自由と解放のために (風ノ華)
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旅の始まり
第01話「始まりは突然に 麦わらと黒龍」


にじファン時代と同じユーザ名の風ノ華です。
ここ、ハーメルンでは初めての投稿となります。

以前より書き溜めていましたが、2014/09時点で10話分しかストックがない状態で、かつ他作品に浮気もするため相変わらずの亀更新となります。

内容も自己満足の域を出ていないかもしれませんが、お暇な方・少しでも興味を持たれた方、読んでいただけると嬉しいです。


 雨が降り嵐が起きるローグタウン、かつての海賊王が処刑された街の中央広場にある高台に、麦わら帽子をかぶった男が一人拘束されていた。そしてそのそばには剣を構えた赤鼻の男。どうやら麦わらの男は今にも処刑されるところだった。

 

「テメー等邪魔だ!」

「このっどきやがれ!」

 

 その台の下では二人の男が赤鼻の部下であろう数十人と争いながら処刑台へと目指す。軽々と吹き飛ぶ人の群れ、二人の男との実力差はかなり大きいが彼等に今求められているのは単なる時間稼ぎ、それだけでいいのだ。引く事をせず更に群がる敵に男達は焦りを抱く。

 処刑台までもう少し、だがその少しが届かない。

 

「覚悟はいいか麦わら?」

「二人とも悪ィ、おれ死んだ」

 

 麦わらの男は笑った、まるで死を受け入れたかのように。

 

『バカな事言ってんじゃねぇ!!』

「ハデに死にやがれぇっ麦わ グォッ!!?」

 

 赤鼻の男が剣を振り下ろそうとしたそのとき、天から降ってきた人と頭がぶつかり吹っ飛ばされ、その衝撃で処刑台は壊れてしまった。

 

 周囲が唖然とする中、崩れた残骸の中から這い出てヒラヒラと地面に落ちてきた麦わら帽子をかぶりなおし男は先程と同様に笑みを浮かべる。

 

「なははっ!やっぱ生きてた、もうけっ!」

「ドアホッ!」

 

 麦わらの男を救出しようとしていた男達の一人、緑髪の男はあまりにも楽観したその言葉に思わず頭を殴る。だが殴られた筈の麦わらの男は全く痛がる様子を見せず何故罵倒されたのか腕を組み頭を捻った。

 

「この男に感謝しろよ?どんな偶然かはわからねぇが一応お前の命の恩人だ」

 

 もう一方の金髪の男は崩れた処刑台に埋もれていた人物を引っ張り出す。足を持たれていることと気絶しているためか首にも力がかからず長髪で顔も分からないが体つきから男だと分かる。その際地面に出来ていた妙なクレーターが珍しい形だと気になったが状況が状況なだけに何かの偶然かと気にする事をやめた。

 

「そーなのか?ならそいつメリー号に連れていってくれ」

「オーケー船長」

 

 その言葉に金髪の男は肩に担ぎなおす。

 

「海賊を一人も逃がすなー!!」

「どうやら海軍も来たようだぜ、どうする船長?」

 

 海賊達を一網打尽にしようと広場の周囲を取り囲んでいた海兵が一斉になだれ込んできた。

 

「よーし、ゾロ!サンジ!逃げるぞ!!」

『了解!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここはどこだ?」

 

 目を覚ました男は寝かされていた長椅子から身体を起こして部屋を見渡す。

 暗がりではあるが手入れの行き届いたキッチンにテーブルや椅子があることからラウンジのような場所だと推測した。そして、揺れる部屋に聞こえてくる荒れる波の音と激しい雨風、このことから嵐の海にいることが分かった。

 だがどうしてこんなところにいるのか、そもそもこの船は誰の船なのか、そして何故頭がズキズキと痛むのか、等々疑問が尽きることがなかったため男は少し前のことから自分の身に何が起こったかを思い返すことにした。

 

 

 

~ IN Reminiscence ~

 

 とある無人の島で浜辺に一隻の海軍の船が停泊していた。

 表には誰もいないが中からは慌しく動き回る音が響く。その中はまるで野戦病院のように大小様々な怪我を負った者達で溢れていた。

 船の責任者であり海軍本部准将であるベリーグッドにいたっては体に欠損箇所まである。だが彼の顔は傷の痛みではなく怒りで歪んでいた。

 それもその筈、彼はベリベリの実と呼ばれる悪魔の実の能力者だったからだ。

 彼は戦闘の際いつものように体の各部をとって組みなおそうとしたところ、敵にいくつかのパーツを奪われてしまった。

 奪われたとはいえ元は自分の体、方角とある程度の距離は分かっているのですぐさまその場所に部下達を何度も向かわせたが奪還には失敗し被害は拡大するばかり。

 

 今はかかってきたでんでん虫の先の上司にひたすら頭を下げているところだった。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、だいぶ海兵は減らせたが肝心の船は壊されてしまったし…どうやって逃げるか」

 

 見晴らしのよい山の頂上から一人の男が軍艦のある浜辺を見渡す。軍艦の横には見るも無残な状態の小船が一隻、どうやら男が乗ってきた船のようだ。

 男の足元には五組の新聞が放置されている。東西南北四つの海にグランドラインの新聞。情報は命ということもあり男がニュース・クーと個人契約をし毎日新聞を運んでもらっているものだ。羽振りが良いためか専用のカモメまで用意してくれている。何でも新世界生まれの超カモメらしく、凪の海でも根性で乗り越える猛者らしい。

 

 男は受け取った新聞から取り出した数人の手配書の中から一枚を抜き取り、ついに始まったのかとここ数日の間脱出の機会を練っていた。

 やはりこの状況では船を奪うのが一番労力がかからないかと考えていると不意に影が差した。

 

「お前が【黒龍】か」

 

 その影と突然かけられた言葉にギョッとして思わずその場から飛び退いた。

 いつの間にそこに居たのか、手に本を携えている自分の二倍以上の身長を持つ男を黒龍と呼ばれた男は油断なく見上げる。

 

「まさかアンタのような大物が俺みたいな小物の賞金首を狙うなんてな、【王下七部海 暴君】バーロソミュー・くま!」

「初頭額が億超えの者を小物とは言うまい」

 

 くまと呼ばれた男は懐から一枚の紙を取り出しつきつけた。

 そこに載っていたのは男の昔の姿であろう子供の頃の写真と【DEAD OR ALIVE】の文字に賞金額、所謂手配書だった。

 

 

*************************

【黒龍】のクロト

賞金額:二億一千万ベリー

DEAD OR ALIVE

*************************

 

 

 

「そんなもの海軍…いや、世界政府に都合が悪い奴とお偉いさんの体裁のためだけに高くしてるだけだろうが!」

「確かに、その考えは的を得ている」

 

 クロトは予想外の訪問客に考えを巡らせている。

 バーソロミュー・くま、超人系悪魔の実であるニキュニキュの実を食べた肉球人間。両手に肉球持ちの人間、聞くだけだとなごみ系と思ってしまうかもしれないが能力を知っている者としてはかなり厄介な人物だといえる。更にいうならば、最近のこの男は身体が異様に硬くなっているためダメージを与えるのも一苦労だという情報も得た。

 だが何故か様子がおかしい、この距離でも能力を使うための手袋を外さない上に全くといっていいほど殺気や闘気を出していない。

 

「…何が目的だ?」

「お前を逃がしてやる」

「なに?」

 

 その答えはクロトの戦闘態勢を解かせるのに十分すぎるものだった。

 

「それを信じろと?」

「今のお前に他の選択肢があるとでも?これからしばらくの後、大将赤犬が大艦隊と供にやってくる」

 

 確かにクロトはその情報も得ていた、だからこそ脱出を急いでいたのだから。

 

 大将赤犬、海軍が誇る三大将の一人。絶対的正義を掲げる海軍の中でも一際苛烈・過激な思想の持ち主で【徹底的な正義】を信条としている。その思想から海軍の中では一般人のいる場所では一、二を争う程に会いたくない人物だ。

 提案を投げかける王下七部海の中で謎の多いこの暴君だが、態々虚偽を話すためにやってくるとは考えられないため少しの思考の後クロトは頷いた。

 

「………分かった、信じよう。代わりに俺は何をすればいい?」

 

 どれだけ荒れようがこの世はギブ・アンド・テイク、受けた恩は出来るだけ返しておきたいクロトはくまに条件を聞く事にした。

 

「律儀だな…では、それらを起こした中心人物である数人のうち誰かに会ってもらいたい」

 

 くまは足元に転がっている新聞を指差す。

 四つの海の新聞全ての見出しに共通で出ている文字、それは【革命軍】だった。

 なぜに七武海の人間が革命軍に関わりがあるのか疑問は残ったが詮索は後でいいと考え頷いたクロトにくまは手袋を外して本を開く。

 

「では質問だ、旅行するならどこがいい?」

「なら………で」

「そうか、ではさらばだ」

 

~ OUT Reminiscence ~

 

 

 

「それで俺はくまに飛ばされたってわけか。なるほど、状況は少し分かった」

 

 ここが海軍の船という事はないだろう、もしそうならば今頃は力を封じる特殊な錠に繋がれた上で何重に拘束され牢屋に放り込まれている筈だ。

 ならばくまが会わせたいと言っていたあの人物に助けられたということか?

 未だ頭痛の理由だけはわからないが外から聞こえてくる陽気な声にクロトは部屋から出る事にしてドアを開いて目に映った外にいるメンツに思わず思考が止まった。

 

「おい船長、どうやらお客さんが目を覚ましたようだぜ」

 

 金髪黒スーツの男の言葉に麦わら帽子の男が振り向き羊の顔を模した船首からクロトのところへとんだ。その顔には人懐っこい笑顔を浮かべている。

 

「おっ、お前目ぇ覚ましたか。さっきはありがとな、おかげで助かった」

「さっき?助けた?どういう事だ?」

 

 いきなり助かった、ありがとうなどと言われても状況が理解できないクロトは周りに疑問を投げかけた。

 すると一番近くにいた緑髪の剣士が答えてくれた。何でも、この船長が処刑されかけたところに自分が空から降ってきて処刑しようとした奴を処刑台ごと吹っ飛ばしたとのだと。

 その後海軍が追ってきたが船長が直接礼を言いたいということで連れてきたということだった。

 

「なるほど頭の痛みはそういうわけか、状況も理解した。だがこちらこそ礼を言おう、お前等が連れ出してくれなかったら今頃は海軍に捕まってしまうところだった」

「ししし!気にすんなって、お互い様だ」

「そうか。俺の名はクロト、お前等は?船を見たところ………海賊のようだが」

 

 マストに立派に掲げられている髑髏のマークが彼等が海賊だということを雄弁に語っていた。人数は多少少ないようだが、少数精鋭ということなら納得は出来る。

 

「おぅ俺はルフィ、モンキー・D・ルフィ。海賊船ゴーイングメリー号の船長だ!」

「やはり【麦わら】のルフィか。平均賞金額300万ベリーの東の海では破格の初頭額3000万ベリーの大物ルーキー、海軍が噂してたぞ」

「マジかっ!?ししし、大物ルーキー♪大物ルーキー♪」

 

 ルフィは海軍にも知られている事に満面の笑みを浮かべている。というよりかは大物ルーキーと呼ばれている方を喜んでいるように見える。どうやらまだ手配される事の重大性は分かってないようだ。

 

「ところで麦わら、この船はどこに向かってるんだ?」

「おぉ、そりゃ勿論【グランドライン】だ!なぁナミ、後どれくらいだ?」

 

 ナミと呼ばれたオレンジの髪の女性は前方に見えている灯台を指差す。

 

「見て、あの灯台の光を。あの先にグランドラインの入口がある、だからこう呼ばれているわ【導きの灯】ってね。この海図と嵐だと、早くて二時間ってとこね」

「グランドラインか…。(くまには悪いが俺の用事を優先させてもらうか。必要だったらあっちから接触してくるはずだ)なぁ麦わら、こうして出逢えたのも何かの縁、迷惑をかけるかもしれないがもしよかったら俺をしばらくこの船に乗せてくれないか?」

「おぉいいぞ」

「ってうぉい!即断かよ!!?海軍に狙われるような奴だぞ、もっと警戒してだな…」

 

 長鼻の男がルフィの頭をパシッと叩く。やはりこの船ではルフィの船長としての威厳はあまりなさそうだ。

 

「何言ってんだウソップ、そりゃおれ達も一緒だろうが。おれ達ぁ海賊だぞ?」

 

 長鼻の言葉に剣士は呆れながら答える。

 

「そいつの言うとおりだぜ、それに船長が許可したんだ。んじゃまあ、グランドラインに入る前に誓いの進水式といこうか!」

 

 そう言って黒スーツの男は酒樽を船の真ん中に置いた。

 

 

 

 

 

「おれはオールブルーを見つけるため!」

 

 

 一人は恩人の、そして何より自分の夢のために

 

 

「おれは海賊王!」

 

 

 一人は幼い日に預かり受けた帽子と誓いのために

 

 

「おれァ大剣豪に!」

 

 

 一人は幼馴染との約束を果たすために

 

 

「私は世界地図を描くために!」

 

 

 一人は未だ成しえた事のないただ一人の手で世界の全てを描くため

 

 

「お、おれは勇敢な海の戦士になるために!」

 

 

 一人は父親のように果てなき海で命を張り誇りをもって生きるために

 

 

 

 

 

 

 

 それぞれが酒樽に足を置き、そして皆がクロトを振り向く。

 

「いやいや、俺は乗せてもらうだけだぞ?」

「んなもん関係ねぇ!この船に乗ったんならお前もおれの仲間だッ!!」

 

 同意の言葉はなかったが皆の顔に浮かんでいた笑みが答えだと知りクロトは自分の思いをこめて足を上げる。

 

「………いやはや、なんとも豪快なキャプテンだな。じゃあ………自由と解放のために」

 

 自分の目標を言葉にドンッと樽に足を乗せ

 

「行くぞ、【グランドライン】へ!!!」

『おおっ!!!』

 

 決意の掛け声で足を振り下ろした。

 船は走り出す、皆の夢を乗せて大冒険が広がる偉大なる海に向かって。

 




ローグタウンでの小話

ド「おい麦わら帽、その男…」

ル「何だ刺青のおっさん。コイツの知り合いか?」

ド「いや…連れて行くのか?」

ル「あぁ!一度助けられたからな。目ぇ覚めたら礼が言いてぇ!」

ド「フフフッそれもいいだろう。ならば行って来い……それがお前のやり方ならな!」

ル「ああ!行ってくる!!」


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第02話「【黒龍】のクロト」

あとがきに主人公の設定で明らかになったものを書いていきます。
出揃った時点と、気は早いですが2年後の時点で設定の1話をいれます。


 無事進水式を終えた一行は部屋へと戻りそれぞれがクロトへと簡単な自己紹介を済ませた。

 

 船長:ルフィ、戦闘員①:剣士ゾロ、航海士:ナミ、嘘つ…狙撃手兼技術職:ウソップ、コック兼戦闘員②:サンジ。

 

 四つの海の中では一番弱小の海とはいえ東の海で名を轟かしていた【道化】のバギー、【百計】のクロ、【首領】クリーク、【ノコギリ】アーロンと事如くを破って、更にはローグタウンにて海軍本部大佐・白猟のスモーカーから無傷で逃げ切った実力は小数ながらも精鋭だといえる。

 

「ならば俺ももう一度名前からいこうか。名前はクロト、生まれは知らんがグランドライン育ちで現在賞金首の冒険家だ」

「ルフィに続いて二人目の賞金首ってことね。で、いくらなの?」

「聞くと多分後悔する事になるぞ?」

「それってどういう…【クロト】?確かその名前ちょっと前に見たような…」

 

 聞き覚えのある名前にナミは思い出そうと頭をひねる。

 

「これのことじゃねぇか?」

 

 ゾロはテーブルの上に置かれたクロト宛てに届けられた今日の新聞のうちの一組をとってナミへと見せる。

 グランドライン用のそれの見出しにデカデカと書かれていたのは【大佐へと降格処分!?海軍本部准将ベリーグッド 黒龍のクロト懸賞金増加】という文字。

 更に新聞に挟まれていたのだろう一枚の手配書が落ちてきた。

 ウソップがそれを拾い上げ、そして手配書とクロトの顔を見比べると顔を青ざめさせ震える手でそれを皆へと見せる。

 

 

*************************

【黒龍】のクロト

賞金額:二億五千万ベリー

DEAD OR ALIVE

*************************

 

 

 写真は取られなかったため載っているのは昔のままのものだが金額が数千万ベリー上がっていた。

 

「あぁやっぱり上がったか…」

「『上がったか…』じゃないわよ!何なのこの額、ルフィの八倍以上あるじゃないの!?」

 

 ナミはクロトの肩を掴みガクガクと揺らす。

 それに対してクロトは心外だと言わんばかりに不満顔になる。

 

