ジャンクヤードの友人へ (生姜)
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◇ メダロット1編
1話 ムラサメの少女


 

 少女は「ムラサメ」という家の長女として生を受けた。

 ムラサメという家は所謂、名家であった。

 主に鉱石業で名を上げたが、それも今は鉱物の加工業に活躍の場を移し……しかし弛まぬ努力によって立場を確固たる物とした『ムラサメ製作所』を取り仕切る一家。それがムラサメという家である。

 かくいう少女も、幼少の(みぎり)より炭鉱夫に囲まれて日々を過ごしたもので。

 ……とはいえそれも、少女がこの世界に生を受けてから、たった5年の間のことではあるのだが。

 

 少女が最もお気に入りとしているのは、辺り一面を岩山に囲まれた山間の町であった。

 そんな田舎の、炭鉱夫が行き交うごつごつとした路の上に似合わぬ身振りのいい少年が1人、歩きながら、大声を張り上げた。

 

 

「ユウダチィィーっ!! ユウダチは、居るかぁいっ?」

 

「……おっと。シデン坊ちゃんじゃあねえですかい。またあの、じゃりんこを探し回ってんで?」

 

 

 炭鉱夫の頭が応える。

 シデンと呼ばれた少年は頷くと、ため息をはきながら再び訪ねた。

 

 

「ああ。炭鉱夫の皆、ユウダチは何処へ行ったか知らないかい?」

 

「いつもの行方不明ですかい、そらぁ大変だ。探さなくちゃあ坊ちゃんが奥様に怒られちまうわなぁ。……おーいテメエら、ユウダチのお嬢を知らねえかぁっ?」

 

「知らないもぐもぐ」

 

「知らないもぐもぐもぐ」

 

 

 あちこちから返って来る声は、全て気の抜けたものばかりであった。

 尋ねた親方がため息をつき、隣に居た少年も親方を気遣って苦笑いを浮かべる。

 

 

「いいさ。皆は丁度、鉱石の運び出しをしている時間だろう。手間を取って悪かった」

 

「役立たずばかりですまねえやな、坊ちゃん」

 

 

 ガタイの良い男と別れ、少年は再び歩き出す。

 周囲は相変わらずのボタ山、ガラクタの山が続く。

 炭鉱街として栄えたこの町は、中央を線路が貫いており、その上を運び出し用途のトロッコががたがたと音を立てて行き来している。これら多量のガラクタの出所は、近隣に位置した「遺跡」と呼ばれる場所である。

 この世界において現在、「遺跡」という場所は企業にとっての重要度がうなぎ登り。当然、それら利権を巡る争いも、数え切れないほど起こっている最中にある。

 

 暫くして、町の東側に積まれた最も新しいガラクタ山の前に到着する。

 ここで、少年が辺りを見渡す。自らの妹が居るとすれば……やはり。

 

 少年は線路に沿って足を進め、山と詰まれたガラクタ置き場へと近づいてゆく。

 近くから見てもなおさらひどい有様だ、と少年は顔をしかめた。オイルの油臭さや何かが焦げたような匂いが辺りに充満し、嗅覚だけでなく視覚、べたべたとした空気は肌にさえも危険信号を送ってくる。

 ……こんな中に嬉々として入り込む自らの妹の心情には、同情も、呆れもしつつ。

 ガラクタの海。一面に転がっているのは、金属質の板切れや断線したマッスルチューブ。

 これら全て「メダロット」と呼ばれる玩具の部品、その成れの果てであった。

 少年はついにガラクタの山へと足を踏み入れ、腹に力を入れる。

 

 

「おーい! 居るんだろう、ユウダチ! 出て来てくれないかー!!」

 

 

 大声が反響し、次第に消えてゆく。

 そうして、自らの妹を呼ぶ大声を張り上げて暫く。

 

 

「……って、わぁ!?」

 

 

 瞬間、足元のガラクタがもぞりと盛り上がっていた。

 驚いたシデンがその場を飛び退くと、足下のガラクタを跳ね除け、油に塗れた少女が現れる。

 

 ぼさぼさの髪。

 着ているツナギは油によって真っ黒々。

 視線に力はなく、無気力さが強みを帯びていて。

 少女 ―― ユウダチが、上目遣いにポツリと零した。

 

 

「―― 呼んだの? あにい」

 

 

 驚きながらも、シデンは平静を装って返答する。

 いつもの通りガラクタ遊びに興じている妹の姿を認め、ふんと胸を張る。

 

 

「呼んださ、妹。以前から伝えていたとおり、明日から、僕と両親は海外のメダロット社へ長期の外回りに出かける。ユウダチは……」

 

「そんなの行かない」

 

「だろうな」

 

 

 ユウダチが首を振ると、その長い前髪からは、僅かに瞳が覗いた。

 正面には、才気に溢れた兄の風貌。少女の兄たるムラサメ・シデンという少年は、ムラサメ製作所を担う次代の社長として期待をされている麒麟児である。

 しかしその足元に傅く様に座り込むユウダチの眼は、打って変わって薄暗いもの。

 そして、それもその筈。ムラサメという家の争いから遠ざけられている彼女の才覚は、兄とは違う方向に富んでいた。

 

 

「ぐりぐり」

 

「? 何を……」

 

「―― えいっ」

 

 

 兄の疑問符をスルーし、地面に崩れた正座をしたまま、ユウダチは地面に埋もれていたパーツの1つを引っこ抜いた。

 「ティンペット」と呼ばれるメダロットの骨格、その分解された左腕である。

 何をするのかといぶかしむ兄の前で、ユウダチは無言のまま左腕に頬ずりをしてみせた。

 

 

「良い腕です。多分個人製作の一品もの、です。神経接続をわざと切ってあるですんで、レギュレーションには引っかかるですけど、性別を無視できる骨格といい、関節可動域を異常に確保された構造といい、創意工夫の見られる匠の卵の作品。いい仕事してるです」

 

「でも、それだと競技試合では使えないだろう? 僕たちの目指すところとは、違うじゃないか」

 

「……む。たち(・・)、じゃあない」

 

「ああ、うん。まぁ、そうか。すまなかったね、妹。僕のいう『達』というのは、あくまで会社の皆のことだ。君は含めていない」

 

「……。……なら、別に良いです」

 

 

 反論を挟んだ兄の言葉にユウダチがむくれ、背を向ける。

 兄はいつもの事かと、しかし深くため息を吐き出した。

 

 

「……聞いてくれ、ユウダチ。これからムラサメの家も、会社も、大変な時期に入る。君は望まないだろうから、あまり巻き込まない様に努力はするけれど」

 

 

 そのまま、嫌がって背を向けた妹に向けて、シデンは会社の状況と展望のことを語り出す。

 勿論の事、妹が嫌がっているのは知っている。だからシデンとしては、最小限のことを語ったつもりであった。

 だがしかし、その最小限ですら、妹にとっては苦行であったらしい。

 

 

「……知らないです」

 

「悪い。でも、知らないですまされるのならば、僕だって話しはしない」

 

「……知らない、知らない知らない知らないですっ! そんな事を言いにきたのですか、あにい? だったらあっち行っちゃえ、ですっっ!!」

 

 

 両手を振り回し、妹は悪態をつく。

 それでも役目を果たすべく、兄は食い下がる。

 

 

「妹。……これを、君に渡しておきたい」

 

 

 距離を保ちつつ、視線を集める。

 差し出し、開かれたその手には、とある携帯端末が握られていた。

 

 

「……『ケイタイ』です?」

 

「そう。僕たちの会社で計画し、初めてメダロット社と共同開発をした、メダロットの格納端末。『ケイタイ』だ」

 

 

 手渡された金属質の四角い画面を、ユウダチはまじまじと覗き込む。

 新たに手渡された玩具に夢中の妹に、兄はまたも苦笑する。

 

 

「開発は妹、君の得意分野だが。僕たちは僕たちで出来ることをやろうと思う」

 

「……しばらく逢えない、です?」

 

「ああ。年始年末以外は、少なくとも数年は海外に居着く予定だな」

 

「そう、です」

 

 

 ユウダチは俯き、再び顔を上げる。

 視線をはっきりと兄のそれに合わせ、少女はどろりと微笑んだ。

 

 

「ごめん。頑張ってです、あにい」

 

「君もだ。友達の1人くらい、作れよな。父さんも母さんも心配してたぞ」

 

「大きなお世話ー。まだ5才なんですー!」

 

 

 今度は拗ねた妹。そんな年相応の、みるみる変わる表情に、兄は心からの笑みを浮かべた。

 

 

「はは、頑張ってくれよ。それじゃあ」

 

「うん、頑張るです。……じゃあね、あにい」

 

 

 目的を果たした兄はおぼつかない足取りでガラクタの山を降り、手を振るユウダチに笑みを返して、メダロットに乗って飛び去っていった。

 夕闇の中。ガラクタの山の上に再び、少女は座り込む。

 兄から受け取った端末を握りしめ。

 

 

「……『ケイタイ』。これで私もメダロット持てるもん、です。よしっ」

 

 

 一層の気合を入れ直し、むんと力をこめると、少女はガラクタの海へと潜り戻った。

 

 

 

 

 結末は変わらず。

 されど、変わるものも確かに在る。

 これは少女とメダロットの奮闘を綴った、ちょっとだけ不思議な物語。

 

 





・メダロット社
 2001年設立。作中現在2010年。
 創始者であるニモウサク家が実権を握っている。
 メダロット同士を戦わせる「ロボトル」と呼ばれる競技を、審判員の育成や専用の人工衛星の運用などを行なう事で取り仕切っている。

・ムラサメ製作所
 ムラサメ一家が取り仕切る工業系の会社。名前はオリジナル。
 流れは作中の通り。今現在はメダロット社の下部企業として、メダロットの装甲やパーツに関する仕事を一手に請け負っている。
 未来において権力を増大する事になる、ある会社の前身である。




 20160507.追記修正

※この時点での誤字脱字などあれば、是非とも当該機能にてお知らせくださればと平伏懇願致します。私が見落としている可能性が非常に高いです。
 あとがき語句紹介の追記なども要望あれば対応します。話が進まないと紹介できないものもありますが……(20160507


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2話 アガタ・ヒカル

 

 晴天の下。

 とある少年が、町の東にある大きな公園の入り口を潜った。

 

 

「さて、終業式の前なんだけど……」

 

 

 母親に犬の散歩を命じられ公園までやってきたおかっぱ髪の少年……アガタ・ヒカルは両手をぶらぶらとさせながら、投擲するための遊具を握りしめていた。

 本日も変わらない公園の光景を見渡し、少年は隣を駆け回る愛犬へと声をかける。

 

 

「それじゃあ遊ぶか、ボナパルト!」

 

「ばう!」

 

 

 吠えた愛犬を撫で、ヒカルは公園の中へと向き直る。

 人の居なさそうな方角を見定めると、骨のおもちゃを振りかぶり、精一杯の回転を加えて放り投げた。

 

 

「とって来い、ボナパルトッ!」

 

「ばうばうっ!」

 

 

 放り投げた骨は揚力を得て意外にも遠くまで飛んでいく。

 砂地と噴水を越えて、少年からは見えない位置へと落ちた(らしい)骨を、ボナパルトは元気良く追いかけて行った。

 

 しかし、その5分後。

 

 

「……まだかな?」

 

 

 未だ戻ってこない愛犬を探し、ヒカルは公園の奥……自らが骨を放り投げた方向へと歩いていた。

 二度手間だとは思うのだが、実際ボナパルトが帰ってこないのだから仕方が無い。

 暫くそのまま、歩き進む。砂場を越え、遊具の間を抜け。所々で遊んでいる子供たちの姿が見える、が、愛犬の姿は依然として見えてこない。

 半ばを過ぎ、噴水を回り込んだ所で、やっと何かが見えてくる。

 

 

「……なんだ、アレ?」

 

「ばうばう!」

 

 

 吠えるボナパルトの側にこんもりと、黒くて油くさい何かが盛り上がっていた。

 ヒカルがそのまま近づいて覗き込み、手近にあった木の棒でつつくと。

 

 

「……ぎぎぎ、です」

 

「うわっ!?」

 

「ばう!」

 

 

 黒い何かが言葉を発した。どうやら人であるらしい。

 恐る恐る、しかし何か異常事態なのではないかと憂慮していると、蹲っていた人がずるりと解けて地面に寝そべる。

 

 

「……痛い。痛かったです」

 

 

 蹲っていた人……少女が後頭部を撫でる。自分よりもかなり年下だろう。黒く染まったツナギと、死んだ魚の様な目が印象的だった。

 くりくりと頭を撫でながら、少女がこちらに視線を投げかける。

 その手には、先ほどヒカルが投げた投擲物が握られていて。

 

 

「あ、うわ……もしかして」

 

「そうです。メダルを横取りしようとするロボロボの相手をしていたら、骨の様なものが当たったです。訴訟ものです」

 

「ごめんなさいぃぃっっ!!」

 

 

 座り込む少女の前で、できる限り素早く頭を下げていた。どうみても悪いのは人が居ないと見誤ったヒカルの側であるからだ。相手が少女だとてプライドなど元よりないもの。ここは全身全霊、謝っておくに限る。訴訟は怖いのである。

 ヒカルが戦々恐々の心持ちでいること暫く。

 

「おや。直ぐに謝るとは。シデンのあにぃとは違って、これは素直な(あに)さまですね」

 

 

 少女は身を伏せるヒカルの目の前で、不思議そうに首をかしげると、ぴょんと軽く身を起こした。

 改めて、少女の上背は低い。体躯も小柄。贔屓目に見ても小学生、もしくは園児としかとりようのない風貌だ。

 園児は、黒々とした眼でヒカルを見下し(平身低頭の最中のためこれで正しい)。

 

 

「私も大人げありませんでした。貴方の事は許します、です」

 

「……ありがとう」

 

 

 こんな小さな女の子に全力で謝ってる僕って……とは思いながらも、どうやら訴訟は免れたらしい。

 ヒカルが肩を落としつつ(安堵の)ため息をついていると、少女がもぞもぞと胸元を探っていた。

 ツナギの胸元から取り出した掌を差し出し。

 

 

「では、そんな素直な兄さまには、これを」

 

 

 ヒカルがその手のひらを覗き込む。

 すると、小さな六角形の貨幣……の様なものが乗っていた。

 鈍い金色に輝くその貨幣の中心には、2枚ともに、幼虫の様な絵柄が刻まれている。

 

 

「これは?」

 

「? これはメダルです。兄さまはメダロットを知らないので?」

 

「そうだね……詳しくは無いかなぁ」

 

 

 ばつが悪そうに頭をかくヒカルを、少女は興味深そうな態度で眺めている。

 何が楽しいのか、ぐるりとヒカルの周りを1周し。

 

 

「まあ良いです。それよりはい、これは兄さまのものです」

 

「ええ? いや、多分違うよ」

 

「でもこれ、その犬が拾ってきました物ですよ? 私はそれを横取りしようとしたロボロボを蹴り飛ばしただけ、です。まぁロボロボは犬が苦手みたいで、吠えてくれたら一目散に逃げ出して行ったですけど」

 

「ボナパルト、お前がこれを?」

 

「ばうばう!」

 

 

 どうやら少女のいう通りなのだろう。ボナパルトは、褒めて褒めてとヒカルの周囲を駆け回っている。ロボロボとは、恐らく巷を騒がせている小悪党集団のことだろうか。だとすれば、ボナパルトはある意味お手柄といえなくもない。

 ヒカルはちょっと頭を抱え、それでも少女を守ったという意味でボナパルトを一頻り撫でた後。

 

 

「……でも、メダルは本当に僕のものじゃあないからね。君がよければ、一緒にセレクト隊の支部へ届けに行かないか?」

 

「まぁそれが筋ですね。行きましょう、兄さま」

 

 

 言うと、少女はヒカルを置いてさっさと歩き出した。年齢に似合わない言葉遣いをする少女だな、と、ヒカルはその後ろ姿を暫しぼうっと眺めていた。

 少し先に進んだ所で、少女は直ぐにくるりと振り向いて、忘れていたという表情を浮かべる。

 

 

「ところで、兄さまのお名前は何と?」

 

「ヒカル。アガタ・ヒカル。君は?」

 

「ムラサメ・ユウダチと言います。以後お見知りおきをお願いします、です! ヒカル(あに)さま!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「正直に届けてくれてありがとう……で、あります! でもどうやら登録されていないメダルの様だから、それは拾った君たちのものだよ……で、あります!」

 

「はぁ、そうなんですか?」

 

「うん。遠慮なく貰ってくれ……で、あります!」

 

 

 メダルはメダロットに装着された時点で使用者が登録され、メダロット社の下請けにデータが送られるという仕組みになっている。たった今セレクト隊員がそのデータとの照合を行なってくれたのだが、その結果、このメダルはどうやら誰のものでもないようだった。

 ヒカルは意気込んで来た分、肩透かしを食らった気分になる。

 

 

「うーん。いいのかな」

 

「こういうこともありますよ、ヒカル兄さま。それより」

 

 

 それよりと口にしながら、ユウダチが小さな手をヒカルへと差し出す。

 その手の中では、メダルが2枚そろって金色の輝きを放っていた。

 

 

「どうぞです、ヒカル兄さま!」

 

 

 ユウダチがヒカルに向けてずいと手を伸ばす。どうやら2枚ともをヒカルが、という申し出であるらしい。

 いやいや、とヒカルは首を振る。

 

 

「ここは2人で分ける流れじゃないかな?」

 

「流れなんて分からないです。それに私は持ってませんですよ、メダロット」

 

「僕もだよ」

 

「でしたねー」

 

 

 しかし互いにメダルを入れ込むその先、メダロットを所持していないであった。

 セレクト支部の入り口の脇で、ヒカルもユウダチもうんうんと唸りこんでしまう。

 しばらく悩んだあとで、切り出したのは少女の側。

 

 

「では、2人とも条件は同じと言うことですし……こうしましょう。はいですっ!」

 

「うん?」

 

「右か、左か。どうします、です?」

 

 

 握られた拳が2つ、差し出される。

 暗く濁ったユウダチの目がゆるりと垂れ、口角が僅かに上がって。

 二択を迫るその様はどこのラスボスかと、ヒカルは文句を言いたくもなるが。

 

 

「……じゃあ右で」

 

「はいどうぞ、ヒカル兄さま。『カブト』メダルです」

 

 

 受け取ったメダルはどうやら「カブト」……昆虫のカブトムシをモチーフとしたメダルであるらしい。

 陽光に照らせば、メダルはきらきらと輝く。

 ヒカルにとっては、何故ユウダチがこのメダルが「カブト」であると判断できるのか? という疑問は沸くものの……それより。

 

 

「ユウダチ、君のは?」

 

「私のは『クワガタ』メダルですね。ヒカル兄さまの『カブト』とは永遠のライバルです」

 

「そうなの?」

 

「さあ。知らないです」

 

 

 メダルの判別は兎も角、どうやら適当な部分も多いらしい。

 このユウダチという少女の面倒な部分を、ヒカルは少ない付き合いながらに理解し始めていた。

 

 

「はぁ……」

 

「おや兄さま。幸せが逃げますよ、です」

 

「このため息は、大体君のせいだよね!?」

 

 

 ヒカルが思わず声を荒げた。セレクト隊支部までの道中に、ヒカルは12歳でユウダチは5歳だと聞いたが、既に遠慮をする余裕はなくなっている。

 それでも大声を出した事で気分を害していないかと、ヒカルは改めて様子を伺うも。

 

 

「はふぅっ。ヒカル兄さまは反応が大きくて楽しいですね!」

 

「……怒ってないの?」

 

「シデン兄さまはもっと怖いのですよ」

 

 

 比べられたところでそのシデンと言う人がどの程度怖いのかは、ヒカルには判らないのだが。

 そんな風にやりきれない気持ちで居ると、ユウダチはメダルをツナギのポケットにしまって数歩進む。

 

 

「さて、帰りましょうか」

 

「うん。……僕の家は近くだけど、君は?」

 

「今日は隣町の研究所……仲良くして頂いているおじいさまの所へ厄介になっていますので。ヒカル兄さまはどうぞ御心配なく、です!」

 

 

 言って、ユウダチが「はふぅ」と笑う。

 何だか心境的に疲れたヒカルは、それでも苦さのにじみ出る笑顔を浮かべ、手を振って少女と別れようとする。

 しかし。

 

 

「ヒカル兄さま」

 

「? なにかな」

 

「ヒカル兄さまは、これから。メダロット、始めますです?」

 

 

 背を向けかけた所へ。混濁した目をヒカルに向けて、こてりと傾ぐユウダチ。

 ヒカルは考える。メダロットを始めるのには、メダル以外のものも数多く必要となる。

 ティンペットという骨格。頭、右腕、左腕、脚部にあたるパーツを買う必要もあった。

 かつてはメダルが最も貴重なパーツであったが、今はセレクトメダルと呼ばれる市販品のメダルが販売されているため、メダロットを持つ事それ自体は難しくない。セレクトメダルの側にセキュリティが施されており、マスター登録などの面倒な認証が必要なくなったのも大きな要因であるだろう。

 その内で現在ヒカルが所持しているのは、この「カブト」メダルだけなのだ ―― が。

 

 

「多分、始めるかな? 父さんが、最近ちょっとメダロットを推してるからさ。僕の父さんはセレクト隊員なんだけど」

 

「ふむ」

 

「この間もスタートセットを嬉しそうに見ていたし」

 

「ふむふむ」

 

「……それに、僕も興味あるしね」

 

 

 頬をかいて、ヒカルは少々恥ずかしそうに答えた。

 それを目ざとくも留めたユウダチが、嬉しそうに。

 

 

「ならば私も、ですね!」

 

「ユウダチもメダロット始めるの?」

 

「はい。元々、私も興味はありましたから。ロボトルにはあまり興味ありませんですが、開発の方面ですね」

 

 

 なるほど。

 言われてみればユウダチは、如何にも作業場に常駐していそうなツナギを着用している。彼女も何か、メダロットに関係した……5歳児、なの、かも、しれない。が。5歳児という時点で、信憑性が薄れている様な気がしないでもないが。

 ユウダチはまたも悩むヒカルを面白そうに眺めてから、くるりと向きを変えた。

 

 

「それではヒカル兄さま。また今度、です!」

 

「それじゃあね、ユウダチ」

 

 

 元気良く、しかし気だるげな歩行で西へと歩いてゆくユウダチ。

 その姿を見えなくなるまで見送って、ヒカルは自宅へと足を向けた。

 

 

「さて、今日は終業式! それが終われば、いよいよ夏休みだ!」

 

 





・セレクト隊
 メダロット社をバックに持つ、自警組織。主にメダロット犯罪を担当する。
 ~でありますという語尾が特徴(2以降)。本来の1では微妙に違うが、その辺はちょっと流れを鑑みて勝手に統一しています。

・ボナパルト
 フォックステリア。忠犬。


 20160507追記修正。
 独自設定における年代の齟齬を調整するため、ヒカルの年齢を上方修正。


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3話 メダロットを弄り回す人達

 

 アガタヒカルの住んでいる、その隣町。

 そこは集まった研究者たちを中心として形作られた、いわゆる研究所街である。

 町の中央やや西側に、白塗りの大きな建物がある。ここがメダロット研究所と呼ばれる場所で、研究街の中心地点でもある。世界的権威である、通称「メダロット博士」ことアキハバラ・アトムが所長を務める研究所だ。

 室内の所々で白衣を着た研究者がうろつき、動き回っている。そんな様子を、場にそぐわぬ年少の、ツナギを着た少女がだらりとした格好のまま眺めていた。

 

 

「……白衣って、胡散臭いと思うです」

 

「駄目ですよユウダチちゃん。……ほら。わたしの研究室に行きましょう、ね?」

 

「ナエお姉さんの言う事なら、まぁ、聞いてもいいですけれども」

 

 

 開口一番悪口を話し出した少女の言葉を、長い黒髪を揺らす年長の少女がとがめた。

 ナエと呼ばれた少女にその背を押され、渋々といった表情で、ユウダチは1階の東側の扉を潜る。

 周囲からの視線がなくなると、背を押していたナエが安堵の息を吐いた。

 

 

「ねえユウダチちゃん。お爺さまをここへお呼びするから……」

 

「それよりナエお姉さんっ、この装甲の事を聞きたいです!」

 

 

 こちらの言動を遮ってすぐさま、ユウダチは目の前の人工皮膚に興味を示していた。

 やっぱりこういった所は子供なのだなと、ナエは内心で微笑ましく思いつつ、研究者としてその好奇心には答えるべきだろうと切り替える。

 

 

「うーん……わかった。良いよ。これはね、ニューロン・ファイバー・レジン・ポリエステルとサイプラシウムの比率を調整して、メダルがより鋭敏な感覚を感じられるように調整した外装なの」

 

「ということは、レギュレーションに反さない部分における進歩ということですよね!? 流石はナエお姉さん、凄いです! ……でもあまり電源を裂き過ぎると、ロボトルの方に影響がでませんです?」

 

「今はまだ、あんまりその辺りまで考えてないかな。まずはやってみて、ロボトルに生かせるんだったら生かすよ。でも今回の目的はより鋭敏なインターフェースを作成する事だから」

 

「それもそうですね。カメラアイだけじゃあ程遠いですもの、です」

 

「うん。メダロットのコミュニケーションモニターも、いろんな形を考えているんだけど、やっぱり目鼻立ちを生かしたものの方が……」

 

 

 そのまま、ナエとユウダチは画面を見ながら言葉を交わす。

 時折ナエが席を外し、何時間かそういったやり取りを繰り広げていると、がぁーという音と共に2人が入ってきたドアが再び開いた。

 ここは若干10歳にして博士号を持つナエの個人研究室なのだが……と、そちらを見ると。

 

 

「よう! 相変わらずパーツばっかりこねくり回しとるようじゃのう、ユウダチ」

 

 

 入って来たのは白衣の男性。ポケットに手を入れ、サングラスをかけた、見た目も陽気な雰囲気のある老人である。

 老人が軽い調子で手を挙げると。

 

 

「あ、アトムです!」

 

「おじいさま。来て下さったんですね」

 

 

 通りすがりの研究員にひょいひょい激励の言葉をかけながら、アトムと呼ばれた老人はナエとユウダチの居るスペースへと歩み寄る。

 彼こそがアキハバラ・アトム。「メダロット博士」。メダロットの骨子となる駆動部のほとんどを独力で作り出した稀代の天才であり、また同時に、ナエの祖父にあたる人物だ。加えて今は、ユウダチが間借りしているメダロット研究所の所長でもある。

 ユウダチは近づいてきたメダロット博士の腕にぴょいと飛びつき、だらりとぶら下がる。

 

 

「アトム、アトム!」

 

「なんじゃいユウダチ。……ふむ?」

 

「これを見てください、です!」

 

 

 ユウダチはのぞき込む博士の前で手を開き、先日手に入れた「クワガタ」メダルを突き出す。

 メダロット博士がサングラスの奥で目を細め、ほうと唸る。

 

 

「天然メダルのクワガタじゃの。ユウダチ、これはお前さんのか?」

 

「はいです!」

 

「本当ですよおじいさま。まだ登録されていないメダルでしたもの」

 

 

 どろりという表現が似合いながらも嬉しそうに笑うユウダチに、ナエが説明を添える。

 クワガタのメダルを眺めながら。なにがしかを思いついたように、メダロット博士がふむと呟く。

 

 

「ふむ、丁度良い。それじゃあこれは、今、お前さんにやるとしよう」

 

「? これは何です?」

 

 

 メダロット博士がケイタイを起動し、箱を引っ張り出す。覗き込んだユウダチの前で蓋を開けると、中には保存液(ほるまりん)につけられたティンペットが入れられていた。

 ユウダチが口を大きく開く。箱の縁にだらりとしなだれ、迷うことなく、異臭を放つ保存液へと腕を突っ込んだ。

 ティンペットの外観とその手触りを堪能する姿は、興味津々。

 

 

「……ぶにょぶにょしてるです!」

 

「新型と言うよりは多機能型のティンペットじゃな。ユウダチの作るパーツは重量や反動や、それに骨格なんかも度外視した無茶なものが多いじゃろう? パーツ開発に協力してくれておるユウダチへの、わしなりのお返し(プレゼント)を考えておったのじゃよ」

 

「おじいさま、得意げですね」

 

 

 完全に興味がティンペット……メダロットの骨格にして神経に向いたユウダチの奥で、メダロット博士が解説を続ける。

 ひとしきりその感触を堪能したユウダチが液体から手を引き抜き、ツナギで拭おうと……した所を、機を読み、すんでのところで割って入ったナエの手拭が奪い取った。

 

 

「駄目ですよ。女の子なんですから。はい、ちゃんと拭いて。ホルマリン臭はちょっとやそっとじゃ消えませんから、きちんとシャワーも浴びますよ

 

「うええええー。ナエお姉さん、もうちょっと……もうちょっとだけえええー、です」

 

「はっはっは! まるで仲の良い姉妹じゃの!」

 

 

 ナエがユウダチを抱え、研究室の奥に作られたシャワールームへと連れてゆく。暫くするとシャワーの音と、ユウダチのうめき声が響いてきて。

 そんな様子を見届け、メダロット博士は30分くらいかのと呟いて部屋を後にした。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ふんふんふんふん」

 

「何もそんなに食い入るように見なくともよかろうに」

 

「でも、これが私のメダロットになるのですよ? パラメータくらいは覚えておかないとと思うのです!」

 

「ユウダチちゃん、もうちょっと我慢していてね?」

 

 

 シャワーを浴びたユウダチは場所を自室へと移し、出てくるなりメダロット博士の持ってきたティンペットのパラメータへ目を滑らせていた。その後ろではナエがドライヤーをあてつつ、ユウダチの長い髪に櫛を通している。

 メダロット博士はそんな孫とその妹分の様子を見て、にやりと悪戯好きの子供のような笑いを零す。

 

 

「じゃがの、ユウダチ。お前さんの持つクワガタメダルは天然メダルじゃて、今のメダロットの出力では持て余す程のスペックを保持していると思うぞい」

 

「天然……メダル?」

 

「お爺さま、ユウダチちゃんは……」

 

「おっと、そうじゃの。ムラサメの家はパーツと、今はデータの集計を専門に手を出しているんじゃったな。それではユウダチが判らんのも無理は無い。うっかりうっかり!」

 

 

 今にもてへぺろ、と言い出しそうなメダロット博士のノリ。しかしそれらを自然にスルーし、ユウダチが興味と疑問の視線を向ける。

 その視線に追従したナエの視線にも押されるように、メダロット博士はこほんと咳を1つ入れて場を仕切りなおした。

 

 

「六角貨幣石……今の呼び方をするとメダルになるがの。まぁ、簡単に言ったらセレクトメダル以外のメダルをわしら研究者は『天然メダル』という言い方で区分しとるんじゃが」

 

「セレクトメダル、です?」

 

「おやそっちもか。セレクトメダルと言うのはの、天然メダルの持つ情報処理能力を、個性だけは失わず、安全圏にまで引き下げることに成功したメダルらしいんじゃよ。それでも今のメダロット社が発布したレギュレーションには十分に合致しているでの。メダロット同士のロボトルを爆発的に普及させた最大の要因じゃよ」

 

「へぇぇ~」

 

 

 珍しく素直に聞きだしたユウダチに気を良くしたのか、メダロット博士の弁に一層の熱がこもり出す。

 

 

「それで、それ以外……例えばお前さんの家がニモウサクの所と共同開発した『遺跡』やらで発掘されるものを指して『天然メダル』と言う訳じゃの。セレクトメダルとの区別が大義な訳じゃ」

 

「という事は、わざわざ区別する意味が存在するのですね?」

 

「さすがに飲み込みが早いのユウダチ。その通り。『天然メダル』にはリミッターこそかけられているものの、限界値は更にその上(・・・)にあるのじゃ」

 

 

 ちっちっと、メダロット博士は指を振る。

 同意を求めるように視線を向けられたナエがユウダチに向かって頷くと、メダロット博士が続ける。

 

 

「それに対してセレクトメダルは、リミッターのかけられた部分を基準にグレードダウンされておる。勿論これは安全面に配慮した結果であり、そもそもロボトルをする分にはリミッターのある状態ですら余剰じゃからの。とまあこんな所か」

 

 

 語り終えた博士が、あちちと熱がりながらもナエの入れたお茶へと口をつける。

 さて。ナエが伺うように様子を見ていると、少女は休憩用に設けられたソファに飛び込み、ぐてりと寝転んだ。

 

 

「はふぅ。……んー……アトム。私の知っているものも含めて、ちょっと情報を纏めますけれど、です」

 

「おう。この博士に何でも聞けばよい」

 

 

 ごろん、ごろんとユウダチが寝転ぶ。寝転びながら髪を全身に巻きつけ、また櫛の入れ直しだと嘆いているナエを尻目に。

 

 

「ひとつ。セレクトメダルにも天然メダルにも、リミッターというものはかけられている。ふたつ。リミッターはメダルの情報処理能力を一定の値まで低下させ、メダロットのエネルギー生成器官であるオートマティックジェネレータの運動を助け、ティンペットとパーツへの負荷を正常内に留める役割がある。ここまでオーケーです?」

 

「おう。間違っとらんぞ」

 

 

 博士が頷く。

 ユウダチはベッドの上で最大限に五体を投地し、濁った目をどろりと動かして博士とナエに向けた。

 

 

「みっつ。リミッターは、かの『制約』を仕込む意味も持ち合わせていた筈です。本来の……天然のメダロットというものは人間を傷つけることも可能なのですね?」

 

 

 ユウダチの小さな唇がびしりと告げる。

 指し示された言葉を、ナエが反芻した。

 

 

「制約 ―― メダロット三原則ですね」

 

「はいです」

 

 

 揺るがない、純粋に混濁した視線がナエをびしびしと突き刺してくる。

 ナエが耐え切れず視線をそらすと、

 

 

「そら勿論、可能じゃの」

 

 

 当のメダロット博士は何の気負いも無く、隣の家の晩御飯に突撃するかの様な調子で返答した。

 ナエが呆れ、ユウダチが気にせず追求する。

 

 

「やっぱり、そうですか!」

 

「おうおう。そうですじゃ!」

 

「……おじいさま、それはあまりにも楽観的だと思うのですが」

 

「じゃが可能か不可能かで言うならば可能じゃよ。それをメダロットが選択するかどうかは別にしての」

 

 

 メダロット研究と開発の権威が軽く肯定したのを受けて、ユウダチの目が益々の濁りを見せた。その内に宿った薄暗さは、まるで意思を持って蠢いているかのようだ。

 苦笑するナエと、そんなユウダチを面白そうに朗々と笑い飛ばす博士の目の前で、ユウダチは突き出した拳にメダルを掲げた。

 

 

「ありがとうございますです、アトム。ナエお姉さん。ようやくですが、私も私のメダロットを作ろうと思うのです! 参考にさせていただきますです!」

 

「良い気合じゃ。ほれナエ、ついでにそれをくれてやれ」

 

「これはわたしからユウダチちゃんへのプレゼントなんです! ぞんざいに扱わないでください、おじいさま!」

 

 

 言うと、入り口近くにあった段ボール箱をナエが抱えてきた。

 ベッドの上に置かれたそれを開封すると、ユウダチの目が見開いた。

 

 

「―― どうぞ、ユウダチちゃん。貴方のメダロットが出来るまでの間、この子を貴方の友達にしてあげて下さいね」

 

 

 少女を、ナエと博士が左右から見守る。

 ユウダチは期待に震えた手で、純白に輝くそのパーツを1つ1つ取り出してゆく。

 ぽつりぽつりと、その製品名と型番を口にしながら。

 

 

「型式番号……

 

 KWG-01、『アンテナ』。

 

 KWG-02、『チャンバラソード』。

 

 KWG-03、『ピコペコハンマー』。

 

 KWG-04、『タタッカー』。」

 

 

 それは少女の掲げるメダルにぴったりな、とある昆虫をモチーフとしたメダロットであった。

 頭に生やした2本のアンテナはくの字に折れ、頭上で一際の輝きを放つ。

 右手には刺突にも使用できる鋭い刃。

 左手にはスパイク付きの頑丈な拳。

 足腰はややスマートだが、不思議と頼りなさは感じられず、研ぎ澄まされた侍を思わせる意匠。

 

 気付けば好奇心のまま、抱きしめるように。噛み締めるように。

 少女はその機体の名を叫んだ。

 

 

「クワガタ型メダロット ―― ヘッドシザースっっ!!」

 

 

 





・メダロット研究所
 アキハバラ・アトムが所長を務める研究所。その名の通り日夜メダロットの研究を行なっている。
 マッドサイエンティストの巣窟ではあるが、研究者の善意の塊のようなアキハバラ孫娘が居るためどうにか道を踏み外さずに済んでいるのだとか。
 「ヒカルの住む町の隣」という表記が原作基準。

・ほるまりん
 ホルムアルデヒドの水溶液。
 生物の組織標本作成のための防腐処理、および組織固定のための保存液として用いられる事が多い。
 漫画家さんとは関係があるかも知れないしないかも知れない。

・六角貨幣石
 呼んで字のごとく、六角形をしてぴかぴかと金属質に光る、貨幣に良く似た石。
 作中現在で言うところのメダルにあたり、研究者達が発見当事につけていたマイナーな呼び方がこれである。
 普通はあまり使われる呼び名ではないが、ニュアンスで伝わってしまう事も多い。

・セレクトメダル
 メダロットの核となるメダルの内、メダロット社がリミッターをかけて天然メダルをコピーしたもの。
 安全さが売りであり、レギュレーション範囲内を十二分に満たす出力を出す事が出来る。
 元となるメダルの性質はきちんと引き継がれるため、天然メダルとの境は一見曖昧である。

・天然メダル
 セレクトメダル以外の、自然に発掘されたメダルのこと。
 現在メダルに関する権利のほとんどはニモウサク家……ひいてはメダロット社が保持・独占している状況である。

・ヘッドシザース
 メダロット社の企画した「メダロット・スタートキット」で配布されたクワガタ型メダロットの第一世代。
 夏休み前の期間限定で配布された。

・メダロット・スタートキット
 この企画でヘッドシザースと同様に配布されたカブトムシ型メダロット「メタルビートル」には、前発型で体色が茶色いBTL型と、後発の体色がやや明るい橙のKBT型が存在する。
 ……という設定があったりなかったりするけれど、本作のヒカルが扱うのはKBT型だったりするのであまり意味がない。


 20160507.追記修正



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4話 アガタヒカルの冒険/序章

 

 メダロットを戦わせるゲーム、通称「ロボトル」。

 そんなロボトルの世界大会が開催されるという知らせを受け、アガタ・ヒカルが住む(田舎の)町内でも予選大会が開かれる予定となったのは、夏休みも中盤に差し掛かった頃の出来事であった。

 

 昨日メダルを持ち帰った所、父親からメダロット・スタートセット……KBT型メダロットの『メタルビートル』を受け取ったヒカルは、それら大会に関する噂を小耳に挟みながら、なんだかんだで教師によって提示された「夏休み冒険マップ」に従う事もやぶさかではなく。町の南に位置する港を訪れサメ……のフリをしていたロボロボ団の幹部と対峙した。

 一度は敗北を喫したものの、幼馴染であるアキタ・キララの助太刀や、メタビーの底抜けに明るい気性の手助けもあり、対潜水装備を整えたメタビーがサメ型メダロット・ユイチイタンを撃破してくれた。

 

 

「うはははは! 反・応・弾ーッ!!」

 

「レ、レイカ様ーっ!?」

 

「あ、悪魔のようなメダロットだロボーッ!?」

 

「……おーい、やり過ぎるなよ、メタビー」

 

 

 等々。

 その後、港の奥にある洞窟を探検し、2つ目のティンペットと『ナイト』メダルを手に入れて仲間も増え。

 

 

「お守りします我が主」

 

「なぁヒカルぅー、こいつ、暑苦しいんだけど」

 

「我慢しろよなメタビー。直撃受けるよりマシだろ?」

 

「おいお前ら、ロボトルする気あんのかよ!? やっちまえシアンドッグ!」

 

「露骨に負けフラグですよね、ヤンマ」

 

 

 そんなこんな、何故か公共の道路を通行止めしていたヤンマを倒し、ヒカル達は隣町へと立ち入る事になったのである。

 

 

「……いつ来ても、隣町は別世界だよなぁ」

 

 

 朝早くから町を出立したヒカルは、一面に舗装された道路が続く区画を歩いていた。

 この道路はここからセレクト本社ビルの存在する居住区画にまで続いているらしく、所々、メダロットに乗って移動を行なう人々も見受けられる。

 ヒカルの住んでいる町とは違って都会な風景には、メタビーも感嘆の声をあげる。

 

 

「ほぉーっ、また広いとこだねぇ」

 

「とはいっても僕達が向かう予定なのは北の山だけどね」

 

「何しに行くんだ? うまいもんでもあるのか?」

 

「いや? 猿と喧嘩をしに」

 

「……おお~。ワイルドだな、ヒカル」

 

「今日中には戻るだろうけどね。山よりは、じいちゃんの田舎のほうがまだ生活感はあるだろなぁ」

 

 

 などと、ケイタイの中から話しかけるメタビー。

 猿と喧嘩を、というのは件の体育教師が出した宿題(の様なもの)の1つ。教師としてどうなのだろう……とは思うものの、「夏休みには冒険をしているくらいの方がいい」とはヒカルの父の言葉である。ヒカルとしても、山へ向かうのは来るロボトル大会へ向けた武者修行になるだろうと考えている。山には「野良メダロット」と呼ばれるマスターを持たないメダロットたちが少なからず暮らしているからで、彼らとのロボトルならば経験も積める。

 しかし、そもそも山に子供1人で行くのはどうなのかなぁと悩みつつ、町を北上。セレクト本社ビルやメダロット社ビルのある区画に背を向け、山の麓にある村へと向かう。

 するとその中途、見知った姿を見かけた。

 

 

「―― あ、ユウダチ?」

 

「あ、ヒカル兄さま。ごきげんようです」

 

 

 先日メダルを分け合った少女ユウダチが、アスファルトの歩道その道すがらに座り込んでいた。

 再開の挨拶をしつつ、何をしているのかとヒカルがその手元を覗き込む。すると、ユウダチは車型メダロットの左腕パーツをばらして拡げていた。

 

 

「メダロットを直してるのか?」

 

「ですー。わたしは、そこの研究所でお手伝いをさせてもらっていまして。どうやらこのランドモーターは排気部分が故障して、廃熱出来ずにセーフティを発動させて止まってしまったみたいです」

 

「ほうほう」

 

 

 ユウダチの言葉はイマイチ理解できなかったが、ヒカルはとりあえず理解している体で頷く。

 ランドモーターとは、外付けのパーツを利用することによって「ミニハンドル」という車両型に変形できるメダロットだ。この様に外付けのパーツはメダロットにおいても幾つか開発されているのだが、特にこの「ミニハンドル」は一般向けとして最も普及しているパーツであるかもしれない。

 そんなことを考えているうちにも手際よく勧められる分解修理に、ケイタイの中でメタビーが。

 

 

「やるなー、ちびっこ」

 

「ヒカル兄さまのメダロットですか? 始めまして。ユウダチといいます、です!」

 

「おう、オレはメタビーだ。宜しくな。……なんだヒカル、こいつお前の妹なのか?」

 

「うーん、友達?」

 

「どうでしょう?」

 

 

 実際には(ほぼ)見知ったばかりなので適当な表現を探して口にしたヒカルの言葉を、ユウダチは話半分に流しつつ、組み立てを再開する。そのまま所用90秒程度で、左腕パーツの修復を終えてしまった。

 だらりと汗をぬぐい、ランドモーターとその主の主婦方へと、真黒な視線を向けてパーツを差し出す。

 

 

「はい、修理完了です。外付けパーツの排気口のつまりが原因でしたです。転送しても『つまり』は解消されないので、自分でやらないなら定期的に板金屋さんとかのお世話になってくださいです!」

 

「ありがとね、お嬢ちゃん。はい飴ちゃんあげる」

 

「誠にありがとうございました。ワタシが主人を遅れなければ、特売に間に合わない所でした」

 

「飴ちゃんありがとです。はふぅ、それでは特売に急いでくださいですー」

 

 

 最後に指導を行ったユウダチへ礼を言った後、ランドモーターとその主は商店街のある方向へと走り出していった。

 貰った飴を解くと口の中へ放り、口の中でころころと動かすユウダチが、さてと伸びをして脱力から立ち上がる。

 

 

「さて、ヒカル兄さまも引き止めてしまいました。何処へ向かう予定だったのです?」

 

「うん、ちょっと山にね」

 

 

 ユウダチの目線を受けると、ヒカルはつい先ほど足を向けていた北側を指差した。

 それを聞いたユウダチが、怪訝な顔つきになる。

 

 

「え、何で山へ?」

 

「猿とケンカしに行くんだよ。なぁヒカル!」

 

「時と次第によっては喧嘩するだろうね」

 

「うっわーっ。わたしも大概だと思っていたですけど、ヒカル兄さまも大概の変人です!」

 

 

 メタビーの言葉に同意すると、ユウダチはその言葉とは裏腹に、どろりとした笑みを浮かべて嬉しそうだ。

 わくわくとした期待の念を身体から発し……しかしユウダチが現実的な部分を質問する。

 

 

「んー、でもヒカル兄さま1人で行くんですか? 山へ? これから?」

 

「だよね。だから下見だけして、今日は引き返そうかなと思ってたんだけど……」

 

 

 ユウダチの指摘にヒカルは腕を組んで考え込んだ。

 ヒカルの住んでいる町から移動をするとなると、どうしても日帰りで山へ向かうというのは難しかったのである。

 小学生のヒカルでも、夜の山に入るのが危険だという事は知っている。だがヒカルとしては、山で修業という言葉の響きには大変心躍るものがあったのである。

 難しそうな顔を続けるヒカルを見て同じく悩み始めたユウダチが、しばらくしてポンと手を打った。

 

 

「そうだ! ヒカル兄さま、博士の所で合宿をするというのはどうです?」

 

「合宿? 博士?」

 

 

 事態が飲み込めず疑問符を浮かべるヒカルへ、尚もはつらつとユウダチが続ける。

 

 

「はい。メダロット博士の所で2泊3日の合宿をしてくると、親御様に言うのです。ナエお姉さんに着いて来て貰って、明日、一緒に山へ行きましょう!!」

 

 

 ぐるぐると興奮を浮かべながら、名案とばかりに捲くし立て。

 

 

「それでは早速!!」

 

 

 と、すぐ側にあった……先ほど指さしていた「世話になっている」という研究所へ駆け込んでいってしまった。

 

 

「……え?」

 

「おー。良かったじゃんか、ヒカル。解決しそうじゃねえか?」

 

 

 後には困惑したままのヒカルと、ある意味では事態を完全に理解しているメタビーとが残されていた。

 





・ロボトル世界大会
 町内大会、地区大会、本戦大会と勝ち上がる仕組みの大会。
 ロボトルはメダロット同士を戦わせるものであり、世界的な競技人口と人気を誇るため、誰しもが注目しているイベントとなっている。
 主催と企画は共にメダロット社。

・ユイチイタン
 サメをモチーフとしたメダロット。全パーツが重力射撃「ブレイク」となっている。
 サメ型だけに脚部は潜水得意となっており、港町の水辺に適応していない主人公の二脚型をボコンボコンにしてくれる、トラウマ1号。
 両手の装甲がきわめて低いため、それらの破壊を優先しても良いが、いずれにせよ頭パーツがある。
 困ったら周辺のカッパからアンチシーライフルを奪い取るか運任せしましょう。とはいえ1のアンチシーアンチエアは、2以降ほどの威力はありませんが……。
 本作ではメタビーの理不尽さにやられました。

 20160508.追記修正


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5話 アガタヒカルの冒険/中章

 

 ユウダチが発した案はとんとん拍子で事が進んだ。

 少女に紹介された人物が、なんと件の「メダロット博士」であったのには驚かされたが、その博士自身から両親へと連絡がなされ、ヒカルの山修行はなんとも簡単に認可されてしまったのである。

 

 

「こんなに簡単に進んで良いことなのか? なんだか怖いんだけど」

 

「良いじゃねえかヒカル。どうせ山には行くんだろ? 修行だぜ修行!」

 

「メタビーの言う通りですよ、ヒカル兄さま!」

 

 

 研究所で一泊。翌朝、ユウダチともう1人をつれてヒカルは研究所を出立した。

 研究所のあった街を少し出れば、そこは田舎である。これも区画整備が厳重に整備なされたからなのか。と、ヒカルは自身の祖父の住んでいる田舎を懐かしく思いながら歩き進める。

 隣にはヒカル兄さまの修行に着いて行くのだと言って聞かなかったユウダチ。

 

 ……と、もう1人。

 

 

「……」

 

 

 時折ヒカルをちらちらと見ながら無言で歩くのは、白衣を着た楚々とした女性だ。聞くところによると彼女も10歳の筈なのだが、ヒカルと同年だとは思えないほどその物腰は大人びていた。

 それもその筈。彼女はその年にしてメダロット博士の右腕として大人に混じって活躍をする研究者であるらしい。

 見た目通りに園児であるユウダチが修行に同行することを許されたのは、彼女が同行するからという部分がとても大きかった。

 

 

「やっほー、ですー!」

 

「お、なんだそれユウダチ。オレもやるぜ! やっっほーぉ! ですー!」

 

 

 いつまでも無言を貫き通すのは空気の汚染である。

 ケイタイから出たメタビーとユウダチとがわいわいと叫んでいるその後ろで、腹を決めると、ヒカルは彼女へ声をかけた。

 

 

「それでその、ナエ、さん……で良かったかな?」

 

「はっはい!」

 

 

 声をかけられ、びくりを身をちぢこめた少女……アキハバラ・ナエ。

 折角勇気を振り絞ったその結果に少し落ち込むも、実はこれも仕方が無いこと。いくら大人びているとはいえ、小さい頃から研究者として育ってきたナエは、同年代の男子と話す機会など無いに等しかったのである。

 というか実は孫に甘々なメダロット博士の妨害もあるのだが……そこへ思いがけず、ヒカルの登場なのだ。しかも妹分に連れ出され、いきなりの遠出。よりにもよって場所は山。緊張する要素しかなかった。

 

 

「……」

 

「……」

 

「はふぅ、メタビーさんの装甲は重厚で良い感じです。かっこいいです。メダロット社のこういう童心をくすぐるデザインは素晴らしいと思うのです!」

 

「そうか? いやぁ、照れるなぁ」

 

「……」

 

「……」

 

「そういやちびっこにもメダロット居んのか?」

 

「はい居ますよ。大人しいので、あまり率先しては話さないですけど」

 

「……」

 

「……」

 

「何だこれ!? すげーいっぱいの水! これも海か!?」

 

「これはダムと言いましてですねー、マニアさん達がこぞって集まる……」

 

「……」

 

「……」

 

「暗くなってきたなー、おい」

 

「なんでしょうあの立て看板。野良メダロットにエサはあげませんが……いざとなったらメタビーさんの反応弾の出番です!」

 

 

 ユウダチとメタビーの会話だけが延々と続く道中。

 いつしか辺りから民家の気配が消え、ダムを越え、山の入り口へと差し掛かった時。

 

 

「―― その、ごめんなさい」

 

 

 両者の間に満ちた沈黙を破ったのは、ナエだった。言葉の通り申し訳なさそうな表情で、俯いている。

 その様子に慌てて、ヒカルはばっと両手を振る。

 

 

「あ、謝る事は無いよ!?」

 

「でも、折角ヒカルさんが話しかけてくださったのに、わたし……」

 

「誰だってそう言うことはあるからさ。気にしないで。僕もちょっと緊張してたし」

 

「そうなんですか?」

 

「うん。だってほら、僕の都合に無理矢理に巻き込んじゃっただろう?」

 

 

 ヒカルがワザとおどけた調子で言うと、ナエはくっきりとした目を見開いた後、口元に手を当てたおやかに笑った。

 

 

「ふふふ。優しいんですね、ヒカルさんは」

 

「お人よしだ、ってはよく幼なじみに言われるよ」

 

 

 ようやくと心からの笑みを見せたナエの様子に、ヒカルもやっと荷の降りた気分であった。

 実の所、ヒカルには猿のところへ向かう用事がもう1つ出来ていた。山の麓にある村を通過した際に、猿にメダルを奪われたという少女に泣きつかれていたのである。

 あの時も母性を発揮してくれるナエが居なかったら、どうなっていた事か。と、ヒカルは自分のふがいなさからやや弱気になって。

 

 

「あの女の子のメダル、取り戻せると良いんだけどなぁ」

 

「厳しい意見になるかも知れませんが、奪ったのが野生の猿となると、その特定はちょっと難しいかもしれませんね。こう言うのは本来、セレクト隊の仕事なんですけど……」

 

 

 ナエがヒカルを励ますように意見を付け加え、憂うような表情を作る。

 

 

「セレクト隊は、本部の隊長さんの人格があれですので」

 

「? どういうこと?」

 

「はい。先ほどの山の麓の村には、セレクト隊の支部がありませんでしたね?」

 

「うん」

 

 

 どこか学校の教師のような雰囲気で指を立て、解説を始めてくれたナエに、ヒカルが素直に頷いて先を促す。

 

 

「そういう場合は本来、本部から部隊が派遣されてしかるべきなんです。でも、こういった小さい事件はタイヨー隊長が好む案件ではありませんので、恐らく申請しても部隊の1つもよこしてくれないでしょう」

 

「なんだそれ? ショクムタイマン、ってやつじゃないの?」

 

 

 父が隊員をしているヒカルとしては、やや信じられない内容だった。

 その様子を見ながら、ナエはあくまでわたしの知っている見聞によるものですが……と加えて。

 

 

「ですが、研究所周辺でも有名な話題ですよ。実際小さな盗難事件はいくつも握りつぶされ、新聞に載るような目立つ事件ばかりに人員を割くと。勿論、それに反発する隊員達もいるみたいですけれどね」

 

「う~ん……めんどくさいなぁ、大人って」

 

 

 ある意味では淡白で見もふたも無いヒカルの反応に、ナエは再び頬を緩める。

 実直な少年に向けて、暫く暖かい気持ちを胸に抱いて。むんと拳を握って、ヒカルに笑顔を向けた。

 

 

「ですので是非、わたし達で解決してあげましょう! ヒカルさん!」

 

「そうだね。ありがとう、ナエさん」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 その後は順調だった。深くなっていく木々の間にある獣道を、時折顔を出す野良メダロット達を退けながらさかのぼって行く。

 日が完全に落ちた頃合で、タウンマップが示す目的地周辺にまでたどり着くことができていた。

 

 

「う~ん、この辺りの筈なんだけど……」

 

「迷ったのか?」

 

「不吉な事をいうなよメタビー」

 

 

 件の目的地とは、山の天辺に存在するという「温泉」だ。

 ナエが猿の居る場所を予測してくれたのだが、猿と言えば温泉と言うイメージが強かったのも否めない。

 しかしあてが無いよりはマシなのではないかというユウダチの進言もあり、とりあえずの目的地として探している。の、だが、未だヒカル達は温泉を見つけられずに立ち往生していたのである。

 

 すると。

 

 

「おいすげーぞヒカル! 見ろよ、金ぴかのカブトムシだぜ!」

 

「どこだよ?」

 

「そこそこ! ……あーっ、逃げちまった!」

 

 

 ヒカルがメタビーの示す方向を振り向くと、小さな羽音が1つ頭上を通過してゆく。

 それがメタビーの言う「金色のカブトムシ」であったのかは知れないが、いずれにせよヒカルの視界に、既に動くものは何も無かった。

 

 

「何だよ。……んん?」

 

 

 しかし振り向いたその先に、偶然にも、湯気が立ち上っているのが見えた。

 なんどか目をこすりながら確認し、ヒカルは後方で周囲を見渡しているナエとユウダチに声をかける。どうやら目的地の発見らしい。

 

 

「ナエさん、ユウダチ、メタビー。どうやら向こうみたいだ」

 

「ん? お~、流石はヒカル兄さま。確かに向こうに湯気が見えますね」

 

「……あの、それは良いんだけどユウダチちゃん。手に何を持ってるの?」

 

 

 面々が集まってくる。だがナエの言う通り、ユウダチが何かを手に持っている。

 山が暗くて良く見えないが……と凝視していると、ユウダチはヒカルの左手に何かを握りこませた。

 六角貨幣石ぽい何か。そして、袋詰めの重たい何か。

 

 

「何だよこれ?」

 

「メダルっぽいのが落ちていたんです。あと、良い土があったので兄さまにと」

 

「……はぁ。メダルもどきは、後でセレクト隊で照合してもらおうか。これが女の子のメダルだったら良いんだけど……何で土なんだ?」

 

「マイナーですが、良い土は陶器としてメダロットの装甲にも使えますからね。ユウダチちゃんの生家であるムラサメの会社ではよくよく生産していたんですよ、ドンドグー系列やハニワミラー系列のメダロット」

 

「そうなの?」

 

「はい。ナエお姉さんの言う通りです、ヒカル兄さま。……メダルは、ん~、祠に置いてあったのでそれもどうかと思いますです。忘れ去られるのは寂しいことですからね。ああ、お猿さんに信仰心があったら、それはまた別の話になるですが」

 

「まあ良く分からないけど、その辺りは後にしておこうぜ。まずは猿のヤローをぶっとばさなきゃな!」

 

 

 移ろい出した話題を区切るように、メタビーがコミュニケーションモニターの表情にヤル気を満ち溢れながらふんと鼻を鳴らした。どうやらメタビーの中では猿=倒すべき相手であると認識されてしまったらしい。

 ヒカルはその様子に自然の生物を一方的に攻撃するのはなぁ……とは考えつつも、行動の指針には賛成し、一行を率いて温泉へと向かった。

 





・園児
 ヒカルにメダルを取り返してほしいと泣き付いた幼女のこと。
 彼はロリコンではなくペd(検閲)でもないのでご安心を。
 実際、メダロット1の遭遇戦の相手には園児が実在するがどうでもいい話。

・金色のカブトムシ
 メダロット博士とヘベレケ博士の共通の師、フシハラ博士が飼育していたという個体。研究素体となるにふさわしい特殊性を秘めていたようだ。
 作中でメタビーが目にしたものがこれであったのかは定かではない。

・コミュニケーションモニター
 メダロットの(主に)頭部に搭載される、感情表現を行う装置。カメラアイとは別物である。
 メタビーの場合は人間で言う顔の部分に、黒液晶に緑光のデジタルモニターが搭載されており、光の有無によって顔文字(というか目鼻立ちというか)を表現することでコミュニケーションを円滑にすることを目的としている。
 メダロットがロボットペットに区別される、最たるもの。とはいえメダルには知性が備わっているため、言語変換機能とスピーカさえ搭載されていれば、これ抜きだとしても十二分に役割は果たせるかと。


 20160508.追記修正


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6話 アガタヒカルの冒険/〆

 

 ―― の、だが。

 

 

「うきぃききぃ?」

 

「そうでちゅ。やっちまうでちゅ、お前達!」

 

「何でその辺を歩いていたオレ達まで巻き込まれているでカッパ……?」

 

 

 温泉には期待の通り猿(型のメダロット、モンキーターン)が湯に浸かっており、加えて、その中の1人がロボロボ団の幹部であったのだ。

 どうやらメダルを奪っていたのはロボロボ団の仕業であるらしく、それらを取り返しに来たヒカル達の目前に、野良を含めた3体のメダロットが立ち塞がったのである。

 さてはロボトルと、ヒカル、ナエ、ユウダチは背中を合わせてケイタイを構える。

 

 

「なんでまた、港町に続いてロボロボ団の相手をしなくちゃならないんだろうなぁ……。とはいえ、負けてはいられない! 頼んだぞメタビー!」

 

「おうよ! 任せろヒカル!」

 

「リーダーはヒカルさんで登録しますね。お願い出てきて、ヒールエンゼル!」

 

「ふわわー。呼びましたか、ナエ?」

 

 

 それでもぶちぶちと言いながら。

 今にも頭部から反応弾を発射してやるぞと意気込むメタビーがヒカルの前に立ち、ナエの前にはヒールエンゼルと呼ばれた天使型のメダロットが転送されて浮遊する。

 そして、残るユウダチの前に。

 

 

「出てきてくださいです、ヨウハクっ!」

 

「―― ふむ、お呼びか御主人」

 

 

 ケイタイから転送され、ヘッドシザース……「ヨウハク」が立ち塞がった。

 膝立ちから二脚へ。自然な体でユウダチの前に立ち、一礼。右腕の刃をぎちぎちと噛ませて始動を確認し始めた。

 

 

「お? なんだユウダチ、お前のとこのはクワガタじゃんかよ。……まぁそっちの天使もクワガタも、オレの脚をひっぱんじゃねぇぞ!」

 

「誰にものを言っているのだ? 口を慎めカブトムシ」

 

「ふわわー、ケンカは良くないと思いますがー、サポートはさせていただきますー」

 

 

 それぞれのメダロットがなんだかんだ言いながらも一列に並ぶ。

 目前で相手が出揃うのを待っていたロボロボ団と、その配下の猿型メダロット・モンキーターン。そしてその辺に居たからと引き込まれた野良メダロットのカッパソーサーも、一列に整列。

 

 

「……キャラの飽和ですっかりこっちが薄くなってしまったでちゅ。カッパに猿にロボロボ団でちゅよ? 結構濃いと思うのでちゅが」

 

「それで、何でオレは巻き込まれたんだッパ?」

 

「うきー!」

 

 

 こうして律儀に並んだのには理由がある。

 彼ら彼女らは一様に、ある人物の登場を待っているのだ。

 

 はたして、期待の通りにその人物は現れる。

 

 ……割とガチで熱い、天然温泉の中から!

 

 

「―― ぷはぁ! 合意と見てよろしいですねっ!」

 

 

 どこで出番を待っていたのか、とか、酸素はどうだとか聞くのは野暮というもの。

 メダロット社の認可するロボトル管理組織が審判。神出鬼没に現れてはロボトルのレフェリーを務める ―― ミスターうるちその人の登場であった。

 その頭の上には、カッパの皿(と思われる)ものが乗っけられている。これはロボトルや戦況だけでなく雰囲気をも読んでみせる、審判団一流のエンターテイメントである。

 

 

「いいでちゅよ」

 

「うん」

 

「どうぞですー」

 

「はい、お願いします」

 

 

 是非を問う公認審判員の問いかけに、メダロッター達は四者四様に頷く。

 合意の程を見届けたミスターうるちはこくりと大きく頷き、腕を天にと構え。

 

 

「それでは行きます。ロボトルぅぅ ―― 」

 

「ボクチャンと戦うでチュ!」

 

「油断するなよメタビー!」

 

「望むままにです、ヨウハク!」

 

「皆をお願いねエンゼル!」

 

 

 その手を振り下ろすと同時、メダロット達が掛けた。

 

 

「―― ファイッッ!!!」

 

「いくぜぇ、猿とカッパ!」

 

「下賎な盗人どもめ。我が刃の錆としてくれる!」

 

「サポートしますー。それと応援もしますー」

 

「いい湯だウキー!」

 

「いい湯だウキキー!」

 

「良く分からないけど……シリコダマ抜くケーッ!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ががががっ、ぎぎぃっ」

 

「モンキーターン戦闘不能っ、お下がり下さい!」

 

「よし! メタビー、次はカッパだ!」

 

「おうよ!」

 

 

 頭を守るための両手を撃破された猿型メダロットを、メタビーの左腕「サブマシンガン」のガトリング射撃が打ち貫く。セイフティが作動し、メダルがぴぃんとはじき出され、戦闘不能である。

 ミスターうるちが戦闘不能となった野良メダロットを脇へとよけながら、メタビーはその横を抜けてカッパソーサーへと射線を合わせ ――

 

 

「ッパーッ!!」

 

「お、ぐぉっ!?」

 

「メタビー!?」

 

 

 突如頭が光ったかと思うと、メタビーを鋭い光が貫いた。カッパソーサーの頭から放たれた光学射撃、ビームである。

 装甲が溶け、人間で言うところの筋肉の役割を果たすマッスルチューブが融解。ずるりと落下するその前に分解され、ケイタイの中へと格納される。

 咄嗟に防御をした左腕のティンペットがむき出しだ。ロボトルの最中にすり減った右腕「リボルバー」と併せて、これで、メタビーは両腕のパーツを失ってしまった事になる。

 

 

「くっそー、こうなったら……」

 

「ばか、乱戦で反応弾なんて使うなよ!?」

 

「じゃあどうしろってんだヒカル!!」

 

 

 あせった調子でやり取りをするヒカルとメタビーの様子を見て、ロボロボ団の幹部、イナゴが特徴的な口調で「でちゅでちゅ」嗤う。

 

 

「今の内でチュお猿ども!」

 

「うききー!」

 

「うわっ、こっち来やがった猿め!」

 

 

 ばたばたと逃げ惑うメタビーへ、モンキーターンをけしかけys。

 その様子を見ていたナエが、今こそ出番だと、自らのヒールエンゼルに指示を出す。

 

 

「索敵中止! エンゼル、ヒカルさんのメタビーをリペアーして!」

 

「治しますよー」

 

 

 ナエの指示に応じ、ヒールエンゼルがピカピカ光ったかと思うと、メタビーの腕が呼応するように点滅しだした。

 それはやがて明らかな緑色を帯びた光となり、両腕を象って制止する。治癒の促進を促されたメタビーの腕に、すぅっとパーツが戻ってくる。

 ヒールエンゼルの持つ共鳴修復装置が、メダロット全機に備えられている「スラフシステム」と呼ばれる自己修復システムを作動させたのだ。

 

 

「……! 治った! すげーな天使!」

 

「あ、ありがとうナエさん!」

 

「いえ、それよりも!」

 

 

 治った両腕を掲げ思わず立ち止まったメタビーの、その後ろであった。

 

 

「うきー!」

 

 

 モンキーターンがその両腕を、メタビーの頭に向けて振り上げていた。

 メダロットは頭部を破壊されるとその機能を停止してしまう。しかも今回のロボトルにおけるリーダー機は、よりにもよってメタビーである。

 所謂、油断が招いた絶体絶命のピンチ。

 しかし。

 

 

「―― 御免!」

 

「うきーっ!?」

 

 

 その間にヨウハクが割って入り、右腕の刃を振るう。

 疾風の一撃。攻撃の隙を突いて切り裂かれたのは、モンキーターンの頭パーツであった。

 メタビーの目の前に、深く切り裂かれた頭から油を垂れ流したモンキーターンが、どさっという音を立てて落下する。

 

 

「モンキーターン、戦闘不能!」

 

 

 ミスターうるちが辣腕を振るう。

 その後ろで、思わぬ救援に、メタビーが目をぱちくりとさせた。

 

 

「お、おう。ありがとうよ、クワガタ」

 

「これも御主人の指示だ。油断をするなカブトムシ。……天使殿、あのカッパを仕留めに走る。精度上昇の索敵をお願いしたい」

 

「ふわわー。分かったよー」

 

 

 ヨウハクが再び走り出す。

 後ろからは、頭上のエンゼルリングをぐるぐると回すヒールエンゼルの索敵による援護を受け、残る1体。カッパソーサーを数瞬の内に切りつけた。

 

 

「首魁の首、貰い受ける!!」

 

「だからカッパは只の野良メダロットだって言ってるッパーー!?」

 

 

 切れ味鋭い剣戟。

 最後には防御した左腕ごと頭を殴られ、カッパソーサーの頭部が破壊された。

 

 

「カッパソーサー戦闘不能! よって勝者、ヒカルチーム!!」

 

「よっし!」

 

「良くやってくれましたです、ヨウハク」

 

「ふぅ。状況終了ですね、エンゼル」

 

 

 ヒカルとユウダチとナエが揃ってガッツポーズを取ると。

 

 

「……でも、ヒカル兄さま。あのロボロボ団、逃げ出しやがりましたよ?」

 

「ええええ!?」

 

 

 ユウダチが指を指したその先では、茂みが僅かに余韻を残して揺れていた。

 ロボトルに勝利して、ロボロボ団を取り逃がしていては意味がない。ヒカルが大声をあげ、ナエも肩を落とすも。

 

 

「……ん? これ、なんだ?」

 

 

 ヒカルが温泉の縁、地面に置いてあった何かに気がつきそれを拾い上げる。

 ……それが何であるかにも気がついたナエは、ヒカルの隣へと並び。

 

 

「……ヒカルさん。あのロボロボ団の方は、結構律儀だったみたいですよ」

 

「ええと……これは何? ナエさん」

 

「ふふ。これです」

 

 

 疲れを滲ませつつも笑いかけたナエの手には、更に2枚。ヒカルと併せて合計3枚のメダルが握られていた。どうやらでちゅでちゅロボロボ団が、奪ったメダルを廃棄して逃げ出していたらしい。

 1枚は、麓の女の子から聞いたメダルの種類に合致している。これが女の子のものに違いない。

 しかし、だとすれば残る2枚は。

 

 

「残りは『マーメイド』と、『カッパ』メダルみたいです」

 

「……カッパは判った。なんでマーメイド?」

 

 

 ヒカルは盛大に疑問符を浮かべて首をかしげた。

 『カッパ』メダルは、先ほどの野良メダロットのものだろう。野良メダロットのメダルは、回収できた場合、持参してセレクト隊に届けるという決まりがあったはずだ。その際に所持者が居ない場合は、本人のものとなるらしいが。

 となるとこの『マーメイド』は。

 

 

「ヒカルさん、ちょっと貸してくださいませんか?」

 

「ナエさん?」

 

 

 悩んでいるヒカルを見ていたナエが、横から掌を差し出した。ヒカルがその手にマーメイドとカッパのメダルを乗せると、なにやら小さな機械を取り出した。どうやら、小型の照会端末であるらしい。

 鳴り出したぴこぴこという音が止むと、「該当者ナシ。登録シマスカ?」という文字が表示された。所持者の居ないメダルで間違いないようだ。

 ヒカルとナエが顔を見合わせる。

 

 

「という事みたいです、ヒカルさん」

 

「なら、一応は僕たちのものって言う事かな」

 

「はい。どうやらどちらも天然メダルのようですが、セレクト隊に持っていっても、受け取ってはくれないでしょうからね」

 

 

 ナエが苦笑する。なにやら彼女は、セレクト隊に関しては辛らつだ。

 しかしそれよりも、ヒカルの脳内には天然メダルという単語が引っかかっていた。

 

 

「ロボロボ団の奴、どうして天然メダルを奪うんだろうな……」

 

 

 ヒカルが呟く。

 昨日研究所へ宿泊した際、メダロット博士から、ヒカルも天然メダルについての講釈を受けていた。

 ロボロボ団は天然メダルを奪う。だからこそセレクトメダルが普及する。そもそも販売されているセレクトメダルは入手もし易い。

 それら要因が相まっているという都合の良い状況に、ヒカルは何かの陰謀を感じずにはいられなかった。しかも、その根本になるような事象は見えてこないのだから質が悪い。

 同じような事を考えていたのだろう。ナエは悩んでいるヒカルを見てふふっと笑い、悩んでも仕方のないことだとでも言うように……上を……夜の山に燦然と輝く星空を見上げた。

 

 

「綺麗ですね」

 

「うん」

 

「……そのメダルは、ヒカルさんが持っていて下さい。わたしにはエンゼルが居ますから」

 

「僕にもメタビーが居るけど?」

 

「でも、ヒカルさんはロボトル大会に出場するのでしょう? だったら多く持っていても損ではないですよ」

 

「……適わないなぁ、ナエさんには」

 

 

 慈愛の笑みを浮かべるナエから目を逸らすと、ヒカルは頬をかいた。

 そのまま視線を手元のメダルへと移し、ふと思いつく。

 

 

「う~ん……これはユウダチ、君が持っていて?」

 

 

 と話しかけると、ヨウハクをケイタイに格納していたユウダチは、素早くよどみの無い動作によってでろりとヒカルの方向を振り向いた。

 その目は輝いている。ただし黒々と、汚泥の如く。おもわずヒカルはうっと身を引きそうになるが、すんでの所でそれを堪えると、ユウダチはヒカルへと詰め寄ってきた。

 

 

「それは、ヒカル兄さまからのプレゼントという事です!?」

 

「あ、うん。まぁ、そう、かな?」

 

「はいです! ありがたく受け取りますです!」

 

 

 ヒカルから、ユウダチは満面の笑み(汚泥)でマーメイドメダルを受け取った。

 

 ……受け取り、次の瞬間、突如そのメダルが輝きだす。

 

 

「……これは?」

 

 

 輝きが収まったころになって、ユウダチがこてり。

 近寄ってきたナエが輝いていたメダルをのぞき込む。

 

 

「あら。マーメイドメダルが変化したようですね。これは……フェニックスのメダルでしょう」

 

「変化って、そう言うこともあるの?」

 

「はい。持ち主が変わったり、メダルが成長したりすると、その種類や形態が変化する事象が確認されているようです」

 

 

 解説を続けるナエに、ヒカルがふぅんと頷く。多分、あまり詳しくは理解していない。

 ユウダチはその横で、小さなヒヨコの様な絵柄の書かれた「フェニックス」のメダルを掲げたまま。

 

 

「ありがとうございました、ヒカル兄さま、ナエお姉さん。大事にしますね!」

 

 

 この少女の笑みを見られたのならば、修行以外にも大きな収穫があったのではないかと。

 ヒカルもナエも、微笑ましい気持ちのまま山を後にするのであった。

 

 

 ただし後日。

 いくら3人とはいえ子供ばかりで夜の山に入ったことをヒカルは母親にこっぴどく叱られ、少しだけ後悔することにはなるのであるが。

 当然のことなので、その辺については割愛しておきたく思う。

 

 





・メダル変化
 作中ナエの解説の通り。「変化」と「進化」の事象が確認されている。
 ゲームにおいては1およびPEでのみ使われていた鬼畜使用。着想はおそらくポケモン。

・カッパ
 本来はエンディング後に遭遇する野良メダロット。港町の野良遭遇メダロッターとはレベルの違うカッパソーサーが印象的なイベント。
 シリコダマ抜くケーッ!でも作中語尾はカッパ。

・マーメイド
 本来ゲームの流れにおいては、ヒカルの所持メダルとなるメダル。
 とはいえ1における回復の環境は決して良いものとは言えないので、扱いが難しい。


 20160508・追記修正


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7話 ガラクタの山

 

 アキハバラ・アトムが孫と良い感じの男が居ると聞きつけおろおろとしている間も、ヒカルは順調にその実力を伸ばしていった。

 夏休みの登校日の後には世界大会の(遙かな)下部予選として、町内大会が催される。ヒカルはその大会に照準を合わせてロボトルの腕を磨いている最中だ。

 そうして修行に明け暮れ、夏休みも半分を迎えた頃。各地でロボロボ団のどたばた騒動に巻き込まれながら、ヒカルはその足を祖父の実家にまで伸ばしていた。

 

 

「爺ちゃんもばあちゃんも元気そうだったな」

 

「ヒカル、オレも元気だぞ!」

 

「はいはい」

 

 

 届け物を終えて、自分の住む町への帰路につくヒカル。

 祖父の実家から南へ向かえば、「遺跡」からパーツやメダロットのパーツを発掘している炭鉱街になっている。

 炭鉱の街。書いてその通りの町中には油の臭いが立ち込め、無骨なトロッコが線路の上をせわしなく行き交っている。

 その所以でか、ヒカルはとある少女のことを思い出していた。

 

 

「ユウダチ、か」

 

 

 フルネームはムラサメ・ユウダチ。ヘッドシザースのヨウハクをパートナーとする園児である。

 彼女自身のロボトルの腕はともかく、パートナーであるヨウハクは成長目覚しいメタビーの上を行く実力を持っている。

 もしかしたら彼女も大会に出てくるのでは……と、一瞬、ヒカルは憂慮するが。

 

 

「……うーん、でもあのユウダチだからなぁ」

 

 

 山で出逢った小さなロボロボ団や、所持に免許などが必要ないという気軽さ故に、園児である事は理由にならない。が、彼女自身はロボトルに積極的とは言い難い。どちらかといえばメダロットのパーツ開発へと熱心に力を注いでいる様子だった。

 そんな彼女がわざわざ町内予選から大会を勝ち進んで ―― というのはそこそこの付き合いを持ち、ユウダチの性格を掴んできたヒカルにとっては、想像が出来ないものであった。まず、出場はないと踏んでよいだろう。

 

 

「もしも出てくれば強敵だと思うけど、でも、どうせ世界を見渡せば強い相手って沢山居るんだろうし。……よし。気合入れていくか、メタビー!」

 

「おうよ! ―― ん?」

 

 

 いつもの通りガッツポーズで拳を合わせた所で、メタビーが何かに気付いた。

 指差された先をヒカルも見ると、そこには。

 

 

「そのメダルをよこすロボ!」

 

「ぜぇったい、嫌です!」

 

「痛い目にあいたいロボか?」

 

「嫌です、ですっっ!!」

 

 

 ガラクタの山の上に立ち、つい先まで思い浮かべていた少女ムラサメ・ユウダチがあかんべーをしていた。

 問題はむしろ、その相手。

 

 

「……ロボロボ団、またお前らかっ!」

 

「誰だロボ?」

 

 

 全身の黒タイツに謎の角。サングラスまでかける念の入れ様。メダロットを使用して(小ズルイ)犯罪を行なう集団……ロボロボ団であった。

 山での1件以来、どうにもヒカルにはロボロボ団との縁があるようだ。各地を転々としながら悉くロボロボ団と遭遇している。

 そんな縁はいらないとヒカルは思うが、こればかりは独力でどうにかなるものでもない。

 と、つらつらと考えながらユウダチとロボロボ団の間に近づいていく。

 

 

「? ……ロボッ!?」

 

「ばうばう!」

 

 

 主の危険を感じてか。

 ヒカルの後ろから、今まで実家に預けていた愛犬・ボナパルトが黒い不審者へ向けて駆けだしていた。

 

 

「犬は勘弁してくれロボーッ!?」

 

 

 ボナパルトがほえると、囲んでいたロボロボ団は一斉に逃げ出してしまう。犬が苦手なのは変わらないうえ、団員共通であるらしい。

 

 

「あ、こら、待ちなさいっ!?」

 

「逃げ出したです」

 

「そうだね……」

 

 

 はたして後に残されたのは、ツナギを油塗れにしてガラクタの海に埋もれているユウダチと、ヒカルが港町を訪れた際にも出会った覚えのある……女ロボロボ団。

 部下達の態度を見るに、どうやらこの女は幹部であるらしいのだが。

 

 

「……これで逃げ出さなかったのはワタシだけ。全く、頼りないったらありゃしない!」

 

「それで、やるのか? ロボトル」

 

 

 ヒカルが呆れながら尋ねると、女幹部はややヒステリー気味に声を荒げた。

 

 

「やるわよ、やってやるわよ!」

 

「あの。ところで、ヒカル兄さまは何故ここに居るのです?」

 

「色々あるから今はいいよ。ユウダチ、下がってて」

 

 

 何はともあれロボトルだ。男はでっかく生きなければならないのだ。

 ヒカルはユウダチを庇う形で前に出ると、ケイタイを掲げる。

 転送されたメダロットが組み上がり、3体で列を作る。

 

 

「行くぜヒカル!」

 

「お守りしますメタビー様」

 

「ううーん、それそれ狙うよぉ」

 

「やっておしまい!」

 

 

 女幹部とのロボトルが始まった。

 一度は敗北した相手ではあるが、今回は海辺ではないため地の利がある。女幹部のサメ型メダロット・ユイチイタンはびったんびったんと飛びながら、ガラクタの山の上を動き辛そうにしていた。

 メタビー、ナイト、そして新しく加わったゴーストといった面々がいつも通りかそれ以上に連携しつつ、女幹部のメダロットを次々と機能停止に追い込んでゆく。

 

 

「キシャー!?」

 

「よっし、倒した ―― ん?」

 

 

 順調にすべてを撃破し、しかし、ここからがいつもと違っていた。……そういえばいつも判定を告げてくれるレフェリーが居ないのだ。

 ヒカルがはて何事だろうと辺りを見回していると、女幹部の後ろに降り立った新たな人物が歩み出てくる。

 

 

「下がっていろ、レイカ」

 

 

 でかい。筋肉質の大男だ。全身に纏った黒のタイツが、男がロボロボ団であることを暗喩どころか直喩している。

 

 

「くぅ、タイフーン様!」

 

 

 その言葉に従い、レイカと呼ばれた団員が後ろに下がる。

 ごきごきと首を鳴らし、男幹部 ―― タイフーンはゆるりと手招きをする。

 

 

「どれ、わたしが相手をしてやろう」

 

 

 相手……つまりはロボトルを、ということだろう。

 子供2人を睥睨する幹部に、後ろに居たユウダチがいつになく、一際、顔をしかめていた。

 ヒカルが疑問を呈するまでもなく、ユウダチが口火を切る。

 

 

「……こいつは、新しい幹部です?」

 

「みたいだね」

 

「ふむ。新しくは無い。むしろ古参だがな」

 

 

 ヒカルとユウダチの会話にも律儀に返答をするタイフーン。

 そのまま突き出した腕に巻かれた、ヒカルやユウダチのものよりも小型のケイタイが光を放った。

 

 

「出でよ、ヘルフェニックス達」

 

「おぅさ。呼んだかあるじ」

 

「どっこいせ。呼んだなあるじ」

 

「ほぅらね。呼んだっしょあるじ」

 

 

 ふらりふらりと空を飛び、ヘルフェニックスと呼ばれたメダロット達が空を飛ぶ。

 ヘルフェニックス。飛行型の、火炎(ファイアー)攻撃を得意とするメダロットである。

 火炎攻撃はメダロットに装備されている、人間で言えば神経の代わりを務めるニューロン・ファイバー・レジン・ポリエステル外皮を利用した攻撃方法だ。熱傷を主とする継続的な痛覚刺激を与え、処理能力を低下させるのである。

 加えて、どちらかと言えば高価な機体でもある。それらが3体で編隊を組む姿を見て、ヒカルは気を引き締めた。

 

 

「こいつ……強い?」

 

 

 威圧感というのだろうか。タイフーンという幹部の持つ、巨体ゆえの圧迫感なのかもしれないが。

 そんなものを感じ、足を引いたヒカルの横に。

 

 

「……ヒカル兄さま、助太刀しますです」

 

「いいの?」

 

「はい。兄さまは先にレイカというのとロボトルをしていますから、メダル達の消耗も激しいでしょう? それに3対3であれば指示系統は多くて損は無いはずです」

 

 

 といいつつ、ユウダチが視線を逸らさないまま、ヒカルにだけ聞こえるような声量で。

 

 

(何より兄さま、兄さまのゴーストの子とナイトの子は少しマイペースに過ぎますでしょう)

 

(あ、やっぱり分かる? メタビーも大概だけどね)

 

(策もあります)

 

(ん、聞かせてくれ)

 

 

 こそこそと話し合う。

 事実、ヒカルのチームはメタビーの攻撃力に頼る部分が大きい。「ナイト」はナイトアーマーというメダロットの、見た目からして騎士という感じの援護防御パーツでメタビーを守る役目。「ゴースト」は応援行動と捨て身の攻撃によって補助をするのが常である。

 加えて、新参者のゴーストは熟練度が違う。となると、攻撃面を考えればユウダチがいてくれると助かるのは確かだった。

 

 

「相談はよいのか」

 

 

 暫くして正面を向いた2人を、タイフーンは腕を組んで悠々と待っている。

 2対1。指示系統が多いということは、単純に見ればヒカル達が有利となる。目前ですりあわせもしたばかりなのだから、戦術の齟齬という弱点も補える。

 それなのにこの落ち着き様だ。少なくともこのタイフーンという男は、肝っ玉の据わっているという点について間違いなさそうである。

 タイフーン言葉に頷きながら、ヒカルは迫る決戦にごくりと唾を飲み込んだ。

 

 





・ロボロボ団
 全身黒タイツ。悪の限りを尽くすといいつつ隙有らばサボり、楽しい事大好きな、世界制服を企む秘密結社のたぐい。
 角が2本で幹部、角が1本で一般戦闘員らしいが、そのどうでも良い事実をヒカルが知ってしまうのは、ゲームにおいて町内大会の後にアジトへ潜入した際のことである。

・メダロット世界の位置関係
 シノビックパークを基準として考えると、結構面白いことになったりします。
 おどろ沼=ヒカル達が上った山、おみくじ町の北西にヒカルが小学生時代に住んでいた町が位置するのでは、という流れですね。
 つまりはメダロッ島に向かう港で地図がひねくれているという考え方ですが。
 ……アースモール? 海底都市? シンラの森?
 ええ、きっと地図上ではないどこかに……。

 20160508.追記修正


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8話 目前来る大嵐(タイフーン)

 

 さて。メタビーがリーダー機。しかしロボトルは3対3を上限として行われる。つまり、ユウダチが担当するのは残る2機。

 そう決まると、ケイタイから、ヨウハクともう1体……見覚えの無い機体が転送される。

 ロールスターというレーザー射撃を得意とする赤の体部。そしてランドモーターの排気筒を模した両腕を組み合わせた、混合機体である。

 

 

「ユウダチ、それは?」

 

「はいです! さきほどロボロボに(たか)られていた『コウモリ』メダルの子 ―― エトピリカです。相手が相手、空を飛ぶ相手にはこの子が活躍できますですよ」

 

「おうおう。狙い撃つぜ!」

 

 

 元気に挨拶をするエトピリカの横で、ヨウハクはコミュニケーションモニターをやや歪めて見せている。

 

 

「……またロボロボ団か。相手はこの鳥達か、御主人」

 

「ええ。お願いしますです、ヨウハク、エトピリカ!」

 

「悪いけどお願いするよユウダチ。それにヨウハクと、エトピリカも、僕に力を貸してくれ!」

 

 

 ヒカルの言葉に小さく頷きながら、ようやくと2人が前を向く。

 タイヨーの並々ならぬ気迫に包まれながら……しかし、レフェリーにとって誰がというのは関係なく。

 ここが決戦と踏んでいた今回の彼は、ガラクタの山から飛び出した。

 

 

「―― 合意と見て宜しいですね?」

 

 

 見事なまでに油塗れのミスターうるちが、ガラクタの山の上に華麗に着地しては声を響かす。

 既に驚く人はおらず、そもそも彼とて驚かせようと企んでいるのではない。ただ忠実に、ロボトルのレフェリーをこなそうとしているだけなのである。

 とはいえその登場の仕方はやはりの「神出鬼没」に尽きるのだが……と、腕を掲げ、振るう。

 

 

「それでは始めます! ロボトルゥ……っ、ファイトォッ!!」

 

「焼き尽くしてくれる!」

 

「「「ぼぉーッ!!」」」

 

 

 開始が告げられると同時、ヘルフェニックス3体が縦に並んで殺到した。

 飛行機体の有利さは、ガラクタの山においては十二分に発揮される。要するに、ガラクタの山の上は「動き辛い」のだ。

 この地形に適した脚部は、地上であれば多脚型。浮遊している場合なども地形に影響されず推進力を確保できるだろう。

 勿論、空中からは地上を狙い辛いという弱点もある。ヘルフェニックスの様な格闘機体であれば狙いは幾分かマシにせよ、近づかなければならないというのは大きなマイナスである。

 さて。ならば相手方、タイフーン陣営の狙いは……

 

 

「オレかッ!?」

 

「メタビー、逃げろ!」

 

「つってもこの足場を二脚じゃあな……って!」

 

「ぼぉーッ!」

 

「うわちぃぃッ!!」

 

 

 ガラクタの山に足を取られている間に、先頭のヘルフェニックスが射程内に接近していた。

 左手から吐き出された炎がメタビーを襲う。我武者羅に振り回された炎は、飛行型の推進力に後押しされ、メタビーの右腕を激しく焼いた。

 メダロットに感覚を通達するニューロン・ファイバー・レジン・ポリエステル素材がじくじくとした継続的な痛みをメタビーに与え……

 

 

「メタビー、もう1体来るぞッ! 飛べッ!!」

 

「ふーっ、ふーっ! ……っとうぉぉ!!」

 

「ぼぉーッ!!」

 

「んぼぼぉーッ!!」

 

 

 残る2体の攻撃を、今度は身を低くする事で間一髪回避に成功した。

 メタビーの後から駆けてきたヨウハクが、ヘルフェニックス達への追撃叶わず、苦々しげに空を見上げる。

 

 

「―― ちぃ! 彼奴らめ、降りて来さえすれば!」

 

「……なんだクワガタ、お前、届かねーのか?」

 

「む。ぐぐ……」

 

「やーいやーい、役立たずーっ!!」

 

 

 両手を振ってニヤリと笑うメタビーが、ヨウハクの横で跳ねる。

 緊張感の無いメタビーへ、ヒカルは叫んだ。

 

 

「いいから今の内に反応弾だメタビー、ってまた来るぞーッ!?」

 

 

 その指す先では、またもヘルフェニックス3体が重なって突撃陣形を組んでいた。

 ヒカル達の様子を、腕を組んだタイフーンは見下ろしているが……小さく呟く。

 

 

「カブトメダルに、ムラサメの娘。こんなものか? ……ならば容赦は必要ない。やってしまえ」

 

「「「ぼぉーッ!!」」」

 

 

 翻り、三度メタビーへと突撃を始めるヘルフェニックス達。

 

 

「ちっ……反応弾で先頭の奴をつぶしても、次の奴から炎を浴びる……何か、何かないのかヒカル!」

 

 

 メタビーの声に、ヒカルは黙り込む。

 が、ヒカルは知っている。

 彼の隣には今、ユウダチが控えている事を。

 

 

 ―― がつん。

 

 

「……しゅぼっ!?」

 

 

 突如鳴り響く重い音。

 突如として頭部をへこませ、先頭のヘルフェニックスが飛び落ちた。

 

 

「ぼぅ!」

 

「ぼぉッ!」

 

「―― ふむっ」

 

 

 タイフーンが、思わず感心したような表情を漏らす。

 しかし先頭のヘルフェニックスを倒されても陣形を崩さず、残る2体が上下に分かたれメタビーへと迫る。

 

 

「成る程、そう言うことかヒカル!」

 

「おう! いっけぇ、メタビー!」

 

「ーッ、反応、だぁぁぁぁん!!」

 

 

 ボボンッ!

 という射出音と共に、メタビーの二股の角を模した銃口からミサイルが放たれる。

 

 

「ぐげぇッ!?」

 

 

 ミサイルは僅かに弧を描いて、上から迫るヘルフェニックスの頭の付け根に突き刺さり爆発、撃墜。

 が、もう一方。最後の1機。

 正面から迫るヘルフェニックスがメタビーを狙って、頭パーツの嘴を開き ――

 

 

「させぬ!」

 

「ぼぉーッ!!」

 

 

 その隙間に、両手を交差したヨウハクが割り込んだ。

 炎を纏ったヘルフェニックスが、勢いそのままヨウハクへと衝突する。

 

 

「ぐ、ぅ!」

 

「ぼぼぉーッ!!」

 

 

 じりじりと両腕を焼かれ、破損。

 剥き出しになったティンペットでヘルフェニックスの頭をねじ込みも、今度は脚部が破損する。

 既に満足に稼働できるのは頭パーツだけとなったヨウハクが、叫ぶ。

 

 

「……頼むっ、エトピリカ!」

 

「索敵あんがとな、ヨウハク!」

 

 

 遥か後ろに控えていたエトピリカ。

 ロールスターの頭部脚部にランドモーターの両腕を装備。

 その内の「対空射撃」の特性を持つ左腕を、足場の悪いガラクタの山の上から水平に、膝立ちになってしっかりと固定する。

  最初に(・・・)|ヘルフェニックスを撃った分の放熱を終了。

 

 コウモリメダルが得意とするのは、空間把握を生かした高次射撃。

 ヨウハクと押し合っているヘルフェニックスを、確と照準に入れる。

 

 

「狙い撃つです、エトピリカ!」

 

「ああさ! くらえやっっ!!」

 

 

 どしゅ ―― がつんっ。

 

 

「……しゅぼっ」

 

「御見事」

 

 

 ヨウハクのすぐ側を抜け、(あやま)たず、格闘攻撃後に無防備となっているヘルフェニックスの頭部を打ち抜いた。

 対空弾頭によってバランスを大きく崩したヘルフェニックスは、その後自重によってガラクタの山に叩き付けられ、その機能を停止する。

 

 

「リーダー機、戦闘不能! 勝者、ヒカルあぁーんど、ユウダチ!」

 

 

 ミスターうるちがキレの良い動きでヒカルとユウダチの腕を取った。

 かと思うと「ではわたしはこれで」と話してそそくさと退散。当初の光景……ヒカルとユウダチ、タイフーンが向かい合った構図へと立ち戻る。

 しかし、先ほどとは違う点がひとつだけ。

 

 

「……ふむ。カブトメダルの所持者を見くびっていたぞ。それにムラサメの娘。お前がクワガタを持っているのは聞いていたが、どうやら貴様も見直す(・・・)必要があるな。確かに、お前は障害となったようだ」

 

 

 タイフーンが見下ろしながら語る。

 ヒカルはその内容に僅かな違和感を覚えたが……今はそれよりも、タイフーンの視線の先である。

 

 

「……ふむ。これは分が悪い」

 

「よう。よくもムラサメ家の嬢ちゃんに手を出してくれてんじゃねえか、ロボロボめ」

 

「潰すもぐ」

 

「埋めるもぐもぐ」

 

「するもぐ、するもぐ」

 

 

 タイフーンは屈強な大柄の男だが、それに負けず劣らずの身体をもつ炭鉱夫達がユウダチの存在に気づき、周囲を取り囲んでいたのである。

 

 

「よくやってくれたぜ、坊ちゃん。シデン坊ちゃんの居ない間にじゃりんこに何かあったら、ただじゃすまねえからな」

 

「えっ、あっ、はい」

 

 

 先頭に立っていた男がヒカルの肩を叩き、そのままタイフーンの前まで歩み出る。

 

 

「さてどうするよ? 大人しくセレクト隊に突き出されちゃあ、くれねえか」

 

「……」

 

「何とか言ったら ―― 」

 

 

 睨まれても無言のタイフーン。

 いぶかしんだ男が1歩を踏み出すと。

 

 

「―― カブトとクワガタの少年少女。また逢うこともあるだろう」

 

「びゅーん!」

 

 

 後ろから飛んできたメダロット、ジェットレディによって一瞬の内に空へと舞い上がってしまった。

 しばし、ぽかんと全員が空を見上げる。

 ……いや、正確にはユウダチだけは地面からヨウハクを抱き上げて。

 

 

「よくこなしてくれました。戻ってくださいです」

 

 

 嬉しさの色を見せてはいるものの、ある意味では淡々と、まるで先程までのロボロボ団との激闘など無かったかの様に片づけを始めていた。

 

 

「……ユウダチ?」

 

「あ。勝利、おめでとうございますです。ヒカル兄さま!」

 

「うん。ありがとう、ユウダチ。君のエトピリカの対空射撃がなかったら、危なかったかもしれない」

 

「はふぅっ! それは、偶々相性のよい装備を持っていただけなのです!」

 

 

 底の見えない笑顔でヒカルを讃えるユウダチに、ヒカルは笑顔でもって返した。

 元から荒れていたガラクタの山は、ロボトルの現場となっても殆ど影響が見られなかった。

 そのため片付けなどの必要もなく、炭鉱夫たちは暫くロボロボ団の襲来を警戒し、ボナパルトから逃げ出した雑魚ロボロボ2人をふん捕まえてから陽気にガラクタの山を去っていった。

 ひとしきり勝利を喜んで、炭鉱夫たちに手を振って分かれたユウダチは、ガラクタの山に寝そべってケイタイの画面とにらめっこを始める。

 彼女はやはり、油に塗れる事を毛ほども気にかけていないらしい。

 

 

「はふぅ。先程のロボトルで、ヘルフェニックスの脚部パーツを貰ったです。これでフェニックスメダルの子にも身体を作ってあげられますね」

 

「あ、ユウダチ。ティンペットはあるの?」

 

「はい。女の子だからと、ナエお姉さまから頂いた女型のものがあるです」

 

 

 ぎとぎとの手でケイタイを弄り、時折ツナギで両手を拭きながら。ユウダチは見下ろしすヒカルの顔を見て様相を崩すと、ガラクタの山から立ち上がる。

 

 

「今日は横槍を入れてしまいごめんなさい。町内大会に出るんですよね。兄さま、頑張ってくださいです!」

 

 

 此方へ向けて上目遣いに、ぐっと拳を握るユウダチ。

 そんなユウダチに、ヒカルは、

 

 

「ああ。頑張るよ……絶対に」

 

 

 これで、少なくとも勝ちたい理由が1つ増えたのだ。

 ほんのりと決意を強固にし、次週、ヒカルは心のままに町内大会を勝ち進んでゆく。

 

 





・エトピリカ
 クチバシと飾り羽が美しい海鳥。
 何故ユウダチがコウモリメダルにこんな名前を付けたのかは不明だが、当初名前はビーバーもしくはバービー(ビースト・バードの頭から)になる予定だったとか。
 抱いてもユウダチの頭が冴えたりはしない。靴下もはいていない。

対空射撃(アンチエア)
 飛行型脚部のメダロットに絶大な効果を発揮する弾種。ゲーム的に言えば、飛行型と潜水型の脚部は「推進」「機動」のデフォルト値が高めに設定されており、またそれらと相性のよい地形である「砂漠」「水辺」におけるその他の脚部相性マイナス値が非常に高いため、そのバランスをとるための処置と言ったところ。……現在のメダロットで機能しているかはちょっと怪しい。
 因みにメダロット2以降、アンチエアの威力は増し増し。

・ロールスター+ランドモーター
 ヒカルのライバル、ユウキがよく使う組み合わせ。実はパーツテストの名目で借り受けている。
 メダロット社とはこの辺からの付き合い。

 20160509.追記修正


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9話 悪夢の始まり

 

 いよいよ開催されたロボトル世界大会の予選……町内大会は、ヒカルの住む町の北側にある神社で行なわれた。

 ヒカルをライバルと断じるユウキが、1回戦で姿を見せない相手に何故か負けたり。

 

 

「これは駄目ですヤンマ」

 

「ああっ、シアンドッグっっ!?」

 

「ぎぎぃ……」

 

「……」

 

 

 悪ガキコンビであるヤンマとクボタを倒したり。

 と、町内大会では特に苦戦する事も無く勝ち進む事ができた。

 ヒカルとしてはどの相手も、先日対峙したタイフーンと呼ばれるロボロボ団幹部と比べると、威圧感で劣っていると感じたものである。

 

 優勝という結果を携えて、ヒカルはメダロット社の地下で行なわれる地区大会を控える事となった。

 町内大会を終えた神社には今、祭りの後だけが立ち並んでいる。屋台の骨組みが残されてはいるが、人通りは開催中とうって変わって寂しいほどだ。

 

 

「―― ん?」

 

「どうしたヒカル?」 

 

「何だか今、黒くて全身タイツの陰が見えたみたいな……」

 

「気のせいだろ。それよりナエさんにノートを届けに行くんだろ?」

 

「あっ! そうだった!?」

 

 

 慌ててヒカルは振り返る。ナエに渡すための研究ノートを持ち運んでいる最中なのだ。

 黒くてタイツといえば、ロボロボ団ではあるが、祭りが終了した今彼ら彼女らが何処で何をしていようとヒカルの知った事ではない。むしろそれこそセレクト隊に任せるべき案件だ。

 

 

「急がないとな……」

 

 

 ヒカルはメタビーと会話をしつつ、神社を後にした。

 

 

「……ごめんなさい。見間違いじゃあないのです、ヒカル兄さま……」

 

 

 その後で入れ替わりに境内の奥へと踏み込んだ少女には、気付くことなく。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 機会を逃すわけには行かないと、事は慎重に進めた。

 実際に侵入した上での、数度の下見も重ねた。

 そうして、ユウダチがロボロボ団のアジトへ本格的に喧嘩を売りに出かけたのは、ヒカルが地区大会をも勝ち進み、本戦大会の1回戦へと挑む当日の事であった。

 てくてくと洞窟内を歩くユウダチ。だが、それを見咎めるロボロボ団がいないのには理由がある。

 

 

「ん? お前、見かけない奴ロボな」

 

「新入りだロボです」

 

「そうなのかロボ。……あ、ボスにこのカードキーを渡してくれロボ」

 

「承ったロボです」

 

 

 侵入の方法については唯一の悩み所ではあったものの。タイフーンとの戦いの後に捕まえた雑魚ロボロボから奪い取った制服を身に纏っていると、案外すんなりと通る事ができていた。

 

 

(……む。御主人、向こうの通りにもロボロボだ)

 

(ありがとうです、ヨウハク)

 

 

 やや広い洞窟を、そのまま使っているアジトである。見渡しの悪い場所で突然に出会い、ぼろを出しては元も子もない。ヨウハクの索敵による援助を受けながら、下へ下へとユウダチは降りてゆく。

 途中でボスに渡す品物を色々と受け取りながら足を進めれば、一段と広く、多数のロボロボ団が集まっている場所に行き着いた。

 

 

「……? お前も参加するロボか?」

 

「んん。参加はしないです」

 

 

 ユウダチが首を振る。

 するとしかし、声をかけたロボロボ団が何故か焦り出していた。ユウダチの前に立ち、ややまくし立てる様に。

 

 

「まぁそんな事言わずに、軽ーい気持ちで参加するロボよ。実は急遽タイフーン様の前でロボトルをすると決まって、参加者が何人かびびって逃げ出してしまったロボ」

 

 

 要するに参加者が足りないらしい。

 ユウダチはその内、観覧に来るという幹部の名前を思わず、ポツリとこぼす。

 

 

「……タイフーン……です、ロボ」

 

「お前もタイフーン様のファンだロボ?」

 

 

 ファンではない。

 ファンではないが、ユウダチは視線を巡らす。

 見つけた。岩の広間の最奥。一段高くなった場所に、高みの見物と決め込んだ、大男。

 

 

「……うん。あの、やっぱり参加しますですロボ」

 

「お、これで大会が開催できるロボね!」

 

 

 執拗に参加を勧めていた団員は、朗報だとばかりに奥へと走ってゆく。

 それらを見送ると、大会の準備をするため、ユウダチは会場の端に積まれたコンテナの後ろへと回りこんだ。

 ふぅと息を吐くと、ケイタイの内から心配そうなパートナーの声が聞こえてくる。

 

 

「……ロボトルとは、どうするつもりだ御主人。わたしを使っては、途中でばれて団員に摘み出されてしまうのではないか。あの男に接触するのが目的なのだろう」

 

「はいです。なのでスイマセンです、ヨウハク。貴方のKWG型パーツを全替えさせて貰うです」

 

「まさか」

 

「ええ。―― 遂に出番です」

 

 

 嬉しそうに腕を掲げるユウダチの目の中で、どろりと淀みが動き出す。

 その手に握られていたものは。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ふむ、今回のロボトル大会はつまらんな」

 

 

 組織内でタイフーンと呼ばれる男は、眼下で繰り広げられるロボトル大会を見て思わず、素直な感想を口に出した。

 それもその筈。山の中を歩けば野良メダロットから山ほど手に入るコフィンバットやモンキーターンばかりを使うロボロボ団同士の戦いであり、しかも何の工夫も無くそれらを使いまわすのだ。他者から、少なくともロボトルの心得を持つタイフーンにしてみれば、見ていてつまらない余興であるのは当然といえた。

 

 が、そんな退屈に染まっていたタイフーンの視線がとある試合で止まる。

 

 

「……ですロボ!」

 

「こけっこ!」

 

「……ロボッ!?」

 

「ぐえ」

 

 

 他の2体、コフィンバットとモンキーターンはそれなりだが、見たことの無い機体をリーダーとして扱う団員だった。

 身体はトリコロールカラー、コミュニケーションモニターが緑。色合いの明るい鶏のようなメダロット。

 左腕のライフルで射撃をしていたかと思えば、時折近づく猿型を右腕のソードで迎え撃つ。かと思えば仲間にかかった束縛症状を直してきたりと、多種多様な働きの出来る機体であった。

 

 

「……だがな」

 

 

 ため息をつき、良くも悪くも興味が沸いたとタイフーンは腰を上げる。

 興味の対象は、決勝をも勝ち上がってきたのだ。そんな未来の幹部候補へ、タイフーンは褒美を与えようと近づいてゆく。

 

 

「……? その目は……」

 

 

 その団員の放つ薄暗い雰囲気と、どろりと濁る両の目に引き込まれた。

 両目に灯るのは、粘ついて離れない、薄暗い感情。

 成る程これは、見覚えがあるはずだ。

 

 

「今は、黙って、ロボトるです」

 

「ムラサメの娘か。わざわざ顔を出すとは……血は争えん」

 

 

 雰囲気が似ているのだ、とタイフーンは言い放つ。

 件の団員ユウダチは、その様子にかちんと来たようだった。

 

 

「……ん!」

 

「ふん。良いだろう」

 

 

 タイフーンに向かって、ユウダチがケイタイを構えた。

 ユウダチを見下ろす格好となっているタイフーンは、しかし。

 

 

「出番だ、キラビット」

 

「うひょー」

 

 

 転送したメダロットはウサギ型メダロット・キラビットだけであった。

 1体だけを場に呼び出し、それ以上動く気配の無いタイフーンを、ユウダチが睨む。

 

 

「……1体だけなのです?」

 

「そうだ。お前はあの見たことの無い機体を出すといい。どうあれ、こちらは本気の本気だぞ」

 

「本気うひょー」

 

 

 確かにタイフーンのキラビットは右手に「メルト」攻撃を行なう事のできるパーツを付けている。純正のキラビットは他者の充填放熱速度をコントロールする「援護のため」の機体であるから、1対1ならば当然必要な武器ではある。

 だがそれは装備バランスも、果てはメダルの得意不得意すら考えていない構成に、ユウダチは思えた。

 メダルの中身が応援を得意とする「ウサギ」であれば、メルト攻撃は得意としておらず。メダルの中身が炎熱攻撃を得意とする「フェニックス」であれば当然、応援行動は得意としていない。

 そうと知り、ユウダチの言葉には思わず怒りがこもる。

 

 

「そのちぐはぐな装備で、私の『ウインドクラップ』に勝つと?」

 

「この方がはっきりと理解できるであろうからな。それに、ちぐはぐなのは……いや。言っておくが今回ばかりは私の力ではない。お前ならば分かるだろう。私の正体にも気付いている、お前ならばな」

 

 

