俺の戦闘力は53万らしい (センチメンタル小室)
しおりを挟む

1話

俺の戦闘力は53万らしい。

 

何を言っているかよくわからないと思うが自分でもあまりよくわかっていない。

 

一応自分はよくある転生者というやつなのだが、死んでから会った神様からもらった能力?が戦闘力53万だった。

 

まあそれでドラゴンボールなりゲットバッカーズなり、パワーインフレが激しい世界に行けば、使い道もあっただろうが俺の送られた世界は『魔法先生ネギま!』だった。

 

ネギま世界においてジャック・ラカンが作った強さ表があるが、その表で最強のラカンですら12000程度しかないのだ。

 

単純に比べてはいけないとは思うが、ネギまにおいて一般人である千雨が1、ドラゴンボールにて猟銃を持った農民が5でこれを等価とおいてもラカンは戦闘力6万。約9倍程度の差があることになる。

 

そんな強さを手にいれてしまったわけで、最初の頃は苦労した。

 

何がって弱く見せることにだよ。

 

何の変哲もない元高校生の一般人が宇宙最強を称すフリーザ様並みの戦闘力を手に入れたのだ。そりゃ苦労する。

 

小学生のはじめのスポーツテストでほとんど力入れてないのに握力計ぺちゃんこに潰れるし、シャトルランとか自分では歩いてるつもりでも周りからはワープするような速さみたいだし、走り幅跳びとか砂場飛び越して校舎の屋上まで飛ぶし訳がわからない。

 

生まれたのは極普通の一般家庭だったがそういったところを見せてしまったせいで魔法使いの巣窟、麻帆良学園に送られることにもなってしまった。

 

ちなみにそのスポーツテストのことは魔法使いの人が何人かで認識阻害魔法かけてごまかしたらしい。いや本当にすいません。

 

そして麻帆良学園に入って9年がたち今は高等部に通っている。

 

最近ようやく一般人に見えるように手加減できるようにもなって、本当に麻帆良さまさまだ。

 

転入して最初の頃とかひどかった……

 

幽遊白書じゃないがデコピンで相手を粉砕骨折してしまったときとか……いや、忘れよう。あれは嫌な事件だった……

 

まあ相手が一般人じゃなくて手合わせしようと言ってきたデスメガネだったのが幸いだったけどあれのせいで今でも裏に関わっている人には警戒されている。

 

そしてその強さをどこから聞きつけたか知らないが表側の生徒に決闘挑まれたりいろいろと大変だった。

 

刀語で鑢七実が見稽古身につけた理由がよく分かるね。

 

あれは自分が本気だすと体が耐え切れないから弱くあるために身につけたものだが、自分もそんな感じで地球が耐え切れなくなるので弱くあるために自然と身につけてしまった。

 

さすがに魔力はないので魔法系等は真似できないけれども、そうやって他者の弱さを真似することを覚えなんとかなるようになった。

 

それでも襲ってくる(麻帆良の生徒はよく手合わせとか決闘と称してやってくる)時は今でも手加減ミスらないかビビっている。

 

いやまじでやめて欲しい。小指一本程度の力しか入れてなくても普通に人が何100メートルも吹っ飛ぶのだ。まじやめろ。心臓が持たない。

 

なんでここの学園の生徒こんなに血の気多いんですかねえ……

 

結構な頻度で来るんだよ……3D柔道の使い手とか喧嘩三十段のリーゼントとか、後は例の中華娘が……

 

面倒なので前の二人に関しては麻帆良武闘四天王に勝ってから来てくださいと丁重にお断りしているが、中華娘に関してはうまく断る手段が無くて苦労している。

 

この麻帆良には武闘四天王と呼ばれる4人がいる。

 

忍者である長瀬楓、スナイパーの龍宮真名、剣士の桜咲刹那とその中華娘の古菲と名を連ねているのだが古菲以外は武器を使うこともあって純粋に素手だけで戦っているのは古菲だけである。

 

そのため素手での戦いを基本とする古菲はあまり他の3人とは手合わせしないらしい。

 

だからね、素手で強いと噂の自分に対してよく決闘申し込まれるんだよ……

いつも再起不能にしてしまいそうでヒヤヒヤしている。

 

原作開始前にネギの師匠がいなくなるって……ねえ?

 

ネギが原作より弱くなる→完全なる世界が止まらない→魔法世界滅亡→地球との戦争勃発、となってまあ割とヤバい

 

どうにかしたいなとは思っているが彼女が結構強引なところと自分が流されやすい性格なこともあっていつも断れていない。

 

そしてまた今日も彼女に呼ばれて世界樹前の広場で待っているわけだが今日の彼女はなにかいつもと違った。

 

なんというか鬼気迫るというのだろうか?なんだか分からないがそんな雰囲気を出している。

 

いつもなら「今日も手合わせお願いするアル」とか何とか言って戦うわけだが今日は何も話さずにただ目の前にいるだけだ。

 

こちらとしても帰って宿題とかしたいので手合わせしないのなら帰りたいのだが彼女は無言でこちらをチラチラと見ている。

 

そうして無言のままいるのも気まずいので「何もないなら帰っていいかな?」と言おうとすると彼女はなにか覚悟を決めたらしく意を決して話しかけてきた。

 

「私を弟子にして欲しいアル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……What?弟子?誰の?誰が?

そうして自分の思考がフリーズしたまま時間が過ぎていった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

オッス、オラ悟空ではないけれど転生者だ。

 

名前?ああ、『五三 万(いつみ よろず)』だ。よろしくな!

 

生まれてきた時はまじで、まんまじゃねえかとか思った。

 

まあ親父の名前が『五三 一(いつみ はじめ)』だったり、祖父の名前が『五三 兆次郎(いつみ ちょうじろう)』だったりといろいろあれだったから、代々の伝統らしい。嫌な伝統だな……

 

ちなみにおやじの戦闘力は531でもないし、祖父の戦闘力も53兆とか行ってない。

 

でないと地球がやばい。531はまだしも53兆とかぶっ飛び過ぎだ……

 

さて、あれから数十分は立ちすくんでいるわけだが、彼女が何を言ったか思い出してみよう。

 

確か……弟子にしてください。だったか?

 

Why?なぜ?自分は基本的にスペックゴリ押しで戦うタイプなので彼女のような技とかそういうので戦うタイプとは合わないと思うんだが……

まあ、弱くあるために見稽古もどきでいろんな技使ってるけれど、あれは他人の技の技量以下でしか技を使えないので洗練されているわけでもなく、彼女からしたら凡庸な技にしか見えないはずだし。

 

ちなみに見稽古もどきは強者であればだれでもやっているようなことだ。

 

1度見た技は喰らわないみたいなあんな感じ。

 

技の力の流れとか貯めの動作を見切り相手の隙を読むみたいなことの最終形みたいなものだ。

 

それにより見よう見まねで相手の技の力の流れ、貯めの動作を真似し放つというわけだ。

 

原作においてジャック・ラカンが適正がないにもかかわらず、闇の魔法を真似できたことだし多分あいつもできるんじゃないかな?

 

さて、このまま黙っているのも辛いのでなぜ弟子になりたいのか聞き返してみることにした。

 

「えーっと、古菲さんはなんで俺なんかの弟子になりたいんだ?正直オレは中国拳法とか殆ど知らないし、人に教えたこともないから何かを教えるのは向いてないと思うんだが・・・」

 

「古菲でいいアル。なぜ弟子になりたいかというと、今までみた誰よりも強いから、それ以外にないアル」

 

あー、そういえば彼女脳筋だった……

 

マチズモと言うかなんというか強いものに目がないタイプだったな……

 

でも自分の強さはだいたい生まれ持った戦闘力53万とかいうチートと、強者ならレベルの差はあれど大体のやつが持ってる見稽古もどきなわけで……

 

正直教えるとか無理です……

 

ワンパンマンでただ鍛えればなんとなく強くなったサイタマがジェノスに対して何かを教えることができないように、生まれ持った戦闘力だけで戦う自分が彼女に対して何かを教えることはできない。

 

それに見稽古を教えるとしても見稽古は強くなるための技じゃなくて弱くなるための技であり、強者を目指す彼女には向かないだろう。

 

というか教えたら器用貧乏になりそうだ。

 

「俺は弟子とか取ってないし取る気もないから断らせてもらう」

 

弟子との手合わせとかの際に手加減ミスったら色々とあれだしな……

 

というかさっきまでなんかそれっぽいことを考えてたが実際の理由としてはこっちがメイン。

 

今でさえ手加減でストレス抱えてるっていうのに弟子なんて取った日には……

 

やめよう。考えるだけでハゲそうだ。

 

そしてその場では彼女はおとなしく引き、諦めたのかなと思っていたのだが。

 

俺は彼女の強引さをまだわかっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「弟子にして欲しいアル」

 

次の日の昼休みまたやってきた。

 

しかも高等部の方に、更になんか土下座してるわけで……

 

ここで周りの状況を考えてみよう。

 

高等部の教室。

片方は土下座して頼み込んでる美少女。

もう一方は無言で佇んでいる少年。

ざわめくクラスメート達。

 

気まずい……ものすごい気まずい……

 

だって美少女に土下座されてるんだよ?しかも彼女は麻帆良武闘四天王であり有名人。

 

そんな人に土下座されてる状況。

 

周りからはお前何様だよみたいな目で見られてるわけで……辛い。

 

彼女に頭をあげるように言うも

 

「弟子にしてくれるまでこのまま動かないアル!」

 

といって梃子でも動かない。

 

無視を決めようにも周りのクラスメートの目線がどんどん冷たくなっていく。

 

さてそんな状況で一般人のメンタルしか持たない自分が取れる行動は!

 

「あー、頭を上げてくれないか。弟子にするから」

 

まあこれしかないわけで、結局折れた。

 

それでその後のことはあまり覚えていない。

 

なんか師父と読んでいいアルか!とか明日も来るアル!とか言ってた気がするけど、そんなことは些細な事だ。

 

笑顔で手を振りながら去っていく彼女を見送っていると後ろからとてつもない量の殺気が飛んできている。

 

おそらく、クラスの男どもだろう。

 

彼女の姿が見えなくなると同時にすぐさま逃げる。

 

まあ逃げるのは簡単だった。戦闘力53万で逃げればねえ?

 

さてまだ授業が残ってるわけだがこのまま授業受けるとかなにその拷問とも言える状況なのでそのまま早退することにした。

 

明日から登校拒否していいかな……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

さてあれから一夜明け、外ではチュンチュンと雀とかなんか鳥が鳴いている。

 

昨日は早退したこともあって早く寝たため日の出とともに起きてしまった。

 

これで昨日のことがなければ早寝早起きできて爽やかないい1日になりそうだとか言えるのだが実際はそうはいかない。

 

多分今日登校したら、クラスメートにいろいろと聞かれるだろう。

 

そんなわけで今日は学校サボるかーとか思っていると寮の扉をノックする音が聞こえた。

 

なんとなく嫌な予感がするので居留守を使うが更にノックの音が激しくなり何となくいたたまれない気分になってきたので扉を開ける。

 

この流されやすい性格どうにかしたいんだけどな……とか思いつつ扉の前を見るとやはりと言うかなんというか昨日弟子にした古菲がいた。

 

 

「師父、おはようアル」

 

 

姿を確認するとすぐに扉を閉めた。

 

なんでいる……確かに昨日、また来るって言ってた気がするけどなんで俺の家を知っている……

 

夢であってほしいなと思いつつもまた扉を開ける。

 

 

「師父、おはようアル」

 

 

どうやらこの妄想は消えてくれないらしい。

 

 

「あー、そこで突っ立ってるのもなんだし中入れよ」

 

 

そういうわけで彼女を家の中に入れることにした。

 

美少女突っ立たせて寮の誰かが集まってきたらまずいしな。

 

 

「で、なんでいるんだ?」

 

「師の送り迎えをするのは弟子の勤めアル」

 

 

なんかよくわからんがそういうことらしい。

 

色々と気になることはあるがとりあえず一番気になったことを聞いてみる。

 

 

「えっと、なんで俺の家の住所知ってるんだ?」

 

「担任の高畑先生が知ってたネ。そういえば再戦がどうとか言ってたアル」

 

 

あー、そういうことね。

 

……って高畑なにしてるんだお前。

 

個人情報保護法はどこに行ったんだ。仮にも教師だろ。

 

恨みでもあるのか……ってありそうだな。粉砕骨折したし。

 

しかも再戦ってまた来るのかよ。

 

そういえば風のうわさであれから修行に励んでるとか聞いたな。

 

なんか裏でSランクくらいの強さだとも聞いたような……

 

げ、原作より評価上がってるし。これが原作ブレイクアルか……

 

あ、少し混乱して口調うつったアル。かんべんしてほしいアル。

 

 

「で、師父。学校にいくアル」

 

 

少し現実逃避していると彼女がそう言ってきた。

 

いや、今日はサボるつもりで……

 

え?師父たるものちゃんとしろ?いやあの空気はさすがに……ね?

 

そう思いながらもそのまま彼女に引きずられて学校に行ってしまった。

 

押し弱すぎだろ俺……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、教室まで来たわけだが、彼女は「また放課後来るアルー」とかいって去っていった。

 

おいこの空気どうにかしてからいけよ。いやどうにかしてくださいお願いします。

 

後ろを振り返ると笑顔で、ニコニコしながらクラスメイトの方々が出迎えてくださった。

 

笑顔はもともと威嚇の表情であり云々ってのは本当なんだね……

 

「おいコラ、なんで古菲ちゃんと一緒に登校してやがる」とか「あんな可愛い子を土下座させるなんてこの外道!」とかそういった剣呑な雰囲気を感じる。

 

 

「おいなんで古菲ちゃんと一緒に登校してるのかな?」

 

あ、実際に口に出た。

 

そう言われてそっちを見ると、ポキポキと拳を鳴らしながら今か今かと殴りかかろうとしているリーゼントの学ランをきた男がいた。

 

 

『豪徳寺 薫(ごうとくじ かおる)』クラスメイトで喧嘩三十段とか呼ばれており、表の人間ながら、『気』を習得し、遠当てを使用することができる。

 

なんか男塾にいそうなキャラだよな。序盤から中盤あたりで気の使い手として出てきて後々になると民明書房出して戦闘の解説とかしそうな。

 

そういや原作では格闘大会で解説やってたな。

 

てかもう夏近いのに学ラン熱くないのだろうか?

 

まあ、よく決闘を申し込まれるのでよく絡んでいるやつだ。

 

 

「いや、なんか弟子として師匠を出迎えるのは当然のことだとか行って家まで「ほほう、朝起こしてもらって朝食を作ってもらい、嬉し恥ずかし一緒に仲良く登校、更に下校の約束まで取り付けたと。」いや、起こしてもらっては……」

 

「諸君。このようなことが許されていいと思うか?」

 

「は、話聞けよ……」

 

 

そうして彼はクラスメイトに同意を取る。

 

この麻帆良学園では、男子部と女子部がわかれているため、男女の出会いが少なく、出会いを求めている男は多い。

 

てかこのクラス割とむさくるしいのでモテない奴が多い。

 

え?俺?前世含めて彼女とかいませんがなにか?

 

あと、どちらかと言うと年上が好みです。はい。

 

さてそういったクラスで可愛らしい、しかも武闘四天王と呼ばれ一種のアイドルみたいに君臨している彼女と登下校した場合どうなるか。

 

 

「野郎ども!かかれ!」

 

「「「オー!」」」

 

 

まあ、こうなるわけで。

 

クラスの連中はこちらに向かって飛びかかってくる。

 

いや、手加減大変だからくんなし……

 

とりあえず怪我させると不味いので飛びかかってくるクラスメイト共を簡単に躱す。

 

だが俺が躱している間に豪徳寺は自分の持てる最強の技を準備していた。

 

 

「喧嘩殺法 未羅苦流 究極闘技 "超必殺・漢魂"ァ!!!!」

 

 

そういって豪徳寺は拳を構え、気を貯め波動拳みたいなものを放つ。

 

そして俺に直撃し、土煙が上がる。

 

 

「「「やったか!?」」」」

 

 

クラスの連中はそう言うがそれフラグ、とか思いつつ土煙の中から飛び出し豪徳寺に向かっていく。

 

仮にも戦闘力53万なのだ。魔法の矢と同威力程度の気弾など、どうということはない。

 

拳を握り0.0000000001%、本当にそれくらいなのかは分からないが限界まで手加減してパンチを繰り出す。

 

だがそのパンチは当たらない。いや、当てていない。

 

所謂寸止めというやつだ。こうでもしないと人が死ぬ。

 

限界まで抑えたとはいえ戦闘力53万は伊達じゃない。これくらいであっても風圧で豪徳寺は吹っ飛ぶのだ。

 

そして、そのまま豪徳寺は教室の机を巻き込みながら壁に激突し、気絶した。

 

 

「ご、豪徳寺が一撃で……」

 

「く、これが麻帆良最強……」

 

「俺達が敵う相手じゃ……」

 

 

クラスで一番強い豪徳寺がやられたことでクラスメイトの士気が下がり一種の膠着状態になる。

このままなら手を出さずともいけるか?とか考えるがそうは問屋がおろさない。

 

 

「待て!俺がやる」

 

 

そういって一人の男が前に出てきた。

 

 

「お、お前は隣のクラスの中村!」

 

「ふっ、俺もいるぜ!」

 

「俺も忘れるなよ!」

 

「そういうお前は、山下!大豪院!」

 

 

あ、なんかめっさ出てきた。めんどい。

 

『中村 達也(なかむら たつや)』こいつもまた遠当ての使い手であり表の人間でありながら『気』を使える。

『山下 慶一(やました けいいち)』3D柔道の使い手でビジュアル系のため割とモテる。爆ぜろ!

『大豪院 ポチ(だいごういん ぽち)』拳法家であり、連続攻撃による近接戦闘が得意。

 

ちなみにこれに豪徳寺を含めた4人は、麻帆良武闘四天王に対抗して、男子高等部武闘四天王と呼ばれている。

 

え?俺?なんかチャンピオンは例外らしくハブられてる。

 

 

「さすがに麻帆良最強といえどこの3人なら!」

 

「ああ、やれる!勝てるぞ!」

 

 

そうして3人が加わったことに士気が急激に上昇する。

 

 

「大豪院と俺が前衛に出る!中村は後衛で気弾を当ててくれ!」

 

 

そういって山下が陣形を考える。

 

まあそういうところが妥当だろうな。中村は遠当てできるとはいえ近接は苦手だし。

 

そして彼らが来る瞬間

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

 

 

 

 

 

 

チャイムが鳴った。

それと同時に殺伐とした空気は霧散……したわけではないが先程より収まっている。

 

 

「ちっ、授業が始まっちまう。運が良かったな!五三!」

 

「続きは昼休みだ!覚悟しておけ」

 

「首を洗って待っているんだな!」

 

 

そう言って中村、山下、大豪院は去っていった。

 

クラスメイトたちも散らばった机を元に戻す。

 

お前ら割とはっちゃけてるのに真面目だな……

 

てか昼休みもやるの?神経削るし……逃げるか。

 

そう考えつつ席につくと、担任がやってきて授業が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえば気絶した豪徳寺はどうなるんですかね?

