FAIRY TAIL 波地空の竜 (ソウソウ)
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(リメイク)第一章 波動の覇者と天空の巫子 1-1『妖精の尻尾』

 ………お久しぶりです(震え声)。

 約二年ぶり。他の作品では投稿しつつもこちらでは一切更新せずにいたこと、本当に申し訳ない。
 唐突な話題転換いきます。久しぶりに自分の作品を読んだのですが、あれですね。スッゴい駄文です。なんてたって数年前の自分が小説を執筆し始めた当初の頃ですからね。

 ―――ってことでリメイクします。

 少なくともS級魔導士試験編までは大幅に変える予定です。

 再び投稿再開のつもりですが、また雲隠れするかもしれません。
 感想お願いしやす!!(明らかな誘導)。




 ◇◇◇

 

 某ギルド。

 

「やべぇーですよ!!」

 

 ギルド内に響き渡る声。

 焦りの表情を浮かべ、ギルドの扉を遠慮なく開けた者が放った第一声。

 

「どうしたぁ!!」

 

 リーダー格と思わしき体格のごつい強面男性が反応した。

 ギルド内に居た他の者達も一斉に視線が集う。

 

「噂は本当でした!!正規ギルドの紋章も確認したので間違いねぇです!!」

「………っち。面倒なことになりやがった」

 

 軽く舌打ち。

 座ってた椅子から立ち上がる。そして蹴りを放ち、椅子を壁へと吹き飛ばす。一瞬で椅子は木っ端微塵に砕け散り、壁際の床に木屑が散乱。

 が、辺りは大きな破砕音がしたのにも関わらず、異様な静けさがあった。

 

「折角の機会だ。これまで黙って水面下で動いてきたが、俺らは普通の奴等とは違うってことをついに証明する。いいか!!野郎共!!」

「「「おおーー!!」」」

 

 拳を高く突き上げる。

 遅れて、その場にいた全員が雄叫びを上げて、拳を突き上げる。

 

「作戦は分かってんな!?」

「はい!!既に実行済みです!!」

「いいぞぉ。これで奴もただでは済まんだろう」

 

 にやり、と笑みを浮かべる。

 そこには善意は一切存在せず、あるのは悪意。他の者も同様に怪しい表情へと変貌している。

 

「おい!!」

「はい!!マスター!!」

 

 下っ端の背筋が真っ直ぐ伸びる。

 

「どこのギルドの野郎が来た!?」

「それが………」

 

 マスターの質問に正直に答えるのはただしくないかのように躊躇した下っ端。視線が下がる。

 マスターの目が見開かれた。

 

「早く答えろ!!」

「ひぃぃ!!」

 

 あまりの怒声の迫力に下っ端の全身が震え上がる。

 

「………ギルドの名前は分かりません。ただ………妖精のような紋章でした」

「妖精………『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』か!!」

 

 妖精の尻尾。

 正規ギルドでありながらも数多くの問題を引き起こすギルド。と同時に最強と詠われる実力者もいるとの噂。

 マスターの表情に真剣味が帯びる。

 

「どんな奴だ」

「普通の青年のようでしたが………?」

「………っ!!」

 

 下っ端は特に疑問を浮かべている様子はない。周りもこれと言った反応はない。

 が、しかし。

 マスターだけは違った。

 

「最終手段をとる。あれを準備しろ!!」

「え!?ですが、あれは―――」

「うるせぇ!!文句があんのかぁ!!」

「りょ、了解です!!」

 

 数人が慌ててその場を離れる。

 

「………まさかとは思うが………あいつではないだろうな………」

 

 マスターは自身の予想を浮かべる。

 これが本当であれば並大抵の事では済まない。

 

「………『波動の覇者』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 とある村。

 

「では………よろしくお願いします」

 

 村の中央に位置する広場。

 そこでは、一人の青年と一人の女性の姿があった。周りでは村人と思わしき人々が二人を見守っている。

 今、女性が頭を軽く下げていた。

 

「了解です。任せてください」

 

 答えたのは青年。

 彼の名前は“ソウ”。

 正規ギルド『妖精の尻尾』の魔導士であり、その証として左手の甲に紋章が刻まれている。

 

「あの………頭を上げてください」

「はい………あ、申し遅れました。私“シズク”と申します」

「あ、ご丁寧にありがとうございます。自分は“ソウ”と言います」

「ソウさんですね」

 

 シズク、と名乗った女性。

 この村特有の衣装なのか、独特な模様を刻む服を着ている。

 ソウとは見た目、同年代なのだがどうやら彼女が案内役を担っているらしい。

 

「別に敬語じゃなくてもいいですよ?」

「そうですか?ですが、私達の依頼を受けてくださっている以上、無礼な扱いは失礼なのでご理解お願いします」

「ん………まぁ………いっか」

 

 丁寧に断る所からも彼女の性格がいかにも真面目なのかが分かる。ここの村にとって、ソウは特別な人らしい。

 と、彼は特に気にした気配はない。

 

「では、宿に案内いたしますね」

「あぁ」

 

 シズクはソウに背中を向け、歩き出す。

 その後を付いていくソウは村を軽く見渡しながら、思考に浸る。

 村、と言われれば田舎ながらも活気のある村人達が生活しているイメージを持つソウ。祭事も定期的に行い、村人達は笑顔で毎日が賑やかそうなのだ。

 が、ソウの視界には活気どころか人気もちらほら見える程度だ。しかもどこか表情が暗い。

 普段からこんな風だとは思いたくはないが、原因の知るソウにとって改めて実感せざるを得ない光景だ。

 

「つい数ヵ月前まではもっと騒がしかったんですけどね」

 

 ソウの前方を歩くシズクがふと呟く。

 彼女もソウの考え事を悟ったのか、ゆっくりと話し出した。

 

「本来ですと、この時期、村の皆さんは“鉱山祭”の準備で大忙しなんですが………」

「こうざん祭………とは?」

「あそこに他の山と少し違う山が見えますよね?」

「あれですか?少し色が鋼っぽい………」

「えぇ。それです」

 

 シズクが指差したのは村の奥。ソウがそちらへ視線を移すと、いかにも彼女の言うその山が風格を漂わせ、ずっしりと構えているのが見てとれる。

 明らかに周りに聳え立つ山とは異なる。

 

「あの山がこの村の名前の由来である“テンドウ山”であり、そのテンドウ山にある珍しい物があることで有名なんです」

「その珍しい物とは?」

「ーーー宝石です」

 

 シズクは断言した。

 ソウはそんな彼女の仕草に違和感を感じていた。どうも、悔しさが滲み出たようなイントネーションが気にかかる。

 シズクはそんなソウの思考は露知らず、説明を続ける。

 

「ある季節になると月の光がテンドウ山山頂にある穴に入り込み、その穴の中にある大量の宝石と何度も反射を繰り返して、それはもう………幻想的とも言える光景が出来るんです………」

「ん?シズクさん………それは、もしかして“月渡りの光り柱”ですか?」

「え、えぇ………ソウさん、よくご存知で」

 

 驚いたのか彼女の顔がこちらへと向く。

 ソウは軽く微笑んで答えた。

 

「ここに来る前にそういう噂を耳にしたんですよ」

「そうでしたか」

 

 納得した様子のシズク。

 再び前へ向き、移動を再会。

 

「その“月渡りの光り柱”を讃える祭"鉱山祭"が毎年開催されてたんですけどね………今年は未だに観測出来ず、この調子なので………」

 

 シズクが気まずそうに言葉を止める。

 仕方がないことだと、ソウは感じざるを得ない。今年の祭の開催は難しそうだ。

 

「なるほど」

「ソウさんにもぜひ見て欲しかったのですが………」

「大丈夫ですよ」

「え?」

 

 シズクがまた振り向く。

 

「その為に俺が来たんでしょ?」

「あ………はい………」

「シズクさん?」

「………」

 

 彼女の動きが停止した。

 ソウはひらひら手のひらを彼女の顔の手前に振ってみる。

 

「シズクさん?」

「あ!すみません!」

 

 気を取り戻し、その羞恥心からかシズクは頬を軽く赤く染める。

 

「それに………」

「………?」

「出ておいで」

 

 ソウの呟きにシズクは首を傾げる。

 すると、ソウは近くの物陰に手招きをした。

 シズクが彼の視線の方へと向くと、一人の少女が建物の影からもじもじと両手を背中に回して姿を見せる。

 見た感じ8,9才だろうか。

 

「えへへ」

 

 その少女は照れ笑いをしながら、てくてくと二人の元へと駆け寄って来た。

 シズクはそんな少女の姿を視認すると、少し困り果てた表情を浮かべる。対するソウは少女と目線の高さを揃えようとしゃがみこんだ。

 

「何か聞きたいことでもあるのかい?」

「うん!でも、よく私が見てるって分かったね!」

「これでも魔導士だからね」

「っ!!」

 

 キラキラと輝きを放つ少女。

 あまりの期待感を向けられて、ソウは照れ臭そうに頬をかく。

 

「私、魔法見たい!!」

「申し訳ございません………妹が迷惑かけて………」

「いえいえ」

 

 少女の期待オーラとは、対照的にシズクの申し訳なさそうな態度が表に出てきた。

 ふむ、とソウは考える。

 この子はシズクの妹なのかぁ、と。

 

「それよりも姉妹だったんですか………似てますね」

「そうかな?」

「そうでしょうか?」

 

 小首を傾げる姉妹。

 タイミングも仕草も完全に同化している点から、確実にこの二人は姉妹だ。

 

「んじゃ、魔法を使いたいから安全な場所へ行こうか」

「ほんと?やったぁー!!」

「ソウさん、ありがとうございます………」

「それでシズクさん。近くに破壊してもいい巨大な岩石とかってあります?」

「岩石ですか………」

「というか、道の邪魔になってる物とか撤去してほしい物ですね」

 

 ソウの魔法の予行をすると必要不可欠。というか、あった方が効果がより明確に視界で確認できる。

 

「あるよ!!」

 

 少女が声をあげた。

 

「ここから東に行った所になんかよく分かんないものがあるよ!!」

「どういうものかな?」

「う~ん………お姉ちゃん!!」

 

 視線がシズクへと移る。

 唐突に話をふられたせいか、彼女の体が一瞬ビクッと震えた。

 

「えっと………あれですね。直接行かないと説明できないと言うか………」

「んじゃ、今すぐ行きましょう」

「え?」

「面白そうじゃないですか」

 

 ソウ自身もそれに興味が出てきたのか、少し笑っている。

 

「おっとその前に荷物は宿に置いてもいいかな?えっと………君の名前は?」

 

 と、ここで少女の名前を聞くことをソウはすっかり忘れていたのに気付く。

 ソウの様子を察した少女は満面の笑みで名前を告げた。

 

「私は“シオネ”だよ!!」

「それじゃあ、シオネちゃん。ちょっと寄り道してからになるけど行こうか」

「うん!」

 

 ふむ、とソウは立ち上がる。

 シズクは彼を宿への案内を再開しようと声をかけるが、

 

「では、ソウさんこちらになりーーー」

 

 その瞬間だった。

 

「待て!!」

 

 一人の少年がソウ一向の道先を塞ぐように現れた。

 少年の瞳は覚悟を決めたかの如く、ぎらついていた。真横に真っ直ぐ広げた両手は彼の決意を物語っている。

 

「ん?」「…………」「はぁ………」

 

 三人の反応は様々。

 何事かと首を傾げる者。

 面倒ごとを悟ったかように無言の者。

 物事が全然進まないことに対してのため息をつく者。

 少年は全てを売っての覚悟でソウの眼前で立ち塞がったままだ。

 

「俺もつれていけ!!」

 

 彼はそう叫んだ。

 

「"セルジュ"………何をしてるんですか」

 

 ふと感じる隣から怒気の気配。

 びくっ、とそれはもうはっきりと少年の全身が震えた。

 

「いや………あの………姉さん。その人が魔導士でこれから魔法使うって聞いて………」

「だからと言って、あんな手段を取るとは!ソウさんに失礼でしょ!」

 

 しゅん、と萎む少年ことセルジュ。

 そこを口撃していくシズク。なんとも微笑ましい姉弟の光景。

 

「姉さん?」

「はい!セルジュは私の双子の弟です!」

「双子なんだ………」

「お姉ちゃんに怒られてばっかだよ?」

「それは………聞きたくなかったかな」

 

 姉に弱い弟か。

 一人っ子のソウには分かりえない関係。少し羨ましくも思う。妹のような人影がふと過るがすぐに霧散した。

 

「行くか」

 

 前方で「良いですか!?」と未だに弟に説教だれてるシズクの背後に近づき、彼女の肩を軽く叩く。

 

「シズクさん、もうそろそろ行きません?」

「え!?あっ!?すみません!!」

 

 慌ててシズクは案内を再開しようとする。

 対して、取り残された弟を見ていたソウ。セルジュはまだ俯いたままだ。

 

「来るか?」

「………いいの?」

 

 セルジュは顔を上げた。

 

「お姉ちゃんに迷惑かけるなよ?」

「分かった」

 

 ソウの背中を追うセルジュであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 シズクに部屋の鍵を貰い、部屋の場所を教えてもらったソウは宿の通路を歩く。

 自分の部屋の番号を確かめ、中へと入り、扉を閉める。

 中へは靴を脱いでから踏み入ると、ベッドへとソウは真っ先に近づく。

 そして、背負っていたリュックサックを躊躇なくベッドに、ぽいっと無造作に投げた。

 

「ぐへぇ!」

 

 と、リュックサックの中から声が漏れる。ソウは特に気にした様子もなく、窓際にある椅子へと腰を下ろした。

 もぞもぞ、と中身が動いたかと思えば中から黄色い猫のような生き物が顔を出した。表情は若干の不満顔。

 

「ソウ………扱いが適当だよ~」

「背負う身にもなってくれ。重い」

「女の子にそんな事言っちゃダメ!」

「どこでそんなの覚えたんだ………」

 

 その姿はまさに喋る猫。

 

「"レモン"。この後、軽い準備運動みたいなのをしてくるが、付いてくるか?」

「うーん。まだもう少し寝たいかな」

「分かった。荷物もここに置いとくから念の為、見ておいてくれ」

「これ持って帰らないと報酬出ないんもんねー。任せて~」

「俺の魔法で一応警戒だけはしておくけど。下手に無くしたりでもしたら、マスターに絶対に怒られる。それだけは避けたい」

「了か~い」

 

 そして、レモンはベッドの上で丸くなってしまった。明らかに警戒心ゼロのように見えるが、これまでも何度か危険な体験を乗り越えてきてるので大丈夫だろう。たぶん。

 それにまだ敵の動く気配はない。

 村に入った時から発動してある探知魔法の範囲外に潜伏している可能性もあるが、こうも距離を取られてるということはまだ仕掛けるつもりでないという意思表示でもある、とソウは判断した。

 

「んじゃ、また」

「ほーい。お休みなさ~い」

 

 ソウは部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1-2 へ続く。

 




*数時間後に続き、投稿します。


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1-2『月渡りの光り柱』

 ◇◇◇

 

 テンドウ山。麓。

 

「これが………先程話した謎の物体でございます」

 

 村から離れておよそ数分後。

 シズクの案内に導かれ、ソウが辿り着いたのはテンドウ山へと続く坂道の途中であった。

 徒歩コースから外れたその先。森林のちょっと奥深くと言った場所。

 ソウが目にしたのは摩可不思議な物体。

 巨大な岩石。子供並のサイズの大きさがある。その表面に奇妙な文字らしき何かが刻まれていた。

 なぞるように指先を添えてみるも特に目立った反応は無い。

 

「シズクさんにこれの心当たりは?」

「い、いえ………全く」

「なるほど。因みに誰がこれを発見したとかは分かりますかね?」

「はーい!!私とセルジュだよ!!」

「たまたま見つけた」

 

 双子のシオネとセルジュが説明してくれる。

 二人で出掛けた帰り道にふと何かに導かれるかの如く移動したその先にこの謎の文字が刻まれた岩石と遭遇したという。

 現段階では危険は特に感じられない、とのこと。これは双子から報告を受けたシズクが念の為に調査を行った結果である。

 ただ、ど素人のシズクだけでの判断では確信が持てず、どうしても不安な面が強よくなりがち。専門分野の者に依頼をする手もあったが村の現状を鑑みるにそうは言ってられず。

 結果的に、魔導士の肩書きを担うソウがその役目を引き受ける事になった。

 

「………魔法の一種だな、これ」

「魔法………ですか」

「微かだけど魔力の残留が感知出来る。何か信号のような物に反応するには十分過ぎるレベルで」

 

 ソウは魔力を検知する魔法を持つ。

 魔導士はそもそも他人の魔力をうっすらとだが感じ取れる。ソウはさらにその上、魔力の位置や規模、種類まですらも可能としている。

 ただし、感知した魔法を知識として予め備えておかなければ認識する事が出来ない。今のように。

 

「これを刻んだ張本人が魔法か何かを発動すれば、連動してこいつも動き出す可能性が高い。魔法の届く範囲を考慮すれば………」

「つまり………」

「十中八九、何者かがテンドウ山にいる」

「っ!?」

 

 シズクが驚きに顔を隠せない。

 

「この時期以外、私達の村はテンドウ山に立ち入る事を禁止しています………なので、内部に誰かがいるとなると………」

「外部の人間か。さらには魔法を使えるにも関わらず、影でこそこそと動く者がいる」

「そ、そんな………」

 

 ただシズクは山の不調の原因を知りたいだけだった。ソウが受けた依頼もテンドウ山の様子がおかしく、その原因を究明して欲しいとだけ。

 原因が解明されるまで、村の祭りは行われない。"月渡りの光り柱"を村人全員で讃え、来年の安泰を祈るのを目的とした祭り。

 肝心の"月渡りの光り柱"が発生しなければ、どうしようもない。

 

「でも、奇妙だな………」

「何が~?」

「ん~?シオネちゃんに分かるかな?こういうのは他の人から隠しておくのが定番なんだよ。こんな風に適当にぽいって置かれてるのはちょっと違和感が………」

「ほぇ~?」

「そうなるよな。あんまり考え過ぎないようにね。こういうのは俺の担当分野だから」

 

 罠にしたら随分と無意味な仕掛け。

 こうもあっさりと目標者に発見されてしまえば警戒されてしまうのがオチ。大抵、この場合は地面に埋めたりする。

 まるで用が済んだかのように放置された岩石。思考を巡らせるソウだが、考えすぎかとの判断に至る。

 

「隠す必要がない………とか」

「ん?どういうことですか?シズクさん」

「い、今のはふと頭によぎった事を口にしただけで………特に深い意図は………」

「そっか。でも可能性はゼロじゃない。無闇に破壊して刺激を与えるのは避けた方が無難か」

「え~?魔法は?」

「お、俺も見たい!!」

「二人とも。我が儘を言うのは止めなさい」

 

 ぶーぶーと不貞腐れるシオネ。

 そもそも彼女は魔法見たさに付いてきたのだ。こういう大人の事情は蚊帳の外。

 姉のシズクが注意するも聞く耳持たず。

 

「取り敢えず村まで戻ろう。そこで自慢の魔法を見せるから」

「やった!!」

 

 ひとまずは現状維持。

 用途が謎の岩石はそのまま放置続行し、ソウ一行は村へと引き返す事にした。

 元気そうに前を走って行くシオネとセルジュの背中をシズクは眺めてると隣から声がかかる。

 

「シズクさん」

「はい?どうされました?」

「村の人であれを知ってる者は他にも?」

「恐らくですが………私達だけかと」

「良かった。シズクさん、この一件が片付くまで他の人には話さないで欲しい」

「わ、分かりました………」

 

 シズクは気にかかりつつも了承した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 テンドウ村。真夜中。

 

「もぅ………シオネったら。あんなに元気にはしゃいで………」

 

 シズクは独り言葉を溢す。

 妹のシオネは昼間に魅せられたソウの魔法に釘付けとなったままずっとベッタリとしたままであった。

 元々、魔法には興味があったシオネ。

 何処からか魔法の本を持ってきたりして独学で勉学に励むほどの情熱っぷり。直接、彼女が魔法を目にする機会がなく、姉として力足らずに思ってきた。

 今日、魔導士のソウが訪ねてきた。

 テンドウ山に起きているであろう異変の解明。村人全員で決めたその依頼を遂行する為に来てくれた魔導士。

 正直、意外であった。

 シズクが持つ魔導士のイメージは頭が固くくせ者揃い。てっきり今回もそんな人が来訪するものかと。

 ソウは妹や弟に対しても嫌な顔一つせずに優しく付き合ってくれている。シズクに対しても丁寧に接してくる。

 

「あら?これは?」

 

 帰り道の途中。

 足を止めたシズクは道端に落ちてある小さな小石を目にする。

 只の小石ならば気にも留めない。だけど、シズクが見つけたそれには昼間と同じ謎の模様が刻まれていた。

 

「ソウさんに報告すべきでしょうか?」

 

 手に取り、表裏を眺める。

 いつ見ても不思議な模様だ。一体、どうやってこんな器用にも刻んだのか疑問でならない。

 

「姉さ~ん!!」

 

 背後から呼ぶ声。

 

「セルジュ?」

「俺も帰る」

「そっか。もう暗いし、手、繋いで帰ろう?」

 

 彼の手を握る。

 まだ小さい男の子の手。シズクにとってかけがえのない家族。

 

「シオネは?」

「あいつなら………魔導士の所にいるって」

「やっぱりセルジュは彼の事、気に入らない?」

「………」

「魔法………まだ()()でしょ?」

 

 セルジュは魔法が嫌い。

 その理由は本人が頑なに話すのを拒むお陰で謎に包まれたままだが。

 

「………分からない」

「え?」

「今日、見た魔法………綺麗だった。あんなのがあるなんて………知らなかった」

 

 良い傾向だとシズクは思った。

 ソウは派手に空へ魔力を打ち出し、爆散させる魔法を見せてくれた。

 幻想的に大空に散っては消える儚い光。

 かつてセルジュが目撃した魔法とは全く異なる魔法であった。

 故に困惑している。どれが本当で、どれが偽物なのかを。

 

「大丈夫、貴方はセルジュ。まだまだ時間はたっぷりとあるわ。その間、ゆっくりと考えれば、きっと魔法も好きに―――」

 

 次の瞬間―――

 

「姉さん!?石がっ!!」

「えっ!?」

 

 小石を握る拳から光が溢れ出る。

 真っ暗に突き破る眩い光にたまらずシズクは根源である小石を放り投げた。

 視界が遮られ、思わず目を瞑ったシズクとセルジュ。

 

 瞼を開くと―――

 

「なっ………!?」

 

 人間サイズの岩石で構築された兵。

 赤く不気味に光る目の先が真っ直ぐとシズクに突き刺さる。

 

 ―――敵。

 

 嫌な予感に背筋が冷える。

 

「セルジュ、逃げなさい」

「えっ………でも、姉さんが逃げれなくなって―――」

「早く!!」

 

 大声にびくっと怯えるセルジュ。

 不安に揺れる瞳が何度も姉の横顔を見つめるが、やがて決心したのか踵を返して走り出した。

 ここは村のど真ん中。

 不幸中の幸いか、時間帯は夜中。他に外を出歩く者が居ない。

 

「………足が震えますね」

 

 ―――事態は待ってくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 宿。廊下。

 

「ソウさん!!ソウさん!!」

 

 がんがん、と物音が鳴り響く。

 それは一人の少年が扉を躊躇なく叩きつけているせいである。

 少年、セルジュは何度も繰り返すが、一向に部屋の宿泊者が出てくる気配がないことを察した。

 

「………やっぱり、他の人には任せられない………」

 

 セルジュは覚悟を決めたように拳を握りしめた。

 赤の他人である彼に助けを求めるのはこの村にとって、そして何より自分自身の恥だ。

 時間がない。

 現在進行形で姉に命の危機が迫っている。今すぐにでも彼女の元へ向かわないと間に合わないかもしれない。

 

「………っ!」

 

 だが、セルジュには躊躇う理由があった。

 怖いのだ。相手は未知の力を振り翳す。一人でその巣穴に乗り込むなど、絶望しかない。

 膝が震える。汗が全身から滲み出る。

 普段からは想像のつかない出来事。初めての経験にセルジュの思考を染めるのは困惑と恐怖と不安のみ。

 その瞬間、彼女の言葉が脳裏を過る。

 

『大丈夫。貴方はセルジュでしょ?』

 

 彼女の口癖。

 いつも飽きるほど聞かされていた言葉。

 その言葉が今になって不思議にもセルジュの気持ちを楽にさせた。

 

 ーーーバシィン!!

 

 セルジュは頬を手のひらで叩きつけ、気合いを入れた。そこに迷いなど、怯えた彼の姿など存在しない。

 魔導士などいなくても、僕一人だけでも十分だ。あの魔導士の手助けなんていらない。

 セルジュはその扉から離れ、歩いていく。

 

 ーーー目指すは“テンドウ山”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 テンドウ山。山頂。

 

「部下達は辺りの警備に配置。なるほど、あれは難しい作業には向いてないと。なら、俺は先回りしてある程度、邪魔者を排除するだけで十分か」

 

 彼が成そうとするこれは仕事内容に含まれない。

 だが、折角の少年に到来した唯一無二のチャンス。一歩前へ踏み出す覚悟が彼にあるのなら、影からそっと手を差し伸べるぐらい構わないだろう。

 

「頑張れ、勇気ある少年………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1-3 へ続く。

 

 

 




 感想、お待ちしております。


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1-3『老狼の骨』

 早速、色んな反応をいただいて驚いてます。
 ピンからキリまでの評価や一日で沢山のお気に入り数が増加したり、ランキングにも載ってたそうですね。
 ありがとうございます。

 *1-2の最後に書きそびれたシーンを追加しました。

 ―――では、どうぞ。



 ◇◇◇

 

 テンドウ山。洞窟。

 

「何をするんですか!?」

 

 洞窟の中に連行されたシズク。

 あの岩石兵士はその場で暴走する事もなく、シズクを肩に背負っただけ。他に目立った動きは見せなかった。

 村で暴れられても困るので大人しくしていたシズクだったが黙々と何処かへと運ばれていき、やがてテンドウ山の中腹にある洞窟に連れていかれた。

 雑に下ろされたシズクは不器用にキレた。

 

「うるせぇ女だな」

「誰ですか!」

 

 ちゃらちゃらとした強面男が現れる。

 辺りを見渡せば、ここは洞窟内部でも結構な広さを誇る空洞のようだ。いくつも通路へと繋がる穴が確認できる。

 

「てめぇが依頼主だな」

「………」

 

 返答は睨み。

 

「まぁいい。オレ達が静かにしていたにも関わらず邪魔をするってのなら容赦はしねぇ」

「目的は何ですか」

「はぁ?決まってんだろ。この山に眠る財宝だ」

「なっ!?そんな事が許される訳が無いじゃない!!」

「勘違いも程ほどしい。許すもなにも、オレ達は闇のギルド"老狼の骨(ウルフボーン)"。他人に許可を乞うなどという愚かな行為は絶対にしない」

「闇ギルド………!!」

 

 別名、無法者集合地帯。

 評議院から正規の手続きを得て、認可されたギルドとは違うギルド。悪人が集うギルドの象徴とされている。

 今のシズクに"老狼の骨"というギルドがどれ程の規模なのか知る術はない。

 

「今のお前は単なる人質だ。それ以下でも以上でも利用価値はない。覚えておけ」

「くっ………」

「仕事に戻るか」

 

 シズクは悔しく唇を噛む。

 拘束された身の上、ソウにとっては邪魔な存在でしかならない。手助けをする一心で来たのに、逆の羽目になるとは。

 

「起動―――"自動岩人形(ゴーレム)"」

 

 男の詠唱に呼応して地べたの岩が光る。

 岩は段々と眩い光に包まれていく。光が収まれば、そこには岩石の兵士―――ゴーレムが鎮座していた。

 

「そんな………」

 

 はっとして見渡す。

 数えきれない大量のゴーレムが意思を持ったように行動していた。

 通路を見張るゴーレム。荷物を運ぶゴーレム。採掘のみをするゴーレム。

 他に人間は殆ど姿が見えない。男には仲間が居ないのか、他の場所で役目を果たしているかは不明。

 

「………誰かさんのお陰で急ピッチで作業を進める羽目になったからな」

「え?」

「おい!!お前ら!!とっとと回収して引き上げるぞ!!」

 

 ゴーレム達にカツをいれた男。

 最初の呟きの真意は分からない。だが、男自身もキリのない作業に焦りは感じているらしい。

 宝石が眠るとされるテンドウ山。

 だがしかし、発掘するとなれば地盤の固さがどうしても邪魔となり、余分に時間を要してしまう。

 人間で無理ならゴーレムはどうか。

 パワーは桁違いなので、作業スピードは大幅に上がる見込み。男はそれを分かっており、ゴーレムに全てを一任。他のギルドメンバー達は総動員してまで魔導士の行動を警戒していた。

 目立つ行為は避けたいシズクはじっと大人しく時を待つ。

 

 ―――と、そこに。

 

「マスター!!少し良いですか!!」

「おう。何か見つけたか?」

「他とは違った珍しい物が出てきたので是非にと」

「そうか。今行く」

 

 男が空洞から離れる。

 監視の目が外れたシズクであったが、ゴーレムの動向がどうも気にかかる。

 何体かのゴーレムの動きが停止したのだ。

 

「もしかして………複雑な動きだと術者が離れると魔法が発動しない………?」

 

 事実、幾つかのゴーレムは動いたまま。

 いずれも単調に近い命令を実行するばかり。下手に刺激さえしなければ危険性はどれも低い。

 チャンスがあるとするなら今。

 

「縄が………!!ほどきなさい………!!」

 

 無駄にキツくやられた。

 背中に回した手首を縄で何重にも括られたので誰かの助けがないと厳しい。

 

「………さん………!!」

 

 聞き覚えのある声が微かに届く。

 

「姉さん………!!」

「セルジュ………!?どうしてここに………!?」

 

 周りに警戒をしつつ気配を消しながら、シズクの背後にセルジュが現れた。

 

「見張りの人が全然居なくて………すんなり行けた」

「そうじゃなくて………!!何で来たの………!!危ないでしょ………!!」

「―――姉さんこそ危ないよ!!」

 

 弟の滅多にない怒りの顔。

 目にしたシズクは言おうとした言葉に詰まってしまう。

 

「………姉さんまで失うのはもうイヤだ」

 

 セルジュの両親はもう居ない。

 シズク達がまだ小さい頃、街へと出掛けた両親が何らかの事故に巻き込まれて還らぬ人となったから。

 偶発的に発生したその事故は多くの死者を出し、世間でも大きな話題となった。評議院も絡むぐらいに。

 シズクやセルジュ、シオネは事故当初、村で留守番をしていた。幸運にも一命を取り留めと言える。

 だが、前触れもなく両親は居なくなる。父さん、母さんと呼ぶ日は未来永劫来ることが無くなった。

 平穏な日常が一転。

 

 ―――辛い日々が続いた。

 

 村の皆は優しく接してくれた。親代わりに思えるぐらいに親身になってくれる人もいた。村長はずっと家族の一員と言ってくれた。

 シズクは長女として、二人に弱気を見せる訳にはいかない。故にその思いを胸に懸命に頑張り続けた。

 シオネは持ち前の明るい性格が響いた。時折、見せる暗い顔に不穏な空気は感じつつも夢を見つけた彼女に普段通りまで立ち直るに時間はかからなかった。

 

 セルジュだけは―――違った。

 

 セルジュは両親の死と正面からぶつかりに行った。幼いセルジュに勝てる算段はない。結局、以前と比べてセルジュは口数が極端に減った。あまり感情を口にする事も無くなった。

 そして―――魔法を恨むようになった。

 何故なら。事故発生から暫く経過して、事故の原因に何らかの魔法が関与していると判明したからである。

 勿論、魔法は人間の仕業。魔法自体に罪はない。使う者に責任があるとは承知の上。

 だけど、幼いセルジュはその事実を知った時に魔法が両親を奪ったと解釈してしまう。そのまま己の心に呑み込んでしまった。

 

「………大丈夫よ、セルジュ。私は貴方の側から居なくならない」

「うん。警備が薄い今のうちに逃げないと」

「そうね」

「待って。ロープを切るから」

 

 拘束していたロープもほどけた。

 シズクも自由に動けるようになり、後はここから脱出するだけ。

 空洞から小さな通路のような洞窟へ。

 

「Gagaga―――」

「っ!!セルジュ!!」

 

 ゴーレム。徘徊する警備タイプだ。

 シズクは瞬時にセルジュを胸元に抱え込み、身体を壁へと寄せて隠れる。

 じっと身をこらえ、時が過ぎるのを待つ。

 

「………行った?」

「えぇ。にしてもここが何処なのか全く分からないわ。出口の目印があれば良いのだけど………」

 

 ―――ターゲット、ハッケン。

 

「なんで!?」

「っ!!別のやつね!!セルジュ、逃げるわよ!!」

 

 別の個体に感知された。

 シズクはセルジュの手を取り、走り出す。洞窟の構造が分からない以上、分かれ道は適当に決めて進むしかない。

 がしがしと背後から追い掛けて来る音。

 再び捕まってしまうなんて最悪な事態はどうしてと避けたい。

 

 ひたすら逃げたその先は―――

 

「そんな………!!」

 

 広がる空洞が眼前に。

 

「戻ってきたの………?」

 

 見覚えのある景色。ついさっきまで。

 何もない空間に投げ出された二人は小さな絶望にうちひがれる。

 敵は待ってはくれない。ゴーレムが通路から出現した。

 絶体絶命のピンチ。

 シズクはゴーレムと向き合い、セルジュを背に隠した。

 

「姉さん!!」

 

 セルジュが背中越しに訴える。

 だが、二人のピンチはさらに続いてしまう。

 

「残念だったな。こんな事態もあろうかと簡単に逃げられないように通路が袋小路みたいになってんだよ」

 

 強面男も別のゴーレムを配下に従え、登場。

 

「ガキが紛れ込んでじゃねぇか。あんの馬鹿ども。またどっかでやらかしやがった」

 

 軽く舌打ちをした男。

 じりじりと空洞の壁際に追い詰められるシズクに対して、男は不機嫌そうな表情を見せる。

 

「一発軽いお仕置きが必要か」

 

 男は冷静にゴーレムに指令を告げる。

 

「やれ」

 

 シズクの正面に携えるゴーレムが反応。

 人間では一溜まりもない岩石の巨腕をがっつり握り締めて、引き絞る。

 

「セルジュ………ちゃんと私の後ろに居るのよ」

「そんな!!あんなの受けたら姉さんだって、ただじゃすまない………!!」

「大丈夫」

 

 そんな訳がない。

 セルジュは姉の嘘をすぐに見破る。ぶるぶると彼女の足が震えている。

 

 ゴーレムのパンチが発射―――

 

「くっ!!………ごめんなさい!!」

 

 その瞬間。

 弟の謝罪する声と一緒にシズクは自身の身体がふんわりと浮かんだ感覚に捕らわれる。 

 何故か視界も横に向いた。

 数コンマもせずして、地面に身体が激しく打ち付けられる。

 

 ―――セルジュに身体を押された。

 

 そうシズクは理解する。

 だけど、理解しても既に手遅れであって。手を伸ばすにも届くには程遠くて。

 

「―――っ!!」

 

 無慈悲にもゴーレムの攻撃は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1-4 へ続く。




裏設定:魔法『人形兵』

 岩石や石に魔法陣を描き、そこに魔力を注げば、自動的にゴーレムへと変貌させる魔法。
 ゴーレムには簡単な指示などは永続的に働かせる事が出来る。自由自在に操るには、常に近くから魔力を継続して注入する必要がある。

*え?ヒロイン?………まだまだかなぁ。


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1-4『波動の覇者』

 地味にソウの肩書きを
 波動の"勇者"→波動の"覇者"へと変更しました。何となく。



 ◇◇◇

 

 セルジュは恐る恐る目を見開いた。

 

「………ソウ!!」

 

 ゴーレムの巨腕がぴったりと停止。

 目を開けたセルジュの前に立つ一人の青年が片腕でゴーレムを抑えていたのだ。

 

「ここまでよく頑張ったな、セルジュ。姉を庇おうとした心意気は良いけど、俺が来なかったら危なかったぞ」

「う、うん………」

「そんな不安そうな顔するな。大丈夫、ここからは―――」

 

 ―――魔導士()の仕事だ。

 

 そのままソウはゴーレムの腕を衝撃波と共に握り潰した。

 粉々に地面へ散っていく。

 

「て、てめぇ!!」

 

 男が声を荒げた。

 完全に信頼を寄せていたゴーレムが意図もあっさりと片腕をもぎ取られたのだ。

 

「待てよ、おい………こいつが此処にいるって事は、あいつらは………っ!?」

「他の奴等なら全員気絶させたけど」

「くっ!!」

 

 悔しさに唇を噛み締める。

 やはり部下と端くれのゴーレムだけでは彼相手に時間稼ぎにすらならない。

 

「こうなったら!!」

 

 最終手段に移行する。

 ゴーレムは自動人形兵器。多少、損害を受けようが魔力を供給すればまた復製が可能な代物。

 戦況が動かない今、ゴーレムの背から魔力を流した。右腕がまた復活する。

 

 さらに―――魔力を流し込む。

 

 ゴーレムにも魔力の限界量は存在する。

 もしもの話。それ以上魔力を無理にでも流し込んでしまえば―――

 

「な、何だよ!?あれ!!」

「暴走だ。無理矢理魔力を注ぐとああいう風になってしまう」

 

 限界を超えさせる。

 例え、魔力の主でも制御するのは困難の所業だ。

 

「ふはははは!!こうなれば流石の波動野郎もどうすることは出来まい!!」

 

 ゴーレムの頭から蒸気が漏れる。

 がっつりと怒っていらっしゃるご様子。しかも場所が空洞内ともあり、最悪の展開では洞窟の崩壊もあり得る。

 敵か味方か。分別する機能も既に消失したゴーレムは見境なく攻撃を開始する。

 真っ先に目を付けられたのは一番ゴーレムに至近距離にいた強面男。

 

「ぐはっ………!!」

 

 自らの魔法に攻撃を貰ってしまう。

 ゴーレムの素早い拳のストレートに強面男は成すすべなく身体ごと纏めて吹き飛ばされた。

 空洞の壁まで届いた威力は計り知れない。

 

「Gagagaga………!!」

 

 謎の音声を上げるゴーレム。

 むやみやたらに巨腕をぶんぶんと振り回すその姿にセルジュは不安が募っていく。

 

 ―――あんなのに勝てるのだろうか、と。

 

「ソ、ソウ………!!」

 

 唯一の希望。魔導士のソウ。

 地面に両膝を着いたセルジュが目撃したのはゴーレムに勇敢にも臆することなく歩いていく彼の後ろ姿であった。

 

「セルジュ」

 

 ソウは背にいる者に向けて問う。

 

「君は何の為に、何に心を動かされて、この場に来た?」

「何の為………」

「分からないんなら、そのままで良い。気持ちの整理なんてもんは後から幾らでも出来る。でも、これだけは覚えておけ」

 

 ―――魔法は毒でもあり薬だ。

 

「っ!?」

「セルジュが過去に魔法に関して何があったのか………俺は知らない。唯一、言えるのは俺の持つ魔法を含め、世界にはまだまだ数えきれない程の魔法が存在するってことだけ」

 

 また一歩。ソウはゴーレムに近づく。

 

「その中には必ずセルジュも好きになれるような魔法もあるはず。人の命を奪う事もあれば、逆に人の命を救うのも魔法の力。無理にとは言わないが、魔法なんて大嫌いとか悲しい事は言わないでくれ」

 

 ゴーレムがソウを害ある敵と認識。

 

「セルジュ、最後まで見てるんだ。今から見せるこれが俺が使う魔法の本来の姿であり、そして―――」

 

 ―――しがない魔導士によるプライドの象徴だ。

 

「波動式一番」

 

 ゴーレムが真っ直ぐに拳を突き刺す。

 対して、彼もそのゴーレムに比べれば細い腕を、小さな拳を握り締め、無謀にも立ち向かった。

 

 刹那―――二つの拳が衝突。

 

「"波動拳"」

 

 ドクン。

 

 ゴーレム全身に何かが突き通る。

 訪れた空白の無の時間。お互いに動く気配を見せない。

 

 ―――ピキッ。

 

 響くは亀裂の走る音。

 ゴーレムの拳に音の根元が発生した。

 

 ―――ピキッ、ピキ。

 

 より深く亀裂が加わる。

 ゴーレムの拳から腕へと、やがては胸部に伝わっていき、ついには頭部にも亀裂が達してしまう。

 

「Gagagaga!!」

 

 ゴーレム本体も恐怖を覚えたかのような様子で断末魔を上げだした。

 全身に駆け巡る亀裂を防ぐ手段はゴーレムに存在せず。ただその瞬間をゆっくりと待つだけの存在。

 

「Ga………ga………」

 

 身体の維持が困難と成り果てたゴーレムはやがて、ついに―――

 

 ―――粉々に力尽きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 テンドウ村。

 

「本当に………ありがとうございました」

 

 事の顛末もすぐに収束。

 闇ギルド"老狼の骨"に所属していた魔導士はマスターの男を含め、評議院に引き渡す形で事件は幕を閉じた。

 シズクはソウの魔法による帰りの案内で洞窟を歩いていた時にも壁際に倒れかかる沢山の魔導士らしき者達を大勢見かけた。

 これら全員が彼による仕業なのは状況証拠から見ても明らか。一人で彼は闇ギルド一つを壊滅へと仕立て上げてしまった。

 

「セルジュの事もありがとうございます」

「怪我がなくて良かったよ」

「いえ、それも勿論あるんですが………私の元まで来る間もソウさんがセルジュの安全を見守ってくださった事も含め………」

「はは………そっか。分かってたか………」

 

 偶然に近い形でシズクは気付いた。

 今回評価院に運ばれた魔導士は驚く事に三桁を越えた。なのに、セルジュは易々と潜入をしてみせた。

 普通ならあり得ない。

 だが、もしも。何者かがセルジュの行動を先読みし、誘導していたとなれば話は変わってくるのではなかろうか。

 さらに、シズクにはそれを可能とする人物を知っていた。

 

 彼には―――感謝しか言葉が出ない。

 

「それと報酬の件ですが………」

 

 勿論、これは依頼。

 彼の働きの対価として報酬が生まれるのは当たり前だ。

 シズクは封筒を一つ取り出す。

 

「あ、いいよ、別に」

「へ?」

「昨日起きた被害も多少あるだろうし、村の復興にでもそれは使ってくれ」

「で、ですが!!」

「こっちも訳有りでね。報酬は別のとこから貰える手筈だから心配しなくても良いよ」

「私達の気持ちでもあります!是非ソウさんに使って頂きたいのです………!!」

 

 ソウの説得。それでもシズクは粘る。

 

「なら、そうだな………来年こそは祭り、ちゃんと観に来るから。その時にシズクさんにでも歓迎でもしてもらえたら、それで俺は満足しちゃうな」

「は、はい!お待ちしております!」

 

 ソウの提案。それでようやく二人が納得した形で落ち着いた。

 その後、二人は二言、三言会話を交わせば、ソウは帰りの支度を始める。

 

「んじゃ、俺はもう行くから」

「もう………ですか」

 

 ソウは軽々とリュックを肩にかける。

 と、リュックからぴょこっと黄色い謎の耳の生えた生物がいきなり顔を出した。

 

「ひゃっ!?」

 

 シズクが堪らず悲鳴を溢しそうになる。

 

「ね、猫………!?」

「私?"レモン"って名前だよ?」

「しゃ、喋った!!」

「え~?そこに興味いっちゃうの~」

 

 ソウの連れ添い。

 ぶーと不貞腐れるレモンだが、ソウは完全に無視。

 

「シズクさん?セルジュとシオネにもよろしく言っておいてください」

「わ、分かりました………よく見たら可愛い………」

「ホントに分かってるのかな?」

 

 視線はぴょこぴょこ動くレモンの耳。

 

「それじゃ」

「ばいばーい!!」

 

 ソウは村の門へと歩き出す。

 レモンが無邪気に手を降って、別れの挨拶をすれば、シズクは頭を下げてそれに答える。

 

 村から離れて―――数分後。

 

「ねぇソウ~」

「ん?何だ?」

「さっきの村の依頼って出発前に受けてきたっけ?報酬も別の宛があるって初耳だよ~」

 

 ソウの足が止まる。

 

「残念だな、レモン。依頼だなんてもんは初めから()()()()()。報酬なんちゃらも全部嘘。一晩だけ村に泊まろうと入ったら、何か勘違いされたっぽくてさ。妖精の尻尾の依頼だったから、ついいつもの癖で。報酬金も正規の手続き踏んでないから貰えないし流石に遠慮した」

「えぇ~。良いの~?それ~?」

「まぁ………どうせこのままギルドに帰るだけだ。もし誰かが正式に依頼を受諾しても行き違いになると思うから、平気平気」

「だと良いんだけどね~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 テンドウ村。

 

「依頼………ですか?」

 

 村の入口となる門付近にシズクはいた。

 彼女の側には数人グループで来訪した旅人と思わしき人物が見受けられる。

 答えたのは、その内の一人。

 

「あぁ。そのはずなんだが」

「え………ですが………」

 

 鎧に身を包んだ彼女の雰囲気にシズクも少し遠慮がちになってしまった。

 

 彼女の名前は―――“エルザ”。

 

「ん?違うのか?」

「いえ………合ってるんですけど………」

 

 歯切れの悪い返事にエルザも気付く。

 が、それより先にまた別の人物が会話へと入り込んできた。

 マフラーをした桜色の髪の少年だ。

 

「エルザ。まだか~?」

「ちょっと待て、ナツ」

「へーい」

 

 ナツはとぼとぼ、と歩いていった。

 

「なにかあったのか?」

 

 と、さらにまた別の少年が顔を出す。

 

「グレイ、服を着ろ」

「おっ!?」

 

 上半身裸の少年―――"グレイ"。

 

 自覚がなかったのか、エルザの指摘でようやく気づいた素振りを見せる。

 シズクはそっと視線を外す。

 

「エルザさん………でよろしいでしょうか?」

「あぁ、そうだ」

「依頼の件なんですけど………」

 

 エルザを筆頭とする一行がこの村を訪れたのは依頼を承けたためである。つまり、彼女達は正規ギルドに属する魔導士であるのだ。

 本来であれば、すんなりとテンドウ村へと通してもらえる手筈であったのだがどうしてかシズクに止められているのが現状である。

 だが、肝心の依頼はというとーーー

 

「もう既に完遂されてます」

「ん?」

 

 エルザは首を傾げる。

 

「依頼を受けたのは一昨日のはずなのだが早すぎないか?」

「昨日の昼前頃に一人のお方がお訪ねになられまして………」

「何?」

 

 どういうことだ、とエルザの思考が固まる。本来であれば、自分達が果たす依頼を既に何者かによって果たされていたのだ。

 

「そいつは“妖精の尻尾”の魔導士か?」

「はい。本人もそう言っていました」

 

 成りすまし。

 エルザが考えついた結論はそれだった。が、シズク本人からはどうも信用をその人に寄せているようでまだはっきりとは疑わしい。

 

「どういう姿をしてたか、分かるか?」

「えー………青年のお方でリュックサックを背負っていました」

「………」

 

 エルザは黙りこむ。

 そこに鍵を腰に着けた一人の少女がエルザの隣へと立つ。

 

「そんな人っていたかしら?」

「ルーシィも分からないのか」

 

 彼女の名前は“ルーシィ”。

 ルーシィは後ろへと振り向くと、誰かを呼ぶかのように声を大きく張り上げる。

 

「ウェンディ~~!!」

「ーーーあ、はい!!」

 

 少しの間の後、少女の返事が聞こえた。

 やがて、走ってきたのは青髪を持つまだ幼げが目立つ少女。

 

「リュックサックを持つ妖精の尻尾の魔導士って誰か居たかしら?」

「えっ~と………特に思い浮かばないです」

「そうよね」

「そうですか………」

 

 ウェンディの返答にルーシィは何度も頷く。

 自然とシズクの視線が落ちたかと思えばそこに。

 

「なによ」

 

 白猫がいた。目があった。

 その瞬間、シズクの脳内が閃光を走ったようにある重大なことを思い出す。

 

「あっ!!あの方も猫のようなのを引き連れていました!!」

「………ふん」

 

 それに反応したのはエルザ。

 

「ーーーまさかっ!?」

「えっ!?」

「えっ!?」

 

 ウェンディとルーシィの視線がエルザへと集まる。

 

「まさか………名前は“ソウ”………ではないか?」

「あ………はい………そうですけど」

 

 シズクの返答にエルザは、そうかそうか、と満足そうな笑みを浮かべる。対するウェンディ、ルーシィの二人は疑問を浮かべたまま、ぴーんと来ていない。

 地べたで不機嫌そうな白猫“シャルル”は一連の流れを眺めて、その時思った。

 

 ーーー初めから名前を聞きなさいよ、と。

 

「ナツ!!グレイ!!今すぐギルドに戻るぞ!!」

 

 エルザの号令。

 離れたところではちょうどナツとグレイが互いの頬を捻りあっていた所だ。

 一瞬で解除、整列し直す。

 グレイのふとした疑問。

 

「なんでだ、エルザ!?」

「ソウが近くまで帰ってきている!!マスターに報告しに行くぞ!!」

「何っ!!マジか!!よっしゃぁぁぁぁああ!!」

 

 ナツの雄叫びが火気を帯びる。

 ナツとグレイの二人は知っているようだ。

 

「ねぇ、レモンも帰ってくるの?」

「きっとそうじゃねぇか?ハッピー、ギルドに戻るぞ!!」

「あいあいさー!!」

 

 どこからか飛んできた翼の生えた青猫がナツの側へと来たかと思えば、彼と共に何処かへと走り出してしまった。

 一瞬で近くの森林へと突入し、姿を見失う。

 

「ウェンディは知ってるの?」

 

 一部始終を見たルーシィは隣の彼女へと問う。ルーシィには心当たりがないのだ。

 

「………」

「ウェンディ?」

 

 だが、返事がない。

 ルーシィがふと見ると、ウェンディはまるで時間の止まった人形のようにピッタリと静止していた。

 

「………お兄ちゃん」

「えっ?」

 

 よく聞き取れなかったルーシィ。

 エルザも異変に気付いたのか、こちらへと歩いてきた。

 

「ウェンディ、体調でも悪いのか?」

「いえ………」

「えっ!?ちょっと!?泣いてるわよ、ウェンディ!!」

「えっ!?あっ………すみません」

 

 溢れてきた彼女の涙。

 ただ事ではないことは確かである、とウェンディを見守る二人は感じとる。

 エルザが優しく尋ねる。

 

「ソウ………と何か関係あるのか?」

 

 頷く。肯定。

 

「理由を聞いても………いい?」

「はい………この際なので、話します」

 

 ウェンディはゆっくりと話す。

 

「そのソウって人………」

 

 ーーー私の兄かもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -1- 完

 




*プロローグ?的なのはこれで終了です。
 次回からはソウのさらなる活躍とヒロインの登場予定です。


裏設定:ソウの意図
 魔法により、自然とセルジュが魔法にトラウマがありつつも克服しようとしようしていると知ったソウはバレないようにセルジュに助力をしていた。
 セルジュの敵地潜入があっさりいけたのもソウが既に敵どもの整地が終わった直後の時であったからだ。



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2-1『竜の兄妹』

 なんか感想の形式、変わりました………?



 ◇◇◇

 

 ―――波動の覇者。

 

「それが世間一般から言われてるソウの肩書きだよ!」

 

 帰り道の道中。馬車の中。

 ナツ達一行はウェンディの事情にも気をかけつつ、彼女の知らないであろうソウに関する情報の開示をしていく。

 ハッピーはどや顔だ。

 

「ねぇねぇハッピー、なんでそんな二つ名が付いたの?」

 

 ルーシィは単直に尋ねる。

 同じギルド"妖精の尻尾"に所属するルーシィは云わば、新人の部類に入る。古参の魔導士に関しては初耳ばかり。

 ついこの前、帰郷した"ギルダーツ"然り。ルーシィは妖精の尻尾についてはまだまだ自分の知らない事だらけだと思い知らされていた。

 

「それは………いっつもソウが敵をボッコボコにしちゃうから!」

「え?そんなに狂暴な人なの!?」

 

 ナツ以上の狂気的な性格。

 想像するだけでも武者震いをしてしまう。しかも魔導士としての能力はどうやらナツ以上。

 

 ………大丈夫だろうか、"妖精の尻尾"。

 

「ハッピー、そんな言い方だと少々語弊が生じてしまう」

「そうかな?」

「そうだ。敵対した者は完膚なきまでに叩きのめす。一切躊躇すらする素振りはなく、その為の手段は敵からすれば絶望としか感じられない物しか選ばない」

「語弊があった方が良かったな~………」

「心配するな、ルーシィ。軽い冗談だ」

 

 エルザが会話に参戦。ハッピーから説明の任を奪い取る。

 

「そうだな。まず、前提として覚えておくといい。ソウは私と同じS級魔導士だ」

「S級………!!」

 

 妖精の尻尾の魔導士の中から選ばし者だけが背負える称号。

 実力は折り紙付き。自分の魔法ですら未だに手子摺るルーシィとは程遠い存在だ。

 因みにエルザもまた、その称号を背負う魔導士である。

 

「しかも最年少で合格したんだぜ」

「昔からソウはめちゃくちゃ強ぇからな!………うぷっ」

 

 グレイとナツが同意する。

 ナツに至っては乗り物酔いで瀕死なのにしゃしゃり出てきた。

 

「私が試験に合格するその前の年にソウは晴れてS級魔導士に昇格した。しかも一発合格という快挙も一緒にな」

「そんな人がギルドに………」

「ソウはとても寛大な心で事を成し遂げる。でも、同時にソウの禁忌に易々と触れてしまえば、そいつの命は無事では済まされないだろう」

「うわぁ………」

 

 ルーシィがぶるぶると震え上がる。

 

「想像が全く出来ない………」

「確か、数年前だったか。一度、彼が暴走しかける事件があった」

「あ~………あったな。あれか~」

「え?何?」

「街が一晩で崩壊寸前まで追い込まれた。当時の小さい少年、たった一人に」

「崩壊………?」

「そうだ。幸運にもギルダーツのお陰で最悪の事態だけは免れたが、その頃から強さの片鱗は出ていたと言える」

「よくそんな危険人物をギルドに入れてるわね。聞いてる限りだと録な印象ないわよ、その人」

 

 馬車の後方にいるシャルルが苦言を唱える。

 

「………お兄ちゃんはそんな人じゃありません」

「ウェンディ?」

 

 ルーシィがそっと振り返る。

 ぼそっと呟いたウェンディの表情は俯いているお陰で確認できない。

 

「ウェンディの言うとおり、ソウも今では立派な魔導士の一員だぞ?今、ソウがギルドを留守にしてるのも、十年クエストをこなす為だしな」

「十年クエストって………十年経っても誰もクリア出来なかったクエストだったよね?」

「あい!ソウが最近、ギルドに帰ってきたのはルーシィが入るちょっと前の話だよ!」

「あれ?って事はクエストの難易度の割にあっさりと帰ってきちゃった?嘘ぉ………」

「ソウの前には十年クエストも敵ではない、と言うことだな」

 

 エルザが誇りに言う理由が少し分かる。

 極悪難易度のクエスト。本来は数年単位でクリアが当たり前のそれを一年もかけずに成し遂げて、帰還する。

 魔導士としての実力がヤバいとしか………。

 

「それでだ、ウェンディ。ここまでの話を聞いた限りではどうだ?」

「はい………私の覚えてる記憶と明確な違いは今のところ確認出来てないです………」

 

 ソウに関する話題。

 これら全てはウェンディの探し人との共通点があるかどうかの確認作業でもあった。

 もしかしたら、只の勘違いだったなんて結末もゼロではない。

 

「やっぱり、ソウがウェンディの兄って話はホントなんだろうな」

「マジか。オレ、一度も聞いたことがねぇ………うぷっ」

 

 仲間であるナツやグレイですら初耳だ。

 

「マスターなら知っているかもしれん。ソウ本人の現在地が分からない今、ギルドに戻って話の真相を直接確かめるのが最善だ」

「はい………」

 

 元気がないウェンディ。

 

「ウェンディ?顔色悪そうだけど、大丈夫?」

「シャルル………うん、平気」

「本当に大丈夫なの?ウェンディ」

「ルーシィさん………心配してくれてありがとうございます。どちらかと言うと緊張してるだけなので………」

「緊張?なんで?」

「その………久しぶりに会えるかもしれないって考えたら、どんな話をすれば良いのか分からなくて………」

「純情な乙女!」

「うぅ~………」

 

 ぽっこりと赤く染まる両頬。

 

「そうよね~。生き別れた兄と運命の再開だもんね~。色々と考えちゃうのも無理ないよね~」

「あの………ルーシィさん………?」

「くぅ!羨ましい!」

 

 理想まで夢見た展開。

 作家の一面も持つルーシィにとって、この兄妹の織り成す物語は是非とも執筆活動に参考させて頂きたい。

 シャルルは冷ややかな目線をルーシィに浴びせつつ、ウェンディに質問する。

 

「後、ウェンディが彼に関して覚えてるものは何かあるかしら?」

「魔法………でしょうか?」

 

 全員の視線がエルザに。

 

「何故、私を見る。ソウの魔法?ナツと同じ滅竜魔法の使い手だ」

「え!?滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)!?」

「驚きすぎだよ、ルーシィ」

「あのね!!ハッピー!!これを驚かないだなんていられない衝撃的な事実なのよ!!あっ………でも、ウェンディも滅竜魔導士なのよね。二人が兄妹だとしたら不思議でもない………むしろ、納得する案件では………」

「ルーシィさん。あの………お兄ちゃんとは実の兄妹ではないです………」

「えっ!?違うの!?」

「はい」

 

 偶然の産物とウェンディは言う。

 兄妹の誓いを交わしたその日からウェンディは兄と慕うようになったという。

 滅竜魔法は伝説の生物、ドラゴンから直々に教わる事でしか入手出来ない貴重な魔法の一つ。

 妖精の尻尾にもナツやガジル、ウェンディ。世代は違えどラクサスなど使える魔導士は存在する。

 同じ滅竜魔法の担い手が義理の兄妹となる可能性は奇跡に近いとされる天文学的な数字だ。

 

「ソウの魔法の性質は"波"。波に関するのであれば、あらゆる操作が可能となる」

「具体的には何があるのかしら?」

「本人がよく使うのは衝撃波としてその魔力を放つ方法。シンプルな魔法だが、その分、威力も計り知れない」

「全部をぶっ壊すあの破壊力は正直、本物だ」

「あれ?ギルダーツと魔法が似ている気がしなくもない………?」

 

 ギルダーツ。

 妖精の尻尾に所属する魔導士の一人。見た目、三十代の男性であり、妖精の尻尾最強候補の最有力魔導士としてその名が上がる程の実力者。

 彼の魔法は"崩壊"。手に触れる物、全てを粉々に崩壊させるチート並の魔法の使い手。

 

「ルーシィの言いたい事は分かる。だからだろうな。実際、私はよくソウが子供の頃にギルダーツから魔法の制御の仕方を教えてもらっていた光景を目にしていた。二人の関係は云わば、師弟関係に近いだろう」

「へぇ………」

「話を戻そう。衝撃波以外にもソウの魔法は色んな方面に応用が効く。探知魔法として状況把握の為のエコー代わり。勿論、音も拾える。他には魔導士の魔力感知や挙げ句の果てには、触れた物を瞬時に衝撃で吹き飛ばす罠の設置も自在に使いこなす」

「ソウは一人で何でもこなしちゃうのです!!」

「便利ってレベルじゃないわね………」

 

 使用範囲は主に戦闘に捜索、情報収集。

 魔法はどれか一つの能力に特化するタイプが多い。ナツだと炎の攻撃特化。グレイも攻撃に関しては応用が適用されるが、あくまで攻撃だけに収まってしまう。

 ソウの魔法は例外だろう。

 本来、探知魔法と攻撃魔法は別々。それを同時に操れるだけでも十分な規格外だと計り知れる。

 

「ソウの話もここまでか。もうすぐマグノリアに着く」

 

 エルザの視線の先。

 妖精の尻尾ギルドの本拠地"マグノリア"は目前であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 妖精の尻尾、ギルド。

 

「ソウ君?まだ帰ってきてない筈だけど………」

 

 ミラの返答にルーシィは困り顔。

 ギルドに帰還したルーシィ一行は予定では同じく既に帰還している予定のソウを各自で探す事になった。

 エルザやナツは彼の家へ。

 グレイは彼のよく訪れる場所へ。

 ルーシィとウェンディ、シャルルはギルドの中で情報収集に励む。

 

「それよりも、ルーシィ、ソウ君の事を知ってたわね。あまりギルドには帰ってこないから知ってる人も限られてくるというのに」

「それはですね。エルザから聞いたというか……聞かざるを得なかったというか………」

「ふふふ、もしソウ君が帰ってきたらすぐに分かるわよ」

「どうしてです?」

「ギルダーツの時と同じよ。街一体に鐘が鳴り響いて―――」

 

 ―――ボーン………ボーン………ボーン。

 

「ほら、丁度こんな風に………あら?」

「来た!!」

 

 鐘の知らせが耳に届く。

 ギルドの中でのんびりしていた他の者もまた鐘の音に気付き、立ち上がる。

 

「ソウが帰ってきたぞ!!」

 

 一気に辺りが騒がしくなる。

 次には全員揃ってギルドの扉へと駆け寄った。

 ミラはギルダーツと同じと言っていた。

 なら、とルーシィは周りの者と同じくギルドから外へと飛び出る。

 

「相変わらず無駄に凄い………」

 

 ルーシィの目に移るのは異様な光景。

 街全体が幾つかに分裂し、様々な区域に強制的に分けられ、また再構築されていく。

 完成した時には街の出口から一直線にギルドに来れる巨大な道が形成されていた。無駄な労力。

 

 そして―――遥か向こうに人影あり。

 

「あれが………ソウ………」

 

 ルーシィが感動している、次の瞬間に―――

 

「と、跳んだ………!!」

 

 ルーシィは顔を上げる。ソウの姿を追うには目線だけ上げても無理なぐらいに高く飛翔したのだ。

 小さな点もすぐに等身大に。

 気付けば、遥か向こうにいたソウが目視で顔を確認できる程に距離を詰めていた。

 ローブを着こなす彼はあっさりと着地。ギルドの入り口まで来ると軽く微笑む。

 

「一同揃って大歓迎とは………それに珍しい………」

「皆、お前の帰りを待っていたんだ。それくらい許してやってくれ」

「そっか。好きにしたらいいさ。マスターは中に?」

「あぁ」

 

 エルザと二三言交わした彼。

 そのまま横を通り過ぎて、ギルドの中へと入っていく。

 遠目からしか見えなかったルーシィも念のために同じく外にいたウェンディの姿を探して合流する。

 

「ウェンディ、どうだった?」

「はい。間違いありません。姿や声は昔と変わってますが………匂いは私の覚えてる匂いです」

「どうする?直接、話してみる?」

「………」

 

 本人で間違いはない。

 問題があるとすれば、ソウ本人がウェンディを覚えていいるかだけだが。

 ウェンディには拒絶される恐怖、大切な人を失う恐怖を味わった過去がある。

 もしかしたら、二の舞になるかもしれない。そんな少しの可能性のせいで気持ちに迷いが生じてしまった。

 

「………行きます」

 

 それでも、決意を固めたウェンディ。

 ルーシィは彼女の勇気ある判断を無下にしたくない思いで行動に移る。

 久しぶりのソウのギルドへの帰還に他の魔導士達が盛り上がり、喧騒が溢れる合間をルーシィはウェンディの腕を握りながら先導する。

 ギルドの奥。バーのカウンターで彼はマスターであるマカロフと話していた。

 

「―――よくぞ帰ってきた。しばらくはゆっくりしていくと良い」

「では、お言葉に甘えて。しばらくは休息を取ることにします」

 

 タイミング良く会話が終了。

 マスターの元から離れたその瞬間。ここぞとばかりにルーシィは詰め寄った。

 

「あの~、ちょっと良いですか~?」

「ん?………新人さんかな?」

「は、はい!ルーシィと言います!星霊魔法を使います!」

「星霊か。なかなか癖のある魔法を使うんだな。こっちこそ、よろしく。"ソウ・エンペルタント"だ」

 

 握手を求められた。

 がっつりとルーシィはソウの掌を握り締めながら、思う。

 

 ―――聞いた話と全然違うではないか、と。

 

 何がナツより凶暴だ。

 むしろ、真反対。こんな丁寧に挨拶をする魔導士など妖精の尻尾ではほぼ居ない。

 

「それとそっちは………」

 

 ソウの視線はルーシィの背後。

 ようやくウェンディは恩人であり、義理の兄となる人物と再会する。

 

「あ、あの………!!」

 

 その一部始終を今、ルーシィは目撃―――

 

()()()()()、可愛い竜のお嬢ちゃん。よろしく頼むよ」

「「―――っ!!」」

 

 ―――する筈だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2-2 へ続く。

 




*ごめんね、ウェンディ………こんなはずじゃ!
 (↑犯人はこいつです)


裏設定:ソウの帰宅タイミング
 リメイク前はエドラス編前。
 今回では天狼島編前辺りに変更となった。理由としては単純にエドラス編でソウが活躍する場面は執筆するほど対した場面ではないか………はい、めんどくさかったからです。
 と、同時にリメイク前はすんなりいけた兄妹の再会もあえて今回はややこしい展開に持っていきます。無事に終われるかどうかは分かりません!



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2-2『記憶の匂い』

前回までのあらすじ:
 妖精の尻尾に久しぶりに帰還した魔導士のソウ。すると、最近入ったばかりの新人魔導士であるウェンディと兄妹関係にあるという事実が本人の口から判明した。
 兄であるソウから直接、その真偽を確かめようとすれば、彼から再会を数年ぶりに交わしたウェンディにかけた言葉は驚くことに初めての挨拶であった。



 ◇◇◇

 

 これはまだ私が小さい頃の話。

 

『ここどこ?………グランディーネ?どこ行ったの?』

 

 グランディーネが姿を眩ましたその日。

 私は森林の道端で泣きじゃくっていた。唐突に訪れた孤独な寂しさに耐えきれなくなったから。

 足音に気付いた私は目を擦り、ふと前を見てみると誰かと視線が合う。

 

『誰?』

『わ、私………!!』

 

 私より少し年上の男の子。

 男の子は私を識別したい様子でじっとこちらを見つめてくる。

 青みがかった黒髪に綺麗な黒の瞳。

 腰に括り付けたローブに背負う荷物から私は旅の人だと察するまで、時間はかからなかった。

 

『ここは危ない。早くこの森から抜け出した方が良い』

『で、でも私………帰る場所がなくて………』

『………俺もない』

『え?』

 

 聞き返してしまった。

 と、男の子はその真意を語るつもりは全くないらしい。

 既に半分、その場を後にしている。

 

『俺、急いでるから。また』

『え?え?………まっ、待って!!』

 

 置いていかれるのだけはもう嫌だ。

 どんどん離れていく男の子に私は何振り構わず追い掛けていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 ―――数分後。

 

『その子………どうしたの?』

 

 森を抜けた先では別の男の子が待っていた。

 青髪に左目には赤い傷のような模様が入ったその男の子は彼の背中に隠れるようにして覗き見る私に不思議そうに首を傾げていた。

 

『知らない。勝手に付いてきた』

『付いてきたって………本当にどうするつもりなのさ』

『置いてくのも可哀想』

 

 私が追い掛けた男の子は私が後ろに付いても気にせず、道中に一目背後を確認するだけでそれから何を言わずに、黙々と歩いていった。

 てっきり、許可が降りたものかと。

 

『はぁ。ソウらしいね………僕の名前はジェラール。それとこの素っ気ないのがソウだよ』

『紹介の仕方が不満しかない』

『基本的に無視で良いから。君の名前は?』

『………ウェンディ』

『ウェンディ。良い名前だね。ウェンディはなんでソウに付いてきたのかな?』

『それは……うぅ、グランディーネ……うぇぇん~』

『泣かした。ジェラールが泣かした』

『今のは僕のせいかな!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 ―――二週間後。

 

『そっか。君の親はドラゴン………なんだ』

『うん。でも、もうグランディーネには会えない………』

 

 ―――雨の日。

 

 ジェラールが食材を探しに出掛けた間、私とソウは木の根元で雨宿りをしていた。

 

『俺も昔、ドラゴンに育てられた』

『え?それって………私と同じ?』

『同じ』

『嬉しい!一緒だね!』

『待たせたかな?二人とも』

『あっ、ジェラール!!』

『ご苦労。さぁ出せ』

『偉そうなソウにはあげないから。ほら、ウェンディ、良いものあったよ』

『わぁ~美味しそう~』

『………無念』

 

 ―――時には、湖の畔で。

 

『ソウ!!今だ!!』

『ひゃあ!?大きい魚!!』

『………今晩のご飯は豪華になるな。どっかーん』

『バカ!!やりすぎだ!!』

『ビシャビシャです………』

『すまん』

 

 ―――時には、ジャングルで。

 

『これ、食べられるの?』

『だ、ダメ!!それ毒あるから絶対にダーメ!!』

『なら、ウェンディ、これは?』

『これは………大丈夫!!』

『だそうだ、ソウ。参ったか』

『なんでことあるごとに毎回勝負を仕掛けてくる、ジェラール』

 

 あっという間の毎日だった。

 

『アニマ!?』

『どれ?』

 

 旅の最中にたまに私には分からない会話を二人がすることもあった。

 それが前触れだったかもしれない。

 

 ―――嵐の夜。

 

『どうして………?もっとジェラールとソウと色んな場所に行きたいよ………グランディーネを探してよ………』

『ごめん、ウェンディ』

『置いてかないで………!!私を一人にしないでよ………!!』

『俺とウェンディは常に一心同体だ』

『ふぇ?』

『だから………俺がどれほど遠くに離れても、ウェンディの心と俺の心はいつも一緒』

『私とソウがいつも一緒………?』

『うん。俺とウェンディは()()

『家族?ソウは私のお兄ちゃん?』

『俺はウェンディのお兄ちゃんだ』

『うん』

『待っててくれ、ウェンディ。必ず、兄は妹の元へ駆け付ける。いつになるかは分からないけど………必ず』

『分かった。お兄ちゃんが帰ってくるまでずっと待ってる………』

『ありがとう、ウェンディ………ジェラール、頼む』

『分かった』

『………お兄……ちゃん………』

『ホントに良いのかい?本来、ソウが僕に付き添う必要はないのに』

『元々、乗り掛かったオンボロの船。ちゃんとやり遂げて、全部を終わらせたい』

 

 こうして、私はギルド"化け猫の宿(ケットシェルター)"に預けられた。

 あの日以来、二人の音沙汰は無い。ギルドの皆と過ごす毎日が続き、シャルルとの出会いも果たした。

 

 転機は―――"六魔将軍(オラシオン・セイス)"

 

 詳細は省くがその一件で私は消滅してしまった"化け猫の宿"から新たに"妖精の尻尾"へと所属を移すことになる。

 運命はきっと繋がっている。

 私が新たに入った妖精の尻尾にはあの時に約束を交わした彼の姿があったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 妖精の尻尾ギルド。

 

()()()()()、可愛い竜のお嬢ちゃん。よろしく頼むよ」

 

 彼はそう言った。

 嘘偽りのない彼の仕草にルーシィは戸惑いが隠せない程の驚きを露にする。

 

 そして、ウェンディは―――

 

「あ………あ………」

 

 はっきり開かれた目。機能を失ったように漏れる声に目筋に涙が浮かんでいく。

 彼女にしか分からない感情。兄だと思っていた人から、いざ再会すれば初対面として対処された時の感情。

 

「うん?何か変な事言った?」

「竜の何とかってのが原因じゃな~い?」

 

 ぴょこっと顔を出すのは黄色いエクシード"レモン"。

 ふわぁと欠伸を溢したレモンはソウの挨拶に問題があったと指摘していた。

 

「匂いで何となく分かるよ。彼女が俺と同じ滅竜魔導士ってのは」

「は、はい………」

「ほらみろよ、レモン。正解やったぞ」

 

 どうだと言わんばかりのソウの態度。

 ルーシィはウェンディとの関係の真偽を直接確かようと勇敢にも向かっていく。

 

「あの、ソウ!!覚えてない!?"ウェンディ"の事!!」

「ウェンディ………?」

 

 口元に手を当てて考え始めたソウ。

 

「いや………覚えて()()

「なっ!?」

「俺が過去に受けた依頼繋がりとかで会ったとか、そういうのかな?」

「ううん!!そうじゃなくて!!昔、ソウが妖精の尻尾に入る前に―――」

「ルーシィさん」

「………ウ、ウェンディ?」

「もう良いんです。すみません、こちらの人違いのようでした」

「あ、そうなの?」

 

 ウェンディは彼に一礼。

 そして、そのまま身体を反転させて走り出してしまう。

 きらりと溢れた小さな滴と共に。

 

「行っちゃったよ~?良いの~?」

 

 誰も返事はしなかった。

 変な空気が流れる現場。その沈黙に重い空気を破ったのは先程までの一部始終を見守っていた白い猫―――シャルルである。

 

「ちょっと良いかしら」

「あっ、ハッピーと同じ猫だ~」

「アンタもよ!!………話がそれたわね。私の名前は"シャルル"。別に覚えなくてもいいわ」

「え?私~?レモンだよ~」

「だから!!アンタに聞いてない………!!」

 

 こほん、と咳を入れるシャルル。

 

「ソウ。アンタ、本当にウェンディのこと覚えてないの?」

「………」

「そ、分かったわ。兎も角、ウェンディを泣かせるような真似なんてしたら絶対に許さないから。例え、私よりもどれだけ強かろうが関係ない。私にとってはウェンディは大切な親友なの。ウェンディはアンタに対して特別な思いを抱いているのだからそれ相応のやり方でやって頂戴」

「あれれ~?いきなり好き勝手に言うね~?ソウだって好きで家族の誰かを泣かせるなんて事はしないよ~」

「アンタには関係無いわ。私は今、こいつと話してるの」

「なにを~?」

 

 バチバチと散る猫の火花。

 黄色と白色。互いに譲れぬ思いを抱いている。簡単には後に引けない。

 

「レモン。敵意が剥き出しだ。引っ込めろ」

「えぇ~?でも、ソウ~。初めて会ったのに失礼な事言われたら流石に私でと怒っちゃうかな~と思います~!」

「………シャルルと言ったな」

「えぇ。何かしら?」

 

 ―――俺、昔の記憶が一部だけ無いんだ。

 

「………きっと、その記憶の中にある俺とさっきの子は会っていたんだろうね。不思議とそんな感じがする」

「ソウ、それは秘密にしておくべきじゃ………」

「良いんだ、レモン。記憶が無いのも恐らく過去の俺がした決断だろうし、今でも後悔はない」

 

 ソウは弱く笑みを浮かべた。

 唐突に告げられたシャルルはあまりの展開に絶句してしまっており、会話を聞いていた周りの者も全員が段階は違えど、驚きある仕草を見せる。

 

「何より、彼女を悲しませるような真似だけはしてはいけない気がした………」

「だとしても記憶がないソウにはどうする事も出来ないよ?」

「でも、俺はそれを理由に過去の自分から逃げ出したくない」

 

 ソウは頭にいるレモンを下ろす。

 

「探してくる」

「………ウェンディならギルド裏の高台にいると思うわ。あの子、あそこからの景色がすきだから」

「ありがと。ちょっと行ってくるから何かあったら呼んでくれ」

 

 シャルルに礼を告げ、ソウはギルドの外に。

 

 ―――まだ記憶は戻っていない。

 

 それでもなお、ソウが自ら彼女の元へ向かう決意をした。

 それはきっと妹の存在をソウ自身、ない筈の記憶の何処かで覚えていたからかもしれない………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2-3 へ続く。

 




裏設定:ソウとウェンディの出会い
→リメイク前はウェンディが"化け猫の宿"に滞在している時にソウと出会った設定だったが、リメイク後は化け猫の宿に連れていかれるまでの日々の途中でソウと出会うことになった。
 こうした理由は単純にソウが記憶を失う出来事に関しての時系列の調整が神の手(作者)によって入った結果だからである。


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2-3『記憶の証』

 前回までのあらすじ:
 記憶の一部に損傷がある。故に妹の存在も不明瞭だと唐突に告げたソウ。
 そして、シャルルの秘めたる覚悟とそんな彼を庇おうとしたレモンが正面から衝突してしまう。
 緊迫した状況が続く。
 すると、突然、妹というウェンディを知ったソウは気持ちに整理が付かないまま、過去の自分がした微かな記憶だけを頼りにギルドの外へ飛び出したウェンディを追いかけたのであった。



 ◇◇◇

 

 ソウ―――大切な兄だった。

 

 六魔将軍の件で唯一の居場所であった"化け猫の宿"は消失してしまい、兄との再会の手掛かりも同時に無くしてしまう。

 その際、ジェラールとも再会を果たしたものの、彼も昔の記憶は無かった。

 それもその筈。過去に一緒に旅をしたジェラールはまた別のジェラール―――エドラスのジェラールと後に判明したから。

 妖精の尻尾では"ミストガン"と名乗るその者はしっかり旅の思い出を覚えていた。だが、ミストガンはエドラスに戻ってしまったまま、会える機会はもうない。

 

『ソウ・エンペルタント。妖精の尻尾の魔導士として生きている』

 

 目を疑った。

 そして、その瞬間に数年しても音沙汰が皆無だった彼の行方に、希望の光が灯された。

 実は隙を見てはこっそり探していた。なのに、同じギルドの魔導士だったなんて灯台元暗しも程々にしてほしい。

 

 なのに――――

 

 彼もまた私の記憶が無かった。

 二度も同じ羽目に遭うなんて。今回はエドラスの彼ではないし、何より鼻や目、あらゆる五感が彼を昔会った彼だと訴えてくる。

 安心する匂い。何かに付けてふんわりと笑う仕草は昔のまま。

 でも、彼はきっぱりと告げる。

 

『いや………覚えてない』

 

 この時、私は何を思っていたのだろう。

 気持ちに混乱が生じた私は取り敢えず一人になって落ち着きたかった。

 結果、逃げ出す形でギルドを飛び出した。

 心配させてしまったシャルルには後で謝らないと思いつつも、辿り着いたのはマグノリアの街が一望出来る場所。

 私がこの街に来て、見つけたお気に入り。

 悲しいことや辛いことがあると此処から街を一望して気持ちの整理をつけるのがマイブームとなっていた。

 

 ―――竜の匂い。

 

 ものの数分。

 敏感に働く鼻がまたしても懐かしい匂いを捉える。

 きっと、これもまた幻想。相当、今の自分は重症なのだと思い知らされる。

 

 幻想は現実へ移り行く。

 

「隣………良いかな?」

 

 人の声。

 私は後ろに人が来たことに驚き、慌てて振り返ってしまう。

 

 そこに居たのは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 マグノリア。展望台。

 

「隣………良いかな?」

 

 はっ、と振り返る。

 少し離れた場所に自身の兄と思っていた人物、ソウの姿があった。

 彼は尋ねた相手が小さく頷くと、ゆっくりと近くまで歩み寄る。やがて、ベンチの座っていた隣に腰を下ろした。

 

「さっきは………すみませんでした………」

 

 ウェンディはそっと謝る。

 彼の記憶にないのなら、それは赤の他人となる証拠。自分の待つ兄はこの人ではないとウェンディは無理矢理信じ込ませていた。

 容姿も、魔法も、匂いも昔の彼と一致しているのに。何故、彼は私の事を覚えていなかったのか。

 きっと、彼にとっては対した出来事では無かったのだ。些細な思い出のひとつに過ぎないのだと。

 

「その話だけど………もしかしたら」

「はい?」

「俺は君のお兄さんかもしれない」

「え?」

「俺、昔の記憶が無いんだ」

 

 街を眺めながら彼は告げる。

 その言葉の意味を理解しようとして、ウェンディの思考は停止する。

 

 ―――お兄ちゃん?

