を見て見せるぞおぉぉぉぉぉ‼︎」

 

と狂った様に騒ぐ観客(当然男)に黒ウサギは笑みをうかべるも自慢の素敵耳をへにょりとさせていた。

 

「すごい人気だな。黒ウサギって」

 

「人気があるって言うの?あれ」

 

それを見て蘭丸は黒ウサギが人気があると勘違いしており飛鳥はそんな蘭丸に呆れていた。

 

 

「そう言えば白夜叉、黒ウサギのスカートを見えそうで見えない様にしたのはどういう了見だ?チラリストなんて趣味が悪過ぎる」

 

十六夜が不服そうに眉を寄せる。白夜叉は呆れながら笑う。

 

「やれやれ。おんし程の男が真の芸術を理解せんとはな。それではあそこの有象無象と変わらんな。所詮おんしもその程度の男なのか?」

 

「へえ、言ってくれるじゃねえか。つまりお前にはスカートの中を見えなくする事が芸術的になるのか?」

 

「「考えてみよ。おんしら人類の最も大きな動力源はなんだ? エロか? なるほど、それもある。だがときにそれを上回るのが想像力!未知への期待! 知らぬことから知る渇望‼︎小僧よ、貴様ほどの男ならばさぞかし数々の芸術品を見てきたことだろう!その中にも未知という名の神秘があったはず! 例えばそう!モナリザの美女の謎に宿る神秘性! ミロのヴィーナスに宿る神秘性!星々の海の果てに垣間見えるその神秘性!そして乙女のスカートに宿る神秘性!それらの神秘に宿る圧倒的な探究心は、同時に至ることの出来ない苦汁。その苦渋はやがて己の裡においてより昇華される。そして私は気づいた。真の芸術とは…己が宇宙の中にある‼︎」

 

「己が宇宙の中…………だと?」

 

十六夜は雷が落ちたかの様な驚愕の表情を浮かべている。

 

「そう!そしてそれは乙女のスカートの中も同じ事。見えてしまえば下品な下着も、見えなければ芸術だ!」

 

「見えなければ………芸術か‼︎」

 

「さあ若者よ。今こそ世界の真実を確かめようぞ。おんしならそこに辿り着けると信じてる」

 

「白夜叉…」

 

十六夜と白夜叉は双眼鏡で黒ウサギのスカートを追い始めた。そのやりとりをサンドラはなんとも言えない表情をしていた。

 

「し、白夜叉様?何か悪い物でも食べたのですか?」

 

「見るなサンドラ。馬鹿が移る」

 

「さて、そろそろ耀の試合が始まるぞ」

 

と蘭丸は既にそのやりとりを感心は無く耀を見ていた。

 

「ら、蘭丸……おんしも男ならそういう物に興味があったりしないのか?」

 

白夜叉は少し不安気に尋ねる。

 

「いや、大丈夫だ。俺はそう言うの気にしないし仮に大切な人が特殊性癖があっても俺は気にしないからな。安心して芸術を鑑賞してろ」

 

蘭丸はこう心に決めていたのだ。

 

“こいつらは流すのが一番”だと。

 

こうして“造物主達の決闘”が始まった。“ノーネーム”の相手は北の六桁のコミュニティである“ウィル・オ・ウィスプ”のアーシャ=イグニファトゥスとジャック・オー・ランタン出会った。

 

始めは耀のゲームメイクで戦況を優位に進めていたがアーシャの補佐であるジャックが耀の足止めをした。不死を持っているジャックに耀は勝てないと判断し、降参した。

 

 

 

 

 

 

 

「いやはやなかなかのゲームメイクだったのぅ」

 

「ああ、不死の相手によくやったよな」

 

「ええ、とても素晴らしいゲームだったわね」

 

「まあこれもいい経験になっただろうな」

 

四人はそれぞれの感想を述べていた。

 

「取り敢えず…………ん?っ‼︎おいおい!」

 

蘭丸が空を仰ぎながら驚く。それに続き十六夜達も空を仰ぐ。そしてその中の一枚の封書を取り読む。

 

【ギフトゲーム名 『The PIED PIPER of HAMELIN』

 

・プレイヤー

現時点で三九九九九九九外門、四○○○○○○外門の境界壁、舞台区画に存在する参加者、主催者の全コミュニティ

 

・プレイヤー側ホスト指定ゲームマスター

太陽の運行者、星霊白夜叉

 

・ホスト側勝利条件

全プレイヤーの屈服、殺害

 

・プレイヤー側勝利条件

一、ゲーマスターの打倒

 

二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ

 

・宣誓

上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

“グリムグリモハーメルン”印】

 

 

会場には一瞬沈黙が訪れたが直ぐに観客から叫び声が上がった。

 

「魔王が………魔王が現れたぞおぉぉぉぉぉ‼︎」

 

「来たか……」

 

蘭丸は表情を顰め、椅子から立ち上がった。




誤字、感想、お待ちしております!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『The PIED PIPER of HAMELIN』①

 

「現れたか…」

 

蘭丸は契約書類を胸のポケットにしまい辺りを見回す。観客は我先にと逃げ惑っていた。

 

「何⁈」

 

突如白夜叉の驚愕の声が聞こえた。白夜叉の周りには黒い風が覆いそばにいた蘭丸達は空中に放り出された。十六夜は飛鳥を抱えて舞台裏の辺りに着地した。

 

「十六夜さん‼︎」

 

慌てて黒ウサギ達が集まり舞台裏には“ノーネーム”のメンバーが揃った。

 

「"サラマンドラ”の連中は客席の方に飛ばされたか…」

 

蘭丸が言う様に“サラマンドラ”のメンバーは観客席の方へと飛ばされて行った。

 

「魔王が現れた…そう言うことで良いんだな?」

 

十六夜が黒ウサギに問う。

 

「はい」

 

飛鳥、耀、ジンの顔に緊張が走っていた。冷静にいられているのは十六夜と蘭丸と黒ウサギだけである。レティシアは一足先に魔王の下へ向かったらしい。

 

「どうやらこの契約書類を見ると白夜叉は何やら参加条件を満たしてないらしいな」

 

蘭丸の持つ契約書類には『ゲームマスターの参加条件がクリアされていません』と書かれていた。

 

「これには特にわざと書かなかったってことはないよな?黒ウサギ」

 

「は、はい。“審判権限”を持つ黒ウサギの前で反則は出来ません」

 

そっかと蘭丸は契約書類をポケットにしまった。

 

「取り敢えず行動を起こすぞ。俺と十六夜がレティシアと一緒に魔王を迎え撃つ。黒ウサギは観客の避難、誘導。飛鳥、耀、ジンは白夜叉の所に向かってくれ」

 

そう言うと蘭丸は瞬間移動でその場から消え去った。

 

「蘭丸さん‼︎」

 

黒ウサギは呼ぶが彼はもう言ってしまった。

 

「仕方ねえ取り敢えず行動に移すぞ」

 

「ええ、そうね」

 

「行こう飛鳥、ジン」

 

「は、はい」

 

(……蘭丸さんどうかご無事で)

 

そしてそれぞれが動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

**

 

 

 

「白夜叉様、中の状況は⁈」

 

飛鳥と耀、ジンは白夜叉の所に着いた。白夜叉は黒い風に閉じ込められていた。

 

「わからん。だが行動が制限されているのは確かだ。よいかおんしら!今から言うことを黒ウサギへと伝えるのだ!間違えは許さん!おんしらの不手際は、そのまま参加者の死につながる!」

 

白夜叉の言葉にその場の全員が息を呑む。

 

「第一に、このゲームはルール制作段階で故意に説明不備を行っている可能性がある。これは魔王が良く使う手だ。最悪の場合このゲームにはクリア方法が存在しない。第二に、この魔王のコミュニティは新興のコミュニティの可能性が高いことを伝えよ。第三に…私を封印した方法は恐らく…」

 

「はあーい♪そこまでよ」

 

声の方に振り向くと露出度が多い白装束を来た女性が“サラマンドラ”の火蜥蜴がいた。火蜥蜴達は様子が変に思える。

 

「あらあら、本当に封印されてるじゃない。最強の“階層支配者”もこれじゃあ形無しね♪」

 

「おのれ……“サラマンドラ”の連中に何をした‼︎」

 

「そんなの秘密に決まってるじゃない。以下に封印が成功したとしても貴女に情報を与える程驕っちゃいないわ。それより、邪魔よ♪あなた達」

 

女性は手に持っていた笛を振ると火蜥蜴達が火を吹いてきた。それを耀がグリフォンのギフトで火蜥蜴を吹き飛ばす。

 

「あら?貴女なかなか面白いギフトを持っているのね。決めたわ。私の手駒にしましょ♪」

 

女性が笛を吹くと耀達は崩れ落ちた。その甘く取り込まれる様な笛の音によって。

 

「ジン君、春日部さん…大丈夫?」

 

飛鳥はジンと耀の状態を確認する。ジンはなんとか大丈夫の様だが五感の鋭い耀にとってはかなりのダメージだった。

 

「耀さん‼︎」

 

「ジン君……『春日部さんを連れて黒ウサギの所に行きなさい‼︎』

 

「…わかりました……」

 

飛鳥のギフトで支配されたジンは耀を抱えると普段とは桁違いの速さで走り出した。

 

「逃がさないわよ‼︎」

 

『全員、そこを動くな‼︎』

 

飛鳥のギフトでその女性と火蜥蜴を動けなくする。その隙に白銀の十時剣で斬りかかろうとする。

 

「この……小娘がっ‼︎」

 

「きゃあ⁈」

 

が直ぐにその拘束は解け、飛鳥を殴りつける。そして倒れた飛鳥の腹部を蹴り上げ、気絶させる。

 

「…ふふ♪いいわねこの娘。一瞬でもこの私の動きを止めるなんて」

 

その女性は飛鳥を抱えて何処かへと連れて行った。

 

「くっ!……頼むぞ……蘭丸。恐らく私はこのゲームが終了までこのままだ…」

 

白夜叉は此処にいない少年の名を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**蘭丸said

 

その頃、蘭丸は魔王の下へと直ぐに到着していた。

 

「お前が魔王か?」

 

蘭丸は白い巨兵の頭部に立っている斑のワンピースを着ている少女に聞いていた。蘭丸はその少女からただならぬ強さを感じていた。

 

「ええ、そうよ。……それにしても貴方なかなかの美形ね。私のものにしたいわ」

 

「それは嬉しい言葉だが、残念ながら相手が魔王なら俺はお前を倒さなければならない。覚悟しろよ?」

 

蘭丸は刀を手に取り、斑の少女に刃先を向ける。

 

「そう……残念ね……シュトロム…やりなさい」

 

「BRUUUUUUM‼︎」

 

その少女の下にいる巨兵、シュトロムは大気を吸い込むと、雄叫びと共にその大気を放出した。

 

「シュトロム……嵐か……となると天災の類の悪魔か」

 

と呟く蘭丸だがその体はシュトロムの風をものともしない。それどころか、蘭丸には風が当たっていない様に見える。

 

「シュトロムの風をものともしない?貴方のギフト?」

 

「ああ、俺は時空間を支配出来るギフトだからな。空間を曲げて風の流れを俺に当たらない様にしてる。……さて、今度はこっちの番だ」

 

蘭丸は一瞬でシュトロムの後ろに移動すると、刀でシュトロムを空間ごと切断した。

 

シュトロムは力無く倒れるとその姿を消した。

 

「やるじゃない貴方。カッコイイし、実力もある。名前を聞いておくのもいいでしょ?」

 

「…俺は“ノーネーム”の二宮蘭丸…以後お見知り置きを」

 

肩を竦めながら蘭丸は刀を鞘に納めると異空間に収納した。

 

「そう…蘭丸。やっぱり貴方が欲しいわ。説得が無理なら力ずくでも……」

 

とその少女の言葉は突如として現れた火の玉と流星の如くの勢いのランスによって遮られた。

 

「……貴女は吸血鬼?」

 

「大丈夫か蘭丸‼︎」

 

レティシアは蘭丸のそばに寄った。

 

「ああ、それにサンドラまで来たのか」

 

「……目的は何ですか?“ハーメルンの魔王”」

 

「ああそれ間違い。私のギフトネームは“黒死斑の魔王”(ブラックパーチャー)よ」

 

その少女はサンドラを指差すとニヤリと笑った。

 

「私の目的は星霊白夜叉と青海龍王の遺品つまり貴女のその龍角が欲しいの」

 

だから頂戴と言いたそうである。サンドラは一瞬驚く表情を見せるが直ぐに顔を引き締め

 

「成る程、流石は魔王。でも私は“階層支配者”として貴女を見過ごすことは出来ません‼︎」

 

「そう、素敵ね“階層支配者”」

 

サンドラの火龍の炎を黒々とした風で相殺する。二つの衝撃波は空間を歪め、強大な力の波となって周囲を満たし、境界壁。照らすペンダントランプを余波のみで砕く。

 

「俺を忘れるなよ?まだ本気の一割もだしてないぜ?」

 

蘭丸は足に薄紫のオーラを溜めると少女に向かって振り抜いた。振り抜いた所には空間を切り裂いた刃が少女へと向かっていく。

少女もまた黒い風で防ごうとするが、その刃はその風を切り裂いた。

 

「⁈」

 

少女は咄嗟にその刃をよけた。その刃の通った後には空間に裂け目が入っていた。避けられたのを確認した蘭丸は舌打ちをし、指を鳴らすとその刃と空間の裂け目は元に戻った。

 

「やるわね。ますます貴方が欲しくなったわ」

 

「むっ…」

 

蘭丸は苦笑を浮かべながらまた戦闘態勢に入ろうとしたその瞬間、激しい雷鳴が鳴り響いた。

 

『“審判権限”の発動が受理されました!これよりギフトゲーム"The PIED PIPER of HAMELIN"は一時中断し、審議決議を執り行います!プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください!繰り返します…』

 

黒ウサギの声が聞こえた。

 

「どうやら一回勝負はお預けだな」

 

「そうね」

 

蘭丸、斑少女、サンドラ、レティシアの四人は交渉テーブルの用意の為“サラマンドラ”の本拠へと向かった。





暫く更新が遅れると思います。テスト期間なので……

それでも誤字、感想にはお答えしますのでよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

審議決議

テスト勉強の合間に投降しました。




 

 

 

 

「それでは、これよりギフトゲーム、『The PIED PIPER of HAMELIN』の審議決議を執り行います」

 

黒ウサギの宣言により、審議決議が始まった。ホスト側には蘭丸が接触した斑少女とジン達が接触した白装束の女性、十六夜が接触した軍服姿の男である。

対するプレイヤー側には“サラマンドラ”からサンドラとマンドラ。“ノーネーム”から十六夜、ジン、蘭丸の計五名である。

 

「まず、ホスト側に問います。今回のゲームですが…」

 

「不備は無いわ」

 

と斑少女は黒ウサギの質問を遮り、不備は無いと主張した。

 

「…受理してもよろしいので?黒ウサギの耳は箱庭の中枢とも繋がっているのですよ?」

 

「ええ、それを踏まえた上で忠告しておくけど、私たちは今無実の疑いでゲームを中断されている。貴女は神聖のギフトゲームに横槍を入れた。此方の言いたいこと、わかるわよね?」

 

「不備が無かったらそっちに有利な条件でゲームを再開させろと?」

 

蘭丸は斑少女に聞き返す。

 

「そんな所ね。ルールを加えるかは後で考えましょう」

 

「分かりました……黒ウサギ」

 

黒ウサギは耳をピクピクと動かせ箱庭の中枢と連絡をとっている。暫くして黒ウサギは神妙な顔を浮かべている。

 

「箱庭の中枢から通達が届きました。今回のゲーム、不備不正はありません。白夜叉様の封印も正当なルールでの封印だそうです」

 

「当然ね。ルールは現状維持ね。次は再開の日取りを決めましょう」

 

「日を跨ぐと?」

 

サンドラは不思議に聞き返す。それもそうだろう、わざわざ不利なプレイヤー側に時間を与えるのだから。

 

「最長でいつまで伸ばせるの?」

 

「え?最長ですか?そうですね…今回の場合だと、一ヶ月位かと」

 

「なら、一ヶ月で手を打ちましょ……」

 

「「「待ちな(待ってください!)(ちょっと待った)」」」

 

今度は十六夜、ジン、蘭丸の三人が斑少女の言葉を遮る。

 

「何?時間を与えてもらうのが不満?」

 

斑少女はあからさまに嫌そうだった。

 

「いや、有難いぜだけど場合による。俺は後でいい。御チビか蘭丸、先に言え」

 

十六夜は二人を一瞥する。

 

「俺もいい、多分ジンと言うことは同じだろうしな」

 

蘭丸もジンの方を見る。ジンは一瞬驚いた様にするが、直ぐに相手に視線を変える。

 

「ホストに問います。貴女の両脇にいる男女が“ラッテン”“ヴェーザー”だと聞きました。そして闘技場に現れた白い巨兵はシュトロムだと。となると、貴女の名前は“ペスト”では無いですか?」

 

ジンの言葉に斑少女、ペストは目を開いて驚いた。

 

ペスト…黒死病の名を持ち、その高い致死性で十四世紀にヨーロッパで八千万人の死人を出した人類史上最大の疫病

 

「そうか、だがらギフトネームが“黒死斑の魔王”(ブラック・パーチャー)!」

 

「ああ、間違いない。そうだろ魔王様?」

 

十六夜はニヤリと笑う。

 

「ええ、そうよ。ねえそこの貴方?貴方の名前とコミュニティは?」

 

「…“ノーネーム”のジン=ラッセルです」

 

ペストも少し驚いた表情を浮かべていた。まさかそこまでの明確の頭脳の持ち主が“ノーネーム”であったのだ。

 

「覚えとくわ。だけと確認が遅かったわね。私達はゲーム再開の日取りを左右できると言質を取ってるわ。勿論、参加者の一部に病原菌を潜伏させている。ロックイーターのような無機生物や悪魔でもない限り発症する、呪いそのものを」

 

「ジャ、ジャッジマスター‼︎彼等はゲーム中断時に意図的にゲーム説明を伏せていた疑いが…」

 

「駄目ですサンドラ様‼︎もし彼等が説明を伏せていたとしても、彼等にその説明責任はありません!また不利なルールを押し付けられるだけです!」

 

サンドラは悔しそうにジンの言葉を受け入れる。

 

「ねえ、此処にいる全員が主力って事でいいの?」

 

突然ペストが聞いてきた。

 

「ああ、正しいと思うぜ」

 

ペストの言葉にヴェーザーが答える。

 

「ならこうしましょう。此処にいる全員と白夜叉が“グリムグリモワール・ハーメルン”の傘下に入る。それで他のコミュニティは見逃してあげるわ」

 

「なっ?」

 

「私、貴方たちのこと気に入ったわ。サンドラは可愛いし、ジンは頭良いし。それに……」

 

とペストは蘭丸を凝視する。

 

「ん?俺?」

 

「そうよ。貴方は強いし、私好みのイケメンだし」

 

淡々と話すペストの頬にはうっすらと赤みを帯びていた。

 

「それは褒め言葉として受け取っておくよ」

 

蘭丸はフッと笑ってそれに応じる。

 

(ヤハハハ…まさか魔王にまで惚れられるなんてな)

 

(蘭丸さん…確かに蘭丸さんは結構…いえ、かなり魅力的な方ですが…まさか魔王まで蘭丸さんの事を……」

 

十六夜は不謹慎だと思いながらもこの状況を笑っている。

黒ウサギも声には出さず落ち込んでいた。

 

「私の捕まえた赤いドレスの子も良い感じですよ♪」

 

「⁈」

 

ラッテンの言葉で飛鳥が魔王側に捉えられている事が分かった。

 

「ホストに問います。“グリムグリモワール・ハーメルン”は新興のコミュニティではないかと聞きましたが、どうなのですか?」

 

「答える義務はないわ」

 

ジンの質問に対しペストは答えない。

 

「新興のコミュニティだから優秀な人材が欲しい。どうだ?違うか?」

 

「………」

 

「答え無いということは肯定と捉えさせてもらうぞ?」

 

蘭丸は腕を組みながらペストに確認する。

 

「だったら?私達が譲る理由は無いわ」

 

「いいえ、あります。何故なら貴女達は僕たちを無傷で手に入れたいはずですから。もしも、一か月も放置されたら、きっと僕たちは死んでしまいます。死んでしまえば手に入らない。だから、貴女はこのタイミングで交渉を持ち掛けた。実際に三十日が過ぎて優秀な人材を失うのを惜しんだんだ」

 

ジンは物怖じせずに話を進める。その目は立派なリーダーらしくなっていた。

 

「なら、二十日後にすればいいだけよ。それなら、病死前の人材を得ることはできるわ」

 

「なら、発症したものを殺す。例外は無い。サンドラだろうと“箱庭の貴族”であろうと私であろうと殺す。“サラマンドラ”の同士に、魔王へ投降する脆弱なものはおらん」

 

「おいおいマンドラ。そんな事をする必要は無い」

 

 

蘭丸は自決覚悟のマンドラを宥める。

 

「黒ウサギ。ルール変更はまだ可能か?」

 

「へ?……Yes!」

 

「こうしようぜ“黒死斑の魔王”俺達はルールに“自決、同士討ちを禁ずる”を付け加える。だから再開を三日後にしろ」

 

「却下。二週間よ」

 

十六夜の提案はバッサリと切られる。

 

「なら黒ウサギをつける。黒ウサギは“審判権限”を持っているからゲームに参加できない。だがお前らが参加を認めれば手に入る可能性は高い。どうする?“箱庭の貴族”を手に入れるチャンスだぜ?」

 

ペストは暫く考える仕草を取る。そして目を開けると

 

「十日よ。これ以上は譲れない」

 

「「ゲームに期限をつける(つけます)」」

 

と蘭丸とジンが同時に話す。蘭丸は今度は自分に言わせてくれという表情をジンに目配せをする。ジンもそれを了承した様に頷く。

 

「ゲーム再開は一週間後。ゲーム終了はその二十四時間後。終了と同時にホスト側の勝利とする」

 

「本気?蘭丸。こっちの総取りを覚悟するの?」

 

「ああ、一週間は黒死病の症状が現れるギリギリの時間。それ以上は精神的にも、肉体的にも俺等は持たないだろう。だからプレイヤー側は無条件降伏を呑む」

 

ペストは不満そうに顔をしかめる。自分の思い通りにいかずこちらに流れが傾いているのが気に食わないのだろう。

しかし、条件的には主催者側が有利。

 

「ねえ蘭丸。もし一週間生き残れたとして、貴方は私に勝てるの?」

 

「ああ、勝てるさ」

 

ペストの質問に蘭丸は即座に答える。

 

「そう……………」

 

ペストは立ち上がると蘭丸に不敵な笑みを浮かべる。

 

「宣言するわ。貴方は必ず、私の物にする」

 

「楽しみにしておくさ」

 

それに蘭丸も不敵な笑みを浮かべて返す。

 

「お待ちください‼︎」

 

黒ウサギの叫び声に全員が驚いて黒ウサギを見る。

 

「蘭丸さんは……渡しません‼︎」

 

その言葉にシーンとなった。黒ウサギも自分のやったことに気付き、

 

「〜〜///‼︎こ、これにて審議決議は終了します!なお休止期間中は双方ともに相手への干渉は禁止です‼︎」

 

と黒ウサギは勝手に審議決議を終了し、いつも以上のスピードでその場を去った。

 

「…………あいつは……すまんな。あれでも“箱庭の貴族”だからさ」

 

蘭丸はペストに謝罪した。

 

「ええ、構わないわ。それにしても貴方……鈍いのね」

 

 

「は?」

 

「分からなくていいわそれじゃあ」

 

と言うとペスト達は本拠を後にした。

 

「どういう意味だ?それに黒ウサギはなんで俺に反応したんだ?」

 

蘭丸は本気で悩んでいる。やはり鈍いようだ。

 

「蘭丸…お前本気で言ってるのか?」

 

十六夜は半笑いで蘭丸に尋ねる。

 

「だったらどうだってんだ?」

 

「いや、大丈夫だ」

 

「???」

 

蘭丸は本気で分かっていなかった。

 

そして皆は思った。

 

(コイツ…鈍過ぎる‼︎)

 

 




審議決議でも蘭丸の鈍さは健在です。

誤字、感想、お待ちしております!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

休止期間中の考察

ギフトゲーム『The PIDE PIPER of HAMELIN』が一時中断となり、一週間の休止期間に入っていた。

 

そして休止期間に入って三日目、徐々に黒死病の感染者が増えてきていた。

 

「ったく、ペストも厄介な呪いを振りまいてくれたもんだ」

 

蘭丸は困った様に頭をかく。

 

「まあ、ある程度ゲームクリアの謎は解けたし、後は時間の問題かな?こいつらが持ってくれればの話だが」

 

「…そいつは本当か蘭丸」

 

と蘭丸の肩に手をおき語りかける十六夜がいた。

 

「まあな。とか言うお前も大方解けてるんだろ?」

 

「まだ確信には至らないけどな」

 

「なるほどな、じゃあ場所を帰るか」

 

と蘭丸と十六夜は蘭丸にあてがわれた部屋に来ていた。

 

「じゃあまず十六夜からだな」

 

「俺がまず分かっているのはラッテンはネズミを操る道化師、ヴェーザーはヴェーザー川、シュトロムが嵐、そしてペストが黒死病って事と『偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ』の砕き掲げる物が街にあるステンドグラスったところだな」

 

十六夜は椅子の背もたれにもたれかかり、こんくらいだと言うかのように肩を竦める。

 

「じゃあまず偽物を洗い出して行こうか。まずペストは論外だな」

 

「ああ、ペストだけが黒死病という長期的な死で描かれているがハーメルンの笛吹きは1284年6月26日と言う限られた時間で130人の人間が死ななければならないからな」

 

「ならペストを倒せば言いとはならない。それだとゲームマスターの打倒と被る。ステンドグラスを砕き掲げるってとこだな。まあこれは大丈夫だろう」

 

「おいおい、余裕だな」

 

あっさりと啖呵を切る蘭丸に茶化すように笑う十六夜。

 

「まあ、ステンドグラスを砕き掲げるだけならな。だが十六夜、以上か?なら次は俺が白夜叉の封印とかを話したいんだが…」

 

蘭丸が水を口に含みながら十六夜に問う。その十六夜は何?と言う顔で蘭丸を見ていた。

 

「お前…白夜叉の封印の方法が分かったのか⁈」

 

「まあ、白夜叉と言う名前とペストをあてたら分かったぞ」

 

「……理由を聞かせてくれ。お前の推理を聞いて見たいからな」

 

十六夜は気づいたようだがそれでも蘭丸の説明を聞きたいらしい。

 

「まず白夜叉は白夜の星霊と夜叉の神霊を合わせ持つ。そもそも夜叉は仏神だ。白夜の星霊の力を抑える為に仏門に下ったんだ。白夜叉は箱庭の太陽の主権を所持してる。それは太陽の運行や太陽そのものの属性を司るって言ってたな。…話を少し戻すぞ。黒死病が大流行した理由は太陽が氷河期に入り、世界が寒冷に見舞われたから。……ここまで言えば分かるだろう」

 

十六夜はハッ!と顔を上げる。

 

「……‼︎そうか!」

 

「そう。このゲームは太陽の年代記に沿ったルールで作られているんだ。これが白夜叉を封印した方法だな」

 

「なら連中は……クッソ!完全に騙されたぜ“黒死斑の魔王”‼︎お前らはグリム童話上のハーメルンの笛吹きであっても本物のハーメルンの笛吹きじゃなかったのか!」

 

「そう言うことだ」

 

“ノーネーム”の知性派二人は笑い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ以上が俺ら導き出した今回のゲームの答えだ」

 

十六夜はジンや黒ウサギ、サンドラ、マンドラを集めてゲームの答えを話した。

 

「やはりそうでしたか!」

 

ジンも分かっていたようで同調するように笑うが他の三人はそこまでに至らなかったようで唖然としている。

 

「さ、流石ですねお二人は……黒ウサギはまだまだ甘いようなのです…」

 

「まあそう悲観するな黒ウサギ。これは適材適所ってやつだ。それよりそれを踏まえてゲームの方針を決めようと思う」

 

蘭丸はそう言って作戦会議を始めた。

 

作戦はこうなった。

 

・十六夜、蘭丸、黒ウサギ、サンドラの四人が悪魔達の足止め。

 

・そしてジン率いる捜索隊がステンドグラスを捜索し、真実の伝承を掲げる。

 

「…とまあ以上が方針だが異論は無いか?」

 

「ああ、問題無いぜ」

 

「はい」

 

「Yes!」

 

「分かりました」

 

「うむ、分かった」

 

それぞれが了解し、作戦会議は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**

 

そして蘭丸は現在自室にいた。

 

「ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!……」

 

蘭丸は苦しそうに咳き込んでいた。そしてその手からは血が溢れていた。

 

「まずいな……俺まで黒死病に感染するとはな……情けねぇ」

 

蘭丸は直ぐに血液を拭き取り、水を飲んだ。

 

「とにかくこれはばれたら参加させてもらえないからな、とりあえず隠さないとな」

 

と蘭丸はベットに倒れこんだ。そして蘭丸はそのまま寝ようかと考えたが

 

コンコン…

 

「蘭丸さん?黒ウサギですが入ってもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、ちょっと待ってろ」

 

黒ウサギが蘭丸の下にやって来た為、ベットから起き上がり、鍵を開けて黒ウサギを招き入れる。

 

「どうした?なんかあったのか?」

 

「いえ、特にありませんが何故だか蘭丸さんが心配になってしまって…なんだか何時もと違うかと……」

 

蘭丸は黒ウサギが直感的に感づき始めてるのに少し参っていた。蘭丸に惚れている黒ウサギならそこまで見ていてもおかしくは無いはずである。

 

「………………」

 

「蘭丸さん?」

 

「いや、なんでも無い。ありがとうな黒ウサギ」

 

「い、いえ…それほどでも……///」

 

蘭丸に笑顔で頭を撫でられこんな時にも顔が緩んでいた黒ウサギ。

 

「まあ、魔王は最初にあったグールとは桁にならない強さだ。グールはゲームの難易度で五桁の推定を受けているが恐らくあいつは五桁クラスの魔王だろうな」

 

蘭丸は外を見つめる。その目には決意が宿っていた。

 

「だけど俺は勝つ。それが俺たち“ノーネーム”だからな」

 

「Yes!ではこの黒ウサギもお手伝いするのですよ!」

 

黒ウサギはぴょんとウサ耳を立てて軽く跳ねる。

 

「じゃあな。ゲームは明日再開だからな。おやすみ黒ウサギ」

 

「はい。蘭丸さん。おやすみなさい」

 

「行ったか………⁈ゴホッ!ゲホッ!ゴホッ!」

 

黒ウサギが出て行ったのを確認して蘭丸はまた咳き込んで吐血した。

 

「チッ!なんとか持ってくれよ俺!」

 

蘭丸はそのまま血を飲み込み、 ベットに入り、強引に寝始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「………蘭丸さん」

 

黒ウサギは蘭丸の部屋の前で俯いていた。

 

(どうして蘭丸さんは黙っているのですか?蘭丸さんは黒ウサギ達が信用ならないのですか?)

 

それでも黒ウサギは止めても蘭丸は効かないと分かっており

 

(こうなったら黒ウサギがいっそう張り切って蘭丸さんの負担を減らしましょう)

 

黒ウサギは早歩きで自室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**とある某所

 

「ぷぷぷぷぷ♪いよいよですね」

 

と黒髪ショートカットを少女は不気味な笑みを浮かべていた。

 

「ああ、ようやく手に入る……二宮蘭丸‼︎」

 

そして長身でフードを被った男は執念深そうな声で笑う。

 

「さあ、その力をこの“黒瀬晶”様によこ……

 

ザシュッ‼︎

 

 

「………ガハッ‼︎」

 

そして男、黒瀬は何者かの剣によって体を貫かれていた。

 

「黒瀬さん‼︎」

 

ザシュッ‼︎

 

「ガハッ‼︎」

 

そして少女も切られ倒れた。そして二人を襲撃した男は黒瀬のギフトカードと自分のギフトカードをふれさして

 

「コレは返してもらうぞ………このギフトは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二宮蘭丸、俺の息子のギフトだ‼︎」





まさかの“あいつ”の死亡と蘭丸の父親を名乗る謎の男の出現‼︎

一体この男の目的は⁈

では次回もお楽しみに!

誤字、感想、お待ちしております!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『The PIED PIPER of HAMELIN』②



久しぶりの投稿です。

やっとテスト終わった!