あ、欠席扱いになった。スマン豪徳寺……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

さーてやって来ました放課後。また彼女に引きずられて世界樹前の広場にいる。

 

え?昼休み?逃げ切ったよ。

 

めっさ辛かった。なんであいつらあんなにポジティブなんだよ……

 

完全に手加減してる感じで戦ってるのに勝てるって思われてるとか、自分の性格のせいか?

 

なんかどっかから弱く見えるオーラでも出てるのかね、とかそんなことを考えていると古菲が話しかけてきた。

 

 

「師父、早速手合わせ願うアル」

 

 

 

 

 

 

……

 

いやいやいやいやいやいやいやいや、なんでいきなり組手なんだよ。

 

え?実力を見せるため?いや何回か戦ってるしだいたいわかるし……

 

そうなのだ。彼女とは割と何度か戦っている。

 

そのため大体の実力はわかっているし、その動きを真似することもできる。

 

 

「つい最近新しい技を身につけたアルね。それを見てもらうためネ」

 

 

そう反論するように彼女は返す。

 

あー、いつものやつね。なんか新しいバット買ったから殴らせろみたいな。す、すさまじいまでのジャイアニズムだな。

 

彼女は割と戦いに来るが武術家の嗜みなのか何なのか、無駄な戦いはしない。

 

今の実力では無理だと言う時は絶対に戦いを挑んでこないのだ。

 

では、どういう時に戦いを挑んでくるか?

 

それはたいてい新しい技を覚えた時だ。

 

前は確か八極拳覚えたから試させてくれと言って来た記憶がある。

 

サンドバックじゃねえんだからかんべんしてくれ。仮にも今は師父だろ。

 

せめて他のやつで試してくれませんかねえ……

 

そう、ため息を付く。

 

 

「加減が分からないと不味いアル。だから信用のある師父でなきゃ試せないアル」

 

 

嫌な信用だ……まあ確かに、戦闘力53万あればだいたい無傷だ。

 

というかこの学園にいる奴で傷を付けれる奴はいない。

 

今は語らないがエヴァンジェリンとやった時も『おわるせかい』含めて効かなかった。

 

そんなわけでサンドバッグとしては自分はこの麻帆良学園都市最高だ。

 

豪徳寺にも新技試させろとよく言われる。い、いじめじゃないよねこれ?

 

教育委員会訴えたら勝てないかなあ……まあムリだろうな。学園長あれだし。

 

そもそも麻帆良では常識が通用しないし。

 

この麻帆良では常識に囚われてはいけないのですね!いや常識に囚われさせてくださいお願いします。

 

 

 

っと思考に没頭しすぎた。

 

ふと向かい合う彼女を見ると準備ができたらしく、構えている。

 

んー受けるとか言ってないんだけど止めるのは……無理か。

 

まあ、技の加減を見るためというなら付き合ってやらんこともない。

 

俺もそっち方向では苦労してるし。主に手加減するほうで。

 

そして俺も構える……わけではないが戦闘に意識を集中する。

 

それを感じ取ったのだろう、彼女は一瞬笑みを浮かべた。

 

場が張り詰めていく。どこに攻撃するか考えているのだろう。

 

どこが隙なのか、どこに攻撃すればダメージが入るのか。こちらを注意深く観察している。

 

しかし、俺は構えてもいないし、基本的な戦い方は『見て避ける』か『見て受ける』のどちらかなわけでどう見ても隙だらけだ。

 

どうやっても躱されるか、受け切られることは避けられないと判断したのだろう。

 

覚悟を決めたのか表情が引き締まる。

 

そして目の前から彼女の姿が消える。否、俺の後ろに回りこんでいた。

 

瞬動術か……と俺は思い当たる技を思い浮かべる。

 

『瞬動術』大地を蹴り、大地を掴むことで6~7m程度の距離を移動する歩法であり、古くは縮地と呼ばれるものだ。

 

なるほど、瞬動術を身につけたのか。

 

そう納得しながら後ろに抜けていく彼女を見送る。

 

だが瞬動術は早いだけで特に攻撃力とかないし、加減も要らない。

 

加減とか言ってたし新しい技はここからかと期待し、ゆっくりと後ろを振り返ると彼女の手のひらに光球のようなものがあった。

 

は?気弾?彼女って気使えたっけ?この時期は体術はすごいがそこまで行ってなかった気がするんだが……

 

首を捻るがその間に気弾がこちらに打ち出される。

 

見た感じ威力的には豪徳寺とあまり変わらない。これなら避けるまでもないかなとそのまま突っ立っている。

 

そして気弾が着弾した。俺の目の前の地面に

 

気弾は石畳の床を破壊し、土煙が上がる。

 

外したのか?と考えるが、すぐに相手の考えに至る。

 

ふむ、『見て』避けられるなら見えなくすればいいと、そういうわけか。

 

まあダメージないだろうし食らうか―と軽く考え待機する。

 

完全に驕っているが、戦闘力53万もあれば驕らない方がおかしい。

 

武術なめてるよなーとか思うがチートなんだし、まあ仕方ないかと最近は思うようにしている。

 

そして彼女の手のひらが俺の背中のあたりに触れているのに気づいた瞬間、俺の内側の方に衝撃が走った。

 

浸透勁か、でも残念。俺の身体、内臓のほうも強いんだ。

 

彼女の方は手応えがあったのか、少し動きを止めているこちらを見て語りかけてくる。

 

 

「さすがに、師父であれと身体の内側、内蔵に対して攻撃すれば無事では……」

 

 

が、そう言いかけた瞬間彼女は膝から崩れ落ちた。

 

予想外の事態に彼女は混乱した。

 

 

「な、何が起こったアルか……」

 

 

何の事はない。攻撃を食らった後に顎を撫でただけだ。

 

すさまじい速度で撫でれば、たとえ撫でただけであっても攻撃へと変化する。デコピンですら粉砕骨折させられるしな。

 

ボクシングでアッパーカットを打つような方向に高速で顎を撫でることで脳みそを揺らし相手を倒す。

 

相手へのダメージも少ないので割と重宝してつかってる技の一つでもある。

 

脳が揺れ平衡感覚が狂っているため彼女はフラフラになっている。

 

彼女は負けを悟ったのか参ったと降参し、戦闘はそれで終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり師父は強いアルー」

 

まだ脳が揺れているため、立てないのかその場に寝転びながら彼女は負けた負けたとさっぱりした表情で愚痴をこぼしていた。

 

 

「師父強すぎアルよ。ほとんど何もできなかったアル」

 

 

そりゃ、53万に何かできたら怖い。

 

多分、何とかする方法って宇宙空間に強制転移させるくらいしかないんじゃないか?

 

でもフリーザ様的には宇宙空間でも生存できるのか?試したことないからわからないけど。

 

そして、しばらく彼女の愚痴を聞き、少し落ち着いたところでずっと昨日から考えていた疑問を聞いてみた。

 

 

「なんで、俺なんかの弟子になろうと思ったんだ?」

 

 

まあ当然の疑問だ。正直自分は武術を舐めていると言っても過言ではないようなことをやっている。

 

弱くなるために相手の技を見て覚えるとか、向こうからしたら屈辱だろう。

 

それに強い相手に弟子入りするというのならば、他にもこの学園都市にはいる。

 

高畑だってそうだし、その他魔法先生だってそうだ。

 

俺みたいなやつの弟子になろうとする訳がわからない。

 

だがそう聞くと彼女は笑ってこう返した。

 

 

「んー、勘アル」

 

 

 

 

 

 

 

 

………

 

あー勘かー。勘なら仕方ないなー。ってなんでやねん。

 

即座に突っ込む。直感で弟子入りする奴とか始めてみたよ……

そう、聞き返すも

 

「勘としか言いようがないアル。なんというか師父に弟子入りすれば強くなれるというインスピレーションが働いたアル。それに……いや、これは別に何でもないアル」

 

となんか思わせぶりなことを返された。

 

「それに……」で止めんなよ。気になるだろうが。

 

だがそのことを問い詰めるがはぐらかされた。

 

そして、ある程度彼女が回復したところで、お開きとなり、弟子入り初日はそのまま幕を閉じた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話

古菲を弟子にしてから2日目。

 

今日も彼女に引っ張られて学校に行った。

 

やはりと言うか、なんというか昨日と同様にクラスメイトたちに迫られ、戦闘に巻

き込まれそうになったが面倒だったので逃げた。

 

そしてまた放課後迎えに来た彼女に引きずられて、世界樹前の広場に来ている。

 

あ、昨日古菲が破壊した石畳の床は綺麗に治っていた。修理はええな。

 

で、俺は何をすればいいんだろうか。

 

無理矢理師匠にされてしまったわけだが、任された以上なにもしないというのも悪

い気がする。

 

こういうところが、ヘタレだとか押しの弱さに現れているんだろうが昔からの性分だ。変えようがない。

 

昨晩考えてみたが、何を教えればいいのか見当もつかない。

 

自分の強さは生まれ持ったものだし、武術についてはあまり詳しくない。

 

せいぜい手加減のためにボクシングとか、空手とか柔道とか日本において割とメジ

ャーな武道を見ていたくらいだ。

 

中国拳法について聞かれたところで漫画程度の知識しかない。普通に彼女のほうが詳しいだろう。

 

ドラゴンボール流の『気』の使い方?なんとなく「はぁぁぁぁ!!!!」ってやれば出来たので参考にならん。

 

というわけで素直に聞いてみることにした。

 

「教えてもらいたいことアルか……」

 

が、そう言って彼女も首を捻る。

 

少しの間考え、思い浮かんだのかしばらくすると返事が帰ってきた。

 

 

「んー、特にないアルね!」

 

 

ずっこけた。比喩じゃなく本当に。

 

いやそれならなんで弟子になったし。昨日行ってた『それに……』ってのが理由か?

 

わっかんねー。それについては答える気なさそうだし、どうしようか。

 

と、考えると昨日気になったことを思い出したのでそれについて聞いてみる。

 

 

「そういや、お前『気』使えたんだな。どこで覚えたんだ?」

 

「ン?それは何アルネ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

『気』を知らない?なら知らないで使ってるってことか?どういうことだ?

 

考えるが分からない。なのでそれについて説明する。

 

 

「あー、昨日使ってただろ?あの遠当てだよ」

 

 

それを聞いて納得言ったようで彼女はすぐに答える。

 

 

「ああ、あれアルか!それは確かリーゼントの……名前は忘れたアルが彼の真似したら出来たアル」

 

 

 

 

………

 

そういや前に豪徳寺に挑まれた時、面倒だったからって、他の武道四天王のとこに行けよって言ったな。

 

古菲のとこに行ったのか。

 

豪徳寺、技盗られてるぞ……。しかも名前覚えられてないとか……ドンマイ!

 

てか真似して簡単に出来るようなものなのか?あれ?

 

たしかそれが1ヶ月くらい前だったから……覚えるのはええな。

 

俺が言うのも何だがチートじゃね?

 

そして昨日思ったことを話す。

 

 

「んーお前あの遠当ては合ってないんじゃないか?なんというか威力不足だし、お前どちらかというと近接戦闘のが得意だろ。中遠距離向けのあの技は牽制としては使えるかもしれんが隙が大きすぎる」

 

 

これに関してはあながち間違ってないだろう。

 

53万に対しては大体の技は威力不足になってしまうが魔法の矢、1発程度の攻撃なら麻帆良では受けられるような奴はたくさんいる。

 

あれくらいなら、ない方がむしろいい。今の『気』の量だと貯めに時間が掛かるし隙も大きい。

 

瞬動術で補うとしても、ヒットアンドアウェイ繰り返したほうが彼女の得意な体術も活かせてよさそうだしな。

 

お、なんかこれ師匠っぽい!

 

なんとなく師匠としての威厳っぽいものを出せた気がする。

 

 

「そうアルね……。あれは最近行き詰まってて、何かを変えようと思って覚えた技アルネ。確かに合ってない感じはしたアル」

 

 

そう少し考えるように答える。

 

へー、スランプなのか今。

 

さっきは教えてほしいことは特にないとか言ってたけど、それを変えたくて弟子なんて言ったのだろうか?

 

まあそんなところだろうな。とそこで思考を打ち切る。

 

となると、しばらくは基本の底上げした方がよさそうだな。

 

ということで彼女に提案してみる。

 

 

「とりあえず、考えてみたが今は基礎の底上げするべきじゃないか?せっかく『気』の一端に触れたんだから、それを体術に応用すればいいと思うんだが……どうだろうか?」

 

 

素人考えだがあながち間違ってないだろう。

 

彼女は遠当てを覚え、『気』の初歩を持っている。

 

それを体術に使えば、単純に強くなるだろう。

 

筋トレして強くなるのと一緒だ。

 

普通はこういう地味な積み重ねするんだろう。俺はしたことないから説得力ないけど。

 

 

「ん?あの技近接でも使えるアルか?それと『気』ってなにアル?」

 

 

え?そこから?そういや『気』について彼女知らんかったな……。

 

そうして彼女へ『気』を説明する授業が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――というわけで、『気』を使えば地力の底上げができるわけだ」

 

端折ったが簡単に説明を終えた。

 

説明を聴き終わった彼女は頭から煙を出して地面に突っ伏している。

 

そういや座学は苦手だったな。いつも赤点みたいだし……戦闘に関しては頭働くのになんでだろうか?

 

全知全能が戦闘に特化してるのかねえ……なにそれ怖い。

 

とどうでもいい方に思考がシフトしていくので打ち切った。

 

 

「それで、ワタシは何をすればいいアルか……」

 

 

座学でフラフラになりながらも聞いてくる。

 

 

「そうだな……アレやるか……。ついて来いよ」

 

 

そういって彼女をある場所に連れて行く。

 

世界樹のある麻帆良の中心部から離れ、端の方にある森まで。

 

そして目当ての場所に辿り着いた。

 

ドドドドドドドと水の落ちる激しい音が鳴っている。

 

どこかというと………。

 

 

「これは……滝、アルか?」

 

 

そう、滝である。てか麻帆良なんでもあるな。滝まで完備してるとかすげえわ。

 

 

「というわけで、滝に打たれてこい!」

 

まあ修行で滝といえばこれしかないだろう。

俺はそうサムズアップしながらにこやかに言う。

 

 

「滝に打たれて効果出るアルか?にわかに信じがたいアル」

 

 

だが彼女はこちらをシラーっとした目で見て、そう返す。

 

失敬な……こういう古典的なやつが意外と効果あるらしいんだぞ!

 

俺はやったことないからしらんけど。あ、説得力ないですねすいません。

 

しかし、まあ師の言うことだしということで彼女はしぶしぶながら滝の方へ入っていった。

 

ちなみに服は脱がなかった。

 

割と鍛錬とかで汗かいたりするので普段から着替えとかタオルは複数所持してるらしい。

 

そう言うの期待してる人には、なんかすいません。

 

というわけでしばらく彼女は滝に打たれた。

 

 

 

 

「さーて次行ってみよー」

 

そういって滝に打たれ濡れた髪を拭いている彼女に言う。

 

いやなんか誰かに修行させるのって楽しいね。

 

最初は弟子なんて面倒だなと思ってたけどなんとなく気分が乗ってきた。

 

ケンイチに修行させる秋雨の気分がわかる気がする。

 

 

「というわけで、鬼ごっこだ。俺が鬼やるから全力で逃げるように。捕まったら罰ゲームな」

 

 

「し、師父……さすがに滝の後は辛いアル……と言うかそれも意味があるアルか……」

 

 

「そうだ!肉体の限界を超えることで『気』が鍛えられるんだ!(多分)ボソッ」

 

 

「い、今、多分って言ったアル。」

 

 

「気のせいだ」

 

「絶対言ったアルー!!!」

 

 

そう文句も言うもやはり師の言うことということもあって、また、しぶしぶながらも鬼ごっこを始めた。

 

なんだかんだ彼女が体育会系なせいか目上の人には従うみたいだ。

 

それでしばらく彼女と鬼ごっこした。一応手加減したので逃げ切ることは出来たが……

 

 

「も、もう………無………理アル……」

 

 

そう言い残しガクリと、彼女が気絶したので今日の鍛錬はそこで終わってしまった。

 

んー、後、感謝のとは言わないけど突き1万回とかあったのにな……残念。

 

それにやらせておいて何だが効果あるんだろうか。

 

まあケンイチでも弟子は実験とか言ってたし……許されるよね?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話

「最近、古菲ちゃんからラブ臭がするんだけど気のせいかな?」

 

そう、メガネをかけた少女が話している。

場所は麻帆良女子中等部の2-Aの教室、時刻は午後4時、放課後になり何人かの生徒たちは帰宅していた。

 

「なによパル。いきなり」

 

赤毛の少女が返す。

 

「いやいや、最近古菲ちゃんから恋愛の気配がするのよね―」

 

「んー、気のせいじゃない?そんな雰囲気出してないし。むしろ最近修行で忙しいってきいたけど」

 

「せやね。最近は彼女、授業中も寝てて疲れてるみたいやね」

 

「でしょ?古菲ちゃんそういうのに一番縁遠いイメージだし、ないでしょ?」

 

そう結論づけて、話を打ち切ろうとするが、

 

「いや、そう決めつけるのは早いよ!」

 

そう言って後ろからいきなりカメラを持った少女が現れる。

 

「い、いつも思うけどどこから出てくんのよ……」

 

「記者は速さが命だからね。いつでもどこでも潜んでいるのよ」

 

「それで何ですか?朝倉さん」

 

そう紫髪の少女が朝倉と呼ばれた少女に質問する。

 

「おやおや?夕映ちゃんも恋愛に興味が有るのかな?」

 

「茶化さないでください。まあ、クラスメイトのことですし興味がないといえば嘘になります」

 

「てか、さっさと言いなさいよ。どうせいつものでっち上げでしょ?」

 

「明日菜はわかってないなあ……こういうのは焦らす楽しみが「さっさと言いなさい」……はい」

 

朝倉はポケットから手帳を出してパラパラとめくっていく。

そして目的のページを見つけたのか手が止まり内容を話す。

 

「えっとね、古菲ちゃん最近、弟子入りしたらしいのよ」

 

「弟子入り?」

 

「古菲ちゃんが?」

 

そう彼女らは疑問に思う。

古菲は中国武術研究部の部長であり、この麻帆良でも有数の強者だ。

毎年行われる格闘大会『ウルティマホラ』でも優勝経験があり、弟子入りするほど彼女より強いものなどほとんど浮かばない。

だが、話の内容はそこではない。

 

