境界線上のホライゾン~王のための剣と盾~ (Koy)
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境界線上の決意者達






2013年5月7日。改定。


とある親子の話しをしよう。

その親子は、生まれながらに特別な力を持っていた。

父親はその莫大とも言える力で、数々の奇跡を起こしている。

息子もその恩恵を受け継ぎ、将来が有望とされた。

 

そんな親子に、母親は居ない。

 

息子を産んで、すぐに亡くなってしまった。

息子は自分を責めた。

 

〝自分が生まれたから、母親は死んだ〟

 

だが、父親はそんな息子を叱咤した。

 

〝命懸けでお前を産んだんだ! 死ぬときまで、お前の幸せを願っていたんだ!〟

 

泣きじゃくりながらも、息子は何度も頷いた。

 

やがてその子供に、友人が出来た。

 

一人は、良く言えば明るく。悪く言えば――――そう。馬鹿だった。

何をするにも騒動を起こし、その子や周りの友人に叱られ。それでも最後には皆笑っているという、なんとも不思議な雰囲気を持つ少年。

 

一人は、その少年の姉。一見マトモそうに見えるが、やはり血は争えないのか。時折、弟以上のトンでもない発言をしたりしている。

 

一人は、神社の子だった。面倒見がよく、精神年齢で言えば同じ年の子達よりも上だろう。控えめで、その子供をよく気にかけていた。

 

一人は、異族の子だった。九本の見事な尻尾と耳。だが、周りはそれを気にせず、ともに遊ぶ。最初は、少女かと思ったが、意外なことに。少年だった。

 

そして、最後の一人は普通の少女。

どこか一線を引いている雰囲気すらある少女。しかし、馬鹿をやらかす少年の前では、歳相応の少女の姿であった――――その少年限定で、毒舌をかますことが毎日だったが。

 

だが、そんな幼少時代もあっという間に過ぎる。

あるとき、馬鹿な少年が言った。

 

〝俺は王様になる!〟

 

それは、一人の普通の少女が発端だった。

少女には、「夢」と呼べるものを持っていなかった。

だから少年はそういった。

ここにいる全員の夢を叶えられるような――――そして、その少女が夢を持てるような国を作る王になると。

誰もが無理だと思った。が、誰もそれを口に出さなかった。その少女でさえ、何も言わず、ただ静かに微笑んでいた。

と、それに呼応するかのように、少年の友人である子が言った。

 

〝お前王様になんの?〟

〝おう、なる! ぜってーに、なる!!〟

〝そっか――――なら。お前を守る『剣』になってやるよ〟

 

そう、言った。

夢を支えよう。そのために、少年を守るための力をつける。そう言った。

それに続くように、少女のような少年も言う。

 

〝じゃあ僕は、いざとなったら皆を守れる『盾』になろうかな〟

 

王になるには当然敵もいる。だから、その敵から皆を守る力をつける。そういった。

少年はいつものように笑い、頼んだぜ、と言った。

 

それからすぐ後だった。

少年が重傷を負い、少女が、この世からいなくなったのは。

その子は嘆いた。自分ではどうにも出来なかったのか。力がなかったのか。

少女のような少年も悲しんだが、その子ほどではなかった。

時折、神社の少女が来たりしていたが、あまり意味がなかった。

 

だがそんな時、その子の父親がいった。

 

〝約束、したんだろう?〟

 

それは、少年との約束。

王を支え、守るための剣となる。

その子は頷いた。

 

〝なら。一緒に行こう〟

〝……何処へ?〟

〝他の王様のところへ〟

 

おそらく、その子は今まで泣いていた顔から一気にキョトンとしたような顔になったんだろう。父親が笑う。

 

〝王様を守るための勉強だ〟

〝べん、きょう?〟

〝Jud.お前には少し早いが、問題はないさ〟

 

そういって、荷造りをしてこいという父親。

その言葉に、若干の不安を覚えた。

 

〝武蔵を、出ていくの?〟

〝少しの間、な。その間、お前は一人だ〟

 

一人。その言葉が、死を目の当たりにした子供にどれだけ響いただろうか。

だが、父親は優しくその頭に手を乗せる。

 

〝何。ずっとじゃないさ――――三人の王様のところにいって、見てくるんだ〟

〝……? 何を〟

〝その王の生き方を。在り方を。全て〟

〝見てきて、どうするの?〟

〝お前が剣となると誓った王様に教えてやればいい。『こんな王も、世の中にはいるんだ』ってね――――誰彼構わず言っちゃダメだぞ?〟

〝うん。Jud.〟

 

いつしか、その子供からは涙が乾いていた。

代わりにあったのは、決意と、覚悟と、ほんの少しの寂寥感。

 

(……泣いていられない。だって。一番泣きたいアイツは、今ここにいないんだから)

 

だから、自分は泣かない。泣いては、いられないんだ。

次に会うときは、お互い。ちゃんと笑って再開しようと。そう思った。

 

親子はすぐに荷造りをし、武蔵の教導院――――アリアダスト教導院に事の次第を知らせる。

去り際に、その子は一度だけ、振り返る。

それは、いつも自分のところに来てくれていた神社の少女。

 

……泣かせるだろうなあ。

 

全部終わって、またここに帰ってきたら謝ろう。

こうして。二人の親子は去っていった。

 

 

 

 

 

それから、十年後。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

空。青い空。

その空に浮かぶ、巨大な都市。

それは、一つの都市のように見えて、実はいくつもの艦が繋がって出来ていた。

 

右舷一番艦〝品川〟

右舷二番艦〝多摩〟

右舷三番艦〝高尾〟

中央前艦〝武蔵野〟

中央後艦〝奥多摩〟

左舷一番艦〝浅草〟

左舷二番艦〝村山〟

左舷三番艦〝青梅〟

 

全八艦。これら総じて『武蔵』という。

 

時は、聖譜暦1648年。俗に、『末世』と呼ばれる、世界終焉を迎える年。

そんな終わりを迎えようとしている年に、ここ極東『武蔵』から始まる物語。

そんな中、中央後艦『奥多摩』にある学生の学舎、武蔵アリアダスト教導院に一人の人影があった。

 

教導院の制服に身を包み、されど一般制服とは明らかに違う飾りをつけたその男。

彼は、歌を聴くように目を閉じていたがやがて、その眼を開ける。

 

 

 

 

 

「……そろそろ終わりにするか」

 




どうもKoyという名のKyoです。

ふっ。やってしまった……やってしまったよ。

もう、ゴールしても、いいよね……

これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

では。


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境界線上の整列者達






2013年5月12日。改定。


この日、疑いようも無く晴天。

大空という海原を行く航空都市、準バハムート級航空艦『武蔵』は、いつもと変わらない日常を送っていた。

 

「はーい!三年梅組集合ー!」

 

そんな声が、『武蔵』中央後艦〝奥多摩〟から聞こえてきた。

ここ〝奥多摩〟には学生達の学舎、武蔵アリアダスト教導院がある。

その教導院の前の橋の上。一人の女性がクラスの生徒を前にしてにこやかに立っていた。

だが、その笑顔とは裏腹に背には不釣合いなほどの長剣が存在していた。

 

「これから体育の授業を始めます――――先生これから〝品川〟の先にあるヤクザの事務所に殴りこみに行くから。それについてくること。そっから先は実技ね」

 

遅れたら教室掃除でもしてもらおうかな、というが。生徒の大半は戸惑いから来る怪訝な表情になっていたり、顔が引きつっている者もいた。

当然だろう。平和な体育の授業なのに、何故か授業内容がカチコミなのだから。

返事は、と聞くと全員「Jud.」と返ってきた。

とここで、一人の少年が手を上げた。腕には『会計 シロジロ・ベルトーニ』とある。

 

「教師オリオトライ。体育とヤクザと、どのような関係が?――――――金ですか?」

 

その言葉に、隣にいた少女が補足をする。

その腕には『会計補佐 ハイディ・オーゲザヴァラー』とあった。

 

「ほらシロ君。先生この間地上げにあってビール飲んで壁ぶち抜いて教員科にマジ叱られたから」

「中盤以降は全部自分のせいだと思うのだが。報復ですか?」

「あはははー。報復じゃないわよ。ただ腹立ったんで仕返しに行くだけ」

「同じだよ!」

「せんせー」

 

そう間延びした声を出したのは。美少女という分類に間違いなく入る、白く長い髪の毛をゆったりと垂らし、寝ぼけ眼のような黒い瞳で前を見つめる少年(、、)。不知火・神耶。

 

「はい。何、神耶?」

「何人までならブッチKILLオーケーですか?」

「コラコラ。先生にどんな質問してるのさ君は――――私の管轄外でならいくらでもいいわよ。あとちゃんと証拠は消すこと」

「そこは止めろよ!!」

 

オリオトライと呼ばれた女性は笑いながらそういうと、生徒全員が呆れ気味に言う。

 

「さてと。それじゃあ誰か休んでる人いる?ミリアムは仕方ないとして。あと、東が今日の昼に戻ってくるとして。他は?」

 

と聞くと、一人手を上げる少女。

黒い三角帽に背には六枚の翼。腕には『第三特務 マルゴット・ナイト』とある。

 

「ナイちゃん見るに、セージュンとソーチョーがいないかな。あ、あとハヅっち」

 

その声に答えるように隣にいた黒髪で背には同じく六枚の羽を持つ少女。

腕には『第四特務 マルガ・ナルゼ』とある。

 

「正純は今日は午後から酒井学長と三河に降りるから自由出席のはず。総長、トーリについては知らないわ。あと葉月に関しても同じく」

「んじゃあトーリと葉月について知ってるのは?」

 

すると、今度は後ろのほうにいる少女が答えた。

 

「フフフ、皆うちの愚弟のトーリについて知りたい?知りたいわよね?だって武蔵の総長兼生徒会長の動向だものね――――――でも教えないわ!」

 

テンションを振り切らすように答えるのは、ゆるいウェーブの掛かった茶色の髪を飾り布で所々結び、豊満な胸を腕で支えている少女。葵・喜美だ。

 

「だってこのベルフローレ・葵が朝八時に起きたらもういなくなっていたんだもの」

「お前テンション高いのに起きるの遅ぇよ!!」

 

全員から言われるが、当の本人は何事も無く、訳の分からない自信に満ち溢れていた。

すると、ナイトが喜美に聞く。

 

「あのー、喜美ちゃん。また芸名変えたの?」

「ええそうよマルゴット。だから私のことはベルフローレ・葵と呼びなさい!いい!?」

 

すると喜美はナイトのところまで行き、ナイトの肩をがくがく揺らしながら言う。

 

「こ、この間はジョゼフィーヌじゃなかったかな……」

「あれは三軒隣の中村さんが飼い犬に同じ名前をつけたからナシよ!いい!?」

「はいはい。じゃあ葉月について誰か知ってる?」

 

そう聞くが、誰も答えない。

仕方無しに、オリオトライはある人物を見つめる。

 

「浅間。何か知らない?」

「え、い、いえ何も聞いてないですけど?」

 

答えたのは赤と翠の瞳を持ち、長い黒髪と長身。さらに、先の喜美をも越える胸を持った少女、浅間・智だ。

 

「浅間が知らないんじゃあ、誰も知らないか」

「あ、あの。何で私が基準なんですか? 葉月君の情報限定で」

 

すると、周り全員が互いに顔を見合わせ、浅間を見る。

 

「――――え?」

「な、なんですかその反応は!? だ、大体ですね! これで動向とか色々知っていたら私完全にストーカーじゃないですか!!」

「昨日の放課後。葉月は何してた?」

「えっ? えーと、確か学校終わったらすぐに買出し行ってお店開けてましたよ?」

 

ぽんっ、と浅間の肩に喜美の手が優しく置かれた。

 

「――――期待を裏切らないわね」

「へっ? …………あっ、やっ、ち、違いますよ!? 別に後をつけていたとかそんなんじゃないですからね!? 偶然商店街で会って話しただけですからね!?」

「はーいじゃあ程よく纏まったわねー」

「先生! まだしばらく纏まりには時間が掛かります! 主にこのクラスメイトたちの誤解を解くために!!」

 

必死になって浅間が抗議するが、オリオトライは無視して表示枠を操作している。

 

「んじゃ。葉月は多分、遅刻ね。んでトーリは無断欠席、っと。しかしまあ、武蔵の総長兼生徒会長が立派に私事で遅刻とは。こりゃいかんねぇ」

 

オリオトライがそういうと、今度は眼鏡を掛けた少年が呟く。

腕章には、『書記 トゥーサン・ネシンバラ』とあった。

 

「もう160年もずっとそうだものね。こっちはあっちこっち移動しっぱなしで権力骨抜きで。各国の学生の上限年齢は無制限なのに、武蔵じゃ18を超えたらもう政治も軍事も出来ないんだから」

 

そう諦め口調に、しかしその言葉の裏にはどこか力が満ちて、話す。

 

この世界には『校則法』というものがある。

簡単に言えば、軍事・政治は学生任せ、というものだ。

そのため、教導院といえば事実上の国家である。

教導院には、軍事担当の総長連合と政治担当の生徒会がある。

総長連合は、総長を筆頭に副長と第一から第六の特務があり、それぞれが役割を担っている。

生徒会は、生徒会長を筆頭に副生徒会長・書記・会計とある。

 

そしてその下に委員会や部活などがあるのだが、これらはあまり干渉してこない。

各国の教導院の上限年齢は無制限、つまり年老いていようが学生であれば政治・軍事を行える。

が、武蔵は違う。上限年齢が18と決められている。

これにより、各国よりも不利な立場にあるのだ。

ネシンバラの言葉を注意するように、今度はやや太めの少年が言う。

 

「小生思いますに、あまりそういうことを言っていると危険ではないかと」

「心配ないよ。連中、僕らの言葉を拾ってる暇はないだろうから。何しろもうすぐ三河圏内だからね」

「あらま。大人ぶっちゃって」

 

彼らの発言に苦笑しながら言うオリオトライ。

 

「でもま。君ら、学生最後の年だけど……これからしたいこと、やりたいこと。分かってる?」

 

そういって腰を落とし、戦闘体勢に入る。

その瞬間、特務を含めた戦闘系技能を持つ全員が雰囲気を変えた。

それを見てオリオトライは内心、嬉しく思う。

 

「いいねぇ。戦闘系技能を持ってるんなら、今ので来ないとね。それじゃ、〝品川〟に着くまでに先生に攻撃当てられたら……」

 

と、オリオトライがここで片手を目の前に広げる。

 

「出席点五点プラス。分かる?五回サボれるの」

 

教師の発言じゃねえ、と誰しも思うが、思うだけである。

誰でも、授業というものはサボりたいものである。

すると、点蔵が手を上げる。

 

「先生!攻撃を『通す』ではなく『当てる』でいいので御座るな?」

「戦闘系は細かいわねぇ。それでいいわよ。手段も問わないわ」

 

すると、点蔵は急に両手で何も無い虚空を揉み始めた。

 

「では、先生の体のパーツでどこか触ったりすると減点されるところあり申すか?」

「またはボーナスポイント出るようなところとか?」

「あっはっは――――授業始まる前に死にたいんはアンタら二人か」

 

と、オリオトライは背の長剣を点蔵とウルキアガに向ける。

 

「先生」

「ん?何、神耶」

「出席点いらないから。今度、一緒に出かける」

 

そういう神耶。

明らかにデートの誘いである。

オリオトライは一瞬驚くも、すぐに笑顔に戻る。

 

「あっはは。まあ私に攻撃当てられたらね」

「……よし。頑張る」

 

神耶が眠気を取り払うように背に抱えていた巨大な錫杖を手にした。

丈は三メートルはありそうな長さのそれは、何かの封印の術式があるのか、包帯で巻かれていた。

その後ろでは、クラスメイト達が集まって話していた。

 

「……いつもいつも思うので御座るが、神耶殿はあのバーバリアn、もとい先生のどこがよいので御座ろうか」

「可能性としては、弱みを握られているが一番高い気がするな。そこで金を取らない当たり、最悪な感じがするな」

「会計は金を取らないと最悪と感じるんですね……」

「で、でも先生見てくれはいいですからね。普通に神耶君の好意という可能性もありますよ? …………万が一の確立ですが」

「最後で台無しだよ!」

 

浅間がフォローらしい言葉を吐くが、どうにも締まらなかった。

神耶は特に気にしてないらしく、自分の身の丈以上もある錫杖を軽々と振り回していた。

それじゃ、とオリオトライは言うと、橋から飛び降りた。

 

傍から見ればただの投身自殺にしか見えないが、戦闘能力はおそらく武蔵の中でもトップクラスの人間。くるりと一回転をし、着地した。

 

「ほら。遅いわよ!」

「くっ!追え!!」

 

ウルキアガが一喝するがごとく言うと、全員が走り出した。

 

オリオトライは〝後悔通り〟と呼ばれる通りを走っていた。

ふと、目の端で一つの墓碑を捉えた。

 

『1638年 ホライゾン・Aの冥福を祈って 武蔵住民一同』

 

オリオトライはそれを見て少しだけ微笑む。

 

(ホライゾン、か……きっとあの子達にとって、全ての始まりになる名前でしょうね)

 

さて、と地面を一回蹴り、宙へと飛ぶ。

そろそろ先頭集団が来る頃だ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

左舷一番艦〝浅草〟

その艦橋部分に、一人の少年が空を見上げていた。

赤みがかった茶髪を少し長めに伸ばしながら、その赤い瞳は青い空を見つめていた。

すると、後ろから声が掛かる。

 

「葉月様。授業はよろしいのでしょうか? ――――――以上」

「――――〝浅草〟さん?」

「Jud.〝浅草〟です――――――以上」

 

少年が振り向くと、そこには一人の女性型の艦長式自動人形〝浅草〟が立っていた。

 

「うーん。一応点数足りてるから問題はないんだけどね」

「つまりサボりなのですね――――――以上」

「そう言われるとそうとしか返せないかな」

 

そういいながらも、葉月と呼ばれた少年は立ち上がる。

 

「まあでも。今日はちょっと行ってみるよ。疲労符の限界来ない程度に」

「ルートから行って、本日の梅組の皆様の到達予定場所は〝品川〟だと判断します――――――以上」

「〝品川〟――――確かヤクザの事務所なかったっけ? あそこ」

「Jud.そしてオリオトライ様に番屋から要請が入ってます――――――以上」

「ああ。ストレス発散につき合わされてるわけね……」

 

葉月はそういって、傍らに置いてある大杖を取る。

それは、まるで何かを押さえつけているかのように、封印の術式が汲まれた包帯で巻かれていた。その先端には持ち主の名前のプレートが付けられていた。

その場で何度か屈伸をした後、杖を背負い足に力を込める。

 

「それじゃあ。白百合・葉月。行ってきます」

「行ってらっしゃいませ――――――以上」

 

次の瞬間、葉月の姿が消えた。

 




どうもKyoです。

ホライゾン二次だと、前書きに何か書くべきなのでしょうが。残念ながら私の貧困な頭では考え付かないので無理です。

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。


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境界線上の集結者達










2013年5月19日。改定


三年梅組が〝品川〟へ向かうオリオトライを攻撃しているとき、武蔵左舷三番艦〝青梅〟からそれらを見る人影が二つあった。

一つは老人といって間違いない男性。その髪は白く染まり、煙管をふかしている。

一つは侍女服を着ている二十歳前後と見られる女性。無機質な表情を浮かべつつも、梅組の授業を観察しているようにも見えた。

 

「おお、やってるねぇ。アレ、〝武蔵〟さんとしてはどう見る?」

「Jud.」

 

〝武蔵〟と呼ばれた女性は応答を示しながら答える。

 

「去年と比べるなら、住民の観戦度・迷惑度が上回っております――――――以上」

「武蔵全艦を代表するなら?」

「被害等総合的に見て、ここ十年の学生の中では一番かと――――――以上」

 

そういう〝武蔵〟の背後では、デッキブラシが一人でに動いて掃除をしている。

人型の無機物に魂を宿した種族。それが自動人形。

主人や客人に奉仕することを本能とする所謂お手伝いさんなので、女性型が多い。

〝武蔵〟や〝浅草〟もそんな自動人形の一つなのだ。

 

「んー。今のは堕天墜天コンビだね。連射重視の非加護射撃。屋根上一直線なら、それでアリなんだろうけど。相手が真喜子先生じゃぁ、ねえ」

 

と、煙管を咥えながら言う。

彼の名は酒井・忠次。武蔵アリアダスト教導院の学長である。

元は三河にて、松平四天王と名乗る四人衆の実質的リーダーだった者で、かつての字名(アーバンネーム)は『大総長(グランヘッド)』。

だが、今ではとある理由から左遷され、こうして武蔵にいる。

 

「……ん?」

 

と、酒井は目をやる。

そこには、今現在戦闘が激化している前線に向かって、一人の少年が屋根伝いに向かっているからだ。

すると酒井は微笑む。

 

「あれは、葉月かな」

「Jud.背負っている杖からしてそうかと判断できます――――――以上」

「しかし大丈夫かねぇ。あんなに飛ばして」

「アレくらいならば、時間が来たときの反動はそうでもないと判断できます――――――以上」

 

そうだといいけどねえ、と酒井は呟き空を見る。

そこには、赤と白で彩られた艦が存在していた。

 

三征西班牙(トレス・エスパニア)の警護艦と武神が1,2……合計3機。騒いでるのを警告しに来たにしろ、武装の無い武蔵にはやりすぎだよ」

「そういえば、葉月様は体に荷重符をつけられておいでなのでしたね――――――以上」

「Jud.符に設定された荷重を常に身体にかけ続けられる、元は武芸者用の鍛錬符。葉月のはちょっと特殊だったよね?」

「Jud.葉月様のそれは単純な荷重ではなく、疲労といったものも通常の倍近く増やされます――――術符の効果が来たときにそれまでの疲労が一気に倍加されてやってくるため、全身疲労で立つことも出来ません――――――以上」

「やれやれ。難儀だねえ」

 

といって、肩をすくめる酒井。

対する〝武蔵〟は特に反応を示さなかった。

 

「葉月様の背景的に言えば、聖連は恐れているのかと――――――以上」

「そうだねえ。実際、今の葉月なら出来るだろう」

 

ふぅ、と煙管を外し、息を吐く。

 

古代魔法使役士(エンシェント・マギ)。一人で一国を攻め落とせるほどの力を持った者の末裔、だものね。全く、ネシンバラ辺りが好きそうな個人的な背景だよ」

「Jud.――――――以上」

「でも葉月はさ『そんなことより店のメニュー考えるほうが大事』とか言っちゃってて」

「それが葉月様のお人柄なのでしょう――――――以上」

「Jud.出来れば、何も無いまま進めばいいよ」

「ですが、それももう終わりかと。聖譜によれば、そろそろ世界の終わり……末世が近づいているとのことですから――――――以上」

 

そういって、〝武蔵〟は会話を切った。

 

 

 

 

 

「ちなみにさ。建物の被害とかって教導院持ち?」

「既に大工組合から請求が来ています。会計のシロジロ様経由で――――――以上」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

オリオトライは武蔵をつなぐ牽引帯を渡っていると、隣に一人の金髪の少女がやってきたのを確認した。眼鏡をかけて、制服はサイズが大きいのかぶかぶかしている感がある。

 

「あらアデーレ。貴方が一番?」

「Jud.!自分、脚力自慢の従士ですから!」

 

そういうアデーレの手には訓練のために使う刃を潰した従士槍が持たれていた。

二人が牽引帯を渡り終えると、右舷二番艦〝多摩〟に移る。

と、ここでアデーレが仕掛けた。

 

「従士アデーレ・バルフェット。一番槍行きます!」

 

そういうと、彼女の足元に加速用の表示枠(サインフレーム)が現れた。

それにより、加速を得るとアデーレは一直線にオリオトライに特攻した。

 

「はぁっ!」

「直線的よ!」

 

槍を突きの要領で繰り出すが、紙一重であっさりとかわされ、さらには蹴りでアデーレの手から槍が落ちた。

その後ろから、ターバンを巻いたインド系の生徒が来た。

ハッサン・フルブシ。常にカレーを携帯する。その頭上には巨大な皿に盛られたカレーが存在していた。

ハッサンは掲げた特大のカレーを持ってオリオトライに向かっていった。

 

「カレー、どうですカ!」

「ゴメンねー! 今はいいや!!」

 

そういって、突撃したが片手で捕まれたアデーレもろとも吹っ飛ばされた。

 

「ほら! アデーレとハッサンがリタイアしたわよ!」

 

そういうと、地上を走っていたネシンバラが指示を下す。

 

「イトケン君!ネンジ君とで救護して!」

 

ネシンバラの指示に返答しながらハッサンを拾うのは、全裸でにこやかな笑みを浮かべた頭に蝙蝠翼が生えた男だった。

彼の眼下にいる武蔵の住民はやや唖然とした表情でその者を見る。

 

「怪しいものでは御座いません!淫靡な精霊インキュバスの伊藤・健二と申します!」

 

そういって恭しくお辞儀をする伊藤・健二。通称イトケン。

爽やかで好印象なのだが、如何せん全裸である。

すぐに、武蔵住民は窓を閉めた。

が、それをイトケンが気にすることは無い。

一方で、倒れているアデーレの元には一体のオレンジ色のスライムが向かっていた。

彼の名はネンジ。見たとおりの異族で、周りからは「HP3くらいしかないスライム」といわれている。

 

『今向かうぞアデーレ殿っ……』

 

と、そのネンジがぐにゃりと曲がり、やがて飛び散った。

ネンジの頭の上を文字通り踏みつけて、葵・喜美が走っていったのだ。

 

「ごめんねネンジ!悪いと思ってるわ!ええ本当よ!私はいつだって本気よ!」

 

後ろでは、ネンジが飛び散った体を再生させながらイトケンと合流していた。

喜美は一通りネンジへの謝罪を述べる。

と、今度は地上のほうから喜美へと声がかかった。

豊かな銀色の髪を持つ少女。腕章には『第五特務 ネイト・ミトツダイラ』とある。

 

「ちょっと喜美!貴女謝るときはもうちょっと誠意を見せなさいよ!淑女たるもの!!」

「フフフ出たわねこの妖怪説教女!」

「なんですって!」

「にしてもミトツダイラ。アンタ何地べた走ってんの?いつもみたいに鎖でドカンとやりなさいよ。アンタ重戦車系だものね」

「ここら辺は、私の領地なのですよ!それを貴女達ときたら……」

「ククク先生に勝てない女騎士が狼みたいに吠えてるわ!」

「なぁんですってぇ!!」

 

流石に頭にきたのか、今手にしたアデーレの従士槍を投げつけてやろうかと考えてると、後ろから何かが走ってくる気配がした。

そしてそれはすぐに二人と並走した。

 

「おっす。二人とも。朝から元気だな」

「あら葉月。アンタ今まで何やってたの?」

「ちょっと〝浅草〟方面に手伝いに行ってた――――で。これは何? 授業?」

「Jud.〝品川〟につくまでに先生に一撃入れられたら出席点5点プラス、だそうですわ」

「マジ!? よし。ちょっと先に行くぜ!!」

「って、やる気の出しところ間違えてますわよ!」

 

気にするな、と言わんばかりに葉月は軽快に笑う。

ネイトは呆れたようにため息をつく。

 

「大体。葉月は本気、というものが出せないのでしょう。いつまた荷重符の限界時間が来るか分からないですのよ?」

「平気平気。あと四十分くらいは問題ない」

「クククミトツダイラ。そこの杖男の心配はあの乳巫女にやらせておきなさい。かーちゃん気質で乳なんて巫女なのにイヤらしいことこの上ないわね!!」

 

カンッ、と喜美の足元に矢が刺さった。

間一髪、喜美はジャンプしてそれを避けたが、その顔は若干引きつった笑顔になっていた。

 

「フ、フフフ。いいわ、ええもうすごくいいわ! 何がいいって具体的にいえないけどっていうか分からないけどとにかくいいわ! 誰もあのズドン巫女から逃げられないのよ!!」

「葉月。喜美をどうにかする方法ってないんですの」

「怪異の中に放り込んでやればいいんじゃないか――――ああ。分かったから喜美。青ざめた笑顔で気絶しようとするな授業中に」

 

扱いが手馴れている。

葉月が一息はくと、そのまま先頭の集団に向けて屋根伝いに跳躍による移動を重ねていた。

 

「相変わらず人間離れした運動能力ですのね」

「アンタがそれ言う? 鎖でドカンやったり、鉄廃材を持ち上げてバコンやったり、愚弟を掴んでぶん投げたりしてるじゃない」

「に、二番目はやった記憶がありませんのよ!?」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

葉月が前方まで一直線に飛ばすと、そこには背の長剣を手にしたオリオトライと錫杖を構えた神耶が鍔迫り合いをしていた。走りながら。

 

「見つけた!」

 

葉月がそう叫ぶと、背中の杖を抜き放つ。

そして徐々に距離を詰めると、そのまま大上段に振り下ろす。

 

「すんません遅れました! 白百合・葉月、ただいまから授業に参加します!!」

 

が、流石に読まれていたようで途中で長剣で防がれた。

 

「遅刻だよ葉月!〝品川〟に着くまでに来なかったらアンタんとこのメニュータダで食べさせてもらうつもりだったのにさ!!」

「教師なら金払えや!」

「金欠教師に何言うのさ君は!」

 

そのまま弾くと、今度は神耶が攻撃を仕掛けてきた。

それと同時に、体勢を立て直した葉月も即座に仕掛けた。

 

「おっとっと!危ない危ない!」

「チッ! やっぱ避けるか。神耶! 挟撃するぞ!!」

「Jud.Jud.」

「あはは。言うねぇ。でも、そんな簡単には行かせないよ!」

 

葉月の杖が大上段に振られるが、オリオトライはそんな葉月の懐にすかさずもぐりこむ。

が、すぐさま神耶が背後を取り、手にしている錫杖を突き出す。

オリオトライは慌てた様子もなく、身を捻って回避し、回し蹴りを放つ。

流石のオリオトライも、見事に連携の取れた二人を相手にするのは苦戦を強いられるようだった。

しかも後続も追いつきつつあり、尚且つ空からはナイトとナルゼが狙っている。

 

……連携、上手くなったわね。

 

けれども、それで一発食らってやるのは話が違う。

すぐさまその場を離脱した。

 

「他の連中の足止め程度かよ。俺らは」

「まあまあ。でも葉月大丈夫?」

「今のところ平気だ。荷重もただの倍加だし。これが四倍とか言われたら涙目だけどさ」

「うん。まず普通の人間は荷重がいきなり二倍になるの耐えられないから。しかもそれが寝ている最中もとか。拷問だし」

「慣れりゃどうってことないさ」

 

軽く笑い飛ばす葉月を呆れ顔で見る神耶。

〝品川〟はもうすぐだ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

最終的に全員が〝品川〟に到着するころには息も切れ切れだった。

対してオリオトライは息切れはおろか汗すらかいていない。

 

「こーら。遅れてやってきて勝手に寝ない! 生き残っているのは鈴と葉月と神耶だけ?」

「はい?え、と。あの、私、運んでも、らっただ、けです、の、で」

 

確認する声に反応したのは、上半身裸で筋骨隆々の大柄な青年、ペルソナ君を仰いでいる少女、向井・鈴だった。

オリオトライはそれでいいのよ、と頷く。

 

「そういうのがチームワークなんだから。生存三名。救助者も上手くフォローできていたみたいね」

「俺らは遂に一撃当てられなかったな」

「むぅ。折角のデートの権利が……」

「お前妙にやる気あるなと思ったらそれかよ」

 

今度は葉月が神耶に対して呆れ顔。

と、オリオトライの背後で扉の開く音がした。

 

「何だテメェら!ウチの前で遠足かぁ!?」

 

そう怒鳴り声を上げるのは、赤い肌に四本の腕に角。

魔人族だ。

 

「あーらら。魔人族も地に落ちたわねえ。って、今は空にいるのか」

「あン!?」

 

魔人族が威嚇するように声を上げながら進む。

オリオトライもまた、全く怯むことなく長剣を携えて進む。

 

「夜警団から言われてるのよ。シメてくれって。個人的には、先日の〝高尾〟の地上げ覚えてる?」

「あァ?んなのいつものことで覚えてねえな!」

「――理由分からずぶっ飛ばされるほうも大変よねぇ」

「っ、このアマ!」

 

脳の血管が切れるのを感じた魔人族はそのままオリオトライに向かっていった。

オリオトライは特に慌てた様子もなく、生徒達に講義を始める。

 

「じゃあまず先生が見本を見せます。いい?生物には頭蓋があり、脳があるの。頭を強く打てば―――」

 

と、向かってくる魔人族の角を長剣で正確に打った。

すると、魔人族はフラつき、あらぬ方向に転ぶ。

 

「……っ!?」

「脳震盪を起こすの。でも魔人族なんかは回復早いから、そんなときは素早く対角線上を、打つ!」

 

ガンッ、と嫌な音が響き魔人族は地に沈んだ。

 

「はい。これが魔人族の倒し方。じゃあ次は実践ね。誰かやってみてー」

「出来るかあんなことー!」

 

まるで「ちょっとそれ取って」みたいな気軽さでいうオリオトライ。

生徒達は渾身の力でツッコミを入れる。

すると、ヤクザの事務所からもう一人、魔人族が出てきた。

 

「テメェら!兄貴に何しやがる!死ぬ覚悟出来てんだろうなぁ!!」

「はーい。じゃあやってみたい人ー」

「じゃあ、僕が」

 

そういうのは神耶。

神耶が一歩前に出ると、魔人族はいやらしい笑みを浮かべた。

 

「へっ。なんだ。詫びの入れ方分かってんじゃねえか。よぉ嬢ちゃん。こっちで―――」

 

その先は言えなかった。

なぜなら、魔人族が床に叩き伏せられていたからだ。

理由は簡単。神耶が一瞬で相手の頭上を取り、そのまま殴りつけたのだ。

とても細身の体から出る筋力ではないが、それでも魔人族を地に伏せた。

 

「…………あ、は♪」

 

そういって怪しさ全開、危険度K点越えの笑みを魔人族に向ける。

次の瞬間、神耶の蹴りによって魔人族は己の所属する事務所に大穴を開けて突っ込んでいった。

 

「……こんな感じ?」

「そう。そんな感じ」

「やりすぎだッ!!」

 

いくら体が頑丈な魔人族といえど、今のは死んだんじゃないかと思われるくらいだった。

すると、魔人族の事務所が建造物用防壁の表示枠を出した。

 

「あらら。流石に警戒されたか」

「あは。ちょっとテンション上がってきた。先生。ちょっとバラしてきていい?」

「ああ駄目駄目。後々責任取るの私になるもの……ヤるのはバレないようにしなさい」

「そこは殺し自体を止めろよ!!」

 

それを近くで聞いていた葉月は頭が痛くなってきた。

 

「……ねえ、なんでこの二人はこう……破壊思考が強いわけ?」

「葉月君。もう諦めましょう。昔からそうじゃないですか」

「というか神耶殿に至っては、もう少し大人しくすれば絶世の美女なので御座るが――――あ、女でないなら問題ないで御座るな」

「よしドンドン壊せ。修繕費にバレない程度に金を盛り込んで多く取る」

「んもうシロ君ってばお金に貪欲なんだから!」

「小生思いますに。あれはもう小悪魔の領域を超えていると思います。まあ小生は断然小さい子派なのでショタ顔といえど同年代の神耶君は……」

 

とここで太った少年、御広敷・銀次がナルゼとナイトに吹っ飛ばされた。

そろそろ止めるかと葉月が動こうとした瞬間、

 

「あれ?おいおい皆。主役差し置いて何やってんの?」

 

そんな声が聞こえた。

振り向くと、そこには武蔵アリアダスト教導院の制服に身を包み、上の制服に飾り紐をつけた少年が立っていた。

 

「俺、葵・トーリはここにいるぜ!」

 

武蔵アリアダスト教導院所属。現総長兼生徒会長、葵・トーリだった。

 




どうもKoyという名のKyoです。
もういっそKyoでいいかな。にじファンからそう名乗っていたので慣れてしまって。

ようやく馬鹿の登場です。なぜここまで掛かったし……

ちなみに神耶、笑顔な破壊狂です。普段は天使、時々魔王。
でもってみんなのマスコットキャラ。あの同人コンビでさえもネタにはしないという。

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。


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橋の上の待機者達







2013年5月25日。改定


総長。これは軍事担当の総長連合の長である。

生徒会長。これは政治担当の生徒会の長である。

これら二つに就任することは、そう珍しいことでもない。現に、三征西班牙や英国といった諸外国にもこういった事例は存在する。

ただし、この二つの就任の場合『有能な人間』であることが選ばれる前提となる。

 

しかし。この武蔵という国は全くの逆。『最も能力の低い人間が前提』といったものだ。

これにより反抗の意思を削ぎ落とす。

自分達の居場所を自覚しろ、そういわんばかりに。

 

だが、最初は無能な傀儡のようなトップが選ばれていたが、それが次第に芸人気質のトップへと変わっていった。

聖連としては特に問題もなかったためこれを認可し続けていた。

そして、現在の武蔵のトップが葵・トーリ。聖連より与えられた字名(アーバンネーム)は〝不可能男(インポッシブル)〟という男だ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

〝品川〟での騒ぎを聞きつけた武蔵の住人が一斉に声のするほうを見る。

そこには、改造した教導院の制服を着込む少年。葵・トーリの姿があった。

 

「トーリ君……」

「馬鹿がやってきたなぁ――――この混沌としてる状況をさらに終焉に陥れるような馬鹿が……」

 

葉月が頭を抱えるように座り込むと、トーリは葉月を指差す。

 

「おいおい葉月!オメェそう俺のこと馬鹿馬鹿っていうけどな!馬鹿って言うほうが馬鹿なんだぜ!!」

「ならせめて一日一回以上全裸になるのを止めろ。そうしたら考えてやる」

「何だよ葉月!俺の全裸が見たかったのかよ!参ったな俺超人気じゃんか!!」

「どこをどう取ったらそう聞こえるのか甚だ疑問だが――――オイそこの同人屋ネタを拾って書くな俺にそんな趣味は無い!!」

 

トーリの発言を聞いてキラリと目を光らせたナルゼが表示枠越しに何かを書き始めた。

 

「つうか皆どうしたんだよ。やっぱ皆も並んだのかよ!」

「こら君。授業サボって何に並んだって?」

「マジかよ先生! マジで俺の収穫物に興味あるのかよ! 参ったぜ!」

 

そういうとトーリは片脇に抱えた包みから何かを取り出す。

それは、少女の絵が描かれており「R-元服 ぬるはち!」と大きく書かれていた。

葉月はそれを見て若干苦笑いをしていた。

 

「いやーこれ朝からスゲー人気でさ! 初回限定版だからもうSYU☆RA☆BAで危なかったぜ! でもこれで俺はまた一つ大きな山を越えたんだ! これって伝説じゃね? レジェンドじゃね?」

 

堂々と胸を張る。

その頭を葉月が杖で軽く小突く。

 

「授業サボってどうすんだよ。ゲームが欲しけりゃ通販があるだろうが」

「はあ!? バッカだなオメエ。自分の手で手に入れるのがいいんじゃねえか!」

 

これだから素人は、みたいな目でやれやれとジャスチャーをする。

と、それに便乗する二人がいた。

点蔵とウルキアガだ。

 

「左様。あの待ちに待った時が来たッ、と言わんばかりの瞬間。その目的のものをこの手にGetしたあの高揚感。アレは通販などでは味わえぬもので御座る」

「如何にも。アレこそまさに宝を手にした瞬間という奴だ。つまり拙僧たちはトレジャーハンターなのだ。この意味、分かるな?」

「全っ然分からねえし、分かりたくもないよ馬鹿」

「フッ。まだまだだな。嘆かわしいことだ」

 

とりあえず二人まとめて拳骨を入れて地面に沈めた。

そんなことはお構いなしとばかりにトーリは買ってきたパンの最後の一かけらを放り込む。

 

「あ、そうそう。皆にはもう前からいってあると思うけど―――俺、明日コクるわ」

 

突然そんなことを言った。

その言葉に、姉である喜美が反応した。

 

「フフフ愚弟。授業に遅れてコクりの予告なんて。エロゲの包み持ってる人間の台詞じゃないわね――――――コクる相手が画面の向こうにいるんじゃコンセントにチ○コ挿し込んで痺れ死ぬといいわ素敵!!」

「おいおい姉ちゃん。いい空気吸ってんなぁ」

「……で、トーリ。相手は誰?」

「おっ。神耶気になる?」

「うん。だって――――トーリが告白した後、その子泣いちゃうかもしれないから。主に変態に告白されたってトラウマから」

「あー。それはあるな。よしトーリ。その相手の名前を言え。カウンセラー誰か知らないか?」

「お、オメエらマジで容赦ねえな」

 

そういうと、一息入れてトーリは言う。

 

「ホライゾンだよ」

 

その瞬間、全員の空気が止まった。

先ほどまで、本気か冗談か分からない会話を繰り広げていた葉月と神耶も口をつむぐ。

再び喜美が苦笑交じりにトーリに言う。

 

「馬鹿ね。あの子はもう十年前に死んだじゃない。墓碑だって、父さん達が作ったじゃない。アンタの嫌いなあの〝後悔通り〟で」

「分かってるって。もうそのことから逃げねえよ」

 

ただ、とトーリは区切る。

 

「コクった後、皆に迷惑かけるかもしんねえ。俺、何も出来ねえしな」

「フフ、じゃあ愚弟。今日は最後の普通の日?それで準備の日?」

「安心しなよ姉ちゃん。俺、何も出来ねえけど高望みだけは忘れねえから」

「…………とりあえずトーリ」

「おっ、何だよ神耶。お前も興味あんのエロゲ? それとも応援してくれんの?」

 

そういって笑顔で神耶に近づくトーリ。

……神耶がひっそりと拳を握っていることに気づかず。

案の定、トーリは無言で神耶に吹っ飛ばされた。

そのままトーリは吹っ飛び、ヤクザの事務所に大穴を開けながらさらに後ろの倉庫へとめり込んでいった。

 

「――――神耶駄目よー。私がぶっ飛ばそうとしたんだから」

「アンタも同類かよ!!」

 

神耶を諌めるかと思いきや自分がやりたいとのたまったオリオトライ。

周りにいたってはもう見慣れた光景なのかやれやれといった具合に解散を始めていた。

葉月はため息をつきながら、とりあえずトーリの回収でもしようかと考えたそのとき、

 

「あ、ヤベッ……」

 

葉月が急に膝をつき、その場に座り込んでしまった。

 

「荷重符の限界時間?」

「Jud.先生ー。ちょいと休んでから行きますー」

「Jud.じゃあ皆。教室帰ったら座学ね」

「Jud.!」

 

そういって葉月――それとトーリを残して、梅組は来た道を戻る。

葉月が仰向けに寝転がると、一人の少女が葉月に近づく。

浅間だ。

 

「あの、葉月君大丈夫ですか?」

「あー、へーき。いつものことさ」

 

そういって葉月はひらひらと手を振る。

荷重符。使用者に一定の付加をかけ、それによる肉体の強化を目的とした鍛錬のための符。

ただし、葉月のは少し特殊で、疲労を常人より遥かに多く受けてしまう。

この間なんかは普通に道を歩いていただけで時間が来て息切れを起こし、たまたま傍を通りかかった堕天墜天に自身が経営する喫茶店の無料券と引き換えに送ってもらったほどだ。

故に葉月はいつも必要最小限の動きを心がけながら生活している。幸い、疲労が来る限界時間についてはこちらで設定が出来るため、そこだけが唯一の救いだ。そのおかげで、喫茶店の開店中は問題なかった。

そんな葉月を、浅間は心配するように声を掛ける。

 

「辛かったら言ってください。疲労軽減の禊も出来ますから」

「Jud.でもいいさ。それに禊なんてやったら聖連に何言われるか……」

 

そうして大の字になる葉月。

ちょうど、神耶に吹っ飛ばされたトーリが戻ってきた。

 

「イテテ……神耶ってマジで人間辞めてるんじゃねえの?そこんとこどうよ浅間に葉月」

「いやあの。神耶君は単に先生と同じリアルアマゾネスなだけで人間辞めてるわけではないと思いますが」

「浅間。それ結局同じ意味だから。あとトーリ。よくあの状況でエロゲを守れたな」

「エロゲの前なら俺は無敵化するんだぜ? 知らなかったのかよ葉月!」

「その行動力を、何でもっとほかの事に生かせないんだよ……」

 

なんか疲労さらに増えた気がする、と葉月は心の中でぼやく。

 

「んじゃ俺先に行ってるから。ああもう早く家に帰ってやりたいぜー! あ、アンケートも書かねえと! うおぉぉ、俺の益荒男ゲージが溜まるぜ!」

 

そういって、トーリも教導院の方に向かう。

残されたのは、浅間と葉月。

 

「……お前も帰れば?」

「え、いや、その」

「大丈夫。後から追いつくって」

「…………ちゃんと来て下さいね?」

 

そういって、浅間もトーリの後を追う。

残された葉月は空を見つめる。

ゆっくりと雲が流れ、鳥の囀りも聞こえてきそうだった。

 

「…………空、青いなぁ」

 

呟きながら、先ほどのトーリの発言を思い出す。

 

「ホライゾン、か」

 

葉月の脳裏に思い出されるのは、黒髪の少女。

いつもどこか一線を引きつつも、トーリとだけは素で接していた少女。

 

「もう、十年か」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

その後、葉月がようやく荷重符の疲労が取れ教導院に戻ると、向こうから二人、やってきた。

一人は、黒髪を後ろで一つに縛っている少年。

もう一人は、杖を持ち王冠を被っている西洋系の男性。

帝の子息、東とこの武蔵を統べる武蔵王にして武蔵アリアダスト教導院の教頭をしているヨシナオだった。

 

「むっ。葉月君、遅刻かね?」

「あー。まあそんなもんです。体育の授業中に荷重符が来まして」

「ああ、なるほど」

「やあ白百合君。久しぶり」

「おう。ようやく全員揃ったな」

 

葉月が微笑んだその瞬間、梅組から歓声のような大声が聞こえた。

 

「な、何であるか一体!」

 

ガラッ、と扉を開けるヨシナオ。

するとそこには、全裸のトーリが教卓の上に立っていた。

それに気づいたオリオトライはすぐさま扉を閉め、中では何かを破砕する音が聞こえてくる。

心なしか、隣のクラスの担任、三要・光紀の悲鳴もセットで聞こえてきた。

東は乾いた笑いを浮かべる。

 

「ごめん。なんか疲れてるのか、全裸の葵君が見えたんだけど」

「大丈夫だ。お前の目は正常だ――――――そしてこのクラスも正常だ。他のクラスにしたら異常なんだろうが」

 

と、扉が開き、中から冷や汗を浮かべつつ愛想笑い張り付けたオリオトライが出てきた。

 

「ああどうも教頭! あ、東はあとで部屋割りするから教員室ね!」

 

そういいながら、オリオトライは隣のクラスに入っていく。

隣のクラスの担任で、オリオトライの後輩である三要は未だに悲鳴を上げていて、それをオリオトライが宥めている声が聞こえてきた。ついでに再び破砕音と、トーリのような何かの悲鳴も。

 

「……ヨシナオ教頭」

「……なんであるか」

「こんなクラスでスイマセン」

「いやいいのだ。君はよくやっていると私は思っている。頑張りたまえ」

 

そういって、ヨシナオはそそくさとその場を離れる。

目頭を押さえながら、葉月はその場に膝を着く。

 

「東。頼むからお前はああなるなよ。神耶が泣く」

「あ、うん。よく分からないけど分かったよ」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『準バハムート級航空艦〝武蔵〟が、三河に着港しました』

 

そんな艦内アナウンスが流れる。

極東にて唯一自治が許されている土地。それが三河だ。

松平・元信が治め、武蔵では許されていない武装を持った三河警備隊が存在する都市。

 

だが基本的に、武蔵の住民が三河に下りることは出来ない。

物資の輸送などの一部例外を除いてだが。

トーリたちも三河には降りず、むしろ明日のトーリの告白の方が気になるようで、教導院前の橋で対策会議が設けられていた。

 

「はい。じゃあ本日の議題は『葵君の告白を成功させるゾ』会議です。では葵君。どうぞ」

「なあ点蔵。告白ってどうやるの? お前回数だけはこなしてんだろ? 回数だけは」

「いきなり自分の半生を全否定で御座るか!?」

 

まあまあと、トーリにどうすればいいか聞かれる。

トーリの言葉にまだ納得できない部分はあるといった顔だが、点蔵は懐から筆記具を取り出し、トーリに手渡す。

 

「トーリ殿は告白初心者故。ここは無難に手紙作戦などいかがで御座ろう」

「ほえ? 手帳と、ペン?」

「Jud.前もってコクりたい内容を紙に書くので御座る。それを渡せば相手も即答しなくてすむといった気遣いが充分に――――」

「オメエそれやって失敗してんだろ? 大丈夫かよそんなんで」

「聞いておいてそれで御座るか!?」

 

愕然とする点蔵。この中では一番告白の回数は多いが、ここぞというときに失敗するため経験も豊富だ。

すると、喜美が会話に加わってきた。

 

「まあエロゲ犬忍者にしては方法はいいわね――――方法だ・け・わ」

「おいおい姉ちゃん! 点蔵のこと悪く言うなよ! 確かに犬臭くて語尾に「ゴザル」つけてキャラ付け狙っても結局地味なのか派手なのかよく分からねえキャラになっちまった中途半端キャラだけどよ!」

「本当にこの姉弟最悪で御座るよ!!」

「今に始まったことじゃないだろ。諦めろ点蔵」

 

落ち込む点蔵に対しやや哀れみのこもった声をかける葉月

そんな点蔵を無視してペンを持ってトーリは考え込む。

 

「んー。でもさ。好きとか嫌いってうまく言葉に出来る自信ねえなぁ」

 

そういって手帳に書き込んでいく。

 

『顔がすごく好みで上手く言葉に出来ない』

『インナーがパンツみたいに見えて上手く言葉に出来ない』

『腰のラインがすごく好みで上手く言葉に出来ない』

 

ここで、一度ペンを休める。

 

「んー。やっぱり難しいな」

「随分すらすらと書いてるで御座るよ! しかも即物的!!」

「待て待て待て」

 

そう待ったをかけたのは、白く大きな体躯の航空系半竜。ウルキアガだ。

 

「トーリの好意には不可解な点がある。――――――貴様。オッパイ県民の癖に相手の胸への言及がないのはなぜだ?」

 

その言葉に、一同改めて気づく。

 

「いつも連呼しているトーリ君が……」

「実は好きな相手にはヘタレ?」

 

そう囁く声が聞こえる中、トーリはカッと眼を見開き再び書き始めた。

 

「オッパイは 揉んでみないと 分からない…………季語どうしよ」

「ハァ……」

 

結局、馬鹿は馬鹿のままということだ。

ふと、トーリは後ろを振り向いて葉月に言う。

 

「そうだ。葉月も試しに書いてみてくれよ。それ参考にするから」

「待てオイ。何故俺を巻き込む」

「バッカオメェ。巻き込んでねえよ!ただオメェの好みがどんなんか気になるだけだよ」

「それを巻き込んでるっていうんだ」

 

葉月がそう返すと、今度は喜美が乗ってきた。

 

「フフフ。葉月。アンタ色々愚弟に言うけど、まさか自分の好みも書けないの?愚弟以上の愚かさよ!」

「うっせえ喜美。こんなん書いて誰が得するんだよ」

 

鼻で笑う葉月だが、その後ろで小さく手が上がった。

浅間だ。その顔には「私、興味あります!」といったことがありありと書かれていた。

だが葉月からは当然見えず、隣にいたナイトとナルゼが葉月に書くよう促す。

 

「まあとりあえず書いてみなよハヅっち。ちょっと興味あるから」

「書かないと、アンタが実は男色趣味っていうことで今後の同人誌は書くわ」

「ははは。んなことしてみろ……神耶向かわせるぞ」

 

その瞬間、ゾクッという謎の寒気に襲われたナルゼ。

だが周りを見渡しても妙な気配を出しているものはおらず、ましてや言葉に出てきた神耶も今はオリオトライと一緒に食堂にいるはずだった。

 

「ったく。まあ同性愛趣味と思われんのもイヤだし。えーと――――」

 

そういって、ペンを片手に書き始めた。

 

『家庭的な女性』

『常に周りを見渡して気配りできる女性』

『髪の長い女性』

 

「……こんなところか」

「バッカオメエ何真面目に書いてんだよ! ここは『巨乳! 巨乳がいい!!』とか書くべきだろ!!」

「誰もがテメェみてーな頭してねえんだよ。あと俺に書けって言っておいてその言い草はなんだよ」

「クククこの女子力男。そこらの女より料理上手いくせに自分より料理上手い女捜してどうすんのよ」

「だーからただの一例だって。実際好きになった人からの料理とか食ってみたいだろう」

「おおっと! 珍しくハヅっち素直だね! もう一回言って! 録音して売るから」

「本当にブレないよなあハイディも。あと言わねえよ? そして俺はいつも素直だろうが」

 

口惜しそうに渋々座りなおすハイディ。

と、ナイトが手を上げる。

 

「ナイちゃん思うに。アサマチとかどう? 家事全般上手だと思うし」

「そうね。髪も長いし――――二番目が当てはまってるかどうかは甚だ疑問だけど」

「な、なんでですか!? 自分で言うのもなんですけど、私他の人より精神年齢は高いほうですよ!」

「クククさり気無く自分をアピールしたわね。いいわよ浅間。ナイス根性!」

「ちち、違いますよ! そ、そういう意味で言ったんじゃなくてですね――――」

 

弁解しながら浅間はちら、と葉月を見る。

葉月はしばらく手帳を見つめ、やがて持っていた手帳とペンをトーリに渡す。

 

「まああくまで一例だ。手紙で渡すにしろ直接言うにしろ。お前の偽らざる気持ちが大切だろ」

「真面目だなあ。ボケが入らねえよ」

「お前はいつも馬鹿やってるだろ。だったら一生一度くらい、死ぬ気でマジになってコクってみろよ。案外上手くいくかもだぜ」

「うんうん。さり気無く会話から外そうとしているけど、アサマチはどうなのかなハヅっち?」

「いや。別に話を逸らしているわけじゃないんだがな。それで。えーと何。浅間はどうなのかって?」

「そうそう。そこんところ実に聞きたいから。あと音声を売りたいから」

「本音を隠せ商人――――どうも何も。幼馴染だろ」

 

しれっと答える葉月。

周りはあー、といったなにやら呆れたような雰囲気。すぐ後に浅間に生暖かい視線を送る。

 

「……たまにわざとやってるんじゃないかって思うわよね」

「アレが俗に言うDON☆KANという奴なので御座ろうな」

「だ、大丈夫ですよ! 浅間さんならいい人すぐに見つかりますって!」

「すぐ矢を射る性癖あるけど?」

「…………ファイトです!」

「というか性癖ってなんですか!? 私そんな特殊なもの持ってませんよ! 私は矢を撃つことが好きなんじゃなくて。的に当てるのが好きなんです!」

「お前考えて喋れよ!!」

 

あれどこで間違えましたかね?

すると、後ろから声がする。

 

「こんなところで何をやってますの?」

 

ネイトだった。

呆れ顔で一同を見る。その後ろには学長の酒井の姿も見える。

 

「あらミトツダイラ。酒井学長と三河に降りるの?」

「いえ。ただ降りる際の書類手続き等で一緒になっただけですわ」

「学長先生三河に行くのかよ。よく許可降りたなー」

「ははっ。まあ昔の仲間からお呼びがかかってね。それより聞いたぞ。お前さんコクるんだってな。誰だい? そんな危険な行為に及ぶ相手ってのは」

「あり? 聞いてないの? ――――――ホライゾンだよ」

 

そういうと、酒井は空を仰ぐ。

 

「あの子かぁ……あれ。やっぱお前さんもそう思う?」

「学長先生だってそうだろ?」

「そりゃぁ……でも他人の空似ってことも」

「分かってるって。ただ、あの子がホライゾンでなくてもさ。何でも出来ねえ俺だけど、一緒にいてくれねえかなぁ、って」

「いつ思った?」

「今朝だよ」

 

そういうトーリはしっかりと前を見つめる。

否、正確にはある方面、〝後悔通り〟だ。

 

「明日で十年なんだ。ホライゾンがいなくなってから。そしたら自然とそう思えてさ」

「そうか。じゃあ、頑張りな」

 

その後、正純と合流する酒井に対しトーリは今日午後八時に教導院で騒ぐが来れるかどうか聞いて欲しいということ、シロジロが三河の流通を見てきて欲しいということを頼んだ。

 

「Jud.Jud.んじゃ。行ってくる――――っとそうだ。葉月」

「……? 何です?」

「俺の昔の仲間からの伝言があるんだ」

「伝言?」

 

葉月は首をかしげる。

酒井・忠次の仲間。そう考えてパッと出るのは、松平四天王と呼ばれる者たち。

それぞれ、本田・忠勝。酒井・忠次。井伊・直政。榊原・康政の四人。当然、葉月は面識などあるはずもなく、あったとしても相当昔のことなので覚えてもいない。

そんな人物から自分に伝言とは。

 

「なんて伝言です?」

「ただ一言。『迎えてやれ』だってさ」

 

そう意味ありげに笑う酒井。葉月はそれを聞いて一瞬言葉の意味を探り、やがて気づいたように頷く。

 

「Jud.美味い飯たくさん作って待ってます。って返しておいてください」

「Jud.お前さんの料理は美味いからねえ」

 

そういって、酒井は立ち去っていった。

葉月の顔には、嬉しそうな、けれどどこか複雑そうな表情を浮かべていた。

周りは集まって話し合う。

 

「……アレ。絶対に女よ女。間違いないわ」

「姉ちゃん姉ちゃん。その自信がどっから来るのか毎回分からねえけど、今回は俺も同意するぜ」

「一体何人の女性を落とせば気が済むので御座るか……ッ」

「泣くな点蔵。アレはああいうものなのだ。どうせそのうち女に多数に囲まれ背後から刺されるのがオチだ。その時、拙僧はこう言おう――――nice Musashi、と」

「智。強く、生きるんですのよ」

「な、何がですか? べ、別に私は気にしてな、なんかいませんよ」

 

一同を見ながら浅間は言うが、その顔には不安が隠れずにいた。

とりあえず。一同は葉月に向き直る。

 

「この節操無しめ」

「いやその理屈はおかしい。大体。これ。トーリの告白のための会議だろうに。俺のことを話題にするならトーリの事を考えてやれ」

「白百合君。やる前から100%結果が見えてることをあーだこーだ話し合うのって時間と酸素の無駄だと思わないかい?」

「こ、コイツ俺が失敗する前提で話してやがるな! よーし。俺が全力出したらすげえってところ見せてやるぜ!」

 

自信満々にトーリは宣言する。

そこで、ネイトに頼んだ辺りから葉月は「あ、これ終わったな」そう確信した。

その十数秒後。ネイトの胸を揉んでトーリが吹っ飛ばされた。

 

「うん。やっぱお前は底抜けの馬鹿だよトーリ」

「れ、冷静に言うけどな一つ俺から言わせて貰うぞ!…………抜けなくなっちったテヘッ!」

「なあ。コイツ殺していいよな?いいよな!?」

「おいおいおい結論早ぇだろ!あ、ちょっ浅間お前何葉月に言われるがまま弓構えんだよ!え?穢れを祓うために?いやいや俺が穢れだって証拠がどこにあるんだよ!言っとくけどな…………他の皆の方がヨゴレてんだぞ!!」

「お前にだけは言われたくねえよ!!」

 

教導院に埋まったトーリがズドンされ、さらに奥深くに埋まったのは言うまでもない。

 




どうもKyoです。
もうKyoで行きます。

ちなみに私は男性キャラならノリキ、女性キャラなら浅間がダントツで好きですね。
次点では、男性キャラはペルソナ君。女性キャラは誾さんですね。

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。


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月夜の集合者達








2013年6月20日。改定。


 

不知火・神耶は寮生活者だ。

アリアダスト教導院の寮に一人で住んでいる。故に、寮生とはそれなりに仲が良く、時折神耶にお菓子をプレゼントする生徒もいる。

餌付けされている感じをひしひしと感じながら、神耶はある部屋の戸をノックする。

西洋式の遣り戸だった。

中から返事を貰うと、神耶はそのまま入る。

 

「やあ。これが今日の分のノートだよ。ミリアム」

「ええ。いつもありがとう神耶」

 

そこにいたのは、車椅子に乗った金髪の少女。

ミリム・ポークウ。梅組の生徒だ。

ただ、教室には来れず、在宅授業になっている。

ノートを神耶から受け取ると、ミリアムは少し訊ねた。

 

「ねえ神耶。さっき来た子なんだけど。知ってる? こう、長い黒髪で、ちょっと女っぽい顔してる……」

「ああ。東ね。そっか。一緒の部屋になったんだ」

「東、っていうのね。あの子」

「うん。梅組になんでいるんだろうっていうタイプだから」

 

へえ。ミリアムは考える。

あのクラスはどう控えめに見ても変態と馬鹿と外道の集まりだ。この武蔵に外道が多いことを除いても、あのクラスの濃さはハンパない。ひょっとしたら武蔵の外道成分を濃縮したのがあのクラスメイトたちなのではないかと疑ってしまうほどに。

まともといえる人物もいるにはいるが、どうにも頭のネジがどこか外れてしまっている。

そんな外道集大成のクラスに、神耶曰く常識人が来るとは――――

 

「いつかネタにされるわね」

「真っ先にそういう結論が出てくる辺りミリアムも大概だと思うけどね」

 

しまった。つい本音が……

そう思ったが、目の前の相手は武蔵の中でもトップの純粋人なので問題なし。

……まあ、良くも悪くも。だけど。

 

「でも男と女。一つ屋根の下って。何考えてるんだろうね」

「あの子はそういうことする人?」

「ううん。全然」

「じゃあ問題ないわ」

 

まず自分に会って部屋を間違えた、といって即座に出て行く。そしておそらく今は部屋割りを変えてもらうように頼み込んでいるだろう。

まあ彼の評価が後々自分が決めればいい。

 

「ありがとね神耶」

「どういたしまして。でも多分今日で最後じゃないかな。これからは東に頼むといいよ」

「ええ。考えておくわ」

「じゃあね」

 

そういって神耶は部屋を後にした。

しばらくしてからふと。立ち止まる。

 

「……そういえば。東が東宮だって、知ってるのかな」

 

まあ一緒の部屋になるし。どうせ東から切り出すか。

神耶は自分の部屋へと戻る。その際、他の生徒達からお菓子などを腕に抱えるほど貰って幸せ顔だったのを、偶然そこを通りがかった自動人形〝奥多摩〟が撮影していたのは知る由もない。

 

『フフフ、羨ましいですか皆様――――――以上』

『ぐぬぬ。しかし。神耶様の行動範囲は広いですので。私のところにも来る可能性はあります――――――以上』

『何故、何故私は〝奥多摩〟ではなく〝青梅〟の担当なのですか……――――――以上』

『総員。仕事に専念してください――――――以上』

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

トーリが吹っ飛ばされた後、皆は告白前夜祭ということで今夜教導院にて幽霊探しをするということで、明日の分と今日の分の食材を買っていた。

さて。ここで白百合・葉月について触れておこう。

 

白百合・葉月。現在年齢は17歳。過去に武蔵から離れていた時期があるが、現在は武蔵在住。親が経営していた喫茶店『MAHORA』を継いでいる。

それもあって、料理の腕は誰もが認めるところとなっており。葵・トーリがバイト兼店長を務める店『青雷亭』と双璧を成している。〝多摩〟にある『青雷亭』も有名だが、学生が店主をやっているという点でこの二店舗が上がる。

 

葉月は自宅兼喫茶店の厨房に入る。

その姿はいつもの制服や私服ではなく、料理人らしくシェフコートとサロンに身を包んでいる。目の前には、先日仕入れたばかりの良質の牛肉が置いてあった。

葉月がいつものように手を洗い、器具を洗い、そして調理に取り掛かる。

薄く均等に牛肉を切っていく。その隣では、水の入った鍋が湯に変わろうとしていた。

しばらくすると湯が沸き、そのまま肉を湯に通す。数秒泳がせるとすぐに取り出して氷水の入っているボウルに突っ込む。

葉月はすぐさま次の工程にとりかかる。

用意していた野菜を水洗いし、食べやすい大きさに切り、時には千切っていく。

盛り付けようのボウルに野菜を放り込み、先ほど湯通しした肉を同じく入れる。

最後に。葉月は自製の胡麻ベースのドレッシングをかけ、よく混ぜる。

 

「……よしっ」

 

かなり簡単なものだが、夜に食べるものなのだ。そんなに胃に重いものを作っていく必要もないだろう。

葉月はクラスメイトから集めたメモを見ながら、そのまま次の作業に取り掛かる。

 

「えーっと何々――――全員量多めって何だよ! 俺が聞きたかったのは何が食いたいかって話だよ!! つうかアイツらマジで容赦ねえな! 量多めってドンだけ時間掛かると思ってんだよ!! あと材料費も馬鹿にならねえんだよ!!」

 

思わずメモを地面に叩き付けそうになる。先ほど作ったサラダでも足りるかどうか分からない。というかまず間違いなく足りない。

まあ確かに梅組にはエンゲル係数高い連中が跋扈しているが。

はあ、と一際大きくため息をつく。

 

「……アデーレは好き嫌いないし。ナイト・ナルゼはそれなりに肉挟んだモノがいいよな。点蔵とウッキー――――まあ肉系統か。男だし。って喜美のこれは……太らなくて美味い物って。欲張りすぎだろ」

 

ややげんなりしながらも葉月は調理に取り掛かる。

ふと、メモを見ながら葉月は気づいた。

 

「……浅間と向井のがないな」

 

……書き忘れたのかな。

そう思って葉月は一度厨房を出て自室で着替え外に出て行った。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

〝多摩〟商店街。

武蔵住人もよく利用する店なんかは、ここに集中している。

その商店街にひときわ目立つ集団がいた。

誰もが両腕一杯に買い物袋を持ち、その袋は積載量限界にまで膨れ上がっていた。

 

「流石に。ちと買いすぎたかね?」

 

そう話すは片腕義腕。口に煙管を加えている直政。

それにアデーレが頷く。

 

「白百合さんも、今日はお店を閉じて軽食を作ってくるって言ってましたからねー」

「は、葉月、君の料理。美味し、い、もんね」

 

アデーレの言葉に同意するは、前髪で目が隠れている盲目の少女。向井・鈴。

武蔵の中でもトップクラスの癒しの存在である。

 

「鈴さんは何かリクエストしました?」

「え、う、ううん。何も、して、ないよ?」

「なんだい。折角だから色々作らせてやりゃいいのに。葉月は鈴に甘いからねえ――――おっと。もう一人いたさね。アサマチ」

「な、なんですかマサ」

 

そして、三人の先頭を行くのは長い黒髪の少女。浅間・智。

直政はにやけつつ、話す。

 

「何かあったんですか?」

「ああ。アデーレは知んなかったね。この間。ひな祭りでアイツ、浅間神社にチラシ寿司を持っていってねえ。そのとき受け取ったのがアサマチなんだが。その時のにやけ顔がねえ」

「ぶっ! な、なんですかそれどこから、っていうか誰から……ッ!?」

「トーリと喜美が葉月の後つけてこっそり盗み見ていた」

 

あの外道姉弟……ッ!

幼馴染の付き合いでよく知っている。あの二人の変なところで発揮される行動力を。

そしてそれの被害は主に自分に来ることを。

一度脳内を禊したほうがいいかもしれませんね。ええ。ズドンです。

 

「あ、あのですね。別ににやけてませんよ? ただ葉月君の作る料理はどれも美味しいので頬が緩んでしまったんです。皆さんもあるでしょうそういうこと」

 

当たり障りのないことを言って会話を逸らそうとする。

……完璧です私。

 

「……巫女が食欲旺盛ってどうなんさね。太って葉月に嫌われないようにしな」

「そっち!? そっち行きますか!?」

 

まさかの誤爆。ついでの心を抉るような一撃。これぞ会心の一撃。こちらにとっては全然嬉しくないことである。

直政は呆れ気味に、アデーレは何故か恨みがましそうに、鈴は……あまり表情は分からないがおそらくこちらを心配しているのだろう。やはり天使だ。

 

「よう。ここにいたのかお前ら」

 

と、後ろから聞き覚えのある声。

浅間はまるで壊れた機械のようにゆっくりと後ろを振り返ると、そこには件の白百合・葉月がこちらに来ていた。

 

「ちちちち、違いますよ!? 別にあれが美味しくて八割方自分で食べちゃったとかそんなことないですからね葉月君!!」

「ゴメン浅間。何を言ってるのか分からないんだが」

 

しまった。結論が早すぎましたか。

 

「あのですね。白百合さんが浅間さんにこの間――――」

「それよりどうしたんですか葉月君こんなところまで!!」

 

聞かれたくないことの答えを率先して答えようとするアデーレを牽制するかのごとく、まさに電光石火の速さでそれを遮った。

 

「ん? いや。お前と向井。何食いたいかの希望書いてないだろ。書き忘れかと思ってな」

「あー。成程」

「さて。ではお二人さん。何かご希望は御座いますか?」

 

そういって、メモ帳とコークスペンを取り出す葉月。

その姿はまるで、というか注文をとるウェイターだ。

 

「……完全に接客モードさね」

「これが地だ」

「ええっと。無理しなくていいですよ? 他の皆の分もありますし」

「う、うん。私は、何でも、いいよ?」

「んー。それはそれで結構悩むオーダーなんだがなー」

 

苦笑しながらメモをしまう。

 

「ああ。そうだ葉月。暇ならアサマチの荷物持ってやりな。男なんだからそれくらいはしなよ」

「ちょっ、マサ何を……ッ!?」

「俺、まだ調理の途中なんだが……まあいいか」

 

そういうと、葉月は浅間の持っている荷物を一つ取る。

慌てて浅間が荷物を取り返そうとするが、葉月に止められる。

 

「い、いいですよ! 私持てますから! 伊達に巫女名乗ってません!!」

「巫女と関係あるのか、コレ」

「いえその。は、葉月君に迷惑かけるわけには……」

「この程度軽い軽い。別に構わないさ」

「んじゃあそのまま『青雷亭』まで行くさね」

「Jud.」

「すいません本当に……」

「そんな謝るなって」

 

葉月は苦笑しながら浅間の隣に立つ。

浅間もまんざらではなさそうにやや頬を緩ませる。

そして――――残りの三人は二人の五歩くらい後を歩いていた。

 

「……あれ。完全に夫婦ですよね」

「言わないでやりなアデーレ。本人たち、特に葉月の方は自覚ゼロなのさ」

「夫婦で、お買い、もの?」

「はいはい! 聞こえてますからね!?」

 

あ、でも鈴さんの台詞はちょっと良かったです。

その後、葉月は『青雷亭』まで荷物を届け、向こうからやってきた別グループと合流したあと、店の仕込みで帰っていった。

無論、葉月と浅間が並んで歩いていたことに関して、思い切り弄られたが。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

夜。

クラス全員分の料理を作り終え、バスケットを持った葉月が教導院に着くと、そこには既に梅組のクラスメイトが揃っていた。

 

「ん? 俺が最後?」

「いや。まだ来ていない奴もいる」

 

そうシロジロが表示枠を見ながらそういう。

葉月はそうか、と返事をしながら持ってきた大量のバスケットを全員の前に出した。

その途端、全員の顔つきが変わる。

 

「……なあ。材料費。経費ってことで落ちないか?」

「一応、生徒会活動の一環として行っているから問題はないだろう」

「でもあまり高いとダメだよー?」

「お前らが量多めって言ったからだろうが。夕飯くらい済ませて来い」

「他はどうか知らんが我々は違うぞ――――きっちり保存して売る」

「お前らー。コイツらの分も食っていいぞー」

 

葉月が言うと、皆一様に目の色が変わる。慌てたハイディがその中に入り自分とシロジロの分を確保すべく掻き分ける。

 

「あと来てないのって誰だ?」

「ああ。東が少し遅れるそうだ。ミリアム・ポークウは無理。ミトツダイラは夜間外出禁止で無理」

「そうか。となると――――」

「今来ていないのは神耶と正純。そして言いだしっぺのあの馬鹿だ」

「正純は多分来ないだろうな。まだ皆とどう接していいか分からんみたいだし」

「となると。あとは神耶とあの馬鹿待ちか」

 

そういいながら葉月の作った軽食を食べるシロジロ。

葉月は全員を見渡しながらふと、呟く。

 

「そういや。座敷わらしとかって、こういう多人数の時に湧くんだっけ?」

 

直後、喜美が低カロリーのフルーツサンドを食べながら気絶した。

 

「あ、あの葉月君。喜美が怖い話苦手なの知ってるんですから。もう少し手加減をしましょう?」

「いや。まさかこの程度でぶっ倒れるとは思わなかった」

「うわー。綺麗に白目剥いてる」

 

ナイトが喜美の状態を確認しながら言った。

とりあえず頬でも引っ張って起こそうかと考えたその時、校舎の扉が思い切り開け放たれた。

 

「オッケー遅れた!! っておいおいおい! なんだよ皆! 主役を差し置いてよ!」

「ああ。悪いなトーリ。お前が来るのが遅かったからな。ちなみにもうない」

「こ、コイツ悪びれる様子が一切ねえな!?」

 

葉月はトーリに空になったバスケットを見せる。

 

「つーかトーリ。お前校舎から出てくるって――――何を仕込んできた」

「ああ!? お、オメエはそうやってすぐに俺を疑う!! そういうのいけないと思います!!」

「今までのお前の行動を思い出してみろ馬鹿野郎」

 

葉月はため息をつきながら、別に持ってきた小さなバスケットを取り出す。

 

「ほら。これやるから。食ったら始めるぞ」

「なんだよー。ちゃんとあるじゃんか。もう葉月のツ・ン・デ・レ・さん!」

「今ここでぶっ殺されるのと後で殺されるの。どっちがいい?」

「む、無表情で聞いてくるなよコエーんだよ!! あ、ちょ、やめ、あひん」

 

トーリはしなを作りながら葉月が突き出す杖を避けていた。

無論、トーリは夜食にはありつけなかった。

 




どうもKyoです。

自動人形たちェ……なんでこうなったんだろう。

私が書くとクールなキャラが変貌する不思議。

次回は出来れば三河のところまで書きたいです。

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。


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学舎の探索者達








2013年。7月8日改定。


さて。

トーリが泣く泣く葉月の夜食を諦めさせられて。幽霊探しが始まった。

前もってトーリが作っていた籤による組み合わせは、

 

東・トーリ・シロジロ・ハイディ

 

浅間・直政・アデーレ・鈴

 

葉月・ペルソナ・ネシンバラ・喜美

 

点蔵・ウルキアガ・ナイト・ナルゼ

 

イトケン・ネンジ

 

となった。

残ったハッサン・御広敷・ノリキはカレー作成班に回った。(ノリキは御広敷がロリコン罪で捕まらないように念のための見張り)

それぞれの階を担当し、終わったら外に出てくると言う単純なもの。

だが、あのトーリが主催で仕込みなのだ。

絶対に何かある。そう全員の脳裏によぎったのだ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「よし!」

「いやよし、じゃないですよ!?」

 

ここは浅間を筆頭にした除霊組。

今しがた、廊下の奥に浅間が何かを感知して矢を射ったところだった。

矢に当たった何かは光を残して消え去った。

 

「……いつも思うんですけど。何で撃つときはあんなにハキハキしているのに。白百合さんの前だとあんなになるんですかね?」

「アレでもまだアサマチが女だってことだろうさ――――辛うじて、な」

「なん、か。可哀想……」

 

……なんか一発撃っただけでこの言われようなんですが。あとマサ。辛うじてってなんですか辛うじてって。自分で言うのもなんですけど。これでも結構女の子してると思いますよ。

浅間は歩を進めながら、時折弓を撃ちながら思考する。

 

(大体。葉月君も少しは気づいてくれてもいいと思うんです。そ、それはまあお互いに一仕事ある関係上時間の都合とかは付きませんけど――――でも時々神社の掃除とか手伝ってくれるんですよね。しかも私より手際良いって、あれ完全に主夫ですね――――主夫……)

 

となると私が稼ぎ? いえいえ。葉月君立派に店を切り盛りしているじゃないですか。そうなってくると、神社との両立? え、二人で一緒に? 嫌ではないですけどどうしましょうえへへ…………

 

「あ、あの浅間さん。ものすっごいイイ笑顔で矢を番えないでくださいよそこらの怪異より怖いです!!」

 

え? と浅間が口元に手を当てる。

形で大体分かるが、物凄いにやけた笑いを浮かべていた。

 

「ま、大方葉月のことでも考えていたんさね」

「うっ……」

 

当たっているから反論が出来ない。

何とか口元を戻そうとするが、一度始めた妄想による副作用は中々収まらなかった。

仕方ないので、何もないが向こう側の空間に一発矢を撃ち込むことによって精神を安定させた。

 

「……霊視も何もないけど。今の一撃は絶対にいらないと思うんだがねえ」

「い、いいですから! はい! つきましたよ図書室!!」

 

浅間は会話を中断させるべく手を叩き、目の前の部屋に意識を向ける。

そこには図書室と書かれていた。

 

「私達はここで終わりでしたっけ?」

「ええ。まあトーリ君のことなんで何かしら絶対に仕込んでいますけど」

「そこで断言する辺り、微妙に信頼が見えなくもないですね……」

 

嫌な意味での信頼ですけどね。

浅間たち一行は図書室の前で止まる。

そして二回拍手の後、一礼をして浅間が扉を開ける。

 

そこには足の生えた、謎の絵が描かれたシーツと抱き枕がいた。

 

「………………」

 

沈黙が場を支配する。

すると、抱き枕の方に書かれている絵からほんのりと何かが滲む。

 

「だ、大丈夫? 大丈夫?」

「ん、大丈夫だコニタン。ちょっと鉄分が外に出ただけ」

 

シーツが抱き枕を心配する。

そんなカオスの只中で、浅間は全てを投げ出したくなるのを必死に堪え、目の前の相手を分析する。

……確か、あの絵は魔法(ケルト)少女バンゾック。でしたっけ。トーリ君たちが騒いでましたけど。

かなり歪に、しかしそれと分かる最低ラインを残している部分から絵を判別する。

聖連への嫌がらせなのか。はたまた本気で受けると思って作っているのかは定かではないが、主人公であるバンゾックが皮を剥ぎたがりの生贄大好きというどうしようもない設定のキャラのアニメ。人気があるのは、アニメでのバンゾックが可愛いからだろう。

バンゾック、らしき絵を描かれたシーツと抱き枕はしばらくその場で蠢いていたが、やがて体勢を立て直すと、

 

「新しい、価値観――――!!」

 

突っ込んできた。

直後、浅間が無表情で矢を撃った。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

葉月たちの階でも、浅間の禊の術式を込めた矢を放つ音や、ナイトとナルゼの魔術(テクノ・マギ)による砲撃音が聞こえてきた。

 

「あー。やってるなぁ」

「これ、後で修繕費回ってこないかな」

「その場合馬鹿に任せようぜ」

「Jud.それが一番だね」

 

葉月とネシンバラはこれが終わった後の始末を考えていた。その後ろではマッチョの巨体にバケツを被ったペルソナが周りを見ながら後を追う。

では残った喜美は?