「失敬な、元は七倍だったんだぞ」

「そういう問題じゃないでしょ!?ルフィ、コイツやっぱり船から降ろしましょう!グランドラインにもまだ入ってないのにこんな早くから海軍本部に目をつけられちゃたまったもんじゃないわ!!」

 

 億超えの賞金首ともなれば海軍本部も黙っているわけがない。ただでさえローグタウンからの出航の際にも海軍に追われたというのに、グランドラインに入ってもいないこんな序盤の海から危険な目にあいたくないと判断したナミはルフィに進言した。

 

「くそ~~~、クロト!おれもすぐにお前を追い抜いてやるからな!!」

「こんなガキの頃から賞金首だったのかテメェは…」

 

 だが、肝心の船長はそんな彼女の心配事は気にも留めず、単純に自分との手配額の差に悔しがっている様子で降ろすつもりはさらさらなさそうに見える。

 ゾロやサンジにしてもせいぜい写っている写真の年齢に驚いてるくらいだ。

 

「楽しみに待ってるよ。そうだ、強くなりたいなら今度一度手合わせしてみないか?ゾロやサンジ、ウソップもどうだ?」

 

 ルフィとゾロは強くなることに貪欲で二つ返事で勿論と答え、サンジは少しだけ渋っていたが仲間を守るために強くなって損はないぞと耳元で呟くとメラメラと燃え上がり『ナミさんはおれが守る!!!』と二人以上のやる気を見せた。

 唯一ウソップだけは『お、おれは遠慮しておく』とあからさまな拒否を示したが、これからの冒険のためにも必要だということで無理矢理付きあわせることにした。

 

 

 

 

「ナミ、グランドラインに入る前にこれを預けておく」

 

 お気楽船長達には何を言っても無駄だとようやく諦めたナミにクロトが袋から何かを手渡す。

 

 伏した状態でジトッとした目でクロトを見たが、受け取ったものが不思議なものだったために体を起こしてまじまじと見る。ガラスの球体にてっぺんから何かで吊るされた針は一定の方向を示している。

 

「何これ?羅針盤にしては字盤が何も記されていないけど?それに北を指してないけど…壊れてるの?」

「何だ知らなかったのか?グランドラインでは他の海と違って磁場が常に乱れていて通常の羅針盤は使い物にならないんだ。そのためにそのログポースと呼ばれるそいつに島ごとが持つ磁気を覚えさせて航海するんだ」

「へ~」

 

 ナミは不思議そうにログポースを眺める。

 確かに指針は北とは違うが一点を指し示している。

 

「他にも気をつけなければならない点は多いぞ?島の季節はバラバラで、それぞれ春夏秋冬を持っているから夏島の夏から冬島の冬まで最低でも十六の季節に対応しなければならないし、海では風や波は常に変化する。突発的に起こるハリケーンにも気をつけなければならない。多分今まで培ってきた航海術がほとんど役に立たないって思える筈だ」

「あ、あまり脅かさないでよ…」

「怖がるナミさんもかっわいいな~」

 

 目をハートにしてクルクルと回りながらサンジがナミにだけティーを運んでくる。

 

「今は話の邪魔をしないでくれないかエロコック。せめてナミにだけでもグランドラインについてレクチャー出来ることはしておきたいんだ。実際この一味には船を動かせる奴が一人しかいないんだからな」

 

 そう、船長であるルフィはただ単に不思議で面白い海としか思ってないようだし、ゾロは筋トレ中でそもそも聞いているかも怪しい。比較的常識のあるウソップは一応話に参加してくれているが、航海術はないため結局この船は航海士であるナミの腕次第というわけだ。

 

「んだとこのクソロンゲ野郎!」

 

 エロコックの言葉にカチンと来たサンジはクロトに掴み掛からん勢いで詰め寄るが、ゾロが呟いた『お似合いじゃねぇか』という言葉にその脚をゾロへとのばす。ちゃんと聞いてたんだな、ゾロ。

 

「ちょっと黙っててゾロ、サンジくん!ねぇクロト、もう一つ聞きたいんだけどグランドラインの入口って山よね?」

『山ァッ!?』

 

 ナミの問いかけに一同が首をかしげるがクロトは海図のレッドラインを指して静かに頷いた。

 

「俺も直接見たわけじゃないが体験者からは何度も話を聞いているからその認識で間違いないと思う。東西南北4つ全ての海の海流がリバースマウンテンの運河をかけ登ってグランドラインへと流れ出ると言っていた。もっとも、入るのに失敗したら海の藻屑とも言っていたがな」

 

 海が山を登るのだから相当な急流なのだろう、想像をした誰かのゴクリと唾を呑み込む音が聞こえた。

 

「な、ならよ、そんな危ねぇ航路行かなくて直接行けばいいんじゃないか?」

 

 海の藻屑と聞いてウソップがビビり、海図を山から南に指しながら安全にこのまま直接入らないかという提案をする。それに対しルフィが反論しナミが頷くが、正面から入ったほうが気持ちいいだろという言葉を聞いて彼女はグーで頭を殴った。どうやら正しく認識しているわけではなかったらしい。

 そんな二人のやりとりを見てクロトは苦笑し説明をする。

 

「それが出来たら苦労はしない。あそこは凪の帯(カームベルト)と呼ばれていて、まともに航行できるのは海軍の船かよほどの事情がある奴かただの馬鹿だけだからな」

「あん?それってどういうウオッ!?」

 

 あやふやな言い方にゾロが詳しく聞こうと口を挟もうとしたとき船を突然の振動が襲う。

 

「どうやら入ってしまったみたいだな。静かに外に出てみろ、答えがそこにある」

「嘘っ!?」

「おっどうやら嵐を抜けたようだぜ?」

 

 ドアから差し込む太陽の光にゾロが振り返り皆を見る。だがクロトを除き誰もが驚愕の表情を浮かべている。ウソップにいたっては泡を吹いて気絶しているほどだ。

 クロトが笑みを浮かべながら後ろを指差しているので疑問に思いながらも再度振り向くと、そこには何匹もの大型の海の怪獣、海王類が顔を出していた。

 

「あがっ!?」

「大型の海王類の巣なのよ、凪の帯(カームベルト)は…」

 

 ナミは涙を流し座り込んでいた。

 

「ということだ、これで直接入る事の難しさが分かっただろう?」

「(テ、テメェはこの状況で何落ち着いてやがる!!!)」

「大丈夫、今回は俺の能力ですぐ運んでやるよ」

 

 ゾロの小声での叫びにも動じていないクロトは何事もなかったかのようにメインマストに駆け上りその身体を変化させた。

 

 肌は漆黒に染まり瞳は真紅に、顔も変化し口には牙まで覗がせている。肌や顔の変化だけには止まらず体も数倍に巨大化し、全体的に鋭利なフォルムへと変貌し、そして背中からは翼が生え出た。

 

 突如として現れた異形のものに海王類からは敵意が向けられるが、変身したクロトの一睨みで半数がその巨体を震えさせ、残りの半数は逃げるように海に沈んでいった。

 

「あ、悪魔の実の能力者だったのか、お前も…」

「動物系幻獣亜種・ドラドラの実の龍人間だ。あまりこの状態にはなってられないから早めに運ぶぞ」

「赤、いえ紅い目の黒い龍………だからあんな二つ名だったのね」

「スゲーーーーーッ!!!カァッコイイィーーーーーッ!!!」

 

 目をキラキラとさせはしゃぐルフィを背中に乗せ、クロトは翼を広げメリー号を持ち上げるとナミの指示で海流の手前近くまで運んでいった。

 その途中で目が覚めたウソップだったがクロトの姿を見て

 

「ギャーーーーッ海王類にお持ち帰り状態にーーーーッ!?」

 

 と叫び再び泡を吹き倒れた。

 そのためクロトが能力者だということがウソップに知られるのは少し先のことになるのだった。

 

「…海王類が空飛ぶか阿呆」

 

 ゾロのその呟きがウソップに届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと身体を拭いてくる」

 

 再び嵐の中に戻ったのでクロトは人型に戻って濡れた身体を拭くために船室へと戻っていった。

 誰も来ないなと何度も確認し、右半身をドアから隠すようにした上でクロトは服を脱ぎ右腕に直接巻いていた包帯を外した。身体には大小様々な傷痕、火傷や銃創も所々にあり、そして包帯をしていた右腕には竜の蹄のような痕があった。




クロトの設定です。追加されたものには[*NEW*]を付けていきます。

[*NEW*]【黒龍】のクロト
[*NEW*]年齢:18歳
[*NEW*]賞金額:2億1千万→2億5千万
[*NEW*]賞金首時年齢:4歳

[*NEW*]悪魔の実:動物系幻獣亜種・ドラドラの実 モデル紅眼黒龍
※要するにレッドアイズブラックドラゴン


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砂漠の国のお姫様
第03話「クジラの中での邂逅!砂漠の国のお姫様!?」


あとがきに主人公の設定の追記をします。
都度設定の追記をすると思いますが、どこかの段階でまとめる予定です。


 船のスピードが急激に速くなった。どうやらうまくグランドラインに入る流れに乗ったようだ。

 

 体を拭き包帯をキッチリと結び直し替えの服に手を伸ばしたところで耳を押さえてしまうほどの音が響き、次いで大砲の音にルフィの怒号と皆の叫び声、そして船を衝撃が襲う。何事かと思い揺れの治まりを待ち外へ出ると空と海が広がっており、目の前には小さな島が見えた。

 メリー号の象徴ともいえる羊の船首が折れているのとルフィが見当たらないがこれといって何もないじゃないか、それなのに何故皆が皆放心しているのかとナミに聞いてみると、巨大クジラに飲み込まれ気づいたらこの場所にいたということらしい。それが本当ならとしばらく空を注視しているとその答えとなる違和感に気がついた。

 

「…雲、カモメもそうだが全く動いてないな。それにあの小島、若干だが揺れているのと土台に金属部が見える。ということはここはその巨大クジラの腹の中で空はペイントで、海は胃酸ということで間違いないか」

 

 やっぱり食べられたんだ、そうナミが気落ちしていると胃酸の海からかなりの大きさの大王イカが現れウソップをその足で捕まえた。ゾロとサンジが助けようと構えたが大王イカの背後からいきなり生えたモリにより絶命した。

 

「花?いや人間か」

 

 崩れ落ちる大王イカの後ろに現れたのは一人の老人だった。仲間の危機を助けられたとはいえ見知らぬ人物、重苦しい緊張感が辺りを包む。

 ゾロやサンジは老人の後手に回っても大丈夫なようにその一挙手一投足を逃さないように見る。

 

 老人が動く、二人は来るか!?と身構えたが老人は何事もなかったかのようにビーチチェアに座り新聞を読み始めた。

 

「何か言えよコラァッ!」

 

 しばらく傍観していたサンジだったがついに老人にキレる。老人は何も語らず威圧感を出し睨むように甲板の一味全員を見る。その無言の重圧に耐え切れなくなったウソップは震える声で『こっちには大砲があるんだぞ』と威嚇をした。

 

「大砲?止めておけ、死人が出るぞ………私という、な」

「お前かよ!!!」

「まぁ落ち着けよ。おい爺さん、アンタは誰でここはどこだ?」

 

 声を荒げたサンジを押さえたゾロの質問に対し老人は自分のことから言うのが礼儀ではないかと軽く非難する。

 

「あぁ…それもそうだな、おれは「私はクロッカス、この双子岬の灯台守をやっている。年齢は71、双子座のAB型だ」オイコラ爺さん…」

 

 先に名乗った上に聞いてもいないことまでペラペラと喋る老人に苛ついたゾロの手が刀に添えられたのを見てようやくクロトが手で制し一歩前へ出る。

 

「はじめまして、間違っていたらすみませんがあなたがDr.クロッカスですか?」

「ドクターなどと呼ばれるのは何年ぶりだろうか。お前は?」

「クロトといいます。レイさんが懐かしがってましたよ?」

「レイさん?…ほぅ奴を知っておるのか。そうだな、この年になると久しぶりに会ってみたいとは思うな。だが私はここを離れるわけにはいかんのだよ」

 

 クロッカスが空を、といってもクジラの腹の天井を仰ぎ見る。

 その言葉に皆が押し黙っていると突如鈍い衝撃音が響き胃酸の海が波立ち始めた。

 

「ラブーンの奴め…また始めおったか。少し待っておれ、このクジラを落ち着かせたらそこの外まで連れて行ってやる」

 

 クロッカスが胃酸の海に飛び込み、代わりに出口と思われる扉のすぐ近くからルフィを含む三人が落ちてきた。

 

「ルフィ!?」

「おぉ~みんな無事だったんか~。よかった~…けど助けてくれクロトォッ!」

 

 メリー号の姿を確認したルフィはホッとした表情を浮かべたが自身の状況から、変身したら飛べるということを知っているためクロトに助けを求めた。

 

 変身には若干時間がかかるクロトは船べりから胃酸の海にジャンプし、空中をまるで地面があるかのように蹴ってルフィと水色の髪の少女を抱えもう一人の男をメリー号の近くに蹴落として船へと戻る。

 

「お~助かった~。クロト、サンキュ~な」

「あ、ありがとう」

 

 ルフィは素直というか単純な性格のため、助かったことに礼を言うだけだったが、そのあまりにも異常な行動は一味と少女の目を見開かされるのには十分すぎるものだった。

 

「クロト、アンタ今変身しないで空飛ばなかった!?」

「何ィッ!!クロト今空飛んだのか!?スッゲェーーーー!!!」

 

 言われてようやく気づいたルフィはつい先程と同様にキラキラとした眼差しでクロトを見た。

 

「今のは六式と呼ばれる海軍が考案した体術の内の一つで【月歩】というものだ」

「か、海軍の!?じゃあクロト、お前元海兵だったのか!?」

 

 クロトの言葉に当然の疑問がゾロの後ろに咄嗟に隠れたウソップの口から出てくる。どんだけビビリなんだよとゾロの言葉にウソップはビビってるわけじゃねぇよとおそるおそると出てくる。

 

「いや、俺は海軍にいたことはない。六式は|知識≪・・≫として家族から譲り受けたものだ」

「家族の誰かが海軍ってこと?なのにアンタが賞金首になってその人に迷惑はかからないの?」

「それはない。幼少時に巻き込まれた事件で俺を助けようとしてその人とはそれっきりだからな…」

「ご、ごめん…私そんなつもりじゃ…」

 

 ナミ自身、元海兵の養母親を持ち海賊に殺されたという過去を持つ少女。仲間になったばかりでクロトの過去など知る由もなくそのつもりはないが少々非難めいた言い方をしてしまったが、自分も養母親が生きてて海賊になることを反対したとしても言うことは聞かなかっただろうが。

 クロトの予想外の反応に謝罪の意を示したが本人はあまり気にしていない様子だ。

 

「気にしないでくれ。出会ったばかりでまだお互い話していないことも沢山ある。これから知っていけばいい、だろ?」

「クロト…ありがとう」

「こっちこそだ、心配してくれてありがとう」

 

 クロトはそう言って笑い、落ちたもう一人のために梯子をかける。

 

「き、きみ…ヒドイじゃないか」

 

 上ってきた男は開口一番にクロトに文句を言う。

 梯子を片付けていたクロトの動きが止まり男へと顔を向ける。

 

「俺の手は二本しかないからな、救助者が三人いて助けるなら船長と、次いでか弱そうな人だろう?文句があるならもう一度落ちるか?今度は梯子もかけてやらんがそれでも構わないか?これだけ大きなクジラだ、胃酸の力もきっと凄いだろうな」

 

 もっとも、助けようと思えば船の甲板に叩きつけることで助けられたのだが、彼のいかにもという感じの王様ルックが気に入らなかったからあえて胃酸に蹴落としたというのが事実のクロトだった。

 男が叩き落されたときに見た胃酸の底には人を含む色々な骨もあったため溶かされるイメージを具体的に想像してしまい、すぐさま土下座をした。

 

「あなた様の寛大なお心に感謝します」

「いやそこまで謙る必要もないんだが…まぁいいか。それより君、少しいいか?」

「な、何かしらハニー?」

 

 先ほどの言葉と無意識にクロトの威圧感を感じ取った少女は引きつった表情になりながらも答えた。

 

「何をする気か知らんがまずはその物騒なものは回収させてもらう」

 

 クロトはの二人の持つバズーカを回収する際、誰にも気づかれないように小さな紙片を手渡す。

 それを見た彼女の目が驚愕で見開かれるのをクロトは見逃さなかった。

 

「答えなくて結構、その反応だけで分かった。その紙は捨ててくれていい。一応言っとくが俺とこの一味はあなたの目的の邪魔はしないよ」

 

 彼女の手の中の紙には【砂漠の国のお姫様】とだけ書かれていた。

 