 

 

ゲーム休止期間から一週間後、ゲーム再開まであと十分を切っていた。プレイヤー側はマンドラの下に集結して今回の作戦を聞いていた。

 

「よいか!今回の方針は“サラマンドラ”と“ノーネーム”の主力が魔王と対峙し残りの物はこのジン=ラッセルの指揮の下、ステンドグラスを捜索する。各々全力を尽くせ‼︎」

 

マンドラが一喝すると他の参加者達は雄叫びで気持ちを奮い立てていた。

そして開始の鐘が鳴った。

 

「ゲーム再開だ!」

 

そして参加者達は各々の役割にへと向かう。

 

 

**

 

一方ペストらはそのプレイヤー達を見ていた。

 

「ねぇマスター。どうやら連中は私達の謎を解いちゃった見たいですよ?」

 

白装束の女性、ラッテンは微笑を浮かべながら困った顔をしていた。

 

「チッ!最後までバレないと思ってたんだが……やっぱあの金髪のガキと女見てえなガキか」

 

巨大な笛を持った軍服の男、ヴェーザーは頭をかいて十六夜と蘭丸を思い浮かべる。

 

「構わないわ。いざとなれば皆殺しにすればいいし、その為にヴェーザーには神格を与えているのよ」

 

ヴェーザーはペストから神格を与えられ霊格が膨大していた。ラッテンは詰まらなそうに頬を膨らませていた。

 

「なんでヴェーザーだけ…」

 

「今の私では二人は無理。我慢して」

 

「はぁ〜い……」

 

ペストの言葉にラッテンは拗ねながらも納得し、再び参加者達を見る。

 

「さて、謎が解かれた以上、温存しておく必要は無いわね……ハーメルンの魔道書を起動する」

 

 

 

 

 

**

 

突如として“サラマンドラ”の街は木造の街並みに姿を変え、パステルカラーの建築物に造り変わっている。

 

「これは……ハーメルンの街を召喚したのか?……なるほどな。これがハーメルンの魔道書か……」

 

変わり行く景色を見て蘭丸は笑みを零す。それを見た十六夜も同じように笑みを浮かべる。

 

「ああ、少しは楽しめそうだ」

 

「だったら俺を楽しませな‼︎」

 

と突如上空からヴェーザーが現れ、襲撃されるが二人ともそこから離れることでやり過ごすが、すぐさまヴェーザーは十六夜の頭を掴んだ。

 

「…!テメェ…」

 

「前回のお返しだ‼︎」

 

とヴェーザーは十六夜の腹部に笛をフルスイングし十六夜は吹き飛ばされる。

 

「十六夜⁈」

 

蘭丸は十六夜の吹き飛ばされた方向を見る。

 

「蘭丸!こいつは俺に任せな!お前は“黒死斑の魔王”の所にいけ!」

 

「…ああ任せたぞ」

 

蘭丸はペストを探す為、そこを離れた。

 

「チッ!……まあいい、まずはこいつだな」

 

ヴェーザーは蘭丸を諦め、十六夜へと向かって行った。

 

「……なんだよ。前より強くなってんじゃねえか?」

 

十六夜は血の混じった唾を吐きながらも嬉しそうにしていた。

 

「当たり前だ。こっちは神格を得たんだ。しかもホームタウンで力も倍増している……簡単に終わるんじゃねえぞ‼︎」

 

「ハッ!テメェもな‼︎」

 

そして十六夜とヴェーザーの殴り合った周りは衝撃波を生んでいた。

 

 

 

 

**

 

現在ステンドグラス捜索隊はジンの支持の下、“偽りの伝承”を破壊していた。

 

「あったぞネズミの描かれているステンドグラスだ」

 

「それは“偽りの伝承”です。破壊してください」

 

ジンの支持の下またステンドグラスを破壊する。

 

「十六夜さん達が魔王を相手にしている間に僕達は本物の……」

 

「はぁい。そこまでよ♪」

 

だがその道中、ラッテンと火蜥蜴達が道を阻んでいた。

 

「現れたなネズミ使い‼︎」

 

「ようこそ。フローゼン通りへ。これから皆さんを素敵な同士討ちへとご招待します♪」

 

とラッテンが笛を振ると火蜥蜴達が一斉に火をふく。それをレティシアが影で防ぐ。

 

(クソッ!今こいつらを殺しては、同士討ちになる)

 

「ジン、早く行け」

 

「で、でもレティシアさんは」

 

「…早く行け‼︎」

 

レティシアに叱咤されジンを初めとする参加者達は再び移動を開始する。

 

「そうはさせないわ♪」

 

「BRUUUUUUUM‼︎」

 

ラッテンは再び笛を振る。すると三体のシュトロムがジンの行く手を阻む形で出現した。

 

「シュトロム⁈」

 

「さあ、やりなさい!」

 

「BUUUUUUUUUM‼︎」

 

シュトロムは大気を吸い込み始めた。そのままジンに攻撃をするつもりである。

 

「ジン⁉︎」

 

レティシアは助けに行こうも火蜥蜴の攻撃を受けて、それどころでは無い。

ジンは覚悟を決めるように目をつむる。

 

「DEEEEEEEEEN‼︎」

 

だがシュトロムの攻撃は来ず、何かの叫び声と砕ける音がした。ジンが目を開けるとそこにはシュトロム程の巨大を持った紅い鉄巨人の姿があった。

 

「………あれは⁈」

 

ジンの視線にはその鉄巨人の肩に立つ久遠飛鳥の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

**

 

そのさなか黒ウサギとサンドラはペストと対峙していた。

 

「サンドラ様。左右から挟み込みます」

 

「分かったわ」

 

黒ウサギとサンドラは右と左に別れ、ペストを挟みこむ形をとる。そして黒ウサギは金剛杵を振るい雷鳴を放ち、サンドラは火龍の炎を放つがペストの黒い風に相殺される。

 

「もしかして貴女達って学習しないタイプ?いい加減諦めたら?」

 

「そうはいかないんだよ魔王様‼︎」

 

ペストの後方から蘭丸が足を振り抜き、空間を切り裂く刃を繰り出す。ペストはそれを躱す。

 

「ふーむ。やっぱ二回目はそう当たんないか」

 

蘭丸はおどけた表情を浮かべていた。

 

「あら、蘭丸じゃない。もしかして私に会いに来てくれたの?」

 

ペストは妖艶に笑う。

 

「まああながち間違いじゃ無いな。……あいてしてもらうぜ?」

 

蘭丸は空間を走りながらペストへと迫り、ペストに蹴りを食らわせる。そして直ぐにペストの後ろに瞬間移動して、上空に蹴り上げる。そしてまた上空に移動し、踵落としでペストを地面に叩きつけた。

 

「………結構痛かったわ。やっぱりやるわね」

 

「よく言うな。どうせ神霊はその程度じゃ倒れないだろ?」

 

「え?」

 

サンドラと黒ウサギは驚く。

 

「まああくまでも俺の推測だがお前はハーメルンの笛吹きの百三十人の死の功績じゃあ無く、黒死病で死んだ八千万の死の功績………いや、正確には黒死病で死んだ八千万の怨念の死霊って方が正しいか?」

 

「……そうねほぼ正解よ。流石は蘭丸ね」

 

「そりゃあどうも」

 

「時間稼ぎ程度に細くさせてもらうわ。私が主催者権限を得るに至った功績。この功績は死の時代に生きた全ての人の怨差を叶える権利があった。黒死病を世界中に蔓延させ飢餓や貧困を呼んだ諸悪の根源、怠惰な太陽に復讐する権限が‼︎」

 

ペストの雰囲気が変わった。それに黒ウサギとサンドラは冷や汗をかく。

 

「なるほどな……」

 

「…さあ、始めましょう?タイムオーバーの瞬間まで、たっぷりと遊んであげる」

 

ペストはまた不敵な笑みを浮かべて蘭丸達を見る。

 

「ふーむ。参ったな…こりゃ一筋縄じゃ………⁈ゴホッ!ゴホッ!…ガハッ!」

 

ボタッボタッ……

 

「蘭丸さん⁈」

 

蘭丸は黒死病の影響での吐血を黒ウサギに見られてしまった。

 

「なんで……黙っていたのですか⁈そんな身体で……!」

 

「………さあな、俺にもわからん」

 

蘭丸は袖で乱暴に口を拭う。そして苦しそうにだが笑みを零す。

 

「…ただ、俺は………この戦いは引けないと……思ったからだな……」

 

「蘭丸さん…」

 

それをペストは少し不快そうに見ていた。

 

「そこのそこのウサギさん。貴女が蘭丸のちかくにいるとなんか不快ね」

 

黒ウサギはペストを睨む。

 

「蘭丸さんは黒ウサギ達の同じコミュニティの大切な同士です!だから蘭丸さんは渡しません!」

 

「黒ウサギ……」

 

そして黒ウサギは金剛杵を手にペストへと突っ込んだ。

 

「チッ、情けないな」

 

蘭丸は小さく呟いた。





誤字、感想お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『The PIED PIPER of HAMELIN』③

魔王戦決着です。


十六夜とヴェーザーは激しい打撃戦を繰り広げていた。

 

「おいおいどうしたよ?いきなりおとなしくなったじゃねえか」

 

「……気に入らねえ…」

 

「何⁈」

 

「出し惜しみは辞めようぜヴェーザー。ずっと狙ってんだろ?俺が懐に飛び込む瞬間を!この一撃が決まれば勝てるって言うお前の目が!ああ気に入らねえ‼︎」

 

「OK……死ね。クソガキ」

 

とヴェーザーは笛を頭上で円状に乱舞させ、霊格を開放した。そしてヴェーザーと十六夜の全力がぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

**

 

フローゼン通りではラッテンと新たな戦力を手に入れた飛鳥ぎ向かい合っていた

 

「一体今までどこに行ってたのかしら?私の可愛い赤ネズミさん?」

 

「ラッテンフェンガーに匿われていたのよ。貴女を倒す為に」

 

“ラッテンフェンガー”と聞いてラッテンは飛鳥の肩に立つ小精霊へと視線を移す。

 

「そう……とうとう姿を現したのね?偽物」

 

小精霊は飛鳥の影に隠れる。

 

「仮を返すわ……行きなさい、ディーン‼︎」

 

「潰せ、シュトロム‼︎」

 

「DEEEEEEEEEN‼︎」

 

「BUUUUUUUUUM‼︎」

 

二体の巨兵は雄叫びを上げる。ディーンがシュトロム殴るとシュトロムは砕け散った。さらにもう一体のシュトロムを勢いのまま殴る。

 

「後ろがガラ空きよ‼︎」

 

「‼︎ディーン!」

 

「DEEEEEEEEEN‼︎」

 

ラッテンは隙を突いて飛鳥の背後を狙うが、ディーンに捕まりその巨大な手で拘束する。

 

「もう良いわ。ディーン」

 

「DEN」

 

飛鳥の声で手を緩めるディーン。だがラッテンはかなりのダメージを負っていた。

 

「これで蹴られた仮は返したわ。でも、これじゃあまだ気が収まらないわ………ゲームをしましょう。貴女に一曲分の演奏を許可します。それで私に服従しているディーンを魅了して見なさい」

 

飛鳥はいつもの高圧的な物言いでゲームを提案する。ラッテンは最初こそは飛鳥の突然の事に戸惑うが直ぐに笑みを浮かべた。

 

「いいでしょう。それでは、幻想曲“ハーメルンの笛吹き”どうかご静聴の程を」

 

とラッテンは演奏を始めた。

 

 

 

 

**

 

一方十六夜とヴェーザーは互いの全力をぶつけ合い両者倒れていた。

 

「おい坊主。お前、本当に人間なのか?」

 

「さあな、分類学上ではそうなってるが、“正体不明”だからな」

 

十六夜は上半身を起こしながら笑う。

 

「さあ立てよ。笛が壊れてもまだ戦えるだろ?」

 

「いや、そうでも無いらしい。チッ、召喚の釈煤が壊れたら、そりゃあこうなるよな」

 

ヴェーザーの身体は光の粒子となって次第に消え始めていた。

 

「ああクソッ!下らねえ挑発に乗るんじゃなかったぜ」

 

「そう言うなよ。こっちは楽しかったんだぜ?俺と殴りあえるやつなんて今までいなかったしな」

 

「フン。お前みたいな人間、そういるかよ」

 

既にヴェーザーは首辺りまで消えていた。

 

「…そうさ、お前みたいなやつは前のマスターだけで十分さ」

 

そう言い残しヴェーザーは完全に消えた。

 

 

 

 

 

**

 

現在、飛鳥はラッテンの演奏を聴いていた。その音色はとても美しく甘美な物であった。

 

(ああ、これはちょっとずるいわ。全てを投げ出しても、この甘美な音色に酔いしれたくなる)

 

飛鳥の気持ちとともにディーンの支配力も弱まって来ていた。

 

(…でも、私達のハロウィンを完成させるのよ)

 

 

 

 

 

そしてラッテンは一曲演奏し終えた。飛鳥はそんなラッテンに賞賛の拍手を送った。

 

「とても素晴らしい演奏だったわ」

 

飛鳥はそう言うがディーンを魅了するには至らなかった。

 

「あーあ負けちゃった。まあさっきの一撃でほとんど致命傷だったし、今の演奏で霊格を使い切っちゃった」

 

ラッテンもヴェーザーと同じく光の粒子となって消えている。

 

「じゃあね可愛いお嬢さん。楽しかったわ♪」

 

ラッテンもいつもの笑顔を見せて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

**

 

ラッテン、ヴェーザーが倒された同刻、ペストは彼らの霊格ぎ消滅したのを確認した。

 

「……二人とも倒されたのね」

 

「…やったか、十六夜」

 

蘭丸は苦しそうに笑顔を浮かべた。

 

「…やめた」

 

突然ペストの雰囲気が変わり、霊格も上がった。

 

「時間稼ぎは終わりよ。白夜叉だけを手に入れて……皆殺しよ!」

 

ペストは両手から黒い風を放つ。

 

「チッ!こりゃ、さっまでのと違うってか?」

 

「そうよこれは触れただけでそのものを死においやる風よ」

 

死の風はどんどんと街を覆い尽くしていた。

 

「クソッ!」

 

蘭丸は黒死病の身体に鞭を打ち立ち上がると空間を切り裂く刃を放つ。刃の通った所の風は霧散したが黒死病の影響で威力が落ちていた。

 

「クソッ……力が足りない!」

 

「うわあぁぁ‼︎」

 

悲鳴の方を見ると一人の少年が風に追われていた。

 

「ヤバイ‼︎」

 

蘭丸は直ぐに少年の下に瞬間移動で移動するが

 

「大丈夫か………ゴハァッ‼︎」

 

ビチャッビチャッ!

 

蘭丸は血を吐き、その場に倒れてしまった。

 

「蘭丸さん‼︎」

 

黒ウサギは全力で跳躍するが間に合わない。

 

(駄目、間に合わない)

 

黒ウサギも諦めた時、

 

「DEEEEEEEEEN‼︎」

 

ディーンが風を遮った。

 

「早く逃げなさい!ステンドグラスは一旦大丈夫よ!」

 

「は、はい」

 

その子供は建物へと入った。

 

「よかった」

 

「「よそ見してんなこの駄ウサギ‼︎」」

 

十六夜と蘭丸の怒号で黒ウサギの目の前まで風が来ていた事に気づいた。蘭丸が黒ウサギを抱え、十六夜が死の風を蹴り砕いた。それにはペストも驚いていた。

 

「ギフトを砕いた?貴方は一体…」

 

「言っとくが俺は人間だぞ魔王様‼︎」

 

十六夜はそのままペストを蹴り飛ばす。だが神霊であるペストには効いていなかった。

 

「そうね、ギフトを砕いたくらいじゃあ恐るに足りないわね。蘭丸は今力を発揮できないし………………星を砕けるような一撃じゃなきゃ、魔王は倒せないわよ」

 

ペストは衝撃派で十六夜を吹き飛ばす。だが十六夜は直ぐに起き上がった。痛みよりペストの言葉が効いたようだ。

 

「ハッ!随分と素敵な挑発してくれんじゃねえか!おれがこんくらいだと思うなよ」

 

「全くだ!俺はまだ本気なんてだしてないぞ!」

 

蘭丸は十六夜の怪我を治しながらもペストから目を離さない。

 

「お待ちください!黒ウサギに作戦がありますので十六夜さん達は隙を作ってください」

 

「だがそれをあいつが待ってくれるとは…」

 

「ご安心を。今ここにいる皆さんをまとめて月へとご案内します」

 

黒ウサギのギフトカードから輝きを放ち、その輝きぎ収まると辺りは景色が一変していた。

 

「チャ、月界神殿(チャンドラマハール)軍神では無く月神の恩恵を持つギフト…」

 

「Yes!これこそ“月の兎”が帝釈天様より授かった恩恵でございます!では十六夜さん達は魔王を足止めしておいてください!」

 

ペストへと向かう十六夜達。それにペストは焦っていた。

 

「オラァ‼︎」

 

蘭丸によって怪我が回復した十六夜はペストを思いっきり殴る。そして蘭丸も威力は落ちるものの、空間を砕く拳を振るう。

 

「くっ!こんな所で……」

 

ペストはそれに抗おうとする

 

「無駄です!」

 

黒ウサギの掲げた紙片から太陽の光が放たれる。太陽神の鎧である。

 

「そ そんな、軍神に月神に太陽神! 三天を操るなんてこの化け物!!」

 

「今です飛鳥さん‼︎」

 

「放ちなさい、ディーン‼︎」

 

「DEEEEEEEEEN‼︎」

 

隙が出来たペストにディーンが放ったのは黒ウサギから託されたギフト、“マハーバラタの紙片”から召喚される“インドラの槍”であった。勝利の恩恵を持ち、当たれば必ず勝利をもたらす槍、一度限りではあるが。

 

その槍がペストを貫いた。

 

「そんな………私は…まだー‼︎」

 

そして“黒死斑の魔王”は爆死した。

 

「終わったか………」

 

そして蘭丸はその場に力なく崩れ落ちた。

 




戦闘描写はいかがだったでしょうか?

では誤字、感想、お待ちしております!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゲーム終了後、そしてこれから……


今回は短めです。


 

 

魔王とのギフトゲームが終了し、“サラマンドラ”の街は歓喜が上がっていた。しかしこのゲームを手引きしたのはなんとサンドラ以外の“サラマンドラ”のメンバーであった。彼らはステンドグラスに媒介して祭りに潜入したらしい。蘭丸の違和感はそれであった。それらを十六夜は黒ウサギに謹慎を言い渡されていた蘭丸に報告した。

 

「そうか………」

 

それを聞いた蘭丸は残念そうにはにかんだ。彼は“サラマンドラ”とも個人的に有効があってだろう。

 

「まあ俺はこれを公表する気はない。それはお前も同じだろう?」

 

「ああ、皆あんなに喜んでるんだ。わざわざ水を指す必要はないだろう」

 

蘭丸は窓から祝勝会をしている風景を羨ましそうに見ていた。

 

「あークソッ!あんなに楽しそうなのに、謹慎とか黒ウサギのやつ…」

 

「ヤハハハ!まあ黒死病を隠しながら戦えばそうなるよな」

 

しかもこれから黒ウサギのお説教があるらしい。十六夜が笑っていると

 

「十六夜さん!お話は終わりましたか!」

 

黒ウサギが以下にも怒っていますよ。と言わんばかりの声でドアから十六夜を呼んだ。

 

「おう。今終わったから俺も今出る」

 

「ちょっ………

 

バターン‼︎

 

勢い良く開けられたドアの前には怒りMAXの黒ウサギと何故かレティシアが着いて来ていた。

 

「……黒ウサギ、ドアは静かに開けような?」

 

「フフフフ……蘭丸さん。これから黒ウサギ達によるお説教なのですよ……どうやらレティシア様もお怒りだそうで」

 

「ああ……今回は蘭丸に100%非があるな」

 

そのオーラに蘭丸は冷や汗をかいていた。

 

「蘭丸、説教を聞くときは正座だぞ」

 

「Yes!蘭丸さん?まさか嫌だとはおっしゃりませんよね?」

 

「……はい…」

 

蘭丸は諦めたように正座する。

 

「良いですか⁈まず蘭丸さんは…………‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………ですからもう二度とこのようなことはしないでくださいね?」

 

「…は、はい…」

 

黒ウサギ達による説教が終わり、蘭丸はグッタリとしていた。

 

 

「………」

 

「………」

 

「二人とも、どうした?」

 

「心配したのですよ…」

 

「……」

 

黒ウサギとレティシアは涙をホロリと流し、蘭丸は言葉が出なかった。

 

「黒死病を隠してまで戦うなんて……黒ウサギは心配したのですよ…」

 

「そうだな……これは許せないな……」

 

「二人とも………すまんな」

 

蘭丸は二人を胸に抱き寄せて、頭を撫でる。

 

(俺の我儘で二人も女性を泣かせるなんてな……やっぱ俺は男として駄目だな)

 

蘭丸は自らの行いを悔いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**後日、“ノーネーム”農地跡

 

「むり!」

 

荒れ果てた農地跡を見て新たな同士、とんがり帽子の小精霊、メルンは無情にも土壌の再生は無理だど言った。農地が復興することを期待していた子供達や飛鳥はがっかりしていた。

 

「ごめんなさい。私が変な期待を持たせて」

 

「気にしないで飛鳥。また他のゲームで頑張れば良いから」

 

「Yes!まだチャンスはありますよ」

 

落ち込む飛鳥を耀と黒ウサギがなんとか励まそうとする。

十六夜はしゃがみ込んで瓦礫を掴んで考える仕草を見せる。

 

「おい極チビ」

 

「ごくちび?」

 

「そ、極めて小さいメルンって事で極チビ。建物の瓦礫とか肥やしになりそうなものを分解してそこから土壌を再生出来ないか?」

 

メルンはんーと考える仕草を取る。

 

「できる!」

 

「本当?」

 

「かも!」

 

またもや一同がずっこける。

 

「まあでもやって見る価値はあるんじゃないか?かもなら可能性はあるんだし」

 

「Yes!蘭丸さんの言う通りなのですよ」

 

蘭丸と黒ウサギの言葉に皆の表情が明るくなった。

 

「さあ、早速作業に取り掛かりましょう。行くわよディーン。年長組の子達も手伝ってね」

 

「「「「はぁーい‼︎」」」」

 

「DEN!!」

 

ディーンに続き、年長組の子達は元気に走り出した。その後を十六夜と耀も歩いていく。

 

「蘭丸さん」

 

黒ウサギはぴょこんと蘭丸の前に出る。

 

「どうした、黒ウサギ」

 

「本当にありがとうございます。蘭丸さん達が来てから子供達も心から笑うようになりましたし。黒ウサギも蘭丸さんと会えて本当に良かったです」

 

黒ウサギは満面の笑みを浮かべて蘭丸を見る。蘭丸も照れ臭そうに頭をかいていた。

 

「何言ってんだ。その言葉は旗とか全部取り返してからだろ?……その言葉はそのときまでとっておけ」

 

蘭丸はそれにと続け、黒ウサギの頭に手を置く。

 

「俺だってお前や他のやつらと会えてよかったと思ってる」

 

「蘭丸さん……」

 

蘭丸の笑顔と言葉に黒ウサギはとろんとしていた。蘭丸はそんな黒ウサギの背中を軽く叩く。

 

「ほら、俺たちも行くぞ。まだやることは山程あるぞ?」

 

蘭丸は軽く走りながら十六夜に追いつく。

 

「そうです!まだやることはたくさんあるのでございますよ!」

 

黒ウサギは彼らの背中を見ながら小走りで彼らの後を追う。

 

 

 

 

 

**

 

“サウザンドアイズ”支店で白夜叉は一人の鎧を着た男と会話をしていた。

 

「なるほど、二宮と聞いた時にまさかとは思っていたがまさかおんしの息子だとはな」

 

「まあ俺の直接の息子じゃないがな……あいつは捨て子だったからな」

 

鎧の男はお茶を啜りながら呟くように言った。

 

「しかし、お前こそ、俺の息子に色目使ってるんじゃないよな?」

 

「いや、しとらんよ。ただ私好みの良い男だと思っているだけだ」

 

白夜叉はケラケラと笑う。それを見て鎧の男はため息を吐く。

 

「して、どうだ?十八年ぶりの箱庭は」

 

「あんまり変わんないな。まあ細かい所は変わってはいるが」

 

男は苦笑を浮かべて肩を竦める。

 

「まあ、おんしを知るものは驚くだろうな。なんせ“伝説の聖騎士”の凱旋だからの」

 

「よしてくれ。俺はそんな大層な存在じゃない」

 

「そう言うか十八年前、魔王の大軍を一人で蹴散らしたおんしがな」

 

白夜叉はクックックと笑う。男もつられて笑う。

 

 

 

 

 

 

 

「まあ近いうちに会おうかなあいつのいる“ノーネーム”に」

 

 

 






これで二章も完結です。次回から三章に突入します。


誤字、感想、お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

そう……巨龍召喚
嫌だ‼︎



今回から新書突入です。


 

 

 

“黒死斑の魔王”との闘いから一ヶ月が経つ頃、“ノーネーム”のメンバーは今後の方針を決める為に大広間に集まっていた。広間の中心に置かれている長机に上座からジン、十六夜、飛鳥、耀、黒ウサギ、蘭丸、レティシア、リリと並んでいる。

 

(まあこれが順当か……自分で言うのはアレだが)

 

蘭丸は見渡してそう思っていた。そして上座には緊張した顔で居るジンの姿があった。

 

「どうしたジン。そんなにガチガチになって」

 

「だっ、だって旗本の席ですよ?緊張して当然ですよ!」

 

十六夜と蘭丸は軽く溜息を吐きながらジンをみる。

 

「あのなぁ御チビ、何度も言ってきたじゃねえか。お前が“ノーネーム”の旗頭であり、名刺代わりなんだ。俺達の戦果は“ジン=ラッセル”の名前に集約されるんだよ。その本人が上座に座らなくて誰が座るんだよ?」

 

ゲンナリした様子で十六夜が言う。蘭丸はそうだと言うように笑う。

 

「苦節三年……とうとう我らのコミュニティにも、招待状が届くようになりました。それもジン坊ちゃんの名前で!だから堂々と胸を張って上座にお座りくださいな!」

 

いつもテンションの高い黒ウサギがさらにハイテンションになっていた。

 

「でもそれは…」

 

「『僕の戦果じゃない』なんて言ったら流石にキレるぞ?」

 

「え?」

 

蘭丸はもう一度溜息を吐きながらジンの下へと歩く。

 

「お前がリーダーとしてこれからのことを全て引き受けるという覚悟を背負ったんだろ?俺達はそれをサポートする。だからお前は胸を張ってろ。心配すんな」

 

ジンの頭にポン、と手を置く。ジンは少し照れ臭そうになりながらも嬉しそうだ。

 

「…………はい。皆さんのリーダーで在れるよう、頑張っていきます!」

 

「そっか」

 

安心したのか蘭丸は自分の席へと戻った。

 

「では、気を取り直してコミュニティの現状を……リリ、黒ウサギ。お願い」

 

「わかりました」

 

「うん」

 

リリは立ち上がり、現状報告を始めた。

 

「えっと備蓄に関しては暫くは問題ありません。最低限の生活を営むだけなら一年間は過ごせそうです」

 

「なるほどな。こないだの“黒死斑の魔王”の件か?」

 

「はい。十六夜様達が倒した“黒死斑の魔王”が推定五桁の魔王に認定されたのです。それに“階層支配者”からの依頼と言うことで規定額からさらに跳ね上がるかと白夜叉からの報告がありました。これでしばらくは、みんなお腹いっぱい食べられます」

 

パタパタと二尾を振りながら嬉しそうにはにかむリリ。それをレティシアが宥める。

 

「リリ、はしたないからやめなさい」

 

「ご、ごめんなさい」

 

レティシアに宥められ、リリは自分が露骨だったことを気づき顔を真っ赤に染めた。

 

「推定五桁ってことは俺が倒したグールの奴と同じに本拠を持たないコミュニティなのか?」

 

「はい、本来三人だけのコミュニティが五桁に認定されるのは珍しいですが、“黒死斑の魔王”が神霊であった事とゲームの難易度を考慮してのことです」

 

初めて聞く箱庭の基準に十六夜は興味深そうな視線を向ける。

 

「へえ、箱庭の桁数ってそんな感じなんだ」

 

「Yes!ギフトゲームとは本来、神仏が恩恵を与える試練そのもの。箱庭ではそれを分かりやすく形式化したもの、ゲーム難易度は己の格を表すのです」

 

箱庭のコミュニティの格付けは強力な個人の力ではない。

 

例を上げると六桁の外門を越えるには、“階層支配者”の提示するゲームをクリアする。

五桁の外門を越えるには六桁の外門を三つ以上勢力下におき、百以上のコミュニティが参加するゲームの“主催者”を務める。

つまり、六桁に行くにはコミュニティの組織力、五桁には主催者としての実力が問われる。

 

「それで“黒死斑の魔王”を倒した十六夜様達には白夜叉様から金銭とは別に特別報酬があるそうです」

 

十六夜はへえ、と面白そうな顔を浮かべる。五桁の魔王を倒したということは相当な恩恵であるだろう。ちなみに蘭丸の時には報酬は救助コミュニティである“レンジャー”に渡された。

 

「それではリリ、最後に農場報告お願い」

 

「はい、農場はディーンとメルンのお陰で、農場の四分の一が使えるようになりました」

 

リリは嬉しそうに二尾を振る。

 

「当選よ。ディーンとメルンが毎日休まずやってくれたもの」

 

飛鳥は誇らしげに言う。

 

「そこで今回の本題です。復興した農園区に特殊栽培の特区を設けようと思うのです」

 

「特区?」

 

「Yes!有りていにいえば霊草・霊樹を栽培する土地です。例えば…」

 

「マンドラゴラとか?」

 

「マンドレイクとか?」

 

「マンイーターとか?」

 

「久々能の神とか?」

 

「Yes♪って皆さんおかしすぎるのですよ!マンイーターなんて物騒な植物、子供たちに任せることは出来ません!それにマンドラゴラやマンドレイクみたいな超危険即死植物も黒ウサギ的にアウトです!それに久々能の神なんて超超レアな御神木をどうやって手に入れるのですか⁈」

 

「「「じゃあ妥協してラビットイーターとか?」」」

 

「なんですか⁈その黒ウサギを狙ったダイレクトな嫌がらせは‼︎」

 

うがーっ‼︎とウサ耳を立てて怒る黒ウサギ。レティシアは溜息を吐きながら話を続ける。

 

「つまり主殿には農園区に相応しい牧畜や苗を手に入れてほしいのだ」

 

「ってことは山羊とか牛のことか?」

 

「ああ、幸い、南側の“龍角を持つ鷲獅子”(ドラコ・グライフ)連盟から収穫祭の招待状が届いている連盟主催と言うこともあり、収穫物の持ち寄りやギフトゲームも多く開かれるだろう」

 

レティシア曰く、種牛や希少種の苗を賭けるものも出てくるらしい。それならコミュニティの組織力を高めるには、これ以上にない機会のはず。

 

それにはなるほど、頷く問題児たち。

 

蘭丸は“龍角を持つ鷲獅子”の印の押された招待状を見ていた。

 

「この招待状、前夜祭から参加を求められてんだな。それに旅費や宿泊料は“主催者”が負担するなんてな。“ノーネーム”じゃあ考えられないVIP待遇だな」

 

「Yes♪場所も南側屈指と美しい河川の舞台!皆さんが喜ぶことは間違いなしです!」

 

黒ウサギが珍しく強く勧める。十六夜達は顔を見合わせ、ニヤリと笑う。

 

「へえ…“箱庭の貴族”の太鼓判付きとは……さぞかし壮大な舞台なんだろうな。お嬢様はどう思う?」

 

「そうね、だってあの“箱庭の貴族”がこれほど推してるのよ?目が眩むぐらいに違いないじゃない。ねえ、春日部さん?」

 

「うん…これでガッカリしたものだったら黒ウサギは“箱庭の貴族(笑)だね」

 

「“箱庭の貴族(笑)”⁈なんですかそのお馬鹿っぽいボンボン貴族なネーミングは⁈我々“箱庭の貴族”は由緒正しき貞潔で献身的な貴族でございます!」

 

「献身的なって所が胡散臭いな」

 

ヤハハハと笑う十六夜と拗ねるように頬を黒ウサギ。それは黒ウサギの頭を撫でることでなんとか収まったかと思いきやレティシアの頭も撫でることになっていた。

 

「方針については以上ですが一つ問題があります」

 

「問題?」

 

「はい。この収穫祭ですが、二十日間ほど開催される予定で、前夜祭を含めれば二十五日。約一ヶ月の開催になります。この規模のゲームはそうそう無いですし、可能なら最後まで参加したいのですが、長期間コミュニティに主力が不在なのは良くない状況です。なのでレティシアさんと一緒に、一人残って欲しいのですが……」

 

「「「嫌だ‼︎」」」

 

「即答か…」

 

問題児三人は即答に断り、蘭丸は何故か関心するように笑っていた。

 

「でしたら、せめて日数を絞らせて下さい」

 

「というと?」

 

「前夜祭を三人、オープニングセレモニーからの一週間を四人、残りの日数を三人。このプランでどうでしょうか?」

 

ジンの言うことは最もだ。そこで耀が挙手する。

 

「それだと二人だけ全部参加出来ることになるよね?それはどうやって決めるの?」

 

その質問に席次順と言いかけるジンだがこの問題児達がそれで納得するはずが無い。

 

「なら、箱庭らしくゲームで決めるのはどうだ?」

 

「ゲーム?」

 

「あら、面白そうじゃない。どんなゲームをするの?」

 

「“前夜祭まで、最も多くの戦果を上げたものが勝者”ってのはどうだ?」

 

これには飛鳥も耀も賛成であり目を輝かせている。

 

「分かったわ。それでいきましょう」

 

「うん、絶対に負けない」

 

不適に笑う飛鳥と珍しくやる気を見せる耀。

 

「そうか、じゃあ頑張れお前ら」

 

「何言ってんだ?お前もだよ蘭丸」

 

十六夜は本気で驚いている口調であった。

 

「いや、俺は別に…」

 

「怖いのか?負けるのが……まあ計算高いお前らしい姑息な手段だな。わざわざ負けると分かってて勝負はしねえよな」

 

「そうね、実に弱々しいわね」

 

「…………ビビり」

 

十六夜達はケラケラと笑いながら蘭丸を茶化す。蘭丸はゆらりと立ち上がると、

 

「おもしろい……そこまで言うなら俺がお前らを完膚なきまでに叩きのめしてやるよ」

 

蘭丸は青筋入りの笑みで十六夜達に勝利宣言をした。

 

こうして“龍角を持つ鷲獅子”の全参加をかけたゲームが始まった。




久しぶりに投稿しました。


個人的な私情でいろいろと立て込んでいまして。おそらく誤字など目立つかも………

では誤字、感想、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゲーム探し


※ギフトネームを今後の展開的に変更しました。



“アンダーウッド"の収穫祭での全日程参加をかけてそれぞれが己の戦果を上げるため、ギフトゲームを探しに行った。

その中で逆廻十六夜と二宮蘭丸はいきなり困難に陥っていた。

 

理由は単純に二人が強すぎることにある。十六夜は世界の果てで蛇神を、魔王アルゴールを神格を得た悪魔ヴェーザーなど様々を相手にし。蘭丸も一人で魔王グールを倒したことが大きかった。

 

「まさか、最初から突っかかるなんてな」

 

「全くだ……“サウザンドアイズ”に頼るしか無いなんてな」

 

困ったもんだと蘭丸は溜息を吐く。そして二人は“サウザンドアイズ”を訪れていた。

 

「あ、店員さん。白夜叉に要件があったんだけど伺ってないかな?」

 

蘭丸は店先で掃除をしていた女性店員に声をかけた。するとビクッと肩を震わせ、頬を若干赤らめながら振り向く。

 

「…少しお待ちください蘭丸先生。今確認してきます」

 

「だからその先生って呼び方は……普通に蘭丸でいいってのに」

 

蘭丸は苦笑するが女性店員は店先に入って行った。それを見ていた十六夜はニヤリと笑いながら視線を移す。

 

「へえ、先生なんてな。お前なにしたんだ?」

 

「何って、ただ武術を教えて上げただけだぞ?」

 

蘭丸は首を傾げ真面目に語るために十六夜は呆れて言葉が出なかった。そして女性店員が再びやってきて

 

「お待たせしました。オーナーは中でお待ちしておりますので」

 

入店の許可が降りたため、白夜叉の私室へと向かった。

 

「おお!おんしら。今日は何の用だ?」

 

「下層じゃあ俺たちが出れるようなゲームが無くてな、紹介してもらえるならしてもらいたいってところだ」

 

「うむ、そう言うことなら“階層支配者”としてしてやる」

 

白夜叉は快く了承し、パン!と一度柏手を打つと一枚の“契約書類”が現れそれを十六夜に渡した。

 

「これはおんしのやつだ。場所は世界の果ての“トリニスの滝”だおんしは一度行ったことがあっただろう?」

 

「おう、ありがとな白夜叉。じゃあな蘭丸先にゲームクリアしてくるぜ」

 

十六夜はそう言い残すと“サウザンドアイズ”を後にした。そして一人白夜叉と向かい合っている蘭丸は白夜叉に尋ねる。

 

「それで?俺のゲームはあるのか?」

 

「まあ少しおんしには合わせたい人物がおってな」

 

その言葉に蘭丸は首を傾げるがそれは障子に映る巨躯の影を見て、言葉を失った。

 

(デカイな。俺もそれなりにデカイと思っていたんだがな……)

 

「入って良いぞ」

 

「ああ、失礼する」

 

障子の向こうからは低く芯のある声が聞こえた。そして障子が開いてそこには鎧を着込んだ男がいた。

 

「…………」

 

蘭丸はあんぐりと口を開けて唖然としていた。

 

「お、お、親父⁈」

 

「フッ!大きくなったな蘭丸」

 

そこには蘭丸の父親、二宮清司がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし、親父がまさか箱庭にいたなんてな」

 

蘭丸は呆れるように笑う。

 

「それだけでは無いぞ?こやつはあの“クイーンハロウィン”の元傘下の三三五六外門のコミュニティ、“円卓の騎士”のリーダーでな、アーサー・ペンドラゴンが本当の名前なのだよ」

 

「“クイーンハロウィン”って言ったら確白夜叉と太陽の主権を争った相手じゃ無いのか?」

 

蘭丸は驚いた。“クイーンハロウィン”とはケルト神群最大勢力を誇る、箱庭屈指の組織力を持つコミュニティで、リーダーのクイーンハロウィンは星の運行を司る星霊で三桁の実力を持つ最強の召喚者であり、白夜叉に継ぐ六つの太陽の主権を所持いている太陽と黄金の魔王で白夜叉のライバルである。

 

「ちなみにこいつはクイーンと互角の勝負を繰り広げたのだ」

 

蘭丸は清司の実力に驚いた。いくら蘭丸でも三桁の相手は勝てはしない。白夜叉が本来持つ白夜の力を発揮されたら瞬殺されていただろう。

 

蘭丸は冷や汗をかきながらもなんとか平静を保っていた。

 

「なるほど事情は理解した。んで、親父は今幾つなんだ?」

 

「今は、548歳だ」

 

清司はなんの物怖じもせずに答える。

 

「なるほどな」

 

蘭丸は関心するように感嘆の声を上げる。白夜叉は不思議そうに蘭丸を見る。

 

「蘭丸よ。おんしは驚かないのか?こやつが実の親じゃないのもそうだが、アーサーだと言うことも」

 

「いや全然。むしろ凄いな。伝説の騎士に育てられたなんてな」

 

蘭丸は笑いながら続ける。

 

「血が繋がってなくても、俺は親父に育てられた。それだけで充分さ」

 

「フッ。それでこそ俺の息子だな……ところで蘭丸。お前予定あるか?」

 

清司が聞くと蘭丸は首を横に振り、今の状況を話した。

 

「なるほどな。それはちょうどいい」

 

すると清司は一枚の契約書類を取り出し、蘭丸に差し出す。

 

 

 

【ギフトゲーム名 『Have Holy Grail in the hand; a person』

 

・参加資格、及び概要

・プレイヤーは必ず男性でなければならない

・ただし特例としてホストに認められたプレイヤーは参加が許可される

・予選と本戦、決闘内容は随時変更となる

・敗北条件は降参か戦闘不能になる

・優勝者には相応の恩恵が与えられる

・相手プレイヤーの殺害は契約により不可能である

 

・宣誓

上気を尊重し、誇りと御旗の下、“円卓の騎士”はギフトゲームを開催します

 

“円卓の騎士”印】

 

 

蘭丸はひとしきり契約書類に目を通すと、顔を上げる。

 

「これを、俺に?」

 

「ああ、このギフトゲームは俺らが定期的に開催しているゲームでな、いろんな剣闘士や腕の立つ者が参加するからな」

 

お前の力を見るにも丁度いいだろう?と清司はニヤリと笑う。蘭丸もニヤリと笑った。

 

「いいな。この恩恵で優勝出来そうだな。参加する」

 

「分かった。それじゃあ開催は明日だからな。遅れるなよ。俺は準備があるからコミュニティに戻る」

 

清司はギフトカードを取り出すと清司を光が包み込み、清司は一瞬に消えた。

 

「さて、明日の準備をしますかそれじゃあ俺は帰「まあ待て蘭丸よ」ん?どうした?」

 

「今日は少し暗くなり始めておる。明日は私が案内する。ついでに少し酒でも飲んでいけ」

 

泊まると聞いた時には「ん?」となったが、酒と聞いて蘭丸は目を間開いた。

 

「そういえばそうだな。こないだ飲みそびれたからな」

 

蘭丸は笑いながら泊まることにした。そしてその時の白夜叉の顔は何処かホッとしていた。

 

 

 

 

 

現在、風呂から上がった白夜叉と蘭丸は酒と御膳(蘭丸作)を飲み食いしていた。

 

「いやはや、おんしは料理まで腕がたつとはな、こんなに美味い料理を食べたのはいつぶりだろうな」

 

「口に合って何よりだ」

 

白夜叉は蘭丸の料理を賞賛しながら次々と口に運んでいた。

 

「ところでおんしは明日のゲームに勝算はあるのか?あのゲームは聞いた話だと、かなりの実力者が集うそうだぞ?」

 

白夜叉の問いに蘭丸は愚問だなと言わんばかりに肩を窄める。

 

「当然。と言うよりそんくらいじゃなきゃ勝ちきれないっつの」

 

蘭丸はグラスの酒を一気に飲み干した。そして料理を平らげると立ち上がった。

 

「ん?どうした?もういらんのか?」

 

「ゲームは明日だしな。それに明日のために少し準備しておこうかと思ってな」

 

「そうか…………ああそうだ。アーサーからおんしに渡して欲しいギフトを預かっていてな、ちょいとおんしのギフトカードを貸してみろ」

 

蘭丸が部屋を出ようとした蘭丸を見て白夜叉が思い出したかのように待ったをかけた。

 

「親父が?………まさか⁈」

 

蘭丸は直ぐにギフトカードを取り出し、白夜叉に預ける。そして白夜叉がもう一枚のギフトカードを重ねる。そして蘭丸のギフトカードに新たにギフトが追加されていた。

 

『二宮蘭丸

ギフトネーム

“時空間の支配者”

“分身”

“黒と白の渦”

“時空の水晶”』

 

「これがかつての俺のギフト………なんか懐かしい気がするな」

 

「それに霊格もかなり上がっておるぞ。これなら勝率も上がっておるだろうな。だが油断はするなよ?」

 

