is《イズ》 (朱緒)
しおりを挟む

第一章 1話

「気がついたか?」

「……あ?」

 私の目の前にいたのは……たぶんシグルド。

 髪は青色じゃないし、あんな顔しているわけじゃないけれど……多分シグルド。ファイアーエムブレム聖戦の系譜の前半主人公の……。

 いやシグルドに間違いない。

 彼の隣にステータス画面が出てきた。名前はシグルドで、職種はロードナイト。指揮官レベルが☆☆で、剣の欄が☆。もしかして……と思い、指をタッチパネルの画面を触るように横に滑らすと血統が書かれている円が出てきた。見たことがない文字だが読める――なんという補正!

 それはともかく、バルドの所がてっかてっかに光っている。

 この人まちがいなくシグルドです。髪がくすんだ金髪ですがシグルドです。

「シグルドさま」

 部屋に入ってきた肩につく程度の長さの灰色っぽい髪の少年。まちがいなくオイフェだね! どうやったらステータス画面が出せるのかな?

 親指と人差し指でなにかを潰すようにしたら、出てきた。

 名前はオイフェで、職種はシビリアン。軍師じゃないのか?

 円にはバルトの血が確認できて、スキル欄に追撃と必殺が見える。……これって当然、私にしか見えてないよね。

 

 二人から説明を聞いたところ、私は城壁の外で行き倒れていたのだそうだ。そこに通り掛かったシアルフィの騎士……十中八九アレクとノイッシュだろうな……が連れてきてくれたそうで。

 それで後々謀殺されるくらいにお人好しってか、人を信じてしまうシグルドが、

「妹さんのお部屋ですか」

 嫁いだエスリンの部屋に寝かせてくれたのだ。

 室内をぐるりと見回すと、とっても質素だった。まあ中世ヨーロッパがイメージなら、これが普通だろう。ベルサイユ宮殿とかアルハンブラ宮殿とかそういったのとは違う、本当に城塞。

 窓は小さく、敵の攻撃に耐えるための分厚い壁、技巧は凝らされているが……まあ、古めかしいお城だよ。

 お姫様が使用していたので、地味ながらも天蓋付きのベッドで話を聞き、誰なのかと聞かれ――

「”いずみ”と言います」

 本名は永野《ながの》泉《いずみ》だが、この洋風社会に苗字の永野は馴染まないだろうと思い、名前だけを名乗った。

「イズ?」

 どうも”み”が聞き取れなかったらしい。

「はい、いずです、いず」

 ”伊豆”が思い浮かぶが、この際かまいはしない。名前なんてこの世界では些細なことだ。

 どこに行く途中だったのか? と聞かれたが、行き先なんてない。訳が分からないままこの世界に居るのだから。

 でもどうしてSFCの世界なんだ? 最近の傾向としてログアウト不可能なVRMMOの世界じゃないのか? もしかしてVRMMOの世界、閉じ込められる人が増えすぎて定員オーバー?

「ちょっと……思い出せなくて」

 まあ、今更言っても仕方がない。

 この世界だってどう考えてもログアウト不可能な……って、なんかなあ。

「そうか。なら思い出すまでここで暮らすといい、イズ」

「いいのですか?」

 シグルドならそう言ってくれると思っていたよ。

 こうして気が良い(良すぎて謀殺されるわけだが)シグルドの元で生活していくことになった。

 そして気付いた、シグルドと一緒にいたら私も謀殺エンドに巻き込まれる可能性があることに――できることなら謀殺エンドを回避したいのだが。

 

**********

 

 ステータスと血統を見極められる私。本名は永野《ながの》泉《いずみ》現在はイズと呼ばれている――

 

 私が持っていたという荷物の中身だが、バリアの剣にバーサクの杖、リザイアに追撃リング、そして勇者の斧と……あー、レイリアとシャルローが登場しないからバリアの剣とバーサクの杖所持になって、勇者の斧は泉のイベントがカットか。

 あれリアルだと怪しいもんね……あれ? 泉? 泉の精、いずみのせい……いや偶々だよね! 偶然だよね! 私の名前が泉だったから呼ばれたとかじゃないよね!

 泉の精はともかく、あとは追撃リングとか……意味もなく人を配置するわけにもいかないだろうしね。うん、納得。

 武器や魔法、杖やアクセサリーの詳細も見極めることができることが判明。

 手のひらをタッチパネルに見立てて、自分が鑑定したいものを脳裏に描いて、心のなかで電源をオンにすると私にしか見えないステータス画面が空中に現れる。

 

 どうしてこんなことができるのか知らないが ――

 

「イズ、もしかしてマスターナイト?」

 オイフェに言われたのだが……持ってるアイテムが明かに怪しいもんね。でもマスターナイトでもリザイアは扱えないだろう。

 取り敢えず私は、自分がどのような武器が扱えるのかを確認するためと、助けてくれたノイッシュとアレクにお礼をするために、オイフェに連れられ鍛錬所へ。

 オイフェが私のことを呼び捨てにするのは、見た目の年齢が同じくらいなため。縁が撓んで少し歪んだ姿見で確認したところ、私は見た目十二歳くらい。はっはっはっ、若返るにも程がある。

 おまけに顔が変わってるし、手も足も長くなっているような気がする。このあたりは気がするとしか言えない。

 まあとにかくFE巫女特有の薄紫色っぽい銀髪が肩胛骨の中ほどまであり、深紫色の瞳。

  顔は美形ってほどじゃないが、頭は小さいし、間違いなく小顔だな! 肌は象牙色みたいな感じ。象牙はなんとか条約にひっかかってるから、本物を手に取って みたことはないけれど、あくまでもそんなイメージで。ま、要するに典型的日本人だった私の痕跡はどこにもないということだ。

 

 ノイッシュは興味はないが、アレクにはちょっと興味がる。頭髪的な意味で。

 あの緑頭がどうなっているのか? 非常に興味がある。それを言うならアーダンもだが。

「ありがとうございました」

 行き倒れていたのを助けて貰ったのは事実なので、頭を下げて感謝を。

 人間感謝が大事ですよ!

「困ったことがあったら気軽に声をかけてくれ」

 ノイッシュはゲーム通りでした、もちろん顔は違うが色彩的な面で。

 で、アレクは……悲しいことに黒髪になっていた。じゃあ何色だったら悲しくなかったんだ? と聞かれると困るわけだが、あまりにも無難でねえ。

 この先も緑髪さんたち、レヴィンやシルヴィアやフュリーなんかはみんな黒髪なのかと思うと……って、アーダン! アーダンはどこ?

 残念ながらアーダンは鍛錬所にいなくて会うことができなかった。

 

 アーダンが何処にいたかと言うとシグルドと一緒にいた。

 

 私が知っているアーダンではなく……顔はあのグラフィックに近い、厳つい顔立ちだったのだが、彼はソードアーマーではなく既にクラスチェンジしてジェネラルだった。

 ちなみに髪は濃い目の茶色。

 城下でも人気のある将軍らしく、バーハラにいるシアルフィ公爵バイロンが息子シグルドと公国を任せるほどの将軍なのだそうだ。

 いや、びっくりだ!

 でも普通に考えたら、聖痕持ちの跡取り息子なんだから、そのくらいの人はつけるよね。

 私の中のバイロン卿の株が上がった。

「気がついたら独り身でこの年だ」

 アーダン、いやクラスチェンジしている将軍だ。”さん”くらいはつけようか。アーダンさんは、ゲームの仕様なのか独身ですが、

「アーダンさまが結婚したいと言ったら、花嫁候補が溢れかえりますよ」

 オイフェがそう言い、

「そうだぞ、アーダン」

 シグルドもそう言ってます。

 

 ジェネラルにクラスチェンジしているなら、たしかにねえ。

 ゲーム上じゃあ平民、平民と言われるノイッシュやアレクやアーダンだが、騎士って時点で貴族なんだよね。神の血を引いていないだけで。

 シグルド直属の部下で貴族で独身なら、そりゃあ引く手数多だろうよ。

 

**********

 

 私もただ飯食らっているわけにもいかないので働くことに――

 普通に料理の手伝いでもしようかと考えていたのだが、私は剣や魔法の鑑定ができ、それなりに魔法が操れ、杖も使えるので、シグルド付きの衛生兵のようなものになった。

 経緯としてはオイフェに城下町を案内してもらい、本編では存在しない前半シアルフィ城の闘技場で追撃リング装備でリザイアを使って三人ほど勝ち抜き金を手にして、ライブの杖ともう少し魔法詠唱に時間がかからない、ランクCの魔法を購入しに道具屋へ。

 

  ちなみに私、現在のところ魔法は光がAで他の魔法が全部C。杖はB。武器は剣がCで斧はBとなっている。いま使えない武器も、練習すると使えるようになる らしく、魔法や武器のレベルも使用していと上がるようだ。こんだけ色々な種類が使えるなんて……いったいどんなクラスだよ。

 ちなみにスキルも詐欺っぽい。[見切り][ライブ][大盾][連続][必殺]の五つ。なぜか大盾が個人スキルというこの不思議。

 

 まあなんだ、頑張れば私、ロプトウスが降臨したユリウス、倒せるかもしれないな! 嫌だけど。

 

 ちなみに闘技場を詠唱時間がかかり、修理代もかかるリザイアにしたのは、剣で直接人を傷つけるのに抵抗があったから。

 ヒヤハアァァァ! で、切れやすい若者や老人とは違い、人を傷つけるのには抵抗がある。リザイアは相手のHPを吸うという特性から……体力を奪うので相手の見た目がひどくならなくて抵抗は少ない。

 やってることは、変わりないんだけどさ。

 

 道具屋にライブの杖はあったが、魔導書はなく――

 

「よかったらこれを使ってくれ」

「ありがとうございます! アーダンさん」

 詠唱が短くて済む魔導書が手に入らなかったといったところ、ジェネラルなアーダンさんが、自分は使わないからと光魔法Cのライトニングをくれた! 本当はウィンドが欲しかったが、この世界では最も優位な位置にある光魔法だ! 文句を言うと罰があたる。

 ……ところで私、頑張れば闇魔法も使えるようになるのだろうか? ヘルとかフェンリルとか使えたら楽しそうだが。

 私が闘技場を魔法で勝ち抜き、治療杖も使えると知ったアーダンさんが、

「シグルドさまの側に治癒を使えるものがいないから、是非ともイズに頼みたい」

 なんだそうだ。だからさ、跡取り息子の陣容をもっと厚く! 厚くしようよ! バイロン卿! 過保護はいけないけれども、少しは大切にしようよ!

 

 息子をあまり大事にしていないように思えるバイロン卿だが、ゲーム同様、兵を率いてイザーク王国を攻めているそうだ。

 もちろんユングヴィ公爵リング卿も。リング卿は息子のアンドレイも連れて行ったそうだが。あの前髪ぱっつんトンボ落としめ! シレジアの悲劇を目の当たりにしたら欝にな……あ、ゲーム進行上、あそこには届かないから見なくても……。

 

 先のことはともかく――

 

 ヴェルダン王国がユングヴィ公国に攻め込みました。どうやらゲームが始まったようです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

 幼馴染みのエーディンを助けるぞ! と息巻くシグルドと、部下の皆様がた。

 兵はほとんど出兵しているので、とても心もとない。そんな状況だから、通りすがりの行き倒れである私でも採用され……いや、シグルドなら雇ってくれるか。

 エーディンを助けに向かっている間にシアルフィが落とされたら笑えないどころじゃ済まないのだが――

「わたしがシアルフィを守ります」

 おお、格好良いな! アーダンさん。ジェネラルのアーダンさんが守ってくれるのなら安心だ! 足が遅いから置いて行くのとは違い、本当に守ってもらうって感じだね!

 

 ……足が遅いユニットは私の役割になったらしい。私、馬に乗れないんだよ。一応現代人なので、馬なんて乗ったことないからさ。

 

 シグルドは一気にユングヴィ城を攻め落とすつもりらしい。

 そこら辺はシビリアン軍師のオイフェの軍略に期待する。私の知ったことではない。

 それでアレクがゲームよろしく「村を助けなくては」と言いだした。意見を出したのはオイフェだってことは分かっているけれども、兵力の分散は避けようよ! 後半のアリオーンの三頭の竜という、失笑を買う作戦からも分かる通り、兵力分散は愚の骨頂だよ!

 ゲーム的には分散するけどさ。

 ちなみにゲームは単身で戦っているが、この世界ではノイッシュもアレクも部下を率いている。パラディンでもないのに部下を率いているとは思いもしなかった!

 で、私の記憶では画面上からアゼルとレックスが降りてくるので、彼らとうまく合流できれば私一人でも村を助けることはできる。

 

 村を助けたところでゴールドもらえるかどうかは知らないが!

 

「私が単身で向かいます」

 盗賊くらいなら少し離れたところから、ライトニングを頭に叩き落とせば勝てる。

 魔法の範囲はゲームとは違いかなり広範囲に及ぶ。弓も同じく2マスまでしか届かないということはないが、距離があると威力が劣る。

 その点魔法は距離があっても威力の差はない。

 盗賊らは弓も魔法も持ってないし。持っていたとしても手斧で魔法範囲ほど遠くまで飛ばせないし、なにより斧飛ばしたら戻らない!

 ゲームでは行儀良くブーメランのように帰ってくる手斧だが、実際そんなことはなかった。飛ばしたら飛ばしっぱなしだ! 手槍も同じ。

 逆に言うと、どんな武器でも手斧で手槍になりうるのだ。ゲイボルグが飛んでくることもあり得る。

 

 ちなみに私はポニーで向かう予定だ。大っきい馬は無理だがポニーなら! ポニーならなんとか自力で!

 

 ちなみにポニーをプレゼントしてくれたのはアーダンさんです。

 お心遣いありがとうございます、アーダンさん。あなたのお嫁さんをゲットして帰ってきますので、お城で少々お待ちください。

 

 だがシグルドは凄まじく良い人なので、私を単身で向かわせることはできないと、アレクと一緒に画面上部の村へと向かうことになり――ませんでした。

 それというのも、アゼルとレックスがさっさと降りてきて、途中の村を助けてくれたそうで。

 

【アゼル】

あいかわらず、素直じゃないね

理由はそれだけじゃないでしょ

【レックス】

なんだよ……

【アゼル】

ユングヴィのエーディン公女が

心配なんでしょ。レックスが彼女のこと

好きなのは知ってるし

【レックス】

うるさい

 

 分かりやすく名前を前に入れたが……そう、エーディンのことが好きなのはレックス。これが第一の衝撃。はっはっはっ! エーディンの息子は確かに貴方似一択ですからね、レックス。

 そして第二の衝撃。

 

【シグルド】

きみはヴェルトマー家のアゼル公女

どうしてここへ?

 

 なんとアゼルは女だった! 女顔なのは仕様だから気付かないのは仕方ないとして……確かに控え目な乳の膨らみが見て取れるし、さらしている生足はたしかに女のものだ。

 アゼルは徒歩なので、ここまではレックスの馬に同乗してきたが、ここからシグルドの馬に同乗し、会話をしながらユングヴィを目指した――

 

【アゼル】

言いにくいことですが

ぼくは兄が恐ろしいのです

あの人の側にいると息がつまりそうで

それに……できの悪い妹など

あの人にとっても、

足手まといなだけですから……

 

 アゼル公女は「ぼくっ子」でした。まあ良いけど。ちなみに私はアレクの馬に乗せてもらってます。

 

 

 このとき私は謀殺エンド回避における大失態を犯すことになった――

 その傾向は第一章の辺りからあった……確かにあったんだが、私は謀殺エンドを回避しようと必死でありながら”あること”に気付いていなかった。

 正確には思い込み。微妙にキャラクターが変わっているのだから、背景も変わっていることに気付くべきだった。

 ステータスをもっとまめに見るべきだった。

 

 

 そのことに気付かないままユングヴィ城に辿り着き、回復役魔法攻撃で援護しながら無事に城を奪還したのだが、ミデェールは居なかった。どうやら連れ去られたらしい……。

「女性だから連れ去られたの?」

 エーディンとミデェールの他にも数人の女性が連れ去られたそうだが、

「ミデェールは女と見紛うような美しい男だ」

 シグルドいわく、女と見紛う容姿なので連れ去られたってことは……あれだよね、あれ。無事に回避できていることを願うのみだ。

 

【エスリン】

兄上、ご無事でしたか!

【シグルド】

エスリンか、久しぶりだな

よくきてくれた

 

 遅れてエスリンとキュアン、そして見習い騎士のフィンが到着した。知らせを聞いてから騎馬でやってくるとなると、この位の時間はかかるだろう。ゲームが到着早すぎるんだ。

「イズ、兄を助けてくれてありがとうございます」

「いいえ、私こそ。行き倒れていた私を救ってくださったのは、シグルドさまですので」

 実際はノイッシュとアレクだが、衣食住をととのえてくれたのはシグルドなので。

 エスリンさんはピンク髪ではなく、ライトブラウンの髪でした。息子の娘も父親似の茶髪になることを考えると妥当な髪色と言わざるを得ないでしょう。

 

 つまらないけれども。

 

 エスリンは杖を使えるものが居ないと思われていたシグルドの元に、私が居たことに驚き、そして感謝された。

 ちなみに青髪フィンさんの髪は青味を帯びた黒。ある意味ゲームに近いとも言える。

 あまりのんびりとしてミデェールとエーディンの貞操が奪われたら大変なので……もしかしたら、もう奪われたかもしれないが急いでエバンス城を目指した。

 

 エバンス城へと向かう途中、橋を修復してやってきたヴェルダンの皆さん。

 私は後方から援護しながら、ゆっくりとついていくことに。一応バリアの剣を装備しているので、斧には優勢になれるのですけれども。

 ヴェルダンの皆さんとの戦いの最中に、ちょっと離れたところで大きな火柱が上がりました。明かにおかしな炎が現れて、

「……」

「アゼル、大丈夫か?」

 アゼルが表情を強ばらせレックスが気遣うように肩を抱き締めていた。

 あの炎はまちがいなくファラフレイムでしょうね、アルヴィスさん。リカバーリング寄越せこら!

 やって来たのは癖のある赤毛を伸ばした、まさにアルヴィス。

 私は遠くから彼を見ながら、ステータスを見るために手のひらに触れる。相変わらず立派なステータスに、血族を表す円の中心に禍々しい物が見えます。

 

 コンニチワーシギュンノムスコサンーシラヌトハイエキンシンコンハツライデスネー

 

 アゼルはよほどアルヴィスが苦手なのか、近寄ろうともしなかった。

 それでゲームの進行と同じく銀の剣を手に入れたシグルドと共に、エバンス城に攻め込むために、私のライトニングが火を吹くぜ! 光魔法なのに「火を吹く」ってのもおかしいけれど、がんがんいったよ!

 ライトニングは拡散タイプの魔法だった。

 たしかにグラフィックを考えれば、高い位置から広がるようにも見える。だから相手が集まってさえいれば、一度の詠唱で十人ちかく葬ることができるというわけだ。

 葬れなくても、相当戦力を奪えるの。

 こうしてミデェールを貞操ごと救出することができた。

「私も連れていってください!」

 エーディン信徒とも言えるミデェールはそう言うものの、馬がないんだよね。弓と矢はヴェルダン兵たちが置いて逃げたらあるけれども。

 

 こうして一般には「銀の剣もらうイベント」である序章が終了した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

 エバンス城に滞在していると、エルトシャンが「侵略するつもりか? そうか、しないのか。ワイン飲もう」ってな感じで来ました――どうやら第一章の幕開けのようです。ああ……ディアドラが登場か。

 

【シグルド】

神よ、もし私たちの愛が罪だというなら

その罰は私一人に与えよ! 私は誓う!

たとえこの身が切り刻まれようと

決して後悔などしない

わが愛しきディアドラを

神よ……どうか永久に守りたまえ!

 

 シグルドが叫び出すの、どうやっても避けられないんだもんな。

 謀殺エンドフラグをどうへし折るか?

 すでにシグルドと一蓮托生気味だから、できれば回避したいんだよなあ。回避しないと十七年後も戦うはめになりそうだし。

 

 戦うのはまだしも十七年間逃亡潜伏生活+子育てなんてしたくねえ。いっそ、アルヴィスに投降して……

 

 エルトシャンが帰国してから、画面下から手斧……もとい、キンボイスが攻めてきました。ちなみに情報を持ち帰ってきた斥候はアレク。

 意外と仕事してるんだね、アレク。ナンパしているだけかと思っていたよ。

 アレクの報告によると――聞かなくても分かっているんですが、キンボイスのところにはアイラがいました。

「イズが異国人が居る可能性が高いと言っていたので。おそらくイザークの人間かと」

 ただいま戦争中なので、イザーク人がいるというのは良くない知らせですが、そこはねえ……私の中ではアーダンさんの嫁としてアイラを迎えたい!

 いや! どうやらこの世界[大盾]が兵種ではなく個人スキルらしい。スカサハに[大盾]ついてたらほぼ無敵だろ?

 もともとアイラとアーダンはイベントもあるから、相性はいいだろうし。なにより、シグルド謀殺エンド回避には、アイラを遠ざける必要があるから、シアルフィを守っているアーダンのところへ送るのが”いまのところ”最善だと考えている。

「アイ……イザーク人と話しをしてみたいのですが、よろしいでしょうか?」

 私は[見切り]持ちなので流星剣を食らうことはないし、魔法を使う要領で[大盾]を発動できるので、囮としては最適だ。

 ただ大盾は精神力がごりごりと削られる。意図して出すことができ効果的だが、乱発できないスキルのようだ。

 

 ロプトも防ぐようなチート技だからな。これが乱発できたら無双だよなー。

 

 それで結局私一人だけではなく、キュアンと一緒にイザーク人(アイラ)と話をしてみることになった。グランベル人が近付くと刺激してしまうだろうということで。

 私は見た目、グランベル人ではないのだそうで……実際グランベル人じゃないってか、この世界の人間じゃないしね。

 それで……正直、キュアン邪魔なんだが……その……

 そんな私の邪魔にしている視線を感じたのか? キュアンが鋼の槍ではなく、違う武器を取り出した。

「私の手にゲイボルグがある」

 そして何故か既にキュアンの手にはゲイボルグ。それ手に入れるのもっと後では? エルトシャンが死亡してから――まあ、この段階でキュアンがゲイボルグを持っていても、とてもエルトシャンと戦わせることはできないが。

 

 いや、絶対勝てないだろ! 剣は槍に弱いとは言え……なんだろう、当たる気がしない。

 

 それでまあ、キュアンの馬に同乗して、アイラを発見。あとは魔法で足止めしていたら、

「私はレンスターの王子、キュアンだ!」

 やべえ、この王子さま。突然名乗りを……。

 アイラの動きは止まった。たしかこの二人、仲間になってから会話あるからね……その会話が、少々前後したのだろう。

 アゼルが女だったりするのだから、会話の前後くらい些細なことだよね。

 こうして無事にアイラとシャナンを仲間にしたところで、エーディンとデューとも合流。

 エーディンはミデェールとレックスから愛を囁かれていました。ゲームと違って、一人しか囁けないというものではないらしい。

 モテモテだけど、エーディンの見た目からして当然だろうな。

 本当に良い物見させて貰った的な美しさ。肌は透き通るように白く、柔らかな金髪は虜囚生活でも損なわれることはなく。澄み渡るような碧眼。そして穏やかな口調。細身で強く抱き締めたら折れてしまいそうな儚げな体格。

 

 さすがゲーム最強、魔性の女だ。でもこれなら仕方ない。

 

 シグルドは当然エーディンに帰国するように促すのだが、彼女はそれを断る。まあ、森のヒットマン・ジャムカを仲間にするためには彼女の力が必要だから帰すわけにはいかないよな。

「シグルドさま」

「どうした? イズ」

「アイラ殿とシャナン殿をシアルフィに行かせたらどうでしょうか?」

 シグルドの罪状の一つに、イザーク王家の二人を匿ったことがあった。

 これも匿うのとは同じだが、

「アーダンさまが配慮してくださると思うのです」

 シアルフィ城に軟禁状態にしておけば、ある程度誤魔化せるとおもうのですよ! そして愛が芽生えるに違いない!

 アイラは当初拒否したけれども、キュアンの説得でシアルフィに向かうことに同意した。キュアンとエスリンが連れていってくれるそうで、どうしてもシアルフィが嫌なら、帰国するのでレンスターまで連れていくとのこと。

 

 おや、お二人もうお帰りですか?

 

 どうやら帰国が随分と前倒しになったようで……ゲイボルグ持ってるんだからそうなるわな。

 ゲームと違うことといえば、フィンを置いていくこと。

 勇者の槍を持たされたフィンはシグルド軍に同行するのだという。

 ここでアイラやシャナンと別れることは、どのような結果をもたらすのか? まったく分からないが――

  アイラを軍に入れなかったので、補強できなかったシグルド軍のために、私が頑張ることにしましょうか。ライトニングをぶちかまし、ぶちかまし、ぶちかまし ――魔法を使いすぎてマーファ城が陥落した頃には、意識がもうろうとして、そのまま医務室に運ばれて……いる間に、シグルドはディアドラと出会ってしまっ たようです。

 ここでディアドラが登場することも、魔法を使いすぎたら精神が摩耗するってことも分かっていたのに、なんという失態!

 もっともこれは回避できなさそうですが。

 ともかくすげー綺麗な未来の嫁・ディアドラのことを引きずりながら、シグルド軍はつき進み……エーディンの説得ではなく、デューの説得によりジャムカを仲間にくわえて深い森を抜けようとしたところで、サイレスの杖きました! ではなく、ディアドラが来ました。

 

 なのですが、ディアドラがサイレスの杖を持って仲間になったのは良いのだが、ヴェルダン城から遠距離闇魔法フェンリルが飛んでこなかった。

 当然サイレスの杖を使うことはなく、ヴェルダン城を制圧し、自殺したバトゥ王と面会することとなり、非常に後味の悪い終わりを迎えることになる。

 

 アイラをシアルフィに向かわせたせいなのか? キュアンとエスリンを帰国させたせいなのか? 結末は同じだが、なにかが足りないまま――私は自分の「使命」を思い出したと偽る。

「ディアドラを連れてグランベル城へ迎えと?」

「はい」

 エバンズ城へと戻ってから……もう、ばっちり結ばれている二人でありますが! ステータス画面見られるのって結構精神的にダメージくるね! ……それはさておき、やっちゃった二人を、陥れられる前にアズムール王に会わせることに。

「私の使命は……クルト王子の隠し子を捜し出すことでした」 

 ディアドラのステータス画面を見ると、間違いなく”ぎらぎら”にナーガのところが光ってる。疑いの余地がない。

「お母さまは身分違いの男性と恋に落ち――」

 初めて会った時、シグルドから逃げたのは、母親とクルト王子のことが頭を過ぎったためなんだそうで……身分違い?

 いや、身分違いじゃなくて不倫だろ?

 私はもう一度ディアドラの血族を表す円を見る。そこにはアルヴィスにはあった禍々しいロプトを表す血の表記がなかった。

 

 ディアドラはクルトの娘だけれども、アルヴィスの妹じゃない?

 

 ディアドラが持っていたオーラの魔導書はグランベル王家所有のものだったので、シグルドも信じてくれた。

 アズムール王に会うことを進言したのは私なので……今更”行くな”とも言えない。

 

 この話はロプト教団が出て来ず、このままディアドラとシグルドが結婚してハッピーエンドで終わるのか?

 そう思った矢先――

「ぼくがご一緒します。兄がグランベルに戻って来るように言っているので」

 ふと、私はアゼルのステータスを見ていなかったことを思い出した。アゼルの血統なんて見る必要がないと……

 

―― アルヴィスの妹……まさか

 

 別に変わったステータスじゃないだろうと自分に言い聞かせ、そして励ましながら左の手のひらを自分の側にむけ、右人差し指を押しつける。

 アゼルの隣に現れたステータス画面。覚悟を決めて血族を表す円の頁に移動した。

「あ……」

「どしたんですか? イズ」

 オイフェの問いかけに返事をすることができなかった。

 私はアゼルとアルヴィスは異母兄弟だと思い込んでいたのだが、アゼルの血族円の中心にはアルヴィスと同じものがある。

 

 もしかしなくても……アゼルがアルヴィスを恐がる理由は、ロプトの血とかじゃなくて、兄が自分を女として扱うことにあるのでは?

 私は荷物から勇者の斧を取りだし、レックスの部屋を訪れた。

 彼と斧について話をしながら、アゼルについても尋ねた。レックスは言葉を濁したが、彼も奇妙だと思うことが幾つかあったらしい。

 

 この世界のシギュンはアルヴィスとアゼルの母親で、不倫はしていない。

 シギュンは設定通り絶世の美女で、二人の父親ヴィクトルとの仲も悪くはなかったものの、彼女はアゼルの出産で命を落とす。

 ディアドラを産んで死んだという設定から、彼女は二人目を産むと死ぬ運命なのかもしれない。

 ヴィクトルは妻の命と引き替えに生まれた娘を疎み、そしてアルヴィスと対立することになり――

「ヴィクトル卿は妻のあとを追って自殺した……らしい」

 本当に自殺だったのかどうか? 不明なのだそうだ。両親を相次いで失ったアルヴィスは、アゼルに凄まじい執着を見せているのだという。

 私は情報料だと勇者の斧をレックスに渡して部屋をあとにした。

 

 シグルドはシアルフィ軍とアゼルを連れてグランベルへと向かう。エバンス城の守りは、レックスに任されることになった。

 まあ残っている面子を考えると妥当というか、これ以外考えられないのだが。

「イズが残ってくれるなら安心だ」

 私は自ら希望し、エバンス城に残った。調査したのが私だということは伏せてもらうことも約束し。

「レックスにそう言ってもらえるとはね」

 

 本当はエバンス城を放棄して、アグストリアの好きにさせようかとも考えたのだが、そうなるとグランベルに帰ったシグルドが戻って来る可能性があるので、ここで頑張ってみることにした。

 これからは頻繁にステータス画面を見て、積極的に未来を構築しようと思う。

 最悪謀殺エンドになったとしても、未来を繋ぐ子どもたちが強く生きられるように――

 

「私のことをお呼びと」

「イズさん」

 シグルドとグランベルに向かう前夜、ディアドラに話があると呼ばれた。

 彼女に自分の両親のことをどうやって調べたのか? 聞かれたが、言えないと口を噤んだ。ステータス画面見りゃあ一発なんですよ! なんて説明できないので。

 ディアドラはそれほど深くは追求しなかった。

 グランベルがどんな国なのか? クルトはどんな人なのか? 行くのをとても楽しみにしていた。グランベル城=悲劇なのだが……。

「わざわざありがとう」

「いいえ」

 明日からディアドラは経験したことがない程長旅をすることになるので、夜更かしするわけにもいかない。

 未だ積もる話もあったようだが、再会したらということで話を打ちきる。

「イズさん。この剣を」

「これは、光の剣?」

 言いながら恥ずかしかった。いい感じにゲームキャラクターになった気がしてもうね……。

 本来ならエスリンがディアドラから貰うはずの光の剣だが、エスリンがいないので私の手に渡ることになったようだ。

 

 シグルドとディアドラ、ノイッシュとアゼル、そしてオイフェを見送り、私はアレクと共に一時的だがレックスの部下になった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

 さて、アイラとアーダンさんはくっついただろうか?

 なんとなくいい雰囲気の手紙は届くんだよね。手紙を読むとアイラよりシャナンがアーダンさんに懐いているようで……これはいい傾向だろうな。

 シグルド謀殺エンドは回避したいのだが、それとは別にカップリングをどうするか?

 自由気ままってのも手だが、私がここにいて、ステータスを見られるってことは、ある程度私が関わっても良い……いや、関わらなくてはならないような気がする。

 

 次から現れるレヴィンは、誰とくっつけようか? プレイしているときは、大体ティルテュとくっつけて、六章始めからフォルセティ無双するのだが、そう上手くいくかなあ。

 なによりティルテュ登場するのだろうか?

 それとセティ。勇者セティと考えると、ある程度の強さがなくては……いや、セティは基本性能が高いからどうにかなりそうだが、それでもなあ、イシュタルのこともあるし。

 エーディンは……これはもう、私の手には負えない。だってレックスにミデェールにジャムカにデューにフィンと、ゲームと同じくらいに(レックスの部分はアゼルだが)男が集まってきて。これはもう、当人同士で解決してもらうしかない。誰とくっついても……まあなんとかなるだろう。

「イズどこに行くの?」

 オイフェがいなくなった私の回りには、デューがまとわりつくようになった。

 本来ならエーディンが貰うはずのワープの杖をくれた。このワープの杖はゲームとは随分と仕様が違う。

 城以外でもワープできる。もちろん目的地を知っている必要があるが、私が知らなくても、ワープで送る人が知っていれば送り届けることができる。

 その上これ、リワープもできた。聖戦には出てこなかったが、トラキア776に出てきた使用者をワープさせることができる杖のことをリワープの杖といっていた。鑑定表記ではワープの杖だが、この機能が付随しているために杖ランクがワープなのにA。

 通常ゲーム内のワープの杖はランクBでプリーストのエーディンでも扱えるが、ランクはリワープの杖に準じて一つ高くなっていたため、クラスチェンジしていないエーディンには使用することができない。

 私はというと、この前晴れて杖Aになった。私は他のキャラとは違い使えば使うほど、武器の練度が上がるということだ。

 前線回復役が私一人だからそりゃあ杖を振り回したさ!

 エスリンからリライブの杖をもらえなかったことを後悔するほどに、ライブの杖を振り回しまくった! その結果、杖レベルがAになったので。

 

 

 このデューから貰ったワープの杖が後々私の代名詞になるとは思いもしなかったが。

 

 

「闘技場に」

 ライトニングを片手に私は闘技場に向かうところだった。

 兵力増強のために、ホリンがいてくれることを願って。

 闘技場で張り出されている名前を確認すると、ホリンを見つけることができた。

「九人抜きかあ」

 闘技場のシステムは、これまたゲームとは少し違っている。ゲームのように……例えば「カシム」を私が倒しても、次に別の人がまた同ステータスの「カシム」と戦うことはない。

 当然といえば当然。この世界では彼らは生身なので。

 ではどのような仕組みなのかというと、闘技場側が大体二十人程度を日雇いする。

 それで対戦者が対戦金を払い、闘技場側に雇われた者と戦い、勝てば対戦金の二倍の額の料金をもらえる。負けても、途中降参しても支払った対戦金は返ってこない。聖戦以外のFE闘技場っぽい仕様だ。

 闘技場に雇われた側は勝ったり引き分けたりすれば、対戦金を手に入れることができる。勝ち続ければ幾らでも居られるわけだが、ある程度稼いだら、次の人に権利を渡すのが暗黙の了解らしい。

 二十番目あたりだと闘技場がしまってしまい、稼げる可能性は少ないとか。

 

 ちなみに闘技場は入場料と賭けで大もうけしている仕組みだ!

 

 ホリンは十三番目にエントリーしており、日雇いの最初の三人はすでに名簿に線を引かれているので、彼を引きずり出すまで九人を叩きのめす必要がある。ホリンを引きずりだし、私が勝ったたところで仲間になってくれるかどうか分からないが、ゲームの動きをなぞるのは重要だろう。

 なんか適当にやったせいで、大変なことになりそうなので、今から本気だす! 本当に本当に本気だす!

 ……その前に、ちゃんとホリンのステータス確認しておくか。……うん、間違いなくオードだな、ソファラ城主の息子だ。

 念の為にホリンに辿り着くまでに戦う相手のステータスと、血筋を確認する。

 

 間違ってデスピサロとかいたら困るからな!(ゲーム違うだろ)

 

 ホリン以外の雇われ側キャラたちは、普通の人だった。ステータスも特化しておらず、スキルも怖ろしいものはない。

 私はライトニングを手に、

「デュー」

「なに?」

「私が十人勝ち抜けに1000ゴールド賭けてきて」

 デューに頼み闘技場の中心に立った。

 ホリンを引きずりだすまでは簡単だった。必殺ライトニングが入ったので、九人全員一撃で沈めることができたから。

 必殺とか連続はまあ……あれだ、運だ。

 ライブは魔力で大盾は精神力だ。この四つはヴェルダンとの戦いで、なんとなく掴めたのだが見切りが今ひとつ分からない。

 ジャムカのキラーボウでも食らってみれば良かったのかもしれないが……嫌だ。だってジャムカ、森のヒットマンってか、密林のシモ・ヘイヘなんだもん。全部ヘッドショット、嫌過ぎる。

「俺の名はホリン」

 ゲーム内なら見切りもちの私には月光剣は発動しないはずだが、注意はしておこう。

「私の名はイズ」

 私は魔導書に手を乗せてホリンを見据えた。

「勝負、始め!」

 開始を告げる声と共に、怒号のような歓声があたりを支配する。

「ライトニング!」

 必殺ではないうえに、ホリンにかわされた。動きが速い――分かっていたことだが、遣りづらい。

 私は踏み込まれたらアウトなので、攻撃をし続ける。大盾を使えば剣を止められるが、私の攻撃も届かなくなる。神の力をも防ぐ絶対障壁だから――とも言っていられない。

 私の大盾を見てレックスが「アーダンは敵の攻撃を防いだまま、味方の攻撃を通過させるぞ」教えてくれた。

 どうやら大盾もランクがあるらしい。

 ……それよりも、ホリンだ。さすがに直撃食らわない。この速さじゃあリザイアで一発逆転なんて狙っても駄目だろうし。

 仕方ない、私が開発した連続ライトニングを食らうがいい。

「パルスのファルシのルシがパージでコクーンで、パルスのファルシのルシがパージでコクーンで!」

 私が編みだした連続ライトニング詠唱である。

 高貴なる人たちを守る為に、高貴……という単語が崩壊するほど考えた結果、思いついたので呟いてみたところ上手く詠唱されてしまったのだ。

 

 いや、FEで光の遠距離魔法ってパージだろ? だからパージが入っている呪文っぽいのを……。

 

 だが一人相手にこれをすると、じり貧になる。だって魔導書が凄い勢いで減ってる!

 連続ライトニングは多数を一気に葬るほうが向いている――そんなこと言ってられないってのが事実だが。

 私は詠唱を止めて、別の攻撃方法を……ホリンが突っ込んできた! なんか藍色のきらきらが! きらきらした! 間違いなくきらきら……もしかして、この世界の見切りって、特殊な技が出たことが分かるだけで、相手の攻撃そのものを封じるもの……って、まずい!

「降り注げ、月光!」

「出でよ大盾!」

 私もホリンも途轍もなく恥ずかしい!

 取り敢えず私の頭上で剣は止まった。さすが神の力を凌駕する全人類最後の希望、大盾だ。

「大盾?」

 ホリンは一度引いた。月光剣だろうが流星剣だろうがこれを突き破るのは無理だからね……多分。ただ私も攻撃できないのが痛い。

「よし……」

 斬られるのは嫌だが、負けるのはもっと嫌で、賭けに負けるのはそれ以上に嫌だ!

 だから私はキャンセルしてみることにした。

 試合放棄ではなく、格闘ゲームにおけるキャンセル技を! っても、大盾を構えたままリザイアを唱えるだけなんだが。

 

 リザイアの詠唱開始→大盾消す→準備していたリザイアが発動する→リザイア発動中にライトニング(連続ではない)詠唱→ライトニング発動→ライトニング発動中に大盾の用意→大盾発動→リザイアの詠唱開始→繰り返し

 

 こうやってホリンを壁際へと追い詰めて、潰していく。

 リザイアはゲーム画面でも全体が赤くなったことから分かるように、広範囲に及び、戦っている場所全てを覆う。これはシアルフィで戦った時に確認した。

 要するに体力勝負、或いは「ハメ削り」対戦ゲームだったら、最悪である。

 

「勝者イズ! 十人勝ち抜き!」

 

 瀕死のライトニング(あと二回しか使えない)を掲げて私はガッツポーズをした。勝った! 勝ったよ! ありがとう、パルスのファルシのルシがパージでコクーン……この魔導書では使えないけれどね(パルスのファルシのルシがパージでコクーンは連続十回攻撃詠唱)

 賞金を受け取り、

「イズ!」

 革袋を背負ったデューが駆け寄ってくる。その重そうな革袋の中身は金だな、金!

 

 それで私はデューと一緒に、医務室に運ばれたホリンの元へと足を伸ばした。治療中のホリンに、

「話したいことがある」

「ああ、いいぜ」

 スカウト開始だ。

 なにせ陣容が薄いので、ホリンくらいは……デューに金を稼がせたのは、ベオウルフを雇ってもらおうかなーと。上手くいくかどうかは知らないが。

「俺を雇いたい?」

「そう。引き受けてくれる?」

 私が賭けで稼いだお金はホリンを雇うお金に。

 生きる意味とかそういう水物ではなく、しっかりと雇わないと後が大変だからさ。

「良いだろう」

 やった! ホリンスカウト成功!

「じゃあ前金だ」

 持っていたライブの杖でホリンの傷を治し、

「武器屋に寄って互いの得物を直して城へ」

 握手なんかしてみたりして、連れ帰る。

 

 それで……ホリンのことをレックスに秘密にしておくのもどうか? と思うし、ホリンにアイラのことを秘密にしておくのも……なので、

「見えないけれど、イザーク人です」

 レックスはあれで結構戦争嫌いというか、隣接国家なので馴染みがあり、戦争には乗り気ではないことは聞いていた。

 もしもイザーク王国を滅ぼして併呑するにしても、王家の血を引く者を生かしておいたほうが支配し易いと――私はそう考えるわけですよ。

 

 レックスはホリンを雇うことに反対はしなかった。ホリンがイザーク王家縁の人だということを証明できる物はないもないから。

 

「イズはなぜ分かった」

「何となく……昔からこれだけは得意でした」

 本当はステータス画面を見ることができるだけですが。

 こんな感じで戦力補強をしていたところ――アグストリア連合王国軍がエバンス城を目指しやってきた。

 気付いたら、開戦です。

 私は忘れていました。ここにシグルドがいないのだから、エルトシャンとラケシス関連のイベントなんて起きるはずがないことを。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話

 城内が慌ただしくなっているのは仕方ないが――

 無害なチートでお助けキャラ系の私まで会議に借り出され、議長のジャムカに意見を求められた。

「イズ、どうしたら良いと思う」

 いや私に聞かないでくれないかなー。軍略とか知らないしさあ。

 普段の私なら意見なんてしないが、ここは意見を出して活発に議論するべきだろう……会議が踊らない程度にしなくてはならないけれど。

「アズムール王に報告して、勅命下されてから戦うべきじゃないかなと思っているんだけど?」

 勝手に戦うと、あとでランゴバルドあたりが「息子に謀反の意あり!」なんて言いながら喜んで来そうなので。

 

 実は清廉潔白で欲のないランゴバルドなんて、見たくはないけれど。

 

「確かにそうだ」

 責任者のレックスも同意してくれた。

 ならば話は簡単だ。

「だから、レックス。アズムール陛下から命令貰ってきて!」

「無理だ」

「どうして?」

「エバンスから陛下の居城までどれ程の距離があると思っている?」

 そこで私が取り出したのはワープの杖(リワープ機能もあるよ)

「これで一気に行こう」

「無茶だ!」

「どうして?」

「ワープには限界があるだろう。エバンスからグランベルまでは不可能距離だ」

 制限なんてあったんだ……。レックスの意見を聞いたエーディンが”ええ、そうよ”と頷く。そうか、無理なのか。でも、やれる。今の私ならやれる!