怪異。お化け。心霊現象。そういったオカルトに耐性がゼロを通り越してマイナスな喜美が夜の校舎をマトモに歩けるはずもなく、これでもかとばかりに目を力いっぱい瞑り、両腕で葉月にしがみつきながら進んで――――否。引きずられていた。

 

「お前頼むから自分の足で歩いてくれ。歩きづらくてしょうがない」

「仕方ないよ白百合君。葵姉君は、こういったことにマジ耐性ないから」

「ならなんで外にいなかったんだよ。少なくともここより人は多いぞ」

「な、何言ってんのよアンタ。外に出たら出たで賢姉の美しさに引かれて大量のお化けやら怪異やらが寄ってきちゃうじゃない!」

「それはここにいても変わらないと思うがな」

「いいわ! いいわよ! つまりは賢姉であるこの私が全てなのね! さあやってきなさい幽霊共! 来たら来たで私はソッコ気絶するけど!! だから来ないで!」

「挑発してるのかビビり宣言しているのかどっちなんだ」

「深く考えると狂っちゃうから考えないほうが良いよ――――まあそんなこと言うとあっちこっちから寄ってくるかも」

「ドンとカ――――ム!」

 

それじゃあドンと来いと言ってるのか、来るなと言ってるのか判断つかんぞ?

葉月はいつものように奇行奇声を上げる狂人を放っておこうとしたが、制服の裾を相変わらず掴まれており、結局ズルズルと引っ張っていくはめになった。

葉月たちはそのまま担当の場所まで進んでいったが、特に何もなく。クラスメイトが外に出るのを感じて自分達も出ることにした。

が、ここで一つ問題が出てきた。

葉月たちの目の前に青白い火の玉が現れたのだ。

 

「アレって――――」

「ひいいぃぃぃぃ! 鬼火よ鬼火! 人食ってヒャッハーしたあげくに現世からコンニチワよ!!」

「意味わからんしアレは鬼火じゃなくて狐火。神耶の奴。いないと思ったらトーリの方につきやがったな……」

「ああ。やっぱり」

 

葉月は火の玉に近づくと、背負っていた杖を抜き払いまるで野球選手がバッティングをするように杖を振るう。

杖にぶち当たった火の玉はそのまま慣性に従い、一直線に飛んでいった。が、途中で何かに当たったらしく、その火が消えた。

 

「そこにいたか。神耶」

「……葉月、酷い」

 

そんな声が近づいてきた。

窓から入ってくる月明かりに照らされているのは、本格的な和装をしている不知火・神耶だった。

しかし。

 

「尻尾焦げるかと思った……」

 

そういって、神耶はおそらく火の玉を防ぐために使用したと思われる金毛の尻尾を撫でる。

不知火・神耶は人狐と呼ばれる異族だ。

文字通り、狐が本性なため性格もそっちに寄っている。

――――思考が物騒なのは別に関係なく、ただ純粋であるが故。周りの空気に過剰に毒されやすいのだ。

涙目になりながら神耶は葉月を睨む――――その姿でさえも可愛いと認識してしまうので効果は皆無なのだが。

 

「そう睨むな。つうか暇ならコイツなんとかしてくれ」

 

そういって、喜美を指差す。

神耶はため息を付き、苦笑しながら喜美を背負う。

 

「もう苦手どころか弱点って言っていいのに。何で参加するのかなー喜美は」

「フフフ神耶。この賢姉に弱点なんて存在しないわ! ええそうよ! ただちょっと歩き疲れただけだから!」

「そっかー。ところで喜美。肩についている血みどろの落ち武者についてなんだけど――――」

 

ガクンッ、と首が外れるのではないかと思われる速度で喜美は気絶した。

 

「お前も大概酷いな」

「んー。まあでも皆よりマシだよ」

「お前が一番酷いんだよ――――ってかお前。先生と一緒じゃないのか?」

「先生には言ってあるし。今は宿直室でお酒飲んで寝てるんじゃないかな?」

「あの人は……」

 

確か今日は最近怪異が多発しているからとか言って宿直入れてるとか言ってなかったか? あの時一瞬でも尊敬した気持ちを返してほしいんだが。

葉月たちが外に出ると、そこには既にトーリを除いた全員が集まっていた。

 

「結局。こうなったか」

「あ、葉月君。大丈夫でしたか?」

「Jud.こっちには何も出なかったし。そっちは?」

「え、ええと。出たといえば出たんですが。非常に形容し難い生物でして……」

「は?」

「い、いいえ! なんでもないです!」

 

やや挙動がおかしかったが、まあ日常の範囲内だろう。葉月は特に気にしなかった。

隣では神耶が気絶している喜美に対して起きるように揺さぶっているが、それだと首が危ないので止めたほうがいいのではないかと考えていた。

すると、突然怒号が響いた。

武蔵王ヨシナオの登場だった。

 

「これは何事であるか! 麻呂の管轄でこんな騒ぎ! 主犯は誰であるか!!」

 

葉月は面倒そうに頭を掻く。

元は六護式仏蘭西(エグザゴン・フランセーズ)の地方領主だったが。訳あって、この武蔵に来ている。

やや高圧的ではあるが、正義感の強い人であり。この武蔵一外道なクラスの被害者となっている人だ。

冷静に話せば分かり合える人ではあるが、如何せん騒ぎの原因が自分達のトップなのだ。どう説明していいものか分からない。

が。そんな葉月の懸念はすぐに吹き飛んでしまった。

鈴が武蔵王の声に驚いて泣き出してしまったのだ。

視力がなく、その代わりに聴力が人の数十倍は優れている鈴。故に、突発的な大声や爆音は彼女にとって不意に驚かされているようなものだ。

武蔵王のすぐ近くに鈴がいたのも災いした。

そして、葉月がどう収拾つけようか悩んでいるとそれらを全て払拭する存在が校舎の窓からこちらを見下ろす。

トーリだ。

 

「うおっっと武蔵の貴重な前髪枠が泣かれているぞ! あ、あそこに麻呂のコスプレした馬鹿がいるぜ! あいつが犯人だな!」

「コラァー!! 我は本物の武蔵王ヨシナオであるぞ!」

「はぁ? 知らねーの? 麻呂は友達いないから今頃一人でマインスイーパやってんだぜ?」

「貴様―――――!!」

「ひゃあぁ…………ぁ」

 

ヨシナオとトーリが互いに声を張り上げ、その声でさらに鈴が泣いている。という悪循環が生まれてしまった。

が、不意に鈴の泣く声が止まり、鈴はある一点をさした。

 

「あ、あれ……」

 

そこを全員が見ると、山の方から煙が上がっていた。

 

「何さね。あれ」

「あそこは聖連の番屋があるところだよ。今は三征西班牙がいるはずだけど……」

 

ネシンバラが場所の当たりをつける。

と、シロジロが表示枠を開き商工団と連絡を取ろうとしていた。が、

 

「……おかしい。通神が繋がらない」

 

表示枠には相手の呼び出し中のままだった。

全員が全員、急に起きた出来事を把握しきれずにいた。が、トーリがいつもと同じ口調で解散を促すと、全員がそれに従っていく。

武蔵王も不承不承ではあったが、現状の優先順位を変えたらしい。帰っていった。

葉月は未だに煙を上げている場所を見つめる。

すると、鈴が去ろうとする皆を止めて、再び指差した。

そこには東がいた。

 

「……余が、何?」

「あっ。東後ろに」

「え、後ろって……」

 

見ると、そこにはかなり幼い少女が東の服の裾をつかんでいた。

だが、透けていた。

つまり――――

 

『……ぱぱ いないの まま みつからないの』

 

正真正銘。本物の幽霊だった。

 

「で、出た――――――ッ!!」

「…………ん」

「あ、喜美。今起きないほうがいいよ」

「……あら神耶。何? 何が――――」

「ああもう。また気絶しちゃったよ」

 




どうもKyoです。

ようやく次回からは三河のあの人が出てきます。
ダっちゃんは……無理かなぁ。出したいけど。

あと調子乗って原作三巻買ったらなぜか四巻も全部買ってしまったという。
あれ、おかしいなぁ。財布が寂しくなっていくなぁ。

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。


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日常の終了









2013年。8月6日。改定。


トーリの提案で、校舎内幽霊探しが一先ずお開きになってから数分後。事態は急変していた。

夜とは思えないほど赤茶けた空の色。そして――――

 

「何だ、アレは……」

 

誰が呟くでもなく出た言葉。

それは、三河の方面から天へと突き刺すように現れた一条の光。

その光景は梅組だけではなく、武蔵の住人全てがその天に伸びる光の柱を見ていた。

誰もがその光景に釘付けになっている中一人、神耶は葉月に話しかける。

 

「葉月。三河の地脈路が暴走してる」

「はっ? 何だそれ」

「分からない。けど、確かに暴走してる」

 

神耶は手に持った錫杖を握る力を強める。

葉月もそれ以上は追及しなかった。

 

「暴走、か。確か上越露西亜(スヴィエート・ルーシ)で似たような事件があったよな。それと同じことが起きるって事か?」

「多分。でもこの分だと三河全ての地脈路が暴走している――――三河っていう国、それ自体が消えると思う」

「……そういやシロジロ。今日は三河が何も買わないって言ってたが」

 

まさかこのことがあるからか? だとしたらなんの目的が……

元々何を考えてるのか分からない節はあったが。自分のことを「先生」と呼び、自分たちの事を「生徒」と思って行動していた。

ならばこれもその内、なのか……?

葉月が考え込んでいると、神耶が声を掛ける。

 

「葉月。あまり考え込まないほうがいいよ」

「いや。だけど……」

「考えたところで。まだ何も情報がないんだ。あれこれ考えて深みに嵌るより、落ち着いて次のアクションを待っていた方がいい時もあるんだよ」

 

諭すように神耶は静かに告げる。

葉月はそれでもしばし逡巡したが、そうだなといって事の成り行きを見守る。

未だに空は赤く、光の柱は天に昇ったまま。そして三河からの通神などはまだなかった。

 

「……もし。これで三河がなくなったらどうなるんだろうな」

「三河は、松平・元信公が管理しているから。多分……」

「その責任の所在は松平・元信公に行く、か。もしそうなったら、極東は完全に聖連の支配下だな」

「うん。そうなるよね」

 

面倒な、と葉月は呟く。

すると、街中にいくつも点在する神肖筐体(モニタ)から映像が流れた。

そこには、教師帽を被った初老の男性が移った。

この男性こそ、三河の君主。松平・元信である。

 

『はーい! 全国の皆、こんばんわー! 今日先生は、地脈路がいい感じに暴走している三河に来ていまーす!』

 

マイクを片手にそう高らかに告げる。

 

「……あのさ。はっきり言っちゃうけど――――――馬鹿?」

「言った! 言おうか言うまいか迷っていたことをコイツはっきり言いやがった!?」

「えー。だってどう見ても頭おかしい人だよ。アレ」

「お前は一度、不敬罪で切られてろ」

 

呆れるように葉月は神耶に言う。

だが実際。こんな状況下で何をしようとしているのか図りかねる。

そんなことを考えていると、松平・元信の背後から音が聞こえてきた。

それは自動人形たちが奏でる御囃子と、一つの歌。

 

「これって、『通し道歌』?」

 

『通し道歌』

極東ではメジャーな童謡で、おそらく梅組の誰もが知っている歌だろう。

何故なら、

 

「これ、ホライゾンがよく歌ってたよね」

 

それは、かつてホライゾンが存命だったときによく歌っていた童謡だった。

知らず知らずのうちに、梅組の誰もがその童謡を覚えていった。

歌が一通り終わると、松平・元信は再びマイクに向かって喋る。

 

『はい! 今の歌をよく覚えておいてね! 今歌っていたこの歌、これから末世をかけた全てのテストに出まーす!(配点:世界の命運)』

 

テスト……? 映像を見ている全ての者が疑問を思う中、元信は楽しげに話し続ける。

いつもなら、ああまたかと思うほどだ。何しろ元々が派手好きで有名な人だ。

だが、今回は違う。空はまるでこの世の終わり、末世が一足早く来たのではないかと思うほどに不気味で、空へと伸びる一条の光がその不気味さを一層際立たせているのだから。

その光は、徐々に地に降りてきている。

まるで、滅びへのカウントダウンかのように。

 

「……つまり。三河の人払いは、これをするための前準備だった。ってことか」

「じゃないのかな。にしても本当。こんなことして何になるのかな」

 

そう、呆れ気味に神耶が言うと。表示枠の向こうから声が上がる。

見ると、そこには一人の金髪の青年が立っていた。

その身を包んでいるのは三征西班牙(トレス・エスパニア)の制服だ。

 

『元信公! 一体なんの目的があってこのようなことをなさるのですか!?』

『はーい立花・宗茂君。質問があるときは手を上げてからにしましょう!!』

 

すると、律儀に手を上げる。

その手には剣、というにはやや大きすぎる武器が握られていた。

白と黒を基調とした、凡そ武器らしくない曲線を描くような形状をしていた。

 

「大罪武装……」

 

三征西班牙(トレス・エスパニア)、英国、K.P.A.Italia、六護式仏蘭西(エグザゴン・フランセーズ)上越露西亜(スヴィエート・ルーシ)M.H.R.R(神聖ローマ帝国)。以上の国に配られた、絶大な威力を秘めた都市破壊級個人武装。

大罪武装はそれぞれ効果は違うが、担い手は総じて「八大竜王」と呼ばれている。

大罪武装は、七つの大罪と呼ばれる人間の原初の罪。その原盤である八想念をモチーフに作られている。

それぞれ、

『悲嘆』『嫌気』『強欲』『淫蕩』『傲慢』『虚栄』『憤怒』『暴食』の計八つ。

立花・宗茂が手にしているのはその中の一つ。『悲嘆』を司る大罪武装『悲嘆の怠惰』

元信は手を上げたのを確認すると満足気に頷く。

 

『うんうん! そう、それだよ。いきなり質問するのはこっちとしても驚くからね。手を上げて意思表示をすることが大事だよ』

『Tes.では元信公。改めて質問をします――――何故、このような真似をするのですか?』

『うん。いい質問だね。じゃあその質問対して、先生は一つこう問おうか』

 

目の前の宗茂を見つめ返し、元信はマイクを構える。

 

『――――危機って、面白いよね?』

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『先生、よく言うよね。考えることは面白い事だって――――ならすっごく、すっっっごく考えないと死んじゃったりする危機って、最大級の面白さだと思わないかい? 例えて言うならそうだね――――夏休みの宿題をやってなくて、夏休み終了日になって対策を考える。そんなこと、ないかい?』

 

その言葉を聞いて、トーリが頷く。

 

「確かに。よくあるよな。なあ葉月?」

「いや。俺は夏休み始まる前に終えられる物は全部終わらせるし。始まって大体一週間ほどで全部の課題は終わるけど」

「……よくあるよ、な? 神耶」

「葉月と一緒」

「なんだよオメエら! 揃いも揃って裏切りやがって! いつも楽しそうにしていたのはそれが原因だったんだな! 俺は見損なったぞ!!」

「お前の態度に見損なったよ!!」

 

葉月は呆れるようにため息をつき、神耶は笑いながらトーリを慰めていた。

 

「……だがまあ。元信公が言わんとしていることは何となく、分かるかな」

「どういうことですか?」

「ん? いやなに。単純な話さ。人間ってのは、自分に差し迫った危機があると回避しようと思考するだろ。でも、その危機が明確にならない限りは人間は今ある安寧のままでいいと思ってしまう」

「つまりさ。『生きたかったら今すぐ行動を起こせ』って事なんだと思うよ。何しろ、今年には末世が来る、って言われているから」

 

奇しくもそれは、今現在元信公が話している内容だった。

極東の完全支配より、恐ろしいもの。末世。

すなわち世界の終わりである。

 

『そして! 末世という大問題を解決できた人には、大罪武装というご褒美をあげよう――――正確には大罪武装を全て集めることができたものは、末世を左右できる力を得る』

『ッ、大罪武装は、貴方が各国に配ったはずです! 今更、八つの大罪武装を巡って戦争を起こせというのですか!?』

 

その宗茂の言葉を、元信は否定する。

 

『八つ? 違うよ。九つさ』

 

「……九つ目の、大罪武装?」

 

八想念はその名の通り八つあるからそう言われている。ましてや九つ目の大罪武装など……

葉月はそう考えていたが、ふと。ある事柄に思いつく。

 

「……確か。八想念の『悲嘆』と『嫌気』は後に『怠惰』に。『傲慢』と『虚栄』は『傲慢』

に纏まって。さらにそこに一つ追加されて、七つの大罪になったんだよな」

 

確かその罪の名は――――

 

『九つ目の大罪が司るのはね――――『嫉妬』だよ』

『元信、貴様ッ!!』

 

と、新たに表示枠が出てきた。

そこに映っていたのは、やや老いているものの厳格な雰囲気を醸し出している一人の男。

K.P.A.Italia教皇総長。インノケンティウス十世だ。

 

『答えろ元信! 既に嫉妬の大罪武装が存在しているなら、それはどこにある!』

『おや。聞いたことはないかい? 大罪武装は人間を材料にしている、と――――それは本当だよ』

 

その言葉に、全ての人間が息を呑む。

 

『大罪武装は、とある一人の少女の感情を元に作られていてね。その少女は、十年前。私が乗っていた馬車に轢かれてしまった子だよ』

 

そういう元信の表情は、誰にも読めなかった。

だが、そんなことは最早どうでもよかった。何故なら、その少女は、武蔵の住人なら知らぬ者はいないのだから。

 

『その少女の名前はホライゾン・アリアダスト。今はP-01sという自動人形となって、一年前に武蔵に送った――――今日ね。ホライゾンに会ったんだ。こっちに向かって、手を振ってくれたよ』

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

それを聞いた瞬間、トーリは走り出した。

 

「愚弟! どこ行くの!?」

 

喜美が叫ぶがトーリは止まらない。

後を追うように、ネシンバラ・ノリキ・ウルキアガの三人が走り出す。

 

「追って! お願い……」

 

喜美は祈るように手を合わせた。

葉月と神耶は変わらず表示枠を見つめていた。

そんな二人に浅間が話しかける。

 

「追わない、んですか?」

「俺達が追ってどうなるよ」

「今の僕たちより、ネシンバラたちのほうがずっと機転が利く」

 

その言葉は、どこか諦めのようなものを含んでしまっていた。

と、表示枠の向こうで元信は続ける。

 

『さて。立花・宗茂君。君に、先生から一つ聞こう』

『……Tes.なんでしょう』

『家族が離れ離れになるのは、とても悲しい。そうは思わないかい?』

『Tes.その意見には私も同意します』

『うん。だからね。私は彼女を彼の下に送ったんだ。今頃、彼の家で寝ているんじゃないかな?』

 

そういう元信は、表示枠を見る。

否、違う。

葉月にとっては、まるで自分に対して話しかけているかのように思えた。

 

『――――さて。立花・宗茂君。君はこの状況。どうするかね?』

『ここで貴方を止めます!』

『うん。いい答えだ。だけどそれはちょっと困るから――――――おい。ちょっとそこの副長。どうにかしなさい』

 

そういう先には、一人の男性が立っていた。

青を基調とした法衣のような服装に数珠。そして首からは自動人形の上半身だけを下げ、片手には槍を持っていた。

東国無双。本田・忠勝だ。

 

『止めるぜ。学級崩壊!』

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

表示枠からは、もう東西の無双の戦いしか映らなくなった。

その瞬間、葉月も走り出した。

しかし、その腕を掴む者がいた。

浅間だ。

 

「どこに、行くんですか?」

 

掠れるような声を、出している。

 

「……家」

「嘘です」

「本当だって」

「嘘ですよ!」

 

浅間が叫ぶ。

 

「だって、だって……また、いなくなるんですか……」

 

葉月は答えない。

浅間は吐き出すように続けた。

 

「十年前も何処かに黙って行って……今度また、黙っていくんですか……」

「浅間……」

 

葉月は浅間を見る。

顔は俯いていて見えないが、肩が小さく震えていた。

葉月はため息をつくと浅間に言う。

 

「俺の部屋に、おそらく元信公の言っていた奴が送られているはずだ」

「……え?」

 

浅間は顔を上げて葉月を見る。

その顔はやはり、涙で濡れていた。

 

「だから家に行くって言ってんだろうに」

「え、あ、だ、だってまた。黙って行っちゃうから……」

「ちゃんと『家』って言っただろ」

「そ、それはそうですけど……」

「いいから」

 

そういって、葉月は浅間の頭に手を置く。

 

「お前はお前の仕事をしてろ。この状況だ。怪異の発生があっても不思議じゃない。それに対処できるとしたら、お前か神耶くらいのもんだ」

「……はい」

「神耶。もしものときは浅間のサポートを頼む。俺はこのまま家に戻ってアイツの封印を解く」

「Jud.気をつけてね」

「おう」

 

そういって、葉月は浅間の手を握る。

 

「今度は、ちゃんと戻る。だから待ってろ」

「……Jud.」

 

手を離し、葉月はそのまま自分の家の方角に跳んだ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

同時刻。

K.P.A.Italia所属ヨルムンガント級ガレー『栄光丸(レーニョ・ユニート)』内部では、インノケンティウスが険しい顔で三河の状況を見ていた。

 

「元信の奴。やってくれたなぁ、おい」

「起きてしまったことはもう戻らんぞ。元少年」

 

そういって、背後から魔人族の男が出てきた。

K.P.A.Italiaパドヴァ教導院副長。ガリレオ。

元はパドヴァ教導院の学長だったが、末世対策として身分を学生に戻したのだ。

そして、インノケンティウスとはかつての教え子と教師という間柄。

 

「まあだが。これで嫉妬の大罪武装『焦がれの全域』も手に入る」

「言葉だけ聞くと、まるで悪役のようであるな。元少年」

 

そういうと、コツ、コツという靴音がしてきた。

K.P.A.Italiaの教導院の女子制服に身を包んだ少女だ。

黒い長い髪を後ろで一つに纏め、その澄んだ藍色の瞳は鋭い。

 

「聖下。私が行って鎮圧してきましょうか?」

「いやいい。第一お前の力では武蔵を丸ごと消滅させかねん」

「そ、そこまで未熟ではありません」

 

恥ずかしそうに顔を俯かせる少女。

 

「レベッカ。お前はあの元信の言葉が分かるか?」

「最後に、立花・宗茂に言った問い、ですね」

「Tes.」

「おそらく。武蔵の古代魔法使役士に向けて言ったものではないかと」

「成程。やはりそうか」

「どうするのかね元少年。武蔵には明確な武装はない。が、あの少年一人でそれを全て補って余りあるぞ」

「心配いらん。その時は――――」

「その時は私が出ますので。ご安心を。ガリレオ様」

「……俺の台詞を取るなよなあオイ」

 

苦笑する教皇総長。

そして、その教皇総長の下に一つの連絡が来た。

それはP-01s、ホライゾン・アリアダストを確保したというものだった。

この日。日常は終わった。

 




どうもKyoです。

次回は、臨時生徒総会前までですかねぇ。
鈴さんの回想は入れたいですし。

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。


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告白場の代弁者達







2013年。8月21日。改定。


葉月は自室にいた。

学校への登校時間にはまだ間があるし、昨日の今日で店を開けるのは些か以上に空気が読めてない行動であろう。

葉月は、部屋の中央に座しているあるモノを見つめる。

それは、巨大な水晶だった。

薄い空色の水晶は、葉月の背丈をやや上回っていた。おそらく、この世でも並ぶ者はない大きさであろう。シロジロ辺りに言えばかなりの値段で売ってくれるに違いない。

閑話休題。

その水晶の中には、一人の少女が眠っていた。

水晶越しで髪の色や肌の色の判別が難しい。が、誰が見ても儚げな雰囲気を纏った少女に見える。

葉月は、水晶に近づき。そっと手を触れる。

冷たい感触が、手のひらから伝わる。

 

「ッ……もう少し」

 

葉月は、呟く。

 

「もう少し、待ってくれ」

 

葉月は手を離すと、教導院の制服を羽織る。

葉月の制服は、飾りの紐がないことを除けばほぼトーリのものと一緒だ。

それはまるで、親友と約束しあったことを今でも守り続けている証のようにも見える。

そのまま葉月は部屋を出る。が、一瞬だけ。水晶の中にいる少女を振り返る。

 

「……必ず」

 

そうして。葉月は部屋を出た。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

葉月の店は、店舗兼自宅になっている。これはトーリの家にも言えることだが。

ただ、葉月の家の場合。一階が店舗。二階が自宅という具合になっている。

故に、店の入り口がそのまま自宅への玄関となっている。

その入り口の前で、一人の少女が立ちすくんでいた。

浅間だ。

彼女は先ほどから、扉の取っ手に手を伸ばしては引っ込め、伸ばしては引っ込めを繰り返していた。

しばらくそんなことをしていたが、やがて頭を抱えだす。

 

「うぅ……」

 

それというのも。昨夜の皆の行動が原因だった。

トーリ以下、追っていた三名は番屋にて説教を食らっていた。ただし、トーリだけは朝までそれが続いていた。おそらく今は家に帰っているか、教導院に向かっている頃だろう。

そんな中、浅間はあの時自分が止めた幼馴染の少年を思う。

 

(葉月君。大丈夫でしょうか……)

 

葉月とトーリ。それに神耶は昔から一緒になって遊んでいた。

それに喜美や自分、そして亡くなったホライゾンも加わって遊んでいたため、幼いころより付き合いがある。

それだからか。トーリ、葉月、神耶の男組三人は他の誰よりも仲が良く。トーリの暴走をよく止めていた。

だが、昨夜の松平・元信公による突然の宣言。

さらに、聖連にP-01s――――ホライゾンを連れて行かれたことにより、再びトーリが塞ぎこんでしまうのではないかと危惧する。

そして、その影響で葉月や神耶までも変わってしまうのではないか。

神耶は、今朝方まで自分と怪異の発生の抑止や場の整調などを手伝っていたが、特にそういうことはなかった。

問題は――――

 

(葉月君……)

 

過去。葉月は数年ほど。武蔵を離れていた。

それは――――ホライゾンが死んでから少し経った後だった。

また、いなくなってしまっているのではないか?

いつものように店を開けようとしたら、そこには鍵で硬く閉ざされた空っぽの家だけがあるのではないか。

それが怖くて、浅間は中に入れないでいた。

が、その心配も杞憂に終わった。

何故なら、中から葉月が出てきたからだ。

 

「ん? 浅間?」

「は、葉月君!?」

 

まさか向こうから出てくるとは想定外だったのか、かなり驚く浅間。

あたふたとするが、葉月はとりあえず落ち着けと浅間を宥める。

 

「……で。どうした? 何かあったのか?」

「えっ!? あ、いい、いいえ!」

「……? そうか。ならちょうどいい。教導院、行くか」

「あ、はい。Jud.」

 

二人は並んで教導院へと向かう。

その道すがら、浅間は葉月の表情を見る。

いつもと同じように見えるが、どこか無理をしているようにも見える。

ふと、訊ねてみた。

 

「葉月君。あの、昨日言ってた……その」

「ん? ああ。うん。元信公からの贈り物は、ちゃんと届いていたよ」

「そ、そうですか。なんだったんですか?」

「えーと。まあ、人?」

「そうですか人ですか――――――ハイ?」

 

イマ ナント イイマシタ?

聞き違いでなければ今さらっと「人」っていう単語を出したような……

 

「え、あのー……人?」

「人」

「人!?」

「正確には精霊」

「精霊!?」

 

精霊とは、おそらく精霊種のことだろう。

地脈に住む精霊が人格を有するようになり、人間との生活を始めた種のことを指す。

だが、その大半は人間側で暮らすこととなるとかなりの疲弊をするといわれている。

そんな精霊を送ってくる松平・元信公。そしてそれを平然と受け取った葉月。

そして――――おそらく関係ないが――――喜美が呟いていた「女」という単語から連想されるものは――――

 

「じ、人身ば――――」

「俺の。家族とも言える奴が、戻ってきたんだ」

「へっ? ――――あ、ああそうですよね!!」

 

慌てて答える。

……あ、アブなあ! 私、あと一歩で転落人生一直線になるところでしたよ!?

冷静に考えれば、元信公はその後「家族」と言っていた。ならばそれが葉月の家族であることなど簡単に予想のつくことだった。

危うく、自分の思考の結果が想い人の幼馴染に知られるところだった。

……それもこれもあの外道クラスメイトたちのせいですね。

どうも周りからは自分も外道と認識されているようだが、それはあのクラスメイトたちのせいであって。私は全く汚染なんかされてないんです。ええ。だって私巫女ですから。神職ですから。

 

「えーと。その。家族の方は?」

「今は寝てる。でも。その内起きるさ。元々、少し天然入ってる奴でな。寝てる時間が多いんだ」

「そうなんですか。ご兄弟か何かですか?」

「……そうだな。妹みたいな奴だよ」

 

妹。その言葉から、来たのは女性だと言うことが分かった。

そういえば、元信公も「彼女」と言っていた。

浅間は、自分の胸の内に僅かに締め付けられるような感じを受けた。

……嫉妬、なんですかね。

 

「なあ。浅間」

「あ、はい。何ですか?」

「……いや。やっぱいい。なんでもない」

 

そういうと、葉月俯き気味に前を歩く。

が、浅間がその進行方向に先回りした。

 

「……あの。浅間?」

「話してください」

「いや。いいんだ。取り留めのない、誰かに話しても意味のないものだったから」

「じゃあ。何で一瞬話そうとしたんですか」

「それは……」

 

言いよどむ葉月。

浅間はそんな葉月に、まるで子供諭すように優しく語る。

 

「どうしても話したくないっていうなら、いいです。でも、もう少しくらいは。私達を頼ってほしいです」

「浅間……」

「……私じゃ、頼りないですか?」

「い、いやそんなことはない! ――――今も昔も。頼りにしている」

 

その言葉を受け、何故だろうか。自分の中のつっかえのようなものが、少しだけ解れた気がする。

葉月は、話そうか話すまいか一瞬悩んだが、浅間を見据えて話し始めた。

 

「……あのさ」

「はい」

「……例えば。ずっと一緒にいた家族がいて。仲の良い二人の……兄妹がいるとする」

 

それって葉月君とその妹さんですよね? と思いはするものの声には出さないでおく。

 

「で、な。まあ、その。暮らしていたのはほんの数ヶ月程度なんだ」

「え、そうなんですか?」

「ああ――――その後は、聖連にソイツだけ封印されたんだ」

「封、印?」

 

Jud.と葉月は頷く。

 

「それで。その……俺の手で、封印したんだ――――大事な、家族を」

 

それは、懺悔に近い告白だった。

葉月の持つ能力の源は、その精霊にあるという。

それを知っている聖連は、武蔵にその力を与えないため。葉月の精霊を半永久的に封印しようとしていた。

だが、葉月の精霊は他とは少々勝手が違い、葉月自身の手で封印しなければならなかった。

それは、幼い葉月にとってどれほど苦しかったことか。想像に難くない。

 

「そうだったんですか……」

「……アイツは、俺のことを信じてくれていた。会って間もない俺を。それなのに、俺は……」

「葉月君……」

 

浅間は、初めて聞く。これほどまでに追い詰められたような葉月の声を。

その顔は、いつもと同じだが。心なしか、泣いているようにも見える。

それを見た浅間は咄嗟に、葉月の手を握った。

 

「ッ、浅間?」

「なら。謝りましょう」

「いや。でも俺は――――」

「葉月君の事を、信じていたんでしょう? なら、今でも信じていてくれているはずですよ」

「……」

 

葉月の目は、迷っていた。

浅間は一歩踏み込む。

 

「過去がどうあれ。今、何を成すかが大切だと思います」

「今、か……」

 

その言葉を聞き、葉月の目に僅かに光が差し込む。

 

「……そうだな。何はどうあれ。まずは謝んないとな」

「Jud.それがいいと思います」

「ああ。ありがと浅間――――それでその……」

 

葉月は、今度は恥ずかしそうに顔を逸らす。

浅間は何が何だか分からなかったが、ふと自分の手を見る。

そこには、葉月の手を握っている自分の手があった。

 

「ッ、す、すみません!」

「い、いやその……ありがとう」

「は、はい」

 

しばらく無言でその場に二人とも立ちすくしていたが、やがて正気に戻り、教導院へと向かった。

その中、二人は自分の手を見つめていた。

 

(葉月君の手、大きかったですね。それに、暖かい――――って、何考えてるんですか私は!!)

 

(……柔らかかったな。浅間の手。やっぱ、女の子だし当然か――――思考が変態じゃねえかトーリか俺は!?)

 

似たようなことを考えながら、教導院についた。

何故か二人とも、いつもよりも疲れて見えた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

教室に入ると、そこには既に全員が集まっていた。

否、よく見ると数人欠けている。

が、それよりももっと深刻な状態に陥っている者がいた。

トーリだ。

いつもなら真っ先にふざけて、茶化して、この空気をぶち破る彼が、今は机に突っ伏している。

 

「じゃあ、現状。整理してみようか」

 

そんな中、浅間と葉月が席に着いたのを見ると、ハイディが切り出す。

表示枠を操作し、現状を説明する。

 

「まあぶっちゃけ言っちゃうと―――極東全体のピンチなんだよね」

 

その声に続くように神耶が言う。

 

「総長連合と生徒会は権限を奪われているから。あと、ホライゾンが向こうの手に渡っているから。だよね?」

「Jud.嫡子相続でホライゾンが三河君主を相続する、はずなんだけど。彼女の自害と共に聖連に持ってかれちゃうの」

 

本来なら、三河消失の責任は君主である松平・元信が取るはずだった。

が、その本人も三河と共に消滅してしまったため、嫡子相続で子と聖連に認められてしまったホライゾンがその責任を取ることになる。

その場合、極東の自治領はなくなり、聖連の極東の完全支配となる。

 

「じゃあ聞くけど――――ホライゾン助けに行ったほうがいいと思う人ー」

 

はーい、とハイディは手を挙げ挙手を促す。

が、誰一人として上げるものはいなかった。

 

「……やっぱりここは外道の巣窟だよシロ君。知り合いの危機に涙一つ無いなんて……この外道!」

「お前に言われたくねえよ!!」

 

どっちもどっちだろうが、と葉月は若干呆れ気味に呟く。

 

「……ハイディ。今は助けに行くにしても静観決め込むにしても。判断材料が少なすぎる。それを言ってくれなきゃ困る」

「うんうん。ハヅッちならそういうと思っていたよー」

 

そういうと、新たに表示枠を開く。

 

「現状は。私達は権限が武蔵王と暫定議会預かりになっちゃってるの。せめて武蔵の移譲だけは避けられるように、ね」

「成程な。正純の権限が奪われていないのはそのためか」

「正純殿の父君は暫定議会の議員だから、で御座るな」

 

Jud.とハイディは頷く。

と、ハイディは自分の隣の席に座って先ほどから表示枠を操作し、商売をしている自分のパートナー。シロジロを見る。

 

「ねえねえシロ君」

「何だ? 今忙しいのだが?」

「うん。それは分かってるんだけど――――」

 

すっ、とさり気無く一歩近づいた。

 

「――――これって。超、が付くほどのビッグビジネスのチャンスだと思うの」

「よく聞け貴様ら! これから金の話をしてやろう!!」

「お前最低だよ!!」

 

黙って聞け、とシロジロは周りを静める。

皆も、いつものことだと慣れているせいか。すぐに大人しくなった。

 

「いいか。まず。聖連にこのまま大人しく従った場合を考える。その場合、我々は清武田にある江戸の松平領に移ることになる。が、あそこは全く整備のされていない荒地状態だ。一から立て直すにしてもそのための建築資材や食料、水等等。全てが聖連の管理下に置かれてしまう――――故に。私がちっとも儲からん! なのでこれは無しだ!!」

 

おい、とクラスメイトがツッコミを入れるのを無視して、シロジロは続ける。

 

「そして。聖連に逆らった場合だが。こうなると今度は極東の各居留地から補給を受けられなくなる。この意味分かるか。葉月」

「Jud.食料の自給率が非常に低い武蔵だと。補給を受けられない=死に繋がる」

 

あれ。と声を出したのはアデーレだ。

 

「あのー。武蔵にも一応畑とかありましたよね? アレだけじゃ駄目なんですか?」

「無理ですよ」

 

アデーレの声を否定するのは、表示枠を開いているやや太り気味の少年。御広敷・銀次だ。

彼は自身の走狗を浮かべながら、表示枠を操作する。

 

「武蔵の人口は約十万人。それを賄うだけの食糧の生産は、〝高尾〟あるいは〝青梅〟のいずれか一艦潰しても足りません。それに、それを管理するだけの人員もいませんしね」

 

分かりましたか? とアデーレを見る。

すると、何故かアデーレは悲しそうな顔をしていた。

 

「……自分、今盛大に負けた気がしたんですが」

「気にするな。御広敷の食料関係の知識は俺らより上だしな――――それ以外はロリコンしか残らない下種だが」

「だ、誰がロリコンですか!? いいですか。小生のは欧州ではメジャーな生命礼賛なんです! 決して、番屋通報一直線コースの変態とは一緒にしないでください! というか下種って酷くないですか白百合君!」

「あ、幼女」

「どこですか!?」

 

直後、神耶の錫杖が伸び、御広敷を机に沈めた。

それを見届けると、シロジロは続ける。

 

「武蔵の基本備蓄は二週間分だ。故に、聖連に逆らった場合。自滅する未来しかない」

「厳しいね。各居留地で補給が受けられるようになればいいのに」

「そう。まさしくそれだ神耶」

「――――え?」

「私が言いたいことは。今神耶が言った一言に集約される。ということだ」

「……結構適当に言ったつもりだったんだけど」

「適当なのかよ!?」

 

全員でツッコムが神耶は、にへらと笑っていた。

 

「だが。その前にはまず、そこの馬鹿を起こす必要がある」

「物理的に起こそうか?」

「止めろ。お前だと起こすどころか永遠の眠りにつかせるのが関の山だ」

 

そう言い終わると、ちょうど、教室に誰か入ってきた。

オリオトライ・真喜子だ。

 

「はーいはいはい。自習じゃないから席に着いてねー。あ、あと物騒なこと考えてないわよね? 実行は自己責任だからね? 先生にまで被害を及ぼさないこと」

「いやそこは止めろよ!!」

「聖連潰せば何もかもが思いのままー」

「そしてお前は自重しろよ!!」

 

はいはい、と生徒達の言をいなしながら、オリオトライは教壇の上に紙の束を置く。

 

「今日は、作文を書いてもらうわよ」

「作文、で御座るか?」

「そうよ。っと。その前に――――」

 

と、オリオトライは神肖筐体をつける。

そこには、極東側と聖連側における情報交換会の様子が中継されていた。

 

「まずはコレを見てね。それで。自分が今何をしたいのか。これからどうするのかを、ね」

 

そして。

 

「作文の題目は――――『私がしてほしいこと』よ」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

(これ、どう考えてもアウトですよね……)

 

浅間は思う。

映像を見終わった後、各々が作文に取り掛かる中、自分だけがペンを持った手を動かせないでいた。

答えは簡単。お題が自分の立場と正反対だからだ。

巫女と言うのは神職であり、自分の欲とは一番縁遠い存在である。

仕方がないのでとりあえず書く努力をしてみるが、どうにも上手く纏まらない。

試しに休み時間を使って他の人たちのを見てみると――――

 

喜美 → この若さが何時までも続く不老の薬etcetc

欲深すぎます。

 

神耶 → 恥ずかしくて書けない……

何書こうとしていたんですか。

 

ナルゼ → とりあえず神耶を同人誌に出したいわ

まだ諦めてなかったんですか。

 

葉月 → 基本一人で色々やってきたからあんまりないかな

言ってくれれば手伝いに行きますのに……

 

どれもこれも帯に短し襷に長し、といった感じである。

チラッ、と浅間はトーリを見た。

そこにはまだ突っ伏したままのトーリがいた。

私のしてほしいこと。それは彼に今日あるはずだった日常を過ごしてもらいたい。

やや本題からずれているような感じもするが、これも立派にしてほしいことだ。

だが、その先は?

 

(え、えーと。やっぱりトーリ君ですからまずはオッパイを揉んで……って違う違う! 流石にこれは有り得ませんよ!? ソッコ破局ですよこれ!?)

 

まず告白する相手が無表情がデフォの自動人形で告白するのが馬鹿で全裸の変態と言う時点で全てが破綻している気がする。

浅間は気を取り直し、再び作文に挑む。

 

(えーと……トーリ君とホライゾンで考えるからいけないんですね。ま、まずは私がホライゾン役で。トーリ君の役は……)

 

チラッ、と自分の隣の席を見つめる。

そこには、葉月が時折ペンを走らせながら作文を書いていた。

 

(そ、それじゃあ葉月君にしましょう! ええそれがいいです! 葉月君ならトーリ君と違って変態行動は絶対にとりませんし!!)

 

いざ、とペンを握りなおし目の前の作文用紙に向き直る。

 

(えーと。まずはやっぱり普通に告白ですね――――わ、私からだと絶対に先に進まないので、って。自分で言ってて悲しくなってきました……あ、あれ? 何で告白すっ飛ばしてキスに入ってるんですか!? わ、私まだ告白段階踏んでないんですけど! し、しかも葉月君から!? い、いえ別に嬉しいですし私も葉月君の事……なので全っ然問題ないんですけど――――か、考えを変えましょう! 告白が上手くいって、それでキスにまで持ち込んだ! うんそれがいいです……なのになんで今度は服が脱げてるんですかあ!? い、一体誰がこんなことを!? は、葉月君の裸とか、私しか得しないじゃないです――――じゃなくて! あ、でも葉月君って結構細身なのに胸板とか結構……こ、告白からドンドン遠ざかってますよ!! いけませんいけません! 本来の目的を忘れては。あ、でももうちょっとだけこの続きを――――――)

 

「ぇへへ……」

 

完全に本来の趣旨を忘れ、妄想に耽っている。

浅間は我に返り、ふと見るとオリオトライが浅間を見ていた。

 

「あ、あの先生。何か?」

「――――新しい原稿用紙、いる?」

「……へ?」

 

と、浅間は自分の用紙を見る。

 

「……ッ!?」

 

声を上げそうになって、しかしギリギリで耐えた。

そこにはびっしりと、浅間の字体で文字が書かれていた。

しかも内容が。

 

(え、エロ小説書いてますよ! うっわなんでこんなアブナイシーンギリギリの演出が上手いんですか!? だ、誰ですかこれ書いたの――――私だったぁ!!)

 

それに付け加えてタイトルが「私のしてほしいこと」最悪である。

……ソッコで焼却炉行きです。こんなのをこの外道たちに見られたらッ……

自分はまず間違いなく死ぬまでこのネタで弄られるだろう。

ズドン巫女だけでも不名誉な綽名なのに、おそらく……いや確実にエロ巫女の称号まで付属してきてしまう。あとは妄想巫女か暴走巫女か。

それだけではなく葉月にもやがて知られ、そして…………

 

(私の人生が終わる……)

「はーい。じゃあ大体書けたみたいね。んー、じゃ浅間」

「は、はひ!?」

「読・ん・で♪」

 

最悪を十個くらい重ねて超最悪である。

しかも自分を見つめる視線がクラス中から来ている。その中には当然葉月もいて、

 

(――――考えるのです浅間・智! ここは私の人生最大の山場!! ここを逃れることが出来れば私の人生は明るいですよ!!)

「あ、あのですね! …………こ、これは作文じゃないんです」

「ほー。それは新説ね。じゃあ何?」

 

この教師絶対分かって言ってますね、と浅間は思うがグッと堪えた。

 

「え、ええとですね――――て、点蔵君から金髪巨乳の邪念が発せられたのでそれを文字にして封じ込めたんです! だ、だから読んだり聞いたりすると点蔵君みたいな変態になっちゃいますよ!?」

「あれぇー!? 何で自分に飛び火したで御座るか!? 大体文の最初と最後の結論がまったく噛み合ってないで御座るよ浅間殿!! それに自分は変態じゃなく金髪巨乳が好きなだけで御座るよ!?」

「まあしょうがないよね。テンゾーだし」

「そうね。仕方ないわね。駄目忍者だし。ってかそれマルゴットのこと言ってるの? ブチコロがすわよ?」

「こ、この魔女コンビ最悪で御座る!? 御座るな!!?」

「んー。仕事熱心ねー浅間神社は。それとも浅間が仕事熱心なだけ?」

「は、はい! 巫女は人々を救うのがお役目なので! あ、あの焼却炉に行ってきていいですか!?」

「授業終わったらねー」

 

……神道ガッデム! コレを授業終了まで保持しろと!?

自分が今持っているのは何時爆発するか分からない爆弾だ。しかも自分にしか被害が及ばない傍迷惑極まりないものだ。おまけに威力は末世クラス。

さっさと処分したいが、今ここで出て行ったら確実に取り押さえられる。主に弱みを握られる的な意味で。

オリオトライは浅間の指名を止め、他の人物を指した。

 

「それじゃあ――――――鈴。あなたの、読んでいい?」

「え、あ、Jud.」

 

自分とのこの差は何なんだろうか、と浅間は思ったが後に鈴の人徳かと自分を納得させた。

 

「鈴。自分で読める?」

「え、あ、あの。誰、か。お願い、しま、す」

「んじゃ。浅間。代わりにお願い」

 

自分ですか。と浅間は自分の原稿用紙を机の奥深くにしまいこんだ。

その際クシャ、という紙のつぶれる音がして周りの何人かが訝しむような目で見てくるが無視した。

と、浅間は鈴の下に行くが、一応聞く。

 

「いいん、ですか?」

「J,Jud.」

 

それは弱弱しくあるが、どこか力強い言葉だった。

それを浅間も受け取ると、作文用紙を手に取る。

ざっと十枚。たどたどしくはあるが、どれも力がこもっていた。

 

「―――代理に奏上します。『私のしてほしいこと』三年梅組 向井・鈴」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『わたしには ずっとむかしから すきな人がいました』

 

それは、少女の告白。

目の見えない、内気な彼女の伝えたい思い。

 

『ずっとむかしのこと 小とうぶの にゅうがくしきの ことでした』

『わたしはいやでした きょうどういん に いくのを』

『いえでは おとうさん おかあさん あさから はたらいていて』

『にゅうがくしき は わたし一人で 二人とも こられません でした』

『でも 本とうは いっしょにきて ほしくて』

『おめでとう って 言ってほしくて』

 

周りには、親がいて、自分はたった一人。

それが、幼い少女にどれほどの寂しさと辛さを与えてしまったのだろうか。

 

『きょうどういん たかいところに あります』

『ひょうそうぶ の たかいところで わたしのきらいな ながい かいだんのうえ にあります』

『にゅうがくしきのとき わたしは かいだんのまえで かんがえました』

『おめでとう と 言われないのなら のぼらなくていいか と』

 

明日からは行こう。

今日だけ、行かないでいよう。

そう、思った矢先だった。

 

『まわりでは ほかの人たちが おとうさん おかあさん と のぼっていきます』

『わたしは 一人でしたけど』

『そのとき こえが きこえました』

『そのこえは トーリくんと ホライゾン でした』

『二人も 二人だけでした』

『わたしと おなじで おとうさん おかあさん おしごと でした』

 

目の前に現れたのは、黒髪の少年と黒髪の少女。

 

『どうしたの?』

 

少女が言う。

 

『行かないの?』

 

少年が言う。

 

『え……』

『ほら。行こう?』

『あ、あの……おくれる、よ?』

 

少女は戸惑う。

 

『平気平気! 俺、不良だから!』

 

少年は笑う。

少女も笑い、少女もつられて笑う。

少女と少年に手を引かれ、少女は階段を上る。

二人はおめでとう、と言った。

いつの間にか、自分は階段を上りきっていた。

 

『中とうぶは にかいそうめ で かいだんが ありませんでした』

『高とうぶは かいだんが ありますが わたしは もう 一人で のぼれるように なりました』

『でも トーリくんは にゅうがくしきの とき 一どだけ 手をとってくれました』

『それは 昔 ホライゾンが とってくれたのと おなじ左手です』

 

そして、自分を励ます声も聞こえた。

 

『凄いね。あと少しだよ』

 

狐の少年は言った。

 

『あとちょいだ。頑張れ』

 

魔法使いの少年は言った。

 

『みんなも むかしとおなじで かいだんの 上で まっていてくれて』

『そしてトーリくんは手をはなしてくれていて、わたしは一人でのぼれてみんなとあつまりました』

『でも そこには もうホライゾンは いません』

 

あの少年の隣で、いつもにこやかに笑っていたあの少女。

ぽっかりと空いてしまったその場所。

でも、彼は変わらず、笑っていてくれていた。

あの時と、同じ笑顔を。

 

『わたしにはすきな人がいます』

『わたしはトーリくんのことが すき』

『ホライゾンのことが すき』

『みんなのことが すき』

『ホライゾンと いっしょの トーリくんが 一ばんすき』

『だから―――わたしはもう一人でもへいきです』

 

『だから、わたしの手を取ってくれたように―――――――――

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「お願い、ホライゾンを、助けて……っ!」

 

鈴は、いつの間にか泣いていた。

 

「お願い…………」

 

鈴の声を皆が聞いた。

今も泣く盲目の少女。だがそれは全員の気持ちであり、少女の気持ちだ。

そして――――――

 

「おいおい。ベルさん。嘗めてもらっちゃぁ困るぜ。元より俺はそのつもりなんだからよ」

 

その声をはしっかりと――――――

 

「だから、泣くことはねえよ――――――俺、葵・トーリはここにいるんだから」

 

一人の馬鹿に届いた。

 



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武蔵の騎士

本多・正純は悩んでいた。

昨夜の三河での松平・元信公の言葉。

 

自分とともにいた、そしておそらくこの武蔵で一番打ち解けている相手。P-01s、ホライゾン・アリアダスト。

そのホライゾンの魂に大罪武装『焦がれの全域』があるなんて、夢にも思わなかった。

 

極東の大量破壊兵器所持は違法。教導院に通わなくても、皆、それくらいは周知の事実。

 

故に正純はあのとき、連れ去られるホライゾンを引き止めず、抵抗しようとしたトーリを蹴り飛ばした。

だが、それでよかったのだと正純は自分に言い聞かせる。

 

あのままトーリを放っておいたら、聖連によって処罰が下されていた。

結果として正純は、トーリを救ったことになる。

 

それに、ホライゾンの引責自害はこちらにもメリットはある。

 

そう。これでよかったのだ。

だが、

 

「……なんだか。心が苦しいな」

 

正純は教導院へと向かう道すがら、そんなことを呟く。

暫定議員である父のおかげで、自分だけは権限を奪われずに済んではいる。

 

そしてその父親からは、今日は教導院に行くなとも言われた。

 

おそらく、皆と結託するのを防ぐためだろう。

だが、ここで予想外のことが起きた。

 

一般生徒による叛乱。自分に対する不信任決議だった。

実際のところ、正純はそのことを失念していた。

そして父から、行って止めてこいと言われた。

 

このとき正純は、何をやってるんだ、とも思い一方で、やっぱりか、とも思っていた。

 

何しろ自分達の長が異例中の異例の馬鹿なのだ。

何をしても驚かない。

 

と、正純は教導院に向かう途中、クラスメイトの直政とネイトに出会った。

 

「あら、正純」

「ミトツダイラに、直政か」

「やっぱ教導院さね?」

「ああ。お前らもか?」

「「Jud.」」

 

ネイトは騎士階級の代表として。直政は機関部代表として。教導院側と相対するようだった。

自分も含めて三人。

 

「まあ。なるようになるか」

 

そう、正純は呟く。

 

そうして三人は教導院についた。

そこには既に、三年梅組の生徒全員が揃っていた。

 

そして、白い何かを担いだシロジロが一歩前に出る。

 

「元会計、シロジロ・ベルトーニだ。よく来たな」

 

その白い何かを床に叩きつける。すると、その白い何かは「あひん!」という気持ちの悪い声を出した。

 

「この臨時生徒総会で、今後の武蔵の方針を決めるという同意を既に全生徒から得ている」

「つーかなんだい。そのトーリみたいなものは。春巻?」

「今は餃子だ」

 

と、白いものからトーリの顔が出てきた。

 

「馬っ鹿違ぇよ! 今は巻寿司だよ! 海苔が白いからライスペーパー―――」

「黙れ!」

 

シロジロが思いっきり蹴り飛ばした。

そのまま巻寿司トーリは転がっていき、やがて白いカーテンが全部剥がれた状態で正純の足元に転がった。

 

全裸だった。

 

正純は無言でトーリを蹴り飛ばし、梅組生徒にトーリが向かっていった。

 

「うわぁー!」

 

梅組生徒が全力でトーリを避けた。

 

「お、オメェらそこで止めるとかそういうことねえの!?」

「トーリが全裸なのが悪いと思うな。僕」

「つーか存在が病原体みたいだから触ると馬鹿移るだろ」

「ひ、酷いわ! そんな風に俺を見ていたのね!」

 

と、しなを作って女座りでへなへなとへたり込むトーリ。

それを見た葉月は、背負った杖を抜いて再び校舎側に叩き込んだ。

 

「すまんシロジロ。続けてくれ」

「Jud.で、だ。シンプルに行こう。そちらが聖連側。こちらが武蔵側ということだ。そちらが勝てば、武蔵の移譲。こちらが勝てば、ホライゾン救出だ」

「Jud.それでいい」

「んじゃ、相対始めましょうか」

 

オリオトライがそういうと、直政が一歩前に出た。

 

「それじゃ、あたしが最初に出ようかね――――――接続(コンタクト)

 

直政が義腕の右腕で表示枠を出し、それを割ると、空から何かが降ってきた。

それは、赤と黒を基調とした武神だった。

 

「重武神『地摺朱雀』。あたしが地上にいた頃、壊れた武神のパーツの寄せ集め。今じゃ機関部一さね」

 

『地摺朱雀』を見上げる梅組。

 

「直政殿、随分と本気で御座るな……」

「というかこれ。本気で死ねますよ」

 

点蔵と御広敷がそれぞれ唖然としている中、トーリが戻ってきた。

 

「よし。ならシロ。お前行け!」

「ちょっ、トーリ殿!? 何故に生粋の会計であるシロジロ殿をあんなやる気全開の直政殿にぶつけるで御座るか!? 何か策でも!?」

「決まってんじゃんか点蔵――――――私怨だよ」

「さ、最悪! 最悪で御座るよこの御仁!!」

「だってー。コイツいっつも俺のことを馬鹿にするし! たまには酷い目に会って、自らの行いを反省してください!」

 

それを聞くと、シロジロはため息を一つついた。

 

「つまり勝てば私の言動は正当化されるわけだな。安い買い物だな」

「あれ? なんかお前やる気になってない?」

「当然。リスクは高いが見返りも大きい」

 

そういうと、シロジロも前に出る。

ふと、神耶の耳がぴくっ、と動いた。

 

「おわっ! 神耶! お前いつの間にケモナー大喜びモードになったんだよー!」

「ついさっき。ちょっとテンション上がってね。それよりも、さ」

 

ふと、神耶は左を向く。

 

「……」

「どうかしたのか神耶」

「……いや。何でもないよ。多分ね」

 

そういって、神耶は前を見る。

 

「始まるね。武蔵の今後を決める一戦目が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

一戦目が終了する頃、ホライゾンを乗せたK.P.A.Italiaの艦を表示枠越しに見つめる二人の人。

 

西国無双にして、三征西班牙の第一特務。立花・宗茂。

そしてその妻であり、同じく第三特務の立花・誾。

 

二人は、ホライゾンを見ている傍ら、武蔵アリアダスト教導院の臨時生徒総会も見ていた。

 

「宗茂様。この臨時生徒総会が終わる頃には、姫の自害は終了しているのですね」

「Tes.」

「でももし。戦争になったら……」

「心配ありませんよ」

 

と、宗茂は言う。

 

「しかし、極東には神奏術がありますからね。それは要注意です」

「神奏術?」

「Tes.先ほども見たとおり、神に何かしら奉納することで全ての術式を使えるようです」

 

と、宗茂は自分の見解を述べる。

 

「それに」

 

宗茂は梅組生徒にいる二人をアップにする。

すると、誾の顔がやや寂しいものになった。

 

「宗茂様……こちらの男子生徒はともかく、女子生徒は……ま、まさか……!」

「あ、あの誾さん? 何か勘違いしているようですが、この子は男ですよ?」

「―――」

 

驚愕と絶望が入り混じった、といった顔だ。

 

「……ま、まさか禁断の―――」

「誾さんそれ以上はいけない!!」

 

首の後ろ当たりに冷や汗を掻きつつ宗茂は即座に否定する。

その背後では、

 

「嘘だろ……俺、ちょっと胸にキュンて来たじゃねえか……」

「そんな、理不尽よ……あんな髪サラサラそうで、肌がプニプニで男なんて……」

「やべぇ俺ちょっと衆道に目覚めてくるわ」

「よしちょっとそこ動くな」

 

グワシャァ! と約一名鉄拳制裁を受け正気に戻った。

宗茂はそれをよそに説明する。

 

「こちらの男子生徒。先ほど教皇総長から連絡がありまして」

「教皇総長から?」

 

Tes.と宗茂は返事をする。

 

「『何しでかすか分からんから何かあったら手を出すな』と」

「……? 何かあったら、手を出すな?」

「Tes.その方が被害がない。とのことです」

「はあ……それではこちらの……」

 

ちらっ、と表示枠に映る神耶を見る。

 

「――――――少女のような男子(オトメン)生徒は」

「さり気無く新しい単語を生み出しましたね誾さん。流石です」

「宗茂様……」

 

誾は宗茂に熱い視線を送った。

直後、周りが下敷きなどで互いに冷却しあっていた。

 

「この生徒。名前を不知火・神耶というらしいんですが。どうも不可解で」

「不可解、とは?」

「今までの足跡がまるで分かりません。出身はおろか、出生までも」

「それは……」

 

確かに。これは不可解、というより異常だ。

普通、この世界に生まれたものは当然ながら出生届を出される。

稀に、ホライゾンのように隠し子的なものもいるが、それにしたって出生届は出される(偽名が多数だが)

 

だが出生までも不明となると、最早不確定因子でしかなかった。

 

「……宗茂様」

「Tes.なんでしょう」

 

と、誾は宗茂の手を握る。

 

「負けないでくださいね」

「……Tes.」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

一戦目はシロジロが勝った。

空いた物権を買い取り、普通なら障壁でガードされるところだったのだが、シロジロの所有物になったため、障壁が働かずに朱雀は撃沈した。

 

「これで一勝、か」

「次は……」

 

ダンッ、とネイトが背負っていた黒柱を橋の上に置いた。

 

「次は私ですわ。騎士銀狼(アルジョント・ルウ)、ネイト・ミトツダイラが問いますわ。主無き今。一体何を持って、私達騎士を従えるんですの?」

 

そういうネイトの眼光は鋭い。

 

と、梅組全員がスクラムを組んだ。

 

「で。どうする?誰行くよ」

「可能なのは、点蔵、ウッキー、ノリキ……」

「流石に無理だ」

「じゃあノリキ除外で。あとは神耶と俺か」

「あ、あの葉月君? 葉月君は疲労符ありますから無理なんじゃ……」

「戦えるよ。俺も」

 

と、隣でスクラムを組む神耶にはその力が伝わる。

 

「あのさ。一つ疑問いい?」

「どした神耶?」

「うん。多分、ネシンバラも思ってること」

「ああやっぱり?」

「どういうことだ?」

 

葉月が聞くと、ネシンバラが答える。

 

「騎士って普通に考えて一般人よりも地位が上なんだよ? それなのに相対するのはおかしいでしょ。だって騎士は民を支配出来る側なんだから」

「……ああ。そういうことか」

「えーと……ネイトは俺たちより偉い。普通なら俺たち守る。だよな?」

「……トーリにしてはよく出来たね。偉い」

「神耶に言われるとなんか普通に馬鹿にされるよりも傷つくぞ……」

「で。まあ、そこが変だよな。つまりネイトは何か理由あってここにいるんだ」

 

全員がネイトを見る。

いきなり視線を振られて流石にたじろぐネイト。

 

「な、なんですの?」

「今から相対の相手決めるから待っててね」

「あ、えー……Jud.」

 

再びスクラム。

 

「じゃあその理由クリアすれば、ネイトはこっちの味方なんだよな?」

「Jud.そうなるね」

「よかった。だってネイトと敵対するの。嫌だもんな」

 

と、トーリは言う。

それに葉月はふっ、と笑う。

 

「んじゃ。ちょいとばっかし、ネイトには反省してもらわないとな」

 

そういって、トーリはネイトに相対するものを見る。

 

「頼むわ」

 

その者はスクラムから抜け出て、ネイトの前に立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあよろしく頼むぜ。武蔵アリアダスト教導院所属。白百合・葉月が相対をしよう」

 




どうもKyoです。

ベルさんちょっとお休みで。

そして最近五巻を買いましたが高い高い。財布のダイエットにはちょうどいいですねちくしょう!
でもまさかあの五巻下の表紙が……ねぇ。

あとやっぱり男の娘枠が出てましたね。片桐君。頑張れ超頑張れ。

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。

次回で臨時生徒総会は終わりにしたいなぁ。


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橋の上の馬鹿者

 

ネイトは困惑していた。

何故なら、自分の相対相手が葉月だからだ。

 

梅組なら全員知っているが、葉月は体に疲労符という特殊な符を貼られている。

これのせいで、時間が来ると今までの疲労が四倍になってやってくる。

 

そのため、葉月は普段から力をセーブしている。

その葉月が自分の相対相手なのだ。

 

「あ、あの……」

「ん? どうした?」

「いえ……本当にやりますの?」

「Jud.とりあえずここは狭い。場所を市街に移す。まだ障壁防護は効いてるよな?」

「Jud.なんか機関部が張り切ってくれちゃってて」

「それならいいさ」

 

それだけいうと、葉月はネイトの横を通りそのまま〝後悔通り〟を走り抜けた。

ネイトはしばし呆然と見ていたが、我を取り戻し、葉月の後を追った。

 

「……勝てますかね。葉月君」

「なぁに。心配いらねえって。ネイトだってそこらへん分かってるだろうし」

「でもミトって熱くなると加減忘れますから」

「フフフ浅間。アンタ葉月が心配なのは分かるけど、ミトツダイラの心配はないの?」

「も、勿論ありますけど……疲労符がある分、葉月君が不利です」

「ああそこらへん問題ないよ。浅間君」

 

と、ネシンバラは表示枠を操作しながら言う。

 

「白百合君。別に無策で行ったわけじゃないから。戦法としては……試合に勝って勝負に負けた、ってところかな」

「フフこの厨二眼鏡。勿体ぶってないで早く教えなさい」

 

Jud.というと、ネシンバラは眼鏡を上げ直す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、勝たなくてもいいんだよね。コレ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

一方、民家の屋根の上に降り立つ二人は、既に相対を始めていた。

 

葉月が杖を大上段に振るえば、ネイトはそれをかわして距離を取る。

ネイトが蹴りを放つと、葉月はそれをいなして次の攻撃に繋げた。

 

結果、一進一退の攻防が繰り広げられていた。

 

「やっぱ強ぇなネイト!」

「葉月こそ! よくそこまでの技量がありますね!」

「俺だからな!」

「意味分かりませんわ!!」

 

と、ここでお互いに距離を取る。

 

「いつもの鎖は使わないのか?」

「Jud.銀鎖まで使ってしまっては、葉月の身の安全が保障できません」

「……言ってくれるなぁ」

 

と葉月は言うが、実際出されなくて本当によかったと思っている。

銀鎖とは、彼女の持つ神格武装。

彼女の力を伝播するというシンプルだが、彼女の種族を考えるとこれ以上に相応しいものはない。

 

「ネイトと戦うのは、これで二度目だっけ?」

「三度目、ですわ」

「……ああそっか。滅茶苦茶くっだらねえことで喧嘩したっけ、ね!」

 

ダンッ、と葉月は屋根を飛び越えネイトに攻撃を仕掛ける。

 

「結局お前とは一勝一敗一引き分けだな!」

「なら、この相対で勝負決めませんこと!?」

「ハッ! それも、アリだな!!」

 

葉月の杖による攻撃を、腕をクロスさせて防ぐことにより、杖の進行を止めるネイト。

だが、葉月はそのまま自分の方にある杖を真下に押す。

 

すると、てこの原理でネイトが抑えていた側の杖の先端が上に跳ね上がる。

そして葉月は跳ね上がった先端を掴むと、今度は反対の側の杖をネイトに向けて繰り出す。

 

これには流石のネイトも驚いたようで、葉月から距離を取る。

 

「上手い、ですわね」

「どうも」

「それが今の貴方の全力ですの?」

「Jud.久々にやるからな。ちょいちょい慣らしていくけどよ」

 

葉月は足に力を溜めて、一気に開放する。

それはまるで弾丸となり、一直線にネイトに向かう。

 

「それでも、制限時間がありますのよ!?」

 

ネイトはそれを半身をずらしかわす。

葉月は、ブレーキとして杖を突きたてその勢いを殺さずにネイトに蹴りを放つ。

 

が、ネイトもそれは予測済みだったのだろう。そのまま葉月の足首を掴む。

 

「おぅわっ!?」

「飛びなさい!」

 

そしてその勢いを逆に利用し、葉月をブン投げた。

 

ネイトは半人狼だ。

 

人狼という種族は頑健で膂力なども人間の比でない。

ネイトは半分人間の血が混ざっているとはいえ、人狼。故にその力は強大だ。

 

普通なら男一人を持つのにも苦労はするが、人狼の血がそれを可能とする。

結果、葉月はそのまま後方数百メートル飛ばされた。

 

そしてそのまま何かにぶつかった。無論、障壁が発動しているため威力はやや緩和されるが。

葉月はその何かの天辺を掴んだ。

 

葉月がぶつかったそれは、湯屋の煙突だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「あれって、鈴さんの家の湯屋の煙突ですよね?」

「あ、うん。Jud.」

 

浅間は鈴に訊ねる。

見ると、葉月のぶつかった煙突には白い文字で「鈴の湯」とあった。

 

「しかし凄いねー。白百合君もミトツダイラ君も。いい資料になるよ。白百合君。君の犠牲は忘れないよ」

「いやー。でもあれ。ミトっつぁん本気になってない?」

「大丈夫よマルゴット。銀鎖も出してないから――――――出してなくても、素手で人肉ミンチくらいは出来そうね」

「フフフ。ミンチにした後はやっぱり肉料理にするのね! ハンバーグかしら!」

「姉ちゃん姉ちゃん! あえてここはステーキかもしれないぜ!」

「皆葉月君の死亡を前提に会話するの止めなさい。それと喜美とトーリ君。後で説教です」

 

相変わらず外道会話を繰り広げていると、神耶が呟く。

 

「そろそろかな」

「え、な、何がですか神耶君」

「葉月の疲労符の時間」

 

疲労符というのは、運動量によって疲労が来る時間が変わる。

葉月は今、全開の状態でネイトと戦っている。

 

「まあ、五分程度が限界だよね」

「ちょっ! ミ、ミト相手にそれは拙いですよ!! ミトはっちゃけやすいんですから!」

「ククク詰んだわね葉月! そしてそのままミトツダイラの餌になるのね! 素敵!」

「き、喜美も煽らないでくださいよ!」

「浅間。平気だから」

「じ、神耶君……」

 

神耶は表示枠の向こうの葉月を見る。

その顔はふっ、と笑っていた。

 

「そういえばさ。ネシンバラ。さっき言ってた勝たなくてもいいって、どういうこと?」

「ああそれ? なんてことはないよ。言葉のまま」

 

ネシンバラが眼鏡を上げる。

 

「多分さ。ミトツダイラ君は負けに来たんだと思うよ」

「負けに?」

「Jud.この相対。ミトツダイラ君には損しかない。なのに出てきた。それに対する結論は一つ―――革命を促すことだね」

「革命?」

「所謂一種の人民革命を促すのさ。騎士が己の身分を捨てるということは、極東の市民革命を世界各国に知らしめることなんだよ。自分達では守りきれない。騎士を捨てて民に力を貸そうってね」

「でも、それってさ。ネイト、危なくない?」

 

神耶が聞くと、ネシンバラは笑う。

 

「そうならないように。白百合君が今頑張ってるんだよ」

「ミンチにならないように?」

「神耶君もお願いですからそういうこと言わないでください!」

「ククク神耶。そこらへんにしないと、葉月の妻(仮)が怒り狂って辺り一面にズドンの嵐を巻き起こすわよ!!」

「な、何言って、ってつ、つつつつっつ妻ぁ!?」

 

喜美の言葉に顔を真っ赤に染める浅間。

余裕だなぁ、と思う神耶の傍ら、そろそろ決着がつきそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

葉月が湯屋の煙突の上に立つ。

 

「いやー。やっぱり強いよお前は。騎士を名乗るだけある」

「お世辞はいいですわ。早くそこから降りてきてくださいな」

「ははっ。まあそうだな」

 

そういうと、葉月は膝を着く。

 

「ッ! 葉月、貴方まさか……」

「どうやら、疲労符の限界みたいだな」

「早くそこから降りてください! でないと……」

 

ネイトは必死に葉月に降りるように促す。

葉月はそれを聞いて、薄っすらと笑う。

 

「ああ。なんだ。やっぱりお前、俺らの味方じゃんか」

「そ、それは……」

「クハハ。ま、どの道さ」

 

ぐらり、と葉月の体が傾く。

 

「この相対。お前の勝ちだ」

 

そして、そのまま葉月は地面に向かって落下した。

 

「葉月!」

 

ネイトは一目散に駆け出した。

そしてそのまま葉月を空中でキャッチし、見事地面に着地した。

 

「葉月! しっかりしてください!」

「……ぁ、ぉう」

 

どうやら意識はあるようで、葉月は弱々しいが、返事をする。

その声に、ネイトは安堵する。

 

そんなネイトに葉月は話しかける。

 

「なあネイト。お前、負けるつもりでここに来たんだろ」

「知ってましたのね。やはり」

「Jud.」

「……ハァ。でも、こんな方法で以って負けを選ばなくても……」

「いいんだよ。お前、向井とかだとソッコで負け認めるつもりだったろ」

「べ、別にそのようなことは……」

「やっぱな。だから俺が一番適役だったんだよ。疲労符のおかげでもあるがな。正直、今ほどコレに感謝したことは無いな」

 

苦笑する葉月にネイトは呆れ気味にやはり苦笑する。

 

「この相対、私の勝ちですわね。騎士の立場は変わってませんもの」

「Jud.まあ、なんだ。とりあえず降ろしてくれ」

「Jud.」

 

そういって、ネイトは葉月を降ろす。

そして葉月は、最後の舞台があるほうを見つめる。

 

「次が最後の相対。正純と誰だろうな」

『俺だぜ葉月!』

 

そういって葉月の隣からいきなり表示枠が出てきた。

そこに映っていたのはトーリだった。

 

「……トーリ。ちょっと皆のほう移してくれ。ああそう。そんな感じに――――――お前らこの馬鹿を何故行かせた!? 負けが目に見えてるじゃねえか!!」

『こ、この野郎もう負け前提で話してるぞ』

「お前と正純じゃ圧倒的に脳の要領が違うんだよ! 成績でも負けてるしな!」

『バッカオメェ。こういうのは学業には関係ないんだよ!』

 

そういうと、トーリは正純に向きなおる。

 

『俺、馬鹿だから助言とかアリだよな?』

『ああ。私も必要なら助言を貰う。専門的な立場からなら、よりよい討論になるだろう』

『じゃあ。先攻後攻決めてねー』

『んじゃ俺先攻ー』

 

と、トーリは片手を勢いよく上げながら言った。

その言葉に、全員が沈黙した。

 

『……あれ? 何この沈黙』

 

唯一トーリだけが状況を分かってないらしい。

ため息を一つつくと、正純が説明する。

 

『討論では後攻の方が有利なんだ。基本だぞ』

『え、ええ!? そうなの!?』

『馬鹿が。商人は値を決めるときに最初から値段を言うわけがない。それと一緒だ』

『お前の基準は商売かよ!』

 

トーリの背後でシロジロが全員からツッコミを受けているが、トーリは先攻を譲らなかった。

 

『んじゃ行くぜ。元総長兼生徒会長、葵・トーリが宣言する!』

 

そういって、トーリは片手を頭の後ろに回して、こういった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やっぱホライゾン救いに行くの――――――止めね?』

 




どうもKyoです。

臨時生徒総会終わらせるの無理だったー!
ネイトVS葉月の相対はこんな感じになりました。
え、わざわざこうした意味?