 

 待ち続けた人。また会うその日まで、と約束を交わした。

 だが、こうして再会してみれば。

 あの一緒に様々な場所を旅した記憶すら無くしていた。

 

「記憶がない………だとしても………」

「これは身体が覚えてるって言うのかな。こうして、直接、君を見てみる何故かと心が安心する」

「私も………懐かしい気持ちになります」

「きっと、俺と君は過去に会ってたんだろうね。じゃないとこの気持ちに説明が付かない」

「………はい」

「ごめんね。君もちゃんとしたお兄さんと会いたかっただろうに」

「い、いえ!そんなことは………あの、ソウ………さんは私の事が嫌いなのでしょうか………?」

 

 思考はネガティブへ。

 ソウにとって、ウェンディという存在は大切ではない。だから、彼は記憶を無くした。

 ウェンディは決死の覚悟で口を開く。もうジェラール―――ミストガンの時のように後悔はしたくなかった。

 

「何でそんなこと聞いた?」

 

 ソウは質問に質問で返してくる。

 ウェンディから返答がないと判断するや否や、ソウはそっと空を見上げた。

 ぽつりぽつり、と語り始めるウェンディ。

 

「………これまで私はずっと助けられてばかりです。恩返ししようにも、いつも何も出来ない自分にぶつかるばっかりで………結局、また助けられての繰り返し………私なんて役立たずですね………」

「ちょっとじっとしててね」

「はい?」

「こんな感じかな?」

「ふぇ!?あ、あのっ!?」

 

 ソウの手はウェンディの頭に。

 そっと撫でていく彼の手にウェンディは狼狽えるものの、すぐに拒否することなく素直に受け止める。

 

「あんまり考えない方が良い。下を向くなら、前を向いて歩け―――って昔の俺がそんなこと言ってなかったかな?」

「どう………でしょうか?私の知るソウさんはあまり喋る方では無かったので」

「あれ?そ、そっか~」

「ふふ………」

 

 つい微笑ましく笑みが溢れる。

 

「ウェンディ、教えてくれないかな?」

「は、はい?」

「君の知る昔の俺を。話を聞いたら、思い出すかもしれないしさ」

「た、確かに………」

 

 ソウの提案は筋が通っていた。

 記憶の損害は切っ掛けさえあれば、取り戻せると何度も言われてきている。ウェンディの過去話を聞いた彼の記憶が戻る可能性もゼロではない。

 

「その前に一つお願いがあります………」

「ん?何かな?」

「あ、あの………もっと近寄っても………」

「近寄る?全然良いよ」

「は、はい。ありがとうございます」

 

 緊張でやけに重い腰を上げた。そっと彼の座る隣に移動する。

 これだけではまだ物足りない。

 

「そ、それと、ハ、ハグとか………しちゃ、ダメですか?」

 

 ぎゅっと目をつぶる。

 訪れる静寂に街の賑やかさと風が吹く音だけがウェンディの耳へ届いてくる。

 

「おいで、ウェンディ」

 

 ―――刹那。

 

 全力でウェンディは抱き着いた。何年も我慢した思いがようやく爆発した。

 背中に腕を回し、これでもかとソウの胸元へ顔を押し付ける。ぎゅっと抱き締める度にソウは優しく彼女の頭を撫でた。

 

「………待たせた、ウェンディ。ただいま」

「はい………お帰りなさい………お兄ちゃん」

 

 今はまだ違えど。

 それでも―――二人は言わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ―――数十分後。

 

「………色々と俺の知らない間にあったんだな」

 

 ウェンディの話を聞いた。

 "化け猫の宿"での何気ない日常に、六魔将軍が襲来して判明した衝撃の真実。過去に自分が頼ったギルドがそんな秘密を抱えていたのかとソウはビックリした。

 妖精の尻尾に来てからも怒濤の日々の連続。

 エドラスという裏世界からの侵略もギルドで団結して防いだこと。出来事の一端にエクシードが関わっていたのだが、レモンもそのエクシードに分類されるというのは初耳だった。

 他にも些細や日常の一幕。一人で依頼に挑んだり、変な集団と遭遇したりした等もウェンディ本人の口から楽しそうに語られた。

 

「はい!私、妖精の尻尾に入って良かったと思ってます。皆さん、優しくしてくれますし色んな経験も積めたり………それにソウさん―――お兄ちゃんと会えました」

「そっか………良かったな」

「うへへ」

 

 優しく頭を撫でられるウェンディの頬は自然と綻びている。

 

「それに私、ソウさんの話も聞きたいです」

「俺の?」

「はい!私、気になります!」

「そっかぁ~………」

 

 清き純真な瞳の潤めき。

 一切の戸惑いは見せず、少女の興味心は高まるばかり。

 対して、困り果てたのはソウ。

 

「ごめんな、ウェンディ。俺の場合、依頼の関係で話せない物が多くてな………」

「っ!!………ごめんなさい。無理に押しちゃって………」

「でも、他言無用すると約束してくれるなら良いよ」

「本当ですか!?」

「あぁ」

 

 知りたい、と頷くウェンディ。

 

「実はね、俺の知り合いの中に滅竜魔導士がいるんだ」

「え?私達以外にですか?ナツさんやガジルさんとかではなく?」

「そ。しかもウェンディと同じ女の子でその内の一人、いや二人かな?」

「二人も………!!会ってみたいです!!」

「そうだね。きっと向こうもウェンディと友達になりたいと思ってる」

 

 これも偶然の産物。

 妖精の尻尾のとある依頼をこなす為、出向いた先にその滅竜魔導士と遭遇したのだ。

 しかも一人ではなく複数。

 普段から一緒に行動していると本人達の口から告げていたので、今もきっと国の何処かで過ごしている筈。

 

「なら、行っちゃうか」

「え?何処にですか?」

「そりゃあ、決まってるよ」

 

 ソウは立ち上がる。

 

「ウェンディの友達がいるとこ。ついでに、俺の記憶も取り戻しに行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -2の4- へ続く。

 




 裏設定:メリークリスマス!!
→メリークリスマス!!(遅れて、すまぬ)


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2-4『レモン』

 今回は-3-へ進む前の短編集的な回になります。

*2018年も投稿は今日のこれで最後。2019年もよろしくお願いします。ではでは、皆様、良いお年を。



 ◇◇◇

 

 妖精の尻尾。

 

「あい!昔からおいらと同じくらい妖精の尻尾にいるレモンだよ!」

 

 ハッピーの周りには妖精の尻尾に属する小さな猫達―――エクシードが勢揃いしていた。

 ウェンディを相棒に持つ白の"シャルル"。ガジルを相棒に持つ黒の"リリー"。

 

 そして――ソウが相棒、黄の"レモン"。

 

 只今、初対面となるレモンとその他のエクシードによる会合が執り行われている。

 

「私もエクシード?って種族らしいね~。よろしく~」

「まさか、知らなかったのか?」

「全然知らな~い。てか、興味な~い」

 

 のんびりした口調のレモン。

 この世界とは別の世界―――エドラスという地に棲息するエクシードが従事る王国があった。リリーを除くレモン達は親、国の意向によりこの世界に送り込まれた過去を持つ。

 卵のまま送り込まれ、生誕した際に親代わりになってくれたのが滅竜魔導士。今で言う、其々が相棒と信頼して呼べる者達であった。

 

「リリーだ。よろしく頼む」

「ほーい」

「あい。次はシャルルだよ」

「………」

「あれ?シャルル?どうしたの?」

 

 シャルルの居心地が悪そうに見える。

 ハッピーが心配そうに近寄るが、いつもの癖でシャルルは雑にあしらう。

 

「ふむ。いくらプライドが高いとは言え、いつもなら挨拶ぐらいは素直にするのだがな」

「一言余計よ………」

 

 素っ気なく横顔を見せるシャルル。

 と、ずっとその様子をじっと観察していたレモンがふと何かを思い付いたのかニヤリとした笑みを浮かべた。

 きっと先日ウェンディを庇い、わざとではないと分かりつつもレモンに傷付ける罵倒に近い言葉をかけてしまった。今更、仲良くしようとしても脳裏に小さく足掛りが生まれるのは必然となってしまう。

 

「前のあれは気にしてないよ~」

「え?」

「あなたがそういう性格なのはハッピーから聞いたから~。悪気が無いのも承知の助~」

「………ハッピー?」

「お、おいら………!!」

 

 ギロリと睨まれ、蛙の子のように怯える。

 その状況が数秒続けば、先に諦めたシャルルは深く溜め息を吐いた。

 

 ―――シャルルとレモン。

 

 出会った初日にどちらも不本意でありつつ、結果的に確執が生まれてしまったのは事実。

 不器用ながらもハッピーが気にかけてくれて、解消したいと行動に移してくれた事に関しては感謝しなければならない。

 

「えぇ………私も気にしてないわ。これからもよろしくね、レモン」

「ほーい」

 

 黄と白。二人は今、握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ギルド。カウンター。

 

「………なんか雰囲気変わったよな」

 

 前触れもなく俺は呟いた。

 ミラが淹れた紅茶を片手にギルドの騒がしい日常を眺めていた時にふと脳裏をよぎっただけの話だが。

 少し離れた所ではグレイとナツが殴りあってる。

 あ、エルフマンが巻き込まれた。

 

「そう言えば、ソウ君はギルドが改築してから初めて帰ってきたのだったかしら?」

「改築?」

「実は少し前にしたの」

 

 "ミラジェーン"。

 普段はギルドのカウンターで料理を担当する清楚な女の子。その裏、実は俺と同格のS級魔導士であるので彼女を怒らせたらヤバい。

 過去にあった荒ぶる時代の彼女を知る身としては少々戸惑う部分も多かったが今となると、慣れてしまった。

 

 結論―――慣れは怖い。

 

「ソウ君に緊急で連絡した時あったでしょ?」

「あったね」

「その時、ギルド同士の交戦があった余波で建物が壊れちゃって、折角だから新しくしようって」

「なんか………大変だったんだな」

「えぇ………」

 

 またしても物騒な事してる。

 ミラから連絡があったのは事実。その時は確か、十年クエストの依頼対象である化け物を駆逐してた時だ。

 距離的な問題で駆け付けられなかったんだ。勘弁してくれ。

 

「でも、こうして平和な日常を過ごしていられるだけでも………私にとってはありがたいの」

「………だね」

 

 ミラには妹がいた。

 でも、典型的な魔法の事故で亡くしてしまった。ミラの性格が今のように変わったのも妹の死による影響だ。

 

「あっ、ソウだ~。やっほ~」

 

 妹の名前は"リサーナ"。

 ミラと同じ綺麗な白髪のショートヘアーにくっきりとした瞳をした少女だった。

 あの頃はまだお互いに幼かった。今頃に成長すれば、きっと、俺の前で手を振る女の子みたいな感じに―――

 

 ―――あれ?リサーナっぽい人がいる。

 

「覚えてる?私、リサーナだよ?」

 

 俺は無言で彼女のほっぺをつまんだ。

 ぷにぷにと跳ね返る感触は本物に他ならない。だが、彼女は死んだと俺の記憶に刻まれてる訳であって―――

 

「なんだ。ただの幽霊か」

「いきなり頬っぺた掴まれた!!しかも幽霊じゃないよ!?ちゃんと生きてるよ!?」

「俺の知るリサーナはもっと小さい」

「そりゃあ!!数年もすれば私も成長して大きくなったからね!!」

「………生きてる?」

「色々とややこしい事情があったから説明しにくいんだけど………妖精の尻尾に帰ってこれたよ」

「そっか。良かったな」

「うん!!」

 

 ミラの様子を伺う。

 妹のサプライズドッキリが成功したのが余程嬉しいのか、あんなに幸せそうに頬笑むミラを見たのは久しぶりだ。

 やられたらやり返す。それがしがない魔導士の誇り。

 

「それで、足は透明じゃないんだな」

「………うん?はっ!?だから、幽霊じゃ無いってば!!」

「宙に浮いたり出来るのか?」

「違ぁぁぁああああう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 ギルド、テーブル席。

 

「この前は………言い過ぎたわ」

 

 お昼の肉を摘まんでると背後から。

 振り向くと、白い猫もといシャルルが視線を逸らしつつも魔法"エーラ"とやらで浮かんでいた。

 空を自在に飛べる魔法。"エーラ"。

 レモンも普段から使用するので、どうやらこの魔法はレモン固有の魔法ではなく、同じ種族に共通して覚えられるタイプらしい。

 

「ふぁんだ?」

「………食べてる最中に話し掛けた事に対して、こっちに比があったのは認める。せめて、ちゃんと飲み込んでから話してくれないかしら………?」

 

 こめかみにシワが走ってる。猫なのに。

 これは随分とお怒りなご様子だと察した俺は口に含んでいたミラ特製の料理をしっかり味わいつつもしっかり飲み込んだ。

 

「この前って………俺が帰ったときの話?」

「えぇ」

「あれに関しては別に気にしてないけどな。仲間思いなのは良いこった」

「アンタが簡単に許してくれても、私自身が納得できないのよ」

「難しい性格してるね」

「余計なお世話」

 

 所謂、プライドが邪魔をする。

 シャルルが俺に告げたウェンディに対しての忠告はきっと彼女を大切に思うからこそ飛び出た言葉。

 それらを真摯に受け止める。俺が出来るのはそれ以上でも以下でもない。

 

「………シャルル。君があの時、俺に言った事はちゃんと理解出来てる。俺だって、ウェンディの事はちゃんと正面から向き合っていくつもりだ」

「………」

「今は信じなくていい」

「え?」

「言葉なんてどうせ言葉止まり。それだけで、シャルルが俺を信用するまでの証拠にならないのなら、そうだな………俺は行動という別の手段で君の信用を勝ち取るだけ」

「………アンタもなかなか難しい性格してるじゃない」

「そっかな?妖精の尻尾の魔導士に比べれば、俺なんてただのしがない魔導士にしかならないけど」

 

 俺の冗談も程ほどに。

 シャルルの目は真剣さを増す。俺も自然と心を構えてしまう。

 

「ウェンディの事………お願い。今は無事でも、私の力だけで今後とも襲ってくるかもしれない障害や敵から守れる可能性は私には殆どないわ。その時は………」

「あぁ、約束する。この魔法に誓って」

 

 俺は迷いなく告げた。

 

「っ!!………ありがとう………」

 

 シャルルは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに安堵した表情を浮かべたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 -2- 終




 裏設定:レモン

 前回までは無邪気、元気っ子をイメージしていた。リメイク後では呑気、不思議ちゃんをイメージして書いている。
 理由はソウの相棒として、こちらの方が似合いそうだからというだけ。それと、キャラが立つ。


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3-1『手荒な歓迎』

 前回までのあらすじ:
 ソウの過去の記憶を求め、旅へ。
 と意気込んだのもつかの間、ウェンディは気づけば知らない場所へと誘い込まれていた。真っ白な空間にポツンと立たされてしまう。
 隣にいたソウもまたウェンディと同様に謎の現象に巻き込まれていた。
 ソウがこの事態の中、取った行動は―――



 ◇◇◇

 

 謎の空間。

 

「………転移。あいつの仕業か」

「えっ!?ここは!?」

 

 辺りを見渡す。

 真っ白い床に何もない空間が占める。遠く向こうは真っ暗闇で何も見えない。

 

「心配することは無い。これは只の俺の友人によるいたず―――」

「ソウさん!?」

 

 隣にいた筈であるソウの姿が消失。

 代わりに岩石のような支柱がウェンディの視界を横切っている。

 

 ―――破砕音。

 

 一瞬で砕け散った岩石の支柱。

 それは正面から受け止めたソウが魔法で衝撃を加え、破壊した結果であった。

 

「くっ………油断してた」

 

 服の塵を払ったソウ。少しだけ立ち位置が後退している。

 特に目立った負傷はなく、ウェンディはホッとした。

 一撃KOの威力も秘めた渾身の一撃。

 不意討ちに近いそれを咄嗟に対処したソウの機転の高さは流石の一言。

 

「ソウさん!!大丈夫ですか!!」

「問題無い。それよりも、ウェンディ………」

「はい?」

「―――戦闘準備だ」

 

 ―――ドゴォン!!

 

 派手な着地と共に。

 ソウとウェンディの前に出現したのは一人の青年。

 ローブに身を包んでるので全容は知れず。

 ただ、ニヤリとした笑みだけは確認できた。

 

「随分と派手な挨拶だな」

「おう。喜んでもらえて何よりだ」

 

 ソウと青年が会話を始める。

 その内容にウェンディは困惑。今のが挨拶代わりのやり取りだとは信じられなかった。

 

「もう少し控えろってつったろ」

「と言いつつ、案外ノリノリだったな!」

「心臓に悪い」

「おっ?心臓が停止しても魔法で動かせると?………すげぇな」

「ぶっ飛ばすぞ?」

「望む所だ!!」

 

 軽口の応酬。

 

「な、何が………起きてるの?」

 

 ウェンディは振り返る。

 こんな状況になるまで、一体何があったのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 妖精の尻尾。

 

「んじゃ、レモン。留守番よろしく」

 

 扉を開放しつつ彼は言う。

 隣には期待に胸を膨らませて、そわそわしているウェンディ。

 

「は~い。ミラに紅茶淹れてもらう~」

「あんまり飲み過ぎるなよ………俺の財布的にも」

「ウェンディ、我が儘言わずにちゃんとするのよ」

「だ、大丈夫!!私だって一人でも依頼こなせるようになったんだし………多分」

 

 今回、レモンとシャルルは同行せず。

 つまり、純粋にソウとウェンディの二人旅となる。シャルルは不安そう。

 二人っきりという事実に気付いてしまったウェンディはポッと頬を赤く染めていたのは余談。

 二人だけなのはソウの記憶を呼び覚ます上で邪魔者は極力排除、当時の環境を出来る限り再現する為である。

 

「ソウも………ウェンディにもしもの事があれば、容赦しないから」

「今回は別に危険が高い依頼に行く訳じゃないし、想定外な事態にならない限り平気」

「その想定外とやらをピンポイントで引き当てるのがこのギルド(妖精の尻尾)じゃないかしら?」

「………善処するよ」

 

 視線を逸らしつつ答える。

 シャルルの発言は的を得ていた。実際、妖精の尻尾はトラブルメーカーが多い。予定では平穏に済む筈が、結果的に丸々町一個壊してしまったなんてのもこのギルドでは何故か日常茶飯事として処理される。

 ソウは比較的マシな部類に入る。やる時にはやってしまうが。

 

 そして―――

 

 シャルルもまた短い期間なのにも関わらず、彼の魔導士としての実力には一目置いていた。

 さっきの発言も本人は半分冗談のつもり。

 ウェンディ心配性のシャルルがすんなり二人旅を承諾したのも彼なら問題ないと信頼しているからだ。

 

 ―――と言うのも。

 

「ソウー!!もっと勝負しろーー!!」

「また今度な。ほい」

「うわぁぁああーー!!」

「ナツー!!待ってー!!」

 

 またナツが吹っ飛ばされた。

 その後を追い掛けるハッピーの背中を眺めるのも何度目になるだろうか。

 ソウが帰還、ギルドに滞在中の間では戦闘馬鹿のナツが懲りずに勝負を仕掛ける光景がよく見られる。

 他の魔導士はまたか、とチラ見してすぐ興味を無くす反応が多い。ウェンディとシャルルの場合、ナツの性格は知りつつもソウの対応方法は知らないのでその行方を見守っていた。

 特にウェンディはそわそわ、そわそわ。

 結果はご覧の通り。一瞬で蹴りがつく。

 ソウが無駄のない動きで、拳を振り翳すナツの猛威を避ける。とどめにナツの額に魔力を込めたデコピンを発射。

 魔法で強化されているので、あっさりとナツが吹き飛ばされて、勝負は終了。初めて見たときは目を疑ったものだ。

 

「んじゃ、行こうか、ウェンディ」

「はい!」

 

 元気よく返事をしたウェンディ。

 見送りにと多くの人が手を振る中、ソウとウェンディはギルドの外へと踏み入れる。

 

「………あれ?」

 

 そして―――二人の姿が消えた。

 

「今、何かした?」

「ソウの魔法じゃないか?」

「そっか。なら、平気だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 謎の空間。

 

「そう言えば、隣の子は誰だ?あんまり見ない顔だな」

 

 話は冒頭へ戻る。

 相手はソウと言葉の殴り合いに飽きたらしく、興味は別に移っていた。

 視線を向けられたウェンディは少し怯えつつも負けじと睨め付けようとする。が、効果は殆んど無い。むしろ、逆効果なのは本人にとって知らずが仏。

 

「どうやら、俺の妹らしい」

「なんだと………!!妹が居たのか」

「正直、俺も困惑してる。だから、俺の記憶を返して貰いに今日は来たって訳」

「そういうことなぁ~。事情は分かった。いや、オレとしては全然構わないが………師匠が素直に返してくれるとは思えない」

「分かってる。だからこそ、簡潔に言おう。お前も手伝え」

「なら、手合わせ願おうか!オレに勝てば考えてやらんこともないぞ!」

「だと思ったよ」

 

 両者、視線が鋭く光る。

 状況が飲み込めないウェンディはあたふたとするだけ。

 

「なぁ………あいつら呼ぼうか?」

 

 相手も流石にこのまま戦闘を行うのも気が乗らないと感じたらしい。

 ソウもウェンディを守りつつの戦闘となれば、魔法の制限がかなりキツイ。ありがたい申し出だ。

 

「ウェンディ、ちょっと離れてくれ」

「えっと、はい………でも、私ちょっと理解が追い付かないのですが………」

「それなら、私に任せて!説明なら大得意!」

「来るの早ぇな、おい」

「ずっと見てたからね!」

 

 くるり、と一回転。着地。

 赤の髪に深海より深い青色の瞳をキラキラと輝かせる活発そうな少女が決め台詞と共に参上した。

 

「だ、誰ですか!?」

「海の人魚と言えば、私の代名詞!海の滅竜魔法の使い手!"サンディー・サーフルト"だよ!」

「っ………!!」

「ドン引きされた!!ガーン!!」

 

 目元で二本の指を開いてキランとしたのが原因。

 

「こほん………兎も角、ここに居ると巻き込まれて危ないから私達は安全な場所まで避難するよ」

「ソウさん、本当に大丈夫なのでしょうか?」

「え?あっ。ソ~ウ~?まさか、説明してないの?」

「説明する暇なく飛ばされたからな。ウェンディ、安心して付いていくと良い」

「ですけど………」

「この前話した事、覚えてるか?」

「え?」

「滅竜魔導士の女の子が居るって話」

「あっ………もしかして………」

「そうだよ!その話は私の事だね!恐らくは!」

 

 わはは、と笑うサンディー。

 

「本来なら道中に話そうかと思ってたんだが………分からない事はサンディーに聞くといい」

「分かりました」

「じゃあ、行こうね~、ウェンディ」

「ちょっ!?えっ?何で私の名前を!?」

「全部、避難してから教える~」

 

 サンディーに手を引かれて。

 成すがままにウェンディはソウの元を離れていき、そして―――瞬きの合間に姿を消した。

 それはまさに雲隠れのごとき現象。

 

「さて………舞台は整ったぜ?」

 

 これも友人の魔法の仕業だとソウは知っている。

 故に動揺も不安もない。あるのは眼前の強敵に対しての高揚感。

 

「来い………()()()

「行くぞ!ソウ!!」

 

 刹那、二つの拳が大気を揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3-2 へ続く。

 




 裏設定:ジュン・ガルトルク
 →ソウとは昔からの付き合いでライバル視をしている。実力はほぼ均衡状態。
 喧嘩早い一面もある中、己の信念に基づき忠実に遂行する紳士的な精神の持ち主。魔法は地の滅竜魔法。


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X784年 帰ってきた波動竜編 第1話 妖精の尻尾

主人公が帰還するのは、六魔将軍(オラシオンセイス)を倒して、ウェンディとシャルルがフェアリーテイルに入り、数日後ぐらいからです。
───では、どうぞ!!

*〈2015年4月3日〉会話間の行間を訂正。


 『フィオーレ王国』………世は魔法一色。あらゆる生活の中で、日常の中で当たり前のように使われている。もはや知らない人はいないほどの人々の一部と化している。そんな永世中立国が存在していた。

 だが、魔法を使えるのは体内に“魔力”と呼ばれる器を持った一握りの人物。彼らはお互いに身を寄せあい、依頼を受けて報酬をもらって生活できる組織を組み立てた。

 “ギルド”と呼ばれるそれは、魔法の使える“魔導士”にとってかけがえのない物であり、切っても切れない大切な物となっている。 そう、家族のような存在。

 そんなギルドの中、飛び抜けて問題ばかりを起こしては人々の悩みの種となっているギルドが存在していた。

 その名は“FAIRYTAIL”。

 炎があちこち舞ったり、氷が突如現れたり、剣が幾度となく突き刺さったり。何でもありである問題児が一挙に集まったとされるギルド。だが、同時に優秀な魔導士も所属しているという、ややこしいギルド。

 

 ────そこに彼がいた。

 

 そんなギルドに最近、ある少女が入り、そして彼と出会った。それは久し振りの再会だった。

 

 ───物語はゆっくりと動き出していた。

 

 

 

 

 ◇

 

「おっ!やんのか?グレイぃ!」

「そっちこそ、やろうってのか、ナツ!」

 

 ここは妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 フィオーレ東方に位置する商業都市マグノリア唯一の魔導士ギルドだ。

 “週刊ソーサラー”と呼ばれる人気雑誌で取り上げられる事もあり、人気があるかどうかは解らないが、とにかく有名なのである。

 そのギルド内、大声で言い争っているのは───

 ───『ナツ』と『グレイ』名を持つ少年達。

 『ナツ』は桜色の髪にいつも銀色のマフラーをしており、後先考えずに動く性格をもつ。そんな性格ゆえに問題を起こしてばかりの問題児。

 『グレイ』は黒髪で一見、顔立ちは整っておるが残念なことに彼の昔からの癖に一つ問題がある。それは───

 

「グレイ…なんで服を脱いでいるのよ……」

「はっ!しまった!」

 

 グレイは無意識の内に服を脱いでしまう癖があり、今はパンツのみしか着ていない。

 一般人からしてみれば、変態極まりない行為だ。因みにこれはグレイの昔の師匠による影響である。

 

「ちょっとあんた達止めなさいよ!」

 

 二人の喧嘩を止めようとしている女性は『ルーシィ・ハートフィリア』。

 妖精の尻尾ではまだ入ってそんなに過ごしてはいないが今では立派な魔導士の一人だ。

 

「また始まったよ……」

 

 魚を加えながらそう呟くのは『ハッピー』。

 見た目は完全に喋る猫である。ちなみに毛は青い。

 

「そんなことをしてるとエルザが……」

 

 ルーシィの言葉が段々と弱々しくなっていった。その理由はとある席からどす黒いオーラが放たれていたからだ。

 

「貴様らいい加減にしろ!」

 

 第三者の手によってナツとグレイの頭に鉄槌という名の拳骨が落とされた。

 

「いってぇー!!」

「っ!!何すんだよ、エルザ!!」

 

 ナツは強烈な痛みから頭を押さえて、グレイは負けじと言い返した。

 鎧を着て仁王立ちをしている女性の名前は『エルザ』。緋色の髪をしている。またS級魔導士と呼ばれる妖精の尻尾内での実力者でもある。

 

「貴様らのせいで……」

 

 エルザは顔を俯かせて体をプルプル震わせている。

 二人の目線は先程までエルザが座っていたテーブル席へと注がれる。

 ………テーブルには料理が置かれている。

 そこまではいい。問題はさらにその上に何かがあったのだ。

 よく見るとそれは二人の喧嘩によって吹き飛ばされた椅子だった。料理は無惨にも辺りに飛び散り、とても食べれそうにない。

 二人の額に汗がどっと流れ出る。二人は顔を合わせて、同時にこう言った。

 

「「ごめんなさい!!」」

「あい……」

 

 この後の二人にどんな鉄槌が下られるのかハッピーは考えたくもなかった。

 

「よく飽きないわね………」

「でも、シャルル。楽しいね」

 

 離れたテーブル席で会話をしている一人と一匹。

 呆れた目線を送っているのは『シャルル』。ハッピーと同じ喋る猫だがメスである。こちらは白色をしている。

 もう一人は『ウェンディ』。最近、妖精の尻尾にシャルルと入ったばかりで目の前の光景を楽しんでいる青髪の少女。また、天竜の滅竜魔導士でもある。

 

「これがフェアリーテイルなのよ」

「あ、ミラさん!」

 

 ウェンディとシャルルの元にやって来たのは『ミラジェーン』。愛称はミラ。

 妖精の尻尾の看板娘であり、また週刊ソーサラーでグラビアアイドルを務めるほどの美人である。

 他にもフェアリーテイルには様々な人が加入している。

 ───「漢だ!」が口癖の『エルフマン』。

 ───グレイにぞっこんの雨女『ジュビア』。

 ───鉄をバリバリ食べている『ガジル』。鉄竜の滅竜魔導士である。

 それに他にも数えきれないほどの個性的な魔導士が所属しているが一筋縄ではいかない手を焼かす者ばかりだ。そのある意味、超問題児どもをまとめているリーダー的存在、マスターがいる。

 

「普段から騒がしいけど、その内慣れていくわ」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 ミラはテーブルに飲み物を置いた。ウェンディは律儀にお礼を述べる。

 ミラはその場を離れてカウンターへと向かう。

 カウンターの上には一人の背の低い老人が座っていた。

 

「やれやれ、また始まったかのう……」

 

 何を隠そうこの老人こそがフェアリーテイルのマスター『マカロフ』である。

 マカロフはいつもと変わらない光景にため息をついてしまう。

 

「最近はウェンディとシャルルも入って騒がしくなってきましたね」

「そうじゃのう………」

 

 マカロフはマスターだからこそ、彼らの後処理もすべてマスターの手元に回ってくる。故にそのことを考えてしまいあまり元気がない。

 

「あ!そうじゃ、あれを伝えるのを忘れてたおったわい」

 

 「とう!」とマスターが2階の手摺に飛び乗る。

 その際に誤って手摺に頭を打ちつけてしまった瞬間をルーシィははっきりと目撃した。見なかった事にしよう。

 ぴくぴくと小さく震えながら2階の手摺の上に立ち上がる。

 

「貴様ら、注目せーーい!」

 

 マスターの大声がギルド一体に響いた。

 その瞬間、皆の目線がマスターの方へと集まる。

 

「なんとぉ!あいつらが帰ってくるぞぉーい」

 

 その一言にざわめき出す。

 

「あいつらってもしかして……」

「ギルダーツか?」

「いや、まだ早いだろ」

「それにギルダーツは一人だろ」

 

 マスターの一言でギルドの皆は誰なのか話し合いだした。

 が、まだ妖精の尻尾に加入したばかりのルーシィとウェンディ、シャルルにはまったく心当たりがないので首をかしげる。

 

「ねぇ、ナツ。あいつって誰なのよ?」

「分からねぇが、もしかしたら……」

 

 ナツには心当たりがあるみたいだ。

 

「ああ……だったら……」

 

 グレイにも心当たりがあるみたいで、呟いている。

 ナツが叫んだ。

 

「喧嘩だぁぁ!」

「なんで!?そうなるの!?」

 

 思わずハッピーが突っ込んでしまう。

 

「んで、誰なのよ!?」

「しずかにせぇーーい!」

 

 ざわめきが一瞬で収まる。それほど、皆の意識はそちらに向けられているということだ。

 

「『ソウ』と『レモン』が帰ってくるぞ!」

『うおーーーー!』

 

 大絶叫がギルド中に響き渡る。

 

「ソウって誰?」

 

 確か、今までに名前だけは聞いたことがあった。

 あのマカロフの息子のラクサスと同等の強さを誇っているとも。

 

「私と同じS級魔導士だ。私でも勝てるかどうか………」

「え!?エルザが!?」

 

 エルザでも勝てるかどうか分からないとなると相当の実力者ということになる。 

 ルーシィはそう考えると冷や汗が出る。

 

「さらにナツと同じ滅竜魔導士なんだよ」

「本当なの、ハッピー!?」

 

 ルーシィは絶句した。と同時にどんな人なのだろうか不安な気持ちに襲われた。

 妖精の尻尾の奴等は性格に難のある人が多いからだ。

 さらに滅竜魔導士となると、ナツやガジルのように、色んな意味で尊敬し難い人物が多かった。ウェンディは別だが。

 

「あいつ、滅多に帰ってこないからな」

「ああ、早速勝負すっか!」

「どれぐらい強いの?」

「う~ん、町なんて一瞬で破壊してしまうほどだね」

「な………どんな魔法使うのよ………」

「魔法は“波”だ」

「波?」

 

 ルーシィは聞いたことがない魔法に疑問を浮かべる。

 

「あ、あの!」

「ウェンディ?どうしたの?」

 

 ウェンディが話しかけたことに気付いたルーシィ。さらにウェンディの顔も暗くなっていることに気付いた。

 

「そのソウって人は波動竜の滅竜魔導士ですよね!?」

「波動竜?」

「ああ…そうだが…よく知ってるな」

 

 ルーシィの代わりにグレイが答えた。

 

「もしかしたら………」

「ウェンディ!人違いかもしれないのよ!」

 

 ウェンディとシャルルの会話から察するに誰かを探しているかもしれない。

 ルーシィはウェンディがこの前に言っていたことを思い出す。

 確か、ウェンディには昔、いなくなった人を探していると。ウェンディと深く関わりを持つジェラールとは違う人。

 彼女は妖精の尻尾に入るの前に別のギルドにいたのだが、そこで一人の魔導士と出会った。その魔導士は自分の命を助けてくれた恩人でもあるので、どうしてもお礼が言いたいのだと。けれど、その魔導士は次の日には姿を消してしまって、結局言えずじまいになっていたのを気にかけていたのだ。

 ウェンディとシャルルの会話から察するにソウという魔導士が彼女の探している魔導士と同一人物かもしれないということなのだろうか。

 

「はあ─………仕方ないわね」

 

 ここまで言ってしまっては後の祭りだ。シャルルは、キッパリと言うことにした。

 

「その人がウェンディのお兄ちゃんかもしれないのよ!」

『えーーー!!』

 

 その日一番の絶叫が妖精の尻尾内に響いた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 ────青年と猫がいた。

 青年と猫がいるのは町から外れたとある場所。数時間前までギルドだった場所だ。

 そのギルドは無法集団の集まりで出来たギルドだった。町に住んでいる人から見れば迷惑極まりない。

 ────だが、それはもう既に昔の話。

 今は無惨にもボロボロになっており今にも崩れ落ちそうだ。

 

「帰るか」

「帰るのは久しぶりだね」

 

 呑気に会話をしている青年と猫。猫は青年の肩に乗っている。

 二人がいるのは先程までギルドだった場所の中心。

 

「さて……どうしますか」

「これのこと?」

 

 猫が指したこれとは、青年の周りに倒れているここのギルドのメンバーのことだろう。ざっと30人はいる。時折、ピクピク痙攣していることから気絶しているようだ。

 

「評議員に任せますか」

 

 青年は自分の手には負えないと判断して投げ出した。いや、ただ単にめんどくさいだけだったのかもしれない。

 

「妖精の尻尾の皆は元気かな?」

「あいつらの元気じゃないとこが想像出来ないから大丈夫だろ」

 

 今後の予定を青年は呑気に決めていく。

 その背後に一つの影が近づく。男だ。

 

「とぉおおったりーー!!」

 

 男は青年の背中に向かって不意打ちを仕掛ける。油断していたところを狙っての一撃だった。

 手に握った剣を振りかざそうと青年に襲いかかる。

 刹那───青年の一歩手前で見えない何かに剣が阻まれた。

 いや、弾かれたと言った方が正しいだろう。

 弾かれた剣は男の手を離れて壁へと突き刺さる。

 男自身もまるで磁石同士が反発したみたいに壁へと吹き飛ばされた。

 壁へと衝突したダメージで男は気を失ってしまう。

 

「あーあ、逃げた方が賢明だと思うがな」

「相変わらず、凄い魔法だね」

 

 折角、起きていたのなら逃げた方が自分を追い込める事態にはならなかったのにと青年は考える。

 

「やっぱ、帰るのはもう少し先にするか」

「え!駄目だよ!さっき、マスターに知らせちゃったよ」

 

 あんな短時間でどうやって知らせたのか疑問に思うところだが、そんなことは青年の思考になかった。

 

「おいおい………早めに帰らないとマスターに怒られるじゃないか………っ!」

 

 そこまで青年は言うと急に何かを思い出したのか思い詰めた表情になる。

 

「あれがあるまでに帰ってこいって言われてたのをすっかり忘れてた………」

「あれはもう少し先じゃない?」

「そうだっけ?なら、いいや。マスターは何か言ってたか?」

「新人がいるから、楽しみにしておけって言ってたよ」

「新人か………俺達、しばらく離れていたから増えてるのか……」

「可愛い子はいるかな?」

「『レモン』は女の子だろ。気にする必要ないだろ」

「だって『ソウ』。彼女いないじゃん」

「妹がいるからいいんだ!」

 

 妹と言っても血の繋がっていない義兄弟だと言うことは向こうも知っている。

 話題に上がったことで、レモンはふと思い返す。

 

「ウェンディとシャルルも元気かな?」

「元気だろうよ」

「また会いたいね」

「会うのは約束を果たしてからだ。シャルルにも話してあるし、それまでの辛抱だ」

「でも、良かったの?」

 

 レモンはあの時にウェンディを置いてきてきたことを言っているのだろう。

 彼女を危険に晒したくない。その一心で、彼女を置いてきてしまった。その決断は今となっても正解なのか、不正解なのかは確かめようがない。

 ただ、これだけは言える。

 

「大丈夫。化猫の宿(ケットシェルター)の皆もいるし、今頃はのんびり過ごしてるだろ」

 

 その化猫の宿も今は無くなっている事実にソウとレモンは知らない。

 そして、彼女達が何の運命の糸による引き合わせかは知らず、妖精の尻尾にいるということも。

 

「今度様子見に行く?」

「機会があればな」

 

 服越しで確認しにくいが、ソウの背中には妖精の尻尾の証である青色の紋章、レモンの背中にも同じく青色の紋章がついていた。

 やがてソウとレモンは歩き出した。

 

 ───妖精の尻尾に帰るために。

 

 

続く─────────────────────────────

 




どうでしたか?
駄文ですが、お付き合い頂ければ………。


………もしかしたら、天狼島編を飛ばして、大魔闘演武編を投稿してしまうかも………。


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第2話 再会

どんどん行こー!


「ソウがウェンディのお兄ちゃんって本当なの!?」

「な!本当か!ウェンディ!?」

「分からないです………でも、私のお兄ちゃんも滅竜魔導士なんです………」

「それも波動竜のね」

「同一人物の滅竜魔導士はいないはずだ。だとすれば……」

 

 エルザの言う通り、考え付く先はただ一つしかない。

 

「ソウがウェンディのお兄ちゃんってことかぁー!!」

 

 ナツが皆の気持ちを代弁するかのように叫んだ。

 

「マスター!なにか知らねぇのか!?」

 

 グレイがマスターに尋ねる。皆も気になっているのか息を飲んで返事を待っていた。

 

「む……そうじゃのう……確か…随分前に妹がおるとかどうとか、言ってたのう」

「だったら………」

「お兄ちゃん………」

 

 ウェンディは兄との再会を果たせるかもしれないと感動のあまり涙目になる。

 

「ジェラールと同じくらい大事な人なんです」

「ほぇー………あのソウが」

「ナツ、そんなこと言ったらソウに殺されるよ」

「どんだけ凶暴なのよ………」

 

 ハッピーのせいで変なイメージがルーシィの頭に浮かぶ。実際はまったく異なるのだが、小説家でもあるルーシィの想像はどんどんと膨らんでいく。

 

「ウェンディ、お主とソウがどうやって会ったのか、教えてくれるかのう?」

「はい、分かりました」

 

 ウェンディは快く返事をして、昔のことを思い出しながらゆっくりと楽しそうに喋り出す。周りの皆も静かに耳を傾ける。

 そこには妖精の尻尾全員が集まっていた。故に誰も気づくことはなかった。

 

 ────外にある人物の人影があったことに。

 

 

 

 

 ◇

 

「おー、相変わらずだな」

「変わらないね」

 

 ソウとレモンはマグノリアの町へと帰ってきていた。

 故郷の町へと帰った二人は久しぶりに見た景色に感嘆の声を上げる。以前とまったく変わらない風景に安心感を覚える。

 

「よし、行こうか」

「フェアリーテイルへ!」

 

 二人は懐かしい風景を存分に楽しんだあと、妖精の尻尾に向けて足を動かした。

 しばらくして、ソウは足を止める。 

 

「ここ?」

「そのはずなんだけどな………随分変わったな」

「なんか………凄くなったね………」

 

 そして、妖精の尻尾の扉の前へと着いた二人。

 記憶に従って到着したのは想像とはまったく別の建物の前だった。留守にしている間に豪華に改築したようで、ソウは戸惑いぎみになった。

 

「とにかく入ってみるか 」

 

 ソウが扉を開けようとするが、そこでレモンが異変に気づく。

 

「ソウ、なんだか静か過ぎじゃない?」

「ん、そういえばそうだな」

 

 フェアリーテイルは確か…うるさいのが取り柄のギルドだったはずだとソウはそういう風に認識があった。

 けれど、扉越しに聞こえる騒音がまったく聞こえないのだ。

 

「魔法では、反応があるからいるはずなんだけどな……」

 

 ソウの魔法によって中に人がいるかどうかを調べることが出来るのだ。

 

「何か、あったのか?」

「マスターが倒れたとか?」

 

 レモンが不吉なことを言う。

 

「そりゃ、ないだろ。連絡した時には元気だったはずだし」

「あ………そういえばマスターに言った帰る時間まであと数時間ぐらいあるのを思い出したよ」

「おいおい………だから静かなのか?」

 

 だとしてもあまり関係はないと思うが。

 

「入りづらいね」

 

 この逆だったら遠慮なく入れるのにレモンの言う通りとても入りづらい。

 さらにここがまた別の場所なのに、妖精の尻尾と間違えでもしたら恥だ。

 

「レモンが余計なことを言うから………」

「どうするの?入るの?」

「折角だし、散歩して時間を潰してみますか」

「やったー!」

 

 ソウとレモンはその場をぐるりと半回転して町中へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「な!ソウの奴!ゆるさねぇーーぞ!」

 

 ウェンディの話が終わると同時にナツが叫んで口から炎を出した。

 ナツは火竜の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)なので炎を自在に操れる魔法を使える。

 

「それは本当なの?ウェンディ」

「はい………」

「ソウがウェンディを置いて勝手に出ていくとはな」

「それも何も言わずにね」

 

 そんなことをされたら誰だって寂しく思う。

 

「だが、ソウがそんなことを意味もなしにするとは思えない」

 

 エルザは何か裏があると思い、ソウの行動を信じる。

 

「だったら、ウェンディに言えば良いじゃねェか!」

 

 ナツの言う通り、本人に出ていかなければいけない理由を伝えればいいはずだが、ソウはそんなことをしていない。

 

「そのソウって人にはわけがあったのじゃないかしら?」

「どうしてそう思うの、ルーシィ?」

 

 ミラが代表してルーシィへと質問する。

 

「だって話を聞いた限りだと悪い人には到底思えないし、だとするば言えない理由があったとしか考えられないの」

「ルーシィの言う通りだな」

 

 ルーシィの意見にグレイは同意をする。

 

「でも…………」

「そうよね………いくら言えないからって黙って出ていくのは………駄目よね」

「おい!ソウを馬鹿にするのか!」

「一体ナツはどっちの味方!?」

 

 先程までソウに怒りを吐き出していたナツが急に意見を変えた。

 ハッピーは思わず突っ込む。

 

「ちょっといいかしら」

 

 そう言ったのはシャルルだった。今回のシャルルは何処か雰囲気が少し違っていた。

 

「シャルル?」

「私は知ってるわ」

「え、なにをだ?」

「ソウが黙って消えた理由をよ」

「はあ!?本当なのか!?」

「な、何!?」

「本当なの!?シャルル!?」

 

 シャルルの爆弾発言にグレイ、エルザ、ウェンディが勢いよく食いつく。

 

「なんでシャルルが知っていてウェンディは知らないのかしら?」

 

 皆もその事を疑問に思ったのかルーシィの素朴な疑問に頷いている。

 

「本人から口止めされてたのよ」

「それはソウ本人にか?」

「そうよ」

 

 素っ気なく答えるシャルル。と、ルーシィには何故ソウが黙って消えたのか判明したような気がした。

 

「もしかしてシャルルには伝えていたから黙って消えたのかしら?」

「そうね……そうだと、辻褄があうわね」

 

 ミラがルーシィの辿り着いた結論に同意するかのように言う。

 だとすると気になることが一つ浮かび上がる。それはソウがシャルルになにを伝えたのかだ。

 

「ソウは一体何を言ったんだ?」

 

 珍しくナツが的のある質問をしたことに周りの奴等は驚くが、シャルルはそんなことは関係なしに言う。

 

「言えないわ。特に滅竜魔導士にはね」

「滅竜魔導士が関係あるの?」

「後は本人に聞いて頂戴」

「それもそうね」

「分からねぇな……」

 

 グレイはそう呟く。他の皆も疑問にそうだった。ドラゴンスレイヤーとソウが急に消えることにどういう関係があるのか。

 と、マスターが間に入ってきて言う。

 

「ソウとレモンが帰ってくるのはもうすぐじゃぞい。貴様ら、歓迎の用意をせんかい!」

「そうよね、今はそうするしかないもの」

 

 グレイ達は歓迎の準備のために動き出す。ナツも渋々、用意し始めた。

 ───と、ハッピーが何かを思い出したように言う。

 

「ウェンディの話だとレモンが入って来たときには既にソウは会っていたということになるねー」

「そういえばそうだな」

「レモンが入ってきたのは随分前だったじゃないか?」

「ん、確か…最近だったような」

「何言ってんだ!グレイ」

「やんのか!ナツ!」

 

 何故か急展開で喧嘩を始め出す二人にルーシィがため息を吐く。

 

「なんでそうなるのよ………」

「あい、これがナツとグレイです!」

「皆、ソウが帰ってきたぞーー!」

 

 見張りをしていた一人がそう周りに報告する。

 その一言で皆の気持ちは各々、違うが段々と高ぶっていった。

 

(ついにお兄ちゃんが…)

 

 ウェンディは期待と不安で胸がいっぱいになりながらもソウの帰還を待っていた。

 そして、ついに扉が開いた──────

 

 

 

 

 ◇

 

 久しぶりのマグノリアを一通り見渡し歩いて二時間が経過した二人は妖精の尻尾のギルドへと向かう。

 懐かしのギルドが見えてくると同時に中から騒がしい声が聞こえてくる。

 

「おおー、やってる。やってる。相変わらずのうるさいことよ」

「さっきのは何だったんだろうね」

「後で聞いてみるか」

 

 数時間前までのあの静けさは一体何だったんだろうかと、二人は思った。

 

「さて、あとは扉を開けるのみだが緊張するな」

「何ヵ月ぶりにギルドの中に入るんだろうね?」

「さあな。よし開けるぞ」

 

 大きな扉をゆっくりと開けていく。

 二人が見たのは久しぶりに見る仲間達の姿。どいつも元気そうである。

 

「ソウとレモンが帰ってきたぞぉーー!」

 

 誰かは分からないがそう叫ぶことでギルドの中が歓声に包まれる。

 二人は辺りを見回す。

 中はソウの記憶とはかけ離れていた。ボロクサイ雰囲気は一切なく、快適に過ごせそうな空間へと変貌している。

 と、ソウに青い猫が接近。

 

「久しぶり、レモン!」

「あっ!ハッピーだ。元気そうだね」

「あい!おいらはいつでも元気です!」

 

 ソウの頭の上に乗っているレモン。

 なので、ソウの頭上で同じ猫同士の再会に挨拶をかわすことになる。

 

「お帰りなさい、ソウ」

「ミラか、ただいま。相変わらず騒がしいな、ここは」

 

 この前とまったく変わらないミラ。そんなミラの姿を見たソウは感心していた。

 

「何か………変わったな、色々」

「ソウが留守にしている間にギルドが崩壊しちゃってね。折角の機会だから新しくしようってことでマスターがはりきっちゃって、こんな感じになったの」

「壊れた?」

「一度、ソウにも召集をかけた時があったでしょ。あの時に一騒ぎあって、ギルドが犠牲になったんだけど………詳しい話は後でするから、今はマスターの所に行ったらどう?」

「マスターはどこにいる?」

「ほら、あそこよ」

 

 ミラが指差したのはカウンターだった。その上に座っている一人の影がソウからでも目視できた。

 ソウはマスターの方へと歩みを進める。

 

「ソウ!!勝負しやがれぇぇーー」

「ん?ナツか?」

 

 人混みから飛び出してソウの前に立ちふさがるマフラーの少年。

 この少年にはギルドに帰るたびにこうして何度も喧嘩を売られていたことをソウは思い出した。思わず苦笑する。

 

「ソウにこんなことを言うのはナツぐらいだよ」

 

 レモンも同じことを思ったのか呆れながらいった。

 

「いいから!勝負すんぞ!」

 

 もう既に戦闘体制に入っているナツ。

 それに対してソウはただナツを見ているだけ。

 

「火竜の鉄拳!」

 

 ナツが拳に火を纏わせて正面からソウに接近する。

 

「ちょっと!ナツ!」

 

 ソウには聞き覚えのない声が聞こえた。

 マスターの言っていた新人なのだろうとソウは思い出す。ナツが目の前に来ているのに余裕の態度だ。

 

「今度こそぉー」

 

 ナツがソウの顔面目掛けて鉄拳を放ってくる。

 それをソウはただ笑みを浮かべて何もせずただ見るだけ。

 

「まだ遅いな」

 

 ソウの一言と同時にナツの拳がソウの顔面にあと少しという所まで近づく。

 

 そして───

 

 ナツが吹き飛ばされた。

 

「な………………」

 

 謎の障壁に弾かれた拳と一緒にナツが吹き飛ばされたことに初めて見る者達は驚きを隠せないだろう。

 

「くそ……いけると思ったんだが……」

 

 吹き飛ばされた先にあったテーブルとイスをどけながらナツは悔しそうに唇を噛む。

 

「確かにスピードは上がっているが、ナツ。お前が強くなると同じく俺も強くなってんだからそれ以上成長しならないと俺にダメージすら当てられんぞ」

「ソウに攻撃当てた人はまだ数人だしね」

 

 ソウの偉そうな解説に頭に乗っているレモンが付け足すように言う。

 というよりもナツが、レモンとソウを纏めて攻撃しようとしていたことにルーシィは驚いていた。

 ナツの魔法の威力は既に何度も目撃しており、相当な破壊力であったことは経験済みだ。また、レモンもハッピーやシャルルと同じ種族であることは猫なので明らかである。

 猫がナツの炎を喰らったらどんな目に遭うか想像もしたくないのに、レモンはナツの拳から逃げる素振りはまったくしていなかった。そんなことをする必要はないとまでの余裕の態度だ。

 それほどソウの魔法に安心感を抱いていたということなのだろうか。

 

「あれが………」

「ああ、あれがソウの魔法“波動”だ」

 

 ルーシィの考えを読み取ったグレイが代わりに答える。

 続いてエルザも加わる。

 

「あの魔法のせいで本人にダメージを負わすことは難しいのだ。故に反撃防御とも呼ばれている」

「自分の周りを魔法で固めてるの?」

 

 ルーシィは自分の周りを魔法をで造った目に見えないので囲んであるのかと思った。

 

「いや、攻撃をそれ以上の衝撃で相殺させているらしいぜ」

「そんなのありなの………」

 

 ルーシィはそう呟く。

 グレイの言うことが本当ならば、あの青年には物理攻撃の類いがまったく効かないということになる。

 つまり完全に魔法のみでの攻撃しか行えないということ。それでも数は限られてくる。

 下手をして襲いかかっても衝撃によってこちらがダメージを負うだけで向こうは無傷だ。

 

「君は新人さんなのかな?」

 

 ナツをぶっ飛ばして、辺りを見回していたソウはルーシィの存在に真っ先に気づいた。

 

「え!はい。そうです。ルーシィです!!」

 

 異様なオーラを出していたソウにルーシィは思わず敬語で答えてしまった。

 

「ああ。よろしく、俺はソウ。んでこっちがレモン。後、敬語はなしでいいから」

 

「よろしくー」

 

 ソウの自己紹介に続くようにレモンがルーシィに向けて挨拶をする。彼の背後のオーラが緩和されたかのようにふんわりとなった。

 

「……やっと普通の人がいたわ……このギルドに」

 

 常識をもった礼儀正しい人に出会ったルー シィは一種の安堵感に包まれてしまった。

 

「ルーシィが今、妖精の尻尾で話題の魔導士ってことか?」

「………念のために具体的なことを言ってくれません………?」

 

 ルーシィは嫌な予感がした。

 

「コスプレ大好き少女とか、バルカンを一撃で葬ったとか、見た目とは裏腹に随分と腹黒な女とか………その他もろもろ、帰ってくる途中で結構な量の噂を耳にしたぞ」

「それ全部うそですから!!」

「へ~、まぁこいつらと一緒にいると面倒ごとに巻き込まれるからな。そのせいで余計な尾びれがついたってことか」

「まさにその通りです!!」

 

 彼は神だと確信したルーシィ。嬉しいあまり、涙ぐんでしまった。

 ソウは一言添えると、ルーシィの元から離れた。

 ソウはマスターの目の前に移動する。

 

「マスター、ただいま帰還しました」

「おう、ようやく帰って来たわい」

「まあ、あれも近づいてますしね」

「む!てっきりお主のことだから忘れてあると思ったわい」

 

 内心をつかれてうっ…となるソウ。表情には出さずにばれないように誤魔化す。

 

「忘れていたよ~、マスター」

 

 レモンがまた余計なことを言った。ソウの顔には冷や汗がたらりと流れる。

 

「何!?やはり、忘れておったのか……」

「まあ……………………アハハ」

 

 事実なので何も言えないソウはとりあえずから笑いをしておく。

 

「いやー、懐かしいですねーここは」

 

 もうこれ以上へまは出させまいと無理矢理に話を別の話題にと変える。

 

「それに………新しい魔力も幾つか感じますしね」

 

 口には出さないが秘かに懐かしい魔力もソウは感じていた。

 

「おお!そうじゃ、お主に聞きたいことがあったのじゃ!」

「何ですか?」

「────お兄ちゃん」

「っ!!」

 

 マスターからではなく背後から聞こえた「お兄ちゃん」という声。

 これに、ソウは内心慌てていた。こんな呼び方をする人に心当たりがあるのは一人。だが、その人は今このギルドにいるどころか、まったく別のギルドにいるはずだ。

 ソウはゆっくりと振り返る。ソウの背後に立っていたのは─────

 

「……ウェンディ…?」

 

 むかし危ないところを助けてもらった少女。それに黙って自分の行方をくらまして心配をかけてしまっただろうと思われる少女。

 その少女───ウェンディが涙目を浮かべながらソウをじっと見つめていた。

 これにはソウは勿論、レモンも驚きを隠せなかった。

 

「久しぶりね、あんた達」

 

 ウェンディの横にはシャルル。そっぽを向けながらの挨拶。本物だ。

 

「なんで……ここに……」

 

 どうにか口にだしたのはその一言だった。

 

「お兄ちゃんなの……?」

「ウェンディ……」

 

 まさか、本人が目の前にいるとは思わず狼狽えるしかないソウ。

 

「うわぁ~~~~~~!」

 

 ウェンディは思わずソウに抱きついて泣き出してしまった。

 それでどうにか落ち着きを取り戻したソウはウェンディの頭をそっと撫でてやる。

 

「なんで、ウェンディ達がフェアリーテイルにいるんだよ?」

「やはり、ウェンディのことは知っておったかのう……」

 

 マスターの聞きたいことはこれなのか。

 

「ソウ、聞いてほしいことがある」

「エルザか、何があった」

「ああ、──────」

 

 ソウとレモンはエルザからケットシーがなくなったこととウェンディとシャルルがこの妖精の尻尾に入るまでの過程を聞かされた。

 

「そうか……ローバウルさんも…」

 とある所に一見、マスターしかいないように見えるギルドが存在していた。ギルド名は“化猫の宿”。そこにウェンディとシャルルは入っていた。

 だが、そこはある秘密を抱え込んだ特殊なギルド。

 ソウも一度そこで世話になったことがあり、その際に確か化猫の宿は一人の少年が連れてきた少女のために作られたとマスターから言われたことをソウは覚えている。

 ───その少女がウェンディだということも。

 それに化猫の宿で過ごしている途中で出会った別の少年のこと。

 ───それがソウだったということ。

 レモンとシャルルと出会ったのもその時だ。

 一見、ギルドにいるたくさわの人々もすべてローバウルが魔法によって作られたことを暴露されたときには驚きが隠せなかった。

 なんでも、ウェンディに淋しい思いをさせたくないかららしい。彼女を孤独にさせないようにと咄嗟にでっち上げたようだ。

 嘘をついてまでしてウェンディのことを考えてくれたあの人はとてもいい人だ。

 そんなローバウルからある日言われた驚愕の頼み。

 

『ウェンディを引き取ってもらえないかのう?』

 

 自分はここに大事な理由がいて動けない。それにあと少しで化猫の宿もなくなってしまうと直感的に感じていたローバウルはソウにそう告げた。

 ………ソウは悩んだ末、こう答えた。

 

『分かりました。けれど、もう少し待ってもらえますか。また戻ってきますので』

 

 そう答えた次の日、ソウそれにレモンはウェンディとシャルルの前から姿を消した。

 やがて予言通りに化猫の宿に終わりが来た。その時に偶然ソウと同じギルドに所属しているナツ達は妖精の尻尾に来ないかとウェンディ達を誘った。

 こうして再び出会ったソウとウェンディ。

 

「…どうして……あの時……消えちゃったの………」

 

 ソウに抱きつきながらウェンディが呟く。

 

「ごめん………あと少しで迎えにいくつもりだったんだ……」

 

 ローバウルとの約束は忘れていなかった。どうしてもやらなければいけないことがあった。それももうすぐで終わる。その後に彼女を迎えに行くつもりだった。

 

「感動の再会ね………」

「そうだな………」

「うぅ………漢だ………っ!!」

 

 二人の光景に感動を覚えた妖精の尻尾のメンバーは微笑ましくその光景を眺めていた。

 

続く─────────────────────────────

 

 




あと、数話はストックあるから良いけど………それからは時間がかかりそうです………。


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第3話 世界は狭い

ここで、バトルが入ってきます!
駄文で皆さんに伝われば幸いです。

───では、どうぞ!


「私……怖かった…また一人になるって……」

 

 ローバウルがいなくなり、実質一人になるという感覚に襲われた少女。その奥底は計り知れないものだ。

 ジェラールと呼ばれるウェンディをケットシーに連れていった少年。

 ソウと呼ばれるある日出会った優しい少年。

 二人ともとても優しいかった。けれど、だからこそ、どちらも自分を置いていって消えてしまった。

 ジェラールに至ってはケットシーが消える前に再会したが、ウェンディのことはまったく覚えていなかった。その時の衝撃は計り知れない。

 ウェンディが感じているのは心地よい感覚。兄と親しんでいる大切なひとのにおい。

 

「私を……置いてかないで……」

 

 今のウェンディの唯一と言ってもいい願い。もうこれ以上知らない間に消えてほしくなかった。

 ソウをより一層強く抱き締める。

 

 ───もうこれ以上離れまいと。

 

 ───大切なものが消えていくのはもう見たくないと。

 

「…!」

 

 自分の頭に何かを乗せた感触を感じる。とても気持ちよくて、優しくて────

 

「大丈夫、ウェンディはもう独りじゃない。俺がいるし、皆がいる」

 

「お兄ちゃん……」

 

 今、一番聞きたかった。言って欲しかった言葉。

 ウェンディの胸は喜びと感動でいっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソウ、一ついいか」

 

 ウェンディはソウに抱きついたまま、動こうとはしない。それは皆が承知していたことだから温かい目で見守っていた。

 ウェンディの頭を撫でながらのソウに声を発したのはグレイだ。

 

「ウェンディに黙って消えたのはどうしてだ?」

 

「それは誰から聞いたんだ」

 

「私とウェンディよ」

 

「シャルル、あれは話してないのか?」

 

「ええ、あんたから言いなさい」

 

「そうか。前に帰った時に俺はやるべき事があるって言ったよな」

 

「ああ……内容は知らないが」

 

 むかしからフェアリーテイルにいるメンバーはソウは何かしらの目的の為に旅に出ていることは知っている。というか、そのせいで滅多に帰ってこないことが殆どだ。

 

「それと関係があるのか?」

 

 エルザの疑問にソウは頷く。

 

「ここまで来たんならしょうがいな。言うよ。俺の生涯の目的」

 

 ソウは一呼吸する。皆は固唾を飲んでソウの口が開くのを待っている。

 

「ある人達を探してるんだ」

 

 そう言うとウェンディが顔を上げて話を聞こうとソウの顔を見つめる。

 

「具体的にはその人達に手伝ってもらいたいことがあるんだ」

 

「それは何なの?もしかして………」

 

 先程、シャルルが言っていたドラゴンスレイヤーが関係しているのかもしれないと直感的にルーシィは感じた。

 

「約束ごと。今はそれだけしか言えない」

 

 約束ごととは一体何のことなのだろうか。

 自分には分かるわけがないことだ。

 ルーシィはそう思った。

 

 ただ、この答えに不服だったのがナツ。それにウェンディだった。

 

「お兄ちゃん…教えてくれないの……」

 

「教えてくれても良いじゃねぇか!」

 

 ウェンディは涙目に、ナツは怒り声で反論する。

 

「ごめん、どうしても言えない」

 

「では、ソウが探している人物とは誰なのだ?」

 

 ソウの口が堅いことは今まで一緒にいて既にそういう性格だということから分かっているエルザは敢えて別の質問をする。

 そこから内容を掘り起こそうとしているのだ。

 

「俺が言えるのは名前だけ」

 

 やはり、エルザの考え通りには進ませてくれない。

 むかしからそうだったと思い出したエルザ。

 

「誰なんだ、そいつ?」

 

「ジュンとアール」

 

「ジュン?」

 

「アール?聞いたことない名前ね」

 

 ギルド全員が心当たりがないのか首を傾げている。

 それもそうだとソウは思う。

 実を言うとあともう一人いるがその人はある意味有名なので言わない。

 

「ソウ!」

 

「何かな、ナツ?」

 

「俺達にどうしても言えないことなのか」

 

「ああ、仲間同士だからこそだ」

 

「ソウ!俺と勝負しろぉ!」

 

「ナツっ!急にどうしたの!」

 

 いきなりの喧嘩発言にハッピーが慌てて止めにいくがナツの目は完全にやる気である。

 ソウは、はぁ~とため息をついた。

 この目をしたナツは頑固であることは既に知っている。故に承知するしかなかった。

 

「分かった。受けてたつよ」

 

「お兄ちゃん!」

 

 ウェンディが心配そうにしている。

 ソウは大丈夫だとウェンディの頭を撫でてやって伝える。

 

「俺が勝ったら洗いざらいはいてもらうぞ、ソウ!」

 

 どっかの悪党の台詞だなとソウは心の隅で突っ込む。

 

「んで、いつも通り波動壁はなしで……か。こっちに利点はないが仕方ないか」

 

 いきなりの展開についていけない周りの人はポカーンとその光景を眺めているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所はギルドの裏のとある広場みたいな広さを誇る庭。

 そこに二人のドラゴンスレイヤーが対峙していた。

 ───波動を司るソウ。

 ───炎を司るナツ。

 その二人を大きく囲むようにして見守っているギルドのメンバー。

 

「ナツも賭けに出たもんだな」

 

「やっぱり、ソウは強いの?」

 

 人垣の中にルーシィ達の姿ももちろんある。

 グレイはナツの行動に心底驚いていた。正直ナツがソウに勝てるとは思えないのだ。実際にソウに勝てるどころか、攻撃を与えたこともナツはないはずだ。

 

「強いも何も、ソウが負けてるところをおいらは見たことがないよ!」

 

「そうなの、いい人そうなのに……」

 

「あい!ソウはいい人です!」

 

 ハッピーが興奮ぎみで答えた。

 

「それよりも、さっきナツを飛ばしたのは波動壁って言う魔法だったのね」

 

 ルーシィは考える。今回の勝負ではその波動壁というのを使用しないというのは本人が言っていたので確かだろう。

 けど、ソウにとっては不利になるしかない条件だ。ましてや、そんな条件で勝負するということは本気ではないのだろうか。ナツは疎かギルドの皆は気づいているのだろうか。

 

「お兄ちゃんとナツさん、大丈夫ですかね……」

 

「あの二人なら大丈夫でしょ」

 

 ウェンディとシャルルも同じように二人を見守っていた。

 ウェンディは胸に両手を組んで祈るようにしていた。

 

「それでは、始め!」

 

 マカロフの合図と同時に勝負が始まった。皆は息を飲む。

 静寂が辺りを包むなか、先に仕掛けたのはナツだ。

 

「火竜の鉄拳!」

 

 ナツはソウに向かって突進するように突き進む。

 先程はソウの魔法によって無意味に終わってしまったが今回は違う。

 ナツは炎を纏わした右拳をソウの体の中心へと伸ばした。

 だが、動いていたのはソウも同じだ。

 ナツが動いた刹那、ソウも対抗するかのように右拳に青いオーラを纏わせた。

 

 ───『波動式一番』波動拳。

 

 心の中でそう言うとソウは鉄拳を放った。

 二つの異なる鉄拳がぶつかり合った。すると、辺り一体に余波が巻き起こる。

 お互いに一歩も引かずにぐぐぐっと拳に力を込めて押そうとしている二人。

 

「なっ………」

 

 意外にも押し負けたのはソウだった。いや、引いたという方が正しいのか。あっという間に距離を取るため後ろに退避した。

 その為にナツの鉄拳は空を切るという結果に終わった。

 次に仕掛けたのはソウだった。

 ナツの目の前に来るなり、拳をナツの腹部へと放つ。

 ナツは体勢が悪い中でも腕を組んで防御した。

 が、完全に吸収仕切ることが出来ずにナツは体が後ろへと飛んでいく。どうにか地面へと両手両足を使って着地するがそのまま後ろへと後退。地面にその後が残ってしまった。

 ソウはその間、その場で両手を丸めて目の前の宙で何かを作り出していた。

 それは誰が見ても波動のエネルギーの塊。

 

 ───『波動式二番』波動弾。

 

 それがソウの作り出していたものだ。

 反撃与える隙を与えるわけにはいかないとソウは波動弾をナツへと飛ばした。

 

「こんなのかわしてやらぁ!」

 

 避ける体勢に入ろうとしたナツだが、ソウがニヤリと笑みを浮かべたのが視界に入る。

 

「ぐっ!……」

 

 その瞬間、体に衝撃が伝わってきた。

 

 ───『波動式七番』はっけい。

 

 一見、普通のパンチにしか見えないが時間差で後から衝撃が体に走るという技だ。

 さっきソウがしたのはそれだ。

 内心の中で舌打ちをしたナツ。むかしに一度エルザとの勝負で使っていたのを見ていたじゃないか。エルザもその衝撃で体勢を崩し、ソウの追撃を喰らっていた。

 

 だったら、耐えてやる。

 

 前方からの衝撃に思わず倒れそうになるナツだがどうにかこらえようと体勢を立て直したナツだったがソウの計画通りだった。

 ナツの目の前には直前まで迫っている波動弾が見えた。存在をすっかり忘れていた。

 

 引っ掛かった……。

 

 波動弾がナツへと直撃。再び、衝撃が体中に走り後ろへと吹き飛ばされた。

 ドゴーーンと派手に吹き飛ばされたナツは背後まで相当の距離があった崖に打ち付けられた。

 

 

 

 

 

 

「すごい…ナツが一方的にやられている…」

 

 ルーシィは改めてソウの強さに感心していた。

 

 ソウの強さを疑っていたわけではないが、心のどこかで疑いをしていた自分がいた。もしかしたら、ナツなら本気でいけば勝てるではないかと。

 だが、それはあっという間に崩された。

 最初にお互いが竜の鉄拳をぶつかり合わせた。そのせいでこちらにも被害が及んだが。

 そのまま力比べが始まった。勝ったのはナツだった。いや、勝ったとは言えないだろう。

 即座に拳を引っ込めてバックステップを行ったソウ。そのタイミングも見計らっていたかのように。

 現にナツは拳に力を最大限込めた瞬間にソウが拳を引っ込めったおかげで思いっきり空振りをするはめになった。

 空振りをして隙を与えてしまったナツ。そこを逃してくれるわけがない。急接近したソウはナツの腹へと鉄拳を放った。

 接近したスピードが相当早いものだが魔法で身体能力を強化していたのだろうか。鉄拳と言っても一発目のとは違う他所から見たら普通のパンチ。

 けれど、見た目とは裏腹にナツは吹き飛んだ。ナツはどうにか体勢を保ったまま着地して耐えていた様子だが、魔法で強化しているとは言えただのパンチがあるほどの威力だろうか。

 ソウは既に次の魔法へと準備を完了していた。

 

 手っ取り早いとルーシィは思った。

 

 ソウの手のひらの上には一言で言えば青い塊。だが、直感的にルーシィはあれを喰らってはいけないと感じた。

 ルーシィの思考はナツも同じみたいだったようで避ける体勢に入ろうとしていた。

 次の瞬間、あり得ない光景がルーシィの目に入る。

 前屈みになって立ち上がったナツが一瞬でバランスを崩して後ろに倒れそうになっていたのだ。

 ナツが自ら自分を追い込めるようなことはしないとルーシィは知っている。というより普通はあんな状態にはならない。では、一体ナツの身に何があったのか。

 もしかしての可能性がルーシィの頭に浮かんだ。だとすればとんでもないことになる。

 それは先程のただのパンチは時間差で衝撃を与えるものではないかということ。

 どうにか体勢を立て直すナツだが、完全に波動弾の存在を忘れているように思えた。

 ナツは目を開き、なすすべなく波動弾に吹き飛ばされた。

 もし、あのまま衝撃に身を任せてバタンとその場に倒れていたらあの波動弾はかわせていた。

 けれど、ソウはそんなことはしないと初めから分かっていたかように一発しか放っていない。

 予備に二発用意しておけば、確実にダメージを与えることはできた筈だ。だが、ソウはそれをしなかった。

 そこから導き出されるのは一つ。

 

 すべてはソウの思惑通りだということ。

 

 初めからナツがどうするかも性格等から考慮して最小限の魔力で攻撃した。ナツはまんまと操られてソウにまったくダメージを負わせずに一方的にやられるという事態に陥っている。

 ルーシィは驚くしかなかった。

 一瞬でそれを考えるのも凄いが何よりも、ナツのことを完全に手に取るように把握しているのだ。

 

「凄い……」

 

 ルーシィの口から漏れた一言。

 他のギルドの皆もルーシィと同意見を思っていたのか頷いた。

 

「今のは一体……」

 

「あれは確か、『波動式七番』はっけいと言ったな」

 

 ウェンディの疑問にエルザは答える。一度味わっているからこそ、分かる。あれは油断してるとあっという間に尻尾を掴まれてしまうのだ。

 

「ソウが自分で考えた技だよ。他にもまだまだたくさんあるよ」

 

 自慢げにソウのことを言うレモン。それほど、ソウに信頼を置いているのだろう。

 

「うおぉぉぉーー!!」

 

 吹き飛ばされたナツがその場を怒鳴り声と共に瓦礫をのけて立ち上がる。

 ソウは分かりきっていたのか、特に驚きもしないで見ていた。

 

 第二ラウンドの幕開けだ──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっけいの感想はいかに?」

 

「ああ……もう喰らいたくないねぇ」

 

 はっけいを使っての隙を作り、そこに追撃を仕掛けるという方法は一度見せてある。

 その時の相手は確か、エルザだったとソウはむかしの記憶を探る。ただ、エルザの場合ははっけいに油断して完全に体勢を崩した。

 ナツはそれを耐えて見せた。けれど、そうすることもソウは想定済みだった。あえて波動弾を一発しか放っていないのもその為だ。命中するのは分かっていた。

 

 敵の思いのままに操られたナツの気分はどうなんだろう。

 

 ナツが息をゆっくり吸い込んだ。咆哮(ブレス)でも放つつもりだろうとソウは予想すると、こちらも新たな魔法の準備へと取りかかる。

 

「まだまだ序の口だ、ナツ」

 

 ソウはかかってこいと挑発する。それを黙って見ているナツではない。

 

「火竜の咆哮ォォーーー」

 

 炎のブレスが周りを巻き込みながらソウに一直線に向かっていく。

 

「展開!『波動式十番』絶対波盾(エターナルシールド)』」

 

 ソウの目の前に六角形の厚みのあるシールドを思わせるものが宙に出現し、浮かび上がる。

 それはソウが波のエネルギーで造った防御魔法の一つだ。

 火竜のブレスがシールドに命中。

 ブレスは横四方に拡散していき、シールドはまったくと言ってもいいほどびくともしていなかった。

 ブレスを防いでいるシールドの中心が青く光輝いていく。光が最高潮に達したその瞬間、レーザーらしきものがナツに向かって放たれた。

 咆哮に逆らって進んでいくレーザーは相当の速度でナツに襲いかかる。

 

「───うぉっ」

 

 カウンターにも等しい波動咆を紙一重でかわしたナツ。ブレスを途中で止めたのは賢明な判断だとソウは呑気に考える。

 

「火竜の翼撃ィィ!」

 

 正面突破ではあのシールドを壊せないと判断したナツは炎を操り側面から仕掛ける。

 ────『波動式十番』絶対波盾、展開

 炎が襲ってくると同時にさらにソウは自分の側面にもそれぞれ左右展開し、防御に徹する。

 翼撃はシールドに阻まれ、霧散に散った。

 ナツはソウの背後へと回った。開いているのはここしかない。

 

「火竜の咆哮ォォーーー」

 

 シールドの内側で派手に爆発が起きて煙が上へと上っていく。

 やったかとナツはブレスを吐きながらそう願う。だが、相手はS級魔導士。こんなことで勝てるとは微塵も思っていない。

 

 故に次に気を付けるのはカウンターだ。

 

 やがてブレスでの攻撃が終わり、ひとまず様子を見るナツ。砂ぼこりのせいでよく見えないが油断できない。

 

「────甘い」

 

 背後からの声に背筋が震えたのを感じた。

 

「『波動式───────」

 

 ───やばい。

 

 ナツは本能的にその場を動こうとしたがソウはもう既に攻撃の体勢に入っている。

 

「──ぐはっ」

 

 背中から襲ってくる衝撃波。しかも三連発。息が止まりそうなほどの威力だ。どうにか耐えようと必死に抗うがぶっ飛ぶのは目に見えていた。

 

「────三番』衝撃連波」

 

 ソウが行ったのは波を三段階に分けての攻撃。あえて三段階にすることでよりダメージを多く与えることが出来るのだ。

 ナツが吹き飛ばされた先にはソウの展開したシールドがあった。

 シールドに激突。

 地面へとずるずるナツは滑るように落ちていく。だが容赦なくソウはさらなる追撃をする。

 ソウが発動したのは十番絶対波盾。シールドをさらに追加した。

 一枚はソウの背後となった場所。もう一枚はソウが脱出の時に使った頭上に。

 五枚のシールドがナツを囲むようにして配置された。

 結果、ナツは檻に閉じ込められたと言っても等しい状況に陥った。

 

「こんなものぉ!壊してやるー!」

 

 ナツが脱出しようと蹴ったり殴ったりブレスを吐いたりしているがすべて弾かれてしまう。ソウは魔力をシールドに集中さした。

 五枚のシールドの中心が一斉にエネルギーの充填を開始。ナツはより一層暴れるが無駄に体力を消費するはめとなる。

 

「『波動式十一番』 絶対檻咆(シェルドームブラスター)』」

 

 エネルギー充填の合図となる青白い光が輝きを放つと確認したソウはそう呟いた。

 だが───絶対檻咆は放たれなかった。

 

「やめーーいぃー!!」

 

 審判役のマカロフによる中断が入ったからだ。

 

「勝者はソウじゃ」

 

 ソウはシールドを解除した。自由の身となったナツだが、拳を悔しそうに地面に叩き付ける。

 二人の滅竜魔導士対決はソウの勝利で幕を閉じた。

 

続く──────────────────────────────

 




やっぱり、戦闘描写は難しいですね………


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第4話 実力の差

今回は主にウェンディの心情です。それとオリキャラ二人が少しですが登場します。次、出てくるのは………何時だろう?早めに出ると思います(゜ロ゜)

───では、どうぞ!


