ブラック・ブレット 双子のイニシエーター (ユウジン)
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紹介
人物紹介


登場人物の紹介

 

牙城(がじょう) 優磨(ゆうま)

 

身長185㎝体重90㎏

 

年齢は謎の牙城民間警備会社の社長にして唯一のプロモーター。IP序列は921位。ヘビースモーカーで、普段は寝てるか大学時代からの友人の室戸 菫の研究所に入り浸っている。

 

顔立ちは野性味のあるイケメンといった感じで好みは分かれるが整った顔立ちをしている。趣味は格闘技観戦と言うだけあって格闘技に詳しい。

 

天童 木更と連太郎・延珠コンビとは同じ民警同士顔見知り。

十年前のガストレア戦争の際に体の半分をグシャグシャにされ、残りも使い物にならないほどボロボロにされており、菫に後に【新世界創造計画】と呼ばれることになる改造を受けたプロトタイプである。そのため見た目は人だが、脳や生殖器、他にも一部の内蔵以外機械化しており、車に引かれようと銃で撃たれようと無傷で済む。その手術の後遺症で髪が白くなっている。

 

性格は面倒臭がり屋で、寝ることこそ史上最高の幸せと考えており、一歩間違えれば只のニートである。

だが後述するイニシエーターの養育費はしっかり稼いでいたりするなど大人としてやらなくてはならない最低限のことはしている。他にも何だかんだでイニシエーターを大事にしており、ラブレターを貰ったと言う話を聞いただけで石になったりしている。

だがあくまで父親のような目線でしか見ていない。

 

武器はデザートイーグルと、体に内蔵され、肘や手首から延ばして使うことができるバラニウム性の高周波ブレードを使う。他にも様々な能力がある。

 

戦闘術は前述した銃とブレードと趣味である格闘観戦から作った我流の格闘術を使用する。

 

余談だが酒には弱い。

 

 

(ひいらぎ) (なつ)

 

優磨のイニシエーターの一人でスポーツが大好きなボクっ子。

優磨の事は、優兄と呼び兄のような存在として、そして異性としても好きである。御気に入りは優磨の腕枕で寝ること。

優磨とは組んで四年だが、互いの心理は誰よりも理解していると自負しており、連携は相手を見ずとも可能。

 

性格は好奇心の権化で、親友の延珠から聞いたことを実践しようようとしたりして優磨を困らせたりしている。更に負けず嫌いで学校で男子との喧嘩になっても一歩も引かず逆に返り討ちにするくらいである。ただその反面学校の成績はあまり良くない。

 

モデルは蝦蛄(シャコ)でパンチ力と視力が異常に高く更に夜目も効く。

そこに加え優磨からボクシングを習っており戦闘能力は非常に高い。

武器はバラニウム性のグローブを使う。

 

顔立ちはつり目気味の目とスラッとした体型で少し日焼けしている。

髪は真っ黒で肩くらいに切り揃えてる。

 

目標は将来バインバインになること。

 

(ひいらぎ) (はる)

 

優磨のもう一人のイニシエーターで夏の双子の妹。

一人称は私でいろんな意味で夏とは対照的な性格をしている。

優磨の事は優磨兄様と呼び、礼儀正しく落ち着いた性格。だが本質は甘えん坊で御気に入りは優磨の膝の上でテレビを見ること。

夏と同じく優磨に異性としての好意を抱いている。

 

モデルは蝙蝠(バット)で、超音波で相手を探したり、狙撃銃で相手を狙撃したりするなど基本的に援護での活躍が多いが夏と同じく優磨とのコンビネーション完璧である。

使用武器はバレットM82

 

夏とは違い学校の成績は優秀で、夏に勉強を教えてあげたりしている。

 

性格は前述した通り非常にしっかりした性格で面倒臭がりな優磨の世話をしたりするなど菫には夫婦みたいだといわれている。

 

顔立ちはタレ目で可愛い系の顔をしており十歳にして既に出るとこ出てますの片鱗が見え始めている。髪は夏と同じく真っ黒で腰に届きそうな髪を三つ編みにしている。



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一章 牙城民間警備会社
第1話


私達はずっと二人だった…ずっと二人で生きてきて…二人だけで死んでいくと思っていた…

【ガストレア戦争】…十年前に突如現れたガストレアと呼ばれる生物…人間はもちろん対抗したが見たことのない驚異に人は驚愕し…敗北した…

だがその直後からそのガストレアの因子をもつ子供たち…通称(呪われた子供)が現れる。瞳が赤く輝き…人間離れした能力で動く…

それ故に…迫害された…

人からは嫌われ生きられず…ガストレアとしても生きられない…どちらとしても生きられない…そう思っていたある日のこと…

 