意味なんてねーよゴメンなさいでしたー!  by井ノ原真人



最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。

うわー。次回どうしよ……(考え無し


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相対上の討論者

 

K.P.A.Italiaの艦内では、ガリレオとインノケンティウスが二回戦目の相対を表示枠越しに見ていた。

 

「ほう。中々に強いなこの少年は。上手くもある」

「Tes.そうでなければ、あんなガキ一人に疲労符などつけるわけが無い」

「どういう意味かね? 元少年」

 

Tes.とインノケンティウスが頷く。

 

「ただ力だけの奴なら技と謀略でどうとでもなる。ただ技だけの奴なら力でねじ伏せる――――――だがコイツはその両方の才覚を持ち、尚且つ頭も回る。そんな奴に、魔法の力が加わってみろ」

「成程。君の懸念は最もだ。君もそう思うだろう?」

「……Tes.」

 

そういうのは、インノケンティウスの左隣にいる少女だった。

ガリレオは、ふと頭を掻く。

 

「ああいや。すまなかった。君も古代魔法使役士なのであったな」

「いえ。ガリレオ様が気にするようなことではないです」

「……そういってもらえると、ありがたいな」

 

そう言っている内に、二回戦目が終わった。

 

「ま、疲労符つけて人狼系種族とこれだけ渡り合えただけ賞賛ものだな」

「これで一勝一敗。次で決まりますね」

「最後は――――――ほう」

 

見ると、葵・トーリが本多・正純と相対をしようとしていた。

 

「はっ! これはもう決まったな。片や政治の本多と言われた家の者。片や聖連により付けられた字名(アーバンネーム)が『不可能男(インポッシブル)』という男」

「これで。姫ホライゾンの引責自害は決まりましたね」

 

そういう傍ら、トーリが発言をした。

 

 

 

 

 

『やっぱホライゾン救いに行くの――――――止めね?』

 

 

 

 

 

その瞬間、インノケンティウスは水の入った瓶を持ったまま呆然とし。

 

とある西国無双は頬にご飯粒をつけながら表示枠を見つめ。

 

とある西国無双の妻は夫の頬についたご飯粒を取って食べた。

 

そして、全国の人間が口を揃えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

一瞬、ああ馬鹿ってこんなんなんだなー、ということを正純は頭の中で考えていたが、我に返ってトーリにツッコミを入れる。

 

「おい待て馬鹿! それは私の台詞だろう!」

「えー、なんでー?」

「な、なんでって……」

 

言葉に詰まると、後ろにいる神耶が笑った。

と、正純の後ろからやってきたネイトと葉月。葉月もまた笑っていた。

 

「あっはっはっはっは! お、お前こういう場面でっ、ククッ、ナイス!」

「あーははははは、すごいねトーリ!」

「ああ! 俺総長兼生徒会長だからな!」

「うん。で。それ誰の入れ知恵?」

 

と、神耶が訊ねるとトーリは否定する。

 

「お、おおおおおお前! い、いい話だったのに落としやがったな!」

「で。誰の入れ知恵?」

「お、おおお俺に決まってんだろ!」

「あー、はいはい。Jud.Jud.そういうことにしてあげるね」

「く、くそぅ! その目は信じてない目だな! そうだな!」

 

トーリは制服の内側から教科書を取り出しバンッ、と床にたたきつけた。

正純は、事態が分からず、とりあえず自分の横を通り過ぎようとしている葉月に聞く。

 

「なあ白百合。これは一体……」

「んあ? 分からないか正純。確かに、先生が始める前にお互いの立場でって言った。けどよ。どっちがどっちって言ってないだろ?」

「そ、それはそうだが……」

「だからアイツは先攻を選んだ。そして、だ」

 

葉月は、正純を指す。

 

「これでお前は。ホライゾンを救出する論を述べなくちゃならなくなった」

「……っ、そういうことか」

「アイツは、まあ昔から馬鹿でな。自分が何も出来ないってのを分かってる。だがその分、誰にどれを任せればいいかがよく分かってる。人を見てるって言うのかな。こういうの」

「それで、私を選んだと?」

「お前に任せれば、絶対に道を付けてくれる。そう考えてんだよ。あの馬鹿は」

 

そういって、葉月は梅組メンバーに合流する。

ネイトも正純に頑張れというように視線をよこす。

 

(……そういわれても)

 

と、正純は心の中で思う。

ホライゾンを救うことで、どうなる。

 

確かに、救うための論はある。昨夜、自分が書き起こし、空で言えるくらいに読み直した。

だが、

 

(救うことで、必ず戦争になるんだぞ)

 

戦争。

誰もが回避したいと望み、おそらく極東、武蔵には縁遠いモノでもあっただろうものだ。

 

それを、この場で起こすか否かを決めろという。

 

「よーし。んじゃ立場分かったし、始めっか」

「……Jud.」

 

だが、先にトーリが発言をしたため最早立ち位置が逆になった。

 

葉月と神耶はその様子を梅組の皆と一緒に見ていた。

 

「どう思う?」

「んー。入れ知恵は無いと思うがな。トーリは正純なら出来るって分かってるから、こういうことを言うんだろうし」

「そっか。ねえ葉月」

「何だ?」

 

神耶は葉月を見る。

 

「封印、解いたの?」

「完全解除の一歩手前で、な。これなら聖連にもバレずに済むし。他の馬鹿共にも気づかれないだろ。危ないとすれば英国のアイツだが。ここからなら遠く離れて気づかない」

「怒られないといいね」

「大丈夫大丈夫。アイツはそんな奴じゃないし」

 

へらへらと笑いながら葉月は言う。

その笑いはまるでトーリのようだった。

 

「じゃあ僕も出し惜しみしてる場合じゃないね」

「いいのか?」

「Jud.だって、トーリが戦うって決めてるんだから。そして、今まさに戦ってるんだからさ」

「……そっか」

 

葉月はそういってトーリを見る。

神耶は抱える錫杖を強く抱えた。

その際、遊環がシャンと鳴った。

 

「ねえ葉月」

「ん?」

「トーリは、昔の約束覚えてるかな?」

「Jud.絶対にな」

「そっか」

「ああ」

「なら僕達は」

「それを果たそうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

正純は悩んでいた。

確かに、彼女を救うことで得られる利点もある。

 

それは極東全体の利点でもある。

 

だが、トーリの言葉―――正確には、自分の父親である正信が書いたカンニングペーパーだが―――に詰まってしまった。

 

聖連に対しての大義名分。それの提示。

つまり、ホライゾンを自害させようとしている聖連が悪であるという理由を述べること。

 

(だが、あるのだろうか。そんな正義が……)

 

そう考えていると、トーリからの言葉が続く。

 

「あるのか! 姫を救う大義名分が! 未熟なお前に言えるのか!!」

 

そういわれた瞬間、思わずポケットに入れたもの(・・)に手が伸びた。

そんな正純の動作に、一人気づく者がいた。

 

鈴だ。

 

「どうしたの鈴?」

「あ、あの、ね。音が、したの。紙、紙の音」

「紙? …………正純もカンペを持ってきてたの?」

 

すると、正純はゆっくりとポケットからその紙を出して広げる。

そこには、ホライゾンを救うための、今言われた聖連が悪だと言える理由が書き起こされていた。

だが、正純はそれを読むのを躊躇う。

 

(コレが通じると、どうして言える……。これは、未熟者の意見だ……っ)

 

もういっそ、自分の負けを認めてしまおうかと思ったそのとき、

 

ビリリリリリリリッ、と紙を破く音が聞こえた。

 

見ると、トーリが手にしたカンニングペーパーを破り捨てていた。

 

「なっ……」

「セージュン! お前が! 今ここで自分の言葉を言わなくてどうする!」

 

と、トーリは珍しく激高していた。

 

「だ、だけど……」

「だけどじゃねえよ! いいか! お前は、お・ま・え・は! 今俺たちの中で唯一権限持ってる人間。俺たちの代表なんだ! そのお前が、自分の言葉を言わなくてどうするよ!!」

「っ……」

 

正純は唇を噛む。

ふと、自分の後ろから声がした。

 

『まさずみ』

「え、まさか……っ!」

 

正純はそのまま声のするほうを振り向く。

 

そこには、桶を持ったアデーレがいた。

 

「あ、すみません。ひょっとして取り込み中でした? 総長から言われて持ってきたんですけど」

「ああ。ありがとなアデーレ。そこに置いてくれ」

「あ、はい」

 

アデーレは桶を正純の足元に置く。

すると、桶の中から黒い生物が桶の淵に乗った。

 

それは、下水処理を担当している黒藻の獣と呼ばれる生物だった。

 

「あれって。確か黒藻の獣、だよね」

「だな。下水処理の。人に懐く、なんて話は聞いたこと無いけどよ」

「ああ。アイツら。自分が汚れてるって思ってるから、中々人に近づかないんさね。アタシもたまに見かけるけどね―――あんなふうに名前を呼ぶなんて、初めてみたよ」

 

正純はしゃがむと黒藻の獣に話しかける。

 

「どうしたんだお前ら。今日は?」

『まさずみ たすけて』

「……? 何を?」

『ほらいぞん』

 

そう言われて、正純ははっとする。

彼らは基本、人との接触を持たない。それは遠慮というものなのだろう。

だが、自分はよく行く―――金が無くて飢えて倒れているとも言うが―――青雷亭(ブルーサンダー)という軽食屋がある。

そこで、ホライゾンは働いている。

 

そのときに、ホライゾンはよく黒藻の獣に水をやったりしていた。

 

自分も、母親の墓参りでホライゾンに会ったときに、彼らと少し話をした。

 

黒藻の獣は続ける。

 

『ほらいぞん いってたの』

『まさずみ せいじか せいじか ひと たすける』

『ぜいきん ひきかえ』

 

そういうと、黒藻の獣は何かを出した。

正純はそれを手に取る。

 

それは、下水処理の工程で濾過されなかった不純物の塊だろう。日を受けてきらきらと輝いていた。

 

『ぜいきん ひきかえ?』

『これじゃ たりない?』

「いや、それは……」

 

と、一匹の黒藻の獣が桶から落ちかけた。

正純は慌てて手に持った紙で受け止めた。

 

『ありがと』

「……気にするな」

『かみ よごした よめなくした』

「いや、いいんだ。読もうと思えば読めるし、な」

 

そういうと、正純は紙をクシャクシャと丸め、桶の中に入れた。

 

「ありがとな。もう大丈夫だ」

『?』

「何故なら。私の意志は、もうそちらを向いたからな」

 

正純は黒藻の獣たちに笑い、トーリと再び向き直った。

その顔は、何かを吹っ切ったような、清々しい表情だった。

 

「……いい顔になったね。正純」

「だな――――――こっからだぜ。本番は」

 

正純は、深呼吸をして言った。

 

「答えるよ。ホライゾンを救いに行く理由、大義名分はある。それは――――――彼女が三河の君主として責任を取る必要はないということだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

―――葉月。調子いいね

 

―――もうそろそろ、といった具合

 

―――……なら

 

―――待ちましょう。葉月が呼ぶ、その時まで

 

―――ええ。我らの主が王に仕えるその時に

 

―――僕らは解放されるんだね

 

―――ふふっ。早くしてくださいよ。葉月。そろそろ待つにも飽きましたから

 




どうもKyoです。

この、黒藻の獣と正純のアニメシーンを見て涙腺緩んだ、っていうかちょい泣いた私はどうかしてるんでしょうか。

そしてまたしても終わらなかった臨時生徒総会。次回は教皇総長とか絡んで、二代出してあの6ページぶち抜き絵のシーンまで何とかしたいです。

あと、ちょっとお知らせ。

よくよく考えると、第一話の内容がこれから書く内容と矛盾点を生み出してしまいそうなので書き換えます。

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。

ちなみに私は境ホラで一番誰が好きといわれたら黒藻の獣を推します。


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馬鹿と狐と魔法使いと

 

正純が示した理論は、確かに通じた。

 

歴史再現を悪用した処刑のシステム。それを持ち出してきたのだ。

だが、そんなことを言われて尚且つ極東の独立までも謳いだしたことで何も言わない教皇総長ではなかった。

 

結果として、教皇総長は乗り出した。

 

表示枠越しに、正純の論を詭弁を言った。

確かに詭弁なのだろう。だが意見として通じるものだ。

 

だが、正純も負けてはいない。

 

対論の並べあいをする教皇総長に対して、自分達は相容れない考えを持っていることを認めた。

これについては、話し合うことで同意が得られるということを教皇総長は言った。

 

が、正純はそれを待っていたかのように笑う。

自分達が何をしても、話し合うことで解決できると信じていてくれるという解釈をした。

 

これには流石に無茶苦茶だ、と葉月も神耶も笑った。

 

だが、極論をすればそういうことになる。

そして正純は三つの平行線を示す。が、教皇総長も食い下がる。

 

こちらは平和を願うが、そちらが戦うというのであるならばこちらも応じる。

争いか降伏かの二者択一。

 

そして、各地の金融凍結の解除や武蔵の移譲も無しでいいと逃げ道まで用意してきた。

 

(くっ……一方的だ)

『本多・正純。歴史再現の誤差というのは、自分と父親が襲名に失敗したからか』

 

そう、教皇総長は言う。

 

正純の父親は本多・正信を襲名しようとして、失敗。

そして、子である正純に、正信の子である本多・正純を襲名させようとした。

 

だが、本多・正純は男性。

そこで襲名の際、不利にならないように男性化の手術を受けた。

 

始めは胸を削り、性別の部分も男性にしようというときに、ある事件が起きた。

三河の人払いだ。

松平・元信公の命で、襲名者は自動人形が担当することになった。

そして、正純も襲名に失敗した。

結果として残ったのは、中途半端な自分だった。

 

だが正純は、眼下に広がる人々を見る。

 

その顔には、正純への疑念があった。

 

(この一言で、状況を…………)

 

もう駄目か、と諦めかけたがふとトーリが正純に近づく。

 

「おいセージュン! マジで女なのかよ!」

「え、あ、いや……」

 

トーリは、正純の制服の下を一気にずり下げる。

 

「はい確認でーす!」

 

無論、正純は胸を削ったとはいえ、まだ女だ。

故に、下着も女性のものを穿いている。

 

「超、女――――!!」

 

直後、周りから歓声が上がった。

この武蔵には、なぜか、何故か女性にモテない男性が多い。

 

故に、こういうことには皆敏感に反応した。

 

「ひゃあああああああ!!」

 

正純は慌てて穿きなおすが、今度はトーリが胸を触ってきた。

 

「ナーイス貧乳!」

「あーおーいー!!」

 

ガッ、と流石に衆目とかを考えずに蹴りを放った。

 

「……流石に目を逸らす時間がなかった。ゴメンね先生」

「あー。うん。まあノーカンにしてあげるから。後であの馬鹿シメるけど」

「つーかシロジロ。お前ハイディに目をブッ刺されたけど大丈夫か?」

「Jud.金になるからなこれは」

「命より金かよ!!」

 

梅組全員がシロジロにツッコミを入れる。

その様子を見ていた教皇総長が、表示枠越しに言う。

 

『煙に巻くつもりか? なあ、おい』

「ああ? 違ぇよ! いいか!」

 

ビシッ、とトーリは教皇総長を指差す。

 

「いいか! セージュンはな! 俺の代わりに言ってくれたんだ! ホライゾンを助ける理由をな! だから俺はセージュンを支持する!」

「葵……」

「俺にも、俺以外の誰にも言えないことをコイツは言ってくれた! だから俺はコイツの、コ・イ・ツ・の! 言ったことをを絶対に支持する!!」

 

その言葉に正純は、この場で自分に不審を抱く者のことが気にならなくなっていた。

 

(聖連の代表相手に、これだけ言うのか……私の言葉を、絶対に支持してくれると)

『ならば不可能男(インポッシブル)。極東や武蔵についている問題をお前が答えるか?』

「セージュンが分かってる! なあセージュン! ホライゾンを救いに行くのに、俺たち以外の他国向けの利益ってあんのかな?」

 

その言葉に、正純は冷静になる。

もう、自分は一人ではない。自分の言葉を支持してくれている馬鹿()がいる。

 

「葵・トーリ。まず言っておく。今後、他国との衝突は避けられないだろう。だが、ホライゾンを救うことで生じる利益はある。それは、三河と武蔵を併合し、彼女を極東の君主にするということだ!」

 

つまり、この武蔵の主権を確立するということだ。

だがそれは同時に、

 

『各居留地を見捨てる気か!?』

「見捨てない! 極東の各居留地を一時的な独立地区とし、その中での戦闘行為を禁じる。そして、ホライゾンを救うことで生じる他国へのメリット。それは、大罪武装の収集による、末世の解決!」

 

正純は止まらない。

予め用意してきた答えだ。

 

「武蔵は大罪武装を回収し、末世を解決する。このことで、武蔵は一切の見返りを求めないことをここに宣言する!」

『大量破壊兵器を持つことを許されると思っているのか!?』

「聖下。大罪武装は元々、ホライゾン・アリアダストの感情を元に作られたものです。その所有権は彼女にあります。各国。彼女の感情を奪い取って作られた大罪武装について、出来れば返却をお願いしたい」

 

そして、

 

「武蔵アリアダスト教導院代表、本田・正純がここに宣言する! 武蔵は各国との戦闘を望まず、末世解決に向けての協力を求める者であると―――しかし、末世解決を障害し、大罪武装を巡る抗争を激化し、更には一人の少女の感情を奪い取ったままであるならば! 武蔵は校則法に則り、学生間の相対をもってその対処に望む!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

正純が宣言した直後、教皇総長が指を鳴らす。

すると、教導院の校庭に、一人の魔人族が現れた。

 

K.P.A.Italia副長、ガリレオだ。

 

現れたと判断した瞬間、まず向かったのはウルキアガだ。

 

「拙・僧・発・進!」

 

彼は航空系の半竜。

故に、背には加速器を持っていて、おそらく魔女コンビの二人を除けばこのクラスでは空を単体で飛べるだろう。

 

彼は腰の異端審問用の道具を重ね合わせ、突撃する。

が、ガリレオに触れるか触れないかのところで、その勢いは止まった。

 

見ると、ガリレオの腰の辺りには何かがあった。

それは、

 

「杖!?」

「いや。これでも戦槌(マルテッロ)なのであるよ」

 

それは、光を発し、ウルキアガの攻撃を止めていた。

 

「K.P.A.Italiaに預けられた大罪武装『淫蕩の御身』。私は正式な所有者ではないが、それでも対人レベルなら何とかなるのでね。効果は―――」

 

パキィン、とウルキアガの拷問器具が分解された。

 

「『対象の力を放棄させ、遊ぶ』といったところかな。蕩けるようだろ?」

「行け!」

 

その後ろから、ノリキが拳を構えながら来た。

繰り出された拳には鳥居形の印が出ていた。

 

その打撃は確実にガリレオにヒットした。

が、

 

「君の拳は軽いようだ。痩せすぎていることもあるようだが」

 

そういうと、ガリレオは手を地面に向ける。

 

「天動説」

 

すると、二人が地面に引きずられるように移動した。

そして、ガリレオは橋の上に移動する。

 

「移動術!?」

「先ほどの弁論、中々に興味深かった―――だが、ここまでだ」

 

そういって、ガリレオは正純に向かって手を振るう。

 

彼は元々戦闘系ではないが、魔人族の地力は人間を圧倒する。

故に、腕を振るうだけで、よかった。

 

その、はずだった。

 

そのガリレオの手を二人が止めたのだ。

 

一人は、葉月。

背負った杖を抜いて、正純と、正純を庇う様にしたトーリの前に出ていた。

 

そしてもう一人は、

 

「極東警護隊総隊長。本多・二代」

 

長い髪を一つにまとめた、凛々しい顔の少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ガリレオの介入は、武蔵王が二代と武蔵側の誰かと相対することで今後を見極めるということで引いた。

 

一方、武蔵側の生徒達は、

 

「正純。彼女は?」

「ああ。本多・二代。東国無双、本多・忠勝の娘だ」

「マジかよ……この中でガチで相対できるのってネイトとか点蔵くらいだろ」

「ああ駄目駄目。点蔵は駄目。だって向こうは「拙者」「御座る」だし。点蔵は「自分」「御座る」だし。キャラの時点で負けてるっつーの」

 

直後、点蔵が膝を着いた。

 

「自分……あそこまで開き直れんで御座るよっ……」

「で。誰がいく?」

「ここはやはり、私が銀鎖でドカンと!」

「確か蜻蛉斬には割断っていうのがあったよね。それで銀鎖がやられたら終わりじゃない?」

「ならアタシが『地摺朱雀』でバコンっていうのは?」

「加速術があるから無理だ。直政を直接狙うだろうな」

「それよりも、私が遠距離射撃でズドンは?」

「距離詰められたら即終了だろ。ってか何でお前ら揃いも揃って擬音系なんだよ……」

 

葉月と正純と神耶が律儀に全員にツッコミを入れる。

すると、喜美が一歩前に出た。

 

「フフフ愚衆共、そして愚弟。駄目なアンタ達を。この賢姉が助けてあげる!」

 

そういって、喜美は前に出た。

 

「ねえ浅間。喜美の術式は何?」

「え、えぇっとですね…………いつもの喜美、っていえば分かりますか?」

「あー、ごめんなんかそれで分かっちゃった自分がいるよ」

「ウズメの神辺りか?」

「Jud.」

 

そういって浅間は頷く。

正純は心配そうに聞く。

 

「大丈夫なのか?」

「大丈夫です。喜美は負けません」

 

浅間は確信をもってそう言う。

 

「今まで、喜美が泣いたことはトーリ君のことで一度だけ。だから、トーリ君が見ている前では、決して喜美は負けません」

「ん? アイツ泣いたことあったっけ?」

「ああ。葉月がちょうどいなくなった時期だね」

「ふーん……そう睨むな浅間」

「睨みたくもなります。何も言わずに行っちゃうんですから」

「仕方ないだろ。色々あんだよこっちにも」

 

すると、トーリがヨシナオに向かって言う。

 

「おーい麻呂! 姉ちゃん勝ったらさ。俺に王様譲ってくれね?」

「はぁ!? 何故麻呂がそのようなことを!!」

 

と、ここでヨシナオは過去を思いだした。

 

ヨシナオは、かつては六護世仏蘭西(エグザゴン・フランセーズ)の領主をしていた。

だが、聖連により武蔵の王にならなければ土地を潰すといわれて、ここにやってきた。

 

望んでいたわけではない。だが、目の前の少年は王になることを望む。

王として、自分がしてきたことをこの少年はするという。

 

ヨシナオは聞く。

 

「お前は、王になって何をする」

「俺は、俺のせいで奪われたホライゾンの全てを、取り返したいだけさ」

 

そういった。

ヨシナオは、それ以降は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

相対の結果は、喜美の勝ちで終わった。

そして、ヨシナオは宣言する。

 

「約束通り、生徒会、及び総長連合の権限をそれぞれに返還する!」

 

これには一同喜びの声を上げる。

だが、

 

「王権の移譲はない!」

『ハッ! そうだよな。そうだろうなあ、おい』

 

ただし、

 

「麻呂の補佐として副王を二人設ける。ホライゾン・アリアダストとトーリ・葵に、武蔵副王を任命する!」

『血迷ったか武蔵王! 学生に感化されたのか!』

「聖下。私は武蔵王。王である以上、最早民の下を離れず、その苦しみも困難も共に解決していく所存で御座います。もし麻呂達の行いに非があるのであるならば、聖連代表会議にて、ご決断を」

『聖連代表会議は国際会議。今の時代、それに値するような会議は聖譜には記されていない』

「いえ、あります!ヴェストファーレン会議が!」

 

ヴェストファーレン会議。

三十年戦争の終結講和や、いくつも国際法が制定された会議。

 

その開催時期は、

 

「半年後の、十月二十四日。その会議を以って、極東や武蔵の是非を図るというのは!」

 

葉月、神耶、トーリはにやっ、と笑う。

 

「トーリ。神耶」

「ん?」

「何?」

「俺ら、仲間に恵まれたな」

「Jud.」

「でも一歩間違うとどうして一緒にいるか不思議な連中に早変わりするけどねー」

「お前が言うな!!」

 

いい話が台無しだ、と葉月は苦笑しながら思う。

 

『聖連としては、武蔵の決断には危険を感じる。故に、当初の予定通り。こちらは姫ホライゾンの自害を進めることとする』

「……結局はそれかい。まったく」

 

そういって葉月は皆より一歩前に出る。

それにつられて、トーリと神耶も出る。

 

『ほう。古代魔法使役士(エンシェント・マギ)、白百合・葉月か』

「Jud.顔を合わせるのは二度目ですかねぇ」

『Tes.まだガキだった貴様に、疲労符つけたのを覚えている』

「ハッ! 陰険なジジィになったなぁ」

『聖下と呼べよ小僧』

「そうかよ。じゃあ悪いが。俺もホライゾンを救いに行く」

 

そういって、葉月は不敵に笑う。

 

『貴様……まさかっ…………』

 

葉月は教皇総長の言葉を無視し、トーリを振り替える。

神耶は一歩下がってトーリを前に出す。

 

「葵・トーリ」

「Jud.なんだい。魔法使い」

 

トーリがいうと、葉月はその場に跪く。

 

「俺の杖と翼。アンタに預けるぜ」

「Jud.よろしく頼むぜ」

「トーリ」

 

と、今度は神耶だった。

 

「僕の力の全て。君に貸すよ」

「Jud.無駄にはしねえよ」

 

葉月が立ち上がると、背負っていた杖を引き抜く。

 

神耶は抱えていた錫杖を構えなおす。

 

トーリはそんな二人をいつもの笑顔で見ていた。

 

と、そんな中、

 

『成程なぁ。王に仕える、か』

「ああ。王族護衛だ」

『ならば、こちらもそれ相応に対処をしよう』

 

そういうと表示枠が消えた。

 

「さて。ちょっと行ってくるか」

 

そういって、トーリは歩き出した。

その横を葉月と神耶が並ぶ。

 

「トーリ。昔の約束は?」

「覚えてんに決まってんだろ」

「それもそっか」

 

三人はまるで思い出話をするかのように話す。

 

やがてその後ろから次々とやってきた。

 

浅間・智が。本多・正純が。葵・喜美が。ネイト・ミトツダイラが。

直政が。シロジロ・ベルトーニが。ハイディ・オーゲザヴァラーが。

マルゴット・ナイトが。マルガ・ナルゼが。キヨナリ・ウルキアガが。

ネシンバラ・トゥーサンが。アデーレ・バルフェットが。東が。本多・二代が。

点蔵・クロスユナイトが。ペルソナが。鈴が。御広敷・銀次が。ノリキが。

ハッサン・フルブシが。ネンジが。伊藤・健二が。

 

皆が皆、自分達の王に道をつけるべく、ついてきた。

 

「ネイト。頼りにしてるぜ。昔に約束したよな? 騎士様」

「古いことばかり覚えているのですね。存分に我が王。今こそ、私の騎士としての力を見せますわ」

「Jud.で。東。お前出てきて大丈夫かよ?」

「大丈夫だよ。余にも、出来ることがあるはずだから」

「そっか。じゃあネシンバラ。お前警護隊と連携して作戦とか立ててくれよ」

「Jud.」

「頼むわ。で、浅間。アレ(・・)さあ、通す用意しといてくれねえか?」

「……」

「フフ、愚弟。大事なこと忘れてないでしょうね?」

「ああ。大丈夫だよ姉ちゃん。もう絶対に死のうなんて思わねえ。だから頼む」

「……嫌だって言っても聞かないでしょうしね」

「ありがてえ。あと二代」

「何用に御座るか?」

「お前、うちのガッコ入れよ。臨時副長ってことで」

「拙者侍ゆえ、貴様ではなく君主であるホライゾン様に使える所存に御座るが、それでもいいというのならば」

「それでいい」

 

トーリは次々と指示を出していく。

人は彼を不可能男と呼ぶが、それでも、彼の周りには彼に出来ないことをやってくれる仲間がいる。

そして彼は、そんな仲間の不可能を一身に背負っていく。

 

階段を下りると、そこには酒井がいた。

 

と、トーリの目の前に表示枠が出た。

それは、ホライゾンの入学申請書だった。

 

「お前さんに送っておいた。必ず。ホライゾンを含めて全員で帰ってきなよ」

 

酒井は見る。

これから旅立つ。若き鳥達を。

 

「いいか。現場においては頑張るな。努力するな――――――ただ、今まで積み重ねてきた全力を出しなよ。それで駄目なら、生還しなよ」

「Jud.!!」

 

と、トンッ、と何かが乗る音が聞こえた。

全員が見ると、そこには、教皇総長の隣にいた少女がいた。

 

「また移動術!?」

「惜しいわね」

 

そういうと、少女は腰の剣を引き抜く。

 

「K.P.A.Italiaパドヴァ教導院所属。古代魔法使役士(エンシェント・マギ)、レベッカ・ハルバートンよ」

 

葉月が一歩前に出る。

 

「極東。武蔵アリアダスト教導院。古代魔法使役士(エンシェント・マギ)、白百合・葉月だ」

 

お互いに名乗りを上げる。

 

「封印は、まだ解けていないようね」

「だから、何だ?」

「別に」

 

少女―――レベッカがそういうと、葉月も杖を構える。

 

「安心しなさい。ここではやらない」

「そうかい。安心したよ」

「ただ、警告よ。去りなさい」

「だ・が・こ・と・わ・る」

「……いいわ。なら最後に一つ」

 

そういうと、レベッカは踵を返した。

 

「潰すわ。貴方を」

 

レベッカは消えた。

 

「ククッ、最初ッからクライマックスになりそうだな」

「だな」

 

トーリは過去に皆の前で言ったことを思い出していた。

 

もう十年も昔のことだ。

 

最初は、そう。ホライゾンに夢を持たせたかった。

その夢が今、現実になろうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、行こうか皆! ―――頼りにしてるぜ!」

「Jud.!!」

 




どうもKyoです。

うわー。無理やり詰め込みすぎたー……

とりあえず次回から一気に戦闘入ります。ゴメンなさい。
麻呂の「Te……いや。Jud.発音がこれでいいかね?」を入れたかった……無念也。

二代と喜美の相対は、んー。最初からあまり入れる予定がなかったので。

本来ならここでちょっとした小競り合いを葉月とレベッカに起こして欲しかった。

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。


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戦場の挑戦者達

 

午後の空。

白い雲もややオレンジ色に染まりつつあり、穏やかに流れていた。

 

だが、その穏やかな空も今日ばかりは慌しかった。

空では三征西班牙(トレス・エスパニア)の航空艦が飛び、武神が発進する。

 

その様子を、木の上から第一特務の点蔵は見ていた。

更に、自分達がこれから向かう場所である最初の関門、中央広場を見る。

 

そこには、大勢の三征西班牙とK.P.A.Italiaの学生が大きく細長い陣形を作り上げていた。

 

「どうだー点蔵?」

 

と、下から葉月が呼ぶ。

点蔵は下に降りると、状況を説明する。

 

「凄い、の一言に御座る」

「それは分かってっから」

「この先には三征西班牙とK.P.A.Italiaの混成部隊がいるで御座るよ。陣形の形からして、おそらく西班牙方陣(テルシオ)かと」

「あー。アイツらのやりそうな手だな」

「どういうことだ?」

 

ノリキに聞かれ、葉月は答える。

 

「向こうは別に俺らを倒す必要性は無い。ホライゾンの自害の時間まで俺らを足止めしてりゃあいいんだからな」

『受けの一手って奴ですか?』

「だな。ってかアデーレ。お前のそれ、機動殻?」

 

アデーレの乗っている機動殻を指差して葉月は言う。

その形は全体的に丸く、青い色をしていた。

腰の部分には実践用の槍が装着されている。

 

『あ、はい。ただ、これちょっと遅いので、足引っ張っちゃったらゴメンなさい』

 

そういってアデーレは頭を下げる。

つられて周りの警護隊もいえいえと返す。

 

「で。全体的な状況どうなってんの?」

『それじゃあそこからは僕が説明するよ』

 

と、表示枠が現れた。

そこにはネシンバラが眼鏡を光らせながら映っていた。

 

『敵は、空に航空艦。地上には地上部隊。これで武蔵の行動を制限するつもりだね。おまけに西班牙方陣と来た。これは厄介だよ。移動は遅いが守りが堅い』

「完全に時間稼ぎしかしないよな。これ」

『Jud.でもね。これを見て』

 

そういうネシンバラ。

そこには、目的地であるホライゾンの居場所と現在の自分達の居場所が記されていた。

そこは、

 

「一直線か」

『そう。だからこの西班牙方陣を抜ければ、迷うことなく一直線のルートだ』

「問題は、どうやってあの陣形を崩し、突破するかだな」

 

それには一同頷く。

西班牙方陣は守りに優れた陣形で、非常にメジャーだ。

 

術式防盾により、正面からの攻撃には非常に強い。

更に、中には銃士隊もいて、そこから攻めることも出来る。

 

欠点としては真上からの攻撃だが、地上戦を行うのだ。上空からの攻撃はないものだろう。

 

『僕が言うのもアレだが、結構ピンチだよね』

「おい軍師が弱気になってどうすんだよ」

『現実を見ていなきゃ軍師は務まらないよ。だけどさ。ちょっといいかな皆』

 

ネシンバラは全部の表示枠に向かって言う。

 

『誰も戦争が好きなんて人はいないよね。命の奪い合いが好きなんて人は、それこそ狂人だ』

 

ふと、葉月は一瞬表示枠の隅に映る喜美に目をやるがすぐに逸らす。

 

『この戦闘に参加している皆。強制か任意かは分からない。でも、どうせ戦うんなら精一杯生きて、出来る限りカッコつけてみようよ。よく言うでしょ。生きることは戦いだって』

 

だから、

 

『皆、ちゃんと死亡フラグは建てたかい? 危険なときに救ってくれる友はいる? いざってときの逆転の隠し玉はあるかい? そして何より――――――帰るべき場所はあるかい、登場人物たち!』

「『Jud.!!』」

『よし。それじゃあ行ってくれ皆! そして主人公! そろそろ何か言ったらどうなんだい?』

 

ふと、ノリキが顔を上げる。

 

「おい。その主人公はどこ行った?」

 

辺りを見ると、トーリの姿が消えていた。

が、アデーレが機動殻の中からズーム機能でトーリを見つけた。

 

関所に向かって歩いていた。

 

向こうもこちらに気づいたのか、振り向くと手を振る。

 

「おーい! 何やってんだよ! あっちでホライゾンが待ってるんだろー! 早く行こうぜ!」

「ちょぉぉぉぉぉ!? ト、トーリ殿!?」

「何やってんだかあの馬鹿は……全員聞け!」

 

葉月は警護隊、及び梅組メンバーに言う。

 

「とりあえず、馬鹿が勝手に行っちまった! 後から追うぞ!」

「Ju、Jud.!」

 

やや戸惑うように返事をした全員はトーリの後を追う。

一番早い葉月と点蔵は、すぐにトーリの横に並ぶ。

 

「いやお前さ。ホライゾンに会いたい気持ちは分かるがもうちょい空気読めよ」

「ああ? 俺はいつだって空気バリバリ読んでるぜ! 例えば点蔵はパシリ大好きだからパシらせようとかな!」

「自分パシリが好きなわけでは御座らんよ!?」

「分かってるって。職業なんだろ?」

「パシリが職業ってもう既にその世界は末世迎えてるで御座るよ!?」

「お前ら余裕あんなー」

 

そんなことを言っていると、既に関所の門が見えた。

と、ここでようやく後続が追いついた。

 

「よっし開けるか!」

「まあ待てトーリ」

 

そういって葉月はトーリを止める。

 

「いいか? 向こうは三征西班牙とK.P.A.Italiaの連合なんだ。ここで普通に扉を開けてみろ。きっと反応は『普通過ぎてつまらんな』で終わりだぜ? 芸人のお前はつまらない登場の仕方をしたいのか?」

「そ、それもそうだな! 流石だぜ葉月!! でもどうやったらウケ取れんの?」

「ああ。簡単だ。ちょっとどいてみ」

 

言われてトーリは場所を空ける。

葉月は、五歩ほど後ろに下がった。

 

そして、

 

「オラァ!!!」

 

強烈な踏み込みから飛び上がり、木製とはいえ巨大な扉を二枚とも蹴り飛ばしたのだ。

扉は力によって強引に剥がされ、そのまま西班牙方陣に突っ込んでいった。

 

「……とまあこれが正しい開け方だ」

「す、すげえぜ葉月! でもそれって真っ向から喧嘩売ってるよな?」

「何言ってんだ? 元々そのつもりでやってんに決まってんだろ?」

 

そんなことを平然と言う葉月。

やがて煙が晴れてくると、そこには、唖然とした学生達がいた。

 

「そーら。気合入れていくぜお前ら」

 

葉月は杖を構える。

同時に、周りの空気も変わった。

 

「ぜってーにトーリをホライゾンのとこまで行かせるぜ!」

「Jud.!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

その様子を艦上で見ていたネシンバラは呟く。

 

「……白百合君も、武蔵の空気に触れておかしくなった、か」

「フフフ同人作家? あんまり悪口言ってると、どこぞの巫女が砲撃してくるわよ」

「ああそうだったね。ゴメンゴメン」

『あの。そのどこぞの巫女って私ですか?』

「他に誰がいるのよ」

 

いきなり表示枠で浅間が抗議を始めたが、ネシンバラは気にせずに続けた。

 

「さて。向こうもそろそろこちらに対して攻撃を仕掛けてくる頃だね」

 

言うが早いか、三征西班牙の警護艦が砲撃を開始した。

だが、武蔵の重力障壁により。砲弾は届かずに、爆風も防いだ。

 

自動人形〝武蔵〟による操作だ。

砲弾は武蔵を狙うが、〝武蔵〟は次々と砲弾の位置に重力障壁を移動させていく。

 

更に、武蔵の巫女達が弓で狙撃し砲弾を破壊していた。

 

すると、〝武蔵〟の横に表示枠越しに〝浅草〟が現れた。

 

『〝武蔵〟様。三征西班牙の警護艦から高出力の流体反応が検地されました。主砲である流体砲です。術式操作があります――――――以上』

 

〝武蔵〟は上空を見ると、こちらを向く砲塔に流体が集められているのを確認した。

 

すると、武蔵は両手で重力障壁を流体砲の射線上に集める。

瞬間、流体砲が発射された。

 

一直線に武蔵に向かって放たれるが、重力障壁の壁に阻まれる。

障壁は、あっという間に半分以上砕かれたが、それでも流体砲の照準を逸らすのには十分で、武蔵からかなり逸れた場所に着弾した。

 

『お見事です――――――以上』

「今のは向こうの狙いが甘かっただけです。次は直撃します」

 

と、神耶が割り込んできた。

 

『〝武蔵〟さんナイス! 守り完璧!』

「ありがとうございます神耶様。このくらい、この〝武蔵〟にとっては朝の掃除前程度の問題です――――――以上」

『〝武蔵〟様。気分が高揚するのは分かりますが、武蔵全面に重力障壁を展開するのをお止めください。前が見えません――――――以上』

 

おっと、これはいけませんね。つい、と思いながら〝武蔵〟は障壁を解除する。

 

『二発目来ます――――――以上』

 

〝浅草〟が報告する。

 

『浅間様。よろしくお願いいたします――――――以上』

 

表示枠で〝武蔵〟が浅間に頼む。

浅間は、いつもの制服姿から、巫女装束になっていた。

 

巫女というのは、基本的に能動的な戦闘行為を禁じられている。

だが、

 

「浅間神社は、武蔵を守るために。その力を使用します」

 

パンッ、と手を合わせると地に円形の陣が出来た。

バインダースカートが開いていき、大規模射撃の用意をする。

浅間の隣に浮いている走狗(マウス)、ハナミがそのサポートをする。

 

『位置関係禊終了ー』

 

浅間は、片手に構えた弓を接続する。

片梅と片椿。二つを重ねることによって出来る大弓。

 

「白砂台座『梅椿』、接続!」

 

傍らにある砲撃禊用の矢を番え、構えると足の固定用ピックが打ち込まれる。

狙いは、二発目を撃とうとしている航空艦。その流体砲だ。

 

「500メートル辺り、二拝気確定して!」

『拍手!』

 

弓を引き絞り、右目の義眼〝木葉〟で照準を調整する。

そして、

 

「会いましたっ!!」

 

放たれた矢と同時に、向こうの流体砲も発射された。

二つの砲はぶつかり合い、やがて流体砲は禊にて消失。

 

残った矢はそのまま進み、流体砲の砲身に入り、内部を爆発させた。

 

「ふぅ」

 

浅間は一息つくが、気づくと自分の周りにいくつか表示枠が出現していた。

皆、一様にこちらを見ている。

 

「な、なんですか?」

『……流石武蔵が誇る最強巫女型決戦兵器ね』

『おいおいおい浅間。お前カッ飛ばしすぎじゃね?』

『ククク愚弟? 浅間にとってはこの程度はまだまだよ。何故なら浅間はあと二回の変身を残しているからよ!』

『撃ち終えた後の浅間の顔を見たか? 満足気な表情だったぞ。これで撃つのは好きじゃないというから、拙僧、そろそろ本気で身の危険を感じるのだが』

「味方はいないんですか味方あー!!」

 

表示枠からクラスメイトによる自分の評価を聞いていると〝武蔵〟から通達があった。

 

『武神の射出音を感知しました――――――以上』

 

武神。

航空戦力の要であり、武蔵を数機で監視する各国の重要な戦力だ。

無論、武神戦力がないところもある。

 

武神に乗れるのは一部の選ばれたエリートのみ。搭乗者の意識とリンクさせて動く。

 

ネシンバラは武神の戦闘を任せられる二人に指示をする。

 

「それじゃあ頼むよ! ナイト君、ナルゼ君!」

 

それは、武蔵上空を飛んでいる黒翼匪堕天の少女と、金翼墜天の少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

一方、ここは中央広間。

アデーレの機動殻が、敵の迫撃砲を防いで、敵に動揺が走っていた。

 

「おーい葉月ー。これどういうこと? アデーレの機動殻ってまさかスーパーアーマー?」

「いや違うから。多分、一昔前の重装甲型の機動殻なんだろうな。ただ、今は高速化の戦場だからぶっちゃけ言うと。あまり役には立たない」

『し、白百合さんはっきり言わないでください!』

「でも壁にはなるで御座るな」

『第一特務! 壁って何ですか壁って!!』

「ちなみにアデーレ。今の砲撃でどのくらい装甲削れた?」

『ほぇ? いえ? ただ今のをあと十発くらいもらうと表部装甲が剥がれますかねー』

 

十発、というのを聞いた敵陣営が苦い顔をした。

 

アデーレの破壊は無理と判断したのか、隊長らしき人物は今度は先頭に立っている葉月に狙いを定めた。

 

「やべえ! アデーレ早く盾! 盾プリーズ」

「葉月殿! 早くアデーレ殿壁に!」

『アデーレ! 壁として葉月君を守ってください!』

「なんで私を盾前提として話し進めてるんですか!?」

『ククク愚衆共。早くアデーレを盾にしないと、浅間が中央広場を吹っ飛ばす威力の矢を放つわよ! 愛の力で!! 自分で言ってて熱いわ! ええゲキ熱よ!!』

『愛ってなんですか愛って!! あとそんな威力のものなんかおいそれと撃てませんよ!』

 

撃てるんだ、という全員の心の声が一致すると共に、葉月に向かって迫撃砲が発射された。

 

だが、葉月は杖をその射線上に添え、

 

 

 

 

砲弾をそのまま受け流し、空へと弾いた。

 

 

 

 

それを見た一同は、再び呆然とした。

 

「よしてくれよ。迫撃砲なんてさ」

 

そういう葉月は杖を肩に乗せ、片手で向こうに「かかってこい」と挑発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺を倒したかったら。流体砲をダース単位くらいは持って来いよ。ま、片端から潰すけどな」

 




どうもKyoです。

アデーレのあの機動殻は本当に防御系のチートですよねー。移動までついたらどうなることやら……あ、ペルソナ君がいるか。

次回は、双嬢の戦いと、いち早く神耶の力のお披露目、が出来たらいいなと考えております。
序盤がグダグダしすぎたので、一気に加速していきます。

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。


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航空舞台の舞人達

 

空を飛ぶ、二つの人影があった。

 

一つは、黒髪に黒翼の少女。

一つは、金髪に金翼の少女。

 

武蔵の第三特務と第四特務、マルゴット・ナイトとマルガ・ナルゼだった。

彼女達は、遠くから来る武神を見つめていた。

 

「武神、かぁ。武蔵の防御掻い潜られたらヤバイね」

「まさか魔女として、Tsirhc側と戦うことになるなんてね」

 

二人は、物憂げに視線を交わす。

 

「Tsirhc教譜が恐れ、敵とし、滅ぼすことを決め。研究も満足にいかず、人々の間に隠れた術式、魔術(テクノ・マギ)

「武蔵は、いい隠れ場だよね」

「……だったら」

 

と、ナルゼはナイトの箒から立ち上がる。

 

「魔女の身分を晒してでも、武蔵を守る意義は有り! 来るわよマルゴット!」

「Jud.!」

 

武神が専用の銃から撃ってくる。

二人はそれを回避すると、ナルゼはペンを、ナイトは箒を掲げる。

 

「「装境換(Verwandlung)!!」」

 

二人はある企業のテスターをしている。

すなわち、『見下し魔山(エーデル・ブロッケン)』。

 

この企業は主に魔女達に商品を提供している。

特に、魔女の武装関係を。

 

当然テスターである彼女達もその例に漏れず、今もこうして己が持つ『魔女の箒』を顕現させていた。

 

ナイトは黒い強化外殻に覆われた黒い箒。

ナルゼは白い強化外殻で作られた白い箒。

 

それぞれを、黒嬢(シュバルツ・フローレン)白嬢(ヴァイス・フローレン)と呼ぶ。

 

そして、二人のことを武蔵の人間はこう呼ぶ。

 

「「完成! 双嬢(ツヴァイ・フローレン)!」」

 

白の衣裳を着たナルゼと黒の衣裳を着たナイトは空へと舞い上がる。

武神は二人に狙いを定めるが、小回りの効く二人の機動に翻弄されうまく当たらなかった。

 

先に武神に仕掛けたのはナルゼだった。

彼女は、得意の白魔術(ヴァイス・テクノ)を使い、空間に一枚の図面を描く。

それらを何枚にも重ね、そこに十円硬貨を投入する。

 

魔女達が使う攻撃方法、硬貨弾だ。

 

ナイトも同じく硬貨弾にて狙撃をする。

 

二人の放った弾丸は武神に直撃はするものの、一つ一つは威力の小さい弾丸。武神相手にはあまり効いていないようだった。

 

「流石武神、ってところかしら。たった数機で武蔵を監視するだけはあるわね」

「だね。いい攻撃術欲しいね」

拝気量(アウスプッフ)上げて加圧する?」

「相手が速いよ!」

 

武神が旋回してこちらに戻りつつ、射撃を加えて二人を捉えようと手を伸ばす。

流石に、エースと呼ばれるだけはある。その腕は的確だ。

 

だが、

 

「こっちだって!」

「武蔵の代表なのよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

一方、武蔵アリアダスト教導院の橋上では、オリオトライと三要、神耶が二人の戦いを見ていた。

 

「神耶は皆と行かなくていいの?」

「Jud.葉月が向こうにいるってことは、僕はこっちで守りに専念しないといけないから」

「守り?」

「そう。守り」

 

そういうと、錫杖に巻かれた包帯がひとりでに外れていく。

そこから現れたのは、金色の錫杖だった。

遊環にすら巻かれた包帯も外れ、その色も同じく金色。

 

ただ唯一、持ち手にあたる部分が黒だった。

 

「……それ。結構な業物じゃないの?」

「んー。どうだろ。僕はただこれを貰っただけだから」

「誰に?」

「秘密」

 

と、指を口に当てて静かに微笑む。

それを見たオリオトライは同じく笑う。

 

神耶はそのまま橋の手すりまで近づくと、相対のときに見ていた場所を再び見つめた。

 

そして、余った男子制服の裾から目にも留まらぬほどのスピードで短刀を投げつけた。

 

「ちょっ! 不知火君!?」

「大丈夫よ光記。見なさい」

 

オリオトライは指差す。

すると、短刀が弾かれ、その先にはその場にいる誰もが今まで見たことが無い、黒いもやを纏ったモノ(・・)がいた。

 

神耶は橋から降り、モノと向き合う。

 

「君は誰?」

 

神耶は問うが、モノは答えず。ただその場に居続けるだけ。

錫杖を構える神耶。だが、それは唐突に消えていった。

 

「消えた?」

「神耶ー。大丈夫?」

「Jud.」

 

そういって神耶は戻る。

 

「何だったのかしらね。あれ」

「分からない。けど、多分あのK.P.A.Italiaの子が仕込んでいたもの、だと思う」

「根拠は?」

「流体反応が全く無い」

 

そう神耶は言い切った。

この世界の構成要素は流体。それは人間や動物、植物なども例外ではなく、「無」といった概念にさえ流体は宿り、この世に流体の無い場所はないとされる。

 

それが、流体が一切無いというのは、

 

「別の、異質なモノって考えたほうが早いかな。葉月に聞けば何か分かりそうだけど」

「今は最前線にいるのよねー。邪魔は出来ないし」

 

そういって、神耶とオリオトライは上空にいる魔女(テクノヘクセン)を見る。

すると、ナイトが武神の飛翔器の圧により飛行を乱され、ナルゼの白嬢が破壊された。

 

「……出来る、かな」

「心配?」

「Jud.」

「なら、行ってあげてもいいと思うわよ。私」

 

ただ、

 

「あの二人は、めっちゃ悔しいと思うでしょうね」

「……なら。二人を信じる」

「Jud.本当に危なくなったら、行ってあげなさい」

「Jud.」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ナイトは、半ば意識を失いかけていた。

武神の飛翔器の圧力により、機動を乱された。

 

遠くでは自分の相方の白嬢が破壊されたのを感じ取った。

 

(うっわー……ケッコーキツいねー。武神相手って)

 

ナイトは落ち行く中で、そう思った。

何しろ、自分達にとって初めての戦い。その相手がいきなり武神なのだ。

 

薄れゆく意識の中、ナルゼが自分に向かって叫ぶのが聞こえた。

 

自分達飛行種族は、背中の翼で飛ぶことも出来る。

ただし、武神と比べると当たり前だが遅い。

 

『起きなさい!』

 

と、そんな叱咤の声が聞こえた。

ナルゼとナイトの隣に現れた魔術陣(マギノ・フィーグア)には一人の女性がいた。

山椿(ヴィルトカメリー)〟と呼ばれ、二人の前の『見下し魔山』のテスターだった人物だ。

その後ろにもたくさんの人がいた。

 

武蔵の上空で行われている加重空間レース。そのメンバーだった。

 

『武蔵の空を預かるアンタたちが、今それを守れずどうするよォ!』

『アタシから、『見下し魔山』のテスター権奪った根性見せてみな!!』

提督(アルミランテ)! アンタからも何か言ってやってくれ! アンタ、元三征西班牙の武神隊のエースだったんだろ!!』

 

と、青年が中央で仁王立ちをしている老人に言う。

老人は一歩前に立つと、魔術陣に移る二人に向かって、

 

『聞け。魔女達。この中で一番先に負けたのが、この俺だったよなぁ――――だが、コイツらの中で、俺が一番強いんだぜ?』

 

だから、

 

『分かったらとっとと目ぇ覚ませ――――――双嬢(ツヴァイ・フローレン)!!』

 

刹那、ナイトの意識が覚醒した。

ややふらふらになりながらも、それでも黒嬢からは手を離さなかった。

 

目が覚め、手に入る力も強くなっていった。

 

「――――その後、時速200キロまでの加速用紋章十枚展開、大きさは定型十分の一で各200エーテル消費で――――」

 

ナイトが呟くそれは、魔女たちの呪文詠唱。

 

ナイトは落ちかけた体を黒嬢を支えにし、その砲塔を武神に向ける。

 

「ガッちゃん速筆だから、避けきれなかったよ、ね!」

 

そのままナイトは腰の棒金が入ったケースを開け、ありったけの棒金を箒の先端に押し込む。

 

「白の魔術はプラスの力を作る!」

 

すると、箒が光り、射線上に魔術陣が現れた。

 

「黒の魔術はマイナスの力を作る!」

 

武神は流体反応が急激に増加したことで攻撃を一時停止。

ナイトはそれを見て、いつものように笑った。

 

「二つの力が合わさるとどうなると思う! ――――十円銅貨千円分の棒金十本! 行くよ、平均日給!!」

 

そして、トリガーを引く。

 

「――――Herrich!!」

 

直後、流体光を纏った棒金の弾丸が武神に向かって放たれた。

 

武神はすぐさま回避機動を取るが、十本全てが武神を追っていた。

それは、ナルゼが武神に白嬢を破壊される前に、武神の首部分にマーキングしていたためである。

白魔術と黒魔術は引き合う。その性質を利用した誘導弾。

 

だが、武神も追尾してくるそれらを回避し続ける。

 

それでも避けきれないものは腕でガードをした。しかし、その一瞬の隙を突き、弾丸の一つがマーキングされた部分に着弾した。

 

命中(Schlag)!」

 

直後、武神の頭部が爆発した。

武神の乗り手自体は、その前に合一状態を解き、ダメージは無かったが。それでも解いたことにより武神は制御を失い、落下していった。

 

「ははっ、やった……」

 

見ると、ナルゼが自分の近くまで飛んできていた。

ナイトはナルゼを受け止めると、自分の方に抱き寄せる。

 

すると、再び魔術陣が開いた。

ネシンバラだ。

 

『いいかな?』

「ネシンバラ。武神、やったよ」

『ああ。見てたよ。二人ともありがとう。戻ってくれ』

「「Jud.」」

 

そういって、魔術陣を消す。

二人は顔を見合わせると、笑った。

 

「あはっ、ガッちゃん白嬢(ヴァイス・フローレン)壊したぁ」

「いいの。黙って」

「……ガッちゃん、震えてる?」

「マルゴットこそ」

 

そういうと、二人は笑い、見詰め合う。

 

「今くらい、いいよね?」

 

そういって、二人は唇を交わした。

 

「戻ろっか。武蔵に」

「Ju、マルゴット、アレ!!」

 

ナルゼが指差すその先には、小さい影が見えた。

魔術陣で拡大してみると、そこには武神が映っていた。

 

「武神!? だってさっき……ッ」

「ネシンバラどういうこと!?」

『おそらく三河で破壊された武神だ! 中途半端な修理で出てきたんだね……』

「なら倒せる!」

 

そういって、ナイトとナルゼは黒嬢を構える。

 

『無理だ! 今の君たちはもうさっきので全部使っただろ!?』

「一発で武神の弱点撃ち抜ければッ……」

『武装はしっかりしてるから攻撃してくるよ!』

 

言うが早いか、向こうは撃ってきた。

狙いが定まっていないのか、見当違いの方向に行ったが。

 

『浅間君! 武神を狙い打てるかい!?』

『やってみます! ナイトとナルゼは早く武蔵に!!』

 

二人がそういったその瞬間、武神が二人に向かって突撃を仕掛けた。

おそらく照準部分がやられているので、特攻を仕掛けることにしたのだろう。

 

その速度は、今の二人にかわせるものではなかった。

 

「あーもう! こんなことなら死亡覚悟で神耶と葉月の同人誌書き上げるんだった!」

「あはは、ガッちゃん相変わらずだねー……」

『というか二人とも! 早くこちらに戻って!!』

 

浅間は言うが、武神はもう目の前に来て、その巨大な拳を振り上げていた。

 

二人は、来る衝撃に目を瞑る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「四聖二十八宿・南方朱雀・『柳宿(ぬりこぼし)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、来たのはただの風圧だった。

二人が目を開けるとそこには、神耶が立っていた。

 

武神の拳をその細腕一つで押さえ込んで。

 

そして、傍にいるのは赤い大狐と額に「柳」の文字が書かれた子狐だった。

 

「言ったでしょ。僕を題材に同人誌書きたかったら、ちゃんと一言言ってって」

「ジンヤん……」

「神耶。アンタそれは……」

「Jud.」

 

シャン、と遊環を鳴らし、二人の目の前に立つ。

そして、武神と向き合い錫杖を突きつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「武蔵アリアダスト教導院。『飯綱使い』不知火・神耶。不出来な武神さん。ここから先は、神秘の見せ場だよ」

 




どうもKyoです。

ようやく出せたー。次回は神耶無双になりそうです。苦手な方は見ないでね!

というか元ネタ知ってる人はいるのかなー……
先に言いますと、「ふしぎ遊戯」という少女マンガからです。

あと武神に関しては、まあ修復途中と治療途中だったのに飛び出していった無銘さんといった感じです。
この世界、モブが無駄に熱いからこのくらいは敵方にもいるでしょう、という私の安直な考えです。

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。


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武蔵の飯綱使い

本日の戦闘用BGM「絶刀・天羽々斬」


『飯綱使い』

飯綱とは、狐の霊の一種であり、これを使役する者を『飯綱使い』と呼ぶ。

多くは管狐と呼ばれる小さな狐を何匹も使役するが、神耶は違った。

 

神耶は、武神の拳を弾くと、錫杖を構える。

 

「おいで」

 

一言。神耶が呟くと、辺り一面に表示枠が現れた。

 

そこから出てきたのは、青・白・黒の三匹の大狐と額に文字をを宿した二十七匹の子狐たち。

赤の大狐と「柳」の文字を宿した子狐もその群れに加わり、四匹の大狐を筆頭に二十八匹の子狐がその後ろに並ぶ。

すると、神耶が光に包まれる。

 

直後、現れたのは、いつもの男子制服を着ている神耶ではなく、蒼い着物を纏った一見すると女性のように見える服装だった。

 

「四聖二十八宿。その名を宿した飯綱達」

 

そして神耶の足元に陣が浮かんだ。

八角形の形をした、それぞれの部位に文字が刻まれていた。

 

(ケン)』『(コン)』『(シン)』『(ソン)』『(カン)』『()』『(ゴン)』『()』の八文字。

 

それは、八卦の陣だった。

八卦は徐々に大きくなっていき、最後には武蔵全体を包み込んだ。

 

武神は戸惑いながらも、神耶に向かって短銃の一発を放つ。

その人を撃ちぬくにはあまりも巨大な弾丸は、しかし神耶に届かず陣の光に触れた瞬間勢いを失う。

 

「僕の守りたいものを守るこの結界。そんなんじゃ壊れないよ」

 

だけど、と神耶は自ら八卦陣の外に出た。

 

「特別サービスだね。僕自身は、今最高に気分がいいんだ。だから相手をしてあげるよ」

 

その後ろを、飯綱たちが付き従う。

 

「世にも珍しい飯綱と八卦の合わせ技。とっくりとご堪能あれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「真喜子先輩。不知火君の術式は知ってたんですか?」

「八卦の術は知らなかったわ。飯綱は知ってたけどね」

 

よく配膳とか手伝わせてるし、とオリオトライは山要に言う。

 

その目は、己が教え子である神耶に向けられている。

 

「そういえば真喜子先輩。神耶君からすっごいアプローチ受けてますよね?」

「あはは。まーね」

「生徒からでも羨ましいです……」

「……そーでもないわよ」

「そうですか?」

「そうよ」

 

そういって笑うオリオトライ。

 

「……頑張れ頑張れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

武神の振りかぶる一刀を、神耶は避けずに錫杖にて受けきった。

 

「『柳宿』能力は膂力の超向上」

 

そして、それを払うと武神を殴りつける。

武神はそのまま後退していく。

 

「今の僕なら小山くらいなら持ち上げられるよ」

 

『柳』の文字を宿した子狐は神耶に寄り添う。

 

「青龍七星士」

 

神耶が声をかけると、青の大狐とそれに付き従う七匹の子狐が来た。

 

「アレの足止めを、お願い!」

 

刹那、大小八匹の狐達は武神へと向かう。

 

武神は狐達を払う動きをするが、如何せん大きさが違いすぎる故、様々な場所から高速で飛び回り、体当たりを仕掛けてくる狐達を捕らえようとするのは無理があった。

 

武神は、術者である神耶を狙おうと短銃を向けるが、その先に神耶はおらず、

 

「捕らえた」

 

既に、自分の懐に入っていた。

 

「狐火術式、『妖炎狐舞』!」

 

直後、錫杖の先端から青白い狐火が大量に吹き出た。

武神は慌ててそれを避けるが、短銃は間に合わずに炎に絡め取られた。

 

その瞬間、短銃はあっという間に解け、金属の融解物となった。

武神は即座に短銃を捨て、代わりに流体刀を構え向かってきた。

 

神耶も錫杖を構える。

と、神耶のそばに一匹の子狐がやってきた。

その額には「翼」と書かれていた。

 

「南方朱雀・『翼宿(たすきぼし)』」

 

すると、神耶の持つ錫杖が光をまとって姿を変えた。

それは、白いハリセンだった。

 

その直後、神耶の隣に表示枠が開いた。

 

『いや不知火君! せっかく君が僕のためにいいネタ提供してくれているのにここでハリセンは無いでしょハリセンは!!』

『クククこの同人作家。自分の欲望に忠実ねぇ。ねえ浅間?』

『な、何で私に振るんですか!? 私巫女ですよ? 欲望はないですよー?』

「皆うっさい」

 

神耶は表示枠を一箇所に集めて肘鉄で叩き割った。

 

「これちゃんと『鉄扇』って名前あるんだから」

 

そういって神耶はハリセン、『鉄扇』を振るう。

振るわれた軌道からは、煌々と輝く炎が溢れ出ていた。

 

「一度振るえばその軌跡には炎が生まれる。朱雀をよく体現してるでしょ。この子」

 

そういって「翼」と書かれた狐を撫でる神耶。

 

その炎は武神に向かうが、翼を使い上手く避けていた。

だが、

 

「無駄だよ」

 

神耶は錫杖を一回鳴らす。すると、武神の逃げた先に神耶がもう一人現れた。

その神耶は再び『鉄扇』を振るい、炎を起こした。

 

武神はそれに気づいたが遅く、左腕を切り離した。

武神は自分を襲った神耶を見るが、そこには神耶の姿は無く、「井」と書かれた狐がいた。

 

「南方朱雀・『井宿(ちちりぼし)』。この子は朱雀の中でも特別でね。色々な術が使えるんだ。今のは僕の真似をしただけだけど」

 

武神は再び神耶を見る。

神耶は笑っていた。

 

「さて。あんまり長々やる気は無いから。ソッコで終わらせようか」

 

そういって、神耶は『鉄扇』状態を解いた錫杖を掲げる。

そこからは小さな八卦が生まれていた。

 

それは、発光をし始め、徐々にその光の強さが増していく。

 

「逃げるか、合一を解くかしたほうがいいよ。じゃないと本当に死ぬから」

 

いつの間にか、神耶の背後には二十八匹全ての狐が列を成していた。

武神は、敵わぬと思ったのか三征西班牙の陣へと去ろうとした。

が、神耶の方が速かった。

 

「上手く避けてね。殺すのは、トーリの望むところじゃないから」

 

そういって、神耶は錫杖を振り下ろす。

 

「『金剛八卦霊華陣』!!」

 

直後に八卦は広がり、武神を包み込む。

その中からは青い流体の糸が伸びていく。

その糸が武神に絡みつくと、その部分から崩壊を始めていった。

 

武神は慌ててその陣から出ようとするが、その間に翼の一部をもがれた。

 

武神が陣から出る頃には、頭部や胴体以外がほぼ崩壊していた。

 

「……これ、にて。本日の公演は終了。またの御観覧、お楽しみに」

 

ふっ、と神耶の身が空中に投げ出された。

後ろに控えていた狐達もいなくなり、神耶はただ虚空を落下していった。

 

(あ、ヤバッ。調子乗って力使いすぎた……)

 

神耶は薄れていく意識の中、ふと、自分が何かに抱えられるのを感じる。

目を開けると、そこにはナイトとナルゼがいた。

 

「お疲れジンヤん♪」

「まったく。トンでもない隠し玉、持っていたものね。私達の苦労が台無しじゃない」

「はは……ゴメンね。でも、あんまり表に出したくないからさ」

 

そういって、錫杖を抱える神耶。

ナイトとナルゼも、そんな神耶を見て笑う。

 

「アンタさ。他の狐達の力もあるんじゃないの?」

「Jud.でもあんまり使いたくないなぁ」

「なんで?」

「だってさ、武蔵には朱雀がいるじゃん」

 

そう笑顔で言う神耶。

二人は笑いながら魔術陣を開く。

 

「だ、そうよ。直政」

『あーはいはい。つーか神耶。変なこと言ってっとハッ倒すさね』

『神耶。気にしなくていいですのよ? ただ単に照れてるだけですので』

「ん。Jud.」

 

そういって、目を閉じる神耶。

 

「後は任せたよ。皆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

一方、中央広場。

 

葉月が迫撃砲をいなしつつ、前進をしていた武蔵だったが、途中の増援により分断されてしまっていた。

現在は敵の攻撃を耐える一方だ。

 

「おおー! 俺、今まさに総ウケー!」

「防御の気が散るから黙ってろ!!」

「うるせー!」

「お前だよ!!」

 

木の上に登って、トーリが叫ぶと全員からツッコミが来る。

トーリは、木の下で肩を上下させている葉月に声をかける。

 

「おーい葉月! 大丈夫かー? 点蔵にジュースパシらせるか?」

「トーリ殿!? この状況で自分武蔵に戻ったら総攻撃食らうで御座るよ!? しかも理由がジュースパシリって!!」

「ああ大丈夫大丈夫。皆分かってくれるって。共通認識だし」

「最悪で御座るな本当に!!」

「いや別にいいんだけどさ。疲労符のことを忘れてただけだ」

 

そういって、味方の防御陣の中で休む葉月。

 

すると、トーリがまた叫びだした。

 

「おーたーすーけープリーズ! おっまわーりさーん!」

「馬鹿が! この状況で助けが来るものか!!」

 

と、律儀に敵も反応を返す。

が、トーリはいつもと同じように笑うだけだった。

 

「そいつが来るんだな! 見てみろ! デリック最強伝説を!!」

 

トーリが指差すその先には、遠くから飛来する物体があった。

 

武蔵の重武神『地摺朱雀』だった。

だが、向こうの隊長は慌てた様子も無く、隊全員に術式防盾の展開を命じた。

 

それを見た葉月は鼻で笑う。

 

「ハッ! 無駄だよ。正面からいくら防御しようと――――」

 

言うが早いか、大勢の三征西班牙とK.P.A.Italiaの生徒が吹っ飛ばされた。

 

「武蔵の銀狼に敵うはずねえんだから」

 

直後、敵を飛び越えてやってきたネイトはトーリの前に立つ。

 

「感謝の言葉を望んでもよろしくて?」

「んー」

 

トーリはそのままネイトの頭をやや乱暴に撫でた。

 

「よしよしよーしステイ、ステイ!」

「犬じゃありません!」

「クックック……」

「葉月も地味に笑わないでくださいません!?」

「ま、確かに。騎士だもんな。ネイトは」

 

トーリがそういうと、ネイトは言う。

 

「道をつけますわ。我が王。貴方の喪失を、貴方が望めるように」

「ああ。頼むわ」

「んじゃ。俺も行かねえとな」

「おいおい大丈夫かよ葉月。あんま無茶すると俺が浅間に怒られるんだけどよ」

「あー平気平気。それに――――――来ちまったしな」

 

そういう葉月は空を指差す。

そこには、あのレベッカが身一つで空を飛んでいた。

 

「んー。んー?」

「あ、あの我が王? 何を?」

「ひょっとしてトーリ殿。あの女性の下着を見ようとしているで御座るな?」

「ば、バッカ点蔵! こういうのは黙ってればいいんだよ!!」

 

そういうトーリたちをレベッカは黙って見下ろし、

 

「ねえ武蔵勢。何でこの馬鹿、地上歩いているの?」

『うっわ言われた! ついに言われちゃいましたよ私達!?』

「とうとう真正面から言われたか……」

「思えば何でコイツを上にしたんだろうなー本当」

「お、オメェらな! こんな素敵な総長兼生徒会長はいねえぞ!!」

「今までの自分の所業を反省してから言え!!」

 

レベッカは無視して武蔵の防御の上を飛び、葉月の前に立つ。

 

「葉月!」

「いい。で、何か用か?」

「ここに来て、まだ封印解いてないの? ふざけてるの? それともやる気ないだけかしら?」

「別に。俺のはお前と違って時間掛かるんでね」

「そう。ならいいわ」

 

そういって、踵を返すレベッカ。

 

「私がここで全部倒せばいい話」

 

 

 

次の瞬間、葉月がレベッカに杖を振り下ろした。

 

 

 

しかし、レベッカも手に持った剣で応戦した。

 

「へえ。やる気?」

「ああ。ここにいる全員に手を出す気ならな」

 

そういうと、葉月はトーリを振り返る。

 

「トーリ! こっから先は俺はいねえぞ! 大丈夫か!?」

「おお! 安心しろよ葉月!」

「ハッ! 一番安心出来ねえ台詞だな」

 

キンッ、とレベッカの剣を弾く葉月。

 

「そんなに見たいんなら見せてやるよ。俺の、魔法使いとしての本分をな」

 

そういう葉月の立つ地面には幾何学模様の陣が光とともに現れた。

 

「俺に解放させたこと。後悔させてやるよ」

「そうかしら。後悔するのは貴方たちよ。武蔵」

 

レベッカは再び空へと飛んだ。

 

すると、葉月も同じように空を飛んだ。

 

「は、葉月殿!?」

「点蔵! 皆! そこの馬鹿を、ホライゾンのところまで頼む!」

 

葉月はトーリに笑う。

 

「王の剣。白百合・葉月。王と俺の敵を、倒しに行ってくるぜ」

「ああ。任せたぜ。俺たちの魔法使い!」

「Jud.!!」

 

そのまま葉月はレベッカの飛んでいった方向に飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

レベッカと葉月が止まった場所は、お互いの本拠地からはなり離れた場所だった。

 

「ここなら邪魔も被害もないわ」

「おーおー。ありがたいね。ならこちらも遠慮なくぶっ放せるわけだ」

 

そういうと、葉月は杖を両手で持つ。

すると、封印されていたかのように巻きついていた白い帯がゆるりと外れていく。

 

そこから現れたのは、木の杖だった。

 

「……大魔導師の血筋」

「おい」

 

ゴォ、と葉月の周りで風が渦巻き始めた。

それを見たレベッカは剣を構える。

 

「もうごちゃごちゃ言うのは止めようや。ここまで来たらもう一つだろ」

「……ええ。そうね」

「武蔵アリアダスト教導院。白百合・葉月」

「K.P.A.Italiaパドヴァ教導院。レベッカ・ハルバートン」

 

と、お互いに何かを高速言語で呟く。

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾・雷の32矢(セリエス・フルグラーリス)!」

魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾・氷の32矢(セリエス・グラキアーリス)!」

 




どうもKyoです。

Q.なんでネギま?

A.これでネタが増えるから。

ぶっちゃけ。このホライゾンの世界にネギまのネタとか本当に話が進みやすいんですよ。
主に自爆関係の台詞で。誰とは言いませんが。

武装解除の魔法はどうするかって?
使ったらヤバイことになりますので。ええ。

尚、今回のこれを見ても何も言わずに、お気に召さなかったらすっぱり切ることをお勧めします。
だってこれ読む人選ぶから……私が書いてるから……

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。


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武蔵の不可能男

 

光が、戦場を飛び交っていた。

赤の炎が白い氷を撃ち溶かし、土色の砂弾が黄色い雷を撃ち落していた。

 

その光弾を放っているのは、空を飛び続けている二人。

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾・火の20矢(セリエス・イグニス)!」

魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾・雷の20矢(セリエス・フルグラーリス)!」

 

一方は黒髪の少女。もう一方は赤みがかった茶髪の男子。

レベッカ・ハルバートンと白百合・葉月だ。

 

二人は互いに曲線の軌道を描きながら時折光の弾丸を放ちあい、お互いを攻撃しあっていた。

 

「埒が明かないわね」

「そらお互い様だ!」

 

そういうと、葉月は杖をレベッカに向ける。

 

風精(エウォカーティオー)召喚(・ウァルキュリアールム)剣を執る(コントゥベルナーリア)戦友(・グラディアーリア)』!」

 

葉月がそう叫ぶと、葉月の周りから人型の流体をしたものが八体現れた。

それらは葉月の姿を形取り、それぞれが武器を持っていた。

 

「風の中位精霊の八体同時召喚ッ……」

迎え撃て(コントラー・プーグネント)!!」

 

それらはレベッカに向かって突撃をしていった。

だがレベッカも既に、それに対する方法は打っていた。

 

火精(エウォカーティオー)召喚(・スピリトゥアーリス)! 槍の火蜥蜴(デ・ウンデドリーギンダ・サラマン)8柱(ドリス・ランキフェリス)!」

 

レベッカの周りに現れた八体の槍状の手を持つ蜥蜴も、レベッカの指示で、葉月の風の分身に向かっていった。

 

それらは空中でぶつかり合い、爆発を起こし、やがては消えていった。

 

後に残ったのは少しの爆煙だけだった。

 

「……埒が明かないな」

「お互い様でしょ?」

 

くるり、と剣を回してレベッカは言う。

葉月は苦笑し、杖を構えなおす。

 

「お前、契約系の魔法使えるだろ」

「Tes.そういう貴方はどうなのかしらね」

「試してみるか?」

「別に、いいわ」

 

そういって、レベッカは剣を葉月に向ける。

 

氷爆(ニウィス・カースス)!」

白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)!!」

 

次の瞬間、氷と雷がぶつかり合い、爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

葉月とレベッカの戦いの様子を、武蔵にてネシンバラが見ていた。

が、その手は表示枠を操作していた。

 

「ああクソ! 白百合君もっとゆっくり動いてくれ! 描写が間に合わない!!」

「クククこの同人眼鏡。今日は随分と張り切って書くじゃない」

「当然だよ! 不知火君に引き続いて白百合君まで僕にネタ振ってくれたんだからね!」

「小生思いますに。あの二人は別にネタを振るために戦ったわけではないと思うのですが」

「ははは! それにしても白百合君はノリノリだね!」

『うむ。しかし先ほどから口にしているのは何だ? 魔術(テクノ・マギ)の詠唱に似ているが』

 

そういうネンジに答えるようにナルゼが魔術陣越しに話す。

 

『魔術にああいう詠唱は無いわよ』

『そもそもハヅッちが魔術を習得しているって話は聞いてないし。ジンヤん何か知ってる?』

『まあね』

 

神耶は自分の表示枠を開いて言う。

 

『葉月は、古代魔法使役士(エンシェント・マギ)って呼ばれてる一族。その一族が使うのを魔法っていうの。ここから魔術は派生したって言われてるけど……』

「待って不知火君! その設定話すのはもうちょい後にして! 今描写で手が回らない!!」

「お前の都合で世界は動いてるのかよ!!」

 

全員からのツッコミを受けても平然と同人の描写を続けるネシンバラ。

そんなネシンバラを他所に、神耶は言う。

 

『昔はもっと平凡的にいたんだよ。古代魔法使役士が。でも、その力が余りに大きいからってことで、力を捨てたり封印したり、あとはまあ。殺されたりで』

『本っ当にそこの眼鏡が考えそうで好きそうなシナリオね』

『で。今の世の中、古代魔法使役士って滅茶苦茶少ないんだよね。この世界に十人いるかいないか』

「で。それが葉月とあのK.P.A.Italiaの黒髪娘ってわけね」

 

と、椅子に座って紅茶を飲む喜美が言う。

 

「でも、そんなに少なくなったなら、どうして一箇所でまとまって生活しようとは思わないの? 子孫繁栄は必須じゃない? 子作りは大事よ! エロスの原点よ!!」

『んー。あのさ。これツッコンだら負け?』

『負けだと思うわ』

「フフ、何よ。ノリ悪いわね」

『まあ話戻すとね。纏まって生活はしていたらしいんだ。でも、そのうちに身内で争いが始まってね』

「原因は?」

『よくあること。意見の不一致。古代魔法使役士は、僕たちよりも遥かに優れた魔法があるのに、隠れて暮らさなきゃいけないのはおかしい、って具合にね』

『あー。ゴメン。なんか葉月には悪いけど。ひょっとしてネシンバラの小説から葉月は出てきたんじゃないの?』

『有り得そー』

 

皆葉月のこと心配なのかなー、と心の中で神耶は思った。

思っただけにした。

 

『まあそんなわけで。いまや超少数のレアな一族になっちゃったわけ』

「そういや葉月。お父さんいたわよね? 小さい頃に一度会ったきりだけど」

『ああうん。生きてるよ。今も何処かで』

「まさか、父親が何らかの理由で一族を皆殺しにし始めたんじゃ……」

『ネシンバラ? いくら冗談でもそれ以上言ったら――――』

 

チュン、とネシンバラの足元に小さな焦げ跡がついた。

 

『ぶっ殺すよ?』

「う、撃ってから言わないでくれよ!!」

 

慌ててその場から二歩ほど後ろに下がるネシンバラ。

神耶はそれっきり表示枠を閉じた。

 

「ククク同人眼鏡? アンタ神耶怒らせるとマジ怖いわよ」

「クッ! 僕はただ可能性の話を――――」

 

ダダダダダッ、と今度はネシンバラの周りを撃ちぬくように焦げ跡がついた。

 

「――――しないことにしたよ!」

「クククだから言ったじゃない。浅間からの砲撃が来なかっただけマシだと思いなさい」

『何でそこで私が出るんですか――!!』

 

新たな表示枠から浅間が抗議をしているが、喜美は無視した。

 

「そんなことよりホラ。愚弟達がそろそろホライゾンのところに到着よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

トーリたちは遂にK.P.A.Italiaの艦がある広場まで来ていた。

だが、ホライゾンを乗せた審問艦が見えない。

 

「まだか点蔵! 皆、拝気も限界に近いぞ!」

「あの艦を抜ければ、目の前で御座るよ!」

 

点蔵が指差すその先には、『栄光丸』があった。

しかし、その行く手にガリレオ以下K.P.A.Italiaの戦士団が立ちはだかった。

 

「くっ! ここに来て足止めで御座るか!」

「これは、K.P.A.Italiaの正規戦士団。先ほどの相手とは格が違うぞ?」

 

そういうと、ガリレオは後ろに下がる。

 

K.P.A.Italiaの戦士団は槍をこちらに向けた。

一方武蔵側も、防御術で前面を固め、点蔵は短刀をノリキは拳を構えた。

 

合図は無く、ただただお互いに全力でぶつかり合いに走った。

 

遅れて、トーリがやってきた。

 

「おおっ! アイツら中々やるなあ」

「そりゃ、年季と経験が違うからなあ」

 

感心するトーリに頭上から声がする。

K.P.A.Italia教皇総長、インノケンティウスだ。

 

手には、あのガリレオが持っていた大罪武装、

 

「おっさんそれって!」

『聖下と呼べよ小僧。いかにも! 〝淫蕩〟を司る大罪武装『淫蕩の御身』だ!』

 

そういうと、『淫蕩の御身』の平面部分が開放された。

それを現れた表示枠に打ち付けるように教皇総長は表示枠を叩く。

 

直後、鈍い鐘のような音がした。

 

すると、武蔵勢の武装が次々と分解されていった。

 

『『淫蕩の御身』これは攻撃力を持たない大罪武装だが、超過駆動したときには。半径3キロ圏内のこの『淫蕩の御身』が認識した敵対勢力の武装を完全に〝骨抜き〟にする!』

「くっ、武装が駄目でも!」

 

そういうと、警護隊の一人が殴りつける。

が、何かに弾かれるように後ろに下がった。

 

「これは……!」

「〝骨抜き〟にされたのは、武器だけじゃない!」

「拳も、蹴りも! 攻撃の意図があれば、相手に触れた瞬間に、勢いを失うで御座るよ!!」

 

と、今度は勢いを盛り返してきたK.P.A.Italiaが突撃してきた。

幸い、防御術は破られていないが、拝気も限界に近い今、持ちこたえることが出来ない。

 

一人、また一人と倒れていく。

 

「諦めろ! もうお前達の負けだ!」

「ここで姫が自害をしても、貴様らにも損は無いはずだ! 戻れ! あるべき場所へ!!」

 

K.P.A.Italiaの戦士団が武蔵に対して警告を促した。

ダンッ、と倒れた警護隊の面々は地面に拳を打ち付ける。

 

「クソッ! どうにかならないのか!」

「どうにかしたいと、そう思ってるのか?」

 

ふと、そんな言葉が掛けられた。

 

見ると、そこには、葵・トーリが立っていた。

 

彼は、全員を見つめながら、もう一度問うた。

 

「なあ、どうにかしたいってそう思ってくれてるのか? ホライゾンを救いたいと、そう、思って」

 

返事は、すぐに来た。

 

「そんなの、当たり前だ!」

「目の前で、理不尽な死に抱かれているのなら。極東の人間は必ず救いたいと思う!」

「ああ。死ねばいいなどとそんな言葉を信じるように生きてきた覚えは無い!」

 

それは、傷つき、倒れながらも、確固たる決心を持った全員の心の声だった。

 

トーリは、全員を見渡す。

 

「そうか……皆、そうなんだな」

「Jud.!」

 

全員が頷き、トーリへと返す。

その中には、自分のクラスメイトたちもいた。

皆、一様に目には闘志を燃やしていた。

 

「……そっか」

 

そういうと、トーリは何か嬉しそうに目を伏せた。

そして、

 

「じゃあ浅間! やっぱ頼むわ! 俺の契約を認可してくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

武蔵でトーリからの通神を聞いていた浅間は戸惑う。

 

「……本気ですか?」

 

だが、表示枠の向こうの彼はいつもの調子で、

 

『頼むわ』

 

両手を合わせて頼んできた。

逡巡した浅間だったが、ため息を一つつくとともに、手元の表示枠を操作し始めた。

 

「忘れないでください。もしものときは、浅間神社が最大限のバックアップをしますから」

『……機嫌悪い?』

「当たり前です!」

 

機嫌が悪くならないはずがない。

何故なら、彼の契約は、とそこまで考えて浅間は止めた。

 

(もう、決まったから使う。なんですよね)

 

もう一度ため息をついた。

 

「まったく。昔から聞かないんですから」

『悪ぃ。昔から迷惑かけてっからなー。浅間には。今度葉月に関する情報で手打ちな?』

「馬鹿は全部終わってから言ってください」

 

ふと、笑みがこぼれてきた。

こんなときなのに、と心の中で彼に感謝した。

 

「まあでも。それも全部、昔から分かってましたけどね」

 

そういうと、浅間はトーリの契約の認可の表示枠を押す。

 

「浅間神社契約者葵・トーリ担当、浅間・智。葵・トーリ本人からの上位契約の申請と、その内容を認可。神社に上奏します」

『よー!』

 

ポンッ、とハナミが一度拍手を打つ。

すると、武蔵から一筋の光が大地を伝って伸び始めた。

 

「要請された加護は、芸能神ウズメ系ミツワの加護を提要した、契約者の全能力の伝播と分配」

 

これで、トーリは自分の持つ全ての能力を、自分と共に戦う者たちに分け与えることが出来るようになった。

 

武蔵からの光が来るとトーリは手を振るう。

そこには、いくつもの『不可能』と書かれた表示が出ていた。

 

トーリはそれらに自分の能力を乗せ、全員へと伝播させる。

 

が、向こうの隊長は分からなかったらしい。

何故なら、

 

「不可能の伝播をしたところで、何も得られないだろうが!」

 

すると、再び戦士団が構えだした。

 

「潰れろ極東!」

 

だが、今度はトーリが叫んだ。

 

「構えろよ、俺たち!!」

 

バチィン、と弾かれた。

ただし、それはK.P.A.Italiaの戦士団の槍だった。

 

それを可能にしたのは、

 

「防御術だと!? とっくに排気を使い果たしていたはずだろ!!」

 

だが、その後ろでトーリが両腕を前にやりピースサインを作っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

武蔵艦上では、ヨシナオ王が立ち上がっていた。

 

「王になりたいといった理由はこれか!!」

「これ、とは?」

 

ヨシナオの妻が訊ねる。

 

「今あの馬鹿は、武蔵の副王として。武蔵の全権限の四分の一を所有している。それはつまり、武蔵が保持する流体燃料の四分の一を自由に出来るということだよ。しかも」

 

現在、武蔵は莫大な流体貯蔵庫となっている。

それを鑑みれば、四分の一であっても膨大な量だ。

 

「彼と共に戦う者は、無尽蔵とも言える流体を地脈経由で受け取れる。つまり、永遠に術式を使い続けることが出来るのだよ」

 

だが、

 

「これだけの伝播。何かの代償があってもおかしくないぞ……ッ!」

 

それは、中央広場で戦っているネイトも同じ疑問を抱いたようだ。

それには、浅間が答えた。

 

「加護の条件は、契約者が奉納として『喜』の感情、つまり嬉しさを持つこと。もし悲しみの感情を得たならば、奉納は失敗と見なされ、その全能力を禊ぎ、消失する」

 

つまり、

 

「今後悲しい感情を持ったら――――――貴方は死にます。トーリ君」

 

その言葉に、全員が沈黙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

防御に集中している人間も、トーリを横目に見た。

 

当のトーリは、やや困ったなといった顔で頭を掻いていた。

と、表示枠を操作した。その先は、葉月だった。

 

「なあ葉月。怒ってる?」

『いや? ただ、決断したんだなって』

「ああ。俺は何も出来ねえ。皆が出来ることも、出来ねえからな」

『……そうか。うお! くっそアブねえな!』

「あー。まだ駄目だった?」

『あ!? いやいや超ヨユー! オラァ! 白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)!』

 

何か攻撃を放ち始めたので、トーリは表示枠を閉じようとした。

が、その前に葉月から一言あった。

 

『トーリ! 嬉しいぜ! お前が戦う意思を見せてくれてよ!』

 

そういって、表示枠が切れた。

 

トーリは、は、と短く息を吐く。

 

そして、全員に聞こえるように声を上げた。

 

「安心しろ! 俺葵・トーリは、不可能の力と共に、ここにいるぜ!」

 

直後、流体供給が全員に流れ込んだ。

 

「俺が! お前らの〝不可能〟を受け止めてやる!」

 

だから、

 

「だからお前らは! 〝可能〟の力を持って行け!!」

 

その言葉に、全員の心に火が着いた。

 

「「「Judgement.!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ハッ! 吹けよ風! 風塵乱舞(サルタティオ・プルウェレル)!!」

 

まるで嵐のような暴風がレベッカを襲う。

が、レベッカも負けじと魔法の射手を放つが、葉月に同じように弾かれた。

 

と、レベッカはここにきて葉月の変化に気づいた。

 

「魔力が、上がってる!?」

「Jud.! ようやく気づいたかよ!!」

 

すると、葉月は杖を掲げた。

 

「集え! 俺と契約した精霊八柱!!」

 

瞬間、大規模な爆発でも起こったかのような光が当たりを包む。

 

「くっ!」

 

あまりの光量に、思わず目を覆うレベッカだったが、それも一瞬で済んだ。

 

そこには、

 

「いやー。ようやく呼んでくれましたねー。葉月!」

「あれ? 私達だけ?」

「残りは向こうに召喚したよ。大変そうだからな」

 

銀髪碧眼の少女と、緑髪金目の少女がいた。

 

「さあ。第二ラウンドと行こうか! 今度は契約した精霊も込みだがな!」

 

そう葉月は言う。

 

「契約精霊の、具現化!?」

「Jud.! 来いよレベッカ・ハルバートン!」

 

すると、レベッカの背後から氷の人型と、黒い人型が現れた。

 

 

 

 

「いいわ。相手してあげる。今度こそ、お前を潰す!」

「かかってこいやぁ、俺の敵!!」

 




どうもKyoです。

連日投稿辛いです。

おまけに新キャラっぽいのも登場させざるを得なくなった……ッ
まあ女の子なんで許してください(何

このトーリ契約シーン、泣いたのって私だけでしょうか?