「存じております。さて、ちょいと体を動かしてる。新しいギフトを試したいしな」

 

「よし、私のゲーム盤を貸そう。存分に試すが良い!」

 

そう言うと、白夜叉は自らのギフトカードを取り出すと白夜の地に蘭丸を転移させた。

 

「まああやつなら大丈夫だろうな」

 

白夜叉はグラスの酒を飲んだ。

 




新たにギフトを投入しました。後に設定の方に追加しますので、そちらもご覧ください。女性店員をサブヒロインに追加しようかと…


では、誤字、感想お待ちしております。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『Have Holy Grail in the hand; a person』予選

 

四桁、三三五六外門、“円卓の騎士”には大きく、時代を感じさせる闘技場と城のそびえ立っていた。

 

「しっかし、なかなかの人数だな。ざっと百人くらいはいるんじゃないか?」

 

蘭丸は闘技場に迎う様々なコミュニティを見ていた。

 

「“円卓の騎士”のギフトゲームはかなり有名でな。優勝賞品も毎回レアものだと聞く」

 

蘭丸に同行して来た白夜叉は扇子を扇ぎながら蘭丸に解説する。曰く白夜叉はゲストとして招待されていたらしい。

 

「まあおんしならそう負けることはない。なんせこの白夜叉様に膝を付かせた男だからのう」

 

ケラケラと笑う白夜叉を見てつられて笑う蘭丸。

 

「じゃあさっくり優勝してくるわ」

 

「ふふん。くれぐれも油断するなよ?おんしはないと思うが」

 

そして蘭丸はプレイヤー入り口と書かれた扉へ入っていった。

 

「さて、あやつの相手になる奴は現れるかの」

 

白夜叉は扇子で口元を隠しながら不適に笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**

 

「さあー!長らくお待たせしました!これより、第205回ギフトゲーム、『Have Holy Grail in the hand; a person』を開催します!」

 

実況の音頭に会場は割れんばかりの歓声が鳴り響いていた。実況は一度咳き込み、再びマイクをとる。

 

「本日のギフトゲームは実に十年ぶりに開催されるとのことです。さあ、今回の優勝者にはどのような恩恵が与えられるのか⁈」

 

「それではゲームに先立ちまして、“円卓の騎士”のリーダーである、アーサー様からお言葉を頂戴します」

 

実況の隣に座っていた清司、もといアーサーはマイクを受け取ると、堂々と話し始める。

 

「皆、今回はこのゲームに足を運んでもらい、感謝している!今回の優勝者への恩恵も聖杯と別に特別な物を用意している。聖杯を手にする者の勇姿、目に焼き付けてくれ!」

 

またもや会場のボルテージが上がっていく。

 

 

**

 

予選ブロックは四つのブロックに三十人ずつ分かれ、バトルロイヤル方式で最後に立っていた者の勝利となる。蘭丸は第三ブロックとなった。

 

ゲーム開始まで蘭丸は控え室で武器を確認していた。

 

「取り敢えずこの槍と太刀、あとコレでいいか。取り敢えずギフトカードにしまってと……」

 

「第三ブロックの選手!出番です。こちらに集まってください!」

 

運営の男の下に蘭丸他、29名は集まった。そして男から、バッチを渡された。プレイヤー達は何かとざわめく。

 

「こちらはライフバッチと言って、このバッチが壊れた時、戦闘不能とみなし、敗北となります」

 

「へえ……これが」

 

蘭丸はワイシャツの胸にバッチを着ける。そしてそのまま闘技場へと案内される。

 

「さあー!これより第三ブロックの選手を紹介します!まず、“円卓の騎士”の傘下のコミュニティ、“ブラッドソード”より、ローズ選手!」

 

紹介されると、会場からローズを応援する声が聞こえる。“ブラッドソード”は東の五桁のコミュニティで力のあるコミュニティである。

 

「続いては“ペルセウス”のリーダー、ルイオス=ペルセウス選手です」

 

蘭丸はルイオスが出場していたことに驚いていた。しかしその顔つきはこの前の外道の顔つきとは程遠く、“ペルセウス”のリーダーとしての風格が出ていた。

 

「こりゃ前よりやりずらそうだな」

 

そう言いながらも笑みを絶やさない蘭丸であった。

 

そしてそこから五桁のコミュニティや六桁のコミュニティも来ている。

 

「そして、最後“ノーネーム”より二宮蘭丸選手!」

 

シーン

 

蘭丸の登場と共に会場はしずまり中にはクスクスと笑う者もいた。

当の本人は知らぬ顔をしているが………

 

「さ、さあ!これより第三ブロックの開始です‼︎」

 

ジャーン‼︎

 

開戦と同時に蘭丸に斧を持った男が蘭丸の前に立ちふさがった。

 

「ふん!“名無し”がこんな大会に出るなんてな」

 

「“ノーネーム”が出てはいけないってルールにあるか?」

 

蘭丸は直ぐに切り返すが男はニヤニヤしながら斧を構える。

 

「俺が一撃で沈めてやる‼︎」

 

そして斧を振り回しながら蘭丸に襲いかかる。蘭丸はギフトカードから槍を取り出すと溜息を吐いた。

 

「遅い!」

 

ズゴォォン‼︎

 

そして槍を一振りすると男は壁に吹き飛ばされた。吹き飛ばされた男は白目を剥いて痙攣し、肩に着けていたバッチは粉々に砕けていた。

その光景に会場は唖然としていた。実況も一瞬言葉を失うが直ぐに実況を始める。

 

「な、なんと“ノーネーム”の二宮選手!一撃で戦闘不能にしました‼︎」

 

「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」」」」

 

「すげぇ‼︎」

 

「あれ、本当に“名無し”か⁈」

 

先程の蘭丸への態度は一変した。歓声を上げる者、どよめく者、会場の蘭丸に対する見方は変わっていた。

 

「ふふん。こやつらも驚いたか」

 

「凄いです…こんなに強いなんて」

 

白夜叉の隣に座る“円卓の騎士”所属の少年が驚いている。

 

「当然だ童よ。あやつはこの“白き夜の魔王”のお墨付きだぞ?」

 

「ふん。ちゃんと鍛錬はして来たようだな。蘭丸よ」

 

アーサーも自身の育てた子の成長に微笑んでいた。

 

 

 

「へえ…なかなか面白そうじゃないか」

 

興味深そうに笑いながら漆黒の剣で亜人の剣士を一撃で沈めるローズ。

 

「ふん!あんぐらいじゃないとリベンジにならないよ」

 

ハルパーを持つルイオスも口では言いながらも笑っていた。ローズもルイオスも次々にプレイヤーをなぎ倒して行く。

 

早くも第三ブロックはローズ、ルイオス、蘭丸の三人が決勝進出候補になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**

 

そして十分後には三人以外のプレイヤーは既に失格となって残るはローズ、ルイオス、蘭丸の三人になっていた。

 

ローズとルイオスは蘭丸に視線を向けていた。

 

「なんで二人とも俺を見てるんだよ」

 

蘭丸は口だけの不満を漏らしていたがその顔に不満は無い。

 

「何でって、先に君と戦いたいしね」

 

そう笑顔で答えるローズ。

 

「僕はお前にリベンジしたいからな。今はそう簡単にやられないぞ?」

 

とルイオスは言葉と同時に蘭丸に飛びかかる。ローズもルイオスに続く。蘭丸はハルパーと剣を槍で受け止め、二人を薙ぎ払う。蘭丸は後方にステップし、体制を整えるとローズに向かって、走り出す。第二宇宙速度で走り、槍をローズを薙ぎ払うがローズはしゃがみこれを回避する。そしてそのままジャンプの勢いで下から斬りかかる。蘭丸は合わせながらジャンプし、槍で受け止める。

 

「僕を忘れたのか蘭丸‼︎」

 

ルイオスはヘルメスの靴で飛びながら、頭上からハルパーを振り下ろす。しかし蘭丸も空間に足場を作り踏ん張りながらハルパーを受け止める。

 

「ハッ!かなりレベルアップしてるじゃんかルイオス!」

 

蘭丸は瞬間移動で回り込むと、途轍もない速さで槍をルイオスに叩きつける。

 

「ぐぉっ⁈」

 

ルイオスは地面スレスレでヘルメスの靴でなんとかとどまるが、そのタイミングでローズに蹴りを入れられた。

 

「グッ!」

 

ルイオスは地面を何度か転がる。しかしルイオスもまた立ち上がる。

 

「隙ありだよ!蘭丸君!」

 

ローズは丁度地面に降りた蘭丸に向かって走り出す。ルイオスや蘭丸と違い、空中戦を戦うためのギフトを持っていない彼だが地上戦はその分かなり強い。漆黒の剣から放たれる鎌鼬が蘭丸を襲う。

 

「甘い‼︎……だりゃっ‼︎」

 

だが蘭丸は槍を突き出し、鎌鼬を相殺する。そしてローズに突進し、勢いのまま槍を突く。

 

「があっ‼︎」

 

ローズはそのまま壁に打ち付けられた。ローズは立ち上がろうとするが膝を着き、そのまま倒れた。

 

「ローズ選手。ここで戦闘不能!残るはルイオス選手と蘭丸選手のみ!しかしルイオス選手はかなりのダメージを追っている!一方の蘭丸選手はほぼノーダメージ!このまま蘭丸選手が勝利をおさめるのか⁈」

 

ルイオスはフラフラながらも戦意は衰えず、再びハルパーを構える。

 

「行くぞ蘭丸‼︎僕は最後まで諦めない‼︎うおぉぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

ルイオスは地面を蹴るとかなりのスピードでハルパーを振るう不意を突かれた蘭丸にハルパーが直撃…………………

 

 

 

 

しなかった。蘭丸は幻影の様に消えた。

 

「分身⁈」

 

ルイオスは本人を探す為に辺りを見る。そして後方からカツンと聞こえた。

 

(しまった!後ろ………)

 

だが振り返ったところには槍が落ちているだけだった。

 

「隙ありだ!ルイオス!」

 

蘭丸は上空からルイオスに狙いを定めていた。ルイオスは直ぐに離れるが蘭丸は瞬間移動でルイオスの背後に回るそのままルイオスを殴る。空間を砕く拳はルイオスを捉えていた。

 

「ガッ………ハッ」

 

ルイオスは壁に打ち付けられた後そのまま倒れた。

 

「ルイオス選手、戦闘不能!よって第三ブロックの勝者“ノーネーム”の二宮蘭丸選手‼︎」

 

蘭丸の勝利が決まると観客は大きな歓声に覆われた。まさに地響きが起きていた。

 

 

 

 

 

**

そして第四ブロックの予選も終わり、決勝の準備時間………

 

「うむ。流石は蘭丸だ!」

 

「ほ、本当に凄い……こんなに凄い人が最下層にいるなんて」

 

「最下層だからこそ、このくらいのレベルしか出られんのだ」

 

白夜叉はケラケラと笑いながら少年の頭を撫でる。

 

「ローズの実力は五桁でも上位の実力だ。ルイオスも今は六桁だが実力的にはまたコミュニティ全体としても上がっているのだがな……あいつはそれを凌駕してるな」

 

「それにあやつはまだ本気は出しておらんよ。まだ余力は残っておるよ」

 

「だが決勝はそういかないだろうな」

 

アーサーは契約書類を取り出し決勝進出者を見る。

 

【ギフトゲーム名 『Have Holy Grail in the hand; a person』

 

・決勝進出者

 

・“クイーンハロウィン” フェイス・レス

・“天下泰平” 幸村

・ノーネーム” 二宮蘭丸

・“円卓の騎士” ランスロット

 

 

 

 

 




久しぶり蘭丸無双がかけました。

では、誤字、感想、お願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『Have Holy Grail in the hand; a person』 決勝

 

 

決勝戦開始までもう僅かとなっている頃、会場では誰が優勝するか、その話し合いが行われていた。

 

「俺は“クイーンハロウィン”の剣士だと思うぞ?」

 

「いや、“天下泰平”の幸村じゃないのか?」

 

「やはりランスロット卿だろ。なんせ“円卓の騎士”の副聖騎士長だしな」

 

「“ノーネーム”の子もさっきは強かったがこのメンツ相手にはな……」

 

と流石に蘭丸は勝てない思っていた。いくら強くてもやはり“ノーネーム”というのは戦う前からそう決めつけられていた。

 

「さあ‼︎強者揃いの決勝戦、栄冠は誰の手に⁈それではプレイヤーの紹介です。まず“クイーンハロウィン”の寵愛者、“仮面の騎士”ことフェイス・レス‼︎」

 

顔の半分を舞踏用の仮面で覆っている女性の騎士、フェイス・レスは淡々と歩み出る。

 

「そして!“天下泰平”の二番隊隊長!その気迫から“赤鬼”と称される、真田幸村‼︎」

 

そして、真田の家紋と同じ六文銭のハチマキを巻き、身軽そうな格好の真田幸村は会場に手を振りながら登場している。

 

「そして、我ら“円卓の騎士”副聖騎士長、ランスロット卿‼︎」

 

ランスロットの登場に一番会場が盛り上がった。ランスロットは銀の鎧を見にまといランスを抱えていた。

 

「最後は、予選ブロックを圧倒的な強さで勝ち上がった。今回の台風の目となる存在!“ノーネーム”の二宮蘭丸‼︎」

 

蘭丸にも割れんばかりの歓声がかけられた。少なくとも彼が“名無し”であると馬鹿にする者はいない。

 

 

 

 

 

「さあー‼︎決勝戦。開始です‼︎」

 

ジャーン‼︎

 

ドラの音を合図にフェイス、幸村、ランスロットの三人は一斉に蘭丸へと向かった。

 

「へ?」

 

キィィン!

 

「おおっと⁉︎いきなり蘭丸選手を狙い始めた!これは蘭丸選手を先に沈めてしまおうということでしょうか⁈」

 

だが蘭丸も、三人の攻撃を槍一つで防ぐ。そして三人を振り払うと不機嫌そうに声を上げる。

 

「おい!いきなり三人がかりなんて、予選と言い、お前ら俺に何の恨みがあるんだよ‼︎」

 

その言葉にフェイスは銀色のポニーテールを靡かせ、蛇蝎の連接剣を構える。

 

「恨みはありませんよ。ただ戦略的に貴方を潰すのが一番早いかと」

 

幸村も三叉の槍を乱舞し、型を整える。

 

「某も同じでござる!」

 

ランスロットは無骨に頷きながらランスを構える。

 

「……覚悟‼︎」

 

またもや三人は蘭丸に襲いかかる。それに蘭丸はキレた。

 

「……っあぁぁぁ‼︎めんどくせぇ!こうなったらお前ら全員纏めて叩きのめしてやるよ‼︎」

 

蘭丸は声を荒らげると槍を振る。振った後には鎌鼬が出来ており、その鎌鼬は空間を飲み込んで行く。堪らず三人は防御の体制に入る。

 

……が防ぎきれないと判断した三人はそれを躱す。すると客席はスッパリと裂けた。幸いそこに観客はいなかったがその威力にフェイス、幸村、ランスロットは冷や汗をかいていた。

 

(今のはまともに受けていたら一撃でやられていたでしょうね)

 

(それにこのゲームの契約が無ければ胴体は繋がっていなかった…)

 

(…なるほど…こいつはヤバイな…)

 

「オラァ‼︎どんどんいくぞ‼︎」

 

さらに蘭丸は三人一斉に倒すつもりで突っ込む…と見せかけて二体分身を出現させ、一体を幸村に、一体をランスロットに向かわせた。

 

そして自身はフェイスの下へ向かった。

 

フェイスは剣を居合い切りの要領で抜刀するが蘭丸はそれをあっさりと躱す。フェイスはもう一撃を繰り出すが蘭丸の槍に阻まれる。

 

(この間合いにおいての槍は不利なはず、なのになぜわざわざ……っ‼︎まさか‼︎)

 

フェイスが警戒したこと、それは蘭丸の槍術以上の威力のある接近戦である。その一撃を食らってはただじゃあすまないと感じ取ったフェイスは後方にステップする。

 

だが蘭丸はニヤリと笑い、

 

「かかったな!」

 

「⁈」

 

蘭丸は槍を捨てると太刀に持ち帰るとフェイスの鎧の隙間に太刀を斬りつけた。それによりフェイスのバッチは砕け、フェイスの敗北が決まった。

 

「…まいりました。完敗です」

 

「そうでもないさ」

 

蘭丸はフェイスをねぎらい他の二人を見ると分身は倒されていた。

 

「蘭丸殿、御旗頂戴いたす!」

 

「殺しはご法度だぜ?」

 

幸村の槍を槍で受け止める。そして幸村は高速で槍を突く、蘭丸はそれを簡単に躱す、幸村は何度も槍を突くが蘭丸には当たらない。

 

「クソッ!……」

 

「今度はこっちだ!」

 

蘭丸は槍を掻い潜ると首元に蹴りを食らわせた。吹き飛ばされた幸村はそのまま起き上がらず失格となった。

 

「ゆ、幸村選手ここで失格‼︎残るはランスロット卿と二宮選手だけ!さあ、この勝負、どちらが勝利を収めるか⁉︎」

 

ランスロットと蘭丸は互いに一定の距離をとっていた。

 

「…二宮蘭丸。その槍さばきに体術、尊敬に値する。俺はお前に敬意を表し、一撃で鎮める」

 

ランスロットはランスを捨て、ギフトカードから剣を取り出した。

それを見て蘭丸はその剣に目を奪われていた。

 

「それは…アロンダイトか?」

 

「そうだ、どんなに刃を交えても刃こぼれしない。エクスカリバーに並ぶ名剣だ」

 

ランスロットはアロンダイトを蘭丸に振り下ろす。蘭丸は槍で迎え撃つが、槍は真っ二つに折れてしまった。

 

今まで戦ってきたが蘭丸の槍はなんの恩恵も宿っていないただの槍であった。

 

「あら?俺ちまったか…」

 

蘭丸はおどけるように肩を竦める。ランスロットはアロンダイトの刃先を蘭丸に向ける。

 

「どうやら俺の勝利のようだな」

 

「まさか、俺も切り札を使わせてもらう」

 

蘭丸はギフトカードを掲げ、槍を召喚した。その槍を見てランスロットは驚愕した。

 

「そ、それは“ロンギヌスの槍”⁈」

 

「そ。まあもちろんレプリカだけどな」

 

蘭丸はロンギヌスを軽々と振り回す。

 

“ロンギヌスの槍”はキリストの死を確認するために使われた槍と呼ばれ、その槍を持つ者は世界を支配する力を持つと言われている。そのレプリカは世界を支配する力はないが神力が弱量宿っている。

 

「く、くっそおぉぉぉ‼︎」

 

「終わりだランスロット‼︎」

 

ロンギヌスはランスロットを貫き、ランスロットのバッチが砕けた。

 

「ラ、ランスロット卿戦闘不能だぁぁぁぁ‼︎よって優勝は“ノーネーム”の二宮蘭丸‼︎」

 

蘭丸の優勝に会場は今日一番の大歓声が起きた。その中央に立つ蘭丸はまだ余力を残している。

 

**

 

「これより優勝者に聖杯と希望する恩恵の授与を行う!“ノーネーム”の二宮蘭丸は前へ!」

 

アーサーの進行により表彰が行われていた。蘭丸は聖杯を受け取った。

 

「蘭丸よ。お前の望む恩恵は何だ?」

 

「ああ、俺は…………」

 

 

 

 

 

 

 

「うむ、分かった。その恩恵は出来次第“サウザンドアイズ”に送る。楽しみにしておけ」

 

アーサーはニヤリと笑う。それにつられ蘭丸もニヤリと笑った。蘭丸は聖杯をギフトカードに収納すると、空を見て、十六夜達の事を考えていた。

 

(さて、あいつらはどんな成果を上げてるんだろうな)

 

蘭丸はそれを楽しみに思いながら会場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





誤字、感想、お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

成果発表

 

 

「♪〜♪〜」

 

“円卓の騎士”から帰省した蘭丸はキッチンで調理をしていた。

 

「あーあ、あの槍どうせならそのまま白夜叉から貰えばよかったな」

 

蘭丸の使用していた“ロンギヌスの槍のレプリカ”は白夜叉から借りた武器であり。白夜叉から貰うかと聞かれたがそれを断ったが今となってそれを後悔していた。

 

「なんだ。とても良い香りがするるなリリ……蘭丸⁈何故お前が⁈」

 

リリがいると思っていたレティシアは蘭丸と突然鉢合わせたため慌てていた。

 

「いや、ただアップルパイ作ってただけだぞ?おやつがてらにな。ちょうど完成したところだし少し味見するか?」

 

と一口サイズに切ったアップルパイをフォークに刺しレティシアに差し出す。

 

(こ、これは………「アーン」のシチュエーションか?///)

 

レティシアが慌てる表情を見て蘭丸は首を傾げる。

 

「どうした?アップルパイ嫌いだったか?」

 

「い、いや。頂くよ」

 

レティシアはフォークに刺さったアップルパイを口に運んだ。蘭丸はどうだ?と言わんばかりの表情でレティシアを見る。

 

「おお!これは美味だな!パイ生地のサクッとした食感と林檎の甘い香りが広がってくるな」

 

「そうか。そいつは良かった。………帰ってきたんなら覗き見はやめろよなお前ら」

 

その言葉にレティシアはビクッとキッチンの入り口を見るとそこから十六夜、飛鳥、耀の三人がニヤニヤとした表情と涎を垂らしてアップルパイを凝視していた。

 

「ヤハハハ!お楽しみは覗くから面白いんだろ?」

 

「その通りよ蘭丸君」

 

「……アップルパイ…」

 

「仲良いなお前ら……」

 

十六夜と飛鳥がニヤニヤと耀が涎を垂らしている。蘭丸は溜息を吐いて、大量のアップルパイをバスケットに入れ、キッチンを出る。

 

「…///」

 

レティシアは熱くなった顔を水で洗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**

 

昼食とアップルパイを食べ終え、リリは後かたずけに向かい、四人とレティシア、ジンの六人は大広間に集まっていた。

 

「あれ?そう言えば黒ウサギは?」

 

「先ほど“サウザンドアイズ”の店に向かったところだ」

 

「審査基準は聞いていますので僕とレティシアさんだけで十分です。あとは十六夜さんの報告だけですから」

 

 コホン、とジンは少し気取った咳払いをして進行を始める。

 

「細かい戦果は後に回して、まず大きな戦果から、飛鳥さんは牧畜を飼育するための土地の整備と、山羊十頭を手に入れたそうです。飼育小屋と土地の準備が整い次第、“ノーネーム”に連れてくるそうです」

 

「ふふ、子供達も『山羊が来る!』『乳がいっぱい来た!』『これでチーズが作れる』と喜んでいた。派手な戦果や功績ではないが、コミュニティとしては大きな進展だと思うぞ」

 

ふふんと髪をかきあげる飛鳥。華やかな戦果とは言えないが組織としてはかなりの戦果である。

 

「次に耀の戦果だが……ふふ、これはちょっと凄いぞ。火龍誕生祭にも参加していた“ウィル・オ・ウィスプ”が、わざわざ耀と再戦するために招待状をお送りつけてきたのだ」

 

「するともしかして、例の三枚の招待状の一つは……」

 

 蘭丸の疑問に、ジンがコクリと頷いた。

 

「その通りです。“ウィル・オ・ウィスプ”主催のゲームに勝利した耀さんは、ジャック・オー・ランタンが制作する炎を蓄積できる巨大なキャンドルホルダーを無償発注したそうです」

「なのでこれを機に、竈かまど・燭台しょくだい・ランプといった生活必需品を“ウィル・オ・ウィスプ”に発注することになりました。コッチは中々に値が張りましたが……先行投資と思えば悪くありませんし、蘭丸さんのおかげでお金にも少し余裕が出来ましたので、本拠内は恒久的に炎と熱を使うことができます」

 

「へえ、金銭のゲームが多い下層のゲームでなかなかの戦果じゃねえか」

 

「ああ、素直に凄いと思うぞ」

 

「そういう二人の戦果は?」

 

「ああ、俺らの戦果は“サウザンドアイズ”にある。黒ウサギもいるし、ちょうどいいだろ?」

 

こうして蘭丸達は大広間を後にし、“サウザンドアイズ”の支店へと移動した。

 

 

 

 

**

 

“サウザンドアイズ”の支店の店先に女性店員が竹箒で散乱していた花弁を掃いていた。彼女は彼らの顔を見ると嫌そうな顔をした。

 

「……また貴方達ですか」

 

「そういうお前はまた店先の掃除か。よく飽きないな」

 

「ふん、仕事に飽きを感じるなど贅沢者の言葉ですね。それに私は新参ですが、二一○五三八○外門支店を預かる立場に在ります。押し入り客を拒み、資格のあるお客様だけを……」

 

「「「お邪魔します」」」

 

「帰れ‼︎」

 

スルーした三人に八重歯を見せながら、竹箒を振り回すがその切っ先を十六夜が掴んだ。

そこに少し遅れて蘭丸がやって来た。

 

「おいおいなにやってるんだよ。店員さんに迷惑かけんな」

 

蘭丸は溜息交じりで十六夜の手を掴む。

 

「ヤハハハ!ついな」

 

「おお、すまんすまん。小僧達が来ることを伝えておらなんだな。ちょいと重要な案件がある故急ぎで通してやってくれ」

 

暖簾の奥から聞こえるオーナーの声には逆らえない女性店員は道をあけた。

 

「……………いらっしゃいませ。どうぞお入りください」

 

十六夜達は暖簾をくぐり店内に入る。

 

「すまんな。あいつら悪気しかなくてな」

 

蘭丸は申し訳なさそうに謝る。レティシアとジンも続けて頭を下げる。

 

「…いいえ。蘭丸さん達もどうぞお入りください」

 

「ああ…ん?糸くずついてるぞ?」

 

「「あ!///」」

 

蘭丸は何食わぬ顔で肩に着いた糸くずをとった。そのいきなりの行為に女性店員は顔を赤らめた。

 

「じゃあお邪魔…」

 

「「黙れこの駄神‼︎」」

 

蘭丸の声を遮り、叫び声と轟音が彼らの耳を支配した。

 

「え?」

 

「なんだ?白夜叉が何かやらかしたのか?」

 

蘭丸とジンは走って音の方へと向かった。女性店員とレティシアは呆然としていた。

 

 

 

**

 

蘭丸達が駆けつけた時、その光景を見て蘭丸は言葉を失った。

 

「黒ウサギ………?と誰?」

 

「ひゃん!蘭丸さん⁉︎///」

 

大胆に胸元が開いたミニスカの着物にガーターソックスという統一感の無い姿を蘭丸に見られた黒ウサギは本気の涙を浮かべた。

 

「おお、来たか蘭丸。どうだ?このエロい黒ウサギは?」

 

バキィ‼︎

 

蘭丸は白夜叉を蹴りで中庭に放り込んで黒ウサギとその女性にタオルをかけた。

 

「取り敢えず、着替えな。特に黒ウサギ。そんな全身濡れてたら」

 

「何⁈黒ウサギが濡れ濡れだと⁉︎」

 

ズドオォォォォン‼︎と豪雷が白夜叉を貫いた。

 

 

 

 

 

**蘭丸side

 

 

黒ウサギともう一人の女性、“トリニスの滝”の主、白雪姫は元の服に着替えた。あの衣装はこの外門に作る新たな施設のためらしい。……どんな施設かはあえて考えないとして……

それの為に潤沢な水源の確保の為に白雪の下に十六夜を行かせたらしい。

 

「さて白夜叉。ゲームクリアの報酬を渡してもらおうか」

 

「ふふ、分かっておる。“ノーネーム”に託すのは前代未聞だがこれほどの功績を立てたのだ。他のコミュニティも文句は有るまい」

 

白夜叉がパンパンと小さな柏手を打つと一枚の羊皮紙が現れ、白夜叉がそれにサインを書きジンに渡した。

ジンはそれを見て絶句していた。

 

「こ、これは……まさか……⁉︎」

 

「どうしましたかジン坊ちゃん?」

 

黒ウサギもジンの後ろに回り込みそれを見ると黒ウサギも絶句していた。

あ!そう言えばなにか言ってたような………

 

「ちょい見して!」

 

俺はつい取り上げそれを読んだ。

 

【二一○五三八○外門 利権証

*階層支配者は本書類が外門利権証であることを保証します

*外門利権証の発行に伴い、外門の外装をコミュニティの広報に使用する事を許可します

*外門利権証の所有コミュニティに右記の“境界門”の使用料の八○%を納めます

*外門利権証の所有コミュニティに右記の“境界門”を無償で使用する事を許可します

*外門利権証は以後、“ ”のコミュニティか地域支配者(レギオンマスター)”で有ることを認めます

 

“サウザンドアイズ”印】

 

…外門利権証……こいつは一番の手柄だな。これには勝てんわ。二人もこれには負けたらしい。流石は十六夜だな。

 

「……黒ウサギ?」

 

黒ウサギはジン言葉に反応しないで俯いて震えていた。そしてゆっくりと立ち上がり、十六夜は燻しげな顔をしてるな。

 

そしてガバッと黒ウサギは十六夜の胸に飛び込んだ……飛び込んだ⁈

 

「凄いのです!凄いのです!凄すぎるのですよ十六夜さん!たった二ヶ月で利権証まで取り戻して頂けるなんて……!本当に、本当にありがとうございます!」

 

黒ウサギ……本当に嬉しそうだな。なんか少しモヤッとしたが……寝不足か?

 

**蘭丸sideout

 

**十六夜side

 

(おお、こりゃ役得だが)

 

これは蘭丸の仕事の筈だぜ?なのにあの野郎ニコニコしやがって。あいつのことだから黒ウサギか嬉しそうだとか思ってんだろうが……ん?いや面白いことになりそうだな

 

「そういや蘭丸の戦果はまだだったな。教えてくれよ」

 

「そう言えばそうだったな。白夜叉」

 

「おお、そうだったな。ホレ、こいつと約束通りのこれだ」

 

白夜叉は何か気を感じる杯と小さな袋が二つか………袋はともかくあの杯は何か凄い物そうだな。

 

「じゃあ俺も戦果の発表だな。まずこの袋は商業コミュニティへの受講と取り引きで稼いだ銅貨二千枚とこれは……“円卓の騎士”のギフトゲームで手に入れた聖杯と……土地の利権証」

 

………こいつサラッとすげえ戦果上げてるじゃねえか。見ろよお嬢様と春日部に至っては口開いて呆然としてるじゃねえかよ!

 

「“聖杯”はコミュニティに安置して魔除けに使うとして。土地で俺の店を作る予定だ。これでコミュニティの財政も助かるな」

 

ハッ!やっぱこいつはとんでもねえぜ!こいつといつか戦いたいもんだぜ。

 

「ら、蘭丸さん!蘭丸さんも凄いのです!」

 

今度こそ黒ウサギが蘭丸に抱きついた。おしっ!作戦成功だ。だが白夜叉が満足してるあいつも惚れてんじゃねえのか?

 

「…おい白夜叉。お前は?」

 

「いや、私は下世話の方に回ろうと思ってな。それの方が面白いしな」

 

ヤハハハ!確かにな暫くはこの光景を見るか。レティシアは赤くなって固まってるし、あの鈍チート野郎は面白いぜ。




ちょっと最近グダグダです………

白夜叉はサブヒロイン兼下世話担当二号(ちなみに一号は十六夜です)になりました。彼女をよろしくお願いします。

では誤字、感想、お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ささやかな夕食会

**蘭丸said

 

“ノーネーム”が“地域支配者”に就任し、豪華な夕食となっていた。普段ではこんな高い料理は食べれないであろう料理の数々であった。今回は黒ウサギが珍しく腕をふるい、彼女が調理した川魚は表面を軽く焼いてから油で揚げたものに、とろみのある餡あんをかけた品としてテーブルに並んだ。

その料理は主力陣や子供達に好評だったが、

 

「黒ウサギ、これ多分、餡掛けないで、酢漬けにした方が美味い」

 

と十六夜の一言で空気がぶち壊しになった。

 

「まあ、好みはその人それぞれだしな。俺は好きだぞ?黒ウサギ」

 

「あ、はい///って蘭丸さんやっぱりお酒ですか⁉︎」

 

と黒ウサギは蘭丸に褒められて照れるが彼が魚をつまみながらワインを飲んでいたことをツッコミを入れる。

 

「大丈夫だ。ちゃんと節制してるし、飲むのは俺とレティシアくらいだろうしな」

 

「うむ、久しく飲んだが……やはり酒は良い物だな」

 

気が付けばレティシアもグラスを片手に持っていた。

 

「ハハッ!だそうだ!もう一杯どうだ?」

 

「ああ、……ふふ///」

 

レティシアはワインを一口飲み、微笑んだ。ワインで頬もほんのり紅くなり、もともとの美しさに拍車がかかりますます妖艶に見えた。

 

(どうしましょう……黒ウサギも蘭丸さんと飲みたいですが、先程言った手前言いずらいのです)

 

どうやらレティシアを見て、羨ましく思ったのか先程の自分の発言に後悔している様だった。

黒ウサギがもじもじとしてるのを見て蘭丸は空のグラスをグラスに渡す。

 

「黒ウサギもどうぞ。さっき言った手前良いずらかったんだろ?それは俺にも非があるしな」

 

蘭丸は申し訳なさそうに苦笑した。それを見て黒ウサギも笑う。

 

「ありがとうございます蘭丸さん!黒ウサギもいただきます」

 

黒ウサギは嬉し涙を出し、ワインを一気に飲み干した。

 

 

 

 

**蘭丸said

 

二時間後殆どの子供達は戻り、俺達主力陣は食堂で残っていた。

 

「あははは♪このもんだいじさまがたあ〜♪」

 

調子に乗って飲みまくった黒ウサギは出来上がっていた。全く、久しぶりだからって飲み過ぎだろう。いつもの貞潔(?)を自負する“箱庭の貴族”が肩なしだろ。全く……俺は取り敢えず、黒ウサギを背中に背負った。

 

「ったく飲みすぎたな。ちょっと黒ウサギ寝かして来る」

 

「おう、頑張れよ」

 

「?おう?」

 

十六夜は何故かニヤニヤしながら言いやがる。全くなに考えてやがるんだか。

 

**saidout

 

「ねえ、十六夜君。彼はわざとやっているのかしら」

 

「いや、あの鈍チートの事だ。真面目にやってるんだろうな。もし黒ウサギが色仕掛けしても『風邪引くぞ?』とか言いそうだしな」

 

「うん、ふぉうふぁふへぇ」

 

十六夜と飛鳥はニヤニヤとして彼を見ていた。耀は黒ウサギ作った川魚やら、パンとかを詰めまくっていた。

 

それを見て十六夜と飛鳥も笑った。

 

**

 

 

そんな賑やかな宴の席が終わった後。耀は三毛猫と共に自室に戻っていた。次第に夜も更け込む中、やや肌寒い風が吹き込む窓際に腰掛ける。ヒュウ、と風が彼女の頬を撫でると同時に、耀は小さくため息を吐いた。

 

「三毛猫。私は収穫祭が始まってからの参加になったよ。残念だけど、前夜祭はお預けだね」

 

『……そうか。残念やったなお嬢』

 

「うん。でも仕方ない。蘭丸と十六夜は本当に凄いもの。水不足を解決したり、レティシアを助け出したり。魔王の謎を解いた時も、蘭丸は自分のお店もだして、本当にとんでもない男の子達だなあって、思わず感心しちゃったよ」

 

だから仕方ないと肩を落とす。

 

「……それに、凄いのは二人だけじゃない。飛鳥だって凄い。あんなに酷かった土地を、たった一ヶ月で土壌に整えたんだ。本当に凄い」

 

『そんなもん、ワシらが居おったところじゃ全然凄くも無かったやないか』

 

「それは技術があったからだよ。それを人の手だけでやってのけたんだよ」

 

それこそまさに恩恵であろう。耀は三毛猫の喉をゴロゴロと撫でる。

 

「あのね三毛猫。あの農園は十六夜が水を用意して、飛鳥が育んで、蘭丸が肥料や道具とかも買ってくれて。だから私が苗を植えてこの農園は四人で作ったって胸を張って言いたくて」

 

でも実際駄目だった。せっかく上げた戦果は一蹴された。

ここまで耀は大事なところで戦果が乏しかった。先日の魔王戦では、戦わずして脱落と醜態を晒してしまった。その為に南側で沢山の幻獣との出会いがほしかった。

 並のゲームではいざ知らず、今の耀が魔王のゲームに挑むのは、余りに力量不足だと彼女自身が誰よりも痛感していた。“ノーネーム”の主力である以上に魔王と一人で戦える力が欲しかった。

 

「三毛猫…」

 

『なんや』

 

「みんな凄いね」

 

『せやな』

 

三毛猫は短く相槌を打つ。耀は慰めに夜空を眺める。皮肉にも今日は十六夜月であった。

 

「でも私はあんまり凄くないね」

 

『…………』

 

「やっぱり、投げやりな気持ちでコミュニティに所属したのが駄目だったんだ。偶然素敵な友達が出来ただけで……私には、その関係を維持する力がない」

 

『お嬢……』

 

三毛猫は何も言えなかった。

 

**

 

その後 三毛猫はひっそりと寝室を抜け出した。

ランプの光は既に消され、窓から差し込む星の光を頼りに階段を下る。耀に初めて友達が出来て、彼は誰よりも安堵していた。耀と同じ日に生まれ、共に十四年の月日を過ごしてきた三毛猫だが……もう、自分の寿命が長くないだろうと思っていた。病にかかっている訳ではなく、生物としての寿命が尽きるという意味である。後は箱庭でゆっくりと余生を過ごすはずだったのだが……どうやら、最後に一仕事せねばならないらしい。

 

(おのれ小僧共、お嬢を悲しませた罪は重いで)

 

三毛猫は猫とは思えない程のステップで気配を消しながら、ゆっくりと階段をおり風呂場に侵入する。

 

(しかし風呂場か。小僧達の服を毛玉だらけにしてやるのも悪くはないが……きっちり落とし前を付けてもらうにゃ、ちょいと軽すぎるな)

 

三毛猫は十六夜と蘭丸の服の他に女性の物と思える服が二着あった。

 