 

「おい見ろよこいつら二人揃って呪われてやがるぞ」

 

男たちは少女たちを見ると腫れ物を触るかのような顔をする。

 

「じゃあ殺っちまっても問題ねぇよな?」

「ごみ掃除だごみ掃除」

 

男たちはナイフを出す。

 

「い…や…」

 

少女の片割れが呻く…

 

「くんな!」

 

もう一人が叫ぶが男たちには関係ない。

 

「死ねよ化けもぶが!」

 

すると最後まで言う前に男の一人が吹っ飛んだ。

 

「だ、誰だてめぇ!」

「なぁに…通りすがりのお節介だ~よ!っと」

 

突然現れた男に更に一人が吹っ飛ばされた。

 

「こんの!」

 

残った男はナイフを向ける。

 

「しね!」

 

ナイフが突き刺さる…が、その刀身は体に入ることはなかった…むしろ逆にナイフの刃が折れている…

 

「は?はあ?お前人間じゃ…」

「ちょいと事情があってね…つうわけで終わり」

 

混乱していた男は男の拳で意識を刈り取られぶっ倒れた。

 

「よう、怪我は…まあ直ぐ治る程度か…」

「だれ?」

「俺は牙城(がじょう) 優磨(ゆうま)…ついさっき民警ライセンスを受け取ってきたばかりの新米民警だ…見たとこ…お前らガストレア因子持ちか…モデルは?」

「…蝦蛄」

「蝙蝠…」

 

優磨と名乗った男は少女たちを見る。

 

「よぅっし!お前ら、俺のイニシエーターにならないか?まだ決まってねぇんだよ」

「ボク達は登録していない」

「別に今からでも…」

「僕たちはずっと一緒に居るんだ…」

 

少女は優磨を睨み付ける。確かにイニシエーターになったら一緒には居れないだろう…ならば、

 

「なら一緒に来いよ、そう言う時に上に顔が利く知り合いが居るんだ。取り合ってもらって特例をつくってもらう」

「え?」

「少なくとも衣食住に困らせねぇぜ?まあ来るかどうかは勝手にしな」

 

それだけいうと優磨は背を向けて歩き出した。

 

「どうするの?夏…」

「…いこう…変な行動に出たら殴ってやる…」

 

二人は優磨の後を追い掛けた…

その後優磨の知り合いがどうやったのかは知らないが特例が認められ優磨とそのイニシエーターコンビは民警唯一の三人一組のチームとなった。

 

 

 

 

 

「起きてください優磨兄様!」

「んあ!?」

 

優磨はベット代わりのソファーから跳ね起きる。

 

「もう朝ですよ!お腹空きました」

「ん?ああ~もう日が出てたか…」

 

優磨はよっこらしょと体を起こす。

今起こしてきたのは二人いるイニシエーターのうちの一人…(ひいらぎ) (はる)

しっかりした性格で頭がいい。将来絶対美人になる感じの女の子。とは言え10才児に変な気は起きないが…

 

「あれぇ?やっと優兄起きたんだ」

 

こいつは(ひいらぎ) (なつ)…春の双子の姉で似ても似つかん…

性格は正に好奇心の塊でしかもそれを満たすために動くことを全く躊躇わない無駄な行動力…そして自分も気に入らないことがあると優磨を平気で殴り飛ばす。

 

「さて…米は…炊けてる…じゃあ味噌汁つくって…目玉焼きか…」

 

優磨は眠い目を擦りながら作り始める。それにしても久しぶりにあのときの夢を見た…初めてあった時の事とは我ながら乙女じみたことだ。相手は幼女だが…

 

「まだー?」

「もうちょい…」

 

三十分ほどで作り終えるとテーブルの上に並べる。

 

「出来たぞ」

『いただきます!』

 

二人は食べ始める。もう組んでから四年経つが変わらない。

 