次回はいよいよ葉月とレベッカの対決に終止符が打たれ…………たらいいなぁ。

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。


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平行線上への相対者

トーリの流体供給術式が全員に行き渡ると、武蔵は再び前進を始めた。

 

「総長の道を開けろぉ!」

「急げ急げ! 時間が無いぞ!」

「総長を姫の下まで送り届けろ!!」

「言われなくても!」

「やってやらぁ!!」

 

先ほどまでとは違う。全員の言葉一つ一つに力がこもっている。

それを見ているトーリは、声をかける。

 

「おいおいお前ら。耐えることは出来てもあんまり無理はよくねえぜ」

「しょうがないだろ! 他に方法がないんだからな!!」

 

そういって、警護隊はにやっ、と笑う。

他の警護隊も同様にだった。

 

それを見たトーリは口元に手を当て、叫ぶ。

 

「誰かー! 誰かー? 教皇総長の大罪武装に相対できる方はおられませんかー!?」

 

誰もが来るはずないと、そう思ったそのとき、

 

『私がいるぞ!』

 

と、声がした。

それは、携帯社務からの通信で、相手は、

 

『武蔵アリアダスト教導院、生徒会副会長! 本多・正純!』

 

遠く離れたところに、正純が立っていた。

教皇総長はそちらに表示枠を開く。

 

『K.P.A.Italia教皇総長、インノケンティウスとの一騎打ちによる相対を望む! 聖連の代表ならば、この相対。逃げはしないだろうな!』

 

正純は、かなり挑発的な文言で相対を申し出てきた。

教皇総長は一瞬考えた。

 

武蔵の副会長に、戦闘的な能力は無かったはず。だが、自分に相対を申し込むということは何か秘策があるということか。

 

だが、そんな考えも一瞬で捨てた。

何よりも、聖連代表として自分に相対を申し込んできたのだ。

ならば、

 

「いいだろう! その相対、受けよう!!」

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

武蔵艦上では、ネシンバラが過去最高速度で鍵盤を叩いていた。

 

「うおおおおお! さ、流石教皇総長!」

「バッカじゃないの?」

「違うんだよ男らしいんだよ!!」

「つーかアンタ。そろそろ指が死にかけてきてるんじゃないの?」

「い、いやまだ大丈、おがっ!」

 

妙な奇声を上げてネシンバラが倒れこんだ。

その上を走狗であるミチザネがウロウロとしていた。

 

「フフ、でも。ここで相対を受けたら大罪武装を解除しなくちゃなくなるわね。あの貧乳政治家。足りないものをちゃんと補ってるわね」

「そういう言い方止めましょう喜美」

 

と、浅間が戻ってきた。

喜美は顔だけ浅間に向ける。

 

「あら。お帰り浅間。で。葉月のほうはどうなの?」

「未だ戦闘中みたいです」

 

浅間が表示枠を開くとそこには空中戦闘を高速で行っている葉月の姿があった。

 

それを見た鈴は、

 

「なん、か、葉月、君、楽し、そう」

 

そして、葉月の攻撃をフォローするかのように時折二人の少女が攻撃に加わる。

 

「フフフあのハーレム男。いつの間にあんなイイ女を侍らすようになったのかしら。ねえ浅間?」

「な、なんで私に振るんですか!?」

「だってアンタ。あの二人が出てきた辺りからすっごい顔になってたわよ。葉月を取られるかもしれないって感じの」

 

喜美のそう言われ、ハッと自分の顔をあちこち触る浅間。

だがそんなことをしても分かるわけが無く、表示枠を鏡として使うと、

 

(こ、これはちょっと……)

 

喜美からの指摘があったにも関わらず、未だに目じりが心配そうに垂れ下がっていた。

 

「浅間。取られないうちに早いとこやることやっちゃいなさいな」

「な、なんですかヤることって! み、巫女としてそんなことできるわけ無いでしょう!!?」

「あら。私は告白しなさいって言ったつもりなのだけれど。一体何を想像したのかしらねえこの淫乱巫女はククク」

「え、何を、想像?」

「鈴さんは知らなくていいですよー? いいですからねー?」

 

慌てて鈴の耳を塞ぐ浅間。

しかし、視線は葉月のほうに向いていた。

 

「……頑張ってください。葉月君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「いい加減に落ちなさい! 氷槍(ヤクラーティオー・)弾雨(グランディニス)!!」

 

直後、レベッカの周りに待機していた氷の槍が一斉に葉月に向かって降り注いだ。

だが、葉月はそれらを紙一重で回避すると、自身も魔法を放つ。

 

白き(フルグラティオー・)(アルビカンス)!!」

 

葉月の手から放たれた白い雷はレベッカを襲うが、

 

氷楯(レフレクシオー)!」

 

手に発生させた盾の魔法で上手く雷を逸らす。

だが、その背後には銀髪の少女が迫っていた。

 

「オラオラァ! 背中がお留守ですよぉ!!」

「クッ!」

 

だが、それを今度はレベッカが出した黒い人型の精霊が防ぐ。

 

「ハッ! 格が違うんですよぉ! 格が!」

「……ッ!」

 

だが、その精霊を葉月の精霊は軽く殴り飛ばした。

 

レベッカは慌てて自身の精霊たちを呼び戻し、消した。

 

何度目かの対峙。銀髪の少女が言う。

 

「アンタ。クラスとしては葉月の下ですね。まったく。駄目駄目なのに葉月に喧嘩売ろうだなんて。何考えてやがりますかまったく」

 

次いで、隣の緑髪の少女が言う。

 

「おまけに契約している精霊も中位以下」

「いいのよそれで。大精霊なんかと契約して、操りきれなかったらそれこそ事だわ」

「ハッ! 自分に自身の無ぇ女は惨めですねー」

「ニル。シルフィー。そこまでだ」

 

挑発する二人を葉月が諌める。

 

「悪いな。口悪くて」

「別に気にしないわ。主の躾がなってないだけだし」

「あっそ。さて、と」

 

葉月は杖を背にしまう。

レベッカはそれを見て、怪訝な顔をする。

 

「……どういうつもり? 諦めたの?」

「いや」

 

そういうと、葉月は構えを変えた。

それは無手での構えだった。

 

「お前、魔力もう残ってないだろ」

「……」

 

沈黙をするということは当たっているのだろう。

レベッカは剣を鞘に収める。

 

「どうして気づいた?」

「自分の契約精霊を精霊界からこちらに出現させるのは魔力を食う。魔力が多い奴なら特に問題ない量だが、少ないとこれが結構致命的だ」

「……そうね。確かに私は潜在魔力が少ないわ。それは認める」

 

でもね、とレベッカは片手を葉月に向けた。

 

「それで弱いと、決め付けないで!」

 

直後、凄まじい勢いでレベッカの周りに魔力が集まりだした。

魔力とは、この世に存在する流体とはまた別の、この世にある物体が潜在的に持っている力のことだ。

自然の木々。人間。動物。全ては魔力を持っている。

 

だが、それらを操ることが出来るのは、古代魔法使役士(エンシェント・マギ)だけである。

彼らは自分の中に魔力炉というものを持っており、これの大きさによって潜在的な魔力量が決まる。

 

レベッカは詠唱を始めた。

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック

来れ(ウェニアント・スピリートゥス)氷精(グラキアーレス・) 闇の精(オブスクーランテース)

闇を従え(クム・オブスクラティオーニ) 吹雪け(フレット・テンペスタース) 常夜の氷雪(ニウァーリス)

 

闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)』!!」

 

レベッカの手からは強力な吹雪が暗闇を纏って放たれた。

 

ニルと呼ばれた銀髪の少女が一歩前に出ようとするが、それを葉月が制する。

 

「葉月?」

「いい。俺がやる」

 

そういうと、葉月も詠唱をする。

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル

 

光の精霊(セブテントリーギンタ・)67柱(スピリートゥス・ルーキス)

集い来たりて(コエウンテース・)敵を撃て(イニミクス・サギテント)

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)!」

「ただの魔法の射手じゃ、これは撃ちぬけないわよ!!」

 

だが、今までの魔法とは違っていた。

葉月はそれを打ち出す。

 

それは、今までの散弾のような弾丸ではなく、一直線に集中したものだった。

 

集束(コンウェルゲンティア)光の67矢(・ルークム)!」

 

それは、レベッカの放った魔法とぶつかり合う。

しばらくそれらは拮抗していたが、やがて葉月のほうが押し出す。

 

「ッ、そんな!」

「魔力量だけで強い弱いは測れない。確かにそうだ」

 

だがな、

 

「魔法の種類でも強弱は測れねえよ!!」

 

そして、完全にレベッカの魔法を飲み込むと、そのままレベッカを襲う。

光の奔流が、レベッカを包み込んだ。

 

光の奔流が収まると、気を失ってレベッカが地上へと落下し始めた。

だが、

 

風よ(ウェンテ)!」

 

葉月が手を横に振ると、突風がレベッカを包み込んで、落下のスピードを遅くした。

あれならば地上に落ちても怪我をせずに済むだろう。

 

「マスターは相変わらず優しいね」

「別に。そうでもないさ」

 

安全にレベッカが地上に落ちるのを見届けると、葉月はそのままトーリたちのいる方向を見る。

 

「俺もすぐに行かないとな。アイツらがいるとはいえ、心配だ」

「ええ。行きましょう。マスター葉月」

「ちゃっちゃと終わらせて、寝ます! 寝るに限ります! あ、でもぉ、葉月が一緒ならなおさら良しで~」

「行くぞ」

「ちょっちょっちょー! 無視ですカー!?」

 

ニルを無視しつつ、葉月とシルフィーは審問艦のほうへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

葉月がつくと、そこには倒れたK.P.A.Italiaの戦士団と数人の少女達がいた。

まだ警護隊と拮抗している部隊もいるが、それでもかなりの人数が減っていた。

教皇総長も戦線に復帰したらしく、こちらを見るなり苦汁の表情を浮かべる。

 

「あー。はーづーきー!」

 

その中で、黄色い髪の、まだ小等部にそうな少女が手を振る。

葉月はその近くに下りると、辺りを見渡して言う。

 

「これ、お前らでやったのか?」

「半分くらいはね! あとは皆で!」

 

といって、少女は極東の警護隊を見る。

彼らは、最後に見たときよりもボロボロになっていたが、それでもやり遂げたという風でこちらにガッツポーズをしてきた。

 

ふと、教皇総長がこちらを向く。

 

「貴様。レベッカを倒したのか」

「じゃなきゃ俺はここにいねえだろ。安心しろ。死んでないから」

「……そうか」

 

と、どこか安堵するような声を聞くと、葉月は自陣の内側に入る。

 

「んで。俺らの総長は?」

「へ? 総長? ひょっとしてあの馬鹿?」

 

そういって指差す先にはトーリがいた。

しかし、

 

「どうして馬鹿だと?」

「だっていきなりウォーティーの胸見て発狂しだすんだもの。有り得ないし」

 

と、葉月は彼女の後ろで顔を覆っている少女を見る。

ウォーティーと呼ばれた少女はか細い声で言う。

 

「だ、だってあの。む、胸のこと……コンプレックスです」

「あーはいはい。あの馬鹿には後でよっく言い聞かせておくから。まあともあれ――――よくやってくれた」

 

葉月は少女達全員を見てそういう。

と、点蔵が葉月に近づく。

 

「葉月殿。この女性達は葉月殿の知り合いで?」

「後で説明する。状況的にはどうなってる?」

「Jud.トーリ殿がホライゾン殿と接触したで御座るよ。存在忘れられていたで御座るが」

「あ、あー」

「それで現在口説き中に御座る」

「ああ!?」

 

それでもやるのかよ、とトーリの行動力に驚く葉月。

葉月は、今でもホライゾンと向き合っている親友を見やる。

 

「頑張れよ。トーリ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

葉月が来る少し前。

トーリはホライゾンの下へと辿り着いた。

 

トーリは光の壁、分解力場壁の向こうにいるホライゾンに呼びかける。

程なくして、ホライゾンが向こう側からやってきた。

 

銀髪の無表情な少女。それが、トーリが惚れたホライゾンという少女だった。

 

「一体、ホライゾンに何のようですか?」

「助けに来たぜ!!」

 

ぐっ、と親指を立てて笑顔でホライゾンに言うトーリ。

大してホライゾンは無表情で、

 

「率直に申しまして――――――誰ですか貴方。迷惑なのでお帰りください」

 

そう告げた。

一瞬、敵も味方もフリーズ状態。

これには、教皇総長も驚きを隠せないでいた。

 

だが、トーリはいち早く我に返った。

 

「え、えーと。俺、よく青雷亭(ブルーサンダー)に買い物行ってたんだけど……覚えてない?」

「Jud.思い出しました。朝食を買いによく来ていたお客様ですね」

「そ、そうだよ! 思い出してくれたか!」

 

Jud.とホライゾンが頷く。

 

「お釣りを渡すときに、何故かこちらの手を握ってくるので。店主様と一緒につけた字名(アーバンネーム)湿った手の男(ウェットマン)

 

最早ムードも何もあったものではなかった。

トーリは始めて聞かされた事実に唖然として、周りからは表示枠が開いていた。

 

『あっはー! ゴメーン。ナイちゃん黒魔術(シュバルツテクノ)引きしちゃったー』

『大丈夫よマルゴット。私も白魔術(ヴァイステクノ)引きしたから』

『最低であるな』

 

更に下では、戦士団が、

 

「お、お前ら。あんなのを上において、恥ずかしくないのか?」

「いや、まあ、ね。選挙で決まったし」

「そもそも総長として決めたのはそっちだろ」

「くっ! もうちょっとマシな奴を選べばよかったな……」

「いや。お前らは悪くないよ。俺らも悪い部分あったと思うし」

 

何故か仄かな友情が芽生えつつあった。

 

「く、くそぅ! 何だよ皆して! 惚れた女に触れようとするのがそんなにいけないのか!? こんな風に……」

 

そういってトーリはホライゾンへと手を伸ばす。

 

「言い忘れましたが。この壁、触れると即死するそうです」

「うおおおおおおお!? あ、アブねえよ! 何小等部低学年が考えそうな「ぼくのかんがえたさいきょうのへいき」みたいなもの作ってんだよK.P.A.Italia! やっぱ鬼畜だな! 常識を学びなおせよ!!」

「お前の方が常識を学びなおせよ!!」

 

ついに敵味方問わずにツッコミが来たトーリ。

芸人としてはアリなのだろうが、如何せんこれが一国のトップだと言うのだから泣けてくる。

 

と、ホライゾンが言葉を紡ぐ。

 

「ホライゾンは世界に迷惑をかけぬことを最善の判断で望んでおります」

「世界がどうとか知ったことじゃねえよ。俺が困るんだよ。お前が死ぬと」

「では、世界と貴方。どちらが優先されるのですか?」

「どっちだと思う?」

「率直に申しまして、世界です」

 

それはそうだろう。

片や世界。片や一人の少年。比べるべくも無い。

 

ホライゾンのその応答を聞いて教皇総長は笑みを浮かべる。

だが、トーリは、その斜め上の発言をした。

 

「じゃあ簡単だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が、世界を統べる王になる!」

 




どうもKyoです。

え、葉月との決着があっさりしすぎだろ?
これで終わると思っているのか(某野菜人風に

次回はトーリ中心。エロ不注意のところまで行きたいなあ、と。

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。


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境界線上の整列者達

 

トーリの発言。それは、

 

「ホライゾン! 俺と一緒に世界を征服しに行こう!」

 

世界征服宣言だった。

 

「俺のせいで奪われた、お前の感情である大罪武装を集めていけば、お前は元のお前を取り戻せる。末世解決しながら、イチャイチャしながら、いろんなことしていこうぜ!」

 

だから、とトーリは振り向いた。

 

「だからまあ、頼むわ全世界! 大罪武装寄越してくんね? 嫌なら戦争しようぜ。戦い、ぶつかり合い、相対、交渉何でもいい。ホライゾンの感情をくれる理由ならなんだっていいんだ!

 

――神道、仏道、旧派、改派、唯協、英国協、露西亜聖協、輪廻道(ダンハイ)七部一仙道(オウト)

 

魔術(テクノ・マギ)、剣術、格闘術、銃術、機馬、機動殻、武神、機獣、機鳳、機竜、航空戦艦

 

人間、異族、市民、騎士、従士、サムライ、忍者、戦士、王様、貴族、君主、帝王、皇帝、教皇

 

極東、K.P.A.Italia、三征西班牙(トレス・エスパニア)六護式仏蘭西(エグザゴン・フランセーズ)、英国、上越露西亜(スヴィエート・ルーシ)、P.A.Oda、清、印度連合

 

金、権利、交渉、政治、民意、武力、情報、神格武装、大罪武装、聖譜顕装、五大頂、八大竜王、総長連合、生徒会

 

男も女もそうでないのも若いのも老いたのも生きてるのも死んでるのも、

 

そしてこれら力を使って相対できる、武蔵と俺達とお前達の感情と理性と意思と他、色々

 

多くの、もっともっと多くの、俺が知らない皆の中で――――

 

誰が一番強いのか、やってみようぜ!!」

 

それを聞いた葉月は、苦笑する。

それはつまり、

 

(どんな難癖つけてでも、戦争するぜってことじゃねえか。まったく。相変わらず馬鹿だな)

 

だが、そんな馬鹿と約束し、尚且つそれを守っている自分も馬鹿の一人なのだろう。

と、そんな中、トーリが疑問顔になる。

 

「あれ? なあ俺、どうしてコクるはずが世界征服宣言してんの?」

 

考えて喋れ! と遠くで正純がツッコんでそうだな、と葉月は思った。

ここでホライゾンがトーリに言う。

 

「成程。今の理論は明確でとても分かりやすいです」

「え、マジ!?」

「しかし、それは貴方の理論です。ホライゾンの理論ではありません」

 

超正論、と誰しもが思った。

 

「ホライゾンは自分の喪失によって、極東の損失を防ぎたいと思います。お帰りください」

「俺が、お前が消えるのが嫌だって言ってもか!」

「疑問しますが、何故嫌なのですか?」

「え、そ、そりゃあそのぉ、人前で言うには恥ずかしいっていうかぁ……」

『モジモジするなぁー!』

「トーリ! さっさとしろよ! 巻け、巻け!」

 

葉月がそういうと、トーリはいじらしくにやけた。

 

「そんなん! お前のことが好きだからに決まってんじゃん!」

「よっしゃあああああああ!!」

 

トーリがホライゾンに告白すると、味方からは歓声が上がった。

 

武蔵の艦上では、鈴が顔を真っ赤にし、ナイトとナルゼも頬を上気させてガッツポーズをした。

 

しかし、

 

「そうですか。しかし残念ながら、自動人形には感情がありませんので『好き』ということが分かりません」

「……」

 

つまるところ、

 

「ここまで来てフラれやがった!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

トーリはやや意気消沈気味だったが、やがていつもの調子を取り戻す。

 

「自動人形の判断だろうが、俺の本能には敵わねえぜ!」

 

そういうと、いきなり空中を揉みだしたトーリ。

 

「それに、ネイトがノーブラで乳揉ませてくれたからな。例え硬くても大丈夫だって分かったからな、行けるぜ!」

「テメェは何言ってんだこのボケェ――――!!」

 

ブンッ、と葉月は手に持った杖をトーリに投げつける。

それは見事に頭に命中した。

 

「おおおっ!? あ、アブねえ……。お、おい葉月! 何するんだよ! 危うく俺即死するところだったぞ!!」

「黙れ変態。これ各国に流れてんだぞ」

「あ、そうだった! ヤベェよ! これでネイトが薄いってことが全国にバレちまったじゃねえか!!」

「そういうことじゃねえだろ! つうかもういい! さっさと言うこと言えこの馬鹿!」

「おうよ! あ、安心しろよネイト! 世界にはもっと薄い奴がきっといるからさ!」

『最悪ですのよ――――!!』

 

だろうなー、と他人事のように(実際に他人事だが)葉月は考える。

 

(あーもう。いつも通り過ぎて緊張感が台無し……)

 

だが状況は悪い。

ホライゾンは、自動人形の判断により自分の自害によって極東を存続させようとしている。

確かにそれが最善なのだろう。だが、

 

(それじゃあトーリは満足しないな)

 

トーリの望みはホライゾンに告白すること。

そして、出来れば共に歩みたいということ。

 

そのために自分に出来ることは、

 

花の香りよ(フラーグランディア・フローリス)

仲間に元気を(メイス・アミーキス・ウィゴーレム)

活力を(ウィーターリターテム)

健やかなる風を(アゥラーム・サルーターレム)

Refectio(レフェクティオー)

 

葉月がそう唱えると、自陣に柔らかな風が吹いた。

それらは、味方の間をそよいでいった。

 

「おっ。なんかいい匂いのする風だな」

「Jud.――――――貴方が起こしたのですか?」

 

と、上からホライゾンは葉月を見る。

 

「Jud.トーリ、ホライゾン。いい風だろ――で。頭は冴えたかよトーリ。その残念な頭は」

「ああ? お、俺の明晰な頭脳を残念って言いやがったな! よ、よーし見てろ! 今にホライゾンを口説き落としてやるからな!」

「はいはいJud.Jud.」

 

手をひらひらと振りながら、しかしその顔は信頼で満ちていた。

トーリも、先ほどのような焦りは消えていた。

 

「なあホライゾン。まだ時間あるよな。もうちょい、俺と話しねえ?」

「……Jud.どうぞ。ホライゾンも自害の時間までは暇ですので」

 

こうして、トーリとホライゾンの会話は始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「よっし。えーと、だ。俺とお前は平行線なんだよな。これ」

「Jud.平行線です。故に相容れません――――平行線ですので」

 

そういってホライゾンはトーリを見る。

 

「ん、と。これ、無駄だと思うか?」

「――――Jud.」

「そっか。じゃあ平行線だ。俺はこれを無駄だとは思わねえ」

 

トーリは大きく胸を張ってそう宣言する。

 

「なあホライゾン。お前の、今までのお前との受け答えは自動人形としての判断だよな?」

「Jud.そうですが。それが何か?」

「じゃあさ。お前自身はどうなんだ」

「どう、とは?」

「P-01s、っつー自動人形じゃなくて。一人の、ホライゾン・アリアダストとしては、どう思ってるんだよ」

 

トーリのその言葉に、ホライゾンは詰まった。

自動人形として判断するなら。先ほどの会話が全てなのだろう。

 

だが、そこに意思が、ホライゾンとしての意思がわずかでもあるのなら、きっと別の回答が得られるだろう。

何故なら、最初のトーリの発言にホライゾンは「平行線」と答えたのだ。

自動人形なら「無駄です」と切り捨てるはず。

 

「お前の声を聞かせてくれ」

「いいえ。ホライゾンはホライゾンの判断で動いています」

「じゃあこれもそうなのか?」

「……Jud.」

「あ、ちょっと悩んだ。悩んだな?」

 

お茶らけた風に、しかし真面目にトーリはホライゾンに指摘する。

 

「なあホライゾン。お前は、どんな風に生きたいんだ?」

「ホライゾンは自害するので、そのような質問は無意味です」

「じゃあ変えよう。ホライゾンは、どんな生き方がよかった?」

 

そういうと、ホライゾンは一瞬言葉を止め、

 

「Jud.出来れば、君主ではなく。軽食屋の店員がよかったです」

「じゃあ簡単だ。今からでもそれをやりゃあいい。俺だって総長兼生徒会長してっけど、馬鹿やってるし」

「何度も言いますが。ホライゾンはもうすぐ死にます。今からやれといわれて、出来るはずがありません」

「だから俺らが助けに来たんだよ。ホライゾン」

 

そういって、トーリはホライゾンに笑顔を向ける。

 

「もう一度言うぜホライゾン。お前の声を、聞かせてくれ」

 

ホライゾンはそういわれて考え始めた。

 

軽食屋の店員をして、様々な人と触れ合った。

最初は店主と仲良くなった。記憶の無い自分の面倒をよく見てくれた。

 

次に、店の側溝にいた黒藻の獣たちと仲良くなった。水をやると喜んでくれた。

 

人としては、店主を除けば正純が一番仲が良いのだろう。よく空腹で餓死寸前だったりすることが多いが。

 

それから、それから、それから――――

 

「――――――あ」

「どうだホライゾン」

「Jud.」

 

ホライゾンは静かに目を閉じ、頷いた。

 

「確かに。ホライゾンは、まだ、生きていたいと判断できます」

「それがお前の声か?」

「Jud.」

「じゃあ、どうして欲しい?」

「助けに来た、と。先ほどそういった方がいたように思えたのですが?」

「Jud.」

 

そういってトーリは微笑んだ。

だが、それを遮る声が響く。

 

「させんぞ!」

 

それは、教皇総長の声だった。

 

そして、手に持っている大罪武装『淫蕩の御身』を掲げると、表示枠に打ち付ける。

再び、骨抜きの空間が形成される、かに見えた。

 

が、その空間は何者かに一瞬で断ち切られた。

 

「これはっ!」

 

割断。そして、それを可能にする武装は大罪武装を除けば一つしかない。

 

教皇総長が辺りを見渡すと、やや離れたところに一人の少女がいた。

 

「武蔵アリアダスト教導院、臨時副長。本多・二代だ」

 

そして、その背に背負っているものは……

 

「『悲嘆の怠惰』だと! まさか、西国無双が負けたというのか!!」

「Jud.勝ってきたで御座る」

 

と、フラフラになりながらも背負った大剣、『悲嘆の怠惰』を持ち、武蔵の陣営に近づく彼女。

 

「クッ! 取り戻せ! 大罪の力を、極東に渡すな!」

「Tes.!!」

 

教皇総長の声により、戦士団が立ち上がり、二代に向かう。

その後を警護隊も追うが、消耗の度合いが違いすぎた。

 

二代は己が武器、蜻蛉切を支えに立ち上がる。

 

が、その前に戦士団の前列が吹っ飛んだ。

 

「……これはっ」

 

見ると、そこには一人の少年が数人の少女達と共に、二代と戦士団の間に入っていた。

 

「武蔵アリアダスト教導院。一般生徒。白百合・葉月だ」

「貴殿。確か橋の上で会ったで御座るな」

「Jud.つうか大丈夫か? フラフラしてんぞ」

「この程度、何の問題もないで御座るよ」

 

そういって立ち上がる二代。

だが、それでも戦士団は止まらない。

 

しかし、

 

「総隊長を守れ――!!」

「おおっ!」

 

追いついてきた警護隊が行く手を阻む。

それと同時に武蔵の特務たちも抑えにかかった。

 

「貴様ら無茶を……」

「おいおい。最初に無茶しようとしていた奴がそれを言うなよ」

 

葉月の言葉を続けるようにネイトが言う。

 

「それに、極東は160年間耐えてきたのでしょう。あと数十秒、どうってことありませんわ!」

「ならば相対だ! 武蔵総長との相対を望む!」

 

教皇総長がそういうが、

 

「副長である拙者を、倒してからにしてもらおうか!」

 

二代は堂々と立ち上がりそういった。

 

「あと数十秒、どうってことないのは拙者とて同じで御座るよ!」

 

教皇総長は苦い顔をするが、その上からトーリが声をかける。

 

「おーいおっさん。まあちょっくら待っててくれよ。こっちが先約なんだ」

 

そういって、トーリはホライゾンを指差す。

が、直後にふにょん、という柔らかい感触が指を伝う。

 

見ると、分解力場壁を抜けてホライゾンの胸に自分の指が当たっていた。

 

「あ、おい馬鹿!!」

「エロ不注意だ!!」

 

次の瞬間、光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

トーリが目を開けると、そこは不思議と静かな場所だった。

違うとすれば、そこは武蔵で〝後悔通り〟と呼ばれている場所だった。

だが、それは自分も知っている光景だった。

 

ふと、目の前を一人の少女と一人の少年が通り過ぎていった。

 

少女は、涙を眼に溜めながら、少年を振り返る。

少年は、そんな少女を追いかける。

 

だが、その直後、飛び出した少女に馬車が迫ってきた。

少年は少女を助けようと飛び出し、そこで止まっていた。

 

これは、

 

「過去の俺とホライゾン、か」

 

そう。この事故により、ホライゾンは死んだ。

 

そして、自分自身も怪我を負って、しかし生きて武蔵に戻ってきた。

見ると、反対側にはホライゾンが立っていた。

 

「あ、ホライゾンも来てたのか」

「Jud.わざわざ壁に触れるなら一人で触れればいいものを、誰かさんがホライゾンのオパーイに触れたので」

「あー。マジゴメン」

 

すると、トーリの右手が黒く染まった。

 

「やっぱ、これが俺の罪なんだな。ホライゾンを死なせて、親友二人を傷つけて」

「……? どういうことですか?」

 

Jud.とトーリは頷く。

 

「このときさ。葉月と神耶もこの場にいたんだよ。でも、葉月はこのときにはもう能力封印されてたっぽいし。神耶はちょっと訳アリで、自分の力を使うことに怯えてたからな」

「しかし、それは仕方の無いことでは?」

「んー。まあ、な」

 

誰しも子供がこの状況をどうにかできるとは思えない。

周りの人間も、そう思ってるはずだ。

だが、

 

「葉月はさ。自分に、力があればっていって泣いてた。神耶は、自分が力と向き合えてればって言って、泣いてた」

「しかし、もう既に起きてしまったことです」

「ああ。それからしばらくして、葉月はどっか行っちまって。神耶はしばらく塞ぎこんでた。でも、俺が三河から帰ってくると、いつもみたいに振舞ってたよ」

 

思えば、無理をしていたのだろう。

子供の心には辛すぎる光景だったから。

 

だが、神耶は察していたのだろう。

 

一番辛いのは、トーリ自身なのだと。

 

「葉月様は、その後どうしたのですか?」

「んー。実はさ。まったく連絡無しで。中等部の、二年の初めくらいかな。戻ってきたのは。そのときには、もう昔の葉月に戻ってたけどな」

「成程」

 

すると、ホライゾンの右腕も黒く染まりだした。

 

「ホライゾン!」

「分解の時間が来た、ということですね。で、これどうやって否定するおつもりですか?」

 

そういってホライゾンはトーリと向き合う。

 

「疑問しますが。何故貴方は今のホライゾンを好きになったのですか?」

「ああ。うん。お前が朝食を作る練習してるって聞いてな」

「……?」

 

トーリは話す。

 

「このときさ。姉ちゃんも親もいなくて、代わりにホライゾンが朝飯作ってくれたんだよ。たださ、その朝飯。俺、不味いって言っちまってさ」

「しかし、それはしょうがないことでは?」

「でも。それが無ければ。お前は死ぬことも無かった。それでさ。お前を見つけて、朝食作る練習してるって聞いて、マジでドキリとしたよ」

「今のホライゾンとかつてのホライゾンは違うので、その事例と重ねることは無意味だともいますが」

「ああ。でも。この子は誰かに朝飯を作って上げられる子なんだ、って。そう思えてさ。だから、俺はその一番でありたいよ。ホライゾン」

 

では、とホライゾンは言う。

 

「貴方は何故、かつてのホライゾンを好きになったのですか?」

「それは……」

 

ホライゾンは言う。

 

「おそらく。逃げるホライゾンに、貴方はこう言ったのでしょう」

「『今そこに行く』そしたらホライゾンは」

「『来ないで』そういったはずですね」

「あー、まあ。うん。昔も今も、俺ホライゾンにフラれてばっかだな」

「いえ。ホライゾンは拒絶したのではありません。貴方に泣き顔を見せたくなかったのです」

「……?」

「貴方に、余計な負い目を与えたくなかったからです。涙を流さずに、再び会うときには笑って再開したかった。そう判断できます」

 

平行線です、とホライゾンは言う。

 

「平行線ゆえ、来ないでとホライゾンは言います。では、共に平行線の重なる場所、異なる考えの一致する場所――境界線上に至るためには、どのような言葉が必要なのですか?」

 

そういわれて、トーリは考える。

 

(俺は、本当に何も出来ない男だ。でも……)

 

ホライゾンにかける言葉くらいは、見つけることが出来るさ。

 

「ホライゾン。過去の罪を否定するためにここにいる。俺一人では救えねえんだったら」

 

そういって、トーリは手を差し出す。

 

「そこは危ねえよ――――だから救いに行くけど。お前もこっちに来い。ホライゾン」

 

そしてホライゾンは頷き、差し伸べられた手を掴んだ。

その瞬間、全てが光へと包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

突如として、分解力場壁が崩壊した。

そして、そこから現れたのは、ホライゾンを抱きしめていたトーリだった。

 

つまり、

 

「過去の罪を否定出来たんだな」

 

そして、トーリは表示枠をホライゾンの前に出す。

それは、武蔵アリアダスト教導院の入学推薦書だった。

 

本来ならば、入学には試験がいるが、例外がある。

ある分野で秀でる、または特殊な種族や経歴を持っていれば試験をパスできる入学制度。

一芸試験。

 

ホライゾンは、三河君主という十分すぎるほどの経歴を持っているので、この入学方法が使えた。

 

直後、正純が表示枠越しに言う。

 

『三河君主、ホライゾン・アリアダストは今、武蔵アリアダスト教導院の推薦入学を受けた! 彼女の身柄は、武蔵アリアダスト教導院生徒会・総長連合預かりとする』

 

そして、

 

『そして、我々は今後全ての抗争の講和を、後のヴェストファーレン会議に預けるものとする!!』

「正純ノリノリだな」

 

葉月が呟くと、上空が暗くなった。

だがそれは日没ではなく、輸送艦が上空に来たためだった。

 

そこには、直政がネットを引っさげて待機していた。

 

「撤収――――!!」

 

直後、ネットが降下された。

皆、次々にネットに掴まる中、トーリとホライゾンは教皇総長を追いかけていた。

 

「チッ! 何やってんだか!」

 

それを見た葉月は二人の後を追うように飛んだ。

二人にはすぐに追いついた。

 

「おいトーリ! 『淫蕩の御身』は無理だ。諦めろ!」

「いいやまだ大丈夫だね! アレがあれば、ホライゾンを淫乱に出来るグペラァ!!」

 

ホライゾンと葉月のダブルラリアットによりトーリが沈んだ。

ホライゾンは、葉月を見る。

 

「よく、青雷亭に店主様とメニューの考案をしているお客様ですね」

「Jud.始めまして、ってのも変だな――――久しぶり。ホライゾン」

「Jud.」

「おいおい葉月! オメェ俺らを止めたはいいけど。こっからどうするんだよ」

「ああ? 決まってんだろ!!」

 

そういうと、二人に杖に乗るように言う葉月。

葉月は二人が杖に乗るのを見ると、そのまま自分と共に空に浮かせた。

 

「逃げるんだよぉ!!」

「逃がすかぁ!!」

 

と、地上から教皇総長が聖術の符を重ねたものを撃ってきた。

が、それは葉月の風の魔法でいなされ無効化されてしまった。

 

「ハッハー! 悪いな教皇総長! いつかまたな!」

「おっさん! 俺らが行くまでに、その大罪武装無くすなよ! いいか! 絶対だぞ! フリじゃねえからな!!」

 

ゴォ、と風を逆巻かせて、葉月たちは輸送艦へと上がっていった。

 

その様子を教皇総長はただ見ていた。

 

「くっ、おのれぇ……」

 

空へと消え行く輸送艦。

だが、背後で何かが動く音が聞こえた。

 

それは、教皇総長のヨルムンガント級ガレー『栄光丸(レーニョ・ユニート)』だった。

 

「『栄光丸』! どういうことだ!」

 

見ると、若者ばかりが下されていた。

つまり、中に乗っているのは年配のK.P.A.Italiaの生徒だ。

 

『艦をお借りします! 『栄光丸』とこの身があれば、武蔵を止められると判断しましたので!』

「返す気はあるのか!!」

『Tes.! 旧派にこの身この魂は聖譜(テスタメント)に献上しているものなれば!!』

「ならば行け! 貴様らは時代を刻め! 俺は不断を担当する! 全ては聖譜の導く道ゆえにてだ!!」

『気遣い、至福!!』

 

そういって、『栄光丸』は武蔵を追っていった。

直後、教皇総長の横に表示枠が開いた。

 

「ッ、レベッカ! 貴様無事なのか!!?」

『Tes.……負けながら生きるのは恥と知りながらも、生きています』

「ああいい! 生きていればそれでな!」

『聖下……私の、残りの魔力を使います。『魔道石』の使用許可を、ください』

「ッ、ならぬ! 貴様、今どんな状態にあるのか俺が分からないとでも思ってるのか!?」

 

珍しく、教皇総長が激昂している。

しかし、レベッカは薄く微笑んだ。

 

『自分の体は、自分がよく分かってます。ですが聖下。ここで武蔵を行かせてはなりません……絶対に』

「レベッカ……お前……」

 

教皇総長は何かを思案するように言葉を止めたが、

 

「……いいだろう! ただし条件がある。必ず生きて戻って来い! いいな!」

『……Tes.!』

 

そういって、表示枠が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ。行け。そして、武蔵を、止めろ! 旧派に絶対の勝利と、悠久の栄光を!!

精霊師団(エレメンタリア・レギオン)』!!」

 




どうもKyoです。

なんかホライゾン書いてるんだかネギま書いてるんだか分からなくなってきたぞ!?
そのうちに武装解除の魔法を間違って使いそうで怖い……

そんなことしたら強制全裸状態じゃないか……一応下着は残るけど。

魔法の選択をミスりましたかねー……型月系にしとけばよかったかな。

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

次回は宗茂砲最初で最後の輝きです。
そして葉月無双が……

それでは。


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王と剣と盾

 

『栄光丸』は武蔵を視認した。

飛び立つ体勢を整える武蔵。だが、

 

「いいか! 輸送艦が武蔵に着く前に何としても武蔵を撃沈させるんだ!」

「Tes.!」

「武蔵に姫が着く前に、流体砲を放つぞ! 後はどうとでもなる!」

「随分適当だな!」

「適当で結構だ! 元々俺はそういう性格だろ!」

 

そういって、『栄光丸』の指揮を執っている男は笑う。

それにつられて周りの人間も笑った。

 

瞬間、『栄光丸』に衝撃が走る。

 

「クッ! 何だ!!」

「武蔵の輸送艦が突撃を仕掛けてきました!!」

「怯むな! 進め!」

「Tes.!!」

 

乗組員はブースターを全開にして、武蔵に突撃を仕掛けた。

 

だが、それを輸送艦が阻むようにして突撃を仕掛けてくる。

 

そして、

 

「ッ、輸送艦の上に誰かいるぞ!」

 

と、映像が映し出された。

 

そこにいたのは、

 

「本多、二代……」

 

彼女は背に『悲嘆の怠惰』を持ちながら、自身の得物である蜻蛉切を構える。

 

『結べ、蜻蛉切!』

 

その瞬間、『栄光丸』に亀裂が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

蜻蛉切による割断は確かに成功した。

だがそれでも、『栄光丸』全体には及ばず、横の装甲版に一直線の亀裂を走らせただけだった。

 

それは、蜻蛉切の性能にもあった。

蜻蛉切の割断範囲は三十メートルが限界。

それを艦相手にやろうと思うのなら、激突しながらということだ。

 

さらには、相手が巨大すぎることも起因していた。

 

それにより、蜻蛉切にきっちり映しきれていなかったのだ。

 

だが、二代はそれでも槍を構える。

 

「艦を寄せろ! もう一度!!」

「隊長! これ以上の割断は無理です!!」

 

部下の隊員に言われ、二代は唇を噛む。

いや、元々無理なのは承知だったのだろう。

 

と、二代の隣から一人の少年が飛び出した。

葉月だ。

 

「対艦射撃ターイム! 魔法の射手(サギタ・マギカ) 連弾・光の37矢(セリエス・ルーキス)!!」

 

光の弾丸が『栄光丸』へと向かう。

その全ては直撃するが、それでも『栄光丸』の進行は止まらなかった。

 

「マジかよ。なら、白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)!」

 

今度は白い雷が『栄光丸』に襲い掛かるが、それでも威力不足のようだ。

 

「ぐああ! もうマジで中にいる人間とか気にしないでぶっ放していいか!?」

『おいおい葉月。ぶっ放すのは浅間の仕事だろ。取っちゃ駄目だぜ』

『ちょっとトーリ君! 人を乱射魔みたいに言わないでくださいよ! 私のは禊をしているだけなんですから!』

『クククこの乱射巫女。その禊は一体何を対象にしているのかしらねえ。自分の欲望?』

『ち、違いますよ!』

 

あっちこっちで表示枠が現れたが、葉月は全部まとめて砕き割った。

 

「あーくそ! ぶっ放していいなら俺やるぞ!?」

『白百合君の火力でどこまでいける?』

「あ? 多分この程度の艦なら、今の残存魔力で……半壊はいけるだろ」

『それだけ単身で出来るから本当にどうかしてるけど、駄目だね。彼らは自爆特攻上等の覚悟で来てるから。壊れながらでも来るよ。一気に全壊しなきゃ』

「マジかよ……まったく。肝心なところで俺使えねー」

『大丈夫。手は打ってあるよ』

「どんな」

 

Jud.とネシンバラは眼鏡を上げる。

 

『アリアダスト君の『悲嘆の怠惰』による砲撃さ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『栄光丸』は武蔵の右舷一番艦〝品川〟に突撃を仕掛けた。

だが、武蔵はそれを左舷一番艦〝浅草〟からアンカー付きのロープを出して『栄光丸』の進路を強引にずらした。

 

それでも、『栄光丸』の主力のほうが上だった。〝品川〟にやや擦れるようにして、しかしその勢いがやや失われ、後退していった。

 

その隙に、輸送艦は武蔵へと到着した。

 

輸送艦のロープから、トーリとホライゾンは、中央前艦〝武蔵野〟へと降り立つ。

ホライゾンのその手には二代の手から渡された『悲嘆の怠惰』があった。

 

と、『悲嘆の怠惰』から仮想砲塔が伸びた。

 

「大罪武装『悲嘆の怠惰』」

 

すると、砲塔から黒紫の砲弾が放たれた。

『悲嘆の怠惰』その超過駆動による掻き毟りの砲撃だ。

 

だが、『栄光丸』も同時に流体砲を発射した。

 

二つの砲撃が空中でぶつかり合った。

 

しかし、

 

『トーリ君! 『悲嘆の怠惰』が押されています!!』

 

浅間からの通神を聞かずとも、トーリとホライゾンは徐々に後ろに押されていった。

 

「んじゃ、押し返し!」

「……疑問しますが。何故ホライゾンの尻を捏ね始めるのですか?」

『危険なんですってばー!!』

 

浅間が叫ぶがトーリは通常営業。

と、ここでホライゾンの前に一つの表示枠が現れた。

 

『出力60%・第三セキュリティ『魂の駆動』お願いします』

 

ホライゾンは疑問に思った。何故なら、

 

「自動人形であるホライゾンの魂の起動方法など、聞いたことはありませんが」

 

その後ろからトーリが囁く。

 

「だったら俺たちの負けってことだぜ。ホライゾン」

「負け……」

 

ホライゾンはその言葉を聞いて、あることを思い出した。

 

それは、自分の父である松平・元信が三河と共に消える前のこと。

 

艦から手を振る父に、自分も手を振り返した。

その表情は、とても嬉しそうで。しかし、どことなく、後ろめたさが感じられた。

 

もし、もしあの時。父が消えることが分かっていれば、もっと別のことが出来たのではないか?

そう考えると、ホライゾンは止まらなく、しかし、

 

「安心しろホライゾン!」

 

そんな思考から、トーリが引き釣り戻してくれた。

 

「俺、葵・トーリがここにいるぜ!!」

 

その声は力強く、その瞬間、自分の中で何かが決壊した。

その声は、悲痛さを表しているようだった。

 

何年も声を上げていないかのように、たどたどしく、それでいて悲しみが伝わってくる。

その瞬間、莫大量の表示枠が出現した。

そして、『悲嘆の怠惰』の砲撃が徐々に色を変えていき、その色は金色になった。

 

「――――あ、ぁ」

「歌えよ、ホライゾン」

 

未だに涙を流すホライゾンに、トーリは言う。

 

「通すための歌を!」

 

ホライゾンは、涙に濡れたその顔で、しかしはっきりと歌った。

自分の中にある、一番懐かしいと感じる歌を。

 

「――――通りませ 通りませ」

 

『通し道歌』

幼い頃、ホライゾンがよく歌っていた童謡だ。

 

ホライゾンが歌い始めると、不安定になっていた流体が徐々に安定した動きをし始め、『栄光丸』を呑み込んでいった。

 

やがてそれは『栄光丸』を全て飲み込んで、金色の砲撃は止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『栄光丸』を撃沈させた直後、梅組全員が〝武蔵野〟上にいる二人の下へと駆けつけた。

そこには、お互いに抱きしめあうホライゾンとトーリがいた。

 

「フフ、ホライゾンが愚弟と一緒になれば、私の義妹ってことね」

「まずは大罪武装の収集が先だがな」

 

喜美が少し嬉しそうに話す傍ら正純が言う。

 

「まずは『悲嘆の怠惰』か。ホライゾンの『焦がれの全域』含めて二個」

「先は長いね」

 

葉月と神耶がそういう。

 

トーリはホライゾンの肩に手を回したまま、こちらに来た。

 

「よっ。無事に終わったみたいだな」

「ああ。ありがとな葉月。神耶も」

「それを言うなら皆、でしょ」

「だな――――ありがとう。皆」

「Jud.!」

 

トーリが皆を見渡して礼を言う。

梅組全員は笑ってそれに返事をする。

 

しかし、

 

 

 

 

 

 

『正面、未確認飛来してきます。推定数――――二万』

 

 

 

 

 

 

突如、〝武蔵〟からの通神が入った。

 

「二万だって!?」

「どこにそんな数の敵勢がいるんだよ!!」

 

すると、浅間が右目を押さえ左の義眼〝木葉〟で正面を見る。

 

「浅間。何か見えるか?」

「駄目です! 感知が出来ません」

「葉月!」

 

神耶が叫ぶと、葉月は一歩踏み出し、そして、

 

「こそこそ隠れてんじゃ、ねえ!!」

 

右手を突き出すようにして前に出し、衝撃波のようなものを出した。

それは、魔力を圧縮して放った拡散砲に似た魔力砲撃だった。

 

本来なら何も無い空間を薙ぐだけだが、武蔵の前方一キロの付近で何かにぶつかり弾けた。

それは、神耶が先ほど追い払った、空を埋め尽くすほどにいる影の軍勢だった。

 

「白百合君アレが何か知ってる!?」

「お前絶対知ってる前提で話してるだろ。まあ知ってるけど」

 

葉月は目の前の軍勢から目を放さずに言う。

 

「『精霊師団(エレメンタリア・レギオン)』俺たち古代魔法使役士(エンシェント・マギ)が使う精霊の軍団だ。おそらくレベッカ・ハルバートンが出したんだろ」

「対策は!?」

「物理で殴る」

「分かりやすいね! じゃあ白百合君頼むよ!」

「そうしたいんだがなあ。アレだけの軍勢を倒すとなると、今の残存魔力だと厳しいな。つうか向こうはあんだけの軍勢作り出すだけの魔力なんかほとんど残って――――」

 

と、そこまで言った葉月ははっ、としたよな顔になる。

 

「まさかアイツ。自分の『魔道石』を取り込んだのか」

「ネシンバラがなんか自分の世界に入ったから聞くけど、何それ?」

「こっちでいう外燃拝気みたいなものだ。自分の魔力を外に貯蔵しておくんだ――――だが、それを自分の中に戻すことは滅多にしない」

「何故?」

「外燃拝気と違って、人工の『魔道石』は劣化していくんだ。その劣化したものを自分の体に再び取り込むと、異物として判断され拒絶反応が出る。無論、魔力はいくらか回復するが。そんな方法は取りえないし、普通は作った端から魔力を爆弾みたいに使用するのが普通だ」

「じゃああの子は自分の中に取り込んだの?」

「Jud.おそらくな」

 

バシンッ、と葉月は自分の手に拳を叩きつける。

 

「クソッ! もうちょい魔力があれば一掃できるが――――」

「出来ますよ」

 

と、どこからかそんな声がした。

それは、葉月の後ろにいきなり現れた、茶髪の少女だった。

 

「誰?」

「俺の契約精霊。まあ、仲間だ。ルーキス。どういうことだ?」

「はい」

 

そういうと、ルーキスと呼ばれた少女はゆっくりと葉月に近づき、その額に軽く触れた。

 

その瞬間、葉月の体が薄く光りだした。

 

「これは……?」

「はい。葉月様の魔力制限を解除させて頂きました」

「……は?」

「葉月様。つい昨日まで魔力を封印状態だった貴方がいきなり全開の魔力では戦えませんよ。体が爆発しますから。内側から」

 

ゾッとしない話をにこやかな表情で話す。

それを聞いていた約一名はやや顔が青ざめていたが。

 

「……で?」

「はい。体に魔力が慣れるまで全体の半分程度の魔力まで、身勝手ながら抑えさせていただきました。疲労符があってよかったです。魔力抑制の術式が思いのほかスムーズに行きました」

「あー、じゃあなんだ。今の俺は?」

「はい。超全力全開状態です」

 

そういって、微笑むルーキス。

やや呆気に取られる葉月だったが、やがてトーリを見る。

 

「前言撤回。どうやら出来そうだぞ。敵殲滅」

「オメェ言ってることが物騒だなぁ」

「まあな。剣ってのは、物騒なもんだろ。振り回さないで済むならそれでいい」

「じゃあ武蔵の剣は飾りのままで終わるの?」

「強そうでよくね?」

 

神耶とトーリは言うが、葉月は笑って首を振る。

 

「どっかの王様が、世界征服宣言しちまったからな」

「あはは。おかげで盾は大忙しだったね」

「お、オメェらマジで容赦ねえな。ホライゾン救うためなんだよ!」

 

トーリがそういうと、葉月と神耶は顔を見合わせて笑う。

 

「んじゃ。改めて聞くがどうすりゃいい? 王様」

「ああ――――ちょっと皆助けてくれね?」

「Jud.仰せのままに、ってね」

 

そういうと、葉月は振り向き、影の軍勢を見つめた。

 

その後ろをルーキスが付き従う。

 

(ああ。ようやくだ)

 

ようやく、彼のための剣となれる。

 

葉月は〝武蔵野〟の艦橋ギリギリまで歩き、そしてさらに一歩を踏み込んだ。

しかし、葉月は落ちず、空中に浮かんだままだ。

 

そして、杖を掲げて宣言した。

 

「来いよ!」

 

その瞬間、葉月とルーキスの周りに再び、あの少女達が現れた。

皆、一様に笑顔で葉月を見る。

 

「うひゃー。万単位でいますねー」

「……面倒」

「心配ない心配ない!」

「あ、あの私後方にいますので」

「刎ね飛ばしでOKですのね!?」

「一人血の気の多い奴がいまーす」

「――は」

「皆さん挨拶くらいはしましょうよ……」

「お前ら自由すぎるだろ!!」

 

まあいい、と葉月は前を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺と、俺の王の敵を倒すため――――――行こうぜ、皆!」

 




どうもKyoです。

Q.八人全員女の子?

A.Yes

もうこの時点でハーレムですよねー
だがこの子たちはハーレムには入らん!

そして次回こそは葉月の活躍で……
最近忙しくて執筆時間が取れないのでさらに不定期になりそうです。

まだ文章が安っぽいですね。本当、川上氏を見習いたいです。

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。









ああ。クリスマスまでもう少しか。
ネタ考えとくかなー……


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境界線上の魔法使い

戦闘用BGM「Sacred Force」


 

武蔵の目の前に迫る大量の『精霊師団(エレメンタリア・レギオン)

だが、葉月とその精霊たちは臆することなく正面から突っ込んでいった。

 

「葉月、お先にしっつれい!」

 

だが、そんな中でも一歩前に出たのは黄色い髪の少女だった。

しかし目に映ったのは一瞬のみ。

 

後は、敵陣を黄色い閃光が駆け抜けていき、敵が消滅していくだけだった。

 

「相変わらず速いなフルーラは」

「流石に雷の最上位精霊なだけありますね」

「それじゃあ俺もやるか! 戦いの歌(カントゥス・ベラークス)!」

 

肉他郷下の魔法をかけると、タンッ、と空中を蹴り葉月は上空へと舞い上がった。

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル

 

闇夜切り裂く(ウーヌス・フルゴル・)一条の光(コンキデンス・ノクテム)

我が手に宿りて(イン・メア・マヌー・エンス)敵を喰らえ(イニミークム・エダット)

 

白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)!」

 

それは、今まで葉月が放っていた魔法だ。

しかし、その威力が段違いに上がっていた。

 

その雷は、敵軍勢全体に襲い掛かった。

しかし、うまくそれを回避した敵は葉月に向かう。

 

「残念。そりゃあ最悪手(ファンブル)だ」

 

だが、

 

解放(エーミッタム)

 

刹那、葉月に向かった敵は全て、魔法の射手(サギタ・マギカ)によって消滅していった。

 

「さっすが私達のマスター! 遅延呪文(ディレイ・スペル)まで完璧です!」

「あの状態だと五分くらいの遅延が限界ですねー」

「ルーキス厳しいなあ……」

 

遅延呪文。

文字通り、魔法の発動を遅らせて発動させる技法。

 

不意を撃つことも可能になるし、何より既に詠唱済みの魔法をたった一言で撃つことが出来るのはかなりのメリットを生む。

 

しかし、これでも倒した数は全体の一割程度。およそ二千。

まだ一万八千もの敵勢がいるのだ。

 

だが、それを前にしても葉月たちの表情は崩れず、笑みを浮かべていた。

 

「上等上等。なら、やることは一つ!」

「もち!」

「徹底的に、ぶっ潰す!」

「お前らが、消えるまで! 攻撃の手を休めない!!」

 

シルフィー、ニル、フルーラが意気込み新たに敵を倒す。

 

それに葉月とルーキスも加わる。

 

「ドンドン行くぜ! 魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾・雷の89矢(セリエス・フルグラーリス)!!」

 

雷の矢が放たれて、新たに敵が消滅していった。

 

だが、敵の一体が葉月の背後を取った。

すると、その両腕がどんどん形を変えていった。

 

それは鋭利な剣と化した。

 

しかし、葉月はまだそれに気づいていない。

 

その剣を、容赦なく、敵は振り下ろした。

が、そこにはもう誰もいなかった。

 

「ッ……!」

「遅い!」

 

次の瞬間、その敵は葉月の手によって完全に消滅させられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

葉月が敵を殲滅している間に、武蔵の住民達はその様子を見ていた。

無論、梅組全員もだ。

 

「おー、葉月ノリノリ。あのままトーリに代わって世界征服しそう」

「その台詞最近話題の『美熟女戦士エプロン地球(テラ)』って奴の真似じゃね神耶」

「Jud.世界守るはずの人なのに何故か家事優先で、この間も敵の怪人と戦ってたのに、雨が降ってきて洗濯物取りに帰ったんだよね。しかも決め台詞が『お前に代わって世界征服してやる』だからどっちが悪役か分からないし」

「でもこのまま葉月がマジで俺に代わって世界征服したら……」

「トーリ様の価値無しですね」

「ホライゾンキツイぜ! でもそこにビクンビクンしちゃうぜ!」

「少しは真面目になってくださいよ三人とも!!」

 

そう言われてもなー、とトーリは葉月を指して言う。

 

「あの状態の葉月が負けるとこ。想像出来んの?」

「僕は無理。っていうか圧勝しすぎて敵が可哀想だね」

 

と、トーリと神耶は笑って言った。

 

「っていうか何。葉月って二重人格? あんなにヒャッハーするような性格してた?」

「ガッちゃんダイレクトだね!」

「多分、今までのフラストレーションを解消してるだけだと思うよ」

 

神耶はそういう。

解消? とナルゼが聞くと、神耶は頷く。

 

「今までずっと力を封じられてきて、嫌な想いもしてきたからね」

 

嫌な想い、その言葉から連想されるのは、ホライゾンの死。

でも、と神耶は続ける。

 

「もう心配ないみたい。昔みたいに自傷行為に走ったら止めようとか思ってたけど」

「え!? そ、そんなことしてたんですか!?」

「あれ? 知らなかった? 大変だったよ。自分自身に呪詛吐きながらだったから余計に」

「成程。どうやら幼いホライゾンは、中々のフラグ建築士だったのですね。下手したら皆がホライゾンを取り合って、『ああ、私のために争わないで』状態になるところでしたね」

「オメエそれで済ませるからスゲーよな」

 

でもあながち間違いでもないかなー、と神耶は考える。

 

すると、一際眩しく空が光った。

 

「あれは……」

 

そこにいたのは、激しい気流と雷に身を包んだ葉月だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「キリが無いように感じるのは気のせいか!!?」

「気のせいじゃない!? だって数減ってるよ!」

「あとどんくらいだ!」

「半分!」

「減ってるな確かに!」

 

空中で、二万の軍勢相手に十人にも満たない数で戦争を起こしている。

そんな構図なのに、葉月は余裕そうにフルーラに言葉をかける。

 

と、葉月の後ろにいる赤髪の少女が話しかける。

 

「葉月」

「どうした」

「帰ってゲームしたい」

「帰れ! いや帰るな! 働けよ!」

「働いた」

「何体倒した?」

「10体」

「働けこの魔力泥棒!!」

 

葉月が叫び、また新たな敵が寄ってきたが、杖に魔力を通し、横振りの一撃で消し飛んだ。

 

「おいクー子! お前の火炎で焼き払えよ!」

「働いたら負けかなって思ってる」

「お前今日飯抜き!」

「頑張る!」

 

そういうと、クー子と呼ばれた少女が敵陣の中央まで飛び上がると、手に持っていた赤い宝石が先端に埋め込まれた杖を振るう。

 

瞬間、辺りが炎に包まれた。

 

ついでに、フルーラやニルといった、味方も巻き込まれていた。

 

「うわああああ! 熱ッ、熱い!」

「ちょっ、ふざけんじゃねえですよアンタ!!」

「仲間割れすんじゃねえええええ!!」

 

と、葉月の周りに全員が集まった。

残りの敵勢も少なくなってきたが、未だに千人単位で存在している。

 

その中には武蔵に攻撃を仕掛けようとしているものもいた。

 

だが、

 

「さ・せ・る・か、ってんだ!!」

 

葉月の放つ白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)によって消滅していく。

 

「チッ! 数多すぎだろコレ」

「葉月! 一気に消滅させよう!」

「だな!」

 

そういうと、葉月は杖を持ち、前に出す。

 

「頼むぜ! 契約精霊8柱!」

 

葉月の声に応じ、先ほどまでいた精霊たちが一度に葉月の持つ杖に宿る。

葉月はそれを一回振るい、敵勢へと向ける。

 

「ほんじゃま、今日の大一番行ってみようか!

 

ラス・テル・マ・スキル・マギステル

 

来れ(ウェニアント・スピリートゥス) 雷精(アエリアーレス・)風の精(フルグリエンテース)

雷纏いて(クム・フルグラティオーニ) 吹きすさべ(フレット・テンペスタース) 南洋の嵐(アウストリーナ)!」

 

葉月が詠唱を続けるにつれ、風と雷が巻き起こってきた。

それは徐々に大きくなっていき、葉月を包み込む。

 

まるで、葉月を守るかのように。

 

敵は、葉月の魔法を喰らうまいと散開し、バラけた。

 

だが、

 

「唸りを上げろ! 全部ぶっ飛ばせ!」

 

葉月が杖を振り上げる。

そして、詠唱が完成した。

 

雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)!!」

 

杖から放たれたのは、雷を纏った巨大な嵐だった。

それらは範囲を広げ、散開していた敵全てを飲み込んでいった。

 

しかし、それだけでは収まらなかった。

 

そのまま嵐はうねりを上げて進み、辺りの木々を吹き飛ばし、山を削り取っていった。

 

「ブチ抜け――――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

全てが終わった後、残っていたのは葉月と武蔵。

そして、眼下に広がる荒野だった。

 

葉月が武蔵に戻ると、トーリと神耶が先頭に立って待っていた。

 

「おう。道は守ったぞ」

「ああ。ありがとな。葉月」

「でもやりすぎ。自然破壊もいいところだよ」

「いやー。ついテンション上がってよ」

 

そういう葉月の顔は朗らかに笑っていた。

しかし、それはトーリと神耶も同じだった。

 

三人はお互いに近づき、両手を振り上げ、

 

「「「おっしゃぁ!」」」

 

パンッ、と互いに手を打ち合わせた。

 

「守ったよ。武蔵を。皆を」

「ああ。ありがとう」

「倒したぜ。俺たちの敵を」

「ああ。ありがとう――――決めたよ。俺は世界を統べる王になる」

「期待してるぜ。我が主(マイロード)

「君が王になってくれる日を待ってるよ」

 

そして一息。

 

「「「ただいま! んでもってお帰り!」」」

 

この日。三河の戦いは終わった。

 

空には、星と二つの月が輝いていた。

 




どうもKyoです。

やや強引ですが、勝った! 第一部完! です。
いやもうここまで長くなるとは…流石に原作が鈍器なだけはある。

次回からはもう日常パート。
トーリが這いずり回り、浅間は自爆し、そしてついに、葉月の喫茶店名が明かされる!(ェ

ネギまの世界観選んだなら……やっぱりねぇ……

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。




クリスマスネタがこれで思う存分出来るぞー。


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武蔵の日常

 

ホライゾンを救出してから、はや三日。

一時期お祝いムードだった武蔵も、次の目的地、英国に向けて艦の補強や、訓練をしていた。

 

そんな中でも、梅組は今日もいつものように授業を受けて、トーリが馬鹿やってオリオトライにぶっ飛ばされ、戻ってきて再びホライゾンによりぶっ飛ばされる。

そんな日になるはずだった。

 

だが、今日のこの日に限ってはそれが起こらなかった。

 

何故か。

 

「……」

 

いつも騒がしい梅組が今日に限っては黙りこくっている。

 

それは、

 

「あ、あの。葉月君。大丈夫ですか?」

「お前その質問何度目だよ……いやまあ。ちょっと不具合はあるけど、自分のせいだし」

 

浅間が、隣にいる葉月に声をかける。

 

その葉月は、椅子に座っても(・・・・・・・)ギリギリ視線が(・・・・・・・)出るか出ないか(・・・・・・・)の位置で必死にコークスペンを持って書いていた。

 

その後ろでは、

 

「んー。幼児化ネタは新しいわねやっぱ。ちょっと本気で描こうかしら」

「ガッちゃん今のハヅッちにも容赦ないね!」

 

などと同人コンビが言っていた。

葉月は後ろを振り返り睨むが、今の葉月が睨んでも可愛さぐらいしか残らなかった。

 

と、ここで授業終了だ。

 

「はーい。んじゃ、ここまでのこと、ちゃんと覚えておくこと。いいわね!」

「Jud.!」

 

それだけいうと、オリオトライは教室を出て行く。

 

その瞬間、ドタッ、という音がした。

 

それは、葉月が自分の座っていた椅子から転げ落ちた音だった。

 

「いてて……」

「だ、大丈夫ですか葉月君! 怪我は!?」

「いや、平気だよ」

「フフフこのショタ月とショタコン巫女。何漫才やってんのよ。っていうか浅間。アンタやっぱりそういう趣味あったの?」

「誰がショタコン巫女ですか誰が! あとやっぱりって何ですか! 私にそんな趣味は――――」

 

と、そこまで言うと、喜美がいきなり葉月を持ち上げて浅間の目の前に出す。

 

「――――――あ、ありませんにょ!!」

「フフフ噛んだ。噛んだわ! つまるところショタもいけるのねこの無節操巫女! 欲張りすぎじゃないのステキ!!」

「ああもう。なんでこんなことに……」

「自分のせいだと思うんだけど」

 

神耶が止めを刺す。

 

白百合・葉月。

現在は八歳児相当の体になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ことの始まりは、昨夜葉月の経営する喫茶店『ワグナリア』にて起こった。

 

店を閉めた葉月は、本とにらめっこしながら薬品を弄っていた。

それは、古代魔法使役士(エンシェント・マギ)のみが作れる秘薬のようなものだ。

様々な効果を齎すため、作成には細心の注意が必要となり、また高度な魔力制御も必要となる。

 

ようやく自分の力が戻ってきた葉月は、昨夜早めに店を閉めて、魔法薬作りに取り掛かった。

初めて作る魔法薬だが、思いのほか上手く作れていた。

 

飲めば動物に変身できる薬や、飲めばしばらくの間透明になれる薬などだ。

そこで葉月は、本――魔道書の中に載っている中でも特に調合の難しい魔法薬、肉体操作系の魔法薬の調合に取り掛かった。

 

調合は本当に難しく、調合は夜の十二時を過ぎてもまだ終わらなかった。

 

だが、苦労の末、ようやく出来上がった。

 

「で、出来た……」

 

葉月が掲げた試験管の中には、澄んだ青い液体が波打っていた。

しかし、

 

「おめでとうございますマスター」

「うぉあ!? ル、ルーキス!?」

 

いきなり背後に現れた契約精霊、ルーキス。

どうやら、先ほどからいたようで、その手には盆とその上に乗った軽食があった。

 

「集中なさるのも結構ですけど、あまり詰めすぎないようにしてくださいね」

「あ、ああ。っつかいるならいるって言ってくれよ。心臓止まるかと思ったわ」

「ふふ、すいません」

「はあ。さて。折角出来たんだ。これ誰かで試す……」

 

と、葉月は手元を見る。

が、そこには試験管は無かった。

 

「……あれ?」

「あ、マスター上です!」

「は?」

 

と、上を見ると、そこには中身の飛び出た魔法薬があった。

葉月はそれを避ける間もなく、モロにその薬品を浴びてしまった。

 

「マスター!」

「……最悪」

 

その一言が、17歳の葉月の最後の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

そして、ルーキスに連れられて教導院に行き、事情を説明。

神耶が呆れ顔になり、周りの皆は驚いていた。

 

そして現在放課後。

再び現れたルーキスは申し訳ないようにシュン、としていた。

 

「申し訳ありませんマスター」

「いやいい。俺の不注意でもあったし」

「なあなあ葉月。コレってどうなってんだ? まさかの若返り効果とか?」

「若返り!? 葉月! さっさとその薬を大量生産しなさい!」

 

喜美が子供化した葉月の肩を掴んで前後にゆする。

 

だがそれを、浅間が止めに入る。

 

「ちょっ、喜美止めてください! 今の葉月君は子供なんですから!」

「何よ浅間。いいじゃない若返り! 永遠の若さよ! この美貌が永遠に続くのよ!」

「あー言っておくけど。これ時間制限あるから」

「あと大体9時間くらいですかね」

「何よもっと頑張りなさいよ! 不老不死とかないの!?」

「ねえよ馬鹿」

 

葉月はそのまま教室を出ようとするが、襟首をナルゼに掴まれた。

 

「おい同人屋」

「何よ。いい同人のモデルがいるんだから協力しなさいよ」

「あはは。それで俺が協力するとでも?」

「ハッ! 今のアンタに何ができるのかしらね」

魔法の射手(サギタ・マギカ)

 

ナルゼが小馬鹿にするように笑うと、葉月は周りに九つの光球を出現させた。

 

「魔法は使えるんでね」

「ちょっと。危ないじゃないの。さっさと私の同人のために引っ込めなさい」

「お前最低だよ!」

 

クラスメイトからツッコミを受けながらも平然とするナルゼ。

と、浅間が仲介に入る。

 

「皆もう止めてください! 葉月君今は子供なんですよ!」

「フフ、浅間。だったらアンタが葉月の面倒見る?」

「そこまでガキじゃねえよ!」

 

葉月はそういうが、

 

「でも葉月君。それでお店はどうするんですか?」

「いや。流石に休むから。どうせ今日の夜には戻ってるし」

「ご飯はどうします?」

「……あ」

 

言われて気がついた。

葉月は自分の食事を厨房で作っている。

 

その厨房のサイズは大人、つまり17歳時の葉月のサイズになる。

現在の大きさでは踏み台を使っても届かないのだ。

 

「あー。神耶」

「ゴメン。今日はちょっと先生のとこ行く予定」

「……トーリ。お前のとこでいいか?」

「いや、俺んところは葉月みたいに定食ねえから」

「フフ、愚弟。簡単よ。浅間が葉月の家に行けば万事解決よ」

「え、わ、私ですか!?」

 

いきなり振られて戸惑う浅間。

葉月としては、トーリに頼むよりか浅間に頼むほうが断然いい。

 

「まあ、浅間がいいなら」

「お、おい葉月。オメェ今すっげえ失礼なこと考えたろ。俺と浅間見比べて」

「は? おいおい俺がそんなことするわけないだろ」

「そ、そうだよな! 俺たち親友だものな!」

「ああそうだな――――辛友だな」

「辛いほど友達なのかよ! 参ったぜ俺照れちゃう♪」

「いや。友達になるのが辛すぎるって意味だ」

「真逆の意味かYO!」

「妥当な判断だとホライゾンは思いますが」

「ホ、ホライゾンはどっちの味方だよ!」

「Jud.――――皆様の味方です。トーリ様を除く全ての」

「あれ? ひょっとして俺孤立してね? 死亡フラグばっか立ってね?」

「あはは。トーリは馬鹿だなぁ」

「笑顔で酷ぇこと言いやがったよ神耶! く、くそぅ! み、見てろよ! コレが俺の48のボケ技の一つ! 這い寄れ、トーリ君だ!」

 

そういうと、トーリはいきなり四つん這いになり、床をわしゃわしゃと這い始めた。

その行き先は無論、ホライゾンだった。

 

「ホラ――イゾ――――ン!」

「ふっ」

 

四つん這いから一転、どこにそんな膂力があるのかどうか不明だが、ホライゾンに飛び掛るトーリ。

だが、その前にホライゾンは華麗なフットワークでトーリを外まで吹っ飛ばした。

 

「馬鹿のせいで話が逸れました。で。浅間様に頼むというのはいい選択肢かとホライゾンは思います」

「ホ、ホライゾンまで……」

 

だがそのとき、くいっ、と浅間の制服の裾を引っ張る感触がした。

浅間が下を見ると、葉月が浅間を見上げていた。

 

「あの、浅間。出来れば、お願いしていいか? まだ精霊たち、料理に慣れてないから。ルーキスも簡単なものしか作れないから」

 

そう、葉月は告げた。

 

さて。ここで思い出して欲しい。

 

浅間は葉月のことが好きである。

 

それはもう、四六時中葉月のことを考えるくらいには。

葉月が一時期武蔵を離れて、そして再び戻ってきたときなどは反動が凄まじく。ストーカーもびっくりな所業に出ようとしたとかしなかったとか。

そのときの様子を友人であるネイト・ミトツダイラはこう語る。

 

『ええと、まあその。好きな気持ちが、お、抑えられないというか。智は普段は割りとそういうの抑えてますの。ただその……外的要因による刺激が強かったりすると――――ちょっと……』

 

最後は言葉を濁していて不明だが、とにかく葉月に関することなら何にでも反応してしまうのだ。

しかも今回は見た目は子供、中身は大人の葉月だ。

それが浅間の脳内では、

 

『浅間お姉ちゃん――――ご飯、作って?』

 

といった感じに脳内変換されてしまっていた。

プツン、と何かが切れる音がした。

 

ガシッ、と葉月の肩を掴むと浅間は息を荒げて近寄る。

ついでに目が血走りかけていた。

 

「ええもう分かりましたよお!! 手伝うどころかもう面倒の一切合財を見るような、いえもう見ます! 全てを見ます! さあとりあえずその体に見合う服をどうにかしましょうか葉月君! いえ、葉月ちゃん!!」

「誰か助けて浅間が怖いっていうか壊れた!!」

 

助けを求める視線を送るが、

 

「さーて。帰ってペン入れしないと」

「拙僧は姉キャラ攻略せねば」

「あ、俺もまだエロゲやってねーや」

「白状にもほどがあるだろオイ!!」

「智! まず落ち着いてくださいな!」

「えーやだーもうなに言ってるんですかミトは。私すっごおく落ち着いていますよー? さて葉月君。まずはその無理やり合わせたような制服を脱いじゃいましょうかー」

「はいストップ」

 

ガッ、という音とともに浅間が崩れ落ちる。

その後ろでは錫杖を持った神耶がいた。

 

「それ以上は流石にねえ。というかハナミがメーターの処理に困ってるんだよね」

 

見ると、浅間の走狗のハナミが次々に現れる表示枠を片っ端から手刀で砕いていた。

 

「た、助かった……」

「ククク。あのまま行ってたら確実に食われてたわね葉月」

「テメェ分かってて言ってんだろ」

 

葉月は喜美を睨むが、喜美はくるくると意味もなく回っていただけだった。

はあ、とため息をつくと葉月はルーキスを呼ぶ。

 

「ルーキス。悪いが全員分の飯は用意できそうにない」

「ですね。分かりました。何かありましたらお呼びください」

 

そういうと、ルーキスは光の粒子となって消えた。

葉月は杖を背負うと、そのまま窓から飛び去っていった。

 

「なんかなぁ……」

 

幼馴染の意外な一面を知って驚いたというか、知ってはいけない一面を知ってしまったというか、と考える葉月。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

翌日。

 

葉月の体は元に戻っていた。

 

しかし、

 

「ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさい……」

 

葉月が登校してくると、そこには土下座状態の浅間が呪詛のように謝罪の言葉を繰り返していた。

 

「あの後意識戻ったら顔が青ざめて「死のう……」って言った後に自殺しようとしてたから。止めるの大変だったよ」

「浅間――! 戻ってこ――い!!」

 

自決一直線の浅間に何とか葉月は呼びかける。

 

この日。梅組は通常営業だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成程。あれがヤンデレというものなのですね」

「んー。ちょっと違くね?」

「ではホライゾンもちょっとヤンデレてみようかと――――あ、あの泥棒猫……ッ」

「おいおいホライゾンどこで覚えたんだよそんなすげー一発芸」

「Jud.正純様から借りた本に載ってました」

 




どうもKyoです。

さて。ここで契約精霊たちの容姿と名前を公開しましょう。

ニャルラトホテプ(通称ニル):まんまニャル子
クトゥグア(通称クー子):まんまクー子
ウォーティー:オリジナル
フルーラ:某電気ネズミを幼く擬人化したもの
シルフィー:DTBのアンバー
ルーキス:GetBackersの朔羅
アーシー:オリジナル
グラキアリス(通称アリス):ネイトに似ている。髪形はストレート

こんな感じです。ネタ分かる人いるのかなぁ。特にシルフィーとルーキス。

次回も日常です。
というかもしかしたらクリスマスネタやるかもです。

現在、葉月と浅間のCPを画策中です。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。
それでは。


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武蔵の姫の毒料理

 

葵・トーリ。

武蔵の総長兼生徒会長。そして、現武蔵副王。

 

特別これといって特筆すべきものはないが、強いて言うなら。

 

全裸・馬鹿・女装・変態・外道。そういったところだろう。

まったくもって、トップに立つ人間の性格ではない。

 

そんな色々な意味で最悪な彼だが、今割りと生命の危機に瀕していたりする。

 

それは――――

 

「さあトーリ様。ホライゾン。今日のは自信作です」

「お、おう」

 

現在、時刻は昼食時。

トーリの隣には、ホライゾンが弁当の包みを持ってトーリを見ていた。

 

「な、なあホライゾン。コレって一人で作ったのか?」

「Jud.さあ。どうぞ」

「え、えーと。だな」

 

チラッ、とトーリは弁当を見る。

 

そこからは、この世のものとは思えないほど禍々しいオーラが漂っていた。

 

「えーと。ホライゾン、味見とか、した?」

「Jud.――――どうにも人間の食べ物ではありませんでしたので、トーリ様に処理をお願いしたく」

「あれえ!? これ俺への弁当じゃないの!?」

「ハ、ハ、ハ。一体誰がそんなことを言ったのですか?」

「そりゃお前自身が――――あ、言ってない! 自信作とは言ったけど弁当とは言ってない!」

「ええ。ささっ。一気に食べてください」

「いやヤバくね!? なんかさっきから『ズォォォォ』って擬音が聞こえてるし!」

「大丈夫です。トーリ様なら食べきれると信じています。さあ」

「よ。よぉーし! 俺はやるぞー! ホライゾン!」

 

瘴気の出る弁当を一口食べたトーリ。

直後、ぶっ倒れ、葉月の作った魔法薬と浅間の整腸の符の世話になることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「何故ホライゾンの料理は駄目なのでしょう?」

「いやまず大丈夫かどうか味見しろよ」

「味見はしましたとも」

「それで不味いものを他人に出すな」

 

放課後、ホライゾンは『青雷亭』ではなく、葉月の店『ワグナリア』へと来ていた。

今日の昼食時、あまりにもホライゾンの弁当の殺人具合が今までにないほどのレベルだったため、流石のトーリもダウン。

ネイトに担がれて、今頃は自宅で唸っているだろう。

 

普段なら、もう一つの『青雷亭』、トーリと喜美の母親が経営しているほうに行くのだが、今回はそのトーリと喜美の母親からの推薦もあって、葉月のところに来た。

 

「ところで葉月様。一つ、頼みがあります」

「んー?」

「ホライゾンに料理を教えてください」

「トーリに頼めよ」

 

葉月は即答する。

それに、ホライゾンは二人の母親から多少なり手引きをしてもらっているはずだ、と葉月は記憶を掘り返す。

 

「ですが、トーリ様は今日はあの状態ですので。店主様に薦められてここに来ました」

「あー、成程ね」

 

カウンターに立つ葉月は頷く。

すると、店の扉が開く。

 

「あら? ホライゾン。ここにいましたの?」

「ネイトに、浅間か。どうしたんだ? つかトーリは?」

「葉月君の薬もありますし。一応うちの整腸用の符を渡したので大丈夫だと思います。で、ちょっとお茶の時間にしようと思って」

「ああそうか。オーライ。オーダーはどうする?」

 

そういって、葉月はメニュを二人に差し出す。

ホライゾンも、そのメニューを覗き見る。

 

「……非常に細かいですね。値段、写真、カロリー。どうやって作っているのですか?」

「写真部と広報部に頼んでな」

「……いつ見ても、摂取カロリーとか値段とか忘れて全部食べちゃいたいくらいに美味しそうですよね。特にこの木苺のタルトとか。でも安くないですか、この値段」

「ああそれね。英国輸入で安かった木苺を馬鹿買いしちまってさ。タルトやケーキに入れてんだよ。値段も安くすれば買う人も増えるし。実際、売上もいい感じだしな」

 

説明をする葉月だが、聞いているのはホライゾンだけだった。

浅間とネイトは既にどれにするか、熱心にメニューを見ていた。否、凝視していた。

 

「レアチーズの木苺ソース。ホットケーキと林檎のクリーム……」

「バナナとチョコのミックスパフェ。チョコタルト。抹茶善哉……」

「と、お二人が呪文のようにメニューを唱えておりますが。そこは置いといて」

「置くのかよ。まあいいけど」

「どうでしょう葉月様」

「どう、といわれてもなぁ」

 

思わず頬を掻いてしまう葉月。

ホライゾンは相変わらず無表情だが、どうにもその場を動く気配はない。

 

「お願いします」

「聞くが、何でそこまでして俺にこだわる? トーリが治ってからでも遅くはないはずだぞ」

「Jud.一言で言えば、驚嘆(ドッキリ)です」

「……は?」

 

ホライゾンが説明する。

 