(ぬぅ、女と入るとは…なんと……)

 

三毛猫は衣服が入った籠かごに飛び乗り、ガサゴソと中身を漁り始める。

 

(小僧の頭についとるアレか。よし、コイツでええやろ。あとあの小僧の髪留めもついでにと)

 

そして十六夜のヘッドホンと蘭丸の髪留めを咥え、風呂場を後にした。

 

 

**

 

「ほれ、終わったぞ」

 

「ひゃうーありがとうございます」

 

十六夜に頭を洗われたリリは恥ずかしがりながらも礼を述べている。

 

「やれやれ、本当にやりたがりだな。十六夜は」

 

「そんな節操なしに言うなよ。俺はレティシアの濡れた髪を見たかっただけだよ」

 

十六夜の言葉に蘭丸も首を縦に振り同意する。

 

「ああ、黒ウサギ曰く、『一見の価値ありですっ!』って太鼓判を押してたしな。一度見て見たかったよ」

 

「むっ……そうか。ふふ、では感想を聞いてもよろしいかな?」

 

 レティシアは湯から上がって縁ふちに腰掛ける。

 瑞々しく、滴る金髪は、星と月明かりで濡れて燦然と輝いている。

 

「はい。とっても、御美しいと思います」

 

「そうだな。女の髪は濡れると印象が変わるもんだが、レティシアの髪は本当に劇的に変わるな」

 

「ああ、夜空の星と見間違えるよ」

 

「ふふ…お褒めに預かり光栄です。だが蘭丸の桃色の髪も綺麗だぞ。お前の髪は自前なのか?」

 

「ああ、そうだ。親父が言ってたし間違いないだろう」

 

蘭丸は腰近くまで伸びた髪を手櫛でほぐしながら答える。

 

「へぇ、お前程の奴の親父ならそうとう強いんだろうな」

 

「強いというより親父今でもいるぞ?四桁のコミュニティ“円卓の騎士”のリーダー、アーサーペンドラゴンだぞ」

 

サラッと話すとレティシアと十六夜は驚愕の顔を浮かべていた。

 

「何⁈アーサー殿が⁈」

 

「おいおい、だからお前の武器さばきがあるのか?」

 

「んーまぁそれもあるけどあの人は実の親じゃなくて俺は捨て子だったらしいな」

 

「そうなのか、すまないな思い出させて」

 

レティシアは申し訳なさそうに謝るが蘭丸は気にしていないと頭を上げさせる。

 

「そういや吸血鬼って水は大丈夫なのか?一説じゃ吸血鬼は水が苦手らしいな」

 

「いや、全くそんな事は無いが?それにどちらかと言えば私は湯浴みが好きな方だ」

 

「へえ。けどレティシアには“魔王ドラキュラ”って異名があるんだろ?ドラキュラって、あのドラキュラ公の事だよな?まさかとは思うが、本人だったりするのか?」

 

十六夜の言葉にレティシアはん?と顔を顰める。

 

「いやそれはよく分からんが、ドラキュラ公とは男性なんだろう?主殿には私が男に見えるのか?」

 

「見える見える。なんならタオルをとって確認しよう」

 

「おいそれは流石に……」

 

「そ、そうか。私は良いんだぞ蘭丸?///」

 

レティシアは恥ずかしがりながらもタオルに手をかけようとするがそこはリリがなんとか仲介に入ってことなきことをえた。

 

「そう言えばレティシア達吸血鬼は龍の純血から生み出された存在だって聞いたぞ?」

 

「ああ、龍の純血は神霊や星霊と同じ最強種だな。だが龍の純血には系統樹が存在しないんだよな」

 

「ああ、龍の純血というのは、誕生するのではなく発生する。ある日突然なんの前触れも無く、強大な力が集結して形を成した種。それが龍種の純血だ。後世は単一生殖をした場合にのみ純血として生まれ、異種と交わった場合は亜龍として生まれる」

 

「なるほどな。それなら体長はかなり小さいのか?」

 

「いや、吸血鬼を作った理由は世界を背負った龍と伝えられているらしい」

 

十六夜は驚いた様に目を間開いた。レティシアもそこまで知っているとはなと驚いていた。

 

 “世界を背負った龍”とは、一部の神話に記された世界構造。もしくは世界観に似通った記述が存在する。時には最高神の化身として神話の中で息づくそれは、宗教上の宇宙観コスモロジーだ。例えば古代エジプトの宇宙観では“星は植物に覆われて横たわる女神の姿であり、天の神は身体を屈折させて大気の神に持ち上げられている”というものがある。世界=神という宗教上の宇宙観は、少なからず存在しているのだ。

 

「文献とかは残っていないのか?」

 

「いや。詳しい記録は残っていないらしい。我々吸血鬼は造物主である龍によって造られ、その世界の系統が乱れないように監視する種族だったという口伝だけが残っている。吸血行為による種族変化は、系統樹の守護者としての名残であるということだな」

 

私が知っているのは以上だ、とレティシアは話を締めた。

 

「次は主殿達の元の世界での話を聞かせて欲しいな」

 

「俺らのか?」

 

「ああ、飛鳥と耀も気になるが特に二人の話は聞きたいな。強力なギフトを持つこともそうだが、その莫大な知識は箱庭でも重宝されるものだ。元の世界ではそのことを研究していたのか?」

 

「いや、俺は別にな」

 

十六夜はいつもの通り切り返す。

 

「俺は親父から『お前は力をコントロールするには、己が器を鍛えなければ』と武術から知識、様々な教養、全てを叩き込まれた。また世界を壊さない様にだとな」

 

「何だと?」

 

「世界を……壊す?」

 

「じゃあその話をしようか、ええっとどこから話そうか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………以上だ」

 

蘭丸の話が終わると二人は言葉を失っていた。

 

「なかなかエグいなお前の過去って」

 

「本当にすまんな。だがそれ程の力が今は無いのか?」

 

「ああ、…………ってかなり長風呂してたな」

 

と四人は浴場を後にした。

 

 

 

そして十六夜と蘭丸は何かが足りないことにこれから気づくのであった。





蘭丸の生い立ちはネタバレの可能性もあるのでここらで伏せておきます。

では誤字、感想お待ちしています!

(豆知識)
蘭丸の義父アーサーペンドラゴンのペンドラゴンは“龍の頭”と言う意味を持ち、“騎士の長”“偉大なる騎士”“王”というアーサーの称号を表す意味を持っているらしいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

“アンダーウッド”へ

 

 

翌朝、あれだけ飲んだ黒ウサギは嘘のように元気で蘭丸にチョップされるところから始まった。そして十六夜がまだ本拠から出てこないでいた。

初日から参加することになった飛鳥は日傘を片手に遠出用の鞄を隣に置いている。真っ赤なドレススカートは今日も鮮やかに映え、凛とした彼女の佇まいを優雅に引き立てている。

 

「十六夜君、まだ見つけられないの?夜通し探したのでしょう?」

 

「Yes。子供達も総動員して探しているのですが……うう。そろそろ出ないと間に合わないのです」

 

いつものミニスカにガーターソックスを着込んだ黒ウサギは、ハラハラしながら十六夜を待っている。

 

「心配すんな。俺ならギリギリでも間に合わせるからな。…つーか俺の髪留め昨日無くしちゃったわ。あっちでなんか売ってるかな?」

 

と髪留めが無くおろしている髪を手櫛ですく蘭丸。腰まで伸びている桃色の髪といつもの黒のスーツが不思議と似合っていた。

 

「あ!来ましたよ」

 

ジンが声を上げる。しかし十六夜の頭上にはヘッドホンが無く、代わりに髪を押さえるためのヘアバンドが載せてあった。

黒ウサギは目を丸くして十六夜に問う。

 

「ど、どうしたんですか?それ」

 

「頭の上に何か無いと落ち着かなくてな。それより話がある」

 

十六夜が道を開けるとトランク鞄を引く耀と三毛猫が前に出た。

 

「本当に良いの?」

 

「仕方ねえさ。アレが無いとどうも髪の収まりが悪くていけない。壊れたスクラップだが、無いと困るんだよ」

 

髪を掻きあげながら飄々と笑う十六夜。

耀は瞬きをしてからしばらく十六夜を見上げ、ふっと、花が咲いたように柔らかい微笑みで十六夜に礼を述べた。

 

「ありがとう。十六夜の代わりに頑張ってくるよ」

 

「おう、任せた。ついでに友達一○○匹ぐらい作ってこいよ。南側は幻獣が多くいるみたいだしな。俺としてはそっちの期待が大きいぜ?」

 

「ふふ、分かった」

 

耀は十六夜に手を振り、三毛猫と共に飛鳥たちのもとに駆け寄る。

 

「じゃあな。留守番頼んだぞ」

 

「ヤハハハ!任せとけ」

 

蘭丸と十六夜はフッと笑みを浮かべあった。そして蘭丸もゆっくりと飛鳥たちの後を追った。

**

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**

 

二一○五三八○外門。噴水広場前。

“境界門”の起動は定時に行われる。個人での使用は緊急の時しか出来ない為、起動時間には行商目的のコミュニティも一斉に集まってくる。

“地域支配者である蘭丸達は列とは別の脇から門が開くのを待っていた。

 

「皆さん、外門もナンバープレートはちゃんと持っていますか?」

 

「大丈夫よ」

 

飛鳥が鈍色の小さなプレートを黒ウサギに見せる。このナンバープレートに書かれた数字が“境界門”の出口となる外門に繋がっているのだ。

 

「しかし十六夜がヘッドホン一つで辞退するなんてな」

 

「そうねあんなに楽しみにしてたのに」.

 

「きっと十六夜にとって大事なものなんだよ」

 

耀が首に掛かったペンダントを握り締める。そして“境界門”の準備が整った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**

 

箱庭七七五九一七五外門。“アンダーウッドの大瀑布”フィル・ブルグの丘陵。

 

「わ、」

 

「きゃ……!」

 

ビュゥ、と丘陵に吹き込んだ冷たい風に悲鳴を上げる耀と飛鳥。多分に水を含んだ風に驚きながらも、吹き抜けた先の風景に息を呑んだ。

 

「デカイ水樹だな。あんなデカイの始めて見たな」

 

遠目からでも確認出来る巨躯の水樹を見て蘭丸も感嘆の声を上げた。

 

「飛鳥、下!水樹から流れた滝の先に、水晶の水路がある!」

 

今まで出したことの無いような歓声で飛鳥の袖を引く耀。巨大な水樹から溢れた水は幹を通して都市へ落下し、緑色の水晶で彩られた水路を通過して街中を勢い良く駆け廻めぐっている。天を衝つくかの如き巨躯の水路と、河川の隣を掘り下げて形成された地下都市。これらの二つを総じて“アンダーウッド”と呼ぶのだ。

 

(あら、あの水路の水晶……?)

 

飛鳥は水晶の輝きを見て首を傾げる。勘違い出なければ…

 

(あの水晶……確か北側でも、)

 

「二人とも……上!」

 

耀が言う方向に首を向けると何十羽という角の生えた鳥が飛んでいた。

 

「ほおーペリュドンか。実物見るのは始めてだな」

 

「蘭丸、知ってるの?」

 

「ああ、確かあいつらはアトランティス大陸の幻獣で、先天的に影に呪いを持っていてな、自分とは違った影を移すらしい。その解呪方法が“人間を殺す”なんだ。言うならば殺人種ってとこだな」

 

「ねぇ。もしあの鳥と友達になったらどうなるかな?」

 

「あんまり想像しない方がいいな。もし呪いまで貰ったらとんでもないことになると思うしな」

 

耀はシュンと肩を落とした。それを見て蘭丸は頭を撫でながら

 

「まあそんなに気を落とすな。南側にはまだ沢山の幻獣が居るんだ。友達はそこで作ればいい」

 

「うん!ありがとう蘭丸」

 

耀が蘭丸に礼を述べると旋風と共に懐かしい声が掛かった。

 

『友よ、待っていたぞ。ようこそ我が故郷へ』

 

巨大な翼で激しく旋風を上げ、現れたのは“サウザンドアイズ”のグリフォンだった。

 

「久しぶり。此処が故郷だったんだ」

 

『ああ。収穫祭で行われるバザーには“サウザンドアイズ”も参加するらしい。私も護衛の戦車を引いてやって来たのだ』

 

見れば彼の背中には以前よりも立派な鋼の鞍と手綱が装備されている。契約している騎手と共に来たのだろう。

グリフォンは黒ウサギ達にも視線を向け、前足を折る。

 

『“箱庭の貴族”と友の友よ。お前達も久しぶりだな』

 

「Yes!お久しぶりなのです!」

 

「お、お久しぶり……でいいのかしら、ジン君?」

 

「き、きっと合っていますよ」

 

「久しぶりだな」

 

言葉の分からない飛鳥とジンはその場の空気で取り敢えずお辞儀をする。言葉はわからないが蘭丸は笑顔で応える。

 

『此処ここから街までは距離がある。南側は野生区画というものが設けられているからな。東や北よりも道中は気を付けねばならん。もし良ければ、私の背中で送って行こう』

 

「本当でございますか⁉︎」

 

喜びの声を上げる黒ウサギと、会話が通じずに首を傾げる飛鳥達。耀はグリフォンから一歩距離を置き、深々と頭を下げた。

 

「ありがとう。もしよかったら、名前を聞いてもいい?」

 

『無論だ。私は騎手より“グリー”と呼ばれている。友もそう呼んでくれ』

 

「うん。私は耀でいいよ。それでコッチが蘭丸に飛鳥、それにジン」

 

『分かった。友は耀で、友の友は蘭丸に飛鳥、そしてジンだな』

 

バサバサと翼をはためかせて承諾する。その間に事情を説明された飛鳥、ジンは頭を下げてグリーの背に跨る。三毛猫は黒ウサギの胸に抱かれて同乗する。自らの力で飛べる耀と、空間を走ることのできる蘭丸はグリーとペリュドンについて話していた。

 

「……そうなんだ。やっぱり蘭丸の言ったとおりなんだ」

 

『全く。何処の神が掛けた呪いかは知らんが、実に悪趣味だ。生存本能以外で“人を殺す”という理由を持たされた彼奴らは、典型的な、“怪物”なのだろうな。普段なら哀れな種と思い、見逃すが、今は収穫祭がある。再三の警告に従わぬなら……耀たちには今晩、ペリュドンの串焼きをご馳走することになるな』

 

グリーは大きな嘴でニヤリと笑う。

翼を羽ばたかせて旋風を巻き起こすと、巨大な鍵爪を振り上げて獅子の足で大地を蹴った。

 

「わ、わわ、」

 

「ほい!」

 

“空を踏みしめて走る”と称されたグリフォンの四肢は、瞬く間に外門から遠のいて行く。耀は慌てて毛皮を掴み並列飛行するが、彼の速度について行くのは生半可な苦労では無い。それでもなんとか付いてくる耀に、グリーは称賛の言葉を投げかけた。

 

『やるな。全力の半分程しか速度は出していないが、二ヶ月足らずで私についてくるとは』

 

「う、うん。黒ウサギが飛行を補助するギフトをくれたから」

 

「Yes!耀さんのブーツには補助の為、風天のサンスクリットが刻まれております!」

 

「へえ。面白いギフトもあるもんだな」

 

「…蘭丸さんはなんで普通に空中を走っているのですか?」

 

蘭丸はグリーや耀のように“空を踏みしめて走る”というわけでなく、“地面を走るように走っている”と言うことに走っていた。それを見てグリーも耀も唖然としていた。

 

『耀…あいつは何者なのだ?』

 

「ごめん。私もよく分からなくて。“時と空間を操る”って言っていたけど…」

 

『なるほどな……それは興味深いな』

 

と前では当たり前に話しているがジン、飛鳥、三毛猫は危険であった。

 

『お、おじょぅうおおぉおおおッ!!! も、も少し! も少し速度落としてと旦那だんなにつぅたぅえてぇええええええ!!!』

 

 ギニャアアアアアア!と叫んでいる様にしか聞こえないが、割と本気で命が危険だった。耀は慌てて減速するように頼む。

 

「グ、グリー。後ろが大変。速度落として」

 

『む?おお、すまなかった』

 

「わあ……掘られた崖を、樹の根が包み込むように伸びているのね」

 

 半球状に広く掘り進まれた地下都市は、樹の根の広がりに合わせて開拓している。所々に人為的な柱も存在するが、多くは樹の根と煉瓦のようなもので整備されていた。

 

「アンダーウッド”の大樹は樹齢八千年とお聞きします。樹霊の棲み木としても有名で、今はニ○○体の精霊が棲むとか」

 

『ああ。しかし十年前に一度、魔王との戦争に巻き込まれて大半の根がやられてしまった。今は多くのコミュニティの協力があって、ようやく景観を取り戻したのだ』

 

グリーはゆっくりと街へと下がって行く。

 

『今回の収穫祭は、復興記念もかねたものである。故に如何なる失敗も許されない。“アンダーウッド”が復活したことを、東や北にも広く伝えたいのだ』

 

強い意志を込めて訴えるグリー。網目模様の根っこをすり抜け、地下の宿舎に着いて耀達を背から下ろす。すると彼は大きく翼を広げ遠い空を仰いだ。

 

『私はこれから、騎手と戦車を引いてペリュドン共を追い払ってくる。このままでは参加者が襲われるかもしれんからな。耀達は“アンダーウッド”を楽しんで行ってくれ』

 

「うん分かった。気を付けてね」

 

言うや否や、グリーは翼を広げて旋風を巻き上げながら去って行った。

 

 





誤字、感想、お待ちしております!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

“主催者”


かなり久しぶりの投稿です。今回は主催者と会うところまで進みます。


 

「あー!誰かと思ったら耀じゃん!何、お前たちも収穫祭に」

 

「アーシャ。そんな言葉遣い教えていませんよ」

 

賑やかで、そして聞き覚えのある声に振り向くと、アーシャとジャックの姿があった。

 

「アーシャも来てたんだ」

 

「まあねー。こっちにはいろいろあって、サッと!」

 

そう言うとアーシャは窓から飛び降りて目の前に降り立つ。

 

「ところで耀はもう出場するギフトゲームは決まってるの?」

 

「ううん。今着いたところ」

 

「だったら“ヒッポカンプの騎手”に必ず出場しろよ。私も出るしね」

 

「ひっぽ………何?」

 

「ああ、ヒッポカンプってのは………っとここはジンに任せるわ」

 

蘭丸はポンとジンの背中を軽く叩く。ジンは一度蘭丸を見てから説明をした。

 

「ヒッポカンプとは別名“海馬(シーホース)”と呼ばれる幻獣で、タテガミの代わりに背びれを持ち、蹄に水搔きを持つ馬です。半馬半漁と言っても間違いではありません。水上や水中を駆ける彼らの背に乗って行われるレースが“ヒッポカンプの騎手”と言うゲームかと。」

 

普段からいろいろと勉強しているからだろう。ジンの説明に蘭丸も感心の表情を浮かべる。

 

「前夜祭で開かれるギフトゲームじゃ一番大きいものだし、絶対に出ろよ。私が作った新兵器で、今度こそ買ってやるからな」

 

「わかった。検討しておく」

 

パチンと指を鳴らして自慢げに笑うアーシャ。蘭丸は数歩前に歩きジャックの前に立つ。

 

「久しぶりだなジャック。俺の提案したやつはうまく行ってるか?」

 

「ヤホホ、おかげさまで我が“ウィル・オ・ウィスプ”も随分儲かりましたヨ!御礼とは言えませんが、“ウィル・オ・ウィスプ”製の物品もお安くさせていただきます」

 

ヤホホホホホ!と陽気に笑うジャックと連れて微笑する蘭丸。

 

その後“ノーネーム”の一同は、“ウィル・オ・ウィスプ”と共に貴賓客が止まる為の宿舎に入った。土壁と木造の宿舎だったが、中は意外としっかりとした建て付けにしてある。半分が土造りにも拘らず空気が乾燥しないのは水樹の根が常に水気を放出しているからだろう。所々に浮き出た水樹の根は談話室で椅子のようにも扱われていた。その一つに腰をかけた耀は、大きく息を吐いて“アンターウッド”の感想を述べる。

 

「凄いところだね」

 

「だな。南側は箱庭の都市が建設された時に、多くの豊穣神に地母神が来たらしいからな。自然神の力が強い地域は生態系が大きく異なるそうだ」

 

蘭丸の博識に黒ウサギはウサ耳をへにょらせる。

 

「蘭丸さんはどこまで知っているのですか?黒ウサギは驚きですよ」

 

「書庫の本は全部読んだし白夜叉やレティシア、親父からもいろいろ聞いたからな。……だが水路の水晶は北側の技術だ。誕生祭で見たんだが……」

 

へ?と黒ウサギは再びウサ耳と首を傾ける。

 

「おっしゃる通り。“アンターウッド”に宿る大精霊ですが、十年前に現れた魔王の傷跡が原因で、未だ休眠中にあるとか、そこで“龍角を持つ鷲獅子”のコミュニティが“アンターウッド”と共存を条件に守護と復興の援助をしているそうです」

 

「では“龍角を持つ鷲獅子”で復興を主導されている御方が……?」

 

「そう。元北側の出身者。おかげで十年前という短い月日で、再活動の目処を立てられたと聞き及んでおります」

 

「そうですか……凄い御仁でございますね」

 

黒ウサギは胸に手を当て言葉を噛みしめる。箱庭最大の災厄"魔王”に襲われた土地に、颯爽と現れた救世主。そんな両者が“ノーネーム”の問題児たちと似ていると思った。

 

(……となるとやっぱりあの人か……あいつの言っていることと合うな)

 

蘭丸は救世主におおよその確信があった。

“ノーネーム”一同はジャックらと共に“主催者”への挨拶の為、本陣営まで足を運ぶのだった。

 

**

 

“アンターウッドの地下都市”壁際の螺旋階段。

螺旋状に掘り進められた“アンターウッド”の都市をグルグルと回りながら登って行く。深さは精々二十メートル程だが壁伝い登るとなかなか距離があった。

 

現在一同は都市に瞳を輝かせていた。耀は“六本傷”のの旗が飾られてある出店に、瞳を奪われていた。

 

「ねえ黒ウサギ。あの出店で売ってる“白牛の焼きたてチーズ”って」

 

「駄目ですよ。食べ歩きは、“主催者”への挨拶の住んだ後に」

 

「美味しいね」

 

「いつの間に買って来たんですか⁉︎」

 

「蘭丸が奢ってくれ……あれ?蘭丸は?」

 

耀は蘭丸を探す為に辺りの出店を見回した。だが螺旋状の姿は無い。問題行動が殆ど無い為薄いが彼も立派な問題児である。

 

「…ありがとな蘭丸!」

 

「ああ、オーナーによろしくな」

 

と蘭丸は小さめな麻袋を持って出店から出てきた。

 

「もう!どこに行っていたのですか⁉︎」

 

「悪い悪い。ここで出店出してるコミュニティの殆ど顔見知りだったもんでな」

 

蘭丸は麻袋を背負い直し軽く笑う。

 

「ヤホホ。蘭丸殿は下層の商業コミュニティ殆どに商業指南をしていますからねえ。蘭丸殿を下層で知らないコミュニティはいないのではないですか」

 

黒ウサギ達、“ノーネーム”は一抹の疑問を抱いていた。

 

((((蘭丸((さん))(君)って一体何者⁈))))

 

そんな会話をしていると一同は地表に出る。しかしここからが長いのだ。大樹を見上げた耀は口を開けてほうけていた。

 

「……黒ウサギ。この樹何百mあるの?」

 

「“アンターウッド”の水樹は全長五百mと聞きます。境界壁程ではありませんがご神木の中では大きな部類だと思います」

 

「そう…私たちが向かう場所は?」

 

「中ほどの位置ですね」

 

つまり行動二百五十m耀はあからさまにめんどくさそうな表情を浮かべ、

 

「私、飛んで行ってもいい?」

 

「春日部さん、いくらなんでも自由度が過ぎるわ」

 

「ヤホホ!お気持ちはわかりますが、団体行動を乱すのはよくありません。それに本陣まではエレベーターがありますからさほど時間はかかりません」

 

太い幹の麓には木箱のボックスがありジャックの指示で乗って行く一同。

 

「このボックスに全員乗ったら扉を閉め、傍のベルを二回ならしてください」

 

「りょーかい」

 

蘭丸はボックスに備えられたベルを二回鳴らす。すると上空で水樹の瘤から水がながれはじめた。隣の空箱に注水し、引き上げるという原始的な方法だが、ものの数分で本陣へ移動した。

 

エレベーターを降り、幹の通路を進むと、収穫祭の主催者である“龍角を持つ鷲獅子”の旗印が見えた。

 

「旗が七枚?七つのコミュニティが主催してるの?」

 

「残念ながらNOですね。“龍角を持つ鷲獅子”は六つのコミュニティが一つに連盟を作っているのです。中央の大きな旗は、連盟旗でございます」

 

“一本角”

“二翼”

“三本の尾”

“四本足”

“五爪”

“六本傷”

 

そして中央に連盟旗・“龍角を持つ鷲獅子”が飾られた。

 

「連盟旗ってのは三つ以上のコミュニティが連盟を持つ時に連盟旗を作ることができてな、加入コミュニティが魔王に襲われた時に、他のコミュニティは救援にいけるのさ」

 

「そう。助けてくれるんだ」

 

「まあ、助けるかはそのコミュニティが決めることだ。分が悪いと助けてくれることは少ないし、……まあ気休めの為に組むのが殆どだ」

 

他のメンバーは二人が話している間に、本陣入り口の両脇にある受付で入場届けを出していた。

 

「ヤホホ。“ウィル・オ・ウィスプ”のジャックとアーシャです」

 

「“ノーネーム”のジン=ラッセルです」

 

「はい。“ウィル・オ・ウィスプ”と“ノーネーム”の……あ」

 

受付をしていた樹霊の少女は、コミュニティの名を聞いてハッと顔を上げる。

彼女はメンバーの顔を一人ずつ確認して行き、飛鳥で視線を留とめた。

 

「もしや“ノーネーム”所属の、久遠飛鳥様ではないでしょうか?」

 

「ええ。そうだけど、貴女は?」

 

「私は火龍誕生祭に参加していた“アンダーウッド”の樹霊の一人です。飛鳥様には弟を助けて頂いたとお聞きしたのですが……」

 

思い出したように声を上げる飛鳥。

“黒死斑の魔王”と戦った時に助けた、あの樹霊の少年の事だろう。受付の少女は確信すると、腰を折って飛鳥に例を述べた。

 

「やはりそうでしたか。その節は弟の命を助けて頂き、本当にありがとうございました。おかげでコミュニティ一同、一人も欠ける事無く帰って来られました」

 

「そう、それは良かったわ。なら招待状をくれたのは貴女達なのかしら?」

 

「はい。大精霊は今眠っていますので、私達が送らせて頂きました。他には“一本角”の新頭首にして“龍角を持つ鷲獅子”の議長でもあらせられる、サラ=ドルトレイク様からの招待状と明記しております」

 

“ノーネーム”の一同は一斉に顔を見合わせ驚いた。

 

「サラ………ドルトレイク?」

 

「おいおい、まさかとは思っていたがマジでか?」

 

「え、ええ。サンドラの姉である、長女のサラ様です。でもまさか南側に来ていたなんて……もしかしたら、北側の技術を流出させたのも…」

 

「流出とは人聞きが悪いな、ジン=ラッセル殿」

 

聞き覚えの女性の声が背後から響き、ハッと一同が振り返る。途端、熱風が大樹の木々を揺らした。激しく吹き荒ぶ熱と風の発生源は、空から現れた女性が放つ二枚の炎翼だった。

 

「サ、サラ様!」

 

「久しいなジン。会える日を待っていた。後ろの“箱庭の貴族”殿とは、初対面かな?………おや?そこの君が二宮蘭丸殿かな?遣いの者を通しては何度かあったが実際に会うのは初めてだな」

 

「ああ、その節は世話になった」

 

蘭丸は自然な動作でネクタイを締め直す。

 

「ふふ、私への挨拶程度にそのような正装とは嬉しいな」

 

「すまんがこれが俺の普段着だ」

 

「おや?そうなのか…ますます面白いな」

 

 

微笑を浮かべながら燃え盛る炎翼を消失させ、樹の幹に舞い降りるサラ=ドルトレイク。姉妹であるサンドラと同じ赤髪を靡なびかせる彼女は、健康的な褐色の肌を大胆に露出している。その衣装は踊り子と見間違える程に軽装で強い意志を感じさせる瞳の頭上には、サンドラよりも長く立派に生え育った二本の龍角が猛々しく並び立っていた。亜龍として力量を推し量るにはそれだけで十分だろう。サラは蘭丸達の顔を一人一人確認すると、受付の樹霊の少女に笑いかけた。

 

「受付ご苦労だな、キリノ。中には私が居るからお前は遊んで来い」

 

「え? でも私が此処ここを離れては挨拶に来られた参加者が…」

 

「私が中に居ると言っただろう? それに前夜祭から参加するコミュニティは大方出揃った。受付を空けたところで誰も咎とがめんよ。お前も他の幼子同様、少しくらい収穫祭を楽しんで来い」

 

「は、はい……!」

 

キリノと呼ばれた樹霊の少女は表情を明るくさせ、飛鳥達に一礼して収穫祭へ向かって行った。残ったサラは蘭丸達に視線を向けると、口元に僅かな笑みを浮かばせて仰々しく頭を垂れる。

 

「南側へようこそ、“ノーネーム”と“ウィル・オ・ウィスプ”。下層で噂の両コミュニティを招くことが出来て、私も鼻高々といったところだ」

 

「……噂?」

 

蘭丸は眉を顰ひそめて問いかける。サラは頷き、踵きびすを返して歩き出す。

 

「ああ。しかし立ち話もなんだ。皆、中に入れ。茶の一つでも淹いれよう」

 

手招きをしながら本陣の中に消えるサラ。それに続いて“ノーネーム”と“ウィル・オ・ウィスプ”のメンバーも招かれるままに大樹の中に入って行った。

 

 

 

 





久しぶりで腕が鈍ってしまいました。ここから勘を取り戻せるように頑張ります。

では、誤字、感想お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

“ブラックラビットイーター”

“アンダーウッド”収穫祭本陣営。貴賓室。

耀達が招かれた貴賓室は大樹の中心に位置する場所にあった。窓から覗くと大河の中心なっており、網目の根に覆われた“アンダーウッド”の地下都市が見える。

サラは“一本角”の旗の掲げられた席に座り蘭丸達にすわるように促した。

 

「改めて自己紹介させてもらおうか。私は“一本角”の頭首を務めるサラ=ドルトレイクだ。元“サラマンドラ”の一員でもある」

 

「じゃあ、地下都市にある水晶の水路は、」

 

「勿論私が作った。しかし勘違いしてくれるな。あの水晶や“アンダーウッド”で使われている技術は、私が独自に生み出した技術だ。盗み出したというのは辞めてくれ」

 

その言葉を聞いてジンはホッと胸を下ろした。その事が一番気がかりだったのだろう。

 

「それでは、両コミュニティの代表者にも自己紹介を求めたいのだが……ジャック。彼女はやはり来てないのか?」

 

「はい。ウィラは滅多なことでは領地から離れないので、此処は参謀である私からご挨拶を」

 

「やれやれ…相変わらずとんだリーダーだな」

 

「…やっぱり蘭丸さん知ってるのですか」

 

蘭丸はやれやれと笑い、ジャックもその通りと言うようにヤホホと笑った。ジンは今までの展開から、大方想像を立てていた。

 

「そうか。北側の下層で最強と謳われる参加者を、是非とも招いて見たかったのだがな」

 

「北側、最強?」

 

耀と飛鳥が声を上げ、隣に座っていたアーシャが自慢そうにツインテールを揺らす。

 

「そうだ。“蒼炎の悪魔”、ウィラ=ザ=イグニファトゥス。生死の境界を行き来し、外界の扉にも干渉できる大悪魔。しかしその実態は余り知られていない。三年前に私が南側へ移籍して以降、突如頭角を見せたと聞く。……噂によると“マクスウェルの魔王”を封印したという話まであるそうだが。もしも本当なら、六桁はおろか五桁最上位と言っても過言ではないな」

 

「ヤホホ……さて、どうでしたか。そもそも五桁は個人技よりも組織力を重視致します。強力な同士が一人居たところで、長持ちはしませんよ」

 

「ジャックの言う通り、強力な一個人では五桁のコミュニティは維持できない。その個人を打ち破る者が現れれば、容易く瓦解がかいしてしまうからだ。……その顕著の一例が東側の“ペルセウス”だろう、ジン?」

 

「え?」

 

「ふふ、誤魔化すな。最下層の“ノーネーム”が五桁の“ペルセウス”を打ち破ったのはもう有名な話。それに、例の“黒死斑の魔王ブラック・パーチャー”を倒したのもお前達だろう?」

 

「隠さなくていい。今の“サラマンドラ”に魔王を倒す程の力は無いからな。強力な助っ人が手を貸したのだろうと思っていた。故郷を離れた私だが、礼を言わせてくれ。……“サラマンドラ”を助けてくれてありがとう」

 

「い、いえ……」

 

赤髪を垂れさせて一礼するサラ。

彼女の物言いは高圧的だが、不思議と不快には思えない。

それはむしろ、彼女の持つ風格には相応だと思えるからだろう。

 

「今は“ペルセウス”もコミュニティとして力を上げて来てるぞ?こないだ会った時なんてルイオスが別人だったぞ」

 

「そうなの……あの外道が…」

 

飛鳥はルイオスの外道っぷりが頭から離れず、変わったと言う蘭丸の言葉を信じれていないようだ。

 

「ふふっそうか…ところで収穫祭の方は楽しめているか?」

 

「ああ、まだ全ては回って無いが、活気があってなかなかいいぞ」

 

「それは何より。ギフトゲームが始まるのは三日目以降だが、それまでにバザーや市場も開かれる予定だ。南側の開放的な空気を少しでも愉たのしんでくれたら嬉しい」

 

「ええ。そのつもりよ」

 

 と飛鳥が笑顔で答える。

 その隣で耀は、瞳を輝かせながらサラの頭上にある龍角を見つめていた。

 

「どうした? 私の角が気になるのか?」

 

「……うん。凄く、立派な角。サンドラみたいに付け角じゃないんだね」

 

「ああ。コレは自前の龍角だ」

 

「だけど、サラは“一本角”のコミュニティなんだよね? 二本あるのにいいの?」

 

 小首を傾げて問いかける耀に、サラは苦笑混じりで返答する。

 

「我々“龍角を持つ鷲獅子”の一員は身体的な特徴でコミュニティを作っている。それは確かだ。しかし頭に付く数字は無視しても構わないことになっている。そうでなければ、四枚の翼がある種などは何処どこにも所属出来ないだろう?」

 

「……あ、そっか」

 

「あと他には、各コミュニティの役割に応じて分けられているな。“一本角”“五爪”は戦闘を担当。“二翼”“三本の尾”“四本足”は運搬を担当。“六本傷”は農業・商業全般。これらを総じて“龍角を持つ鷲獅子”連盟と呼ぶ」

 

「そう」

 

耀は短い返事をして、連盟旗を見上げる。

鷲の上体と獅子の下半身。巨大な翼と強靱な四肢を持つ鷲獅子。通常のグリフォンと違う点があるとすれば、その額に龍角が生えている事だろう。二本もある龍角の一本は醜くへし折れている。

 

「……あれ? それなら“六本傷”は何を指しているの?」

 

「“龍角を持つ鷲獅子”のモチーフである鷲獅子が負っていた傷と言われている。コミュニティの組み分けとしては……まあ、全種を受け入れているのではないか? 商才や農業などの知識というのは、普通に生きているだけでは手には入らないものだからな」

 

「ずいぶん曖昧だな」

 

「シッ!」

 

蘭丸のツッコミを飛鳥は慌てて止める。蘭丸の言うことは的を射る事が多いためである。

サラは確かになとクスリと笑う。

 

「収穫祭でも“六本傷”の旗を多く見かける事になるだろう。今回は南側特有の動植物をかなりの数仕入れたと聞いた。後ほど見に行くといい」

 

小さく頭を縦に振った耀はふっと黒ウサギに視線が合う。

 

ポン、と両手を叩いた彼女は、思い出したようにサラに聞いた。

 

「南側特有の植物っていうと例えば……ラビットイーターとか?」 

 

「まだその話を引っ張っるのですか⁉︎そんな愉快に恐ろしい植物が存在がしているわけ、」

 

「在るぞ」

 

「在るんですか⁉︎」

 

そんなお馬鹿な⁉︎と黒ウサギはと、ウサ耳を逆立てて叫ぶ黒ウサギ。耀は瞳を光らせて、更に問う。

 

「じゃあ、……ブラックラビットイーターは、」

 

「だから何で黒ウサギをダイレクトに狙うのですか⁉︎」

 

「在るぞ」

 

「在るのか。本当に南側ってなんでも在るんだな」

 

蘭丸はただ自分の感想を素直に述べた。故に黒ウサギにもグサリと効いた。

 

「素直に納得しないでください!ど、何処のお馬鹿様が、そんな対兎最恐プランントを⁉︎」

 

「何処の馬鹿と言われても……発注書ならそこにあるが」

 

バシッ!とサラの机から発注書を奪い取る黒ウサギ。それを黒ウサギの後ろから覗き見る蘭丸。

そこにはお馬鹿っぽい字でこう書かれていた。

 

『対黒ウサギ型プランント:ブラック★ラビットイーター。八○本の触手で対象を淫靡に改造す」

 

グシャ!