「でも優兄料理上手になったよね~」

「本当だね、優磨兄様と初めて会った頃はご飯は重湯、味噌汁は味がないし具が生…目玉焼きは炭…だった」

「……………」

 

前言撤回、こいつら生意気になった。確かにこいつらに会うまでは毎日カップラーメンで料理なんか碌にしてこなかった。お陰で初めて作ったときは前述通り。とは言えこの双子も料理の腕は壊滅的だったりする。

 

『ご馳走さま』

 

双子はそう言うとランドセルを持つ。

 

「忘れ物はないか?」

「ないよー!」

「大丈夫です」

「じゃあ行ってこい!」

 

優磨が言うと夏が口を突きだしてくる。

 

「ん?ひょっとこの真似か?」

「行ってきますのチュウ!」

 

次の瞬間拳骨が飛んだのは言うまでもない。

 

 

「アッハッハッハッハ!」

「………………」

 

今笑っている女性は室戸 菫…優磨とは大学時代からの付き合いで数少ない友人である。彼女はボサボサの髪を揺らしてまだ笑う。よく見ればとんでもない美女なのだがリンスなどとは無縁の髪を伸ばし放題にしてよれよれの白衣を着ているため女としての魅力は感じない。しかもこの女は死体しか愛せず研究室の横に勝手に死体安置所をつくっている。

さて紹介はこの辺りにしてあの後拳骨を落とした優磨だがお陰で夏からの手痛い反撃にあい玄関からリビングの端まで殴り飛ばされた。自分でなければ死んでるがその辺も分かって向こうもやっている。とは言え痛いものは痛いので帰ってきたらお仕置きの予定である。

 

「ひひアハハハハ!」

 

しかしこの女…何時まで友人のぶっとばされた話を笑っているのだろうか…

 

「あ~あ、こんなに笑ったのは久し振りだ。いやはやあの子達は本当に面白いね」

「勘弁してくれよ」

優磨は懐からタバコを出すと火を点ける。

 

「ここ一応禁煙だよ」

「そんなのを気にする玉かよお前は」

「まあそれもそうだね」

 

たっぷりと紫煙を肺にいれてゆっくりと吐いていく。

 

「家では吸わないのかい?」

「あいつらがいるからな」

 

優磨がそう言うとまた菫は笑った。

 

「子煩悩だね~」

「アホか」

 

また煙を吸っていく。

 

「今日は仕事ないのかい?」

「毎日出てる訳じゃねぇよ」

「残念だ。出てくれればマイケルの代わりも見つかるかもしれないのに」

「ん?リーガルって名前じゃなかったか?」

「それは2つ前のだよ、流石に腐ってきてね」

 

流石に慣れたとは言え普通なら吐き気の一つも催すだろう。

 

「ん?」

 

するとそこに電話はいった。この着信音は…

 

「はいもしもし?」

「警察だ。ガストレアが出現、急ぎ応援を求む」

「了解っと」

 

電話を切ると立つ。

 

「んじゃ、また来る」

「ああ」

 

優磨はタバコの火を携帯灰皿で消すと外に出た。

 

 

 

車で現場である団地まで行くと既に警察が封鎖を終えていた。

 

「やあ、牙城」

「相変わらず現場主義か?如月警部」

 

彼は如月(きさらぎ) 彪馬(ひゅうま)。見た目は穏やかなお日様みたいな見た目で性格その顔に準じている。同期の多田島という警部もいるが雲泥の差である。

更に彼は民警に対し非常に友好的だ。基本的に警察の武装ではガストレアには対抗できない。その理由は後で詳しく記すがとにかく彼はこう言うときは優磨に良く仕事を回してくれる。お陰で比較的仕事がなくて暇という状況に陥らない。

 

「何とか抑えたけどね…一瞬だけ見えたんだけど蜘蛛かなあれは…糸吐いてたし」

「怪我人は?」

「一人糸に縛られたのが居たけど怪我と言うほどのものはないよ。一応検査受けさせてるけどまあ大丈夫さ。部下は行きたいみたいだけどね」

「あんたが担当だと楽でいいぜ」

「夏ちゃんと春ちゃんは?」

「学校だ」

 

そこまで言うと優磨は腰から持ち銃であるデザートイーグルを抜く。

 

「行ってくる」

 

優磨はデザートイーグルをスライドさせながら入っていった。

 

 