 『ウインドクラップ』。

 それがユウダチが改修した、この、ムラサメ謹製のメダロットの名称だ。

 タイフーンは未だ、不服そうな表情でユウダチを見つめていた。視線には明らかな呆れが見て取れる。

 ユウダチの肌は粟立ち、ぞわりと背筋が震える。

 

 

「良いです。やりますよ、ヨウハク」

 

「……こけっ……ならば御主人、もう鶏の鳴き声はやめても良いか」

 

「はいです」

 

 

 主からの返答を得て、ウインドクラップ……グリフォンを模した機体が地面に降り立ち、タイフーンのキラビットと対峙する。

 右手を掲げて、目の前でぐらぐらと身体を揺らす相手を威嚇。

 

 

「姿が変わろうとも右手は刃だ。ゆめゆめ侮ってくれるな、お山の兎」

 

「ロボトルうひょー」

 

 

 構え、メダロッター同士の視線が交わると、それが合図となった。

 

 

「御免ッ」

 

 

 一気に近づくウインドクラップ ―― 右手のソード。

 

 

「うひょー」

 

「! 何ッ!?」

 

「脚部だとっ! ……む」

 

 

 驚く事に、キラビットは捻り上げた左足を犠牲にして防いで見せた。

 右の剣は軽攻撃。充填放熱が低く隙がなく急所を狙いやすい代わり、確実な防御をされるとダメージは落ち着いたものになってしまう。

 キラビットはそのまま頭部パーツを起動してパーツの充填時間を早めた。

 充填と放熱の差が開いてゆく。ヨウハク得意の連打を挟む猶予がない。

 確実な防御からの反撃という、パーツの特性を生かし切った戦い方だ。

 つまりは、コンセプトをしっかりと定めた、企業の、メダロット社の思惑の中だ。

 そこからは、圧倒的な展開だった。

 

 

「くっ!」

 

「うひょー」

 

「……つぇあっ!」

 

「うっひょー」

 

 

 速度に勝るはずのウインドクラップは終始キラビットに先手を取られ、得意のソードを直撃させる事ができず、キラビットが防御の合間に繰り出すメルト攻撃でじわじわと装甲を削られてゆく。

 単純なスペックの差。パーツの出来により生じた差。

 食いしばったユウダチの歯がぎりりと軋む。握りこんだ掌には爪が食い込み、内出血を起こすほど。

 何とか耐えようとするヨウハクの健闘もむなしく、

 

 

「……不覚。すまない、御主人」

 

 

 攻防の末、遂にウインドクラップが地に落ちた。ティンペットがむき出しになり、ユウダチのケイタイの内へと回収される。

 

 

「……」

 

 

 少女はいつかのガラクタの山、その上に居た時と寸分変わらず、脱力して地面にへたり込んでしまう。

 タイフーンは、相も変わらずつまらなそうな様子で、そんな弱者を見下ろした。

 

 

「歯向かうにしても歯ごたえが無さ過ぎる。……これは忠告だ。ごっちゃにするな。お前が私を追って来たのは、ムラサメの家に縛られているだけに過ぎない。情愛にほだされたのともまた違う。それは、人ならぬ呪いだよ」

 

 

 タイフーンは最後に、ロボロボ団ロボトル大会の優勝商品だと、1つのパーツを放り投げた。

 下を向いていたユウダチの目は、しかし、その脚部パーツの見事なまでの完成度に惹きこまれてしまった。

 小さな口が息を呑み、それ以上は動けない。動かない。

 

 

「そのパーツを見ろ。判るだろう」

 

 

 パーツの名は「デビルレッグ」。

 かつて攻勢兵器としてのメダロットを追求した末に完成した機体 ―― 悪魔型メダロット「ブラックメイル」の脚部である。

 マッスルチューブの羅列は美しく、配線管理に無駄はなく、循環用オイルと人工関節の組み合わせは義務的でいて危うさを感じさせず。

 それはユウダチの、あるいは子供心に願った、ムラサメの家が求めた全てが詰まっている様な……完璧なまでの完成度だった。

 

 

「……やっぱり(・・・・)、です」

 

 

 タイフーンの正体には気がついている。だから、そのバックにはメダロット社が居た。

 

 これは当然。

 自分が苦労して改修した一品もののウインドクラップよりも、メダロット社の作った市販品は優れていて。

 

 いつかの様に。

 例えあの兄が加わり、ムラサメの家が注力して作り上げたメダロットよりも、メダロット社の作り上げたものは優れていて。

 

 だからムラサメは結局、大きな力に適わないのだ。

 ムラサメの一員である事を否定できず、薄暗い感情のまま、結局は張り合ったユウダチも同様に。

 

 

「……行ったか。ふん。全く、全く。……全く、面白くは無い余興だったな。どうせなら、カブトメダルの少年が来たほうがマシだったろうに」

 

 

 とぼとぼと歩き出したユウダチを止める事すらせず。

 アジト移設のために団員を引きつれ、巨躯を揺らす男は洞窟の奥へと戻っていった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ユウダチはその日、どうやって居候の研究所へ帰ったかを覚えていない。

 ただぼろぼろで帰ってきて、姉代わりのナエに心配をかけたことだけは確かなのだが。

 

 

「ぼろぼろで帰ってきたユウダチちゃんといい、メダルを破壊されたヒカルさんといい……一体何が起こるというのでしょう……」

 

「ふむぅ。ロボロボ団が頭角を現した、というのが的確じゃろうの。この騒動にはわしら研究者も、改めて自分の未熟さを痛感させられとる」

 

「……はい」

 

「心配だろうがの、身体を壊してくれるな、ナエ。ヒカルの奴には前向きさがある。ユウダチにはお前と、ヨウハク達もおるのじゃから」

 

 

 励ますような祖父の言葉に、ナエは弱く頷く事しか出来なかった。

 あれだけ慕っていたヒカルのメタビーが、本戦の決勝で本性を現したセレクト隊長にメダルを破壊された日も、ユウダチは変わらず塞ぎ込んでしまっていた。

 今のユウダチは淀んだ瞳はそのままに、動かず。まるで5歳の身体に詰まっていた生気が全て抜け、人形になったよう。

 やり取りをしている母親からヒカルの様子を聞けば、パートナーを失った彼も似た様な状況であるらしい。

 少年少女にとって共通の友人であるナエは、どうにもならず心配ばかりを募らせる。

 

 

「……」

 

 

 ナエは電源が切られ薄暗くなった研究所の中から窓の外を見るが、外の光景は変わらず、一向に好転していない。

 あれほど行きかっていた人は1人たりとて見あたらず、時折野良メダロットとなった機体が異音を発して行き交うのみ。

 窓の向こうを阿鼻叫喚の地獄絵図、と言っても適当であろう。

 

 

 ―― 謎の怪電波によりリミッターを外されたメダロット達が暴走し、全ての都市機能が停止。

 

 ―― 自警組織であったはずのセレクト隊の本部は怪電波を発する元凶となり、かつての友であるメダロットは翻意を顕わに暴威を振るう。

 

 

 後に「魔の10日間」として語られる、悪夢の期間の到来である。

 

 





・ウインドクラップ
 オリジナルではなく、メダロットnaviに出演するグリフォン型メダロット。
 製作はロボトルリサーチ社。因みにムラサメ製作所はこのロボトルリサーチ社の前身である。
 因みに、メダロットnaviの主人公が最も最初に使うメダロットでもある。メダル「イースト」、メダル名「ファーイースト」に装備させてあげるのが大吉。

・魔の10日間
 ロボロボ団の放った怪電波により、セレクトメダルを装着したメダロット達が一斉に暴走した、メダロット界最大の暴走事件。
 これらは電流操作によるメダル操作実験の一環であった。
 セレクトメダルに本元の仕込がしてあったようで、天然メダルのメダロットには殆ど影響がでていない。
 とはいえセレクトメダルの普及率ゆえに、怪電波で暴走を始めたメダロットの数は膨大に膨れ上がる。セレクト隊の隊員も同じくセレクトメダルを使用しており、また隊長自身が引き起こしたという事もあり、正に手の付けようのない事件となってしまった。

・デビルレッグ
 実際に手に入るやつです。折角なのでご出演。


 20160509.追記修正


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10話 魔の10日間

 

 街の電源は完全に落ち、薄暗くなった自室の一角。小さな体躯にあつらえられた……しかし全くといってよいほど飾り気のない事務的なベッドの上で、ユウダチは脱力したまま眠り続けていた。

 ユウダチは、ムラサメの家のことなど嫌いであったはずだ。だから兄の誘いも開口一番に断った。

 家がメダロット社の傘下に入れられたのはユウダチが生まれた直後の出来事だ。メダロットのコアとも呼べるメダルに関する権利を独占しているメダロット社……ひいてはニモウサクの家に対抗するものなど居るはずも無く、それは外受けとしては確固たる地位を確立していた筈のムラサメ家も、例外ではなかったのである。

 

 

「……」

 

 

 ユウダチの瞳がゆるりと開く。

 その奥底に汚泥が溜まり始めたのはいつの事だっただろう。

 自らの兄・シデンは天才だ。5歳の時には既に社の命運をかけたプロジェクトに組み込まれていた、掛け値なし。正真正銘の麒麟児。

 そんな兄をも巻き込んで。家の全てをつぎ込んで。どころか、恩着せがましくも要請を断ることの出来ない家の外までを巻き込んで……メダロット社への反骨を企てたのは、紛れもなく実家の血筋である。

 ティンペットから素体まで全てにおいて「自社開発」のメダロット、という果てない夢を打ち出したのは兄だったのか社の重役たちであったのか。

 どれだけご託を並べるにせよ、結果はご覧の通り、完膚なきまでの敗北である。ムラサメ家が今もこうして生き永らえているのは、ニモウサク家の温情に他ならない。

 ……そう。家それ自体は、未練がましくも生きながらえている。隅へと追いやられ、遺跡の発掘などを監督させられている……メダロットという開発の中心からは遠ざかっているのが現状ではあるが。

 

 

「……でも、負けたのはわたしも同じ、です」

 

 

 ユウダチにとって、言葉を発したのは随分と久しぶりのようにも思えた。

 あのタイフーンという男は、見間違いようがない。セレクト隊の隊長だ。

 セレクト隊はメダロット……どころではなく。急速に発達を遂げつつあるロボット工学分野における、幅の広い防衛権限を持つ組織。だからこそその隊長は、世界中を巻き込んだ一大ブランド「メダロット」における実戦配備の実権を握っている。

 だとすればムラサメの家……会社が。自社開発のメダロットが。両親や兄の敗北は、あの男のせいなのだと。

 そう、八つ当たりをして。負けたのはユウダチの身勝手な行動でしかない。

 

 

「……起きているか、御主人」

 

 

 ケイタイの内から、ヨウハクの声。

 ユウダチが瞼でうなずく。

 

 

「ヒカルの兄君は立ち上がったそうだ。ナエ殿や復活したあのカブトムシが奮起させたらしい。まったく。壊されたのにどうやって復活したのか、あのカブトムシは。……さて御主人。そなたはどうする」

 

「……クワガタ(ヨウハク)

 

「個人的な意見だがよ。こんな所でめそめそ泣いている女は、俺は好みじゃねえな」

 

「……コウモリ(エトピリカ)

 

「ボクもお役に立つピヨッ」

 

「……フェニックス(ケイラン)

 

 

 何かに支えられるように、ユウダチはベッドの上でのそりと身を起こす。

 火種はくすぶっている。四つん這いだった手に力を込め、何とかベッドの端に座る。

 身体は重かった。心は淀んだままだ。あげく、この瞳に移る世界は真黒くフィルターを通した様。

 それでもだ。確かにある。腰を上げる。前を向く。何時ものツナギに袖を通す。

 

 

「……」

 

 

 前は見えていない。それでも立ち上がらなければならない時はある。

 あの男は言った。自分はまだムラサメの家に囚われたままなのであると。

 ガチャリと、扉が開く。廊下の明かりが一筋、無機質な部屋の中に差し込んでいた。

 

 

「行くの?」

 

「はいです」

 

 

 扉の間から顔を出したナエに、ユウダチは間髪入れず答えを返した。

 

 

「そう。……ユウダチちゃん。これを」

 

「……!」

 

「うん。貴女のウインドクラップを、わたしが改修したの。おじいさまが送ったあの多機能型ティンペットはレギュレーション内のパーツにも対応しているし、男女両用のパーツを装着できるはず。まだティンペットのないフェニックスのメダルのために使ってあげて」

 

「……ありがとうございますです、ナエお姉さん」

 

「そうですね。……ねえユウダチちゃん。どんなに才能のある子だって、1人で全部をこなすのは無理だと思うの」

 

「……そうなのです?」

 

「ふふ。やっぱりそう言うところは5歳よね。お兄さんだって、きっと貴女が目にしていないだけで、社員の皆やお父さんお母さんに手伝ってもらっているわよ?」

 

「……そうなんですかね」

 

「うん。わたしだってそう。おじいさまだってそう。だってメダロットを作るなんて、単純に人手が足りないもの」

 

 

 とどめにナエが笑う。

 自分もこんな風に笑えたらと、ユウダチは何度思った事か分からない。

 未だ俯くユウダチの手を引いて、ナエは研究所の中へと走り出した。

 

 

「わたしも行きます。ジェットレディと『かぜのつばさ』を使いましょう。空からの接近は、バリアさえ無効化してしまえば有効なはずですからね」

 

「ナ、ナエお姉さんまでくるです!? というか、いいんです!?」

 

「うん。それにセレクト本社ビルには、ヒカル君も居るはずだもの」

 

「……ヒカル兄さま。……なら、急ぎますです」

 

「ええ。……行って来ます、おじいさま!」

 

「あのです、アトム! ありが……ってあああああー……」

 

「おお行って来い、娘ら。夕飯までには帰って来るんじゃぞ?」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 場所は移り変わって、セレクト本社ビル。

 ヒカルは現在、入り口のバリアシステムだけを担当してした地下を早々に出で、ビルの上側を目指している。

 

 そのヒカルが階を進むごと、蠢きを増して行く影があった。

 

 それは、メダロットのレギュレーションを遥かに外した威力の兵器を宿す王だ。

 

 足元につながった無数のケーブルで町中の電源を吸い上げ、少しずつ意識を覚醒させてゆく。

 

 中に入れられたメダルには超負荷がかかり、既にかつての姿は判別できない程に変質させられている。

 

 ヒカルとメタビーがロボロボ団幹部のスズメを撃破する。

 近くで繰り広げられる戦闘の気配に、また1つ王は目覚めて行く。

 

 地下深くに作られた非合法な部屋の奥。

 バリアシステムの解除にしか興味がなかったために、ヒカルに見咎められることなくパソコンの前に腰掛けて続けていた老人が、ふと、顔を上げた。通信機が音を立てて、接続される。

 

 

『……来たぞ』

 

「どうしたタイヨウ。何が来たんじゃ? こちとらアガタヒカルとカブトメダルだけでも大変なんじゃが」

 

『ああ。ムラサメの家の娘……だ。カメラを見ると良いだろう』

 

「これは……うーむ。あの天才幼児と、よりにもよってアキハバラナエか。……がっはっは! こりゃまいった! ワシはとんずらこかせてもらうぞ、タイヨウ!」

 

『そうか……世話になったな、博士』

 

「自由気ままに実験させてもらったからの、なーんにも気にせんでいいとも!」

 

 

 蜘蛛のように機械の義手を生やす背負いかばんを背負った、小柄な老人が大声で笑う。

 老人はくるりと身を翻し、逃げ道へ向かおうとして……

 

 

「……あのムラサメの娘が来るのか。兄と家柄、それにメダロット社にばかり劣等感を抱いて、自分の才能を理解できない愚か者。ガラクタの山の人間もどきが。……ふん、気に食わん」

 

『どうした博士。逃げるのではなかったのか?』

 

「置き土産だ。タイヨウ、貴様にこれをくれてやる」

 

 

 無言で先を促すタイヨウへ、老人は続ける。

 最上階に繋がる搬送用エレベーター……いや、今は既に配線だらけではあるが……の空間に吊り下げられたメダロットが、3機。

 

 

「黒山羊型メダロット『ブラックメイル』に、天使型メダロット『ヒールエンゼル』。スラフシステムに関してはあの孫娘が最先端での。……いやいや、天才のワシならば時間があれば再現できたのじゃぞ? しかしまぁ、時間がないから仕方なく設計を流用したんじゃが……それはそれとしてブラックメイルは違う。軍の用途とメダロットとしての愛玩性を両立させた、謹製の破壊兵器じゃ。……それもこれも中身がセレクトメダルでは結局性能を発揮し切れんかも知れんが、まぁその辺りはワシゃ知ーらんっと!」

 

 

 言葉と笑い声だけを最後に、老人は脱出口の用途を兼ねた宝箱の底へとすっぽり納まる。

 吊り下げられたメダロット達が上層を目指して昇ってゆく。タイヨウの元に届くのも、時間の問題であろう。

 

 

「がっはっは! せいぜい立ち向かうといい、ムラサメの娘め!」

 

 

 老人の姿が消え、後にはせっせと回収作業を続ける白衣の男達とサボるロボロボ団の姿だけが残される。

 その上側。セレクト本社ビル上層では、ヒカルと次のロボロボ団幹部の戦いが、始まろうとしていた。

 





・蜘蛛のように機械の義手を生やす背負いかばんを背負った、小柄な老人
 本格的な出番はまた今度。
 背負い鞄を背負った、という重複はちょっとお気に入りなのでそのまま。なんとなく背負われている感が(うまく)籠もった気がしていまして。

・かぜのつばさ
 ジェットレディというメダロットを使用して空を飛ぶ道具。
 空を飛ぶメダロットの出力を安定させるブースターのようなもの。
 ただし使用に伴う危険は自己責任。


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11話 ニモウサク家

 

 空を飛ぶ「レディジェット」。女性人間型のモデルに空戦に適したブースターやアンチエアハンマーを積み込んだメダロットである。現行メダロットの中で最も「かぜのつばさ」に適応した機体だ(むしろそれこそが機体コンセプトである)。

 そのレディジェットが一機、クラゲ海岸の上空を突っ切って、その先に浮かぶ埋め立て地へと近づいてゆく。

 研究所を出立したユウダチとナエは、セレクト隊のビルへ空からの突入を試みていた。

 眼下に通り過ぎる街中に人の影はなく、暴走したメダロットは奇声を発しながらうろうろと歩き回っている。街一体が、まるでゴーストタウンの有様である。

 ごうごうと唸る向かい風の中、ユウダチが声を荒げる。

 

 

「それで、ナエお姉さん! どこに着地するんです!? ビルの周りは、ロボロボの方達で一杯みたいです!」

 

 

 ユウダチが指差したその先、セレクト隊の本部ビルの周辺には言葉の通りにロボロボ団の団員がわらわらとたむろしていた。

 実のところ団員たちは、突入したヒカルたちによって蹴散らされており、しかし幹部たちに逆らうのも戦々恐々踏ん切りがつかずにビルの周りをうろうろしているだけなのだが……それをナエとユウダチが知る由もなく。

 ビルの周囲を観察していたナエが表情を変える。

 

 

「……ちょっと掴まっていて下さい!」

 

 

 温厚なナエが声を荒げる様子に何事かと驚いていると、自分たちを抱えていたレディジェットが突如加速した。

 

 

「あの発着場に降ります!! ……お願いレディ!!」

 

「良いけど……ナエ、アナタもしっかり掴まっていてよ?」

 

 

 目視から、以前まで上空までビルを囲み侵入者を拒んでいたバリアが、今は解除されていると判断したのだろう。

 狙いはどうやら、一段低い隣ビルの発着場である。

 外付けの「かぜのつばさ」を慎重に逆噴射させながら ―― 着地。

 小柄なレディジェットが、ナエとユウダチを懸命に抱え。

 

 

「っっ! ……ふう。進入成功ですね」

 

 

 暫く転がった先で身を起こすナエ。その腕の中にいたユウダチもどうやら傷はなく、がばっと立ち上がり、周囲にロボロボ団がいないかを確認する。

 ……が、黒い全身タイツの姿は見当たらなかった。どうやら少なくとも、この発着場の周辺にはいなかったらしい。

 

 

「だとすれば、ここはヒカル兄さまの通り過ぎた後なのかもしれません。もっと上に兄さまが居るとすれば……急ぎましょうです、ナエお姉さん!」

 

「ま、待って!!」

 

 

 今すぐにでも走り出そうとした所を呼び止められたユウダチは、つんのめりながらも体勢を直して振り向く。

 後ろで「その……」とどもるナエを、怪訝な顔でどろりと傾げば。

 

 

「あの。どうやらおじいさまの旧友の方が、このビルにいらっしゃるそうなんです。自称・悪の科学者だとか何とか」

 

「……? ヘベレケのじいさまのことです?」

 

「多分、うん、その人。それでおじいさま曰く、その方に逆恨みをされているらしく……もしかしたらその孫娘であるわたしに……と、忠告をされてまして」

 

 

 逆恨みとは何とも迷惑な話だが、ユウダチ自身もついこの間はそうだったなと独りごち、解釈。

 

 

「ですか。……つまり、ナエお姉さんがその方に顔を見せないように工夫をすると?」

 

「……はい。……その様、です、ね……」

 

 

 ナエの声が尻すぼみに小さくなってゆく。

 羞恥だのなんだので複雑な表情を浮かべ、ケイタイから包みを1つ、取り出した。

 

 

「これは ――」

 

「あの、その……衣類自体は先日、ヒカルさんのお宅を伺った際に、幼馴染の女の子が用意してくださっていて……」

 

「!! かぁっっこ良いですっっ!!」

 

「そ、そうかなぁ……」

 

 

 ユウダチが目を(かがや)かし、嬉々として包みを広げ、掲げる。

 くるり。

 振り向いたユウダチの目が爛々とどよめきながら、自らの姉分の若干及び腰な姿を捉え。

 

 

「さて、急ぐ必要がありますですよね、ナエお姉さん!」

 

「う、うん」

 

「急ぐので、さっさとこれに着替えましょうです!」

 

「……。……あ、やっぱり?」

 

 

 せめて更衣室を使いたいとナエは思ったが、結局、残念ながら……ユウダチがそれを聞き届けることはなく。

 その後にはやや涙声になったナエの愚痴が聞こえていたとか何とか。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 怪電波を発しているセレクト隊のビルへと突入したヒカルは、また1人幹部を撃破していた。

 ……その隣には、またも手伝ってくれなかった友人たち。

 

 

「ヒカルちゃん強い!」

 

「ふっ。さすがは僕のライバルだ!」

 

「メダルを復元する方法を教えてもらったから、少しは遠慮するけどさ。手伝ってくれないんだな、ユウキ」

 

 

 ユウキはぎくっという擬音が聞こえてきそうなほど狼狽し始め、そのガールフレンドたるパディがはぁとため息を吐き出す。

 

 

「わたしもユウキちゃんも、メダロットが暴走してますもの」

 

「そ、そういうことさ。まったく、僕が相手をしていたらやつ等は逃げることも許されないだろうがね」

 

 

 キザに髪をかきあげるユウキを見ながら、ヒカルはそんなもんかなと微妙な心持である。

 実の所、さっきから悪ガキ3人組も手伝ってくれる風味だったりしたのだが、実際の所ロボトルをしているのはヒカルのみ……という状況を繰り返しているのだった。

 

 

「おいヒカル、さっさと暴走止めに行こうぜ」

 

「そうだな、メタビー。それじゃあユウキたちも、気をつけて帰れよ?」

 

「誰にものを言っているんだい?」

 

「ごきげんよう」

 

 

 ヒカルとメタビーが上の階につながる階段を上って行くのを見送って、ユウキとパディは連れ立って下の階へと向けて歩き出した。

 いやに静かなセレクトビルの中。

 時々ズズズ、と何かが動く音や軋む様な音が聞こえるが、別段周りで何かが起こっているわけでもない。

 

 

「よかったのかしら?」

 

「何がだい、ハニー」

 

「だって、ヒカルちゃんを助けに来たのでしょう? ロールスターちゃんは動くのだし」

 

「……でも、やっぱり僕が会社の守りを長々と外す訳にも行かないさ」

 

 

 ユウキの実家、ニモウサク家。ニモウサク家が所有するメダロット社は、今回の事件の発端である「セレクトメダル」を生産している会社である。

 それ故に、社員の殆どがセレクトメダルを使用しているメダロッターであり、例に漏れず暴走をしているのだが……これもメダルを開発したニモウサク家の恩恵か。少数派ではあるものの天然メダルを使用している人々もおり、ユウキのパートナーであるロールスターも同様に、電波の中でも正気を失わず動くことができていたのである。

 会社をひとまず落ち着かせることに成功し、元凶をたたくためにとセレクトビルに乗り込んでみれば、自分よりも実力を持った……本大会で優勝しあのセレクト隊隊長にまで勝利した、アガタヒカルが先んじていたのだ。

 これをライバルと悔しくは思うものの、どこか誇らしく、嬉しい思いも沸いてくる。

 信じるとはいわないが、ここは彼に任せてみても良いだろう。

 自分は自分にしかできないことを。……例えば。

 

 

「戻ったら研究部から天然メダルを持ち出して、社員みんなで暴走メダロット達を止めにかかろう。こんな大規模な作戦は、庶民のアガタヒカル君にはできないまねだろう?」

 

「……そうね。わたしも手伝いますわ」

 

「ふっ。ありがとう、ハニー」

 

 

 今度は笑顔を見せたパディを後ろに、ユウキは髪をかきあげ、これからの活動に思索を伸ばしつつ前を向いた。

 その目前には階下へと降る階段が見えていて……すると。

 

 

「だ、だれも居ないよね……?」

 

「電波を飛ばすならとりあえず上です。登る……です?」

 

 

 階段を、ツナギを着た少女と珍妙な格好をした女性が登って来ていた。

 パディは思わずぽかんと口を開けたまま彼女らを見つめていたが。

 

 

「―― すいませんです、先を急いでいますです」

 

「み、みられた……」

 

 

 少女と珍妙な女性はその脇をするりと通り抜け、先ほど自分たちが下り来た道を遡り、上階へと踏み入って行った。

 

 

「あら。どなただったのでしょう……ユウキちゃん?」

 

 

 呟き、思わず疑問。

 隣のユウキが、小さく笑っていたのだ。

 場にそぐわぬ彼の表情に、パディは思わず理由を尋ねる。

 

 

「いや。あのツナギの女の子……ふっ。奮起をしてくれたか。安心したよ」

 

「あら。浮気です?」

 

「違うさハニー。父性に近いよ。これもお金持ちの宿命というやつさ」

 

 

 一層笑みを深めたユウキはそう締めくくると、意気揚々とした足取りでメダロット社のある街へと戻って行った。

 

 





・ヒカルの幼馴染
 アキタ・キララという女児のこと。作中では会話にしか登場していない。
 彼女はある意味、後作品でも重要な役目を担っていたのだが、今作では……


・クラゲ海岸
 漫画版メダロットより。
 漫画版によると、これらの事件はクラゲ海岸沖でおきたものとされているため。
 セレクトビルは埋め立て地に建てられているのでしょうかね。

・パディ
 エキセントリック・ガールフレンド。
 ユウキの婚約者。メダロット3にも(うろ覚えですが)旦那と共にご出演。



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12話 決戦開幕

 

「ここから先には通さないシャーク! ……じゃなくて、通さないわよ!!」

 

 

 ロボロボ団が占拠したビルの頂上手前。ヒカルが階段を登った先では、またも、ロボロボ団の幹部が待ち構えていた。

 懲りないなぁ、とヒカルがこぼす。聞き覚えのある語尾からして、目の前の女性は、海の洞窟のサメ事件や炭鉱街での遭遇と何度も戦ったことのある女性幹部の中の人なのだろう。

 本日はロボロボ団の制服(タイツ)を装着していないものの、大体声でわかってしまう。しかもシャークって言った。癖になっているらしい。

 

 

「またロボトル……か。疲れてないか、メタビー?」

 

「ん? オレは平気だ。けどゴーストとナイト、それにペンギンのやつもちょっと厳しそうだな。情報処理能力がちょいちょい落ちてる」

 

「やっぱりか」

 

「こらそこ! 無視するんじゃないわよ!」

 

 

 女性の指摘には動じず、ヒカルはケイタイを握り締めながらぎりと唇をかみ締める。

 意気込んでやってきたは良いものの、団員や幹部の連戦に連戦により疲労が蓄積していたのだ。

 負けてはいけない戦いの連続に、ヒカル自身にも重くプレッシャーが圧し掛かる。一体あと何人の幹部を倒せば天辺に着くことが出来るのかも判らないというのも、絶望感を助長する。

 などと長考に入り無関心を貫くヒカルの態度に、目前の女性幹部がついにしびれを切らした。

 

 

「いいわっ。来なさい、オーロラクイーン!」

 

「―― うわあっつい。もうちょっと冷やしなさいよオバサン」

 

「オバサンじゃない!! まったく、何で天然メダルはこんなに生意気なやつが多いのか!!」

 

 

 怒り心頭ながら、3体のオーロラクイーン……確か、停止攻撃を使用してくるメダロットだ……が並ぶ。

 氷の妖精やらをモチーフとしただけあって、この国の夏の蒸し暑さは耐えかねるのだろう。NFP素材による熱感覚は、メダロットに不快感をも与えてしまうらしい。高性能もことこの部分においては考えものである。

 そして。

 

 

「合意と見てよろしいですね?」

 

 

 前門のロボロボ幹部に加えて、後門のこの声。

 国際ロボトル審判員ミスターうるちはなんと、ビルも中盤に差し掛かってからは、常にヒカルの後ろをついてきていたのだ。

 後ろを行くのが最も安全かつ手っ取り早いと判断したらしいが、付け回される此方の身にもなって欲しかったと思うのは仕方がないだろう。

 

 

「でも、頂上も近いはずだし。……戦うのも仕方ない、か」

 

 

 そう言って、メダロットを転送するためにケイタイに手を伸ばす。

 ヒカルがミスターうるちの問いかけに頷こうとした、その瞬間。

 

 ―― そいつは姿を現した。

 

 

「さっ、咲かせましょうおこめの花っっ!!」

 

「お姉さん、それは原文ままです。ほら、ナデシコなんですから香りましょううんたらかんたらとかにするです」

 

「かっ、香りましょう……。……何を?」

 

 

 そいつ、の隣に居る油で黒くなったツナギを着た少女。此方は判る。ユウダチだ。ナエから塞ぎ込んでいると聞いたものの、どうやら駆けつけてくれたらしい。

 問題はもう一方の妙な口上を口にし始めた女性のほうだ。

 タキ○ード仮面風の仮面をかぶり、白一色のチャイナドレス。大きなスリットが入って活動性を確保されているかと思えば、背中にはふわふわと羽をモチーフにしたマントがかけられていて。

 でも、外見はヒカル的にはかっこいいと思った。ピンポイントでストライクだった。

 だから、ばればれの中身だけが問題で。

 

 

「―― ええと兎に角。美少女メダロッター、ナデシコ! 参上しました!」

 

「ナエさん?」

 

「はうっ」

 

 

 ヒカルが声をかけるとびくっと後ずさる。反応もそうだし、艶やかな黒髪も見間違えようがなくナエだった。

 下がったナエ……改め美少女メダロッターナデシコの代わりに、ユウダチが前に出る。

 

 

「お待たせしましたです、ヒカル兄さま。ここは謎の美少女メダロッターナデシコさんに任せて、私たちは上に向かいましょうです」

 

「えっ……いいの?」

 

「? そのために駆けつけたんです。駆けつけたのに手伝わない人なんて居るのです?」

 

 

 つい先ほどまでそんな(・・・)展開の連続だったとは口が避けてもいえない……と、ヒカルの内心は汗だらだら。

 ユウダチの目の前、焦りをごまかす様に、ヒカルは謎の美少女メダロッターの手をとった。

 

 

「その、ありがとうナデシコさん。すごく嬉しい。このお礼は必ず、また今度!」

 

「ひゃっはい」

 

 

 かちんこちんに固まってしまったナデシコに、ヒカルは疑問符を浮かべ、その隣ではユウダチが興味深そうな顔で両者を眺めて。

 ……そして思い出したようにぽんと手を打つ。

 

 

「そうだ。ナデシコお姉さん」

 

「? ??」

 

「焦っている最中ですけど、この機会に以前からのお願いを予約しておいたらどうです?」

 

「……あっ」

 

 

 ナデシコは急に口をパクパクさせたかと思うと、深呼吸挟む。

 ……ややも間をおいて。

 

 

「あの。ロボトルはわたしが受けます」

 

「了解しました。ささ、それでは両者定位置へ」

 

「……はっ!? 変態が現れたとおもったら、変態が対象といちゃいちゃして、ツナギの娘がわたしをスルー!?」

 

 

 ロボロボ団幹部の意向を無視して、あるいは流れと空気とを読んで、ミスターうるちがロボトルの合意を確立させる。

 

 

「そんじゃあ任せようぜ、ヒカル。さっさと上に行くんだろ?」

 

「う、うん」

 

 

 メタビーに促されたヒカルはナエの手を離し、ユウダチの立つ階段の側へとかけて行く。

 その背に向けて。

 

 

「―― ヒカル、さん!!」

 

 

 ナデシコが声をかけた。

 隣に立ったユウダチにも促され、ヒカルが後ろを振り向く。

 決意を込めた、仮面の奥の瞳が、まっすぐ此方へ。

 

 

「戻ったら、また一緒に……星を見ましょう!」

 

「……うん!」

 

 

 返答にぱぁっと笑顔を浮かべ、はっと気づいて顔を引き締め、ナデシコは女幹部と相対した。

 事も済んだ。ユウダチが嬉しげに、ヒカルの袖を引く。

 

 

「いきましょう。お姉さんが稼いでくれた貴重な時間です!」

 

「……うん!」

 

 

 再び、今度は2人で。ヒカル達は階段を登ってゆく。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 女幹部と遭遇した後、階段を上る。幸い、階段の途中ではロボロボ雑魚や他の幹部とは遭遇することがなかった。

 ヒカルは安堵しつつもしかし、辺りに満ちてゆく不穏な空気を感じ取っていた。

 

 

「……向こうか?」

 

「多分、です」

 

 

 最後の一段を上り、入り口を潜る。ここが、セレクト本隊ビルの最上階だ。

 どうやらユウダチも同様であったらしく、周囲を見回す。

 

 

「来たようだな」

 

 

 その奥。

 一面のガラス張りを背に立つ大男が、一人。

 

 

「……タイヨー!」

 

「そうだ。わたしがセレクト隊隊長にして……そしてロボロボ団のトップでもある」

 

 

 ユウダチの叫びに鷹揚に答え、大きな体で前へ。

 タイヨーはヒカルとユウダチの前に、丁度ロボトルが出来るくらいのスペースを残して立ち止まった。

 さあロボトルかと、ヒカルがケイタイを突き出す。が。

 

 

「待ちたまえヒカル君。……君とカブトメダルの能力については、わたし達は既に疑ってはいないのだよ。本大会の特別試合。あの時のわたしは正真正銘の本気だった。君とそのメダロットが見せた急激な成長、見事である」

 

 

 急に自分をほめ始めた元凶に、ヒカルはいぶかしむ。それでキレてメタビーのカブトメダルを壊したくせに今さらだ。

 次いで、タイヨーはその視線をその隣へと動かし。

 

 

「ムラサメの娘。お前はどうした。また駄々をコネに来たのか……それとも」

 

 

 問うたタイヨーに、ムラサメの娘と呼ばれたユウダチが唇を引き絞ってうつむく。

 ムラサメ。ヒカルにとってあまり聞き覚えはないが、ユウダチの姓だ。何故その家柄がここで出てくるのかは、定かではないが。

 一度はうつむいたものの。ユウダチは何かを決め込んだ瞳ですぐに顔を上げ、タイヨーの視線を受け止めた。

 

 

「単純に。単純にわたしは、ロボロボ団を止めに来た、です。それじゃあ、いけませんか」

 

「不足しているだろう。危険を冒す理由が」

 

 

 即答だ。

 ユウダチがまた口を閉じかけ、しかし、そこで隣に居たヒカルに視線を向けた。

 ヒカルは頷く。この少女が何を背負っていたのか、実際のところ自分は理解してなどいないのだろう。だが、共通点はある。少年と少女はこの夏休みを通して、共に辛く苦しい何かを乗り越え、それでもこの決戦の場に駆けつけたのだ。

 それらを受けて、ユウダチが返すように頷く。その瞳の汚泥がどろりと流れ、底暗いまま。荒々しい、薄汚れた輝きを放つ。

 

 

「……ならっ、私は! 私はあなたとロボトルをして、今度は(・・・)勝ちたい! これでは、いけませんか!? セレクト隊長であるあなたに挑むのが、不足とは言わせませんです!!」

 

 

 ユウダチは宣戦を告げた。

 タイヨーが笑う。

 

 

「ふ……ふ、はははははーぁっ! ……なるほど、今度は面白くなりそうだ。……少年も居るのならば遠慮をする必要はないな。見たまえ」

 

 

 タイヨーは手元で何らかのスイッチを起動する。

 身構えるヒカルとユウダチの上。

 轟音と共に天井が開き、一面の夜空が映し出された。

 風が強い。ずるずると音が聞こえる。音の違和感に耳をこらせば。

 

 

「見たまえムラサメの娘、ヒカル君。これが、今の人間が全ての力をつぎ込んだ、破壊のためのメダロットだ!」

 

 

 両手を掲げるタイヨーの後ろから、3メートルほどの影がそそり立つ。

 それも、3体。それぞれが無数のケーブルを従え、

 

 

「gyるGあkui゛……ハカイ、スル」

 

「いろはにほへと、ちりぬるを。このよたれそ……は?」

 

「Деньги Робот Кажется чтобы быть вкусный」

 

 

 両腕をだらりと下げ、3つのモニターが、3体のメダロット達がヒカルたちを無機質に見回した。

 一言で表して、「無機質」なメダロットだった。電力の確保とエネルギーの放出。それだけに注力しその他を差し引いたのだ、と誰にでも率直に訴えてくるデザイン。これらをしてタイヨーは、破壊のためのメダロットと評した。

 思わずこれでもメダロットなのかと身を引いたヒカル……の前に、メタビーが立ち塞がる。

 

 

「下がってろヒカル。こいつらは止めなきゃな」

 

「―― ああ、勿論だ」

 

 

 如何にしても、相手はメダロットだ。メタビーのまっすぐさは、こういう時に頼もしい。

 ヒカルはすぐに気を取り直し、ケイタイを構えた。

 しかし当の相手メダロッターであるタイヨーはというと、ヒカルの真横に立つユウダチの側へと向きを変え、ケイタイを構え。

 ……更なる増援を呼び出した。

 

 

「こちらはムラサメの娘、お前たちの相手だ。―― 出てこい」

 

「うひょぐわー」

 

「ぢゅぢゅぢゅぢゅぅ。ぢゅうふ」

 

「何よもう、直せばいいんでしょ!?」

 

 

 ヒカルにとっては見たことのない機体。いや、正確にはヒールエンゼルと呼ばれた機体は、ナエの扱うものを見たことがある。ナノマシン操作とメダロットの自己修復機能の促進操作を得意とする、天使型のメダロットだ。が、それも今回のものは羽が大仰なものに改造されているためフォルムがまがまがしい。

 加えて問題は、残りの2体。

 全身を黒を基調として染められ、両腕の大きな爪をゆらゆらと揺らす、悪魔か番犬か。どこか……確かメダロット博士の研究所において、軍用メダロットとして姿を見たことがあるはずだ。

 その姿を見て、ユウダチが息を呑む。

 

 

「……! ブラックメイル、です!?」

 

「こちらはお前専用の相手だ、ムラサメの娘よ。……ヒカル君の相手である『獣の王(ビーストマスター)』は、わたしに制御できるものではないからな ―― 」

 

「ハカカ、ハカカカッ!」

 

「ちっ、こっちだヒカル!」

 

「……くっ、ユウダチ!?」

 

 

 動き出したビーストマスター3体が、ヒカルに明確な敵意を向けてきた。それらに阻まれながらも、ヒカルはユウダチに視線を向ける。

 その意思をしっかりと感じながら……ユウダチは目を閉じる。

 

 

「……ヒカル兄さま」

 

「? いや、いま、そっちに……」

 

「いえ。聞いてくださいです。……わたし、このロボトルが終わったら……いつかシデン兄さまとロボトルがしたく思うのです。ですので、わたしにヒカル兄さまの技術を教えてはくれませんか?」

 

 

 見たことのない表情だ。が、それはヒカルにとってある意味では慣れたこと。

 ビーストマスター達は兎も角、何故かタイヨーまでもがヒカルの返答を待っているように感じられる。

 考える……までもない。ヒカルは歩みだそうとした足を踏みとどめ、戻した。

 戦いの意を示した少女に向けて、その意を汲んで、頷く。

 

 

「……勿論だ!」

 

「ありがとうございますです、ヒカル兄さま。……ヒカル兄さまだろうとシデン兄さまだろうと、いずれにせよ軍用メダロットなんかに負けている場合ではありませんです!」

 

 

 どろりと笑み、ユウダチはケイタイを構えた。

 その前に真っ先にヨウハクが現れては、獣のように隙をうかがっていたブラックメイル達に向けて、けん制にとソードを突き出す。

 

 

「うひょぐわー」

 

「―― お主の中身は……あの時の兎か。互いに姿は変わったが、これにて真に決着を付けることも出来よう。御主人、雪辱を果たそう。指示を任せる」

 

「はい。心のままに、ヨウハク!」

 

 

 構える。

 夜の空から、調子を読んだ声が降る。

 

 

「―― 合意と見てよろしいですね!」

 

 

 セレクトビルの……屋上と化した場に居る全員が、ビーストマスターですら、待っていた言葉に身を構えた。

 

 

「それでは! ロボトルゥゥゥ……ファイトォーッッ!」

 





・ナデシコ
 ナデシコ科ナデシコ属の植物。
 原作においてアキタ・キララが変装した美少女メダロッターが「コマチ」である。
 ナエの女性像イメージと日本の古いたとえとを合わせたため、こんな感じになった。
 ヒカル的にはかっこいいらしい。

・Деньги Робот Кажется чтобы быть вкусный
 貨幣、ロボット、美味しそう
 ……をエキサイト翻訳のロシア語変換にぶっこんだもの。
 作中ビーストマスター一体の台詞。

・ミスターうるち
 下の階に居たのに……と突っ込んではいけない。

・ロボロボ幹部
 初代のロボロボ幹部には中身と名前が設定されています。
 ロボトル的には多分、歴代最強なのではないでしょうか。メダルレベルが異様に高く、低装甲なのに高機動、武器もかなりの威力を誇ります。
 セレクトビル連戦は本当にきつい……。



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13話 獣の王

 

 セレクト本社ビルの開けっ放しとなった頂上に星が灯る。

 無数の明光が、ケーブルを束ねて作られた脚を駆け上がったかと思うと。

 

 

「ハカイッ……GWぉぉぉぉぉっ!!」

 

 

 ビーストマスターの口から重力砲(プレス)となって放出された。

 狙いはめヒカルのメタビーだ。メタビーへ向けて一直線、帯状に空間が歪み。

 

 

「お守りしますあるじっ……じじじじ」

 

「ナイト!?」

 

「ヒカルチーム、ナイト、戦闘不能! とわっ!?」

 

 

 メタビーを庇ったナイト、その左腕のシールドを貫通して頭までを打ち抜いた。

 ついでに飛び散った破片がミスターうるちの居る中央に散らばり、うるち氏はそれを一心に回避。

 凄まじいまでの破壊力だ、とヒカルは目の前で抉られた地面を見ながらつばを飲み込む。が、これまで世界的なメダロッターとの連戦を重ねたヒカルからしてみれば、ケーブルの役目を果たしている脚部があるために機動力がないこの相手は、どうにかしようはあると感じていた。

 作戦は成功している。

 ロボトル開始とともに攻撃を集中させ機能停止にした1機を経て、既に、残る獣の王は2体(・・)

 こちらの先陣はゴーストだ。メタビーのミサイルを利用して手前左側に貼り付けたビーストマスターめがけて、飛行脚部を付けたゴーストの左腕パーツ「ビームセイバー」の我武者羅な攻撃が襲う。

 

 

「それそれ斬るよー」

 

「!? あさきゆめみしっ」

 

 

 「ビームセイバー」は格闘ながらに光学属性を持つという特殊な左腕だ。サムライという現存個体数の少ないメダロットのパーツであり、夏休み明けに校長先生から(ロボトルによって)いただいたものである。

 光学属性の武器は充填と放熱に時間がかかるのが難点だが威力が高く、一撃に比重を置くゴーストはそれを見事に使いこなしてくれていた。

 

 

「よひもせ ―― ずっ?」

 

「あらあら斬れたー」

 

 

 防御しようとするが、ねらいをつけた射撃の直後で動きが鈍かった。

 両腕の合間を抜け、光の刀が頭部装甲を一刀に両断する。

 と。

 

 

「gるるrぅ、ハカイ……スルゥゥゥ!!」

 

「アブねぇ、ゴースト!!」

 

「? あっ」

 

 

 しかし今度は、無防備になったゴーストの頭を中央のビーストマスターが放ったミサイルが打ち抜いた。

 メタビーがモニターの表情をわずかに強張らせ、焦りの色を浮かべる。

 

 

「これで、オレとコイツとの一騎打ちかよ……!」

 

「メタビー、回避に集中するぞ! 相手のパーツはどれも放熱に時間がかかる。放熱の間を縫って、ミサイルを浴びせていこう!」

 

 

 ヒカルはそんなメタビーに、冷静に勤めて指示を出した。

 メタビーも、言われずともヒカルの指示と考えを判る程度には濃い付き合いになった。なにせこの夏休みの間中、メタビーを連れたヒカルはロボロボ団や悪ガキらとロボトルを繰り広げていたのだ。

 まだティンペットが2つしかない際、時には見知らぬおばさんに多勢に無勢で負けたこともあった。

 サメことロボロボ団幹部のレイカにリベンジを果たしたこともあった。

 ヒカルはナエと天体観測所で良い感じになったりもした。メタビーや他のメダル達はそれをニヤニヤしながら見ていたものだ。

 メダルを壊されたこともあったが、メタビーとの絆はより強く。そしてヒカルを成長させてもくれた。

 これら全て、メダロットに出会った今年の夏休みの間にあったことだ。

 それが今では街の、もしかしたら世界の危機にまで発展している。先生から提示された冒険もいつの間にか壮大になったものだと、感慨深いものである。

 

 

「上等っ! 行こうぜヒカル! やってやらぁ!!」

 

「おう。あのリーダー機は多分、天然メダルだ。リミッターって奴を外されている分、装甲も出力も段違いだし」

 

「へっ。だからって負けてやるものかよ。オレだって天然メダルなんだろ? それにコピーだろうがなんだろうが、ぶっ倒せば終わるんだ。関係ねえよ!」

 

 

 メタビーが前に出る。

 右手でビーストマスターを指差して。

 

 

「聞こえてっかスパゲティ野郎! ナイトとゴーストのカタキの分まで、オレが星の彼方にぶっ飛ばしてやらあ!!」

 

「―― ハカイ! ハカイ、ハカイ!!」

 

「ってどわぁぁぁっ!?」

 

「ぶっ飛ばすのはいいけど、だからまずは回避に集中しろよメタビー!?」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 それらヒカル達の横では、ユウダチらもまたロボトルを繰り広げていた。

 自律的に攻撃を繰り出すビーストマスターとは違い、タイヨーは此方を注視しながら指示を出している。

 黒山羊型のブラックメイルが2体。回復薬のヒールエンゼルが1体。ブラックメイルは殲滅力を武器とするメダロットだが、その防御力を伸ばすのではなく、壊れたパーツはヒールエンゼルで治せばいいとばかりの捨て身戦法を取ってくる。

 ユウダチのメダロッターとしての能力は、正直に言って高くない。経験不足からくる判断能力の欠如を補っているのは、ヨウハクだ。

 それでもユウダチは諦めない。慌てず騒がず、まずは身を固め、ヨウハクを中心に組み立ててゆく。

 以前よりも落ち着いたユウダチの様子を見て、タイヨーはふむと口を開いた。

 

 

「以前よりはやるようになったな、ムラサメの娘」

 

「それはどうも、です! 後衛優先! ヨウハクに合わせて撃って、エトピリカ!」

 

「先に行く、エトピリカ!」

 

「へへっ……狙い打つぜっ!!」

 

「どうぞだピヨッ」

 

 

 ヨウハクが後衛……ヒールエンゼル目掛けて突貫する。

 ウィンドクラップのパーツを主とするケイランがもう1体、うひょうひょ言っている方ではないブラックメイルをひきつけている間に、ヨウハクがその横を通り過ぎようとする……が。

 

 

「うおわっ? そっち行きやがったピヨ!?」

 

「うひょぐわー」

 

「! ……お前の相手は後だ! 邪魔をするな、兎め!」

 

 

 ウサギメダルのブラックメイルはなんと、凄まじい脚力でケイランを飛び越えてヨウハクの進路へ接近。そのまま両腕を振り下ろした。

 迫る「デビルハンド」と「デビルアーム」の交撃。

 襲い掛かるブラックメイルの両腕を、ヨウハクは急制動を掛けることで回避……

 何かが、ブラックメイルの後ろで揺らめいて……

 直後。

 

 

「!? むっ……!」

 

「うひょ?」

 

 

 体裁も気にせず、ヨウハクはその場を飛びのいた。

 勢い余って地面を叩いたブラックメイルの攻撃は、隕石が衝突したかのような音を響かせて地面を陥没させている。

 

 

「今のは……!?」

 

 

 ヨウハクが屈みながら息を吐く。回避しようとしたものの、その振り下ろした余波だけで(・・・・・)左腕の「ピコペコハンマー」が抉られてしまったのだ。

 振り上げられた後、両腕の軌道は明らかに精度を増していた。ヨウハク自身、頭パーツの「アンテナ」がそうだから理解できる。後衛による援護の成果が表れていたのだと。

 だが、それだけではない。今の一撃は、明らかに索敵応援以外の何がしかの後押しを受けていた。そうでなければ、空中で急加速した(・・・・・)説明がつかないのだ。

 それはまるで、時間を早めでもしたかのような ――

 

 

「―― が、しかし」

 

 

 再び体勢を整え、ヨウハクが駆ける。傷ついたとはいえ、前衛を抜けることには成功したのだ。

 目前に浮かぶ後衛、ヒールエンゼルに向けて改めて刃を構えた所で、エトピリカからの援護射撃が届く。

 

 

「でっ!? べっ!? ……ちょっと! 痛いじゃ……」

 

「先の一撃、索敵をしてくれたな。礼を返そう ―― ツエエェア!!」

 

「な、い、……の? あ、れ?」

 

 

 ヨウハクが棒浮き(・・・)になったヒールエンゼルを両断。機能を停止させた。

 

 

「ふむ。流石にクワガタ、やってくれる」

 

「? ……前から思っていました。ロボロボたちは、何でカブトとクワガタをマークしているのです」

 

 

 状況を整える間を利用して、ユウダチはタイヨーに問いかける。

 以前もそうであった。ロボロボ団の幹部たちは、ヒカルのことを「カブトメダル」を主にした名で呼称する。

 問われたタイヨーはあごに手を当てながらふむ、と声を出し。

 

 

「戦闘中ではあるがお前の執念に免じてその質問にだけは答えよう。昆虫、特にフシハラ博士の研究によれば、カブトムシとクワガタムシのメダルに集積されている情報というものは、メダロットのとあるシステムと非常に相性がいいらしい」

 

「……脱皮(スラフ)システム」

 

「お前はやはり知っているか? まぁ、わたし達が知ることなどこの程度だがな。それで何をしようか、というのは知る限りではないぞ」

 

 

 タイヨーが語ったスラフシステムというのは、メダロットのナノマシンを使用した自己修復を司るシステムの総称である。

 パーツ開発に携わるムラサメ家の娘であるユウダチは、研究者の名残として知っていたが、予想に反してタイヨーはこれ以上のことを知らないらしかった。

 

(……上に、もっと詳しい人が居るです……?)

 

 と、疑うものの証拠はない。こうして本部へ乗り込んでみても、奥に待ち受けていたのはこのタイヨーとビーストマスター、それにブラックメイル達であったのだから。

 いずれにせよこの決戦がユウダチにとって重要なものであることは変わりない。

 考えている内に刻々と状況は変わる。ケイランが、惹きつけていたもう一方、ヨウハクの言うところの「兎」ではない方のブラックメイルに押され始めていた。

 

 

「ぢゅぢゅうー。んっふ」

 

「ピヨっ……ピヨッ!」

 

「ケイラン! ……っぐえ!?」

 

 

 射撃戦に対応しているエトピリカが、防戦一方となったケイランを援護しようとする。

 そこへ。

 

 

 ごきり ―― ばり、ぼりっ。

 

 

「むぐむぐ。……とりにくぐわうひょー」

 

「兎、キサマッ!?」

 

 

 先ほど攻撃を回避された兎・ブラックメイルが歩み寄っていた。

 頭パーツに噛み付かれたエトピリカは、一撃で両腕と、頭までをも食い千切られている。

 余った電源がバチバチとはぜ、オイルが血液のように噴出す。それらを気にせず咀嚼していたブラックメイルの口元から、

 

 

「戻ってきてくださいです、エトピリカ!」

 

「? うひょぐわー」

 

 

 ユウダチは急いでケイタイにティンペットごと転送した。

 が、それだけでは終わらせない。腕を振るって大声を張り上げ、指示をはしらせる。

 

 

「ヨウハク!」

 

「! ―― 承知!!」

 

 

 意を汲み、ヨウハクがケイランに纏わりついていた挙動不審なブラックメイルを切り捨てに走った。

 

 

「行くぞケイラン!」

 

「ありがとピヨ! ならこっちも……燃やすっピヨ!」

 

「うぢゅうー……ぶへらっ」

 

 

 援護を受けたケイランが、ヨウハクに合わせて攻勢に転じる。

 右腕 ―― メルト攻撃。ケイランのフェニックスメダルが得意とする、強酸による攻撃である。ウインドクラップの右腕だけを、ティーピーというメダロットのパーツに換装してあったのだ。

 ブラックメイルには防御をするという思考がないらしい。不思議そうな目で2体を見つめていたところを、両者の攻撃でもって吹き飛ばされる。

 

 

「戦闘不能ぅ、戦闘不能っっ! ヒカルチーム1、ユウダチチーム2、タイヨーチーム1、野良チーム1残存! ロボトルを続行しますっ!!」

 

 

 ミスターうるちが声を張って戦況を説明する。

 おそらくこのロボトルにおいて戦況など意味を成さないだろうに、とは思うが、公認審判員は職務に忠実である。

 

 

「―― いずれにせよ、残るブラックメイルは沈めなければです……!」

 

 

 残る最大の強敵を相手に、ユウダチは頭を回す。

 ウサギメダルのブラックメイル。格闘戦において、ヨウハクと同等かそれ以上の熟練度を持つ機体。

 現状、ヨウハクは左腕を破損。エトピリカは機能停止。ケイランは脚部を半壊と両腕への深刻なダメージ。

 もっと連携さえうまければ。自分に熟達したロボトルの能力がありさえすれば。ロボトルの練習をしておけばよかったと、今ほど思ったことはない。

 と。

 

 

 ヴヴン。

 

 

「むっ!?」

 

「何の音です?」

 

 

 後ろから響いた充填音に足を止める。

 その大元は。

 

 

「ハカイ、ハkあいiiiーッ!」

 

「ミサイルで対迎撃だメタビー! ……ってだめだ、そういえば弾数がない!?」

 

「おいヒカルぅぅ!?」

 

 

 メタビーと戦っているビーストマスターだった。

 ケーブル状の脚部を波打つ光が昇って行き、カメラアイがぶおんという音を立てて点灯。

 射線上に……

 

 

「巻き添えを食うぞ、ケイラン!!」

 

「ピヨ? ……ピヨッ!?」

 

 

 いち早くさっきに反応したヨウハクが注意を促すも、脚部を破損しているケイランは回避しきれず。

 

 

「ハカイーッ!」

 

 ―― ゴウッ!!

 

 ……ごんっ。

 

 

「ペットネームケイラン、せんと……どわああああっ!? ……ふぅっ」

 

 

 巻き込まれてしまった。

 ついでに飛んだ破片が激突し、ミスターうるちが目を回して倒れこむ。

 

 

「ケイランッ! ……巻き添えでレフェリーさんが気絶したです!?」

 

「レフェリーは捨て置け御主人。それより、これにて最終局面だ」

 

「―― ユウダチ、大丈夫!? メタビーがごめん!」

 

「おいヒカルっ、オレのせいかっ!?」

 

「大丈夫ですヒカル兄さま。ケイランがやられてしまいましたが……ヨウハクが居てくれます」

 

 

 これを機に、ビル屋上を駆け回っていた2人が合流する。

 ヒカルとユウダチは背を合わせ、ヨウハクはタイヨーを背後に庇うブラックメイルと。メタビーは外壁から身体を覗かすビーストマスターと対峙し、じりじりと間合いを計る。

 

 

「遠慮はいらん。やれ」

 

「ロボトルうひょぐわー」

 

「ハカイ! ハカイ! ハカイ!」

 

 

 兎・ブラックメイルがゆらゆらと揺れる。

 揺れるのを見て……はじめに思いついたのは、ヒカル。

 

 

「……ピーン!」

 

「? ヒカルお兄さま。口頭で擬音を発するなんて、もしや、妙案が浮かんだです?」

 

「おお、すげーなちびっこ。いや、オレは判ったけど、今のヒカルの意味不明な行動でそこまで判るとか」

 

「御主人とヒカルの兄君との間にも確かな縁があるということだろう」

 

 

 その周囲を獣の王と兎黒山羊に囲まれながら、少しずつ輪を狭める。

 各々がヒカルの言葉に耳を傾け、

 

 

「ごにょごにょ……ってことでどうだい? あのビーストマスターのタイミングが読めるのかは、ちょっと不安だけど」

 

「これ以上ない案かと思いますです。流石はヒカル兄さまです。……ヨウハク?」

 

「わたしは賛成だ。ただし、あの兎との決着はわたしが着けさせてもらおう。任せるのは一撃だけだ、カブトムシ」

 

「へっ、オレだってあのスパゲティヤローをぶっ飛ばす役目を譲るつもりはねーよ!」

 

「決まったみたいだな。……それじゃあみんな!」

 

 

 構える。

 ヒカルの顔には笑みが、ユウダチの顔にもどろりとした笑みが。

 2人の表情をみたタイヨーも、意気込みを感じたのであろう。

 

 

「ふ、ふはっ、ふはははぁ!! ……行くぞ! やれい、キラビット! ……モグモグフヨード(・・・・・・・・)!」

 

「ロボトルうひょぐわー!」

 

「ぐ、ぅ……ハカ、イイイイイーッ!!」

 

 

 このタイミングだけ。

 ビーストマスターは何故か、兎・ブラックメイルが駆けるのと同じタイミングで充填を開始した。これこそが最大の僥倖だったかもしれない。

 

 

「―― しくじってくれるなよ」

 

「―― そらこっちの台詞だ! ヒカルの邪魔すんじゃねーぞ!」

 

 

 メタビーとヨウハクが一点に集まり、背中を合わせた。

 ビーストマスターとブラックメイルの攻撃点が、重なる。

 横に移動したヒカルとユウダチが機を計り、指示。

 怪訝な顔を浮かべるタイヨーの前で ――

 

 

「「……今だっ/ですっ!」」

 

「その電源ケーブル、貰い受ける!!」

 

「こっち来る前に、落ちやがれっっ!!」

 

 

 互いに目標を(・・・)入れ替える。

 ヨウハクがビーストマスターへ、メタビーがブラックメイルへ向けて。

 昇り来る光の波が……充填が終わる前に、ヨウハクのソードがケーブルを切り倒す。

 

 

「御免!」

 

「ハカッ、ハカカカッ!」

 

 

 メタビーが両腕から銃撃を放つ。

 両腕を振り上げたブラックメイルの充填より早く、その脚部を無数の弾丸が撃ち砕く。

 

 

「オラオラオラッ!!」

 

「うひょっ」

 

 

 仕事を終えたメタビーとヨウハクは、放熱を行いつつ、今度は対象を再度入れ替えて。

 

 

「待たせたな、兎 ――!」

 

「今すぐ楽にしてやっからよ!!」

 

 

 攻撃にかかる。

 しかし相手も、それらを迎撃しようと充填を整えていた。

 ブラックメイルが右手を伸ばし、ビーストマスターが口を開く。

 ヨウハクが迫り、メタビーが雄たけびをあげる。

 

 

「行けぇっ、メタビー!!」

 

「お願いします、ヨウハク!」

 

 

「ハカ、イ ―― ッ!」

 

「うっ、ひょー」

 

 

「「 オオオオ雄々ォォォッ!! 」」

 

 

 メタビーとヨウハクの叫びが重なる。

 ユウダチとヒカルは声援を送りながら ―― 彼らの背中に薄羽のようなものが見えた気がしたが。

 相打つブラックメイルとビーストマスターも、揺らめく雷光を纏ったような気もしないでもないが。

 それも、ほんの僅かな、瞬きの合間のこと。

 瞬間、辺りは閃光に包まれる。

 

 





・スラフシステム
 メダロットの自己修復を支える機能。
 ロボトル後に機体をある程度自己修復させてくれるのはこの機能である。お小遣いにやさしい子供の味方であるが、損傷の度合いによってはやはり新品に買い換えなければならなかったりする。
 スラフ=脱皮。

・がむしゃら攻撃
 脚部の推進力によって攻撃力が上がる。ゲーム通りの仕様。
 しかし実際には飛行タイプの脚部には「かくとう」の値が低いものが多く、威力の代わりに成功値が犠牲となるジレンマ。
 作者私が多用する。

・急加速
 ウサギメダルは充填放熱といった機能を促進するのが得意です(ぉぃ




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14話 星空

 

 晴れ渡る青空。

 メダロットの暴走事件「魔の10日間」は、とある少年少女の活躍によって終幕を見た。

 くらげ海岸に向けて、寄せては返す波。しかしそこに人影はない。かつてあったセレクト隊のビルは残骸と化し、跡形もなく消え去っていた。

 逮捕されたセレクト隊の隊長の言葉を聞くに、宇宙人が出たらしい。

 確かにあれだけの大質量が消え去る様だ。尋常ではない事態だというのは判るが、人類とメダロットとの初遭遇以来、宇宙人との遭遇は未だ確認されていない。

 ……と、普通の人ならば思うところであろう。が。

 

 

「白チャイナの嬢ちゃんなら見かけたんだけどなぁ……やるだけやって逃げやがったな宇宙人のやろう。消すなら消すで、事後処理まできっちり片付けろよな。……まぁ、残してくれたおかげでこうして残飯にありつけるんだが」

 

 

 麦藁帽子をかぶり腹巻を巻いた中年の男が1人、かつてビルの存在した場所を歩いていた。

 「KEEP OUT」のテープを潜り、目当ての場所へと立ち入る。

 丁度中心あたりで立ち止まると、(麦わら帽子があるのにも関わらず)手で庇を作りながら瓦礫を1つづつ退けて行き。

 1時間ほどかけてついに、目的のものを掘り当てる。

 

 

「おっ、あったあった。大きな魚だ。逃がしちまったら大変だ」

 

 

 ぼろぼろになったそれは、2つの機体 ―― ブラックメイル、およびビーストマスターのメダルが入っていた部位である。

 男・ひよこ売り……に扮した特殊捜査官である……はそれらを引っ張り上げ、工具を取り出すと、メダルの周囲をほじくり始めた。

 じきに狙い通りにセーフティが稼動し、ぴぃんという音と共にメダルがはじき出される。男はそれを溢すことなく2枚ともキャッチ。

 摘み上げて、太陽にかざす。

 その1枚はウサギメダル。だがもう一方は、その絵柄が擦り切れて判別できない「?」のメダルと化していた。

 男はまるで、メダルそのものに届いていることを知っているかの様に話しかける。

 

 

「貴重なサンプルだ。ちょっくら付き合ってくれよな」

 

 

 にやりと笑う。

 ―― 不意に、影が差したように思えた。あるいは空を行くカモメのものだったのかも知れないが。

 

 

「……何か不満そうだなぁ、おい」

 

 

 男はため息を吐き出し、タバコを口にくわえる。

 目的は達した。男はそのまま、留めてある船に向けて戻っていった。

 

 

「心配すんなよ。終わったらきっちり、お前らの主人のトコに返してやるさ。これは他でもない、その主人からの捜索願いなんでな。まあ色々と利権は絡んじゃあいるが……ん? ああ、お前らの主人な。今、牢屋の中なんだけど」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ヒカルー? ヒカルー、起きなさい! 今日は学年初めの始業式でしょう? それに、ユウダチちゃんが迎えに来てるわよー!」

 

「……はっ!! そうだった!!」

 

 

 いつもの朝だった。

 朝に響く母親の言葉に、ヒカルはベッドから跳ね起きる。

 急いで着替えを済ませ、ボナパルトを撫でながら、ばたばたと階下に下りてゆく。

 

 

「お早うございますです、ヒカル兄さま!」

 

「お早うユウダチ。うん。小学校の制服、似合ってるね」

 

「ありがとうございますです!」

 

 

 下の階では、いつものツナギではなく、ぴりっとした制服に袖を通したユウダチが食卓について待っていた。

 

 ヒカル達が世間を騒がせた暴走事件を解決したあの夏から、既に半年近くが過ぎようとしていた。

 

 ヒカルは学年を1つ上がり、5歳だったユウダチもあの夏の後に誕生日を迎え、今年中には7歳。小学校へ通う年となっている。

 その進学先は、お嬢様お坊ちゃまが多く通う金持ちの学園らしい。孫娘(ナエである)で悔しい思い(ヒカルの件である)をしたメダロット博士や、事件の顛末を聞いたムラサメ家の両親が、その反動でかユウダチに過保護になりかけているのも関係したのだろうか。

 

 

「本来ならばヒカル兄さまと一緒の学校に行きたかったのですが、折角両親が選んでくれた学校ですので」

 

「ユウダチちゃんは頭が良いんだから、ヒカルなんかと一緒の学校に行くのはもったいないわよー」

 

「? そんなことはないと思うのですけど」

 

 

 ぐてりと傾ぐユウダチを見て、ヒカルの両親は笑い合う。

 ムラサメの家が空く際、こうしてユウダチがヒカルの家に泊まる事が多くなっていた。

 挨拶に来た際にヒカルも会ったのだが、ムラサメの両親は実にまじめな人柄で、大会社の社長とその婦人だというのを全く気にせず、ヒカルや両親に土下座を繰り出してきたものだから驚いた。

 ヒカル自身も、ユウダチを頼むとまで言われている。ただしその兄には、付き合っている恋人がいるという旨の発言をするまではやや白い目で見られていたものだが。

 あれはシスコンだな……いや、ユウダチもブラコンの気があるためどっちもか。

 と考えながら、ヒカルが席に着くと、向かいで新聞を広げた父が大口を開けて笑っていた。

 

 

「あっはっは! 母さんは辛らつだなぁ。……おはようヒカル。疲れは取れたか?」

 

「うん。ばっちりだよ父さん」

 

 

 ヒカルが答えると、父がユウダチと母親がキッチンスペースでわいわいと話を弾ませているのを確認して、こそこそと。

 

 

「……ところでナエちゃんとはどうなんだ。昨日も星を見に、2人でデートだったんだろう?」

 

「港町のほうだけどね……」

 

「くぅー……。海! 星! 追いかけあう二人! 青春だなぁ!」

 

 

 何故か悔しそうなのに嬉しそうだ。

 確かに昨日、ナエとは星を見に行った。良い感じだとは思う。

 ……が、ヒカルとしてはそれを両親に一々報告するのもどうかといった次第だ。

 

 

「ヒカル兄さま」

 

「あ、ユウダチ」

 

 

 気づけば母親が料理をテーブルの上に並べ始めていた。ユウダチがとてとてと駆けてきて、ヒカルの隣に座る。

 

 

「ご飯を食べたら、ボナパルトを連れて公園に行きましょうです」

 

「そうだね」

 

「わたしは花園学園に行かなければならないですが、今日は始業式だけですし、午前だけで終わると思います。終わったらまた研究所に行って、ナエお姉さんと開発したパーツの調整を手伝ってもらいたいのです。ヒカル兄さまにも!!」

 

「良いよ。でも、学校も大切だからさ。誰か友達を作ってきてね?」

 

「はい、ありがとうございますです! 友人の候補についてはあてがあってですね。同学年にアトムの母方の孫娘の方がいらっしゃるようなので、勇気を出して声をかけてみようと思っています、です!」

 

 

 あの一連の事件を乗り越えて、ユウダチは何事にも積極的になったようだ。

 実の兄であるシデンに言われても渋々だった友人作りという課題を、今はこうして自ら、前向きになって試行錯誤している。

 パーツの開発はぱぱっと行って見せるのに、友人作り一つに頭を悩ませる。これもユウダチにとっては大きな成長といえるだろう。

 ……それにしても。

 

 

「? 顔を見つめて、どうしましたですかヒカル兄さま。……はっ!? もしや朝にヨウハクを分解調整した時の油がついてますです!? ナエお姉さまに叱られるですっっ」

 

「あ、いや、大丈夫。何もついてないよ」

 

 

 ヒカルが慌ててフォローするも、ユウダチは鏡で顔や髪型をチェックして初めて安堵の息を漏らす。

 実際の所、ユウダチは美少女だった。

 ぼさぼさだった髪はナエによる指導で整えられ、ツナギは制服へと変わり。油塗れだった身体も気にかけるようになっている。暗く薄暗いその瞳も、こうも外見を変えてしまえばミステリアスさという美点とも取れるわけで。……相変わらず、見慣れなければ淀んでいるのは個性だとして。

 ガラクタの山に身を埋めて発掘してはほれぼれとする部分は変わっていないが、その後の手入れが入るだけでこんなに違うのだ。

 しかも、ヒカルと共に事件解決の英雄となったユウダチは有名人である。

 兎も角、女の子は別にしろ男子など友達になってくれと(視線をずらしながら)声をかければ一発だろう。

 それこそ友達100人も夢物語ではない。確信。

 

 

「……ユウダチ。そのメダロット博士の親戚の女の子、絶対に友達にしておけよ」

 

「? はい。そのつもりですが……そうですね。ヒカル兄さまにも応援されたからには不退転、絶対捕縛の気合を持って友人を目指しますですっ!!」

 

「ふふふ。それとユウダチちゃん、男子には気軽に近づいちゃだめよ? お嬢様学校では貞節は大切にしなくちゃね」

 

「男は狼だからなぁ。気をつけるんだ」

 

「はいです。マイコ母さま、ベイスケ父さま!」

 

 

 両親からの言葉に、ユウダチがどろりと微笑む。

 いただきますと、手を合わせ……

 

 

「……おーいヒカルぅ。早く飯食って散歩に行こうぜ」

 

「御主人たちの食事の邪魔をするな、カブトムシ」

 

「あん? 何だよクワガタ。公園で決着つけてやろうか?」

 

「それで御主人の登校を遅らせていては本末転倒だろう。その程度も判らんか、カブトムシ」

 

「だーっ、喧嘩するなよメタビー!」

 

「ヨウハクも、無闇に煽らないことです」

 

 

 アガタ家のいつもの光景。夕食の際にはナエも加わって、一層華やかさを増すだろう。

 ヒカルは思う。これからもこんな暖かい日々が続けばいいと。

 果たして、その願いは成就するのだが……それはまた、次代の動きが出るまでの、束の間の平和であったりする。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 






・セーフティ
 新世紀メダロットのあれ。演出として心地良い。
 でもティンペットは昔の方がというのは、懐古ですかね。

・花園学園
 歴史もある金持ちの御曹司たちが通う学園。
 事件の顛末を聞き飛び戻ってきたムラサメ家の両親の他、孫同然であったアキハバラアトムの力もあって編入されたらしい。
 次の舞台になることうけ合いである。

・ひよこ売り
 特務捜査官。どこの組織に属しているかは秘密である。
 ちなみにヒヨコは一匹100円。今の時代の子供たちに通じるネタであるのかは不明。
 ……昔は夜店に売っていたらしいのです。

・ヒカルの恋人
 ナエとめでたくも付き合い始めている。
 次の章からはひたすらいちゃいちゃするので胸焼けしそう。



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◇ メダロット2編
1話 雨上がりの今


 

 花園(はなぞの)学園。

 金持達が通うだけあってだだ広い敷地の中。そんな中を、日常にと無数の学生達が行き来している。

 放課後の教室では学生達が教室に残り駄弁っていて。

 

 

「新KWG型のパーツがメダロッターズで先行展示されるらしいぜ?」

 

「ああ、ゾーリンな。でも初代KBT型とKWG型は今でもプレミアもんなんだよなー

 

「メダロット社の企画したスタート・キットだけだっけか。しかもあれ、夏休みに入る前の応募者プレゼントだったから、暴走事件の影響を受けてほんの少ししか生産されなかったっていうし」

 

「そもそも現品自体がないからなぁ。……くっそ、物さえあれば父さん母さんに土下座してでも金を積んでもらうのに」

 

 

 かつてあったメダロットの暴走事件は、当時小学生高学年だった少年と、わずか5歳の少女によって解決をみた。

 かの事件を省み、現在、本体所持にほとんど制限の無かったメダロットには数々の登録と認証が必要になっている。

 本来は所持自体を禁止しろという意見もあったものの、既に世界に浸透している玩具……既に友人とまで呼べるロボットペットの影響力は絶大であり、それら意見については多くの会社の重役達が責任を取るという形で終幕を迎えた。

 

 さて。

 メダロットを使用した競技は多数あるものの、圧倒的な人気を誇る ―― ロボットバトル、通称「ロボトル」というものがある。

 その人気と認知度は凄まじく、世界大会が開かれるほどだ。テレビ中継もなされ、これこそが世界共通言語とすらいえる。

 

 

 ―― ズドォォォンッ!

 と鳴り響いた爆発音も、そのロボトルによるものだ。

 

 

「くらー! そこ! 廊下でロボトルを始めるな! 中庭か第二体育館、もしくは校庭でやりなさい!!」

 

 

 教師が大声を張り上げながら、廊下でロボトルを始めた子ども達を追いかけてゆく。

 やや金に頼るきらいはあるものの、お金持ちだとて、子供達は数年前と変わらず。

 ロボトルをしていた生徒たちを教師が叱り飛ばすと、子供達は慌ててメダロットを転送した後、校舎の外へと走って行った。

 

 ともあれ。

 事件による影響は多々あれど、こうしてメダロットは今日も人間らと日々を過ごしていたのである。

 

 ……が。

 

 

「―― ロボロボロボロボッ♪」

 

 

 金魚鉢を被ったような、あるいは宇宙服のようなスーツの不審人物が、そんな花園学園の校門を出た少年少女らに目を付けていた。

 こっそりと忍び寄る。不審人物は身を低くして、近寄り ――

 

 

「きゃああーッ!?」

 

「? どうしたのです、カリン……」

 

「ロボロボロボ♪」

 

「ロボロボって……です?」

 

 

 校門近くを歩いていた少女2名のスカートが、不審人物の手によって捲り上がる。

 片方、栗色の髪を頭の横で2つ結わえた、大人しそうな少女である……はその裾を押さえて羞恥に顔を染めて。

 片方、長い黒灰色の髪を墨汁のようにすらりと流した少女である……は何か気になる単語が耳に残ったらしく、微動だにせず捲くられて。

 その代わりにと大声を上げた少年が正義感を燃やして、不審者の後を追って走りだした。

 

 

「あいつ、カリンとユウダチのスカート捲りやがった!! こら、待てーッッ!!」

 

「あっ、コウジ……行っちゃいましたです」

 

「……は、ふぅぅ」

 

「カリン、大丈夫です? 身体が弱いのですから無理はしないで……はい、掴まってくださいです」

 

「は、はい。ありがとう、ユウダチちゃん……」

 

 

 ユウダチが他方の少女、カリンの身体を支えながら抱き上げる。少女の体調を気遣いつつ、暫くその場で待っていると、コウジと呼ばれた少年が戻ってきた。

 コウジはどうやら活動的な人物であるらしく、息一つ切らしていないが、戻ってきた所で2人に頭を下げた。

 

 

「……くそっ。逃げ切られた。すまないカリン、ユウダチ!」

 

「いえ。ありがとうございましたコウジ君」

 

「ありがとうとは思いますが、私は別にいいのです。中にツナギを着てますし」

 

「言っておくが、捲くって見せなくてもいいからな。……もっと慎みを持てよ」

 

「あ、それはナエお姉さまにも言われましたです。気をつけますです!」

 

 

 コウジに向けてユウダチがびしっと敬礼。その様子を見てコウジははぁ……と溜息をつき、カリンはようやっと立ち直りうふふと微笑む。

 これが現在のユウダチにとっての日常であった。

 花園学園での日々は、ユウダチという世間慣れしていない少女にとって、刺激的かつ未知に満ち満ちた世界でもある。

 新鮮な毎日を過ごす少女には、喜ばしくも、こうして一緒に下校をするような同年代の友人も出来た。

 

 

「けど、犯人め。この所今みたいな悪戯が頻発してるらしいからな。オレが必ずつかまえてやる!」

 

「おおー。燃えてるです、コウジ」

 

「あの、コウジ君。危ない事はしないでくださいね?」

 

「ええ? カリン、それは無理というモノですよ」

 

「判ってるよカリン。無茶はしない。……ユウダチはちょっと後でロボトルに付き合え」

 

「無理ですー。見ての通り着替えも済んで、これからコウジと一緒にカリンを送ったらそのままメダロット社に直行ですので」

 

「あ、ツナギ……ですね」

 

「だから捲くるなと言ったじゃないか!?」

 

 

 慌てて後ろを振り向くコウジ。

 カリンがついに笑いだし、これで先のスカート捲られの憂いはある程度消す事ができたかな……とユウダチも微笑んだ。

 もう大丈夫かと振り向いたコウジが、その笑顔を直視。

 

 

「……う」

 

「む。コウジ、少女の笑顔に吐き気を堪えるのはどうかと思うです」

 

「……いや、悪いな。なんかこう、本能的な恐怖があって……悪い」

 

 

 コウジは本気で謝罪する。

 しかし雰囲気を敏感に感じ取る彼にとって、ユウダチの時折みせる「どろり」とした笑顔はどうにも慣れないのだ。

 この笑顔さえなければ花園学園のミスコンテストで、お嬢様然として儚げな雰囲気から絶大な人気を誇るカリンにも追いすがる事が出来ただろうに……とはカリンちゃんファンクラブ代表の弁。

 とはいえユウダチにはユウダチでコアなファンがついているらしいのだが。

 

 

「まぁ、視線をそらせなかった私も悪いですからね。でも取り合えず、明日まではぷんすこしておくです」

 

「ふふ。取り合えずなんですね?」

 

「はいです」

 

「ありがとよ。……さて、カリン。送るぜ」

 

「ありがとうございます、コウジ君。ユウダチさん」

 

「それじゃあ行くです!」

 

 

 一先ずの事件はあったが、いつもの通りに下校する3人。

 今はまだ。小さな悪戯にも等しいこの事件が、新たな事件の幕開であるとは……この内の誰もが思ってもいなかった。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 その夜、隣町にて。

 

 夜空に2枚、マントが舞った。

 帰宅途中のサラリーマンが彼らに呼び止められており。

 

 

「だ、だれだお前達は!?」

 

「ふははは! わたしは通りすがりの『怪盗レトルト』! あなたにはこのメダロッチとメダルを受け取っていただく!」

 

「あの、怪しいものではないんです。……わたしはその、相方の『レトルトレディ』でして」

 

「いや、どこからどうみても怪しいぞ!?」

 

「ふはは! それはともかく、このメダロットスタートキット復刻版をお子さんにプレゼントしてあげなさい!」

 

「枕元においておくのがお勧めですね。……お子さん、ちょっとお母さんに怒られて落ち込んでいるようでしたので」

 

「な、なんで我が家の事情が筒抜けなんだ……?」

 

 

 と、絡まれていたりする。

 とある少年……テンリョウ・イッキがメタルビートルの一式のパーツを手に入れるのは、この夜の話である。

 

 

 





・ジュンマイ・カリン
 メダロット博士妻の孫。つまり親戚。
 ユウダチが不退転の勢いでもって友人にした少女。
 ゲームでは病弱設定がある。あと黒くない。

・カラクチ・コウジ
 正義感にあふれる少年。
 なし崩しにユウダチの友人となった。
 が、結果的にカリンの手助けを行う人が増えてくれたため、ユウダチのことはありがたく思っていたりする。

・怪盗レトルト
 世を騒がす怪盗。
 レディを名乗る相棒がいる。



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2話 突撃隣の小学校

 

 おみくじ町。

 花園学園のあるメダロポリスと呼ばれる都市から少し離れた位置にある、長閑な町だ。

 その町の中央部に建てられている小学校、その校門の前に少年と少女が走りついていた。

 

 

「ここがおみくじ町だな」

 

「ですね。看板にそう書いてあります」

 

「まったく。お前がコンビニになんて寄らなきゃあ、もっと早くこれたんだけど……」

 

「ヒカル兄さまに会えて、わたしはご満悦ですが!」

 

「あのコンビニ店員か? でも苗字がムラサメじゃあなかったぞ?」

 

「まぁ色々とあるのです」

 

「お前なら確かに、色々あってもおかしくはないけどな」

 

 

 コウジは何とも言えないユウダチの反応に、頭をがりがりとかいた。

 その腕に巻かれている携帯式の端末、「メダロッチ」をみてユウダチはわざとらしく声をあげる。

 

 

「あ、最新型のメダロッチです!」

 

「……これか? これはこの間、メダロット社からメダリンク上位のメダロッターにお試しで配布されたんだ。お前の家も協賛してるんだろ?」

 

「ケイタイはムラサメの家も協力したですから。わたしも改良を手伝わせていただいたです。が、最新型となるとわくわくするです!!」

 

「お前は確かに、似合いそうだなぁ」

 

 

 コウジが機械を弄繰り回しているユウダチの姿を想像して笑う。

 暫くして、2人は目の前にある学校へと向き直った。

 

 

「それより行くぞ、ユウダチ!」

 

「うーん……それにしても本当にこの中にいるんです? スカート捲りの犯人なんて」

 

「あれから隠れやがって、メダロットを使って犯行を続けてるからな。……でも、いるかどうかは行って見なきゃわからない!」

 

「あー……コウジ、行っちゃいましたです。暴走ですね。引止めの時間稼ぎは失敗、と。カリンに申し訳ないです……。カリンに連絡はしてありますし、私はとりあえずコウジを追いますか」

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 テンリョウ・イッキ少年はトレードマークのちょんまげを揺らし、頭を悩ませていた。

 昨日は父から念願のメダロットをもらったかと思えば、幼馴染のアマザケ・アリカに引き連れられて町をうろうろ。かと思えば今日はジュンマイ・カリンと名乗る美少女と出会ったり……まあこれは役得な気がするが。

 そうして今日は、ギンジョウ小学校に謎の2人組が突撃したという噂が流れ、校庭でロボトルが始められていた。

 アリカと共に校庭を見れば、手始めにスクリューズと(本人達が勝手に)言う3人組が蹴散らされていた。しかも3対1だというのにだ。

 

 

「なってないな。チーム全員でオレのスミロドナットに攻撃を仕掛けてきてどうするんだ? リーダー機も突撃してくるし」

 

「う、うるさいよ! ……退散だ!!」

 

「あ、あねご~」

 

「どろんこだ」

 

 

 悪ガキ3人組は最後にお決まりの台詞を言い捨て、逃げ散っていってしまった。

 2人、突撃してきた少年と少女がぽつんと校庭に取り残されている。

 イッキはその2名の姿を改めて観察する。道場破りかというような威勢の少年と、何やらどろりと首を傾げる少女だ。

 

 

「あっ! くそっ、聞き損ねた……」

 

 

 突撃してきた少年がきょろきょろと辺りを見回し、

 

 

「お前達に聞くぞ!」

 

 

 今度はアリカとイッキめがけて指差した。

 イッキがびくりと身を引き、アリカはシャッターチャンスとシャッターを切る。

 両者とも、正直なんの事だかは分からないのだが。

 

 

「ほら、行くわよイッキ! 取材よ取材!」

 

「やっぱり行くのかぁ」

 

 

 アリカが乗り気に過ぎた。

 観念したイッキは、校内に乗り込まれても困るかと、アリカに連れられ少年と少女の近くに歩いてゆく。

 

 

「……? この人達にも聞くのです?」

 

「ああ。……お前たち、この学校に、スカート捲り事件の犯人が居るんだろう!」

 

 

 突如、少年が声を張り上げる。

 イッキとアリカは顔を見合わせ、

 

 

「ちょっと、言い掛かりはよしてよね!」

 

「そ、そうだよ。そもそもスカート捲りって犯罪じゃないか?」

 

 

 当然の如く反論する。あらぬ冤罪を黙って懸けられているほど、2人も聖人じみた人間ではない。

 すると隣にいた少女がジト目。

 

 

「ほーらー、コウジ。こう言ってるですよ?」

 

「いや、まだだ。……おいそこのお前!」

 

「ぼ、ぼく!?」

 

「オレの名前はカラクチコウジ。オレとロボトルだ! オレが勝ったら、学校の中を案内して犯人を捜す手伝いをするんだ!」

 

「な、なんでー!」

 

 

 流れがわからない! とイッキが抗議する。

 ここでまたもアリカだ。イッキの耳元でこそこそとつぶやく。

 

(イッキ! カラクチコウジといえば隣町にある花園学園でも一番のメダロッターよ!)

 

(……判ったよ。ぼくにロボトルしろって言うんだろ?)

 

(そうそう! あたしは写真を撮らなくちゃいけないものね!)

 

 

 このアリカという幼馴染はジャーナリストになりたいのだそうだ。

 先日、自らのメダロット……過去にあったメダロットの暴走事件を解決した伝説のメダロットと同じ名前である……のメタビーが「謎の技」を発したときにもそうだった。

 ロボトル暦は自分より長いというのに……と、イッキは愚痴を言いながらもコウジの前に歩き出る。

 

 

「わかったよ。それで君の気が済むならロボトルするよ」

 

「出番だな、イッキ!」

 

「……頼むぞ、スミロドナット!!」

 

「―― お呼びですか、コウジ」

 

 

 イッキが了承しメダロットを転送すると、コウジも早速と愛機スミロドナットを転送。

 その姿をまじまじと観察する。全身黄色を中心としたカラーリング。モデルとなったサーベルタイガーのような模様が各所に入れられ……何よりも目を惹くのはその右腕パーツか。

 

 

「でかい爪だな!」

 

「すごっ!!」

 

 

 イッキとメタビーが驚声をあげた。

 右腕は「フレクサーソード」という、「がむしゃら」「ソード」攻撃を実施するパーツである。青く枝分かれした爪が、握りこぶしの裏手から伸びていて、それを食らえば如何程の傷を受けるのかは想像すらつかない。

 メダロッターとして上位の腕前を持っているコウジの威圧感もあるのだろう。イッキはやや及び腰だ。

 

 

「―― 相手をしてやろうぜ、イッキ!」

 

「! メタビー、お前」

 

「いいじゃんか。1対1でやってくれるっていうなら、勝ち目もあるだろ? やろうぜイッキ。男ならどんと構えてロボトルだぜ!」

 

 

 イッキは少し溜息をつきつつ、勝利する可能性は……でも、確かに一対一なら初心者であるイッキにも勝ち目はあるのかもしれない。

 何よりパーツを奪われるかもしれない当人であるメタビーが乗り気ならば、イッキ自身もやぶさかではない。強いメダロッターとのロボトルにも、怖さは確かにあるものの興味はある。どこかわくわくした気持ちだ。

 

 

「……うん、それじゃあ……」

 

 

 と、心を決めたイッキが合意を口にしようとすると。

 

 

「―― 合意と見て宜しいですね!?」

 

「うわっ、どこから!!」

 

「流石は数々のロボトルをジャッジしてきた伝説のレフェリー、ミスターうるち……神出鬼没ね」

 

 

 突如出てきたレフェリーにイッキは吃驚、アリカはシャッターを光らしていた。因みにコウジは半ば無反応。

 身体の所々に花片がついていることからして、花壇にでも隠れていたのだろうか。それはそれで不審者である。小学校ですここは。

 

 

「それに吃驚していたら身が持たないぜ? さっさと準備しろよ」

 

「あ、ありがとう」

 

 

 どうやらイッキに気を使ってくれたらしい。微笑むと、自らの対面に立つよう促してくれた。

 

 

「それじゃあ……行くぜ!」

 

「お相手願います、イッキさま、メタビーさま」

 

「おうよ!」

 

「い、行くぞ!!」

 

「ロボトルゥ、ファイッ!!」

 

 

 開始と同時。

 しゅんっ、という音だけが響いたように、イッキには聞こえた。

 レフェリーの振り下ろした腕と同時かそれ以上の速さで地を蹴って、スミロドナットがメタビーへ肉薄する。

 

 

「―― む」

 

「そこだぁっ!!」

 

 

 が、メタビーはしっかりとそれを捉えていた。

 スミロドナットが振り上げる左腕の拳による打撃(ハンマー)を、

 

 

「そらっ!」

 

 ―― がつっ!

 

「うぉ!?」

 

「やりますね……」

 

 

 コウジもスミロドナットも驚きの声。

 あろうことか、メタビーは本来得意でない格闘戦でもって応じてみせたのだ。

 打撃を、銃撃を行うための砲身を備えている右腕で弾き ――

 

 

「くっ……そのまま切り刻めっ!!」

 

「はいっ!!」

 

 

 今度はコウジの指示によって右腕の大爪が振るわれる。

 ……勝負は最初の接近で、とメタビーは決めていた。

 都合よく始めから最大の武器を使ってくるかは賭けであったが、コウジはやはり頭に血が上っているようだった。

 突き出される右腕に、

 

 

「オラぁっ!!」

 

「なんとっ!?」

 

「蹴りで防いだだとっ!?」

 

 

 こんどは脚部パーツ「オチツカー」を振り上げて相殺して見せる。

 射撃攻撃を予測していたコウジと、スミロドナットの表情が再度の驚きに染まり、シャッターチャンスを逃さずアリカがフラッシュを焚く中。

 

 

「イッキ!」

 

「おお! ミサイル、撃てーッ!!」

 

 

 メタビーの放ったミサイルが、我武者羅な攻撃の後で無防備になったスミロドナットの両腕から頭を爆破、破壊して見せた。

 





・メダリンク
 電脳回線を利用したロボトルを行うことができる端末、およびそのランキングの事。
 勝利ポイント制のため、参加数と勝率が重要になる……というのは独自設定。

・メタビー
 世界大会で優勝し、メダロットの暴走事件「魔の十日間」を解決した伝説的メダロッターのカブトムシ型メダロットの愛称。
 メダロッター自身の名前はあまり知られていなかったり。

・テンリョウ・イッキ
 おそらくはメダロットで最も有名な主人公。ナンバリング2、3、4と外伝の主人公、旧世紀Gでは成長した姿で登場。新世紀ナンバリング7のレトルトポジションやデュアルにも出演。加えてアニメ化もした。
 ちょんまげがトレードマーク。





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3話 ムラサメの少女、成長中

 

 

「やったじゃないイッキ!」

 

「オレの力だよな!」

 

「ありがとうメタビー。……強かったぁ、コウジ」

 

「そう、それよ! 見た? あのスミロドナットの高速移動! 流石は花園学園で1番のメダロッターよね!!」

 

 

 当初の目的を忘れひとまずの勝利に、イッキもメタビーも喜んで飛び跳ねていた。その様子をアリカがひたすらカメラに収め、しかし、

 

 

「? オレが花園学園で1番……ってのは、何の話だ?」

 

 

 その台詞の中にあった単語に反応し、コウジが疑問符を浮かべた。

 当のアリカも疑問符でもって返す。

 

 

「だってカラクチコウジって言えば、最年少でメダリンクトップ10入りを果たした天才メダロッターでしょ? 花園学園なら1番強いじゃない?」

 

「いや、メダリンクを基準にされても駄目だろ。あれは回線繋がっているところしか参加できないし、そもそも接続回数が多いと有利だ。……花園学園で1番強いのは多分、こいつだぞ」

 

 

 そういって、コウジが隣に居た少女を指す。

 イッキとメタビー、アリカの視線が一手に集まる。

 しかしその少女はというと、

 

 

「ほら、動かないでくださいですスミロドナット! ティンペットの初期修理は自己修復を早めるのに大切なんです!」

 

「す、すいませんユウダチさん……」

 

 

 少女は何故か制服のまま砂場に座り込み、スミロドナットの左手に肌色をしたテープ……外皮テープを巻き始めていた。

 話題に出そうとしたコウジが若干頭を抱え、言いよどみながら。

 

 

「おい……ユウダチ……」

 

「はい終了です! コウジ、戻して良いです!」

 

「分かったよ……お疲れスミロドナット」

 

 

 聞いていない訳ではなかったのだろう。コウジがスミロドナットをメダロッチに戻すと、ユウダチはイッキとアリカの前に進み出た。

 イッキが顔を見つめると……ユウダチは真顔のまま。

 

 

微笑む(おどす)なよ?」

 

「わかっているですコウジ。……さて、こんにちはです」

 

「こ、こんにちは」

 

「ど、どうも」

 

 

 そして差し出された右手をイッキ、アリカが順番に握手。

 ……思ったよりもしっかりとした、いつも何かを弄っているような手だった。と、イッキがその手の感触を反芻していると、ユウダチが自己紹介を続ける。

 

 

「わたしはムラサメ・ユウダチと言います。コウジとは同級生です」

 

「……! ムラサメ・ユウダチ!!」

 

「どうしたのさアリカ。急に大声を上げて」

 

「この娘、メダロットの暴走事件を解決したっていう!!」

 

 

 息切れ切れになりながら説明を続けるアリカの指摘に、イッキも記憶を探る。

 ……名前自体には聞き覚えがないが、話には聞いたことがある。確か、使っているメダロットは……と考えてしまうあたり、あまり名前は覚えていなかったか。

 アリカがユウダチへと詰め寄って。

 

 

「あの、ムラサメさん!」

 

「ムラサメって呼ばれるのはあまり……。できればユウダチと呼んでくださいです、アリカさん」

 

「あ、そうなんだ。僕はイッキ。宜しくね、ユウダチ」

 

「はいですイッキ!」

 

 

 と、終始和やかになった空気。だがそれをアリカが破り捨てる。

 

 

「そ、それでユウダチさん!」

 

「はい、なんでしょうです」

 

「取材をさせて頂けませんかっっ!」

 

 

 がしりとその手をとるアリカ。

 目をぱちくりとさせたユウダチが、傾ぐ(でろり)

 

 

「そうですね……」

 

 

 焦らすつもりはないのだろうが、辺りを見回して。

 その視線が、コウジで止まって。

 

 

「まずは謝罪です。コウジの不躾な決め付け、すいませんです。はいコウジ」

 

「……すまない。頭に血が上ってた」

 

「「あっはい」」

 

「イッキ、赦してくださいますです?」

 

「う、うん。まぁ勝てたし」

 

「アリカさんはどうです?」

 

「スクープになったし、まぁ、被害はスクリューズだけだし」

 

 

 周囲の面々が好意的だと確認し、改めてユウダチが距離をとる。

 

 

「ありがとうございますです。それで、取材ですよね。良いんですが……うーん。時間がないんですよね。時間が取れる機会があれば、お受けしますです。連絡先を交換しましょう」

 

「あ、ありがとう! 特集を組むから、是非宜しくね!!」

 

「んー……私に特集を組むほどの特ダネがありましたです……?」

 

 

 唸るユウダチを気にせず、アリカはぶんぶんとカメラを振り回して喜びを表している。

 そんな様子をイッキが見つめていると、コウジがとある方向を振り向いた。追って、視線を向ける。

 

 

「カリン!?」

 

「コウジ君……あ、イッキ君?」

 

 

 コウジが驚き、美少女がイッキへ視線を向ける。

 イッキにとっても見覚えはあった。

 

 

「えっと、カリンちゃん?」

 

「ちょっとイッキ、いつの間にこんな可愛い子と知り合いになったのよ!」

 

 

 校門から入ってきた少女に向けてアリカがとにかくフラッシュを焚く。

 もう何でもいいのか……むしろ肖像権はないのか……とイッキは悩むものの、それよりもカリンちゃんである(酷い)。

 カリンは、先日テンリョウ家の愛犬ソルティが迷っている所をみつけ、イッキが案内したという出会いで見知った少女だ。

 その彼女が、なぜここにいるのかは判らないのだが……

 

 

「ごめんなさいです、カリンー。コウジは結局暴走しましたです」

 

「ありがとうございます、ユウダチちゃん。コウジ君、謝りました?」

 

「うっ……い、一応は。ユウダチが冷静にさせてくれた」

 

 

 ユウダチが仔細を報告していたらしい。コウジはばつが悪そうに頬をかく。

 どうやら力関係は見えてきたな、と思うイッキのその前にカリンが出て丁寧に頭を下げた。

 

 

「そうですか。わたくしからも、すいませんでした」

 

「どうしたの、カリンちゃん?」

 

 

 イッキが理由を尋ねると、カリンが申し訳なさそうにうなだれる。

 

 

「コウジ君は、わたくしのスカートを捲った犯人を捜そうとしてくれていたんです。悪気はなかったみたいなので、許して頂ければうれしいのですが……」

 

「それは大丈夫。むしろロボトルに勝ってパーツを貰っちゃったし」

 

「まあ! イッキ君、コウジ君に勝ったんですか? お強いんですね!」

 

「そ、そんな事はないよ……」

 

「……むぅ。あたし無視されてる」

 

 

 照れて頭をかくイッキの横でむくれるアリカ。それを見て、頃合と見たユウダチが仕切り直し。

 

 

「さて、それではカリンも来てくれましたし退却です」

 

「おい、スカート捲りの犯人はどうするんだよ!」

 

「そんなのセレクト隊に任せるお仕事です。それより他校にあんまり長居して目立つのも良くはありませんですよ」

 

「……それもそうか」

 

 

 何とかコウジを説き伏せてくれたようだ。

 ……コウジを諌めるのに慣れているんだろう。ユウダチの口ぶりは実に滑らかなものだった。

 カリンとユウダチが連れ立って校門まで移動し、一礼して去ってゆく。

 少し遅れていたコウジが振り向き、

 

 

「テンリョウイッキだったな! 次は勝つ!」

 

 

 一方的な宣言をして、2人の後を追っていった。

 

 

「天才メダロッターのライバル宣言! 更に英雄的メダロッターとの邂逅! 今度の記事はこれで決まりね!!」

 

 

 すこし呆けたイッキの隣で、アリカだけがやけに嬉しそうにペンを動かしているのが印象的な、事件の顛末であった。

 

 後日イッキ(スカート装備)は、スカート捲りの実行犯として退治したロボロボ団員に、被害を被った分、ちょっとだけ恨みを込めてロボトルを挑んだとか。

 





・スクリューズ
 イワノイ、カガミヤマ、親分のキクヒメによる悪ガキ3人組の通称。
 だいたいかませになる。

・イッキ(スカート装備)
 イッキはスタッフに執拗に女装させられる。その一つ目。
 アリカのスカートを借りて、スカート捲りの犯人をおびき出す作戦に使われた。

・アマザケ アリカ
 イッキの幼なじみ。家が近い。活発。番記者。
 メダロット6どころか7にも(名前だけ)登場するので、他方のヒロインよりも若干優遇されている気もしないでもない。


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4話 おどろ沼と幽霊①

 

「イッキ、おどろ沼に行くわよ!」

 

「また急な話だねアリカ」

 

 

 コウジたちの襲撃から数日。

 休日を控えた放課後の教室で、アリカが急に打ち出した計画に、イッキはとりあえず仔細を尋ねることにする。

 

 

「どうしておどろ沼に?」

 

「この間、ユウダチちゃんに取材をする約束をしたじゃない? その段取りがついたのよ」

 

「それでなんでおどろ沼に行くことになったんだよ」

 

「それがね……」

 

 

 アリカが順に説明を行う。

 どうやら、ユウダチとコウジはカリンの外出に付き合っておどろ沼に行く予定があるらしい。

 おどろ沼はおみくじ町の北側にある山際の水場だ。散歩道として選ぶ人は少ないが、そこはコウジのこと。そのついでに近頃噂になっている「幽霊」について調べに行くのだそうだ。

 で、コウジとカリンが行くとなると、友人であるユウダチも一緒に行動する。ユウダチがおどろ沼にいる間、アリカと行動を共にして、一緒に取材を受けるという流れらしい。

 

 

「……にしても、スカート捲り事件が解決したと思ったら今度は幽霊かぁ」

 

 

 スカート捲り事件の犯人は、結局ロボロボ団だった。

 明るい世界にとか何とか言っていたが、半ば八つ当たりに近いイッキの猛攻により観念してもらった。女装していたために身を隠し、最後にはセレクト隊に手柄を譲ったものの、こうも事件が続くとは……と、微妙な心持である。

 

 

「大勢の人が謎の幽霊に驚かされている間にパーツを取られてしまっているんだって。こっちも一緒に取材できたら一石二鳥で良いんだけど」

 

「それは欲張りすぎじゃないかな? ユウダチだって忙しいんだろうし、集中してあげなよ」

 

「できれば継続連載記事とかにしたいわね」

 

「なんだかなぁ……」

 

 

 頭をかきつつ、イッキは来るおどろ沼に向けて準備をしなくちゃなぁ……と頭を悩ませ始めていた。

 

 

 

 

 

「あ、ユウダチちゃん。……え、おどろ沼に? 幽霊? ああ、パーツを盗難されているという……。ええ、ええ。……そうですか、ロボロボ団が。……判りました。ヒカルさんに連絡してみますね」

 

「なんじゃナエ。ユウダチからの連絡かの?」

 

「はいおじいさま。ロボロボ団の活動についての定期報告です」

 

「そうか。あやつにも随分と苦労をかけとるからの。さっさとヘッドシザースのパーツの改修を終えてやりたいもんじゃが」

 

「まだちょっとかかりますね。ふふ。今回はヒカルさんに頑張ってもらいましょう」

 

「あやつはあの格好にノリノリじゃからの……」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 翌日、イッキとアリカはおどろ沼へと訪れた。

 むき出しの地面と、合間を走る川が印象的だ。幽霊メダロットの噂があることも一因なのだろうが、元から不気味な様子がある山だなぁとイッキは感じるが。

 しばらく山道を進んでいると、花園学園の3人組が見えてきた。

 

 

「おはようございますアリカ、イッキ」

 

「おはようユウダチ! 今日は取材、宜しくね!」

 

「おはようカリンちゃん、コウジ。ユウダチもおはよう」

 

「はいです!」

 

「いきなり呼び捨てかよ……」

 

「はい。よろしくお願いしますね」

 

 

 合流してそれぞれが挨拶。

 それを済ませると、まずは5人揃っておどろ沼のほとりへと向かう。するとコウジがカリンが木陰に入る位置に陣取った。

 

 

「カリンは身体が弱いからな。できるだけ日陰で話をしようぜ」

 

「そうなの? 大丈夫カリンちゃん?」

 

「はい。少しずつ休んでいれば大丈夫なんです。お気遣いありがとうございます、イッキ君」

 

「イッキ、あんたって……」

 

 

 ジト目のアリカ。おそらくカリンにだけ優しくしているとか言い出すのだろうと、イッキが謝り、ユウダチがそれを興味深そうに眺めて……しかし、ふんすと切り替える。

 

 

「それでは行動方針を確認しますです。コウジとイッキは、噂の幽霊を探して勝負するんですよね?」

 

「おう!」

 

「多分……」

 

「もう、多分って何よイッキ! あたしはユウダチの取材をするんだから、幽霊の記事はアンタの働きにかかっているのよ!?」

 

「まあまあ、落ち着いてくださいですアリカ。幽霊については私も探しながらになるので、あわよくばアリカも目撃できると思うですよ?」

 

 

 鼻息の荒いアリカをなだめながら、ユウダチは続ける。

 

 

「とはいっても、わたしの主な目的はカリンの付き添いです。カリンは私と一緒にいるですが、歩き疲れたら休みますし、幽霊が歩き回って見つかるのなら苦労はありませんです。過度な期待はしないでくださいね。あ、その代わりに取材はなんでも受けるので!」

 

「う、うん」

 

 笑顔で言い放つユウダチにアリカは押され、頷いた。

 ……何だか威圧感のある笑顔だなぁ。と感じるものの、それも一時のこと。再び話し出したときには、既に威圧感は消えていた。

 

 

「それじゃあ解散にしましょうです。イッキ、コウジ、頑張ってくださいね。成果を期待していますです!」

 

「よし! 勝負だイッキ! オレは先に行くぜ!!」

 

 

 ユウダチが解散を告げるなり、コウジはどこかへと走っていってしまった。あんなに一目散に走っていくとなると、何か、あてがあるのだろうか。

 

 

「コウジ君は元気ですわね」

 

「うーん、取材のお供となるとあれくらい元気があったほうが良いわね」

 

「とはいえカリンをあの家から連れ出すとなると、コウジが重要な役目です。あれでも色々と頑張ってくれているですし、こういう時くらいは存分に熱血させてあげたいですよ」

 

 

 女子3人はといえば、揃ってコウジを見送った。

 さて。勝負をするとは言ったものの、イッキ自身は何も心当たりがない。

 だとすれば、

 

 

「暫く一緒に歩くです? イッキ」

 

「そうしようかな」

 

「まぁ、アンタは心当たりがある訳でもないでしょうし、それでも良さそうね。カリンちゃん、歩けそう?」

 

「はい。今日はお日柄も良く曇りですから、まだまだ歩けますわ」

 

 

 ユウダチの誘いに乗って、ひとまず、イッキは女子3人と行動を共にすることにした。

 

 





・ロボロボ団
 未だに小ズルイ悪さをしている組織。
 2のリメイク版においては黒の全身タイツで表記されているのだが、今作では続編を鑑みて金魚鉢+タイツの容姿を選択している。
 ゴキブリと同じくどこにでもいる、とはゲーム中のモブ少年の発言。言い得て妙だと私は思います。

・フラグ記号
 20161112、追記修正に伴う変更点として削除しました。あしからず。
 ちなみに、次の話に分岐点が移行しています。
 順次、追記修正の予定。


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5話 おどろ沼と幽霊②

 