 

「あっ!……」

 

「………フフ。名前を確かめずとも、こんなお馬鹿な犯人は世界で一人シカイナイノデスヨ」

 

ガクリとうなだれ、しくしくと涙を流し始める黒ウサギ。

起訴も辞さないのですよッー⁉︎と大河に向かって魂の叫びを上げる彼女の背には、深い哀愁が漂っている。悲哀に沈んだ彼女はやがて、青髪を緋色ひいろに変幻させて立ち上がった。

 

「……サラ様。収穫祭に招待していただき、誠にありがとうございます。我々は今から向かわなければならない場所が出来たので、これにて失礼致します」

 

「そ、そうか。ラビットイーターなら最下層の展示会場にあるはずだ」

 

「教えて頂きありがとうございます。それでは、また後日です!」

 

「ちょ、ちょっと黒ウサギ!?」

 

グワシ!と飛鳥達の首を鷲掴わしづかみ、黒ウサギは一目散に去って行った。

自分等以外のメンバーを連れたままピョンピョンと流れるように跳び去る彼女の背を見送り、蘭丸達は呆れたように息を吐く。

 

「やれやれ。噂以上に苦労人の様だな」

 

「否定はしない」

 

「ヤホホ!いや全くですねえ!では我々も挨拶しましたし、ここでお暇しましょうか」

 

「ああいや、待ってくれ。お前達にはまだ話がある。蘭丸は“ノーネーム”ののメンバーにも伝えて欲しい」

 

はて、と視線を交わすジャック、アーシャ、蘭丸。

サラは幾分真剣な顔になり、二人に用件を伝えた。

 

「今宵、夕食時にもう一度来て欲しいと伝えてくれ。十年前に“アンダーウッド”を襲った魔王、巨人族について相談したいことがあると」

 

**

 

“アンダーウッドの地下都市”最下層展示保管庫。

 

ズドォォォォン‼︎と雷鳴が轟いた。迸る稲妻が貫いたのは、全長5mはありそうな食兎植物。枝の触手・花弁の触手・樹液の触手と様々な触手が生えたカオスプラントは、緋色に髪を染めて怒る黒ウサギの金剛杵こんごうしょによって燃え落ちた。

遅れてやって来た蘭丸はその破片を拾いながら半笑いで溜息を吐く。

 

「やれやれ、派手にやったな。それにしてもギフトの無駄使いだな。もっと儲ける為に使えってんだ」

 

「そこですか⁉︎こんな自然の摂理に反した怪植物は燃やして肥やしになるのが一番なのでございます!」

 

フン、と顔を背ける黒ウサギ。蘭丸は黒ウサギの頭に手を載せる。

 

「まあ気を落とすなよ。折角の収穫祭だ。楽しまないと損だろ?今日は俺が金を出す。好きなものを買いな。ついでに俺も髪留め買いたいしな」

 

「ら、蘭丸さん…」

 

ジーン。と目を潤ませる黒ウサギ。蘭丸それにクスッと笑った。

 

「こう言う時は女の子には優しくするのが男の鉄則だって親父にも教わったし」

 

「あ、ありがとうございます…///」

 

黒ウサギは頬を赤らめ逸らした。蘭丸は平然と言う為に黒ウサギは恥ずかしく顔を見れていない。それを蘭丸は不思議に思い黒ウサギの額に手を当てる。

 

「ひゃう⁉︎///」

 

「少し熱があるな。やっぱ今日は休むか?まだ収穫祭はあるんだし」

 

「い、いえ!だ、大丈夫ナノデスヨ///」

 

「ん。そうか。ならいいが」

 

黒ウサギは更に顔と耳を赤くしながら言う。蘭丸も納得はしていないが、それ以上は追求しなかった。

 

「…ねえ春日部さん。アレってやっぱり天然かしら?」

 

「うん。なんたって蘭丸は鈍チートだしね…」

 

「それは言わない方が」

 

そしてそのあとは五人は収穫祭を楽しんだ。“アンダーウッドの地下都市”にあるバザーや市場を見て回り、農園に植える為ための苗や種子を物色する。此処でしか見られない毛皮製の商品を驚きながら試着したり、生花で染色された民族衣装を試着したりと、実に姦かしましく過ごした。植物や牧畜についてもある程度の目処めどは付けたが、ギフトゲームの商品を手に入れてからでも間に合うということで保留となった。

 

「うし、じゃあ戻るか。そろそろ夕方だしな。髪留めも買えたことだし」

 

蘭丸は桜の描かれている藤色の髪留めを選んだ。どうやら結構気に入ったらしく珍しく上機嫌なのが見えていた。

 

一同は螺旋らせん状に掘られた壁を登って行き、宛あてがわれた宿舎に戻る。談話室に集まった蘭丸達は椅子に座って一日を振り返った。

 

「前夜祭は、思ったよりもギフトゲームが少ないな。前夜祭だからかな?」

 

「Yes!本祭が始めるまではバザーや市場が主体となります。明日は民族舞踏ぶとうを行うコミュニティも出てくるはずなのです。フフフ、楽しみですねー♪」

 

今にも小躍りしそうな雰囲気でウサ耳を左右に振る黒ウサギ。普段から明るくハイテンションな彼女だが、今回は何時いつも以上に楽しそうである。

思い起こせば、黒ウサギは初めから“アンダーウッド”に来ることを楽しみにしていたようにも見える。

 

「……ねえ、黒ウサギ。もしかして前々から“アンダーウッド”に来たかったの?」

 

「え? ええと、そうですね。興味は有りました。黒ウサギがお世話になった同士が、南側の生まれだったので」

 

「同士……?それって……」

 

「はい。魔王に連れ去れた仲間の一人でした。……幼かった黒ウサギを、コミュニティに招き入れてくれた方々です」

 

黒ウサギの話に、蘭丸達は驚いたように顔を見合わせる。

 

「それじゃあ黒ウサギは、“ノーネーム”の生まれじゃないの?」

 

意外な話だった。

彼女の献身ぶりを見れば、“ノーネーム”が故郷と思うのは当然だろう。黒ウサギは両手を胸の前で組み、大事な宝物を抱きしめるように呟く。

 

「はい。黒ウサギの故郷は、東の上層に在ったと聞きます。何でも、“月の兎”の国だったとか。しかし絶大な力を持つ魔王に滅ぼされ、一族は散り散りに。頼る当てもなく放浪していた黒ウサギを迎えてくれたのが、今の“ノーネーム”だったのです」

 

ギュッと両手を握り、幸せそうにはにかむ。

それとは対照的に、蘭丸達は言葉を失っていた。

今の話が本当なら、黒ウサギは二度も魔王に故郷を奪われたことになる。彼女の見せる献身的な姿勢は“月の兎”である以上に、その体験から来ているのかもしれない。

 

「黒ウサギを同士として迎え入れてくれた恩を返すため……絶対に、“ノーネーム”の居場所を守るのです。そして皆が帰って来た時は、胸を張ってお帰りなさいと言うのです!」

 

ムン、と両腕に力を込めて気合いを入れ直す黒ウサギ。

蘭丸達はそんな彼女の様子を、微笑ましげに見つめていた。

 

花が咲いたような笑みを浮かべる黒ウサギは、ふっと窓の外に目を向ける。格子の隙間から差し込む朱色の光を見つめながら、心の中で遠き日の恩人達へ思いを馳せた。

 

「彼女の名は金糸雀様。我々のコミュニティで参謀を務めた方でした」

 

 

 




随分長くなりました。次回から戦闘に入っていきます。

いつも通り誤字、感想があれば何なりと!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

襲撃

 

 

“アンダーウッド”の平原で、蘭丸は一人立っていた。付近には大筒が幾つか置かれてあった。

蘭丸は一度背伸びをし平原を見回していた。

 

「さて、そろそろだと思うんだがな……」

 

「何をしている」

 

声の聞こえる方角を向くとサラが歩み寄って来ていた。蘭丸は一度会釈をし地面に胡座をかく。

 

「警備だよ。さっき言っていた巨人族の事もあるしな」

 

「それなら我ら“龍角を持つ鷲獅子”が……」

 

「「「ウオオオオオオオォォォォォォォ‼︎」

 

サラの声を遮り、平原の向こうから雄叫びと地響きが聞こえてくる。サラは何事だ!と平原の先を見つめ、蘭丸は予想通りとゆっくりと腰を上げる。雄叫びの主は全長三○尺もある巨躯。巨大な薙刀や鎚を片手に持ち“アンダーウッド”に迫っていた。

サラは一度我を忘れていたがなんとか気を取り直していた。

 

「て、敵襲だああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

それを見ていた獣人の一人の叫び声に“龍角を持つ鷲獅子”のメンバーは慌てて飛び出して来た。

 

「こいつらが魔王の残党………巨人族か」

 

「そうだ!奴等は人類の幻獣。それが巨人族だ‼︎」

 

そうかと蘭丸は返すとすぐさま分身を作り、大筒で迎撃する。大筒は数体巨人を巻き込むが流石に数が多く、戦場は混戦となった。

 

(“主催者権限”が使用されてない………となるとこいつらはギフトゲームを無視して襲って来たのか)

 

蘭丸はギフトカードから槍を取り出し、巨人の群れに突っ込む。第一宇宙速度で走った蘭丸はそのままの勢いで三体程の巨人の心臓を貫いた。

 

「ウオオオオオオオォォォォォォォ‼︎」

 

仲間がやられてか、周囲の巨人は蘭丸を囲んで襲いかかっ

た。

 

「遅い‼︎」

 

だが蘭丸は振り下ろされた薙刀を槍で払いのけた。巨人が仰け反った隙に回転切りの容量で巨人を撫で斬りにした。

蘭丸は戦況を確認する為一度退いた。巨人族の数はせいぜい二○○体程だが、敵は一人で十の味方を相手取っていた。数では優っていたが、混乱した戦場では統率が取れていなかった。

 

「おい‼︎お前ら落ち着け‼︎‼︎」

 

だが蘭丸の声も混乱した戦場には届かないものであった。

 

「蘭丸‼︎」

 

そこにちょうど飛鳥と耀が駆けつけた。

 

「おお、飛鳥に耀か」

 

「蘭丸君‼︎今の戦況は!」

 

「見ての通りだ。突然の襲撃に、獣人や幻獣達は混乱。統率をとるサラがあれだ。数で勝ってるが、このままだと押し負けるだろうな」

 

「飛鳥、蘭丸。まずはサラを見つけて状況を…」

 

「それは無理だな」

 

蘭丸が指差す方向を見ると、炎の翼を広げて飛翔するサラと、それを追い打つ三体の巨人族。一瞥すると他の巨人より小柄だが、仮面の他に金属製の冠と釈や杖など身につけているものから。他の巨人とは別格の風格を漂わせている。

 

「多分あれが巨人の主力だろうな。取り敢えず俺はサラに変わってあの巨人を相手してくる。そのあとはそのままそこらの巨人を倒す。お前らは混乱してる下の戦いに参加してくれ」

 

「うん分かった」

 

「なら春日部さん。私を一番危険そうなところに落としてディーンを召喚して隙が出来たところを畳み掛ける」

 

「わかった。私は上空から援護する」

 

「OK。………ところで黒ウサギは?」

 

「黒ウサギなら地下都市の巨人を相手にしてるわ」

 

「そうか。黒ウサギなら大丈夫だな」

 

そういうと蘭丸は空中を走る様に飛翔し瞬く間にサラの元についた。

 

「サラ!あんたは一旦退いて指揮を取れ!このままじゃあ戦線は保てない」

 

「だが…それではお前は…」

 

「俺を見くびってもらっちゃあ困る。この程度の木偶の坊。幾千を相手にしても平気だ。……だが今は“アンダーウッド”を守ることを優先しろ‼︎」

 

蘭丸の叫びでサラは巨人をすり抜け、一度退いた。三体の巨人は標的をサラから蘭丸に変更した。蘭丸は巨人を一瞥するとニヤリと笑った。

 

「さて、何秒耐えらえるかな?」

 

「オオオオオオオ‼︎」

 

その挑発に一体の巨人族は殴りかかる。が蘭丸は丸太のような腕を片手で軽く受け止めた。

 

「そんなもんかよ!木偶の坊‼︎」

 

蘭丸は拳を弾くと巨人の頭上に移動し、一体の巨人に踵落としを食らわす。巨人は脳天からかち割れ、絶命した。仲間の死に怒った二体の巨人は二人掛かりで蘭丸に襲いかかる。一体の巨人が蘭丸に掴みかかり、蘭丸はわざと捕まった。もう一体の巨人は好機と見て殴りかかる。

だが蘭丸は瞬間移動で巨人の手から消える。勢いが止められなくなった巨人はそのまま味方を殴った。

 

「本当にたいしたことないな‼︎」

 

蘭丸は紫色のオーラを纏った太刀を一閃した。巨人は空間と共に避け、真っ二つに割れた。

 

「やれやれこれなら…」

 

「DEEEEEEEEEN‼︎」

 

雄叫びの主は重厚な外装を持つ、赤い鉄人形、ディーンであった。その姿に巨人族が、鷲獅子が数多の亜人達が戦慄していた。

 

「DEEEEEEEEEEN‼︎」

 

ディーンは巨人の頭を掴み後頭部を連続で叩きつける。そして飛鳥の命令でそれを巨人族に投げつける。

それを上空で見ていた耀は援護を忘れ、ポカンとしていた。

 

「ディーン…凄い」

 

魔王の残党を容易く葬ったと聞いたからある程度の強さは予想していた。しかしそれは想像以上であった。

 

「それに……蘭丸も……あの巨人を簡単に倒すなんて」

 

蘭丸に関しては白夜叉との戦いや、黒死病の負ったまま“黒死斑の魔王”とも互角以上に渡り合っていたため十六夜以上の規格外であることも重々織り込み済みであった。しかしそれをも凌駕していた。

 

その彼らの勇姿に“アンダーウッド”の士気が一斉に高まる。

サラはこれを好機と見て炎のように燃え上がる赤髪を靡かせて叫ぶ。

 

「“主催者”がゲストに護られては末代までの名折れッ!“龍角を持つ鷲獅子”の旗本に生きる者は己の領分を全うし、戦況を立て直せ!!!」

 

一括に応じておおと鬨の声が上がる。 これを勝機と見た誰かが、大樹の上で“龍角を持つ鷲獅子”の旗印を広げて照らした。戦意を取り戻した各コミュニティは、旗印の下に集って本来の役割に就く。

“一本角”と“五爪”は最前線に出て、雄叫びを上げて巨人族へと襲い掛かる。“二翼”と“四本足”は戦車を引いて後方からそれを援護する。“三本の尾”と“六本傷”は負傷者の運搬と物資の供給を迅速にこなす。

 

「さて、こっからもうひとつギアをあげて、暴れるとしようか‼︎」

 

蘭丸は巨人族を蹂躙していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

上空から戦況を見ていた耀は決着が着いたの確信したが、刹那、琴線の弾く音がした。

 

「………え?」

 

反応する間もなく、一帯は濃霧に包まれた。眼下の戦場も同じだ。上空1000m地点に浮いている耀の前まで届く濃霧。これでは視界など役に立たない。

 

「どうして急に……?」

 

「きゃあ‼︎」

 

ハッと我に返って眼前を見る。飛鳥とディーンが しかも最悪な事に、他の巨人族に巻き付けられた幾重の鎖がディーンの動きを鈍くしている。ディーンの動きを封じられれば、飛鳥は無防備になってしまう。

 

「飛鳥ッ!!」

 

耀は旋風を駆使して急降下した。ありったけの速度で勢いをつけた彼女は、さらに己の重量を“生命の目録”に保管された最も重い獣に変幻させる。

がその途中に耀は目の前を高速で通った何かによって動きを止められた。

 

「え?………何これ⁉︎」

 

目の前にいる生物に耀は困惑した。

翼をもっていたために鳥か何かと思っていたらその姿は鳥とはかけ離れていた。

鳥と同じ翼と身体を持ち、顔は鬼に似た今までに見たことのない生物であった。

 

「ッ!どいて‼︎」

 

耀はありったけの力を込めてソレを蹴る。その生物は風船のように弾け飛んだ。

 

「………なんだったんだろう。今の……」

 

耀はその生物に呆気を取られたが、眼下の飛鳥を思い出すが既に濃霧で覆われていた。

両手を広げた耀は、ありったけの風を双掌に収束し始める。

 

(飛ぶ以外のことは初めてだけど……きっと出来るはず……!)

 

否、出来なければいけない。

出来なければ、飛鳥の命が危ないのだ。

 

「っ、この……吹き飛べっ!!!」

 

轟ごうと竜巻いた風が水平に奔はしり、やがて立ち昇るように霧を掻きまわす。

しかし、当然のように出力不足。濃霧が晴れる気配はない。無駄な努力で終わるかと思われたがしかし、耀の行動を察した幻獣達が同時に雄叫びを上げた。

 

「GEYAAAAAAAAAaaaaaaaaa‼︎」

 

呼応するかのように数多の旋風が巻き上がる。人の言語野では理解できない幻獣達の雄叫びだが、耀の耳には一つ一つがはっきりと聞き取れていた。

 

(グリーと、その仲間達が……)

 

心中でお礼を告げ、霧が薄くなったと同時に走り出す。手遅れでない事を切に祈りながら、駆けつけた先に拍子抜けするぐらい無事な彼女がいた。

 

「飛鳥………!」

 

「か、春日部さん………きゃっ!」

 

安心した耀は勢い余って飛鳥に飛び込んでしまい、二人揃って横転する。

ディーンから降りていたお陰で落ちなくて済んだが、それでも尻餅をついてしまった。

 

「よかった……!でもあの状況で無傷なんて、やっぱり飛鳥は凄い……!」

 

「当然よ……と言いたいけれど。私の力で倒した訳じゃないわ」

 

「え?」

 

「周りを見れば分かるはずよ」

 

飛鳥の重い声に促され、周囲を確認する。

霧は薄くなり人影が見えるようになり始め、巨人族の姿があった。

 

「………嘘」

 

知らず、呟いた。

霧が晴れた先の巨人族は全滅だった。

特に異様なのは、倒れている巨人のおよそ半数が鋭利な刃物で頭・首・心臓を的確に裂かれて死亡している事だ。耀が飛鳥の元に駆けつけるまでに所要した時間は、僅かに一分。

なのに戦場に居た巨人族の半数が、全て同じ殺害方方で死んでいた。

 

「まさか……これだけの数の巨人族を、たった一人で……これって蘭丸がッ⁉︎」

 

 

だが飛鳥は首を横に振る。あの一瞬で巨人族の半数を皆殺しなど、人智を超えた所業である。そんな所業が出来る者が蘭丸以外にこの場にいるのか。

 

「二人とも!大丈夫か?」

 

蘭丸が駆けつけた。蘭丸の顔や服には巨人族を殺した時の返り血がついていた。

 

「………これって蘭丸がやったの?」

 

「ん?いんや俺はもっと前の方で戦ってたぞ?それに俺は真っ二つか心臓を貫くかだからこんな綺麗に切ってないぞ?………っとあいつか」

 

「え?」

 

蘭丸の見る方向には 純白で美しい白髪を、頭上で纏めている黒い髪飾り。静謐を放つ白いドレススカートと、精緻な意匠が施された白銀の鎧。顔の上半分を隠す、白黒の舞踏仮面。全身を白黒で塗り固めているであろうその姿は、余す事なく巨人族の血で染まっていたのだ。

 

「貴女が巨人族を?」

 

「……………」

 

仮面の女性は答えず、三人を一瞥する。すると蘭丸の方に歩み出る。そしてお辞儀をすると

 

「お久しぶりですね蘭丸さん。よもや貴女もいらしてたとは」

 

「久しぶりだなフェイス。にしても凄いなこの数は。この前は手加減してたな?」

 

「それは貴方も同じことでしょう?もちろん今も」

 

 

まあそうだなと蘭丸は笑う。飛鳥と耀はポカンと口開いていた。そしてフェイスは飛鳥達に一礼すると去って行った。

 

「ねえ蘭丸君。彼女は?」

 

「ああ、あいつはフェイス・レス。かなり強いぞ?」

 

プライドの高い飛鳥が無条件で認めざるを得ない程、あの仮面の女性は圧倒的な強者なのだ。もしかしたら彼女とは、この収穫祭で競い合うことになるかもしれない。その事実にある者は奮い立ち、またある者は彼我の実力差に気を落とす。三者三様の反応を見せる最中さなか、安全を知らせるための鐘が鳴らされた。濃霧に覆われた“アンダーウッド”の星空は、耀と幻獣達の働きによって払われた。川辺の清涼な空気を背伸びと共に吸い込み、一晩遅れの満月を見上げ

 

「…………………ぁ、」

 

十六夜のヘッドホンを思い出した。同時に嫌な寒気が背筋を奔はしる。彼女は冷や汗を掻きながら、すぐさま旋風を巻き上げて宿舎に戻るのだった。

 

(今回の襲撃は恐らくまだ始まりだろうな。また襲われるだろう)

 

蘭丸は巨人族の屍を一瞥し、本陣へと戻り始めた。

 





誤字感想お待ちしてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バロールの死眼


お久しぶりです。

最近予定が入りまくりで……


 

“アンダーウッド”収穫祭本陣営。

黒ウサギとジンと蘭丸はその後、サラの許に呼び出されていた。“ノーネーム”と同じく呼び出された“ウィル・オ・ウィスプ”のメンバーと共にサラへ問う。

 

「サラ様。一体これはどういうことですか?魔王は十年前に滅んだと聞いてましたが」

 

ジンの追求を聞き、サラは背凭れに仰け反り天を仰いだ。

 

「……すまない。今晩詳しい話をさせてもらおうと思ったのだが、彼奴らの動きが存外早かった。実は両コミュニティいを“アンダーウッド”に招待したのには訳があったのだ。……話を聞いてくれるか?」

 

「はい」

 

「ヤホホ……話だけなら」

 

即答するジンと笑って誤魔化すジャック。サラは身を乗り出し事情を説明する。

 

「この“アンダーウッド”が魔王の襲撃を受けていたという話は、既に聞いたな?」

 

「ああ。確か十年前の出来事だよな?」

 

「そうだ。魔王を倒す事は出来たのだが、傷跡は深く残ってしまった。そして魔王の残党が、“アンダーウッド”に復讐を企んでいるらしい」

 

「なるほどな、それがさっきの巨人族なのか?」

 

「そうだ。しかしそれだけとは限らん。私もさっきまで巡回に行っていたのだが、やはり周囲の様子がおかしい。ぺリュドンを始め殺人種と呼ばれる幻獣まで集まり始めている。グリフォンの威嚇いかくにすら動じないとなると、何かしらの術で操られている可能性もある」

 

サラは滔々と推測を述べる。黒ウサギは了承するも、新たに生まれた疑問を提示した。

 

「しかしあの巨人族は、一体どこの巨人族なのですか? あの仮面は見覚えがありませんが」

 

ふむ、とそこで会話を切る。言葉を纏めるように悩んだサラは、ゆっくりと解答を口にする。

 

「あの魔王の残党は……箱庭に逃げ込んできた巨人族の末裔。その混血達だ」

 

やはり、と黒ウサギは頷いた。

 

「箱庭の巨人族はその多くが敗残兵だ。ケルトのフォモール族などが代表格なのだが、北欧の者達も多い。敗残してきた経緯から、基本的に戦いを避ける穏やかな気性で、物造りに長けた種なのだが……五十年前に“侵略の書”と呼ばれる魔道書を手に入れた部族が、“主催者権限”を用いて巨人族を支配し始めたのがキッカケだ」

 

む、と黒ウサギは考える様にウサ耳を伏せる。

 

「“侵略の書”……? もしやゲーム名は、Labor Gabalaと呼ばれるものだったのでは?」

 

「知っているのか?」

 

「え、ええ。しかし知っているとは言っても、軽くウサ耳に挟んだ程度の知識でございます。別名では“来寇書”と呼ばれる“主催者権限”で、土地を賭け合うゲームを強制できる書だとか」

 

「俺もそれは聞いたことがある。数ある“主催者権限”の中では最もポピュラーな能力とも言え、彼奴らはそれで次々とコミュニティを巨大にしていった、とか……」

 

しかし、その魔王の一族は戦いに敗れて滅んだ。巨人族は敗残兵に戻ったのだ。

 

「……けど、巨人族は今でもこの“アンダーウッド”を狙い続けている。元が気性の穏やかな一族であるのにも拘かかわらず。つまり此処ここには、奴らがそれ程までに執着する何かが在るって事か?」

 

蘭丸の指摘にサラは首を縦に振る。彼女は椅子から立ち上がり、壁に掛けてあった連盟旗を捲めくった。その後ろあった隠し金庫から人の頭ぐらいの大きな石を取り出し、一同に見せる。

 

「連中の狙いは、この“瞳”だ」

「“瞳”……ですか?この岩石が?」

 

ジンが目の前に置かれた石を見て尋ねる。サラは頷くと、厳かな声音で説明した。

 

「ああ。今は封印されているが……もしも開封されれば、一度に一〇〇の神霊を殺す事が出来ると言われている」

 

「…おいおいマジかよ。それって“バロールの死眼”じゃないのか?」

 

驚愕する蘭丸に続き、ガタン‼︎と、ジンと黒ウサギは腰を浮かせる程驚いた。

 

「バ、バ、“バロールの死眼”!?」

 

「ご、御冗談をッ!? “バロールの死眼”と言えば、ケルト神話群において最強最悪とされた死の神眼!! 視るだけで死の恩恵を与える、魔王の瞳ではありませんか!!!」

 

血相を変えて声を上げる。しかしながら、その凶悪さを考えれば無理もないだろう。

“バロールの死眼”とは、死の恩恵を与える心眼である。紀元前五世紀にまで遡さかのぼって語られるケルト神話に記述された、巨人族の王バロールが所持したとされる神眼。この瞳が一度瞼まぶたを開けば、太陽の如き光と共に死を与えると伝承されている。

以前“ノーネーム”が戦った“黒死斑の魔王”が、風に乗せて死を運んでいたとするならば。

“バロールの死眼”は、光と共に死を強制する瞳なのだ。

 

「しかし“バロールの死眼”はバロールの死と共に失われたはず。それが何故なぜ今さら」

 

「そうおかしな事ではない。聞けばケルト神というのは多くが後天性の神霊と聞く。ならば神霊に成り上がる為ための霊格が確率されている事になる」

 

「つまり、第二第三のバロールが現れても何ら不思議では無い……ってことか」

 

蘭丸の言葉に、サラは真剣な面持ちで頷いた。彼女が述べる通り、神霊は功績を積む事で後天的に成り上がる事が出来る。“黒死斑の魔王”がいい例だろう。彼女は八〇〇〇万の死霊群で在る事とは別に、ハーメルンの笛吹きによる信仰と恐怖を取り込んで神霊に昇華した。つまり神霊への転生とは、“一定以上の信仰を集める”という試練を乗り越えた先にある恩恵なのだ。

 

「い、言われてみれば確かに。ケルト神の半分以上は、国威と共に信仰を得た種族です。権威あるドルイド達の信仰が、祖霊崇拝と自然崇拝が主流だったからという記憶がありますが……」

 

「そうだ。人は信仰を集めれば神に成れる。ケルト神話群はその顕著な一例だ。故ゆえに箱庭の中では偶発的に“バロールの死眼”を開眼させる巨人族は、少なからず現れたらしい。一説では、“侵略の書”の副産物とも言われているがな」

 

そう言って視線を落とすサラ。その瞳の先には、魔王の力が宿る瞳。

 

「連中は何としてもこの神眼を取り戻したいのだろう。適性が無ければ十全の力を発揮しないが、それでも強力なギフトであることは変わりない。私達が収穫祭で忙しい時を狙って、今後も襲撃を仕掛けてくるだろう」

 

「ヤホホ……その襲撃から街を守る為ために、我々に協力しろと?」

 

サラの要請に、ジャックとアーシャはあからさまに嫌な顔をした。彼らは戦闘力こそあるが、そもそも武闘派のコミュニティではない。“ウィル・オ・ウィスプ”は、あくまで物造りが主体の組織である。前回のように巻き込まれたならともかく、進んで戦いに臨のぞむのは主義に反するのだろう。アーシャは青髪のツインテールを左右に振って難色を示す。

 

「確かにウィラ姉は強いよ。でも、性格が致命的に戦闘向きじゃないんだよね。だから滅多なことじゃギフトゲームにも参加しないし。それにこの件はまず、“階層支配者”に相談するのが筋ってもんだろ?相手はギフトゲームすら無視する無法者だぜ?」

 

彼女の指摘に、サラは沈鬱そうに黙り込む。その指摘は正しかった。

“階層支配者”とは今回のように無法行為を行う連中を裁くことが使命。ましてや相手は“主催者権限”すら持ち合わせていない無法者である。問答無用で虐殺されても文句は言えない。しかしサラは、辛そうな視線を向けて首を横に振った。

 

「残念ながら……現在南側に“階層支配者”は存在しない」

 

「……は?」

 

「先月の事だ。時期としては“黒死斑の魔王”が現れたのと同時期になる。七〇〇〇〇〇〇外門に現れた魔王に“階層支配者”が討たれたのだ。その後の安否は今も分からん。しかも魔王の正体すら不明ということ」

 

「なっ!?」

 

予想外の回答に絶句するアーシャ。他の面々も同様だ。まさか“階層支配者”が不在になっているとは思いもしなかったのだろう。サラは静かに天を仰あおぎ、南側の現状を話す。

 

 

 

「巨人族が暴れ始めたのはそれからの事なのだ。本来なら“アンダーウッド”に移住してくるはずであった“一本角”の同士……ユニコーンの群れも、奴らの襲撃で壊滅的な打撃を受けたらしい。以後、連絡も途絶えたままだ」

 

「そ、そんな……!」

 

黒ウサギは蒼白になった。それではトリトニスの滝で出会ったユニコーンも無事では済まないだろう。

 

「我々は白夜叉様に代行として、この南側から新たな“階層支配者”を選定して貰えないかと相談した。しかし秩序の守護を司る“階層支配者”として相応しいコミュニティなど、そうそう見つかる物ではない。そこで白夜叉様から話を持ちかけられたのが……“龍角を持つ鷲獅子ドラコ・グライフ”連盟の五桁昇格と、“階層支配者”の任命を同時に行うというものだった」

 

「なるほどな。つまり今回の収穫祭は単なる土地の再興を誇示するだけの催しじゃ無く、“龍角を持つ鷲獅子”の五桁昇格と“階層支配者”の任命を賭けた一世一代のゲームってわけだ」

 

その言葉に、ジンと黒ウサギは息を呑む。

サラは頷き、事の重要性を語る。

 

「そうだ。“階層支配者”に任命されれば“主催者権限”と共に強力な恩恵を賜たまわる。巨人族を殲滅するには“主催者権限”を用いたギフトゲームで挑むしかない。南側の安寧のためにも、この収穫祭は絶対に成功させねばならないのだ」

 

強固な決意で宣言するサラ。初めて知る真実に言葉を無くす一同だが、黒ウサギは同時に納得もしていた。

“龍角を持つ鷲獅子”は、下層においても有数の規模を誇る連盟だ。遥か遠い“ノーネーム”の二一〇五三八〇外門にさえ、“六本傷”の分家が存在している。そして規模と同様に、活動の歴史も長い。その由緒ある連盟の議長席に、新参であるはずのサラ=ドルトレイクが座っている。如何いかに南側の住人が大らかな気性とはいえ、群れの主ともいえる議長席を易々やすやす譲るはずがない。縄張り意識の強い一部の幻獣などは尚更なおさらだ。しかしサラは、“階層支配者”である“サラマンドラ”の元跡取り娘である。その経験も見込まれ、僅か三年という所属歴で議長に任命されたのだろう。

 

(サラ様は御父上の隣でずっと“階層支配者”の活動を見てきたはず。“龍角を持つ鷲獅子”連盟の将来を見据えれば、彼女を議長に据えるのは当然の流れだったのかも)

 

黒ウサギはサラの素姓や人格を詳しく知っている訳ではないが、仮にも“サラマンドラ”は元同名コミュニティだ。

その跡取り娘であっただけに、噂程度には聞いていた。

彼女が星海龍王の龍角を継承すれば、“サラマンドラ”は最盛期を迎えるだろうと噂されていたほどの逸材である。

しかし当のサラは、憂鬱気に赤髪を触って苦笑を浮かべた。

 

「次期“階層支配者”という立場を捨てて“龍角を持つ鷲獅子”連盟に身を置いた私が、現在は南側の“階層支配者”になろうとしている。さぞや滑稽に見えるだろうが……生憎と手段を選んでいる場合ではない。南側の安寧の為ためにも、両コミュニティの力を貸していただけないだろうか?」

 

「そう言われましてもねえ……」

 

ジャックは事情を聞いてもまだ難色を示す。

それでも引く下がるという選択肢を持たないサラは、“バロールの死眼”の上に手の平を載のせ、

 

「無論、タダとは言わん。多くの武功を立てたコミュニティには、この“バロールの死眼”を与えようと思う」

 

「は……!?」

 

「聞けばウィラ=ザ=イグニファトゥスは生死の境界を行き来する程の力があると言う。ならばこの“バロールの死眼”も十全に使いこなせよう。我らの手元で腐らせておくよりは、彼女の下で力を振るった方が有益というものだ。……どうだろう、ジャック」

 

「それは……まあ、おっしゃる通りですが。確かにウィラならば、“バロールの死眼”の適性は高いでしょう。しかし、我々以外のコミュニティに渡った時はどうするのです? 下層でウィラ以外に“バロールの死眼を使いこなせる例外など……きっと居ませんよ?」

 

チラ、とジャックが蘭丸達を見る。

“ノーネーム”であれば別だとも思っているのだろう。

サラもその視線に気づき、頷いて返す。

 

「安心して欲しい。“バロールの死眼”を譲渡するのは、“ウィル・オ・ウィスプ”か“ノーネーム”の何れかに限らせてもらう予定だ」

 

「ぼ、僕達もですか?」

 

「し、しかしサラ様。黒ウサギ達の同士に適性持ちはいないと思われわすよ?」

 

難色を示す二人に対して今度はサラが驚き、思い出したように切り出した。

 

「すまない、すっかり忘れていた。実は白夜叉様から“ノーネーム”へ、新たな恩恵を預かっていたのだった」

 

「それって……“アレ”の事か?」

 

「ああ、話は既に聞いているだろう?『The PIED PIPER of HAMELIN』をクリアした報酬のことだ。アレさえあれば、“バロールの死眼”を使いこなすことが出来るはず」

 

パンパン、とサラが手を叩いて使用人を呼ぶ。現れた使用人は両手に小箱を持っており、蓋ふたには向かい合う双女神の女神の紋が刻まれていた。“サウザンドアイズ”の旗印で封印された小箱を渡されたジンは、面食らって驚く。

 

「これが、新たな“恩恵”……?」

 

「そう。お前達は“黒死斑の魔王”主催ゲーム、『The PIED PIPER of HAMELIN』を全ての勝利条件を満たしてクリアした。これはその特別恩賞。開けてみるといい」

 

ジンは神妙な顔で頷き、小箱の封を解く。中には笛吹き道化“グリムグリモワール・ハーメルン”の旗印を刻んだ指輪が入っていた。





今回は随分と長めでした。(5000文字越え)

では誤字、感想、お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再来


今回は短めです。


 

その頃耀はヘッドホンの件と、収穫祭の滞在期間の事を黒ウサギにバレ、その事を黒ウサギに問い詰められていた。

蘭丸はコナゴナになった十六夜のヘッドホンを手に取る。

 

「……なるほどな。そういうことか……それならヘッドホンは俺に任せてくれ」

 

「本当に⁉︎」

 

耀は少しだけ顔が明るくなった。

 

「ああ、状態がアレだから少し時間は掛かるが、それでも……」

 

蘭丸の声は緊急を知らせる鐘の音によって遮られた。

 

「大変です。巨人族がかつてない大軍を率いて………。“アンダーウッド”を強襲し始めました!」

 

直後、地下都市を震わせる地鳴りが一帯に響いた。

 

**

 

 大樹の根から外に出た耀達が目の当たりにしたのは、半ば壊滅状態となった“一本角”と“五爪”の同士達だった。 警戒の鐘が鳴らされてからほんの僅かな間に、一体何があったというのか。

 

「ったく……見張りは何してたんだ」

 

毒づきながら蘭丸は戦場に飛びたして行った。

 

「あ!蘭丸さん⁉︎」

 

黒ウサギの静止も耳にせず瞬く間に蘭丸の姿は見えなくなった。他の面々も予想外の事態に困惑する中、空から旋風せんぷうと共にグリーが舞い降りてきた。相当激しく戦っていたのだろう。自慢の翼は度重なる戦闘で荒れており、後ろ足には深い切り傷を負っている。耀の隣に降り立った彼は血相を変えて訴えた。

 

『耀……!ちょうどいい、今すぐ仲間を連れて逃げろッ!』

 

「え?」

 

『彼奴の主力に化け物がいるッ! 先日とは比べ物にならんッ! このままでは全滅だ! お前達だけでも東へ逃げ、白夜叉殿に救援を……!』

 

グリーが叫ぶ最中、琴線きんせんを弾く音が響いた。聞き覚えのある耀はハッと顔を上げる。

 

(この音……濃霧の時と同じ……!)