「ん?弟子入りしたからなんなの?別に強くなるためにいろいろやってるみたいだしふつうのコトじゃないの?」

 

そう明日菜と呼ばれた少女は返す。

それを聞いて待ってましたとばかりに朝倉は続ける。

 

「それがね……弟子入りしたのはなんと!男子高等部の先輩なのよ!」

 

「男子高等部の……」

 

「先輩?」

 

「それ普通に男子高等部の強い先輩に弟子入りしただけじゃ……」

 

だが彼女の言葉を否定するように朝倉は返す。

 

「それはないわ。情報によると朝は彼の寮まで出向きお出迎え。帰りも学校まで迎えに行ってるらしいのよ。普通、弟子入りしたとはいえ男の部屋に行ったりするかな?私はないと思うわ」

 

そして、なにか記者としての勘が働くのか何なのか彼女は更にヒートアップしていく。

 

「更に夜遅くまで二人っきりで修行。弟子と師の間に芽生える恋!これは何かあってもおかしくないでしょ!」

 

それを聞いて唖然とする少女たち。

 

「れ、恋愛から縁遠そうな古菲ちゃんが……」

 

そう言って膝をつくものもいれば、

 

「いやないでしょ……いつもの妄想記事かなんかじゃないの……」

 

そう疑心暗鬼になるものもいる。

 

「それで?だれなん、その師匠の人?」

 

それを聞いて朝倉は一枚の写真を取り出す。

そこにはごく普通そうな制服を着た少年が写っていた

 

「えっと彼の名前は『五三 万』男子高等部では割りと有名な人で麻帆良最強とも呼ばれてるらしいわ」

 

「見た感じ普通そうな人ですね」

 

「てか、むしろ地味じゃない?」

 

「んー私はこういう人のほうがええかな?」

 

「え?木乃香、こういう人がタイプなの?」

 

「いやー?いつもおじいちゃんにお見合いさせられる自分より一回りも年上の人よりは普通そうな人のがええかなってことなんやけどな」

 

「ああ、そういうこと。そうね、確かに普通に恋愛するならありかもしれないわね」

 

と何やら散々に言われている。

 

「それに朝倉さん、麻帆良最強って本当なんでしょうか?見た目から強そうなイメージが余りわかないんですが……」

 

「そうなのよねー。噂では最強とかよく聞くんだけど彼自身、余り戦おうとしないから戦ってる時の映像とかデータがないのよね。だからきっと師匠とか言って実は彼氏だったりするんじゃないかな?」

 

と自身の願望が入ってそうな意見を告げる。だがそれは後ろからまたいきなり現れた少女によって打ち消された。

 

「その御仁はほんとうに強いでござるよ。それは拙者が保証するでござる」

 

「いきなりね……さすが忍者……」

 

「ん?拙者は忍者ではござらんよ?」

 

そう言いながらニンニンと手で印を結んでいる。隠す気があるのか隠す気がないのかよくわからないがそういうことなのだろう。

 

「それで、彼どのくらい強いの?」

 

と、みんなが疑問に思っていることを彼女に聞く。

 

「どのくらい強いのか、でござるか……」

 

「ん?話しにくいことなの?」

 

「いやそうではござらんが……なにぶん拙者も彼の本気を見たことないのでな……」

 

そうなにか考えながら言葉を選ぶ彼女。

 

「拙者も一度、挑んでみたことはあるが……」

 

「もしかして……負けたの?」

 

「そうでござる。一切、歯が立たなかったでござる。アレを攻撃と言って良いものか……一撃で終わったでござる」

 

そう言って苦い顔する。

よほどヒドイ負け方だったのだろう。

普段そういった表情を見せない彼女としては珍しい様子に彼女たちも驚いている。

 

「そ、そんなにヒドイ負け方だったの?」

 

「そうでござるな……武人としては余り経験したくない類の戦いだったでござる」

 

そうしてあの戦いを思い返す。

その戦いは本当に一瞬だった。

いや戦いとすら呼べなかった。

戦闘開始の合図とともに目の前にいた彼の姿が消え気づいたら後ろから頭を掴まれており、そしてそのまま頭をゆすられ気絶した。

何の技も出せず、相手の初動すら見抜けず文字通り瞬殺された。

だがきっと彼はやさしいのだろう。

あの速度で動ける彼が本気で攻撃すればおそらく私の身体は吹き飛んでしまう。

怪我をさせないように気を使ってそのような倒し方を選んだのだ。

だがその優しさが辛かった。

忍者という職に就こうとしている以上、怪我や死と言ったものは覚悟している。

そういった覚悟を持って彼に挑んだはずだった。

だが、彼は文字通り赤子の手をひねるように自分を倒してしまった。

しかも丁寧に怪我をさせないように倒すというおまけ付きで。

屈辱だった。とてつもなく屈辱だった。

そんな手加減されて負けてしまった自分が恥ずかしかった。

だから、あの後からずっと修行を続けている。

せめて一矢報いれるように。彼の実力の一端を見れるように。

まあ、今のところは彼と強さが離れすぎててそのイメージが湧かないため挑んでいないが。

 

「間違いなく麻帆良、いや……世界トップクラスと言っても過言ではないほどの実力者でござる。」

 

「そ、そんなに強いんだ……」

 

そう彼女の言葉を聞いて納得する少女たち。

 

「うむ。しかし彼が弟子を取ったでござるか。余りそういうのは得意そうではないように感じたでござるが、なにか心境の変化でもあったのでござろうか?」

 

「余り教えるのは得意じゃない人なの?」

 

「教えるのが苦手というよりは……彼はおそらく修行とかしたことないと思うのでござる」

 

そう、自分の考えを述べる。

彼からは武人特有の洗練さとか、戦闘時の癖が日常の中に出てしまうとかいうものを感じない。

ただ単純に強い。そういうイメージなのだ。

 

「え?鍛えたことないのにそんなに強いの?それはないでしょ」

 

「そうですよ。何も鍛えずに麻帆良最強クラスどころか世界最強クラスってあり得ないですよ」

 

「いや、簡単な訓練くらいならしたことはあるように見えるのでござるが、本格的に何か鍛えたというわけではなさそうなのでござる」

 

「そ、それなんかバグってんじゃないの……」

 

「そう……ですね。漫画みたいですね……」

 

それを聞いて引きつるクラスメイト達。

何の修練も積まずに自分たちの身近にいる強者である麻帆良武闘四天王を倒せると聞けばそう戦慄しないわけはないだろう。

 

「そういうわけで修行を課すにしてもかなり手探りの状態でござるし、割と彼と頻繁に戦ってる古菲がそういったことを見抜いていないわけはないとは思うのでござるが……」

 

そして何やら考えているのか黙りこむ。

その間にもクラスメイト達は色々と会話を弾ませていく。

 

「それなら、やっぱり恋愛じゃないの?好きな人と一緒にいたいとかそういうの」

 

「えー、普通に弟子入りしただけなんじゃない?一応強いみたいだし」

 

「でも、私のジャーナリストとしての勘が恋愛関係だとささやいてるのよ。これは間違いなくスクープ!」

 

「パパラッチの間違いじゃ……それに古菲ちゃんだよ?普通に修行してるだけだって」

 

「そうですね。古菲さんがそういったことをしているイメージはあまり無いです。」

 

「んー、私的にはラブ臭が漂ってるからありえるんじゃないかな?」

 

そして話が行き詰まりそうになった時、木乃香が一つの意見を出した。

 

「せやったら、みんなで見に行ってみる?そしたらはっきりするんちゃう?」

 

「そうね。ここで話してても進まないし見に行ってみようか」

 

それに賛同するクラスメイト達。

こうして2-Aのクラスメイトたちは古菲の修行を見に行くことになった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話

古菲の修行に付き合うようになって数日が経った。

滝に打たれたり、鬼ごっこを繰り返したり、後は突きをやるだけで『気』の訓練になるかと少し疑問だったが徐々に『気』の量は増えている。

最初の方は彼女も半信半疑だったみたいだが、強くなっていることが実感できたことで次第にその疑念は薄れていったみたいだ。

良かった。これで効果無かったらごめんってレベルじゃないしな……。

原作であった、修行方法がそのまま適用できたみたいで助かった。

今後もこういうふうに彼女で実験していくことになるが、秋雨先生も弟子は実験するものとか言ってた気がするし構わないだろう。

目に見えて増えていることがわかるほどの『気』の量によって底上げされた、地の力。強くならないわけがない。

それに予想外の効果もあった。もちろんいい方向に。

鬼ごっこのおかげか、彼女の瞬動術の使い方が上手くなっているのだ。

特に成長がいちじるしいのは『入り』の部分だろう。

瞬動術は直線的に動くため、それが相手から読まれやすい。

そのため瞬動術に入るための地面を蹴る動作『入り』の部分はできるだけ静かに行う必要がある。

その動作がほぼ無音に近づいているのだ。

特に俺は技を見てから避けたり、受けたりするタイプなのでその初動を消さなければどっちに動くかすぐにバレてしまい、逃げられなくなる。

おそらくその技術だけならば他の武道四天王である『忍者』長瀬楓に迫っていると言っても過言ではない。

あの忍者は忍者というだけあってそういった、気配の消し方、動作の静かさには一日の長がある。

それに近づいているというだけでも成長のほどが見える。

こんなに簡単に技術が向上するのだろうかとも思ったがもともと中国拳法には活歩や弓歩、虚歩など様々な歩法が存在している。

彼女は今までに習得した部分を発展させているにすぎないのだろう。

だから数日程度で効果が出たのだ。

また、瞬動術の『掴み』の部分に関しても歩法の応用や八極拳の基本である震脚によってそのまま攻撃することを可能にしている。

つまり瞬動術によって発生したエネルギーを震脚によりロスすることなく、そのまま相手にぶつけるのだ。

これだけで一種の必殺技である。

しかも別の歩法と組み合わせることでフェイントも入れられる。

実用性ありすぎじゃねえか、これ。

こんなもの戦闘力53万がなければ相手にしたくない。

まあ相手からしたら53万と戦うだけで悪夢な気がするがそれは気にしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

あれ?これ俺要らなくね?そのまま修練を積み重ねてればいずれ辿りつけたんじゃ……

まあ、それは気にしない方向で行こう。スランプに入ってたらしいしそういった基礎の部分に目が行かなかっただけだろう。

しかし、こんな簡単に強くなれるものなのか?

つくづく思うが漫画の修行って万能だな。

色々と疑問に思うこともあるが彼女の修行は割とうまく行っている。

そして今日も彼女の修行に付き合っている訳だ。

 

「1021、1022、1023……」

 

いつも通り滝行や鬼ごっこを終え、突きの練習に入っていた。

例の感謝の1万回とは言わないが気を整え、構えて突くと言う動作を繰り返させている。

さすがに念のない世界で感謝の1万回やったとしても制約と誓約なんてものはないし、そもそもああいった能力が発現しないと思うので祈りの動作についてはやらせていない。

また放課後から1万回もやってたらそれだけで日が暮れてしまうので回数もその時によってまばらだ。

滝行や鬼ごっこによる疲れ具合も見ながら適当に回数を調整している。

……っとそろそろかな?

この辺でいいだろうということで終わりの合図をする。

 

「古菲、その辺で終わりな」

 

「ん?まだ1000回位しかやってないアルよ?今日はこれで終わりアルか?」

 

「いや、そろそろ気の量も増えてきたしアレができるんじゃないかと思ってな」

 

そう言って以前から考えてたことを教えることにする。

すなわち気の抑制と開放だ。

 

説明しよう、気の抑制と開放とはドラゴンボールに出てくる気をコントロールする技術のことで、気を抑えることによって無駄なロスを減らし、また開放することによって適宜最大戦闘力によって戦えるようになる技法のことだ!

 

俺も気を抑える方に関しては結構お世話になっている。

まだまだ不完全で気を消すレベルまでは行っていないがそれでも人が死なないレベルにまでは修める事ができた。

これがなければ多分地球滅んでただろうな……

また開放の方についてはそんなに使えるわけではないが抑える訓練の一環で何度か試している。

そのたびに麻帆良に謎のクレーターが出来たり地震が起こったりしているがその辺は割愛する。

いつもごまかしてくれる認識阻害の結界さん本当に有難うございます。

アレなかったらどうなってたことやら……

と嫌な過去に遠い目になりそうになるがそれはおいておく。

 

「というわけで、古菲には気の抑制と開放を覚えてもらう」

 

「何がというわけなのネ?気の抑制?開放?なにアルかそれは」

 

そう聞かれたので簡単に気を自在にコントロールするための技術だと答える。

 

「気をコントロールアルか……確かにそれは必要そうネ。でどうやるアル?」

 

ん?どうやるって適当にこう、ぐぐっと抑えて、はああああああってやれば……

ってあれ?理論的にどうやってるんだっけ?

なんとか説明しようと唸るが特に思いつかない。

小一時間、頭を捻るが出てきた言葉は、

 

「なんか適当にやればできる」

 

そんな本当に理論もへったくれもないような言葉だった。

一瞬空気が凍るが、呆れたような感じで返された。

 

「師父は直感型だとは思っていたけれどまさかこれほどとは……せめて手本だけでも見せて欲しいネ」

 

あれ?今師匠としての威厳がどっかに飛んでったような……まあ気にしない。

で、手本ね。それならできるな。

 

「じゃあ、今から手本見せるから……ってちょっとストップ」

 

と流れにつられて一瞬開放しそうになったが慌てて止める。

いや今開放したら地震がどうとかクレーターがどうとか言ったばっかじゃん。

さすがにここでやるのは……

 

「どうしたアル?しないアルか?」

 

そうワクワクと急かすように聞いてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

………

 

 

ここでやめるのはなにか申し訳ない気がするがこれも世界平和のため、心を鬼にしてその言葉を口にする。

 

「キョウノシュギョウハオワリアルネ。カエッテユックリヤスムヨウニー」

 

なんか色々と台無しな気がするがなりふり構っていられない。

世界のためなんだ。わかってくれ。

そう言ってそろそろとその場を立ち去ろうとするが後ろからガッと腕を掴まれた。

 

「ま、まつアル。いきなり終わりなんてそんなのないネ。今手本見せてくれるって言ったアル」

 

そう言って少し泣きそうな顔でこっちを見てくる。

い、胃が痛い。

そういう顔されると弱いのわかっててやってるのか?

彼女はきっと将来男を泣かせる悪女になる(俺調べ)

まあ多分流されるのは俺だけだろうけど。

はあ、仕方ない……

 

「わかったよ。見せてやるからとりあえず離れろ。掴まれたままだと危ないからな」

 

そう言って掴まれた腕を離すように言う。

掴みっぱなしだとおそらく巻き込んで吹っ飛ぶ。

だからこれは当然のことだ。

それを納得したのだろう。笑顔になって腕を離す。

 

 

 

 

 

 

 

 

……やるか。

 

そう意を決すると俺は構え気を開放するようなモーションを取る。

これだけはやりたくなかったんだがなあ……

そして気を貯める"フリ"をしながら足に力を込める。

次の瞬間、俺の姿はその場から消えていた。

つまりこれは戦略的撤退!地球のためだ許せ弟子よ!

まあ身も蓋もないい方をすると逃げた。

さすが戦闘力53万逃げ足だって早いぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あーあ、次あったときどうしようか……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編1

この麻帆良には『麻帆良クレーター』と呼ばれる陥没した地形が幾つかある。

学者の間では隕石の落下によるものではないか?と言われているが依然としてその真実は謎に包まれている。

今回はそんな多くの謎に包まれた『麻帆良クレーター』に関する話だ。

この『麻帆良クレーター』は1995年頃から発生している。

そして1999年の現在に至るまで実に5箇所のエリアに点在している。

だがこの『麻帆良クレーター』はその全てが麻帆良内の森林部にのみ発生しているのだ。

通常、隕石によってできるクレーターであるならばこういった森林部だけでなく市街地など様々な場所で発生していなければおかしい。

その全てが人目を避けるような森林部のみに発生するなど普通はありえないことなのだ。

まあ、たった5回であるため統計上のズレと考えることもできるが依然としてそのクレーター付近での隕石の確認はなされておらず本当に隕石によるものなのか?との疑惑の声は大きい。

我々『麻帆良ミステリー調査班』、通称"MMR"はその実体を知るためそういった宇宙や隕石に詳しく麻帆良で教授をしている明石教授に意見を伺った。

 

明石教授「はい。確かにこの件に関しては隕石ではありません」

 

MMR「このクレーターは隕石によるものではないと?」

 

明石教授「その可能性が高いですね。まず隕石自体が発見されていないという点が不可解です。何者かが隠したという可能性もありますがその痕跡や隕石の破片などもなく、またインパクトタイトなど隕石落下時に発生するような鉱物も見つかっておらず隕石である可能性は極めて低いです」

 

MMR「では、教授自身はどのようにお考えですか?」

 

明石教授「えっと……すいません。この件に関してはコメントを差し控えさせてもらいます」

 

MMR「え?なぜですか?」

 

明石教授「すいません。お引き取りください。この件に関しては何も話すことはありません」

 

そう教授は言い我々を追い払った。

隕石ではないということがわかっているというのになぜか話そうとしない教授。

そこに我々は目をつけた。

この件の裏ではなにかとてつもない実験が行われているに違いないと!

そしておそらく明石教授はその中核をなす人物なのだ。だから我々を追い出したと。

すぐさま我々調査班は現地へと向かった。

麻帆良の森林部はとても険しくその場所に向かうにはおよそ2時間ほどかかりとても大変だった。

そしてすぐにそのことについて我々は疑問を抱いた。

なぜこんな不便な場所で実験をする必要があるのか?と。

もし何かの実験によるものならば機材の搬入などどこかにその痕跡が残っていてもおかしくはない。

それなのにその痕跡もなく、また、何の開発もされていない森の中でで実験を行う理由があるのかと。

そうして調査を諦めかけていたその時だった。

ドン!っとまるで何かが爆発するような音が聞こえたのだった。

まさか?実験が行われている?

我々はすぐにその音が聞こえたらしい場所に向かった。

そこには新たなクレーターができていた。

我々は興奮を抑えきれなかった。

だが、こうしている場合ではない。

実験であるならばどこかに関係者がいるはず。

そうしてあたりを見回す。

すると木陰のあたりに小さな人影を見つけた。

これがその写真である。

お分かりいただけただろうか?

画像がぶれているためはっきりとは分からないが頭にある妙な突起。

更に体に刻まれた謎の光る文様。

これが人間であるはずがない。

すなわちこれは……

 

キ○ヤシ「宇宙人の仕業だったんだよ!」

 

MMR局員「「「な、なんだってー!!!」」」

 

そう宇宙人の仕業だったのだ。

奇しくも今年は1999年、ノストラダムスに予言された世紀末である。

つまりあのクレーターは宇宙人たちが地球に来るための実験の痕跡だったのだ!

