黒煙が昇り家屋だったモノは最早かつての姿をしておらず崩壊してその傍らに横たわるのはかつては笑い怒り悲しみを持って動いていたであろう躯。
なぜこのような惨状を生んだのか、理由などという大層なモノはなくただならず者にとっては「そこにあったから」というものだった。
哀れなかつての村は村民全てを失い黒い灰へと姿を変えてゆこうとしていた。
その中でぽつりと場違いなモノが立っていた。
小さな子供だ。
夜の空色に似た深い紺の髪と何も映していない朧な真朱の瞳。
無造作に伸びた髪が揺ら揺らと風と靡き、やせ細った白い肢体はどこか幽鬼のような不気味さを見る者に感じさせる。
ふいに立ちあがったものの栄養失調寸前の肢体を支えるには頼りげないこの足ではすぐにバランスを崩して倒れこんでしまった。
地面にしみ込むどす黒い血と泥の混じる地面に強かに打ちつける。
苦悶の表情を浮かべることもない能面のような無表情。
感情等ないかのように、心など魂等その身体にははいっていないかのように微動だにしない。
これは最早「人形」と言っていいようなものだ。
空は暗がり暗鈍とした分厚い雲が垂れこみ次第に雨粒を運んできた。
次第に強く打つ雨音に僅かな吐息音を消されてゆく。
そう気が付いたらそこにいたのだ。
身体が動かない。石を載せているよに重い。
なんだコレ?目も良く見えない。
何度か瞬きをして漸く視界が開けた。
はぁ?どこぞの地獄ですか??
本気でそんなことを思った。だって家は燃えてるしそこらへんに死体らしきものが横たわってるし。
見たことも想像したこともない世界が広がってる。
正直訳わかんないしパニック。
でも身体は相変わらず動けないし思考を若干曖昧っというか頭の中靄がかかってうまく考えがまとまらない。
そのおかげなのかそれほど混乱しているわけでもない。まぁパニックであることに変わりはないのだけれど。これはパニックしすぎたのかな?
兎に角現状を把握、もといなんで此処にいるのか考えるべきだろう。
少し落ち着いて思い出してみよう。
最後に覚えているのは…そうだ、部屋でアニメを見ていたんだ。久しぶりの休みだから溜まってたアニメの録画を見ようって切りのいいところまで見て眠くなり始めたから仮眠でもって横になって…
そこから記憶が無い。
これは夢か?いやあまりにもリアルすぎる。動かない身体とはいえ感覚は有る。雨雫に打たれる感覚、濡れてる感覚、体中に奔る鈍い痛み。
空腹と渇き…夢とは到底思えない。
何よりこの匂い。煙と錆びた鉄のような…血の臭い。
誰か教えてくれ…
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