 

先ほどの戦闘を思い出すが、しかしそれを伝えるだけの暇は与えられなかった。琴線の弾く音は二度三度と重なり、音色の数だけ最前線の仲間達が次々と倒れていく。音源から離れている耀達でさえ、意識が飛びそうになるほどだ。

 

『奴だ……!あの竪琴の音色で見張りの意識を奪われ、二度の奇襲を許してしまった。今は仮面の騎士が戦線を支えているが、それも何時いつまで持つか……!』

 

グリーの悲痛な言葉を翻訳する黒ウサギ。途端、ジャックは驚嘆の声を上げた。

 

「仮面の騎士……!? ま、まさかフェイス・レスが参戦しているのですか!?」

 

「ま、まずいぜジャックさん! アイツにもしもの事があったら“クイーン・ハロウィン”が黙ってねえよッ!! すぐに助けに行こうッ!!」

 

ジャックは麻布に火を付けて業火を纏い、アーシャはその上に乗って最前線を目指す。

 

「……この竪琴を弾いている巨人って、仮面の人でも勝てないの?」

 

『というよりも、攻めあぐねている。あの音色は近くで聞くほど効力が高い。それで昨日、サラ殿も力を抑えられていたそうだ。となれば、神格級のギフトと見て間違いない』

 

「神格……それで、仮面の人と竪琴の巨人は?」

 

『先ほどまで共に戦っていたが、琴線のほうは姿を消した。仮面の騎士は音色に耐えながらも戦いに臨のぞんでいる。……それと竪琴の主は、巨人族ではない』

 

「え?」

 

『身長はお前達と大差ない。深めのローブを被った人間だ。巨人族が従っているところを見ると、奴が指揮者なのかもしれん」

 

唸る様な声を漏らすグリー。その間も巨人族は次々と攻め込んできていた。遠くでは巨人族の雄叫びと幻獣達の断末魔が重なり合って響いている。

 

『それに数だけではない。空から確認した巨人族の数は五〇〇超。かつてない大軍隊だ。戦闘を請け負う“一本角”と“五爪”が壊滅状態では、もう……」

 

「……っ……」

 

想像以上に厳しい状況を知らされ、耀は思わず言葉を無くした。それに無双の強さを持つ蘭丸でも音には対抗できるか分からない。耀が頭を抱えていると、ジンが一歩前にでた。

 

「大丈夫。僕に考えがあります」

 

「……え?」

 

「先ほど“サウザンドアイズ”からギフトが届きました。僕の予測が正しければ、このギフトで敵の戦線を瞬間的に混乱させることが出来るはずです」

 

「ほ、ほんとに?」

 

「はい。しかしそれだけでは足りません。竪琴の術者を破らなければ、同じことを繰り返すだけです。敵の主力を逃がさないためにも……耀さん。貴女の力が必要です」

 

力を貸してくれますか、とジンが尋ねる。彼の申し出に耀は瞳を瞬かせて驚いたが、すぐに眉を顰ひそめた。

 

「……それは、私に見せ場を譲るということ?」

 

「違います。僕の予想が正しければ、耀さんの力が必要な状況に陥るはずです。貴方でなければ出来ないことです」

 

真っ直ぐ、耀を見つめ返す。同情で見せ場を譲られたのではないか、という勘ぐりはその視線で消え失せた。

 

「……わかった。作戦を教えて」

 

**

 

最前線では仮面の騎士、フェイス・レスが音色に耐えながらなんとか戦線を保っていた。

フェイスは蛇蝎の剣を握り締め、肩で息をしていた。

 

(……巨人族は問題は……だけどこの音は……)

 

そしてまた竪琴の音色でフェイスの動きが止まる。それを好機と見た巨人は錫杖を振り下ろす。

 

(しまっ……)

 

だが巨人の攻撃は心臓を貫く槍によって阻まれた。

 

「無事かフェイス」

 

蘭丸はフェイスの側による。仮面の下で笑みを零すがすぐに何時もの無表情を繕う。

 

「ええ救援には感謝します。ですがいくら貴方でもあの竪琴には問題無いとはいかないようですね」

 

「ああ、マジで耳障りだ。だがジンに作戦があるっぽいしなんとかするだろうな。それまでは現状維持だ」

 

蘭丸は巨人の攻撃をあしらいながら応える。フェイスは

 

「作戦ですか?となるとあのギフトですか?」

 

「知ってるのか?……そうだ。恐らくその後に隙ができるだろうからその時に一気に攻め込む。それが作戦だ」

 

そうして蘭丸とフェイスは音色に耐えながら巨人族の攻撃をあしらう。すると後方より、黒い風が風に乗り運ばれてきた。それを受けた巨人族はどんどんと倒れて行った。

倒れた巨人族は白黒の斑模様浮かばせた。

 

「これは…“黒死斑の魔王”?」

 

「そうだ。“ハーメルンの魔道書”から切り離されて、神霊じゃないが、八千万の死霊の代表だからな。かなりの大戦力だ」

 

ケルト神話群に記される、巨人族の逸話。

その中の一説・ダーナ神話群と呼ばれる巨人族の闘争を記した史実には、黒死病を操ることで他の巨人族を支配していた記述がある。“治療法が確立されていない病を操る”とは、最強最悪の支配体系の一つだろう。ましてやペストが操る黒死病には八〇〇〇万もの死霊というバックアップがある。そこで彼女の力で伝承に則のっとり、巨人族の混乱を煽あおる算段だった。

 

「もしかして、貴方は仲間がこの作戦を実行することは予想とうりだったのですか?」

 

「まあな。あとは一気呵成だ反撃に出るそ!」

 

「はい」

 

巨人族が倒れ始め好機と見た蘭丸とフェイスはあっという間に巨人を倒して行く。

 

こうして程なくして勝負は決した。

 

 

 

 





今回はこれで終わりです。

ヘッドホンの件は蘭丸が直せるので、“クイーン・ハロウィン”の力は使用しません。ご理解の程よろしくお願いします。

誤字、感想、お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

巨龍襲来

 

七七五九一七五外門“アンダーウッドの大瀑布”フィル・ボルグの丘陵。

十六夜は“アンダーウッド”に着くや否や、瞳を輝かせて丘陵の上から一帯を見渡した。

 

「緑と清流と青空の舞台。ハハッ、北側の石と炎の真逆じゃねえか!ちょっと出来過ぎじゃねえ?いや、俺は歓迎だが?むしろ抱きしめたいぐらい大歓迎だが?ちょっくら抱きしめに行ってもいいか、レティシア?」

 

「構わんよ。黒ウサギ達には私から伝えておく」

 

レティシアは苦笑を浮かべながら承諾する。十六夜は我慢しきれないとばかりに走り出し、“アンダーウッド”の大樹を目指した。そして最上に着いた十六夜は寝転がる水樹の葉と枝を押さえて確認し、多分に水分を含んだ葉は寝転がるのには最適だった。

 

「よしよし、いいぞ。シチュエーションとしては最高だ。これで肴の一つもあればよかったんだが……ま、今日は星空だけでいいか」

 

ゴロンと葉に寝転ぶ。そして“アンダーウッドの大瀑布”の力強い水音を堪能しながら、箱庭の星空を眺める。

 

「……星の位置は箱庭も変わらねえんだな」

 

デネブ、アルタイル、ベガ、夏の大三角を指先でなぞる。

 

(鈴華や焔はどうしてるかな……ま、あの二人ならふてぶてしく元気にやってるか)

 

らしくない郷愁を、軽く首を振って払う。すると後方から気配を感じそっと振り返った。

 

「おっと、先客か…今宵は星空をと思ったんだが……どうやら同じ趣味の奴がいたとはな」

 

「ヤハハ、嘘つけ。俺ならここに来ると持ってたんだろ?」

 

「まあ否定はしない」

 

微笑を浮かべながら十六夜の隣に腰を下ろす蘭丸。

 

「黒ウサギが探してたぞ。“主催者”への挨拶を済ませろだってさ。まあじきにここも見つかるだろうがな」

 

「まあそれは後で行くさ」

 

「それと、お前のヘッドホンについてだが…」

 

「ああ、あれか?春日部の三毛猫が自白でもしたか?」

 

ニヤリと笑う十六夜。そしてつられて苦笑を浮かべる蘭丸。

 

「やっぱり気づいてたか」

 

「ああ、つーかこんなあからさまな証拠を残されたら名探偵を気取る気にもられないぜ」

 

 十六夜はポケットから猫の毛が入った小瓶を取り出し、目の前に翳す。

 

「確かにな。これじゃあシャーロックホームズは気どれないな」

 

「最初は春日部がやらせたのかとも勘ぐったが、そんな素振りは見せなかった。それに春日部ならもっと上手くやるだろう。となれば、あの三毛猫が単独でやったと考えるのが妥当だ」

 

「一応聞いておくが……怒ってるか?」

 

「別に? レティシアにも言ったが、どうせ素人が作った代物だ。一銭の価値も無い。焔のご要望通り、広告塔として付けてやっていただけだ」

 

「へえ、それはまた随分らしいな」

 

「そんなことより、手紙に書いてあった“クイーン・ハロウィン”の寵愛者ってのがよっぽど気になるね。強いのか?」

 

「ああ、強いな」

 

蘭丸程の実力者に強いと言う程の好評価に十六夜は好奇心を膨れさせる。

 

「……そんなに強いか?」

 

「ああ、俺程では無いとしても、お前と互角位の実力はあるだろうな」

 

蘭丸の評価に十六夜は満足した様に頷き、星空を見上げた。

 

「そうか……ならその一点だけは、巨人族の連中に感謝しないとな。おかげで収穫祭にいられる時間が延びた。ましてやそんな面白い奴がいるなら是が非でも相手をしてもらわねえと」

 

「まあ、そうなるといいな」

 

「そしてそいつを倒した後は……お前だぜ蘭丸」

 

蘭丸に指を指しニヤリと笑う十六夜。蘭丸は最初こそ面を食らっていたが、すぐに好戦的な目へと変わっていた。

 

「ふ、そうかそいつは楽しみだな。精々頑張るんだな」

 

「ハッその傲慢を潰してやるよ」

 

両者は暫く睨み合うと、戦意を霧散させた。二人がそんなやりとりをしているとガサゴソと後ろの木々が揺れていた。

 

「ここにいましたか十六夜さん!早く“主催者”に挨拶を……って、あれれ?蘭丸さんもご一緒ですか?」

 

「ああ。ちょっと前にこいつを捕獲した」

 

「ちょうど二人で敵情視察をしてたところだ」

 

「敵情って……巨人族ですか?」

 

「いいや。この“アンダーウッドの大瀑布”のことさ」

 

へ?と首とウサ耳を傾ける黒ウサギ。

 

「南側の下層で、屈指の景観を持つ水舞台。“世界の果て”の迫力とスケールには劣るものの、美しく整えられた土地は流石の俺も認めざるを得ない。……なあ黒ウサギ。俺たちもこんな舞台を作りたいと思わないか?」

 

十六夜と蘭丸はニヤリと笑って黒ウサギを見つめる。

 

「つまり敵情視察とは……“地域支配者”として、“アンダーウッド”を超える水舞台を整えるということですか?」

 

「そうだ。それは何も二一五三八〇外門に限ったものじゃない。更に領地を増やせば、出来る事だって多くなる。ギフトだって集まりやすくなる。……今はまだ農園や水源施設を整える程度だが、聞けばこの“アンダーウッド”は十年で復興を遂げたそうじゃねえか。だからまずは十年、この“アンダーウッド”を目標にする。この水舞台の景観は、目標として相応しいからな」

 

ヤハハ!と高らかに哄笑を上げる十六夜。蘭丸はクスリと笑うと黒ウサギに告げる。

 

「……星空に旗を飾り、地上で最も華やかなコミュニティ。これならどんな奴の耳にも届くだろうな。それこそ行方を眩ませている同士にも」

 

「っ‼︎……………」

 

思いもよらぬ真意に息を呑み、ギュッと胸の前で両手を握りしめる黒ウサギ。蘭丸は黒ウサギを頭を数回撫でた後、巨人族が進行してきた方角を指差し、

 

「だがまずは巨人族だ。収穫祭を邪魔されちゃかなわないからな、“アンダーウッド”の為にも蹴散らしてやるよ」

 

「全くだ。魔王の残党だが知らねえがやることなすこと無粋にも程がある」

 

「………ふふ。お二人らしいですね。ならばこの黒ウサギも不逞な巨人族を殲滅するのに一役買うのですよ!」

 

シャキンとウサ耳を伸ばす黒ウサギ。微笑を浮かべながら背骨をパキパキと音を鳴らせる蘭丸。ヤハハ!と軽快に笑う十六夜。

黒ウサギはそんな二人を見つめ静かに微笑んだ。

 

「お二人を見ていると、とある方を思い出します」

 

「へえそれは見所のあるやつだな」

 

「それはもう。何と言ってもコミュニティの前参謀だった方です。その方を“主催者”をする時は何時も揃って同じ事を言うのです。『主催者は参加者を感動させるのが義務だ。金銭のやり取りはその場で切れる縁だけど、感動が完全に消えることはない。何故なら感動とは、生きるのに必要な糧であるからなのだッ!!』とか、真面目に話してくれました」

 

でもリピーター率は良かったんですよねー♪と楽しげに話す黒ウサギ。

 

「へえ、ソイツは女なのか?」

 

「Yes!レティシア様とは別のベクトルの金の美髪で、とても魅力的な方でした」

 

「ほぉ……黒ウサギは仲良かったのか?」

 

「仲がいいも何も、黒ウサギが幼い頃にコミュニティで保護してくれた大恩人でございます。無類の子供好きで、優しくて、聡明で……黒ウサギの憧れの方々でした」

 

黒ウサギは立ち上がり夜空を見上げてふっと目を細める。

 

「どんなことがあっても……あの方だけはきっと無事です。不思議とそんな風に思わせてくれる方々でした。だからこの窮地にこそ、黒ウサギが駆けつけ、昔の大恩をお返しするのです!そして蘭丸さんや十六夜さん達の事を紹介して、今より素敵な毎日を送るのですよ!」

 

ムンッ、と健気にも気合いを入れる黒ウサギ。

十六夜は黙り込んだまま、静かに夜空を見上げる。その瞳は先ほどと比べ遙か遠くを見つめているようで、何も映してはいない。

その表情に黒ウサギは少し不安を覚えた。

 

「……どうしました、十六夜さん?」

 

「いや……アルタイルの星はどれだったかなと思ってな」

 

指で星空をなぞりながら誤魔化すように呟く。黒ウサギはその隣で星を指した。

 

「もう、アルタイルは鷲座の首星ですよ。きっとあの辺りの星が…………」

 

…………え?と黒ウサギが声をあげ。ガバッと十六夜は我に返って腰を上げる。すると一陣の不吉な夜風が三人の間をすり抜けた。三人の見間違いでなければ、一瞬複数の星が光を無くしたのだ。

 

「………なんだ、今のは」

 

蘭丸は訝しげに眉を顰める。しかし異変は、間を置かずに連続して発生した。

 

『目覚めよ、林檎の如き黄金の囁きよ』

 

そんな不吉な声を聞いた瞬間。“アンダーウッド”に黄金の琴線を弾く音が響いた。

 

**

 

その声は宿舎に居たレティシアにも届いていた。

 

『目覚めよ、林檎の如き黄金の囁きよ』

 

えっ?と呟いたレティシアの体から力が抜ける。同時に琴線を弾く音色が三度響き、彼女の意識を混濁させる。何が起こっているかわからない。飛びそうな意識の中、かろうじて背後を見たレティシアは、クスクスと笑うローブの詩人を目撃する。

 

「ふふ、トロイヤ作戦大成功。お久しぶりですね、“魔王ドラキュラ”。巨人族の神格を持つ音色は如何いかがですか?」

 

「き……貴様……何者、」

 

「あらあら、ほんの数ヶ月前の出会いも忘れちゃうなんて、少し酷いのではなくて? ……しかしそれも、すぐ気にならなくなるわ。だって貴女は……」

 

……もう一度、魔王として復活するのだから。

 

**

 

『目覚めよ、林檎の如き黄金の囁きよ。

目覚めよ四つの角のある調和の枠よ。

竪琴よりは夏も冬も聞こえ来たる。

笛の音色より疾く目覚めよ、黄金の竪琴よ!』

 

その詠唱に蘭丸と十六夜はハッとなって顔を上げた。

 

「この詩は……まずい、黒ウサギ! 耀が巨人族から奪った“黄金の竪琴”は何処にある!?」

 

「え!?そ、それならサラ様が管理しているはずですが、」

 

「すぐに破壊しろ!! あの竪琴は……」

 

『如何にも。貴様らの想像通り、あの竪琴は“来寇の書”の紙片より召喚されたトゥアハ・デ・ダナンの神格武具。敵地にあって尚、目覚めの歌で音色を奏でる神の楽器だ』

 

低く、老齢を思わせるしわがれた声。しかし、居場所を特定させないように細工されているのか、周囲に反響して響く。正体が分からない謎の声を聴き、三人は背中合わせになって警戒する。しかし声の主は一向に姿を見せず、嘲笑うように彼らへ告げた。

 

『そう急くな、“箱庭の貴族”とその同士よ。今宵は開幕の一夜。まずは吸血鬼の姫“魔王ドラキュラ”の復活を喜ぶがいい!』

 

刹那、夜空が二つに裂けた。晴れ晴れとしていたはずの夜空は暗雲に包まれ稲光を放ち“アンダーウッド”の空を昏くらく染め上げていく。

 二つに割れた空から十六夜達は、神話の光景を見た。

 

「まさか……あれが………!?」

 

『そう。神話にのみ息衝く、最強の生命体──龍の純血種だ───!!!』

 

 

「GYEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaa!!!」

 

 

常識外れの雄たけびは、それだけで“アンダーウッド”の総身を揺り動かす。頭の頭部はかろうじて見えたものの、その全長は雲海に隠れて見えないほどの巨躯なのだ。

 

「龍……これが龍……!?」

 

蘭丸はかつてない威圧感に戦慄した。巨龍が現れた星空の歪みからはさらに巨大な城のような影が見え隠れしている。

 

巨龍の召喚により混乱した“アンダーウッド”ににさらに拍車をかけるかのように巨人族が進行している。

罵声と号令が飛び交う中、巨龍の雄叫びと稲妻はますます激しく“アンダーウッド”を揺らしている。一層大きな雄叫びが一帯を震撼させると、巨龍の鱗が雨のように降り注ぎ、その一枚一枚が巨亀や大蛇となって街を襲い始めた。

 

「鱗から分裂して新種を作り始めた……?まさか、本当に龍の純血種だというのですか⁉︎そんな……本物の最強種が下層に現れるなんて……!」

 

「ごちゃごちゃ言ってる場合かッ!すぐに降りるぞ!」

 

十六夜の一括に、黒ウサギも我に返って頷く。

 

「ち!コレは予想外だった!」

 

蘭丸は盛大に舌打ちをする。

大樹の頂上のから飛び降りようとした三人は、地下都市から高速で飛翔するローブの詩人と、その腕に捕らえられた、

 

「レ、レティシア様ッ!」

 

「蘭丸……黒ウサギ……十六夜……!」

 

混濁した瞳の彼女は、彼らをを視界に捉えたことで僅かに意識を取り戻す。空を見上げた彼女は、巨龍と空中に浮かぶ城の影を確認し、ようやく現状を悟った。

 

(私の“主催者権限ホストマスター”の封印を解いた……⁉︎コイツ、まさか!?)

 

敵の正体に蒼白になるがしかし、その腕から逃れるだけの力はない。己の運命を受け止めるように瞼を閉じたレティシアは、眼下の三人に訴える。

 

「………十三番目の、太陽を……!」

「え?」

 

 レティシアの微かな声に耳を傾ける。

 天高く掲げられた彼女は、全霊を込めて叫んだ。

 

 

「十三番目だ……十三番目の太陽を撃て……! それが、私のゲームをクリアする唯一の鍵だ!!!」

 

断末魔にも似た叫びと共に、レティシアは巨龍に飲み込まれて光となる。その光は軈て黒い封書となり、魔王の“契約書類”となって“アンダーウッド”に降り注いだ。

 

 

 

 

 

【ギフトゲーム名『SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING』

 

・プレイヤー

獣の帯に巻かれた全ての生命体。

※但し獣の帯が消失した場合、無期限でゲームを一時中断とする。

 

・プレイヤー側敗北条件

なし(死亡も敗北と認めず)

 

・プレイヤー側ペナルティ条項

ゲームマスターと交戦した全てのプレイヤーは時間制限を設ける。

時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。

ペナルティは“串刺しの刑”“磔刑”“焚刑”からランダムに選出。

解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適用。

※プレイヤーの死亡は解除条件に含まず、永続的にペナルティが課される。

 

・ホストマスター側勝利条件

なし

 

・プレイヤー側勝利条件

一、ゲームマスター・“魔王ドラキュラ”の殺害。

二、ゲームマスター・“レティシア=ドラクレア”の殺害。

三、砕かれた星空を集め、獣の帯に玉座を捧げよ。

四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主義者の心臓を撃て。

 

宣誓

上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

“ ”印】

 





突如現れた巨龍、そしてさらわれ、魔王として復活したレティシア。

果たして問題児達はこのゲームを乗り越え、レティシアを救うことができるのだろうか?

次章十三番目の太陽を撃て!

蘭丸「………待ってろよ、レティシア!」

これで第三章は終了です。次章もお楽しみに!

誤字、感想、お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

十三番目の太陽を撃て
片鱗


今回より、新章が始まります。


ーー“アンダーウッド”の東南の平野。

 

最前線で戦っていたグリーと“龍角を持つ鷲獅子”連盟の同士は立ち尽くしていた。その視線の先には二人の問題児の姿があった。

 

「………ふうん?ケルトの巨人族と聞いてたから、てっきり神群を指すものだと思ってたんだがな。これは考えを改めなきゃ行けない。要するにお前達は、“巨大化した人類”と言う枠組みでしか無い訳か。………しかし俺達みたいなガキ相手にこの為体じゃ、今頃ご先祖様が泣いてるぜ?」

 

「仕方ないさ。相手は魔王の残党で敗北兵達だ。それに“主催者権限”を無視する無法者だからな、プライドのかけらも無いだろうな」

 

パンパンと不服そうに学ランの肩を払う十六夜と、笑ながらシャツの袖を捲る蘭丸。彼らの足元には打倒された数百の巨人族や、武具や、巨龍から産み出された魔獣の肉片。

 

『こ、これ程の実力を持つ者が、“名無し”のコミュニティに甘んじてるのか?』

 

グリーは敢えて詐称の意味で彼らを“名無し”と呼んだ。

そして逆廻十六夜と二宮蘭丸は口を揃えて巨人族を挑発した。

 

「「もう一度言う。さっさと失せろ。こっちは本気で収穫祭を楽しみに来たんだ。ただでさえ、空飛ぶトカゲも相手しなきゃいけないんだから余計な手間をかけさせるんじゃねえよ」」

 

その挑発を受け取った巨人族の軍勢は鬨の声を上げ、今一度、“アンダーウッド”を目指し、進撃を始めた。

 

「ウオオオオオオッォォォォォーーーー‼︎」

 

巨人族の戦士は徒手空拳で十六夜に襲いかかる。武器は意味をなさないと判断したのだろう。十六夜は俊足でそれを掻い潜り、蘭丸は瞬間移動でその場から姿を消す。

巨人族は蘭丸ではなく十六夜に狙いをつけ始めた。

彼も人間である以上、空は飛べない。巨人族は四方八方から一斉に鎖を投げつけて十六夜を捕らえた。

何重にも巻かれた鎖で封じると背後の巨人族が雷を放つ杖を掲げた。

 

『い、いかん‼︎』

 

グリーは慌てて助太刀に入ろうと四肢に力を込める。しかし巨人族の命と誇りを乗せた豪雷は、

 

「……ハッ、なるほど。誇りの方は腐ってなかったか、木偶の坊‼︎」

 

十六夜の星を揺るがす一撃に払われた。そのデタラメさに巨人族は唖然としていた。そして戻ってきた蘭丸が笑ながら十六夜を見る。

 

「やるな十六夜。この世界に来た時より強くなったんじゃ無いか?」

 

「よく言うぜ。これでもまだまだ余力があり過ぎて困ってた。つーか早く戦えやコラ」

 

「わかってるよ。ちゃんと見てな」

 

蘭丸は軽く跳躍して巨人族の頭上に到達すると掌を掲げ始めた。やがてその掌には黒い瘴気が渦巻くように集まる。正確には周りの空間を吸い込んでその瘴気は渦巻く球体のように形を作る。

 

「へえ……こりゃあヤバそうだな」

 

十六夜も笑ながらも冷や汗をかいていた。

 

「………消え去れ!」

 

蘭丸の掌から放たれたその瘴気は黒い光線となり、第六宇宙速度を凌駕すると言う規格外速度で一瞬のうちに近くにいた数百の巨人族は跡形もなく文字通り消え去っていた。その光景に戦場は一瞬静寂が漂っていた。その沈黙を破るのは

 

「おい、“龍角を持つ鷲獅子”ども……何いつまで絶望したフリしてるんだよ」

 

『な、何⁉︎』

 

「良い加減目を覚ませよ。奴らはお前らの悲願である収穫祭を無作法にも荒らした。誇りである旗に弓を引いた。これだけの屈辱を受けた“龍角を持つ鷲獅子”の同士の胸中にあるのは……絶望じゃなく、怒りであって然るべきだ」

 

「別にそのまま指をくわえて見てても良いんだぞ?その代わり、お前ら“龍角を持つ鷲獅子”連盟は“名無し”風情の背中に隠れて生き延びたってずっと嘲笑われるだろうな」

 

『………ッ……言わせておけばこの小僧ッ……』

 

『多少は出来るようだが所詮、爪もなければ牙も無いみずぼらしい猿ではないかッ‼︎』

 

『応よ!奴らの拳は数百の巨人を砕き、消したが我らの角はその倍は貫いてきたッ!決して劣るものではないぞッ!』

 

十六夜達の獰猛な扇動を受け、幻獣たちは怒りとともに巨人に突撃を開始する。十六夜達の挑発への怒りで奮起する幻獣たちだったがグリーだけは違った。長年付き添った彼の騎手は流れ矢に当たって転落し、行方知れずになっている。

相次ぐ凶報と戦いで麻痺していた怒りと喪失感が、徐々に臓腑の淵が湧き上がる。

 

(連日の苦戦に続き、先ほどまでの覇気のなさ。こんな醜態が、獣王の一角を成す一族とコミュニティの姿でいいはずがない……‼︎)

 

己を恥じるような怒りに包まれたグリーは全身をあらん限りの力で戦慄き、野獣のような雄叫びを上げて巨人族に突撃した。

 

『オオオオオオオォォォォォ‼︎』

 

 

 

「ハッ、流石は獣の王様!落胆せずに済みそうだ……!」

 

超音速の突進で十六夜の脇を駆け抜けた鷲獅子。その有志を見て巨人族と戦えると、確信した。

蘭丸は既に一戦から引いて“龍角を持つ鷲獅子”の同士の戦いを見ていた。

 

(ここまで戦意が戻れば大丈夫だろうな。後はゲームクリアに力を入れるか……っとそろそろかな?)

 

蘭丸の思考と共に“アンダーウッド”全土に届く黒ウサギの声が響き渡った。

 

「ジャッジマスターの発動が受理されました!只今から、“SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING”は一時休戦し、審議決議を執り行います!プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください!繰り返し

 

「GYEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaa!!!」

 

と黒ウサギの声を阻みながら巨龍は雷雲を撒き散らして“アンダーウッド”へと急降下を始めた。身じろぎ一つで大気を震撼させる龍は“アンダーウッド”のわずか1000m頭上を通過し突風を巻き起こす。その突風は“アンダーウッド”の同士を巻き込んでいった。

 

「……これが最強種、龍の純血か……ちょいと面倒だな。……っとあの城は…………」

 

蘭丸は暫く考える仕草をとったのちに、何か閃いたのか、分身を召喚して何かを支持を与えると、空中に浮かぶ城に目を向けた後、蘭丸の分身は姿を消した。

 

 




今回は短めです。

誤字、感想、よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バレンタイン特別編


今回はバレンタインと言うことで、バレンタインの特別編をやります。

今回も蘭丸君がやらかします。

……正直蘭丸君が羨ましい……(ギリィ)


 

バレンタインの“ノーネーム”では女性陣が厨房を独占していた。女性にとっての大きなイベントの一つであるからか、熱が入ってるように見える。

飛鳥と耀は二人で作りながら和気藹々と作っているのに対して、黒ウサギとレティシアは熱を入れて作っている。

 

「ねぇ春日部さん。黒ウサギとレティシアの作ってるのって……」

 

「うん。多分蘭丸の分だろうね」

 

そう、黒ウサギとレティシアは十六夜達のチョコを早めに終えて(勿論手は抜いてないが)蘭丸のチョコに時間をかけていた。

 

「それにしても蘭丸君ってなんであんなに鈍いのかしら?黒ウサギもレティシアもわかりやすいのにね」

 

「うん。それに“サウザンドアイズ”の店員さんも好きそうだよね」

 

二人が話をしている時と同刻、蘭丸がくしゃみをしたりしてなかったり。

 

 

 

**

 

その頃蘭丸は“サウザンドアイズ”で白夜叉と商談していた。

 

「この時期はこの商品を売り出した方が売れるだろうな」

 

「うむ。ならばそう手配しよう。……それとホレ」

 

白夜叉から渡されたのはちょっと大き目の袋である。中身を見てみると、大量のチョコである。

 

「これは?」

 

「うむ、商業コミュニティの娘達からだ。…………ちと多いかもしれんが」

 

「ちょっとなんてもんじゃ無いだろ、この量」

 

苦笑いを浮かべながらも蘭丸はそのチョコをギフトカードにしまう。ちなみに蘭丸は商業指南で様々な商業コミュニティを回っていて、“先生”と呼ばれることも多いが、その裏で鈍さ故に、“女殺し”や“ハーレムクイーン"など蘭丸が聞いたら寝込むような渾名で呼ばれていることは白夜叉だけの秘密である。

 

「それと、これは私からだ。黒ウサギ達の分もあるぞ」

 

「おう、サンキューな」

 

白夜叉からのチョコを受け取り、礼を言うと蘭丸は“サウザンドアイズ”を後にしようとしたら、

 

「あ、あの蘭丸さん」

 

女性店員に呼び止められた。心なしか女性店員の顔が赤く見える。

 

「ん?どうした」

 

「あの………えっと……その……///」

 

「???」

 

女性店員は綺麗にラッピングされた包装紙を持ってもじもじとしていた。蘭丸が不思議そうに見つめる。

 

「これは、いつもお世話になっているお礼です。……その…よかったら///」

 

包装紙をおそるおそる差し出す。その様子は何時もの彼女ではなかった。

 

「そっか、ありがとな。……開けてもいいか?」

 

「は、はい、どうぞ」

 

そう言いながら蘭丸は包装紙を開ける。中にはトリュフが入っていた。

 

「お口に合うかどうか……///」

 

女性店員は指を絡めてもじもじとしている。

 

「ん、じゃあいただきます」

 

蘭丸はトリュフを一つ口に運び、咀嚼する。

 

「うん、美味いよ。ありがとな」

 

「〜〜〜ッ!///で、では私は仕事があるので!」

 

緊張感と蘭丸のスマイルに耐えきれなくなった女性店員は逃げるように暖簾をくぐった。それを見た蘭丸は……

 

「……風邪でもひいてたのか?顔も赤かったし」

 

相変わらずであった。

 

 

**

 

少し遡り、黒ウサギは現在チョコを調理していた。ちなみにチョコは市販の物を溶かした物ではなくカカオからの手づくりである。

 

「味はバッチリなのです。あとはこれを冷やして完成です」

 

黒ウサギの作っていたのは生チョコである。完成した物を冷蔵庫に入れて完成……………とはならなかった。

 

「それでは……次は蘭丸さんの分ですね!」

 

そう、生チョコはあくまで十六夜達の物であり、蘭丸の物は別で作る予定でいた。

 

「蘭丸さんは甘い物は大好きだと言っていたのですが……なら黒ウサギも腕を振るいましょう!」

 

調理を開始した黒ウサギは終始ニヤニヤしていたと証言があったと言う。

 

 

 

 

 

**

 

「よし。始めるか」

 

同刻、レティシアも十六夜達のチョコを作り終え、蘭丸への本命チョコを作り始めていた。ちなみにレティシアは自室の簡単な厨房で調理をしていた。

 

「これを作って蘭丸に渡して、その後は……………ハッ!危ない危ない。自分を見失いかけた」

 

危ない妄想にふけっていたレティシアはぶんぶんと顔を振り自我を保つ。レティシアもカカオを調理し始めた。

 

 

 

 

 

 

**

 

そしてその日の夕食はバレンタインだからと夕食と言うより、チョコパーティーになっていた。

 

「これは私からよ。チョコ作るのは初めてだから苦労したけれど…」

 

「大丈夫だよ飛鳥、私も手伝ったし」

 

飛鳥のはチョコケーキである。初めてだからと言うのは本当らしくケーキの形は少し不恰好である。耀のはフォンダンショコラであった。こちらは手慣れた感の感じるような綺麗に作れていた。

 

「いや、春日部もそうだが、お嬢様も初めてと言う割には味はしっかりしてるぞ」

 

「大丈夫、料理は慣れだ。何回も料理していけば感覚はわかってくるから。初めてでこれなら練習していけばかなり上達するぞ」

 

「ふふ、ありがとう二人とも」

 

十六夜と蘭丸の評価で気を良くしたのか嬉しそうに微笑む飛鳥。耀はと言うと既に口いっぱいにチョコを頬張っていた。

 

「……春日部さん、いくらなんでも詰めすぎじゃあ…」

 

「んぐんぐ……うん大丈夫だよ。そこにチョコフォンデュあったからつい」

 

「あ、それ俺のやつだわ」

 

どうやら蘭丸が作った物らしいチョコフォンデュには子供達が大勢集まっていた。十六夜はへえ、とその光景を眺めていた。

 

「こいつは驚いたな。あの機械もお前じゃなきゃ持って来れないしな」

 

「ふ、商人舐めんな」

 

「ふふ美味しいわね。このチョコフォンデュって」

 

チョコに苺をつけた飛鳥はちょっと嫉妬しちゃうわと皮肉そうに言う。十六夜もバナナを食べながらヤハハと笑う。耀は既に口いっぱいになっていた。

 

「おいおい、口にチョコついてるぞ。ったく子供みたいだな」

 

と蘭丸はハンカチで耀の口を拭う。

 

(おいおいこれって)

 

(こういう時って)

 

そうこう言う時には………

 

「皆さん、チョコ追加したのです…………よ?」

 

「すまないな少し遅く……なっ……?」

 

追加のチョコを持ってきた黒ウサギとレティシアが入ってくるというお約束である。

 

「おう、サンキューなってどうした固まって?」

 

((お前(貴方)のせいだろ‼︎)せいでしょう‼︎)

 

当の本人がこれである。黒ウサギとレティシアは石になって固まっていた。

 

「???」

 

「ダメだなこりゃあ」

 

十六夜は静かに溜息をはいていた。

 

 

 

**

 

そしてその夜、なんとか回復したレティシアは蘭丸の部屋の前に立っていた。

 

「蘭丸………喜んでくれるだろうか……」

 

少し躊躇っているレティシアだが意を決してドアをノックした。

 

「……蘭丸、いるか?」

 

「ああ、空いてるぞ」

 

それを合図にレティシアは蘭丸の部屋に入る。中では蘭丸は机に座り、書類を整理していた。今まで黒ウサギがやっていた仕事を蘭丸が全てやっていて、その量はかなりのものであった。

 

「まだやっていたのか?」

 

「ああ、あとちょっとで終わるけどな」

 

と言いながらレティシアを椅子に座らせる。レティシアは一度深呼吸をして箱を取り出す。

 

「バレンタインチョコだ。こんな遅くですまないな。仕上げにてまがかかってな」

 

実際には緊張で渡すのを躊躇していたのは彼女だけのひみつである。

 

「そうか、開けてもいいか?」

 

「ああ、感想を聞かせて欲しい」

 

蘭丸はそのトリュフを口に運ぶ。レティシアは少し涙目でその答えを待っていた。

 

「うん。すごい美味しいなありがとなレティシア」

 

「そうか……それは良かった」

 

レティシアはホッとしたような表情を浮かべていた。そして蘭丸も次々とトリュフを食べ進める。

 

 

 

 

 

「ごちそうさまレティシア。すごいうまかったよ」

 

「それは良かった…………蘭丸頬にチョコが…」

 

「ん?そうか」

 

「ああ、ちょっと待っていろ私がとる」

 

レティシアは蘭丸の頬に顔を近づけてそのままチョコを舐めとった。これには流石の蘭丸もポカンとしていた。

 

「……………はい?」

 

「ふふ……確かに甘いな///」

 

レティシアは顔を真っ赤にしてそのまま部屋を後にした。蘭丸は暫く放心状態になった後……

 

「……吸血鬼のバレンタインってこういうものなのか?」

 

もはやアホのレベルである。

 

 

 

 

**

 

「うう…躊躇っていたらこんな時間になっていたのですよ」

 

黒ウサギも仕上げ後、躊躇って遅くなっていた。黒ウサギはドアをノックする。

 

「蘭丸さん、黒ウサギです。少しよろしいでしょうか?」

 

「ああ、空いてるからはいっていいぞ」

 

失礼しますと黒ウサギは蘭丸の部屋に入った。蘭丸はベッドに腰を掛けていた。

 

「すいません。こんな遅くに」

 

「構わないさ、それより……チョコか?」

 

「Yes。黒ウサギが丹精込めて作ったのですが………こんな遅くになってしまって………」

 

「構わんよ。食べていいか?」

 

黒ウサギが頷くと蘭丸は嬉しそうに箱を開ける、中にはチョコティラミスが入っていた。ティラミスは食べやすいように一口サイズに切られていた。

 

「おお、美味そうだな。いただきます」

 

蘭丸はティラミスを一切れを食べた。

 

「うん、美味い!」

 

「ありがとうございます蘭丸さん!」

 

黒ウサギはウサ耳をひょこひょこさせていた。それと同時に机の脇にあった空箱の山が目に入った。

 

「蘭丸さん……あれは?」

 

「ああ、いろんなコミュニティからもらってな。せっかくもらったものだし全部食べたよ」

 

「この量を⁉︎」

 

黒ウサギは驚いていた。その量はかなりで食べ切るのは困難である。

 

「まあでも、やっぱりレティシアや黒ウサギ見たいに心がこもってるチョコはなかった」

 

だから、と蘭丸は黒ウサギの頭を撫でる。

 

「ありがとな、黒ウサギ」

 

「〜〜〜ッ///」

 

蘭丸の100%スマイルに黒ウサギはポンと音が鳴るように顔を赤らめた。

 

「い、いえそれほどでも……ではおやすみなさい///」

 

「あー待て黒ウサ……早いな」

 

蘭丸が驚く程のスピードで黒ウサギは部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、蘭丸は胸焼けで一日寝込んでいたと言う。





蘭丸君は相変わらずですねー

なんか今回は暴走していたような………


誤字、感想お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

“全権階層支配者”

お久しぶりです!

あまりに時間が無かったもので……


では今回もよろしくお願いします!