【黒龍】のクロト
年齢:18歳
賞金額:2億5千万
賞金首時年齢:4歳

悪魔の実:動物系幻獣亜種・ドラドラの実 モデル紅眼黒龍
※要するにレッドアイズブラックドラゴン
[*NEW*]戦闘スタイル:六式


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第04話「歓迎の島?暗躍する組織」

1月振りとなりますが、相変わらず新規分が進まずストックを使います。


 暴れていたラブーンが大人しくなって数分後、戻ってきたクロッカスに連れられて一同は再び外の光を浴びることが出来た。

 

 ルフィと一緒にラブーンの体内に落ちてきた二人が捨て台詞を残し去った後、クロッカスからラブーンの身の上話を聞いたルフィは船のマストをへし折りラブーンの怪我をした部分へと思い切り突き刺した。

 当然のように暴れるラブーン。ルフィの行動を見てクロトは呆然とし、残りの皆は叫び声をあげる。

 

「ってか船ェーーー!!!!!」

 

 ウソップだけは叫び声の種類が違ったようだが…。

 

 ラブーンは痛みで怒り、ルフィを潰しにかかる。その際マストも更に深く刺さることになり結果血が更に吹き出る。その様子を見て馬鹿にするルフィにラブーンは続く一撃を見舞った。灯台に吹っ飛ばされたルフィだったが仕返すようにラブーンの目へとパンチを伸ばす。

 それを何度か繰り返しルフィはついに灯台に倒れこんだ。

 ラブーンはまだ怒りが収まっていないようで更なる一撃を与えようと突っ込んでくるが

 

「引き分けだ!!!」

 

 ルフィの発した言葉にその動きを止める。

 

「おれは強いだろうが!!!いいか、おれとお前の勝負はまだついてないからおれ達はまた戦うんだ!」

 

 話についていけていないラブーンは目をパチクリさせている。

 

「お前の仲間は死んだけど、おれはお前のライバルだ。おれ達がグランドラインを一周したら必ずお前に会いに来るから!」

 

 

 

「そしたらまたケンカしよう!!!」

 

 

 

 ルフィの言葉に納得がいった皆には笑顔が浮かんでいた。

 そして新たな約束を受けたラブーンは歓喜の声を上げた。

 その中で

 

「なるほど、そういうことだったか。本当に大概の内容を忘れているな…」

 

 などと言うクロトの呟きは誰の耳にも届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 クロッカスを含めた全員(とはいってもゾロは船で寝ているが)でサンジがローグタウンで仕入れたエレファントホンマグロに舌鼓を打っているとき、服の端々を焦がして先ほどの二人が頭を下げてやってきた。

 

『お願いします、ウイスキーパークまで乗せてください!!』

 

 詳しく聞くとドジな男のほうがログポースをラブーンの体内に落としてしまったらしい。

 だがログポースだけならクロトが持っていたため、クロッカスから譲り受けた予備のログポースをあげれば済む話だったが、二人は何故か船も失ってしまったため自分達の島に戻れないというのだ。

 

「おう、いいぞ」

 

 低姿勢の二人の言葉にルフィはいつぞやのように即答する。

 

「『いいぞ』じゃないでしょ!いいのルフィ?クロッカスさんが言ったとおりなら、グランドラインで選べる七つの航路は最初のここだけなのよ。それをこんな胡散臭い奴等のために決めちゃっていいの!?しかもタダで!!!」

「いいんだ、困ったときはアレって言うだろ、アレって」

「お互い様だってこと?」

「そう、それだ!それによ、気に食わなかったらもう一周すればいいだけじゃねぇか」

 

 あまりにもあっけらかんに答えるお気楽船長にナミは頭を痛める。

 

「そうか、ならば楽しんで行って来い」

 

 クロッカスはどこか懐かしい者を見るような優しい目でルフィ達を見送った。

 

 

~ SIDE ゾロ ~

 

「ん~~~~、あーよく寝た。ん?おいおい、いくら陽気な天気だからってんなダラけてて大丈夫なのか?」

 

 ぽかぽかとした陽気に気持ちよく目を覚ましたおれが最初に見たのは船首で海を眺めてるルフィ以外のぐったりとだれた一同と、クジラを襲おうとしていた二人組の、同じくだれた姿だった。

 

「おいルフィ、コイツ等なんで船に乗ってるんだ?」

「ソイツ等船がないって言うからよ、島まで送ってやることにしたんだ」

 

 おいおい、うちの船長はどうしてこうもお人好しで楽観者なのかね。まぁだからこそこんな個性的な一味が集まったんだろうがな。

 にしてもコイツ等の名前…。

 

「おぅお前等、名前何つったっけ?」

「ミ、Mr.9と申します」

「ミス・ウェンズデーよMrブシドー」

「そうその名前、どっかで聞いたことがあるんだよなぁ」

 

 擬音の描写があるとしたらコイツ等の今の顔は確実に『ギクギクッ!?』と描かれているだろうな。

 さらに追求しようとしたが突如頭を痛みが襲う。

 殴られたのだと認識し文句を言うべく振り向くと、そこにはまるで般若のような顔をしたナミがいた。

 そのあまりもの形相におれは思わず声が詰まってしまった。

 

「アンタは起こそうとしてもグースカグースカと!クロトが三倍働いてくれたから何とかなったけど、ちょっとは気を張っていなさいよね!」

 

 そういやクロトの奴がいねぇな。アイツもどっかでくたばってんのか?

 

 実際のところ料理にナミの雑用にとこなすサンジのほうがクロトの二倍以上に働いて疲れていたのだとウソップが言ってたが、ナミの『ありがとね、サンジ君』の言葉一つで|いつもの状態≪メロリンラブコック≫となり更なる雑用もこなす様子を見てエロコックは単純ですんでいいな、と思った。

 

 ならクロトだな、ちょうど頼みたいこともあったしな。

 

「そいつは悪かったな、ところでクロトの奴はどこにいる?」

「ったく。あっちで目を閉じてじっと座ってるわ、座禅っていうのよねあれって?」

 

 座禅?あいつの戦い方は海軍の六式って体術を使った格闘戦だって言ってたからあまり必要はないって思うが精神修行の一環かなにかか?

 その辺も一緒に聞いてみるか。

 

「ちょっと行ってくる」

 

 そっと船の後方に行くとナミの言ったとおりクロトは確かに禅を組んでいた。

 その集中するさまにやっぱ邪魔しちゃマズイかと思って引き返そうとしたら逆に声をかけられた。

 

「何の用だゾロ?」

 

 こっちを見ずに気配だけでおれだって分かるのかコイツは…。いや、歩き方なんかでも多少の事はわかるが。

 

「悪いな、邪魔するつもりはなかったんだが…」

「邪魔じゃないさ、日課の訓練をしていただけだから」

 

 やっぱり精神修行の一環だったか。

 

「いや、精神修行じゃなくて気配や心を読む訓練だ」

 

 コイツ、おれの考えていることを!?殺気や気配ってんなら分かるが心を読むって、んなこと本当に出来んのか!?

 

「まぁ疑うのは仕方がないと思う。とりあえずそうだな、【信じること】それが近道だ。今はまだグランドラインに入りたてで航海に気を張っていないといけないだろうから、落ちついたら一度皆に話をしようか?」

 

 これだけじゃまだ断定は出来ないが、多分コイツが言っていることは本当なんだろうな。

 

「そうしてくれ。それともう一つ、お前武器は使えるか?」

 

 抽象的な言い方だったが心が読めるってんなら多分これだけでもおれが言いたいことを分かっているだろうな。

 

「心が読めるといってもあまり詳しいことまではわからないぞ?まぁ今回は質問の理由はわかったが。剣は使ったことがないし強い奴とは大概素手で戦うが、集団戦や格下相手ではこれをよく使うな」

 

 そう言ってクロトが袋から取り出したのは木と鋼鉄で作られた二種類二組のトンファーだった。

 

「トンファーか、確かにこれならお前の格闘戦の延長上にもなるな」

「剣とはリーチや型が違うからあまりお前向きの練習にはならないと思うが筋トレや素振りなんかよりは実践的な訓練は出来ると思うぞ」

 

 そいつはありがてぇ。何しろルフィといいエロコックといい格闘戦をする奴ばかりだったからな。コイツの強さと鋼鉄のトンファーだったらいい訓練になりそうだぜ。

 鷹の目を超えるためにもおれはもっともっと強くならなきゃならねえ。まず目指すはクロトを超えることからだ。

 

「どうやら島に着いたようだ、皆の所に行こう」

 

 たしかに、ルフィの奴が騒いでいるな。

 クロトと船先に戻ってみるとあの二人組みはいつの間にやらいなくなっていた。

 

 島が近づくにつれ霧が深くなり、ウソップは島に入るのにビビっていたが気にせずに船を進めてみると霧の中から人の声が聞こえてきた。

 

「ようこそ!歓迎の町ウイスキーピークへ!!」

 

 島に着いたおれ達を待っていたのは歓迎ムードの島の奴等だった。

 海賊を歓迎って普通ねぇだろ、それにこの島はさっきの奴等の島だ。

 ナミに邪魔されたからちゃんとした確認が取れなかったが奴等の互いの呼び方、おそらくは前に接触してきたあの【会社】に関わっているんだろう。

 

 調子に乗っているルフィ・ウソップ・エロコックの三馬鹿は完全に騙されているみたいだが、ナミやクロトはそんなことはねぇらしいな。

 ま、酒造が盛んってことは少しは上等な酒があるんだろうしここは少しの間だけ乗せられてやるとするか♪

 

~ SIDE OUT ~

 

 

 歓迎として宴を広げてきたが、酒や食べ物を無理矢理勧めてくるのに辟易したクロトは早々にその場を抜け出しサボテン山の麓にある丘の上で一本だけくすねてきた上等な酒を片手に月を眺めていた。

 

 瓶を傾けゴクッと中身を飲む。

 

「いい酒だ。………こんないい月夜なんだから邪魔をするのは無粋じゃないか、なぁ【バロックワークス】?」

 

 自分を取り囲む武器を構えた島の住人に問いかけると一様にその顔を驚きへと変えていった。

 

「な、何故我が社の名前を!?」

「秘密結社だといって完璧に情報が入らないわけじゃない。とりあえず風情を愉しむ邪魔だから………寝てろ」

 

 クロトがひと睨みをするとその場に居た全員が泡を吹いて気絶した。

 

 しばらくの月見酒を楽しんだ後、空になった瓶を気絶した連中の前に置いて町を振り返る。

 

「ご馳走様っと…どうやらゾロも片付けたようだな」

 

 気配のほとんどが弱まってまともに動けるのは数名といったところだ。

 クロトは合流を果たそうと剃でその場を後にした。




【黒龍】のクロト
年齢:18歳
賞金額:2億5千万
賞金首時年齢:4歳

悪魔の実:動物系幻獣亜種・ドラドラの実 モデル紅眼黒龍
※要するにレッドアイズブラックドラゴン
[*UPD*]戦闘スタイル:拳、トンファー、六式


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第05話「ウイスキーピーク出航!賽は投げられた!!」

「おかしい、気配が分かれている?」

 

 離れていく気配と殺気、そして戦闘中と思われる二つの気配。とりあえずまずは、とより強い気の高まりの元に辿り着いたクロトは目の前で起こっている出来事に疑問を投げた。

 

「ナミ、これはどういうことだ?何故ルフィとゾロが戦っている?」

 

 言葉には出していないがクロトは何故今こんな所でこの二人が戦っていると言いたげな顔だった。

 

「クロト!?いい所に!あの馬鹿達じゃあ役に立たないわ、ミス・ウェンズデーを探して保護して!!」

「…分かった。彼女はあっちに向かったんだな?」

「あ、あぁ。あちらに脱出用の船がっ!だが追っ手にはオフィサーエージェントがっ!!」

 

 クロトは男の話の全てを聞かないうちに剃で駆け出していた。

 

「聞いてた通り本っ当に速いわね…。これからの海兵全員が会得しているわけじゃないってクロトは言ってたけど、うちにはすでにルフィとあわせて賞金首が二人もいるんだからホントいつ会うか分からないわね」

 

 すぐにクロトの姿を見失ったナミは、これから先自分達に訪れるだろう脅威に自分の身の心配をしていた。

 

「き、君は何故一人で行かせた!?知らないだろうがオフィサーエージェントはあの剣士が相手取ったこの町の住人とはレベルが数段上なんだぞ!!それも二人とも悪魔の実の力を得た能力者!!!」

「大丈夫大丈夫、クロトは今のウチの一味の中では誰より何倍も強い…筈だから。あなたもグランドラインの人なら【黒龍】の名前を聞いたことくらいはあるんじゃないかしら?」

「な、何と彼が!?」

 

 彼の驚きにクロトが思った以上に名が知られていることが分かりこれからの航海に思いをはせるナミであった。

 

 

~ SIDE ビビ ~

 

「終わりだ!アラバスタ王国王女ネフェルタリ・ビビ!!」

 

 ようやく敵の尻尾をつかんだのに!ようやく争いを止められると思ったのに!!ここまでなのッ!!?

 

「死ね、鼻空想砲≪ノーズファンシーキャノン≫!!」

 

 Mr.9を一撃で倒したMr.5の攻撃が私に迫ってくる。

 悔しさで思わず顔を伏せる。

 

「キャハハハ、直撃~♪」

「任務完了、だな。簡単な仕事だったぜ」

 

 二人の声が聞こえる?まだ何とか生きているのかな?痛みの限界を超えているからなのか身体の痛みが全く分からない。

 少しでも動くならと身体を動かそうとすると不意に地面に下ろされる感触と頭を撫でられる感触を感じた。

 

「顔を上げなお姫様、上に立つ者は簡単に下を向いちゃいけない」

「なっ!?」

 

 目を開いて顔を上げると黒い長い髪の毛が目に映った。

 

「あ、あなた…」

「そう、苦しいことがあってもそうやって前を向いてな。そうすればいつかきっと良いことが待っているから」

 

 そこにはあの船の中でただ一人私の正体を見破った男が笑って立っていた

 

「テメェ一体何者だ!?」

 

 声に気づいたMr.5は警戒心を露わに今度こそ止めを刺すために鼻へと指を伸ばした。

 

「今は海賊さ。そうだな、お前等だったら【黒龍】といえば通じるか?」

 

 彼の答えが予想外だったのか鼻をほじっていたMr.5の指がズボッと奥に入り込んだ。

 …思えばあれってかなり汚い攻撃方法よね。全身爆弾人間って言ってたけど、どうせやられるならMr.9がやられたさっきの技は勘弁してほしいわね。

 

 それにしても………

 

「こ、黒龍だと!?馬鹿なッ奴はここよりずっと先の海にいる筈…」

 

 そう、この【黒龍】って呼ばれた人はアイツ等があそこまで警戒する程の人なのかしら?

 

「ま、まぁいい。それが本当ならボスに良い土産が出来たぜ。覚悟はいいな黒龍!!」

「キャハハハ、これで私達の昇進間違いなしね」

「少し離れてろ、すぐに終わらせる」

 

 私は言われるままにカルーと一緒に少し離れた建物の残骸の陰に隠れた。

 後に気づいたことだけど、戦っている隙に逃げるべきだと欠片も思わなかったのは無意識にこの人を信頼してしまったからなのかな?

 

「すぐに終わらせるだと?ほざけ、食らえ鼻空想≪ノーズファンシー≫…ど、どこ行った!?」

 

 Mr.5が攻撃をしようと指を構えたが突然彼の姿が消えた。

 

「遅いな」

「なっ!?」

 

 い、いつの間にMr.5の後ろに!?

 この人だったらもしかして…!

 

「この距離では自分や仲間がいるから爆破出来ないだろう?」

 

 彼のすぐ後ろにはミス・バレンタインがいた。

 

「フッ…フハハハッ甘いな黒龍、不用意に近づきすぎだ!喰らえ全身起爆!!!」

 

「ッ!!」

 

 嘘!?ミス・バレンタインがいるのに爆破したの!!?

 そんな私の考えを否定するかのようにミス・バレンタインは煙の中からフワッと飛び上がってきた。

 

「キャハハハ、甘いわね。Mr.5はボムボムの実の爆弾人間、火薬や爆発の類は効かないわよ!そして私は体重を操れるキロキロの実の能力者!爆風に乗るくらいの軽さに体重を変えれば問題ないのよ!」

 

 そうだ、あの女も能力者だった!