 散策を始めたユウダチとカリン、それにアリカとイッキは、おどろ沼を西へ向かって歩き始めた。

 時折ユウダチが暴走事件のことや自分の家柄について、もしくは仕事について、カリンとの出会いの話などを交えながらアリカの質問に答えてゆく。

 

 

「で、私は兄さまと一緒に相手のメダロットを撃破したわけなのです」

 

「へぇ~! やっぱり凄いのね、ユウダチ」

 

「うーん……凄いのは兄さまや、頑張ってくれたヨウハクだと思うですけど」

 

「そういえば兄さま、っていえばムラサメシデン君もロボトルが強いみたいよね。……あ、そのヨウハク……って言うクワガタメダロットは今は居ないの?」

 

「ヨウハクは今、メダロット博士とナエお姉さんの所でオーバーホール中なのです」

 

「そっかぁ。伝説のメダロッターとそのメダロットの片割れ、見てみたかったけどなぁ~」

 

「? 私たちのロボトルが見たいのです?」

 

「そりゃまぁ、できることならね。ねぇイッキ?」

 

「それはもちろん!」

 

「はふぅ、そうですか……うーむ」

 

 

 アリカの問いに、イッキは全力で同意する。コウジをして強いと言わしめるユウダチだ。そのロボトルを見られるのであれば、是非とも願うところである。

 木々の間を抜けると、川を渡るためのつり橋が見えてきた。

 すると、悩んでいたユウダチが顔を上げ、その先を指差した。

 

 

「ちょうど良いです。あれを見てください」

 

 

 イッキたちが、さした先へと視線を向けると。

 

 

「……なんだ、あれ?」

 

「まぁ。山伏さんたちですわね」

 

「何であんなに並んでいるのよ」

 

 

 カリンの言葉にあるように、山伏たちがずらりと並んでいたのだ。

 ユウダチはそちらの方向へ向けて、笑顔のまま歩いてゆく。

 

 

「ちょうど、シノビックパークの開演前イベントが開催中なんです。どうです、イッキ。わたしとカリンと一緒に、ロボトルをしませんです?」

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 などという運びで始まった、山伏たちとのロボトル連戦なのだが……ユウダチとカリンの参加もあり、かなり一方的な試合となっていた。

 

 

「お願いします、セントナース(クイックシルバ)。皆さんをお守りください!」

 

「わかったよカリンちゃん。そーれ!」

 

「趣くままに、エトピリカっ!」

 

「おうよ。狙い打つ、と言いたいとこだがこいつら相手なら撃つだけで十分だっ!」

 

「で、イッキ。オレはあのリーダー機を殴りにいけば良いのか?」

 

「せめてミサイルとか撃つくらいにしとけよ、メタビー」

 

 

 カリンちゃんのナース型メダロット、セントナースが全体を防御。

 ユウダチのコウモリ型メダロット、ゴーフバレットが山伏たちの飛行型メダロット……というか同型機のゴーフバレットすら次々と対空射撃の餌食としてゆく。

 攻撃は全てエトピリカ狙い。そしてエトピリカが反撃で次々と撃墜もしてくれる。おかげでリーダー機扱いされているはずのメタビーは、殆ど出番がない有様だった。

 アリカはというとその様子を次々と写真に収めており……後ろでじっくりと見ることができたためか。ユウダチのメダロット・エトピリカの後ろにいたメタビーが感心した風に腕を組む。

 

 

「でも、あのエトピリカとか言うやつ、熟練度が半端ないな。いくら対空射撃だとはいえ、全部を全部頭に直撃させるなんて芸当は難しいぞ?」 

 

「そうだなぁ。しかも相手の対空射撃はクイックシルバの防御範囲にうまく滑り込みながらいなしてる。チームでのロボトルにも慣れてる感じがするよ」

 

 

 流石はコウジが言うだけのことはあるなぁ。でもメタビーお前さぼるなよ。と、イッキがぼやいている間にも、エトピリカが相手の機体を撃墜。

 結局最後の山伏も、あっさりと勝利してロボトルを終えることができてしまった。

 

 

「やりましたわね、イッキ君」

 

「うん。でも、ほとんどカリンちゃんとユウダチのおかげだと思うけどね」

 

「いえ。メタビーちゃんがクイックシルバを狙ってくれる相手を引き受けてくれたので、遠慮なく守ることができました。ありがとうございます」

 

「お、わかってるなーカリン。こういう渋い仕事ができるのもオレならではだからな!」

 

「だけどメタビーお前、近づいてきた敵をぶん投げるって、メダロットの戦いじゃあないだろ……」

 

「むむ。ユウダチってば、やっぱり只者じゃあないわね……」

 

 

 面々がロボトルの結果について話をしている間、何かを山伏と話していたユウダチガ戻ってくる。

 

 

「それではイッキ君。はい、これを進呈するです」

 

「……これは、メダル!?」

 

「クマメダルと、それに男型ティンペットが参加者全員のメダロッチに配信されるそうです。イベント参加と勝ち抜き制覇の賞品ですよ!」

 

 

 イッキの掌に、デフォルメされた熊の描かれたメダルが置かれる。

 が、あわてて首を振りながらつき返す。

 

 

「もらえないよ!?」

 

「? なんでです?」

 

「だって、今回活躍したのはぼくじゃないし……」

 

「んーむ、活躍の度合いで決めるのも変だと思いますが……カリンは欲しいです?」

 

 

 ユウダチがカリンに話題を振ると、カリンはすぐさま首を振る。

 

 

「わたしは余りメダロットの数を持っていませんし、それにパーツの数も少ないです。ユウダチちゃんは?」

 

「私もおんなじですね。……アリカ?」

 

「んー、貰えるなら貰うけど、でもあたしは今回のロボトルには参加してないもの。こうなったらイッキが貰うのが筋じゃない?」

 

 

 堂々と巡って、やはりメダルはイッキの元へと戻ってきた。

 イッキは首を傾げて、

 

 

「うーん……良いのかな」

 

「いいじゃねえかイッキ。貰っておこうぜ。後で役に立つかもしれないだろ?」

 

「……じゃあ、貰っておくよ。ありがとう、皆」

 

 

 僅かに気後れはあるものの、メタビーの言う通りだ。それに、余りたらいまわしにされてはこのメダルが可愛そうな気もする。

 イッキがメダルを受け取り、メダロッチに格納したところで、カメラを首に提げたアリカが近くに寄ってきた。

 

 

「それじゃあユウダチのロボトルの場面も撮り終わったし、幽霊探しに行く?」

 

「アリカ、良いの?」

 

「まあね。記事になりそうな部分は大分取れたし……それに、コウジ君をほったらかしにしておくとどう暴走するかわからないじゃない?」

 

「あ、そうですそうです。……アリカが良いのなら、幽霊を探しに探索をするです。カリン、疲れてないです?」

 

「あの、実は、少しだけ……」

 

 

 カリンが申し訳なさそうな表情を浮かべながらつぶやく。

 とはいっても、ロボトルの連戦だったのだ。病弱だというカリンにしてみれば、体力の消耗は激しかったに違いない。

 

 

「それじゃあです……イッキ」

 

「? なにかな、ユウダチ」

 

「この川のそばで少々、カリンと一緒に休憩を取ってもらっていて良いです?」

 

「ぼっ、ぼくが!?」

 

 

 ユウダチからの提案にイッキが声を上ずらせる。

 隣のアリカが不満そうな顔をして。

 

 

「イッキが? カリンちゃんと? ……2人で?」

 

「すいませんです、アリカ。コウジの活動範囲を考えると、私はまず探しにいかなければなりません。次いでイッキ……と言いたい所ですが、アリカ。貴方は一つ所でじっとしていられます?」

 

「うーん、それくらい大丈夫だと思うけど」

 

「ではそれは、目の前をスクープが通過してもです?」

 

「……うっ」

 

 

 指摘されたアリカは顔をしかめた。その状況、アリカなら追いかけそうだなぁ……とはイッキも思ってしまう。

 つまり、イッキがカリンの休憩に付き合うという布陣は消去法なのである。

 アリカが渋々頷くと、ユウダチとアリカが連れ添ってあたりの捜索を始め、後にはイッキとカリンだけが残された。

 

 

 

 

 

 

 ◆1

 

 

「……ふぅ」

 

「大丈夫? カリンちゃん」

 

 

 木陰に入ったところで座れる場所を見つけ、イッキはカリンを座らせてその横に立っていた。

 その顔色を見れば、やはり先ほどと比べてやや血色が悪いように見える。

 そんな風に自分を気遣うイッキを見上げ、カリンは微笑んだ。

 

 

「大丈夫ですわ、イッキ君。コウジ君との勝負があるのに、つき合わせてしまって申し訳ありません」

 

「……あ、そういえば勝負してたんだった」

 

「まぁ……ふふふ。忘れてらしたんですか?」

 

「そうみたいだね。ユウダチと一緒にロボトルするのに集中していたからかなぁ」

 

 

 鮮やかな橙の髪で結われたツインテールが、風が吹くたび、カリンが笑うそのたびに揺れる。

 

 

「ユウダチとコウジっていつも一緒なの?」

 

「はい。お二人とも、小学校にあがってからの親友です」

 

 

 とは言いつつも、カリンの表情は芳しくないものだ。

 イッキがいぶかしんでいると、カリンもその表情に気づいたのだろう。やや取り繕って。

 

 

「……その、わたしは身体が弱くって。お父様は家に居ろ、家に居ろって仰るんですけど……そんな時、コウジ君とユウダチちゃんはいつもわたしを連れ出してくれました」

 

「そうなんだ」

 

「はい。それはとても嬉しいのですが……ご迷惑ばかりをかけてしまっていると思うんです。コウジ君は見ての通り活発な性分ですし、ユウダチちゃんだって、本当はもっとしたいことがあるはずなんです」

 

 

 カリンは思いつめたような感じで話す。

 ……確かにそうかも知れないとも思う。が、イッキとしては。

 

 

「……そうでもないんじゃないかな?」

 

「え?」

 

 

 頭の後ろで結った自分のちょんまげを弄りながら、遠く……ユウダチたちの歩いていった方向を見ながら口に出す。

 カリンの、驚いているであろう声だけを聞きながら。

 

 

「コウジもユウダチも、多分カリンちゃんのことは大切な友達だよ。友達だから、放って置いたらそれはそれで気になって仕方がないんじゃないかな?」

 

「ですが……」

 

「それにカリンちゃんと一緒に居るときのユウダチのあの顔、見た? 楽しくって仕方がないって顔をしてたよ」

 

「……」

 

「だからカリンちゃんが心配する必要はない……と、ぼくは思うよ。もうちょっと体力をつけたほうが良いって言うのは、そうだろうけどね。……ごめん、偉そうだったかな?」

 

 

 生意気だったかな……と、ここでイッキはカリンの様子を伺う。

 暫く何かを悩むそぶりをみせてから、カリンが立ち上がる。

 

 

「……いえ。ありがとうございます、イッキ君」

 

「大丈夫?」

 

「はい。……あの」

 

「うん」

 

 

 視線を合わせる。

 ややあった間の後。

 

 

「わたし、自分に甘えるのはやめてみようと思います。もちろん、無理をしない程度にですけれど」

 

「そうだね。ぼくもそれが良いと思う」

 

 

 そうして顔を上げたカリンの顔はイッキにとって、さっきのものよりも、少しだけ輝いて見えていた。





・クイックシルバ
 カリンのメダロット、セントナースの愛称。
 漫画版のカリンのつけた名前より。
 意味は「水銀」。物騒な。



 202200527 書き方変更のため、記号削除。


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6話 おどろ沼と幽霊③

 イッキとカリンが暫くその場で休憩(きゃっきゃうふふ)していると、コウジを連れたユウダチとアリカが戻ってきた。

 聞けばどうやらコウジはセレクト隊の隊員から情報収集をしていたらしい。言われてイッキが辺りを見回すと、確かに、おどろ沼周辺にはセレクト隊が余剰以上に配備されているように感じられた。

 

 

「多分、あの小屋の中にアワモリ隊長が居たですから、幽霊の噂を聞きつけた隊長に皆さん引き連れられて来たのだと思うです」

 

「うん、アタシのジャーナリストの勘もそう言ってる。それにしてもアワモリ隊長か……あんまりいい噂は聞かないわよね?」

 

「ああ。だと思ったから、オレは周囲にいたセレクト隊員にそれとなく聞き込みをしてたんだ。奴等はロボロボに負けず劣らずだからな。ぽろっと口にしてくれるんだよ、これが」

 

「それで、何か収穫はあったのコウジ?」

 

 

 イッキが当然の流れで尋ねると、コウジは露骨に顔をしかめた後で溜息を吐き出した。

 

 

「……イッキ。お前さ。オレと勝負してるっての忘れてないか?」

 

「……あっ!?」

 

「まあいいじゃない。ここからまた勝負を始めれば。コウジ君を探している間、こっちだって色々と収穫があったんだから。ねえユウダチ?」

 

「はいです。先ほど山伏の皆さんに状況を伺いました。いつも山に入り浸っている山伏さんたちであれば、状況の変化には敏感だと思ったですので」

 

 

 ユウダチの思考を聞いたコウジが成る程な、と頷く。

 イッキとしてはさっきのロボトルには情報収集の意味合いもあったのか、と驚くばかりだ。アリカは何やらメモを取っており、カリンはそんなユウダチがどこか誇らしげに微笑む。

 メモを取り終わったアリカが、ふんふんと頷きながらも先を促した。

 

 

「それじゃあ情報を出し合いましょうか。はい、コウジ君から」

 

「何でお前が仕切るんだ? ……まあいいか。オレがセレクト隊に聞いて回った所、どうやらおどろ沼周辺でもロボロボ団が確認されてるらしい。セレクト隊はロボロボ団の仕業じゃないか、って睨んでるみたいだな」

 

「ふむふむ。じゃあ、ユウダチの番ね」

 

「山伏の皆さんも、ロボロボ団は目撃しているようでした。目撃された場所は、下流から上流まで満遍なく散見してますです。特に、木の上で昼寝をしていただとかいうのが多いですね」

 

「「「木の上で昼寝ぇ!?」」」

 

 

 コウジとアリカ、それにイッキも思わず声を揃えてしまったが、ユウダチは特にリアクションも無く肯定。

 そんなユウダチを見て、……いや。確かによくよく考えれば、と、3者共に冷静になって納得。ロボロボ団とはそういう奴らなのである。

 すると、コウジは拳をぱしんとうって。

 

 

「となると上流か、下流か……こうしちゃいられない。イッキ! オレは先に探しに行くぜ!」

 

「あっ、コウジ」

 

「行っちゃいましたです。……探し出した私たちの苦労はなんだったんです」

 

「ふふ。でもコウジ君、楽しそうでした」

 

 

 それぞれがコウジの熱血ぶりにやれやれと思いましたものの、カリンにこう言われては仕方があるまい。

 姿が見えなくなったところで、イッキは腰を上げた。

 

 

「それじゃあぼくも行こうかな。あんまり張り合うつもりは無いけど、コウジに呆れられるのもそれはそれだしさ」

 

「ん? それじゃあアタシもイッキと行くわ。取材はある程度終わったからね」

 

「そうですか。私はもう少しカリンと休んでいきますので、イッキもアリカも気をつけて下さいです」

 

「ケガはしないでくださいね。それと、コウジ君をお願いします」

 

 

 カリンとユウダチはそう告げて、上流の方角へと歩いていった。あちらは確か、仮設の休憩所があったはずだ。多分そこに向かうつもりなのだろう。

 アリカと2人残ったイッキは、さてとやる気を出して伸びをして、歩き出した。

 

 

「それじゃあアリカ。まずはこの辺りでロボロボ団を探してみようか」

 

「そうね。行くわよイッキ!」

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 探し始めたは良いものの、少なくとも見える範囲にロボロボ団が居ないのは確実だろう、とアリカとイッキは判断していた。

 なにせ周囲にはセレクト団員が大勢おり、どこかでロボロボ団員が現れたならば、それなりの騒ぎになっていてもおかしくは無いだろうと考えたのだ。

 少なくともこうして全く動きがないというのはありえない。救援要請なり何なりで、人員の移動があるであろうことは予測できていた。

 となれば、ロボロボ団は見えない位置にいるということになる。

 

 

「一体どこに潜んでいるのかしら?」

 

「うーん、池の中とか」

 

「……あいつ等ならいそうね。でもそれじゃあ探せないわ」

 

「それじゃあ……」

 

 

 周囲を見回す。

 手ごろな位置に、大き目の樹が生えていた。蹴ればカブトムシかクワガタムシでも落ちてきそうだな……と一瞬思ったが、樹液がでない種類の木であったなら集まる事も無いんだよなぁ……とイッキはどうでも良い事を考えて。

 

 

「こうして……それっ!!」

 

 

 と、その木を蹴り飛ばしてみた。

 アリカが怪訝な目で見ていると、

 

 

「―― ロボォォォ……ルォボッ!?」

 

 

 上から落ちてきた。案の定、ロボロボ団である。

 しばし呆然と目を見開き、

 

 

「って本当に木の上に居た!?」

 

「ロボッ、お前らが木を揺らしてオレを落としたロボか!?」

 

「イッキ、確保よ! 確保!!」

 

 

 アリカがシャッターを切りながらイッキに指示を出す。

 ええ、僕かよ……とは思いつつも、イッキは落ちてきたロボロボ団への距離を詰めてゆく。

 

 

「じっとしていてくれよ……」

 

「状況は理解できないけど、兎に角ピンチだロボ ―― 逃げるロボッ!?」

 

「あっ、こら、待ちなさい! 追うのよイッキ!!」

 

「わ、わかったよ!」

 

 

 飛び起きて逃げ出したロボロボ団を、イッキは全速力で追いかける。

 

 

「まて、このっ!」

 

「待てといわれて待つ奴は居ないロボよ!」

 

「なら大人しくしていろ!」

 

「大人しくしたら捕まるロボよ!」

 

 

 ジグザグと逃走しながら。

 イッキはロボロボ団の背を捉えられる、と確信し。

 

 

「―― それっ!」

 

 

 と、その背に向けて飛びかかり。

 

 

「ロボッ!?」

 

 

 しかし目の前にあったその背中が、突如横へと緊急回避。

 替わりにイッキの前に、おどろ沼を貫く川が現れて。

 

 

「へっ!?」

 

「あっ、イッキ!?」

 

 

 どぶんという音がして、下流へと流されてゆく。

 必死にもがいてみる物の、流れが急で岸にたどり着く事ができない。

 

 

「がぼっ……がぼっ、……ぶくくく」

 

「イッキーッ!?」

 

 

 アリカの叫び声を最期に、イッキの意識はフェードアウトした。

 

 

 

 

 

 ―― で、次に目覚めた時は見知らぬ天井があって。

 

 

「ここはどこだ……?」

 

「いっひっひ。目が覚めたかい」

 

「うわぁっ!?」

 

 

 聞きなれない抑揚の声に、イッキが思わず身の危険を感じて飛び起きる。

 するとその傍に、1人の老婆……と、無数のメダロットたちが佇んでいた。

 

 

「なんだ!? そしてぼくはなんで着物を着てるんだ!?」

 

「いっひっひ。落ち着きな」

 

 

 老婆は不気味な声をあげながらイッキに落ち着くよう促した。

 慌てふためいては見たものの、暫くすれば落ち着いてくる。どうやら何をするわけでもないと感づいたイッキは、もしかしたら助けてくれたのでは? と思い当たりまずお礼を言う事にした。

 

 

「あの、ありがとうございました。おばあさんのお名前は」

 

「ひっひ。カンちゃんとお呼び。……それに、いいんだよ。アンタはこの子等が勝手に拾ってきただけなんだからねえ」

 

「オマエ、オイシソウ」

 

「……ぼく、もしかして食べられる?」

 

「残念ながら人間の子供は食べないねえ……いっひっひ」

 

「そ、そうですか……」

 

「オイシソウ」

 

 

 とは言われたものの、隣でトンボ型メダロットのドラゴンビートルが物騒な発言をしているために安心は出来ないなぁ……と、内心では呟いてみて。

 イッキは身体に痛む箇所がないことを確認し。

 

 

「あの……ここは一体、何処なんですか?」

 

「ここはおどろ沼の下流さ。人はこれっぽっちも立ち寄らないから、野良メダロット達が一杯集まってきてねえ」

 

「カンちゃんはここに、1人で?」

 

「そうだねえ。娘が出て行ってからは、あたしとこの子達だけだねえ」

 

 

 どこか寂しげな雰囲気を発するカンちゃんに、イッキは閉口。

 ……このおどろ沼の外れにある小さな家に、1人。それはやはり寂しいのではないか……とは思う。が、それはイッキの口出しできる部分ではないだろう。

 思いつつも胸の内に秘めれば、この老婆にやや感じていた恐怖心は薄れていた。

 イッキは改めて尋ねる。

 

 

「あの、カンちゃん。ぼくは上流に戻らないといけないんだ。どうやって帰るか、判らないですか?」

 

「そうだねえ……」

 

 

 カンちゃんが周囲を見回す。ドラゴンビートルに一瞬視線が向いたものの、彼は黄色の首を横に振った。

 ドラゴンビートルはトンボ型なだけあって、比較的細身なメダロットだ。外付けのパーツなどが無い限り、人を抱えて移動するには体格が足りないのだろう。

 

 

「それなら家の外に行って、他のメダロットたちに聞いてみれば良いかも知れないねえ」

 

「他にも居るんですか?」

 

 

 イッキの問いにカンちゃんは頷く。

 

 

「そうだねえ。ヤナギが帰ってこない以外は、沢山の子達が辺りに居るよ」

 

「ヤナギ?」

 

「昔から悪戯が好きな幽霊型のメダロットでねえ。暫く姿は見ていないけど……どこで何をしているやら……」

 

「……」

 

 

 どうにも心配そうな表情だ。

 しかし、ともあれこの家の周囲にはまだ沢山のメダロット達がいるらしい。それなら、潜水型のメダロットに手を貸してもらえば支流を辿って遡る事も可能かもしれない。

 決まりだ。と、イッキは腰を上げる。

 

 

「行くのかい?」

 

「はい。……あ、ぼくの服、まだ乾いてないや……」

 

「いいよ。ビニール袋に入れてあげるからそのまま持って行きな」

 

「うん。ありがとう、カンちゃん」

 

 

 自分の祖母が居たならば、こんな感じなのかもしれない。

 カンちゃんの挙動に、イッキはどこか懐かしい気分を感じつつ服を受け取り……話しにあったヤナギというメダロットはもしや、という確信に近い情報も得つつ……しかし着物のままで扉の前に立つ。

 

 

「ねえカンちゃん」

 

「なんだい」

 

「ぼく、必ずお礼を言いに、またここへ来るよ。またね」

 

「……ひっひ。楽しみにしてるよ」

 

 

 その顔に笑顔が浮かんでいるのを見て、イッキは扉を横へ開いて外に出た。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

「……はふぅ、です」

 

「どうしましたか、ユウダチさん」

 

「いえ。ゴメンなさいです、カリン。ちょっと出かける用事が出来たです。幽霊メダロットの件で、イッキが流されてしまったとアリカから」

 

「!? ……そうですか。もう休憩所にはつきましたし、わたしのことは気にせずお出かけください、ユウダチさん」

 

「はいです。行ってきますです、カリン」

 

「はい。行ってらっしゃい」

 

 

 ―― ぱたん!

 

 

「……あ。……そういえば、今、なんでユウダチさんは幽霊の事を、メダロットと……?」

 




・きゃっきゃうふふ
 おそらく死語。
 イッキがカリンに、カリンがイッキに何度も話しかけたためこう表記している。
 システムコール(好感度↑)。
 アリカの好感度は居合わせていなかったために都合よくも低下していない。

・アワモリ隊長
 現セレクト隊の隊長。手柄が大好き。
 因みに副隊長はトックリ。

・着物
 イッキの女装シリーズその2。スタッフが執拗に(ry
 流されたイッキを拾った先の住人、カンちゃんが女物しか持っておらずこうなった。
 着流し、じんべえなどではなく着物である。
 彼はなんと(服が乾いていないとはいえ)この格好で暫く辺りを歩いたりする。
 これを着たまま女トイレに入ろうとしたら末期。
 ※メダロットでは女子トイレに入ると各ヒロインの好感度が低下する統一仕様があります。大事なのは好感度が下がるという点より、「入れない」のではなく「入ることができる」というぶっ壊れた点。


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7話 おどろ沼と幽霊④

 

 さて。

 カンちゃんの家を意気揚々と飛び出し、上流へと登る手管を探していたイッキであったが、現在、その目の前に ――

 

 

「フハハハハハ! 彩りましょう食卓を! 皆で防ごうつまみ食い!」

 

 

 贔屓目に見ても彼は変態であった。

 スーツとシルクハット。背にマント。顔には表情の読めないデフォルメの道化仮面を身に纏った人物。

 

 

「常温保存で愛を包み込むカレーなるメダロッター! 怪盗レトルト、只今参上!!」

 

 

 翻す。その言質の通り、彼こそが世を騒がす怪盗レトルトその人であった。

 怪盗、という呼び名がついたのには理由がある。彼は盗っ人でありながら、その盗みの対象はロボロボ団に限定されているのである。

 世間からしてみれば近世の義賊といった所か。ただ盗みは盗み。彼はセレクト隊からしてみれば捕縛の対象であって、日夜追いかけっこが繰り広げられているというのは周知の事実である。

 そんな怪盗レトルトは、見たとおりの変態ではあるのだが、しかし。

 

 

「……! かっこいいぃ!!」

 

「こいつ、大丈夫ロボか?」

 

「昨今の子供の感性はよく判らないロボ」

 

 

 そんな怪盗レトルトは、イッキの感覚からすればカッコいい以外の何物でもなかったので。

 イッキが眼を光らせているうちに、イッキを囲んでいたロボロボ団の団員達はさっさと逃げ出してゆく。レトルトはそれを追いかけず、イッキのそばに落ちていた一通の手紙を拾い上げて。

 

 

「ふっ……ロボロボ団め、逃げ去ったか。……これが必要だろう、イッキ君」

 

「あっ、これはカンちゃんの手紙!!」

 

 

 差し出された手紙こそ、イッキの探し物であった。

 あれからカンちゃんの家を出たイッキはおどろ沼潜水タクシーを行っているメダロットを発見。知り合いだという飛行型メダロットの落とした手紙を探し出すという条件で、おどろ沼の上流へと連れて行ってもらえる算段となっていたのである。

 手紙を見つけたは良いものの、何故かロボロボ団に囲まれてしまい。そこへ颯爽とレトルトが駆けつけたのだ。(ただしロボロボ団は勝手に逃げ出したが)

 イッキがレトルトから手紙を受け取ると、

 

 

「見えているものだけが真実だとは限らない。ふははは! 精進したまえ、少年!」

 

「あっ、レトルトさん!!」

 

 

 イッキが手紙を握り締めているうちに、レトルトは飛行型メダロットに掴まって何処へと飛び去ってしまった。

 

 

「お礼、言いたかったんだけどなあ」

 

「まあまたその内にあうだろ。それより上流に向かおうぜ、イッキ」

 

「そうだね。……着替えたいけど、元の服はまだ乾いてないんだよなぁ……」

 

「なんだイッキ、着物はお気に入りじゃなかったのか?」

 

「違うよ!? どうしてそうなった!?」

 

 

 荒げた声を聞き届けたのかロボロボ団の逃走を見届けたのか、手紙を無くした郵便メダロットがイッキの隣に降りてきて。

 

 

「―― あ、それもしかしてカンちゃんの手紙ぃ?」

 

「うん、そうだよ。ハイこれ」

 

「うわぁ、ホントにアリガトぉ。これで配達できるヨォ」

 

 

 手紙を受け取って、郵便メダロットが空へと戻ってゆく。

 よし。レトルトの出現は予想外の出来事ではあったものの、ロボロボ団の姿も確認できた。

 行こう、と気を引き締めてイッキは上流へと向かう事にした。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 おどろ沼の支流を遡ると、洞窟に行き当たった。

 事前に幽霊騒ぎで盗まれたパーツを(自分たちの物にするために)取り返しに行く、と話していたスクリューズの3人を別個にロボトルで撃破しつつ、イッキは更に上を目指す。

 すると、そろそろ上流かという頃合、中途にぽっかりと開いた洞窟があった。

 イッキが足を止めると。

 

 

「―― ばぁ!!」

 

「うぅわっ!?」

 

「こわいだろー、おそろしいだろー。パーツを、置いてけー!」

 

 

 その中からメダロットが飛び出してきた。

 イッキの周りをぐるぐると動き、パーツを置いていけと脅している。が、メダロットだと判れば実態のあるものだ。恐怖はあまり無い。

 むしろ、イッキの視線は違う所にあった。そのメダロットのボロボロになったボディである。

 ……恐らくこの子がカンちゃんの話していたヤナギというメダロットだ、と、イッキが語りかけようと。

 

 

「ねえ、君 ―― 」

 

「置いてけー! ……置いていってよう。置いていかないとー、カンちゃんの所に帰って……こな……いぃいぃ」

 

「!? 大丈夫っ!?」

 

 

 した所で、ヤナギと思われる幽霊型メダロットが地に落ちて動かなくなっていた。

 慌ててその身体を抱きかかえれば、関節もスキンも傷だらけ。動きは鈍く、脊髄を担うパーツは今にも折れそうになっていた。

 

 

「一体、誰がこんな事を……」

 

「―― ふむ? 誰が来たかと思えば、こわっぱ1人か」

 

「!?」

 

 

 洞窟の中から続いて表れた大男に、イッキは思わず身構える。

 しかし身構えたのは正解であった。大男は全身に黒のタイツ、サングラス。頭には2本角と、レトルトの事を言えないような姿をしていた。変態という意味で。

 大男はイッキの前の前に立つと、

 

 

「せっかく集めたパーツを持ち帰る所だというのに、邪魔を入れさせるわけにはいかないのう」

 

「! な、何を!!」

 

 

 こちらの言う事には全く耳を貸さず、間を開けた。

 それは丁度、ロボトルが出来るくらいの間隔。

 ロボロボ団幹部、シオカラの身体から威圧の意が発せられ、圧されたイッキがたじろぐ。

 

 

「―― どれ、わしが相手をしてやろう」

 

「やるぞっ、イッキ!!」

 

「……うん!」

 

 

 おどろ沼の事件を締めるためのロボトルが、始まった。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

「ったく、どこに行ったんだよイッキのやつ……」

 

 

 その頃カラクチコウジは勝負を中断し、その相手であるイッキの捜索に走っていた。

 アリカやカリンから連絡を受け、ユウダチも探しに行ったという。流石に人命は大切だ、と、下流へと向かう。

 コウジは上流にロボロボ団が居ると睨み、随分と上まで登っていた。そのため下流を目指していると、中流にまで差し掛かる。

 角を曲がり、見下ろすと、そこには。

 

 

「……イッキ!! と、ロボロボ団か!?」

 

 

 眼下に広がる岩場の真ん中で、イッキとメタビーがロボロボ団と思われる大男と対峙していた。

 コウジが救援にそちらへ、急いで駆け寄ろうとする……のだが、その前に。

 

 

「……。……」

 

「っ、誰だ!?」

 

 

 誰かが無言のまま、道を遮るように立っていた。

 金魚鉢……いや、雑魚の団員達が被っているものとはまた違う。水晶玉の様に丸く、しかし素顔は見えず、その周囲を惑星が持つ円環のような線がぐるりと取り囲んでいる。

 ただし、全身タイツではなくゆるりとしたマントの様な外套を羽織っているが……

 

 

「そこを退いてくれないか? オレのライバルが向こうで戦ってるんだ」

 

「……来て欲しくは無かった」

 

 

 とだけ小声で囁き、ゆらりと手を掲げた。その腕には、最新型のメダロッチ。

 戦意を感じる。コウジは仕方が無いか、と自らのメダロッチを前に突き出し。

 

 

「―― 合意と見てy」

 

「良いから早く始めてくれよ。一刻を争うんだ」

 

「……、……」

 

 

 飛び出してきたレフェリーには微動だにせず、合意。

 自らのメダロットであるスミロドナット1体と、応援による充填・放熱の補助を得意とするネオサクラちゃん1体。

 そして。

 

 

「お前も頼んだ、ブラックメイル(ラムタム)!」

 

「―― だいじょーぉぶ!」

 

 

 ここは負けてはならないと秘蔵っこのブラックメイル、ラムタムを3体目として呼び出した。

 相手のメダロットを確認しようとコウジが面を上げる。

 

 

「……。……来て」

 

 

 微妙にあった気のする間のあと、1体、メダロットを呼び出した。

 呼び出されたメダロットは1体。コウジは油断はせず、しかしその姿を観察する。

 

 

「呼んだのか、御主人」

 

 

 ゆらりと立ち上がり、主人とコウジとの間に立ち塞がる。

 薄灰色の身体に、長いく垂れたアンテナ。釣りあがったカメラアイと、右手から伸びる剣。左手の拳は打撃のためにスパイクが着いている。

 コウジ自らの持つスミロドナットと同様の格闘専門の機体 ―― 確か、カミキリムシ型のメダロット、「エイシイスト」だ。

 

 

「……ん」

 

「心得た ―― それでは開始を、うるち殿」

 

「……はっ!! そうですね!」

 

 

 何故かメダロットに促され、放って置かれたミスターうるちが再起動する。

 コウジとメダロット達が身構える腕を掲げ、

 

 

「それでは! ロボトルぅ、ファイトォ!!」

 

「―― いけっ!」

 

 

 コウジが3体を動かす。

 リーダー機に指定したさくらちゃんにはブラックメイル(ラムタム)の応援を、スミロドナットには比較的充填の早い左腕のハンマーでの攻撃を命じる。

 スミロドナットがエイシイストへと殴りかかり ――

 

 

「遅い」

 

「なっ!?」

 

 

 その打撃を悠々と回避。

 次いで駆け寄ったブラックメイルも、

 

 

「……だいじょぉー、ぶ!」

 

「狙いが甘い。もっと正確に振り下ろせ。……ツェア!」

 

「だいzy……bu?」

 

 

 噛み付いた瞬間に頭部をカウンター気味に弾かれ、次いで放たれた斬撃に機能を停止した。

 信じられない素早さという訳ではない。ただ、熟達された足運びと身の振りようで、異様に隙がない。

 コウジはなんで最近はこうも規格外なメダロットと当たってばかりなんだ! と、悪態をつきたくなるのを押さえ、

 

 

「さくらちゃん、前へ! スミロドナット、放熱の間回避!」

 

「判ったコウジ!」

 

「よーろれいひー♪」

 

「同じ黒山羊でも手応えが違うな……次は、そいつか」

 

「よろれいひー?」

 

 

 またも一撃。

 エイシイストが袈裟掛けに振り下ろした左腕の打撃は、スミロドナットを庇ったさくらちゃんの左腕を殴り壊した。

 今度はたまらずスミロドナットが前に出て、大爪を振り下ろし。

 

 

「喰らえっ」

 

「むっ、放熱が……」

 

 

 と言いつつ、エイシイストがフレクサーソードの前に構え……全体重を掛けた一撃を、身体を逸らし、脚部にだけ掠らせた。

 スミロドナットが顔を上げる。エイシイストは既に放熱を終えていた。

 

 

「――防御にもコツという物がある。……御免!」

 

 

 右腕の刀身を、間近に居たスミロドナットに振り上げる。

 スミロドナットの両腕が吹き飛び、それでも。

 

 

「……ぐぅ……まだまだやれる!」

 

「成る程。仕留めきれないとは、中々にやる」

 

 

 吹飛ばしたスミロドナットからやや距離を置いたまま切り払い、エイシイストは放熱を始めた。

 コウジは両腕を破壊されたスミロドナット、左腕を破壊されているネオサクラちゃんという攻撃手段の無いメンバーだけが残った事を確認し、歯噛み。

 

 

「……くっ、このままじゃあ……」

 

 

 時間切れを狙っても勝ち目は無い。しかし、このままイッキとロボロボ団のロボトルに合流されるよりはましか。

 そう考え、コウジは長期戦にする事を決め込んだ。

 しかし、

 

 

「……。……あ」

 

「む? あちらの幹部と少年の決着が着いたか」

 

 

 水晶玉を被った人物が声を発した。コウジもそちらを見れば、

 

 

「……いっけぇ、メタビー! フレクサーソードッ!!」

 

「ミサイルを打ち切ったオレが近接戦を出来ないと思ったら、大間違いだ!! ……どぉぉぉりゃあああ!!!」

 

「むぉっ!?」

 

 

 相手のロボロボ団のリーダー機に向かって、満身創痍の様子のメタビーが……コウジとのロボトルで手に入れた……「フレクサーソード」の大爪を振り下ろしていた。

 両断されたリーダー機。大柄なロボロボ団は喜ぶイッキたちを尻目に、コウジ達の居る側へと恐ろしく早いスピードで逃げ出してきて。

 

 

「……む? シュコウではないか。ふぉっ、ふぉ。敗北だ。パーツの回収は諦めて逃げるぞい!」

 

「……そう」

 

「シオカラ殿。同じ幹部ともあろう物が情けない」

 

「うるさいぞ! 逃げるったら逃げるんじゃ!!」

 

「……」

 

「ふむ。仕方があるまい。承った、御主人」

 

 

 無言で差し出したメダロッチへ、エイシイストが戻ってゆく。

 幹部と呼ばれたシオカラの後ろを、シュコウが追って逃げ出し……

 

 

「……向こう、パーツある」

 

「?」

 

 

 コウジの方を振り返って言い残し、後は一目散に退散して行った。

 気の抜けたまま指し示された方向を見れば、イッキが洞窟へと入っていく所だ。戦力のない今のコウジでは、ロボロボ団を追う事は不可能で。

 

 

「……行くしかねえか」

 

 

 メダロット達を携帯機へと収め、コウジはイッキへ助力をするべく、岩場を駆け下りて行った。

 

 

 

「……あのー……ロボトルは?」

 

 

 

 ミスターうるちはどこか悲しげだった。

 

 

 

 

 

 

 結局パーツ強奪の事件は、ヤナギという幽霊型メダロットの仕業だったと言う事で落ち着いた。ボロボロだったヤナギは再び現れた怪盗レトルトによってメダロット研究所へと送られ修理を受ける事となった。

 集められたパーツも、ロボロボ団が持ち出すのを阻止できたおかげか、全て所有者の元へと戻すことができていた。

 着物を着ていたイッキがまたも隠れてしまったためセレクト隊の手柄とはなったものの、事件さえ解決できていれば文句はないと、イッキとコウジは普段通りにおどろ沼から帰還。コウジからは「お人好し過ぎるぜ」との苦言をいただいている。

 事のあらましをアリカとカリン、最期までイッキを捜索してくれていたユウダチへと報告。こうして一応の収穫を得て、おどろ沼におけるパーツ強奪事件は解決となった。

 





・シュコウ
 本作で追加されたオリジナルのロボロボ団幹部。
 酒肴(シュコウ)
 駄作者私は隠す気が無いことが伝われば幸い。

・エイシイスト
 メダロット2のcmから「パスワード入力」という驚きの手段で入手できるカミキリムシ型メダロット。
 頭部によって攻撃力をブーストされて繰り出される「がむしゃら」「ソード」は超威力。
 ただし装甲が悲しいほど薄い。


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8話 メダロッ島

 

 メダロッ島とは、おみくじ町の西側から海を渡った先にある、島一面を改造したアミューズメントパークである。

 その名の通りメダロットをテーマにした島。到る所でメダロットをモチーフにしたアトラクションやイベントが開催されており……本日、イッキはアリカの家族に連れられてこの島を訪れようとしていた。

 しかし当のイッキは、島へと向かう船「ユイチイタン号」の甲板に立って表情を落としている。その理由は「島に行きたいとねだったものの家族に相手にされなかった」という、子供らしいものであった。

 手すりにもたれながら息を吐くイッキに、幼馴染のアリカが見かねて声をかける。

 

 

「元気出しなさいよ、イッキ」

 

「……アリカ」

 

「アンタの両親だって本当に忙しかったのよ。しかもいくら土曜日とはいえ、前日の晩に言ったんでしょ? 予定が入っていたら空けられないじゃない」

 

「……そうなんだけどね」

 

 

 イッキも自分の願いがかなり性急であったことは自覚している。

 他の皆が家族と来る事ができている、という状況がイッキの気分に影を落としているだけなのだ。

 

 

「おお、イッキとアリカです」

 

「……ん?」

 

「あっ、ユウダチ!」

 

 

 甲板の手すりに寄り掛かっていると、今年に入ってから親交が増えた花園学園の少女……ユウダチが甲板へと登って来た。

 ユウダチはそのまま真っ直ぐ、イッキとアリカの元へと近寄ってくる。手すりに掴まって、先に広がる水平線を見つめながら。

 

 

「イッキとアリカもこの船に乗っていたんですね。奇遇です!」

 

「そうね。もしかしてコウジやカリンちゃんも?」

 

「はいです! それじゃあ皆、メダロッ島に来れたんですね。良かったです」

 

 

 正面に向けず、どろりとした笑顔は水平線へ。釣られてイッキとアリカも視線を向ける。

 真っ直ぐな海原の中央。小さな点の様に見えているのがメダロッ島だ。

 

 

「うーん、まぁ、元々現地で集合する予定だったものね。ユウダチもコウジ君もカリンちゃんも」

 

「ですです。コウジは向こうのデッキでロボトル挑んでますし、カリンはお父様に見張られているので船内で暇そうにしてますよ。アリカもイッキも、時間があったら顔を出してあげてくださいね」

 

「うん。でも多分、その前に着くと思うけど」

 

「はふぅ! それもそうです!!」

 

 

 奇妙な声をあげて同意をした後、ユウダチはでれりと手すりにしなだれ、瞼を閉じてしまった。

 アリカは駄目だこりゃとお手上げのポーズ。

 まあ、暗くなっていても仕方が無い。イッキも頬を緩ませ、共に、目前のメダロッ島へと期待を馳せることにした。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 船を下りたイッキとアリカ、アリカの母親の前を沢山の人が行き交っていた。

 島丸ごとをアミューズメントとしたメダロッ島の話題性は凄まじく、初日から大入り満員の様だ。

 入口のアーチの横では風船を配るマスコットメダロット「ラピ」が複数浮いては子供達に微笑みかけており、子供だけでなく、はしゃいでいる大人達も大勢いた。

 かくいうイッキの目前にも、クモの様な義手を生やした鞄を背負う小柄な老人ががははと笑いながらはしゃいでいる。

 

 

「? どうしたのイッキ。お母さん、もういっちゃったわよ?」

 

「あ、ごめんアリカ。すぐ行くよ」

 

 

 声をかけられ、アリカの後に続いてイッキはアーチをくぐった。

 港から本地へと入ってすぐの場所に、案内看板が立てられている。イッキはアリカと並んでそれを覗き込んだ。

 

 

「あ! この中央通りでパレードをやるんだって!!」

 

「うん。後で見にこようか」

 

「それに、ほら! ロボトル大会もやるんだって!」

 

「へえ! しかも世界中から招待選手が来てるのか!!」

 

 

 イッキが喜びの声をあげる。看板には確かに、ロボトル大会の時間と概要が書かれていた。

 

 

「参加資格はなし、だって。早速登録に行こうかな? あ、でもまだ時間があるや」

 

「ふーん。あ、イッキ! それならアタシと一緒にゲームセンターに行くわよ!」

 

 

 時間があると知ると、アリカはイッキを引っ張ってゲームセンターへと向かい出した。

 大人しく引っ張られて、東側へと向かう。ジャーナリストを目指すだけあって、アリカは下調べをしてあるだろう。

 だのに、アミューズメントパークに来てまでわざわざゲームセンターを選ぶという事は……と、考えながら自動式の開閉扉を潜る。

 すると、アリカはまっすぐ筐体の1つに飛びついた。

 

 

「ここ! ここのユーフォーキャッチャーにラピのぬいぐるみがあるの!!」

 

「それが狙い?」

 

「そうなのよ。何せ限定品で、お城の側で手に入るのとはまた一風違うのよね~」

 

 

 アリカは心底嬉しそうに語る。

 イッキも透明な硝子の内を除いてみれば、そこには水色の身体をして両腕に風船を持ったマスコットメダロットの愛らしいぬいぐるみが置いてある。

 周囲を見渡す。本日は開園日。その第一波の中でも自分たちは真っ直ぐゲームセンターまで来たのである。

 祭りと同じだ。初期配置の中には「取って持ち歩かせるための」ものがあるはず。

 

 

「? イッキ?」

 

「多分、一番最初なら……」

 

 

 幾つかある筐体の中で最も手ごろな位置にありそうなものを物色する。

 ……あった。やや斜めになっている1/1ラピぬいぐるみ。

 イッキは迷わず硬化を投下する。1回目で転がし、2回目で入口の脇にずらす。やや高くなっている入口に引っかかったがこれで良い。

 勝負だ。3回目。

 

 

「これで ー- !」

 

「おおっ!?」

 

 

 本来ならば引っかからない位置にアームの片方を押し付け、ぬいぐるみ自体の質量と弾力性を利用して段差を超えさせる……!

 狙い通りにぬいぐるみは入口の中途に引っかかった。これはゲームセンターにおいては「入手」とみなされる。後は店員を呼ぶだけだ。

 手に入った「1/1スケール:ラピぬいぐるみ」を、イッキはそのままアリカに手渡した。

 

 

「あ、ありがと……! かっわぃぃぃぃ~!!」

 

「うん、そんなに喜んでくれるならとったかいがあったよ」

 

「……なぁ、一体イッキは何者なんだよ……」

 

 

 喜んでいるアリカを尻目に、一連の展開に着いていけなかったメタビーの声だけが突っ込みを入れてくれていた。

 (イッキは父親に教わりました)

 

 

 

 

 

 ゲームセンターを出ると、アリカはイッキに何度もお礼を言いながら、満面の笑みでコインロッカーへぬいぐるみを(半ば、押し込めに)行った。

 その間にと、イッキはロボトル大会に参加するために西へと向かう。アリカも大会には参加するため、会場で合流する予定とした。

 会場に到着して早速受付で登録を済ませると。

 

 

「……コウジ、ユウダチ、カリンちゃんも?」

 

「お、イッキか。お前も大会に参加か?」

 

「船上以来ですねイッキ。因みに私はカリンとコウジの応援です」

 

「ふふ。わたしもロボトルは好きなんですよ。本も沢山読んでいますし」

 

「へえ~、そうなんだ」

 

 

 見知った3人も会場へと訪れていた。

 どうやらコウジとカリンはロボトル大会に参加するらしい。

 

 

「う~ん……参加者を見るだけでも、一筋縄じゃいかないな」

 

「そりゃそうだろ。オレ達以外の海外からの招待選手っていうのも楽しみだぜ!」

 

「ええ、そうですわね」

 

「応援してるです!」

 

 

 イッキは大会への期待感を高めつつ、控え室へと入っていった。

 





・ユーフォーキャッチャー
 何故こんなに尺を割いて描写したし。
 いえ。消すのもシャク(・・・)なのでそのままにしておりますけれども。

・ラピのぬいぐるみ
 ゲームにおいてもヒロインの好感度を大幅上昇させるアイテム。
 本来はお城のロボロボ全退治という苦行をこなした上でやっと1つ手に入れられるもの。
 ……本来は、である。


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9話 小さな世界大会、前編

 

 

 

 一回戦、イッキの相手は奇しくもアリカだった。

 女形の西洋騎士の様なヴァルキュリア型メダロット、プリティプラインの多彩な戦術には惑わされたものの。

 メタビーの他、クモメダルを装備したトラップスパイダ……の頭をスミロドナットの物にして、射撃格闘両方に合わせてトラップを仕掛ける事が出来る様にした機体……がリーダー機のセーラーマルチを狙った射撃トラップを使用して直接ダメージを負わせて行くことで撃破。

 

 二回戦はカリンが相手。

 打って変わって防御と回復を司るセントナースがリーダーのため、リーダの攻撃種類に合わせたトラップを仕掛けるという戦法は通じなくなったものの、全体防御を掻い潜り僅差の撃破。防御タイプのメダロットの重要性を改めて認識する結果となった。

 

 三回戦、四回戦とイワノイとカガミヤマのコンビを撃破。

 

 五回戦ではキクヒメと戦う羽目になり、レッドスカーレスというメダロットによるメタビーをメタったかの様な射撃トラップの雨あられを受けたのだが……そこはイッキのメタビーのこと。ペッパーキャットとの格闘戦に打ち勝つというある意味ではいつも通りの戦法で勝利した。キクヒメは大口を開けて驚いていたが。

 

 と、5回戦を終了した所で休憩時間に突入。

 世界中から集まった多くのメダロッターが参加しているはずなのに、予選は知り合いばかりが相手となった自分の運の無さには辟易しつつ、イッキはロビーへと戻る。

 すると。

 

 

「あっ、ヘベレケのおじさまです!」

 

「がっはっは! ユウダチ! 以前ならいざ知らず、今のお前にぶら下がれたら腰が折れてしまうわい!!」

 

「っとぉ、それは危ないです。……それよりおじさま、これから挨拶ですよね?」

 

「そうじゃったそうじゃった。どれユウダチ、話は後でするとしよう。がっはっは!!」

 

 

 受付の前でやり取りをしていたユウダチと老人が分かれる。その背をよく見れば、始めに入口ではしゃいでいた老人だ。

 イッキは取り合えず、ユウダチへと近付いて。

 

 

「やあ、ユウダチ」

 

「あっ、イッキです。ロボトル見ていたですよー。メタビーのフレクサーソードがカッコいいです!!」

 

「おっ。わかってるじゃねえかユウダチ。オレ様の右腕は全てを切り裂く!!」

 

「切り裂くですかっっ!!」

 

「それくらいにしておけよ、メタビー。……それよりユウダチ、さっきのおじいさんは?」

 

「あっ! そうですそうです。これからヘベレケおじさまの挨拶が始まるんです。イッキも一緒に見に行きませんです?」

 

「挨拶?」

 

「ほらほら、こっちです!」

 

 

 疑問符を浮べている間に腕を引っ張られ、受付の横の扉を潜ると、観客席の側に出た。

 休憩時間になったからか人は疎らだが、それでも幾人かはこの挨拶を見るためにわざわざ残っているようだった。

 その中、イッキとユウダチは一番前の席に座る。

 

 

「それで、ユウダチ。ヘベレケおじさま、って言ってたけどどんな人なの?」

 

「? ああ、成るほど。研究者じゃない人にはアトムの方が有名ですよね。おほん、えふぅん」

 

 

 咳をして、やや胸を張り、ぴっと人差し指を立てる。次いでにでろり。

 

 

「ヘベレケおじさま……改めましてヘベレケ博士は、メダロットの研究とパーツ開発とを一手に研究している凄い研究者です。かつてはアトム……メダロット博士と同じ人の弟子だったんですよ!」

 

「メダロット博士と!? それは凄い!!」

 

「今でこそパーツ開発ではメダロット社の専売特許ではなくなりましたが、それに大きな影響を与えたのも、ヘベレケおじさまだったりしますです」

 

 

 ユウダチはちょっと得意げに話す。イッキの口から出た驚きの言葉は、心からのものだ。

 おみくじ町にあるメダロット研究所には小さい頃から通っていた。そこの所長を務めている、世界的な権威がメダロット博士である。イッキにとっては憧れや尊敬を超えてもう何がなんだかわからない雲の上の人とすら言える。

 そんな人と同門、そして同列の研究者だという。どんな言葉を話すのだろう、とイッキも期待してステージの上を眺める。

 暫くして、先ほどのお爺さん……ヘベレケ博士が朗々と、演説かと思うような挨拶をしてみせた。

 イッキも観客も思わず手を鳴らす。隣を見ればユウダチも、目を妖気に(・・・)輝かせてばっちんばっちん手を鳴らしていた。

 ユウダチを連れて再びロビーへと。ヘベレケ博士は約束の通り、ロビーの脇でユウダチを待っていてくれていた。

 

 

「ふん? ユウダチと、お前はさきの……」

 

「はい、テンリョウイッキといいます! ヘベレケ博士!」

 

「がっはっは! イッキか! おぬし、見かけによらずロボトルが強いようじゃの」

 

「メタビーたちのおかげですけどね」

 

「イッキは強いですよー、おじさま。コウジと揃って今回の大会の台風の目、です!」

 

「ほう。それは楽しみにしておこうかの」

 

 

 顎に手を当てると、ユウダチに笑いかけながらヘベレケ博士が言う。

 

 

「しかし、最近の若いもんはむちゃくちゃやりおる。おぬしのメタルビートルの事じゃが」

 

「あ、イッキのメタビーですね! 凄いですよー、フレクサーソードを使いこなすんです! こう、ずばぁっと」

 

「何だかなぁ、とは思うんだよなぁ。メタビーの奴」

 

「がっはっは! とはいえワシら開発者側に足りないのはそういった思考の柔軟性かも知れんがの? メダルの得意不得意に合わせて格闘か射撃かという1択にするのではなく、遠近両方を兼ね備えたメダルを育てる! ……くらいの意気込みがあったほうが良いのかも判らん」

 

「はいです。私のウインドクラップもコンセプトはその辺りにありますです。狙い撃ちや我武者羅といった威力の高い攻撃を捨てて、遠近両用の軽攻撃に特化させてるですからね。とはいえおじさまの作ったパーツと比べれば雲泥の差です」

 

「それは勿論じゃ! ワシは天才じゃからの!! なに、ユウダチのとて中々の出来じゃった。それにあれは3対3ではなく、もっと極限の乱戦を考慮した機体じゃろ」

 

「おお。うーん、流石はおじさま。その辺りまで見抜かれてしまうとは……感服です、です!」

 

 

 何だか専門的な話が多くなってきたなぁ……とイッキが口をつぐんでいると、ヘベレケ博士は手元の時計で時間を確認しておおっと声を出す。

 

 

「もうこんな時間か。過ぎるのが早いの。それではなユウダチ、イッキ。お主らとまた出会える時を楽しみにしておるぞ! がっはっは!」

 

「さよならですー」

 

「あ、さようなら」

 

 

 いつもの通り大声で笑いながら、ヘベレケ博士は嵐のように去っていった。

 ユウダチがむんと気合を入れて、イッキは時間を確認。

 

 

「そういえばパレードの時間だな。アリカとの待ち合わせ場所に行かなくちゃ」

 

「パレード! そういうのもあるんです!?」

 

「そうみたいだよ。中央通りを封鎖してやるんだってさ」

 

「見たいです! 一緒に行きましょう、イッキ!」

 

 

 別段断る理由も無い。アリカも、ユウダチが一緒に見るというのであれば納得してくれるであろう。

 そう考え、イッキはユウダチに手を引かれてロボトル大会の会場を出る事にした。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 ……が、事はそう単純に進んでくれない。

 会場を出たところで、イッキとユウダチはメダルを奪われたという女の子に遭遇。

 2人は奪ったロボロボ団を追いかけ……中盤では何故か遭遇したレトルトの力を借りながらも、メダルを奪い返す事に成功。女の子へメダルを返す、という顛末に巻き込まれていた。

 事件を請け負った時点でユウダチが謝罪の連絡をアリカに入れてくれたため大事とはならなかったものの、おかげでパレードは見れず仕舞いとなってしまっていた。

 

 

「……んー……見たかったですねー、パレード」

 

「ごめんねユウダチ、ぼくの我侭に巻き込んじゃって」

 

「……はっ!? いえいえ! イッキは全く悪くありませんです! ……折角メダロッ島に来たのですし、他にも沢山アトラクションはありますから、心配しないで下さいです」

 

「そう? ありがとうユウダチ」

 

「こちらこそです、イッキ。おかげでレトルトにも会えましたし……はふぅ、カッコよかったです」

 

「だよね!! レトルトカッコいい!!」

 

「はいです! レトルトカッコいい!!」

 

 

 などと、まるで何かの合言葉のように繰り返す2人を、通りがかりの人々は怪訝な目で見ていたが。

 レトルト最高、まで到達した所で満足したイッキとユウダチは、再び連れ立って歩き始めた。ロボトル大会の後半戦までにはまだ時間があるようだった。

 

 

「アリカにお詫びのジュースでも買っていこうかな。確かオレンジシュースが好きだったよな……」

 

「それなら、向こうにカフェテリアがあるらしいのです」

 

 

 というユウダチの誘いに乗っかって、東側へと脚を向ける。

 封鎖を解除された中央通りを抜け、カフェテリアらしきものが見えてくる……が、同時にお城のような大きな物体が目に止まった。

 

 

「? あれは何です?」

 

「さっき見た掲示板には、確か『魔女の城』って書いてあった気がする」

 

 

 勇者がレベルを上げて倒しに行くのかな、とファンタジーの過ぎる事を考えるイッキの横で、ユウダチが何かを考え始める。

 

 

「むー……はっ!」

 

「どうしたのさ、ユウダチ」

 

「いえ、楽しそうな事を思いついたです。イッキ、ロボトル大会が終わったらあのお城の前に集合しましょうです!」

 

「あの中に入るの?」

 

「イッキが宜しければですが!」

 

 

 ユウダチからの思わぬ誘いだが、やはり断る理由は無い。イッキが頷く。

 

 

「それでは、後々の集合で宜しくお願いしますです!」

 

「あっ、ユウダチ……何処に行ったんだろう」

 

 

 言って、ユウダチは何故か西側の先ほど来た方向へと戻っていってしまった。

 ……まぁ、今気にしていてもしょうがないか。と、イッキは予定通りにオレンジジュースを買ってからアリカの待っている場所を目指す事にした。

 

 





・オレンジジュース
 レモンパックを買って呆れられるのは仕様。

・レトルトカッコいい!
 メダロット主人公共通の認識。
 世間一般の常識ではない点に注意。

・知り合いばかりが相手
 ゲームの通り。


 202200527 書き方変更のため、記号削除。


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10話 小さな世界大会、後編

 

 会場に戻る前に休憩所を逃げ出したカリンとお化け屋敷に入るというイベントがあったものの、予定通りにロボトル大会の後半戦が始まった。

 

 よく判らない国の小さな王子、ロシアから来た熱い熱いと騒ぐおじさん、アメリカ代表なのにスフィンクスを使用する魅惑のメダロッター、研究者としての側面も持つジョー・スイハンを次々と打ち倒し、イッキは決勝へとコマを進めていた。

 決勝戦。ステージに立ったイッキの向かいには、拳を握ってやる気十分なコウジの姿がある。

 ミスターうるちが観客へ向けての解説を挟みつつ。

 

 

「さあ、いよいよ決勝戦! くしくも少年同士の対決となりました! カラクチコウジ君、対、テンリョウイッキ君! ……準備は宜しいですか?」

 

 

 イッキとコウジが同時に頷く。

 コウジのリーダー機は以前と同じくスミロドナット。違うのは、その他2体として植木鉢からひまわりが生えたようなメダロット……さくらちゃんシリーズの僚機が居る事だ。

 対するイッキはフレクサーソードを装備したメタビーの他に前半戦同様のトラップスパイダ(頭スミロドナット/クモメダル)、そしておどろ沼の幽霊事件の際に加わったクマメダルを装備したナイトアーマー(頭のみドラゴンビートルでプレス射撃)という布陣を目前に並べる。

 

 

「それでは、ロボトルゥゥ……ファイッ!!」

 

 

 うるちが腕を下ろし、決勝戦のロボトルが火蓋を切って落とされた。

 沸き立つ歓声の中、イッキとコウジは互いに指示を出してゆく。

 

 

「トラやろう、先制ミサイルを喰らいやがれっっ!!」

 

「スパイダは格闘トラップ! ベアーはスミロドナットにプレス射撃だ!!」

 

「くももー!」

 

「くままー!」

 

「ちっ、やっぱりかよ! ……見せてやれスミロドナット!! さくらちゃんはスミロドナットを全面支援!!」

 

「了解だコウジ!」

 

「「よーろれいひー♪」」

 

 

 さくらちゃん2体がスミロドナットを応援し、充填・放熱速度を上昇させる。

 イッキ側のスミロドナットへの対策は万全に近い。スパイダが格闘トラップを設置し、ベアーの頭部パーツによるプレス攻撃がメタビーのミサイルに加わる。

 が、

 

 

「―― 全力で走れ、スミロドナット!!」

 

「はぁっ!!」

 

「トラップを!?」

 

 

 イッキが驚愕の声をあげる。

 スミロドナットは脚力を一点に集めた推進をもって、トラップを踏んでから発動するまでの間に駆け抜けるという芸当をして見せたのだ。

 しかもミサイルとプレスは間に入っていたさくらちゃんが替わりに受ける。

 一直線に、

 

 

「覚悟、メタビー! ……ぐおおっ!!」

 

「っぐわっっ!? っつう」

 

「メタビー!?」

 

 

 フレクサーソードによってメタビーのフレクサーソードを破壊。そのまま防御しようとした頭部にもダメージを与え、ひとっとびにさくらちゃんの後ろへと後退した。

 突然のリーダー機のダメージに、イッキが狼狽する。

 

 

「大丈夫かメタビー!?」

 

「やれる! 心配すんなイッキ!! 次だ!!」

 

 

 メタビーが叫び、イッキも、次の手へと思考を移す。

 ……まずは、防御。

 

 

「スパイダはもう1度トラップ! ベアー、メタビーを守れ! メタビーはベアーの後ろから射撃だ!!」

 

 

 今度は陣形を整え、再度スミロドナットを迎え撃つための準備を行う。

 すると、それをみたコウジが笑う。

 

 

「……狙いどころだ。耐えろよ、スミロドナット!」

 

「ああ、判ってるさコウジ!」

 

 

 今度は打って変わって、スミロドナットは慎重な位置取りを行い始める。

 メタビーが撃つマシンガンやミサイル、ベアーの放つプレスを時折受けながら、機を見計らってはトラップを回避、ハンマーで反撃を試みるという探りあいのような攻防が続く。

 これに一番最初に焦れたのはメタビーだ。

 

 

「イッキ! ミサイルの弾数が切れる前に決着をつけないとジリ貧だぜ!?」

 

「そうだね……でも」

 

 

 メタビーの言う事は間違ってもいないが、どちらにせよこのまま射撃を続ければ壁になっているさくらちゃんの損傷があるためイッキたちの優勢勝ちだ。

 問題は、何かを狙っているであろうコウジの作戦。もしそれが、一発逆転の可能性を秘めているとしたら……と考えると、どうしても慎重になってしまっているのだ。

 残り時間は恐らく僅か。ここでイッキはコウジの表情を伺おうと正面を向いた。

 

 

「―― 行くぜ、イッキ」

 

 

 獰猛な笑みを浮かべたコウジと視線が合う。

 まずい、と背筋に悪寒を感じるも、後手に回って。

 

 

「仕掛けろスミロドナット!」

 

「ああ! ―― おおおおおッ!!」

 

 

 さくらちゃんの間からするりと抜け出し、スミロドナットが迫る。

 同じく、推進を利用してトラップはものともしない。

 狙いは、試合開始の一撃と同じく、

 

 

「来るぞ、メタビー!」

 

「……受けて立つぜ!」

 

 

 一歩一歩が変則的、それでいて早い。

 大爪、フレクサーソードを構え、

 

 

「くままー!」

 

 

 割り込んだのは両腕にライトシールド、レフトシールドを装備したベアーだ。

 がつっ、とメタビーの目前で火花を散らす。

 防御。反撃。

 

 

「ミサイルッッ!!」

 

「これで ―― 終わりだああっ!!」

 

 

 角から放たれたミサイルが、ベアーの目前で爪を立てているスミロドナットへ。

 爆風と共にその両腕が破壊される。

 よしっ、とイッキが安堵から拳を握り。

 メタビーは次弾をと左腕のサブマシンガンを構え。

 

 コウジが叫ぶ。

 

 

「スミロドナット、『メダフォース』!」

 

「……『全体復活』!!」

 

 

 突如、スミロドナットの全身が唸りとともに発光。

 イッキにも見覚えがあった。メタビーを手に入れた翌日、スクリューズに絡まれた際に発動した「謎の技」……メダルの潜在能力を解放する、メダフォースという技だ。

 光が晴れたとき、スミロドナットの両腕はスラフシステムの強作動により完全に復活していた。

 呆けている間に回り込む。距離が近い。メタビーとスミロドナットの距離は、既に目と鼻の先だった。

 故に、振り下ろされた大爪に、メタビーは両断される。

 

 

「メタビーッッ!!」

 

「テンリョウイッキ、リーダー機戦闘不能! 勝者、カラクチコウジ!!」

 

 

 ミスターうるちが勝敗を告げると、本日一番の歓声がスタジアムを包み込んだ。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

「ようやくリベンジ達成だな、イッキ!」

 

「流石だったよコウジ!」

 

 

 優勝はカラクチコウジ、準優勝はテンリョウイッキという結果で終えたメダロッ島のロボトル大会。

 終わった後のロビーでは、コウジとイッキが意気投合してがっしりと腕を組んでいた。

 負けはしたものの、イッキとしては元からコウジは格上のメダロッター。悔しさはあるが、全力を出し切ったのだから終わってみれば晴れ晴れとしたもの。そしてそれはコウジも同様のようだった。

 それを眺め、アリカは、これが男の子同士の友情でやつか……やっぱり喧嘩した後は友情が深まるのよね。などと納得しながら記事にするべくシャッターを切っていた。

 

 

「あっ、そういえば……」

 

「? どうしたの、イッキ」

 

「うん。ユウダチと、『魔女の城』に行く約束をしてたんだ」

 

「北側のおっきなお城で催されているツアーの事ね」

 

 

 イッキが頷くと、アリカが説明を添える。

 ロボトル大会が終わったらという約束だったはずだ。

 

 

「行って来なさいよ、イッキ」

 

「アリカとコウジも行かない?」

 

「ユウダチと行くんだろ? だったらオレはカリンの調子を見ておきたい。あいつ、すぐ迷うからな……」

 

「アタシも良いわよ。ツアーの商品になってるラピのぬいぐるみは欲しかったけど、ツアーで貰えるのよりももっとでっかいのをアンタから貰ってるし!」

 

 

 アリカがにかっと笑う。ゲームセンターで取ったぬいぐるみをよほど気に入ってくれているらしい。

 そんな、ご満悦のアリカを横目に見つつ、コウジが小声で。

 

 

(……そういやイッキ。さっきはカリンを連れていってくれたみたいで、ありがとな)

 

(うん。カリンちゃんの家も、中々大変みたいだからね)

 

(カリンの奴お前にそこまで話してるのか。……成る程な)

 

 

 何やら勝手に納得したコウジにイッキが疑問を抱くも、肩をぽんと叩くだけでそれ以上は語らなかった。

 

 

「それじゃあここで一旦解散ね。アタシはお母さんと一緒にお化け屋敷とかに行って来ようかな」

 

「さて、オレはカリンの親父さんを何とか宥めすかさなきゃな……」

 

 

 それぞれ口にしつつ、手を振って分かれてゆく。

 イッキも、さてと息を吐き出した。

 

 

「―― それじゃあ、僕もユウダチの所に行こうかな?」

 





・メダフォース
 作中の通り。メダル毎に持っているメダフォースは異なる。
 色々とナンバリングによって仕様が変わるため、解釈は適当に。

 因みにコウジのスミロドナットは2コア基準の「?」メダルですが、「?」は現在の技術で判別不能の意味に解釈しているので、獣の王のやつとは厳密には違います。
 『全体復活』は「?」メダル2番目のメダフォースで、効果はかなり美化されています。

・トラップ解除
 推進が高いと解除されやすくなる。ゲーム通り。

・イッキ敗北
 ……というかコウジの視点から見て、さくらちゃん2体とスミロドナットでイッキを倒すのはかなり無理ゲーだと思いました。流石は主人公。
 強敵とロボトルからの敗北があったため、コウジ強化済でした。
 確か、原作でも、ここだけは敗北してもストーリーが進んだような気がします。記憶が曖昧ですが。

・カリンちゃんとお化け屋敷
 システムコール(好感度↑↑)。
 原作の通りのため割愛。カリンちゃんファン血涙。後で挽回予定。


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11話 メダトルロボトルミルミルキー(はぁと)

 

 『魔女の城』と呼ばれるツアー・アトラクションの前には子供達が長蛇の列を作っていた。

 約束どおりその前でユウダチと合流したイッキも列に並びながら、しかし、当のユウダチはやや難しそうにでろでろと唸っていて。

 

 

「うーん。当初は3人でロボトルしてロボ……バイトのメダロッター達を倒し、ラピのぬいぐるみとやらを貰おうと思っていたのです」

 

「今は違うの?」

 

「はい。……さっき、カリンが入って行った気がするんですよ」

 

「カリンちゃんが?」

 

「はいです。しかも見た事のない子供に案内されてです」

 

「うん。―― それにどうやら、子供達が何人か行方が判らなくなっているみたいだね」

 

 

 と、一言を付け加えたのは隣にいる青年。

 やや頼りなさそうだが優しげな表情。首の辺りでパッツンと揃えられた黒髪。

 嬉々として説明をしてくれたユウダチによると、彼がいつも語られる「ヒカル(あに)さま」であるらしい。

 ムラサメ家の兄といえばムラサメ・シデンだとアリカから聞いた。彼は自分たちの数個上の学年でありながらムラサメ製作所という会社の実質のトップであるらしい。

 それとはまた別の兄さま。何れにせよ、自分が気軽に「ヒカルさん」などと呼んで良い物か……イッキは考えつつ。

 とまあ詰まる所、迷子たちを探すのとカリンを見つけるというのがユウダチの目的に加えられていたらしい。

 

 

「ヒカルさんは良いんですか? 僕たちに付き合っても」

 

「良いんだよ。特にすることないしね」

 

「ヒカル兄さまは本日、ここいらでバイトをしていたのです。シフトは終わっていますけど、付き合ってくれると言ってくれたですので! 宜しくお願いしますですっ!!」

 

「あはは……まぁ、昔からの妹分のお願いだからね。それにこういうのなら得意分野さ」

 

 

 ヒカルが頬を掻きながら笑う。

 言葉にも表れている通り、よほど嬉しいのだろう。今のユウダチの笑顔は、どろり濃厚ダーク味といった風味にパワーアップしているように思えた。

 

 

「それよりほら、僕たちの番みたいだよ」

 

「あっ! それでは行くです、ヒカル兄さま! イッキ!」

 

「うん。探すもそうだけど、実はちょっと楽しみだなぁ」

 

 

 などと言いながら、3人は「魔女の城」へと足を踏み入れていった。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 「魔女の城」は、どうやら悪の魔王に進行されている魔法の国をイメージしているらしい。各階層を移動しながら悪の手下達を勇者役に選ばれたお客が倒してゆく、とういストーリーとなっている。

 勇者の役目は、よりにもよってイッキが選ばれ、金ぴかの鎧を着込んでいる。ちょっとカッコいいので、そういう意味では満更でもない。

 とはいえやはりレベル上げか……と呟きそうになったイッキだったが、悪の手下を倒すための勝負はメダロットを使ったロードレースやロボトルであったため、実力行使よりは断然スムーズに倒してゆく事ができていた。

 

 

「そこです! ぬいぐるみの中です!!」

 

「よし!」

 

「ばれたロボッ!?」

 

 

 ユウダチに引っ張られてはロボロボ団に扮したバイトメダロッターを撃破し。

 

 

「あっちにも居るみたいだね」

 

「はいっ!!」

 

「くっそー、逃げ切れないロボッッ!?」

 

 

 ヒカルの洞察力に舌を巻きながら撃破し。

 といった具合で次々と手下を捕まえていった。

 

 

「ぐぉぉぉぉ~……やられたー」

 

「やった! 魔王を倒したわー!!」

 

 

 最後には少女を人質に取った魔王とのロボトルに勝利を収め、見事に勇者の役目を遂げる事に成功。

 そのままツアーは終了となり、勇者役を務めたイッキはステージの上に案内される。

 

 

「はぁい! 良い子の皆~、魔王を倒してくれた勇者に拍手~!」

 

 

 司会役の魔女のような格好をしたお姉さんに促され、ぱちぱちぱち、と疎らな拍手が起こった。

 何かをごそごそと取り出し、

 

 

「それでは、全ての手下を撃破した勇者君には、このラピのぬいぐるみを進呈しまーす!」

 

 

 イッキの手にアリカにプレゼントしたものよりか2回りほど小さなラピのぬいぐるみが手渡される。

 同ツアーに参加した子供達からいいなーとの声があがりはするものの、勇者役を選んだのも子供達であるため、それ以上の声は上がる事無く解散となる。

 

 結局、カリンの姿も見かける事は無かった。先行した1つ前のグループに参加はしていた様なのだが、その途中で姿を消していたらしい。

 となると、どうやら、本格的に迷子の子供たちを捜し始める必要があるようだ。

 うんと頷きあって、出口を潜る前にヒカルがくるりと反転。

 

 

「さて……係員さん!」

 

「何ですか?」

 

「妹がトイレに行きたいらしいんですが、館内のトイレを借りても宜しいですか?」

 

「もるです!」

 

「ああ、それならさっきの部屋にあるよ。扉の鍵は開けておくから、戻ったら声をかけてね」

 

「ありがとうございます。ほらユウダチ、行こう」

 

「もるです!」

 

 

 ……うわぁ、茶番だぁ……と思いつつ、イッキも鍵を開けてくれた係員に頭を下げて扉を潜る。

 戻った途端、背筋を伸ばしたユウダチとヒカルが周囲を確認し始めた。

 

 

「さて、潜入しようか。……どの辺りだと思う?」

 

「あの水場の向こうですかね。なんであの位置に階段を作る必要があるのか判らないですし。もらないです」

 

「……! ヒカルさん、ユウダチ、誰かが登ってくるよ!」

 

 

 向かっていた先から。階段を登ってくる音に、全員が身構えた。

 何故かきらりと光が舞い、

 

 

「……まったく、もうここを嗅ぎ付けたでしゅか。鼻の良いヤツらでしゅ!」

 

「もう! ミルキーのコレクションを邪魔しないでよー!」

 

 

 現れたのは2人。

 黒のスーツに角2本、サングラスというロボロボ幹部な出で立ちの……幼児。おしゃぶりつき。

 もう一方は、あれだ。さっきまでツアーの案内をしていたミルキーとか言うお姉さんだ。とんがり帽子に黒装束。魔女のコスプレをしている。

 その2人へ向けて、どうやらヒカルは怖気づいた様子はみじんほどもないらしい。

 

 

「お前たちが子供をさらっているのか?」

 

「ふん! 大人はバカでしゅからね! 子供の頃から教育して立派なロボロボ団員にしようという計画でしゅ!」

 

「わたしは趣味!」

 

「うわぁ……」

 

 

 子供を拉致監禁するのを、趣味と言い切った。ロボロボ団よりも魔女ミルキーの方がたちが悪く見えるのは気のせいだろうか。利害の一致があるのは理解できるが、その趣味は(少なくとも万人には)理解できない。

 と。

 

 

「はぁ。何はともあれ、ロボロボ団が相手だ。どうせロボトルだろ?」

 

「なんでしゅお前! ふらふらしてる浪人生みたいな冴えない顔をしてるくせに生意気でしゅ!」

 

「浪人はしてないんだけどな」

 

 

 ヒカルがやや挑発的にロボロボ団の幹部に呆れて見せると、子供幹部・サラミはそれに乗っかった。

 その隣を見ればどうやらミルキーも同様にロボトルの体勢を整えている。

 隣に並んで、ヒカルが小声で呟きだす。作戦会議だろう。

 

 

「僕はゴーストで格闘主体に行くよ」

 

「ですか。私は……ふむ。並びとして、相手のリーダー機はジェントルハーツかサンウィッチですね」

 

 

 サラミのジェントルハーツ。巨体が売りの戦車脚部、大きな両腕を生かしたハンマー攻撃と頭部の「単発無効」パーツが特徴だ。

 魔女ミルキーのサンウィッチ。行動をキャンセルする「転倒」を駆使する、癖のあるメダロット。

 それらの特徴をあげておいて、ユウダチは、ふむ。

 

 

「私はケイランを出します。イッキ、メタビーにリーダーをお願いするです」

 

「メタビーで良いの?」

 

「はは。でもフレクサーソードは最後までとっておいてくれよ?」

 

「それはもう。いいよなメタビー?」

 

「ま、仕方がねーな」

 

 

 メタビーの同意の声とともに全員が向き合う。

 視線が絡まりあった所で、

 

 

「いくでしゅ! ジェントルハーツ達!」

 

「「む~ん」」

 

「メダトルロボトルミルミルキー(はぁと)!」

 

 

 ロボトルが開始。

 ゴーレム型メダロット・ジェントルハーツの巨体が壁のように前進し、その後ろからサンウィッチがイッキたちのメダロットを「転倒」させようと狙っているのが見えた。

 相手の作戦は明快だ。相手のメンバーのうち、攻撃パーツはジェントルハーツの両腕にしかない。

 転倒も、成功すれば頭パーツにわずかなダメージを与えることは可能だが……。

 

 

「ゴースト、先制!」

 

「それそれ斬るよー」

 

 

 真っ先に攻撃を仕掛けたのはヒカルのメダロット、サムライだ。

 ゴーストと呼ばれた鎧武者が、両腕に構えたビームセイバー、ビームサーベルを手近にいたジェントルハーツへと振るう。

 威力の高い光学の斬撃である。脚部、左腕の順に融解……破壊され。

 

 

「ケイラン、出来れば奥のサンウィッチです!」

 

「おうだピヨッ!」

 

「メタビー、ミサイルで援護だ!」

 

「おうよ!」

 

 

 ユウダチのケイラン、サソリ型のポイズンスコピーが多脚型の脚部を生かして、小回りを利かせながら接近。

 遮ろうとしたジェントルハーツがメタビーのミサイルを防御した隙を縫って、リーダー機のサンウィッチをメルト攻撃で叩く。

 じゅうっ、と装甲が溶ける音。身体を斜めにして脚部で防御。

 

 

「うー、充填早いー!!」

 

「これじゃあ転ばせられないよミルキーちゃん!?」

 

 

 サンウィッチの持つ転倒攻撃は充填中のメダロットの脚部に異常を起こし転倒させ、充填行動を中断させるというものだ。リーダー機として活かすことが出来ればこれ以上厄介な能力も無い。

 が、イッキにしろヒカルにしろユウダチにしろ、攻撃型のメダロットは粒揃い。3体ともに攻撃型だとて十分に連携が行えるほどの能力を有している。

 しかも言い換えれば、「充填のタイミングを狙われなければ」サンウィッチは手も足も出すことができないのである。

 明らかな援護機体がなくとも、攻撃を仕掛けるには十分だ。

 

 

「メルトのダメージが浸透するまでもうちょっと待つです。先にそっちです!」

 

「溶けるピヨッ!」

 

「む~ん」

 

「頭突け、ゴースト!」

 

「それそれ頭突きー」

 

「む~ん!」

 

「止めにミサイル!」

 

「おうよ! っだあー!!」

 

「でしゅ!?」

 

「む~……ん!」

 

 

 ごらんの集中攻撃である。子供幹部、サラミの機体ジェントルハーツは得意の単発攻撃無効トラップを設置する暇も無く撃破されてしまう。

 残るサンウィッチも、メルトによる継続ダメージによって動きが緩慢となっており。

 

 

「メタビー!」

 

「止めだな!!」

 

「ケイランっ!」

 

「ピヨォーッ」

 

「ゴースト!」

 

「それそれ最後ぉー」

 

 

 寄ってたかっての攻撃で、サンウィッチが勝てるはずも無く、その機能を停止される事となった。

 

 

「あーん、せっかく集めたミルキーの夢の国がー!!」

 

「よし!! 勝てた!!」

 

「……うわぁ、流石は幹部です。逃げ足速すぎです」

 

「本当だ、もういないや。……それとミルキーは……ってミルキーも居ない!?」

 

 

 ヒカルの声につれられてイッキもユウダチもあたりを探すが、つい先まで泣き声をあげていたミルキーの姿すら見受けられない。

 3人は顔を見合わせ。

 

 

「……それじゃあ、あの階段を降りて子供たちを解放しようか。脱力感が凄いけど」

 

「普通に犯罪なのに、あの魔女とロボロボ団が関与するとギャグにしかならないです……凄く不合理です」

 

「あ、あはははは……」

 

 

 一先ずは行方不明の子供達と、カリンを探すために魔女の城の中を捜索し始めた。

 

 

 





・コンビニのお兄さん
 3および4をプレイの方はイッキがヒカルに懐いている(語弊)印象があるかも知れませんが、2ではこんなものです。コンビニに行くイベントすらなく、基本的にはレトルトの状態での遭遇となっています。
 切欠となる神帝までは、しばしのお待ちを。

・サムライ
 ついに校長から一式を奪い取っていた(ぉぃ
 メダ2コアでは所謂「バー」のバニーちゃんが使用する。
 一式持っているからといって、別にヒカルが通い詰めたわけではない。
 中身はゴーストだが熟練度の前には相性など些細なこと、と。

・ミルキーの夢の国
 小児愛者……(性を除いて。



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12話 家

 

 

 結局、子供達は地下に作られた牢屋の中にとられられており無事に解放することができたのだが、カリンはお城の中を迷っていたというオチであった。

 お城から出るなり父親に連れられてゆくカリンは、どこか父親を気遣っていた様子でもある。

 帰りのユイチイタン号のデッキの上、イッキは1人考える。

 

 考えたのは家族の事だ。

 お化け屋敷に一緒に入る前、それに後。カリンの家族は彼女を溺愛しているといっても過言ではないだろう。

 それと比べれば、イッキの家族は拘束もしない。十分な愛情を注いでくれているのが、今ならより一層感じられる。

 自分の家族は自分を愛してくれていないのかな、と行きがけに少しでも考えていたのが馬鹿みたいだ。と、自重しながら水平線の先に小さく見えるおみくじ町の事を楽しみに思う。

 

 

「……イッキ君?」

 

「あ、カリンちゃん」

 

 

 いつしか甲板にカリンが顔を出していた。

 イッキの横のベンチに座り、落ち着いた様子で足を伸ばす。

 

 

「お隣よろしいですか?」

 

「うん、気にしないで。お父さんは大丈夫なの?」

 

「はい。いつもの通り、ユウダチさんとコウジ君が、1人になれる時間を作ってくださっているので。……少し優れない表情をされていましたが」

 

「……ちょっとね。僕の家族の事を考えていたんだ」

 

「まぁ。イッキ君のご家族の方なら、きっとお優しい方々でしょうね。……でも、わたしのお父様も過保護な所はありますが、悪い方ではないんですよ?」

 

「あはは、大丈夫だよ。それは僕でもわかる」

 

「ええ、わたしの身体が弱いのが全ての原因ですから。……ふふ、でも今日のお化け屋敷の時みたいに、ちょっぴり反抗したくなる時もありますけど」

 

「その時は僕も手伝うよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 カリンとの間に沈黙が挟まれるが、不思議と悪い心地はしない。

 流れる風を心地よく感じていると、

 

 

「……でも」

 

「うん?」

 

「ユウダチさんは少し違うのかもしれません。わたしもイッキ君も、両親は居てくれますが、ユウダチさんはそうも行きません」

 

「そういえばユウダチって……」

 

「ユウダチさんは、メダロポリスのメダロット社のある区画にアパートを借りて一人暮らしをしているんです。ご両親もお兄様も、会社にかかりっきりなので、顔を合わせることは年末くらいなのだそうで」

 

「一人暮らし!? 小学生なのに!?」

 

「はい。わたしもコウジ君も、家族ぐるみで親しくさせていただいていますし、その事について、節目節目にムラサメの家の方からお礼のお手紙はいただきます。ですがそれは、ユウダチさんに会いに来てくださるわけではありませんから」

 

「そうなんだ……」

 

 

 イッキとてユウダチの苗字が「ムラサメ」であることは知っている。花園学園に通っているため、漠然と名の有る家なのだろうという事も。

 だがその実質は知ってなどいなかったのだな、と思う。

 ……手に持ったラピのぬいぐるみを見つめる。

 

 

「ねえカリンちゃん。このラピのぬいぐるみ、貰ってくれる?」

 

「まあ。これは?」

 

「お城のツアーに参加したときにね。カリンちゃんに貰って欲しいんだ」

 

「……ありがとう、ございます。……大切にしますね!」

 

 

 カリンが満面の笑みを浮かべてラピのぬいぐるみを言葉の通り大切そうに抱きしめる。

 イッキにも出来ることは有るに違いない。

 それに今は、ユウダチの最も近くに居る……最も心配をしているのであろうこの少女に、少しでも明るい顔をしていて欲しかった。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 おみくじ町に寄港し、カリン、コウジ、ユウダチの3人はそれぞれの迎えの車に乗ってメダロポリスへと帰っていった。

 アリカは早速記事を纏めるのだと家に直行。その手にイッキからプレゼントされた特大のラピのぬいぐるみが大事そうに抱えられていたのには一先ず安心である。

 

 夕方だが、夕食は船内で済ませている。

 イッキが急ぐ必要はないが、今日のメダロッ島で家族に話したい思い出が沢山出来た。

 その脚を心持ち早め、港とおみくじ町の境目を抜けると。

 

 

「……あら、イッキ君ではないですか」

 

「ナエさん! どうしてここに?」

 

 

 メダロット研究所に行く際にいつもお世話になっている、メダロット博士の孫にして自らも博士号を持つメダロット研究の権威、アキハバラナエがその脇にぽつんと立っていた。

 イッキがすぐに気付けずナエに声をかけられて初めて判ったのは、彼女の服装がいつもの白衣ではなく落ち着いていて楚々としたものになっているからだ。

 ナエは人差し指を唇に当てて。

 

 

「ふふふ、待ち人です。……ね、ヒカルさん」

 

「―― うーん、わざわざ迎えに来てくれたの?」

 

「ええ。待ちきれなくて」

 

 

 その視線が向いた方向から、一緒に「魔女の城」における事件を解決に導いた少年、アガタヒカル(兄さま)が歩いてきていた。

 ナエはとととっと近付いて、その隣に並ぶ。小学生のイッキにも、その親しげな雰囲気にはピンと来るものがあった。

 

 

「もしかして……恋人なんですか!?」

 

「あ、あははは……うん。あまりおおっぴらにはしてないんだけどね。博士や近しい人は知ってるかな」

 

「わたしの研究が忙しいので、あまり時間が取れなくて、申し訳ないですがヒカルさんにはこうして夜に付き合ってもらっているんです」

 

 

 そう聞けば、お似合いの2人に見えてくる。ヒカルはともかく、ナエは遠めに見ても美人だ。確かに放って置かれっはしないだろう。

 イッキはあまり邪魔するのも悪いかと、切り上げる事にする

 

 

「あ、それじゃあデート、楽しんできてください。僕は家に帰りますから」

 

「ありがとうございますイッキ君。気をつけてお帰りくださいね」

 

「うん、じゃあねイッキ君。ユウダチの事も宜しく頼むよ」

 

 

 そう言って、イッキとナエはメダロポリスのある方向へと腕を組んで歩いていった。

 メダロデパートにでも行くつもりなのだろう。幸せそうな2人の様子には、イッキも少しだけ微笑ましい気持ちになれていた。

 ……ただし。

 

 

「うーん。シラタマさん、荒れてるだろうなぁ……」

 

 

 知人というよりは顔見知りの研究者の様子を思い浮かべつつ、イッキは自宅へと歩いてゆくのだった。

 

 あたってしまった父と母に謝り、それでも優しい両親へメダロッ島での冒険や思い出を沢山話し。

 イッキはその日、いつもよりちょっぴり幸せな気持ちでベッドに入ることができた。

 





・ユイチイタン号
 シャーク号というのもあった気がするがうろ覚え。
 ユイチイタンはサメ型メダロットの名前なのだが、これはまるまんまホオジロザメ風味の外観をしている。

・ラピのぬいぐるみ
 2つめ。ゲームを踏襲した展開で、無事にカリンに譲渡された。
 ここでカリンにぬいぐるみを渡すためには、この時点である程度の好感度を確保している必要が有る。


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13話 賢いロボロボ団

 

 メダロッ島の事件も落ち着きを見せた頃。イッキはメダロポリスへと足を伸ばしていた。

 メダロットに関するあれこれはメダロッターズを中心としたエリアが最先端である。最新型のメダロットなどを見るのは、イッキとしても非常に有意義な時間であった。

 が、何よりの目的は「メダリンク」に参加する事だったりする。

 メダリンクは、電脳回線を利用したロボトルを行う事が出来るシステム端末であり、メダロッターズの2階に大量に設置されているのだ。

 その使用には登録が必要なものの、登録さえ済ませてしまえば後はメダロッチだけで全国の回線が繋がった地域のメダロッターとロボトルをする事が出来るということで、イッキとしてはまだ見ぬ強敵とのロボトルという物に非常に興味を持っていたのである。

 まずはレート戦(ランキング戦)に参加する前にとランキングポイントの入らないフリーでのロボトルを幾つかこなすころにはお昼を過ぎた頃合となっていた。

 街の中はあまり見た事が無かったな……と考え、イッキはメダロポリスの街中にも足を伸ばす事にする。

 すると。

 

 

「? あれ、ユウダチじゃないか」

 

「あ、イッキです。こんばんはですー」

 

 

 向かいからいつもの花園学園の制服ではなく、まっさらなツナギを着たユウダチが歩いてきた。

 イッキが思わず声をかけると、耳聡く聞きつけたユウダチがイッキの元へ寄ってきて手を挙げながら挨拶。

 

 

「どうしてここに居るの……って、それは僕のほうか。僕はメダリンクに参加してきた所なんだけど、ユウダチはどうして?」

 

「たった今メダロット社でのお仕事を終えて戻ってきた所なんです。私は家に戻る前に買い物をしに行くんですが……暇ならイッキも一緒に来るです?」

 

「良いの?」

 

「はいです! それに荷物もちに付き合ってくれるのなら、帰りはおみくじ町の入口まで送るです」

 

「あっ、やっぱり荷物もちなんだ」

 

 

 とは言いつつもイッキとしては時間はあり、丁度時間つぶしをと考えていた頃合でもあった。

 ユウダチに案内されながら、区画を東へ。

 

 

「今日は新しいパーツのテストをしていたのですが、予定より早く終わったのです」

 

「へぇ~。もう新しいパーツ? やっぱりメダロット社って、凄いんだなぁ。新しいパーツを一から作るって、僕じゃあ想像もできないや」

 

「そうなのです? でも今はパーツ開発には色々な企業が参加していますよ。それにイッキの同年代でもKBTシリーズを独自改造して、レギュレーション判定を通過した小学生がいる位です。個人開発の人もそれなりにはいるです」

 

「改造! ……ちょっと怖いな」

 

「ですね。普通はバランスが崩れたり放熱系を遮断してしまってオーバーヒートからの爆発だったりするです。オススメはしません……が、ロボトルにおいて見た目では効果がわからないというのは非常に大きなアドバンテージなので、気持ちは判りますね」

 

 

 ユウダチの話す内容は意外と噛み砕いてくれるため、イッキとしても判りやすいものだ。

 しばらく2人で話をしながら歩いていると、目の前にアドバルーンをあげている大きな建物が現れる。イッキも見覚えがあった。それは主にCMで。

 

 

「ここって、メダロデパート!?」

 

「ですね。イッキは初めてです?」

 

「そうだね」

 

 

 と、少し緊張しながらユウダチに連れられて自動扉を潜る。

 メダロデパートは、メダロット製品を中心にその他雑貨や食料品なども扱っているショッピングモールだ。土曜日曜などは子供連れの家族で賑わう、メダロポリスの台所でもある。

 一階はメダロットのパーツ売り場。コンパニオンに新作パーツの紹介などをされつつ、冷やかし気味に今度は二階へ。

 二階は雑貨売り場になっているようだった。ここが目的地らしい。

 

 

「それでは、私は食材なんかを買い出してくるです。イッキはこの辺りをうろうろしていてください」

 

「あはは……うろうろしてていいんだ?」

 

「勿論良いです。店内にいる分にはカートもあるですから。多分かなり大量になるので、デパートの出口までの荷物もちをお願いしたいです」

 

「わかった。それじゃあ僕もちょっと見てくるよ」

 

「15分後にあそこの会計所で集合にしましょうです。それでは!」

 

 

 言って、ユウダチはカートをがらがらと押して店内へと飛び込んでいってしまった。

 

 

 

 

 ◆3

 

 さて。と、イッキは食材よりもメダロット関連の小物を見るために、雑貨スペースへと回ることにする。

 

 

「へぇ……望遠レンズか。これはアリカが欲しがっていた奴かな。それに向こうのスペースはペット販売のスペースになってる。食材の所とはきちんと区別されてるんだなぁ」

 

 

 非常にどうでも良い部分に感心しつつ。

 

 

「……折角だし、プレゼントとか買っていこうかな」

 

 

 などと、思い至ったり。

 アリカには先日のメダロッ島に連れて行ってもらった恩があるし、カリンとユウダチにはメダロットの事でお世話になっていたからだ。

 コウジは……別にいいか。とまで考えて、再度雑貨スペースへと立ち戻る。

 

 

「……。……やっぱりこれかな。うん。…………。……お! これなんかはカリンちゃんが喜んでくれそうだ」

 

 

 数分かけて選んだのは、アリカへの望遠レンズ、カリンへのハムスターという物だった。アリカは自前のカメラを持ってからレンズのバリエーションが欲しいと言っていたし、カリンは家の外ならば兎も角家の中では寂しがっているとコウジやユウダチから聞いている。飼育に手間がかからないものであれば両親とて断り辛くなるだろう。

 さて次は、ユウダチへのお礼を。

 ……と考えてはみたものの、イッキはユウダチが贈り物に何を送れば喜びそうかが判断つかなかった。悩みながら品物を物色し、歩き続ける。

 

 

「うわっ」

 

「あっ、イッキ。……そういえばそろそろ15分ですね。もしかして、お待たせしていたです?」

 

「もうそんな時間!?」

 

 

 しかしいつの間にか、カートを引いたユウダチが目の前に現れていた。どうやら知らない間にレジカウンターの近くにまで来てしまっていたらしい。

 

 

「いや……それより買い物は終わったの?」

 

「はいです。よっ、とぉ。これです!」

 

「凄い量だね!?」

 

 

 待たせても仕方が無いか。と、イッキは切り替えて籠を抱えてレジカウンターへと向かう。

 デパートの出口まで大量のレジ袋を抱えてゆくと、入口にランドモーターという車両型のメダロットが待ってくれていた。

 その積荷に買い物袋を全て積み込むと、おみくじ町との境目まで送ってくれた後、ユウダチはメダロポリスへと引き返していった。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

「今度は賢いロボロボ団が現れたんだって! それを取材に行くわよ!!」

 

「ええー……セレクト隊に任せようよ」

 

 

 時と所変わって、放課後の教室。

 アリカは机の上に置いた新聞の見出しをばしばしと叩きながら、目の前で露骨に嫌そうな顔をしているイッキへ語っていて。

 

 

「それで、賢いロボロボ団? 何を取材するの?」

 

 

 確かに現実、ロボロボ団は賢いとはいい難い。

 そのためその頭に賢いとつけるのも、あながち間違いとは言えないのだが……

 

 

「ふっふっふ……実は今回はあたしも事前取材を行っているのよ。賢いロボロボ団はセレクト隊に掴まらず悪戯を繰り返しているの。その出現ポイントをまとめてみたの!」

 

「おっ。本格的だね」

 

 

 といいつつ、イッキは指差された地図を覗き込む。

 出現ポイントとして描かれた×印は、どうやらメダロポリスを中心にしているらしい。

 

 

「それであたしが目を付けたのは ―― ここよ!」

 

「ここって……花園学園じゃないか!?」

 

「そうよ。でも一応根拠があるのよ。イッキ、明日から取材に付き合ってよね!」

 

「……大丈夫かなぁ」

 





・イッキの同年代でもKBTシリーズを独自改造して、レギュレーション判定を通過した小学生
 りんたろうと部長らの事。
 詳細はボンボンで連載されていたメダロッターりんたろう!をご覧いただければ。異常に美化されたヒカルを見る事が出来ます。

・メダロデパート
 パーツンラリーでゴッドエンペラーの脚部を販売する恐ろしい店。
 買えるだけ買いこむのはお約束。
 ただ、ゴッドエンペラーの脚部は特筆すべき性能というわけでもない。安定感はある。

・望遠レンズ
 アリカへの贈り物。好感度がアップする。
 例によって、ゲームにおいては片方にしかプレゼントできない。

・ハムスター
 カリンへの贈り物。好感度がアップする。
 今作のイッキは両方買いやがりました。
 ……因みに望遠レンズのが遥かに高額だったりする辺りが現実的。


 202200527 書き方変更のため、記号削除。


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14話 花園学園

 

 翌日、アリカとイッキは「賢いロボロボ団」の調査のために花園学園へと向かった。

 出現地点の分布と、目撃証言から件の賢いロボロボ団は背丈が小さいことから、同年代の学生であるとアリカは睨んでいるらしい。

 心象としては否定しておきたいイッキであったが、メダロッ島にて子供(というか幼稚園児)幹部のサラミと遭遇したという前例があったために強くは言い出せず、結局引きずられて調査へと乗り出しているのであった。

 

 

「友人を疑うのも、なんだかなぁ……」

 

「何言ってるのよイッキ。報道者たるもの、何にでも疑ってかかる心意気をもたないと!