**

 

“アンダーウッド”上空。吸血鬼の古城。長年放置されていながら外観は風化していないのは、城に結界が張られているからだろう。

 

「殿下ー!何処行ったのー⁉︎」

 

無人の筈の古城に活発な少女の声が響いた。クルリクルリとステップを踏みながら階段を上っていく黒髪の少女。ノースリーブの黒いワンピースを着込み、腰にジャケットを巻きつけた少女の腰には何本もの短刀を備えていた。

 

「……殿下ー‼︎殿下殿下でんかでんか、で・ん・かー!!!」

 

少女が叫ぶが反応はない。その少女が、拗ねていると玉座の間からクスクスと呆れたような苦笑いが漏れた。

 

「リン。殿下なら先ほど城下街の様子を見に行ったわよ」

 

リンに声をかけたのはローブのフードを深く被り、片手に“黄金の竪琴”を持った女性だった。

リンはローブの女性に振り返ってむむっ、と後ろに手を組んだ。

 

「そっかー。じゃあ私とアウラさんの二人でお留守番?」

 

「そういうこと。……とはいえ私たちはゲームの主催者じゃないし、休戦の誓いを守る義務もない。巨人族を率いて戦う指示も出るでしょう。今はおとなしく英気を養っておくことね」

 

ローブの女性、アウラは口元を上品に押さえたままクスクスと笑い続け、リンも頷いて玉座の間へ続く門を通った。

玉座に座するのは此度のゲーム主催者ーーーレティシア=ドラクレアだった。

 

「ねえアウラさん。この金髪の子の様子はどうなってるのかな?」

 

「ずっと気を失ったままよ。もしかしたら開催中はずっとこのままなのかもしれないわ」

 

リンはレティシアのそばに駆け寄り、レティシアの綺羅と輝く金髪に触れようと手を伸ばすリン。しかしその手は背後からの声によって阻まれた。

 

「止めとけリン。その魔王は疑似餌だ。触ると襲われるぞ」

 

ピクン!とリンの指先が止まる。声は幼く、少年の声であり、リンは主人が帰ってきたのだと気付き、振り返る。

 

「殿下!それにおじ様!」

 

『一々声を荒げるなリン。そう喚かなくとも聞こえておる』

 

そこにかなりしわがれた老齢な声だけが聞こえた。

殿下と呼ばれた少年は立派な身なりをしているがそれを着崩していて、特徴的な白髪とで少年の子供らしさを強調していた。

 

「アウラ、リン。ゲームが休戦になったのは聞いたよな?」

 

「勿論ですわ」

 

「それなら話は早い。アウラとリンは頃合いを見て巨人族と共に“アンダーウッド”を攻め落とす。タイミングは敵の主力が分散されるのを見計らって俺から知らせる」

 

「では殿下。私とリンは地上に。この古城は殿下とグライアに任せてよろしいのですね?」

 

「ああ。グー爺もそのつもりでいてくれ」

 

殿下に促され、アウラは回廊に視線を落とす。すると木陰から先程の老齢な声とは違う獣の唸る声が聞こえた。

 

『分かりました。……しかし殿下。一つ気になることが』

 

「何だ?」

 

『“黒死斑の魔王”を倒したという例の“名無し”についてですが………その一味が“生命の目録”の完全体を所持していると言う噂がございます』

 

進言を受けた殿下は目を見開き言葉を呑んだ。

 

「……確かなのか?」

 

『あくまで風の噂でしかありません。しかし本物ならば由々しき事態です』

 

「いや、今は捨て置け。だがもし“生命の目録”の所持者が目の前に現れたら全力で奪いにかかれ。アレにはそれだけの価値がある」

 

断固とした口調で告げる殿下。アウラは口元を歪ませて艶美な笑みで頷いた。

 

「承りました。私も戦利品の力を試してみたいと思っていたところです」

 

「戦利品?」

 

リンが好奇の視線を向けるアウラはシアンブルーのギフトカードを取り出し、“アンダーウッド”で奪ったギフトを披露した。

 

「“バロールの死眼”。巨人族に伝わる最強の魔眼が振るう死の暴威。此れを以って“アンダーウッド”を沈めてご覧に入れますわ」

 

それに殿下は頷きそして思い出したかのように呟いた。

 

「……“時空間の支配者”……こいつについてはお前らにも話したよな?推定5桁の魔王を単独で圧倒出来るやつだからな、もしそいつが地上にいたら“バロールの死眼”を持ってしても厳しいかもな」

 

その場にいる全員の顔が変わった。それほどまでに“時空間の支配者”、二宮蘭丸は警戒されていたのだった。

 

「うん。私もそこは警戒しているよ。だから“あの人”を地上に送るんでしょ?」

 

「そうだ、あいつはそいつが目的みたいだし、俺たちと利害が一致するからな精々利用させてもらおう」

 

殿下は年不相応の不敵な笑みを浮かべた。

 

**

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**

 

場所は変わり“アンダーウッド”本陣営では蘭丸、サラなどによってゲームの方針が話し合われていた。

 

コホンと黒ウサギは咳き込み、進行を開始する。

 

「ではゲームの方針をーーーーと言いたいところではありますが、その前にサラ様からお話があるそうです」

 

何?と首を傾げる一同。サラは沈鬱そうな顔を浮かべて、

 

「…今から話すことはここだけの秘匿にしてくれ。まずは“黄金の竪琴”が盗み出された際に、“バロールの死眼”も同時に盗み出されたそうだ」

 

「そ、それは本当なのですか⁉︎」

 

「ああ。凡百の巨人には到底使いこなせる代物ではないが、これにより巨人族はより強力な戦力を得ることになった。死眼に対してはまた別の対策を練らなければない。そのつもりでいてくれ」

 

サラはここで一度言葉を切り、さらに沈鬱な顔をになり、

 

「そしてもう一つ、先ほど入った緊急な連絡だが、それによると魔王の出現は“アンダーウッド”だけではないらしい」

 

「………は?」

 

「北の“階層支配者”である“サラマンドラ”と"鬼姫”連合に“円卓の騎士”そしてお前達も知っているだろう“サウザンドアイズ”の幹部白夜叉様。四つつのコミュニティが魔王の強襲を受けているそうだ」

 

一同が一斉に息を呑んだ。それが事実ならば現在箱庭には最低5体の魔王が降臨していることになる。

 

「なるほどな、つまり複数の魔王を統率している魔王が“階層支配者”を倒すために動いているってとこか。しかしそれなら“円卓の騎士”はなぜ狙われたんだ?」

 

蘭丸の疑問はそこにあった。蘭丸の義父、アーサーは“階層支配者”ではない。それ故に彼が狙われる理由が見当たらないのであった。

 

「蘭丸は聞いていなかったのか?アーサー殿の此度の箱庭帰還を祝して“階層支配者”にされるのだが」

 

「チッ!また黙っていやがったなあの親父ッ‼︎」

 

蘭丸は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。そこに十六夜が加わってきた。

 

「まあその話は置いといて、この前の“サラマンドラ”襲撃の犯人が割り出せるかもな」

 

「何⁉︎」

 

驚きに声を荒げるサラ。飛鳥と黒ウサギも同じような表情を浮かべる。

 

「黒ウサギもお嬢様も考えてみろよ。誕生祭を襲撃した“黒死斑の魔王”ペストの狙いはサンドラではなく白夜叉だっただろう?」

 

黒ウサギと飛鳥はハッと息を呑む。ペストの目的は太陽の主権と復讐、ましてや太陽の星霊封印すると言う“主催者権限”を所持していた。ただ一人、それをわかっていた蘭丸は頷く。

 

「そうだな。白夜叉が狙われたのと同時に南の“階層支配者”がやられたのが全部同一の主犯だったら連中、仮称“魔王連盟”が“階層支配者”を各個撃破出来るようにしたんだろうな」

 

「ああ、ただその動機とか敵の狙いまでは解らねえ。そもそも他の“階層支配者”を倒してどうするんだろうな?」

 

十六夜 はうーん、と思案していた。蘭丸も何かを見落としていると呟き、考え込む。そこにフェイス・レスが告げる。

 

「……サラ様。現“階層支配者”は“サラマンドラ”・“鬼姫”連合・“円卓の騎士”・“サウザンドアイズ”の白夜叉。これに加えて休眠中の“ラプラスの悪魔”の五つでよろしいですか?」

 

「うん?ああ、そうなるな」

 

「もし前者の四つが壊滅すれば、全ての“階層支配者”が活動不能になり、上位権限である“全権階層支配者”を決める必要が出てきます。敵の狙いはそれではないでしょうか?」

 

何っ?と一斉に声が上がった。サラも、ジンも黒ウサギでさえも知らない様子で小首を傾げている。

 

「そうか!それなら敵の行動にも説明がつく」

 

蘭丸だけがそれに反応した。

 

「依然“クイーンハロウィン”に聞いたことがあります。“階層支配者”が壊滅、もしくは一人となった場合に限り、暫定四桁の地位と相応のギフト、太陽の主権の一つを与え、東西南北から他の“階層支配者”を選定する権利を与えられると」

 

「太陽の主権の一つと暫定四桁の地位だと⁉︎」

 

「そんな制度があるのですか⁉︎」

 

「以前クイーンに聞いた話では就任した前例は白夜叉とアーサー王、初代“階層支配者”ーーーーレティシア=ドラクレアの三名だけだと伺っています」

 

「レ、レティシア様が“全権階層支配者”⁉︎」

 

この黒ウサギの反応にはむしろフェイス・レスが驚いていた。

 

「………まさか“箱庭の貴族”が“全権階層支配者”の事を知らないなんて……」

 

「く、黒ウサギは一族的にもぶっちぎりで若輩なのでそう古い話は……」

 

黒ウサギはウサ耳をへにょらせそっぽをむく黒ウサギ。十六夜はやれやれと助け船を出す。

 

「まあぶっちゃけ黒ウサギは“箱庭の貴族(笑)だしな」

 

「その渾名はもうやめてください!」

 

ウガー‼︎とウサ耳を逆立たさせて怒る黒ウサギ。フェイスは顎に手を当て思案する素振りをみせ、

 

「なるほど、“箱庭の貴族(笑)”でしたか」

 

「真面目な顔で便乗するのはやめてください!」

 

しっかりと便乗してきたフェイスに飛鳥が反論する。

 

「貴女、ぽっと出のくせに黒ウサギの何がわかるっていうの?流れ的には“箱庭の貴族(恥)でしょう?」

 

「それだっ‼︎」

 

「それだッ‼︎じゃありませんこのお馬鹿様あぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

スパァァァァン‼︎と黒ウサギのハリセンがなる。それを見たフェイスが

 

「……“箱庭の貴族(恥)”」

 

「これ以上引っ張るのはやめてください」

 

スパンと疲れたようにハリセンで叩く。フェイスは気を取り直し、

 

「……“箱庭の貴族(恥)”」

 

「止めてくださいと言っているでしょうこのお馬鹿様あぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ズパアァァン‼︎と聞いたことのない激しい音でハリセンをクリティカルヒットさせる黒ウサギ。

先ほどから静観している蘭丸は、

 

「ふふ………ふふ………」

 

止めるわけでもなくただただ笑っていた。サラはどうしたらいいかわからずオロオロしていた。

 

 




久しぶりにかくとアレですね。

蘭丸「それで許されるのか?」

そこは次回にご期待ということで!

誤字、感想、お待ちしております!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最悪の再開


今回は蘭丸君があいつと相見えます。

あいつとは蘭丸君を狙っている変態です。


 

 

“アンダーウッド”平原では少数ながらも幻獣たちが巨人族の襲撃に備えていた。その部隊には、蘭丸の姿があった。

黒ウサギたちは蘭丸に城部隊に加わらないのかと問われたが、状況がひと段落してからと地上に残った。

蘭丸は隣で緊張感丸出しのジンに声を掛ける。

 

「そんなに緊張するなよ。お前の指揮力はかなりのもんだ。だから十六夜もお前に託したんだろ」

 

「で、ですがやっぱりこういうのは蘭丸さんの方が適任ではないのですか」

 

「まあ俺もやることやったら城にひとっ飛びだよ。それに俺に頼ってたらお前らも成長できんだろ?」

 

それは正論である。蘭丸は武力、知力、その他において“ノーネーム”でも群を抜く実力者で、単独でも魔王を圧倒出来るであろう。それは蘭丸も自覚している。

しかしそれ故に組織として強くなるために蘭丸は基本的にはジンや十六夜たちに一任しているのである。

 

「それに………っとそろそろか」

 

えっ?とジンの声を掻き消すように、巨人族が襲撃してきた。

 

「ウオオオオォォォォォォォォ!!!」

 

人の倍はあるであろう大剣を振り回し大河を走り抜け堤防をなぎ払う。幻獣たちは慌て指揮系統は機能しないだろう。ジンもこの奇襲には予測できなかったらしい。

ただ、蘭丸だけは笑みを崩さなかった。

 

「全部予測どうりだ!馬鹿め‼︎」

 

蘭丸の一喝と共に巨人族の足下からは大爆発が巻き起こした。その爆撃で三十程の巨人族が消し飛んだ。

 

「ジン‼︎」

 

「はい!後は任せてください。ーーーーペスト!」

 

笛吹き道化の指輪から黒い風と共に現れるペスト。ペストは蘭丸の姿を確認すると、笑みをこぼした。

 

「あら、こんなところで再開するなんてね。世も捨てたものじゃないわね、蘭丸」

 

「ははっ、そんなことで世の中回ってたらどんだけ楽か」

 

蘭丸は三尺もある太刀を構えながら苦笑いする。ペストは少々頬を膨らませながらも黒い風で巨人族を黒死病に感染させていく。

 

「んで?リーダーはここからどうするつもりだ?」

 

「はい。まず巨人族はペストがいれば問題はありません。問題は敵に奪われた“バロールの死眼”をどう攻略するか……」

 

ジンの言葉にペストは眉を顰めて驚く。

 

「まって。ということは敵は“バロールの死眼”をもってるの?」

 

「そうだ。アレを放置したら危険だ。俺も全力を出さないと対抗出来ないかもな」

 

「……あの時貴方は黒死病にかかってて助かったわ。やっぱり貴方はバケモノだわ」

 

「それですが、僕に考えがあります。ここは『バロール退治』の伝承をなぞろうかと」

 

ジンが黒ウサギに目配せする。黒ウサギも閃いたようにウサ耳もピクンと動く。

 

「もしかして、黒ウサギの出番でございますか?」

 

「うん。黒ウサギの、所持する“マハーバーラタの紙片”ーーー帝釈天の神槍なら“バロールの死眼”を討ちぬけるはずだ。伝承が確かならケルト主神が放った槍も必勝の加護を受けた物だった筈だから」

 

ムッと眉をひそめるペスト。彼女もあの神槍には痛い目を見ている分思い出したくないのだろう。

 

「魔王バロールを倒す方法は、開眼した死眼を“神槍・極光の御腕(ブリユーナグ)”で貫くというもの。その代行を帝釈天の神槍でやろうと思う。………出来るかな、黒ウサギ」

 

「Yes!任されたのですよ」

 

シャキンとウサ耳を立たせ張り切る黒ウサギ。

 

「それじゃあ作戦はまずはペストと飛鳥さんと蘭丸さんの三人で巨人族を。そして敵が“バロールの死眼”を開眼させたら黒ウサギの帝釈天の神槍でトドメを刺す。………どうかな?」

 

ペストは一瞬だけ意外そうな顔を見せたが、すぐに悠然とした笑みで飛鳥と黒ウサギ、蘭丸を見た。

 

「そう。蘭丸のせいですっかり忘れていたわ。貴方たちにはこの化け物ウサギがいるのだったわね」

 

「ば………⁉︎」

 

「それじゃあ赤い人。蘭丸。行きましょう」

 

「飛鳥よ。ちゃんと名前で呼びなさい」

 

「そっ。気が向いたらね」

 

そう言うとペストは黒ウサギたちとは別れ巨人族を迎え撃つために黒ウサギたちと分かれる。

蘭丸も太刀を構え巨人族へと向かう

 

 

 

 

 

 

 

とその時、背後から強烈な殺気を感じ取った。

 

「はっはぁ‼︎ようやく見つけたぜ!」

 

「⁉︎」

 

その男の蹴りを蘭丸は裏拳で防ぐ。その衝突で地面にはクレーターが出来ていた。男の蹴りを払い、一度距離をとる。

 

「……チッ!生きてたのかよ。黒瀬!親父のやつ、何仕留め損ねてんだよ」

 

「ああ、俺も悪運が良かったよ。あの時は死んだかと思ったぜ」

 

その男、黒瀬は笑いながら話を続ける。

 

「だがある連中のおかげでなんとか命を取り留めてな。俺はお前を足止めするように頼まれたのでな。お前の力を貰うついでにさせてもらうぜ!」

 

「お断りだ変態‼︎」

 

蘭丸は第三宇宙速度で黒瀬の下へ駆ける。そして黒瀬の腹部に拳を入れる。その拳は空間を砕く程の威力である。黒瀬は吐血しながらも笑みを浮かべていた。

 

「へへ、いいぜこの力だ!俺が望む力はよぉ‼︎」

 

その言葉と同時に黒瀬は蘭丸の背後に回っていた。蘭丸は回し蹴りの要領で黒瀬の蹴る。だが黒瀬はそれをすり抜け、蘭丸を殴りつける。蘭丸はそれを食らい、地面を転がる。

 

「……チッ‼︎一部とはいえ俺の能力奪ってればそんなことは朝飯前だよな」

 

「こんなんじゃあ足りねえよ。お前の全てが欲しいんだよ!だから、お前の力をよこせぇ‼︎」

 

言うや否や黒瀬は、黒い光線を放ち、蘭丸も同じものを放つ。性質が同じとはいえ、馬力は蘭丸の方が上である。

 

黒瀬はそのまま後退する。黒瀬が顔を上げると蘭丸の太刀が喉元に突きつけられていた。

 

「最後に言い残すことはないか?黒瀬」

 

蘭丸が冷酷な目で死刑宣告を告げる。黒瀬はニヤリと笑うと

 

「ククク……ひゃひゃひゃひゃひゃ‼︎」

 

狂ったように笑った。蘭丸の顔から笑みは消えた。

 

「何がおかしい‼︎」

 

「いやーその台詞そっくりだぜ。そう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前の母親にな‼︎」

 

その非常な言葉に蘭丸の手はわなわなと震えていた。

 

「あんなに馬鹿なやつは初めて見たぜ。あの時はマジで笑えたわ」

 

「だ………れ…」

 

そして

 

「?」

 

蘭丸の表情は

 

 

「黙れこれカス野郎‼︎」

 

今まで見たことのないほど怒っていた。





蘭丸君が途轍もなく怒りました。

次回は過去編をお送りします。

では誤字、感想お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

思い出したくない過去

 

 

 

11年前〜

 

蘭丸(当時7歳)には母親がいた。

名前を二宮雪菜といい思慮深く、頭の良い女性で蘭丸も彼女が好きであった。

 

「ねえ母さん、今日のご飯は〜?」

 

「ふふ…今日はあなたの好きなシチューよ」

 

「じゃあ僕も手伝うよ」

 

「あら、じゃあお皿を出してもらえるかしら?」

 

「うん、いいよ」

 

「ふふ、ありがと」

 

蘭丸は雪菜となんの不自由もなく、幸せに暮らしていた。

 

 

 

 

………あの日、黒瀬晶にさえ出会わなければ。

 

 

ある日蘭丸は走って家への帰路を急いでいた。

 

(今日は、母さんの誕生日だから、帰ったら学校で作ったプレゼントあげなきゃ)

 

目を輝かせながら蘭丸は走っていた。そして自宅の玄関で荒れた呼吸を整える。そして勢いよく扉を上げる

 

「ただい……………ま………」

 

しかし、そこに移ったものに蘭丸は言葉を呑んだ。そこには割れた大量の食器、刃物のような物で切られたであろうソファやクッション、そして力なく倒れている母、雪菜。

 

「母さん‼︎」

 

蘭丸は雪菜の姿を確認すると走り出していた。

 

「ングッ⁉︎」

 

そして背後から口に布を当てられた。蘭丸は初めこそ抵抗していたが、おそらく何か薬品を使っているのだろう。蘭丸の体から力が抜けていき、抵抗も弱まっていく。やがて、抵抗も収まり蘭丸は意識を失った。

 

「か……あ……さ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん……ここは……」

 

意識を取り戻した蘭丸の目の前は薄暗く何も見えなかった。そして起き上がろうと身を起こそうとしたがそれは四肢を拘束する鎖によって阻まれた。

 

「……僕は、誘拐されたのかなぁ」

 

自分が誘拐されたという事実を実感すると蘭丸は悲しみが胸の奥底から上がってくる。それは7歳の少年にはあまりにも辛く、悲しく、そして怖いものである。

 

「うう……ひっく…母さん……」

 

蘭丸は涙を流し始めた。母さん、母さんと泣いていると、突然に明かりがついた。蘭丸は涙を堪え、出来る限りの状況確認をする。7歳でここまで出来る子はいるのだろうか。辺りを見回すと自分は何かの隔離部屋のようなものに入れられ、その周りには何かを測定する出あろう機具が設置されていた。

 

「ここは……どこなの?」

 

「蘭丸‼︎」

 

どこからともなく声が聞こえ、声の方角を見るとガラス越しに同じように拘束されている雪菜がいた。

 

「母さん‼︎」

 

「目が覚めたか」

 

バタン‼︎と扉が開き、男が入ってきた。その男からは小さい蘭丸でも分かる程の怪しさを醸し出していた。その男はいやらしい笑みを浮かべて蘭丸を一瞥している。その醜い笑みに蘭丸は体を身震いさせる。

 

「おじさんは?おじさんが僕を攫ったの?」

 

「ああ、俺は黒瀬晶。俺はこの世の神になる為にお前の中に眠る力を奪わせてもらうぜ!」

 

「僕の……力?」

 

 

「なんだ?知らなかったのか……なら俺が教えてやるよ。お前には生まつき、普通の人間ではない特別な力を持ってるんだよ」

 

「特別な力?」

 

全くわからないと顔を傾ける。そして雪菜の方を見るが顔を俯ける。

 

「母さん?」

 

「…ごめんなさい。蘭丸がもっと大きくなったら話すつもりだったの」

 

謝るその頬には涙が伝っていた。

 

「……ねえ、僕の力ってなんなの?」

 

「それは……」

 

「それは俺が説明してやる。お前に宿っている力ってのは“時間”と“空間”概ねこの二つと言っていいだろう、その力は使い方によっちゃあこの世を思うがままに支配できる素晴らしいものなのだよ‼︎」

 

“世界を支配”

その言葉だけでは理解は出来ないが、この男、黒瀬の笑みを見る限り、いいものではないとわかる。

 

「わかるか?つまりお前の力は神にもなれる力なんだよ!」

 

「神………?」

 

だから、と一度言葉を切るとニヤリと笑い、

 

「お前の力、俺によこせえぇぇぇぇ‼︎」

 

ひっと涙を堪え切れなく、頬をつー、と涙が伝う。この状況で7歳の少年が大泣きしないのもすごいことであるがそれも限界である。

 

「とは言え、その力を俺に移すためには所持者の感情を狂わせなければならないらしいからな。……おいガキ。これから起きることを見てろよ?」

 

ニヤリと笑う黒瀬の右手にはナイフが握られていた。そしてそれを持って、雪菜に近ずいていく。そこまですれば彼が何をしようとしているのかは幼い彼にもわかる。

 

「やめろ!母さんに手を出すな!」

 

「クックックッ、そんな口調も出来るなんてな、もうこの時点でも精神が荒れ始めて来てんのか?…まあ所詮はガキか」

 

ニヤニヤしながらナイフは雪菜の首元に触れ、つー、と血が垂れてきていた。蘭丸は力ずくで鎖を千切ろうとするが鎖はいっこうにはずれない。

 

「くっ!…くそ‼︎くそくそくそくそーーーー‼︎」

 

「蘭丸‼︎」

 

蘭丸は母に視線を戻す、その顔には覚悟を決めたという凜とした顔の母がいた。

 

「母さん‼︎待ってて。今すぐにそいつをぶっ殺して………」

 

「蘭丸!!!」

 

「ッ‼︎」

 

普段の母からは想像できない程の声で怒鳴る母に蘭丸は言葉を呑んだ。そしていつもの優しい顔に戻り、

 

「怒りにとらわれては駄目よ。それにあなたの力は世界を支配するためのものじゃない。その力はあなたがいつか世界を救うために神様から与えられた贈り物なの。……だから、あなたは強くなりなさい。いつかまた大切な人を見つけた時に、守れる力を」

 

「母さん………」

 

「それを約束してね。それがお母さんとの約束……」

 

ザシュッ‼︎

 

話しの最中に黒瀬はナイフを振り、雪菜の首を落とした。ゴトッと音を立てて転がる首に蘭丸の精神を支えていたものが音を立てて崩れ落ちた。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

それと同時に蘭丸の周りに大気が集まり始め、蘭丸を拘束していた鎖は高圧力によって砕け、隔離部屋の機材がどんどんと蘭丸へと吸い寄せられていく。

 

『黒瀬様‼︎二宮蘭丸周辺の重力、磁場が変動しています!通信電波が遮断され、中の様子が確認できません‼︎』

 

「おぉ!これだ!この瞬間を俺は待っていた!」

 

黒瀬はナイフを投げ捨てると狂ったように笑い、隔離部屋へと向かう、中は空間が歪んでおり、もはや時間の問題である。

 

「……吸収(ドレイン‼︎)」

 

黒瀬が腕を掲げると、蘭丸の体から光の粒子が発生し、黒瀬の体へと入っていく。

 

「フハハハハ‼︎ようやく、俺が世界を………何⁉︎」

 

しかし黒瀬はそれ以上、笑うことができなかった。蘭丸の体から発される瘴気が周りの空間を侵食し始めていた。

 

「チッ!このガキ、研究所ごと消し去る気か⁉︎」

 

盛大に舌打ちをした黒瀬は辛うじて残っていた出口から脱出する。

 

「まあいい、一部だけでも奪えただけでよしとしよう………次こそは、その力を必ず」

 

その言葉を最後に黒瀬は、まるで存在が消えたかのように姿を消した。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

しかし蘭丸の暴走は止まらず、どんどんと研究所を呑み込み、その規模を拡大していった。

 

 

 

 

この日、二宮蘭丸の存在していた地球は四分の一を消滅させ、地球は円形ではなくなった。





蘭丸君の過去をお送りしました。
蘭丸君のギフトの強大さを表現しようと頑張ってみました。

では誤字、感想の程、よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過去を越えるために


お久しぶりです。

今回蘭丸君が覚醒します。


 

 

蘭丸と黒瀬の戦いは激しさを増していた。

 

「はあぁぁぁぁ‼︎」

 

黒瀬に逆鱗を触れられ頭に血が上っている蘭丸は攻撃が単調になり、黒瀬に簡単にあしらわれていた。

 

「ククク…どうした?俺を殺すんじゃなかったのか?」

 

「クソがぁ‼︎さっさと殺されやがれ!」

 

怒号と共に黒い光線を放つ。その光線に触れた巨人族や魔獣は綺麗に消え去る。しかし黒瀬は光の速度と同等の光線を簡単に避けていた。蘭丸は舌打ちを打ちながら次々に光線を放つがその度に躱されていた。

 

「クソッ!一回落ち着いたほうがいいか…」

 

蘭丸は呼吸を整えるために一度距離を取るが

 

「おれがそんな暇を与えると思うか⁉︎」

 

当然その隙を逃す黒瀬ではなかった。一瞬で懐に潜り込むと黒瀬の膝が蘭丸の鳩尾にめり込み、蘭丸は苦悶の表情を浮かべる。

 

「カハッ……‼︎」

 

「まだだぜぇ‼︎」

 

そして畳み掛けるように顔面に膝を入れ、後頭部を掴み、地面に執拗に打ち付ける。顔を上げた蘭丸は口と鼻、頭部から血を流していた。

 

「ちっ!まさかこんな変態がここまでやるとはな……クソッ!マジでイラつく」

 

ワイシャツで荒く血を拭い、舌打ちをする蘭丸。そして第三宇宙速度の跳躍で黒瀬に迫ると勢いに任せて拳を振るが、黒瀬はそれを簡単に避ける。蘭丸は拳を乱打させながら追撃するが、それらを全て躱していた。

 

「クソッ‼︎」

 

「ハハハハ!怒れ怒れ!あの時みたいに見境なくな!そうしなきゃお前の力を奪うことが出来ないからな」

 

両手を広げながら高らかに挑発する黒瀬。明らかに蘭丸の怒りを誘っている。蘭丸は眉を寄せ舌打ちをする。

 

「いいぜ。その挑発乗ってやるよ、後悔すんなよ!」

 

蘭丸は掌を掲げ、空間を圧縮し始めた。先程巨人族に使った技同様、辺りの土や、二人の戦闘に横槍を入れようとしていた巨人族や魔獣を呑み込み大きくなっていった。

 

 

「……こいつで終わりにしてやる。今度こそな」

 

静かに死刑宣告を告げる蘭丸。しかし依然として黒瀬は笑みを浮かべていた。

 

「ククク…確かにソレは俺じゃあ防ぐのも避けるのも無理だな……だがそれをお前が打てるならな」

 

何⁉︎と蘭丸が言ったのと同時に蘭丸の体から力が抜け、圧縮した空間の塊は霧散し、蘭丸はその場に膝をついた。

 

「グッ……なんだ?力が………」

 

「ククク…やっぱりそろそろ限界がくると思ってたぜ……お前のギフトは強力な分、消耗が激しい。普段は馬鹿みてえな体力と精神力を持ってるが、お前はさっきもソレを使っただろう?おまけに怒りで消耗も普段より大きくなってんだよ。まあ怒らせたのは俺だがな」

 

「ちっ!俺としたことが……まさか俺が嵌められたとはな、」

 

「さて、お前の力を奪う為にもう一つさせて貰うぜ」

 

黒瀬は“アンダーウッド”を方、正確にはジンや飛鳥のいる方角である。

 

「ま、まさか…………」

 

「そのまさかだよ‼︎」

 

「止め……クソッ!体が……」

 

蘭丸は立ち上がろうとするが、体は言うことを聞かない。雄叫びを上げるが虚しくも力は入らない。首をあげるのが精一杯である。

それを横目に黒瀬は蘭丸と同様、空間の塊を作っていた。蘭丸のほんの一部のため威力は劣るが、彼らを消すには十分だった。

 

「クソッ!クソクソッ!クソッ!」

 

蘭丸は悔しさに涙を流す。あぁまた大切なものを守れないのか、折角修行して、もう何も失わないと誓ったのに、また守れなかった……

蘭丸は諦めるように目を閉じる。これから起きる惨劇から目を背けるように……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜蘭丸side

 

あれ?ここは何処だ?さっきまで俺は“アンダーウッド”にいた筈なのに?……まあ今俺がいったところで変わらんだろう。

俺は何も守れないんだ。それならこのまま寝ても………

 

「………る!………らん……」

 

なんだこの声は?どっかで聞いたような、それでいて、なんか暖かくて、懐かしい声だ。でも誰なんだ?

黒ウサギか?いやあいつの声はなんというかもっと可愛い感じだ。レティシアは……違うな。あいつはもうちょっと色っぽい感じか……

 

「蘭丸‼︎起きなさい‼︎」

 

「はい⁉︎」

 

突然だからつい素の声が出たな。ん?でもこの声って、もしや……

 

「母さん⁉︎」

 

「ふふ……久しぶりね。蘭丸」

 

やっぱり母さんだった。俺は11年ぶりに見た母さんについ涙が出そうになったが状況を把握するために堪える。俺は母さんと対面してその場に座る。

 

「母さんがいるってことはここは………」

 

「違うわよ。ここは死後の世界なんかじゃないわ。ここは貴方の精神世界。……まあ夢みたいなもんよ」

 

「そ、そうなのか」

 

ついでにこの精神世界ってのは元の世界との時間の流れが全く違うらしい(まあ俺のギフトの影響だろうが)。

 

「それより」

 

と母の顔がマジになる。そして母さんは

 

 

 

パチン

 

 

…俺にビンタした。……精神世界だってのに痛いんだ。あ、ってことは精神的苦痛ってことか?

 

「貴方、なんで諦めてるのよ。今貴方の仲間のピンチなのよ!」

 

…母さんの言うとおりだ。俺は黒ウサギたちを守ることを放棄している。その事は間違ってはない。

だが

 

「無駄だったんだよ。母さんが殺されてから、俺はあいつの復讐、そして親父の言っていた器を鍛えるために修行してきた。そしてあいつらと出会って今度こそは守る。そう誓ったのに……」

 

俺は守れなかった。せっかくまた守れると思ったのに、あんな安い挑発に乗って、力を失うなんて。

そう言うと母さんが

 

パチン

 

またビンタをした。正直かなり痛い。そして母さんは俺を抱きしめる。

 

「大丈夫。貴方はもう昔と違う。ちゃんと守れる力を持っている。だから諦めないで。私との約束を守って」

 

「母さん………」

 

俺は涙が止まんなくなった。

 

「私の分まであの子達を守って上げて。貴方なら出来るはずよ。私と貴方のお父さん……アーサー王の子供なら…」

 

…………ん?今、聞き間違いじゃないよな。確かにアーサーって……

 

「はあぁぁぁぁぁ⁉︎」

 

「あら、どうしたの?」

 

「だって、あいつが俺の子供じゃないって……」

 

「ふふふ、またあの人の嘘ね」

 

……マジかよ何回嘘つけばいいんだよあのクソ親父。今度あったら殴ってもいいかな?多分返り討ちにあうけど。

 

「さて、そろそろ戻りなさい。現実の世界に」

 

「ああ、ありがとな母さん。行ってくる」

 

そしてどんどん精神世界が消えていく。今度こそは守る。

 

 

 

 

 

 

大切なものを!