「私を信じて」

 ゲームキャラになりきってみた。

 そう信じられても困るのだが、やれそうなことは全部やる! ってか、話が全然見えないんだよね。

 シグルドの謀殺死亡エンドフラグ回避の為に大きく動かし過ぎたせいか、アグストリアの出方が読めない。

 レヴィンの回収すら怪しい気が……。

「イズがそこまで言うのなら、確実に俺を一瞬でグランベル城まで送れるだろうが、帰りはどうする? ワープを使っても一週間以上はかかるぞ」

 ワープって意外と移動範囲狭いんだな……当たり前か。

 私がここに残ってアグストリア軍と戦うのも良いのだが、命令されてから戦いたいよね。籠城は致し方ないとしても。

 そうだ!

「レックス。籠城の指揮をジャムカ王子に執ってもらってもいいかな?」

「俺もそのつもりだ」

「私もレックスと一緒にグランベルまで行く」

「なに……どうやって?」

「ワープとリワープを同時に発動させる」

 魔法と大盾のキャンセル連続技ができるのだ、ワープとリワープ同時発動くらいできるだろう。

「そんなこと、できるのか?」

「やったことはないが、理論的には可能」

 

 本当は理論もなにも分からないんだけどさ。なんかできそうな気がするんですよ。

 ワープは相手の足元に魔法陣を置く。魔力が高ければその魔法陣を大きくして大人数を一気に送ったり、長距離移動させたりできる……そうだ。

 リワープはというと、自分の頭上に魔法陣を出現させる仕組みになっている。こちらも魔力さえ高ければ長距離移動はできる。魔法陣は大きくはならない……自分以外を移動させるとなると、ただのワープだもんね。

 この杖が作りあげる魔法陣を、ちょっと移動させてみることにした。

「私とレックスが向かい合い、魔法陣を背後に出現させる」

 上下一緒に出すよりも、向かい合った感じのほうが上手くいきそう――な気がした。

「分かった、イズに任せる」

 正装してきたレックスが頷く。私はエーディンが用意してくれた、シンプルながら仕立てのよい服を着ている。

 気が利くエーディンが用意してくれていたらしい。

「うん。じゃあ、レックス、杖を握って」

 ちなみに私は一回もグランベル城へは行ったことがない。じゃあどうやって移動するのか? レックスを追って行く形でリワープしてみることに。

 

 全身の神経を集中させて、ワープとリワープを唱えた。

 

 上手くいってくれ! と願いながら……足元が妙にふわふわ……目を開くと、少しばかり高い位置に……落ちる!

 ”どさっ”と地面に落ちた衝撃で俯せている私の耳に、

「……やったぞ、イズ。グランベル城だ」

 レックスの驚きと喜びに満ちた声が届いた。どうやら無事にグランベル城に到着できたようです。いきなり現れたので衛兵に囲まれたけど――

 

**********

 

 ドズルの公子レックスのおかげで、すぐに城内に入りアズムール王との面会が叶った。王の側にはシグルドはいたが、アルヴィスは見えなかった。

 なんか嫌な物が胃を冷たく撫でる……気のせいだと思いたいが、ゲームの流れからすると……。

 アズムール王は宣戦布告に受けて立つと決定してくれた。

 シグルドがエバンズ城に赴きたいと言い出しそうだったのだが、私はあの青いマントの裾を引っぱって、

「エルトシャン王と仲の良いシグルドが来てしまうと、アグストリア諸侯を余計に刺激してしまう可能性がある。ここは堪えて、そしてアズムール王の元で発言力を蓄えてください」

 事後処理は戦争したものじゃなくて、宮殿にいる物がするからね。

「エルトシャンのことを頼む、イズ」

「あ、はい」

 この状態だとエルトシャンは牢に監禁されているのか? シャガールに従って最後の戦いを仕掛けてくるのか? どちらか分からない。

 どっちにしてもゲーム上、殺すハメになりそうだが。

 書状を受け取り急いでエバンス城へ引き返そうとした所、アズムール王にレックスが引き留められた。

 王様、レックスをグレートナイトにしてくれるんだそうですよ。

「アズムール王だけ?」

 クラスチェンジは”クラスを見極められる能力を持つ者”にしかできないことなのだそうで、グランベル広しと言えども、できるのはほんの僅か。

 その一人がアズムール王なのだそうだ。

 そんな稀少な物なら見てみたい――とレックスに頼んだところ、

「イズも連れて行こうと思っていた」

 そう言われた。

「どうして?」

「お前、人の能力見抜けるだろ? もしかしたらクラスチェンジ能力を持っているかもしれないからな」

 どうも人の能力を視ることが出来る人しか、クラスチェンジ能力を所持していないのだそうだ。そのクラスチェンジ能力を持っているかどうか? を視ることができるのも、同じ能力所持者。要するに私にクラスチェンジ能力があるかどうかを、アズムール王に診断してもらうのだそうだ。

 

 審査の結果、私はクラスチェンジさせることができる能力を所持しており――

 

「これを授けよう」

 アズムール王から「リターンの杖」を貰いました。そうだよね、クラスチェンジは本城でしかできないわけだからリターンは重要だよね。

「この杖を持ち、クラスチェンジの間に入れば、道を指し示してやれるであろう」

 

 他人の生きる道を指し示すよりも先に、自分が生きる道を誰かに指し示して欲しいのですが――。

 

 レックスはアズムール王の手によりグレートナイトになり、指揮官欄が登場して☆☆がついたよ!

「おめでとう、レックス。エーディンも喜んでくれるね!」

「エーディンは関係ないだろう」

 ……レックス、言葉にはしないけど”可愛いやつだな”状態になってるよ。本当は正直なんだねえ。

 私たちは即座に帰りたかったのだが、書類の用意などで出発は明日になった。

 これでも随分と急いでいるらしいので、文句を言ってはいけないようなのだが……早くしろ!

「イズさん」

「なんでしょう、ディアドラ……殿下」

 王女さまを呼び捨てにするなんてことは、しちゃあいけない。

「ディアドラで構いません」

「そうはいきませんよ」

 こういう人たちって、相手の立場を考えて物を言って欲しい。王女さま呼び捨てたら私が後々迷惑を被るんだっての! ……だが、一応頼みは聞き入れた。

「これを使ってください」

「いいのですか? ディアドラ」

 サイレスの杖とオーラを手渡された。サイレスの杖はともかく、このオーラはグランベル王家の紋章入りですよ。

「お祖父さまに許可していただきました」

 簡単に許可出すなよ、アズムール王さんよ!

 私は基本リザイア選択組なので、オーラなんてほとんど使ったことないんですよ。ディアドラのレベル上げだって杖オンリーだったんだから。

 「クラスチェンジ(リターン)の杖」「オーラ」「サイレスの杖」サイレスの杖はともかく、私以外使えないクラスチェンジの杖とオーラを手に入れてもなあ。サイレスだって今しばらく使う予定はないし。

 

 修理代、高いからな。

 

 久しぶりに会ったオイフェに案内されて城下町を散策することができた。ゲーム上では一度も散策したことがないグランベル城下を。

 さすが大国の首都、エバンスの城下とは比べものにならない。

 何でも揃っているし、人はたくさんいて、活気に満ちている。

 中古品を扱っている店へと連れていってもらい、ライブの杖を探す。

「イズ、ライブの杖を持っていたのでは?」

 シグルドの衛生兵になった際に、一本ライブの杖は貰った、

「万が一の時の事を考えて。幾らあっても無駄にはならないし」

 エスリンもディアドラもおらず、エーディンは戦場には出せない ―― 実質回復役は私一人なんですね!

 ラケシスが出てきた瞬間からマスターナイトだったり、フュリーがファルコンで登場、あるいはレヴィンがセージなら回復役も増えるが、そうでもないかぎり私が一人で回復することになる。

「そうですね」

 中古屋で一本のライブの杖を購入し、もっと視て回りたかったのだが時間もないので城へと戻った。

 歩きながら近況を聞いたところ、オイフェはノイッシュに剣の稽古をつけてもらっているのだそうだ。血筋からいったら、すぐにノイッシュを追い越すんだろうなあ。

「私はソシアルナイトになれますか?」

 きらきらとした眼差しで見つめられたので、ステータス画面を出してみた。無事にソシアルレベルが「1」になっている。

 えっと……これって、知らないと知らないままなのかな?

「もうソシアルナイトになれるよ」

「本当ですか?」

「ホント」

 

 城に戻った私たちは、クラスチェンジの間を借りて、

「初めてだから失敗したら御免ね」

 オイフェのクラスチェンジを行うことにした。オイフェは私の足元に跪き……私は杖を両手で持って掲げてみた。

 さっき見たアズムール王がこうやってたんだよ!

 杖を掲げると光が”ぽわり”と水晶部分から現れ少し上に上がってから大きく広がり、円とその中に魔法陣らしきものが現れて地上に降りてくる。

 中の魔法陣はグレートナイトとソシアルナイトでは随分と違う。

 そうか……そうだよね。どんな兵種でも同じクラスチェンジ陣じゃあおかしいもんね。

 なんかよく解らないが、無事にオイフェはソシアルナイトになったらしい。どこで見分けるのか分からないのだが……それについては、後日落ち着いてからレックスに聞こう。

 

**********

 

「え? アーダンさんを?」

 急いでエバンス城へと戻る筈だったのだが、シアルフィ城に行きアーダンを連れていってくれとシグルドに依頼された。

「本城の警備が必要になるだろう」

 いやシアルフィ城の警備はどうなるの? とか思っていたら、なんでもイザーク遠征に向かっていたシアルフィ軍の一部が帰還するのだそうで ―― アイラとシャナンをシアルフィに留めておくのは危険だとシグルドは判断し、

「分かった」

 レックスが許可を出したのだから、私が四の五の言う筋合いはない。

「じゃあ先にレックスをエバンス城に送り届けてから、私が単身でアーダンさんを迎えに行くことにします」

 移動に必要な書類を用意してもらい、私とレックスは急ぎエバンス城へと戻った。

 

「ご、ごめん、レックス」

「いや、大丈夫だ」

 

 今回も若干着地に失敗しました。いや、本当に御免、レックス。現状を聞くと、攻めてきたのはハイライン兵、指揮官は馬鹿息子エリオット。

 数で劣っているとは言え、領地を落とされて通過されちゃったのか……ノディオン。イーヴにエヴァにアルヴァのナイトリング部隊は……。いや、待て。もしかしたらノディオンはハイラインの通過を黙認した可能性だって残っている。

 ハイラインとノディオンは連合で、敵はエバンス城にいるグランベルだ……攻め込んでみないと解らないな。もしかしたら、エリオットが凄く出来のいい息子だという可能性もある。

 

 出来のいいエリオットなど、エリオットではないような気もするが。

 

「じゃ、レックス。私はアーダンさんたちを迎えに行ってくる」

 籠城戦の指揮を執ることになったレックスにそう言って、私はシアルフィへと飛んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話

 シアルフィに飛んだ私は……今回は無事に着地できた!

 ワープとリワープを同時に行うと、現時点では失敗するらしい。

 私のことを覚えていてくれた顔見知りの兵士にアーダンを呼んでもらい、シグルドからの命令書と手紙を手渡す。

 目を通したアーダンは了承し、私に指示を出す。

 まずはアイラとシャナンを連れてエバンス城へと赴くように。自分は物資と共にエバンス城へと向かうと。

 籠城は援軍が来ることが前提で行われるものだから、当然なんだが。

 アーダンと離れるのは嫌だと言い張るシャナンと、アイラを連れてエバンス城へと戻る。

「シアルフィからエバンスまで一気に?」

 アーダンさんに驚かれたけれども、

「エバンス城からグランベル城まで一回で飛びましたよ」

 もっと驚かせておいた。着地は失敗しましたけれども。

 補給物資のリストを渡されてて、足りない物があったら教えて欲しいと頼まれました。

「伝令に使って悪いな」

 いえいえ、人殺すよりもよっぽど気が楽ですので、どんどん伝令として使ってやってください。

 無事エバンス城へと戻り、アイラとシャナンをジャムカの元へ連れていってくれるよう、デューに頼んだ。

 私はそのまま急いで指揮を執っているレックスの所へと行き、リストを差し出す。

「レックス。アーダンさんが、必要な物資を教えて欲しいって言ってたよ」

「助かる」

 レックスは籠城に必要な物をリストにまとめていた。さすがレックス、指揮官レベル☆☆!

 ……これって頑張れば☆☆☆☆☆になるのかな?

 いやまあ、☆☆でいいんだけどさ。

 レックスが用意していたリストと、アーダンさんから渡されたリストを比較し、重複しているものには線を引く。

「ってかさ。物資、ワープで運び込めばよくない?」

「イズには出来るのか?」

「え? できないの?」

 だって服を着て武器を持っている人をそのままワープさせることが出来るんだよ? ということは、物資だって……。なんかよく解らないけれども、通常の人にはできないようです。

 ワープチートと呼んでください。

 ワープワに響きが似ているような、似たくないような。ともかく私はリストを持ってアーダンさんの所へと飛んだ。

 シアルフィ城の台所に無事到着!

 ……驚かせてごめんなさい。皆さんお元気そうでなによりです。

「アーダンさまなら、アンドレイ卿と会談中だよ」

 前髪ぱっつんも帰国した模様です。

 そりゃそうか、前髪ぱっつんのお家はエバンス城に近いし、二度も攻め込まれたら困るだろうから、城主の代理は帰ってくるだろうなあ……。

「アンドレイ卿はユングヴィの跡取りなの?」

 ゲームをプレイしているだけでは今ひとつ分からなかった、継承権の問題。

 グランベル王国は女性には王位継承権はない。婿が王位を継ぐことになっている。でも公爵家はエンディングで女性も普通に継いでいたような、それともあの後、婿を迎えた……恋人が王で当人が公爵だったりすると、婿がどうなのか?

「そうだろうね。エーディン公女は神に仕えて結婚しないようだしね」

「……もしもエーディンさんが貴族と結婚したりしたら、アンドレイ卿ではなくエーディンさんが継ぐのかな?」

「そうだろうね。あんまり難しいことは分からないけれどもさ」

 

 アンドレイとしてはエーディンに結婚して欲しくはない……よね。公爵家を欲しいと思っていたら尚のこと。

 

 でもアンドレイの人となりがわからないからなあ。ゲームと同じトンボ落としなら容赦無しだが、まともな人なら……仲間になってくれる感じはしないが。

 台所でそんな話をしながら、堅焼きクッキーを貪っていたところ、兵士がやってきて、

「アーダンさまが呼んでいる」

 連れていかれました。

 前髪ぱっつんと、第二章早々にご対面ですよ!

 ぱっつんしてなかったら、誰かわからなさそうですが!

 

 ……みんな! 安心してくれ! 前髪ぱっつんだった! 顔はエーディンの弟だと分かる作りだが。

「縁があってシアルフィ軍に在籍してくれています」

 アーダンさんが私を紹介してくれました。

「イズだったか?」

 どうして私の名前を知っているのですか、ぱっつん卿!

 私は余程不思議そうな顔をしていたようで、アンドレイに心の声が通じたようです。

「噂で聞いたのだよ。シアルフィにクラスチェンジが出来る者が在籍していると」

 噂流れるの早いですね!

 暇なんですね! それとも、あれか? あいつらか? まったく姿を見せない暗黒教団か?

 暗躍しているから私には分からないのかもしれないが、ここまで姿が見えないと不気味だ。

 居ないなら居ないという証拠を! ……居ないんだから証拠も何も無いか。

 私がこの部屋に通されたのは、エバンスに物資を運ぶための話合いなんだそうで、リストが欲しかったようです。

 じゃあ私もう退席しても良くない? と、思いながら椅子に座って二人の話を聞いています。眠くなってきたけどな。

 ユングヴィとシルフィ、そしてヴェルトマーから物資が運ばれてくるとか……。ヴェルトマーと言えばアゼルのことが気になる。

 アンドレイを見送ってから、アーダンにアゼルについて何か聞いているかと尋ねたが、なにも聞くことができなかった。

 会いに行きたい気持ちはあるが、ヴェルトマーには行ったことないのでリワープは無理だし、レックスは責任者だし、エーディンも後方部隊の……。なにより私が単身で向かっても合わせてもらえないだろうし。

 本当にアゼルのことは気になるのだが、いまは攻めてきているハイラインを蹴散らすのが先だ。レックスが自由に動けるようになったら、アゼルの様子を見に行こう!

 

「というわけで、物資を箱に入れてくれるかな?」

 

 私は試しにワープで物資を運ぶことにした。

「これが出来たら凄いな」

 そんなに難しいものなの?

 送るのは木箱に満載した「矢」箱に私がシアルフィから送ったというメモ書きを入れて、精神を集中させる。

 そして何時もの要領で、箱だけをエバンス城へ ――

 

「無事に送れたかどうか見に戻る」

 

 アーダンに手を振り、私はリワープした。

 「矢」は無事に届いており、レックスやジャムカを驚かせた。

 はっはっはっ! これで武器がなくなって負けるということは防げるだろう! 私はアーダンさんとアンドレイからの手紙をレックスに手渡し、休むように命じられた。

 遠距離のワープとリワープを繰り返したので。

「イズの魔法と回復を頼りにしている。しっかりと休んで体調を整えておいてくれ」

 それは、あれですね。

 手前を馬車馬のとごく使うから、覚悟しておけ! ってことですね。分かりました、ぐっすりと休ませていただきますとも!

 

**********

 

 レックスは物資と共にやってくるアーダンさんに城を任せて撃って出る予定だったのだが ―― 予定は未定は良い言葉だ。

 物資到着前に侵攻を開始した。

 ちなみに物資は私がワープで運ぶと言ったのだが、魔力を無駄に使わせるわけにはいかないと言うことと、侵攻してきた相手の補給線の状態を確認するためにも、こちらはしばらく籠城するのでそれ程焦る必要は無いとのことで、アーダンさんの到着を待つことになっていた。

 ノディオンがハイラインに協力しているのなら、補給線はまだ切れないが、協力していなければそろそろ干上がる頃……

 

 夜闇に紛れて一人の傭兵が、一人の少女を連れてやってきた。――そう、ベオウルフがラケシスを連れてこちらの陣営に助けを求めてやってきたのだ。

 

 ぐっすりと眠っていた私まで起こされ、話を聞くことになった。

 いままではっきりとしていなかった、アグストリアの状況がベオウルフによって明かに。ラケシスは疲れて倒れてしまい、エーディンが世話をしている。

 ベオウルフの説明によると ――

 

 まずベオウルフはゲーム同様アンフォニーのマクベスに雇われていた。当然あの有名な”世界ひろし”……じゃなくてヴォルツもいるらしい。

 ベオウルフは雇い主が好きになれずに別れて、ハイラインの方まで来たところで、部下三人だけを率いているラケシスと遭遇し、三人に雇われてラケシスをエバンス城へと連れてきたとのこと。

 三人……エヴァとイーヴとアルヴァだろうが、彼らはノディオン城へと戻ったそうだ。

 エルトシャンから城を預かった夫人、おそらくグラーニャが幼子を抱えて城を守っているのでその援護へと。

 なんでラケシスを城から出したのか?

「勝手に飛び出したらしいぞ」

 あーなんとなく、分かる気がする。ラケシスってお姫様だから。

 どうしてエバンス城へと連れてくるように命じたのか? ……国内は危険なので国外に――とのこと。

 なんか、押しつけられた気がしてならない。

 ベオウルフの仕事はラケシスをエバンスの責任者、この場合はレックスに引き渡すのが仕事だったので、また雇い主を捜すことになる。だからデューにお金を用立ててもらい私が雇うことにした。

「また闘技場で勝ち抜けして、おいらを勝たせてね」

「任せておいて……というわけで、今日から私が雇い主です」

「そうか。それで、俺はなにをしたらいい? イズ」

「いつも通りに戦ってほしい。それで、今は私に答えて欲しい」

「なんだ?」

「あなたはエルトシャン王のことは知っている?」

「現状か? 過去か?」

「両方を知りたい」

 

 やはりゲーム通り、ベオウルフはエルトシャンと顔見知りだった。昔エルトシャンに雇われたこともあり、その時にナイトリング三兄弟とも顔見知りになったのだとか。

 そうでもなけれりゃ、お姫様の護衛を男の傭兵に任せたりはしないだろう。そして最も知りたいエルトシャンの現状……実はエルトシャンがどうなっているのかを知りたいのは私だけで、他の人たちはあまり気にしていない。

 良く考えなくても分かることだが、ここにエルトシャンと親交のある人はおらず、彼らにとってエルトシャンはアグストリア諸侯の一人で手強い敵でしかない。

 そもそもエルトシャンが味方になるなど、誰も考えていない。アグストリアで唯一神器を使えるノディオン王。

 彼も同意したからこそ、グランベル王国に宣戦布告したのだと誰もが考えていた。ラケシスを迎え入れたのも、人質として価値がある――という考えからだ。

 シグルドがいないとぎすぎすとした世界になってしまうなあ。

 

「噂だがシャガール王に捕らえられて地下牢に幽閉されたとか。その噂を聞いてノディオンのお姫様が助けに向かおうとしたところで、俺と会ったってところだ」

「それは本当か?」

 レックスが不信感をあらわにして聞き直す。

「噂だから責任は持てない」

 

 それでどうなったかというと、取り敢えずノディオンまで行こうということになった。エルトシャンを助けるかどうかについてはまだ決まっていないが、ノディオンがハイラインに協力していないのなら、そろそろ物資がなくなる。

 となると引き返すか略奪か、それとも両方か。

 エバンスを落とせなかったハイラインは本領に戻る途中にあるノディオンから物資を奪う可能性もある。

「まさかノディオンと足並みを揃えないで、放置したままこちらに攻めてきたとは……」

 レックスはベオウルフの意見を聞いても、信じられないようだった。そりゃそうだ、あまりに馬鹿過ぎて普通の思考回路の人には逆に考えつかない。退路を確保しないで攻め込むって、なにしたいんだよ。下手すりゃ挟み打ちになる状況だってのに……私は君が本当に馬鹿で嬉しいよ、エリオット。銀の槍寄越せ!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話

「あー暇だなあ」

 私はアーダンさんがやって来るまで、エバンス城の守りを任されました。

 杖を使えるのが私しかいないのに?――と思ったのだが、エーディンが同行するとのことで。男たちはそんな危ないことはさせられないと止めたが、エーディンの決意はかたく最終的にレックスが許可を出した。

 ちなみに、エーディンの身を案じた男たちの恋愛フラグはベキベキに折れました。理由は私――同じく杖で回復を担当している私の身をあまり案じていなかったことに、エーディンは腹を立てたというか、こう……エーディンは高慢な美女ではなく、本当に心が美しいようなので。

 ぎりぎりで恋愛フラグが残ったのはレックス。

 指揮官としてエーディンを同行させることを決め「危険だ、危険だ」とはやし立てるだけではなく、どのような危険があるかを教えたり、逃げる方法を学ばせたりと。

 戦場が危険であることを聞けば聞く程、エーディンの気持ちはかたまったようですよ。

 なにせ私のところにやってきて、魔法を使えるようになりたいと言いに来たくらい。

 でも残念ながらエーディンはまだレベル不足のため、ハイプリーストにはなれませんでした。

 この戦いで必死に杖を使って回復でレベルを上げてから来てくださいな。

 

*********

 

 城に残っているのはイズである私とホリンとベオウルフ。ラケシスも居るが彼女の場合は人質扱い。ノディオンがよく解らないから、行動は制限させてもらっている。

 ベオウルフに『私に従いなさい』と言っていたが『契約は終わり。新たな契約主があんたを見張れって言ってる』返されて怒ってた。

 お姫様、傭兵ってのは偉い人に従うんじゃなくてお金に従うんだよ。

 

 そう言えばいきなりフュリーが「レヴィン王子を返せ」って来たらどうしようね? 説得する術がないからペガサスナイト部隊全滅させるしか……それでは、私がぱっつんトンボ落とし卿になってしまうではないか! 

 いまはどんな形で話が進んでいるのか? 気配を感じられない暗黒教団はどうなっているのか……せかいひろしだ! せかいひろしが来た! ではなくて、ヴォルツ隊がやってきた。

 ちょっ! レックスどうした? 大丈夫か? 本隊壊滅か? おい! 本城を取られるわけには行かないので城壁の門をかたく閉ざさせてしばらく様子を見ることにする。

「アーダンさんが早く来てくれないと、指揮の仕方とか分からないし」

 レックスはこともあろうに、守備の指揮権を私に預けていった。用兵がどうとか分からない、この私に! レックスが言うには「下手に知っていて、あれこれ策を巡らされるよりも、しっかりと守ってくれているほうがいい」って……。たしかに守るという名目で、超強力引きこもりを実行し続けますがね。

 ヴォルツ隊は城攻めは得意ではないようで攻め倦ねている――

「ヴォルツは野戦は得意だが、籠城戦は不得手だ」

 元組んでいたベオウルフが言った通り、苦手そうだった。兵士の動かしかたとか知らない私だが……多分、苦手だろうな。

 なんで攻めてきた? 雇い主が攻めろと言ったんだろうが……なんでだ?

―― どこかから神視点降ってこないかなあ。現状が分からないよ。全体マップくれよ……

 などとグダグダ考えていたら、アーダンさんが部隊を率いて到着したので、あとはすべて任せることにした。

 ある程度蹴散らしてから援軍を城内へと入れて、

「アーダンさん、お久しぶりです」

 難しいことはアーダンさんに任せて私は指示に従うことに。

 戦場に野ざらしになっているヴォルツ隊の死者の数を数えたところ、まだ隊としての機能を維持していると、

「ぎりぎりだが、まだ隊と言えるだろう」

 ベオウルフがそう言ったので、彼らがエバンス城を諦めて本隊を狙ったら厄介……というか、なにがどうなっているのかさっぱり解らない状態。

 だから、

「では行ってきます」

 私とアイラで偵察に向かうことになった。当初「私は一人で大丈夫」と言ったものの、皆さんがとても心配してくださってアイラがついてきてくれることになった。城に残ってアーダンさんと愛を育んで欲しかったのだが、残念なことだ。

 さっさと偵察を終えてアーダンさんの居る城に戻ろう!

 

「アーダン、シャナンのことを頼む」

「任せておけ」

 

 あ、アイラとアーダンさん、良い感じになってる。シャナン! 上手くアーダンさんを誘導しておけよ! できなかったら、クラスチェンジしてやらないからな!

 

 そして二人でてくてくと、徒歩でノディオン城を目指すことに。

 

 ヴォルツ隊を避けながらノディオンを目指し……途中で傭兵が乗っていた馬を数頭見つけた。主の傭兵は死んだのだろう。

「乗っていこう」

 アイラに提案された。

 よくよく考えたらアイラは活発な王女さまなんだから、馬くらい乗れるだろうな。

「えええ! 乗馬できないよ」

「大丈夫」

 えーとですね、アイラにお尻を押してもらって何とか馬に乗り、鐙に足をかけて馬の首に抱きつき、

「私が引く」

 ”ひらり”と馬に飛び乗ったアイラが私の馬の手綱を引いてゆっくりと、だが私たちが歩くのよりずっと速く馬の足を進めた。

「周囲に注意を払っていてくれ」

「はい」

 なにがあっても対処できるように、魔導書を開いて懐に突っ込んで……警戒したものの、何ごともなく前方に攻め込まれているノディオン城が。

 ヴォルツ隊はエリオットの部隊と共にノディオンを攻めているようだ。

 ……レックスどこに行った?

 ここに来るまでに当方の混成軍らしき死体はなかったので、戦っていないのだろうが……レックス、本当にどこへ行った? アイラと話合って、ノディオン城を放置してハイライン城へと進むことにした。

 フィリップ率いる前線部隊の姿はなく、アンフォニー城へと歩みを進めやっとレックスと合流することができた。

「イズにアイラ!」

 久しぶりに再会した我等が指揮官レックスは、流離いの吟遊詩人を連行していた。どうした? レヴィン。無銭飲食でもして捕まったのか?

 

 アーダンが到着したことと、エバンス城に攻めてきたヴォルツ隊が現在はエリオット指揮の下、ノディオン城を攻撃していることを伝え、

「俺たちだが……」

 城を出たレックスたちに起こった出来事を聞き、私は実際抱えはしなかったが、頭を抱えかけた。完全にストーリーがゲームから乖離してしまっているのだ。

 

 レックスたちは進軍してノディオン城近くでエリオットと遭遇する。そこで副官として従っていたフィリップから事情を説明したいと言われ話を聞くことにした。フィリップが言うには、イムカ王を殺害したのはエルトシャンだと。

 

―― おいおい、まさかの展開になってきたぞ。あーでも、クルト王子が重用していたバイロンやリングに殺されたと信用されてしまった部分が、ここに移動したのかもしれない。エルトシャン贔屓のイムカ王が贔屓していた当人に殺されたと ――

 

 我々はシャガール王の命令でノディオン城を攻めている。国内のことなので邪魔はしないで欲しいと告げられたのだという。

 それが本当かどうか? レックスは確認するためにフィリップに案内されてハイライン城へと赴くのだが、途中で盗賊が村を襲っているので助けて欲しいとやってきた踊り子シルヴィアの頼みを聞き、ハイライン城へ立ち寄らずそのまま村へと急いだ。

 村を襲っていたのはアンフォニー城主マクベスが雇ったヴォルツ隊、ここはゲームと同じだ。レックスたちがヴォルツ隊を叩きのめすと同時に、フィリップがヴォルツたちに雇われないかと持ちかけて彼らと共にハイライン城へ。

 そしてボルドーが正式にヴォルツ隊を雇い、レックスはボルドーの話を聞き、内政干渉を避けるために引き上げることにした。

 

 今回のエバンス城攻撃は、些細な行き違いと――そうだ、現在レックスが率いている部隊にはエルトシャンに好意的な人は一人もいないんだった。

 もともと第二章アグストリア動乱の主軸はシグルドがエルトシャンを助けるというもの。

 更にここにはもうキュアンもいない。

「ボルドーから謝罪も受けたし、賠償金も支払うとのことだ」

「なるほど……」

 

 やばい、話が完全におかしくなってる。

 

 どうする? エルトシャンを助けるか? 助けるとしたらどうやって助ける?

 どうやってもエルトシャンを助けようとするシグルドもキュアンも居ない。このまま放置したら、近いうちにエルトシャンは獄死するはず。

 まあどのみち、エルトシャンはシャガールの手で死ぬのだから……。

「ところでレックス。その吟遊詩人はどうしたの?」

「こいつはシレジアの王子、レヴィンだ」

 なぜかばれてるよ!

「シレジア王家から見つけたら捕らえるように言われているんだ」

 ラーナさま、痺れきらしてましたか!

 跡取り息子が各地を放浪していたら、そう言いたくもなるでしょうな!

「本物?」

「以前、シレジアに招待された時に見かけたから、間違いはないと思うが、念の為にイズに確認してもらいたい」

「分かった」

 では久しぶりにステータス画面を出しましょう!

 指で手のひらをなぞり、そして私にしか見えない画面で血筋をさぐる。

「あー間違いなくフォルセティの直系だね」

「そうか」

 レヴィンは肩をがっくりとと落としていたが、知ったことではない。

 ……まて。アグスティ城まで行けば、まだ間に合うか? そうだ、フュリーたちはアグスティ城方面から来る筈だから。

「レックス。シレジアのレヴィン王子をどうやって引き渡すの?」

「どうした? イズ」

「危ないかなと思ってさ。ノディオンで戦争しているから、他国の王子に万が一のことがあったら困るなって。私が一気にエバンス城まで連れてワープしても良いけど、そこからどうしようかなと。私はシレジアに行ったことはないから無理だし、放浪して逃げ回っているレヴィン王子を信用するのはできない。レックスはまだ此処から離れられないでしょう?」

 フュリーを仲間にするにはレヴィンと会わせなくてはならない。この調子だと迎えに来るのが確実にフュリーだという確証が持てない。むしろパメラ隊とかが来て”どすっ”と殺してしまう可能性だって。

「そういう心配もあるか」

「ここは一つ、シャガール王に保護してもらって、アグスティ城に迎えを寄越してもらったらどうだろう?」

 迎えに来たのがパメラ隊だったら、私がシレジアまで付いていって、死亡回避に尽力する……というか、レックス率いる準グランベル軍がシレジアに行くとはとても思えない。だがシレジア内乱は絶対に勃発するだろう。いや勃発しなければしないで、それに越したことはないのだが。

「シャガール王にか」

「ハイライン城主、ボルドーを介して依頼する……ってのは無理かな?」

「悪くはないな」

「俺の意見は聞かないのか!」

 風の申し子さんが文句を言ってきたが、貴様はとりあえず国に帰れ。

 そして私たちがアグスティ城に行くための”だし”になれ!

 私たちはそのままハイライン城へと引き返し、シャガール王に面会するためにボルドーに手はずを整えてもらうことにし、その日はハイライン城下で休むことに。

 

「仕事してもらってもいいか? イズ」

 ボルドーの邸宅一つを提供され、レックスが部屋割りを。

「いいよ」

「アイラをエバンス城に送り届けてくれ」

「私はエバンス城待機? それとも戻って来る?」

「戻って来てくれ。シレジアの王子となれば風使いだ。魔法で暴れられたら対応できるのはイズだけだ」

 エルウィンド乱射されたら困るだろうな。勇者の斧持ちのレックスじゃあ対応できないだろう。

「サイレス、かけてから行こうか?」

「どうするかな……」

「おかしなことはしないから、止めてくれ!」

「一応友好国の王子だ。信用しておこう」

「レックスが言うなら」

 

 こうしてアイラをエバンス城に送り届けてから、ハイライン城下へと戻った。するとそこには軍を率いたフィリップとマクベスの姿が。

 

「グランベル軍を包囲した」

 

 ここまでが芝居だったと言うことですか? やっぱりアグストリアはグランベルに侵攻すると。それなら話は早い――戦争だ!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話

「戻ったか、イズ」

 ボルドーが用意した邸内までワープすると、みなが慌ただしく戦いの準備をしている。それにしてもボルドー、城下町で戦争をするとは思い切ったことをする。

「うん。分かってるだろうけど、周囲をハイラインとアンフォニーの軍隊に囲まれてよ?」

「やはりそうか。俺たちをアグストリアの奥深くに誘い込むことが目的だったのだろう」

 レックスは勇者の斧を手に――使ってくれてありがとう。プレゼントした甲斐があるってもんだよ――次々と指示を出しながら、私と話を続ける。

「ノディオンも結託して、襲われたふりをしているのかな?」

 そこが気になるんだよな。エルトシャンが捕まったのは事実だから……。

「そのノディオンだが、イズに動いてもらいたい」

「私?」

 私は敵を魔法で薙ぎ払うほうが合っていると。考えたり説得したり、腹を探り合ったりは苦手だって!

 だが内容を聞いたら、残念ながら私以外にできそうな人がいなかった。ワープとリワープを同時に操れるのは私だけだからね。それに移動距離無双も。

「それじゃあ! 行ってくるレックス!」

「頼んだぞ、イズ」

 私は再度エバンス城へとワープして、アーダンさんにレックスからの作戦を説明し、同行してもらってラケシスを尋問する。私から今回の出来事について話を聞かされたらラケシスは、本当に何も知らないようで、呆然としていた。

 あとエルトシャンがイムカ王を毒殺した犯人に仕立て上げられていることを聞き、憤慨もしていた。

「隠し事はしていないだろう」

 受け答えを聞いていたアーダンさんもその様に言ったので、信用することにする。

「ノディオンはグランベル侵攻に反対していた。これは事実なんだね?」

「ええ」

「じゃあ協力してもらう」

「なにを?」

「ノディオンを攻めているエリオットとヴォルツ隊を排除する。私はノディオン城へ行きたいから、協力するように」

 ノディオン城にワープするのだが、行方不明だったお姫様とドコの誰とも分からない馬の骨より怪しい魔法使いが現れたら、ノディオン側も驚いて、最悪殺される――黙って殺されてやるつもりはないし、負けるつもりもないが――可能性もあるので、顔見知りであり、三兄弟からラケシスを託されたベオウルフも連れてノディオン城へ飛ぶことに。

「ラケシスは杖使える?」

「使えないわ」

 ……っと、ステータス確認、確認。あー使えませんね。プリンセスだけれどもプリンスと同じステータスだ。

「練習しておいて欲しかった」

 嫌味でもなんでもなく呟いたら、ラケシスが顔をまっ赤にして俯いた。怒りと羞恥が混ざった表情……なのだろう。

 まあラケシスはアグストリア動乱辺りでは、中立ユニット三兄弟のせいもあり主戦力ではないので仕方ないと割り切るしかない。

 作戦通り私は、ラケシスとベオウルフを連れフル装備でノディオンまでワープする。

 

 到着した場所は、天井は高く、重厚そうなカーテンが引かれており、壁には絨毯のようなものが貼られていて、タペストリーと……多分エルトシャンらしい人の全身肖像画が飾られている部屋。

「誰……ラケシス?」

 聞いたことのない女性の声が後ろからしたので、魔導書を手に大盾を出して振り返る。

「グラーニェさま」

 ラケシスの兄嫁、エルトシャンの奥様グラーニェさんが居た。

 ゲーム上で彼女の姿を見たことがないので”どう”とも言えないのだが、確実に美人だ。まとめられている金髪の艶やかさは見事。攻め込まれている心労からやつれているが、美しさは損なわれてはいない。

 光沢のあるロイヤルブルーのシンプルなドレス姿で、手には細身の剣を握り、もう片手には魔導書は恐らく雷だ。

 夫エルトシャンに代わって城を守っているのだろう。

 アレスのスキルがこの人由来だろうから、ステータス画面を見させてもらおう。お、クラスチェンジしているマージファイターだ。杖も魔法も剣も使えてスキルも充実。神の血を引いてはいないが基本ステータスが高い。

 良い奥様貰ったな、エルトシャン。

「お妃さまの部屋に乱入してしまって済みません」

「ここはわたくしの部屋ではありませんが……ラケシス、この方々は?」

 ラケシスの説明を聞き、部下たちにここ――応接室だったらしい――に来るよう命じた。

 その間に、ちょっとばかり聞いてみることに。

「この肖像画、エルトシャンに似てるけれどもなんか違うよね」

 どこが違うのかはっきりと分からないのだが、沸き上がる違和感というやつが。以前シグルドとワインを飲んでいる姿を遠巻きに見ただけだが、なんか違うんだよ。

「この肖像画はヘズルよ」

「黒騎士の?」

「そう」

 ああ、なるほど祖先ね。エルトシャンは祖先返りみたいなものなのね。

 

 例の三兄弟がやってきて……顔は見分けがついてしまうのが悔しい。もっと瓜三つであってほしかったよ。

 そういう要望は私の心の内だけにしておいて、事情をかいつまんで説明し、城内に残っているクロスナイツ……いたのか、クロスナイツ。これの誰か一人がトリスタンとジャンヌの父親なんだろうなあと、思いながら眺めつつ現状を説明した。

「それで本当にエルトシャンはグランベル侵攻に反対しているんだな?」

 この国の王様だが、あえて呼び捨てさせてもらおう! 意味はないが。

「反対していました」

 もうね、どこまで信じていいか分からないから、ここは彼らの言葉を信用することにする。

「それで作戦とは?」

「エリオットとヴォルツ隊をノディオンにひきつけておく。その間に本隊がハイライン、アンフォニー連合軍を討つ」

 

 レックスの作戦は、すっきりとしている。レックス率いるグランベル軍……構成人員からすると準グランベル軍と言いたくなるが、とにかくレックスたちは周囲を取り囲んでいる二国連合の軍を打ち破る。これに関しては援軍がこなければ確実だと言いきった。援軍とはノディオンを攻めているエリオット。彼が本気で攻めているのか、作戦として攻めているのかは不明だが……

「本気でしょう」

「そうなの?」

 アルヴァは本気だと言いきった。

「エリオットは少々甘やかされて育ちましたので」

 相当甘やかされて育ったんだな。

「じゃあいきなりヴォルツ隊がエバンス城に攻撃を加えて、引き下がったのは、エリオットの命令が一貫していないから?」

「そうです」

 心底お馬鹿か……変わらずにそのままでいるがいいエリオット。

「じゃあ、引きつけておくのは簡単だね?」

「はい。おそらくどれ程苦境になっても、ボルドー王も呼び戻すことはないでしょう」

「……足、引っぱるのか」

「はい」

 

 必死に攻めているように感じたので、これが演技なら凄いなと思ったが、やはり本気だったかエリオット。そして甘やかしている父親にすら、本来の作戦には邪魔だからと外されるかエリオット。それなら合流させたほうがいいかな? と、ちらりと考えたものの、レックスの策に黙って従うのが最良だろう。

 

「エリオットと傭兵たちをこの場に足止めすることに関してはご安心ください。ですがマッキリー軍はどうしますか?」

 ゲームと違い制圧してから次の部隊が動き出すわけではないので、連携しているのだから機会を見て南下してくる可能性が極めて高い。まあ実の父親から邪魔だから戻ってくるな状態のエリオットと連携しようとはしないだろうが、傭兵が上手くかみ合うと面倒。

 そこで私の出番になる。

「私がアグスティ城で暴れてくる」

「どういうことでしょうか?」

 エヴァの疑問はもっともだ。

「私は自分で訪れたことがない場所であっても、ワープさせる相手が知っている場所ならば、一緒にリワープすることができる」

「アグスティ城までワープすると?」

「距離は大丈夫。エバンス城からグランベル本城までのワープを成功させているから」

 三兄弟が息を飲み驚愕の表情を浮かべた。

「それは」

「私はアグスティ城へ行ったことがないので、人を借りていきたい。アグスティ城を知っていて、信頼でき、自分の身は最低限自分で守れる人を」

 アグスティ城へワープすると言ったとき、ラケシスが椅子から腰を浮かせたが、無視させてもらった。連れていったらそのままエルトシャン捜しに走りそうだから、謹んでご辞退ってか、ラケシスだけは絶対にダメ。

 

 ノディオン側に人選を任せたところ、イーヴが付いてきてくれることになり、

「何回も言うけれど、エルトシャンを救出しに向かうのは避けてね」

「分かっておりますイズ殿」

 念入りに注意をしてからアグスティ城へと飛んだ。

私がアグスティ城で暴れ、グランベル軍である証拠を残せばどうなるか? いきなり喉元にナイフを突きつけられ、その突きつけた相手がナイフを残したまま消えるのだから、シャガール王はマッキリー城主クレメントに国境を封鎖するか、アグスティ城周辺の警備をより厳重なものにするよう命じると、レックスは読んだ。

 シャガールの性格はそんな感じなんだって――さすがグランベル王国の公子、各国の状況もよくご存じで。……当たり前といえば当たり前だが。

 

 私とイーヴはアグスティ城内を人目を避けて移動し、

「ここから中庭に向けて撃つと効果的かと」

 騎士の決闘が行われる中庭を望むことができる場所へとやってきた。

 決闘はアグストリア王が臨席することも多く、玉座からほど近い。

「それじゃあ」

 私はディアドラから貰ったオーラを取り出して、中庭の決闘場に叩き込む。オーラは初めて使ったが、広範囲で驚いた。

 陸上競技場くらいはある決闘場の周囲を光の壁が包みまず上昇する。城の高さに到達すると光の壁がうねり中心に向かって小さくなってゆく。モーションは遅いが、これは凄い。

 

 考えてみたら、オーラやリザイアの上の魔法ってナーガだから、この位威力あってもおかしくはないんだけど……それにしても、この重なる光の壁を発生させたのが自分だとは……。

 城内が騒がしくなり、

「敵襲か!」

「これは」

「まさか、グランベル軍の!」

 お、魔法に詳しい人が居たようだ。

 光魔法を使える人が多いのは、グランベル。その中でもオーラは飛びっきり……私が使えている時点でとびっきりもなにも無いような気もするけれど、とにかく飛びっきり。

「もう一回、打つ余裕はある?」

「あります」

 剣を構えたイーヴに周囲を任せて、もう一度オーラを、今度は玉座がある方向目がけて放ち、光が城を包み込んでいる最中、中庭にオーラの魔導書を投げ捨てるようにして――これ、グランベル王家の紋章入っているから、襲撃者が誰か最高に分かるでしょう――ワープとリワープの杖を両手に持ち構えて、

「いたぞ!」

 やばっ!