 マカロフによる中断が入り、勝負はソウの勝ちということで終わった。

 マスターの判断は賢明だった。あのままナツが絶対檻咆を喰らっていたら、ナツに相当な被害が及んだことだろう。

 けれど、ナツとしては納得のいかない結果だったはずだ。まだ、自分はいけると自身に言い聞かせて。

 

「俺の勝ちだからな」

 

 やはり、まだ目の前のS級魔導士には敵わないのか。

 それは分かっていた。同じエルザでも勝てるかどうか怪しいところなのに自分が勝てるとは到底思わない。

 けど、どうしても闘いたかった。拳を合わせれば何かが分かるかと思ったからだ。

 分かったのはソウが前よりも一回り成長しているということだけだった。

 

「まあ、実をいうとアールの方はフェアリーテイルを訪ねるって言われてるんだ」

 

 アハハと笑うソウ。

 

「な!?」

 

「そいつも強いぞ。俺と同じか、それ以上だな」

 

 何故そんな大事なことを決闘する前に言わなかったのか。

 

「ソウ………」

 

「どうした、レモン?」

 

「皆、先に言って欲しかったみたいだよ」

 

 レモンに告げられて周りを見渡し皆の表情を確認したソウ。

 皆の表情から察するに驚いていたようだ。

 

「ソウ、アールとやらはいつ訪ねてくるのかのう?」

 

「近日中に行くって言ってました」

 

 マスターの質問にソウは答えていく。

 

「さて、ギルドに戻りますか」

 

 色々な事実が発覚したソウの帰還だったが、あっという間に幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある場所を走っている一台の荷台を引っ張る馬車。

 その中には二人の少年、少女がいた。

 

 少年は幼い顔つきで女の子と言われても分からないほどの容姿だ。

 一方、少女はいかにもお嬢様な雰囲気を出しており黒髪がなびいている。

 

 向かい合うように座りもたれ掛かっている少年はこくりこくり空想の船を漕いでいた。

 つまり、寝る寸前だ。

 

「アール、起きなさい」

 

 少女は少年───アールの肩を揺さぶる。が、少年はそのまま横に倒れて寝てしまった。

 もう限界だったようだ。

 

「もう、なんで寝ちゃうのよ」

 

 不機嫌になった少女はぶつぶつ呟くが誰も聞いてくれない。馬車を運転している人は外だし、アールは寝ていてしまっていて除外だ。そもそも彼は乗り物が苦手なので、こうして乗っているだけでも彼にとっては地獄なのだろう。

「あ~、もう!私も寝る!」

 

 やけくそ気味に叫ぶと少女はその場で横になって目を閉じることにした。

 目的地まではまだまだ先だ。

 

 ……少女が起きたとき、いつの間にかアールの手を握っていたことに気付いたときは慌てて顔を赤らめながら離したとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソウが帰還して騒がしかったフェアリーテイルも数日が過ぎると流石に元通りになっていた。

 その元通りになった今でも騒がしいのはどうかとソウは思った。

 

「じゃあ、オイラがウェンディ達の寮を案内するよ 」

 

「ああ。頼むぞ、ハッピー」

 

「ソウはどうするの?」

 

「あの馬鹿共とプール掃除しなくてはいけないからそっちにいるはずだ」

 

 ソウはそれだけ告げるとその場を去っていった。

 ハッピーはソウの背中が見えなくなったのを確認してから一声上げた。

 

「そんじゃオイラについてきて」

 

 ハッピーはエーラを使って翼を広げるとどこかに向かって移動し始めた。

 その後に続くのはウェンディとシャルル、それにレモンである。

 

「このまま真っ直ぐいけば、もうすぐ女子寮のフェアリーヒルズにつくよ」

 

「女子寮があるのは、助かるわ」

 

「楽しみだね~」

 

「そうだねぇ~……あれ?」

 

 他愛もない会話をしながら歩いていると女子寮の前に誰かがいることにレモンがいち早く気付いた。

 

「あれって、ルーシィ?」

 

「え?」

 

 寮の前には何故か猫の格好をしたルーシィがいた。

 

「あの、ルーシィさん?」

 

 ウェンディが声を掛けると、ルーシィが振り向いた。そして驚きの表情に変貌した。

 

「え?あ、ウェンディ!それとシャルルとレモンも………」

 

「いつもの感じと違う服だったから、ルーシィさんじゃないかと思いました」

 

「よりにもよってその格好?いい度胸ね」

 

「ルーシィの趣味?」

 

「好きで着てんじゃないから………」

 

「あはは…………」

 

 猫の前で猫のコスプレをしている、こんな姿を他の誰かに見られたら……などと不安な気持ちに襲われなかったのだろうか。

 

「それで、どうしたのよ?なにか用事?」

 

「あ、それはですね。女子寮の皆さんが私たちの歓迎会をしてくださるそうなんですよ」

 

「歓迎会を?」

 

「まぁね」

 

「オイラもお手伝いできたよ!」

 

「うわ、ハッピー?いつのまに現れたのよ。」

 

「最初からいたよ!」

 

「…………それはともかくハッピー、ここ女子寮だからあんたは入れないわよ?」

 

「オイラは男子じゃありません。猫です」

 

「でも、オスでしょ?」

 

「男子とオスは違います」

 

「どう違うのよ………」

 

 ルーシィのため息をよそにハッピーはフェアリーヒルズの案内を始めた。

 途中でエルザと合流したこともあったが無事に案内は終わった。フェアリーテイルの女性メンバーも相当部屋に凝っているのだとも分かった。

 

 その後はウェンディ達の歓迎会をするために女性メンバー達はウェンディ達と共には湖畔へ泳ぎに行った。

 湖畔では、砂浜を駆け回るレビィとビスカとラキ。

 ウェンディとエバーグリーンは湖に浮かんでいた。ただし、一緒にいたジュビアはあまり楽しそうではなかった。

 

「それにしても、楽しいですね」

 

「ああ、フェアリーテイルもフェアリーヒルズも、どっちも楽しいぞ」

 

 場所は変わり、エルザとウェンディが話して、少し離れた所にシャルルはビーチにパラソルを広げてくつろいでいた。

 

「ふん、皆ガキね」

 

「お待たせ致しました」

 

 ハッピーは飲み物を持ってきた。

 

「あら?オスネコの癖に気が利くのね」

 

「女子寮の皆さんにそう言われます」

 

 するとハッピーが、皆のほうに向き直って言った。

 

「皆さん!」

 

「あっ!?」

 

「それでは例のやつ行きますよ!」

 

「例のやつ!」

 

 ハッピーが飲み物を投げたことに唖然としたシャルル。

 ハッピーの台詞に一番反応したのがレモン。

 

「フェアリーヒルズ名物、恋の馬鹿騒ぎ!」

 

「「「「「「わ~!」」」」」」

 

「グレイ様!」「ラクサス!」

 

「まだお題すら出てないぞ」

 すでにジュビアとエバーグリーンはノリノリだった。気が早いのにも程がある。

 

「やった、やった!!私も司会者でいい?」

 

「いいよ。今日のお題は……あなたがフェアリーテイルで彼氏にしてもいいと思うのは誰?です。さあ!」

 

「グレイ様、以上!」

 

「ジュビア、それじゃあつまらないよ」

 

「他の人は?」

 

「え~………その~……」

 

「花が似合って、石像の様な感じの……」

 

「それって人間ですか?」

 

 エバーグリーンの謎発言にハッピーが突っ込む。

 もはや、人間ですらなかった。

 

「エルザは?」

 

「いないな」

 

「即答だね」

 

「他の人!」

 

「ちょっとお題に無理があります!だってそんな人いる?」

 

 お題に意見するラキ。これを聞いたほとんどの男どもが落ち込む姿が安易に想像出来るが、この場には居ない。

 

「レビィはどうなの?」

 

「私!?」

 

「例えばジェットとか、ドロイとか………」

 

「三角関係の噂もあるしね」

 

「冗談!チーム内での恋愛はご法度よ!!仕事にも差し支えるもん!!!」

 

 バッサリ言うレビィ。

 あの二人も可哀想である。この場に居なかったことが幸いと言えた。

 

「トライアングル~、グッとくるフレーズね」

 

「三角関係………恋敵………!」

 

「その真ん中に立つと、全ての毛穴から鮮血が………とか?」

 

「はい!そこ!」

 

「脱線し過ぎだよ~!!」

 

「チームの恋愛って言えば、私前から疑ってる事があって………」

 

「なになに~?」

 

「実は、ナツとエルザが怪しいんじゃないかと思うの!だって昔、一緒にお風呂とかに入ったって言うし!」

 

「そう言えば!」

 

「ん?グレイとも入ったぞ?」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

 エルザの発言に一同が固まってしまった。

 内容も突っ込みどころ満載のあれだが、そんなにあっさり言ってしまうエルザに対してだ。

 

「それは即ち、好きと言う事になるのか?」

 

「グレイ様と………お風呂だなんって………」

 

 ピコッ!とジュビアの頭から鳴った。

 

「はいそこ!」

 

「想像しなぁーい!」

 

 ハッピーが持ってたピコハンでジュビアを叩き、ツッコミを入れるレモン。

 

「ビスカこそ、アルザックとは相変わらずうまくいってるのか?」

 

「エルザさん!?それ内緒です……!!」

 

「え?皆知ってるよ?」

 

「と言うより、知らないのアルザックだけだし」

 

「「「「「うんうん」」」」」

 

「ポ~………////」

 

 顔を赤くするビスカ。

 逆にあんなに赤い空間を放っておいて気づかないとでも思っていたのか。

 現にエルザさえも気付いている。

 

「すまん………うっかりしていた。仲間だと言うのに………私の所為だ………取り合えず、殴ってくれないか?」

 

「えー…………」

 

「何でそうなるの?」

 

 ツッコミを入れるレモン。どういう経路を辿ったらそんな結論に至るのか不明。

 

「じゃあルーシィはどう?」

 

「ナツじゃない?」

 

「意外にグレイかも?」

 

「ジュビアはロキだと!」

 

 ジュビアはグレイを取られまいと必死だった。

 

「あっ、でも、ルーちゃん言ってたよ。

 ブルーペガサスのヒビキって人に優しくして貰ったって」

 

「う~ん、意表を突いてリーダスとか!」

 

「「「「「ないないない………」」」」」

 

「わかった!きっとミラさんだ!」

 

「それもどうかと………」

 

「ルーシィの相手が段々変な方向に行ってるね」

 

「あい」

 

「意外にソウ君はどう?」

 

「見た目もかっこいいし、それに強いし」

 

「そ、それはダメです!!」

 

 そう言ったのは、ウェンディだった。

 

「ウェンディ?」

 

「お兄ちゃんはダメ!絶対にダメ!!」

 

「…………何でソウはダメなの?」

 

「そ、それは……その…………」

 

「「「「「「じぃ~…………」」」」」」

 

「あ…………そ、その…………」

 

「もしかして………」

 

「ウェンディ………ソウの事、好きなのか?」

 

「あ………うぅ~/////」

 

 エルザの言葉に顔を赤くなるウェンディ。

 

「兄妹なのに………?」

 

「最近、再会したばっかりなのに?」

 

「あ、兄に恋をするのはどうかと思うぞ!!」

 

「近親相愛だね」

 

「でも、義兄妹だから………」

 

「ウェンディの気持ちはどうなの?」

 

「そ、それは………」

 

「「「「「「「「それは?」」」」」」」」

 

 ウェンディの返答に期待の目線を送る女子一同。

 ウェンディは覚悟を決めたのか細々しい声で呟く。

 

「好きです…………………///」

 

「なんと………!!」

 

「そうなんだ……」

 

「成程」

 

「へぇ~」

 

「グレイ様じゃなくってよかったわ」

 

「が、頑張ってね」

 

 上から順にエルザ、レビィ、エバーグリーン、ラキ、ジュビア、ビスカがそれぞれ思った事を言う。

 

「ちょっとあんた達、ウェンディにそんな話をしないでもらいたいわ」

 

 そう庇うように言ったのはシャルルだった。

 

「ウェンディも色々大変だから」

 

「シャルルの言うとおりだね」

 

「あい」

 

「………ねぇ」

 

「何?」

 

 レモンがウェンディにある事を言う。

 それも結構大事なこと。

 

「噂をすればなんとやら、ソウが来たよ」

 

「ええっ!!?//////////」

 

 ウェンディとエルザ達が横を向くと、釣り竿を思ったソウが現れた。

 

「ん?エルザにウェンディに……皆、こんな所で何をしてたんだ?楽しそうだな」

 

「え、ええっと………///」

 

 しどろもどろにウェンディはなってしまい、エルザが代わりに答える。

 

「ウェンディの歓迎会をやっているんだ」

 

「へぇ~、よかったな」

 

「う、うん……/////」

 

「どうした、顔が赤いぞ?」

 

「えっ………き、気のせいだよ!!」

 

「そうか………というか何?この恋の馬鹿騒ぎって………?」

 

「お、お兄ちゃんが気にする事じゃないよ!!!」

 

「ならいいが……」

 

 ウェンディがいつもと変なように見えたことに疑問をもったソウ。

 

「しかしソウ、何故お前がここに?」

 

「見ての通り、釣りだが!」

 

「男性達とプールの掃除を手伝ったんじゃあ………」

 

「ああ……それね」

 

 苦笑いを浮かべるソウ。そして、呆れるように話し出した。

 一応、男子たちは掃除はしていたものの、いつも通り騒がしいのは変わらなく作業はなかなか進まない。

 ナツは温泉プール。グレイは冷水プールを作り出すはめになり無茶苦茶だ。ビックスローは気に入っていたが。

 それをミラは呑気にジュースを飲みながら見ていた。

 と、ナツが何かを発見したのか声を上げた。

 発見したのは穴だった。ただ、ガラスが張ってあり、そこから見ると下に部屋があるみたいだった。

 もう、どうでも良くなったソウは気分転換に釣り用具を持ってこっちに来たというわけだった。

 

「───────という訳だ」

 

「覗き部屋って、最低!!」

 

 説明し終わるなり最初にレビィがそう言った。

 女子達にとっては最悪その物だろう。男子にとっては最高なのかどうかは別だが。

 

「一体誰かしら!?」

 

「少なくとも掃除してたやつ以外だと思うがな」

 

「何でわかるのだ?」

 

 エルザが疑問に思い、質問をした。

 

「もし、メンバーの中にその覗き部屋を知っている人がいたら、動揺する筈だ。それに全員、初めて知ったという話だったし、魔法を使って確認してみたが事実だった。第一にまず、その覗き部屋のあるプールの掃除をするのに普通なら隠しているはずだろ?その様な行動をとった奴は確認していないからな」

 

「「「「「成程!」」」」」

 

 女性メンバーの方々は納得してもらえたようだ。

 ついでに言うと犯人の目星はついていた。

 と、ドーン!とギルドのほうから大きな音が響いてきた。爆発音に近かった。

 

「何っ!?」

 

「爆発音……?」

 

「もっぱら、あの部屋を壊したんだろう」

 

「それはそれで助かるわ」

 

 後からミラに聞いた話だと、あの除き部屋の犯人はマスターだったみたいだ。

 ナツ達が部屋内でとんでもないものを見てしまって暴走したとのこと。

 

 釣りを開始してから数時間が過ぎてソウの成果はなかなか上がらず3匹という微妙な結果。

 あの猫達にあげてみようかと考えた。ハッピーとレモンは喜びそうだが、シャルルに冷徹な目線で拒否されそうなのでやめた。

 だったら、もう魔法で取ってしまおうかとやけくそになる。

 魔法で湖に震動を起こす。魚はその衝撃を水中で受けることになるので 、気絶して水面へと浮かび上がってくるというわけだ。

 でも、それをしたら湖の環境を壊してしまうことに。それよりもマスターや命に優しいウェンディに怒られそうなので結果、断念することにした。

 

「……帰るか」

 

「ソウ、帰るの?」

 

「レモンか、今から戻るとこ」

 

 ソウが振り返るとそこにはレモンがいた。

 どうやら、ウェンディ達の歓迎会は終わったみたいだ。

 

「ねぇ~、一つ聞いていい?」

 

「何が聞きたいんだ?」

 ソウはいつもなら唐突に質問してくるはずのレモンが確認を取ってきたことに不思議に思った。

 

「ウェンディのこと、どう思ってるの?」

 

「ウェンディか?……大切な妹として見ているが、それがどうかしたのか?」

 

「ううん、ただ気になっただけだから。ついでにウェンディの部屋は二階の角部屋だからね~」

 

 そんなことを言っていいんだろうかとソウは疑問に思った。そもそもそれを伝えて自分はどうすればいい?とソウは思う。

 レモンは「またね~」と言うとエーラを使い翼を羽ばたかせて寮の方へと飛んでいった。

 ソウは気になることがあったことを思い出してギルドへと戻っていく。

 ギルドの中で真っ先に見つけたのがハッピーだった。ハッピーの目線はシャルルに注がれている。

 

「ねぇ?シャルル、魚いる?」

 

「いらないわよ!」

 

 このやり取りをソウはもう既に数回目撃している。

 ソウはハッピーのいるテーブルに近づき一匹の魚を取り出した。

 

「ハッピー、魚いるか?」

 

「あい!いるいる、ありがとうソウ」

 

「シャルルもいる?」

 

「だから、いらないわよ!」

 

「冗談だって」

 

 ふん!と鼻を鳴らして完全にご機嫌ななめになってしまったシャルル。

 

「そうだ。ハッピー、レオ………ロキは何処にいるんだ?」

 

「ほぉきふぁら、ふぅーしぃのとほぉろはひょ(ロキなら、ルーシィのところだよ)」

 

 魚をくわえながら答えるハッピー。ソウはそれで通じたのか頷くとどこに歩いていった。

 ロキはフェアリーテイルの魔導士だった男だが、現在は素性が皆にバレてしまい、ここにはいない。

 

「あれ?おいら、ソウにロキが星霊だってこと言ったっけ?」

 

 言ってから、あることに気付いたハッピー。

 確か、ロキが星霊だと判明したのはルーシィが来てからだ。ソウとルーシィはこの前、初めて会ったばかりのはずなのにソウはハッピーの返答に納得したのかルーシィの方へと行ってしまった。

 

「まあ、いいや」

 

 細かいことは考えても分からないハッピーは考えるのを止めた。

 それをシャルルは横目になりながら見ていたのだった。

 

「ルーシィ、ちょっといいか?」

 

「ソウじゃない、どうしたのよ」

 

 テーブルで一人寂しそうにしていたルーシィにソウは話しかける。

 

「ちょっと、ロキと話がしたいから呼んでくれないか?」

 

「え!なんで、私がロキと契約しているのを知っているのよ」

 

「なんでって……ロキはフェアリーテイルの一員だったはずだろ?でも、いないってことは星霊として過ごすことにしたんだろうって思って唯一の星霊魔導士のところに来たわけ」

 

「あんたって……凄いわ……。分かったわ、ちょっと待っててね」

 

 そう言うとルーシィは懐から鍵を取り出して星霊を呼ぶ際の合言葉みたいなのを叫ぶ。

 

「開け!『獅子王宮の扉』!」

 

 魔法陣が出現すると同時に一人の影が現れた。

 ソウはそれを見ると喜びの笑みを浮かべた。

 

「久しぶり、ロキ」

 

「やあ、相変わらずだね、ソウ」

 

 二人は久しぶりに対面するのだった。

 

 

続く──────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想お待ちしてまーす~


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第5話 ハコベ山での災難

ロキとソウの会話が思っていた以上に短いことに、読み返してみて気付いてしまった………
まあ、楽しめてもらえれば万事解決なので、問題ないはず!

───では、どうぞ~!!


「やぁ、相変わらずだね、ソウ」

 

 目の前の金髪の青年は微笑の笑みを浮かべて挨拶をする。

 元フェアリーテイルの魔導士であり、今は精霊だ。いや、元々精霊でつい最近に本業に戻っただけなのか。

 ロキが精霊だと知っていたのはソウの魔法で昔から気付いていたからだ。本人から口止めされていたので、話していなかったが精霊に戻った今はこうして普通に話すことが出来る。

 

「もう、大丈夫なのか」

 

「ああ。ルーシィのおかげさまでね」

 

「そうか。良かったな」

 

「僕は本当に運が良かったよ」

 

 そう言うとロキは精霊界へと戻ったのか、光の粒子となって宙に消えた。

 

「じゃあルーシィ、俺はこれで」

 

「ええ、ソウのことちょっと知れて良かったわ」

 

 ソウはその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日が過ぎるとフェアリーテイル内では花見大会で盛り上がっていた。

 この時期になるとフェアリーテイルは仕事にならないと依頼の量が極端に少なくなる。故により一層ギルドの奴等は騒ぎ出す悪循環になる。

 一方、ソウとレモンはと言うとナツ、グレイ、エルザ、ルーシィの最強チームにウェンディ、シャルルを加えたメンバーでハコベ山へと来ていた。

 ウェンディはまだ仕事に慣れていないらしくナツ達のチームに付いてきてきたのだがウェンディは暇そうにしていたソウを引っ張ってきたのだ。

 ソウが受ける依頼はS級魔導士にしか受けられない難易度の高いものばかりで一緒に行くことが出来ない。

 本人に付いていきたいと言えば簡単な依頼にしてくれるだろうが、それでも猛獣退治などの危険極まりないものばかりだ。

 そこでウェンディはチャンスとばかりに無理矢理テーブルで飲み物を飲んでいたソウを引っ張り出してきた。

 いつもソウの頭に乗っているレモンもだ。

 ソウもウェンディの昔のことがあるので容易に断り切れなかった。

 ナツ達も断るわけが当然なく、むしろ歓迎気味だ。レモンもノリノリで依頼をこなそうとしていた。

 その依頼がなんでもハコベ山に咲いている薬草の採取らしいが、ハコベ山はとにかく一年中雪が降っていることで有名なので寒い。

 

「開け!時計座の扉、ホロロギウム!」

 

 ルーシィの言葉と同時に柱時計のような形をした星霊が現れた。

 

「私またここへ来ちゃった、寒過ぎる~!───と申しております」

 

「寒いですねぇ」

 

「ウェンディもこっちへ来たら?風邪ひいちゃうよ?───と申しております」

 

「そうですか?じゃあお言葉に甘えて。お兄ちゃんとシャルルとレモンは?」

 

「まあ、波動のおかげでなんともないよ」

 

 ソウは赤い波動のオーラをまとわせながら歩いていた。

 どうやらそれが熱を発生させているようでソウはなんともなく、雪道を歩いていた。

 

「いいなー、シャルルは?」

 

「全然平気よ。寒さなんて心構え1つでどうとでもなるから」

 

「私も大丈夫だよ~!」

 

 猫というと寒さに弱いイメージがあるのだがシャルルとレモン、それにハッピーは大丈夫みたいだ。

 

「空模様も落ち着いてきたようだ」

 

 エルザは呑気に状況確認をしており、ナツは腹をならしていた。

 

「腹減ったな~」

 

「暖か~い………!」

 

「は、早く帰りたい…………!」

 

 ホロロギウムの中へと入ったウェンディはルーシィと一緒に温もりを感じて落ち着く。ルーシィはもう嘆いていた。

 グレイはというと雪道に苦戦していた。

 

「くそ、こんなにも積もってると歩きずれぇなぁ!」

 

「それ以前に服を着ろ!」

 

「うぉっ!!」

 

「ね~ぇナツ、そんな便利な薬草って本当にあるのかな?」

 

「さ~あなぁ、依頼書に書いてあったんだからあるんだろ?」

 

「だってさぁ、お茶に煎じて飲んだり、ケーキに練りこんで食べれば、魔導士の魔力を一時的にパワーアップするなんて、オイラは眉唾ものだ思うんだよ。ほら、うまい魚には毒があるって言うでしょう?」

 

「それをいうなら、うまい話には裏があるだ」

 

「うおぉ~!エルザに突っ込まれた!!」

 

 珍しくエルザに突っ込まれたハッピーは驚愕していた。ソウも密かに驚いていた。

 

「効果はともあれ、依頼はこの山の薬草の採取だ。ついでに多めに採れたら明日のビンゴの景品にしよう。皆喜ぶぞ」

 

「お~い、薬草!いたら返事しろ~!!」

 

「するかよバーカ」

 

「んだとコラァー!!」

 

「思った事何でも口にだしゃあいいってもんじゃねーだろ。しかも、テメェのは意味わかんねぇのばっかだし」

 

「ほぉ~う………やるのか!このカチコチパンツ王子!!」

 

「やるのかこのダダ漏れちょこび野郎!!」

 

 言い争う二人。やがて、それは殴りあいへと発展していくがそれがあだとなった。あの悪魔の前でそれをするとか自殺行為に等しいからだ。

 

「やめんか!」

 

「「あいー!!!」」

 

 エルザの怒号に二人はみるみる小さくなっていく。

 

「あ~、早く仕事終わらせて帰りたいな。明日のお花見の準備したいのに………」

 

「私もすごい楽しみです!」

 

 ソウはそんなやり取りを無視し、呟く。ウェンディは嬉しそうに相槌を打っていた。

 やがて、一行はハコベ山の山頂へとどんどん進んでいくが、ついにホロロギウムの時間が切れたのかウェンディとルーシィにとって悪魔の囁きとなる一言が放たれた。

 

「時間です。それでは御機嫌よ~う」

 

 言葉と同時にホロロギウムは消えた。

 ポン!と雪道に尻餅をついた二人は身を震い上がらせる。

 

「っ!寒!!」

 

「う、い~!!」

 

「おいおい………」

 

「お前達もちゃんと探さないか!」

 

 先程から薬草を探しているナツとエルザ。ナツは同情の目線を送り、エルザはそんな二人に突っ込む。

 

「だって~!」

 

「お兄ちゃん~、なんとかできない~?」

 

 ルーシィは嘆くように叫び、ウェンディは助けを求めて自分の兄へと目線を向ける。

 妹に助けてと言われたソウは頭を掻いた。

 

「しょうがないなぁ~」

 

「本当!!お兄ちゃん」

 

「え!!ソウ、なんとかできるの?」

 

「まあ、見ておけって」

 

 ソウは二人に赤い波動のオーラをまとわせてあげた。

 だんだんと温もりを感じてきた二人は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「温かいね、これ」

 

「ちょっと!!これ、できるんだったら初めからやりなさいよ」

 

 ルーシィが涙目になりながらソウに訴えてかける。

 

「ルーシィが勝手に時計の中にはいってたんだろ」

「私にもやってよ、ソウ」

 

 自分も限界だったのかレモンがソウに頼む。

 

「分かったよ、ほら」

 

 ソウはレモンにもやってあげた。

 

「ありがとう、ソウ」

 

「………あんたまで…」

 

 嬉しそうにはしゃぐレモンをシャルルはあきれながら、見ていた。

 そんなシャルルを一目見たソウは何を思ったのかシャルルに薦める。

 

「シャルルもどうだ?」

 

「………結構よ」

 

「そうか」

 

 やってほしそうにしていたとソウは感じたのだが、気のせいだったみたいだ。

 一部始終を見ていたグレイが感心するかのように呟く。

 

「なかなか便利な魔法だな、それ」

 

 その時、ナツが何かに気付いたのか鼻でくんくんと匂いを嗅ぐ。

 

「ふん、ふん………お、臭うぞ。これぜってぇ薬草の臭いだ!」

 

「相変わらず、凄い鼻だね」

 

「ふん、ふん………なんか草の臭いはするけど……」

 

「ソウの鼻も中々のものよ」

 

 ドラゴンスレイヤーは鼻が良いのである。

 

「てか、あんた、その薬草の臭い嗅いだ事あるわけ?」

 

「いーや、嗅いだことねぇけど間違いねぇ!」

 

「確かに………よく嗅げば、なんかそれっぽい臭いはするけど………」

 

 一理はあるような気がするが、今とそれはまったく関係ないような………。

 ルーシィは心の中で疑問を浮かべる。

 

「行くぜハッピー!!」

 

「あいさー!!」

 

 ナツは全速力で走って行った。ハッピーはその後を追う。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

「たく、セッカチ野郎め」

 

「とにかく、ついて行く事にしよう。あいつの鼻は侮れないからな」

 

「気のせいかしら、凄くいや~な予感がする………」

 

「シャルルの勘はよくあたるよねぇ」

 

「そうだねぇ」

 

 置いていかれたソウ達を余所にナツ達は匂いのする場所へと走り続ける。

 それも叫びながら。

 

「ぬおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

 

「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

 

「あったあー!!!!」

 

「あいーー!!」

 

 薬草があった場所は山頂と呼べる場所だった。

 

「早っ!」「早い事はいいことだ」

 

「流石だな」「そうだな」

 

「ナツさん凄い!」「やっぱり獣ね」

 

「そうね」

 

 各々の感想を呟くがナツは早速薬草を採ろうと行動に移る。

 

「よおーし、さっさと積んで帰るぞ!」

 

「あいさー!!」

 

 しかし、採ろうとした瞬間二人に影が現れる。

 

「あ?」「ん?」

 

「ギャオーン!」

 

 現れたのはブリザードバーン、通称白ワイバーン。

 ハコベ山などに生息するモンスターである。

 その見かけとは裏腹に草食である。ちなみに大好物は目の前の薬草だとか……。

 

「ギャオォォォ!」

 

 ワイバーンは翼を羽ばたかせ、旋風を巻き起こした。

 わぁ~!と言いながら吹き飛んでいくナツとハッピー。

 ワイバーンは薬草を採られないように薬草の近くへと着地した。

 

「何っ!!」

 

「独り占めする気みたいだな」

 

 すると、後ろにいたグレイが氷の魔法の準備をしながら笑みを浮かべてこう言った。

 

「こういうのを一石二鳥とかって棚ぼたって言うんだな。白いワイバーンの鱗は高く売れるんだってよ」

 

「よぉーし、薬草とるついでにアイツの鱗全部剥ぎ取ってやるぁ!」

 

 その瞬間、ルーシィの脳裏に嫌な予感が浮かんだ。

 

「あっ……」

 

 声を漏らすルーシィ。

 嫌な予感が的中しないように……そう願うしかなかった。

 ハッピーは戦闘するき満々でソウは渋々戦闘体制に入る。

 

「オイラも戦うよ!」

 

「仕方ないか……」

 

「うむ。換装!」

 

 エルザは水色の鎧を身に纏い、巨大な槍のような物を出した。

 換装とは、エルザの使う魔法で装備を別の空間にしまっておきいざとなったら即座に取り出せる魔法だ。

 

「私達はあれの注意を引き付ける。その隙を覗って、ルーシィ達は薬草を採取するんだ」

 

「は、はい!」

 

「仕方ないわね」

 

「そうだね」

 

 ウェンディと猫達二匹は了解とばかりに返事する。

 

「え、えぇ………何か一番危険なポジションではないかと………」

 

「頼んだ!」

 

「はい!喜んで!!」

 

 エルザのやばい形相にルーシィは冷や汗流しながら了承した。もう、どうにでもなれって投げ槍気味だ。

 

「行くぞ!ナツ、グレイ、ソウ!!」

 

「「おうよ!」」「はいはい…」

 

 ソウ達が戦闘を開始する中、残ったウェンディ達はというと───

 

「うわぁぁぁっー!」

 

「ひゃあぁぁぁー!」

 

「急いで急いで!」

 

「もう、だらしないのよ、あんた達」

 

「我慢、我慢だよ」

 

 魔法の余波に怯えながらも四つん這いになって進んでいた。

 ワイバーンと対峙していたナツはこちらから勝負を仕掛ける。

 

「火竜の煌炎!!」

 

 ナツは巨大な火球を作り、投げつけた。しかし───

 ワイバーンは巨大な翼を大きく羽ばたかせた。

 

「えぇ!?」

 

「あーあ、ナツの炎が……」

 

「風圧で跳ね返された!」

 

 火球はワイバーンに届かず、どこに向かったのかというと、ウェンディ達のすぐ近くだった。

 

「「ひゃぁぁぁっ!!!」」

 

「アイスメイク 円盤(ソーサー)!」

 

 ウェンディ達は悲鳴を上げながらもどうにか難を逃れようと薬草の所まで急ぐ。

 ナツに続いて今度はグレイが攻撃する。

 だが、これもさっきと同じように風圧で弾き返されてしまった。

 それも運悪く氷の円盤はまた、ウェンディ達の近くに飛ばされる。

 

「きゃぁーーー!!」

 

 目の前を円盤が通り過ぎたのにびっくりしたルーシィ。

 

「これならどうだ!」

 

 今度はエルザの攻撃。槍みたいなのから電撃を放ってワイバーンに仕掛ける。

 だが、ワイバーンはあっさり避けて電撃はナツ達の元へ吸い込まれるように。

 

「おいおい……」

 

「待てコラァ……!」

 

「おっと…」

 

 ソウは普通に避けたがナツとグレイはそうはいかなかったみたいで電撃を直に浴びる。

 

「「ぎゃあああ……」」

 

「バカ者!ちゃんと避けぬか」

 

「つーかあれだ」

 

「先に謝れ!」

 

 二人の言い分は確かだと思ったソウ。これ以上やってもキリがないので自分が動くことにした。

 

「エルザ、ここは俺に任せてくれないか」

 

「分かった。頼んだぞ!」

 

 エルザの許可が降りたところでソウは二人に「下がってろ」と声をかけた。

 二人が下がったのを確認したのち、ソウはその場にしゃがむ。

 その瞬間、足元に魔法陣が出現したと思うとソウをおもいっきり上に打ち上げた。

 衝撃を発生させる魔法でありソウはその勢いを使ってジャンプしたのだ。

 

「早い……」

 

 エルザはそう呟く。

 ソウのスピードは目で追うのがやっとだった。

 あっという間にワイバーンの頭上へと移動したソウは技の構えを取った。

 

「『波動式五番 衝大波』!」

 ソウの拳から衝撃波が発生。ワイバーンに上から直撃。

 ワイバーンはそのまま下に叩きつけられ、辺りに雪が舞った。

 

「今の内に早くやれ」

 

 まだ空中にいるソウから声がかかる。

 エルザ達は即座に自分の魔法を発動してワイバーンに向かった。

 エルザは槍のようなものから雷撃を放ち、ナツは炎を拳に纏わせ、グレイは造形で巨大なハンマーを作った。

 

「火竜の鉄拳!」

 

「アイスメイク大鎚兵(ハンマー)

 

 そして、ついにワイバーンに直撃して完全に倒れてしまった。

 それは良いのだが、少しやりすぎではないかとソウは思う。

 すると、辺りに怪しい音が鳴り出した。

 それは何かが崩れ去る音に似ていた。

 

「やったぁー!見て見てぇ!私だってフェアリーテイルの最強チームの一人なのよー!」

 

 薬草を片手に高々と上げるルーシィ。

 自分も頑張ったら出来るんだと思ったルーシィだが、背後から謎の騒音が聞こえてきた。

 ルーシィは振り返ると、驚きの光景を目にした。

 

「ん………雪崩ーーー!!??」

 

 目の前には大量の雪が迫ってきていた。ルーシィは避ける間もなくあっという間に雪崩に呑み込まれていく。

 雪崩が収まり、ソウは(エーラ)を発動したレモンに担がれながらも空中から声をかけた。彼の場合は元々空に留まっていたので雪崩には巻き込まれなかった。

「おーい、無事か~?」

 

「お、重い………」

 

 返事をしたのは、ハッピーだったが、とても苦しそうな返事だった。

 それもその筈。ハッピーは鎧を着たままのエルザを持ち上げているためだ。今の状態を保つだけでも苦悶の表情を見せている。

 

「俺も平気だぁー!」

 

「おぉ………そりゃあ、あんだけ暴れればこうなるか………」

 

 ナツとグレイの場合はワイバーンを下敷きにして、難を逃れた様子だ。

 

「私達も大丈夫です!」

 

「何とかね」

 

 ウェンディはシャルルに持ってもらっているようで、大丈夫そうだ。

 辺りを見回したウェンディはあることに気付いた。

 

「あれ?ルーシィさんは?」

 

「あれ?そういえば………」

 

「ルーシィ~どこ~?」

 

 ハッピーが大声で呼び掛ける。ソウも魔法での探索を試みようとするが、その必要は無くなった。

 ぽっこりと雪に埋もれたルーシィが顔だけを出したからだ。

 

「さ………さ………寒い………」

 

「あれは流石に俺の魔法も効かないだろうな」

 

 ルーシィにかけた魔法はあくまで応急処置に近いものなので、あそこまで凍えると効果は薄い。

「ハックション!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、花見は毎年と同じように決行されており、一段と盛り上がりを見せていた。

 カナは樽一つを抱えて誰にも盗られないようにしている。そんな量は誰も飲まないのにだ。また、エルフマンが「花見は男だぁー」と訳の分からないことを叫んでおり周りから哀れみの視線を貰っていた。レビィの側にはジェットとドロイが幾度となく、レビィに食べ物や飲み物を薦めている。

 そんな中、ソウ達はと言うとある話題について話していた。それはルーシィが花見に来ていないことだ。

 

「あ?風邪ひいたって?」

 

「ひどいのか?」

 

「う~ん…………」

 

「鼻はぐゅしょぐょしょ、顔は真っ赤でそりゃあもう………」

 

「なぜ風邪をひくんだ?」

 

「気づいてないのね………」

 

 シャルルは呆れる。

 大半は戦闘したエルザ達に原因がある。ソウも一応、罪悪感は感じていた。

 

「ルーシィさん、あんなにも楽しみにしていたのに………」

 

「おっ、そうだ!ウェンディの魔法で治してもらえばいいんだ!」

 

「もう施してはあるんだけどな。治るのは精々明日だろう………」

 

「明日か………」

 

 ルーシィが元気になっている頃には花見は既に終了しており、ルーシィは参加できないことになる。あんなに楽しそうにしていたのに残念だ。

 ソウは心の中でルーシィに合掌した。

 

続く─────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 




予告しておきます。

次、投稿する話は七年後の話になっている可能性大なのでご理解お願いします。

ただ単に大魔闘演武でのソウ達の活躍を書きたいだけです。


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第6話 アールとルーズ

久しぶりのこちらでの更新です!
そして、今回はあの二人のフェアリーテイルに行くまでに起きた出来事の話です!

───では、いこうか!!


 花見は最高潮の盛り上がりを見せていた。現在、ビンゴ大会の真っ最中である。

 ソウも同じようにビンゴに参加していたが、まったく当たらない。いやと言うほど当たらない。他の人は最低でも5,6箇所は開けているのに、ソウはまだ3箇所。真ん中の穴は誰もが最初に開けるので実質上まだ2回しか当たっていない。ウェンディも思わず心配していた。

 ソウが自身の運の悪さに悲観していると、「ビンゴ!!」と名乗りあげる者が現れた。

 エルザである。

 最速でのビンゴを成し遂げたエルザは意気揚々と景品を貰いにいったがその景品を見て、開いた口が塞がらなくなった。

 なんと、景品はあの薬草だったのだ。ソウ達が苦労してルーシィが命懸けで採ったあの薬草だ。

 それはいい。まだいい。だが、どうして薬草が茶色く変色しているのだろうか。

 

「急に暖かい所から持ってきたからのぅ」

 

 マスターの一言にエルザは落胆した。急激な温度変化は薬草には耐え難い試練だったようで、枯れてしまっていたのだ。

 折角一番にビンゴしたのに、こんな報いがあるのだろうか。これでは、運が良いのか悪いのかよく分からない。

 

「私の………ビンゴが………」

 

「あらあら」

 

 ミラを筆頭に誰もがエルザの境遇に心の中で同情していた。ソウもそんな悲観な彼女を見て、まだ運の尽きが終わっていないのかもしれないと期待が高ぶっていた。

 ビンゴは続く。

 景品はまだまだ幾らでもあるのだ。今か今かとそわそわしている。

 次々と番号が発表される中、ソウは焦りを感じていた。周りからは「ビンゴ!!」の声が上がる。それらが、さらにソウに重くプレッシャーを与えていた。

 まだ………チャンスはあるんだと心の中に言い聞かせて、自分のビンゴの紙と向き合う。

 

「「「ビンゴーー!!!」」」

 

 すると、珍しく3人が同時に同じ番号でビンゴとなった。対するソウは今、ようやく当たったというのにリーチには程遠い。危うくガッツポーズを取りそうになったが、もしそれをしていたら周りから哀れみの視線を貰っていたことだろう。

 名乗りを上げたのは、エルフマン、ジュビア、レビィの三人だ。まさかの異例にお互いに顔を見合わせた。

 

「3人同時か。じゃあ、一発芸で1番面白い奴に景品をやろうかの」

 

 すると、マスターがとんでもない提案をし出した。どこからそんな考えが浮かび上がるのかは不明である。

 

「「「一発芸!?」」」

 

「景品はなんと、アカネリゾート高級ホテルの2泊3日ペアチケット」

 

 そう言うミラの手にはヒラヒラと紙が揺れていた。あれがそのペアチケットなのだ。ウェンディがとても欲しそうに見つめていた。

 

「すごい………!」

 

「「ペアで旅行!!」」

 

 感心するかのように呟くレビィに対し、ペアという所に反応したのはジエットとドロイの二人だ。そして、どちらが選ばれるか二人の間で火花が散り始める。

 

「アカネリゾートか!姉ちゃんにプレゼントしてやる」

 

 エルフマンはとても姉思いのようであった。とてもよい心掛けだ。最早、彼に渡した方が良いと思う。

 

「グレイ様と2人きり………2泊3日………ジュビアまだ心の準備が………」

 

 一番の問題児がジュビアだった。妄想が爆発寸前である。そもそも、グレイが一緒に行くなど決まっていない。

 

「一発芸………それは一度きり、ギリギリの戦い…………つまり俺の出番ってことさ、相棒………」

 

「「またお前か!!」」

 

 ガジルが格好つけて会場に現れた。ギターを片手に何をしているんだと周りから突っ込みが入る。さらに一度や二度のことではないらしい。

 

「引っ込め!つか、リーチもしてねえだろお前は!!」

 

 結局、誰が手に入ったのかは永遠の謎に包まれるのであった。

 ───そして、ソウのビンゴの結果はと言うと………。

 

「………お兄ちゃん………」

 

「何故だ………ごめん………ウェンディ………何か良いもの貰えたら、あげようと思ってたのに………そもそも当たらないなんて……!」

 

「いいの………私はお兄ちゃんが側に居てくれるだけで良いんだから」

 

「ウェンディ………」

 

 結果はあれだったが、兄妹の絆は深く繋がっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬車の揺れが収まったと同時にルーズは目覚めた。眠気に襲われ、目蓋を擦りながら上半身を起こして辺りを見渡す。

 ようやく目的地に到着したのだろうか。随分と長い間、移動していたようだがそれほど遠い所だったのだろう。疲れからなのか体が少し重いような気がする。

 ルーズは起きる気配のないアールを起こそうと、肩を揺らす。彼はなるがなるままに、体を揺らされるだけで起きる素振りは見せない。

 彼はまだ乗り物酔いが覚めていないようなので、ルーズは一足先に外へと出ておくことにした。彼は調子を戻すなり勝手に出てくるだろう。

 

「おい、作戦は順調か?」

 

「はい、滞りなく」

 

 馬車の幕に手をかけて、開けようとしたのだがふと外から男二人の会話が聞こえてきて動きを止める。

 内容までははっきりとは聞こえなかったようだが、ルーズはちょっとした違和感を感じた。

 首を傾げながらも、幕を開こうとすると外から慌てるかのような口調が聞こえる。まるで、今出てくるのが有り得ないかのように。

 

「おいっ!起きてるぞっ!」

 

「なっ!」

 

 ルーズが馬車から降りると、そこは街ではなく森林だった。ここは辺りは木々に囲まれている中で何もなく、日差しが射し込む唯一の場所だった。

 本来なら街に着く予定だった筈なのだが、どうしてこんな所にいるのだろうかと疑惑が膨らむ。それに男二人の姿も怪しい。

 一人は馬車の運転手を務めていた男だ。が、もう一人は黒の服装に身を包んだ筋肉質体型の男だった。運転手の男は彼を上司のような態度で接しているからして、どうやら彼の立場は運転手の男よりかは上らしい。

 別にそんなことはルーズの知ったことではないが、馬車の運転手という仕事で上下関係はあったのだろうか。

 上司っぽい男は「仕方ない………始めるぞ」と運転手の男に指示を出す。そして、二人して目を合わせて頷くなりルーズの方へと近付いてくる。

 幼い子供なら怯える雰囲気を込めた人を見下ろすような眼でルーズを見る。彼らの偽の笑顔はルーズからしてみれば、気持ち悪いこと極まりなかった。

 

「ここはどこかしら?」

 

 ルーズは何も気付いてないように装って男共に尋ねた。上司の男は少し眉を潜める。少しもルーズが威圧をものともしていないことに驚いてるようだった。

 ルーズの質問に答えたのは、馬車を運転していた人だった。

 

「ちょっと用事が出来てね。あと少しの辛抱だからね」

 

 子供に言い聞かせるように優しい口調で答える男にルーズは内心、嫌悪感を抱いていた。

 裏で何を隠しているかは分からないが、今の言葉に善意があるとは思えない。殆ど嘘で固めたでっち上げの台詞だろう。

 

「じゃあ、どうして貴方達は魔法を使おうとしてるのかしら?」

 

 思わぬ指摘に男共は肩をビクッと震わせた。彼女はどうだと言わんばかりに笑みを浮かべている。

 ───どうして分かった!?

 運転手の男が発動させようと準備していたのは“魔除け魔法”。所謂人を近づかさせない魔法の一種だ。これで、今の状況が周りに目撃されないようにしているのだ。

 一方、もう一人は“念波魔法”。仲間に通信を取っていたのだ。彼女には勘づかれてしまったようだが、既に話は通ってあるので男の目的は達成していると言ってもよい。

 

「あら、当てずっぽうで言ってみたんだけど、どうやら当たっていたようね」

 

「───っ!この餓鬼がぁ!!」

 

 悪戯に引っ掛かって、バカにしてくるような言い草に男の片割れが思わず怒鳴り返してしまう。もう片方が落ち着かせようとするが、興奮はそう簡単に収まりそうにもない。

 どうにか気持ちを静めて、再びルーズを睨み付けた男はこれからどうするか脳裏で考える。今ので、自分達がただの馬車使いではないことぐらいはこの勘の鋭い少女には気付かれている。また、嘘の笑顔で言い聞かせようとしても冷徹な態度で跳ね返されるのは目に見えている。

 故に───本性をさらけ出して、怯えさせるまでだ。彼の選んだ手段は脅迫に近いものだった。

 

「金目の物は全て置いていって貰おうか、お嬢ちゃん」

 

 ニヤリと男は本物の笑みを浮かべた。隣の運転手の男もそれで、何をするのかを悟ったのか表情が困惑から確信へと変わっていた。

 

「イヤよ」

 

 だが、彼女は一刀両断とばかりに断った。自分の状況が理解できないのか、それとも勝てる自信があるのかは知らないが余裕綽々な態度に男の堪忍袋の緒が切れた。

 

「テメェェ!!!!」

 

「おい!!やめろッ!」

 

 片腕を振り上げて、相方の抑えを振りほどいて男はルーズへと襲い掛かった。彼女は目を細めて、呆れるような表情になっていた。

 男が狙った場所はルーズのど真ん中。所謂、腹だ。男の渾身を込めた一撃が彼女の中心へと伸びていく。

 だが、彼女は避ける素振りを一切見せつけなかった。まるで、受け止めてやると言った感じで待ち構えているのだ。

 さらに驚くべきことに彼女は笑顔を浮かべていた。後ろから見ていた男は直感的に何か不吉な予感を感じとり、止めるように叫ぼうとするが、気付くのが遅すぎた。

 

「────なっ!?」

 

 吹き飛ぶどころか踏ん張る様子さえ見せなかったルーズに男は目を見開いた。そして、よく自身の拳の方へと見てみると受け止めていたのは彼女ではなかった。

 

「す……すな!?」

 

 彼女を守るかのように動いているのは“砂”。彼女の周りをぐるぐると浮かんでいる。その一部が彼女の腹の前で男の拳を受け止めるために集まっていた。

 男は直ぐ様先程とは逆の腕で、今度は彼女の顔面を横から狙った。が、砂がそれを防ぐ。

 何度も殴ろうと拳をぶつけるが、砂の楯の前に手も足も出ない。

 ────有り得ない!!嘘だ!!

 男は自身の攻撃が彼女に効かないことを素直に受け止める事が出来なかった。そもそも、彼女が魔導士ということは薄々感ずいてはいたものの自分なら勝てるという自信があった。

 だが、それはあっさりと覆されてしまう。その事実だけは男にとって認めたくない事実だった。故に攻撃を止めることはない。

 そこから男の必死の砂破りが始まる。

 パンチにキック、幾度となく繰り返す。だが砂の楯の前にどうしても攻撃が届かない。それでもなお決して、男は諦めたくなかった。こんな少女に負けるなんて恥さらしだけはしたくなかったのだ。

 

「はぁ………はぁ………はぁ………」

 

 体力だけを一気に消費してしまい息を切らしている男に対して、彼女はその場から一歩も動いていない。

 まるで、自分が手出しをするまでもないと言った感じで待ち構える彼女に男は一瞬、嫌な予感を感じ取った。

 

「もう良いかしら?私はもう飽きたんだけど」

 

「っ!!黙って言わせときゃあ!!」

 

 はぁ………と溜め息をつく彼女の挑発に男は負けじとやり返す。

 そして、再び殴りかかろうと接近するのだが今度は彼女の様子が違った。右腕を真っ直ぐ男の方へと伸ばしていた。

 

「………“砂竜の砂嵐”」

 

 ───刹那、男が見たのは一面に映った砂だった。

 彼女の掌を中心に放たれた異境な砂嵐は不規則な動きをしながら男に襲い掛かる。

 砂が目に入るのを防ぐために両腕を組んで顔を伏せるが、砂嵐の猛威に耐えきれずに後ろへと男は吹き飛ばされた。

 男は運転手の男の隣を一瞬で通過すると、さらに奥に聳えていた樹木の一つの幹にぶつかる。

 

「がはっ!」

 

 猛烈な背中の痛みに一気に肺に貯まっていた空気が押し出されてしまった。意識が朦朧として今にも気絶しそうだ。たったの一撃でこの様とは情けないものである。

 

「大丈夫か!?」

 

 心配なのか、男の元へと駆け寄る。不安そうに声をかけるが返事は帰ってこなかった。

 

「ねぇ」

 

「ひぃ!!」

 

 少女のたったの一言に肩を震えあがせてしまった。最早、運転手の男にとって彼女は最悪の客に成り下がっていた。

 対するルーズはちょっと声をかけてみただけなのに、怪だものを目撃したかのような反応をされてしまったことで少し不機嫌になっていた。

 

「貴方もやるの?」

 

 彼女はそう問いかけてきた。そこの男と同じ目に遭いたいのかと。

 運転手の男の魔法で戦闘するのはとても不向きだった。さらに彼女の実力は一目で見る限り相当のもの。勝てる自信は一向に沸いてこなかった。

 ───その時だった。

 男が「ぅ………」と呻き声を上げて顔を上げたのだ。

 

「………来たぞ」

 

 それだけをどうにか口にすると、男は完全なる笑みを浮かべる。まるで勝利が確信したかのように。

 

「頭でも打っておかしくなったのかしら?」

 

「好きなだけ言っておけ、いくらテメェでもこんなだけいれば無理だからなぁ」

 

 ルーズは男の言うことが理解出来なかった。脳が今の衝撃でおかしな方向に走ってしまったのではないかと本気で思うほどに。

 すると、周りの気配が一気に変わる。人の気配だ。それもたくさん。

 ゴソゴソと草むらが揺れるなり、一斉に男の仲間達と思われる人々が一挙に出現して集まる。そして、彼女の周りを一定の距離を保って囲んだ。

 

「あら、こんなにいたのね」

 

 ルーズは少し驚きはするものの、相変わらずの余裕な笑みを浮かべていた。

 リーダーだと思われる人物が一歩前へと出る。そして、彼女と視線が合う。

 

「君達は運が悪かったようだね」

 

「だから何がよ。もしかして貴方も彼と同じ目に遭いたいのかしら?」

 

「いや、遭うのは君の方だよ、お嬢さん」

 

 いかにも頭脳派といった感じの眼鏡をかけた男はそう言い終えると、片手を上げて合図のような仕草をした。

 すると突如、ルーズの体がピシリと固まり動かそうとしても動かせなくなった。彼女を囲んでいる男達の誰かが魔法で縛っているのだ。

 眼鏡の男はさらにルーズに近づく。

 

「こんなので私も捕縛したつもり?」

 

「見た目によらず、素直な性格ではないようだね」

 

 さらに眼鏡の男は彼女に近づこうと足を前へと進めるが、それを遮るかのように間にある物が妨げる。

 

「おっと!………危ないね」

 

 彼女から巻きほこる砂を避けると、感心するかのように彼女に微笑みかける。

 ルーズにとっては嫌悪感満載である。

 動きが拘束されているといえ、ある程度は砂の操作は可能である。それでも幾分砂の量やスピードは落ちてしまう。

 

「もっと欲しいかい?」

 

 眼鏡の男はそんなことを尋ねる。彼女の返答はなし。代わりに眼鏡の男を睨み付ける。

 それをどう判断したかは分からないが、また彼は先程の合図と同じような動きをした。

 ルーズはそれを見て覚悟した。

 

「────くっ!!」

 

 拘束魔法がより一層きつく縛られる。これでは砂を操れるどころか意識を保つだけでも精一杯ではないか。必死にほどこうと力を込めようと足掻くが、少女である彼女に解除出来るほどの力は持っていなかった。

 

「“連結魔法”のお味はいかが?」

 

「………不味い…わ」

 

 口を動かすだけでも既に限界のルーズ。形勢は一気に逆転されてしまったかのように見える。

 眼鏡の男はまたルーズの方へと歩み寄る。

 

「今度は砂もお休みのようだね」

 

 眼鏡の男はルーズの近くへ寄るなり、方膝をつくとその片腕をルーズの顔の方へと伸ばしてきた。

 まさか、自分に触れる気なのかと気付いたルーズは必死にもがく。眼鏡の男はそれすらも楽しんでいるかのように笑う。

 

「やめ………!!………て!!」

 

「良いねぇ、その表情ぉぉ!!」

 

 その汚い手で触れられるとか、考えたくもないルーズは涙目になりながらも訴えかける。

 偉そうな口調を叩いて、相手を挑発している彼女でも、まだ少女だ。こういう窮地になると怯えてしまうのは無理がない。

 眼鏡の男はそれを見透かしていたのように、徐々にゆっくりと腕を伸ばしていく。

 

「い…や……いやぁぁ!!!!」

 

「ははははは!!」

 

 狂乱の笑いを上げて、ついに眼鏡の男はルーズの顎もとへと手を伸ばした───

 

「っ!!誰だ!!」

 

 ───はずなのだが、誰かに腕を横から掴まれてしまい眼鏡の男は思わず声を上げた。

 眼鏡の男の視線の先にいたのは、少年だった。

 不機嫌そうな目付きに、今にも怒りそうな態度なのだが、彼がまるで子供のようなのでそんな気品が一切感じられない。あるのはプンプンと可愛げに怒っている少年。

 

「僕のルーズに何をしてるのかな?」

 

「………アール………」

 

「君は一体………」

 

 ルーズは彼の登場に嬉しそうに彼の名前を呟いた。

 眼鏡の男は驚嘆していた。何処から現れた。そもそもいつこんな近くに接近してきたのか、気が付かなかった。

 

「ここにいる全員………“敵”だね」

 

 ───その瞬間だった。

 彼の無邪気な笑顔の裏に誰もが目を見開いた。見てしまったのだ、彼の裏を。

 ───あれは………ヤバイ。殺られる。

 

 

 

続く──────────────────────────────

 

 

 




こ、怖ぁ!!!!(゜ロ゜ノ)ノ

アール君怖い………


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X791年 七年間の空白編 第7話 小さな魔導士

申し訳ないのですが、次の話は時間かかります。大魔闘演武編も盛況に入ってるのもあるんですけど、アールとフェアリーテイルの対面をどうしようかと試行錯誤しないといけないので………

───ここにいる全員……敵だね。byアール


「ここにいる全員………“敵”だね」

 

 何かを感じた。

 単なる子供が怒ったときに見せるあの不機嫌そうな表情か………いや、違う。

 ………気のせいだと思いたかった。まさか、こんな少年に怯えるなんてへまは絶対にないと自信があった。

 だが、今のは何だ。

 勝手に手が震える。次に足へと電線のように震えが伝わっていく。止まらない。止められない。気づいてはいけないものに、気付いてしまったのだ。

 ───彼の小さな体に秘めた恐怖を。

 

「ねぇ………聞いてる?」

「───っ!」

 

 眼鏡の男は彼に掴まれた腕を大きく振り回し、彼の腕をほどき恐怖の先端から逃れる。

 眼鏡の男の位置はちょうど、前にはアールと言う少年。背後には金縛りで身動きが取れないルーズに挟まれていた。

 

「聞いてる?」

「あ………あぁ………聞いてるとも」

「なら、早くしてくれる?」

「それはちょっと無理なお願いだね」

 

 眼鏡の男はそれでもなお諦めようとはせずに、反抗的な態度を見せる。まだ少年のような彼にこのような態度を示すのは大人げない行為だが、この際だ。何がともあれ構わずに最善を尽くすのみ。

 彼の眉が少し潜む。

 眼鏡の男は彼の後ろにいる仲間の内の一つにアイコンタクトで合図を送った。男は一瞬、目を見開きながらも頷くとそっと足音をできる限り立てずに彼の背後に接近する。

 

「そうかな?簡単なことだと思うけど?」

 

 彼はまったく気付いた素振りを見せずにただ眼鏡の男を見つめて、首を傾げる。

 仲間は手に握っていた鈍器を両手で握り締め直して、大きく鈍器を上へとかざした。眼鏡の男と視線が合う。

 仲間は小さく頷くと、鈍器を彼の頭に向けて最大の勢いで降り下ろした。

 完全にこちらの作戦に気付いていなかった様子の彼を見た眼鏡の男は確実に命中するかと内心でニヤついていた。

 ───だが、鈍器は当たらなかった。

 否、確実に彼の頭には触れたのだ。すると、鈍器はゴツン!と音を立てることなく驚くべきことに彼の頭の中へとのめり込むかのように食い込んでいった。

 そのまま鈍器は勢いを弱めることなく、地面へと激突して本来彼の頭上で鳴るはずの音が鳴り響く。

 

「そんなものだと僕には当たらないよ」

 

 彼は後ろを振り返らずに、驚愕で目を見開いている仲間へと声をかけた。まるで、初めから襲撃のことは分かっていたように。

 

「何だ!?アレは………!!」

 

 眼鏡の男は脳をフル回転させて、今の一部始終で何が起きたのか必死に模索する。

 まるで、鈍器が彼の体の内部を通過したかのように見えたが有り得ない。体を透明にすら魔法はあるが、体を物質が通過するなんてことを可能とする魔法の存在は眼鏡の男はまったく心当たりがなかった。

 故に困惑はどんどんと増すばかりであった。理解不能だった。

 

「もう、いい。僕が自分でやるよ」

 

 そう彼は不満そうに呟くと、眼鏡の男の方へと向かって歩き出した。眼鏡の男は内心ではとても慌てていた。

 そんな男の心情を露知らない彼は歩みを止めることなく、どんどんと眼鏡の男との距離を縮めていく。

 やがて、眼鏡の男の目の前へと着くと、歩くのを止めて彼は顔を見上げた。身長差があるために彼は顔を上げる必要があるのだ。

 

「そこを退いてくれない?」

「それは君が言えることかい?」

「なら、いいよ。そのままで」

 

 即答とばかりに彼は返事をすると、なんと男に向かって歩き出した。このままでは普通に正面からぶつかる。眼鏡の男は彼が何をしたいのか、分からなかった。

 次の瞬間、ここが現実だと疑いたくなるような光景が始まる。

 まず彼の腕が男の体の中へと抵抗も無しに入り込んだ。そして、次に足。段々と彼は全身を男の体の中へと中へとすり抜けていったのだ。

 眼鏡の男はそれを見て、思わず黙って身動きが取れない状態に陥っていた。彼が体の中へと侵入している感覚など一切ない。あるのはただ目に写る彼が徐々に自身の体にのめり込んでいく姿。

 まるで幽霊のようにするりと体を通過していっているのだ。

 そのまま彼は眼鏡の男を通過すると、何事をないかのように眼鏡の男の背中から出てくるなり、ルーズの方へと歩み寄る。

 

「大丈夫………じゃないかな」

 

 彼女の今の状態を一目見るなり、何が起きているのかを理解した彼は辺りを見回して、彼女を縛っている原因となっている人物を探す。

 拘束魔法を使用していると思われる人物は二人。一人は体型が太りぎみの男性。もう一人はその正反対とも言える痩せぎみの男性だった。どちらも両手をルーズの方へと伸ばしている。あれで魔法を発動して、維持を行っているのだ。 

 

「ねぇ」

「はぁ!?いつの間に!?」

 

 アールは、先程までルーズの側にいたはずだと思っていた太り気味の男性は目の前にいた彼の姿に仰天した。周りも驚きのあまり、目を見開いている。

 あそこにいた彼は錯覚だったのか。

 

「空動・其の参・───」

 

 彼は人差し指を向けた。

 

「────『弾』」

 

 ───直後、太り気味の男性は腹部に謎の衝撃が走る。まるで正面から一点に収縮された気圧に押されたような衝撃。

 ごふっ、と肺の空気をまるごと押し出されて後ろへと吹き飛ばされる。魔法が半分解かれる。

 アールは何事もなかったかのようにすぐに行動実行に移った。

 

「次」

「ひぃい!!」

 

 一部始終を目撃したもう一人の拘束魔法を使っていた痩せ気味の男性は肩を震え上がらせた。彼の紡いだ言葉と彼の向けた視線が全て自分に向けられたものだと理解したからだ。

 得体の知れない彼の力に痩せ気味の男性は恐怖に包まれていた。あんな化け物のような彼に例え何人が襲い掛かろうとも、勝てる気がしない。

 

「うわぁぁぁぁぁぁあああ!!」

 

 遂に耐えきれずに、痩せ気味の男性はその場から逃走を測った。拘束魔法を維持していられるだけの余裕はもはやなかった。

 それを川切れに他の何人かも悲鳴を上げながら、逃げていった。彼の姿を見るだけでも、体がぶるぶると震え出すのだ。

 

「ふぅ~………ルーズ、平気?」

「えぇ………なんとか」

 

 拘束魔法からようやく解放されたルーズは、パタパタと砂埃を払う。彼女の態度を見たアールは無事なことに一安心した。

 ───が、問題はまだある。

 

「貴様ぁ……っ!!私達を侮辱しただけの覚悟はあるのだろうなぁ!!」

「………そういえば、誰?」

「このギルドのリーダーよ」

「ふぅん。そうなんだ」

 

 別に何の興味もないアールは隣のルーズの返事に素っ気ない返事をした。この態度が眼鏡の男の堪忍袋の尾に触れる。

 

「これでも喰らえぇぇぇっ!!」

 

 眼鏡の男は魔法を放った。彼がアールに向けて放ったのは、シャボン玉のような物。人の顔と同等の幅がある。ただふわふわと浮いているのではなく、猛烈な勢いをつけてアールに迫っていた。

 あれはただのシャボン玉ではない。シャボン玉が割れると同時に睡魔を催すガスを発生させる代物だ。常人には到底耐えられないほどの効果の強いガスで、吸い込んでしまうと半日は目を覚ますことはない。

 眼鏡の男のこの魔法は初見ではとてつもない威力を発揮する。誰もが避けることは考えないのだ。速度もそうだが、一見は偏鉄のないただのシャボン玉なのだから。

 

「空動・其の参──」

 

 だが、アールは予想を上回る行動をとる。

 

「───『(きょう)』」

 

 次の瞬間、シャボン玉が喪失。眼鏡の男は困惑した。アールの正面一体の空間が歪んだような光景を見てしまったからだ。それはほんの僅かだったが、見間違いではない。

 なら、自分の放った魔法はどこに。

 答えはすぐに帰ってきた。突如として前ぶりもなく、眼鏡の男の前にあるものが出現した。

 シャボン玉だった。

 自分の魔法であるシャボン玉が眼鏡の男の視界の中央にいきなり出現した。それもアールの方ではなく、眼鏡の男の方に向かっている。速度は落ちることを知らない。

 

「な、何が───」

 

 状況が読めず混乱する中、精一杯の声を出そうとするが既に遅かった。

 パァッンと割れる音が反響した。

 そして、中から勢いよくガスが噴き出す。眼鏡の男は慌てて口を押さえようとするが、もう気体のガスの一部は彼を逃さなかった。

 

「そ…んな……バカ……な」

「あれ?寝ちゃったの?」

「睡眠ガスのようね」

 

 ばたんとうつ伏せに倒れてしまったリーダーは、呆気ない幕切れを告げていた。アールはいかにも面白くないと言わんばかりの態度をとり、ルーズは現状を冷静に把握していた。

 

「砂竜の砂嵐」

 

 ガスが充満して、自分達にも効果が及ぶのを危惧したルーズは自身とアールを囲むように砂嵐を発生させた。

 しばらくして砂嵐を解除すると既にガスは晴れており、また何もないかのように静寂が包む。唯一違うのは地面に寝転んでいるたくさんの人々。

 砂嵐の影響でより周りにいた人々にガスが広まったのだろう。逃げ遅れたのか、気持ち良さそうに寝息を立てている。

 

「う~ん、どうしようかなぁ~?」

「さっさと近くのギルドに知らせたら良いじゃない」

「そうするよ」

 

 するとアールは姿をその場から消した。

 彼が悩んでいた理由はこの闇ギルドをどうするかというものだ。別にこのまま放っておくのも構わないが、別の被害者が出るのは避けたい。

 しばらくして、彼が何もないところから出現した。話は付けてきたようだ。ここから最寄りのギルドに後処理をお願いするように頼んできたのだ。

 

「さて、早くいこ?」

「何処によ。目的地には近づいてようには思えないわ」

 

 ルーズは思った。この悪党が自分達の提示した目的地に向かったいないではと。最悪、反対の方に移動している可能性だって捨てきれない。

 アールは首を横に振る。

 

「大丈夫だよ。というか、馬車が離れていくものだったら乗っていないよ?」

「はぁ………そんなこと分からないでしょ」

「お金の節約になったんだから、結果オーライだって」

 

 そもそもこの馬車に選んだのは、破格の値段だった為だ。彼の場合はその時から既に罠だとは気付いていたようで、ルーズは盛大なため息をついた。

 これなら値段が付いてもいいから、普通の馬車で向かいたかった。

 その時、ルーズはあることに気付く。

 

「もしかして、ここからは………」

「うん。歩きだよ?」

「嘘よね………」

 

 ルーズはピクピクと頬を引きつらせる。アールはただ純粋に正直に真実を言ったまでに過ぎない。

 

「でも、すぐ近くだよ。あっ、でもさっき言った所とはまた別の所だけどね」

「だから、なんで分かるのよ」

「“ソウ”の魔力が近いからね」

 

 ソウという人物はアールの昔からの親友だと言うが、ルーズは一度も会ったことがなかった。故にソウの魔力など感じることは出来ない。

 そもそも人の魔力を感じる行為などは魔導士の中でも極々一部にしか出来ない。それを彼は軽々とこなしているので、ルーズは怪訝そうになるだけだった。

 アールが察知出来るのはそのソウという人ともう一人の親友だけらしいが、一定の距離内に入ると意識すれば感じられるらしい。

 

「ほら、行こ?」

「………分かったわ」

 

 渋々ルーズはアールの後ろに付いていく。ここに残るのも色んな意味で嫌だったからだ。

 と、ルーズは彼の背中を見つめながら彼の名前を呼んだ。

 

「………アール」

「え?何?」

「………ありがと………」

 

 ふん、とそっぽを向けた彼女の頬は赤く染まっていた。後ろを振り返った彼は嬉しそうに頷くと無邪気な笑顔を浮かべてこう答える。

 

「どういたしまして───ってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 花見も終わり、いつもの、喧騒で騒がしいフェアリーテイル。

 

「もう治ったのか?」

「うん!絶好調!!」

「良かったね、ルーシィ」

 

 とあるテーブル席の一角で肉をくわえたまま尋ねたナツの疑問にルーシィは元気よく答えた。ハッピーも仲間の復活に嬉しそうにしていた。

 花見当日、風邪のせいで欠席をしていたのだが完治していつもの彼女に戻った様子だ。

 一緒のテーブルに囲んでいたソウも声をかける。

 

「まぁ花見の件は残念だったけど、他にも楽しいことは盛り沢山だから楽しんでいったら良いと思うぞ」

「うん。分かった、花見は来年の楽しみにしておくことにするわ」

 

 ん?とソウはルーシィの態度にどこか引っ掛かった。花見に参加出来ずに後悔していると思って、今でも引きずっていると思っていたのだがどうやらそんなことはないらしい。

 と、ギルド内に怒号が響き渡った。

 

「こらぁぁ!!ワシの大切な桜の木を引っこ抜いたのは、誰じゃあ!!!!町長はカンカンじゃぞぉー!!」

 

 花見の日の夜、ある怪奇事件が発生していた。

 それは何者かが虹の桜を根から掘り起こし、舟に乗せて町中を一周させたというよるものだ。結局、何をしたのか目的は分からず仕舞いだった。

 ソウに犯人の心当たりはあった。というか、目の前でビクビクしている者がいる。

 ナツとハッピーだ。

 周りには不吉なオーラが漂い、どう見ても二人が怪しいと目をつけられそうだ。

 

「ふふふ」

 

 そんな二人を見て、ルーシィは笑っていた。彼女は気づいたのだ。昨日の夜、どうして桜の木が舟に乗っていたのかを。

 ナツとハッピーによる気遣いだった。

 花見にルーシィは一番の楽しみを寄せていたをナツは知っていた。それなのに、ルーシィは当日は寝たきりになってしまった。

 せめてとばかりにナツはある計画を企てた。それが虹の桜をルーシィに見せることだった。幸いにも、ルーシィのいる家は運河の近く。そこでナツとハッピーは舟に流すという計画を実行したのだ。

 結果、ナツとハッピーは現在真っ青な表情をなる羽目となっていた。

 

「ありがとね」

「な、なんのことだよ!?」

「オ、オイラまったくなんのことやら」

 

 あくまで誤魔化そうとする二人。

 因みにソウもちゃっかりナツの協力をしていたということはナツとハッピー以外、誰も知らない。

 

「………来た」

「え?ソウ、どうしたのよ?」

 

 明後日の方向を向いて、そんなことを呟いた。ルーシィはそれを聞き逃さずに反射的に聞き返してしまっていた。

 

「あいつが来た」

 

 彼から帰ってきたのは、よく理解しがたいものだった。誰のことを指しているのか分からなかったからだ。

 だが、彼に関することを思い返せばある人物が浮かび上がってくる。

 それは───アールという少年。

 ソウとは知り合いらしく、そしてソウの最大の謎である生涯の目的の協力者であることだけはルーシィは知っていた。

 ただ、それ以外はまったく情報がなく一体何の魔法を使うのか、そもそも魔導士なのかさえ不明である。

 

「このことを、マスターに伝えてくれないか?」

「ソウはどうするのよ?」

「俺は迎えに行く」

「なるほどね、分かったわ。ほら!!ナツとハッピー、行くわよ!!」

「「───っ!!」」

 

 すると、ナツとハッピーはより一層顔色を真っ青にした。ソウとルーシィの一連の会話を聞いていなかったので、マスターに自分がやりましたと白状させられに行くのかと思ったからだ。

 

「ほら、早く!!」

「お、おう………」

「ア、アイサー………」

 

 ルーシィの気迫に押し負けたのか、渋々彼女に引き摺られていった。いつもの熱血ぶりはどこに飛んだのだろうか。

 

「なら、行くか」

 

 ソウは席を立ち上がる。そこに一人の人物が彼に近寄った。

 ───ウェンディだ。

 

「お兄ちゃん、どこ行くの?」

「友人を迎えに行くんだよ」

「え!?………本当?」

 

 ウェンディはソウの友人とは誰のことを指しているのか気づいた様子だ。

 彼は頷く。

 

「ウェンディも来るか?」

「うん。行く!!」

「そういえば………シャルルはどうした?」

「あれ?どこに行ったんだろう?」

 

 いつもならウェンディの側から離れることは滅多にないシャルルだが、今回姿を見せていない。

 ギルド内を見渡してみると───いた。

 

「シャルル~、魚いる?」

「いらないわよ!!」

 

 バーのカウンターでハッピーに魚を見せつけられ、嫌な態度で突き返していた。見慣れた光景なので、特に何も思わない。というかハッピーはマスターの所に知らせに行ったのではなかったのだろうか。多分、途中で逃走を計ったみたいだ。あ、ルーシィに連れて行かれた。

 シャルルがあそこにいるのは優雅にティータイムを楽しんでいるであろうレモンに用事があるからだろう。同じ種族のメス同士、話も色々と積もるものだ。

 

「二人で行くか」

「え!?う、うん………」

 

 ソウはギルドの出口の外へとウェンディを連れて歩き出した。

 

「これ………デ、デート!?」

 

 二人っきり。

 ウェンディはそんな事を意識してしまい、顔を赤らめていた。

 

「ウェンディ~?置いてくぞ~?」

「あっ!!待って!!お兄ちゃん!!」

 

 彼との対面も、あと少しである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マグノリアに足を踏み入れたアールは街中を堪能しながら、目的地へとゆっくりと歩みを進めていた。

 

「あ………来るかな……」

 

 はっきりとは分からないが、ソウの魔力が移動を開始した。徐々にこちらに向かってきているようだ。

 この街や他にも色んな人の紹介を彼に全て任せてあるので、早めに合流した方が良いだろう。何故ならアールの心配事が他にもあったからだ。

 それはルーズが意外だが、方向音痴だということだ。一回見失うと彼女を見つけ出すのには一苦労する。

 アールは後ろにいるはずのルーズにソウが近づいていることを知らせようと後ろを振り返り───彼の動きが止まった。

 

「ルー………ズ………」

 

 ぱっかりとアールの後ろには誰も居らず、何もない空間が広がっていた。つまり、いつの間にか彼女とは別行動になってしまっていた。もう少し気付くのに早ければ、対処出来たかもしれないのに。

 

 ───あぁ………どうしよう。

 

続く───────────────────────────

 




ルーズちゃん、迷子です\(^-^)/と言ってもそんなに重要ではないです。


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第a話 我が家への帰還

予告通り、場面は7年後になっています!!


 商業化都市マグノリア。

 その町のなかにある港───ハルジオン港の桟橋の先に一人の少年が立っていた。

 少年の視線の先は海。青色に染まった海面はただ静かな波音を立てていた。

 

「いつまで海を見てるんだい?」

 

「仕事も終わったし、ギルドに戻ろう」

 

「………………」

 

「ふう……」

 

「やれやれ……」

 

 少年の背後に来た二人はため息をついた。

 まだ、あのことが捨てきれないようだ。

 

「早く帰らないと父さんが心配するよ」

 

「マカオからアンタの事、頼まれてんのよ。ロメオ」

 

「うん」

 

 少年───ロメオはただ、頷いた。

 今では妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員である。

 ロメオに話しかけたのはビスカとアルザックだった。二人は既に結婚しており、今では夫婦である。

 ロメオは一点に海を見つめ、その場からまったく動こうとする気配がない。

 

「ロメオ………気持ちは分かるけど───」

 

「ビスカ」

 

「っ!…………」

 

 ビスカの言い分を遮ったアルザックは首を横に振った。

 ロメオが思い出していたのはあの赤髪のマフラー少年の後ろ姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は替わり、魔導士ギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』。

 前にあった場所とはまた別の所にあり、少し昔と違いボロボロになっていた。

 さらに数分前にギルド黄昏の鬼(トライライトオーガ)が借金を取り立てに来て、思うがままに暴れ、去った後。

 ここにいた現在フェアリーテイル4代目マスターのマカオ。

 4代目マスターの補佐ワカバ。

 一員のジェットにドロイ、リーダス、ウォーレン、マックス、ナブ、ラキ、ビジター、そしてキナナがいた。

 皆、リーダスが描いた7年前のナツ達との思い出の絵を数名が見て泣いていた。

 

「あれから7年か………」

 

 ワカバが思い出しながら呟く。

 それに続くようにマックスが煙草の煙を吐きながら言う。

 

「懐かしいな」

 

「グス。あれ以来、何もかも変っちまった」

 

「天狼島が消滅したって話を聞いて、必死にみんなを探したよな」

 

 最強メンバーが消えてから取り残されたギルドのメンバーは必死に居場所を探した。

 だが、それでも見つからなかった。

 ウォーレンやジェットが言ったようにフェアリーテイルはあの日から随分と姿を変えていた。

 

「だけど誰1人見つからねえなんて………」

 

 ビジターは諦め混じりに呟いた。

 

「評議院の話が本当なら、アクノロギアってのに島ごと消されたんだ」

 

「実際、いろいろな機関が捜査に協力してくれたけど、何も手がかりは見つからなかった」

 

 ナブ、リーダスの言葉通りに手掛かりすら見つけれなかった。

 それだけがギルド全員の心残りだった。

 

「そりゃそうだよ。あの日………天狼島近海のエーテルナノ濃度は異常値を記録してる。あれは生物が形をとどめておけないレベルの………」

 

「何て威力なんだ!!!アクノロギアの咆哮ってのは………!!!」

 

「だって………大昔にたった1頭で国を滅ぼしたっていう竜なんだろう!!?人間が………そんなの相手に………生きていられる訳が………!!」

 

 ウォーレンが悲痛の叫びを上げる。

 

「何で俺達の仲間を…………」

 

 ドロイがそう言う。

 

「あいつらがいなくなってから、俺達のギルドは弱体化する一方、マグノリアには新しいギルドが建っちまうし」

 

 その新しいギルドが 黄昏の鬼(トライライトオーガ)である。

 

「“たたむ”時が来たかもな……」

 

「そんな話やめて!!!」

 

 ワカバの言葉に怒鳴るラキ。

 その一言で「うっ……」と唸るワカバ。

 フェアリーテイルがここまでつづけられたのもあいつらが帰ってこれる居場所を残しておく為だ。

「!どうした、マカオ?」

 

 暗い表情のマカオにワカバは気づき、声を掛けた。

 

「…………俺はもう、心が折れそうだ」

 

「お前はよくやってるよ、マスター」

 

 マカオの言葉にワカバはそう言った。

 

「あれ以来……………ロメオは1度も笑わねえんだ………。うえっ、ひっ」

 

マカオはそう言い、泣き顔を晒した。

 

『……………………』

 

 ここにいる全員、ついに無言となった。辺りが静寂を支配した、その時であった。

 ドゴォン!とギルドの外から大きな騒音が聞こえた来たのだ。

「なんの音?」

 

「またオウガが嫌がらせに来たのか?」

 

 取り敢えずギルドの外へと出てみることにした一行。

 そして、外へ出てみるとそこには意外なものが待っていた。

 

「お……おお………!!」

 

「あれは!?」

 

 空には一面を覆うような大きな物体が空に浮かんでいたのだ。

 顔を上に上げてその光景を唖然として見つめる。

 ───巨大な船。

 それは、青い天馬(ブルーペガサス)が7年前にあの化猫の宿(ケットシェルター)が無くなる原因となった六魔将軍(オラシオンセイス)打倒の為に持って来た代物だった。

 船名はクリスティーナ。

 六魔将軍との激闘の末に破壊されてしまったのだが、一緒に共闘した他のギルドのメンバー達の協力により、ニルヴァーナを攻撃し、見事勝利を勝ち取った。

あれから7年の時が経ち、クリスティーナは改良されて、クリスティーナ改となっていた。

 

「くん、くん、くんくん、くんくん。辛気くさい香り(パルファム)はよくないな。とう!」

 

「!」

 

 謎の台詞と共にクリスティーナから一人の男性が空に飛び出してきた。

 そして、そのまま落下。

 

「メェーン!」

 

『落ちんのかよ!!』

 

 上から飛んできた男が地面へと突き刺さった光景を目にして男どもが声を揃えて突っ込む。

 そして、この落ちてきた男は……。

 

「あなたの為の一夜でぇす」

 

 髪の毛が長くなった『青い天馬(ブルーペガサス)』の中でもかなりの実力者、一夜であった。

 

「オマエ………!」

 

「一夜様、気持ちはわかるけど、少し落ち着いたら?」

 

「俺………空気の魔法使えるし」

 

「みんな久しぶり」

 

 空気の魔法によりゆっくりとクリスティーナ改から降り、マカオ達の元へある3人がやって来た。

 

「やあ」「ヒビキ!」

 

「フン」「レン!」

 

「マカオさん、また老けた?」「イヴ!」

 

 六魔将軍(オラシオンセイス)打倒に一夜と共に来たヒビキ、レン、イブであった。

 

青い天馬(ブルーペガサス)、か……かっけー………!!」

 

「何なんだ一体…………」

 

「ラキさん、相変わらず美しい。」

 

「お………お前眼鏡似合いすぎだろ?」

 

「『お姉ちゃん』って呼んでいいかな?」

 

「あの………」

 

 急な展開に困り顔になってしまうラキ。

 

「ナンパなら他でやれ!!」

 

 3人の行動にマックスが怒鳴って言う。しかし今度は───

 

「え?」

 

「キナナさん、今夜時間がある?」

 

「お………お前の服、似合いすぎだろ?」

 

「決めた。僕は君の弟になるよ」

 

「ええっと…………」

 

「何しに来たんだ!オメェ等!!!」

 

 3人は対象を今度はキナナに変えて、マックスはまた怒鳴って言う。

 

「これ!!お前達、遊びに来たんじゃないんだぞ!!」

 

「「「失礼しやした!!」」」

 

 一夜の言葉に3人はラキとキナナに謝る。2人は思わず肩をびくっ!と震わす。

 

「おい、一夜」

 

「一体、何が………」

 

 マカオとワカバは一夜達がなぜここに来たのかを聞こうとした。すると………。

 

「メェーン!」

 

 一夜がそう言うと、3人は一夜の後ろへ移動した。

 

「共に競い、共に戦った友情の香り(パルファム)を私は忘れない」

 

 覚えてもらっていても嬉しくない。

 

古文書(アーカイブ)の情報解析とクリスティーナの機動力をもって、フィオ―レ中のエーテルナノ数値を調べたかいがあったよ」

 

「なっ!」

 

「っ!!」

 

「天狼島は………まだ残っている!」

 

 それは仲間達がまだ生きている可能性のある情報であった。

 一筋の希望の道のりが繋がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 天狼島があった近くの近海に、フェアリーテイルの船は航海していた。

 各々が辺りを見回して天狼島を探している。

 

「ねえ、本当にこの辺なの?」

 

 望遠鏡を覗きながら遠くを眺めているビスカが疑問の声を上げる。

 それに同意するように言ったのが、アルザックだった。

 

「何も見えてこないじゃないか」

 

「天馬の奴等の話じゃ、この海域でエーテルナノが何とか………」

 

「そもそもエーテルナノって何だよ?」

 

「知るかよ。魔力の微粒子的な何かだろ?」

 

 マックスの言葉に適当な事を言うウォーレン。

 こういう専門的な事に詳しい人材がいなかったのは残念だったがしょうがないことだった。

 元々、レビィやルーシィ辺りが担当していたものだったからだ。

 

「本当にロメオを連れてこなくて良かった?」

 

「無理矢理でも連れて来るべきだったかな…」

 

 仲間達の帰還に1番心待ちしているロメオの事にそう思ったアルザックとビスカ。

 

「まだみんな生きてるって決まった訳じゃねえんだ」

 

「ぬか喜びさせる訳には………」

 

「「レビィに会える!!レビィに会える!!」」

 

「やかましい!!」

 

 ジェットとドロイの騒ぎように怒るウォーレン。

 だが二人の気持ちも少しは理解できる。

 

「7年も連絡がねえんだぞ。最悪の場合も考えろよ」

 

「お………おう………」

 

「もしゃ………」

 

「「……………」」

 

 ウォーレンの言葉に沈黙となる仲間達。

 嫌な予感が脳裏に駆け抜ける。

 

 その瞬間だった────

 

「うおっ!」

 

 突然、海面が揺れて船が大きく揺さぶる。落ちないように船に一同はしがみついた。

 

「何が起きた!?」

 

「あっ!あれを見ろ!」

 

 一体誰が言ったのか分からなかったが皆の目線が指差した方向へと注がれる。

 そこは天狼島があった場所だった。

 巨大な水しぶきが起こり波が全方位に進んでいく。

 

「海面が……割れてる!」

 

 そこの海面が穴があくように分断されていた。

 ありえない光景に目を見開いた皆。さらに続いて信じられないことが起きる。

 そこからひとつの影が飛び出してきたのだ。

 その影はやがて、フェアリーテイルの船へと着地した。

 

「おー…良かった、良かった。近くに船があって助かったわ…」

 

「……え?」

 

「ったく……この近くに着地出来る場所なかったら、陸地まで飛んでいかないといけなかったからな、助かったよ」

 

 全員が戸惑いを隠せなかった。

 久しぶりに聴いたこの声はあの懐かしい仲間の声。

 

「お前………ソ…ウ……なのか?」

 

「ん?なんで、俺の名前を?」

 

 アクノロギアによって消滅したと思われる仲間の一人、ソウ・エンペルタント。フェアリーテイルのS級魔導士。

 少し、身だしなみが汚かったりしたことろもあったが、確かにソウだった。

 

『ソーーーウーーー!!!』

 

「え!何!なぬ!」

 

 ソウの魔法の中に相手をカウンターで吹き飛ばす魔法───『波動壁』があることを全員が完全に忘れていた。

 だが、ソウは発動せずに代わりに別の魔法を発動さしていた。

 

「え………この魔力……ジェットか?」

 

「そうだ!!!ジェットだぁー!!」

 

「ええー!変わりすぎだろぉー。それにドロイもいるー!」

 

「ドロイだ!!」

 

「太りすぎだー!」

 

 ソウが発動していたのは相手の魔力を計る魔法だった。

 久しぶりの再会に辺りが混乱に巻き込まれていくのだった。

 

「よし、説明求む」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 ───どうにか、落ち着いたところでソウに一通りの説明をする。

ソウはどこかで納得した所があったのか時折、頷いたりしていた。

 

「7年か……そんなに経っていたんだな…」

 

「ああ……でも、他の皆は……」

 

「ん?皆も生きてるが?」

 

 アルザックの悲しげに言ったことにソウはさりげなく否定した。

 アルザック達は驚愕する。

 ソウだけでなく、皆が無事だというのだ。これが夢であっても可笑しくないというぐらいに。

 

「ドロイ、ちょっと頬っぺたを引っ張ってくれないか……」

 

「お、おう…」

 

「い!いたたたっ!」

 

 ジェットが感じた痛みは本物だった。

 つまり、これは夢じゃなくて現実。皆が生きてるということに……。

 

「あ、そうだ。あれをするのを忘れていた」

 

 すると、ソウはその場から船頭へと移動した。

 ソウの視線の先は二つに割けた海面だった。

 

「──────」

 

 ソウが何かを言ったかと思うと、突如海全体が揺れたような錯覚を覚えた。

 しばらくしてソウの目の前に巨大な影が出現した。

 それは天狼島だった。

 バリアみたいなのに覆われていたが先程解除されたようで海面に浮き上がって来るように出てきたのだ。

 

「て、天狼島!?」

 

「さて、皆を起こしにいきますか」

 

 一行は天狼島に上陸しようと船を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「ほら、あそこにナツが寝てる」

 

 天狼島へと上陸したソウ達は、早速皆の元へと歩いていく。

 ソウの案内の元に進んでいく。しばらくしてソウが指差した先にいたのはナツだった。

 寝ているのか、仰向けになっている。

 ナツの姿を確認した途端、ソウ以外のメンバーが駆け寄った。

 

「ナツ!!しっかりしろ!!オイ!!!」

 

「ナツ!!!目ぇ覚ませ、コノヤロウ!!!」

 

「だーーーーっ!!!うるせえっ!!!!」

 

 あまりのうるささにナツは叫ぶ。

 そこの所はあまり変わっていなかった。少しは変わってほしかったと心の中で思っていたソウ。

 

「ナツーー!!!」

 

「うあああ!!」

 

「ああああ!!」

 

「んがー!!!」

 

 感動のあまり、号泣してナツに抱きつく男ども。

 ナツは身動きが取れずにただただ足掻いていた。

 どんどん状況は落ち着きそうになかった。

 

「どうなってんだ一体………!!?何でオマエらがここに………つーか少し老けてねーか!!?」

 

「おまえは変わらねーな!!」

 

「てかドロイ、太………」

 

 既にドロイが太っていることについてはソウが指摘済みだ。

 

「本当に……生きていたんだ………!」

 

「俺達、さっきのアクノロギアの攻撃をくらって、えーっと……他のみんなは!!?」

 

「皆、他の所にいるはずだ」

 

「ソウ!お前も生きていたのか!!!」

 

「そりゃ、生きてるよ」

 

「それで、他のみんなは………」

 

「こちらです」

 

 答えたのはソウではない。別の誰かだった。

 そこにいたのは女性だった。

 

「あ、もう出てきたんですか」

 

「「「……誰!?」」」

 

「えーと、この人は───」

 

「いえ、私が言います」

 

 女性はソウの言葉を遮り、皆の近くへと歩いていく。

 

「私はフェアリーテイル初代マスター、メイビス。メイビス・ヴァーミリオンです」

 

「「「「「「!!?」」」」」」

 

 つまり、フェアリーテイルを作った張本人ということになる。

 皆は何度目になるのか分からないくらい驚いている。

 事情を説明する様子のメイビスにソウは既に知っており、聞く必要はないのでその場を離れて別の場所へと移動した。

 ソウがついた先にいたのは、ウェンディ、シャルル、レモンだった。

 