 

〜sideout〜

 

“アンダーウッド”では、黒瀬が今にもジンたちに狙いを済ませていた。

 

「ククク…こいつで奴が壊れれば俺が神に………」

 

そこで、とてつもないほどの霊格を感じて黒瀬は驚愕した。

 

「まさか…………⁉︎」

 

振り向いた時、二つ驚いた。まずは自分の左腕が消えていた事。そしてもう一つ。

 

「よう、ケリをつけに来たぜ黒瀬」

 

先程とは霊格が上昇している二宮蘭丸がたっていた。黒瀬は冷や汗をかいて苦笑いをする。

 

「へへ、どうした?俺に力を取られに来たのか?」

 

「聞いてなかったのか?俺はケリをつけに来ただけだ」

 

「どうでもいいが力尽くで奪ってやる!」

 

黒瀬は瞬間移動を連続で行いながら蘭丸に接近する。蘭丸はピクリとも動かない。黒瀬はニヤリと笑い

 

「いまのお前なら………」

 

黒瀬は言葉を続けられなくなった黒瀬。それもそうであろう。今度は右手を消されていたのだ。

 

「な、なんなんだよ……なんでそんなに強くなってんだよ………」

 

「俺は今度こそ、全部、守ってやる。その為にはお前如きに負けるわけには行かない!」

 

ギリリッと歯噛みをする黒瀬は狂ったように雄叫びを上げて、全速力で駆ける。

 

「うがあぁぁぁぁ‼︎俺は黒瀬晶!神になるために生まれた男だ‼︎」

 

「そうかい…俺は二宮蘭丸!大切なものを守るためにこの力を使う!」

 

黒瀬は蘭丸の目の前に瞬間移動すると再生させた右手でブラックホールを作ろうとする。しかし蘭丸は一瞬のうちに刀を取り出し、一刀両断した。そして追撃し、黒瀬の体はバラバラにされた。だがそれでも再生しようと体が戻りかけている。

 

「お………の……れ……」

 

「じゃあな、変態」

 

黒瀬は蘭丸の作り出したブラックホールによって消えた。

 

「……終わったよ母さん。約束、果たせそうだよ」

 

蘭丸はそこに立ち止まり黙祷をする。1分ほど黙祷をすると目を開いた。

 

「さて、作戦の方は………黒ウサギが少女に襲われてるか………そっちに行くか」

 

 




久しぶりすぎて本当にグダグダになってしまいました。

蘭丸君は覚醒しましたが、まだ完全ではありません。本来の75%くらいまで戻りました。

今回も見てくださった方はありがとうございます。

それでは誤字、感想、お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

圧倒

**

 

巨人族殲滅を行っていたジン、ペスト、飛鳥の下に現れたアウラは……

 

「さようなら、“黒死斑の御子”‼︎そして“龍角を持つ鷲獅子”連盟の皆さんとその他大勢の皆さん‼︎不用意に全軍をすすめさせたあなたたちの敗北よ‼︎」

 

そしてアウラは“バロールの死眼”を使用した。一瞬戦場全てを覆う黒い光を放つ。

そして死を覚悟したが体に特別な変化はない。しかし

 

「「「「「ウオォォォォォォォォ‼︎」」」」」

 

光を浴び、黒死病から解放された巨人族が時の声を上げた。

 

**

 

 

 

蘭丸が黒瀬との戦いとは別の場所で奪われた“バロールの死眼”を撃ち抜く準備をしていた黒ウサギはリンに襲撃されていた。黒ウサギの“擬似神格・金剛杵”の稲妻もリンの正体不明のギフトによって効かず黒ウサギは苦戦を強いられていた。

 

「あはは!凄いねウサギさん」

 

「くっ……」

 

リンの投げるナイフを辛くも避け続ける。

 

(くっ……この少女、何者⁉︎)

 

“擬似神格・金剛杵”の神格を解放した黒ウサギの現在の手持ちのギフトは“マハーバーラタの紙片”のギフト二つと“太陽の鎧”。しかしこれらのギフトは使用にはリスクがあり、出来ればここで使いたくはない。しかしこのままでは作戦を実行できない。

 

(それに先程の光はおそらく“バロールの死眼”。本来の召喚はされなかったのでしょうがバロールが使われたなら急がなくては……)

 

いち早くバロールに気づいた彼女であったが、その思案が仇となった。

 

「隙ありだよ、ウサギさん」

 

「しまっ…………」

 

その隙を狙ったリンはナイフを投擲する。しかしそのナイフは黒ウサギを捉えることは無かった。

黒ウサギの前には投擲されたナイフを握った蘭丸の姿があった。

 

「蘭丸さん⁉︎どうしてここに?」

 

「おう、あいつはもう片づけた。だから早く“バロールの死眼”を止めてこい。ここは俺に任せろ」

 

「ありがとうございます!」

 

黒ウサギはその場を離れようとする。しかしリンもそれを許すわけがなく、

 

「行かせないよ!ウサギさん!」

 

「その台詞、そのまま返すぞ」

 

黒ウサギを追おうとしたリンだが、その手前を塞ぐように蘭丸が立ち塞がる。その隙に黒ウサギは見えないところまで走っていった。

 

「これは………しかも、蘭丸って………貴方が“時空間の支配者”の二宮蘭丸さんですか⁉︎」

 

「そんな噂になってるのか俺って?まあ如何にも俺が二宮蘭丸だ」

 

蘭丸は敵の前とは思えない程の緊張感の無さでリンに語りかける。リンとしても敵を前にしてこの態度を取られては胸中穏やかではなかった。

 

「……随分と余裕ですね。まるで私じゃあ相手にならないと?」

 

「まあそんなとこだな。お前とのギフトを考えも俺の方が上だ。悪いことは言わん、引け」

 

「ッ‼︎舐めないで下さい‼︎」

 

リンは苛立ちながら、数本のナイフを投げる。そのナイフは瞬くまに蘭丸の目の前に迫っていたが蘭丸は全てを素手で掴む。そしてそのまま投げ返す。第三宇宙速度で投げられたナイフはリンに届かず、地面に落ちる。

 

「……わかりますか?貴方の攻撃は私には効かないんですよ」

 

冷や汗をかきながらも笑みを浮かべるリンに蘭丸も不敵な笑みを浮かべる。

 

「いんや、これで確信した。お前では俺に勝てない」

 

スラリと三尺五寸の長太刀を抜いた蘭丸、リンはさらにナイフを投げる。それを長太刀で全て捌いた。

 

(確かにこの人は私じゃあ勝てないかもしれない。でも作戦のためにはどうしてもここに止めておかなきゃ……)

 

リンはナイフを握りしめながら覚悟を決める。最悪、刺し違えても、という覚悟だ。

 

「さて、そろそろ終わりにするか」

 

そう言うと蘭丸はおもむろに長太刀を上空に放り投げる。

 

(何を⁉︎)

 

リンは視線を刀に一瞬移した。しかしそれが仇となった。一瞬のうちに蘭丸は目の前から消えていた。

 

「瞬間移動⁉︎でもどこに……」

 

「チェックメイトだな」

 

蘭丸はリンの背後から小刀を首に当てながら拘束していた。小刀の切っ先が首筋の皮膚に当たり、つー、と血が垂れていた。リンは一瞬の自分の行動に後悔していた。

 

(不覚だった……十分警戒してたはずなのに、)

 

「さて、お前のギフトの種明かしといこうか、まずお前は概念的な距離を操る類のギフトだろ?」

 

「はい、正解です」

 

蘭丸の質問に素直にリンも答える。

 

「ですが、どうしてわかったのですか?」

 

「さっき遠巻きから見物してた時だが、お前の投げたナイフが黒ウサギを通り過ぎた後、すぐ後ろで地面に落ちた。速度と距離が比例しないのは明らかにおかしいだろうな」

 

そう先程の黒ウサギとの戦闘の際にリンのナイフは黒ウサギを通り過ぎた後にすぐ後ろで地面に落ちたのだ。つまり彼女のギフトは空間操作または時間操作の類であると推測ができるのだ。

 

「まあぶっちゃけ、俺のギフトの性質上、そういう類のギフトは使用時に空間が歪んで見えるんだよ」

 

ケラケラと笑う蘭丸は表情を一変させる。

 

「このまま引けば見逃してやる。ってかもうお前逃げた方がいいんじゃないのか?」

 

「それは、どういう意味ですか?」

 

「……さっき様子見に行かせた分身からの報告なんだが、どうやら白夜叉が仏門に神格を返上したらしい。ついでに言うとアーサーの親父も“エクスカリバー”を解禁したらしい」

 

「え⁉︎嘘」

 

「それがマジなんだよな。これじゃあお前らの送った魔王もすぐにやられるだろうな」

 

どうすると蘭丸が問うと、リンは諦めたかのように肩を窄める。

 

「そうですね。そんな状況なら仕方ないですね。ここは引かせてもらいます」

 

「それが正しい選択だな」

 

リンはぺこりと軽く会釈をすると離脱していった。蘭丸はその場で今回の“契約書類”を読む。

 

「今回のゲーム、クリアするには……やっぱりこれか、十六夜は耀に会えていなかったら………」

 

とクリア条件について考察をしていると上空に変化が訪れた。

巨龍が“アンダーウッド”上空へと姿を現した。

 

「GYEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaa!!!」

 

「あっちゃー、耀の奴やっぱり見落としてたか、まあこの短時間にここまでたどり着いただけでも上出来かな?って随分と偉そうだな俺」

 

苦笑しながら“契約書類”をしまうと蘭丸は古城に向けて瞬間移動で消えていった。

 

 

 

 





今回も読んでいただきありがとうございます!次回もどうかよろしくお願いします!

では、誤字、感想の程よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

レティシアの過去





 

“アンダーウッド”上空。吸血鬼の古城。

蘭丸は城門前にできた幾つものクレーターを眺め、それに触れる。

 

「こんなアホな戦い方をする奴なんて、あいつしかいないだろ」

 

ケラケラと笑う蘭丸は辺りを見渡す。だがこんなクレーターを作った犯人、十六夜はここにはいない。既に場内を探索しているのだろう。そう解釈したらしい蘭丸はその場に胡座をかいて座り込んだ。

そしてポケットから“契約書類”を取り出し、勝利条件を確認する。

 

【ギフトゲーム名“SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING”

 

・プレイヤー側勝利条件

一・ゲームマスター・“魔王ドラキュラ”の殺害。

二・ゲームマスター“レティシア=ドラクレア”の殺害。

三・砕かれた星空を集め、獣の帯を王座に捧げよ。

四・玉座に正された獣の帯を導に、鎖につながれた革命主義者の心臓を撃て。】

 

一通り読んだ蘭丸はやはりというように息をつく。

 

(先に偵察に来させておいた分身によると都市が十二分割されてる事と、それぞれの区域ごとに外郭のカベに十二宮を示す記号か………)

 

蘭丸は分身に探らせた情報と自分の知識で脳内でパズルを組み立てていく。

 

(このゲームのタイトルを直訳すると、太陽同期軌道、人工衛星を指す言葉だとまず推測できる。“太陽”と“軌道”に関するゲームとなると、“獣の帯”をゾディアックとして読めるな)

 

ゾディアックとは、“黄道帯”や“黄道の十二宮”を指す別称で、十二の星座は太陽の軌道線上を三十度ずつずらした天球分割法である。

(天球を分割ってなるなら第三の勝利条件は“獣帯によって分割された十二の星座を集めて王座に捧げろ”って意味……というところまでは耀もすんなり分かっただろうな………)

 

おそらく耀は今回のゲームを“The PIED PIPER of HAMELIN”を応用し“砕かれた星空”を『砕き、掲げる』ことのできる天球儀という回答まではたどり着いたのだろう。しかし、それだけでは足りない。故にゲームが、再開されてしまったのだ。

第三勝利条件をクリアするためには耀は一つ見落としていたのだ。

第四勝利条件に記されている“正された獣の帯”である。“正された”と言うことは“誤りがあった”ということである。この言葉に掛かるのならば天体分割法そのものに誤りがあったのだ。太陽の軌道線上にあった星座は十二個ではなく十三個であったのだ。十二星座による黄道帯の分割法は遥かな古代に作られたものだ。この古城が衛生としての機能をしていたのなら吸血鬼たちはかなりの高度な技術を学んでいたのだろう。

 

(レティシアの言っていた“十三番目の太陽”はこれのことだろうな)

 

蘭丸は一度“契約書類”から目を離し天上を仰ぐ。そしてここへ来たもう一つの目的を果たすためにサイコメトリーを開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**

 

 

「殿下!レティ殿下!もう、こんなところで寝ないでくださいまし!」

 

眠気から覚醒した私の目の前にはメイド姿のカーラ侍女頭が私の肩を揺すっていた。同士の賑わいと春の陽気に当てられて眠ってしまったのだろう。

 

「すまなかったな、カーラ侍女頭」

 

「すまなかったな。ではありません!全く、我らの姫将軍ともあろう御方がこんなところでごろ寝とは!」

 

カーラは頬を膨らませ、かなりご立腹のようだ。しかしこんな陽気な日差しや、穏やかな風に当てられて眠くならないほうがおかしいじゃないか。第一我ら吸血鬼は夜行性だぞ。こんな昼間に起きているほうがおかしいではないか。

というわけで私は二度寝へと移った。

 

「二度寝禁止!」

 

埃叩きでボフッと頭を叩かれる。その一撃で私の子供スイッチが完全にONになる。

………………やだ、ねる、絶対に起きない。

 

「やだ、寝る。ではありません!貴女は“箱庭の騎士”の象徴!“龍の騎士”と為ったものが兵舎で涎を垂らしていては示しがつきません!ってかマジで起きろやゴラァ‼︎」

 

カーラはとうとう堪忍袋の尾が切れたようで私を叩き起こす。

バフバフバフバフドスガスガスバギンゴギンガンガンゴンギングサッウィーンガッシャン!

………最後のアレは一体何だったんだ?カーラ侍女頭によるとメイドの禁じ手らしい。

………メイドって凄いな。

 

「そういえば殿下。例の件について“サウザンドアイズ”と“円卓の騎士”から書簡が届いていますよ」

 

「例の件?」

 

「そうです箱庭全域で設置される新制度“階層支配者”制度に彼らも協力してくださるとか、それも“サウザンドアイズ”からは“白き夜の魔王”と“ラプラスの悪魔”の二大幹部。“円卓の騎士”からは頭首であるアーサー王直々に協力してくれるそうですよ」

 

そうだ。この制度が通れば我々“箱庭の騎士”の誇りは幾星霜と継がれる。私が王位を授かり、太陽の主権を預かる。

ふふ、なんともいいことずくめだ。

 

 

 

 

しかし、私はこの時は知る由もなかった。この平和が地獄へと変わろうとは。

 

**

 

 

「はあ、はあ……」

 

魔王を討伐して、コミュニティに帰還したレティシアを待っていたのは同士の歓迎の声ではなかった。都市は炎が広がり同士たちの悲鳴だけが広がった。

共に帰還した同士たちは既に息絶えていた。臣下が庇わなければレティシアも致命所だけではすまなかったなだろう。足を引きずりながら都市を走る。

 

「カーラは、騎士長は……父上は、母上は、妹は……」

 

「ああ、そいつらならもう死んだんじゃね?」

 

聞きなれない声を聞いたレティシアはその方向に殺意を向ける

 

「おっと、言っとくが俺は主犯じゃねえし、共犯でもねえ」

 

飄々と述べる男だが敵意は無いと判断したレティシアは剣を下ろした。

そしてレティシアその男、遊興屋(ストーリーテラー)と名乗る男はことの詳細を全て知っていた。全ては吸血鬼たちの内紛であった。レティシアに贈られる太陽の主権を奪うために。

そして遊興屋は城壁を指差すそこには見慣れた服の端と血がへばりついていた。

 

「アレ、あんたの家族だよ。純血の吸血鬼は簡単には死なないからな、磔刑の上、串刺しの刑、最後は太陽で火葬だと。まさか王族を殺すためだけに天幕を開くなんてな。城下中の奴らはとんだばっちりだぜ」

 

レティシアはその場に崩れ落ちた。つまり彼女が魔王と戦っている間にはもう革命は、済まされていたのだ。

 

「そういえば連中は日が沈んだらアンタの首を取るって息を巻いてたぜ?アンタを倒さないと正式に十三番目の黄道宮が手に入らないらしい」

 

ゆっくりと立ち上がり、城へと歩き出すレティシア。

 

「オイ、そんな怪我で立ち向かっても大した数は巻き込めないぜ。ここはひとつ俺の“グリムグリモワール”に」

 

「断る」

 

「一つだけ助かる方法がある。この“契約書類”は“主催者権限”を最大に利用できるゲームだ。アンタが魔王になればよけいなコミュニティを巻き込むことはない」

 

「ふざけるな!我々“箱庭の騎士”が魔王だと⁉︎それなら我らの誇りを貫き通す!たとえ滅びようとも!」

 

はぁと遊興屋は溜息を吐く。

 

「無い物ねだりしてんじゃねえよ小娘!守れないものを守ると叫んで救えないものを救うと叫ぶ。大した道化だぜ‼︎」

 

その言葉にレティシアは反論しなかった。否、できなかったのだ。

 

「一族の誇りを守りたかったら逃げろ!殺したいなら、魔王になれ。死んで咲く花があっても敗北咲く花があるなんて甘えるな」

 

「ッ‼︎」

 

「もしお前が魔王になって反逆者を皆殺しにすればまだ打つ手がある。少なくとも“階層支配者”制度を残すことはな。但し、レティシア=ドラクレアには全ての泥をかぶってもらうがな」

 

「…………」

 

「もし死体殴りも気が済んでゲームを終わらせたければこう叫べ、『十三番目の太陽を撃て』ってな」

 

そして遊興屋は去っていった。

間も無く日は沈み、夜の帳が下りる。レティシアは反逆者達に囲まれていた。ぼうっと城壁を見ると懐かし家族の亡骸は埋葬されることなくシミと為っていた。

 

滂沱のような血と涙を流したレティシアは万斛の怨嗟を込めて叫んだ。

 

「ーーー貴様らは………………荼毘に付すことも許さない…………!」

 

一族郎党、その全ての魂魄の一欠片も残さず滅し、同士たちだった人達に叫んだ怨嗟。

必ず殺し尽くすと誓いを立ててーーーレティシアは魔王に為った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





今回はこれで終わりです。

誤字、感想お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

救いの手を





 

吸血鬼の古城。黄道の王座。

蘭丸は何故か背中に耀を背負った十六夜と、ジャック、“アンダーウッド”の同士の少女キリノ、そして“六本傷”のガロロ=ガンダックと合流していた。

 

「しっかし、お前ほどの奴がそこまでボロボロにされるとはな、十六夜」

 

「ハッ!よく言うぜ。テメエは怪我しても直ぐに回復しちまうもんな。」

 

「違う。そもそも俺にまともに攻撃を当てれる奴の方が少ないだけだ」

 

確かになと十六夜は歯を見せて笑う。蘭丸も笑いながら十六夜の傷とついでに耀の傷も直していた。そんな軽い空気の中で十六夜の背中に動きがあった。

 

「…………十六夜?」

 

「おう、目ぇさめたか春日部」

 

「ずいぶん苦戦したらしいな」

 

「それはさっきまでの話し。次は完全勝利」

 

ムスッと拗ねたように反論する耀に十六夜と蘭丸は吹き出した。そのまま十六夜の十六夜の背中に凭れかかる。暫くその広い背中を堪能していたが頭部に違和感を感じた。

ネコ耳のヘッドホンがなかったのだ。

恐らくさっきの戦いで落としてしまったのだろう。

耀はすかさず蘭丸に視線を移す。その視線に気付いたのか蘭丸が此方を見たので耀は目で合図を送る。

 

『ヘッドホンが………』

 

と言いたいのだろうが伝わってるのかどうか微妙な反応だった。と思っていたが意外にも理解したらしく、

 

『大丈夫だ。後で何とかしてやる』

 

と同じように視線で返してくれた。何とかしてと伝わってくれたことに安堵した耀だが、同時に疑問を浮かべた。

 

(なんでこういうのは伝わるのに、黒ウサギ達のことはわからないんだろう?)

 

それを聞こうかと思ったが、あの鈍感にいっても無駄なイメージしか湧かないのでやめた。

 

「そういえば二人は第三・第四の勝利条件の完全な謎解きができたの?」

 

「ああ、俺たちはレティシアから吸血鬼の歴史を聞いていたからな」

 

「吸血鬼の歴史?それって箱庭に来る前の?」

 

「そっ。あの龍は『吸血鬼の世界を背負う龍』らしいんだ。確かに大きいが流石に星を引っ張るほどの大きさじゃあない。だから俺たちは吸血鬼たちが描いた宇宙論は宗教上の比喩・暗喩の類だと推測した」

 

蘭丸の言葉に十六夜は続ける。

 

「この事を知っていれば、この城が衛星であることをは容易に想像できる。だから俺もゲームタイトルの“SUN SYNCHRONOUS ORBIT”に目を付けた。その次は第四の勝利条件、“鎖に繋がれた革命指導者の心臓を撃て”だな」

 

「あれってミスリード意外にも意味があったの?」

 

「ああ、“正された獣の帯”は第三の勝利条件の裏付けだけじゃないんだ。正されたというのは第四の勝利条件、の一文を正す意味合いも込められているんだ。これ、耀は解けたのか?」

 

蘭丸の問いに耀は正直に首を横に振った。蘭丸はそうかと言って話を続ける。

 

「これは言葉遊び的なものなんだが、“革命”は英語で“Revolution”って読むのと同時に“公転”の意味を持っているんだ」

 

つまり、これは“革命指導者”ではなく“公転の指導者”と読むことになる。そこでピンときた耀は感心したように頷く。

 

「つまり第四の勝利条件は“公転の指導者である巨龍の心臓を撃て”になるのかな?」

 

「んー。百点の解答じゃないが大体そんなところだ」

 

蘭丸は十六夜と目配せすると十六夜から最後の欠片を受け取り、玉座にはめず、玉座に鎮座するレティシアを見る。

 

「レティシア、あの巨龍はお前自身なんじゃないのか?」

 

え?と訳のわからないという表情を浮かべる耀。

このゲームタイトルは太陽の軌道の具現の巨龍と吸血鬼の王の開催したゲームであり、二度も出てくるレティシアの名前。故に憶測を立てるだけなら難しくない。

蘭丸はどうだ?という目をレティシアに向ける。レティシアは自嘲的な笑みを浮かべて肯定した。

 

「最強種を召喚するには条件がある。星の主権と器だ。偶然にも私はその両方を持っていた。“箱庭の騎士”としての功績。そして純血種の龍が生み出したこの身体。そして十三番目の黄道宮の主権」

 

そして巨龍を降霊させ、ゲームを開催したのだ。巨龍と姿と力を使い、死体すら嬲り倒して

 

「だがそれも今日で終わりだ。勝利条件を満たせば巨龍は消え、私も無力化される。これでゲームセットだ」.

 

「信じていいんだな?」

 

「ああ」

 

そういうレティシアの眼は何故か悲しく見えた。しかし、耀は一つの疑問が浮かんできた。

あの巨龍をどうやって無力化するのかどうやってレティシアを解放するのか。

答えがまとまらないうちに蘭丸が最後の欠片を嵌め込む。

そして“契約書類”に目を通す。

 

【ギフトゲーム名 『SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING”

 

・勝利コミュニティ “ノーネーム”

・敗北コミュニティ “ ”

 

・上記の結果をもちまして今ゲームは終了とします。

尚、第三勝利条件の達成に伴って十二分後大天幕の解放を行います。

それまではロスタイムとさせていただきますので、何卒ご了承下さい。

夜行種は死の恐れがあるので七七五九一七五外門より退避してください。

参加者の皆様はお疲れ様でした】

 

「え?どういうこと?」

 

「そこに書いてあるだろ?十二分後に大天幕が開かれ巨龍は太陽の軌道に姿を消す」

 

「じゃあ、レティシアは?」

 

一度間が空く。レティシアは懺悔するように告げる。

 

「死ぬ、だろうな。龍がの媒介は私だ。この玉座の上にあるのは水晶だからな。第四も直射するだろうな」

 

「でも、さっきは無力化されるだけだって……」

 

「あれは嘘だ」

 

にべらにも告げるレティシア。このゲームはどの勝利条件を満たしてもレティシアが死ぬゲームだったのだ。耀はレティシアの胸倉をつかもうとしたがその手はすり抜けた。

 

「言っただろう?龍の媒介は私だ。ここにいる私は精神体みたいなものだ。触れれば私の影が襲ってくるのだが、やはり十六夜が倒したらしいな」

 

苦笑いを浮かべるレティシア。十六夜も目を細めてそっぽを向く。

 

「三人には苦しい選択かもしれない。しかし私はもう同士を殺したくないんだ」

 

「お前はそれでいいのか?」

 

「え?」

 

蘭丸は静かに告げる。しかしその雰囲気には怒気がふつふつをこみ上げてきている。

 

「こんな終わり方でいいのかって聞いてるんだ!もう同士を殺したくだあ?ハッ!笑わせんなよ!今から俺たちにやらせようとしてるのは明らかに同士を殺すことだ。お前は同士にそんなモン背負わせたまま逝くのかよ!」

 

蘭丸が激昂する。ここまで彼が怒るのは黒ウサギが“ペルセウス”との取り引きのときだろう。

 

「仕方ないんだ!私は数え切れないほどの殺戮をしてきたんだ!私は……私には………もうその手を取る資格がない」

 

レティシアはボロボロと涙を流す。嗚咽交じりに泣く彼女に蘭丸は笑みを向ける。

 

「心配すんな。そんなこと俺たちは全く気にしない。それに言ったろ?俺だって数え切れないほどの人を巻き込んだって」

 

蘭丸も自嘲的な笑みを浮かべる。

 

「それでも苦しみで押しつぶされそうになったら俺が支えてやる。今なら無料相談サービス実施中だからななんなら泣くように胸でも貸すか?」

 

蘭丸は冗談めかしく笑う。レティシアは顔を真っ赤に染めて目尻に涙を溜めて笑う。

 

「………まったくよくそんな恥ずかしいこと言えるな」

 

「ん?そうか?」

 

蘭丸はよくわからないといった表情を浮かべる。レティシアはボソリと呟く。

 

「……だから惚れたんだが」

 

「なんか言ったか?」

 

「いや、何も」

 

蘭丸は思案する表情を浮かべるが十六夜と耀は苦笑いを浮かべる。

 

「さてと、ちょっくらレティシア救いに行きますか」

 

「ヤハハハ!了解だ!」

 

「合点承知の助」

 

(本当に頼もしくなったな)

 

決意した同士の背中をレティシアは嬉しそうに眺めていた。

 

 






次回で決着がつきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決着、“アンダーウッド”





 

吸血鬼の古城の最短の崖に立った三人は巨龍を倒す為に手早く作戦を確認していた。“アンダーウッド”へ急降下しようとしている巨龍を見て猶予は無いであろう。

巨龍を一瞥した蘭丸は二人に視線を移す。

 

「俺が巨龍を抑えに行く。心臓を撃ち抜くのはお前らに任せるぞ、十六夜、耀」

 

「ヤハハハ!任せとけ」

 

「うん。………あ、でも少し待って」

 

耀は思い出したかのように“生命の目録”を取り出しその形状を変幻させていく。変幻した“生命の目録”は光となって、耀の両足を包み、革のロングブーツは白銀の装甲に包まれ、先端には白い翼が生えていた。

 

「出来た……」

 

“生命の目録”はペガサスのブーツへと変幻していたのだ。それを見た十六夜と蘭丸は唖然とそれを見ていた。

 

「凄いな……“生命の目録”」

 

「ああ、超イカしてるぜ」

 

ビッ!と親指を立てる十六夜と拍手しながら笑みを浮かべる蘭丸。耀も十六夜に合わせビッ!と親指を立てる。笑みを浮かべていた蘭丸は一変し、戦闘時の顔になった。それと同時に空気もしまった。

 

「さぁ、そろそろだ。巨龍をぶっ倒すぞ!」

 

蘭丸の一括で十六夜を抱えて上空へと身を投げる耀。それを確認した蘭丸は“アンダーウッド”にと瞬間移動した。

 

 

 

 

**

 

蘭丸が“アンダーウッド”へ到着すると巨龍は大樹へと突進を仕掛けていた。その前線では飛鳥と大樹と同等にまで巨大化したディーンが立っていた。

 

「よう、無事だったか飛鳥」

 

「蘭丸君こそ、…………………でもあんな巨大な龍を抑えられるかしら」

 

飛鳥の顔には不安が映っていた。それもそうだろう。相手は最強種の一角、龍の純血種である。ディーンは巨大化しているが飛鳥のギフト“威光”は強大な力を授けるギフトだが、それは局地的かつ、瞬間的な霊格の肥大であるため、神珍鉄の類いのギフトとは相性が悪いのだ。

 

「違うぞ飛鳥」

 

「え?」

 

しかし蘭丸は依然と笑みを浮かべて大樹へと突進する巨龍を見る。

 

「“出来る”か、“出来ない”かじゃない。………俺たちは“やる”しかないはずだぜ?」

 

な?と蘭丸の笑みに飛鳥の表情も明るくなっていく。

 

「そうね。あんなの軽く蹴散らしましょう」

 

「止めろ、二人ともッ!正気か⁉︎」

 

サラが炎の翼で飛翔し、二人の横に並び立つ。

 

「正気も何も、俺らが逃げたら“アンダーウッド”が終わりじゃんか」

 

「分かってる!それを承知で連れ戻しに来たんだ」

 

「私達も承知の上よ!」

 

「何が承知だ。自殺の他ならん‼︎」

 

「それでも……それでもやらなきゃいけないのよ‼︎」

 

飛鳥は凛とした目を浮かべる。彼女たちの後ろには“アンダーウッド”がある。ここで退いては全てが終わりである。だから逃げるわけにはいかない。

飛鳥の覚悟を見た蘭丸は満足そうな笑みを浮かべ、サラは嘆息を漏らした。

 

「退けないのか?」

 

「退けないわ」

 

「当然だろ?」

 

「死んでもか?」

 

「死ぬくらいなら」

 

断固たる飛鳥の覚悟を目の当たりにしたサラも覚悟を決めた。

 

「分かった……私も、それだけの決意を示そう」

 

剣を取り出し己の龍角を切断するサラ。その断面からは血が流れ、髪が血の色に染まった。

 

「なっ…………」

 

何をとは続けられなかった。それが彼女の誇りを汚すことになるからだ。サラは激痛を堪え、龍角を飛鳥に渡す。

 

「……龍角は純度の高い霊格だ。神珍鉄とも溶け合うだろう」

 

「でも、なんで⁉︎」

 

「お前達ならきっと止められる。どうか、“アンダーウッド”を守ってくれ……」

 

それを最後にサラは意識を失った。蘭丸は無言で髪留めを外し、腰まで髪が落ちる。飛鳥は全身を戦慄かせ龍角をディーンに捧げる。龍角は神珍鉄と溶け合い伽藍洞の体から紅い風を吹く。

サラが二百年をかけて鍛えた龍角。その思いは無駄にしたくなかった。

 

「巨龍を迎え撃ちなさい、ディーン‼︎」

 

「DEEEEEEeeeEEEEEEEN!!!」

 

伽藍洞の体から紅い風を吹かせ突撃するディーンは巨龍の顎を剛腕で掴み、大地が捲れ上がるかの如く踏み込み。ぶつかり合う。

 

「止まれええええええぇぇぇぇぇぇぇ‼︎」

 

「GYEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

「っらあぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

巨龍の下顎の位置に移動した蘭丸は白いオーラの篭った拳を巨龍へと叩き込む。その拳は空間諸共砕く威力であったが、疲労のせいか、威力が芳しくない。

 

「チッ!変態との戦いで大分やられたか………なら……」

 

蘭丸は深呼吸をすると巨龍の目の前に移動する。その行動に飛鳥も驚いた。

 

「蘭丸君⁉︎」

 

「俺が巨龍の動きを止める。その隙にディーンで殴り飛ばす」

 

そう言うと蘭丸は両手を挙げ、空間を掴むように手を握る。

 

「はあぁぁぁぁぁ…………」

 

蘭丸の手に掴まれている空間が歪み始める。

 

 

「セイヤァァァァァ‼︎」

 

そしてそのまま腕を振りぬく。すると地面が、空が、空間が歪み始めた。

 

「な、なんなの、これ……」

 

数十メートル離れたところで一撃を打つ為待機していた飛鳥も驚いています。

そしてその一撃は巨龍の動きを止めた。

その瞬間に飛鳥も指示を出す。

 

「今よ!ディーン‼︎」

 

「DEEEEEEeeeEEEEEEEN!!!」

 

ディーンは巨龍に突進を仕掛けてその顎を殴り上げる。巨龍もただではやられなくディーンの半身を食い千切って上空へと駆け上がる。すると大天幕の解放で太陽の光を浴び、巨龍の心臓が浮かび上がる。

 

「今だ!やれ十六夜‼︎」

 

その一瞬を待っていたかのように十六夜の抱えた白銀の流星が追走した。

 

「見つけたぞ…………十三番目の太陽ーーー‼︎」

 

十六夜は両手に抑えた光の柱を束ね巨龍の心臓を撃ち抜く。巨龍の断末魔は無く、光の中に消えていった。

巨龍の心臓から零れ落ちた、もう一つの太陽ーーレティシアを日光から庇うように蘭丸が抱きとめて、四人は高らかに拳を上げた。

 

 





次回、四章最終話です。

誤字、感想お待ちしております!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

これからの



今回で第4章は終了です。


 

 

“アンダーウッド”での激戦から二日後レティシアは目を覚ました。

 

(ここは………)

 

取り敢えず辺りを見回して見るとどうやら宿舎の一室であった。

 

「お、起きたかレティシア」

 

そしてレティシアは分厚い紙の束とペンを持った蘭丸に呼びかけられる。

 

「私は………」

 

「ああ、丸二日眠りっぱなしだったぞ。身体には特に異常もなかったしな」

 

ペンを走らせながらも蘭丸はレティシアの顔を見ながら話しかけていた。それを見てレティシアも自然と笑みをこぼした。

 

「ずっと、見ててくれたのか?」

 

「俺はそれでもよかったんだが、全員で交代制だ。目さめたときに誰もいなかったら困るだろ?」

 

「そ、そうか………(ずっとじゃなかったのか……)」

 

レティシアは少し残念そうに頷き、気づかれないように溜息を吐いた。しかしその溜息は蘭丸に気付かれていたようだ。

 

「ん?どうした?なんか残念そうなんだが………もしかして最初に俺は不味かったか?」

 

「い、いや、そんなことはない!………むしろ………」

 

「ん?」

 

「ああ、なんでもない」

 

そうかと納得した蘭丸を尻目にレティシアは心の中で安堵の息をついた。早まる心臓を抑えるように一度深呼吸をする。

心臓が収まったのを確認しレティシアは蘭丸に笑みを浮かべる。

 

「本当に……」

 

レティシアが蘭丸に何かを言おうとしたその時にガシャン!と騒がしい音を立てて黒ウサギが飛び込んできた。

 

「蘭丸さん!交代に来たのですよ………って、レティシア様!お目覚めになりましたか⁉︎」

 

「ああ、つい先ほどな」

 

「そ、そうでしたか………!では黒ウサギは皆さんを呼びに行ってきます!」

 

歓喜の声を上げ、部屋から飛び出した黒ウサギ。レティシアはそんな彼女を見て懐かしく感じた。

 

「本当にありがとう蘭丸。お前には本当に救われたよ。おかげで私はお前たちに辛い選択を押し付けずにすんだよ」

 

実際にあのまま大天幕が解放して、巨龍が太陽の光の中に消えていったら蘭丸たちは同士を救えなかったという重荷を背負って生きていくことになっただろう。

蘭丸は首を横に振り

 

「いいよ礼なんて。俺もレティシアが無事でいてくれて本当に良かったよ。おかえり、レティシア」

 

蘭丸の微笑みに顔を赤らめるレティシア。また心臓が騒ぐのを感じる。

 

(やっぱり今言うべきか……)

 

「蘭丸」

 

「ん?どうした」

 

作業が終わったのか、紙の束から目を離した蘭丸はレティシアを見つめる。その瞳を見ると、また心臓がうるさく騒ぐ。

 

「………………」

 

「レティシア?」

 

ずっと黙っているレティシアに不信感を覚える蘭丸。だが決して聞こうとせずレティシアが話すのをじっと待っている。それに安心したレティシアは

 

「………いや、なんでもない」

 

「あら?」

 

蘭丸は思わずずっこけた。まさかここまで間をおいて何もないと言われれば誰でも同じような反応はするであろう。

 

「本当に何もないのか?」

 

「ああ、すまない。なんでもなかった」

 

「そっか、じゃあ俺はこの報告書を“サウザンドアイズ”に送ってくるから、後でな」

 

ポンポンと頭を撫でた蘭丸は静かにドアを開け、部屋を後にした。蘭丸が行ったのを確認したレティシアはベッドに顔を埋めた。

 

「ッ〜〜///!私はなんてドジをッ!あんなチャンスを‼︎」

 

ベッドに顔を埋めて悶えるレティシア。黒ウサギ、“サウザンドアイズ”の女性店員、そしてレティシア。この三人は蘭丸に好意以上のものを寄せている。それをこの三人はもちろん知っている。(知らないのは当の本人だけだが………)

 

(でも、それで良かったのかもしれない)

 

もし自分がここで好意を伝えていれば、結果はどうあれ、今までの関係に亀裂が入るかもしれない。それならばもう少しこの距離でこの生活を楽しみたい。

そう思ったレティシアは先ほどまでここにあった彼の顔を思い出し、小さく泣いた。

 

「私の太陽は外にあるものだけじゃなかったのか……」

 

そんな充実感と幸福感を抱いてレティシアは眠りについた。

次に目を覚ました時には収穫祭だ。太陽のように輝く同士たちと共に歩む明日、そして自分にとっての特別な太陽への想いを胸にレティシアはまどろみに身を任せた。

 

 

 

 

 

 

 

蘭丸は今回のギフトゲームの被害の損失を“サウザンドアイズ”に報告するために報告書を届けようと“境界門”を目指す。瞬間移動を使えば一瞬だが曰く急ぎの用でなければギフトは使わない主義の蘭丸は自分の足を使っていた。

その前に本陣営に顔を出そうと思った蘭丸は扉を開ける。

 

「失礼します……かな?」

 

ゆっくりと扉を開け、本陣営には十六夜とジン、先ほどレティシアの部屋に来た騒がしい黒ウサギがいた。

 

「十六夜もジンもここにいたのか?それに騒ウサギもか」

 

「ちょっと待ってください!なんですかその騒ウサギとは⁉︎また変な渾名を付けないでください!」

 

「いや、さっきのアレは騒がしいの他にないぞ」

 

「ナイスだ蘭丸!」

 

「だまらっしゃいこのお馬鹿様‼︎」

 

スパーン!と黒ウサギのハリセンが十六夜に命中する。そんな黒ウサギを無視して蘭丸は女性店員に話しかけていた。

 

「あんたが来ていたならちょうどよかった。これ、今回の被害の報告書なんだが」

 

「わざわざありがとうございます。……貴方も本当に苦労しますね」

 

「いんや、こんだけ騒がしいといつでも飽きない。本当に楽しいよ」

 

「そうですか……」

 

女性店員は拗ねたようにそっぽを向く。それにニヤニヤしながら十六夜が肩を叩く。

 

「そういや蘭丸。御チビから面白い提案があるんだが」

 

「ジンが?それはなんだ?」

 

蘭丸はジンに視線を移す。提案と言うよりも今回の報酬といってもいいだろう。本来はレティシアの隷属と“蛇遣い座”の所有権は対一のものなのだが、それは“全権階層支配者”に貸し出されるものであり、一コミュニティに授けるものではない為、その代わりに報酬の授与がされるらしい。

 

「僕が望む物は二つ。

一つ、“ノーネーム”の六桁への昇格。

二つ、“ノーネーム”が六桁で所有していた土地・施設の返却。ーーー以上です」

 

それを聞いた蘭丸は一度は目を開いたが、すぐにニヤリと笑った。

 

「なるほど、確かに俺ら“ノーネーム”では旗を持っていないから六桁への昇格は普通出来ない。だから代用に連盟旗を作るのか」

 

「はい。やっぱり蘭丸さんにはお見通しですね」

 

「でも、驚いた。お前がそこまで考えが回るまで成長してたなんてな。数ヶ月前とは大違いだ」

 

蘭丸はすこし荒っぽく頭を撫でる。ジンは恥ずかしそうに笑う。

 

(母さん。俺はここでこいつらを守るよ。それが母さんの約束だしな)

 

母との誓いを胸に蘭丸は笑顔で笑い合う同士を見つめていた。

 

 

 

**

 

四桁三三五七外門の“円卓の騎士”の王の間。

玉座に座る蘭丸の父、アーサーは直径二メートルほどの水晶を眺めていた。そこには蘭丸の姿が映っていた。

アーサーは隣で水晶を見る女性に声を掛ける。

 

「どうだ?11年ぶりに見る蘭丸は」

 

「うん。嬉しいわ。ちゃんと私との約束を覚えてくれていたのね!」

 

その女性はハンカチで涙を拭いていた。それを見るアーサーは苦笑いでその女性の頭に手を置く。

 

「それにしてもあの子はすっごいモテモテじゃないの!“月の兎”の子に吸血鬼の子、それに白ちゃんのとこの女の子なんてハーレムじゃないの」

 

「だが肝心のあいつがアレだからなぁ」

 

キラキラと目を輝かせる女性と対照的にアーサーは溜息を吐き、頭を抱える。

 

「失礼します。お呼びでしょうか、アーサー王」

 

そんな時に、“円卓の騎士”の傘下の“ブラッドソード”のリーダーで蘭丸と戦ったローズが王の間に入って跪く。

 

「ああ、これからお前には“アンダーウッド”の収穫祭に参加して蘭丸にコレを渡してほしい」

 

アーサーは細長い箱をローズに渡す。中には一枚の紙と笛が入っていた。

 

「これは?」

 

「その紙に書いてある。俺は“サウザンドアイズ”に向かわなければいけない。頼んだぞ」

 

「はっ!」

 

ローズは敬礼をすると王の間から退出する。アーサーは玉座から腰を上げる。女性もアーサーについていくように歩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、白夜叉にお前の挨拶に行かなきゃいかんしな。行くぞ雪菜」

 

 

 

 





これで四章終了です。

蘭丸のお母さんの登場⁉︎あの時死んだのでは⁉︎それは次章に明らかにします。

誤字、感想お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。