 戦うよりも逃げるのが先決!

 大きい槍が振り下ろされる寸前に、なんとか回避してノディオン城へ戻ってくることができた。

 安全を確認するとイーヴが頭を下げて、危険な目に遭わせたことを詫びてきた。

 多分ザインだよな。あの馬鹿デカイ槍。

「彼はザインといい、アグスティの騎士団団長です」

 わざわざ説明してくれてありがとう! でも知ってるよ!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話

 ノディオン城に帰還した私は、そこで待機し――

 さすがグランベル王国の公子レックス、ハイラインとアンフォニー軍を蹴散らしてノディオンを解放することに成功。

 ヴォルツ隊は残党がエバンス城の方向へ逃走。

「エバンス城の守りを頼む!」

 レックスからの命令を受けて私は急ぎ……

「レヴィン王子も連れていこうか? 行軍中に逃げられたり死なれたりしたら困るでしょう」

 シャガール王に話を通してもらう案は潰れてしまったので、また扱いに悩むが……万が一シャガール王の讒言を真に受けたフュリーが来ないとも限らないので。

「それもそうか。頼む、イズ」

「俺の意見は」

 

 そんなもの、聞く筋合いはない。

 

 何度もワープで飛んでいるエバンス城なので慣れたものだが、交通事故などは慣れが原因とも言われるので、ここは細心の注意を払いワープしよう。

 

 エバンス城にレヴィンを連れて無事ワープした私は、アーダンさんに、

「扱いは先日までのラケシスと同じで。風魔法の達人、シレジアの王子だからそれなりに」

 レヴィンを引き渡して、軟禁状態にしてもらい、ヴォルツ隊の残党がやってくることと、それらを残らず討ち取るようにとのレックスの命令を伝えた。

 

 統制が取れている傭兵ならまだしも、逃走した傭兵なんて厄介者でしかない。逃げ込む先が、国内が不安定状態のヴェルダンだったりすると、取り締まる側が少ないからやりたい放題だし、グランベル国内に逃げ込まれそいつ等が犯罪を犯すとレックスが色々と言われるので――

 

 城内に残った私はシャナンと一緒に過ごしてます。私がエバンス城に残ったのは、レヴィン王子を見張るため。魔法使いを見張るには魔法使いがいいと……まあアーダンさんは大盾が使えるのでレヴィンを見張ることなど造作もないことですが「たまには私にも戦わせてくれ。体がなまってしまう」と言うことで。

 そのあまりの凛々しさに、荷物の底に埋まっている追撃リングを渡そうかと思ったのですが、ステータス画面にやはり追撃がなかったレヴィンがいるので、泣く泣く。

 でも大丈夫、追撃リングなんてなくても、アーダンさんなら問題無く活躍してくれるはずだ。なにせジェネラルアーダンさん!

 

 レヴィンの見張りは色々と面倒なので魔導書を取り上げて、サイレスをかけておいた。魔法を封じられ騎士に見張られているレヴィンなど恐れるに足らず!

 

「アーダンとアイラを仲良くさせたいんだよね」

 ……で、シャナンとお話中。

 アイラはお前さんの初恋の人じゃなかったけ? シャナン。

 口を開けばアーダンさんの立派さを語り続けるイザークの王子さま。私もアーダンさんとアイラにはくっついて欲しいとは思っているし志を同じにする相手がいるのは嬉しいが、それにしても強く押しすぎだろ。

 お前はそんなに熱い男だったのか――ゲームのグラフィック画面を見る分には、涼しげだが……もしかしたら大人になったら髪が短くて熱い男になってしまうのか?

「やっぱり贈り物だろうね」

 アーダンさんはアイラやシャナンの保護者的な立場にいるので、なかなか進展がない。アイラはそれなりに好意を持ったらしく、それにアーダンさんが気付いてくれたらと。

「例えば?」

「武器はどうだろうか」

「アーダンはなんでも使えるけど」

 アーダンさんと呼べ、デコスケ……ではないが。さん付けで呼べ、シャナン。

「さりげない贈り物としては剣だね。私がいい剣を手に入れたらシャナンにあげる。それをアイラに渡して、プレゼントにさせたら?」

「……それ、いいね!」

「この光の剣はどうだろう」

 ディアドラから貰ったもので、一応携帯はしている。ライトニングの魔導書が切れたら使うために。

「それはイズが持ってたほうがいいよ」

「そう? でもシャナンにあげるよ。魔法は目くらまし程度に使えるように」

 

 私がこの前半部分の進み方を失敗すると――もうかなり失敗している気がしてならないのだが――シャナンは子供を多数抱えて、闘う毎日を過ごすことになる。……鋼の大剣一本持たせてイード砂漠の神殿に行かせるのは危険だ。バルムンク装備しながら、何回ヘルにぶち当たったことか。なにより一マス離れて攻撃してきた相手に反撃する手立てがなくて……だから持って行け、もしもの為に!

 私が助けに行くまで持ちこたえろ!

 

 私の強い勧めで、シャナンは光の剣を握った。

「魔法を使うってこういう感じなんだ!」

 魔法剣は魔法を使うコツを知らないとただの剣。

「そうそう。普段は使わなくてもいいけれども、誰かを助ける時とかシャナンの鋭い剣閃と魔法の光が合わさったら、結構いい目くらましになると思うんだ」

 魔法剣を握ったのは初めてだと言っていたが、さすがは剣士の国の直系。使いこなせるようになるまで早いこと、早いこと。やっぱり天才なのだろう、シャナン。

「ありがとう! イズ……あのさ」

「なに?」

「イズはクラスチェンジさせる事、できるんだよね」

「うん。オイフェをソシアルナイトにしてきた」

 今頃頑張ってノイッシュに剣の稽古をつけてもらっているだろう。

「ねえ、イズ! 僕はまだソードファイターになれない?」

「まって……」

 久しぶりにタッチパネルを取り出して、さっと――

「なれるよ」

「本当! 僕をクラスチェンジさせて欲しい。僕も戦えるようになって、みんなを守るんだ」

 戦えるようになったほうが良いとは思うが、アイラの意見も必要だろうと到着するまで意見を保留した。剣の先生はホリンが買って出てくれた。強くなれよシャナン。

 

「俺の魔導書返せ」

 そう言えばせかいひろし……じゃなくてヴォルツを倒すとエリートリングが手に入るはずだが、この世界じゃあエリートリングはないよね。

 いや、レックスにはエリートのスキルはあったが、レックスは実際エリートだからね。エリートリングを持ったらエリートになれるという事は無いだろうし。

「話を聞け!」

「帰るまで黙っていていてください、王子さま」

 

 フュリーはまだ来ない。そしてヴォルツ隊の残党を殲滅させたアーダンさんと、アイラとその他の皆さんが帰城した。

 私はライブの杖を持ってお出迎え。負傷者の治療に専念する。

 兵力は幾らあってもいい。もしかして反逆者の汚名を着せられた時の弾避けに――恐いことを言っているのは分かるが、反撃する時間を稼ぐためにも!

 

 治してやった兵士たちが寝返ったら、もうどうにもならないけれどね!

 

「イズ」

「アイラ!」

 アイラは動きが制限されることを嫌い、軽い革の胸当てと、利き腕と反対側の肩にアーマーを当てているだけで……戦闘規模は大きくなかったが、激戦だったのだろう。肩のアーマーがなくなっている。

「ヴォルツという、隊を取り仕切っている男と戦った」

 お疲れさまです、アイラ。

 アイラは腰に下げている見慣れない剣を私の目の前に差し出した。

「この剣を鑑定して欲しい」

 大剣ではなく、細身でもなく。中剣? という言葉があるかどうか知らないが、重さといい長さといい、すっごくいい感じ。剣は白っぽくって、ファイアーエムブレムでは登場しないがミスリル製品っぽいイメージ。シグルドがアルヴィスから渡された銀の剣とは全然違う。

 私のイメージはさておき剣の鑑定を。

「この剣、どうしたの?」

「ヴォルツが持っていた」

「戦利品かあ」

 ステータス画面に現れたのは【勇者の剣】

 経験値二倍リングの代わりにヴォルツが、勇者の剣を持っていました! これで二倍攻撃できるよ……あ、そういうことね。さすがにエリートリングは無理か。

「勇者の剣だって。長さや重さが秀逸で、一度のモーションで二回攻撃し易い武器だよ。良かったね、アイラ」

 これでアイラが鬼神の如き強さ……

「イズ、受け取ってくれ」

「はい?」

「シャナンにくれた光の剣の代わりに」

「あ、いやいや。気にしなくていいから」

 正直私、剣で人を斬る感触とか味わいたくないから魔法使いやってるんであって、この卑怯者にゲーム上伝説の武器と謳われることになる☆100勇者の剣なんて不必要ってもんだ!

 

 アイラと押し問答をし、そして――

 

「アーダン」

「どうしたアイラ?」

「この剣を……」

 

 勇者の剣の恋愛イベント完了。相手が違うなんて問題ではない! 本来はアイラが男性から贈られるものだけれども……ほら、追撃リングイベントの代わりに。このイベントで二人の仲はぐっと近付くことだろう!

 

 アイラとアーダンの仲が進展したのはいいのだが、フュリーはくる気配がなく、

「俺のエルウィンド返せ」

「私が有意義に使わせてもらうよ」

 レヴィンは面倒なので軟禁中。

 一度エバンス城に戻って来たレックス。軍はノディオンとマッキリーの間に布陣したまま、足りない物資をエバンス城で補充して、

「俺は先に戻る。イズ、補給部隊の護衛を頼む」

 また前線へと帰っていった。

 格好良いじゃないか、レックス。多分エーディンも君に惚れてくれるはずさ!

 それとレックス、シルヴィアをエバンス城に置いていった。踊り子はゲーム攻略上では重要だが、普通の場合は扱いに困るよな。

 エバンス城にいるのは構わないが……レヴィンとくっつかれると困るような、王道と言えば王道のような。

 フュリーが確実に登場するという保証はない。ティルテュも同様……間違ってエスニャが現れたりしたらどうしようかねえ。

 ……ま、でも、もう少し考えてみよう。というわけで引き離しにかかります。次の章辺りで二人が登場しなかったら、さくっとくっついてもらうよ。それまで待っててね、シルヴィア。

 

 レヴィンにエルウィンドを返して、一緒に補給部隊の護衛につくことに。

 

 逃げたりするのかな? と思ったが、そんな素振りを見せることもなく、

「飯、食わせてもらったからな」

 軟禁とは言え、何もせずに旨い飯を食わせてもらったことに恩義を感じているようで ―― なんとも王子らしくない王子だ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話

 顔や着衣とは裏腹に、義理堅い王子レヴィン。

 エルウィンドを手にマッキリー攻略に関して協力を申し出てくれたのですが、ここに第三勢力が混ざると厄介……というわけで、レヴィンには捕虜という形で後方にいてもらうことになりました。

 シレジアの次期王ですから、迂闊なことはさせられない。フュリーが迎えに来ない辺り、もしかしたらもう廃嫡になって、叔父に王位が譲られることになっている――可能性もあるけれど。

 レヴィンを後方に置くよう指示したのは、もちろんレックス。さすがレックス、指揮官レベル……ああ! ☆☆☆☆になってる! 頑張ってるな、レックス。

 あとはエーディンが恋人になったら完璧だね!

 

 マッキリー城攻略は私がサイレスの杖で城主のクレメントを黙らせることに。魔力15のクレメントに対して私の魔力は53万! ……嘘だけど、クレメントとは比べものにならないくらいの魔力持ちな私。ライトニングの攻撃がナーガ級になるもんな、この魔力。

 なのでクレメントのスリープの杖が届く範囲の外側からサイレスをかけることができる。

 当初は私が誰か ――ノディオンの三兄弟とか、ベオウルフなど―― マッキリー城を知っている人と共にワープして城内から火の手を上げて浮き足出させようと申し出たのだが、レックスが「危ないから」と行かせてくれなかった。

 レックスは、私がアグスティ城でザインの槍をぎりぎりで回避したことをイーヴから聞き、あまり危ないことはさせないようにすることに決めたのだという。

「ついついイズの魔力に頼ってしまうが」

「気にしなくていいよ、レックス」

「イズはシグルドの部下だが、俺にとっては仲間だ」

 

 そう言えば私、シグルドの部下でしたね。最近会ってないから、すっかりと忘れてました。

 

「ありがとう、レックス」

 レックスが良い人過ぎて辛い……死なれたらもっと辛い。出来る限りレックスを殺さないように頑張ろう。でもレックスだけを助けようとしてもダメなんだろうなあ。

 シグルドとディアドラはそれで失敗ルート辿った気がする。もちろん全力であのグランベル城前の悲劇は回避するつもりだが。

 

 ああ? クレメントですか? あんなのは魔力封じたら、ただのおっさんですから。魔力があってもただのおっさんレベルですけれどね。レックス指揮の軍が容易に攻め落としました。

 クレメントを生け捕りにすることが出来たくらい余裕で。そうそう容姿は……ゲームのグラフィックとほぼ同じだったよ。感心するとともに、面白みがなくて「はーん」としか言えなかった。サイレスの杖は没収されて、私が預かることになりました。褒美らしいですよ。功績に見合った褒美を与えるのも指揮官の仕事。レックス、お疲れ様です。

 

 マッキリー城を落としたレックスは、アグスティ城を攻める前に停戦する意志があることを伝える書状を生け捕りにしたクレメントに持たせ、シャガールの元へと向かわせた。

 ここまで攻め込まれたら、レックスが提示した条件で停戦する最良だろう。そんなに悪いことは書いてないと思うよ。

 

 書状を持ったクレメントがマッキリーを出て、私とデューが城下町を冷やかしがてらに散歩していると、向こうからとても豪華な馬車がやってきた。

 シャガールからの使者かと思ったのだが……

「イズにデュー」

「ホリン?」

 エバンス城の守りについているホリンが、その豪華な馬車に乗って登場した。

 アホか? と言いたくなる程豪華で仕立てのよい馬車なのだが、ホリンはそれが非常に似合っていたので……やっぱり貴族なんだなあ。こういう所で貴族らしさが出るあたり、育ちの良さがうかがえる。私とか乗ったら良くて成金だな。

 馬車にはもう一人……金の長髪、真ん中分け。大人しそうな顔立ちで、白いローブを身に纏っている背の高い男性。

 一目で分かります。クロード神父ですね。

「こちらのクロード神父の護衛で」

 予想通りクロードでした。

「レックスに会いに?」

「お取り次ぎのほど、よろしくお願いいたします。イズ殿」

 にっこりと笑う、まさに想像通りのクロード。だが……クロード、お前さんの嫁候補ティルテュはどうした? 嫁候補持参で登場するのがお前の良い所じゃなかったのか! ノースキルで【秘技リセット】さえ使えば必要ない聖器バルキリーの杖持ちのお前の存在意義、ティールーテューは、どーしーたー。

 ホリンはお前の嫁にも、誰の嫁にもなれないぞ! ホリンが嫁貰うことはあるかもしれないが。

 案内しながら手のひらに指を乗せてクロードのステータスを見る。

 間違いなくエッダの直系で、変なものは混ざっていない。武器は……バルキリーの杖を持っているが……意味ねえ。

 いや、そりゃあ死んだ人が生き返るなんていう、荒唐無稽な杖ではないだろうとは思っていたが「ブラギの塔で祈りを捧げるために必要」って、なんじゃそりゃ?

 杖ランクは確かに☆なんだけど……。

 まあいいや、最初からバルキリーの杖なんて期待してなかったから。

 レックスのところへクロードを連れて行き、私とホリンは部屋の入り口、廊下側で待機することにした。

「神父さまがなんでこんな所へ」

「そろそろブラギの塔に祈りを捧げる時期だからな」

 

 あん? 祈りを捧げる? そんな祭事、あったんだ。……ゲームじゃあエッダ教については存在以外は提示されてないからな。ほぼ暗黒教団のみ。彼らも何がしたかったのか、よく解らなかったけれども。ソレを言ったらロプトその物もなにがしたいやら。

「イズ、ホリン。来てくれ」

 すぐに扉を開けたレックスに呼ばれ、私たちは室内へと入り……私はブラギの塔へと行くことになりました。もちろん、ワープで。

 

**********

 

 ゲーム内のエッダ教は、もちろんクロード神父が頂点に立っている宗教。

 エッダ教は年に十九日だけブラギの塔にバルキリーの杖を安置する。その期間にブラギの塔に巡礼すると……天国らしいところに行ける切符みたいなものが手に入るのだそうだ。

「すっかりと日時を失念していた」

 それはエーディンに言わないほうが言いと思うよ、レックス。エッダ教の最重要行事を忘れていただなんて。

「シャガールの返事がどうであれ、この時期は巡礼者の安全を守ることが第一だから、戦争をするわけにはいかない」

「なるほど」

「クロード神父がブラギの塔へと行くためには、アグスティ城領内を通り抜ける必要がある。だがシャガール王が簡単に通してくれるとは考えられない。だからイズ」

「私がクロード神父を連れてブラギの塔へワープすればいいんだね!」

「頼む」

 

 シャガールめ。クロード神父を通過させるために便宜を払ってやるからアグストリアから撤退しろ。撤退したら賠償金を支払えとか言ってきやがった。あとは意味不明なところで、エーディンを妃にしてやるとか、ラケシスを愛人にしてやるとか……お前の国は負けてるんだっての! そこを理解しろ。まず話はそれからだ。なにより宣戦布告してきたのはお前で、停戦してやるって言ってるんであって、撤退するなんて一言もいってないっての。

 

 シャガールの妄言に付き合うのはレックスの仕事なので……頑張れレックス。エーディンの優しい微笑みに癒やされてくれ。

「じゃあまずは神父さまをお送りするね」

 ゲームではマップの隅っこに”ぽつん”と建っている不可思議な塔だが――私が目指すのは塔近くにある巡礼街。

 ブラギの塔に巡礼する人がいるわけだから、近くに巡礼街ができるのは当然の成り行きだろう。ブラギの塔に一番近い、あのしょぼそうな村が、巡礼者の宿などで栄える街になっているようだ。

「……ここで、間違いありませんか? 神父さま」

「ええ。間違いありません。素晴らしいです、イズ殿」

 ”殿”要らないっての……クロード。

「では少々お待ちください」

 私はクロードを残し、大急ぎでホリンとデューを連れてくる。ブラギの塔まで一緒に行くんだよ。

 クロードがブラギの塔へ行くための同行者は、宗教人や敬虔な信徒はダメなんだって。なんでもクロードと同行したことで、ちょっとした優越感みたいなものが生まれてしまう。それを避けるためにも、あまり信心深くないタイプの人が選ばれるのだそうだ。

 思わずレックスに「選ばれたことある?」と聞いたら「候補に挙がったことはある」って返された。

 マッキリー城まで戻り、ホリンとデューを手荷物ごと巡礼街へと飛ばして、自分の荷物を再確認し巡礼街の入り口で待ってくれていた三人と合流して、食料品などの買い出しに――

 

 巡礼街を歩くのは「エッダの神父がきたことを」教えるため。それで食料品を買い、私たちはブラギの塔近くの雑役小屋でクロードの身の回りの世話をすることになる。

 買い物を終えて高台からブラギの塔を望む。

 海の中の道――という表現が相応しい。満潮時にはやはり隠れてしまうそうだ。干潮時は人が大勢歩くので中々進めず、膝まで海水に浸かってやっと辿り着けるという人も多いらしい。

 私はそんな危険なことはしませんけどね。

 巡礼街からブラギの塔までクロードと共にワープして、ホリンとデューを連れてゆき、買い込んだ荷物を送ったあとリワープ。

 クロードに杖を見事に使いこなしていると褒められた。杖が☆に褒めてもらえるとは、私も中々やるな……。

 

 雑役の仕事ってもそんなにすることはない。精々クロードの食事と寝床を用意するくらい。なんかデューが張りきってやってくれている。

「イズはいざって時のために休んでないとダメだよ」

 全部オイラに任せて! って。

 せっかくの好意なので甘えさせてもらい、自分の能力を細かく調べてみたところ、新たなことが二つほど判明した。

・自分の視界に入っている人のステータスは出せるが、知っている人を思い浮かべてもステータスは出せない。ステータスそのものを知っていたとしても

・クラスチェンジする職種と、それ以外がある。

「デュー」

「なに? イズ」

「剣レベル……そろそろ鋼の剣くらいなら使えるよ」

「え? 本当!」

 ホリンはクラスチェンジするタイプだが、デューは武器レベルだけが上がるタイプ。

 これはクラスチェンジが出来る人物に認定された職種とそうではない職種の違いなんだろう。オイフェは私がソシアルナイト認定し、修行を積んで次の段階であるパラディンへと進むことができる。対するシーフはどう考えても、唯の成り行き上の職業だ。誰かに認定されたシーフではないので、当然クラスチェンジはない。

「ホリンに稽古つけてもらったからかな!」

 だが実戦経験が増えたり、修行したりすると武器レベルだけは上がる。

 私もデューと同じ類なんだろう。

「デュー頑張ったもんな」

 夕食の席で嬉しそうに言うデューと、クロードがブラギ塔の中にいる時はずっと見張っている。仕事をしている傭兵って、格好いいよホリン! 敢えて嫁を推しはしないが、勝手にくっついたらそれはそれで。

 

 ある日デューが風の剣を手に入れてきたり、

「イズ。コレ、鑑定できる?」

「もちろん。……風の剣。魔法剣の一つ」

「これ、ホリンにプレゼントしたら喜ばれるかな?」

「良い剣だから、デューが使えって言われるんじゃない?」

 海が荒れているというのに、気の早い巡礼者たちが小舟に乗って沖に流されかけているのを眺めたり――助けようがなかったので、まじで見てるだけ状態。

 運良く巡礼街の方に流され座礁したそうだが。

 

 暇という訳ではないのだが、時間ができたのでデュー、当時のヴェルダン王国について尋ねることにした。

 暗黒教団関係のことを何か知っていないかと。……そっちは不発に終わったが、ヴェルダン王国についてはある程度聞くことができた。

「ガンドルフはエーディンのことを誘拐してきて、牢に入れてたの?」

「そうだよ。ヘマして掴まったオイラの牢の向かい側に」

「ガンドルフって何のためにエーディンを誘拐してきたの?」

「エーディン綺麗だからお嫁にするつもりじゃないの?」

「じゃあ、牢屋に入れる必要ないよね。部屋に閉じ込めておけば良いだけで」

 

 そもそもエーディンが隣国にも聞こえるほどに美人だから、私たちは”勝手”に嫁にしようとしていると――ゲームではそれらしい台詞言ってたけれど、ここではその台詞を私は目にしていないから確証はない。

 

「そうだね。そう言えば、ガンドルフは一度もエーディンの様子見に来なかったなあ」

 略奪も大問題だが……妃にするわけでもなく、身代金を要求するわけでもなく、牢屋に放り込んだだけって。

「……」

「どうしたの? イズ」

「ガンドルフって変わった人だなと思ってさ」

「そうなのかもね」

「ところでデューは、どんなヘマしたの?」

「ヘマって言うか盗みに入ったらジャムカと鉢合わせしちゃった」

「生きてて良かったね」

「うん」

 

 なんかこう……見えてこないんだよなあ。黒幕なんてなくて、個々の思惑が絡まっているだけなのかもしれないけれど。

 

 クロードにグランベル国内の話を聞くことにも成功した! ……成功と言うほどではないけれどね。聞けばなんでも答えてくれるからさ。

「神父さま」

「なんでしょう? イズ殿」

 だからイズ殿はやめろと……。言いたいけれども、その笑顔を前にすると否定できなくなるのだ。恐いなあ、聖職者の笑顔。

 気を取り直して、

「アゼルは元気でしょうか?」

 ずっと気に掛かっていることを尋ねた。

「アゼル公女は病で伏せっておられます。容態は思わしくなく、お見舞いに行ったフリージの公女も会えなかったと。容態を心配した彼女に頼まれ、私もお見舞いしたいと申し出たのですが、アルヴィス卿から丁重に断られました」

「フリージの公女? と言いますと……」

「アゼル公女やレックス公子の幼馴染みのティルテュ公女のことです」

 

 よし! ティルテュの存在確認!

 

 そしてアゼルは病に……病ってなんだよ。最悪ルート行っちゃったのかなあ……と、海を眺めつつ、私とデューは先にマッキリー城へと帰ることになった。

 どうして?

 それは……巡礼者たちがもたらした情報が原因だよ。

 シャガールのやつ、グランベルからきた巡礼者たちを捕らえ投獄したと ―― 例え戦争中であっても巡礼者には手を出さないのが国王の嗜みだと。国民に周知徹底するのが国王の義務だと。

 金持ちな巡礼者に手を出す輩もいるが、それは盗賊。せっかく停戦中なんだから……もう!

「ホリン。神父さまのことは任せた」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話

 デューを連れて大急ぎでマッキリー城に引き返すと、既にレックスが率いる本隊は出撃していた。

「アグスティ城に潜入して、巡礼者たちを救い出して欲しいと言っていました」

 マッキリー城に残っていたエーディンから口頭で説明され、書き記した紙も見せられて――

「じゃあ行ってくるね、エーディン。行くよ、デュー」

「用意は万全だよ」

 私とデューはアグスティ城へと飛ぶ。

 デューを連れて行くのは、牢獄を探すためだ。私には城探索機能はないし、よく城内で迷っているのをレックスたちに見られているので……探索は盗賊の領分だよね!

 

 城内は静まり返っていて不気味だった。

 デューはまるで知っているかのように城を進み、すぐに地下牢を発見することができた。

「静かに。無事? 私はグランベル軍に派遣されたものです」

 牢の一室に十人ほどの巡礼者が押し込まれていた。もしかしたらエルトシャンも幽閉されているかと思ったのだが、あの目立つ金髪は見当たらない。

「鍵を開けるよ」

 デューが慣れた手つきで牢の鍵を開けて、

「私たちについてきて。安全な場所まで連れていく」

 巡礼者たちを助け出した……までは良かったのだが、唯一の出入り口の階段を下りてくる足音。

 現れたのは、先日アグスティ城に揺すぶりをかけた際、大きな槍を振るってくださったザイン。

 私が前へと進み出て対峙する。先頭に立ちたくなんてないのだが、巡礼者たちを助けにきたわけだし、デューは戦闘要員じゃないし。

 それを言ったら私は元々衛生兵だったのだが、今更言っても仕方がない。

「グランベル軍のようだな」

「そうです」

 牢の薄暗い冷えた石壁に、ザインの声が響く。

「良かった」

「なにが?」

 ザインは少々頬を緩め、そしてあの大きな槍を階段後方に投げ、腰にさしていた剣を引き抜いた。

 大急ぎでステータスを確認すると……ただの鋼の剣のようだ。

「シャガール陛下が巡礼者たちを城壁へと連れて来るよう命じた」

「解放するわけじゃないよね」

 シャガールの性格からすると、見せしめに殺すってところじゃないかな?

「……想像ついたようだな、イズ」

「なんで私の名前を?」

 名乗ってないんですけれどもね。いつの間に、私そんなに有名になりました?

「書状をもってきたクレメントが語った通りの容姿だ」

 

 あのじじい、無駄口叩きやがって。

 

「私は連れて行きたくはない。だが主命に叛くことはできない」

 エルトシャンと同系統の人か。もともと説得などするつもりはないけれど、まず説得聞かない人だろうなあ。

「要するに、ここで勝負しろってことですね」

 それも生死を賭けて。……いやだなあ。

「そうだ」

 とは言っても、引かなさそうなので……デューと巡礼者たちに下がってもらい、ライトニングの魔導書を構える。

「準備は整ったか? イズ」

「ええ。大盾」

 まずは大盾だ。

 そして大盾に守られている絶対領域の中から ―― アーダンは大盾状態で相手に攻撃を加えることができる ―― 恐らく、出来るはず!

「ワープ!」

 大盾を張ったまま、その内側から巡礼者たちを一人一人、ワープの杖でマッキリー城へと送る。

 剣や槍など物理攻撃を通過させられるタイプの大盾と、魔法系の攻撃を通過させられるタイプの大盾と、私のように杖を使うことができる大盾の最低でも三種類くらいあるのではないかと、私は予想している。

 ちなみに私は最期の大盾と杖を同時に使えるタイプだと予想し、いま試したところ当たっていた。

「デューには残ってもらうから」

「いいよ」

 大盾を解いて用意しておいた連続ライトニングを発動させた。

 ザインはワープで逃がしたことに関して、なにも言わなかった。大盾に攻撃は加えてきていたけれども”卑怯者”とか”正々堂々と戦え”などと口走ることはなかった。

 言われたら「てめーの大将(シャガール)に言え」と言い返す予定だったので、痛くもかゆくもないのだが。

 ザインが本気だったのか? 慣れない武器で上手く戦えなかったのか? そこは分からないけれども、十一回目のライトニングでザインは倒れ、階段から落下して強かに頭を打ち、首の骨が折れるいやな音がした。

 あらぬ方向に曲がった顔だが、その表情は妙に晴れやかで……苦悶の表情を浮かべた死体よりよほど不気味だった。

「出入り口はそこしかないから、脇を通って行こう」

「そうだね」

 私とデューは大柄なザインを出来るだけ踏まないように気をつけかわし、注意深く階段を登った。城内に人気はなく、城外の怒号が響き渡る。

 近くまでレックス率いる本隊が来たのだろう。

 私はデューに案内してもらい、城の正門へと急いだ。跳ね橋は既に降り、グランベル軍が押し寄せてくる。

「イズ!」

「アレク! 巡礼者たちは無事だよ。ワープでマッキリーに送り返した」

「十人全員か?」

「もちろん。一人ずつだけどね」

「さすが」

 よし! もっと褒めろ、アレク!

「イズはザインって人も倒したんだよ!」

 アレクはザインを追ってきたそうで、デューに牢まで案内させて、私は単身で城外を目指した。

「王が逃げた!」

「王が逃げたぞ!」

 出口に近付くと、シャガールが逃げた――声が上がり、それが伝播して大合唱のようになる。アグストリア人たちは攻めてきたグランベル軍に対する恨みの声を上げるよりも、シャガールに対する批難の叫びを上げ続けた。

 私が正面の門から飛び出すと、白馬に跨り逃げているシャガールらしい人と、その前に立ちはだかるレックスの姿が見えた。

 レックスは斧を構えてシャガールの馬を脅し、馬はシャガールを振り落として城へと引き返してきた。落下したシャガールを前に、勇者の斧を振り上げ、陽光を浴びた刃が輝き、振り下ろされる。

 距離はあるので顔は見えないが、絶望的な顔してるだろうな……シャガール死んだな……そう思った時、大きな音が響いた。馬から落ちて動けないシャガールとレックスの間に、エルトシャンが割って入った。

 ああ……あんたは、そういう男だったねーエルトシャン。

 エルトシャンはレックスには斬りかからず、必死にシャガールのことを説得しているようだ。

 私は走り、レックスの元へと行く。

「レックス! 無事だった……あ、怪我」

 本当はエーディンに治してもらいたいだろうが、ここは一つ私で我慢してくれレックス。

 ライブの杖で腕の怪我を治してから、逃走したアグストリアの王様のほうを振り返り、

「……ちょ……」

 絶句とはこういう時の為の言葉なんだろう。

 そっくりだ。

 エルトシャンとシャガール、瓜二つだ! 違うのは……どこだ? なにこれ、そっくり。

 両者とも容姿だけは祖先返りしたということか。

 うわ……。でも、ゲームのように顔悪くて性格も悪くて才能なくて――のほうがまだ良いような気がする。顔同じで性能劣化している方が王とか。

 下手に美形だから……うわ、なんかシャガールのことが一気に不憫に思えてきた。そりゃあ最初からノディオン王家とアグストリア王家はそんな感じの関係だが。

「頼む!」

 私の”可哀想なものを見る目”に気付いているのかどうかは知らないが、ミストルティンから手を放し土下座してきた。

 命乞いか? シャガールの命乞いなのか? お前がそこまでしても、シャガールはお前のこと殺すぜ。やっちまおうよ、エルトシャン。なあ……。

「陛下の傷の治療をお願いしたい」

 命乞いの前に怪我の心配してました。馬から落ちた時、自分が装備していた剣で太股切ったようだ。さすがシャガールだ。

 治療したくはないが、周囲に治療できそうな人もいないし。仕方ない――ライブの杖を顔はエルトシャン、中身シャガールにむけて傷を治した。

 エルトシャンが頼み込んできた時以上に低頭平身してきて、

「感謝する」

 すげー感謝された。

 シャガールは自分の足をさすって私のほうを見ただけだが。まあ敵に治されたからお礼を言う気持ちにはなれないのでしょう。それはそれでいいさ。私だってお前に礼なんて言って欲しくないし。

「エルトシャン王。ミストルティンは少しの間、預からせてもらう」

 

 レックスはそのように指示をして、エルトシャンは素直に従った。シャガール? 知らん。

 

**********

 

 私とデューは翌日にでも巡礼街へ戻ろうとしたのだが、もう暫くいて欲しいと頼まれ ―― 兵士の治療とかな ―― 五日ほどアグスティ城に滞在することになった。

「イズ。これ使って」

 リブローの杖をデューから貰うことに。リブローの杖……リブローの杖。シャガールの持ち物じゃなかったけ?

「どうしたの? これ」

「え? 廊下に落ちてたから貰った」

 あん。投げ捨てて逃げたんだな。

 私が治療に専念している間、デューにアグスティ城下の様子と、

「シレジアから?」

「そう。レヴィンを捜しに来ている人がいないかどうかをね」

「そうだね。レヴィンって王子さまだもんね」

「いちおうね」

「そうだね、いちおうね」

 フュリー隊が来てないかどうか? を探ってもらうことに。

 

 支給されたライブの杖……アグスティ兵の持ち物なのだが、それらをおしげなく、ごりごりと使って味方のみではなく敵の兵士たちをも治療し、明日にはクロードの所に戻ることになった。

「イズ」

「あ、レックス! 明日朝一で神父さまの所に戻るから。それで神父さまはどうする? お城までワープで送り届けたほうがいい?」

 そっちのほうが私としても、行動範囲が広がるのでいいのだが。

「いいや。神父さまには話があるから、徒歩で戻って来て欲しい」

「分かった」

 エッダ城には行けずしまいか。

「それとイズ。エルトシャン王がお前と話したいと」

「私に? なに?」

「さあ。聞いてやってくれるか?」

「そりゃ良いけど……なんだろうね?」

「礼を言いたいみたいだ」

「礼って?」

「シャガールを治療したこと」

「ええー。アレは別に。それにあの場で感謝してもらったから」

「義理堅くて真面目な男なんだろう。シャガールとは正反対だ」

 レックス、ここはアグスティ城で、まだシャガールの部下も大勢いるんだから! でも気持は分かる。

 

 エルトシャンが待っている部屋へと連れて行かれた。

「シグルドの部下だと聞いた」

「はい」

 離れて久しいですが、シグルドの部下です。多分給料らしいものも、シグルドがくれているはず。

「陛下のことを治療してくれ、本当に感謝している。それもあれ程見事な回復を」

「気にしないでください」

 ぶっちゃけた話、責任を負う奴が死んじゃったら困るから。

 生かして戦争犯罪人にしておきましょう、シャガール。

「持ってこい」

 脇に控えていた部下が、エルトシャンの合図でなにやら荷物を運んできた。1メートル少々の箱。

 幅と高さは私の手のひらサイズくらい。豪華そうな布が張られている。

 エルトシャンは部下からその箱を受け取り、立ち上がって、

「これを受け取って欲しい」

 わざわざ私の側まで来て、膝を折って掲げるように……やめてー私はただのチートよー。

「あ、いえ。その……」

 中身は金か? それとも宝石か? と思いつつ、おどおどと受け取った。

 かなりの重みがあるけど、金とか宝石類ではないようだ。食い物でもなさそう……残念。

「王。時間が」

「そうか。せっかく時間を割いてもらったのに、追い返すようで済まない」

 いやいや、エルトシャンは戦後処理でレックスと色々しているから、私よりもずっと時間なくて大変でしょうよ。

「それと、これを。機会があったらラケシスに渡して欲しい」

 質素な室内のチェストの上にあった、丸みを帯びている剣を私に差し出した。

「あ、はい」

 両手に箱と剣を持った私は、出てゆくエルトシャンを見送る。

「この剣は……祈りの剣。やっとラケシス、武器持ちになった」

 祈りの剣は早めに渡したいけれども……明日のこともあるし、兵士たちを治療して疲れたから寝る。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話

「そっか。レヴィン捜しに来てる人たちは居なかったか」

 デューが色々と調べてくれたのだが、フュリーの存在は確認できなかった。

「うん。それらしいシレジア人も、シレジア人を捜している人たちも居なかったって」

 そんな話をしながら、デューと二人で朝食を取り、巡礼街へと向かう準備を整えてレックスに挨拶をすることに。

 忙しいなら後で伝えておいてくれるだけでも良かったのだが、レックスはわざわざ会ってくれた。

「イズ。これを返しておく」

 奇襲をかけた際に使用したオーラを渡される。

 いや、別にオーラそんなに必要ないけど、グランベル王家の紋章入ってるから、水戸黄門みたいなことは出来そうな、出来なさそうな。グランベル王家嫌われてそうだから……

「ありがとう」

 私とデューは巡礼街へと飛んだ ―― 慣れていたから気を抜いていたことは否定しないが、こんな状況になっているとは思ってもみなかった。

 

 着地した瞬間の出来事だった。

 

「危ない! イズ、デュー!」

 ホリンの声が聞こえてくる。目の間から風を切るような矢が迫ってきた。

 間に合わない――大盾は間に合わない。デューの眉間に刺さる……手に握っているのはワープの杖。【間に合え!】声は出なかった。そして、

「間に合った……」

 矢は消えた。

「イズ、今の?」

「飛んできた矢をワープさせた」

「そんなことできるんだ」

 驚き地面に崩れ落ちたデュー。事情は分からないが、大盾を張る。

「荷物番しててくれる。これ昨晩エルトシャン王からもらったもので、まだ中見てないからさ」

「分かった」

 必要ないと思いながら受け取ったオーラですが、このような状態の時はこれに限る。

 

「――――オーラ」

 

 状況は分からないがホリンが戦っている相手は私たちの敵!

 オーラで威嚇して、

「良い所に来てくれた、イズ」

「どうしたの? ホリン」

「オーガヒルの海賊が攻めてきた」

 ドバールか? ドバールなのか? ということは、ブリギッド! ……捜している暇はなさそうなので、ホリンと協力して海賊を引かせることに専念しました。

 アグスティで全ての武器と杖を直してきておいてよかったよ。まさか到着してすぐに、こんな戦いに巻き込まれるなんて思ってもいなかった。

 

 海賊たちを引かせることに成功し、地面に腰を下ろして息を吐き出して、

「なにがあったのホリン」

 やっと状況を聞ける状態になった。

 オーガヒルの海賊たちは話を聞くと、やはり画面右上あたりを根城にしているらしい。マディノ城の北のほうと言っていたので――

 今までも巡礼者を襲うことは何度かあったが、巡礼街を襲ってきたのは初めてのこと。襲われることなど考慮していなかった街は大パニックになり……

「ホリン殿のお陰で、持ちこたえることができました」

 たまたまいた腕利きの傭兵、それも斧に無類の強さを誇る剣使い、オードの血を引く男がいてくれたおかげで何とかなった。

 私とデューはこともあろうに、激戦区のど真ん中に突如現れ、弓矢が当たりそうになったと。

「あの速さの矢をワープさせるとは」

「必死だったんで」

 まじで必死でしたよ。正直ホリンと戦った時より、ずっと真剣でしたとも。

「あの矢はどこにいったの? イズ」

「多分海。飛ばす時、雑役小屋から見ていた海を思い描いたから」

 調べられないけれどもね。

 

 それにしても海賊、どうしようかね。オーガヒルの海賊となると、エーディンを連れてくる必要……そう言えば、エーディンってイチイバル持ってないよね。

 使えない娘に神器を持ち歩かせたりしないよね……。でも攻めてきたということは、もうブリギッドは海賊たちに追い出されたんだろうから早く保護しないとまずくないか?