我々はそう結論づけた。

だとするならば明石教授が隠していたことにもうなずける。

明石教授は宇宙人が襲来することが世間に知られることで起きる混乱を避けようとしていたのだ。

だが我々には真実を知る権利がある。

全てを隠そうとしていた明石教授にはすまないとおもうが、これも人々のため。

こうした宇宙人の襲来に備えて準備するのは我々なのだ。

読者の皆様もただ宇宙人の襲来に怯えているだけではなく、来るべきファーストコンタクトに備えてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――で、これはどういうことなのじゃ?」

 

そう言いながらまるでぬらりひょんのような頭をした老人が1冊の雑誌を放り投げながらこちらに問いかける。

 

「えっとその学園長……記憶にございません」

 

「記憶にございませんではないわ!どこの政治家じゃお前は!!こんな大きな痕跡を残しおって……隠ぺいするのがどれだけ大変だと思っておる。あとで明石君にも謝っておくように」

 

そうクワッ!と目を見開きながら怒りを露わにしている。

いや本当にこの件に関しては記憶に無いし……まあ確かに前の5件に関しては自分だけれども。

そう告げようとするも言い訳はいいと更に怒りを大きくする。

んー聞く耳ないな。とりあえず平謝りしとこ。

 

 

 

「全く……訓練するならば夜にしろといつも言っておるじゃろう。今後はこのような事のないように」

 

そうして何回か謝った結果、学園長の怒りは収まったのかそう勝手に締めくくり話はそれで終わった。

んー、本当に記憶に無いし、やった覚え無いんだがなあ。

誰の仕業なんだよ……冤罪とか絶対に許さない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――麻帆良学園都市某所。

 

「ナ、何か今、すごい悪寒ガしたネ……」

 

そう言いながらチャイナ服を着た少女はパソコンで何かを打っていた。

 

「ふー、不味かったネ。できるだけ人目の付かない場所を選んだつもりだったガ、まさかあんなところに人がいるとハ。デモ一応ばれなくてよかったネ。っととりあえず戸籍を作るカ……」

 

画面には様々な人間の名前や住所、家族構成などが書かれている。

そして彼女が何度かパソコンに文を打ち込むとその中に新たに一人の名前が記入された。

 

「これでOKネ。後は麻帆良への編入手続きカ」

 

そう言ってまたパソコンに向かう少女。

先ほどの名前が書かれた画面、そこには『超鈴音』という名前が追加されていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話

万が逃げ出し古菲は一人ぽつんとその場に取り残されていた。

 

「こ、これが気の抑制アルか?!まさか気を抑えることで姿まで消える……ってそんなわけないネ」

 

どんなに察しが悪くとも、気づくだろう。

その場にはほんの少し陥没した地面があり、それは足型のようにも見える。

すなわち、師父は逃げたのだ。

 

「師父の強さの片鱗が見れると思ったのに残念ネ……」

 

そう一人ごちる。

今に至るまで古菲は彼の本気を見たことがない。

何度も何十回も彼に挑み、どんなに筋力をつけようと、どんなに技を磨こうとも彼は一切本気を出すことは無かった。

いつも構えすらせず、困った顔をしながらこちらを眺めている。

そしてこちらの技を見た後は怪我さえさせられることなく沈められる。

一体どれほどの力を持っているというのだろうか。

それさえわからないほどに瞬殺される。

動きを目で追うことすら出来ず、気づいたら地に伏している。

そんな馬鹿げた強さを彼は持っていた。

だが、それは悔しくもあったが同時に嬉しかった。

今まで彼女が見てきた強者はあくまで理解できる範疇にしかなく手の届く範囲にしかなかったのだ。

だから修業を重ね、相手を下し、また更に強いものに挑む。

それの繰り返しだった。

そんな"手の届く範囲"だけの修行と戦いの日々は強くなっているという実感がいつでも得られ、楽しかったがふと思ってしまった。

この先もし更に強いものが現れなかったらどうなるのだろうか?と。

チョコボールのように次々と出していけば、いずれ終わりが来る。

自分より強いものが現れなくなった時、どうなってしまうのかと、ふと、考えてしまった。

それで私の戦いは終わるのか?そんな先にあるものが武の極みなのか?それが最強という称号なのか?と。

でも今の時点では、まだまだ上がありそんなことを考えるだけ無駄だと、そんなものはただの妄想だと、押し殺し修行に没頭した。

そんな時だった、彼の噂を聞いたのは。

最初は半信半疑だった。

そんなに強い人間がいるわけない。

だが心の何処かで期待している自分もいた。

だから挑んだ。

結果は前述の通りである。

そして古菲は理解した。

世界にはこんなに強い人間がいるのだと、ワタシの強さはまだまだ途中でしかなくその先があるのだと、果てはないんだと。

まあ、そういった感動を与えてくれたが最強を目指す以上その理解できないものを理解しないことには話が進まない。

でも彼はその力を進んでふるおうとするような好戦的な人間ではない。

だから、戦いの中ではその片鱗を見ることは出来ない。

ならば、弟子になればその強さの欠片を見ることができるんじゃないかと思い弟子入りした。

そしてその力を見ることができる最初の機会だったため、少し心が踊ったが結果はこれだ。

また今日も見ることは出来なかった。

残念だが仕方ない。

選択の権利は強者にのみ与えられた自由なのだから。

と、そんなふうに見れなかった悔しさをごまかしながら考えていると近くに幾つかの気配があることを感じた。

『気』の修行の成果だろうか、どうやらそういった微妙な変化を感じやすくなっているらしい。

先ほどまでは師父というとてつもなく強大な気配があったため気付かなかったが近くに幾人かが潜んでいることが分かった。

いつも通りワタシに挑もうとする挑戦者か?とも考えるが戦意や敵意といったものは感じない。

むしろいつも感じているような、と思いいたったことでその辺の茂みに向かって話しかける。

 

「みんな、そんなところに隠れて何してるアルね?」

 

そう言うとビクッと言ったような効果音が聞こえたような気がした。

近くにあった茂みが揺れそこから何人か、自分の所属しているクラスの友人、知人が現れる。

 

「き、気づいてたの?」

 

「気がついたのはついさっきアル。で、こんなところで一体何の用ネ?」

 

そう古菲が言うと覗いていたという後ろめたさからか彼女たちは少しうろたえる。

だが、そんなことを気にすることもなく話しかけてくる少女がいた。

 

「ねえねえ古菲ちゃん!さっきの人彼氏?なんかすがりついてたようにも見えるけどもしかしてフラれちゃった?」

 

まあ誰と言わなくてもわかるだろう。

パパラッチもとい、自称ジャーナリストの朝倉和美だ。

どうやら先程の恥ずかしい姿を見られていたらしい。

 

「ち、違うアルよ!し、師父とは別にそういう関係じゃないアル!」

 

そういったことをごまかすため少しムキになって答える。

 

「そうなの?それにしてはずいぶんいい雰囲気だったみたいだけど」

 

そう言ったのが不味かったらしい、まるで我が意を得たりと言わんばかりに追求してくる。

しまったと思うも、遅かった。そのままの勢いで色々と聞いてくる。

 

「そういえば、古菲ちゃんは婿を探してるとか聞いたけどホント?なんでも、強い人を探してるとか。もしかして彼がそうなのかな?噂によると麻帆良最強みたいだし」

 

なんだか妙にテンションが高い。

先ほどまで落ち込んでいた事もあって少し温度差を感じてしまう。

 

「違うネ……師父とはそういうのじゃないアル」

 

「え、あ、……そのえっと、ごめんなさい」

 

そうポツリと漏らすとやっちゃったみたいな雰囲気を出して謝られた。

彼女はよく取材していることもあってそういった空気の変化には敏い。

そういった部分が強引な取材をしていても嫌われない秘訣なのだろうか。

別に対して気にしてはいないがそんな様子がおかしくて少し笑ってしまった。

 

「別に気にしてないアルよ。で、いきなり何ネ?」

 

聞くと彼女はさっきまでの空気のせいか黙りこんでしまう。

それを見かねたのか明日菜が前に出て答えた。

 

「いや、最近古菲ちゃんがあの男の人に弟子入りしたって聞いて和美が彼氏じゃないのって言い出してね。私は違うんじゃないかって言ったんだけど色々と意見が割れてね。確かめようってなったのよ」

 

どうやらそういうことらしい。

周りからはそういう風に見えるみたいだ。

確かに思い返してみれば、そうとられてもおかしくないことをしていた。

そう、ここ数日を思い出す。

毎朝、彼を迎えに行き、一緒に登校、放課後もまた迎えに行って下校ののち二人きりで修行。

自分のことでなければ確かに付き合っているのか?と思うだろう。

そんな様が面白かったのか何なのかふと笑みが溢れる。

 

「そうアルか?確かに好きか嫌いかで言えば好きの方に入るけど別にそういうのじゃないアル。どちらかと言うと憧れのほうが近いアルね」

 

そう古菲は率直な意見を述べた。

そうだ。今の私にとっての師父は憧れの存在で目指すべき対象だ。

そんな存在に恋い焦がれてはいるがそれは恋愛感情ではないだろう。

そう、自分の考えを心のなかで強くする。

けれどなぜか周りのみんなは納得しなかったようで、

 

「……やっぱり恋愛なんじゃ」

 

「え?でも本人は違うって」

 

「いや、私古菲ちゃんのあんな顔見るの初めてだよ?なんというか妙な大人の色気みたいなのでてるし」

 

「うん……私ちょっとドキッとしちゃった……」

 

何かぼそぼそと話し合っている。

 

「聞こえてるアルよー。だから違うっていってるアルねー」

 

そういうも彼女たちは聞く耳を持たず何度か問答を繰り返す。

えー?でもなどとそんな他愛もないことを。

その様子がおかしくて、でもなぜかたまらなく胸が締め付けられるようで……

 

「ん?どうしたの?古菲ちゃん」

 

「……何でもないアルよ。そろそろ暗くなってきたし寮に戻るネ」

 

そう言ってはぐらかすように家路につく。

先ほどまでの暗い感情はどこかに消えてしまっていた。

また明日も頑張ろう。

そう決意を新たにしつつ、彼女たちとワイワイ騒ぎながら寮に帰った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話

さて、古菲から逃げてきたわけだがなんとなくあのまま寮に戻るというのも憚られたので麻帆良のとあるカフェに来ている。

いや、だっていつも送り迎えされてるのに今日だけなかったら同じ寮のやつとかうざいじゃん?

振られたの?ねえ今どんな気持ち?どんな気持ち?みたいなこと言って来られそうで怖い。

主に豪徳寺とかそのへんは嬉々として突っ込んできそうだ。あと古菲の隠れファン。

そんなわけで今は主に時間つぶしをしているわけだ。

 

「あー、コーヒーうめえ……」

 

コーヒーの苦味と酸味が味蕾を刺激する。

うん、現実逃避って最高だな。

しかし、古菲の修行どうしようか。

気の開放と抑制を教えられないとなると、今やってる基礎練習が終わると修行が停滞するんだよな。

そう色々と考えながら、ぼうっとしていると上から声が降ってきた。

 

「貴様、こんなところで何をしてるんだ?」

 

声を聞いて顔をあげる。

そこにはゴシック系の服をきた幼女がいた。

 

「なんだ、エヴァか。そっちこそ何してんの?」

 

『エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル』、『闇の福音』と呼ばれ、魔法世界では600万ドルの賞金首だった吸血鬼の真祖だ。

今は能力の大半を封印され、10年以上も中学校に通っているがそれでも、この麻帆良内の魔法使いたちで知らないものはいないほどの実力者である。

「ふん。ここのケーキはなかなか美味いからなよく来るんだ。で、そっちはどうなんだ?」

 

「ああ、ちょっとした時間つぶしだ。寮に帰っても特にやることないしな」

 

「ほう。弟子をとったと聞いたが割と暇なんだな?それとも何だ。逃げられたのか?」

 

そう薄ら笑いを浮かべながらこちらに尋ねる。

 

「ブハッ…ゲホッゲホッ……そ、そ、そんなことねえし?別に逃げられてなんか……」

 

少し図星をつかれたので飲んでいたコーヒーを吹き出してしまう。

いや?逃げられてないよ?むしろ自分から逃げたというか……あ、こっちのほうが最低だわ。

そんな様子を見てか愉悦の笑みを更に深くするエヴァ。

 

「ほうほう。それで?何があったんだ?今は気分がいい。少しくらいなら聞いてやらんでもないぞ?」

 

……こいつおちょくるきまんまんだろ。

気を落ち着け、冷静さを装って返す。

 

「別に逃げられてねえよ。ちょっと修行が一段落したから暇だっただけだ」

 

「ふむ。お前が弟子をとってからまだ、1周間も経っていないと聞いているが、それで結果が出ているとはまさか貴様が師としても優秀だとは知らなかったよ」

 

……なんでそこまで知ってんだよ。

情報早すぎねえか?どっからそんな情報掴んでくるんだか……あのパパラッチあたりか?

 

「そ、そうなんだよ。まさか自分もここまで人に教えるのが上手いとは思ってなかったな。HAHAHA」

 

そう、ごまかす方向に話を進めようとするが、

 

「ほうほう。で、実際どうなんだ?まあ貴様のことだ。大方、"アレ"を見せろと言われて逃げてきたというところだろう?」

 

と、先回りされた。

なんで分かるんだよ……

こいつエスパーか?読心の魔法でもあるんだろうか?

 

「図星といったところか。なんで分かるかって?経験もそうだが、貴様の行動はわかりやすいからな。大体そうじゃないかと思っただけだ」

 

……地の文と会話しないでください。

というか、俺ってわかりやすいのだろうか?

そういえば古菲の頼みとかも、だいたい断れてないしそうなのかもしれない……

 

「あー、降参だ。だいたいそれであってるよ。で、何なんだよ?おちょくりに来たのか?だったら帰るぞ!」

 

「フッ……そうやさぐれるな。貴様に話しかけたのは少し用があってな」

 

そう言うと紅茶を一口飲み間を置いて、エヴァは話し始める。

 

「『ナギ・スプリングフィールド』は知っているな?」

 

『ナギ・スプリングフィールド』、大戦の立役者であり『千の呪文の男』とも呼ばれ、魔法世界を救った英雄だ。

余り魔法方面に詳しくない自分でもその話はよく聞く。主にタカミチから。

まあ前世の記憶で大体知ってるがな。

 

「大戦の英雄だろ?それがどうしたんだ?」

 

「ああ、どうやらその息子がこの麻帆良に来るらしいという噂を聞いたのだ」

 

……

そういや来年だっけ?ネギ来るの。

意外と月日が経つの早いな。

もうそんな時期なのか。

 

「で?俺に何をしろと?」

 

「これから私が卒業するまで私のやることに手を出すな。」

 

なるほど。ネギが来るのに備えて吸血活動をするのね。

確かに自分が邪魔してしまえば即効で終わってしまうだろう

それこそ二度とエヴァが外に出れないなんてことにもなりかねない。

流石にそんなことをするほど鬼畜ではないのでしないが。

そう考えながら黙り込んでいるとエヴァが話を続ける。

 

「クソいまいましいことに貴様に手を出されると私の目的は100%達成されなくなってしまうからな、そうだな私のできる範囲であればなんでも一つだけいうことを聞いてやろう。交換条件というやつだ」

 

ん?なんでも?今何でもするって(ry

と、冗談は置いといて何か頼みを一つ聞いてもらえるらしい。

別にそっち方面には手を出すつもりなかったんだが……

まあ何か願いを聞いてくれるというのならありがたくもらっておこう。

しかし、願いね。特にないんだが……って一つだけあったわ。

今、丁度困ってたところだったしこんなところで解決するとは思ってなかった。

ということで自分の願いを告げる。

 

「じゃあ、ちょっと別荘壊していいか?」

 

「ああ、別荘か。別に……って、アホかー!?そんなこと聞けるわけ無いだろ!」

 

おお、なんかノリツッコミされた。

さすがボケだらけの2-Aでツッコミキャラやってるだけのことはある。

いや、まだ今の時点だとそういうキャラじゃなかったか。

んーまあ自分も壊したくて壊すわけじゃないんだけど結果的に壊れるならば一緒だろう。

だから端折りすぎてしまった。

 

「あー、言い方が悪かった。弟子の修行でダイオラマ球を使わせてくれって言いたかったんだ。まあ、その過程で壊れる可能性が無きにしもあらずだけど」

 

「……何をするつもりなんだ?」

 

「さっきエヴァが言っただろ?"アレ"をやりたいから使わせてくれってことだよ」

 

"アレ"とは気の完全開放のことだ。

エヴァには一度見せたことがある。

というかエヴァの『終わる世界』を受けた時にビビって反射的にやってしまった。

結果、一時的にダイオラマ球は使えなくなった。

うん。嫌な事件だったね……

なんかいやな事件が割と多い気がしなくもないがそれは無視する。

気にしてたらやってられないしな。

 

「"アレ"をやるのか……あの後、修理がどれだけ大変だったと思ってるんだ。貴様は」

 

「あの時は謝ったじゃん。それにお前の力を見せろとか言って向かってきたのはエヴァだったような……」

 

「あんなもの想像できるわけ無いだろう!『気』の開放だけでああなるなど誰が想像できるんだ!」

 

「……ごめんなさい。まあ今はある程度までは制御出来てるし多分壊れないと思うぞ……多分」

 

「何だその多分は。制御できるなら外でやればいいだろう!」

 

「それはちょっと……危ないじゃん?」

 

「危ないじゃん?ではない!そんな危ないものを私の家でやろうと考えるな!迷惑だ!願いならもっと他の何かにしろ!」

 

「いや、他に頼みたいことねえし……」

 

そう言うとエヴァはウッと言葉に詰まる。

そして頭を抱えて黙りこんでいる。

おそらくメリットデメリットを鑑みてそろばんを弾いてるんだろう。

しばらく待っていると答えが出たらしい、苦虫を噛み潰したような顔をして、本当にいまいましそうな顔をしてこちらに返答する。

 

「分かった。ダイオラマ球を使わせてやる。ただし絶対にこっちに手を出すなよ!分かったな!!!」

 

そう言うと紅茶を一気に一飲みにし去っていった。

壊れないといいなダイオラマ球……

そうして日が完全に沈んだのをみて、カフェを後にし寮に戻った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話

私がヤツと出会ったのは私が一番荒れている時期だった。

あいつは卒業の頃には迎えに来ると言ったのに来なかった。

そしてあいつが来なかったことでまた同じように中学をやり直すことになったのだ。

あいつが光の中に生きてみろというからなんとなく中学を過ごし、知り合いと呼べるような奴も何人か出来た。

学校に入ったことは無かったので色々と初めての体験もあってまあ色々と楽しかったが、やり直したことによって不都合が出ないように私の事を知っている者達の記憶はリセットされた。