「何の前触れもなく美味しいお弁当を作って渡せば、トーリ様は驚くでしょう」

「ああ、だな」

 

そういって葉月はふっ、と微笑む。

 

(なんだかんだ言っても。やっぱトーリのこと思ってるんだな)

 

自動人形に感情はない、と世間一般では言われているが、葉月はその常識を否定したい。

何故なら、武蔵の艦長式自動人形など神耶の話題で一日終えることもあるのだ。

 

その被害を食らったからよく分かる。

 

「――まあそれは建前で」

「は?」

「その翌日に、嬉しそうに寄ってきたトーリ様を再びホライゾンの殺人料理でKILLするのが目的です」

「今自分で殺人料理つったよな!? ってかもう殺す気満々じゃねえか! 感動を返せ!」

「何を仰いますか葉月様。ホライゾンはいい女ですよ――――死ぬ前日に最高の思い出を作らせてあげるなんて。いい女代表になれますね」

「最悪! コイツ最悪!!」

 

そこまでトーリのことが嫌いかよ。

葉月は内心呆れ返ったが、ホライゾンが料理を学ぶのはいいことだと自分に言い聞かせた。

 

「じゃあどうする。どういったのを作りたいんだ?」

「Jud.」

 

そういうと、ホライゾンに渡してあるメニューから、ホライゾンは一つの料理を指す。

 

「この、フィレ肉のベリーソースがけを」

「難易度高ぇの来たなオイ!!」

 

思わず教皇総長の口癖を言ってしまう葉月だが、仕方がなかった。

何しろフランベ(肉や魚などの調理の際、最後の香り付けのためにアルコール度数の高い酒をぶっかけること)が必要なのだ。

素人がフランベなどやったらどうなるか、結果は火を見るより明らか。

 

確実に火災が発生する。

 

「もうちょいこう、簡単なのないのかよ。弁当だろう作るのは」

「Jud.ですが、以前にトーリ様が葉月様のところのこのメニューを美味しそうに食べていましたので」

「あー。そーいや好きだったなアイツ」

「はい――――駄目でしょうか?」

 

と、ホライゾンは首を傾げるが、葉月はカウンターを開ける。

 

「とりあえず教えるよ。そこまでいけるかどうかは別だがな」

「Jud.ありがとうございます」

 

そういって、ホライゾンも厨房に入る。

 

「あ、葉月君! 私抹茶善哉で!」

「わ、私はレアチーズのブルーベリーソースがけで!」

「はいはい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ホライゾン待て! 包丁を持つ手の形が違う! パーじゃない! グーなグー! どっちかって言ったら猫の手だけどさ」

「こうですか?」

「違う!」

 

 

 

「おーいホライゾン。火加減間違いすぎ。焦げっ焦げじゃねえか」

「この方が早く焼けるかと思いまして」

「止めろ。俺の店を燃やす気か。適切な温度ってのがあるんだよ」

 

 

 

「フランベは最後! 今じゃない!」

「そうなのですか。時に葉月様」

「な、なんだ?」

「ツッコミが板についてますね。これでホライゾン、いつでもボケられます」

「ツッコまねえと俺の店がなくなるんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

二日後。再びホライゾンが弁当を持ってトーリの下にやってきた。

 

「さあトーリ様」

「……だ、大丈夫、だよな?」

「Jud.さあ」

 

そういって、トーリはホライゾンから受け取った弁当の蓋を開ける。

そこには、綺麗といえるほどに調理されたフィレ肉のベリーソースがけがあった。

 

「え、これって……」

「Jud.葉月様のところで習いました。どうでしょう」

「ホライゾン……」

 

トーリはフィレ肉を口に含む。

 

「――――美味ぇよ。ホライゾン」

「Jud.ありがとうございます。さ。どんどん食べてください」

「おう! いくらでも食べられるぜ!」

 

そういった瞬間、トーリが真後ろにぶっ倒れた。

 

一瞬にして、クラス内の空気が凍った。

 

「ふっ。このホライゾンの料理のあまりの美味しさに気絶してしまいましたか」

 

唯一ホライゾンだけが何故か勝ち誇ったような言い方をしていた。

そして微妙にドヤ顔になっていた。

 

ひそひそとあちこちで話し合う声が聞こえてくる。

 

「あれは、美味くて気絶、なのか?」

「泡を吹いているように見えるで御座る」

「小生思いますに。アレはいつもの殺人料理なのでは」

「こういうときこそカレーですネー」

 

あまりにもカオスになりつつある空間で、浅間が葉月に聞く。

 

「あの。アレは嬉しさのあまり気絶したんですか?」

「いや。味だろうな」

 

ああ、やっぱり。

葉月はこう語る。

 

「やっぱ一日かそこらでアレを完璧にマスターするのは無理。肉を適当に焼いてソースかけるくらいしかな。本当はアレ、結構難しいんだ」

「けど、見た目は美味しそうでしたけど……」

「ああ。見た目の再現率が高いのは俺も認めるよ。ただ、味がなぁ……」

 

曰く、最初は美味いが直後に一気に来て気を失うらしい。

葉月も実際、食べてみてその威力を思い知ったそうだ。

 

「それを食べるトーリも凄ぇよ――――まあ、それだけホライゾンのこと好きなんだろうな。きっと」

「そうですね」

 

そういって、二人は未だに気絶したままのトーリと、そのトーリの口に料理を突っ込むホライゾンを見つめる。

 

ふと、浅間はあることに気づいた。

 

「あれ? そういえばミトがまだ来ていませんね。いつもならとっくに来ているのに」

「ああ。それか」

「……? 何か知ってるんですか?」

「ホライゾンのあの料理を成功作と思って食べた狼騎士が一人」

「ああ……成程」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ホライゾンは半ば気を失いかけてるトーリに話しかける。

 

「トーリ様。何故ホライゾンの料理を食べてくれるのですか?」

「うぇ? あ、うん……」

 

トーリは意識を取り戻すと、起き上がってホライゾンに向き直る。

 

「そりゃあさ。まあ、味はまだアレだけど。それでも、ホライゾンが俺に作ってくれたんだ。だったら残すわけねえって」

「……成程」

 

ホライゾンは頷き、空になった弁当箱をしまう。

 

「ではトーリ様。帰ったら料理の練習をしたいので、お願いします」

「じゃあ一回につき一オパーイモミングでふぉぁ!」

 

直後、トーリがホライゾンの強烈なフックにより、再び床に沈んだ。

 

「フフフ愚弟流石ね。でもそこは普通に教えたほうがいいんじゃないの?」

「ぐっ、姉ちゃん違うぜ! ホライゾンをモミングすることで料理の質が上がるんだよ――――多分!」

「最低ですね」

「ソッコで結論出すなよホライゾン! でもそこにビクンビクンしちゃうぜ!」

 

そういって両手で己の体を抱きしめるトーリ。

この日も、梅組は通常運行だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではトーリ様。ホライゾンが作った失敗作も、食べていただけるのですね?」

「え゛!? そ、それはそのぉ……」

「ホライゾンが作ったトーリ様への料理です。失敗作でも、食べていただけますね?」

「うおおぉぉ! ハードルが高いな! 流石だぜホライゾン! でもそれ全部食ったら俺ヤバくね?」

「大丈夫です。トーリ様の胃は最早怪異並と判断できますので」

「おいおいおいおいコラコラコラコラ。人の胃袋を勝手に怪異化すんなよ、ってか浅間お前も何『それなら祓わないと駄目ですよね』的な笑顔で弓俺に向けてんだYO! ちょっ、マジで止めてくださいゴメンなさい」

 




どうもKyoです。

トーリとホライゾン主体で普通のイチャラブってのもいいんですけど、原作がそういう雰囲気じゃないんで。

というかこの二人はこれでいいんだろうか。

次回はクリスマスになるか。もしくはまた一話挟みます。
そうなったら、自動人形たちの話を書きます。

武蔵の自動人形たちはちょっとおかしいです。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。









またコラボとかやりたいなー。

|Д・)チラッ


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番外編の巫女と魔法使い

 

聖譜暦1646年。12月20日。

 

Tsirhc教譜ではもうすぐクリスマスだ。

無論、それは武蔵であっても変わらない。

 

元々お祭り騒ぎが大好きな武蔵の住人。

聖譜記述にあるお祝いがあれば武蔵総出で騒ぐ。

 

祭りがあると、大体が出店を出し、生徒会会計や浅間神社を通す。

 

そして、こういったTsirhc系のお祝い事、特にクリスマスは盛り上がりが凄いことになる。

 

主にリア充への攻撃が。

 

そんな中、武蔵アリアダスト教導院一年。白百合・葉月は悩んでいた。

 

「……んー」

 

目の前に広がるのは紙の図面。

そこには、葉月が経営している喫茶店『ワグナリア』の店内の装飾をどうするか、というものが書かれていた。

 

「……どうしたもんだか」

「どうしたんですか葉月君」

 

ふと、浅間がやってきた。

 

「……悪いが浅間。これは俺の店の問題でな。浅間神社に申請とかはしないぜ?」

「あのー私のことどう思われてるんでしょうか……」

「冗談だ」

 

そういうと、紙を浅間に見せる。

 

「『ワグナリア』の店内装飾ですか?」

「ああ。けどさー。イマイチ決まんなくて。なんかない?」

 

と、葉月は聞く。

浅間も、うーん、と悩む。

 

「そうですね。蝋燭とかどうです? クリスマス仕様の」

「それは考えてあるんだが。問題は店内の内装を他にどうするか……」

「モールはどうですか? Tsirhc教譜だとモミの木に飾り付けをして、それを置くみたいですよ?」

「ああ。クリスマスツリーか……入るかなぁ。小さい奴ならギリギリいけそうだが」

 

それから二人はあーでもないこーでもない、と議論を交わす。

それを見ている梅組は、

 

「おい誰か黒珈琲持って来い」

「アレで葉月殿が気づかないのがおかしいで御座るな」

「つーかナルゼ。アレ、ネタにしねえの?」

「し辛いのよ。なんていうか、こう……あからさますぎてネタにするのが呆れてくる」

「クククあの鴛鴦夫婦。何でくっつかないのかしら。ああもう見てるだけでゲキアツね! そうよねミトツダイラ!」

「何で皆は煽るだけですの!? ほら! 智は葉月が困っているから将来も見据えて行動を、って甘ッ! 激甘ですわ!!」

 

やかましい。

葉月も浅間もそのことには目を逸らし、話を続ける。

 

「んー。とりあえずこんなところかな。後は、格好だな」

「服も何かするんですか?」

「まあな。神耶いるかー?」

 

と、葉月が適当に呼ぶ。

すると、いつの間にか神耶が背後に回っていた。

 

「……ぁぅ。何?」

「お前今の今まで寝てただろ」

「ああうん。全然寝てないよ? うん」

「信用ならねえ。ってかそれはどうでもいいし。この間頼んだの出来たか?」

「はい」

 

神耶は持ってきた鞄ごと葉月に渡す。

 

葉月が開けると、そこには赤と白の衣装が上下のセットであった。

 

「これって」

「サンタクロースの衣装。クリスマス期間は、今度からコレを着て接客しようと思って」

 

その瞬間、クラス中がざわめく。

 

「葉月殿。いつの間にあんなバイオレンスな御仁の服を……」

「しかもそれを着て接客だと? 客を殺す気か」

「確かサンタクロースって、一晩で極東を一周する異族もビックリの人間ですよね」

「うむ。しかも奴の服は元々白く、それがソリに乗って轢いた人間の血で赤く染まったという話だ」

「よーしお前らちょっと常識説くからっつか説教な。あとウッキーとアデーレ。お前らは旧派なんだから知っとけよ!」

 

二人揃ってテヘッ、とやった。

とりあえずウルキアガは手持ちの杖をぶん投げて制裁を加えたのでよしとする。

 

「まあ冗談で御座るよ」

「だろうな。さて、と」

 

そういうと、葉月は上着を脱ぐ。

それを見た浅間は、

 

「え、ええ!? は、葉月君何やってるんですか!? ハッ! 分かりましたトーリ君ですね! トーリ君の馬鹿が移ってしまったんですね!? ダメです止めてください! そんな美味しい……もとい全裸ネタはトーリ君だけで十分です!!」

「マジで!? 葉月もとうとう全裸ネタかよ! 姉ちゃんどうしよ! 俺のポジヤバくね!?」

「ククク安心しなさい愚弟。葉月の裸の需要は浅間だけだから」

「何言ってるんですかあー!!」

 

浅間は一瞬で弓を形成。しかし、葵姉弟はそれより早く逃げてしまった。

逃げ足速いですね。

浅間は弓を下ろすと、葉月を振り返る。

 

そこには、あのサンタクロースの格好(上半身)をした葉月がいた。

 

「つーか全部脱ぐわけないだろ。上だけ。それもシャツは着ている」

「あ、あー。そうですよね!」

 

それから葉月は服を眺めたり、少し引っ張ったりして着心地を確かめる。

 

「うん。これならいつも通りやればいけるな。サンキュ神耶」

「いえーい……」

 

机に突っ伏したまま親指を上げる神耶。

どうあっても起きる気はないらしい。

 

「さて。これからどうするかな」

「まだ何かするんですか?」

「いつも通りだと客の入りがなあ――――」

 

チラッ、と葉月はクラスを見る。

まばらではあるが、それでもしっかりと人はいる。

 

葉月は意を決したかのように、こういう。

 

「いいアイディア提供した奴にはウチの無料権四枚進呈」

「乗った!」

 

瞬間、クラスに残った全員が食いついてきた。

 

「ここはコスプレ喫茶ということでどうで御座ろうか!」

「却下。まず店員は俺と神耶だけだ」

「なら同人喫茶ね。同人誌売れば稼ぎになるわね」

「却下。お前に収入が行くだろうが。あとウチの評判落とすようなことするな」

「ならばここは旧派である拙僧がありがたい教えを説くというのは?」

「無理。それ布教扱いになるからな?」

「もういっそ全てのメニューをタダにすれば……」

「論外。ってか食いたいなら金稼げよアデーレ。バイトなら紹介してやるから」

 

悉く撃沈していく梅組メンバーズ。

と、そんな中、シロジロと共に表示枠を操作していたハイディが振り向く。

 

「なら恋人喫茶はどうかな?」

「――何それ」

「Jud.最近話題になってるんだ。何でもオーダーした品物を届けるウェイター、またはウェイトレスが恋人のように囁いてくれるシステム。英国とか六護式仏蘭西(エグザゴン・フランセーズ)で、少数だけどやってるみたいだよ?」

「それ……売り上げどうなの?」

「結構いいみたい。まあ勿論見てくれがいい人じゃないと無理だけど。ハヅッちなら問題ないっしょ」

 

うーむ、と葉月は悩む。

提案はともかく、ハイディは商人だ。金に関することではシロジロと同じく嘘は言わない――と思う。

 

「……謳い文句どうすんのさ」

「『恋人のいないアナタに朗報! 『ワグナリア』店主が一日限り、アナタの恋人になってくれる! 女性必見!』みたいな?」

「男性客どうすんだよ」

「うーん。ジンヤん?」

「うぃ? まあ、その日手伝いで行くから女装程度ならいいよ?」

「『武蔵有数の男の娘が疲れた男心を癒してくれる!』どうよ!」

「いやどうよといわれても……」

「あ、ちなみにもうやる前提で通神帯(ネット)に流してるから」

「最悪だなお前!」

「ちなみに相当の評価を頂きました」

「えぇ!?」

 

ほら、と皆に見えるように表示枠を見せるハイディ。

そこには『女性必見! あの『ワグナリア』店主の白百合・葉月が恋人喫茶を始める!?』とあった。

 

そして、それに対する書き込みが既に100を超えていた。

 

「えぇ……」

「これはやらないとね!」

「あーもー。分かったよ。諦めが肝心だ」

「よっしゃ。あ、じゃあ無料券よろしくー」

「お前まさかそのためにか! そうなのか!」

 

葉月はそう叫ぶが、ハイディは何食わぬ顔で商談に戻っていた。

葉月も諦めて、「じゃあそれでいいか」という始末。

 

ここで、密かに浅間がガッツポーズをした。

 

(ナイスですハイディ! これで朝一番に葉月君の店に行けば――――は、葉月君がこ、ここ、恋人として接客してくれる!)

 

しかし、ここでハッとする浅間。

 

(い、いけません! 私は巫女。神聖な役職。自分の欲望優先にしては神様に対して申し訳が立ちません! で、でもぉ……ちょっとくらいなら――)

 

そう思った矢先、ナルゼから非情な言葉が掛けられた。

 

「そういえば浅間。アンタんところ。また忙しくなるそうね」

「あーそだねー。新年迎える準備とかもあるからねー」

「――――――ゑ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

そしてやってきた12月24日。

本来なら、25日がクリスマスなのだが、そこを気にしないのが極東の民だ。

町のあちらこちらで、

 

「ヒャッハー! クリスマスだー!」

「クリスマスを苦離棄魔棄にしようぜ!」

「ちょっとサンタクロース倒してくるわ!」

「ツリー爆破しようぜ!」

「リア充爆発しやがれ!」

 

皆、はしゃいでいるようだ。行動力があって大変よろしい。と店の前に出て準備を進める葉月。

といっても店の外を簡単に掃除するだけで、後は中に入っていつも通りにしていればいい。

ただ今回はクリスマスメニューを作ったのだ。

 

すると、辺りが騒がしくなってきた。

見ると、神耶が手を振りながらこちらにやってきたのだ。

 

ミニスカートなサンタクロース衣装を着て。

 

「畜生……なんでアレで女じゃないんだ!」

「いや待て。まだ手はある」

「何! 本当か!?」

「いいか? 極東では衆道が認められている。そして俺らは男。あの子も男。後は分かるな」

「お前――――天才か!」

「そうと決まればヒャァァァッホォォォォイィィ!!」

 

一人の男が感極まって飛び掛ったが、神耶に笑顔で顔面殴打された。

男は地面に倒れながら、

 

「我が生涯に一片の悔い無し……ッ」

「だらしない覇者もいたものだね」

 

一刀両断に切り捨てる神耶。

 

「お前少しは加減というものを知れよ。客入って来なかったらどうすんだよ」

「大丈夫。見て」

 

 

「うおおぉ。でもなんでだ。彼に罵られると何故かビクンビクンしちまうぜ!」

「おい誰か衛生兵呼べ! 新しい扉を開いた奴がいるぞ!」

「完全に堕ちれば楽なのに」

「男の悪堕ちとか誰得だよ」

 

 

「ね?」

「今更だが。武蔵は終わってるよなー」

 

さて、と葉月は区切る。

 

「これから忙しくなるぞ。神耶」

「Jud.大丈夫。だから売れ残ったケーキ一つ頂戴ね」

「チキンもおまけでつけてやるよ」

 

そういうと、葉月は店の看板を「CLOSE」から「OPEN」に反す。

 

「さあ。開店だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

浅間は、朝から最悪の気分だった。

否、最悪というほどではなかった。

 

無論、自分がこうして神社の掃除や出店の管理をしていることに問題はないし、不服もない。コレが自分の仕事なのだからと割り切っている。

 

だが、中身はやはり年頃の女の子。

好きな人と一緒にいたいと思うのは世の常。

 

ましてや、その意中の相手が今、恋人役をやっているなどと恐ろしかった。

 

「……はあ」

 

本日何度目か分からないため息をつく浅間。

自分の周りには、許可を出した出店が違法なことをしていないかチェックするための表示枠が出ては消えている。

 

ハナミもそれをサポートしている。

 

『葉月 心配?』

「え、あー。心配っちゃあ心配ですけどね」

 

主に葉月が誰かに取られないか。

いやでもどうなのだろうか。確かに葉月の人気は高い。

 

それこそ、自分の所属している茶道部にもファンがいるくらいに。

 

時折撮影される葉月の写真。アレはいけない。

何しろアングルが色々な意味で危険なのだ。

この間なんか、着替えのギリギリの写真が売られていたのだ。

 

風紀委員の権限で没収し、未だに処分をうっかり(・・・・)忘れているが。

 

――――あれ? よくよく考えたら葉月君、狙われますよね!?

 

「うぅぅぅ~……」

 

しかし自分は巫女、と言い聞かせようとして立ち上がった瞬間、

 

「世界はオパーイを求めている!」

 

と、謎のキチガイ発言が聞こえてきた。

直後、何かに吹っ飛ばされるような音がした。

 

そして、その吹っ飛ばされたであろうものは自分の足元に転がってきた。

 

「トーリ君……」

「あ? オイ浅間。ここの巫女さんヤバくね? 二人がかりで俺を蹴るんだもの! いやん俺死んじゃうわ」

「無視しますが。何しに?」

「ぐっ! 芸人が無視されるほど辛いことはないぜ」

 

浅間は無言で弓を構える。

 

「何しに?」

「殺意百パーセントかよ!」

 

そういうと、トーリは立ち上がる。

よく見ると、それは女装だった。しかも巫女の。

 

「あの、何しに来たんです本当に」

「お前忙しいだろうと思ってな。俺のとこ暇だし今日は店じまいしてきたから手伝いに来た」

「ああなるほど」

 

確かに彼にはよく神社の仕事を手伝ってもらっている。

だが今日は問題ないはずだが。

 

「んー。今は四時半くらいか。日が落ちるまでまだあるから。行ってこいよ」

「え、ど、どこへ?」

「決まってんだろ。葉月のところ、行ってやれよ」

 

そういって女装は笑う。

 

「で、でも私。まだ仕事が」

「だから俺が代わりにやってやるって。安心しろ! あまりの完璧さにオメェきっと驚くぞ!」

「やっぱいいですからそこで大人しくしてください」

「ソッコで拒否られたYO! ってそうじゃなくて!」

 

女装は頭を振ると、浅間に向き直る。

 

「オメェの親父さんから頼まれたんだよ」

「お父さんに?」

「Jud.今日くらいは娘自由にしてあげたいから手伝ってー、って」

「それは……」

「だからさ。行ってこいよ。多分、葉月も待ってると思うぜ」

「でも……」

 

本音を言えばすごく行きたい。

だが、自分の巫女としての部分がそれを拒否している。

 

しかし、トーリはそれすらもお見通しなのか笑って言う。

 

「なーに。お前の代わりに俺が見る。お前の仕事を俺が引き継ぐ。それだけだろ?」

「トーリ君……」

 

すると、ハナミがトーリへと業務引継ぎをしていた。

 

「おー。ありがとな――――浅間。行って来い」

「ッ、Jud.! ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

刹那、浅間は駆け出した。

幸い、制服姿なのがよかった。

 

流石に巫女服状態で行くつもりはなかった。

 

陽もだんだんと落ちてきて、辺りが暗くなり始めた。

 

葉月の店『ワグナリア』はすぐについた。

 

しかし、そこには既に「CLOSE」の文字があった。

 

時間を見ると、午後5時15分。

おそらくあまりの人の多さに早めに店を閉めてしまったんだろう。

 

「……そうですよね。葉月君の店。いつも、人気でしたから」

 

期待していた自分が馬鹿らしく思えてきた。

帰ろうと思って踵を返したその瞬間、

 

「あれ? 浅間か?」

 

聞き覚えのある声がした。

振り向くと、そこには葉月がいた。

 

サンタクロースの服は脱いだらしく、私服姿だ。

 

「どうした?」

「あ、いえ。何でもありませんよ」

「……? あ、そうだ。浅間。これから暇か?」

「え、と……」

「暇なら飯食ってけよ。余りものだけどさ」

 

そういうと葉月は店の中に入っていく。

浅間のつられて、店に入る。

 

そこには、いつもの『ワグナリア』ではなく、クリスマス用の小道具が飾られていた。

 

葉月は厨房から出てくると、両手に皿を持ってやってきた。

 

「そこ、座れよ」

「あ、はい」

 

近くのボックス席に座ると、対面するように葉月も座る。

出された料理は、どうやら魚関係のものらしかった。

 

「あの、いいんですか? お店、閉まってますけど」

「閉まってるんなら俺が何しようといいだろ? それに元々ここは俺の家だ」

「あ、はは。そうでしたね」

「それに、さ」

 

そういうと、葉月はどこから出したのか、葡萄酒(ワイン)の入った瓶と二つの空のグラスを出す。

 

「折角のクリスマスだ。お前も飲めるだろ?」

「あ、はい」

「ははっ。何硬くなってんだよ。いつも通りいつも通り」

 

そういいながら、浅間の頬をやさしくほぐすようにする葉月。

 

浅間はその仕草にやや顔を赤らめるものの、嬉しそうに微笑む。

 

「ありがとうございます」

「いいって。さて」

 

葉月が葡萄酒を注ぎ終えると、グラスを掲げる。

浅間も同じく掲げた。

 

「メリークリスマス」

「はい。メリークリスマス」

 

チンッ、とグラス同士が触れ合う音が聞こえた。

 

そんな中、ふと、浅間は思った。

 

(これって。よく恋愛草子とかの恋人同士の食事、ですよね)

 

ならば、ちょっとくらいは大胆になってもいいかもしれない。

そう考えた浅間は、手元の(サーモン)の薄切りを、フォークでうまく刺し、葉月に差し出す。

 

「ん?」

「え、えーと……」

 

はい、あーん。

恋愛系の草子では基本中の基本であった。

 

しかし、流石にそこまで出来る度胸がなかったのか、完全に固まっている。

が、葉月のほうが察し、それを口に含む。

 

「ん。美味いな」

「そ、そうですか――」

「ほい。じゃあお返し」

 

そういうと、葉月も同じように浅間に差し出す。

 

「え、ええぇっと……」

「ほい。あーん」

 

自分でも言わなかったことを葉月君はあっさり言いますね! と浅間はある種の戦慄を覚えたが、それでも、同じように口にする。

 

「……美味しいです」

「そっか。よかった」

 

クリスマスは、サンタクロースがプレゼントを配るという。

 

この日には浅間にとって、最高のクリスマスプレゼントになった。

 




どうもKyoです。

なんとか間に合った……一日で作るのは無理がある。

というわけでいかがだったでしょうか。
時代的には高等部一年ですね。

時間があればもっと甘いものをかけたんですが……まあいい。楽しみはこれからだ(何。

それと。にじファンの活動報告のほうに、ちょっとしたものを載せましたので、よろしければどうぞ。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは皆さん。メリークリスマス。


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番外編の教師と狐

 

浅間とトーリがあれこれしているとき、『ワグナリア』は少し早い閉店を告げた。

 

「神耶ー。もう上がっていいぞー」

「はーい」

 

葉月は厨房から出てきて、テーブルを拭いている神耶に声をかける。

 

その神耶は最初のミニスカサンタコスではなくなっていた。

 

人孤の特性である尻尾と耳を生やし、白のフリルがついた薄青色のメイド服を着ていた。

ご丁寧にヘッドドレスまで装備して。

 

実はコレ。神耶が密かにこの『ワグナリア』に隠していたものなのだ。

いつかコレを着て接客をしてやるという、女装癖が疑われる野望を秘めて。

 

そして、今日それが実現したのだ。

 

「しっかし。相変わらず女装のクオリティが高いな。トーリ以上だ」

「えへへ。そう?」

「……悪いが俺にその手のおべっかは通用しないんで。ほい。コレがケーキとチキン」

「ケチ」

「裏表激しいんだよお前」

 

頬を膨らませながら、葉月の出す箱を受け取る。

 

「いやー。でも助かったよ。何しろ普段の三倍の客が来てたからさ」

「うん。まさか僕も男の人から恋人役求められるとは思ってもなかったよ」

「俺なんか料理中だぜ? しかもキス要求って。ねえよ」

 

そういいながら、葉月は扉を開ける。

 

「んじゃ。お疲れ様」

「うん。お疲れ。それじゃ」

 

神耶はそれだけいうと、走り去っていった。

葉月は、その方向を見る。

 

「――――ははっ。アイツ、先生のとこ行きやがったな」

 

葉月は笑うと、そのまま店の中に入っていった。

 

「頑張れよ。神耶」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

神耶は武蔵を走っていた。

といっても、その走る速度が尋常じゃなく、速い。

 

しかし、手に持ったケーキとチキンの入った箱は決してブレなかった。

辺りの景色が流れるように去っていき、あっという間に教導院についた。

 

「ふぅ。よし」

 

神耶はそのままある部屋へと向かった。

そこには「宿直室」と書かれていた。

 

「先生いる?」

「ん? あれ? 神耶じゃない。どうしたの?」

 

そこにいたのは、神耶たちの担任でもある教師、オリオトライ・真喜子だった。

彼女はいつもの青いジャージに傍にいつも背負っている長剣を置き、酒瓶を片手に飲んでいた。

 

「ちょっと葉月の店のバイトしてたら贈り物」

「肉ある?」

「鶏肉でいい?」

「Jud.十分!」

 

オリオトライは眼を輝かせる。

元々肉食タイプの彼女は、肉には目がない。酒もあれば最高だと豪語する。

時折、神耶がオリオトライに料理を作りにいったりしている。

 

そうしないと、常に酒とつまみしか食べていない食生活なのだ。この女教師は。

 

無論、その材料費は流石にオリオトライが出している。

曰く「いやー、ね。流石にこれじゃあちょっと」らしい。

一応の良心は残っていたようだった。

 

神耶は笑いながら宿直室に上がる。

が、

 

「あ。ちょっと冷めてる。温めなおす」

「んー。そんなの気にしないけどなー」

「温めたほうが美味しい」

 

そういうと、箱からケーキとチキンを取り出し、チキンだけを別の更に載せ、加熱用の符を張る。

 

「しばらくケーキでも」

「甘いものは酒のつまみになり辛いのよねー」

「疲れた体にはちょうどいい」

「まあね。ってか本当に便利よね。神耶のその符。自作でしょ?」

「Jud.独学で、コレだけうまく出来た」

 

神耶は普段の授業では寝ていることが多い。

だが、座学での成績は学年でもトップクラスに入る。

 

特にカンニングなどの違法行為はしていない。(ちなみに神耶のいるクラスには常習犯が一人いる)

それでいて手がかからない。まさに理想の生徒だろう。

クラス内のごたごたを纏めてくれればさらに好評価なのだが。

 

あとはこの女装癖が微妙に困る。

時々二人並んで歩くときがあるが、こうなると自分が男の位置についているように噂されているのだ。

おかげで後輩の三要には「性別の交換したらいいんじゃないですかね?」などといわれる始末。

 

「ねえ神耶」

「……?」

「あー。なんでもない」

 

純真無垢な瞳を向けてくる神耶に対して、オリオトライは何もいえなくなった。

そして、ちょうど加熱符の時間設定が来たのか、神耶は符を外し、オリオトライに渡す。

 

「いいの? 神耶何も食べてないんじゃないの?」

「あはは。僕一ヶ月くらいだったら断食出来るから。それに、先生の目。凄いから」

「あらら。やっぱり分かる?」

「うん。すっごく」

 

肉を見た瞬間、完全に獲物を見つけた獣の目だった。

神耶は立ち上がって、宿直室の台所に向かう。

 

「先生。また食器出しっぱなし」

「片付ける気が起きなくてねえ」

「もう」

 

そういうと、神耶は袖をまくって、食器洗いを始めた。

その音を背景に、オリオトライはコップに酒を注いで、チキンを食べ始めた。

 

「んー。葉月の店の肉は美味いわねえ」

「今度余りの肉貰ってきて何か作ってあげる」

「あ、じゃあ牛肉ね牛肉! ぶん盗ってきちゃって!」

「先生それ犯罪」

 

と、神耶は苦笑しながらいう。

 

テキパキと洗い物を終えると、再びオリオトライのところに戻る。

すると、目の前には数本、チキンが残されていた。

 

「あれ?」

「流石に何も食べてない人の前で全部食べちゃうような真似はしないわよ」

「……ありがとう」

「ん。ほら食べなさい」

「Jud.いただきます」

 

神耶は上品とも取れる行動で肉を食べる。

オリオトライはそれを見ながら酒を飲んでいた。

 

すると、オリオトライが急に、神耶の髪の毛を梳きはじめた。

 

「どうしたの?」

「ん? いやー。喜美がさ。神耶の髪がサラサラしてて羨ましいって話してたからどんなんかなー、って」

「そっか。で。どう?」

「よく分かんないや」

「先生も綺麗な髪だよ?」

「あはは。ありがと」

 

すると、いつの間にか神耶は肉を全て平らげていた。

 

「ご馳走様」

「早いわねー。それでいて太らないのは先生、ちょっと羨ましいわ」

「先生も太らないでしょ?」

「さー。どうだろうね」

 

それからしばらく。二人で他愛ない話をしていた。

 

最近、後輩の三要がまた見合いに失敗した。

 

点蔵のパシられ回数が1000の大台を超えた。

 

セクハラされかけた。

 

ちょっとソイツ殺してくる。

 

など。

 

そんな話をしていると、いつの間にか夜の八時を過ぎていた。

 

「あらら。時間経つの早いわねえ。どうする? 今日ここで泊まってく?」

「……いいの?」

「Jud.それに、久々に神耶の尻尾枕が堪能できるし」

「うん。じゃあ、いいよ」

 

すると、ふわりと九本の金色の尻尾が現れた。

それらは宿直室の畳の上に綺麗に並んで倒れる。

 

オリオトライはそれに寝転がる。

 

「あー。気持ちいいわ。自分の家の枕より断然いい」

「持って帰る?」

「尻尾を?」

「僕」

 

そういって、神耶はちょっと顔を赤くする。

すると、オリオトライは苦笑する。

 

「ちょっと。それはいくらなんでもマズイわよ」

「えー」

「えー、じゃないの。ちゃんと学生らしい生活しなさい」

「先生が先生みたい」

「だって先生だし」

 

そっか、と納得する神耶。

 

「でもここでこうしてるのはいいの?」

「いいの。私が許可したから」

「先生だから?」

「そう。先生だから」

 

すると、神耶も少し疲れが出てきたのか、うつらうつらとしてきた。

 

「んみゅ……」

「アンタ本当に仕草が女の子っぽいわよね。喜美が羨ましがるのも分かるわ」

「…………そうでも、ない」

「いやいや褒めてないから」

 

オリオトライがそういうが、神耶からの反応がなかった。

見ると、完全に寝ていた。

 

オリオトライはそれを見ると、神耶の髪の毛を撫でる。

 

「おやすみなさい。いい夢見なさいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

翌日。

オリオトライが神耶より先に起きた。

 

見ると、正座した状態で寝ていた。

無論、尻尾は自分が枕にしていたため動いていない。

 

「まったく。こういうところで手のかかる子ね」

 

そういうと、オリオトライは起き上がり、近くにあった毛布をかける。

 

寝顔を見ると、時折バイオレンス発言や行動をする神耶とは思えないほどだった。

 

「はあ。私って結構過保護なのかなー」

 

すると、どうやら毛布をかける感触でなのか、神耶が起きた。

 

「あら? 起こしちゃった?」

「ん……ふわぁ…………へーき、です」

「寝惚けてるわね」

 

神耶は若干焦点の合ってない目でオリオトライを捉えると、ほにゃ、と笑う。

 

「おはよう。先生」

「はい。おはよう」

 




どうもKyoです。

まさかの一日に連続投稿。
人間の限界に挑戦した日でした。片や一日。片や三時間弱の製作時間。

内容薄いの勘弁してね!

というわけで神耶と先生でした。

何この熟年夫婦みたいなの。

しかし難易度の高い先生ルート。
あえて言うなら、ネイキッドギル様にウェイバー君が挑むようなものです。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。

次回は英国か、予告していた自動人形編を。


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交錯上の空行き人たち

 

古代魔法使役士(エンシェント・マギ)

それは、神代の時代に存在した、いわば魔法使い。

 

歴史の表舞台には上がらず、しかし影ながら人々を助けることをしてきた一族。

 

そして聖譜は全ての歴史を記している。

無論、古代魔法使役士のことについてもだ。

 

しかし、その記述は人々を助けたというものではないほど、凄まじいものだった。

 

たった一つの魔法で海を割り、地を砕き、天を裂く。

果ては強力な治癒能力や召喚能力。

 

そしてやがて、各国でそのような力を見せる者がいた。

契約を結んでいないのに、流体を一切使用していない術式を使い、彼らは生活をしていた。

 

だが、このような強力な能力を持った者達を、放っておくはずがなかった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

三河での騒乱から二週間。

武蔵は次の目的地、英国を目指していた。

 

そんな中でも、教導院は通常通り授業を続ける。

 

そも、学生の本分は戦闘ではなく学業なのだ。

 

しかし、その中でも例外はいる。

総長連合と生徒会だ。

 

特務や副長を中心として、全員が武蔵の哨戒と警護に当たっていた。

 

そのうちの一人。第一特務、点蔵・クロスユナイトは教導院の屋上から空を見ていた。

他の人間から見れば、授業をサボっているようにしか見えないが。

 

彼の戦種(スタイル)忍者近接士(ニンジャフォーサー)。忍の力を使い、それを主として戦う。

特務の中でも、実力は高いほうだ。

 

その彼は今、視認による敵の早期発見をしようとしている――――のだが、現在武蔵はステルス航行中。

故に、ステルス解除されない限りは空を見ることは無い。

 

よって、現在は半分サボっている状況だ。

 

と、点蔵の横に表示枠が開く。

 

『第五特務。ネイト・ミトツダイラ。〝品川〟に着きましたわ』

「Jud.早いで御座るな」

『あ、点蔵はっけーん。ってかサボり?』

「さ、サボりでは御座らんよ……ステルス直後に奇襲が来てもすぐに対応できるようにしているだけで御座る」

『なーる。あ、ナイちゃんとこは異常なし。強いて言うなら――――』

 

表示枠に現れたナイトが視線を別の方向に向ける。

すると、そこには赤い髪の少女が空中に浮かんでいた。

 

『アレ、かなぁ』

「確か葉月殿と契約している精霊の一人、に御座るな」

『割り込み失礼ー』

 

と、いきなり通神に割り込んできたのは神耶だった。

 

「神耶殿? 今授業中では?」

『Jud.だけど御広敷が御高説で馬鹿やって、今鈴が馬用のカンチョー持ってくるところ』

「それ鈴殿には絶対にやらせてはいけない役ではないので御座るか!?」

『こうしてベルりんは梅組の空気に染まっていくのだったー』

「ナイト殿! 不吉なナレーション止めるで御座るよ!?」

『それはそうと。葉月から伝言。ナイトに』

『ほえ?』

『どっかでサボってる赤髪女がいたらぶっ放していいってさ。どうせ死なないだろうしって言ってたから』

 

ナイトは先ほどの赤髪の少女、クトゥグアを見る。

その後、硬貨を一枚取り出し、打ち出した。

 

が、クトゥグアに当たる前にその硬貨は燃え溶けて、蒸発した。

 

「――――大丈夫で御座るか?」

『後でハヅッちに請求しよー……ってうわっ来た!?』

 

見ると、ナイトの魔術陣にクトゥグアが割り込んでいた。

 

『――――何か用?』

『あー。ハヅッちが撃っていいっていうからね。ちょっと試しに』

『サボってない。ただ空に浮かんでいただけ』

「それはサボりなのでは御座らぬか?」

『問題なし』

『というか。葉月がサボっていると言ったことはまだ言ってませんわよね……?』

『昔から葉月はそう言うから。私はサボってないのに』

「つまりはサボり魔なので御座るか……」

 

そういえば三河で戦っていたときも一人ぼんやりしていたで御座る、と先の戦いを思いだす。

 

『私はサボってない。ただぼんやりしているうちに皆が私の仕事を取っていく』

『それはもうサボってるって言うんじゃないかな?』

『大丈夫。だって『私は』『悪くない』』

「今喋り方が変に……」

 

それはそうと、とクトゥグアは点蔵を見る。

 

『第一特務って、誰?』

「あ、自分で御座るよ。武蔵アリアダスト教導院総長連合第一特務。点蔵・クロスユナイト。よろしくで御座るよ」

『葉月の契約精霊。『炎』のクトゥグア。クー子って、呼ばれてる』

「あ、どうもで御座る」

『武蔵の戦力を葉月から聞いた。葉月のいるクラス。葉月が皆のこと褒めてた』

 

その言葉に点蔵を含め、ネイト、ナイトが苦笑する。

 

一番凄いのは、アレだけの大軍勢を相手した葉月だろうに。

 

『第一特務。点蔵・クロスユナイト。忍。体術や野外での生活訓練等をこなす、万能型の戦力。そう聞いた』

「それは上げすぎで御座るよ。自分は一介の忍者。凄いところなど何も無いで御座るよ」

 

だが、やはりそういわれると嬉しいものは嬉しい。

クトゥグアは更に続ける。

 

『気配りなども出来るが、金髪巨乳な女性が好きと公言し、今のところ。フラれた回数が二桁に登った。おめでとう』

「まったく嬉しくないで御座るよ!?」

『そんなんだからフラれるんだとナイちゃん思うなー。同属性として』

『第一特務。貴方……』

「い、いや。好みがあっていけないで御座るか!? 自分、エロゲの攻略担当キャラもそれなので御座るよ!?」

『なんという徹底振り。今度私にも貸して』

「ええ!?」

『うっわクーやんマジ?』

『女性でそのようなものに積極的になるなど……』

 

あまりの発言に流石の特務たちも驚いた。

 

すると、また新たに表示枠が開いた。

〝武蔵〟だった。

 

『皆様。そろそろステルス航行が終了します。ステルス障壁を解除いたしますので。その間の見張りをお願いします――――――以上』

「Jud.」

 

点蔵以下特務のメンバーは了承する。

 

すると、展開されていたステルス障壁が解かれ、元の青い空が広がった。

 

「やはり。空は青いほうが良いで御座るな」

 

点蔵はそう呟く。

が、その瞬間、

 

「――――ッ!」

 

今まで見ていた空に違和感を感じ、即座に立ち上がる。

それは、表示枠越しのネイトも同じようだった。

 

即座に点蔵は表示枠を開く。

 

「総長連合第一特務、点蔵・クロスユナイトが武蔵全域に警戒を促すで御座る! 三征西班牙(トレス・エスパニア)の艦隊を発見! 奥多摩上空、約500メートル!」

『数は分かるかい!?』

 

表示枠からネシンバラが現れた。

おそらく、この警戒警報で授業が中断されたのだろう。

 

相手のステルス障壁も消えかけている。

数は、

 

「クラーケン級が二! ワイバーン級が六!」

『Jud.!』

 

ネシンバラが頷くと、ふと、彼の手元に表示枠が現れた。

 

『皆聞いて! 三征西班牙から、この襲撃の大義名分が送られてきた! 内容は『三征西班牙の領域において、英国への補助物資を積んだ船舶の拿捕を行う』だってさ!』

『まるで子供の言い訳レベルね』

『それだけ向こうも切羽詰ってるってことだと思うな』

『どうせ戦闘して後の会議で発言権ゲットだぜ、がしたいんだよね』

『不知火君はぶった切るねいきなり!』

 

神耶殿は昔からこうで御座ったなー、と点蔵は思う。

神耶は、さほど気にしていないのか、言葉を続ける。

 

『言い繕っても仕方ないし。で。どうやって武蔵に来るの? こっちの重力障壁の効果範囲、結構広かったと思うけど』

 

そういうと、ネシンバラが眼鏡を上げながらいう。

 

『向こうは壇ノ浦を持つ三征西班牙さ――――八艘跳びなんて夢みたいなもの使ってくるよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

三征西班牙の艦隊。その上では、陸上のレーンが敷かれていた。

全部で八つ。

 

そのうちの一人が、陸上のスタート用の短銃を上空に構えていた。

 

赤いジャージを着込み、しかし、足元は透けている。

 

つまりは、霊体。

 

一度死んで、しかし残念があったためこの世に留まった者。

三征西班牙。アルカラ・デ・エナレス所属。第二特務、江良・房栄だ。

二重襲名として、アルバロ・デ・バサーン。

陸上部部長だ。

 

「さーて。皆! 準備運動は出来た?」

「Tes.!!」

 

うん。いい返事。と、房栄は頷く。

しかし、と頭の中で考える。

 

対応がちょっと早いのよね、と。

 

(やっぱり情報が少ないね、と)

 

武蔵はついこの間まで、戦闘とはほぼ無縁の状態だったのだ。

それがいきなりこれだ。情報不足にもほどがある。

 

それに加えてこちらの情報は年鑑などで大体のことは調べられているだろう。

 

まったくもって理不尽。

だが、こちらは武器や経験がある。

向こうにはそれがない。

 

そこを生かす、と房江は決める。

 

陸上部の一人が叫ぶ。

 

「On your mark――――!」

 

それに続いて、他の陸上部員がクラウチングスタートの体勢に入る。

 

「――――mark!!」

「Get set!!」

 

その瞬間、房江は方耳を手で塞ぎ、もう片方を伸ばした腕で塞ぎながら、

 

「飛ばせ! 八艘!!」

 

短銃を空に撃った。

 

直後、陸上部員が走り出した。

綺麗なフォームだ。走り方も完璧。

 

後はこのレーンから飛び降り、武蔵を攻撃する。

 

そして、跳んだ。

 

しかし、次の瞬間、全員の顔が引きつった。

 

何故ならそこには、

 

「ああ? 何だオメエら。もう走り出したのかよ――――こっちの準備も待つってのがスポーツマンだろ。だからお前ら全員、フライングだ」

 

空中で腕を組みまるで寝そべるかのような姿勢でこちらを見ている武蔵の魔法使いがいたのだ。

そして、その周りには無数の光弾。

 

「とりあえず。不当な侵略に対して、正当防衛だ」

 

直後、彼らは撃墜された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

その様子を、一人の少女が表示枠越しに見ていた。

 

暗桜色の髪をショートカットにし、豊満な胸が三征西班牙の制服にぴっちりと詰められている。

三征西班牙。アルカラ・デ・エナレス所属。第三特務。立花・誾。

西国無双、立花・宗茂の妻だ。

 

その様子を見て、義腕を握り締める。

そして、戦場へと向かおうとした。

 

が、声をいきなり掛けられた。

 

「行くのか?」

「Tes.」

 

誾は声をかけたほうを見ながら返事をする。

そこには、菫色の瞳と髪を持つ少年が壁に寄りかかりながら同じく映像を見ていた。

 

背丈は、宗茂よりやや低い。が、背負った大剣と鋭い眼光が彼を大きく見せていた。

 

「宗茂様の襲名解除を取り消すためにも。武蔵副長、本多・二代は私が倒します」

 

誾は決意堅く、そう宣言する。

 

三河での戦いで、本多・二代に敗北した立花・宗茂。

西国無双の名を背負っていただけあって、敗北により、襲名解除が決定してしまった。

 

聞いたとき、誾の中で、何かが崩壊しかけた。

 

……宗茂様が、宗茂様でなくなってしまうっ…………

 

そこで、誾は申し出た。

自分は西国無双よりも弱い。

故に、自分が武蔵副長を倒せば、自分より強い西国無双が敗れたのは間違いだったと証明するために。

 

少年は、一息つくと、壁から離れる。

 

「俺も行こう。どの道、古代魔法使役士同士は惹かれあい、戦う」

「そうですか。では参りましょう」

「Tes.気をつけろよ。蜻蛉切の割断射程は30メートル。上位駆動はまだ出来ていないようだからいいが。神道の加速術はよく分からん。こちらの常識で図るとしっぺ返し食らうぞ」

「Tes.ご忠告どうも。しかし心配しすぎです。私は如何なる相手でも油断慢心はしませんので」

「――――そうか」

「アルヴィス。貴方も油断なさらぬよう」

「ああ」

 

アルヴィスと呼ばれた少年は誾の後ろをついていく。

その目は、どことなく寂しげで、また心配そうに誾を見ていた。

 

すると、アルヴィスは誾の隣に立つ。

 

「あの無表情無感情三白眼娘がよくもまあここまで育ったもんだ」

「誰が三白眼ですか。そこまで目つきは悪くないです」

「無表情無感情は認めるのかよ」

「自分でも愛想ない女と思っています。が、宗茂様がそれでいいというなら、私は構いません」

「ハッ! ガルシアの奴。どんな口説き方したんだか」

「宗茂様、です。そちらの名では呼ばぬように」

「ガルシア・デ・セヴァリョス、でもあるだろ。アイツは。どちらの名を呼ぼうが俺の勝手だ。アイツもいいって言ってるしな」

 

と、肩を竦めながらアルヴィスはいう。

誾はその言葉に不満を持ったような顔だが、すぐにいつもの顔に戻る。

 

「仲間として言おう――――勝ってこい」

「ではこちらも――――当然です」

 

そして、二人は飛び出た。

 

一人は、愛する夫のために。

 

もう一人は、自分を育ててくれた恩人のために。

 




どうもKyoです。

先に英国編を始めました。
自動人形たちの話を待っていた方。すいません。でも絶対にやります。

前半に点蔵を動かしすぎた気がしますが。第二期の主人公なのでいいでしょう。

その代わり、もげる呪いを今から皆さんでかけましょう。

さあこの五寸釘と呪いの藁人形のセットが今なら超特価!買いだよー!

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

次回は、ドッカンだったりズドンだったり。色々はっちゃけたりします。


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朱の場の部員達

 

平穏な日々。

安穏とした世界。

 

小さな集落をいくつも作り、互いに助け合いながら暮らしていた魔法使い。

 

あまり裕福とはいえない。

だが、それでも確かに、そこにはささやかながらもかけがえの無い幸せがあった。

 

暖かい家族。

 

共に遊んだ友達。

 

恋焦がれる異性。

 

彼らもまた、同じ生き物なのだ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

三征西班牙側の攻撃は激しい。

だが、葉月の初撃に火が着いたのか、武蔵勢も応戦する。

 

三征西班牙は運動系の部活が多い。

それはつまり、戦闘向きな人材が豊富ということだ。

 

陸上部を筆頭に、野球部やサッカー部までも攻撃に加わっている。

 

本来なら、武蔵の戦力は当然のように学生。

 

しかし、校則法というこの世界の法では、一般市民の財産に被害が及ぶ場合、自衛の範囲内で防衛しても良いとある。

 

故に、町の住人は防御壁を展開し、自分の家屋を守っている。

 

「くっ! 野球部め。ボールはマウンドで投げろ! 人に向かって投げるな!」

「お前らそれでもスポーツマンか!」

「引っ込め借金大国! 無賃乗船すんな! 金取るぞ!!」

「そんなんだから彼女いない暦=自分の年齢……やべ、悲しくなってきた」

 

時折、罵倒を浴びせながら防戦する武蔵。

しかし、三征西班牙も負けない。

 

「我々がいるところがそれ即ちマウンドだ!」

「戦場だろうがなんだろうがな!」

「金なんぞまた作りゃいいんだよ!!」

「彼女ならいたわ! …………先月別れたけど」

 

まるで子供の喧嘩レベルだと、空を飛んでいる神耶は思う。

 

彼は現在、この武蔵に被害が及ばぬように、自身の術で防壁を艦全体に張っている。

本来なら施設の一軒一軒に防壁を張りたいところだが、生憎と急場であるため、全体の三分の一程度しか張れていない。

 

「まあ、常に準備不足が人生なんだろうけど――――おっと」

 

神耶が呟くと、飛んできたボールを軽々と避ける。

 

空中にいるということは、下からの攻撃があるということ。

空を飛んでいるというのはメリットもあるが、自分が攻撃対象にもされやすい。

 

「はいはい当たらない当たらない、っと」

 

神耶はそういいながら建物に防御結界を張っていく。

ふと、神耶は少し離れた空を見る。

 

そこには、赤と白が炸裂して、空を彩っていた。

 

「葉月も頑張ってるなー」

 

まるで他人事のように口にする神耶。

その間にも攻撃を受け続けているが、ひらりひらりと紙一重で避けている。

 

しかし、三征西班牙の生徒も、神耶にのみ攻撃を絞ってはいない。

そのうちに、守りの薄い部分を付かれ、家屋がいくつか炎上し始めた。

 

そして、三征西班牙の艦隊上に二人の人影が現れた。

 

一人は、金髪長身の男。スラッとした背に、端正な顔立ちだ。

もう一人は、金髪細身の女。やや身長が低いが、その顔は自信満々といった風だ。

 

「ヤバイ! あれは三征西班牙の〝四死球〟、ペテロ・バルデスとフローレス・バルデスだ!」

「はぁ!? あのバルデス兄妹!?」

「三征西班牙野球部の最終兵器か!!?」

 

すると、艦上のフローレス・バルデスがにんまりと笑う。

 

「聞いた兄貴? 私ら最終兵器だって。去年ベスト8だったのに有名になったね」

「妹よ。有名になるものは常に有名なのだ」

 

それを聞くと、武蔵の人間が、ああという。

 

「兄のペテロ・バルデスが投げ始めて四球。全て死球(デッドボール)で一点を送り出し。それを笑った妹が再び四球。全て死球で四点入った。が、相手側にもうプレイできる選手がいないため試合終了。相手側の選手は全員病院送り――――――お前ら。ルールっていう言葉と意味を知ってるか?」

 

それを聞くと、フローレスは慌てて否定する。

 

「ち、違うよ! アレは選手を狙ったんじゃなくて、ボールが私の思ってる方向と全然別の方向に行っちゃったんだよ! 私は兄貴と違ってちゃんと狙える子なんだから!」

「妹よ。兄は死球を起こしているわけではない――――兄は死球を狙っているのだ」

「お前ら野球しろよ!!」

 

武蔵からのツッコミを二人は華麗にスルーした。

 

そして、二人は投球のフォームに入る。

 

「――我らが豊後水軍、渡辺家より航海の聖者セント・エルモに祈りを捧げます」

 

それはまるで祈るような言葉と動作。

 

「――走狗(マウス)導きの焔(エル・フエゴ)迎受」

 

瞬間、二人に青白い炎が浮き上がり、やがてそれは全身に行き渡り、祝詞が完成した。

 

「燃えろ、炎!」

「行け、魔球!」

 

そして、投げた。

 

二つのボールが空中で一つになり、それは燃える白球となって武蔵に襲い掛かる。

だが、武蔵も黙ってみているわけではない。

 

「気をつけろ! 垂直だと突き抜ける可能性が高い!」

「傾斜に構えろ!!」

 

言うが早いか、防盾を構える住人達が一斉に斜めに構える。

 

そして、炎の白球が当たると思った瞬間、目の前から消えた。

 

「――――え?」

 

そして直後、真後ろの民家が一軒爆発した。

 

それを見るペテロとフローレスはぐっ、と拳を握る。

 

「ストライク……ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「って、おいおいおい。すんげー火事になってんじゃねえかよ!」

 

一方、三征西班牙の生徒達を次々と返り討ちにしていた葉月は、遠く神耶のいる方角を見て一瞬唖然とする。

 

が、それもすぐに振り払う。

 

そして、葉月は呼ぶ。

 

「ウォーティー! シルフィー!」

 

直後、二人の精霊が葉月の背後に現れる。

 

一人は、水色の髪をした、非常に豊満な胸を持つ少女。

一人は、翠の髪をたなびかせている、スレンダーな少女。

 

『水』を司る精霊ウォーティーと『風』を司る精霊シルフィーだ。

 

「御用は?」

「火事に巻き込まれて逃げ遅れた奴の救助優先! 余裕があれば鎮火も頼む!」

「「Jud.!」」

 

すると、すぐさまその場に駆けつける二人。

葉月はそれを見送ると、自分は別方向に向かった。

 

それは、三征西班牙のワイバーン級の艦だった。

 

「一艦くらいは落としておかねえとな!」

 

葉月は空高く舞い上がり、詠唱を始める。

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル

 

影の地 統ぶる者(ロコース・ウンブラエ・レーグナンス)

スカサハの(スカータク) 我が手に授けん(イン・マヌム・メアム・デット)

三十の棘持つ(ヤクルム・ダエモニウム) 愛しき槍を(クム・スピーニス・トリーギンタ)!」

 

詠唱が続くにつれ、葉月の周りに巨大な槍状の雷が現れた。

数にして三十。

 

そして、葉月は放つための一言を載せる。

 

雷の投擲(ヤクラーティオー・フルゴーリス)!!」

 

刹那、三十の槍が一斉に艦に向かって放たれた。

大きさからいって、それは艦を貫くのに十分。それが三十。

誰もが、撃沈すると思ったそのとき、

 

「Schlange!」

 

雷の槍に無数の剣が絡みつき、暴発させた。

 

否。それらは剣ではなかった。

 

よくよく見ると、それらは糸のように細い鎖で繋がれた剣の一部だった。

 

連結刃(チェーンエッジ)!? 誰だよんな漫画草子みたいの使った奴!」

 

と、葉月は辺りを見渡す。

すると、一人、自分と同じ空に立ってこちらを見ていた。

 

連結刃はそのままその人物の下に戻っていった。

 

三征西班牙の制服に身を包んだ生徒は、そのまま葉月に向かって飛び出す。

葉月も杖を構えて応戦の体勢に入る。

 

剣と杖。二つがぶつかり合い、拮抗する。

 

「三征西班牙。アルカラ・デ・エナレス所属。第三特務補佐。アルヴィス」

「極東。武蔵アリアダスト教導院所属。白百合・葉月」

 

ガッ、と互いの得物を押しのけあい、距離を取る。

 

氷槍弾雨(ヤクラーティオー・グランディニス)!」

「炎熱加速! Schlange!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

葉月がアルヴィスと接敵する前、火事の家屋を二つの影が縫うように走っていた。

 

ウォーティーとシルフィーだ。

 

彼女達は、逃げ遅れた者がいないか確かめながら、民家の火事を消していった。

 

「負傷者はいるけど。逃げ遅れた人はいないね」

「ですね。あっ」

 

ウォーティーが空を見る。

するとそこから、大量の水が溢れ出て炎を消していった。

 

水の発生源は大型木箱(コンテナ)だった。

大型木箱が釣り下がっている柱に、何かが着弾し、破裂。

中に入っている水が火を消していっているのだ。

 

ついでに、大型木箱に陣取っていた三征西班牙の生徒達も吹っ飛ばして。

 

「えーと……あれ。どうなってるの?」

「あ、多分、あの子です」

 

と、指差す先には、牽引帯の上に乗り、弓を構え狙う少女が一人。

 

浅間・智だ。

 

彼女は再び矢を番え、新たな大型木箱を狙う。

 

「会いました!」

 

矢は吸い込まれるように飛んでいき、大型木箱を破壊する。

 

ようやく事態に気づいた三征西班牙の生徒達が口々に叫ぶ。

 

「げぇっ! 武蔵の対艦砲撃巫女が来たぞ!」

「向こうにも対艦砲撃魔法使いがいやがるぞ! 気をつけろ!」

「総員退避ぃ――!! 武蔵の対艦夫婦が来たぞぉ――――!!」

 

慌ててその場から離れようとする。

が、浅間はあくまで狙いを大型木箱につけたまま、

 

「――もう、夫婦だなんてー! 照れちゃいますよー!!」

 

笑顔で矢をぶっ放した。

その様子を見ていた二人は、顔を合わせて。

 

「――――さーてお仕事お仕事」

「あ、私あっち見てきますね」

 

見なかったことにした。

 




どうもKyoです。

はははー、点蔵の出番見事に削ってやったぜ!

……といってもこの時点じゃあまり出番がないんですよねぇ……
必要なところにこの忍者は出張りやがって……もう少し忍ばないと。

次回はナイトと直政の戦闘をやりつつ、葉月の戦闘も。
そして正純初の滑り……頑張れ。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。








ところで皆さん。側室制度って魅惑の響きですよね。


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無垢者の疑問

 

かって うれしい はないちもんめ

 

まけて くやしい はないちもんめ

 

たんす ながもち どのこがほしい

 

あのこが ほしい あのこじゃ わからん

 

そうだんしましょ そうしましょ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

黒嬢(シュバルツ・フローレン)で空を飛びながら、ナイトは戦場を見下ろしていた。

ほんの数十分前まで平和だった武蔵が、今では敵の攻撃に包まれている。

 

厄介なのは野球部だ。

 

ボールを投げ、または打ちながら攻撃をしている。

しかもこちらの攻撃は遠くて当たらない。

 

だったら、と、ナイトは手にしたものを握る。

それは、廃材の鉄パイプだった。

 

「そぉれいっけー!」

 

ナイトはそのまま廃材を思いっきり投げつけた。

見事にそれは次の打球を放とうとしていた野球部員の背に当たった。

 

同じく、自分と同じ魔女(テクノヘクセン)部隊も廃材を投げつけ、敵の攻撃の手を止めていた。

 

しかし、ナイトは一瞬横を見る。

本来ならそこには、自分の相方であるナルゼが白嬢(ヴァイス・フローレン)を優雅に飛ばしていたはずだ。

だが、彼女の白嬢は、先の三河の戦いで破損。現在は見下し魔山(エーデル・ブロッケン)に預けている。

 

彼女の性格は分かる。

きっと、こちらを心配しているのだろう。

 

だから、

 

――――ナイちゃん一人でも大丈夫ってとこ、ガっちゃんに見せないと!

 

ナイトはそのまま三征西班牙の、おそらく旗艦と思われるクラーケン級の艦に先行する。

 

腰のホルダーから棒金を取り出し、黒嬢にセットする。

 

「ガっちゃんの誘導はないけど――――」

 

そのまま、ナイトは狙いをつけ、

 

「これで、終わりッ!」

 

硬貨弾を放つ。

が、そのとき、

 

 

「おい隆包。これ、お前だけでよかったんじゃねえの?」

「そういうなってベラのおっさん。仕事しねえと副会長に怒られっちまうぜ」

 

 

そんな声が聞こえた。

すると、投射された硬貨弾が徐々に勢いを失い、艦に当たる頃にはまるで子供が投げたような威力しかなかった。

 

ナイトはすぐにその原因を探る。

 

すると、甲板に二人の人影が見えた。

一人は、黒髪に糸目の男。その耳は、普通の人間よりも長い。

長寿族の証だ。

 

もう一人は、小柄で、野球帽を被り、その背にはバットを背負っている。

そして、足元が透けている。つまりは、霊体。

 

ナイトは二人を見て、瞬時に判断する。

 

「生徒会書記のディエゴ・ベラスケスに、総長連合副長の弘中・隆包!?」

 

ナイトは内心、歯噛みする。

 

――まさかいきなりこの二人に会うなんて!

 

総長連合副長に生徒会書記。

奇妙な組み合わせだが、この二人なら納得がいく。

 

何故なら、二人の手には同じデザインの青と黄の剣が握られていたからだ。

 

聖譜顕装(テスタメンタ・アルマ)!?」

 

聖譜顕装。

それは、各国に存在する、旧代と新代合わせて7組14個の神格武装のこと。

その出自は不明で、30年前に各国の総長がどこからか持って来たのだという。

 

それぞれが聖譜の枢要徳に値した能力を持つ。

そして、三征西班牙のそれは――――

 

「俺の聖譜顕装〝身堅き節制(クルース・テンペランティア)・旧代〟は、相手の時間を倍に引き伸ばす――――時は金なり、ってな」

「んでもって。俺の〝身堅き節制・新代〟はよ。相手の能力を使用回数分、分割減すんだ」

 

つまり、ナイトの攻撃は隆包の旧代で速度が落ち、ベラスケスの新代で威力が落ちた。

 

「結構単純な能力だが。使えるだろ?」

「何自分の力みたいに言ってんだ。コレの力だろ」

「堅いこと言うなよ。まあ――――」

 

隆包がナイトを指して言う。

 

「節制しろよ。武蔵」

 

突如、ナイトの高度が落ち始めた。

 

「ッ、しまっ――――」

 

減衰できるのは、何も攻撃術式だけではない。

それは、自分の飛行のための重力減衰の術式や、果ては羽ばたきまでも弱まらせる。

 

このままでは、と思ったそのとき、

 

「グオッ!?」

「うわたぁ!?」

 

頭に何かがものすごい勢いでぶつかった。

 

落ちそうになる帽子を被りなおし、見ると、それは、

 

「ハヅッち!? どうしたの!?」

「いてて。なんつー馬鹿力してんだよあの野郎……ん? ナイトか」

 

それは、自分の級友の白百合・葉月だった。

彼は、黒嬢に手をかけ、自分の体を支えながら飛んでいた。

 

「いやー。向こうで戦ってたはいいけどさ。力負けしてここまで吹っ飛ばされた」

「うわー。マジで凄い。ハヅッちが力負けとかどんなの? 異族?」

「いや人間」

 

ただし、と付け加える葉月とナイトの前には、三征西班牙の古代魔法使役士、アルヴィスがいた。

 

「俺と同じだ」

「何でもありだねー。ってかハヅッち。大丈夫? 今ここらへん聖譜顕装の効果範囲内なんだけど」

「ん? ああ。言ってなかったな。これだよ」

 

そういうと、葉月は首から下げている水晶を取り出す。

 

「これ、解除の魔法が掛かってるから。発動している間、弱い術式程度なら無効化できる。聖譜顕装みたいなタイプの神格武装なら余裕で無効」

「何それズルイよー」

「言うな。これ、魔法には効かないんだ。ほらよ」

 

そういって、葉月はナイトに渡す。

 

「俺ら以外が持つと効果が弱まるけど。まあ、普通に飛ぶ分には問題ないだろ」

「Jud.ありがとハヅッち」

 

と、空から風を切るような音が聞こえてきた。

葉月は上を見ると、一つの赤いものが降りてくるのを確認した。

 

「来たか直政!」

「Jud.! ネシンバラに言われてね!!」

 

ズンッ、と三征西班牙の艦に重く響く着地音を響かせたのは、赤の武神『地摺朱雀』と直政だ。

 

「武蔵第六特務、直政。行くよ!」

 

『地摺朱雀』は腰の巨大なレンチを投げる。

 

聖譜顕装によって減衰しているとはいえ、武神は元々十トン級。減衰しても人間相手なら十分脅威の威力になりうる。

 

狙いは、副長――――ではなく、書記のベラスケスだった。

 

「おいおい。文系の俺にこれは無理だろ――――つーわけで。まあ、頼むわ」

 

レンチがベラスケスに届く直前、何者かがそれを掴んだ。

 

それは、同じく武神。しかし、三征西班牙製の猛鷲(エル・アゾゥル)ではなかった。

 

白。混じりけの無い白の武神が、『朱雀』の投げたレンチを掴んで、へし折った。

そして、その肩には一人の女性が乗っていた。

 

「陸上部部長の、江良・房栄かい!」

「Tes.っと」

 

そして、白の武神は身をかがめ、飛び出す体勢を整える。

 

「GO! 『道征き白虎』!」

 

そのまま、『道征き白虎』は進み、『地摺朱雀』に突撃する。

普段なら、避けたりいなしたりするものだが、

 

「ああったく! こっちは速度と威力の減衰してるってのに!」

 

いつもよりも負荷の掛かった状態での戦闘のため、受け流しが上手く出来ないでいた。

と、ここで三征西班牙の艦に一人の女性が乗り込んできた。

 

槍を回し、構え、唱える。

 

「結べ。『蜻蛉切』!」

 

瞬間、今までこの空域全体を覆っていた聖譜顕装の効果範囲が割断された。

 

「武蔵アリアダスト教導院副長。本多・二代」

 

やってきた女武者は名乗りを上げる。

 

「二代か! ありがたい!」

「Jud.では。こちらも」

 

というと、二代は隆包に向き直る。

 

「いざ!」

 

二代は『蜻蛉切』を隆包に繰り出す。

が、向こうも聖譜顕装を背に回し、代わりにバットを構えて、二代の槍を弾く。

 

二代はそれでも再び突きを出すが、全て同じ場所に当たり弾き返されてしまっていた。

ならば、と二代は大上段からの振り下ろしを試みる。

が、それもやはりバットで防がれる。

 

隆包は、防ぎながらにやりと笑う。

 

「俺はな。どんなボールだろうと正しくバント処理出来るんだよ――――そうすりゃ。他の奴らが点を入れてくれる」

 

そういって、『蜻蛉切』を弾き、距離を取る。

 

「これが俺の副長の在り方だ!」

 

しかし、二代の方も再び槍を構える。

その顔は、闘志に燃えていた。

 

「成程。今年度の全国総長連合白書で見たとおりで御座るな」

 

ならば、と二代は己の加速術式、カザマツリ系加速術『翔翼』を展開する。

 

「その在り方、崩させてもらう!!」

「上等ぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ナイト。ぶつかっておいてアレだが。ここは危ない。先に戻っていてくれ」

「Jud.」

 

ナイトが離れるのを確認すると、葉月は再び詠唱を始める。

が、それより早くアルヴィスの連結刃が飛んできた。

 

「チッ! 近接特化の古代魔法使役士(マギ)かよ!」

 

葉月は詠唱を途中で止め、連結刃が織り成す空間から離脱する。

 

(しっかし妙だ。さっきから詠唱をしてこない。魔法の射手(サギタ・マギカ)も使ってこないのは何故だ)

戦いの歌(カントゥス・ベラークス)

 

葉月は自身に肉体強化をかけると、今度は自ら連結刃に飛び込んでいく。

 

「血迷ったか!? 武蔵の魔法使い!!」

「ところがどっこい! 違うんだよなぁ!!」

 

葉月は、迫り来る刃を紙一重で避けながら、アルヴィスの懐に入り込んだ。

 

「クッ!」

解放(エーミッタム)! 白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)!!」

 

アルヴィスがその場から離れようとしたが、葉月のほうが一瞬早く、腹に手を当てると白い雷がアルヴィスを貫く。

 

「――――――ッ!!」

 

アルヴィスは一瞬苦悶の表情を浮かべるが、歯を食いしばり、葉月の手を払って距離を取った。

 

「ぐっ…………えげつないな」 

「どっちがだよ。連結刃なんて。普通使わねえよ。相手の肉削ぎ落とす気かよ」

「違うな。抉り落とす、だ」

「余計に性質悪いわ」

 

まあいい、と葉月はアルヴィスを見る。

 

「お前の弱点、っていうか致命的なことに気づいたからよしとする」

「――――弱点、だと?」

「Jud.」

 

葉月は、アルヴィスに杖を向ける。

 

「お前、詠唱が出来ないだろ。いや、違うな。お前は、精霊との契約を結んでいない」

「――――」

 

古代魔法使役士は、最初から常人離れした力を身につけているわけではない。

精霊界にいる精霊を呼び出し、契約を果たす。このときの契約内容は精霊によって変わるが、殆どの場合『時々契約者の魔力を渡す代わりに、力を貰う』といった感じである。

 

この契約は何があっても切れるものではないし、途中で破棄も出来ない

 

しかし、このアルヴィスという少年は、それをしていない。

 

つまりは――――

 

「お前のそれは魔法じゃない――――――魔法寄りの魔術(テクノ・マギ)だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

一方で、ここは武蔵アリアダスト教導院の寮内。

 

そこでは、ナルゼが術式作成した拡声器を持って飛んでいた。

 

「『避難命令が出るまで、表には出ないように』!」

 

と、ナルゼは向こうからやってくる人影を見つけた。

それは、彼女と一緒に注意喚起をしていた東だった。

 

「東、そっちは終わったの?」

「Jud.余はこれから部屋に戻ってミリアムとあの子を見てこないと」

 

あの子、というのは、例の幽霊祓いで見つけた青い幽霊少女だった。

以来、東に懐いてそのまま二人の部屋で預かることになったのだ。

 

「まったく。子守の経験も無いのによくやるわ――――まあでも。施設に預けないだけマシね。武蔵の施設の大半は、御広敷家がスポンサーやってるから」

 

御広敷・銀次。梅組のクラスメイトであり、『生命礼賛』を謳う――――ロリコン。

意外にも、彼は御広敷家の御曹司だ。

 

東はそれに苦笑する。

 

「ま、アンタが預からないっていったら。私達のところで預かろうと思ってたけどね」

「え、君たちのところ?」

「Jud.やっぱ子供って欲しいものよ。同性で付き合ってると特にね――――今の技術なら互いの子供をセックスなしで作れるけど。それとは違った嬉しさがあるし」

 

ナルゼはここまで話すと、東が不思議そうな顔をしてこちらを見ているのに気づく。

 

「……どうしたの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セックスって、何?」

 




どうもKyoです。

いやー。葉月のところで区切ろうかと思ったんですけどね。
せっかく今後大問題になるようなシーンですからね。ここで区切りました。

……区切りの最後がこれって、どうなんだろうか…………

そして――――――わーい相変わらず戦闘シーンショボいよー(涙

誰か上手く書けるコツを伝授してください。

今ならもれなく神耶君の超ギリギリ写真あげますから。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

次回こそ。次回こそは正純のスベリを……


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英国の洗礼

かごめ かごめ

 

かごのなかの とりは

 

いついつでやる

 

よあけのばんに

 

つるとかめがすべった

 

うしろのしょうめんだれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ナルゼは微妙な笑顔のまま硬直していた。

ある意味、武神よりも。否、世界よりも厄介な敵に遭遇してしまったからだ。

 

「え、えーと……」

 

ナルゼは今聞かれた単語についての都合のいい解釈を探していた。

 

――まるで教皇総長みたいね。今の私。

 

だが今は緊急事態。回避しなければならない。

 

東は皇族。帝の子だ。

いや。今はそれほど重要視していない。今最も回避すべきなのは――――

 

(神耶にこのことがバレたら……ッ)

 

東と神耶は仲が良い。

共に女性寄りの顔立ちや高い声をしているからなのか。一緒にいることが昔は多かった。

 

もし。こんな単語を教え、あまつさえ間違ったことを言おうものなら、

 

『……へぇ。教えたのナルゼなんだ。へぇ…………♪』

 

と、絶対零度もビックリの凍った笑みを浮かべながら殺しにかかってくるだろう。

とにかく、間違ったことは言わず。ただし核心には触れずに話す。

 

「そ、それはね。な、仲のいい者同士がお互いの仲を更に深めるためのものよ! そ、それはもう! 深い歴史と技術があるんだから」

 

うん。間違ったことは言ってない。

一方の東はへー、と感心している。

これで一応は誤魔化せただろう。後は野となれ山となれ。誰かがちゃんとした知識を――――

 

「じゃあナルゼ君とナイト君は、どういうときにセックスするの?」

 

訂正。甘かった。

 

(こ、この男ッ。獅子の巣穴に平然と足を踏み入りよる!!)

 

ナルゼはかつて感じたことのない戦慄を背中に感じる。

 

「そ、そうね。喧嘩したときとか、かしらね。それはもう、一発で仲直りよ」

「へー。そうなんだ」

 

まるで拷問だ、とナルゼは後々思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

武蔵の上での戦いは、苛烈を極めていた。

 

中でも葉月とアルヴィスの戦いは壮絶の一言だ。

 

「Schlange beißzen Angriff!!」

 

アルヴィスが連結刃を縦横無尽に放ち、葉月を狙う。

高速で動く剣列は、常人の目では追いきれない。

 

だが、葉月は的確にその剣先を読み取り、尚且つ分裂した刀身の波状攻撃も避けていた。

 

目醒め現れよ(エクス・ソムノー・エクシスタット)

燃え出づる火蜥蜴(エクスーレンス・サラマンドラ)

火を以ってして(イニミークム・インウォルウァット) 敵を覆わん(イグネー)

 

紫炎の捕らえ手(カプトゥス・フランメウス)

 

葉月の手から炎が現れた。

それは、的確にアルヴィスに向かっていく。

 

葉月の唱えた魔法は、攻撃魔法ではなく、捕縛魔法。

 

その炎はアルヴィスを追い続けていく。

アルヴィスも、炎の意図に気づいたのか、直接炎を剣で切り裂いた。

 

炎はやがて火の粉となって消えていった。

 

「炎を切り裂くかよ普通!?」

「出来るんだから仕方ねえだろ――――――確かに。お前の言う通り。俺は成り損ないの古代魔法使役士(マギ)だ。だから俺は、魔法を使えない部分を、魔術(テクノ・マギ)と、この剣術で補っている」

「飛行は減衰を司る黒魔術(シュバルツテクノ)で重力や自身の重量を軽減しているものだとして。その炎は何だ」

 

そう聞く葉月。

先ほどから剣に宿っている薄っすらとした紅い炎に目をやる。

 

「知らん。こんな俺でも、魔法使いの一端といったところなのだろう」

「――――なーるほどね」

 

そういう葉月は、再び構えを取る。

対するアルヴィスも剣を向ける。

 

お互いに戦闘に入ろうとしたその瞬間、

 

『武蔵アリアダスト教導院。生徒会副会長、本田・正純が停戦を提言する!』

 

輸送艦が三征西班牙の艦に乗り上げ、正純が声を張り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

正純は眼下に広がる戦闘が一時止まったことを確認する。

 

「この戦闘は、三征西班牙(トレス・エスパニア)側の誤解によるものであり、双方に益は無い!」

 

正純は声を張り上げながらそういう。

 

実際には、三征西班牙にはあるのだろう。

ここは彼らの領域圏内ギリギリだ。ここで武蔵を落とせれば、後のヴェストファーレン会議にて優位な発言権を得る。

 

対してこちらは英国に行くのに邪魔、といった具合だ。

 

現在、武蔵では重力航行を行うため可変の継続中である。

 

その時間稼ぎのためにも、ここにいる。

 

「何故なら――――」

 

とりあえず時間稼ぎ、と思った矢先。誰かに肩を叩かれた。

 

ホライゾンだった。

 

「はい。ではこれから正純様が、皆様に対して何か面白いことを言います」

 

ホライゾンはそういうと、後は黙ってしまった。

 

――――無茶振りキター!?

 

見ると、三征西班牙の部員達も自分を見ている。

しかも何故か表示枠越しに教皇総長と、自分達の担任が現れた。

 

……というか何故教皇総長が!?

 

疑問するが、このまま黙って時間を過ごすとまた戦闘が始まってしまいかねない。

正純は腹を括った。

 

「で、では。神代の時代の笑いの力を借りよう! ――――16XX年! 世界は末世の炎に包まれたぁ――――!!」

 

ポンッ、と頭を軽く叩き、

 

「どうも。歌○です」

 

瞬間、世界が凍った。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『見事に滑ったな』

『滑ったねーセージュン』

『まあまあ。あの場じゃ何言ってもスベると思うけどー?』

『み、皆酷いですわよ!? 正純だって、スベりたくてスベってるわけではないのですからもうちょっとフォローをしませんこと!?』

『でもミトっつぁん。アレってフォローでどうにかなる?』

『え、あ、あー……。…………。………………。……………………』

『無理すんなよ!!』

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

なにやら表示枠がうるさい気がするが、契約していない自分では状況は分からない。

が、今この場の空気が激烈に悪化したことは分かる。

 

教皇総長はため息をつきながら消え、担任は隣のクラスの担任の三要を誘って焼肉に行ったようだ。

 

「正純様。率直に申しまして。そろそろ本題に入ったほうがよろしいのでは?」

「お前がいうなぁ――――!!」

 

が、改めて気を取り直す。

 

「だから! この戦闘はそちらの誤解であってだな――――」

 

しかし、正純の言葉は続きを作れなかった。

何故なら、『道征き白虎』が何かを投げ飛ばしたのだ。

 

それは輸送艦の上に着地する。

 

三征西班牙の制服を身に纏った、少女。

 

「三征西班牙。アルカラ・デ・エナレス第三特務。立花・誾――――参ります」

 

と、そのまま誾は正純に向かって双剣を突き出す。

正純は咄嗟に持っていた紙袋を盾にその剣の進行を止めた。

 

「ッ、ソードブレイカー!? まさか。武蔵では政治系の学生も戦闘訓練に励んでいるのですか!?」

「え、あ、いや……」

 

何か勘違いが発生したが、とりあえず命を繋ぐことには成功した。

と、下から聞き覚えのある声が上がってきた。

 

「相手なら、拙者がいたす!!」

「返してもらいますよ。私の全てを」

 

二代が駆け上がってきて、誾との相対になった。

正純はすかさずホライゾンのほうを向き、『悲嘆の怠惰』を撃つように言おうとした。

が、それは叶わなかった。

 

何故なら。甲板に新たな人物が現れたからだ。

 

耳が長く、豊満すぎるといっていい胸が押し上げられて、すらっとした長身の女性。

そして、その手に持っているのは白と黒の剣。

 

それは――――

 

「三征西班牙副会長のフアナ!?」

「Tes.大罪武装『嫌気の怠惰』」

 

そして、流体が溢れ出る。

その色は、紫。

 

「超過駆動か!」

 

正純が言うが早いか、『嫌気の怠惰』から放たれた黒い塊が輸送艦を覆う。

 

正純は一瞬、呼吸が止まりそうな錯覚に陥った。

次に、胸が重くなっている。

 

見ると、そこには黒い輪のようなものが張り付いていた。

 

「重い……否、これは。嫌気!?」

「Tes.その人にとって悪であるという部分を束縛します」

 

悪。つまりは、コンプレックスの表面化か!