 

 

 それなら僕、報道者じゃなくていいや。とは思うものの口には出さず。

 現在のイッキたちはカリンやコウジの伝手を借りて、花園学園の内へと入っていた。教師達から怪訝な目を向けられるものの、話が伝わっているのか、名前を聞かれる程度で済んでいる。

 学内はイッキ達の通う学校とは似ても似つかず、広々とした中庭や所々に絵画や生け花。挙句の果てには無駄に金ぴかな彫像などが置かれ、雰囲気からしてお金持ち! といった様相でどこか落ち着かない。

 しかして、その中を自分たちと同じような子供たちが駆け回っているのだから違和感も尚更である。

 

 

「コウジ君たちの待っている空き教室、2階だったっけ?」

 

「うん、そう聞いてるけど」

 

 

 アリカが生き生きとした表情で。その言葉にある通り、アリカが先行調査を依頼したコウジ、カリン、ユウダチの3人が待っている教室を目指す。

 階段を登り、2階へ。

 

 

「お、おぼっちゃま……」

 

「ボクは帰るよ。フン、君たちのような子供には構っていられないのサ」

 

 

 中途で小さな子供とすれ違ったものの、別段衝突もなく。ただ学内でも執事らしき人を連れているあたり、変わった子だなぁとは思ったが。

 アリカもいったん目を向けたが、気を取り直して進み直した。

 

 

「―― お、やっと来たなイッキ」

 

「ふふ。どうぞお上がり下さい……で、良いのでしょうか?」

 

「良いんじゃないですかね? 制服でないあたりに部外者感は漂っていますが、一応、教師からの了解は得ているですし」

 

 

 音楽室として使われているらしい空き教室に入ると、コウジとカリン、ユウダチが教卓の前に腰掛けて待っていた。

 イッキとアリカも挨拶をしながら合流。

 

 

「3人とも、アリカの調査への協力ありがとう!」

 

「まぁな。花園学園に噂の『賢いロボロボ団』が居るかもと聞かされたときは何事かと思ったが、こうして調査資料を見せられちゃあ、オレも可能性は否定できないって思っちまったからな」

 

「ふふん、あたしはいつだって抜かりなく調査してるんだから!」

 

 

 アリカが胸を張りながら、調査資料を机の上に広げる。

 集まった全員がそれを覗き込んだ。

 

 

「さて、それじゃあ確認するわよ。賢いロボロボ団の出現ポイントをまとめた地図がこれ。縮尺を引いた地図がこれで、こんな風に、花園学園周辺2キロ位で事件は頻発しているの」

 

「ふむぅ。ちょっと離れている位置のは弾くということですね」

 

「その通りよ。それで、悪戯している姿を捉えた写真がこれ。近くの人と比べてみれば一目瞭然だけど、子供の背丈でしょ?」

 

「確かにそうだな」

 

「という訳で、出現ポイント内にある唯一の学校である花園学園の生徒で調査を行うわ。まずは聞き込みね。生徒の中で不審な行動をしている人が居ないか、聞いて回るのよ。あたしとカリンちゃんが担当するわ」

 

「宜しくお願いしますね、アリカさん」

 

「うん、宜しく。……それで、イッキとコウジ君は街中の人に聞き込みをしてちょうだい。多分、移動パターンとかにも法則があると思んだけど、そっちはやっぱり現地調査をしてみないと判らないのよ」

 

「どっちから来てどっちに逃げて行ったかをまとめればいいんだね」

 

「よし。判った、任せろ!」

 

「お願いね。それで、ユウダチは遊撃。最初はあたしとカリンちゃんの手伝いをしてくれる? 軌道に乗ったら街中に出て貰おうと思うの」

 

「はい、判ったです!」

 

 

 各々の役目を確認した所で、自然と組が分かれる。

 イッキとコウジが目線で頷きあって。

 

 

「頑張ろう、コウジ!」

 

「ああ。オレ達の街で悪さをしているんだからな。何が何でもとっ捕まえてやるさ!」

 

「おー、コウジがやる気です。空回りとか、いつかの様に暴走しなきゃいいんですけど」

 

「……気を付けてくださいね? コウジ君」

 

「分かってるよ。前科があるとはいえ、一直線にはならない様に気を付ける」

 

 

 コウジが拳を握ると、ユウダチが手を差し出し、自分のメダロッチを突き出した。

 

 

「それでは、取材の一助として皆さんにはこれをあげますです」

 

「これは?」

 

「メダロットで街中を移動する為のパーツ一式と、その補助パーツ。合わせて『ミニハンドル』という名称で運用をしているです」

 

「どういう風に使うの?」

 

「たった今皆のメダロッチに転送した『ランドモーター』のパーツ一式に取り付ける事で、人を乗せる車両型に変形するんです。アリカ以外は多分、わたしが乗っているのを見た事があると思います」

 

「あっ、この間の?」

 

「はいです。これはメダロットを変形させるための試運転を兼ねているのですが、今回皆にはテスターとして使用してもらうです。私が実際に2ヶ月ほど使ってますので、安全性は大丈夫かと思うです。後は運用データが欲しいだけなので、がんがん使って下さいです!!」

 

「へぇー。免許とかはいらないのか」

 

「実はメダロットの方に資格を持たせているんです。パーツ記憶部分にドライブデータが入っているので、安全運転はお任せあれです!」

 

「移動時間が短くなるのはいいな。ありがたく使わせてもらうぜ」

 

 

 コウジはメダロッチを操作し、早速と一式を組上げる。

 イッキを伴って、教室の入口へと早足に。

 

 

「それじゃあ夕方に、また空き教室に集合だな!」

 

「行ってくるよ。また後でね」

 

 

 男2人で、意気揚々と学園の外に飛び出していった。

 その様子を、残った3人は眺めつつ。

 

 

「それじゃあ、あたし達も行こうか?」

 

「はいですわ」

 

「了解です!!」

 

 

 学園の中での情報収集を始めるのだった。

 女子3人による(特にカリンが居るので男子からの)情報収集力は凄まじく、アリカのチーム分けは見事に的を射る結果となる。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

「待ちやがれ!!」

 

「嫌だよーだ!」

 

「は、早いっ!!」

 

 

 女子たちの情報収集が佳境を迎えるその頃、街中を探索していたイッキとコウジは、レストランの横で賢いロボロボ団を発見し、その後を追っていた。

 異様に素早いロボロボ団ではあったのだが、2人で追い回す事によって徐々に逃げ場を塞いでゆく。

 5分ほど追いかけっこを繰り返し、ついに端へと追い詰める事に成功した……の、だが。

 

 

「ワッハッハ! これもわしの手柄じゃい!!」

 

「大人しくお縄を頂戴するであります!」

 

「さあ、此方へ来るのであります!」

 

「うっ……うう……!」

 

 

 当の賢いロボロボ団は、セレクト隊員とロボトルの最中となってしまった。

 イッキとコウジが追い詰めた所を、セレクト隊によって横取りされかけているのだ。

 

 

「くっ……こいつら!!」

 

「落ち着こうよコウジ。表立って助けると、僕たちも仲間だと思われちゃうからなぁ……」

 

 

 腰を屈め、植木の後ろに隠れて。

 憤慨するコウジと、どうにかして方法を探るイッキ。折角の手がかりをセレクト隊に全て掻っ攫われるのは、流石に面白くないのである。

 裏から何とか様子を伺っていると、ついに子供が多勢に無勢で押し切られてしまう。

 

 

「さあ、観念するであります!」

 

「……うう……」

 

 

 セレクト隊員がロボロボ団員を拘束しようと一歩を踏み出す。

 ……が、救いの手は思わぬ所から現れた。

 

 

「ええっと……その、弱いものイジメは良くないと思いますわ!」

 

 

 突如、(少々声量は足りないが)声が割り込んだ。

 

 

「……なんじゃ、割り込むにしても弱気な声じゃが……どこに居るんじゃい!?」

 

「……あっ! あれは!!」

 

「あれは……何だ?」

 

 

 イッキは目を輝かせ、コウジは不審者に遭遇したかの様な顔。

 セレクト隊もアワモリ隊長も、はては追い詰められていたロボロボ団員までもが見上げる目線 ―― その先に。

 

 

「とうっ! ……怪盗レトルトレディ、参上いたしました!」

 

「へっ、へんた……」

 

「かっこいい……」

 

「白チャイナの羽マント!! お前が噂に聞くレトルトの相方じゃの! わっはっは、こりゃあ良い! こいつも一緒につかまえてしまえば大手柄じゃわい。……お前ら、捉まえるんじゃ!!」

 

「「了解であります!!」」

 

 

 突如現れたレトルトレディなる人物を正面に捉え、アワモリ隊長の一声。

 今度はロボロボ団とセレクト隊との間に立ったレトルトレディに向かって、隊員たちがじりじりと距離を詰めてゆく。

 

 

「っ……イッキ!」

 

「うん! 僕達も……」

 

 

 2対1だ。この状況だけを見れば、どちらが悪役だか判ったものではない。

 その様子にイッキたちが飛び出そうとするも、

 

 

「! 大丈夫。ここはお姉さんに任せて置いてください。……お願いエンゼル! デビル!」

 

 

 2人にだけ通じる言い様で、レディは腕をこちらに向けて、大丈夫と念を押した。

 その前に、メダロットを転送する。

 

 

「ふわわー。いくよー」

 

「暴れていいんだな。……いいよな? 暴れるからなっ!?」

 

「な、なんだこいつ等は!?」

 

 

 セレクト隊の前に立ち塞がったのは、2体。

 白い天使のようなメダロットと、黒ヤギをモチーフにした悪魔のようなメダロットだ。

 レトルトレディが腕を一振りすると、セレクト隊の出したメダロットを蹂躙しはじめる。

 

 

「ぶるぁぁぁぁー! 暴れる暴れるぅー!!」

 

「ひいいいいっ!?」

 

「ふわわー。直すよー」

 

「うわあああっ!?」

 

 

 見るも無残で圧倒的。

 黒いメダロットが腕を振るたび、セレクト隊のメダロットは半壊に追い込まれる。

 ダメージを与えても、白いメダロットが粒子を放つたびに修復される。

 ロボトルをさせられているセレクト隊員にしてもそのメダロットたちにしても、正に悪夢としか言いようの無い状況だった。

 ……1分ほどで、例の如く全滅。

 

 

「ぐっ……た、退散じゃあ!!」

 

「「た、隊長ッ!?」」

 

 

 全滅を待たずして、我先にと逃走したアワモリ隊長。その後を追って、隊員達も逃げてゆく。

 レトルトレディはその様子を最後まで見届けて、ふうと息を吐いた。

 

 

「戻ってください、エンゼル、デビル。……切り札の獣王も控えていたのですが、大丈夫でしたね。……怪我はなかったですか?」

 

「う、うん……」

 

 

 あまりの迫力に座り込んでいた賢いロボロボ団の手を取って立たせ、笑いかけた。当のロボロボ団員にとっては、仮面の内にある笑顔が、一層光り輝いて見えているに違いない。底知れぬ母性である。

 

 

「でも、あまりやんちゃが過ぎるのもいけませんよ。わたしが付き添ってあげますから、レストランに謝りに行きましょう」

 

「……うん、わかった。……ごめんなさい」

 

 

 何とも素直に、ロボロボ団はつき従っていた。

 開いた口の塞がらないイッキとコウジへ向かって、レトルトレディはウィンク。

 

 

「それじゃあ謝ったら、君達からも聞きたい事があるよね?」

 

「はっ、はい」

 

「……そうだな」

 

「わたしは流石に、セレクト隊には着いてゆけません。貴方達が一緒に行ってあげてください」

 

「……セレクト隊?」

 

「なんでセレクト隊に行くんだ?」

 

 

 成り行きが判らず、イッキとコウジが尋ねる。

 レトルトレディは2人の様子にああ、と頷きつつ。

 

 

「ああ、そこから説明が必要ですものね。……それじゃあまず、この子からお話を聞きましょう。謝罪はその後に。場所を移しますから、着いてきてください」

 

 

 言って歩き出したレトルトレディ。顔を見合わせて……一先ず。

 イッキとコウジは、その後ろを着いて行く事にした。

 





・変形
 3への布石。3以降はランドモーターに替わってヴェイパーレールがミニハンドルを引き継ぐ。

・賢いロボロボ団
 つまり、一般的なロボロボ団は賢くないと認知されている。
 そしてその認識は非常に正しいかと思われる。

・レトルトレディ
 中身は例のお方。
 使用メダロットが鬼畜なのが、レトルトレディのお約束。
 原作でのお方はパーツテストの役目までユウダチに奪われたのでまたも出番なし。果たして登場するのか。


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15話 急行、ぞのはな学園

 

「さて、お話を伺いましょう。貴方達ロボロボ団員になった子供達の経緯、お話してくださいますね?」

 

「う、うん。……判ったよ」

 

 

 レトルトレディに連れられて、街の端、メダロデパートの影にまで移動した後。

 底知れぬ母性を感じさせるレディにたじたじの団員は、促され、団員服を脱ぎ始める。

 何の事は無い。アリカの睨んだとおり、その中から現れたロボロボ団員の正体は子供であった。

 口を開きかけたコウジを制して、イッキが尋ねる。

 

 

「君は、花園学園の生徒?」

 

「……そうだよ」

 

「どうしてこんな事を?」

 

「始めは、ちょっとした悪戯心だったんだ。おれの他にも大勢の子供たちがロボロボ団やってるって聞いてさ。花園学園って、少し息苦しいだろ? ストレス発散みたいな部分もあったのかもしれない」

 

「お前な……!」

 

 

 コウジが流石に怒り始める。イッキとしても気分はわかるため、積極的に止める気にはなれない。

 が、コウジは何とか振り上げそうだった拳を自制。行き場の無い怒りを溜息に込め、元団員の少年に先を促す。

 

 

「それで?」

 

「わ、悪いとは思ってるんだ。だから君達に全部話すよ」

 

 

 そのまま、少年は言葉の通り、全部を語ってくれた。

 子供のロボロボ団員が勧誘されている事。行方不明になっている子供は大抵ロボロボ団をしている事。その多くは花園学園の生徒である事。

 そして何より。

 

 

「アジトは地下にあるんだ」

 

「地下だって!?」

 

「どうやって入るの?」

 

「忠犬ボナパルトの像があるだろ? あの下に入り口があって、そこから下水伝いに行くと本拠地がある」

 

「成る程……下水を使えば、マンホールから色々な場所に出入りが出来るってわけか」

 

 

 これが、所々に消えては現れる「賢いロボロボ団」の正体であった。

 コウジが納得すると、少年は少しだけ目線をずらして。

 

 

「……それじゃあおれ、レストランに謝ってからセレクト隊に行くよ」

 

「おう。そうしろ。多分家族だって、お前の事心配してるんだからな」

 

「有難う。……もしかして君たちが、ロボロボ団を倒して回っているって噂の子供達なの?」

 

「噂になってるの!?」

 

 

 少年からの指摘にイッキは思わず驚きの声をあげる。

 確かに、行く先行く先でロボロボ団と遭遇する為、結果的に倒して回っているのは事実なのだが、まさか噂になっているとは思ってもいなかったのだ。

 そんなイッキの様子を見たコウジが、頭を掻いて。

 

 

「……イッキ。あちこちでロボロボ団を倒してたの、やっぱりお前なのか?」

 

「コウジも知ってたの!?」

 

「何となくはな。実は、おどろ沼で大きなロボロボ団とロボトルしてるのも見てたんだよ。変な水晶玉を被った幹部に邪魔されて、助けには行けなかったけどな」

 

「……うーん」

 

 

 イッキが思わぬツッコミに唸りをあげる。

 何せ、その度にイッキは女装をしていたので、声高に話したい情報ではなかったのだ。

 コウジはイッキのその様子に言外の確信を得ながら。

 

 

「まぁ良い。でも、今度からはオレも頼ってくれよ。カリンやアリカ、ユウダチだって女子だからあんまり巻き込みたくないのは判るけどな。オレなら大丈夫だろ?」

 

「……判った。何かあったら頼りにするよ、コウジ」

 

「おう!」

 

 

 イッキとコウジが握手を交わす。

 さて、とこれまで会話を傍観していたレトルトレディが話題を戻す。

 

 

「それでは、ある程度の情報は得られましたね。わたしはこの子を送っていくので、貴方達は花園学園へ戻ってあげてください」

 

「そうだな。大分核心に迫る情報だったし、あのアリカって子に伝えとかないとどやされるぜ」

 

「だね。……あの、レディさん」

 

「はい?」

 

「その子の事、お願いします」

 

 

 たとえ悪事を働いたとしても、自分と同年代の子供が罰される……しかも捕まえるのを協力したとなればイッキとしては微妙な気分である。

 何をお願いするのか。罪を赦してなどとは口が裂けても言えはしないが。

 そんな言葉を受けて、レトルトレディは微笑む。

 

 

「大丈夫です。……こういう時は親が責任を被ると決まっていますから。君達も、子供だからといって何をしても許される訳じゃあないでしょう?」

 

「ああ、そうだな」

 

「はい。そうですね」

 

「ふふ。それが判っているのなら、君達は思うように進んでください」

 

「……良いんですか?」

 

「ええ。だって、無茶が出来るのも子供の内ですから。心配をかけたとしても、それで悪い事をしているわけではありません。今回は事が事ですから、私やレトルトも協力させていただきます。残りの子供達の事、わたしからも宜しくお願いしますね?」

 

 

 最後にそう言って、レトルトレディは元ロボロボ団員の少年を連れてレストランのある方角へと歩いていった。少年もあの様子であればセレクト隊を目前にして逃げ出すということはないだろう。

 ……そもそもレトルトレディがあの格好では不審者だろうとコウジは思ったが、雰囲気を読んで口にはせず。

 2人は情報を統合すべく、花園学園へと戻っていった。

 

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

 

 しかし、2人は花園学園の校門付近で足を止めた。

 

 

「ロボロボロボ! この学園はロボロボ団が封鎖したロボ!!」

 

「えええ!!」

 

「……参ったな、こりゃ」

 

 

 驚き声を上げたイッキを連れて、コウジは一度、校門の影に退散する。

 その入口を塞いでいるロボロボ団員(賢くない方)からの言葉の通り、どこかから現れたロボロボ団員達が花園学園を封鎖してしまったらしい。

 目的は不明だが、アリカ、カリン、ユウダチが学園内に残っていたはずなのだ。

 

 

「……コウジ、何か入る方法は無い?」

 

 

 コウジは花園学園の生徒。自分には知らない侵入方法を知っているのではないかと、期待を込めてイッキは問いかける。

 やや唸った後。

 

 

「……こういうのはどうだ?」

 

「ふんふん」

 

 

 相談を始め、そしてその数分後、2人はまんまと学園内に入る事が出来ていた。

 さて、侵入に成功した経緯は以下の通りである。

 

 ―― 宿題のノートを忘れた!!

 ―― 2階の右から3番目のクラスの、前から3番目の列の左から5個目の机の右に掛かっているバッグの中に!

 

 ……と告げると、入口のロボロボ団員(賢くない)は頭を抱え、イッキとコウジを学園内へと通してくれたのだ。

 

 

「流石はロボロボ団。数字に弱いぜ!!」

 

「……いいのかなぁ。助かるけど」

 

 

 どこか釈然としないがロボロボ団だから仕方が無い。と、自分を納得させつつイッキとコウジは学園を2階へと上る。

 辺りにロボロボ団が居るものの、話が通っているらしい。宿題は大切だロボ、などと言いながら何故か歓迎ムードでもって2人を通過させてくれる。

 ロボロボ団員が件の教室以外を施錠してしまったらしく、まずは鍵を入手しに職員室へと向かう。

 職員室に入ると、囚われていた教員たちがいたが、彼等はロボトルにはあまり明るくないらしく、寧ろコウジに頼るような勢いで鍵を渡してくれていた。

 鍵を持ったコウジが、入口で待っていたイッキの元へ戻って来て。

 

 

「さてイッキ。オレは学園長の部屋に向かおうと思う。お前はこの2つの教室に入って、ロボロボ団員を蹴散らしてきてくれ。どうやらカリンとアリカが教室の中に居たままらしいからな」

 

「……学園長室?」

 

 

 差し出された二つの鍵を受け取りながら、イッキが首を傾げた。

 コウジはああ、と頷きながら。

 

 

「どうやらロボロボ団がそこにも立て篭っているらしいんだ。幾つも教室を占拠して、一体何がしたいんだか」

 

「でも、だったら僕も……」

 

「いや、その2つの教室のどちらかにはユウダチが居る可能性がある。鍵さえ開けば、お前とユウダチなら早めに済ませられるだろうと思ってな。オレは時間を稼ぐから、後からお前達も合流してくれれば良い」

 

「うーん……それってコウジが危なくないかな」

 

「おいおい、それはお前だって同じだろ?」

 

「……それもそうだね」

 

 

 どうやら話し合いは合意に到ったらしい。

 2人は揃って職員室を出て、イッキは左手、コウジは右手へと分かれる。

 

 

「それじゃあ……カリンの事頼んだぜ、イッキ!」

 

「うん? ……判った」

 

 

 何やら感慨深げな表情を浮べてから、コウジはいつもの熱血ぶりで学園長室へと突撃して行った。

 ……これは自分も早くしたほうが良さそうだ。と考え、イッキも、アリカとカリンが囚われているという教室へと急ぐ事にした。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 同刻、花園学園の校門付近。

 にわかに騒がしくなってゆく学園の周辺をよそに、校門付近に佇む2つの怪しい影があった。

 

 

「さて……レトルト。もうすぐセレクト隊の人達が来てしまうらしいんですが、今学園の中に入られると非常に面倒な事になりますね」

 

「そうだなレディ。あいつ等は場をかき乱す事しかしないからな……よし。どうにかして近寄らせないようにしよう」

 

「あら、どうするのです?」

 

「それはな……こうするんだ!」

 

 

 タキシード風の男、怪盗レトルトが颯爽と動く。

 校門の前に立つと、学校の表札をささっと取り外し、入れ替え、また校門の後ろへと戻った。

 すると、かつて「はなぞの学園」と表記されていたものが、「ぞのはな学園」と読めるようになっていて。

 

 

「―― ここが花園学園でありますか!?」

 

「違うであります! ここは園花学園と書いてあるであります!!」

 

「それでは花園学園を捜索しに行くであります!!」

 

 

 一度は集まりかけたセレクト隊の隊員は、まだみぬ花園学園を探しに方々へと散っていってしまった。

 後には高笑いをする怪盗レトルトとレトルトレディが残されて。

 

 

「ふはははは! それではレディ、ここの見張りを君に頼もう。私は学園内へと入り、少年達の援護へと回る!」

 

「はい! レトルト、気をつけてくださいね!」

 

「油断はしないさ。必ずや君の元に帰ってくると約束しよう!!」

 

「信じていますよ、レトルト!」

 

 

 以下略。

 いつの間にかノリノリの2人にツッコミが入らない事を悔やむばかりであった。

 




・数字に弱いぜ!
 原作まま。
 こんなんだからセレクト隊といい勝負になる。

・ぞのはな学園
 原作まま。
 こんなんだからロボロボ団といい勝負になる。

・2つの鍵
 好感度上昇イベントの最終選択。
 右がカリン、左がアリカの囚われている教室の鍵。
 例の如く、本来は片方しか受け取る事ができない。


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16話 下水と幹部

 

「はぁっ、はぁっ……どうだ!!」

 

「ぐぅっ……この俺様がこんなガキに負けるとは!!」

 

「いい加減観念しやがれ!!」

 

 

 学園長室に突入してから15分ほどが経過した頃。カラクチ・コウジは黒づくめの男とロボトルを行い、それを打ち破っていた。

 拳を握るコウジの目の前で、ロボロボ団の幹部……サケカースが全てのメダロット機体の機能を停止され、どすどすと地団太を踏んでいる。

 

 

「くっ……スルメの奴もシオカラの奴も逃げ出した様だし……俺様も逃げてやる! けどメダルは欲しい! どうしろというのだ!?」

 

「……おいおい。なんてワガママな奴だ」

 

 

 コウジは思わず頬を掻く。

 今いる場所は、校長室の奥側。通常みることのない場所に造られた、秘密の部屋の中である。ここには学園長が趣味で集めた天然メダル達が集められていたりしたのだが……どうやらサケカースが花園学園を占拠したのは、ロボロボ団全体の意図の他、自分自身がこれらコレクションのメダルを奪いたかったからというしょうもない理由であったらしい。

 しかし、何れにせよこの男は捕縛せねばなるまい。さてどうしたものか、とコウジが考え込んでいると。

 

 

「……居た、サケカース」

 

「!! お前はっ!?」

 

「おお! シュコウか!!」

 

 

 秘密の出入り口になっている壁から進入してきた、ロボロボ団の幹部にコウジが思わず身を構える。

 水晶玉をすっぽりと被ったようなその容貌。おどろ沼においてコウジの行く手を遮った相手、シュコウであった。

 現れた援軍を見、サケカースは好機とばかりに大声で。偉そうに。ふんぞり返って。

 

 

「丁度良い! 俺様は逃げるぞ! シュコウ、お前はコイツの相手をしろ!!」

 

「……逃げる?」

 

「ああ! 俺様は一足先にアジトに戻っているからな! 良いな! ここのメダルを回収して、戻って来いよ!」

 

 

 そう強気に言い張ると、ふんと息を吐きだした。

 ちなみに、ロボロボ団幹部の間に階級はない。サケカースがリーダー格ではあるものの、『外様』のシュコウより偉いというわけでもない。

 シュコウは表情の見えない水晶玉の被り物の中で、しばらく沈黙してから。

 

 

「……サケカース」

 

「なんだ」

 

「……この男の子は貴方より強いんでしょ。どちらも、っていうのは無茶振り。メダルは諦めて」

 

「むぐっ」

 

「……早く逃げて。わたしが時間を稼ぐ」

 

「ぐぐっ……仕方が無い。今回だけだぞ! 特別だからな! 逃げる時間くらいは稼いで見せろ!!」」

 

「あっ、待てよ!! ……って」

 

 

 コウジが横を抜けようとしたサケカースを遮ろうとするも、その合間にシュコウが割り込む。

 その右手にはメダロッチ……いや、やや型遅れだが「ケイタイ」と呼ばれる前世代のメダロット転送格納端末を構えていた。

 どうやら構えは万端らしい。サケカースは振り返ることもせず、真っ先に外へと駆け出していった。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 後に残されたコウジとシュコウの間に沈黙が下りる。

 ……両者ともにメダロットを転送する手はずを整え、構えてはいるが、一向に手を出そうとはして来ないようだ。

 

 

「どうした? 足止めをするんじゃないのか?」

 

「……貴方の仲間が来るのを待ってる」

 

「? なんでお前がそれを知って……」

 

「―― コウジッ、無事かっ!?」

 

 

 言いかけたところで、ドバァンと扉を開けてイッキが突入してきた。

 コウジと対面しているシュコウを認めると、イッキはコウジの横に立つ。

 

 

「この人は?」

 

「おどろ沼でお前を助けに行こうとした所を、遮った幹部が居たって言ったろ? コイツがそう……なんだが」

 

「……」

 

 

 さあロボトルかと構えている両者を他所に、シュコウは何やら機を窺っている。

 またも続く沈黙の後、かちりと長針が動いた所で。

 

 

「……役目、終わり」

 

「え?」

 

「……多分、サケカースは逃げた。だからわたしの役目、これで終わり」

 

 

 掲げていた携帯端末も下げ、敵意は既に感じられない。

 言ってとことこ歩き部屋を出たシュコウの後を、イッキとコウジが慌てて追う。

 

 

「おい! 確かにオレは足止めされたけどよ、ロボトルは良いのか?」

 

「……ロボトルしろとは言われなかった。……女の子、助けられた?」

 

「あ、うん。レトルトさんも協力してくれたから……ユウダチっていう子以外はね」

 

「……そう。良かった。彼女は気にしなくて良い。アジトの方に移送されたから、向こうに居る」

 

 

 話しかければ以外にもすんなりと返答は帰ってくるようだ。イッキがアリカとカリンを救出に行った事も知っているらしいが。

 そのまま校長室を出て、2階の端、窓際に立つと、2人の居る後ろ側へと振り返る。

 

 

「……来るんでしょ、アジト」

 

「そりゃあまぁ、行くけどよ……」

 

 

 コウジはどうにもやり辛そうだ。対応を量りかねているのだろう。

 イッキはというと、初対面である為そこまでのやり辛さは感じていなかった。やや首をかしげて。

 

 

「君は、ロボロボ団じゃないの?」

 

「……ううん。ロボロボ団の、幹部」

 

「それじゃあどうして……」

 

 

 ここでロボトルをしてイッキとコウジのメダロットを損傷させておけば、少なくとも追撃に支障を来たす事は確実だ。

 だが、このシュコウという幹部はそれをしない。何故だろうか……と、問いかけられたシュコウは表情の見えない水晶玉を微動だにせず。

 

 

「……下水のアジト。知ってる?」

 

「う、うん」

 

「……準備と覚悟をしてから来て。あそこだと、わたしも戦わざるを得ないから。それじゃあ」

 

「―― ッピヨー!」

 

「「あっ」」

 

 

 意味深な言葉を告げると、窓から現れた飛行型メダロットに連れられて、その姿を消した。

 あっという間に空の点となった幹部を見逃す形とはなったものの。兎に角。

 

 

「「……変な奴」」

 

 

 感想だけは、イッキとコウジ共に同じものであった。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 花園学園がロボロボ団から解放された後、イッキとコウジはカリンおよびアリカと合流した。

 アリカもカリンも保護されていたレトルトの風貌には驚いていたが、目立った外傷どころか傷1つ無い状態であった事はコウジを心から安堵させた。

 

 

「それじゃあコウジ君、ハチロウって子の所には貴方とイッキがお願いね。アタシとカリンちゃんは駅周辺を探ってみるわ」

 

「危ない事はすんなよ? また捕まったりしたらどうすんだ」

 

「ふふ。その辺りはレトルトさんとレディさんが居てくださるそうですわ」

 

「任せてくれたまえ」

 

「ええ、御心配なく」

 

 

 カリンの言うように、その後ろにはレトルトとレトルトレディが控えてくれている。どうやら下水への道を探す……忠犬ボナパルトの像周辺の捜索に付き合ってくれるらしい。

 間違いなく不審者ではあるが、実力をこの目で見ているためにボディガードという意味ではこれ以上ない申し出である。

 イッキとコウジは頷き、

 

 

「お願いします、レトルトさん。レディさん」

 

「オレ達もハチロウって奴から情報を聞き出したらすぐに向かうからな!」

 

 

 今度は花園学園の東側へと駆け出して行った。

 

 

 

 

 ―― 聞くに、事の仔細はこうだ。

 

 ハチロウというお坊ちゃまは、両親や友達が居ない事を主とする寂しさから、それを埋めるための手慰みに賢いロボロボ団として活動を行い、窃盗などを繰り広げていたらしい。

 彼はその傲慢な態度などからクラスメイトからも白い目で見られていた人物らしく、そんな彼の不審な行動は見る人が見れば注目の的であったらしい。

 だからこそ、聞き込みをした女性陣からの情報であらかたの予想は出来ていたのだが。

 

 

「うわーん!!」

 

「……どうすんだよ」

 

「うーん。どうしようか」

 

 

 2階で癇癪を起こして暴れ出したハチロウをロボトルで諌め、開いた穴から落下しそうになった彼をコウジと2人で引き上げた直後、泣き出してしまったのだ。

 流石に泣く子供への対応は心得が無い。と、2人で頭を悩ましていると。

 

 

「―― ここはわたくしめにお任せください」

 

「あっ、執事さん」

 

 

 先ほどの床の落下を聞きつけて来たのだろうか。ザ・執事といった感じの壮年の男性がハチロウの部屋の入口に立っていた。

 これは有り難いと、コウジが素早く身を引く。

 

 

「イッキ、ここは任せてオレ達も急ごうぜ」

 

「うん」

 

 

 そう言って、コウジはハチロウの部屋を飛び出して行った。

 確かにこれから、ロボロボ団の下水アジトに侵入する予定だ。イッキ達も早めに行くのが好ましい事は間違いない。

 イッキもコウジの後を追おうとして……しかし、出る前に振り返る。

 

 

「あのさ。今度また、ロボトルしよう」

 

 

 泣き喚くハチロウと執事にそれだけを告げて、イッキも、「ミニハンドル」を使用してボナパルト像へと急いだ。

 後には呆然として泣き止んだハチロウと、僅かに微笑む執事だけが残されていた。

 





・ハチロウ
 行動を文章にしてみたらあら酷い。
 ですが人的被害があまり無く、金銭の賠償だったら彼の家にとって問題は無いのでしょうと。
 ロールスター使いで防御メダロットも居るのだが、トラップを駆使すればリーダー機の破壊は容易。トラップが実に有能。

・サケカース
 ……リーダーでしたっけ?(



 20191204追記修正


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17話 海の底かと思いきや

 

 花園学園の学園長室を出たイッキは、コウジと共に急いで下水道へと向かう。

 下水道の先には、聞いていた通りに、沢山の子供たちとロボロボ団とが巣食っていた。

 しかしどうやら花園学園における騒ぎを聞きつけていたらしく、子供達は意外にも素直に説得に応じ、ロボロボ団を辞めて地上へと戻ってくれるとの事だった。

 ……とはいえこれらは、説得に従事してくれたレトルトレディやカリンの母性的なものによる効果なのかも知れないが。何れにせよ直情的なコウジやアリカであったらこうも上手くは説得に応じてはくれなかっただろう。

 

 と、一見解決に向かっている様にも見えるのだが問題は未だ残されていて。

 

 

「……どうしても、失踪している子供の数が合わないのよね……」

 

「それだったら、もう家に帰ってるんじゃないか?」

 

「心配していらしてる方も多かったので、可能性はあるかも知れません」

 

 

 手元の手製、失踪子供リストと照らし合わせながらアリカが唸り声を上げる。つまりは、アジトの中に居た子供と失踪者の数が合致していなかったのだ。

 コウジのいう帰っているかもというのは尤もで、アジトの中でも占拠事件の事が噂になっていたのだから、帰った子供もいるに違いない。と、アリカは唸りを一旦止める。

 

 

「……まあ、それなら幾つかに分かれましょうか。コウジ君、ちょっとレトルトさんと協力して街中で逃げ回ってる子供ロボロボを捕まえてみてくれる?」

 

「分かった。メダロポリス中を逃げているとすれば、人手は多いに越した事はないからな!」

 

「カリンちゃんはアタシと一緒に、もう少し奥まで探してみましょ。レディさんが先に行ってくれてる筈よ」

 

「はい」

 

「……あの……僕は?」

 

「イッキはさっき来た道を戻ってみてくれる? 途中に如何にも怪しいマンホールとかあったんだけど、ああいう所って如何にも子供が好きそうじゃない」

 

「うーん、判ったよ」

 

 

 アリカに促され、確かにそうかもと承諾する。

 暫くするとコウジが走り出し、アリカはカリンと一緒にアジトの奥へと進んで行った。

 それらを見送って。

 

 

「それじゃあマンホールの下を目指そうかな」

 

 

 今来た道を、イッキは引き返していく。

 下水道の中はいかにもな臭気が立ち込めているが、流れが速く、鼻をつまむほどのものではない。都市郊外まで流すのだから、地下であればこんなものなのだろう。

 そうして暗い中を道なりに戻ると、アリカが言っていたマンホール3つを発見する。

 しかし。

 

 

「うん? なんだ……この下……ただの排水溝じゃないぞ?」

 

 

 順に開けてゆくと、マンホールの下から、明らかな風が流れ込んできているのだ。下に更に

 因みにその内の2つには、子供ロボロボ団が潜んでた為難なく撃破。なぜ彼らはこの極限な状況下でもロボトルを仕掛けてくるのだろうか。あるいはそれが子供の持つらしさなのかも知れないが……。

 とはいえ、残された最後のマンホールは様子が違っていた。

 

 

「……梯子?」

 

 

 その穴の下に、縄梯子が垂らされていたのだ。

 何となくの予感はしつつも、イッキは梯子を降りて行く。

 下にはだだ広い空間があり、その先では ―― 咄嗟に身を物陰に隠し、様子を伺う。

 

 

「……くっ、ここのアジトも終わりか?」

 

「サケカース様! セレクト隊の奴らが上に一杯居るロボよ!?」

 

「潮時でしゅね」

 

「ふむ。わしらも退散するかいのお」

 

「おーほっほっほ! 去り際も美しく!」

 

「……はふぅ」

 

 

 会議室の様な空間に一堂に会していたのは、イッキが今までに各地でロボトルを繰り広げてきた、ロボロボ団の幹部達であった。

 しかしそれらの声の後、一様に静かなばかりで、ロボロボ団たちはイッキが隠れているこちら側に歩いてくる事もないようだ。

 イッキは物陰から出て、先ほどまで幹部達が会議をしていたと思われる部屋をのぞき見る。

 誰もいない。ロボロボ達が掻き消えている。

 座席と机と……その奥で、視線が止まった。

 

 

「誰も居ない……けど、これは?」

 

 

 上座のその奥。鎮座しているのは、不思議な形をした像。

 ……が、今はその像が横にずらされている。

 イッキは不思議に思いつつ像へと手を伸ばし。

 手が、空を切る。

 

 

「―― ええッ!?」

 

 

 体重は前。

 すかっという音がしそうでしない。

 落下だ。像のあった場所へ、イッキは落ちていく。

 ただ今、本日1回目の落下である。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

「と、言う訳なんだけど」

 

「お前も大変だったアリな」

 

「うん……その、ありがとう」

 

 

 などと、ここへ来る事になるまでの経緯を説明すると、アリ型メダロット達は非常に優しげに労いの言葉をかけてくれる。

 像へと手を伸ばし落下したイッキは現在、アリ型メダロット達の巣食う「アリ塚」でお世話になっていた。

 数時間かけて辺りを歩いてみたものの、出口らしき場所は落下してきた穴しかない。どうやらこのアリ塚の中には、家出をして戻るに戻れない子供たちの住居としての機能もある様だ。そこかしこに自分と同年代の子供たちの姿が見受けられる。

 子どもというのは難しいものだ。戻れないにも理由はあるだろう。

 だが、イッキの目的は目下、ロボロボ幹部である。子供たちの件は後々連絡するとして。

 ロボロボ団幹部が逃げたとすればこのアリ塚の先だ。ここまで来て取り逃がすというのも微妙な心持なので、ややも気合いを入れてイッキは周辺の探索を続ける。

 

 

「ん? あれは……」

 

 

 暫く道なりに進んでゆくと、突き当たりに行き当たった。何がしかの入り口があり、その前にアリ型メダロット達が列を成している。

 入り口からちらり。アリ達の奥に、上の階層でも見た不思議な像が置かれているのが見えた。

 イッキは隣……アリ塚の一室で週刊メダロットを見ている男の子へと尋ねる事に。

 

 

「ねえ、あれはなに?」

 

「ああ。あの奥に居るのが、アリ達の『女王様』みたいだよ。……どう聞いてもスピーカーから発してる声なんだけどね」

 

 

 この男の子も例外ではなく、このアリ塚に住んでいるらしい。アリ塚の様子にはどうやら詳しいらしかった。

 彼ら彼女らが女王と仰ぐ、女王。まぁアリとしては正しい感性なのだろう。ただし彼ら彼女らはメダロットである。そもそも像が女王ってどういうことなのか。女王といわれてぴんと来るかは、怪しいものだとイッキは思う。

 そう突っ込みを入れながらも、その場でしばらく様子をうかがってみるが、アリ型メダロット達は、あの像の付近から離れる様子がない。

 さて。ロボロボ団幹部が逃げ込む先は、あの像の先でしかありえない。単純な消去法で、アリ塚の内部は、ほとんどが子供たちの居住スペースとして使われているからだ。幹部たちの大柄で目立つ黒スーツが隠れる場所は、他にない。

 とはいえ、像を壊したりどかしたりするのは、アリメダロット達の崇拝の具合からしてもっての外だろう。

 しばらく悩んだ末、イッキは尋ねる。

 

 

「……ねえ、あの前に居るアリ達って、居なくなる事はないのかな」

 

「うーん、夜になるとロボロボの奴らが来て通っていくけど、それ以外はずっと居るかな」

 

「だよね。……仕方が無いか」

 

 

 追走戦だ。時間は多く残されては居ない。一応、説得は試みてみようとは思う。

 イッキは突破の覚悟を決めて、その前へと進み出る。

 

 

「何だアリ?」

 

「この先は女王様の部屋アリ。一般の子供は入れないアリよ」

 

「ごめん。どうしても入りたい……んだけど」

 

「……ごめんアリ、女王様の命令で通せないアリよ」

 

「ううん、じゃあ、仕方がないかな」

 

「そうアリね。仕方ないアリ」

 

「うん ―― 押し通るっ!!」

 

「……行くぜイッキ! 久しぶりに腕が鳴るぜ!」

 

 

 イッキとアリ型メダロット達のロボトルが、始まった。

 

 

 

 ――

 

 ――――

 

 

 

 ……アリ型メダロット達の「クロス攻撃」と呼ばれる連携高威力の砲撃を何とか凌ぎつつ、連戦。

 攻撃的な外敵が襲撃してきていることは伝達されているらしい。イッキが女王の部屋に到達する頃には、女王の部屋はがちがちに守りが固められていた、の、だが。

 

 

「……じょ、女王様ッッ!?」

 

「これが君達が女王様って呼んでいたものの正体だよ。……ねえ、出来れば子供たちを連れてメダロポリスに帰ってくれないかな」

 

「そ、それは……」

 

 

 女王の像へと先制攻撃のメルトを放って見せると、その内側から機械が露出した。順当である。

 イッキの呼びかけにアリ達は戸惑いつつも、根は正直なメダロット達だ。落ち着く頃にはロボロボ団に利用されていた事を悟り、子供たちを連れて上の階へとあがってくれ始めていた。

 だが、解決ではない。目的はその先にこそある。イッキは溶けた像の前へと脚を進める。

 像を避けて、その先の空間に踏み込んで。

 

 

「……! なんだ、ここ……!?」

 

 

 穴を潜り抜けた瞬間、その足を止めた。

 ……止めざるをえなかった。

 

 

「―― おお? 遂にここまで来てしまったのか。存外に手の早い奴じゃの、アキハバラの奴め」

 

 

 異様な光景に驚いていたイッキは、しかし、後ろから現れた老人によって三度驚かされる。

 その場を飛び退くと、後ろにはスルメ、シュコウ、そしてヘベレケ博士という3人が立っていた。

 

 

「おーっほっほっほ! ここまで追ってきたんですの?」

 

「……」

 

「ふん、来てしまったものは仕方がないわい」

 

「……ヘベレケ博士、一体ここは……」

 

 

 その中に居たヘベレケ博士はメダロッ島でもあった事がある、メダロット研究の権威だ。顔見知り故か、イッキは思わず、疑問を口にしていた。

 光が走る溝、脈うつ様な壁。中央にはぽっかりと空いた大空洞。

 メダロポリスの地下深く、アリ塚の更に奥から現れたこれら異様な威容を背景に、ヘベレケ博士が大きく口を開いて笑う。

 

 

「がっはっは! 見るがいい、アキハバラの使いの子! これこそがワシの科学の結晶! 浮遊要塞、『フユーン』じゃあああっ!!!」

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 詰まる所、ヘベレケ博士は悪の科学者を自称する人物であった。

 アリ型メダロット達を主導し、フユーンと呼ばれる古代の要塞を掘り返していたらしい。

 そしてその場所からの逃走……というか半ば強制的な「移動」を許されたイッキはというと。

 

 

「……」

 

「それで、僕はどうすれば良いの?」

 

 

 先のフユーンに負けず劣らず不思議な場所へと立たされて(・・・・・)いた。

 フユーンからさらに場所を移して。広間の様なスペースのそこら中に丸い物体が置かれて青い燐光を放っており、薄明るくぼんやりと輝いている。海の色にもにた藍色だ。

 ここはアリ型メダロット達が掘り当てた『遺跡』であるらしい。ヘベレケ博士には何か理由があり、イッキをその実験台にと、この場所へ連れてきたようなのだが。

 ようなのだが、目前には博士はおらず、ロボロボ幹部のシュコウだけが無言のまま立っている。

 

 

「……来ちゃった、か」

 

「それは僕が、ということ?」

 

「……うん。入口からスルメが見張ってる。だからわたし、言った」

 

 

 どこかやるせない雰囲気を纏いつつ、シュコウはケイタイを掲げる。

 不思議な遺跡の入り口からは、ロボロボ女幹部のスルメが金魚鉢の手下を大勢率いて、イッキを見張っている。それはシュコウにしても同様で、学園長室での一件のように、見逃すわけにはいかない。追ってきたイッキに対してロボトルを、というのだろう。それは十分に伝わった。

 ならばとイッキは目前に、メタビーを転送する。

 

 

「行くぞ、メタビー」

 

「お、やるのかイッキ?」

 

「……ロボトル」

 

「―― 呼んだな、御主人」

 

 

 応えたシュコウの前にも、メダロットが転送された。

 以前にコウジが戦ったというカミキリムシ型のメダロット、エイシイストである。

 出るなり、エイシイストはメタビーとイッキに向けてスピーカーを鳴らした。

 

 

「御主人より、1対1での一騎打ちでの勝負を提案されている。どうする。受けるか少年、それにカブトムシ」

 

「……わかった」

 

「へっ、偉そうな野郎だな。どんだけ強いのかは知らないけどよ!」

 

 

 イッキの返答に、メタビーが気強に同調する。

 メタビーが腕を挙げ、同時に、エイシイストが右腕の剣をゆるりと構える。

 

 

「―― 勝負だ、カミキリ虫め!!」

 

「受けて立つ」

 

 

 この一声がロボトル開始の合図となった。

 メタビーが走り来るエイシイストに向かってミサイルとマシンガンをばら撒き、周囲を旋回するように走るエイシイストは時折岩場を盾にしながら攻撃を掻い潜る。

 

 

「中々だが、まだ遅い!」

 

「素早い! ……メタビー、ミサイルは温存だ!」

 

「ちっ、仕方がねえか……!」

 

 

 速度に対抗するため、弾数の多い両腕での射撃を慣行するも、

 

 

「……甘い」

 

「ぐっ!?」

 

「岩を飛ばしてきたっ!?」

 

「何も刃だけが武器ではないのでな」

 

 

 今度は左の拳による打撃(ハンマー)でその辺りに転がっていた岩を飛ばしてメタビーを攻撃し始めた。

 直撃した左足の機能が半減。次いで防御した右腕が損壊。

 仕方が無い。短期決戦だ、とイッキは決め込み、今度はミサイルを織り交ぜながら迎撃を行う。

 

 

「ミサイル! よく狙えよっ!!」

 

「おうよイッキ! ……だあああーッ!!」

 

 

 バシュウ! とバックファイアを鳴らし、カブト虫の角からふたつの弾頭が放たれる。

 地面を蹴ったエイシイストを、ミサイルは小気味よく追尾し。

 

 

「ちっ……ツエェァァッ!!」

 

「ええっ、両断っ!?」

 

「でも見ろよイッキ、カミキリムシの右腕を壊してやったぜ!!」

 

 

 メタビーの指す先ではその言葉の通り、放たれたミサイルは両断されたものの……両断した刃が被弾。エイシイストの右腕パーツを破損へと追い込んでいた。

 

 

「やはり、この身体では動きが鈍いなっ……」

 

「へっ。今から負けた時の言い訳かよ?」

 

 

 煙をあげる右手をぶらぶらさせたまま低く身体を揺らすエイシイストを、メタビーが挑発する。

 すると。

 

 

「……良いよ。あれ、使って」

 

「心得た。……」

 

 

 シュコウから何かを許されたかと思うと、短い反応の後 ――

 

 ―― ぶつり。

 

 突如コミュニケーションモニターを真黒く染め、エイシイストが黙り込む。

 

 

「あん?」

 

「なん、だ、これ……?」

 

 

 次の瞬間、小さく光る粒がぶわっと周囲を埋め尽くし。

 その背から、4枚の薄羽の様なものが広がった。

 

 

「何だこれ!? これも、メダフォース!?」

 

「! やべえぞイッキ!」

 

 

 その威圧感と物理的な振動が周囲を揺さぶる。イッキたちが立っていた洞窟そのものが揺れ始めているほどだ。

 エイシイストおよびそのマスターであるシュコウはというと、揺れている洞窟には一切気を止めず。

 ……むしろ、これこそが目的であると言わんばかりに。

 

 

「……心のままに、です!」

 

「加減はしてやろう。よく目に焼き付けろ、カブトムシ!」

 

 

 ばちばちと爆ぜる雷光のまま、光る右腕を、振り下ろした。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

「―― 今日は移動してばかりだなぁ。それでここ、何処?」

 

 

 気が付くとイッキは、再び、見知らぬ場所へと飛ばされていた(本日2回目もしくは3回目)。

 海の底にあった神殿の内で濡れ鼠となり、とはいえ手持ちの服はなく。女装も除外。そうして消去法で、メダロッ島で手に入れた金ぴか勇者の服へと着替えていたのが仇となったか。

 

 

「おおっ、勇者様じゃっ!」

 

「予言の通りじゃっ!」

 

 

 周囲を取り囲んでいるのは、古めかしい着物の人々だ。

 唯一ドレスを纏うのは、祭壇の前に立っていた小さな女の子。

 その彼女が、厳かな態度で告げる。

 

 

「―― それでは勇者よ。悪魔の退治をそなたに任じよう!」

 

 

 とりあえずぽかんとして。

 この場所の名はコーダイン王国。

 要約すると、かつての神殿に、イッキは、勇者として召還されたのだそうだ。

 次いでに。

 

 

「……ここはどこ?」

 

 

 その隣にちょこんと座り込む、ロボロボ団幹部と共に。

 





・ミスターうるち
 尺を取るので出て来ませんでした(ぉぃ
 ……というか、コーダイン王国に来られると流石に困るのでは(笑

・アリ型メダロット
 クロス攻撃を実装した初のメダロット。なので、初見殺しではあるものの威力はほどほど。防御機体がいれば十分に対処できるレベルの攻撃ではある。
 遺跡や要塞を掘削するために、女王という立場を使っていいように利用されていた。
 一応本作では「女王」に理屈をつけるつもりではいますが……。

・コーダイン王国
 海底神殿の昔の姿。原作においてヘベレケ博士はここから『あれ』を盗み出した。
 マルガリータ王女だからといって毛狩り隊が居たりはしない。

・古代の要塞
 漫画版だと手作り。外装がぺこぺこする。


20191210追記修正。


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18話 コーダイン王国

 コーダイン王国は、どうやら時代やら何やらを超越した位置にあるらしい。

 そこへ勇者……という役職で召還されたらしいイッキは、すぐさま「姫様」の従者である爺やに自らが一般的な子供である事を告げた。

 しかし。

 

 

「―― 一緒に連れてきた魔物の手先の回収、それに魔物・ブルーハワイの討伐をお願いしますのじゃ。それさえ終われば、貴方を元の時代に返す事もできましょう」

 

 

 とのお達しであった。

 詰まる所、イッキが一般人だというのは織り込み済みの事実であり、何れにせよ「魔物の手先」と呼ばれているロボロボ団を連れ帰らなければならないらしい。

 爺やに効けば、当のマルガリータ姫は花畑に居るらしい。あの姫様とメダロットには困ったものですじゃ、という呟きは聞かなかった事にした。

 イッキは周囲の散策を行いつつ、まずはあのマルガリータという姫様の所を訪れようと……して、その前に。

 神殿を出る前に、一旦奥へ。書斎のような部屋が立ち並ぶ中、一際大きな一室。守衛が両の脇を固める部屋の前には水晶玉を被った人物が立っていて。

 

 

「ねえシュコウ。君は何を見ているの?」

 

「……これ」

 

「うわぁ、凄い綺麗ででっかい石だなぁ」

 

 

 イッキは同時に転移してきたロボロボ団幹部、シュコウの横へと駆け寄った。

 奥の部屋できらきらと光を放つ石をずぅっと観察していたシュコウ。少なくとも今、イッキに危害を加える意志はないらしい。

 他のロボロボ団幹部と違い、シュコウはこちらを目の敵にしてくる事がない。花園学園における事件の際もそうであったが、話してみれば意外な話しやすさもある。背格好が近いこともあったのだろう。

 それら理由も重なり、イッキとシュコウは、コーダイン王国に居る間は不可侵条約的なものを結んでいたりした。

 どこか積もった薄暗さを抱きつつ、シュコウが目の前にあったコーダイン王国が国宝である宝石……フユーンストーンを指差す。

 

 

「……綺麗なのも凄いけど、それより、浮いてる」

 

「!! 本当だ!!」

 

 

 触れることは許されないらしいが、じっと見ていたシュコウによる観察の結果なのだろう。壁に張り付いていると思っていたその石は、事実、ふよふよと宙に浮いていた。

 シュコウは目の前で浮かぶ石について、話を広げてゆく。

 

 

「……多分、これ、サイプラシウムと同じ性質」

 

「? さい、ぷら……しうむ?」

 

「貴方に判り易く言うなら、メダロットの装甲に使われている素材。電流を流すと軽くなる性質を持っている金属で、メダロットが身体の割りに軽いのはこのおかげ」

 

「へえぇ」

 

「きらきらと光っているのは、余剰分の電流が流れた時に発生する粒子。メダルのリミッターを外した最大出力のメダロットも、スラフシステムの全力稼動とは別にこの粒子を大量に発現してる」

 

「……あ! もしかして君のメダロットとロボトルした時の、あの不思議な羽って……」

 

「秘密。……でもこれを見る限り、サイプラシウムについてはちょっと解釈が違ったみたいで。軽くなるんじゃなくて、きっと浮力を生んでるです。これは凄い発見です」

 

「ひ、秘密かぁ。……それにしても、凄い発見って言われると感動するなぁ。……実際にはあんまり判ってないんだけどね」

 

 

 少し楽しそうなシュコウの様子に、イッキも楽しげな気分になる。

 すると、そんな様子を見ていたシュコウが傾ぐ。

 

 

「……そういえば、私を呼びに来たの?」

 

「あ、そうだ。姫様の所に行こうと思って。君もロボロボ団たちを回収しないと帰れないだろ?」

 

「……そうかも」

 

「それじゃあ行こうか」

 

「うん」

 

 

 存外素直に後ろを着いてくるシュコウを連れ立って、イッキは神殿を出た。

 コーダイン王国は海の際に建てられた神殿を中心とした漁村のような国だ。時折行き交う人々が、イッキやシュコウの自分たちとは大きく違う風貌の珍しさに視線を向ける中、砂浜を歩いて爺やから聞いた花畑へと向かう。

 暫く進むと人工のものと思われる森があった。

 花畑の入口には老人が立っており、守人かな? と思って近付いたものの、彼は眠っていた。起こすのもなぁと思いつつ、2人はそのまま花畑へと入ってゆく。

 目的の人物は花畑の中央に屈んでいた。

 

 

「あっ! ゆーしゃさま!!」

 

「? お姫さま、何だか印象が違うけど」

 

「マルガリータって呼んで! あと、ひめさまじゃない時はこんな感じ!! あの喋り方、疲れるんだもん!!」

 

「あはは……それじゃあ遠慮なくマルガリータって呼ぶね」

 

「うん!」

 

 

 神殿でであった際は無理をしていたんだな、とイッキは適当だが間違っては居ないであろう解釈をしておいて。

 イッキはそのまま暫く、マルガリータの遊びに付き合うことにした。

 ロボトルをしたり、花の冠を作ってみたり。マルガリータは如何にも少女といった明朗な性格で、イッキとしても遊びがいのある子供だった。

 2度目のロボトルを終えたところで、マルガリータはやっと満足げな顔。

 

 

「ありがとうゆうしゃ様! とっても楽しかった! また遊ぼうね!!」

 

「それはよかった。……ねえ、マルガリータ。ところで、教えて欲しい事があるんだけど」

 

「……もしかして、ブルーハワイ?」

 

「うん。西の海に出るって言う魔物の事。僕、そのブルーハワイと手下を捕まえなくちゃあいけなくて」

 

 

 言うと、マルガリータがイッキを見つめる。

 やや悩んだような間の後。

 

 

「……手下、って呼ばれてる人たちは知ってる。変な格好をしてロボロボ言ってる人」

 

「そうだね。それで、魔物って呼ばれてるブルーハワイは黒いタイツを着てロボロボ言っている人じゃないかな?」

 

 

 イッキとしては当然の問い掛けであった。

 何せ、現在コーダイン王国に来ているロボロボ団たちはシュコウとイッキのロボトルを監視していたロボロボ団たちなのである。とすれば、「手下」の上に居る「魔物」とはロボロボ団の幹部の事なのではないか。

 そう考えて問うて見たものの、しかし、マルガリータはむくれ顔で。

 

 

「プース・カフェはあんな変なのじゃあないもん!!」

 

「……プース・カフェ?」

 

「……勇者様、秘密にしてくれる?」

 

「うん。マルガリータがそう言うならね」

 

「そう。……プース・カフェはね。じいやに怒られて海に追放されたマルガリータのナイトメアメダロットなの」

 

「もしかして、悪戯好きっていう?」

 

「うん」

 

 

 確かに思い当たる部分はある。あの爺やは悪戯好きのメダロットには困ったものですじゃ、などと呟いていたからだ。

 ここで、これまで黙っていたシュコウが。

 

 

「……尻拭い?」

 

「そうみたいだね……はぁ」

 

 

 容赦の無い指摘に、イッキは思わず溜息を吐いた。

 どうやら自分は勇者の役目、という役柄を良い事に、ロボロボ団の回収と自分の国でやらかした不祥事の後片付けまでさせられているらしい。

 とはいえ、爺やは兎も角マルガリータのお願いだと切り替えてしまえば何とかなる。幾ら悪戯好きだからといって、大切にしているであろうメダロットを海に放られてはマルガリータがこうも反抗的になってしまうのも頷けた。

 イッキはマルガリータに向けて、どんと胸を叩いて。

 

 

「ぼく達がプース・カフェを連れ戻して見せるよ」

 

「でも、戻ってきても、爺やが……」

 

「……その辺りはわたしが交渉する。大丈夫」

 

 

 イッキが胸を張り、シュコウが念を押す。

 ……マルガリータが、遂にコクリと頷いた。

 

 

「それじゃあ行こうか。西の海」

 

「……マルガリータ、ここで待ってて」

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 そうして歩く事数十分。

 西の海へと辿り着いた2人が見たものは、海の上にずらりと並ぶ木箱であった。

 

 

「これ、何処まで続いているんだろ」

 

「……多分、ナイトメアメダロットの所? だってそうじゃないと意味が無い」

 

 

 シュコウの言い分は尤もだ。

 誰が浮べたのかはともかく、これがナイトメアメダロットに関連した事件でなくては、騒ぎにもなるまい。

 ともかくも、箱の上に足を伸ばす。どうやら体格の小さな2名が乗った所で沈みはしないらしい。

 安心した所で、

 

 

「所でロボロボ団は君の言う事を聞いてくれそう? そうだったら、出会ったらロボトルになる前に君が説得して欲しいんだけど」

 

「……大丈夫。それは任せて。でも、ナイトメアは別。多分、ロボトルになる」

 

「そうだね。マルガリータと機体が同じなら、アンチエアで何とかなるかな?」

 

「……どうだろ」

 

 

 マルガリータの使っていたメダロット、ナイトメアはメダルの情報処理能力を恣意的にずらし攻撃対象を「混乱」させるパーツを多用する強敵であった。

 しかし脚部パーツが飛行型であるため、対空射撃による迎撃で何とかなるかも。と、今の所イッキは踏んでいて。

 

 

「……でも、わたしを見張っていたスルメも居るはず。油断はしないで」

 

「あれ、君も戦ってくれるの?」

 

「うん」

 

 

 イッキが思わず驚いた声を出して問うと、シュコウは間を置かず頷いた。

 シュコウとスルメは同じロボロボ団の幹部の筈。だのに、イッキの側について幹部同士で戦ってくれるのだと言う。

 

 

「スルメ、言う事聞かないし。それに派閥も違う」

 

「派閥なんてあるんだ」

 

「一応ね」

 

 

 言われてみれば、シュコウはその他のロボロボ団の幹部と大きく格好が違っている。少なくとも黒のタイツは着ていない。

 その辺りが派閥の違い、という事なのだろうか。

 

 

「……行こ」

 

「あ、うん」

 

 

 しかしそれ以上を尋ねる前に、シュコウは木箱の上を早歩き。

 ……どちらにせよ今は、自分のいた時代に帰ることが先決だ。だとすればこのブルーハワイにおける事件を迅速に解決する必要がある。

 頭の中でまとめ直しつつ、イッキは先を行くシュコウの背を追って歩調を速めていった。

 




・ブルーハワイ
 舌が青くなります。
 へっくしょい……まもの。

・フユーンストーン
 4でも出て来る秘宝。とある要塞を浮かばすのに使用されたりする。
 2ではエンディングの後にコーダイン王国へ変換すると、レアなメダルが貰えます。
 サイプラシウムと同じ云々は隠し設定だったはず。
 スラフシステム(システム自体は別だが)との関連については独自設定。

・マルガリータ
 コーダイン王国のお姫様。無邪気可愛い。
 マルガリータエンドが無いのが悔やまれますね。
 3以降は忘れ去られる運命にありますが、今作ではそうも行きません。
 悔やんでいるからこそ二次なんて書いているのです(意味深


 駆け足でしたが、フユーンについては後々にやるのでこんな感じに。
 とりあえず更新はここまでになります。


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19話 魔物とブルーハワイ

 

 予想通りというか、海の上に延々と続く木箱を歩いてゆくと、その所々(主に箱の中)にロボロボ団員が隠れていた。

 しかし彼または彼女らは、上司にあたるシュコウが声をかけるとむしろ喜んで檻の中へと戻ってくれる。諍いにならないのは幸いといえた。

 因みに名誉のために言っておくが、ロボロボ団員彼等が被虐的趣味をしている訳ではない。コーダイン王国に投げ出されたロボロボ団員たちは漏れなく魔物の餌食となり酷い目に合わされていたらしい。

 こんな所には居たくない、帰れるのであれば大人しくしているロボ……という流れなのであった。

 

 

「それで、どこまで行けば良いんだろ?」

 

 

 都合50分は海の上に浮かんだ箱の道を歩いてきているのだ。イッキの当然の問いに、隣に居たシュコウがすうっと腕を上げた。指をさす。前方。

 

 

「……あれ」

 

「あれ……って、何だ!?」

 

 

 イッキは思わず大声を上げた。が、それも仕方の無い事。

 指差された先には、デフォルメされた巨大なクジラが浮かんでいたのである。

 事前情報から察するに、プース・カフェというメダロットによる幻影なのだろうという察しはつくものの、それでも不安になることこの上ない姿であった。

 しかも。

 

 

「助けてロボ~!?」

 

 

 そんなクジラの髭の並んだ口の中へ、海に浮かんでいたロボロボ団員が次々と飲み込まれて行くのだから堪ったものではない。クジラという生物の概念を覆す肉食ぶりである。

 

 

「あの中……行くんだよね、やっぱり。何だかなぁ」

 

「……見られてる。多分、ナイトメアメダロットも中に居る。……お願い」

 

「―― 呼んだか、御主人」

 

「あの島まで」

 

「また私に珍妙な格好をさせたかと思えば、この為か」

 

 

 言うが早いか、シュコウはマントのまま海へとざぶり。ブルーサブマリンという潜水移動が得意なメダロットを呼び出し、その手に掴まった。

 イッキも慌てて海へと飛び降り、

 

 

「……掴まって」

 

「う、うん」

 

「行くぞ」

 

 

 その手を掴み、海面を掻き分け、イッキ達は夢見るクジラへと突撃を慣行した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 クジラの口の中へ能動的に潜入。

 見立ての通り中は小島となっており、所々にロボロボ団の団員が倒れ臥していた。戦後という雰囲気ではないが、誰も彼もが悪夢によってうなされているのは十分に不気味である。

 そして、その奥に。

 

 

「―― キミも、遊ブ?」

 

「ブランドのバッグがぁ……!?」

 

 

 プース・カフェというペットネームを付けられたナイトメアメダロット……ユートピアンが紫の身体を揺らして宙に浮かんでいた。

 その前には頭を抱えた全身黒タイツの女幹部……スルメとか言ったか……が、プース・カフェを守るようにして立っていて。状況から察するに、ブランドのバッグが目の前から逃げていく夢でも見ているに違いない。

 

 

「……多分、混乱してる」

 

「うーん。遊ぶ……って、もしかしなくても、ロボトルだよなぁ」

 

「ウン、ソウ。遊ブ?」

 

 

 プース・カフェの問い掛けに、イッキはシュコウを見た。遊び(ロボトル)を挑まれているのはイッキとシュコウの2人。確認のための視線だ。

 

 

「いいよ。ロボトル。換装する」

 

 

 シュコウが表情の見えない水晶玉の頭でこくりと頷く。ブルーサブマリンをケイタイの中へと戻し、パーツを弄り出す。

 すると。

 

 

「オオット、オモシロソウなパーツだネ!」

 

 

 その様を見ていたプース・カフェが嬉しそうに表情(モニター)を変化させた。

 ……シュコウを見つめ。

 

 

「ウン! ……ヨーシ、全力ダヨッ」

 

 

 突如、モザイクの様なもやに包まれる。

 ……再び姿を現した時、プース・カフェの姿はカラーリングを残して別の機体へと変貌を遂げていた。

 シュコウの水晶玉の内から声が響く。

 

 

「……!? 何で貴方が?」

 

「アハハ。キミにとっての悪夢、ダヨ?」

 

 

 姿を変えたプース・カフェは、あくまで笑顔でシュコウを見下ろす。

 その身体は、紫主体のカラーリングは変わらず。頭から広がるは大きな布状の耳。浮遊してはいるものの、生えた二脚の後ろから生えた尻尾を有線の槍のように両手に構えた。

 

 

「シュコウ……知ってるメダロットなの?」

 

「……」

 

 

 イッキは反応から、またプース・カフェの言葉から、シュコウの記憶にある機体なのかとイッキは問いかける。

 しかし残念ながら、返答は無い。無言の後、シュコウは淡々とメダロットを転送する。

 

 

「……お願い」

 

「……む、またカミキリムシか。しかし、相手はあれか、御主人」

 

 

 エイシイストがシュコウの前で右腕を構える。

 表れたエイシイストの前には、スルメが立ち塞がり、花園学園でも相対したメダロット……ストンミラーを呼び出した。

 

 

「あ、あああ、宝石~!?」

 

「うねうね」

 

「フフフッ、遊ブ、遊ブ!!」

 

 

 呻くスルメ。飛び回るプース・カフェと、うねうねと頭のケーブルを動かすストンミラー。

 ストンミラーは放熱中のパーツを暴発破壊させられる攻撃、「デストロイ」を扱うメダロットだ。パーツの使用タイミングを選ぶ必要があるため、メダロッターの指示が大切になってくる相手と言える。

 イッキは唾を飲み込む。2vs……あくまで遊びだとすると、勝負の前に相手の機嫌を損ねても良い事は無い。こちらも2体に限定しておくか。となると、やはりメタビーだろう。メタビーを目の前に転送しようと、と。

 

 

「……イッキ、さっきの質問に答える。あれは、フィーラーっていうメダロット」

 

 

 ロボトルに影響すると踏んだのだろう。シュコウが、相手のメダロットについて説明を始めてくれた。

 当然ながら、幾らイッキがメダロット好きとはいえ全てのメダロットを知っている訳ではない。フィーラーという名前には全く心当たりが無かった。

 

 

「フィーラー? それって……」

 

「知らなくて当然。フィーラーは、……もにょもにょ……の家が開発してる新型のNMR(ナイトメア)型メダロット。ユートピアンの後継機に当たる」

 

「後継機!?」

 

 

 時代がおかしい事になっているが、ナイトメアシリーズのユートピアンと言えば現行の最新型メダロットである。その後継機となると、それは未だ実在しないテスト機もしくは販売を見合わせている段階であるはずなのだ。

 イッキとしては、なんでそんなメダロットがと言いたくもなるのだが、それはシュコウにも判っていないのだろう。水晶玉の向こうからは、困惑しているのであろう雰囲気がありありと伝わってくる。

 イッキは落ち着こうと心で繰り返しながら、思い返す。……キミにとっての悪夢、とプース・カフェは言った。だとすればこの機体……ユートピアンの後継機たるフィーラーは、シュコウにとって。

 

 

「……シュコウ、君のメダロットにリーダーをお願いして良い?」

 

「? なんで」

 

「君が知っているメダロットなら、その対策も出来るんじゃないかな。僕とメタビーも君の指示に従うよ。……転送!」

 

「―― へっ。まぁ、今回だけだぜ、イッキ!」

 

 

 即座に組み立てられたメタビーは早速とイッキの前に出て、フレクサーソードをフィーラーに向けてみせた。

 シュコウの前に出ていたエイシイストは、そんなメタビーの様子を見やって。

 

 

「―― やって見せてはどうだ、御主人」

 

「……」

 

「例え相手が家の開発している機体だとて、わたしにとっては関係のない事だ。御主人の前に立ち塞がる障害は ―― 斬って捨てるのみ」

 

「おお、良いこと言うねえカミキリ虫」

 

「ふん。貴様には言っていないぞカブトムシ」

 

「ケンカは売らないでくれないか、メタビー」

 

 

 こんな状況でも小競り合いをしだしたメタビーを宥めつつ。

 改めて、イッキはシュコウの方へと振り向いた。

 

 

「それで、どう?」

 

「……わかった」

 

 

 問われたシュコウは、返答にと腕を差し出していた。

 決まりだ。メタビーとエイシイストが同列に並び、ストンミラーとフィーラー(プース・カフェ)が前後に並ぶ。

 真っ先に動き出したのは、ストンミラー。モチーフである「蛇」……神話にあるメドゥーサを模したケーブルをうねらせながら、砂浜を一歩、踏み出す。

 シュコウはそれを見て、早口に呟く。

 

 

「気をつけて。フィーラーは『混乱』と『デストロイ』を使う」

 

「となると、相手はどっちも『デストロイ』使いって事か。……アンチエアは?」

 

「効くけど、ここは海岸。海の中に逃げられたら対空弾頭は意味が無いから、オススメ出来ない」

 

 

 ぎりぎりイッキだけに聞こえる程度の声量だった。

 確認を終えるとイッキとシュコウは、メダロット達の後ろでメダロッチを構える。

 プースカフェが喜色を満面に飛び回り。

 

 

「イイかい? ―― イクヨッ! ロボトルぅ、ファイトォーッ!!」

 

「うねり……うねうねー」

 

 

 遂に駆け出したストンミラーによって、ロボトルが始まった。

 正に特攻、待ちかねたと言わんばかりの勢いで突っ込んでくるストンミラー。警戒したエイシイストが横に飛ぶと、ストンミラーはすぐさま近場に居たメタビーに狙いを付けた。

 

 

「うねっ」

 

「うお!? 何で射撃(デストロイ)とか無視して突っ込んでくるんだコイツ!?」

 

「もしかして、メダロッターだけでなくメダロットの方も混乱してる……!? メタビー、出来るだけ距離をとって射撃に徹しろ!」

 

「出来るんならやってんだよ!」

 

「うねーるうねーる」

 

 

 そのまま、メタビーとストンミラーは追いかけっこを始めてしまった。

 しかし僚機がその隙を逃すはずも無い。薄灰色の身体が、ストンミラー目掛けて跳ぶ。

 

 

「うね……」

 

 ―― っがん!

 

「……ruっふう」

 

「―― 余所見をしているからそういう事になるのだ、蛇女」

 

 

 横合からエイシイストが割り込み、ストンミラーを左腕の打撃(ハンマー)で吹飛ばした。

 錐揉み状に吹っ飛んだストンミラーは、フィーラーの前まで転がり……砂塗れになりながらものそりと起き上がる。

 

 

「うね、る」

 

「ウーン……バッグ……」

 

 

 既にスルメからの指示はない。彼女は中空を見て笑っているだけだ。ストンミラーは、本来のメダロッターの手の内を離れて動き出している。

 

 

「ウフフフ!」

 

 

 スルメとはまた違った笑いを浮べるフィーラー(プース・カフェ)の前に、ストンミラーは壁のように立ち塞がり ――

 

 

 ―― ぼんっ!!

 

「!? どうしたカミキリ虫!?」

 

 

 突如響いた爆発音に視線が集まる。

 

 

「いや……知らぬ間に、あのメダロットから攻撃を受けていた様だ」

 

 

 視線の先では、外皮だけをぶら下げ骨格(ティンペット)をむき出しにしたエイシイストが、デストロイによって破壊された左腕をぶらぶらと揺らしていた。

 綺麗に抉られた装甲とマッスルチューブを意に介せず、エイシイストは直ぐに姿勢を低く構え。

 

 

「……大丈夫?」

 

「刃は問題ない、御主人。……しかし、一筋縄ではいかぬか」

 

「―― フフフフ。夢の中で苦しむんダヨ!」

 

 

 主の問いにだけ応じ、悪夢の如く笑うメダロットに向けて、エイシイストが再び走り出す。

 

 




 ひとまずの再開です。
 自分縛りのルールは変えず、今日書いたものだけを上げておこうと思います。



・ストンミラー
 メダロット2の看板メダロットの1体。
 デストロイという新要素の塊を装備し、一見さんを恐怖のどん底に陥れた。
 いや、貫通するとかぅぉぃ(恐怖
 ……実は、漫画版でも重要な役目を担っており……?

・プース・カフェ
 姫様が持つナイトメアメダロット、「ユートピアン」の1体。他にもモッキンバードとかいう個体やらが存在する。
 悪戯にしてはやり過ぎな気もするが、古代なので気にしない方向で。
 そして悪戯に対する行政側の処置も間違っている気がするが、古代なので以下略。

・海の中
 3では深海と思われる場所でコウジがパートナー(二脚)を無造作に走らせていたので、多分飛行型でも大丈夫かと思われます(ぉぃ。
 その際の二脚型の反応からして、一応水圧とかに阻害はされる様子。いえ。もっと色々問題はあると思うのですけれどね。気密とか。


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20話 メダルの力

 

 後ろを楽しげに飛び回るフィーラーよりも突貫してくるストンミラーを先に。

 イッキとシュコウは、ストンミラーに攻撃を集中するよう指示を飛ばす。

 

 

「エイシイスト」

 

「心得た」

 

「メタビー、あっちを迎え撃て!」

 

「ガッテン承知だぜ!!」

 

 

 傍目には2対1の状況。

 だが、ストンミラーは全く臆する事無く、一直線に狙いをつけて突っ込んできた。

 

 

「―― ふっ!!」

 

「うねぇるっ、ねるね」

 

 

 エイシイストがフィーラー(プース・カフェ)を狙って練り斬り出した刃を、ストンミラーが右腕で替わりに受ける。

 

 

「だらあっ!!」

 

「ねるねるねーっ」

 

 

 メタビーが撃ち出した反応弾は左手で受ける。

 

 

「ねるねる……ぎぎぎ」

 

「っ、コイツ……!」

 

 

 脱力したストンミラーの無機質な顔がぎぎぎと軋みながら持ち上がり、メタビーを睨んだ。

 既に両腕を破壊され、頭もエイシイストによる打撃で凹み。それでも満身創痍のストンミラーは立ち上がる。まるで操り人形のようだとは思ったが口に出さず、イッキは引けた身体を再び前のめりに傾ける。

 

 

「追撃だメタビー!」

 

「ちっ、ゾンビみてえだな……! そっちもひらひら飛んでないで、正面きって撃ち合いやがれ!」

 

「フッフ! それなら……そレーッ!」

 

「うおっ」

 

「メタビー!?」

 

 

 左腕パーツ・サブマシンガンの弾丸を避け、撃ち切った直後の放熱を狙って……フィーラーによるデストロイ攻撃。ぼうんという爆裂音と共に、メタビーの左腕が破壊されていた。

 破壊された左腕を射撃に構え、メタビーは角を向ける。

 

 

「ちっ……アイツの攻撃かよ!」

 

「大丈夫かメタビー!」

 

「気にすんなイッキ! それより、今だ!」

 

「―― 同時だ、畳み掛けるぞカブトムシ!」

 

 

 シュコウの指示により、エイシイストがデストロイ攻撃の放熱の最中であるフィーラーに向けて猛進していた。リーダー機と目されるフィーラーへの集中攻撃を仕掛けようという目論見だ。

 同調したメタビーが構えた角からミサイルを撃ち……ミサイルが走るエイシイストを追い越し。

 

 ―― を、迎え撃つ。

 

 

「いっケェ! 全力ダァ!!」

 

「―― う、ね、」

 

 

 前方。フィーラーの無邪気な一言で、ぼこり、とストンミラーの肌外装(スキン)泡立った(・・・・)

 ぼこ、ぼこ、と脚部パーツが沸騰し、頭パーツが沸騰し。

 ティンペットが光ったかと思うと、両腕が回復し……同様に泡立ち。

 

 

「ぎ、。うね、。るるuuuu、。」

 

 

 ばさりと。

 その背から、黒色に透けた2枚の羽が開いた。

 ストンミラーの姿が歪んで見えるのは、威圧感のせいだけではない。もっと物理的な ――

 

 

「! 止まれです、ヨウハク!」

 

 

 判断するや否や、シュコウは叫んだ。

 近寄っていたエイシイストが急ブレーキをかけて足を止め、その場を飛び退く。

 

 

「っ! ……彼奴め、暴走か!?」

 

「―― うnぇーrうぅ!!!」

 

 

 横合に居たストンミラーは、飛び退いた位置へ腕を振り下ろし。

 そして、あろうことか。

 ミサイルの飛んでいた空間がその一動作で纏めて歪み、ぼんという破裂音を残して消え失せていた。

 

 

「はぁぁ!? んだありゃ!?」

 

「な、なんて力!?」

 

 

 イッキが息を呑み、メタビーが思わず足を止める。

 隣に立ったシュコウも同様で、慌てた様子で口早に話す。

 

 

「―― 危ない。混乱状態の上書きで、偶発的にリミッターが外れてるです。……エイシイスト」

 

「心得た。……カブトムシ」

 

「? あんだよ……」

 

 

 主の言葉を受けて神妙な顔をしたエイシイストが、僚機のメタビーへと話しかける。

 その視線を悪魔のような羽を開いたストンミラーに定め、剣を向け。

 

 

「わたしはあの2枚羽の相手を務めよう。しかしロボトルはリーダー機を倒さねば勝ちになるまい。お前に、夢魔のメダロットを任せたい」

 

「……んん? それは良いけどよ。お前、こんな状況になってもロボトルがどうとか言ってんのか?」

 

「う、。……う、。ねーる、。」

 

 

 メタビーの言う通り。ストンミラーから放たれるエネルギーは、既に通常考えられるメダロットの稼動域を遥かに超えていた。背後の景色すら、ストンミラーから放たれる謎の力によって激しく歪んで見える程だ。

 こんな相手と戦うのを、エイシイスト……ひいてシュコウは、まったくと言って良いほど気にしていないのだろうか。

 しかしその疑問を、エイシイストは当然と斬って捨てる。

 

 

「当然だ。あ奴……夢魔のメダロットは遊ぶと言ったであろう。童子と遊んでやるのも先達の務めというものだ」

 

 

 この返答に、メタビーは一瞬驚いた顔をして……笑う。

 

 

「……へっ。堅物だと思っちゃあいたが、そういう意味じゃあ面白い奴だな、お前」

 

「それで、返答は」

 

「勿論だっての。あんな気味の悪ぃ奴にのされんじゃねえぞ!」

 

「無論だ ―― 主」

 

「うん。……全力」

 

 

 話は纏まったとばかりに、エイシイストはシュコウと見合って頷いた。

 メタビーもイッキと見合い、再びフィーラーとストンミラーに向き直る。

 

 

「う、。ね、。る、。るるるーッ」

 

「―― 来るぞ」

 

「任せろ!」

 

 

 途端、状況が動いた。

 獣の様な前傾姿勢で飛び出したストンミラーに、エイシイストが立ちはだかる。

 謎の推進力を得たストンミラーが、一足飛びのスピードで接近し、沸騰した両腕を突き出し。

 

 

「エイシイスト ―― 心のままに! 『カラタケワリ』です!」

 

「今度こそ、見失うものか ―― オオオオッッ!!」

 

 

 シュコウと、エイシイストの叫びに合わせて……フユーンから転移した際にも発現していた不可視の力が溢れ、交錯。

 エイシイストの背後に薄羽が開く。振り下ろし ―― ばちりと爆ぜた。

 後を追う様に衝撃波が砂浜を抉り。

 

 その、後に立っていたのは。

 

 

「―― 御免」

 

「……る、。」

 

 

 残心。エイシイストが右腕の剣を切り払い、砂浜に倒れたのは、ストンミラーだった。

 乾坤の一撃……メダルの力を解放したメダフォースでもって、エイシイストはストンミラーの全パーツを真っ二つに切り裂いてみせたのだ。

 幾ら不可思議な状態だとはいえ、メダロットにとっての必然。頭部パーツを破壊されては堪らず、ストンミラーは機能の停止を余儀なくされる。

 

 

「エエッ!? やられちゃったノ!?」

 

 

 入れ替わり。

 驚きで隙を満載したフィーラーに向かって、今度はメタビーが射線を伸ばす。

 

 

「っし、……やってやんぜ!!」

 

 

 メタビーの背にはエイシイストとストンミラーに引き摺られたかの様に羽が開き、失った左腕パーツが光り輝いては立ち戻り。

 

 

「メタビー! ―― メダフォース! 『一斉射撃』!!」

 

「おう! ……そっちも落ちやがれぇぇ!!」

 

 

 直後、頭上から伸びたエネルギーの塊が2条、光の弾頭となって、フィーラーを貫いた。

 

 

 ―― ガボォンッ!!

 

 

 爆炎と共に煙に包まれ ―― 煙を突き破っては、両手両脚を破損したフィーラーが、凄まじい勢いそのままに砂の地面に突き刺さる。

 両手両脚の破損。それでも辛うじて頭部パーツは守られていた。

 フィーラーは剥き出しになった骨格(ティンペット)でもって、身体を起こそうと。

 

 

「ググゥ……で、でも、マダマダッ……!?」

 

「―― んで、ここでフレクサーソードの出番な訳よ」

 

 

 その場に、元より追撃の予定だとばかりにメタビーが詰め寄っていた。

 飛行不可能となったフィーラー(プース・カフェ)を見下ろして。二股角の下にあるコミュニケーションモニターが、ニタリと笑う。

 

 

「イッキとオレをこんな面倒な身内事に巻き込みやがって……」

 

「だっテ、ソノ、遊びたかっ……」

 

「それは良いんだよ。だけど、この一撃くらいは晴らさせろ! ……が~む~しゃ~らああああッ!!」

 

「ヒィィッ!?」

 

 

 メタビーが右の大爪を振り下ろし。

 ずばん。

 

 

「リーダー機、フィーラー機能停止! よって勝者、シュコウ&イッキチーム!!」

 

 

 最後は(実は)倒れ込むロボロボ団に扮していたミスターうるちによって、勝敗が告げられた。

 

 ただの良いとこ取りであった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ありがとね、勇者さまっ!」

 

「うーん……解決したのは良かったけど、僕は結局、ロボトルをしていただけな気がするんだよね」

 

「それでもだよっ!」

 

 

 神殿、召還の間。

 コーダイン王国の人々に囲まれつつ。謎の水晶に囲まれきらきらと輝く台座の上に、海から戻って一晩明けた後のイッキとシュコウは立っていた。

 魔物・ブルーハワイ……プース・カフェの撃破を持って、漁師たちを怯えさせていたメダロットの事件は収束となった。

 この大掛かりな「悪戯」自体、結局プース・カフェの悪戯が原因という事もあり、そのパーツを全没収してイッキに渡し……プース・カフェ自体は別のパーツを身に着けてナイトメアメダロットとして活動できなくなるという罰を与えられ、決着も着いていた。当のプース・カフェ自身もマルガリータと一緒に居る事が出来るのであれば異論も無いという事で、丸く収まった形だ。

 イッキが受け取ったパーツは何故か、「フィーラー」と呼ばれていた次世代型メダロットのパーツのままであったりしたのだが……プース・カフェはマルガリータが多数持つナイトメアメダロットの中でも最も強力な力を持つ個体であるらしい。その辺りが関係しているのかも知れないが、事情を知っていそうなシュコウが口を閉ざしている為、イッキとしてはこれ以上追求しようがない。

 実は直前にもひと悶着あり、大人しくしていなかったロボロボ団(主にスルメ)はナイトメアメダロットによって目を回させられていたりする。動けなくなったロボロボ団員たちは、一足先に現代に転送されていた。

 さて、次は自分達の順番か。帰ったらパーツには詳しそうなユウダチに、フィーラーの事を聞いてみよう。……イッキが、そう構えていると。

 

 

「ねえねえ勇者様……はい、これ!」

 

 

 イッキとシュコウの前に立ったマルガリータが、2人にペンダントを差し出していた。

 銀細工のロケットペンダントである。イッキがその中を開けば、「あなたのマルガリータ(はぁと)」と書かれた姫様の写真が張ってある。

 これは、どう返せばいいのだろう。とは考えつつ、とりあえず苦笑しつつも、お礼を言っておく事にする。

 

 

「あ、ありがとう……」

 

「うん! マルガリータの事、忘れないでね! ……んっ」

 

 

 背伸び。近付く顔 ―― 唇。

 

 

「……っ!?」

 

 

 イッキは咄嗟に動こうとして、しかし硬直し、頬を狙ったマルガリータのキスを避けることが出来ずじまいであった。

 口をぱくぱくさせるイッキの目の前でマルガリータは年相応に悪戯な笑顔を浮かべ……ああ、やはり、ナイトメアメダロット達の主なだけの事はある……と少女についての印象を改め。

 笑いかけていたイッキからくるりと視線を移し、当のマルガリータは今度はシュコウの方を向く。

 

 

「ねえねえ! アナタも手伝ってくれたんだよね!」

 

「そうかも」

 

「だったら勇者様と一緒に、また、いつか、必ず来てね! 今度は一緒に遊ぶの!」

 

「……うん。判った」

 

 

 笑顔と共に、今度はキスでなく握手を交わした。

 イッキがちょっとほっとしたのは兎も角。挨拶を終えたマルガリータは、手を振りながら祈壇の前にとてとてと走っていった。

 姫様たるマルガリータが隣に並ぶと、爺やがぺこりと一礼。イッキ達を現代に戻す為の祝詞を口にし始め。

 最後の場面。マルガリータがぶんぶんと手を振り、

 

 

「それじゃあね、勇者様! お姉ちゃん!」

 

 

 え、と。

 その台詞にイッキが疑問を口にする間もなく。

 勇者イッキと相方のシュコウは、神殿から転送されていった。

 

 

 

 

 

 ――。

 

 真っ暗になった目の前が、暫くして、灯りを取り戻す。

 イッキはゆっくりと、その瞼を開いてゆき……

 

 

「ん……。……な、なんだ!?」

 

『が~はっはっはっはっは!』

 

 

 いきなりである。

 イッキの耳元で、一杯に拡声された音が空気をびぃぃんと震わした。

 

 辺りの雰囲気が違っている。コーダイン王国からは帰還したに違いない。

 しかし今、続け様に一大事。

 

 おみくじ町どころか、隣のメダロポリスまでの一帯が、大きな影によって覆われている。

 

 浮かんでいるのはUFOの様な、巨大な円盤形の乗り物だ。

 

 再び、大声。

 

 

『どうじゃ、メダロット博士の使いっぱしり! お前の大事な女の子を預かっておる! 取り返したくば、ここまで乗り込んでくるがいい!!』

 

 

 それら音声を、イッキは謎の建物の内側から(・・・・)聞いていた。

 そう。転送された先は ――

 

 

『ただし、この空中要塞まで飛んでこられればじゃがの!! がっはっは!!』

 

 

 ―― 空中要塞・フユーン。

 

 






・フィーラー
 メダロット・NAVIより。
 作中にある通りのナイトメアメダロットの後継機。多分、検索しても画像がでてくるかどうかと言ったマイナー具合。
 男型ティンペットだのに見た目がアレなオトコノロボ娘。やはりメダロットは時代を先取りし過ぎである。
 尚、一代目のナイトメアメダロット・ユートピアンには攻撃パーツが無く全武器「混乱」なのだが、作中の通りフィーラーは頭がデストロイ攻撃となっている。
 ただしデストロイの仕様は5までに準拠。というかその後のデストロイは統一されていないので。
 今作においてはプース・カフェがシュコウの記憶を弄って探り当てた品となる。フラグ風味。

・泡立つ装甲
 漫画版のメダフォースがこんな感じ。漫画と同様にストンミラーがお相手。
 今作のこれは<ネタバレにつき検閲>。

・ミスターうるち
 コーダインに来られたら流石に困るとか、言ってはいけない。
 ……だってハチロウもバカンスに来ますし(小声)

・展開
 本来はここで地下下水に戻り、帰宅。しかし後日暴走したメダロット達が飛来して街を遅い、ヘベレケから上記の放送による挑発というか脅迫を受け、アキハバラのメダロット博士から『かぜのつばさ』を受け取ってヒロインの為に要塞へ乗り込むと言う王道展開が待ち構えていました。
 この様に、メダロットは基本的にそれぞれ事件を終える → 家で寝るというパターンによって章を区切られています。この辺りは8やらの新作も同様。
 が、読み物でそれをやると尺を食うだけですし、前回(メダロッ島編)でやったのでカットです。御無体。
 今作においてはここからがある意味物語としてのクライマックス。良い意味でも悪い意味でも怒濤の展開の予定。主にイッキが忙しいという意味で、怒濤。

・キス
 唇を何がしかに押し当てる行為の事。へそや膝の裏を狙う奴は上級者である。
 ……何気に(公にしている書き物では)初めてキスシーンを書いた気がしないでもなかったり。頬ですけど。


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21話 天空の城、ラピy……フユーン

 

 

「一体、何が……!?」

 

 

 何せ、急に過ぎる展開である。

 壁によって区切られた、入り組んだ道の中。目を覚ましたイッキは、慌てた様子で辺りを見回した。

 シュコウは先に起きたのか転送場所が違うのか、既に周囲にはいなかった。

 壁や床には謎の光が脈動しながら走り、まるで建物そのものが生きているかのようだ……とは、コーダイン王国に行く前と変わらぬ浮遊要塞の様子で。

 暫くそこに立ち竦んでいたが、とりあえずは害される様子が無いと知ると、イッキは息を吸いつつ、思考を纏める事に終止した。

 

 ……壁面や床から察するに、おそらく自分は、コーダイン王国に転送される前に居た場所へと戻されたのだろう。ヘベレケ博士が謎の穴の前で高笑いをしていたのが印象的だった。あの大穴は周囲には無いため、要塞の内部ではあっても位置は違っっているのだろう。

 だとすれば先ほどの放送も頷ける。原理は判らずとも、ヘベレケ博士が要塞を起動させ動かしているに違いない。浮遊要塞という事は、もしかしたら浮いているのかもしれないが……それよりもだ。

 

 

「……気になるのはさっきの放送だよなぁ。……女の子、って」

 

 

 誰かは判らないが今現在、女の子がイッキを呼び寄せる為に囚われていると言うのだ。これについては看過できない問題であった。

 これについて今現在、自分が中に居るのは行幸である。突入する手間が省けたと考えていい。要塞がいざ着地するとなると、着地をする場所の広さが問題はなるだろうが。

 

 

「うん。……少し、情報収集をしてみよう」

 

「お、起きたかイッキ」

 

「メタビーもね。それより、また事件だってさ。ロボトルになったら頑張ってくれよ?」

 

「おう、勿論いいぜ!」

 

 

 この夏休みにかけて様々な事件に巻き込まれてきたイッキは、とうとう要塞に閉じ込められた程度では……動揺はするものの、素早く復活出来るようになっていた。こうして待っていても仕方がない。

 決め込むと、イッキは、見えている道の先へと脚を向けていった。

 

 

 

 

 

 暫く進むと、土を弄っている飛行型メダロット達が大勢居る区画に辿り着いた。どうやら要塞の中だというのに畑があるらしい。

 両腕パーツで土を耕していたメダロットがイッキが近寄ってくるのを認め ―― 身構えたイッキを他所に、にこやかに手を振る。

 

 

「珍しイ、ニンゲンだねー。土仕事はいいヨー。君もどう?」

 

「あ、あはは……後でね」

 

「そッカ。それじゃあネ」

 

 

 イッキは苦笑いしつつ、飛行型メダロットに手を振りながらその場を立ち去った。

 しかし、そう。何故かは判らないが、ここに居るメダロット達は友好的なのだ。ここへ来るまでも、遊びでロボトルを挑んでくるメダロット達は居たが、野良メダロットの様にばしばし襲い掛かってくる個体が居ないのである。

 

 敵だと決めてかかるのは失敗だったな……と畑のあった区画から扉を潜ると、今度は工場のお出ましである。

 中央でオイル缶を掲げ、またもメダロット達がワイワイと楽しげにオイル盛り(?)をしている。

 

 

「……何だかなぁ。浮遊要塞なんて所に居るとは思えない光景なんだけど」

 

 

 とは言いつつも辺りを見回す。ここにもヘベレケ博士は居なさそうだ……と判断をつけると、外周を辿って、イッキは次の区画へと向かう事にする。

 すると、次の区画は景色がうって変わり、花畑が整備された自然公園または温室のような作りになっていた。

 暫し視線を巡らしていると……中央に浮かんでいたメダロットと視線が合った。敵意は感じない。そのまま両者の距離が詰まる。

 

 

「―― おや、人間の方ですか」

 

「は、はい」

 

 

 丁寧な物腰だ。―― 確か、蜂型の飛行メダロット「プロポリス」である ―― そのメダロットへ、イッキは思わず返答する。

 挨拶以上の言葉が浮かばず、イッキが対応に困りつつもその場を動かずに居ると、プロポリスは(モニター)に喜色を浮かべた。

 

 

「あ、嬉しいですね。昨今は野良メダロットに対して無用に警戒心を抱くお人も沢山居るというのに、貴方はこうして怯まずに居てくれる。……改めて、始めまして。私はウォッカと言います」

 

「僕はテンリョウイッキ。あの、どうしてここに居るのかはちょっと判らないんだけど……」

 

「テンリョウ……イッキ様、ですか。何故この浮遊要塞に居るのか……ふーむ。申し訳ないのですが、私も存じ上げておりません」

 

 

 表情を暗くしたウォッカへ、イッキは慌てて首と手を振る。

 

 

「そんな! 君は悪くないよ!?」

 

「……ありがとうございます。ですが、私はこの要塞に住むメダロット達の取り纏めをしているのです。主である博士に聞けば、貴方の事も何か判るかもしれませんが、近頃は博士も御多忙の様子で。貴方に時間があるのであれば、一先ずは私からおもてなしをさせていただきたいのですが、宜しいでしょうか?」

 

「……うん、お願いしようかな」

 

 

 コーダイン王国への移動を含めて、イッキも動きっぱなしである。

 ウォッカの説明によると、この区画の奥に居住スペースがあるらしい。ウォッカはそこでの休憩を勧めてくれた。

 その勧めに甘えつつ、イッキは、浮遊要塞の奥へと脚を進めた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「が~はっはっはっは! アキハバラの奴めが驚く顔が目に浮かぶわい!」

 

 

 同刻。場所は、フユーン要塞の操縦室。

 飛行型メダロット達が機器制御を行う中心。一段高くなった玉座の様な場所に、老人が高笑いをしながら座っていた。

 そこに、1人の女の子が囚われている。

 

 

「……ヘベレケ博士」

 

 

 しかし囚われた女の子の前に……或いは門番の如く……構えていた水晶玉とマントという風貌の人物が、すっと前に進み出る。

 水晶玉を揺らす、一風変わったロボロボ団幹部・シュコウに、老人・ヘベレケ博士は不敵な笑みでもって応じた。

 

 

「なんじゃい、シュコウ」

 

「メダリアを使用したリミッター制御、それに伴うエネルギー生成実験、サイプラシウムによる浮遊実験は成功。あのガラクタの山から集めた純度の高いサイプラシウムを精製したから、フユーンストーンも盗み出さなくて良かったし、これで目的は達成しました」

 

「がっはっは! そうじゃな。サイプラシウムについては、パーツの素材に詳しいお主の力添えも大きかったの。……とはいえリミッター制御については未だ実験の最中。ほれ。こうしてサイレンで促せば、飛行型メダロット達は一様に動き出しおる。三原則にも縛られないメダロット達の誕生じゃ!」

 

「……そうですね。けど、わたしのいない内に彼女を誘拐したのは……」

 

 

 ここでシュコウが黙り込む。その水晶の被り物の内からは、迷いつつもはっきりとした怒りの様相が伝わってきた。

 ヘベレケ博士が高笑いを止め、

 

 

「ふん、そういきり立つな。ワシの仕返しはな、あのアキハバラへの個人的なものじゃ。虐殺なんかはせんのだから、良心的じゃろう?」

 

「でも、暴走させてる……です」

 

 

 怒りに対し、ヘベレケ博士はあくまで不遜に応じる。

 

 

「暴走……まぁ、メダルの構造上はそう呼ぶのが確かに適切じゃがの……」

 

 

 ヘベレケ博士が手元の機器を操作する。

 すると、上部のモニターに暴走中のメダロットの様子が一斉に映し出された。

 

 

「良く見てみるがいい。観測している限り、あのメダロット達は暴走していようと、自分からは人を傷つけん。あくまで飛び回ったり、過剰反応したセレクト隊の役立たず共から吹っ掛けられたロボトルに仕方なーく応じとるだけじゃわい」

 

 

 映し出される様子は、ヘベレケ博士の語る通り。

 メダロット達は街中に降りて好き勝手に動き回り……それが交通網を阻害したり、建築物への小規模な被害はあれど……実質的、人的な被害にまでは至っていないのが現状であった。破壊されたメダロットに関しては、ロボトルを挑んだセレクト隊と、その他同様に勝負を仕掛けた一般市民のものだけである。

 それらを認識しつつも。シュコウは微動だにせず、先を促す。ヘベレケ博士がふんと鼻を鳴らし。

 

 

「つまりこれは、三原則から解き放たれたメダルだとて無闇に人間を襲わないと言う実証になるんじゃい。メダルの本質を隠し通すつもりのアキハバラの奴めは、これにて一端、打ちのめされる事になるじゃろうの!」

 

「……」

 

「ふん。そういえばお前さんは、アキハバラの孫娘やその恋人の少年とも縁が深いもんじゃったか。お主とあの少年には感謝をしてもしきれんわい。彼奴(きゃつ)めが獣王の暴走を食い止めた際のロボトルの記録……メダロッターによってメダルの能力が引き出された実例が、こうしてリミッター制御を実現させる足がかりになったんじゃからの! がっはっは! ワシの気まぐれも捨てたもんじゃあないのう!!」

 

 

 腰に手を当て、ヘベレケ博士は再びの高笑いを始めた。

 水晶玉の様なフルフェイスガードを被る幹部は暫く黙っていたが……そのまま後退。老人にメダロット博士の使い走りと称された少年 ―― イッキを引き寄せる為に囚われた「少女」の目の前を立ち塞がるように陣取った。

 

 

「……とりあえず、彼女に暴力は駄目」

 

「そんな小娘に誰が暴力なんぞ振るうか。ワシの好みはピッチピチのギャルじゃ! モテモテじゃっ!!」

 

「……良いけど」

 

「がっはっは! そろそろワシは明日に鳴らすデータ信号の調整に行くわい。見張りはメダロット達にもやらせるが、おぬしもここを動かんで居るんじゃぞ。それが条件(・・)じゃからな」

 

 

 それだけを言って。後は無駄だとばかり、ヘベレケ博士が階段を降りて行くのを見送った。

 その場に残された2人。ごうんごうんと何かが駆動する音だけが浮遊要塞の艦内に響く。

 完全に姿が見えなくなってから、シュコウはその場にすとんと座り、

 

 

「……さて、KWG型のパーツも新調が済んだ事です。そろそろですね」

 

 

 などと呟きながら、次々と転送したメダロットのパーツを弄り始めた。

 奥に居た「少女」は、そんなロボロボ団幹部の様子を暫し眺めていたが、気を取り直し……僅かに勇気を出して尋ねる事にした。

 先ほどの行動から見ても、この幹部が自分の見張りと称してガードマンを買って出ていることは明らかだ。どうして自分を庇ってくれているのか、と。

 

 

「? ……ああ、成る程です。こうなってはクライマックスですからね。あまり隠す必要も無いのです」

 

 

 思わず、少女の顔に驚きが沸いて出る。

 声は変わっているが、取ってつけたようなその語尾は、少女にとっても馴染みの深いもの。

 

 

「窮屈ではあると思うのですがもう少し待っていて下さいです、カリン(・・・)。王子様はすぐそこまで来ているのです!」

 

 

 水晶の被り物の内で、笑う。

 それは、口調からしてらしい(・・・)もの。

 少女にとっては小学校来の親友たる、どろりと笑う少女のものであった。

 






・ウォッカ
 2のリメイクであるコアにて、プロポリスになっております個体。概要は記載の通り。
 3や4に先駆けて、「メダロットの個性」を強調された個体となっていますね。ある意味コガネなどと並んで最もメダロットらしいメダロット、なのかも知れません。
 ……いえ。本作における登場期間は大分短いのですけれど。

 そう言えば、紹介が遅れましたがメダロット2のキャラクター等は酒に関する名称で統一されています。1は米。米が熟成されたとでも言いたいのでしょうか。ロボロボの方は、お酒のツマミです。
 因みにイッキ達の通う小学校の名前を、確か本作においては間違って記載していたはず。後に修正をば。正しくは吟醸(ギンジョウ)小学校です。
 ……ですがこれ、名称の統一は兎も角、小学校に付ける名前としては0点なのでは……ないでしょうか?
 お酒は二十歳になってから。これ大事です。法律です。

・メダリア
 ヘベレケ博士の開発だというのは漫画版の設定です。
 4までのゲームにおいてはメダルに装着する事によって熟練度を補正する宝石となっております。

・リミッター制御
 詳しくは後々。

・三原則
 詳しくは後々の後。anotherエンドにて。


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22話 騒音、所により暴走

 

 ―― ううーぅぅぅ……

 

「このサイレンが、メダロット達を暴走させている……!?」

 

 

 翌日。

 一晩をフユーンの内で明かしたイッキは、唸るサイレンの中、居住区画の奥へ向けて息を切らしていた。

 ウォッカから浮遊要塞「フユーン」の仔細について説明を受けたイッキは応接室で朝までを過ごしていたのだが……今朝方、このサイレンが鳴ってから状況が変わっていた。要塞の中に住んでいた飛行メダロット達が一斉に正気を失い、暴走同然に下の街……メダロポリスやおみくじ町へと降りていったのである。

 コーダイン王国での出来事といい、しばらく街から離れていたイッキには想像することしかできないが、あのメダロット達が街にいては、地獄絵図と化しているに違いない。

 しかしその際、正気をぎりぎり保っていたウォッカから、中枢部に「博士」以外の人間もいるらしいという情報を聞くことができた。

 

 

「……魔の10日間の、再来みたいなものかな……?」

 

 

 かつてのメダロット暴走事件を引き合いに出して追想を始めたイッキ。

 そんなのんきな主に向けて、メタビーが叫ぶ。

 

 

「イッキ、余所見すんな!!」

 

「! ごめん、メタビー!」

 

 

 謝りつつ、イッキは『クマ』メダルの護衛機・ベアーに援護を命じ、メタビーの前方へと走らせる。

 

 

「くままー!」

 

 ―― ゴンゴンゴンッ!