 途中で休憩となり――海賊を引かせた効果からか、食事がものすごく豪勢です。貴方がたの感謝の気持ちは分かります。

 

 なんにするにしても、レックスの指示を仰ぐ必要があるだろう。

 

「指示を仰ぐのは当然だが、もう少しここに残って戦ってくれないか?」

 戦える人の数が圧倒的に少ないので、私がレックスの元へ行っている時に攻め込まれたら、また劣勢になるので ―― いっそ私が海賊を全滅させてしまおうか? と思ったものの、巡礼街から離れるという点では同じだし、海賊たちがどこに潜んでいるかも分からないし、二日間寝ないで戦ったホリンを休ませるためにも巡礼街に残るとしよう。

 

 回復に関してはクロードがいるので、なんら問題ないので、私は戦いに専念できるのが嬉しい……私は確か衛生兵として採用された筈なのに! いつの間にか切り込み下っ端化している!

 荷物はクロードに預けて、私が護衛する形を取り、ホリンは巡回して、デューには情報を集めてもらうことにした。

 敵を倒すにはまず知ることが必要! とか嘘ついて。知らなくても倒せます。私が知りたいのは海賊ではなく、海賊たちから追われることになっているはずのブリギッドのことです。

 そしてデューが集めてくれた情報によると、やはりオーガヒルの海賊の頭目は弓が凄腕な、金髪の女性でした。ただし名前は「ブリギッド」

 ブリギッドの何が問題かと言うと、名を聞いた時、クロードが一切反応を見せなかったことだ。曲がりなりにも行方不明になっているユングヴィの公女、それも聖痕持ちの名なら少しは反応しても良さそうだ。

 そこで私はクロードに思い切って尋ねてみた。

 エーディンの双子の姉のことを知っているかと。すると思わぬ答えが返ってきた。

「エーヴェル公女のことですか」 

 

 ……ブリギッドじゃなくてエーヴェルって名前でした。そりゃ……エーディンの双子の姉だからエーヴェルのほうが名前に統一感があるのは否定できないが……えええ!

 

「あ、はい」

 名前が違うということだけで充分なのだが、自分で振った話題だ、しっかりと聞いておこう。――名前以外はエーディンがブリギッドに語ってくれる内容とほとんど同じでした。

「ここらで行方不明になったんだ。エーディンさんのお姉さん、おいらが捜してみようか?」

「そうだね……落ち着いたら捜してもらおうかな」

 その後海賊たちは何度か攻めてきたが、それを軒並みねじ伏せるというか殺して、気付くと彼らは砦へと引き返していった。

 引き返したのはいいが、また攻めてくるだろう。

「いまのうちにレックスの所に行ってくるとするね」

 あとはホリンでも対処できるだろう。

 ……ホリン、受け取った金よりも働いているよね。ここは追加で金を払ったほうがいいよね。手持ちの金とそれ以外になにか――そう考えた時目に入ったのがエルトシャンから貰った贈り物だった。

 金目の物が入っていたら、ホリンに渡して契約続行してもらおう。

「なに入ってるんだろうね」

 デューも興味深げにのぞき込んでくる。

「金目の物がいいなと思ってる。そしたらホリンとデューにも分けるよ」

「わあい!」

 重みのある蓋を開けると、中には剣状のものが入っていた。刃がないので剣ではなさそう。でも形は剣。

「どうしたの? イズ」

 まさかこの剣は。急いでステータス画面を出して確認する。

 そこには私の予想通り【大地の剣】と現れた。エルトシャンが大地の剣を渡すイベントの次に起こる出来事。それは処刑だ。

「手紙が入っているぞ、イズ」

 箱の中には三通の手紙と、私宛のメモがあった。メモには――落ち着いたら、この手紙を渡して欲しい―― エルトシャン、私のこと使い過ぎじゃないと、無理にでも笑おうとしないとやってられない気分になってきた。

 三通の手紙は「シグルド」「グラーニェ」「レックス」宛。遺書なのは明かだ。私は箱に詰め直して、ワープの杖を持つ。

「急いで帰ってくるから!」

「こっちは大丈夫だ」

 ホリンの声を聞きながら私はアグスティの城下町へと飛んだ。

 石畳に足がつき周囲を見回すと、人々が悲嘆にくれた表情である一点を見つめている。口々から漏れる嗚咽と哀しみに満ちた声が呼ぶ名。

 見たくはないと思いながらも、彼らと同じ方向を見た。その先にはエルトシャンがいた。顔が同じだからシャガールとは見分けがつかないのだが、人々がエルトシャンと呼ぶからエルトシャンなのだろう。

 

 首だけになって……いた。

 

 私は人々の間を通り抜け、城へと近付く。城の一角に晒されている首に徐々に近付きながら、この状況を回避する方法はなかったのかと自問自答する。

 城の入り口に立っていた兵士はアグスティ兵であったが、治療したこともあり顔を覚えていてくれたようで、あっさりと通してくれた。

 彼の目が涙で潤んでいたようにも見えたが、知らないふりをしよう。

 レックスに会って巡礼街の現状を説明したかったのだが、レックスは激怒しておりシャガールを殺しかねない状況で、誰も近寄りたがらないとのこと。

 私なんかは殺しちゃえばいいんじゃないかな? 考えるのだが、そうも行かないのが難しいところらしい。

「レックス」

「イズ! どうした」

「まずはこれを」

 巡礼街の現状を説明するよりも先に、エルトシャンの遺書を読んで貰うことにした。封がされているので内容は知らないが、エルトシャンの性格上、シャガールを殺せとは書いていないと思うの。いや、殺せと書いていたらそれはそれで、こっちとしては喜んで殺しにかかるが。

 遺書を読み終えたレックスは、眉間に皺を寄せ乱暴にソファーに腰を下ろした。

「イズ……いま何が起こったか分かるか?」

「全然分からないよ、レックス」

「……シャガールが、グランベル侵攻はエルトシャンの独断だとし、彼を処刑してこの騒ぎを終わらせようとした」

「斬った首を前にしてそういったの?」

「そうだ。エルトシャンの首は自分で切り落としたそうだ。アグストリア王として責任を果たしたとな」

 やっぱり殺すべきだったよな、シャガール。

 でもシャガールを殺すとエルトシャンが完全な敵になりそうで、結局こっちで殺すことに……。エルトシャン生存フラグは立たないのか!

「レックス。手紙はあとシグルドさま宛と王妃のグラーニェさま宛の二通ある。それとこの剣をラケシス王女に渡して欲しいとも頼まれて。できたら自分の手で渡したいんだけれど……いいかな?」

「ああ。エルトシャンもそれを望んでいるだろう」

 

 そうかな? 別にまあ……大分レックスの怒りの薄れてきたので、ここらで巡礼街の状況を説明するとしよう。

 説明を聞いたレックスは、折角収まっていた怒りのボルテージがまた上昇。

 海賊を抑えているのはマディノ城に逗留している軍隊が請け負う。当然レックスはこれらについて治安維持がどのようになっているか? 尋ね、しっかりと執り行っていると……。

 

 シャガールサマに恨めしい目で見られました。ばれないと思ったんだってー。マディノ城の軍を引き上げアグスティ城の警備に付かせたのは、私の奇襲せいなんだってー。そりゃー御免なさいね、シャガールサマ。

 レックスがアレクの部隊を海賊討伐に向かわせることにして、

「クロード神父を連れてきてくれないか」

 祈りを捧げる期間が終了したので、クロード神父をアグスティ城までワープで連れてきてくれと。そしてホリンには巡礼街に残って警備を続けて欲しいとのことで、必要な金を受け取った。太っ腹だな、レックス。

 

 私は急いで巡礼街へと戻り、レックスの言葉を伝えた。

「頼むね。それと私からも少し」

 ホリンに私からも心付け程度に金を渡しておくことにする。

 要らないと言われたのだが、

「また会った時に返してもらうね」

 良いから受け取れと無理矢理渡して、クロード神父をアグスティ城へと送り……

「おいらも残っていい? まだエーディンさんのお姉さんのこと掴んでないから」

「別にそこまで無理しなくても……調べてくれるならありがたいけど」

 デューも巡礼街に残ることに。

 再会を誓い合い ―― 再会できないフラグっぽくて嫌だが ―― 私たちは別れた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話

 準備を整えているアレクにホリンとデューが残ってくれたくれたことを告げ、エーディンに会うことにした。

 エーディンは……無事レックスと結ばれたようです。

 やったー! これでエーディンに不倫疑惑が持ち上がらなくて済むな! みんな「父親が誰でも名前はセティ」ばかり注目するが「父親が誰でもレックス似で名前がレスター」もかなりのものだ。

 他人が結ばれたかどうを知ることができることは秘密にしておかねば。あまりにも下世話過ぎるので――。

 エーディンに会った理由は、レックスが落ち着いたかどうか。

 レックスと一緒にアゼルの所に行きたいので……、

「とても忙しいみたい」

 忙しいか。そうだよね、忙しいよね。誰かアゼルの家に……エーディンは止めておこう。もしかしたら、もうレスター身籠もってる可能性もあるし。

 

 レックスはことの顛末を報告すべく、バーハラ城へと一度帰還することにきめた。

 

 エルトシャンの生首は蜂蜜漬けにして……腐敗を防ぐためにするそうです。スタンダードな保存方法だそうです。首検分はシグルドがするとのこと……あああああ。

 人質としてラケシスをグランベル王国へ連れていく ―― これはレックス宛の遺書手紙に書かれていた。

 ラケシスは現在会って話ができるような状態ではないとのことで、祈りの剣を渡すのはもう暫く後になりそう。

 エルトシャンの王妃グラーニェも故郷に帰して欲しいと。

 グラーニェは拒否したのだが、私がエルトシャンの手紙を手渡し、読んで納得した。よほど帰したかったのだろう、離縁状が入ってた。エルトシャン、本気で王妃のこと助けたかったんだね。

 アレスは残念ながらシャガールの手元に残されることになった。シャガール曰く”子供に罪はない”のだそうだ。これほど胸くそ悪い良い言葉はないね ―― 将来父の仇と言いながらアレスがミストルティン振り回してかかってくるのか……いや、できればそのルートは避けたい。変なこと吹き込まれる前に、シャガールからアレスを奪還せねば。

 アグストリア連合王国は戦争に負け、責任はエルトシャンにあるとのことで、ノディオンの支配域一帯をグランベル王国に渡すことになった。シャガールがアレスを手元に残しておくのは、領地がなくなった怒りの矛先をグランベル王国にむけるためにも必要だと判断したらしい。

 エルトシャンは人気あったから、いざとなったらアレスを立てて民衆に呼びかけて ―― そこまでレックスにバレてるから、意味がないような……

 

 思惑が絡み合っているが、ヴェルダン王国のエバンス城からノディオン一帯までグランベル王国の物になった。着実に帝国への道を進んでいるグランベル王国。……このままでいいのかなあ。

 とはいえ私に出来る事はない。皆さん徒歩や馬車などでマッキリー城からエバンス城へと入り、

「……という訳だ」

「畏まりました」

 ラケシスの夫候補の一人フィンがレンスターに帰国することになりました。そうでしたね、グラーニェはレンスターの貴族。帰国する際の護衛には最適ですね……。

「私も一緒に行きたい!」

 フィンがレンスターに帰ると聞き、シルヴィアも同行すると言って聞かず、踊り子は軍属ではないので誰も止めることもできませんでした。

 グラーニェ、フィン、シルヴィアの一行を見送ることになりました。

 フィン、シルヴィアとくっつくのか……息子を育ててくれている人の国と刃交えるのか。ティルテュとくっつくよりは幾らかマシだが。

 私の言葉にし難い気持ちはさておき、着々と帰国の準備が進んでいる。

 エバンス城にはジャムカを残して、シアルフィへと向かい、クロードはそこで待機。自宅……自城から迎えが来るまでアーダンさんに一任して、私たちは一路バーハラ城へと向かいました。

 

 ああ、レヴィンも連れて歩いているよ。……フュリー来ないなあ。

 

 途中でランゴバルトやレプトールに襲われるかと思ったが、そんなことはなく無事にバーハラ城へ。

 国王への報告にはさすがに立ち会えないので、城で大人しくしていたら――

「皇女がお呼びです」

 ディアドラの部屋へと呼ばれた。さすが大国の跡取り娘の部屋。私が初めて目を覚ました時に見たエスリンの部屋とは段違い。

 壁が白くて窓枠がキラキラしてて、ベッドもなんかピカピカしてる。

 天蓋付きのベッドの上には、子供を抱っこしているディアドラが。セリス産まれたんだ! 髪黒いのが残念だが、蒼髪はさすがに無理か。

「イズ。無事でよかった」

「ありがとうございます。ディアドラさま」

 周囲に侍女がいるので”さま”付けで呼ばせてもらおうか、ディアドラよ。

 ディアドラにアグストリアでの出来事を聞かれたのだが、産後の女性に聞かせるような内容じゃない。

 精々……

「シグルドさまが、落ち込む……などという言葉では言い表せない程、嘆き悲しまれるかと」

「そうですね」

 エルトシャンがシャガールに殺害されたことを前もって教えておいた。

 あれ? そう言えば、エルトシャンが死ぬ辺りでトラバントが登場するはずなんだが、あれ……いなかったよな。

 暗い話はここで終わらせて、ふにょふにょしているセリスを触らせてもらった。

 抱いたりはしなかったよ。将来のグランベルの後継者なんて、おっかなくて抱けませんって。落としたらどうするんですか。

 セリスが昼寝したタイミングで、ディアドラの部屋から退出し……出来る事なら会いたくはないのだがシグルドの元へ。

 本当に会いたくはないのだが、エルトシャンからの手紙を渡さなくてはならない。

「イズ」

「シグルドさま……」

 初めて会った時よりも、随分と疲れたようなシグルド。ヴェルダン王国と戦っている時でも、こんな疲労したような表情は見せたことはなかった。

 心労……なんだろうな。

 シグルドに手紙を手渡して、そのまま立ち去りたかったのだが、当然許可されるはずもなく、部屋に通されてシグルドが手紙を読んでいる間、ずっと座って待つハメに。

 居心地の悪さは半端ない。

 手紙を読んでいる時のシグルドの表情は苦しそうでありながら、偶に頬が緩む。内容は知らないが、学生時代の思い出なんかも散りばめたものなのだろう。

「イズ」

「はい」

「レックスから聞いたのだが……エルトシャンの頼みを聞いてくれたそうだな」

「あ……はい」

 シャガールの怪我を治したんだよなあ……。

「気に病まないでくれ」

「……」

「エルトシャンは本当に君に感謝していた」

「……はい」

 気に病むなって言われても、病むよ。

 命を救ってくださいと頼んでくれた相手を処刑 ―― 助けた奴の身にもなってくれよ。

「人の命を救うことを止めないで欲しい」

 助けた相手が再び戦場へと行き殺されるのは虚しいが納得はできる。でもエルトシャンとシャガールは不条理。

「…………はい。衛生兵の私の仕事ですから」

 納得はできないけれども、まだ気持ちの整理はつかないけれども……衛生兵でなくなったことを、私は心の底で喜んでいたのだな。

 

 ラケシスへの手紙はまた後日となった。まだ立ち直れていないそうです。……立ち直ることできるのかなあ?

 

 これでヴェルダン王国の侵攻からアグストリア動乱まで、一応の決着がついた。グランベル軍が侵攻しているのはイザーク王国で、私はそっちには関係しないため時間に余裕が。

 

 ワープの達人である私に相応しい仕事をレックスに依頼されることになった。

「イズ、レヴィン王子をシレジア王国に送り届けてくれないか」

 ついにレヴィン強制送還ですか。国内でも捜している素振りがないところをみると、持て余され気味なんじゃないでしょうかね?

 帰って来るな! ってとこじゃないの?

「それは構わないんですけど」

 ”いらない子”なんじゃないかなーと思いながら答えた私の重い口調に、

「シグルドの許可は貰う」

 上司のこと心配していると思われたんだが、違うんだレックス。

「あ、いや。そういう訳じゃなくて。私一人でいいのかな? 仮にも王子さまだからさ」

 

 場所を変えて ―― レックスの部屋で、エーディンが淹れてくれたお茶を飲みながら事情を聞くと、レヴィンのほうから帰りたいと言いだしたとのこと。

 あれか、王子様扱いしてもらえないことに悲しくなって、帰国することにしたのか? それとも嫁候補のシルヴィアが居なくなったからか?

 レヴィンの気持ちは解らないが、グランベル側が拒否する筋合いの話ではないのだが、一度身柄を確保し、王子と分かっていながら、お供も何も付けずに放り出すのは同盟国相手に云々。大人の事情ってか、国の建前ってか。手ぶらで帰す訳にいかないってこと。

 送り届ける使者を立てることになったのだが、

「ティルテュ? さんって、たしかフリージの」

 クロードではなくレヴィンに付いて行くのか。これは好都合……かもしれない。

「そうだ」

 バーハラ城にいたティルテュが、是非とも! と、立候補したのだと。

 戦争していたり、きな臭い場所に公女を向かわせる訳にはいかないが、同盟を結び関係が安定している国なので頭ごなしに否定もできない。国内は戦後の処理やら、イザーク王国との戦争の補給やらで男性貴族は忙しい。

 ティルテュには身分があるので、使者として立てることができるが ――

「信頼の置ける女性を付けてやりたいんだ」

「……」

「駄目か?」

 真顔で聞いてくるレックスに、何とも気恥ずかしい気持ちを抑えながら、

「信頼が置けると言われて……嬉しくて」

 照れ笑いをしながら答えた。

 レックスには世話になったし、世話もした。いつの間にか、レックスの部下になったような、でも違うような。

「お前ほど信頼できるヤツはいないよ。シグルドの部下なのが惜しい」

 嫁の前であまり褒めるなって。一応、私も女性なんだから。見た目だけは可愛い。性格は乾物ってかおっさんだが。

「レックス。そんな事を言ったらイズを困らせてしまうのでは?」

 余裕のエーディンが、お茶のお代わりを淹れながら。

「いや、そう言う意味じゃないんだ、エーディン。俺はただ……」

 すごく甘ったるい空気じゃないけれども、柔らかな雰囲気が漂う大人の安らぎの空間ができあがる香りってか。美女は大切にしておけ、レックス。

「ありがとう、レックス。私個人としては全く問題ないよ。多分シグルドさまも許可出してくれると思うけど……ティルテュ公女が私で良いと言うかなあ?」

 いままでフリージ軍と仕事したことないから、私のことは知らないだろう。私は一方的に知っているんだけどね。

「それは大丈夫だ。なにせティルテュの方からイズを指名してきたくらいだ」

 

 私、一体何時の間にそんなに有名になった?

 

 良い人シグルドがティルテュの申し出を拒否するはずもなく、

「アルヴィス卿もイズのことを信頼しているから」

 ……アルヴィスが関係してたのか。

 なんか嫌な雰囲気ってか……もやもやするが、なにも起こっていないので、どうする事もできないまま、レヴィンとティルテュを連れてシレジア王国へと向かうことになりました。

「イズを送り込むとか! シレジアを征服する気か!」

「うるさいよ、レヴィン」

 それも馬車で。

 ワープで簡単に行こうとしたのですが、王子さまの送還? 護送? よくは分からないが、手間暇をかけて送り届けるのが王室というものらしい。

 それなら護衛は私じゃなくても良いような気もしたのだが、

「ドズル城で一休みしてくれ」

 レックスが気を利かせてくれたらしい。心配りできる男だな、レックス。

 ゲームプレイ中はホモホモいって御免ね。

「わざわざありがとう、レックス」

 

 それにしても嫌だなあ。王子様に見えなくとも王子様レヴィンと、公女様ティルテュと同じ馬車に乗って旅するなんて ―― 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話

 ドズル城での収穫は若ダナンを見ることができたことです。

 若といってもそう若くもないような。もちろん系譜をしっかりと確認。

 ネールのところがぎらぎらと輝いていましたとも。

 それとブリアンとヨハンが存在しているらしいことは、ついてくれた侍女(レックスが本城に滞在する時につく人)から聞けましたが、直接みることはできませんでした。

 

 ヨハルヴァは未だ生まれてないのかなあ? 個人的に貌グラはヨハルヴァのほうが好きだ。覆面横歩きについては見なかったことにしている。

 

 今回は行軍ではないし、フォルセティの使い手(使えないらしいけど)が同乗しているので、それほど気を張ってはいない。

 使者であるティルテュは人見知りなのか、ここまで来ても自分から話しかけてはこない。吟遊詩人という名のお喋り王子レヴィンが色々と話しかけて、馬車内の空気はなんとか保たれている。

 ティルテュのステータスと血筋は確りと確認しておきましたとも。間違いなくトードの血筋でサンダーマージでした。スキルは追撃だけだった。怒りなんて、普通に考えたら誰でも持ってるものだからね。代わりに連続とか見切りとか大盾とか持ってて欲しかったけど……カップルしなければ無意味だけど。

 そして衝撃のティルテュ、クラスチェンジ不可能。

 どうもサンダーマージは生まれつきらしい。フリージ家だから、当たり前といえば当たり前なんだが。

 色々と変更ポイントの多いこの世界。

 だから、この世界の真実を知らなくてはならない。

 

 リューベック城に一晩滞在しザクソン城近くなってから私はレヴィンに尋ねた。

「レヴィン」

「なんだ? イズ」

「正直に答えて」

「なんだ」

「どうして放浪してたの」

「……」

「王子が放浪するなんて、余程のことでしょう?」

 本当は王位を継ぎたかったけど、経験不足で武者修行を言いつけられたとかもあり得る。

「……」

「正直に言ってくれないと、護衛としては困るんだよ。例えば、王位を狙っている人に命を脅かされているとか。そういうことがあるのなら。国内に入る前に教えて欲しい」

 国境超えたら即攻撃されるなんてこともあり得る。

「そうだな」

 レヴィンは嫌に真面目腐った表情になり、国を出た理由を語り始めた。

 内容はゲームと同じなので割愛するが、やはり叔父のマイオスとダッカーが王位を欲しがっているらしい。なんだ、基本のままか。

「フォルセティを使える人以外は王位に就けないとか、決まりはないの?」

「ない。俺の祖父はフォルセティは使えなかった」

「聖痕はあったの?」

「あった。珍しいことじゃない。だから叔父上たちは諦めがつかないようだ」

 

 まあ、色々あったんですね。私も聖痕持ちなら、傭兵生活していようが、逃亡生活していようが無条件で国王になり国政に携わるという図式には疑問を持っているので、レヴィンのお祖父さんのような前例は好ましいと思うのですが……どっちに転んでも、ごちゃごちゃはあるってことか。

 

**********

 

「帰国いたしました」

「レヴィン!」

 警戒していたが、何ごとも無くシレジア城に到着し、ラーナさまとレヴィンの感動対面とあいなりました。ラーナさまはグラフィック通り。お召し物はもう少々派手でしたが、品の良い女性に相応しい格好です。

 その後、会食があったのですが、私は丁重に辞退。

 最初はすごく誘われたものの、

「城内に危険人物が潜んでいないかどうかを調べたいから、会食の時間も惜しい」

「そういうことなら。だが城内は不慣れだろう。案内を……」

「ありがたいけど要らない」

「どうしてだ?」

「下手に案内がついてたら、普通は立ち入っちゃいけない場所に行けないでしょ? 迷っているってポーズは結構重要」

「分かった。なにかあってもなくても、教えてくれ」

「了解」

 レヴィンを説得して行動の自由を得た。

 

 なんで必死になってシレジア城で情報を集めているかって? そりゃあ、レヴィンが暗殺されたら困るからだ。ここまできたら、十七年後に賭けるしかないような。もちろん十七年後の戦いなんて避けられるのなら、それに越したことはない。

 なにより、避けるためにもレヴィンを失うわけにはいかないだろう。

 

 シレジア城内に不穏分子はおらず、わりと平和だった。ダッカーやマイオスは、ゲームさながらに評判が悪くてびっくりしたが。

「やはり叔父上たちを、そのままにしておくわけにはいかないな」

 城内で聞いたことを九割正直に報告してやると、レヴィンは沈痛な面持ちになった。

「そうだねー。頑張ってねー」

 残りの一割りは、レヴィンには聞かせられない類のものだよ。王子、ふらふらしてんなーみたいな。まあ評判良すぎても気持ち悪いんで、それはそれで良かったが。

 誰もが手放しで褒める人って、なんか信用できないからさ。ほら、よく馬鹿な特派員が独裁者が治める国で国民に”国は過ごしやすいですか”とか聞くと、全員笑顔で”もちろん”答える。それ以外の返答したら殺されるんだから、当たり前じゃないか。

 そういう一面を撮影したいのかも知れないが、受け答えが悪いとか、笑顔が下手クソだとか言われて投獄されたらどうするの? 独裁者ってのはそんなもんだぜ。……というわけで、悪い噂が出るのは悪いことではない。

「イズ」

「なに?」

「協力してくれないか?」

 レヴィンから協力を求めてきた! 面倒なことに巻き込むなよ……言いたいところだが、レヴィンにはどうやっても生き残ってもらわなくてはならないので、協力するのはやぶさかではない。

「協力したいのは山々なんだけど、私はシグルドさまの部下じゃない。あの方、ディアドラさまの婿だから、私が下手に動くと、グランベルが背後で蠢動していると。逆にレヴィンの足を引っぱりそうで」

 でも、だからこそ、しっかりとした手順を踏まないとマズイ。

「そうだな……」

 どうも私は結構な戦争功労者のようで、シグルド軍の一員として完全に数えられている……ようになってしまったのだ。

「レヴィンに味方はいないの?」

「信頼できる部下はいるが、叔父上二人に対抗できるかとなると」

 国外との提携は大事だが、国内の協力者は重要だよね。

「そうか。私がここに滞在する理由ができたら、影ながらある程度協力できるんだけどね……それにしてもレヴィン、随分とやる気だね」

 レヴィンって話を聞くと、結局は「国王なんてなりたいヤツがなればいい!」で放浪してた人だよね。なにより私が同行すると聞き「シレジア侵略!」叫んでたひとだよね。

 それがどうしていきなり。

「シャガールを見ていたら、そんな事を言っていられない。それは……イズが来たことを喜んだから、色々言われるだろうと思ってな。国内の脆いところを他国に見せるわけにはいかないだろう」

「反面教師ってやつですね、シャガール。そして私には見せていいんかい? 国内のマズイところ」

「お前は性格悪いが、悪人じゃない」

「褒められてるんだろうな」

 そんな気はしないが。

「悪くとるなよ。たしかに悪口みたいだが、俺は」

「分かってるって。そうだね……ティルテュ公女に少し滞在してもらえないかどうか、聞いてみたら?」

 レヴィンをシレジア城に、そしてティルテュをバーハラ城に無事送り届けるまでが私の仕事だ。

 ティルテュをどうやって誤魔化して滞在させようかとレヴィンと悩んでいたら、

「しばらくこの国に滞在したい」

 彼女のほうから言いだした。

 これ幸いと残る ―― 訳にもいかないだろう。

「どうして?」

「風魔法を使えるようになりたいから!」

 ……いや、風魔法ならグランベル国内でも覚えられるだろ。

「それは、実家に喧嘩を売るために?」

「違う! なんで、わたしがそんな」

「雷魔法は風魔法に弱いから」

「そうなんだ……」

 知らなかったんですか、不勉強の誹りは免れないだろなあ。

「で、正直なところを教えて。どうして私を護衛に指名したの?」

「……相談に乗ってくれる?」

「聞かないうちからは答えられないけれど、先ずは答えて。どうして私を指名したの?」

 ティルテュは少し躊躇ってから、

「――アルヴィス卿が言ったの。イズを同行させるのなら、レヴィン王子を送り届ける使者に推薦してくれるって」

 俯き加減になって、語ってくれた。

「よし、まずはレヴィンも呼ぼう」

 なんか嫌な予感がする。

 なんていうのかなあ……

 レヴィンを加えて再度、最初から説明してもらうと……いやな雰囲気しかしなかった。

「話を聞く分じゃあ、アルヴィス卿はシグルドの周囲から、信頼が置ける兵士を遠ざけようとしているようだな」

「……っ!」

 話を聞いたレヴィンも同じことを感じたようだ。

 いや、自分のことを信頼できるシグルドの部下っていうのも気恥ずかしいけどさ、これでも結構頑張ってると思うんだ。

「でも!」

「ところで、どうして俺をシレジアに送り届ける使者になろうとしたんだ? あんた、政治とかに興味ないクチだろ?」

「そんなことは」

「腹を割って正直に話そう。俺はイズの力を借りたいから、あんたの滞在は歓迎する。でもあんたがいることで、シレジアに危険が持ち込まれるのならすぐに帰ってもらう」

 責任感の薄い吟遊詩人だった王子さまだった男が、ここまで警戒するようになれるとは。シャガール、凄い男だ。そういえばあいつ、未だ生きてるんだよな。

 民から軽蔑されながら生きるって、どんな気持ちなんだろう。その道を選んだのはシャガール本人なので仕方ない。

 放浪王子を本気にさせたシャガールの動向が気になるものの……レヴィンの鋭く熱の篭もった眼差しに、ティルテュは重い口を開く。

「わたし、幼馴染みのアゼルのところに、お見舞いにいったの」

「アゼルの容態は?」

 レックスが駄目ならティルテュでワープしたら、アゼルの様子を見に行けるのか! ―― 身を乗り出して尋ねた私にティルテュは首を振る。

「会えなかった」

「取り次いでもらえなかったの?」

「部屋の前まで行くことはできたけれど、伝染病の可能性もあるからって扉を開けてもらえなかった」

「話はできたの?」

「うん。少しだけ扉越しに話ができたんだけど、アゼル……泣きながら、わたしに”グランベル王国から離れてくれ”って。事情を聞いたんだけど答えてくれなかったの」

 

 嫌な予感しかしねえな、おい!

 

「”僕のことを救うと思って”って……でもわたし、国外に出る理由がなくて困ってたの。その時、レヴィン王子をシレジアに送るって」

「理由は言わなかったんだな?」

 レヴィンは腕を組んで、何かを考えているようだった。

「うん。ごめんなさい、あの……」

「気にするな。ところで聞きたいことがあるんだが、いいか? ティルテュ公女」

「うん! あと、ティルテュでいいよ」

「そ、そうか。俺のことはレヴィンでいい」

 

 照れるなレヴィン。いや、確かにティルテュの笑顔は可愛かったけどね。なんつーの、派手ではなく、かといって清楚でもなく、可憐? とも違う、色鮮やかな花が綻びるような笑顔だったけどさ。

 二人が結ばれたら嬉しいよ……そうだ! アーダンさんとアイラはどうなった!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話

 私が他人の恋に現を抜かしている間にも、レヴィンは話をどんどん進めてゆく。

「それで、アゼル公女がティルテュに言った台詞、アルヴィス卿は知ってると見ていいな」

 アゼルが本当に伝染性の病に罹っているのだとしたら、監視している必要があるだろうし、そうではない場合、ただ監禁しているだけの場合もやはり監視が必要だ。

 監視役は当主のアルヴィスが信頼しているもの ―― そう考えるのが普通だろう。

「だろうね」

 ティルテュはもの凄く驚いた表情になったが……あんまり、人を疑ったりしないタイプなんだろう。レプトールはゲームのグラフィックだけでも、策謀家っぽかったもんだが。

「アゼルは……」

 通常ゲームとは違うが、女の子同士の二人も仲がいいようだ。それにしても”僕を救うと思って”とはどういうことだ?

 ティルテュが国外に出てアゼルが直接救われるとは考え辛い。

 ”そのように”言って、ティルテュをグランベルから遠ざけようとしたと考えるのが普通だ。

 ……ティルテュの身に危険が差し迫っている?

 もしくは、ティルテュの身の安全と引き替えにアルヴィスに従っている……。

 どちらにしてもアゼルは事情を知っている。それが一部なのか全体を掴んでいるのかは分からないが、会って話を聞く必要がありそうだ。多少危険であろうとも。

「ティルテュはアゼルの部屋を知っている?」

「もちろん知ってる。よく一緒に遊んで……」

 ティルテュが知っているのなら話は早い。

「行ってみる?」

 ワープの杖を握り、剣を構えるようにする。

「ここからヴェルトマー城まで行けるの?」

 私の言葉に驚いているティルテュに、レヴィンがまるで自分のことのように語ってくれた。

「イズの長距離ワープは聞いてるだろ? こいつはアグストリアからバーハラまで一気に跳ぶぜ」

「リワープも任せておいて」

 ワープそのものは怖くはないし、自信もある。

 でもそれにより知る事実が怖い。まだシャガールは死んでいない、ダッカーやマイオスも反乱を起こしてはいない。

 でも ――

「お願い、イズ」

 ティルテュは綺麗な角度によって藤色に見える青い瞳で私をまっすぐ見つめ、恐れではないなにかを宿した眼差しではっきりと答えた。

「任せて。レヴィン、ちょっと行ってくる」

「ああ。あ、待て。これを持っていけ」

 レヴィンは机の引き出しから、なにかを取り出して手渡してきた。

「ん?」

 魔導書っぽいのだが、随分と小さく薄いのが。

「ウィンドの魔導書。お前なら俺より早く放てるだろう」

 おお! これがウィンドの魔導書か。本当に軽い。リザイアと比べたら、雲泥の差だ。

「借りていく。じゃあ行くよ、ティルテュ」

 ティルテュの手を取り、そしてもっと近付けるために腰に手を回して……ああ! 腰が細い! そう言えばいままで、こうしてワープした相手は男ばかりだった。

 ……私、女で変な趣味はないけれど、抱いてワープするなら女の子のほうが断然いい。

 

 

 

 結果は”なにもなかった”

 

 

 ティルテュが知っているアゼルの部屋に辿り着いたものの、そこには誰もいなかった。

「どうしっ……」

「静かに、ティルテュ」

 部屋にアゼルがいないどころか、調度品すらなかった。あったのは、窓を覆う分厚いカーテンだけ。敷かれているカーペットから、長年置かれていた家具が運び出されたことだけはわかった。

―― 本当に伝染病?

 感染を避けるために家具を焼却処分したのだろうか?

 とも思ったが、ならばカーペットもカーテンも取り外すだろう。

 部屋から飛び出していきそうなティルテュを連れて、私はシレジア城のレヴィンの元へと戻る。あまりにすぐに戻って来た私たちにレヴィンは驚き、そして、

「なにがあった?」

「なにもなかった」

「……なにも?」

「なにも。残っていたのは外から様子をうかがえないように引かれた、分厚いカーテンだけ」

 答えを聞いて絶句した。

 アゼルは本当に伝染病で……なにが起こっているのか? もしかしたら何も起こっていないのか? まだ間に合うのか、それとも……

 

 なんの打開策も見つからないまま、無為の日々を過ごしている私たちの元に、レプトールからのティルテュに帰還命令が下った。

 

 アゼルは国外に出てと言った。そのアゼルは行方不明。

「国内に戻ったら、動きが制限されるんじゃないか?」

「でも、どうしたら……お父さまが」

 さて、どうしたものか……悩んでいると、レヴィンがとんでもないことを言いだした。

「結婚しよう」

「……」

 レヴィンが仮面夫婦になることを提案してきた。

 シレジアの王妃になったら、レプトールも連れ戻せない――思い切った策だ。本当の意味で政略結婚と言えるのかもしれない。

「でも……」

「俺を助けると思って」

 ティルテュがシレジア王国に滞在できると同時に、

「叔父上から娘を王妃にと勧められていて。俺を助けると思って」

 自分の結婚を阻止したいそうだ。

 ゲーム上では出てこなかったが、放浪王子レヴィンだが婚約者の一人や二人、いてもおかしくはない。いやむしろ、存在しないほうがおかしい。

 

 結局二人は契約結婚をすることにした。その証人は私。私なんか証人になれそうにないのだが、これでもクラスチェンジ請負人。この能力は公正な契約証人として認定されているそうで。そんな付加価値があるなんて、知らなかった。

 

 ラーナさまにティルテュを王妃に迎えたいと話し ―― シレジア王国から正式な使者を送り……。

「イズ」

「なに? レヴィン」

 秘密裏に話があるということで、私は一度部屋へと戻ってから、レヴィンの部屋へリワープした。

「俺は吟遊詩人として各地を旅したとき、アルヴィス卿の噂を色々と聞いた」

 レヴィンはペガサスに乗れないので、移動はほぼ徒歩。シレジア王国を出て、アグストリア連合王国に向かう途中、ヴェルトマー領にも立ち寄ったのだそうだ。

「どんな噂?」

「アルヴィス卿がアゼル公女に執着している。普通の兄妹には見えない……とか、そういった噂だ」

 エルトシャンとラケシスではなく、こっちの兄妹が噂に上っているのか! 前者は通常ルートの場合、両者が嫌いあってはいないが、アゼルとアルヴィスは恐がられているよな。

 兄に女性として好意を持たれたら恐怖するアゼルの感性は正しいとは思う。

「アゼル公女はティルテュの身を案じているんだろう」

「だろうねえ。でもその理由が解らない」

「ティルテュ本人にも心辺りがないそうだ……気分を害さないでくれよ、イズ」

「なに? レヴィン」

「結婚が許されない相手との間に子供ができたらどうする?」

 ”結婚が許されない相手”

「執着心の度合いと、双方の力関係に寄りけりかな」

「というと?」

「両者が同じ力関係なら分からない。どちらかが決定権を持っていたら、片方の性格で決まる」

「なるほどな。当主が妹を孕ませたらどうなる?」

「どちらから誘ったかが問題だろう。当主が妹を暴力で従わせたのか、妹が当主である兄の情けを求めたのか」

「……」

「レヴィンが言いたいことは……子供を嫡子にするためには、妹ではなく飾りの妃を用意する必要があるのではないかってことだろ?」

 ティルテュはそれにおあつらえ向き ―― アルヴィスの心中をアゼルが理解しているとしたら、国外に逃げることを勧めるだろう。

「前もって用意することも考えられるな」

「そうだね。妃に迎えた時期と子供が生まれた時期に、あまりの齟齬があると、ちょっと厄介だ」

 さーてーと。どうしようかなあ。

 アルヴィスもアゼルもシギュンの子。それはロプトの血族。

「レヴィン」

 放浪王子だが、真面目になったと信じて打ち明けよう。

「なんだ? イズ」

「私はみんなには見えないものが見える。だからクラスチェンジを司ることもできるんだが」

「イズはそうだろうな」

「私は血統を見ることも出来るんだ。レヴィンは間違いなくフォルセティの末裔。はっきりと光輝いている」

 光輝いているといっても、意味わからないだろう。

 円が十二等分されて、そこに血筋の名が書かれていて、ぎらぎらと光輝いているなんて、見ない限り絶対に分からない。

「そう……なのか。へえ……」

「それで、問題なのはアルヴィスとアゼルの母親。私はこの二人に会ったことはないけれども、間違いなくロプトの末裔。アゼルとアルヴィスの血族を表す場所に暗く蠢くその血が滲んでいた」

「待て、イズ! それは……」

「二人の間に子供が生まれたら、それは間違いなくロプトウスの器になる」

 レヴィンは息を飲んで、私の貌を怖ろしい物を見るように凝視した。

「……」

「信じられなくていい。アゼルとアルヴィスの間に子供なんてできないほうがいい。でも、心にとめておいて」

「…………ロプトが絡んでくるってことは、アルヴィスの背後に暗黒教団が控えている可能性があるな」

 

 レヴィンの口から、すっかりと忘れていた相手の名が! 出たなサンディマ! ……じゃなくて、マンフロイ。

 

「暗黒教団?」

 正直、ゲームをプレイしているだけでは理解できなかった彼ら。

 ロプトウスさまの降臨を願って、必死にシギュンの娘を捜して歩いて拉致、記憶操作。アルヴィスの寝所に送り込んでユリウス誕生。その後は子供狩り――なにをしたいのだ? お前たちは。

「ああ」

「ロプトウスを崇めていることくらいしか知らないんだけど」

 レヴィンは本棚へと行き、黒い革表紙の古めかしい分厚い本を持ってきた。

「暗黒教団と俺たちが決別した理由だが――」

 ページを捲りながら説明してくれた内容はというと、暗黒教団の団員、この場合は教徒と言うべきか? そんな彼らはロプトウスに選ばれた民であって、ロプト教を奉じていない者たち以外は全て殺害してOK。

 そんな低脳で身分も低い彼らだが、真実に目覚め、ロプトの教えに改宗したら、格下だが殺さずに生かしておいてやれ。

 ロプト教を奉じないものには死を与えよと、ロプトウスは言ったとさ……

「要するに地上はロプトの民のものだと?」

「そうだ。ロプトウスを奉じる者たち以外は、この地上から去るべきだと」

 

 ……あ、うん。なんか意味わかった。そうだね、だから子供狩りして生贄に捧げるとか騒ぐんだ。そんな事したら、人口先細りじゃね? とか思うけど、彼らとしては正しいことなんだな。

 

 いや、教義には口は挟まないよ。

 それで良いって言うなら、それで良いよ。

 でもさ、それに対して、こっちが黙って従う義理はないのさ。誰かの正義は誰かの悪とは、言ったモンだ。

「あんまり仲良くなれるような気はしないね」

「そうだな」

「それが本当のことなら」

 レヴィンは嘘を言ってはいない。ただ真実かどうかは分からない――

「どういうことだ? イズ」

「歴史は勝者が認めるものってこと。レヴィンは各地を放浪している時に、暗黒教団の話を聞いた?」

「いいや」

「実際に生贄を捧げているところや、殺害しているところも見たことはない。ロプト教の人たちすら見たことはない」

「……イズの言う通りだ」

「彼らを排除するとしても、それが真実であるかどうかを見極めてからでなくてはならないと思う。それによって後手に回ったとしても、耐えなくてはならないと」

 ゲームでは対話もなにもない状態だが、この世界ではもしかしたら話せる暗黒教団の人だっているかもしれない。

 親世代でうまく内通者を作れば、子世代の戦いを避けられるかもしれないし!