 

どうやら輸送艦上にいた人員は全員かかっているようだ。

 

「うおおぉ?! お、俺の腹に!? 最近太ってきたのがここにきて足を引っ張るとは……ッ」

「お、俺なんか頭だぞ!? 最近妙に抜け毛が多いから気になってはいたが……ッ」

「何で私腕なのよ!? そこまで二の腕弛んでないわよ!!」

「べ、別に私! 胸のことは、気にしてませんのよ!? ねえ正純!!」

 

さり気無くこっちに振るな。

だが、これは不味い。何より動けない。

 

「ホライゾ――――」

 

正純はホライゾンを見る。

 

が、嫌気の束縛の数が尋常ではなった。

 

全身くまなく、全てに束縛が掛かっていた。

フアナは、それを見て一一瞬驚くも、すぐにいつもの顔に戻る。

 

「成程。何もかもが足りないと思うからこそ。束縛が全身に渡っている、ということですか」

 

確かに。ホライゾンは事故により、感情はおろか体を失くしている。

それで全身に。と正純は思う。

 

が、その思考も、ホライゾンの声により中断した。

その声は、嗚咽。

感情が無くとも、苦しいといった部分は変わらず受ける。

 

早く何とかしないと、と思うが、二代は離れた場所で立花・誾と戦闘継続。

葉月に至ってはこちらに被害が及ばないように敵の攻撃を全て防いでいる。

 

どうしたら、と思ったそのとき。

 

遠くに、そう。ちょうどフアナの左背後に、現れたのだ。

 

全裸が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

点蔵は走っていた。

といっても、武蔵内ではない。

 

隠密の符を使い、三征西班牙の艦内に潜り込み情報収集をしていたのだ。

 

「どうで御座るか。三征西班牙の戦時機密を色々取ってきたで御座るよ。第一特務の面目躍如で御座るな!」

 

第一特務は、総じて諜報の任を負うことが多い。

点蔵に至っては、まさに適任というべき役職だろう。

 

点蔵は、取ってきた機密を広げ中身を読もうとした。

 

 

 

次の瞬間、空から全裸が降ってきた。

 

 

 

「ナーイス点蔵!」

「ぬおおおぉぉぉ?! 空から全裸が落ちてきた!? ど、どういうことで御座るか?! 先日のロードショーでやっていた『空の城砦・羅否遊多』のオマージュで御座るか?! しかし何故全裸――――ハッ! ついに三征西班牙は武蔵の外道空気に耐え切れず全裸砲弾を撃ち込んだので御座るな!? しかもトーリ殿と同じ形をしているとは……余計に精神が削られるで御座るよ!」

「なあ点蔵ー。あの姉ちゃんヒドくね? いきなり突き飛ばすんだもの。タダでいいから大罪武装くれね? っていっただけなのによー。ケチー」

「知らんで御座るよトーリ殿! せっかくの戦時機密がッ……というか自分、人生初のお姫様抱っこがヨゴレ系全裸男とはこれ如何に!? キャンセルをするで御座るよ!!」

 

すると、点蔵の顔の横に一つの小さな表示枠が現れた。

 

『そのようなことは業務内容には含まれておりません。悪しからず:by神』

「暗部! 管理社会の暗部を自分は見たで御座るよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

とりあえず後で謝罪の通神文でも浅間に送らせておけばいいかな、などと正純は考えていた。

ホライゾンはなにやら自分の貸し与えた本の知識を実行しているが、スルーだ。

 

「ホライゾン。撃ってくれ」

「Jud.では、『悲嘆の怠惰』」

 

と、紫と黒の掻き毟りの砲撃が放たれた。

 

が、三征西班牙は怯むどころか、逆にその砲撃を止めに入ってきた。

 

まずは、弘中・隆包とベラスケスの聖譜顕装による減衰。

次に、二代との戦闘を放棄してきた誾が双剣を回転させ受け流す。

 

最後に、江良・房栄が『道征き白虎』の両肩口の砲塔『咆哮劣化』を放つ。

 

すると、外部に拡散はしたものの、旗艦の中心部は無事だった。

 

だが、その一瞬。

その一瞬で。武蔵は離脱を始めた。

 

三征西班牙の部員たちはやられた、といった顔をしていた。

が、

 

「ッ、逃がしません!」

 

ただ一人。誾を除いて。

 

誾は去り行く武蔵を追いかける。

そして、両脇に構えた巨大な砲塔『十字砲火(アルカブス・クルス)』を放つ。

二つの弾頭は武蔵に飛んでいき、

 

「結べ。蜻蛉切!」

 

当たる直前に、武蔵副長の本多・二代に割断された。

次の弾頭を放とうとしたが、もう武蔵は重力航行によって彼方に消えていた。

 

後に残ったのは、去っていった武蔵が巻き上げていった海水だけだった。

誾は俯きながら、武蔵の去っていった方角を見る。

 

「本多……二代…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

一方武蔵の輸送艦の上では、ホライゾンが蹲っていた。

 

「ホライゾン!」

 

それを見たトーリがホライゾンに駆け寄る。

全裸で。

 

正純は思わず蹴りたい衝動に駆られたが、彼は芸能系の神を奏じている。

だからこれは奉納なんだ、と自分に言い聞かせた。

 

ホライゾンは、少し弱々しく目を開ける。

 

「……トーリ様。こちらに、来て、いただけますか?」

「お、おう! どうしたホライゾン」

 

そのまま全裸が近寄ると、ホライゾンは今までの弱々しさが嘘のように鋭い目つきになり、拳を握って全裸の股間にパンチを入れた。

 

「服を着なさいと命令します。お腹が冷えたらどうするのですか」

「そ、それ今殴ったことと関係なくね?」

「Jud.それが何か?」

「ひ、開き直りやがった。だが、流石だなホライゾン。油断ならねえ」

「何を武将みたいなこと言ってるかお前は!」

 

とりあえず、首にロープを巻いて何処かに結んでおくことにした。

 

ホライゾンは、『嫌気の怠惰』の影響か、眠っている。

 

「ミトツダイラ。銀鎖で武蔵に運べないか?」

「流石に無理ですわ。重力航行中では安全に、とは行きませんもの」

「そうか。じゃあ、白百合かナイトは?」

「ナイちゃんも同じかなー」

「俺は出来なくは無いが。まあいいんじゃないか? 下手に刺激するよりか安静にさせていたほうが」

「……それもそうか」

 

正純は進路を見る。

 

「直に、英国か」

「……英国、ねぇ」

 

と、葉月が微妙に嫌そうに言う。

 

「どうした白百合。何か英国に嫌な思い出でもあるのか?」

「嫌、っていうか。まあ。その。俺、育ちは武蔵だけど、生まれは英国なんだよ。俺が赤ん坊の頃に、武蔵に来たんだ」

「ほえー。初めて知ったよ」

「まあ、色々あってさ。正直、複雑かな」

「……そうか」

(だから時々英国の話題が出ると、懐かしむような顔になるんだな)

 

正純はそう思い、それ以上は何も話さなかった。

 

「あー。時間は取れると思うぞ。少しくらいなら見てきてもいいんじゃないか?」

「あはは。ありがとよ正純。でもいいさ。どうせ――――」

 

というと、葉月は苦笑する。

英国に何があるのだろうかと、正純が考えていると。突如重力航行が終了した。

 

アナウンスの〝武蔵〟の声が聞こえてくる。

 

『皆様。重力航行が終了いたしました。本艦はコレより英国側の指示船に従い、周回に入ります――――――以上』

 

すると、目の前には巨大な浮遊島が見えてきた。

 

英国に対応する場所は対馬だが、場所が狭いことを理由に海底から上げた浮遊島を拠点としている。

 

と、英国から一隻の艦がやってくる。

 

「ふぅ。まずは一安心だな」

「そうでもないみたいだぜ。見ろよアレを」

 

葉月が杖で指す先にはその艦があった。

ただし、指示艦というには高速特化しているし、何より砲門も付いていた。

 

「すんなりお通しする気は無いってか。ったく」

 

すると、〝武蔵〟とは別のアナウンスが聞こえてくる。

 

『こちらは英国、オクスフォード教導院所属護衛艦『グラニュエール』艦長『女王の盾符(トランプ)』の4。グレイス・オマリ』

 

そのまま『グラニュエールは』武蔵の周囲を回り始めた。

 

『当艦は貴艦の即座停止を求める。貴艦は三征西班牙。及び聖連との関係が不明瞭である。以後はこちらの指示に従ってもらう。もし、従わない場合は――――実力を持って貴艦を停止させる!』

 

その瞬間、『グラニュエール』から四つの影が武蔵に降り立った。

〝武蔵〟のアナウンスが再び流れる。

 

『敵襲、数4。識別は――英国。オクスフォード教導院生徒会・総長連合『女王の盾符(トランプ)』です』

 




どうもKyoです。

いやー。結構長かったです。その割にはすごいショボいですけど。

次回は英国戦ですね。
葉月はどうしよ……神耶も。

そして、この英国でまず浅間さんのヒロイン力が進化します。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。


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女王の盾符

ころし ころされ

 

なき なかれ

 

しんで いきて

 

それでも ひとは

 

わたしたちを つかうのです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

正純は輸送艦上から、武蔵に降り立った英国の『女王の盾符(トランプ)』の四人を見ていた。

 

「白百合。あの四人のことは、分かるか?」

「一応な。顔見知り、っつか。会ったことねえ奴らだけど。名前くらいなら」

 

そういうと、表示枠に出ている四人を指差しながら葉月は言う。

 

「あの細いの。英国の副長。ロバート・ダッドリー」

「副長、に御座るか?」

「Jud.気をつけろ。あの左手に持ってるの。あれ、聖譜顕装だ」

「英国の聖譜顕装まで持ち出してきたのか……」

「ああ。〝巨きなる正義(ブラキウム・ジャスティア)〟しかも左手って事は――――旧代か」

「何かまずいことでも?」

「ああ。旧代の能力は『使用者が武器と認識したものを遠隔操作できる』というものだ」

「ということは、つまり――――」

「あの場にある武器全ては、ロバート・ダッドリーの指揮下にある。そう考えていい」

 

そういう葉月を正純は見る。

 

「なあ白百合。何でそんなに詳しいんだ? 他国の聖譜顕装の能力なんてそうおいそれと知ることなんて――――」

「まあ、色々あんだよ」

 

そういうと、葉月はそれ以降話さなくなった。

 

向こうは四人。対してこちらは――――ナルゼ一人。

その後ろにも、部活動員もいるが、役職者はナルゼ一人だけだ。

 

「ガっちゃん。大丈夫かなぁ」

「心配か?」

「うん。だってガっちゃん。すぐに無理するから」

 

そういうナイトは、ナルゼを心配そうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ナルゼは真っ先に現場に駆けつけ、先制に出た。

投げつけるは、フラスコに入った水。

 

ただし。フラスコに温度メーターが描かれたもの、だ。

 

ナルゼが使う白魔術(ヴァイス・テクノ)は、加算系の魔術。

何かをプラスするのが得意な魔術だ。

 

そして、術式ペンで描かれたものはその通りの効果を発揮する。

 

この場合は、水温の急上昇。

 

つまり、ナルゼが投げつけたそれは――――

 

(即席の水蒸気爆発弾。普通なら、この一撃でやられるけど……)

 

ナルゼは真正面を見る。

そこには、傷どころか水滴すらついていない四人の姿があった。

 

(まっ。このくらいじゃないと。英国の特務、『女王の盾符(トランプ)』は名乗れないわね)

 

白嬢(ヴァイス・フローレン)無き今。術式だけで戦わなければならない。

 

「無傷、ねぇ。どんなタネがあるのかしら」

「あ、あああら。意外に冷静なのね」

 

と、痩せた女性が語頭をどもりながら喋る。

 

「は、はは始めましてといっておくわね。え、ええ英国。オクスフォード教導院副長『女王の盾符』10の一人。ロバート・ダッドリーよ」

 

ロバート・ダッドリー。

ナルゼはぼんやりと頭の隅でその人物のことを思い出した。

 

――確か、英国の女王エリザベス一世が生涯結婚しないってことを決めたことに関与した人物、だったはず。

 

ぶっちゃけ。彼女はネタに使えれば歴史の知識はどうでもいい。

無論、最低限の知識や、自国の歴史についてはそれなりにとも思っているが。

 

ナルゼはダッドリーから目を離し、代わりに最初から非常に気になっている人物を見た。

 

……丸い。

 

それが、ナルゼの最初の感想だった。

 

とにかく丸い。人間とはここまで丸くなれるのかと思うほど。

これは――――そう。子供達に人気のある系の丸さのキャラだ。

 

すると、その人物は術式なのかふわりと浮かぶ。

 

「10のひとりー。ふくかいちょー。うぃりあむ・せしるー」

 

ウィリアム・セシル。

確か史実では、エリザベス一世の忠実な部下で弁護士。

その信頼は、女王の財産管理を任されるほどだったという。

 

副長に副会長。この二人は色々な意味で相反している。

と、一歩。褐色の肌を持った眼鏡の長身の男性が前に出る。

 

「あら。まさか英国のアスリート系詩人。ベン・ジョンソンまで来てるとは思わなかったわ」

「You――――『女王の盾符』は私の発案でね。なるべく長く関わっていたいのだよ。だから今日は、私の秘蔵っ子も連れてきた」

 

ベン・ジョンソンが左にずれると、その後ろから小柄な少女が現れた。

 

長い髪は着ている白衣同様に、若干ヨレヨレだ。

眼鏡をかけていて、今起こっていることには興味のかけらも無いように、本を読むことに没頭している。

 

「へぇ。英国で今最も人気のある作家。シェイクスピアとは思えないわね。現実の出来事には目もくれないってわけね」

「Oh……まあ。そこは勘弁してもらいたいね。彼女は一度読み始めると周りが見えなくなるときが多少、あるのだよ」

「Jud.それは共感できるわね。私も、描いている最中は何も聞こえないし、見えないこともあるから」

「素晴らしいことだYou」

 

ナルゼは、後ろの生徒達に下がるように手で指示。

彼らの攻撃が通るのかどうかは分からないが、少なくとも防御面で不安だ。

 

今、この場には自分しか特務がいない。

なら、と。ナルゼは前を見つめる。

 

が、一人。いなかった。

 

(ウィリアム・セシルが、いない!?)

 

慌てて辺りを見るが、いない。

と、先ほど彼女が地面から浮いていたのを思い出し、上を見る。

 

するとそこには、調理済みの肉を大量に頬張る彼女がいた。

 

「ハァ? ――――ッ!?」

 

瞬間、上から潰された。

否、物理的な意味で潰されていない。

 

だがまるで、自分の体に重石が全身に乗っているかのような感じだ。

後ろの生徒も同じようだった。

 

重力。否、これは――――

 

「〝分け与え〟の、術式!?」

「T,Tes.ウ、ウウィリアム・セシルは、能力の高さから女王の信頼を得た。だ、だだだが周囲の嫉妬などから過食症になってしまったの。い、いい以来。彼女は英国の肥満の象徴となり、誰も襲名を望まなかった故に、彼女がなった。かか、彼女は英国きってのフードファイターなのよ」

「んで、〝分け与え〟の内容は、自分の全重量、ってことね!」

「とめるものはまずしいものにほどこしをー」

「いらんわぁ――――!!」

 

全力の拒否でナルゼはフラスコを投げつける。

やや上に投げられたそれは、〝分け与え〟の効果によって下に下がるが、それを計算してナルゼは投げた。

 

だが、ダッドリーはそれを、まるでテニスボールを打つかのように弾き返した。

 

その手には、テニスのラケットが握られていた。

 

「――――あーもう! 〝打ち払い〟の聖術ね!!」

「T,Tes.かかか、かかる困難を打ち払いたまえ、ってね」

 

こうしている間にも、重量がのしかかっている。

次の攻撃をしようと思った矢先、手元のフラスコの温度が下がったのを感じる。

 

見ると、ベン・ジョンソンの足元から文字列が出ていた。

 

「どうかねYou。私の術式は」

「詩人らしい、とでも言えばいいのかしらね」

 

皮肉を返すが、重量でどうにもならない。

 

「なな、中々しぶといわね。ななな、ならば!」

 

そういうと、ダッドリーは左手を前に出す。

 

それは、巨大な手甲だった。

青く白い色をしたそれは、ダッドリーよりも大きく見えた。

 

「ええ、英国の聖譜顕装、〝巨きなる正義・旧代〟! こここ、効果は。戦場にある武器は全てこの聖譜顕装の指揮下にある!」

 

ガチャリ、と嫌な音がした。

振り向きたくは無いが、振り向かなければどういう状況なのかイマイチ把握できない。

 

ナルゼが見ると、そこには弓を持った生徒達から、弓矢が勝手に離れて宙を浮き、こちらに狙いを定めていた。

 

「ううう、動かないでね。いいい、いま貴女。人質なの!」

 

すると、一人の女生徒がナルゼに話しかける。

 

「せ、先輩ごめんなさい。もし、もし先輩を殺しちゃったら、浅間御姉様と鈴様の『浅間様が射てる』の続編が読めないことにッ……」

『あっれ? あっれー!? 何で私と鈴さんが!? ナルゼは俗に言う腐女子で、男子専門のはずでは!?』

「あっちは商業用。こっちは趣味。きっちり分けてるわよ。安心しなさい」

『どこに安心する要素があると!?』

「そうね……特別出演で葉月を出すというのはどうかしら」

『うええぇぇ!? は、葉月君を!? だ、ダメですダメです! そんな不純なこと風紀委員として認めませんよ!』

「いいじゃない。葉月がヘタれてあんたが助けに行くストーリーでも書こうかしらね」

『え、あ、あのでもそのぉ…………』

「まあ、最後にはアンタのズドンで殺すけど。あの作品に男は要らんわ」

『私がズドン巫女とか言われる原因作ってるの絶対ナルゼですよねそうですよね!?』

 

それはアンタの元々の性格でしょうが。

こちらの会話に痺れを切らしたのか、ダッドリーが怒鳴る。

 

「いいいい、いい加減にしなさい! こ、こちらも時間が無いので簡潔に言うわ」

 

〝巨きなる正義・旧代〟をこちらに、向けながらダッドリーは言う。

 

「ここ、今後武蔵を、英国の支配下に置くことを了承しなさい!」

 

そういった瞬間、爆発が背後で起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「セシル!?」

 

ダッドリーが叫ぶ。

それと同時に、自分に掛かっていた〝分け与え〟の効果が切れたことをナルゼは感じた。

 

「いい、一体何がッ……」

「あんたね。そんなことを言って。あの二人が我慢できると思ってるの?」

「な、何が!?」

 

と、

 

「いやーわりーわりー。なんか空にボールが浮かんでたもんでよ。つい反射的に蹴っちまった」

「子供みたいだよ葉月」

 

爆煙の中から二人の人影が現れた。

 

一人は、白い髪の毛を長く垂らし、左手に大きな錫杖を持っていた。頭に耳。腰の辺りに九本の尻尾が生えている。

もう一人は、赤みがかった茶髪に、右手に大きな杖を持っていた。

 

「武蔵アリアダスト教導院。不知火・神耶」

「武蔵アリアダスト教導院。白百合・葉月」

 

二人は、即座に動いた。

 

「行け、飯綱」

 

神耶は四匹の狐を出し、それらをそれぞれ三人に向かわせた。

 

ダッドリーは来た一匹を何とか振り払おうとするが、空を切るばかりだ。

ジョンソンには二匹。しかも非常に攻撃的な性格のようだ。先ほどから突撃を仕掛けている。

 

そして、シェイクスピアにも一匹。

 

ここで彼女は片手で表示枠を操作した。

 

すると、狐が弾き飛ばされ神耶の場所まで飛ばされる。

 

「読書の邪魔だよ」

 

そういうと、シェイクスピアは再び読書に没頭する。

が、その間に葉月はナルゼを抱え、安全圏まで退避していた。

 

「よお。危なかったな」

「別に――――私一人でもやれたわよ」

「強がるなよ馬鹿。あの荷重食らって足フラフラじゃねえか」

「っるさいわね。同人誌にするわよ」

「どんな脅しだよまったく」

 

葉月は頭を軽く掻く。

と、上空から新たに援軍が来た。

 

「ウッキーにノリキか。遅いぞ」

「貴様のように縦横無尽に飛び回って、精霊の力を借りるというわけにもいかん。拙僧は己の力で道を切り開くタフガイなのだからな」

「あっそ。んで。ノリキは平気か?」

「解りきっていることを、言わなくていい」

「Jud.」

 

直後、再び爆発が起きた。ただし、先ほどより軽いが。

地面に沈んだと思われていたセシルが起き上がったのだ。

 

「うわっちゃー。もうちょい強くやっときゃ……ああダメだ。武蔵ぶち抜くわ」

「フッ。ならばこの拙僧が相手しよう。ノリキ。貴様はあそこの黒人だ」

「Jud.」

「ほう。そこの古代魔法使役士は戦わないのかね」

「こやつの力を知っているだろう。迂闊に武蔵で戦えばこちらに被害が出る。それと神耶。貴様もだ」

「Jud.Jud.」

 

そういうと、飯綱たちを手元に戻し、そのまま葉月のほうへと飛ぶ。

 

「それと貴様。一つ言いたいことがある」

「Tes.何かね?」

 

ウルキアガは頷く。

 

「男がポエムを読むな。しかも真顔で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ダッドリーはそれに頷く。

 

「たたた、たまにあるわね。こ、この色黒眼鏡は何を言ってんのかしら、って」

「Mate! 君はどっちの味方かね!?」

 

そう叫ぶが早いか、ウルキアガが距離を詰める。

 

「拙・僧・跳・躍!」

 

しかし、それを空に上がったセシルが荷重を加える。

それにより、ウルキアガの進行が止まる。

が、それでも普通に前に進んでいた。

 

「拙僧の種族は色々とレアでな。簡単に言えば。高荷重空間での行動には体が適応しているのだ。この程度、まだまだ楽なほうだ」

「つぶすのー」

 

セシルも負けじと荷重を掛け続ける。

 

一方で、ノリキの攻撃を避けるジョンソン。

 

「You。ガリレオ教授を倒したノリキという少年だね」

「解っているなら言わなくていい」

 

ノリキは創作術式『睦月』を展開した拳を振るう。

 

「わ、私の相対相手は、だだだ、誰なのかしらねえ」

 

ダッドリーは聖譜顕装と〝打ち払い〟の聖術を構えながら葉月、神耶、ナルゼを見る。

 

ナルゼが一歩前に出ようとするが、神耶に止められる。

 

「止めないでよ」

「ダメ。無策で行っても返り討ちだよ」

「あの〝打ち払い〟は壁となるものが無いとダメなのよ。今ウルキアガに集中してるなら、物量で押せばいいだけよ」

「不毛なラリーが続くだけ」

「うっさいわね! 役職者なんだから、私が相対するわよ!」

 

すると、神耶はナルゼの額の真ん中に人差し指を当てる。

 

(ッ、いつの間に)

「普段なら反応できるよね。それも出来ないってことは、相当疲れてる」

 

ナルゼは神耶に指摘されて、唇を噛む。

すると、神耶は倒れている部員も含めて結界を作って覆った。

 

「『周天快気の結界』って言ってね。疲労や怪我を治すよ」

「神耶。そっちは頼むぜ」

「Jud.」

 

そういうと、葉月が前に出る。

 

「一般生徒だが。相対してくれんのかな?」

「T,Tes.どど、どんな相手だろうと、背を見せることは英国副長の恥!」

 

そういうと、再び弓に矢が番えられ、引き絞られた。

 

「し、白百合先輩逃げてください!」

「そうです! 私、まだ浅間先輩に殺されたくないです!」

「まだ先輩の店のスイーツ食べてないのに。あと先輩も!!」

「ああせめて最後に少女漫画草紙のイベントをしたかったです!!」

「よぉーしお前ら俺が女子だからって手を抜くと思うなよ!? なに人が死ぬ前提で話してるんだよ!?」

『というか誰ですか!? 私巫女ですよ!? 人を撃つことは出来ないですよ!? それなのに殺されるって――――――そんな言葉使っちゃう子は禊がないとダメですよ。禊用の鏃がちょっと痛いですけど我慢してくださいね?』

『殺人巫女がここにいるぞ!!』

「――――お前ら本当に元気だなー」

「くくく、狂ってるだけじゃないの」

「いやー。そういわれるとマジで否定出来ねえからなぁ……」

 

言い終わると、葉月は腰を低く構える。

ダッドリーも聖譜顕装を掲げる。

 

(ぶっちゃけ。シェイクスピアも警戒対象なんだけど。まあ、大丈夫か)

「いい、行きなさい!」

 

葉月がシェイクスピアに視線を移したのをダッドリーは見逃さず、矢が葉月に向かって飛んでいった。

 

「メンドいな。まったく――――つーわけで。頼むわ」

 

その瞬間、

 

「〝味方への攻撃は、彼を覆う風によって無効化された〟」

 

どこからともなく風が吹き、矢がそれに巻き上げられて葉月には届かなかった。

 

「ナーイス。流石書記。頼りになるぅ」

「いや。むしろ白百合君なら余裕だよねこの程度。僕に術式使わせないでよ」

「いいじゃねえか。登場としては上々だろ」

 

そういう葉月たちの後ろから、一人の少年がやってきた。

 

「皆。遅れてすまない。何分、文型なもので走るのは苦手なんだ」

 

眼鏡をかけた茶髪の少年は、表示枠に手を置きながら前に出る。

 

「そしてこんにちは。英国の諸君。武蔵アリアダスト教導院。生徒会書記。トゥーサン・ネシンバラだ。以後、よろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ここはK.P.A.Italia。

 

その中にある大聖堂。

 

武蔵と英国の相対を、表示枠で見ている影が二つある。

 

一つは、巨体。

一目見てそれが魔人族だということが分かる。

 

もう一つは、人間。

顔に刻まれた皺は、いくつもの戦いを掻い潜ってきた猛者を思わせる。

 

K.P.A.Italia教皇総長。インノケンティウス十世と、第二特務のガリレオだった。

 

「英国の判断。どう思うかね。元教え子」

「どうもこうも。堅実な判断をした、という具合か」

 

教皇総長は、ややつまらなさそうに肘をつく。

 

「英国には選択肢があった。一つは、武蔵と敵対する道。もう一つは、武蔵を賛同し、協力する道」

「後者であったほうがよかったのではないかね? 元少年」

「ハッ! 俺は教皇だぞ? んなことしちゃあ、示しがつかんだろうが」

 

そういう教皇総長。だが、その顔は笑っていた。

 

「まあマトモな考えの持ち主なら後者は選ばんよ。何故なら、今の武蔵と道を同じくするということは、聖連に敵対するも同義。この先に控えているアルマダ海戦のことを考えても、この判断は正しいな」

「となると。我々がすべきは――――」

 

ガリレオは思い出す。

 

それは、一つの歴史再現。

アルマダ海戦の引き金とも言える、それは、一人の王族の処刑から始まる。

その王族の名は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。メアリ・スチュアート。そして、メアリ・チューダーの二重襲名者。〝重双血塗れ(ダブルブラッディ)メアリ〟の処刑だ」

 




どうもKyoです。

んー。こんな感じですかね。武蔵の外道空気。

いやー。私全然分からなくて。いつもいつも書いてますが、未だにこの外道空気を上手く書けないんですよ。

さて。次回は、英国に入ります。
それと、前半はネシンバラがほとんどかな。あーもう、この作家たちは面倒だ。

何が面倒ってキーボード打つ量が多すぎる。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。


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舞台上の宣告者

 

ネシンバラが到着して、ある一つの変化が起きた。

それは、今まで沈黙を守っていたシェイクスピアが立ち上がった。

 

ネシンバラは即座にその動きに対応すべく、シェイクスピアに近づく。

 

「〝敵は地面に叩きつけられる!〟」

 

直後、シェイクスピアは地面に再び落ちた。

それに、畳み掛けるようにネシンバラは表示枠の鍵盤を打つ。

 

「〝文字列は敵に纏わり、やがて爆発する!〟」

 

そして、その通り爆発した。

 

これこそが、準上位契約者であるネシンバラの使用する術式。『幾重言葉』

早い話が、自分の打った文章が現実になるというものだ。

 

ただし、それには奉納として、自分の信奏する神が喜ぶレベルでの文章を奉納する必要がある。

 

ネシンバラは離れて、様子を見ようとした。

が、それはすぐに起こった。

 

爆風が去り、その中から無傷のシェイクスピアが現れたのだ。

 

「――――驚いたね。どんな術式なんだい?」

「別に。君とそう大して変わらないよ」

「そうかい。でも気になるね」

 

だから、とネシンバラはさらに文字を打つ。

が、それよりも早くシェイクスピアが言葉を紡いだ。

 

すると、辺りが一転、暗くなった。

 

「これは――――」

 

すると、シェイクスピアは読んでいた本を閉じる。

 

「これが今回用意した脚本――――第二悲劇『マクベス』」

 

すると、二人をスポットライトが照らし出すように、天から明かりが二人を照らす。

 

そして、シェイクスピアの足元から流体で出来た人型が生まれた。

 

「さあ。開演だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「わけあたえるのー」

「フッ。まだまだ」

 

セシルはウルキアガと相対していた。

荷重を掛け続けるセシルに対して、ウルキアガはゆっくりだが歩き、セシルに近づいている。

 

(しかしどうするか。荷重自体は問題ない。問題は、空にいる敵を如何にして落とすか、だな)

「ついかするのー」

 

荷重が、更に重くなった。

 

おそらく、ウルキアガにのみ荷重を絞っているのだろう。

他の部分が軽くなる分、ウルキアガにはほぼセシル一人分の重さが乗っていることになる。

 

「ふ、む。多少、重いな」

 

やや動きが鈍くなったが、それでも動きは止まらなかった。

が、

 

「ぶち抜け青春――――!!」

 

横から強烈な蹴りが飛んできた。

その正体は、ベン・ジョンソン。

 

ノリキと相対していたが、彼の持つドーピング用シリンダーの効果により、身体能力が向上していた。

ゆえに、ノリキは吹っ飛ばされ、ウルキアガに向かっていったのだ。

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)雷の38矢(フルグラーリス)!!」

 

と、そんなジョンソンに向かって、雷の矢が飛んできた。

ジョンソンはそれを紙一重でかわしつつ、撃ってきた人物を見る。

 

「You。ダッドリーはいいのかい?」

「見りゃ分かんだろ」

 

見ると、ダッドリーは聖譜顕装を片手に、葉月の攻撃を凌いでいた。

 

「ハハッ! Mate! 古代魔法使役士の攻撃を凌ぐなんてやるじゃないか! Ladyからお褒めの言葉をもらえるぞ!」

「ううう、うるさいわね! こっちは凌ぐだけで精一杯なんだから、じじじ、邪魔しないで!!」

「おっと。これはすまないな」

 

一方葉月は、倒れたノリキの肩を貸していた。

 

「大丈夫かノリキ」

「解ってることを言わなくていい」

「そうか。無理そうなら、手を貸すが」

「大丈夫だ。それに。もうすぐ英国の周回軌道に入る」

 

見ると、先ほどより英国が近くなっていた。

 

ノリキは立ち上がると、肩を回す。

 

「時間までこちらが踏ん張ればいい」

「仕事と同じだな」

「Jud.」

「よっし。なら俺も。時間稼ぎに徹しようかね」

「葉月が本気出すと武蔵が焼け野原になっちゃうからやめてよね。せめて英国本土でやるならいいけど」

「Jud.Jud.ウッキー! 大丈夫か?」

 

葉月は、少し離れたところにいるウルキアガに声をかける。

が、心配するまでも無く立ち上がっていた。

 

「拙僧の心配は無用! そちらのことだけを考えていろ」

「Jud.なら、行くぜ」

 

葉月は、魔法を繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ネシンバラとシェイクスピアは再び戦っていた。

 

「〝マクベスよ。汝は王になるであろう――――されど汝。王を殺す簒奪者なり〟」

「うおっ、と!」

 

流体の人型――マクベスが襲ってきて、ネシンバラは慌てて後ろに飛ぶ。

 

「〝文字列は打撃され、叩き潰される!〟」

 

すると、マクベスが粉々に砕け散った。

 

「〝マクベスよ。汝は死なない〟」

「〝だがそこにもう一撃叩き込む!〟」

 

再び起き上がるマクベスだが、ネシンバラにより再び砕かれた。

 

「〝マクベスよ。バーナムの森が動かぬ限り、汝は安泰であろう〟」

 

しかし、再びマクベスは起き上がった。

 

「くそっ。キリがないな」

「じゃあ話を進めてあげるよ」

 

と、シェイクスピアから文章が現れた。

 

「〝野心に燃え、夫を唆した愚かなるマクベス夫人〟」

 

今度は女性――マクベス夫人が現れる。

マクベスがネシンバラの手首に掴みかかるが、ネシンバラは間一髪文章を完成させそれを振り払った。

 

前を見ると、シェイクスピアの背後に森が現れた。

 

「バーナムの軍勢が君を狙っているよ。マクベス」

「ッ、僕はまだ――――」

「役が潰されたら、誰かが配役されるんだよ」

「演劇空間か……確かに凄いね。でもさ。一体どうやって拝気を確保しているんだい? Tsrihc教譜では、内燃拝気は認められていないはずだよね」

「Tes.だからこそ。これが最大限に発揮される」

 

と、シェイクスピアはここで始めて、持ってきた紙袋の中身を出す。

それは、紙袋の拡張空間に収められていた、個人用の盾にも見える。

 

しかし、ネシンバラはそれを知っていた。

 

「それは、英国の大罪武装!?」

「Tes.『拒絶の強欲』。通常駆動ではただの盾にしかならないけど。超過駆動の時は、持ち主が受けたあらゆる痛みを流体に還元できるんだ」

「――成程。外燃拝気扱いだから問題はないわけだ」

「そういうこと」

「でも僕の与えた攻撃が、それだけの流体を生み出すとは思えないんだけどね」

「何を言っているんだい? 僕は常に莫大な攻撃を受けてるんだよ――――無論。君からもね」

「何!?」

 

シェイクスピアは顔色を変えずに言う。

 

「批評だよ。まあ、別に僕はそのことで怒ったりしないさ。逆に批評で怒るのは間違い。つまるところ、批評というのはその本を読んだことに対する感想に過ぎない。むしろ自分でも見つけられなかった穴を見つけてくれるんだから。僕は大歓迎すべきだと思うけどね」

「そこは同感かな。時々アドバイスをくれる人もいるね」

「その人は救いの神だね」

 

でもまあ、とシェイクスピアは『拒絶の強欲』をネシンバラに向ける。

 

「その攻撃が、僕に力を与えてくれる」

「くっ……」

「一つ。聞いていいかい?」

「……何」

 

シェイクスピアが口を開く。

 

それは、かつて三征西班牙(トレス・エスパニア)にあったエリート養成組織。

襲名者を育てる施設。

 

だがそれは、十三年前に一部の子供達の叛乱によって、崩壊。

その施設の名は――――

 

「第十三無津乞令教導院」

「――――ッ!!」

「ようやく会えたよ。№13、いや。極東所属を示す漢字で当てられた名前――――トゥーサン・ネシンバラ」

 

ネシンバラの脳裏によぎる。

それは、第十三無津乞令教導院の頃、共にいた一人の少女。

 

シェイクスピアは今までと打って変わって、激昂する。

 

「あの頃も、君は僕を傷つけた!」

 

刹那、地面からマクベスが現れ、ネシンバラの手首を掴む。

すると、掴まれた部分が術式と化し、ネシンバラと同化しようとしていた。

 

「くっ! 離せ!」

「行け!」

 

シェイクスピアが号をかけると、森から大量の軍勢がネシンバラに向かって突撃していく。

 

(今しかない!)

 

ネシンバラは、片手で鍵盤を打つ。

 

「〝彼は己に、衝撃を放った!〟」

 

ドッ、と撃つように衝撃がネシンバラを吹っ飛ばし、軍勢から離脱した。

そして、間髪入れずに、指示を飛ばす。

 

「〝品川〟! やってくれ!」

『Jud.』

 

すると、今まで前進していた武蔵がいきなりドリフト走行を始めた。

これにより、英国の役職者たちは驚きを隠せなかった。

 

ジョンソンが表示枠を操作する。

 

「ッ、周回軌道に入っただと?! クッ。時間切れか!」

 

彼はそのまま他の三人に声をかける。

 

「Mates! 撤退だ!!」

 

すると、呼びかけに応じるように、『グラニュエール』が飛んできた。

四人は『グラニュエール』に乗船する。

 

それを見送ると、葉月はほっと安堵の息をつく。

 

「ようやく行ったか」

 

自分はこのまま武蔵にいればいいか、と思っていた矢先。

 

「――――これはッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

英国。第四階層。海岸付近。

 

そこには、一人と一羽がいた。

 

一人は、濃緑色の衣を纏い、顔は良く見えない。

一羽は、英国の制服を着込んだ、三本足の烏。八汰烏だった。

 

「〝傷有り〟様。早くここを離れましょう。何か飛んできたら危ないですぞ!」

 

烏は〝傷有り〟と呼ばれる人物に話す。

だが、〝傷有り〟のほうは気にせず、耳に手をやる。

 

「ミルトン。聞こえないか?」

 

〝傷有り〟は続ける。

 

「武蔵以外の、何か、別の――――」

 

そういった瞬間、空を翔る三つの光があった。

 

「ッ、対艦用の低速弾!? ステルス航行できる敵艦が来ていたのか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

武蔵でも鈴がいち早く気づき、〝武蔵〟が総員に告げた。

 

『正体不明の敵艦より低速弾飛来。数は三』

 

それに反応したのは――――

 

「神耶ッ!!!」

「Jud.!!」

 

葉月が声をかけると、神耶が武蔵の横全面に防御結界を張る。

 

さらにそれは、六角形の集まりとなり、その上に更にもう一枚同じのが重ねがけされた。

 

三発のうち、二発は武蔵に当たるが、神耶が張り出した結界のおかげで無傷だった。

 

だが、一発は武蔵を逸れ、英国に向かっていった。

 

「ッ、マズイ!!」

 

葉月はそれに気づくと、猛然と駆け出した。

 

そして、武蔵から飛び出すと、そのまま飛行魔法を使い、弾丸を捕捉する。

 

「これで十分! 光の一矢(ウナ・ルークス)!!」

 

と、光の一矢が弾丸に向けて放たれた。

だが、その前に葉月は巨大な流体反応を感じ取った。

 

「コレは――――まさか!!」

 

葉月は、英国を見る。

 

すると、天を貫かんばかりの光の束が伸びているのを発見する。

 

「『Ex.カリバーン』だと?! 馬鹿じゃねえのか!!?」

 

すると、その光の束はそのまま英国の周りを一周するかのように振るわれる。

葉月は、何とかそれを避けたが、その余波までは防げなかった。

 

乱気流が発生する中、葉月が視界に捉えたのは、英国内に入ろうとする『グラニュエール』だった。

だが、気流の影響を受けているのか、ふらついていた。

 

「くっそマジで馬鹿だろうが!! 風よ、彼らを(ウェンテ・ヒム)!!」

 

咄嗟に、葉月は『グラニュエール』に対し、気流操作の魔法をかける。

徐々に安定した姿勢を取り戻した『グラニュエール』はそのまま英国内に入っていった。

 

葉月は武蔵と離れずにいたが、それでも気流の影響で武蔵も相当バランスを崩していた。

 

仕方なく、葉月は輸送艦に降り立った。

 

「白百合?! お前今までどこにいたんだ!?」

「すまない! あれ? トーリは」

「知らん! なんかさっきからいないんだ」

 

と、葉月が振り向くと二代がそこにいた。

見ると、二代の視線の先にはトーリが牽引帯に引っかかっていた。

 

葉月は、二代の近くまで行く。

 

「ああ。白百合殿――――拙者、まさか第一発見者になろうとは」

「せーの、でどうするか言おうぜ」

「Jud.」

「せーの」

「「放っておく――――よしっ!」」

 

すると、正純が二代に話しかける。

 

「二代! 副会長として依頼する! 『蜻蛉切』で牽引帯を割断してくれ! このままだと〝高尾〟にぶつかる。あの馬鹿には後で私が言っておく!」

「Jud.」

 

一瞬、ちらっ、と全裸を見るが、すぐに牽引帯に向かう。

 

「証拠隠滅。結べ『蜻蛉切』!」

 

すると、牽引帯が割弾された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

〝傷有り〟は走っていた。

見ると、武蔵の輸送艦が第四階層の海に突っ込もうとしていた。

 

だが、その先には、子供達がいた。

 

「くっ! 間に合わない! なら、艦の軌道を変える!!」

 

そういうと、右手が光りだした。

迎撃用の術式だ。

 

〝傷有り〟は艦を迎え撃てる位置で止まった。

 

「よし、間に合――――」

 

う、と思ったそのとき、誰かに押し倒された。

 

そして、輸送艦が海に墜落した。

 

海の飛沫が雨となり、降り注ぐ。

 

〝傷有り〟は、上に乗っていた人物がどくのを感じた。

それは、映像で見た武蔵の第一特務だった。

 

「ふぅ。危ないところで御座ったなぁ」

 

こちらを見て言う第一特務。

と、

 

パシィン

 

平手打ちだった。

 

「なんてことをッ、あそこにはまだ!!」

「よく見てみるで御座るよ」

 

促されて、先ほど子供達がいた場所を見る。

 

すると、

 

「そちらは大丈夫ですの?」

「Jud.問題御座らん」

「おー。大丈夫だ」

 

あそこにいた子供達が、武蔵の特務に救われていた。

 

「いやー。よう御座った」

「あ、ああ」

 

〝傷有り〟は俯き、先ほど平手打ちをしたことを謝罪しようとしていた。

そして、頭を上げる。

 

が、そこに第一特務の姿はなく、既に遠くに背だけが見えた。

 

「あ、待っ――――」

 

〝傷有り〟が一歩踏み出すと、何かの液体を踏むような感触を得た。

それは、血だった。

 

だが、〝傷有り〟自身は血を流していない。

となると、

 

「…………」

 

〝傷有り〟は第一特務が去った場所を見つめていた。

ふと、子供達を見る。

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――葉月?」

 




どうもKyoです。

さあ次回からはスーパー点蔵モゲろタイム!
皆さん藁人形は買いましたか? 一斉にやれば効果も倍増するはずです!

というかこの時点でもう押し倒してるんですよねぇ……爆ぜてモゲろ。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。




さて。執筆執筆。
えーと、あれがこうなってするとこうなって――――――



なんで点蔵に二人目のヒロインが?


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英国上の待ち合い人達

「次回はスーパー点蔵モゲろタイムだと言ったな」

「そ、そうだ! だから大人しくハーメルンから消えてくれぇ!」

「あれは嘘だ」



 

武蔵の輸送艦が、英国第四階層の海に突き刺さるように落ちてから丸一日が経った。

英国では、対策のための会議が開かれることになった。

 

故に、『女王の盾符(トランプ)』全員が召集された。

 

英国。オクスフォード教導院内にて、その『女王の盾符』が集まっていた。

 

「ででで、では。これよりオクスフォード教導院。生徒会・総長連合会議を始めます」

 

そう切り出したのは、副長。ロバート・ダッドリーだった。

 

「ほ、本日の議題は。我が英国に不法滞在を続けている武蔵の処遇について。どど、どう思われますか。女王陛下」

 

と、ダッドリー以下『女王の盾符』は全員、数段上の玉座に座している女性を見る。

 

金髪を纏め上げ、豪奢な洋装に身を包み、その顔は常に自信に満ち溢れんばかりの笑顔だ。

彼女こそ。英国の女王を襲名した、エリザベス一世。またの名を、妖精女王。

 

「諸兄ら。カードは使うべきときに使うのが一番だ。そう――――来るアルマダ海戦のジョーカーとして」

「Lady。武蔵を使うのかい?」

「Tes.まあ、状況によりけり、といった具合か。あれだけの巨大な艦。武装を積めばさぞや強力な武装艦になるだろうな」

 

ここで、手を上げるものがいた。

それは、全身を糸でつるし、重力操作によって体を動かしている自動人形。

『女王の盾符』の2。F・ウオルシンガムだ。

 

「どうしたウオルシンガム。珍しいな」

「Sweetheart?」

 

その言葉に、全員が固まった。

 

そして、一際早く再起動を果たしたジョンソンが聞く。

 

「M,Mate? 何かの冗談かね? いや。君が冗談など言うはずもないのだが……というか冗談であってほしいのだが……」

 

しかし、ウオルシンガムは気にせずエリザベスを見て、

 

「Good job」

「何がかね!? Mates! ウオルシンガムが壊れたぞ!!?」

 

ぐっ、と親指を立てるウオルシンガムだが、その意味は他の者には伝わらなかったらしい。

唯一。エリザベスを除いて。

 

「ふふっ。ああそうだな」

「何が!?」

 

全員が思わず聞くほど動揺していた。

その中、ダッドリーはゴホンと咳払いをし、場を仕切りなおした。

 

「えー、ででで、では。本日二つ目の議題に移ります」

 

チラッ、と自身が敬愛するエリザベスを見ると、続ける。

 

「ととと、とりあえず。F・ウオルシンガムをメンテナンスに出したほうが賢明だと思うものは挙手を」

 

ウオルシンガムとエリザベス以外、全員が手を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「唐突だが正純。一つ提案がある」

 

英国第四階層に墜落した輸送艦では、既に人員が作業を始めていた。

修復もそうだが、まず何よりも食料の確保だった。

 

輸送艦にも食料はあるが、いつ武蔵と合流できるか分からないため、無駄遣いが出来ないのだ。

故にサバイバル訓練をしている点蔵などを中心に、海の中にいる魚を獲っていた。

 

魚獲り筆頭は、二代だった。

 

彼女は『蜻蛉切』を銛代わりにして、魚を突いては「獲ったどー!」の雄叫びを上げていた。

そして、残りの人員は艦を修復したり、思い思いの行動をとったりしていた。

 

正純は、葉月の呼びかけに振り向く。

 

「何だ白百合」

「ああ。思ったんだが。とりあえず俺が片っ端から魔法ぶっ放して、大罪武装寄越せ、って言えばすぐに済む話なんじゃ」

「頼むからお前は常識を見失うな!?」

 

冗談だ、と葉月は言うと海を見る。

 

そこでは、二代がまた魚を一匹仕留めていた。

 

「――――まるで漁師だな」

「二代は昔からああだからなぁ」

 

そういう正純は、周りを見渡して頭を掻く。

 

「どうした?」

「ああいや。皆、逞しいなって思って」

「まあ武蔵の住人の大半はこんな感じだよ」

「それはこの一年を通して痛感したよ……」

 

お疲れ、と葉月は苦笑し、再び二代の漁を見る。

正純は、そんな彼を見る。

 

「そういえば。白百合。お前は参加しないのか?」

「あー。別にやってもいいんだが。そうすると五月蝿い奴がいてな」

「……浅間、か?」

「いや。違う。英国にいる知り合いでな。そいつ、精霊術師なんだよ」

「……精霊術師と古代魔法使役士(エンシェント・マギ)とは違うのか?」

「微妙に、な。俺たちは精霊と契約を果たすことで力を使える。一方で精霊術師は契約をしないで、その場その場で約束事をとりつけるだけで力の行使が出来る。いうなれば、前者は永続的。後者は一時的な力の行使だ」

「へぇ。そうなのか」

「で。そいつに、精霊の力で漁とか出たら楽だろうな的なことを言ったらさ。『そんなことに力を使っちゃいけません』って叱られてよ。」

 

と、懐かしげに話す葉月。

その顔は、とても無邪気で、子供のようだった。

 

すると、意気揚々と二代が海から帰ってきた。

 

「正純! 大量に御座るよ!」

「そうだな。これで当分食料の心配はしなくていいな。幸いこっちには料理人がいるし」

 

葉月の事だ。

材料があっても、誰かが調理しなければ食べられない。

 

二代は食べる専門。正純は出来るが、レパートリーが少ない。点蔵はサバイバル食になる。

 

となると、必然的に料理が日常になっている葉月に頼まざるを得なくなる。

そのおかげで、輸送艦の人員は毎日『ワグナリア』クラスの料理が食べられることを喜んでいた。

 

「うむ。葉月殿の料理は真に美味に御座る」

「そりゃ嬉しいね。作る甲斐もあるってものだ」

「一番喜んでいるのはミトツダイラじゃないか? この間の肉料理、凄い喜んでいたし」

「さしずめ。高級な餌を与えられて喜ぶ犬みたいなものか」

「誰が犬ですの!?」

 

後ろからやってきたネイトは葉月に向かって吠えるように怒る。

 

「ああ、いたのか。悪い悪い」

「葉月までそういうこと言うの止めてくださいませんこと? ただでさえ総長や喜美に言われているのですから」

「はいはいJud.Jud.」

「聞いてますの!?」

 

そういうネイトだが、葉月は耳に指で栓をして聞こえないというアピール。

 

しばらくネイトの怒鳴り声をそのままスルーしていたが、ふと、指を離す。

葉月は、そのまま英国本土を見る。

 

「どうかしましたの?」

「え、ああ。いや」

 

そう言ったきり、葉月は英国を見たまま黙ってしまった。

ネイトが何か言いたそうにしていたが、正純がそれを止めた。

 

「正純?」

「今はよそう。葉月も、英国にはそれなりに思い出があるんだろう」

「――――Jud.」

 

そういうと、二人は離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――分かってる。すぐに会えるさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

武蔵。浅間神社内。

 

浅間・智は、自室にて憂鬱な気分に苛まれていた。

 

原因は二つ。

その内一つは、もう自室内にある。

 

茶色のウェーブヘアーをゆったりと流す少女。

幼馴染の葵・喜美。

 

別に。居ること自体が憂鬱じゃない。今までに何度もあることだからだ。

しかし、

 

「クククなぁに浅間。この伝纂器(PC)のフォルダ。『毒見済・純愛(参考)』って。どのシーンを何の参考にするつもり?」

「うおおぉぉあああ!?」

 

これだ。

この狂人。こうして人の部屋に来ては、何かしら物色し、一番見られたくないものを発見する。

 

今回に至っては、トーリのエロゲを毒見しているフォルダである。

 

無論、プレイ済み。

 

「フフフ浅間。あんたこういうシチュが欲しいの? 夕焼けをバックに海辺で語り合う、って。一体何年前よ」

「い、いいじゃないですか別に! だ、大体これは種類別に分けているだけであって! 決して、決して! 葉月君に告白するためのイメージトレーニングをしているわけではないですからね!!」

「ふぅーん」

 

ここまで言ってしまった、と口を覆うが時既に遅し。

喜美はまるで新しい玩具を見つけたような笑みを浮かべる。

 

「私、別に葉月とか一言も言ってないのだけれど? 浅間はそういう、ふーん。なるほどねぇ」

「な、なんですか……」

「べっつに~」

 

今この場で撃ち殺してやろうか、と一瞬黒い考えが頭を支配するが、すぐに除去する。

 

そして、もう一つの憂鬱の原因。それが――――

 

「……葉月君。大丈夫でしょうか」

「アンタその質問何回目よ。大体向こうには正純やミトツダイラたちもいるんだから。そっちも心配しなさいよ」

「も、勿論ですよ。でも、やっぱり。葉月君は、その……」

 

それは、自身の想い人。白百合・葉月が居ないことだ。

 

彼は今、どうしているのだろう。と、そんな考えが頭を支配する。

 

見ると、喜美がにやにやしながらこちらを見ている。

 

「な、なんですか一体」

「別に~? ただどうしてコクらないのか不思議なだけよ」

「コ、コクるって……葉月君に迷惑かけたらどうするんですか」

「迷惑って決めるのは浅間?」

「それはその……」

 

ダメだ。こういう話になると喜美は強い。

無理矢理ではあるが、話題を変えることにした。

 

「と、とりあえず。英国からの連絡待ちですね。はい」

「ククク無理矢理な話題転換ね。まあいいけど」

 

そういって喜美は伝纂器の電源を落とす。

 

「向こうにはホライゾンもいるのよねぇ。無事だといいんだけれど」

「ああ。確かに。トーリ君大丈夫でしょうか」

「ああ。愚弟なら平気よ。ホライゾンの名前を連呼しながら全裸でそこらを駆けずり回ってるから」

「それのどこに平気と思える要素があるんでしょうか」

 

普段の彼からしたら平気、というかもう武蔵の日常風景に溶け込んで違和感ないのですが。

浅間はしばらく考えていたが、その内。無駄だということを悟り、考えるのを止めた。

 

「でも何で? 葉月だって、アンタを嫌ってるわけじゃないんだから」

「そ、それをまだ引っ張りますか!」

 

話題を戻してきた。

喜美は、髪を弄りながら言う。

 

「私から見て、アンタたちは結構いいと思うわよ。ただお互いにヘタれてる部分があるだけで」

「うぐっ……」

「まあ、葉月に関して言えば。あれは鈍感なのか、それとも気づいててスルーしているのか。前者なら殴り飛ばしてやりたいわね。後者ならもう――――」

 

と、虚空を引っ掻くような動作をする喜美。

何をする気なのだろうか。

 

「で。アンタは何でしないの?」

「……笑いません?」

「笑わないから言いなさい。ホラ」

 

浅間は、言うべきか言わざるべきか悩んだ挙句、言った。

 

「言ってるんですよ――――――エア葉月君に対して」

「――――は?」

「だ、だから! ここに葉月君が居ると仮定して、その脳内葉月君に告白はしているんですよ!!」

 

浅間。まさかのカミングアウト。

そして、

 

「……あー。ゴメン。これにはまさかの賢姉もびっくりだわ。というかそれただの練習よね?」

「い、言いましたね? 言ってはいけないことを言いましたね!?」

「だってそうじゃない。ってかそれじゃあ本当、寂しい人か危ない人のどっちかよ。まあアンタの場合。物理的な意味で危ない人なんでしょうけど」

「な、なんでですか!? 私綺麗な巫女ですよー? 本当ですよー!?」

「とりあえずハナミが色々と困ってるから発言するの止めなさい」

 

見ると、ハナミの周りには表示枠がいくつか出ていて、それをハナミが片端から消していっていた。

 

「つまり、アンタの妄想では既に告白が成功していて。葉月と甘々な生活が繰り広げられているのね?」

「な、なんでそのことを!? ハッ! まさか喜美、読心術なんて変な技能を!?」

「あら。適当に言ったのだけど、案外当たるものね」

 

もうこれは完全に無視ですね。と浅間は喜美に背を向け、表示枠を操作し始めた。

 

「で。今は何をしているの? エロゲ?」

「トーリ君じゃないんです――――――新規契約ですよ」

「誰の?」

 

喜美が聞くと、浅間はJud.と頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「葉月君のです」

 




どうもKyoです。

ということで点蔵出番ばっさりカット!

その代わり葉月の出番が、出番がががががが(ry

とりあえず葉月も爆発したほうがいいと思う人は是のボタンを。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

次回は、英国との通商会談ですかね。
ようやく実況通神(チャット)システム解禁……


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夜中の待機者達

三征西班牙。アルカラ・デ・エナレス。

病院内。

 

そこの一室では、女性二人が、子供達にお菓子を配っていた。

 

一人は、眼鏡をかけた長髪の女性。

 

もう一人は、髪を短く切った両腕義腕の少女。

 

アルカラ・デ・エナレス。生徒会副会長兼会計。フアナ。

そして、総長連合第三特務。立花・誾。

 

「わー! お姉ちゃんありがとう!」

「慌てなくても大丈夫ですよ。まだまだたくさんありますからね」

 

子供達の喜ぶ声を聞き、フアナは笑顔になる。

その後ろでは、誾がいつもの顔でフアナを見ていた。

 

誾から見たフアナは、鉄面皮で淡々と事務をこなし、総長兼生徒会長であるフェリペ・セグンドを叱りつける。

それが、普段は浮かべない笑顔を惜しみなく浮かべている。

 

子供達に菓子を配り終えると、誾はフアナとともに病院を出る。

 

「副会長。これらのお菓子は半寿族の子たちには配らないのですか?」

 

と、誾は問う。

先ほどまで配っていたのは、人間の子供達。その前に寄っていたのは、長寿族の子供達。

だが、半寿族。人間と長寿族の間に生まれた子供たちのところには、まだ行っていない。

 

「いえ。行きますよ? そもそも、こういう提案を出したとき……あの人が、人間にも長寿族にも半寿族にも平等に与えるのが条件、ということを言ったのですから」

「総長が、ですか?」

「Tes.」

 

そういうと、再び会話が途切れる。

誾は、フアナの問いには、深い意味があることに気づく。

 

三征西班牙は、純血主義と言われている。

国内も、そういう風潮だ。

 

故に、半寿族という、どっちつかずの種族は迫害される。

半寿族というのは、見た目は長寿族そっくりだが、長寿族が体の成長は遅いのに対し、半寿族は人間と同じスピードで成長していく。

だが、精神は長寿族と同じスピードでの成長。当然、そこには肉体と精神の剥離が出始める。

 

人間からも長寿族からも迫害される彼らにとって、ここに居場所はないのだ。

 

それを察しているのか、総長であるフェリペ・セグンドは全て平等に、といったのだ。

 

だが、まだ疑問も残る。

 

「副会長。副会長はどうして、総長の事を信じていられるのですか?」

 

そう。彼女は実務、果ては先の武蔵との戦闘において、戦時の指揮なども完璧にこなす。

だが、総長のフェリペ・セグンドは、それとは対照的だ。

無気力で気弱。それが誾の評価だ。

 

だが、フアナの答えは、

 

「貴女はどうして。立花・宗茂を信じられるのですか?」

「それは……」

 

誾は一瞬言葉につまるが、答えを出す。

 

「――――生きることの意味を教えてもらったからです」

「ならば。私の答えを聞く必要はありませんね」

 

それに、とフアナは俯く。

 

「あの人は――――生きることの意味を、失っているだけですから」

「えっ……」

 

生きることの意味を、失う?

 

どういうことか聞こうとしたが、それは中断された。

 

「あ、姐さーん!」

 

と、向こうから二人がやってきた。

アルカラ・デ・エナレス総長連合第四特務。ペテロ・バルデスと、その妹。第五特務のフローレス・バルデスだ。

 

「どうしたのですか?」

「Tes.英国が、ついに武蔵に対して決断を下しました」

「英国に墜落した輸送艦の乗員が、武蔵に戻ることをまだ許可していませんが。輸送艦への物資輸送と、第四階層への上陸を認めたようです」

「武蔵との通商会議を設けたいとも言ってるそうですが。これって……」

 

フアナは二人の報告を聞くと、ふと、空を見上げる。

そこには、不自然なまでに巨大な雲があった。

 

「アルマダ海戦の再現が近い、ということですね。あの中では今。私たちの〝超祝福艦隊〟が構築されています。英国や武蔵は、サン・マルティンをどうやって見切るのでしょうね」

 

フアナがそういうと、近くの茂みが揺れる。

咄嗟に特務三人はフアナを守るように陣形を組む。

 

が、それは無用のものとなった。

茂みから出てきたそれは、エナレスの制服を身にまとった男子生徒。アルヴィスだった。

手には、何故か猫を抱えている。

 

「こらっ! 暴れるなっつの! いっててて!! 引っ掻くな!!?」

「何をやってるのですかアルヴィス」

 

誾がやや冷めた目でアルヴィスを見る。

 

アルヴィスはというと、たった今誾たちに気づいたようだ。

 

「ああ。こんな全員お揃いでどうしたんスか?」

「それはこちらの台詞です。何をやっているのですか」

「ああ。それは――――」

 

すると、アルヴィスの後ろから子供たちが何人かやってきた。

耳が、普通の人間よりも長い。長寿族かと思ったが、子供たちのやってきた方向は長寿族の病棟からは程遠い。

 

つまりは、半寿族だった。

 

「お兄ちゃん! 猫ちゃんいた?」

「おーいたぞ。まったく。暴れるわ引っ掻くわで。困った奴だ」

 

ほらよ、とアルヴィスが手渡すと、猫は自然と半寿族の女の子の腕に収まる。

 

「ありがとうお兄ちゃん!」

「おう。気にすんな。暇してたしな」

「お兄ちゃんまた遊んでね!」

「ああ。約束な」

 

と、一人の子がアルヴィスの後ろにいる誾たちに気づいたようだ。

それが他の子たちにも伝わり、若干怯えたような顔になる。

 

誾はどうしたものかと思い、とりあえず話そうとしたが、アルヴィスが立ち上がる。

 

「ああ。後ろの人たちはな。俺の友達なんだ」

「友達?」

「おおそうさ。あ、でも気をつけろよ。あの両腕義腕の女は恐ろしくてな。あの腕で地面砕くわ天を裂くわ。八面六臂の、まさに鬼のよぅおおおおおおおおおおおおお!?」

 

瞬時に誾はアルヴィスの背後から頭を義腕でロックする。

 

「下らないことを子供たちに吹き込まないでください。信じたらどうするのですか」

「し、信じるもなにも本当の、うおおおぉぉぉぉぉ!?」

「ハ、ハ、ハ。では手始めにこの汚いトマトを潰すことから始めましょうか」

 

しばらく逆アイアンクローを食らっていたが、子供たちが笑い出す。

 

「あはは。お兄ちゃん変な顔ー」

「見てないで助けろよ! 猫探してやったろ!」

「あ、もう帰らないと。じゃーねー」

「あ、待ていや待ってください、ってか誾! お前いい加減に力弱めろよ!!」

「…………」

「いだだだだだっ?! 弱めろっつったろ!? 誰が強くしろなんて言ったよ!?」

「人を鬼呼ばわりした罰です」

 

流石にアルヴィスが可哀想になったのか、フローレスが止めに入る。

 

「だ、第三特務。そろそろ止めたほうが……」

 

と、誾はフローレスを見、アルヴィスを見て、再びフローレスを見る。

 

武人として鍛え上げられたその観察眼は、夕焼けの中であろうと、若干、フローレスの顔が紅くなっているのを見逃さなかった。

 

(野球部は今日は練習等はなかったはず。となると――――)

 

そして、アルヴィスを離す。

 

「成程」

「え、今の何ですか? 何が分かったんですか!?」

「いえ。私ともあろうものが、他人の恋愛事情に手を出したようで。申し訳ありません。第五特務。こんなのでよければどうぞ」

「はひぃぃぃ!?」

「妹よ。どういうことか。この兄に詳しく聞かせてくれないか? なに。兄は妹の恋路を応援したいのだ」

「あ、兄貴も何言ってんの!? ちょっ、姐さんヘルプ!」

「残念ですが。私、これからまだ雑務が残ってますので」

「まさかの味方ナッシング!? 補佐! 責任の一端そっちに有るんですからね!?」

「悪い、逃げるわ」

「空飛んで逃げるな卑怯者――!!」

「いや死球(デッドボール)連発のお前に言われたくねえよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

夜。

武蔵輸送艦では、ネイトが見張りが立っていた。

 

英国国内ゆえに、襲撃という可能性はないのだが。もし万が一攻められた場合を考えている。

だが、微妙にその豊かな髪の毛が萎びて感じる。

 

「ミトツダイラ。交代だ」

 

と、後ろから正純が声をかける。

 

「あら正純。二代ではありませんの?」

「Jud.二代はホライゾンの護衛につくそうだ」

「そうでしたの。それで、ホライゾンのほうは?」

「あー。それがよく分からないんだ。『嫌気の怠惰』を食らってから、一日20時間は寝ている。ホライゾン自身にも、よく分からないらしい」

「自動人形の体というのも、大変なんですわね」

 

しかし、とネイトは羽織っていた毛布を取る。

 

「この二週間。思わぬアバンチュールでしたわ」

「最初はどうなるかと思ったがな。サバイバルが得意な奴と料理が得意な奴がいて助かったよ」

 

すると、後ろから声を掛けられる。

振り向くと、そこには点蔵がいた。

 

「ここにいたで御座るか。では。今から自分が見張りに立つで御座る。女衆は明日に備えて早めに寝るといいで御座るよ」

「ああ。すまないなクロスユナイト。助かったよ」

「いやいや。お礼なら葉月殿にもで御座るよ」

 

そういうと、点蔵は空を見る。

そこには、葉月が自分の杖に乗りながら辺りを警戒していた。

 

と、こちらに気づいたのか、葉月が降りてくる。

 

「どうした。なにかあったのか?」

「ああいや。なんでもない。この二週間。二人ともよく働いてくれたな、って礼を言いたくてな」

「なんだそんなこと。いいよ。俺だって重い資材運んだり、飯作ってただけだし」

 

葉月は苦笑しながら言う。

すると、ネイトがあることに気づいた。

 

「葉月。あなた髪の毛の色。変わってません?」

 

見ると、葉月の普段の髪の色よりも、赤みが強くなっていた。

 

「ん? ああ。これか。待ってる間ずっと暇だったからな。幻術系の魔法を使ってそう見せてるだけだよ」

 

そういうと、葉月の髪の色が見る見るうちに変化していく。

 

青。紫。黒。金。まるで絵の具で次々と塗りつぶされていくかのようだ。

 

「面白いで御座るなぁ」

「お望みとあらば、声や姿も模倣できるぜ。例えば――――」

 

と、葉月がパチンッと指を鳴らす。

すると、葉月の姿が変わっていき、それはやがてトーリの姿をとった。

 

「どうよ!」

「うっわまさしく葵だ。これであの変態さがあればもうどっちがどっちだか分からなくなる」

「いや流石にそういうことしねえよ。俺もアイツの変態具合には悩まされてんだから」

「うん。分かった。とりあえずその姿は止めてくれ。葵の姿でため息つかれると蹴りそうになる」

「お前も十分武蔵に順応してきているよなー」

「それ。女性にも化けられるので御座るか?」

「勿論」

 

そういうと再び指を鳴らす。

すると今度は正純の姿になった。

 

「いやなんで私なんだよ」

「いやー。つい?」

「つい、ってお前……」

「しかしこれは見事な変装ですわね。性格まで完全に真似たらどっちがどっちか分からなくなりそうですわ」

「確かに。いっそ女性姿で接客してみてはどうで御座るか?」

「あっはっは。絶対に嫌だ」

 

そういうと、葉月は元の姿に戻る。

と、上空の武蔵から馬鹿でかい声が聞こえてきた。

 

『おーい! ホライゾーン! 聞こえるかー?』

「……この声」

「あの馬鹿だな」

「で、御座るな」

「何をしているのでしょうか」

 

どうやら教導院の放送施設を使っているようだが、如何せん全体放送なので英国にも駄々漏れ。

おまけにボリュームを最大限にしているのか、あちこちから消えていた明かりがつき始めている。

 

『えー、ではー。今夜は武蔵と英国、く、く、くにまじり、あい、ぎ?』

『フフフ流石ね愚弟。でもそれ国交会議よ?』

『おおーっ! すげぇな姉ちゃん天才だ! でも俺。くにまじりあいぎの方がエロくて好きだなー。く、国交じっちゃうの? 交じっちゃうの!?』

 

直後、何かが爆発するような音が聞こえ、それ以降何も聞こえなくなった。

 

「浅間だな」

「浅間殿で御座るな」

「浅間以外ないな」

「み、皆さん爆発音だけで智と決めるのは――――――でもやっぱり智なんでしょうねぇ」

 

あ、と葉月は何かを思い出したかのように手を打つ。

 

「そういや点蔵。あの長衣の奴と結局どうした?」

「ああ、Jud.実はアレ以来話しては御座らんよ。時折こちらから確認できるで御座るが」

「そうか」

 

と、葉月は少し面白そうに言う。

 

「知り合い、なのか?」

「んー。どうだろな。まあ知り合いだったら。面白いかな」

 

そういって、点蔵の肩を叩く。

 

「まあアイツが俺の予想通りだったらさ。仲良くしてやれ。ちょっと内気なとこあっからよ」

「Jud.分かり申した」

 

おう、というと葉月は再び空に上がった。

 

正純は、点蔵に聞く。

 

「なあクロスユナイト」

「何で御座るか?」

「ああ……その……」

 

正純は歯切れ悪く、しかしこういった。

 

「――――――お前。ホモなのか?」

「……エ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

三征西班牙。アルカラ・デ・エナレス。

夜のエナレスは、人気も無く、どこと無く不気味な雰囲気を醸し出している。

 

そんな夜の教導院内を歩く一人の姿があった。

 

髪の毛は白髪交じり。どことなく引けた腰。

顔にはいくつもの皺が刻まれているが、覇気が無い男性。

 

三征西班牙。アルカラ・デ・エナレス総長兼生徒会長。フェリペ・セグンドだ。

 

彼は、辺りを探るようにキョロキョロとしながら、手に持った紙袋を抱え部屋の前に立ち、扉に手をかける。

が、その前に声を掛けられる。

 

「総長」

「うわっ!?」

 

危うく、手に持った袋を落とすところだった。

寸でのところで袋を抱え直し、セグンドは後ろを見る。

 

そこには、誾がいた。

 

「な、なんだ立花君か」

「Tes.総長。こんな遅くまでどこにいたのですか?」

「え、ええと……」

「ひょっとして愛人の下ですか?」

「いや違うよ!?」

 

なんてストレートな物言いをするんだろうか。

セグンドが否定すると、誾は頷く。

 

「え、えーと。立花君は僕に用があるのか、な?」

「Tes.フアナ様が総長宛の手紙を持っていますので」

「あ、ああ。そうか。ありがとう」

「――――時折届くあの手紙は、愛人からのものですか?」

「ち、違うよ! っていうかまだそれ疑ってたの!? 誤解だよ!!」

 

この子は、とセグンドは思う。

 

「アレは長寿族の孤児からの手紙だよ」

「長寿族からの?」

「Tes.あの子を救うことが出来たのは。レパントでの僕の唯一の戦果だよ」

 

レパント。その言葉を聞いて、誾は思い出す。

 

――オスマン帝国と旧派連合軍の海戦でしたね。

 

セグンドは力なく笑う。

 

誾はそれ以上は追求せず、一礼しその場を去る。

セグンドは扉を開け、部屋の中に入る。

 

すると、奥にはフアナが座っていた。

こちらに気づく気配が無いため、セグンドは彼女の前に回る。

 

すると、耳には符が巻かれていた。

 

「圧縮睡眠の符……しかも四倍って。中々起きれないだろうに」

 

呟くと、フアナの体を支えている回転椅子がセグンドに向く。

すると、フアナが持っていた手紙の束が床に落ちる。

 

セグンドは一度机に紙袋を置くと、それらを拾い始める。

 

が、目的の手紙が無かった。

 

そして顔を上げると――――――フアナの股の間に手紙があった。

 

「――――ファッ!?」

 

思わず大声を上げそうになるが、堪えた。

 

(お、落ち着け! そっと、そぉーっと……)

 

ゆっくりと手を伸ばし、手紙を掴む、

と、

 

「すいません忘れ物を――――」

 

扉が開き、誾が入ってきた。

そしてそのまま、セグンドと誾の目があった。

 

「ああ、いや! これは――――」

「――――まさか総長が八大竜王のフアナ様に寝たふりさせた上で開脚を土下座で頼む男だとは。これはまさに快男児(マスチモ)。宗茂様にもそこら辺の技が欲しかったところです。では御機嫌よう」

「帰ったらダメだよ誾君!」

 

セグンドの制止も聞かずにそういって、扉を閉めて出て行った。

と、先ほどまで挟まっていた手紙がフアナが少し身動ぎしたため下に落ちる。

 

セグンドは仕方なく、それを拾うも。これも目的の手紙ではなかった。

 

まさか、と思い再びフアナを見上げると、そこには、ちょうどフアナの豊満な胸に挟まれた手紙があった。

 

「――――――ファッ!?」

 

だが先ほどよりかは取りやすい――――が、こんなところを見られたら社会的に死ぬ。

いかに自分の襲名したフェリペ・セグンドが三征西班牙に衰退を齎す名だとしても、こんなところで自分の名を衰退させたくはない。

 

「……普通、神の試練って一回だよなぁ」

 

そう呟き、手紙を掴む。

が、抜けなかった。

 

何度引っ張っても、抜けない。

 

答えは簡単。圧力が強いのだ。

元々の胸の大きさが三征西班牙の中でもトップクラスのフアナ。そして、三征西班牙の制服がその大きさを強調するように押し上げているからだ。

 

セグンドは自分を落ち着かせ、ゆっくりと手紙を引き抜こうとする。

 

が、

 

「総長。やはり熟考したところ。総長のような大人の男性が、フアナ様のような真面目女教師系の方にそのようなこと――――」

 

そして再び、二人の目が合う。

 

「……」

「……」

「あの」

「Tes.――――そういうことにしておきましょう」

「早ッ! 展開早ッ!!」

 

セグンドが事情を説明しようとしたが、先に誾に閉ざされた。

 

「今度は八大竜王のフアナ様に寝たふりさせた上で乳挟みキャバレーごっことは。これまさにダブル快男児(ドプレマスチモ)。やはり宗茂様にもそこら辺の趣向が欲しかったところです。それでは御機嫌よう」

「うわあ、もうツッコまないぞ! ってだから帰ったらダメだって!」

 

と、誾が部屋から出ると同時に、手紙が抜けた。

しかし、その瞬間、フアナの制服の前面が一気にはだけた。

 

セグンドはすぐさま毛布を持ってきて、彼女にかける。

 

そしてそのまま手紙を持って、部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『おじさんへ

 

おじさんは元気ですか? 私は元気です。

おじさんは知っていますか? 今あの大きな雲の中で沢山のお船が作られています。

 

教導院のみんなは、「戦争だ」「戦争だ」って言っています。

 

私はおじさんに救われました。

もし戦争になったら、また、救いに来てくれますか?』

 

セグンドは、手紙を抱きしめるように、胸に当てる。

 

「勿論。おじさんは助けに行くよ――――――でも。今の大将はどうなんだろうね」

 

そう。誰とも無く呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

誾が教導院から帰ろうとすると、ふと、どこからか風を切る音が聞こえた。

 

……剣?