 

 

 トンボ型メダロット、ドラゴンフライヤーの両腕から雨あられと降り注ぐプレス射撃を右腕の楯『ライトガード』で防御し ―― 射線をとったメタビーが射撃を仕掛ける。

 

 

「だらぁぁぁーっ!!」

 

 

 ミサイル。直撃。

 打ち落とされ、頭部を破壊され、ドラゴンフライヤーの機能が停止する。同時にリーダー機の撃破により、統制を失った暴走メダロット達が停止を始めた。

 

 

「―― よし」

 

 

 イッキは拳を握り、すぐさま先へと足を進める。

 このロボトルに関して言えば順調に終了したが……しかし、これにて既に中枢部を目指し始めてから12戦目のロボトルである。状況は良くないと言えよう。

 何分、要塞の中に常駐していたメダロット達は同様に正気を失っている。中枢へと近付くイッキ達は、無差別にロボトルを挑まれ続けていた。

 浮遊要塞であるからか飛行型メダロット達が多いため、対空射撃(アンチエア)による攻撃は通じるものの、物量に押されてはメダル達も、イッキの疲労も増す一方だ。

 それでも。

 時折通路を塞ぐタンク型メダロット達をロボトルでどかしながら、それでもイッキは中枢へと進む。

 

 

「―― 僕をおびき寄せる為、わざわざ中枢部に女の子を?」

 

 

 囚われの女の子。それが「誰か」と問われても、少なくとも。

 大事な女の子……と、イッキ自身ぼんやりと思い浮かべてみるが……恐らく、アリカか、もしくは。

 

 

「……カリンちゃんか」

 

 

 カリンちゃん……ジュンマイ・カリン。

 確かに、気安い幼馴染であるアリカやユウダチよりは「大事な」と言うに適切な女の子。

 コウジやユウダチの友人で、イッキ自身も、この夏休みに入ってからは幾度と無く交流を重ねた女の子。

 

 

「大事には大事だし……助けたいとは、はっきり、思うけど」

 

 

 フユーン王国へ転移する前には下水道で探索をしていたはずだ。もしやあそこで掴まってしまったのだろうか。

 だとしたら助けたい。そこに疑問は無い。

 しかし例えば、いつか見たナエとヒカルの様になりたいのかと問われれば……判らないという他無い。なにせイッキはまだ小学生(中学年)なのである。

 

 

「……これは置いとこう。どっちにしろ、まずは助けないと!」

 

 

 首を振るう。じゃりじゃりと砂塗れになった床を踏みしめ、イッキは通路の扉を開く。

 

 

「って、え?」

 

 

 扉を開くと、風景が変わった。

 中央に台座を据えた、景色のいい場所だ。

 景色が良い。つまりは窓の多い場所。よくよく見れば、その手前にはモニターや操縦桿などが羅列している。恐らく、ここが件の中央部なのだ。

 

 

「―― こっち」

 

「君は……」

 

 

 イッキを呼ぶ声が聞こえ、そちらを見ると、コーダイン王国から一緒に転送されたはずのロボロボ団幹部 ―― シュコウが中央部にぽつりと立っていた。

 脚を向ける。階段を登り ――

 

 

「―― っ、イッキ君っ!!」

 

「!? え、カリンちゃんっ、て、わわわ」

 

 

 栗色の髪を振り乱し、感極まった面持ちで駆けて来たカリンによって、抱きしめられていた。

 慌てふためくイッキを他所に、カリンは顔を埋めたまま胸元から動こうとしない。耳を澄ませば極僅かながら嗚咽が聞こえてくる。イッキは覚悟を決めると、そろそろと手を伸ばし、カリンの背に腕を回した。

 そうやって居る事……いや、緊張のあまり時間間隔はあまり無いが、恐らく、3分ほど。

 

 

「―― そろそろ良い?」

 

「えっ、あっ……」

 

「~っ! あ、あの……その……」

 

 

 かけられた声に、2人はばっと身体を離す。

 ここでカリンの様子を窺うと、俯いているが、サイドテールに纏めているために覗いている耳が赤い。首から真っ赤である。……ここは触れるべきではないだろう。

 せめて自分はと、イッキは出来る限り冷静に務めつつ。

 

 

「ありがとう、シュコウ。カリンちゃんも、無事で良かった」

 

「……ありがとう、ございます、イッキ君」

 

「……それじゃあ話す。ヘベレケ博士は……こっち」

 

 

 シュコウはそう言いながら、自分の横を指差した。そこには、上下に移動を行うためのリフトが据えつけられている。

 

 

「この下に?」

 

「そう」

 

「……そう、か」

 

 

 イッキは腕を組む。シュコウが道を遮る積りが無いというのは、何となく判った。だからこそ、その言葉を信じるならば……所謂、決戦が間近に迫っているに違いない。

 息を吸い、吐き出し。やはり、考えは変わらない。例え相手がメダロット博士と肩を並べるような研究者であっても、ここで怯むわけにはいかなかった。

 脚をリフトにかけ……その前に、と思い返す。引っ込めた脚を、今度はカリンの方へと向けた。

 

 

「カリンちゃん」

 

「……はい」

 

「ちょっと行ってくるよ。ヘベレケ博士と決着をつけに」

 

「……ごめんなさい。わたくしのメダロッチがあれば……」

 

「大丈夫だよ。勝ってみせる。僕はまだ子どもだけど、大人に対抗できる唯一の説得手段があるからさ」

 

 

 そう言って、イッキはメダロッチを掲げた。

 呼びかけられたメタビーが声を出す。

 

 

「カリン、オレらに任せておきな! クイックシルバ達はきちんと取り返してやるからよ!」

 

「……メタビーちゃん」

 

「まぁ、だから……その、イッキを頼んだぜ?」

 

 

 イッキがおいと声をかける間もなく、ぶつり。メタビーは再びメダロッチの中へと戻ってしまった。

 ……頬をかくイッキ。微妙な間。すると。

 

 

「……博士と決着を着けに行っている間、わたし達はフユーンの軌道修正を行う」

 

 

 シュコウが口を開いていた。その中に含まれていた単語に、イッキは首を傾げる。

 

 

「軌道修正? って、なんで?」

 

「この浮遊要塞は、何時までも浮かんでいられるものじゃない。……本来必要だったフユーンストーンを使っていないから。純度が幾ら高くても、純結晶じゃない人工のサイプラシウムでは活動限界がある。これはヘベレケ博士も知っているけど、でも、こんなに早いとは予測してないと思う」

 

「あら、まぁ……」

 

「……ええぇ」

 

 

 溜息にも近い声が漏れる。

 つまり、つまりだ。この浮遊要塞は。

 

 

「不時着……するってこと?」

 

「そう。時間はあるけれど。だから、私達は不時着のための準備をする。さしあたっては操縦の人手が足りない。彼女にもそれを手伝ってもらう。……気をつけて。ウォッカは多分、下に居る」

 

 

 そう言って。次いでカリンにはジェスチャーでこの場に残るように指示をして、シュコウは段を降りて管制機器の確認を始めてしまった。

 暫しの無言の後、改めてカリンと顔を合わせ。

 

 

「それじゃあ……カリンちゃんも、大変だと思うけど頑張ってね」

 

「はい。お気をつけて、イッキ君」

 

 

 互いに言葉をかわし、別れる。

 イッキはリフトに足を乗せ、下を目指した。

 

 

 ◆

 

 

 降下してゆく。

 暫くすると下に、コーダイン王国に行く前にも見た大きな穴が見えてきた。

 以前と違う点といえば、ばちばちと爆ぜる半透明の物体がそこに浮かんでいる事か。

 

 

「―― がっはっは! 来おったの!」

 

 

 半透明の何がしかの横に、ヘベレケ博士は立っていた。

 リフトが地面に着いたことを確認すると、イッキはヘベレケ博士の元へと歩き始める。

 何から聞くべきか。聞きたいことは沢山ある。

 

 

「……博士は、何でこんな事を?」

 

「既に言っておるがの? これは個人的な復讐じゃわい。あのアキハバラめへの、な」

 

「メダロット博士が何かしたんですか? あの人は……少なくとも僕にとって、メダロットにも人にも優しい人です。ヘベレケ博士にとって、メダロット博士は……」

 

「―― ふん、その辺りはお主が知らんでも良いことじゃ。只の意見の食い違いという奴じゃよ」

 

 

 高台に並ぶ。正面に立ったヘベレケ博士は、背負った大きな鞄の義手をぐいぐいと動かし、携帯端末を取り出した。

 

 

「それより勝負をしてもらおうかの、イッキ! 検証結果は既に得ておる。だとすれば、後はお主……アキハバラめが見込んだメダロッターを打ち負かすだけじゃわ!!」

 

「……どうして、そこまで」

 

 

 及び腰のイッキに、博士はあくまで高圧的に突きつける。

 

 

「―― イッキ、構えろ!!」

 

 

 叫んだのはメタビーだった。

 メダロッチから光が放たれ、ティンペットにパーツが接着する。

 ぶしゅうという煙を上げて降り立ったメタビーは、イッキを背に、右腕の『フレクサーソード』を突きつけ返した。

 

 

「メタビー、お前……」

 

「こいつに何言ったって聞きやしねえだろ! ……お前、ヘベレケとかいったな!」

 

「ふん、頭に天才を付けろ天才を!」

 

「天災だか甜菜だか何だか知らねえけどよ。イッキとオレのコンビに喧嘩を売るってんなら ―― ロボトルだ! 相手になるぜ!!」

 





・サイレン
 データシートの代わりです。

・ただの意見の食い違い
 そういうのが拗れる事はままあります。

・高感度≒好感度
 ヒロインは見ての通りです。アリカ派の皆様には申し訳ないのですが、今作品は基本的に不遇な方のヒロインが勝利します。アリカさんは(新世紀の)続編とかにも出演してますので、そちらで妄想を膨らませてくださればと。


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23話 王を継ぐもの超えるもの

 

 メタビーが威勢よく声を上げると、ヘベレケ博士はフンと鼻息を鳴らした。

 そして背中の義手鞄を操作する。

 

 

「―― ならば相手をしてやろうかの!!」

 

 

 ずるり。ケーブルが擦れ合う音だ。

 次の瞬間、ヘベレケ博士の前には、最新型のカブト型メダロットとクワガタ型メダロット……そして見慣れない巨大なメダロットの3体が顔を出していた。

 

「―― ういぅぃ。呼んだねマスター。敵は正面かい?」

 

 カブト型メダロットは、重厚な黒い外殻を特徴とする「ベイアニット」。

 体の造詣は似ているが、分厚い。メタビーよりもふた周りは大きい。

 

「―― え、何で壁光ってんの? 何でおれここにいんの? 何で何で?」

 

 クワガタ型メダロットは、全体の装甲と強度を増した「ゾーリン」。各部の継ぎ目に鋲が打ってあり、しなやかながらに強度の補正がされている。

 そして。

 

 

「―― あ、う、あー」

 

「な、なんだこのメダロット!?」

 

「こやつは獣の王。開発コードをビーストマスターと言う……そのオリジナルじゃ。かつてワシが軍に籍を置いておった際、技術の粋を集めて設計したメダロット兵器じゃよ」

 

「メダロット……兵器!?」

 

 

 兵器という言葉に、イッキは大声をあげる。

 無理もない。本来のメダロットはあくまで、ロボットペットという扱いのはずなのだ。イッキもメダロットの力を知ってはいるが、それを兵器として扱おうとしているとはついぞ聞いたことが無い。

 

 

「そりゃあ、あくまで玩具としておいた方が外聞が良いからの。とはいえまぁ、お主の心配は杞憂じゃよ。軍用に転用しようとしたプロジェクトは頓挫したわい。……ワシと一緒に獣の王を開発した男は何処ぞへと姿を眩ましたが、そりゃあワシの知るところじゃあないからの?」

 

 

 面白くもなさそうに呟くと、これで前座は終了じゃと博士が後退。

 替わりにメダロット達が前へと出る。イッキも、自分のメダロット達を転送する。

 

 

「くままー!」

 

「くももー!」

 

 

 両手に楯を構えた車両型援護機体の「クマ」メダル。

 スミロドナットの頭部にトラップスパイダのパーツを組んだ多脚型支援機体の「クモ」メダル。

 そしてそれらの後ろに、リーダー機としてメタビーがふんぞり返る。

 そしてそして、メタビーの後ろにミスターうるちが両腕を組んで降り立った。

 

 

「合意と見てっ……宜しいですね!!」

 

 

 両者と6体のメダロットが頷く。

 暫くぶりのまともな反応を受けて感慨もひとしお。ミスターうるちは勢い良く腕を振り上げ、

 

 

「ロボトル ―― ファイッ!!」

 

 

 ロボトルの開始と、振り下ろした。メダロット達が散り散りに走り出す。

 

 

「防御は援護に任せて射撃に集中だメタビー! サブマシンガン!」

 

「おう!!」

 

「ふん! 食いちぎってやれい」

 

「が、ず、ずー」

 

 

 指示の通り、メタビーがガトリング攻撃を仕掛ける。

 障害物は何も無い。射線は通りっぱなしだ。しかし。

 

 

 ―― がんがんがんっ

 

「ういぅぃ。防御するまでもないね。お返しだよ」

 

「うわたたたっ!?」

 

 

 ベイアニットは射撃を右腕で適当に受け、すぐさまメタビーにガトリング攻撃を行ってきた。

 そしてそれは、ヘベレケ博士の他のメダロット達も同様であった。

 

 

「え、何? 何今の。攻撃したの?」

 

「くももー!?」

 

 

 ゾーリンは射撃の雨を被弾しながらも突っ切り、クモの足から切り崩しに掛かる。

 

 

「あ、う、あぁー」

 

「くままーっ!?」

 

 

 同様に、銃撃を意にも介せず。ビーストマスターが口から吐き出した重力波の一撃がクマの左楯をべこりとへこませる。

 つまりヘベレケ博士の繰り出したメダロット達は、重装甲のパーツを楯に、防御に費やす時間を削っているのだ。パーツ開発からしてコンセプトを持った機体なのである。

 イッキは考える。だが、これはロボトルだ。いくら重装甲だろうとメダロット。あのビーストマスターとてメダロットには違いが無い。

 だとすれば、決着を着けるためには。答えは明白だった。

 

 

「メタビー、リーダー機を狙うぞ!!」

 

「むっ……やらせるか!!」

 

 

 イッキの声に、ヘベレケ博士が陣形を変えるべく指示を出す。

 

 

「ういぅぃ。防御だねマスター。守ればいいんだろう」

 

「何、おれ楯になんの?」

 

 

 ビーストマスターの前に、ベイアニットとゾーリンが立ち塞がる。

 しめた(・・・)。その場を狙っていたイッキが、一斉に指示を出す。

 

 

「ベイアニットの右腕だ!! クマ、重力波射撃!! メタビー、反応弾ッ!!」

 

「くまっ」

 

「なるほどなっ、わかったぜイッキ! ……喰らえっっ!!」

 

 

 頭パーツからプレス射撃が放たれる。空間が歪み、狙いの通りベイアニットの右腕が湾曲する。

 そして射線を塞ぐ右腕を、メタビーの反応弾が再び撃ち貫いた。

 

 

「うい……ぅぃ!? 装甲をっ」

 

 

 薄くなった装甲。反応弾の勢いは衰えず、右腕を破壊して尚貫通する。

 予期せぬ一撃。一直線に、後ろにいたゾーリンの頭部を巻き込む。

 

 

「何何? おれってもう退場 ――」

 

 

 ぼぅんっ。

 

 

「頭部パーツ破壊! ヘベレケチーム、ゾーリン、戦闘不能!!」

 

「!! やりおったな、小僧め!」

 

 

 ミスターうるちが腕を振るい、ヘベレケ博士がケイタイにゾーリンを格納する。

 狙い通りだ。メダロット達は重装甲でコンセプトがあり、運用が決まっているとは言え、ロボトルには3機までで戦うルールがある。ヘベレケ博士は開発は得意なのだろうが、見る限りロボトル慣れはしていなかった。作戦さえはまれば、こちらに分があるといえよう。

 貫通の誘発によって撃破し、残るは2機。

 すると、ヘベレケ博士が様相を変えた。

 

 

「ちぃっ……仕方が無いの! 目覚めるんじゃ、ラスト!!」

 

 

 残る機体で勝負に出るべきだと踏んだのだろうか。何やらビーストマスターに指示を送る。

 イッキとメタビーが身構える。ビーストマスターのカメラアイがぶおんと唸り、光り。

 

 

「―― ア。……ココハ、ドコ?」

 

 

 みしり。ぶくり。ビーストマスターの装甲が泡立つ。時間が止まったような圧迫感が周囲を包んだ。

 次の瞬間、ビーストマスターの後ろに4枚の光の薄羽が開き。

 

 

「ココハ……ドコ? キミハ……ダレ?」

 

「がはははは!! こうなってはフユーンごとで構わんわい! やってしまえい、ラスト!!」

 

「……ドコへ……ユクノ?」

 

 

 様子が変わり、ぶるぶると震えるビーストマスター。それら質問に答えることは無く、ヘベレケ博士はただただ笑う。

 メダロットの背中に開く光の薄羽は、イッキも何度か見たことがある。メタビーも以前、メダフォースの発動時に発現していた。しかし、今のビーストマスターの状態はそれと比べて明らかに異常だ。メダフォースとして何かしらの発動をするわけではなく、まるで、ただエネルギーを垂れ流しているかの様な感覚である。

 

 

「これって……もしかしなくてもヤバい!?」

 

「ですね! 申し訳ありませんが退散させていただきます!! イッキ君もお早い退散を!!」

 

 

 明らかにロボトルという雰囲気ではなくなったのを察してか、ミスターうるちがそそくさと退散してゆく。

 退散……確かにしたいが、この浮遊要塞からどうやって退散すれば良いものか。

 イッキが悩みながら周囲を確認していると、歪んだ空間の向こう。ヘベレケ博士に向けて、メタビーが叫ぶ。

 

 

「お前、ロボトルで勝負じゃなかったのかよ!!」

 

「ふん。メダフォースをロボトルの技としたのは(株)メダロット社じゃろうに、何をいまさら!!」

 

「そういう大人の屁理屈は良いんだよ! そのラストってやつに勝負させろ!!」

 

「がははは! もう勝負しとるわーい!!」

 

 

 メタビーとヘベレケ博士が子どものような言い争いをしている横で、イッキは右往左往する。

 どうにかして逃げ道を。すると助けは、思わぬところから現れる。

 

 

「ういぅぃ。イッキさんといいましたか」

 

「……君は、ベイアニット?」

 

「うぃ。イッキさんはメタビーを引き連れて安全な所へ。自分はラストとマスターを連れて緊急脱出用の転送装置を起動します。マスターは頭に血が上っておいでです。このままではラストがマスターをも巻き込みかねませんからね」

 

「良いの?」

 

「うぃ。マスターを守る為です。……恐らく管制室が一番安静でしょう。シュコウさんも居てくれます。貴方達も、さあ」

 

「くままー」

 

「くももー」

 

 

 ベイアニットがそう促すと、クモとクマがイッキの袖を引いた。

 イッキは、メタビーを見て。ベイアニットを見て。

 

 

「博士、失礼します」

 

「なんじゃいベイアニット……。……!? 何を!?」

 

「―― ドコ、ヘ」

 

 

 ふおんっ。

 小気味良い転送音と共に、フユーンに立ち込めていた威圧感が消え去った。ビーストマスターもヘベレケ博士も、ベイアニットの姿も無い。

 これで決着とは言い難い。しかし少なくとも、どちらかが命を懸けなければならないような事態は避けられた。そう考えれば安堵もできる。

 が、喜ぶのはまだ早い。目の前に浮かんでいるのは、ばちばちと音をたてて爆ぜるサイプラシウムの人工結晶。目測だが、僅かずつ小さくなっているように感じられる。不時着まで、時間はあまり残されていないのだろう。

 

 

「あいつ等どこへ行ったんだ?」

 

「あのベイアニットは脱出用って言ってたから、基地なんじゃないかな」

 

 

 突然と目の前の相手がいなくなり、やるせなさを脱力へと変えたメタビー。イッキもその横に立ち。

 

 

「うん。でもそれよりまずは、管制室だ。不時着を手伝わなくちゃ」

 

「……勝負はお預けだな」

 

 

 メタビーと共に、再び上階へと駆けて行った。

 





・ビーストマスター、ベイアニット、ゾーリン
 リメイク版メダ2でヘベレケ博士が使用したメンバー。
 重装甲なのは原作通り。攻撃力が落ちたのは仕方がないのか否か……(ぉぃ

・……ドコヘ……ユクノ……?
 これだけでもある意味トラウマな台詞。

・転送、フユーンストーンじゃなくて代替
 この辺りが原作との相違点になりますね。
 転送に関してはご都合ですけれども。
 

 5月10日の更新分はここまでです。お付き合いありがとうございました。


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24話 第3世代KWG、別基軸

 

 イッキが再び昇降機に乗り込み管制室に着くと、そこに先ほどまでは無かった人物が増えていた。

 

 

「コウジ! どうやってここに!?」

 

「お前ばっかり良い顔をさせてはおけないからな。メダロット博士に『風の翼』を借りて、発着場から突入したんだよ」

 

 

 飛行型メダロット達が大勢乗り降りをする浮遊要塞である。確かに、十分な広さを持つ発着場があるのが筋だろう。ただ、そこへ単身突入するというコウジの思い切りの良さは流石だなと、イッキは感心しつつ。

 

 

「それより、そっちのロボロボ幹部とウォッカから聞いたぜ」

 

「あ……ウォッカ!」

 

「―― ご迷惑をお掛けしました、イッキさん」

 

 

 レバーの前に座ったコウジが後ろ指に。その先に蜂型メダロットプロポリス ―― ウォッカが座っていた。すっかり普段の丁寧な様子を取り戻したウォッカは、近寄ってきたイッキに一礼しつつレバーを握る。

 サイレンによって正気を失っていたのでは……というイッキの疑問に答えるべく、斜め後ろで、コウジが解説を加える。

 

 

「この管制室に来る途中で何とかロボトルで決着をつけられた。一応、正気には戻ってくれたみたいだぜ?」

 

「ううん、それより無事で良かったよ!」

 

「ええ、あわわわ……」

 

 

 腕を取って喜びを示すイッキと、がたがたと上下に揺れるウォッカ。

 ……そんな様子を暫くは眺めていたが。

 

 

「あー、話を続けても良いか?」

 

「あ、ごめんねコウジ」

 

「まあ良いけどよ。時間がないんだろ」

 

「うん。不時着、だね」

 

 

 ヘベレケ博士が去って尚残された問題……燃料切れによるフユーンの不時着である。

 2人は顔を見合わせ、ウォッカに視線を。ウォッカから視線を受け取った水晶玉が、遠くのコンソールからマイクを通して返答する。

 

 

『……人数はこれで足りた。説明するよ。この浮遊要塞は、サイプラシウム結晶の縮小と共に段々と高度を下げていき、閾値を越えた所でセーフティを残した全ての機能を停止する』

 

「……いきち? せーふてぃ?」

 

「……こいつにも判りやすく説明してくれ」

 

 

 首を傾げたイッキに、やや呆れつつコウジが促す。

 コクリと頷き。

 

 

『要するに、燃料が切れた時点で一気に落ちる。残してあったエネルギーは、艦内の衝撃緩和にだけ使われる』

 

「つまり、少しずつ落ちて行ってる今の状況でも油断できないって事だな」

 

 

 付け加えたコウジの言葉に、イッキも事態の深刻さを改めて実感する。不時着という言葉が現実味を帯びてきているのだ。

 ごくりと唾を飲み込むと、マイクの向こうで腰を上げる音が聞こえた。シュコウが立ち上がったらしい。

 

 

「シュコウはどこかへ行くの?」

 

『外部から援護する必要がある。詳しい操作の説明はカリンから聞いて。……じゃ』

 

 

 説明は終わりだと通信が切れる。

 外部から……? と疑問を浮べたところで、イッキの隣にカリンがやってきた。

 

 

「始めましょうイッキ君、コウジ君」

 

「おう!」

 

「うん。宜しくねカリンちゃん」

 

 

 時間はない。2人の同意を受けて、カリンがシュコウから教わった操作をコウジとイッキにレクチャーする。計測機器の数字に応じてレバーを動かすだけのため、小学生でも何とか可能な範囲だった。

 必要な部分にはウォッカが補足を挟み……がくん、と船体が揺れた。

 

 

「……! もう、限界が近いみたいです! 皆さんレバーを!」

 

 

 ウォッカがやや焦った様子で声をあげた。コウジとカリンが元の席に着いた所で、イッキも操縦席に腰を下ろす。隣には増援としてメタビーが座った。各自、ベルトを袈裟懸けに。

 ぐぐぐ、という唸りを上げ ―― 窓の外の景色が、移り変わる。

 

 

「イッキさん、コウジさん!!」

 

「やってる!」

 

「お願いだっ……!」

 

 

 安全装置用のエネルギーを外部推進剤の燃焼に回し、船体を3点で安定させる。

 レバーを引くたび船体がどちらかに傾き、少しずつ地面が近付く感覚。

 

 ―― ズ、ズゥン。

 

 縦に僅か揺れて、フユーンは着地した。辺りの木々から鳥達が一斉に飛び立ち……しかしそれ以上なにかが起こる気配も無い。不時着が成功したのだ。

 イッキは安堵の息をもらし……しかし。

 

 

「……なんだ!?」

 

 

 隣で操縦桿を握っていたメタビーがぶるりと震え、モニターの眼を丸くしていた。

 

 

「どうした、メタビー?」

 

「……いや」

 

 

 イッキからの問い掛けに、メタビーは暫し悩む。

 船内と、いつの間にか外にも集まっていた飛行メダロット達が歓喜の声を上げる。不時着に成功したのだ。喜ぶのは当然の流れ。

 

 

「……何でもない、のか?」

 

 

 その歓喜の環の中でメタビーの疑問はかき消され、他の耳に届くことは無かった。

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 おみくじ町の南、開墾半ばの空き地を大きな影が覆った。

 影……浮遊要塞フユーンは見た目穏やかに北上してゆく。止まる気配はみられない。

 飛行メダロット達が周囲を無数に取り囲み、しかしサイレンも無く既に正気を取り戻している彼らは、何をするでもなく飛び続けていた。

 すると、円盤状の要塞の外壁の一部がかぱりと開き、中から水晶とマントの人物が這い出してくる。

 

 

「―― 飛行メダロット達も、こっちの邪魔をしないのならば、それだけでもありがたいです」

 

 

 這い出した人物はそう言って空を仰ぐと、梯子を掴み、フユーンの上へと登り出た。

 上に立ち、メダロッチを掲げる。

 

 

「ふぅ。風が強いですが……行きますです、ヨウハク!」

 

 

 転送。

 しかし、現れたメダロットはすぐさま、カミキリムシからパーツが組み替えられる。

 

 

「さあさ、改修したパーツのお出ましなのですっ!!」

 

 

 ティンペットに光が灯る。

 バラバラになった部品が一点に収束してゆく。

 頭に、胴に、両腕に、足に。

 ヨウハクと呼ばれたメダロットは、全身にパーツを纏って、強風の中に降り立った。

 

 

「―― この状況。正しく要事だな」

 

 

 白を基調としたボディ。

 関節と装甲、アサルトアーマーと割り切った大胆なフォルム。

 コミュニケーションモニターを覆うバイザー。右の剣、左の拳戟。

 バランスのとれた格闘攻撃を得意とするのが伝統である、クワガタムシを模した「ヘッドシザース」の後継機。

 ムラサメ社謹製のKWG型メダロット ―― ソニッグスタッグは、膝をつきながらフユーンの情景を見回した。

 

 

「あの子どもらに管制室を任せ、ここでわたし達が成すべき役目は、縦ではなく横の押し合い。垂直に落ちるための、推進力の減算だな」

 

「はいです。全力全開ですっ!」

 

「ふむ。だが確かに、この力を争いではなく救う為に使い得るのならば、遠慮も必要ないか」

 

 

 ヨウハクがそのまま外壁から飛び降り、空中で身体が「組み替えられて」ゆく。

 ロボトルリサーチ社という分室に力を割かれ、今ではメダロット社傘下の一部門に押し止められているムラサメの家が、それでも率先して研究していた、メダロット社に対抗する為の技術 ―― 「変形(メダチェンジ)」。

 

 

「変形完了だ。……参る!」

 

 

 二脚歩行から戦闘機の様な姿に変形を行ったヨウハクは、後方からブースターを噴かし、フユーンの前へと回り込む。

 ここでフユーンのエネルギー残量が閾値を下回る。がくりと、目に見えて高度が低下……未だおみくじ町南、400メートルの高さ。推進速も60キロを保ってしまっている。フユーン程の大質量が推進力を残したまま落下した場合、おみくじ町が巻き込まれるのは確実だった。

 猶予は無い。せめても声をとシュコウは水晶を取り外し、どろりとした眼を見開いた。

 大口、叫ぶ。

 

 

「っ、心のままに! お願いしますっ、わたしの友達!!」

 

「心得ている、我が友」

 

 

 強風の中で聞こえないはずの声は、メダロッチを通して交わされる。

 フユーンの鼻先に取り付いたヨウハクが、応えるように叫ぶ。

 

 

「 ―― オオオオオオッ!!」

 

 

 ブースターで燃やされた推進剤が青く、青く光る。

 ソニックスタッグとフユーンが押し合う。互いに轟音をあげながら、まずは、べこっという音と共にフユーンの舳先(へさき)が歪んだ。

 空間の歪みは拒絶するように波うち、暫くの均衡。

 

 が。

 

 バキッ。

 

 

「―― ッ!! 流石の質量だっ」

 

 

 均衡に耐え切れず、変形したソニッグスタッグの右翼が僅かに凹んでいた。

 少しずつ歪みが圧され始める。ゴムの張力を振り切る様に、歪みが潰され始めている。

 それでも。終わらない。

 

 

「大変だネー?」

「協力するヨー!」

「そーレッ!」

 

 

 初めは一機。

 だがしかし、一機、また一機とフユーンの横に正気を取り戻した飛行メダロット達が取り付いて、フユーンの推進力を減らしてゆく。

 

 ブースターの光が無数に集まり ―― 遂に直上、フユーンはその前進を止めた。

 

 管制室の操作に応じて、時折フユーンの非常用推進剤がばしゅばしゅと噴出すが……船体は安定していない。

 状況を読み取り、少女がメダロッチを通じて指示を出す。素早く。ごうっとブースターを噴かして、ソニッグスタッグが今度は下へと回り込む。

 

 

「―― 今こそッッ」

 

 

 全力を。

 ソニックスタッグを中心に、浮遊要塞の下方を支えるように、その背部から。

 

 びりりと、空間が大きく歪む。

 透き通った電気色の薄羽が、開いた。

 

 不思議な力に支えられるようにゆっくりと、ゆっくりと、円盤は空き地へと降りてゆく。

 外壁を削る事無く。大地を滑る事無く。考える限り穏やかに、浮遊要塞は不時着した。

 その上方で、少女がぴょんぴょんと跳ねた。所々の外装を凹ませたソニッグスタッグは着地の寸前に転換し、主のもとへと帰ってくる。

 

 

「―― よくやってくれましたです、ヨウハク!」

 

「私だけの力ではなく、飛行型メダロット達にも助けられたがな」

 

「結果よければ全てよし、です!」

 

 

 自らのメダロットの両腕を掴みぐるぐると回る。

 ひとしきり飛び回っていたが、そこで、おみくじ町の側から大勢の人々が駆けて来るのが見えた。

 少女は掌を目の上に当て。

 

 

「おー……人だかり。さて。セレクト隊が来る前に退散です」

 

「……ふむ。だが決戦はいずれにせよ避けられまい」

 

「ですです。ヘベレケおじさまのアトムに対する執着心は予想以上でしたからねー。せめて和解とは言わずとも、力技にさえならなければ良かったですが……」

 

「あの様子では土台無理な話だな」

 

「ええ。聞く耳持たぬとはあの事です。……ま、そのために私が居たんです。招待しましょうです、イッキ達を……メダロッ島の地下に」

 

「良いのか? 折角出来た友人たちなのだろう」

 

「寂しくは思うです。でも、ですが、今はヨウハク達も居てくれますです」

 

 

 シュコウは被っていた水晶とマントを外すと、黒髪を風にさらす。

 それら変装の為のグッズを掲げ。

 

 

「この事件が終わったらこれはレイニーたちにでもあげましょうかね、です」

 

「レイニー……ああ、妹君の名だったか」

 

「はいです。まぁわたしはあまり家に近寄りませんので、ヨウハクもあまり馴染みはないですよね。あの娘たちなら喜んでくれるかもしれないですし!」

 

「一先ずはこの事態を収束させてからの話だがな」

 

「あははー、それはヨウハクの言う通りです! ……では、行きます、です!」

 

 

 変形したソニッグスタッグの腕に掴まり、少女は、そのまま円盤の天井から姿を消した。

 

 






 恐らく1日1話ペースくらいになりますが、更新を再開させていただきます。


・レイニー
 原作におけるムラサメシデンの設定上の妹。扱いようがないので未だ出演せず。
 因みに今作におけるムラサメ家兄弟は、シデン>ユウダチ>レイニーの順番となっています。

・ソニックスタッグ
 ちょい役出演。本番は別ルートにて。
 メダロットNAVIにおける主人公の愛機の1体。いわゆる藤岡(先生)デザインメダロット。
 その辺り(デザイナーの違い)を都合よく取り込んでおりまして。可変型メダロットの扱いについては後々に説明しますが、NAVIメダおよび可変機がムラサメ家の発案技術であるとの独自設定をしています。NAVIの時間軸という扱い的に。

・初めは一機。だがしかし、一機、また一機と
 「たかが要塞(デカブツ)、ソニッグスタッグなら押し返してくれるです!」
 「KWGは伊達じゃないのか……?」


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25話 子供達が線路の上を歩いてる。……もう行かなくちゃ!

 

 フユーンの落下 ―― 不時着を経て、イッキ達はすぐさまメダロッ島へと移動した。シュコウからの連絡を受けとり、メダロッ島の地下にロボロボ団の基地がある事が判明したためだ。

 ロボロボ団の幹部という肩書きを持つシュコウからの連絡に最初は困惑はしたものの、レトルト達だけでなくカリンからも説得を受け、こうして基地がある事を前提にした行動に出たのである。

 ここで、ヘベレケ博士との決着をつける。あの博士がロボロボ団を率いていたのだとすれば、イッキ自身、言いたいことも聞きたい事も沢山あった。

 メダルの事も。メダフォースの事も。何故メダロット博士に因縁を付けてくるのかも。

 そして……彼がフユーンで話していた、メダロットのことについてもだ。

 因みに件のフユーンに関しては不時着した後、後始末を完全にセレクト隊へと丸投げしたらしい。メダロット博士がそういうのだから、確かに丸投げなのだろう。いずれにせよ今は時間が惜しかった。

 

 

「―― 到着、と」

 

 

 以前訪れた時よりも疎らになっているメダロッ島の港に降り立ち、イッキは拳を握る。

 ヘベレケ博士だけでなく、アジトには移送されたはずのユウダチもいる筈だ。共に過ごした時間は半年ほどだが、ユウダチという少女はイッキの友人でもある。

 各所への冒険へと出かけた夏休みも、終わりに近い。イッキは子どものわがままを聞き届け、ここまで連れて来てくれた怪盗レトルトとレトルトレディに頭を下げた。

 

 

「ありがとうございました、レトルトさん。レディさん」

 

「なに、礼には及ばない。……それに、下水道で、私達がついていながらカリンちゃんを横取りされた分を取り返しておきたかったからな」

 

「いえ、あの、それはわたしが勝手に子どもを助けようとしたせいで……」

 

「いいんです。それでもレトルトはかなり気にしていましたから、挽回できたという事にしてあげてください」

 

「……手厳しいよ、レディ」

 

「ふふ! ……それに今度は、私達も君たちと別口でロボロボ団のアジトに突入します。援護に期待しておいてくださいね?」

 

 

 言いながら、レディは「かぜのつばさ」を使用した天使型のメダロットをメダロッチに格納した。

 ……そういえば、レトルトレディのメダロットは見たことがあるものの、レトルトその人のメダロットは未だ姿を見たことが無い。新聞などの記事によれば、隠蔽パーツなどで姿を隠している他にも色々と正体を悟らせないための工作がなされているそうなのだが。

 イッキが少しばかりレトルトのメダロットに興味を伸ばしていると、当のレトルトがばさりとマントを広げる。

 

 

「ひとつだけ。良いかい、イッキ君」

 

 

 呼び止められたイッキは隣のコウジやカリンと顔を見合わせた後、再びレトルトへと視線を戻して、頷く。

 

 

「大人には確かに力がある。だが、それ以上に大きなものに縛られてしまうのだ。子どもとは確かに非力かも知れない ―― が、非力は無力とは違うのだよ」

 

 

 仮面により表情はうかがえない。ただ、レトルトの言葉には深い実感が込められているように感じられた。

 この言葉を応援と受け取り、イッキは殊勝に頷く。

 

 

「それじゃあ行くわよ、イッキ!」

 

「うん。……行ってきますレトルトさん、レディさん!」

 

「なんてゆうか……あんたらも気をつけて来てくれよ」

 

「ありがとうございました」

 

 

 アリカを筆頭にイッキ、コウジ、カリン。それぞれがレトルトらに声をかけ、メダロッ島の敷地を4人の子どもが走ってゆく。その背を見送り、姿が見えなくなって。

 黒と白の怪しい2人組は息を吐き出した。

 

 

「……さっきのは実感から来る言葉ですよね?」

 

 

 白チャイナの女性がつつーっと、まるで隣に居るのが当然のような自然さで、覗き込みながらレトルトに近寄ってゆく。

 その様子に少し視線を逸らし、仮面の男は、再び息を吐きながらも。

 

 

「……ああ。キミにも判るだろう、レディ? 子どもだからこそ出来る事というのは、確かに存在するんだ。あの夏の日の僕達がそうであったように。今度は妹分の友人達が、その番だっていうだけでね」

 

「そう言えば……ふふふ。これだって不法侵入ですもの」

 

「子どもには、子どもだというだけでも、真っ直ぐ振りかざせるだけの大儀がある。そこには確かな想いがある。小難しい理屈は効かないし、聞かないのさ。昔の僕と同じだよ」

 

 

 顔を見合わせて笑う。

 暫く笑った後、共に表情を引き締めた。

 

 

「僕達は裏口から侵入して引っ掻き回す。ユウダチから貰った基地の見取り図だけでなく、僕がメダロッ島でのアルバイトついでに下調べをした時と大きく変わりが無ければ、最下層に研究所が丸ごと入っている。だから、博士はそこに居るだろう。イッキ君たちの援護に回りながら、最下層を目指すんだ」

 

「1番下ですか。それじゃあ、久しぶりにメタビーさんも出番ですね?」

 

『―― おうよ!』

 

「頼むぞメタビー。……レディのエンゼル達にも力を借りる事になるだろう」

 

『いいよー。ふわわわー』

 

「ふふ。ありがとうございます、エンゼル」

 

「それに中では、僕の妹分も頑張ってくれている筈だ。……さあ。大人は大人で、僕らにしか出来ない働きぶりを見せてやろうじゃあないか!」

 

「はい!」

 

 

 

 ◇◆

 

 

 

 ロボロボ団のアジトは、いつかユウダチやその「兄さま」と一緒に訪れた「魔女の城」の地下に建設されていた。

 これもフユーンの発掘と同様にアリ型メダロット達を利用したのだろう。奥行きも広さも天井も、地下とは思えない設備になっていた。

 その中を、イッキ達は姿を隠す事もなく進んでゆく。

 

 

「―― うーん。シュコウからの『招待状』によると、ヘベレケ博士は下に居るみたいだ。とりあえず階段を探そう」

 

「だな。ロボロボ団の野郎め、さっさとユウダチを返してもらうぜ!」

 

「……熱くなりすぎないで下さいね、コウジ君?」

 

「うっわー。ここ、シャッターチャンスだらけじゃない! ……でも、撮るのはいいけど、これって公開して良い写真なのかしら?」

 

 

 などと言いながらも、アリカはシャッターを切る手を止めようとはしない。記者魂が燃えているのだろう。表情はいつも以上に生き生きとして見えた。

 

 

「ほら、取材……じゃなかった。偵察に行くわよコウジ君!」

 

「うわっ、引っ張るなよ!? というかお前は取材がしたいだけだろ!」

 

「いいじゃない! イッキ、カリンちゃん、先に行ってるわよー!!」

 

「くっ……仕様が無いな。イッキ、カリンを頼んだぜ!!」

 

 

 イッキが止める間もなく、アリカがコウジを連れて先行してしまう。

 単独行動は危険だ……と言いたい所でもあったのだが、実は、侵入してからこの方ロボロボ団は平団員の姿すら見当たらない。

 彼ら彼女らはどこにでも居るのがウリだと思っていたのだが、何かしらの理由でもあるのだろうか。もしくはこれがレトルト達の言う「援護」によるものなのかも知れない。

 ただ、アリカがこうして「気を使ってくれた」点には感謝をしておきたい。長い直進の廊下をイッキはゆっくりと歩きながら、隣に居る ―― フユーンを発ってから表情の優れないカリンへと話しかけた。

 

 

「それでさ、カリンちゃん。……何か、悩み事?」

 

「……イッキ、君」

 

「僕としては話せることなら、話して欲しいかな。アリカとコウジも気を使ってくれたみたいだし……それに、カリンちゃんが暗い表情をしていると……その、僕も気になるから。あ、でもその、無理に話してくれってわけじゃあ……」

 

 

 イッキがそう慌てて取り繕うと、しかし、カリンは驚いた表情を浮べていた。

 兎に角。間をもたせなければ、と、イッキがある事無い事を話して繋いでいると。

 

 

「……ふふっ」

 

 

 口元に手を当てながら、カリンは笑っていた。

 笑顔に見とれたイッキの動きが止まると、そのまま、カリンの手が振り回されていたイッキの両手をぎゅっと握る。

 

 

「カ、カリンちゃん!?」

 

「少しだけ。……勇気を下さいませんか」

 

「う、うん! 僕なんかで良ければっ……!」

 

 

 続く沈黙。換気扇と謎の機械音だけが基地の中に反響している。

 鳴り止まない心臓とともに、イッキの何かが限界を超える直前。カリンは決意を固めた表情で上を向いた。

 

 

「聞いてください、イッキ君。……ユウダチちゃんが。フユーンの中に、ユウダチちゃんが居たんです」

 

「えぇっ……どこに!?」

 

「イッキ君も合っていましたよ。イッキ君の前では最後まで、素顔(・・)は見せてくださいませんでしたが……」

 

「……! 素顔、って事は……もしかして」

 

 

 察したイッキの様子に、カリンがこくりと頷く。

 

 

「はい。ロボロボ団幹部のシュコウ……さんの中の人が、ユウダチちゃんでした。わたしが飛行メダロット達にさらわれた後、帰ってきたシュコウさんがボディガードをしてくれていて、その時に本人だという話も聞きました。ただこの話は、どうかこの基地に来るまではイッキ君達には黙っていて欲しい……と、仰りまして」

 

 

 そう話すカリン。内容については驚くべきものであったが、確かに、イッキにも心当たりはあった。

 花園学園での遭遇。コーダイン王国でも行動を共にした……シュコウ。その行動は、他の幹部たちとはかなり違ったものであったからだ。

 

 

「……確かに、他の幹部みたいに、積極的にロボトルをしかけてはこないみたいだしね。むしろロボトルをしたコウジの方が例外みたい。僕も、あの遺跡でちょっとはロボトルしたけど」

 

 

 話しながらもイッキは得心する。なんというか、あのシュコウという幹部は、此方に敵意が無さ過ぎるのだ。

 だとすれば、シュコウが使っているメダロットは。そしてユウダチが使うメダロットは。

 イッキも、ユウダチが使うメダロットは2体まで見たことがある。ロボトルは3体3で行われる。残る1体。

 

 

「カリンちゃんなら、ユウダチのコウモリメダル(エトピリカ)と、フェニックスメダル(ケイラン)以外のメダロットの名前も知ってるかな?」

 

「はい。ヨウハクというペットネームで、お侍さんみたいな性格をしています。KWGメダロットのパーツを愛用していましたが……今年の初め辺りから、パーツの改修のために色々なパーツを使いまわしていたみたいです」

 

「ヨウハク……うん。聞いた事がある」

 

 

 イッキの記憶にも新しい。

 コーダイン王国でプース・カフェ、そしてプース・カフェに操られたスルメのストンミラーとロボトルをした時。

 

 ―― ストンミラーが見たこともない力を発現させた時。

 

 自らのエイシイストを咄嗟に退避させたシュコウは、確かに「ヨウハク」と口にしていた。

 パーツの改修というのも、その間はエイシイスト……カミキリムシ型のメダロットを代品として使っているならば都合が良い。なにせエイシイストは、クワガタ(KWG)タイプのパーツバランスを基にして作られたメダロットなのだ。右の剣、左の打撃、サポートの頭パーツ。クワガタタイプと同様の攻撃手段。同様の使い勝手で動けるはずである。

 考えている内に下を向いていたカリンは、握ったイッキの手に力を込めながら、呟くように問いかける。

 

 

「イッキ君。ユウダチちゃんは……どうしてロボロボ団に入っていたのだと思われますか?」

 

 

 カリンの表情が優れなかったのは、やはりその点について憂慮をしているからなのだろう。

 ただ、今のイッキは何も答えることが出来ない。正確に答えられるのは、彼女の親友たるユウダチ、その人のみだ。

 

 

「それはやっぱり、本人に聞くしかないんじゃないかな。僕が何を言っても想像になっちゃうから。……でも」

 

 

 でも、という逆説を繋ぐ。

 イッキは向かいで縮こまったその体を支えるように、カリンの手を握りなおした。

 手の震えがどうにか治まった頃をみて、もう1度口を開く。

 

 

「大丈夫だと思う。実はシュコウは、目立つ部分以外では僕らの事を助けてくれていたんだ。カリンちゃんの護衛だってそうだよね? ……僕は、ユウダチを信じてる。それは、カリンちゃんも同じだと思うよ」

 

 

 確信を持ちながら、イッキは問う。

 カリンは暫し目を瞬いた後。

 

 

「……えぇ!」

 

 

 力強く、頷いてくれていた。

 やはり、この方が良い。笑顔の方が似合っている。具体的に言えば、可愛い。どこか病弱で薄幸そうなカリンが笑うと、実に様になるのである。その可憐さは、敵地の真っ只中だというのに思わず見とれてしまう程だ。

 向かいに居る少女を脳内でそう賞賛しておいて、次に、笑ってくれたという事自体に安堵を抱く。

 ちょっとだけ視線を逸らし、イッキは頬をかいた。先を促す。

 

 

「だから今は、下を目指そう。シュコウからの招待状には、ヘベレケ博士は最下層で待っているってしか書いてなかったからね。行こう、カリンちゃん!」

 

「ええ。……ありがとうございます、イッキ君。やっぱりイッキ君はお優しいですわ」

 

「……えぇと……あはは」

 

 

 カリンに曖昧に笑いかけ、その手を引いて。歩みを再開しながら、イッキは考える。

 ユウダチを救出する……というのはイッキ達がこの基地へ乗り込んだ目的の1つだったのだが、こうなっては仕方が無い。むしろやるべき事が1つ減ったと捉えれば、悪くは無い事態であろう。

 

 ……もしかして。だからこそユウダチは、基地へ到着した後に話すようカリンへ伝えたのではないだろうか。

 

 ヘベレケ博士との決着をつける。

 それだけに、イッキを集中させるために。

 

 

 






・非力は無力とは違うのだよ
 漫画版、レトルトの台詞より。
 立ち向かうという意思の大小を問うなれば、子どものほうが大きいのは自明の理。

・中身バレ
 バレバレでしたが何か。

・子供達が線路の上を歩いてる。……もう行かなくちゃ!
 元ネタはポケモンより。カントー主人公の実家のテレビ。
 元ネタの元ネタは名作過ぎて口に出してはいけない気分。


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26話 今は素通り

 

 メダロッ島の地下深く。ロボロボ団のアジトを、イッキ達は慎重に進んでいった。

 1階では、女幹部のスルメがロボロボ団員を集めて作戦会議を行っていた。基地の中に団員の姿が見えなかったのはこのせいらしい。

 とはいえ、いつもは多勢に無勢で勝ちを拾うロボロボ団。

 

 

「ロボーッ!?」「ロボボーッ!?」

 

「きぃぃぃィィィーッ!? なんでそんなに強いのよぉっ!!」

 

 

 今は此方も4人。コウジとイッキ、メタビーとスミロドナットのコンビによって、何だかんだでロボトルの果てに退けられた。

 その奥ではレトルトレディが激辛カレーでロボロボ団を撃退していたりした。イッキとしてはその際にレトルトレディーが作っていたカツカレーうどんとやらが、カツ+カレーうどんなのか、はたまたカツカレー+うどんなのかに興味が沸いたものの。今は先に進むべきというカリンの叱咤によって我を取り戻し、足を進めるという一幕も存在したり。

 

 

 地下2階。

 今度は、老人幹部のシオカラが守るセキュリティエリアに到達する。

 何故かその場に居た(いつもはやられ役の)悪ガキ3人組スクリューズと協力してセキュリティを破り、幹部にはロボトルで勝利。イッキ達は更に奥へと進む。

 

 

「ちょっ……短い!? なぁカガミヤマ、オレらも結構活躍したと思わねえか?」

 

「洗濯しなきゃ……」

 

「ふん……諦めな、イワノイ、カガミヤマ。イッキのやつ、ロボロボ団幹部を簡単に倒しやがる。あれが主人公補正ってやつなんだろーさ」

 

 

 地下3階。

 幹部サケカースの方向感覚を狂わせる迷路や酸の海(炭酸)。

 子ども幹部サラミの重装甲メダロット、ジェントルハーツの大群による通せんぼ。

 それらを危なげなく突破した所で、イッキとメタビーは一息ついた。

 

 

「広いなぁここ。地下3階なんだよね?」

 

「だな。流石のオレも、あれだけロボトルすると疲れてくるぜ」

 

 

 イッキの隣に座ったメタビーは、そう言いながらベルトコンベアーに座って足をぶらぶらさせる。

 辺りを捜索して疲れた顔のコウジが、髪を払いながら。

 

 

「さっき倒したロボロボに聞いたら、ここが最下層らしいぜ。じゃあこの階のどこかに、ヘベレケっていう博士がいるんじゃないのか?」

 

「でもあたしもコウジ君も、この階は隅から隅まで調べたじゃない。他にどこに場所があるっていうのよ?」

 

「うーん……」

 

 

 アリカの指摘に、イッキが唸る。

 サラミとサケカースの妨害を突破した先は……確か、おみくじ町の北西でロボロボ団を追い詰めた廃工場でも見かけた様な……箱や機械が散乱した光景になっていた。

 何かを搬入しているらしい。の、だが、その搬入先が見当たらないのでは突入のしようがない。

 機材を運び込むということは件の研究所が近いはずなのだが。と、イッキが周囲を見回していると。

 

 

「……あ、あのう? イッキ君……」

 

 

 隣に座っていたカリンが、疑問を帯びた声を出していた。

 

 

「どうしたの? カリンちゃ……」

 

 

 病弱であるため、カリンの様子はいつも気にかけていた。

 そんなカリンの方向へ振り向こうと、イッキが動く、その時。

 

 

「―― ロボロボロボロボーっ! この先には通さないロボよっ!!」

 

 

 突如あらわれたロボロボ団員の群れ。……は、しかし、カリンを驚かせている主たる原因ではない。

 がこんっ。

 という音がして、ベルトコンベアーが動き出したのである。

 

 

「ちょっ……おい! 待てって!?」

 

「イッキ、カリンちゃん!?」

 

 

 激突は、しない。さっきまで壁だった場所が横に開いている。イッキとメタビーとカリンはその奥へ飛び込んでしまった形だ。

 見る見るうちにコウジとアリカが離れていってしまう。イッキがその場に戻ろうともがいてみるも、ベルトコンベアーは動き出していて止まる様子が無い。

 

 

「くっ……」

 

「イッキ君……きっと、大丈夫です。コウジ君がいますもの。それに、レトルトさん達もフォローをしてくれているはずですわ」

 

「……カリンちゃん」

 

 

 袖を引いてくれていたカリンによって、イッキは何とか落ち着きを取り戻す。

 そうだ。コウジとそのメダロット達ならば、ロボロボ団の平団員くらいに負ける訳はない。レトルト達もいる。基地を進んでいる間、あの激辛カレーの時のように(華麗に)フォローをしてくれている筈なのである。

 

 

「ありがとう。そうだよね。戻るのが無理なら、進まなきゃ。……カリンちゃんは落ち着いているね?」

 

「きっと、フユーンに攫われてしまった時の経験が活きているのかもしれませんわ」

 

「あはは……それって良かったのかな?」

 

「ええ。良かったと思います。だって、イッキ君が、助けに来てくれましたから……」

 

「……えと、うん」

 

「おお……これって、良いフインキってやつか?」

 

 

 などとメタビーに茶化されながらも、カリンとイッキは、揃って再び前を向く。

 ベルトコンベアーに乗って暫くすると通路を抜けた。上にも下にも、かなり移動したと思うのだが……

 

 

「……これって、その、研究所……だよね?」

 

 

 イッキが思わず尋ねたのも仕方がない事だろう。

 コンベアーから降りたその先では、おおよそ地下とは信じられないほどの空間と、その場に鎮座する巨大な機械がひしめき合っていたのだから。

 中でも目を惹くのは、天井までを貫く、直径100メートルはあろうかという機械の柱だ。研究所の中心に立てられているらしい。

 

 

「すげーな」

 

「そうですね。……でも、こんな設備はメダロット社でも見たことがありません」

 

 

 メタビーが感心し、カリンが頷く。

 聞けばカリンはユウダチに連れ立って、何度かメダロット社の内部研究所まで入ったことがあるのだそうだ。こんな巨大な設備は無かったそうだが。

 

 

「―― ん? なんだい、侵入者かい?」

 

 

 立ちすくんでいたイッキ達に向かって、白衣と眼鏡の男が声をかけた。

 身構えるイッキとメタビー。しかし。

 

 

「おっと、これはイッキ君じゃないか」

 

「……ええと、シラタマ、さん?」

 

 

 イッキの半信半疑な問い掛けに、シラタマと呼ばれた研究員が頷く。

 シラタマさん(とやら)は、イッキが通う(間違った表現ではない)メダロット研究所で、ナエのストーカー(語句としては正しい)をしている研究者である。

 ストーカーとはいっても、シラタマのそれは妄信に近かった。博士号を持つナエが提出した論文にいたく感動したのだそうだ。とはいえそれもナエがヒカルにベタベタしているせいで、遠くから眺めているだけなのだが。

 眼鏡をくいくいするシラタマの横に、後ろから追いついた2人目の男が並ぶ。眼鏡に白衣という格好は同様で、とても見分けが付きにくい。

 

 

「なんだ、侵入者って言っても子どもじゃないか。どうせ今日で研究は完成なんだろ? 博士の言っていた『子どもたち』かも知れない。案内してやったらどうだ、シラタマ」

 

「ふーん、まぁ、いいけどね。君たち、ここを見学に来たのかい? いいねえ。ロボロボを倒してまで入ってくるとは。夏休みの子どもは、冒険をしているくらいで丁度良い」

 

 

 男たちにこちらを咎める空気は無かった。むしろ案内すら申し出てくれた程だ。

 自分たちが子どもだからという点もあるのだろう。イッキとカリンは顔を見合わせて、迷った末に頷いた。

 

 

「……あのう、この場所についてお聞きしてもよろしいですか?」

 

 

 男の先導を受けながら研究所の奥へと進む途中、カリンが白衣の男……シラタマと呼ばれた研究者に向かって尋ねた。

 シラタマは眼鏡をくいっと上げ、半身に振り向く。

 

 

「んー? 勿論この場所はロボロボ団……というか、ああ、違うね。君たちはロボロボ団の基地だという事は、知っているんだろう?」

 

「ええと……はい」

 

「ならばこう応えよう。ここはロボロボ団が集めたデータや資金を集結させて作られた、『メダロット社に対抗する為の研究所』―― だよ!」

 

 

 シラタマは白衣を翻し、堂々と告げた。

 ……堂々と告げたが、イッキとカリンには余り縁の無い環境である。いまいちぴんときていないイッキとカリンの様子に、シラタマはこほんと咳を挟んで続ける。

 

 

「まぁ、ここの名目上の頭はヘベレケ博士でね。報告義務はあるけど、権利やら何やらに縛られないで、好き勝手に研究をさせてくれる。スパイのおかげでメダロット社に蓄積されているデーターも見放題。僕たち研究者にとっては天国のような環境なのさ」

 

 

 なんだか物騒な単語も聞こえたが、敵地の中でそれを突っ込むのも危なく感じ、そもそもあまり興味も無いのでイッキとカリンははぁと頷くのみ。

 替わりに。

 

 

「真ん中の機械はなんなんですか?」

 

「あれかい? あれは……おっと」

 

 

 シラタマとイッキ、カリンが同時に視線を向けると、中央の柱がごぼぼっと泡を噴出した。円柱の水槽の中を無数の泡が覆い……俄かに研究室が慌しくなった様だ。そこかしこから研究者が走り寄っては、猫なで声をあげている。何かを宥めているようにも聞こえなくはない。

 

 

「どうやら今はベビーの機嫌が悪いみたいだ。今は奥の部屋に案内するから、近付くのは後にしてくれないかな。ここに子どもが来たら、奥の部屋に通せって言うのがヘベレケ博士からのお達しでね。でも、凄い設備だって言うのは君たちにも判るんじゃないかな?」

 

 

 話題を逸らしたシラタマに、カリンが頷く。

 

 

「はい。メダロット社の本社でも、あんな機械は見たことが無くて」

 

「あははは。嬉しいけれど、メダロット社そのものに設備が無いのは当然だろう? こういう設備は外受けが担当するものだからねえ。メダロット本社の中身はその実、ただのショーケースみたいなものなのさ。勿論、お偉い方はそこにいるから、決してお飾りって訳じゃあないけどね」

 

 

 僕たちは所詮研究者という名の一兵卒さ……と、どこか哀愁を漂わせるシラタマ。

 大人という物は大変なんだろうなぁ……という漠然とした感想を思い浮かべるイッキの目の前で、シラタマが立ち止まった。振り向く。眼鏡をくいっ。

 

 

「とはいえ、ここの設備はメダロット社のお膝元なんかよりも、数歩先んじたものだよ。何せヘベレケ博士の肝いりだ。今にここから独立する会社もある。それだけにこうして潰れてしまうのは惜しいがね。非合法だから仕方が無い。これも盛者必衰というか、栄枯盛衰というか」

 

 

 1枚の分厚い鉄の扉を目の前に、コンソールを操作すると、ぶしゅうぅぅとかいう排気音を吹き上げて扉が左右に開く。

 

 

「さて、到着だ。この先が博士の実験室さ。出入り口は開けてロックしておくよ。博士の道楽に付き合わされて、イッキ君達が危険な目に合うのは、ナエさんも望んではいないだろうからね?」

 

 

 そう告げて、シラタマはさっさと来た道を引き返してしまった。

 イッキはカリンと顔を見合わせ、頷く。

 

 

「行きましょう、イッキ君」

 

「うん。博士に会いに、行こう」

 






 PCの前で寝落ちしていました申し訳ないですすいません。
 ですので都合2話を投稿します。


・基地
 ヒカルの友人は手伝ってくれなかったというのに……。
 これが人徳の差ですかね(ぉぃ

・シラタマさん
 ナンバリングが増える毎に残念になっていく研究者のお方。4ではナエさんの面影を覗かせる巫女さんメダロットを使用する。有能っぽいのに実に残念。
 彼はパーツンラリーで例のパーツを所持していたり、始めから企んでいたっぽい台詞もあるので、配役は恐らくこれで間違いないはず。
 本作では意外と良い人に見えなくも無いが、やってることは違法である。

・今は素通り
 なんと、本当に移動しただけという今話。説明回です。
 この辺りは3のアンダーグラウンド編で回収される元ネタです。本来このお話は挟むつもりはなかったのですが、指を動かしていたらその時点でいつの間にか3000文字を超過していたので説明回として仕上げました。
 とはいえ、素通りしました。本作ではちょい役。メインルートで使用されます。
 泣く子には勝てませんの事よ。


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27話 神なる帝

 

 長い長い降りの階段を、イッキはカリンと共に降りていく。

 暗い室内を上から照らすのは、光の量だけを重視された無骨な照明。

 積み上げられたケーブルや資材置き場の中心に、義手を生やした鞄を背負う、小柄な老人が立っている。

 

 

「きおったか、アキハバラの使いの小僧……と、それに、小娘もじゃな」

 

「僕はテンリョウ・イッキですよ、ヘベレケ博士」

 

「わたくしジュンマイ・カリンですわ」

 

 

 小僧小僧と呼ばれるのもしゃくなので自己紹介で返すイッキと、まねをしてほのぼの丁寧に挨拶をしているマイペースのカリン。

 満を持してやってきた2人のその様子を見て、ヘベレケ博士は大声で笑った。

 

 

「がっはっは! 大物じゃのう? ……小娘には、フユーンでの件は謝っておこうかの。手段としては後悔してないにしろ、気分の問題じゃわい」

 

 

 思いもよらなかった返答に、カリンがあらと口元を抑える。

 そんな律儀な謝辞を挟んでおいて、ヘベレケ博士は再び胸を張った。

 

 

「じゃがの、これだけは譲れんのじゃ。アキハバラのやつめとの、決着だけはの」

 

 

 そう言ったヘベレケ博士は、何かのレバーを引いた。

 メダロッチを前に、イッキが身構える。

 どこからか、ケーブルを引き摺るような音がした。

 ばつん、ばつんと弾ける。何かが端から目覚めてゆくような。そんな音だ。

 

 

「これは何の音ですか、博士」

 

「こやつを起動するには多大な電力が必要なんじゃい。以前に気紛れでタイヨーを手伝った時には、セレクトビルを置いている街を丸ごと停電させておってな。どうせだからと余った電力を使ったんじゃが……ふん、所詮は置き土産。獣の王は固定砲台。脚部の機動能力を捨てたに等しい設計じゃった。そもそもメダルへの負荷も、あれっぽっちの電力では足りなかった。覚醒までに、あの少年とムラサメの娘とのロボトルを長々と繰り広げて刺激を加える必要があったのじゃ」

 

 

 おそらくは魔の10日間と呼ばれる事件の事だろう。

 語りながら、博士は後ろを振り返る。

 視線の先には分厚い鉄板の壁が在る。音は、その奥から聞こえていた。

 

 

「じゃが、今は違う。原初のレアメダルの演算能力制御を使用して、柵は取り払った。完全に開放してやったのじゃ。……泣く子には勝てぬ、が、地頭にも勝てはしまい?」

 

 

 腕をバンザイと上にかざし、正に悪の科学者といった様相で、ヘベレケ博士は嗤う。

 

 

「出でい ―― ワシの科学の結晶! 解き放たれた神なる皇! ゴッドエンペラーよ!!」

 

 

 途端、壁を貫いて、轟音が響いた。

 煙に塗れながら姿を現したのは、人間大のメダロット。

 だが、違っていた。

 メダロットというものは元来、ロボットペットである。

 そのためメダロットのデザインには、大なり小なり親しみやすさという物が備わっているのだ。勿論、一大遊戯であるロボトルのための武器を装備してはいるが。

 しかしこのゴッドエンペラーと呼ばれたメダロットは、コンセプトからして違った。

 コミュニケーションモニターを取り払った、機能だけのカメラアイ。

 右腕の弾頭、左腕の銃器は隠そうとすらしない。むしろ見せびらかすかの様に此方を威圧してくる。

 脚部は見たところ、最も効率的に充填ケーブルを繋ぐことが可能な多脚形……いや、タンクと多脚の中間だ。先ほどの音は、ここからケーブルを外していた時のものなのだろう。

 これらはデザインが先立ったのではない。兵器としての側面が、面に立っているのである。

 

 

「ふん。勘違いをしてくれるなよ、小僧? わしが求めたのは兵器としてのゴッドエンペラーではないぞ」

 

 

 ヘベレケ博士が、イッキのあげかけた声を制する。

 兵器然としているのは軍に居た時のデザインを流用したからというだけだ、という前置きを挟んで。

 

 

「わしが言っているのは、メダルじゃ。メダルの力を本来の所まで開放したんじゃよ。忌々しいリミッターを解除したことによっての。……まぁ、フユーンでのあれは、先走ったというか。あの場所でやるべき実験ではなかった……ウオッホン」

 

 

 リミッター。

 メダロット三原則と並んで「人間によってメダルに組み込まれた機能」だと、イッキはメダロット博士から教わった。

 それは本来、メダロットが自身の骨格強度を超えた力を発動しないようにと組み込まれたシステムであるはず。

 だがしかし。

 

 

「勿論、リミッターを解除すれば制御は難しくなるからの。ゴッドエンペラーの各パーツが出力を余剰に搭載しておるのは、単に『メダルの能力が余っているから』に過ぎん。いわば暴走しない為の放熱板じゃな! がっはっは!」

 

 

 そうしている間にも、大笑いするヘベレケ博士の横に、次々と出並ぶゴッドエンペラー。

 

 

「……アー、ウー」

 

「うぃぅぃ。先日ぶりですね、皆さん。今度は全力でお相手しますよ」

 

「何々、またお前ら? ロボトルすんの?」

 

 

 低い駆動音を響かせながら、3体。

 言動から推測するに、中のメダルはフユーンで戦ったものと同様らしい。

 しかし今は3体揃って、ただのメダロットではないために、威圧感も生半可ではない。

 

 

「じゃがこれだけの戦力も、お主()との決戦であれば不公平ではあるまいの。……そうじゃろう、怪盗め?」

 

 

 ヘベレケ博士がちらと視線を外す。

 その言葉に応じるように、階段の上から影が舞い降りた。

 

 

「―― ここは一度、下がっていたまえ、イッキ君」

 

「ごめんなさい。少しだけ、わたし達に見せ場をくださいね?」

 

 

 怪盗レトルト。そして、レトルトレディである。

 彼らはイッキとカリンの前に立ち塞がると、ヘベレケ博士の視線を受け止める。

 

 

「きおったか。その姿のお主と会うのは、何度目じゃろうの? ―― アガタヒカル。そして、アキハバラナエよ」

 

「えぇっ!?」

 

 

 驚きの声をあげたイッキの前で、無言のまま、レトルトは観念したように仮面を外した。

 

 

「―― この姿の時の呼び名は、レトルトで良いんですけれどね」

 

 

 おかっぱ髪の青年。間違いなく、ユウダチの兄様、ヒカルさん。

 ただ、あのコンビニで見かける際の頼りなさは、今はどこにも見当たらない。頼もしさを感じさせる横顔だ。

 隣に居るレディはちょっと身をよじりながらも仮面は外さず。とはいえ確かに(よく見れば)、あの艶のある長黒髪はナエさんのものだ。彼女の普段の雰囲気と白チャイナ羽マントのイメージが違いすぎる為、こうして言われて見るまで関連付けは難しかったが。

 ヒカルは一歩前に出ると、ヘベレケ博士に返答する。

 

 

「……ビーストマスターの時は直接顔を合わせた訳ではないので、レトルトは兎も角、こうして見合うのは初めてでしょう」

 

「ふん。怪盗レトルト……随分と邪魔をしてくれたの」

 

「そりゃあ邪魔もします。貴方の計画は乱暴だ。物にはもう少し順序というものが必要です」

 

「それも結局はお主の意見ではなく、アキハバラアトムの手駒をしているだけじゃろう? メダマスターともあろう者が、嘆かわしい」

 

「いえ。そのメダマスターって言うのも、ロボトルリサーチ社が押し出している企画ですからね。僕が自称している訳では……決して」

 

 

 どうやらレトルトとして活動しているのは、メダロット博士の手伝いであるらしい。

 メダマスターという呼び名については判らないものの、ひょこっと身を乗り出したナエ(白チャイナ)がヘベレケ博士に向かって指をたてる。

 

 

「付け加えさせていただきますと、ヒカルさんは確かにロボトルが強いですけど、たった一事だけではマスターとは呼べません。その点が貴方とは違うと思いますよ、ヘベレケ博士」

 

「ふん。……アキハバラの孫娘が、言う様になりおって。じゃがな」

 

 

 ヘベレケ博士が口を開いた瞬間だった。

 突如、部屋の外から「巨大な金切り声」が鳴り響いた。

 

 

 ―― ギャァァァァァ……ン

 

 

「これは……!?」

 

「小僧との決戦をじゃまさせる積りは、ハナからないわい。この施設に集まっていた研究者どもに、退避する前にとあるメダロットを解放するように命じておったのじゃ。アキハバラナエ。お主ならば、この場で何を開発していたのかも知っておろう?」

 

「……そのメダロットは、まさか」

 

 

 ―― ォ、ギャァァァァン

 

 

「……はて。あのメダルを、メダロットを、時限爆弾を……妹分に任せきりで良いものかのう!」

 

 

 ナエはこの言葉に歯噛みする。

 金切り声。これが何のメダロットによるものなのかは判らない。けれど、「妹分」とやら……恐らくは向こうにいるユウダチに任せて、放っておくわけにも行かない相手ではあるのだろう。

 レトルトの格好をしたヒカルが、そんなナエの肩に手を置く。

 

 

「仕方が無い。僕たちは向こうを手伝おう、ナエさん」

 

「……ヒカルさん」

 

「イッキ君。この場は、ゴッドエンペラーは任せて良いね? 大丈夫。僕も向こうが終わったら駆けつけるよ」

 

 

 優しくも深い眼差しがこちらへと向けられる。

 元より、博士との決着はイッキが望んでいたものだ。ここで逃げ出す積りはない。……ここで逃げ出す云々というあたりが男の子の思考なのだが、それはさておき。

 イッキがヒカルの問いに頷くと。

 

 

「じゃあ、任せた。行くぞ、メタビー」

 

「おう。『あの時』の決着をつけてやるぜ!」

 

「申し訳ないですがお願いしますね、イッキ君、カリンちゃん。お気をつけて!」

 

 

 ヒカルはナエと共に、階段を駆け上がっていった。

 後に残されるのは、再び、博士とそのメダロット達。

 

 

「―― これで邪魔者は消えたのう。さあ、決着を着けてやろうかの……イッキ!」

 

 

「アー……」

 

「ういぅぃ。さぁ、ロボトルですよ!」

 

「何々、やっぱロボトルすんのな?」

 

 

 ゴッドエンペラー3体が並ぶ。

 各々が、玩具として設計された既存のメダロットとはかけ離れた戦闘能力を有した固体である。

 

 ただ、しかし、この場における唯一の例外。

 少年イッキだけは、見えている光景が違っていた。

 

 

「行くぞ、メタビー! ベアー、スパイダ!」

 

「判ってる、いくぜイッキ!」

 

「くままー!」

 

「くももー!」

 

 

 これは変わらぬロボトルなのだと、少年は勇壮に前へと進み出る。

 そして並ぶ、仲間にして友人たるメダロットが3体。

 同じくメダロッチを構えたカリンには、手をかざしておいて。

 

 

「ここは任せて、カリンちゃん」

 

「イッキ君……」

 

 

 負ける積りはないのだと。そう、言外に発した意思を込める。どうやら伝わったようだ。カリンは数歩、イッキの後ろへと下がってくれた。

 勿論、カリンのセントナース(クイックシルバ)達が不足しているというわけではない。連携や組み合わせを考えれば、自分のメダロットを使うのが1番だというだけの話だ。

 ヘベレケ博士はイッキとの、引いてはメダロット博士との勝負に固執しているように思える。だとすれば自分が相手をするのが良い筈だ。カリンに格好いいところを見せたいという気持ちが(全く)無いという訳ではないが……正面を見ると、ヘベレケ博士はいつもの通り、不敵な笑みを浮べて腕を組んでいる。

 

 

「合意と見てっ ―― 宜しいですねっ!!」

 

 

 (地中なのに)空から、半ば確認に近い問い掛け。

 しゅたっという着地音が資材の山の天辺から聞こえた。ミスターうるちが着地したらしい。誰も其方には視線を向けず。

 メダロット社が管理する審判としての勤め。その枠を超えて、運命を別つ様に、ミスターうるちは手を振り下ろす。

 

 

「それでは ―― ロボトルッ、ファイッ!!」

 

 

 地下深い実験場の底にて。

 同時、6体のメダロットが駆け出した。

 





・ロボトルリサーチ社
 メダリンクが何処の企業によるものなのか、と聞かれると、恐らくはメダロット社(株)なのでしょう。メダロッターズに設置されていますからね。
 ですがあれを1企業だけで請け負うのは無理だと思うので、分業しているという設定。広告を含めたメダリンクの対外向けの部分はロボトルリサーチ社ということにしました。
 いがみ合っていると思っているのは、当人たちだけで、意外と仲良し。イチゴ味。

・ヒカル兄様
 漫画版とゲーム版のイメージを折衷しましたらこんな感じに。
 やられても良かったのですけれどね……なんというか、漫画版のレトルトは本気で強いと思うのです。実質パーツ1つ無い状態でセレクト隊に圧勝し、あげくイッキのメタビーに余裕勝ってますから。兄さまの骨は折られましたけれども。
 ……ただ。本作のイッキのメタビーに格闘で勝てるのかといわれると、大分微妙なのです。

・怪盗レトルト
 BK201ではありません。

・メダマスター
 メダロット4のネタ。
 もの凄い迂遠な作業(間違いなく作業)が必要になる。
 ただ、ダークロボトルは楽しかった……回数がとんでもないだけで。
 テストは飛ぶ奴が鬼門。


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28話 Strike Enemy

 かくして始められたロボトル。

 と同時、周囲一体を、爆撃のような射撃が覆った。

 凄まじい轟音が、地下の実験室を大きく揺らす。

 

 

「……アー」

 

 

 真ん中で動かないゴッドエンペラー①。

 

 

「うぃ、そこです!」

 

 

 右から両腕と頭による絶え間ない射撃を繰り出してくるゴッドエンペラー②。

 

 

「何おれ、やっぱ楯になんの?」

 

 

 そして庇うように前に出ながら、制圧射撃を繰り出してくるゴッドエンペラー③。

 それら弾幕の嵐を押しのけるように、イッキのチームのクマメダル(ベアー)……援護防御の機体が前に押し出る。

 ベアーは狙い撃たれる「レーザー」を、両腕の楯で割るように引き裂いた。

 

 

「光学射撃は効かないクマよっ」

 

「ナイスだベアッ……おらぁぁあっ!!」

 

 

 頭の遮光パーツにより威力の高い光学射撃を無効化したベアーの横を、弾丸の雨(ガトリング)とミサイルが抜けて飛ぶ。

 前に出た③のゴッドエンペラーの脚部を狙ったメタビーの射撃は、しかし、両腕によって防御された。ゴッドエンペラー③の両腕で弾痕が煙を上げる。

 

 

「何これ、おもちゃ? ……お返しするぜ?」

 

 

 両腕を掲げた③の右腕から、弾頭が次々と飛び出しては……ただしメタビーらの周囲に着弾してゆく。口癖からして、③はフユーンではゾーリン……格闘を主体としていたメダルだろう。どうやら同じく、重装甲を生かしたバトルは得意ではあるものの、射撃は狙いが甘く大味であるらしい。

 

 

「アー」

 

「ういぅぃ!」

 

 

 奥から①が、周囲を薙ぎ払う重力……ブレイク射撃。②が狙いをつけたミサイルを飛ばしてくる。

 辺りの瓦礫が重力射撃によってねじ巻いて吹き飛び、メタビーを狙ったミサイルはベアーが楯で受け流す。

 メタビーは左腕と右腕の放熱が抜け切ったのを確認して、イッキに向けて叫んだ。

 

 

「いけるぜイッキ!」

 

「うん! ……しかけるぞ、ベアー! スパイダ!」

 

 

 声に合わせて、呼ばれた2体が頷いてくれる。

 イッキがメタビー以外の2体を援護機体としている理由は幾つかある。その内の1つが、戦況によって戦い方を変えられる事だ。

 今回の相手、ゴッドエンペラーの装備は確認できた。

 右腕が多段式の弾頭ミサイル。

 左腕が収束光学射撃、レーザー。

 頭が湾曲重力射撃、ブレイク。

 それら全てが射撃による攻撃なのである。

 「そう」している理由は幾つもあるのだろう。例えば本来、ヘベレケ博士が言っていたように多大な電力の補充を必要とするため動き回ることが苦手であるとか。対多数戦闘において、射撃攻撃のほうが収束させやすいであるとか。

 だとしても、今は3対3のロボトルだ。見る限り相手の動きは鈍くはなく、威力が段違いではあるものの、射撃攻撃で統一されているというのは間違いない。

 ならば作戦は決まっている。

 イッキは間を見計らう。相手の攻撃の主体は①の、リーダー機と目されるゴッドエンペラーだ。彼または彼女を主軸として②が援護射撃を、③が前進を試みているのだからして。

 ①が両腕を上げる。カメラアイを光源が横切る。

 

 

「―― 今だ!!」

 

 

 ミサイル。レーザー。ブレイク。

 高威力の射撃の雨が降る直前、イッキは全力で叫んだ。

 

 

「行くぜっ!」

 

「クマママーッ」

 

 

 資材の影に身を寄せていたメタビーが飛び出し、その前を、両腕の楯を構えたベアーが援護しながら ―― 突撃。

 目標はまず、ゴッドエンペラー③だ。

 「ゴッドエンペラーというメダロットパーツ」は、確かに多大な威力を持っている。元・軍用だというのも間違いではないのだろう。

 ただ、その高威力の射撃を維持するために必要な充填と放熱の時間は、メタビーの3倍近い。一度攻撃を凌いでしまえば、接近したまま撃破も可能だ。

 当然、前線で楯になっている③に直進する2体に、銃口が集中する。

 ベアーの両腕、「ライトシールド」「レフトシールド」は既に多数の攻撃を凌いでいる。装甲は目に見えて減っている。

それでも、2体は直進を止めようとはしない。

 

 

「どういうつもりじゃ……ゴッドエンペラーの射撃を甘く見ているわけではあるまい?」

 

 

 これまではメダロット達にロボトルを任せていたヘベレケ博士も、訝しげな表情を浮べる。

 最後の突撃か、もしくは策があるのか。いずれにせよ、ここで攻撃を仕掛けないという選択肢は無い。

 そして、ゴッドエンペラー達が引き金を引こうとした瞬間。

 

 

 ―― がぼぉんっ

 

「!? 何々!? まじで何ッ!?」

 

「これは……!!」

 

 

 ゴッドエンペラー3体の足元で、爆発が起こっていた。

 

 

「流石だぜ、スパイダ!」

 

「クモモーぉ」

 

 

 資材の山から身を乗り出したスパイダが自慢げに頭を揺らす。

 爆発の種 ―― 射撃トラップ。

 重心の安定した多脚兼タンク型脚部のゴッドエンペラー。だが足元が安定しているということは、身体の固定を足場に委ねてしまっているという事でもある。それが射撃にとって、重要事であるという事も。

 結果、射撃はあらぬ方向へと逸れ、実験場の壁に次々と着弾した。

 その隙に接近したメタビーが猛威を奮う。

 

 

「おらぁぁッ!!」

 

「何々、おれってやっぱりやられや……」

 

 

 右腕の大爪「フレクサーソード」で相手の右腕「デスミサイル」を押さえつけ、引き裂きながら、「サブマシンガン」を頭に向けて連射する。

 ゴッドエンペラーとてメダロット。③は頭部パーツが破壊され、ぴぃんとメダルが弾かれる。機能停止だ。

 

 

ゴッドエンペラー(ムラクモノミコ)、戦闘不能っ! ヘベレケチーム残存2!」

 

「ういぅぃ! 敵討ちです!」

 

 

 ミスターうるちの声が響く中、すぐさま、ゴッドエンペラー②が反応した。

 あのフユーンでの元ベイアニットらしい、冷静な対応だ。

 メダロット各パーツの内、頭パーツというものは、ジェネレーターともメダルとも距離が近いため、充填と放熱の時間がかなり短めになっている。設計どうこうではなく、それは「メダロット」としての構造である。

 そして頭パーツの充填放熱が短いのはゴッドエンペラーも例外ではない。デスブレイク……頭パーツが最も素早く放熱を終え、メタビーを狙う。

 

 

「クマッ!」

 

「うぃッ……!!」

 

 

 そのための援護機体なのだと、ベアーが射線を阻む。

 ねじ狂う空間を右手に……②の射撃。楯が弾け飛ぶ。

 

 

「クマァァッ」

 

 

 しかしベアーは破損した右手を放棄し、左手でそのまま、余波を押さえ込む。

 重力波が、途切れた。

 

 

「サンキュだ、ベアー! ……だららっ!」

 

「う、ぃ、ぅ、ぃ!」

 

 

 その脇を、メタビーがサブマシンガンで射撃を行いながら接近し、

 

 

「うぃっ……博士っ」

 

「くらえっ!!」

 

 

 喉元から頭へ向けて、右腕の爪で引き裂いた。

 カメラアイを覆っていた鋼のバイザーが捲くれ上がり、装甲から何からがバラバラになる。

 

 

「メタビー、次だ!!」

 

「おうよ!」

 

 

 3対1。

 次 ―― 着地したメタビーが素早く振り向く。

 

 

「残ってるのはアイツか!」

 

「……アー」

 

 

 棒立ちのゴッドエンペラー①。

 ミスターうるちが勝敗を告げていないということは、やはり、①がリーダー機なのだろう。

 残る1体になった瞬間、リーダー機はもぞりと動く。

 

 

「ウー……アーーー!!」

 

「うるせえ!!」

 

 

 叫びながら全装備をフルオープンでアタックするリーダー機。

 レーザーが地面を一直線に抉り……ベアーによってかき消され、ミサイルが煙の柱を帯びて宙を舞い、あらぬ場所に着弾しては火柱をあげ、湾曲した重力波が資材をねじ切りながらばら撒かれる。

 

 

 ―― ぼうんっ

 

「忘れた頃に射撃トラップだクモー」

 

 

 トラップによって引き起こされた爆発に、ゴッドエンペラーの脚部がむき出しに。

 それでもゴッドエンペラーは動きを止めようとはしなかった。放熱すら終わっていない銃器を振り回す。

 

 

「アー、ウー! アーぁぁァ゛ぁ!!」

 

「なんだ? こいつ……まるで」

 

「苦しんでる……?」

 

 

 四肢を振り乱すその姿に、イッキとメタビーが疑問符を浮かべる。

 しかし攻撃そのものの威力を前に、留まっていてはいられない。

 

 

「っ、今はロボトルに集中だメタビー! 放熱の間に接近して、ぶった斬れ!」

 

「判ってる! そのつもりだぜ!!」

 

「援護するクマー!」

 

「支援してるクモー!」

 

 

 索敵低下の妨害パーツを使用するスパイダと、残る左手の楯を構えて前進するベアー。

 その後ろを、メタビーが追走する。

 身を翻すと、大爪を振り上げ。

 

 

「これで ―― 決着だ!!」

 

 

 ズバンッ!

 と、フレクサーソードがリーダー機の頭から胴を切り裂いた。

 ①の胸部に大きな亀裂が走り、胴部に貯留していた循環用のオイルが噴出す。カメラアイから光が消える。

 

 

「リーダー機、戦闘不能! よって勝者……」

 

 

 ミスターうるちが判定を下すべく手を振り上げ……

 

 

「テンリョウ……あれ?」

 

 

 振り上げた手を、空中半ばで止めていた。

 止めざるを得なかった。

 

 

「……え!?」

 

 

 そして、イッキは見た。

 奥に立つヘベレケ博士が、笑みを浮かべているのを。

 

 

「うおっ!?」

 

 

 そして、メタビーは見た。

 

 

「―― アー。……ア、ドコ、hえ……」

 

 

 ゴッドエンペラーとしての鋼鉄のバイザーが剥がれ落ち、濁りない青のカメラアイが、こちらを覗いているのを。

 

 

「ここからが本番じゃ……今度こそ! 打ち倒せぃっ、ラスト!!」

 

「ドコへ、ユクnお、コドモタチ? ……ワタシ、ソウ、dあ」

 

 

 そして遂に、扉は開かれる。

 

 

「―― 憶エテイrう。ハハトnおヤクソクヲ……!」

 

 

 しわがれた声に応え、翅が開く。

 激しく打ち鳴らされる、薄縁の稲光と共に。

 





・ゴッドエンペラー
 メダロット2のラスボス。厚い装甲を楯に、超高威力の射撃が猛威を振るいます。とりあえずレーザー直撃したら機能停止を覚悟しましょう。
 因みに原作では、ヒカルの幼馴染であるアキタキララ扮するレトルトレディが3以降ゴッドエンペラーを使用する。
 なので、レトルトレディはメダロットが鬼畜なのがお約束。

・ムラクモノミコ
 ゴッドエンペラー③、元ゾーリンのペットネーム。
 元ネタは漫画版コウジのビーストマスターより。

・ラスト
 ゴッドエンペラー①、フユーンではビーストマスターだったメダルのペットネーム。
 元ネタは漫画版ヘベレケ博士のベルゼルガより。
 ただし性格も役割もかなり違っておりますのでご注意を。

・②のペットネームは?
 駆け足となる3編の駆け出しまで、もうちょっとお待ちを。
 ただし独自設定ですので悪しからず。

・スパイダ「忘れた頃に!」
 佐鳥も居ますよ。


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29話 青年(達)の戦い

 

 羽が開くと同時、研究所全体に地鳴りが響き始めた。

 

 一方、イッキ達が戦う地下研究室 ―― の、隣室。機材が詰め込まれた研究室……が、既に半壊した瓦礫の中。

 そこで「元凶」とロボトルを繰り広げていたヒカルとナエは、突然の衝撃に身構えた。

 

 

「なんだ、これは……?」

 

「……これは」

 

 

 ヒカル達が相対するメダロット達も、何故か、動きを鈍らせている。

 周囲を見回すも、原因たる何かは特定できなかった。その内に振動は一端の収束を見せる。

 正面……メダフォースを操る巨大なメダロット3体から目線を逸らさずに、ヒカルのメタビーが声音管を震わした。

 

 

「どうすんだ、ヒカル? 音源はイッキ達の方からだ。助けに行くのか?」

 

「……でも、ここを任せる訳にもいかないよなぁ」

 

 

 レトルトの衣装を身に着けたヒカルは、思い直すとメダロッチを構えた。

 その様子を見て、隣のナエがヒールエンゼルに指示を出す。

 

 

「索敵上昇です、エンゼル! その後は防御機体の回復を随時!」

 

「ふわわー、了解だよーナエちゃん」

 

「……相手がまた動き出しますよ、ヒカルさん!」

 

 

 ナエが注意を促すと同時、ぎ、ぎ、と軋む音をたてながら相手の3体が動き出す。

 油断は禁物である。何せその背には何れも、始めから、3者3様の「羽」が開いているのだ。

 

 

「やっぱり相手をしなきゃいけないか……メタビー迎え撃つぞ! ナイト、援護に回るんだ!」

 

「守ります!」

 

「いくぜっ!! ……こうなったら仕方がねえ! こっちも、全力だ!!」

 

 

 雄叫びを上げながらメタビーが力を込めると、その背に4枚の薄翅がびしりと開く。

 迎え討つ3体。

 葉っぱをかき集めた様な羽。

 真っ白な幻獣の羽。

 6枚の、うす蒼い羽。

 

 

「だぁぁぁーーー!!」

 

「ま゛」「あ゛」「な゛」

 

 

 メタビーとそれら、大きな力が激突する。

 また1つ、研究資材が破壊されつつ……その中を。

 

 

「兄さま、ナエ姉さま!」

 

 

 飛行するツナギ少女が1人。ロボロボ団員を言いくるめて基地から避難させた、ユウダチである。

 メダロットに掴まって飛来すると、大きな柱の横へ着地した。

 

 

「向こうのロボロボ達には避難を言い渡してきましたです! 加勢するですっ!!」

 

「ユウダチちゃん!」

 

「ありがとう、ユウダチ! それよりさっきの振動について心当たりはあるかい?」

 

 

 ユウダチは着地と同時に目の前にソニッグスタッグ……ヨウハクを転送しながら、ヒカルに返答する。

 

 

「恐らくは兄さまの予想と同じかと思われますです。……ベビーの大元のメダルは、向こうのゴッドエンペラーに入れられているのです」

 

「―― つまりは向こうが『アタリ』だという事だな」

 

 

 ヨウハクの話した『アタリ』という単語に、ヒカルが唸る。

 

 

「やはり……イッキ君らに、任せる形になってしまったか……!」

 

 

 唇を噛みながらも、ヒカルはロボトルの管制を続ける。

 相手は皆、常時メダフォースを発動させている。始めから充填を終えていたのだろう。地の利は完全に向こうにあった。

 それでも、ロボトルの経験という意味でヒカルのメタビーは圧倒的である。

 

 

「んにゃろ! っと!」

 

「な゛」

 

 

 翅は開きながらも、メダフォースとして放つことはせず、両腕の射撃を確実に当てていく。

 ミサイルなどの回避できない攻撃だけを援護機体であるナイトに防御してもらいながら、着実に相手の装甲を奪ってゆく。

 そこへ、均衡していた戦況へ、ユウダチの機体が割り込んで行く。

 

 

「そもそも場所からして貴方達が有利なのです、3対4でも文句は言われたくありませんですよっ……ヨウハク!」

 

「心得た。……合わせるぞ、カブトムシ!」

 

「さっさと叩き斬って来いよ、クワガタムシ!」

 

 

 メタビーの援護射撃を受けながら、ヨウハクはがらくたとなった機材を回り込む。

 一旦視界を外れ、その先で。

 

 

「あ゛っ゛」

 

「―― 索敵機体がいないとこうなる。乱戦故に、奇襲は警戒するべきだったな」

 

 

 ごんっ、という鈍い音。

 回りこんだ先で左の拳。防御機体を弾き飛ばした。これと同時に戦局が逆転する。

 すぐには援護に回れない位置を転がる援護機体を見届け、ナエが動く。

 

 

「此方のチームは装甲値の低下なし。……今なら、全力を出しても大丈夫なはず。攻撃しますよ、エンゼル!!」

 

「ふわわーっ」

 

 

 ヒールエンゼルの背中に、今度は天使の羽が広がり。

 

 

「―― メダフォース、『テイクオーバー』!」

 

「ふわわわわーっ」

 

「な゛」

 

 

 溶かした相手の熱量を自分の装甲値に還元する、特大の熱線を撃ち放った。

 今まで援護ばかりを行っていた機体からの思わぬ反撃に、3体のうち1体のメダルが弾け飛ぶ。

 

 

「続くです、ヨウハク! ―― メダチェンジ!!」

 

「ツェアアッ!」

 

「あ゛」

 

 

 ヨウハクは羽を広げた戦闘機の形に変わると、たった今転ばした相手へと一直線。

 防御を許さない高速の一撃で、頭パーツを破壊した。

 

 

「これで残りは……って!?」

 

 

 残りは1体。

 そう考えたヒカルが、残る1体を視界に捉えた所で、声を詰まらせる。

 

 

「ま゛」

 

 

 巨大な試験管の前に立つ1体が広げる翼が、鳴動していた。

 一際大きな粒子が舞う。研究室一体に充満し、震えている。これでは近付くのも容易ではない。

 マントで吹き荒れる暴風を遮っていると、ユウダチが解説を付け加えてくれた。

 

 

「ヒカル兄さま! 目的のメダルは向こうに居るとはいえ、ここにあるのも『元凶』です! むしろ、パーツに関してはゴッドエンペラーよりも、マザーを模して造られた此方のベビーの方が適しているくらいで……!」

 

「つまりメダフォースの制御に長けた機体、という訳か!」

 

「はいです! これは『全体復活』なのです!」

 

 

 慌てた様子のユウダチの前で、ヒカルは視線を逸らさず身構える。

 彼もこの数年間、ただ漫然と学生生活を送っていたわけではない。メダロット博士の下、レトルトとしての義賊活動に加えて、メダロット本社におけるテスターとしても活動をしていた。

 メダリンクという遠隔ロボトル通信システムをたちあげる際には、そのランカーとしての活動も行った。数々の修羅場を潜り抜けてきたヒカルに比肩するほどのメダロッターは少なかったが、ゼロではない。世界を見ればもっと多くの強敵が居るのだという事も実感できていた。

 ヒカルが子どもを脱するに連れて、置いて来たものは数多い。イッキ達に自分を重ねてしまうのは仕方のないことだろう。

 ユウダチも、彼女は彼女で重いものを抱えている。その決着は未だつけられていない様子ではあるが……それでも。あの事件の際のように、立ち向かう努力を止めるつもりはないらしい。

 

 だからこそ、だ。

 自分の元には変わらず、メタビーを始めとしたメダロット達。

 星空を眺めたあの日と変わらず、隣にはナエが恋人として居てくれる。

 妹分が活躍をするのは、彼にとっても誇らしいもの。助力は惜しまないつもりだ。

 

 

「ま゛っ……ハカ、ハカカカ……イ」

 

「……あ゛」

 

「…………な゛」

 

 

 胎児の様な外見のメダロットが翼を鳴らし終えると、機能停止した筈の2体のメダロットが再びのそりと立ち上がる。立ち上がった傍からスラフシステムが最大稼動し、パーツの修復も高速で。

 これらの例からして、リーダー機の胎児型メダロットのメダルが、操る術としてのメダフォースを使いこなしているのは間違いないだろう。

 メダフォースの制御と管制。

 これは通常のメダロットを、玩具としてのメダロットを超える力ではある。

 ……だからといって、立ち向かう彼らは勿論、当然の事、毛頭、負けるつもりはない。

 

 

「来るぞ、メタビー! ここで負けてやるものか!」

 

「判ってんじゃねえかヒカル! でもってあのビルでの決着、今度こそつけてやるぜ、モグモグフヨード! ……だから引っ付くなよナイト!?」

 

「守ります守ります!」

 

「ふわわー。ここ、メダフォースが溜め辛くなってるよナエちゃんー」

 

「ならもう1度援護に回りましょうか、エンゼル。相手ばかりがメダフォース充填可能、復活も無制限というのは理不尽ですが……」

 

「だがそれも中核たるリーダー機を倒しさえすれば……だな、御主人」

 

「はいです! その通りですヨウハク!」

 

 

 たとえ年月を経ていようとも、幾度となく超えてきた修羅場と同じく、ヒカル達は立ち向かう。

 「向こう」とは別の戦場も、これにて佳境を迎える事となる。

 

 





・ま゛
 メダロット新装版。
 ヒカル編、イッキ編、好評発売中!!
 ……5~Gのコイシマル編の刊行を心より期待しております次第っ!!

・ナイト
 頭部/ボディアタック
 右腕/ライトシールド
 左腕/レフトシールド
 脚部/アッシー

 テンプレがそもそも暑苦しい。

・テイクオーバー
 ナエのエンゼルのメダルは「エンジェル」で、これは本来エンジェルメダルのメダフォースではなく「ユニコーン」メダルのものとなります。
 絵的にほしかったというだけですけれどね!

・モグモグフヨード
 元ネタは漫画版ヒカルのネーミングセンスより。本作においてはメダロット1編第14話を参照。
 仔細はアナザールートにて。
 別に、ひよこ売りさんが横流ししたわけじゃあないのです!


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30話 そう思う

 

 場所は戻り、地下の実験場。

 カメラアイをむき出しにし、雰囲気の変わったゴッドエンペラーを正面に、イッキ達はその場を動けずに居た。

 ただ1人、ヘベレケ博士の高笑いだけが実験場に響き渡る。

 

 

「がっはははははーっっ! 遂にやった! やってやったぞ!!」

 

 

 小柄な身体でぴょんぴょんと跳ねては喜びを表す博士。

 その目の前に立つゴッドエンペラーは、1機。

 

 

「……ドコへ……ユkう?」

 

 

 かくり、と首を傾げると背中の翅がふるふると震える。

 パーツの隅々にまで、翅と同じ色の薄縁色が浸透しており、メタビーは思わず後ずさった。

 

 

「くっ……なんだ、コイツ!?」

 

「博士、何を……!」

 

「なに、懇切丁寧に説明はしてやるわい」

 

 

 ゴッドエンペラーの後ろから、ヘベレケ博士が声を鳴らす。

 ぎしりと義手を動かし、その人差し指を立てて。

 

 

「知っておるかの? メダロットの情報処理装置である六角貨幣石……メダルには能力とは別に、確かな『位』が存在しておる。コヤツのメダルは、その『上位(レア)メダル』の内でも最も力を持つ個体なんじゃい!」

 

「レア……メダル?」

 

「左様。人間で言う長兄みたいなもんじゃ。流石に母となるメダルは制御しきれんからの。……このメダルにも、エネルギーを取り込んで『増える』機能 ―― 今はパーツの修復に使われておる『脱皮(スラフ)システム』が備わっておる。他のメダロットの数倍の力での。母の個性を最も受け継いだと言って良いじゃろう。只の玩具では持て余しかねないその力も、リミッターを解放された今ならば、最大限に発揮しうる」

 

 

 母と子、上位メダル。

 スラフシステム、増える機能。

 イッキにとって、何もかもが聞いた事のない事象ばかりである。

 困惑したイッキの様子を見て、ヘベレケ博士は不満そうに鼻を鳴らした。

 

 

「ふん、アキハバラめ。使い走りにした子ども等に、この程度の事も伝えておらんのか? あるいはあのムラサメの娘が役目を担っていたのやも知れんが……」

 

 

 はき捨てるように言葉を残し、ヘベレケ博士は後退する。

 

 

「ドコへ……ソウ。ソウ、dあ」

 

 

 替わりに、ゴッドエンペラーがずいっと前に出てきた。

 薄暗い光をまとって、一回り大きくなったかの様な各パーツ。威圧感は半端では無い。

 

 

「その機体の中に入れられておるのは、かつてのロボロボ団の首魁が持っていたカブトメダルを複製し……ワシが手を加えて基礎設計からメダリアシステムを組み込んだ、上位メダル。子どもにも判りやすく纏めれば、要は、『最もスラフシステムを効率的に扱える個体』じゃよ」

 

「―― ワタシhあヤクソク、ヲ、ワスレtえイナイ」

 

「テンリョウ・イッキよ。お主のメダロットも同じカブトメダルじゃが……さあ、相手になるかの!?

 

 

 その言葉を最後に、ヘベレケ博士は部屋の奥へ。フユーンでの例を見ても、ロボトルは得意ではないようだ。元より任せるつもりであったに違いない。

 脚部のキャタピラを回して、ゴッドエンペラー……「ラスト」が距離を詰める。

 

 

「……く」

 

 

 イッキは後ずさる。

 何をどうするという策があった訳ではない。ただ、まともにロボトルをして決着がつくものなのか ―― 判断しかねたのである。

 

 

「ワレラ、母wお同ジクスル子ラ」

 

 

 一歩。

 

 

「ソウdあ。ダガ、ワタシhあ忘レテイナイ。ツマリ、シッテイル」

 

 

 もう一歩。

 

 

「……。……よし」

 

 

 中央部から僅かに押し込まれた場所で、一瞬だけ後ろを振り返り、いよいよイッキは立ち止まる。

 空間的な余裕はまだまだあった。策が浮かんだわけでもない。

 それでも、覚悟だけは決まった。

 

 

「……やろう、メタビー! ベアー! スパイダ!」

 

 

 少女を背に、精一杯の見栄を張って少年は叫んだ。踏み留まる理由としては、これだけでも十分に過ぎたのだ。

 叫びに応え、目の前に3体のメダロット達が並ぶ。

 

 

「おうよ、勿論だぜ! 理屈はともかくこの出力だ。どうせコイツを止めなきゃ、この基地ごと潰れちまうだろうからな!」

 

「やってやるクマー!」

 

「なせばなるクモー!」

 

 

 仕切りなおしの間に此方のパーツは復活している。ゴッドエンペラーのパーツも、頭のカメラアイだけがむき出しのままだが、その他の全てが新品同然にまで修復されていた。

 双方、戦闘の体勢は整っている。

 ならば。

 

 

「―― ネムrい続ケヨ、兄弟!」

 

「―― 知るか! オレらはまだ、イッキと一緒にロボトルしてーんだよ!!」

 

「ロボトルゥっ……ファおおっっ!? ……っふぅ」

 

 

 再開と同時に、メタビーとラストはぶつかり合った。

 ビームにも見えるエネルギーの集合体が、それぞれ頭上から撃ち放たれる。衝撃波が荒れ狂い、イッキは思わず顔を覆う。因みにミスターうるちが衝撃波に飛ばされた破片を頭に受けて気絶した。カリンが様子を確認しに行ってくれているのでそちらは任せておいて。

 顔を伏せたのも一瞬の事。すぐさま顔を上げ、メダロッチを構えて叫ぶ。

 

 

「いつもの通り、援護と支援だ!」

 

「クマー!」

 

「クモー!」

 

 

 突貫したメタビーを援護するべく、残る2体が回り込む。

 初っ端メダフォースの余波を楯に、メタビーはラストへと接近戦を仕掛けていた。

 

 

「だらぁっ!」

 

「―― オオッ!」

 

「うお!?」

 

 

 オチツカーで相手を蹴り上げ……ラストは僅かに距離が離れた隙を逃さず、足元にミサイルをばら撒く事によって強引に距離をこじ開ける。

 ラストは煙が晴れる前にその中から飛び出し、距離を取った。自分の放ったミサイルによって脚部パーツにダメージが入っている筈だが、纏われた薄縁の光によってすぐさま傷は見えなくなってしまう。どうやら回復は瞬時に行えるらしい。

 メタビーが接近戦を仕掛けたのは、武器の充填放熱の差があるからだ。だがしかし、こうも離れてしまえば火力的にはゴッドエンペラーの間合い。

 ただ、その隙はベアーが埋める。

 

 

「―― 喰ラエ!!」

 

「クマママーーっ!

 

 

 体勢を崩しながらも放たれたラストの一斉射撃を、後ろから飛び込んで勢いをつけて受け止める。

 両手の楯が凄まじいエネルギー波によって溶解してゆく。

 その後ろから、爆音と閃光が止まぬまま、スパイダが接近する。

 両手両脚をクモの様に開くと、びしり。

 

 

「メダフォース増加だクモ!!」

 

「―― !?」

 

 

 電子的な色合いのクモの足が広がる。ラストの背に回り、両手を羽交い絞めにしながら、スパイダはメダフォースを発動させたのだ。

 クモの糸のような光がメタビーとベアーに繋がり、それぞれ枯渇させられていたエネルギーを充填させてゆく。

 

 

「クマッ! 防御は任せてメタビーは突き進むクマ!!」

 

「頼んだぜ!」

 

 

 溶けかけた両腕を構えるベアーの援護を受けて、メタビーは再びラストへと接近を始める。

 だが、メタビーとラストは両者共に射撃機体。接近するまでの距離こそが勝負である。

 そして何より、ラストはヘベレケ博士によって予め充填されたメダフォースを、手足の如く使いこなしていた。

 

 

「―― aaaッッ!!」

 

「クモッ!?」

 

 

 羽交い絞めをしていたのが仇となった。

 ラストが背の翅を動かすと、スパイダは凄まじい勢いで吹飛ばされ、壁に激突する。

 

 

「―― ソコdあ!」

 

 

 解放されたラストは、すぐさま射撃の充填に入る。

 熱線と爆風とが吹き荒れた。中距離からミサイルとレーザーによる威嚇射撃を挟み、充填放熱を頭のブレイクで上手く埋めてくる。

 

 

「くっそ!!」

 

「回り込むぞメタビー!」

 

 

 イッキの指示に「おう!」と返し、メタビーがベアーの背中に掴まる。車両型脚部の推進力によって牽引されたメタビーは、ラストの射撃圏内から急速に離脱した。

 正面から突破するとすれば、これら火器をメタビーの「一斉射撃」で黙らせる事は可能であろう。

 ただ、右腕が「フレクサーソード」になっている分、全射撃を集中させる「一斉射撃」の撃ち合いではゴッドエンペラーの側に分がある。そこへメダフォースの扱いに長けているラストの技量が重なっては、援護機体がいたとしても、打ち勝てるかどうか……という判断だった。

 射線を抜けて、左側。時間が掛かった分、放熱を終えたラストが、照準を定めて待ち構えている。

 とはいえメタビーも、スパイダによって増強されたメダフォースをこの距離まで温存することが出来た。ベアーも、援護が可能な分の装甲を残している。

 

 煙の山を貫いて。

 両者は、正面から激突した。

 

 

「「―― 一斉射撃!!」」

 

 

 ラストの薄翅が振動し、サイプラシウムの過剰活性によって身体が僅かに浮き上がる。相手を見下ろす位置(ぎょくざ)から、正しく皇帝の姿で、全パーツからエネルギーを放出する。

 メタビーの背部に薄翅がぶるりと開き、左手と頭から鋭くエネルギーを射出した。ベアーを追い越し、2倍以上は太い相手のエネルギー波と、衝突。

 

 

「―― 負けるな、メタビー!」

 

「頑張って下さい、メタビーさん!!」

 

 

 メダフォースがぶつかり合う衝撃の中、イッキはメダロッチへ向けて、カリンは虚空へ向けて声を発した。

 だが、ラストの全霊が込められた「一斉射撃」は見た目からして段違いのエネルギー量である。メタビーの放った「一斉射撃」は徐々に押され始め、飲み込まれ。

 

 

「―― 防御は任せてと、言ってあるクマよッ!!」

 

 

 余った粒子は、ベアーが纏めて受け止めた。

 両腕の楯が粉々に砕け、ティンペットがむき出しになり、脚部の一部が損傷する。

 が、その後ろから飛び出したメタビーには傷1つついていない。

 

 

「止メタ……!? 直系デスラナイ、薄メラレタ、只ノ子らgあ……」

 

「そりゃあそうだ!!」

 

 

 驚愕の言葉を漏らすラストの目と鼻の先に、メタビーの姿があった。

 言葉を放ちながら、「オチツカー」で蹴り上げる。ラストは放熱を終えていない右手でそれを受け止め、間近ににらみ合う。

 

 

「オレらは同じメダロットだろうが! ものを壊す兵器なんかじゃねえ! メダフォースの1つや2つ、受け止められて何がおかしい!!」

 

「……!」

 

 

 ヘベレケ博士の言葉を踏まえたメタビーの言葉に、ラストは僅かにたじろぎながら。

 

 

「……シカシ、ワタシhア、憶エテイルノダ。ワタシrあ子ドモハ、眠リ続ケル使命ガアル……!」

 

「そりゃあお前さんにも理由があるんだろうよ、けどな!」

 

 

 メタビーが押していく。

 ラストの左腕から放たれたレーザーを、あろうことか、メダフォースの放熱板として利用する事によりビーム化した、右手の大爪で切り裂いて。

 

 

「オレらとイッキも! カリンとクイックシルバも! コウジとアリカも……ユウダチだって! 出逢って悪かったとは思ってねえぞ!」

 

「ッ……悪イ、悪クナイトイウ問題デhあナイ……!!」

 

 

 ラストの無機質な青のカメラアイがぎょろりと唸る。

 無機質だが、しかし、今そのカメラアイには確かな感情が込められているのがひしひしと感じられた。

 向かい合うメタビーの、黒地に縁のコミュニケーションモニターが、にやりと釣りあがる。

 

 

「へっ、やっと面白くなってきたじゃねえか!!」

 

「ダマレッ!」

 

「っ! 装甲は脚部のが残ってるぞ、メタビー!!」

 

「サンキューだイッキ!!」

 

 

 装甲値の残った部分を防御に回す。

 直近からの重力射撃を、勢いを増す前に振り上げた右脚で受け止め、フレクサーソードで右腕を握りつぶし。

 

 

「ッグ……ソレデmおワレラハ! 増エル使命ニ従ウ訳ニハイカヌノdあ!」

 

「重要なのはそこじゃねえ! 増えるだの増えねえだの!! それを無理やりってのが間違いだろうが!!」

 

「悠長ナ! ソrえデハ遅イッッ!!」

 

「判んねぇだろ!!」

 

 

 ラストの放ったミサイルを左腕を犠牲にして防御、フレクサーソードでそちらも破壊。再度のブレイク射撃を右腕を犠牲にして防御する。

 傷を覆うべく広がってゆくラストの翅は、唸るメタビーの翅が阻害し。

 断線したマッスルチューブを晒したまま、素の骨組み、ティンペットのまま掴み合う。

 

 

「違ウ! 遅イッタラ遅インdあ!」

 

「お前は俺らの事、知らねえのに!」

 

「オマエダッテ、外nお脅威ナド知ラヌ癖ニィ!!」

 

「知らねえけど、それならこれから知りゃあいい!」

 

「ソレgあ! ドレダケ! 大変ナ事カッ!」

 

「だとしても暴れて良い理由にはならねえ!」

 

「眠rい続ケルノガ最善ナノダッ! ワタシラ兄弟hあ!!」

 

「一緒に居たい奴らだって居んだ! 自由にさせろよ!!」

 

 

 まるで子供の喧嘩の様相だが、威力が違う。

 2機がぶつかりあうその度に豪風が吹き荒れる。

 

 

「オ気楽ナ奴mえッッ!!」

 

「るせえマザコンッッ!!」

 

 

 両腕を失い。

 ラストが大きく背を逸らす。

 メタビーが大きく背を逸らす。

 互いに頭を相手に向けて、思い切り振り下ろした。

 

 

 ―― ガッッツゥゥンッ!!

 

 

 頭突きの応酬。

 謎の力場がぶつかり合い。

 べこりという鈍い音と共に、仰け反ったのは、ラストの側だった。

 

 

「ッグォォッ!?」

 

「……っ馬鹿な!? ただのお遊びではなく、心操術としてのメダフォースのぶつかり合いで、ラストが負けるなど……!?」

 

 

 後ろでは、ヘベレケ博士が驚愕を顕にするも。

 ラストの凹んだ頭部からアンテナが飛び散り、ジャイロが狂う。

 平衡感覚を無くし、たたらを踏んでよろけ、薄羽が散り散りになってゆく。

 

 

「今だメタビー! 残弾2! 反応弾だ!!」

 

 

 イッキの指示に素早く、メタビーが両腕を腰に着け、僅かに頭を下げる。

 砲塔が水平に。カブトムシの二股角から2本 ―― ミサイルが飛び出し、ラストの胴体を貫いた。

 傾くラストに向かって、メタビーが叫ぶ。

 

 

「―― 上手くやってみせる! オレらは!! オマエだって!!」

 

 

 立ち昇る爆炎が、地下研究室を照らし出す。

 轟く音をもってロボトルの決着を告げた。

 

 





・決着
 メダロットのお約束としてラスボスは「反射」すれば良いのに……とは、言ってはいけない。
 だって、4の連戦はそれだけじゃ駄目ですものね。
 ……でもグレインはタイムアタックを反射しましたよね。やっぱり反射で良いのに。

・メダフォース
 何がずるいって、ラスボス戦のゴッドエンペラーは始めからメダフォースチャージマックスなんですよね。その癖こっちは未チャージですし。

・ビーム化した、右手の大爪
 新世紀メダロットより「ビームソード」。メダフォースが充填されているほど威力が上がる攻撃です。

・メダフォースのぶつかり合い
 イメージはビームサーベルが鍔ぜり合う感じのアレでしょうね。確実に。
 もしくは殴り合い宇宙。

・頭突きの応酬
 お前ら射撃メダロットじゃねえ(苦笑)!