「おーい……ウェンディー……」

 

 ソウがウェンディの肩を揺さぶる。

 しばらくすると、う…と呻き声が聞こえたかと思うと、ウェンディがゆっくりと体を起こした。

 

「起きたか?眠れるお姫様」

 

「……お兄ちゃん?」

 

 まだ意識がはっきりとしていないウェンディ。

 ソウがウェンディの頭を撫でてやると嬉しそうに笑顔になるウェンディだったが、ようやくはっきりとしたのか態度が変わった。

 

「私達……生きてるの……?」

 

「生きてるよ、皆」

 

 無事に生還出来たことに嘘のような感覚を覚えたウェンディだったが目の前の兄の笑顔を見て真実だと直感で分かった。

 想いが沸き上がってきて涙が目に浮かんできた。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

ソウの胸元へと飛び込むと同時に泣き出してしまったウェンディ。

ソウは黙って受け止めて優しくウェンディの頭を撫でてやる。

 

「ほら、シャルルとレモンも起こさないとな」

 

 その後はシャルルとレモンを起こして皆が集まっている場所へと自分達も向かった。

 皆が無事に目覚めたみたいで一安心したソウ。

 そして初代マスター・メイビスによる説明が始まった。

 

「あの時………私は皆の絆と信じあう心。その全てを魔力へ変換させました。皆の想いが妖精三大魔法の1つ 『妖精の球(フェアリー・スフィア)』を発動させたのです。この魔法はあらゆる悪からギルドを守る、絶対防御魔法。しかし、皆を凍結封印させてしまいました………ごめんなさい………」

 

 頭を下げて皆に謝罪の言葉を述べるメイビス。

 皆は気にしている様子もなく、代表してマカロフが答える。

 

「なんと………初代が我々を守ってくれたのか……………」

 

「いいえ………私は幽体、皆の力を魔法に変換させるので精一杯でした。揺るぎない信念と強い絆は奇跡さえも味方につける。よいギルドになりましたね、三代目」

 

「ありがとうございます………初代………」

 

 初代マスターメイビスと現マスターマカロフはそう言った。

 

「あの………1つ聞いていいですか……?」

 

「はい、何でしょ?」

 

 恐る恐る手を上げて質問しようとしたのはレビィだ。

 メイビスは笑顔で答える。

 

「ジェットとドロイから聞いたのですけど、なんでソウ君だけ先に目覚めたんですか?」

 

「それは本人から、今までに感じたことのない魔力を感じたので私が先に起こしたのです」

 

 メイビスに起こされたのは先に起こされたと言っても数時間前までの話だ。

 ソウが起きて初めに見たのは隣で眠っているウェンディだった。

 起こそうと揺すっても起きない妹に焦りを感じたソウは必死に尽くすが、それも無駄に終わる。

 息はしているので生きているのは確かだった。

 だが、起きる気配がない。まるで生きた屍のようだった。

 どうして自分だけが起きている現状に理解しようと努めていると、誰かの気配を察知した。

 その時にソウの目の前に現れたのがメイビスだった。

 なんでも、ソウからはなんというか普通の魔力とは違う魔力を秘めており眠りが浅くなっていたということで、起こすのは容易いことだったそうだ。

メイビスはソウにこれから皆を起こす準備をするので手伝って欲しいと頼む。

ソウは快く快諾して、まずしたのは外の様子の確認だった。

 その時は海の中だったのでソウは海中から『波動式十七番・断波撃破』を放ち、海面を割った。

 船から目撃したのはそれだったのだ。

 

「なんで俺なんかが皆と違うのか分からないけどな」

 実を言うとソウには心当たりがあったのだが、言うわけにはいかなかった。

 それを言うとなると必然的に“あれ”を話さないと説明がつかないからだ。

 シャルルはソウの言動を怪しいと思ったのかソウの方をじっと見つめていた。

 

「じゃあ戻るか、フェアリーテイルへ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 ギルドに残ったメンバーは各々が思考を巡らせていた。

 勿論、それは天狼島に行ったメンバーのことだ。

 しびれを切らしたロメオはナツ達が帰ってくるかどうか口に出した。

 それに反応したのがマカオだった。

 やがてそれは軽い言い争いにまで発展することになり、周りの人達はため息をついていた。

 その時だった───

 

「今日はまた一段と人が少ねえなァ」

 

「キヒヒ」

 

「ギルドってよりコレ何よ?同好会?」

 

「ぶひゃひゃー!」

 

 ギルドへと騒ぎながら入ってきたのは黄昏の鬼(トワイライトオウガ)の者達であった。

 

「ティーボ!!支払いは来月のハズだろ!?」

 

「ウチのマスターがさぁ………そうはいかねって。期日通り払ってくれねーと困るって。マスターに言われちゃしょーがねーんだわ」

 

 ティーボと呼ばれた男はそう言う。

 理由が身勝手すぎる。誰もがそう思った。

 

「お前等に払う金なんかねえよ」

 

「よせ、ロメオ!!」

 

「なんだクソガキ、その態度!」

 

「こんな奴等にいいようにされて、父ちゃんもみんなも腰抜けだ!俺は戦うぞ!!!このままじゃフェアリーテイルの名折れだ!!!!」

 

 決意を秘めて闘志をむき出しにしたロメオ。

 その目は完全にやる気に満ちていた。止めることは出来なさそうだ。

 ロメオは手のひらに炎を出して敵を睨み付ける。

 が、その炎はティーボの「ふっ……」と息を吹き掛けて簡単に消えてしまった。

 

「名なんてとっくに折れてんだろ」

 

 ティーボは背中にかけていた棍棒を手に持った。

 

「や、やめろーー!!」

 

「お前達は一生俺達の上にいてはいけないんだ!!」

 

 ティーボの意図を読んだマカオが叫ぶ。

 それを無視してティーボはロメオに棍棒を降り下ろそうとした。

 

「あ?」

 

 ───その瞬間、ティーボは宙を舞っていた。

 棍棒はロメオに当たることはなく、ティーボは第三者の手によって吹き飛ばされた。

 仲間が吹き飛ばされたかとに驚く残りのメンバーだったが、全員何者かによって気絶させられた。

 

「お~、帰ってきた~」

 

 そこにいたのはあの天狼島に行ったフェアリーテイルの皆だった。

 

 

 

続く──────────────────────────────




一気に飛ばしてしまった。反省も後悔もしてはいないが。


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第b話 手紙

いよいよソウも本格的に行動開始と言ったところでしょうか。

*〈2015年3月16日〉会話間の行間を訂正。


 妖精の尻尾へと帰還した天狼島メンバー。

 久しぶりのギルドにそれぞれが感想を述べていた。

 ソウも懐かしの気持ちに浸っていた。

 そうこうしている内に、マカロフが今までの経緯の説明を一通りマカオに聞かせる。

 

「───と、そういう訳じゃ」

 

 マカオには信じがたい内容だったが取り敢えず無理矢理納得しておくことにした。どうせ、疑っても無意味なことは長年の経験から知っている。

 辺りを見回していたナツはロメオを見つけてそこで視線が固定される。

 7年たった今、ロメオはとても男らしく成長していた。

 ナツは一言ロメオに述べた。

 

「大きくなったな、ロメオ」

 

 ナツはにかっと笑顔を浮かべた。

 ロメオは嬉しいあまりに涙が目から出てしまったが構わずに返事をした。

 

「おかえり!!ナツ兄!!皆!!」

 

 久しぶりの再会だった。

 

「帰ってきたのか、やっと」

「帰ってきたね、お兄ちゃん」

 

 二人も笑顔を浮かべた。

 その後は7年という長かった年月の空白を埋めるかのように騒いだ。

 飲んで食べて踊って歌って。

 それは一行に収まる気配がなかったが、やはりこれでいいとソウは思う。

 妖精の尻尾はこれでいいのだ。自分はこの時間が大好きなんだ。

 でもあの日が来るのも、もうすぐだった………。

「お前も火の魔法使うのかロメオ!」

「またギルドの温度上がっちゃうねー」

 

 ナツとハッピーのテンションが上がってくる。ロメオも同じ魔法が使えるようになったことに喜んでいるのだ。

 

「冷たい炎も出せるぜ」

「おおっ、青い炎!!」

 

 ロメオは右手から青い炎を出した。

 

「これは何だ?」

 

 ロメオは今度は左手から紫色の炎を出していた。

 

「父ちゃんと同じ紫のくっつく炎。あと、変なニオイの黄色い炎」

「くっせー!!」

 

 炎から出る悪臭に思わず鼻をつまんだナツ。ソウも鼻を覆っていた。

 ロメオの炎の種類が豊富だと思ったソウ。

 

「お前、オヤジよりスペックが多くねえか?」

 

 ソウと同じことを思ったのかガジルが話に入り込んできた。

 そのオヤジはというとマカロフとカウンターで話していた。

 どうやら、ギルドマスターについての内容らしい。

 

「しかし、お前が四代目フェアリーテイルマスターとはな」

「なーに言ってんだよ、こんなの代行みてーなモンだよ!!今すぐこの座返すよ!」

「いや……面白そうだからしばらく続けてくれい」

「マジか!!?」

 

 初代メイビス、二代目プレヒト、三代目マカロフ、四代目………マ・カ・オ♡

 

「ん?」

 

 ソウは首を傾げる。

 何か変なことが聞こえたような。気のせいか。

 

「先・ 代・がそう言うならもうしばらく。エヘヘ………」

「このなんともいえねーガッカリ感がウケんだけど」

「じゃろ?くぷぷ……」

 

 気になったのか、ソウは遠目から眺めていたがどうやらアホなことを企んでいるらしいと見ていてわかった。

 

「何!?」

 

 いきなり大声を上げたのはエルザ。

 驚いているエルザの前にはアイザックとビスカがいた。

 

「け……けっ……結婚したのか、お前たち!」

 

 へぇー、そうなんだとソウは感心していた。

 

「6年前にね」

「聞いてよエルザさん。プロポーズ私からなのよ!!アルってば………」

「その話はよせよ…………」

「お………?おめでとう!ふつつか者だがよろしく頼む!!」

 

 エルザはそう言い、何故かマックスの着ている服の襟を握り、前へ後ろへと動かせていた。

 さらに頭から白い煙が出ていた………。

 

「誰か、止めろ!!」

 

 エルザに引き回されていたマックスが叫ぶ。

 

「何言ってんだエルザ………」

「自分にあてはめてごっちゃになってるわね」

 

 エルザの困惑している姿を見て、エルフマンとミラがそう言う。

 

「素敵ね!子供はいるの?」

 

 リサーナがノリノリで2人に質問する。

 エルザはというと未だに何やっているのかよく分からなかった。

 

「娘が1人」

「アスカっていうんだ」

 

 もしかして、あの子かな。楽しそうにレモンとはしゃいでいる女の子。

 あ、女の子がどこかに走っていった。置いていかれたレモンは悲しそうにその背中を見ていた。

 

「あ……あの、リーダスさん、これ……」

 

 場所は変わり、ウェンディはリーダスの書いた絵を見ていた。

 ウェンディの格好はエドラスに行ったときに来ていた服だった。

 

「ウィ………俺なりにウェンディとソウの7年間の成長した姿を描いてみたんだ」

 

 ウェンディだけでなく、自分の姿も描かれているということでソウも気になったのか、ウェンディの後ろから覗きこんだ。

 ウェンディの肩がぴくぴく震え、様子がおかしかったことにソウは気付いていなかった。

 

「あんまり、変わってないな……」

 

 身長が少し伸びてるぐらいで他は特に変化なしというソウ。

 それに対してウェンディは───

 

「…お……お胸が……」

 

 ウェンディも一応身長は伸びているが、一番成長して欲しいところがあまり良くない。

 

「ん?何か言ったか?」

「これ……気持ち悪いんだけど…」

「何故俺はフンドシなんだ………」

 

 どうやらエクシード組の7年後の姿も描かれていたみたいで、シャルルとリリーが感想を述べていた。

 まるで人間みたいに成長した自分達の姿を見たシャルルは冷たい目線を浴びさしていた。

 エクシードは元々、今の身長以上伸びることはないはずだ。エクシードの長老達も今のシャルル達とあまり背丈は変わらなかったからだ。

 リーダスはそんなことは知らないのでただ単に自分の想像だけで描いたようだ。

 

「わぁ、私スタイルいいねー」

 

 いつの間にかこちらへと戻ってきていたレモンも自分の未来の姿を見て感想を述べる。

 

「そういえば、エクシードの皆………7年間心配かけちゃったのかな………」

 

 絵を見て思い出したのはエクシード達が今何をしているのだろうと思い同時に7年間も行方不明になっていたということだ。

 ハッピーは不安そうに呟く。

 

「いや。エクシードと人間とは時間の感覚が違う。それほど大事には捉えていないだろう」

「ふーん」

「そっか~」

「それならいいんだけどね」

 

 エクシード達はそんな他愛もない会話をし始める。

 ソウの横にはいまだに絵と向き合っているウェンディがいた。

 

「私………大きくなっても……大きくならないんでしょうか………」

 

 ソウには一体何が大きくなって、大きくならないのか大事な所が聞こえなかった。

 

「そんなに気にすることなのか?」

「うん……でも……」

「今のウェンディも可愛いけどな」

「っ!……お兄ちゃん/////」

 

 ウェンディは顔を赤くして恥ずかしいのか顔を俯かせてしまった。

 何か変なことを言ってしまったかとどうやら違うみたいなので一安心したソウはギルドに誰かが来たことに気づく。

 

「誰か来た………」

「え?……」

「あら?いらっしゃいませ」

 

 入ってきた人らのことをソウは知らないがどうやら皆の知り合いかなんからしい。反応からして初対面の人に接する態度ではなかったからだ。

 

「おおっ!そろっているようだな!」

 

 聞いたことのない声。自分とは無縁の人物みたいだ。

 

「みなさんのご帰還………愛をこめておめでとうですわ」

「おおーん」

「息災であったか?」

「7年間歳とってねえ奴等に言ってもな…………」

「また騒がしいギルドに逆戻りか」

「お前等!!」

蛇姫の鱗(ラミアスケイル)!!?」

「誰?」

「ニルヴァーナの時に手伝ってくれたギルドの一つだよ、お兄ちゃん」

 

 ニルヴァーナの時に、一緒に六魔将軍(オラシオンセイス)と戦い、ニルヴァーナを止めるのを手伝ってくれた、蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のギルドの人達みたいだ。

 が、ソウはその時その場にいなかったのであまり事情を知らない。名前と顔が一致しない。

 知っているのはエルザとウェンディから聞いた話ぐらいで本物は目にしていない。

 

「天狼島の捜索には天馬にも蛇姫の鱗にも世話になったんだよ」

 

 マックスがそう言ったことでソウがあの時、密かに疑問に思っていたことが判明した。

 ここに帰ってくる途中の船の上で、感じたことがない魔力があったが多分それが青い天馬のギルドの一員だったのだろう。

 会う時があったら、お礼を言っておくべきだろうとソウは考えた。

 

「そうだったのか」

「借りができちまったな」

「気にする事はない。天馬に先をこされたが、実力は俺達の方が上だしな」

「そっちかよ」

「だって、この7年間で私達蛇姫の鱗はフィオーレNo.2のギルドにまで、のぼったんですもの。残念ですわルーシィさん」

 

 蛇姫の鱗は思っていた以上に強敵と成りうる存在の秘めたギルドのようだ。

 

「………って事は、1番は天馬?」

 

 ルーシィはそう尋ねるが、さっきの話だと蛇姫の鱗の方が実力が上とグレイと同じ師匠の弟子のレオンが言っていたから青い天馬が一位ということはないだろう。

 さっき、ウェンディから大体の人を紹介してもらった。

「そんな訳あるかよっ!!!!」

「キレんなよ。いや………天馬じゃないんだが………」

 

 まるで犬みたいな人は唐突に怒鳴り、眉毛が濃いのが特徴の人が突っ込んだ。

 

「あいつ……」

「どうしたの、お兄ちゃん?」

「……いや、なんでもない」

 

 眉毛野郎から自分と似たような魔力が検知されたのに、少し驚いたソウ。

 もしかしてあいつも自分と同じ魔法を使うのだろうか。

 

「まあ……そんな話はよかろう。皆……無事で何よりだ。」

 

 この人は確か、ジュラ。

 ジュラというとどこかで聞いたことがあるような気がしたがもしや、有名人なのだろうか。

 

「おおーん」

 

 こいつ………犬だ。

 そう吠えられると見た目からも言動からも犬としか思えなくなったソウ。

 どうやら、こいつの事はウェンディも知らないらしく、よく分からないというのがソウの第一印象といったところだった。

 するとレオンがジュビアと目が合った。そして、爆弾発言をかました。

 

「これが一目惚れというやつか……」

「え……ええ…」

 

 まさかの告白みたいな発言にジュビアはただただ困惑している。

 そして、グレイはめんどくさいことになってきたとため息をついた。

 ようやく、状況を理解できたのかジュビアは顔に両手を当てて「これは……修羅場!」とかなんとか言って一人で盛り上がっている。

 取り敢えず目線をそらすことにしたソウ。その先にはギルダーツとカナがいた。

 

「つー訳で、俺がカナの親父だったんだわー!」

「コラ!!ベタベタさわんな!!」

「だってよう、嬉しいんだもんよォ!」

「そのゆるんだツラどーにかしろよ!てかおろせ!!」

 

 ギルダーツがカナを抱っこする。嫌そうに抵抗しているカナだが、満更嫌そうではなかった。

 親子って知った時にさすがにソウでも驚いた。

 

「もっとまともな設定はなかったのかよ」

「さすがに騙される気がしないのである」

 

 ウォーレンとビジターがそう言う。

 

「じゃーん!これがアスカ」

 

 アルザックはリーダスが描いてくれた自分の娘を見せていた。

 

「「「おおー!」」」

「お2人にそっくりですね」

 

 ウェンディが感想を述べた。

 絵に描かれていた少女は先程見つけた女の子と似ていたのでさっきの考えは間違いなかった。

 というより、今はどこに行ったのだろうか。

 同じように絵を見ていたリリーも感想を述べたが余計な一言だった。

 

「成程。ウェンディに似た感じだな。可愛らしいぞ」

「え!」

「………」

 

 一瞬、目が点になったウェンディはだんだんと涙目になっていく。

 そして、ついに───

 

「うええ~~~ええん!!リリーまで!!!!」

「え!?なぜだ!!?」

「あー、はいはい……よしよしウェンディ」

 

 ソウは泣いてるウェンディを抱きしめ、頭をなでる。

 リリーにまで言われたことにショックが大きかったようだ。

 何が悪かったのか分からないリリーは狼狽えていた。男には理解しがたいことなので、リリーが理解できるのはまだ後の話だろう。

 

「よしよし」

「うええ~~~ん!!」

 

 しばらくは泣き止みそうになかった。

 その後も色々いつも通りの騒ぎようにソウはこの妖精の尻尾へ帰ってきたんだと実感していた。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「どうして、それを俺に?」

 

 時間はあっという間に過ぎて夕焼けが綺麗な時間帯に差し掛かっていた。

 ギルドのとあるテーブルにギルドの女子達が集まって会話をしていたが、どれもその表情が暗かった。

 その近くを通りすぎようとしたソウだったがたまたま顔を上げたウェンディに見つかり連行された。

 エルザもソウを見るなり目を光らせてこっちに来るように合図してくる。

 こうなると逃げられないことは体が本能的に理解しているので諦めた。

 

「7年分の家賃か………」

 

 どうやら、今集まっているメンバーはフェアリーヒルズに住んでいたメンバーだったが先程7年分の家賃の請求をされたみたいだ。

 さすがに7年となるとそれはとても大きい金額になるはずだ。

 それにエルザにいたっては───

 

「エルザって五部屋借りてたよね?」

「うるさい、分かっておる」

 

 レモンの現実味の一言に頭を抱えたエルザ。

 よく、家主は部屋をそのままでしていてくれたよなぁとソウはそっちの方に気を向けていた。

 

「私の貯金が………」

 

 ウェンディは自分の貯金がほとんど空になったことに嘆いていた。

 

「で、なんで俺に言うんですか?」

「いや、だってソウ君よくS級クエストに行ってるから……」

 

 レビィが恐る恐る言う。

 つまり、皆はソウの貯金に期待しているのだ。

 S級クエストは難易度が難しいの引き換えに報酬金がとても高い。等価交換と言った所だろう。

 それを大量と言ってもいいほどの量をこなしているソウの貯金は計り知れない。

 なら、エルザもソウと同じS級魔導士なので問題ないのではとソウは思ったがそれはないと首を横にふる。

 エルザはナツとグレイとルーシィと行動を多くしていたので個人で行く暇がなかったのだ。それにあいつらが物を破壊するせいで報酬金も少なくなるということでルーシィが家賃のことで毎日頭を悩ましていたことは記憶に新しい。

 取り敢えず今の貯金だけで、いくらになるかと計算しようと思ったが正直めんどくさかった。そもそも7年経った今もあるのかどうか確かめておかなくてはならない。

「ちょっと待っておいて」

 

 ソウはそれだけ言うとギルドから離れて久しぶりに我が家へと戻った。

 埃が溜まっていたが目的の物は特に難なく見つけられたのですぐにギルドに戻る。

 

「はい、これ」

「これは?」

 

 ソウが持ってきたのは宝石だった。それもたくさん。一目で高価な物だと分かるほどの輝きを放っていた。

 

「あるクエストに行ってきたときに山奥まで行ったんだけどその時に見つけて家に持ち帰ってからはずっと置きっぱなしで忘れていたんだ。特に使い道がないし、どうぞご自由に」

 

 正確に言うと猛獣の住んでいたところの奥深くにあったので誰も取ることが出来なかったのだ。

 

「本当か!?」

「これ、売ったら、いくらぐらいするのでしょうか?」

「一個1000万Jぐらいは行くんじゃないのか?」

「本当なの!?」

 

 ラビが異様に食いついてきた。

 

「で、でもこんな物をもらうのは気が引けるというか………」

 

 レビィは遠慮がちにしていた。

 確かにこんな宝石をただで貰うのは誰だって遠慮するだろう。

 

「まあ、俺からのプレゼントということで……。それでも不満なら後でお金は返してもらえればいいよ」

「う、うぅっ………すまん……」

「ありがとう………」

「感謝します………」

「助かるわ………」

 

 ソウもいい気分になっていた。

 と、ウェンディがとても欲しそうに宝石を見つめていたのでソウは声をかける。

 

「ウェンディも選んでいいぞ」

「え!いいの!」

「今までにウェンディに心配かけた分のお兄ちゃんからのお返しということで」

「ありがとう……お兄ちゃん……!」

「じゃあ、私これ~」

 

 どさくさに紛れてレモンも宝石を選び出した。

 どっちにしろ余るんだったらルーシィにでもあげようとしていたので問題はない。

 

「もう、いいか」

 

 残ったのは数個だったがこれでも売ったら相当の額がいくだろう。

 宝石を手に持ってソウは自分の家へと戻っていった。

 

「お兄ちゃんは自分の家持ってたんですね」

「ん、そうだが知らなかったのかウェンディ?」

「はい、知っていたら多分そっちに行っていたと思いますし。───あ!でもフェアリーヒルズも楽しいですよ!」

「ソウ君には感謝だね」

「はい、今度お兄ちゃんの家にでも行ってみようかな……」

 

 女子達の会話はまだ続くのであった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

「はい、ソウ。あなた宛に手紙が来てるわよ」

「ん、サンキュー、ミラ」

 

 頭の上にはレモンが乗っていた。

 どうやらここが一番落ち着くらしいので、よく乗っている。

 ギルドの中でテーブルに座り何をしようかと悩んでいたとき、ミラが手紙を一通ソウの元に持ってきた。

 ソウは手紙を受けとると誰からなのか確認しようとするが名前がない。

 不思議に思いながらも紙を封筒から取り出して内容を読み進めていく。すると、だんだんとソウの様子がおかしくなっていき読み終えるなりその場に立ち上がった。

 

「何が書いてあったの?」

「ごめん、ミラ。俺三日くらいギルドを留守にするわ」

「急にどうしたの~?」

 

 勢いよく立ち上がったことで眠そうにしていたレモンがのんびりした口調で話す。

「え、急にどうしたのよ!」

 

 ミラがそう口にしたが、ソウはあっという間にギルドを出ていった。

 一体あの手紙に書かれていたのは何だったんだろうとミラは思ったがその前にマスターに伝えることにした。

 それにウェンディにも言わないと機嫌を損ねそうなので、忘れないようにしないと。

 というよりまたソウがウェンディを置いていってしまったことについては大丈夫なのだろうか。

 

 

続く───────────────────────────

 

 




次回!ついに他のメンバーも登場する予定!


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第c話 波と地と空

お待ちかねの、三人がようやく揃いました!そこの人!待ってないなんて言わないで!

───早速、どぞ!!

*〈2015年3月3日〉会話間の行を訂正。


 何もない。

 

 それがこの場所を表すのに十分すぎる一言。

 何を言われようと聞かれようと、言葉通りに何もないのだ。ここは。一体どこなのかは勿論不明。周りには何もなくただただ白い景色が視界一面を覆っている。

 その中で目立つ黒の人影。それも二つ。向かい合うように対峙している。

 一人は“ジュン”。あの地動竜のドラゴンスレイヤーであり、またソウとは親友でもある。

 もう一人は“アール”。空動竜のドラゴンスレイヤーである。アールもソウとジュンとは親しい関係にあった。

 

「じゃ、行くぞ!」

「うん、いつでも準備万端だよ」

 

 距離をとり二人は対峙してその場から動かない。

 と、同時に二人が息を吸い込んだ。

 

「地動竜の咆哮!」「空動竜の咆哮!」

 

 ジュンは黄土色のブレスを放ち、アールは水色のブレスを同時に放つ。

 お互いのブレスは二人の中央でぶつかり合い大きな爆発を誘い出した。

 どちらも互角だったようで不利にも有利にもならない。爆風が辺り一帯を覆った。

 やがて爆発で起きた煙が晴れるとジュンはため息をついた。

 

「ふ~…………今日はこれで終わりだな」

 

 ジュンはその場に座り込んで、そしてそのままバタン!と重力に身を任せ床に仰向けになった。

 アールは額に汗を浮かべながらも離れたところにいるはずの観客の元へと歩いていく。

 

「うわぁ~すごい威力だよ~」

 

 遠くから二人のブレス対決を眺めていたのは、“サンディー”だった。

 ブレスの威力の高さに感嘆の声を上げていた。

 隣には何を考えているのかまったく読めない“ルーズ”がいた。

 

「そうね……」

「どうしたの?」

 

 いつもよりも暗い感じになっていることに気づいたサンディー。

「ただ、ここが相変わらずの何でもありなのねと思っただけよ」

 

 今サンディー達がいるここは普通の場所ではない。

 というよりもあの二人のブレスの爆発はとてつもなく大きなものだったので町中は勿論、山奥で行っても近くの人々に危険が及ぶだろう。

 

「そりゃ“師匠”が魔法で作ったのでしょ?」

 

 師匠。アールとルーズの魔法を教えてくれている人でもあり、またある魔法を使いこなす化け物級の人だ。

 

「でも、ここにいると体の成長が止まるのはどうかと思うわ……」

 

 この空間に入ったのはちょうど7年前くらいだろうか。

 そのお陰で体格は7年前とほとんど変わりがなかった。

 自分としては成長してほしかったと思っていた心の奥底が訴えてきたが気にしないことにした。

 

「もうそろそろかな?」

「何がなの?」

「師匠の言ってる通りだと、ソウが起きるのは今日なんだ」

 

 アールはそう言った。

 ようやく、ソウが目覚めるとは遅すぎる。そのおかけでこの空間に7年間も閉じこめられるとほとんど同じ状況に陥ったのだから。

 ジュンとアールは途中からトレーニングをし始めて楽しそうだったが。

 ルーズも一応、魔力のトレーニングはしている。

 サンディーも暇なのかトレーニングには参加していたが「しんどい」とのことでサボっていることが多かった。

 ルーズも参加するよりは観戦している方が多かった。あんな野蛮な戦闘になど参加したくないのだ。

 二人はただ、お互いの技を磨くために技をぶつけ合っているだけだが、ルーズはそれが別の意味で捉えたらしい。

 トレーニングというと終わった後はどうしても食欲が増すとジュンは言っていた。

 が、ありがたいのかは不明だがこの空間ではお腹が減らなくならないという一体どういう原理なのか理解しがたいことが起きている。

 精神年齢は上がるらしいが、それが本当なら特にジュンの精神年齢が上がってほしい。

 すると、魔力も鍛えても意味はないのだろうかと思ったがどうやらそうでは無さそうだ。現に今のブレスやら、確実に7年前と比べて実力が上がってきている。

 

「ジュン、アール、サンディー、ルーズ。よく聞くのじゃ」

 

 何処からともなくいつの間にか現れた師匠。

 四人はもう慣れたのか驚きもしないようになってきている。

 

「ソウがようやく動いた。あれもちょうど今年じゃから運も良かったのう」

「だったらこの魔法も解くのか?」

「うむ、もうこれは必要とないのでな」

 

 パチン!と指を師匠が鳴らすといきなり視界が光に包まれた。

 思わず目を瞑る一行。

 目が慣れて光景が戻ってきたころ。ルーズの視界に写ったのはあのフィオーレだった。ここはとある町のようだった。ようやく7年の歳月を戻ってこれたのだ。

 

「ここからはどうするの?」

「ソウには既に伝えておるからのう、待ち合わせ場所まで行くことにするぞい」

「それはどこなのよ?」

「───草原じゃ」

 

 ここからはそんなに遠くはなさそうだ。

 アールとルーズは頷く。ジュンとサンディーはもう既に歩き出している。

 目指すはソウが来るであろう草原だ。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「あれ?お兄ちゃんは?」

 

 ギルドの中を見渡しても兄がいないことに気付いたウェンディ。

 隣のシャルルも居場所を知らないようで首を傾げている。

 

「レモンもいないわね」

 

 ソウとレモンがどっちもいないとなると何処かに出掛けていったのだろうか。

 出掛けていったのはいいが、また勝手に自分には何も言わずに出ていくのは寂しかった。一緒に連れていって欲しいとの気持ちもあるがやはりソウの方から誘ってもらいたい。

 誘えてもらえないのは自分自身の実力がないのだろうか。それとも自分が行くと仕事の邪魔になるからなのか。

 そう考えると自然と悔しくなるウェンディ。あの時とは違って自分は成長したんだと兄に見せつけてやりたかった。

 

「どうしたのよ、ウェンディ?」

 

 話しかけてきたのはルーシィだった。

 どうやら自分は周りから見ると困っているように見えたのだろう。

 ウェンディは気持ちを切り替えて答えた。

 

「いえ、お兄ちゃんが見当たらなくって………」

「そうね………ソウのやつ………可愛い妹を置いてどこにいったのかしら?」

 

 やはりルーシィも会っていないとなると何処かに出掛けていったという結論が正しくなってくる。

 

「どこに行ったの………お兄ちゃん………」

「あ、ウェンディ。探したわよ」

 

 呟くと同時に声を出して近寄ってきたのはミラだった。

 どうやらウェンディのことを探していたらしい。

 

「ソウのことだけど、三日くらい留守にするって言って飛び出していったわ」

「急にどうしたのよ」

「私は手紙の中身を見て飛び出したから手紙に何か書いてあったのだろうと思うわ」

「手紙?だとすれば………」

 

 シャルルはミラの言葉に反応して考え込んでしまった。

 

「やっぱり……私は置いてけぼりなんですね…」

「ウェンディ!ダメダメ、違うから!ソウは急用を思い出しただけよ!うん!そうよ7年も経つと色々と大変なのよ!」

 

 感傷的になり始めているウェンディの姿を見て、ルーシィは慌てて否定を並べていく。

 

「やっぱりこうなるのね……」

 

 ミラは分かっていたのか、苦笑いを浮かべる。

 次に帰ってきたときには言っておかないと心に決めた。

 ウェンディは目に涙を浮かべており今に泣きそうな雰囲気である。

 

「私……まだまだなんですね…皆さんに追い付けるようにしないと……」

「ウェンディは充分!すごいと私は思うわ。だから自信持ってって!ソウもきっと見てくれるから!」

「本当ですか……?」

「うん、本当、本当!天空魔法なんて凄いじゃないの!」

「………分かりました!私、お兄ちゃんにあっ!と言わせる魔導士になります!」

 

 誓いをあげるように言ったウェンディを見て安堵の表情を浮かべるルーシィ。

 ていうか、自分は何をやっているのだろうか。

 ウェンディが兄に置いていかれたことに感傷的になり、それをルーシィが慰めた。

 だとすればそもそもこの役目はソウ本人がやるのではないかと思ったルーシィ。

 妹をこんなに不安にさせて当の本人はとこで一体何をしているのだろうとルーシィは心の中で思った。

 ───今度会った時には言ってやるんだから!

 ルーシィの目が光った。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「へっ~~~くっしょーん!」

 

 盛大なくしゃみをかました噂の張本人は現在空の上に飛んでいた。

 正確に言うとレモンのエーラによって吊られているだけだが。

 

「あっ…揺れないでよ、ソウ。落ちちゃうよ!」

「ごめん、ごめん……風邪かな?」

 

 ギルドの中で自分の悪口を思われているとは微塵も思っていないソウは仮想の病気に頭を悩ます。

 と、ここでようやく自分がした最大の失態に気付いた。

 ソウの額に冷や汗がたらりと流れる。

 

「やば……ウェンディに言うの忘れた……」

「えー、またー」

 

 レモンはそう言うがずっとソウの頭に乗っていたではないか。いや、エーラで飛ぶ前までは寝ていたのか。

 よく頭の上で寝れるなぁと思った。

 

「…どうしよう……」

 

 今頃、ギルドの中で自分がいないことに気付いて感傷的になっている妹の姿が目に浮かんだ。

 帰ったときには一体何を言われるのか、想像したくない。特に女性陣からの罵倒は怖い。一種の魔法ではないかと錯覚するほどの威力だ。

 実体のない攻撃なので波動で防ぎようがなかった。

 どっちにしろ防いでも駄目だろう。

 やはりウェンディの機嫌を直すには今度、一緒に仕事に連れてやる必要があるだろうか。でもそれだけでいいのだろうか。結論からウェンディの言うことは何でも一つ聞いてやらないとご機嫌にならなさそうである。

 

「はあ……帰るのが憂鬱だ……」

「ソウが飛び出したのが悪いのだよ~」

 

 どうやら、レモンは弁護してくれる様子は皆無とのことらしい。

 こちらの事情を話せば許してくれるのだが、それだけは言うわけにはいかないことなのでそれも却下だった。

 

「“師匠”からの手紙だとは思ってもいなかったから仕方がない」

 

 アールとルーズ、それに最近はジュンとサンディーも世話になっているであろう師匠からの直々の呼びつけの手紙。

 まるでソウが起きてくる時間が分かっていたかのようにその人から時間ちょうどに届いたのだ。

 正直、怖い人である。

 

「師匠からの呼び出しなの?だとすればこれからいく先は?」

「ああ、多分全員集合だろうな」

 

 波と地と空が一度に同じ場所に集うのは久しぶりだった。

 ましてや、7年も経っている今ではどんな姿をしているのだろうかとソウの胸が期待で膨らんでいく。

 が、それはあっさりと破られるのだった。

 

「あ!いたよ!」

 

 下には広大な草原が広がっている。どうやら到着したようだ。

 レモンの視線の先には巨大な岩の半分が地上に顔を出しておりその上に座っている人がいた。

 

 ───『波動式六番』波動波

 

 どうやら岩の上に座っているのがジュンみたいだ。

 岩にもたれ掛かっているのはアール。

 隣の小さな岩に座って不機嫌そうにしているのはルーズ。

 草原に咲いてる花で遊んでいるのはサンディーと言ったところか。

 だが、驚いたことに皆が7年前とほとんど姿形が変わらない。

 7年も経っているのだから、少しは成長したと思っていたが違うみたいだ。

 一体何をしていたのか気になったところだが、本人たちに聞いて見た方が早いだろうということでレモンに合図を出す。

 意図を理解したレモンは高度を下げてジュン達の元へとエーラの翼を動かす。

 最初に気付いたのはアールだった。

 無邪気な子供姿のようなままのアールは大きく手を振ってここにいるよとアーピルする。

 アールが手を振ったことでジュンとルーズが顔を上げてソウの方へと見た。ジュンは目を輝かせ、ルーズは興味なさそうにただ傍観していた。サンディーは花で冠を作るのに夢中で気付いていない。

 ソウは近くの草むらの上にどん!と着地した。

 ぼわぁっと風が舞い上がり草むらが揺れる。それでようやくサンディーが気付いたようだった。

 

「ようやく来たか、ソウ」

 

 ジュンはにやりと口角を上げてそう告げた。

 

「ああ、遅れた」

「7年も待たせたんだ、待ちくたびれたよ」

「7年経ってる割にはあまり変わってないな」

「変わってないのは師匠の魔法の影響のせいよ」

 

 ルーズの返答にソウは「あぁ~、そういうこと」と納得していた。

 さすが、絶界魔法の第一人者のことだけはある。

 

「ねぇ、ソウ。ウェンディは?」

 

 サンディーはウェンディと仲が良かったので久しぶりに会いたかったのだろう。ソウとてっきり一緒に来ると思っていたサンディーはソウに訊ねた。

 

「ギルドにいるはずだ」

「ええー、むぅー」

 

 不満そうにほっぺを膨らましたサンディー。

 心の中でサンディーにごめんと謝りながら早速本題に入る。

 

「んで、俺をここに呼んだのはどのような用件で?」

「それは師匠が言うんだって」

「アール、師匠はどこに?」

「ここじゃ!」

 

 幼い声と共に現れたのは一人の少女だった。

 着物を着ており、見た目は完全に和装少女。ただ、その小さな個体の中からは膨大な魔力が秘められていることが感じられた。

 確か、この人は元聖十大魔道の一人であったはずだ。

 今思えばあの青い天馬のジュラという人も聖十大魔道の一人ではないか。だからソウには見覚えがあったのか。

 閑話休題。

 元と言っても見ただけだその小さな体に秘められた実力は分かる。 こうして正面から対峙するとより一層分かる。

 自分が本気で戦っても勝てる確率は殆どないと言ってもいいだろう。

「お主と直接会うのは初めてじゃのう」

「ええ……初めてまして、師匠」

「むっ……師匠と呼ばれるのはあれじゃのう……まあ、いいわい。ソウ、敬語は使わなくって結構じゃぞい。お主みたいなのから敬語を使われるとむず痒いからのう」

 

 少女からは似つかわしい口調で話始めた師匠。違和感満載である。

 というよりこの人は一体何歳だろうかと疑問に思ったソウ。

 

「師匠、早速本題に入ってくれないか」

 

 急かすように言ったのはジュンだった。

 その表情からは期待しているように思えた。どうやらジュン達も事情とやらを聞かされていないらしい。

 サンディーとルーズもこちらに耳を傾けて話を聞こうとしていた。

 

「ようやく、お主らが揃ったのでな、そろそ動きだそうというのじゃ」

 

 ソウ、ジュン、サンディー、アール、ルーズ。

 この5人が揃ったことでやっと動き出すというのか。

 待っていたというよりは遂に来たかと思う気持ちの方が強い。

 

「動き出すのは今年の“大魔闘演武”じゃ」

 

 大魔闘演武。

 ネーミングから察するに何かの大会だろうが、聞いたことがなかった。

 他の皆も聞いたことがなかったのか首を傾げている。

 

「その大魔なんたらって何なの?」

 

 代表して質問したのはサンディーだった。

 その質問をされた師匠は「そうじゃった」と何かを思い出したようだ。

 

「お主らがいない間にフィオーレ大陸で随一の最強ギルドを決める大会が開催されたのじゃ」

「あんたの魔法で私達を閉じ込めていたんじゃない………」

 

 師匠の言葉に呟いたルーズ。

 つい耳に入ってきてしまい苦笑いをしたソウ。

 ジュン達もジュン達で色々と苦労していたようだ。

 

「ルーズ、聞こえておるわい」

 

 びくっ!と肩を震わしたルーズ。恐る恐る顔を上げて師匠の顔を覗いた。

 師匠はただニコニコ可愛らしい少女の笑みを浮かべているだけだった。

 

「その大魔闘演武とお主達の目的の時期が被っておるのじゃ」

 

 師匠の説明は続く。

 時期が被るということは7月の上旬ということになるのか。

 

「そこでじゃ、妾達もそれに参加することにしたのじゃ」

「ちょっと待て、それって何処かのギルドに入れってことかよ」

 

 黙って聞いていたジュンが意見を上げた。

 大魔闘演武はフィオーレ一のギルドを決める大会なのでギルドに入っていないと参加することすら出来ない。

 そこから考えられるのは何処かのギルドに入って参加するという手段。

 手っ取り早いのはソウのいるフェアリーテイルに入ることだが、そもそもフェアリーテイルはこの7年で最弱のギルドとなっているので参加するかどうか怪しい。

 ナツ達の場合は大魔闘演武で優勝出来れば他の奴等に見返せれると思って必ず参加するだろう。

 そうなるとソウ達が全員一緒に参加することは現状では難しくなる。

 まさか、ギルド全員参加ではないだろう。抜擢された魔導士で争っていくのが妥当といったところか。

 師匠の出した答えはそれを一回り違っていた。

 

「妾達で新しいギルドを作るのじゃ」

「わーい、私やってみたーい!」

 

 意気揚々と手を上げて賛成の意思を表したサンディー。

 逆にソウの表情は暗くなっていく。レモンもソウの考えに気付いたのか呟く。

 

「それって………」

「確かにそれだと手っ取り早いな」

「僕も異論はないね」

「私も特にないわ」

 

 ソウ以外のメンバーは次々に同意していく。

 あせりを感じた。

 

「ソウはどうかの?」

「師匠、ソウは既にフェアリーテイルのギルドに入ってるよ」

「そうじゃったか………だが大魔闘演武に参加するには5人は必要なのじゃ………」

「それなら師匠も参加すれば?」

「妾がマスターとなるからのう。マスターは大魔闘演武には出場は出来ないのじゃ」

「私とジュンとサンディーとアールと四人しかいないことになるわね」

 

そこまで言って皆の目線がソウの所に集まる。

ここで行けるのはソウのみ。レモンも一応魔導士だが、エクシードだ。

 けれど、ソウとレモンはフェアリーテイルの魔導士。入るとなれば、フェアリーテイルを抜ける形になるだろう。

 無理にとは言わないのだが、大魔闘演武に参加した方が目的は遂行しやすい。

 だったら自分がやることは一つ……。

 

「分かった、俺も入るよ」

「やったー!」

「俺は入れるがウェンディが入れるかどうかは分からないぞ、サンディー」

「うん、いいもん。ウェンディちゃんと試合出来るかもしれないんだよ」

 

 そっちか!と意表を突かれたソウ。

 てっきり同じチームに入りたいと考えていた。

 

「でも、ソウ。それだとフェアリーテイルを抜けることに………」

 

 アールは心配そうにソウを見つめる。上に乗っているレモンも口には出していないが心配しているのかそわそわしている。

 ソウの決意は固かった。

 

「マスターに相談してみる。無理だったら無理矢理了承してもらうまでだ」

 

 ウェンディやギルドの皆には悪いが、こうでもしないといけないのだ。

 またウェンディの機嫌が悪くなりそうだ。嫌いになられたら困る。

 もしそうなるとすれば、フェアリーテイルも出場するとなれば自分は彼等の敵となるだろう。

 それも案外悪くないと思ったソウ。

 

「ふむ、ソウのことは取り敢えず後回しにておいてじゃのう。妾は既にギルドの名を決めてあるのじゃ」

「ほんとか!なんだ、師匠!」

「気になる~、ねぇルーズ」

「少しだけよ」

 そっぽを向けたルーズだったが目線は師匠の方に向けられている。

 

「言うぞい、妾達のギルドの名は………………『トライデントドラゴン』じゃ!」

 

 師匠はにやりと笑った。

 

 

続く───────────────────────────

 




ギルドのネーミングセンスについてはノータッチでお願い申し上げます!もし、こっちの方が良くない?というのが、あればお待ちしておりますので!
さらにご要望があれば、アール達のキャラ設定も執筆したいと思ってますので感想待ってま~す!!


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第d話 トライデントドラゴン

ソウが帰ってくるのは、ちょうど“透明ルーシィの恐怖”の話の最後らへんです。

───ささ!どぞどぞ!!

*〈2015年3月3日〉会話間の行を訂正。


 “トライデントドラゴン”。

 

 通称、三首の竜。

 ソウ、ジュン、アール。

 ギルドの主要となる三人。その三人を三又の槍と置き換えて、また同時に全員が滅竜魔導士だということからこの名前にしたのだろう。

 シンプルで良い名前だとソウは思った。

 

「トライデントドラゴン?」

「そうじゃ、何か不服かの?」

「いや、いいんじゃないのか?」

「なんで、疑問系なの、ジュン?」

 

 疑問系で返答したジュンにアールが突っ掛かる。 ジュンにとってはあまり興味がないのだろう。

 

「何でもねえよ!」

「そうなの?」

 

 誤魔化すように答えたジュンにアールは渋々といった感じで納得していた。

 ソウも賛成の意を示す。

 

「いいんじゃないのか」

「決まりだね。早速やろう!」

「その前にソウはフェアリーテイルへ戻れよ」

「分かった」

 

 ジュンの指摘により一度、フェアリーテイルに戻り話をつけることにしたソウ。

「レモン、また頼む」

「分かった。行くよー」

 

 来たときと同じようにまたレモンのエーラで飛んでいったソウ。

 それを見送っている三首の竜の皆。

 大魔闘演武まであと少しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 結局フェアリーテイルに戻ってこれたのはミラに告げた3日後だった。

 あそこからギルドまでは相当の距離があったのでレモンのエーラだけでは到底行けないのでのんびり進むしかない。

 ようやくマグノリアについた二人。

 ソウはギルドの前に立つと憂鬱な気持ちに襲われる。

 ウェンディには悪いことをしたと思っている。

 

「さて、行きますか」

 

 扉を決死の覚悟で開ける。

 

「皆ーただいまー」

 

 レモンが意気揚々と入っていく。

 が、ギルドの中にはルーシィしかいなかった。

 

「ルーシィ?一人でなにやってるんだ?」

「ソ、ソウ!良いところにきたー!」

 

 こっちに駆け出してきたルーシィ。

 

「お、お兄ちゃん!」

 

 ウェンディの声が聞こえた。だが、ギルドにはルーシィ以外誰もいないはずなのにどうして聞こえた。

「………空耳か?」

「ソウ!グッドタイミングだ!」

「どうにかしてくれ!」

「よし……気のせいだ!」

「気のせいじゃねぇー!」

 

 ナツとグレイの声も聞こえた。

 他にもギルドのメンバーの声が聞こえた。

 もしかして姿が見えないのだろうか。

 

「はあ?どうなってんだ?」

「7年前に作った薬で、こうなったのよ」

 

 疑問に答えたのはルーシィだった。

 どうやら先程までルーシィが作った薬で透明になり更に存在まで消えそうになっていたらしい。

 それはナツが思い出してくれたおかげで難を逃れたが今度は皆が消えてしまったのだ。

「『波動式六番』波動波!」

 

 波動の波を起こして魔力を検知してみたソウ。

 魔力はすぐ近くから感知されたのでどうやら体が見えないのは本当みたいだ。

 ためしに手を伸ばしてみた。

 手が何かの上に乗っかったような気がした。

 ただ、ソウの不自然に手が浮かんでいるように見える。

 

「ウェンディか?」

「はい!私です!」

 

 どうやらウェンディの頭の上に手を乗せているようだ。

 そのまま撫でるように動かしてみた。

 見えないのでやりにくい。

 

「ソウ、見えるの!」

「いや、見えるというよりは感じる」

 

 その時、一つの魔力が動いた。

 魔力から察するにナツのようだ。

「火竜の鉄拳!」

 

 炎を拳に纏っているはすだが、ソウの目にはただ炎が浮かんでいるように見えた。

 自分は今、透明なので勝てるとでも見込んだんだろう。

 けど、ソウの周りには波動壁が発生されナツは吹き飛ばされていった。

 

「うぅ…やっぱり勝てねぇ」

「なんで、あんたは透明のまま勝負挑んでのよ……」

「さすがだな」

「今のはエルザか……どこだよ」

 

 口々に話されては困る。ソウも魔力はあるのは分かるが居場所がはっきりと分かるわけではない。

 

「ここだ!」

「分かるか!」

「何故ウェンディの場所は分かるのだ!」

「手を乗せているからなぁ!」

 

 右手は手をウェンディの頭の上に乗せているまま。ただ浮いて見える。

 というよりいつまでこのやり取りを続けないといけないのだ。

 

「いつまでやってるつもりなんだ?」

「だから解けないのよ!」

 

 何故かシャルルに怒られてしまった。どこにいるのかは分からない。

 

「だからソウに解いて欲しいのよ」

 

 唯一見えるルーシィが頼み込んできた。

 頼まれずともそのつもりだったソウは早速魔法の準備に入る。

 

「ちょっと衝撃来るけど……まあ……耐えてくれ」

「「「「「「え!」」」」」

 

 皆が驚いたような気がした。見えないので分からない。

 

 ───『波動式十二番』精の衝波

 

 特定の魔法を強制解除させる効果があるのだが、皆にはただ雰囲気がほんの少し変化したように感じただろう。

 

「あ、戻った!」

「もう懲り懲りだわ…」

 

 ウェンディとシャルルの姿がようやく目視で確認できた。

 

「ふぅ……疲れた」

 

 額の汗を拭ったソウ。この魔法は結構魔力を消費するのであまり使いたくない。

 ────が、まだ問題は残っていた。

 

「おい!まだ見えないぞ!」

「………まだ透明なのか」

 

 ウェンディとシャルルだけの魔法が解けたようで他の皆はまだ見えないのだ。

 

「そういえば、これ、一回で出来る数が限られているんだった」

「そうなの?」

 

 今度はミラの声。けど、どこにいるんだよ。それと何回思えばいいんだよ。

 あくまで、推測だがウェンディとシャルルが先に解けたのは近くにいたからだろう。

 

「それに結構疲れるからあまり使いたくない」

「それだと仕事する時に困る!」

 

 いや、仕事以外でも困るだろうと思ったソウ。

 エルザとしては仕事に困るからなのか。

 

「また今度ということで」

「「「「駄目!今、やれーーー!」」」」

「………ちっ」

「「「「「舌打ちするなーー!」」」」」

 

 結局、全員の姿を元に戻すまで魔力を消費させられたソウだった。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

「はぁ………はぁ………マスターはいるか………」

 

 全員の姿が見えるようにするまで魔力を大量に消費してしまった。とんだ災難だった。

 息切れしているソウだがとっとと本題に入りたかった。

 

「マスターなら二階にいると思うわ」

「サンキュー、ミラ……疲れた」

 

 ふらふらになりながらもソウは二階へと登っていった。

 

「あーー!忘れていた!ソウに言わないと!」

「まあまあルーシィ。ソウ君も忙しいのよ」

「そうだけど………」

 

 ウェンディを置いてけぼりにした件については後回しにすることにしたルーシィ。

 ギルドの二階へはS級魔導士じゃないと上がれないので、今のルーシィに彼を追いかけることは出来なかったのだ。

 

「マスター、ちょっと良いですか?」

「ソウか、どうかしたかのう?」

 

 二階にミラの情報通りにいたマスターは呑気にテーブルの上でティータイムをしていた。

 一階で起きていた騒動は気づいていたのだろうか。めんどくさいから無視した確率の方が高い。

 

「七月の間、フェアリーテイルを抜けさしてください」

「おう、好きにせい───って今、何と言ったのじゃ!?」

 

 盛大にぶぅーーっと飲み物をぶちかましたマスター。

 それをひらりとかわしたソウは話を続ける。

 

「だから抜けさしてくれって」

「どうしてじゃ!?お主ほどがフェアリーテイルを抜けるなど!?」

「七月の間だけです」

「何か事情があるのか?」

「はい、俺自身の目的を果たしにいくためですので」

「なるほど………仕方ない……よかろう…」

 

 それ以上追及してこなかったマスター。

 それで良かったのだ。それ以上聞かれると誤魔化す羽目になるので心が痛くなる。

 一階へと降りたソウを待ち構えていたのは女性陣。

 ああ………やっぱりこうなる目に会うのだな。

 

「ソウ、ちょっといいかしら?」

 

 ルーシィの笑顔が怖い。

 

「お手柔らかに………………」

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん………大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫………多分」

 

 テーブルにへばっているソウを見て心配そうに声をかけるウェンディ。

 ソウは手を挙げているか、疲れていそうである。

 

「俺………また………出掛けるから………」

「え………またなの………」

「悪い………約束してんだ………」

「私も付いていっちゃ駄目なの?」

 

 上目遣いで見てくるウェンディにソウは自尊心が傷つけられてくるが、今回はどうしても駄目だ。連れていくわけにはいかない。

 ソウは迷いながらも言った。

 

「駄目だ。ウェンディを連れていけないんだ」

「なんで?」

 

 そう聞かれてしまうと答えづらい。

 

「危ないんだ………多分」

「私だって前とは違って強くなってるの!もう一人でも大丈夫だからお兄ちゃんに迷惑かけない!」

「ウェンディ、ソウが駄目って言ってるんだからそれほどにしておきなさい」

 

 シャルルが止めに入ってくれた。

 事情を知っているシャルルだからこそ止めに入ってきてくれたのには正直ありがたかった。

 ウェンディは渋々納得したようで諦めてくれた。

 

「いつ出掛けるの?」

「後、数時間休んだら行くつもりだ」

「そうなんだ………」

 

 寂しそうな表情をするウェンディ。ソウは密かに心を痛める。

 

「それまで遊びにいくか!」

「え!本当!?」

 

 嬉しそうな表情をするウェンディ。

 これで少しでも寂しい想いはせずにする必要はないと思う。

 そもそもナツ達がいるから心配する必要はないか。

 

 その後は二人でマグノリアの町に遊びに出た二人であった。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 再びジュン達のところへとレモンと一緒に戻ったソウ。

 

「ソウ、どうだった?」

「大魔闘演武のときだけ許可はもらった」

「僕達が出るってことは?」

「いや、まだ大魔闘演武の存在すら知らないから話してない」

「それだと意味がないんじゃないの?」

「まあ、大丈夫だろ」

「適当だねー」

 

 マスターにそのことを言わなかったとは思っているがしょうがないことだろと思う。

 

「さて、ソウの特訓でも始めるぞい」

「はあ?俺の?」

「7年の空白があるからね」

「ああ~、そういうこと」

 

 その後、開始したのだが特訓って言ってもジュン達と軽く試合をする程度だった。

 そしてジュン達は驚愕することになる。

 ほとんどソウは今のジュン達の実力となんら変わりがなかったのだ。

 これには特にジュンとアールが衝撃を受けた。

 ───と同時に悲しくなった。今までの特訓は何だったんだろうと。

 そもそもソウはフェアリーテイルの中でも上位ランカーに入るほどの実力者。

 二人がソウと実力が同じという時点で強さが異常だということは気づいていない。

 この後も特訓は続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 ───時は過ぎて既に3日が経過していた。場所は師匠が作ったという謎の空間。

 今日はいつもとは違うことをするらしい。

 

「今日はお主達の奥義を存分に見せてもらうぞい」

 

 どうやら滅竜奥義を拝見してみたいらしい。

 することになったのはソウとジュン。

 アールとルーズは師匠の弟子なので既に知っている。

 サンディーはまだ覚えていない。

 まず初めにソウからすることになった。

 ソウは周りから距離をとり、意識を集中させる。

 久しぶりに使うので出来るかどうか怪しかったが特に問題なく出来る気がした。

 

 ───『滅竜奥義・波動竜化』

 

 ソウの周りを波動のエネルギーが纏う。体一体が青色のオーラに包まれたソウ。

 そして、オーラからまるで巨大な手のような豪腕が伸びてきた。

 ───その数は5本。

 豪腕は一点に集中するかのように集まり手のひらを同じ一点に向けて集めている。

 それはやがて波動弾と似たものが形成された。

 ソウはそれを放つ。

 誰もいない方向に放たれた波動弾は巨大なエネルギーの砲撃に変化すると轟音をたてた。

 その光景はまるで巨大なレーザー。

 

「ふぅ………」

 

 ソウは魔法を解くと軽く息を吐いた。

 

「おお、すげぇ」

「はいはい、次はジュンの番だ」

「OK、まかせとけ」

 

 ジュンは離れたところに立つと、魔力を集中さした。

「『地動の与路武者』!」

 

 ジュンの周りに大量の大岩が出現する。そして、それはやがて大きな鎧兜を被った武者のようなものに変貌する。

 武者の中にはジュンがいる。

武者は刀を軽く一振りした。

 その瞬間、たったのそれだけで一瞬で遠くまで斬った後のような斬撃が走った。

 刀を振っただけであれほどの威力が出せるとは流石だなとソウは思った。

 同時に仲間であるジュンに逞しさを覚えた。

魔法を解除したのか武者は大きな音を立てて崩れていった。

 そこから砂埃を払いながら出てきたジュンは笑みを浮かべた。

 余裕な態度から察するに、あれでもまだ本気ではないようだ。

 

「うむ、二人ともなかなかだのう」

「おう。ソウには負けねぇ」

「はは、こっちこそ負けてたまるか」

 

 師匠は頷いている。

 軽口を叩きながら、ソウとジュンはハイタッチをした。

 アール、ルーズ、サンディーはただ横から笑顔で見ていた。

 

「これで特訓は終わりじゃ」

「じゃあそろそろ俺はフェアリーテイルに戻ることにするわ」

「今度会うのは大魔闘演武直前になるのか?」

「まあな、それまでに少しでも強くなっておけよ」

「うん、ソウには負けないよ」

 

 そんな約束をかわした3人。

 トライデントドラゴンはこれから正規ギルドに認めてもらうために評議院のところに行くらしい。

 師匠がいればどうにかなるとのこと。

 師匠の顔が広いことはもう別に驚きはしない。予想通りと言ったところか。

 

「んじゃ、行くか」

「行こー行こー」

「ソウ、またねーバイバイ~」

「……また…」

 

 サンディーの元気な、ルーズの簡素な見送りに送られながらもソウとレモンはフェアリーテイルの方へと飛んでいくのだった。

 またあいつらが問題を起こしていそうだが………。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 そして、ソウとレモンはマグノリア近くの森の中にいた。

 ここを過ぎればあとはマグノリアの町があるはずだ。

「ん、誰か来るな」

 

 波動によって近くに誰かがいることに気付いたソウ。

 どうやら6人。

 闇ギルドのやつらだった場合はボコボコにしてやらないといけないのでソウの警戒レベルが上がる。

 そして、幹と幹の間からそいつらが出てきた。

 髭を生やした男。

 鎧に包まれた青年。

 派手な髪の色をした男性。

 黒髪に真ん中が白髪の少女。

 そして引っ込み思案そうな少女。

 最後に驚いたことにエクシード。どこかの縦長い帽子に眼鏡をかけておりいかにも賢そうな雰囲気を放っている。

 

「む、君は何者なのかな?」

 

 エクシードは眼鏡を上げながら言った。

 

「俺はソウ」

「私はレモンだよー」

 

 取り敢えずソウは自己紹介をしてみた。

 頭にいるレモンもそれに続く。

 すると目の前の一行は何故か驚いたような表情になった。

 どうやら、ソウのことは知っているらしい。

 

「あなたはもしや……波動竜の?」

「へぇー、よく知ってるな」

 

 一番前に立っている元気なひげのおじさんが意外にもソウのことを知っていた。それも竜についてだ。

 ソウは感嘆の声を上げる。

 

「ええ………先程まで私たちはフェアリーテイルにお邪魔になっていましたから」

「フェアリーテイルにか?」

 

 なるほど。だから自分のことも知っていたのかと納得する。ナツあたりからソウのことを聞いたのだろう。

 

「お主がフェアリーテイル最強の魔導士ぜよ?」

 

 独特の話し方をしたのは左隣にいる鎧の青年だった。

 自分が最強かどうかは分からない。ラクサスやギルダーツがいるからだ。

 

「その前にお前達は誰だ?」

「おお、これは失礼しました。私たちは『レギオン隊』。そして私が隊長のバイロと申します」

「レギオン隊?」

「スパイシー!ゼントピアの裏の組織だったんだぜ!」

「あっ……そう」

「ん~、そして俺がシュガーボーイだぜ~~」

「ソウ、私この人のテンションについていけない……」

 

 ソウだけに聞こえるように呟くレモン。

 確かにこのシュガーボーイって人のテンションはどこかずれている。

 シュガーボーイってどこかで聞いたことがあるような気がしてソウの脳裏に引っ掛かる。

 

「次、わしがダンぜよ」

 

 鎧の青年はダンと言うらしい。というより土佐弁で話すのが癖みたいだ。

 

「ウチがマリーヒューズって言うじゃん」

 

 黒髪の少女はマリーヒューズ。

 これもどこかで聞いたことがあるような気がしてどうも気になる。

 

「僕がサミュエル」

「私と同じエクシードなの?」

「そういうことになるね」

 

 キリッと眼鏡を上げるサミュエル。

 水色のエクシードは初めて見たソウ。

 

「最後に私ですね。私はココです」

「ココ………」

 

 やっぱりどこかで聞いたことがある名前。

 けれど一体どこで聞いたのか、思い出せない。

 

「お前達とは会ったことはないよな」

「はい。ただ、フェアリーテイルの人達も私達と似たような人とは会ったようで初めは勘違いされていました」

「ホント、あん時はよく分からなかったじゃん」

「ん~、確かエドラスとか言ってたよ」

 

 “エドラス”。

 思い出した。確か、シュガーボーイ、マリーヒューズそしてココ。

 この3人はエドラスで幹部を務めていたやつらの名前だった。

 だが、なぜここにいる……いや違う。

 こいつらはこっちの世界のココ達ということになるのか。

 それはあいつらも勘違いするだろう。

 ココに至ってはエドラスのとほとんど容姿が似すぎなのだ。

 そんな計5人と1匹で構成されたのがレギオン隊というわけになる。

 ゼントピアの裏の組織だったと言っていたがゼントピアとは確か今、話題の協会だったはずだ。

 帰ってくる途中に小耳に挟んでいたソウは推測する。

 

「そのレギオン隊がどうしてフェアリーテイルなんかに?」

「フェアリーテイルには色々と世話になったのでそのお詫びにと」

「あいつらの世話に………考えにくいわ」

「あはは、よく言えてるじゃん」

「世話になったってことはボコボコにでもされたのか?」

「そうぜよ、まったく敵わなかったぜよ」

「へぇ~、俺のことはどうして知っているのかな?」

「フェアリーテイルの皆さんがソウさんのことを自分より強いって仰ってましたから」

「ええ、あのギルダーツとも同等だとか」

「確かにそうだが、バイロだったか?お前もギルダーツと勝負したのか?」

「はい、世界にはあんな強敵がいる痛感しました」

「なるほど、ギルダーツは強いからな」

「今度ワシとお手合わせするぜよ」

「いいが………そっちは大丈夫か?」

 

 にやりと笑みを浮かべたソウ。その笑顔にレギオン隊は一種の恐怖を感じたような気がした。

 優しい雰囲気を放つ少年から放たれたとは思えない威圧感。

 流石、フェアリーテイル最強候補の一人のことだけはあると自覚させられる。

 

「俺は帰る途中だが、レギオン隊は何してるんだ?」

「私たちはこれから無限時計の部品集めの旅に出るのです」

 

 無限時計が何かはよく分からないが後でミラかルーシィあたりに聞いておけば分かることなので後回し。

 

「そうか。部品集め、頑張れよ。俺はこんぐらいで失礼するわ」

 

 「じゃあ!」と手を振りながら去っていくソウ。その後ろ姿を眺めるレギオン隊。

 どうやらソウの予感は的中しており、フェアリーテイルの奴等は一騒動起こしていたみたいだ。

 さっきレギオン隊とは別れたみたいだったので今頃ギルド内は宴やらで騒がしくなっていることだろう。

 ───だったら自分も早めに戻って楽しみますか。

 そんな結論に至ったソウはレモンに一声かける。

 

「レモン、急ぐぞ」

「りょうか~い」

 

 次の瞬間、ソウは思いっきりジャンプした。普通の人には飛べない高さまで舞い上がる。

 魔法によって補強してあるのだ。

 空中から大体の距離を把握して着地。そしてまた跳躍。それを繰り返している内にあっという間にギルドの前へと到達。

 中からはやはり騒がしい騒音が轟いている。

 

「ただいま~」

「やっほ~」

『ソウ、レモン!帰ってきたのか!』

「お兄ちゃん!お帰りなさい!」

「あぁただいま、ウェンディ」

 

 この光景が見れるのも大魔闘演武が始まるまでなんだろうか。そうではないことを祈るがそれでも今を楽しむことにしたソウ。

 これが平和かどうかは分からないが今日もギルドは平和だ。

 

 

続く───────────────────────────

 

 

 




話の都合上、星空の鍵編は飛ばしていただきますのでご了承ください。


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第e話 剣咬の虎

 *〈2015年3月3日〉会話間の行を訂正


 やはり、ソウがいない間にとんでもない事態を引き起こしていたナツ達。

 と言っても今回の騒動の原因は意外にもルーシィという。

 けど、誰のせいであろうフェアリーテイルは最終的に関係ないのだからそこの所はあまり問題ない。

 ソウの心残りはまた、自分のいない時に六魔将軍(オラシオンセイス)が現れたことだった。

 ニルヴァーナの時に立ち塞がった六魔将軍(オラシオンセイス)の何人かをメンバー交代して再び、ナツ達に立ち塞がったらしい。

 ………そいつらもぶっ倒したらしいが。

 ソウが居ないときに六魔将軍(オラシオンセイス)が出てきておりソウは一度も対峙していない。

 こうなると戦闘狂になるのだが、一度手合わせしてみたかったのが本音だ。

 過ぎ去ったことはどうしようもないのでこれからのことを考えるとする。

 ひとまず天狼島組は7年というハンディキャップを背負っている。

 さらにこの7年の間にライバル達はメキメキと実力を付けているらしい。

 青い天馬(ブルーペガサス)蛇姫の鱗(ラミアスケイル)と言ったギルドも今では巨大なギルドとなっているからだ。

 正直、言うとソウは今でも充分通用するくらい魔導士として強いのだが、油断大敵だった。

 そこで、ソウは軽く魔力を上げるトレーニングをすることにした。

 精神統一みたいなものだ。

 座禅を組んで意識を集中する。すると、周りに魔力の渦が発生する。その状態を出来るだけ歪ませずに保つ。

 これが結構キツいのだ………。

 ソウの場合は大魔闘演武があることを知っているのでトレーニングを始めたのはでいいが、他の天狼島組は知らない。

 ソウが自分から言うつもりは皆無。

 残っていたメンバーに聞けば教えてもらえるがそんな絶好のチャンスがあるとは天狼島組は微塵も思ってもいない。さらに、向こうから話してくれるとは思わない。

 なんでも、今までの大魔闘演武でのフェアリーテイルの成績は常に最下位だったそうだと師匠から告げられた。ソウはあまりショックは受けなかったが、フェアリーテイルの評判が悪いのもそれが要因だったことが分かった。

 フェアリーテイルの評判は最悪でナツ達のこの前の騒動もあまり評議会には高評価されていないらしく現状は変わらないらしい。

 大魔闘演武に参加して優勝でもすれば、一気に評判は良くなる。鰻登りだ。けど、今まで最下位だったことを上げると笑い者にされて、ただの恥さらしみたいなものだ。

 それは殆ど公開処刑に近い。それを四代目マスターを筆頭に耐えてきたのだ。

 フェアリーテイルの意地といったところか。流石だ。

 今年は天狼島組の帰還により、今までのフェアリーテイルとは一味違う。けど、それでも7年というブランクは大きい。

 そんなことをソウは考えているのだが、ナツは勿論、エルザやウェンディは知らないので呑気に過ごしている。

 そんな平和に似たような毎日が変わったの突然だった。

 

「セイバートゥース?」

「剣咬の虎。セイバートゥース。それが天馬やラミアをさし押さえて現在フィオーレ一最強の魔導士ギルドさ」

 

 ナツの疑問に答えたのはロメオだった。

 

「聞いたことねもえな」

「7年前まではそんなに目立っていなかったんだ」

 

 グレイの呟きにアルザックが答える。

 

「てことはこの7年で急成長したってことか?」

「ギルドのマスターが変わったのと物凄い魔導士が5人加入したことがきっかけだね」

「たったの5人でそんなに変わるものなの?」

「はあ?いい度胸じゃねぇか」

「確かに……5人か……」

 

 マックスが片手を広げる。5人を象徴しているのだ。

ルーシィが疑問の声を上げてナツは喧嘩腰になっていた。

 ルーシィと同じことを呟いてはみるが、ソウはそんなことは言えない立場だったことを思い出した。

 トライのメンバーも5人しかいないからだ。

 そんなことをみんなは知らないので何も気づかない。

 

「ちなみに私達のギルドは何番目くらいなんですか?」

「あ……」

 

 ウェンディが率直な疑問を述べた。ソウが気づいたときにはもう既に遅い。

 

「……それ聞いちゃうの…」

「ウェンディ……聞かなくても分かるでしょ」

「え……」

 

 シャルルとハッピーに言われたことにウェンディは気づいたのかはっ!とした表情になる。

 

「最下位さ」

「弱小ギルド」

「フィオーレ1弱いギルド」

「はわわ……ごめんなさい!」

「なははは!そいつはいい。おんもしれぇ!」

「確かに、そうだな」

「はあ?」

 

 ナツとソウの言ったことがよく分からなかったグレイ。

 

「だってそうだろ。上に昇る楽しみが後何回味わえるんだよ、なあソウ?」

「ああ。初めから一番だと面白くないな」

「燃えてきたぁー!」

 

 ナツの言ったことにナツらしいと納得した皆。

 ルーシィは「あはは…」と笑った。

 

「やれやれ……」

「敵わねえな、ナツ兄とソウ兄には」

「そうですよね、うん!楽しみです」

 

 元気よく頷くウェンディ。先程の失言を撤回しようと必死なご様子のようだ。

 

「ねえ、あんたら、ギルダーツを見なかった?」

 

 会話に入ってきたのはカナ。どうやら父親を探しているらしい。

 

「なんだよ、いつもパパが近くにいねえと寂しいのか?」

「ばか!」

 

 グレイがからかおうとするが、自分のした失言により、しまったと表情を歪める。

 父親がいなくなったルーシィの前で言うのは流石にあれだろうとカナは思ったからだ。

 

「わりぃ……」

「ううん。いいよ、気にしなくて」

 

 首を横に振って大丈夫なルーシィの様子を見て安堵の表情をするグレイ。

 それを影から見ていた一人。

 

「ねぇ、ソウ。ジュビアがいるよ……」

 

 レモンが呟く。

 クエストボードに身を隠すようにしてグレイに視線を注ぐジュビアがソウの方からでも確認出来た。

 

 ───グレイ様に気を使われている!