 

「いくら黒龍っていってもMr.5の技をあんな至近距離からくらえば終わりよね。なら私は裏切り者の始末をつけてやるわ!くらえ一万キロギロチン!!」

 

 私の真上から勢いよくミス・バレンタインが落下してくる。

 

「クッ「嵐脚」えっ!?」

 

 やっぱり逃げるべきだった、そう思って武器を構えた瞬間、爆発があったところから声とともに飛び出てきた何かが落下する彼女を襲った。

 

「やれやれ、油断大敵だったな。おかげで服がボロボロだ」

 

 煙の中から現れたのは爆発の影響でボロボロとなった服を脱ぎ捨てる彼と気絶させられたMr.5の姿だった。

 露わになった彼の身体を見て私は息を呑んだ。

 

 先ほどの爆発による傷は全くないが、体の至る所にある大小様々な傷、それに銃創も十は優に超えているのではないだろうか。そして複数の何かを押し当てられたであろう火傷の痕。

 私の視線に気づいた彼は苦笑いを浮かべ「女性の前で配慮が足りなかったな」と踵を返しMr.5からコートを剥ぎ取り羽織った。

 

 その時私は見た、月の光を浴びて浮かび上がった彼の背中の龍を…。

 

~ SIDE OUT ~

 

 

 何故助けたんだと聞いてきたビビにことのあらましを説明し皆のところへ戻ってみると、そこには二重にタンコブを作ったルフィとゾロに、ビビと似た服装をしたイガラムと話をしているナミがいた。

 ナミの様子が少し落ち込んで見えるのは気のせいだろうか?

 

「イガラム!無事だったのね!!でもその格好は!?」

「ビビ様こそよくぞご無事で!がん……ゴホッ!マ~ママ~♪……感謝しますぞ黒龍殿」

「礼はいいんだが、何故うちの航海士はこうもショックを受けているんだ?」

「その、ですな…つい喋り過ぎてしまいまして…」

 

 どうやらイガラムはバロックワークスについて話しているうちにうっかりと敵ボスである王下七武海クロコダイルのことを言ってしまったらしい。

 それを聞いていたのだろうすぐ傍にいたラッコとハゲタカによって三人は似顔絵つきでマークされてしまったそうだ。当然、Mr.5ペアを破ったこともありクロトのほうにも二匹はやってきたが、どうせ関わり続ければいつかはバレることと一瞥だけして無視することにした。

 

「なるほどな、安心しろナミ。確かにクロコダイルは七武海で当時の賞金額は八千百万ベリー、自然系悪魔の実であるスナスナの実の能力者だが勝てない相手じゃない」

 

 七武海に入った時点で賞金額はなかったものといしてしまうので判断材料としては弱いが、悪魔の実の種類についておおまかな話を一応してあるためナミの表情はさらに悲壮感が漂いだす。

 

「すっごく不安になる要素が沢山なんだけど…アンタはそんなヤバイ奴に勝てるの?」

「言っただろ、勝てない相手じゃないって。根拠は後々話すとして、今はここから一刻も早く離れるべきじゃないか?」

 

 その恰好から同じ考えをしているだろうイガラムに視線を移すと彼は静かに頷いた。

 

「そうですな。アンラッキーズに知られた以上奴等の情報網にかかれば今すぐにでも千人を超す追手がこの島にやってくるやもしれません、この付近にはそういう島が多数ありますからな。ではビビ様、アラバスタへのエターナルポースを渡していただけますか」

 

 ビビからエターナルポースを受け取ったイガラムは、ダミーの人形を四体乗せアラバスタへと船を出した。

 さぁ私達も行きましょう、ナミが言ったその矢先のことだった、突如船が爆発し海が炎で赤く染まったのは。

 

「なっ!!?」

「そんな…もう追手が!!?」

「いや、気配が少ない。それにいくらなんでも早すぎる」

「どっちにしろここでおれ達が見つかったらあのとっつぁんの行動が無駄になる!ルフィ、お前は馬鹿二人を起こしてこい!クロト、お前はおれと船の出港準備をッ!!」

 

 それからの行動は早かった。

 船へと戻り錨を上げマストの用意をし、ルフィが連れて投げてきた二人を受け取ってナミ達を待つ。

 

「カルガモなんて探してる暇ないわよ!」

「けど置いていけないわ!」

 

 ナミの怒声に船上の三人は同じ方向に視線を向ける。

 そこには船に乗ったときから気になっていた存在がいた。

 

『こいつのことか?』

「クエッ!」

 

カルガモのカルーは元気よく羽を上げ返事をした。

 

『そこかァ!!!』

「おれ達より先に来てたぞ」

「ならもう大丈夫だろ?ビビ、進路は川上でいいのか?」

「えぇ、少し上れば支流があるから、少しでも早く航路にのれるわ!!」

「よし、行くわよ!!!」

 

 船を出してしばらくの後、ようやく目を覚ましたお気楽二人組にナミが説明という名の鉄拳制裁を行いもう一度気絶させた。

 島を抜ける頃には薄明るくなり辺りには霧が立ち込めてきたそんなとき、ふと知らない声が聞こえてきた。

 

「あー追手から逃げられてよかった」

「本当よね」

「霧が深いから船を岩場にぶつけないように気をつけなきゃね」

「誰に言ってるのよ。その辺は任せな、さい?…って誰よアンタ!!?」

 

 聞き覚えのない声の出所を探してナミが見つけたのは帽子をかぶった褐色肌の見知らぬ女性だった。

 

「いい船ね」

「ミス・オールサンデー!?何でアンタがこんなところにいるの!!?まさかアンタがイガラムを!!?」

「今度は何!?何番のパートナーなの!!?」

 

 ビビの様子にナミはクロトが倒した刺客より大物の気配を感じ怖いながらも続きを促した。

 

「|Mr.0≪ボス≫の、クロコダイルのパートナーよ!!」

「ミス・ウェンズデー、尾行させてあげた情報は役に立ったかしら?」

「わざとだったって事は分かってたわ!そしてクロコダイルに私達の正体を告げたのもアンタでしょ!!一体何が目的なの!!!」

「さぁ、いったい何かしらね?………フフ、そうね、本気で国を救おうとしている王女様があまりにもバカバカしかったから、かしら?」

 

 その薄笑いがビビを激昂させるのには十分すぎるものだった。

 

「ナメんじゃないわよ!!!」

 

 その言葉を皮切りとしてルフィ、クロトを除く一味全員がミス・オールサンデーに敵意を向ける。

 

「………そういう物騒なもの、私に向けないでくれる?」

 

 ミス・オールサンデーはため息をつくと手も触れずサンジとウソップを投げ飛ばし、ゾロとナミの武器を叩き落とした。

 そしてじっと見ていたルフィの帽子を自分の手元へと投げ渡した。

 

「お前帽子返せー!!!やっぱケンカ売ってんだろコノヤローーー!!!」

「フフフッ焦らないで。私は別に指令を受けてきたわけじゃないわ。だからあなた達と戦う理由はないわ、提案をしに来ただけよ」

「提案?一体何の?」

「あなた達のログポースの示す次の島の名は【リトルガーデン】。私達がわざわざ手を下さなくてもそこの彼以外は全滅するでしょうね」

 

 手を振るミス・オールサンデーの視線の先にはクロトがいた。

 

「お久しぶりね、黒龍さん」

「クロト以外?クロト、アンタあの女と知り合いなの?」

 

 相手が悪魔の実の能力者と知ったナミは一味の中で一番頼りになりそうなクロトの後ろに隠れながら問いかけた。

 

「まぁな。ロ…っと、ミス・オールサンデーとは三年ほど前に一度会ったことがある」

「少し前の新聞は見たけどいつの間にこの一味に入ったのかしら?」

 

 彼女が言っているのはおそらく懸賞金が上がった例の記事の事だろう。

 

「なに、ほんの少し前だ。それより提案の方を先に済ませたらどうだ?」

「それもそうね」

 

 ミス・オールサンデーは麦わら帽子を器用にルフィの頭に投げ、次いでビビにエターナルポースを渡した。

 

「それはウチの社員も知らない秘密の航路。行き先はアラバスタの一つ手前の【何もない島】よ。これで随分と危険が下がるんじゃないかしら?」

 

 ビビはじっとエターナルポースを見つめしばらく思案していると横からルフィの腕が伸びてきてそれを奪って握り潰した。

 

「何やっとんじゃーーーっ!!!」

 

 ナミが折角危険な旅が少しは楽になるかもしれないのにとキレるが

 

「この船の航路をお前が決めんな!」

 

 と自分がこの船の船長なんだと言い放った。

 

「フフ、威勢のいいことね。そういうの嫌いじゃないわ。それじゃあアラバスタで会えるのを楽しみに待ってるわ」

 

 そしてクロトの横を通る際一度足を止める。

 

「…あなたは私を止めないの?」

「お前の目的を知ってるからな、それに対する覚悟も…」

「………そう、相変わらずの情報網ね」

 

 その言葉を聞いて若干ミス・オールサンデーが纏う空気に緊張が走る。

 

「一つ予言しておこうか。今回の事件が終わった後、お前はまたこの船に乗る」

「フフッ面白い冗談ね。その前に生きて会えるかどうかすらわからないわよ?Mr.0は狡猾な男だから」

 

 ミス・オールサンデーはそう言い残して船の横にいた亀に飛び乗った。

 

「(ニコ・ロビン、まだ彼女はしばらく心を閉ざしたままなんだろうな)」

 

 クロトは遠ざかっていく亀を見ながらそんな風に思った。

 

 

~ SIDE ロビン ~

 

「彼等は無事アラバスタに来れるかしらね…いえ、出来ることなら来てほしいものね」

 

 提案をした理由は単純に無事にアラバスタに着いてほしかったから、麦わらの船長さんには断られちゃったけど。

 本心から言えば私は国の乗っ取りなんて望んでないもの。

 ただあの国には私が求めてやまないものがある。そのためにあの男に手を貸している。

 

 あまり考えたくないことだけどもしも今回のものが求めるようなものじゃない場合…いえ、今考えることじゃないわね。

 

「それにしても黒龍のクロト、彼の情報網は一体どうなってるのかしらね?」

 

 初めて会った時は三年前、そのときにはすでに私の名前も今居る場所も、そしてMr.0の正体も知っていた彼。

 邪魔はしないという彼の言葉と私自身と同じような境遇だと思ったからと今までクロコダイルには報告しなかったけど、今回の件で知られることになるわね。

 

~ SIDE OUT ~




【黒龍】のクロト
年齢:18歳
賞金額:2億5千万
賞金首時年齢:4歳
[*NEW*]容姿:龍星座 紫龍

悪魔の実:動物系幻獣亜種・ドラドラの実 モデル紅眼黒龍
戦闘スタイル:拳、トンファー、六式


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第06話「小さな庭の大きな決闘!赤鬼と青鬼」

前回投稿から早半年…。
ストックが出来るどころかあまりにも書けないことにショックです。

読んでいただけている方は大変お待たせしました。
待たせてもあまり長くはないものと思いますがご覧ください。


 ミス・オールサンデーの提案を断ったルフィ達一行が向かったのは、ログポースが指し示したとおりのジャングルが生い茂り太古の生物が蔓延る島、リトルガーデンだった。

 

 島に近づくにつれてルフィの表情はより生き生きとし、反対にクロト以外全滅するというミス・オールサンデーの言葉を信じたウソップ・ナミはため息の数が増えている。

 それでもまだ船を島の中に進めていくと島の危険性が顕著になりだした。密林の王者たる虎が血まみれで倒れ、上空には見知らぬ怪鳥が鳴き、そこかしこからいくつもの大型の獣の気配を感じる。ウソップ・ナミの両名はログがたまるまで静かに船で待機しようと提案するが時既に遅し、約一名の心は限界を突破していた。

 

「く~何かワクワクしてきた!サンジ、海賊弁当!!おれ、ちょっと冒険してくる!」

「冒険ってルフィ、アンタね…」

「しししし、お前も来るか?」

 

 この島は危険なんだと告げようとしたがあまりものルフィのウキウキとした表情にナミはシクシクと対照的な行動を見せる。

 

「あっじゃあ私も行こうかな。ねぇルフィさん一緒に行っていいかしら?」

「おう来い来い!」

 

 来る者拒まず、一緒に冒険を愉しもうとする存在にルフィは笑顔で了承する。

 

「それじゃあビビちゃんには愛情弁当を作ってあげるよ~」

「カルーにもドリンクをお願いできるかしら?」

 

 モチロ~ン!と答え船内に消えていったサンジが弁当を用意する間を今か今かと落ち着かない様子でルフィは船上を走り回っている。

 

「アンタ、意外に怖いもの知らずね…」

「じっとしてたら悪いほうにばかり考えちゃうしね、ログが溜まるまで少し気晴らししてこうかなって。大丈夫、ルフィさんもいるしいざとなったらカルーだっているんだから」

 

 ニコッと笑う彼女とは対照的にカルーはその【いざとなったら】何をされるのかと冷や汗と涙を流しガクガクと震えている。

 

「本人これでもかって程に驚いてるみたいだけど?」

 

 すぐに調理を終わらせ弁当とドリンクを受け取った二人、どうあっても逃げられないと悟ったカルーは少しビクビクしながらではあるがビビを乗せ、ルフィとジャングルの奥へと消えていった。

 

「んじゃ、おれもヒマつぶしがてら散歩でもしてくるか」

 

 ちょっと待ったと船を下りたゾロにサンジが声をかける。

 馬鹿騒ぎをした挙句、追っ手が来ると慌てて出航したために前の島ではまともな補給が出来なかったので次の航海の食糧が不足しそうだとか。それを喧嘩を売るような言葉で了承するゾロ、その言葉をたやすく買うサンジ。二人は狩り勝負だと足音も荒くジャングルへと入って行った。

 

「さてそれじゃあ俺も行こうか………二人とも、離してくれないか」

 

 皆に続いて船を降りようとしたクロトだったが、左右の足にまとわりつくようにしがみつくナミとウソップ。涙を浮かべイヤイヤと首を横に振る二人を見て思わずため息が出る。

 

「わかった、ここにいればいいんだな」

 

 物凄い速さで首を縦に振る二人に再びため息を吐きつつ船を下りようと船べりにかけた手をを元に戻す。

 

「ナミはまぁわかるがウソップ、お前はあの時誓った【勇敢な海の男】になるんだからルフィとまではいかなくてももう少し冒険心を持ったほうがいいんじゃないか?折角巨人族がいる島に着いたんだから」

 

 クロトは懐から取り出した本を挿絵のあるページに開いて二人へと見せた。

 

「何だよ巨人族って…」

「巨人族?………あぁっ!!!」

 

 ナミは本の内容を思い出しウソップに伝えた。

 

【あの住人達にとって…まるでこの島は“小さな庭”のようだ。巨人島“リトルガーデン”…この土地をそう呼ぶことにしよう。――探検家ルイ・アーノート――】

 

 ウソップが何かに気づいたのか声もない叫びを出している顔に変化する。

 

「まぁいいか。お目当ての人物がこうして近づいてきたんだから、なぁ【赤鬼】のブロギーさん?」

「ガバババババ!!久しぶりにやってきたチビ人間はえらく威勢がいいじゃねぇか。それにその名を聞くのも随分と久しぶりだ」

 

 クロトが振り返るとそこにはジャングルをガサガサッとかき分けるようにして顔を出してきた巨人の男がいた.