600年近くは生きている。だから誰かを失うことは何度もあったがこんな風に裏切られ、そして何も残らないような経験は初めてだった。

それでも、こんなことをされてもあいつのことは忘れられず嫌いになれないのだから、つくづく救えない。

惚れた弱みというやつだろうか、だからといって許せるわけではない。

あいつにあったら思う存分ぶちまけてやろう。

それくらい許されるはずだ。

今ならそう言えるがその時はそんな風には思えなかった。

裏切られた苦しみと、全てが無に帰した喪失感と、やりきれないあいつへの思いでずっと苛立っていた。

そんな4月のある日の事だった。

何やら新入りが来るらしい。そうジジイから聞いた。

なんでも莫大な量の気の力を持ち、そしてそれをコントロール出来ないゆえに麻帆良に送られてくるらしい。

そういうよくある話だった。

たとえ一般人であっても強大な魔力を持って生まれてくることはある。今回はそれが気だったという話だろう。

それを保護という名目で受け入れるのも麻帆良の役割の一つだ。

現にこの麻帆良では気に目覚めた一般人というものは多数存在する。

そして今夜その顔合わせのために臨時の集会を開くから来いとの事だった。

だがそんな気を知っているだけの一般人に対して魔法の事、すなわち裏まで話すのは不可思議に思い聞いてみた。

曰く、あいつの、すなわちサウザンドマスターの魔力を気で換算した場合のおよそ数十倍、底が見えないためもしかしたら数百倍にも及ぶ、気の量を持っているらしい。

流石にそんな奴に対して裏を隠す意味は無いというか知ってないと逆に不味いということで教えるらしい。

その時はアホかと冗談か何かだと思っていたため特に気にすることもなくその集会を無視しようとも思ったが、まあ特にすることもなく暇だったので出てみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

―――

夜になり、いつも通り住んでいるログハウスを出て、麻帆良の世界樹前の公園に行こうとしている途中だった。

強者ゆえの嗅覚というもの、そんなものが不意に働いた。

また、不死の吸血鬼になったが故に生物としての生存本能は薄れているはずなのに命の危険を感じた。

そしてそれは麻帆良の中心、世界樹に近づく程に強くなっている。

まるで龍の巣の中に踏み入ろうとしているような感じだった。

どうやらジジイの言っていたことは冗談ではなかったらしい。

ほんの少し冷や汗が流れる。

だが、まあ見てみないことには話は始まらない。

そのまま集会所の方に向かうとちらほらと魔法生徒や魔法先生、まあ普段この麻帆良の警備員をしている者達が見えてきた。

どうやらもう大体の人間が集まっているようだ。

こちらの姿を確認したのか視線といくつかの敵意のようなものが感じられる。

もともと私は600万ドルもの賞金をかけられている賞金首だった。

『正義の魔法使い』とやらにはそれが気に入らないんだろう。

まあ、いつものことなので気にしてはいないが苛立っているせいか煩わしく感じる。

早くしろと思いながら突っ立っていると世界樹の前にジジィが現れ、話し始めた。

 

「うむ。大体集まったようじゃの。では、今から臨時の集会を始める。今日集まってもらったのは先に説明してあるが我々に新しい仲間が増えたことについてじゃ。五三君来なさい」

 

そう言ってジジィがその新入りらしい人物を近くに呼ぶ。

すると人混みの中から一人の少年が現れた。

そして、その少年を見たことでそこにいる全員がどよめき始める。

その少年の見た目はおよそ小学生くらいで10歳にも満たないような幼子だったのだから。

しかもそれだけではない。

この麻帆良において普段から警備をしているようなある一定より上の強者なら気づいただろう。

彼から漏れだす気の量の大きさに。

 

「ありえない」

 

そう誰かがつぶやく。

確かにありえないような気の量だ。

あんなもの存在自体がおかしい。

まあそんなバグみたいな奴らのことを何人か知っていたためあれくらいならなんとかなるかと思った。

まだアレは小学生くらいのただのガキだ。

聞いた話ではつい最近まで一般人だったみたいだし戦闘経験はほぼ無いに等しい。

やりようはある。

アレなら少しくらいちょっかいをかけてもいいだろう。

まあ憂さ晴らしだ。

不運だとは思うが犬に噛まれたとでも思ってくれ。

私はそんな良からぬことを考えていた。

後の自分からすればやめておけと全力で止められそうなことだったがその時の自分は色々とおかしかったのだろう。

気分も荒れていたしちょうどいい玩具が出来たなと思っていた。

 

「静かに。では五三君、自己紹介を頼む」

 

そうジジィが言うとあたりは静かになり、そして彼が話し始める。

 

「あ、今ご紹介に預かりました、五三です。フルネームは『五三 万』、53万って書いて五三です。なんか気の量が多いらしく普通の生活が困難ってことでこの麻帆良に来ました。迷惑をかけることも沢山あると思いますがよろしくお願いします」

 

そう、彼は簡潔に自己紹介を終えた。

パチパチと拍手が鳴る。

 

「うむ。まあ今回は彼の自己紹介とその顔合わせだけじゃ。彼は魔法は使えないので誰か他の魔法先生に師事するというわけではないが何らかの形で警備等についてもらうことがあると思う。その際にでも戦い方、身の振り方などを教えてやってくれ。では、いつも通り警備の方を頼む。解散じゃ」

 

そしてジジィが言い集会は終わった。

そのまま幾人かの先生、生徒は警備の方に向かっていく。

あのガキはジジィに連れられて寮の方へ帰っていった。

まあ、今日のところは顔を見る程度でいいか。

次の停電の日―――なぜだか分からないが停電の日には魔力がある程度戻る。その日にでもやつを襲うとしよう。

そうして悪い笑みを浮かべながら私はログハウスへ帰った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話

この麻帆良に来てから1週間が経った。

特に今のところ警備の仕事を任されたりその他もろもろの戦いに巻き込まれることもなく平穏に過ごしている。

よくある感じの話だと最初の顔合わせの段階でで戦いに巻き込まれるとか手合わせ―だとかそんな展開になる事が多いので少し警戒していたがそんなものは無かった。

年齢のせいだろうか?

実際まだ7歳にもなってないし年齢的にはネギ以下だ。

そんな段階で元一般人の幼児に手を出すというのは忍びなかったのだろう。

自分で自分を幼児っていうのはなんか悲しい物があるが多分そんな感じだと思う。

そして、麻帆良の初等部に急に転校してくることになったわけだが特に何か問題があったわけでもなく、クラスメイトたちは普通に俺を受け入れてくれた。

んー普通、「どうしてきたの?」とか「なんで前の学校やめちゃったの?」とか聞いてくると思うんだがその辺りの話を聞かれることはなく普通に「遊ぼうぜ!」とか誘ってくる。

なんか人間としてできてるよな、こいつら。

受けてきた教育の違いだろうか?それとも少なからず親元を離れ学校に通っている児童、生徒がいるという環境の差だろうか?

そんなこともあって初対面の相手に対してあまり深く聞いてこない。

気になって逆にこちらから聞いてみると

 

「この業界じゃ……詮索屋は嫌われるぜ?」

 

とか言われた。

いやいやいや、お前どこの殺し屋だよ……

てかお前いくつだよ……

まあそれが理由であまりクラスメイトとは深く関わっていない。

話しかけられればちゃんと返すし、「遊ぼうぜ!」と言われれば遊ぶし、「野球しようぜ!」とか言われれば磯○くんみたいに野球する位だ。

ここまで長々と状況を話してきたが何を言いたいかというと……

 

「あー、暇だ」

 

こういうことである。

4月の最初の方ということで特に授業もなく、しかも前世が高校生だった自分にとっては勉強なにそれ美味しいの?ってレベルでヌルゲーだ。

特にやることもないし寮で暇している。

クラスメイトとか家族と遊びに行けばいいじゃないかと思うかもしれないが、休日を友人と過ごすってのはリア充にのみ許された権利であり、そんなこともなく、ましてや急に新たな環境に入れられたばかりの俺にホリデーをトゥギャザーするような友達はいなかった。

実家も割と遠いので大連休でもない日に帰ることも出来ないし、何もすることがない。

どっかの吸血鬼もどきさんも友だちができると人間強度が下がるとか言ってたし、べ、別に悔しくなんか無いんだからね!ホントだからね!

……そんなことはないです。ごめんなさい。ちょっとだけ寂しい。

でも、遊ぶような奴いないし……暇だからゲーセンにでも行くか。

というわけで出かけることにした。

 

 

 

 

 

 

―――――。

ゲーセンでは色々と暇が潰せた。

テト○スはハイスコア更新したし、魔○村もノーコンテニューでクリアした。

魔○村クリアの時はなんか後ろのほうで歓声が上がっていたが別に気にしない。

だって戦闘力53万のチート持ちだし、1F単位で操作できるためTASをやっているようなものなのだ。

そういうこともあって大抵のアクションゲームは簡単にクリア出来てしまう。

前世ではあんなに難しかったのにな。

正直1周目まではクリア出来ても2週目はクリアできなかったのに……

これがチートの効果かと少しだけ虚しくなった。

テト○スも落下速度に目がついていくしそんなに難しくなかった。

暇な時以外プレイしないことにしよう。

チートって割と不便だよなと思いつつ、画面を見るとハイスコアを更新したらしく名前を入力する画面が出てくる。

んー名前……こういう時悩むよな。

自分は割とこういう名前をつけるのに悩むタイプだ。

○ケモンとかドラ○エとかの主人公に名前つけるのに1時間位かけた記憶がある。

今回はめんどくさいので『530k』と入力した。

まあ本名のもじりだ。

そしてちらりとスコアのランキングを見ると2位のところに『EVA』という文字があった。

 

 

 

 

 

 

……気にしないことにしよう。

きっと似たような名前の人がいるに違いない。それかただのニックネームだ。

そうに違いない。

てかあのロリ何やってるの?

こんなゲームにまじになっちゃってどうするの?

いやハイスコア更新した俺の言えることじゃないけど。

そしてまた暇をつぶすために次のゲームに手をのばそうとすると後ろから声をかけられた。

 

「あのー、すいません。今日は停電の日なのでもう店閉めるんでまた今度にしてください」

 

どうやら今日は停電の日だったらしい。

この麻帆良では主に2回計画停電の日がある。

主に電力関係のメンテナンスのためだ。

この日は色々と結界が弱まり麻帆良に敵対するものが攻めてくることが多い。

……すっかり忘れていた。

そういえば寮母さんが今日は停電だから早い目に帰って来なさいねと言っていた気がする。

思ったよりもゲームに夢中になっていたらしい。

外も暗くなってきたし……帰ろうか。

自分はまだ麻帆良に来たばかりということもあって4月の段階だと警備はまだ任されていない。

というか小1にこんな重要な日に警備任せるとか頭おかしいんじゃないの?って思うし実際麻帆良の先生方もそう考えたんだろう。

こっちに来なければ特に何もするつもり無いので別にいいか。

と、そんなことを考えながら寮の方に向かって歩いているとあたりの様子がおかしいことに気がついた。

まだ停電前だし、電車は止まっていないため人がいるはずなのに周りはしんと静まり返っており誰も居ない。

そんな様子に足が止まる。

何かあるのか?と警戒していると目の前にゴスロリっぽい服を着た幼女が現れた。

……噂をすればなんとやらってやつか。

その様子に戸惑っていると目の前の幼女が話しかけてきた。

 

「貴様が五三万か」

 

 

 

 

 

 

……なんか俺に用があるらしい。

でもあれだな、こういう不遜な態度って現実、目にすると痛いな。

いやまあこういうキャラだってのはわかってるけど。

それでも、ねえ?

しかし、なんだろうか?

今のところ平々凡々街道まっしぐらの俺に対して、なにか用事でもあるのだろうか?

 

「貴様に用がある。ついて来い」

 

そう言って目の前の幼女は俺に背を向け歩き出した。

 

 

 

 

 

 

……いやいやいや、説明しろよ。

そんなこと言ってついていく奴いるのかよ。

目の前に現れたなんか強そうなキャラがついて来いっていうシーンよくあるけどそりゃ戸惑うわ。

てかコミュ障過ぎないか?

今のところ茶々丸もいないしボッチなせいか?

なんだろうこの感じ……

気まずい。ものっそい気まずい。

例えるなら風の吹いている河原で本を読んでたら後ろに文学少女が立っているくらい気まずい。

なんか無視して寮に帰るのもなんとなくはばかられるので、ついていった。

ああ、なるほどこの空気が嫌だから歴戦の主人公たちはついていくのか。

ちょっとした疑問が一つ解決した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話

しばらく歩くとログハウスが見えてきた。

おー、スゲーあれがエヴァの住んでるログハウスか―。

ちょっと感動した。

前世で幾つか漫画とかの聖地を見に行ったことがあるがそれと似たような感覚があった。

やっぱりこういう時って感動するよな。

麻帆良来た時に世界樹見て感動したけどあれどんな仕組みで立ってるんだろうな。

その辺よくわからない。

ちなみにこの麻帆良に来て感動したことランキング1位は学園長の頭だ。

あれもあれで生命の神秘を感じる。

まあそれは置いといて家に入るように進められたので家の中に入ることにした。

しかし何の用なのだろうか?

家の中を進んでいくとリビングらしき場所が見えて来る。

そちらの方に入っていくのかと思いきや素通りしてしまった。

何か嫌な予感がするような……

そのまま奥に進む、エヴァと自分。

地下への階段を降りていく。

ん?たしかこの先って……

そうしてそのまま地下室に入ると目の前には大きなフラスコがあった。

フラスコの中には塔のような模型が入っている。

うん。これって『ダイオラマ球』だよね?

実物ってこんなんなのか。と眺めていると足元でカチッと言う音がなった。

何だと思い周りを見る。

が、周りを見渡した瞬間、目の前の風景がガラリと変わっていた。

ログハウスの地下だったはずだが巨大な塔のような場所の上にいた。

……ある程度想定はしてたけど流石にビビる。

驚きで膝が折れその場にへたり込んでしまう。

その様子に満足したのか目の前にいた幼女は笑みを浮かべながら振り返りこういった。

 

「初めまして、五三万。私の名はエヴァンジェリン。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ」

 

そんな風に自己紹介している。

まあ、知っているけどその辺は知ってたらおかしいので軽く流す。

 

「あ、どうも丁寧に。五三です。えっと何のようですか?」

 

「……貴様に恨みは無いんだが、まあ憂さ晴らしのようなものだ。気にするな」

 

そう言って笑みを深くするエヴァ。

恨み?憂さ晴らし?なんだろうか?

嫌な予感はするが先程から驚くことが多々あったたせいか、あまりうまく頭が働かない。

そのままエヴァは続ける。

 

「情けないことだと思うがな、どうしても我慢できないことがあった時お前ならどうする?」

 

ニヤニヤとした嫌な笑いのせいか世界が止まって見える。

……なんだろう。笑ってるのに威嚇されているみたいだ。

これは……殺気なのだろうか?

初めてそんな空気に触れたせいかうまく言葉が出ない。

 

「忘れて眠る?いやいやそんなことで忘れられるはずもない。カラオケなりゲームセンターでストレス発散?そんなことで晴れるならこんなことはしないさ」

 

何か嫌なことがあったらしい。

てかゲーセンのハイスコアって憂さ晴らしだったんだな。というかカラオケとか行くんだ……

いやいや、そんなことはどうでもいい。

考えろ。こういう展開だと次は大体どうなる。

えっと、この時期の嫌なことって何だ?

いやそっちも関係ない。

大抵こういう場合は……

そうしてどうなるかを考えようとした瞬間だった。

 

「まあ、簡単な事だ。『私の憂さ晴らしに付き合ってくれよ』とそういうことだ」

 

その言葉と同時に彼女はこちらに何か液体の入ったフラスコと試験管を投げつける。

 

「『氷爆(ニウィス・カースス)』」

 

そしてその呪文によって投げられたフラスコと試験管は爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――。

魔法が放たれたことによって目の前では土煙が上がり視界が遮られている。

魔法によって凍らされたせいか服からパリパリと音が鳴っている。

痛みはない。

ほんの少し体に意識を集中してみるが特に異常はないようだ。

53万のちからってすげー。

いやまあそんなことはどうでもいい。今、何が起きた?

リプレイしてみよう。

 

エヴァについていった。

ダイオラマの中に入った。

いきなりエヴァに宣戦布告された。

攻撃食らった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ワケガワカラナイヨ。

特になんか地雷踏んだりとかした記憶ないし、今日のついさっきが初対面だ。

もしかしてゲーセンのスコア更新したから怒ったの?いや、ねえよ……

別に隠された記憶があったり、実はどこかで会ってたんだよ!的な超展開も無い。

というかあの幼女、一度見れば結構印象に残る。

自分のせいじゃないってことは……そういえばなんか憂さ晴らしとか言ってたな。

何?ムカつくことがあったから魔法ぶっ放したと、そういうわけか?

……そんなん今どきのDQNでもねえよ。いやDQNは魔法打てないか。

とりあえず、3行でまとめると

 

エヴァなにかムカつくことがあった。

苛立ったので俺に攻撃。

ちくわ大明神

 

 

 

 

 

 

……俺、悪くなくね?とばっちりじゃん!てか最後の何だ。

しかしどうしようか。

ダイオラマ球って確か24時間出れないし、このまま逃げ続けるってのは―――出来そうだけど面倒だ。

となると選択肢は……

そう、そこまで考えたところで脚に力を集中する。

相手の様子が分からないが見えないところからの奇襲というのは有効なはずだ。

戦闘経験なんて一切ないけど不意打ちが効くのは、ついさっきの自分で実証済みだ。

まあ、達人クラスには効かない可能性もあるけど多分いけるはず。

そして土煙が晴れ彼女の姿の端が見えた瞬間、一気に力を開放し彼女に向かって飛び出した。

飛び出しながらその刹那、相手の様子を伺う。

どうやら気づいていないようだ。

このままなら行ける!

加速していく時間の中でそう思った。

だが、彼女の背後を取るためその勢いのまま彼女の直前でブレーキをかけ、回りこむように足に力を入れた時だった。

何故かその足は空を切った。

え?何が起きたの?