 

 ジュビアが力を込めたせいでクエストボードにひびが入った。

 

「ギルダーツならマスターと旧フェアリーテイルに向かったぞ」

 

 さきほどギルドに入ってきたエルザが答えた。

 カナは喜びの表情になった。

 

「よぉ~し、じゃあ今のうちに仕事に行っちまうか」

 

 そう言うとあっという間にギルドから飛び出して行ったカナ。

 ギルダーツがいるせいで危険な仕事に行かせてくれなかったのだろう。

 そう言うソウもギルダーツのことを言えない。

 ウェンディを一緒に仕事に連れていっていないからだ。

 だから、あえて口にしていない。したら、あんたも連れていけ!と言われそうだからだ。

 すると、ハッピーがシャルルに話しかける。

 

「ギルダーツのカナへとデレッぷりったら凄いもんねぇ~」

 

 近くにいたリリーとレモンは同じことを思った。

 ハッピーのシャルルへの溺愛ぶりも似たようなものだ!………と。

 

「あれでこのギルド最強って言うんだから、変わったギルドよね」

「シャルル、ソウが最強なんだよ~」

「はいはい、分かったからあんたは黙ってなさい」

 

 突っかかってきたレモンをばっさり切り捨てるシャルル。

 

「お兄ちゃんも強いもんねー」

「なあ、ソウとギルダーツ、どっちが強いんだ?」

 

 ナツが聞いた。

 皆も同じことを思っていたのか耳を傾けている。

 

「さあ?あんまり闘う機会がないからな。一回本気でやってみたいものだ」

「駄目だ!とんでもないことになるぞ!」

「私もそう思うわ………」

 

 ………皆から止められてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「ルーシィさん、ありがとうございます」

 

 二人がいるのはギルドの裏庭。

 外は気持ちいいので試しに来てみたのだ。

ウェンディは木箱の上に座り、ルーシィはその後ろに立っていた。ルーシィはウェンディの髪を先程までセットしていたのだ。

 ウェンディの青髪はとても綺麗でルーシィは少しいいなぁ…と思ってしまった。

 

「どういたしまして。流石にキャンサーってわけにはいかないけど私のだってなかなかのものでしょ」

 

 苦笑いを浮かべるルーシィ。

 キャンサーとはルーシィの星霊の一人で巨蟹座の星霊。なぜか語尾に「エビ!」が付いている。

 髪型をセットしたり、カットしたりするのが得意だ。

 

「はい、とっても上手です。それに外でこうしているのも気持ちいいのですよね」

「今日はいつになく静かだし。なんだか平和だね~」

「その平和が長く続かないのがこのギルドなんだけどね」

「あはは……当たってるかも」

「もう私は慣れてるよ~」

 

 ウェンディの隣にいたシャルルのきつい一言。

 レモンは昔からいるので騒がしいのは慣れている。

 

「ねえ、ウェンディ。ソウはあそこで何してるのか分かる?」

 

 ルーシィの視線の先には離れたところで静かにあぐらをして目を閉じているソウがいる。

 ルーシィが気になったのはずっとあの状態から動いていないのだ。

 それになんだか、威圧感が放たれているような気がする。

 

「なんでも魔力を上げるための特訓らしいですよ」

「へぇー、そうなんだ。私もやってみようかな」

「あんたもしてみればいいわ。あれは大変らしいから」

「………やっぱいいわ………」

 

 あのS級魔導士がしている特訓を自分がしてみれば強くなれるかもしれない。

 そう考えたルーシィだったが、シャルルの追撃で思いとどめる。

ルーシィは辺りを見回してみると目を見開くような光景を目にする。

 ナツがいた。それはいい。

 だが、手に握っているのは箒ではないか。そして、ナツは箒を使って掃いている。つまり、掃除している。

 平和過ぎるだろと思ったルーシィ。

 ナツは箒を掃いて、裏庭の掃除をしていると思ったら何を思ったのか、いきなり「おぉい!」と叫んだ。

 

「ほら!」

「ホント…長続きしないわね~ここの平和」

 

 ナツの視線の先にはすやすや切り株の上で寝ているハッピーの姿があった。

 

「おい、ハッピー!」

 

 ナツは起こそうと叫ぶ。

 ハッピーは驚き、その場に立ち上がると「うわぁ!魚!」とよく分からないことを言った。

 まだ寝惚けているようだ。

 

「なんだ……ナツか…」

「“なんだ”じゃねぇーだろ!」

「何怒ってるのさ?───それにしても夢とはいえ、あんなに魚を食べられるもんだんなぁ……おいらビックリしちゃった……」

 

 どうやら、ハッピーは先程まで魚を頬張る夢を見ていたらしく思い返していた。

 そしてそのまま………また寝た。

 

「こらぁ!!」

「だから!なにさぁ!」

 

 昼寝の邪魔をされて、少し声をあらげるハッピー。

 

「お前は俺の相棒だろぉ?」

「そうです」

「んで、おれはこうやって裏庭の掃除をしているわけで」

「そりゃ、そうでしょ。当番だもん」

「俺が当番なら、なんで相棒のお前は手伝ってくれねえんだよ!おかしいだろ!?」

「おかしくないよ!」

「おかしいだろ!」

 

 そのやり取りを見ていたルーシィ達はあきれたように見ていた。

 

「凄い低次元……」

「いつものことだけどね」

「あはは……」

「私、ソウでよかったよ……」

 

 そのソウはまだ特訓をしているので動いていない。

 二人の会話はまだ続く。

 

「それとこれとは別だよ。今日はおいらの当番じゃないんだから」

「お前、いつからそんなに冷たくなったんだ、ハッピー!」

「冷たくないよ」

 

 ハッピーの言うとおりである。逆にナツが熱くなり過ぎなのだ。

 

「ほら、今日はいい天気でしょ。お日様がポカポカして」

 

 ハッピーは空を見上げ小さな両手を優雅に上げた。

 

「何をしょうもないことで揉めてんだよ。掃除ぐらいブーブー言わずにやれってつんだよ」

 

 文句を言ったのはグレイだ。

 ナツがすかさず反論する。

 

「なんだと、グレイ!俺は掃除が嫌だなんて言ってないぞ。ハッピーがだな───」

 

 そう言ってハッピーの方を指差すが既にハッピーはそこにはいない。

 

「いい天気だね。シャルル」

「そうね」

「人の話を聞けーーー!!」

 

 もはや、誰も味方がいなくなってしまったナツ。

 そこにやってきたのはマックスを筆頭に7年で成長した………いや、年取ったギルドのメンバーだ。

 ソウはまだトレーニング中。

 

「やれやれ、7年経った今もまったく変わらないんだな、ナツ」

「そうそう。常、日頃からおいらもそう言ってるんだよ」

「んだと、マックス。お前は変わったんだとでも言うのかよ」

「まあ、気持ちは相変わらずヤングなままだけど」

「気持ちが若ぇやつがヤングとか言うのか~?」

「腕なら相当上がってるぜ~」

 

 すると、ナツが即座に反応した。

 

「ほほう、おもしれぇ!勝負すっか!」

 

 箒を投げ飛ばして戦闘体制に入るナツ。

 掃除をサボる気がバレバレである。

 

「ああ、いいぜ」

「ちょっと何故そうなる!?」

 

 慌ててルーシィが止めに入るが無意味に終わる。

 さらにグレイが悪のりする始末。

 

「やれやれ~。昼飯あとの暇潰しにちょうどいいぜ」

「よし、燃えてきたー!」

 

 そしていきなり始まった謎の勝負。

 ルーシィ達は巻き添えを喰らわないように距離を取って見守る。

 もはや寝ているように見えるソウはその場を動かない。

 ───試合開始。

 ナツは先制とばかりに火竜の鉄拳を発動して、マックスに襲いかかる。

 マックスはひらりとかわしてカウンターにナツの腹に砂を纏った蹴りを喰らわす。

 そして砂を纏ったパンチで弾き飛ばす。

 マックスの魔法は砂を操る魔法だ。

 後ろに吹き飛ばされたナツは体勢を元に戻して口元を拭った。

 

「ま、まじで……!?」

 

 7年前とは実力が全然違うことに驚愕したナツ。

 他のメンバーも同じだった。

 

「おれらだって7年間何もしていなかったわけじゃねえ。それなりに鍛えてたんだ!」

 

 マックスが両手を広げてそう言った。

 そう言えるほど実力は確実に上がっている。

 

「ナツさんが……」

「マックスに勝てないの……!」

 

 少し失礼なことを言っているウェンディとルーシィ。

 

「もう一度!」

 

 今度は魔法を使わずに肉弾戦で突撃したナツ。だが、マックスはナツの拳や蹴りを避けて反撃した。

 

砂の反乱(サウンドリベルオ)!」

 

 大量の砂がマックスの足元から出現。巻き起こる砂がナツに上から被さるように襲う。

 ナツは砂を払おうと炎を出して暴れる。

 そのせいでルーシィ達の方にも砂ぼこりがかかってしまった。

 咳をするルーシィ。目を瞑るウェンディ。

 すると、ハッピーがその場でジャンプしながら叫んだ。

 

「ナツぅー、がんばれー!」

「ちょっと!さっきまで喧嘩してたでしょ!」

「それとこれとは別です!」

 

 キラン!と言いたげにくるりんと1回転するハッピー。

「火竜の鉄拳!」

砂の壁(サウンドウォール)!」

 

 ナツの拳とマックスの砂の壁が衝突。

 どちらも譲るつもりはなく、そのまま均衡状態になる。

 

「7年前とは違うんだぜ」

 

 ニヤリと笑うマックス。ナツは雄叫びを上げて突き破ろうとする。

 

「信じられねぇ……あのマックスが…」

「ナツを押してんのか!?」

「もしかしたら俺達もナツに勝てるかもしれねぇ!」

 

 天狼組に勝てるかもしれない。

 そんな希望が沸いてきたフェアリーテイル7年間残されていたメンバー達。

 より力を拳にこめて雄叫びを上げるナツ。

 そして、ついにナツが本気を出す。

 

「モード!“雷炎竜”!」

 

 全身に力をこめたナツの周りに炎と雷が入り交じったものが、ナツの体を纏う。

 

「まさか……!?」

 

 ルーシィの記憶だといつだったか、ラクサスの魔力を吸収して雷の力を使えるようになった。

 でも、それだと魔力の消費がすごかったはずでナツは使いこなせていなかったはずだ。

 

「ちょっ……なんだよ、それ……!?」

 

 狼狽えるマックス。

 あんな姿は見たことがなく、嫌な予感がしたからだ。

 ナツは息を吸い込んだ。

 

「雷炎竜の…………咆哮ぉぉ!」

 

 巨大なブレスがマックスに向けて放たれた。

 マックスはブレスが横にずれたことで横髪がかすった程度で難を逃れた。

 が、マックスの背後は森が薙ぎ倒され完全に地面が抉れていた。

 驚愕する一同。

 ナツは本来の力を発揮できなかったようで不満そうだった。

 

「あいやーーー!」

「くそぉ……あの時ほどのパワーは出ねぇなぁ……」

「いつの間に自分のものにしたの?」

「今」

 

 ルーシィの質問にあっさり答えたナツ。

 今と言われてもそう簡単に出来るものなのだろうか。

 

「凄い……」

「ま、まいった……降参だ。あんなの喰らったら死ぬって…」

 

 マックスの降参が入り、勝負はナツの勝ちで終わった。

 まだやり足りないのか、辺りを見回すナツ。

 

「次はどいつだ?」

「ひぇぇ……………」

「………化け物だ……」

「やっぱ強ぇ………」

 

 「なはは!」と笑って鼻を高くするナツだが、次の瞬間、バタン!と倒れてしまった。

 

「やっぱり魔力の消費量が半端ないんだ」

「ナツ、それ実戦じゃあ使わないほうがいいよ」

「でも、マックスさんも凄いです!」

「お世辞なんか要らねえよ、ウェンディ」

 

 頭をかいて照れるマックス。

 

「だけどそのくらいの力があったのならオーガ達に好き勝手やられることもなかったんじゃない?」

 

 シャルルが正論を言った。

 マックスほどの実力があればオーガに引けをとるどころか、勝てるはずなのだ。

 

「そうかもしれねぇが……」

「金が絡んでいたからなぁ…」

「力で解決するわけにもいかんでしょ」

「マスター達はやっちゃったけどね……」

「だな」

 

 天狼島から帰還した後すぐにマスターとミラとエルザ、それにソウはオーガのギルドへと直接乗り込んでいった。

 ソウは嫌そうにしていたが、エルザに引っ張られていった。

 話し合いで平和的解決をするはずが、結局派手にオーガのメンバーをボコボコにしてギルドを壊してきてしまった。

 エルザとミラは満足そうに、マスターは顔を暗くしてやってしまったとばかりになっていた。

 ソウはもうどうにでもなれとばかりに諦め顔になっていた。

 

「皆………」

「どうしたの、レモン?そういえばさっきから静かよね」

 

 ルーシィは先程から静かになっていたレモンを発見した。

 レモンはなんで皆は気づかないの?と言いたげな表情になっていた。

 そしてとんでもない一言を告げた。

 

「ナツの放った咆哮の先にソウがいたんだよ………」

「え!」

「お兄ちゃん!?」

「まじかよ!」

 

 誰一人として気付かれていなかったソウの存在。

 唯一気付いていたレモンの視線の先には咆哮で未だに砂ぼこりがたっているソウがいた場所。

 砂ぼこりが晴れて、ようやく視界が良くなった。

 そこには不自然に地面が抉られていない箇条がある。

 その中心には座っているソウがいた。

 皆は安堵の溜め息を吐いた。

 どうやら無事のようだが、ホントに無事だろうか。現に先程からまったく動いていないソウ。

 もしや、今もトレーニングの継続中だったのだろうか。だったら咆哮が飛んできたときに気づくはずだろうに動いていない。

 なんというか度胸がありすぎる。

 あの超過力のナツの咆哮をソウはまともに飲み込まれているのだ。

 ソウの周りだけまったく変わっていないことも不自然だ。もしや、ソウの魔法が発動していたのだろうか。

「お兄ちゃーーん!!」

 ウェンディは涙目を浮かべながらソウの元へと駆け出していった。

 そしてそのまま勢いよく抱きついた。

 いきなりの衝撃に「ぐへぇ!」と呻き声を上げて倒れてしまう。

 軽く地面に頭を打ち付けたソウは頭を軽く振るとようやく目を開けた。

 目の前には何故かうるうる目を潤しているウェンディが乗っかっていた。

 

「な、なに?どうしたんだ、一体?」

 

 周りにはルーシィ達が集まってきてソウは状況が飲み込めずにいた。

 と、ここでようやく辺りを見回したソウは驚く。

 

「うわぁ!なにこれ!?地面が抉れてるぞ!」

「ナツの咆哮のせいだよ」

「ああ………なんで、俺は無傷?」

「こっちが聞きたいわよ……」

「お兄ちゃん!けがないの?大丈夫?私が魔法で───」

「いやいや、大丈夫だから」

 

 軽い混乱状態に陥っているウェンディを落ち着かせて上半身を起こしたソウ。

 どうやら瞑想中にナツの咆哮に飲み込まれたようだ。

 けれど、無傷というとは無意識にでも波動壁が発動していたのだろうか。

 

「いつのまにか魔法が発動していたみたいだな」

「いつのまに………って」

「ソウもナツと同じ化け物だ」

「やっぱすげぇ………」

 

 無意識に発動していた魔法でナツの咆哮を余裕で防いでいたソウ。

 これにより意識を集中さしたら一体どんな防御力に達するのだろうか。

 ソウの強さの一部を痛感したマックス達はただただ感心するのみだった。

 

「………何があった。説明求む」

 

 いい加減離れてほしいが離れてくれないウェンディの頭を撫でながらソウは呟いた。

 

 

 

続く───────────────────────────

 

 



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第f話 懐かしの匂い

「しかしこいつは思っていた以上に深刻な問題だぞ」

 

 グレイはそう言った。

 それを聞いているのはルーシィ、ナツ、ウェンディ、シャルル、レモンそれに先程の騒動を観戦していたもの達だ。

 その中にはソウの姿もあった。

 もう一度トレーニングを再開しようとしたソウだったが、ウェンディの不安そうな目線にやりにくくなり、結局グレイの話を聞くことになった。

 グレイが言っているのは天狼組の7年のブランクのことだ。

 あのマックスがナツを苦戦させるほどにまで強くなっている。こうなると他のギルドの奴等も実力は上がっていると見たようが良いだろう。

 ということは、今の自分達の実力でライバル達に勝てるのだろうか。

 そう考えたグレイはこうして呼び掛けているわけだ。

 ようやく気づいたかとソウは密かに思う。 まあ、けどそれもこいつらならどうにかなるだろうとも思ってしまう。

 今までもフェアリーテイルはそうだったし、これからも変わることはないはずだ。

 

「どういうこと?」

「元々化け物みたいなギルダーツやラクサスやソウはともかく、俺達の力はこの時代に付いていけてねえ」

「ひどいな………」

 

 密かに化け物扱いされて落ち込んでいるソウ。誰も気付かない。

 

「確かにナツでさえあのマックスでさえ、ナツが苦戦してたんだもんね」

「あのマックスさんに」

「さっきのはホントにお世辞だったのか………」

 

 ウェンディの先程の台詞はお世辞だったのかと傷つくマックス。

 少し心の中で同情しているソウ。

 ハッピーが頭を抱えてこう言った。

 

「なんか、一気に魔力を上げられる方法はないかな?う~ん…」

 

 そんなのあったら全員が試していると思う。

 

 

 

 

 ◇

 

 ソウの突っ込みも余所に一行は森の奥に建ってある一軒家へと来ていた。

 なんでも、ここにはマカロフの昔からの知り合いである“ポーリュシカ”という女性が住んでいるらしい。

 ソウは既に何回か会っている。

 ポーリュシカは珍しく人間嫌いであり、ややこしい人物でもある。

 と同時に治療薬を作っている人でもあり、昔からギルドの皆はお世話になっている。

 ソウはポーリュシカがどっちかというと苦手なタイプだったので、あまり行きたくはなかった。

 グレイ達が行こうとしたときには、ソウは再びトレーニングを再開しようとしていた。

 避けようとしているのは丸見えだ。

 因みにナツの咆哮を喰らった時には半分寝ていたらしい。

 それにただの火竜の咆哮だと思っていたが、実は雷炎竜の咆哮だと知ったときは自分でも信じられないのか、少し驚いていた。

 トレーニングを再開しようとしたら、ルーシィに見つかった。そしてウェンディにも見つかった。

 結果、無理矢理連れていかれた。

 なんでもポーリュシカと会ったことがあるのはソウだけらしく、もしもの時は盾にしようという魂胆だ。

 ソウの気はとても重かった。

 目の前にはポーリュシカが仁王立ちをしている。

 ナツ達はじーっ………と彼女を見つめる。ウェンディは後ろから背伸びをしている。ソウは距離を置いて眺めていた。

 エクシード達はナツ達の足元にいる。

 

「帰れ!」

 

 そんな一言と共に扉をバタン!と閉めて閉じ籠ってしまったポーリュシカ。

「ポーリュシカさん、なんかいい薬とかありませんか……?」

 ほとんど当てはないけど恐る恐る苦笑いを浮かべながらルーシィは口にした。

 

「一気に力が100倍になるのとかぁ?」

「さすがに都合が良すぎるか………」

 

 グレイは期待はしていなかったようで溜め息をついていた。

 ソウは呑気に欠伸をしていた。

 

「どうしたの、ウェンディ?」

 

 表情が暗くなって俯いているウェンディにシャルルが気がつき、声をかける。

 ソウもウェンディを見ていた。

 

「ううん」

 

 何でもないと首を横にふったウェンディ。何かを感じたのだが、そんなはずはあり得ないと思い言えなくなったのではないかとソウは考えた。

 考えられるのは、初めて会ったポーリュシカだろうか。

 すると、扉を開けてポーリュシカが出てきた。

 片手には箒が握られている。ソウには嫌な予感しかしなかった。

 と、ここでソウはある違和感に気付いた。普通の人間にはあるはずのものがなかったのだ。

 不思議に思うのも束の間、ポーリュシカのした行動に思考を中断せざるを得なかった。

 

「人間は嫌いなんだ!帰れ!帰れ!」

「なんだぁ~!掃除当番か?」

「失礼しましたぁー!」

「なんだよ、あのばっちゃん!」

「じいさんの昔の恋人ー!」

「違うわ、ボケ!」

 

 ポーリュシカは箒を振り回した。

 ナツ達は驚いて逃げる。

 ソウの横を通りすぎてあっという間に通りすぎて退散していった。

 グレイが余計なことを言っていたが。

 ウェンディが足を止めて振り返るが、すぐにナツ達の後を追いかけていった。

 

「皆、行っちゃったね」

「いつの間に頭の上にいたんだよ」

「さっき」

「………そですか」

 

 その際にレモンが自分の頭の上に逃避してきたことについてはあまり触れておかないことにしたソウ。

 

「ほら、あんたも行きな」

「はいはい………」

 

 ポーリュシカにそそのかされ、ソウは気楽に後を歩いて追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 少し離れた所に腰を置いて息を切らしていたルーシィ達を遠くから発見したソウ。

 どうやら先程のポーリュシカの印象を話しているらしい。

 ソウはウェンディの様子がはっきりとおかしいことに気付いた。

 

「ど、どうしたんだ、ウェンディ!?」

「ちょっとどうしたのよ!?」

 

 ウェンディが涙目になっていることに気付いたグレイとルーシィが慌てる。

 ソウからも遠目で確認できた。

「ソウ……またなんかした?」

「してない!」

 

 レモンが失礼なことを呟いてきた。

 ソウはルーシィ達の元へ向かう。

「あのばっちゃん、ウェンディを泣かしたな」

 

 ナツはてっきりそう考えるが、ウェンディは首を横にふった。

 

「違うんです………懐かしくて………」

「会ったことあるの?」

「ううん、さっき初めて会ったはずなのに……懐かしいの………あの人の……声が………においが………グランディーネに似てるんです」

 

 ナツ達は驚愕するしかなかった。

 離れて聞いていたソウはそれである確信にいたった。

 

「あのおばあさんがグランディーネ?」

「ウェンディの探しているドラゴンと同じ声?」

「それってどういうこと?」

「知らないわよ」

「ウェンディ、本当か?」

「分かりません。でも………あの声………あの匂い……私のお母さん天竜、グランディーネと同じなんです」

「こいつは確かめに戻る必要があるな」

「まてよ」

 

 ナツが戻ろうと歩みだしたが、グレイがそれを引き留める。

 

「もし本当にグランディーネが人間には化けていたとしても、少しおかしくねえか?」

 

 グレイが問題点を指摘する。

 

「そうだよ。ナツ、ウェンディ、ソウついでにガジルも。あんた達のドラゴンが姿を消したのは確か7年前。正確には14年前。777年。ソウが言ってた情報だとポーリュシカさんってそれよりずっと前からマスターと知り合いなのよ。つまりドラゴンのいた時代とポーリュシカさんのいた時代が被るじゃない。これじゃ辻褄が合わないじゃない」

 

 ルーシィがグレイに続き反論する。

 ルーシィの意見は間違ってはいない。事実だ。

 

「生まれ変わりとか、化けてるって線は薄そうだな」

「うん」

 

 一体何が起きているのか分からずナツは頭を悩ます。

 

「確かに落ち着いて考えてみればそうなんです。おかしいんです。声や匂いが似ていても性格や口調が全然違うんです」

「あんた、前に言ってたもんね。グランディーネは人間が好きって」

「どうしよ、猫が嫌いだったら?」

 

 シャルルの一言と、ハッピーのどうでもいい発言が飛び交った。

 ウェンディは立ち上がった。

 

「グランディーネは優しいドラゴンなんです!!」

「優しいドラゴンってのも想像できねぇなー」

「アクノロギアを見ちゃったからねぇ」

「イグニールも優しいぞー」

 

 イグニールにはナツの探しているドラゴンのことだ。

 すると、第3者の声が入る。

 

「アスペルトも優しいぞー」

「ソウ!───はっ!すっかり忘れていた」

「お前ら、いつになったら気付いてくれるんだ。ずっと待ってたのに」

「悪ぃ………逃げるのに必死で………」

「まあ、それはいいんだけど。おかげで分かった」

 

 ソウはウェンディの元へと近寄り、頭にてをのせた。

 撫でながらソウは話を続けた。

 

「ウェンディが言ったことは間違っていない」

「え………」

「ちょっと、それだとさっきも言ったけど時代の辻褄が合わないの。矛盾してるのよ」

「そうだ。ルーシィのも正論なんだ」

「はあ?どういうことなんだ?」

「だから、どっちも正しいってこと」

 

 ソウは一呼吸置いた。

 今にも頭が爆発しそうなナツの為にも始めから説明することにした。

 

「順に追って説明するわ。まず、第一にさっきポーリュシカさんを見たときに俺はある違和感を覚えた」

「違和感?普通だったと思うけど」

「人間嫌いを除けばね」

「皆には分からないが、ポーリュシカさんには一切の魔力がなかった」

「でも、それって魔導士じゃないから当たり前じゃないの?」

「そうだ、ハッピー。でも、魔導士じゃない人も微かに魔力は体内に秘めているものなんだ」

「へぇー、そうなんだ」

「じゃあ、なんでポーリュシカさんにはその魔力が一切ないの?」

「ちょっと待て、ルーシィ。その前に俺は既にポーリュシカさんとは数回会っていると言ったよな。なのになんでそれに今気付いたと思う?」

「一般人でも魔力を持っていることを知らなかったから?」

「正解だ、ウェンディ」

 ウェンディの頭を撫でてやる。ウェンディは嬉しそうに目を細める。

 

「つまりだ、その事実を知った上で俺は改めて気付いたことになるんだ」

「それとグランディーネはどう関係してくるんだ?」

「ポーリュシカさんは簡単に言うとグランディーネであって同一人物ではないんだ」

「だから、それがどういうことだよ?」

「魔力をまったく持っていない人物がいたじゃないか。俺達は既に会っている。なあ、シャルル?」

「………エドラスね」

「エドラス………あ、私、分かったかも!」

「ここまで来れば、後は分かるかな。同じ声に匂いだが、性格や口調が全然違う。これってエドラスでも見たんじゃないか。だとすれば…………」

「まさか………」

「あのばっちゃんが………全然優しくない」

「後は本人に聞こうか」

「優しくなくて悪かったね」

「ポーリュシカさん!?」

 

 ソウは気づいていたが他の皆は気付いていなかったみたいで驚いていた。

 ソウの考えが当たっていれば後は本人から直接言ってもらうしかない。

 

「隠しておくこともないしね………話しておくよ。私はあんたの探しているグランディーネじゃない。正真正銘人間だよ」

 

 ウェンディの表情が暗くなる。

 と、ナツがここで何かにに気付いたのか呟いた。

 

「でも人間嫌いって………」

「むぅー!人間が人間嫌いで何か文句があるのかい!」

「いえ。なにも」

「悪いけど、ドラゴンの居場所は知らない。私とドラゴンには直接的には何の関係もないんだ」

 

 つまり間接的には何かしらの関係があるということなのか。

 ナツの表情が真剣になる。

 

「じゃあ………あなたは一体………?」

「こことはもうひとつの別の世界、エドラスのことは知っているね。あんたらもエドラスの自分と会ったと聞いてるよ」

「エドラスって………やっぱり」

「まさか………!」

 

 普通の人なら知らない、ギルドの中でも限られた人しか知らないエドラスがポーリュシカの口から出た。

 つまり思った通りこの人は………。

 

「嘘!」

「アースランドの人間から見た言い方をすれば、私はエドラスのグランディーネということになる。何十年前に、こっちの世界に迷いこんだんだ」

 

 「どひゃーー!」と驚愕する一同。そりゃ誰しもが驚いてしまうだろう。

 既に分かっていたソウは頷く。

 

「エド、グランディーネ………」

「こっちの世界では人間なんだ!」

「私も初めて知ったよ!」

 

 エクシード達が各々の感想を述べる。

 ウェンディは目を見開いていた。

 

「きょんなことからマカロフに助けられてねぇ………私もアースランドがすっかり気に入っちゃったもんだから、エドラスに帰れる機会は何度かあったんだが………ここに残ることにしたのさ」

「もしかして、イグニールやメタルカリナやアスペルトは向こうでは人間なのか!?つーか、こっちにいるのか!?」

「知らないよ、会ったこともない」

「そりゃそうか………」

 

 ソウもナツと同じことを考えたが例え、エドラスのドラゴン達がこっちに来ていたとしてもポーリュシカが知るよしもない話だ。

 

「けど、天竜とは話したことがある」

 

 その言葉に一番反応したのは勿論、ウェンディだ。

 ポーリュシカは付け足すように続けた。

 

「会ったわけじゃない。魔法かなんかで心の中に語りかけてきたんだよ」

 

 すると彼女はこちらに向き直して告げた。

 

「あんたら強くなりたいって言ってたね。そのウェンディって子だけならなんとかなるかもしれないよ」

 

 彼女は紙束を取り出した。

 そこには魔法の使い方が記されていた。

 つまり、魔法書。ウェンディだけの。

 

「天竜に言われた通りに書き上げた魔法書だ。二つの天空魔法。“ミルキィーウェイ”、“照破天空穿(しょうはてんくうせん)”。あんたに教えそびれた滅竜奥義だそうだ」

「グランディーネが………私に……」

「会いに来たら渡して欲しいとさ。それと伝言が一つ。その子が慕っているドラゴンスレイヤーに伝えてほしいと言われた」

「それって………お兄ちゃん?」

「そうよね、ソウぐらいよね」

「俺?」

 

 グランディーネが一体ソウに何の伝言を残したのか。というよりもよく、そんな人物が存在していることが分かったなあと思う。

 

「“娘をよろしく頼んだ”……だそうだ」

「………分かりました」

 

 まるで両親から娘を託されたような気がするがどうも意味が違うような気がする。

 ウェンディも顔を赤くしている。

 

「その魔法はかなりの高難度だ。無理して体を壊すんじゃないよ」

 

 そう言うとポーリュシカはこちらに背を向けて歩き出した。

 ウェンディは一歩進み出て礼をした。そして嬉しそうな声で言った。

 

「ありがとうございます!ポーリュシカさん!───グランディーネ!」

 

 ソウからはポーリョシカが微笑んだように見えた。

 

「良かったな、ウェンディ」

「はい!私、この魔法を使いこなしてみせます!」

 

 ウェンディは魔法書をぎゅっと抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

「絶対に出るんだ!出る!出る!出る!」

「出ねぇ!出ねぇ!出ねぇ!出ねぇ!」

 

 そのころのギルド内はマカオとロメオの二人で言い争っていた。

 周りから見ればただの家族喧嘩。

 内容は今年の大魔闘演武に出るか出ないかの話だった。

 ギルド内で二つに分裂しており、状況はより混乱を極めていた。

 

「絶対に認めねえ!あれにはもう2度と参加しねえ!」

 

 マカオはよっぽど、譲りたくないのか子供相手にまったく手を抜かない。

 と、ここでナツを筆頭に「ただいまー」と、ポーリョシカの所へ訪れたメンバーが帰ってきた。

 

「おう、帰ってきたのか。いい薬は貰えたのか?」

 

 扉近くにいたマックスが早速成果を訊ねた。

 ルーシィが苦笑いしながら答える。

 

「ウェンディだけね」

「父ちゃんにはもう決める権限はねえだろ。マスターじゃねぇんだから」

「俺はギルドの一員として言ってんの!」

 

 因みに四代目マスター、マカオは辞退しており本来は五代目マスターにギルダーツが務める予定だったが、当の本人は旅に出てしまっていた。

 ギルダーツの残した手紙に折角だから二つだけ仕事をしておくと書いてあり、内容はラクサスをフェアリーテイルの一員として認めること。そして六代目マスターはマカロフがすることと随分気ままにしていた。

 現在のマスターは誰にも譲らないと決意したマカロフが務めている。

 

「何の騒ぎだ?」

「親子喧嘩にしか見えないけど……服!」

 

 グレイは状況が掴めず、シャルルは見た正直の感想を呟く。ついでにグレイが服を脱いでいたことに突っ込む。

 

「出たくない人、はーい」

 

 マカオは手をあげて周りに意見を求めた。

 たちまち多数の人が同じ意見だったのか賛成の手を上げる。

 アルザックが理由を言った。

 

「あれだけはもう勘弁してくれ」

「生き恥を晒すようなものよ~」

「だけど、今回は天狼組がいる。ナツ兄やエルザ姉、それにソウ兄だっているんだ」

 

 話の流れから内容をある程度察したのかソウの表情が少し暗くなる。

 ウェンディは一瞬、後ろを振り返り気付いた様子だったが前を向いた。

 

「フェアリーテイルが負けるわけがない」

「でもなぁ、天狼組には7年のブランクがなぁ」

 

 ウォーレンの台詞にレビィは落ち込んだ。

 慌てて後ろにいるジェットとドロイが庇う。

 

「レビィはそのままでいいんだよ~う」

「さっきから出るとか出ないとか何の話だよ」

「もしかしてそれって最近出来たって言われる大会のことか?」

「さすが、ソウ兄。よく分かったね」

「この前に噂程度に聞いてきたからな」

 

 やはり、思った通り話題は大魔闘演武のことについてだった。

 ソウはあまり、この話は乗り気になれなかった。

 

「ナツ兄達がいない間にフィオーレ1のギルドを決める祭が出来たんだ」

「うぉーー!」

「それはおもしろそうだなぁ」

 

 ハッピーはその場を跳び跳ねる。ナツは期待に胸を膨らませていた。

 

「フィオーレ中のギルドが集まって魔力を競いあうんだ。その名も“大魔闘演武”!」

 

 ロメオは右手の人差し指を高々と上げて堂々と告げた。

 ナツはテンションが余計に上がっていく。

 

「大魔闘演武!」

「楽しそうですね!」

 

 ルーシィとウェンディも楽しみなのか、そわそわしている。

 

「まさに祭ってわけか!」

「なるほど………現在フィオーレ1と言われているギルドはセイバートゥース…だったな」

 

 グレイとエルザも意気揚々としていることが伺える。

 

「そう。セイバートゥースを倒して優勝すればフィオーレ1のギルドになれるんだ!」

 

 おおー!と歓声が上がる。

 

「しかっし………今のお前らの実力でそんなことが可能かの………」

 

 マカロフの心配事も分かる。

 今の他のギルドの強さが分からない以上なんともいえないのが現状と言ったところか。

 

「そうだよ。そうなんだよ」

「優勝したギルドには賞金3000万J入るんだぜ」

 

 次の瞬間、マカロフの目付きが変わった。

 ソウは嫌な予感がした。

 まさか、賞金目当てで出るつもりなんだろうか。

 

「出る!」

「マスター!」

「無理だよ、敵は天馬やラミア」

「セイバートゥースだけじゃないんだ」

「ちなみに過去の大会じゃあ、俺達ずっと最下位なんだぜ」

「威張んなよ」

 

 ドロイの台詞に珍しくエルフマンが突っ込んだ。

 ギルドの皆が止めるもマスターの決断は固かった。

 そんなにお金が欲しいのだろうか。

 

「んなもん!全部蹴散らせてくれるわい!」

「セイバートゥースか!燃えてきたぞ!」

 

 燃えるのはいいが、机に足を乗せて火を拳に纏うのは止めろと思ったソウ。

 ドロイにも「やかましい!」と言われていた。

 

「その大会、いつやるんだよ」

「3か月後だよ」

 

 それを聞いたナツは両手を勢いよく合わした。

 

「充分だ。それまでに鍛え直して、フェアリーテイルをもう一度フィオーレ1のギルドにしてやる!」

 

 もはや、皆の決意は一つにまとまったかのように思えた。

 こうなってしまうとは思ってはいたが、いざ本番では一体どうなることやら、ソウは考えたくなかった。

 

「いいね~」

「うん!皆の力を一つにすれば」

「できないことはない」

「グランディーネから貰った魔法。それまでに覚えないと!」

「祭だよ、シャルル~」

「このギルドは年中そうでしょ」

「漢ー!祭といえば、漢ー!」

「ギルダーツの依頼、案外すぐに達成出来そうじゃない?」

「マジかよー………」

「本気で出るのか………?」

「いいじゃん、出てみれば」

「や、やっぱ止めといた方が………」

「ナツの考えているようなバトル祭とはちょっと違うのよ」

「え!違うの!」

「地獄さ………」

 

 各々の考えはまったく異なっているが天狼組はもはや、目線が大魔闘演武の方にしか向けられていなかった。

 吹っ切れることにしたソウ。

 大魔闘演武でこいつらの驚く表情を見るのを楽しみにでもするかと心に決めた。

 

「出ると言ったからにはとやかく言っても仕方あるまい。目指せ、3000───ごふん、フィオーレ1!チーム、フェアリーテイル、大魔闘演武に参戦じゃあーー!」

 

 一同、一斉に叫び上がるギルド内。

 ソウはなんとも言えない感情に浸されていた。

 

「………お兄ちゃん?」

 

 そんな兄の後ろ姿をウェンディは不安そうに見つめていた。

 

 

続く──────────────────────────────

 

 




早く………開催したい………


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第g話 合宿での男の試練

遅れてしまいましたが、今回は珍しくソウが狼狽える話となっています。
そして、何故か最初は思いっきりネタバレとなってます。話を進める都合上、こちらの方がやり易いという判断からですのでご勘弁を。

───な、なんだこれは!?


 自分達の目的───それは、簡単には達成出来ないものだと実感している。

 一生涯かけても果たせるかどうか、怪しいところ。それほどの高難易度を誇っている。

 その目的とは………。

 

 ────ドラゴンの抹殺だ。

 

 ソウ、ジュン、アールの三人はその指名を自らの親───つまり、ドラゴンから言い渡された。

 何故そんなことを言ったのかは推測するしかなく、真実は本人達に聞くしかない。けれどドラゴンのもう姿はない。

 ソウは災厄のアクノロギアと一度遭遇しているという過去を持っている。

 あの時は周りに仲間がいた。また、ジュンとアールが居なかったので殺しにかかろうとはいかなかったが、それでもドラゴンの実力の一部を垣間見た気がした。

 ソウの想像を遥かに上回っていた。

 巨大な体から放たれる威圧感。そして、圧倒的な攻撃力。体を守る頑丈な鱗。

 あいつを倒すことが将来の目的だと思うと冷や汗が出る。

 これはできる限り機密事項で行きたい所だが、最低限に協力者は欲しいものだ。

 目撃情報とかもある程度集めて置かなければいざという時に困るからだ。その点では師匠は大変世話になっている。

 今のところ、目撃情報はないとされているのでそういうことはないのだが師匠はある重要な情報を持ってきたのだ。

 それは大魔闘演武にドラゴンが現れるかもしれないということだ。

 正確には少し違うが、後を辿っていくと大魔闘演武も関わっているので間違いではない。

 大魔闘演武の主催国が、ある計画を企んでおりそのせいでドラゴンが来るかもしれないと言われている。

 これはあくまで噂だ。師匠も確信はどこにもないと言っていた。そもそもどのドラゴンが何処から来るのかまったく、分からないのだ。

 ナツの探しているイグニールやガジルのメタリカーナかもしれない。グランディーネやアスペルト、ジュン達の親のドラゴンかもしれない。

 それは誰にも分からない以上、なんとも言えないが自分達はあくまで指名を果たすまで。

 ドラゴンとの戦闘になれば、辺りは相当の被害が及ぶだろう。それは自然的にそうなるので仕方ないことだ。

 が、一つ問題があった。

 それは三人の少女達をどうするかということ。

 サンディーとルーズはまだ、ソウ達の目的をある程度知っているから良いもののウェンディはまったく知らない。

 自分の兄がドラゴンを殺すのが目標だと知った時はどうするだろうか。

 けれど、話すわけにはいかなかった。

 必然的にギルドの皆にも話さないといけないからだ。

 まだソウだけなら皆はいつもの意図の掴めない行動として納得してくれるだろう。

 ウェンディはそれをすることが出来ない。

 素直で良い子だからだ。

 知らぬ振りをしてもらうのもいいかもしれないが、いつかエルザ辺りに尻尾を容易く捕まれて尋ねられるだろう。

 それにナツが知ったとなれば激怒するのは間違いがない。ドラゴンの抹殺と言えばイグニールもその対象に含まれているからだ。

 ソウも流石にそれはしたくないので悩んでいる所だった。

 その少女達がドラゴンとの戦闘に巻き込まれでもしたら危ない。ソウ達も断念せざるを得ない事態に陥る。

 見捨てることだけは出来ないのだ。

 だから、それまでにウェンディに実力を付けて欲しいと思っていたソウはいつか、言おうと思っていたがその必要はなくなった。

 フェアリーテイルの皆、特に天狼組は7年のブランクがあるため、各々が特訓をすることにした。

 そして、ソウ達は海合宿をすることにしたのだ。ソウはウェンディに無理矢理連れてこられたが。

「シャルル?何か、感じなかった?」

「何も感じないけど」

 

 今から海へ向かおうとした矢先、ギルドを出ようとしていたナツ達。

 ウェンディはなにか気配を感じたような気がして振り返るが気のせいだったようだ。

 

「………なんで、初代が………」

 

 ソウは気配の原因が分かっていたようで誰にも聞こえないように呟いた。

 後々、大変なことになりそうな気がした。

 ───そして、ついに海に来た。

「あんた達、遊びに来たんじゃないのよ」

「そうだぞ~」

「海だ~」

「そんな格好のやつに言われてもなぁ」

 

 シャルルとハッピーはゴーグルに浮き輪と完全に遊ぶ気が丸見えだった。

 レモンは的外れなことを言っていた。

 ドロイは呆れる風に言う。ドロイとその隣にいるジェットも海水パンツをはいている。

 派手な水着のエルザが海水を太ももあたりまで浸けながら言った。

 

「勿論分かっている。こういうのはメリハリが大事だ。よく遊び!よく食べ!よく寝る!」

「肝心な修行が抜けてるぞ!」

「お前らな、合宿が終わるまでには」

「せめて俺らに勝てるぐらいになってほしいぜ」

 

 偉そうに言う二人だが、既にソウやエルザには負けている。

 戦わなくても分かることだ。

 すると、二人の背後からナツとグレイが猛ダッシュしてきた。二人は吹き飛ばされる。

 

「海だぁーー!!」

「よっしゃーー!!」

「「泳ぎで勝負だ!」」

「「砂の城作りで勝負だ!」」

「「大食いで勝負だ!!」」

「「日焼けで勝負だ!!」」

 

 海を完全に満喫している二人。すると疲れたのか、いきなり宿へと向かう。

 

「さあ、疲れたから宿に戻るか…………」

 

 すると、二人が愚痴る。

 

「思いっきりエンジョイしやがって」

「まあ、1日ぐらい多目に見てやるか」

 

 あくまで上から目線で物事を見る二人。

 近くの南国の木に隠れるようにして、グレイの背中を見つめる影があった。

 ジュビアだ。

 

「日に焼けたグレイ様も素敵………」

 

 一人で勝手に盛り上がっているジュビアだった。

 

 

 ◇

 

 ソウもしばらくは呑気に過ごそうと昼寝をすることにした。

 すると、なんだか騒がしくなってきた。

 

「ソウ!大変だよ!」

 

 レモンが慌てて起こしにきて、ソウは渋々起きて目を擦る。

 目の前には巨大な氷塊が大量に落ちてきていた。一体、何がどういう風になったら、こんな意味不明な事態に陥るのか説明してほしい。まぁ、少し考えれば分かってしまうが。

 あちこちに落下していき、その内の一個がビーチボールで遊んでいたルーシィ、レビィ、ウェンディの所に向かっていく。

 ウェンディは怖くて頭を抱えてしゃがみこんだ。

 ソウはどうにか立ち上がると衝撃を使い、一瞬でウェンディ達に落ちてくる氷塊の所まで移動する。

 ソウは魔法を発動して氷塊を粉々に砕いてた。

 

「大丈夫か?」

「え、ありがとう、ソウ」

 

 ルーシィは突然のことに困惑するが、どうにかそれだけを口にした。

 何故浜辺に氷塊が落ちてくる事態になっているかと思うが、容易く想像できる。

 グレイが海を凍らせてナツが思いっきり吹き飛ばしたと言ったところか。

 まるで、氷塊は隕石のようになっているがソウは次の魔法の準備を始めた。

 

「『波動式四番』波動多連弾!」

 

 ソウから大量の波動弾が飛ばされていき、それら全てが氷塊に命中。粉々にしていく。

 残りはグレイやナツ、エルザが処理してくれたお陰で被害はないと見えた。

 ウェンディも途中から参戦していた。

 後処理を終えたエルザとグレイが近くに寄ってくる。

 

「いやぁ~、助かった」

「ソウも感謝する」

「遊びもほどほどにしておけよ」

 

 ウェンディがソウの隣に駆け寄ってくる。

 何も言わないことに疑問を感じたソウ。

 すると、ウェンディはソウの背後にさっ!と隠れた。

 理由はグレイが素っ裸だからだ。

 

「あんたには羞恥心ってものがないのかしら………」

 

 シャルルの言うとおりだった。

 もはや、脱ぎ癖はそこまで行ってしまったかとソウは思ってしまった。

 

 取り敢えず準備運動は済んだみたいだ。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 時と場所は変わり、岩が目立つ岩礁にウェンディが座ってあるものを眺めていた。

 ポーリョシカから貰った魔法書だ。

 

「え………と、なんて読むんだろ………」

 

 書かれていた内容は難しくて何が何やら分からなく、困り果てていた。

 

「お兄ちゃんなら、分かるかな?」

 

 同じドラゴンスレイヤーの兄なら分かるかもしれないと思い立ったウェンディは早速行動に移るのだった。

 

 

 ◇

 

 一方、その頃フェアリーテイル他のギルドメンバーも各地で修行を始めていた。

 ハッピーは海に浮き輪を使って浮いている。視線の先には海面が広がっており何もない。

 ハッピーはあるものを待っていた。

 それはナツの咆哮。

 ナツは今、海面から数メートル沈んだことろにいた。

 口を大きく膨らまして、真上へと炎の咆哮を放つ。

 それは海面を突き破り、巨大な火柱がハッピーの目の前に現れる。

 

「ナツは、やっぱり凄いや。海のなかだと水圧がかかって重たいのに火竜の咆哮を撃てるんだ」

 

 改めてナツのすごさに感心していたハッピー。

 ナツが海面へと息を吸うために上がってきた。

 

「凄いねー、ナツ」

「いやぁ、まだまだだ。あんなんじゃ足りねぇ。もっともっとパワーを上げていかないとなぁ!」

 

 再びナツは海へと潜っていくと火竜の咆哮を放つ。

 先程よりも威力が上がっているような気がした。

 その光景を岩礁から眺めていたグレイが呟く。

 

「こりゃあ、負けてられねえな」

 

 

 ◇

 

 同じくルーシィは離れた場所で精神統一をしていた。

 あの時、ソウがしていたトレーニングと同じものだ。

 ルーシィの場合、肝心な所で魔力が切れてしまうことが多いので底上げをすることにしたのだ。

 精霊にも手伝ってもらいながらもいざ、始めてみるとシャルルの言い分通りに確かにきつい物だった。

 これをソウは難なくこなしていたのかと思うと改めてソウのそこ強さを感じる。

 

「………きつい………」

 

 

 ◇

 

 その頃、ソウはどこにいるかというと、崖の先に座っていた。

 視線の先には水平線が見える。

 ソウは立ち上がると、両手を前に構えた。

 魔力を掌に集中さして波動を感じる。

 やがて青色の形をした球型のエネルギーの塊が現れた。

 

 ───滅竜奥義『波動竜砲』

 

 それを前へと押し出す。すると、それは巨大な柱となって辺りを揺るがし水平線の遥か彼方に真っ直ぐに飛んでいった。

 

「やっぱ………時間がかかるな……」

 

 究極奥義“波動竜化”を使って作った方が圧倒的に時間短縮が出来る。

 普通の状態でも、すぐに出来るようにするのが今後の課題と言ったところだろうか。

 他にも新たに試してみたい技を幾つか思い付いたので早速試そうとしたが、誰かが来たみたいで断念した。

 

「お兄ちゃん、ちょっといい?」

「ウェンディか、どうしたんだ?」

「これ、読めないの」

 

 ウェンディから渡されたのは天竜の滅竜奥義が記されている魔法書だった。

 ソウは片手で受けとると目を軽く通す。

 

「ある程度………読めるけど、レビィに聞いた方が早いんじゃないか?確か“風詠みの眼鏡”も持っていたはずだし」

「分かった。ありがとう、お兄ちゃん」

 

 ソウが魔法書を返すと、律儀に礼をして去っていくウェンディ。

 風詠みの眼鏡とは魔法道具の一種であっという間に字が読めることが出来るのだ。

 少し間が空いてしまったが、気を引き締めて再び始めるのだった。

 

 

 ◇

 

 グレイは次々に氷を造形していく。

 ウェンディはレビィから借りた風詠みの眼鏡で魔法書を読んでいく。

 ジュビアは水面に浮かび、直方体に区切った水の塊を浮かび上がらせ崩れないように意識を高める。

 エルザは岸壁で波で上がってくる水飛沫を浴びながら剣を奮う。

 ナツは腰とタイヤを紐でくくりつけて、砂浜を猛ダッシュする。ハッピーは後を追いかける。

 

「もっと強くー!」

「あいさー!」

「もっともっと強くー!」

「──────あいあいさー!」

「俺達のギルドを舐めてるやつらを黙らせてやる!」

「──────────────────あいさー!」

 

 徐々にハッピーとナツの差が開いていき、ハッピーの声がだんだんと遠くなっていく。

 ナツがぐんぐんとスピードを上げていっているのだ。

 

「フェアリーテイルの力を見せてやるんだぁー!」

「見せてやるぞー!」

 

 各々のやる気は充分だった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 その日の夜、一行は近くの宿に宿泊することとなった。

 ここに3ヶ月間、お世話になる予定だ。

 通路からは夜空が見え、星がまるで自己主張しているかのように輝きを放つ。

 浴衣姿になった女子達は夜空を見上げる。

 

「見てみて、星が綺麗!」

「今ごろ、他の皆も修行を頑張っているのかな?」

「私たちと同じように星を見ているこもしれませんね」

 

 ルーシィはきっと皆も見ているだろうと思った。

 何故かそう思えたのだ。

 確証はないが、きっと皆も同じように空を見上げて同じ景色を眺めていると自然に思えた。

 

「私も頑張らなくっちゃ!」

 

 ルーシィはそう決心をした。

 

 

 ◇

 

 男子達は少し遅れて晩御飯を食べるために広い部屋へと向かっていた。

「しっかし、ボロい民宿だなぁ」

「そういえば、前にアカネビーチに来た時ってすっげぇホテルに泊まったよなぁ」

「そうなのか?」

 

 アカネビーチとは確か観光スポットとして有名な場所だったはずだ。

 一度行ってみたいと思っていたソウ。

 

「忘れたのかぁ?あの時はロキがチケットをくれたから泊まれたんだろうがぁ」

「まあ、今のうちのギルドの予算じゃあ、ここでもいっぱい、いっぱいだよ」

「んなこと知ったことじゃねえ、それよりも腹減ったぁ~」

「俺、ちょっとトイレに行ってくるわ」

「おう。先に行っとくぞ」

 

 ソウは一行から離れて近くのトイレのある方へと歩いていった。

 ナツ達は広場へと向かい、障子を思いっきり開けた。

 

「な!………」

 

 そこでナツ達は信じられない光景を目にするのだった。

 

 

 ◇

 

 ソウは用をたすと、自分も腹が減ったので広場へと向かう。

 目的地に近づくにつれて、騒音が聞こえてくるがまた、あいつらが騒いでいるのだろうと気にしない。

 障子をゆっくり開けたソウは中に入ろうとしてその瞬間、足を止めた。

 

「な………何、このカオス!?」

 

 中は想像していたのとまったく違っていた。

 エルザはジェットとドロイを踏んづけており、ジュビアはグレイに抱きついて泣いている。体の半分が水になっていたが。

 ルーシィはナツに変なことを要求してナツを困らせている。

 レビィはテンション高めにナツを煽っている。

 シャルルはハッピーの背中に乗って「あんたは馬よ!」と言いながらハッピーを飛ばしていた。

 レモンは床に寝転んで寝ており、ウェンディは目を回していた。

 

「もしかして………酔ってるのか………?」

 

 部屋の中央の床には空になっている瓶がゴロゴロ転がっており、それらが全て酒だとすれば納得がいく。

 男子達が犠牲になっているのから、すると既に男子が到着した時には酔っぱらっていたのだろう。

 酒を飲ましたのは一体誰だろうと思った。

 エルザならまだしも、ウェンディが飲むとは思えないのだ。

 ソウは天井を見上げた。

 木材が入り組んでいる天井には初代メイビスが傍らに酒を置いて、肩を震わせていた。

 犯人は確実にこの人だとソウは決めつけた。

 というよりも肝心の飯が無くなっている。となると、ここにいると色んな意味で危ないのでさっさと退散することに決めたソウ。

 

「ソウ!助けてくれー!」

「ナツ~、ゴロゴロ~ってして~!」

 

 余計な邪魔が入った。

 ルーシィに意味不明な要求をされているナツがソウに助けを求めた。

 余計なことを言うなと思ったがそれが、もう既に遅かった。

 ソウという言葉に反応したのが、ウェンディだった。

 先程まで目を回していたはずのウェンディがひょこっと体を起こして、ソウを視線に捉えると立ち上がった。

 そして、ソウに向かって勢いよく飛び付いた。

「───うおっ!」

 

 急なことに対応するのが遅れてソウの体勢が崩れて仰向けになる。

 その上にウェンディが乗っかり、ソウは逃げることが出来なくなった。

 

「お兄ちゃん」

「ど、どうした、ウェンディ?」

 

 たったのその一言で、ソウはこれから起こることに嫌な予感がした。

 ウェンディの顔は酔っているのか赤くなっている。

 

「むぎゅー」

 

 いきなり、顔をソウの胸に擦りつけて抱きつくウェンディ。

 ソウは何をすればいいのか、分からないので黙って何もしない。

 

「お兄ちゃん………いい匂いがする」

 

 もはや、ウェンディは完全に頭が回っていないようである。

 ドラゴンスレイヤーだから、鼻はそれなりにいい。

 

「あの~………ウェンディ?何をしてるんですか?」

 

 恐る恐る声をかけてみる。

 ウェンディはゆっくり頭を上げた。

 

「お兄ちゃん、私の水着姿見て何も言ってくれなかった」

「へ?」

 

 何故かウェンディによる追求が始まった。

 そういえば、ウェンディの水着姿をあまりはっきりとは見ていなかったとソウは思い出す。

 あの時は別のことを考えていてすっかり抜けていた。

 もしかして言って欲しかったのだろうか。

「に、似合ってたぞ!………」

「今言われても遅いもん!」

 

 そりゃ、そうかとソウは思った。

 未だに意識がはっきりとしないウェンディはさらに暴走を開始する。

 

「なでなでして!」

 

 なでなで………というとウェンディの頭を撫でろと言うことなのだろうか。

 ここで逆らうわけにもいかず、ソウはゆっくりと手を伸ばす。

 ポン!と頭の上に手を置いて、優しくウェンディの髪を撫でる。

 ウェンディは気持ち良さそうにしているのでこれで良いだろう。

 しばらくして撫でるのを止めると名残惜しそうにウェンディは表情を変えた。

 

「これでいいか………?」

「駄目!」

 

 どうやらまだ不満足らしく、はっきりと言い切ったウェンディ。

 ソウは苦笑いを浮かべながらも頬をピくつかせた。

 

「私と………キスしてよ………」

「ちょっと!それは!」

 

 後から「それしてくれたら許してあげる………」と付け足すウェンディだったが、ソウはそれを完全に聞き流していた。

  ───今、俺の妹は何と言った!?

 ソウにはキスをしろと聞こえたが気のせいだろうか。

 いや、違う。

 現にウェンディは目を閉じて徐々にソウの顔に近づいているではないか。

 ソウは内心、凄く焦っていた。

 ここはどうすればいいのか。素直にウェンディの言うことに従うべきか。

 だんだんと近づくにつれて、ソウはより困惑していく。

 すると、次の瞬間ウェンディの体の力が抜けていく。ソウでも分かった。

 そして、ソウの上に全身が乗っかる様になった。しばらくしてすぅ…すぅ…と寝息が聞こえる。

 どうやら目を瞑っているとそのまま寝てしまったらしい。全身の緊張感が一気に抜けた。

 ゆっくりと起こさないようにウェンディの体を持ち上げて床に置こうとしたのだが、それは出来なかった。

 ウェンディの手がソウの服の裾を掴んでいたのだ。

 仕方ないのでウェンディを膝枕してあげることにしたソウ。

 それはそうと、シャルルのハッピーの呼び方が馬からロバに変わっていた。

 

 男の試練は終わり、一夜が過ぎる。

 

 ───そして、合宿二日目の朝。

 

 

続く─────────────────────────────




学生ですので、更新はまちまちになってしまいます。特にテスト期間は出来ないのでご了承おねがいします。


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第h話 星々の歌

取り合えず11月になる前に投稿するまでに至りました!!


───特訓、開始!!


 大魔闘演武まで後、3ヶ月。

 ソウはフェアリーテイルのいつものメンバーと海合宿に行っている。

 一方、その頃、ジュンやアール達は何をしているのかと言うと新たなギルド“トライデントギルド”を評議院に認定してもらうために動いていた。

 師匠のコネがあるので、そう苦労することはないが、代わりに時間がかかるという。なので、それには師匠とアールの二人が行くことにした。何故二人かと言うと空間魔法を使っての移動が可能で時間短縮になるからだ。

 とある町に残されたジュン、ルーズ、サンディーは人気がしない草原でちょっとした試合形式の練習をしていた。

 対峙しているのは女子二人。

 実力は互角と言ったところか。ソウの所のウェンディと言う少女も実力は二人とあまり変わらないと言っていた。

 ジュンは、ある魔法を自在に操れるように一人で特訓していた。

 ソウなら“波動”、アールなら“空間”と各々の特徴のある魔法を使っているが、ジュンは岩や砂を操って纏ったりする魔法が主だ。

 ある日いまいち、自分の魔法は劣っているのではないかとジュンは考えた。

 何故かと言うとこういう魔法は他の魔導士も会得しているからだ。

 そう悩んでいたのがソウが帰還する数ヶ月前の話。

 その時に話しかけたのが、師匠だった。

 まるで何もかも見透かしているようにジュンにある魔法書を渡したのだ。

 そこに書かれていた魔法にジュンは歓喜した。

 ここに書かれていた魔法は難易度がとても高いものだったが、これを使いこなせれば───より強くなれる。

 そしてそれが今、完成間近だった。

 

 

 

 

 合宿二日目の朝。

 砂浜に集合したソウ達は各自で準備運動などを色々始めた。

 それはそうと、昨日のあれのせいで男子達が少し怯えぎみだった。その反面、要因となっている女子達はどうも昨日の一件を覚えておらず、どうしてかと疑問符を浮かべる程度だった。

 唯一、ソウはなんともなかったが。

 ウェンディは昨日、兄に膝枕されていたことに気づいた時は顔を真っ赤にして何処かに走っていった。

 ソウはその時、寝ていたのだが。

 ウェンディが顔を真っ赤にしていたことなど露知らずソウはしばらくして目を覚ますと誰も居なくなっていた。

 皆は温泉にでも行ったのだろうとソウもその時は向かったのだった。

 

「充実してるなぁ」

「俺達が本気で鍛えりゃ」

「二日間といえど、かなりの魔力が上がりましたね」

 

 ウェンディの言うことはあってるかもしれないが、ソウは本気で鍛えてないのであまり変わっていない。

 ジュビアは木の影に隠れながらグレイと同じポーズを取っていた。グレイと同じポーズを取れて心が震えるとか思っているのだろうとソウは思った。

 

「この調子で3ヶ月鍛えれば、この時代に追い付くのも夢ではないようだ」

 

 「うん」とエルザの言葉に頷くレビィ。 そして再び特訓を開始した。

 

「見てろよ、他のギルドのやつらぁ!妖精の3ヶ月!炎のトレーニングの成果をなぁ!」

「最初は、“たったの3ヶ月なの!?”って思っていてたけど効率よく修行していけば“まだ3ヶ月あるの”って感じよね」

「あい!」

 

 砂浜に座ってハッピーに話しかけるルーシィ。

 するとルーシィの真下からいきなり穴が開いて誰かが出てきた。

 

「姫!大変です!」

 

 現れたのはルーシィの精霊、バルゴだった。

 ルーシィを頭の上に乗せている。

 

「うわぁ!どこから出てきてんのよ!」

「お仕置きですね」

 

 いつもと変わらずの口癖を放つバルゴ。どうやら本調子みたいである。

 

「バルゴ!」

「メイドの精霊」

 

 シャルルがありがたく説明してくれた。

 

「そういやぁ、ルーシィが7年間フェアリースフィアの中にいたってことは契約している精霊もずっと精霊界とやらにいたってことになるのか」

 

 グレイが気づいたようで告げた。

 確かにルーシィが7年間ずっと精霊を呼んでいなかったので、精霊達も暇だったのだろう。

 

「もう!星空の鍵の一件でなり気なく呼んでたけどそういえば、その前に7年も経っていたんだ!」

「可哀想………ルーシィのせいで………ルーシィのせいで………」

「気付いてなかったのかよ………」

 ルーシィのどんくささに呆れたソウ。

 昔と比べればだいぶルーシィもだんだんフェアリーテイルの皆に似てきたではないかと思う。

 で、なんでジュビアがルーシィと同じように涙を流しているんだと疑問に思った。

 

「いえ、それは対した問題ではないのです」

 

 バルゴの素っ気ない返しにそれもそうだとあることを思い出したソウ。

  確か、精霊界では時の流れやらが変わっていると聞いたことがあった。

 それよりもソウが気になったのはバルゴの今の台詞がとても重い空気を漂わせていたことにあった。

 レビィもそれに気付いて不安げに言う。

 

「どうしたの?」

 

 バルゴは少し間を置いた。

 そして、突然直角に腰を曲げて頭を下げたのだ。

 いきなりの行動に皆が驚く。

 

「精霊界が滅亡の危機なんです。どうか、皆さん、助けてください」

 

 精霊界の滅亡の危機とは、一大事だとは思うがソウはバルゴが嘘をついているように思えた。

 それに何処か棒読み気味だったし。

 そういえばバルゴは大体棒読み気味に言うのだったと次に思い出す。

 

「何だと?」

「そりゃあ、一体………」

 

 ソウの思考を余所に話を進めようとするエルザとグレイ。

 

「精霊界にて王がお待ちになっています。

皆さんを連れてきて欲しいと」

「よぉし、任せとけぇ!友達の頼みとあっちゃ!」

 

 ここでようやく、頭を上げたバルゴ。

 視線の先にはソウがいた。

 バルゴは口元に人差し指を当てた。黙っていて欲しいという合図だった。意図を汲んだソウは黙って頷いた。

 

「待って!精霊界に人間って入れないはずじゃ?」

「精霊の服を着て頂ければ精霊界にて活動出来ます」

 

 そう言うと、バルゴは一歩後ろに下がり、両手を軽く広げた。

 

「行きます!」

「ちょ、ちょっとまだ心の準備が………」

 

 ルーシィのことはお構い無しにソウの足元にも魔方陣が出現。

 皆の叫び声と共に光の柱が皆を包んだのだった。

 やがて、光が収まる頃にはそこに誰も居なくなっていた。

 ───ドロイとジェット以外。

 

「なんで俺達だけ………」

「置いてけぼり………!」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 ………唖然とした。

 ソウ達を迎えたのは広大な光景だった。

 まるで宇宙の神秘のような精霊界はただただ口をポカーンと開けて眺めているしかなかった。

 精霊界というのは初めて来たけどこんなに綺麗な所だとは想像以上だった。

 

「ここが精霊界………?」

「はぁー………綺麗………」

 

 ルーシィとウェンディも見たことがない絶景に感嘆の声を上げていた。

 いつの間にか服装も変わっており、ソウとウェンディは着物を来ていた。

 

「よーく…来たな…古き友よ……」

 

 目の前に巨大な影が出現したかと思うと、何ともゆっくりな口調で話始めた。

 見た目は巨大な髭のお爺ちゃんと言ったところか。

 

「でかっ!」

「髭ぇ!」

「誰ぇ!」

 

 ナツ、ハッピー、レモンによる三連答。

 ルーシィはそんなのお構い無しに一歩前に進みだした。

 

「精霊王!」

 

 次にエルザが前に進みだした。

 ウェンディとレビィは嫌な予感がした。

 

「お前がここの王か?」

 

 エルザは言ってしまった。お前………と。

 お前って言った!と密かに思う二人。

 

「いかにも………」

「精霊界の滅亡の危機って!?」

 

 ルーシィの質問に「むぅ………」と唸る精霊王。

 するとソウが前に出た。

 

「それよりもさぁ、俺達をここに呼んだ理由を教えてくれないか?」

「お兄ちゃん!それよりもって!」

「そうだ!精霊界の危機なんだぞ!」

「だから………違うって………」

 

 ソウの質問の意図が掴めない皆。

 そして、皆の視線が精霊王に注目する。

 やがて精霊王はニカッ、と笑みを浮かべた。

 

「え………」

「ルーシィとそのお供の時の呪縛からの帰還を祝して………宴じゃーー!!」

 

 精霊王の言ったことが理解出来なかったのか皆はポカーンとしていた。

 ソウは納得したのか、ただ笑っていた。

 様々な精霊達が自分達を歓迎してくれているみたいだった。

 ルーシィの契約している精霊は勿論、まだ見たこともない精霊達も歓迎してくれているようだ。

 

「滅亡の危機って!?」

「…………てへっ♪」

 

 バルゴはわざとらしく舌を出した。

 嘘をつかれたことにようやく気付いたルーシィは叫んだ。

 

「何ぃぃぃいいい!?」

「なははは、モゥ~騙してすまねぇっす。騙されてポカーンとしてるルーシィさん、しかも精霊界のコス、最高っす!」

「驚かせようと思ってエビ。今からでも宴ようにカットが必要とあらば、まかせるエビ」

「ルーシィ様たちの帰還を祝してメェー達に考えていたのです」

 

 どうやら精霊達が独自にサプライズとして企画したようだった。

 タウロス、キャンサー達もノリノリみたいだ。

 

「みーんなでお祝いしたかったけど、いっぺんに人間界に顕現することは出来ないでしょ」

「だから、皆さんの方を精霊界に呼んだんです、すみません~」

「今回だけだからな、ウィー」

「そうよ、特別よ」

「ピリ、ピリ」

 

 ようやく状況を理解できたナツ達は楽しむことにした。

 

「なんだぁ、そういうことか」

「そうなんでありますからして~モシモシ~」

「びっくりさせるなよ~」

「さあ、僕の胸に飛び込んでおいで、ルーシィ」

「もぅ………」

「さぁ!今宵は大いに飲め!歌え!騒げ~や騒げ、古き友の宴じゃー!」

 

 こうして、始まった精霊界での宴。

 大きなテーブルにはたくさんの舌を誘う料理が並べれていた。

 

「元気だったか」

「試験は残念だったね」

 

 グレイとロキは久しぶりの再開を拳をぶつけて楽しむ。

 そこにソウも入る。

 

「まあ、グレイもあと少しと言ったところか」

「そうか。よし、頑張るぜ」

 

 そう言うとグレイは別のところに走っていった。

 それを見届けたソウは少しばかり気になることをロキにぶつける。

 

「相変わらずだね、ソウは」

「自覚はないんだけどな。それよりもロキ、確か精霊界って────」

「────確かにそうだけど、よく知ってるね。ソウだからかな」

 

 やはり、ソウの予感は当たっていた。

 これを知ったらあいつらは驚愕すると思うが今、言っても変な気分にさせることになるので後回しにしておくことにした。

 というより知らぬが仏というやつだった。

 ウェンディはホロロギウムのところに行き、この前のお礼を述べる。

 

「ホロロギウムさん!」

「おや、おや、これは………」

「あの時はどうも、ありがとうこざいました」

 

 あの時とはハデス戦の時に助けてもらったことを言っているのだ。

 

「いえいえ、礼には及びません」

「でも…あの…服が脱げたのは恥ずかしかったです………お兄ちゃんなら大丈夫だけど…」

 

 顔を赤らめ両手を顔に当てたウェンディ。

 

「いや……その……あれは……」

 

 返事に戸惑うホロロギウム。

 その背後からルーシィがふざけて返事を返した。

 

「失礼しました!、と申しております」

 

 

 ◇

 

 ───その頃───

 ジュビアはアクエリアスと二人で話をしていた。

 その内容が男についてだ。

 

「その調子だとルーシィみたいになっちゃうわよ」

「どういうことよ!」

 

 離れた所からルーシィは突っ込んだ。

 一体何がルーシィみたいなのかは分からないが、悪いことだけは間違いがなかった。

 

 

 ◇

 

 レビィは精霊界の本棚を眺めていた。

隣には時計の精霊がおり、一冊あげると言ったらレビィの眼が輝いた。

 が、時計の精霊がいきなり寝てしまった。

 ルーシィによると考え中らしい。

 ハッピー、シャルル、レモンはプルーと戯れていた。

 そういえば、こいつもニコラという精霊だったと思い出したシャルル。

 すると、ニコラが大量に出現してエクシードを多い尽くした。

 

「うわぁたくさーんいるー」

「私このプルーがいい!」

 

 レモンはどうしてか自分のお気に入りを見つけていた。

 

 

 ◇

 

 また、エルザは服が似合っているのかどうか、何度もすそを持ち上げて確認をしていた。

 

「エルザさーん!モゥー相変わらずのナイスバディで」

「そうか?」

「ちょっと跳び跳ねてくれませんか?」

「なぜだ?」

 

 タウロスはエルザを変な目で見つめる。

 目がハートになっている。

 そしていやらしいことを考えている。

 

「あの精霊………嫌」

「私もです………」

 

 一部始終を見ていたウェンディとレビィが引いていた。あの二人はエルザと違い特有の膨らみがないことから来ているのだろう。

 

 

 ◇

 

 ナツとソウは精霊界の料理を堪能していた。

 周りには積み重なった皿があった。

 

「うんめぇ!なんの料理だ?」

「ホント!止まらないぞ!」

「蟹のペスカとエビ、星屑バター添えだエビ」

「そっちはハマルソースの子羊ステーキです」

 

 答えたのはキャンサーとアイリス。

 ソウとナツの手が止まった。

 今、なんといった。

 ソウには蟹のペスカと子羊ステーキと聞こえた。

 つまり、これは同じ蟹座と子羊座の二人にとってはあれなわけで。

 

「「ごめんなさいーー!」」

 

 二人同時に速答で謝った。

 

 

 ◇

 

「それにしても不思議なところだよな…」

 

 グレイが呟く。その周りには大量のニコラが集まっていた。

 

「私も精霊界がこんな風になってたなんて知らなかった───私のプルーどれだろう?」

 

 もうどれがどれやらニコラが多すぎて自分のプルーが分からなくなってしまったルーシィ。

 

「それは当然古き友と言えど、ここに招いたのは…はじめて」

 

 精霊王の言葉に笑顔が溢れたルーシィ。

 

「それだけ認められてるってことだよな」

 

 グレイはルーシィの頭を撫でた。

 それを恨ましそうに見ているジュビア。

 

「ちょっと!なにしてんのぉ!」

 

 やがて、会場には優しい音楽が包み、皆の心を癒す一時となる。

 ルーシィは色んなことを思い返した。

 辛いこと。楽しいこと。悲しいこと。

 それらは皆がいてくれたからこそ、成り立ったものでありかけがえのないもの。

ルーシィは涙を流してこう言った。

 

「ありがと………みんな、大好き……」

 

 精霊王はただニカッ!と笑顔を浮かべた。

 

 

 ◇

 

 楽しい時はあっという間に過ぎていく。

 もうソウ達が人間界に帰る時間が近づいていた。

 

「存分に楽しんでしまった」

「こんなうめぇもん、食ったことねぇよ」

「食ったのか!食ったのか!おめえ!」

 

 グレイはあれを食ってしまったのかとナツは思った。

 無情すぎる。

 

「この本、もらっていいの?」

 

 レビィは精霊の本を一冊頂いていた。

 

「私この服欲しいです!」

「その服似合ってると思うぞ」

「ホント!」

 

 嬉しいのかその場で一回転するウェンディ。

 

「変なプルーが離れないんだけど~………」

「私も~…」

「あそこは妙に気があっちゃって」

 

 ハッピーとレモンは変なニコラにくっつかれていた。

 シャルルの視線の先にはがっちり手を握り交わしたジュビアとアクエリアス。

 

「苦労してんだね、あんた」

「アクエリアスさんこそ!」

 

 もはや、聞きたくない内容だった。

 

「古き友よ………そなたには我々がついている」

「うん!」

「これからもよろしく頼むぜ」

「いつでもメェー達を呼んでください」

「またギルドに顔を出すよ」

「みなさん、ルーシィさんをこれからもよろしくお願いします」

 

 本当にルーシィは精霊に愛されていると改めて実感した。

「では、古き友に星の導きの加護があらんことを」

 

 そう言うと精霊王を筆頭に精霊達が姿を消していった。

 残ったのはソウ達と送ってくれるバルゴとホロロギウムだけだ。

「本当にお前は精霊に愛されているな」

「みんな、最高の仲間よ」

「さぁて、だいぶ遊んじまったし、帰ったらたっぷり修行しねぇとなぁ」

 

 ナツの言葉を聞いてソウに嫌な予感がした。

 まさか、本当にあの事実を知らないのではないかと。というより自分が知っているのに言わなかったら絶対に責められる。

 自分の口からではなく、バルゴにいってもらうことにしたソウ。

 

「そうだ、3ヶ月で他のギルドのやつらに追い付かねぇと」

「打倒セイバートゥースだよ!」

 

 グレイの発言で完全にある確信に至ったソウ。

 

「バルゴ、何か忘れてない?」

「あ、そういえば一ついい忘れていたことが。精霊界は人間界とは時間の流れが違うのです」

 

 ───ついに来た。

 直感的に感じたソウ。

 

「まさか、それって………こっちの一年が人間界では一日、ってみてぇな?」

「夢のような修行ゾーンなのか!?」

 

 興奮してしまっているナツとグレイ。

 それをソウは何とも言えない表情で見ていた。

 あの二人のいう通りだったら良かったのだけれど現実はそうも簡単にいかないものである。

 

「………いいえ。逆です」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 そして、ソウ達は人間界へと帰還した。

 目の前には砂浜と海が広がっていた。

 ただ、誰も居なかった。それもそのはず、海シーズンはとうに過ぎていたからだ。

 思い出すのはバルゴの最後の言葉。

 

『精霊界で一日過ごすと人間界では………3()()()経ってます』

 

 頭が真っ白状態で海を見つめるナツ達。

 これから修行に励もうとしていた矢先に起きた最悪の事態が起きてしまった。

 頭をよぎるのは絶望。

 

「みんなー、待ちくたびれたぜー」

「大魔闘演武まで後、5日だぜ。すげぇ修行してきたんだろうなぁ?」

 

 そこに駆けつけたのは置いていかれたジェットとドロイだった。

 少し日焼けをしている。

 ただ、何も答えずじっとその場に立ち尽くすナツ達。

 

「「「終わった………」」」

 

 そして、力尽きたようにナツ、グレイ、エルザが前倒しに倒れた。

 ウェンディはその場にしゃがみこんで、泣き出す始末。

 ソウが慰めるように頭を撫でた。

 

「うえぇぇぇーー!」

「泣くなって、ウェンディ」

 

 そういうソウも、どこか後悔していたげな表情だった。

 ルーシィは思いっきり叫んだ。

 

「髭ぇぇーー!!時間返せぇぇーー!!」

 

 大魔闘演武まで後5日である。

 

 

続く──────────────────────────────




大魔闘演武まで後、少し………だ!!


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第i話 すれ違う時間

少し急ぎ目で行きたいんですけど………まぁ、のんびり行きましょう

───では、スタート!!


 さて、開幕まで残り5日を切った大魔闘演武。

 ソウが動くのはその二日前ぐらいからで良いので実質あと残りは三日なので、新たに思い付いた魔法でも試してみようかなと考えていた。

 そんなソウとは違い呑気なことは考えられない皆は砂浜に座り込み、絶望に浸っていた。

「なんということだ………」

 

「大事な修行期間が………」

 

「精霊界でたった一日過ごしただけで………」

 

「3ヶ月があっという間に過ぎちまった………」

 

「どうしよう………」

 

 もはや、希望は全て消滅したかのような暗い雰囲気を漂わせている。修行しようにも時間がない。

 

「姫!提案があります!もっと私にきつめのお仕置きを!」

 

 バルゴは正座させられて、それでなおその上にレンガが積み重ねられて手を木に縛り付けられているのに、まだそれを言うのかと思った。

 

「………帰れば」

 

 これはルーシィがしたわけではない。自分で勝手にこうしているわけで、精霊界に今すぐにでもバルゴは帰れるはずなのだ。

 

「なんでお兄ちゃんはあんなにマイペースなのでしょうか………?」

 

 ウェンディの視線の先にはソウが砂の上に立ち、海を呑気に眺めていた様子が映っていた。

 

「そういえば、ソウっていつもトレーニングしてたのよね………」

 

 だから、あんなに気にすることなくしているのだろうか。

 すると、ソウは「お!…これいいかも」と言いながら新たな魔法を発動させようとしていた。

 気楽なものである。

「いいなぁ…………」

 

 ルーシィは呟いた。

 

「大魔闘演武まで後、5日しかねぇのに」

 

「全然魔力が上がってねぇじゃねぇか」

 

 事情を知らないジェットとドロイにそう言われてしまい何とも言えないナツ達。

 離れているソウは海に向かって体勢を構えていた。

「今回は他の皆に期待するしか無さそうだね」

 

 レビィの言う通りだった。

 ジュビアはその場で重いため息を吐いた。

 ソウは魔法の準備をしていた。

 

「またリリーと力の差が開いちゃうよ………」

 

「あんた、それ気にしてたの!?」

 

 ハッピーの呟きにシャルルとウェンディが驚いた。

 まさか、ハッピーがそんなことを気にしていたなんて思ってもいなかった。

 ソウの両手の中に波動が形成されていく。

 

「今からでも遅くない!今から5日間地獄の特訓だ!お前ら覚悟を決めろぉ!寝る暇はないぞ!」

 

 片手を上げて、闘志を燃え上がらせるエルザ。

 隣のルーシィが震え上がる。

 ソウの波動の膨張が止まった。

 

「エルザの闘志に火が付いちまった……」

 

「いいじゃねぇか!地獄の特訓、燃えてきたー!」

 

「よし、私に続け!まずはランニングだ!」

 

 早速始めようとしたエルザだった。

 が、空から羽根が舞ってきて何かがエルザの頭上に止まった。

 

「はと?」

 

「足に何かついてんぞ?」

 

「メモだ」

 

 どうやら、伝書鳩のようだった。

 ナツは鳩の足に付けられていたメモに目を通した。

 ソウの波動が今度は徐々に小さく凝縮されていく。

 

「どらどら……」

 

「まさか!グレイ様からの恋文!」

 

「んなわけ、ねぇだろ!」

 

「何々、“フェアリーテイルへ。西の丘にある壊れた吊り橋まで来い”」

 

 ジュビアが変なことを言っているのを他所にハッピーがメモの内容を読み上げた。

 

「なんだよ、えらそうに!」

 

「ああ、来いって命令口調なのが気に食わねぇな」

 

 問題はそこなのだろうか。

 壊れた吊り橋まで行くのはいいが、悩める所だった。

 ソウは凝縮した球を体の前に浮かした。

 

「どうしますか?」

 

「なんか、怪しいわよ」

 

「いや、行ってみよう」

 

「でも、罠かも………」

 

 エルザは行こうと言ったがレビィがそれに反論した。

レビィの言うことも一理ある。

 誰もがまずはそう考えるのが普通だと言ったところだろう。

 ソウは自身の拳を後ろにゆっくり引いた。

 

「そうよ、止めといた方がいいって」

 

「行けば分かる!」

 

「あぁ!面白くなってきた!」

 

 レビィの意見に賛同したルーシィ。

 エルザは頑固にそれを拒否した。

 ということで、ウェンディがある提案をした。

 

「取り合えずお兄ちゃんにも聞いてみましょう?」

 

 皆の目線がソウに注目するのとソウが小さな球に向かって拳を放ったのはほぼ同時だった。

 次の瞬間、果てしない威力の衝撃波が海面を一瞬で通った。

 通った後の水面は抉れるようになっておりしばらくすると元に戻った。

 

「だめだ、これ。時間がかかる。手も痛いし」

 

 魔法を放つと同時にこちらにまで揺れが届いたような気がしたナツ達。

 ソウの魔法の威力は前より上がっているのではないかと改めて感じていた。

 ふぅーと深呼吸をついたソウはナツ達の方に振り返るとこう言った。

 

「俺も行ってみたらいいと思うぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ということで、早速ソウ達は指定されていた壊れた吊り橋の所へと来ていた。

 が、着いたのに辺りには何もなくただ壊れて渡れない吊り橋が崖にぶら下がっているだけだ。

 向こう岸までは崖を飛び越えないといけないのだが、普通の人には到底不可能な距離だった。ソウの場合は衝撃の反動を使って飛び越えることは可能だが。

 

「壊れた吊り橋とはこれのことか?」

 

 何故、わざわざこんな所に呼び出したのか意図が読めない。

 エルザの言葉にナツは拳をがっつり合わした。

 

「っちぇ、誰もいねえじゃねえか」

 

「なんで、喧嘩腰なんですか………」

 

「イタズラかよ」

 

 ナツは戦闘をすることしか頭に無いようで戦闘準備が既に万端であった。

 ウェンディは恐る恐る言った。

 グレイは悔しそうに表情を歪めた。

 が、ソウは直感的にイタズラではないと感じていた。

 

「だから、止めとこって言ったじゃない」

 

「取り敢えず向こうに行ってみますか」

 

「あんたはあんたで何言ってるよ………」

 

 ルーシィに呆れた目線を送られたソウだったが、特に気にしていないようだった。

 ルーシィが呆れるのも分かる。

 崖に落ちるのはまだしも下には激流が走っているのであんな所に巻き込まれたりしたら大惨事である。

 

「んじゃ、ちょっくらと」

 

 片膝をついて飛び上がる姿勢に入ったソウ。

 その時、エルザは何かに気づいたのかソウを制した。

 

「ソウ、ちょっとまて」

 

 ソウは何も言わずに立ち上がった。

 ソウもエルザに言われずとも気付いていたのだ。気配が微妙に変わった。

 すると、突如橋に異変が起きた。

 だんだんと吊り橋が形成されていき、やがてそれは完全に新しく出来上がったような吊り橋になったのだ。

 まるで巻き戻しを見ているかのように。

 

「これは………」

 

「橋が………」

 

「直った!」

 

「この魔法………」

 

 今の魔法を見たことがあったと記憶を探るソウ。

 確かこれはあいつの魔法だったのではないかと。だが、そいつは今どこにいるのかは分からないがこれをした犯人がそいつだとは有り得ない。

 いや、7年経っているのでその考えは少し甘いかと一切合切切り捨てたソウ。

 そいつの仕業だとここに呼んだ理由もある程度理解できる。わざわざ壊れた吊り橋の所に呼んだ理由が。

 ソウの推測が正しければ今の魔法を見せつけさせたかったのだろう。

 

「向こう岸に繋がったぞ」

 

 グレイがそう言った。

 エルザは意図を汲んだのか頷いた。

「渡ってこいと言うことか」

 

「やっぱり罠かもしれないよ」

 

 レビィはまだ不安を拭いきれていなかったようだ。

 いや、皆もそうだったようで今のレビィの一言は皆の代弁をしたかのようだった。

 例外はナツとソウ。

 

「なんか怖いです………」

 

「誰だか知らねえがいってやろうじゃねーか」

 

「じゃあ、ナツからね」

 

「よっしゃ!いけー!」

 

 グレイがナツの背中を思いっきり押した。

 そのせいでナツは吊り橋の上に体勢を崩しながら行く羽目になった。

 どうにかバランスを保ちながらナツは吊り橋の上に立った。

 それをソウはナツを可哀想だと思いながら見ていた。

 吊り橋が安全かどうかナツで試しているのだ。

 

「急に押すんじゃねえ!びっくりするだろうがぁ!」

 

 ロープを掴みながら文句を垂らしてきたナツ。

 というより自分が実験材料にされているという事実は気づいているのか微妙なところだった。

 するとナツの様子がおかしくなった。

 口に手を当てて押さえていた。吊り橋にどうやら酔ったらしい。

 

「あいつ、吊り橋でも酔うのか」

 

 思わぬ収穫が入ったとグレイは思った。

 このことが他に使えるかどうか分からないが知っておいて損は無いだろう。

 何を思ったのかウェンディがソウの方を向いた。

 

「お兄ちゃんも酔うの?」

 

「いや、酔わないけど」

 

 ソウの場合は逆にその揺れも吸収しているので酔うことはない。

 一回吸収するのを止めてみたら、その時は酔ってしまったのでそれ以降は常にそうしている。

 それを聞いて一安心するかのように前を向いたウェンディ。

 ナツと同じ滅竜魔導士のソウもそうだったら天竜の私も酔ってしまうのかなとでも疑問に思ったのだろう。

 

「吊り橋野郎、なめんなよ!うぉぉぉぉおお!!」

 

 無理矢理ナツは橋の上を走っていく。

 そのせいで大きく吊り橋が揺れている。

 ナツは思いっきりジャンプをして向こう岸に着地した。

 どうだと言わんばかりにナツはこちらの方に顔を向けた。

 

「この橋…誰かが渡ると絶っ対落ちると思ってたけど…」

 

「大丈夫でしたね」

 

 こんなことを言うルーシィとウェンディはソウからしてみれば小悪魔に見えた。

 

「俺は囮かぁーーー!!」

 

「ナツのお陰で安全が確認された。皆、行くぞ」

 

 冷静なエルザの一言で皆も渡ろうとするが、ソウの番になるとルーシィに止められた。

 

「ソウは最後に来てね」

 

「え………」

 

「だって、吊り橋を魔法で揺らされたら怖いんだもん」

 

「お兄ちゃん、そんなことするの………」

 

「しないから!!」

 

 変な疑いを妹にかけられて兄は無情に叫ぶのだった。

 結果、ソウは渋々最後に渡った。

 壊してやろうかと頭をよぎったが結局止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 橋を渡った後はどんどん奥に進んでいくのだが、何もない。

 ただ、木々が広がっているだけだった。

 一行は森のなかを進んでいく。

「来るなら来やがれ」

 

「あぁ、強い相手なら特訓になる」

 

「お前…特訓のことしか頭にないのか…」

 

 グレイの冷静な突っ込みが入る。

 それほどナツは必死なんだろうということが伺えた。

 すると、エルザが急に立ち止まり後ろに止まるように合図を出した。

 前方には謎の人影が見られた。

 

「誰かいる!」

 

「皆さん、気を付けてください!」

 

 ジュビアの忠告に皆の気が引き締まる。

 するとフードを被って正体が分からないが徐々にこちらに歩み寄ってきた。

 それも3人。

 さらにソウはその内の二人には見覚えがあった。

 

「あいつら………」

 

 ナツを筆頭に皆が驚いていく。

 どうやらソウの分からない3人目の人物も知っているらしい。

 

「来てくれて………ありがとう………フェアリーテイル」

 

 3人は同時にフードを取った。

 エルザの目が大きく見開いた。何故ならそこにいたのは有り得ない人物だったからだ。

 青髪をしており、顔にタトゥーが入っている端麗な青年。

 ソウの知らない3人目だったが、顔を見た瞬間ソウでも正体が分かった。

 

「………ジェラール」

 

 エルザは男の名───ジェラールと呟く。

「変わってないな、エルザ。もう俺が脱獄した話は聞いているか?」

 

 「あぁ……」と歯切れの悪い返事をしたエルザ。どこか、上の空である。

 ジェラールの表情が暗くなる。

 

「そんなつもりはなかったんだけどな………」

 

 実際にそうであったのだろう。

 すると後ろにいた一人の女性───ウルティアが弁護した。

 ウルティアは確か、元悪魔の心臓(グリモア・ハート)の幹部の一人であったはず。

 天狼島でフェアリーテイルとは派手に対戦している。その時に悪魔の心臓はフェアリーテイルに負けてほとんど壊滅したと思われた。

 

「私とメルディで牢を破ったの」

 

 最後の一人がウルティアと同じ幹部のメルディと言う少女。

 七年前とは随分雰囲気が変わったように見られた。今では愛想の良い可愛らしい印象がある。

 

「私は何もやっていない。ほとんどウルティア一人でやったんじゃない」

 

 笑顔を浮かべながらメルディは言った。

 それに一番驚いていたのは天狼島で対戦したジュビアだった。

 今では笑顔を平気で浮かべているが会った当初は誰にも寄せ付けないオーラを漂わしていたのだ。

 

「メルディ………」

 

「ん……あ!ジュビア!久しぶりぃ!!」

 

 ジュビアに向かって手を振るメルディ。昔では想像出来なかった変貌ぶりだ。

 

「ジェラールが脱獄………!」

 

「こいつらグリモアの………!」

 

「まあ、待て。今は敵じゃない。そうだろ?」

 

 ルーシィとナツを制したグレイの視線の先にはウルティアがいた。

 ウルティアは小さく頷いた。

 

「えぇ、私の人生の中で犯してきた罪の数はとてもじゃないけど一生では償いけれない。だから、せめて私が人生を狂わせてしまった人々を救いたい。そう思ったの」

 

「人生を狂わせてしまった人々………」

 

 呟いたウェンディの視線はジェラールに向けられていた。

 ウルティアの行ったことはまずジェラールを救うことから始めたのだろうか。

 

「例えばジェラール」

 

「いいんだ。俺もお前も闇に取り付かれてた。過去の話だ」

 

「ジェラール…お前記憶が…」

 

 ウェンディと再開をしたあの時に聞かされた話のなかに記憶を失ったジェラールも出てきていた。

 その時に評議院に連れていかれて牢に入ったのだともエルザから聞いた。

 

「あぁ………はっきりしている。何もかもな」

 

 迷いもなくエルザに言ったその一言には何かが込められているような感じがソウはした。

 

「6年前。まだ牢に居るときに記憶が戻った。エルザ………本当になんと言えばいいのか………」

 

「楽園の塔でのことは私に責任がある。ジェラールは私が操っていたの」

 

 ウルティアはジェラールを庇うように言った。

 楽園の搭という所で何があったのか、ソウには詳しい事情は知らない。だが、それでもとても内容が重いことだけは分かる。

 

「だから、あまり責めないであげて……」

 

 最後にそう付け足した。

 それはウルティアの一番の望みだったのだろう。

 

「俺は牢で一生を終えるか、死刑。それを受け入れていたんだ。ウルティア達が俺を脱獄させるまではな………」

 

 その言い方だと今では考えが変わっているという風に受けとることも出来る。

 

「それって何か生きる目的が出来たってことですか?」

 

 ウェンディが素朴な疑問を尋ねた。

 ジェラールはウェンディの方を見た。

 

「ウェンディ………そういえば、君の知っているジェラールと俺はどうやら別人のようだ」

 

「あ!はい、それについてはもう解決しました」

 

 ジェラールがウェンディとの出会いのことを思い出せないのも当たり前だ。

 そもそもそんなことは無いのだから。

 ウェンディと会ったのはジェラールと言ってもこっちの世界ではなくエドラスの方のジェラールだったからだ。

 こちらの世界でいう、ミストガンのことだ。

 今ではエドラスの世界で国王を務めているだろう。

 

「それにお兄ちゃんとも会えましたし」

 

 そう言うとウェンディはソウの腕へと抱きついた。

 ソウはウェンディの頭を撫でた。

 

「君が………ウェンディの探していたもう一人の………」

 

「初めましてかな。俺はフェアリーテイルS級魔導士であり、また波動竜の滅竜魔導でもあるソウって言うんだ。よろしく」

 

「こちらこそ、よろしく頼む」

 

 ソウとジェラールはがっちり握手を交わした。

 

「ウェンディのことは………」

 

「分かってる」

 

 ソウだけに聞こえるように呟いたジェラール。

 まさか、両方のジェラールからウェンディを任せるように言われるとは思ってもいなかったことだった。

 

「で、ジェラールは生きる目的を見つけたのか?」

 

「生きる目的………そんな高尚なものではない」

 

「私たちはギルドを作ったの」

 

 ウルティアのその一言により、またナツ達に驚愕が走る。

 ソウは密かにトライのことを思い出していた。

 

「正規でもない、闇業界でもない、独立ギルド。『魔女の罪(クリムソルシュエール)』」

 

「独立ギルド?」

 

「どういうこと?」

 

「連盟に加入していないってこと?」

 

 レビィ、ハッピーを筆頭にあまり意味が伝わらなかったようだ。

 シャルルにはある程度伝わったようだった。

 

「クリムソルシュエール。聞いたことあるぞぉ」

 

「ここ数年で闇ギルドの数々を壊滅させているとか」

 

 ジェットの言うことはソウも噂程度に聞いていた。

 ただし、それがジェラール達だとは思いもしなかったが。

 

「私達の目的はただ一つ」

 

「ゼレフ………」

 

 ジェラールの一言にエルザ達は驚愕する。まさか、世界災厄の魔導士が目的だとは考えられなかった。

 

「闇ギルド………この世の暗黒を全て祓うために結成されたギルドだ。二度と俺たちのような闇に取り付かれた魔導士を産まないように」

 

「それって凄いことよね」

 

「評議会で正規ギルドとして認めてもらえればいいのに」

 

 それぞれな反応を見せたナツ達。

 グレイの言うことも一理あるが、出来ない。何故なら───

 

「脱獄犯だぞ」

 

「私達、元グリモアハートだし」

 

「それに正規ギルドでは表向きには闇ギルド相手とはいえ、ギルド間抗争禁止条例がある。俺たちのギルドの形はこれでいいんだ」

 

 ギルドの間での争いを出来る限り押さえるために出来た条例。

 ジェラールの言うとおり、正規ギルドでない方が動きやすいのだろう。

 というか、ソウは大体闇ギルドを壊滅状態に一人で追い込んでいるのだが大丈夫なのだろうかという心配になっていた。

 そんなことを心配しているのはソウぐらいだった。

 

「んで、あなたたちを呼んだのは別に自己紹介の為じゃないのよ。大魔闘演武に参加するのよね」

 

 聞かれたくないことを聞かれてしまい、ナツは「お、おう………」となんとも歯切れの悪い返事をした。

 

「会場に私達は近づけない。だからあなたたちに一つ頼みたいことがあるの」

 

「誰かのサインが欲しいとか」

 

「それは遠慮しとくわ………!」

 

 ナツは真剣な表情だったので本気でそのつもりで言ったのだろう。

 代わりにジェラールが告げた。

 

「毎年開催中に妙な魔力を感じるんだ。その正体を突き止めて欲しい」

 

 なんとも変な頼みだなぁとソウは思った。

 皆は固唾を飲んだ。

 

 

 

続く──────────────────────────────

 




コメントお待ちしてます!!\(^-^)/


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大魔闘演武編 第j話 セカンドオリジン

そろそろ本格的に始動していきます!!