 

『ギャーーー出たアァァーーー!!!』

 

 ナミはクロトの後ろに、ウソップはそんなナミの後ろに隠れ叫び声をあげてしまう。

 

「お前等なぁ…ん?ブロギーさん後ろを見てみな」

 

 気配に気づいたクロトがブロギーに注意を促す。

 振り向いたそこにいたのは今にも襲い掛からんと大口を開けていた一匹の肉食恐竜、その姿を認識したブロギーは体を反転させた勢いで振るった斧の一撃でもってその首を両断した。

 

「ガバババババ、我こそはエルバフ最強の戦士ブロギーだ!肉も手に入れた、おいお前等酒はあるか?」

「10樽分ちょっとならあるな、だがアンタには足りないんじゃないか?」

 

 どう見ても樽=グラスといったものにしか思えずクロトは苦笑するが、飲めれば構わないというブロギーの言葉を聞いて調理用の必要最低限を残して全て持ってくることにした。

 

「チビ人間、お前名前は何ていうんだ?」

「クロトだ、なぁこの酒だが半分はもう一人の巨人族の【青鬼】のドリーさんにもやってもいいか?」

「ドリーの事も知っていたのか。勿論だ、お前なかなかいい奴だな、気に入ったぞガバババババババッ!」

 

 自分の飲み分が更に減るというのに笑いながら快く提案を受けいれた事にクロトも笑い声をあげる。

 

「…信じられない」

「もう打ち解けてやがる…」

 

 ブロギーの肩に乗って旧知の仲のように話す様子を見て二人は呆れたようにその場に立ち尽くすのだった。

 

 

 

 ブロギーが住処としている巨大な骨の家に到着して数十分、ようやく緊張がとけた二人とともにブロギーの色々な話を聞いていると、突然島の真ん中に位置する大きな火山が噴火を起こした。

 

「闘い始めて早百年」

 

 ブロギーは立ち上がり武器を手に闘気を高めだした。

 

「いつの頃からか、真ん中山の噴火が決闘の合図になった」

 

 幾ばくか離れた所から同様にもう一人の巨人が声を上げ姿を現した。

 

 二人は互いに向かって走りそして大きく武器を振るった。

 

『決闘の理由など!とうに忘れた!!!』

 

 そしてぶつかり合う。

 

「ガババババババ!ドリー今日こそは勝たせて貰うぞ!!」

「ゲギャギャギャギャギャ!それはこっちのセリフだブロギー!!」

 

 二人の戦いは様子見などというものはなく互いに繰り出すのは的確な狙いの一撃必殺の攻撃。剣の一撃を跳躍で避け斧による反撃、それを兜で受けて体勢を崩しながら剣をかちあげるが構えた盾で強引に逸らした。ぶつかり合う武器、ビリビリと伝わってくる互いの闘気、二人の戦いを食い入るように見ていたウソップだったが、ナミはそれどころじゃないとクロトの意識を自分に向けさせた。

 

「どうしようクロト、ログがたまるまで一年だなんてビビの国クロコダイルに乗っ取られちゃうわよ!」

「心配はいらない。島内にバロックワークスの追っ手が来ている、少なくとも二つは知っている気配、前の島にいた爆弾人間のペアだ。あとは誰が来ているかは分からんが指令として来ている以上、ログポースなりエターナルポースなり何かしらの移動手段は持っているだろうからそれを奪えばいい」

「ちょっと!それってビビが危ないんじゃ!?」

「ルフィがそばにいるから大丈夫だとは思うが…そうだな、この勝負が終わったらブロギーさんにドリーさんのところへ連れて行ってもらうか、と言ってる内に勝負はついたようだな」

 

 二人はお互いに武器を弾き飛ばされ、最後には顔に拳を叩き込み同時に倒れこんだ。

 

 戻ってきたブロギーに一同は仲間に合流するためにドリーの所へ連れて行ってもらえないかと頼み込む。酒樽も渡すことだしいいだろうとブロギーの許可も貰え、差し出された手から肩に乗りドリーのところへと向かう。

 戦闘中じっと二人の様子を見ていたウソップが自分も二人のような誇りをもって戦う勇敢な戦士になりたいのだと伝えるとブロギーは誇りこそがエルバフの地に受け継がれる永遠の宝で自分達も死ぬそのときも誇りを滅ぼすことなく名誉ある死を望みたいとそう笑って話すのだった。

 

「ほらよドリー、コイツ等がこの酒をくれたチビ人間達でコイツはクロトってんだ」

「ゲギャギャギャギャギャギャッ!ありがとうよお前等」

「礼はいいさ、それよりそっちに俺達の仲間がいると思うんだが連れて行ってくれないか?」

「麦わら帽子のチビ達のことか?お安い御用だ」

 

 クロトの予想通りドリーのところにいたルフィにビビ、だが何故かそこにはカルーの姿がなかった。言われて二人もようやく気づいたようで、二人の戦いの前までは確かに一緒に居たのだと言う。おそらく二人の決闘の苛烈さに逃げ出したのだろうが戻ってくる気配がない。

 クロトがMr.5ペアを含む刺客が島内にいると言うと、ビビは敵に捕まった可能性もあると一人探しにいくと言い出した。だが危険すぎるという事もありその案はすぐに却下され、ならばとクジ引きの結果ルフィ・ウソップ・ナミの組とクロト・ビビの組に分かれて探すことにして一度巨人族の二人とは別れる事にした。

 

 そして島内を探しまわる事十数分、再び真ん中山が大きな音を立て噴火した。

 

「またあの山が噴火した!」

「お互いにダメージはあるが気力は充実しているみたいだ…いや、ブロギーさんの様子が少しおかしい気がするが…まさか!?」

「どうしたのクロトさん…ってキャッ!」

「スマン、文句は後で聞くからしっかりつかまってろ!今はあの二人のところに行かなきゃならない!!」

 

 突然おぶわれる形となったビビは困惑と多少の気恥ずかしさで顔を赤くするもクロトの表情を見て頭を切り替えた。

 

「バロックワークスなのね!?」

「あぁ。ビビ、残ったエージェントの中で出世欲が強く姑息な手を使う奴はいるか!?」

 

 姑息な手、そう言われてビビは頭部が特徴的な一人の男を思いついた。

 

「Mr.3!ドルドルの実を食べたろうそく人間がいるわ!もしかしてアイツがこの島に来てるの!?」

「そいつかどうかは分からんが、Mr.5のペアは頭を使うタイプの奴等じゃないから誰か他の刺客がいるのは間違いない」

「でもどうしてあの二人の所に?」

「二人の懸賞金がまだかかったままだからだ、互いに当時の金額で一億ベリー!それより、ソイツの詳しい能力を聞かせてくれないか」

「分かった「一世紀………永い戦いだったな、ブロギー…!!!」えっ!!?」

「なっ!?」

 

二人は見た、ドリーがその大きな剣を振り下ろすところを。

 

 

 

【続く】

 




二人の決着は逆になりました。


書くのが遅いのはやっぱりプロットが書けないのと他SS(H×Hやこのサイトではマイナーな漫画)の作成も同時に兼ねているせいですかね…。
次話は出来るだけエタらないように心掛けたいと思います。


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第07話「穢された誇りのために!ルフィ怒りの新技!!」

待っていた方がいるかもわからないですがようやくの次話投稿です。


~ SIDE ルフィ ~

 

 カルーを探すためにクロト達と別れて探すこと数分、いつの間にか迷子になったウソップとナミを一緒に探すうちにもう一人の巨人のおっさんのところに辿り着いたみたいだ。そこでおれが見たのは口から血を流す丸い巨人のおっさんだった。

 

 おっさんは酒を飲んでたら爆発したと言うけど、おれ達はそんな事しねぇ!!

 おっさんもあの黒髪のチビ人間≪クロト≫の仕業じゃないと言ってくれたのには安心したけどそれでもおれは怒りが抑えられなかった。

 

「丸いおっさん、絶対安静にしてろよ!おれが犯人見つけてブッ飛ばしてくるからッ!!」

 

 ちくしょう!誰が一体あんな真似をしたんだ!!

 しばらく森を走りまわったけど誰も見つかんなくて高い所から探そうと、首の長ぇ恐竜に登ったところででかい山から爆発が起きた。

 

「あの山って確か…!!!」

 

 思い出したのは最初に会った巨人のおっさんの言った言葉。

 

『いつの頃からか、真ん中山の噴火が決闘の合図になった』

 

 立ち上がる巨人のおっさん達、そしてさっきの戦いと同じように同時にお互いに向かっていった。

 ダメだ巨人のおっさん!この決闘は邪魔されたものなんだ!!

 おれの叫びも届かず何度かぶつかり合った後、突然滑り転んだ丸いおっさんにむかって巨人のおっさんは剣を振り下ろした。

 

「7万…3千…467戦………1勝!」

 

 涙を流していた巨人のおっさんが白い何かに包まれて崩れ落ちた。

 

「あそこにいるのか!二人の決闘の邪魔をした奴がッ!!!」

 

 おれは巨人のおっさんが持っていた剣に向かって腕を伸ばした。

 

~ SIDE OUT ~

 

 

 飛んできたルフィが目にしたのは四人の男女、Mr.5ペアとMr.3ペアだった。

 

「お前等かァ!!巨人のおっさん達の決闘を邪魔したのはッ!!!」

「君が懸賞金3000万ベリーの麦わらのルフィだガネ?」

「うわっ変な頭!【3】じゃん、しかも【3】燃えてるし!!」

「うるさいガネ!!!麦わらのルフィ、これを見るガネ!」

 

 Mr.3が指差した先には巨大なケーキを連想させるような白いオブジェがあった。上部のかぼちゃはグルグルと回転をし白い雪のようなものを降らせ、その根元には自分の仲間が突っ立っていた。

 

「何だお前等、迷子かと思ったらそんなところで何してんだ?」

『捕まってん「だ/の」よ!!!』

 

 大声を出すのに口を開いたため、降り注いでいるロウの霧を吸い込んでしまい咽るウソップとナミ。柱を壊さないとロウ人形になってしまうからと助けを求める二人に対し、ゾロは落ち着きはらってどうせ固まるならと片手をあげてポーズをとり始めた。

 

「ふ~んそっか。ゾロ、ヤバかったのか?」

「いや問題ねぇ。とりあえずこの柱ブッ壊してくれるか?やり方は任せるからよ」

「おぅ!」

 

 そう平気な顔をして言うゾロだったが彼の足元からは血が吹き出ていた。それを見てウソップは目を背けるようにし、ナミは見てて痛いから出血を何とかするよう文句を言う。対してゾロはなら見るなと返すがナミは更に罵声を続ける。

 つい先程まで慌てふためいていた二人が今では少しずつ落ち着いてきている、その様子を見てMr.3は苛立ちながらルフィに視線を移す。

 

「そんなに頼りになりそうな男には見えないガネ…。まぁいいMr.5、ミス・バレンタイン、私達は【黒龍】に備えるからあの男はキミ達がやりたまえ」

「仕方ねぇな」

 

 不承不承ながらもMr.3の意見に従うMr.5はコートから銃を取り出しシリンダーに息を吹き込んだ。

 

「サウスブルーの最新モデル、フリントロック式44口径6連発リボルバーだ。言っとくが弾丸はねぇ、その代わりにおれの息を込める。先に言っておくがおれの息は爆発する」

 

 話を半分も聞いていなかったルフィは銃弾ならゴム人間である自分には効かないとふみ、猛烈な勢いでMr.5へと突っ込んでいく。それを見たMr.5は馬鹿にするような笑みを浮かべながら引き金を引いた。

 

「くらいなゴム人間、そよ風息爆弾(ブリーズ・ブレス・ボム)!」

 

 発砲音が数回響きルフィは身構えたが肝心の弾が飛んでくる気配がない。不思議に思ったルフィだが突然耳元に聞こえてきた警告に地面を横に蹴ってその場を離れた。フワリと少し風を感じたかと思うと先程まで自分がいた場所の後方の木が爆発で弾けた。

 

「息を込めただけなのになんて威力だ!?」

「よく避けたな」

「はーーーっ見えない弾ってことかーーー。サンキューなクロト。」

 

 どういたしまして、と姿がないのに声が聞こえてくる事態にMr.3達が周囲を見渡す。するとルフィの近くにクロトが姿を現した。

 

「お前がMr.3か、これ以上ないってくらいに名は体をあらわすって感じの頭だな」

「だろ?【3】だし燃えてるし変だよな?」

「放っとくガネ!君が【黒龍】のクロトだガネ?麦わらの小僧より少しはやりそうだが、果たして私の相手として足りえるかね?」

 

 いつの間にかMr.3はドルドルのロウで作りこんだ鎧に身を包みミス・ゴールデンウィークの塗装も完了していた。

 

「クロト、皆を頼んだ!おれはコイツ等を許さない!ブッ飛ばしてやる!!」

「分かった、嵐脚!」

 

 クロトの右脚から放たれた斬撃は回転しているカボチャのオブジェに当たるが回転が止まる事なく弾き飛ばされてしまった。

 

「無駄だガネ!!」

「なるほど鉄の硬度というのも納得の硬さだ、だが貫けない硬さじゃない!嵐脚・昇龍!!」

 

 先ほどの回し蹴りから放たれた横一文字の斬撃とは異なり下から上へ一直線に蹴りあげ放たれたそれは龍が天を昇るが如くカボチャの一点を貫き、穴が空いたことによりバランスを崩したオブジェは三人とは逆方向に落ちた。

 

「馬鹿な…鉄の硬度を誇る私のドルドルの能力で作った特大キャンドルサービスセットが…」

「さてこれで皆これ以上ロウ人形にされる危険はなくなったわけだが…ビビ!」

「はい!みんな、熱いだろうけどちょっと我慢してね。カルー、お願い!!」

 

 身体中傷だらけだがビビを乗せたカルーは指示に従いロープを咥え、ロウのオブジェを縦横無尽に駆け回る。

 

「油の匂い?おいおいおいおい、熱いってビビお前…ま、まさか…!?」

 

 逸早くその意図に気づいたウソップは制止を呼び掛けるがそれより早くビビはロープに火をつけた。

 ロープを伝った火は瞬く間に燃え上がりロウのオブジェは炎に包まれた。

 

「はーっよく燃えてんなー。大丈夫かアイツ等?」

「お、おのれよくも私の芸術をー!!」

 

 ルフィは火に集中するあまりMr.3のパンチをたたきつけられる形でまともに食らい、上からの衝撃はルフィの身体をポンプのように押し込んだ。

 追撃を与えようとするMr.3、それに気づいたルフィは避けようと足に力を入れた。

 

「えっ!?」

 

 突然の自分の動きに戸惑うルフィ、それも当然だ。攻撃を避けようと横に跳ねただけだというのに一瞬で数メートルは移動したのだから。対峙しているMr.3からしたらまるで瞬間移動でもしたのかと言わんばかりの驚愕の表情。だが何かの間違いだと尚も向かってくるMr.3の顔面にルフィはその腕を伸ばした。

 

「ゴムゴムの(ピストル)!!!」

「甘いガッペッ!!?」

 

 今までの攻撃同様当然のようにガード出来ると思い込んでいたMr.3だったが、ルフィの一撃は恐ろしく速くドルドルの鎧を容易く突き破り自身へと到達し思い切りブッ飛んでいった。

 

「なっミ、Mr.3の最強形態が一撃で!?」

「余所見とは気ぃ抜けてるな爆弾野郎!焼・鬼斬りッ!!」

 

 炎の中から燃える刀を構えて現れたゾロの一撃によりMr.5は燃やし斬られた。

 

「燃える刀ってのも悪くねぇな」

「Mr.5!クッこうなったら王女だけでも!食らえ一万キロギロチン!!」

 

 炎の上昇気流により体重を軽くしたミス・バレンタインが飛び上がりビビに向かって急速に落下をする。

 だがゾロ同様、炎の中から現れたナミは自身の持つ棒をミス・バレンタインの落下地点へと構えた。

 

「アンタのその技、欠陥だらけなのよ。落ちてくるだけならこうして棒を置くだけでも自滅してくれるんだからね!」

「甘いわね!体重だったらすぐに調整可能なのよ!」

「それも計算済み、ウソップ!」

「おぉよ!必殺・火薬星ッ!!」

 

 咄嗟に体重を操作し自滅こそ逃れたミス・バレンタインだったが、ウソップの構えていたパチンコの格好の的となり敢え無く敗れ去った。

 

「馬鹿ねー、一万キロだなんてそんなのか弱い私の腕が耐えられるわけないでしょうが」

「さて後は君一人だが、抵抗の意思はあるかミス・ゴールデンウィーク?」

 

 実際攻撃力を持たない彼女はパートナーや仲間が一瞬でやられた事に恐怖しフルフルフルと首を横に振るのだった。

 

「分かった。ならばこの三人に君の感情の色さえもリアルに作り出すカラーズトラップで俺達に敵対しないような色を描いてくれるか?」

 

 コクコクと頷く彼女は三人に黄色と青を混ぜた緑色のマークを描き三人を引き取ってもらうことにした。

 

 

 

「ブロギー師゛匠…」

 

 ウソップは倒れ伏したブロギーに近づき悔しさで号泣する。ドリーもまた声を押し殺して泣いていた。

 

「何を、泣いてやがる…おれ達のように、誇り高い戦士に、なるんだろウソップ」

「ブ、ブロギーじじょう゛!!?」

「丸いおっさん!!」

「ブロギー!!!」

 

 肩口からの傷を押さえながら起き上がったブロギーに三者三様ではあるが驚きと喜びの声を上げる。

 一体何故、という疑問にブロギーは自分達の戦友ともいえる武器を見てエルバフの神の粋なはからいのおかげだと言う。長年ともに戦い続けてきた武器の刃は致命傷には程遠いダメージしか残せなかったのだ。

 決闘の邪魔をされた事、そしてその元凶と戦うことすら出来ず死ぬことにドリーはエルバフの神を恨みもしたが、この途方もない奇跡を起こしてくれたことに心の中で感謝をした。

 あまりにも嬉しくて喧嘩に発展しかけたがまぁそこは置いておくとしよう。

 

 巨人と一味それぞれの傷の手当、火傷の処置等を終わらせたクロトにルフィは先程自身の体に起こった異常について聞くことにした。

 

「何?Mr.3をブッ飛ばしたときの動きが変だった?」

「3のパンチを受け止めた後普通に動いた筈だったのにクロトみたいに凄く速く移動できるしよ、パンチだって今までより強くて3の鎧を簡単にぶち抜いたんだ」

「確かに…体から湯気みたいのが出たと思ったらまるでクロトみたいな動きをしていたぜ?」

 

 ウソップの言葉に思案するクロトだったが思い出したかのようにルフィに質問を投げかけた。

 

「ルフィ、さっき凄く疲れたって言ってたよな?」

 

 そう、ダメージもそこそこしか貰っていないあまり激しくない戦いであったにも関わらず、ルフィは戦いを終えた途端疲労と脱水症状を訴えかけてきたのだ。

 