ガストレアとはガストレアウィルスにより形質変化した人非ざる者である。その姿は正に千差万別。何故ならガストレアウィルスにより形質変化した場合は地球上の生物を真似している。そのお陰で攻撃方法も多種多様、更にステージと呼ばれるそのガストレアの強さとランクを表すものがありⅠ~Ⅳに格付けされる。Ⅳに近ければ近いほど強く、大きく…そして摩訶不思議な姿になる。理由は単純、ガストレアは進化する毎に他の生物の姿も取り込んでいくのだ。前にステージⅢと相対した際にはバッタと蝶と最後のはようわからん奴と融合した良くわからんものになっていた。さて簡単なガストレア講座はここまでにして…

 

「来たか…」

 

階段の途中でガストレアステージⅠと遭遇した。確かに蜘蛛だ。Ⅰ~Ⅱまでくらいなら何のガストレアか分かりやすい。

 

「ショータイムだ」

 

優磨は銃を撃とうと構える。

だがその前にガストレアが飛びかかってくる。

 

「ちっ!」

 

優磨は後ろに飛んでから撃つ。

ドゴン!っと派手な音を起てガストレアに銃弾がめり込む

 

「らぁ!」

 

更に2、3と立て続けに撃ち込む。

 

「ギャ!」

 

ガストレアはたまらんとばかりに糸を吐く。

ガストレアは通常の弾丸では効きが悪い。何故なら再生能力が非常に高く当てた傍から再生して完治してしまう。そのため警察では手に追えないと言うのだ。だが優磨が使ってる銃の弾丸は特別製…特殊金属バラニウムだ。

色は黒く、これにはガストレアの再生能力を阻害する力があり他にも剣や槍などに加工したりされている。

 

「ふっ!」

 

ジャキン!と言う音と共に左手首の甲の方からブレードが出てくる。そしてそれで糸を簡単に切断すると更に銃を撃つ。

優磨は見た目は人間だ。だが優磨は殆ど人間の肉体を持っていない。

十年前のガストレア出現時に命を落とし掛けるほどの大怪我を負いその際に菫から後に【新世界創造計画】と呼ばれる手術を受けることで生き長らえた。費用的な問題からそれを構想のみで頓挫したが内容はもう一つの計画【新人類創造計画】と言う計画が存在し一部を機械化させるに留めると言う方法が立案された。

そのため【新世界創造計画】被験者は表向きはいないと言われている。だが現実は存在する。脳と生殖器とごく一部の内蔵を除きほぼ全てをバラニウム金属を越えた超バラニウム金属を代替した肉体を優磨は持っている…更に他にも室戸 菫の手によって様々な特殊能力を使えるようになっている。そして今出しているブレードは基本装備で手首や肘、他にも足首などから出すことができる超バラニウム金属性の高周波ブレード。

優磨は民警の他にもう一つの名を持つ。陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊【新世界創造計画】被験者番号0番…牙城 優磨

 

「さて…ん?」

 

優磨はあらぬ方向を見ると…

 

「ったく…そういやもう放課後か」

 

銃をしまった。

 

「ま、これで終わりだ」

 

次の瞬間蜘蛛のガストレアの体が横に倒れる。長距離の狙撃だ。銃の名前はバレットM82…対物狙撃ライフルで良い子は人間に向けるのは辞めましょうタイプの銃…そしてモデルは蝙蝠だ。そして…

 

「ウリャアアアアアア!!!!!!!!!」

 

優磨の横を小さな物体…と言うか柊 夏が通りすぎガストレアをぶん殴る。夏より数倍は大きいガストレアはあちこちにバウンドしながら吹っ飛びそのまま動かなくなった。

 

「寄り道は辞めましょうじゃなかったか?」

「へへ…」

 

瞳を赤くさせた夏はイタズラっぽく笑った。

 

 

 

「流石に強烈だね、夏ちゃん」

「こんなパンチを日常的に食らわせられてる俺って何だろうな」

「優兄が悪いんでしょ」

 

下に降りてくると彪馬に出迎えられる。

 

「お疲れさまです」

 

そこに背中にバレットM82を背負った春が来た。

 

「でもイニシエーターの力は凄いね。僕達警察の面目がないよ、牙城も頑張んないとね?プロモーター君」

 