───では、go!!


 妙な魔力とはまさか、ソウ達の目的と何らかの影響が関わって来ているのではないだろうか。

 それは、直接確かめてみないと何とも言えないが可能性は捨てきれない。

 

「なんじゃ、そりゃ?」

「大魔闘演武にはフィオーレ中のギルドが集まるんでしょ?」

「怪しい魔力の一つや二つ………」

「俺たちも初めはそう思っていた。しかし、その魔力は邪悪でゼレフに似た何かなんだ」

「ゼレフに似た何かだと!?」

「それはゼレフに近すぎ過ぎた俺たちだからこそ、感知出来たかもしれない」

 

 そんな微弱なものだと、ソウの魔法でも感じ取れるのは難しくなってくる。距離や魔力の種類によって難易度は変わっては来るが。

 

「私達はその魔力の正体を知りたいの」

「ゼレフの居場所を突き止める手掛かりになるかも知れないしな」

「勿論、勝敗とは別の話よ。私達も影ながらフェアリーテイルを応援しているから、それとなく探って欲しいの」

「雲を掴むような話だが請け合おう」

「助かるわ」

「いいのか、エルザ?」

 

 グレイはエルザにそう尋ねた。

 ソウとしても特に異論はなかった。

 

「妙な魔力の元にフィオーレ中のギルドが集結しているとなれば、私達も不安だしな」

 

 それは良いのだが、問題と言えば一つ浮かび上がる。

 それは修行不足だと言うことだ。

 このまま大魔闘演武に出場して恥を会うことだけはどうしても避けたい事態だった。

 

「報酬は前払いよ」

「お金!」「食費!」

 

 もはや、金に飢えてるルーシィと食べ物に飢えてるナツとハッピーが残念な人に見えてきた。

 

「いいえ、お金じゃないわ。この進化した時のアークがあなたたちの能力を底上げするわ」

 

 そう言ってウルティアが取り出したのは一つの大きな掌サイズの真珠のような球体だった。

 ウルティアはこれを使い、時を操る魔法を使うのだ。

 

「パワーアップと言えば聞こえはいいが、実際はそうじゃない」

 

 そして、ウルティアによる説明が始まった。

 魔導士にはその人の魔力の限界値を決める器のような物がある。

 例えその中が空になったとしても、大気中のエーテルナノを体が自動的に摂取してしばらくすれば元に戻るらしい。ただ、最近の研究によるとどうも、いつもは使われていない部分があると判明した。

 それが誰もが持っている潜在能力“セカンドオリジン"らしい。

 

「セカンドオリジン?」

「時のアークがその器を成長させセカンドオリジンを使える状態にする。つまり今まで以上に活動時間が増やし強大な魔法を使えるようになる」

 

 それはなんという奇跡なのだろうか。

 こんな都合の良い話が回ってくるとは思いもしなかった一同は歓喜の声を上げた。

 

「おぉ!全然意味分かんねぇけど」

「ただし!想像を絶する激痛と戦うことになるわよ!」

 

 ウルティアの目が光った。

 

「はわわ………」

「目が怖い………」

 

 ウェンディとレビィが怯えている。

 ナツはそんなの問答無用にウルティアに抱きついた。

 

「構わねぇ!ありがと!ありがと!どうしよ、だんだん本物の女に見えてきた」

「だから女だって!」

「まだ引きずっていたのか………」

 

 ナツが初めてウルティアと会ったとき、ウルティアは老人の姿をしていたようでその時の事がまだ根に残っていたらしい。

 

「ソウ、どうするの?」

「まあ、一応損は無さそうだからやってみるよ」

 

 頭の上にいるレモンが尋ねた。

 ソウもセカンドオリジンとやらを体感してみることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 時は夕刻。

 場所は砂浜に移り、早速セカンドオリジンを開放するための魔法をウルティアにかけてもらうことにした。

 一番と名乗りを上げたのはナツだった。

 性格からしてそう来るだろうと思っていた皆は譲ることにした。というか、その激痛とやらを見てみたかったようだ。

 

「うがあぁぁぁぁぉぁぁ!!!」

 

 それは悪い方向に一回り上回るものだった。

 砂浜に寝転んでいるナツは手を空に上げて、苦しそうに抗っていた。

 嗚咽を洩らしそのまま暴れまわる姿は見るに耐えない状況だった。

 

「服脱がなきゃ………魔方陣かけてもらえねぇのかな………?」

「あんたがそれ、心配しなくてもいいんじゃない…………」

 

 どうでも良いことをグレイが呟く。

 グレイは常にと言っていいほど裸なので気にすることはなかった。

 

「頑張って、潜在能力を引き出すのは簡単じゃないの」

 

 必死に耐えるナツ。

 一体どんな激痛が走っているのか想像したくない。

 

「ちょっと、あれ、大丈夫なの………?」

「どんだけの痛みなんだよ………!」

「感覚リンクしてみる~?」

「ふざけんな!」

 

 冗談混じりにメルディが言った。

 遠くから見ていたジュビアは冗談も言えるようになったんだと感心していた。

 

「私達もあれやるの…………?」

「泣きそうです!」

「って、泣いてるじゃない」

「服、引っ張りすぎだって」

 

 ソウを挟むようにしてウェンディとレビィが見ていた。

 二人ともソウの服の袖を掴み思いっきり引っ張りすぎているのだ。

 ウェンディに至ってはほとんどソウに抱きついている。

 

「俺たちには関係ねぇし………」

「帰ろうかなぁ………」

 

 ドロイとジェットは忍び足でその場を退散していく。

 

「ナツ………」

 

 不安そうに見守るハッピー。自分の相棒がこんな姿になっているのでとても心配しているのだろう。

 シャルルとレモンが誰かを探しているのか辺りを見回した。

 

「そういえばエルザは?」

「どこ行ったの?見かけないね」

「ジェラールと二人でどこかに行ったよ」

 

 ハッピーの返答に反応したのはジュビアだった。

 

「二人で!そういうことならジュビア達も!」

「どういうことだよ………」

 

 ジュビアに何処かへ連れていかれそうになるグレイ。

 一部始終を見たメルディが一言。

 

「やっぱり、恋は進展してないのね………」

「エルザ………」

 

 ルーシィは呟いた。

 今、二人はどこに行ったのだろうか。

 

「お兄ちゃん………」

「どうした?」

「手………握っていい?」

 

 ナツの苦しむ姿を見て、今から自分もあれを受けないと考えたら嫌になってきたのだろう。

 それにウェンディはまだ少女だ。

 だけど、強くなるためには通らないといけない試練でもある。

 そんな妹の少しでも役に立てるのなら兄としての本望という奴なのか。

 ソウは即答でこう返した。

 

「いいよ」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 そして、セカンドオリジンを使えるようにするための苦痛が始まった。

 小屋の中では必死に激痛に耐えるナツ達の姿が確認された。もがきあがき苦しむ姿は、見るに耐えない光景だ。

 その中でソウは隣で激痛と戦っているウェンディを見守っていた。

 というのも何故か、ソウと外にいるエルザは特に何事もなく平気な様子でいた。彼にとっては案外その痛みとやらは感じなくなっており、思わず小首を傾げたほどだ。

 ウェンディは激痛に襲われながらもしっかりとソウの手を握っており、心の支えとしていた。

 外にいるエルザはジェラール達と別れの挨拶をしている。

 

「お陰様でソウ以外は動けそうにない」

「なんで、あんたとソウってやつは平気なのよ………」

 

 普通なら激痛が襲うはずだが何事もないようにエルザは堂々と立っていた。

 

「ギルドの性質上、一ヶ所に長居は出来ない。俺達はもう行くよ」

「大魔闘演武の謎の魔力の件、何か分かったら後で報告して」

「了解した」

「競技の方も影ながら応援しているから、頑張って頂戴」

「本当は見に行きたいんだけどね~」

「変装して行く?」

「止めておけ。それじゃあ行くぞ、去らばだエルザ」

「バイバ~イ」

「皆によろしくね───グレイのこともお願いね」

 

 別れの言葉を言うとジェラール達は何処かへと歩き出した。

 エルザはそれをただ見つめているだけだった。

 一度ジェラールが振り返るがすぐに前を向いた。エルザはにっこり微笑んだ。

 姿が見えなくなると夜風がエルザの髪をなびかせた。

 近い日にまた会える。エルザはそう思った。

 エルザは砂浜を歩き出した。

 思い出すのは、ジェラールから告げられた衝撃の事実。

 婚約者がいるということ。

 二人で話しているときに言われたので知っているのはエルザだけだった。

 が、それも嘘だとはエルザには分かりきっていた。ジェラールは昔から嘘をつくのが下手だった。それは今も変わらないことだった。

 自分とジェラールの関係はこういうもので良いんだと自分に言い聞かせたエルザ。

 

「見てみて、エルザ」

 

 近くにいたハッピーがエルザを呼んだ。

 どうやら、枝を使って砂に何かを書いていたようだ。

 ハッピーはエルザに見せるようにその場を一歩横に移動して両手を口元に当てた。

 

「プププ………」

 

 そこに書かれていたのは中央に大きな亀裂が入ったハートだった。

 つまり、失恋の意味を表している。

 というよりも、それを書いた本人が完全に嘲笑している態度にムカついた。

「あいさぁぁぁぁーーーー!!」

 

 次の瞬間、ハッピーはエルザに蹴飛ばされて大きく飛んでいった。一瞬、空が光ったような気がした。

 ふぅーーと取り敢えず一安心したエルザ。そこに別の誰かがやって来た。

 今、まともに動けるのはエクシードとエルザ、それにソウぐらいだ。

 

「こんなところにいたのか、エルザ」

「ソウか、皆はどうしたんだ?」

 

 ソウだった。

 既にまともに動けるソウは小屋の皆の様子を見ていたはずだったのだが、様子を見て外に出てきたようだ。

 

「まあ、峠は越したみたいで一先ずは落ち着いたって所か」

「そうか」

「エルザ、俺とレモンは明日にはギルドに戻っておく」

「どうしてだ?」

「マスターと話があるからな」

「………分かった。だが、ウェンディはどうする?」

「連れていくつもりだったんだけどな………今の状態じゃあ流石に無理だろうし、俺の方も急用だから後で皆と一緒に来てくれたら大丈夫だと思う」

「いつ、ギルドには戻るのだ?」

「明日の朝早くから行くつもりだ。皆にはエルザの方から伝えて欲しい」

「了解した」

 

 用件はそれだけだったようでソウはまた小屋の方へと戻っていった。

 峠を越したと言ってもまだ痛みは続くようでソウはウェンディの支えとなるために戻ったのだろう。

 

「お前はまた………いつものことか」

 

 ソウが勝手にふらりといなくなることは日常茶飯事とも言える。故にこんなことをあらかじめ言っておくのは珍しいことだった。

 大魔闘演武を目前にマスターに話があると言っていたがソウのことだからまた、ろくでもない話なんだろうとエルザは思った。

 

 ───大魔闘演武まで後、少し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 早朝。

 小屋の中では激痛から逃れて体の力が一気に抜けたのか、ナツ達はぐっすりと眠っていた。

 小屋の外の砂浜ではソウが朝日に照らされた静かな海面を眺めていた。

 動き出す時がついにきたのだ。

 ソウの背後に近づく影が一つあった。

 

「ソウ、準備できたよ」

「なら、行きますか」

 

 レモンはいつもの場所───ソウの頭の上へとエーラを使い、ポンと乗った。

 ソウは背中を海に向けて歩き出した。

 

 

 

 しばらくしてソウとレモンは懐かしのギルドへ戻ってきていた。

 扉を開けて中に入ったソウに一番に話しかけたのはマックスだった。

 

「ソウとレモンじゃないか。先に帰ってきたのか?」

「まあな。マスターに用があってな」

「マスターなら裏庭にいるぜ」

 

 ソウは「サンキュー」とマックスに軽く礼を述べながらソウはギルドを出て裏庭の方へと回った。

 すると、切り株の上にマスターが座っているのが目視で確認された。

 辺りに誰もいないことを確認してから、ソウはマスターに話しかけた。

 

「マスター、ちょっと良いですか」

「む………ソウか……そういえばそうじゃったのう………」

「はい」

「大魔闘演武に出場して欲しかったのじゃが、仕方ない。約束だからのう………」

 

 そう言うと、マスターはソウの背中へと手を伸ばした。

 そして、背中に浮かび上がっていた紋章が消えた。

 次にレモンの紋章を消した。これでフェアリーテイルの魔導士を証明する証がなくなった。

 

「ソウよ、ウェンディのことはどうするのだ?」

 

 その質問はエルザにも言われていた。

 周りの認識はそうなっているのだろうか。

 

「ギルドの皆がいるから大丈夫かと」

 

 今回はあの時とは違い、妖精の尻尾の皆がいる。

 寂しさは仲間が埋めてくれる。

 これが最後の兄としてのわがままだと思って妹には理解してほしい。

 

「後、これをお願いします」

 

 ソウが取り出したのは二つの手紙だった。

 さすがにまたなにも言わずに消えるのはあれだろうと思い、今回はちゃんと準備していた。

 

「皆へのと、後、ウェンディへのと二個ありますので」

「分かった。預かろう」

 

 マカロフはソウから手紙を預かる。

 

「ギルダーツの真似事か?」

「まあ、そんなところです。じゃあ、そろそろ失礼します」

「またね~、マスター」

 

 レモンは尻尾を振り別れの挨拶をした。

 妖精の尻尾を去るのは名残惜しいがそれでもまた、戻るので気にすることはなかった。

 

「ソウ、もしや大魔闘演武に出場する気なのか?」

 

 ソウは振り返るが、ただ何も答えずに笑みを浮かべただけだった。

 マカロフも何も言わなかった。

 またソウは歩き始めた。

 今はまず、大魔闘演武での自分達の目標を果たすことだ。

 

「皆、驚くかな~?」

「驚いてもらわないと困るね」

 

 じゃないと、面白味がないってことになる。

 目指すはあのジュン達が待っているであろう草原だ。

 

 

 

 

 ◇

 

 数時間後、ナツ達が合宿から戻ってきていた。

 ソウがいないことはエルザからちゃんと言い渡されている。その時、ウェンディは不服そうだったが。

 セカンドオリジンを開放した皆は体に力が入らず、ギルドに着いた時点で既に疲労困憊になっていた。

 色々3ヶ月の間に皆はしっかりと鍛えていたみたいで特に変わったのがエルフマン。筋肉がより付いていて大きくなっていた。

 中には好き嫌いなくしたとか、高所恐怖症を克服したとか、ホラー小説全巻読み終えたとかどうでも良いことをしている奴もいる。

 

「では………大魔闘演武に出場する代表メンバー五人を発表する」

 

 ついにこの時がきた。皆に緊張が走る。

 ギルド内は静寂に包まれているが、誰もが闘志を秘めていたように感じられた。

 

「ナツ!」

「おっしゃーー!!」

「グレイ!」

「当然」

「エルザ!」

「お任せを」

 

 ここまでは皆の想定範囲といったところだろうか。

 本題は後、残り二枠が誰の手に渡るということかだった。

 

「ま、この三人は順当なところね」

「残るは二枠だね」

「ここで選ばれてこそ、漢!」

 

 ミラとリサーナは当然のような態度で待ち構えていた。エルフマンはがっちり拳を握りしめた。

 ジュビアはというと、グレイと離れるのが嫌だとかなんとか心の中で思っていた。

 

「後、二人は………」

 

皆は固唾を飲んだ。

 

「ルーシィとウェンディじゃあ!」

「「ええ!!」」

「無念……」

「そう来たか………」

 

 まさか、自分が選ばれるとは夢に思わず油断していた二人は驚愕した。

 エルフマンは男泣きをして、マックスは頭を掻いた。

 ジュビアはというと、グレイと別行動になることなんて有り得ないとかなんとか思っていた。

 ウェンディがマスターに急接近して訴えた。

 

「無理ですよ!ラクサスさんや、ガジルさん、それにお兄ちゃんだっているでしょ!」

「だって………まだ帰ってこないんだもん」

 

 ソウは既に帰ってきてまた、出掛けたので帰っては来ないだろう。

 ラクサスとガジルは特訓からまだ帰ってきていないので勝手に選ぶわけにもいかなかった。

 エルザはルーシィの肩に手を置いた。

 

「マスターは個々の力より、チーム力で判断したんだ。選ばれたからには全力でやろう」

「うん。そうだね」

「はい、頑張らなきゃ!」

 

 もはや、変えられない事実なのでルーシィとウェンディは受け入れることにした。

 マスターが俯き、静かに呟く。

 

「ガチで挑むなら、ギルダーツとラクサスとソウが欲しかったなぁ…………と思ったり」

「「口に出してんぞぉ!!」」

 

 ナツとグレイが同時に突っ込む。

 それは心の中だけで言ってほしかった。聞きたくない内容だった。

 

「皆!この大魔闘演武はフェアリーテイルの名誉を取り戻す絶好の機会だ。フィオーレ最強と言われているセイバートゥースを倒し、我らフェアリーテイルがフィオーレ一のギルドになるぞ!」

 

 エルザが全員に呼びかけた。それにより皆の気持ちがひとつになる。

 と、ここでグレイがあることに気づいた。

 

「そういえば、ソウはどこにいるんだ?」

「先に帰るって言ってたようだけど」

「ギルドにいないね」

 

 ハッピーは辺りを見回してソウがいないことを確認する。

 

「ソウなら一度、帰ってきたぜ。マスターに用があるって言ってからは見てないけどな」

 

 答えたのはマックスだった。

 皆の目線がマスターの元に集まる。

 

「皆に言わなければならぬことがある」

 

 マスターがゆっくりと話を切り出した。折角、盛り上がって来たところに釘を差すような真似をするなど普段ならマスターはしないのだが、相当大事なことらしい。

 

「ソウとレモンはこの度、フェアリーテイルを一時抜けることになった」

 

 よく意味が理解できなかった。

 

続く─────────────────────────────

 



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第k話 花咲く都

そろそろ開催まであと少しと行ったところでしょうか。
因みにこの話では、ソウが密かに痛い目に遭っています。

───では、出発!!


「「「「「「「な………!」」」」」」」

 

 その事実は大魔闘演武の出場メンバーが発表された時よりも衝撃的だった。

 さすがのエルザもこれには驚かずにはいられなかった。

 

「じっちゃん!どういうことだよ!ソウが抜けるって!」

「それって破門か!」

「なんで、お兄ちゃんが!」

「落ち着くのじゃ。わしもしたくはなかったのじゃが………」

「なら、なんでだよじっちゃん!」

「待て、ナツ。今、マスターは一時と言った。つまり、これはソウが自分から言い出したことなのでは?」

「その通りだ、エルザ。これはソウの方から切り出してきた話じゃ」

 

 意味が分からなかった。

 つまり、ソウはフェアリーテイルを自分から抜け出したということになるのだ。

 

「そのソウから手紙を預かっておる」

 

 マスターは二つある手紙を取り出して、一つを広げた。

 そして、もう一つはウェンディの方へとミラに持っていってもらった。

 

「さてと………なんて書かれておるかのう」

 

 マスターは手紙を読み始めた。

 内容はこうだった。

 

『今、この手紙が読まれているということは俺がフェアリーテイルを抜けたってことをマスターから知らされたことを知った後になるのかな。まあ、そんなことは良いとして本題に入ろうか』

 

「そんなことって………」

「ふふ……ソウらしいわね」

 

 ギルドを抜けたことをたったの一言で切り捨てたことにルーシィは呆れてミラは納得していた。

 話はまだ続く。

 

『今、お前達は俺がなんでこんなことをしているんだろうかって思っているだろうな。特にナツとかはマスターに詰め寄ってるんじゃないのか?』

 

「合ってる………」

「そんなに驚くところじゃないでしょ」

 

 ハッピーは驚いていた。でも、ナツの性格からして次の行動を読むのはシャルルでもやろうと思えば出来ることだった。

 

『普段ならこうして書くこともないんだけど、今回はあれだ。心配性の妹のこともあるから書いたんだけどやっぱりこういうのは馴れないな』

 

「私、心配性じゃないです!」

 

 ウェンディが顔を赤らめながら言った。

 

『まず、いつものことだが俺自身の目的に沿って行動しているんだけど、今回はどうしてもギルドの魔導士だと都合が悪くなるからマスターには無理を言って聞いたもらったんだ』

 

「先に言えよ!」

「もう私は驚かないわよ」

 

 グレイは先に言わないことに突っ込み、ルーシィは謎の決意を示していた。

 

『その目的が何なのか知りたいようだけど、こちらも素直に教えるわけにはいかない。なので、俺はある提案をすることにした』

 

「提案?」

「なんでもかかってこいやぁ!」

「なんで喧嘩腰なんですか………?」

 

『それは俺に何でも良いから勝つことが出来たら教えてあげるという提案だ。勝負の内容は何でも良い。一回でも良いからお前らが俺に勝つことが出来たら教えてやってもいいぞ』

 

「一回でも勝てばいいの………!」

「でも………あのソウだよ………何の勝負をしたら勝てる見込みがあるのか分からないよ………」

「それにだ、今ソウが何処にいるのかも分からん。勝負の仕様がない」

 

 ルーシィは少し希望が湧いてくるがハッピーの現実味のある指摘に何も言えなかった。

 ソウが負けている所は見たことがない。

 それにエルザのいう通りだった。

 本人が居なければ、勝負することすら出来ないのだ。

 だが、それは手紙の続きによってひっくり返されることになる。

 

『お前らと対戦することになる日はすぐ近くになるだろうから心配する必要はないと思うぞ。俺の分まで大魔闘演武のことは頑張ってくれよ』

 

 最後にそう締め括られて手紙の内容は全て読み終えた。

 残っているのはウェンディの手にある手紙だった。

 ルーシィが横から覗きこむ。

 

「ウェンディ、それ読むの?」

「お兄ちゃんからの手紙ですので、読んでみます」

 

 ウェンディはゆっくりと手紙から紙を取り出して広げる。

 内容はウェンディに向けた謝罪文だった。

 

『先に一言だけ、ごめん。どうしてもウェンディを連れていくわけにはいかないんだ。帰った時には好きにしてくれて構わないから、兄のわがままを聞いて欲しい。俺も大魔闘演武の方は見に行くと思うからウェンディがそこに出ることになったら、俺も応援に行く。だからフェアリーテイルの皆と頑張ってな』

 

 短い文章だったが、それだけでもソウの言いたいことはある程度伝わってきた。

 

「ソウにウェンディは強くなったって見せつけてやる機会じゃない、ウェンディ!」

 

 ルーシィはそう言った。

 大魔闘演武で自分の成長した姿を見てもらえれば兄に見直して貰えるかもしれない。一緒に仕事に連れていってもらえるかもしれない。

 これはある意味、チャンスだった。

「はい!私が強くなったって証明してみせます!」

 

 ウェンディは決意した。

 各々が様々な思考に巡らせている中、エルザは難しい顔をしていた。心の中で先程の手紙のことを考えていたのだ。

 近い日の内にと書いてあったが、何故ソウにはそれが分かったのだろうかという密かな疑問だった。ソウだからと言えば、そうなのだが今回は妙に引っ掛かる。

 だが、エルザには幾ら考えても思い付かなかった。

 

「敵わないな………」

 

 エルザは誰にも聞こえない声で呟いた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 その頃、ジュン達は草原でのんびりしていた。

 

「まだ~?」

 

 先程からすることがないサンディーは色々と暇をもて余していたみたいだが、それも底がついたみたいだった。

 今は岩に座り、足をぶらぶらとしている。

 

「もう少しで来るんじゃないかな?」

 

 答えたのはアール。サンディーの隣に座り、両手を岩に支えて空を眺めている。

 

「なあ、ソウも強くなってると思うか?」

 

 ジュンはアールに問いかけた。

 アールは空を見上げたまま答えた。

 

「強くなってると思うよ。僕達と同じくらいにね」

「私もようやく滅竜奥義を修得出来たし、ルーズも覚えたもんね」

 

 岩にもたれ掛かっているルーズは閉じていた両目の内、片目を開けてサンディーを見た。

 そして、また目を閉じた。

 

「そうね………」

「それに俺だって、新たな魔法覚えたんだぜ」

 だいぶ、時間がかかってしまったがようやく自在に扱うレベルまで達することが出来た魔法。

 使うのはまだ、先だが強力な魔法になることは間違いなかった。

 

「ソウが来たわよ」

 

 ルーズはそう言うと、ある方向を指差した。斜め上。空。

 皆がそちらに視線を向けると一人の青年とその上に猫がいた。

 ソウとレモンだ。

 近くに着陸すると、二人はこちらへと歩み寄ってくる。

 

「待たせたか?」

「いや、全然」

 

 アールは笑顔で答えたが………サンディーの不機嫌さから見るに相当、待っていたのだろうと思われる。

 

「それじゃ、行くぞ」

「ちょっと待って。ソウはまだ紋章押してないよ」

「そうだったな」

 

 いきなり行動に移るジュンを止めたサンディー。

 

「紋章まで作ったのか?」

「なんでも、ギルドを作るのにいるらしくてね」

「へえー、すごいね」

 

 レモンが言い終わると同時に師匠が唐突に出現した。相変わらず気配をまったく感じない。

 

「ソウ、これが紋章じゃ」

 

 師匠はスタンプをどこからか取り出してソウの右手に押した。

 魔法によって別空間から引き寄せたのだろう。

 次にレモンの背中に押した。

 トライデントドラゴンのギルドの紋章はシンプルにも三首の竜が描かれていたものだった。

 このほうが分かりやすくて良いだろう。

「気を取り直していくぞー!」

 

 ジュンのその一言により、トライのメンバーは動き出した。

 目指すは花咲く都“クロカッス”だ。

 

 

 

 

 ◇

 

 都“クロカッス”。

 

「「うわぁーー!」」

 

 目的地に着くなり、レモンとサンディーは感嘆の声を上げた。

 見たことのない大きな都市部は大魔闘演武が開始間近なこともあり、賑わっていた。

 

「ねぇねぇ、ジュン。あそこ行こー!」

「おいおい、ちょっと待てよ」

 

 すっかり興奮状態に陥っているサンディーをジュンは必死に押さえていた。

 

「こんなに大きな所は僕も初めてだよ」

「俺も想像以上だ」

 

 辺りを見回しているソウとアール。

 ルーズは大人しく歩いているだけだが、何かが気になるのか先程から何度も視線をキョロキョロさしている。

 

「どうする、ソウ?ルーズも限界みたいだし」

「な!………何が限界なのよ!」

 

 思わぬことを指摘されて顔を真っ赤にしながら否定するルーズ。

 けれど、街中を回ってみたいとにぎやかな音が聞こえるたびに体の方が反応している。

 

「とりあえず登録してからだな」

「その必要はもう不要じゃ」

 

 また、いきなり現れた師匠。

 来る途中にいきなり消えたと思ったら今度は現れた。

 

「登録済ませておいたからのう、ほいこれ」

 

 そう言い師匠の手から渡されたのは辞書並みの分厚さを誇る巨大な本だった。

 試しに幾らか捲ってみるとどうやら、大魔闘演武の説明書らしい。が、分厚すぎると思う。

 

「これ、読むの………」

 

 サンディーが嫌そうな顔をする。誰だってこんなものを読む気にはなれない。

 

「仕方ない、俺が読むよ」

 

 渋々、リーダーでもあるソウが引き受けることになった。

 ソウは早速ページを開き、大事そうなところだけを探してみる。

 

「えーーと……ギルドマスターが出れないのは知っている………種目は毎年不明で、一貫性もなさそうだ。あ、これはいる」

 

 そんなことよりもサンディーは先程から花屋に目をつけていた。

 ルーズもそわそわしている。

 

「12時まで───夜のことだろか、取り合えず12時までにそれぞれ指定された宿にいることだってよ」

「なあ、ソウ。俺行ってきていいか?サンディーがうるさいし」

「あぁ。12時までには戻ってこいよ」

 

 ソウの忠告に「分かった」と言うとジュンはサンディーに引っ張られながらもどこかに走っていった。

 仲のいいものだ。

 

「宿は確か、宝石の肉(ジュエルミート)だったね」

「アールも行ってこいよ」

「ありがとう、そうしてもらうよ。ルーズ行くよ」

「私は別に行きたくなんかないわよ」

「じゃあ、僕に付き合うってことで」

「………仕方ないわね」

 

 素直になれない子を見るのは大変そうだとソウは思った。

 というより完全にルーズはアールに操られているのではないかと思ったほどあっさり二人もクロカッスを観光していった。

 

「妾もちょっくら用事を済ましてくるわい」

 

 師匠は一瞬で消えてしまった。取り残されたのはソウだけ。

 

「一人だね」

「さびしいな………」

 

 そういえば、頭上にレモンがいることを忘れていた。

 ウェンディを連れて来たら今頃はあいつらみたいに楽しんでいるのだろうかと思ったソウ。

 あの時、連れてこなかったことがここで後悔するとは思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 一方、ソウが一人で勝手に後悔している時ジュンはサンディーに引っ張られてクロカッスの街並みを回っていた。

 こういうところは滅多に行かず、またサンディーは女の子ということもあるのでテンションがもう既に最高潮というところまで迫っていた。

 一方のジュンはただ、サンディーの後をついていくだけだった。

 その姿はまるではしゃいでいる娘を微笑ましく眺めている父親のようだった。

 勿論、ジュンにそんな自覚はない。

 

「あ!ジュン、あの人って」

 

 通路を歩いているとサンディーが誰かを見つけたようで指差した。

 そこには黒髪の青年が、青髪の毛をした女性と白髪の青年の三人で話していた。

 黒髪の青年にはジュンは見覚えがあった。

 

「あいつは確か…氷の魔導士だったな」

 

 どうにも記憶が曖昧でよく分からないが、離れたところにまである程度会話が聞こえてくる。

 

「グレイだよ、ジュン。んで、あの女性がフェアリーテイルのジュビアで、もう一人がラミアスケイルのリオンだったかな。いつかの週刊誌に載ってたよ」

 

 相変わらずこういうことはよく覚えているサンディー。

 グレイは氷の造形魔導士だとソウから紹介を受けた覚えがあった。

 ジュビアという女性は知らない。

 向こうは覚えているかどうかは分からないが今は会うわけにはいかなかった。

 というより、向こうの会話がここまで聞こえてくる。

 

「大魔闘演武に出るんだってな、グレイ。まあ、優勝するのは俺達ラミアスケイルだがな」

「万年、二位だったんだろ」

 

 すると、グレイとリオンが頭をぶつけ合った。仲は悪いみたいだ。

 

「お前らは万年最下位。うちらは去年まで俺やジュラさんが参加してなかったのに関わらず二位。この意味分かるよなぁ?」

「こっちにもエルザっていう化け物がいるのを忘れてんじゃねぇだろうな!」

「一つ賭けをしよう。ラミアスケイルが優勝した暁には………ジュビアは俺達のギルドが貰う!」

「なんじゃそりゃあ!」

 

 思わず突っ込むグレイ。隣のジュビアも狼狽えていた。

 はぁ………とグレイはため息をついた。

 第三者のジュンとサンディーにとってはどうでも良い話になってきた。けれど、サンディーは面白そうなのか固唾を飲んで見守っている。

 

「俺達が勝ったら………」

「ジュビアをお前たちに返そう」

「元々、俺達のギルドだよ!」

「男と男の約束だ。忘れるなよ、グレイ」

「賭けになってねぇだろうが!ふざけんなぁ!」

 

 まあ、グレイの言う通りだと思う。フェアリーテイルが勝利しても何も得がないのだから。

 そんなのは関係ないのか、サンディーの目は何故かより輝く。そして、頬を少し赤らめた。

 

「負けるのが怖いのか?」

「なんだと………!」

 

 リオンの挑発的な態度にグレイも負けじと応戦する。

 二人の間に火花が散っている。

 その間に入ったのはジュビアだった。

 

「グ、グレイ様!ジュビアを取るか、リオン様を取るかハッキリしてください!」

「お前………全然、話見えてねぇだろ……」

 

 ジュビアが的はずれなことを言った。

 ジュンはこれ以上、ここにいると気づかれる恐れがあると判断し、サンディーに声をかける。

 

「行くぞ、サンディー」

「挨拶しないの?」

「オレ達がここに来ていることはバレてはいけないんだ。特にフェアリーテイルには」

 

 もし、見つかった場合はソウが何処にいるのか問い詰められるかもしれないからだ。

 納得してくれたのか頷いたサンディーは進行方向を変えた。

 

「後でソウにも言っておくか」

 

 フェアリーテイルの奴等もしっかり大魔闘演武に参加しに来ていると伝えることにしたジュンだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 しばらくしてソウはトライの指定された宿、宝石の肉(ジュエルミート)へと来ていた。

 レモンは途中、アールを捜してくるとか言ってエーラで飛んでいった。

 部屋のなかは広いが、ベッドが合計で六個も引かれているので狭く感じる。雰囲気はなかなかよい。

 となると、ここで皆一緒に寝ろと言うことなのだろうか。そうなると男子はいいのだが、女子のサンディーとルーズがどんな反応をするのか、気になるところだった。

 サンディーはあまり、そういうのは気にしなさそうだがルーズは思いっきり拒絶しそうで少し危ない気もする。その時はアールがどうにかしてくれるだろう。

 ここで、ソウは魔法を軽く発動してみた。罠とか調べられているのかどうかを確かめているのだ。

 結果、特に異変は見られず一安心したソウ。

 次にしたのは師匠から貰った大魔闘演武のルールブックを読むことだった。

 

「風詠みの眼鏡が欲しい………」

 

 この時に風詠みの眼鏡があれば、もっと素早く読めたのだが無いものはしょうがないと諦めることにした。

 詠み進めていく内に気になるルールを発見したソウ。

 

「へぇ~………同じギルドから二つのチームが出れるのか。二つ以上のチームが決勝に残った場合には新ルールも出てくるようだな」

 

 このルールは本に記されている限りでは、今回から採用されたようだった。

 フェアリーテイルもこれを隅なくとことん使ってくるだろうと思われる。

 ナツ達のチームとは極秘に別のチームを結成して大魔闘演武に参加してそうだ。マカロフの事だ。可能性は充分にあった。

 トライもしたかったが、なんせ五人しかいない。リザーブ枠も今はひとまずレモンで登録しているという何とも過疎なギルドなのだ。

 その代わり、メンバー全員が滅竜魔導士という有り得ない構成なのだが。

 

「暇だ………」

 

 遊びに行って誰かに見つかるわけにもいかないし、宿にはすることは何もない。

 ソウはただ一人で暇をもて余しているのだった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 アールは現在、ルーズを連れて歩いていた。

 街中は花咲く都と言われるほど、大量の花が飾り付けられていた。

 

「ねぇねぇ、アール。この花、綺麗じゃない?」

 

 ルーズは花屋で黄土色の綺麗な花を指差した。

「そうだね、綺麗だね」

 

 繰り返すように返事したアール。それに違和感を感じたルーズは聞いた。

 彼は別の方向を向いていた。

 

「どうしたの?」

「ちょっと、あっちの方が騒がしくてね」

 

 アールの視線の先には、人だかりが出来ていた。中央に誰かが居るみたいだが人が邪魔でよく見えない。

 だが、彼は何が原因なのか分かっている様子だ。

 

「あの騒ぎの原因は多分、滅竜魔導士みたいだね」

「なんで、分かるの?」

「匂いでね」

 

 アールは嗅覚が人一倍優れているのもあり、分かっているみたいだが、ルーズには全く分からなかった。

 取り敢えずそっちに行ってみようとアールが行ってしまったのでルーズもその後を追いかける。人混みを掻き分けて、騒ぎの中心を覗く。

 そこにいたのは、二人の青年。一人は黒髪の暗い青年。もう一人はピアスが特徴な白髪の青年。

 周りにはうつ伏せに倒れている人達がいた。どうやら、あの二人が倒したみたいだ。

 すると、そこに一人の赤髪の少年が倒れるようにして乱入した。その人はアールにも見覚えがあった。

 

「あれはナツ君だね」

「あぁ………騒がしい人のことね」

 

 ルーズの印象は合っているが、何とも言えない。アールは近くに二匹の猫がいることに気付いた。レモンと同じ種類のようだ。 カエルの着ぐるみをきた猫と赤色の偉そうな態度の猫。

 

「あんたは……」

「ナツ・ドラグニル!」

 

 はっきりとは聞き取れなかったが、あの二人はナツのことを知っているようだった。

 滅竜魔導士同士対面すると、勿論猫の方も顔を会わせるわけで。

 

「猫ぉ!」

「な!……なんですか!?この間抜けな顔をした猫は!」

「間抜け」

「しゃべったぁぁぁーーー!」

 

 後から来たルーシィがこれに突っ込むべきかどうか悩んでいた。

 

「アホじゃない………あの猫達」

「まあまあ、それ言ったら終わりだよ」

 

 ルーズの強烈な指摘にアールは微妙な感情に陥っていた。

 

「何なんだよ、お前ら」

「おいおい、セイバートゥースの“双竜”スティングとローグを知らねぇのか?」

「フィオーレ最強ギルドの一角だぜぇ」

 

 野次馬の二人が答えた。

 ナツはおろそか、アールとルーズにも聞き覚えがなかった。

 

「そんなの居たかな?」

「七年の間に出てきたんじゃない?」

 

 まあ、ルーズの意見が妥当といった所か。

 

「じゃあ、この人達が………」

「………セイバートゥースか?」

 

 ナツとルーシィは呟いた。

 セイバートゥースは師匠からその存在だけは言われていた。七年の間にトップに昇ったギルドだったはずだ。どれほどの実力かは知らないが相当の物らしい。

 

「強いのかな?」

「アールに勝てるとは思わないわ」

 

 アールの実力は最早、師匠の次に強いとさえされている。トライの中ではソウとアールの実力は均衡。ジュンも殆ど僅差といっていいほどの実力者。ルーズにはアールが負ける所は想像出来なかった。

 

「大魔闘演武に出るって噂、本当だったんだのか」

「俺のこと、知ってるのか?」

「アクノロギア。ドラゴンを倒せなかったドラゴンスレイヤーでしょう。それってドラゴンスレイヤーの意味あんの?」

 

 まるで挑発しているかのような口調で話すスティング。これにはナツも少し怒り気味だ。

 

「これでも昔はあんたに憧れていたんだぜ。因みにこいつはガジルさん」

「同じドラゴンスレイヤーとして気になっていただけだ」

「ドラゴンスレイヤー!?お前ら、二人とも!?」

 

 やはり、彼らはアールの予想通り滅竜魔導士だった。

 アールは別のことを考えていた。

 

「僕にもファンとかいるのかな?」

「いないわよ」

 

 ルーズに即答されて、少し落ち込んだアール。

 ルーズは隣のアールにも聞こえない微弱な声で呟く。

 

「となると私は第一号一人なのよね………」

「ん?何か言った?」

「え………何もないわ………うん」

 

 危うく聞かれそうになり、ルーズは顔を真っ赤にして横に振った。アールは不審に思ったのか首を傾げたが、また前を向いた。

 

「真のドラゴンスレイヤーって言ってくんねぇかなぁ。俺達ならアクノロギアを倒せるよ」

「あんた達!アクノロギアの見てないからそんな事が言えるのよ!」

 

 曰く、アクノロギアと遭遇しているソウも感想が「あいつを倒すとなると三人でもキツイなぁ………」と言っていた。

 彼がそれを口にするのは、相当ヤバイということになる。

 

「そうだ!そうだ!」

「頭の悪そうな猫ですねぇ」

「レクターは頭、良いよねぇ~」

 

 こっちはこっちで猫同士の言葉の争いが始まっている。

 

「見たかどうかは関係ない」

「要はドラゴンスレイヤーとしての資質の差!」

 

 ローグの確信めいた一言に疑問が浮かぶアール。一体、どういうことなのだろうか。

 二人は騒動をこのまま静観することに決めた。

 

 

続く───────────────────────────

 




区切りが悪いですが、ひとまずここまでということで。

ソウは一人です。孤独ですね。


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第l話 空中迷宮

ふぅ~。取り合えず急ぎぎみで投稿しました。いつもと感じが違うように感じるかもしれませんが、多分気のせいですのでご勘弁を。

───予選、スタート~!!


 スティングとローグは相当の自信を持ち合わせているみたいだった。

 一体どこからそんな自信が涌き出ているのかアールには気になるところだった。

 

「私が説明しましょう」

 

 名乗りを上げたのはレクターと呼ばれた猫だった。

 

「ナツ君などはドラゴンから滅竜魔法を授かった、いわゆる第一世代と言われています」

 

 そんなことは初耳のアールとルーズ。

 

「お宅らのラクサス君やオラシオンセイスのコブラ君は竜のラクリマを体に埋め込み滅竜魔法を使う第二世代」

 

 今度、ソウに聞いてみようと心に決めたアール。

 

「そして、スティング君とローグ君はあなたのように本物のドラゴンを親に持ちつつ、竜のラクリマを体に埋めたハイブリッドな第三世代!」

「第三世代!?」

 

 ナツが復唱した。

 

「僕たちはどれだろう?」

「第一世代なんじゃない」

 

 竜のラクリマなんて体に埋め込んでいないので、必然的にそうなる。だが、それと強さの秘訣とは関係ないような気がする。

 

「つまり、最強のドラゴンスレイヤー!」

「最強のドラゴンスレイヤーだと………」

「第一世代と第三世代とではその実力は雲泥の差。お話にもなりませんよ」

「お前達も777年にドラゴンが居なくなったのか?」

 

 因みにアールとルーズの親のドラゴンはナツの言った年にいなくなっている。

 

「まあ、ある意味では」

「はっきり言ってやる」

 

ローグは一端、区切りを付けると続けた。

 

「俺達に滅竜魔法を教えたドラゴンは自らの手で始末した。真のドラゴンスレイヤーとなるために」

「ドラゴンを始末した………!?」

「人間がドラゴンを………!?」

「親を…殺したのか!!」

 

 それは嘘のような言葉だった。

 ドラゴンを殺すのは勿論、親を殺したとなるとどんな心境で手を下したのだろうか。

 

「そんなことはあり得るの?アール」

 

「う~ん………見た感じ、あの二人の実力では難しいと思うけどね。言っていることが事実なら、ドラゴンが無抵抗で殺された、むしくは病気か何かで瀕死に近かったのかもしれないのかな?」

 

 ルーズは何も言わず頷いた。

 すると、ナツが鼻を嗅ぐように動かして辺りを見回し始めた。

 

「ルーズ、行くよ」

「分かったわ」

 

 二人はその場を離れた。ナツに匂いで気づかれそうになったからだ。

 

「ナツ、どうしたの?」

「なんか、また別のドラゴンの匂いがしたような気がしたんだが………」

「別のドラゴンスレイヤーがいるって言うの?」

「分かんねぇ………」

 

 今のは気のせいだったとナツは気を引き締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は11時35分。

 トライの宿には、ソウと観光を楽しんできたジュンとサンディーがいた。

 

「ヤッホーーー!」

 

 そんなことを叫びながらサンディーはベッドの一つにダイブした。

 それを苦笑しながら見ているソウとジュン。

 

「元気だな」

「あいつに体力の底はあるのか、本気で悩んだほどだ」

 

 そんな他愛もない会話している二人。サンディーはベッドの上でゴロゴロ回転している。そして、落ちた。

 

「いたぁ!」

「何やってんだよ………」

 

 いい加減に大人しくして欲しいとジュンは願っていた。

 ソウは明後日の方向を向いていた。

 

「どうした、ソウ?調子でも悪いのか」

 

「いや………なんか、悪い予感がして」

 

 窓から外の景色を眺めながら答えた。

 その時、アールとルーズが宿に戻ってきた。

 時刻は11時50分。

 

「戻ってきたよ」

「おう、楽しんできたか?」

 

 笑顔で肯定するアール。と、ルーズが何かに気付いたのか顔をしかめた。

 

「もしかして、部屋は同じなの………」

「悪いが、我慢してくれ」

「いいじゃん!皆と一緒で楽しいよね~!」

 

なんとも暢気なサンディーにルーズはため息を付いた。

 どうにか、納得してもらえたようだ。

 

「だけど、何で夜の12時には宿に居らんといけないんだ?」

「さあ?主催者からの命令だからね」

「もしかしたら、その時間に何かが始まるのかも」

「その可能性はあり得るわね」

「後、5分だな」

 

 時計は11時55分を指していた。外も暗闇が包み、静かになっている。

 

「何をするんだろう?」

「取り敢えず今年は参加チームが多くなっているから一気に絞ってくるだろうな」

「なんで、分かるんだ?」

「今年から同じギルドから二つのチームまで出れるようになったんだ」

「なるほど、だったらライバルも多くなるんだね」

「三人に勝てる魔導士っているのかな?」

「私は見たことがないわ」

 

 サンディーとルーズは変な目線を浴びせてきた。まるで三人が悪いように見える。

 

「そういえば、レモンはどこ行ったんだ?」

「レモンちゃんなら、僕とルーズが途中で見かけたよ」

「師匠と一緒に行動するって言ってたわ」

「まあ、一人で応援するのも寂しいだろうしな」

「あ、もう12時になるよ!」

 

 サンディーが時計を指差した。

 長針がゆっくり動いていきやがて、12の数字を通り過ぎた。

 すると、突如何処からか鐘の音が広がり、ソウ達の耳にはいる。

 サンディーは首を傾げた。

 

「鐘?」

「どうやら、外にモニターが映り出されたみたいだね」

 

 ソウ達は、ベランダへと移動した。そこには空中に巨大なモニターが映り出されており、モニターにはカボチャのようでマスコット的な人物がいた。

 

『大魔闘演武に集まりの皆さーん、おはようございまーす』

「モニターってより立体映像みたいだな」

「いや、立体映像だから」

 

 ジュンの呟きにソウが突っ込んだ。

 カボチャはなんとも陽気なしゃべり方で話を進めていく。

 

『これより~参加チーム114を9つに絞るための予選を開始しま~す』

「参加チーム多い!」

「サンディー………さっき、ソウが言ってたでしょ………」

「てへっ、そうだったね」

『毎年~、参加ギルドが増えて~内容が薄くなっている~との指摘を頂き~今年は本選を9チームで行うことにしました~』

 

 予選をするとなれば、事前に通達でもしておれば良いものをわざわざ、いきなり始めるとは主催者側は何が目的なんだろうか。

 それに夜の12時に指定したのも予選を始めるためなのだろうか。

 というより、カボチャは躍りながら言うなよ。

 

『予選は簡単』

「ソウの仕業か?」

「ん?俺は何もしてないが?」

 

 次の瞬間、宿が揺れた。

 何事かと思っているとどんどんと自分達の視線が高くなっていく。

 地震ではない。宿本体が変形して上昇しているのだ。ジュンはこの揺れをソウの魔法によるせいだと勘違いしたのだ。

 

「わーわー」

「何、楽しんでんのよ」

 

 はしゃいでいるサンディーに呆れているルーズ。そんな彼女も落ち着きすぎではないかと思う。

 他の宿も同じように変形して上昇している。

 

『これから皆さんには競走してもらいます。ゴールは会場ドムス・フラウン。先着9チームの本選出場となります』

 

ソウ達の目の前に道がどんどん現れていく。空中に浮かび上がるように道が出来ていく。

 

「道だ」

「ジュン、見たら分かるよ」

 

 次の瞬間、サンディーの一言でジュンは四つん這いになってしまった。

 

「そうだよな………誰だって分かるよな……」

「なんか、テンション低いな」

「いつものことじゃない」

「そうなのか?」

 

 「まあね」とアールは答えた。ジュンは後先考えずに物事を進めていくから、こんなことがよくあると言う。

 

『魔法は自由。制限時間はありません。先着9チームのみ予選突破となります。ただし、5人全員で揃ってゴールしないと失格~』

「そりゃ、そうだろうな。ってジュンとアール、どうしたんだ?」

「少し酔い気味だって~」

 

 サンディーが代わりに答えた。ソウは顔をしかめた。

 時間差で来るものなのか、それ。

 あぁ………だから、さっきからジュンはテンションが低くなってきていたのか。アールは限界までポーカーフェイスをしていたらしい。

 

「ホント、頼りないわね」

 

 ルーズの一言に酔っている二人は肩をびくっ!と震わせた。

 

『ただし~、迷宮で命を落としても責任は取りませーんので、悪しからず』

 

 迷宮とはあれのことだろうか。

 空中に浮かんでいる巨大な球状の物体。道もあれに向かって出来ているみたいで、予選会場はどうやらあそこみたいだ。

 

『大魔闘演武予選“スカイラビリンス”開始ーー!!』

「ほら、行くよ二人とも」

 

 どうにか、酔いから冷めた二人はなんとか、迷宮のほうへと走っていく。

 ソウとルーズも後を付いていき、迷宮の中へと入っていった。

 

 “空中迷宮”通称“スカイラビリンス”

 

 目的は参加チーム114を本選に出場する9チームまで一気に絞ることにある。

 ルールは簡単。宿から予選会場を抜けて本選会場のドムス・フラウン。そこに先に着いた、いわゆる先着順で順位が決まると言うわけだ。

 なお、迷宮の突破にあたって魔法の使用は自由。制限はなし。ただし、最後に迷宮内で命を落としても大魔闘演武委員会では責任を取らないらしい。

 

「ほほぉ~………」

 

 迷宮へと入るなりソウ達を待ち構えていたのは迷路だった。それも立体的な迷路。とても入り乱れており一目ではどの道がどうなっているのか検討が付かなかった。

 

「さて、どう行こうか」

「取り敢えず進もうぜ」

「ジュンとアールは平気なの?」

「うん、何ともないよ。そういう魔法が組み込まれているみたい」

『説明しましょう!予選では乗り物酔い、高所恐怖症の方も公平に競えるようにスカイラビリンス全体に魔法を施してあるのです』

 

 いきなり、モニターが出現して、中のカボチャもどきが説明し始めた。説明が終わると消えてしまった。

 

「……どうでも良かったな。さて、早く行かないと師匠に顔向け出来ないから行こう」

「でも、どの道を行くのよ」

 

 ルーズの言うとおり、どの道を行けば良いか、分からない。よく見回すと天地がひっくり返っているように道が天井みたいになっている箇所もある。

 あそこはどう歩けばいいのか、分からない。

 

「魔法の使用は自由だったな。だったら………」

「ソウの魔法で迷路を把握するんだね」

 

 ソウは意識を集中させ、波動を発生。辺り一体に広がっていく。

 波の反射である程度の地理を把握してゴールに近い道を選んで進んでいく作戦だ。

 ───見つけた。

 

「よし、大体は理解できた」

「後はその通りに進めばいいんだな!」

「なんだ、楽勝じゃない」

「なぁ、アール。皆を空中に浮かすことは出来るか」

「足場のあるところまでだったらワープみたいな移動をすることは可能だよ」

「充分だ。あそこまで頼めるか」

「了解、皆行くよ!」

 

 ソウの波動とアールの空間移動によってトライはどんどん進んでいく。

 順調に進んでいっているとアールの魔法で転移した先に見知らぬギルドがいた。

 その内の一人が紙切れを片手に握っている。どうやら、こいつらは地図を書いて迷わないようにしているみたいだ。

 

「ねぇ、私がやってもいいかしら?」

 

 ルーズが名乗りを上げた。特に反論することも無かったので任せることにした。

 ルーズは魔法を発動すると砂を何処からか発生させた。

 砂はルーズのつきだした右腕を伝って手のひら辺りに集まっていく。

 それはやがて巨大な槍に変貌して右手で掴む。そして、見知らぬギルドの5人へと投合した。

 

「砂竜の巨槍!」

 

 着弾点で砂が巻きほこる。

 砂煙の勢いに巻き込まれて、うわぁーーと悲鳴を上げながら落ちていった5人。

 何もしていないのに、あっという間に落ちていった。

 トライのギルドと遭遇したのが運のつきと結論付けて次に進むことにした。

 

「次はあそこだな」

「分かった、あそこ───」

「ちょっと待ってくれ」

「どうしたの?ジュン」

 

 ジュンが何か異変に気づいたようで、ワープを止めた。ソウとアールもこういう所ではジュンの勘は侮れないことは知っているので大人しく従う。

 

「回転するぞ」

 

 ジュンが意味深な台詞を言った。

 すると何か警報音に近い高音が鳴り響いたかと思うと、足場が揺れた。

 そして、徐々に足場が傾いてきたのだ。

「足場が傾いて………いや、迷宮が回転しているのか」

 

 ソウは咄嗟にてを伸ばして適当なところを掴んだ。他の皆も同じようにしたが、サンディーだけがそうはいかなかった。

 

「落ちるぅ~」

 

 バランスを崩して落ちそうになるサンディー。

 ここで、サンディーが失格になったら予選を突破することが出来なくなる。

 

「地道竜の巨腕!」

 

 動いたのはジュンだった。

 手をサンディーに伸ばすが後少しというところで届かない。なので、岩を体から発生させ、腕に纏うことでサンディーを掴む。

 どうにか、ギリギリなところで掴んだジュンはサンディーを自分の胸元に引き寄せてサンディーを抱えた。

 いきなりのことでサンディーは動転して顔を赤くしていた。

 

「あ……ありがとう……」

「お前がいなくなると困るからな」

 

 ジュンのその一言により、サンディーは恥ずかしくなったのか、顔を隠した。

 ジュンは大魔闘演武の本選に出場するために必要という意味で言ったのだが、サンディーは間違って別の意味受け止めてしまったみたいだった。

 迷宮の回転が終わり、安定したの所でトライの皆は同じ足場に足をつけた。

 

「さて、次行きますか」

「そうだね、早く行かないと」

「あんた達は呑気よね………」

 

 この二人は何事もなかったかのように続けようとしていた。ルーズはため息をついた。

「今度あったら……落ちてみようかしら……」

 

 何か不気味なことを考えていたルーズだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 順調に迷宮を進んでいき、あっという間に次のステージとも言える場所へと着い

た。

 が、そこは迷宮の中ではあり得ない光景だった。

 そこは無人の古びれた町の中だったからだ。さらに上を見上げると青空が見える。今は真夜中なので見えるはずはないのだが。

 

「さて、場違いな場所へと着いたけど合ってるのかな、ソウ?」

「後は真っ直ぐ進むはずだけだが───ちょっとまて、誰かが来た」

 

 ソウが指差した方とは逆───つまり、遅れて別のギルドの奴等が来た。

 フェアリーテイルだったら危ないと内心焦りながらも確認すると、まったく違うギルドだったので一安心する。

 後ろにいたのは男だけというむさ苦しい集団だった。

 

「誰がやる?」

「俺が行こうか?」

「いや、私が行く!」

 

 先程の失態を挽回したいのだろうか、サンディーのやる気は万全だった。

 

「俺たちは」

「「「「「ワイルド………」」」」」

「海竜の爆水柱!」

 

 何か自己紹介でもするつもりだったみたいだが、足下に水が出現して、やがてそれは巨大な水柱となり、真上に打ち上げた。

 「フォー」と言いながら、飛んでいく様を見てなんという心掛けなのだろうかとソウは感心していた。

「あいつら、今何て言ったんだ?」

「分からん。それよりさっさと行こう」

 

 どうでも良かったので今はゴールを目指すことにした。

 途中で海みたいなのが広がっていくおり、道が浮き出ている構造になっていた場所があった。

 その道の先には派手にゴールと書かれた看板の着いた扉があった。

 ソウ達はゴール前に来た。

 

「ソウ・エンペルタント

ジュン・ガルトルク

アール・ケルニア

サンディー・サーフルト

ルーズ・ターメリット」

 

 出てきたのはあのカボチャだった。

 あのモニターに映し出されていた通りのカボチャが出てきて内心ビックリしていたソウ。

 一人一人の名前を言っていくカボチャ。確認でもしているのだろう。

 

「おめでとうございま~す。予選通過決定で~す!」

「因みに俺らは何位なんだ?」

「なんと二位です!初参加のギルドでは凄いことですよ!」

「二位だって~」

「そんなに早く行ったかな?」

「まあ、順調過ぎるほどだったしな」

 

 主にソウとアールの魔法のお陰だが、肝心の二人はあまり実感がないようだ。

 

「なんとも呑気なチームですね………」

 

 カボチャが第一印象を呟いた。

 聞こえないように言ったつもりだろうが、ルーズだけには聞こえていた。

 

「少しは緊張感もってほしいわ………」

 

 想像してみたが、特にこの三人が緊張感を持っているなど有り得なかった。

 ソウはいつもの余裕たっぷりの態度。

 ジュンは後先考えないので、まずそんなことは感じない。

 アールは笑顔を浮かべているだけ。

 はぁ……とルーズはため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡り、ハッピーとリサーナはクロッカス最大の建物の前へと来ていた。

 

「これがフィオーレ王国の王様の居城…」

「カトウキュウ・メルクリアス!」

「私、初めて見た!」

「おいらもだよ~」

 

 見上げてもてっぺんがなんとか見えるほどの高さを誇っている城。二人は息を飲んだ。

 早速中に入ろうとするのだが、階段の所で門番に阻まれる。

 

「こらこら、なんだ貴様らこんな時間に」

「すみません。実は大魔闘演武の予選に参加するはずのうちのギルドの者が行方不明で」

「クロッカス中、探したけど後はここだけなんだ」

 

 行方不明となっているのはウェンディとシャルルだった。

 二人で仲良く観光地巡りに行くと張り切っていたが、指定された12時になっても帰ってこなかった。

 ナツ達は5人いないと予選通過出来ず、また早く行かないと先を越される可能性があったので代わりにエルフマンを入れてスカイラビリンスに挑んでいるのだ。

 ハッピーとリサーナはその間、ウェンディとシャルルを探し回った。ギルドの皆に効率よく探してもらっているがまだ発見したという報告はない。

 そこで唯一捜索していない城へとやってきたのだ。

 もし、二人の身に危険が及べば特にソウが何をしでかすか分からない。

 今はギルドの一員ではないことになっているので会う確率は低いが、応援に来ると手紙には書いてあった。

 そんなのは関係なしにギルドの皆は必死に探してくれている。

 門番の二人はひそひそ話を始めた。そして、二人に告げた。

 

「大魔闘演武は国王陛下も楽しみになさっておられるからな」

「城の中庭までならいいぞ」

 

 門番の二人は横に開いて道を作った。

 

『なんだって!まじかよ、お前ら!』

『どうかしたんのか?』

 

 ウォーレンにこのことを魔法で伝えると、驚愕しており彼の隣にいたマックスが尋ねた。

 

『ハッピーとリサーナが今、王宮に入ったってよ!』

『な………!俺だって入ったことねぇのに!』

「よく入れてくれたよね………」

「庭園あたりなら観光地として開放しているからね」

 

 二人はしばらく歩いていると目の前に左右に道が別れているところに出た。

 

「ここらでふたてに別れよう」

「分かった。何か分かったらウォーレンを中継して」

「あいさー!」

『分かった。俺らもメルクリアスにすぐ向かう』

 

 初日からトラブルとは気が思いやられる。

 (エーラ)を使って辺りを探していたハッピー。すると、鐘の音が聞こえてきた。

 

『さあ!9チームが出揃いました。大魔闘演武予選、スカイラビリンス終了~』

 

 立体映像でクロッカスの町中のどこからでも見えるカボチャ。

 中庭へと向かっているマックスが結果がどうなったのか、叫ぶがカボチャはなんなく続けた。

 

『どのギルドが本選に出場か~、それは開会式までのお楽しみ~』

「そっか、もう予選終わっちゃったんだ」

 

 リサーナはそう言いながらも走り続ける。

 するとリサーナの目にハッピーが固まっている姿が目にはいる。

 

「ハッピー、どうかしたの?」

「あ………あれ……」

「嘘でしょ……」

 

 二人の視線の先にはバッグが落ちていた。

 さらにあれはウェンディが所持していたはずのバッグなのだ。

 兄と買い物に行ったときに買ってもらったと大事そうにしていたのが印象深い。

 リサーナはバッグを拾い上げた。

 

「ウェンディのだ………シャルルは?ウェンディは?」

「落ち着いて、近くを探そう」

「そうだね………」

「行こう!」

 

「あい………」

 

 二人は近くを探しに出た。

 それを上から見ていた黒い影。さらにそれに近づく少女。

 

「お主の仕業か?」

 

 少女───師匠は影を見上げて、問いかけた。すると黒い影はあっという間にその場を逃げていった。

 師匠はただ見つめているだけだった。

 その後、無事に二人は発見された。

 

『何だって二人を見つけたって!無事なのか!?』

「それが二人とも意識がないの。早く誰か寄越して、ウォーレン!」

 

 ウェンディとシャルルは中庭のとあるちょっとしたスペースで倒れていた。

 

「シャルル!しっかりして!おいらだよ!」

 

 ハッピーが涙目になって呼び掛ける。

 だが、シャルルからの応答はない。

 リサーナはウェンディを抱える。

 

「怪我はないみたいだけど………おかしいな………ウェンディから魔力が少ししか感じない!」

「シャルルからもだよ!どうすればいいのさぁ!」

 

 すると、ウェンディがゆっくりと目を開けた。

 

「気がついた!」

「ウェンディ、何があったの!?」

 

 だが返ってきたのはいや!と拒否する返事。ウェンディは首を横に振った。

 先程のを思い出して怖がっているのだ。

 

「ウェンディ!私よ、リサーナよ!分かる?」

「おいらもいるよ!」

「………ハッピー…………リサーナさん………私………一体………」

「何があったの?」

「それが………」

 

 まだ、状況が整理出来ていないようだった。

 「お兄ちゃん………」と呟くとウェンディはまた、気を失ってしまった。

 リサーナとハッピーは誰かが来るまでここで待機していないといけなかった。

 

「やっと来たのじゃな」

「「誰!?」」

 

 何処からともなく声が聞こえてハッピーとリサーナは警戒する。

 声の主は空中に浮かんでいた少女だった。

 

「そう、警戒せんでもよい。その子のことは妾も知っておる。ひとまず、応急処置はしておいたからのう、後は安静に寝かせておればそれでよいぞ」

「あなたは誰なんですか!」

 

 警戒を解いてもらえないようで、少女は「どうするかのう………」と頭を掻いた。

 ハッピーもまだ、警戒している。

 だが、少女の言う通りウェンディとシャルルには処置が施されているようだった。魔力が少しあるのもそのお陰なのだろうか。

 

「治療は妾の分野ではないからのう。それぐらいしか出来んわい」

「そのことについては感謝します」

「ウェンディとシャルルを襲ったのはお前なのかぁ!!」

 

 ハッピーは声をあらげた。

 それを聞いて少女は何か納得したのか頷いた。

 

「そうか………お主らは妾が犯人だと思っとるのか………そやつらを襲ったのは妾ではないぞ」

「そんなの信じられないね」

「それもそうじゃのう………あやつは今、呼びに言っておるし………」

 

 何かを考え始めた着物少女。

 すると、少女の背後から「師匠ー!」と声がハッピーとリサーナにも聞こえてきた。この声には聞き覚えがあった。

 

「師匠、呼んできたよ~」

「そうか、ご苦労じゃったのう」

「レ、レモン!」

 

 ソウと一緒にフェアリーテイルを離れたはずのレモンがいたのだ。

 遅れて誰かがやって来た。ウォーレン達だ。

 

「ほれ、早く連れていかんかい」

 

渋々、ウォーレン達はウェンディとシャルルを抱えて運んでいく。

 

「師匠、私も付いていって良い?」

「構わん、あやつらにこの事は妾から伝えておくわい」

 

 「ありがとー」とレモンは運ばれていくウェンディとシャルルの後を追った。

 

「レモン、あの人は?」

「あの人は悪い人じゃないから大丈夫」

 

 レモンがそう言うなら大丈夫だろう納得するハッピーとリサーナ。

 ふと振り返るとそこには誰も居なかった。

 大魔闘演武本選まで後、少しだ。

 

 

 

続く──────────────────────────────




次回、ついに開催します!!

ここまでの道のり………長かった…………。


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第m話 新規ギルド

ようやく、開催でーーす!!\(^-^)/\(^-^)/\(^-^)/

ソウ達は一体どんな活躍を魅せるのか、どん!と期待しておいてください!!

それとここでの小さな裏設定も後書きに記しておくので、見ていただければと思います。

───ついに!今年もやって来た!!


 本選会場。

 色んな色の風船が宙を舞い、鮮やかな花火が空を綺麗に飾る。

 満席となった観客席は既に大いに盛り上がっていた。誰もが雄叫びを上げて、今か今かと期待感に満ち溢れている。

 

『さあ!今年もついにやって来ました!年に一度の魔法の祭典、大魔闘演武~!』

 

 アナウンスが流れると、より一層会場は賑わう。それを聞いたジュンは呟く。

 

「騒がしいなぁ」

「魔導士だけじゃなくて、一般の人も観戦に来ているみたいだよ」

「ふーん」

「サンディーは興味なさそうね」

 

 トライのメンバーは今、通路の所で待機していた。2番目に到着したことで出番はまだまだ先のようだった。

 サンディーが気にしているのは今の服装だろうか。

 同じタイプの服をレモンから「皆、これ着てー!」と笑顔で渡されたので着ている。どうも、チーム内での服装は同じにしておいた方がいいとのこと。

 それは特に問題はない。サンディーが気にしているのは更に渡された物だった。

 フード付きの黒いローブだった。

 

「なんで、フード付きなの?」

「そっちの方が格好いいじゃないか」

「まあ、会場に出てから顔を見せろってことだろう」

 

 特に深い意味はなく、単なる遊び心のような気もするが………。気にしないことにした。

 ───また、突然、前触れもなく師匠が現れた。とん…と地面に足をつけた師匠はこちらを見据える。

 

「ソウ、アール、こっちに来てくれんか」

 

 手で招く真似をした師匠。ソウとアールは首を傾げた。

 師匠がこうして呼ぶことは珍しいからだ。

 

「お主らに大事な用件がある」

「こんな時になの、師匠?」

「こんな時だからじゃ。ソウよ、確かお主の妹はウェンディと言ったな」

「確かに合ってるが………それと何かあるのか?」

「そのウェンディと白猫───シャルルと言ったかのう。その二人が昨晩、何者かに襲われとる」

「「!!」」

 

 驚愕の事実だった。

 ソウは奥歯を噛み締めて、拳を握った。

 

「二人は無事なのか」

「魔力欠乏症になっておった。ワシが応急処置は施しておいたから、安静にしておればすぐに良くなるわい」

 

 “魔力欠乏症”。

 魔導士だけにある病気の一つ。

 大量の魔力を一気に失うことで発病すると言われている。それにかかると、体中の筋力の低下が襲い、暫くの間は身動きがとれなくなる。

 

「誰が襲ったのかは分かるの?」

「ある程度は見当がついておる。が、お主らでもすぐに分かるわい」

 

 アールは冷静に師匠に尋ねる。

 ソウは拳により一層力を込めた。

 その時、地面が揺れたような気がした。天井からは小さな瓦礫がパラリ…と落ちてきた。

 ソウは今、憤怒の感情を心に秘めているのだ。

 

「ソウ、落ち着くのじゃ」

 

 師匠の一言で、殺気が収まった。どうにか、制御出来た様子だった。

 

「やることが一つ増えたな」

 

 ソウは会場の方へと視線を向けた。

 

ソウの起こした揺れはナツ達の所まで広がっていた。

 

「なんだぁ?地震かぁ?」

「いや、気のせいじゃないのか」

 

 ナツが何かを感じ取った様子だったが、何事もないように次の行動に入っていた。

 

 話が終わった2人はジュン達の所に戻った。

 師匠はまた何処かへ消えた。トライの応援席にでも移動したのだろう。

 

「どうした、ソウ、様子がおかしいぞ」

「いや、平気だ。ジュンが気にすることじゃないからな」

 

 バレないようになんとか誤魔化して、ソウは会場の方へと目線を向ける。

 確か、もうそろそろ本選に出場するチームの入場する時間のはずだったが………。どうやら始まったようだ。

 観客の雰囲気が静かになったのだ。見なくても分かる。

 アナウンスをしているのはチャパティーって言う人と解説がヤジマさんらしい。そして、ゲストがブルーペガサスのジェニーって言う綺麗な女性とのこと。

 ここまで聞こえた。

 すると、ここまでアナウンスが響く。

 

『驚くことに今年は最後の席をかけて、二つのチームが同時にゴールという事態がありました。その為に、今年は急遽9チームでの決戦となってますのでご了承ください』

 

 ルーズが顔をあげた。

 

「そんなこともあるのね」

「8位を決めるのがめんどくさかったんじゃない?」

 

 アールのいう通りどっちも出てしまえと向こうが決めてしまったのかもしれない。

 

『まずは予選9位!過去の栄光を取り戻せるか!名前に反した荒くれ集団。フェアリーーーテイルーー!!』

 

 やっぱり、ナツ達は予選を突破してきたみたいだ。けれど、9位ってギリギリではないか。順位を聞いたあいつらの表情が想像しやすい。

 そして、次に来たのは、なんとブーイング。

 7年経った今のフェアリーテイルの評判を分かりやすく表現していた。

 因みにナツ、グレイ、エルザ、ルーシィ、エルフマンのチームだった。

 

「フェアリーテイルは不評だな」

「私は好きだけどね~」

「仕方ないじゃない、7年過ぎた今の現状よ。現実を見ないと」

「どんどん心に釘が刺さっていくのはなんでだろう………」

「ははは………」

 

 特にルーズの厳しい一言のダメージが大きい。ナツ達には頑張ってもらわないといけないが、ソウも負ける気はなかった。

 手紙にソウに勝てたら、目的を教えると書いているからだ。易々と引き下がれる訳がない。

 次のチームのアナウンスが入る。

 

『さあ!続いては予選8位通過。地獄の猟犬軍団!クワトロケルベロス~!!』

「聞いたことないな」

 

 ジュンが呟いた。ソウも心当たりがないギルドだった。新しく出来たのだろう。

 すると、「ワイルド…フォー!」と会場から聞いたことがある掛け声が耳に入る。

 

「あ………私が吹き飛ばしたところじゃないかな?」

「あそこも通過できたのね」

 

 スカイラビリンスでのサンディーが問答無用に天へと打ち上げたギルドも同じことを言っていた。………というより多分、本人達だと思うが。

 

『予選7位通過!女性だけのギルド。大海原の舞姫。マーメイドヒーール!』

「そんなギルドってあったかな?」

「新しく出来たんだろ」

「私のぴったりなギルド!」

「そういえば、あなた海竜だったわね…」

 

 確かにサンディーには色々と合っているギルドだと思うが………。

 

「お前、そんなに胸ないだろ」

「っ~~~!関係ないもん!」

 ジュンに言われて顔を赤らめて否定したサンディー。ジュンは笑っている。

 

『6位は漆黒に煌めく青き翼。ブルーペガサスーー!!』

「ここは………どうでもいいな」

 

 何も言わずに一斉に皆が頷いた。

 相手にされないとは可哀想である。

 

『続いて5位通過。愛と戦いの女神。聖なる破壊者!ラミアスケイル~~!』

「聖十大魔導のジュラさんが厄介だね」

「師匠と同じ称号を持つものか、楽しみだぜ」

 

 ジュンはバシッ!と拳を合わせた。

 

『続いて予選4位。おーっと!これは意外!初出場のギルドが4位に入ってきた。真夜中遊撃隊!レイブンテイル~~!』

「レイブンテイル………」

 

 マカロフの息子・イワンによって作られたギルド。

 師匠はウェンディを襲った犯人はすぐに分かると言った。ソウは直感的にこいつらが犯人だと感じた。

 

「お前らか………」

「おい、ソウ………」

 

 周りはソウを見つめる。ソウはすぐに元に戻るとこう言った。

 ウェンディのことは今は後回しにした。

 

「もう、そろそろ出番だから移動するぞ」

 

 フェアリーテイルの皆が驚くことは間違いがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イワン………!!」

 

 闇ギルドのはずのレイブンテイルがどんな手を使ってここに来たのか、何の目的で来たのか。マカロフは怒っていた。

 応援席にいるマカロフを他の皆が押さえつけるが興奮は収まりそうにもない。

 そこに、アナウンスが響き渡る。

 

『さあ!!!!予選突破チームも残すは後、3つ!』

「そうか、後、3つも残ってたんだ」

「1つはセイバートゥースだろう。もう2つは………」

 

 ハッピーに続くように言ったマカオだが、まったく想像がつかなかった。

 

「もう主力ギルドは出揃っているのよね」

 

 リサーナの言う通りだった。

 その疑問は会場にいるグレイも同じだった。

 

「まだ強ぇギルドが隠れていやがったかぁ……」

「ジェラールの言っていた魔力と関係があるかもしれん」

『予選3位通過。おぉーと!これもまた意外!落ちた羽の羽ばたく鍵となるのか!ままさかの…まさかの……フェアリーテイルBチームだぁーー』

 

 現れたのは、ラクサス、ガジル、ジュビア、ミラ、そしているはずのないミストガンがいた。

 これにはナツ達も驚くしかなかった。

 ミストガンに変装していたのはなんと、ジェラールだった。

 すると、アナウンスが今年からの新たなルール制度の説明を始めた。

 それは同じギルドから二つのチームまでが参加出来るということ。ルーシィはチームの多さに疑問を抱いていたが、これで納得した。

 すると、ナツが不満に思ったのか叫んだ。

 

「冗談じゃねぇぇーー!!例え同じギルドがだとしても勝負は全力。手加減無しだ!別チームとして出場したからには敵!負けねぇぞ、このヤロー!」

「望むところだ、予選8位のチームさん」

 

 ガジルも負けじと言い返した。

 フェアリーテイルの応援席でも盛り上がる。

 

「ガジルはだいぶ、力を付けてきたぞ」

「ナツだって負けないよ」

「それにしてもBチーム、強そうだよなぁ」

 

 応援にきていたメイビスは目を細めながら言った。

 

「あの覆面のかた……ギルドの者ではありませんね」

「ごめんなさぁーーい!」

 

 速攻で頭を地面にぶつけて謝るマカロフ。

 なんともシュールな光景だ。

 

「だから止めとけって言っただろ」

「俺らは止めたんだぜ」

「しかし、悪ではありません。不思議とギルドの紋章を持つ者と同じ心を感じます」

「話せば長くなるんだけど、一応ギルドの者とも言えるんだよね」

「なるほど、あれがこの世界のジェラール。王子というわけか」

「強いのですか?」

「そりゃあ勿論、かつて聖十の称号を持っていた男です」

 

 すると、メイビスの癖毛がピコンと反応した。強いという所に惹かれたのだろう。

 

「認めます!フェアリーテイルが優勝するために」

 

 その瞬間、応援席にいた皆は同じことを思った。

 やっぱり、この人フェアリーテイルのマスターだ!───と。

 

「なぁ、あそこにいるのってレモンじゃないのか?」

 

 ロメオはある応援席を指差した。皆の目線がそっちに行く。

 そこには誰も居らずいるのは、黄色の猫と和装した少女のふたりだけだった。

 手を振ってみるとレモンは気付いたようで手を振り返してきた。

 

「あ、ホントだ。レモンだ」

「なんであんなところにいるんだ?」

「隣のは………」

「あ!あの人だよ、マスター。昨日、オイラたちと会ったのは」

 

 マカロフもそちらの方へと目を向ける。

 すると、突如マカロフの動きが止まった。

 

「どうしたんですか?マスター」

「あやつは………夜叉ではないか!」

「夜叉?」

「ワシと同じ聖十の称号を所持しておった者だったのだが、今は行方が知れず生きているかどうかも不明じゃったのじゃ」

「もしかして、まだ出てないギルドのマスターじゃない?」

「マスターをしているとはワシは聞いておらんぞ」

 

 困惑しているマカロフ。すると、遮るようにアナウンスが入った。

 

『続いて予選2位!なんと!驚くことにこのギルドも初出場で2位!更に今回の出場者全員がある共通点を持ち合わせているという私自身も未だに信じられていません。天と海と地が重なる時、現れる伝説。その名はトライデントドラゴーン!!!』

 

 派手な煙と共に姿を現したのはフードを被った5人。

 会場の中心まで移動すると、同時にフードをぬぐい捨てた。

 

「………ソウ!」

 

「───それに、ジュン、サンディー!!」

 

「───アールにルーズまで!!」

 

 フェアリーテイルを抜けて行方の知らぬソウが先頭を立っていたのだ。

 なんで………と言う感情が包んだ。

 

「ソウ、なんでお前がそこに!?」

「ナツ、まあ、こういうことだ。俺はトライの一員としてここにいる」

「つまり敵ってこと………?」

 

 ルーシィは気が重くなった。

 ソウはてっきり大魔闘演武には出ないものだと思っていた。

 

「ああ。手加減もする気は一切ないからな」

「当たり前だ!今度こそは勝ってやらぁ!」

 

 フェアリーテイルBチームに続き、またしても予想もしていない事態にルーシィは頭がショートしそうだった。

 ソウの近くにエルザが近寄る。

 

「もしや、あの手紙に書いてたのは」

「多分、エルザの考えであってる。俺に一回でも勝利をもぎ取ってくれたら、教えてやるよ」

「それと………ウェンディのことだが……」

「………師匠から事情は聞いてる。襲ったのもレイブンの奴等だってことはさっき、分かった。後、時間を空けて見舞いにも行くつもりだ」

「………そうか」

 

 エルザは頷くと、ソウから離れていった。

 話さなくても良いと判断した結果だ。

 ジュンやアールも他のメンバーと話しているみたいだった。

 

 一方、フェアリーテイルの応援席では。

 

「あの方は確か、フェアリーテイルの者だったはずでは………」

「すみませんでしたぁぁ!!」

 

再び驚愕の表情になったマカロフ。また、頭を地面に打ち付けて謝罪の言葉を述べる。

 

「まさか、別のチームで出るとは思っていなかったのです!」

「出たからには、もう仕方ないですね」

 

 どうにか、メイビスも納得してもらえたようで一安心するマカロフ。

 

『なんと、このチームは全員がドラゴンスレイヤーという珍しいチームです!』

『全員がドラゴンスレイヤーとは珍しいのう』

『さあ、いよいよ予選突破チームも残すところあと一つ。さあ、皆さん既にご存じ。最強!天下無敵!これこそが絶対王者!セイバートゥースだぁ~~!!!』

 

 そして、遂に姿を現したの5人の魔導士。けど、正直に言うとソウはあまり興味がない。あると言えば、アールが目撃した“双竜”と呼ばれる二人のドラゴンスレイヤーぐらいだろうか。

 

「あそこにレモンと同じのがいるよ」

 

 サンディーが指差した先はセイバートゥースの応援席。そこには赤色の猫とカエルの着ぐるみを来た猫がいた。

 

「それなりの実力はあるみたいだね」

「少しはやりがいがあるんだろうなぁ」

「ジュン、戦闘狂の台詞だぞ」

「へへ、一度言ってみたかったんだ」

「子供ね………」

 

 他愛のない会話をするトライのメンバー。そこからは一切の緊張が感じられない。

 

『これで全てのチームが出揃ったわけですが、この顔ぶれを見てどうですか、ヤジマさん』

『若いっていいねぇ~』

『いや、そういうことじゃなくて………ではお待ちかね!大魔闘演武開催のプログラムの発表でーす!』

 

 すると、会場の中央に巨大な石板が地面から飛び出してくる。

 そこに書かれていたのは日程表のようだった。

 1日に競技パートとバトルパートに分けられていた。

 まず、競技の方では9チームで順位がついて、それに見あった得点が加算されるという仕組みらしい。競技に出場する選手はこちらで自由に決めても良いようだ。

 次にバトルだが、こちらは主催者側でカードを組むらしい。

 ファン投票も考慮しているとのこと。

 運が悪ければ、競技パートで疲れたところにバトルパートが来る可能性があるのだ。

 各チームでバトルして勝利チームには10ポイント、敗北チームには0ポイント。引き分けの場合は両チームに5ポイントずつ振り分けられるとのこと。

 

『なお、これだと1チームがどことも当たらない計算になりますので、最後に残ったチームはその日に敗北したチームの中からランダムで一人選ばれ、その方と対戦してもらうことになります』

 

 つまり、負けても同じ日にまたバトル出来る可能性があるということか。

 

『では、大魔闘演武。オープニーグゲーム。“ヒドゥン”を開始します!』

「ヒドゥン?」

「隠密って意味だな」

 

 石板の文字が変わって競技についての内容が写し出された。と言っても名前だけだが。

 

『参加人数は各1名。ゲームのルールは全選手が出揃った後に説明します』

 

 後から説明するということはある程度の内容はそっちで勝手に予想でもしておけと言うことだろうか。

 

「誰が行く~?」

「隠密だろ?だったら、アールじゃねえか?」

「俺も同意見」

「私も特に異論はないわ」

「私が───」

「分かった。僕が出るよ」

「え!私の意見は聞かないんですかー!」

 

 サンディーが何か言っていたが聴こえていないことにした。

 他の選手も決まったようでそれぞれが石板の前に集まる。

 

 “四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)”からは“イェーガー”。

 見た目はよくわからん。

 

 “人魚の踵(マーメイドヒール)”からは“ベス・バンダーウッド”。

 あちきを一人称で話す子だ。

 

 “大鴉の尻尾(レイブンテイル)”からは“ナルプディング”。

 背が低いのに、声も低い。後、常に悪いことを考えていそうな顔をしてる。

 

 “青い天馬(ブルーペガサス)”からは“イヴ・ティルム”。

 吹雪の魔法を使う好青年。

 

 “剣咬の虎(セイバートゥース)”からは“ルーファス・ロア”。

 詩人みたいに語りかけている帽子を被った金髪の青年。

 

 “蛇姫の鱗(ラミアスケイル)”からは“リオン・バスティア”。

 グレイと同じ師を持った氷の魔導士。

 

 “妖精の尻尾(フェアリーテイル)Aチーム”からは“グレイ・フルバスター”。

 リオンに対抗するために出場を決めたようだ。

 

 “妖精の尻尾(フェアリーテイル)Bチーム”からは“ジュビア・ロクサー”。

 グレイが出るならジュビアも!の勢いで参戦した。後、名字がロクサーって言うことを初めて知った。

 

 “三首の竜(トライデントドラゴン)”からは“アール・ケルニア”。

 背が低い。それに女顔の少年。見た目とは裏腹に相当の魔導士。

 

『以上!9チームから参加選手が決定しました。そして、オープニーグゲーム“ヒドゥン”。そのルールとは───』

 

 遂に始まった大魔闘演武。

 まだまだ始まったばかりだ。

 

 

続く───────────────────────────

 




裏設定:四つ首の猟犬の予選順位

途中でサンディーに吹き飛ばされた為に原作よりタイムが遅れている。ゴール直前でナツ達と遭遇。何故か、ナツとの競走が始まった。同時にゴール地点に辿り着いたために、勝敗は分からずのままである。


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第n話 星降る夜に

あ、因みにソウ達のギルドは漢字表記で三首の竜、読み方はトライデントドラゴンとなってますよ。

───では、競技パート始め!!