「今更気づいたんだが、ゴムゴムの実を食べたことによって本当に全身ゴム人間になったからじゃないか?」

「それこそ本当に今更じゃねーか、それがどう「つまりだ、血管や臓器もだってことだ」???まるで意味が分からねぇ…」

「どういうことだクロト?今の口ぶりだとルフィのやったことの原理の予想が出来ているんだろ?」

 

 わかりやすく説明しやがれとのゾロの言葉にクロトは頷く。

 

「湯気の正体は体温上昇による汗の蒸発だろう。仮説なんだが、その体温上昇の原因は上からの攻撃を踏ん張って受け止めたことで足がポンプのように動いて血流を加速させ通常以上の血液を送ったからだと思う」

「こうか?」

 

 クロトの説明を受けルフィはグッと構えて両足に圧力を加える。するとそれが正しかったようにルフィの身体から先程と同様に湯気が吹き出てきた。

 

「バッ馬鹿野郎!いくら血管や内臓がゴムだからって身体への負担はでかいんだ!下手をしたら命を縮めるんだぞ!?」

 

 どうやら今回は少量の圧力であったため効果はすぐに切れたが躊躇いもせず実践したルフィにクロトは焦る。

 

「それでも!強くなれるってんならおれはこの方法を取る!!」

 

 少し荒くなった鼓動を落ち着かせるようにルフィは深く息をつき、だが決意をこめた瞳でクロトの言葉を制した。

 

「おれもルフィの意見に賛成だ。強くなれるのに危険だからやめとけってのは性に合わねぇ」

 

 どうやらゾロも同じ考えのようだ。二人の言葉にクロトはしばらくの後ため息をつき条件付きでの使用を許可した。

 

  ①実践でいきなり使うのではなく、徐々に体に慣らすこと(主に持続時間や体への負担軽減のためなど)

 

  ②慣れるまでは必ず使用許可を求めること

 

  ③使用後は健康チェックを受けること(もっとも、船医がいないため早急に増やすことも必須とする)

 

「それでお前達これからどうするんだ。話を聞く限り急ぎの旅のようだが?」

「大人しくログがたまるのを待つのか?」

「ログがたまるまでこの島にいるなんて出来ないわ、そんなんじゃクロコダイルに国が乗っ取られちゃう!」

「そうだなぁ。それにおっさん達がいるっていっても一年だなんて流石に飽きるしよ~」

 

 二人の巨人の言葉に悲痛な表情を浮かべるビビに対しルフィは横になりどうしたもんかと言いながら煎餅を食べている。

 

「それなんだけど多分大丈夫だと思うわよ。ァイタッ!」

「どうしたナミ、火傷が疼くのか?」

「うぅん、多分虫か何かに刺されただけ」

「とりあえずこれでも着ておけ。肌の出しすぎはあまりよくないからな」

 

 そう言ってクロトは自分の上の服を手渡した。

 

「ありがと。でねビビ、大丈夫って訳はバロックワークスの追手が来ていたからよ。組織の任務として来ている以上帰りの手配なんかも抜かりないと思うのよね」

「多分ここにいないサンジが手に入れてるんじゃないか?」

「どうだかな、あのアホコックのことだからまだ一人でおれとの狩り勝負の獲物を探してるんじゃねぇか?」

 

 ゾロの言葉に巨人達は遠い昔の何かを思い出しそうになった。

 

「おっ!ンナァミすゎ~ん、ビビちゅゎ~ん、無事だったか~い?」

「…来たぞそのアホコックが」

 

 一味(といっても女性二人限定だろうが)の姿を確認したサンジは目をハートにさせながらやってきた。だがナミの格好を見てハッとしクロトへと足技を仕掛ける。

 

「コルァくそロンゲ!何でナミさんがテメェなんかの服を着ている!!」

「あ~うるさい眉毛だな。探しに来たって事はエターナルポースの一つや二つ手に入れたんだろうな?」

「テメェはエスパーか!?…ジャングルの中の白いまったり空間で見つけた四つと敵の親玉から送られてきたコイツだ」

 

 サンジの手にはアラバスタを含む計五つのエターナルポースが握られていた。

 それを見たビビは嬉しさのあまりサンジに抱きつきサンジは幸せのあまり目だけでなく咥えていたタバコから出る煙までハート型になっていた。

 

「他四つは…キューカ島にハルウララ島にチョーコク島に…ほぅ、ドラム島か。喜べルフィ、もしかしたら船医もすぐに見つかるかもしれないぞ」

「本当か!?」

「あぁ、ドラムは医療大国の島だ」

「ならよ、アラバスタでクロコダイルをぶっ飛ばしたらその島に行こう!んでその島で面白ェ医者を仲間にしようぜ!じゃあ巨人のおっさんに丸いおっさん、おれ達行くよっ!!」

 

 

 

 ルフィ一行が船へと戻ると二人は立ち上がり己が武器を手に取った。

 

「…行くか」

「あぁ。…今回の件で分かったことだが、我等が武器も寿命よな」

「百年来の付き合いだ、未練は確かにあるがあいつ等の為ならば惜しくはない!」

 

 二人は船が向かった島の西の海岸へと足を向けた。

 

 

【続く】




ハルウララ島:春島
キューカ島:3がいたリゾート地
チョーコク島:秋島
  


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第08話「ナミ倒れる!?ドラム島への道のり」

ストック分ですが続けて投稿します。
(2015/09現在、ドラム島からまだ出航出来ていません)


 ブロギーとドリー、二人のエルバフの戦士のでっかい見送りによりリトルガーデンを出てすぐの事だった。ビビの叫びで甲板に集まるとそこには尋常ではない汗をかき倒れているナミの姿があった。

 誰かが残らないと舵が心配だと立候補したゾロだが、余計に心配なためウソップにエターナルポースを預けナミの元へと向かうクロト。

 

「どうだビ「ナミは死ぬのか!!?」「ダビダン死らバイベーーーッ!!!!!」…騒ぐな!ナミの身体に障る!!」

 

 病人の前だというのに騒がしい二人を怒鳴りクロトはナミの病状を尋ねる。

 

「熱が四十度もあるの…こんな高熱そうそう出るものじゃないのに…」

「ちょっと代わってくれ」

 

 ビビの代わりにナミの横に座ったクロトは軽い触診をし、体の状態についてまだ意識のあったナミにいくつか質問を繰り返す。

 

「高熱、頻脈や呼吸困難、関節や筋肉の炎症、頭痛や軽い意識障害………太古の島リトルガーデン?ナミ、お前虫に刺されたって言ってたよな。どこを刺された!?」

「お、お腹の辺り…」

「スマン、少し見せてもらうぞ」

 

 クロトが先に謝罪の意思を示しナミの服を捲る。その際サンジが当然の如く邪魔をしようとしたが気を利かせてくれたゾロによって羽交い絞めにされた。

 

「こ、この斑点はッ!?ルフィ!悪いがナミと二人別行動を取らせてくれ!!」

「そんなにヤバいのか!!?」

 

 思った以上のクロトの焦りに周囲がどよめき、クロトはナミへと視線を落とし頷いた。

 

「保って五日。感染症が重なって今より酷くなった場合、それより短くなる可能性もある」

「そんなっ!?なら今すぐに医者を探しに行きましょう!!」

「…だ、駄目…それじゃ間に合わない、かもしれない」

 

 ナミはクロトに一度頷きそれを理解したのかデスクの引き出しの新聞をビビへと手渡す。

 

「その新聞は三日前のだ。お前を不安にさせるといけないからナミと二人で隠しておこうと決めてたものだ」

 

 記事の中に書かれていたのはビビにとって焦燥に駆られる内容だった。国王軍三十万人の兵士の反乱軍への寝返り。数で勝っていた筈の国王軍だったが、これによりアラバスタの暴動は一刻の予断も許さない状況になったといえる。

 

「だからこその別行動だ。俺がナミを連れて月歩でドラム島に行くからお前達はアラバスタを目指す、航海士無しでの航海は危険があるかもしれないが時間的には多分一番効率のいい方法だ」

「…それじゃ駄目よ!こんな事頼める立場じゃないだろうけど、私にはナミさんの力もクロトさんの力も必要だと思うの。だから、ドラムでナミさんの病気を治してもらってそして【みんな】でアラバスタに!!それがこの船の一番の方法でしょう?」

「そぉーーーさっ!それ以外の方法なんてねぇよ!!」

「流石ビビちゃん!おいクソロンゲ、てめぇは効率っつうけどな。これがおれ達にとっての最速だと思わねぇか?」

「ビビ、ルフィ、サンジ…分かった、なら進路をドラム島へ向けよう!」

『おぉっ!!!』

 

 皆の意思は一つとなりメリー号は進路をドラム島へと向かうことにした。

 

 

 

 ナミが倒れて早二日、タイムリミットが刻々と近づくなか船はドラム王国を目指しエターナルポーズの示す海路をまっすぐ進んでいた。

 ナミになるべく負担をかけないようにと指針と舵と皆への指示は一人旅をして多少の航海術を持つクロトが、もしもの時のために周囲の海の確認について近くをルフィとウソップが、島や嵐など遠方をゾロが警戒に当たっていた。

 残った二人について、ビビにはナミの看病をサンジには皆の栄養管理とビビの補佐、そして突発的な高波などによる大揺れが起きたときのナミの負担軽減のために当てた。

 

「安定して寒くなってきたな、島が近づいている証拠だ。ゾロ、注意深く見ていてくれ」

「あぁ………あん?おいクロト、お前の使う六式ってのなら海の上に立てんのか?」

 

 返ってきた言葉は素っ頓狂な質問だった。

 

「前に話したが月歩で空を駆けることなら出来るが、ただ立つなんてそんなの物理的に不可能だ」

「ゾロ、お前この雪と寒さで脳がやられたか?」

 

 ウソップはゾロを馬鹿にするようなことを言うがゾロは何も答えない。

 どういうことだ、とウソップは疑問に思ったが隣にいるルフィが袖口を引っ張り前方を指差している。

 

「何だよルフィ、前に何があるって………」

 

 そこでウソップの言葉が途切れた。なんとゾロの言ったとおり、人が海の上に立っていたからだ。

 思わず二人は顔を見合わせた後、目をごしごしと擦りもう一度よく見る。確かに人が海に立っている。シーンと静まり返る一同、その静寂を打ち破ったのは男のほうだった。

 

「今日はよく冷えるな」

 

 おかしな人物に話をかけられたとルフィとウソップはお互いを見て男の言葉に同意する。

 

「あ、あぁそうだな………今日はよく冷えるよ、な?」

「そ、そうだそうだ、確かに冷える…」

「そうか?」

 

 自分で言っておきながら男は否定をするかのような言葉で二人に答える。またもや沈黙が続く、と突然クロトがメリー号の舵を切った。

 

「下から何か上がってくるぞ!!」

 

 急な方向転換よりも先に三人が驚くことになったのは水中から眼前に現れた大型の船の存在。その旗は黒く、ドクロの絵が描かれていた。

 

「海賊旗!?」

「こんな急いでいるって時に!?」

 

 ドタドタと階段を上がり、そして怒鳴り声と共に勢いよく扉が開かれる。

 

「おいクソロンゲ!荒っぽい操舵してんじゃ…ってそういうことか、悪かった」

 

 他のクルーと同様に銃を突きつけられるサンジに気にしてないと告げ急な舵を切ったことを詫びるクロト。

 

「今の衝撃だがナミは無事か?」

「あぁ大丈夫だ。だがちょっと前にまた熱が上がって辛そうにしている」

「おい、おれ達急いでんだ。邪魔しねぇでくれ!」

 

 ルフィは船べりに立つカバの毛皮をかぶった男に向かい言うが、男は取り合わず左手に持っていた肉を刺してあったナイフごと食べた。

 

「これで五人か…おいお前等、おれ様はドラム王国へ行きたいのだがエターナルポーズもしくはログポースは持っているか?」

 

 そこはまさに今一行が目指している場所でエターナルポースも確かにあるが、面倒事はごめんだとゾロとサンジに視線を送り二人はそれに頷いた。

 

「いや生憎だが持っていな「持ってるけどやらん!!!」…ルフィ、お前今日の食事は肉抜きな?」

「何でだ!?」

 

 ガーンと大口を開けてショックを受けるルフィ、だがそれよりショックを受けたのは相手の男だった。

 

「持ってるだと!?なら大人しく渡してもらおうか!!」

「ヤだ!」

「おれ様に逆らう気か?者共、やってしまえ!!」

 

 舌をベェと出し拒否するルフィにカチンときた男の命令で、クロトに銃を突きつけていた船員が引き金を引いたが、突然姿を見失ってしまった。愕然とし周りを見渡そうとしたが首に鋭い一撃をもらい昏倒する。

 

「はぁっ…人が折角穏便に済まそうとしたというのに…」

「どっちにしろ相手が海賊なら一緒だろ、とっとと戦るぞ!」

 

 見張り台から走り降りたゾロは防寒用の毛布を脱ぎ捨て十人以上の群れに飛び込んでいった。

 

「チッ見掛け倒しだな」

 

 一陣の風のように通り過ぎるゾロ、侵入者に興味をなくしたかのように刀を納めるとバタバタッと倒れ伏した。

 サンジも得意の足技で大立ち回りをし、ウソップは影からサポートするように銃を構えている奴等を搦め手を使って無力化していった。

 騒ぎに駆けつけたビビが来る頃には戦闘はほぼ終結していて立っているのはカバ男のみ。

 

「さて、船から退場してもらおうかカバ男」

 

 クロトが男を持ち上げ両手を後ろに伸ばしたルフィへとトスをする。

 

「ゴムゴムの~バズーカ!!!」

 

 ルフィの一撃は的確にカバ男の腹にヒットしカバ男はぶっ飛んでいった。

 

「追わなくていいのか?能力者だろうから放っておくと海に沈むぞ?」

「…ハッ!?そうであった!ワポル様はおカナヅチであらせられるのだった!!」

「急ぐのだ!ワポル様がお沈みあそばされる前にご救出してさしあげなければ!!」

 

 メリー号でのされた兵を収容し、海賊船は飛んでいった男へその進路を向けて去った。

 

「ワポル?…そうか思い出した、聞いた名だと思ったがドラム島の無能王か」

 

 これはまた一つ面倒事が起きるかと考えるクロトであった。

 

 

 

【続く】



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第09話「医者を求めて。急げドラムロッキーへ!」

前回投稿から1年3か月。
エタり過ぎ、でもストックが出来ない。
とりあえず今ある分だけ(2話分)を投稿します。


「ようやく着いたか」

「じゃああの島がそうなの?」

「あぁ、間違いない。上陸準備にとりかかるから、皆を呼んできてくれ」

 

 ドラムの無能王ワポルが船を襲った翌日、夜通しで船を進めていたためようやく目的地のドラム島が見えた。少数人数での航海は忙しい。ビビに皆を呼ぶように、見張り台にいるゾロに準備をするように伝える。

 島への到着の知らせを受けルフィがいつもの格好で船内から出てきた。現在の気温はマイナス10℃、熊も冬眠を始める気温。ようするにとてつもなく寒い。

 

「う~~~おおおぉぉ!島だあああぁあぁ!白いってことは雪だろ?雪島か!」

 

 だがルフィはそんな事には気づかないように雪でいっぱいの島に感動を覚えている。それでも見ている者にとってはそこにいるというだけで寒くなるのが心情だ。

 

「ル、ルル、ルフィ…そんな事よりお前そのカッコで寒くねぇのか?」

「えっ………?」

 

 かなりの厚着をしてなおかつ震えているウソップの問いにルフィは何度か瞬きをする、そこにヒューと吹く風。

 

「…寒ブッ!!!」

 

 今更気づいたようにガチガチと体を震わせるルフィ、当然のように『遅ェよ!!』とサンジとウソップからツッコミが入る。

 ルフィが上着を取りに行く間に船は島の内部へと進んでいく。

 

「そこまでだ海賊共。速やかにこの島から立ち去りたまえ、そうすれば危害は加えない」

 

 錨を降ろし上陸の準備を整えていると数十もの銃を構えた一般人と、その一歩前に屈強そうな男が船を見下ろしていた。

 

「あなた方に危害を加える気はない!仲間が病気なんだが医者がいないんだ、どうか上陸させてはくれないか!?」

「お願いします!ナミさんを助けて下さい!!」

「黙れ海賊が!!」

 

 クロトとビビ、二人の頼みも島の人達には届かない。それどころか『自業自得だ』や『いい気味だ』などと言ってくる者達までいる。

 病気で苦しんでいるナミに向かってそこまで言われて黙っているほどサンジは温厚ではなかった。

 

「テメェ等!それが病気で苦しんでいるか弱いレディに向かっていう台詞か!?」

「落ち着いてサンジさん!そんな言い方しちゃ!!」

「うわああぁぁっ!!!?」

 

 ビビがサンジを止めるべく前に出るが、怒りが恐怖を呼び起こし、恐怖は彼の銃の引き金にかけられている指を容易に引かせてしまった。

 発砲音と同時に二人は突き飛ばされる。

 