プロモーターとは優磨たち民警の方を良い、その相棒をイニシエーターと呼ぶ。

そしてイニシエーターはガストレア因子を持つ者…しかも十年前のガストレア出現時にその因子を持つものが現れたため最大で十歳の女の子しかいない。だがその因子をもつ少女は力を使う際には赤く目が光り、ガストレアと同じように何かしらの生物の力を使う。例えば夏は蝦蛄…しかもモンハナシャコと呼ばれる種で異常にパンチ力が高く武器はバラニウム性のグローブ…その気になれば鉄筋コンクリートもパンチでぶっ壊す驚異の力と赤外線やエックス線等々も見える目を持つ。そして春のモデルは蝙蝠…超音波での敵の探索や夜間の夜目は夜での戦闘に非常に役立つ。

因みに普通イニシエーターはプロモーター1人につき1人しかつかないが菫の色々な裏での操作により特例で優磨には夏と春の二人もイニシエーターがいる。

 

「じゃあはい、報酬」

「ごっつぁんです」

 

中には結構な量が入っている。

 

「後、夏ちゃんと春ちゃんチョコレートいる?」

「いる!」

「いただきます」

 

彪馬から受けとると二人はご機嫌だ。

 

「じゃあまた」

「ああ、また仕事入ったら呼ぶよ」

「ばいばーい」

「ありがとうございました」

 

優磨と二人は歩いていった。

 

「警部」

「ん?」

 

そこに部下の一人が来た。

 

「あれが呪われた子供なのですか?」

「うん」

「自分にはただの子供としか…」

「そんなもんだよ。確かにすごい力は持っているけど…ただの子供さ」

 

彪馬は笑いながら言った。



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第2話

「今日は~焼き肉~♪」

「ひでぇ音痴だな…」

 

夏は色々と可笑しい音程の歌を歌いながら肉を入れる。

 

「豚、豚、ブーブー♪」

「優磨兄様…あそこに人だかりが…」

「ああ~、モヤシが5円なんだろ。一人ひとつまでだから行くぞ」

「え~、肉だけで良いよ」

「あほ」

 

それから主婦の押し退け時々わざと優磨を蹴って邪魔しようとして逆にダメージを受けてるオバサンを見ながら優磨はモヤシを三袋入れる。

すると…

 

「あれ?優磨さん」

「ん~?おお、蓮太郎じゃないか。久し振りだな」

「あー!延珠!」

「おお!夏ではないか!春も元気そうだな」

「うん」

 

主婦の軍団から脱出しながら同じ民警仲間の里見 蓮太郎とそのイニシエーターの藍原 延珠に会う。基本的に民警同士は仲が悪いことが多いものの優磨と蓮太郎は菫を通して友好的な間柄だった。

 

「夕飯の買い物ですか?」

「まあな」

「今日は焼き肉なんだ」

 

夏が言った次の瞬間蓮太郎と延珠が石になった…見てみれば蓮太郎の籠の中にはモヤシのみ…対して優磨の籠にはモヤシ以外のも肉や玉葱に椎茸等々入ってる…

気まずい…

 

「そ、そうだ!お二人も来ませんか!?い、良いですよね優磨兄様」

「そ、それは良い考えだな!春。どうだ!?」

「え、良いんですか!じゃ、じゃあお言葉に甘えて…」

「どうせだから木更ちゃんも呼んであげな。あの子も死にそうになってるだろうし」

「すいません。ありがとうございます」

「じゃあ延珠!帰ったらゲームしよ」

「今日は負けないからな!」

 

蓮太郎が電話を掛けてるのを他所に子供たちは遊ぶ算段をたてていた。

 

「ゲームは一日一時間だぞ」

「ちぇ~」

 

 

さて家に帰ると蓮太郎と優磨は準備を開始する。残念なことにイニシエーターの三人は三人とも料理は壊滅的だしこれから来る蓮太郎の雇い主にして幼馴染みであり天童民間警備会社の社長、天童 木更は昔、火事を起こし掛けたほどの素晴らしい腕前の持ち主でそんな腕の持ちに料理されたら調理される食材が可哀想だし一応優磨が住んでいるマンションは3LDKの結構広いが少しお高目で弁償ものになったら臓器を売らねばならない。だが優磨は売るべき臓器が殆どないため夏と春に身売り…そこまで考えて身震いしたため辞めるがとにかく量も量だが男がエプロンつけて二人で準備するしかない。