 

誰かが剣を振っている音だということが、一発で分かった。

音のする方向に行くと、そこには、大剣を振るうアルヴィスの姿があった。

 

西班牙のジャージを着て、おそらくは数百回はやったであろう素振りの結果として、汗が垂れていた。

 

「……」

 

誾はその様子を物陰からじっと見ていた。

やがて、振り終えたのか、大剣を地に置く。

 

「いつまでそこで見ているんだ。誾」

 

と、こちらにも聞こえるような声でこちらを向く。

隠れる理由もないので、誾は物陰から出る。

 

「熱心ですね」

「Tes.そうじゃないと。お前らに追いつけない」

「貴方の技量は最早特務クラスと判断しますが?」

「それじゃあダメだ」

 

ばっさりとそう切り捨てるアルヴィス。

 

「アイツに勝てなかった」

「アイツ……? ああ。武蔵の古代魔法使役士、ですか」

「Tes.まさか連結刃の機動をああも容易く見破るとは思わなかった」

 

と、アルヴィスは誾を見る。

 

「お前、こんな時間まで何してんだ?」

「Tes.総長を見つけましたので。とりあえずの伝言を」

「――――ああそうか。これから帰るのか?」

「Tes.貴方も早く帰って休んだほうがいいですよ」

「……そうすっかな」

 

そういうと、アルヴィスは持っていたタオルで汗を拭き、大剣を背負う。

 

見ると、誾は既に帰ろうとしていた。

 

「誾」

「……? はい。なんでしょう」

「あ、えっと……」

 

呼びかけたアルヴィスだが、言葉を探しているようで、指を空中でクルクルと回していた。

 

「……? 何も無いなら、私はこのまま帰りますが」

「あ、ああ――――気をつけて帰れよ」

「Tes.」

 

そういって、誾は帰っていった。

 

後に残されたアルヴィスは、地面を強く一回蹴る。

その顔は、自主練とは別に紅くなっていた。

 

「ああくそっ! …………やっぱ言えねえよ」

 

と、自分の頭を乱暴に掻くと、アルヴィスもそのまま帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「〝好き〟って言葉。マジで複雑……」

 




どうもKyoです。

ということでまさかの誾さん好きな男の子発生。

でも普通にいてもおかしくないと思うんですよ。アレだけ美人でねぇ……
その愛を勝ち取った宗茂さんマジで男。

次回こそ、点蔵モゲろタイムにしたい。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。



余談ですが。「Hello,Good-bye」というゲーム知ってる人いませんかね。


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土上の下り者

翌日。朝。

 

輸送艦に物資を運ぶため、武蔵が貿易艦を出した。

その理由としては、英国側が武蔵に対し通商会議を設けたいと提案してきたのだ。

 

これに応じる武蔵側は、一先ずの条件として輸送艦への物資輸送を取り付けた。

 

無論、輸送艦の人員に会いたいというものもいるだろう。

 

現に、葵・トーリは真っ先に輸送艦に乗り込もうとした。

牽引帯を歩けばいいのに、わざわざ飛行の符まで使って。

 

しかし、二代の『蜻蛉切』で符が割断され、馬鹿はそのまま海に落ちていった。

 

それを見た正純はため息をつく。

 

「何をやってるんだあの馬鹿は」

「いつも通りだと思うがな」

 

後ろに立つ葉月が正純に同意する。

 

「しかし。補給が届いてよかったよ。今夜は豪勢に食材を使うか」

「でも向こうの艦には先生もいましたわよね? となると――――」

「――――焼肉か」

 

と、肩を落とすように正純は言う。

すると、向こうから浅間が牽引帯を伝ってこちらに渡ってきた。

 

「ミト! 正純! 葉月君! 無事でしたか!」

「浅間! そっちはどうだった?」

「ええ。こちらは何事もなく。そちらは?」

「ああ。こっちも大丈夫だ」

「そうですか。良かったぁ」

 

浅間は胸をなでおろした。

 

と、浅間は視線を葉月に移した。

が、当の葉月は英国のほうを見ていて浅間には気づかなかった。

 

それを見た正純は、浅間に囁く。

 

「ここに来てからずっとこの調子だから。あまり気にするな」

「え、ええ。葉月君の生まれ故郷ですからね」

「知ってたのか?」

「Jud.」

 

正純は頷く。

 

「安心しろ。おそらく愛人とかじゃないと思うから」

「な、何言ってるんですか正純!?」

「大丈夫ですわ智。自信を持ってくださいな」

「ミ、ミトまで。……そ、そりゃあ私だって。この二週間会えなかったことでちょっと寂しいなー、なんて思ったりして、って何言わせるんですか!!?」

「いや。全部自分で言っただけだぞ」

 

正純が事実を指摘すると、浅間が頬を紅潮させる。

と、

 

「はぁぁぁぁぁづきぃぃぃぃぃぃ!!」

 

空から声がした。

見ると、銀髪碧眼の少女が葉月に向かって突撃していた。

 

葉月はそれに気づくが、一瞬遅く、そのまま少女のタックルを食らった。

 

「葉月! 大丈夫ですか!? 怪我はないですか!? そこらの女に初めてを奪われてませんか!?」

「よしOKニル。そこに正座しろ」

 

ガツンッ、と強烈な拳骨が少女に入った。

 

「ふぇぇ。だって心配したんですよー!」

「心配かけたことは謝る。が、それとこれとは話が別だ馬鹿」

 

はあ、とため息をつく葉月。

と、後ろの三人がこちらを見ていることに気づくと、少女を立たせる。

 

「悪いな。コイツは俺の契約精霊の一人だ」

「あ、はい。『闇』を司るニャルラトホテプと申します。気軽にニャル子、とかニルなどとお呼びください」

「さて。これからどうする」

「そうだな。まずは――――」

 

そう正純が言ったところで、悲鳴が聞こえてきた。

しかも輸送艦内からだ。

 

「……トーリだな」

「トーリ君ですね」

「あの馬鹿……」

 

全員が頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

英国。第四階層。海岸。

 

〝傷有り〟は海岸沿いを歩いていた。

海を見れば、そこには武蔵の輸送艦と物資の補給を行うために来た貿易艦がある。

 

ふと。前方から気配を感じる。

 

見ると、そこにはあの時自分を押し倒した武蔵の忍者が歩いてきた。

彼も、こちらに気づいたようだ。

 

「……あ、」

「……あの」

 

 

二人が近づくと、同時に言葉を発した。

すると、慌てるように忍者が言う。

 

「え、ええとで御座るな!」

「――どうして」

「い、いやー向こうの墓所のような場所の地盤がどうも歪んでいるので。地元の方々に知らせようかと」

「どうしてあのとき。私を止めたのだ」

 

純粋に、〝傷有り〟は質問した。

 

「貴殿は武蔵の第一特務と聞く。それほどのものならば、私の術式を理解していないわけではあるまい」

「ああ。いや自分。術式には疎いもので。全く気づかなかったで御座るよ」

 

嘘だ。

彼は、嘘をついている。

 

「どうして損をしようとする!」

「まあ、こちらの不注意で御座った」

「ッ……」

 

不意に、頭を下げられた。

こうなっては、もう何も言えない。

と、彼の前に表示枠が現れた。

 

全裸だった。

 

『おーいテンゾー!』

 

そういう全裸は股間の部分に何故かワカメをつけていてくねくねと踊っているようだった。

 

『ソイツと片付けちまえば、それでいいんじゃね? オメエ言ってたろ。あの墓所は直すか移設が必要でおじゃる、とかって』

「ご、語尾が違うで御座るよ! それ公家! 公家系に御座る!」

 

忍者が否定する。

 

表示枠の者は相変わらずくねくねしている。

どうにも体が濡れている上全裸だ。何かの精霊なのだろうか。

仮に湿った手の男(ウェットマン)と名づけておこう。

 

湿った手の男がこちらを向く。

 

『んでよ。そこの長衣の旦那。アンタこれからどうすんだ?』

 

そう聞かれ、懐から本を出して、答える。

 

「……墓所の確認と。補修、または移設の決定と作業を行おうと思っている」

『じゃあ話は早えな。テンゾー。オメエちょっと手伝ってやれよ』

「え、いや。しかし、で御座るな……」

「Jud.」

 

頷くと、忍者の脇を通り、墓所へと向かう。

 

「あ、ちょっ、待つで御座るよ!」

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

墓所では、既に〝傷有り〟と点蔵が作業をしていた。

といっても、点蔵は墓標の剣を引き抜き、〝傷有り〟は足元に居る精霊たちに指示を飛ばしているだけだ。

 

名は犬鬼(コボルド)。労働の精霊で、対価を払うことで仕事をする鉱脈の精霊。

 

といってもサイズは本当に小さく、複数の犬鬼で一本の剣を持っている。

 

「うーむ。見事な指示で御座るな」

「犬鬼は単純な命令しか受け付けないが。仕事を割り振ってやれば、大きな業務を担うことが出来る」

「成程」

 

そういって点蔵は近くの剣を一本引き抜いた。

 

「よくそう簡単に引き抜けるものだな」

「何。ちょっとしたコツで御座る。まず真っ直ぐに刺す」

 

と、剣を押すと、地面の穴に広がりが出来る。

 

「こうすることによって。穴が広がるで御座る。あとは引き抜く」

 

ガッ、と音がして剣が引き抜かれた。

それを剣の山に載せる。

 

「ご覧の通りで御座る」

「貴殿なら。あの『王賜剣二型(Ex.カリバーン)』を抜けるかもしれないな」

「無理で御座ろう。メアリ様とやらでも、抜けなかったので御座ろう?」

 

点蔵がそういうと、〝傷有り〟は話し始めた。

 

「〝重双血塗れメアリ〟は不出来な女だ」

「王の器ではなかったので御座るか?」

 

Jud.と〝傷有り〟は頷く。

 

「メアリ・スチュアートとメアリ・チューダー。二人の王女の二重襲名者なら、あるいは、とも言われていたのだがな。その上。彼女の処刑が、アルマダ海戦の引き金になるのだから――――メアリという名は、英国に祟る、としか言いようがない」

「大変で御座ろうな」

 

そう、点蔵は言った。

〝傷有り〟は、顔を上げ、点蔵を見る。

 

「何故だ。その生き様は、英国に必要なのだぞ! それを大変とは――――」

「あらゆる損を自ら引き受けるとは。大変としか。自分。言葉を持たぬで御座るよ」

 

〝傷有り〟はハッとする。

先ほどの問答でもそうだった。

 

彼は自分が損を請け負うことで、こちらへの負担をなくした。

 

「――では。そんな馬鹿なことをするのは、なぜだと思う」

 

と〝傷有り〟は問う。

だが、答えはもう分かっていた。それは――――

 

「自分がやらなければ。誰かが損をするからで御座る」

 

しかし、と点蔵は続ける。

 

「そうだったとしても。辛くなるときや、傷つくときが御座ろう。そんなとき。味方になってくれる誰かが傍にいてくれると、良いで御座るな」

「……」

 

〝傷有り〟が黙ってしまった。

 

……しもうたあああああ! やらかしたあああああ!!

 

と、点蔵は直感的に思った。

 

「ああいや! 過ぎたことを言ったで御座る!!」

 

直後、股間にドゴッ、という鈍い打撃音が響いた。

見ると、犬鬼が石をこちらに投げつけたようだった。

 

『反省するど』

 

鈍い痛み。しかし、忍としての訓練を受けているため。多少の痛みは我慢できる。

……最も、痛いということに変わりはないが。

 

「どうした?」

「いや……なんでもないで御座るよ」

 

不審に思った〝傷有り〟は、点蔵に近づく。

が、剣を抜いた穴に足を引っ掛けて前のめりになった。

 

それに気づいた点蔵は、即座に切り替え、〝傷有り〟を庇う。

その際、剣に〝傷有り〟が纏っていた衣が引っかかり裂けてしまった。

 

点蔵は、怪我がないか〝傷有り〟を見る。

 

 

 

しかし、そこにいたのは、ふんわりとした金髪をした可愛らしい女性だった。

 

 

 

「ど、どうも。ありがとう、ございます」

 

と、透き通るような声でお礼を言われた。

 

(え、ええ!? ど、どういうことで御座るかこれは! 〝傷有り〟殿が女性、しかも金髪巨乳!? 自分、ついに脳内が現実を拒否し始めて二次元が代わりに出てきたで御座るか!! そ、そうで御座るよ! そうに違いないで御座る! ほぉら。確認すればさくっと理想の現実が崩れるで御座るよー!!)

「え、ええっと。〝傷有り〟、殿?」

「あ、はい。Jud.」

 

……本人だった――――――で御座る!!

 

慌てて点蔵は〝傷有り〟から退こうとするが、その腕を掴まれた。

 

……う、腕掴まれたで御座るよ。掴まれちゃったで御座るよ!?

 

「あの。本、落ちてませんか?」

「ほ、本?」

 

点蔵が辺りを見ると、少し離れたところに小さな焦げ茶色の表紙の本があった。

点蔵はそれを手に取り、タイトルを見る。

 

……極東語スラング辞典?

 

それを〝傷有り〟に渡す。

 

「良かったぁ。女だと嘗められるのでいけないので、って。ミルトンが」

『嘗めたらぶちこむど』

 

後ろの犬鬼がやかましい。

 

点蔵は、〝傷有り〟を見る。

 

「それは大変で御座ったな。自分と話すのも苦労したで御座ろう。この点蔵。ありがたく思うで御座る」

 

瞬間、〝傷有り〟は目の端に涙を浮かべた。

 

…………またやらかしたあああああああああ!!

 

「ッ。す、すまんで御座る! 自分、何か傷つくようなことを!?」

「い、いえ。ただその。嬉しくて」

 

そういって涙を拭い、微笑む。

 

ああ、なんと綺麗な顔で微笑むのだろうか。と点蔵は内心思っていた。

 

ウチのクラスは外道ばっかで御座るからな……いや。葉月殿や神耶殿はそこまで酷くないにしても男で御座るし。正純殿も、最近は武蔵の空気に中てられてきてるで御座るし。

 

「あの。私が女だということ。黙っておいてくれませんか?」

「Jud.よう御座る。忍者は秘匿を守る職務故」

「ありがとうございます。えっと……点蔵様、でよろしいんですよね?」

 

……様付けキタ――――――!!

 

心の中で狂喜乱舞していると、表示枠が不意に開いて全裸が映し出された。

 

『テンゾー。ちょっと頼まれてくれねえ?』

「な、ななななんで御座るかトーリ殿!?」

 

点蔵は、〝傷有り〟を隠すように表示枠の前に立つ。

 

……何というタイミングの悪さ。トーリ殿。もしやわざとやっているのではなかろうか。

 

『なんか姉ちゃんが風呂が欲しいとか天才じみたこと言ってさ。だからさ。温泉、ねえかな?』

「温泉、で御座るか」

 

点蔵は〝傷有り〟を見る。

 

しかし、彼女もどうやら温泉の在処は知らないようだ。

 

と、ここで点蔵は何かを思いついたのかJud.と返事をして表示枠を消した。

 

「〝傷有り〟殿」

「Jud.何でしょう?」

「――――ちょっと犬鬼を借りるで御座るよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「姉ちゃん! テンゾーがなんとかしてみるってよ!」

「フフフよくやったわ愚弟。あのパシリ忍者はよく働くこと」

「手伝いに行ったほうがいいかなー?」

 

甲板上では、トーリを始めとした梅組の数人が集まっていた。

 

その内、神耶が点蔵のところへ行こうとするが。喜美に止められた。

 

「ダメよ神耶。アンタ髪が傷みやすいんだから。ただでさえ潮風でザラつき始めているのに。あの忍者の手伝いなんかしたら泥まみれよ」

「いやー。別に女の子じゃないからいいよ。そこまで髪質気にしてないし」

「聞いた愚弟!? 気にしてないのにこの髪のツヤよ!! サラサラ具合よ! 賢姉が毎日毎日毎日毎日、髪のお手入れや肌ケアをしてるっていうのにこの完璧男の娘はそれすらしてないのよ! それでいて女顔負けの肌と髪よ!! ねえこれ賢姉の負け? 負けなの!?」

「姉ちゃんいい空気吸いすぎだぜ! あとそれは神耶が特別なんだと思うぜ! なんたって武蔵が誇る最強の男の娘だもんな!」

「……最凶、の間違いじゃないのか?」

「何か言った葉月?」

 

にっこりと、笑顔を浮かべて葉月を見上げる神耶。

葉月は、別にといって顔を逸らす。

 

「ッ、何者ですの!!」

 

刹那、ネイトが背後に向かって銀鎖を投じる。

が、見えない壁に阻まれるかのように、弾かれた。

 

すると、今まで誰もいなかった場所から、人影が現れた。

 

(個人用のステルス術式ッ……)

 

すると、隠れていた人物が出てきた。

 

「やあすまないPeople――――脅かすつもりはなかったと、信じてくれるかね」

「『女王の盾符』の9、ベン・ジョンソン!!」

「覚えてもらえて光栄だLady」

 

黒人の詩人は左にずれる。

 

すると、そこから現れたのは、赤髪の自動人形だった。

 

「紹介しよう。2のF・ウオルシンガムだ。私の護衛役として来ている。そして――――」

 

ウオルシンガムの後ろからさらに一人の男性が出てきた。

眼鏡をかけた背の低い男だ。

 

「彼は7のチャールズ・ハワード。英国の会計であり。英国艦隊の所有者だ」

 

そういうと、彼は甲板上に降り立つ。

ネイトが警戒する中、彼は両手を上に上げる。

 

何かの攻撃か、と全員が思う中、彼は突然、膝を突く。

 

そして、挙げた両手を床に着き、さらに頭を着ける。

 

各国の会計は、そのまま商人である場合が多い。

武蔵も、シロジロとハイディは「○べ屋」という商会の幹部だ。

 

そして、商人であるならば必須のスキルがある。

それが、このDOGEZAである。

 

「お願いします。英国を、救っていただけないでしょうか!!」

 

そういってDOGEZAを継続するハワード。

その場にいたハイディは自分とシロジロの共通走狗、白狐のエリマキに撮影をさせている。

 

その後ろでは、

 

「……ミト。彼の土下座見た瞬間、固まりましたよね?」

「し、仕方ないでしょう! アレだけ見事な土下座。見たことありませんもの」

「私も土下座する人間を見るのは初めてだが。あれほどか……」

「ちなみにシロはもっと凄いぜ! な、姉ちゃん」

「フフフそうね。きっとあの守銭奴が土下座ったら、英国の連中度肝を抜かれるでしょうね」

 

円陣を組んでひそひそと話していた。

 

その中、葉月は『女王の盾符』の一人。ウオルシンガムを見つめていた。

向こうも、葉月を見ていた。

 

葉月は、ふっ、と笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Fine?」

「Jud.久しいな。ウォルシー」

 




どうもKyoです。

さーて。ここから大変だ(何

自分で大変にしておいて今更何を、と思うでしょうが。何かこう、次々とこうしたいああしたいと思っているうちにこうなってしまったので……

ちなみに自動人形であるウオルシンガムさんが出来た日は分かりません。
誰か知っている方が居たらお教えください。ソッコで直します。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

次回は通商会議。ホライゾンの魅力の一つでもあります。頑張ります。








さあ用意はいいですかー? 皆さん一緒に…………

点蔵モゲろ!!!!!!


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交渉場の戦闘者達

三征西班牙。アルカラ・デ・エナレス。

その中庭に、アルヴィスはいた。

 

逆立ちしながら。

 

アルヴィスはその状態のまま。中庭を歩いていた。

足と腕に重りをつけながら。

 

そのままの状態で、一周、二周としていると、誰かが近づいてきた。

 

「何やってんのー?」

「んー? ああ。フローレスか」

 

位置を調整してみると、そこには、金髪をショートカットにした活発そうな少女。フローレス・バルデスがいた。

 

「まあ。見ての通り自主トレ」

「そんなハードな自主トレあってたまりますか。野球部ですらしないのに」

「この間花火を抱えてランニングしている姿を見かけたが?」

「……ああ。アレはゲーム。花火鬼ごっこ」

「どれだけ命がけなんだよ……」

 

よっと、とアルヴィスは逆立ち状態から腕の力だけで飛び上がり一回転し、見事に着地した。

 

「器用なもんねー。あ、これ落ちてた」

 

と、差し出したのは白いタオルだった。

隅のほうには、アルヴィスの名前が刺繍されていた。

 

「サンキュ。後で取ろうと思ってたんだが。面倒になってな」

「物臭は良くないよ。あとこれ」

 

そういって出したのは、スポーツドリンクの入ったボトルだった。

 

「水分補給も忘れて何時間やるつもりなのか」

「重ねてサンキュ。今度何か礼をしなきゃな」

「あ、じゃあ今度一緒に買い物付き合ってよ。兄貴一人じゃ荷物持ち無理だし」

「荷物持ちね。Tes.んじゃ後で通神文で送っといてくれ」

「Tes.」

 

そういうと、アルヴィスはエナレスの校舎に戻っていった。

 

残されたフローレスは、その場でぐっと拳を握る。

 

「……よし」

「何がよし、なんだ。妹よ」

 

後ろから声がした。

フローレスが神速ともいえる速さで振り向くと、そこには、木に擬態していたペテロ・バルデスがいた。

 

「……何してんの。兄貴。いや。兄木」

「フッ。妹よ。上手いことを言ったつもりでも。兄は兄だぞ」

「――――今の。どこから見ていたの」

「どこから、か。そうだな。確かアルヴィスを遠くからお前が見つめていてドリンクを準備したり、台詞の練習をしていた辺りから兄は見ていたな」

「ほぼ全部、ってか練習試合も見ていた感じかっ!!」

 

ドゴッ、と擬態用の術式模型が破壊された。

 

出てきたペテロに対し、フローレスは常備している白球を兄の股間目掛けて投げた。

直後、一瞬硬直したかと思うと、そのまま白目を剥いて倒れた。

 

フローレスは真っ赤な顔を隠しながら、その場を去る。

 

「……絶対。空振り三振で打ち取ってやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

武蔵。貿易艦上。

 

そこでは、英国と武蔵の会議が行われようとしていた。

が、まずは友好、ということで。武蔵から料理が振舞われた。

 

――――魚の刺身にカレーをかけた、明らかに常識ではかれるような料理ではない料理が出された。

 

それも英国側だけに。

 

「武蔵名産。とれたて刺身のカレーがけです。さあどうぞ。ああ。私たちのことはお気になさらずに。後でいただきますので」

 

どんな言い訳だ。葉月は内心思っている。

 

薦められるがままに、チャールズ・ハワードが口に運ぶが即座に口を押さえる。

 

「――俺も手伝ったほうが良かったかなぁ」

「そのほうが良かったかもしれませんわねぇ……」

 

と、隣に立つネイトがしみじみと言う。

 

「……だからといって肉料理にするとお前が暴走するからなぁ」

「し、しませんわよそんなこと!」

「冗談だ。にしても――――」

 

葉月はネイトの前にある表示枠を見る。

そこには、いつもとは違う、文章と、それぞれの顔がデフォルメされた絵とハンドルネームが表示されていた。

 

通神と違い、文字だけで話す。通称実況通神(チャット)システム。

 

「便利だよな。それ」

「葉月も契約したらどうですの?」

「んー。したいんだけど。ちょっと……」

「……? 何かありましたの?」

「昔なぁ」

 

葉月は懐かしむような、しかし決して思い出したくないような顔をして話す。

 

「昔、契約をしないかって、浅間に誘われて。でも俺。携帯社務だけで事足りると思ってたからさ。でも浅間。結構食い下がってくるから」

「あはは。まあ、昔からそうでしたものね」

「で。ある日勧誘に来た浅間がな。どうやらトーリを撃った後らしくてな。弓矢構えたまま来たから…………ちょっとトラウマになってな」

「……何かゴメンなさいですの」

「そのときの形相は、その…………うん。察してくれ」

「重ねてスミマセン」

 

ネイトが申し訳なく謝ると、鍵盤を操作する。

 

銀 狼:『智……あなた何をやってますの昔に』

あさま:『はい? 昔って何がです?』

● 画:『ひょっとして小等部の乱射事件の事?』

俺  :『もしくは殺害未遂じゃね? 現在進行形だけど』

賢姉様:『ククク馬鹿ね愚弟。そんなの常時エロい姿で誘惑している罪に決まってるじゃないの!』

あさま:『巫女! 私巫女ですから! そういうの禁止ですから! というか私別に何もしてませんけど!?』

銀 狼:『葉月が契約したがらない理由が分かりましたわ……』

あさま:『あ、あれはですね……か、怪異が出てそれを私が祓いに行った帰りなんですよ! 本当ですよー?』

 

どの道それが幼い葉月を怖がらせる原因になったのだろう。

 

と、意識を目の前の会談に戻す。

そろそろ始まるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「さて。では今回の貿易の件についてですが――――」

「Tes! 何でしょう!」

 

ハワードが身を乗り出さんばかりに食らいつく。

シロジロは冷静に、目を閉じてこういう。

 

「無しにしよう。うん。それがいい」

 

その瞬間、ハワードが猛烈な勢いで鼻血を噴いた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

白金狐:『出血多量で死んだらこっちの責任かなぁ?』

○べ屋:『平気平気。だって向こうが勝手に鼻血噴いてるだけだもの』

俺  :『つーかアレだけの勢いで鼻血噴けるってすごくね? 俺もやってみてーぜ!』

ホラ子:『ほほう。トーリ様は鼻血を噴きたいと申しますか。ではこちらを向いてください。すぐに噴かせてあげますので』

白金狐:『まあトーリは放っておくとして。今回、英国は武蔵に何を求めてるの? 食料品?』

○べ屋:『Jud.それもお肉なの。今の武蔵には三河で仕入れた食肉が2000トンあるの』

あさま:『2000トン!? そんなにあるんですか』

○べ屋:『そう。ちょうど英国が一ヶ月で消費する量ね』

 

英国の国民は、一年に自分と同じ体重分の肉を食する。

だが、ここで問題が出てくる。

 

煙草女:『ちょっと待ちな。三河って。あれからどれくらい経ってると思ってるんだい?』

 

所変わって、アリアダスト教導院では。

オリオトライ、ヨシナオ、東が表示枠を見ていた。

 

そこで、直政の言の意味に気づいた東が話す。

 

「そうか。賞味期限が近いんだ」

「Jud.そう。術式も含めた冷凍保存でも。あと二週間ほどが限界であろうな」

「腐りかけの肉って、美味しいから先生大好き♪」

「えぇ……」

「味は別として。期限の迫った肉など買い叩かれるのが常。さて。この商談はどう纏めるかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ハワードが鼻血を拭き終わると、シロジロは話を続ける。

 

「貿易をしない理由は一つ。我々は聖連に睨まれている。そんな我々と貿易を行ったら、英国は聖連に逆らった、という印象を与えてしまう。それは、我々の望むところではない」

「T、Tes.しかし。我が英国は、対三征西班牙との戦いを間近に控えています」

「Jud.アルマダ海戦ですな。開始がいつか、聞いても?」

「機密ゆえ、明言は出来ません」

 

しかし、

 

「それまでに武蔵の物資を消費しきれるかどうか。そこが問題ですな」

 

ここで、同席していた正純はハッとする。

 

(武蔵の肉の賞味期限は二週間。それまでに消費しきれるかどうか、ということは――――)

 

と、正純の膝に乗っているエリマキが映している表示枠が新たに更新された。

 

○べ屋:『英国は二週間後にアルマダ海戦を始める気ね』

● 画:『でもそれまでに2000トンの肉を消費できるの?』

金マル:『保存食に加工するとか?』

礼賛者:『英国の処理能力ですと。昼夜問わず、国を挙げてフルでやれば一週間で加工できます』

○べ屋:『ということは。賞味期限二週間の肉を、貿易開始を一週間延ばして、買い叩きにくるわね』

 

シロジロは更に続ける。

 

「武蔵としても。英国の危機を救いたいとは思う。そして、貴国が聖連に睨まれないようにする必要もある」

「そのような方法がありますか?」

「ある」

「それは?」

「――武蔵と英国が合同で行う、春季学園祭だ」

 

ハワードは考え込むように下を向く。

 

「祭りともなれば。武蔵生徒会の屋台では、肉に限らず。多種多様な貿易品目を扱うことになる」

「Tes.では!」

「祭りの期間を、決めようか」

 

白金狐:『でも結局。二週間の賞味期限の肉を売るわけだよね? 売れるの?』

○べ屋:『Jud.祭りとなれば、皆宴会状態になるから。通常の二倍消費も可能。そうなると、一か月分の肉が捌けるのに必要な時間は――――』

 

「二週間だ」

 

俺  :『えーと――――よく分かりません!』

白金狐:『自信満々に言わないの』

○べ屋:『向こうが一週間で備蓄加工できることを隠して交渉してくるなら、こっちは祭りの二倍消費を前提に交渉しちゃおうって話』

 

シロジロの提案。が、向こうは首を横に振る。

 

「三日」

 

白金狐:『短ッ!』

賢姉様:『加工に必要な日数を考えずに、とにかく交渉を有利にするために少ない日数で来たわね』

○べ屋:『利益率を考えると、こっちが赤字にならないギリギリのラインは十一日。譲れるのはそこまでね』

 

「一週間と、準備に七日」

「三日と、準備に一日」

「一週間と五日」

 

ここでシロジロは一気に二日縮めてきた。

一瞬、ハワードが警戒するがそれもすぐになくなる。

 

「三日と二日」

「スコットランドへの輸送はこちらで行おう」

 

成程、とハワードは思う。

……時間を、別の手段で買う気ですね。

 

だが、これでもOKは出さない。

 

「では。祭りに余裕が持てそうなので。三日と準備に三日」

「一週間と、二日。合計九日でどうだろうか?」

 

ここで正純はシロジロを見る。

 

(一気に三日も縮める? 損益分岐を割っても、祭りの副次収入で取り返すつもりか?)

 

と、そんな正純の思考を読んでか読まずか、実況通神に書き込みがあった。

 

白金狐:『大丈夫だよ正純。シロジロは、確実に儲かる策しか使わないから』

 

その書き込みを見て、正純は小さく頷き、相手を見る。

 

「では。そちらの負担を減らすために。上陸許可範囲を広げましょう。第三、及び第二階層までの上陸を認めます。その上で、一日分を譲歩いたしまして――――」

 

ハワードは笑みを浮かべながら言う。

 

「祭りを三日。準備を四日。これで七日ですが。まあもう一日分譲歩しましょう――――――八日。これで同意を頂きたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「状況的に見て、ピンチではないでしょうか」

 

表示枠越しに、交渉を見ているホライゾンが言う。

その隣には全裸が居た。

 

「何で?」

「向こうが勝手に交渉を打ち切ってきました」

 

確かに。

今も向こうはこちらの返事を待っている状態で、おそらくこちらが何か言えば、それを引き金に交渉を終了させるつもりなのだろう。

 

だが、全裸はにやりと笑って交渉の席を指す。

 

「あそこにいるの。誰かわかるか?」

「……? シロジロ・ベルトーニ様ですが」

「そう。シロジロ・ベルトーニだ。そしてアイツは、武蔵の会計だ。向こうに出来て、こっちに出来ないことは無いんだよ」

 

すると、変化があった。

 

シロジロが立ち上がったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

即座に反応したのが、英国の護衛。ウオルシンガム。

だが、

 

「お待ちを」

 

その後ろでネイトが銀鎖を構える。

ウオルシンガムはその場で止まり、ネイトを見て、葉月を見る。

 

葉月は、いいから止まれといった感じのジェスチャーをしている。

 

ウオルシンガムが止まると、シロジロはハワードたちの前に立つ。

 

そして――――空へと跳んだ。

 

空中で一回転し、垂直に立つと両手を左右に広げた。

そして、落下しながら回転を始めた。

 

そのまま地上に降り立っても尚、回転は止まらず、強烈な回転により突風が生まれた。

ハワードは思わず腕で顔をガードした。

 

ハワードが腕を下ろし、相手を見ると、そこには――――

 

「その日数では無理ゆえ、御譲歩を!」

 

菓子箱を掲げ、土下座をしているシロジロがいた。

ハワードの背に戦慄という名の寒気が走る。

 

○べ屋:『やっだもうシロ君ってば! トリプルアクセル土下座だなんて、中学のインターミドルで使って以来だけど、あのときよりも更に回転と精度が増してる! 密かに練習を重ねてたのね! カッコいい!!』

白金狐:『これ、どうなってんの? というかどこから菓子箱を?』

あさま:『多分、ツッコんだら負けだと思います』

 

武蔵勢は誰一人として驚かなかった。

 

しかし、ハワードは未だに土下座のシロジロに感服していた。

 

……これが本場の土下座ですか。見事です!

 

土下座。それは如何なる陳情をも相手に通すことの出来る究極の交渉術。

由来は極東。故に、極東の商人は全員これをマスターしているのだとか。

自分も、英国の会計ではあるが。極東の商人用に土下座は必須科目となっている。

 

全身のバネを使っての、肉体の能力が問われる技能でもあるため。戦闘系ではない自分でも、それなりの筋力や身体能力を要求される。

 

しかも、土下座にもバリエーションはある。

今シロジロ・ベルトーニが行っているトリプルアクセル土下座もその一つだ。

 

しかも。この目の前の商人は、それを完璧、といえるほどの完成度を誇った土下座をこちらに見せた。

 

極東の制服特有の、長い裾や袖を乱すことなく、あまつさえ菓子箱まで。

 

「……面を上げてください」

 

と、ハワードは言うが。シロジロは微動だにしない。

だがそれも。

 

……見事!

 

土下座とは、本来相手の許しによって解いてよいものではない。

土下座を解くとき。それは自分の要求が通ったときだ。

 

如何なる罵倒もその頭の上を通り過ぎる。究極の攻撃であると同時に、究極の防御なのだ。

 

これには、自分は応じなければならない。何故なら――――

 

……この会談を始めるために、自分が土下座で譲歩したからです。

 

ここで相手の土下座を受け入れなければ、自分の土下座はただのファッションになってしまう。

ハワードは意を決する。

 

「九日! 祭りを三日。準備を六日で如何でしょう!」

 

それを表示枠越しに聞いていた東は感動するように声を上げる。

 

「土下座って凄いんですね、先生!」

「素人が真似しちゃダメよー。危ないから」

 

それに、とオリオトライは続ける。

 

「九日? そんなんじゃないでしょ。先生交渉とかは専門外だけど。いつもちゃんと言ってるはずよ――――中途半端はするな、って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

シロジロは土下座を解くと、菓子箱を相手方に置く。

 

「Jud.譲歩、ありがたいことだ」

「Tes.では!」

 

と、ハワードが若干の焦りを見せ始めた。

しかし、シロジロは、

 

「いや。見事な交渉でした。完敗です。ゆえに。こちらから追加譲歩したい」

「お断りする!」

 

ハワードが急いで言う。

が、シロジロは続けた。

 

「いえいえ。これはいわばサービス。無償です。ええ。無料ですとも。極東の商人はアフターケアも万全でなければいけませんので」

 

その中、正純は考える。

 

(だが、損益分岐の最低ラインは十一日。九日だと、祭りの副次収入で取り返せるかどうか、というところだが)

 

しかし、シロジロの発言はまだ終了していなかった。

 

「この交渉で。色々と私共は賢しらなことを言いました。ゆえに、その反省として――――全部ひっくるめて、期間を三日としましょう。うん。それがいい」

 

ハワードの顔が真っ青になって、今度は耳から血が吹き出た。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

白金狐:『結構愉快な人だね』

貧従士:『いや。あれを愉快と言いますか……』

○べ屋:『いっそ全ての血液噴出すくらい驚かせてやろうかなー』

約全員:『殺害予告するなよ!!』

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

耳から血が吹き出たため、隣に居たジョンソンはすぐさま椅子を引いて避ける。

 

「Mate! 止血だ!」

 

と、後ろにいるウオルシンガムにジョンソンは言う。

 

「This way?」

 

ウオルシンガムがハワードに近づくと、両耳の辺りに水平チョップを加えた。

直後、ハワードが崩れるように机に沈んだ。

 

労働者:『脳震盪だな』

白金狐:『止血方法間違ってるよね』

 

すると、両手を付きながらなんとか起き上がろうとするハワード。

 

「え、ええと。動かせぬためこのままで失礼しますが――――三日!?」

「Jud.」

 

シロジロは相変わらずの無表情。

ハワードは状況を理解しようと、何とか起き上がる。

 

(これは、ブラフの逆用か。三日では英国は肉を加工しきれない。しかも輸送や上陸許可まで取り付けて。この商人コンビは……)

 

凄まじい、と正純が感じる間もなく、ハワードが発言する。

 

「Tes.その譲歩、ありがたく受け取りたい――――しかし。あなた方に今以上の負担をかけること。それは、偉大なる英国と温情ある妖精女王と、その僕である『女王の盾符』は望みません」

 

故に、

 

「祭りを五日。準備を四日では?」

「祭りは三日。準備を二日。余裕を持つにしても。これで十分だと思うのだが」

 

ここが正念場だと、シロジロは喰らいついた相手を離さない。

 

「――――十日。祭りを六日。準備を四日。これで、負担無く作業出来ませんか?」

 

と、ここで表示枠でハイディが打ちこんだ。

 

○べ屋:『交渉の完全撤廃を匂わせてるね。向こうも損が大きいと判断したから、これ以上だと打ち切られちゃうね』

 

だとしたら、

 

「休日を挟んでいないな。祭りを六日。休日を一日。準備を四日。合計十一日でどうだろうか」

「…………Te――」

「もう一声――――向井! 聞いているか?」

 

と、ここで正純はその意図が分かった。

故に、その発言を遮る。

 

「待てベルトーニ。それはお前が決定すべきことじゃない」

「Jud.では副会長。頼む」

「Jud.」

 

ハイディが表示枠を正純に渡す。

そこには、鈴が映っていた。

 

「向井。君を臨時の外交大使として、倫敦に派遣する」

『――――え?』

「通神の自由と、アデーレ。君を護衛につける」

『ほぇ? あ、はい。Jud.です』

『ど、どうして? わた、し、なの? わたし、よく、わから、ないよ?』

『あははは。大丈夫だよ鈴ー。問題ないから』

 

と、神耶が通神に入ってきた。

それと同時にトーリも入ってきた。

 

『ど、どう、して?』

『そりゃ簡単だぜベルさん。俺たちの中で一番物言えて、頑固で、そんでもって。自分を大切にしてるのって。ベルさんだから』

『そうそう。他の連中じゃ、そうはいかないから。トーリじゃ絶対に失敗するし』

『キ、キツいぜ神耶! それに気にすんなよベルさん! 何かあったら貧乳スベリ女が何とかしてぐふぉあ! セ、セージュン、オメェコントロールよくなったな!』

 

正純が空になった手持ちの湯飲みをトーリ目掛けて投げた。

それを見ていた鈴は、正純に言う。

 

『正純、ダメ! ツッコミ、ホライゾン、の、仕事……』

 

……そういう問題かなぁ。

 

やや疑問は残ったが、とにかく、

 

「やってくれるか?」

『だ、大丈夫、かな?』

『平気だって。ベルさんが少しでも違うって感じたら、ダメ、って言えばいいからよ』

『それで、いい、の?』

『Jud.それに。俺がベルさんに頼むって事は、ベルさんのそこがいいってことだぜ』

『じ、じゃあ、やる、ね』

 

正純は内心一息つくと、次の指示を出す。

 

「葵。向井の護衛に二代を出せるか?」

『んお? おお。余裕余裕』

『拙者で御座るか?』

「Jud.彼女は武蔵の外交官だ。意味は分かるな」

 

外交官とはつまるところ、その国の代表の代理だ。つまりこの場合、

 

『極東の代理人。それは、姫ホライゾン様の代理人に御座るな。Jud.了解に御座る!』

 

正純は自分のなすべきことをなした。

それをシロジロに目配せで伝えると、シロジロは再びハワードたちに向き直る。

 

「人質としては、申し分なかろう? 武蔵から主力を引き離せるのだから。商人としては、これ以上ない成果ではないか?」

「Tes.では。祭りを七日。休日を一日、準備を――――そうですね。ここまで来たら、五日の十三日で合意としましょう」

「Jud.」

 

そういってお互いに立ち上がると、表示枠を手に乗せ、握手を交わす。

すると、互いの表示枠が浮かび上がり、そして光となって消えていった。

 

「では。二日の整理期間の後、学園祭期間に入るということで」

「Tes.いい御商売と結果を」

「Jud.いい御商売と結果を」

 

こうして、会談が終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ああ。早く会いたい!

ようやく来てくれた。ようやく、ようやく来てくれた!

 

会いたい。

もう何もかも投げ出して、会いたいよ!

 

でも、そういうわけにもいかないか。

投げ出すと、怒られるし。怒ると怖いし。

 

だから、ああ。早く来て。

一緒にお茶をしよう。お話ししよう。

大きくなった私を見て! 絶対に綺麗になったって言わせるから!

 

だから、会いに来て?

 

私の、愛しい人――――

 




どうもKyoです。

いやー。本当に長くなった。
何なんだよ。一万字越えって……

今回は、ほとんど商人会話でした。

そしてようやく実況通神システム解禁……英国に入るまでは使わないと決めてました。
その分。これからバンバン使いますが。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に。無上の感謝を。

次回は、焼肉。そして。東、再び。



あ、一応先に言っておくと。ウオルシンガムは落としません。これ確定。
一瞬、「あ、それもありかな」と思った自分がいるのは秘密。

……次回も点蔵モゲろ回、かなぁ。


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風呂場の捥がれ人

It's a TENZO MOGERO time!


英国。第四階層海岸。

時刻は夜。

 

そこでは、盛大な焼肉パーティが行われようとしていた。

 

そして、音頭を取るため、シロジロが前に出る。

 

「では。武蔵アリアダスト教導院会計の、シロジロ・ベルトーニが代表して。明後日からの春季学園祭の準備と。両国における友好と――――私の金と私腹のために!」

「お前少しは本音を隠せよ!!」

 

あんまりといえばあんまりな音頭の取り方だ。

周りのものはそんな彼に対してツッコミを入れるが、当の本人はまったく気にしていない。

 

「シロ君シロ君。本音は最後まで隠しておいたほうがいいと思うの」

「むっ。それもそうか。よし。ならば改めて――――表向き、英国と武蔵の春季学園祭の成功を一応、祈って乾杯ー!」

「――――乾杯」

 

最早ツッコむことを諦めたようだった。

そんな中、既に麦酒を飲んで顔を赤くしているオリオトライが酒の入った杯を持って、

 

「他人の金で焼肉開始――!!」

 

声とともに、焼肉パーティが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

正純は困惑していた。

 

元々、彼女は肉よりも野菜重視で摂るタイプなのだ。

そも、あまり焼肉を食べたことが無い。

 

生粋の極東人である正純としては、食卓に三品ないと、とか、汁物はないかな、とか。思ってしまうのだ。

 

ふと、自分の隣に座っているネイトを見る。

 

すると、その皿には大量の野菜が乗っていた。

 

はっ、として鉄板の上を見ると、そこには先ほどまであった野菜類が全部消えていた。

唖然として再びネイトを見ると、もう野菜は消えていた。

 

「ふぅ。さて。野菜全部食べてしまいましたので。後はお肉だけですわね!」

 

……まさに狼。

 

というか、

 

「野菜が……」

 

驚きすぎてて忘れてた。

別に、肉を食べることに忌避は無い。

だが、野菜が好きな正純としてはないというのはどうも落ち着かないようだ。

 

と、肩を叩かれた。

振り向くと、そこには野菜の大皿を持った茶髪の少女がいた。

 

「――――(あげる)

「あ、ああ。Jud.ええっと……」

 

おそらく白百合の精霊なのだろうな、と正純は思うが名前が分からない。

 

すると、こちらの疑問を察知したのか、向こうから自己紹介をしてきた。

 

「――――『土』司(つちをつかさどる)。アーシー」

 

随分と独特な話し方をするんだなぁ。

 

思えば精霊には結構驚かされる。

 

銀髪の精霊は、事ある毎に葉月にアタックしかけているし。

赤髪の精霊は、銀髪の精霊にアタックしているし。

黄色の髪の精霊は、御広敷が近寄るたびに誰かにぶっ飛ばされている。御広敷が。

 

そもそも、精霊というカテゴリ自体。異族には無い。

近いもので妖精か。

 

そんなことを考えてると、向こうから全裸がやってきた。

 

「おーい! ネイト用だって。ハイディから」

 

その手には、大量の焼肉用の肉が乗った皿があった。

隣にいるホライゾンも同じだった。

 

ネイトは、それを銀鎖で受け取り、隣に置いた。

 

「そんなに肉が好きなのか?」

「獣人の性質ですの」

 

と、やや恥ずかしそうに言うネイト。

すると、ホライゾンが皿を持ち、焼けた肉をネイトに差し出す。

 

「ちょっ、ホライゾン!?」

「さ、あーんと口を。慰労の儀式です」

 

そういって、差し出したままの状態で待っているホライゾン。

その隣で全裸が、

 

「ホ、ホライゾン。実は俺もちょっと疲れてて、お、俺にもそれを――――」

「Jud.では、後ほど焼けた鉄板の上においてさし上げます」

「俺が食べられるのかよ! しかも物理的に!!」

 

相変わらず狂っていたので無視した。

だが、ネイトもいつまでもホライゾンを待たすわけには行かないと思い、目を閉じ、口をあける。

すると、香ばしい香りと肉の旨みが一気に口の中に広がる。

つけられたタレもマッチして絶品だ。

 

頬が緩み、ネイトはホライゾンに与えられるがままになっていた。

 

(……なんだこのノリ)

 

一方で、正純は少々ついていけなかったりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

少し離れたところでは、点蔵と〝傷有り〟が静かに食べていた。

が、点蔵はあっちこっちにパシられていて、あまりゆっくりとは行かなかった。

 

するとそこに、葉月がやってきて、〝傷有り〟の向かいに座る。

 

「……今なら誰にも聞かれないぞ」

「あ、Jud.」

 

そういうと、元の女性の声に戻った。

その声は、嬉しそうに弾んでいた。

 

「久しぶりですね。葉月」

「Jud.元気そうだなメ――――っと、ここじゃ〝傷有り〟のほうがいいのか?」

「はい。しばらくはそう呼んでください」

「Jud.Jud.――――で。どうよ」

「どう、とは?」

 

にやりと、葉月は笑う。

 

「ウチの第一特務だよ」

「点蔵様、ですか?」

「Jud.惚れたのか?」

「ち、違いますよ!」

「おーおー」

「か、からかわないでください!」

 

〝傷有り〟は顔を紅くして言う。

 

葉月は未だに軽く笑っている。

 

「ああいや。悪い悪い」

「そ、そのですね……決して、決してお嫌いではありませんよ? むしろ好き――――」

「好き?」

「――――ああうぅ……」

 

〝傷有り〟はさらに顔を紅くし、俯いてしまった。

そんな様子を見て、葉月は愉快そうに笑う。

 

「ククッ。いっそ告白でもしてみたらどうだ?」

 

そういう葉月。

〝傷有り〟はそれを聞いて、一気に顔の熱が引いていくのが分かった。

 

「無理ですよ。だって私は――――」

「そうやって一手に引き受けようとするから。お前は周りが見えなくなるんだよ」

「ですがッ――――」

「戻ったで御座るよ、っと。葉月殿?」

「おう。パシりご苦労さん」

 

そういって戻ってきた点蔵に皿を渡す葉月。

 

「そういえば。お二人は知り合いなので御座るか?」

「Jud.昔馴染みさ。まさかここに来てすぐに会えるとは思ってなかったがな」

「それは私もですよ」

 

〝傷有り〟は微笑を浮かべる。

すると、葉月が突然、空に視線を向ける。

 

『めー! 〝傷有り〟様めー! まったくこの男は一体なんですか先ほどから馴れ馴れしい!』

 

一羽の烏が舞い降りてきた。

三本足の八汰烏。ミルトンだった。

 

「でかい九官鳥に御座るな」

『違うであります。こう見えて男ミルトン立派な烏であります!』

「ほーれキューちゃん。焼肉に御座るよー」

 

そういって、点蔵は箸で肉をミルトンの前に出す。

 

『いや。敵の手から焼肉など、ミルトンを甘く見てもらっては――――んー、美味ですな!どこの肉で?』

「皮で御座ろうな――――三河コーチンの」

『ぬぉぉぉ! それ近親食でありますぞ! ――――しかし美味。デリシャスコーチン』

「いや。まず躊躇い無く鶏肉渡すなよ」

 

葉月が呆れていると、ふと、隣の卓から浅間が声を上げる。

 

「八汰烏!? どうして英国に?」

 

それを聞いたミルトンは、足を一本隠すようにする。

 

『や、八汰烏ではありませんぞ! 九官鳥のキューちゃんでありますぞ!』

 

しかし、浅間は誤魔化されなかった。

 

「ハナミ! お父さんに連絡して。八汰烏が英国で焼肉食べてるって。きっとヨゴレ満載だから、ガンコ宮司のゲンコツクリーニングが必要だって」

『ひいぃぃ! それだけは無しであります!!』

「つうか。詳しいな浅間」

「Jud.八汰烏は極東の熊野系神社所属の霊獣型の走狗なんです。本来なら神社で労働奉仕しているはずなのに――――あ、コラ!」

 

余所見をしている隙にミルトンは脱走していた。

が、そこで逃がすような浅間ではなかった。

即座に弓を形成。直後に発射。

 

遠くで、烏の鳴き声のような悲鳴が上がった。

 

「流石ズドン巫女……」

「ちょっ、誰ですか今言ったの!? ズドン巫女とか不名誉極まりない綽名止めてくださいよ!」

「無理ね。もう武蔵の共通認識だし」

「三征西班牙の人たちも射殺巫女で呼んでたし」

「いっそ芸名にすればよくね?」

「ナルゼに神耶君にトーリ君! そういうのが私の、ひいては浅間神社の名前を貶めてるんですよ!」

 

ぎゃあぎゃあと騒ぐ傍ら、点蔵の傍に一匹の犬鬼がいた。

 

『出来たど』

「犬鬼じゃねえか。どうしたんだ?」

「Jud.温泉作りを手伝ってもらっていたので御座るよ。犬鬼は鉱脈に住む精霊。ならば、温泉が湧き出る場所も知っていると思ったので御座る」

 

そういって、点蔵は懐から硬貨を一枚犬鬼に渡す。

 

それを犬鬼は一度地面に叩きつけてから、もう一度抱える。

 

『もらっといてやるど』

 

……あ、なんかムカつく。

 

点蔵は拳を震わせるが、すぐにそれも収まる。

 

と、点蔵と犬鬼の話を聞いてトーリがやってきた。

 

「おっ、温泉出来たの?」

「Jud.すぐにでも入れるで御座ろう」

「そっか。なら点蔵と長衣の旦那。一番風呂やるから入ってこいよ。確認の意味も込めてさ」

 

と、ここでトーリが〝傷有り〟を向く。

 

「そういやよ。長衣の旦那は聞いたことねえかな。二境紋」

「ニキョーモン?」

「こういうので御座るよ。『公主隠し』と呼ばれる神隠しに現れるもので御座る」

 

そういって、点蔵は地面に丸を書き、その中心を絶つように線を一本引いた。

 

それを見た〝傷有り〟は考え込んだ。

 

「それは、英国でも調べられていることですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

その言葉を聞いた正純は不審に思った。

 

……ですね?

 

それに気づいたのか、〝傷有り〟はさっと顔を背けた。

 

「……調べている、というのは。どこで?」

「そ、それは――――もし。上層部の者達に接触できたなら、『花園(アヴァロン)』という場所について聞いてみるといい」

「『花園』?」

「――すまない。私最早部外者なので。多くは語れないのだ」

 

そういって、フードを深く被る〝傷有り〟。

正純は、それ以上は追及しなかった。

 

「よーし! じゃあ二人で風呂入ってこいよ!」

「え゛! い、いやしかし……」

「何してるんだよ。早く入ってこいよ」

 

点蔵があたふたしていると、〝傷有り〟が点蔵の腕を掴んで引っ張っていく。

 

「の、覗きは無しで御座るぞ!」

「誰がお前の風呂を覗くんさね」

 

直政が呆れたように呟く。

そんな離れていく二人の背を見て、アデーレが一言。

 

 

 

「あの二人――――怪しいですよね」

 

 

 

瞬間、場の空気が凍った。

 

しばらくその空気のままだったが、やがて御広敷が自分が言わねばと思い言う。

 

「小生あまり考えたくもないことを、アデーレ君はズバッと……」

「まあでも。英国は改派だし。いいんじゃないかな」

 

ナイトがそういって、ナルゼが頷く。

すると、東がナルゼを向く。

 

「そういえばナルゼ君」

「何?」

「セックスについて。もうちょっとよく教えてほしいんだ」

 

その瞬間、浅間は全行動を停止させ、直政は酒を呷り、神耶の瞳の光が消え失せた。

 

「この間教えてもらった通りにミリアムに言ったら。ものすごい怒られて。余の解釈が間違ってたんじゃないかな、って思って」

「あ、え、えぇと……」

 

ナルゼは慌てて隣のナイトを見るが、いやちょっと無理、みたいなジェスチャーをされた。

誰か適任はいないかと辺りを見る。と、

 

「あ、ええっと。私の説明だと不足だし……葉月に聞いて!」

 

と、肉を食べていた葉月にナルゼは話を振る。

 

それに反応したのは、ほかならぬ浅間だ。

 

「な、ナルゼ何を言ってるんですか! は、葉月君にそんな言葉の意味を言えだなんてこと……」

「あら。別に意味だけ教えるならいいじゃない」

「ひ、開き直りましたね!?」

「クククこのエロ巫女。別に口頭でも意味は十分伝わるのに何を焦ってるの?」

「い、いや焦ってるわけではなくてですね!!」

 

しどろもどろになる浅間を横目に、東は葉月のところへ行く。

 

「白百合君。そういうわけなんだけど。いいかな?」

「……まあ。別に変なことではないんだがな。ただ、あー……」

 

チラッ、と葉月は神耶を見る。

 

神耶はナルゼの背後に近寄っていた。

 

「ナ・ル・ゼ♪」

「ッ――――」

「何教えてんの? いや。別に教えてもいいけどさ。どういう教え方したの? 僕すっごい気になるなぁ」

「じ、神耶。え、えっと……」

「普通に教えたらこんなことにならないよね?」

「――――」

 

そういって、神耶はナルゼの羽に手をかける。

 

「ちょうど肉もなくなりかけだし――――手羽先、かな」

「葉月! アンタしか神耶抑えられないんだから何とかしなさいよ!」

「羽捥がれてろ」

「何とかしてください」

「ハァ…………神耶。ストップだ」

 

そういうと、葉月は神耶を諌める。

神耶も、葉月の声を聞くと、羽から手を離す。

 

「…………羽毛…………手羽先……」

 

不吉すぎる言葉を残しながら。

 

「で。話戻すけど。自分で調べるって気はないのかよ。東も通神帯は使えるんだろ?」

「あ、うん。Jud.でも解釈が色々ありそうで。ナルゼ君に教わったのは、人と人が深く仲の良い関係になることだって」

「おいそこの堕天」

「何よ。間違ってないでしょ」

「肝心の内容の一割も触れてねえよ」

 

すると、ホライゾンも近づいてくる。

 

「ホライゾンも知らない言葉なので。出来ればお教えください」

「え、何ホライゾン知りたいの? だったら俺が直接ぐべはぁ!!」

 

全裸が吹っ飛ばされたが無視。

すると、それに便乗して二代も自分も教えてほしいと申し出てきた。

 

「お前ら自分で調べろや……」

「そ、そうですよ! 通神帯もあることですし、ね? ね!?」

「Jud.ですが浅間様。ホライゾンは契約を結んでいないので通神帯が使えないのです」

「あー。そういやそうだったな」

「ですので。葉月様。お願いします。あ、トーリ様は結構です。なにやら不穏な空気が漂ってきますので」

「ち、ちくしょう! 俺は負けねえ、負けねえぞ!」

 

と、三人が葉月に向き直る。

 

「……とりあえずお前ら本でもなんでも自分で調べろ。それで分からなければ俺のところに来い」

 

何の拷問だこれは。葉月は空を仰ぎ、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

点蔵は今、人生の中でも最大の岐路に立たされていた。

 

自分は忍。それに見合うだけの訓練はしてきたつもりだ。

耐久力も特務の中では高いほうだと自負しているし、戦闘能力も負けてないだろう。

 

いざというときの思考や、サバイバル知識などもある。

たまーにエロゲをやるくらいだが。それは息抜きとしていいだろう。

実際、学校の成績はそこまで悪くはないはずだ。

 

だが。そんな点蔵でも、今の状況は予想外だった。

それは――――

 

 

 

 

 

 

 

「どうかされましたか? 点蔵様」

 

 

 

 

 

 

 

金髪巨乳の美人女性と風呂に入ることに御座る。

 

現在点蔵は、〝傷有り〟と共に、犬鬼たちと作っていた温泉に入っていた。

本当は、最初は〝傷有り〟が出たら入ろうと思っていたが、〝傷有り〟の誘いを無碍に出来ず(紳士三割、ヘタレ七割の割合)、こうして今に至る。

というよりも、実際は自爆して退路を自ら絶ってしまっただけだが。

 

「あの。お風呂の中でも帽子とスカーフ。外さないんですね」

「Jud.自分。忍者故」

 

自分の顔を見られること。それ即ち忍として死を意味すること。

如何に心を許した相手とて、顔は見られない。

 

しかし今は〝傷有り〟の方は向けない。

何故なら、豊満な肌色の二つの丘がこれでもかとばかりに自己主張し、湯に浮かんでいるためである。

 

落ち着け。落ち着くで御座るよ点蔵・クロスユナイト。

この状況、落ち着ければ何の問題もないで御座る。

 

そう。まずは状況を整理してみる。

 

1・金髪巨乳の〝傷有り〟殿

2・おっとり系

3・視線をまっすぐにしているのに右下に見える肌色の球体

 

……視覚情報しかないで御座るよ?

 

これはマズイ、と点蔵は考える。

だが、その前に〝傷有り〟から話しかけてきた。

 

「あの、点蔵様? 先ほどから前ばかりを見て、どうなさったのですか?」

「え、あ、いや! これはで御座るな――――」

 

女性と風呂に入った経験など皆無。故に、恥ずかしさが先行してしまっている。

おそらくこれがトーリだった場合、遠慮なく裸を見るだろう。

 

その場合、ホライゾンによる打撃制裁が待っているだろうが。

 

……改めて思うで御座るが、梅組には外道しかおらぬのでは?

 

今更ながらなことを思いつつ、〝傷有り〟の疑問に答える。

 

「え、ええっと、これはで御座るな」

「はい」

「……自分。混浴というか、女性と風呂に入ったことなどないので」

 

そう正直に吐露する。

それを聞いた〝傷有り〟はまあ、とくすくす笑う。

 

「別に。見ても面白い体ではありませんよ? 傷だらけですし」

「い、いやそんなことは! 真に美しいで御座るよ!」

「え、あ、はい……ありがとうございます」

 

〝傷有り〟は顔を俯かせた。

 

……し、しもうた――――! やらかしたぁ――――――!!

 

ふと、先日読んだ忍者雑誌の内容が頭を過ぎる。

 

・本音を言う忍者は忍者に非ず。てゆーか滅べ。

 

つまり自分は忍者失格というより人類失格!? い、いやまだ取り返せるはずで御座る! まだセーフ、セーフで御座るよ! タイム連打すれば避けられるで御座るよ!!

 

と、〝傷有り〟が顔を上げた。

その顔は、湯気で熱くなったのか、紅くなっていた。

 

「あの、点蔵様」

「な、なななななんで御座るか!?」

「私を見るのは、嫌、ですか?」

「め、滅相も御座らん! ただその……」

 

言いよどむ点蔵に〝傷有り〟は言う。

 

「傷ばかりのこの身。別に見ても大丈夫ですよ? つまらないでしょうし」

「そんなこと、ないで御座るよ」

「そうですか?」

 

Jud.と返事をする。

 

「……その。失礼ながら。〝傷有り〟殿の傷は、体の前面にしか無いで御座る」

 

体の前部分にしか傷が無い。

それはつまり――――

 

「〝傷有り〟殿は、相手と真正面から相対したので御座ろう」

「これは――――」

 

〝傷有り〟は、右手の甲についた傷を見ながら言う。

 

「これは、私が望んで自分につけたようなものです――――死んでも、構わないと。そう思って」

「ならば。御自身が満足されるまで、そうされるが良いかと。しかし。自分にはもう十分に見え申す。何故なら」

「……何故なら?」

 

何故なら、

 

「貴女が誇り高い御仁であることは。既に自明に御座る。これ以上、新しい傷は不要で御座ろう」

 

点蔵はそういう。

真正面からの相対。それは、正々堂々とした戦いをしなければならないものだ。

 

〝傷有り〟はきっと、そういった戦いをいくつも経てきたのだろう。

 

ふと、〝傷有り〟を見る。

すると、おそらくは泣いているのだろう。肩を震わせ、顔を両手で覆っていた。

 

……しもた――――!! またやらかした――――で御座る!!

 

「す、すまんで御座る! 自分、何か気に障るようなことを!?」

 

点蔵はいうが、〝傷有り〟は黙って首を横に振る。

その際、二つの巨大な丘が動きに合わせて揺れる。

 

流石にこれ以上はマズイで御座る。

 

「――――じ、自分。先に上がるで御座る」

 

まるで敵前逃亡のようだが。いや、これは勇気ある撤退に御座る。

 

そう言い聞かせながら、点蔵は湯船から上がる。

 

〝傷有り〟は点蔵が出るのを感じると、そっと両手を取る。

その顔はいまだ涙に濡れていた。

 

と、目の前に小さな木片が流れてきた。

 

(輸送艦の外壁材……?)

 

かなり鋭利に尖っていたので、取ろうと触れる。

しかしその瞬間、ピリッと軽い痺れが伝わってきた。

 

これは、

 

(対術式用の加工。それも反発式の)

 

術式に反応して、その術式を跳ね除けようとするタイプの術式加工だ。

ふと〝傷有り〟は思い出す。

 

それは、武蔵の輸送艦が墜落してきたときの事。

 

(あの時。私は術式を使って艦の軌道をズラそうとして。それで、点蔵様が止めに入った。――――でもあの時。私が早く術式を使っていたら。点蔵様が来なかったら……)

 

〝傷有り〟の術式はきっと艦には届くだろう。

だが、反発式の加工をしている外壁により、その術式は別の場所へと外向きに反発する。

そうなった場合。あの場にいた子供たちは。

 

直後〝傷有り〟の背に寒気が走る。

〝傷有り〟は点蔵を見る。

 

すると、その背には真新しい傷跡があった。

おそらく、こちらを庇ったときに出来た傷だろう。

 

〝傷有り〟は立ち上がり、点蔵に近づく。

 

そして、自分の顔の正面に来るように、後ろから抱きしめた。

 

「ッ――――――!?」

 

点蔵は声にならない叫びを心の中であげた。

 

……オパ――――――イ!!

 

いかん。まるで喜美殿のような叫びに御座る!

そう思うのも、束の間。〝傷有り〟が訊ねてくる。

 

「点蔵様。この傷。治療してもよろしいですか?」

「お、おおお、お願いするで御座るよ」

「Jud.では」

 

そういうと、〝傷有り〟は傷口に口付けのように唇を押し当てる。

 

「動かないでくださいね。術が逸れてしまいますので」

「……Jud.」

 

最早何も言うまい。

点蔵は観念したかのように、その場に立ち尽くしていた。

 




どうもKyoです。

最早何も言うまい。点蔵モゲろ。地味忍者風情が。

どうやったら皆さんの嫉妬心を煽れるか試行錯誤して書いてみましたが、一番最初の被害者が私という笑えない事態になりました。

誰か……誰か私に新鮮な境ホラ二次をください……
実を言うと当初は転生キャラ(境ホラ初期の頃のようなチート。つまりは扱いのいい宗茂砲)で書こうと思ってました。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

次回はデートの約束と正純の契約になりますかね。

では。


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なんかーもう色々とハチャメチャなネタ・1

注意!

注意!!

注意!!!

この話は、本編とは縁も所縁もありません。

ただ私の頭の中でこれを書けとガイヤからお達しがあったのです。

なので。これを読まなくても問題はありません。

それでは。


◆ひょっとたらのエウアグリオス

 

元信は言う。

 

「嫉妬の大罪を知りながら、尚、隠匿していたのは何故だろうね。それはエウアグリオスが気づいていたからさ――――嫉妬の大罪こそ、最大の悪徳であると! 他の大罪も、元を辿れば嫉妬という一つの罪から派生したものだ、とね!!」

 

これを機に、世界に配られた大罪武装を巡る戦争が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――しかし。本当は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ! や、やってしまいました! うぅ~、まさか八想念を発表した後なのにぃ、まさか嫉妬を加えるのをわしゅれてしまったとは! エウアグリオス一生の不覚です! どどどど、どうしましょう…………そ、そうです! 新たに纏め上げればいいのです! えーと、悲嘆と嫌気は怠惰に分類しましょう! なんとなくですけど。というか傲慢と虚栄って結局同じですよね? だったら傲慢でいいですか? いいでしょうー! あとはここに嫉妬を加えて、七つになりました! よし。これを七大罪と名づけましょう!」

 

単純に、エウアグリオスが忘れていただけかもしれない。

 

「七大罪……か、カッコいいです! ハッ! 八想念という響きも中々……」

 

こうして。エウアグリオスは、厨二病の階段を上っていった。

 

名・エウアグリオス

属・不明

役・修道僧

種・不明

特・はわわ軍師

 

 

 

 

 

 

 

◇目立とうと 頑張った挙句 無視される by 明智・光秀

 

P.A.Oda所属の鉄甲艦が、空を行く。

それは、P.A.Oda五大頂六天魔軍の一番、柴田・勝家の艦だった。

 

その上では、全ての五大頂六天魔軍が揃っていた。

 

「よぉーしお前ら! 今から武蔵の連中驚かせるから甲板ギリギリまで出ろよ!」

「あはは。ノリノリですね柴田先輩」

『ノリノリー』

「つーか。別に全員出る必要無くないッスか? 柴田先輩だけで」

「ん~? どうしたのかなあナルナルくぅーん? もしかして、今頃になってビビッたりしてまちゅか~? 怖いのでちゅか~?」

「おいトシ。コイツ武蔵に叩き落としていいか?」

「ナッちゃん諦めなよ。こうなった柴田先輩。止められないよ?」

「女々しいぞー。佐々」

「あー。そうですねー。」

 

すると、その中でも小柄な少女が手を上げる。

 

「ん? どうした羽柴」

「あ、あの……あんまり見られるのはちょっと。シルエット術式、使っていいですか?」

「お。おお。おおおおおお! それいいな! よしそれ採用! 全員やれよな!? ついでに眼も赤く光らせようぜ! こう、悪の大幹部っぽくよ!! ビカーってな!!」

「何で俺ら悪役なんスか。普通に登場すりゃいいじゃないですか」

「あぁん? そうしたほうが雰囲気出るに決まってんだろ! 馬鹿か? いや馬鹿だったな。そうかそうか馬ぁー鹿馬ぁー鹿!」

「もうやだマジでウゼェ……」

「あはは。さて。そろそろ武蔵上空を通過しますよ。

 

 

 

 

 

~上空通過中~

 

 

 

 

 

「…………おい」

「なんスか?」

「どういうことだよ武蔵の連中誰一人として見てなかったぞ?」

「あー。三河での戦いに勝ったから、多分祭りで浮かれてんじゃないスかね」

「はぁ!? 祭りより俺らだろーがよ! P.A.Odaだぞ! 五大頂で六天魔軍だぞ!? 注目して崇めるのが普通だろうが!」

「知らねえッスよ」

(良かった……あんまり注目されなくて)

「そんなこと言ったら。柴田先輩だって祭りだと周りの声聞こえなくなるじゃないッスか。戦始まるっつのに酒飲んで周りの兵をベロベロに酔わせて。おかげでこっちのやること増えたんスけど」

「あぁん!? 小物にはあの程度も無理なのか? だったらテメェ今度から小物じゃなくて小粒な! そこら辺の砂糖の一粒程度だ! 良かったな砂糖!」

「おいトシ。マジでウザいんだがどうすりゃこの馬鹿黙らせられる」

「あはは。ナッちゃん諦め悪いねー」

『あきらめろー』

(あ、でもあの狐さん。可愛かった)

 




どうもKyoです。

いやー。本当。これなんで書いたんでしょう(知るか
なんか以前から頭の中にはあって。ついでだからちょっと載せようと。

次回更新はもうちょい後になります。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

それでは。


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月下の入浴者達

 

「デートしようぜホライゾン!」

「頭に蛆でも涌きましたか? 浅間様。禊をこの全裸馬鹿に一つ。お願いいたします」

「ソッコで結論出されたYO! ってか待て待て浅間マジで待って」

 

焼肉が終わり、いつもの面子が集まったことを確認した正純は、今後の武蔵の在り方をトーリに委ねた。

そのトーリがいきなりホライゾンとデートをしたいといい始めたのだ。

元から狂ってるとはいえ、これではどうしようもないだろう。

 

そんな疑問をネイトも持ったのか、トーリに聞く。

 

「何故今になってホライゾンとデートを?」

「ん? ああ。んー。ほら。今までよく二人で話とか出来なかったろ? 色々と話してみてえんだ。ホライゾンと」

「話し、というと。何を?」

 

そういうホライゾンに、トーリは言う。

 

「あのさ。ホライゾン。感情に興味無い、って思ってね?」

 

ホライゾンはそう問われ、しばらく思案する。

 

「……結論を申しますと――――――不要を感じます」

 

その言葉に、場の空気が張り詰める。

特に、ネイトは心配そうに両者を見る。

 

トーリの術式は、奉納に喜の感情を持つことにある。

しかし、悲しみの感情を得ると、死んでしまう。

 

故に、自分の愛する女性に、自分のしてきたことを無駄と言われるのは、どうなのだろうか。

咄嗟に会話をずらそうと思うが、声が掛かる。

 

「ミトツダイラー。炒飯食べる?」

「……はい?」

 

喜美が突然炒飯を盛った皿を差し出してくる。

そんなことをしてる場合じゃ、とも思うが、

 

「んー。やっぱそうだよなー」

 

トーリはいつもの調子で言う。

その様子にネイトはほっとする。

 

「でもさ。俺は取り戻すって決めててさ。お前が帰ってくる前から、何とかして八つの大罪武装集めて、それをオメエに見立てて供養しようって思ってたんだ」

「――――では。ホライゾンは元々不要だったのですね」

「そうじゃねえよ」

 

そう、ホライゾンは言う。

だが、それをトーリは否定する。

 

「感情奪還の理由付けに、ホライゾンが必要なのですか?」

「そんなんじゃねえって」

「そうだとしたら――――お止めください。ホライゾンのせいで、皆様が争ったり。傷ついたりしてしまいます」

 

そういうと、ホライゾンは顔を背ける。

 

「……別に、ホライゾンなど。いらないではないですか」

 

その瞳からは、涙が流れていた。

 

自動人形としての最善の判断が、自身を不要と断じる。

だが、『悲嘆の怠惰』を取り戻し、悲しみの感情を手に入れたことにより、その判断を悲しいと思って、涙を流しているのだ。

 

と、ネイトはトーリに言う。

 

「総長。何かして差し上げたら……」

 

トーリはふむ、と考えると、ホライゾンの涙を拭う。

 

「……なんですか?」

「泣き顔を 慰め覗く 乳谷間」

 

その瞬間、涙に濡れていたホライゾンの顔が一瞬で冷め、拳を握る。

 

「痴漢撃退 正義執行」

 

そのままトーリは吹っ飛ばされた。

 

「な、ナイス返歌ホライゾン!」

 

しかし、トーリは即座に走りホライゾンの下に戻る。

 

「デートしようぜホライゾン! 俺とデートして、色々見たり、食ったり、遊んだりして! 感情ってのに興味が向くか、試そうぜ!」

「試して、どうなるのです」

「興味が向いたら、俺と一緒に大罪武装取り戻そうぜ!」

 

そういうトーリに、ホライゾンは淡々と言う。

 

「危険な発想です。感情が欲しくなったら、世界と戦争を起こすのですか」

「おいおい。世界征服は俺の分野だぜ? オメエは平行線で、違うことをすりゃいい。だからまず。デートしようぜ」

「人形を外に持ち出すつもりですか」

「違うさ」

 

トーリはホライゾンの手を取る。

 

「手を取って、外に連れて行くんだ」

 

ホライゾンは、少し驚いたように握られた手を見る。

すると、正純がパンッと手を鳴らす。

 

「まあ、極東の継承者が同意なら。逢引での決定もアリだろう。では。この会議終了する!」

「あのー。ちょっといいですか?」

 

と、アデーレが手を上げる。

 

「今ちょっと聞いたんですけど――――『悲嘆の怠惰』がどっかいったらしいですよ?」

 

瞬間、皆の間に旋風が巻き起こる。

が、それもすぐに止んだ。

 

「狐たちに、武蔵の全域を探すように命じたよ」

「俺の方も、精霊たちに今伝えた」

 

と、オリオトライを尻尾の枕で寝かせている神耶と、皿を置いた葉月が言う。

 

「行動早いなー。お前ら」

「まあな。さて。とりあえず大罪武装は神耶の狐と俺の精霊に任せるとして。トーリ」

「ん?」

「お前デートどうすんだよ。ノープランは最悪だぞ」

「おう。だからネイトとか姉ちゃん頼むわ」

「わ、私ですの?」

 

ネイトは声を上げるが、喜美はノリノリのようで笑みを浮かべる。

と、

 

「あ、そーだ! なんならダブルデートってことでよ。葉月も誰か誘って行かね?」

「――――――はぁ?」

 

馬鹿が提案した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

点蔵と〝傷有り〟が風呂を出た後、梅組の女性人の一部が風呂に来ていた。

 

その中、浅間が不思議に思う。

 

「あれ? おかしいですね」

「どうかしたのか浅間」

「ええ。点蔵君と〝傷有り〟さんが入った後なので、穢れがあるはずなんで浄化しようと思ったんですけど……」

 

と、湯に玉串を挿している浅間。

本来、穢れがあると色が変わるはずのそれは、無色のままだった。

 

「変ですねぇ。故障でしょうか」

 

そういって、浅間は自分の頭に挿す。

すると、見る見るうちにピンク色に染まった。

 

「あれ、あっれー!?」

「どういうことさね。ピンクの穢れって」

「多分。さっき総長が言っていたダブルデートでハヅッちのこと妄想してたんじゃないのかな?」

「ありえる、ってか。それしか原因ないわね」

「な、何を言ってるんですか! は、葉月君とそんなデートだなんて……だ、第一葉月君が行くかどうかも分からないのに……」

「でも頭の中では都合のいい妄想が膨らんでるんだろ?」

 

と、直政は聞く。

浅間は、熱気とは明らかに違う原因で顔を紅くしている。

 

「でもきっと。白百合さんならきっとOK出すと思いますよ? それに。武蔵でも少ない英国出身者ですし」

「だが、白百合は赤ん坊の頃に武蔵に来たと言っていたぞ?」

「でも結構英国の事詳しかったりしましたよ? 多分、夏休みかそのときに里帰りしてたんじゃないですか?」

「あ、の。あさま、さん。デート。がんば、って?」

「あの鈴さん私まだデートするって決まってるわけじゃないんですけど……」

 

そういうと、浅間を除く女子全員が見て、

 

「――――え?」

「な、なんですかその反応は!?」

「だってぇー。アサマチ、総長がダブルデート発言したとき、すっごい表情が変わってたよねー?」

「そうね。百面相が面白かったから、動画に録らせてもらったわ」

「ど、同人誌ですね? そうなんですね!?」

「まあでも結局。笑顔で収まった、か」

「あとは葉月次第さね」

「ああもう! いいですから! 今は正純の契約が先です!」

 

あれ? なんか私逃げる口実にされてないか?