「そうだな。そう持ちかけてきたからには、協力してくれるんだろうな、イズ」

「もちろん。許可を取り付けてくるよ」

 暗黒教団が現れたのだから動く。シグルド配下で行動を制限されるよりも、レヴィン配下で動き回るほうが絶対に上手くいく。この手で今すぐマフロイを殺すことができたら! 話合いを考えていると言っていながら、なんか矛盾しているようだが、マンフロイだけは話合いせず、すぐに殺す!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話

 フュリーがいた!

 話しかけられなかったけれども。

 フュリーはレヴィンとティルテュの結婚に関する使者としてグランベル王国へと……ま、まあ。フュリーがレヴィンのこと好きだとは限らないからな。

 ペガサスに乗り青空に吸い込まれるように遠ざかってゆくフュリー。

 

 ……旦那、どうしよう。フュリーは当人と子供たちの性能がいいから、夫は誰でもいいくらいだが……どうしよう。でもフルセティなセティも惜しいよなあ。フュリーと全然絡めないから、どうすることもできないんだけど。なんでフュリー、こっちに全然顔を見せてくれないのだ。レヴィンのこと好きじゃないのか? ……それもありえるなあ。

 

 それで私はと言うと、一度シグルドのところに戻ることにした。

 シグルドは殺されてしまうくらいに良い人なので、しばらくシレジアに滞在することくらいは許してくれるだろう。

 今の所、どことも戦争していないから。

 アグストリア連合王国とは、一時停戦状態しかないが。

 シグルドに会うために単身でバーハラ城へと跳ぶ。

 門番の兵士も突然私が現れる事には慣れたようだ。城内を着地ポイントに設定することはできるけれども、いちおう門から入ったほうがいいかな? と。

 あまり城内にワープで侵入できる姿を見せていると、なにか起こった時 ―― 例えばシグルドと上手くいっていない人が殺害された ―― に、真っ先に私が疑われてしまう。アグストリア城などには一気に跳んだが、それを知っているのはデューだけなので、誤魔化せるだろう。

「イズ、お帰り!」

 城内に入り”こちらでお待ちください”と、椅子もなければ茶も出ない空間で立ち尽くしていると、すっかりと背が伸び、髪を短く切ったオイフェが駆け寄ってきた。

「ただいま、オイフェ」

 オイフェの案内でシグルドと再会。

「聞いている。喜ばしいことだ」

 使者のフュリーさんは、超高速で移動してくださったようで、すでにバーハラに到着して書状をアズムール王に渡したようだ。

 シグルドは相も変わらず良い人で、この結婚に関してなにも疑っていない。

「はい。ティルテュ公女は不安がっていますが」

「レプトール卿の許しを得る前に婚約してしまったことか?」

「はい」

 親の許可を貰わないでディアドラと性交渉に突っ走り、後日報告した公子さまが、目の前にいますが……だからこそ、協力してもらえると思うのですよ。

「愛し合う、二人を引き裂くことはできない」

 期待通りの男だシグルド! ティルテュとレヴィンの仲を応援してあげてください。仮面夫婦ですが。

 バーハラ、及びグランベル国内においては変わったことは起きてはいない模様。

「イズに知らせたいことがある」

「なんでしょう?」

「海賊たちを一掃した。これで巡礼街も安心できる」

「そうですか」

 アレク率いる部隊が海賊たちを一掃したとのこと……女性の海賊はいなかったですか? と聞いたが、いなかったそうで……どこいったブリギッド! いないのか!

 ホリンとデューは巡礼街に残ったとのこと。もしかしたら調べてくれているのかもしれない。

「そうだ! ラケシス姫の様子はいかがでしょうか?」

 そろそろ剣を渡したいなと。

 ゲームでは大地の剣ですが、ここでは祈りの剣。

 それで、祈りの剣なのだが、これが中々の優れもの。ゲームではピンチになると回避率が上がる、所謂スキル「祈り」と同じ効果を発揮するものだったが、ここでの祈りの剣はなんとライブの杖としても使える。そういう意味の「祈り」らしい。

 切ってよし! ライブよし! 超優れものだ!

「……もう大丈夫だろう。会ってみるか?」

「はい。早くこの剣をお渡ししたく」

 シグルドに連れられて ―― バーハラ王家の跡取り女婿に案内してもらいたくはなかったのですが、親友の妹なので気になるそうだ。

 ラケシスが療養している部屋は、人質の部屋とは思えないほどに豪華。

 シグルドとしては人質などとは考えていないのだろう……こういう所がこの人の良い所であり、寿命を縮めた原因だよなあ。そろそろシグルドの死亡フラグを折るために、必死で動かないと間に合わないような……もう遅いかなあ。

 

 椅子に座り刺繍をしていたラケシスが顔をこちらにむける。

 

「ラケシス」

「シグルドさま」

 立ち上がってドレスをつまんで膝を優雅に折って頭を下げる。

「イズから渡したいものがある。イズ」

「はい」

 近づいてエルトシャンから託された祈りの剣を手渡す。せっかく立ち直りつつあるラケシスの古傷抉りそうだが、ここは避けては通れない。

 長方形の箱を受け取ったラケシスは、それを抱きしめて俯き、涙がこぼれ落ちた。

 やっぱり古傷抉った!

「申し訳ございません」

 ラケシスが一人になりたいと言うので、シグルドと共に部屋を後にする。一人にしておいて大丈夫なのですか? 尋ねたところ、

「ノイッシュがついている」

 ノイッシュ! お前がディルムッドの父親かあ! ……いや、まだ分からないが。

 でも立ち直りつつあるのなら、子供の性能云々は気にしないでおこう。あとはラケシスのレベルが上がってくれるのを祈るばかりだ。

 

**********

 

「イズ!」

「レックス!」

 シグルドに会い、シレジア王国滞在許可を取ることができました。シレジアに向かう前に、幾一つお仕事と、自分としてやっておきたいことがあるけれども、まさに自由です! 良い人です、シグルドさま。いつものことですが。

「これを」

 即日仕事をこなそうとしたのですが、シグルドに一日は滞在してゆっくりと体を休めるようにと命じられまして、バーハラ城にお泊まりです。

 家臣部屋なのでラケシスの部屋のように豪華ではありませんが、充分過ぎるほど。

 その与えられた部屋にレックスがやってきた。

「なに? 招待状みたいにみえるけど」

 しっかりとした作りの封筒に、滑らかな指触りの凸凹したシールっぽいものがはられている。封筒はかなり大きめでA4サイズくらいはありそう。厚みもあって、中身は厚紙かなにか?

「結婚式の招待状だ」

「えっと……」

 行儀悪いとは分かっているがレックスを指さす。

「俺とエーディンの結婚式の招待状だ。イズにも出席して欲しい」

 イケメンリア充爆発しろ! ―― この感情、いままで分からなかったが、今なら分かる。まさにイケメンリア充貴公子、絶世の美女妻を娶るの巻……爆発しろと思うわな。

「あ、うん」

 だが言える筈はない。そしてそんなことを思いながらも、二人が幸せになればいいねーと、なけなしの良心が囁き私まで幸せな気分になる。

「イズはシレジアを訪れる用事はあるか?」

「シグルドさまの仕事を終えたらシレジアに行くよ。ちょっとアッチに滞在する」

「そうか! 使って悪いんだが、ティルテュに招待状を渡して欲しい」

「もちろん。結婚式近くなったら、ワープで連れてくるから!」

 

 その後、レックスに”レヴィン王子と何時の間に恋仲になった”聞かれて冷や汗が噴き出しそうになった。

 

 幸せなレックスに聞くのは申し訳ないのだが――

「そういやあ、最近レックス、アゼルに会った?」

「いいや。体調が悪いとかで。手紙のやり取りは少ししているが、会ってはいない」

「そっか。ティルテュ公女が心配してたからさ」

「俺もエーディンと一緒に、結婚挨拶を兼ねてアゼルを見舞うつもりだ」

 

 ゲームと全く違うので打開策が見えてこない。

 なので目の前の仕事を一つ一つこなして行こう。

 まずはシグルドからの依頼である、シアルフィ城へと行きアーダンに決裁の書類を届ける。

 私もシアルフィ城へは行きたかった。アーダンさんとアイラの仲がね……うん、結ばれてはいないがいい感じになってる。

 二人とも、身持ち固いなあ。

 仕事はこれだけで、そのまま巡礼街へと行こうと考えていたのだが、招待状を先に届けようということでシレジアへと行き、

「レックスとエーディンの結婚招待状」

 手渡して、私も内容を確認してから巡礼街へ跳ぶ。

 ブリギッドの行方も気になるのだが、アゼルの行方も気になるし、レヴィンの叔父たちの動向も気になる。これらを探るには盗賊が不可欠。

 

 というわけで、デューの出番です。

 

「デュー! ホリン!」

 巡礼街の外れ、海のすぐ側にワープして、そこから街へ。

 街の人たちは私のことを覚えていてくれたようで、二人が何処にいるかをすぐに教えてくれた。デュー、顔が割れてて盗賊の仕事し辛そうだね。

「イズ!」

 別れる時は再会不可能フラグを立てたような雰囲気だったが、そんなことなく再会できて嬉しい!

 バーハラで買ってきた食料品を開いて、お互いの状況を報告しあう。

「女海賊ブリギッドは見つかっていない。殺されたという噂もない」

「エーディンさんのお姉さんについては、まだなにもわかんないんだ。御免、イズ」

「レックスとエーディンの結婚。そうか」

「おめでとうって、伝えておいて」

 

 ブリギッドの行方は気になるが……ここは暗黒教団を優先するので、二人に事情を説明する。グランベル王国の家臣ではない二人ならいいだろう。レックスやシグルドのこと、信頼しているけれども、しがらみもあるからね。ホリンはしがらみ捨てた人だし、デューはなさそうだし。

 

「……暗黒教団」

「ヴェルトマー公爵とアゼルが……」

 ホリンとデューも言葉を失う。

「アゼル公女は少しだけかもしれないが、事情を知っていると思われる。だから彼女を捜したい。本当に伝染病に罹っていたとしても、話は出来るだろうしさ」

「おいらの出番、ってこと?」

「うん。手掛かりが一つもないエーヴェル公女じゃなくて、ついこの間まで元気でみんなの前に姿を見せていた公女の行方。ただし厄介な権力者が色々と動き回っている……できそう? デュー」

「おいらに任せておいて、イズ。ヴェルトマー城には二回ほど忍び込んだことあるから」

 

 ああ! もっと早くデューに打ち明けていたら、こんな後手後手にはならなかったのか! そーだよ、デューは城に忍び込んで見つかったんだ。他の城に潜入していることだって充分考えられ……ああああ! 私の馬鹿!

 

 積もる話はあるのだが、いつまでも話をしている余裕はなく――

「商隊の護衛を引き受けたんだ」

「そうなんだ」

 デューとホリンは巡礼街に滞在しながら護衛の仕事をしていた。巡礼街とマディノ城の北側にある街との交易商人の護衛を。

 海賊が攻めて来た時に戦ってくれたし、派遣された正規軍の指揮官アレクとも仲が良かったので、市民の信頼は絶大だ。

 シャガールよりずっと信頼されている……シャガール以下を捜すほうが難しそうだ。とくにこのアグストリア連合王国内では。

 今すぐにでもデューを連れて飛びたいのだが、引き受けた仕事をキャンセルするのは傭兵にとっては致命傷。ということで、私もそこまで徒歩で同行することにした。

 潮風を受けながら、商隊の人たちに話を聞き歩く。

 さすが各地で商売をする旅人たち。だが知りたいと思っていたことについては、それなりに聞けた。

 グランベル国内について。

 やはりバイロン・リング派に対して、レプトール・ランゴバルド派が存在すること。

 クロードは当然中立。そしてアルヴィスはクロードとは仲がよくないらしい。

「ヴィクトール卿もそうだったが、あんまり信仰心が篤くないんだよ」

「そうそう。アルヴィス卿の母親はヴェルダンの村出身で、エッダ教の洗礼を受けていないと、専らの評判だったな」

「アルヴィス卿もエッダ教の洗礼は受けていないとか」

「洗礼受けてたら出世できただろうにな」

「アゼル公女は洗礼を受けてるはずだったなあ」

 暗黒教団が関係していると見て、間違いなさそうだ。

 エッダ教とかロプト教はゲーム内では全然出てこなかったから、知識はないに等しいんだよなあ。まさかこんなに重要なポイントに関係しているとは。

「アルヴィス卿は公爵家から奥さんもらうのは無理だろうな」

「だろうな。洗礼を受けたら別だろうが」

「今からでも受たらいいのにな」

 

 そうか! アルヴィス×ディアドラルートがなかったのは、この関係なんだ。エッダ教の洗礼を受けていないと由緒ある人とは結婚できない……わざと受けなかった可能性もある。公爵家に相応しい女性と結婚できない公然とした理由を逆手にとって、アゼルを手元に――

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話

 商隊を街へと送り届けてホリンと別れ、シレジア王国へと戻ったら、

「内乱?」

「そうだ。力を貸してくれ、イズ」

 シレジア王国の内乱が始まっていました。

 

 話が進むの早すぎじゃないか? シグルド死亡フラグ回避どころの騒ぎじゃ……。

 

「力を貸すって、なにを?」

「ティルテュをグランベルへ帰してくれ。ここは危険だ」

 手のひらを隠すようにしてステータス画面を出して……まだ結ばれてないなあ。無理だよなあ。仕方ない諦めるよ、二人の息子マージナイトフォルセティは。

「それなら……」

「いや!」

「ティルテュ!」

「私、絶対に帰らないんだから!」 

 ティルテュがレヴィンの胸元あたりを拳で叩いて拒否する。

「危険だ」

「いや!」

 ”いや、いや”しか言わないティルテュと、心底困ったようなレヴィン。

「お前になにかあったら、困るんだ」

「いやよ! だって、離れたら二度と会えないじゃない!」

 ディアドラ的な台詞を……ゲームにおいては、たしかに離れたら二度と会えないで死別になりましたね……。

「そんなことはない」

「あるわよ!」

 ティルテュが目に涙を浮かべました。

「だから!」

「いやよ! 私、レヴィンのこと好きになっちゃんだから! レヴィンが私のことなんとも思っていなくても、私は離れたくないの!」

 

 ティルテュからの愛の告白に固まる私。だが元吟遊詩人名乗っていた男は、そんなことはなかった。

 

「俺だって……大体、俺が好きでもなんでもない女を王妃にするような男に見えるか?」

 きた! ハーレクイン的な展開。

 契約に見せかけて、本当にお前が欲しかった攻撃!

「えっ……だって……」

 

 雨降って地固まるとでもいいましょうか。内乱勃発のお陰で、レヴィンとティルテュの仲はぐっと近づいたようです。ゲームでもたしかに内乱が始まって隣接開始だから、沿っていると言えば沿っている。

 私はレヴィンに手を振って部屋を後にした。

 ティルテュをグランベル王国に戻すのは止めよう。レヴィンが”どうしても”と言っても拒否しよう。レックスとエーディンの結婚式に連れて行った時は、絶対に離れないようにして身を守って……と。

 

 シレジアは冬だってのに、暑いなあ……

 

 レヴィンとティルテュの間にはなにかあったようで……いや、分かってるよ。丸見えだよ、私には。結ばれたよ! 早いなあ! でも良いぞ!

 そういう意味ではいい仕事したな画面右上の端! その名もマイオス。

 これからラーナの馬鹿息子が行くから、首洗って待ってろ! さあ、軍を揃えていくぞ! シレジアの放浪王子。

「俺はシレジア軍を動かせないんだ」

「……は?」

 と思ったらコレですよ。

 レヴィンの手元には軍がないのだそうです。

「ダッカーやマイオスの軍は?」

「あれは私兵だ」

「…………なるほど」

 言われてみると当たり前なんだが、シレジア王国の軍隊を自由にできるのはシレジア国王のみ。レヴィンは国王に即位していないため、シレジア軍は使えない。

 私兵を雇うこともしていなかったので、

「義勇兵を募るしかない」

「義勇……兵。……でも王子なら軍使えたりするんじゃないの?」

 ハイラインのエリオット(気付いたら戦死してた)ですら軍を与えられてぐちゃぐちゃ遊んでたぞ。

「王が生存している場合のみだ。王がいない状態の王子は軍を自由にできない」

「王から軍を与えられるわけだ」

「そうだ。ほとんどそうだろう」

 言われてみるとそうかもしれない。

「えーと。ラーナさまは大丈夫なの?」

「母上は母上付きの軍がある。王妃を守るために王が王妃に小隊を与える。結婚の知らせを届けた正式な使者も母上の配下にある、数少ない動けるシレジア正規軍だ」

 

 ……それがマーニャやフュリーってことか。

 

 レヴィンはティルテュをシレジア城のラーナさまの所に預けようとしたが、ティルテュ本人と私の強い反対で連れて行くことになった。

 シレジア城にティルテュを預けるなんてとんでもない!

 あそこはザクソン城のダッカーと結託した前髪ぱっつん卿ことアンドレイ氏が、バイゲリッターを率いて陥落させてしまう城だ。

 そんなところにティルテュがいたら、前髪ぱっつん卿はティルテュを連れ帰るだろう。それとアンドレイが来るとも限らない。結婚を許さん! とばかりに、ブルームが来たりしたらどうする! ティルテュはディアドラの次に連れ去られフラグが立ちやすい人。

 

 だから連れ歩いたほうがいいんです。

 

 それでですね、義勇兵は集まったのですが、所詮は義勇兵。腕に覚えがあるような人はいません。腕が確かなのは軍に在籍しています……そりゃそうだよなー。

「じゃあ攻撃は私とレヴィンがメインってことかな」

「そうなる……上達したな、イズ」

「そりゃあ、やるからにはこちらの被害を最小限にして勝ちたいから」

 セイレーン城の鍛錬場で弓の特訓をしていた。

 ペガサスやファルコンは弓が弱点だと言うこと。全然弓を鍛えていなかったのだが、回数をこなすと簡単にレベルアップする、お手軽チート体質なので、いい機会だと練習して実戦に向かうことに。

 弓と矢は大量に購入した。

 弓レベルはBに引き上げた。

 あとはばんばん撃ち落とすのみ! トンボ取り、たのしいー!

 

 ……って、私、前髪ぱっつん卿ポジションか!

 

 魔法は持参しましたけど、あんまり魔法って上に向かって撃たないんだよね。それを言うなら剣も槍も斧も同じだけど。

「弓は頭上を狙い撃てる武器だからな」

 放浪王子にして風の申し子レヴィンさんの武器講釈――

 剣は世間で言われている通り、近距離ならほぼ無敵。動きが素早いヤツが持ってたら勝目無し。

 弓は遠距離もそうだが、全ての武器のなかで唯一頭上攻撃ができる武器。ペガサスやファルコン、ドラゴンなどに有効。

 槍や剣でも頭上攻撃できるような気がしたのだが、頭上からの攻撃を防ぐことはできても、相手が攻撃してくる前に攻撃できるのは弓だけなので”唯一”となっているらしい。

 槍と斧は騎士階級の武器なのだそうだ。

 剣なんじゃないのか? と思ったのだが、剣は習わなくても使える。弓も狩人などが生活のために覚えたりしているが、槍と斧は基本習わないと武器として扱えないのだそうだ。

 少し考えてみると、シグルドもその部下も槍は使えた。キュアンは槍しか使えない、レックスは斧のみ。たしかにペガサスナイトもドラゴンナイトも槍がメインっぽい。そういえばゲルプリッターも装備はトローンと銀の槍。ゲームではあまり強さを感じなかったが……エーディン付きのミデェールは……

「乗馬して弓は?」

「それは騎士扱いだな。でも接近戦もできないと危険だろ?」

「だね」

「槍を持った従騎士がつくこともあるが、自分の身を守るには扱えたほうがいい。たしかユングヴィのアンドレイはマスターナイトだと」

 

 スコピオじゃなくて、前髪親父のほうがマスターナイト? ……あ、あの時! アンドレイと初めて会った時、前髪ぱっつんに感動してステータス画面見るの忘れてた。

 

 私は”俺、この戦いが終わったら槍を極めるんだ”と死亡フラグ的に呟いて、マイオス私兵と戦い続ける。

 弓で殺すと、直接肉に食い込む感触を味あわなくていいから……魔法を使ったのもそれが理由だったなあ。

 マイオスの私兵はペガサスに乗ったやつ ―― ペガサスナイトではない ―― 正式認定されていないのですよ。ペガサスは割と大きいので、射貫くのも簡単。結果ペガサスが落下して、騎乗している人も大怪我の繰り返し。

 魔法使いもいるが、それはレヴィンとティルテュに任せている。

 それでデューはというと、

「イズ!」

「どうしたの? デュー」

「これ見つけた。使って!」

 戦場で色々と。

 デューから手渡されたのは、現在使っている鋼の弓に似ているが、随分と軽い弓。

 ”もしかして”と考えて鑑定してみると、やはり勇者の弓。落下して死んだ人たちの武器ではない。ゲームプレイ中、思いませんでした? 殺した敵の武器奪おうぜ! って。普通に戦っている分には奪えることもあるのですが、ペガサス系などの上空飛んでるのは、落下した際に武器壊れちゃって使い物にならずなんです。

「もらっていいの?」

「もちろんさ!」

「じゃあ、頑張るね」

 

 上空を飛んでいると私に追撃されることを知り、ペガサスから降りて戦う道を選んだようなのでオーラとリザイアとライトニングで倒しておいた。

 かなり軽快にマイオスが住むトーヴェ城近辺まで。

 跳ね橋が上がっていたものの、

「おいらに任せて!」

 頼りになるデューの指先により、すぐに跳ね橋が降ろされてレヴィンと共にトーヴェ城城門前に立った。

 

 レヴィンが一度でもこの城に来たことがあったなら、徒歩で敵を倒しながら来る必要なんてなかったんだけれど、来たこと無いんだってさ。しょうがないよね。私だって永野泉だった頃、日本国内の主要施設全部行ったことないしさ。

「出てこい! マイオス!」

「引きこもりは引きこもりらしく、引っ込んでろ! 王になろうなんて考えるな!」

 

 次々と橋を越えてくる義勇兵と、閉ざされた城壁。

 マイオスとしてはこの寒い時期に長いこと城を取り囲んではいられないだろうと考えて籠城するつもりだろう。

 だがただいまデューが城に侵入を試みている。

 城というとベルサイユ宮殿のような豪華絢爛なものを想像する人が多いのだが、それは宮殿(豪華な城もありますがね)。城は”城塞”外敵から身を守るための堅牢な要塞なのだ。

 

 だから城の回りに壕が張り巡らされている。そして今は冬。マイオスのヤツは、この寒さですぐに退くと考えたわけだが、これだけ寒いとどうなるか?

 壕が凍り付いてしまうのだ。

 デューはそこを歩いて既に城に近づいている……

 

 夜半過ぎ、凍える夜にデューが風の冷たさで頬を赤くしつつも、笑顔で帰ってきた。

「入れたよ」

「よし!」

 これで私のワープでトーヴェ城内に入りこむことが出来る。

 他の段取りはレヴィンにお任せ。私とデュー、そしてレヴィンが侵入して閉じられている城門を開く。義勇兵が突っ込んでくる。後は乱戦? かな。

 デューは最初侵入したらそのまま扉を開くと提案してきたんだが、単身では危な過ぎるので。

 

「はー暖かい」

 マイオスは死にました。私とデューはティルテュの護衛という名目で、暖かい部屋で休憩しています。レヴィンは制圧後の面倒を色々と。本当は護衛しようと思ったのですが、レヴィンがティルテュに付いていてくれと頼むので。ぶっちゃけレヴィンは大丈夫でしょう。

「イズもデューも飲んで」

「ありがと、ティルテュさん」

 ティルテュが入れてくれたホットチョコレートを受け取り口に運ぶ。甘ったるいのはあまり好きじゃないけれど、今日はありがたい。

「ありがとう、ティルテュ」

 マイオスの死因? んーとね、首が折れてた。

 私たちが城門を開いて押し入ってきたので、逃げようとして、階段で足を滑らせて ―― レヴィンに言わせると”おかしい”そうで。

「ティルテュも暖まりなよ」

「うん。ありがとう」

 だからこうして私がティルテュの護衛についているのです。ホットチョコレート美味い。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18話

 内戦……とよんでいいのかどうか怪しいほど短期間のマイオスの乱も終わったので、ティルテュをシレジア城へと移して、私はまだ残って事後処理をしているレヴィンの元へ。

 ティルテュは離れたがらなかったのですが”母上と一緒に、俺の継承式の準備を頼む”と言われたら、断れませんよね。

 継承式はフォルセティを受け継ぐ儀式だそうです。王になるのはまだまだ先のこと。即位式はこれから準備して各国の要人を招いて……となるらしい。

 レヴィンはマイオスとの戦いで、軍をしっかりと掌握していないと、戦いが起こった際に被害が拡大することに気付いたのだそうで。実権を握るためにシレジア王国では即位式よりも重要な継承式を執り行うことに決めた。

 放浪王子にその決意をさせたマイオスのやつは、人質取って脅して私兵を集めたりしていたらしいよ。

 素直に傭兵雇えよ、マイオスめ。私、ばんばん殺しちゃったじゃないか! 事情知っても攻めてきたら殺すけど。

 

 最近すっかり衛生兵ではなく特攻兵……慣れって怖い。

 

 即位式ほどではないが、継承式ともなると城の出入りが多くなるので、ティルテュの護衛を兼ねて頼れるデューにお願いした。ついでにダッカー近辺の情報集めも。

 後でお金払うから、ちょっと待っててデュー。このシレジアの放浪王子から金せしめるから。

「何がおかしかったの?」

 レヴィンが私を連れてきたのは、ダッカーが死んでいた階段下。

「ダッカーは反乱を起こす少し前から、ずっとこの上の部屋にいて、そこから指示を出していたそうだ」

「へえ」

 小窓から僅かに明かりが射し込んでくるだけの、寒々しい階段を登りダッカーが篭もっていた部屋へと行く。

 辿り着いた部屋は小さく、人が、それも王族が居たとはとても思えないような感じ。

「何も無いだろう」

「ないね、レヴィン」

 マイオスは質素を尊ぶような性格だとは考えにくい

「マイオスと数名の高官が死んだ。被害は最小限で済んだが全容どころか、一部分を掴むのも難しい」

 無関係な人が助かって良かった――だけでは終わらない。事件に深く関わったヤツを生かして捕まえるのも重要なこと。

 マイオスは階段から足を滑らせて首の骨を折って死亡。

 他の関係した数名の高官は、城門が開いたところで凍った壕に飛び降りて死亡。

「そうなるね。どこかに端書きなんかは残っていないの?」

「暖炉を見てくれ」

「……? 結構灰があるね」

 レヴィンが火掻き棒を持って燃えかすをかき混ぜる。細かい灰が舞い上がった。

「下働きに聞いたんだが、誰もこの部屋に薪を運んでいないそうだ」

「マイオスって自分のことは自分でやるタイプなの?」

「聞いたことない」

「じゃあこの灰は薪じゃないものってことだよね」

 言われてから見ると、木炭が砕けたのとは違うようにも感じられる。

「はっきりとは分からないが、この室内にあったものを暖炉にくべて暖を取ったと思われる」

 壕が凍りつくような寒さの中、薪もなく室内の装飾品を燃やして暖らしきものを取っていたってことか。

「食事は?」

「高官が届けていた。そっちは不足しないほど」

 これで空腹だと死んだだろうが、満腹になるまで食べていたのだとしたら、度胸がないらしいマイオスは自殺したりはしなかっただろうなあ。

「違和感はそれだけじゃないんでしょ? レヴィン」

「もともとマイオスは、単独で反乱を起こせるような性格じゃない。反乱を起こすならダッカーのほうだろうと俺は考えていた」

「具体的にマイオスはどんな性格だと?」

「不満はもっているが、結局はなにもできないままだろうと考えていた。事実、俺とイズが城門前で叫んでいる時、城門内側で聞いていた市民はマイオスが姿を現さないことに不審を感じてはいなかった」

「逃げ隠れする性質だってこと?」

「そう。トーヴェ城に閉じ込められた人たちは、マイオスが反乱を起こすなど考えてもいなかった。だから逃げ遅れた」

「マイオスは誰かに閉じ込められていた? ってこと」

「言うことを聞いたら自由にしてやると言われたのかもしれない。階段から落ちて死んだのは事実だ。だが……なんの為にマイオスを? となると見当も付かない。」

 なにかが――いやはっきりと暗黒教団が関わっていると見て間違いないだろう。

 では、なぜ彼らが関わってきたのか?

「見方を変えようよ、レヴィン」

「イズ?」

 私とレヴィンはこの部屋唯一の窓に近付く。はめ殺しの窓から、冷気が滑り込んできていた。私は手のひらを擦り合わせる。

「マイオスが死んで得するのは誰?」

「得する……俺とダッカーかな」

「本当に?」

 まず”そこ”から違うと思うんだ。

「どういう意味だ、イズ」

「レヴィンのお父さんは長男で、聖痕持ちでフォルセティを使えたんだよね」

「そうだ」

 ついでに嫁は民衆に人気あるラーナさまとか、どんだけ完璧王だよレヴィンのとうちゃん。あんまりとうちゃんが完璧だから、息子が苦労してるぞ。

「ダッカーもマイオスもレヴィンの叔父さん。レヴィンのお父さんの弟だよね」

「ああ」

「長男だったからレヴィンのお父さんは即位したんだよね」

「そうだ」

 レヴィンは”なにを聞きたいんだ?”その気持ちを隠さずに、でも話を折ることなく答えてくれる。

「シレジア王国は基本長男が代々国を受け継ぐ。この考えで間違ってないよね」

「間違っていない」

「そう考えるとマイオスが死んでもレヴィンは何も得しないよね。王位を継ぎやすくなるとかないでしょ」

 国の基準に則って、優先順位だけを考えると、マイオスが消えたところでレヴィンにはなんら関係ないのだ。

「それは……そうだな」

「ダッカーもそうでしょ? マイオスよりも年上でしょ」

「ああ。だが、それだけではなく」

「分かるよ。私兵を集めてレヴィンを亡き者にするってことだけど、結局マイオスって私兵を集めてなかったよね。ダッカーは傭兵を雇っているらしいけれど」

 

 マイオスはレヴィンに勝ったところで、王位を得るためにはもう一人・ダッカーを倒さなくてはならない。

 例えばダッカーがレヴィンではなく、マイオスを国王に推していると、この乱が起きたとき、同時に挙兵したはずだ。

 ゲームではマイオスを倒してから、SFC史上稀に見る残酷シーン”トンボ落とし”が開催されるのだが、実際は同時挙兵で追い詰めるはず。

 逆に考えてもいい。マイオスがレヴィンではなく、ダッカーをシレジア王にしたいと考えている。だから挙兵するとしたら、ダッカーと同じくらい傭兵を集めて、やはり王に推す人物と呼応してレヴィンを襲撃するだろう。

 

 ではマイオスが単独で乱を起こして手に入れられるものはなにか?

 

 運が良くてレヴィンの首。だがシレジア王位は手に入らない。なにせダッカーがいる。ダッカーにしてみたら、レヴィンを殺害したマイオスを正当な理由で排除することができ、なおかつ、自分が即位できる。

 

 ちなみに今回のようにマイオスが単独で乱を起こして、レヴィンを葬ることもできずに死んだ場合は――ダッカーも何も手に入れられない。

 

「マイオスは俺のことを嫌っていたからな」

 私の説明らしきものを聞くと、レヴィンは明かに動揺した。

「レヴィンのことが嫌いなのは分かるけど、じゃあ嫌いなレヴィンを排除するために、自分の命を賭けるような人だった?」

 私も言いながら嫌な感じしかしない。

「……いいや無理だ。他人にやらせるのが限界だろう。むろん、命は賭けない。金もケチるかもしれない。そうだとしたら……マイオスはなんのために?」

「誰かがなにかの目的のために」

 

 マイオスの真の目的は? 操られていたのだとしたらその黒幕が誰なのか? 分からないことだらけだが、レヴィンはフォルセティの継承式を行い、これでシレジア王国の実質的な権力を握った。

 あとは手間暇かけて各国に即位式典の招待状を送ったりなど、事務仕事的なことをする。

 

「ティルテュを頼んだぞ」

「はいはい。一瞬たりとも離れないから安心して」

 今日はエーディンとレックスの結婚式。

 本来なら前日には訪問するところだが”国内が不安定”を理由に挙式当日に訪問、式に参加、会食後即帰国という強行スケジュールを敢行する。

 マイオスの乱のお陰 ―― だが、この乱のせいでグランベル滞在期間が短くならざるを得ない。

「おいらも一緒だから大丈夫だよ」

 レヴィンも招待されたのだが、まだ国内が安定していないということで断った。

「お前が一番心配だ、デュー」

「酷いなあレヴィン」

 結婚式の間、色々と調べたかったのだが……まさか、私に調査させないためにとかはないだろう。考え過ぎだ。そう穿ちすぎ。私はそんなに有名じゃない。ただの兵士。

「イズもデューも似合ってる」

「わざわざありがとう、ティルテュ」

 公式の場に行くので洋服を新調してくれたのだ。シレジア風のゆったりとした服ではなく、クランベルのかっちりとした詰め襟で、袖ぐりもぴったり、スラックスもぴったり。服は水色で袖と上着とズボンの裾に紺色の線が入っている。

 私は一応シグルドの部下の部下の部下くらいなので、シレジアの方々も気を使ってくれたようだ。

「おいらの服もありがとうね」

 デューは何処の格好をしていても問題ないだろうということで、シレジアの正装。白いタイツっぽいものに、毛皮付きのブーツ。派手な柄のチュニックに毛皮の帽子。

 シレジアの従僕見習いの格好なのだそうだ。

 武器を大量に持参するのもなんだが、丸腰というのもいやなので、移動に必要なワープの杖と、これでも一応シグルドの衛生兵なのでライブの杖。ウルの血を引く御方の結婚式なので、弓を背負って行く。これは腕前を見てもらうためだけ。別に警戒してのことじゃないよ。なにかの為にライトニングは必要だろう。

 

 小隊くらいなら殲滅できる武器を持って、結婚式が執り行われるユングヴィ城へと向かった。

 

 以前やって来た時は、ヴェルダンに侵略されてすぐだったので酷い有様だったが、いまはすっかりとその傷跡も癒えているようだ。もっとも侵略前の街並を知らないので、適当といえば適当だんだけど。

「待ってたぞ!」

 花婿の控え室へ行くと、いかにも軍服らしいものを着用したレックスとダナンがいた。

 ダナンはレックスの兄だから居てもおかしくはないが……すげー違和感。

「おめでと、レックス」

「ティルテュもな」

「レックスが、あの綺麗なエーディンと結婚なんて、びっくりした」

「それを言うなら、お前がシレジア王と結婚したほうが驚きだろう」

 

 レックスが言ってるほうが正しいね。ティルテュもあんまり言わない。ぼろでちゃうよー。

 

「イズと……デューか」

「うん。おいらも来たよ」

「料理もたくさん用意した。腹一杯食っていけ、デュー」

「ありがと、レックスさん」

「イズ」

「なに?」

「式が終わったら、話がある。ちょっと時間をもらえるか?」

 ダナンの表情が動いたような、なんだろうな?

「えっと。できればティルテュから離れたくないんだけど」

 私はティルテュから離れるわけにはいかないのよ! 分かって、レックス。

「その間はアーダンに付いてもらう。それでどうだ?」

「え、アーダンさん? あ、式に来てるんだ?」

「ああ。いいか? イズ」

「分かった」

 

 レックスに何を頼まれるのかは分からないが……斜め後ろのダナンの顔が怖いってか。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19話

 花嫁は文句なしに美しく、花婿はこれまた文句なく格好良く。

 

 イザーク侵攻が忙しいのか、リング卿は不在で、代わりにアンドレイが。エーディンの弟なんだから、親族席にいてもおかしくはない。むしろ当たり前。……もしかして、ダッカーが攻めてこなかったのってアンドレイに援軍要請出来ない状態だから? 姉の結婚式に参列することのほうが重要だろうし。

 そういえば、まだバイロンは逆賊になってないし、リングもクルトも殺害されていないよな。

 いつ頃……逆賊にならないほうが良いし、殺されないほうがいいんだが……。

 私は忘れずに前髪ぱっつん卿のステータスを確認。

 指揮官レベル☆☆☆☆でマスターナイトでした。あんまり近寄りたくないな。いや勝てますけどね。リザイアで削って勝てますけど。

「イズ」

「デュー」

「おいら料理食べながら、色々情報集めてくるね」

 結婚式が終わり、アーダンさんがやってきてティルテュの護衛についてくれた。エーディンはいまお色直し。そしてレックスも。

 花婿のお色直しなんてすぐに終わるので……その間に話を聞くことになっている。

「あらためておめでとう、レックス」

「ありがとうイズ。それで頼みなんだが」

 レックスがわざとらしく目を開き眼球を右側に動かした。

 その先にいるのはダナン。

 アンドレイは会場で客持てなしてたぞ。お前も先に行っておもてなししろよ、ダナン。

 そりゃアンドレイはお色直ししている姉の控え室には入れないから、会場にいるしかないとしても……。

「なに?」

 レックスの言動を見張っているんだろうな。

「あ……ちょっとまって。紹介が後れたな。兄のダナンだ」

「前にドズル城に滞在した時に、遠くから拝見してたことはありますが、初めまして」

 頭を下げる。ダナンは腕を組んだまま、軽く頷くだけ。

 次期当主さまですから、そのくらいでいいですとも。

「父はバーハラ城でどうしても外せない用事があるとかで、兄に来てもらったんだ」

「そうなんだ」

 意外と兄弟仲いいのか……いや、全然仲良くなさそう。

 私が見られるステータス画面の項目に”家族仲”がないのが悔やまれる。

「本題に入るんだが、エバンス城へ行ってくれないか?」

「なんで?」

 エバンス城に行くのは全く問題ないよ。

「実はジャムカから祝いの品を貰ったのだが、あいつヴェルダンの王子だろ。ユングヴィとヴェルダンの和解がまだ成立していなくてな。公式の使者を出すことができないんだ」

「あーなんか”せいじてきなこと”ってやつ?」

「そうなるな。俺も個人としてお返ししたいのだが、その使者なんか色々あって……お前に頼みたいんだイズ」

 おそらく”それ”だけじゃないだろう。

「いいよ。エバンス城に行ってジャムカに届けるだけでしょ」

「ああ」

「私も久しぶりにジャムカに会いたいし。結婚式が終わったら、デューと一緒に行ってくるよ」

「ありがたい」

 レックスから渡されたお返しは、きれいな細工の長方形の箱。

「中身は菓子だ。一緒に食べるといい。”我慢しきれずに開けたりするなよ”」

 レックスが”我慢..”と言いながら異常なほど瞬きをする。

「分かった」

 これは「すぐに開けろ」ということだろう。

 

 私は箱を受け取り、即座にシレジア城の私の部屋へと送った。

 

 そうしているとエーディンのお色直しが終わったと連絡がきたので、レックスはエーディンを迎えに行くために控え室を出る。

「イズも楽しんでくれ」

「うん」

 新郎新婦のあとをついて行くアンドレイとダナン……二人の姿が見えなくなったところで、私はシレジアへと戻り箱を開く。

 箱の中身はたしかに菓子だが、それ以外のものも入っていた。

「手紙……」

 手紙にはアイラがアーダンと極秘裏に結婚し、身籠もったのでリューベック城近くに住まわせる手はずを整えたので、この手紙を見たらすぐにアイラとシャナンをリューベック城へとワープさせて欲しいと書かれていた。

 二人が結ばれてやった! と思う反面、イザークと国境近くリューベック城はヤバイのでは? いや、なにか手を打っているはず。

 

 シアルフィに滞在させられない事情を知りたいが、いまは言われたことをするのが先決。

 

 シアルフィにワープして手紙に書かれていた宿へと行き、挨拶もそこそこに、荷物をまとめている二人を連れてワープ。

「大丈夫? イズ」

 リューベック城に滞在した時の部屋へ一度に全員でワープしたら、疲労感が半端なかった。連れて飛ぶのは二人が限界だ。

「そ、そうだった。四人カウントだった」

 見た目が二人だからすっかりと忘れていたが、アイラは妊娠しているのだから、腹に二人が……

「四人?」

 シャナンの問いに、教えてやることにした。

「えっと……ワープは人が多いと疲れるんだ。今の疲れ方は四人だから……たぶんアイラのお腹の子は双子じゃないかなあ」

 ばっちり双子ですとも。光る壁、殺戮兄妹、シャナンじゃなくてラクチェにバルムンク持たせたいよ――等など。

「大丈夫か? イズ」

 アイラにまで気遣われてしまった。

「平気平気。少し休めば大丈夫。そうだ、遅くなったけど結婚おめでとう。そして急いでいるから事情は分からないけれど、気を付けてね」

「ああ」

 アイラとシャナンはリューベック城から二人きりで脱出して、こちらに手を振り去っていった。前もって計画されていたことなのだろう。

「早く戻らないとマズイな」

 ワープは二人までにしないと、問題があるな……と思いながらパーティー会場へと戻り、

「やっと辿り着いた」

 大げさな声を上げた。

「イズ。また迷子になったの?」

「言わないで! デュー」

 私が迷子になりやすいことを、ここではっきりとさせておかなくては。

「心配したんだよ、イズ」

「ごめん、ごめん。ティルテュ。やっぱり初めての城は迷う」

 わざとらしいと思われようが……私は本当に迷うのだ。

「アーダンさん。お久しぶりです」

「イズ。勇名は聞き及んでいるぞ」

「いや、いや、いや。勇名とかおかしいですよ」

「立派なものだイズ」

「アーダンさんにそう言っていただけると嬉しいです。あ、でも有名になった私の頼み、聞いてくれます?」

「なんだ?」

「今日ワープで帰国するんですけど、二人連れで飛ぶとなると、一人連れて飛ぶ時とは比べものにならないほど疲れてしまいまして。ちょっと休みたいんですけどいいですか?」

「もちろん」

 

 上手く伝わったかどうかは分からないが、室内の隅の椅子に腰を下ろして溜息をつく。

 

 リューベック城近くへイザーク王室の二人を送るってことは、そろそろイザーク侵攻に決着がつくのかな?