その様に呆然としつつも尚も彼女に向かって進んでいく身体。

足元を見るとあったはずの塔が消えている。

あるのは落ちていく瓦礫だけ。

一コマ遅れて、前を見るとどうやらエヴァはこちらに気づいたらしい。目と目が合う。

あ、このまま行くと――いや考えるのはよそう。誰だって想像できる。

走馬灯というやつなのか、やけに時間の流れが遅く感じる。

別に過去を振り返っているわけじゃないけど。

そして虚空瞬動なんて高度な技を持っているはずもない俺にすっ飛んでいく身体を制御する術なんてなく、引き伸ばされた時間の中でそのままゆっくりとエヴァにぶつかった。

ぶつかった衝撃のせいか時間の流れが元に戻る。

その衝撃により何処かに吹っ飛んでいくエヴァ。

まるでキラリンとどこぞの小悪党のように星になったのが見えた。

あ、やっちゃった。

なんかスマン。ホントは後ろに回りこんで力で抑えこむつもりだったんだ。ホントダヨ?

というか、ふ、不老不死の吸血鬼だし生きてるよな?

生きてなかったら人殺しになるのか?

どうしよう。でも吸血鬼って人に……ってあれ?そういえば今足場無かったような……

ぶつかったことで前方への推力が消え、落ちていく俺。

いやいやいや。人のこと気にしてる場合じゃなかった。

その時の自分はパニックになっていたのだろうか。

落ちたところで対してダメージが無いはずなのに藁でも掴むかのように必死で手足をバタバタと振る。

すると、妙な浮遊感があった。

周りを見ると俺の身体は浮いている。

その衝撃で驚き手足が止まる。

また落ちていく。

また焦って手足をバタバタとする。

また飛ぶ。

手足が止まる。

落ちる。

手足をバタバタと振る。

飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

鳥かよ……手をバタバタさせて飛ぶとかまんま鳥じゃん……

まあ、いいや。なんか原理とかよくわからんけど無理やり飛べた。

空中で動けるようになったせいか思考に余裕ができる。

とりあえず、エヴァの様子見に行こうか……

そう思い立ってエヴァの飛んでいった方向に飛ぶように手足で羽ばたく。

死んでないといいな……

そしてまるで鳥のように―――とはいかないものの手足をばたつかせながらエヴァの飛んでいった方向へ向かった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話

気が付くと、ぼうっと青空を眺めていた。

雲ひとつ存在しない晴天。

荒波なんて一切ない海原にプカプカと浮いている。

ふと、なぜこんなことをしているのかと思ったが考えることすら億劫だ。

妙にスッキリとした気分というかモヤモヤしたものが全て吹っ飛んだような感覚がする。

どうしてこんなことをしているのだろうか……

色々と謎だが、そんな気持ちすらどうでもいい。

ただ、揺蕩う波に飲まれて消えてしまいたい。

そんな気分だ。

どこかの誰かが生まれ変わったら私は貝になりたいと言っていたが何となくわかる気がする。

こんな気持ちでいられるのならば貝になるのもいいかもしれない。

思えばひどい人生だった。

いや吸血鬼だから"人"生というのはおかしいか?

まあそんなことはどうでもいい。

本当にひどい生涯だった。

吸血鬼にされ、魔女として追われ、復讐者として生きた人生。

そんなさなかやっと見つけた『福音』すらも先日亡くなったと聞いた。

何も残らない本当に空虚な人生だった。

ならばこのまま終わってしまってもいいだろう?と漠然と考えている時だった。

急に波が荒々しくなった。

なんだろうか?

ここはダイオラマ球の中で天候など自分がいじらなければこうならないはず。

疑問が浮かぶが次第に波は荒くなっていく。

さっきまでの妙な浮遊感が台無しだ。

続いて爆音のような音が聞こえて来る。

何だと思い上体を起こす。

その音のする方角には奇妙な物体が見えた。

何かが羽ばたいている。

鳥だろうか?

いや鳥はあんなにでかくない。

と言うか鳥は爆音を鳴らしながら飛ばない。

そうしてしばらくそれを眺めているとぼんやりと輪郭が見えてきた。

人……だろうか?

物理法則を完全に無視して羽ばたきながら飛んでいる人間がいる。

そこでようやく先ほどまでの出来事を思い出した。

確か、奴に攻撃してそれで……

どうやら私は奴の攻撃で吹き飛ばされたらしい。

油断していなかったとは言えないが奴は私の想像をはるかに超えた化物のようだ。

今度こそは油断しない。

全力でやつを潰す。そう、最初からクライマックスだ。

そう決意し、呪文を唱える。

自分の中の最上位魔法、世界すら終わらせるその魔法を。

 

「リク・ラク・ララック・ライラック。全ての命ある者に(パーサイス・ゾーサイス・トン)等しき死を。(イソン・タナトン)其は、安らぎ也。(ホス・アタラクシア)おわるせかい(コズミケー・カタストロフェー)

 

瞬間、魔法が奴に降り注ぎ、そして、世界が凍る(終わる)

海は固まり、見るもの全てに死とは、地獄の底とはこういうものなのかと思わせる冷気が漂う。

目の前には奴が凍りついた氷塊がある。

これで終わりか、意外とあっけなかったなと、そんな冷気吹きすさぶ、氷原に一人立つ。

八つ当たりでもすれば何か気分が晴れるとでも思ったが別にそんなことはなかった。

ただ虚しい感情が心の中を吹き抜ける。

奴には悪いことをしてしまったな。

そういう感情も浮かぶがそれだけだ。

本当にそれだけなのだ。

普通に平穏を生きてきたであろう少年に対し、極寒の煉獄を思わせる冷気を叩きつけ、命を奪おうと思うことはそれだけだ。

だとすれば、私は本当に吸血鬼に、『化物』になってしまったのだろう。

誰かが言った。人は泣いて、涙が枯れて果てるから鬼になり化け物になるのだと。

ともすれば、きっと私は『化物』になってしまったのだろう。

ふと笑みが溢れる。

この数百年、やってきたことが、私が化物として完成するためのものだったことに自嘲の笑みが溢れる。

―――私は、今までこんなことのために生きてきたわけじゃない。

私の中の私が叫ぶ。

でも全ては終わってしまった。

そんな諦観が頭をよぎる。

きっとあいつが死んだと聞いた時に私の中の人間は死んだのだ。

だからこんなにも世界に対して無感情で、無感動で、無慈悲なのだ。

きっとそうなのだともう一人の私が同意する。

だったら、本当に化物として闇の中を闊歩するのも悪くない。

そう頷きかけた瞬間、眼前の氷塊がはじけた。

ガラガラと氷が崩れ落ち、冷気が立ち昇る。

そしてその中から寒そうに自らを抱えながら少年が出てくる。

 

「さっぶ……」

 

そう奴はつぶやいた。

それを見て私は固まる。

私の切り札を受けてなお一切ダメージらしいダメージは受けていない。

せいぜい鳥肌が立っているくらいだろう。

そんな様子を見て私は呆然となる。

そうして彼は私の直ぐ前で立ち止まった。

 

「えっとさ、俺、お前に何かしたのかな?」

 

「……」

 

声が出ない。

だが問われている以上答えねばなるまい。

さきほど、そうあると、化物として生きると決めたのだから。

不遜に、傲慢にそう答えなければ。

だが、その意志に反し、声は出なかった。

 

「あーっと何か返事をしてくれるといいんだけど……」

 

「……」

 

これではまるで幼子だ。

なにか喋らなければ。

そう考えるも声は出ない。

そんな様子を見て困った様子で奴は頭を書く。

しばらくそこでお互いに突っ立っていると、奴はその場に座り込んだ。

 

「んー、なんか混乱してるみたいだし、落ち着いたら話しかけてくれよ」

 

そう言って奴はそこに座り込んだ。

 

 

―――お前は誰だ?なぜ助けた?

 

―――さあな喰うか?うまいぞ。

 

不意にその姿が思い出の中のアイツに重なる。

ポタリと、何かが落ちる音がする。

雨?

顔が濡れていく。

空を見上げる。快晴だ。

だったらこれは?

いや、これは知っている。

でも認識してはいけない。

認識したらきっと私は……

だが、それは止まらない。

だってこれは……

それが、私の最後の抵抗だった。

でもそれはたやすく打ち破られ、決壊する。

そうして私はそのまま涙が枯れるまで泣き続けた。

まるでただの少女のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そろそろ、落ち着いたか?」

 

そう優しげに彼は問いかける。

 

「ああ……」

 

恥ずかしい、穴があったら入りたいような衝動に駆られる。

 

「で、なんであんなことしたんだ?」

 

「……八つ当たりだ」

 

「は?今なんて?」

 

「……八つ当たりだ」

 

きっと顔から火が出そうな程に赤くなっているだろう。

 

「何?俺ただの八つ当たりであんなん打たれたわけ?」

 

うるさい。何も思い浮かばなかったんだ。

閉じ込められて確かめる手段もなく。相談できるものもなく。一人だったから。

それに、過去に一度もあれほどの激情なんて抱いたことは無かったから。

 

「別になんだっていいだろう!」

 

そう恥ずかしい気持ちを押し殺し、話を終わらせようとする。

 

「ふーん。で、何があったん?お兄さんに話してみ?」

 

そう、先ほどの私の痴態を見たせいかにやけながらこちらをイジるように問う。

にやけた顔が気に入らない。

と言うかお兄さんって、お前小学生だろ!

 

「お、お前には関係のない話だ!」

 

「いやいやー。あんなん打たれたわけだし慰謝料ってのが必要だと思うんだよ。いいから話してみ。笑わないから」

 

……にやけながら言われても全然説得力がない。

というかああいう顔押した奴が笑わないことは絶対にない。

あの表情あのババアを思い出す。

 

「絶対に言わないからな!」

 

「アイタタタタタ。お前にやられた魔法のせいで身体が……」

 

「ひ、卑怯だぞ!と言うかお前全然無傷だろうが!」

 

「いやお前が―――。」

 

「だから―――。」

 

そうして彼は私をおちょくるような発言をしては私が顔を真赤にして否定するということがしばらく続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして。

 

「なあ、なんでこんなことになったんだと思う?」

 

そう彼はなにか諦めたような声で問いかける。

 

「き、貴様のせいだろう!お前があんなものぶっ飛ばすから!」

 

「いや、お前があんなん打ってくるから反射的にやってしまったというかなんというか……」

 

「お前が聞かなければこうはならなかっただろう!」

 

そう言い争う二人の前にはヒビの入った巨大なフラスコ球があった。

彼は彼女の沸点を見誤ったらしい。

羞恥が怒りへと変化するのを読み取れなかった。

故に争い。結果は想像のとおりだ。

膨大な量の気にダイオラマ球は耐え切れず空間を制御する部分が一部壊れ、彼らは外にはじき出された。

ひび割れたフラスコを見ると中には『何もない』。

そう『何もない』のだ。

そして言い争っているとキィと扉を開けるような音が聞こえた。

 

「あ、エヴァ?ちょっとまた修業でダイオラマ球を借り……」

 

そう言いかけたところで現れた白髪の青年は言葉を止める。

目の前で言い争う二人の姿に絶句したためだ。

さてここで一つ質問をしよう。

ダイオラマ球の中を更地に変えるような攻撃を受けて服は無事なのだろうか?

答えは……、まあここでは語らないとしよう。

ただ、一人の吸血鬼と一人の少年にとてつもない黒歴史ができたとだけ言っておこう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話

その場には二人の男が立っていた。

一人は赤い鉢巻をした道着をきた男。

もう一人は上半身裸のレスラーのような男である。

お互いに立ち会い、今か今かと闘いの時を待つ。

そして、その刹那闘いの合図がなされお互いに間合いを取った。

その闘いは一見地味なところから始まった。

お互い、牽制にフェイントとしてパンチのモーションを繰り返す。

間合いに入ってきた相手を反撃するための準備のようなものだ。

また、両者とも間合いを細かく変化しながら相手の様子をうかがう。

だがそんな様子に焦れたのかレスラーの男が急に間合いを詰めた。

それが悪かったのか相手の屈んだ状態からのキックが刺さる。

そしてそれにつなぐ軽いジャブ。

そこからは完全に道着をきた男の独壇場だった。

ついで、強烈な足払いがレスラーの男に入り動きがとれなくなったところを相手の回転キックが決まり男は倒れた。

そんな男を見て道着の男は挑発するようなポーズを取る。

起き上がってこいよ。まだ闘いは終わっていないだろう?という合図だろうか。

それに答えるようにレスラーの男は起き上がるがそれは悪手だった。

起き上がったところにまた道着の男のコンボが入る。

屈み中パンチから屈み中キックが入りそして男は腰のあたりで気を貯める。

まるでそれはドラゴンボールのかめはめ波さながらで威力は高く完全に相手のペースに飲まれていたレスラーの男に避けるすべはなかった。

気弾は放たれ男にあたりそれで勝負は終わった。

そして画面には"KO"の文字が表示された。

 

 

 

 

―――。

エヴァはゆっくりとゲームのコントローラーを地面においた。

 

「なんで貴様と格ゲーなんぞやらねばならんのだ!」

 

「いや、暇だったし……」

 

そう簡単に言う。

今日は休日だということで修業はお休みだ。

余り根詰めてやっても怪我とかするだけだしな。

それに、あんな別れ方してちょっと顔合わせづらいしちょうどよかった。

 

「暇だったからではないわ!ゲームがしたいならゲームセンターでもいけばいいだろう!」

 

「ゲーセン金かかるしそれに余裕で100連勝できるからつまんない」

 

最初の頃はゲーセンとかいったりしてたが簡単に勝てるのでつまらなくて行くのをやめてしまった。

反射神経の関係か1F単位で操作できるのでTASをやっている気分なのだ。

究極的に言えば格闘ゲームというものはじゃんけんである。

もし互いに1F単位で操作できるのであればそういうものに行き着いてしまう。

相手の動きを読み相手の攻撃のフレームより早い攻撃、もしくは強い攻撃を出しコンボをつないでダメージを与える。

極めきった者にとってはそういうゲームだ。

だがそんな人間そうそういるわけはなく、その辺のゲーセンなら勝てることが確定しているヌルゲーだ。

そんなもの俺tueeeeeがしたいなら楽しいだろうがすぐに飽きる。

というわけで同じく1F単位で操作できる達人クラスのエヴァのところで遊んでいるわけだ。

 

「私は暇ではないのだ!昨日言っただろう!やることがあると。暇ならばジジィと囲碁なり将棋なりしていろ!」

 

ああ、そういえばそうだったな。吸血して力を蓄えるんだったか。

なんか過去編とか更新が半年ほど遅れていたため、忘れ……うっ……頭が……

アーナンモナカッタ、メタ視点からの電波を受信したような気がしたが別にそんなことはなかった。

 

「嫌だよ。学園長超つええし」

 

偶に学園長と囲碁とか将棋とか打ったり指したりするがいまだに勝ったことがない。

あいつ初手天元とか矢倉打ってくるんだぜ、わけわかんねえよ。

 

「それにどうせやることって夜だろ?じゃあエヴァも暇じゃん。だからさ、ちょっとくらい、いいじゃん」

 

「ふん!これだから貴様は……」

 

そういいながらも彼女はまた次のゲームを始めようとする。

何?これがツンデレ?嫌だと言いながらも実は内心楽しんでるエヴァにゃんかわいい。

そんなことを考えているとエヴァがこちらを睨んでいるのが見えた。

 

「何か不愉快なことを考えているように感じたのだが?」

 

そう凍えるような目をしている。

言ったら追い出されそうだし適当にごまかしながら、またゲームに戻った。

 

 

 

 

 

 

―――。

 

「それで……いいのか?」

 

と、何戦かしていると唐突にエヴァが聞いてきた。

 

「ん?何が?」

 

心当りがないのでそう適当に返す。

 

「ダイオラマ球のことだ。アレを教えるということは『こちら側』に巻き込むことだろう?」

 

……。

そういえばそうじゃん……

ってこれ普通にまずくね?

いや別にオコジョにされる心配はしていない。

と言うかされそうになったら普通に逃げられる。

でも……。

と、動揺したのかコンボをミスる。

そのミスを見逃すエヴァではなかった。

そのままエヴァのターンになり、そのままコンボは続き、HPを10割持っていかれた。

そして、コントローラーを床に置きながら呆れた顔で話す。

 

「貴様、何も考えていなかったのか?」

 

はい。何も考えてませんでした。

結構、楽観的に考えてましたごめんなさい。

 

「お前がそういうやつだということは分かっていたが……少しは考えろ」

 

そう苦言を漏らす。

いや、普段から何も考えてないわけじゃないよ?

世界が滅ばないようにとか原作通り(ハッピーエンド)で終わるようにとかくらいは考えてる。

ただずっと考えていると……

いやこれ以上はやめておこう。

何か深みに嵌りそうだ。

 

「で?どうするつもりだ?」

 

どうするも何も教えることは確定してるし。

後のことは別になんとかなるだろうとも思っている。

 

「まあ、なんとかなるでしょ。先生方には何か言われそうだけど」

 

そう、楽観的に答えた。

それを聞いてエヴァは何かを思案するように頭を抱えている。

 

「まあ、貴様がそれでいいなら別にいい。(自覚がないのか?こいつは…)」

 

ん?最後の方なんかボソリとつぶやいてたみたいだけどなんだ?

それを聞こうとすると―――、

 

「マスター」

 

それは後ろから聞こえた声で遮られた。

 

「どうした?茶々丸」

 

その声に答えるようにエヴァは

 

「お茶の準備が出来ました。万さんもよろしければどうぞ」

 

現れたのは、耳のあたりに特徴的な突起物が付いた緑髪の女性だった。

―――絡繰茶々丸、超鈴音と葉加瀬聡美によって作られた魔術と科学の融合したロボットであり、エヴァンジェリンとドール契約を交わした魔法使いの従者(ミニステルマギ)である。

ふと、魔術と科学が交差する時、物語が始まるとか言っておきながら、魔術と科学とか関係なく異能ならば全部物理的にぶん殴って解決する『とある』主人公よりよっぽど交差してる存在だなと思った。

いや別にあの作品嫌いなわけじゃないよ?ホントダヨ?フリーザ様ウソツカナイ。

 

「では、ご相伴にあずかります」

 

何なのでお茶をいただくことにした。

茶々丸さんの入れるお茶とかお菓子とかうまいしな。

しかし、なんというか、茶々丸さん相手には、かしこまってしまう。

大人みたいな雰囲気というか、お姉さん?みたいな雰囲気のせいだろうか。

え?エヴァ?アレのどこに敬語使う要素あるんだよ。

初対面から最悪だぞ。

容姿もロリだしな!

そんな思考が漏れだしていたのか睨みつけるようにエヴァはこちらを見ている。

 

「なにか言ったか?」

 

イエナニモ。

 

「まあ、いい。さっきの話はここまでだ。で、ダイオラマ球を借りるのはいつにするんだ?」

 

「ん、ああ。なら明日で。早い方がいいだろうしな」

 

「そうか、ならそれでいいだろう。では明日の昼に来るといい」

 

そう答えるとエヴァはそのままウッドデッキの方に歩いて行った。

何だったんだろうか?