そうと決まれば蓮太郎は意外と器用なため料理もうまくあっという間に手際よく準備していく。不幸面だが何とも家庭的な男だ。序でに繕わなくてはいけないものを繕って貰うか…

優磨は裁縫もダメなのである。

するとチャイムが鳴った。

 

「おーい、出てくれ」

「はーい」

 

春が迎えに行く。

暫し待つとそこに春と共に黒髪でスタイルが良い綺麗な少女…

 

「いらっしゃい、木更ちゃん」

「どうもすみません」

「良いって別に、こっちも蓮太郎の料理が食えるんだしな」

「あ、これを…」

 

そう言ってだしたのは…肉だ。

 

「ただ食べさせてもらうのもなんですし…」

 

生活に困窮している筈なのだが…

 

「ありがとな」

 

優磨は礼を言うと調理に戻る。

 

 

それから一時間後に準備は終わり…

 

「それじゃ…」

『頂きます!』

 

次の瞬間肉を焼いているホットプレーとは戦場へと変わる。

 

「え、延珠ちゃん!それ私が育てた肉!あ!夏ちゃんそれもよ!」

「木更はもうおっぱいにたくさん入ってるから良いんだ!」

「そうだそうだ!」

「木更さんよかったら私のをどうぞ」

「は、春はそっち側なのか!妾の敵か!」

「くそ!春のことは信じてたのに!」

「何言ってるの、木更さんもお客さんなんだよ!」

「春は将来有望そうだものな…妾と違って」

「え?」

「大丈夫だよ延珠!僕は味方だから」

「うむ!」

 

そんな惨劇――もとい寸劇を見ながら優磨と蓮太郎は女性陣営が落ち着かないと自分達に食べる権利が発生しないことを弁えてるためシェフ状態だ。

 

「女三人集まれば姦しいとは良く言ったもんだな」

「ですね、四人いますけど…」

 

しかも年齢を考えなければ全員美少女…かなり役得なのかもしれない。まあロリコンでホモでオカマバーのストリッパーの蓮太郎なら良いかもしれない優磨から見れば正に子供だ…個人的にもうちょっと色気のある大人の女性が好みである。

 

「って今のナレーションおかしくねぇか!?誰が、ロリコンでホモでオカマバーのストリッパーだよ!」

「菫が言ってたぞ」

「あの人ときたら…」

「なんだ蓮太郎はロリコンなのだろう?いつでも妾はドンとこいだぞ」

「ぜってぇ行かねぇよ!」

「優兄も良いんだぞ?」

 

とんでもないことを言う夏とコクコク頷く春…

 

「阿呆!」

 

優磨は二人に拳骨を落とした。

 

「いってぇ!」

「あう!」

 

二人は目を回す。優磨の拳骨は読んで字の如く鉄拳なのだ。

 

「何すんだよ!」

「おめぇらがアホ言ってるからだ…」

 

そう言うと優磨は立ち上がる。

 

「タバコ買ってくる」

 

そう言って外に出ていった。

 

 

 

「さて…」

 

優磨は外に出るとマンションのエントランスを出て道路に出る。

 

「出てこいよ…覗き魔野郎」

「やはりバレていたか…」

 

そこに現れたのはタキシードとシルクハットと言うマジシャンみたいな格好にふざけたマスクを着けた男だ…そしてもう一人はショートカットの腰と背中に計四本の小太刀を装備した…恐らくと言うか子供にそんな装備をさせるのだから間違いなく呪われた子供だ…

 

「初めましてだな。私は蛭子 影胤…そしてこの子は娘の小比奈だ」

「パパァ…こいつ殺して良い?」

「ダメだよ」

 

蛭子 影胤と名乗った男は小比奈と言う少女を止めると優磨を見る。

 

「んで?何のようだよ」

「いや、用があったのは里見くんの方だ」

「んじゃあ聞き方を変える。あいつになんの用だ?」

「ふふ…誘ってみようと思ってね」

「世界征服にか?」

 

優磨は茶化すように聞く。

 

「いや、東京の壊滅にさ」

「っ!」

 

世界征服の方がまだマシだったかもしれない。

だが十年前まで日本と呼ばれたこの国は今【東京】【大阪】【仙台】【札幌】【博多】の五つに分裂している。特に東京は人工が多くその分防御が硬い。壊滅などそう簡単には行かない筈だ。