 民族浄化までやるというのなら別だが、侵略して支配したいだけなら、落としどころが必要だろうし……

「イズ!」

「うわっ! デュー」

「意識失ってたよ」

「え……ああ、寝てただけだよ」

 椅子に座って舟漕いでた。涎とか垂れてないよね。

「あれ? ティルテュは?」

「レックスとエーディンに挨拶してる。帰るって」

「もうそんな時間か」

 帰ったら事情を説明して寝よう。

 

**********

 

「もう目覚めないかと思って、心配したよ」

 抱きついてきたデューから事情を聞き、しばし私は呆然とした。

「私もびっくり」

 シレジアに帰国後、アイラたちをリューベック城に送り届けた際に無理をしたことを告げ、意識を手放したところ ――

「丸四日だ」

「信じられない」

 私は他人をワープを繰り返すことに関してはほぼ無限だが、ワープとリワープを同時に行い、なおかつ、ワープ対象者が二人を超えると体に負担がかかるらしい。

 あんなに楽々ワープできるのに、意外な欠点というか……この位の欠点は当然なのかもしれないけれど。

 

「行くのか?」

「もちろん」

 レヴィンにこれからの予定を告げて、旅の準備を整えていたデューと共にエバンス城を目指す。

「私が居ない間、ティルテュのことは任せたよ」

「言われなくても」

 

 ふふふ、新婚さんめ。幸せになりやがれ!

 

 久しぶりに会ったジャムカに祝い返しを渡す。

 そして結婚式でエーディンが綺麗だったことと、料理が旨かったことを話してから……私はジャムカにあることを尋ねた。

「ジャムカを信頼して聞くんだけど……あのさ、どうしてガンドルフはエーディンを誘拐したの?」

「どうして……か。改めて聞かれると悩むな」

 エーディンを誘拐したらグランベル王国と事を構えることになるのは分かっていたはず。

「ヴェルダン王国って、食うに困るほど貧しい国じゃないよね」

「文化的には劣るだろうが、生活に困ることはない」

 裕福な国が貧しい国に侵略することはない。誰が好んで、なにもない国を奪うために軍を動かす。私が存在した現代なら資源を欲して……ということもあるが、昔はいつだって食料。

 戦争を仕掛けるのはいつだって貧しい国。食うに困り、国内に留まっても餓死するしか道はない。ならば攻め込んで食料を奪えるだけ奪う――どうせ死ぬのなら! これが常識だが、ヴェルダン王国は然程貧しくはない。

「おいらも不思議なことがあったんだ」

「なんだ? デュー」

「牢屋にいた時エーディンさんが”クロードさまにご迷惑をおかけしてしまう”って言ってた。エーディンさんは、クロードさんが助けに来ると思ってたらしいけど、シグルドさんが助けに来た。なんで?」

 

 エーディンはウルの血を引くユングヴィの公女だが、敬虔なエッダ教の信者でもある。

 

 待てよ、あの時の状況は……

「分かった!」

「な、なにが?」

「どうしたんだ? イズ」

 デューとジャムカが驚いた顔でこっちを見ている。

「おそらくガンドルフを唆した人がいる。それに関しては後まわしだけど、エーディンを誘拐した理由はクロードをおびき出すためだ」

 

 【敵】はシグルドが僅かな手勢でやって来るなんて、思いもしなかったんだろう。やって来たとしても勝てるなど考えなかった ―― 勝ってしまったのだが ――。

 シグルドが敗れたらエーディンが言ったとおりクロードが来たはずだ。なにせシアルフィの隣国はエッダ。ドズルは事情を知っているから援軍は出さないし、知らなくとも協力しない。ランゴバルドはリングもバイロンも、おそらくクロードも嫌いだろうから。

 アルヴィスもレプトールも嫌いだろうが、より一層嫌いに違いない。

「俺の国はエッダ教の信者は少ないから、気にせず攻撃するだろう。例えエッダ教のトップであろうとも」

 【敵】はエッダ教をとりまとめるクロードを亡き者にしようとしている。そう考えるとアグストリア動乱の意味も分かる。クロードがアグストリア王国を通る少し前に、国を混乱させて、その混乱に乗じてクロードを殺害しようと……

「クロード神父を亡き者にしようとしているか……だとしたら、それは暗黒教団絡みかもしれないな」

 ジャムカも”そこ”に辿り着いた。

 私が知らないエッダ教のなにかが、ロプト教の野望を阻む ―― そうだとしたら、クロードの子供作らないとまずくないか? でも今更どうする。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20話

 これはもう、クロードに直接会って話を聞くべきだろう!

「デュー!」

「なに? イズ」

「エッダ城に入ったことある?」

「ないよ」

 盗みに入ったことないのか。

 嫁候補の残りがないことに絶望しながらも、ワープで一気に跳んでクロードと話をしてこようと考えたのに。この場合はシアルフィに行って……あーそうだ、アーダンさんにアイラとシャナンについて事情を聞いて……そうじゃなくて! それも大事だけど、いまはクロード。

「行ったことないのか、デュー」

「聖遺物は足が付きやすいし、見つかると極刑だもん。割りが合わないから盗みに入らないよ、ジャムカ」

「盗品がさばき辛いってこと?」

「うん。特にエッダ公国のお城には、手出しするなって噂聞いたなあ」

 

 嫌なことに気付いた。

 

 クロードはシルヴィアに「私にも妹が……」と誘拐された妹の話をする。

 プレイ中は目的がよく分からず、せいぜい金銭目的なのかと思ったのだが、もしかしたらロプト側が何かと引き替えにする為に誘拐したんじゃないかな? 当初は盗賊を雇って盗もうとしたが、誰も引き受けなかったんじゃないか?

 クロードの妹が誘拐された話をすると――

「……初めて聞いた」

 クロードに妹がいたなど、デューは知らないそうだ。

「俺が聞いたのは、クロード神父の妹は幼い頃、流行病で死亡したと。暗殺ではないかという噂もあったそうだが……誘拐か。考えられるな」

 ジャムカは誰かから聞いたことがあったようだ。ちなみに、誰から聞いたんだろう?

「その話はどこから?」

「親父だ」

「あー……」

 親父って実は祖父のバトゥ王のことかな? それとも本当の父親? わたし地雷踏んだ?

「気にするなイズ。お袋が流行病で死んだ時、親父が話してくれたんだ」

「じゃあお言葉に甘えて。それでさ、死亡とされているところから考えても、エッダ側はその要求を飲まなかったのは確実だよね」

「そうなるな。それも交渉が決裂したら、生きては帰って来ないのが確実な相手だ」

「誘拐犯たちは何と引き替えにしようとしたんだろう?」

 

 エッダ公国に行ってみる必要がある ―― というわけで早々に辞退しようと思ったのですが「一晩くらいゆっくりしていけよ」とジャムカに言われたので、お言葉に甘えることに。エーディンとレックスの結婚式では疲労からご馳走にありつけなかったこともあって……二日酔いしたわけさ。

「イズは少し休んだほうがいいよ」

 そんな理由でもう一泊してから、

「俺も調べておく」

「あんまり無理しないでね、ジャムカ」

 

 エバンス城を後にし、シアルフィに直行。

 

 なぜシアルフィ公国へと立ち寄ったか? よくよく考えたらエッダ公国に乗り込んで「クロードに会わせろ!」言っても会える可能性は限りなく低い。

 そのためにはどうするか? シアルフィでアーダンさんに紹介状かなにかを書いてもらうのだ! シアルフィ公国の将軍ならきっと可能!

「お久しぶりです! アーダンさんいますか!」

 シアルフィではそれなりに顔が知れているので、簡単に城に入ることはできる。ワープで直接入ることもできるが、それは出来る限り避けたい。前に何度かやったけど。

「お帰りイズ」

 食堂のおばさんたちが”あら、煩い子が帰ってきたよ”みたいな眼差しで私を見ている。おばさんたち、私、見た目はかなり麗しの少女ですけど、中身は乾物ですから。

 

 隣国であるユングヴィ公国での結婚式が終わって六日。なので帰国していると考えたのだが――

「昨日、リューベック城へと向かわれたよ」

 入れ違いでした。

 二日酔いになった自分が恨めしい。

 アーダンさんがリューベック城へ向かうことになった理由は、やはりイザーク侵攻に目処がついたので、バイロン卿たちは前線を離れることになったのだそうだ。

 これから和平交渉というか、グランベルに条件がいい停戦協定が結ばれるわけだが、とにかく戦争はまだ終わっていないのでリューベック城に軍を置く必要がある。

 その責任者として選ばれたのがアーダンさん。

 他にアンドレイやダナンも候補に挙がったそうだが、シグルドの後押しでアーダンさんが選ばれたそうだ。

 エーディンとレックスの結婚式前に決まっていたそうで ―― だからアイラとシャナンを先にシアルフィから出したのか。

 シアルフィの近況を聞いてから城を出て、

「どうするの? イズ」

「新婚さんに悪いが頼む」

 ユングヴィ公国にいるレックスに頼むことにした。

 物陰に隠れてからワープで隣国ユングヴィへ。

 こちらの兵士さんたちも私たちのことは覚えていてくれたので、あっさりと城へ……

「まえが……アンドレイ卿?」

 私とデューが通された部屋にいたのは、毎朝切り揃えているにちがいない揃った前髪のアンドレイ。

「少々話しがある。いいだろうか? イズ」

 良いも悪いも、騙しやがって。

「デューも臨席させていいですか?」

「構わない。すわりたまえ」

 偉そうだな! いいぞ! それでこそアンドレイだ。

 柔らかいソファーに腰を下ろすと、侍女がお茶と焼き菓子を私たちの前に置き立ち去り、

「見張れ」

「かしこまりました」

 前髪ぱっつん卿は部下に見張るよう命じる。

(なんだろうね? イズ)

(さあ……)

 懐に忍ばせているライトニングに手を伸ばす。せっかく用意してもらった菓子と茶だけれど、この状況では食べようと思えない。

「姉上とレックス卿は新婚旅行に出かけている」

 

 ああ! 新婚旅行って存在するんだ! 国内一応安定しているから行けるんだ。シレジアはダッカーのことがあるから行けないんだね。

 

「そうでしたか」

「レックス卿へ用事があったようだが、なにを?」

「ジャムカ王子に祝い返しを届けたことを報告に参りました」

「それだけか?」

 聞かれて困ることではないので、正直に言っておくか。

「いいえ。実はクロード神父にお会いしたいので、紹介状のようなものを書いていただこうと」

「クロード神父とは顔見知りではないのか?」

「個人的には顔見知りですが、城に住んでいる方々は知らないでしょうから」

「名を出せば通してもらえるだろう」

 いや、ぱっつんさんよ。私、そんなに有名じゃないから。

「必要だというのなら、代わりに私が用意しよう」

「あ、いえ。そんなお手数をおかけするわけには」

 ぱっつんに借りを作りたくないんだが。この状況では借りを作るわけではなく、紹介状書く代わりに仕事しろ――だろうけれど。

「私も依頼したいことがある」

 やっぱりね。面倒だから断らせていただこう!

「えっと。私はあの……」

「分かっている。シグルドの部下だというのだろう? それは分かっている。だからヤツの実父から許可を取った」

 上司の上司の許可ですか。でもどうして上司の上司?

「シグルド様はご存じないのですか?」

「知らん。これは無闇に口外してはならない」

「私を信用なさるのですか? 他人の部下だというのに」

 アンドレイは身を乗り出して、

「信頼している」

 私の前に置かれた菓子を食べて茶を飲んでみせた。毒味をしてくださったようですが、前髪ぱっつん卿だからなー。懐のライトニングから手は放さない。

「ではお聞かせ願いますか」

「イズはエーヴェルを知っているか?」

「エーディンさまの双子の姉とお聞きしましたが」

「ウルの聖痕を持つ、神器の後継者だ」

「はい。存じておりますよ」

 エーヴェルじゃなくてブリギッドって名前で海賊やってたっぽいんですが、そこから先が分かりません。

「姉が行方不明になった理由を知っているか?」

 ”理由”……おかしくないか?

 普通”原因”じゃない? 理由って……。

「リング卿の巡礼に同行した際、海賊に誘拐されたと聞きましたが」

「……と言われているが、実際は違う。あれは仕組まれたものだ」

 

 誰が、なんの為に?

 

「姉は生まれた時から聖痕が現れ、幼くしてイチイバルを引いて見せて、王家より正式な跡取りとして認められた。だが、ユングヴィ公爵家を揺るがす事件が起こった。イチイバルが失われたのだ」

「はい? えっと……盗まれた?」

 アンドレイに騙されてる気もするんだが……どうなんだ?

「そうだ」

 

 ユングヴィ公爵家は体裁を維持出来ない状況になってるってことか? そして……

 

「エーヴェル公女は幼かったため、口裏を合わせることができないから?」

 子供は素直に言うだろう ―― これちがう ――

 もう少し成長していたなら、口裏を合わせる事もできただろうが無理な年齢だ。

「それもある。あと聖痕持ちがいなくなれば、贋作で急場を凌ぐこともできる。その間に本物のイチイバルを探し出す計画だった」

 計画者は当然、実行者ですよね。

「リング卿が?」

「そうだ。この事を知っているのはバイロン卿とクルト王子のみ。イチイバルが紛失したのは、バーハラ城での出来事だった。姉を跡取りと認定してもらうために王家で実演した後、イチイバルが無くなったのだ」

 はいはい。何となく話が見えてきたよ。

「エーヴェル公女をどこか別の家の養女かなにかにして育てさせて、イチイバルが見つかったら迎えに行く計画でしたか?」

 クルト王子やバーハラ王家に傷をつけず、ユングヴィ公爵家にも泥を被らせることなく事態を収拾するために――

「正解だ、イズ」

 デューも茶や菓子には手をつけず。

 ただ冷えてゆくだけの茶と、乾いていくだけの菓子。

「だがエーヴェル公女はそのまま行方不明になった?」

 大事な跡取り娘、放置し過ぎじゃないか? ユングヴィ公爵家……と思ったが、仕組まれたものだったとは!

「海賊を演じる筈だった者たちが、本物の海賊に見つかり、計画を教えたのだろう。彼らの死体は姉が居るはずの場所で見つかった」

 エーヴェルが金になると踏んだんだろう。

「計画が破綻したことに気付いたリング卿は?」

「姉を捜すことに本腰はいれなかった。当初の予定通り、イチイバルの捜索に全力をあげ、ついに見つかった」

「それは良かったですね」

「たしかに。だが正式な跡取りだけがいない」

「私にエーヴェル公女を捜せと?」

「そうだ。聞けばお前は誰がどの血統なのか、見分けることができるそうだな」

 

 いつの間にか能力が流出してる! 必死に隠してたわけじゃないからいいけどさ。

 

「たしかに見ることができます。エーヴェル公女を捜す前に、確認したいことがあります」

「金なら払う」

「それは当たり前なので、確認しません」

 誰がただ働きするか! 必要経費に前髪手当を上乗せして前払いしてもらうわ!

「……そうだな。ではイズ、お前はなにを確認したいのだ?」

「そのイチイバルは本物ですか?」

「疑うか?」

「はい」

 イチイバルの紛失とブリギッドの誘拐は、もっと別の側面があるはずだ。確証はないけれど――

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21話

 アンドレイは高笑いをして、ソファーに深く座り直して、

「私もそれを疑っているのだ」

 面白くなさそうに言ってきた。

「イチイバルが本物であるかどうかを調べるのは引き受けます。エーヴェル公女についてですが……海賊が絡んでいるということは、アグストリア近辺に居る可能性が高いのですね?」

「そうだ」

 多分ブリギッドだということは、言わないでおこう。姉の行方を捜すといい、アグストリアにバイゲリッターを率いて向かったら、あの辺りがもっとこじれてしまうだろうから。

「分かりましたが、他にも任務を抱えておりまして、すぐにとは行きません。それでもよろしいでしょうか?」

「他の用事とは?」

「口外できません。なぜか私はそのような仕事ばかり振られます」

「そうか。お前ほどになると、そうだろう」

 いや実際はなんら仕事なんて依頼されてませんがね。

 自分がやりたいことだけをやっているというか、自分の為に死亡フラグ潰しに精を出しているというか。

「他に聞きたいことはないか?」

「ではお言葉に甘えて。イチイバルはどこで発見されたのですか?」

 アンドレイの喋り方からすると、最近発見され、マズイことになり始めたのだろう。偽物を作って急場をしのいでいたリング卿がピンチに陥り――

「イザークの陣営」

 マナナン王やマリクル王子が容赦無く殺されたのは、イチイバルを持っていたからか!

 コレはどう考えても、誰かが罪をなすりつけるというか、戦火を拡大させるために忍び込ませたトラップだろ?

 でも……犯人が分からない以上、イザーク王国の仕業だよなあ。

 こんなに分かり易いトラップだというのに。

「閣下ご自身の個人的な意見をうかがいたいのですが」

「なにについてだ?」

「イザークはダーナを制圧してどうするつもりだったのでしょう?」

 ゲームではイザークではなく、リボーの族長で暗黒教団が関わっているらしいことは分かる。それは戦火が拡大したらいいと考えての行為なのだろうが……

「どうするだと? それは支配下におくつもりだったのだろう」

「ダーナはグランベル王国の友好都市ですよね。それについては、イザークも知っていますよね」

「蛮族とは言え、その程度のことは知っているだろうな」

 最強国の大貴族らしくていいぞ、前髪ぱっつん!

「グランベルから援軍が来ても、勝てるとおもったんでしょうかね?」

「蛮族の考えは分からんな」

「ダーナの侵攻はリボーの族長が単独で行ったことで、マナナン王は族長の首を持ち和平交渉に向かったが帰ってこなかったと、小耳に挟んだのですが」

「それは初めて聞いたな。では私が聞いた話ではマナナン王はリボーの族長の首ではなく、イチイバルを持って詫びに来たと」

 私の今の台詞はゲーム上のもの。

 アイラには辛い話だろうから触れないように……という思いも少しはあったが、あの頃は世界が始まってまだまもなく、これほど大きな違いがあるとは考えていなかったので、詳しく聞かなかった。

 でも世界は微妙に異なっているから、マナナン王がイチイバルを持って来たとしてもおかしくはない。

「イズ」

 デューが心配そうに声をかけてくる。私はデューを手で制して、アンドレイに突っ込んで聞く。

「イチイバルを盗んだのはイザークだと?」

「私はそうは思わぬが、持って来たのは事実だ」

 持って来たということは、盗んだわけじゃないよね。

 盗んだのだとしたら、おめおめと持ってくるはずないし、怒りを鎮められると考えての行動だろうから……イチイバルを差し出して”和平”に持ち込めると? なぜそんな考えを。

「そうですね、まず事実のみを積み上げてゆきましょう。質問は変えますが、ダーナの北に広がるイード砂漠に砦のような城がありますが、あそこは誰が管理しているのでしょう」

「暗黒教団と噂されているが、詳しいことは知らんな」

「ありがとうございます。それでイチイバルはどこに? 鑑定させていただきます」

「ユングヴィ城には戻ってきていない。宰相レプトールが管理している」

「どうして?」

 厄介なの出てきたな、片眼鏡宰相。二次元では好きなタイプだが、実際に遭遇すると……

「本物か偽物か分からないためだ」

「エーヴェル公女が見つからない限り、返却していただけないわけですね」

「そうなる。イズの隣にいるデューとかいうの。お前は盗賊だな」

「……」

 デューが息を飲んで”やばい”って顔を! もっとクールに構えろデュー! その態度じゃ盗賊ですって言ってるようなもんだ! 仕方ない、ライトニングをぶっ放して隙を作ってワープで逃がすか。

「身構える必要はない」

「何故ですか?」

「腕を見込んで依頼をしたい。レプトールの手元にあるイチイバルと、この城にあるイチイバルをすり替えて欲しい」

「…………えーと、はい、なるほど、マナナン王が持参したイチイバルは偽物で、ユングヴィ公爵家にあるイチイバルが本物であると。私が鑑定しても片眼……レプトール卿は信用しないだろうから、エーヴェル公女を捜してくるようにと……ですね」

「そうだ……なにか疑問があるのならば、幾らでも聞け、イズ。答えられるものならば、全て答えよう」

 なにこの綺麗なアンドレイ。じゃなくて、この世界でまともに情報収拾していなかったことを反省して、時間が許す限りアンドレイに質問しよう! それなりに中枢にいる人だろうし。もちろん、全部は信用しないが。

「では閣下のお時間が許す限り、質問させてください」

「よかろう」

「まずは、イチイバルを持って和平交渉しようとしたマナナン王は?」

「帰国させた。だがイザーク側はマナナン王が帰国しないことを、我等が処刑したからだと言いがかりを付け、戦火が拡大した」

「帰国させたのは事実ですか?」

「事実だ。もともとイザーク遠征は、ダーナを助けるためだけのもの。ダーナの安全を確保したら、和平を結ぼうとクルト殿下は考えていらっしゃる。だから和平派の父上やバイロン卿を遠征隊に率いたのだ。滅ぼすつもりならば、主戦派のレプトール卿やランゴバルド卿を遠征部隊の指揮官として伴うであろう」

 理由までしっかりと説明してくれた。ありがとう! 前髪ぱっつん。お前はきっと仕事ができるマスターナイトだ!

「そうですか。では早急にイザークとグランベルの争いが沈静化しては困る輩がいると考えてよろしいのですね」

「……そうなるな。イザークの内情は分からぬが」

 アンドレイはイザーク側が原因だと、信じて疑っていないわけだ。

 それが普通だろうなあ。

「……どうした? イズ」

「エーヴェル公女の偽装誘拐の話についてはご存じですか?」

「知っている。さすがに詳細の全てとは言えないが」

「ではお聞きします。エーヴェル公女が無事にリング卿の手のものに誘拐され、過去を隠しイチイバルが見つかるその日まで養育されるはずだったのは、どちらですか?」

「どちら?」

「国内の貴族ですか? それとも国外の貴族ですか?」

「それはダーナの……」

 アンドレイの表情が曇った。全てがダーナに起因していることに……十二戦士の誓いも、その近辺だったはずですから、縁があるんでしょう。

「ダーナですか」

「そうだ……なにか引っかかるところが在るようだな」

「アンドレイ卿も、なにか思われるところがるようですが?」

 質問を質問で返すという、不毛極まりない状態……遊んでいる場合じゃない。

「あのですね、エーヴェル公女偽装誘拐の情報が、どこで漏れたのか、気になるのですよ」

「それは私も気になるところだ」

「ダーナに暗黒教団が多数入り込んでいたとしたら? 地理的には近いですし、ダーナはガレ大司教のこともありますので」

「イズ」

「はい」

「お前が探っているのは、それか?」

 

 探っているわけではなく、死亡フラグをへし折るためには、探らざるを得ないといいますか……

 

「お答え出来ません」

「そうか……イズ、お前が考えていることが見えてきた」

 私はなにも考えてはいませんが?

 突然立ち上がったアンドレイは、マホガニーの机? とでもいうのか? 格調高そうな机の引き出しから丸めた大きめな紙を持ってきて、テーブルに広げた。

 それはユグドラル大陸の地図。それもかなり詳細なもので、各国の諸侯の名が、細かく書き込まれている。

「こういうことだな」

 勝手にそう言いながら、前髪ぱっつんはオーガヒルから海をなぞり、イザーク王国をぐるりと回り”ダーナ”と書かれている場所を指さした。

 …………!

 そうか! オーガヒル近辺で”エーヴェル公女を行方不明”にして、誰の目にも触れずにダーナへと連れていくとしたら、海路のほうが確実なんだ。

 ゲームではオーガヒルの海賊討伐後、ランゴバルドが現れて船でシレジア王国へと逃げ込むわけだが、オーガヒルからセイレーンは最も近い位置にある。

 シレジアはシレジア城の方へと船で進み、フィノーラ城へと入ってイードの砦を経てダーナに入るのは幼いブリギッドには無理だ。

 オーガヒルからイードまで確実を記すのなら、メルゲンまで海路で、そこから徒歩でダーナ入りするのが……

「メルゲンに知り会いは?」

「父上は顔が広い。一人や二人くらいは居るだろう」

「情報が漏れていたとして、誘拐犯はなにをするつもりだったのでしょう」

「なにを? だと」

「はい。誘拐は人質の身の安全と引き替えに、何かを要求するものです。エーヴェル公女を誘拐した犯人たちは、成功したわけですが……では、なにを要求しました?」

「分からないな。聞いたことがない。イズはなんだと考える?」

 この世界の誘拐は金銭目的じゃなくて、本人に用事があるんだろうなあ。生贄用の子供とか……

「ご本人かと」

「ウルの直系を欲したと?」

「はい」

「そう考えるのが、妥当か。そうだとしたら、姉のエーヴェルはもう生きてはいないか」

 前髪ぱっつんは、とても悔しそうに――演技だとしたら凄いなあ。絶対騙される。本当だとしたら、良い人というか、普通の人なんだろう。

「生きている可能性はあるかと」

「何故だ?」

「私は誘拐が成功したと言いましたが、成功しなかった可能性も捨てきれません」

「なに?」

「リング卿の策に従って動く者たちが殺された――殺したものが、エーヴェル公女を本当に手に入れたという証拠もありません。途中で別の誰かの手に渡ったとも考えられます」

「たしかに色々考えられるな」

「色々考えられるということは、考えるために情報が足りないということでもあります。深く考えるのはもう少しお待ち下さい」

 ブリギッドは海賊に育てられたのは確実。

 でも海賊たちが、どうやってその情報を掴んだ?

 何らかの方法で情報を掴んだとして、海賊ならば、人質をすぐに金や財宝と換えたはず。

 だから海賊は知らないと思う。

 海賊は何故かブリギッドを育てた――

「イズ。早急にそのデューと共にレプトール卿の元へと向かい、イチイバルをすり替えてきてくれ」

「かしこまりました」

 面倒だがそれはやっておいた方がいいだろう……デューが私の服の端を引っぱる。

「どうしたの? デュー」

「イズ。ちょっといい」

「いいよ。どうしたの?」

 前髪ぱっつんの前で、二人で額をつき合わせて、内緒話というほどではなく、だが――

「ねえ、主戦派ってずっと戦争続けたい人のこと……って考えていいんだよね」

「うん、そうだよ」

「だったら、まずくない? 交換して偽物を置いてきたら」

「どうして?」

「だって和平なんとかのために、イザークの王さまはイチイバルを持って来たんでしょ。それが偽物だと、主戦派はまた戦うって言うんじゃないの」

「あっ……」

 デューの言う通りだ。

 レプトールの手元に本物のイチイバルがあって、それを巧妙な贋作とすり替えたらマナナン王は偽物で和平交渉に臨んだことになる。贋作で和平は無理だろうから……イザーク遠征が再開してしまう。

 レプトールとしてはすり替えられても、されなくとも、どちらに転んでも損はないってことか! 片眼鏡め!

「ま……アンドレイ卿。イチイバルのすり替えは……」

 やばい、やばい。前髪ぱっつんと言いかけてしまった。

「その盗賊の言うことも一理あるが、レプトール卿に姉の居場所を先に突き止められてしまうと困るのだ」

「たしかに……」

 その問題もあるなあ。

 こまった。すり替えるべきか、否か。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22話

 結局イチイバルのすり替えは後日となった。

 一応私が説得したのだ。

 レプトールがブリギッドを発見してくれたら、それはそれで良いじゃないかと。

 偽物のイチイバルは用意できても、偽物のブリギッドを用意する事はできない。だから、

「やつらはすり替えを期待しているというのか?」

「はい。アンドレイ卿が私の能力をご存じのように、レプトール卿も少しは知っているかと」

 私がワープで何処の城にも侵入できることを知っている以上、すり替えられることは想定していると……ん?

「どうしたのイズ?」

「ちょっと。……なんでもないんだ」

 

 重大なことを見過ごしているような……

 

「お前たちの意見を受け入れよう。もっと話をしていたいのだが、時間がな」

「ありがとうございます。では最後に一つ」

「なんだ?」

「イチイバルの紛失をそこまでして隠蔽した理由を教えてください、バーハラ王家に対しての忠誠心だけではないはずです」

 アンドレイが笑みを浮かべる。顔が良いので、かなり格好だけはいい。

「気付いたか」

「試されたことには気付けました」

「盗んだのはディアドラ皇女を産んだ女だ」

 ……ああ、そうだ。ゲームの画面上ではディアドラとエーディンの年齢差なんて、はっきり分からないが、エーディンは大体シグルドと同い年くらいで、ディアドラはアゼルと同い年程度。アゼルとエーディンならエーディンのほうが年上……。

 幼い頃にブリギッドがバーハラ城でイチイバルを引いて見せた時、ディアドラの母親が居ても……うん、おかしくはない。

「そのことは、公表されないのですか」

「公表はされないだろう」

「ディアドラ皇女の母君は、なぜイチイバルを盗んだのですか?」

「何者かの指示。それはイズ、お前が最も知っているのでは? ディアドラ皇女の存在を突き止めたお前ならば」

 

 口から出任せいったツケが! 私はディアドラがクルトの娘だと知っていただけであって……うわーマズイなあ。前髪ぱっつん、やるじゃないか!

 

「閣下は私から聞きたいのですね、ディアドラ皇女の母君が、何者の指示を受けてイチイバルを盗んだのか?」

「ユングヴィ公爵家の者として当然だ」

 私にもさっぱり見当が付かないのですが……適当に誤魔化すにも……口から出任せを言うために、もう少し情報を集めよう。

「ディアドラ皇女の母君は誰の紹介で、バーハラ城の侍女を務めていたとお聞きですか?」

 シレジアのセイレーン城に居た時、侍女は「誰々からの紹介」という、一応身元が確りとしているものを雇っていた。紹介状の調査はしていないようだが、この世界でそこまで望むのは酷ってもんだ。

「レプトールと聞いたが」

 片眼鏡の雷神さんか。これは……やっぱり、適当に言い逃れしよう。

「閣下。私は先程、イード砂漠にある砦についてお尋ねしました。私が閣下に教えられる限界です」

 重要任務なので言えないよー。暗黒教団が関わっているから、触るんじゃない、この誤魔化しで上手くいくか?

「……なるほど。イズはディアドラ皇女のことを探っていたのではなく、別件を調査している最中に知ってしまったということなのだな」

 

 違いますけど、そうだと言わせてもらいます。

 

「これ以上は何も言いません」

「分かった」

 厄介ごとに巻き込まれまくってるが、これも死亡フラグを回避するために……なんか、死亡フラグから離れまくってる気がするけれども。

 アンドレイはクロードへの紹介状を書いてくれ、前金として結構な額の金と、

「ユングヴィ公爵家が支払う」

「は、はあ……よろしいのですか?」

「構わん。気にせずに使え」

「ありがとうございます」

 ユングヴィ公爵家の紋章が入っている腕輪をくれた。商人ギルドに入っている商店なら、これでツケがきくそうだ。

「ギルドに入っている商会は、安心できるからね」

「そうなの」

 デューが腕輪を持って物珍しそうに見ている。

 私とデューはユングヴィ城を出て、街中で宿を取った。華美でもなければ安っぽくもない、普通の宿で二人一部屋。

 ベッドと小さいテーブルがある、寝るだけの部屋だ。

 食事は少し離れた場所にある酒亭を宿屋の主に勧められ、

「そこに行くなら、割引札を渡すよ」

 軍資金はたくさんあるのだが、割引と言う言葉には弱い。デューの顔を見ると”にこっ”と笑って、

「おじさん、それって幾ら使えば割引になるの?」

「それは」

 割引という言葉に騙されたが、割引札が使えるようになる額があるそうだ。二人では食べられない程の金額……ということで、

「紹介してくれたことは感謝しておくよ」

「済みません」

 割引札を断り、宿代を腕輪でツケた。

 さすがに城主の紋章ツケには驚いたようで、

「これからは善良な市民は騙すなよ」

「申し訳ございません!」

 善良じゃないやつは騙してもいいけどね。私は……善良だとは言い難いけどさ。

 宿を出て、結局その酒亭へと行く。四人がけの席に腰を下ろして、料理の注文をデューに任せる。

 ユングヴィは肉料理、それも羊肉が主体。独特の風味が少々苦手だが、これしか肉がないのだから我慢して食べる。

「やること増えたね、イズ」

 ライ麦パンにクリームチーズを塗り、薄切りの羊肉をはさみ食べているデューに言われて、あらためて面倒が増えたなーと、ビールとは言い難い麦酒を口に運ぶ。この世界、酒に関してはあまり厳しくないようで、見た目は子供な私でも普通に酒が飲める。

 ま、水が高いということもあるんだけどね。安全な水は本当に高くて、簡単には手に入らないんだよ。

「うん……」

「ねえ、イズ」

「なに?」

「乗合馬車でエッダ公国まで行こうよ」

「デュー?」

「情報集めるためには重要だよ。イズは目的地に急ぎすぎるからさ」

 デューが言うことは、もっともだ。

 前髪ぱっつんと話をしていてそれを感じた。聞かなくてもいい「会話」というのはなかった。同じような世界だが、全く同じではないのだから聞かなくてはならない。

「そうだね」

 焦ってはいるが……急がば回れとも言う。この世界の状況をもっと確りと掴まなくては。

 その為には、少々移動に時間がかかってもいいから、とにかく情報を集めよう。

 

「でもちょっといい? デュー」

「なに? イズ」

「ダーナに行ったことある?」

「あるよ」

「ダーナにだけは、一度ワープしておきたいんで。お願い」

「いいよー」

 

 ダーナにワープできるように、一度実績を作っておいて……街? 死に絶えてたよ。一体なにがあったんだ……

 

 ダーナからすぐにユングヴィ公国へと引き返し、翌朝ちょっと良い乗合馬車のチケットを購入した。もちろんデューが。

「ちょっと良いってどういうこと?」

「座席は座り心地いいし、狭くもないんだけど、護衛がついてない」

「……あ、なるほど」

 もっと良い乗合馬車は、護衛の傭兵が二、三人つくそうだ。

 私たちが乗り込む馬車は、茶色い幌付きで、十五人乗り。馬は二頭で、御者が二名に車内に一名。この車内の一名は、客のチケットを確認したり、チケットを買っていない客が乗り込んでくることを見張ったりする役割。

 デューからこれらの説明を聞いている。

 行軍してばかりだった私には新鮮だ。あとこの世界の完全な庶民目線というのも。

 乗合馬車の進行速度はさほど早くはない。

 だがさすがはグランベル王国、街道はしっかりとしており、護衛付きでなくとも、それなりに安心。一時間進むと休憩場所がある。時代劇でいう旅籠とかそういうモノっぽい。

 休憩場所で用を済ませ、

「イズ。飲み物と食べ物買っておいたよ」

「ありがとう、デュー」

 車中のお供を買って、また乗り込む。

 馬車は夜進むことはない。夕暮れが訪れると、明日の朝まで時間を潰さなくてはならなくなる ――。お金のない人は野宿、それなりに余裕のある人は宿に。

 私たちは前髪ぱっつん卿とレヴィンから潤沢な資金を貰っているので、もちろん宿に泊まる。

「それにしても、こんな良い物があるのなら、レヴィンもくれてもいいのに」

 レヴィンは”金が足りなくなったら、ワープで取りにきてくれ”と言ったのだ。

「それは、レヴィンとイズが繋がっていることを、知られたくないからだと思うよ」

「あ、そっか。これ、支払いがそっちに行くんだもんね……じゃあ、あんまり使わないほうがいいかな?」

 犯罪者がカードを使わないのに似ているな。現金だと行方を追跡できないとか、よく刑事ドラマでやってるなあ。

「どうなんだろう? ……用心する?」

「用心、ねえ」

「おいら思うんだけど、アンドレイさんって、イズが何処にいるのか知りたいんじゃないのかなあ」

「なんで?」

「仕事依頼するのに……とか」

「仕事、依頼? ……偶に使う程度にしておこうか」

 

 前髪ぱっつん卿に、そんなに頼りにされても困るし、あとでシグルドに支払い回されても困る。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23話

 馬車の旅は快適ではないが、色々な情報が手に入り有意義だ。

 大きな休憩場所で人が大勢いる場合は、馬車で先を進むことを優先しないで、情報集めるために滞在することもできる。

 そんな場合は払い戻しも可能――本当に、様々なシステムがあるんだなあ。

 

 ユングヴィ公爵領を出てシアルフィ公爵領へと入り、エッダ公爵領が近づいてきたころ――

 

 捨てられている動物、飼うことができないのなら優しくしてはいけない……それは真理だろうし、それに従うと楽だ。

 自己満足な優しさほど卑劣なものはないのかも知れないが、親が死んだ子供と遭遇した。夜盗に襲われ、幼い息子を守って死んだらしい。

 息子は母親も故人で、他に身寄りがないとのこと。

 孤児院に入れてもらえるそうだが、孤児院までは自力で辿り着かなくてはならない。

「ここから一番近い孤児院は?」

「エッダ公国の首都が良いんじゃないかな。町外れよりも、うん。孤児院出身のオイラが言うんだから間違いないよ」

「デューって孤児だったんだ」

「そうだよ」

 そんな感じはしていたけれども、はっきりと言われると驚く。

 ……で、私はなにをするつもりかというと、その残された幼い息子をエッダ公国の孤児院まで連れて行こうとしている。

 全く知らない人ですとも。ステータス画面も確認した。シビリアンな少年だよ。

「エッダ公国の孤児院までなら連れていけるよ」

「……」

 シビリアンな少年は頷き、私の手を取った。

 孤児院に預けるだけの簡単な仕事――私がしなくても良いことだけれども、なんとなく放置できなかった。

 これはなんだろう……懐に余裕があり、向かうついでだから……どれでもないような。でもまあ……最後まで面倒をみることはできないし、するつもりもないが、孤児院がどんなところなのかも分からない。

 デューが盗賊をしているあたり、完全に良い施設ではないのだろうけれども、そんな施設はこの地上のどこにも存在しないだろう。

 だから――というわけでもないが、孤児院に辿り着く迄は、充分な食事を取らせることにした。これは優しさじゃないのだと、自分に言い聞かせながら。

 

「食べて」

 

 食堂で料理を勧めると驚き、そしてがっつく。裕福ではない親子だったようだ。

 なぜ街道を徒歩で旅をしていたのか? そこがわからない。資金繰りというか、子供が着ている物をみても、物見遊山をするような財力はなさそうだし、なぜ夜盗はわざわざこの親子を襲ったのだろう。

 全く金持ってなさそう……いや、なにも持っていない。

 少年をエッダ公国まで連れて行くと言ったら、死体を埋葬してくれた、街道で店を出している人が1ゴールドも持っていなかったことと、

「餞別になるかどうか分からないが」

 物置にあった少年が着られそうな服を二着くれた。

 こっちも知らない相手なのだが、埋葬してくれたのだからということで30ゴールドほどを渡した。私には相場など分からないが、デューが教えてくれた。

 少年は痩せ細っているが食欲はある。

 私たちのほうを時折見るが、意識のほとんどは目の前の料理に注がれている。私は少年が食べる姿を見ながら、野菜と羊肉の煮込み料理と、焼いたソーセージを包んだパンに、

「ほい、プリン」

「?」

 それなりに高級な嗜好品であるプリンを。

「これ、おいしいよ」

「……」

 少年はデューを見て、食べ方を真似て――口に合ったようで、顔にかかっている黒髪に隠れていた目が、まさにまん丸くなった。

「少年。名前はなんて言うの? 短い間だけど、一緒に移動するから、名前分からないと不便でさ。偽名でも良いから教えてくれない?」

 私は本名は分かっている。ステータス画面に出ていたから。

「……」

 少年は小さな声で”本名”を教えてくれた。

 本名はニーズヘッグ。……えっと、たしかどこかで見た覚えが…………ああ! 思い出した!