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31話 また未来(あした)

 

 決着は着いた。イッキとメタビーの勝利である。

 あんぐりと口を開いたままのヘベレケ博士。後ろで顔をほころばせているカリン。気絶中のミスターうるち。

 煙が晴れて、地面に寝転ぶ半壊のラストの首が、ぎぎと軋みをたてる。

 

 

「……オマエ、hあ、ワタシtお同じメダルのハズ、ダ。……ナゼ射撃ダケデナク、カクトウも、ジュクタツしてiる?」

 

「へっ。近付いてきたのを殴ってたら、上手くなってたんだ。ってかロボトルの最中には、んなこといってられねえぜ? 出来ることがあんなら、どっちもやれば良いんだよ!」

 

 

 ラストはふんぞり返るメタビーに向けてカメラアイをフォーカスする。

 そしてそのまま、溜息にも取れる声を発し、力を抜いた。

 

 

「……フン。ワタシノ負ケ、kあ」

 

 

 四肢を脱力し、それ以上動く事はない。

 静寂の中、ラストの後ろで、ようやくと復活したヘベレケ博士が唸り声を上げた。

 

 

「まさか、本当に、勝ちうるとはの。甘く見ておったか」

 

 

 顎に手をあて考えにふける博士の前に、イッキとメタビーが歩み寄る。

 元から目的はこれだ。頭の中でまとめながら。

 

 

「博士。僕もあなたに聞きたいことがあります。……あなたはなぜ、メダロット博士にそこまで対立しようとするんですか?」

 

「……ふん。少し待て」

 

 

 いつもの様に鼻を鳴らし、博士は足元に屈みこんだ。

 ラストのパーツとメダルとを「ケイタイ」に回収し、再び腰を上げる。

 

 

「お主は疑問に思わぬのか、イッキよ? メダロットが果して、どこからもたらされたのかを」

 

「何処から?」

 

 

 問い掛けに、イッキは知識を思い返す。幼い頃からメダロット博士の研究所に通っていただけあって、歴史的な部分もしっかりと記憶に残っている。

 骨格となるティンペットは古くから研究を重ねていた博士達が開発したと聞いた。特にマッスルチューブという筋肉として活動をするパーツは、メダロット博士……アキハバラ・アトムの代表的な発明だ。人のように2脚で歩行をする骨格の再現は困難を極めていたため、一時は獣的なデザインが先行していたらしいが、今では2つの腕をフリーに出来る2脚は主となるデザインとなっている。

 パーツに関する素材は、メダロット社とは別口の外受け企業が尽力したと聞いている。名前までは覚えていないが、遺跡の発掘を行っていた会社だ。それらについてはナエが詳しかったはず。パーツの装甲重量を軽減するサイプラシウムの含有。人の肌知覚を再現するニューロン・ファイバー・ポリエステル……通称NFP素材も、その名前さえ知らない企業から出向した人物との共同開発で。

 骨格、パーツ、そして。

 

 

「メダルじゃよ」

 

 

 ヘベレケ博士の言葉に、イッキは顔を上げる。

 

 

「メダロットの中核。メダルに関する情報は、ニモウサクの家……メダロット社を取り締まる一族が独占しておる。どこから来ていると公表されているか……」

 

「―― それは、『遺跡』から出土していると聞いておりますわ」

 

 

 声の主……後ろから追いついたカリンがイッキの隣に並び、手をぎゅっと握りながら声を振り絞った。カリンはメダロット博士の姪である。内事情にも多少ではあるが知識があるのだろう。

 答えを受けて、博士は再び鼻を鳴らす。

 

 

「確かにの。お主であれば、ムラサメの娘であるあ奴から聞いておるかも知れん……が、ならば」

 

 

 義手を意味も無くぎちぎちと動かして、こちらに指を突きつける。

 

 

「その『遺跡』が結局の所、()なのか。果してこの世界に住む人間の、何人が知っておるかの?」

 

 

 イッキがそれは……と頭を回すが、当然、答えはでない。それはカリンも同様のようだ。隣で疑問符を浮かべ、お嬢さま然に首をかしげている。

 遺跡が何なのか。それは未だ調査中だ。古代の事情を調べるに等しい、教科書にも載っていない。答えの無い疑問……その、筈である。

 悩むイッキらの向かいで、ヘベレケ博士は不敵な笑みを浮かべている。イッキにとっては知る術のないその疑問に、彼は答えることが出来るのだろうか。

 

 

「博士はそれを、知っているんですか?」

 

「ワシから聞いてどうするんじゃ、バカモノ。お主が知りたいと思うのならば、隣にいるそのメダロットらと共に、そのまま進んで見せるが良い」

 

「……オレか?」

 

 

 イッキの手の、片方はカリンと。

 そしてもう片方。メタビーがぼろぼろのまま、イッキと手を繋いでいる。

 更にカリンの逆の手には、メタビーの修復を行っているクイックシルバの手が握られていた。2人と2機。その様子を眺めていたヘベレケ博士は、観念したとばかりに両手を振るった。

 

 

「ワシの技術の結晶であるラストが負けたのならば、この場はワシにとっての敗北でもある。やはり年には敵わん。……この基地は暫くして自爆するぞ。ムラサメの娘……ふん、ユウダチには、ロボロボ共を避難させるための扇動を任せておった。向こうの怪盗らと共に、おぬし等も、さっさと脱出するんじゃな」

 

 

 そう言って、ヘベレケ博士は壁の穴の向こう、暗闇の中へと消えていった。

 体よく逃げられた気もしないでもない。が、自爆と言う言葉は聞き逃せなかった。別の部屋へと向かったレトルト達の事もある。とりあえずはこの場を捨て置いて、外に出るというのも間違いではないだろう。

 

 

「それじゃあ行こうか、カリンちゃん」

 

「ですわね。……お疲れ様でした、イッキ君」

 

 

 薄暗い地下から、イッキはカリンを引き連れて上へと向かう。

 道中、向こうの部屋での騒動を治めたレトルトやレトルトレディと合流。ロボロボ団員達を食い止めてくれていたコウジやアリカを引き連れて、イッキはメダロッ島の外へと脱出した。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 薄暗い地下の、その奥。

 壁の向こうへと戻ってきたヘベレケ博士は、うごめく機械の中央で、自らの研究データをまとめてあるパーソナルコンピュータの前に立ち止まる。

 暫くして、壁の穴からもう1人の人物が姿を現した。

 

 

「やはりここに居ましたか、ヘベレケじいさま」

 

「ユウダチか。何故戻ってきた?」

 

 

 現れた少女を視界に止め、ヘベレケ博士は尋ねた。

 目の前のパソコンから火を入れるだけで、この基地は自爆する。なら地下の奥の奥、この場に留まっているのは得策ではない筈だ。

 そんな問い掛けに、ユウダチはこてりと首を傾げた。

 

 

「一応言っておくと、自爆はしませんですよ?」

 

「……ん?」

 

 

 何を言っているという風なユウダチの表情に、ヘベレケ博士も疑問で返す。

 ユウダチはぴっと指をたて、得意げな顔を浮べた。

 

 

「おじさまが仕掛けさせた自爆のための炸薬は、わたしがこっそり、全て爆竹に変えさせていただきましたです!!」

 

「爆竹っ……じゃと!?」

 

 

 ヘベレケ博士が思わず冷や汗を流す。

 何せ、だ。あのまま格好をつけてイッキらの前で自爆装置をさせていた場合、つまり、爆竹によって飛び回る自分を晒す事になっていたのである。それは何と言うか、あまりにも格好悪い結末だ。

 

 

「随分と勝手をしてくれたの、ユウダチ」

 

「あっはは。危ないものは流石に、許容できないです。あ、そうそう。ベビーも同様に沈静化させてもらったです。メダルはあの人の所に返してもらいますです、ヒカル兄さまから」

 

 

 そう言って、ユウダチは笑みを浮かべた。

 完全なる決着に、ヘベレケはどこか安堵も感じながら……顔を逸らす。

 

 

「ふん。……しかし……ワシはもう、やるべき事を失っておる。このまま生き長らえて何とする?」

 

 

 袂を別ったアキハバラアトムとの決着については、ヘベレケの敗北に終わったのだ。

 だからこそ思わずついて出た言葉だったのだが、対して、ユウダチは苦も無く返答した。

 

 

「やることなんて、幾らでもあると思うですよ?」

 

「……ん?」

 

「ヘブンズゲートへの本社遷都と共に、じいさまがかつて籍を置いていた軍出身の開発者……ビーストキングさんの動きが最近怪しくなってるです。同時に、社におけるアラクネ一族の排斥も見過ごせないですね。月面開発に伴う『現地メダロット』達の抵抗も激しくなるですし……その辺りには必ずヘベレケじいさまの力が必要になるでしょう、です!」

 

 

 ユウダチが挙げた話題、その1つ1つを思い返す。

 ヘブンズゲートとは、メダロット社が出資をする人工の天空街である。同時に、機動ステーションや月へのトランスポーターとしての活躍もされている。近々、メダロット本社はそこへ移設されるのだという。

 ビーストキングとは、ヘベレケ博士がビーストマスターの原型を製図した時に共同で研究をした開発者のコードネームである。息子が生まれてからは隠遁し、資金を元手に街の構想と学園の建設に精を出していると聞いてはいるが……動きが怪しいとなると、何かを企んでいるに違いない。あれはそういう男である。

 アラクネの一族は、ムラサメ家と同じくメダロット社の一部門を担っていた家系である。才気に溢れた娘が居るという話ではあったが、昨今、懇意にしている男が社への出資を離れて政界に乗り出すのだという。マイペースなその男に引き摺られ、家が地位を失ったのだそうだ。その部分を肩代わりしているのは、他でもないムラサメの家である。

 

 ―― そして最後、現地メダロットの抵抗。

 ヘベレケが主導をした今回の一連の事件はその点について、十分な警告にはなったに違いない。

 ならば十分に評価は出来る。確かな満足感と共に、ヘベレケは続けた。

 

 

「ワシはやるべき事をやった。成し遂げた。じゃが、お主はまだだ。……行くのじゃろう? カザンバイ教授の所へ」

 

「はいです。もう少し……もう少しで、(にい)さまが『クラスター計画』を動かします」

 

 

 最後に出た名称を聞いて、ヘベレケ博士は不快な顔を隠そうともしなかった。

 

 

「馬鹿な娘め。お主はやはり、その才覚を活かせる場所に居るべきなのだと、何度も忠告をしたんじゃがな」

 

「あはは。知ってるです。でも、ですが、だからこそ、わたしは逃げたくはないのです!」

 

 

 瞳の奥で汚泥をかき混ぜ、もがきながら、ユウダチはいつもと変わらずどろりと苦笑する。

 相手を威圧するその目を閉じ、少しだけ俯いて。

 

 

「……わたしの家族が大変な事をしでかそうとしています。危険は忠告したのですが、やはり、外来メダロットなどという荒唐無稽な単語は受け入れられなかったです」

 

「ふん。ワシの研究に協力する替わりに、あれだけの忠告に使えるデータをくれてやったというにの」

 

「いえいえ。それだけではなくヘベレケおじさまからはもっと、色々なものを頂いたですよ。わたしにとってはそっちの方が大きいですね。獣型ティンペットの技術を流用した変形(メダチェンジ)が完成したおかげで、ムラサメの家はこうして船外活動が簡易な……宇宙開発分野での第一線に返り咲くことが出来たですから」

 

 

 パーツ開発や骨格に詳しい分野での成績。下積みを経ていたからこそ。ムラサメにあってアラクネにはないそれら技術こそが、今は再び家を興すための一助となっている。

 ただ、後悔すべき点が1つ。

 同時にそれは、あの頃とは違い、今度は、家のジャンクヤードでガラクタを弄っていられるような場所ではなく。ヘベレケの前に立つこの少女をも、家の争いの最前線へと押し出しかねない大事なのである。

 

 

「……ふん」

 

 

 鼻を鳴らす。

 だからこそヘベレケにとってユウダチは、その才覚は認めながらも、気に食わない……いや。目を離せない、心配をかける少女であったのだ。魔の10日間を経たユウダチは今、ヘベレケにとっては望まない方向へと開き直っているのだ。

 老婆心であろう。セレクト隊が基地に突入してくる前にと、ヘベレケはユウダチに向き直る。

 

 

「お主はメダロットの、何だ?」

 

「わたしは友人です。ですよね、ヨウハク!」

 

「―― そうだな」

 

 

 メダロッチから響いたヨウハクの声は、嬉しさを隠しきれていない。

 友人という関係で居られる事、それ自体は望ましい。

 ただ。願わくば。この少女は家の争いに巻き込まれず、あの少年少女らの傍で。年頃の少女然として居て欲しかったと言うのも、老人にとっての事実ではある。

 

 

「……ふん。まぁ、別に牢屋の中からでも研究は出来るであろうな?」

 

「ですねー。……それじゃあです。ありがとうございました、ヘベレケおじさま!」

 

 

 この為だけに戻ってきたのだろう。ユウダチはがばっと頭を下げると、独り、今来た穴から外へ、元気に走って出て行った。

 訪れた静けさ。暗闇の中に佇むヘベレケの隣に、1体のメダロットが並ぶ。

 

 

「うぃうぃ。博士、アースモールやアンダーシェルへの脱出の準備が整いました」

 

「……コガネか」

 

 

 丁寧な物腰のそのメダロットと、ヘベレケは視線を合わせる。

 コガネと呼ばれたメダロットの装いは、先のゴッドエンペラー……武器を前面に出したものとは大きく違っていた。

 両腕にジョウロやスコップ。「園芸にも役立つパーツを」という、今までのロボトルを重視したものとは一線を画すコンセプトからなる緑の身体は、ヘベレケが直々にデザインと設計を成したものだ。

 

 

「今更になって逃げるというのか、コガネ。ユウダチに言った様に、牢屋の中でも研究は出来るじゃろうに」

 

「ですがそれでは、今までのような研究は出来ません。ですから、逃げませんか?」

 

 

 首をかしげ、しかし「ああ、少し違いますね」と言いなおす。

 コガネは口を淀ませながらも博士に向けて拳を握り、懸命に声を出す。

 

 

「……わたしは、その、博士に逃げて欲しいです。博士にはまだ、自由に研究をして、いつものように高笑いをしていて欲しいから……。懲罰については勿論存じ上げていますが、わたしはメダロットです。マスターの自由を願う位は……良いですよね」

 

 

 尻すぼみに小さくなる声と共に、コガネは下を向いた。それでも、握った拳はそのままだ。

 機械として正しいとは思っていた。ただ、これは違う。ヘベレケの為の言葉なのである。

 ならば、自らも前を向いて見合わねばなるまい。老人はようやく、重い腰を上げた。

 

 

「……コガネよ」

 

「はい! ……じゃなくて、えっと、ういうぃ!」

 

「その個体識別のための文句(キー)は解除する」

 

「あ、え……はい。よろしいのですか?」

 

「……ふん。逃げている間に前の特徴を残していては、いくら間抜けなセレクト隊だとて気がつくだろうからの」

 

 

 ヘベレケはこの場を放棄するための最後の一手……パソコンのデータ処理を終えると、コガネの方へと振り向き、歩き出す。

 

 

「暫くの資金源のために、ここでやっていた副業……メダルのエネルギー利用の研究を売り込むとしようかの。ラストには研究を、お主にはエネルギーを回す農耕の管理と実働を任せる事になるじゃろう。宜しく頼むぞ」

 

「はい! お供します、マスター!!」

 

 

 






 いつの間にか日を跨いでいたとかいう……。

・エネルギー利用
 メダロット3の地下街、アースモール編でメインシナリオとなる題目。
 発電元となっているメダロットが驚かし担当である。

・コガネ
 独自設定。メダロット3のアースモール編で登場する、農園管理のメダロット。
 メダロット8でも類似した型が登場し、癒し系を担当してくれている。

・ムラクモノミコは
 彼にはきっとボディガードが似合ってます。

・ミスターうるち
 大丈夫です。
 この後、無事に意識をとりもどして何事も無かったかのように帰宅しました。そのために尺を割くのも癪なので、脳内補完をお願いします。
 最後の最期までこの扱いでした。


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32話 集束して収束、そして終息


 今回更新分で、メダロット2編(イッキ編)は終了となります。
 次の33話も引き続きご覧くだされば嬉しいことこの上なき、なのです。


 

 ロボロボ団の悪事、そしてメダロットの暴走に端を発する一連の事態は、こうして幕を閉じた。

 事態の解決は、直接はイッキの手柄とならず、セレクト隊の案件に預かられることとなった。元隊長であったアワモリの様々な私的汚職が判明し、その存在意義を問われたセレクト隊の株を回復するための一手段として利用されるという事だ。とはいえ、替わりに隊長職についたトックリの人と柄から、イッキが学生を終える頃には世間にも発表される旨が予定されている。

 そもそも事件の舞台周辺ではイッキの活動は知れ渡っているため、実は、早くもプロや日本代表としての活動に誘われていた。イッキとしては学生が終わるまでは……と漠然と考えてはいるものの、メダリンクなどを活用した覆面メダロッターとしての活動ならばその点についても配慮が出来るため、一考の余地はあった。

 何よりメタビーが乗り気である。メダロット当人が乗り気ならば無理に断ることは無いか……と、未来の話しながら肯定側に傾いている。

 

 ヘベレケ博士については、その後セレクト隊につかまった……という事になっているらしい。

 「らしい」というのも、メダロット博士から後の経緯を大雑把に尋ねたところ「高度に政治的な判断」とやらがなされ、ヘベレケ博士の身柄それ自体は自由だ、ということを聞いたからである。彼が今誰と、何処に居るのかは定かではないが……いずれにせよ、これ以上の事件が無い事を祈るばかりである。

 

 一応ながらの報告に。カリンとの仲も進展した。

 コウジどころか両親からも公認の仲となり、今では毎日の様に顔を合わせている。花園学園のカリンちゃんファンクラブからは血涙のレーザービームを集中砲火され、ギンジョウ小学校に実は在ったちょんまげファンからも嗚咽の声が漏れていたりするのは全くの余談。

 それだけにマルガリータの例のお礼が尾を引く気がしているが、それについては事件の後、具体的に言えばフユーンで、既に上位に嬉しく上書きされているのでイッキ的には心配ない。カリンもどちらかと言えばナエの様な包容力がある方なので、特に気にしてはいなかった様子だ。

 とはいえマルガリータとも、妹分として、現代と行き来する手段を得てたまにロボトルをしていたりする。彼女は最近、正式に王女となったようだ。プース・カフェ共々、性質は変わらず。じいやを困らせているのは言うまでもない。

 

 ヒカルとナエは相変わらず。

 ロボロボ団の事件が少なくなると同時に、怪盗レトルト、レトルトレディとしての活躍も息を潜めたが、相変わらず仲の良さそうな日々を送っている。カリンの家に寄った後などは、同じアパートから出てくるのをいつも見かける。聞くところヒカルとそのメダロットもメダロット社でテスターを務めているらしいので、イッキもその内にロボトルをする機会があるだろうか、と楽しみにはしていたり。

 

 暴走メダロットの件が収束し、フユーンの観光地化も進み、世間はいつもの日常を取り戻した。

 すると、メダロット専門デパート「メダロッターズ」から、「パーツンラリー」なる企画が開催されていた。

 新作パーツやロボトル規定(レギュレーション)内に改修されたゴッドエンペラーのパーツまでが品として提出されたその企画には、イッキやメタビーも参加し、見事に優勝を飾った。シラタマさんの暴走はあったものの、いくらゴッドエンペラーとて改修後。加えて中身(メダル)が違うので全く問題にならず鎧袖一触。事件にすらならず解決と相成った。

 この事件を通して、イッキはメダリンクの順位も上げた。本気のコウジにも辛うじて勝ち越し、現在は日本地区1位。これからはアジア地区にランクを広げて、上位を狙っていくつもりだ。

 

 変わらず傍に居てくれるメタビーやカリン。幼馴染としてのアリカ。ライバルとしてのコウジ。近所の仲の良い年長者としてのヒカルとナエ。メダロット博士からは新型やメダロットについての講義を受ける。

 いつもの、日常と呼べる日々だった。

 

 しかしそんなイッキの周囲にも、着実に変化は訪れる。

 

 

「―― 本当に行くの? ユウダチ」

 

「はいです。前年の夏休みを通して、私の本分は研究者にあるのだと、改めて知ることが出来ましたからです!」

 

 

 年が明けて、イッキも学年をあがろうかというこの時期に、ユウダチは転校の日を迎えていた。

 現在地であるメダロポリスの空港には、ユウダチの友人であるイッキ、カリン、コウジ、アリカの4名が集まっていた。他にもヒカルとナエもこの場に顔を出している。

 

 

「ヘブンズゲートか。こりゃまた遠いなぁ……」

 

「ふふ。ですがヒカルさん、近々ロボトルの世界大会……メダリンピックなるものが開催される予定で、ヘブンズゲートにある学校も学童部門の参加機関として登録をしていたはずですよ。もしかしたら、イッキ君達なら再会が近いかもしれませんね?」

 

「そうなのです!? 流石はナエ姉さま、情報が早い。ふーむ……わたしも、向こうでもロボトルは続けるつもりなのです!」

 

 

 むんと腕を捲くる少女に、ヒカルとナエが笑いかける。

 少女が転校する運びになったその原因は、メダロット社におけるゴタゴタだった。メダロット社は長年かけて作り上げた巨大な天空都市「ヘブンズゲート」を遂に稼動させ、宇宙開発へと乗り出す旨を先日の記者会見で発表。それに乗じて、ヘブンズゲートへメダロット本社を移設するのだそうだ。

 これを期に、ユウダチの実家……ムラサメ家が運営する「ロボトルリサーチ社」が、メダロット社と合同で新たな計画を打ち出した。重役を務めるユウダチの兄が、宇宙テーマパークとして「クラスター計画」なるものを始動するのである。

 メダロット社の一員として頭を働かせるユウダチも例外ではない。彼女が所属していた部門における研究成果である「メダチェンジ」などは、特に宇宙におけるメダロットの稼動を念頭においているため、兄の仲間として妹たるユウダチも計画に参加をする事を決めたらしい。

 そのため、彼女は本日をもって、メダロポリスからヘブンズゲートへ移住する。花園学園からも転校する運びとなっているのである。

 

 

「サイプラシウムを上手く使えば、半永久的な推進剤として利用できることが照明されたのです。NAVIシステムについてもレイニーと改良を続けて行きたいですし、キリカの遊び相手にもなってあげたいです。あ、そうそう! isocaとの調整もしたいですし、先日鹵獲されたプーパシリーズの解析も待っていますです!!」

 

 

 ユウダチは指折り数え、楽しそうに、次々と予定をあげてゆく。

 専門的な語句を空気を読まずに連呼するその様は、ユウダチの奔放な気性を表しているかのような輝きに満ちていた。勿論、その眼はどろりとしたままではあるが。

 

 

「―― なので、頑張ろうと思います。ヒカル(あに)さま、ナエ姉さま。お世話になりました! イッキ、コウジ。アリカに……カリン! 貴方達と過ごせた時間は、とーーっっっても! 楽しかったのです!!」

 

 

 カリンの親友である彼女が居なくなる訳ではない。彼女がイッキ達の友人でなくなる訳でもない。距離が離れるだけだ。

 しかしただ距離が離れるという一時が、人の縁を薄めることも多々あるのが世の中というものである。ただでさえ彼女の行く先は宇宙なのだから。

 楽しげに笑うユウダチを見ながら、イッキがそんなことを考えてしまうのも仕方が無い事だろう。

 

 

「イッキ。わたしが遠征を決められたのは、貴方のおかげでもあるです」

 

 

 そんな思考を呼んだかのように、ユウダチはイッキへと声を掛けていた。

 思わず目を見開きながらも、イッキは尋ねる。

 

 

「どういう事?」

 

「えーとですね。率直に言えば、カリンの体調が心配だったんです。コウジはちょっと頼りなかったんですが、イッキになら任せることが出来そうだと思うです」

 

「おいおい。……確かにまぁ、オレが頼りなかったのは認めるけどよ」

 

「あはは! まぁ、コウジもその内にメダリンク回線を使用したロボトルランキングを、アジア地域枠に昇格するですね? イッキもですが……そうなれば、わたしやシデンあにぃとの対戦も間近です。いずれまた、という事なのですっ!!」

 

『その時には全力を尽くす事を約束しよう』

 

 

 ユウダチの本来の主役機、ヨウハクがメダロッチの中から声を挟んだ。エイシイストの時とは違う声音に、若干の差異は感じるものの。とはいえ向かい合った際にも感じていた気遣いというか、研ぎ澄まされた清廉さには一点のにごりも見られない。

 

 

『本当に全力だな? 約束しろよ!!』

 

『二言はない。……ふ、カブトムシという奴らはどうしてこうも好戦的なのだろうな』

 

 

 メタビーとヨウハクがいつものやり取りで占めると、いよいよ飛行機の搭乗時間がやってくる。

 アナウンスにしたがって、手荷物だけを抱えたユウダチが、登場口へと向かう。

 イッキ達の列から、カリンが一歩前へと進み出る。

 

 

「ユウダチちゃん。……どうか、お元気で!」

 

「はいです! カリンも、最近は体力もついてきましたが……体調には気をつけるです!!」

 

 

 最後に親友との言葉を交わして、どろりと笑みを浮かべて、ユウダチは飛行機の中へと乗り込んでいった。

 後には、見送る側のイッキ達だけが残される。

 

 

「……行っちゃったね」

 

「……はい。わたしの、始めて出来た友達でした」

 

 

 飛行機が飛び去った発着場の中。空を見上げながら、カリンは寂しそうに呟いている。

 その分も、ユウダチが埋めていた分も、イッキは托されてこの場に居る。カリンという少女の隣に。期待には応えたい。しかし、イッキがユウダチに替わる事が出来ないのも事実である。

 せめても未来に期待を。これからを楽しくしてあげようと、イッキは小さな手を握り返しながら、心に誓うのであった。

 

 






・メダリンピック
 3の軸となる大会。世界大会が何種類あるのかは分かりません。ほんと。
 遂には宇宙にまで行く。

・例のお礼
 小学生的には気になる案件かと思いまして。

・同じアパートから出てくるのをいつも見かけ
 深読み厳禁。素直に考えて宜しい。
 ……。
 ……いや、むしろ素直に考えても……?

・レイニー
 やはり本作中には登場しません。シスター。
 ゲーム版NAVIでは良い所を持っていってくれます。
 ……5とかNAVIとか、是非ともリメイクされませんかねえ……(望み薄。

・isoca
 漫画版NAVIに登場する主人公。クワガタバイザン。
 これ以上は語るまい……(ぉぃ

・体調には気をつける
 別に以降のナンバリングで、カリン病弱設定が忘れられる訳ではない(力説
 だって4でもその名残がありますし……子供の時だけ病弱って、よくある話ですし……!



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33話 エピローグ&プロローグ

 

 ムラサメ製作所 ―― 現ロボトルリサーチ社による新基軸のメダロット開発は、難航を極めた。勢力が拡大するにつれて、いよいよメダロット社の利権とぶつかり始めたのである。

 ムラサメの家としてロボトルリサーチ社を牛耳るのは実際には兄たるムラサメシデンではあるのだが、開発陣に属するユウダチにとってもメダロット社との軋轢は例外ではなかった。唯一のストレス発散としてヘブンズゲートに在るニモウサク邸で代表であるユウキ氏と愚痴を言い合ったのも、1度や2度ではない。

 不和の種は、月面の開発が進むに連れて圧力を増していった。

 折り悪く、兄であるシデンの中に幼少の頃から降り積もった炸薬が、そんな最中に暴発した。兄は突然、とある別の中学の学生達をテーマパーク「クラスター」の試運転に招待すると言い始めたのである。

 何があったのか、理由は定かではない。ただ、誰かに対抗心を燃やしている様子だ、というのはユウダチにも判ったが。

 当然止めるよう進言はしたが、部門としての権力しかもたず、幼少の頃の身勝手な振る舞いもたたってか、ユウダチの発言力は少ないもの。試運転のため人件費は押さえ、全てをシステム管理とするという兄の慢心には、ユウダチがスタッフとしてクラスターに同乗する……という意見を差し込むのが精一杯だった。

 

 幸いにして、計画が動き出す直前にイッキ達とは再会することが出来ていた。メダリンピックをある意味では予定調和のように勝ち進んできたイッキ達と、ヘブンズゲートで顔を合わせたのである。

 残念ながらユウダチが多忙であったため、メダリンピック出場者としてのロボトルは叶わなかった。とはいえイッキがヘブンズゲートのジャンクヤード……「ヘルズゲート」に落とされた際、いつもの様にジャンクを漁っていた中での再会であったため、その場にて約束のロボトルをする事は出来ていたりする。

 ロボトルの勝敗については、ここでは語らずにいて置きたい。

 そのまま優勝したイッキ達は、宇宙ステーションに招待される。活動を再開していたロボロボ団の騒動に巻き込まれながら、スピリッツ達との争いの最中に月のマザーと遭遇。「ブラックデビル」と呼称される個体との接触には、ユウダチも同行出来ていた。歴史的な瞬間だった、という一事に尽きる。

 

 メダリンピックが終わって、さらに翌年。小学校の最高学年となったユウダチは、相変わらず学校には顔も出さず、研究に没頭していた。

 研究の種は「メダルの演算処理能力の限界値」について。ヘベレケ博士が提出しようとしていた論文「メダロットの魂について」を引き継ぎ、学会でのインパクトをまろやかにするために改題したものだ。

 ヘベレケ博士の論文はそういった、ロマンのあるものが数多い。世間からの奇人という評価もその点から来ているものだ。他にもヘベレケ博士の発案という技術は、世に知れぬまま浸透している。彼自身は隠遁したまま研究を続けているらしいが、社会に追われる立場となった彼との再会は叶うものなのだろうか。ユウダチとしては、尋ねたい事は幾らでも。再会を祈るばかりである。

 

 新学年。おかしな教師によるメダロッチ内の強制削除を、イッキが辛うじて逃れたという連絡の後。

 ユウダチは妹分であった少女と共に、遂に、宇宙テーマパーク・クラスターへと乗り込んだ。

 

 

「いよいよ、これから始まるです……メダロットという存在、その命運をも左右しかねない一大事が」

 

 

 ツナギを着た少女は、いつかよりも随分と大人びた顔でクラスターの一室に潜んでいた。

 外は真っ黒な星の海。ヘブンスゲートからのトランスポート距離を既に離れ、地球の周回軌道を遊泳している。

 ……しかし、それもこれまで。これからこの「クラスター」は地球の周回軌道を離れる事になる。彼女が今属している集団、「スペースロボロボ団」による計画の一環だ。

 彼らはクラスターを乗っ取り、自分たちの船として使いたいらしい。勿論、彼女個人としての思惑はそれらロボロボ団らしい目的とは遥か遠い場所にある。

 

 

「―― シデンあにぃが憧れたもの。木星メダロットの使途。必ず、この船の中にいるはずなのです」

 

 

 既に事件は起こっている。それはいい。彼女が忠言しながらも、ムラサメが家として選んだ選択だ。因果が応報してくるのも、結果としては当然である。

 ただ、それによって「メダロット」という存在そのものが迫害されることだけはあってはいけないと、少女は使命感を燃やしていた。

 地球のメダロットは決して侵略を好む気性ではないと、ヘベレケ博士は身を持って証明してくれた。アキハバラアトムも、メダロット博士としての地位を持って保障をしてくれるだろう。確信はある。

 事態解決の見通しは、やはりたっていない。それでもあの失意の底にあった時と同じく、少女は動かずにはいられない質なのである。

 

 

「―― ユウダチ。運命の時間が来た」

 

「おっと……もうそんな時間です?」

 

 

 暗い研究室に入口からユウダチに声を掛けたのは、肩をはだけた少女。

 ユウダチと同年のこの少女は、スペースロボロボ団を主導(という形で利用している)カザンバイ教授と縁があることから、実働部隊の幹部として引き入れられた人物である。

 幹部としての名前は「街角のキリカ」。ユウダチにとっては長年来の知人であり、ヘブンスゲートに移住してからは、新たな友人でもある少女だった。

 呼びかけに応えたユウダチが入口を潜り、キリカの隣に並ぶ。キリカはどこか遠くを見るような目で虚空を見つめ、いつもの通り、小さく笑った。

 

 

「そう。ふふ……運命の人、見付かるかな」

 

 

 キリカは何かと運命という言葉を使いたがる。ただの口癖のようなものだが、彼女の神秘的な雰囲気や不思議ちゃん具合と相まっていると、どうにも不気味に感じてしまうのは仕様がないだろう。

 他愛ないいつものやりとりに、ユウダチはふと思い返す。

 運命という言葉は好きではない。敷かれたレールを歩くのはキライだと突っぱねたこともある。痛い目にあいながら、今度は自ら選び、再びレールの上を歩いている。この今を、運命という言葉1つで片付けられたくはないからだった。

 しかしやはり、ユウダチが「ムラサメの家」という括りに固執しているのは間違いない。幼少の頃に心配をかけた実兄や両親に、少しでも力添えをしたいという気持ちも存在している。

 生まれた以上は仕方が無い。キリカの言う運命とやらが本当にあるならば、ヒカルやナエ、カリンやイッキ達と出会えたことは、少女にとって輝かしい幸運であったのだろう。

 クラスターの内部を移動する。移動するに連れて、雰囲気が変わってきていた。

 

 

「ヨウハク、それにエトピリカとケイランも。備えておいてくれると嬉しいです。そろそろ木星のメダロットたちが現れる区画かも、です」

 

『心得ておこう、御主人』

 

『照準は外さねえでおくさ』

 

『了解ッピヨ!』

 

 

 メダロッチの中から、ヨウハク達が返答する。

 ここクラスターの内では、メダロッチの機能が著しく制限される。

 ロボトルもメダロット社の規則(レギュレーション)を離れ、5VS5のものが主流となっていた。この数は主に、メダロットの指揮範囲に由来する。しかしユウダチが開発していたメダロット達は、「始めからこの為に」機能を揃えられている。乱戦だとて十分な戦力が期待できるというもの。

 ユウダチ以外で、クラスターの内に潜む第三の勢力について知っている数少ない人員が、隣にいるキリカだ。一時の油断も許されない状況であると緊張を巡らせてはいるが、キリカはどうも危なっかしい様子。

 

 

「ふふ……ふふふ……運命……」

 

「ほら、キリカももう少し気をつけて下さいです……」

 

 

 そう言って、ユウダチは前も見ず(見えず)に歩いているキリカに注意を促そうとする。

 手を伸ばす。

 そして。

 

 

「ふふ……ふ?」

 

「―― うわっ!?」

 

「―― ちょっとカスミ!?」

 

 

 キリカが通路の角に差し掛かった瞬間、そこから飛び出してきた誰かとぶつかって尻餅をついた。

 元気な少女と、眼鏡をかけた気弱そうな……それでいてどこか芯の強さを感じる少年だった。

 その組み合わせにユウダチが懐かしさを覚える間もなく、眼鏡の少年は立ち上がる。立ち上がると、すぐさま、座ったままのキリカに向けて手を伸ばした。

 

 

「―― 大丈夫? というか、君たちはどこから?」

 

「……」

 

「どうしたカスミ。敵か」

 

「心配しないでグランビートル。ただの女の子だ。……えと……怪我とかはない……よね?」

 

「……」

 

 

 砲身が目を惹くRR社開発のKBT型メダロットとやり取りをしながら……カスミ少年の手は空を切る。少年に目を奪われたまま、キリカが頑として動こうとしないからだ。

 

 

「はいです。此方はだいじょぶです。ほら、立ち上がってください」

 

 

 しょうがないと、ユウダチはキリカの腰を抱いて持ち上げる。小声に「運命……」と呟いたのは、聞かなかったことにする。それは流石に、運命の安売りであろう。

 キリカを立たせると、ユウダチは向き直る。

 ……さて、これは、同時に困った事になったぞと。

 

 

「えっと……初対面、だよね。君の名前は?」

 

「わたしの名前はユウダチと言うです。この子は友人ですね。……貴方たちはもしかして、招待されていた中学生さん達です?」

 

「そうよ。わたしはヒヨリ。こっちがカスミね」

 

「と、いう事だね。宜しく、ユウダチ」

 

 

 優しげな笑みで、カスミ少年が手を伸ばす。ユウダチが握手を受け取ると、すぐに少年は考え込んだ。

 

 

「君たちは、年下……? だとすると、ロボトルリサーチ社の社員じゃあないよね……」

 

「いいえ、です。わたし達はこう見えてロボトルリサーチ社の社員なのです。ほら、これです!」

 

 

 証拠としてユウダチが自身の社員証を見せると、カスミとヒヨリの眼は驚きに染まる。実際にはキリカは違うものの、この場はこれで凌げるはずだ。

 

 

「わたし達は今、もう少し区画を解放しようと動いているんです。時は金なり。それではまた、機会があればお目見えしましょうです!」

 

「……」

 

 

 どろりとした人を引かせる笑顔を楯に、ばーっと捲くし立てると、カスミ達が止める間もなく、ユウダチ達は通路の奥へと身を翻した。

 結局、キリカの視線はカスミ少年から逸れる事はなかったが……この場ではキリカの名前は隠し通した。しかしいずれにせよ対面は避けられまい。なにせカスミは、目下スペースロボロボ団と対決をしている、中学生の筆頭であるからだ。

 ユウダチとしては、スペースロボロボ団も第三勢力に対抗するための戦力の1つ。いずれは肩を並べるにしても、今はまだ、時期尚早だと思われた。

 

 

「―― ふぅ、です」

 

 

 溜息を1つ。

 通路の窓から見える宇宙の闇は、どこまでも広がって見える。

 メダルの本能として侵略という機能はあるが、木星のメダロット達は違うもの。「マスター」がマザーとイコールであるのかは定かでない。そもそも只の自衛である。データを取られるだけならまだしも、中学生達をサンプルとして木星まで連れ去られるのは、人間の基準で言えばやり過ぎだった。

 

 

「ユウダチ。これって……運命?」

 

「貴方がそう思うなら、別に良いのですけどねー……いえ、良いのでしょうか……です?」

 

 

 再び嘆息しながら首を振る。

 完全に恋する乙女と化したキリカの変貌には驚きつつも、こうも人と成りを変えてみせるレンアーイには脅威を覚えたというのが素直な本音である。

 

 

「こうしていても仕方がないです ―― 」

 

 

 そう言うと、ユウダチは思考を取り直す。ケイタイに格納していた水晶型のヘルメットと、マントを取り出して身につけた。なぜか本衣装として採用されてしまった、スペースロボロボ団幹部としての正装である。

 ユウダチが変装を終えると、隣のキリカもそれに倣う。未だ近くに居るであろうカスミ達との偶発的な遭遇については、今後十分に注意しようと心に留めておいて。

 

 

「今はまだ、カザンバイ教授のご機嫌取りに付き合うですよ。わたしの目的は、まだ先にあるのです」

 

「……その時は、わたしも」

 

「はい。宜しくお願いするです、キリカ!」

 

 

 少女2人は、宇宙に浮かぶ船の中、通路の奥へと歩き去っていった。

 

 

 

 後日、宇宙テーマパーク「クラスター」の漂流は地上の人々を揺るがす一大ニュースとして報じられる。

 少年少女らを乗せ木星へと進行するクラスターの中。世間の騒ぎは何処吹く風ぞ。

 小さく芽吹いた「可能性」を目指し、ユウダチは暗闇の中を歩き続けた。

 

 

 

 ―― 行く先に光る緑の光。

 

 ―― 宇宙の果てから飛来した揺り篭の木々は、少女を、メダロットの意義を問う新たな戦いへと導く事になる。

 

 ―― 寸分違わず着地した結末。なんら変わらぬ道筋(ルート)の必然。いずれ訪れるそれらは、変わらないが故に語られることもない。

 

 ―― これは世界の何処にでもありふれた、メダロットと友人達のお話。

 

 





 どうも打ち切りエンドっぽいですがご心配なく(意味深
 これにて「ジャンクヤードの友人へ」、ノーマルエンドは一端の(・・・)終了となりますです。
 お付き合いくださりありがとうございました。

 3と4は宣言通り、本当に駆け足。とはいえ流れとして、語るべきことは語りました。ナンバリングの3と4は、どちらも触れ辛いのですよね……一貫性がないうえ、NAVIの時間軸と被るもので。ユウダチをリセットする訳にもいけませんし、話題だけを出すという形にさせていただきました。
 因みに時間軸は、3~4→NAVI→5&Gの順が確定しています。それを踏まえて今作では、3と4の間にNAVIを位置づけさせてもらいました。イッキの性格がかなりネックで、判断は難しいのですけれどね。4も経験しててNAVIの性格だったら、むしろ何か悲しくありませんかね……? いやそれも、アリカエンドだったらありえるのかも知れませんが……尻に敷かれてそうですし。

 以降、時間を置いてアナザールートを投稿します。主に最終決戦で空気化したっぽい女主人公、ユウダチに焦点をあてたものです。
 ソコまでが終われば、あとは大仰な追加も無く、投稿分の見直しに入りますでしょう。私の今までの素行から「時間を置いて」という単語に恐怖を覚える方もいるとは思うのですが、なるべく早く投稿したいとは(常々)思っているのです。はい。すいません。

 では、では。
 再三ながら、お付き合いくださりありがとうございました。
 またいずれ、本文の中でお会いできれば嬉しく思いますです。




・強制削除
 メダロット4の冒頭より、マジでやめろ。
 何かというと、「お前らはメダロットの育成が判っていない(要約)」とかいって新任の女教師にメダロッチの中をデリートされますので。
 システムリセットは主人公の常とは言え、これはいけない。普通に犯罪です。私だったらトラウマになります。
 いちおうバックアップはあるようで、もしかしたらエンディング後にでも返してもらっていたのかも知れませんが……2、3と来て4でこのリセットの仕方はあんまりですよ……。

・街角のキリカ
 スペースロボロボ団の幼女……ではなく幹部。
 仲間になると衣装の中身、つまりは素顔がみられるのですが、それが何とも驚かし。
 私がNAVI編を描いた場合は恐らく、彼女がユウダチの友人兼メインヒロインを担当しますでしょう。サブヒロイナーですので私。


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◆ メダロット・アナザー
◆1 支流




 あらすじ

 イッキ達はちまたを騒がせている「ゆうれい事件」の調査のため、おみくじ町の北側にあるおどろ沼へと向かっていた。

 セレクト隊の詰め所で休憩をしていたイッキ、アリカ、カリン。
 ひとしきり沼周辺の調査を終えて、姿の見えないコウジを探しに行こうという話になった。


 

 イッキ達の暮らすおみくじ町の北側、おどろ沼。

 人気に乏しいおどろ沼の休憩所、兼、セレクト隊の詰所の中。

 イッキと幽霊捜索という勝負を挑んだその癖勝手にはぐれてた(というか暴走していると言うか)コウジを捜索するため、若干名を別行動として捜索しようと言う流れになっていた。

 ……の、だが。

 

 

「それじゃあコウジを探しに行くのは……わたしと、アリカで良いです?」

 

 

 ユウダチが指定した人員は、ユウダチ自身とアリカだった。

 その覆い隠された無表情の奥に、どろりと笑う少女の違和感を垣間見た……様な気がして、イッキは少々考えを回す。

 ……少しだけ違和感を覚えるのは、気のせいだろうか?

 例えば、ここでユウダチとアリカに任せるのは簡単だ。ユウダチはロボトルはうまいし、そこらの野良メダロットに負けないだけの実力は持っている。しかしコウジの捜索は、幼なじみであるアリカの得意な案件ではない。だからこれは消去法による人選なのだろう。

 それは、と思うと同時。決定という流れになる前に割り込んで、イッキは素早く手を挙げていた。別たれた支流が、ここから流れ出す音がした。

 

 

「ねぇ、ユウダチ。コウジを探すなら僕も行くよ」

 

「? でも……です」

 

「ちょっと待ってて」

 

 

 ユウダチが口を開こうとするのを、イッキは手で制した。

 捜索のための人選の理由は明らかだ。主にそれは、隣にいる幼馴染の好奇心に由来する。この番記者幼馴染は好奇心が溢れ漏れ出していて、一つ所に留まっていられないのである。

 ただしかしその場合、結局はユウダチ1人でコウジを探す羽目になるだろう。アリカがフリーダムだから。

 ……それは何と言うか、イッキとしてはユウダチに迷惑をかけすぎている気がしてならない。なにより、コウジと勝負をしているのは他ならぬイッキ自身なのである。

 少しだけ前に進み出て、説得のために件の幼馴染に向き直る。アリカはちょっと頬を染めている。それはそれとして、イッキはいやに真面目な顔で説得を試みる。

 

 

「……あのさアリカ。スクープを探したいのは判るけど、今はここでカリンちゃんを見ていてくれないかな。じっとしてられないのは判るけど、どうせコウジを探して戻ってくるだけだよ? 自由には動けないじゃないか」

 

「む……まぁ、そうね。イッキがそう言うなら、今日取った写真の整理でもしながら一緒に休んでる事にするわ。それじゃあ宜しくね、カリンちゃん」

 

「えっと、はい。お願いしますわ、アリカさん」

 

「うんうん。ほら、あっちの座敷のほうに行ってましょう」

 

 

 説得を受諾したアリカは、カリンを引き連れて休憩所の奥の方へと移動していった。

 明朗な幼馴染故に、何を中心として動いているかが判りやすい。この性分に引っ張られて助けられた事も、助けた事も、今まで幾度となくあった。幼馴染と言うのはそういうものである。

 手馴れた風味にアリカを宥めたイッキが戻ってくると、ユウダチは小さな手を叩いて拍手をしていた。

 

 

「おーぉ。イッキ、見事なお手並みです!」

 

「まぁ、アリカとは長いからね……。それよりほら、アリカが写真を整理し終える前に、さっさとコウジを探してこよう」

 

「はいです!!」

 

 

 兎に角、これで心配は無用だろう。

 元気良く飛び跳ねるユウダチに先導されて、イッキは休憩所を後にした。

 

 

 

 ◇⊆

 

 

 

 子ども2人で山を探索すると言う事態に思うところが無いでもないが、今はコウジを探すのが優先である。

 山に入って最も注意するべきは、「野良メダロット」と呼ばれるマスターを持たないメダロットの存在だ。

 かつて在ったメダロットの暴走事件「魔の10日間」の後、メダロットの所持にはマスター登録が義務付けられた。その過程で捨てられたメダロット達が山などに追い立てられ、いつの間にか自生し始める。それが「野良メダロット」という名の由来である。

 とはいえ実の所「魔の10日間」は転機となった事件というだけで、山間や海など、野良のメダロットは元から自生していた(メダロットは食物を必要とはしないため、この表現は微妙だが)……と、ユウダチは語る。

 

 

「あくまで社会問題として浮き上がったのが、あの事件の後だというだけなのですね」

 

「へぇ……」

 

 

 隣を歩くユウダチの解説を聞きながら、2人はおどろ沼を遡って中流へと歩を進める。

 情勢にいやに詳しいが、ムラサメ・ユウダチという少女は件の「魔の10日間」を解決した人物の片割れであるという。その前後の事情にも詳しいのは当然といえば当然だ。

 加えて彼女はメダロット社に籍を置き、メダロットのパーツに関する研究をしているのだそうだ。現在の開発内容については社外秘らしいが、メダロットという界隈について知識は並以上に持っているに違いない。

 そんな風に解説を受けつつ、納得しながら進んでいくと、徐々に足場が悪くなってきていた。川が枝分かれし始め、ぬかるみも増してくる。

 

 

「ここから先は、ちょっと危ないかもね……」

 

「うーん……ですが今回の事件は恐らくメダロットによるものでしょうから、いずれにせよこの先にも入りたい所です」

 

「……えっと、メダロットによる事件?」

 

 

 ユウダチの突然の推理に、イッキとしては驚かざるを得ない。

 発言にある「今回の事件」というのは、おどろ沼における幽霊事件で間違いないだろう。イッキがコウジとの(半ば無理矢理な)勝負の対象としていたそれである。

 その黒幕がメダロットによるものだと、ユウダチは言ったのだ。メダロットの仕業だと見当が付きながら、これまではセレクト隊などの公的機関に話すことなく、事態を見守っていたという事になる。驚くのは当然だろう。

 説明が欲しい、と顔に出していたに違いない。泥濘の中に足を突っ込みながら、ユウダチは「メダロットの仕業である」という考えについての順序立てた説明を始めてくれた。

 

 

「えーっと、まず、イッキは幽霊を信じてるです?」

 

「うーん……見たことはないけれどね」

 

「あははー。それはそうですね。ですが、メダロットならば色々と納得できるですよ? 浮遊脚部を使えば宙に浮かぶ、隠ぺいパーツを使えば姿も消せる、索敵パーツどころか内蔵のセンサーがあれば夜道もなんのそのです」

 

 

 言われてみれば、とイッキはこれまでに聞いた幽霊騒動の内容を思い返していた。

 ただの幽霊騒ぎであれば、それは噂に過ぎず、すぐに話題が治まっていてもおかしくはない。

 だのに、騒動が一介の噂を飛び越えて世間に広がっているのには理由がある。実際に起きた事件として、「メダロットのパーツが奪われているから」だ。

 ……そう考えると、この流れから思い当たる点が1つ。

 

 

「あのさ、ユウダチ。もしかして……」

 

「はい。わたしはこれ、野良メダロットの仕業だと考えてるです」

 

 

 パーツを集めている理由については詮索しづらいですけれど、とユウダチは付け加える。

 ぬかるみから跳ねた泥をツナギで拭いながら、そのまま、顔を苦笑に変えて。

 

 

「だから、実は、あまり公にはしたくなかったのですよ……」

 

「ええと、だから僕たちにも黙っていたってことかな?」

 

「はいです。コウジに付き合わされてしまったイッキ達には、申し訳なく思うですが……本当は1人でどうにかしようと思ってたです。どうやらイッキには勘づかれてしまったようですので、こうして手伝って貰ってるですが」

 

 

 ユウダチはそういって頭を下げた。イッキとしては自分から頭を突っ込んだ形なので、気にしないでと手を振ってみせる。

 公にしたくないという気持ちは、イッキにもわからないでもない。野良メダロットが事件を起こしたとなると、大ごとになる……世間的に騒がれてしまうのが目に見えているからだ。

 もう何年も昔の事件ではあるが、魔の10日間という事件が世間にもたらした衝撃というのはとても大きなものだった。今でも報道番組などで名前を頻繁に聞くほどである。一般的にはそうでもないが、社会から見たメダロットの立場というのは、とても窮屈な位置にある。

 メダロット大好きなイッキとしては、友人的な立場でもあるメダロット全体の心証を悪くするのもなぁ……という部分において、ユウダチに共感できた。どうせパーツを巻き上げられているのは大人ではなく、殆どが忠告も聞かず肝試しに山奥まで足を踏み入れた子供のものであるのだからして、自業自得といえなくもない。加えて、そんな事件に対して保護責任を怠った大人ばかりが声を荒げて怒っている現状もどうなのだろう。違和感というか、あきれた感がある。

 

 

「そこまで事件を調べているってことは、幽霊メダロットの場所も見当が付いていたり?」

 

「ええ。そうそう、丁度この辺りに……」

 

 

 イッキとユウダチが橋を渡り、足元に流れる勢いの増した川を越え、今度は岩肌に囲まれた狭い道に差し掛かった時だった。

 

 

「―― んばぁっ!!」

 

「うわぁぁーっ!?」

 

「うわはぁ」

 

 

 突如、目の前に白い体の浮遊する何がしかが現れていた。

 驚き声をあげぴょんと跳ねた、イッキ。その横で緊張感のない驚き声をあげる、ユウダチ。

 

 

「ほーら、怖いだろー! パーツを置いてったら……」

 

 

 しかし驚き声の次に、恐怖は伴わなかった。

 目の前に現れ必死な様子でパーツをねだるメダロット自身が、満身創痍……ぼろぼろの状態だったからだ。

 

 

「えーと、その……パーツはあげるよ。でも、君は大丈夫なの?」

 

「うエッ!?」

 

 

 思わず気遣う言葉をかけたイッキに、幽霊メダロットが奇妙な声。

 ほう、とユウダチは何故かイッキの様子を興味深そうに眺めているが。

 

 

「君自身のパーツがぼろぼろじゃないか。浮遊脚部の平衡機能(バランサー)も安定していないみたいだし。油は差してる? ティンペットは見てもらってる? 君のメダロッターは?」

 

「う、え、エト……」

 

 

 続けざまに繰り出されるイッキの怒濤の()撃に、幽霊メダロットもたじたじである。

 

 

「イチオウ、パーツは修理して貰ってルけど……」

 

 

 おびえるように戸惑うように、答えた幽霊メダロットが振り返る。

 

 振り返った先には、洞窟。

 そしてその洞窟の中から、ぬっと、大男が歩み出てきた。

 

 男の格好はとち狂った全身タイツだ。しかも黒い。頭には先の丸まった黄色い2本角。

 

 

「ああ。……コウジを探していたら、元凶に巻き込まれてしまったですか。うーんむ、仕方が無いです。少しだけ茶番に付き合ってくださいです、イッキ」

 

「え?」

 

 

 訳知り顔で頷いたユウダチの方を見るイッキ。しかしその表情はいつものユウダチ。「何も聞くな」の一点張りである。

 ……どういうことなのかは、この後にでも説明してくれると嬉しいのだが、それはともかく。

 イッキにも理解できる。目の前の全身タイツの大男は、どう見ても敵だ。そして恐らくは元凶だ。敵意というものが見えるとしたら、この場一帯ががつりと埋め尽くされていることだろう。大柄の威圧感もあるので、尚更である。

 

 

「―― ふむ。うるさいセレクト隊ではなく、レトルトの(ヘンタイ)でもなく、小童どもか。どれ。ワシらの事を嗅ぎつけた褒美とやらに、相手をしてやろうかの? お前さんは下がっておれ」

 

「う、ウン……」

 

 

 声の聞こえる距離まで近づいて、大男はそう言葉を発した。

 おびえて消えた幽霊メダロットの前で、メダロッチを掲げる。

 反射的に、イッキもメダロッチを掲げ。

 ユウダチだけが何故か銀色の……旧式のメダロット端末である「ケイタイ」を掲げ。

 

 

「メダロット!」

 

「―― 転送ですっ!」

 

 

 同時に、自らのメダロットを呼んだ。 

 

 

「やるぞ、メタビー!」

 

「おう! ぶっ飛ばしてやらあ!!」

 

 

 純正KBT(カブトムシ)型「メタルビートル」のパーツで組み上がったメタビー……ではなく、右腕にだけ。先日コウジのサーベルタイガーを原型(モチーフ)としたスミロドナットから勝ち取った大爪「フレクサーソード」を装備したメタビーがイッキの前で銃口を持ち上げ陽気に叫ぶ。

 そして、その横。

 ユウダチの目前に、イッキが未だ見たことのない、カミキリムシ型メダロットが剣を構える。

 

 

「―― 呼んだか、御主人」

 

「はいです。ロボトルですよ……ヨウハク!」

 

 

 ヨウハクと呼ばれたメダロットは(彼の言葉を借りて)「ご主人」の前に立ち塞がり、ゆるりと力を抜く迎撃態勢を取った。

 カミキリムシを模したメダロット、エイシイストのパーツは格闘攻撃に秀でている。ヨウハクと呼ばれた個体のメダルは……パーツから察するにクワガタだろうか? 速度を重視した格闘攻撃は得意だったはずだが。

 

 

「出でよ、メダロット!!」

 

 

 相方であるユウダチのメダロットに思考を割くイッキの、その向かい。

 叫んだ大男が転送したメダロットは ―― なんと3体。

 

 

「も^しー・も^しー」

 

 

 クラゲ型メダロット、プルルンゼリー。確か射撃……特に追尾機能に優れた「ミサイル」を得意とする機体。

 何故か壊れた機械音声の様な「もしもし」を繰り返し、かくかくと動いているが。

 

 

「ぶっふぁ。猪突猛進」

 

 

 イノシシ型メダロット、ダッシュボタン。護衛と頭部の「完全防御」がやっかいな援護機体。

 何故か廃熱の度にぶっふぁと音がする辺り、廃熱機構に問題でも抱えているのかも知れないが。

 

 

「―― ぬん。今宵はマリンスノーが美しい」

 

 

 そして水場から顔を出した、ダイオウイカ型メダロットのアビスグレーター。

 何故か水中から出ているのは頭だけ。マリンスノーがどうとか言っているが、おどろ沼にそんな水深はない。

 

 

「ロボロボ団幹部シオカラ! そしてイッキ君とユウダチさん! 両者、合意とみて宜しいですねっっ」

 

 

 どうやら出そろったらしい事を嗅ぎつけ、ざばり。沼の水をかき分けたミスターうるちが現れ、仕切りを始めた。沼だけに、カッパを模した皿と甲羅がポイントだ。

 ……ちなみに。個人名はメダロッチに登録されているため、メダロット社の審判員が知っているのも判る。だけどシオカラという名の男がロボロボ団幹部だと判るのは、どういう仕組みなのだろうか。

 …………審判員なので幹部を実際に見たことがあるのかも知れない。なら納得か。ミスターうるちについては考えるだけ無駄なのだろうと、イッキはそう結論づけておく。シオカラ本人も身バレしたというのに、さして気にした様子もない。気にしたら負けなのかも知れなかった。

 

 さて。

 イッキのメタビーと、ユウダチのヨウハク。

 対するシオカラは3機のメダロット。

 数の差。劣勢。そういった要素を全てぐっと握った拳に込めて突き出し、ユウダチが口を開く。

 

 

「ふっふっふ……行くですよっ! ロボトルっ……ファイトですっっ!!」

 

 

 台詞を取られたミスターうるちが愕然とするのも気にせず。

 それら難敵を目の前にして尚、嬉しそうにどろりと微笑んでいたのが。

 ……自分の笑顔を覆い隠して、視線を逸らしながら微笑んでいたのが、イッキにとっては印象的だったりした。

 





・プルルンゼリー
 「もーしーもーしー」。字面はわざと^。
 僕らのウォーゲーム……の、次の作品で現実世界に増殖する容量削減クラゲ型モンスター……が、集まって出来上がった究極体……の手前の、わらわら増えるくせ左腕のキャノンで一掃される究極体……が、世界を股にかけて遊んでいた場面より。やっぱり場面的にはウォーゲーム内だった。
 こう書いてみると関連性は薄かった気もする。バージョン共通のシオカラの僚機。


・アビスグレーター
 クワガタバージョンにおけるシオカラのメダロット。

・ダッシュボタン
 カブトバージョンにおけるシオカラのメダロット。
 せかいの ほうそくが みだれる。
 つまりはそういうことです(ぉぃ。

・ぬん
 メダロットの個性を振り切ったものにするのは良いですし好きなのですが、そればっかりだと胃もたれする気がします。
 個性はかなり即興で考えているので、作者的なネタ切れなのかも知れませんけれども。




 202200527 書き方変更のため、前書き追加。


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   そして境目

 

 ヨウハクとは、先ほどオーバーホール中と話していた機体ではないのか。そんな事を考えながらも、ロボトルは開始されている。まずはそちらに集中すべきだろう。

 リーダー機をメタビーに任せたかと思うと、ユウダチのメダロットであるヨウハクは一目散に敵陣へと切り込んでゆく。

 狙いは援護機体、ダッシュボタン。

 

 

「―― ツェア!」

 

「ぶっふぁ!?」

 

 

 装甲の厚い戦車型の脚部であることを利用して、速度に勝るヨウハクは怒濤の連撃を仕掛けた。

 左の「殴る」攻撃、ハンマー。右の「がむしゃら」攻撃、ソード。

 反撃できない防御機体を狙っているのもあり、容赦が無い。ダッシュボタンの右腕が弾け、胴体が切り裂かれ、なんと、一撃で両腕のパーツまでも切り裂いて見せた。

 凄まじいまでの速度に、しかし、イッキも見とれてばかり居るわけにはいかない。

 

 

「メタビー、僕達はクラゲ型を狙うぞっ」

 

「判った! ……おらっ、こっち向きやがれっ!!」

 

「も^しー・も^しー」

 

 

 メタビーがガトリングの雨を浴びせかけると、プルルンゼリーも(リアクションは変わりないが)たまらないという風にメタビーの側を向いて防御を始めた。

 プルルンゼリーも重装甲、タンク型の脚部をもつ純正一式。格闘型の回避能力を無視できる「ミサイル」攻撃持ちを引きつけておくのは、メタビーの役目だろう。

 自分の身体で射線を切りながら、メタビーはミサイルの充填を始める。

 

 

「くらいやがれっ ―― 反応、弾っ!!」

 

 

 プルルンゼリーの充填より早く、メタビーの攻撃。

 2つのミサイルが頭上の砲塔から飛び出して、しかし。

 

 

「ぬん。隙だらけ ―― である!」

 

「んなっ!?」

 

 

 それらは、アビスグレーターが射出したミサイルによって対迎撃を受けていた。

 ぼぼんっ、と誘爆を果たした煙の中から、今度はプルルンゼリーのミサイルが飛び出してゆく。

 

 

「も^し^」

 

 

 両腕に遊園地の乗り物のようにぶら下がったミサイル全てが、射出。

 弾頭の雨は、驚くメタビーの横を抜け。

 

 

「む ―― くっ」

 

 

 狙われたヨウハクは、それら全てを回避できる針の穴を通すような位置で身体をちぢ込めるも。

 

 

 ―― ボボボボ、ボウンっ!!

 

「ちぃっ……爆風かっ」

 

 

 それでも、着弾したミサイルの爆風によってパーツに熱傷を負っていた。

 ヨウハクはすぐさまその場を飛び退いたが、爆発の衝撃でまくれた泥が全身に付着し、ぶすぶすと焦げたパーツスキンが凄まじかった爆発の余韻を残している。

 

 

 

「いけるですかっ、ヨウハク」

 

「慣れていないパーツだが、まだ何とかなるだろう ―― カブトムシ!」

 

 

 屈んだまま、ヨウハクは声を荒げた。メタビーをご指名である。

 メタビーはコミュニケーションモニターに、きょとんとした顔を浮かべた。

 

 

「オレか?」

 

「ああ。クラゲ型を押さえるのを任す」

 

「そりゃ良いが、あのイカはどうすんだよ」

 

「元より私が2機分をこなす積もりだ。その分は……」

 

「あーくそ、わぁったよ。オレがクラゲをやっちまえばいいんだな?」

 

「……倒せとは言っていないが」

 

「やれるっての。そうだよな、イッキ!!」

 

 

 わざわざメダロット同士を指定しての会話から、矛先はイッキへ。

 やれると語ったメタビーの言葉の意味は伝った。先日、ギンジョウ小学校がコウジらの襲撃を受ける前、スクリューズを撃破して見せたメタビーの謎の技……「メダフォース」を使うと言うのだろう。

 

「(うーん、どうやって使うのかは、まだはっきりとは判らないんだけど……)」

 

 目を落とすイッキ。メダロッチを通して表示されるステータスの内に、先日から、謎のゲージが追加されていたのには気づいていた。恐らくはこれがエネルギー源なのだろう。

 このメダロッチは、イッキの父がメタビーと共に持ってきてくれた新型だ。「メダフォース」という名付けは通い詰めている研究所のメダロット博士によるものだが、これも新しい機能なんだろうな、とだけ考えていた。

 いずれにせよゲージはまだ溜まりきっていない。それでもメタビーがやると言ったのだ。幽霊メダロットを酷使していたのは、恐らくはこのロボロボ団。メタビーの声に、ユウダチの考えに、ヨウハクの意思に答えたい。これらは紛う事なきイッキ自身の思いである。

 

 

「……なら決まってる。やるぞ、メタビー!」

 

「おうよ!」

 

 

 メタビーが再び「サブマシンガン」の銃口を持ち上げたことで、じりじりと均衡していた戦局が再び動き始めた。

 陣形を整え終えたシオカラが、メダロッチに向けて叫ぶ。

 

 

「仕掛けい、くらげ(・・・)! ないと(・・・)!」

 

「ぶっふぁ!」

 

「も^しー・も^しー」

 

 

 動き出したのはプルルンゼリー、そしてダッシュボタン。

 ダッシュボタンはプルルンゼリーの斜め前方を位置取り、いつでも援護に入れるよう残った頭パーツを突き出している。前傾姿勢もあって、これはかなりイノシシっぽい。

 その奥で、アビスグレーターが橋の横……水の中に再び身を沈めたのが見えた。

 

 

「だらああーッ!」

 

「ぼっふぁ、ぶっふぁ、ばっふぁ!」

 

 

 迎え撃つ。

 メタビーがプルルンゼリー目掛けて繰り出すガトリングの雨を、防御しながら前へ前へと射線を切ってゆくダッシュボアが「完全防御」してゆく。

 

 

「も^・も^・も^しー・も^しー」

 

「だぁっ、うっとうしいんだよ、コンニャロー!」

 

 

 機械音声と共に降り注ぐ、ミサイルの雨。

 メタビーは蹴り上げた脚部と左腕で防御を行い、頭パーツにもダメージを負いつつ、何とか耐え凌ぐことに集中する。

 爆発の中を、また一歩、前進。

 狙いの通り、ダッシュボタンが目前に迫っていた。

 

 

「―― 食らえやっ!!」

 

 

 待ってましたとばかりに、メタビーが右腕の大爪を振り上げる。

 完全防御は援護の時以外、例えば自分が狙われた場合などには機能できない仕組みの物だ。

 反動などものともしない、高威力の格闘攻撃。振り上げ、振り切った爪と同時にメダルが弾けた音が響く。

 

 

「ぶっふぁ」

 

「ダッシュボタン、戦闘不能!」

 

 

 職務をこなすミスターうるちが腕を振り上げ、戦闘不能を告げる。

 これで2対2 ―― と、勢い勇んでイッキが顔を上げる。

 シオカラは動じていない。サングラスで表情が判らないだけかも知れないが。

 

 

「―― ふむ、やれい」

 

 

 腕を組む全身タイツ、シオカラの視線の先。

 ちょんまげ、イッキの視界の外。

 

 

「ぬん。陰となりて敵を討つ」

 

 

 橋を挟んで向こう側で、ちゃぷんという音と共に潜水型メダロットが顔を出していた。

 アビスグレーターはがむしゃら攻撃によって無防備になったメタビーに頭パーツの銃身を向ける。弾数が少ない代わりにメタビーのそれよりも高い威力を持つ、ミサイル攻撃を。

 イッキがその砲撃に気付いた時、既にメタビーはミサイルを防御できない体勢だった。

 

 ただそこへ、一筋、侍の様に右腕を構えたメダロットが割り込んでゆく。

 

 

「―― 着弾点が決まっているのならば、迷うことはない!」

 

 

 メタビーを狙ったミサイルが、真っ二つに。

 半身のまま刃で弾頭を切り捨てたエイシイストは、そのまま、水場へと直進する。

 ひと飛び、ふた飛び、推進力を全て体重に乗せて。

 

 

「ぬん ―― この身に替えても!」

 

 

 高速で迫るヨウハクへ向けて、アビスグレーターは両腕を持ち上げた。

 メダルが発したエネルギーをたたき込み、両腕を暴走させる。破壊力だけを前方に向けて射出する、「サクリファイス」攻撃だ。

 

 カミキリムシとダイオウイカ。

 メダロットが交錯した次の瞬間、イッキの耳にはぼぼん、という爆発音だけが届いた。

 それはアビスグレーターが「サクリファイス」の反動で両腕を爆発させた音で、しかし、それ以外の音は響かなかった。

 すれ違いざまに頭を切り裂いたエイシイストが、水に浮かぶアビスグレーターの頭を踏みつけて岸に飛び乗り、残心。

 

 

「―― カブトムシのミサイルを対迎撃した熟練度からみるに、お前が幹部シオカラの言う『くらげ』だったのであろう。私の迎撃に、得意の火薬ではなく、慣れない犠牲攻撃などを使ったのが運の尽きだ」

 

「ぬん。無念」

 

 

 アビスグレーターがおどろ沼の水辺にぷかりと浮かぶ。

 ミスターうるちの声を待つまでもない。残るは1体、メタビーの銃撃によって装甲を削られたプルルンゼリーのみ。

 イッキの切り替えは早かった。メダロッチに表示されたゲージが、先ほどのミサイルの雨によって満タンになったことを示している。

 あの「メダフォース」の名前は決めていた。イッキはメタビーに向けて、とどめの指示を飛ばす。

 

 

「メタビーっ、『一斉射撃』!!」

 

「おうよっ ―― んだらぁぁぁぁーーーッ!!」

 

 

 頭と左腕の射撃パーツからエネルギーをかき集め、それでも尚溢れるエネルギーが待ちきれないとばかりにカブト虫の角へと集まり。

 名前そのままの威力でもって束ねられた光が、一方向へ向けて放たれた。

 びり、と。

 

 

「……あれは……」

 

 

 ユウダチが驚いたような顔をしていた気もするが、結末は変わらず。

 轟音と共に、メタビーの「一斉射撃」がプルルンゼリーのパーツを纏めて撃ち貫いた。

 ミスターうるちが快哉をあげ、びしり。

 

 

「戦闘不能っ! 勝者、イッキ&ユウダチチーム!!」

 

 

 ちなみに。

 ミスターうるちの声を待たずして、老人とは思えぬほどの素早さで脱兎の如く逃げ出したシオカラはご愛敬である。

 

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 

 ロボロボ団幹部を撃破した後、コウジは中流で発見された。

 イッキとの勝負は引き分け。再試合の持ち越しとされた。コウジの負けず嫌いが、遺憾なく発揮された形である。

 コウジが見つからなかった理由だが、どうやら山を散策中に、スクリューズというイッキと同じ小学校の悪ガキ3人組に絡まれていたらしい。幽霊を倒してパーツを取り戻せば、スクリューズの名声うなぎ登り! という算段である。コウジを邪魔した理由も、名声独り占め! という欲望丸出しの考えであろう。それが運の尽き。もちろんスクリューズの彼ら彼女らは、コウジにロボトルで蹴散らされたわけだが。

 そしてもちろんコウジは、それなら連絡を入れろと、ユウダチとカリンと自らの母によるお説教を受けもしたわけだが。

 

 

「ねえ、ユウダチ」

 

 

 暗くなり始めた夏の夕方。メダロポリスとおみくじ町の境目。

 道中に家があるアリカを送り、迎えの黒塗りの高級車に乗り込んだコウジとカリンを見送ってから、イッキはユウダチを呼び止めていた。

 ユウダチはどうやら、メダロポリスにあるメダロット社に近いアパートで一人暮らしをしているらしい。だからコウジ達とは帰り道も別々。「ミニハンドル」というパーツの試運転を兼ねての帰宅。

 ……だが、そこを呼び止められて、ユウダチは不思議そうな顔を浮かべてみせた。

 

 

「? なんです、イッキ」

 

 

 笑顔ではない。ただ、決して無表情でもない。

 好奇心は抑え切れていないが、興味を隠すつもりもない。

 そんな、少女然とした印象の顔だ。

 

 

「ううん。えっと、ちょっと聞きたいことがある、って言うか……」

 

 

 呼び止めたのは他でもない、今回のおどろ沼における事件にまつわる内容についてである。

 シオカラを撃退し、幽霊メダロットの修理をメダロット博士に任せた後。イッキは「この件については誰にも話さないで欲しい(です)」と、ユウダチからお願いをされていた。

 とはいえ子細も語らず協力だけしたのでは締まりが悪い。気になるので、聞けることなら聞いてしまおう。そういう感じである。

 

 

「ん、んんー……話すには、ちょっと説明が必要なんです」

 

 

 雰囲気を察したのだろう。アリカもカリンもコウジも居ないので、周囲を気にする必要も無い。それでもやや躊躇った様子で、ユウダチは傾いだ。

 

 

「あ、えと、無理には聞かないよ?」

 

「うーん……でもでも、今回の事件で手伝って貰ったイッキに隠し事をしたままなのも具合が悪いですし……」

 

 

 そういう部分も含めて無理には聞かないと言ったのだが、どうやらユウダチは几帳面な気性であるらしい。

 

 

「なら、そうですね」

 

 

 ユウダチはうんうんと暫く悩んだ末に、ぽんと手を叩く。

 くるりと回る。腕を思いっきり持ち上げる。表情に反して、リアクションが豊かだ。

 持ち上げた腕の先で人差し指を立てると、つついーっと、ご機嫌な様子で南側を指さした。

 

 

「イッキ。明日、海へ行きましょうですっ!」 

 

 





・爆風
 初代メダロットにおける「ミサイル」「ナパーム」を回避した際に起きた現象。威力は減衰している。以降のメダロットでは「火薬」攻撃は必中扱いとなった。
 必中扱いはちょっと……。ゲームならではかと。とはいえ熟練度の差があったからこその芸当です。


・メダフォースゲージ
 ダメージでも溜まる、新世紀のメダロットに近い仕様。
 元々が一発逆転の為の(もしくは攻撃パーツが全壊した時の最終手段(わるあがき))手管なので、此方の方がロマンがある。
 ただし其処に(残念ながら)ロマンスはない。

・3対2
 初っ端、シオカラのフルメンバーがご相手。
 お察しの通り、このルートは茨の道です。



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   海の先に

 

 

 移動にも結構な時間を費やした。

 慌ただしく準備を始めて翌日。イッキはユウダチが用意してくれた「かぜのつばさ」という外付けパーツと「レディジェット」というメダロットのパーツを纏ったメタビーに捕まって、東へ東へ。

 自身が住まうおみくじ町からはかなり離れた位置にある町、リュウトウ町へと到着する。

 

 

「それで、ユウダチが行きたいって言っていた海はどっちなの?」

 

「南側に出れば海岸に着きますね。少し歩きましょうです」

 

 

 イッキはそう言ってメダロット用の発着場の入り口から先を指さすユウダチの横に並び、町中へと足を踏みいれる。

 リュウトウ町といえば、最近開発が進んでいる研究都市である。リュウトウ学園を中心とした学園都市でもあり、メダロット研究者が集う第二のメダロポリスとして注目を浴びている……という広告を、イッキも目にしたことがある。

 こうして町中を歩いているだけでも、区画整理され高層の建物が並ぶ様は、まさしく第二のメダロポリス。

 とはいえ、ユウダチが目指しているのはこの町の南側。海である。果たしてそこに何が……と考えている内に、舗装されていた道路が終わる。

 堤防の階段を上りきると、一気に視界が開けた。

 

 

「うわあ……凄くきれいな場所だね」

 

「ですね。お金持ちの方向けのリゾート地としても機能するよう構想された海岸なんです、このウミネコ海岸は」

 

 

 おみくじ町の西側にも海は面しているが、こんなにも整備された砂浜というものを見るのは初めてである。

 リュウトウ町自体が開発中であり、リゾート地としての勧誘広告は最中と言うこともあり、人が少なく真っ白な砂浜は感動を覚えるのに十分な物であった。

 

 

「でも今は、もう少しあちらへ注目して欲しいのです」

 

「あっち……って」

 

 

 砂浜から西へ、西へ。

 視線を逸らしてゆくと、そこには、遙か青空の上にまですうっと伸びる黒い線。

 

 

「あれは確か、軌道エレベーター……だよね?」

 

「はい。くらげ海岸沖から伸びる、多国籍軌道エレベーターです。あの中途に、これからメダロット社が本籍を移す予定の『ヘブンスゲート』がありますです」

 

 

 ヘブンスゲート。イッキが知る限り、軌道エレベーターの中間点に作られた空中都市であったはずだ。

 今年の末には総理官邸がヘブンスゲート内へ移動し、メダロット社の取り締まりであるニモウサク・ユウキ氏も邸宅を持ち。そして其処は、同時に、宇宙開発のための最前線となっているとも。

 海岸線を一望できるベンチにまでたどり着いた所で、ユウダチは立ち止まった。

 ベンチに腰掛ける。腰掛けたその隣を、ユウダチは丸めた手のひらでぽんぽんと叩く。

 

 

「さて、それではお話を始めましょうです。……えーと、まずは、イッキの質問に答える形にするです?」

 

「そう……かな。うん」

 

 

 そう話しかけられ、イッキはベンチに、ユウダチの隣に腰掛ける。

 ユウダチは視線を逸らしている。その横顔へ向けて。

 

 

「どうしてユウダチは、幽霊メダロットの事件の犯人を知っていたの?」

 

「その質問への答えは、わたしは事前に幽霊メダロットの一件について情報を仕入れていたから、となるです」

 

 

 ユウダチが即答。

 しかし質問は続けられる。どうやって。

 

 

「……流れは簡単ですね。わたしがロボロボ団の母体となる組織の1つに潜入スパイをしているから。実は幹部もどきも勤めているですよ」

 

「ええっ!?」

 

「とはいえ今回のおどろ山におけるパーツ強奪事件は、幹部シオカラの独断専行だったのです。お小遣い稼ぎみたいなものですかね? ……その作戦を許したお上(・・)的には、セレクト隊や世間の注目をおどろ山へ逸らすのが目的といった所でしょうか。何せ今、メダロポリスではあれ(・・)の発掘が進められていますからね」

 

 

 未だ返答の衝撃が収まらぬ内に、ぶつぶつと呟きながら、ユウダチは次の質問をと促してくる。

 イッキは必死で考えつつ質問をとばす。

 

 

「それじゃあ……ユウダチはなんでロボロボ団に潜入なんてしているの?」

 

「理由は1つ。ロボロボ団にとても凄い研究者がいるのです。わたしが裏からロボロボ団幹部の『縁の下』を行うのと引き替えに、その人から色々と技術を貰って、メダロット社で試しているです。つまりわたしは、多重スパイという奴ですね」

 

 

 ……それは。

 

 

「それは、えっと……」

 

「ええ。悪いこと、悪事ですね。メダロット社の上司からは了解を得ていますし、その凄い研究者さんもOKは出しています。ロボロボ団の……犯罪組織の活動も、結果的には阻害しているですが、事前に防ぐことはしてないです」

 

 

 ユウダチの視線はまだずっと、ヘブンスゲート行きの軌道エレベーターに向けられている。

 

 

「社会的な刑と罰。プラスマイナスで言えば、もしかしたら、ゼロに出来るだけの貢献はしているかも知れません。損得でいえば、損した分の得は与えられているかも知れません。ですがそういう勘定は許されませんよね。特に人と人との繋がりで出来上がっている、この場所では……」

 

 

 だからこそ、この場所を選んだのだろう。

 万が一にも、他の誰にも、聞かれはしないように。

 ユウダチはイッキだけに向けて、続ける。

 

 

「それでも、わたしにはやりたいことがあるんです。成し遂げたいことがあるんです。社会的な悪と見なされようと守りたい物、守りたい人達がいたんです。まぁ、おどろ沼のあの事件に偶発的に巻き込まれただけのイッキに話すには、重い内容でしたね。ごめんなさいです、イッキ」

 

 

 ぺこりと頭を下げるユウダチの顔は、ちょっとだけ晴れた様子だった。

 メダロットが大好きな少年、テンリョウ・イッキ。メダロットが大好きなだけの、ただの少年だ。何も力になれた気はしない。謝られるだけのものもない。ごめんなさいと語る少女に、かけるだけの言葉を持ち合わせていない。

 ……そちらには、今は触れなくても良いと言うことなのだろう。

 

 

「……・でも……・」

 

「……・」

 

「でも、コウジは見つかった。パーツも、元の人達の場所へ返った。ロボロボ団に利用されていた幽霊メダロットのヤナギは犯人だって晒されることもなく、修理を受けることが出来た。それは良いことなんじゃないのかな。さっきのユウダチの言葉を借りるなら、マイナスが続くよりは、絶対に」

 

 

 ただの少年として思ったことを口に出す。

 言葉をかけられたユウダチは、ちょっとだけ目を瞬かせて。

 

 

「です……かね。……そうだと良いのです」

 

「うん。ほら、怪盗レトルトだって犯罪者だけど、世間的な評価は良いじゃない? 悪い組織に相対するなら、やっぱりそれは好意的に受け止めらるんだと思うけど」

 

 

 イッキがなんとなしに言ったこの例えは、しかし、ユウダチにとっては意外にもしっくりくるものだったらしい。

 今度は思いっきり目を見開いた後、どろりと笑った。

 

 

「あっはは! ですね、そうですね! レトルトなら、わたしは格好良いって思います。イッキもそうですか?」

 

「うん。レトルト格好良い!」

 

「レトルト格好良い、です!」

 

 

 ひとしきり笑い合う。周囲に誰も居ないのは幸いだった。夏休みが近いとは言え、子ども2人が大声で笑い合っているのだ。声はウミネコの鳴き声と波音に紛れていく。

 1分ほどか。ユウダチはお腹を押さえたまま、ようやくとベンチから立ち上がる。

 

 

「イッキ。ねえ、イッキ」

 

 

 ツナギの後ろで手を組んで、ユウダチはベンチに座ったままのイッキを見下ろす。

 イッキは、小さく頷く。

 

 

「うん」

 

「実の所、イッキを遠くの町まで連れてきたのは、1つはわたしの目的への協力依頼。もう1つは忠告をするためだったりするのですが……忠告については、無用の心配だったのかも知れないですね」

 

「メダフォースのこと?」

 

「はい」

 

 

 おどろ沼で、イッキのメタビーはロボロボ団幹部のメダロット相手にメダフォース「一斉射撃」を放った。あの時のユウダチの反応を思い出す。

 

 

「びっくりしてたよね、ユウダチ」

 

「ええ。イッキのメタビーは、やはり『カブト』メダルなのです?」

 

「そうだね。父さんがくれたから、出自はちょっと判んないんだけど」

 

「いえ。心当たりがありますので、それはだいじょぶです。ですがここで問題になるのは、メダルの種類そのものなのですよね」

 

 

 ユウダチは唸る。

 イッキとしては、「カブト」メダルが曰く付きだと聞いた覚えはないのだが。

 

 

「いえ、わたしのヨウハク……『クワガタ』メダルもそうなのですが。この2種類のメダルは、メダロットの持つ『脱皮(スラフ)システム』というものと、とても相性が良いという研究結果が上がっています」

 

「スラフシステムって言うと、メダロットの自己修復機能の?」

 

「はいです! それは玩具ではなく、生物(・・)としてのメダロットの根幹に関わる、大事な大事な機能なんです!!」

 

 

 ぐっと拳を握るユウダチ。彼女の言葉には、研究者としての熱が込められている。

 ……が、握った拳を右から左へ。

 

 

「と、まぁ、今はまだ問題にはならないと思うので置いておくです」

 

「あ、置いておくんだ?」

 

「ええ。時間がありませんからね」

 

 

 そう言って、ユウダチは腕のメダロッチを見た。

 イッキも左腕に視線を落とす。時刻は昼近く。まばゆく海を照らす太陽も、もう少しで空高くに達しようとしている。

 ユウダチが小さく息を吸い込んだ。どうやら、勇気がいる言葉のようだった。

 

 

「イッキ。そしてメタビーにもお願いをしたいです。ムラサメの……(ロボトル)(リサーチ)社の。いえ。わたしが開発したメダロットの、テスターを努めてくれないですか?」

 

 

 






 迷った末に区切り。


・リュウトウ町
 メダロット4より。色々と地理がおかしくなっているメダロットの世界の中で、「かぜのつばさ」を使わなければ通えない、おみくじ町の遠方にあると思われる町。東の青竜。同様に南側、西側、北側に4聖獣を模したと思われる「してんのう」が配置されている。
 メダロット4の最終決戦となる舞台でもある。

・ウミネコ海岸
 リュウトウ町から出た場所にある海岸。
 軌道エレベーターなんて本来は見えていないが……。

・ヘブンスゲート
 本来は飛行機で移動します。軌道エレベーターは開発中の臨時取り付けという扱いにしておきましょう。
 メダロット3の「空」を担当した町。


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   空の上に

 

 RR社の研究施設は、リュウトウ町の東側にあった。

 現在、メダロット社の本社はメダロポリスにある。ならばその傘下にあるRR社も近くに……とイッキとしては思わないでもなかったが、メダロット社と違い実践的な研究も請け負うため土地代がどうだとか、新たな開発分野のためヘブンスゲートとの直線距離の輸送費がどうだとか、そういう諸々の理由もあるようだ。また、メダロット工業を後押ししているリュウトウ学園の学園長の思惑もあるらしい。

 

 

「ユウダチ……ムラサメ・ユウダチ、か」

 

 

 社内へ連れられてきたイッキは、RR社の休憩兼談話室からユウダチの働く姿を見下ろしていた。

 名札に「ミチオ」と書かれた白衣の男が持ってきた車のホイールの様なパーツを、ユウダチが手元でいじくり回しては、オレンジ色の装甲の型部分に取り付けてゆく。

 神経素材の伝達と、ティンペットのマッスルチューブの駆動とを確認する。

 ユウダチは時折、イッキのいる2階を振り向いては手をふってくる。花園学園の生徒。そして同学年の小学生でもある、ユウダチ。

 そんな不思議な少女を眺めながら待ち時間を過ごしていると、休憩室の入り口から白衣を着た女性が入ってきていた。

 イッキはそちらを振り向き……素早く。

 

 

「―― あら、イッキ君。ここに居たんですね?」

 

「ナエさん!? あ、こ、こんにちは!」

 

「ええ、こんにちは」

 

 

 慌てて頭を下げると、優しげな笑みで迎えてくれる女性。アキハバラ・ナエ。メダロット博士……アキハバラ・アトムを祖父に持ち、自らもメダロット研究所に勤める、研究者である。

 イッキは幼少の頃からメダロット研究所に通っていただけあり、研究所に部屋を持つナエとも顔見知りであった。

 しかしそんな人がここ、リュウトウ町にあるRR社にまで脚を伸ばすとは思っていなかった故の驚きなのだが。

 

 

「ナエさんはどうしてここへ?」

 

「ふふ。今日はユウダチちゃんのお手伝いです。提携していますからね、RR社とメダロット社は。ユウダチちゃんがメダロット社員でありながらこうしてRR社にも顔を出せるくらいには、友好的なんですよ?」

 

「へえー……そうなんですか」

 

 

 イッキの横に並び、ユウダチの働く姿を見ているナエ。

 包容力のある……いつも優しげなナエではあるが、今日は心なしか、一段と嬉しそうな印象を受けた。

 

 

「ええ、嬉しいですよ。イッキ君は、ユウダチちゃんから相談を受けたと聞いています。テスターを努めてくださるんですね?」

 

「はい」

 

 

 新パーツのテスター。イッキとしても興味あるー、と叫びたいくらいには歓迎できる役割だ。なにせイッキは、メダロットが好きなのだ。

 加えて。

 

 

「それに、そのパーツはユウダチが開発したものなんですよね? だったらやっぱり、楽しみですよ」

 

「ふふ。正確にはユウダチちゃん『達』が、ですけれど……そうね。あの機構に関しては、ユウダチちゃんの専売特許かも知れないですね」

 

 

 イッキの返答を受けて、嬉しそうに、本当に嬉しそうにナエが笑う。

 笑みを深めたまま、ナエが人差し指を自分の唇にあてた。内緒ですよ、と言ったところか。

 

 

「そんな、ユウダチちゃんのテスターを努めてくださるイッキ君に、ひとつだけ」

 

「ええと……なんでしょう?」

 

「あの海岸……ウミネコ海岸からは、軌道エレベーターが見えますよね」

 

 

 休憩室の窓からも見える細長い線。ヘブンスゲートを経由し、衛星軌道上の宇宙ステーションまで繋がっている、軌道エレベーターだ。

 

 

「はい。さっき、ユウダチと一緒に見てきました」

 

「あら。なら良いですね。……ヘブンスゲートの先……本当に遙か先に、ビーハイブという場所があります。そこが今のメダロット研究の最先端で、最前線でもあるんですが」

 

 

 ナエの指が上から下へ。

 細長い線が繋がる、地上にまで。

 

 

「軌道エレベーターは本当に、本当に希有な条件が重なって……赤道直下ではなくあの場所、くらげ海岸沖に建設されました。くらげ海岸は、わたしやユウダチちゃん、それにヒカルさん達が当時住んでいた……魔の10日間の舞台となった町の近くなんです。元々埋め立て地だったので、工費はとても抑えられたそうなのですが……ちょっと、懐かしいですね」

 

 

 遠い目を挟んで懐かしんだ後で、ナエは「語っても良いですか?」と、小さな声で聞いてきた。

 イッキは、殊勝な顔で頷き返す。友人のことならば、知っておいて損はない筈だった。

 ナエはまずは、と一呼吸を置いてから話し出す。

 

 

「ユウダチちゃんの生家、ムラサメという家については私よりも詳しい友人がいます。だから私がお教えしてあげられるのは、メダロットと一緒に歩んできたユウダチちゃんの事だけなのですが……。

 魔の10日間。ユウダチちゃんも一緒になって解決した事件。その事件を切っ掛けにして、メダロットの、特にマスターを持たないメダロットは危険ではないかという議論が再燃していました。

 ユウダチちゃんはそれら事件を経て貶められた野良メダロットの件について、とても心を痛めていたんです。自分自身もお家の事で手一杯だったというのに、彼女はその解決に向けて奔走しました。勿論私やヒカルさん……魔の10日間を一緒に解決した彼も手伝いはしましたけれどね。

 結論から言えば、騒ぎは何とかなりました。売り出し文句とされていた『人間の友達』―― 『ロボットペット』としてのメダロットの立場があったからこそ、メダロッター達の力強い後押しがありましたから。世界的に有名になってもいましたし、そこは難しく無かったんですよ。

 でも、残念ながら、メダロットの側には嫌気がさした個体が大勢居ました。そんなメダロットに手をさしのべたのが、RR社でした。宇宙開発に力を入れようとしていたRR社は、野良メダロット達を探し出してはこう告げます。月面基地の開発に手を貸さないかと。そこにはまだ、人間はほとんど居ないのだからと。

 調整、点検、パーツの開発に油の掘削。メダロットは人が居なくては生きていけないものです。そう作られましたからね。ただそれでもなるべく人と距離を置きたいと感じてしまったメダロットにとって、その言葉は天恵に聞こえたかも知れません。

 勿論、野良のまま地球に残った物も多く居るでしょう。けれど彼ら彼女らの望む限り、集められる限りが、月面駐屯地『ビーハイブ』の開拓へと駆り出されました。そこに……宇宙のどこかに、いつかは、新たなメダロットの楽園も出来ると信じて。ユウダチちゃんは、そんなメダロット達の意を汲んで、宇宙開発向けのパーツ開発へとシフトしていきます」

 

 

 ナエが語る内容は、少しばかりイッキにとって難しいものだ。

 難しいが、一応の理解は出来た……と思う。

 おどろ沼で奔走していたユウダチは、だからこそ嬉々として(潜入中の、名目上は仲間でもある)ロボロボ団を妨害していたのだろう。野良メダロットの風評被害とならないように。

 もしかしたら、別の人物が早々にロボロボ団幹部を相手取っていたりした……なんて。そんな主人公気質の誰かがいたならば、彼女がああして直接手を出す必要はなかったのかも知れないが。

 こちらが理解したのを悟ったのだろう。ナエは口調を緩めて。

 

 

「ムラサメ家が母体となったRR社は、近々宇宙を題材としたテーマパークを作ろうとしています。ビーハイブにおける労働力が足りれば、野良メダロット達の労働力は、次はそちらへと回されるでしょう……表向きは」

 

「表向き、ですか?」

 

「ええ。宇宙開発分野での最前線に返り咲き、力をつけたRR社は、今度こそメダロット社に対抗しようとする筈です。野良メダロット達の暴走で責任を取ったメダロット社とは違い、重役に替わりがなかったですからね、RR社は。それどころかユウダチちゃんの兄シデン君を旗頭において、メディア戦略を強化してくるくらいですもの」

 

「……」

 

「テーマパークという表題で作られているのは、大きな宇宙船です。もしかしたら、恒星間……とまでは行かないかも知れないですが、それなりに外宇宙も航行できるだけの宇宙船です。これだけでも本命の目的は大体判ってしまいます。知っていますか? メダロットは宇宙から来たんですよ。そんな、人の手の入っていない、外宇宙のメダロット。それはきっと、この地球に出来た『友達』としてのメダロットとは基軸の違う……革命をもたらす技術を持っている筈ですから。それはきっと、大きな武器になるはずですから」

 

 

 ユウダチの姉のような、家族のような。実感が込められたナエの言葉には、イッキにもはっきりと判るほど悲しげな色が含まれている。

 武器。それをもった人間が、何をするのか。おおよそは当たっているのだろう。あまり明るい雰囲気は見えてこない。戦争か、暴走か。そういった類いの未来であろう。

 沈黙が続く。

 ここで眼下の研究室から、メダロットのパーツを両手一杯に抱えたユウダチが此方へと走ってくるのが見えた。

 

 

「……ふふ。そろそろ昔話は切り上げですね? ちょっとキリは悪いですけれど」

 

 

 端々に苦さを滲ませつつも、ナエはくるりと身体を回し、微笑んでいる。

 ……が、イッキとしては聞いておきたいことがある。

 

 

「あの、ナエさん。最後に1つだけ、良いですか?」

 

「良いですよ。なんでしょう」

 

「ユウダチはそのことを、知っているんですよね? その……野良メダロット達が良いように使われているって言うことも、その『武器』を目的に暴走が始まりそうだということも」

 

「ええ。ですが、RR社の重役というのはユウダチちゃんにとって家族も同然の人達です。ご両親は良くも悪くも空気を重視する人達ですから、押し切られています。だからきっと、あの人達を切り捨てるなんて事は出来ないんですよ」

 

 

 切り捨てる、とは。笑顔とは裏腹に、ちょっとだけ辛辣なナエの言葉だ。

 

 

「―― イッキ!」

 

 

 そうこうしている間に休憩室の扉を開き、件の少女は走り込んできた。

 両腕に山盛りになって、メダロットのパーツが抱えられている。

 

 

「あ、ナエお姉さんもここに居たのですね! 今日はお手伝い、ありがとうです!」

 

「ふふ。完成おめでとう。頑張ったね、ユウダチちゃん」

 

「はいです! ……それではイッキ、このパーツをメダロッチに転送して、メタビーに装着してあげてください!」

 

 

 そう言って突き出されたパーツを、イッキも両腕で受け取った。

 割と過酷な経緯を経てきた筈の少女は、おくびにも出さず、弱音も吐かず、こうして精力的に力を尽くしているのだ。

 

 

「うん、わかった。ありがとう」

 

 

 だからこちらも、パーツは素直に受け取った。

 メダロッチの中でメタビーのパーツを組み替える。これからテスターとして使用する、自分達の機体だ。そう思えば、メダロットが好きな一少年のイッキとしては、わくわくする他ない。

 メタビーに装着されたパーツが、頭から順に次々と入れ替わってゆく。

 

 

「おー、格好良いじゃんか!!」

 

 

 自分に転送、装着されたパーツを見てメタビーが声を上げた。

 オレンジを基調としておきながら、所々にアクセントの赤が入れられている。

 肩には目玉機能である「変形」のための車輪、外部パーツを利用した追加変形を行うための脚部入れ。

 胸には強襲形態時のアイマスクにもなる装甲。

 そして何より、頭を飾る二股の角を模した砲塔。

 

 

『KBT―31 バリスター

 

 KBT―32 ヒューザー

 

 KBT―33 ブラスター

 

 KBT―34 エンプレイス』

 

 

「メダロット社製の第三世代メダロット、サイカチス! お出ましですっっっ!!」

 

 





 読み返しても説明が重い……。
 でもこうしないと展開が遅い……(苦


・月面開発
 経緯はかなりオリジナルですので、あてにしないようお願いします。

・ビーハイブ
 メダロット3より。
 最終決戦の地となった場所。月面。

・メダロットの楽園
 メダロット7より。
 月のメダロット達が統治していた。おそらくパラレル月面。

・サイカチス
 第三世代メダロット。変形できる。
 ちなみに、NAVIのグランビートルは別基軸のため第三世代でありながらナンバリングリセット、「NF」の型式番号が追記される。

・ちなみのちなみに。
 第二世代KBTがベイアニット。
 第四世代は(オリメダ)計画からアークビートル。
 ただしナンバリングは逐一変更される上、新世紀(ナンバリングDS以降)に入ると00ナンバーとかのメタビーも出てくるので変遷が激しい。


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◆2 割と大きな世界大会



 あらすじ

 おみくじ町から海路を隔ててそびえ立つ、メダロットをテーマとしたアミューズメント島「メダロッ島」。
 イッキは両親にねだっても行くことが出来なかったが、隣人友人たるアリカとその母のおかげで訪れることが出来ていた。

 ひとしきりアミューズメントを回ってみたうえで。
 しかしメダロット大好き少年であるイッキは、偶然に催されていたロボトル大会にエントリーしてみていた。


 

 

 

 少し遅れてエントリーをしたイッキであったが、世界と名付ける大会だけあって、予選からして大激戦だった。

 イッキの持つメダロットは、トラップなどの設置にたけた「クモ」メダルのスパイダ。メダルの属性から重力射撃と、援護防御などの役割を務めている「クマ」メダルのベアー。そして「カブト」メダルのメタビーである。

 特にスパイダとベアーは加入してから日が浅いこともあって、この大会でチームワークを慣らしながら進めていく必要があったのだ。

 

 初戦の相手はグレーテルという少年、2回戦はヘンゼルという少女だった。

 ヘンゼル少女は少年の姉であり、また、金髪という見た目からして明らかな外国人である。ロボトルとしては海外ならではの低装甲高威力というピーキーなコンセプトを持った純正一式に苦しめられたが、バランスの良いイッキのチームは何とか勝利。押しの強い天然な姉とは、ネットロボトルサービス「メダリンク」での再戦を約束させられたりした。

 

 3回戦。綺麗だが我の強いお姉さん、イセキさんとのロボトル。

 イセキさんは現在アパレル関係の仕事をしているらしいのだが、どうやらロボトルの腕を買われてこういった外向けの用事には顔を出しているらしい。大人の事情である。

 停止攻撃を操るネコ型メダロットは、決して旧式と侮ることのできない機動力だった。射撃攻撃を集中させて、何とかしのぎ切った形での勝利である。

 負けたイセキさんは、イッキへ頑張りなよと姉御肌なエールを送りつつも、「メタルビートルといい、ヒカルを思い出す強さだね」とかぼそりと呟いていたのが印象的だった。

 

 国内を飛び回っている根無し草、マイタケ・キノコさん(仮名)。幼馴染のアリカ以上の行動力、そして洞察力を持つ少女である。彼女の性格らしい自由奔放そのままのキノコ型メダロットによるマイナス症状の雨霰には苦労させられた。

 ついでに、最後には「お茶しない?」とか言われてしまった。断った。断ったが……なんとなく、なんとなくだが、イッキは今回のやり取りで彼女に気に入られてしまった気がする。それが良いのか悪いのかは、さておくとして。

 

 5回戦は、海外からハッカという名前の青年が相手だった。

 どうやらオーロラフォールという海外の寒い地域から来ているらしい。招待選手としての参加費に加えて、観光事業に力を入れている町の興行的な意味もある様だ。手ごわい上に海外製のメダロットを使っているため手管が読めなかったが、それは相手も同じなようで、何とか正攻法で勝利することができていた。

 ちなみに生まれたての娘さんがいるらしい。ハッカさんはどうも頑固親父な気質を持っているので、何というか、すれ違いとか無ければいいのだが……そこはイッキが気にしていてもしょうがない。

 

 さて。その後も辛勝、辛勝。何とか決勝まで勝ち進んだイッキではあるが、今大会で苦戦に苦戦を重ねていた理由は、自身の経験の浅さも1つだが、他にも大きな理由がある。

 サイカチス。ユウダチからテスターを任された、新生代……可変KBT型メダロットに慣れていなかったのである。

 メタビーはどうやら、コウジからもらった「フレクサーソード」がお気に入りの様子なのだが、残念なことに可変型メダロットは純正一式……ナンバリングを揃えて使用しなければ変形を行えないらしい(ただこれは、イッキとしては、むやみやたらと我武者羅な格闘攻撃に挑まれるよりは安心している)。

 幸いにも、今大会では未だ変形を試せるような場面には出会っていなかったのだが。

 

 

「―― 次の決勝は……コウジが相手!?」

 

 

 やや疲れながらも勝ち抜いたイッキは、ロビーへ。

 そこで対戦相手を確認してみると、見知った名前。奇しくもカラクチ・コウジとの対戦カードが表示されていたのだ。

 

 

「やったじゃねえか、イッキ。おどろ沼での決着、つけときゃいいんじゃねえの?」

 

「そういうけどな、メタビー。コウジは強いぞ?」

 

 

 むしろ1度戦っている分、実力がリアルに想像できてしまうからたちが悪い。

 スカートめくり事件の際に勝てたのは、1対1だったからこそだとイッキは思っている。その点、今回はメダロット社とRR社が規定するロボトルのルールに則った3対3。今度こそ花園学園のエースメダロッター、カラクチ・コウジが全力を出せる舞台となるだろう。1番はユウダチらしいのでエースとか呼称しておく。

 

 

「出来れば、この大会の内に変形を試してみたかったんだけどな……」

 

 

 そのコウジが相手では、変形機構を試している余裕などないのではないか。そう思ってしまう。

 パーツを貰っている以上、なるべく早期に試してはおきたかった。データはメダロッチの中に自動で蓄積されるとのことで、おみくじ町にいるうちに適当な野良メダロッターを相手に試したりはしてきたものの、こういった「本番」と呼べる中でのロボトルにおけるデータもまた貴重なものなのだとユウダチ談。

 テスターの義務について、イッキがそんな風に思い悩んでいると。

 

 

「ていうかよイッキ。むしろコウジ相手だからこそ使うべきなんじゃないか? 変形するとか予想しないだろ、あいつ。パーツ変わったのには気づくだろうけどさ」

 

 

 気楽な感じで放ったメタビーの言葉に、思わず目から鱗な気分になる。

 そういえばそうだ。イッキにとってのコウジとは、負けて元々な相手。……むしろ予選は負けて元々な相手ばかりであったが……兎も角。

 挑んで、試して、それで結果として悔いが残らないのであれば。

 

 

「……うん。いいかもな、それ」

 

「だろ?」

 

 

 作戦は決まったと、イッキは拳を握る。

 ようは、やってやれの精神が大事なのだ。

 男ならでっかく生きて、横道それずにまっしぐらなのだ。

 

 

 

 

 ◇∈

 

 

 

 

 んなっ!? というコウジの驚き声と。

 

 おおっ、という観客の歓声とがメダロッ島のロボトル大会会場を埋め尽くした。

 

 

「―― う゛ろろんん」

 

 

 四つん這い……の様に身を低くしたまま、メタビーがエンジン音風味に唸る。

 肩と脚から突き出した車輪。まるで四輪駆動の自動車の様なシャーシ。

 変形、レリクスモード。驚きと歓声は、このメタビーの変形によるものである。

 変形すると、変形専用の攻撃が可能となる。メタビーの手と足から突き出した車輪が鋭くスパイクし、援護機体 ―― ベアーの横から勢いよく飛び出してゆく。

 

 

「クママーッ」

 

「クモモーッ」

 

 

 利用するのは、先んじて設置された「設置弾丸」。

 装填(リロード)

 弾丸を放つ砲塔は、変形したメタビー自身。

 

 

「いけえっ、メタビー! 交差(クロス)攻撃 ―― 発射(ファイア)!」

 

「だりゃあああーーっ!」

 

 

 大口径の弾丸が放たれ、メタビーの後輪がキュキュッと反動を受け止める。

 コウジの機体、おそらくリーダー機であろうスミロドナットを目がけて、放物線。

 スミロドナットの前に、「植木鉢とそこに生えた花(葉っぱは応援旗)」そのまんまの形をした援護機体「さくらちゃん」が飛び出す。

 

 

「よろれい ―― ひーーーぃぃぃ!?」

 

「さくらちゃんを、弾き飛ばされた!?」

 

 

 コウジの指示だったのだろう。

 スミロドナットを庇おうとして、しかし、メタビーが放った弾丸はさくらちゃんの左腕を弾き飛ばし。

 

 

「ぐ、おおおおおおっ!?」

 

 

 庇われるからには反撃をと足を止め防御をおろそかにしていたスミロドナットに、サーベルタイガーを模した黄色の頭部に、直撃。

 信管が作動し、爆発が起こる。

 

 

 なんと、跡形も残らない ―― とまではいかないが。

 メダロット2体分の爆発力と推進力を詰め込んだその威力は、スミロドナットの頭部を破壊するに十分過ぎる。

 

 

「メダロッ島、ロボトル世界大会! 優勝者は……テンリョウ・イッキ選手!!」

 

 

 ミスターうるちが手を振り下ろす。

 こうして、「変形するメダロット」というインパクトと共に。

 結果として、メダロット歴若干数月のメダロッターが、世界大会(呼称)を制することとなったのであった。

 

 





 とりあえずこれ1つ。
 修正するだけしといて、更新忘れとか……。


・ヘンゼルとグレーテル
 童話ではなく、メダロット5より。外人(ぉぃ
 しかし彼女たちよりも温泉街イコールミニゲームのイメージしかない。ロボロボ危機一髪は割とガチ。
 ゲスト出演。

・イセキ
 メダロット初代の悪ガキ3人組の姉御。初代にあまり出番はない。
 不思議鳥版、メダロットPE(パーフェクトエディション)には彼女のエンディングが実装されている。
 ゲスト出演。

・マイタケ・キノコ
 舞茸茸。頭痛が痛い。
 メダロット4より、リバティーズのリーダー。「お茶しない?」が合言葉。
 キノコメダロットが揃ったのを良い事に、割と容赦ない実力を持っている。
 メダロット4はストーリーでは1体ずつ出し合うロボトルが多いため、かなり理不尽な縛りプレイを要求されており、メダルが育たないというジレンマ。そのくせ最後は9体ロボトルだから質が悪い。
 ゲスト出演。

・ハッカ
 メダロット8より、ヒロイン・ミントの家族。父。
 8のヒロインは、メダロットがそういう分野でも開拓者であることを再確認させてくれる(ぉぃ。ただしミント父はヒロインではない残念ながら。ミント押し。
 ゲスト出演。



 202200527 書き方変更のため、前書き追加。


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   のんべんだらりメダロッ島

 

 さて。大会を終えればパレードだと、外へ出たのは良いが、パレードを催している場所が判らない。

 とはいえこういうのは大通りでやるものだろうと、イッキが適当にあたりをつけていると。

 

 

「―― ふははははははっ! とうっ!!」

 

 

 頭上の建物から建物へ。

 ロボトル大会の会場からセレクト隊の建物へ飛び移る、怪しげな影があった。

 イッキとしてはこうして、直接姿を見るのは初めてだった。しかしあからさまな変態……もとい、奇人じみた格好のその人こそ。

 

 

「怪盗レトルト、只今参上ッ!!」

 

「いたぞーっ! レトルトだーっっ!!」

 

 

 世間を騒がす義賊、怪盗レトルトその人であった。

 屋根の上にいる彼を、セレクト隊員が数に物を言わせて取り囲み始めているのだが……イッキでも分かる。飛んで逃げられたらどうするつもりなのだろう。

 というか、彼が姿を現した時点で、ロボロボ団の存在の方を疑うべきではないのだろうか? 何しろ怪盗レトルトは、義賊。ロボロボ団のような悪党に狙いを定めているのだか

 

らして。

 

 

「ふははははは! それではセレクト隊の諸君! さらばだ!!」

 

「というか何しにきたんジャい、ワレ―ッ!!」

 

 

 最後に遅れてきたアワモリ隊長が姿を現したところで、怪盗レトルトは飛び去って行った。もちろん捕まるはずもない。

 しかしアワモリ隊長の遅刻は兎も角、言っていることは正しい。本当に、何のために姿を現したのだろうか。イッキは少し周囲を見回し……

 ……すると。

 

 

「あっ、イッキです!」

 

「ユウダチ?」

 

「はいです!」

 

 

 花園学園の制服……ではなく、いつものツナギ姿のユウダチがロボトル会場から姿を現していた。

 

 

「とりあえず優勝おめでとうです、イッキ!」

 

「うん、ありがとう」

 

 

 テンション高く、しかし笑顔は口元だけで。

 近づいてきたユウダチはイッキへ賛辞を贈ると、ついで、周囲にあふれたセレクト隊員らの姿に目を留めた。

 

 

「むむ。これだけの隊員が集まっているという事は、レトルト参上です?」

 

「そうだね。ついさっきまでは居たんだけど……あっちに飛んで行っちゃったんだ」

 

 

 言って、イッキは北側……「魔女の城」といアトラクションがある側を指差す。

 セレクト隊員達も、消えたレトルトを追いかけるでもなく、地団太を踏んでいるアワモリ隊長をおろおろと取り囲んでいるだけだ。

 ……まぁそれはいつもの事なので、イッキも置いておくことにする。それよりも。

 

 

「レトルトが居るっていう事は、ロボロボ団も居るのかな? まぁ、ロボロボ団、ゴキブリと同じで何処にでもいるんだけど」

 

「んー……イッキの言う通り。居るには居るです」

 

 

 腕を組んだイッキの隣で、ユウダチは諦めた表情だ。ロボロボ団に対する呆れと言う意味では、その幹部もどきを務めているというユウダチの立場からしてみれば、これ以上なく実感できている事だろう。

 

 

「あっ、それよりパレードです! 今の騒ぎで中止になっていないと良いですが……」

 

「それは大丈夫みたいだね。大通りでやると思うよ。ほら、向こうでアリカが場所取りしてるし」

 

 

 イッキが視線を向ける先で、件の幼なじみがシャッターチャンスを逃すまいと最前列を確保していた。隣にはアリカの両親とカリンちゃん、カリンちゃんの両親とコウジまで居る。どうやら準備は万端らしい。

 

 

「ユウダチもアリカの所に入れてもらえば良いんじゃない?」

 

「んー、家族の団らんを邪魔するのも気が引けます。それにスペースはギリギリみたいですし」

 

 

 それもそうか。アリカが陣取っている周辺は、既に分厚い人の山で埋め尽くされている。横入りとまではいかないが、あそこへ割り込むのも容易ではないだろう。

 さて、どうするか。そういった意味を込めてイッキは周囲を見回す。

 パレードが行われる中央通りを抜けて、北側。向かいの通路も人だかりには変わりない。

 だとすればパレードを見学するのは、やっぱり簡単じゃあないか。と。

 

 

「……ですね。ならイッキ、ちょっとわたしに付き合って欲しいです!」

 

 

 考え込むイッキの手を、ユウダチが引っ張る。

 楽しそうな声色だ。

 悪戯を成功させた子供のような、年相応の少女然とした様子で、続ける。

 

 

「皆さんがパレードに集まっている内に、わたし達はアトラクションを回ってしまいましょうです!」

 

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 

 どこぞのランドではないが、メダロッ島にもファストパスと言う制度がある。

 時間予約優先制度、みたいなそれはメダロッ島の各アトラクションにも設けられており、混雑している場合には大変な効果を発揮してくれる。

 ただそこは、開園間もないメダロッ島。それら制度を利用して計画的に回るといった客はあまり多くはなく、結果として、イッキとユウダチはパレードを行っている間に殆どのアトラクションのパスを手に入れてしまっていた。

 そもそも園内で全くパレードを見れないわけでもない。軽快な電子音に合わせて踊るメダロット達とそれらを見るために足を止める人波を横目に、各アトラクションのパスを取って回るというのも、なんだか怪盗みたいな雰囲気で楽しいものだ。

 

 で。

 そのままパスを手に、イッキはユウダチに連れまわされる事となるのだが。

 

 

「―― わきゃーっ!?」

 

「うわぁぁぁーーーっ!?」

 

 

 隠ぺいパーツを使用した、無駄に凝った演出のお化け屋敷に突入したり。

 

 

「うーん……思いっきり水を被っちゃったよ」

 

「合羽なんて気休めなのです」

 

 

 スライダーに乗って水に突入したり。

 

 

「見つけたですーっ!」

 

「あ、こら! まてーっ!」

 

『待てと言われて待つ奴が……ウゲゲッ!?』

 

「道は塞がせて貰おう」

 

「カミキリお前、剣を突き付けながら言うと怖ぇえーよ。あとラピ、お前ウゲゲってマスコットの台詞じゃねーよ」

 

 

 園内に隠れていた限定カラーのラピ(マスコットメダロット)を探してみたり。ついでにメタビーとヨウハクがロボトルで捕まえてみたり。

 ……とまぁ、何だかんだでメダロッ島を満喫出来ていた。

 

 

「―― ふう。これだけ回って、でもまだお昼時ですねー」

 

「そうだね。次のアトラクションが終わったら、休憩でも挟もうか?」

 

 

 カフェテリアの椅子に腰かけながら、イッキとユウダチは一息つく。

 残るパスはあと2つ。「ジェットコースター」と、「魔女の城」のパスだ。次に来るときには使えないし、メダロッ島にまた来れるかも定かではない。本日中に消費してしまいたい所である。

 そう考えつつも休憩を提案したイッキに、ユウダチはふるふると首を振る。

 

 

「午後にカリンと魔女の城へ行く約束をしているんです。昼食もこのカフェで手早く済ませて、約束には遅れないようジェットコースターに乗りにいきましょう!」

 

 

 なんともはや友人思いの台詞を言って、ぐっと拳を握ってみせる。ユウダチはやる気満々である。

 おどろ沼の時もそうだったが、カリンは体が弱いと聞いている。過保護気味な両親の所から彼女を連れ出す役割というのは、それなりに重要なものなのだろう。

 ジェットコースターはメダロッ島の西側にあった筈だ。言う通り、手早く昼食を済ませよう。

 イッキもサンドイッチを注文し、空腹を補っておくことにする。

 

 

 ……したのだが。

 問題は、件のジェットコースターに乗っている際に起きた。

 

 

「……ねえユウダチ。写真を撮られたとき、変な声がしなかった?」

 

「ですねぇ。嗚咽的な」

 

 

 ジェットコースターを楽しみ終え、会場から出てくる途中。

 イッキが気になったのは、ジェットコースターの最中。中途にある最大の傾斜の部分で写真を撮られた際の事だった。

 写真については、まぁ、良い。降りの最中に撮影された写真を売るのだろう。良く聞くビジネス。

 ただ、その場合は機械が撮影を行うはずだ。だとすればユウダチの言う「嗚咽」的なものが聞こえるというのは、考え難い。

 

 

 ―― う……ん。うーん、ロボ

 

「……しかも、さっきから唸り声が聞こえるし」

 

「そっちの草むらですかね?」

 

 

 ジェットコースターの会場横。草むらの中だ。

 語尾が気になるその唸り声。

 イッキとユウダチは顔を見合わせ、息を合わせ。

 嫌な予感もひしひしと感じつつ。

 

 

「「せーのっ」……です!」

 

「―― ロボっ!? なんだロボ! って、さっきジェットコースターで撮影した、笑顔が恐ろしい子供ロボーッ!?」

 

 

 やはりというか何というか。

 メダロッ島でも、事件の素 ―― ロボロボ団と出くわしてしまうのだった。

 それにしても言い様が酷い。

 





・メダロッ島
 アトラクションの数は、それでいいのでしょうか……。ゲームだとかなり少ない。
 ROM容量の問題なのでしょうけれどもね。トキワの森は犠牲になったのですよ……

・パレード
 分岐点。本来は以前と同様、泣いている女の子のメダルを探している間に消費されるイベント。
 メダロッ島は、メダロットを前面に押し出したテーマパーク。どんなパレードなのかはちょっと気になる。ファンタジー色は否応なしに薄まるでしょうし。

・怪盗レトルト
 セレクト隊の無能さが際立ちます。人数が必要な場面においては、優秀なのでしょうけれども。
 アワモリ隊長、無惨。


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   囚われるとかヒロイック

 

 

「お城、でかいです!」

 

「うん。これだけ大きいと迷っちゃいそうだよね」

 

「ふふふ。ユウダチちゃんが楽しそうで何よりですわ」

 

 

 数刻後、カリンとの待ち合わせの時間。ユウダチとイッキはカリンと合流し、「魔女の城」の門前に立っていた。

 というのも、先ほどジェットコースター横の草むらでとっ捕まえたロボロボ団から、聞き捨てならない事件の内容を吐き出させていたからだ。

 

 曰く。

 魔女の城を仕切っているミルキーと言う女性と、ロボロボ団の幼稚園幹部が結託し、子どもを攫っているらしい。写真を撮っていたのは、ミルキーが好きなタイプの子どもを厳選するためだとか何とか。犯罪である。

 幼稚園幹部に関しては、組織全体とは関係なく、独断専行での作戦であるらしい。ユウダチは関与しておらず……だとしても子どもを攫うとか意味を見出しがたい無謀な作戦は、止めておきたいとのことだった。

 

 

「なら、こうやって乗り込んでしまえば一石二鳥だよね」

 

「ですです!」

 

「わたくしも出来る限り協力させていただきますわ」

 

 

 そう言って、カリンは可憐に口元を抑える。彼女にはユウダチがロボロボ団幹部だとかいう内容は伝えていないが、ロボロボ団の悪行を懲らしめる程度は話してある。遊びながらでも協力してくれるというのは、素直にありがたかった。

 

 

「……あっ、開場したですよっ」

 

 

 待ちかねていたという雰囲気をばらまくユウダチの目の前で、魔女の城の大きな扉が開く。

 軋みながら左右に別れたその中に、黒のローブにとんがり帽子。魔女のコスプレをした女性が立っていた。

 

 

「ようこそ魔女の城へ! さあ、皆を不思議の世界に案内するよー!」

 

 

 そういって引き入れられた城内は、まるで迷路のような、しかし不思議の世界との言葉に違わぬファンタジー。

 これは気合を入れねばなるまい。子供ながらに気を引き締めながら、イッキは不思議の世界へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 そうして入った魔女の城。

 途中までは和気あいあいと城内を探索していた……の、だが。

 上階へと移動した瞬間、暗転。魔王なる人物が子どもを人質にとり、それを救出しに行くという展開になった。

 魔女の城の演出なのだろうが、ネーミング的にその役は魔王ではなく魔女がやるべきではないだろうか。まぁその魔女ミルキーも裏で子供を物色したりしているので、間違いではないのだろうけれども。

 どこか釈然とした気持ちでいる内に、暗転していた視界が晴れる。

 すると。

 

 

「―― ユウダチちゃんが、居ませんわ」

 

「あー、女の子が魔王にさらわれてしまったよー!? これは勇者を探すしかないーっ」

 

 

 カリンの呟きに、イッキも周囲を見回す。ミルキーが何か棒読みしているが、それよりも友人である。

 

 

「確かに、居ないね。ユウダチがさらわれたの?」

 

「ええ、恐らくは……」

 

 

 周囲を見回すが、居るのは同時に魔女の城に入った子ども達、数人の引率の大人だけである。ツナギを着た少女の姿はどこにも見当たらない。

 

 

「(まいったな……。ユウダチが居ないと)」

 

 

 ちょんまげを揺らして、頬を掻く。

 ロボロボ団の企みについて、もっとも有効と思われるのは幹部の立場を持つユウダチである。そのユウダチが演出の為にさらわれたとなると、事件解決の手管が掴みづらくなってしまう。

 一応はこの事態、ユウダチの仲間((あに)さまとやら)にも連絡し、動いてもらっているらしいのだが。

 

 

「一先ずはアトラクションを終えましょう、イッキ君」

 

「……そうだね、カリンちゃんの言う通りだ」

 

 

 イッキは頷く。

 さらわれたというのであれば、それを抜け出してまで動くわけにはいかない。目立つと、目をつけられてしまうからだ。

 だとすればカリンの言う通り、魔王にさらわれただとかいう演出を、シナリオ通りに終わらせてしまえば良い。その後にでも事件を調べれば何とかなるだろう。むしろアトラクションに縛られていない分、動き易くもなる。

 方針は決まった。ミルキーが声高に、大人らしからぬ可愛げを含ませて、叫ぶ。

 

 

「さあさあ、どなたか、勇者役をやってくれる人は居ませんかーっ!」

 

 

 渡りに船である。

 カリンが上目づかいにイッキを見上げる。

 周囲の子どもたちが物怖じしているのを確認し、イッキは勢いよく手を挙げた。

 

 

「じゃあ、僕がやります!」

 

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 

 金ぴかの鎧を身にまとったイッキは、魔女の城上階を勇者として探索していった。

 

 ……いるわいるわ、ロボロボ団。

 

 城内のそこかしこに湧いて出るロボロボ団は、どうやら魔王の手先と言う設定であるらしい。それら金魚鉢逆さ被りのロボロボ団を、イッキは時にロボトルで。時にメダロードレースで打ち破ってゆく。

 水場に囲まれた大広間に出たところで、魔女ミルキーは前をびしりと指出し。

 

 

「さあ、いよいよ魔王の間に到着よ~!」

 

「よく来たな、勇者よ」

 

「えーと……助けてー、ですー」

 

 

 やる気のなさそうな顔、しかして声色だけは重たげなの魔王の後ろ。そこに、いよいよツナギ少女が囚われているのが見えた。

 さてはロールプレイングである。イッキは勇者としてのノリを崩さず、こぶしを握って言い放つ。

 

 

「魔王、ユウダチをはなせ!」

 

「……放せと言われて離すなら攫ってないだろ。クク、ロボトルだ!」

 

 

 当然とばかり、魔王はメダロッチから機体を呼び出した。

 まあ、イッキとしても、ロボトルせずに済むとは思っていない。だからこそのロールプレイングである。後ろ暗い部分(子供の誘拐)はあれど、これはまだ、アトラクションなのだ。

 

 

「行くぞ、メタビー! ベアー、スパイダ!」

 

「へっ、ロボトルなら任せやがれ!」

 

「クママー!」

 

「クモモー!」

 

 

 水場を挟んで、イッキのメダロット3機が並ぶ。

 対する魔王のメダロットも3機。カエル型のメダロットフリッグフラッグ、そしてニワトリを模したクリムゾンキングという機体が2体、水場の上。ちなみに鶏は飛んでいる。

 

 

「ゲロゲーロ。拙の機動力に恐れおののくが良い、であります!」

 

「「ッケコーッ!」」

 

 

 この組み合わせであれば、対潜水、対空弾頭を用意してくるべきだったか……と思うも、メダロットのセッティングはロボトルが合意してからでは認められない。

 いつの間にか(音も気配もなく)現れていたミスターうるちが、メルヒェンな着ぐるみを着たまま腕を振り下ろす。

 

 

「それでは! ロボトル ―― ファイト!!」

 

「むぉぉ、行けぃ!!」

 

「ゲロゲーロ!」

 

「メタビー、メダチェンジだ!!」

 

「おうよっ ―― ヴるぉぉんっ!」

 

 

 足場は床で水場もあるが、元々イッキのメダロットは水場に適した装備を有していない。ベアーは車両、スパイダは多脚型の脚部である。水場周囲は谷間のような入り組んだ地形のため、スパイダの数多い脚が一番機動力を活かせる形であろう。

 そのため、メタビーは固定砲台として活用するべき ―― そう、運用を決め込んで、一手目からメダチェンジを試みたのだが。

 

 

「「コケーっ……コッコ!!」」

 

「うおっ!? いきなりかよっ!? って」

 

 

 いきなり僚機のクリムゾンキングが、両腕のチキンを模した鈍器を振り回してメタビーへと。

 直後に、爆発。

 

 

「―― クマっ!」

 

「さんきゅ、ベアー!」

 

 

 もうもうと煙る爆炎の中、ベアーは両腕の「ライトシールド」と「レフトシールド」を掲げてメタビーの前に立ちふさがった。

 

 

「でも ―― 大丈夫か、ベアー!?」

 

「やれるクマ!」

 

 

 イッキの言葉に、ベアーは気丈に返す。た攻撃を受け止めた左腕は、根元から爆散していた。

 一撃離脱を信条に退却したクリムゾンキングは、その両手に揚げ鶏肉(フライドチキン)の棍棒を振り上げたまま。

 

 

「っくそ! 何の攻撃なんだ、今の!?」

 

「もう1発ずつ来るぞ、構えるんだメタビー。ベアー、援護を頼むよ!」

 

「了解だクマ!」

 

 

 ベアーはそう言い放つも。

 

 

「コケーッコ!!」

 

「両腕損傷クマーッ!?」

 

 

 クリムゾンキングの振るう未明の攻撃(フライドチキン)は、ベアーの両腕を一撃で破壊してしまう。

 とんでもない威力の攻撃……ではあるのだろう。ベアーの両腕に装備されていた騎士楯は、味方を援護防御するための楯だ。装甲は両手だけでもメタビー1体分はあるはずなのだが。

 

 

「(……威力? 違う。なんだっけ……最近、週刊メダロットで視たぞ?)」

 

 

 思い当たる節がある。イッキは防戦を任せながら、その間を利用して思考を回す。

 

 

「だーっ! てめぇカエル! ひらひら回避してねえで攻撃しやがれ!」

 

「ゲロゲーロ。攻撃パーツがないのであります! 拙は回避に専念するので!」

 

「それだと罠も通用しないクモーぅ」

 

 

 水場をもの凄い機動力でぴょんぴょんと跳ねるフリッグフラッグを、メタビーとスパイダが追い回す。クリムゾンキングはその後ろを追い駆け、ベアーがメタビーとを結ぶ射線を切っているが、充填放熱を終えていないのだろう。両手のチキンはまだ振るわれていない。

 チキン。クリムゾンキング。鶏が鶏肉を振るっているとか、自己犠牲以外の何物でも無いと思うのだが。

 ……犠牲?