そう思う正純だが、既に浅間は後ろにいて準備をしていた。

 

「あー。本当にするのか? 契約」

「ええ。走狗がないと何かと不便ですし」

「うーん。今のところ不便は感じてないんだがなあ」

「副会長。浅間さんの話題逸らしに付き合ってあげないとダメですよ」

「……アデーレ?」

 

浅間はアデーレを振り向く。

その顔は笑ってはいるが、背後に漂う気配が尋常じゃなく黒い。

 

それを察知したアデーレははいと返事をすると湯船に沈んだ。

 

「では。始めます」

 

そういうと、正純の頭から桶に入った湯をかける。

 

「まずは、正純の三河での契約を一時解除します」

「産土契約は?」

「あ、三河の産土神とは提携しているんで大丈夫です」

「そう、なのか?」

「はい。ただ正純のは携帯も持たない出生時契約のままでしたから、加護が弱いんです。いつも餓死しそうになっていたのは。そのせいかと」

 

この世界の人々がつけているハードポイント。

それは、つけている人に最低限度の生命維持の加護を齎すものだ。

 

ただし、契約をしていないと、その加護は弱まる。

 

「あと。肌荒れ対策と日焼け止めの加護もサービスしておきますね?」

「え、あ、いや。そういうのはあんまり……」

「後は――――走狗契約の前に、信奏したい神と個人契約が出来ますけど、どうします?」

「後で、っていうのは出来ないか?」

「出来ますよ。ウチでしてくれるなら」

 

その瞬間、風呂に入って魔術陣でネームを書いていたナルゼが立ち上がる。

 

「『裸の浅間は正純に言った。「ウチでしてくれるなら」と』――――よっしゃ次回ご期待!」

「ガッちゃんさっきから五年分くらいネーム切ってないかな?」

 

一瞬、正純はそちらを向いたが、おそらく何を言っても無駄だろうということを悟る。

浅間も同じ事を思ったのは、話を続ける。

 

「いずれ個人契約するなら。専用走狗が必要になりますから。今日のところは汎用走狗にしますか。まあ、汎用といっても結構値が張っちゃうんですけど」

「安くはならないのか?」

「あ、だったら天恵契約がオススメですよ。走狗がランダムで選ばれるんです」

「そんなので大丈夫なのか?」

「ええ。大抵は数の多い犬や鼠、狐や鳥が来ますよ。稀にレアな走狗を引くこともありますからお得ですよ」

 

そういうと、浅間は一枚の紙を出してきた。

そこにはハナミの絵と円形のボタンみたいな模様があった。

 

正純は少し考えたが、やがてその部分に触れる。

 

『拍手ー』

 

すると、突如大きな箱のようなものが現れた。

浅間が近づき、箱を開ける。

 

「あら。あらあら」

「な、なんだその反応は」

「さてここで問題です。何の走狗でしょうか?」

「分かるわけ無いだろう!」

「ではここでヒント。動物です!」

 

動物。といわれてもその種類は多種多様。

とりあえず先ほど数が多いといわれたものから言ってみることにした。

 

「狐?」

「残念。次のヒント。「あ」行で始まる動物です」

「「あ」行?」

 

正純は「あ」から始まる動物を探す。

尚且つ、先ほど浅間が言っていた数の多い動物で「あ」行だと……

 

(あ、あー。い……犬? ああ、犬か)

 

犬ならばいい、と思った正純は浅間に箱を開けるように頼む。

 

「じゃーん。答えはオオアリクイでした」

「何の詐欺だコレは!!」

 

そこには巨大なアリクイと小さなアリクイがいた。

どうやら親子らしく、親のほうは去っていった。

 

「IZUMOは最近、九州や新大陸でも活動していますから」

「だ、だからってアリクイかぁ……」

 

残った子供のアリクイを正純は持とうとするが、怯えているのか体を丸めてしまった。

 

「ちょっと幼すぎるのが来てしまったみたいですね。どうします? 別の走狗にしますか?」

「そうだな……」

 

正純はアリクイを優しく包むようにして持ち上げる。

手の中では震えが直接伝わってくる。

 

「……多分、外の世界を知らないで怯えているだけだろう」

 

すると、アリクイがそっとこちらを見上げてきた。

その目には涙があった。

 

「大丈夫だ」

 

と、あやすように正純は言う。

 

「いいんですか?」

「Jud.」

「ははっ。これで正純も子持ちか。あとアタシらのクラスで契約していないのは……」

「ハヅッちだね」

「白百合も契約していないのか?」

「あ、ええ。まあ、その……色々あって」

 

と、浅間が目を泳がせながら言う。

 

「白百合の契約はしないのか?」

「実は英国に来る前に、葉月君から契約したいと言われましたので」

「葉月の場合。戦闘系の能力は要らないでしょ。となると、正純みたいに通神専用?」

 

ナルゼがそう聞くと、浅間は首を振る。

 

「いえ。戦闘の補助系の加護があればと、言われてましたので」

「アイツ。あれ以上強化してどうする気さね」

「強キャラ通り越してチートキャラになるつもりかしらね」

「アサマチも大変さね。将来の旦那に今から尽くしてるんじゃ」

「だ、誰が将来の旦那なんですか!」

「葉月」

「い、いいですかマサ! 葉月君とはその……お、幼馴染でそういう関係なのであって――――」

「幼馴染でそういう関係!? 何よその発言! いただきね!」

「わあああああ! 地雷! 地雷踏みましたよね私!」

「落ち着け浅間。いいように遊ばれてるぞ」

「違うよセージュン。これはね。いつもいつも遠くでハヅッちを見ていて、中々手を出せないアサマチを応援しているんだよ」

「例えて言うならそうね――――葉月を見つけたはいいけど、柱の影に隠れて色々頭を抱えながら悶えている。そんな状態の浅間を応援しようとしているのよ。建前上」

「今建前っていいましたね!? っていうかどこでその情報を知ったんですか!!」

「あのーそれよりも鈴さんがのぼせてるんですけどー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

場所は変わり、英国第四階層の森林。

その中には、周りを明るい炎がいくつも浮かんでいて、周りを照らしていた。

 

その中心には温泉があった。

 

そして、その中に入っている二人の人間の姿があった。

 

一人は、長い白い髪の毛を後ろで一つに束ねている少年だ。

女性似の顔立ちのせいか、非常に艶やかで、本当に女と見間違えてしまいそうだ。

 

もう一人は、赤みがかった茶髪の少年。

その少年の目の前には、本が一冊、ほんのりと白い光を宿しながら浮かんでいた。

 

神耶と葉月だ。

 

葉月が、あの後一人森林のほうに行くのを神耶が見つけ、後を追っていった。

すると、そこには立派な温泉があった。

 

「まさかこんなところに温泉があるなんてねー」

「昔にここに来たことがあってな。そのときに見つけたんだ」

「もしかして、ホライゾンが死んだときから中等部二年の間に?」

「Jud.」

 

それ以上は神耶は追求せず、別の事を聞く。

 

「ねえ葉月。どうするの? トーリが言ってたあのデート」

「ダブルデートか? お前行けば? 先生と」

「僕はいつでも行けるから。でも葉月ってこういうことに興味ないの?」

「こういうことって?」

「女の子とのデート」

 

そういうと、葉月は落ちかけた手ぬぐいを頭に載せる。

それから、空を仰ぐ。

 

「……別に。そういうわけじゃないんだよ」

「じゃあ、どういうわけ?」

「相手がいない」

「――――浅間とかは?」

 

と、神耶は葉月に近づき言う。

 

「あのさ。ひょっとしてだけど。浅間のこと、嫌い?」

「いや。好きか嫌いかで言えば好きだよ。まあ、あくまで友人間っていう意味でだがな」

「じゃあ、いいんじゃないの?」

 

そういうと、葉月は頬を掻く。

 

「あー。ほら。なんつーかさ。迷惑かけたくねえんだよ」

「迷惑って判断するのは葉月じゃないでしょ?」

「そりゃあ、まあな」

「じゃあ、言ってみなよ。言いづらいなら。僕が間に入るから」

「……ああ。ありがとよ」

 

そういうと、葉月は目の前の本に集中する。

 

「……ふやけない?」

「魔力でプロテクト」

「把握。で。何の項目見てるの?」

 

と、神耶が本を覗き込む。

が、その瞬間、バチッ、という音と共に神耶は弾かれた。

 

神耶は、目と頭を押さえている。

 

「これはッ、結界? それも認証者にしか開かない拒絶抵抗型の」

「Jud.古代魔法使役士にしか開けないし、見えない」

「いじわる」

「……お前。時々自分が男だってこと忘れてないか? んな可愛い子ぶりっ子ポーズやっても無理だぞ」

「チッ」

「腹黒」

 

葉月が呆れるように言うと、読んでいた項目を神耶に教える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Pactio――――仮契約の項目だ」

 




どうもKyoです。

ネギまといえばこれでしょう。ということで仮契約です。
といってもまだやるとは決まっていません。あくまでその可能性だけ。

……方法知ったら浅間さんが大歓喜。

と。ここで募集を行いたいと思います。

葉月の術式についてなのです。
ぶっちゃけ。火力はもうあるので、何か補助をしたいなと。

何かありましたら感想、またはメッセージにしてお願いします。

最後に。これを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

さあ。次回はデート回。
点蔵はモゲろ。葉月はどうなるか。トーリは、まあ。うん。頑張れ。

では。


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祭りの準備

整理期間を終え、武蔵と英国は春季学園祭準備に入っていた。

 

あちらこちらで屋台の設置や建設、物資の搬入の音が聞こえる。

 

無論、アリアダスト教導院の生徒たちもここに参加していた。

 

とりわけ、葉月と神耶があちこちで重宝されていた。

 

葉月は、精霊たちの使役と、自身の魔法により、異族系の者を中心として運ばないといけないようなものを軽々と運び。

 

神耶は、狐達の使役で、荷物の運搬のほかに、他の労働者達に休憩の飲料水などを配っていた。

 

その働きを見ていた梅組メンバーは、

 

「もうあの二人だけでいいんじゃないかな」

 

といった具合に、一部を除いて本格的なサボタージュを行っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「うぃーす。角材届けに参りましたー」

「おう。すまねえな。そこに置いといてくれ」

「Jud.」

 

葉月は、担いでいた角材を地面に置き、その場を離れる。

 

他に手伝うところは無いか見たが、下手に素人が手を出したらダメな部類に入るものばかりだったので、しばらく海辺を散歩していた。

 

「学祭が始まったら、トーリとホライゾンはデート、か」

 

自分が仕える王と姫。そのデートはぜひとも成功して欲しいと願う。

ただし、肝心の王は全裸の変態で。姫のほうはセメントというどうしようもない組み合わせだが。

 

しかし、葉月にはもう一つの懸念事項があった。

 

「……俺も、行ったほうがいいんかね」

 

それは、トーリが言い出したこと。

葉月とともにダブルデートをしようという。

 

葉月からしてみれば、相手がいないのでどうしようもない。

が、先日神耶に、浅間を誘ってはどうかといわれた。

 

葉月はどうしようか、悩んだ。

 

(誘うことには問題はないんだろうな……あるとしたら。浅間自身に俺が嫌われてないか。何だよな)

 

と、ここまで思って頭を抱える葉月。

嫌うどころか好意を持っていることに気づいていないのか。それとも悲観的な思考が普通なのか。

どちらにしろ。そのせいで踏ん切りがついていない。

 

(別に俺が行かなくても……あーでも。久々に英国周りたいしなー)

 

うーん、と悩む葉月。

と、その後ろから声が掛けられる。

 

「おや? 白百合君じゃないか!」

『そんなところで一人黄昏て、どうしたのだ?』

「イトケンに、ネンジか」

 

後ろを振り向くと、そこには全裸のマッチョなインキュバス。伊藤・健二と、HP3くらいしかなさそうなスライム。ネンジがいた。

 

「別に。黄昏てたってわけじゃないさ。ちょいと考え事」

「悩みかい? 僕らでよければ相談に乗るよ」

『うむ。一人で悩んでも。解決しないことはある』

「ははっ。まあ、サンキュ。気持ちだけ貰っておくよ」

 

そういって、葉月は海を見つめる。

 

『葉月よ』

「ん? どうしたネンジ」

 

級友のスライムが、葉月に言う。

 

『何を悩んでいるのかは分からん。だがな――――後悔だけはしないような選択をするのだぞ』

「おいおい。トーリじゃあるまいし」

『左様。貴様はトーリではない――――だからこそ。後悔はするな』

 

ネンジは、葉月の隣にやってきて、葉月を見上げる。

 

『やらずに後悔はするな。やっても後悔するな。行動を起こし、それで後悔しないような生き方をする。少なくとも、我輩はそうだ』

「はははっ、僕もそうだね!」

 

珍しい奴らに説教されてるな俺。そう思いながら、言われてみて考える。

 

「後悔するような生き方はするな、か……確かにな。だからこそ。今のトーリや皆がいるんだろうし」

『Jud.どうだ? 少しは迷いは晴れたか?』

「Jud.二人ともあんがとさん」

『何。迷える友を導いただけの事。これからも、困ったことがあればこのネンジを頼るといい』

「はははっ! 僕らでよければいつでも相談に乗るよ!」

 

そういうと二人は去っていった。

 

葉月は手を振り、見送る。

 

「――――――さて」

 

葉月はイトケンたちとは別の方向に歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

梅組の半数ほどが手伝いと称してサボっている中、浅間は表示枠の操作をしていた。

その後ろには喜美もいる。

 

「うーん。やっぱり戦闘系ならタケミカヅチやオオヤマツミ辺りなのでしょうが。イマイチ葉月君の戦闘スタイルに合ってない気が」

「ねえ浅間。何でアンタが葉月の術式契約選んでるの? そういうの、普通自分でやらせない?」

「いっつも私任せな喜美にだけは言われたくないと思いますよ葉月君も。あと、これは葉月君からのお願いでもありますし。いくつかリストアップして、最終的には葉月君に判断してもらいます」

「フフフ完璧にかーちゃん属性巫女ね。なりたいのは葉月の母親? それとも恋人? そ・れ・と・も――――」

 

思わず握った拳を見せると二、三歩ほど離れていった。

 

すると、向こうから葉月がやってきた。

 

「お、いたいた。浅間!」

「あ、はい! なんでしょうか?」

「フフフこのハーレム男。まずは攻略が簡単そうな浅間から落とす気ね! でも浅間に迫るともれなくズドンの選択肢が有るから気をつけるのよ!」

「一秒で無視だ。で、今。平気か?」

「え、あ、Jud.大丈夫です」

 

良かった、と葉月は安堵する。

 

「あのさ、その……」

 

いつもはっきりと物言う葉月にしては珍しく、歯切れが悪く、しかし、こういった。

 

 

 

「良かったら。祭りの初日。一緒に回らないか?」

 

 

 

「――――――ぇ」

 

一瞬、浅間は普段はしないような呆けた顔をする。

 

一秒後。顔が紅くなり始めた。

 

追加で一秒後。一気に顔全体が紅くなる。

 

さらに追加で一秒後。幻覚か、はたまた本当に存在しているのか、顔から湯気が迸っていた。

 

それを見ていた葉月と喜美は、

 

「……俺のせい、だよな?」

「ククク流石ねハーレム男。でもさっさとしないと答えを聞きそびれるわよ?」

「あの状態を俺にどうにかしろと?」

「とりあえず話しかけてみれば?」

 

そう喜美が言う。

葉月もこのままでは話が進まないので、浅間を正気に戻す。

 

「おい、おーい。浅間」

「――――――」

 

浅間は顔を俯かせて、何かを呟いている。

葉月が近づいて耳を澄ませてみる。

 

「…………既成、………………監、」

 

なにやら不穏当な単語が聞こえてきたので正気に戻すことにした。

 

「おい、おーい浅間」

「…………あ、はははははい!」

 

急に呼びかけられて驚いたのか、浅間は顔を上げる。

その顔は、未だに朱に染められたままだった。

 

「えっと。それで、どうかな? あ、忙しいなら別に構わないから」

「い、いいいえいえいえ! とんでもないです! 逆に暇なくらいです暇!」

「そ、そうか」

 

慌てて否定する浅間。

その後ろでは、表示枠が大量に出現していた。

 

その一つ一つをハナミが処理している。

 

「あー。で。どうかな?」

「は、はい! 勿論行かせてください!」

 

それを聞くと、葉月は戸惑いながらも笑顔で安堵したように息をつく。

 

「良かった。じゃあ祭りが始まったらゲートのところ、でいいか?」

「はい! Jud.!」

「そっか。じゃ、その。また後で」

 

そういうと、葉月はそのまま飛んでいってしまった。

浅間はそれを見送る。

 

しかし、その背後では――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

・賢姉様:『三年梅組! 全員心して聞きなさい! あの葉月が浅間をデートに誘ったわよ!』

・約全員:『な、なんだってー!!?』

・● 画:『ちょっと喜美! それ本当なんでしょうね!? 嘘だったらアンタを同人誌に出すわよ! 』

・賢姉様:『ククク安心しなさい同人屋。何しろ私が目の前でその光景を目撃したのよ! アツかったわよ! ええ最高にゲキアツよ!!』

・○べ屋:『映像は!? 映像どこ!?』

・● 画:『喜美! アンタのことだからどうせ録ってあるんでしょ! 分けなさいよ! さもないとマジで触手系同人誌に出すわよ!?』

・金マル:『ガッちゃん容赦ないね!』

・ウキー:『というより。葉月から誘ったのか?』

・賢姉様:『Jud.一瞬この賢姉でも疑ったくらいよ――――で肝心の動画だけど』

・約全員:『…………』

・賢姉様:『――――いきなりのことで録れなかったわ! 賢姉大ミス!』

・約全員:『ちくしょおおおおおおおおおお!!』

・銀 狼:『何ですのこの一体感……』

・労働者:『分かってるなら言わなくていい』

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

自分の仕事を終えた浅間は、第四階層の海を見ながらぼんやりと先ほどのことを思い返していた。

 

……葉月君と、お祭りで、デート…………

 

思えば学園祭にしても学校関連行事で葉月を誘う機会などいくらでもあった。

 

が、自分の元来の性格と、周りの外道共がいるせいで、ついに誘えずじまい。

しかし、今回に限ってはそんな事はなかった。

しかも、相手である葉月から誘ってきたのだ。

 

これで舞い上がらないはずがない。

 

すると、ハナミが肩を叩いてきた。

 

「あ、何ですかハナミ?」

『ふく どうする?』

 

と、ハナミが言うと、今まで顔を紅くしていた浅間がいきなり青くなった。

 

服。つまりはデート用であり、式典用の服。

極東式のものとなると、着付けもあるが、それはいつもの事なのでこの際放っておく。

 

それはそれとして。

 

浅間は今の自分を見る。

そこには、極東式の制服を着用した自分。

 

式服はあるにはある。

が、それでデートというのも。などと考えていると、後ろから声がした。

 

「クククいい感じに乙女ってるわね乙女巫女」

「な、き、喜美!?」

 

そこには幼馴染で永遠の狂人の葵・喜美がいた。

彼女はいつものように謎の自信に満ち溢れた笑みを浮かべて、浅間に近づく。

 

「ねえ浅間?」

「な、何ですか?」

「まさか。制服デートでいっかー、なんて考えてないわよね?」

「……」

「ククク図星ね。図星なのね! でも制服デートはある程度付き合った仲じゃないとドン引かれるわよええもう一気に二人の仲は絶対零度! ああ哀れ淫乱巨乳巫女!!」

「誰がいん――――うおおわああ! あ、危ないところでした。もうちょっとでヨゴレ発言を……」

「で。結局どういう感じで攻めるわけ?」

 

こっちの話きいちゃいねえですよ。と、内心で丁寧語を華麗に組み合わせた言葉で悪態をつく。

一方の喜美はというと、浅間に寄りかかって耳元で囁く。

 

「ひょっとしたら――――浅間が期待していることが起こるかも♪」

「な、なにを言ってるんですか」

「え、そりゃ勿論子づく――――」

 

握り拳を見せるとそれ以上は言わず、いつものように回り始めた。

しかし、それもすぐに止める。

 

「で。アンタマジでどうすんの?」

「ど、どうすると言われましても……」

「まあ初日はすぐに英国との会議だし。あの歴オタが使えない以上は誰かを代理書記とするわね。多分、アンタになるんじゃない?」

「まあ、おそらくは」

「だったら式典用で行きなさい。色は、そうね。赤がいいかしら」

 

表示枠を操作する。

そこには、英国の地図が載っていた。

 

「愚弟にも言われてデートコース探すついでにアンタたちのも見ておいてよかったわ」

「い、いつの間にそんなことを……」

 

と、浅間の目の前に一つの表示枠が現れた。

それはハナミが開いたもので、そこには英国のある店の情報が表示されていた。

 

「あら。これは?」

「あ、ちょっ、ハナミダメですって!」

 

表示枠を消そうと、慌ててハナミを引き戻すが、それより早く喜美が表示枠を引き寄せた。

 

しばらくその表示枠を見ていた喜美が、にんまりと笑う。

 

「クククなぁに浅間。この店」

「こ、これはですね。と、トーリ君のためにちょっと調べていたものでして……」

「へぇ、ふぅん……」

「な、なんですか」

「べっつにぃ~」

 

コイツ、と再び拳を握ろうとするが抑えた。

 

喜美はそれを見て更ににやける。

 

「客のどんなニーズにも応え、簡単な指輪からウェディングリングまで揃えてる指輪専門店『ソロモン』――――用意周到ねえ」

「くっ、べ、別にいいじゃないですか」

「悪いなんて誰も言ってないわよ? ただ、愚弟に知らせるんでしょ?」

 

ん? といった感じに聞いてくる。

無論、知らせるつもりもある。が、ぶっちゃけこれは自分用だった。

 

……もし行くことが出来たら二人でここでお揃いのを…………

 

などと考えていた。

 

それを察したのか喜美は離れていく。

 

「まあいいわ。愚弟には黙っておいてあげる。そういうのは自分で調べなきゃ意味ないものね」

「……いいんですか?」

 

と、浅間は聞く。

喜美は振り向きながらに答える。

 

「悪いとも良いとも言わないわ。ただ、アンタがこれでいいって思うんなら。そうなさい。ただでさえ、我侭とかいえない立場なんだし。こういうときくらいは、旦那に甘えなさいな」

「だ、旦那って……」

「デートの結果は聞かせなさい。それが条件よ」

 

そういうと、軽く手を振り喜美は行ってしまった。

浅間はその場に残され、ただ、

 

「……ありがとうございます。喜美」

 

そういって、笑顔になった。

 

「さて。とりあえずはデートと式典ですね」

『しあわせ いっぱい 拍手ー』

 

ポンッ、と軽く音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

喜美は、浅間から離れ、祭りの準備を横目に見ながら武蔵のほうを向いた。

 

おそらく武蔵内でも祭りの準備は行われているのだろう。

 

そんなことを考えていると、後ろから声がする。

 

「おー姉ちゃん! どうしたんだそんなところで」

「フフフ愚弟。それはこっちの台詞よ? ホライゾンは?」

「んー。今はネイトが服を見繕ってくれてるとこ。母ちゃんも一緒に」

「大丈夫なの? ミトツダイラはともかく、母さんの歳じゃあセンスも違うわよ」

「それ言ったら姉ちゃん後でお仕置きだぜ?」

 

と、トーリも武蔵を見る。

 

「姉ちゃんは誰かと行かねえの?」

「愚弟? この賢姉が誰と行くのよ」

「誰って、なあ」

 

トーリはやや困ったように頭を掻く。

喜美は武蔵をもう一度見ると、そのまま武蔵へと戻るルートを進む。

 

「姉ちゃんどこ行くんだー?」

「ええ。ちょっとね」

 

ふぅ、と一息つく喜美。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「諦めつかない自分に、ちょっと嫌気が差してるだけよ」

 




どうもKyoです。

次回は完全デート回。
トーリ&ホライゾン。葉月&浅間。そして点蔵&傷有り。

さてどうなることやら……

ちなみに。文章中で浅間が呟いた言葉を完全に聞きたい方。次回までお待ちを。
あとがき辺りに書きますので。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

いやーしかしこれ書いていると浅間さん原作のヨゴレ具合何処に行ったんでしょうn(アイマシター


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なんかもー色々とハチャメチャなネタ・2

 

◆自由なバーサーカー

 

街頭のポールの上に立つ金色のアーチャー。

 

それに呼応するかのように、黒い霧が現れた。

 

「Aaaaaaaaaaaaaahhhhhhhhhhhhhh!!」

「ッ、バーサーカー!?」

 

セイバーが反応するその先には、最後のクラス。狂戦士のバーサーカーが存在していた。

バーサーカーは咆哮を上げ、そして、

 

「Aaaaaaa、ああああああ、あーあーあー……」

 

その勢いがだんだんと失速していき、

 

 

 

 

 

「あー、ダルッ」

 

 

 

 

 

ついにはオッサンのような言葉を発した。

 

『…………え?』

 

全員がバーサーカーを注視する中、当の本人は気にも留めずに喋りだす。

 

「オッスオッス。オラ、バーサーカー。なんつって。いやーしかし本当にウチの主人は困ったものだよ。あれ、蟲プレイ真っ最中の女の子(幼女)を救うために聖杯戦争に参加したんだと。まあ、YesロリータNoタッチの精神を忘れずにいる紳士だからな。俺としてはすげー協力したいわけよ。

 

あ、俺のマスター、カリヤっつーんだけど。紳士なのはいいけど、これが微妙過ぎる魔術師でさー。ホントもうやんなちゃうよ。俺、魔力消費なるべく少なくしたいのにさー。そこの金ピカ見るなり「よし。ならば戦争だ」みたいなこと言っちゃって。

 

だからとりあえず何かそこらへんにいたキャスターぶっ倒して宝具かっぱらったんだよ。そしたら当たりでさ。魔力が無尽蔵なわけよ!

 

いやー。俺の幸運も中々だな!!

 

これぞまさに「ころしてでも うばいとる」って奴だよな!」

 

ペラペラと捲くし立てるバーサーカーに、辺りの者、あのアーチャーでさえ口をポカンと開けていた。

 

すると、何かを思い出したかのように手を叩くバーサーカー。

 

「あ、そうそう。じゃあこれから戦うから。いっちょよろ!」

 

すると、手をダランと下げ、

 

「はい。これから狂化しま~す♪」

 

そういって、それきり動かなくなった。

 

数秒の沈黙が支配する。

そして、

 

「■■■■■――――――!」

『いや、遅ぇよ!!』

 

その場に居た全員がツッコンだという。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいジジイ!! なんだあのサーヴァントは! 本当にあのランスロットなのか!? おい、て。置手紙?

 

『しばらく蟲たちと旅に出ます。探さないでください。By まとーぞーけん』

 

――――あのクソジジイ逃げやがったな!! つうか陽の光駄目なんだろうが! 外に出るなよ馬鹿野郎! せめて桜ちゃんの蟲全部外してから逝けよ!!

 

って、また手紙?

 

『ワシ、疲れた。聖杯手に入ったらこのアドレスにメール送っといてくれ。mushi.daisuki.demo.zousannohouga.mottosuki@huyuki.zo.kp』

 

――――――無駄にハイテク使ってんじゃねえぞあのクソジジイィィィィィ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇うつだしのう

 

武蔵総長兼生徒会長、葵・トーリは今、一つの極致を迎えようとしていた。

 

それは、おそらく誰にも出来ないことだろう。

 

あの同志、点蔵やウルキアガですら無理なこと。

それは――――

 

「遂に、遂に俺はやり遂げた…………

 

 

――――――48時間連続エロゲ三本同時攻略をッ!!」

 

ただのエロゲの同時攻略だった。

 

ただ、トーリの使う伝纂器では足りないため、ウルキアガ、点蔵から借りてきた。

 

そして広がる三画面。そこには、エロゲクリアの特典映像が流れていた。

 

「フッフッフ。これで俺は最強だ(ブツッ)…………」

 

と、何かがトーリの足元で切れた。

恐る恐るトーリが下を見る。

するとそこには――――

 

三台に繋がっていた電源コードがあった。

 

ぎ、ぎ、ぎ、と油を長年挿していない機械のように画面を見る。

 

そこには、黒く変色――――というよりも、電源が落ちてしまった画面が存在していた。

 

その日、トーリはギから始まる悲鳴で一日を明けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何ゆえトーリ殿は先ほどから机を涙で濡らしているので御座るか?」

「聞いたところによると、三画面同時攻略したはいいが。電源コードを自分の足でぶち抜いてしまったらしい」

「な、なんと無情な……」

「仕方ない。今回ばかりは同情するしかない。拙僧たちは無力だ」

「浅間ー。一発キッツイのコイツらに頼むわー」

 




どうもKyoです。

本編ばかり思いつかずこっちは普通に出てくるという。

まあ、お許し願いたいです……

コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

次回、おそらく私が糖死する予感……
皆さん一緒に――――――リア充爆ぜろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!


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馬簾田印出ー

聖譜暦1647年。二月十四日。

 

極東。武蔵アリアダスト教導院、二年梅組。

 

「とっつぜんですが! ヴァレンタインデー特別企画ということで、『チキチキ! ヴァレンタインのあの人に籤を引いてもらいまSHOW!!』開催! イエーイ!!」

「イエー」

 

その中では、金の翼と髪を持つ少女がハイテンションに、黒髪で黒の翼を持つ少女が、金の少女に合わせてローテンションでハイタッチを交わす。

 

そして、その二人の少女の目の前には、一人の男子。

 

赤みがかった茶髪をし、今まさに何かが行われようとしている状況で、元凶二人を半目で睨んでいる。

 

「……で。なんだコレは?」

「え? ハヅッち今日が何か知らないの? バレンタインデーだよ」

「知ってる。だから俺はこうしてチョコの商品をお前らに作ってきたんだろうが。ご丁寧に昨日は全員揃って催促しやがって……」

 

周りを見ると、少年――白百合・葉月が作ってきたチョコレートケーキやフォン・ダン・ショコラ。タルトなどを食べる級友の姿があった。

 

「うおおおお。美味しいですよこれ! 毎日がバレンタインでもいいくらいです! というかもう白百合さんのメニュー全品タダでいいですよねコレ!!」

「一応自分、男なので御座るが」

「まあ美味いものを食えたということだから良しとしよう」

「だよなー! っていうか葉月が作ってくんねえと俺らって誰からも貰えねえし」

「フフフ愚弟? 私が毎年あげてるの忘れてるわね?」

「いや。姉ちゃんの当たり外れ激しいじゃん」

「あ、あの。はづ、きくん。美味しい、よ? あり、がとう」

 

マトモな感想言ってくれるの向井だけだなー。

葉月は改めて、目の前にいる二人。マルゴット・ナイト、マルガ・ナルゼの二人に眼をやる。

 

「で。それがどうした?」

「ガッちゃん説明お願い!」

「Jud.

 

この日。二月十四日とは。古代ローマでは女神ユノの祝日であり、「ルペルカリア祭」という安産を願うお祭があったのよ。

 

で。当時の男女は別々に暮らすことが普通で、この日だけは男女がめぐり合うことの出来る特別な日。

 

そして、この祭の前日には女性は自分の名前を書いた紙を桶に入れ、男性は翌日にそれを引く。

そうして引いた女性とその日を一緒に過ごすのよ。

 

まあ、大概それで夫婦になる場合があるけど。

 

参照・MUSASHIペディア」

 

魔術陣を開きながら、そこにある文章を読み上げるナルゼ。

いい仕事をしたとばかりに親指を立てるナイト&ナルゼ。

 

「で? それと俺にどう関係が?」

「はいこれ」

 

そういってナイトが出したのは黒い箱。

立方体のそれは、葉月の机に異様な存在感を示していた。

 

「この中に、様々な女性の名前が書いてある紙が入っていまーす」

「それを、葉月が引く。そしてその引いた紙に書かれている女性と、一日過ごしてもらうわ」

「俺に対するメリットがねえ!!」

「ああ。それと。別に逃げてもいいけど――――」

「なら逃げる!」

 

言うが早いか、ナルゼが言い終わる前に葉月は窓を勢いよく開けた。

普通なら自殺行為だが、身体能力の高い葉月なら余裕の高さだ。

だが――――

 

 

 

「嫉妬の塊がアンタを狙ってるけどね」

 

 

 

眼下には、こちらを見上げる無数の、目、目、目。

その一団は皆、謎の黒い布を被り、目だし帽のようなトンガリの布を顔に被っていた。

何故かその額には「F」の文字がある。

 

「ちくしょう……何故、何故奴だけがぁ…………」

「既に巫女がいるというのにこれ以上誰を落とす気だ……」

「イケメンは滅びろぉ……」

「男の敵がぁ…………」

「我らの何がいけないんだ……」

「羨ましい嫉ましいパルパルパルパルパルパル…………」

「夜道には気をつけろよぉ……」

 

地の底から鳴り響く怨嗟の声と、昼間なのに赤く輝く光る目。

そして何故か一団の連中の手には、武蔵では禁止されているはずの武器が所持されていた。

 

葉月はそれを見て、そろりと教室へと戻った。

 

「まあ、女の子と一緒なら表立って狙われるようなことはないと思うよー?」

「テメェら……」

「嫌ならさっさと引きなさい」

 

そういって、ナルゼが箱を突き出してくる。

 

「……一応聞いておこう。誰の名前が入ってる」

「梅組は大体。あとは後輩や先輩たちね」

「大丈夫だよー。ハヅッちなら――――――多分」

 

その多分が厄介なんだよ。

葉月は恐る恐る箱に手を入れて、一枚の紙を引いた。

 

そして、紙を開ける。

 

「――――」

「何よ。誰が書いてあったの?」

「だれだれ教えて~?」

 

と、二人が聞いてくる。

葉月は黙って二人に紙を見せた。

 

 

 

『二年梅組 マルゴット・ナイト』

 

 

 

「――――さて。アンタの同人誌を書くとするわ」

「地味に嫌な脅しだな!! てかなんにもしねえよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「つかなんで名前書いたんだお前」

「いやー。一応ルールに則って?」

「いらんルールに則るな。おかげでお前の恋人にどんだけ怨嗟の目で睨まれたことか……」

 

荷車を押しながら、葉月はナイトに言う。

ナイトは相変わらずの笑顔だ。

 

そして、辺りからは怨嗟の視線が。

 

「なあ。これ誰が企画した?」

「んー。言っても怒らない?」

「もう怒る気力が湧かん」

「実はねー。喜美ちゃんが『エロイベントの定番ね! だから全員名前を書いてあの不能疑惑の男に一泡吹かせるのよー!』って」

「前言撤回。アイツの体重増やしてやる……」

「そうすると喜美ちゃんの奉納の効果無くなっちゃうから止めたほうが……あ、次そこね」

「はいはい。Jud.」

 

と、ナイトが指示をすると、葉月がそこに荷物を届ける。

判をもらい、再び進む。

 

葉月はあの後、授業が終わると同時に、ナイトの運送業の手伝いをさせられていた。

 

ナイトにしても始めからこうさせるつもりだったらしい。

葉月にとっては別に問題ないことなので、是非もなく手伝っていた。

 

「あとは、っと。ああこれはトーリだな。アイツ、またエロゲ買い漁って」

「あはは。ソーチョーも懲りないね。そんなことしても彼女なんて出来ないのに」

「さり気にお前も結構キッツイよな?」

「でもさ。ハヅッちも色々凄いよね?」

「何が」

「これ」

 

そういってナイトが指差すその先には、先ほどまで荷物で埋まっていた荷車の空きスペースだった。

 

そこには、目算10はあろう数の綺麗なラッピングが施された小さな箱たちが鮨詰め状態にあった。

 

中身は言うまでもなく、チョコレート。

 

ナイトはうんうん、と頷き、

 

「校舎を出るときに後輩達から7個。その次に先輩達から4個。あとは、誰だっけ?」

「……卒業していた先輩達から6個。町で見かけたという理由で3個。計20個」

「モッテモテー」

「止めろマジで。大体この一つ一つにお礼しなきゃならんとなると結構な出費になるからなぁ」

「そういいつつもちゃんと用意してるよね。アサマチなんか本当、毎年ハヅッちにあげてるよね」

「アイツ世話好きだからなぁ。幼馴染連中は一通りやってるだろ」

 

そういって、荷物の配達をする葉月とナイト。

 

ふと、空を見上げる葉月。

 

「なあ、ナイト」

「ん? 何かな?」

「空、飛べるんだよな?」

「Jud.飛べるよ?」

「――そっか。いいなあ本当」

「ハヅッちは?」

「今は無理。でも、やっぱ空くらいは飛べるように交渉すべきだったなー」

「今度乗せたげよっか?」

「いい。ナルゼに本気で殺される」

 

そんな軽口を叩きながら、二人は配達を終えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、浅間神社では。

 

「ふ、ふふふ。なんかもー。どーでもいいです。まさかあそこでナイトが当たるとは……いえ、確率的にはありえますから不思議はないんですけどね…………」

 

 

 

その一方で武蔵では。

 

「ヒャッハー! チョコなんざ甘ったるいもん誰が食うかー!!」

「リア充はこのクソ寒い中外で会ってるんだろうなプギャー!!」

「おお、これが塩チョコって奴か! 食ってる途中からなんかしょっぱくなってきたぜ!!」

「お前それ涙口に入ってないか?」

「ほらよ野郎共! 俺の奢りだ一口サイズのチョコケーキだが食っとけ!!」

「あざーす!! マジあざーす!!」

 

 

 

 

「お、俺今日母ちゃんから貰ったもんね!」

「ハンッ! 俺なんか今日親戚のばあさんからだぜ! 俺は二個だ! 羨ましいか畜生!!」

「お、俺なんか今日一口サイズだがチョコ貰ったぞ! あの男の娘から!」

「畜生! あの大量配布を逃した俺がバカだった!!」

「いやお前ら。あの子一応男だぞ?」

「バッキャロウ! いいか、あの外見で女の子の妄想をすりゃいいんだよ!!」

「ッ、クソッ! 一瞬でも羨ましいと思った俺がいる!!」

「気にすんな。今日は飲もうぜ。俺の家に美味い酒があるんだ。つまみはリア充共への怨嗟だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

怨嗟の声が武蔵を支配した一日。

その夕暮れ時に、ナイトと葉月は『ワグナリア』の前に居た。

 

「手伝ってくれてありがとね。ガッちゃんそろそろ〆切近いから危なかったんだー」

「だからアイツさっさと切り上げたのか」

 

そういって、荷車にあるチョコを店内に運び終えた二人。

と、何かを思い出したように、ナイトは制服のポケットから出した。

 

それは、市販の。何の変哲もない一個十円程度のチョコレート菓子だった。

 

「はいこれ。今日のお礼」

「明らかに貰い物だろこれ」

「うん。なんか食べてて飽きたっていうから貰っちゃった」

「しかも不用品かい。ま、ありがとよ」

「お返し期待してるねー」

「これのお返しに何を期待するんだ何を」

 

にゃは、と笑うナイト。

それにため息をつきつつ苦笑する葉月。

 

「じゃ。また明日学校でね」

「おう。んじゃな」

 

そういって、ナイトは箒に跨り空へと飛んでいった。

葉月も、「CLOSE」の看板をそのままに、店内へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「はーづーきー!! アンタ何マルゴットからチョコ貰ってんのよ!! いい加減調子に乗ってるとマジぶっ殺すわよ! 触手系同人誌で陵辱した後に!」

「随分とクリティカルだなぁオイ!!」

 

ガララララッ、と教室の扉が開く音がした。

中に入ってきたのは、昨日の覆面集団だった。

 

「リア充に死の鉄槌を!」

「お前らどっから湧いてきた!? というか一日遅ぇよ!!」

「あ、あの葉月君!」

「え、何今度は浅間!?」

「あ、あの……これ昨日渡しそびれて」

 

そういって、浅間が出したのは、簡素な。しかし手作りしたという事実がありありのラッピングされた箱だった。

無論、中身は言うまでもなくチョコレートだろう。

 

「ダメ、ですか?」

「い、いや。ありがたく貰うよ」

「死ぃぃぃぃぃいねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「ヤベッ! 神耶! 先生には今日は逃げ切るから休むって言っといてくれ!」

「Jud.Jud.」

「浅間、ありがとな!」

「あ、はい!」

 

そういうと、葉月は窓から飛び降りた。

 

この後、「バレンタイン殲滅隊」なるものが組織されたそうだが、風紀委員である浅間に壊滅させられた。

 




どうもKyoです。

というわけでバレンタイン特別編でした。

つーか私は何をやってんだろう。こんな皆様の傷を抉るようなもの書いて。
こんなことをして……楽しいわけないじゃない!(喜色満面

ゲフン。えー失礼いたしました。
本日の小説は、浅間かと思った? 残念ナイトでした。という感じです。

えーでは。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

あ、忘れてた。
この話には、嫉妬成分が多分に含まれております。お読みの場合は気をつけてください。

異端審問に入る場合は、是のボタンを心の中で超速連打してください。


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英国紳士の魔法使い

快晴の空に、花火が打ちあがる。

 

祭の準備を終え、武蔵からは正純、英国からはダッドリーによる宣言で、英国・武蔵の合同による春季学園祭が幕を開けた。

一斉にあたりは活気に満ち溢れ、術式風船が空を飛び交う。

 

そんな中、英国の学園祭入場門には四人の人影。

 

二人は、葵・トーリとホライゾン・アリアダスト。

もう二人は、本多・正純と白百合・葉月。

 

「いいか。夜には英国との会議だ。遅れるな」

「分かってるって」

「ま、楽しんでこいよ」

「葉月様は一緒に来ないのですか?」

「んー。まあ、な。お前らはお前らで、気楽に話しながらデート楽しんでこいよ」

「なんだよー。葉月と浅間は来ないのかよー」

「トーリ様」

 

ホライゾンは、トーリに耳打ちする。

 

「浅間様はこういったことだと自爆する恐れがあります。ここは一つ、葉月様と二人きりにしてねっちょりぬっとりさせるのが良いかと」

「おおっ、流石だなホライゾン! その最後の擬音がどうかと思うけどナイスだぜ!!」

「おーいおーい。聞こえてるぞー」

 

不穏以前に、精神衛生上よくない擬音が口に出されてしまった。

しかもトーリからではなくホライゾンから。

 

「それじゃ。行こうかホライゾン」

「Jud.」

 

そういって、二人は祭の中へ。

しかし、歩いて数歩もしないうちにトーリがホライゾンの尻へと手を伸ばし、しかしそれより先にホライゾンがトーリにストレートを決めた。

 

「……大丈夫なのか? アレで」

「Jud.まあ安心しろとはいわねえけど。あの二人はアレで通常だから」

「そうか。まあ私より付き合い長い白百合が言うならいいが。それより、お前はいいのか?」

「何が?」

「浅間と。待ち合わせてるんだろ?」

 

そういう正純はやや笑う。

……こういう話をすることに抵抗がないことは、私も梅組に毒されてきてるなー。

 

正純は内心思い、しかしそれを顔には出さなかった。

 

「しかし。よく思い切ったな。浅間から誘うかと思ったが」

「こういうのは男が言わないとダメだろ。それにさ――――あの後、喜美からこういわれたよ」

「なんて?」

「『誘ってなかったら目玉抉ってる』って」

「……色恋沙汰には厳しいからなぁ、葵姉は」

 

厳しいを通り越してるんだと思うがなー。

葉月は思うが、言うとさらに喜美が何かしてきそうなので、その場は反論せずにいた。

 

「さて。私も少し見て回るか」

「古本市か? 確かウェストミンスター寺院のほうだったか?」

「Jud.英国の本も興味あるからな」

「飯代も本代につぎ込むなよ」

「――――善処しよう」

「それはやる気のない政治家がよく使う言葉だからな?」

「いいか。私は悪くない。面白そうな本があるのが悪い」

「何だそのすり替え」

 

そういうと、正純は葉月と分かれた。

 

「さて、と」

 

葉月はその場で、浅間が来るのを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「あのー。変じゃないでしょうか? これ曲がってませんよね?」

「それ何度目の質問? 大丈夫よ」

 

浅間は、かつてないほどに緊張していた。

 

何故なら、自分の想い人である葉月とのデート当日だからだ。

今日のために新品同様に卸し、禊を済ませた服を逐一確認しては、喜美たちに聞いている。

 

その浅間の周りには、ナイト、ナルゼ、ネイト、喜美といつものメンバーが揃っていた。

 

「じゃあ私らはアンタたちの後ろからついていくから」

「な、何でついてくるんですか?」

「そりゃあ。同人誌の材料――――もとい。浅間の自爆っぷりを記録するため」

「言い直した意味ないですよねそうですよね!?」

「あ、葉月」

 

瞬間、浅間は喜美の後ろに隠れる。

が、当然葉月はそこにはいなく、代わりに喜美がくっくっ、と笑う。

 

「なぁに浅間。胸が大きいことがそんなに嫌なの? こぉんなに押し付けてるのに! もう大胆! そのまま葉月を篭絡すればいいわ素敵!!」

「なぁに言ってるんですかー!!」

 

吠えるように浅間は言うが、喜美は全く気にしていなかった。

と、ネイトがあ、と声を出す。

 

「葉月ですわ」

「ミト? 流石に二度ネタは通じませんよ?」

「いえ本当に」

「え?」

 

振り向くと、何時の間にやらゲートがそこにあった。

そして、ゲートの前では葉月が待っていた。

 

その服装は、いつもの制服とは違い、燕尾服を崩したようなものだった。

腰にある銀色の細い鎖は、おそらく懐中時計だろう。

 

葉月は、浅間の姿を確認すると大急ぎでこちらへやってくる。

 

「よっ」

「ど、どうも!」

 

あまりのことに声が裏返る。

……くぁー! い、いきなり点蔵君レベルのことやらかしましたよ!!

どどどどどうしましょう、と浅間が一人テンパる。

 

・賢姉様:『やらかしたわね』

・● 画:『もう一片の後悔もないでしょ』

・銀 狼:『ふ、二人とも結論早すぎますわよ! まだこれからというときに!』

・金マル:『でもミトっつぁん。この状況どうすんの?』

 

なにやら後ろが五月蝿いですね。

浅間が次の言葉を考えてると、葉月が手を差し出す。

 

「えっ……?」

「あー。まあ、なんだ。俺、英国は色々と知ってるつもりだし。案内するよ」

「あ、はい」

 

き、気を使わせちゃいましたかね!? と内心マジビクビクな浅間。

見ると、葉月は手を差し出したままだ。

 

「拙いエスコートにならぬよう、精一杯見栄を張らせていただきます」

「え、あ、いやそんなその……」

 

笑顔でそう言ってのける葉月。

対する浅間は、今までそんなことをいわれたことがないため、どうすればいいかわからないでいた。

 

「ご一緒しましょうか。今日が良き日になるように」

「は、はい!」

 

浅間はここでようやく、葉月の手を握る。

葉月も握り返す。

 

「……あれ。完全にこっちのこと忘れてるよね?」

「クククアツいわ! アツアツすぎて賢姉のメイクが落ちそうよ! でもダメ! メイク落ちると山姥みたいな顔になるのよ!!」

「っていうか。葉月は一体何処であんな台詞覚えたのよ」

「英国紳士として、ではないのですか?」

 

やかましい。

 

葉月は後ろの喜美たちに言う。

 

「じゃあとりあえず俺らは別ルートで英国回るから」

「Jud.何かあったら浅間のほうに連絡入れるわね――――まあでもその頃には浅間のテンションがはち切れてトンでもないことになってるわね素敵!」

「トンでもないことってなんだよ」

「わあああ! い、いいから行きましょう葉月君! この狂人と一緒に居たら正気度が下がりますから!」

「お、おう」

 

そういって、葉月の手を引っ張る浅間。

それを、微妙な目で見つめ温かい笑顔で見送る四人。

 

と、何かに気づいたかのようにナルゼが声を上げる。

 

「あっ! あの二人が離れちゃ同人誌のネタが確保できないじゃない!!」

「ガッちゃんブレないねえ」

「ククク安心しなさい同人屋。すでに手は打ってあるわ」

「……どういうことですの?」

 

ネイトが聞くと、喜美は左腕を前に出す。

すると、喜美の背から突然小さな狐が出てきた。

 

狐が空中を突くような仕草をすると、表示枠が現れた。

 

「神耶! 分かってるわね?」

『Jud.Jud.二人のデートをつければいいんでしょ?』

「喜美。貴女まさか神耶の狐に頼む気でしたの?」

「ナイス喜美。これでリアルタイムで資料が取れる!」

『でもさー。多分、葉月に気づかれるよ? 僕の飯綱たち。独特の気配持ってるから。気配消しても、多分残滓で気づかれる』

「浅間もいるしね」

「空からならバレないんじゃない?」

『んー。それならいけるかな?』

「それじゃあそれに決まりね。後で毛繕いやってあげるわ!」

『地味に気持ちいいから嬉しいんだよね。喜美のは』

 

そういうと、表示枠が消えて、狐は空へと飛び上がる。

 

「さっ。私たちはパレードで凱旋と行きましょう。英国の男共の格を見定めてあげるわ!」

「何故そう上から目線なのです……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

一方、葉月と浅間はトーリや喜美たちとは違うルートで英国を回っていた。

 

第二階層ともなると、それなりに雰囲気のある建物も出てくる。

特に、今は祭の期間。屋台も多く出ていて、普段より活気にあふれている。

 

「浅間。何か食べるか?」

「え、あ、い、いいえ! 大丈夫ですよ!」

「何そんな緊張してんだよ。いつも通りでいいだろ?」

「あぇいやはっ! ま、まあそうですよね!! えーと――――」

 

しかし、いくら活気にあふれていて、普段より心がオープンになる祭とはいえ――――

 

(うわーうわー! は、葉月君と手を繋いじゃってますよ! い、何時の間に!?)

 

引っ込み思案もいいところな浅間が葉月と手を繋いでいる状態で何が出来ると。

ついでに言うなら、葉月が浅間の歩きペースに合わせて隣に立っていることも相まって、乙女思考回路がショート寸前だった。

 

(えぇと、ゲートのところで待ち合わせてからソッコで喜美たちと別れたところまでは覚えてるんですが――――ってその時点もう手を繋いでますよ! どうしたんですか!? 私どうしたんですか!? め、迷惑じゃないですよね?)

 

ちらっ、と浅間は葉月を見る。

その顔は楽しそうに笑っている。

 

と、浅間の視線に気づいたのか葉月が浅間を見る。

 

「どうした?」

「い、いえ! 何でもありません!!」

「そ、そうか? っと」

 

どうやら中心部に近くなってきたようだ。人が段々と多くなってきて、手を離したらはぐれてしまいそうだった。

 

すると葉月は、浅間と繋いでいる手を更に絡め、尚且つ、自分のほうへと寄せた。

二人の距離はもう0になっていた。

時折、浅間の豊満な母性の象徴が葉月の身体に当たるが、葉月はどうやら人ごみを避けるので気づいていないらしい。

 

「すまん。もうちょいでいい店があるんだ。まあK.P.A.Italia寄りのパスタなんだが。平気だよな?」

「ひゃ、ひゃい……」

「なら良かった――――ひょっとして今のこの体勢嫌か? だったら言ってくれよ。少し危ないけど。空飛んで行こう」

「い、いいいいえ! そんなことはありませんよ! む、むしろ役得――――」

「は?」

「な、なんでもないですよー! あ、あの、出来ればこのままで」

「――フフッ。了解」

 

葉月は笑うと、優しく浅間をエスコートしている。

 

(ああ、なんかもう。夢見てるみたいです……ってこれは現実! でも絶対に何かありあそうですよね! なにかこう――――そう外道的な展開が待っていそうな気がします! だから今のうちに葉月君の胸板を、じゃなくて!! 葉月君とのデートを楽しみましょう!! な、何もやましいことないですよー? 本当ですよー?)

 

「ああ、そうだ」

「は、はい! なんですか!?」

「いや。その服、似合ってるって言おうとして。可愛い」

「――――――は、葉月君も。その服。カッコいいです」

「ぇ……あ、うん。ありがとう……」

「い、いえ。こちらこそ……」

 

……なんだか微妙な空気になっちゃいましたよ!? こ、コレどうしたほうがいいんですか!! 教えて神様!!

 

と、浅間の横に表示枠が小さく出てきた。

 

『当たって砕ける:by神』

 

……ぬああああ神道ガッデム!! っていうか砕けることは確定なんですか!?

 

再び葉月を覗き見る浅間。

葉月は、先ほどよりも顔を紅潮させ、少し照れくさそうにしていた。

 

(は、葉月君が照れてる!? 写真、写真に、って今出したらダメですってば! ぬおおあああ! なんというジレンマ!)

 

その後、葉月が店に案内されるまで、悶々としていた浅間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

一方神耶は、その様子を表示枠越しに見ていた。

 

わざわざ大画面スクリーンにまでして。

 

(良かった。浅間と葉月。上手くやれてるみたい)

 

二人の幼馴染でもある神耶は、是非ともこのデートを成功させて欲しかった。

 

ふと、視線を武蔵に移す。

 

「これより。異端審問会を開く。被告人。白百合・葉月。罪状。おにゃのことイチャイチャしている。判決。とにかく死刑!」

「死刑!」

「死刑!」

「死刑!」

「よろしい。満場一致で死刑決定!!」

「うおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

いやまず被告人いないし。弁護士いないの? と神耶は思わず思った。

 

(これは帰ってきたときが大変そうだ)

 

まるで他人事のように表示枠を見つめる神耶だった。

 




どうもKyoです。

HAHAHA! 点蔵モゲろ回は次回以降に回すのさ!
とりあえず葉月は爆ぜろ。爆ぜて消えろ。

そして浅間さんのヒロイン力が。ヒロイン力ががががが(ry

FFF団は何処にでも現れます。現在同士募集中。

最後に。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。


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広場の男女

英国第二階層。『近親同好会』会場。

近親、とはついているが、正式には『近き親善のための同人誌好事会』である。

 

時折、R-元服作品があるかと思って寄る者もいるらしい。

 

そんな中、自費出版スペースにて、ネシンバラは思う。

 

……今頃皆どうしてるかなー。

 

おそらく今もどこかで他人に迷惑掛けながら外道ヒャッハー今後ともよろしく! みたいにやってることは確実だろう。

問題は、それが自分にまで被害が及ぶかどうかだ。

 

ネシンバラは、右手を見る。

 

そこには、細い光の糸のようなものが幾重にも絡まっている。

 

トマス・シェイクスピアの『マクベス』

その内容は、王位の簒奪。

 

ネシンバラに関して言えば、それは自分達の王、つまり葵・トーリの殺害に他ならない。

現に、普通に授業を受けている時でさえそのような行動を起こしているのだから。

 

コークスペンを削るナイフを投擲しようとして二代に止められていなければ自分の起こした行動に気づかなかっただろう。

あれ以来、トーリの身体には神耶による手製の結界、そして葉月による守護の魔法を込めた護符(タリズマン)がある。

 

正直、作家というか、そういうものに憧れを抱く者としてはそういう術や道具に守ってみてもらいたいものだが、今は状況が状況だ。それは後でということにしておこう。

 

とにもかくにも、現在のネシンバラは手持ち無沙汰で、こうして英国のイベントに出るしかなくなっていた。

周りを見ると、あちこちで様々な催しをやっていた。

 

「はーい。こちら火刑体験コーナーでーす。あ、安心してください。火傷とかはしませんよちょっと熱いだけですから本当――――逃げてんじゃねえぞオラ! ケツに火ぃぶち込むぞ!!」

 

気が狂いそうになるのでそちらを見るのを止めた。

他の場所を見ていると、やはり人気のあるところは人が並ぶようだ。

先ほども、異族なのか人間大のシーツと枕カバーが人間離れしたスピードでスペースを渡り歩いていた。

 

と、顔見知りが手を振ってきたので振り替えす。

 

自分のところには今のところ客が来ない。

本でも読んでようかと、持ってきた本を広げようとした。

 

が、それは叶わなかった。

 

何故か。それは目の前に元凶が立っていたからだ。

眼鏡をかけ、白いよれよれの白衣を着ている彼女。

 

「トマス・シェイクスピア……ッ」

 

いきなりの来訪にネシンバラは驚く。

周りに者の中にも、シェイクスピアに気づいたものは視線を向ける。

 

シェイクスピアは、それらの視線をものともしない。

 

「そこ、空いてる?」

「えっ?」

「空いてるね」

 

そういうと、ネシンバラが答えるより先に空いている椅子に座った。

 

……じゃあ聞くなよ!!

 

ネシンバラは内心思ったが、ここは英国で彼女のファンが居るということを思い出し、ぐっと堪えた。

売れていない同人作家のスペースに有名作家が居座る。

なんというか、これは――――

 

(気まずい……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

さて。

浅間と葉月を見送った喜美たちだが、神耶が飯綱を使って生実況(ライブ)中継しているため、そのテンションは振り切れている。

 

しかし、かといってそればかりに注目するというわけでもない。

 

ここは祭の場で、自分達は極東所属。

ならばここは魅せる場だと、喜美は言う。

 

事実、先ほど喜美の前に一人の少年が現れて腕を無言で突き出してきた。

それに喜美は一瞬驚くも、すぐに余裕の笑みに変わり、答える代わりに自分の髪につけていた飾り布を少年の腕に巻いた。

 

「何かの儀式ですの?」

 

少年を見送った喜美に、ネイトは訊ねる。

 

「簡単よ。紳士を気取る子を後押ししただけ」

「はぁ……」

『まあ詰まる所。『先は長いからもうちょっと色々頑張ってから出直してきてね』って事だと思うよ』

「フフ、神耶。よく分かってるじゃない」

『そりゃ長いこと幼馴染やってないからねー』

 

苦労多そうですわねー。他人事ではないが。

と、空が急に暗くなった。

見上げると、そこには見慣れた赤の艦が空を横断していた。

 

「三征西班牙の艦!?」

「アルカラ・デ・エナレス。その所属艦ね。多分、外交のための大使派遣ってところかしら」

 

ナルゼがそういうと、赤の艦が通り過ぎていく。

 

「確か英国と三征西班牙って……」

『Jud.歴史再現。アルマダ海戦があるね』

「今の時期に来るって事は――――」

「この祭の終わりか、祭の最中にその海戦を行うって事ね」

 

祭の最中に戦争の決め事。なんともミスマッチというか相反することである。

出来たらそういうことは見えないところでやってほしいというのが本音であるが、歴史再現であるためあまりそういうことを表立って言うことが出来ない。

 

と、表示枠の中で神耶が言う。

 

『おっ。葉月が浅間を店に連れこんだ』

「えっ――――って、ただお昼食べに入っただけじゃないのよつまらない」

『何期待してるのさナルゼは』

「うわーアサマチ。ガッチガチに緊張してるよ」

「クククあの煩悩巫女。今頃頭の中で何考えてるのかしらねえ」

「智……」

 

神耶の一言で一気に戦争から身近な人物達への恋愛話に転換した。

 

このクラスの人間。良くも悪くも外道である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ネシンバラは変わらず気まずい雰囲気の中に居た。

 

何故彼女がここに、というか目的は何だ。様々な質問が頭を中を縦横無尽に飛び交うが、答えは出なかった。

仕方ない。そう割り切って、聞いてみることにした。

 

「――――ねえ」

「こっちを向かないでくれる?」

 

シェイクスピアは切り捨てるように言う。

 

あ、ダメだコレこっちの話聞く気ねえや。

ネシンバラは内心ため息混じりに視線を元に戻す。

 

すると、シェイクスピアは読んでいた本から顔を上げる。

 

「そう。それでいい。どうせ君は、僕の『マクベス』で何も出来ない」

 

すると、彼女の髪の間から文字列が流れ出た。

それらは地面へと垂れていき、やがて、二人の周りから客が居なくなった。

 

「ッ、何をした!?」

「舞台を用意したんだよ。今回の僕の役目は、それの一点に尽きるからね」

「……客に、呪いをかけたのか?」

「違うよ。失敬な。言っただろ。僕の役目はこれ。舞台の設定さ――――喜劇『空騒ぎ』」

 

文字列はドンドン流れ出て、あたりの空間が異質なものへと変貌していく。

それはまるで、舞台の上で開幕の時が上がるのを待っている状態のようだった。

 

「この祭自体が罠だったってことかい」

「罠じゃないさ。交流だよ――――相対という名の、ね」

 

相対。その言葉を聞いて、ネシンバラは理解した。

 

「僕達の役職者と相対して、葵君への相対権限を得るつもりか!!」

 

通常。相対というものは挑まれれば受けなければならない。

が、自分の役職と同等か、それ以下、または近しい役職者でなければ相対の権限は得られない。

また、その役職者に勝った場合、より上の役職者への相対権限を得ることが出来る。

 

トーリのそれは、総長と生徒会長。つまり最高位だ。

 

トーリへの相対をするならば、副会長の正純。もしくは副長の二代と相対し、勝利する必要がある。

 

シェイクスピアは、ネシンバラが立ち上がったことに毛ほどの関心も寄せず、淡々と話す。

 

「ああ。言っておくけど。ソッチの総長に知らせようとしたら、迷いなく演劇空間に取り込むから」

「くっ……!」

「まあどの道。『マクベス』がある限り、それは出来ないけどね」

 

つまり、英国の判断は『武蔵を英国に留めておくことで、聖連との交渉カードにする』ということだ。

 

シェイクスピアの結界は、更に広がっていった。

そして、

 

「さあ。座長が命じよう――――――開演だ。諸君」

 

発動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

点蔵は、遠く離れたところから祭の行われている第二階層を見ていた。

 

その隣には、〝傷有り〟がいた。

 

「先ほど三征西班牙の艦が英国に向かっていったで御座るな」

「Jud.きっと。アルマダ海戦のことでしょう」

「すると」

「――――おそらく。この祭の終わりには、メアリ・スチュアートは処刑されます」

 

そう、〝傷有り〟はいった。

点蔵は、何も言わず、ただ〝傷有り〟の言葉を聞いていた。

 

「点蔵様」

「Jud.」

「点蔵様は、この処刑について。どう思われますか?」

 

そう、〝傷有り〟は聞いてきた。

 

……どう答えたものか。

 

歴史再現。しかも戦争を左右するほどのものとなると、迂闊には答えられない。

自分の発言一つで国家間の問題が起きたら事だ。

 

何よりあの外道共は生涯死ぬまでそのネタで弄り倒すだろう。

 

ふと、それに気づいたのか〝傷有り〟は優しく微笑んでくる。

 

「大丈夫ですよ。ここでは個人の会話だけですから」

「Ju,Jud.二人だけの会話、で御座るな」

「あ、Ju,Jud.はい! 二人っきりの会話です」

 

そういって、顔を俯かせる〝傷有り〟

また何かやらかしたか! などと点蔵は思っているが、このまま黙っててもしょうがないので、自分の考えを述べた。

 

「処刑、といっても。何か別の形で解釈と成すので御座ろう?」

「あ、Jud.メアリ・スチュアートは――――〝救われます〟」

「それは良う御座った――――いや。失敬。過ぎた言葉に御座る」

 

点蔵は自分の発言に気づいて、頭を下げる。

〝傷有り〟はそんな点蔵を見て微笑む。

 

「あ、そうだ。点蔵様。これからお祭に行きませんか?」

「はっ? 祭、というと」

「Jud.見せたいものとかあるのです」

 

そういう〝傷有り〟は嬉しそうに笑う。

と、

 

「つ、つまりそれはデートということに?」

「え……あ、え、えーと!」

 

点蔵の呟きを〝傷有り〟が聞くと、〝傷有り〟は顔を紅くし、慌てはじめる。

 

「そ、その! 対外的に見れば確かにそうなりますね! はい!」

「そ、そうで御座るな!」

「Jud! あ、でも…………嫌ですよね。こんな傷だらけの女とデートだなんて」

「め、滅相も御座らん! むしろ自分、〝傷有り〟殿以外とはデートなど考えられぬで御座るよ!!」

「え、あの、それはその……」

 

今日の自分、まるで浅間殿みたいな自爆発言連発で御座るな。

 

点蔵はごほん、と咳払いをする。

 

「〝傷有り〟殿。自分でよければ。是非」

「あ、はい! ではちょっと着替えてきますね。ゲートのところで落ち合いましょう」

「Jud.」

 

そういうと、〝傷有り〟は離れていく。

 

それと同時に、点蔵は不穏な空気を英国本土から感じ取った。

 

「……何かの術式の気配?」

 

この感じからするに、おそらく結界の類だろう。

だが、どんな効果があるのかが分からず、とりあえず〝傷有り〟にそのことを言おうとして、止めた。

 

(いや。いざとなったら自分が前に出て〝傷有り〟殿を守ればいいだけのこと。あれだけ楽しそうな笑顔の〝傷有り〟殿は初めて見るで御座る)

 

その彼女の笑顔を台無しにしてはいけない。

点蔵は心に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

一方、浅間と葉月は昼食終え露天商を見ていた。

 

「綺麗ですねー」

「この辺りの店は凝った装飾が多いからな。浅間が気に入るのもあるだろうぜ」

 

そんなことを話しながら、浅間は時折葉月を見る。

そして、その手には小さく表示枠が。

 

「あ、あの。葉月君」

「ん?」

「わ、私の我侭なんですけど……ちょっと行きたいお店が、ありまして」

「へえ。珍しいな。何処だ? ついでだ。俺が代金持つよ」

「い、いいえ! そんなことまでは!!」

「気にするなって。何処の店――――」

 

そこまで言って、葉月の顔色が変わった。

何かを警戒するような、そんな目になっていた。

 

「浅間」

「は、はい? え、ちょっ、な、なんですか!?」

 

葉月は浅間を路地裏に引き込む。

 

浅間の脳内はもうパンク寸前だった。

 

(え、え、ええぇぇぇぇ!? は、葉月君ってこんなに大胆、いいい、いや! 不味いですよ、これをもし他の誰かに見られていたら! い、今のところそういう類の術式はないようですが、って葉月君近いです! 顔近いです!! わ、私このままここで!? は、葉月君が望むならそれもありですけどぉ……)

 

「浅間。気づいているか? この気配」

「やっぱりこういうことは順序を――――――へ? 気配?」

「Jud.英国を包むようにしている気配だ」

 

浅間も、葉月に言われようやく冷静になれた。

すると、確かに術式の気配がした。

 

「はい。おそらく結界のようなものかと」

「やっぱりか。クソッ! 浅間。悪いがデートを一度中断する。喜美たちと合流しよう」

「Jud.」

 

そういうと、葉月は浅間を抱えあげる。

 

お姫様抱っこだ。

 

「え、えっと葉月君?」

「飛んでいったほうが早いぞ?」

「そ、そうじゃなくてその……」

「ん? ――――あ、ああ。すまない。嫌だろうが、少し我慢してくれ」

「い、嫌じゃないです!」

「そ、そうか。なら、もうちょいしっかりと捕まってくれ」

「こ、こうですか?」

「Jud.」

 

浅間が葉月の首に手を回し、身を寄せる。

 

(こ、これって本当に伝説のお姫様抱っこ上級者じゃないですか!? は、ハードル高いですねいきなり!!)

 

「しっかり捕まってろよ。飛ぶぞ!」

「あ、はい!」

 

その瞬間、葉月は空へと飛び上がった。

 




どうもKyoです。

点蔵、そして葉月よ貴様らは許さん。

今日アニメイト行きました。
まんだらけ行きました。
メロンブックス行きました。

Fate/Apocryphaがあるではないか!!

電撃購入。だって表紙にジャンヌとアストルフォがいるんだもの。買わざるを得ない。

そして期待の召喚シーン。

アストルフォのシーンだと、

中世的な顔立ちの少年。

中世的な顔立ちの少年。

中世的な顔立ちの少年。

おい。何で一目で男と分かった。
分からないだろ! もしかしたら女の子かもしれないんだぞ!
というか初見で私は女だと普通に思ってました。

女でいいじゃん! むしろ女にしようぜ!!
みたいなノリでずっと読んでました。

おかげさまで妄想が膨らみに膨らんで――――Fateの二次創作やっちゃったよ……orz
だから執筆がここまで遅くなりました申し訳ないです……

さて。では。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。

ちなみに。以前に言った浅間さんの台詞はこうです。

「い、いきなり誘ってきましたよ!? ここれは夢!? いえ現実です? な、ならどうしましょう! い、いつの間にか既成事実作られたりとカしちゃいますかね!? え、な、何でここで鎖が? か、監○プレイ!? い、いけませんいけません! そんな倒錯的な趣味は!」

でした。

ヤンデレ浅間だと思った? 残念ドMな浅間さんでした(アイマシター

ア、ストル、フォ、をヒロイン、に……(ここで文字が途切れている


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なんかもう色々とハチャメチャなネタ・3

◆好きなものは好きだからしょうがない by間桐臓硯&ギネヴィア

 

間桐雁夜は夢を見ていた。

 

以前にも、似たような光景を目にしたことがある。

 

そう。自身のサーヴァントであるバーサーカーの過去の一端だ。

おそらく、今回も似たようなものだろう。

 

雁夜の前には、美しい女性がいた。

 

ゆるりとした金髪にドレス。貴婦人を連想させるような佇まい。

おそらく、バーサーカーに何かしら影響を与えた人物なのだろう。

 

目の前の女性は、一つの絵を見ている。

 

そこに映っていたのは――――

 

(あれは、セイバー?)

 

現在聖杯を求める敵同士であるセイバー。そして、その真名はかの英国の騎士王。アーサー・ペンドラゴン。

 

当然、雁夜は自分のサーヴァントの真名を知っている。

それは、かの円卓の騎士の中でも随一といわれるほどの騎士。サー・ランスロット。

 

彼は騎士の象徴とまで言われるほどだったが、アーサー王の妻ギネヴィアと不義の仲になり、以後は凋落の人生となる。

 

そのランスロットの人生の中の女性で、アーサー王の絵を見つめている。

そうなると、この女性がギネヴィアだということは察しがついた。

 

(これは、まだランスロットと不倫関係になっていないときか?)

 

雁夜はそう思い、ギネヴィアを見つめていた。

ふと、ギネヴィアが口を開く。

 

 

 

「ああ、アーサー――――ハァ、ハァ、ハァハァハァハァハァ……」

 

 

 

(――――は?)

 

いきなり絵を掴んで自分のほうに寄せたかと思うと、突如として息遣いが荒くなり始めた。

 

「ちょっ、マジヤバいわこの可愛さ。これで男とか信じられない。そうよ! こんな可愛い子が男の子であるはずがないわ! いえでも女性だとすると私との婚姻は無効に――――女の子でもいいじゃない! くぁわいい、は正義よ! ああ、アーサーペロp――」

 

辺りに誰もいないことを確認し、いきなり声を張り上げてわけの分からない言葉を羅列し、あまつさえ絵を舐めようとしていた。

 

(はっ?! え、ちょっ。これがギネヴィア!? なんか別の女性じゃないの!? ってオイオイオイオイ!! マジで絵を舐めるなよ汚ねえな!!)

 

見るに耐えん、と雁夜は目を逸らした。

 

すると、そこにはバーサーカーが立っていた。

 

「ああ。うん――――見ちゃったかぁ……」

「お、おいバーサーカー。これは、その……」

「ギネヴィア本人だよ」

「おかしいだろ! なんでこんな倒錯性癖持ってるんだよ! つかなんだよ絵を恍惚の表情浮かべて舐める美人とか! しかもその相手が美男子ならまだ一億歩譲って、いや本来なら譲りたくもないけど譲ったとして、なんで少女なんだよ!! 残念すぎるわ!!」

「そーなんだよねー。いやー、俺もコレ見たときマジで引いたわ。しかもこの人俺と不倫になったって言われてるけど。実際はアーサーに手をつける前に城から遠ざけたかっただけなんだよねー。しかもその逃走中ギネヴィアにすっごい睨まれるわ敵の追っ手は来るわで俺すんごい涙目」

「そうだったの!? うわっ裏切りの騎士とか言われてるけど本当に騎士だったんだ!!」

「あ、でもYesロリータNoタッチの精神貫いているマスターはマジ尊敬。だって俺も同じだし」

「捕まってしまえ犯罪者!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいジジイ!」

「――――――何じゃ騒々しい。今『ゼロの使い魔』見終わってこれから『じょ○らく』と『落語天女○ゆい』、それから『咲―s○ki―』を見るんじゃが」

「アニメなんかに嵌ってんじゃねえよジジイ歳考えろ歳!!」

「別に良かろう。アニメは娯楽じゃ。そして娯楽に歳は関係ない。こうしてホレ。アニメイトにグッズまで買いに行ってしまったわい」

「その格好で!? 店員さん対応できたのかよ!!」

「アニメ談義までしてしまったわい」

「適応力パネェな店員!! つかアンタ日光に弱いんじゃないのかよ!!」

「うむ。実を言うと結構死にそう。てへっ♪」

「てへっ、じゃねえよ全然可愛くねえんだよ! ってそうじゃない! アレは本当にランスロット縁の聖遺物だったんだろうな!!」

「無論じゃ。ワシを誰だと思うておる」

「アニメ好きの特殊性癖変態ジジイ」

「ほう。そこまで申すか。良いか雁夜」

「……なんだよ」

「ワシはのう――――――くぎゅう、が好きなのじゃ」

「黙って病院行け患者。あと俺はほっちゃん派だから知らん」

「何じゃと! 貴様、間桐の家の者でありながらくぎゅう党に属しておらんのか!!」

「うるせえよ馬鹿! お前もう喋んな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇うわぁ……

 

武蔵アリアダスト教導院。

二年梅組教室内。

 

そこには、二人の男女がいた。

 

一人は、長い黒髪に翡翠と紅の瞳。豊満な母性の象徴を持つ少女、浅間・智。

もう一人は、改造した教導院の制服を着込む垂れ目の少年。葵・トーリ。

 

二人は、机をつき合わせて、はぁ、とため息をつく。

 

「なーんかさぁ。多いよなぁ。俺らの共演」

「まあ、そうなりますよ。『まお○う』もそうですけどね」

「うーん……」

「何ですか?」

「ギャグ、いる?」

「いりません帰ってください」

「は、はえーよ結論!」

「あと共演といえば――――『狼○香辛料』ですね」

「伏字の意味なくね?」

 

 

 

「そういえばトーリ君の中の人。変態役、多いですよね」

「な、何気にエグイことを……」

「だってそうじゃないですか。良かったですね。同じ声で仲間がいますよ」

「オメエ本当にかっ飛ばすよなー」

 

 

 

 

「あ、そういやよ。今日ちょっと寝相が悪くてさ。布団が離れたところにあって結構寒かったわ」

「意外ですね。寝相は良いって思ってましたけど」

「んー。なんか足を思いっきり振り上げて布団をそのまま吹っ飛ばしたっぽい」

「あー。布団が吹っ飛んだ、と――――――うわあああああああああ!!」

「こっちへいらっしゃーい!!」

 




どうもKyoです。

なんか書けってお達しがあったんだ! 私は悪くねえ!!

なんかもうこれはこれでネタ集として独立させるべきなのだろうか。

そしてFate/ZEROはネタに走ったらどいつもこいつもシュールすぎる。
原作がシリアス一辺倒だからか……

では。コレを読んでくれている全ての人に無上の感謝を。






ちなみに私は奈々様派です。


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英国の相対戦

春季学園祭。

その祭を楽しんでいる人の群れの上を、一つの黒い風が過ぎ去る。

 

葉月は浅間を抱え、屋根から屋根へと跳んでいた。

 

空を飛ぶというのは最初考えたが、もし万が一地上に敵が居た場合、狙い撃ちにされる可能性がある。

そうなった場合、浅間を巻き込み、もしくは怪我をさせてしまう。

 

そのため、脚力を魔法で強化し、屋根伝いに喜美たちのいる場所へと急いだ。

 

「もう少しだな」

「は、はい。あの、葉月君」

「ん?」

「出来ればその、喜美たちと会う前に一度下ろしてください。絶対にからかわれます」

「あー、そうしたいのは山々だが――――スマン。もう遅い」

「えっ!?」

 

と、葉月が一瞬屋根の上で止まり、それから今までにない強烈な跳躍をし、地面に降り立つ。

目の前には喜美たちがいた。

 

「あら浅間に葉月――――――ミトツダイラ見た!? この鴛鴦夫婦遂に公衆の面前でお姫様抱っことかやり始めたわよ! 一体今まで何をしていたのかしらね! アツい、アツいわよ素敵!」

「と、智。貴女。よくそこまでの勇気を……」

「ち、違います違います! 違いますからね!? こ、これは緊急事態であってですね――」

 

浅間は葉月から降りようとするが、ナルゼに止められた。

 

「ストップ浅間! そのままでいて! 折角こんないい構図があるのに描かないなんて勿体ないじゃない!!」

「いい! いいですからそんなの後で!」

「というかヤバイ。そろそろ本格的に来るぞ!」

 

葉月が言うと、空を赤黒い雲が覆い始めた。

見ると、周りの祭の客も居なくなっていた。

 

「これは一体……」

 

ネイトは辺りを見渡す。が、客も居なくなって、いるのは自分達だけとなった。

 

と、浅間が地面に何かを指した。

それは、結界用の玉串だった。

 

すると、その玉串周辺が揺らぎ始めた。

目を凝らしてみると、それは文字列。つまり――――

 

(シェイクスピアの演劇の結界!?)

 

浅間は流れるような動作で右足の踵を踏み鳴らすようにし、拍手を一つ鳴らす。

 

「奏上――――!」

 

瞬間、浅間を中心にした結界が完成した。

 

ネイトは結界に近づこうとするが、いきなり目の前から浅間や仲間達が消えた。

 

「ッ、イリュージョン?」

 

否、違う。

これは、自分が結界に取り込まれているのだ。

 

ネイトは冷静に今の状況を分析する。

 

(ともかく。智や喜美の傍には葉月が居ましたし。ナイトにナルゼも大丈夫でしょう。問題は――――)

 

何故、この祭でこのような大規模結界を張る必要があるのか、だ。

祭の客は消え、辺りは静かだ。

 

……祭に乗じて何かを行おうとしている?

 

だが、一体何をする気なのだろうか。

 

仮に、この空間に自分だけが隔離されたと考える。

では相手のメリットは何か。

 

自分は武蔵の特務だ。

ならば、相対なのか。という思考に行き着く。

 

英国には特務といった役職はない。代わりに『女王の盾符』がいる。

おそらく特務クラスの実力者ばかりだろう。

 

もし相対を望んできても、受ければいい。

では何故このような結界を?

答えは、一般人に被害を出させないため。

 

だが、相対をして何に。そう考えたところでネイトは気づいた。

 

もし自分が負けたら、相対できる権限が上位の者に移る。

つまりこの場合は――――

 

「ッ、我が王!!」

 

総長兼生徒会長である葵・トーリだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

葉月は、結界の中で辺りを見渡す。

 

……瞬時にコレだけの結界を作れるとはな。

 

幼馴染の実力の成長振りに葉月は舌を巻く。

 

ふと、隣を見るとそこには喜美が地面に蹲っていた。

 

「……何やってるんだ?」

「コレは夢コレは夢コレは夢コレは夢……」

 

どうやら辺り一帯の客や、他の仲間が消えてホラー現象だとでも思っているのだろう。

葉月はやれやれと、喜美に事情を説明する。

 

「ほら立て。これはシェイクスピアの起こした演劇結界。ちゃんとした術式だ」

「術式でこれだけ大規模な結界は中々お目にかかれませんけどねー」

「ほら! ほらやっぱり! これはもう異世界召喚よ! 厨二病眼鏡作家がすきそうな展開よ! ああそうよきっと私はこれからハーレム男と巨乳巫女とでエロい物語の始まりなんだわ!!」

「よーし浅間。コイツだけこの結界から出してくれ」

「そうしたいのは山々ですけど無理です。もう結界内に入ってますから」

「フフフ何よ浅間ここで何をイれるって!?」

「おい喜美いい加減正気に戻れ」

 

そういうと、喜美は立ち上がり若干おどおどしながらも髪を整える。

 

「今のところ。結界に取り込まれているのは。ミト、ナイト、ナルゼ、正純とウルキアガ君の五人。ハイディとシロジロ君、二代とアデーレ、鈴さんは結界の外ですが、通神が途絶されています」

「役職者ばかりか……間違いなく相対狙いだろうな。となると。この状況で今一番危ないのは――――」

「正純ですね。彼女、攻撃用の術式符も持っていませんから。走狗も、まだ幼いままですし」

「ならそっち優先だな」

 

葉月が言うと、浅間は地面に刺さった玉串を引き抜く。

浅間が操作すると、玉串の上に小さな走狗が二人現れた。

それらはハイタッチすると消え、玉串は二つに増えた。

 

その一つを喜美に渡す。

 

「……何これ? くれるの?」

「話一切聞いてないですよね? あ、待っててください。葉月君のも今作ります」

「ああいいよ。俺にはこれがある――――」

 

そういって、葉月は首の辺りをさする。

が、そこにあるはずのものがなく、やや顔をしかめる。

 

「……しまった。ナイトに貸しっぱなしだったな」

「何をですか?」

「俺の水晶。アレ、任意で術式を無効化に出来るんだよ。ただ、古代魔法使役士以外が持つと、効果がやや弱体化するけど」

「ナイトが取り込まれたのはそれですか」

「というか、任意ってことを知らせていなかったからだと思う。悪いが浅間。俺にも頼む」

「Jud.」

 

そういって、浅間は複製した玉串を葉月に渡す。

 

「でも一番危険なのはトーリ君たちですよ。間違いなく最高位の相対者として狙われてます」

「そうねぇ」

 

と、立ち直ったのか、喜美は考え込む。

 

「超素敵な私が行ったら楽勝だけど。相対のルール無視だと愚弟に迷惑かけるわよね」

「でも全員、二人のデートの意味は分かってるはずだ。なら俺らは俺らで出来ることをするか」

「Jud.」

 

そういって、三人は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで浅間。アンタお姫様抱っこなんてやって。一体何をしていたの?」

「うぇ!? い、いえその……ふ、普通ですよ? 普通の、で、で、デートを……」

「喜美。今度お前の部屋に悪霊一式送りつけるぞ――――ああ分かったから気絶しようとするな面倒な」

「葉月君も十分梅組に感化されてますよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ナイトは周りと隔絶されてからも普段の調子を失わなかった。

 

「うーん。ナイちゃん思うに。これは演劇空間で。皆は隔離状態、かな」

 

箒の先端を操作し、魔術陣を出すナイト。

彼女の箒は、ナルゼの術式ペンと共鳴しあう。故に、離れた場所でもお互いの位置が分かるのだが、この空間に限ってはそれも不可能だった。

 

「大丈夫かなガッちゃん。結構強がるし」

 

心配そうに呟く。

ナイトは箒を構えると、そのまま黒嬢(シュバルツフローレン)へと成る。

 

空から探そうと飛び上がるナイト。

だが、それはすぐに阻害された。

 

空へと飛び上がると突如、水の中へと入ったかのように水圧が圧し掛かってきた。

否、これは本当に水の中に飛び込んだのだ。

 

「――――ッ!」

 

ナイトは翼を広げ、抵抗を大きくしすぐに停止をかけた。

 

(泳ぐための仮想海!?)

「分かりますか! オクスフォード教導院船舶部の訓練用大型即席プールです!」

 

声がした。

見上げると、水着に水泳帽の男が手に持ったジェット噴射器付きの三叉槍によってこちらに近づいてくる。しかもバサロ泳法。

いや泳法はいいのだが、フォームがムカつくほどに綺麗なためどうにも変態的だ。穿いている水着の種類がさらにそれを増長させている。

普通ならここで変態、と大声を上げてもいいのだろうが、生憎アレ以上の変態が武蔵にはいるためそれは叶わなかった。

 

思考切替。

 

おそらくアレは、『女王の盾符』だろう。

 

以前に授業で英国の人物については一通り学んだ。となるとアレは――――

 

「船舶部水泳班班長! 『女王の盾符』の5-2! ホーキンス!」

 

そして、そのすぐ横に表示枠で現れた人物が居る。

人魚だ。

 

『船舶部補佐『女王の盾符』5-3! キャベンディッシュです!』

 

マズイ、ナイトは本能的に察する。

二対一。だが数の上では戦うのは一対一。

 

しかし、相手にはサポートにキャベンディッシュがついている。

 

「さあ! 今日は泳ぎで勝負です!!」

 

猛然とした勢いでホーキンスがくる。

 

……ガッちゃん。

 

ナイトは、相棒の事を思いながらも、目の前の戦いに集中する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ナイトが心配する一方で、ナルゼも自身の相対者と遭遇していた。

 

自分よりも体格の大きい、半狼(ハードウルフ)

よくこの体格の英国の制服があったものだ。おそらくオーダーメイドだろうが。

 

半狼は口を開く。

 

「船舶部『女王の盾符』5-1、ドレイクだ」

「第四特務。マルガ・ナルゼよ。英国の海の英雄が一体何用?」

 

ドレイクは無言で移動する。

そこは、カフェテラスだった。

 

椅子に座ると、ドレイクはナルゼにも座るように促す。

 

ナルゼはしばし警戒していたが、やがて椅子につく。

 

「奢るぜ」

「……コーヒー」

「俺は牛乳だ。成分無調整の奴」

 

程なくして、コーヒーと牛乳が空中を滑りながらやってきた。

 

ドレイクはジョッキを掴み、一口飲む。

 

「牛乳は血の転化だ。吸血系の異族も愛用するぜ」

「狼系の異族は食人の習性があるって聞いたけど。私も食べる気?」

「同意の上ならな。騎士だから紳士なんだぜ」

「ならば食べないって選択肢を追加すべきね。騎士なら。我慢もできるでしょ」

「そいつぁ無理だ。いつかは敵になるしな」

 

そういって笑うドレイク。

ナルゼもコーヒーを飲む。

 

ドレイクは饒舌に話してくる。

 

「俺、嫁がいるんだけどよ」

「いきなりリア充宣言? 別に気にしないけど武蔵の連中がいる前では止めたほうがいいわよ」

「何でだ?」

「多分、この世界のどんな種族でも嫉妬に狂ったアイツらには勝てないから」

「みっともねえなあ。男は黙って惚れた女に食いつきゃいいんだ」

 

そうしみじみと語るドレイク。

ナルゼはその言葉に眉をひそめる。

 

「嫁を、食べてるの?」

「自分が傷つけられることで、この世に生きているという実感がわく人間もいるんだ。それに、俺自身も嫁に対して躊躇ってる暇はないんでね」

「そう。アンタの嫁は殺人鬼なのね」

「バラしてないと自分をバラし始めるんでな」

「プロポーズの言葉は?」

「極めて普通。肉を食いつつ『俺は君が好きだ。付き合ってくれ』『ジャンジャンどうぞ!』」

「夫婦円満ね」

 

顔に似合わず幸せそうに語るドレイク。

牛乳を煽り、再び喋りだす。

 

「なあ。お前んとこの騎士はそういうのねえのか?」

 

そう問われ、ナルゼは思考する。

おそらくネイト・ミトツダイラのことだろう。

 

「ちなみに聞くけど。どうしてここでミトツダイラの話が?」

「その前に、だ。お前『聖なる小娘(ジャンヌ・デ・アーク)』を知ってるか?」

「一応ね。でもなんで? どんな関係があるのよ」

 

まあ落ち着け、とドレイクは手で制す。

 

「知っての通り。『聖なる小娘』は火刑に処された――――が、実は密かに生きていたんじゃねえかって話だ」

「……どういうこと?」

「Tes.まあ、アレだ。百年戦争。これが切欠だ」

 

百年戦争。

それは、英国が六護式仏蘭西に侵略し。しかし一人の少女とその部隊を以って侵攻が止められた。

 

「まあ史実通りに『聖なる小娘』がルーアンで火刑に処されると、六護式仏蘭西の勝利の歴史再現が一気に進む。それを止めたくて、英国の非正規部隊が密かに救い出していたんじゃないかって話だ――――ちなみに俺の爺さんがいた部隊だ」

「ちょっと待って。仮にその話が本当だとして。こんなところで話して大丈夫なの?」

「Tes.つうか信じる奴はいねえよ。俺の爺さん曰く〝俺は聖譜越境部所属の騎士〟らしいぜ」

 

そういって肩をすくめるドレイク。

 

聖譜越境部。

それは各国から集められたエリート集団。

世界のどこかで危難や問題が生じたとき、歴史再現などを無視して駆けつける集団。

 

だが、

 

「アンタの言葉を全部否定するようで悪いけど。聖譜越境部なんて、ただの三問芝居のネタよ? 出自は曖昧。否、存在自体も疑わしい。第一、英国のために『聖なる小娘』を救うって、反則もいいところよ」

「ところがどっこい。英国だけじゃないんだなあコレが」

 

そういって、また牛乳を飲む。

ナルゼはしばし考え、ふとある一つのことに思い至る。

 

「六護式仏蘭西にもいたのね。『聖なる小娘』奪還に協力しようっていう、おそらく。仏蘭西の聖譜越境部が」

「Tes.その通り。事実、アルチュール・ド・リ