「ったくお前は無茶をするなビビ。それとこの状況での恫喝は減点だサンジ、ルフィにゾロもこのくらい大した事ないから荒立てるなよ」

 

 それを行ったのはクロトだった。身代りとなったためポタポタッと赤い血が伸ばした右腕から滴り落ちる。だというのにその痛みに顔を歪ませることなく両膝をつき手と頭を床につけた。

 その行動に島の人達は勿論、仲間であるルフィ達も驚いた。

 

「あなた方が海賊を憎んでいるだろうということはなんとなく分かります。ですがこっちも一刻の猶予がないんです。仲間の命が懸かっているんです」

「医師さえ呼んで頂けるなら上陸はしませんしすぐに出ていきます」

「仲間を助けてください」

 

 ビビに続きルフィも地に頭つけ、残った三人も同様に頭を下げた。

 静寂が辺りを支配する。

 その光景に数人を除き引き金から指が離され銃先から外された。そして時間にして数十秒のことだった。

 

「…分かった。村へ案内しよう、ついてきたまえ」

 

 思いが伝わったのか、代表する男が出した答えは一行にとっては一番嬉しいものとなった。

 

「ドルトンさん!?そんな…海賊の事を信じるんですか!!?」

 

 当然のように反対の声を挙げる者もいる。

 

「海賊といえど真摯な思いは汲んであげるべきだと思わないか?それに彼等は普通の海賊とはどこか雰囲気が違う。ここは私を信じてはくれないだろうか?」

「あなたがそう言うのなら…」

 

 男は周囲に頭を下げる。男の信頼の賜物か、残った数人もようやく銃を下して場の殺気と恐怖の気配が薄れていった。

 

「ついてきたまえ、村へと案内しよう。だがそこには残念ながら医者はいないのだが…いやこの島には医者と呼べるのは、もう魔女と呼ばれる一人しかいないのだ」

 

 こうして上陸を認められた一行だったが、前の島での足の怪我もあり船番として残したゾロと、あまりの寒さに上陸を拒否したカルーを置いて一同は村へと案内されていった。

 

 

 

 ドルトンの家にやってきた一行は早速この島唯一の医者という魔女の話を聞く。

 

「窓から山が見えるだろう?あの山々の名はドラムロッキーといって、他より一際高い真ん中の山の頂上に城があってそこが彼女の住処になっている。魔女、名をドクトリーヌというのだ、が…」

 

 ドルトンは窓を指差すが肝心の景色が雪で何も見えない。雪といってもそれだけの豪雪というわけではなく、代わりに見えたのは奇妙な二体の雪のオブジェ。

 

「ハイパー雪だるさんと!」

「雪の怪物シロラーだ!」

 

 外では馬鹿二人(ルフィとウソップ)が雪にはしゃいでいた。

 

「てめぇ等オロすぞ!!」

 

 

 

 サンジの蹴りによって破壊された雪のオブジェの向こう側に山々が見える。

 そのオブジェから二組の足が生えているがそこは気にしなくてもいいだろう。

 

「何つぅ場所にいるんだよその医者は…。まぁ場所に文句を言っても仕方ねぇが急患なんだ、すぐに呼んでくれ!」

「そうしたくても連絡手段がないのだ」

 

 電伝虫も山の高さと吹雪のせいで通じないらしい。そんな状態でどうやって診察に来るのかと問うてみれば、気まぐれに山を降りてきては診察をし、暴利とも思える程の金品・物品を貰っていくらしい。

 まるで海賊だなと戻ってきたウソップの言葉にドルトンは苦笑する。島の人達からしても【腕は良いが出来れば関わりあいたくない】と言われる程でドルトンも似たような思いを抱いているようだ。

 そしてこの町には昨日降りてきたばかりらしく、次はいつになるか分からないとの事だ。

 

「なら山を登るしかないな」

「時間がない以上無茶だっても言ってられねぇか」

 

 サンジの苦々しい言葉にビビもナミを見ながら首を縦に振る。

 

「ん?医者はどうなった?」

 

 雪に埋もれて冷えた体を温めるため熱いお茶をズズ~ッと飲んでいたルフィがクロトへと尋ねる。それに対してクロトは【医者】【あの山】【登る】と単語だけ伝え納得したルフィを置いて編成を決めることにした。

 

 本当なら月歩と悪魔の実の能力の両方で飛べる自分独りでナミを背負い行動しようとしていたクロトだったが、ドルトンから教えられたラパーンの迎撃にルフィ、サンジの両名が一緒に行くと言い出した。ならばと山の麓までの護衛として連れて行くことにし、そこからは月歩で山を登るから下山するようの旨を伝える。

 

「まぁそれが妥当な線か」

「気をつけてねルフィさん、サンジさん」

「まっかせてよ~ビビちゅゎ~ん!」

「クロトさん、腕大丈夫?」

 

 ビビはナミが落ちないように二重三重に縛った布を確認しながらクロトの右腕の傷を心配していた。

 

「弾も貫通してたし応急処置も済んだ、問題ない」

 

 助けられた手前、本当だったらちゃんと確かめたいと思ったビビだったが、簡単な処理だから自分でやると応急処置すら頑なに拒んだクロトにビビは顔を曇らせる。それに対しクロトは本当に問題ないと処置したところを見せる。

 確かに包帯もきちんと巻いてあるしそこから血が滲み出てくる様子もない。しかしどうして治療を拒むのか、その理由を聞きたいのを堪えてビビは一応は納得することにした。

 

「もう一度言っておくがこの二つには注意しておいてくれ。まず一つ、直線の最短距離を行くということだが、そこにはラパーンという獰猛な肉食のウサギがいる。そしてもう一つ、こちらのほうが重要だが…魔女には年齢の事は禁句だ」

 

 ドルトンの再度の警告に頷いた三人は山に向けて走り出した。

 目指すはドラムロッキー頂上。

 

 村を出て三十分、既に人里からは遠く離れ道と呼べぬ道を四人はひたすら山へと進んでいく。

 黙って進むのにも早々に飽きたルフィは自分のポリシーや他愛ない話、昔村の酒場で聞かされた雪国の人は寝ないという嘘話など色々な話を始めた。それに対しサンジも雪国の女性の肌について自分なりの妄…見解を述べるがルフィに馬鹿にされる。

 自然と話の流れがクロトへと移り、ならばと雪の色について話し出した。黄色い雪に黒い雪に蒼い雪、話を聞いて文字どおり目の色変えたルフィは蒼い雪を確かめようと足下を掘り始めた。その単純さに呆れ返るサンジには輝く雪や黄金の雪の美しさを説き、いつか誰かを誘うといいと言うと訪れることのない妄想に浸り始めるのだった。

 黄金の単語を発したとき寝ている筈のナミの手に幾分力が込められたのは気のせいだろうか?

 

「で、だ。さっきから襲ってくるコイツがドルトンが言っていたラパーンって兎か?」

 

 ナミに負担がかかるからと手を出すのも受けるのもサンジに禁止されたクロトは僅かに上体を反らして小さな襲撃者の攻撃を避ける。

 

「小せぇのに攻撃的で…ウゼェんだよ!」

 

 同じく攻撃を避けていたルフィにサンジだったが、辟易したサンジの一撃によって子兎は吹っ飛んでいった。

 

 そしてまた進むこと数分、今度は白くて大きな生き物数十匹が行く手を塞いできた。真ん中の顔に傷を持つ奴の肩にはたんこぶをこさえた見覚えのある一匹の姿がある。

 

「お前が蹴っ飛ばしたのは奴の子供だったってわけか」

「そういうこったな。いいかクロト、もう一度言うがお前は絶対手ェ出すなよ!剃ってやつで避けるのも無しだ!!」

「ナミへの衝撃を与えないためだろ?分かってる、そいつ等の相手は任せた」

 

 襲い掛かってきたラパーンの右腕を屈んでかわし、空いた土手っ腹にサンジの蹴りが入る。ラパーンは確かに吹っ飛んだがすぐに起き上がってきた。降り積もった雪のせいで足場が悪くサンジの蹴りにはいつもの威力がなかったからだ。

 仲間が攻撃を受けて頭にきたのかラパーンは一斉に跳びはね襲い掛かってきた。

 

「ルフィお前何とかしろ!」

「サンジ!」

「何だよ!?」

「………やっぱ寒みィぞッ!!!」

「だから船出る前にもっと厚着しろって言っただろうが!!!」

 

 二人の漫才を聞きつつクロトは足を森へと向けた。当然追いかけてくるラパーン、繰り出す攻撃は木々を簡単に薙ぎ倒しその連携は下手な軍隊以上の力を見せている。多少の崖も何のその、余裕のジャンプで越え四人を追い越していった。

 

「諦めたのかな?」

 

 ルフィの言葉を否定するかのように、ラパーンはしばらく跳びはね山に向かうとクルリとこちらを振り返りその場で勢いよくジャンプを繰り返した。振動はすぐに自然の脅威となって現れた。雪山での最大の脅威、雪崩だ。

 

「やりやがったなあのクソ兎!!」

「ルフィ!サンジを掴んで俺の足につかまれ!」

 

 クロトは一足早く跳躍し、月歩で空へと退避する。クロトの考えが分かったルフィはサンジの服を掴み上空のクロトの左足へと腕を伸ばした。

 空を蹴り上昇していたクロトだったが片足で四人分の重量はやはり想定外だったらしくルフィが足を掴んだ途端上昇速度が鈍くなる。加えて雪崩の勢いを利用して襲ってくるラパーンの攻撃を避けようと下でルフィが体を揺するためなおさら鈍くなる。

 

「チッこれじゃあ高さが足りねぇ…おいクソロンゲ、ナミさんを絶対医者に連れてけよ!!」

「バッ!?」

 

 バカ野郎、そういう前に手を放したサンジはラパーンの一撃を受け、雪崩に呑み込まれていった。一人分の重さがなくなったおかげで間一髪雪崩を逃れた三人だったがルフィは慌てて未だ辛うじて見える左手にゴムの手を伸ばした。

 

「サンジィィーーー!!!うおおぉぉっ!!?」

 

 確かにルフィは掴んだ。だが、引っ張ってこれたのは手袋のみ。

 

「ルフィ、悪いがナミを連れて先に行っててくれ。サンジを見つけ次第俺もすぐに後を追うから」

「分かった、サンジの事頼んだぞ!」

 

 雪崩の脅威が去った後、二人はその役割を交替することにした。ルフィが闇雲に探すよりも見聞色の覇気で気配の読めるクロトが探したほうが早いからだ。

 ビビが結んでくれたようにルフィの体にナミをしっかりと結び、彼を見送る。

 

「さて、近くにいるといいんだが………」

 

 目を閉じ精神を統一し周りの気配を探る。動かない複数の似た大きめの気配に悲痛な感情を出す小さな気配が一つ、どうやらサンジの気配はすぐ近くにはないらしい。

 クロトは気配が感じたところに木の枝を刺しマークをつけ小さな気配の元へと向かった。

 

「ガァウゥ!」

 

 そこにはラパーンの子供が必死に雪を掘る姿があった。硬い雪を掘り続けていたからなのだろう、その手からは血も出ていた。だがそれでも子ラパーンの手は止まらない。

 見かねたクロトが近づくと、気配と足音で気づいた子ラパーンは眼前に立ち威嚇するように唸り声を上げる。

 急いでいる状況なのだが思わず目尻が下がって口元も緩んだ。近づくだけで身を屈めた子ラパーンの頭を撫で、腕を取り雪に埋もれた体を引っ張りあげる。掘り出された親ラパーンを見て子ラパーンは体当りでもするかの勢いで抱きついた。

 端から見ると感動的な場面かもしれないが生憎と時間のないクロトは子ラパーンの肩を叩き、数回目で気づいた子ラパーンはクロトの手を取り頭を下げた。感謝をしているのだろう、クロトはもう一度頭を撫で複数用意した目印を指さす。

 

「いいか?あの目印の下にお前の仲間達が埋まっている。お父さんが気が付いたら掘り起こしてもらえ」

 

 知能も高いし何より匂いで気付いたのだろう、指の先を見て大きく頷いた。

 

 

 

【続く】

 



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第10話「ドラムに残る医者。笑う魔女と逃げるトナカイ」

今ある分を連続投稿です。(2017/02/09)


「こいつはそう簡単には死なないな」

 

 子ラパーンに別れを告げた後、更に数百メートル降りた所でサンジの気配を感じ取ったクロトは急いで掘り出しルフィの後を追い始めた。

 サンジについては簡易診断だが、雪に埋もれていたための体温低下と肋骨・背中等のダメージはあるが、漏れ出ている想…妄想を見聞色の覇気で感じ取れているため過剰な心配はせずに止血だけ行い腕に抱えて月歩で低空を駆けているところだ。

 

「…ぇい!」

 

 …幻聴だな、時間もなくまた関わりたくもないと判断したクロトは敢えてそう考え無視するように速度を上げる。

 

「それにしてもこの吹雪、視界も悪いしかなりの体温が奪われるな。ルフィはあんな格好で本当に大丈夫なのか?」

 

 先を進むルフィとナミの安否を気にするクロト、だがその思考は後方より放たれた矢によって中断させられてしまった。

 あの距離でも狙いをつけられるのか、なら仕方ないと月歩を止めて雪道に足を戻すクロト。後方からは上に馬鹿面下げた男達を乗せてドドドドッと音を立てて向かってくるカバが一頭。追い越し、通せん坊をするかのように立ち塞がったそれから降りた三人組はこの島に来る途中で出会った無能王(ワポル)一味だった。

 

「俺は急いでいるんだが何の用だ無能王?」

 

 というかお前、よく溺れていなかったな。

 

「むの!?貴様、ドラム王国国王であるこのオレ様に向かって何たる口の利き方!チェス、マーリモ、この無礼な男をやってしまえ!!」

「「御意に!」」

 

 カバから降りた二人は一人が弓矢で、もう一人が近接戦闘を仕掛けてきた。そのどちらも危なげなくかわしカバを飛び越え、油断することなく山へと足を進める。

 意外に早く攻撃を諦めたのか姿が見えなくなった。だがクロトは足を止め前方の雪の塊に向かって乱脚を三方向に繰り出した。

 

 見えない筈なのに突然の攻撃を受けて三人が雪の隠れ蓑から飛び出した。

 

「貴様、何故我等の居場所が分かったのだ!?」

「俺を殺そうという気配が漏れているからだ。いいから邪魔しないでくれないか無能王、こっちは急いでいると言った筈だが?」

「またしてもおれ様を侮辱するとはっ!王に対して本当に無礼な奴!…よしチェス、おれ様は新しい法律を思い付いた、書き留めよ。『王を無視する者侮辱する者、此れ死刑と処す』。まずはその肩の死に損ないから刑に処してくれるわアベシッ!?」

『ワポル様ァァッ!?』

「お前は…」

 

 後方から飛び跳ねてワポルに一撃を与えたのは顔に傷を持つボスラパーンだった。

 

「傷の浅い仲間を連れてきたのか。こっちの事は気にせず安静にしていろよ!」

 

 ボスラパーンは背中の子ラパーンを降ろすと一斉にワポル達に飛びかかっていった。

 

「ガウッ」

 

 子ラパーンは急かす様にクロトの腕を引っ張る。

 

「だがっ!」

 

 クロトはそれが引き起こす結果を分かっていながらも彼等の意思を汲み取らねばならないことに歯噛みをし、再び山を登りだした。

 

 

~ SIDE ワポル ~

 

 誰だ、このおれ様にこんなふざけた真似をしやがった奴はッ!

 

「ワポル様!ご無事ですか!?グッ!?」

 

 ラパーンだとッ!

 おれ様が幼少の頃の狩りで唯一仕留め損なったドラム一凶暴な生き物。おれ様の放った矢は僅かに額にかすっただけ、そうしたら奴は猛然とおれ様に襲い掛かってきやがった!