 

 

「(っ! 犠牲攻撃、それだ!)」

 

 

 ようやくと思い当たった。通常の攻撃の枠にない、独自の攻撃機構を持つ攻撃種 ―― 犠牲攻撃。

 確か、昨日のダイオウイカ型メダロットも使っていた。パーツの一部位にエネルギーを収束させ、そのパーツを犠牲にしつつも遙かに強力な攻撃を繰り出すことの出来る「サクリファイス」。

 そしてもう1つ。もう1種類。

 

 

「ベアー、スパイダ! フリッグフラッグを囲むぞ!!」

 

 

 メダロッチに向かって、イッキが叫ぶ。

 ベアーとスパイダは一瞬だけイッキの方を視たが。

 

 

「―― 了解クモー!」

 

「メタビーは頑張るクマ―!」

 

 

 その指示に従い、スパイダは谷間を多脚で器用に飛んで、フリッグフラッグを追い越す。ベアーもメタビーの援護をすっぱりと止め、追い立て始めた。

 砂利道の上でタイヤを踏ん張らせたメタビーは、その結果、2体のクリムゾンキングに相対する事になり。

 

 

「おい、イッキ!?」

 

「大丈夫だ、踏ん張れメタビー! 来るぞっ!」

 

「「折角だから ―― わたし達はこのリーダー機を狙うぜ!!」」

 

 

 何が「折角だから」なのか判らない決め台詞と共に、クリムゾンキングはフライドチキンの棍棒を振り上げる。

 時が止まったかも知れない。

 直後、爆発。

 

 

「――っ!」

 

「クックック。トドメの追撃だ、クリムゾンキング!」

 

 

 なんか脚がもやもやしている魔王は、ロボトルの部隊となった谷間を高台から見下ろし、偉そうに指示を飛ばす。

 その横で大人しくしているユウダチは、しかしメタビーに追撃が指示されたこの局面にも、微塵も動揺を見せていない。

 イッキの作戦を見抜いているのかも知れない。彼女はパーツの開発者だ。新しい特殊攻撃パーツなどにも詳しいだろう。

 だとしたら。そう。クリムゾンキングの両腕 ―― 「デストロイ攻撃」についても知っているなら。

 これから起こる事態も予想できているに違いない。

 

 

「「コケーッコ!!」」

 

 

 もう一度、今度は赤色の鶏冠が大きく唸る。頭までもがデストロイ攻撃なのだろう。

 ……ただし。自らが巻き上げた爆煙の中で、どれだけ狙いをつけられているかは怪しい物だが。

 

 

「―― 残念だが、微塵もダメージ受けちゃあいないんだなこれが!!」

 

「押し出すクモモー!」

 

「押し出せクママー!」

 

 

 コケ?

 と首を傾げるも時既に遅し。

 パーツを1つも破壊されず、メタビーは無傷のまま。止まっているはずの足は自由に動き。

 その代わり、ベアーとスパイダによって押し出されたのは、緑の機体。

 

 

「ゲロゲーロッ!? って、フレンドリーファイアでありますかーーーッ!?」

 

「フリッグフラッグ、戦闘不能! 勝者……テンリョウイッキチーム!!」

 

 

 ミスターうるちが勝利者の名を声高に叫び、それではと潔く姿を消す。

 イッキの思惑通り。「デストロイ攻撃」とは、メダロットのパーツが有する「放熱機能」……攻撃後の機能を狂わせることによって、パーツそのものを直接破壊する攻撃なのである。

 援護をしているパーツを破壊できるのもその副産物であり、援護後の時間を「放熱時間」を見立て、廃熱機構を破壊するのだ。

 ただ、その狙いはパーツ単位である。メタビー……サイカチスは今、メダチェンジを行っている。メダチェンジを行うと、メダロットの装甲は一体化され、放熱機能の経路も太さも、従来の物より上位に変わるのだ。

 つまり。メダチェンジしてしまえば、通常のデストロイ攻撃では微塵もダメージを受けないだろうという。

 

 

「ぐぉぉぉぉおー……! 勇者めぇえぇ!」

 

 

 ロボトルに敗れるや否や、魔王は苦しげなうめき声を上げながら姿を消して行く。

 そう言えばそういうシナリオだった。

 

 

「やったー! 勇者君が魔王を倒してくれた! これで世界は救われたわ!!」

 

 

 魔女ミルキーがロールプレイングで解説を加えてくれる。

 イッキ達と同行していた子どもやその親たちも、拍手でイッキを称えてくれた。

 賞賛は少しこそばゆい。イッキは頭の後ろに手を回し、頭を下げつつ。

 それらが収まり、ミルキーから勇者役をこなした景品を受け取ってから。

 

 

「―― それじゃあ、ユウダチを迎えに行こうかな?」

 

 





・フリッグフラッグ
 カエル型メダロット。潜水型の脚部に加え、魔王のメダルの異常なレベルの高さもあり、躱す躱す。索敵も無駄。隠蔽隠蔽。
 必中でなかった頃のアンチシーすら回避するので、取りあえず僚機を倒してからメダフォースが鉄板。2コアならミサイルもあり。でも本作はミサイルも回避できるのでこうなりました。
 カエルなので軍曹。ちょっと懐かしい。


・クリムゾンキング

 せっかくだから、おれはこの赤の扉を選ぶぜ!

 ……ではない。鶏型メダロット。パーツは作中の通り。
 脚部の名前は「トブンダー」。ヒカルのメタビーだったらツッコミを入れる所。


・まおう
 アトラクションの従業員。休憩時間にも着ぐるみ(?)を脱がない社畜の鏡。着ぐるみ……なんですよね?
 仕様メダロットは、リメイクに当たる2コアでは作中の通り。
 ……では、リメイク前の機体は?
 繰り返しますが、このルートは茨の道です。


・ぎせい攻撃
 メダロット1の使用。がむしゃら攻撃ゴーストの流れを汲んでいる表記。
 犠牲攻撃は、デビルメダルが得意とする攻撃特性。メダルの得意不得意とパーツの特性があっていると、熟練度がましましになる。


・デストロイ攻撃
 旧世紀……「放熱中」のメダロットのパーツを破壊する。問答無用。
 新世紀……「援護防御」を行っているパーツを破壊する。問答無用。
 本作では両方採用しています。



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   メダルとロボット。その先

 

 ユウダチは谷間を隔てて向こう側、魔王の側に連れ去られていた。その後、捉えられていたことを差し置いて勇者役をこなしたイッキへの賞品授与などを行うことで、捉えられていた子供の所在を有耶無耶にする作戦なのだろう。

 だが子供たちが誘拐されることを事前に知っていれば話は別だ。イッキは賞品を貰い終えた後、同行していたカリンと共に「魔女の城」の城内へと戻るための作戦を実行する。

 

 

「あの……お手洗いをお借りしてもよろしいですか?」

 

 

 +上目使い。ミルキーが去った後、係員に伝えるのがミソだ。

 案の定、係員は通用路を使って城内へと戻らせてくれた。カリンの美少女補正も効いているに違いない。イッキが同道したことも、警戒心を薄れさせる子どもという武器をフル活用させる一助となった。

 そうして城の中へと戻り……戻った直後。

 

 

「ミルミルキーっ!?」

 

「フハハハハハッ! 悪の魔女、破れたりっ!」

 

 

 捨てきれない魔女っ娘らしさを叫びに込めた魔女の声。そして、青年の声高な勝利宣言。

 

 

「今の声は?」

 

「爆発音も聞こえましたわ」

 

 

 その声が聞こえた方へ、イッキとカリンは足早に駆けてゆく。

 魔王とのロボトルの舞台となった谷間の水場、その延長であろう貯水槽脇の通路を超えて、向こう側。

 

 

「―― この怪盗レトルト、悪の輩に負けたりはしないのだよ」

 

「くきぃぃぃぃーーっ、くーやーしーいーーーっ! 変態のくせに、変態のくせにっ」

 

「フハハハハ! 確かに奇人ではあるが、いい年して魔女っ娘を名乗る奴に負ける道理もないな!」

 

 

 マントを翻す怪盗レトルト。そして、悔しげに地団太を踏む魔女ミルキーというツーショットだった。

 ……正確にはツーショットではなく、その横におしゃぶりを咥えた全身黒タイツ二本角も居るが、どうやら園児っぽいロボロボ団員は気を失っているらしい。

 

「心配しなくても、法的に許されないのはロボロボ団なので大丈夫ですよ? この狭い場所で連戦なんてしていられませんから、安全かつ速やかに気絶していただいただけですので」

 

「うわあっ!? ……ええと」

 

「レトルトレディです。向こうにいる彼の相方、という認識で間違いありませんよ」

 

 

 突如イッキの横に現れて解説を加えてくれたのは、白チャイナに羽マントのレトルトレディを名乗る女性であった。

 懇切丁寧な紹介をしている間に、ミルキーは破壊されたメダロット達をメダロッチへ戻し終えたようだ。レトルトのメダロットも居たようだが、隠ぺいパーツを使っていたのか、姿が見えないままメダロッチへと格納される。

 

 

「もーっ、夢の楽園が台無しじゃないーっ」

 

「それを本気で言っているのが、君の恐ろしい所だがね……魔女ミルキー」

 

「ふんっ! 一人寂しい私の気持ちは、君みたいな人には判らないかもねっ」

 

「私もそれなりには苦労しているよ。それこそ、あの事件を見届けてくれた君ならば知っているのではないかね?」

 

「っ、もう! わたしの好感度を稼ごうったってそうはいかないからねヒ……君!」

 

「何故だ……」

 

 

 困惑した雰囲気を隠そうともしないレトルトに、ミルキーは両腕を振り回して突撃する。

 だがその突撃は敢行されるその前に、レトルトレディによって前進を阻まれてしまった。

 

 

「……大丈夫ですか、レトルト?」

 

「いや、揺るぎはないぞレディ?」

 

 

 そちらが優先と、レトルトは微妙に剣幕を強めたレディに向けて弁解を始める。

 置いてけぼりだ。イッキ達にはちょっと判らない、混沌とした状況である。……ええと。

 

 

「それより、君たちだ。ミルキー、いい加減本当の目的(・・・・・)を果たしたらどうかね?」

 

「むぅ……仕方がないなぁ」

 

 

 困惑しているイッキとカリンに話題がふられたようだ。

 強引な方向転換だったのもあってか、ミルキーはこほんと咳を挟んで仕切りなおす。

 

 

「それよりも、来てくれたね勇者君!」

 

 

 言葉に違和感がある。

 来てくれた。つまりは、魔女の城へ再侵入を果たした……本来ならば予想していないはずのイッキの到着を、待っていたという事だ。

 

 

「あのー……僕を待ってたっていう事ですか?」

 

「うん!」

 

 

 目を細めた笑顔で、ミルキーは杖をかつんと鳴らす。

 

 

「君を待ってた。君に用事がある人が居てね? わたしはちょーっとだけ、協力してるんだ」

 

「僕に、用事ですか?」

 

「そう。君を。多分、塗り替える(・・・・・)なら今しかないのよ。小学5年生。『最初の事件にぶちあたっている』、『ちょっとだけ既定の道から寄り道している』、今のテンリョウ・イッキ君!」

 

 

 なぜか楽しそうに言って、ミルキーは身を引いた。

 すっと杖を持ち上げて指した先に、下りの階段が見えている。

 

 

「あの下に、君を待っているその人が居るよ。合ってあげて。それと、ロボトルをしてあげて。それがきっと、誰もが望む道筋でもあるだろうから!」

 

 

 ミルキーの言葉は、小学生のイッキからみても胡散臭い。

 胡散臭い……が。その向かい。

 

 

「初めまして……かな。テンリョウ・イッキ君。私は怪盗レトルト。この時代に、義賊なんてものをやっている者だ」

 

「あ、えっと……ファンです!」

 

「それは嬉しいね」

 

 

 仮面とマントを揺らす黒タキシード。世間を騒がす怪盗レトルト、その人である。

 確かに初めまして、だ。先ほどセレクト隊の詰所で飛び去った時は、後姿を見ただったから。言葉としても間違いはない。

 握手を交わし、レトルトが続ける。

 

 

「子供たちを開放するという手筈は済んだ。ロボロボ団と魔女ミルキーは、私とレディで片付けさせてもらったよ。だが、この魔女にも色々と事情があるようでね。子供たち以外にも目的があるみたいなんだ。その目的の……待ち人は、君らしい。だからどうか、協力してあげてくれないか? きっと、悪いようにはならないと思う」

 

 

 殊勝な言葉だ。

 つまりは、イッキを待っている人があの階段の下にいて。その人とロボトルをして欲しい。そういう事だろうか。

 それについては問題ない。が、イッキとしては聞いてみたいこともある。

 

 

「あの、わかりました。その人と会うっていうのは、僕も大丈夫です。……でも、レトルトさんと魔女さんはお知り合いなんですか?」

 

「そうだ。私も、それにこのレディもね」

 

「ええ。ちょっと古い知り合い……みたいなものですね」

 

「あはっ、そうだねー」

 

 

 レディとミルキーがレトルトの紹介に同調する。

 それならばどこか親密さを感じるやり取りも納得のいくものだ。

 とはいえ、本来の目的を忘れてはならないだろう。

 

 

「なら……ユウダチ……じゃあ、分らないか。僕の友人の……あ、ツナギを着た女の子も、あの下にいるでしょうか?」

 

「ふむ。そうだね。あの階段の下は牢屋になっている。子供たちを閉じ込める、この魔女の、悪趣味な牢屋さ。君の友人の女の子も、恐らくはいるだろうね」

 

「まーたそういうこと言う。……あーっ、でもね、子供たちを開放するのはロボトルが終わってからにしてねー! そういうお約束なんだからねー!」

 

 

 割り込んだミルキーの言葉に、レトルトはやれやれといった様子で手のひらを翻した。

 そのままレトルトが身を引いたことで、人垣が左右に開ける。

 一歩を踏み出すその前に、一度だけ後ろを振り返り。

 

 

「じゃあ、僕は行ってくるね。カリンちゃん」

 

「はい。ユウダチちゃんを、どうか宜しくお願いしますわ。イッキ君」

 

 

 ユウダチという少女の一番の友人に別れを告げて、イッキは階段の下へと踏み入った。

 

 

 

 

 

 ◇◇∨

 

 

 

 

 

 魔女の城の地下。

 階下に潜るごと、辺りは暗くなってゆく。

 湿気もある。まさに中世の牢屋、といった雰囲気だ。

 

 

「それにしても、僕に合いたい人? 心当たりはないんだけどなぁ……」

 

「あのレトルトって奴が許してたからには、ロボロボ団でもなさそうじゃねーか?」

 

 

 隣を進むメタビーの言う通り。だとすれば猶更、心当たりはないのだが。

 そうしてぽつぽつと会話をしながら下る事しばらく。どうやら底にたどり着いたらしい。

 壁に立てかけられた燭台の明かりは周囲を照らすには心もとなく、薄暗い。

 その闇の中、ぽつりと1人。

 

 

「―― やあ、来たね?」

 

 

 仮面だ。マントだ。おかっぱだ。

 そんな不審な人物が、牢屋に踏み入ったイッキを見て声をかけてきた。

 ……ただ、イッキとしては美的センスが合うらしい。特に仮面の、怪盗レトルトの顔全てを覆うクラウン的なものとはまた違う、目元を隠して口元を隠さない尖りっぷりが何ともいえなく格好いい。

 ではなく。

 

 

「君が、僕を待っていたという人なの?」

 

「そうだ。貴方を待っていた。テンリョウ・イッキさん」

 

 

 どうやら同年代の男の子らしい。その割には敬語だが。

 仮面の男の子は活発そうに腕を組んで大きく頷くと、その左腕につけたメダロッチを突き出した。

 そのあたり、メダロッターならば不審人物でも変わりはない。

 

 

「俺は……そうだな。怪人Z仮面と呼んでくれ。貴方とロボトルがしたくて、魔女ミルキーに連れてきて(・・・・・)もらったんだ。どうか俺と、1機VS1機でのロボトルをしてくれないだろうか!」

 

 

 そう言った少年の言葉には、熱が込められていた。単純で、率直で、分り易い申し出だ。

 イッキとしては当然疑問も残る。魔女ミルキーに頼まなくても、通りすがりのイッキにロボトルを申し込めばそれで済む。これは、そういう願いのはずだ。

 ただ、それらどうでも良いことなんて置いてしまえば、ロボトルから挑まれて逃げる理由もない。

 イッキよりも先に、メタビーが一歩前に出る。

 

 

「受けて立つぜ、イッキ!」

 

「ああ。その勝負、受けるよ!」

 

 

 ロボトルを受けて。

 と、向かいの男の子もメダロットを転送した。

 ―― したのだ、が。

 

 

「行くぞ、出番だクロトジル(オメダ)!」

 

「おう! オイラ、合点承知だぜ!」

 

 

 現れたのはメタビーと同型の、KBT型メダロット。

 しかし、そのフォルムに見覚えがない。

 外付けの装甲パーツが各所に取り付けられており、カブトムシらしい鎧。脚部はより頑丈に。射撃には落ち着きが大切である。

 アクセントとして散りばめられた赤色は、サイカチスのものとはまた違い、先鋭さよりもクラシックさを強調してくる。

 

 

「(……あのKBT型メダロット、何かがおかしいぞ?)」

 

 

 疑問符が脳内を埋め尽くす。

 イッキという少年は、同年代の子供たちと比べてもメダロットには詳しい方だ。週刊メダロットの新型発売チェックは欠かさず行うし、おみくじ町に存在するメダロット研究所にも足繁く通う顔なじみである。

 だのに、機体名「クロトジル」……ペットネーム「オメダ」を名乗る目前のKBT型メダロットには、全くと言っていいほど見覚えがないのだ。

 そして、そのデザインにも違和感を覚えた。目の前で砲身を構えるKBT型メダロットは、洗練され過ぎ(・・・・)ている。

 イッキのメタビーが纏う第三世代KBT「サイカチス」とて、未だパーツテスト中の最新型だ。そのはずなのだ。

 だが、デザインというものにはデザイナーの個性が出る。そして隠しきれない時代の流れというものが出る。川を転がってゆく石は、時間をかけて下ってゆかなければ、丸くなるはずもない。

 その点について、サイカチスという機体は変形機構の他、装甲が薄くスリムな体型になったという特徴がある。

 しかしクロトジルには、今のメダロット達にはない雰囲気があった。

 ……まるで何度も作られたカブトムシという題材から、無駄を省いてリファインしたような。それでいて、重装甲パワーファイターというKBT型の元祖……BTL型メタルビートルの特徴を踏襲したような。

 そんな、今よりも未来の雰囲気を感じさせる、異質なデザインだった。

 

 

「合意とみていいかな?」

 

 

 ここには居ない審判の言葉を借りて、男の子は先を促す。

 イッキは慌ててメダロッチを構えると、頷く。

 

 

「う、うん!」

 

「それじゃあ行くよ。ロボトル……」

 

「―― 行くぜ、カブトムシ!」

 

「―― オイラが受けて立つぜ!」

 

 

 牢屋の中で、互いの銃器が火を噴き。

 

 

「「ファイトだっ!!」」

 

 

 遅れて響いた少年らの声を待つまでもなく、それがそのままロボトル開始の合図となった。

 

 






・怪人Z仮面
 怪人Zの初出は、メダロット3パーツコレクションより。色々混ざっています。
 今回のイベントは、メダロット2コアエンディング後の同場所でのイベントを参考にしています。
 本編でも(恐らく)これ以降回収されることのない(望めない)伏線です。
 仔細は多分、最終話まで語ることは出来ません。

・クロトジル
 メダロット5のKBT型主人公機。
 両腕がチョキで頭がグー。NPCが使うと右腕のライフルでパーツをばしばし破壊してくる。
 5はクリティカルが大切である。

・魔女ミルキー
 1とかでは通信のお姉さんを担当していました。
 2以降も担当してくれます。
 でも幼児愛好。ピー○ーパン。
 ガチテレポートできる。

・BTL型メタルビートル
 扱いが難しい型。メダロッターりんたろう!において、美化されたヒカルが扱ったとされるカブトムシ型の元祖。
 おそらく、ゲーム内で「めたびー」と平仮名表記される型のこと。
 イッキが扱うメタルビートルとはまた違い、色は茶色~こげ茶色。コミュニケーションモニターに表示される電光表情による目は丸型。
 つまりは無印「メダロット」のパッケージに描かれたメタルビートルのこと……と、本作では設定しています。


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   その先、突き当たり

 

 相対するは、カブトムシとカブトムシ。射撃戦は避けられない。

 車両型、レリクスモードを利用した高機動で弾丸を避けていたメタビー……だったが。

 

 

「っだだだっ!?」

 

「っと、変形は任意で解除もできるのか。オイラの周りには居ない感じのカブトムシだな……」

 

 

 クロトジルのオメダの射撃を回避するため、道中で変形を解除するという無茶をやった結果、ゴロゴロと転がって脚部をぶつけてしまっていたりした。

 

 

「メタビー、すぐ起きろ! ライフルが来るぞ!!」

 

「判ってる……っだら!」

 

 

 オメダのライフルをメタビーは右腕で受け、左腕のガトリングを撃ち返す。

 肉を切らせて骨を断つ。ガトリング射撃は足を止めて放たなければ命中精度がぐんと下がるが、その分攻撃力はライフルを越えている。クロトジルへ、ダメージ量で上回ろうという試みだ。

 

 

「そういう戦い方か……イッキさんらしいな。けど、そのメタビーの装甲は薄いはず。追撃だ、オメダ!」

 

「了解だ!」

 

 

 恐らくは相手もカブトメダルなのだろう。しかし(メタビーとは違って)怪人Z仮面のいうことを素直に聞いているように見えるあたり、同じメダルの間でも個性が大きく違うようだ。

 

 

「(って、メタビーの性格よりも……相手だ。この相手、怪人Z仮面は……メダロッターとして僕よりずっと上手い気がする)」

 

 

 そう。向かいに立つ怪人Z仮面の指示は、イッキから見ても見事なものだ。

 メタビーが変形すれば無理には追わず、牢屋内の敷地の狭さとクロトジルの装甲の厚さを利用して追い詰める。

 メタビーが一発逆転のクロス攻撃を試みれば、思い切りよく設置した弾丸の破壊を優先する。

 メタビーが変形を解除すれば、パーツを破壊して変形できなくしようとしてくる。

 1VS1のロボトルだというのも大いに関係しているとは思うが、指示が一貫しているのだ。判りやすく一直線な方針は、メダロットにとっても動きやすく感じることだろう。

 勿論、イッキの指示を待たず変形を解除して致命打を避けたメタビーの気転も悪くはないが……。

 

 

「(……仕掛けるぞ。メタビー)」

 

「(おう。でも、どっちだ?)」

 

 

 メダロッチを介した小声での会話。

 メタビーが問いかけた「どっち」というのは、なんとなくわかる。形成は悪い。一発逆転の手札を選ぶべき場面。メタビーの持つ高火力での攻撃は、クロス攻撃とメダフォース。そのどちら(・・・)を、という意味だ。

 イッキは考える。

 

 

「(メダフォースを武器にするなら、もう少し攻撃を受けなきゃいけない。クロス攻撃を使うなら、セットしたのをばれないようにしないといけない……か)」

 

 

 1VS1のロボトルである。メダフォースをためる機会は、3VS3の基礎ルールに比べて格段に少なくなる。少ない機会を生かして……かつ、火力のためになるべくパーツも残さなければならない。「一斉射撃」は、残存しているパーツの火力を集めるメダフォースなのだから。

 クロス攻撃は、セットした弾丸を放つという2工程を加えることで火力を爆発させる攻撃。故に、乱戦ならともかくこうして向かい合ってしまうと、そのセットした弾丸を破壊される前に動くのは難しいが……。

 

 

「―― 決めたぞ。メタビー」

 

「それで良いんだな?」

 

「うん」

 

 

 イッキが選んだ戦略に、メタビーはにやりと笑って答える。その表情はいつになく楽しそうだ。

 

 

「さあ ―― 決めようか、オメダ!」

 

「オイラも全力を見せてやる!」

 

 

 雰囲気を感じ取ったのだろう。怪人Z仮面もオメダに対応の指示を飛ばす。

 タイマン勝負。パーツが壊れ、劣勢になってからの逆転は難しい。だからこその短期決戦。

 メタビーが動く。

 

 

「変形っ ―― ヴるヴぉん!」

 

 

 肩の車輪を地につけ、再びのメダチェンジ。

 ギアをバックに入れて、メタビーが大きく後退する。

 

 

「追撃、斉射!」

 

「了解だ!!」

 

 

 クロトジルは両腕からライフルとガトリング射撃を慣行し、メタビーを追い回し始めた。

 右へ。左へ。

 

 

「……壁の脇、弾丸設置してるぞ!」

 

「そっちだな!! ―― 誘導弾っ」

 

 

 薄暗い牢屋の中。メタビーが逃げながら仕込んだクロス攻撃の弾丸を、怪人Z仮面は見抜いて見せた。

 放たれたミサイルがメタビーを迂回し、弾丸を爆散させる。

 オメダの表情に、僅かな安堵が生まれ。

 

 

「―― まだだ! 気を抜くなオメダ!」

 

「っえ!?」

 

 

 怪人Z仮面の鋭い言葉に、オメダが慌てて砲身を持ち上げる。

 目前、メタビーは変形したままだ。

 薄暗い闇の中、牽制に放たれていた弾丸を『わざと』受け、装甲をレリクスモードの維持限界ぎりぎりにまですり減らし。

 装甲を一体化させていたからこそ耐えられた、それらダメージをエネルギーにかえて。

 クロス攻撃のセットすらも、充填時間の餌として。

 

 

「―― どっちも(・・・・)だ、行くぞメタビー!」

 

「おうよっ……いっせいぃぃ! しゃーげーきーぃぃぃぃぃ!!」

 

 

 メタビーがエネルギーの砲撃を放つ。

 ごうっ、という風が吹き荒れ。

 そして。相手も。

 

 

「ダメージを受けてるのはこっちも同じだ! ぶちかませっ、オメダ!!」

 

「あああああ゛ーっ」

 

 

 紫電。

 オメダの背後に、甲虫が飛び立つ時の光景、薄羽がびしりと広がった。

 暗室の最中、その薄く儚い電気色の羽は、イッキとメタビーの網膜に強く、強く焼き付いて離れない。

 

 

「ダメージ還元んんっ!! 一斉掃射ぁぁ!!」

 

 

 羽を背負ったクロトジルの砲塔からも、エネルギーの弾丸が放たれ ―― ぶつかる。

 

 押し合う。

 

 エネルギーの砲撃と弾丸。

 

 互いが互いを削り合い、残ったのは ――

 

 

「防御だ、オメダ!!」

 

「くっ!!」

 

 

 メタビーのエネルギー砲がクロトジルに迫る。

 だが、その波は放たれた直後とは比べようもなく小さな物だった。

 クロトジルは身体を半身に傾け。

 

 

「左腕、破損! でも耐えきったぜ、オイラ!」

 

「良くやった、オメダ!」

 

 

 焼け溶け、むき出しのティンペット……左腕をぶら下げながらも、その場にしっかりと立って見せていた。

 これで勝負は付いた。なぜなら。

 

 

「……悪ぃ、イッキ。畜生、負けか」

 

「いや、ありがとうメタビー」

 

 

 ぐしゃりとひしゃげた二股角。歪んだ後輪、溶けたホイール。ティンペットまで折れ、循環オイルを吹き出し、マッスルチューブは断線している有様だ。

 メタビーは。そのパーツは。

 羽を広げたオメダに対抗するように、自らが放ったエネルギー波を増大させた結果……その反動に耐えきれず自壊した(・・・・)のだった。

 

 

「良い勝負だった。ありがとう」

 

「こちらこそ」

 

 

 勝負の後、両者メダロットをメダロッチに格納したところで、怪人Z仮面は握手を求めてきた。

 イッキはその手を取り、力強く握る。怪人Zは満足げな表情だ。

 握手をしながら、怪人Z仮面は牢屋の格子のカギを解いた。

 

 

「ありがとー、お兄ちゃん!」

 

「さっきのロボトル凄かったぜ-!」

 

「やっと出られる……母さんが怒っていなきゃいいんだけど……」

 

「ここまでがアトラクションだったのね……妙に凝ってるわ」

 

 

 先までのロボトルを見ていたのだろう。

 子ども達。囚われていた人々が、次々と階段を上って外へ出て行く。

 口々にお礼や会話を交わし……喧噪の中。

 

 

「……いや、不躾なお願いですいませんでした。本当にありがとう。俺は、貴方と勝負がしたかった」

 

「それなんだけど……なんで?」

 

 

 イッキ自身、先ほどのロボトル世界大会(メダロッ島規模)で優勝はして見せたものの、ロボトルに関してはまだまだ初心者であるという自覚がある。

 それこそ目の前の怪人Z仮面にも劣り、コウジが認める所のメダロッターであるユウダチなどには、到底及ばない。

 そんな風に不思議がるイッキの様子を見ながら、怪人Z仮面は笑う。

 

 

「貴方は強いですよ、テンリョウ・イッキさん。勝ったオレが言うのも嫌みに聞こえるかも知れませんが……たぶん、1VS1じゃなければもっと苦戦した。もっと苦戦して、負けも見えていたでしょう」

 

 

 彼は何故か、確信を込めた言葉で言う。

 だからこそ嫌みには聞こえない。確信を持っている理由は判らないが。

 

 

「負けても良かったんですけれどね。ただ、オレがここに居られる時間はとても少なかったので、こういう形にさせて貰いました。イッキさん。貴方にはもうちょっと……今よりも数歩だけ、強くなって貰いたかった。この先に待つあの人(・・・)の、辿るべき道筋なんてものを打ち破ってくれるのは、貴方しかいないんです」

 

「……あの人?」

 

 

 いぶかしむイッキへの返答は、怪人Z仮面の笑顔だ。そこを詳しく説明する気は無いらしい。

 その代わりに、と続ける。

 辺りはまだ騒がしい。2人の会話は、2人の間でだけ聞こえている。

 

 

 

「オレとのロボトルで、貴方は少しだけ経験を積みました。さっきのメダフォースの時の、オメダの様子を見てくれていたでしょう?」

 

「うん。()が……そう。電気色をした、昆虫の薄羽が見えた」

 

「それです。あれはメダフォースの奥の奥。メダロットという物が持つ、埒外の生命としての不思議な力。ともすれば侵略にも……それでいて、こうして遊びにも使える力。そういう物だと、オレは教わりました(・・・・・・)。使いこなせる人とメダロットは、数少ないと言うこともね」

 

 

 人々が少なくなって行く。

 同時に、怪人Z仮面は会話を切り上げた。彼の目的は達せられたのだろうか。

 

 

「はい、勿論です。……それでは、テンリョウ・イッキさん。また、いつか、何処かでロボトルしましょう。その時こそ全力で!」

 

 

 手を振り、階段を上っていった先で、彼の姿は(きらりーんと)かき消える。

 まるで最初から怪人Z仮面など居なかったかのように。

 イッキはその姿を、残滓を、どこか不思議な物に出会った様で見送っていた。

 

 ……その後ろから、どろりと黒い視線が彼を見つめているのには、気付けないまま。

 

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 

 メダロッ島から帰る船の中、イッキは再び甲板から海を見つめていた。

 ロボロボ団に囚われていたユウダチは、何事もなく無事だった。ただ、少しだけ様子が変だったようにも思えるが……言葉では言い表すことは出来ない。

 イッキとユウダチはまだ交流が少ない。表情だけで様子を察するには経験不足だと言うこともある。その点については後々の課題としておこう。そう思う。

 

 

「―― ここにいらっしゃったのですね、イッキ君」

 

「あ、カリンちゃん?」

 

 

 手すりに身体を任せて離れて行くメダロッ島を見つめていると、後ろからカリンが近づいてきていた。

 身体をそちらにむき直し。

 

 

「身体は大丈夫? それと、ご両親は良いの?」

 

「ふふ。大丈夫です。父様は、コウジ君とユウダチちゃんが食い止めてくれていますわ」

 

「食い止めてくれている……って。あははは」

 

 

 カリンの両親は、病弱なカリンに対して過保護気味である。家から出れば連れ戻すし、長時間の外出も許されない。

 ……そう考えると、メダロッ島に連れてきてくれなかったくらいで両親に拗ねて見せた自分の行動が、少しばかり恥ずかしくも思えてくる。家に帰ったら存分に謝って、楽しかった話をしよう。イッキはそう決め込んだ。

 だがまぁ、そのカリンについても、両親とこういう風に接することが出来るようになったのであれば。カリン自身の考えを持って行動できるのであれば、イッキが心配する必要も無いのかも知れない。

 

 

「それにわたしよりも、ユウダチちゃんの方が家族に関しては難しいですし」

 

「カリンちゃんは知ってるの? ユウダチの家族のこと」

 

「はい。わたしの叔父さん……メダロット博士からも聞いていますし、お兄さんやご両親と直接お会いしたこともありますわ」

 

 

 兄。ムラサメの兄というと……。

 イッキが考えている内に、カリンは再び口を開く。

 どうやら用事があるようだ。

 

 

「本当はわたし、探すよりも探される方が好きなのですが……今日こうして出歩いていたのは、イッキ君を探していたからでもあるんです」

 

「僕を?」

 

「はい」

 

 

 カリンはイッキの前で指を絡めて掌を組む。

 明るい茶がかりのツインテールが、海を吹く風に遊ぶ。

 請う様に。

 願う様に。

 瞼を閉じ、息を吸って、開いて。

 偽りのない、彼女の全霊の勇気を持って。

 

 

「ユウダチちゃんを。わたしの友達を ―― 守ってあげてくださいませんか」

 

 

 彼女が告げたのは、友の身を案じる言葉。幸先を願う言葉。

 

 ……イッキが聞こうとしていた言葉。

 

 ……そして、只一人走る少女へ追い縋るための命綱、鍵となる言葉。

 

 つまりは、呪いの言葉だ。

 

 





・クロトジル

 漫画版ではガトリングを撃った描写がないそうです(wiki調べ。
 構造的な問題なのでしょうけれども。

・ダメージ還元、一斉掃射

 5はメダフォースの代わりにメダスキル。
 ダメージ還元は、カブトメダルのリーダースキルから。

・探すよりも探される方が

 カリンの部屋の本棚参照。またはエンディング後、パーツンラリーのイベントを参照。
 カリンエンディング後だと、イッキはこのイベントの後に親と食事する約束を取り付ける。
 流石は小学生主人公……すごいなぁ。わたしにはとてもできない。


・自壊した

 伏線です(かつて無い程のダイレクトフラグ表記


・どろりと黒い視線

 大丈夫です(何が
 ユウダチっぽく書いただけでこの有様です(ぉぃ


・呪いの言葉だ

 折角上でフォローしたのに台無しです。
 大丈夫じゃないかもしれません(何が


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   これまで(あらすじ)、これから(みちすじ)

 

 ムラサメという家は、いわゆる名家だった(・・・)

 その栄光は過去の物だが、鉱石業であげた業績を生かし、メダロットという新興の玩具に関する商業に携わっていた。

 パーツの加工。土台となるティンペットの生産。それらの修理、販売。不自由はない。それら利益でもって、ムラサメの家を保つには十分過ぎる。

 ただ、メダロットという仕組み……その中央にメダルというコアを埋め込まなければならない構造が、家に不和をもたらした。

 メダル。ロボット。その中心となるのは、頭脳にして魂を司るメダルである。故に、そのメダルに関する利権を独占しているニモウサクの家がメダロット市場を牛耳ることとなるのは、自然な流れでもあったのだ。

 

 ムラサメの家の中心、つまりムラサメ・シデンの両親は割と善良な人達だ。

 社長という立場よりは代表と呼んだ方がしっくりくるような、腰の低い、和を尊ぶ人間性を持っている。

 和を尊ぶ。社の重役達の意見を無視しない、権力の強さを率先しては振るわない人達である。

 

 ニモウサク家の台頭に対して、ムラサメの社に示された方針は幾つかあった。

 ニモウサクの家に恭順し、メダロットという大事業の一役を担うこと。

 パーツやティンペットの独自開発を行い、ニモウサクとは違う路線で楯突くこと。

 アクセサリーや周辺機器に手を出すという路線もあっただろう。実際、「ケイタイ」と呼ばれる第一次メダロット転送格納機器の開発には、ムラサメの家から出頭したシデン少年の力が大きく働いている。

 

 しかし重役達はそれらの方針の中から、よりにもよって最も波風立てる選択肢をこぞって推した。

 つまりは、独自開発。メダロットという分野における独立だった。

 

 ムラサメ社が持つ武器……財産として、「遺跡」と呼ばれる地域を買い上げている事が挙げられる。

 かつてのメダルは、地面や遺跡から出土した物が全て。パーツすらも、遺跡から発掘したものを参考にしているほどだ。依存しているとすら言えよう。だからこそ幾つもの遺跡を押さえているムラサメであれば、社会的な利権を押さえられていても、いくらか融通は利くだろうという算段であった。

 

 そうして、両親の反対を押し切りメダロットの独自開発は実行に移された。

 資金も、人手も、社の殆どを注ぎ込んだ。基盤からして違うメダロットを作り上げるため、遺跡の殆どを吸い尽くし、がらくたの山(ジャンクヤード)を積み上げていった。

 ムラサメ社は努力を重ねた。その時代は、メダロットが売り出されて未だ数年という頃合い。そうして、前を見ていられる時代だった。

 ……すぐさま「天然ではないコピーメダルの開発」に成功したニモウサクの家によって、メダルの発掘という利点すらも奪い取られ、完膚なきまでに叩きのめされるという結末を迎えるまでは。

 

 一度負ける。そこまでは良かった。負けた時の方策が無いようでは、それは社である意味が無い。

 セーフティは稼働し、ムラサメという社の形は存続した。痛めつけられた重役達は大人しくなった。ニモウサクのメダロット事業に参画し、自社の特徴を生かしてパーツの生産業と開発業を受け持つことが出来た。

 やっと協力できたのだ。なのにそれを、ニモウサクの家に取り込まれたのだと。ムラサメの誇りを忘れたのかと。そう、良く思わないのは、社に残った……かつて痛めつけられた人達である。

 

 ムラサメ・シデンという長兄は、そんな捻れ狂う淀みの中で生きていくことを選んだ。淀みの中だからこそ輝く才気を掲げ、自らを天才なのだと戒め、汚れを胸の奥底に積もらせつつも、表層には出さぬよう細心の注意を払いながら。

 ムラサメ・ユウダチという長女は、そんな暗闇の中から逃げることを選んだ。しかし5才になったばかりの子どもが親から離れられる筈はなく、傘下の炭鉱街で単身、社宅を転々とする日々が続く。妬み嫉みの渦から這い出たが故に、その瞳の中に貯まった汚泥を吐き出すことも許されずに。

 

 翌年、メダロットという社会を揺るがす事態が起こった。

 後に「魔の10日間」と呼ばれる、メダロットの暴走事件である。

 

 事件の後に残された何が問題なのか……は、吐き捨てるほどあって枚挙に暇がない。

 例えば根幹のメダル部分に電流操作で暴走させられるシステムが仕組まれていただとか。

 そのメダルがニモウサクにセレクト隊が依頼して作られたセーフティ機能ありありのコピーメダル、セレクトメダルだとか。

 メダロッター人口の多さから、コピーメダルは販売中止にはならず、電流操作機能を除外した物が今でも販売されているだとか。

 セレクト隊の隊長が犯人だったとか。ビルが一晩で消えたとか。宇宙人がゴシップだとか。

 ……そういう雑事は、年時の経過によって薄れていくのでどうでも良いだろう。

 

 ただ、「魔の10日間」を、解決に導いた少年少女がいたのだ。

 野良メダロット達の立場が悪くなったのだ。

 ニモウサクの家に批判の矛先が向けられた事で、重役達が本格的に復讐を再開し始めたのだ。

 

 メダルとロボット。

 その組み合わせによる技術が生まれて、生産ラインが作られて、商業に乗って……たかが数年での出来事だった。

 だからこそ、魔の10日間という事件を経て初めて、ロボットペットと人間との関係が本格的に問われ始めていた。

 

 それからまた、時間は過ぎて行く。

 メダロットは世界的なブームになった。

 こうして島丸々1つを使ったメダロットをテーマとした遊園地が出来て、それが商業として成り立ってしまう程度には。

 

 メダロットはロボットペットとしてだけではなく、玩具として、そして宇宙開発の一助としても期待をかけられている。

 結果としてムラサメの家は、そのどれにも関わっており……ステーションの開発では一歩遅れたが、宇宙適応したメダロットの開発においてはニモウサクの家に先んじることが出来たのだった。

 

 そうして今に至って。

 ムラサメの子ども達は、未だ汚泥の中を藻掻き進む日々を過ごしていた。

 

 ムラサメ・シデンは若き社長、社の広告塔として。

 ムラサメ・ユウダチはその開発部門の一職員として。

 ムラサメ・レイニーは……まだ物心ついていない年ながら、シスターをしている。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ガラクタ山の動かぬメダロットだけが友達だった少女は、5才の頃にアガタ・ヒカルとアキハバラ・ナエに出会う。

 光明だった。暴走事件を通して奔走し、時には崩れることもあったが、彼らのおかげで寂しさを少しだけ克服し、前を向くことが出来た。

 

 小学生になった少女には、友人が出来た。名前をジュンマイ・カリンという。

 カリンは少女の背景や人とずれた感覚を受容できる、受容しながらも付き合ってゆける、温和で広い人柄を持つ少女だった。

 少女は、彼女を通してカラクチ・コウジと知り合い、そのコウジを通してテンリョウ・イッキやアマザケ・アリカとも知り合った。

 

 暴走事件を機に力不足を実感した少女は、ロボトルも強くなった。

 (あに)さまと慕うヒカルから教えを受け、自らの長所を生かし。ロボトルリーグの簡易指標ともなる「メダリンク」において、少女は好成績を残している。今は兄たるムラサメ・シデンと並ぶアジア地区でランカーを務めており、世界ランキングも保持している程だ。

 その兄は何やらムラサメ社……現「ロボトルリサーチ社」を利用して色々と手回しをしているようだが、いずれにせよシデンとそのメダロット達もロボトルが強い事には変わりない。

 

 少女は小学5年生となった。

 本日、少女は友人達と共にメダロッ島というテーマパークに訪れていた。色々と他の理由……ロボロボ団幹部のサラミがどうやら暴走しているらしいというものもあったが、単純に初めて利用する「テーマパーク」なるものに対する好奇心も大きかったであろう。

 テーマパークそのもの、アトラクションの数々と催し物は大変に楽しいものだった。友人たちと一緒なら尚更である。

 そこへイッキとアリカが同道したのは偶然だが、しかし目下、少女の興味は偶然同道したその友人へと向けられていた。

 

 

「……」

 

 

 自らが属する研究室のPCの前を陣取って、黒い両目をうっすらどろりと開く。視点は揺るぎない。

 友人はその名を、テンリョウ・イッキと言う(さっきも言ったが)。

 自らと同年の11歳。アガタ・ヒカルが認め、自らも愛用するKBT型を怪盗レトルトに扮して渡すほど。また、メダロット博士と共に開発したメダフォースを測定できる新型メダロッチを渡すほどの ―― 純然たるメダロット好き。

 子どもらしくメダロットと向き合うことが出来、気弱なところもあるが真っ直ぐな、しかしいざという時には勇気を奮って悪に立ち向う少年。

 そういう、頭に結われたちょんまげ以外は、ごくごく普通の少年である。その筈なのだ。

 

 だが、その少年は「メダロットと心を通わせる」 ―― この1点において平凡ではなかった。

 

 一般的な子どもらは、メダロットとの間に「一線を引く」。それはロボットと人間の間に隔たる当たり前の隔絶であり、必ず別れを迎える両者にとって必要な「距離」だ。

 しかしテンリョウ・イッキにはその距離が、ない。

 主従としての畏れがない。庇護を受ける側の引け目もない。普通の、それこそ同年代の友人と……仲間と接するように、メダロット達とコミュニケーションを取れる。

 それはかつての、人の集団に排斥されたアガタ・ヒカルが持つ、数値に表せない素質であり。

 そして今、ユウダチが捨てられずに持ち続ける、人ならざる感覚の正体でもある。

 

 

「……」

 

 

 メダロッ島から帰ってきて、しばらくの時が過ぎた。そろそろ夏休みに突入する頃合いである。

 彫刻のように椅子に座っては動かず。少女が燻りうねる黒々とした瞳で見つめる先には、ロボトルリサーチ社が運営するメダリンクのリアルタイム順位表が表示されている。

 メダロッ島から帰還してからというもの、テンリョウ・イッキは邁進を始めた。どうやらロボトルに精を出しているらしい。

 元々素質のある少年が、本来ならば友人たちと遊んでいるであろう放課後や、家族の団らんの時間を削ってまで、メダリンクを利用してロボトルの研鑽を重ねているのだ。流石に少年は吸収率が高い。ランキングを急激に上昇させているのは、少女にとっては不思議な事でもない。

 ロボトルランキングの上昇……いや。彼の場合は単純にロボトルが上手くなりたいという一心なのかもしれないが……とにかく、日本ランキングを急上昇させている少年。

 花園学園の学生であるハチロウを倒せば、小学生ながらにトップ50も圏内である。そろそろ目立つ立場になりそうだ。

 

 

「―― イッキ」

 

 

 モニターに表示された少年のランキングポイント上昇を見届け、どろりと両目を動かすと、少女はぽつりと少年の名を零す。

 自社というにはおこがましいが……ムラサメの家が。ロボトルリサーチ社が管理する、ロボトルランキングだ。あれでプライドの高い兄がああいうことをしているのは、その辺りも関係しているのだろう。

 少年がランキングを上げ続ければ、いずれは自分と戦う事もあるのだろうか。

 だとすれば、その時には ――。

 

 

「……いえ。それはまだ、早いです。でも……楽しみにしておきますです、イッキ」

 

 

 本当に楽しそうに笑うと、少女は自らの研究室の明かりを消し、部屋を出て行く。

 がらくた共の山の中。研究室の細胞固定液の中に浮かび続けるメダル達は鈍くも光り、少女の行く末を見守っている様に見えた。

 

 






 地の文多め。
 前半はまとめとおさらい、後半はいよいよユウダチ視点の解禁という構成です。
 多分、私の悪癖(くどい、長い、整理整頓されていなくて判りづらい)が炸裂している。


・メダロット社
 だからといってメダロット社がクリーン企業なのかと言われると、漫画版のアングラさんとかピルバーレンさん家の子どもを見てるとそうも行かない気がする。まぁあの人は株主なだけですけど……。
 ムラサメの子ども達もメダロット社のおかげでこの様ですし……(注意:二次創作。

・ムラサメ・レイニー
 オチ担当の末妹。
 出家しているので、あまり関係が無い。

・ハチロウ
 メダロポリス編の分岐から考えると、出演は厳しいか。


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◆3 いざ、舞台裏へ、いざいざ



 あらすじ

 色々とあって、メダロポリスを訪れていたイッキとメタビー。
 メダロデパートを訪れた。

 の、だが。
 なにか……いや、「誰か」におみやげを買おうかなという思考に行き当たった。

 思い当たるのは、先日のメダロッ島からの帰路でカリンにお願いされた人物。
 不思議な隣人のことだった。


 

 さて。と、イッキは食材よりもメダロット関連の小物を見るために、雑貨スペースへと回ることにする。

 アリカが喜びそうな望遠レンズや、寂しがり屋なカリンが喜びそうな小動物などのスペースもあったが、目下、イッキの脳内を占めているのは、鼻歌などを歌いながらカートをがらがらと押して食料品をどさどさ積み込んでいるユウダチである。

 

 

「てれれれーれれー……ふんふんふふー、ふっふふんふっふーふーんふーん……てれれれれー」

 

 

 メダロット社公認CMロボトルソングのレッツロボトルダンス、だろうか。

 まぁ鼻歌の内容は兎も角、そんな少女ユウダチについて。

 彼女の友人はイッキに向けて、守ってほしいという願いを投げかけたのが、数週間前のことだ。

 

 

「……とは、言われてもなぁ……」

 

 

 その願いの内容と顛末を思い返しながら、イッキは頬をかく。

 ユウダチについてイッキが知っていることは少ない。しかし彼女の友人であるカリンによれば、ユウダチの実家……ムラサメ家がなにやら良からぬ様子で動き出しているらしいのだ。

 ムラサメという家は、聞くところ、メダロット社の分室として「ロボトルリサーチ社」を牛耳っているらしい。現在のメダロット社の代表であるニモウサク家との間にはなにやら因縁めいたものがあり、ユウダチがいずれ来る争いに巻き込まれようとしている……らしい。

 らしいという言葉を連呼した通り、カリンも誰かから聞かされた、又聞きの状態であるようだ。

 

 

「でも、アリカもうわさは聞いているみたいだし……ナエさんもそれっぽい事を言ってたし」

 

 

 後から番記者な幼馴染に尋ねてみたところ、どうやら力が集まり過ぎたメダロット社を分散させようという試みはずっと昔からあったもののようだ。メダロットという世界的ブームになった玩具を元手にしているのだから、力が集まるのは当然といえよう。

 通い詰めているメダロット研究所に勤めており、業界により詳しいナエに曰く、ロボトルリサーチ社はメダロット社を分散させるその先駆けのようなものであったらしい。最近では海外にもいくつかの部署を併設しており、名前は変わるが勢力的にはメダロット社に加わることになるそうだ。

 そしてナエには、ウミネコ海岸での一件もある。

 あの言葉をユウダチの行く末を示した注意だと捉えれば、カリンの願いは、「あまり知らないから」という一事を盾に、切って捨てる訳にもいかないものだ……と、イッキは考えている。

 ユウダチはイッキの友人だ。

 ただ、多少接点がある程度の友人に対して放っておけないと思えるあたり、イッキは情が深めの年若い少年なのだが、それはそれとして。

 

 

「あっ、イッキ。……そういえばそろそろ15分ですね。もしかして、お待たせしていたです?」

 

 

 掛けられた声に反応して顔を上げると、レジカウンターの前にカゴを差し出すユウダチが目の前にいた。

 イッキは慌てて両手をふるう。

 

 

「いや、大丈夫。ちょっと考え事をしていて、ぼーっと歩いていただけなんだ。ユウダチこそ、買い物は終わったの?」

 

「はいです! よっ、とぉ。これです!」

 

 

 会計を終えたようだ。商品満載のカゴを、ユウダチは袋詰めにするためのスペースへ移動させる。

 袋の中へ次々と、手際よく詰めながら。

 

 

「そう言えば、サイカチスの可動データを実地で取りたいのです。イッキ、今週の週末は空いているです?」

 

「そうだね……うん。予定はないと思うよ」

 

 

 メダロッチのスケジュール機能を確認して、イッキは頷く。

 勿論それは今の段階ではという事であって、これから予定が入る可能性も無い訳ではないが。主にあの突飛な幼馴染の取材などによって。

 とはいえそれら予定も、ユウダチが先にアポイントを取ってしまえば横入りはない。アリカは強引でマイペースだが、そもそもイッキをお供にしなくても、ひとりだけで十分な程のバイタリティを有しているのだから。

 

 

「ではでは、今週末! わたしのアパートメントの前で集合しましょう!」

 

「え、ええっと……うん。でも」

 

「だーいじょーぶですっ! 地図は後でメダロッチに転送しておきますので! データは……んー、セイリュウの研究所に行った方が気楽ですかね……」

 

 

 かくしてイッキの週末の予定が組まれてゆく。

 おどろ沼での同行以来、最近はこの少女と妙に関わりがあるな、とイッキは思った。

 

 ・笑顔が生理的な嫌悪感を臭わせること。

 ・実家が影をおびまくっていること。

 ・メダロットに関する専門的な会話が多くなること。

 

 それら些細なこと(・・・・・)を除けば、ユウダチは人付き合いの良い意外に付き合いやすい少女ではあるので、こうして一緒に居るのも苦ではないのだが。

 加えて最後の1つは、メダロット好きなイッキにとってご褒美である(new!)。

 

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 

「今度は賢いロボロボ団が現れたんだって! それを取材に行くわよ!!」

 

「ええー……セレクト隊に任せようよ」

 

 

 時と所変わって、おみくじ町ギンジョウ小学校、放課後の教室。

 アリカは机の上に置いた新聞の見出しをばしばしと叩きながら、目の前で露骨に嫌そうな顔をしているイッキへ語っていて。

 

 

「にわかに巷を賑わしている賢いロボロボ団! 実はあたし、その正体に目星もつけているのよっっっ」

 

 

 小さい「つ」が連なるくらいに勢いよく、アマザケアリカは拳を握る。その手には新聞下書き用途の鉛筆が握られていた。データ整理はパソコンのくせに新聞は手書きなのがこだわりである。

 

 

「聞いてるの、イッキ!?」

 

「聞いているよ、アリカ」

 

「それで、今週末! 予定は開けといてよね!!」

 

「うーん……ごめんよアリカ。今週末は予定が入ってるんだ」

 

「えっ!?」

 

「ユウダチと一緒に、メタビーの……サイカチスのデータを取りにセイリュウの研究所まで出かけるんだってさ」

 

 

 驚く幼馴染に、イッキは平身低頭。

 用事が入っているとは思わなかったのか、アリカは一瞬驚いた表情を浮かべたが、しばらくして顎に手を当てながらうなり始めた。

 

 

「……そうね。美少女天才メダロッター、ユウダチちゃんの密着取材と考えれば……うーん、でも、あたしの方にも人手が欲しいのよね」

 

「でも、話は聞くし相談にも乗るよ。……で、アリカ。目星をつけているっていう場所は何処なの?」

 

「それね。花園学園よ!!」

 

 

 イッキの質問にくるりと切り替えると、アリカは手製の地図を広げた。

 メダロポリス一帯が書かれた地図のそこかしこには、×印が描かれている。どうやら「賢いロボロボ団」の出現場所をまとめたものであるらしい。

 

 

「賢いロボロボ団は背が小さい……つまりは子供でしょ。このバツ印がついている周辺で最も大きな学校が、花園学園なの。いくら何でも義務教育は避けられないでしょ?」

 

「へぇ……でもそれなら、セレクト隊だって予想しているんじゃない?」

 

「そうかもね。でも大人って、証拠がなきゃ動けないっていうじゃない。だからまずは捕まえようとしているんじゃないかしら」

 

 

 それもそうか。

 捕まえて確定的な証拠を握らなければ、立ち入りすらもかなわない。なんとも世知辛い世の中である。

 とはいえその証拠を握る……ロボロボ団を捕まえるという第一段階が実行できていないあたり、セレクト隊がセレクト隊たる所以なのだろうが。

 

 

「それで、その調査のために人手が必要なんだね?」

 

「そうよ。でもイッキがこれないとなると……」

 

「いや、アリカ。コウジとカリンちゃんがいるじゃないか。花園学園の調査なら、都合もいいんじゃない?」

 

 

 イッキがそういうと、アリカが二度目の驚き。どうやら考えていなかったらしい。

 

 

「身内を疑う……ってコウジなら怒るかもしれないけど、カリンちゃんを交えて説明すれば大丈夫だと思うよ。それに犯人を自分の手で探すっていえば協力もしてくれるだろうね」

 

「そう……ね。うん。そうしてみようかしら」

 

『わたしも手伝うからね、アリカちゃん』

 

 

 アリカのメダロットであるセーラーマルチのブラスが、彼女の頷きに同意する。

 ……これは決して、押し付けてはいない。コウジの気性を利用したわけだが、その点については弁護しておこう。

 アリカはうんうんと何度もうなずくと、イッキをびしりと指さした。

 

 

「ならイッキ、それにメタビー! ユウダチちゃんをきちんと守ってあげなさいよね!!」

 

『おうよ!』

 

 

 どうやら友達間で話は伝わって(しまって)いるらしい。メタビーがメダロッチの中から、単独で、元気な返答。

 その点について自信はまだないが、幼馴染の言葉だ。イッキはとりあえず頷いておくことにした。

 

 

 

 

 

 ――

 

 ――――

 

 

 

 

「して、レトルト。メダロッ島での調査で得たこれらは……」

 

「はい。ヘベレケ博士が開発したメダリアシステム。そしてメダフォースの稼働データを蓄積した『人工的なレアメダル』の完成形だと思われます」

 

「そうか……ふむ」

 

 

 アキハバラ・アトム。俗にメダロット博士と呼ばれる天辺禿頭の老人は、サングラス越しに目線を落とした。

 向かいで直立する2人組に、呟くように返す。

 

 

「ヘベレケの奴は直接的すぎる。何でも叩けば治るというものではあるまいに……」

 

「テレビに45度でチョップをくらわすのとは規模が違いますからね、これは」

 

「メダロットが生まれてから、人の世に浸透してからの期間が短すぎる(・・・・)。免疫をつけるのとはわけが違う。これでは受け入れるための犠牲を無視しているようなもんじゃわい」

 

「……ですがおじい様、その急ぐ理由があったとしたら事態は変わりますわ」

 

 

 白チャイナ羽マントの女性が、レトルトの横から親しみのこもった声で話す。

 

 

「あるのかの? その理由とやらが」

 

「ええ。メダロット社と……そうですね。ここは敢えて『分けて』おきますけれど……ムラサメの家。現ロボトルリサーチ社が良からぬ動きを見せていますわ」

 

「あれです博士。宇宙開発」

 

「……まさか?」

 

 

 メダロット博士の前で、青年と淑女は頷く。

 

 

「月のマザー、地球のマザー、海の母……そして木星の使途。メダロット社は前者2つを、ロボトルリサーチ社は木星の使途をということで財産の分与(・・・・・)は済んでしまったみたいですね、わたしのニモウサクな友人に曰く」

 

「海の人工の母は、気まぐれすぎて確保もままならんか」

 

「あれは基本的に無害ですからね。『学者的な意味のメダフォース』に近いものは扱えるみたいですけれども」

 

「ふーむ……重役たちは何をしとるのやら。いや、あれらは元々利益に目がくらんでおるか」

 

「ですね。アングラの一派とタマヤスの一派が仲違いをし、タマヤスの一派が政界へ進出することで喧嘩は済んだみたいです。残ったアングラがやりたい放題、という流れですね。ニモウサク現代表君はそれら暴走を内々で処理するらしく、こうして()に情報を流してくれたみたいですが」

 

 

 レトルトが|● v ●|みたいな仮面を下に向けて傾ける。

 メダロット社にとって大事なのは、独占している利益だ。パーツ開発など、ここ数年で外にも流れてしまった技術は仕方がない。保守的な部分だけは意地でも確保する、という意向であるらしい。

 未来に向けた目は持っていない……と、世間的に思われても仕方がない。実際には会社は群体であり、目は1つだけではないので、それも杞憂ではあるのだが。

 

 

「メダロットが……メダルという情報集積体がもともと、何のための物なのか。それを知っているのは自分たちだけで良い。本気でそう考えているのでしょうか?」

 

「わからん。ヘベレケが肝を入れているのは恐らく、別の計画であろうからの」

 

「ですがこの件は同時に対処、という事になりますね……」

 

「うーむ……困ったことになったわい」

 

 

 手持ちの力が……力の数が少なすぎる。

 メダロット界の権威は、自らの突出ぶりと世間評の余計な高さに、頭を抱える羽目になっていたりする。

 

 

 





・プレゼント
 誰も選ばないという選択肢。

・セーラーマルチ
 多分初めて出した、アリカの機体。自分で書いておいてうろ覚えすぎる。
 ロボ娘として人気が高いはず。
 縞々。

・メダフォースの稼働データを蓄積した『人工的なレアメダル』
 ムラサメの家が躍起になって事態を進展させている主原因。
 事態を進展させすぎて、アナザールートに突入した。
 ……メダフォースの稼働データが順調に蓄積されている理由が、アガタ・ヒカル以来のメダフォースを自由に扱える(ちょんまげ)メダロッターの出現と、彼がメダロット社ムラサメ家ヘベレケ派閥の全てが閲覧可能な情報集積に協力しているせいだというのは、ご察し。

・|● v ●|
 BK201ではない。



 202200527 書き方変更のため、前書き追加。


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   対面、兄様兄様

 

 

 その週末。

 イッキは約束通り、ユウダチが所属するメダロットの研究所……開発所へと足をのばしていた。

 イッキの目の前。サイバーとでもいうべき平面舞台の上で、テスターの機体を相手に、メタビーは八面六臂の活躍を見せている(表現が正しいのかは不明)。

 サイカチスという機体の()は、動力を一体化したからこその機動力と爆発力にある。継戦という意味では、パーツを切り分けられる通常の……変形しないメダロット達の方が優れているだろう。だがそれを補って余りある移動能力とクロス攻撃の火力は、メタビーの大雑把な性格と実によくマッチしていたのだ。

 

 

「―― しゃらくせえっっ!!」

 

 

 車輪を逆回転。急停止、急旋回。

 叫びと共にメタビーの角から放たれた弾頭が弧を描いて時間差で爆発。旋回の間を埋める。

 イッキも、叫ぶ。それは「あらかじめ示し合わせた作戦」の実行の機会をうかがう確認であって、余分な時間……相手に反撃の機を与えてしまうような隙をみせることはない。

 

 

「……いけっ、メタビー!」

 

「だらぁぁぁーっ!!」

 

 

 振り向きざまのミサイルに足を取られた相手に、最後はメタビーが突貫。推進力抜群の車両型。物理的な「体当たり」をくらわして、相手のメダロットを機能不能に追い込んで見せた。

 ロボトルの結末を見届け、手書きのチェックリストを掲げた白衣の青年研究員はほうとため息を漏らす。

 

 

「これで12連勝……本当にすごいね、メタビー君とイッキ君は。今回は特に、とどめに体当たりを持ってくるアイデアなんて、その発想には驚かされるよ」

 

「おう! みたか、イッキ!」

 

「見てたぞメタビー。ナイス!」

 

 

 ロボトルを終えたメタビーが此方に駆けてくる

 小学生のイッキよりも更に小柄な、1メートルにも満たないメタビーの身体。そこから突き出された拳に、イッキは自分の拳をがつりと突き合わせた。

 固くはない。だが、人間の肌のように柔らかくもない。強いて言えばイッキの方が痛いだろうが、それはメタビーにしても同じ事。手拳が痛くないはずはない。骨がぶつかるのだから。

 

 

「それじゃあここで一旦休憩にしようか。メタビー君は、あちらでユウダチのメンテ兼内部システム稼働データ収集を受けてきてくれないか?」

 

「よくわからんが、わかった! 後でな、イッキ」

 

 

 研究員の促しに応じて、メタビーは奥へがしょがしょと走ってゆく。

 イッキはその後ろ姿に手を振りながら、研究員が持ってきてくれたスポーツドリンクを受け取った。

 

 

「これはお礼だよ。今日もありがとうね、イッキ君」 

 

「いえ、とんでもないです。僕もメタビーも、ロボトルの練習になっているので」

 

 

 相手は研究員だとは言え、メダリンクよりも、やはり実際に顔を突き合わせて戦うロボトルの方が得るものは多い。イッキはそう感じている。

 因みに午後になれば、スパイダとベアーを混ぜた3vs3のロボトルからのデータ集めも予定されている。指示する数が多ければ多いほど、ロボトルは難しくなる。イッキの腕の見せ所である。

 

 

「……うーん。やはり凄いね、君は」

 

「? どういうことですか、ミチオさん」

 

 

 実験場に2人だ。時間はある。この施設でよく顔を突き合わせる、ミチオという研究員が発した何気ない言葉に、イッキは素直な疑問をぶつけてみた。

 

 

「君とメダロット達の間柄がいいね、と思ったのさ。僕たちくらいになってくると、メダロットと人間との関係性とか、そういう部分にも気を使うからね」

 

「関係性……?」

 

「そうだ。君も最初に習っていると思うけど、メダロットと人間は決して平等な関係じゃないんだよ。メダロット三原則、っていう縛りがあるからね」

 

 

 白衣だが、しかし眼鏡ではないミチオさんは缶コーヒーのタブを持ち上げて、口につける。

 メダロット三原則。昔の頭がいい人が提唱した……「ロボットに適応されるそれ」に似た、人が自分を守るためのセイフティの事だ。

 

 

「イッキ君、友達と喧嘩をしたことは?」

 

「ありますよ」

 

 

 イッキはすぐに頷く。それこそ幼馴染のアリカとは、数えきれないほどしただろう。

 ミチオはその返答をこそ待っていたとばかりに、メダロッチをのぞき込む。彼が開発した、ロードローダーという状態変化攻撃を得意とするメダロットのパーツ一式が表示されている。

 ……メダロッチその中にいる、それらパーツを纏った、彼にとっての友人らをみやり。

 

 

「彼ら彼女らには、人に対して喧嘩を挑むことは許されていない。言葉なら何とかなるし、無意識にならばという事例もあるだろうけれど。喧嘩っていうものの多くは、相手を傷つける行為を含むからね。最初から成り立つはずのない争いを、喧嘩とは言わないだろう」

 

「……」

 

「でも、君とメダロット達は違う。できないかもしれないけど。喧嘩は、僕たちから見たら喧嘩には値しないのかもしれないけど。でも、君は普通だ。普通に言い争って、普通に取っ組み合って、普通に友情を育んでいる。内側の定義の違いなのだとしても、それは、間違いなく凄いことなんだ。……少なくとも僕らみたいなメダロットの研究者にとっては、ね」

 

 

 普通が普通でないこともある。そう言いたげだ。

 少なくともイッキにとってそれは普通の出来事で、言い争う必要も無い現実なのだが、そうでない事もあるというのは理解してもいたりする。

 

 

「うん。だから、ユウダチがイッキ君を気に入るのも、僕たち同部署の研究員としては頷けるんだよ。彼女もまた、メダロットと同じ場所で物事を見ることのできる人間だからね」

 

「ユウダチも……そうなんですか?」

 

「ははは。とはいえ彼女がそう在る詳しい理由とか、その辺りは、アキハバラの娘さんとか、彼女のいい人(・・・)から改めて聞くと良いよ。僕もユウダチちゃんの事は、又聞きでしかないからね」

 

 

 ミチオは研究街としてデザインされたリュウトウ町に集められた人員で、幼少の頃から周辺に住んでいる訳ではないらしい。田舎はもっと遠くの、ちょっと廃れた自然の残る村であるようだ。

 だから、と前おいて。愚痴をこぼすように。

 

 

「そう。僕らは、ムラサメの社に出向しそうになった所をかき集められた人員なんだ。ユウダチちゃんがひとつ計画を受け持つから……家の面目を保つためにってね。ムラサメの家からは遠ざけられたといっても良い。でも、前線から遠のいたっていうのに、ここにいる研究員は誰も後悔はしてないんじゃないかな。あんな利権と派閥がやっかみあっている面倒な場所へ移されるくらいなら、場末のここで宇宙向けのパーツ開発なんかをしている方が100倍幸せだろうからね。人間としても、研究者冥利に尽きるってものさ。()もかつては、クラスターの周辺開発なんかを受け持たされていたからね……」

 

「……クラスター?」

 

「ああ。クラスター。今のムラサメの家が持つ利権の象徴。……今、君のおかげで開発を後回しにされている計画さ」

 

 

 ミチオがそう呟くも、イッキが問い返す暇はない。

 向かいで、白衣でツナギのアンバランスな少女が手を振っているのが見えたからだ。

 

 

「―― イッキ! 解析は終わりましたですよー!」

 

「これからユウダチん家に行くんだろ? 日が暮れちまうぞ、さっさと行こうぜイッキ」

 

 

 研究所の入り口に、ランドモーターに腰掛けたツナギ少女とマイペースなカブト虫の相棒が見えていた。

 いつの間に。というかメタビーはどうやって。

 ともあれ待たせておく訳にもいかず。気になる話の途中ではあったが、イッキは素早く踵を返すと、ミチオに一礼して出入り口へと向かう。

 

 

「ありがとうございました! それじゃあ僕はこれで!」

 

「ああ。それじゃあまたね、イッキ君」

 

 

 見送る先でユウダチやメタビーと合流すると、イッキは「かぜのつばさ」が使用できる発着場へと向けてドライビング。

 その後ろ姿を消えるまで見送って、ミチオはため息を吐き出した。

 

 

「……はぁ。いいなぁ。一段落ついたら俺も研究者をやめて、のんびりできる時間でも作ろうかなぁ」

 

 

 かつては同様に、そして今もメダロット大好きな青年は。眩しい物にでもあてられたかのように疲れた様子で、しかし決して嫌ではない嬉しさと憧憬を滲ませながら、頭をかいた。

 田舎でタクシードライバーなんて、如何にも時間が出来そうだよなぁ……なんて。未来の自分に思いを馳せて、呟きながら。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 週末、世間的には土曜日のメダロポリスは行き交う人とメダロットでごった返していた。

 土曜日だからこそイッキも小学校が休みで、こうしてメダロット社のテスターとして一日を費やしていたのだが、既に時間は日も沈みかねない頃合いとなっている。

 ミニハンドルを追加されたランドモーターの背、ユウダチの隣の席。イッキが、これからの予定に頭を悩ませていると。

 

 

「さてー、着きましたですよっ!」

 

 

 メダロット社と同じ区画にある住宅街……マンションが林立している場所の集合駐車場で、ユウダチはランドモーターを止めた。

 

 

「ここがユウダチの家なの?」

 

「はいです! 実家ではなくひとり暮らしですからねー」

 

 

 買い物袋などを2人で取り出しながら、イッキはマンションを見上げた。

 一等地に近い都心の、ごくごく普通のマンションである。が、そこにひとりで住んでいるのが小学生となると、普通ではない。

 

 

「まぁそれはそれとして。それじゃあ、行こうか」

 

「はいです! あ、エレベーターはこちらですよ!」

 

 

 イッキはユウダチが指さした先のエレベーターに乗って、階層を移動する。目指すはユウダチと……それに、ヒカルやナエの住んでいる階だそうだ。

 メダロット社にも籍を置いているナエと、その恋人であるヒカル。彼ら彼女らは幼少の頃からユウダチと親交があり、その親からも信頼を勝ち得ているらしい。ユウダチが社宅で一人暮らしをするにあたって、同じ場所にある部屋に住むのが条件として出されたのだそうだ。 

 

 

「私としては社に近ければ良いんですけどね、どこでも!」

 

「でも、それで研究室に泊まりこもうとして止められるんでしょ? どうせ」

 

「おおー……まるで見てきたみたいにいいますね、イッキ!」

 

 

 まぁ、そうなんですが! と嬉しそうにユウダチは続けるが、全くもって胸を張る理由は見当たらない内容だ。どうやら両親の危惧は大当たり、大正解の様子である。

 そうしながらもエレベーターを降り、メダロポリスの都会じみた景色を見ながら廊下を進み。

 

 

「あの角を曲がった先がヒカル兄様の部屋で、その先が私の……と?」

 

 

 笑顔で先導していたユウダチが、角を曲がったその先で足を止め、疑問符を浮かべる。

 追ってイッキも角を曲がる。

 そこに。

 

 

「―― 来たのかい、ユウダチ」

 

 

 予想だにしない……イッキにとってはほんとに見た事のない人が立っていた。

 ユウダチが買い物袋のひとつを持ち上げて、でもぎゅうぎゅうな袋の重さに負けて。結果、ちょっとだけ力んで声を上げる。

 

 

「シデン(にい)様! どうしてここへ?」

 

「キミらのことが心配なんだそうだ、ユウダチ」

 

「わざわざ待っていてくれたみたいですよ?」

 

 

 更に後ろからヒカルとナエが歩み出てきた。ヒカルとイッキは、面と向かって話をする機会こそ初めてではあるが、近くのコンビニのお兄さんという立場であるため面識は十分以上にあったりする。ナエは、メダロット研究所に足しげく通うイッキであれば言わずもがな。

 さて。ここは2人が居住しているマンションでもある。どうやらシデンは2人の部屋に間借りして、イッキらの到着を待っていたようだ。

 

 

「来るんだ、ユウダチ。部屋を借りるよメダマスター」

 

「貸すのは良いんだけどね……その呼び名はちょっと」

 

「ふふ。良いじゃないですか、メダマスター。私は格好いいなって思いますよ?」

 

 

 ヒカルは頬をかきながら、ナエは小さく笑いながら。部屋を借りている立場のはずのシデンを筆頭に、一室へと入ってゆく。玄関口で振り向いたナエがちょいちょいと手招き。ユウダチとイッキは顔を見合わせた後、その誘いに従って玄関を潜ることにする。

 

 まぁそんな些細なことよりも。

 イッキにとっては ―― シデンの格好がなぜ「白ラン」なのか? という疑問の方が大きかったりするのだが。

 気になって、気になって、興味があったりするのだが!!

 

 







・体当たり
 新世紀メダロットにおけるメダフォースの1つ。
 いわゆる、わるあがき。


・ちょっと廃れた
 メダロット5の舞台、すすたけ村の事。
 ミチオの故郷だというのは独自設定。ですが研究員を辞めて帰る場所として選んだのならば、多分故郷なのではないでしょうか。土地勘があった方が有利ですしね、タクシードライバー。
 ミチオさんがクラスター関係の仕事をしていたというのは、想像できる内容ではありますが、調べた限りでは明言されておらず独自設定にあたりますのであしからず。



 今日は多分あと1つか2つ。


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   だので裏側とその中心

 

 

「率直に聞きたい。イッキ君。キミは、ユウダチとどういう関係だい?」

 

「友達ですけど……?」

 

 

 メダロポリスの一画、メダロット社近辺のマンション、アガタヒカル宅にて。開口一番これである。

 間をおかず答えたイッキに、シデンはむむと唸った。後ろからお茶を出したヒカルとナエは、このやり取りに苦笑いをこらえ切れていない。

 どうやら早速出番の様だ。おかっぱの青年……アガタヒカルは、両名の間を取り持つように、柔らかな声音で割り込んだ。

 

 

「僕も、今年に入ってからイッキ君の話はよく聞いてる。僕自身もコンビニではよく会って、メダロットの話をしているよ(どうせ仕事、あんまりないし)。いい子だと思うけど?」

 

「そうですか。メダマスター。ボクは貴方の事を信用していますから、うのみ(・・・)にしましょう」

 

 

 うんうんと大げさに頷いて、シデンは再び顔をあげる。

 顔が良い。街を歩けば誰もが振り向く、美少年と呼ぶに相応しい面構え(語弊)をしている。

 

 

「ならばイッキ。キミの人柄はよいとしよう。メダロットの腕はどうだい?」

 

「……あのう、シデン(にい)様。とっても不躾だと思うのですが」

 

 

 身を乗り出す勢いのシデンの前。イッキの隣に座り、ユウダチが頬を膨らませる。

 

 

「あまりイッキに失礼なことを言わないでくださいです。待ち伏せた挙句にこれだと、兄様の印象も悪くなるですよ」

 

「……本当なら、もうちょっと段階を踏んでいきたいのは山々なのだがね、我が妹」

 

 

 ユウダチもどろり濃厚とした瞳さえ覗かなければ美少女だ。兄妹が向かい合うと、何もしていないというのに絵になってしまう。……肝心の兄は、妹の目から視線をそらしてはいるものの。

 

 

「キミもボクも、急がなけらばならない時期だろう。計画があるのでね。話ひとつにしても、時短するにこしたことはない」

 

 

 ユウダチが顔をしかめた。ヒカルとナエも、なにやら知っているようで驚きはない。

 イッキだけが思い当たる節もなく……いや。

 

 

「ユウダチ。それって、クラスター計画ってやつかい?」

 

「おー。知ってるですか、イッキ」

 

「! ……驚いた。イッキ、キミは情報網も広いようだ。認識をさらに改めよう」

 

 

 どうやらあたりであるらしい。イッキとしては先日ミチオから聞いた話題を出しただけなのだが……いや。思い返せば、いつかのリュウトウ町の研究所で、ナエからも似たような話を聞いていたか。

 おかげで思い出すことはできたようだ。シデンは知っていたことそれ自体を別段咎めるでもなく、話を進める。

 

 

「そう。ボクが仕切る、ロボトルリサーチ社が打ち出す計画のひとつだ。なるべく秘密にしておくれよ、イッキ。……まぁキミひとりが騒いだとて、情報を封鎖するくらいは難しくもないけれどね?」

 

「わかった。秘密にするよ。……で、それってどんな計画なの?」

 

 

 イッキが首をかしげると、シデンが今度こそ驚いた表情だ。彼が社を仕切っているなどという大仰な言葉にも動じていない。あっさりと打算も跳ね除ける。

 その面前でふふん、とユウダチが鼻を鳴らして胸を張る。

 

 

「兄様はそうやって、すれたやり取りばかりを身に着け過ぎるのです。普通に話せば良いのですよ、普通に」

 

「……まぁ、イッキには必要のないけん制だったみたいだね。こればかりは君の言い分が正しいようだ、妹」

 

 

 咳をひとつ挟んで、シデンは仕切り直した。イッキに対しての興味が俄然、湧いている。

 計画の内容について話すのは問題ない。むしろ、話すためにこそ彼はこの場所へ出向いているのだ。

 

 

「さて。クラスター計画についてだったね。まぁ、最近よくある宇宙開発事業の一環だよ。これの場合はテーマパークという形だけれどね」

 

 

 テーマパーク。そう聞いてイッキの脳裏に思い浮かぶのは、先日訪れたメダロッ島の様な場所である。いずれにせよエンターテイメントを重視した施設なのであろう。率直に言って。

 

 

「すごい! それって、僕みたいな人でも宇宙に行けるって事ですか?」

 

「そうなるね。ただ……」

 

 

 シデンが間を置く。視線を横にずらすと、その先に居たナエが頷き、引き継ぐ。

 

 

「シデン君が貴方たち……イッキ君とユウダチちゃんを待っていたのは、これを話しておきたかったからというのもあるのでしょうね。イッキ君。少しだけ、お話を聞いてあげてくださいますか?」

 

「はい。わかりました、ナエさん」

 

「ありがとうございます。……シデン君。私からイッキ君へは、さわりの部分だけ伝えてありますから」

 

「了解しました。これはボクから話して良いかい、妹」

 

「開発は兄様なのです。お気になさらず!」

 

 

 順繰りと回った末、シデンが話し出す。

 

 

「クラスター計画とは、つまる所、ただの復讐なんだよ。それもわが社の(うみ)が企てた、腫れもののような……ね」

 

 

 何とも酷い例えだが、率直に言うとそうなるらしい。

 シデンはぽつぽつと語る。かつてのメダロット事業への三画失敗から両親の立場が危うく、彼が社のトップとなることで広告塔の使命を果たしていること。テーマパークとして稼働しつつ、外宇宙への足場にもなり、宇宙活動用メダロットの販促にもなっていること。先日遂に、ロボトルリサーチ社はメダロット社と同等に近い「格」を取り戻したこと。

 そして ―― この快進撃を足掛けに、遂に重役たちが表立って衝突し始めたこと。

 

 

「計画の形を『初の宇宙テーマパーク』という題目にしたのは、民間およびメディア露出を増やすためだ。実際そうなのだけれど、重役たちはもっと大きな利益を見ている。ボクはそれを後押ししなければならない立場だから、なんとか体面を取り繕うのに必死でね。膿を出し切る機会と前向きに捉えて、色々(・・)とやらせてもらっている」

 

「兄様。メダリンクの件は自業自得なのですよ? レイニーは叱ってくれませんからねぇ」

 

「ふ、判っているとも。罰は受けたさ」

 

 

 兄妹の間で視線が交わされる。どうやら色々と問題ある行為にも手を出しているらしい。

 

 

「さて。ここからが本題なんだが……妹よ。君から話すかい?」

 

「はい。そうさせてもらえると」

 

 

 居直り、ユウダチはイッキの側を向く。

 目線の高さは同じ。ユウダチは同年代を比べると背が低い方だとはいえ、成長は性別にもよるものだ。イッキも横を向くと、自然と彼女の目を見る事となる。

 その黒目から、視線から感じる嫌悪感は生理的なものだ。が、どうやら最近その感覚も薄れてきているようにイッキは感じている。これは良い変化だ。間違いなく。

 ユウダチは指をもじもじと絡ませながら。

 

 

「イッキは……外来メダロット、という単語を知っていますか?」

 

「うん。教科書通りに言うなら、野良メダロットなんかもその枠に入る……『地域外からやってきた、100%人工のメダロット以外』を指す言葉だよね?」

 

 

 定義としてはそうなったはずだ。消去法。かつて問題となった野良メダロットが論争の的になるにあたって、そういう単語を嫌う派閥も当然ながら存在した。そのために造られた新たな括り。

 どこまでも普通に正面切って言葉を交わす2人を、シデンは……驚いた表情を隠そうともせず、目を見開いて見つめている。ヒカルとナエは、どこか楽しそうだ。

 

 

「それが、すぐそこまで来ているのです。それも、多方面から」

 

「そ、そんなに!?」

 

「はい。現在捜索中ではありますが、『木星の使途』と呼ばれる宇宙からのメダロットと……『月』のマザーが、現状この地球に隣接した脅威とされてますです」

 

「……脅威?」

 

 

 イッキとしては問いかけなければならない。脅威。本当にそうなのか。

 心底の疑問に、ユウダチは少し首をかしげて返す。

 

 

「わたしも、余りそうは思っていないのです。しかし今ある種が駆逐されてゆく可能性があるかないかでいえば、『有る』と言えますからね。何せ、メダロットは……『他の星を侵略する兵器』としても稼働できる、そもそもの外来種なのです」

 

 

 それは、メダロットというロボットペットの根幹にも関わる内容だ。教科書や歴史書に載っていた覚えはない。けれどもイッキとしては、目の前の少女が無駄に嘘をいう理由もないと思っている。

 本当に? という意味を込めてナエに視線を向ける。

 

 

「はい。メダロットの中心である、六角貨幣石 ―― メダルが発掘されるという遺跡は、外宇宙からもたらされたものだという結論が出ています。これも、一般の人には内緒ですよ?」

 

「ナエさんの言う通りでね。イッキ君。キミがこれを聞いてどうするかはまた別として、機会があれば伝えておくべきだとメダロット博士から言われていたんだ。タイミングはユウダチに任せていたけれどね」

 

 

 ヒカルが補足を加える。……なかなかに重大な事を告げられているのは、理解できた。だが、なぜ自分がこの真実を伝えられる人物として選ばれたのか。それが判らない。

 

 

「判らないかい? だからこそキミとユウダチの関係性について聞いていたんだ、ボクは」

 

 

 疑問が顔に出ていたのだろう。シデンは社長としての顔から、年相応の少年のそれへと様相を戻し。

 

 

「ボクは、我が妹は『スペシャル』なのだと思っている。例をひとつ挙げるとすれば……そうだな。どうやら我が妹とヨウハクらの間では、三原則が緩和(・・)されているように思える」

 

「……? いや、されてないと思うですよ??」

 

 

 当の妹から否定的な意見が繰り出されてしまったが、シデンはそれを苦笑いしつつ。

 

 

「まぁ聞きたまえ。確かに明瞭ではないだろう。それはあくまでボクよりも、という話だ。アシュトンとボクのやり取りと、ヨウハクと妹のやり取りをかなり曖昧に比較した、ただの感想でしかない。だが、それは確かに存在するのだよ。その第一号がそこに居るメダマスター……アガタヒカル氏なのだがね」

 

「うーん……」

 

 

 イッキもヒカルをみる。彼の表情は、いつものコンビニでみかける、どこか困ったようなやる気のないような、とても彼らしいもののままだ。特に変わった様子はないと、イッキは思う。

 ただ、ヒカルはシデンの言葉を否定しなかった。

 

 

「まぁね。うん。そのスペシャル、が良い物かはさておいて。メダロットとの『心の距離』が通常の平均よりもとっても近い人が居るっていうのは事実なんだよ、イッキ君。データにも出ているんだよね、ナエさん」

 

「ええ。そういうのを積極的に研究しているのが、ヘベレケ博士なのですけれども。……かつてのフシハラ博士から引き継いだ、金色のカブトムシらの研究。メダロットに『魂』はあるのかというお話です。わたしが子供の頃の話題でしたが、そもそもの定義からして議論が白熱していましたね」

 

 

 ナエの話はむつかしいが、どうやら本当に、大人が真面目に研究している分野のひとつであるようだ。

 もう一度、ヒカルをみる。フルネームはアガタヒカル。頭の中で何度も繰り返していると、なんと思い当たる名前があることに気が付いた。

 

 

「もしかして、ヒカルさんって……ユウダチと一緒に魔の10日間を解決したっていう、伝説の?」

 

「尾ひれがついているなぁ。偶然にも解決の主力になっていたのは本当だけどね」

 

 

 押せば引っ込むような、何とも感触のない反応だ。しかし割と本気で、教科書に載るような活躍をした人であることは間違いない。イッキのカブトメダルのペットネームである「メタビー」の、親元のようなものなのだ。

 彼は学生でありながら当時のメダロット社主催の世界大会で優勝し、そのまま開設当初であったロボトルランキングを席巻した。今は枠が分けられているが、それこそメダリンク等を利用したランキングは今も一桁を維持しているらしい事がネット上から確認できる。

 ただ、いつ頃からか名前は聞かなくなっていた。世間においてもあまりニュースに取り上げられることもなく、活動を休止しているらしいという噂だけは知っている。

 

 

「まぁ、僕のことは置いとこう。君は真っ直ぐにメダロットと向き合って、他の人よりもメダロットに近い位置にいると……仮定しておこう。その部分に納得はしなくていいと思うよ。どうせ、学者的な考え方なんだし」

 

「そうですわね。ヒカルさんの言う通り。今大切なのは ―― 」

 

 

 ソファに腰かけたまま、ナエが再びシデンへと話題を振った。

 こくり。シデンが頷く。

 

 

「まぁ、それらメダロットの本幹を聞いたとして。それらを鑑みたとしても、ボクは計画を止めるつもりがない。いや。ボクの中には『進める理由しかない』という方が適切かな。とにかく。クラスター計画を遅延、再計画等々。予定外の行動をとるつもりは……なかった、のだけれどね?」

 

 

 そこでふと、視線をずらす。

 ユウダチが、不思議そうに兄を見返ている。

 

 

「唯一、ボクが歩みを止める可能性が……『妹が変わるかもしれない』という種が、今まさにここにある。それを見届けなければならないという義務があるのだ。それは両親ではなく、ロボトルリサーチ社を仕切る重役でもなく、ボクにしかできない事なんだ」

 

 

 だからシデンはイッキへ話すのだ。

 イッキの行動を、この物語の流れを……根本から変えうる、その内容を。

 

 

「―― キミとユウダチに調査を頼みたい。唯一未だ、誰の手も届いていない、もうひとつのマザーの在処について」

 

 

 ユウダチが首をかしげる。

 友人への情はあつい。メダロットの世情にもいやに詳しい。

 そのくせ、自分のことには殆ど興味を持っていない ―― 生まれたての幼子の様な。初めて出会ったメダロットの様な。

 ……そういう、無垢でしかない表情だ。

 

 





・ムラサメシデン
 泣き顔が似合う男。こんなことを言っているが、この世界線においても末妹とはこじれている。
 プライドが高く、ロボトルリサーチ社のランキングをいじってトップを席巻している。本作においてはメダリンク等々もそちらの管轄としているため、かなり規模の大きいことになっている。
 国内ランク<世界地域(アジア)ランク<ワールドランクという勝手な設定をつけており、ムラサメシデンはアジアランク(東部)1位。最近の人口増加に伴って、アジアランクも分割された。
 尚、維持は不正しているが辿り着くまでの道中は地力で歩んだため、実力はある模様。



・アガタヒカル
 もうちょっと語る予定。彼の今の境遇とか立場とか云々とかについては、漫画版やアニメ等の情報をまぁざらーっとみて想像できる、あくまで創造の内容となっております。



 今日はここまでおやすみなさい!