そんなに気にすることでもないか。

そう結論づけると俺もそれについて行き、入れられたお茶の席に座った。

そして、しばらくワイワイと話をしていたら日も暮れてきたので今日はお開きとなった。

まあ、お茶会では特に特筆するようなことは無かった。

いつも通りケーキを肴に茶をしばいておしまいだ。

ただ、ふと目についた時に見えるエヴァの表情が印象的だった。

まるで何かを憐れむような、懐かしむような表情で。

なんとなくムカついた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話

お久しぶりです。


エヴァと約束を取り付けた次の日、古菲を連れてエヴァのいるログハウスに来ていた。

 

「それで、師父、本当に教えてくれるアルか?」

 

そう古菲が不安そうに尋ねる。

一度逃げた前科があるため心配なのだろう。

そんな様子に古菲を安心させるため、笑って返す。

 

「ああ。外に影響が出ない場所の目処が付いたからな。見せてやるよ」

 

「……外に影響が出ない?どう見ても普通のログハウスなのに大丈夫アルか?」

 

「まあ中に入ればわかる」

 

そう言って俺はログハウスの呼び鈴を鳴らす。

チャイムが鳴りしばらく待っていると中から扉が開き一人の少女が現れた。

 

「お待ちしておりました。万さん。中でマスターが待っています。どうぞ中へ」

 

「な、なんで茶々丸が!?も、もしかして茶々丸も何か武術の達人アルか?」

 

そう現れた少女、まあロボットではあるがそれに驚く古菲。

クラスメイトの一人がそういう存在なのでは?という事実にほんの少しの期待と興奮を覚えているのだろう。

そんな古菲に茶々丸は律儀に答える。

 

「いえ、私は特にそういうわけではありません。一応、武術家等の動作データは入っておりますが」

 

「……でーた?なにアルかそれ?」

 

まあ仕方ないよな。

彼女がロボット(正式にはガノイドと言うらしいが)であることを知らない古菲はデータが入ってるとか言われてもちんぷんかんぷんだ。

どうせ後になったら話すことだし今はいいだろ。

 

「……後でわかるし積もる話は中でしようぜ。茶々丸、案内頼む」

 

そう言って強引に話を終わらせ、俺達は中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

――――。

周りを見回すと南国のような雰囲気で2つの塔が建っている。

そのうちの1つの頂上に俺たちはいた。

 

「こ、これは何アルか!?」

 

まあ、いきなり何の知識もなしにここに連れて来られたら驚くよなー。

自分が最初にここに連れて来られた時は前知識あったとはいえけっこう驚いたし。

そんな驚愕している古菲を眺めつつ目の前に向けるとゴシックロリータな服装をきた少女が歩いてくるのが目に写った。

 

「来たか……疫病神め……」

 

「いきなりなご挨拶だな。エヴァ」

 

「当たり前だ。また修理しなければならないかもしれないのにニコニコ笑顔で迎え入れられるとでも思っているのか?」

 

「わかってるよ。それよりほんとうに良いのか?」

 

「……これは必要経費だ。それに―――、」

 

そう言うとエヴァは一枚の紙を取り出した。

 

「……ギアスペーパーまで持ちだすとか本気かよ」

 

「当たり前だ。これはもともと魔法使いたちが力の有無で物事が進まないように作り出した、苦肉の策だ。相手がいかなる強者であろうと魂ごと縛ってしまえば約定を取り違えることはなかろう。……まあお前に効くかは知らんがな。だいたい、『おわるせかい』が効かない奴に魂に干渉する魔術使って(ry」

 

そういうエヴァの悔しそうな声を聞き流しながら差し出された紙を読んでいく。

 

 

1、『五三 万』は『エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェル』の吸血の邪魔をしない。ただし『五三 万』に生命の危機が生ずる場合はこの限りではない。

 

2、『五三 万』は『ネギ・スプリングフィールド』に対して関わることを禁ず。ただし、『ネギ・スプリングフィールド』の方から関わってきた場合は出来る限り干渉を避けるものとする。ここで言う最低限度の干渉とは、『殺害しない』、『攻撃しない』、『行動の妨害をしない』の3つである。

 

3、『五三 万』は『エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェル』の持つ『ダイオラマ球』を3回まで使用する権利を持つ。ここで言う1回とは『ダイオラマ球』に入ってから外部時間で1時間、内部時間で24時間のことである。また『ダイオラマ球』の使用に際して『ダイオラマ球』が破損した場合でも『五三 万』が責任を負うことはない。

 

4、この契約の期間は『エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェル』の『登校地獄』の呪いが解けるまでとする。

 

5、以上に従い、絶対遵守の契約とし、これを破るものに死を与える。

 

 

さて、読んだけどなかなかめんどいのが多いな。

1はまあいいだろう。エヴァがどこで誰の血を吸ってようと知ったことじゃない。それに俺の生命の危機が生じる場合が除外されてるから俺の血を吸い尽くして殺すなんてことは出来ないしな。

 

2はちょっとめんどいけど、もともと原作に関わるつもりなかったしこれもオーケーだ。

 

3はエヴァの方の契約だな。ダイオラマ球を貸してくれる。そして壊しても文句言うなよってことね。しかし3回も貸してくれるなんて太っ腹だな。まあそんなに使うつもりもないけど貸してくれるというなら借りておこう。

 

で、4は契約の期間ね登校地獄が解けるまで、と。

原作通り進めばエヴァが次の卒業式迎えるまでだから約2年ってとこか、まあいいだろう。

 

それで5は破ったら死ぬよってことか。まあこれくらい書いとかないと抑止力にもならんし想定の範囲内か。まあエヴァが言うように俺に効くか知らんけど死ぬかもしれない実験をためそうとか思わないし抑止力にはなるか。

 

そして内容を見た後、紙を透かしてみたり色んな角度から見てみる。

魔法に関してはド素人だからそういう偽装されるとお手上げだが、こういう契約書を端から端まで見とかないと後で痛い目にあったりするからな……

 

「ん?なんだ?そこに書かれている5つ以外特にないぞ?真祖の名に誓ってそれ以上の契約はないと言っておく。というよりアレか?私を疑ってるのか?」

 

「……別にそういうことじゃねえよ。ただ契約関係でちょっと痛い目にあったことがあるからこういうのはちゃんと端から端まで見る主義なんだよ」

 

まあ、前世の話なので今は関係ないがな。

みんなもちゃんと契約書は端から端まで読もうぜ!痛い目見るからな!

 

「フンッ。まあいい。それで、契約の方はそれでOKか?いいなら、サインして血判を押せ」

 

特に気になる文章もないしいいか。

というわけでサインして親指の皮の部分を歯で噛みちぎり血判を押す。

……普通針とか使うんだろうけど針刺さんねえからな、痛いけどしゃーない。

そういやどうでもいい話だけど『NARUTO』とかで口寄せの術やる時に毎回カリって親指ちぎってるけど痛くないのかね?

もし仮にあっちの世界に転生してたら日常的にこれやらないといけなかったりしたんだよな……

そこそこ平和な『ネギま』の世界で良かったな……

と、どうでもいいことを思いつつ、俺が書くとエヴァもサインをして血判を押し、契約は完了した。

 

「よし、これで契約は完了だ。後はお前の好きにしろ」

 

そう言ってエヴァは立ち去っていった。

ふむ、まあ修行の手伝いとかはしてくれないよな。

さて、そろそろ始めるか。

弟子にしちゃったの俺だしそれくらいはやらないと……

そうしてまだ驚きから抜け出せていない古菲に話しかける。

 

「おーい古菲。いつまで呆けてるんだ。そろそろ始めるから戻ってこい」

 

そう言って肩を叩くとまだ驚愕から覚めてはいないが返事を返す。

 

「こ、ここは何アルか!こんなところが麻帆良にあったなんて初めて知ったアル。というか現実じゃないような……いや魔法みたいネ……」

 

……なかなか鋭いな。まあ魔法の存在については後で説明するか。

後でタカミチとか麻帆良の裏の方にも説明入れとかないと行けないし面倒なことだらけだ。

 

「ここについては後で説明してやるから、昨日言った『氣の開放』についての説明やるぞ」

 

「わ、分かったアル」

 

「あんまりわかってることも多くないが『氣の開放』はその名の通り氣を開放する方法だ。まあ今まで使ってた氣と何が違うんだって話になるんだが。おそらく肉体の持つ『生命力』そのものをそのまま持ってくる術だと俺は思っている」

 

「生命力アルか?」

 

「ああ、多分そんなやつだ。俺もあんまり知らない。ただ、消耗が結構激しいから大元となる『生命力』を持ってきてるのではないかと考えている。肉体から漏れ出す『氣』を使っているのがいつものやつなら、これは大元を使う方法だからな。危険も伴うしそれなりに『氣』がないとすぐに枯渇する」

 

だからある程度『氣』が増えてきた今こそ教えられるというわけだ。

 

「なんだか適当アルね……そんなんで覚えられるカ?」

 

「……気にするな。お前は中華拳法だから結構理論派だけど俺は独学だからだいたい直感的にしかわかんねえんだよ。その辺りが気になるなら自分で調べろ。別にこんなもん理論がわかんなくても使えればいいんだよ」

 

「むー、なんかしっくり来ないけど分かったアル」

 

「というわけで『氣の開放』の方法だがその辺りは気の量が増えてくると多分その大元みたいなところも感覚的につかめるようになってくる。……はずだ」

 

いや実際、気が増えるとその大元がつかみやすくなるとか知らない。まあ小学生より小さい時は自分もあんまり気の量が今より多くなく、成長するにつれ指数関数的に増えてきて、いつの頃からかなんとなくつかめるようになってきた。

だから多分、気の量が増えるとその大元もつかみやすくなるというのが俺の大体の感想だ。

まあ『開放』じゃなくて、気を『抑制』するために大元から閉じればいいんじゃね?と覚えたものだがまあその辺りはどうでもいいだろう。

ここで必要なのは気を抑えるために考えだしたという過程ではなく、気を開放するという結果なのだから。

 

「はず……って結構適当アルね。それでどうやるカ?」

 

「あー、まあその辺りは個人個人のイメージがあるんだがまあ大体、蛇口をひねるようなイメージで俺はやってる。まあ論より証拠というわけで取りあえず手本見せるからそこで見てろ」

 

そうして俺は―――。

 

「分かったアル、って師父?どこいくアルか?そっちは崖―――」

 

塔の端からまるで飛び降り自殺するかのように足を踏み出した。




まだまだ続くよ修行回
今回初めてスマホから投稿したので読みにくい所とか有るかもしれません。
誤字脱字とか有りましたら感想の方にどうぞ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話

『吸血鬼』、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは笑っていた。

もう笑いが止まらないとはこのことである。

そして、一枚の紙を万に渡す。

そこには、ダイオラマ球内の被害総額について書かれていた。

 

「浜辺にあったコテージが衝撃波による津波で床板全張替え。コテージ内部の装飾品の汚損による取り換え。また、塔の各所に亀裂、およそ24。で、申開きは?」

 

「ねえよ。てか、お前責任取らんって書いただろ」

 

それを聞いて笑みを浮かべる。

まるで悪魔のような邪悪な笑顔だった。

まあ、見た目が可愛らしい幼女なので微笑ましいようにしか見えないのだが。実際、後ろで茶々丸が写真取ってるし。

……それはひとまず置いておこう。

そしてエヴァンジェリンは更に一枚の紙を取り出す。

先日、彼と交わした契約についてのギアスペーパーだ。

 

「ほう、書いているな?『『ダイオラマ球』の使用に際して『ダイオラマ球』が破損した場合でも『五三 万』が責任を負うことはない。』と」

 

「ああ、だから、別に損害を払う必要は……」

 

それを聞いて更に笑みを深くするエヴァンジェリン。

もう完全な三段笑いである。

ククク……フフフ……フアッハハハハハハ!!って感じの小悪党がよくやるあれ。

はたから見ればドン引きである。

どうやら彼は気づかなかったようだ。このカラクリに。

そして勝ち誇ったように種明かしをする。

 

「ここに書いてあるだろう?『『ダイオラマ球』が破損した場合』と。内部の施設には一切触れていないんだがなあ?」

 

それを聞いてやられた!と言う顔をする万。

 

「は!?てめえ!きたねえぞ!」

 

「フハハハハ!!!よく見ないほうが悪い。というわけで被害が出た分の損害を払ってもらおう。何、貴様は一応、この学園の雇われということで給金を貰っているのだろう?何、微々たる金額だ。貴様にも払える。良かったなあ、私が現実的な金額にしか興味のない優しい性格で。いやー、ちょうどリフォームしたくてな。少し欲しい家具があったことだ。本当に『偶然』だ。神様ってのはいい人のところに来るんだな?」

 

そう、神も信じない、吸血鬼の分際で(のたま)った。

そして差し出された被害総額は、万の給金およそ3ヶ月分。

まあ、貯金していることもあって払えなくもないがだいぶ痛い出費である。

皆も契約書はよく読もう。たとえ親との約束であったとしても痛い目見るから。これお兄さんとのお約束。

 

「くっそ……覚えてやがれ……。いきなり呼び出されるから何かと思えば、こんなこと考えてやがったのかよ……」

 

「フフ……。騙される方が悪いのだ。勉強になっただろう?それに気に入っているインテリアは避難させておいた。実質こちらの損害は0。ククク……これだから悪党はやめられない」

 

そうして、勝利の美酒と言わんばかりにグラスにワインを注ぎ入れる。

テーブルに突っ伏す万。ここに勝者と敗者は決した。

だが、真の勝者はエヴァではない。

後にエヴァは、この完全に調子に乗った状態の映像を茶々丸経由でクラスメイトの葉加瀬と(チャオ)に見られ、そしてクラス全員に広まり悶えることになる。

そしてまた、その悶えるエヴァの映像を取る、茶々丸こそが真の勝利者である。

しかし、まだ、彼らはそれに気づくことはなかった。

 

「で?どうなったのだ?」

 

話を切り替えるようにエヴァはそう聞く。

 

「何がだよ?」

 

思い当たることがなかったのか万はそう答えた。

 

「お前の弟子の件だ。上手く行ったのか?」

 

「まあ、上手く行ったよ。てかあいつ才能やばいな。見ただけだっていうのに、あの気を開放する感覚掴みやがった。1時間くらいで習得したよ。俺の今までの苦労は何だったんだ……」

 

「フン……貴様が言っても嫌味にしかならんと思うがな、化物め」

 

クイッとワインを(あお)る。

その様子は忌々しいと言う表情であり、おそらく過去にあったことを思い出しているのだろう。

たとえ、才能があったとしても圧倒的な力の前には無力である。

蟻がどんなにもがいても象に敵わない。

そして強すぎる力は人の心を()()

 

「だから気づかんのだ、貴様は」

 

そう吐き捨てるようにポツリとエヴァは言った。

だが、その言葉は彼には聞こえなかったらしい。

彼はうなだれるように先ほどの請求書を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――、思い出すのは今日のクラスでのこと。

エヴァはいつもどおり登校地獄の呪いのせいで、学校に行っていた。

その昼休み、茶々丸を伴って、優雅に昼食を取っていると古菲に話しかけられたのだ。

あの災害の後、この学園の『裏』の説明をしていたこともあり、そのことに関してか?と、当たりをつける。

だが、質問はそのことではなかった。

 

「……師父は、あの修行であれだけ力を手に入れたアルか?」

 

どうやら、修行の話らしい。

深刻そうに、思いつめているようなそんな顔をしていた。

それもそうだろう。あんなものを見せられれば、少し憂鬱にもなる。

それにヤツが昨日教えた、気の『開放』は自らが今持っている生命力以上の力は出せない。

故にあまり伸びなかった自分の力を見て凹んでいるといったところか。

まあ、アレと比べるのが間違いだとは思うがそれでも高みを目指す以上、しかたのないことだ

というか、アイツ全然、弟子のこと見てないではないか。

気の『開放』の先があることを話したんだろうか?

まず最終目的地を教えてそこまでどうステップアップするか示せばよかろうに。本当にわかっていない。

だが、この程度で折れるのならば折れたほうがいい。

アレを目指すということは海をわたるようなものだ。

道標なんてものは無いし、その先に島があるかもわからない。

そんな、途方も無い旅をするということ。

おそらく、アレを受け止められる奴など、この世には存在しないだろう。

太陽が如き極光を放ち、世界すらも滅ぼす力。

まさしく神話世界の具現化だ。なんの冗談だ、忌々しい。

だが、もしソレが、修行の、努力の末に手に入った力であれば()()よかった。

それが本当の神の如く、『そうあれかし(アーメン)』と存在するからこそ、なおのこと腹立たしい。

もともとエヴァは神さえも恨んだ身だ。故にそうあるものは嫌悪の対象である。

まあ、恩があることはあるので彼自身は嫌ってはいないが、あの力は許せない。

イカロスだったか?太陽に近づきすぎた者は蝋の翼をもがれ叩き落とされる。奴のアレはソレだ。

『地獄への道は善意で舗装されている』とはよく言ったものだ。

誰しもアレに憧れ、その領域に踏み入れられると信じながら膝を屈する。

麻帆良の『裏』を知るものを何人叩き落としたか分かったものではない。

しかし、タカミチがそれでも立ち上がったように、そうなれるかは知らない。

でも、と、そうエヴァは考え、答えを告げる。

 

「残念ながらアレはもともとだ。あの領域に行くなら諦めておけ。あそこに立っているのはヤツだけだ。だから……」

 

諦めておけ、そう言外に述べた。

一応、希望はあることはある。

『開放』のその先。『爆発』、『集中』そして、『界王拳』。

だがあんなもの、技術的障害の多さと、対費用効果が見合っていないし、すさまじいまでの才覚が要求される上、可能になるかわからない。

そもそも彼自身が体得していない技術だ。その最終段階の前段階ですらそうなのだ。

まあ、理論上は可能だろう。

私が考えだした『太陰道』とは全く逆の力。魔力と相反する気を使うことからもソレが言えるだろう。『太陽道』とでも言うべきか。

気弾、呪文にかかわらず、ありとあらゆる周りにあるものを吸収し、己の力とするのとは逆に、己の内から無限にエネルギーを供給する技。

かのアルベルト・アインシュタインに宇宙最強とまで言わしめた『複利』の力だ。

パンドラの箱のように底には希望があるのかもしれないがその前に絶望が待っている。

おそらく、というかほぼ確実に失敗すれば身体が消し飛ぶ。

それでもまだ、いい方だ。下手をすると行き場を失ったエネルギーによって世界が滅ぶ。

アイツが唯一怪我をしたのはその修業の最中だ。

膨れ上がったエネルギーを抑えこんだせいか奴は吐血した。

入院することになったが、アバラはほとんどヒビが入るか完全に骨折。

五体で唯一怪我がなかったのは頭部位だろう。

他にも骨だけでなく筋肉の断裂などすさまじい重症だった。

まあヤツはそんな怪我を一週間で完治させたがな。……普通なら死んでいるというのに本当に人間をやめている。

もし、アイツが抑えていなければどうなったか知れたもんじゃない。

そんなこともあってかヤツはそれ以来、その技を試そうとはしない。

 