「どうしたの? イズ」

「……! いや、なんでもないよ。さあ休もうか。短い間だけれども、よろしく、ニーズヘッグ」

「よろしく……イズさん」

「オイラはデュー。よろしくね! ニーズヘッグ」

「……よろしく、デュー」

 

 ニーズヘッグは弓として見覚えがあるんだ。ファイアーエムブレムGBA三作中、関連性のない最後の一作「聖魔の光石」で登場した、王家所蔵の聖遺物扱いの弓だ。正式には聖遺物じゃなくて、特別な単語があったけれども、覚えてない。あんまり遣り込んでないからな。クリア後、遺跡に三回潜って、ラスボスを召喚した奴を仲間にしたことくらいしか覚えてない。

 他に思い出せるのは……なんか微妙にレヴィンと被るようなキルソード王子が、若干エーディンと被るような絶世の美女風のシスターといちゃついて……関係ないな。うん、弓だ、弓。面白い名前だな。あんまり言いたくないのも分かる。

 

 ニーズヘッグと一緒の旅はすぐに終わったが、楽しかった。あまり両親のことや、住んでいた所などは教えてくれなかったが、そこまで踏み込むつもりはないし、私も過去については言えないことばかり。

 この世界に来る前は、この世界がゲームとして存在する世界で生きていました――なんて言えないしね。

 短い旅は終わり、私とデューとニーズヘッグはエッダ公国の首都に辿り着いた。思い描く宗教国家のイメージ通り。写真や映像でみたことのある、バチカン市国にも似ている。

「良い所とかあるかどうか分からないけど、お城の人に聞いてみよう」

 まっすぐ孤児院に預けても良かったのだが、知り合いがいるのだから、もしかしたら便宜を図ってもらえるかもしれない。効力がどれ程あるか分からないが、前髪ぱっつんアンドレイの紹介状を握りエッダ城へ。

 

 ……入れなかった。

 

 前髪ぱっつんの紹介状が役立たなかったわけじゃないんだが、エッダ教の洗礼受けてないと、城には入れないんだって。

「教えておいてくれよ、前髪ぱっつん」

「イズは洗礼受けてると思ったんだよ、前髪ぱっつんさんも」

 私が前髪ぱっつん言い続けたところ、デューにも感染しちゃった。

「ぷっ……」

 そしてアンドレイを見たことのないニーズヘッグまで笑う。デューが事細かに説明したせいで、ニーズヘッグも面白く感じてくれるらしい。

 ありがとう、アンドレイ。父親を殺された少年がお前の前髪で笑ってるよ――お前は偉大だよ、前髪ぱっつん。

 そしてユグドラシル大陸の常識、洗礼を受けていないと総本山には立入禁止。日本でも女人禁制だったり、他の宗教の人は立入禁止とかいう場所あったもんな。

 現代日本よりも宗教心が篤い世界だ、そうもなるだろう。

 おまけにクロードは居なかった。自力で嫁を捜しているのだとしたら……御免よ。

 でも、それなりに地位のある人会うことはできた。ロダンか! と警戒し名前の確認も怠らなかった――が、別人だった。その人物から、滞在してクロードの帰国を待ってはどうかと言われたのだが、

「何日くらいでお戻りになりますか?」

「十日ほど」

 そんなに滞在している時間はない。デューと話合い、ここから一度巡礼街へと飛び、ホリンと合流してアグストリア連合王国内を馬車など使って、本格的にブリギッドの探索をするんだ。

「事情がありまして。本当にお会いしたかったのですが」

「そうですか。使命を帯びていらっしゃる方を、お引き留めするわけにはいかないとは言え、残念です」

 使命を帯びるってほどじゃないが、仕事はあるな。それで……自己満足ながらも、

「彼のことを頼みたいのですが」

 偉い人に頼んでみた。

「かしこまりました」

 ニーズヘッグは洗礼を受けていないが、洗礼なしでもこのお偉いさんの邸で雇ってくれるとのこと。

 もちろん個人的に洗礼を受けたくなったら、いつでも受けていいそうだ。

 

「私たちは行くけど……また会える日を楽しみにして……るけど」

 邸で働くって大変だと思うんだよ。洗礼受けてないし、下働きの一番下っ端だしさ。

 だから―― 

「これは?」

「この緑色の水晶が埋まっているのがライブの杖。紺色の水晶はリライブの杖。それでもって、この赤色の水晶が埋まっているのがリカバーの杖」

 さすが杖☆ブラギが建国した国。杖がたくさん売っていたので、楽しくてついつい大量に購入。

「あの……」

「嫌なことあって、どうしても駄目だったら、この杖を売ってどうにかしなよ。私たちの顔を潰すとか、そいうのは考えなくていいよ」

 最後まで面倒をみることが出来ないのだから――首輪はつけない。

 

 こうして私とデューはニーズヘッグと別れ、ホリンと合流するために、久しぶりにワープで移動した。

 

**********

 

「ホリンも見つけられなかったと」

「ああ」

 巡礼街でホリンと合流した私たちは、アレクが制圧した海賊砦を目指して徒歩で進んでいる。ホリンが見つけられなかったのはブリギッド――

 どこかに海賊が潜んでいるかもしれないし、そいつを捕まえられたら情報を得られるかもしれないから。

 ……なんて、甘い考えでした! そしてアレクはさすがシグルド直属の部下でした。本気で海賊を討伐したようで、海賊の”か”の字も残っていない状態。砦のほうも、完全に焼き払われてました。

 うん、ここにブリギッドいたらまず助からなかっただろう。追い出されてて良かった、良かった。

 廃墟というに相応しい砦で、私たちは夜を明かすことになった。

 周囲に人の気配はなく、殺害された海賊たちが喋り出すこともない、波の寄せては返す音以外なにも聞こえないそこで、いままで合ったこと、そして暗黒教団についてホリンに語った。

「イズ」

「なに? ホリン」

 空気が変わった――安っぽい表現だが、そう表現するのが一番適しているような気がした。

「俺がイザーク王家に連なるものだということは、知っているな」

「分かるし、知っているよ」

「俺はソファラ城主の息子で、素行の悪さから勘当された……ことになっているが、実際は城主である父の命を受け、暗黒教団について調査していた」

「…………はい?」

 

 なにその超展開。

 

 お前はアイラに惚れている馬鹿な男というだけじゃなかったのか? なんか、生きる実感が欲しくて闘技場生活していたんじゃなかったのか?

 スープを作ってくれていたデューの手も止まる。

「いままで黙っていて悪かった。信用していなかったんじゃない。巻き込みたくなかったんだ」

 ホリンが頭を下げるんだが、別に下げられる覚えはない。なにより思わせぶりな態度を取っていなかったから、こっちも腹立たなかったし。

「そっか。打ち明けてくれたってことは、情報を共有したいってことだよね」

「調子良いと思われそうだが、そうだ」

 デューがスープを器に入れて運んできてくれた。これに旅の必需品、乾パン以上に固いパンを浸して食べる。

「はい、イズ。ホリン」

「ありがとう、デュー」

「ありがたい、デュー」

 器を受け取り、三人で食事を取りながら、話合う流れになった。

「ホリンに聞きたいんだけど、イザーク王家はイチイバルを盗んだ?」

「なんのことだ?」

 アンドレイから聞いた話を、デューと交互に説明すると、ホリンは難しい顔になる。笑いは浮かばない話題だよな。

「もしかしたら、父がロプト教のことを探っていること、教団側に気付かれたのかもしれない」

「だからグランベルと戦うように仕組まれた?」

「そうだ」

「イザークが侵攻されても帰らなかったのは、調査を優先していたから?」

 なんで故国がボロボロになってるのに、ふらふらしてるのか気になってたんだが、密命らしいものを受けていたのなら納得できる。

「そうだ。……なあ、イズは十二魔将について知っているか?」

 十二魔将って、あれでしょ? 最後の敵で、ユリウスの周囲にいる奴。なんでそんなこと、ホリンが知ってる? ホリンも私と同じくゲーム外から?

「おいら、知ってる。十二聖戦士に滅ぼされた悪いやつらでしょ?」

 そいつらか! 暗黒な大司教ガレと一緒に戦って負けたやつら!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24話

「そうだ、デュー」

「それなら私も少しは知っているけれど」

「そいつらの死体は、今でも厳重に保管されている」

 なにを言い出すんだ? ホリン。

 えっと、インディー・ジョーンズのアークのラストみたいに、エリア51の地下に保管されてると?

「なんで? そんな物保管しないで、焼いて無くしてしまえば」

 でもあれ、倒せるよね。

 ゲームでは確かに倒したよ。

「無くならないそうだ」

「もしかして、ロプトウスの力が存在する限り、肉体は朽ちない……ってことかな?」

 マンフロイがそのタイプだった。殺せるが、ユリウスとロプトウスを倒さない限り生き返ってくるタイプだろう。

 だからこそ、ユリウスが倒されると勝手に朽ちてくれる。

「イズの予想通りだ」

「そんな厄介なもの、どこにあるんだい? おいら、聞いたことないよ」

「エッダ城に封印されているそうだ」

 

 一連の流れが、なんか繋がってきたような気がする。

 

「大司教ブラギの末裔が、十二魔将の死体を封印してるってこと?」

「クロード神父に直接聞いた」

 何時の間に! 驚いたが……クロードを案内してくれたのはホリンだったことを思い出した。二人きりのときに、踏み込んで聞いたのか。

 だとしたら、その後、巡礼に付き従ったのも分かる。

 聞きたいことと、教えておきたいことを、人目がないところで話合いたかったんだろう。

「だからエッダ城は危険だって言われてるのか」

 デューも納得し、私も充分あり得ることだと感じた。盗賊が立ち入らなかったのも分かる。お宝が十二魔将の生ける屍的なものじゃあ、割りが合わないだろう。

 依頼を受けて盗み出したとしても、暗黒教団はあの性質だ。報酬なんて払わないだろうし、口封じのために殺すことも――

「知っている人はそんなにいないよね」

「ほとんど存在しないそうだ」

「その死体って、何か術を用いて動かすことが出来るの?」

「暗黒教団には、死者を繰る術があると、クロード神父が教えてくれた」

 

 なんとなく思い出してきた。ゲーム上では明言されていないが、ウィキペディアかなにかで、十二魔将は死者だと読んだ記憶がある。私はゲームはゲーム上で明かされた情報以外、蛇足だと考えるタイプなので詳しくはないが。

 

 夕食を食べ終え、近いのに遠くに聞こえる波音を偶に耳で追うようにして――話の根幹を尋ねることにした。

 なぜホリンが暗黒教団のことを調査するに至ったか?

 イザーク王国で暗黒教団の不穏な動きがあったことは確かだけれども、具体的にどんな動きがあったのか?

「イチイバルと同じだ」

 ……イチイバルと同じってことは……

「バルムンク、盗まれてたのか!」

「やつらはロプトウスに対抗できる武器を、盗み出しているようだ」

 地味な作業を繰り返しているんだな。ロプト帝国は一日ではならずか。その労力をもっと別のことに使ったら……無駄か。

「でも、それじゃあ、どうしてイザークの王さまは、エーディンさんの家の大事な武器を?」

 デューの疑問はもっともだと思う。そして答えがはっきりと出ないが、この状況で導き出せるのは、

「デュー。これは推測だけれども、イザーク王マナナンは殺害されたかどうかは不明だが、操られていたと考えられる」

「イズ?」

「神器は簡単には持ち出せないけれど、神器の所持者なら持っていても見咎められない。どの時点でマナナン王が操られるようになったのかは分からないけれど、イチイバルをバーハラ側に持っていった時には”既にその状態”だった可能性が高い。これなら意味不明で、自分が危機に陥る行動を取ったとしてもおかしくはない。合理的ではないことを合理的に証明できる……とでも言えばいいのかな」

「でも……」

「これは私の勝手な推測だから正しいとは限らない。ただバルムンクが失われているのは事実なんだね」

「そうだ」

 そして十七年後に、何故か情報を掴んだシャナンが単身でイード砂漠に向かうわけだ。情報源がはっきりとしないのは、いまでも不思議に思ってる。

「バルムンクはイード砂漠の砦にある」

「それは……」

 ホリンは言葉を失いかけているが、事実なんだよ。

「暗黒教団のことを調べていたから、それっぽい情報を掴んだ」

「そうか……」

 無理するなよ、ホリン。取りに行くなら一緒に行くからさ!

「それでさ、暗黒教団は神器を壊すことは出来ないんだよね」

「神器の破壊は不可能だ。だから、やつらは封印しているのだろう」

「あのさ、封印するのはわかったけれど、封印を解くにはどうしたらいいの?」

 バルムンクが封印されているとして……戦いたくはないけれど、十七年後も戦うと考えて、バルムンクの封印の解き方を――

「聖戦士の血を引いている人が触ると、解けるっていうよ」

「え、そんなに簡単なの?」

 

 ゲーム上ではパティが盗んで……あ、うん。なんでレベル1の盗賊が盗めたのか、分かった気がする。封印を解くことが出来たんだ。代替えユニットの場合は知らないけど。

 

「うん! 封印解けるよ」

 そうだとすると……

「ねえ、ホリン。じゃあ十二魔将の死体の封印は、どうやったら解けるの?」

「それについては、さすがに教えてもらえなかったが……どうした? イズ」

 引っかかる。

 肌に小さな棘が刺さる。どこがどう、とは上手く言えないのだけれど、この世界をゲームとしてクリアした私の知識が、どこかで引っかかりを感じている。

 

 夜も更けたので、横になることになった。眠れそうにないのだが、規則的な波音が眠気を――

 

”アハト、攻撃何回目だよ! 六回までは数えたんだけど。守りの剣もらう時にスキップしたバグと同じような。でもアハトだからさ”

”アハトとムーサーは、フォルセティの血ひいてるんだよね。ダッカーやマイオスの子か? でもあの二人はフォルセティの欄、キラキラしてないし……もしかして、レヴィンの隠し子? いや、愛人が産んだ子か? そう考えると、アハトの母親はフュリーでムーサーの母親はティルテュか……兵種的に。シレジア王妃はシルヴィアって感じかな”

”愛人の子はたくさん混ざってるよね。このボルガノン使い、ズィーベンはアルヴィスか、その親父の愛人の子だよね。ファラ光って……やっとアハトの攻撃終わったよ。かわしきったのは凄いけど、十回以上攻撃されるなよ”

 

「……」

 さし込んでくる朝の陽射しに照らし出された廃墟は、けっこう綺麗だった。

 かなり固い床に寝たので、背中が痛い。そして全然休めなかった。眠って夢を見ていたのに、それは夢ではなく――廃墟の外に規則正しく動く影。

「ホリン!」

 素振りをしているホリンに声をかけながら、起き上がり近づく。

「どうした? イズ」

「十二魔将って、十二聖戦士と敵対していたんだよね!」

「あ、ああ……そうだが、どうした?」

 突然のことに、ホリンはかなり驚いていた――

 

 違和感は”これ”だ! 私たちがゲームで戦う十二魔将は、かつての十二魔将そのものじゃない。聖戦士は早くても十二魔将と同時期、普通に考えるのなら、魔将に遅れて誕生したはずだ。

 始まりの聖戦士たち――彼らの肉親に神の力が宿ることはなく、彼らの子孫にのみ受け継がれる

 そう考えると、聖戦士の血を引く十二魔将なんて、あの当時は存在しない。

 だが、いずれ現れる十二魔将の中に聖戦士の傍系が含まれている。その理由は? あの十二魔将は古い十二魔将の力を新しい肉体に注いで作られた物か、それに近いものだ。

 十二魔将の力は途絶えることなく新たな器に注ぎ込むことができる。それを阻止しているのがブラギの末裔――

 ここまで推測してみたが確証はない。

 事情を知っているであろうクロードと会話するのが最短ルートだが……クロードにどのように説明していいのか。私はこの先の出来事を知っているから、私の話を信じろ! そして全部話せ! これでは、ただの電波だ。

 自分が電波じゃないとは言わないけれど、通じないんじゃあ意味がない。

 どうしたら……

「イズ」

「デュー」

「朝ご飯だよ。まずは食べようよ」

「ありがとう。デューが作ってくれる食事は、本当に美味しくて力が出る」

 デューが作ってくれる食事はお世辞ではなく旨い。

 そして力が出る。ワープもリワープもガンガンできる……だが、頭は働かない。それは元々だから仕方ないのだけれども。明察な頭脳を持ち合わせたかった。

「ねえ、イズ」

「なに? デュー」

「一人で考えてないで。おいら、賢くないけど、もしかしたら、なにか知ってることがあるかもしれないしさ」

「そうだね……うーんとね。眠りながら考えてたんだけれど」

「イズ、器用だね」

 実際はプレイしていた時の記憶が甦ってきただけなんだけど、言えないしね。

「ありがと、デュー。それでね、エッダ城に十二魔将の遺体が封印されているというのは、ダミー……偽の情報なんじゃないかなと」

「どうして?」

「本当に封印されているのなら、暗黒教団はすでに盗み出しているはず。封印を解く方法も知っているだろうし、教団で盗賊を育てることくらいはするだろうから。でも彼らはエッダ城に遺体があることを知りながら、手を出せないでいる。クロード神父の妹君誘拐も、それが原因だと考えられる。ほら、デュー教えてくれたでしょう。封印を解くのは、聖戦士の末裔なら簡単だって」

「……」

 ホリンもデューも何も言ってこない。なにか、突っ込んでくれよ! 二人とも。この意見らしきもの、自信ないんだから!

「えーと、特になにも意見がないようだから続けるけど……昨日ホリンから聞いて思いついたんだけど、十二魔将の”なにか”を死体か生きている人間に注ぎ混んで、新たな十二魔将を作ることができるんじゃないのかな。その十二魔将の”なにか”をエッダ家が所持・封印していて、それは普通の盗みや、封印を解く程度ではどうすることもできないんじゃないのかな。ブラギの血を引くエッダ家だけ、武器らしい武器を持っていないんだよね。だから彼はどうやって戦ったのか? なにが力だったのかと考えると、封印じゃない……どうかな?」

 なにか言え! 金髪二人組!

「ロプトウスを滅ぼさない限り滅びないのは、体ではなく力だからか。そうだとすると、クロード神父ご自身が封印になっている可能性もあるな」

 ホリンの言葉に思わずびくっ! となった。だって……それは、とりもなおさずクロードに子供を作らないと、封印が解けてしまうという意味だ。

 でもそんな重要な任務を背負っているのなら、私の力などなくても、きっと妻を見つけて子を成してくれるはず! 生臭坊主の名にかけて頑張ってくれ!

「……」

 そして私を黒い瞳で見つめるデュー。

「どうしたの?」

「あのさ……イズ。それ、なんか、本当っぽい」

 

 どこが? なにが本当に感じられたの? デュー。

 

「おいら、物心つく前から孤児院で育ったんだけど……自分のことエッダ公女だって言ってた女の子がいたんだ」

 なにその爆弾発言。

「あのさ、イズ! でもこれって、珍しいことじゃないんだ」

「はい?」

「孤児院にいる子供のほとんどが”実は自分は貴族の隠し子で、きっと親が迎えにきてくれる”って思い込んでるんだ。そうしないと……」

 辛く厳しい現実から逃れるためにか。夢想するだけなら自由だもんな。

 ……うん、たしかGBA烈火の剣に、そんな女性キャラクター登場してた。自分は貴族の娘だって言ってた。実際はそんなことはなくて……うん、あったね。

「珍しいことじゃないけれど、他の子とは何か違うところがあったの?」

 大勢いた【そういう子】ではなく【その子】は一体なにが?

「うん。その子はある日、孤児院の前に倒れていて、運び込んで……目を覚ましたその子は、窓硝子に映った自分の顔を見て”私の顔じゃない。私の体じゃない。返して!”って叫んでた。そういう子は、他にはいなかった」

「自分の体じゃない?」

「うん。いっつもそう言ってて、そのうちおかしくなって……おいらはその頃、孤児院を出たから」

 自分の体じゃない?

 ……あれ? たしかクロードの妹は赤ん坊のころに誘拐されたはず。いや、これははっきりとクロードから聞いていないから、もしかしたら――

 待って。たしかシルヴィアとクロードの親密度が上がる会話でシルヴィアは「小さいころ親方に拾われて踊りを仕込まれた」と言い、クロードは「赤ん坊のころ攫われた」と……シルヴィアとクロードが兄妹だとして「赤ん坊」と「小さいころ」にはかなりの差がある。誰も好んで赤ん坊なんて拾わないだろうし、赤ん坊に踊り仕込まないだろうから。ある程度成長してからじゃないと……

 

 シルヴィアはがクロードの妹だとすると「小さいころ」まで、どこで、どうやって生きてきたんだ?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25話

 いつまでもこの砦にいてもしかたないので、次の目的地へと移動することにした。次の目的地とは、シルベール城近くの村の孤児院。

 デューが育ったところ。

 私はまったく気付かなかったのだが、金髪はアグストリア人の血を引いている証なんだそうだ。

 クロードが金髪なのは、エッダ公爵家はブラギの塔の関係でアグストリアと縁が深いので、妻を娶ることも多い。

 エーディンが金髪なのは、アグストリア連合王国に近い土地柄。ブリギッドがアグストリアに馴染んでいるのは、金髪の力が大きいそうだ。

 ノイッシュはどうなのかは不明だが、

「おいらはアグストリア生まれだよ」

「俺の母親は、アグストリアからの流民だ」

 デューとホリンは完全にアグストリアの血が流れていると。気付かなかったよ。孤児院へはワープではなく、徒歩で向かうことになった。途中途中の街に立ち寄り、孤児院を見て回るためにも。

 マディノ城に立ち寄って、海沿いを歩いてシルベール城まで行って、そして一度、面倒だけれども前髪ぱっつんアンドレイのところへ報告がてらに立ち寄り、シレジアへとワープして、その後、ホリンを連れてソファラ城までワープすることに。

 

 それにしても――クロードが狙われていることは確実だが……デューが言ったことが正しいとしたら、人格の交代が行われた……ということに。

 クロードの妹の体に無関係な”シルヴィア”が入ったということ?

 だがなんの為に、中身……魂というのかな? それを入れ替える。

「イズ」

 入れ替える目的……十二魔将の力を、別の体に注ぐ方法は分かっているだろうし。

 わざわざクロードの妹を誘拐してまで。

 最初は金銭目的、つぎはエッダ城のお宝と引き替えと考えたけれども、引き替えにはならない。

 入れ替えがブラギの血を引く者にも通用するかどうかを確かめた?

 その可能性はある。

「イズ」

 暗黒教団はクロードの体さえ乗っ取ることができたら……どうなるんだろう? 解放するのかな?

「うわっ!」

 突然足元がふわりと浮いて、ホリンに抱き上げられた。ちょっと待て、ホリン!

「イズ。考えごとをして歩いていると、怪我するぞ」

 降ろせと肩の辺りを叩くが……それなりにSTRあるんだけど!

「そうだよ、イズ」

 デューまで笑いながらホリンの意見に同意する。

「いや、だいじょう……」

「何回も呼んだのに、全然返事してくれなかったよ、イズ」

 え、呼んでたの? デュー。

「偶には回りの風景を見て、何も考えない時間も必要だ」

「分かったから、降ろしてホリン。重いでしょ!」

「軽いぞ」

 永野泉は普通体重だけど、イズは軽いんだ……って、そういう問題じゃない!

「降ろしてって!」

「運んでやるから、考えごとしてていいぞ、イズ」

 

 ホリン! お前そういうキャラクターじゃないだろう!

 

 抱き上げられるなんて、経験したことがないから、慣れなくて考えるどころじゃなかった。落とされはしないだろうけれども、不安定な感じが怖くて――マディノ城前の村まで抱えて運ばれた。

 考えながら歩かないから! そんなことすんな! ホリン。

「おいらももうちょっと大きくなったら、運んであげるよ」

「いや、いいから! デュー」

 なんでこんな恥ずかしい目に遭わなくては……。

 

**********

 

 マディノ城に一度入り、そこから海岸沿いを歩いて村に立ち寄る。

 

「ごめんよ、イズ」

「デューが悪いんじゃないよ」

 

 自分はエッダ公女で、この体は自分の物じゃないと言っていた女性――名をユリアという――は既に亡くなっていた。

 デューが孤児院を出てすぐの頃に。

 孤児院そのものも、すでに無くなっており、土台しか残っていない場所で立ち尽くしていた私たちに、近くに住んでいた人が教えてくれた。

 自分のことをエッダ公女だと言っていた女性は村でも”悪い意味”で有名だったようだ。最後は完全に狂い、自分をメッタ刺しにして……。

 名前がユリアというのが気になるが、いまはそれ以上のことを調べることはできない。

 教えてくれた村人に礼を言い、僅かばかりの謝礼を渡し村を出る。

「どこに行くんだい?」

「シルベール城のほうに」

 村人――手も顔もくまなく日焼けして、白いものが混じった頭髪と、それと同じ髭を生やした、がっしりとした中年男性――が表情を曇らせた。

「近づかないほうがいいぞ」

「え……なにか?」

「シャガール王がいらっしゃる」

 あ、うん、シャガールは国内では、そういう扱いだったね。

「シルベール城へは近づきません。近くの村までいったら、すぐに離れますから」

「そうかい」

 村人はとても心配してくれた。脇で話を聞いていた、孤児院のことについては分からない年代の人たちも”行かないほうがいいよ”と口々に。

 シャガール、嫌われ過ぎだろう。

 ともかく丁重にお礼を言い、私たちは森を抜けてシルベール城ちかくの村を目指した。森の中は、当然人と出会うことはないので情報収拾という面では得られるものはなかったが、街道を歩くのとはまた違った楽しさがあった。

 ホリン、狩りが上手いんですよ。

 さすがは貴族……いや、オードの光具合からすると王族か。上流階級の嗜みとして狩りの経験があるらしく、私が持っていた弓を使って兎や鹿を射る。かなりの腕前だ……と思う。

 デューはこれまた上手に獲物を捌いてくれて……ほんと、役立たずな私。

 出来る事と言えば、ホリンが作ってくれる簡易のかまどに、威力を絞ったファイアーで火をつけるくらい。あとは、デューの指示で落ちている木の実を拾ったり。

 

 戦う以外は、本当に役に立たない状態だ。衛生兵だったはずなんだけどなあ……。

 

 森林浴をしながら、出来る限り余計なことを考えず進む。精神的な疲れが随分と取れたような気がした。

「シルベール城はもうすぐだよ」

 森を抜け街道を通りシルベール城を目指す。というのも、シルベール城は崖とまでは言わないが、高い位置に築城されており、街道から続く道以外に辿り着けない。唯一の例外は、空を駆けることができる者たちだが、私たちにはペガサスもドラゴンもないので、街道に沿って……

「あれは……」

 ホリンが歩みを止めて、私とデューの腕を掴み街道脇へと寄せる。

 ホリンが見ている方角に私とデューも視線を向けると……土煙が舞い上がっていた。

「竜巻かな?」

「違う。あれは馬だ。騎馬が全力で駆けている状態だ」

 土煙は段々と濃くなる。ということは、あれはシルベール城へと向かっている。

 通り過ぎてゆく騎士たちを見送っていると、一頭の騎馬がこちらへとやってきた。

「イズ」

「あ……アレク?」

 嫌な予感……じゃない、これはもう確実に、シャガールがやったな。

「来てくれ」

「どこへ?」

「シルベール城。暴動が起きた」

「分かった」

 予備の馬にホリンが乗り、その後ろに私が。

「デュー、また後で」

「うん!」

 グランベルに蛮族と言われようが、さすがは王侯貴族。私を乗せて、アレクと並走してシルベール城へと馬を走らせた――

 

 シルベール城下はあちらこちらが燃え、人の死体が転がり……到着した時点で、手遅れだった。

 ホリンは馬を借り、デューを迎えに引き返し、私はシャガールの遺体とされる黒こげの物体を前にステータス画面を開き、

「シャガールに間違いはないよ」

 死亡宣告を下す。

 後はすることなく、ぼーっとしたまま。怪我人の治療をする気持ちにはなれなかった。シャガールの怪我を治療した結果がこれだ。とてもライブの杖を握る気分にはなれない。

 アレクは私に強制することなく、デューを連れて戻って来たホリンも無言のまま。まあシャガールが死んだので、アグストリア連合王国は名実ともに滅亡――

 

 そこに至るまで、なにがあったのか? アレクが集めた情報によると……

 

 グランベル王国から故国を奪還すべく、盟主であるシャガールは軍を起こすことにした。トラキアの傭兵を雇って、義勇兵をも募った。

 当初は傭兵だけでアグスティ城を不法に占拠しているグランベル軍と戦うつもりだったのだが、自分たちの国土は自分たちの手で取り戻すべきだと――これは海の向こう側、シレジア王国でレヴィンが義勇兵を率いて勝利したことが切欠だったそうだ――考えて、行動に移した。

 だが募集をかけても民が集まらない。

 自らが原因の不人気なのだが、民の愛国心のなさに腹を立てるシャガール。

 そしてシャガールが目をつけたのがエルトシャンの遺児アレス。よい案だと思ったのは当然シャガールだけ。

 この戦い、敗北したならば――誰もが確実に敗北すると考えている。勝てると思っていたのはシャガールだけ。雇われた傭兵ですら負けると感じていた――責任を負わされるのはアレス。

 アグストリア国民に支持され、反逆者の汚名を着せられても、誰もが真実を知っており、いまだ尊敬されているエルトシャンの遺児を見殺しにすることはできない。

 勝てないのであれば、従わないとして、誰もが義勇兵になることを拒んだ。

 自分の思い通りにならなかったことに腹を立てたシャガールは、義勇兵にならなければ殺すと、グランベル王国と戦うために雇ったトラキアの傭兵に自らの民の殺害を命じた。

 これに対してトラキアの傭兵、トラバント王が呆れ、契約を破棄して帰国することをシャガールに告げる。

 グランベル王国をアグストリアから追い出す前に、瓦解してしまったシャガールの計画。その怒りのはけ口となったのはアレス。

 アレスのことを担ぎ上げはしたが、本心では殺したいほどに嫌っている。

 

 幼いアレスに殴る蹴るの暴行を加え――貴様のせいで計画が破綻した――詰り、度を超したところで、その有様を見ていた部下がシャガールに剣を向ける。

 部下は殺害されたが、そのことは外部に漏れ、大きな波紋を呼び、ついには「アレスさまを俺たちが守ろう」という流れとなり、シャガールとの契約を打ち切ったトラバントに、民が私財をなげうって契約を結ぼうとする。

 逆上したシャガールは民の不服従の責任を負わせ、アレスの処刑を宣言し――

 

「ついに暴動がおきた」

 シャガールは何一つ学んでいなかったということだ。期待なんてしていなかったが、これはあんまりだろう。

「あの、アレスは?」

「行方不明だ。忠臣が助け出したと思いたい」

 流れ流れて、ジャバローに拾われるなら良いけれど、ここで死んでたらどうしよう……十七年後にはならないように努力しているつもりだが、十七年後に生きているはずのアレスが死ぬのは……。

 

 エルトシャン。これが望んだ結末なのか?

 あの時点でシャガールがレックスに殺害されていたら、ここまでシャガールが落ちることもなかったんだぞ。

 それが目的だった……ってならいいけれど、本心から救いたかったのだとしたら、やっぱり間違いだよ。

 全てが幸せになるということはないけれども……シャガールを生かしてアグストリアを救いたいというのなら、エルトシャンが生きていなければ無理だ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26話

 この惨状をシグルドに報告しにいかなくてはならない――

 私、アグストリア関連じゃあ、シグルドに最悪な情報ばかり届けているような気がするなあ。エルトシャン死亡より最悪な報告はないけれども。

 

 シルベール城下で、初めてドラゴンを見た。黒こげになってはいたが、初ドラゴン確認。そのドラゴンの脇に落ちていた、やっぱり黒こげながら、アグストリア人とは違う腕に嵌っていた腕輪。三つ編みのように見える模様で、白っぽい光を放っている。

 死体を触りたくはないが”もしかして?”と鑑定してみると、

「ライブの腕輪」

 死体はパピヨンだ!

 パピヨンってトラバントの配下で部隊長のような人だよね。アレクから聞いた話だと、シャガールとの契約を破棄して……市民に雇われたのか……な?

 

 死体から遺品を奪うのは嫌だが、ライブの腕輪の魅力には抗えない。

「機会があったら、そっちの王さまに返しておくから」

 トラバントに形見として返すその日まで、貸してください――ゲームの流れでは友好的な状況で会うことはできないけれど、頑張ってこの世界の流れを変えて……無理かなあ。

 腕から外そうとしたら、炭化が酷かったようでパキパキと割れてしまって、そのくせ深部は若干赤味が残っているという、最悪なものを見せられてしまった。

 水死体はグロイというが、焼死体だってかなりグロイ。

「イズ!」

「デュー」

「ねえ、イズ。これ拾ったんだけど」

 デューは本当に色々なものを拾ってくる。見つけるのが上手ってこともあるけれど、死体からアイテムを回収することに、罪悪感や嫌悪感がないようだ。

 この殺伐とした世界では、それが普通なのかも知れないけれど。

「いま鑑定するね」

 ステータス画面を取り出し、デューの手のひらに乗っている、小さな赤い硝子玉のようなものを……宝石かと思ったら違った。

「デュー。それボルガノンだ」

「やっぱり! ボルガノンは良い値で売れるんだよ」

 ボルガノンの魔導書は書ではなくて石。

 赤く中心が燃えさかるように見えるその魔導書という名の石は、宝石としても重宝されているそうだ。

 ボルガノンを魔法として使える人は数も少ないので、宝飾品として使われるほうが多いんだそうだ。

 

 ここはファイアーエムブレム【炎の紋章】の世界だったなあ。ヴェルトマー家が炎の紋章を……なんとか。

 ゲームではアゼルの子供、あんまり作らないから、最後の台詞聞かないで終わることが多くて、はっきりと記憶していないけれど、

 

【アゼルの息子】

私は、このヴェルトマー家の▼

「炎の紋章」こそが「正義のしるしだ」と▼

世の中の人々に言われるよう、▼

がんばっていきたいと思います▼

 

 こんな感じの台詞を喋っていたような記憶が。

 アゼルの息子は、魔法を使える息子になったとしても、よくて炎魔法A。トラキア776に登場するアルヴィスと愛人の間に産まれた息子のことを除外して考えると、ボルガノンが最強の魔法なんだよな。

 

 そうだアゼル! 忙しくて全然なにも出来ない状態なんだが、アゼル! ゲームではアゼルの子供がいないと、ファイアーエムブレムがファイアーエムブレムじゃなくなるんだが……アゼル一体何処に居るんだろう。

「ねえ、イズ」

「なに? デュー」

「これ、売ってもいい?」

「もちろん。それを見つけたのはデューだからね」

 ボルガノンなんてモーションが長いだけで、的中率低いし。大体それ、シャガールの私物だろうし。ぱーっと売ってしまうといいよ。

 

「俺はここに残り、作業を指示しながら情報を集める」

 

 当初の予定を大幅に変更して、ホリンをシルベール城に残し、私とデューはアレクから頼まれた、気が重くなるような報告書を持って、バーハラ城へとひとっ飛び――

 すっかりと顔見知りになった門兵に、今日はシグルドの部下としてやって来ましたと騎士の紋章を見せて通してもらい、そして報告書を届けて……さっさと逃げました。

 親友を救えなかったばかりか、親友の子供まで行方不明になってしまったと聞いたシグルドの悲痛な叫びは、聞いていられませんでした。

 力不足で、本当に申し訳ありません。

 それに逃げると言っても、本当に逃げたわけではなく、

「女海賊?」

「はい」

 バーハラ城に来ていたアンドレイに話があると言われて――このときばかりは、前髪ぱっつんが天使に見えたね。金髪だし、顔はいいし、スタイルもいいし、本当に天使だよ。前髪ぱっつんだけど。

「それが姉だと?」

「弓の達人で、金髪の美女だったと。海賊砦近くの村に住んでいる者たちは、海賊と交流があり、その女海賊の姿を見たことがあるようなので、エーディン様の肖像画を持参して聞けば、ある程度の確証を得ることが……」

「私が行こう」

「……え?」

 

 前髪ぱっつんアンドレイ卿を連れて、マディノ城の上の村へワープすることになってしまいました。

 

 アグストリアが混乱しているので、今すぐではないけれども。

 前髪ぱっつんの言い分は、エーディンよりも自分の方が似ているだろうと。美人双子姉妹に割って入るの? 視線に若干蔑みが入りかけたが『海賊として外で活発に動き、弓を引いていたのならば、城で貴族女性として育てられた姉上よりも、騎士として日々体を鍛えている私のほうが近いはずだ』……言われてみると、そうかも知れません。

 追加攻撃で『姉が姉上のように美しく育っていたら、あのシャガールが黙っていなかったはずだ。だから育ちで顔つきが変わっているはずだ』とも。

 まあ確かに、あの辺りに絶世の美女と同じ女性がいたら目立つし、シャガールが黙ってないだろうな。エーディンはシャガール好みではないのでは? 思ったりもしたが、縁談は来たことがあるそうだ。でも断ったとのこと――もしかして、ゲームでシャガールがグランベル王国に宣戦布告したのは、エーディンに振られたことも理由の一つか? そこをつけ込まれた? 馬鹿馬鹿しい理由だけど、非常に納得できるのがシャガールクオリティ。

 ……で、厳しい育ちなら前髪ぱっつんながら、美形であるアンドレイの方が近いのではないかと言うことで。

「オイラも一緒に行くね」

「ありがとう、デュー」

 前髪ぱっつんは悪い人ではないようだが、一緒にいると気疲れする。

 これならシレジアの王子レヴィンのほうが余程マシ。

 疲れ切ったシグルドからアレクに届けて欲しいという書類を受け取り、ディアドラに挨拶をしてセリスの寝顔を見て……子供ってちょっと見ない間に、すっごく成長するもんだね。びっくりした。以前会った時は、ふにゅふにゅした生き物だったけど、今はもう”こども”って感じになってる。

「イズさま。辛い仕事ばかりを押しつけてすみません」

「いえいえ。そんなことはありません、ディアドラさま。本当に辛いのはシグルドさまですので……シグルドさまのこと、よろしくお願いいたします」

 ディアドラの元を去り、バーハラ城を出て、

「行く? イズ」

 はあ、またあの惨劇の場所へと引き返すのか。

「……うん」

「書類届けたら、すぐレヴィンの所へ行こうよ」

「そうだね」

 一度シレジアへと戻って、新婚さんの二人を見て癒やされよう!

 

 引き返したシルベールは、少しは片付いているが、まだ死体が路に残っているような状態。焼死体であっても、放置していると腐敗臭は……シグルドからの書類をアレクへと手渡し、卑怯だとは思うが、

「シレジアにも報告があるから」

「そうか。気を付けろよ、イズ」

 早々にシルベールを脱出した。

 

 はあ……

 

 シレジアに辿り着いた私とデューは、異様な雰囲気に驚き、急いで大盾を張り周囲を見回した。まだ日が出て明るいというのに、往来に人が全く居ない。

 シレジア王国の首都は、バーハラほどではないが、それなりに栄えて……

「イズ、あれ!」

 デューが頭上を指さすと、黒い”もや”のような物が広がっており、それが私たちを目がけて落下してきた。もちろん大盾を出していたので、何ごともなかったが。

「暗黒魔法か?」

 初めて見る魔法だったが……あれが暗黒魔法だとしたら、本当に黒いのか! ちょっと感動する。

 城の中に直接移動するのを避けていたのだが、この場合は城に直帰するべきだろう。

「デュー。近距離だけど、ワープするよ。捕まって」

「うん!」

 デューを連れて城内へとワープすると……

「大盾!」

 城内に黒いローブを纏った暗黒魔法の使い手たちが、うじゃうじゃいる! そして顔見知りになっていた侍女や下働きの人たちの死体が!

「イズ、これって……」

「暗黒教団のやつらが城内に入ってきたんだ。迂闊だった。ワープを使えるのは私だけじゃない。暗黒教団の杖の使い手が居ても、なんら不思議じゃない」

 宗教団体は杖使いが大勢いて当然だ。

「レヴィンを捜す」

 ライトニングの魔導書に手を添えて、玉座のほうを目指す。

 状況は皆目見当もつかないが、レヴィンならきっとこの状況でも、ティルテュとラーナさまを守って生きているはず! 死んでいたら唯じゃおかない!

 

 ……レヴィンに会うために城内を歩き回っていた所、敵を殲滅させることができたようです。大怪我を負った人たちを治療していると、殺気立った風の申し子が。

「レヴィン?」

「イズ! 帰ってきてくれたか!」

「事情も分からず戦ったけど、倒してよかったんだよね」

「感謝する!」

 レヴィンが飛び付いてきて……疲労していた私は椅子ごとひっくり返って、その状況を遅れてやってきたラーナさまに叱られてました。

 なにはともあれ、無事で良かった。

 治療をしながら話を聞くと、私が帰って来る三日ほど前に、突如城内にロプト教の信者が次々とワープしてきて、レヴィンを殺害しようとしたそうだ。

 放蕩王子だったレヴィンだが、最近はしっかりとしてきたし、ラーナさまに対する市民の信頼は篤いので、彼らの指示――城下の人たちは、全員セイレーンへ逃げるように――という指示に従った。もちろんペガサスナイトたちをつけて逃がした。

 そしてレヴィンはここに残り、ロプト教団と戦っていた。

 彼らの目的はやはり神器。ティルテュとラーナさまを逃がさなかったのは、下手に逃がして人質に取られたりしたら困るとの判断から。

「えーと……」

 前髪ぱっつんではなく暗黒教団がダッカーと手を組んだのか? 思ったのだが、意外なことが判明した。

「分からないが、ダッカーとは考えにくい」

「どうして?」

「あいつは、敬虔なエッダ教の信者だ」

「……え? ええ!」

 ”あの面で?”言いかけたが、顔と信仰は関係ないと必死に言葉を飲み込んだ。

「でも……じゃあ、暗黒魔法の使い手はどこから?」

「ザクソン城のほうからだ」

「エッダ教徒は暗黒魔法使えるのかな?」

「使えない。教義でも禁止されている」

 

 私にはあまり馴染みのない宗教の信仰。これを見落としているから、後手後手に回っているのだろう。

 レヴィンが言う通りダッカーが敬虔な信者なのだとしたら、既に殺害されている可能性も高い。

「どうした? イズ」

「なにか、こう……大事なことに気づけそうで……」

 重大なことに気付きかけているのだけれども、それがどうしても分からない。前髪ぱっつんと片眼鏡の話をした時も、似たような感触があったんだ。……でも、

「ザクソン城を目指す」

 いまはダッカーの生死の確認するのが先だ。生きていたら……どうだろう。味方になるかどうか分からないけれど話くらいはする。

 ゲームとは違い、決められた台詞以外のことを喋るのだろうから。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

27話

「ザクソン城へは、どうやって行くつもりだ? イズ」

「徒歩だね。レヴィン、気を付けてよ」

 ザクソン城には行ったことがないので、当然徒歩ですとも。

「俺のことは心配するな。俺にはこれがある」

 フォルセティの魔導書を手に笑うレヴィン。たしかにそれがあれば、ほぼ無敵だよなあ。ファラフレイムとロプトウス以外には。

「イズさま」

「なんでしょう? ラーナさま」

 なぜ私を”さま”付けで呼ぶのですか、ラーナさま。

 呼び捨てで構わないと……いつも言ってるのですが。

「イズさまは、目的地を知っている人間さえいれば、初めての場所でもワープできると聞きました」

「はい」

「私はザクソン城を何度も訪れたことがあります。案内をさせてください」

 ”危険過ぎますよ!”私が言う前に、

「母上! それは!」

 レヴィンがそれらの感情を込めた声で、ラーナさまの意見を否定する。

「お願いします」

 深々と頭を下げられてしまいました。

 争いを好まないラーナさまとしては、和解できるのであれば、ダッカーとも和解したいと。時間が経てば経つほど、和解は難しくなるだろうから。

 非戦闘員を連れてワープ&リワープするのは非常に危険。到着した場所に何がいるのか分からないので。

 でも頭を下げ続けているラーナさまを無視する分けにはいかないので。

「頼む、イズ」

「任せて。何かったら、すぐにラーナさま、強制ワープで送還するから」

 私をザクソン城へと導いたら、すぐにシレジア城へ送り返すことを納得させて、

「ああ」

 

 ラーナさまを連れてザクソン城までワープした。

 

 ザクソン城内に到着して、まずやったのは大盾を張ること。城内が異常に静かで――ダークマージたちに襲われていたシレジア城とほぼ同じ雰囲気――気味が悪い。

「ラーナさま。ザクソン城には、人がいないのですか」

「そんなはずは」

 尋ねておきながら”そうですよね”と呟いてしまった。

「ではラーナさまは、シレジア城でお待ちください」

 ラーナさまは何かを言いかけたが、約束なので頷いて下さった。嫌と言われても、強制送還しちゃうんだけどね。

「少々お待ちください」

 ラーナさまは首の後ろに手をまわし、黒っぽい球体がたくさん付いているネックレスを、私に手渡す。

「これは私が夫であった先のシレジア王から贈られたものです。これを持っていれば、ダッカー公も話を聞いてくれるはず」

 本当にダッカーと会話するつもりだったんだ。凄いなあ。

「分かりました。それでは、シレジア城で吉報をお待ちください」

「気を付けてください、イズさま」

 ワープの杖をふるいラーナさまを送り返し、スカートのポケットにネックレスを押し込んで城内を捜索することにした。

 

 城内で迷うことに定評がある私だが……案の定、迷った。城って本当にどこもかしこも、同じに見えるんだ!