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   今は地底要塞・フユーン

 

 

 シデンとの邂逅およびお話を終え、イッキとユウダチはマンションの入り口まで出てきていた。因みに荷物はきちんと部屋まで届けたので用事も終えてある。

 脳裏に、やたらと無機質だったユウダチの部屋の内装が思い出される。メダロット社の社宅という事もあるのだろうが、そもそも必要なものが少ないのだろう。というか内装どうこうではなく、研究のための部屋という印象だ。アニメなどで出てくる悪の科学者の部屋とはかくあるべしといった様子であった。

 

 

「―― 本当に面倒な話でごめんなさいね? わたしもヒカルさんも、イッキ君に話すかどうかは決めかねていたんですけど……」

 

 

 見送りに出てきたナエが、頬に手を当てながらため息をひとつ。

 ユウダチは部屋の中で未だ、本日買ってきた荷物をほどいている最中だ。今メダロポリスのマンション前に居るのはナエと、もうひと方。

 

 

「でも、これでユウダチもやっと本題に取り掛かれる。イッキ君が居てくれるなら安心だ」

 

 

 ヒカルがその隣でうんうんと頷いていた。

 ふたりは良い仲なのだそうだが……それはそれとして。

 

 

「あの……ふたりはもしかして、ユウダチと同じような事をしてたりしますか?」

 

 

 その並んだ立ち居振る舞いに、イッキは覚えがあった。メダロッ島のアトラクションで出会ったあの2人―― 怪盗レトルト、およびレトルトレディだ。

 これはカマかけだったのだが、二人はあっさり。

 

 

「そうだね。……気づいていたなら隠す必要もないけど、『魔女の城』ではありがとう。ミルキーのマガママに付き合ってくれて」

 

「やっぱり! 本当にレトルトさんの正体だったんですね!?」

 

 

 やたらテンションのあがったイッキが握手を求めると、ヒカルは苦笑しながら応じてくれた。

 

 

「わたしの格好については、忘れてください……」

 

 

 逆にナエのテンションが下がりきりだったのはやや気にかかるものの、イッキ的には白チャイナ羽マントも格好いいので首をかしげるばかりである。

 

 

「僕達が表立ってああいう活動をすると問題があるからね。レトルトは義賊で、ロボロボ団の敵。セレクト隊のやっかい払い。それでいいのさ」

 

 

 セレクト隊がもう少し動ければ、いらないんだけどね……という心底同意できるつぶやきも忘れない。その点についてはイッキも、常日頃から実感している。父から毎日の様に聞くのは、隊長の独断専行と副隊長の苦労話なのだから。

 

 

「それじゃあイッキ君は明日から、ユウダチと一緒に行動してくれるかい?」

 

「えっと、ロボロボ団に潜入するってことですか?」

 

「そうなるね」

 

 

 大丈夫なのだろうか、と一抹の不安がよぎる。

 だがどうやら、潜入それ自体は難しい事でもないらしい。

 

 

「最近世間を騒がせている『賢いロボロボ団』の噂は知っているかい?」

 

「はい。僕の幼馴染のアリカっていうやつが、調べまわっています。なんでも子供が正体らしいとかなんとか」

 

「へぇ、凄いね! いやまぁ、背丈をみれば歴然か。とはいえ行動力は本当にすごい。実はその通りで、花園学園の子供たちがよくよく団員になっているらしいんだ。いたずら要員としてね」

 

 

 まさかのドンピシャ。 幼馴染の番記者魂も捨てたものではないのだなぁ、と感心しきりである。

 というか、いたずら要員という役職があるのはそもそも……ロボロボ団でなければありえないなぁとも思う。同時に、だからこそイッキが潜入しても違和感がないという事なので、なんともはや。

 

 

「子ども達の方は、僕達に任せておいていいよ。レトルトは社会派の義賊だからね」

 

「ふふっ。まぁ社会派かどうかはさておいて、ユウダチちゃんのことをよろしくお願いしますね?」

 

「はい。任せてください!」

 

 

 元気よく返事をするイッキの様子に、ふたりがほほ笑む。

 こうしてイッキは、ロボロボ団として潜入を始める事となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 

 

 

 かくして始まった、ロボロボ団員としての活動なのだが。

 

 

「学校だりー」

 

「母ちゃんのお小言がうるさくてさ……」

 

「宿題ってなんの意味があんの?」

 

 

 等々。どうやら家や学校での不満がたまりにたまった子供たちがこうして利用されているらしく、出るわ出るわの文句の嵐。いたずらも恐らくは、ストレス解消くらいの気持ちで行っているのだろう。

 気持ちは理解できなくもない。ただ、それで誰かに迷惑をかけたくもない。ただでさえ先日、家族に迷惑をかけてしまったばかりのイッキとしてはあまり賛同できない行動である。まぁ同じ団員に扮してはいるのだけれども。

 ただ、イッキの格好は他の子ども達……金魚鉢を逆さに被ったみたいなものとは違っている。酒肴(シュコウ)の直属の部下という扱いで入団したため、何やら輪っかの付いた水晶玉の様なものを被っている状態だ。

 正直、どっちもどっちである。

 

 

「―― これはスペースロボロボ団の衣装なのです」

 

「すぺーす……ロボロボ団?」

 

「はいです。今は小惑星を拠点として細々と侵略なんていう夢を見ている、とある科学者さんが掘っ建てた集団ですね。技術力は本当に凄くて、わたしが人型でないメダロットを開発した際にとても参考にさせてもらいましたのです!」

 

 

 前を行くユウダチは、本当に嬉しそうにどろりと笑う(水晶越しだが)。

 

 

「それよりも、僕たちは何をするの? マザーを探すって言っていたけれど……」

 

「ですね。それが、難航しているというかなんというか……単純に人手が足りなくて進捗が悪いのですよ」

 

「そうなんだ。人手が足りないだけなら、僕でも何とか役に立てるかな?」

 

「勿論ですー! ぶっちゃけロボロボ団はロボトルの強さが全てみたいなところがありますからね。イッキは……メダリンクもアジアランクに昇格したのでしたね」

 

「うん。この間ね」

 

「おー、わたしも負けてられないのです!」

 

『オレのおかげだな!』

 

「はい、モチのロン! メタビーのおかげでもあるですよっ!」

 

 

 雑談を交わしながら廊下を奥へ。ロボロボ団のアジトはなんと、メダロポリスの地下に建設されていたのだ。マンホールを使って出入りをすることで、捜索を困難にしているのだとか。

 この情報をセレクト隊に伝えれば一網打尽には出来るのだろうが……いかんせん、捕まるのは子ども達であろう。幹部や大人団員達は、総じて逃げ足が速いのである。そこへ加えて、現在のセレクト隊の隊長、アワモリ氏の悪逆非道(語弊)ぶり。手柄のためには手段を選ばない彼であれば、もしかしたら子どもであろうと容赦なく社会的制裁を加える可能性すらある。それは何というか、同じ子どもである身としてはいたたまれない気持ちである。少なくとも積極的に実施したい作戦とは言い難い。

 そもそも、ユウダチがそのマザーとやらを探すためにロボロボ団に力を貸しているのであれば……。

 

 

「それもありますけれどね。力を貸している一番の理由は、ここの首魁がヘベレケじいさまだからというのが大きいのです」

 

「ヘベレケ……というと、あの人かな。メダロッ島のロボトル大会で挨拶をしてた……」

 

「ですね。凄い研究者さんなのですよ? 今でもアトムと双璧を成しているのです! 少々言動はエキセントリックですけどねっ!!」

 

 

 ふんふんと息を荒げて、ユウダチは語る。どうやら科学者としての琴線に触れる人物であるようだ。イッキの脳裏にあるヘベレケ博士の姿も、確かに。義手の生えた鞄を背負うマッドなサイエンティストである。

 下水道とは思えない設備の、機械的な廊下の先。突き当たりに到着すると、ユウダチが足を止めた。

 

 

「ここは?」

 

「そのマザーを追う手がかりになるものが、この辺にあるのです。ヘベレケじいさまが蟻メダロット達を使って発掘している ―― 空中要塞、フユーン!」

 

「うわぁ、でっか!?」

 

 

 扉を開いたイッキの目の前に、異様な光景が広がった。

 通路を出た先の洞窟に、巨大な円盤状の人工物が鎮座していたのだ。

 

 

「空中要塞……って言っていたけど。どうして地下に……ああ。見つかると厄介だからかな?」

 

「はいです。あくまでこれは、発掘で空いたスペースを利用しているだけなのですけれどね。本当の目的は、あの遺跡と、その転移装置周辺に存在したとされるサイプラシウムの純結晶、フユーンストーンなのです」

 

「……何それ?」

 

「あはは! サイプラシウムっていうのは、メダロットの装甲に使われている素材のひとつです。メダロットは起動すると、一気に軽くなりますよね?」

 

「うん。そうだね」

 

「あれは電気を通すと軽くなる、っていうサイプラシウムの性質を利用したものなんです。子どもの傍にも在るべき物なので、質量はあるにしろ重いのは好ましくなかったんですね。単純にその方が、エネルギーも少なくて済みますし」

 

「へぇー……。そうなるとつまり、その純結晶ってのを使って、あの要塞を浮かべるつもりなのかな」

 

「ご明察、なのです!」

 

 

 びしっとこちらを指さすユウダチ。どうやら正解だったようだと、イッキは胸をなで下ろす。

 

 

「傍に遺跡が見えるでしょう?」

 

「あの小さな……うす青く光ってる所?」

 

「そです、そです。南の砂漠と、ここが、文献でフユーンストーンの存在が記されていた場所なんですね。でまぁ、周囲を発掘しながら石を探しているという流れで」

 

 

 ユウダチが示した辺りには細々と動き続ける蟻型メダロット達の姿がある。丁寧に作業をしている所は、岩盤が弱かったりするのだろう。精密で地道な作業だ。こういう作業を任せるのに、人よりもメダロットは確かに適任である。

 

 

「それでは挨拶に行きましょーです、イッキ」

 

「えーと……博士に?」

 

「はい。ヘベレケのじいさまのところへ!」

 

 

 いよいよ首魁との面談である。

 水晶玉なユウダチに手を引かれて、イッキはフユーンの内部へと向った。

 

 





説明が冗長。



・フユーン
 ヘベレケ博士(ら)が作ったとされる漫画版と設定を折衷している。
 外側がべこべこするか否かは、シュレディンガーのフユーン。


・ストーン
 動力源をそもそも遺物に頼ると言うことは、その存在に相当な自信があったのでしょう……。


・スペースロボロボ団
 作中の解説の通り。メダロットnaviにおける、小惑星探査機のなれの果て(語弊。
 最終的には味方になる展開が胸熱。……凄まじいネタバレですけど、流石にもうリメイクもないでしょうし許して下さい……(苦笑。
 変形合体する中ボス機体は誰の発想で作られたメダロットなのかが、個人的には気になるところ。


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   博士とコガネと少女と機械

 

 悲報。背中から沢山の義手を生やした老人が、アクティブである。

 

 

「ほおう……ほおう?」

 

『いや、オレなんでこんな観察されてんの?』

 

『ご勘弁ください、メタビーさま。マスターは娘子のように可愛がっておられるユウダチさんの新作に、興味がお有りなのでしょう』

 

「うるさいわい、コガネ! だいたい、個体識別のための文句はどうしたんじゃ!」

 

『さっきユウダチさんが来る前に解除してたじゃないですか……。無機質で嫌だって仰って』

 

「むむむ……!」

 

 

 フユーンの内部に入り、迷路のように入り組んだ通路を抜け。その操縦席に到達したまで良かったのだが……眼前にヘベレケ博士が現れてから、終始こんな調子なのである。

 どうやら博士は、メタビーのパーツに興味があるらしい。

 

 

「メダルは何じゃ? やはりカブトか?」

 

「はい。スターターキットに同梱されていたやつですけど」

 

「むん……? 今夏のスターターキットに同梱されていたのはカブトではないはずじゃが……まぁ、ええじゃろ。それよりも変形じゃ。やってみせい!」

 

『お? なんだ。オレの格好良い変形をみたいのか。いいか、イッキ』

 

「まぁ減るもんじゃないし、いいんじゃないか?」

 

『おう。分かったぜ!』

 

 

 がしょんがしょんと変形するメタビー。うほーっと奇声を上げるヘベレケ博士。狂喜乱舞する多数の義手。確かにこれは、紛う事なきマッドサイエンティストである。

 そんな彼に、ユウダチはいきなりイッキを「友人です!」と紹介した。どうやら幹部のシュコウとしての立場は、ヘベレケ博士公認であるらしい。お陰で身分やら正体やらを隠す必要は無くなったが、これはこれで距離を図りかねるなぁというのがイッキの正直な心情であった。

 

 

「……しっかしまぁ。ユウダチのが相棒を連れてくると言ったときには、まさかと思ったもんじゃが」

 

 

 しばらく乱舞した後、ヘベレケ博士はイッキに向き直……らず。整備のための義手をぎちぎちと動かし、操縦席周辺のなにやら配線をいじくりながら、話し始める。

 

 

「友人も作ろうとしているようじゃしの。人並みには」

 

「博士はユウダチの事を知ってるんですね」

 

「ふん。これでも面識だけなら幼稚園の頃からじゃわい。何かと縁があったでの」

 

『まだアースモールで資金を蓄えていた頃に、ユウダチさんの方から訪ねてきたんですよね。獣の王(ビーストマスター)の開発プランを辿られて』

 

「そうじゃったかの?」

 

『そうでしたよ。初めてこられた頃は、あのアトムさんの差し金かと、それはもうわめき散らしまして……。わたしもベビーシッターの仕事を放り出してまで招集されましたもの』

 

「聞こえん!? 聞こえんわーい!!」

 

 

 コガネと呼ばれたメダロットは、そんな風に昔話を楽しげに話してくれる。ヘベレケ博士も悪態はつくが、どうやら悪くは思っていないようにイッキには感じられた。悪の首魁、悪の科学者を自称するというのに、案外可愛いおじいちゃんである。

 

 

「―― イッキ、じいさまの検分(・・)は済んだですか?」

 

 

 そうこうして。ヘベレケ博士およびコガネと和んでいると、操縦室の真ん中に設置された昇降機を使って、下からユウダチが上がってくる。いつものツナギ姿の彼女はまたも、油に塗れている様子だ。

 

 

『主殿。湯浴みも良いが、その前にうぇっとてっしゅを使うことだ』

 

『手袋は向こうに置いておくピヨー』

 

『いい女になりたいなら、ナエ姉さんの小言を忘れねぇこったな』

 

「わかっていますよぅ、もぉ。きちんと身繕いしてきます、です!」

 

 

 すぐに自らのメダロット達に世話を焼かれて、シャワー室へと引っ込んでいったが。

 ヘベレケ博士は、その背中を見送って。

 

 

「あれでも結構変わったんじゃがな。しかしそれでも、ワシの評価は変わらんよ」

 

「……えーと、ユウダチの事でしょうか?」

 

「そうじゃ。おぬし……イッキ、と言ったの」

 

「はい」

 

「メダリンクでの戦いを幾つか、ハッキングで見せてもらったわい。おぬしの才覚も圧倒的なものなのは、見ていて分かる」

 

 

 しれっと犯罪行為を宣言してくるヘベレケ。メダリンクの良いところが、匿名性だ。誰しもアクセスし、ロボトルできる。場所こそ「サイバー」と呼ばれる無味無臭なところに限定されるが、その気軽さは売りのひとつだ。それをあっさりと破られてはイッキも眉をひそめる他ない。

 ただまぁ、褒められているようなので悪い気はしないというのも小学生なので仕方が無いが……。

 

 

「特に直近の、アジアランク昇格のための一戦。サイカチスという機体の特殊性を囮に、射撃機体であるということすらも楯に、メダフォースで近接戦を挑んだのは、まさに痛快な型破りじゃったわい。がっはっは!!」

 

「あのう。僕の事は良いんですけど、それよりユウダチの評価がどうって」

 

「ふん? やはり気になるか。ガキだとはいえ()の子じゃの。まぁ……あれもおぬしも、じゃ」

 

 

 ヘベレケ博士が間を置く。フユーンの外。洞窟の壁際に積み上げられた、ガレキの山に目をやって。

 

 

「いったい、メダロットとは何なのか。おぬしは知っておるのか?」

 

「えーと、他の星からの侵略者かも知れないって言うのは先日ユウダチから聞きました」

 

『オレはそんなつもり、ねーけどな?』

 

『わたしもないですね』

 

 

 メタビーが床にあぐらをかきながら、コガネが両手のジョウロとスコップで土をかき混ぜ、それぞれ反応する。

 ふん?と、ヘベレケは興味深そうな表情を浮かべる。

 

 

「なるほど。ユウダチが話したか。アキハバラの奴め、自分から話せば良いものを」

 

『それではユウダチちゃんの可能性を摘み取ってしまいかねないと考えたんでしょうね』

 

「相変わらず回りくどいんじゃ。ふん」

 

 

 そうして憎々しげに皮肉をはいて、ヘベレケはイッキを見やる。

 ぎしりと、背負われた義手がイッキのちょんまげを指す。

 

 

「……鉄くずの庭。メダロット達の墓場で孤独に、あ奴は育った。故に、人ながらにして人ならざる ―― 最先端の感覚をもつ。神稚児にして、麒麟児じゃ。我ら全ての科学者が夢想した、人間モドキなんじゃよ。……そして恐らく、人間モドキは未だ完成を迎えてはおらん」

 

 

 ヘベレケがユウダチの居る側へちらりと視線を向ける。わーきゃーと、自らのメダロット達と騒ぐ楽しげな声が、シャワー室の水音を突き破って聞こえてきた。

 

 

「つまり、つまりじゃ。今ならまだ、あやつは人に成るという選択肢を採ることが出来るという事でもある」

 

「……ユウダチは人だと思いますけど」

 

 

 イッキとしては当然の反論なのだが、ヘベレケには一笑に付されてしまう。

 

 

「馬鹿め。それはおぬしがあ奴と同じ立場にあるからこその意見じゃぞい」

 

「僕が……?」

 

 

 確かに、先日シデンも言っていた。「スペシャル」と。メダロットとの精神的な距離が近いと言い表していた様に、覚えている。

 イッキとしては普通だが……だからこそ気付けないのかも知れないと、今は考えているが。

 

 

「ワシからも託されろ、チョンマゲ少年。ふん。ワシとアキハバラのくだらん争いなぞ、オヌシは放っておけ。あの娘を救えるとすれば、ようやっと現れたオヌシなのじゃろう。アガタヒカルも、素養は十分じゃったが、早すぎたの。あれは」

 

『だ、そうです。テンリョウイッキさん。わたしからも、ユウダチさんの事をお願いできますか?』

 

「うん。任せてよ、コガネ」

 

『頼もしいお返事です。あ、決して、ヨウハクさん達を信頼していないわけじゃないんですよ?』

 

「あっはは! 大丈夫。それはわかってる!」

 

『なら、よろしいですね』

 

「―― 楽しそうです? なんのお話でしょう!?」

 

 

 笑い合っている内に、ユウダチが着替えも終えて出てきていた。メダロット達はどうやら、未だ更衣室内で後片付けをしていたらしい。後から追いかけてきたヨウハクにお小言を挟まれるまでがワンセットだ。

 そのまま談笑しつつ、面通しも終えて……本題へ。

 イッキとユウダチは次に、件の遺跡へと足を伸ばすことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 フユーンから外へ出て、ロボロボ団とアリ型メダロット達の雑踏を抜けて。割と入り組んだ遺跡の近くまで接近する。

 それにしても、最近はとても沢山の人から、様々なものを託されるなぁとイッキは思う。とはいえ頼られることそれ自体は悪い気分でもない。イッキ自身は未だ小学生であり、普段は大人に頼る側の立場である。誰かのためにと動くのも嫌いではない。少しヒーロー気質なのだろうか、と思い返すも、脳裏に浮かぶヒーロー像はおおよそ怪盗レトルトだったりするので世間的にはずれていたり。

 

 

「ここらは岩盤が弱いので注意して下さいです、イッキ!」

 

「うーん、歩いている分にはそんなに変わらないんだけど。……なんかぶにょぶにょしてる所はなに?」

 

「あんまり用途が解明されてない部分ですねー、そこは。とりあえず、中心部まで行ってみるです」

 

「わかった」

 

 

 ユウダチの先導についていく。しばらくして、フユーンに入る前に遠目に見た、青白く光っている区画に辿り着く。

 子供心にも「これぞ遺跡!」と叫びたい雰囲気だ。そもそもなんで光っているのだろう。微量の粒子がきらきらと舞って、外国のストーンサークルのような明らかに人造の石碑が並ぶ。イッキ、それらに興味津々である。

 中央部までつくと、またぶよぶよとした触感の足場があった。その前に立って、ユウダチが口を開く。

 

 

「ここが中央部です。文献に寄れば、はるか古代に存在した『コーダイン王国』においては、ここより奥の安置所みたいなところが在って、フユーンストーンが飾られていたようですね」

 

「へぇー。何かに利用していたのかな?」

 

「うーん。物を浮かす、反作用みたいなものを持っていると仮定すると、色々と利用方法は思い浮かびますけれど……どうやら崇拝対象みたいな扱いだったようですね」

 

「なるほど。そんなに不思議な物があったら、昔の人だったらそうなるのかもね」

 

「ですねー。……ふん?」

 

 

 ユウダチがなにやら上を向く。すると同時に、ごぉん!という音が洞窟内に響き渡った。

 当然、周囲のロボロボが何事かと騒ぎ始める。逃げる準備まで一工程。そのひとりをユウダチは、シュコウとして捕まえて。

 

 

「何事?」

 

「ほ、報告しますロボ! どうやら地上から、メダロッターやセレクト隊が侵入を始めたらしいロボ!!」

 

「……そう。判った」

 

 

 ユウダチが視線を逸らすと、ロボロボ団員は脱兎の如く去って行く。その間にも、立て続けに爆音。洞窟の天井がぱらぱらと小さく崩れ、剥がれ落ちてくる様にはちょっとばかり恐怖を覚える小学生・イッキであるが。

 はぁと溜息をこぼし。

 

 

「コウジ達ですかね?」

 

「えっ?」

 

 

 どうやら心当たりがあるようだ。ユウダチはイッキの手を引くと、落盤防止のための装置がある遺跡の中央部に移動しつつ、続ける。

 

 

「実は今日、ロボロボ幹部の人達が花園学園を襲撃しに行ってたんです。実行隊長のサケカースにいわく、本格的にセレクト隊の視線を逸らすためだそうですね。……まぁ校長さんのメダル欲しさってのが本音な気もしますが」

 

「えぇー……」

 

 

 それは当然、怒るだろう。コウジが。予想に違わずそれら幹部を相手取り、反撃にまで出たという所だろうか。「賢いロボロボ団事件」の真相をがっつり掴んでいる(自覚はないが)アリカも、折り悪くコウジに協力を得るために花園学園へ向っていたはずだ。だとすれば子ども達の足跡から、この下水道基地へとたどり着くのも不思議ではない。

 

 

「……仕様が無いです。迎え撃ちますか」

 

「戦うの?」

 

「まー、コウジの性分ですからね。大義は向こうにありますし……ここだとわたしは幹部。戦わざるをえませんです」

 

 

 それもそうだ。何分、ロボロボ団とは世間的には悪。お騒がせな集団なのだからして……正義感、熱血漢のコウジに目を付けられるのは当然の流れである。いや、むしろスカートめくり事件の時から目は付けられていたけれども。

 これはイッキも戦っておくべきだろう。コウジは熱血まんまに突入してくるのだろうけれども、そもそもここ(最深部)にまで到達した時点でロボロボ団の下水道基地はほぼ壊滅したようなものだ。フユーンも、外観を見ることがなければ要塞だと気付かれる心配も無いだろうと、ユウダチの指示で窓を次々閉じられている最中である。

 あとは……と、イッキが迎え撃つ方向で考えていると。

 

 

「イッキはこちらのパーツを使って下さいです!」

 

「あ、サイカチスだとばれるからだね。わかった」

 

 

 ユウダチのメダロッチから、KBT型のパーツ一式が転送される。確か「ベイアニット」と呼ばれるメダロットだ。射撃に重点を置いた正統なKBT系譜でありながら、重装甲を売りにしたパーツだった筈。開発はメダロット社。その批評は良くも悪くも、「装甲に振ったKBT」でそのままである。むしろ破壊力を削った点については酷評だ。

 イッキとしては普通に黒塗りで重厚感ある外殻パーツが格好良いと思う。メタビーも「なんか新鮮だな」と悪くない反応。……新型だとは言えやっぱりあの魔女の城の地下で見た「クロトジル」なるKBT型ではなかったな、とも思うが。あちらが異質だっただけなのかも知れない。

 待つこと数分。……そう。僅か数分で。

 

 

「―― 居やがったな。おい、ロボロボ団! 校長先生から奪ったメダルを返しやがれ!」

 

 

 カラクチコウジ。パッションマンのご登場である。

 その後ろには、(嫌々ながらも職務なので)引き留めようとしたロボロボ団員が死屍累々で山のよう。幹部のスルメや、シオカラらがそこに加えられているのには、涙をも禁じ得ない。

 ユウダチ……いや。シュコウがすっと前に出てメダロッチをかざす。イッキも横でそれにならった。

 

 

「やるのか? いいぜ……行くぞっ、スミロドナット! ラムタム! ……ウォーバニット!」

 

『了解だ、コウジ!』

 

大丈夫(だいじょーぉぶ)!』

 

『ぉおーん! 相手はあれだな、コウジ!!』

 

 

 イッキが見たことのないメンバーが、2体も混じっていた。スミロドナットはギンジョウ小学校でも世界大会でも戦った、コウジの相棒である。そのほか。ラムタムと呼ばれた機体は……確か、ブラックメイルという重攻撃型のメダロットだ。かなりのナーフを経て限定発売された機体で、それでも尚凄まじい威力の打撃攻撃を仕掛けてくるはず。

 もう1体は、ウォーバニット。サーベルタイガーをモチーフとしたスミロドナットと対を成す形で作られた、ライオン型メダロット。その攻撃型も同時に対となっており、射撃を得意とする……と週刊メダロットで言っていた気がする。

 攻撃型が3体。コウジのメダロッターとしての技量も相まって、ロボロボ団員を高速で片付けられたのもうなずける。本気ということなのだろう。

 相対して、ユウダチとイッキもメダロットを転送する。エイシイストと、ベイアニットだ。

 

 

「ん。全力でかかってくるといい」

 

「オレは、いつだって本気だぜ!」

 

「―― 合意とみてよろしいですねっ!」

 

 

 シュコウの挑発に、コウジが全力リアクション。

 天も地も関係なく沸きましたるは、ミスターうるち。ロボトル協会の公認レフェリーである。

 尚、本日のコスプレはモグラのようだ。実際には岩陰からひょっこりと顔を出した訳であるが。

 

 

「ロボトルぅぅぅっ……」

 

『ゆくぞ、カブト虫』

 

『任せろぉっ!』

 

 

 

「……ファイトッ!!」

 

『コウジに勝利を!』

 

『だいじょぉ~ぶ!』

 

『ぉぉおーーーん!!』

 

 






 ぞいって語尾を書くのに勇気が必要だった。
 メダロポリス編は次で最後だと思われる。



・ベイアニット
 正式にKBT型に分類される型。正直、新世紀メダロット(DS以降)になるまでは影が薄い。上述の攻撃力の低さもある(GBナンバリングは攻撃力で速攻するのが正義と私が信じている)ため、あまり使った人は少ないのでは。
 新世紀に入ってからは脚部型がHvになるなどして、差別化が図られた。
 黒塗りで大柄なその外見は、重装甲が好きな人にはぶっささる。ぐはっ。


・……え、ベイアニットなの?
 本当はエイシイストと対にしたいのであれば、アンビギュアス。玉虫型のメダロットで、こちらもパスワードで手に入る軽装甲超威力(非貫通)の機体がそれにあたります。
 とはいえ、あちらは漫画版のラストのイメージが強すぎました。


・コウジ
 パッションマンは専用BGMの名前。
 KBT版ではスミロドナット、KWG版ではウォーバニットを相方にしている。両方使っているあたりにこのルートの以下略。

 ……よくクワガタ型は不遇と聞くんですが、推進+がむしゃらで暴れられる分、やっぱり楽だと思うのは少数派なんでしょうか。熟練度あげればどのメダルでもいいっていうのは、そうなんですけどね。


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   結局、彼は本気か否か

 

 かくして、コウジとのロボトルが始まった。

 こちらは(スペース)ロボロボ団に扮するイッキと、シュコウことユウダチの2人。ただし機体が2体。コウジよりも1機少ない。イッキにしろユウダチにしろ、悪の集団の一員に偽装できるパーツは一式だけであるため、これ以上の追加は不可能だ。ちなみに、リーダー機はメタビーが任された。単純に装甲の差である。

 不利ではあるがやるしかない。イッキはそう腹をくくって、メタビーへと指示を出していく。ちなみに水晶玉ヘルメットは多機能で、変声機を内部に仕込んであるらしく、少なくとも声の質で正体を見破られる心配はなさそうだ。

 

 

「……ベイアニット、押し込めっ!」

 

『ぉぅょっ』

 

 

 メタビーが声の調子を変えて応じる。どうやら珍しく空気を読んでいるらしい。

 ウォーバニットが後衛、スミロドナットとブラックメイルががトラップを仕掛けながら機動力を活かして飛び回り、かく乱を試みている。コウジらしいアクティブな戦型だ。

 ただ、メダロッターの熟練度では負けては居ない。こちらは指令系統が2つある。だとすれば、戦況をかき乱すのが有効だろう。

 岩床でばちばちと跳ねる連射(ガトリング)を緩急付けた歩行でいなしながら、エイシイストが踏み込んだ。メタビーを合わせる。

 

 

「くっ! ……やれるか、スミロドナット!」

 

『早いっ……! 追って……じぃっ……っ!?』

 

 

 先手を取られたスミロドナットがエイシイストに追随しようと旋回した間を、側面からメタビーが打ち抜いた。

 左腕を破壊して。

 

 

『だいじょぉーぶ!』

 

『……大ぶりが過ぎる! シィッ!!』

 

 

 ブラックメイルによる両腕を交差させながらの打撃を、ヨウハクはひょいと一息に飛び交わす。ついで、右手の剣で脚部の右大腿を切り裂いた。

 ヨウハクが格闘戦に持ち込めた形だ。どうやらメタビーは、他に回して良さそうだ……と、思うのもつかの間。

 

 

「出し惜しみなしだっ……全弾、カミキリを狙えっ」

 

『了解した! ぉぉーんっ!!』

 

 

 乱戦に持ち込まれる前に火力を出そうと、ウォーバニットが銃口を向ける。

 が、イッキも流れは読めていた。格闘戦の熟練度で勝っているのであれば、こちらはウォーバニットを押さえ込む。ヨウハクを暴れさせる環境を作ればいい。

 射線に入り込んだベイアニット、その右腕の装甲で弾痕が煙を上げる。

 

 

『ででっ』

 

「次いで、狙い撃てっ!!」

 

『ぉぉぉんっ!!』

 

『ってぅぉゎ!? だ! でっ!?』

 

 

 メタビーが足をどしどし踏みながら、一番威力のある右腕からのライフルを避けようと身をよじる。背屈。開脚。両手を持ち上げ荒ぶる鷹のポーズ。最終的になんか凄い格好になったが、奇抜なポーズは読めなかったようで、辛うじて直撃は避けられた。

 後ろの岩盤に、びしりと弾丸が直撃する。なんとなく嫌な予感がするのはイッキだけだろうか。ユウダチとひそひそ声で。

 

 

「……洞窟、やばくないかな」

 

「すいません。多分、やばいですね……」

 

 

 背筋を冷や汗が伝う。一応本格的な落盤には至らないよう対策は成されているようだが、部分的に岩が落ちてくるのは避けられないらしい。

 そもそもコウジが好戦的過ぎる。正体を明かすにも、スルメら幹部が(のびているとは言え)近くにいるため間が悪い。環境が最悪です、とユウダチがやや焦りの声をあげる。

 ヨウハクがひらりひらりとブラックメイルを躱し、時にはスミロドナットとの同士討ちも狙わせる。格闘を主戦とする機体の、面倒な部分だ。コウジも何とか、ブラックメイルに比べれば機敏なスミロドナットに細かく指示を出すことで巻き込むことを避けているのだが、その早さにヨウハクはぴったりとついてゆく事が出来るのだからタチが悪い。攻めあぐねたと見れば、ユウダチが反攻のタイミングを指示し、着実にパーツを傷つけていくのである。

 

 

『せいっ』

 

『いでっ……っょぃ』

 

 

 ウォーバニットの方ばかりを向いていたメタビーが、後ろからスミロドナットの左拳を受ける。思いっきり頭部を直撃したが……外側の装甲が少し凹んでふらついた程度だった。

 ベイアニット様々である。足元も堅く、不意の一撃にも余裕を持って受けられる。ここまで頑丈だとすると、少しばかり思い付く戦法もあった。

 戦況はヨウハクが主導しているものの、単純な数の差で未だ劣勢。ブラックメイルの破壊力は侮れない。スミロドナットは削れているが、今回はウォーバニットも居るため、リーダー機がどちらなのかは今の段階では判断がつかない。

 イッキが隣を見る。すると、向こうも丁度こちらを向いた所だった。

 

 

「もしかして、メダフォースですかね?」

 

「うん。メタビーが一番、溜めやすいと思う」

 

 

 イッキが頷く。メダフォースは意識して溜める事も出来るが、ダメージによっても蓄積する。反撃の一手。戦況を変えるための切り札として、大変に有効なことは間違いない。

 

 

「ならばこっちも合わせるですよ。ヨウハクなら、問題なくいけるのです!」

 

 

 ユウダチが自信をみせる。ヨウハクも横目にちらりとこちらを確認していた。やってやれないことはない、という辺りだろうか。だとすると後はメタビー次第だが……それこそ、メダフォースは余裕を持って溜められる。難易度はヨウハクの方が高いのだから、イッキとメタビーも引くわけにはいくまいとやる気を燃やす。

 

 

「―― 狙いをスイッチだ、ブラックメイル(ラムタム)!!」

 

『だいじょぶ!』

 

 

 歩調を合わせている内に、先手を取ったのはコウジ達だった。危惧していた動き。指示を受けたブラックメイルが、自前の破壊力で重装甲のメタビーを狙い。スミロドナットがヨウハクをマンマークで、介入を防ぐ形だ。

 

 

『それでも、だ。やれるかカブト』

 

『任せろぃ!』

 

 

 ヨウハクとメタビーの間で小さく言葉が交わされ、同時に頷いた。実行である。

 狙うのはリーダー機でありたい。スミロドナットか、ウォーバニットか。絞り込みながら。ちなみにブラックメイルは全身が「がむしゃら」攻撃の機体で、任せるにはピーキーすぎて論外としている。

 ヨウハクがカバーに入ろうとする動きを、スミロドナットは執拗に阻む。そのくせ消極的で、防御主体に立ち回る。

 メタビーがブラックメイルの爪と牙をひたすら避けるのを、ウォーバニットは軽重織り交ぜて追撃する。

 

 

「―― それでも構わない立ち回りをするです。頼みましたよ、イッキ」

 

 

 こう着しているように見える現状を踏まえて、ユウダチが、ヨウハクが踏み込んでいく。打破するつもりなのだ。

 イッキもメタビーに声を掛け ―― 動く。

 

 びしり。エイシイストの後ろに、ひとつの(しわ)もなく伸ばされた、薄羽が広がる。

 コウジが身構えた。メダフォースの怖さも、パーツの破損やダメージによって蓄積する逆転の一手となることも、彼は身をもって知っている。メダリンクランカーなのだから当然だ。

 ユウダチとヨウハクだけに通じる音声で、指示を飛ばす。

 

 

『頼みました、ヨウハク! ―― 横一線!!』

 

『……オオォッ!!!』

 

 

 ヨウハクが全力で跳ぶ。狙いはメダロット全機の中央だ。

 ブラックメイル、ウォーバニットを狙える位置につける。スミロドナットが後を追い、範囲に入った所で、ヨウハクは右手の剣を高く上げ。

 振り下ろしながら、旋回。メダロット達の脚部の高さで一閃した。

 

 

「なっ……!? いや……!」

 

 

 コウジが驚愕の表情を浮かべる。そう。ユウダチは……ヨウハクは、「誰がリーダー機でも構わないよう全員を相手取る」一手を選んだのだ。

 そして、今のイッキであればその意図も読み取れる。ウォーバニットだ。コウジの命令の範囲にない動きをしたのは、スミロドナット。「ヨウハクのメダフォースを止めにかかった機体」だった。

 逆にウォーバニットは、一歩コウジの側へと引いていた。間違いない。イッキはメタビーへと指示を飛ばす。

 ……が。

 

 

『今度は負けんっ!!』

 

『……だーっ!? 邪魔だってんだよ!?』

 

 

 脚部を破損したスミロドナットが、もう隠すこともないとメタビーの射線に躍り出ていた。

 ガトリングを撃ち放つも、ダメージ覚悟で近づいてくる。ウォーバニットへの攻撃を通すまいと、必死の形相だ。

 イッキは考えを回す。メダフォースを放つには距離が近く、スミロドナットに減衰される。そもそもあれは細かな狙いは苦手なのだ。ヨウハクはメダフォース後の放熱中。またもスイッチされたブラックメイルの攻撃を回避するべく、意識をそちらに割いている様子だ。

 つまりこれは、この場を後ろから……指示できる場所から見ている、イッキの実力が試される場面である。

 考えろ。考えろ。今はベイアニットで、変形はない。メダフォースはチャージされているが、スキルとして場に出すには戦略にそぐわず。

 

 ピンとくる。メダフォースのチャージがあるという事は、「攻撃力が上がっている」という事でもある。

 それは普段であれば微々たるものだが。ベイアニットの装甲を利用して、「片手で放つ純エネルギー」として利用すれば。

 

 

「メタビー、右手(ライフル)だ! メダフォースを右手にだけ乗せてうてっ!!」

 

『……無茶を言いやがるぜ、イッキ!』

 

 

 言いつつも。メタビーはコミュニケーションモニターの緑の目をにやりと吊り上げてみせた。

 銃口をあげると、当然ながらスミロドナットが立ち塞がる。その奥を。ウォーバニットの頭を、直接狙う。

 メタビーの背に、電気色の薄羽が、びしり。

 

 だんっ!!

 数段重い音と共に、銃弾が放たれる。それはスミロドナットが伸ばした右手を貫き(・・)、ウォーバニットの頭を直撃して凹ませた。

 ウォーバニットは目を回して立ち尽くし ―― 倒れる。最後まで装てんされていた右手の弾丸が暴発し、岩壁の天井にぶち当たった。

 

 

「リーダー機ウォーバニット、戦闘不能!! よって勝者、スペースロボロボ団チームっ!!」

 

 

 全然メダロットが戦闘不能にならないので状況観測マンと化していたミスターうるちが、待っていましたとばかりに勝敗を告げる。

 

 ……ただ、それどころではない。場に居るメダロッター全員が全員、別の場所を見ている。

 …………ウォーバニットの右手という、高威力のパーツから、暴発して放たれた弾丸が、岩壁の天井にぶち当たったのだ。

 

 ぐらぐらと揺れる足場は、落盤対策が成されていない場所に次々と岩が落ちてきている、その証。

 次の瞬間。辺りは土煙に包まれた。

 

 






・本気か否か
 カブトorクワガタによってボイスの内容が乖離している in 4。
 ただ、カブトにおいて「いつだって本気」と言っている辺り、クワガタのは負け惜しみに近いと思われる。


・メダフォース
 ダメージ蓄積、無行動(チャージ)、パーツ破壊によって溜まります。
 新世紀と色々ごっちゃにしてある。或いはメダスキル。


・ライフルが貫通したぁ
 貫通するのもありますよ(すっとぼけ。
 今回の場合は新世紀より「ヘビーライフル」を取捨選択。メダフォースゲージが50以上あると貫通します(うろ覚え)。
 ……なお、威力が上がるのは元々あるシステム。忘れがちですけれどね。


・ロボロボ達は? うるちは?
 助かりました(過去形断言。


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   コーダイン王国(二度目の初めて)

 

 

 

 

『―― ッキ。おい、イッキ!』

 

「―― いてて。ここは……?」

 

 

 自分の名前を繰り返し叫ぶ声に答えるべく、イッキは力を入れる。小さく首を振って、目を開いた。

 隣にずっと座っていたのだろう。視界の端にメタビー、そして水晶玉(かぶりもの)を取り外したユウダチが座り込んでいた。

 ぱちりと目が合う。

 

 

「あ、起きましたですね! イッキ!」

 

『無事か? 無事だな! あー、よかったぜ』

 

「うん。痛い所もないし……けど、ここは?」

 

 

 イッキは起き上がって周囲を見回す。

 見覚えがない……どころの話ではない。天井は高く石造り。明らかに通電していないのにふんわり光っている謎の照明。 

 「文化」というよりかは「文明」が違うという表現が適当なのだろう。現代っ子のイッキに言わせれば、昔っぽい雰囲気というやつだ。

 

 

「ここは『コーダイン王国』……だ、そうです。わたしとメタビーとヨウハクが聞きまわったところによると、そもそも時代が違うみたいです。……わたし自分で言っていて信じられないんですけど、時代がっ!」

 

 

 なかば諦めた風味の笑顔でどろりと、ユウダチは説明を試みる。

 なにせタイムスリップである。フィクションはフィクションだと割り切ろうにも、現実に見える状況がそれを許さない。

 ……とはいえ、だ。

 出入り口からは、廊下を歩いているメダロット達が見えている。パーツは見たことがないものでも、ティンペットら骨格は自分がよく見ているものと相違ないように思えた。

 

 

「うーん。古代でもメダロットはいるんだね」

 

「ですねー。ヨウハクはあんまり出しませんでしたけど、メタビーはまんま歩いててもびっくりされてませんでした。技術とかそういうのはよくわかりませんが……」

 

 

 イッキが話しながら手をベッドに着くと、ユウダチが手を貸そうとしてくれる。身体に違和感はないためその掌を握り、手早く立ち上がる。

 念のためメタビーだけはメダロッチの中に格納しておいて、部屋を出た。

 

 

「ユウダチも怪我はない?」

 

「はい。ちなみに天井から落石してきたくらいまでは覚えているんですが……床が光って、そこから先はあまり覚えていませんです」

 

「だね。僕もだよ。コウジが無事だと良いんだけど」

 

「ですねー。まぁ一応の安全策は施していましたし、いざとなればサイプラシウムを利用した空間保持を行える機能も用意していましたので、落盤には至っていないでしょう。そもそもメダロポリスの地下ですからね。地盤はまぁまぁ強い筈です」

 

 

 そこを狙って発掘していたのだから、おおよそ調査は済ませていたのだろう。ユウダチはすらすらと語ってくれる。

 語りつつ。

 ユウダチはその語りを一時止め、傾聴していたイッキの顔をじぃっと見やる。

 

 

「……イッキ、タイムスリップ自体にはびっくりしていないんですね?」

 

「だってさ。シデンさんヒカルさんナエさんから、宇宙人が本当に居るっていう話を聞いたばかりじゃないか。いまさらタイムスリップくらいじゃびっくりしないよ。それに、ユウダチが言ってる事だからね。疑うよりは信じたい、かな?」

 

 

 どうせこれから自分の目でも見に行くんだし。そう考えると、イッキとしては好奇心が勝るのである。

 出入り口を潜る。……後ろに気配を感じない。どうしたことだろう。

 後ろを振り返る。すると、当のユウダチはキョトン顔をしまま立ち止まっていた。

 

 

「なるほど……うむぅ……なるほど、です……?」

 

 

 納得はいったのか、いってないのか。

 不明ではあるが、それよりも気になることがある。

 気になるからには確かめなければならないと、イッキは思うのである。

 

 

「じゃあ早速だけどコーダイン王国を見に行こうよ、ユウダチ。帰る方法も探さなきゃいけないしさ」

 

「そ、う……そうですね。はい。……ええ、そうしましょう!」

 

 

 見知らぬ土地ではあるが、ひとりではないのが幸いだ。

 先に王国の人達と話をしているらしいユウダチに先立ってもらわなければならない。

 イッキはその手を引いて、まずは神官さんがいるという神殿へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまるところ、こういう事であるらしい。

 

 コーダイン王国では「まもの」を倒すために勇者を召喚する……らしい。

 

 珍妙ないで立ち(水晶あたま)をしていたことから、イッキとユウダチが勇者に間違えられた……らしい。

 

 元の時代(世界?)に帰る方法はあるが、「まもの」を退治することを条件にされている……らしい。

 

 ユウダチが独自に調べた結果、実は、この国の姫である「マルガリータ様」とその愛機(メダロット)らが原因である……らしい。

 

 なんともはや、やむにやまれぬ事情(マッチポンプ)なお国である。

 そもそも「まもの」とやらの正体について、イッキとしては心当たりがないでもない。

 in 花畑。今現在目の前に居る、当の「姫様」である。

 

 

「プース・カフェはあんな『まもの』とちがうもん!」

 

 

 イッキの腕を抱き寄せてつかまえながら憤慨するドレス姿の少女。

 彼女こそがこの国が誇るおてんば、マルガリータ姫である。言動からしても容姿からしても、小学生たる自分よりももっと年下だろう。

 

 

「まものって……まぁ、爺やさんが言うにロボロボ団のことですからねぇ。この集団については、唯一無二であって欲しい気持ちがあるのです」

 

「あぁ、それはそうだね……」

 

 

 そう。イッキ達に「まもの」の討伐を依頼し。マルガリータ姫にお小言をこぼし。神官も務めるというところの「爺や」が言うに、ロボロボ団たちのことを異物(まもの)であるとしているらしい。

 ……まぁ全身タイツに金魚鉢マスクの格好である。まものと呼ばれても間違いではないだろう。

 しかし、まものと言うには悪辣さが足りていないとも思わなくもない。首領であるヘベレケのじいさまは別として。幹部達ですら、目先の欲へまっしぐらなメンツがほとんどなのであるからして。

 

 

「でも、違うってのはどういうこと?」

 

「聞いてくれるの? うーんとねー……」

 

 

 話したいのだろうと優しく聞けば、(名前で呼ぶように要請された)マルガリータは(イッキにますます貼り付きながら)順序立てて教えてくれる。

 

 

「うん。つまり、倒して欲しいってお願いされた『まもの』の居る所 ―― 向こうの海には、爺やさんに追い出された君のメダロットがいるんだね?」

 

「たぶん、そうだと思う……」

 

 

 困り顔。かなりまいった表情で姫様はつぶやく。

 マルガリータは沢山のメダロットを「ともだち」にしていて、そのうちの目立ったイタズラをしていた1機が騒動を起こしていて。

 その騒動が、最近では猟などの生活にも影響を及ぼし始めたと。

 

 

「プース・カフェはイタズラが好きで、いっつもじいやに怒られてたから……」

 

「うーむ。自業自得(じぶんのせい)ということですね」

 

「うん。ごめんなさい」

 

 

 ぺこりと頭を下げる。

 しゅんとしたマルガリータが離れたので、ユウダチは再びイッキの隣に位置どった。

 

 

「まぁ元の……時代? 世界? に帰るためには爺やさんを納得させる必要はあるのです。プース・カフェの事件を解決しなければいけないのでしょうね。そこは任せて下さいです!」

 

「うん。お願いね、ゆーしゃさまたち!」

 

 

 うって変わってぺかりと笑う。ユウダチにとっては眩しい笑い方だ。

 いずれにせよ。イッキはユウダチと顔を見合わせて、マルガリータに見送られ、コーダインの海側へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 ――

 ――――

 

 

 

 

 

 

 

「―― ロボーっ!? 幹部様が言うなら、さっさと牢屋に入っているでロボ-!!」

 

 

 走り去る金魚鉢+タイツ。

 浜辺で遭遇したロボロボ団に、ユウダチ(シュコウ)が説明を行った後の反応がこれである。

 そう。海に出たは良いのだが……。

 

 

「海の先へ続いてる箱、箱、箱……です。なんなんですかね、これ」

 

「さあ。でも、多分ロボロボ団のせいだよね?」

 

 

 箱の上を歩くと時折「ふぎゅっ」的な声がして、その都度ロボロボ団員が現れるのである。

 聞くところによると、海の先までこれで歩いて行ったらしい。どんな方策だ、と言いたくはなるものの。それに関しては幹部たるユウダチが直接突っ込みを入れてくれている。

 件のユウダチはイッキの目の前で、上手くバランスを取りながら、箱から箱へと飛び移っていく。

 

 

「よっ、ほっ。……さて、海の先には何がいるのですかね」

 

「ロボロボ団の言い分によると、『クジラのまもの』だってね。僕、ちょっと楽しみなんだけど」

 

「あははっ! その気持ちはわたしもちょっとわかります!」

 

 

 彼女がくるりと反転。よろけそうになった所を、イッキが腕をつかんで引き戻す。

 ありがとうございますです、とのお礼をはさんで。

 

 

「騒動の中心に居ると思われるプース・カフェのパーツについては、わたしがマルガリータから聞いてきました。型番的にはナイトメア型メダロットで、現代にも存在しているパーツです」

 

「そうなんだ。じゃあここは古代って言う訳じゃあないのかな……?」

 

「そんな感じがしますねー。やっぱり世界的な位相(・・)ずれている(・・・・・)って考えた方がしっくりくるのです」

 

 

 ユウダチがちょっと難しい言葉でそう付け加えてくれる。

 ……イッキとしては、最近どこかで体験したような気もする。異物感のある相手……そういうロボトル(・・・・)をしたような。そんな気が。

 

 

「ですが、メダロットの仕組み自体もおんなじなのは有り難いです。軍用であったりしたならば、ティンペット側のセイフティがそもそも存在しなかったりしますからね」

 

「なるほど。ならメタビーに任せられるかな」

 

『おうよ。まかせろっ!』

 

 

 結局はロボトルで決着をつけられるということだ。それは確かにありがたい。

 大人で、権利やら何やらを振りかざされて……というのがイッキらがあらがえない類いの力である。その点についてはむしろ、ロボロボ団などを相手にするのならば、子どものほうが楽だということもある。利権にしばられないという点で。

 

 

「僕たちで何とか出来そうだね」

 

「ですねっ! ……お?」

 

 

 次第に海原に岩場が多くなってきて、入り組んだ場所。

 海上に並んだ箱の終着点。そこに、ぷかりと浮かんだ小島が見えた。

 

 

「小島があって……それ以外には、何もない?」

 

「うん。何も、ないね……」

 

 

 ふたりで小走りに駆け寄って、上陸する。

 砂場。浜辺。波音。いかにも南国といった風味の木が数本。いや、コーダイン王国が南国なのかは知らないが。

 人も居ない。メダロットも、プース・カフェも居ない。話に聞いていたクジラのまもの、その姿も無い。

 しかし。

 

 

『おいおい。なんだ、これ……?』

 

 

 周囲を見回すイッキとユウダチを差し置いて、メダロッチからメタビーの声が上がる。

 ふたりには何も聞こえていない……が、やや時間をおいてヨウハクも。

 

 

『御主人。どうやら来客のようだ』

 

「お客さま……です? けど、誰も……って」

 

 

 ユウダチが目を凝らす。

 海の果て。そこに小さく影が見えた。

 

 海洋生物の背だろう。

 

 小さく。いや。小さかったその影が、段々とこちらへ近づいてくる。

 

 段々と大きくなってくる。大きい。大きいどころではない。

 

 …・・巨大が過ぎた。

 

 

「でっっっっっか!?」

 

「うわぁ、普通のクジラどころの話じゃあないですよ!?」

 

 

 ふたりが立っている島から距離を置いて海洋生物がとどまる。

 びり、と空気が震えた気がして。

 かた、と木の陰に隠れていたメダロットが動き出す。

 

 

『ぴ、がが。が。おぉ、ぃ。っぉ、ぃ。……ぶつ、ぶつ』

 

「あのメダロット、僕たちに話しかけようとしてる……?」

 

「そんな気がしますね。あの機体はたぶん、プース・カフェのものでしょう。NMR型『ユートピアン』のパーツそのものです。つまり……」

 

「あの機体を使って、僕たちに話しかけようとしているのは……」

 

 

 ふたりと2機が揃って海原を見る。

 同時に、ユートピアンが前に出てきて ――

 

 

『あー、あー。マイクテスマイクテス。やぁやぁ聞こえるかね、ニンゲンどもロボットども? 少しばかりこのババアクジラの話に付き合ってもらおうじゃないか』

 

 

 白色の巨大なクジラがぷしーと潮を噴き上げる光景をバックに、陽気な感じで手を挙げる。

 なんともはや凄い光景である。とはいえタイムスリップもどきも経験したことだし、まぁこんなこともあるかなぁとイッキは適当に構えるのであった。

 

 







 ちょいちょい時間をとって更新します。
 連打はできないと思いますが、完結目指して速書きします!
 とりあえず。




・コーダイン王国
 だって御曹司がバカンスにこれる場所ですし……(
 そこを現実的にするか、と問われたならば。
 私はロマンを失いたくない派閥に属するので、と返答します。


・ユートピアン
 メダロットSはやってないんですけども、やっぱり変更されますよね……。
 最新作でも仕様は固まっていない気がするのですよ、メダロット。


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   クジラだけれど幻ではない

 

 

 イッキの目の前に姿を現したのは「おおきなくじら」、だ。

 空を飛ぶわけでもない。夢をみせるでもない。他惑星から持ち帰られたわけでもない。

 遠浅の南国の水面にその姿をうっすらと覗かせる、ただただ大きく白いクジラ。

 ……いや、実際には喋っているのは目の前の姫様の友達、ナイトメア型メダロットのユートピアンな訳なのだが。

 

 

『おや。そのつもりで声をかけたってのに、驚かないのかい?』

 

「びっくりはしました。……けど、別に驚くような相手でもないですし。あ、クジラが話していることにはびっくりしましたよ?」

 

「イッキ、イッキ。話題がループしてますよ」

 

 

 ユウダチに袖を引っ張られて、イッキは頭を掻く。

 それもそうだ。自分でもよく分からないことを言っているので、びっくりしているのは間違いないだろう。

 

 

『まぁその反応をくれただけで満足としようかね』

 

 

 ユートピアンがアイモニターに「--」とかいう顔文字みたいな表情を浮かべて手のひらを上に。やれやれ、との身振り手振り。

 

 

「ふむぅ。……あ、お話を始める前にクジラさんにはお名前などはあるのです?」

 

『好きに呼べばいいさ、って言うとクジラさんで終わりそうだね。んー……勇魚の古神様。イサナガミとか呼ばれてたねぇ、世の中じゃ』

 

 

 あまり好きではなさそうな口調でそう語る。

 海中の影が少し身をよじりながら。

 

 

『まぁケナシザル(・・・・・)どもの呼び方なんてどうでも良いのさ。気にくわないから遠ざかっているんだからね、あたしゃ』

 

 

 棘のある言葉だ、と少なくともイッキは思う。

 けなしざる。言葉の通りにお猿の事でも、ターンモンキー(メダロット)の事でも無いのだろう。

 

 

「では、イサナガミさんで。あなたの言う所の『ケナシザル』―― ニンゲンのわたし達になにかご用で?」

 

『それはあたしも聞きたいねぇ。何しにここへ来たんだい?』

 

「その、この辺りに『まもの』が出るって聞きまして。僕たちはその『まもの』の起こした事件を解決しないと元の時代に帰れない……んだそうです」

 

 

 ほぉん、とユートピアンが首を傾げた。

 それもそうだ。突拍子もないことを言っているのはイッキの側である。

 イサナガミは海面を揺らし。

 

 

『成る程ねぇ……。最近妙な電波が拾えるようになったのは、アンタ達みたいなのが出入りするようになったからかい』

 

「電波が拾えるのです!?」

 

『ああ、拾えるともサ。暇つぶしにはなるねい』

 

 

 ユウダチがすっごいすっごい!とかテンションぶち上げで、ユートピアンの両手を掴んでぴょんぴょん跳ねる。身体の小さなメダロットなのでがっくんがっくん揺れるが、飛行型のメダロットなので何とかなっているようだ。姿勢制御の推進剤がぶしぶし漏れている。

 とはいえびっくりするのも無理はない。アンテナもないのに電波を拾えるとはこれいかに。

 

 

『もうちょっと昔のサル共に、ああいう物を沢山に埋め込まれていてね』

 

 

 ユートピアンが指さした南国風味の木の根元には、メダルがじゃらりと積まれていた。

 

 

『おかげで言葉ってのも理解できるし、今みたいに話しかけることも出来るようになっちまった。おまけに身体は制限を離れて大きく大きくなるばかり。どうしたもんかねとは思っちゃいるが、だからといって飯を食わないわけにもいかないじゃあないか』

 

「ほうほう……これまた難儀ですね。でもって、ケナシザルとか呼ばれる理由も判りましたです」

 

『そうかね。そっちの少年はどうだい?』

 

「まぁ、なんとなくは」

 

 

 人間が嫌いだ、ということで理解した。

 だとすれば。

 

 

「なぜ僕たちに話しかけてくれたんですか?」

 

『簡単さね。あっちの小島に、ここで面倒なことをしてた連中をとっちめてある』

 

 

 あっち。浅瀬で繋がっている歩いて行けなくもない小島の上に、全身タイツの集団(多勢)+黒タイツの女(幹部)が積まれていた。

 ……その横に1機だけ、装甲が泡だった(・・・・・・・)メダロットが倒れてはいるが。

 

 

「あれは……んー、女幹部のスルメとそのメダロット、ストンミラーですね。あの装甲の状態はなんなんでしょう」

 

『それだよ、アンタ達に話しかけた理由は。あれらを持って帰って欲しいのさ。都合の良いことに、持ち帰ってくれりゃあアンタ達の言う事件の解決ってヤツにもなるだろうさ』

 

 

 ユートピアンがふかしていた推進剤を止めて四つ足で地面に着地。両腕を胸の前で組み直す。気のせいか、後ろに落書きのような容姿をしたクジラが潮吹きしている幻影が見えるような気がする。気のせいだろう。

 幻影が眉をひそめて口をへの字に。

 

 

『ありゃイカン。アタシくらいに年を食っていりゃあ大概の出来事はどうでも良いに分類できるんだが……気にくわないにも程がある。こちとら折角、月のマザーの関知外にまで逃げて(バカンス)きてんだ。厄介ごとからは解放しちゃあくれんもんかね?』

 

 

 幻影かと思ったら実際に、その辺にあった木の枝と使ってユートピアンが落書きしていた。

 砂浜の上。尻尾立ちのクジラが愛嬌を振りまきながら腕を組んで、スゴい嫌そうな顔をしている。

 

 

「イカン、っていうのはどういうことなんでしょう? 確かにロボロボ団は、その、ちょっと面倒ですけれども」

 

 

 自分も今はロボロボ団的な格好をしているので強くは否定できず、やや口ごもりながらイッキは尋ねた。

 クジラの様子が描き換わる。リアクション。

 

 

『はん。こっちの子はあんまり詳しくは知らないようだね?』

 

「えぇと、ユウダチは知ってるの?」

 

「はいです。知ってるというか、ちょっとだけ携わっているというか ―― メダリアシステム、ですね」

 

 

 聞いたことのない単語だ。

 ユウダチはマントの内側でごそごそと何やら漁る。手のひらを指しだして、その上に、色とりどりの小さな宝石のような物が乗せられていた。

 

 

「これがメダリアシステム?」

 

「正確にはメダリア、そのものですね。システムはこれを解釈増幅する機能のことです。イサナガミさんが嫌っているのはこの機能のことでしょうね」

 

『そうさ。だってそれ、アタシの頭ン中と似たようなぐちゃぐちゃを作り出すための機構だろう。近くに居られちゃあたまったもんじゃあない』

 

「ヘベレケじいさまが開発したのは、確かにそうみたいですねぇ」

 

 

 だから、自分が身体を休めているこの区域からメダロットを持ち帰って欲しい。そういうことなのだろう。

 

 

『ああ。サル共はどうでも良いがね。ただ、そのメダロットが目を覚ましたら探しにまた此処に来たりするだろう? だったら一緒に連れ帰ってもらうのが一番さね』

 

「はい。そのお願いについてはもちろん、お受けするです!」

 

「だね。おかげで帰れそうだし。……メダリアシステムって言うのは、そんなに悪いシステムなの?」

 

 

 イッキは砂浜に倒れたストンミラーに駆け寄り、その身体を抱えながら尋ねた。

 装甲が泡立つ ―― つまりは熱を持っていたのだろう。ティンペットや駆動系に明らかなへこみやオイル漏れは見られない。少なくともイッキとしては見たことのないダメージの受け方だった。

 ざふざふとユウダチも駆けてきて。ユートピアン(イサナガミ)が身体を震わせながら。

 

 

『アンタ達のメダロットでも出来るだろうね。そういう(・・・・)ことは』

 

「僕は見たこと無いんですけど……」

 

「メタビーとヨウハクなら多分、メダフォースを多用してオーバーフローを起こせば出来るですよ。……メダリアシステムって言うのは、つまりは『演算機能を司る部分を複数作る』システムですからね」

 

 

 概要ですけれど、と付け加えるユウダチ。

 先ほどの宝石の様な物をもう一度つまみ上げる。

 

 

「これがメダリア。イッキ、どこかで見たことはありませんです?」

 

「うーん。……あ、メダルにひとつずつ付いているやつ!」

 

「その通り、です! わたしが持っているこれは完全な人工物でして。擬似的なメダルコアというヤツなのですよ! これをメダルに付与し、擬似的なマルチコア(・・・・・)にして演算能力を高めるシステム。それがメダリアシステムなのです」

 

 

 ちょっとだけ誇らしげに。

 しかしすぐにその勢いを引っ込めて。

 

 

「……けれども、このストンミラーの様子を見るにあまり良くはないようですね。構造的な問題がありそうです」

 

 

 ユウダチはイッキの腕からストンミラーを引き取り、その背中のメダルを緊急セイフティを使用してはじき出す。

 砂に塗れたメダルを拾い上げ、日にかざす。

 

 

「メダルの属性を示す絵柄がつぶれて、何のメダルだったのかも判別できないのです。……メダロットそれ自体の機構によって、回路(・・)だけにエネルギーが集中することはあり得ません。だので『理外の事情』によって負荷が祟ったようですね」

 

「それがメダリアシステムのせい?」

 

「そのようかと。ヘベレケ博士の謹製のものは元々リミッターを外していますし、死蔵されたレアメダルのコアを再利用していると話していましたしね。これは、システムの発案そのものに検討が必要でしょうか」

 

 

 私が関与している研究領域ではなくメダル関係の利権を持っているニモウサクさん家の分野で、アトムやナエさんや友人のヒカル兄様にお力を借りなくてはいけないでしょうねー。そうと続ける。

 

 

『まぁ何でも良いサ。早くそれらを持ち帰ってくれりゃあ、アタシとしちゃあそれでいい』

 

「はい! お手数をおかけしました、です!」

 

 

 海に向けてぺこりと腰を曲げるユウダチに合わせて、イッキも腰を折っておく。

 そのままストンミラーにメダルをぱちりと嵌めた。海水には浸かっていないので大丈夫なはずだ。再起動がかかって、読み込み音がして。

 

 

「―― うにょん。スルメ、さま?」

 

「ごめんなさい、スルメではないです。けどもその救助に来た別の幹部ですよ。シュコウと言います」

 

 

 目を覚ました彼女に向けて、ユウダチが説明を続ける。

 

 

「ああ、ご無事で、と、と」

 

「おっと。大丈夫?」

 

「はい。ご迷惑をおかけしますにょろ」

 

 

 よろけた体躯を支えた。ユウダチも反対側の腕を取る。

 

 

「しばらくぶりの起動みたいですから、仕方ないですよ。あとでわたしがメンテしますので……です?」

 

 

 ユウダチがなにやら視線を感じて海の側へと振り返った。イッキもそちらを向く。

 既にモニターの光りを落し砂浜に座り込んだユートピアの機体。スピーカーだけが再び音をたてる。

 

 

『ふぅん。なんでアタシがあんたらに声をかけられたのか、やっとこさ出所(・・)が判ったよ』

 

「? スルメやこの子(・・・)を引き取って欲しかったのではないのです?」

 

『それは理由(・・)サ。そもそもサル共に嫌悪を抱いてるアタシが、なんであんたらに話しかけようと思ったかって部分だよ。引き取りを頼むだけなら、あんたらのメダロットに頼めば良いだろう?』

 

 

 それもそうだ。

 メダロッチの中央に疑問符が浮かぶ(表示される)。どうやらイサナガミの声は、メタビーにも同時に聞こえていたようだ。

 ヨウハクも同様なのだろう。ユウダチも1度ケイタイを覗き込んでから顔を上げる。

 首を傾げて。

 

 

「なんでです?」

 

『あんたらがサル共と根本から違う感性(モノ)を持ってるからだよ。……一応聞くがね』

 

 

 イサナガミは少しだけ間を置いて。さざ波たて。

 

 

『なんでロボロボ団よりもメダロットを先に抱き起こしたんだい?』

 

 

 そう尋ねた。

 ユウダチが再び、反対側に首を傾げる。イッキも少し考えて……けれど、答えは決まっていた。

 

 

「この子がロボロボ団よりも近くに(・・・)居たから(・・・・)です。目に見える傷もありました。ロボロボ団達は少なくとも息はしているなと思っていたので」

 

 

 遠くから見ていてもそう思っていた。

 そもそもロボロボ団達が目を回したのは、イサナガミが操る(という表現が正しいのかは判らないが)ユートピアンの有する「妨害」の機能を使っているからだろう。

 そもそもがコーダイン王国のメダロットである。リミッターや三原則の類いはどうなっているかは判らない。しかし実際にこうなっている事実が先にあるので、考える必要があるとしても、後からでもどうにでもなる。そういうことを、つらつらと説明する。

 

 

「イッキのに加えて、抱き起こすというのは治療ではないですからね。医療知識があるわけでもありません。わたし達が治療出来るわけではないので。それにスルメ達がここに飛ばされたのは、多分わたし達に巻き込まれたからですよね?」

 

 

 そう言えばそうだ。コウジ達と向き合ったあの洞窟の中には、自分達の他には人は居なかった……という風に見えていた。少なくとも視界内には居なかったのだ。

 

 

「多分漁夫の利を狙っていたか、ついでにわたしを狙っていたかのどちらかでしょう。つまりは自業自得なのです!」

 

「そうなの? 仲間なのに?」

 

「一応は、という所ですが……わたしはちょっと外部の要員というところが強いです。ほら、衣装とかも違うでしょう? スルメはどちらかというとサケカースの一派。ヘベレケじいさまとも別の派閥になりますかね」

 

 

 生来からそうだとは。ロボロボ団というのはどうしようもなく「悪事を働くのが好きな集団」ということなのだろう。

 そう考えるとヘベレケ博士は首魁というよりロボロボ団を利用しているという面が大きいのだろうな、と思う。資金面はそっちから出ているようだし。

 そんなことを回想していると、波が一際大きく引いた。

 

 

『そんな所だろうなとは思ったけれどね。それは危機感がなさすぎやしないかい? だってアンタらが属しているのは、アタシが言う所のケナシザルの集団さね。……そこは、アンタらのメダロットの方が心配している気もするが……』

 

 

 メダロッチからの返答はない。

 呆れたような声だけが波音をかき消す。

 

 

『つまりは近くに居れば、アンタらはメダロットを先んじて助けるかも知れない(・・・・・・)んだろう。そういう事実を、アタシゃあ見た。だからだね。アンタらは人間離れ(・・・・)しているのサ。だから不思議と嫌悪を感じなかった。だから話しかけることが出来た』

 

 

 あんまり褒められている気はしないが……悪くはないのではないだろうか。少なくともイッキはそう思う。

 内容としては注意されているようなので、忠告は心に留めておこうとも思うけれども。

 

 

『まぁ、あんまり深刻に考えることでもないか。アンタらが例外だからって、アタシが積極的に話しかける訳でもない。この世界から帰れば、もう交わることもない。アタシにとっちゃあどうでも良い……』

 

「でも……でも。そのおかげで僕たちはイサナガミさんと話せたってこと、ですよね?」

 

 

 イッキは少しだけ早口で割り込んだ。そんなのは寂しいと思ったからだ。

 向こうが嫌っているから近づかない。仕方の無い事だ。けれどもイッキ達は、事実として今、イサナガミに助けられたのだ。少しだけ背を押した。そう言う程度の助力かも知れないけれども。だからイッキは、イサナガミに嫌悪なんて感じる理由がなかったのだ。

 長く感じる、ちょっとだけ呆気にとられたような時間。

 

 

『―― あっはっは! そうかも知れないね! ただ、サル共がみんなそうなることはないと思うわ。少なくともアタシが生きている内にはね』

 

「イサナガミさんがどれだけ長くを生きているかは知らないのです。近づきたくないというのも、実はわたしはちょっとだけ判ります。ヒカル兄様を見ていましたからね」

 

 

 今度は反対側から、ユウダチが割り込む。

 唇を結んで立ち上がる。

 

 

「……けれど、ここ近年の人類の進化は著しいのです。月はおろか木星にまで届かす ―― そんな手管を夢想するほどに。きっとそういう風に、今の人達も少しずつ変わっていくのだと信じているのです」

 

『ふん。そのせいで新たな(マザー)に目を付けられてるんだから、ザマァないがね』

 

 

 押しても引かず。イサナガミは嘲笑うような口調でごまかした。

 ざばぁん、と波が返る。沖で彼または彼女が身をひるがえした、その余波だ。

 

 

『アタシは暫く長らく、この世界でバカンスとしけ込ませてもらう。アンタ達の行く末も、気が乗ったら見届けるサ』

 

『―― 黙って聞いていりゃあな、おいバァさん!』

 

 

 三度に割り込んだのは、イッキのメダロッチから。メタビーだった。

 どうやらイサナガミは女性らしい。ユートピアンのティンペット性と別だ。メダロットにしか判らない何かがあるのだろうか。

 そのままメタビーが続けて声をはく。

 

 

『だとしても、イッキ達はオレらが守るんだよ。それが友達ってもんだろーが!』

 

『……ほぉん。出来るかね?』

 

『やってやらぁ! だからちゃんと見てろよ、バァさん!』

 

『はん。威勢のいいガキだね。……でも、まぁ』

 

 

 砂浜に座り、流木に寄りかかり、脱力したままのユートピアンが首をあげる。

 モニターが片目だけを映して開いて前を見る。

 そこには、ぼろぼろのストンミラーの両手を取って。空と海原を見つめる、少年少女が立っている。

 

 

『確かにアタシからのお願いだけを頼んで、借りを作ったままってのは気持ちが悪いからねい。その喧嘩、買ったろうじゃあないか! ちょっとだけ手伝ってもやるよ。きちんと見届けてやるからサ ―― 最後まで倒れんじゃあないよ?』

 

 

 楽しそうにそう言い残して、ファンサービスの潮を吹いて。

 イサナガミは沖へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 その後、イッキ達はコーダイン王国の民の力を借りてロボロボ団全員を収監した(檻に入れたので表現は正しい)。

 神官の力を借りて現代にも戻ることが出来ていた。最後に神殿でマルガリータが何やらこちらへ近づこうとしていたが、間に割り込んだユウダチによって突進を阻害されていたり。

 また遊びに来るからと言うことで頬が膨れるのを阻止。ついでに戻るためのロケットペンダントを貰ってお別れとなっていた。

 

 ちなみに原因であったプース・カフェはというと、悪戯の原因であるナイトメア型パーツ一式を没収。神殿でしばらく働くことで、放免となっていた。

 ちなみのちなみに、そのパーツ一式はイッキのメダロッチに格納されていたりする。マルガリータからのプレゼントということだ。

 

 のだ、が。

 

 

「……なんかパーツが変化しているんだよなぁ。なんでだろ?」

 

 

 ベッドに寝転がったまま、イッキはメダロッチの中を再び覗き込む。

 名前もなにやら変化していて判らない。メタビーに着けてみようかなとも思ったが、文字化けしているパーツを素で転送するのは怖いので止めた。土日にでもユウダチの所にいって調べて貰う予定になっている。

 

 ただし。

 パーツ全てが変化したため、一式揃えたメダロットの個体名だけは文字化けもなく読むことが出来る。

 型番は変化なくNMR(ナイトメア)。どうやら『フィーラー』と言うらしい。

 

 

「昔はこういうのも結構あったって、ナエさんから聞いたんだけどなぁ。メダルとかパーツが変化するの」

 

 

 ただそれは「ヘ・ビー」メダルの印刷ミスの様なものとは違って、メダロッターとメダロットそのものに害を与えかねない現象だ。

 詳細を調査したメダロット社およびロボトルリサーチ社の公式会見によると、メダロットの未解明の部分に依存するナノマシンの環境刺激による形状記憶の変化……とやらであるらしい。

 よく判らないが、色々と解決はしたようだ。今では変化する内容は公表され、メダロッター諸兄は十分に注意した上で行うようにとの注意喚起がなされている。

 もちろん、その中に今回のような変化は書かれていなかったが。

 

 

「……イサナガミさんと出会ったのといい、考えることが色々とあるなぁ……」

 

 

 メタビーのこと。ユウダチのこと。ヨウハクのこと。あのストンミラーのこと。

 アリカが調べていた花園学園はどうなったのだろう。行方不明(となっていた)の子ども達は。

 メダリンクのロボトルランキングも、もう少しでアジア最上位が見えてくる。

 

 そんな風に沢山のことを考えている内に、イッキの意識は眠りの中へと落ちていった。

 






 単発。
 ばあさまが説明くだすったので予定よりもちょっと長くなった。
 ソシャゲしながらで所要2.5h。


・イサナガミ
 メダロットのゲームシリーズにはおりません。出展は漫画版より。
 メダロットシリーズの〆を飾るための客員。とても印象深いかたなので、気になるお方は完全版をご購入どうぞ。

 海を眺めて手を繋いでいたり。
 水溜まりの上で、揃って空を見上げていたり。
 そういう部分の感傷を詰め込んだ表現だったりします。悪しからず。


・メダリア
 漫画版とゲームではかなり扱いの違うシステム。
 漫画版は結局、明言されたんでしたっけ……? 私は少なくとも記憶になかったので、こういう風にゲーム内の扱いとの間で折衷して、独自解釈しています。
 ゲームにおいては外付けの熟練度装置。私としてはむしろ、メダルによっては上がらない熟練度がある新世紀メダロットの方がちょっと……うーんって感じです。なんというか、リミッターかけられた気がするやなって……。


・ヘ・ビーメダル
 印刷ミスだったり、ロボロボ団の陰謀(意味ないだろ)だったりします。
 ところでなんで点が入ったんです……?(素朴な疑問。

 思い出すのはダイチ戦。
 避けすぎだろ。あとウイルスなんでそんな威力あんの。


・パーツ変化
 陶器とかが該当した機能だったと記憶しています。
 必要か……?(棘がある


・人間離れ
 若者ですので……。




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◆4 コーダインアフターと四方山と



 時系列的にはフユーン編。
 ただしこの辺から2正史編と同じ内容は挟まないので、実質アナザーコーダイン編からの地続きとなります。

 とはいえイッキが日付をまたぐので、黒菱形マークはとりあえず便宜的につけておこうかなと。





 

 

 ◆4

 

 

 

 結論から言うと、イッキが寝る前に気にかけていた事件はいずれも解決となっていたようだ。

 

 アリカが調べていた「小さなロボロボ団」の事件については、怪盗レトルトおよびレトルトレディーと協力することが出来、花園学園の行方不明の子ども達を「保護」するという顛末となったようだ。

 下水道に出来ていたロボロボ団の地下基地は壊滅。イッキが案内されたフユーンの遺跡までは、どうやら見つかっては居ないようだが。

 妥当なところだな、とイッキは思う。レトルトさん達が協力したのであれば穏便な解決に向かうだろうな、共思う。これがセレクト隊だけなら判らないが。現隊長のアワモリ氏はやや強引なきらいがあるからだ。

 

 ストンミラーはあの後、ユウダチが回収しメダロット博士およびナエの所で修理回収を行った。

 きちりとヘベレケ博士、さらにはスルメにまで許可を取りつけて、メダリアシステムのパージを実施したようだ。イッキは実際に現場にも同行したのだが、何をしていたのかは深くは判らなかったので「ようだ」と伝聞系にしておくことに。

 同行した際には、メダルに関する技術協力でやってきていたニモウサク・ユウキ氏(現メダロット社CEO)になぜかまじまじと顔を見られ名前を復唱され、名刺まで渡されたのが気にはなるが。

 とはいえシステム剥離のためにメダロット社の設備を借りたため、彼がいることそれ自体は不思議ではない。ヘベレケ博士発祥のシステムと言うことで技術流出的な面での防護も必要ではある。イッキとしてはとりあえず、深くは考えない事にした。考える必要は、いずれあるのだろうけれども。

 

 で。長かったが。

 残るはロボトルランキングの事である(最重要)!

 

 

「―― うーん、強い!」

 

『さっすが、アジアランキングとなると見たことない機体が多くて苦労すんよなぁ』

 

 

 メダリンク筐体の外に出て、イッキは大きく伸びをする。メタビーの声にもやや疲れが見て取れる。

 そう。今日も今日とてメダリンク! 絶賛小学生たるイッキは、長期休暇に突入するや否やロボトルランキングに精を出していたりした。

 

 

『で。今のジャー・スイハンとかってヤツがアジア15位だっけか?』

 

「うん。その前のローレル探偵事務所さんがアジア20位の筈だから、多分その辺だよね」

 

 

 2人で筐体横の端末でポイントを確認する。

 単純に上に勝てば、手に入る点数が大きくなる。ただし新参のイッキは蓄積されたシード的なポイントがないため、かなり多めに稼いでおかなければならなかった。

 

 

「それでもかなり勝てているから、ランキング自体はあがってるけれどね。ほら」

 

 

 言って、イッキは自分の端末をひっくり返す。

 メタビーがモニターアイをぱちくりさせて。

 

 

『おおっ、これか? オレたち12位って書いてるじゃねーか!』

 

「そうみたい。結果が出てるぞ!」

 

 

 ふたりしてグータッチ。メタビーは足をがちゃがちゃさせて喜んでいる(落ち着かない)(でもサイカチスなので関係はない)。

 アジア12位。小学生としてはかなり早期で上位のランキング入りである。実はユウキCEOに注目されていたのもこのせいだったりするのだが……。

 

 

『なら、もう少しでユウダチとかその兄とかともロボトルになんのか?』

 

「うーん、どうだろうなぁ。ユウダチがアジアランキングで上位になったのはかなり前だよ? そろそろワールドランキング入りしていてもおかしくはないよ」

 

 

 そう。ユウダチやその兄シデンという前例があるために、イッキ自身はメディア露出とかが皆無なのである。

 しかももっと視野を広げれば、ユウダチが(あに)さまと慕うガチのレジェンド、アガタ・ヒカルまで居る。あんまり自分に凄みを感じないのはこんな感じで、周囲が凄まじいからだったりした。

 

 ちなみにイッキも先日レトルトの正体ばらしの後、改めて彼の戦歴を漁ってみたのだが、これまた凄まじいもの。

 なにせ彼は小学生の頃の戦績を元手に、中学生に入るなりスポンサードを受けてプロ入り。すぐさま日本ランキングの最年少記録やシリーズ最多勝などなど。ほとんどの賞を総ナメしてみせたのである。

 世界リーグにまで乗り出し、いくつかの重賞大会を制覇し。

 

(そして ―― 中学3年の頃に活動を中止。プロ名義での活動は無期限休止になった)

 

 今では彼はおみくじ町唯一のコンビニのいち店員だ。

 イッキとしては、先日イサナガミに言われた気になることもある。この件については近いうちに知っておくべきだろうという予感はあるので、自分の中の予定帳に刻んでおくことにする。

 

 

「……まぁ、いずれにしてもいつかはユウダチともロボトルすることになるだろうけどね」

 

『楽しみだな! あのカミキリヤロウ……いや、クワガタなんだっけか? まぁどっちでもいいや。アイツに勝つには、まだまだロボトルしてかねーとな!』

 

 

 コーダインから帰ってからこの方、この通り。メタビーは一層ロボトルにやる気を出していた。

 イサナガミさんとの約束のこともあるのだろう。現在のイッキ達の立ち位置からするに、ロボトルの強さというものには、とにかく際限なく上が見えているのだから。

 

 

「さて。今日はどうする? まだやれそうか、メタビー?」

 

『どうすっかねー』

 

 

 んーと唸りながら、メタビーは脚部の変形機構をむやみやたらにギコギコと動かしてみせる。

 

 

「気になるのか?」

 

『おー。少しな』

 

 

 だろうな、とは思っていた。

 ロボトルの最中もぎこちなさはないが、確かめるようなためらうような、そういう雰囲気があったからだ。

 

 

「歪んでる……わけでもないか。だってその辺りはメダロッチ内で自動整形がかかるし」

 

『おう。精査でもそう出てる。だよな?』

 

『僕もそう思うクマー』

 

『だと思うクモー』

 

 

 僚機からみても異常は無いようだ。

 数値的な異常では無い。ならば「違和感」と評するのが適切なのだろう。

 

 

「変形かな? いちばん酷使はしてるけど……」

 

 

 イッキとして思い当たるのはやはり、サイカチスに特有の変形機構に関する部分だ。

 ロボトルランキングも上がってくると、流石に出し惜しみはしていられなくなった。当初は初見殺しで突破できていた相手も、対応力をあげてくる。変形するメダロットがいるというのも知れ渡っているようだ。

 

 

『んー、どうだろな。どっちかっていうと、変形それ自体はしてた方が楽(・・・・・・)な気がするんだよなぁ』

 

「そうなのか? じゃあなんだろ」

 

『オレらで考えてもキリはなさそうだな。今度ユウダチにあったときに聞こうぜ!』

 

 

 メタビーの提案はご尤も。

 なのでこれもイッキの脳内予定帳に書き込んでおくことにしておいて。

 

 

『そんじゃま、もう一戦いっとくか!』

 

『頑張るクマ―!』

 

『頑張るクモー!』

 

 

 などと。

 当のメダロット達がとてもやる気なので、再びメダリンク筐体の中へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 ◆◆

 

 

 

 

 

「―― ヘベレケじいさま、ほんとにやるのです?」

 

「ふん。これはワシとアキハバラめの意地のぶつかりあいじゃわい」

 

 

 メダロポリスの地下。未だセレクト隊に見つかっていない辺りに置いてある、フユーン船内にて。

 水晶玉を被らず外したままのユウダチは、呆れた表情で話しかける。お相手は、謎の装置の調整を続けるヘベレケ博士だ。

 ユウダチは溜息を隠そうともしない。

 

 

「はぁ。まぁ確かに、意地があるというのは判るのです」

 

 

 メダロット博士こと、アキハバラ・アトム。

 フシハラ博士の弟子として、ヘベレケ博士とは相容れない相手。そうだと聞いている。

 

(強硬派のヘベレケじいさまと、温和派のアトム。世間に受け入れられやすいのはどちらか、と言われればそれはアトムに決まっていますからね)

 

 彼と彼との間において。研究的な意味での相違は、実のところ存在しない。あくまで現存する人らに対して「どういったアプローチをかけるべきか」という立ち位置が違うだけだったりする。

 だからこそユウダチは理解も出来る。ヘベレケの感じているのであろう「焦燥感」に類するものを、彼女自身は感じざるをえない立場に居るのだから。

 

 

「どうせ彼奴(きゃつ)は時間をかけて、可能な限り傷つけんことを考える。だが、その結果が出る頃にはワシなぞおっちんで(・・・・)いるに決まっとる!」

 

 

 ヘベレケが拳を握る。背中の鞄から伸びた義手が台パン。

 

 

「そんなんは我慢できん! ナナメ45度で叩けば直るかも知れんじゃろう! ワシはの、結果はこの目で見届けんと性に合わんのよ!! ……そも、おぬしの敬愛するアガタ・ヒカルの兄君とやらも、あ奴には救われなかっただろうに?」

 

「えぇ。アトムには。でもヒカル(あに)様はしっかり、ナエ姉さまと力を合わせて立ち上がりましたからね!」

 

 

 そこだけは違えてはいけないと、ユウダチは胸を張る。

 愛だのなんだのは気に食わんと呟いて、今度はヘベレケが溜息。

 

 

「ならば聞くがの。あのアガタヒカルと同じかそれ以上の感覚を生まれ持ち、育ててもしまったおぬしは ―― どうやって立ち上がるつもりじゃい」

 

「……わたしは倒れてないのですよ?」

 

 

 ぐでり&どろりと首を傾げるユウダチ。

 年相応の可愛げは、瞳の汚泥によって薄れてはいるが。

 

 

「言い分が判らんわけじゃああるまいに。おぬしはどうせ、学童期を脱してしまえば、人の集団に排斥されるぞ」

 

「……ヘベレケ博士とおんなじに、ですか?」

 

「違わい。アガタヒカルとおんなじに、じゃ。ワシゃあ言うほどひとりじゃあないんでの」

 

 

 そうでなくては、研究などと言うものは出来はしない。

 実際として。ロボロボ団の力を借りて作り上げたメダロッ島地下の基地に集まった研究員達は、ヘベレケ顔馴染みの(アースモール暮らしの際などにできた)古友人。もしくは彼に師事するためにと現存の研究の埒外にまで追いかけてきた、奇人変人共なのである。

 そう認めるのは癪ではあるが、彼を慕っていると言い換えても良いだろう。そこにピチピチのギャルがいないのは、ご愛敬。

 

 

「ユウダチよ。あの10日間の時は1人で立ち上がったみたいじゃがの。それとこれとはまた別じゃ」

 

「……理屈は判るのです」

 

 

 ユウダチにも友人はいる。カリンやコウジなどはその筆頭だろう。

 ただ、それ以外(・・・・)。同年代の一般的な所と比べて、友人は少ないと言えよう。

 ヘベレケの言い分は判る。義務教育を終えれば、ユウダチらはそれぞれの道を辿ることとなる。ただでさえ研究に熱を入れがちなユウダチがカリン達と接する機会は、更に目減りする。

 その上で社会に出ればなどとは……考えなかったわけではないが。

 

 

「そう。理屈はそうです。でも、わたしは……」

 

「……ふん」

 

 

 考え込んだユウダチを見て、ヘベレケが鼻息。

 しばし黙った後。

 

 

「まぁいいわい。なるようになるじゃろ。それとは別に、今回の釣り餌(・・・)役はオヌシにこなしてもらうぞ?」

 

「あっ、はいです! それについてはお任せを!」

 

「こないだのメダリアシステムについては、ワシが間引いてやったんじゃからの。……まったくサケカースのヤツめ。お宝としてのメダルに固執しとるからといって、よく分からんメダリアにまで手を出すほど阿呆だとは思わんかったわ」

 

「ですが今回のフユーンの件で、ロボロボ団とは縁切りですかね?」

 

「蟻たちを使った掘り出しがもういらん分、世間の目くらましも人手も必要は無くなるが……地下基地の後片付けまでは働いてもらうかの。そもそもアヤツらへの貸しが多すぎて元手が取れておらんしの!」

 

 

 がっはっは、とヘベレケ博士は大きく笑って話をしめた。

 

 

『はかせー。砂漠から手に入れてきたフユーンストーンの原石(・・)のカットは無事に終わりましたよー』

 

「おお、早かったの。コガネ。……さて、ではしばしの起動実験を挟んで浮かすとするか。この浮遊要塞を!」

 

 

 入り口から入ってきたメダロットの声に応えて、最後に電源を入れる。

 壁に奔る光りがややも雷光を帯びる。不思議な浮遊感に包まれる。

 

 

「ウォッカたちにも伝えておくとするか。……さてい、おぬしらの理想を貫こうとするならば。このワシに反攻してみせい、アキハバラども!」

 

 

 ヘベレケ博士の言葉の通り。

 数日後。メダロポリス上空に、謎の人工物 ―― 浮遊要塞フユーンが出現する。

 要塞はメダロポリス周辺に暫くとどまり、衆目を集めてから、(セレクト隊のメダロットは軽くあしらわれ)、スピーカーをジャックして宣言する。

 

 

『悔しかったらワシを止めてみせい、アキハバラの使いめ! オヌシの大事な(・・・)女の子(・・・)を預かっておる! 取り返したくば乗り込んでこい……この浮遊要塞、フユーンにな! がっはっは!!』

 








 入院したりリハビリしたりしてました。機会を見計らいながら再開します!


 リハビリ込みなせいで本編の時よりも展開が冗長(丁寧とも言う)になっている気はする。
 所要:配信見ながら3h。今ちょっと推敲がきついので最低限で。





・ローレル探偵事務所

 メダロット8より。主人公の上役みたいな感じの人。みたいというか上役。
 名義として事務所を出しているので、実際イッキがロボトルしたのは誰なんでしょうというお話。
 8は結構、王道のメダロットなんですよぅ! 主人公があの見た目で探偵ですしパシーラさんとかクレソンさんとかちょっとだけ心残りがありますけどもそもそも4人は多いしサブヒロイナーとしてはミントさんのルートがあるだけで満足というかなんというか以下略


・オヌシの大事な女の子

 再びの説明。大事なことなので(
 ヒロイン選択の場面。
 本来はアリカorカリンとなる。



・立ち上がった

 実際にはそんなひとりって訳じゃないですけどね。
 ただまぁ、この話を聞いた上で釣り出し……つまりはヒロインに彼女を使おうと「発案した」のがヘベレケ博士なところに、作者私的な彼に対する人情味を感じていただければ幸いです。


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   飛べ、パーフェクト・フユーン

 

 あの要塞 ―― フユーンが、浮いている。

 円盤状の上部と、その下部にはぐちゃぐちゃと何か後付け(・・・)されているようで、いびつな形で縦に長い。

 要塞であると喧伝されたが、あのまま浮いて浮いて、どこか宙まで飛んでいってしまいそうな雰囲気さえある。

 そんなフユーンの中からがんがんと、ヘベレケ博士の声がこだまする。

 

 誰かを。「アキハバラの使い」とやらを呼んでいるようだ。

 ……多分それは僕の事なんだろうなぁと思いながら、イッキは頬を掻く。

 

 

「預かっているっていう大切な女の子、っていうのが気になるけど……誰だろう?」

 

『あーん? 心当たり、あんだろーがよ』

 

 

 メタビーは呆れた様子でそう言うものの。

 思いを巡らす。

 

 アリカ……ではない。

 あの子は好きだが。しかし明るく思慮(しりょ)深く。憧れることもあるが、悪友だ。

 

 カリンちゃん……ではない。

 あの子は好きだが。しかし強くて繊細(せんさい)で。可憐な花で、憧れだ。

 

 大切ではあるのだろうけれども。

 どちらにもコウジやレトルトバディーズという強力な護衛がついている。

 それでいて、さらわれたとは聞いていない。

 

 

『はーぁ。ちげーよ、イッキ。ユウダチだろ? ユ、ウ、ダ、チ!』

 

「……? ……な、なるほど……?」

 

 

 いまいちしっくり来てはいないが。

 メタビーがあまりにも呆れた様子でため息なので、納得した風味に頷いておく。

 ただ、疑問を全ては解消しきれなかった。気になる点がいくつか。

 

 

「でもさ。ユウダチがさらわれたりするものかな……?」

 

 

 イッキの中でのユウダチとは……研究者で、ロボトルが強くて、自分よりも頼りになる存在なのである。簡単にさらわれるような場面は、あまり想像がつかなかった。

 というかそもそも。ロボロボ団は別としても、ヘベレケ博士は彼女の仲間だったのでは……?

 

 

『ロボトルとかになっていなきゃあ、そういうこともあるんじゃねーの? あとヘベレケ博士がいってただろ、ピッチピチのギャルにモテモテになりたいーって。ユウダチはピッチピチではあるだろーがよ』

 

「それもそうかぁ。……そうかな~……?」

 

 

 よくよく考えれば、おどろ沼の一件などでも、彼女はひとりで解決をしようとしていた。姉代わりであるナエからも、研究以外にはかなり無頓着だと聞いている。割と無茶を通すタイプであるのかも知れない。そう思い直す。

 ヘベレケ博士の好みと言えば……ユウダチは、ギャルではない。ぴちぴちなのかどうか(活きの良さ)は、瞳のどろどろ具合からして議論の余地があると思うが。

 

 

「どっちにしても、まずは事実確認からだね。アリカとカリンちゃんには連絡しておいて、と」

 

『ユウダチは……おん?』

 

 

 ぴろん、と言う音でメタビーの声が中断。

 イッキがもつメダロッチあてにメッセージが届いたようである。

 

 曰く。

 

 

『さらわれてしまいましたー……です』

 

『うおー、まじかー!?』

 

「うーん、本当みたいだね……」

 

 

 まさかのユウダチご本人からの申告だった。

 メダロッチを挟んで、しばし交信。

 

 

『さらったのは、ヘベレケ博士?』

 

『ですです』

 

『じゃあ今は、フユーンの中?』

 

『そうです』

 

『ユウダチは、無事?』

 

『です!』

 

『よかった。というか連絡は禁止されていないんだね……』

 

『うーん、ヘベレケの爺さまはイッキをフユーンに呼び寄せたいらしいのです。そのための囮になれー、と取引を持ち掛けられまして。ほら、この間のメダリアシステムの後処理の借りの分があるのです』

 

『うわぁ』

 

『すいませんです! とはいえ中枢に忍び込んで、爺さまの思惑の内、迷惑な部分を潰してしまうには良い機会かもしれないなーと思うのです!』

 

 

 それもそうか。

 中に引きこもって居られるより、侵入してしまった方が決着はつけやすい。招待してくれるならば尚更だ。そもそもコーダインでのメダリアシステムの処理の分も含んでいるとなると、イッキとしても他人事ではない。

 

 よし、と気合を入れる。航空手段は確保できている。ユウダチからもらっていた「かぜのつばさ」だ。

 対応するパーツ一式ももらったはずだよなーと、イッキがメダロッチ内をぽちぽちとしていると。

 

 

『……本当かー? 本当にこれ、賢いやり方かー?』

 

 

 メタビーが訝しんできたので。

 問答無用で彼を女性ティンペットに移し替え、「かぜのつばさ」を起動する。

 

 

『イッキお前、ユウダチにめっちゃ影響されてると思うんだよなぁ』

 

「だとしても、大人に頼りっぱなしで動くよりは早いと思うよ」

 

 

 まっとうに対応するとなると、やはり真っ先に思い浮かぶのはセレクト隊になってしまう。

 メタビーもアワモリ隊長のことを思いだしたのだろう。

 

 

『……あー、確かに。それはそうだな! 足引っ張られる前に、行くか!』

 

 

 納得してくれたようでなにより。

 メタビーはいやいやながらもジェット噴射をふかして。イッキを乗せて。

 

 ……乗せて。

 

 

「―― 少し待ちたまえ、イッキ君!」

 

 

 後ろから、誰かが駆けて来ていた。

 現在地はおみくじ町。メダロポリスなどと比べて人通りは多くなく、だからこそ人目を気にせず「かぜのつばさ」などを起動できている訳なのだが。

 

 駆けて来ていたのは、ムラサメ・シデン。

 

 

「っは、っは……はぁ~。間に合ったな。君を名指ししていたからな、あの博士は」

 

 

 今日も今日とて白ランの彼は、どうやら家の車を道の端にとめ走ってきたようだった。

 荒かった息を整えて間もなく、びしりとイッキを指さす。

 

 

「警告だ。それと助力もしておこう」

 

「えーと……ありがとうございます……?」

 

 

 勢いが良い。警告と助力。悪い話でも無い。

 なによりそういえば、ムラサメ・シデンはユウダチの兄だ。妹が人質になっているのだ……と思い返す。

 一刻を争う状況だと思うのだが、話はしておくべきだろう。急ぎたくはあるが。

 

 

「マザーについての情報はユウダチから聞いた。感謝しよう。少なくともあれが不干渉であると聞ければ、こちらとしても不和は無くなるのでね」

 

 

 シデンが汗だくの髪をキザにかき上げる。

 マザー。コーダインで出会った大きな白鯨、イサナガミのことだろう。彼女に関する情報を得られたのは全くもって偶然なのだが、出会ったことにウソはない。

 情報を渡す事、その許可自体もイサナガミからもらっている。協力というか、不干渉というのは確かに正しい表現だとイッキも思う。

 

 

「だから、ボクからキミ達にも幾つか情報をあげておこう」

 

「……情報?」

 

 

 イッキとしては疑問が浮かぶのは当然だ。彼、ムラサメ・シデン自身もロボトルは強く、行動力もあるはずなのだから。少なくとも妹がさらわれて、黙っているような質ではないと聞いている。ナエから。

 当のシデンは、それら疑問には「今はもう僕よりも妹の方がランキングも上なんだ」と。あっさりと答え、流して置いて。

 

 上を向く。

 浮遊要塞が、青空の中にぽつんと大きく浮いている。

 

 

「あのフユーンは、ヘベレケ博士が構想した浮遊要塞 ―― その完全版(・・・)だ。十分な時間と資源と、それにリソースの横取りまでもに成功している」

 

「横取り……って」

 

「具体的に言えばいいかい? それじゃあ、メダロッ島の地下に建設されていたロボロボ団基地の一部。ヘブンスゲートの下部、ヘルズゲートの外付け容量を丸々。それに建設中だったクラスターのブロックの幾つかも、吸収されているようだ」

 

「えぇ!? それって、シデンさんの……」

 

「ああ。開発は中断せざるを得なくなった。犯人が判明したのは、たった今のことでね。……というか、ロボトルリサーチ(コチラ)社で管理している範囲に手が及んでいなければ、そんなたった今のスパイの仕事にも気づけなかっただろうさ」

 

 

 とんでもないことを言ってくれる。

 企業スパイという奴のせいだと、彼は付け加えておいて。

 

 

「これからボクは社の方で戦力を整えてから、あの要塞の迎撃に向かう。セレクト隊に任せておけないのはキミだって同じなんだろう、イッキ?」

 

「うん!」

 

「そうか……じゃあ、これを」

 

 

 力強く頷いたイッキの前へ。

 頷き返して、シデンはひとつのケイタイを差し出した。

 

 

「これは?」

 

「テレポーターさ。ボクらが開発したクラスターのブロックを奪われたけれど、だからこそ、そのテレポーターはまだ直通で使えるはずだ。キミが先に乗り込むのがいいと、ボクは思う」

 

「そっか……ありがとう!」

 

『マジか。さんきゅーな、シデン! やったぜ、飛ばなくていいじゃねーか!』

 

 

 イッキとメタビーがそろってお礼を言うと、シデンは礼には及ばないさと返す。

 ……メタビー自身、あまり空を飛ぶ感覚には慣れていないので、そういう意味でのお礼な感じだったけれども。

 

 

「それじゃあ、お互い急ごうじゃないか。ユウダチを頼んだ、イッキ君」

 

 

 最後にシデンから激励の言葉を受け取って。拳をごつり。

 イッキは、テレポーターのスイッチを起動した。

 

 






・完全体フユーン

 足がなくても……?
 もしくはなんちゃらポッド。
 でも上についているのはいつものフユーンなので、さもありなん。

 外壁はべこべこしていない。

・さらわれた、たいせつなおんなのこ

 大事なことなので何度言っても以下略。
 メダロット2ではここでどちらが攫われたのか、でエンディングが決定しています。
 大事なこと以下略。

・テレポーター

 どっちかというとメダロットには、こういう超技術要素はあまり……。
 ……いや、出して良いか……。1の移動宝箱やシノビックパーク……いやあれは底抜けスライダーな可能性もあるし……。


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   アンリミテッド・フライング・オブジェクト

 

 

 ふわっと着地。

 

 固いのに音が吸収された。床の材質が明らかに違う。おみくじ町でないことだけは確かだろう。

 イッキはおそるおそる、開いていた目を閉じる。

 

 

「―― うわぁっ!」

 

 

 驚きよりも感嘆が勝る。

 メダロット社。セイリュウの研究施設。メダロット研究所。そのどれにも勝るとも劣らぬ、メダロット開発のための施設が、眼前に広がっていた。

 フユーンの下のクラスターの中……なのだろうか。時折ゴゴンと揺れては戻るような音が響くが、警報は無い。

 

 きょろきょろと周囲を見回す。

 中央に置かれたコンピュータは、大きさだけでもイッキの3倍はくだらない。

 こんなブロックをクラスターから切り取った訳は、悩むまでも無いだろう。

 

 そんなことを考えていると ―― 背後。扉が開く。

 

 

「―― っておわーっっ!? イッキ!? イッキです!?」

 

「ユウダチ!? よかった、ユウダチだ!」

 

 

 ぼふりと軽い感触。イッキは正面で、飛び込んで来たユウダチの身体を受け止める。

 ぶわっと広がった髪に頬をなでられながら甘んじていると、ゴゴン。

 

 

「とっと。……無事で良かった、ユウダチ。でも、ここはどこ? フユーンの中の……ええと、クラスターの中だって、聞いたんだけれど」

 

「そうです! 合ってます! ここは空中要塞フユーンの下のメダロッ島の右下のクラスターブロックの下のヘルズゲートの下の、クラスターブロックの研究棟なのです!!」

 

 

 ユウダチが胸を張って言う。

 とりあえず、下の方なのは理解出来た。

 

 

「とにかく、ユウダチが居て良かったよ。まだテレポート機能が生きているから、地上に帰らない?」

 

 

 イッキとしては当然の提案だ。

 下層であるため主犯であるヘベレケ博士からも離れているし、行き来のための装置が生きている。これとないチャンス。

 しかし。

 

 

「いいえ。申し訳ないのですが、私はまだやるべき事が残っているのです」

 

「やるべき、こと?」

 

「はいです! なので、帰るのであればイッキひとりで……と。言いたいのです、が」

 

 

 こてりと首を横に倒した。

 目の前のイッキは、帰る気などさらさら無いからだ。

 

 

「……もしかしてイッキ、一緒に来ますか? ロボトルになると思うのですけど」

 

「うん! いくよ」

 

「ならばおっけーです!」

 

 

 嬉々とした表情で、ユウダチは自分が出てきた扉を指さした。

 暗闇が広がっている。薄明るいモニタの青さが連なっている。

 

 その中を。イッキは、ユウダチに連れられて。

 上層へと向かった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 空中要塞フユーンの構造は、こうなっている。

 フユーンの下部に、もとから連結のための構造を保有しているクラスターのブロックを基幹として巡らせて。

 その端々に、ロボロボ団の地下基地やら。ヘブンズゲートの処理施設やらといった各所からの頂き品をくっつけているのだそうだ。

 

 

「だからこうして、移動にはクラスターのブロックを経由すれば済むのです。……というかこんなものをどうやって横流し……いえ。設計図を複製されて、盗んだのでは無く作られたのも多いです。たぶんですけど」

 

「そっか。流石に何個も盗まれていたんなら、もっと早く気付くよね」

 

「だと思うのです。(にい)様の肝いりでしたからね、クラスター計画は……」

 

 

 ユウダチの視線を追って、イッキも窓の外を見る。

 フユーンの中から青空。そしてそろそろ、海が見えてきた。

 

 海が。

 そして、その向こうには。

 縦に黒い線のように伸びた ―― 宇宙まで伸びる、軌道エレベーター。

 

 

「……ということはくらげ海岸沖に向かっているのですね、このフユーンは」

 

「ユウダチはその辺りは知らされていないの?」

 

「はい、知りませんです。私の目的はあくまで、変形メダロットに関して、ヘベレケ博士から技術と助言をいただくこと。それと木星の使徒を見つけること……なのです」

 

「木星のしと、って?」

 

「今はもう地球にいる、と目されている……第4のマザーたり得る生物(・・)のことですね」

 

「だいよん。……えーっと……」

 

 

 イッキはこめかみに指を上げながら思い出す。

 ここ最近は何度も耳にしてきた言葉だ。前に話したのはメダロポリスで、ナエさんやヒカルさんも居た時だ。

 指折り数える。

 

 

「月にいるマザーがひとり。イサナガミさんがひとり。……木星の()が4だとすると、あとひとつは?」

 

「ちょうどいいですね。この通路を進んでいる内に、私から、イッキへネタバラシをしておこうと思うのです」

 

 

 くるり。廊下の中央で器用にターン、足を鳴らして踏みとどまる。ご機嫌だ。

 

 

「前にマザーが居るというお話と、メダルに上下があるというお話と、メダロットは宇宙から来たというお話をさせてもらったですよね?」

 

「うん。結構びっくりしたよ」

 

 

 いち少年としてはショッキングな内容だった。

 メダロットが侵略兵器として扱うことも出来る……というのは、流石に誰にも話してはいない。

 

 話している間にもユウダチは、前の扉を社員証のようなもので開いて、現れた階段を登ってゆく。

 

 

「そのお話の続きで……兵器という枠組みに当てはめると、マザーというのは司令官。レアメダルは隊長みたいなものなんです。基本は2つ1組で送られる。イサナガミさんはメダルを知恵の神と信仰する人らによって造られた、人工のマザーでちょっと例外。見つかっているのは木星と、月と。これで3つ。となると……です?」

 

「……あっ、地球にもマザーが居る……?」

 

「はいです! 居る、と言われているのです! ですが、未だかつて発見されたことはないのです」

 

「へー! 居るんなら、会ってみたいなぁ」

 

「うーん、これだけメダロットが普及してしまいましたからね~。もしかしたら顔は合わせづらいかもしれないのです。でもまぁ、会えるなら会ってみたいですよね!」

 

 

 拳を握ったユウダチに、イッキも合わせて拳を握る。

 単純に合ってみたい、と思うのはウソでは無い。

 

 

「……と。ロマンが有り余るところなのですが。地球のマザーというのは、かなり意図的に眠らされているという説も強いのですよね」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

「はい。かつて私が住んでいたジャンクヤード近くの『遺跡』。メダルの採掘場に、かつては使者さんが来ていたようですから」

 

「使者……って、もしかして!」

 

「そう! イッキのご推察の通り! なななんと、ALN(エイリアン)型メダロット、コスモエイリアンのご登場ですーーっ!」

 

 

 ふたりでうおおーと声を上げ、きゃっきゃ、ロズウェルロズウェルと意味も無く走り出す。

 メタビー(メダロット当人)から『敵地なのにテンションたけーな、おめーら』という突っ込みが入ってやっと停止。

 

 

「こほん。とにかく。そういうのが発見されている以上、地球のマザーは使者さん方によって、意図的に見つからないようにされているのでしょうという考えですね。なにせ、月のマザーはきちりと発見されているのです」

 

「そうなんだ。……そうなんだ!?」

 

「はい。あちらは既にメダロット社の人達が起こしてしまっていると聞いています。どうなることやらー、です。……それはさておき」

 

 

 指先でタッチパネルを解除して更に先へ。

 たくさんのダクトで囲まれた区画。

 

 

「イサナガミさんの様に、強力なメダフォースを発することの出来るほ乳類がいても、地球のマザーさんからの警告はなしです。そしてもひとつ。さっき言いましたが、地球には木星からの使者 ―― 分樹のマザーが漂着しているそうで」

 

「それでも地球のマザーからはメッセージはなしなんだ?」

 

「話が早くて助かるのです。そう、今地球には……マザー並の権能を持っていると目されている、木星の使者。どこかに隠れている地球のマザー。コーダインの海には人工のマザー、イサナガミ。この3体が、ぞろりとそろって並んでいるのです……っっっ!!」

 

 

 驚愕の事実、とユウダチは両手を広げてドヤ顔。

 イッキとしてもえぇー、と声をあげたくなるが。研究者の人々であればもっとだったろう。

 実際声はあげたので、ダクトの間に反響して消えてゆく。

 

 

「……そんな感じに、私としては木星の使徒を探しているのですが。それも上のお方達の間では利権の分与が済んでしまっているみたいなので、どうなっていることやら。という感じです」

 

 

 ユウダチは合間を埋めるように、やれやれと首を振った。

 それもそうか。ユウダチはいち研究者・開発者であって、マザーを発見したからさあどうするか、に直接関与できるような立場には無い。

 あるいはシデンであれば……というレベルである。

 

 もしもそれが、イッキだったならば……。

 

 

「……でも悔しいね、それ」

 

「?」

 

 

 ユウダチは首を傾げる。

 どうにも、イッキの言葉にしっくりきていないらしい。

 

 

「ユウダチが探している木星の使徒を、偶然でも探したでも、そういうのとは関係なく持っている(・・・・・)人がいる……っていうことでしょ?」

 

「そう、でしょうか」

 

「僕だったら、思うかも。もちろん見つけた人の物だとかいうわけじゃあないし、木星の使徒が地球に来た理由とかもあるんだろうから、嫌だって訳じゃあ無いんだけど……」

 

 

 嫌では無い。

 やはり悔しい、がしっくりくる。

 

 

「―― 木星の使徒、がコスモエイリアンみたいにメダロットだったなら」

 

 

 人ではないのなら。

 そういう意味が、イッキの言葉には含まれた。

 

 ぶちり。

 

 

「……は、ぁ」

 

 

 どろりと、音がした。

 目前の泥がほどけて千切れた音だった。

 

 自分以外の、自分に近い誰かの指摘。

 それで初めて想像が出来た。

 

 油のにおい。電気の熱。冷たさを友とする肌。

 水面で膜を張っていた泥は底まで垂れ落ち、積層したヘドロを巻き上げ(にご)る。

 

 

「……なるほど、です」

 

 

 ユウダチは顔を伏せた。

 再び顔を上げた時には、いつものように、人好きのしない(・・・)笑顔が浮かべられている。

 

 

「私の目標はメダフォースの繰り方を教えてもらうこと、なんです」

 

「木星の使徒に?」

 

「はい。私のは多分、会話さえ出来れば達成できる目標だと思うのです。いずれにせよ、研究はなんとかなりそうですね!」

 

 

 そう言ってぴょんぴょこ歩き、先をゆく。

 最後の扉です。と告げて、開閉式の円扉を開いた。

 

 

「さては目的地。ここにいる疑似(・・)マザー機体の停止が目標です」

 

「疑似……マザー?」

 

「はいです! メダロット社の回答です。メダルのリミッター解除に伴う余剰エネルギーをどうするべきか。その問いに対して、メダフォースとして制御する……と応じたのが社のスパイの連中です」

 

 

 ヤツメウナギの口みたいな開閉扉をくぐり抜けたその先。

 周囲をベルトコンベアに囲まれ、青色の水槽が真ん中にどんと置かれた、地下研究所。

 

 ……それが、荒らされた跡。

 

 机は吹き飛びモニタは割れ、四方に走ったベルトコンベアは引きちぎれ。

 

 

「ここにいるベビーを、止めましょうです」

 

 

 ユウダチが真ん中の、唯一傷もヒビも壊れた箇所もない水槽をみやる。

 浮かんでいるのは胎児。……のような形をしていて。天使のようでもあって。

 赤ん坊の様に悲鳴で歌う、メダロット。

 

 

「―― Onnnn.gyaaaaaaaaa !!」

 

 

 むくりと周囲で、ケーブルに繋がれた軍用メダロット(ゴッドエンペラー)が起動している。

 囲まれる前にイッキは慌てて距離を取り、メダロッチを掲げた。

 

 

「メタビー! スパイダ、ベアー!」

 

「任せなっ!」

 

「やるクモー!」

 

「やらせんクマー!」

 

 

 ユウダチが隣でケイタイを掲げる。

 

 

「ヨウハク! エトピリカ、ケイラン!」

 

「心得た」

 

「撃つぜー、狙い撃つぜー!」

 

「ッピヨ―ォ!」

 

 

 イッキとユウダチで総勢6体。

 メダロットが並んだところで……さらに周囲からむくりと、軍用メダロット。

 

 

「Sollllllll.zyaaaaaa !!」

 

 

 8体。これでベビーを含めて合計は9。

 立ち向かうしかないので、イッキもユウダチも足を止め。

 顔を見合わせてから前を向く。

 

 

 割れた水槽。

 四方に向けてだばぁと溢れる内容液。

 少なくともホルムアルデヒド水溶液ではなかったようだ。

 

 中から登場、ミスターうるち!

 

 

「―― 合意とみて Ready to fight !?」

 

 

 そのまましゅばっと飛び上がり、最も邪魔にならないであろう天井にぺたりとくっついた。

 

 全員と、ベビーまでもが頷いたのを確認。

 上げていた手を振り下ろす。

 

 

「ロボトルぅぅぅ……ファイッ!!」

 

 






・コスモエイリアン

 その割にセレクト隊本部の椅子から手に入る。
 私的にはゲーム内りんたろうのイメージが強くて困る。

 後継の「パーツへんか」系統は沢山出たのだが、正直私は活用法を見出せなかった(

・大合体クラスターブロック

 ラスボスはお城と相場が決まっています。
 ……決まっています……かねぇ……? この後の展開的には前振りでしかない。

・9体ロボトル

 メダロット4より。
 1番の敵は時間制限。高火力で潰していかないと間に合わないことが殆ど。
 光学化ミサイルをくらえ……!



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