 “ヒドゥン”とは、隠れるという意味だがそれとゲームとどう影響してくるかがどうかだった。

 隠れるとなれば、背の低いアール。それに絶界魔法も有効に使えるので有利となればいいのだが、もし見つける側のゲームだったらそれは少し怪しくなる。

 見つける事はソウの方が得意だからだ。

 

「各チーム、ヒドゥンの参加者は前へ」

 

 アナウンス側では誰がお薦めなのか、話していた。ヤジマさんはルーファス。ジェニーは同じギルドのイブらしい。

 

「グレイ様。申し訳ありませんが、手加減しませんよ」

「当たり前だ。全力でこい」

 

 同じギルドが敵になるとはどんな感じなんだろう。

 やはり、妖精の尻尾の魔導士はソウ相手だとやりにくいのだろうか。

 そんなことをアールは考えていた。

 彼の横ではリオンがガッツポーズをとっていた。

 

「悪いが俺も全力でやらしてもらう。ジュビアのために!」

 

 どや顔で言うところか、そこは。

 現にグレイとジュビアは無表情。

 

「ほっとけよ。バカが移る。それと、アールって言ったか?」

「そうだけど、何か用?」

「ソウとさぁ、こっちが勝ったらそっちの目的を教えてもらうって約束してんだが、それはお前でも有効か?」

 

 アールはソウの方へと視線を向けた。

 視線に気付いたソウは頷いた。構わないという意味だ。

 

「うん、いいよ。そこのジュビアさんの場合も同様にね」

「サンキュー。後、予選始まった時から気になってたんだが、お前何?」

「さあ?僕も知らないよ」

 

 ギクッと肩を震えさしたカボチャ。

 誰も突っ込まない辺りからもう当たり前のことなのだろうが、いささか初めての参加なので気になっていた。

 

「見ての通り~、カボチャです~」

 

 どう見ても誤魔化している。

 

「あれ?質問した俺が悪いのか?」

「ジュビアもカボチャに見えますよ」

「いや………見た目はカボチャなんだが、中身は………」

「毎年のことだからね。あまり気にしてなかったけど」

「多分、主催者側の役員だと思うの」

 

 イブとベスは同時に姿勢を正して綺麗な礼をした。

 

「「キャラ作りご苦労様です!」」

「のんのん、楽しんでやっているからいいんだカポー」

「無理矢理キャラを濃くするなよ」

 

 すると、アールが近づき不気味な言葉を放つ。

 

「試しに分解してみるかな?」

「怖いカポ………」

「冗談だよ」

 

 いや、どう見たって本気でしそうな雰囲気だった。グレイは思っていた。

 ()()と言う言葉に何人かが反応していた。

 既に勝負は始まっている。相手の魔法を見極めているのだ。

 

「ちょっと待ってくださいや。これから始まるヒドゥンって競技。どんなもんか知りやせんがね、いやいや今後全ての競技に関することですがね。どう考えても二人いる妖精さんが有利じゃありませんかね?」

 

 確か、彼はナルプディングと言った。

 ソウの目の敵にしているギルドの者である。確かに悪者のようなやつだった。

 

「それは、フェアリーテイルがなし得た特権。そう言うなら自分達がしたら良かったんじゃないの?ルール改正のことはルール書に書いてあったんだし、誰も文句は言えないよ」

 

 アールが弁護した。

 これはフェアリーテイルが手に入れた物で誰も文句は言えないのだ。

 2つのチームが残っていることは異例だが、これもフェアリーテイルだから出来たものと言っていい。

 

「仕方ありませんよ。決勝に同じギルドが2チーム残るなんて凄いことなんですから………カポー……」

「いいのではないのかな。私の記憶が唄っているのだ。必ずしも二人いることが有利とは言えないと」

「オラも構わねぇだ」

「あちきも良いと思うよ」

「勿論、僕もね」

 

 舌打ちをしたナルプディング。作戦は不発に終わったようだ。

 

「流石だねぇ~それが王者の余裕ってやつかい?」

「仲間は君にとっても弱点となりうる。人質、脅迫、情報漏洩。他にもいくつかの不利的情報は構築出来るのだよ。記憶しておきたまえ」

「忘れなかったらな」

 

 随分の余裕がある発言だ。それも王者からの自身から来るものだというのだろうか。

 

「フィールドオープン!!」

 

 カボチャの一声により、突如会場に街と呼べるものが出現した。それも相当の広さを誇っている。

 一体、どれほどの魔力が行使されているのだろうか。

 これがこのヒドゥンの舞台となる場所のようだ。

 具現化が終わると同時にアールは街なかに放り出された。周りには誰の姿も見当たらない。

 皆とは、はぐれたようだ。

 アールは辺りを見回した。特に異変はなく、普通の街だ。

 ここでかくれんぼをすれば、良いと想定する。隠れ場所はいくらでもある。まあ、絶界魔法で生み出した別空間に移動すれば終わりだが。

 そんなことはルール違反になりそうだし、止めておく。まだ詳しいルール説明はまだだが、これは流石に駄目だろう。

 ここで、アールはかくれんぼをするには足りないものを見つけた。

 ()がいないのだ。

 誰かが探さないと同じ場所に隠れているたけで、ただ虚しいだけのものになる。

 

『会場の皆さんは、街の中の様子をラクリマビジョンにてお楽しみください』

 

 空にはたくさんのモニターが映し出されていた。自分もモニターで確認されるみたいだ。

 試しに手を振ろうしたが、こちらからでは向こうが見えないので諦める。

 

『参加している9名はお互いの様子を知ることは出来ません』

 

 出来たらゲームにならないと思う。

 

『ヒドゥンのルールは簡単。互いが鬼であり、追われる側なのです。この街の中で互いを見つけ、どんな魔法でも構いません。一撃を与える。ダメージの有無を問わず攻撃を与えた側が1ポイント獲得です』

 

 すると、道に何かが現れてきた。それは大量のグレイやリオンやジュビア………いや、ヒドゥンに参加している選手全員の偽物だった。勿論、アールの偽物もある。

 

『これは皆さんのコピーです。間違ってコピーに攻撃してしまった場合、1ポイントの減点となります』

 

 このコピーの使い方によっては色んな作戦が組み立てられると言うわけか。

 例えばまったく動かずにコピーの中に紛れて誰かが来るのを待ち伏せたりも出来る。

 

『さあ!消えよ、静寂の中に。闇夜に潜む黒猫の如し!ヒドゥン!開始でーす』

 

 銅鑼の音が鳴り響いて競技が始まった。

 

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

「うわぁ~アールがたくさん」

「長時間見てると気持ち悪くなってくるわね」

「まだ時間そんなに経ってないだろ」

「冗談よ」

 

 ソウ達は出場者の待機場所から観戦をしていた。

 ルーズの冗談は冗談に聞こえない。アールに似てきたような気がしてきた。

 

「それにしても………厄介だな」

「それはどっちの意味でだ?ソウ。アールを見つけることか?それとも、敵を見つけることか?」

「敵を見つけることは、既にアールは攻略法がついてるだろうからな。気がかりはモニター越しにアールが確認できるかどうか………」

 

 アールの絶界魔法での移動では、どこに現れるかは予測不可能と言ってもいいほどだ。

 けれど、アールが始まってから一歩も動かない様子から彼が本格的に動き出すのはまだまだ先のようだ。

 

「あ……ポイントが減った……」

 

 サンディーの呟きにソウが反応した。

 ポイントが変動したのはジュビアだった。コピーのグレイに耐えきれなかったようで思わず抱きついて減点されたようだ。

 すると、ジュビアが別の場所に転送される。

 ポイントが変動すると、どこかにランダムに転送されるシステムのようだ。

 その後は10秒後にリスタートする。それも制限時間内なら何度でも。制限時間は30分。

 そして次にポイントが変動したのはグレイとナルプディング。

「お!造形のスピードが上がってるな」

 

 グレイの氷のハンマーでナルプディングに攻撃を当てた。

 が、何故かグレイの減点になってしまった。グレイが当てたのは偽物だったのだ。

 ナルプディングはニヤリと笑いグレイを馬鹿にしていた。

 

「ああいうのも有りなのか」

「自分だけの軍団が作れそうだな」

 

 自分と同じ姿のコピーをたくさん従わせたら、楽しそうだとソウは想像する。

 ………やっぱり、自分の顔だけを見るのは流石に遠慮しておきたい。

 

「アールは動かないのかな?」

「遊んでんのよ。終盤になったら動くわ」

「へぇ~、流石、アールのお嫁さん」

「誰がお嫁さんよ!!」

 

 ジュンに突っかかるルーズだが、顔はトマトみたいに真っ赤だ。

 そして、密かにサンディーも顔を赤く染めている。妄想でもしているのだろう。

 すると、ヒドゥンの選手は群衆に溶け込んでしまった。誰が本物か分かりづらい。

 静寂の包む中、またしてもナルプディングがグレイに攻撃を仕掛けた。

 ナルプディングにはグレイの居場所が分かっているかのような行動の素早さだった。

 グレイは1ポイント失い、ナルプディングが1ポイント獲得したことでフェアリーテイルAチームは最下位へ落ちる。レイブンテイルはトップに躍り出る。

 ソウから見てもナルプディングはフェアリーテイル狙いだということが読み取れる。

 

『この自分や敵だらけのフィールドで実体を見つけるにはどうしたら良いのでしょう?』

『色々と方法は色々あるけどねぇ。例えば相手の魔力を探るとかねぇ』

『イブ君ならもっと凄い方法を取ると思うわ~』

 

 ───妖精の尻尾A、選手待機席───

 

「相手の魔力を探る………大体の方向は分かるだろうが、特定するのは困難だぞ」

「グレイ!何やってんだ!」

「同じやつに2度やられんなよ!」

 

 ルーシィは大鴉の尻尾の待機場所へと目を向ける。

 ウェンディの件のこともあり、どうやらレイブンテイルはフェアリーテイルを徹底的に懲らしめたいようだ。

 

「ソウが出ないのは幸いだと言えるな」

「どうしてだ?エルザ」

「ナツ、ソウの魔法は波動よ。波動を使われたら簡単に居場所が特定され放題になって有利過ぎる状況になるの」

「だが、あのアールってやつも侮れないと思うが」

「あぁ………実力は未知数だが、何をしでかすか分からん」

「それにどんな魔法を使うか、分かってないから油断は出来ないわね」

 

 どうやら、問題は大鴉の尻尾以外にもたくさんあるようだ。グレイはこれらを全部相手に出来るのだろうか。

いや、そうしないといけないのだ。

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

「俺が出た方が良かったか?」

「誰が出ても結果は変わらないんじゃないのか?」

「それもそうだな」

 

 まだ、アールに動く気配は無さそうだった。

 戦況が動いた。

 グレイにニンジンのロケットが地面から飛んでくる。ぎりぎりのところで回避。

 穴から出てきたのはベス。すると、ベスが空に打ち上げられた。サボテンのようなものに打ち上げられたのだ。

 ベス、1ポイント減点。

 グレイの背後には1ポイント獲得したイェーガーがいた。今のサボテンはイェーガーの魔法らしい。

 さらにポイントは変動する。イェーガーを背後からリオンが攻撃した。

 そして、建物の屋上からジュビアがジャンプして飛び降りる。その際、下にいるグレイとリオンはジュビアがスカートなためにあれが見えており、顔を赤くした。

 ジュビアはリオンを蹴飛ばして、着地する。

 その結果、ジュビアのポイントは0ポイントに戻った。

 

「おいおい、手助けは無用だぜ」

「分かっています」

 

 一気にポイントが変動したが、グレイはまったく変わっていない。

 リオンは「眼福………」と言いながらどこかに転送された。

 この場にいるのは、グレイとジュビアの二人。

 

「ジュビアはあなたに勝ちます。マスターと約束しましたから」

「じいさんと約束だぁ?」

 

 マスターと一体何の約束をしたのか、まったく心辺りがないグレイ。

 ジュビアの説明によると、初めのBチームは乗り気ではなかったらしい。なので、マスターがある提案をしたのだ。

 それは勝った方が負けた方を1日好きに出来るというものだった。

 それで、取り敢えず納得してBチームは参加したのだが、Aチームのほうはまったく聞いていない話だった。

 

『ふざけんなぁ!おい、じいさんそんなの聞いてねぇぞ!そのローカルルール、俺らも適応されんだろうなぁ!』

 

 グレイのモニター越しの気迫に押されて、マスターは頷いていた。

 ナツはそれを聞いて、ラクサスとガジルにハッピーの物真似をさせている場面を想像していた。

 だけど、それは面白いのだろうか。

 

「だから、ジュビアは負けません!」

「臨むところだ」

 

 二人は対峙する。と、そこに乱入者が現れる。

 

「二人まとめて、妖精さんをゲットでさぁ!」

 

 ナルプディングだった。どうにか、緊急回避に成功するも、こうもナルプディングが狙ってくるとなると邪魔にならほかならない。

 反撃に出ようとしたグレイだが、足が止まる。

 雪が降ってきた。

 おかしい。今も空は晴れているのに雪なんて降るはずがないのだ。

 可能性として高いのは魔法。

 そして、これを扱うのは───

 

『おっーと!これは一体……?街のなかに雪が降ってきたぁー』

『イブ君ね~』

 

 今まで何の行動にも移っていなかったイブだった。

 

「寒さに強い魔導士がいたのは誤算だったよ」

 

 グレイとリオンのことだ。

 人は寒さに震えると自然と体温が低くなっていく。すると、人は白い息を吐くのだ。それによってコピーと見分けようという訳だ。

 コピーは寒さを感じないので、白い息を吐いているのは本物と言うことになる。

 場所を突き止めたイブは吹雪で攻撃。一気に3ポイントを獲得した。

 そこにすかさず、リオンが追撃した。リオンに寒さは効かない。

 

 状況は乱戦を極めていた。

 誰が首位になるのか、分からない。

 その中でも、ナルプディングはしつこくグレイを襲撃していた。流石にグレイも鬱陶しい他ならない。

 

『それにしても、セイバートゥースのルーファスとトライデントドラゴンのアールはまったく動きませんね。未だに誰も倒さず倒されていません』

 

 刹那───

 

「私は覚えているのだよ」

 

 ようやく、ルーファスが動き出した。だが、ルーファスは驚くことに一番高い建物のてっぺんに立っていたのだ。

 あんなところに居れば目立つ。全員の絶好の標的にされやすい。

 

「私は覚えているのだ。一人一人の行動、足跡、魔力の質」

 

 随分と余裕ぶった行動だ。そんなに自分を狙って欲しいのだろうか。

 

「もう、そろそろアールも動くか」

「そうだな」

 

 未だに姿を現していないアール。このままでは順位はよくない結果になる。

 ルーファスは両方の人差し指と中指を頭にかざした。

 

「覚えている………覚えているのだ………メモリーメイク」

 

 ルーファスの背後に魔方陣が出現。ルーファスの頭上が何かに覆われて、辺りが暗くなる。

 

「“星降ル夜ニ”」

 

 電撃に近いものが、ルーファスの体から8つに分裂して放たれた。それぞれが選手達へと襲いかかり、命中していく。

 さらりと、かわしたナルプディングがルーファスに攻撃を仕掛けるが、それはコピーだった。

 空中に投げ出されたナルプディングにルーファスが追撃を仕掛けて、ナルプディングはポイントを失う。

 

「私にデコイは必要ないのだ」

『一瞬でぜ、全滅………!これがルーファス。セイバートゥース~!』

 

 会場が一気に盛り上がる。だが、誰も気づいていなかった。全滅したはずなら、ルーファスには8ポイントが上がるだが、ルーファスの得点は7ポイント。誰かが攻撃をかわしているのだ。

 

「主催者の皆さん、この競技は面白くない。だって私には隠れる必要がないのだから。私を見つけたところで攻撃は当たらない。そこにあるのは私がいたという記憶だけだ」

 

これが、剣咬の虎の実力だと感心していたルーシィ。と、隣のエルザが異変に気づいた。

「これが、セイバートゥース………」

「おかしい。アールのポイントが変わっていない」

 

 攻撃を当てられるとポイントは減点する。が、アールのポイントはゲーム開始からまったく変わっていない。

 

『ち、ちょっと待ってください!な、なんと!一人だけ、ルーファスの攻撃をかわしている人物がいたぁー!』

「確かにこの競技は面白くないね。だって誰も僕を見つけてくれないんだよ」

 

 ルーファスの背後の空間が歪んだ。そして、そこから一人の人物が出てきた。

 アールだ。

 ルーファスが気づいた時にはもう、遅かった。アールはルーファスの背中に手を伸ばして魔法を発動する。

 

「『空動・其の参・弾』」

 

 ルーファスの背後にアールの魔法が直撃。アールが放ったのは空気砲に似たものだった。

 

「この私が記憶出来ないだと………!」

「油断大敵だよ」

 

 にこりと笑みを浮かべたアール。ルーファスは足を踏み外して落ちながらも振り返ってアールを見た。そして、驚嘆した。

 ───浮かんでいる!

 ルーファスがいたのは建物のてっぺん。他に誰かが立てるスペースは絶対にない。なら、アールはなぜ、立ち止まっているのか。それは宙に浮かんでいるからだ。

 

『おぉっと!ここでルーファスが倒されたぁ!アールにポイントがようやく追加!』

 

 空から辺りを一望したアールは、皆がリスタートしているのを確認した。

 

「さて、計画はもう意味がないんだけど行きますか」

「その前に俺の相手をしてもらおぅーか!」

 

 空中に浮かんでいるアールにグレイが飛びかかっていく。

 ───が、ナルプディングがグレイを妨げるように現れた。

 また、狙われる。そう思ったグレイは目を見開くが、それはまた別の事で驚いたからだ。

 ナルプディングが下に叩きつけられた。

 それをしたのは、アール。魔法で空気の歪みを作り、それをナルプディングの頭上からぶつけたのだ。

 

「邪魔しないでくれるかな?」

 

 笑顔でそう言ったアールには、どこか恐怖が感じられた。

 グレイは両手をかざし、魔法を発動してアールを倒そうとする。

 すると、アールはまたしても一瞬で消えてしまった。グレイは辺りを見回す。

「───っ!背後か!」

 

 気配を後ろから感じたグレイ。けれど、今は空中にいるために思うように動けない。狙われるのには、絶好の的だった。  アールの手元から放たれた空気の歪み。それは、あのルーファスを倒したものと同じものと見受けられた。

 グレイの背中に直撃。

 よって、アールは計3ポイントを獲得していた。

 グレイが転送されたのを確認したアールは、またしてもその場から姿を消した。

 

「今度は僕か!」

 

 イブは直感的に警戒体勢に入るが、横から襲ってくる空気の歪みには気づかない。

 アールが目の前に現れると同時にぐはっ!とイブの脇腹に命中して、1ポイントをアールに取られることになった。

 アールがイブを狙ったのはイブの居場所が一番近いためだった。

 そのお陰で、これでアールは3位まで一気に上り詰めた。ルーファスの7ポイント同時獲得をしたこと。それにナルプディングが地味にポイントを稼いでたのには、影響が大きかったために1位までにはまだ届かない。

 時間があれば、良かったのだがもうほとんどない。

 そして───

 

『ここで、終了~!』

 

 終わりを告げるアナウンスが入り、順位が発表される。

 

 ───1日目途中結果───

 1位,“剣咬の虎”(10ポイント)

 2位,“大鴉の尻尾”(8ポイント)

 3位,“三首の竜”(6ポイント)

 4位,“蛇姫の鱗”(5ポイント)

 5位,“青い天馬”(4ポイント)

 6位,“人魚の踵”(3ポイント)

 7位,“四つ首の猟犬”(2ポイント)

 8位,“妖精の尻尾B”(1ポイント)

 9位,“妖精の尻尾A”(0ポイント)

 

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

 まあ、アールは不満だろうがトライの方としては良い結果だと言える。

 

『やはり、予想通りに1位はセイバートゥースでしたね』

『だけど、あのアール君も凄い活躍だったよ』

 

 1位になれて喜ぶはずだが、ルーファスは何か満足がいかない顔をしていた。

 アールに裏をとられたことを根に持っているのだろうか。

 

『今回のダークホースはトライデントドラゴンなのでしょうか?』

『私も気になってきたわ』

 

 実力はそんなには示していないのだが、周りからの目線は注目を浴びたようだった。

 

「アール、お疲れだったな」

「うん。楽しかったよ。けど、誰も見つけてくれなかったことには残念かな」

「はは!無理難題だなぁ、それは」

 

 競技の後だと言うのにいつもと何ら変わりない様子でジュンとアールは会話をし出した。

 

「どうしたの、ソウ?」

「………フェアリーテイルがな」

 

 サンディーはどこか、上の空のソウに話しかけた。ソウの目線の先には、最下位を占領している妖精の尻尾の名前があった。

 観客からは罵声が飛び散る。ナツが怒鳴り返すが、逆効果だった。仕方なく笑わせたい奴には笑わせておいて気にしないことにしたナツ達。

 その判断は正しいだろう。

 正直、2チームともあまり実力を出しきれずにいたのだ。

 特にグレイは競技中のほとんどをナルプディングに邪魔されていた。初めから大鴉の尻尾は妖精の尻尾だけを集中的に狙っていたと思われる。

 元妖精の尻尾の魔導士のソウが気にかけるのも仕方ないことだった。

 

 

 

 

 

 

 

「………くそっ!」

 

 グレイは誰もいない通路にいた。

 ナツやルーシィには見られたくないあまりに競技が終わるなり、さっさとその場を離れたのだ。

 壁に悔しさのあまり、拳を叩きつけた。壁にひびが入る。

 ───レイブンテイルに、セイバートゥースの造型魔導士そして………ソウのギルド。

 敵が多すぎだった。

 だが、グレイもここで易々と引き返すわけにはいかなかった。

 

「………この借りは必ず返す………!」

 

 

続く──────────────────────────────




裏設定:アールの魔法

本来彼は空間魔法の使い手にするつもりだったが、剣咬の虎のミネルバも同じ名前の魔法だということに気付いて変えている。実際にもアールの魔法は空間魔法よりも効能は上である。


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第o話 空撃の覇者

もうすぐ学生の地獄、テストが襲いかかってくるためにしばらくは投稿が出来ません\(^-^)/

すみません(´д`|||)


 ヒドゥンで一番の風格をさらけ出したのは、三首の竜のアールという少年。

 結果的にはセイバートゥースのルーファスが1位だったが、アールはわざと1位を譲ったような行動だった。

 彼が動いたのは、ルーファスの魔法が発動した直後だった。

 ルーファスの背後に一瞬で現れたかと思うと、ルーファスに攻撃を当てた。

 剣咬の虎はその光景に驚愕していた。あのルーファスからポイントを奪うなど有り得ないからだ。

 だが、現にアールはルーファスのいた場所に降り立っている。

 その直ぐ様に、グレイが仕掛ける。ナルプディングがグレイの邪魔をするが、彼は邪魔をするなと言わんばかりに一瞬でナルプディングを地面に何かで叩きつけた。

 そして、その後またグレイの背後に一瞬で移動した。

 ───まるで、瞬間移動ではないか。

 透明になる魔法はあるが、瞬間移動をする魔法はなかなかいない。

 古代魔法ではないかと妖精の尻尾の応援していた者達は考えたが、初代マスター・メイビスの呟きに考えを改めることになる。

 

「あの魔法は………私でも見たことがありませんね………」

 

 ───となると、アールの魔法は古代魔法ではないと言うことになる。メイビスは古代魔法に詳しいからだ。

 意外にも彼の魔法を知っていたのはマカロフだった。

 

「あれは“絶界魔法”と言いますぞ、初代」

「絶界魔法ですか?」

「マスター、どんな魔法なの?」

 

 ハッピーが尋ねた。内容は誰もが気になっていたもの。

 一呼吸置いたマカロフは、続けた。

 

 “絶界魔法”

 その魔法の所持者は、夜叉───師匠が最初だった。

 元々、絶界魔法というのは昔から存在していたが制御が難し過ぎて誰も使いこなせなかったのだ。それを師匠は意図も簡単に使いこなしたと言われている。また空間魔法と呼ばれる魔法もあるが、絶界魔法はさらにその上を越す難易度を誇る。空間魔法を操るだけでも、普通の魔導士は不可能とはっきり断言出来るので、絶界魔法を操ることがどれだけなのか、誰も想像すらつかない。

 師匠から直々に教わったアールが使っているのは、絶界魔法の中でもまだ、初歩のものだ。

 最上位の魔法となってくると、それは恐ろしいものとなると噂では言われている。

 一度、彼はルーズと言う少女と共にソウに会うためにフェアリーテイルを訪ねてきたことがある。

 その時は確か、滅竜魔法しか使っていなかった。いや、誰もがそう思っていた。ナツやガジル、ウェンディ、そしてソウは滅竜魔法しか使っていなかったからだ。

 ───そういえば、アールは空動竜の滅竜魔導士だったはず。だとすれば、彼がその基礎となる空間を自在に操れるのは納得がいく。

 彼にとって絶界魔法はぴったりの魔法だったのだ。

 それとマカロフは最近、ある魔導士の噂を耳にしていた。それは………ある少年が闇ギルドを倒し回っているという噂だ。

 その少年は、驚くことに瞬間移動を使いこなすと話題を呼んでいた。

 その少年こそが、あの彼ではないだろうか。

 

「俺、聞いたことがある………。確か、その少年はこんな異名で呼ばれてた……」

 

 マカロフの話を聞いたロメオが、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「“空撃の覇者”」

 

 小さい少年の体ながら空間を司る魔導士にその二つ名が付けられた。誰かが言い出したのかは不明。いつの間にか世間に浸透していた。

 妖精の尻尾はアールを倒すことが出来るのだろうか。いや、倒さないといけないのだ。

 ほとんど、無敵と言える魔導士を───

 

 

 

 

 

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

『続いて!バトルパートに移ります!各チーム1試合ずつしておこなってもらいます。トーナメントではありません。なお、最後の1チームはバトルパートで得点を獲得出来なかったチームの中からランダムで選ばた選手と勝負することになります』

『組合わせは主催者側が決めるんだったわね』

『面白そうな組合わせになるといいねぇ』

『早速私のもとに対戦表が届いていますよ!』

 

いきなりの対戦相手が発表される。

が、妖精の尻尾にとっては一大事とも言える試合だった。

 

『1日目!第1試合!妖精の尻尾A!ルーシィ・ハートフィリア~!!』

「ルーシィって誰だ?」

「星霊魔導士の子だよ、ジュン」

「アールはよく覚えてるよな」

『vs!大鴉の尻尾!フレア・コロナ!』

 

早速、妖精と大鴉がぶつかることになった。

 ソウもこれには驚く。

 フレアというと、あの長い赤髪をした女のことだろう。

 ルーシィを目につけていたらしく「金髪ぅ~」と何度も言っている。

 見た目は態度の悪そうな女性。魔導士としての実力は未知数。あのラクサスの父親のギルドでもあるから魔導士としての強さは折り紙つきではあるだろうが。

 対するルーシィは気合いが入ってるのか、良い面構えをしていた。

 

『この二つのギルドはマスター同士が親子の関係だそうですね、ヤジマさん』

『まあ、違うギルドの紋章を背負ったなら親も子も関係ないけどな』

『ドラマチィクねぇ~痺れちゃう~』

「両者前へ!」

 

 かぼちゃの指示のもと、ルーシィとフレアが対峙した。

 

「ここからは闘技場すべてがバトルフィールドとなるため、他の皆さんは全員場外へと移動してもらいます。制限時間は30分。その間に相手を戦闘不能状態にすれば、勝ちです。それでは、第1試合始め!」

 

 銅鑼の大きな開始の合図と共にバトルパートが始まった。

 

「始まったよ!」

「大鴉の尻尾って言うとソウが気を付けてるギルドだったか?」

「悪い意味でな」

 

 先手を打ったのはルーシィ。

 黄道十二門の内の一人、タウロスを呼び出した。

 牛の星霊で………ど変態だ。

 タウロスは自慢の斧でフレアに攻撃を仕掛けるが、フレアは避けた。

 ルーシィは続け様に、もう1本鍵を取り出した。

 

「へぇ~………同時開門が出来るようになったのか………」

 

 星霊魔導士のルーシィは今までの場合、魔力の消費が激しいお陰で、一人の星霊しか呼び出すことが出来なかった。

 だが、セカンドオリジンを開いたお陰で同時開門が出来るようになったのだろう。

 ルーシィが呼び出したのはスコーピオン。「ウィァー」が口癖の蠍座の星霊。

 スコーピオンはフレアに向けて砂の竜巻を浴びせた。

 対するフレアは避けようとせずに、赤髪を伸ばして盾のようにした。それで、スコーピオンの攻撃をふさいだ。

 

「うわぁ~髪の毛が伸びたよー!」

 

 サンディーの言うとおり、フレアの髪が伸びたのだ。それがフレアの魔法だろうか。

 ルーシィはタウロスにある指示を出す。

 タウロスは先程のスコーピオンの攻撃によって巻き起こった砂を斧に纏わせた。タウロスはそれをフレアに向けて頭上からおりはなった。

 ルーシィが行ったのは星霊二体による合体技。

 砂が会場一体に大きく広がって、試合の内容が見えなくなった。

 砂埃が収まるとフレアは大きく空へ飛ばされた光景が見えた。───が、反撃とばかりに髪の毛をルーシィに向けて伸ばした。

 髪の毛の先端がまるで、狼のような形になりルーシィに襲いかかる。

 既にタウロスとスコーピオンを閉門していたルーシィはまた新たな星霊を開門した。

 ───蟹の星霊、キャンサーだ。

 髪の散髪が得意なキャンサーはフレアの髪による攻撃をあっという間に防いだ。

 髪の毛を切られたことに怒ったフレアは自身の髪の毛を地面に潜り込ませた。

 ルーシィの足元から出てきた髪の毛は彼女の足元を掴んだ。

 ルーシィはぐるぐると投げ飛ばされた。

 フレアの髪の毛はやはり、自由自在に伸ばせるようだ。

 ルーシィは対抗するように、腰に付けていた鞭を取り出した。エドラスの時に手にいれた鞭。こちらも自由自在に伸びる。

 鞭の先端がフレアを掴んだ。これで、お互いがお互いを掴んだ状態になる。

 すると、二人は宙に飛んだ。

 しばらくしてから、二人は掴むのを止めて解放された。

 

『おぉーっと!これは1回戦から息つく暇のない攻防戦!親子ギルド対決!女の子同士の戦い!どちらも引かず!』

 

 ここまでで優勢と思われたのはルーシィだった。

 すると、ルーシィの顔が歪む。

 よく見てみると、ルーシィの履いているブーツがボロボロになっていたのだ。

 焼け焦げていた。フレアの髪の毛は焼くことが出来るようだ。

 ルーシィは「結構気に入ってたのに、このブーツ………」と言いながら不要になったブーツを脱いで投げ捨てた。フレアはてっきりダメージを負っていたと思い込んでいたので、少し表情が歪む。

 フレアは再び、髪の毛を地面に潜り込ました。

 今度、ルーシィが掴まれると素足なので危険だ。けれど、ルーシィは先程とは何かが違うことに気付いていた。

 気配がしない。どこから来るかと警戒する。

 ふとフレアを見た。彼女は顔を横に傾けて「ふふふ……」と不吉な笑みを浮かべた。右手の人差し指を傾けながら。

 ルーシィは人差し指の指す方へと顔を向ける。そこには、自分のことを精一杯応援してくれるフェアリーテイルの仲間達がいた。

 ───その瞬間、見てはいけないものを見てしまった。アスカの背後に一瞬赤髪の先端があるのを見たのだ。

 まさか、人質────!

 「アスカちゃん!」と叫ぼうとしたルーシィだったが、フレアの髪に口を塞がれてしまう。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 ソウは首を傾げた。

 三首の竜のいる場所はフレアの背後。こちらからはルーシィの正面が見えるだけだがなんだか様子が変だった。

 

「今、ルーシィが何言ったか分かるか?」

「えっ………聞こえないけど?」

 

 闘技場は広いので、対戦相手同士の会話を聞くのは会場が静まっていない限り難しい。けれど、ソウは波の使い手。音波を微弱だが感じとることが可能。だが、今回はソウ自身も油断していたのではっきりとは聞こえなかった。なので、変に思ったのはソウだけのようだ。

 

「あの人、さっきの足のダメージが大きかったのかなぁ?」

「さぁな。ただ、油断しただけじゃねぇのか?」

「私もそう思うわ」

 

 三首の竜の皆は試合のことについて会話をしている。気のせいだったか………とソウは忘れることにした。

『息詰まる攻防が続くバトルパート!ルーシィ・ハートフィリアvs.フレア・コロナ!そういえば、ヤジマさんが評議院にいらしたころはフェアリーテイルも今とは随分違った評判だったそうですよね』

『人気はあった。実力もトップレベル。ただス、問題ばかり起こして大変ではあったがな』

『いやぁ~、当時ののことを知らない人も多いでしょうね』

 

 フレアが先に動いた。

 ルーシィはただ無抵抗にフレアの攻撃を避ける素振りを見せずに吹き飛ばされた。

 続けざまにフレアの猛攻がルーシィを襲う。ルーシィは何もせず、ただ耐えるだけだ。

 

「あれ?動きが変わったね」

「魔力でも切れたんじゃないの」

 

 戦況が動いたことにアールとルーズは気付いた。ルーズはルーシィの2体同時開門による魔力切れだと思ったのだろう。

 ───いや、それはおかしい。

 セカンドオリジンは2体同時開門が出来るほどにまでルーシィを成長させたのだ。たったの1回で限界が来たとは思えなかった。

 

「互角だったのにな」

「何かあったのかな?」

 

 激戦が一変して一方的な展開に会場も戸惑いが隠せない様子だ。

 

 

 

 

 ◇

 

 ───どうすれば………っ!?

 ルーシィは頭の中で必死に考えていた。誰も気付かない中でアスカが人質に取られている。フレアの言うことを聞かないとアスカがどうなるのか、分からなかった。

 ルーシィは心の中で皆にウェンディにグレイに謝る。どうしようもないのだ。アスカを救うのに、自分なりに考えた決断が降参することだったから。

 ルーシィは降参と言う二文字を声に出そうとするが、またしてもフレアの髪に口を塞がれてしまう。

 

 

 

 

 ◇

 

()()()()………?」

「どうしたんだ、ソウ?」

「いや、なんかそんなことが聞こえたような気がしてな」

 

 ソウの目線の先にはフレアに手足を拘束されたルーシィの姿があった。

 ソウは密かに波動の魔法を発動した。

 

「おい………」

 

 成果があった。フェアリーテイルの応援席にいるアスカの背後に何かゆらゆらしたものがあったのが確認されたからだ。

 ───その瞬間、全てが分かった。

 ルーシィの様子が変わったのも、あれのせいだ。あれはフレアの髪の一部。先程から髪の一部が地面に突き刺さり放しなのもきっとそのせいだ。

 ルーシィは人質を取られて脅迫されているからこそ、魔法も使わずただ無抵抗に攻撃を受けていただけだった。

 ソウは動こうとしたのだが、魔法による他の魔力も近くで感知されたので、自分の出番はないと動かない。

 ───ナツだ。

 「アスカちゃん」とルーシィが言ったのを聞き逃さなかった耳の良いナツは、直ぐ様応援席へと駆け出していた。フレアの髪の先端を掴んだナツはそれを燃やした。

 これで何も障害がなくなったルーシィ。ナツは応援席から思いっきり叫んだ。

 

「行けぇぇー!!ルーシィー!!」

 

 窮地を逃れたルーシィは、星霊ジェミニを呼び出した。咄嗟のことにフレアは判断が鈍り、ジェミニの体当たりを喰らってしまう。お陰で拘束が解けたルーシィはジェミニに何か指示を出した。

 ジェミニはその場で変身した。出てきたのはルーシィだ。ただし───

 

「うわぁ!ジュン、見たら駄目!」

「え!何!?」

 

 出てきたのはバスタオル姿のルーシィだった。会場が盛り上がる。

 ジェミニはコピーした時の服装で出てくるので、ルーシィがこの前にジェミニにコピーさしたのがそのまま出てきてしまったというわけだ。つまり、バスタオル姿のまま登場してしまったのだ。

 サンディーはジュンの両目を両手で隠す。ルーズもアールに似たようなことをしていた。ソウは相手がいないので、何にもない。

 二人のルーシィは手を取り合い、何か魔法を発動された。

 ソウでも見たことがない魔法だ。ただ、ルーズは知っていたようで口を開いた。

 

「あれは、星々の超魔法よ」

 

 ルーシィの周りがどんどんと変わっていく。

 そして、遂にルーシィのとっておきの秘策が発動された。

 

「『ウラノ・メトリア』」

 

 初めて見る魔法にフレアは困惑状態に陥り、ウラノ・メトリアは命中するかと思われたが………。

 ───発動しなかった。

 いや、消されたといった方が良いだろうか。確実にルーシィの魔法は発動していたとソウは感じていた。

 最後の最後で失敗だろうか。いや、ない。現にルーシィ本人も信じられない顔をしている。

 可能性が、あるとすればフレアもしくは第3者の介入による妨害。───が、フレアはその場に座り怯えているのでまず有り得ない。

 ………となると、考えられるのは観戦している大鴉の尻尾(レイブンテイル)の誰かになる。

 さらに絞りこむとなれば、今のはウェンディを魔力欠乏病にしたものと同じものだと思われるだろうか………。

 何故ならあれほどの魔法を一瞬で消し去るのは滅多なことでは起こらない。故にそれを可能とする魔導士もそこら中にいるものではないからだ。

 

『おぉーっと!ルーシィがダウン!試合終了~!勝者、レイブンテイル、フレア・コロナ~!』

 

 ふらふらで力尽きたルーシィは倒れてしまった。そこで、勝負の決着はついた。なんとも理不尽な結末だ。

 ソウは密かに怒りを感じていた。

 

「………僕も外野からの支援を感じたよ」

「誰か分かるか?」

「いや………そこまでは僕でも分からなかったよ」

 

 会場は今の一部始終をどうやら、不発に終わったようだと思っていた。

 バレなければ良いと思っているのなら、万事周到。こちらは正々堂々潰すまでだ。

 

「ウェンディのこともあるし………少し教える必要があるようだな……」

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 試合は滞りなく進んでいく。

 第2試合は“青い天馬”から“レン・アカツキ”。対する相手は“人魚の踵”の“アラーニャ・ウェブ”。

 最初は、ウェブが優勢かと思われていたが、レンは婚約者であるシェリーの前でカッコ悪い姿は見せられまいと奮闘して最終的に見事に勝利を勝ち取った。

 ………途中、シェリーのことで弄られていたのはどうかと思うが………。動揺して隙を与えるのはしょうがない。

 第3試合は“剣咬の虎”の“オルガ・ナナギア”と“四つ首の猟犬”の“ウォークライ”の対決。

 ウォークライがとっておきの“涙魔法”と呼ばれる魔法を発動した。この時、一番サンディーが何が気に入ったのか騒いでいた。

 けれど、オルガの雷魔法による一撃になすすべなくウォークライは倒れた。

 ………涙魔法を見たかったのに、その前に倒してしまったから見れなくなったと残念がっていたサンディー。

 雷魔法といってもオルガの雷は黒い雷だった。同じ魔法のラクサスが目をつけそうな相手だ。

 予談だが“蛇姫の鱗”にもソウと同じ波動を使う魔導士がいるとアールから聞いた。少しタイプが違うみたいだが。

 続いて第4試合では“蛇姫の鱗”からは聖十の称号を持つ“ジュラ・ネェキス”。

 “妖精の尻尾B”から、こちらも聖十の称号を持っていた“ミストガン”が選出された。

 ミストガンと言っても中身がジェラールだと言うことはソウも知っている。

 ここで、残った1チームがなんと“三首の竜”だと言うことが消去法で判明した。

………運が悪いのか良いのか微妙だった。

 ジェラールは器用な事に、ミストガンの魔法を使ってジュラに勝負を仕掛けた。

 対するジュラも聖十の名に恥じない見事な魔法を繰り広げる。

 ジュラは地面を操る魔法だったために、ジュンが対抗心を燃やしていたのを隣でソウは感じ取っていた。

 ジェラールは通用しないと思ったのか天体魔法を使いだして、最終的には“真・天体魔法”を使おうとし出した。

 すると、ジェラールの体に異変が起きた。

 また誰かによる介入かと思われたが今度はソウでも知っている人物による者だ。

 あれはメルディの“感覚連結”だ。ウルティアとメルディの二人がミストガンに扮装しているのがジェラールとバレるのを危惧したためにとった行動だと思われる。

 最初は、口元を押さえて「辛ぁ………」と言っていたが誰も聞こえない。

 次にジェラールは何故か笑い転げ出した。ウルティアがメルディをこちょばしたためにジェラールも耐えきれなくなったのだ。

 会場から見ればジェラールが一人で意味不明なことをしているように映るだろうが、事情を知っている者から見れば苦笑するしかない。

 自業自得というやつか。

 すると、ジェラールが笑い転げているのに吊られてか、サンディーも笑い出した。

 これにはルーズが内心、引いていた。

 それについては置いておくとして………そのままジェラールは敗北してしまうというなんとも呆気ない結末に終わってしまった。

 ………ついでに妖精の尻尾のお笑い担当がミストガンだと浸透してしまった。

『さて!続いて、本日最終試合の発表に移りたいと思います!まず、本日バトルパートでポイントを獲得していない4チームの中から1名ランダムに選出されます。発表します!選ばれたのは………』

 

 一日目のバトルパートでポイント獲得してないのは、“妖精の尻尾A,B”、“人魚の踵”、“四つ首の猟犬”のチームだ。

 

『妖精の尻尾B!ジュビア・ロクサー!』

「え!ジュビアですか!?」

 

 選ばれるとは微塵も思っていなかったジュビアは信じられない顔をするが、今のは嘘ではないようだ。

 ジュビアにとって、これはチャンスだった。ヒドゥンでは活躍出来なかったので、これで勝負に勝てばリベンジが出来るという訳だ。これを逃すわけにはいかない。

 対するジュビアの対戦相手は………。

 

『三首の竜からは!ルーズ・ターメリット~!』

 

 チーム内での最初のご指名にルーズは不機嫌になった。

 

「なんで、私が最初に行かなくちゃならないのよ」

「まあまあ、頑張って」

 

 アールにあやされて渋々ルーズは闘技場の方へと歩いていった。

 ジュビアは水の魔導士。対するルーズの魔法は………。

 アールが見込むことのある魔導士だ。心配する必要はない。

 けれど、あの約束だがルーズとサンディーに対しては無意味にしてほしい………と考えるソウだった。

 

 

続く───────────────────────────




裏設定:一日目バトルパート

二日目、三日目の三首の竜の対戦相手は既に形が出来ているが、一日目だけはどうしても決まらず渋々余り枠になってしまった。


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第p話 砂漠決壊

実はテスト期間の途中………でも、いっちまえ!!

────試合開始ぃぃい!!


 大魔闘演武1日目の最終試合。

 選ばれたのは、三首の竜からルーズという少女と妖精の尻尾Bチームからのジュビアだ。

 三首の竜には、元妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士のソウがいる。“元”と言っても1ヶ月後には戻ってくるが、今は妖精の尻尾(フェアリーテイル)にとってライバルの関係に当たる。

 三首の竜はすなわち、ソウのチームでもあり実力は未知数。

 アールは魔導士としての実力をヒドゥンでさらけ出したが、あれでもまだ本気だとは言えない。

 次に出てきたのは、ルーズという少女。

 一度、彼らがフェアリーテイルに尋ねた時一人でいつの間にか迷子になっていたというあの子だろう。

 二人は闘技場に降り立ち、対峙した。

 

「ジュビア、ギルドのために絶対に負けません」

「………ふん、どうでもいいわ」

 

 興味なさそうに呟いたルーズ。

 ジュビアは気になっていたことを尋ねた。

 

「あなたの場合でもあの約束は有効ですか?」

「なんのこと?私は知らないわ」

 

 ルーズの反応から見る限り、嘘をついているようには見えなかった。

 つまり、あの約束が有効となる人物は三首の竜の青年達と予想される。

 ───だが、そんなことは関係ない。

 今、フェアリーテイルどちらのチームもポイントが殆どなく、どうしてもポイントは欲しい。故に今の目の前の少女を倒さないといけない。

 

「それでは~本日最終試合を始めます。制限時間は30分。どちらかが相手を戦闘不能にしたほうが勝ちとなります。それでは始め!」

 

 ゴーン!と銅鑼の轟音が会場一体に轟いた。

 ───幕が開けたのだ。

 

 ────妖精の尻尾A、選手待機席───

 

 妖精の尻尾Aのメンバーは闘技場を見ながら会話していた。

 会話の話題は闘技場に立っている少女についてだ。

 

「あいつは確か………」

「アールと共に行動していたな」

 

 一度、迷子になっていた所をナツ達は遭遇している。

 その時は冷たい態度であしらわれたが。

 

「そういえば、何のドラゴンスレイヤーだ?」

「確か………“砂”だったな」

 

 エルフマンの疑問にエルザが答えた。

 砂というと、相性的には水の魔導士のジュビアが有利と言ったところか。

 

「だが、油断は出来ない。あのソウのギルドだ。容易く勝てるとは思わない」

「あぁ、どんな闘いをするか楽しみだ」

 

 あのソウのギルドだ。実力は分からないが強敵となることだけは間違いがなかった。

 ソウからは聞き出す必要もあるし、フェアリーテイルとしては優勝する必要もある。

 ナツは自然と気持ちが高ぶるのだった。

 

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

 一方でソウ達の話題もあの少女についてだ。

 

「アール、ルーズの状態は万全か?」

「うん。最高潮じゃないかな」

「ルーズちゃんは強いよー」

 

 アールとサンディーの保証があるから、大丈夫だとは思われるが、ソウはルーズの魔法をそんなに見ていない。

 けれど、そんな心配事も勝負が始まると考える必要もなくなった。

 

「始まった」

 

 始めに動いたのはジュビアだった。

 最初は、小手調べをするだろうと思われたが始めから全力で行く気なのかジュビアは水の竜巻を両手から繰り出した。

 “ウォーター・サイクロン”

 竜巻は不規則にブレながらも確実にルーズの方へと向かっていく。

 ルーズは避ける素振りを見せずにただ冷たい目線で見ているだけ。

 ───衝突。

「当たったか!」

「いや、よく見てみろ」

 

 今のは確実に命中したとナツは思ったがエルザの指摘でよくルーズの方を見ている。

 ルーズは何もしていないのに、水の竜巻を防いでいる。

 防いでいるのは、砂で出来た盾だった。地面から浮かび上がっていく砂はどんどん盾の方へと集まっていく。

 あれで水の竜巻を防いでいるのだ。

 結果、ジュビアの攻撃は呆気なくルーズには命中することはなかった。

 

「あれが“自動防御”ってやつか?」

「そうだよ。まあ、ソウのよりは劣るけど、それでもあれを突破するには一苦労するよ」

「俺でもだいぶ苦戦したぜ」

 

 ルーズの周りには大量の砂が浮かび上がっていた。まるで意識があるかのように動いている。

 ルーズの魔法は砂を操る。さらにルーズは砂を自在に操れるために自分に危害がある攻撃を自然と砂が代わりに防いでくれるのだ。

 それは自動防御と言えるだろう。ソウとはまた違ったタイプだ。

 ジュビアは、これでは通用しないと思ったのか戦法を変えてきた。

 一点集中型より同時攻撃はどうだろうかとジュビアは水をカッター状に操り飛ばしてきた。

 対するルーズも砂を同じようにカッター状に操り、飛ばした。

 二つのカッターが衝突。

 勝ったのはジュビアの方だった。砂は水を含むとどうしても重くなってしまうために鈍くなるために仕方ないことだった。

 けれど、ルーズ本人までそれは届くことがない。またしても自動防御の前に遮られたからだ。

 

 

 ───妖精の尻尾A、選手待機席───

 

「あれを攻略しないと難しいぞ」

「だけどよ、一体どうすれば?」

「気合いで行くしかねぇだろ!」

 

 ナツの場合は力任せにいくみたいだ。

 

 

 ───戦場───

 

 ルーズは右手を前につきだして手を広げる。

 すると、徐々に砂がルーズの目の前へと集まっていく。やがてそれは、巨大な砂の槍へと変貌した。

 ルーズはそれを掴むと軽々しく投げた。

 

 ───『砂竜の巨槍』。

 

 真っ直ぐにジュビアの所へ直進していく砂の槍。ジュビアは後ろへとジャンプして回避した。

 それが仇となった。

 槍の着弾した所から、砂煙が広い範囲に渡って巻き起こったのだ。観客達も砂が目に入らないように手で顔を隠す。

 

『なんと、会場一体に砂煙が舞い上がる!少女から放たれたとは思えない威力です!』

 

 砂煙が収まるころには、二人とも距離を置いていた。

 

「なかなかやりますね………」

「そう?私としてはこれからだけど」

 

 余裕綽々な態度をとるルーズ。ジュビアは表情に出さないが、内心冷や汗を掻いていた。

 ………あれでまだ準備体操なの………。

 こちらは手など一切抜いているつもりはなかった。セカンドオリジンが解放した今、この時代でも実力は通用するはずなのだが目の前の少女にはそんなことはなかった。

「長引くのも嫌だし………早めに終わらせたいわね」

 

 そんなことを呟くと、ルーズは魔法を発動さした。

 ルーズの周りに現れたのは、砂の球。それも数えきれないほどだ。

 すると、その球が一斉にジュビアの方へと動き出した。ジュビアは水をぶつけてとうにか相殺さしていく。

 続けざまに砂の竜巻が会場の中心に発生した。ルーズが巻き起こしたものだ。

 その威力は先程のジュビアの竜巻よりも凄まじいものだった。というよりも徐々に大きくなっている。今回の竜巻はフィールドが地面であるために砂を取り組むことが可能なのだ。そのためにどんどんと竜巻が大きくなっている。

 

「───っ!」

 

 ジュビアは避けきれずに竜巻に巻き込まれてしまう。彼女を巻き込んだ砂の竜巻は、しばらくして消滅した。 ジュビアは不覚にもダメージを負ってしまう。

 歯を食い縛りながらも立ち上がるジュビア。ルーズは離れた所で傍観している。

 

「まだ立ち上がるのね………」

「………ジュビアは負けるわけにはいきませんから……」

 

 諦めないの一心でジュビアはなんとか足元を保っている。

 今度はジュビアから先制を仕掛ける。

 すると、水の球体がルーズを中に閉じ込めた。

 うまくいった!とジュビアは追撃しようとするが………出来なかった。

 ───足が沈んでる!

 よく見てみると自分の足元の地面が砂でどんどん沈んでいくではないか。

 いつのまに発動したかと思ったが、ルーズはジュビアが魔法を発動したと同時にこちらも発動していたのだ。

 両足が埋まってしまい、出そうと思ってもどうにも出せない。さらにルーズは水の球体の中からさらに追い討ちをかけるように魔法を発動した。

 身動きが取れないジュビアの地面が大きく盛り上がっていく。さらに、彼女の元に砂が集まり、首から下を砂が埋め込んだ。完全にこちらも拘束された。

 やがて、ピラミッドが闘技場に出現して、頂上にジュビアの頭がつきだしていた。

 首から上だけを地面から出しているみたいになっている。

 そして水の球体に閉じ込められているルーズの姿が大量の砂へと変化した。ジュビアが閉じ込めたのは、ルーズが魔法で作った砂の分身だったのだ。

 ジュビアは抜け出そうと水を体から発生させるが、水が砂に浸透しない。魔力も少し込められているのもあるが、最大の要因は別にあった。

 これは………砂鉄。

 表面は砂のようだが、よく見てみると全体が黒くなっていることが分かる。このせいで水が上手く浸透しないのだ。

 

「私お手製の砂鉄はどうかしら?水を弾くように施してあるから、簡単には抜け出せないはずよね」

 

 ルーズ本人はどこかに居たのか、ゆっくりと姿を現しながらピラミッドの前へと歩いてくる。

 

「これで終わりよ」

 

 ルーズは最後の魔法を発動した。

 どん!とピラミッドに衝撃が走る。砂がより一層凝縮したのだ。ジュビアに全身を押さえつけられる痛みが走る。

 そして───

 

「『砂竜の砂漠決壊』!」

 

 ピラミッドの中心部から爆散。砂が辺りに飛び散り、ジュビアは大きく宙に投げ出された。

 ───そして、勝負の決着がついた。

 

『ここで試合終了~!勝者!トライデントドラゴン!ルーズ・ターメリット~!』

 

 会場は一気に盛り上がる。ジュビアは立ち上がることが出来ずに敗北したのだ。

 ………こうして、フェアリーテイルは最悪の1日目を終えるのだった。

 

 ───1日目終了結果───

 

 1位,“剣咬の虎”(20ポイント)

 2位,“大鴉の尻尾”(18ポイント)

 3位,“三首の竜”(16ポイント)

 4位,“蛇姫の鱗”(15ポイント)

 5位,“青い天馬”(14ポイント)

 6位,“人魚の踵”(3ポイント)

 7位,“四つ首の猟犬”(2ポイント)

 8位,“妖精の尻尾B”(1ポイント)

 9位,“妖精の尻尾A”(0ポイント)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜………。

 フェアリーテイルの皆はクロッカスにある酒場『BAR SUN』にてドンチャン騒ぎをしていた。

 カナは情けないと酔いながら言っていた。応援に来なかったやつがそんなこと言うなよと思うが、どの店にもラクリマビジョンが置いてあり、どこからでも観戦可能らしい。

 マカロフは「惨敗記念じゃー!」と盛り上がっていた。レビィが苦笑しながら止める。

 エルザとミラは1日を振り返っており、散々な1日に苦笑を浮かべていた。

 ナツはというと、明日は絶対に出てやると高々に宣言していた。ナツが出るならとガジルが食いかかる。

 すると、レビィがグレイとルーシィがいないことに気付く。

 あんな負けかたをしたのだから、顔を出しづらいのだろう。だったら、あそこで凄い妄想を一人で繰り広げているジュビアはどうなのだろうか。

 そんな心配は余所にグレイとルーシィは普通に皆のところにやって来た。敗北のショックは乗り切ったようだった。

 メンバー全員が揃ったのを確認したマカロフはテーブルの上へと乗り出して高々と語り始める。

 

「今日の敗戦は明日の勝利への糧!!のぼってやろうじゃねえか!! ワシらに諦めるという言葉はない!! 目指せフィオーレ1!!」

「「「オオォォォォォオオ!!」」」

 

 そんなマカロフの言葉にメンバーたちは声を張り上げる応え、宴に更なる盛り上がりを見せる。

 騒いで、飲んで、食べて、笑ってのいつもと変わらない大騒ぎ。そんな彼らの表情には、今日の敗戦のショックなど微塵も感じられなかった。

 

「これ…本当に今日惨敗したギルドかぁ?」

 

 一通り騒いだメンバーは、遊びだした。

 ナツはマックスをKOしており、「次は誰だぁー!」と叫んでいた。その光景にウォーレン達は自分達の立場はどうなってるんだよ………と嘆いていた。

 ガジルが突っかかろうとするが珍しくラクサスが止めた。

 随分と丸くなったとガジルがラクサスに偉そうに指摘するがそれを聞いたレビィが慌てて止めに入る。

 フリードはこれに激怒して、雷神衆を呼ぶがメンバー全員がカナの手によって飲み潰されていた。

 そこに一人の男がやってきて、カナに勝負をふっかける。マカオとワカバは忠告するが、男はそれを聞き入れなかった。

 カナは承諾して早速飲み比べの勝負が始まった。

 ───すると、驚くことにカナが負けた。

 勝利して高笑いを上げる男。カナの酒の強さを知っている者共は愕然としていた。

 戦利品といって男はカナの水着のような服を持っていくが、憤慨したマカオとワカバが襲い掛かる。

 男はフラフラした動きをしながら簡単に二人をあしらって返り討ちにした。

 その騒ぎの一部始終を見てみたエルザが驚愕したように呟いた。

 

「バッカス………」

 

 バッカスと呼ばれた男はエルザと知り合いらしく、話をし出した。

 話を聞く限り、エルザと同等の実力を持つバッカスもクワトロケルベロスのリザーブ枠を使って大魔闘演武に出るらしい。

 それを聞いたルーシィは戦慄していた。

 

「おらぁ!かかってこい!」

 

 ナツはそんなこと問答無用にと、騒いでいた。そこに、ナツの相手になろうと名乗りを上げた人物が出てきた。

 

「じゃあ、次はオレだぁー!」

『ジュン!』

 

 トライのメンバーの一人であるジュンだった。いつの間に現れたのか気になるところだ。

 

「皆さんも久しぶりだね」

 

 遅れるようにアールが現れた。絶界魔法による瞬間移動だ。

 アールの後ろにはルーズとサンディーがいる。サンディーの両腕の中には抱えられているレモンの姿が見られた。

 

「トライの皆………どうしてこんなところに来たの?」

「少し話しておきたいことがあってね」

「それって………」

「あぁ………ソウとお前らの約束ってやつのことについてだ」

 

 息を呑むのがわかった。アールは続ける。

 

「それが有効なのは、僕とジュンそれにソウの3人だってことを言っておきたくてね」

 

 つまり、トライの最強衆である3人の誰かに勝てばいいということ。

 では、サンディーとルーズはどうなるのか。グレイは訊ねた。

 

「つまり、そこの女子二人は関係ないのか?」

「うん!私、そういうのは苦手だし」

「私達も詳しいことは知らないからよ」

 

 てっきりソウ達の目的を知っていたと思っていたルーシィは思わず尋ねてしまった。

 

「知ろうとは思わないの?」

「だって、私はジュン達のこと、信じてるから」

「………私もよ」

 

 顔を赤らめて答えた二人。

 信頼から来る安心というやつだろうか。二人は言われなくても、疑うことをせずにソウ達を信用しているのだ。

 

「おい!ジュン!俺と勝負しやがれぇー!」

「なんでオレ?───まあ、いいや。受けてたつぞ!このやろう!」

「ちょっと二人とも止めなさいよ!」

 

 こんな酒場で二人が暴れる事態になれば、後がどうなる考えたくないことになる。

 

「ソウはどうしたんだ?」

 

 エルザはトライの中で唯一いない人物のソウの現状を問いかけた。

 アールは少し顔を暗くするが、笑顔でこう答えた。

 

「ソウならお見舞いに行ってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソウは、三首の竜のメンバーと別行動を取っていた。

 向かう先は妖精の尻尾の医務室。

 そこには、ウェンディとシャルルが安静にしているだろう。

 大鴉の尻尾によって魔力欠乏病にさらたと師匠から伝えられた時には自分でも信じられないほどに憤怒の気持ちを感じた。

 ───俺の見ていないところで……!

 自分の見ていない所で、襲われたウェンディとシャルル。

 自分は彼女を守ると決めたはずなのに、こういう咄嗟のことになると仇になる。

 ましてや、今回はソウが妖精の尻尾を抜けたという事実にウェンディはまだ頭の中で完全に受け止めれていなかった。

 襲撃について、ウェンディは気にしてないだろうがソウ自身は身に染みていた。

 マカロフから医務室の場所は既に教えてもらっている。その時にマカロフ本人からも「お主が行ってこんかい」と背中を押された。

 医務室に向かって通路を歩いている中、ソウは思考に浸る。

 予想を大きく反したと言えば、ルーズの魔導士としての実力が相当なものだったことだろうか。

 相性の悪いジュビアに見事に勝利をもぎ取っているのだ。

 ………よくよく考えてみるとルーズは水の魔導士には慣れていたかもしれない。何故ならルーズの特訓相手が同じ水の使い手でもあるサンディーだからだ。

 それも実力の内となるのか。

 ヒドゥンでは、終盤になって現れたアール。何故初めから勝負を仕掛けなかったのか訊ねると───

 

『誰も見つけてくれなかったから、僕の方からいくことにしたんだよ』

 

 ………とのことらしい。

 アールを見つけるのはほとんど不可能に近いのだから、そんなこと言われてもどう返事をすれば良いのか分からなかったソウ。隣で聞いていたジュンもただ苦笑いを浮かべていた。

 

「今頃は………ジュンとナツが騒いでいそうだな」

 

 あの二人が何かで競争しそうなのは、目蓋の裏に普通に浮かんでくる。

 それを止めようとルーシィが必死になり、サンディーは「行け行け~!」と煽っていそうな感じがする。

 ───と、どうやら目的地の医務室へと辿り着いたようだった。

 ソウは扉の取手に手を伸ばして掴み………引いた。

 中は、簡素な造りの直方体の部屋。棚が端に置いてあり、中には大量の薬品らしきものが見られた。

 部屋を陣取っているのが、二つのベッドだ。カーテンがベッドを囲むようにセットされているが、今は隅へとまとめられている。

 片方のベッドに誰かが寝ている。

 聞かなくても、見なくても分かる。ウェンディとシャルルだ。

 

「おや、あんたかい」

 

 この声の主はポーリュシカ。

 自称、フェアリーテイルの薬剤師。

 

「自称じゃなくて本物だ!」

「あれ?声に出てたのかな………」

「はっきりと出てたよ!」

 

 ………どうやら、無意識の内に口が開いていたらしい。これからは注意しようとソウは心に決めた。

 

「ウェンディとシャルルの調子は?」

「見ての通り、すやすや眠っている。大魔闘演武には参加できるだろうよ」

 

 余計な心配はどうやら不要だったようだ。ポーリュシカの手によれば病気はあっという間に完治するということらしい。

 

「来たんならあの子の手を握っておやり」

「急だな」

「あの子にとってアンタは特効薬なのさ」

 

 自分は薬か!と思ったが、ソウはウェンディの寝ているベッドの隣へと移動する。そこに置いてあったイスに座りウェンディの手を握る。

 ウェンディの手は冷たかった。

 寝ながらでも感触は伝わるのか、彼女の表情が弛んだような気がした。

 彼女の頭を撫でてみた。

 ………とても心細いような、寂しそうな感じがした。

 

「アンタ、フェアリーテイル辞めたんだって?」

「1ヶ月の間だけの話だけどな」

「そうかい。ウェンディの面倒もちゃんと見てやりよ。じゃないと私が許さないよ」

「肝に命じておくよ」

 

 ポーリュシカはただ何も言わずに笑みを浮かべた。

 ソウは握っている手を優しく離し、ウェンディの頭を一撫でしてから、立ち上がった。

 

「なんだい?もう行くのかい?」

「不安要素はなくなったからな。それにまだウェンディに俺がフェアリーテイルの敵だってことは知られたくないしね」

 

 そう言うとソウは部屋を出ていったのをポーリュシカは黙って見送ると、寝ているウェンディの方を見た。彼女は寝言を呟く。

 

「………お兄ちゃん………」

 

 

続く───────────────────────────

 




裏設定:ルーズの魔法

砂は水を含むと重くなってしまうという弱点を克服するため、海竜の魔導士であるサンディーの協力の元に“砂鉄”を自在に操れるように特訓していた。水を弾くのはルーズ自身の魔力が込められている為だが、効果が及ぶ時間はほんのわずかで、さらに操作出来る量も半分以下となる。


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第q話 戦車

この話ではジュンが魔法を使っているですが、何の魔法か分かりますか?
彼の魔法を予想してご覧になるのも悪くはないかと………(当てられたら怖い………)
因みにこの話ではジュンの魔法は明かされませんのでご了承くださいね( ̄▽ ̄;)

───感想、評価大歓迎です!!


 大魔闘演武・二日目。

 早速、競技パートが行われており、会場は凄い盛り上がりを見せていた。今回の競技の会場はなんと、町一体。故に会場には大きなモニターが写り出されており、そこから観戦する形式を取っている。出場しない選手達も同じようにモニターを眺めて応援したり、軽口を言い放ったり色々だ。

 そんな中、トライのメンバーは目の前の現状を目の当たりにして何とも言い難い気持ちに襲われていた。

 原因は出場者のある意味無惨な現状になっていることにあった。

 今、会場にいないのはジュン。つまり彼が競技に参加している。なんでも、ナツが出るならと対抗心を燃やしていたらしい。だが、それは仇となった。

 ジュンは乗り物に弱いくせに、乗り物に乗る競技に出てしまったからだ。

 競技名───“戦車(チャリオット)”。

 名前から察することも出来たが、内容は町を一周するほど幾つも連結した戦車の上を落ちないようにして、ゴールを目指すというもの。

 誰が出るかを決める際、結局はジュンが最後まで退かなかったので誰も反対はしなかったのだが………やはり、代わりに違う人が出ていればと思う。具体的には、ジュンとアール以外の誰か。

 

『それにしてもヤジマさん、こんな展開誰が予想できたでしょうか?』

『ウ~~ム』

『Cool………?』

 

 実況席で放送を担当しているのはチャパティ。髪型が昨日と変わっている。そして、解説にヤジマ。後、二日目のゲストとしてジェイソンが招かれていた。かの有名な週刊ソーサラーの記者をしている人だ。

 チャパティの疑念を含んだ一言に誰が同じ意見だった。いや、こんなことになるとは想像すらしていない。ある意味とんでもない波乱を引き起こしていた。

 

『なんと!! 先頭より遥か後方、“妖精の尻尾(フェアリーテイル)A”ナツがグロッキー状態です!!』

『お……おお……おぷ』

 

 画面には今すぐにでも吐き出しそうなほど、顔を真っ青にしたナツがいた。

 この現状を同じチームメイトは最悪だろうと思っているだろうが、意外にもそんなことはなかった。

 

『それだけではありません。そのすぐ近くで“妖精の尻尾(フェアリーテイル)B”ガジルと、“三首の竜(トライデントドラゴン)”ジュン…さらには“剣咬の虎(セイバートゥース)”のスティングまでがグロッキー!!』

『な…なぜオレが……』

『き…気持ち…ワル……』

『おおお……ヤバイ……』

 

 ナツとまったく同じようなことをしているのが、さらに3人もいたからだ。

 

『乗り物に弱ェのは…火竜(サラマンダー)の……アレだろ』

『出るん………じゃなかったぜぇ………』

 

 カジルはナツの弱点である乗り物酔いに困惑している様子で、必死に前へと進もうとしていた。ジュンは今更、後悔している。出てからでは遅いのだ。

 ソウ達の方でも後悔を通り越して、呆れているサンディーがいた。

 

「ジュン………なにやってるの………」

「アホね」

 

 ルーズに至っては最早、呆れすらを通り越して冷徹な視線を浴びせていた。

 アールはというと、呑気に感心していた。

 

「あの鉄竜君も酔うようになったんだね」

「ん?そういえば、そうだな」

 

 これは勝負事なのに、関心すら寄せていない二人にルーズはあの約束ごとは大丈夫なのだろうかと不安になる。

 一応、これでジュンが負けてもトライの敗北となるからだ。

 

『さあ、先頭集団の方を見てみましょう。こちらは激しいデッドヒートが繰り広げられています。先頭は“大鴉の尻尾(レイヴンテイル)クロヘビ』

 

 戦車の先頭を走っているのは、全身の黒タイツと蛇のような顔つきが特徴の男であるクロヘビ。

 

『それを追う“青い天馬(ブルーペガサス)”一夜。“蛇姫の鱗(ラミアスケイル)”ユウカ。“人魚の踵(マーメイドヒール)”リズリー。やや離れた所に“四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)”リザーブ枠のバッカス!!』

『メェーン…』

『アンタらその体型でよくついて来れるな………』

『ポッチャリなめちゃいけないよ』

 

 ユウカは互角である二人に負けじとするが、二人とも体型が太りぎみなのでどちらかと言うと感心していた。

 

『ヒック…まいったな……昨日の酒が抜けねぇやい』

 

 後方にいるバッカス以外の3人はほぼ同列に並んで走っており、ここから一気に引き離す為に最初に勝負を仕掛けたのはユウカであった。

 

『波動ブースト!!この衝撃波の中で魔法は使えんぞ!!』

 

 ユウカは魔法を打ち消す波動を後方に放ち、スピードアップすると同時に、後方にいる面々の魔法を封じた。

 波動。ソウとまったく同じだが、どうも微妙に効果が違うようだ。

 

「ソウもあれ、使えるの?」

「魔法を封じる効果はないぞ」

「そうだよね。あの人の場合は波動の中だと魔法を使えなくするみたいだよ」

「根本的に違うようだな」

 

 ソウの波動は空間自体を揺らすことに長けている。ユウカの波動とは違い、魔法を使えなくすることは出来ない。

 

『ポッチャリなめちゃ…いけないよっ』

 

 そしてリズリーは波動をかわし、得意の重力変化の魔法で戦車の側面を駆け抜ける。

 驚くことに、リズリーの体型が一気にスリムになっていた。これには特にサンディーが反応していた。

 

『魔法をかき消す波動……ならば俊足の香り

(パルファム)、零距離吸引!!』

 

 さらに一夜は香り魔法(パルファムマジック)で生み出した速度強化の香りが入った試験管を、かき消されないように直接鼻に押し込んで吸引した。因みに映像でその絵面を見た観客たちは思いっきりドン引きしていた。勿論、ソウ達もだ。

 

『とぉーーーう!!』

 

 俊足の香り(パルファム)によって速度アップした一夜は一気に駆け抜けてユウカを追い越す。

 ユウカの波動もほとんど効果を発揮せずに終わる。

 

『ほぉう、がんばってるなァ。魂が震えてくらァ。オレも少しだけがんばっちゃおうかなァ』

 

 するとそんな4人の後方にいたバッカスはそう言うとその場で立ち止まり、まるで四股を踏むようにゆっくりと片足を上げる。

 そして───

 

『よいしょオオォォォォ!!』

 

 バッカスが足を振り下ろしたその瞬間、彼の足は戦車をいとも容易く踏み潰し、さらにその前後にあった戦車すらも引っくり返す。

 たったのあれだけで、とつてもない破壊力を秘めていた。

 

『こ…これは!!バッカスのパワーで戦車が───崩壊!!』

 

 あまりの光景に会場全体が愕然とする。ソウはその時、まったく関係ないことを思っていた。

 

「俺が出た方が良かったな」

「うん。僕もそう思ったよ」

 

 ルーズが同意するのも、この競技は色々とソウが有利に進められるルールだったからだ。

 まず、乗り物酔いにならない。さらに波動で戦車を揺らしまくれば他の面子の足場は悪くなり、戦況を優位に進められる。

 

『おっ先ィーーー!!落ちたら負けだぜっ!!』

『何だねアレは…』

『きたねぇ!!』

『ポッチャリなめちゃ…』

 

 引っくり返った戦車に巻き込まれて足が止まった一夜たちを一気にごぼう抜きにして走り去っていくバッカス。そんなバッカスを愕然と見送る一夜とユウカとリズリー。リズリーは一気に痩せすぎで別人のようになっている。

 バッカスの勢いは止まることを知らない。そのまま高笑いをしながら、圧倒的な追い上げをしていく。

 そして、そのまま首位を独走していたクロヘビを抜いてそのままゴールへと辿り着いてしまった。

 

『ゴール!!四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)、10ポイント獲得!!』

『震えてくらァ!!』

 

 一位を取られたことにサンディーは落胆の態度を見せる。まぁ、それでも彼女は元々ジュンが一位を取れるとは微塵も思っていないようなので、あまり残念がってはいなさそうだ。

 

「あ~あ、負けちゃったねー」

「まだ終わってないわよ」

『続いて2着…大鴉の尻尾(レイヴンテイル)、クロヘビ。3着リズリー、4着ユウカ、5着一夜!!』

 

 バッカスに続くように他のメンバーたちも次々とゴールしていく。

 

『残るは情けない最下位争いの4人ですが……』

 

 そう言って映像に映ったのは、乗り物酔いの影響で未だに半分にも達していないナツ・ガジル・ジュン・スティングの4人。

 

『おぼ…おぼぼ…』

『バ…バカな……オレは乗り物など平気…だった…うぷ』

『じゃあ…うぷ……やっとなれたんだな、本物の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)に。おめでとう、新入り』

 

 まるで歓迎するかのようにスティングは口にした。ジュンも彼なりに何かを言うつもりなのか、口を動かしていた。

 

『………こういうのは……慣れたら……平気なんだ………でも………慣れねぇ』

 

 アドバイスのつもりが、あまり意味をなしていなかった。

 

『ぬぐ……!! テメェッ!!』

『おばっ』

『えばっ』

『うぼっ』

『がはっ、力が出ねえ』

 

 ソウはがっくりと項垂れた。

 

「あいつらは何やってんだか………」

 

 そんなスティングの言葉に憤慨したガジルが体当たりをするが、とても弱々しい上にナツやジュンまでも巻き込んでしまう。それを見た観客たちは「あはははははっ!!!」と笑い声を上げる。

 ソウはため息をついた。

 

『うおぉぉぉおお!! 前へ───進む!!』

 

 ナツはフラフラとした足取りになってでも、決してめげずにゴールを目指してただひたすらと進む。それに続くようにガジルとジュンも足を進めていく。

 

『カッコ悪ィ、力も出せねえのにマジになっちゃってさ』

『進むぅぅぅぅぅ!!』

 

 小バカにしたようにそう言うスティングの言葉も意に介さず、ナツたちはひたすらに前へと進む。

 彼にとって、ここまで頑張れる気にはなれなかった。

 

『いいよ……くれてやるよこの勝負。オレたちはこの後も勝ち続ける、たかが1点2点いらねーっての』

『その1点に泣くなよボウズ』

 

 両手をひらひらと動かし、降参のポーズをとる。

 勝負を捨てて立ち止まったスティングに対して、ガジルは不敵な笑みを浮かべながらそう言い放つ。

 

「オォォォォォォオ!!」

「ぐぅぅぅうううう!!」

「ぬがぁぁぁぁああ!!」

 

 もはや地べたに手をつけて這いずりながら、雄叫びを上げて前へと進むナツとガジルとジュン。そんな3人を見ていたスティングは、彼等の背中に問い掛けた。

 

『ひとつだけ聞かせてくんねーかな? 一人は違うんだが、何で大会に参加したの? アンタら。昔の妖精の尻尾からは想像できねーんだわ。ギルドの強さとか、世間体的なモノ気にするとか。オレの知ってる妖精の尻尾はさ、もっと……こうマイペースっつーか、他からどう思われようが気にしねーつーか』

『仲間の為だ』

 

 ナツは即答で返事をした。

 ジュンの動きが止まり、ナツに視線を向ける。彼がどんな信念で挑んでいるのか気になったのだ。

 

『7年も………ずっと………オレたちを待っていた……どんなに苦しくても、悲しくても、バカにされても耐えて耐えて………ギルドを守ってきた………仲間の為に、オレたちは見せてやるんだ』

 

 ひたすら待ち続けてくれた仲間、帰る場所を守り続けてくれた仲間。その仲間はどれほど辛い目に遭ってきたのか、想像するまでもない。

 既に妖精の尻尾は今までの栄光は殆ど消えかけてしまっている。評判は悪い一方だ。

 だからこそ、必死に耐えてくれた仲間達の無念を晴らすべく、彼は例え世間から批判を浴びてででも果たさなければならないのだ。

 

『妖精の尻尾の歩き続けた証を!!だから前に進むんだ!!』

 

 ナツの想いの篭った言葉は会場にも轟いていた。妖精の尻尾応援席では涙ぐむ者が続出して、マスターのマカロフは号泣してしまっていた。

 また妖精の尻尾を昔から知っていた他のギルドの魔導士も微笑ましく、彼等のことを何一つ知らない観客も見る目が良い傾向へと変わっていた。

 ソウはただ黙って聞いていた。

 

「………いいなぁ………」

「そうだね。僕も、羨ましく思ったよ」

「そうかしら?」

 

 サンディーとアールはうるうると瞳を潤していた。ルーズは言葉とは裏腹に少し笑っていたような気がした。

 必死にもがくナツ・ガジル。それに付いていくジュンは徐々にゴールに近づいていく。

 そして遂に───戦車を降りて、後数歩歩けばゴール出来る目前まで辿り着いた。

 

『おめぇらの決意は分かった………。が、こちとら負けるわけにはいかねぇんだぁ』

 

 ジュンは右手を前へと突き出して、言語を詠唱した。

 

『“───”。発動』

『ぐはぁ!!』

『ごはぁ!!』

 

 地面へと叩きつけられたかのように二人はうつ伏せに動けなくなった。まるで、背中に巨大な重石がのし掛かっているかのような感覚が二人を襲う。

 そんな二人とは真逆にジュンは彼等の側を通ると、ゴールの線を越えた。

 

『ゴォーーール!!三首の竜、6位!!3ポイント!!』

 

 ジュンがゴールすると同時に一気に体が軽くなった。

 

『なんだぁ………今のは……?』

 

 ナツとガジルは頭がよく回らないなか、再び歩き出す。

 

『妖精の尻尾A,ナツ8位!!2ポイント!!』

『うっしゃ、ポイント初ゲット』

『妖精の尻尾B、ガジル9位!! 1ポイント!!』

『ギヒ』

『剣咬の虎、スティングはリタイア。0ポイントです!!』

 

 体力、気力、何もかもが限界の中で諦めずに手に入れることが出来た得点。他のギルドと比べれば全然ちっぽけな点数だが、妖精の尻尾にとってはこれが始まりの第一歩であった。

 

「あいつらの執念………みてーなの」

「ああ………スゲー」

「何なんだあいつら」

「妖精の尻尾………ちょっといいかもな」

「少し感動しちまった」

「オレ………!! 応援しようかな!!妖精の尻尾!!」

 

 そんなナツたちの姿に感銘を受けた観客たちは、彼らに惜しみのない拍手を送ったのであった。

 

 

 ───妖精の尻尾A、選手待機席───

 

「あぁ!惜しい~!!」

「くそぉ!後一押しで行けたぞ!!」

 

 ルーシィとエルフマンは悔しがる。ナツがゴール直前で勝つべき相手に抜かれてしまったからだ。

 

「………今のは………」

「エルザ、どうかしたのか?」

「いや、何でもない」

 

 エルザの頭に引っ掛かっていたのは、ソウのギルドから出場したジュンと言う少年。

 終了際、密かに何かを発動していたのをエルザは微少に感じていた。が、その正体を掴めることはなかった。

 

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

「あいつ、魔法を発動したようだな」

「でも、殆どの人は気付いていないようだけどね」

 

 ナツとガジルがいきなり不可思議な行動をとったのも、観客たちはてっきり一度力尽きたのだと思い込んでいるのだろう。

 丁度良かったかもしれない。

 相手に自分の手札をバレずに使用するとは、ジュンも頑張ってくれたものである。

 

「ジュンは負けず嫌いだから、使ったんだね~」

「そもそも彼は負けては駄目なのよね?」

 

 ルーズに聞かれて、ソウはハッとする。

 

「そうか………。これでジュンが負けても、妖精の尻尾は俺らに勝ったことになったんだな………」

「あ、本当だね」

「………気づいてなかったのね………」

 

 相変わらずの緊張感のなさにルーズはどう言うべきか迷ったあげく、何も言わないことにした。

 言っても彼らが変わらないことは目に見えていた。

 

 

 ───2日目途中結果───

 

 1位,“大鴉の尻尾”(26ポイント)

 2位,“三首の竜”(22ポイント)

 3位,“剣咬の虎(20ポイント)

 4位,“青い天馬”(19ポイント)

 5位,“蛇姫の鱗”(19ポイント)

 6位,“四つ首の猟犬”(12ポイント)

 7位,“人魚の踵”(9ポイント)

 8位,“妖精の尻尾A”(2ポイント)

 9位,“妖精の尻尾B”(2ポイント)

 

 

 

 

 

 

 

 大魔闘演武2日目、バトルパート。

 

『さあ皆さんお待ちかねのバトルパートです!! 今日はどんな熱い戦いを見せてくれるのか!!』

 

 第1試合。“大鴉の尻尾”クロヘビ対“蛇姫の鱗”トビー・オルオルタ。

 クロヘビは先程競技パートにも出場していたので、連戦というハンデを背負っている。対するトビーはソウがウェンディに蛇姫の鱗を紹介してもらった際に彼女が知らなかった人物の内の一人で、外見はどこからどう見ても犬だ。

 

『ヘビと犬の睨み合い!! 果たして勝つのはどちらか』

『フェアな戦いを見たいねぇ』

『トビー、犬すぎるぅぅ!!COOOL!!』

 

 蛇と犬。確かに相性は最悪。

 そんな組み合わせに会場はどっと盛り上がりを見せていた。

 その時、乗り物酔いでくたびれたジュンを看護しに迎えに行ったサンディーが帰ってきた。

 

「ジュンはどうだった?」

「休めばすぐ治るって師匠が言ってたよ」

 

 アールの質問にサンディーは笑顔で答えた。

 

「この試合、すぐに終わるな」

「えぇ、そうね」

 

 ソウとルーズは緊張した顔つきで、戦場を見つめていた。

 ソウの呟きにサンディーは疑問を浮かべた。

 

「え?どうして?」

「始まるわよ」

 

 返答が帰ってくる前にルーズにそう告げられた。仕方なくサンディーも試合の行方を見守ることにする。

 

『それでは、第1試合開始です!!』

 

 ───幕が開けた。

 

 

続く──────────────────────────────

 




裏設定:戦車、ゴール寸前

ナツ、ガジルがゴール近くに接近するとジュンは密かに自身のある魔法を発動さしていた。酔っている二人は違和感に気付かないままジュンに抜かされるもののゴールした。
だが、ジュンが使ったのは重力魔法ではない。また別の魔法である。


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第r話 野獣対決

ささささ寒い………( ; ゜Д゜)とにかく寒いです。

まぁ、関係ないですねww

因みにこの話から、数話が~~対決シリーズになっております。誰が対戦するのか、お楽しみに!!(原作と殆ど一緒のような………)

───では試合、開始ぃ!!