 現代の公共建築のように、案内が行き届いていないんだもん!

 フロアマップもないしさ――城なんてのは、戦争の際に立てこもって敵を追い払うためのものだから、複雑な造りで当たり前なんだが。

「あんた、なにもんだい?」

 背後から女性の声が――この喋り方って、レイミアだったっけ?

 振り返ってみると、腰まである黒髪に濃いお化粧に、見覚えある剣――勇者の剣――を手に持った、赤が目立つ鎧をまとった女性が。

 

 間違いなくレイミアだよね。

 

「ダッカー公に会いたい」

「はい、そうですか……で、会わせてもらえると思ってんのかい?」

 駆け引きなんてするつもりはない。手のひら指を乗せて、画面を出してステータス確認させてもらう。

「じゃあ、貴方でもいい。レイミアだね」

「へえ、あたしのこと、知ってるのかい」

 艶やかな黒髪をかき上げ、赤い唇を少々意地悪そうにつり上げて。

「知らないね。私は今、貴方のことを見ているだけ」

「……あんた、本当になにものだい?」

「バーハラのシアルフィ公国グリューンリッターの後方援護をしている者」

「……あんた、もしかしてイズかい?」

 なんでレイミアこそ、私のこと知ってるのかな? シグルドはまだお尋ね者になっていないから、私だってまだ賞金首になっていないはず。

「その通り。イズです」

 素直に名乗っておこう。なによりレイミアに負けはしないから。

「へえ……ベオウルフが言った通りだね」

 ベオウルフ! お前、いま、何処にいるんだ!

「ベオウルフが?」

「料金以上の仕事を言いつけてくる、可愛らしい顔した少女だって」

 あの野郎。今度会ったら、もっとこき使ってやる!

「そんなに仕事をさせた覚えはありませんがね」

「だろうね。あんたはベオウルフの十倍は仕事してたって言ってたからね。で、公子付きのグリューンリッター後方支援専門家が、なんでザクソン城にいるんだい?」

「シレジア城に暗黒教団が攻めて来たのですが、それはザクソン城のほうから来たらしいので、調査に来ました」

「グリューンリッターってのは、シアルフィ公爵の配下だろう?」

「ええ。レヴィン王子の所へ……アグストリア王死亡の報告を届けに来たところ、暗黒教団のダークマージたちと遭遇しまして。放置して帰るほど薄情ではありませんので、こうして」

「アグストリア王ってシャガールかい」

「はい。反乱を起こそうとして、起こす前に内乱で死にました」

「シャガールらしい最後だね……まあ、あんたが本物のイズじゃあ、あたしには勝目はないから、案内してやるよ」

 その通りだ、レイミア。

 私が本気を出したら!

「いいんですか?」

 でもあくまでも控え目に行こう。ダッカーに会わないことには始まらない……ん? どこかから足音が聞こえてくる。曲がり角から現れたのは、髪が短めで腰に剣を下げて、赤いマントが眩しい女性。

「いいよ……どうしたんだい?」

「レイミア隊長! ダークビショップが!」

 レイミアの部下か。

「案内しな!」

 駆け出したレイミアと部下のフォーレスト女性を追う。ここで案内を見失ったら、またしばらく城内をうろつくハメになるから私も必死だ。

 かなり遠く、小さくなったもののレイミアたちを見失うことなく、

「レイミア、動くなよ!」

「イズ?」

 敵も確認出来たのでライトニングを放つ。

 昼でもやや暗い城内に眩い光。目つぶしを兼ねて放った最初のライトニングとは別に、殺意を込めてライトニングを再度放つ――

 ダークビショップは四名。レイミアでも殺せたかもしれないが、念の為に。

「……ついてきな」

「なに?」

 レイミアに腕を掴まれて、走り出す。

「狙いはダッカー公が匿っている人物だ」

 え? そんな人いるの?

「誰?」

「あんたの主さ」

「シグルド……さま?」

 固い石造りの城内に、レイミアが履いている固い靴底が奏でる足音が響く。

「違うよ。バイロン卿さ」

 

 まさか、まさ……

 

 城主の私室前にはレイミアの部下と思しき、赤を身につけた女性たちが警護にあたっていた。

 彼女たちの前を通り抜け、

「ダッカー公」

「レイミア……それは?」

 扉を開けて、挨拶もせずに雇い主に私のことを説明した。

「お前がイズか」

 ダッカー公はゲームのグラフィックとは違い、良い男だ。一言で表すとロマンスグレー。難しい表情ばっかりしてたっぽい皺が目尻や眉間に刻まれているが人相は悪くない。

 クラスはゲームと同じバロン。武器はトルネードとブリザードに銀の剣。でも神の血は光っていない。

「はい……」

 この人の弟を直接ではないが殺しているので、なんとなく都合悪く、視線を逸らした。

「マイオスのことは気にするな。それよりも、貴殿がここに来てくれたことは僥倖だ」

 なんか良い人なんですけど! 芝居? これは芝居なの?

 ゆったりと話をしている場合ではないので、ポケットからラーナさまのネックレスを取り出し手渡した。

「ダッカー公をシレジア城へとお連れするよう、言いつかっております」

「そうか。貴殿はワープの達人だが、回復もかなりのものだと聞いている」

 ワープの達人……たしかにワープの達人なんだろうなあ。すげー地味だな、ワープの達人。

「こちらへ」

 ダッカーの天蓋付きのベッド――これだけ冬期間寒いんだから、天蓋は必要だろう――の側へと連れていかれる。枕元に控えていたプリースト。

 着衣に”赤”がない所から、彼女たちはレイミアの部下ではないようだ。普通のエッダ教の信者なんだろう。レヴィンが「信心深い」と言っていたところからすると。

 プリーストたちは立ち上がり私たちに場所を譲る。天蓋から降りている薄いオレンジ色の布を払いのけ、

「誰か分かるか?」

 そこに横たわっている人物! 見覚えがある。手のひらに指をあててステータス画面を出して名と血統の欄を確認する。

「バイロン卿です」

 もうバイロンが追われる段階なのか? そうなのだとしたら……

「ロプト教団の者たちに追われていた」

「お一人で?」

 グリューンリッターはどうした? 不意打ちを食らって全滅か?

「バイロン卿を逃がすためにな……気付かれたか」

 私たちの話し声に、浅い眠りだったのだろうバイロンが目を覚ます。バイロンとシグルドって目元が似てるなあ。

「ご迷惑を……おかけ」

 体を自力で起こしたバイロン。これは、もしかしたら大丈夫か?

「グランベル諸侯は嫌いだが、同じエッダ教徒がロプト教徒に追われているのを見捨てるような私ではない」

 まじで良い人のようですダッカー。ん? なにか嫌な空気が。

「レイミア!」

 この雰囲気、なにか来る。

「分かってる。ダッカー公、来るよ」

 ダッカーが魔法ではなく銀の剣を持ち、ベッドの上のバイロンもティルフィングを構える。……壊れてないから、魔法使いがバイロンを倒すのは無理だろうな。魔法防御ボーナスが+20の卑怯レベルだから。

「バイロン卿。彼らは一体なにを?」

「アルヴィスがグランベル王国を乗っ取ろうとしている」

 

 やっぱり”それ”か!

 

 次々とワープによりダッカーの私室に現れるダークビショップに……フォーレスト、そしてソードマスター。

「大盾」

 魔法使いだけなら対応できるが、物理攻撃系、それも速度があるのは……それを見越してのことだろうけれども。

 大盾の前に怯むかと思ったが、次々と送り込まれてくる暗黒教団の面々。部屋が埋め尽くさそうになるほど。そして通路を守っている傭兵たちに襲いかかる。

 もちろん黙って見ているだけではないのだが、敵と味方が入り交じって攻撃し辛い。

 レイミア隊ごと葬っても良いのなら……って、

「危ない! バイロン」

 ”卿”付けるの忘れたが、そんなこと構っていられない。ライトニングで葬る。そうだ、バイロンは体が弱っているから戦えないんだな。

「一体どれ程の数のロプト教徒が……」

 私と同じく大盾を使えるダッカーだが、あまり長時間張っていられないようだ。それを補うように武器の扱いが上手くて、次々と葬っている。

「埒があきません。皆さんを移動させます」

 混戦状態から、敵だけの状態になれば後はオーラとリザイアをぶっ放して潰せる。

 誰から移動させよう。私の周囲にいるのはダッカー、バイロン、レイミア。

 レイミアは……最後にさせてもらおう。ダッカーとバイロンなら、弱ってるバイロンのほうを先にレヴィンの元へと送り、

「バイロン卿!」

 次にダッカーだ!

 バイロンの腕を掴んでワープの杖を構える。

「待て!」

 ダークビショップを切り捨てたダッカーが驚きの声を上げ、敵も動きを止める――なんだ?

 

「ワープ」

 

 なんでもないワープだったはずなのだが、全身が鉛のように重くなり視界が狭まった。冷や汗が吹きだし、床に膝をつき、腕で上半身を辛うじて支える。

「成功させたのか! なんという……レイミア、イズを守れ」

「分かってるよ」

 頭が痛い。なんだろうこの……倒れそうだ。

 アイラとシャナン、そして生まれてないラクチェとスカサハをワープさせた時以上の、倦怠感なんて生やさしいもんじゃなく……

「ライトニング!」

 余計なことを考える体力もない。とにかく今は敵を倒して……倒し……

 

「ライトニング……」

 霞む視界の先にいた、暗黒教団の偉そうな奴が驚いた顔をしたような……

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

28話

「しゃきっとしな!」

 誰かの声が聞こえてくる。”しゃきっとしろ”と言われても、眠いというか怠いというか。昨日、夜更かししたかなあ。新作ゲームをプレイしている途中で寝たような覚えはないし……ん。

 背中痛いし、震動が体に……目を開けないと駄目だ。目を開けろ、目を……なんとか見開いた視界はぼやけているが、外のようだ。

「……?」

 見覚えのない誰かの顎のラインを下から見上げているような。足元がぶらぶらしていて、これはもしかして、

「あの」

 抱きかかえられているのか?

「目覚めたか、イズ」

 なんだかよく分からないがダッカーの腕の中で目覚めるという、一風変わった状況。

「えっと、一体、なにが?」

「イズ、無理しない程度に戦って」

 レイミアから指示が飛んで……周囲を見回すと、じり貧だ! ステータス画面を確認はしていないが、ロプト教団に取り囲まれている。

「降ろしてください」

「大丈夫か?」

「はい」

 心配してくれるのはありがたいが、それどころじゃないぞダッカー。

 この状況じゃあ、死ぬ気で戦わないと――

「マズイと思ったら逃げな、イズ。あんた一人なら何処へでも行けるだろう?」

 見捨てられたのならそうするが、城内でも城下でもない”ここ”まで、意識不明の私を連れて逃げてくれた人を見捨てるほど、

「そんなに薄情じゃないんで」

 私も極悪人ではない。ロプト教団から見たら極悪人だろうが。

 大盾を張り、オーラの魔導書に手のひらを乗せて、全魔力を込めて光の魔法を唱える。モーションは遅いが敵の数が多ければ多いほど、この魔法は”効く”

 光の壁で薙ぎ払う。普通の軍隊ならある程度倒すと怯むのだが、狂信者はそうはいかない。ロプト教徒の全てが狂信者なのかどうかは分からないが、私たちを追ってきた者たちは間違いなく”そう”だった。

 なんとか倒しきったものの、レイミアの部下は片手で数えるほど。

「そう言えば、ワープで逃げたら良かったね」

 全身全霊で戦ってしまったが、よくよく考えたら戦わず逃げる道もあった。だがレイミアは首を振る。

「ここで逃げたら、シレジア城まで追ってきたさ」

「そうなの……シレジアへワープしようか」

 

 ザクソン城にワープしてから話が全く見えないが、当初の目的を果たすためにダッカーをワープさせ、レイミアとその部下たちもワープさせて、最後に私がリワープを。

 

 ゲームでは殺す以外なかったダッカーとレイミアが生き延びた。生かしたいと思った人は、生かすことはできなかったんだけれど、そうは願っていない相手が……人生ってままならないなあ。

 私も被害を大きくすることを望んでいるわけじゃない。

 前髪ぱっつんも、意外と話せる奴だと分かったし、こうやって殺すしかないキャラクターと友好度を深めて、彼らに争いをおこさせないように……するのが最適なんじゃないか?

 争いさえ起きなければ、シグルドが死ぬこともない。根本的に――

 

 シレジア城に辿り着くと、辺りは私がザクソン城に向かう前よりも酷い状況になっていた。廃墟寸前の状態。

「一体、なにが」

 ダッカーは呆然とした表情で、壁に空いた大きな穴を見ている。

「イズ!」

 聞き憶えのあるデューの声。全員が私と同じ方向をむいた。

「デュー。なにが合ったの?」

「早く来て!」

 

 事態はいつのまにか前半の最終章へと突入していた――

 

「ダッカー公」

「ラーナ王妃、お久しぶりです」

「ご無事でなによりです」

 

 私がワープで逃がしたバイロン卿は、このシレジア城で戦死していた。

 

 敵の襲撃に警戒しつつ、ここに至るまでの状況を語り合う。

 ダッカーとレイミアの語るところによると、ダッカーがレイミア傭兵団を雇ったのは、王位を得る為であった。ここまではゲームと同じなのだが、同じ頃、マイオスが王位を欲するあまり暗黒教団と手を結んだことで、両者は対レヴィンという同じ目的でありながら、手を結ぶことはなかった。

 ダッカーは敬虔ではないがエッダ教徒の端くれであったマイオスが、暗黒教団と手を結んだことを重く考えて、彼らがシレジア国内に潜入していないかどうかを調べることにした。

 その結果、かなりの数の教徒が潜入していることに気付き、王位を狙うために雇ったレイミアたちを異教徒摘発に投じた。

 そしてレイミアの部下が、瀕死のグリューンリッターとバイロンを発見し、暗黒教団に狙われていると知ったダッカーはバイロンたちを匿うことにした。

 彼らの攻撃は激しく、このままでは住民の命も危ないので、住民を逃がすことにした。だが暗黒教団の信徒の目をかいくぐるのは、かなり難しい。

 そこでバイロンは自分が原因だからと、囮になることを決意。生き残ったグリューンリッターたちもそれに従う。

 ダッカーはパメラ隊に住民の護衛を任せて、応戦を開始した。

 シレジアへ援軍を求めるためにドノバン隊を派遣したらしいが、シレジアを攻めていたロプト教徒に殺害されてしまった模様。

 孤立して戦っていたダッカーやバイロン、レイミアたち。

 敵の目的はイチイバルやバルムンクからも分かるように、バイロンのティルフィング。

 執拗な攻撃を受けるバイロンが怪我をして、戦場から主を逃がすためにグリューンリッターたちは全員戦死。そしてレイミアたちの手によりなんとか生き延びたバイロン。

 だがロプト教徒は諦めず、次々とやって来る。

 

 そこに私が現れた――

 

 シレジアはどうだったのか?

 私とデューが居ない間に起こった出来事で、まず衝撃だったのは、フュリーが殺害されたこと。レプトールの罠にはまって殺害され、なんとか生き延びた一名がレヴィンたちに伝えた。

 

 そうだよ。フュリーはゲームでもシャガールに騙されてしまうような、かなり純粋な人でした。気合いを入れて保護しないと……騙されて死んでしまうようだ。

 

 フュリーがどのように騙されたか? なんのことはない、レヴィンの妃となった娘ティルテュに届けて欲しい物があると使いが来たので、隊を率いて呼び出された王子妃の実家であるフリージ城へと赴き、そのまま不意打ちを食らった。

 むしろ一騎逃げ延びただけでも見事なものだ。

 なぜ殺害されたのか?

 私とデュー以外は分からなかったようだが……どうも「アゼルと接触したから」だと思われる。

 経緯は不明だが、フュリーはレヴィンとティルテュの結婚報告の為にバーハラ城を訪れた際、アゼルと接触し会話を交わしたらしい。生き残った一名がその場面を見ていた。残念ながら会話の内容までは分からないそうだ。

 

 フュリー謀殺の報告が届くと、時を同じくして暗黒教団が攻め込んできた。

 

 そして私とデューが戻って来て、ザクソン城へと向かい――バイロンがワープしてきた。最初はみな、驚いたものの、ラーナさまがバイロンの顔を知っていたので、混乱はなかったそうだ。

 もっとも驚いていたのはバイロン卿だったという。

 それと言うのも、

「神器を装備している直系は、ワープさせることができないと言われている……ワープを成功させた人物を目の前にして言うのも滑稽だが」

 なんだそうだ。ダッカーが説明してくれた。

 ……ということは、

「では神器だけは?」

「武器だけをワープさせることもできるのか?」

「はい」

「それは……させたものが居ないので、私にも分からんな」

「そうですか」

 そう言えば、武器だけワープさせたとき、驚かれたもんな……

「あれ、そうか」

「どうしたの? イズ」

 情報交換の席にはデューもいる。無理を言って同席してもらったのではなく、自分から同席したいと申し出てきた。ダッカーが嫌がるかなと思ったのだが、そんなこともなかった。

「神器だけのワープは無理だなと」

「なんで?」

「それが出来るなら、暗黒教団は神器をもっと容易に奪えているはずだもん」

 なんとなくレプトールの考えが読めた。

 あのイチイバルをワープさせることができたら偽物……と見なすつもりだったんだ。片眼鏡の常識では。

 私は武器だけでもワープさせることはできるだろう。

「あ、そっか……ねえ、クロード神父さまをワープさせた時、イズそんなに疲れなかったよね。あの時、神父さまはバルキリーの杖を持ってたよね」

 それだ。ずっと気になっていたのは!

「うん。思うんだけどワープは杖が必要で、ブラギは全ての杖を扱える。だから自分自身をリワープさせることができなければ、それはブラギの直系ではないことになってしまうでしょ。だからブラギの末裔だけは特殊なんじゃないかな」

 クロードをワープさせた時、なんの障害もなかったからバイロンの時も気にせずにワープさせ、酷い疲労感に襲われた。

 

 それでバイロンがワープした先であるシレジア城。

 神器を狙っている暗黒教団としては、一箇所を襲えば二つの神器が手に入ることになるのだから、攻撃が激しくなった。その最中の戦いでバイロン卿は命を落とし――ティルフィングはデューが隠してくれたことで、敵に奪われることを免れた。

 

 それとティルテュは生前のバイロンの励ましもあり、なんとか立ち直ったようだ。完全ではないが……夫(レヴィン)の幼馴染み(フュリー)を実父(レプトール)が謀殺(トールハンマー)とか、きつすぎるよな。

 

 バイロン卿は埋葬され、ティルフィングは未だにデューが隠してくれている。

 

 そして私が意識をうしなった後のダッカーとレイミアだが、なんとか敵を退けて、城を捨てて私を抱えてシレジア城を目指すことにした。

「助けてくれて、ありがとう」

「あんたがバイロンをワープさせてくれたおかげで、敵が引いたようなもんだからね。でもやつら、あんたに相当興味を持ったみたいだよ。神器持ちをワープさせるような規格外だ、興味持たれて当然だけどさ」

 

 マンフロイの部下にはなりたくないです。まっぴら御免です。

 

「そうですか」

 私は三日ほど意識不明だったようで、そのうち敵に囲まれた。

「レヴィン王子とあんたが合流するのは避けたかったみたいだよ」

 それでも見捨てずに庇い戦ってくれたそうだ。なにこの綺麗なダッカーとレイミアとその仲間たち。

 

 守らないわけには行かないじゃない!

 

 私はぼーっと外を眺める。雲が流れていく空を眺めて――終わりが近づいたことを受け入れることにした。

 

**********

 

「悪い情報を持って来た。聞きな」

 

 リューベック城がランゴバルドに攻められている――そして、

「クルト王子の娘とシアルフィ公子対フリージ公、ドズル公、ヴェルトマー公連合。勢力は圧倒的にヴェルトマー公側」

 多少の違いはあるものの、バーハラの悲劇は幕を開けた。

 私が無能だったから……なのかどうか、所詮人の身というのはこういうことを言うのかな。初見は上手くいかないものだと自分を慰め、次回プレイに賭けるべきか。それとも――

 

 ここまで進んでしまったら、悲劇をどこまで回避できるか?

 

「……レヴィン」

 私は旅支度を調え”行く”ことにした。

「なんだ? イズ」

「シレジアのことはレヴィンとダッカー公に任せた。私はザクソン城から徒歩でリューベック城へと向かう」

 リューベック城には立ち寄ったことがあるのだが、ワープでは見落としてしまう可能性がある。

「イズ!」

 シレジアがどこまで持ちこたえられるか? ダッカーがいるから意外と頑張れるかもしれない。

「危険過ぎます」

 ラーナさまが死んだからシレジアが滅亡……とはなって欲しくない。

「行かないわけにはいかないのです、ラーナさま。リューベック城には、私の知り合いがいるのです」

 もうイザークに逃げ込んでくれているのなら良いのだが、その場合、セリスはどうなるのか? リューベック城にワープする前に、バーハラ城へとワープして状況と、事と次第によってはディアドラとセリスを連れて逃げよう。

「そっか。リューベック城が攻められているとしたら、アイラたちは逃げるしかないんだもんね」

「まあね。シレジアに逃げてくることはないとは思う。イザークに逃げ込むとは思うけれど、万が一ってこともある」

「だが、イズ!」

「アイラは強いから、生まれたばかりの子供たちとシャナンを連れて、ザクソン城を抜けてシレジア城に辿り着く可能性もあるから……その時は匿ってあげてね」

「……もちろんだ」

 引き留めるのは無理だと分かってくれたレヴィンが、悔しそうにそっぽ向いて頷いた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

29話

 助けられるものならば、助けたい――私はバーハラ城へと急ぎワープをした。

 城内は掃除が行き届き、花も飾られ掃除も行き、以前訪れた時と変わらないのだが、なにかが変わっていた。

 多くの城で迷子になった私だが、バーハラ城は豪華絢爛で目印になるものが多数あるので、ディアドラの部屋まで辿り着くことができた。

 

 これが罠で、ドアの向こうに大勢の敵がいるとしたら……大盾を出せるように意識を集中し、ドアをノックして返事も聞かずに開けた。

 その先にいたのは――

「イズ」

 シグルドとディアドラと……アズムールかな?

 年老い反乱で疲弊したアズムールの頬は痩け、顔には死相らしきものが浮かんでいるようだった。

「来てくれたのか」

「もちろん」

 だが室内にセリスはいなかった。

「セリス皇子は?」

「レックスに託した」

 この内乱をいち早く察知したのがレックスで、手遅れになる前にセリスを城から連れ出した。アイラたちと共にイザーク王国へと落ち延びる予定だという。

 懸念が一つなくなり、私は胸を撫で下ろした。

「アイラの子供たちも一緒だ。レックスはエーディンと共にイザークへと行くだろう」

 エーディンは身重だという――

 私はいつも通り、シグルドの大切な人の死亡を報告する。だが父親の死に、シグルドはあまり衝撃を受けなかった。

「父上は武人であったからな」

 親が死ぬ覚悟はできていたらしい……まあ、五歳か六歳程度の、年端もいかないアレスが行方不明なのよりは、動揺はしないか。

「私は何処へ向かえばよろしいでしょう?」

 グリューンリッター後方支援な突撃衛生兵ですから、何処へでも行きますとも!

 するとシグルドは、

「逃げろ」

 穏やかな表情でそう言った。

「シグルドさま」

「感謝しているイズ」

 完全に死ぬ人じゃないか。止めてくれよ――

「では私は好き勝手動いていいと」

「ああ」

「分かりました……逃げますか? 三人でしたら、ワープさせることは可能です。シレジアの次期王であるレヴィンさまが、亡命を受け入れるそうです」

 シグルドははっきりと否定する。

「いいや。バーハラ王家を守るのがシアルフィ公爵家の役目であり、ディアドラを守るのが夫の役目であり、私の希望だ」

 ここで留まって、戦うのだろう。じゃあ、そこに至るまで、私も付き合うとするよ。

 全部分かっているようで、なにも分かっていなかった私の罪と罰。

「失礼いたします」

 

 バーハラ城からシレジア城へと戻り、レヴィンにシグルドたちは亡命するつもりはないことをレヴィンに伝えた。

「受け入れないとは思ってたが……」

 バイロンを埋葬した場所に花を手向け、レヴィンに別れの挨拶をした。

 

 

 ゲーム中のジャムカじゃないが、デューには退場してもらうことにする。もちろん喧嘩腰ではなく優しい言葉で……ただし、厄介な品を持っていってもらう。

「デュー。頼みがあるの」

「なに? イズ」

 デューはバーハラ城へは亡命の関係があるので着いて来るとは言わなかったが、ザクソン城からは一緒に行くと言われたのだが、この先は滅びの一途なので別行動を取ってもらうことにする。

「ティルフィング、任せていいかな」

「任せるって?」

「この混乱が収まるまで、預かってくれないかな。神器を持ってワープをすると、反動が大きいだろうから。私の取り柄は縦横無尽のワープだからさ……暗黒教団が狙っているから、デューを危険に晒すことになるけれど……引き受けてくれる」

 ただ危険から遠ざけようとすると拒否するだろうが、同等の危険を持って離れてくれというのなら引き受けてくれるはず。

「分かった。おいらが預かってあげるよ、イズ」

「ありがとう、デュー」

「必ず、引き取ってね」

「うん。でも危ないと思ったら、捨ててね」

 上手く逃げきってくれ、デュー。

 

 他にも色々としたいことがあったのだが、時間がない。

 

 だが最後にティルテュには会っていこう。ドア越しでもいい、返事はなくてもいい。落ち着きはしたが、元来の朗らかさはなりを潜めてしまった彼女を元に戻そうというのではなく――本当にお別れだけを。

「ティルテュ、ちょっと出かけてくるから」

 扉の向こう側から返事はない。

「それじゃあ、また」

 元気なフォルセティアーサーとティニー産んでくださいとか、言えるわけもないので。あまりくどいのは趣味じゃないんで、返事を聞かずに部屋の前を離れた。

 

 ラーナさまとダッカーに挨拶をして、破棄したザクソン城を目指しシレジア城を後にする。訪れた当時はもっと城らしかったシレジア城。いまではすっかりと廃墟のようで――でもきっと、シレジアの人たちが頑張ってくれるだろう。支配されてしまうかも知れないが。

 城門を出るとレイミアが一人で立っていた。

「ザクソン城まで同行しろって、雇い主からの命令さ」

「……拒否されると困ると?」

「そういうことだね」

「帰りはワープで送り届けますよ」

 奇妙な道連れと、しばしの間、旅をすることに。ダッカーとレイミアは生存ルート……そう言っていいのかどうか、分からないが”殺さず”に事態を収束させることができた。

 おそらく、どのキャラクターも「人」となり、殺さずに済むルートが開けている――私はそれを見つけることがほとんどできなかった。

 だがやりようによっては、まだ救えるかもしれない。

 だから歩く。リワープでは見落としてしまうものを、見落とさないように、見過ごさないように。

 

 ザクソン城までの道のりは険しくはないが、人の気配もなかった。なんだろう、全てが息を潜めて、なにかを恐れている。それはロプトウスの復活なのだろうが、誰も口に出さない。その名を口の端に乗せたら、甦ってしまいそうだから――ロプト教団を暗黒教団と言い換えるのも、それが原因なのだとダッカーが教えてくれた。

 別に聞いてもいないのに、随分と色々なことを教えてくれたなあ。

 ザクソン城につき、レイミアをシレジア城へと送り返すためにワープの杖を構える。

「あんた、本当に独りで行くのかい」

「ええ」

「そっか。じゃあ、頑張んな」

「はい」

 レイミアをシレジア城へと送り返し、私はリューベック城を目指す。

 既にバイロンが死んでいるので、平原にスレイダーたちはおらず、リング卿を殺害していないであろう前髪ぱっつんもいないので、ただひたすら歩みを勧める。遠くに見える小さいリューベック城を目指して――

「あれは……」

 近づいてゆくと、リューベック城前で兵士たちが戦ってる。

 誰と誰が戦っているのかを知るために、兵士たちのステータスを確認すると……ランゴバルド兵とレックス兵が戦っていた。

 ドズル家内乱といったところか。

「え?」

 兵士たちが数名、飛ばされた――何かの力により吹き飛ばされた。なんだろう? と、そちらを見ると、派手なサーコートを着用した軍馬に跨る、髭面の逞しい中年男性。

 手には丸みを帯び、柄が短いブーメランに似た斧――スワンチカ――を持った男。

 ランゴバルドだ。

 その真向かいにレックスがいて、何かを喋っているが、私が立っている位置からは聞こえない。

 言い終わったのか、レックスが勇者の斧を構えて突進する。

 スワンチカでそれを受け止めて、睨み合い――ん? 

「レックス! 危ない」

 後ろから斬りかかる卑怯者が! 混戦としては正しいのだろうが。

 ライトニングで背後から斬りかかろうとした兵士を撃ち、レックスに駆け寄る。もちろん大盾は忘れない。

「イズ!」

「レックス」

 闖入者である私を馬上から見下ろし、

「貴様がイズか。レプトールは恐れていたが、ただの小娘ではないか」

 うっせーな。スワンチカさま。スワンチカなんて、ゲームじゃあ重いだけで、なんの役にも立たない、やられ役用の武器なんだぜ! ……そうだ!

「レックス」

「どうした? イズ」

「全力で試したいことあるから、この勝負、私に預けてくれない?」

 スワンチカは物理攻撃タイプの神器で、唯一攻撃時に所持者の手から離れる。

「……分かった。周囲は任せろ」

 私が距離を保ち魔法で攻撃したら、ランゴバルドはスワンチカを遠投武器として使うだろう。神器だけをワープさせることができるかどうか? その実験台に調度いい。

 戦場のど真ん中でぶっつけ本番というのも……私らしいと言えば私らしいかもしれない。

 デューが隠してくれていたティルフィングでは無意味だ。私が試したいのはただの神器単独ワープだけではなく”生きの良さ”が必要だ。

 さあ、攻撃してこいランゴバルド!

 その前に神器だけワープできるかどうか、こっそりと試す。

(ワープ)

 小声で呟きスワンチカ”だけ”をワープさせようとしたのだが、予想通り継承者が装備していると武器だけをワープさせることはできない。神器を危険視する暗黒教団が、簡単に奪えない理由が解った。

 よし! では、

「パルスのファルシのルシがパージでコクーンで、パルスのファルシのルシがパージでコクーンで!」

 久しぶりにラントニングを連続で。

 訓練されているであろう騎馬が驚き、ランゴバルドは体勢を崩す。このまま葬り去っても構いはしないが、デカイ口叩くなら反撃してこい!

「きさっ!」

 手綱を引き体勢を立て直して、ランゴバルドは私にむけてスワンチカを”放った”

「大盾」

 そして”ワープ”

 ランゴバルドの手を離れたスワンチカは私の目の前から消えて――鈍く叩き付けるような音がして、胸から血を吹き出し、自らの身になにが起こったのか理解できないまま驚愕した表情を貼りつけたままランゴバルドが落馬した。

 その背中にはスワンチカ。胸まで裂けている状態。威力の凄まじさを物語っている。

 攻撃威力をそのままにワープさせることは可能なようだ。

「イズ」

「お父さんを殺して、あの」

「気にするな」

 ただ疲労感はある。

 膝が震えて杖に寄りかかって自分の体を支えなくては――

「ちょっと、疲れたから、任せていいかな」

 神器を装備した聖戦士の末裔をワープさせたときよりはマシだが、通常のワープとは比べものにならないほどキツイ。

 

 血に濡れた大地に腰を降ろして大盾を張って、残りのライトニングで攻撃していると、アーダンさんが部下を率いてやってきて――ランゴバルドの部隊を追い払うことができた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

30話

「あー疲れた」

「来てくれるとは思わなかった」

 身重のエーディンと、生後まもないスカサハとラクチェ。そして光の剣を装備しているシャナンに幼いセリス。

 この五人と共に、

「私が全力で守る」

 アイラもイザークに行くのだそうだ。

 アイラが一緒に行ってくれるのなら安心だ。余程のボス敵に追われない限りは。

「イズ」

「シャナン」

 進み出て来たシャナンが、自慢気に話しかけてきた。

 記憶にある髪型よりも、少し伸びていた。

「ぼく、強くなったでしょ」

「……うん、強くなってる」

 ステータス画面を確認したら、レベルが12で光の剣が☆11に。着実に戦って強くなっているようだ。……ってか、人切り殺したのかシャナン。

「もっと強くなったら、クラスチェンジしてよ! イズ」

「分かった」

 私がシャナンをクラスチェンジさせることはないだろうが。

 六人がイザーク王国へと向かうのを見送り、私とレックスとアーダンは、残り部隊を率いてバーハラ城へと向かうことに ―― 戦争するには足りないのでは? 

 と、思っていると、アーダンさんが、本編では決して合流することない部隊の名を挙げた。

「キュアン王子とエスリンさまが援軍を率いて?」

 レンスター王国の騎士がやってくる。

「そうだ。援軍を率いてきてくださるそうだ」

「……」

 合流できるものならしたい。

 いや、だが、合流したところでバーハラの悲劇は回避できないだろう。

 戦死してしまうのならば、砂漠でバックアタックくらって死んでも――

 この戦いの首謀者はアルヴィスなので、フィノーラ城で合流してからヴェルトマー城を攻略してバーハラ城へと進軍するそうだ。

 熱い砂漠を通り抜け、メティオ装備のヴァハなどいないオアシスのフィノーラ城へと入り、キュアンたちが来るのを待ったが、約束の日時に到着することはなかった。

 

 そして――

 

「トラキアの竜騎士とレンスターの騎士が戦っていた」

「馬が砂に脚を取られて、ろくすっぽ戦えずしまい」

「トラキアはアルヴィスたちに雇われた」

 その一方的な虐殺を遠目に見ながら逃げた商人たちが、口々に噂して――レックスはこれ以上待てないと残りの兵士たちを伴いヴェルトマー城攻略へ。

 私とアーダンさんは、キュアンたちと合流するために部隊から離れた。砂漠のど真ん中を歩いていると、嫌な声が聞こえてきた。砂漠にも死肉を漁る鳥はいるんだなあ。生理的に不吉に感じる鳥の声を聞きながら、私とアーダンさんは無言のままそちらを目指す。

「キュアンさま。エスリンさま……」

 アーダンさんの声を聞き、私は目を閉じ熱い砂漠の太陽のほうへ顔をむけた。

 砂漠に取り残された命亡い馬と人はただの肉となり果て、鳥のくちばしが啄むことしかできないことをこれ程恨んだことはない。

 食われていたほうがマシだと――それは間違いなのだろうが、シルベールの焼死体のほうが幾分マシだった。

 表面が焼かれ、肉が縮んで赤々とした内蔵が飛び出した焦げた死体のほうが、熱に解かされ啄まれ穴が空いた死体よりも。

 額から噴き出す汗が目にしみる。泣きたいんじゃないんだ、泣きたくないんだ。ただ……もう、どうしていいのか分からない。

 いや、するべきことは分かっている。はっきりとキュアンとエスリンの死亡を確認して、レックスの後を追い、アルヴィスと対峙する。

 砂に取られたのは足だけではなく――暑さ以外のものが身を蝕み全身が緩慢に。

 だがこのまま太陽に黙って焼かれているわけにもいかない。息を大きく吐き出しながら、レンスターの死体の山に目をむけて、ステータス画面を出す。知らない名前が次々と映し出され、そして――

「アル……テナ」

 十七年後「トラキアの王女」として登場するはずの、キュアンとエスリンの娘を発見した。

 微かな望みなど、希望など持つものではないと言い聞かせながら”でろでろのぼろぼろ”としか表現しようのない死体の隙間を抜けて、生前の面影など残っていないエスリンの肩を掴む……死体特有の弾力が失われた肉の感触に、歯を食いしばりながらかつて体であった溶け、腐敗した肉の塊をよけると、焼けた砂とエスリンの間に挟まれたアルテナの死体があった。赤くそして黒く、熱と腐敗に肌が覆い尽くされており……死亡していた。

 

 トラバントはアルテナを回収しなかった?

 

 周囲を見回して、砂に埋もれたゲイボルグを発見した。

 埋葬することは叶わないし、これから戦いに赴くので彼らの遺髪を持って行くわけにもいかない。何時か回収できる日を夢見ながら、ゲイボルグを砂の大地に突き刺して、墓標として私とアーダンさんは、ヴェルトマー城へとワープした。

 着実に近づく終わりに向かってつき進む。

 

 私たちがワープしたときには、戦争は終わっていた。

 至るところに積み上がっている死体 ―― レックスの部下たちの死体が幾つも。最早シグルドを助けに行けるような手勢は残っていない。

「アーダン殿。イズ殿」

 レックスの部下に声をかけられ、ヴェルトマー城をレックスたちが制圧したことを知らされた。そういえば、レックスは指揮官レベルが上がってたなあ……この僅かな手勢で制圧できたんだ。

 私たちは部下に案内されて、

「よお、イズ。アーダン」

 ベッドの上で身を起こしているレックスと再会した。

「レックス、怪我……治すね。その、右腕以外は」

 全身全霊で戦ったのだろう。体中至るところに刃物の傷や、火傷の痕。そして右腕は肘下約五センチほどから下がなくなっていた。

「俺の傷を治したら、部下たちの傷を治してやってくれないか?」

「もちろん」

 傷口に巻かれているのは白い布だったのだろう。血や膿のようなもので染められて、元の色がはっきりと分からない。

 ライブの杖を先ず腕が切れた部分にかざして、精力を傾ける。

 触れているのではないのだが、傷口が閉じてゆく感触が。

「……」

「泣くな、イズ」

 キュアンとエスリンは助からないことを知っているのだから、ヴェルトマー攻略に来ていたら、レックスが腕を失うこともなかったのではないだろうか。

 私がいたとしても、変わらなかった可能性のほうが大きいけれども ――

「ごめん、レックス」

 それでも私は期待していた。もしかしたら、エスリンとキュアンを助けられるのではないかと。力及ばず、散々な状況になっていたにも関わらず。

「気にするな」

 レックスは左手で私の頭を撫でてくれた。

 キュアンが殺されたのは悲しいが、ここで長く接したのはレックスとレヴィン、キュアンは早々に帰国したので、私の中ではまだゲームの中の人だ。

 でもレックスやレヴィンは違う。

「ごめんね」

「いいや。……イズ」

「……なに……」

「アゼルだが、ヴェルトマーにはいなかった」

 

 レックスの治療を終え部屋を出ると、入れ違いにアーダンさんが。私は生き残った兵士たちの治療に専念して ―― 治療があらかた終わってから、アゼルの部屋へ足を運んだ。

 部屋はあの日、ティルテュと共にやって来た時と変わっていない。

 

 もうあの時は既に手遅れだったようだ。

 

**********

 

 バーハラの悲劇はヴェルトマーの惨劇に名を変えたのかも知れない――

 レックスの怪我がなんとか落ち着いた三日目、シグルドたちがヴェルトマー城へと逃げてきた。

 すでにアズムール王とクルト王子は亡き者にされ、ディアドラも深い手傷を負っていた。

「ディアドラさま!」

 肩から背中にかけておった傷をライブの杖でふさぐと、痛みがひいたらしく、苦しげであった呼吸が和らいだ。

「シグルドさま。ノイッシュは?」

 アーダンさんが部隊長の一人であるノイッシュについて尋ねると――ラケシスをレンスター王国へと送らせたとのこと。義姉を頼って、ということらしい。

 

 レンスターと聞くと、口の中に苦いものが広がる。

 私は聞かないふりをして、シグルドに背をむけて……アーダンさんからキュアンとエスリンの死を聞かされたシグルドは、

「そうか……」

 もう哀しみはしなかった。感情が疲れてしまったのかもしれない。

 泣いたり喚いたりできないくらいに。

 

 ディアドラは手遅れだったようで、傷はふさいだものの、意識を取り戻すことなく、夜半過ぎにシグルドの腕に抱かれたまま静かに息を引き取った。

 青ざめた表情は、けっして満たされたものではなく、かといって憎しみもなく。ディアドラも疲れてしまったのだろう。

 

 そして討伐隊がやってきた。

 

 アルヴィス率いる正規軍――という名のロプト教団の魔道師たち。

 レプトールが率いるゲルプリッターに、エスリンとキュアンを殺害したトラキアの傭兵竜騎士。

 こちらは僅かな騎士しか残っていない。……どう考えても負けだ。

 それでも戦わなければならない時がある。

「イズ」

「はい。なんでしょうか? シグルドさま」

 強がっているわけではなく――感情が摩滅してしまったその声で、私に最後の頼みを告げてきた。

「セリスを守ってくれ」

「……」

 治療したとはいえ、満身創痍のレックスも片腕で斧を担いで、気障な笑みを浮かべて、

「俺からも頼む。エーディンと生まれて来る子のことを守ってやってくれ。お前にしか頼めない」

 卑怯だなあ。

「イズ」

 アーダンさんはそれ以上語らなかったが、言いたいことは分かる。生まれたばかりの双子と、子供を産んだばかりで本調子ではないアイラのことが心配だと。

 あの時はまだエスリンとキュアンの援軍に希望を持っていたけれども、今はもう――

「このまま去るのはいやです。少しは戦わせてください」

「だが……」

「すこし痛い目を見せたら、すぐに離脱します。私にもエスリンさまやキュアン王子、アルテナ王女にレヴィン王子の幼馴染みである天馬騎士フュリーの恨みを晴らさせてくださいよ」

「……」

「倒して一緒にセリス皇子を迎えにいきましょうよ、シグルドさま、アーダンさん、レックス」

 

 無理だろうけれども、そう思って戦おう――

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。