 そのときはまだ従順であったドルトンが追い払ったが以降おれ様はラパーン殲滅を掲げてきたのだが、先王は良しとせずようやくおれ様が王となってから始まったが程なくしてあのヤブ医者騒ぎにドルトンの反逆に海賊の来襲。

 出ばなを挫かれてしまい今の今迄忘れていたが、王の座に戻ったあかつきには今度こそ実行せねばならないな。

 

 そうとなればおれ様のバクバクの実の真の力で…

 

「捻り潰してくれるわ!」

 

~ SIDE OUT ~

 

 

 

「ガゥッ」

 

 後ろを心配する子ラパーン、離れていても仲間の事が分かるのか。段々と聞こえなくなる『声』にクロトはやはり残るべきだったかと思いつつも足を止めずに山をひたすら登る。

 クロトにとってワポルなど敵にすらならない。それなのに敢えて初めて会ったときからほぼ無視をしたのは要らぬ【知識】があったからだ。このドラム島での出会い、それを書き換える訳にはいかないからと彼等を見捨てたのだ。

 

「まーっはっはっは!」

 

 だからこそ徐々に近づいてくるこの声には余計に不快になる。

 

「ガゥッ!ガウッガゥ!!」

 

 仲間の仇か俺を先に行かそうとするためか、ついに俺の手を離してしまう子ラパーンに不可避の矢が迫る。

 

「グッ…」

 

 サンジに当たらなかったのは僥倖か?左手・右脚に一本、背中に二本、鉄塊が間に合わなかったため深々と刺さるそれに無能王は一転して高笑いを始める。

 

「まーっはっはっは、まさかラパーンのガキを庇うとはカバな奴。まるで何処ぞのカバを見ているようだ。よぉし、お前達とどめを刺せ!」

「御意に!」

 

 ワポルの命令を受けチェスは再び弦を引き絞った。ギリギリと限界まで矢を引き、笑みを浮かべて指を離した。

 

「変化、龍化鉄塊"鋼"」

 

 風切音を立て飛来する矢を獣型へ変身したクロトはかなりの堅さを持つ龍の皮膚を六式の鉄塊により更に堅固なものへと変化させ今度はそれを弾いた。

 

「ヌッ!?貴様も悪魔の実の能力者だったのか」

「お前等はいい加減邪魔だ!黒炎弾!!」

 

 羽ばたき大きく拡げた口から放たれた火球はワポルの足下を的確に撃ち抜き中規模の爆発を起こした。当然のように起こる二度目の雪崩にクロトは一人と一匹を掴み急ぎ飛び上がった。下からなにやら喚いている声が聞こえるが一切無視して登るクロト。気配を探りながらのため時間がかかるかと思ったがルフィは程なくして見つかった。

 

「待たせたな、ルフィ」

「クロ、ト…」

 

 素手で山の半分以上を登っていたルフィ、上着は少しでも寒くならないようにとナミに着せて自分はガチガチに震え凍傷にかかりながらも懸命に上へと進んでいた。

 差し出された手に足を付けたルフィは気が抜けた為かそのまま座り込んだ。

 

「悪ぃクロト、後頼むよ」

 

 そのまま眠ってしまったルフィを包み込みクロトは風を切るように一気に飛び上がった。

 

 

 

「ようやく、頂上…か…イカンな、血を流し過ぎたか…」

 

 かなりの速度が出ていたため時間をかけずに登頂出来たが、あと数メートルで城門に辿り着くというのに血を失い過ぎたせいか視界が霞みだす。そのせいか目の前に二本足で歩くモコモコとした茶色い生物が見えた。

 幻影か?

 

……………

………

…あぁ、何だ『彼』か。

 

「ただのタヌキ…か…」

 

 こんな状況だがやはり一度はこの台詞を言っておかないとな。

 

「トナカイだよ!ってオイお前!!しっかりし………」

 

 予想通りのツッコミに満足したクロトの意識はそこで途絶えてしまった。

 

 

~ SIDE チョッパー ~

 

「ドクトリーヌ!患者だ、それも四人と一匹!!」

「島の奴等がわざわざ此処まで自力で来たのかい?一匹?それぞれの症状は?」

「それが島の人間じゃないんだ、全員から海の匂いがする。あぁでも一匹は違うか」

「さっさと言いな!患者は待っちゃくれないよ」

「わ、分かってる。それぞれの状態だけど凍傷になりかかっているのが一人、あばらと背骨にダメージを受けているのが一人、気絶したラパーンの子供が一匹」

 

 麦わらの人間は何で上着を着てなかったんだ?あんなんじゃ凍傷にかかって当然だよ。

 

「問題は残りの二人なんだ。一人は矢傷が数箇所、特に腹部が重傷で出血も酷い。もう一人も高熱、多分この島の外の病気でかなりの重病なんだ」

「分かった、ならまずは熱い風呂を沸かしてそこの馬鹿を放り込んどきな」

「うん!」

「さて、こっちのラパーンのガキと金髪はまぁそこまで問題ないようだけど、この二人は…」

「ドクトリーヌ、入れてきた!」

「よしチョッパーすぐに検査と手術だ。時間が惜しいから全員を同時にやるよ」

 

 いつものようにおれは人型に変身して三人と一匹を手術室へと運んだ。

 ドクトリーヌが女の検査道具を用意する間、おれは髪の長い男の服を裂いた。

 ヒ、ヒドイ傷だ…。今回の出血多量となった矢傷以外にも男には様々な傷があった。そのほとんどがかなり昔のものだったけど右腕の包帯からは火薬の残り香もした。

 

「撃たれたのを自分で応急処置したのか」

 

 薬品の匂いと包帯の巻き方からそう判断し、一応確かめておこうとスルスルっと解いてみるとたしかにそこには銃痕があった。

 

「うん、これなら大丈夫だ。一応包帯を取り換えて…ん?何だこの火傷の痕…?」

 

 すぐ横にはとても印象に残る火傷があった。

 

「何のマークだ?」

「どうしたんだいチョッ…ッ!?チョッパー、こっちとそっちの金髪小僧はアタシ一人でやるから小娘を診な!小娘の方はお前の見立て通りこの島にはない病源菌だよ、処置を急ぎな!」

「わ、分かった!」

 

 ドクトリーヌ、いったいどうしたんだろう…

 

「チッ胸糞悪いね。こんなところでこんな紋章(モノ)見るなんてね…」

 

 

 

 手術と検査・治療は無事に終わった。

 まさか女のほうはケスチアにかかっていたとは思わなかった。ドクトリーヌが万が一の為にって薬を残していてよかったよ。

 

「なぁドクトリーヌ、何であの人間達は一人で診たんだ?そんなに難しい手術だったのか?」

 

 おれの見立てじゃあ二人とも出血が多かったけど片方は矢傷と銃創で、もう片方はあばら骨と背骨。おれでも十分に手術出来たと思う。

 

「そんなことはなかったさ。それよりチョッパー、お前が見た小僧の右腕の事決して誰にも言うんじゃないよ」

 

 右腕?あの古い火傷の痕のことかな?どういう事だろう?

 

「分かったら小娘の様子を見に行きな」

「わ、分かったよドクトリーヌ…」

 

 いつもよりピリピリとしたドクトリーヌの言葉を受けおれはその指示に従う事にした。

 

~ SIDE OUT ~

 

 

~ SIDE ナミ ~

 

 目が覚めたらまた知らない部屋だった。

 確か医者の所に向かうってことで高い山を登ることになった筈だけど、幾分辛さが和らいだ感じがする。ここがその医者の住まいなんだろうか?

 

 ゴリゴリと何かをすりつぶす音に気づいたけど、だけどそれを行っている人の姿が見えない。

 でも誰かが居るのは間違いないからと、まだ少しダルい身体を起こすことにした。

 布団を捲る音にその人も気づいたのかこっちを振り返った。

 

「えぇっと…誰?」

 

 ていうより人なの?それとも鹿のぬいぐるみ?その子は驚きを隠せないままぎこちない動きでドアのところまで後退り何をするかと思えばおかしなポーズで恐る恐るとこっちを窺ってくる。

 えぇっと、これはツッコむべきなのよね?

 

「…隠れるなら向き、逆なんじゃない?」

 

 言われて気が付いたのかビクッとした後そっと体を入れ換えるけど気付いちゃったんだから隠れるにはもう遅いわよ。にしてもこの子、青鼻だけど多分鹿、よね?なのに二本足で立つし人の言葉も多分理解している。どういうことなんだろう?

 

「ねぇ、ここはどこであんたは何なの?」

 

 もしかしてと思って質問をしてみたが返ってきた答えは別の所からだった。

 

「ヒーッヒッヒッヒッ、起きたかい小娘。ハッピーかい?」

 

 ラム酒をラッパ飲みしながら近づいてきたお婆さんは伸ばした片方の指で私の額に触れてきた。

 

「38度2分、熱は多少引いたようだね」

「貴女がこの島唯一のお医者さんの魔女さん?」

 

 医者には見えないけど魔女って呼び名はピッタリのお婆さんだ。見た目がすごく若そうに見えるけど。

 

「あぁそうさ。アタシはDr.くれは、ドクトリーヌと呼びな。ところで小娘、お前達を連れてきた長髪の小僧、ありゃお前達の何なんだい?」

 

 お前達?今の言い方だとクロトだけで行く筈だったけど誰かついてきたのかしら?

 

「長髪…クロトのこと、よね?私達の仲間よ」

 

 しばらく私の目を見ていたドクトリーヌだったけど、やがて納得したのかピリピリとした気配を戻してラム酒にもう一度口をつけた。

 

「そうかい、ならいいんだ」

「ちょっと気になる言い方ね、クロトが一体どうしたっていうの」

 

 ドクトリーヌはもう一度私の顔を見ると小さく呟いた。

 

「…小僧の身体を見たことがあるかい?」

「見たことないわね」

 

 聞き取った呟きの【やっぱりね】と、質問の意図が分からなかったけどとりあえず素直に答えておく。

 ルフィにウソップ、この二人はだらしなくて暑いと上を着ないでいることもそれなりに多い。それにゾロ、アイツは修行だなんだって汗を拭いているところを何度も見ている。

 サンジ君はこの三人とは違うから見た事が…あぁ一度だけあったわね。ココヤシ村でアーロンと戦った後の治療の時に一度。

 

 でもそういえばクロトはないわね…。まだ出逢って短いから?うぅん違うわね、着替えは部屋で必ずしてるし『蒸し暑いな』ってリトルガーデンにいたときも腕まくりすらしてなかったんだから。上着を渡されたときも下にもう一枚長袖を着てたくらいなんだから。

 男連中はどうなんだろう、同じ部屋で寝起きしているから知っているのかしら?今度それとなく聞いてみよう。

 

 ちょっと待った、もしかしたらビビは見た事があるんじゃないかしら?ウイスキーピークを出航してすぐ、ビビがクロトの賞金額を知って『ならあの傷も納得出来るわね』って呟いていた。たしかあの時戻ってきたクロトが着ていた服はMr.5のコートだったわね。多分爆発で服が駄目になったから奪い取ったんでしょうけど。

 合流したら部屋で一回聞いてみよう。なんだかんだでクロトについては知らないことが多いから。

 

「治してくれてどうもありがとう。私達急ぐ旅だからもう行くわ」

「何?馬鹿言っちゃいけないよ。アタシの薬で多少は楽になったかもしれないけどケスチアの毒はまだ身体に残ってるんだ。同じ苦しみを味わいたくなきゃ最低でも後三日は休んでもらうよ」

「三日!?冗談じゃないわ!本当に急いでいるのよ!」

 

 ただでさえ私のせいで寄り道をして遅れているのにこれ以上時間をかけてられないわ!

 慌てて立ち上がろうとしたけどそれより早くドクトリーヌに抑えつけられてしまった。

 

「逃がしゃしないよ。小娘、アタシの所から出て行く条件は二つだけ、治るか死ぬかだ」

 

 つきつけられたメスと言葉の重さに思わず息を呑む。この人…本気だ。

 重苦しい雰囲気になるがそれを打ち破ったのは勢いよく開かれたドアの音と大声だった。

 

「ここかァ肉ッ!!!」

「いたぞ!少し待ってろルフィ、おれが調理してやる!!!」

 

 ルフィ!?それにサンジくん!?そっか、二人が来てくれたんだ。

 

「ギャーーーーーッ!助けてェッ!!!」

 

 食べられまいと必死に暴れ叫ぶ鹿の子と思われるさっきの子、不思議に思っているとドクトリーヌが答えてくれた。

 

「名前はチョッパー、青っ鼻のトナカイさ」

 

 トナカイだったんだ…。それにやっぱり喋れたのね。

 

「あいつが喋れるのは【ヒトヒトの実】を食べて人の能力を持っちまったからさ。あいつにゃあアタシの医術の全てを叩き込んである」

 

 悪魔の実を食べたからか、あっ変身した。ってことは【ヒトヒトの実】ってのはクロトと同じ動物系ってことね。

 にしても医者のトナカイか、オモシロイわね。

 

 

 

 地面にめり込んだ二人は何事もなかったようにすぐに顔を出した。

 

「おっナミ!元気になったのか!?」

「ウン、大分マシになったわ。それよりあんた達こそその包帯どうしたの?」

「気にしないでナミさん。全然大した事ないから」

「そう?」

 

 多分二人とも心配してここまでついてきてくれたのね、ありがとう。

 

「ねぇクロトは?」

 

 二人が現れたのにクロトの姿はなかった。まぁあんな馬鹿やるクロトじゃないけど姿を見せない事に少しだけ不安になる。

 

「あぁ…あのロンゲは今はちょっと寝込んでいるかな。あ、でも心配はいらないさ、なぁルフィ」

「あぁ!ばあさんだってすぐに元気になるって言ってたしよ!」

「あ、おいルフィ!!」

「アッ!?肉ッ!!?」

 

 サンジくんは部屋の入口にいたチョッパーを見つけルフィと一緒にまた追いかけ始めた。

 

「待っててね~ナミさん、今元気の出るトナカイ料理を作ってくるから!」

 

 バタバタと出て行く二人と一匹、ドクトリーヌはスクッと立ち上がるとどこからか何本もの包丁を取り出し追いかけていった。

 

「『ばあさん』?…今、何て言ったクソガキ共オォォッ!!!」

『ギャアアァァァッ!?鬼婆ァァッ!?』

 

 この人には年齢の事は禁句のようね。それにしても………

 

「料理よりも少し静かにしてもらえないかしら…」

 

 エコーになって響く二人の叫び声に自然と溜め息が出た。

 

 

 

 

「えらく寒いと思ったら建物の中に雪?」

 

 ちょっと耐えられない寒さだったし誰もいないからとベッドを下りようとすると戻ってきたチョッパーが注意してきた。

 もう随分楽になったんだけどと伝えると、

 

「ドクトリーヌの薬は良く効くから熱はすぐ下がるんだ、でもケスチアの毒はまだ身体に残ったままなんだ。無理をしたらまた体調が悪くなるぞ」

 

 とのことで、チョッパーは二人の追っ手がないことを確認するとドアをそっと閉めてくれた。

 

「ありがとう。アンタが看病してくれてたのよね?」

「!!?う…うるせぇなっ!♪に、人間なんかにお礼を言われる筋合いはねぇよ!!♪ふざけんな、コノヤローが!!!♪」

 

 チョッパーは口だけ憎まれ口を叩きながら、うきうきニコニコと体で感情を表していた。感情を隠せない子なのね。

 

 何か聞きたそうな顔ね。チラチラとこっちを窺うチョッパーにどうしたのと尋ねる。

 

「なぁ、お前等本当に海賊なのか?」

「えぇそうよ」

「ドクロの旗も持ってるのか?」

「勿論船に掲げているわよ」

「…」

 

 この反応…ハハーン。

 

「なぁに?もしかしてアンタ海賊に興味があるの?」

「バ、バカいえっ!!!興味なんてねェよ!!!ねェよ、バカ!!!」

 

 そんな否定の仕方、興味津々ってのが丸分かりじゃないのよ。…そうだ♪

 

「ならさ、アンタも一緒に来ない?そしたら私も三日も待たずに此処を出れるしウチに船医も入る」

 

 まさに一石二鳥よね。この子も口では否定しているけどなーんか海賊が気になっているみたいだし。

 

「お、おれはトナカイなんだぞ!!人間なんかと一緒にいられるか!!!」

「でもドクトリーヌとはここに住んでんのよね?」

「そ、それは…。だ、だいたいだな、お前はおれを見て…怖くないのか?トナカイなのに二本足で立つし喋るし………青っ鼻だし…」

 

 最後の理由はよく分からないけど悪魔の実を食べたってくらいならもう既にウチには二人いるからなんとも思わないわね。クロトの変身した姿で動物系には多少慣れてきたし。

 

「ったく、すばしっこいガキ共だ…」

「あっドクトリーヌ。…おれ、もう一人の人間を診てきていいか?」

「…そろそろ麻酔も切れる頃だ、話くらいならしてくるといいさ。ただあの事には触れるんじゃないよ?」

「分かってる」

 

 そう言ってチョッパーは私から逃げるように出ていった。出ていってすぐ叫び声が聞こえたことから多分またあの二人に見つかったんだろう。本当に逃げるようになっちゃったみたい。

 

「感心しないね、アタシがいない隙にトナカイを誘惑かい?」

 

 聞いてたのね。

 

「あら、男口説くのに許可なんているのかしら?」

「ヒーヒッヒッヒッ!そりゃそうだ、ならおとしたその時は何処へなりとも連れてくがいいさ。だがアンタ等になびくかどうかは分からないがね…」

 

 それってどういう事かしら?

 

「医者でも治せない傷ってのがあるのさ」

 

 そう言った彼女の顔はどこか悲しげだった。

 

~ SIDE OUT ~

 

【続く】




未来で出そうと思っていた悪魔の実が出てきてしまいました。
 メモメモの実・・・

原作と異なる能力になるかもしれないけど、「独自設定」タグをつけることで対応します。


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