 結果はクロヘビの圧勝により勝敗がついた。それもソウが予言した通り、短期戦によるものだった。

 クロヘビは擬態魔法(ミミック)───擬態した魔法を使えるようになる珍しい魔法らしい───を行使してトビーを苦しめた。

 お互いが会話を交わすなか、クロヘビは本名ではないことが判明した。それに何故か怒りを露にしたトビーはこちらが勝てば、教えてもらうと条件を提示する。クロヘビもこちらの勝利の際の利点を要求することで、互いに承諾。

 所謂“賭け”が成立した。

 そして───決着はクロヘビの勝利で終わり、敗北したトビィーは約束通りに自身の隠している大事な秘密を明かした。

 

 ───靴下がない………と。

 

 彼曰く、三ヶ月前から片方をなくしてしまい困り果てていた。どうしても見つけられず、ましてや誰にも相談出来ずにずるずると今に引っ張ってきていた。

 聞いた会場全員がその時、まったく同じことを思っていた。涙ぐみながら白状する彼の胸にぶら下がっているのは………その靴下ではないのか?───と。蛇姫の鱗陣もあまりの事態に唖然としていた。

 クロヘビがとんとんと胸を叩く仕草をする。それに吊られたトビィーは胸元を確認して、ついに発見した。

 そして、「こんなところにあったのかよ!?」と彼の言い分に対してまたしても驚愕する羽目となった。彼は本気で気付いていなかったのだ、自分の首にぶら下がる片方の靴下を。

 

「アホね」

 

 ルーズの強烈な一言を浴びていることに気付いていないトビィーは号泣する。会場内は言わずもがな、呆れていた。

 そこにそっと差し伸べられるのはクロヘビの手。その時は、感動の握手の光景を想像していた。

 だが、クロヘビがとった行動は最悪。

 トビィーから悲願の靴下を奪い取ると、遠慮なしにビリビリと破りさってしまった。

 

「うわぁ………」

「外道だな………」

 

 サンディーとソウもあまりの卑劣さに言わずにはいられなかった。

 一瞬で会場は静まる。大鴉の尻尾の魔導士の笑い声だけが、響き渡っていた。

 

 ───第二試合。

 

 “四つ首の猟犬”バッカス対“妖精の尻尾A”エルフマン。

 実はこの裏には国王の希望があっての組み合わせになるはずだったのだが、手違いがあり本来エルザが出場するはずだったのだが同じ変身の魔法を使うエルフマンが選ばれていた。

 妖精の尻尾応援席ではまさかのエルフマンにちょっとした絶望を覚えていた。あのS級魔導士のエルザと互角の実力を誇っているとされるバッカスに敵うとは思えなかったからだ。

 しかしながら、本人は勝利をもぎ取るつもりで試合に臨んでいた。

 

「あれ?」

 

 一方で、三首の竜の待機席でも試合は観戦するつもりでいる。ところがアールがある異変に気づいた。

 ジュンは既に先程回復して、こっちに移動してきているので彼のことではない。

 

「ソウはどこ?」

「あれ~?ホントだ。いないよー」

「どこ行ったんだ?」

 

 肝心のソウが姿を眩ましていた。

 彼がこの妖精の尻尾が出る試合を一番に見届けるはずなのだが、当の本人はいつの間にか消えていた。誰も気付いていないようで、疑問が膨らむ。

 ルーズが戦場を見つめながら、呟く。

 

「始まったわ」

 

 ソウが不在のまま、進行通りに試合は幕を降ろした。

 するとバッカスはニヤリと笑みを浮かべ、エルフマンにあることを告げる。

 

 ───オレらも賭けをしねぇか?

 

 それは一試合目で個人的に行われた賭け試合を自分達もしてみないかという提案だった。

 彼の出したのは、エルフマンの姉と妹───ミラジェーンとリサーナの要求という何とも嫌らしいものだ。二人とも美人であるためにバッカスに目をつけられていた。

 

「おい!それって………」

「歪んだ愛!?」

「違うわよ」

 

 サンディーとジュンが変な妄想を繰り広げていたが、ルーズの一言にばっさりと斬られた。

 無論、エルフマンがそんなふざけた賭けを承諾する訳がない。

 憤怒したエルフマンの態度を商談成立と結論付けたバッカスは戦闘体勢に入る。二人の意地のぶつかり合いが始まった。

 

 ───だが、エルフマンの劣勢が続いた。

 

 バッカスに手も足も出ずに、エルフマンはダメージを負わされていた。対するバッカスは余裕な態度で見下している。

 アールが呟いた。

 

「ソウも彼とは一度、手合わせをしたらしいよ」

「その時はどっちが勝ったんだ?」

「余計な邪魔が入って勝敗はつかないままらしいって」

「それって………あのソウがてこずったってこと?」

「うん。ソウ曰く、あれは油断したら色々ヤバイって言ってた」

 

 昨日の夜の内、アールはたまたまバッカスが妖精の尻尾の騒いでいた店から出てくる姿を目撃していたのだ。その後、エルザから彼の名前とどれほどの実力なのかを聞いており、宿に戻った際にソウにも聞いていた。

 

「彼の魔法は単に掌に魔力を集中さしている至ってシンプルなもの。だけど、彼はそれを最大限、いやそれ以上に威力を発揮するものを身に付けているんだ」

「武術だな」

「うん。劈掛掌(ひかしょう)という、あの独特な構えから“掌打”を得意とする武術。さらに恐ろしいのは、彼はその拳法に改良を加えて“酔・劈掛掌”を編み出した事だってね」

「酔………酒ね」

 

 ルーズの呟きにアールは頷く。

 

「ルーズの正解。酔・劈掛掌はわざと酒を飲んで酔う事でその真価を発揮するんだって。酔った鷹の攻撃予測は不可能みたいにね。その上攻撃力も増強されて、そうなればバッカスの必勝のパターンとなるらしいよ」

「でも、酒みたいなのを飲んでないよ?」

「そうなんだよね………ソウが居たら、分かるんだけど………」

「あの酔っぱらいは、まだ本気は出していないってことじゃないか?」

「そうね。ほら、笑ってるわよ」

 

 ルーズの視線の先には虎をを催すスピード強化の変身をとげていたエルフマンの猛攻を華麗に避けるバッカスの姿。彼は笑みを浮かべいていた。

 避けられ、掌打を当てられる。

 その繰り返しばかりで、いくらエルフマンが攻撃を当てようと試みるが返ってくるのは反撃ばかりだ。

 

『そういやぁ………決めてなかったな………』

 

 そんな時、エルフマンの口から出たのはそんな言葉であった。

 賭けのエルフマンが勝利した際の利点を決めていなかったことを思い出したのか、今ここでそれを話題に出した。バッカスは余裕な態度でいる。

 ───大会開催中“四つ首の猟犬”ではなく“四つ首の仔犬(クワトロパピー)”と名乗れという提案だった。

 

「あはは!!仔犬だってぇ~!!」

「ジュン………」

「あぁ………決めたみてぇだな」

 

 エルフマンは覚悟が定まったのか、真っ直ぐにバッカスを睨み付けていた。

 バッカスもエルフマンの覚悟に気付いたのか、地面に置かれている酒瓶へと手を伸ばした

 ───そして、それを口元へと持っていく。

 

「やっぱり飲んでなかったのね」

「ついに本気だねっ!!」

「来るか………」

 

 因みにその時、本日は大魔闘演武公式マスコット兼審判であるマトー君が休暇の為、チャパチィが審判を兼ねさせているとどうでも良い報告が入った。

 

「早いな………」

 

 バッカスは渾身の一撃をエルフマンへと浴びせた。一瞬で7連撃。そのスピードはジュンが目を見張るものだった。

 だが、観客が驚いたのはそこではなかった。

 攻撃したはずのバッカスの付けていた籠手がバラバラと砕けたのだ。

 

「あれは“リザードマン”だね」

 

 エルフマンはリザードマンへとテイクオーバーしていた。バッカスはそれに気付かずに攻撃したために自身へもダメージが入ったのだ。

 リザードマンとは強固な鱗に無数の針や刺で体を覆っている生物だ。凶悪なその形相は、身震いがする。

 

「でも、バッカスって人はリザードマンの鱗ぐらい砕きそうだけど?」

「それは本人も分かってると思うよ。多分、勝負に出たんだろうね」

「根比べか」

 

 そして激しいバッカスの猛攻とエルフマンの根気の我慢比べが開始した。

 果断な戦法をとったエルフマン。それはただ耐えるというシンプルな戦法だった。

 

「…………すごっ!」

 

 サンディーが思わず声を上げるほどの壮絶さを誇る攻防戦。会場一体が固唾を飲んで、試合の経緯を見守っていた。

 

 ───が、突如として戦場に静寂が襲った。

 原因は掌打による猛攻を休みなく繰り出していたバッカスがついに体力が限界にきたのか、汗だくで疲労を露にし、度重なる猛攻でボロボロになった腕をダランっと下げながらその場に膝をついたのである。

 対するエルフマンも汗だくで全身ボロボロになりながら息を乱し、集中力の乱れから魔法が解除されてしまいその場に片膝をついてしまっていた。

 

『エルフマン…って……言っ…たな………』

 

 エルフマンを見下ろし、ゆっくりと息を整えながら言葉を紡ぐ。

 

「………終わったの?」

「いいえ、まだよ」

 

 その時は誰もがバッカスの勝利したと思い込んでいた。だが、結末はそうは行かなかった。

 

『………お前……さぁ………(おとこ)だぜ………』

 

 次の瞬間、バッカスは全身から力が抜けたかのようにバタンと背中から倒れて動かなくなってしまった。

 ────エルフマンの逆転勝利。

 それは会場が一気に盛り上がり、誰もがエルフマンを存分に称えた。あのバッカスから勝ちをもぎ取った。そして、エルフマン自身の信念の誇りを賞賛して。

 その感動は同じ男であるアールとジュンも感じていた。

 

「お………」

「お………」

「「漢だぁーー!!!」」

 

 そんな男子二人に対する、女子二人の反応は冷たい。

 ………良いのだ。この感情は同じ生き物にしか理解できないものなのだから。

 

 

 

 

 ───闘技場、通路───

 

 ………嫌な予感がした。

 試合が始まる少し前にソウは感じた。

 彼は気付けば、待機席から離れてある所に向かっていた。どうも変な胸騒ぎが起きて脳裏から離れず、試合を観る余裕は一切出なかった。

 ソウは誰もいない通路を歩きながら魔法を発動する。

 

「動いてるな………」

 

 魔力が動いていたのを感知した。

 だが、それはよく考えるとおかしい。

 長い時間発動して様子をみると、ウェンディ、シャルルの魔力が一定のスピードで移動している。ポーリョシカも側にいるはずなのだが、魔力がないので感知出来ないので仕方がない。ポーリョシカは暫くの間は安静するように強制されるだろう。彼女達が意識を取り戻して、ポーリョシカの許可も貰ってただ単に移動しているのなら良いのだが不安要素は別にある。

 微弱だが、見知らぬ者がいる。

 約4人。それもウェンディとシャルルのすぐ近く。となると、彼女の隣に並び一緒に移動しているのか………それとも───

 

 ───()()

 

 ………彼女達を背負っているために魔力の現在地が重なる。

 ウェンディとシャルルを狙う理由は不明。可能性があるとすれば、滅竜魔導士だからだろうか。あくまでもしもの話にしか過ぎないが、ソウはどうしてもその可能性を拭いきれずにはいられなかった。

 既に前例があったからだ。空中迷宮に突入する前に感じたあの虚無感。あの時に、ウェンディとシャルルが襲われていたんだとソウは後悔していた。てっきり、妖精の尻尾の魔導士の誰かと行動を共にしていたものだと思っていたので油断していた。

 不確定要素も多い中、この目で直接確認しようとソウは駆け出した。

 

 ───見つけた。

 

 闘技場を取り囲む外枠の通路。屋根はなく、空が広がるそこにソウはいた。

 魔力の移動経路、パターンをある程度予測して先回りする形でソウは動いていた。結果としてそれは正解をもたらす。

 

「おーーい!!」

 

 彼は少し離れた所に向かって叫んだ。

 

「な、なんだ!?」

「あ、あそこに誰か!?」

「げげ!!先回りされた!?」

 

 それに反応したのは怪しい仮面を被った男三人組。

 そして───ウェンディ、シャルル、ポーリョシカを運んでいるのか、それぞれが彼女達を抱えていた。

 

「お前ら、どこ行くつもりだ」

 

 怒気を含まれた彼の言霊。男達はまさかの想定外の事態に慌てる。

 

「おい!?どうするよ!?」

「こ、こいつ………ダークホースのリーダー!?」

「ま、マジかよ!?大丈夫かよ!?」

「聞いてるのか?何処に行くつもりだ」

「「「っ!!」」」

 

 一歩、一歩段々と近づいてくる彼に男達は足を止めて彼に呼応するかのうに彼が一歩近づけばこちらも一歩下がる。

 答える様子はないのか、口を割らない男達にソウはしびれを切らして強行手段に出ようとした。

 右足裏に波動を込めて、一気に接近を試みようとすると────

 

「てめぇらーーー!!!ウェンディ達を返せぇーーーー!!!!」

 

 ───ナツだ。

 彼も目を覚ましたら、誰も医務室に居らず代わりに知らない者の匂いが残っていた。なので、匂いを追っていたら自然とここまで追いかけてきていたのだ。

 

「何だアイツ!!」

「怖えじゃねえかコノヤロウ!!」

「このままじゃ挟み撃ちだ。どうするよ!?」

「仕方ねえ!!2人捨てる!!」

「バ…バカ言うな!!」

「依頼は“医務室にいた少女”だ!!」

 

 その言葉を聞いたソウとナツはピクッと反応する。

 ───過去形。

 

「ババアと猫は少女じゃねぇ!!」

「じゃあ何で連れてきたー!」

「待て!!見ようによってはこの婆さん………」

「少女じゃねぇよ!!」

 

 前からは出場ギルドのリーダー。

 後ろからは闘志に燃える少年。

 まさに八方塞がりのこの状況で、男たちがとった行動は───

 

「正面突破だぁ!!」

「行けぇ~ー!!」

 

 誰も抱えていない男が、双銃を構える。そして、発砲。銃口が鼓膜に響く。

 銃音と共に真っ直ぐに銃弾はソウ一直線に向かっていくが────

 

「なっ!!弾かれた!!」

 

 当たる直前、銃弾がバチンと音をたてると何かにぶつかったかのように潰れた。驚愕しているのも束の間、跳ね返ったパラリと平らな銃弾が男の頬筋をかする。

 

「ひぃぃ!!」

 

 男は恐怖に震え上がる。

 

「取り敢えず、全員ぶっ潰そうか」

「ひぇー!!」

「うあー!!」

「もうダメーーーッ!!」

 

 次の瞬間、男達の視界が遮断した。

 

 ───数分後。

 

 男達から奪い返したウェンディ達は側に寝かせて安静にしている。ソウの着ていたコートが彼女に優しくかかっていた。

 男達を縄できつく捕縛してから、ソウは尋問を始めた。初めは言うまいと頑固たる態度で拒否していたがナツの炎を目の当たりにした途端、口々に話し出した。

 ソウの魔法は目に見えないので、ナツの炎の方が相手を威圧するのに効率が良かった。

 

『オレたちは頼まれただけなんだよ、大鴉の尻尾(レイヴンテイル)の奴等に!!』

『医務室にいた少女を連れて来いって』

 

 ようやく吐き出したと思えば、出てきたのは忌々しいギルド。ナツは憤怒の表情を浮かべていたが、ソウは無表情だ。

 すると、ソウはナツに向けて言う。

 

「ナツ、こいつらは俺が連れていっても良いか?」

「お、おう」

 

 まだ目を覚ましていないウェンディ達に気づかれない内にソウは姿を隠すことにする。

 彼らを引き摺って、ナツが視界から見えなくなり、誰も周りから居ないことを慎重に確認したソウは壁際へと彼らを放った。

 

「お前ら、目的は何だ」

「だから、さっきも言ったじゃねぇか。大鴉の尻尾に命令されたって───」

 

 ソウは答えた男を睨み付けた。

 

()で誤魔化しきれるとでも、おもってたのか?」

「っ!!」

 

 男全員が驚愕に目を見開く。

 彼は男達のある所を魔法で密かに調べていた。

 ───それは心臓の拍動。

 例え口から適当な嘘をついても、身体は正直なので微妙に拍動のスピードが変わってくる。ソウはそれに気付いていた。

 なら、どうして今になって言うのか。それは隣にナツがいたからである。彼にはこの裏に隠れているであろう問題に関わるべきではないのだ。少なくとも今は大魔闘演武に集中してほしいというソウの小さな気遣いだった。

 閑話休題。

 嘘となると黒幕は別に居るとなる。そもそも大鴉の尻尾が本当の黒幕なら、わざわざこんな小細工はしてこない。直接大鴉の尻尾の魔導士の誰かが遂行したほうが成功率は格段に跳ね上がる。それに男達が狙っていたのは“医務室にいた少女”───つまり、ずっと寝たきりのウェンディではないことになる。彼女を指したいのなら“医務室で寝ている少女”と言うだろう。

 では誰を狙ったのか。それも今から聞き出すつもりだ。

 と、ソウの側の空間が歪んで突如として一人の着物の少女が出現する。

 ───師匠だ。

 

「ソウ、そろそろ戻れ。後は妾がしておくわい」

「師匠………頼みます」

 

 ソウは師匠にこの男達の処遇は任せることにした。先程から歓声がまったく聞こえないことで、試合がどうなっているのか気になっていた。

 ソウが三首の竜選手待機席に移動していくのを見届けた小さな少女は彼の姿が見えなくなるなり、男達に向けて不吉な笑みを浮かべた。

 

「さて、お主たち。覚悟はできてるじゃろな?」

「「「「ひぃぃぃ………」」」」

 

 この人………怖い。

 

 

続く───────────────────────────

 

 

 

 




裏設定:誘拐未遂

ナツが目覚める時間は原作より少し遅れている。原因はジュンの魔法によるダメージが響いていたため。
その為、先にソウが誘拐犯と出会している。



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第t話 竜虎対決・序盤

今年も後、12時間となりましたね。年内にどうにか投稿するまでに至りました。
でも、タイトルから察するに2話に分けてしまいましたね……(´д`|||)
色々と書いていると、長くなりそうだったのでこのような決断に至ったのですが………最後までお付きあいください。

───では、よいお年を!!


『おぉっ~と!!今回は竜虎対決となったぁ~!!』

 

 会場一体に響き渡るアナウンス。観客がより一層熱気を放ち、盛り上がりを見せていた。

 その少し前にユキノは同じチームの仲間と言葉を交わしていた。

 

「どっちが勝つと思う?」

「ユキノさんに決まってるでしょ!! 何でそんな事もわからないんだよフロッシュは!!」

「フローもそーおもう」

「誰かさんのおかげで競技パートでの点数……とれなかったからなァ」

「クス」

 

 こちらを見て笑われたことにスティングは不機嫌となる。

 

「ケッ」

「いいえ………スティング様は不運だっただけ。乗り物の上での競技だと存じていれば………」

「んな事はいーよ。お前がこのチームにいるって意味……わかるよな」

「はい。剣咬の虎の名に恥じない戦いをし、必ずや勝利するという事です」

 

 ユキノの決意は固い。

 

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

 対する、ソウも同じように舞台に上がる前に仲間から色々と言われていた。

 

「ソウ、頑張ってね」

「頑張ってこいよ」

「………負けたら承知しないわ」

「はは………覚えとく………」

「ウェンディにもソウがこのギルドにいるってのはもうバレバレなんだから、カッコいいとこ見せつけてね」

 

 サンディーの助言に彼は仲間に背を向けて、ただ手を振ってこたえるだけだった。

 ───そうか。たまには兄としての威厳も見せつけないといけないのかもな。

 ソウの気合いも十分である。

 

 

 ───戦場───

 

『両者出揃いました!!』

 

 地表に降り立つ二人の魔導士。

 ───蒼色のマントに身を隠し、緊張感なしで場を構えている少年。

 ───水色のショーとボブヘアーに、薔薇の髪飾りが印象的な少女。

 

 少年少女の名は“ソウ”と“ユキノ”。

 

『両者とも初参戦。ソウ選手の強さは未知数。だが、今回のダークホース、三首の竜のリーダーでもあるのでその実力には期待したい所です。対するユキノ選手はあの最強ギルド、剣咬の虎に所属しているのでこちらにも期待が寄せられます』

 

 簡潔なアナウンスが流れる。徐々に会場一体にはピリピリとした緊張感が生まれ、人々の心境が高ぶっていく。

 

 

 ───妖精の尻尾A、選手待機席───

 

「剣咬の虎………」

「よく見ておくんだ。私たちが越えるべきギルドを」

「ああ」

「お兄ちゃん………」

 

 妖精の尻尾にとっては必ず超えなければならないチームである剣咬の虎と三首の竜の戦い。その実力を改めて確認する為に、彼らはこれから始まる試合を緊張した思惑で凝視する。

 そして───聞き出すのだ。ソウの隠している事実を。

 ウェンディにとっては兄の見逃せない大事な勇姿でもあった。今の彼の背中はウェンディにとっては逞しく見えた。

 

『それでは試合開始ぃぃい!!』

 

 幕を下ろした本日の最終試合。固唾を飲んで二人の勝負の経緯を誰もが黙って目撃しようしていた。

 

 ───激戦の開始だ。

 

 

 ───戦場───

 

「………」

 

 開口一番に先手を仕掛けようとしていたソウだったが、相手の様子や態度から感じる雰囲気から試合開始合図の銅鑼の音が響くと同時にその方法は止めた。

 どうやらユキノと言う少女はソウとの会話を望んでいるようだ。彼も素直に応じる。

 

「よろしくお願いいたします」

「あぁ………こちらこそね」

 

 律儀に挨拶をしてきたユキノに、ソウも丁寧に応じた。

 ユキノはさらに話を続ける。

 

「あの……始める前に私たちも『賭け』というものをしませんか」

「賭け………ねぇ。あんまりそういうのは好きじゃないんだよ」

「敗北が恐ろしいからですか?」

 

 彼女は挑発をしてきている。

 ソウはあえてそれに乗った。

 

「別にそんなことを言ってる訳じゃない。そんな軽々しく自分の物を相手にみすみすと差し出すのは俺の性分ではないんでね」

「では重たくいたしましょう」

 

 賭けは遠慮願いたいと言ったソウに対し、ユキノはとんでもないことを言い出した。

 

()を………賭けましょう」

 

 たったの一試合に自分の今後の運命を賭けると、呆気なく告げたユキノの姿に会場は唖然とした。

 ………分かってるのだろうか。

 腕に相当の自信があり、必ず勝てる余裕からの発言なのか。ただ、彼女の大口を叩いているつもりなのか。ソウは慎重に見定める。

 ソウは彼女をジッと見据えると、問いかけた。

 

「自分の言っている意味は分かってるだろうな?」

「はい、勿論」

「そうか」

 

 ユキノの即答にソウは苦笑いを浮かべた。

 彼女の覚悟は相当。彼女はこの試合に全てを何もかも注ぎ込むように自分との試合に挑むつもりでいる。ソウはそう感じた。

 だったら………こちらも逃げる訳にはいかなかった。妹の前で恥を晒すのも理由の一つだが、本気の相手に本気で答えないとは失礼に値する。

 ソウはポケットに突っ込んでいた両手を外へと出すと、拳を前へと高々とつき出す。

 

「面白い。俺は君の提案した賭けを承諾するよ」

「ありがとうございます」

「ただしだ───」

 

 ソウは拳を下ろし、代わりに笑みを浮かべる。

 それに呼応するかのように、会場がグラリと揺れたかのような錯覚を会場にいた全員が覚えた。

 

『地震でしょうか?………そんなことより、こ…これはちょっと…大変な事に……』

『う~む』

『COOL……じゃないよコレーーー!!』

 

 観客席、実況席でも混乱が発生していた。誰も予想できない事態だ。

 一体何を言うつもりなのか、彼を見つめるユキノ。ソウははっきりと言った。

 

「君のそこまで賭ける覚悟をしっかりと証明することだ。俺も中途半端な覚悟では本気になることは出来ないからな。それでも構わんと言うのなら───」

 

 ソウは一区切り置くと───続けた。

 

「かかってこい。いざ、尋常に───」

 

 会場内がごくりと息を飲む。

 ソウはローブをバサリと大きく広げた。

 

()()()

 

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

 サンディーは疑問を口に出す。

 

「ねぇ、ソウはあっさり受けたけど良いの?」

「貴方がさっき彼にカッコいい所を見せなさいって言ったからでしょ」

「え!?嘘ぉ!?」

 

 ルーズに指摘されてサンディーは飛び退く。実際はそうではないのだが、純粋な性格のサンディーは疑うことを知らずに信じこんでしまった。

 だが、ジュンとアールは別に彼が賭けを受けたことを何とも思っていないのか、こんなことを口に出した。

 

「別に良いんじゃないのか?ソウは負けねぇ、絶対にだ」

「うん。僕もそう思うよ」

 

 心配………いや、今後の展開を楽しそうにソワソワしている二人は呑気なものであった。

 もう少し緊張感をもってほしい。そんなことを思い、ルーズはため息をついた。

 

 

 ───戦場───

 

 ソウはユキノの実力を見極めてから、攻撃を仕掛けることにした。

 彼は内心、とても興奮していた。あそこまできっぱりと言い放ったユキノに対して、自分をどこまで追い詰めるのか。ましてや、どうやって自分を倒してくるのか期待していたからだ。

 

剣咬の虎(セイバートゥース)の前に立ったのがあなたの不運」

 

 彼女は自身の服の懐を探ると、あるものを取り出してそれを突き立てて握る。

 ───鍵だ。

 一見、よく見る変鉄もない鍵だが、ソウにはその代物には見覚えがあった。

 

「へぇ………」

 

 彼は面白そうにユキノを見守る。

 

「開け“双魚宮”の扉、“ピスケス”!!」

 

 彼女の目の前に魔方陣が出現。そこから飛び出てくるように姿を現したのは二体の長い体を持つ魚のような生き物。

 一体は白で、もう一体は黒。

 ただその大きさはソウが見上げるほどの巨体を誇っており、そこらにいる並大抵の魚とは比べならないほどだ。牙も鋭く尖っており、ソウぐらいはあっさりと飲み込めそうな程の口を開いている。

 その二体の魚の正体は星霊。証拠はあの彼女が先程手にしていた鍵だ。

 精霊を呼び出すアイテムでもあり、さらにこの魚の星霊を呼び出す際に使用したのは金色の鍵。王道十二門の鍵。

 どれもが強力な力を所持しているとされている世界にたったの十二本しかない鍵。彼女はその稀少な星霊を呼び出したのだ。

 

 ───ユキノは星霊魔導士。

 

 なるほど、とソウは納得する。彼女があそこまで大口を叩けるのもその今となっては珍しいとされる星霊魔導士だからだろうか。さらに言えば王道十二門の星霊とも契約をしている。それも勝利の自信に繋がっているのだ。

 

 

 ───妖精の尻尾A、選手待機席───

 

「星霊魔導士!?」

 

 ルーシィはもう一人の同じ魔法使いの担い手に驚愕していた。何度も目を擦り、確かめるがあの巨体な二体の魚は確かに星霊だ。

 

 

 ───妖精の尻尾、応援席────

 

「魚ぁ!!」

 

 ハッピーは一人興奮していた。理由は目の前に大好物が突如として出現したためである。

 じゅるり、と食欲を注がれたハッピーは涎を垂らす。隣のシャルルは怪訝そうに横目で見ていた。

 

 

 ───戦場───

 

 巨体を見せびらかすように二対の星霊はくねくねと体をうねらせる。

 ソウはそれを無関心そうに傍観していた。ただ、彼が自然と向こうを見上げる感じになってしまっているのは悔やめない。

 

「行って、ピスケス」

 

 ユキノの指揮が出ると同時にピスケスは彼へと猛烈な牙を向けて襲い掛かる。巨大ならまだしも二体居るために彼へと伝わる威圧感は倍増となっている。

 ソウは足を折り曲げ、指先を地面へと触れる。続けざまに魔法陣が彼の足元を取り囲むように出現した。

 ───次の瞬間、彼が失踪。

 彼の居た場所に残されたのは、砂埃と地面に入った亀裂のみ。ピスケスはあまりの事態に彼を見失う。

 

「ピスケス、上」

 

 キョロキョロと辺りを見回していたピスケスにユキノは指示を出す。

 そこには消えたはずのソウが遥か上空を跳んでいた。彼は苦笑いを浮かべている。

 

「やっぱ、すぐにバレるよな」

 

 離れた場所から見ていたユキノにとってはソウの動きを追うことは簡単ではないと言え、不可能と言うほどではない。

 衝撃による跳躍はあくまで最高速度に達する時間が極端に短く、その瞬間を近辺で目撃をすれば、まるで瞬間移動となるがユキノのように遠方からなると移動距離があまり大きくないためにすぐに発見される。が、そこまでに拘るほどの本来の用途とは違っているので、あくまで騙すだけにしか過ぎない。

 

『おおっーと!!ソウ選手がいつの間にか空に!!だが、空中だと身動きがとれません!!ピンチに追い込まれたか!!』

 

 ユキノはチャンスだと感じた。

 人が宙に放り出されば身動きが取れず、確実にこちらの攻撃は相手に命中するからだ。

 ユキノの思考に呼応するかのようにピスケスが猛速度でぐるぐると渦巻きを描くように昇ってくると、彼へと突進をかました。

 

『え………今、何が………起こったのでしょうか………?』

 

 刹那、会場一体は目を疑った。

 

「その攻撃は目が回りそうだな」

 

 ソウは巨体をさらりと避けたのだ。驚くことに軽口を叩きながら。

 観客が目を見張ったのは、彼の動きが逸脱していたからだ。

 まるで、宙を土台に跳躍したかのように見えたのだ。事実、彼が先ほどまで居た空間から、今彼がいる場所は分かりにくいとは言え確実にずれている。

 

 ───つまり、彼は()()()()()

 

 普通ならピスケスの突進にまともに正面から激突するのが相場のはずなのだが、彼が選んだのは回避という有り得ない選択肢だった。

 

『ままま、まさかの!!避けたぁ~!!一体ソウ選手はどうやっているのでしょうか!?』

 

 ユキノも意表を突かれたのか、少し驚きの表情へと移り変わる。

 

「そんなに騒ぐほどでもないだろ………」

 

 再び彼は宙を蹴ると、身軽な動きで地面へと着地をする。それだけで会場が盛り上がりを見せていることに、彼の反応は冷たくなっていた。

 

 ───『波動式十三番』宙間歩行。

 

 足裏に魔力を集中、衝撃を内部から外へと放つことで推進力を得ることで変幻自在に動くことが出来る。これは地表では勿論、宙に浮かんだ状態でも可能である。

 言わば、彼に足場など不要となる存在なのだ。

 

「おっ!懲りないな」

 

 あっさりと攻撃を避けられたことが、癪にでも触れてしまったのかピスケスの追撃が続く。

 一体が彼の頭上からの突進。後ろへとジャンプしてそれを避けるソウ。

 ───が、ピスケスの片方は自慢の魚の肉体を利用して方向転換をして突進を再開した。

 ソウは感嘆の声を上げる。

 

「スピード勝負ってか?面白い」

 

 (ピスケス)逃走者(ソウ)の後を追う。盛大な鬼ごっこの開始を告げていた。

 白のピスケスが彼をしつこく追い回す。

 彼も負けじと宙間歩行を駆使して、逃げ回る。

 しばらくして、彼は気付く。

 

 ───誘導しているのか………?

 

 途中から、ピスケスの動きにちょっとした違和感を感じた。まるで、何処かへと導こうと道を塞いでいるような感覚だ。

 ソウは宙を止まることなく動き回りながら、考える。

 そして───勝負を仕掛ける───のではなく、向こうから仕掛けて貰うことにした。

 

「───っ!来るか!」

 

 空中で、白のピスケスの突進を紙一重で避ける。そこに彼の背後から重いプレッシャー感を放ちながら、黒のピスケスが迫ってきていた。

 さらに白のピスケスも長い巨躯を曲げて、ソウの頭上へと位置とる。

 黒のピスケスはソウに襲い掛かると思われたが、別の行動をとった。

 

「おー、そう来るか」

 

 ソウを取り囲むようにしてぐるぐると囲んだのだ。これで、彼が抜け出すのには上と下からのみになる。

 確実に敵の逃げ場をなくし、味方が有利になるように誘導する。

 この場合、ソウの選択肢は二つ。

 頭上から宙間歩行で突破するか、もしくは足元から同じようにするか。

 前者はともかく、後者をソウは選べなかった。足裏から衝撃を発しているために下へ移動するとなると、頭を地表に向けないといけないからだ。あえて彼をこの状況に追い込んでいるピスケスを操るユキノが宙間歩行の短所を気付いたのだろう。

 となると、残された選択肢を実行しようとするのだが───

 

「やっぱ、そう来るよな」

 

 唯一の突破口である天辺からは白のピスケスが猛突進を仕掛けており、彼の視界に写ったのは徐々に迫り狂う巨体の魚だ。

 完全に抜け道を失った彼は、そんな窮地に立たされながらもある行動をとる。

 

 ───笑ったのだ。

 

 囲いの外からは見えないので、誰も気づくことはなかった。ユキノもだ。

 やがて、急下降してきたピスケスがソウの目前まで迫ってくる。

 

 刹那───衝突。

 

 ようやく、彼の身体に攻撃が命中した。

 ピスケスは勢いを緩めることなく、どんどんと地面へ垂直に降りていく。

 囲いから脱け出したことで、観客からも彼の姿がピスケスの口元の先で確認出来た。

 ピスケスを止めようと両腕を伸ばしてはいるものの、ピスケスの突進に力勝負で負けているために急接近で彼の背中と地面の間の距離が狭まる。

 

 そして────

 

『ああっーーとっ!!ソウ選手が地面へと叩きつけられてしまったのかぁ!?』

 

 会場からはソウとピスケスにより発生した戦場を覆うほどの砂埃で状況が目視出来ない。

 しばらくして、砂煙がゆっくりと晴れると戦場が露となる。

 

『ななな、なんと!?ソウ選手!!受け止めています!!』

 

 そこにはひび割れた地面に両足を踏み締めてピスケスを押し返そうとしているソウの姿があった。

 ピキッ、と地面に亀裂がどんどん入り深くなっていく。

 

「俺に触れない方が賢明だと思うが」

 

 そのまま均衡状態が形成されるかと思いきや、数秒もせずに戦況が変わった。

 ピスケスの巨体が浮かんでいるかのように動きを止めた。

 かと、視えたのは一瞬。気がついた時には、既に白のピスケスは───吹き飛ばされていた。

 彼が行ったのは単なる衝撃波を両手から起こしただけにすぎない。ピスケスが吹き飛ばされる程度に威力の調節はしてある。

 

「よし、やってみるか」

 

 飛ばされる白のピスケスを見上げながら、横目でユキノの様子を探る。ここからでは彼女の表情を伺うことは難しく、さらに感情をあまり露にしない彼女から心境を探ることは出来ないがそれでもピスケスの攻撃が通用しないことに、内心少しでも焦りを感じてはいるだろう。

 ソウは片手を広げ、彼女の方へと向けると掌から青の球体を形成した。

 それは衝撃の塊───波動がぎっしりと詰められている。

 

 ───『波動式二番』波動弾。

 

 ソウの十八番の魔法。使い勝手が良く、多用している。

 彼はその波動弾をユキノに向けて放つ。

 ユキノはその場を動かない。

 波動弾は真っ直ぐ彼女へと一直線に飛んでいくが、彼女は避ける素振りすら見せない。

 ───否、避ける必要がないのだ。

 ユキノに当たる直前に入り込んだ巨大な影によって波動弾は弾かれた。

 黒のピスケスだ。

 星霊が主人を守るのは当たり前。そうでないと、星霊が顕現できるのも主人の魔力によって出てきているから出来なくなるからだ。

 逆に言えば、その主人は星霊魔導士の短所とも言える。身を守る術が普通の魔導士に比べれば些か劣る。その為、ルーシィも短所を少しでも補うために鞭を所持したりして、対策をしている。

 ソウは思考を巡らせた。

 このままでは、一方的に時間が過ぎていくだけで状況は変わらない。それは向こうも同じだが、ユキノは星霊を操っているだけに対してこちらは空中をあちこち駆け巡っているので魔力や体力の消費が最後まで持つか怪しくなってくる。

 彼はボソッと呟く。

 

「やっぱり、()()しないとダメかぁ………」

 

 

続く───────────────────────────




裏設定:波動壁

ソウの“反撃防御”と呼ばれる魔法であり、周りに気を巡らせている時に常に発動している。ギルド内や味方には影響しないように制御するため、実際には発動していないことが多い。
戦闘の際には大抵解除している。理由は波動壁を発動しながら他の魔法を発動するとなると通常の数倍は余分に魔力を消費してしまうためだ。


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第s話 美女対決

クリスマス!!クリスマスですね!!
と言ってもフェアリーテイルにそもそもクリスマスがあるのか知らないので、代わりと言っては何ですが、今回の話はいつもより長めとなっています。
具体的には7000文字→10000文字程度になってますよ。

───試合、開始ぃ!


 エルフマンの勝利に歓喜していたのは、ナツ達も同じだ。ちょうど、通路からでも戦場の様子は見える。

 まさに今、妖精の尻尾の大反撃の幕が降りようとしていた。

 

「うおっ!!すげぇ歓声だなぁ!!」

「さすがです!!エルフマンさん、勝ったんですね!!」

 

 ウェンディも先程目を覚ましており、すっかり元気になったようで仲間の勝利に純粋に喜んでいた。

 同じく目を覚ましていたシャルルは不安そうに彼女に尋ねる。

 

「ウェンディ、もう大丈夫なの?」

「うん、もう平気!!グランディーネもありがと!!」

「だから、その名で呼ぶんじゃないよ」

 

 グランディーネはそう答える。そして───あの話題について口に出す。

 

「それよりさっきの連中」

 

 男達が言うには大鴉の尻尾に依頼された為にしたまでだと言っていた。その後はソウが引き連れて行ってしまったので、分からずじまいだ。

 ウェンディは黒いローブの袖をぎゅっと握り締めた。ローブから漂うこの匂い。彼女はこの匂いの正体は知っていた。故にそれがより一層彼女を困惑していた。もしかして………誘拐犯から助けてくれたのは……。

 ──駄目。お兄ちゃんは今はいない………。

 ウェンディは頭を横に振り、これ以上の詮索は止めた。ゆか喜びになるのだけは避けたかった。

 そして今突き当たっている問題についてウェンディは思考を凝らす。と、彼女はあることに気付く。

 

「医務室にいた(・・・・)少女………過去形?」

「一人いたじゃないか。ナツを運んできた」

 

 シャルルはハッとする。

 

「ルーシィ!!」

 

 

 ───闘技場、極秘通路───

 

「作戦は失敗です」

「バカモノ、そもそも対象を間違えるとは。外見の特徴は伝えなかったのか?」

「申し訳ありません」

 

 高価な鎧に身を包んだ髭面の男性。彼は騎士団団長の“アルカディオス”。

 そして彼の話し相手を務めているのは誘拐犯の男達を連行した兵士。少し前に着物の少女から男達を引き取ったのだが、兵士はあることに気付いていなかった。

 

「まあよい、計画をプランBに移行するだけの事。実行犯どもは?」

「我々が捕らえ、牢へ送りました」

「バレてはいまいな」

「は! 依頼主は大鴉の尻尾(レイヴンテイル)という事に」

妖精の尻尾(フェアリーテイル)大鴉の尻尾(レイヴンテイル)の確執はこのように使わねばな。そのスキに我々は星霊魔導士を手に入れる」

 

 そう言うと、アルカディオスはその場を後にした。兵士も敬礼した後、本来の仕事をするために何処かへと走っていった。

 誰もいないなか、突如空間が歪む。

 

「う~む」

 

 中から難しい顔をした師匠が現れる。

 

「水面下ではあやつ達の企みは進んでおるようじゃのう………用心すべきか…………」

 

 密かに何かが蠢いていた。

 

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

「ソウ、どこ行ってたんだ?」

「ちょっと野暮用でな」

妖精の尻尾(フェアリーテイルの)試合終わったよ!」

「あぁ。ちゃんと見てたさ」

 

 戻ってきたソウに対して、色々と声をかける仲間達。

 彼の姿を見たアールはあることに気付く。

 

「ローブは脱いだの?」

「………あ!置いてきて………」

 

 ………それから、何処に置いた?

 ソウは少し前の記憶を引っ張りだす。誘拐犯の男達を確保するまでは着ていた。その後は、尋問を始めた。その時は────多分、着ていなかった。

 その前にウェンディにローブをかけたままにしたはずだ。つまり、今のソウのローブは───

 

 ───彼女が持っている。

 

 ソウは大失態を犯してしまった。既に気付いた時には手遅れになっており、どうすることも出来ない。

 別にソウとしてはここに居ることはバレても構わないのだ。ただ、彼女は律儀なので誰にも頼まずに自分自身でローブを本人の元へ返却しに来るだろう。なので、必然的にソウは彼女と会わないといけないことになる。だが今の立場と言い、ソウはどうしても気まずい態度をとってしまいそうで、憂鬱な気分だった。

 

「………どうすっかな~」

 

 彼は頭を掻いて、虚ろな瞳で天を見上げた。

 

 

 ───妖精の尻尾、医務室───

 

 ベッドに横たわっているのはウェンディやシャルルではなく、包帯でぐるぐる巻きにされて仲間からの称賛に照れくされているエルフマンだ。

 特に驚いたのはエルザから男として認められていたことだ。その強靭な精神力は妖精の尻尾の中で一番かもしれない。彼女はエルフマンにそう告げた。

 エルザに続いて、ナツ達も感動の声を上げていく。それは良い意味でまるで死者を惜しむかのような光景だった。

 椅子に座り看護をしているリサーナは笑顔で言った。

 

「まぁ、昔から頑丈だけが取り柄だけみたいだからね」

 

 妹目線からの兄の自慢。そんな兄は少し嬉しそうであるが、ナツのちょっとした一言で態度を変える。

 

「なんか………淋しい取り柄だな」

「オメーも似たようなもんだろ!!」

 

 思わず突っ込んでしまった。ナツにだけは言われたくないからだ。

 

「でも、本当に凄かったですよ」

「情けねえが、オレがこのザマだ。後は任せたぞ、ウェンディ」

 

 エルフマンの負傷により、この後の試合はリザーブ枠を使ってウェンディが出場することが決まっていた。

 ウェンディは元気よく「はい!」と頷いた。

 

「さ…………次の試合がもう始まってる。さっさと行きな。敵の視察も勝利への鍵だよ」

「ばっちゃん、気をつけてな」

 

 ポーリュシカの言葉に頷きながらも、先ほどの誘拐騒ぎの事もある為、ナツは彼女にそう忠告しながらメンバーたちと共に医務室を退室していった。

 廊下では主に大鴉の尻尾についての話をナツ達はしていた。何処か疑問に思う点も浮上してきている。

 オーブラという魔導士がいる。彼なら一瞬で魔力を空に出来るが為に捕獲には最適のはずなのだ。だが、実行したのはあの男達で、呆気ない幕切れとなっている。

 結論からして方法よりも結果を拘ったというものに至った。シャルルは一人納得いかなさそうにしていた。

 シャルルが危惧しているのはルーシィが狙われたという事実。どっちにしろ、ここで思考を凝らしても理由は分からないので、シャルルは考えるのを止めていた。

 

「あの………」

 

 ウェンディは通路を一緒に歩くなか、唐突に声をだした。それに反応して返事を返したのはルーシィ。

 

「どうしたのよ?ウェンディ?」

「お兄ちゃんは来てるのでしょうか………いえ、今何処にいるんですか?」

「え………何で分かるの………!?」

 

 ルーシィはたじろぐ。

 ウェンディはまるでソウが既に会場の何処かにいるかのように尋ねた。来ていない可能性も有りながら彼女は来ていると断定していたのだ。

 

「これが………」

「そういえば、さっきから大切そうに持ってるよな」

 

 グレイが黒いローブを大切そうに抱えていることに気付き、指摘する。

 ルーシィはウェンディがその黒いローブを見せた意図を理解して、逆に困惑する。どうして彼女がそれを持っているのかと。

 

「え?それって…………」

「お兄ちゃんの匂いがするんです」

「ソウの匂いか………」

 

 エルザは感心するかのように呟く。

 確か彼女が持っているのはソウがずっと着ていたものと酷似しているが、それが本人の物とは分からない。が、ずっと着ていると自然とその人の匂いは付着している。大抵の人は匂いの違いには分からないのだが、ナツを筆頭に滅竜魔導士は鼻が人一倍効く。

 故に彼女は好いた彼の匂いのついたローブに気付いたのだ。このローブは少し前に目覚めたときには既に自分の体に掛かってあって、誰が掛けてくれたのかは不明。ナツにも尋ねたのだが、ソウに口止めされていた為にナツははぐらかしていた。彼女の手にいれた唯一の持ち主の手掛かりはソウの匂いがするということだけだった。

 

「エルザ………」

「あぁ………バレるのも時間の問題だ」

 

 ナツは不安そうにエルザを見た。グレイも緊張した顔つきで彼女を見つめていた。

 

「ウェンディ、今から話すことは嘘ではない。よく聞いてくれ」

「は、はい!」

 

 エルザの真剣さからウェンディは思わず声が裏返ってしまう。

 

「確かにソウは来ている。だが───」

「「「「おおーーー!!!」」」」

 

 エルザの言葉を遮った。それは人々の雄叫びだった。 

 廊下を進みながら会話をしていたので、いつの間にか選手待機席へと到着していたようだ。

 観客がけたたましい歓声を上げる様子がウェンディの視界に入る。戦場を一望出来ると同時に他のギルドの待機席もここから見える。

 ウェンディは迫力ある会場を精一杯見渡して───ふと、ある一点で目が止まった。

 

「え………」

 

 懐かしい彼女の友達がとあるギルドの待機席にいたのだ。

 蒼海の活発少女と、深紫の長髪少女。

 サンディーとルーズ。

 彼女達は同じギルドの魔導士と楽しそうに話しており、さらに驚くことにその話し相手もウェンディは知っていた。

 アールとジュン。どちらもソウの昔ながらの友達である。

 そして───待機席に設置されたベンチに座り、頭を抱えている少年は───

 

 ウェンディの兄の“ソウ”。

 

 ウェンディはどうして兄があそこにいるのかという事実を受け止められず、しばらくの間ずっと彼の方を見つめていた。

 エルザも彼の方を見ながら説明を始めた。

 

「ソウは三首の竜と言うギルドの一員として、大魔闘演武に出場している。それに予選も2位で通過しており、妖精の尻尾にとっては敵となっている」

「それにソウの友達も出てるのよ」

 

 ルーシィの補足も、ウェンディは黙って聞いていた。

 すると、遠くの彼が顔を上げる。

 ウェンディと目があった。

 

「お兄ちゃん………」

 

 彼はウェンディと目があったのに、気付くと気まずそうに手をふってきた。

 

「おい、試合が始まるぞ」

 

 グレイが皆に呼び掛ける。

 ───後で………聞かないと………。

 ウェンディは心の中で誓っていた。

 

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

「あ、可愛い人だよ!」

「ミラか………まぁ、そんなに心配するまでもないだろ」

「そんなに強いのか?」

 

 ───第四試合。

 

 “妖精の尻尾B”ミラジェーン・ストラウス対“青い天馬”ジェニー・リアライト。

 その試合はまさに始まる直前だった。

 ジュンはソウの呟きに聞き返した。彼が心配するまでのないと見込まれた人物が気になった。

 

「俺と同じS級魔導士だからな」

「ほぉ~、そうなのかぁ」

「私、ミラさん好きなんだよね~。前行った時に色々と教えて貰ってたりしてね~」

「………何を教えてもらったのよ」

「ふふ、乙女の秘密だよ♪」

 

 サンディーのどや顔に対するルーズの視線は冷徹だった。

 

 

 ───妖精の尻尾、応援席───

 

「ただいま~」

「おう!お帰り」

 

 リサーナは医務室からこちらへと戻ってきていた。試合を観戦するためだ。

 ベンチに座っているカナが心配そうに尋ねる。

 

「エルフマンの容態は?」

「ボロボロだけど心配ないよ」

 

 彼は安静しておくだけで、いずれは完治してするだろうと言うのがポーリョシカの見解だった。

 レビィが戦場の方を眺めながら言う。

 

「元モデル同士の対決かぁ~」

「ジェニーって凄い人気があって、確か7年前の週ソラで“彼女にしたい魔導士”No.1だったよね」

「元々、先輩のミラ姉に憧れて目標にしてたって」

 

 側で聞いていたロメオが話に入る。

 

「でも、ミラ姉は7年間眠ってたから、今はジェニーの方が年上ってことか」

 

 “ジェニー・リアライト”。

 青い天馬のリザーブ枠を使って、一夜と交代して出場している。

 金髪の髪を靡かせて、堂々と立つその姿は美貌という言葉を彼女が独り占めにしているかのようだ。

 

「お、お前回復したのか?」

 

 ちょうど、その時にシャルルも到着。リリーが尋ねる。

 

「ウェンディももう大丈夫よ。なんか出場者以外はこっちの席にいなきゃいけないんだって」

「うわーん! オイラ心配したよぉ~!」

「いいから。試合始まってるんでしょ?」

 

 シャルルはハッピーを軽くあしらってから、闘技場の方へと視線を向ける。

 不安ごとは山積みだったが、今はギルドの応援が先決。

 心を切り替えたシャルルは、さっそく闘技場に立つミラジェーンへと声援を送ろうとする。

 

「ミラジェーン!! がんばりなさいよっ!!……って───何……!? コレ……」

 

 そこには歪な戦況が露にしていた。

 

 

 ───妖精の尻尾A、選手待機席───

 

 ウェンディは涙目で戦場を指差す。

 

「バトルパートってあんなことまで………するんですか………!?」

「これは特別ルールじゃないのかなぁ………というかそうであってほしい………」

 

 ルーシィは神に祈る。

 自分の出番ではこんな目に逢いませんようにと。

 

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

「こんな感じ?」

「こうかしら?」

 

 お互いに魔法を使わず、堂々と魅力的なポーズをとりあっているミラとジェニー。

 ───しかも水着姿で。

 どうも、元モデルだったせいなのか変則でグラビア対決に急遽変更していたのだ。

 

「「「「「おぉーーーっ!!」」」」」

 

 無論、観客席の男性陣は歓喜。むさ苦しい雄叫びが会場に響き渡る。

 

「「「…………」」」

 

 ただし三首の竜の男子陣は修羅場と化していた。原因はルーズのとつてもない気迫を含んだ瞳。

 

「なによあれ」

「二人とも美人だね~、良いなぁ~」

 

 サンディーだけは例外で、感心するかのように試合をじっと見ていた。

 

「アール、早くどうにかしてくれぇ」

「流石の僕でも、難しいかも………」

 

 ソウの隣では、隠れてジュンとアールがこそこそと話していた。ソウはなんとも言えない表情になっている。

 

「ルーズ、どうしたの?」

 

 男3人はハッとした。サンディーが普段通りにルーズに接したからだ。彼女は戦場の方を向いたまま、答えた。

 

「私だったら棄権するわ」

「でも、もうルーズはバトルパートには出てるんだよ。心配することないじゃん!」

 

 同じ女の子なのか、スルスルと会話が進む。よくサンディーはあんな怖そうなルーズに話しかけられる。もしかして、気付いていないのだろうか。

 

「………そうね」

 

 彼女の雰囲気が少し和らいだような気がした。後ろから黙って様子を伺っていたアールとジュンは心の中で思っていた。

 

 ───君は勇者!そして、ありがとう!

 

 ソウはため息をついた。

 

「何やってんだか………」

 

 

 ───戦場───

 

「さすがにやるわね、ミラ」

「ジェニーこそ。なんか久しぶりよ、こういうの」

「まさかグラビア対決なんて乗ってくれるとは思わなかったわ」

「うん………だって殴り合うのとかあんまり好きじゃないないし、こんな平和的に決着がつくならその方がいいじゃない」

 

 ミラはそう言いながら、ニッコリと優しい笑顔を浮かべる。

 戦いを好まない彼女らしい理由だった。

 

『元グラビアモデル同士!! そして共に変身系の魔法を使うからこそ実現した夢のバトル!! ジャッジは我々、実況席の3人が行います!!』

『責任重大だねぇ』

『どっちもCOOL&ビューティ!!』

『さあ、次のお題は──』

「お待ちっ!!」

『『『!!?』』』

 

 突如として遮る声が入る。

 

「小娘ばかりに目立たせておく訳にはいかないからねえ!!」

「強さだけでなく美しさでも……」

「「私たち人魚の踵(マーメイドヒール)が……最強なのさ!!」」

「なんでアチキまで………」

 

 闘技場に舞い降りたのは人魚の踵の魔導士。彼女達の魅力的な美貌により一層男達はテンションがヒートアップする。

 

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

 チラッとサンディーが横目でルーズを見る。

 ルーズはそっぽを向いた。

 

「イヤよ」

「何も言ってないよ!?」

 

 

 ───戦場───

 

『これは大変な事になりましたー!! 人魚の踵(マーメイドヒール)の乱入!! リズリー選手がほっそり体系なのが嬉しい!!』

「お待ちなさいっ!!」

『『『!?』』』

 

 そこへまた、新たな乱入者が出現する。

 

「あなたたちには“愛”が足りませんわ!!水着でポーズをとれば殿方が喜ぶと思ったら大間違い!!やはり愛…愛がなければっ!!」

「私も負けてられないもんね!!」

 

 次に現れた乱入者は蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のシェリーとシェリア。当然彼女たちも水着姿である。とてもノリノリだ。

 

『今度は蛇姫の鱗(ラミアスケイル)の乱入だーーっ!!』

 

 彼女たちの登場により、会場のボルテー

ジがさらに上昇した。

 

 

 ───妖精の尻尾、応援席───

 

 まるで他人事のように観戦していたレビィやリサーナだったが、一人の少女によってピンチに追い込まれていた。

 

「水着持ってないよ!?」

 

 初代妖精の尻尾マスターのメイビスだ。ついつい彼女はこの大魔闘演武が気になって来てしまっていたのだ。

 メイビスが両手を広げた次の瞬間、空には大量の女性の水着が降ってきた。

 

「大丈夫!!こんな事もあろうかと、全員分の水着を用意してきちゃいましたーー!!」

 

 ………出場しないといけないのだろうか。

 

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

「ジィーーーーー」

「………絶対イヤよ」

 

 二人の冷戦が続いていた。

 

 

 ───妖精の尻尾A、選手待機席───

 

 メイビスがルーシィとウェンディ、エルザの前に姿を現す。

 

「あなたたちも見てるだけじゃダメですよ!!みんなで参加しましょーー!!」

「ふえっ!!?」

 

 ウェンディとルーシィは仰天する。

 

「「なんで!!?」」

「応援席の者が出るというのに、我々が何もしない訳にもいくまい」

「「「ええっ!!?」」」

 

 するとエルザはウェンディに耳打ちをした。

 

「ソウに接近出来るチャンスだ。この機会を逃すわけにはいかないぞ」

「───は、はい!」

 

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

 寒気がソウの背筋を通る。

 

「な、なんだ!?」

 

 原因は不明だ。

 

「ルーズ、行こ!!」

「イヤよ………水着なんて持って………」

 

 ルーズの動きが固まる。何故なら彼女はサンディーの両手に持っている女性ものの水着を見つけてしまったのだ。

 

「ふふん!念のために、持ってきておいたんだよ!!」

「いや、さっき師匠に貰ってただろ」

「///っ!余計なこと言わないの!!」

 

 ジュンの挟みに顔を真っ赤にしてサンディーは言った。

 アールはルーズの肩をポンポンと叩いた。ルーズは彼の方へと振り向いた。

 

「ルーズ、楽しみにしてるね」

「~~~~~~~~~~っ/////」

 

 彼の無邪気な笑顔にルーズは選択肢を失ってしまった。

 彼女も大変そうだ。

 

 

 ───戦場───

 

「なんだかおかしな事になっちゃったわね~」

「ま…お遊びとしては悪くないんじゃないかしら?」

 

 いつの間にか、殆どのギルドから女性たちが乱入してしまい戦場は魔導士だらけで埋め尽くされていた。

 

『大変な事態になってしまいました!!! しかしみんな大喜びなので、このまま試合を続行します!!』

『こんなに盛り上がっとるのに、止めたら暴動が起きるだろうからねぇ』

『グゥレイトCOOOL!!』

『しかし試合はあくまでもミラジェーン選手、ジェニー選手の間で行われるものとします』

 

 それにピクリと反応したのは水着姿のルーズ。

 

「私達の出る意味ないじゃない!!」

「まあまあ」

 

 同じく水着姿のサンディーが咎める。

 悪乗りした会場は新たなお題を出した。

 

 ───スク水。

 

 リサーナは苦笑する。

 

「ウェンディは違和感ないね」

「嬉しくないですっ!!」

 

 ───ビキニにニーソ。

 

「何か………水着より恥ずかしい気が………」

 

 ルーシィはもじもじとする。

 

 ───眼鏡っ子。

 

 普段からしている人は意味ない。

 

「あ、ルーズ似合ってるよ」

「あまり嬉しくないわね」

 

 ───猫耳。

 

「私がしても意味なくない?」

 

 シャルルは猫耳を付けながら呟く。

 

 ───ボンデージ。

 

「これも1つの愛♡」

「ハマり過ぎだよ!!シェリー」

 

 会場は盛り上がる一方だ。

 その頃、サンディーとルーズは歩き回って、ある人を探していた。

 

「あ、ウェンディだ!!」

「あ、サンディーにルーズさん、お久しぶりです!!」

「ふふ、久しぶりね」

 

 ウェンディだ。再会を果たした二人は嬉しそうにして、今にもその場で飛び跳ねそうにしている。

 会話に花を咲かせようとしていたのだが、そこにアナウンスが割り込んできた。

 

『次のお題はウエディングドレス!!パートナーも用意して、花嫁衣裳に着替えてください!!』

「ルーズ、どうする?」

「どうするも何も、連れてくるしかないでしょ」

 

 そう言うとルーズはそそくさとその場を去っていった。サンディーもジュンを呼ぼうとするが───

 

「待って、サンディー」

「どうしたの?」

 

 すると、ウェンディは目線を落とす。そして覚悟したのか顔をあげて、はっきりと口にした。

 

「お兄ちゃんを連れてきて欲しいの」

 

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

 先程のアナウンスが流れた瞬間、ソウは絶壁へと追い込まれていた。

 

「どうすんだ?」

「行くしかないだろ………」

「まぁ、頑張ってね」

 

 ソウの肩にジュンの手がおかれた。

 

 

 ───戦場───

 

 花嫁衣装のミラは花婿衣装のマカロフを相手に選んだ。まるで親子のように見える。

 ジェニーが選んだのはヒビキであり、周りから見れば美男美女夫婦だ。

 

「はぁ………」

 

 レビィは花婿衣装に着替えたガジルが興味なさげに地面に寝そべっている姿にため息をついていた。

 

「シャルルの相手はやっぱりオイラだよね」

「まあ、エクシード同士って事でね」

「じゃあ、私はリリーだね」

「ウ…ウム……」

 

 シャルルはハッピー、レモンはリリーとエクシード同士で組んでいた。

 ルーシィは目の前で繰り広げられているジュビア争奪戦を傍観していた。リオンが彼女を抱えたかと思うと、グレイが乱入して強奪。ジュビアは喜んでいた。

 自分はどうなんだろうとルーシィは思っていると、いつの間にかロキが現れてしまっていた。

 

「ルーシィ、このまま結婚しよう」

 

 ルーシィの頬は赤く染まっていた。

 

「ナツーーーーー!!!」

 

 ナツの元に駆け付けてきたのは、リサーナだ。

 

「お!?似合ってんじゃん!!」

「そういうナツこそ」

 

 ナツは一瞬でスーツ姿になった自分にたじろいでいた。と、そこにルーシィを抱えたロキが激突。

 

「うぅ~………」

「ルーシィ、何すんだよ!?」

 

 昔話を切り出そうとしていたリサーナだったが、その後の二人の微笑ましいやり取りにただ笑みを浮かべていた。

 

「うん、可愛いよ、ルーズ」

「…………そう?」

「ねぇねぇ、ジュン!!私は?」

「まだいろんな意味で早いよな」

「もうっ!いけずっ!!」

 

 言われずともルーズはアールを、サンディーはジュンと組んでいた。軽口を叩いているジュンは少し照れくさそうにしており、サンディーの花嫁衣装を直視するのを避けているように見える。

 

「………お兄ちゃん」

「………元気になったんだな」

「うん」

 

 ソウはウェンディといた。

 どこか彼は気まずそうにしており、対するウェンディは彼をじっと見つめている。

 

「はい、これ」

「あ、ありがと」

 

 ウェンディは綺麗に折り畳まれたローブを彼に返した。

 

「お兄ちゃん、大魔闘演武が終わったら説明してもらうからね」

「あー………分かった」

 

 逃げられないと悟った彼は素直に頷いた。

 その時、ウエディングドレス対決終了を告げるアナウンスが流れる。つまり、男達は引き返すことになる。

 

「ウェンディ」

「何?」

「似合ってるぞ、ウエディングドレス」

「あ///う、うん///」

 

 最後に告げられた彼の一言。

 しばらくの間、彼女は自然と上機嫌になっており、それに気付いたルーシィが思わず心配するほどだった。

 再び試合は水着対決へと戻った。

 

「そろそろアタシの出番のようだね!!」

『あ…あれは……!!』

 

 そこへまたもや新たな乱入者が現れた。

 

蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のオーバ・ババサーマ!」

 

 ギルドマスターであるオババが直接登場してきたのだ。

 

「女の魅力って奴を教えてやるよーーー!!」

 

 オババは闘技場に降り立つと、羽織っていたマントを脱ぎ捨てて、水着姿を露に───

 

「うっふぅ~~~ん♡」

 

 ………一気に興が冷めた。

 

 見てはいけない世の恐ろしいものを見てしまった一同はそそくさと戦場から引き上げていった。

 そして戦場に取り残されたのは本来の主役であるミラとジェニーの二人。

 

『予定を大幅にオーバーしてしまったので、次が最後の1回とします!!』

 

 ジェニーの瞳が怪しく光る。

 自信ありありな様子でジェニーはミラにある提案を申し込む。今までの試合の流れから自分達も賭けをしないかと。

 内容は負けた方は週刊ソーサラーでヌード掲載という男にとっては電撃が落ちたかのようなものだった。

 さらにミラはそれを二つ返事で了承してしまったのだ。会場は一気に盛り上がりを吹き返す。

 ジェニーには勝算があった。あくまで審査によって勝敗を決めるこの試合。鍵となるのはあの審査員席にいる席にいる3人。運のよいことに彼らの好みを偶然聞いていたジェニーは勝利を確信していた。

 3人とも若い子が好みなのだ。さらに記者のジェイソンは週刊ソーサラーにミラを載せようとしたいはずだ。つまり、彼らは歳を取っていないミラを選ぶ。

 

『最後のお題は戦闘形態です!!』

 

 が、ジェニーの思惑とは別の方向へ話が進もうとしていた。

 “機械(マキナソウル)”に接収(テイクオーバー)した彼女の目の前には異形な悪魔の姿をしたミラ。

 “魔人ミラジェーン・シュトル”と呼ばれる最強のサタンソウルを身に纏ったミラは目を丸くしているジェニーに一言。

 

「私は賭けを承諾した。今度はあなたが“力”を承諾してほしいかな」

「え………?」

 

 次の瞬間、ジェニーに容赦ないミラの一撃が襲い、呆気ない幕切れとなった。

 

 ───ミラの勝利。

 

「ごめんね、生まれたままの姿のジェニー、楽しみにしてるわね」

「い~~~やぁ~~~!」

 

 彼女の叫び声が空にこだました。

 

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

「こ、こわい………っ!」

「ミラは怒らせたら駄目なんだ」

「な………納得だぜぇ」

 

 ミラの悪魔姿にサンディーはブルブルと震えており、ジュンもビクビクとなっていた。

 ソウは思った。

 

 ───グラビア関係ないじゃん。

 

 

 ───妖精の尻尾A、選手待機席───

 

 ミラ対ジェニーの試合も終わり、会場は次の対戦の組み合わせに期待を寄せていた。

 そして遂に発表される。

 

「え!?嘘ぉ!?」

「ついに来たか………」

「これは見逃せねぇな」

「燃えてきた~ー!!」

「………お兄ちゃん」

 

 ───第5試合。

 

『本日の第5試合はなんと!!

 “剣咬の虎”ユキノ・アグリア

 vs

 “三首の竜”ソウ・エンペルタントだぁぁぁぁぁ!!』

 

 

続く───────────────────────────

 

 

 

 




裏設定:二日目バトルパート

因みに気づいてはいると思うが………一応、今回最後まで呼ばれなかったのは“人魚の踵”。
そして、ついにようやくのソウの出陣でもある。


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第t話 竜虎対決・中盤

だいぶ、期間が空いてしまいました………(。>д<)
一度8割まで書けてたものが一気に消えたときは、頭が真っ白になってしまいましたがどうにか投稿するまでに至りました。ヤッフゥイ\(^^)/\(^^)/
ついでに内容も幾らか変更しています………って元を知らないんじゃ、分からないですよね~

というか、思ってたよりもソウとユキノの戦闘が長くなってしまっている…………。
感想、評価等お待ちしてます。

───では、どうぞ!!




 ───妖精の尻尾A、選手待機席───

 

 ルーシィは違和感を感じた。

 戦場では、まさにソウとユキノの勝負の真っ最中。ユキノの召還した星霊、ピスケスによる挟み撃ちの突進をソウに向けている。ソウは空中を自在にそこが足場があるかのように動き回っている。

 どちらにも別に不審な様子はない。ただ、ルーシィにとっては何処か引っ掛かるのだ。

 

「おかしいわよね………」

「どこがだぁ?」

 

 ルーシィの言葉の漏れにグレイが反応した。グレイはルーシィの感じる違和感とやらには気付いていないようだ。

 

「ルーシィ。私も同感だ」

「エルザも?」

 

 どうやら、ルーシィの呟きは隣のエルザの耳にも入ったらしい。

 さらにエルザも試合の違和感を感じていたようで、ルーシィは少し心の中で安堵する。自分だけが察していたのではなく、他の人もいたのだ。

 

「エルザ、何が同感だぁ?」

「ナツ、ソウをよく見てみろ」

 

 エルザに言われて、ナツは試合をじっくりと観戦する。

 二人の魔導士が相克している戦場ではまさらに混乱を極めていた。ソウがピスケスの突進を避けるために戦場を大きく動き回り、対するピスケスも負けじと彼の後を追っている。

 ナツが頭に疑問符を浮かべている。それに気付いたエルザがヒントを告げた。

 

「よく見てみろ」

 

 ジッー、と穴が空くほどナツは目を見開く。

 ボカ、とナツの頭に拳骨が降りた。

 

「いてぇ!!」

「そういう意味ではない」

「どういうことだ?」

 

 エルザはナツの疑問に答える。

 

「ソウは一切、反撃をしてないのだ」

「そうなのよね。ずっと、相手の攻撃を避けてばっかなのよ」

 

 ナツは再び、視線を戻した。グレイもエルザの指摘に注目しながら試合を見る。

 

「あ………」

 

 思わず、声を漏らした。

 確かに、ソウは試合が始まってからずっと避けてばかりだ。反撃をする所か、攻撃を見せる素振りすらない。

 ソウの魔法、波動なら軽く攻める方に回れるはずなのだが、現状では受けに回っている。彼には作戦があるのだろうか。だとしても、制限時間があるのに、実行に移さないのは何かしらの理由があるからだろうか。

 

「下手に波動を使えねぇとか?」

「それはないな。ソウはいつも魔法の範囲を私達に及ばないように制限している」

 

 グレイの結論も、エルザに即決で否定。

 ソウが自身で魔法の範囲を絞っていないと、全方位が攻撃対象となるのだ。だが、仲間達に彼の魔法の余波が及ぶことは一度もない。彼が戦闘をする機会を見るのは珍しいのも理由の一つだが、彼が実際に魔法を制御して、周りの身を安全に保っているからだ。

 試合だからって、魔法による被害を恐れて使わないという考えはない。

 

「お兄ちゃんは………」

 

 ウェンディがゆっくりと話し出した。

 

「ウェンディ?」

「星霊に危害を加えるのを、遠慮しているじゃないんでしょうか………」

「どうして、そう思うの?」

 

 ソウが星霊に対して攻撃をするのを遠慮している。確かに、逃げに徹していることを言い換えればウェンディの言う通りになるだろう。

 

「相手が星霊なので、無意識に仲間意識を感じてるのではないかと………」

「なるほどね。ソウらしいちゃ、ソウらしいわ」

 

 星霊に親近感を感じるのはルーシィも同じ。星霊界にも訪れている自分達にとって、星霊はなくてはならない存在となっている。

 故に彼にとっては反撃に出るのには抵抗があるのだろう。

 仲間を傷つけたくないとは彼らしい。しかし、グレイは冷静に問題を上げた。

 

「だが、どうすんだ?このままじゃあ、やられっぱなしだぞ」

「ああ。本人もそれぐらいは既に分かっているだろう」

 

 エルザはきっぱりと断言した。

 

「しかし、ソウは今は違えど、私と同じ妖精の尻尾のS級魔導士だ。あいつはあいつなりに覚悟を決めるだろう」

「そりゃそうだな」

 

 グレイはあっさりと納得する。

 エルザがはっきりとソウは妖精の尻尾の誇り高き魔導士だと告げた。さらに、彼女の言葉にはそれだけでなく、彼本人に寄せている信頼から来る何かがあった。

 

「お!」

 

 ずっと試合を見続けていたナツがそう言った。

 まさにその時に、戦況が段々と変わろうとしていた。

 

 

 ───戦場───

 

 ひらり、と着ていたローブを舞い上がらせながらソウは両膝を曲げて綺麗に地面へと着地した。

 ユキノの背後に、二体の星霊、ピスケスが風を構えて威圧感を放っている。

 

「もう終わりか?」

 

 ソウは軽く鼻で笑った。

 突如として、ユキノがピスケスに攻撃を止めるように指示を出したのだ。なので、こうしてソウも余裕に彼女と目の前で対峙することになっている。

 ソウの軽い挑発に、ユキノは特に反応を示さない。

 

「それが、貴方の本気ですか」

 

 ユキノは冷たく言い放った。

 

「さぁ?どうだろ?」

 

 はぐらかして答えるソウ。

 星霊に信越感を感じて、こっちは反撃に出ることに抵抗がないと言えば、嘘になる。

 ………甘えだとは分かっている。

 彼女の要望は本気での真剣勝負。承諾したのは自分自身であり、また彼女にはこの試合に人一倍思い入れがある。自分の命を賭け品と差し出す覚悟が、それを証明している。

 ソウがしているのはそれを愚弄する行為。ただ逃げ回り続けるだけの、一見臆病者とも思われてもおかしくない行為。

 彼女は気付いたのだ。彼が、本気を出していないことに。そして、怒りを覚えた。自分は君に強いと言われているような感覚にユキノは怒りを感じた。

 だから、ユキノの言葉には重みがある。

 

「私を甘く見ているのかは知りませんが、貴方が本気で勝負を成立させようとしないのなら、私は容赦しません」

「甘くは見てない。君が星霊使いだということに驚いただけだ」

「本当にそれだけですか?」

 

 勘が鋭い。ソウは気を引き締める。

 

「逃げに徹するだけの()()に私は負けるつもりはないです」

「………」

 

 ユキノの真っ直ぐな瞳がソウを見据える。

 ───弱者。

 そうかもしれない。

「ピスケス!!」

 

 白のピスケスが、勢いよくユキノの左脇から飛び出す。人間を簡単に呑み込むほど大きく口を開いて、鋭い牙が彼を狙う。

 ソウはその場から動かない。

 

「───っ!!」

 

 次の瞬間、ユキノの背筋に悪寒が走る。今の彼に正面から立ち向かってはいけないと直感的に彼女は悟る。

 

「ピス───」

 

 ソウは白のピスケスを体を横に捻らせ、紙一重で避ける。

 そのまま、ソウは軽く右拳を握った。隙のない動きで白のピスケスの側面へと移動して体勢を整えて、力強く拳をぶつけた。

 ユキノが白のピスケス呼び戻そうとするが、既に遅かった。

 

『おおっーーとぉぉ!!ソウ選手の痛恨の一撃が決まったぁのかぁ!?』

 

 ドゴォン、と巨体が吹き飛ばされて壁へと衝突した。あまりの衝撃に、壁にひびが入り小さな欠片がボロボロと落ちる。

 軽々しく吹き飛ばしたとは思えないソウのパンチに会場は静寂になった。

 

「ふぅ………」

 

 ───『波動式一番』波動拳。

 ソウは軽く一息つく。

 すると、相方の敵を討つかのように黒のピスケスが動き出した。

 ユキノも味方が一体のピスケスだけでは、心よりないことは承知している。なので、別の策をとった。

 

「二本目、来るか」

 

 ユキノが取り出したのは、また別の鍵。

 黄金。またしても王道十二門の鍵だ。

 さらにピスケスがいる状態で、呼び出すとなるとそれは二体同時開門となり星霊使いでも難易度が高い魔法である。ルーシィもセカンドオリジンを開放してようやく使えるようになったのだ。

 

「開け、天秤宮の扉“ライブラ”!!」

 

 出現したのは、女性。

 民族衣装に身を包み、誘惑をしているかのような艶やかなオーラを放つ。

 一番印象的なのは、天秤宮のごとく両手に持っている天秤だ。

 

「ライブラ、敵の重力を変化」

「了解」

 

 ライブラが天秤を構えた。

 そして、魔法を発動。

 その影響はすぐにソウにはっきりと現れた。

 

「重い………っ!!」

 

 どっと、全身に降りかかる圧力。

 突然の事態にソウも体勢を維持しようと、その場でふんばる。

 そこを狙い撃ちしていたのか、黒のピスケスがソウに真っ直ぐに猛進する。

 

 

 ───人魚の踵、選手待機席───

 

「私と同じ魔法を使えるのかい!?あの天秤!!」

「彼の体を重くしたって言うの!!」

 

 驚きのあまりに声に出したリズリーとアラーニャ。彼に襲いかかっているあの現象には見覚えがあった。

 リズリーと同じ重力魔法。ライブラが今まさに使用している魔法がそれだ。敵の重力を変化させることで、敵の身動きを止めることが出来る魔法なのだ。

 驚愕している二人に対し、カグラだけは冷静に試合を見続けていた。

 

「まだこれごときでは奴を止められない」

 

 カグラは小さく呟いた。

 

 

 ───戦場───

 

 重い。

 体重が何倍にも増加したような錯覚を覚えた。これでは、身動きどころか体勢を保つだけでも一苦労だ。

 

「やっぱり………来るか………」

 

 こんな隙を見逃すほど、星霊は甘くない。

 黒のピスケスがすぐすこまで接近している。

 ユキノの作戦、それはライブラの重力魔法により動きを制限。そこにピスケスの突進を加えるのだ。星霊の二体同時開門を上手に扱っているからこそなし得ているだろう。

 確実に攻撃を当てるという目的では、この方法は最善と言えるかもしれない。

 だが、ソウには負けられない理由がある。意地がある。誇りがある。

 こんな所で立ち止まっている訳にはいかないのだ。

 だから───

 

『ピスケスとソウ選手が盛大に激突だぁぁぁ!!ソウ選手は無事なのでしょうか!!!』

 

 ソウと黒のピスケスの衝突した余波により、会場を覆う砂埃が発生したのだった。

 観客は息を飲んで、試合の顛末を見守る。

 

 

 ───三首の竜、選手待機席───

 

「あっ!!今のは大丈夫かな?」

 

 サンディーは不安の声を上げる。

 戦場では視界が砂煙いっぱいに広がっており、彼の様子を確認することが出来ない。なので、誰も試合がどうなったのか分からないのである。

 はたから一部始終を見ていたサンディーにとって、今のピスケスの攻撃は確実に命中したかのように思えた。

 だが、ジュンがすぐに否定した。

 

「んや、ソウは平気だ」

「ふぇ?どうして?」

 

 すると、近くのアールが二人の会話に入る。

 

「どうやら、ソウは直前に重力網から抜け出してたようだよ」

「でも、ソウはさっきまで抜け出せなかってなかったのに急に出来たのかな?」

「急遽、強行手段に出たんだろう。無理矢理というか、気合いでやってやったぜ!?的な感じで」

「むぅ………見ただけで、そんなこと分かるなんてズルい~!!私なんて全然見えないから、分からない~!!」

「オレの魔法の性質上なんだから、こればっかりはどうしようもねぇぞ、サンディー」

「そんなことぐらい、分かってるもん!!」

 

 ふん、とサンディーは拗ねてしまった。

 ジュンは溜め息をつく。

 実をいうと、ジュンの魔法により、彼は重力魔法のおおよその状況が把握できるのだ。具体的にはどれほどの重さがかかっているか等のデータを肌で直接感じとっている。この彼の能力は都合が良いように思えるが、あくまで特定の魔法のみにしか感知することは出来ない。彼の魔法の本領は単なる魔法感知ではないからだ。

 と、ここまで一言も言わなかったルーズが戦場の斜め上を指差しながら、こう言った。

 

「ほら、いたわよ。あそこ」

 

 彼女の視線の先には───ソウが安堵の表情を浮かべて、空を飛翔している姿がそこに写っていた。

 

 

 ───剣咬の虎、選手待機席───

 

「ライブラの重力から抜けたっ!?」

「なんで~?」

 

 声を漏らしたのはレクターとフロッシュ。どちらも外見から推測出来る通りエクシードである。

 戦場の上空には無傷のように見えるユキノの対戦相手、ソウが跳んでいる。

 ということは、彼はライブラの重力を抜けたことになる。だが、それは簡単に出来るものではない。ライブラは王道十二門の一体なのだ。自分の得意な魔法が簡単に突破されるほど、彼女の実力は低くない。

 

「ソウさん、流石だなぁ」

 

 賞賛の声を上げたのは、頬杖をついて試合を観戦しているスティングだ。

 レクターが彼の呟きに聞き返す。

 

「スティング君、彼を知ってるのですか?」

「知ってるのもなにも、ソウさんは元々妖精の尻尾の魔導士だったはずだ。何があったかは知らねぇが昔からの実力は健在のようだぜ」

 

 レクターにとってそれは初耳であった。

 

「なぁ、ローグも知ってんだろ?」

 

 スティングは後ろで壁にもたれ掛かっているローグに尋ねた。

 ローグは顔を動かさずに簡潔に答えた。

 

「あぁ」

 

 スティングはソウを直接は会ったことはないが、彼のことをある程度は知っている。

 妖精の尻尾のS級魔導士。そして、自分と同じ滅竜魔導士。

 どうして、彼のことを知っているのかと聞かれれば答えは簡単。

 まだ幼き頃、スティングはナツに対して、憧れを持っていたのだ。なので、彼のことを知っていく途中に同じギルドで同じ境遇にあるソウのことを知るのも必然と言えた。その頃からソウはナツよりも魔導士としての実力は他者からも認められているほど、優れていた。

 

「ユキノには悪いが、あのソウさんに勝ってる姿が想像出来ねぇんだわ………」

「スティング君………」

 

 レクターは絶句する。

 あの負けず嫌いのスティングが同じギルドの一員であるユキノの勝利はないと断言したのだ。

 

「まぁ、じっくりと拝見させてもらうぜ。ソウさん」

 

 彼の呟きは虚空へと消えていく。

 

 

 ───戦場───

 

 黒のピスケスがぶるぶると巨体を震わして、上空のソウを睨み付ける。彼に吹き飛ばされた白のピスケスも既に体勢を直しており、臨戦状態に入っていた。

 

「ライブラ、敵の重力を横に」

 

 ユキノの指示が入る。

 またしても、ライブラが天秤を構えた。

 ソウの眼前にぐにゃりと、空間が歪んだようになるとその歪みがソウ一直線に横方向に伸びてきた。