「そう、アルか……でもワタシは諦めたくないアル」

 

だが、それを聞いても古菲の目はまだ死んでいなかった。

フフフ……これだから人間というやつは面白い。

有限にすぎない身でありながら輝きもがく。

そんな姿に焦がれるようになったのは、私が不死身の化物だからだろう。

心の何処かで己を倒すものを望む。それが化物の唯一の願い。

そしてそれを為すのは『人間』だ。『人間』でなくてはダメなのだ。

アイツも、もはや化物の領域だ。おそらく弟子を取ったのはそういうものを心の何処かで望んだからだろう。アイツはその矛盾に気づいていないようだがな。

全く、人間であることを()()()()()()()いいものを。

……やはりこうなるか。まあ、なんだ、フォローくらいはしてやろう。

そう、まるで仕方ないな、と溜息をつくように笑みを浮かべた。

 

「フン……せいぜいあがけ。もしかすれば、貴様はヤツの『先』にたどり着けるかもしれないな」

 

それは、ヒントと言うにはわかりづらすぎるヒント。

人によってはただの励ましの言葉に聞こえるかもしれない。

わかりにくすぎてもはやツンデレ。

しかし、それに気がつけないようならばソレまでだ。

教える義理もないしなと、昼食を終えたエヴァはその場を立ち去る。

それに気がついたかどうかは知らない。気にも留めない。

なぜならエヴァンジェリン・マクダウェルを、『闇の福音』を倒すものではないから。

その場には古菲だけが一人取り残されていた。




さてギアスペーパーに気づいた人はいたかな?
ちなみに作者は自分で書いてて自分で騙されるという訳のわかんないことをやらかしたw
保険とかそういうのだと対象外が多々あるので気を付けましょうね


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話

 気に関する修行は次の段階へと突入した。

 その内容とは、『開放』と『抑制』にかかる速度の向上。

 これを伸ばすことで、適宜、気の消費を抑え戦闘を有利に進めていくという考えだ。

 『開放』は気の最大放出量を増やす技術であり、自分の持っている、気が増えるわけではない。

 そのため、常時最大量放出していれば、すぐにそれは枯渇し、戦闘など行えなくなる。

 よって、その消費を抑えることをしなければならない。そのための修行だ。

 肉体を鍛え、生命力を増やし、気の最大量を増やすという考え方で、常時放出し続けられるように出来なくもないが、それには時間が掛かるし、才能の有無で、可能になるかはわからない。

 そんな状態で戦い続けられるのはすさまじい量の気を持つものだけに限られるだろう。

 それに古菲はそういう『剛』はなんとなく向いていない気がする。

 前回の気の開放と抑制を見ただけですぐ覚えたように気の扱いこそが古菲の真骨頂だ。

 そう考えたのでこっちの方の修行にシフトした。

 まあ、もちろん気の量を増やす修行もちゃんと行う。

 どれだけ増えるかは分からないが行わないという選択肢はないだろう。手札は多ければ多いほどいいしな。

 いくら抑えて戦っても枯渇するときは枯渇するし、戦闘継続時間を増やすことは無駄にならないだろう。

 どちらに重点を置くか、それだけのこと。

 

「というわけで、気の『開放』と『抑制』の第一段階をクリアしたのでレベル2に行きますか」

 

「レベル2?まだ、続きがアルのか?」

 

 どうやら気の開放で終わりだと思っていたらしい、甘いな!

 

「もちろんあるぞ。てか、あの技術を戦闘に活かせるように持って行かないと意味ないし」

 

「……たしかにそうアルネ」

 

 納得してもらったことで、説明に移りましょう。

 

「まあ、先日試してもらって分かったように、『開放』は最大放出量を増やす技法だ。そして『抑制』はその放出を抑える方法。今回はこれの切り替える速度を上げてもらう」

 

 そう言って修行内容を説明する。

 

「俺が右手の人差し指を立てたら即座に気の『開放』を行うこと、それで、ピースサインを作ったら逆に『抑制』の状態にする。まあ古菲なら簡単にできるだろ。ちなみに修行中、全てがその対象だから気を抜くなよ?」

 

 これで、戦闘中に気を扱う瞬発力も養えるし一石二鳥だ。ちなみにこれはハンターハンターのやつ参考にした。便利だね。漫画。

 まあ後々、左手でフェイク入れたりしてレベル上げていくけどな。

 あ、そうそう、その前にやっておかないとならない事があったわ。

 ポケットからストップウォッチを取り出す。

 

「とりあえず、今から現時点の気の開放と抑制にかかる時間測るから合図をしたら気の開放を行うこと。で、もう一回合図があるまでそれを維持して、合図を出したら『抑制』状態に戻す。OK?」

 

「分かったアル」

 

「じゃあ、準備ができたところで、スタート」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――、結果は『開放』が1秒で『抑制』が1.5秒だった。ちと遅いな。

 達人同士の争いでは1秒ですら命取りだ。コンマ1秒たりとも無駄にできない。

 最終目標は攻撃の瞬間、防御の瞬間だけ『開放』出来るようにすること。

 そうすれば気の量で劣っていようと常時最大で戦える。

 え?俺?まあできてない……。『開放』は即座に、確か0.001秒位で行えるけど『抑制』は3秒位かかる。フリーザ様あんた本当に抑えるの苦手ですね。

 けど、いいんだよ。開放状態1日くらい持つし!現時点ですら古菲に『抑制』の速度負けてるけど悔しくないもんね。

 ま、まあ、気にしない事にしよう。よし、これで基準は出来た。

 

「というわけで、今日は『開放』に1秒以上、『抑制』に1.5秒以上かかったら罰ゲームな。腕立て500回すること」

 

 とか言いながら地味に右手の人差指を立てる。

 なにこれ楽しい。秋雨さんがケンイチに修行やらせるの楽しそうな理由が分かった気がする。

 そして不意にそれは行われたので古菲は反応できなかった。

 

「あ、罰ゲームな。腕立て500回」

 

「な……ひ、卑怯アル!いきなりそんなん反応出来るわけないアルよ!」

 

 抗議する古菲。

 でもな、古菲。修行ってのはね理不尽なんだよ?

 内心、愉悦に浸りながら告げる。

 

「いや、それを出来るようにする訓練だし。はい、さっさとやる」

 

 そして渋々ながらも古菲は腕立てを始めた。

 後は普段の修行通り、滝に打たれたり、鬼ごっこしたり、組手を挟んだりして、その日の修行は終わった。

 最後の方はバテバテで反応できないことが増えたせいかずっと腕立てしてたけど、まあ、初日だしこんなものだろう。

 そして、古菲と別れ家路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――、帰路につきながら古菲は考えていた。

 このままで自分は本当に強くなれるのかということを。

 確かに師父の言う修行は結構、理論的であり、確実にステップアップすることが出来る。

 気の『開放』、『抑制』によってその時の最大放出量を増やすこと、そしてその切替速度の向上によって強くなれるという確信はある。

 でも……と、古菲は後ろ髪を引かれる。

 そうして思い出されるのは先日の光景。

 アレは太陽なのだと、本能で理解した。

 ただ、開放しただけだというのに周りにはすさまじい衝撃波が襲っていた。

 確かに今のままでも強くなれるだろう。だが、『あそこ』に届くのだろうか?

 そのイメージが今の古菲には持てなかった。

 でも、自分が知らないだけで、この修業を続けていれば届くようになるのかもしれない。

 そんな淡い期待を抱いて彼の昔からの知り合いだという、エヴァンジェリンに話を聞いてみたが結果は想像したとおり。

 才能()の決定的な有無。それが古菲の心を抉った。

 なにか方法が無いのか?そう考えるも、気に関する知識が欠けている古菲には答えが出ない。

 おそらく『先』があるのはわかっている。

 そして、今日の修行のことを思い出す。

 『第一段階』、『レベル2』そういったワードから三段階以降が存在するのは予想は付く。実際、それを聞いて少し安心してしまった。

 だが、多分、師父は次の段階に進むまで教えてくれないだろう。そんな漠然とした直感がある。

 次の段階へと進めるのはいつだ?数カ月後?数年後?いや数十年後?もしかしたら届かないかもしれない。

 不安が古菲を襲う。その焦燥は自分が強くなり、彼の強さをはっきりと見てしまったことでどんどん強くなっていく。

 ワタシは『今』強くなりたい。『今』強くなれないものが、この先強くなれるだろうか?古菲は今までの経験でそのことを知っていた。

 だが、強くなるためにはそれなりの時間と労力が必要となる。

 そう、時間だ。時間が圧倒的に足りていない。

 そして、一つ思い当たることが出た。

 そういえば、あのガラス球の中は時間の流れが外とは違ったことを。

 古菲はこの麻帆良の『裏』。そこには魔法という力が存在することを知った。

 学園長や、タカミチ、その他先生が魔法使いであり、この麻帆良の世界樹を守るために存在することを。

 アレが魔法の産物であることも分かった。

 そんな夢の様なアイテムではあるがリスクはもちろんある。上手く行かなければ歳を無駄に重ね、老化する。すなわち力の衰える日が早くなる。

 でも、踏み出さねばならない。たとえ悪魔に魂を売ることになろうとも。ワタシはもうすでに武術に魂を売っているのだから。

 ならばそれを使わないという選択はない。

 そして、どうすればそれを使えるかと言うことを考える。

 そういえば師父はアレを借りた時、何かの取引をしていた。ならばワタシも取引できるものを出せばいい。

 確かエヴァンジェリンは吸血鬼だと言っていた。それなら『血』を代償にすればいけるか?

 ほんの僅かな光明を探る古菲。

 そしてふと、先日のことを思い出す。

 

『フン……せいぜいあがけ。もしかすれば、貴様はヤツの『先』にたどり着けるかもしれないな』

 

 彼女は確かにそう言った。

 ただの励ましの言葉だと、その時は思った。

 だが、ほんの僅かに強調された『先』と言う言葉。そして師父の次の段階を示唆する言葉。

 古菲の中で何かがつながった。

 もしかして彼女は、師父の到達していない『先』を知っている?

 ならばそれを手に入れられるかも知れない。

 希望がつながったことで心のなかで燻っていた炎が一気に燃え上がる。

 『先』が見えたことで先程までの疲労がどこかに飛んで行く。

 そして古菲の足は自然と、家ではなく『そちら』に向かっていた。




今こそ飛躍の時!
もう古菲が主人公でいい気がしてきた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話

「さて今日も取りあえず気の開放の速度と抑制の速度測るぞ」

 

 というわけで今日も修行。

 測定した結果、『開放』は0.1秒。『抑制』は0.05秒。

 ……早えよ!強くなるの早すぎじゃね?

 こんなに早く伸びるものなのか?

 そんな疑問を抱くが、まあ、いろいろとすごいし、才能の差だろうな、とそこで思考を打ち切る。

 

「じゃあ、今日は開放に0.1秒以上、抑制に0.05秒以上だったら腕立て……って何しに来たんだよエヴァ」

 

 そう、昨日の流れの通り修行を行おうとするとそこにロリの姿が見えたので話しかける。

 

「何、どんなものか見に来ただけだ。少し気になることもあったしな……」

 

 そう言って、なんか意味深な感じで古菲の方をチラリと見ていた。

 ん?なんかあったの?キマシ?キマシ?……いや、それはないな。

 

「……なにか不愉快な気配がしたが、まあいい。しかし、ちゃんとやっているようだな。驚いたぞ」

 

 いつもどおり傲慢不遜なやつだ。

 なにが「ちゃんとやっているようだな。驚いたぞ」だよ!

 てめえは俺の師匠か!

 

「……冷やかしに来たなら帰れよ」

 

「ほう?思ったよりもリフォームが安く付いたから、そのお釣りを渡しに来たんだがな?人がせっかく親切心を出したというのに……」

 

 くっそ、コイツ人の足元見やがって……。

 俺から金を巻き上げたせいか調子に乗ってやがる……

 つか、今考えたらあの契約俺に不利な事しかねえじゃねえか。

 3回まで使用可能って、お前3回も巻き上げるつもりかよ。ゲスいわ!

 いや、別に壊さなければいいんだけど『開放』って最大量放出する技術じゃん?周りに無駄な破壊を出さずに気を放出するのってむずいんだよ!

 放出しながらも内に留めるとか何その矛盾。

 

「……な、何のようでしょうか、エヴァ様?」

 

 だが、下手に出る俺。

 い、いや、ちょっと今月ピンチになったからね?数週間のもやし生活が嫌なわけじゃないんだよ?ホントだよ?

 

「ふむ……へりくだる貴様は少し気持ちが悪いな」

 

 ……コイツ、イツカコロス。そう決心する。

 でも今は手を出せない。貧乏って辛いな……

 

「あ、そうそう、ジジィの方から用があるそうだ。夜にソイツを連れてくるようにとのことだ。おそらくバラした件だろうな。どうするんだ?」

 

 あー、そういえばそんなんもありましたね。

 直ぐに来なかったから忘れてたよ。

 

「んー、大丈夫だろ。なんとかなるさ」

 

 そう、適当に答える。

 実際、あんまり表立って手を出せないことは知ってるし……

 今の俺の立場、麻帆良の裏だと『抑止力』みたいになってるしな。

 何か、やらかしたとしても大抵の事なら見逃されるはずだ。

 

「まあ、『あの日』以来、侵入者はいないからな。その『原因』になったお前に手を出すことはありえないか……」

 

 そして、エヴァは用は済んだと立ち去っていった。

 あいつ、本当にろくな事しねえな。

 嫌なこと思い出させて帰るとか、塩まいとこ……

 あとはいつもどおりのメニューを古菲にこなさせながら、学園長に呼び出しを食らったそうなので早い目に切り上げて今日の修行は終わった。

 さて、学園長との『交渉』どうしよっかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――、あまり思い出したくない過去の話。

 その日は麻帆良の警備をしていた日の事だった。

 確か、小学2年生だったか、3年生位の時だった。

 凍えるように寒い日だったことを覚えている。

 西側の区域を俺は寝ぼけながら、巡回していた。

 まだ子供の体だったこともあって、肉体に精神が引っ張られていたのか9時位になると自然と睡魔が襲って来るのだ。

 そして今は0時完全にオネムの時間である。

 やっぱり子供は寝て育つって言うし寝かせろよと愚痴ってた記憶がある。

 それで、警備を初めて3時間くらい経った頃だっただろうか、後1時間位で終わるしもうしばらくの辛抱だと、ぼやいていたその時、そいつらは現れた。

 どこからか現れた侵入者達。

 鬼とか操ってたし多分、陰陽師だと思う。

 

「おんやー?いい子は寝る時間ですよ?そんな悪い子はお仕置きしなくちゃねえ……」

 

 敵の中で自分の一番近くにいた鬼はそう言った。

 そして、初めて出会った、『化物』だというのに、何故か俺は落ち着いていた。

 え?エヴァ?あのロリのどこに『化物』要素があるっていうんだよ。

 ただの調子乗ったおばはんでしか無いわ。

 ……いやそんなことはどうでもいいとして、それを見ても何の恐怖も抱かなかった。

 その時の俺はなんか仮装した変なのがいるな、と思っていた。

 黙っている俺を見て、ビビっているとでも思ったのだろう。その鬼は笑みを浮かべながらこちらに向かってくる。

 振り下ろされる拳。遅い。

 本当に蚊が止まった速度だった。

 これなら止められるかなと思い右手を伸ばす。

 そして鬼の拳は自然と止まった。

 そのまま捻り上げ、無力化するために腕を鬼の後ろに持って行こうとしたとその時だった。

 ゴリンッ!と、ありえない音がした。

 その音とともに何かが噴き出るような音もする。

 ドバッというような滝でも流れるような音。

 何の音だろう?そう首をかしげるも動きは止まらない。

 俺はそのまま鬼を蹴っ飛ばし地面につかせるように左手で背中のあたりを抑えこんだ。

 だが、その手はズボリと、鬼の背中を突き抜けそのまま鬼を絶命させていた。

 そして、降り注ぐ『雨』、その滴りでようやく、それが何かを理解した。

 手に持っている腕を見る。

 明らかに根本から千切れている。

 多分引きちぎったのだろう。そして、左腕。痛覚反射なのか知らないが心臓は止まっているはずなのに脈動する肉の中にある。

 そんな大惨事を引き起こしたというのに現実感がなかった。

 腕が気持ち悪かったのでそのまま引き抜き、持っている鬼の手を投げ捨てる。

 そして、ふと、まだ他にもいたなと思い、立ち上がり相手がいた方向を見る。

 目の前にあった表情は、驚愕にそまるもの、怯えるもの、何が起きたのか理解できないもの、とたくさんあったが、その根源は同じだった。

 圧倒的な『恐怖』、それを感じているのだろう。そう、空虚な思考の中でそう思った。

 

「な……何なんだお前は……」

 

 その中の一人、鬼を従えた陰陽師だろう。ソイツが震える声で言う。

 ……何なんだろうな?自分でも自分が何なのかよく分かってないので、首を傾げる。

 まあ、今はそんなこと考えてる暇じゃないか。アレを捕まえないと。

 そしてゆっくりとアチラ側に歩き出す。

 それを見て逃げ出す陰陽師。主を守るため、立ちふさがる鬼。

 その拳が振り下ろされる。

 半ば自動的にその拳を躱しながら鬼に向かって俺は飛び上がる。

 そして、その顔に膝蹴りを一発。鬼の頭は吹き飛んだ。

 そこに立っているのは首のない鬼の身体だけ。血が噴水のように飛び出し、また『雨』を降らす。

 あ、帰ったらシャワー浴びないと。

 そんな、どうでもいいことを頭では考えていた気がする。

 また、鬼は向かってくる。避ける。

 首のところに手刀を一発。

 ギロチンにかけられたように首が落ちる。

 また、『雨』が降る。

 逃げる、陰陽師を追う。

 鬼が立ちふさがる。

 俺は拳を振り上げる。

 心臓を拳が貫く。

 血が噴き出る。

 逃げる、陰陽師を追う。

 鬼が立ちふさがる。

 ……そして、それを何度か繰り返した頃には周りに立つものは一人もいなくなっていた。

 あの陰陽師?人間の死体はなかったから多分逃げたんだろう。

 それにそこから先の記憶は曖昧だし。

 異常なことが起こったせいか、頭が考えることを放棄したのだろう。

 そのまま意識は途切れる。

 こうして、俺の初めての『殺戮』は終わった。




ぎ、ぎりぎり終わった。
良かった時差とか言わなくて済んだ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。