 

「どう言うことだ?ここには多くの人間がいる…」

「確かにその分守りは硬い。だが…その分穴もある」

「なに?」

「例えばちょっとした動揺もすぐに広がる…とかもあるだろうし逆に防御が硬い分混戦に入ったら間違いなく練度が低いこの兵士たちでは負けるだろう」

「じゃあ質問その二…何で蓮太郎を?」

「同じ雰囲気を感じた…世界に絶望し…諦めている…私と同じ目だ」

「んなマスクつけてりゃ自分の顔なんざ分かるめぇよ」

「パパァ…こいつ殺したい」

「ダメだ…」

 

そう言うと影胤は優磨を見る。

 

「さて、そう言うわけだから会わせて貰えないかな?」

「んなことしたらお前は暴れるだろう?」

「まあ彼と戦ってみたいしね」

「んじゃあ…」

 

優磨は肩を回す。

 

「悪いが門前払いだ」

 

優磨は影胤を見る。見たところ相当な…いや、かなりの実力者だ…そして小比奈とか言う方も強い…もしかしたら奥の手を使うかもしれないが…まああそこで飯食ってる奴等のために面倒くさいがやらせてもらうとしよう。

 

「ひとつ聞こう…君と彼の関係は?」

「同じ民警だ」

「民警同士はそんなに仲は良くないだろう?それなのに食事に誘い…あまつは体を張って守ろうとする。その心は?」

「決まってんだろ…俺は大人なんだ…精神年齢がどうとかではなく…大人なんだ…」

「え?」

「だから戦うのさ…ガキを守んのは義務みたいなもんだからな」

 

そう言うと次の瞬間ゴウ!っと言う音と共に優磨が疾走する。

 

「むぐぉ!」

 

空気の摩擦で真っ赤に燃え上がるほどの音速の拳…優磨の装備のひとつ、ジェット噴射で加速するスラスター付きの腕と足…そしてこれは足の加速と腕の加速両方使う我流体術の技…

 

紅蓮(ぐれん)!!!」

 

肋骨がミキミキ音を発てながら影胤は吹っ飛ぶ。

 

「パパ!」

 

小比奈は瞳を赤くし、小太刀を抜いて優磨に斬りかかる。

 

「つ!」

 

ジャキン!と言う音と共に手首の甲の方から高周波ブレードが現れ小比奈の小太刀を受け止め弾く。

 

「ッシャア!」

 

優磨は小比奈の襟を右手で掴むとスラスターを起動させぶん投げる。

 

爆弾(ばくだん)!!!」

 

遠くまでぶん投げて強制的に退去させると優磨は影胤を見る。

 

「終わってないんだろ?」

「ああ…」

 

影胤は銃を二丁抜く…

元はベレッタだと思うが…付加装備が多すぎて分からなくなっている。

 

「スパンキング・ソドミーとサイケデリック・ゴスペルと言ってね」

「おい…こんな場所で撃つ気かよ!」

 

優磨は路地に入って一度逃げる。次の瞬間マズルフラッシュが夜闇に光った。

 

「イッテェ!」

 

体に銃弾が辺り優磨は飛び上がる。当たっても死ぬわけではないが痛覚はある。痛み的には凡そ金属バットで叩かれた感覚に近い。それで済むのだからとんでもないがやはり痛い。

その為優磨は広い場所に出ると影胤を見る。

 

「成程…君も私とは兄弟だったのか…」

「はぁ!?意味わからねぇよ!」

 

優磨は飛び上がると飛び蹴り放つ。

だがそれは届く前に止まってしまう。

 

「何!?」

「私の力は斥力フィールドを発生させることだ。私はこう呼んでいる。イマジナリィ・ギミック!!!」

 

優磨は強制的に跳んで来た方向に戻される。

 

「くぉ…」

 

空中で体勢を戻すと着地する。

だがそこに小比奈が戻ってきて小太刀をX字に交差させ優磨の首を狙う。

 

「ちっ!」

 

それを伏せて躱すと見るのもそこそこに後ろ蹴りを放つ。

 

「うっ!」

 

小比奈はギリギリで躱すと後ろに飛ぶ。

そこに影胤は銃を構える。避けられないと判断した優磨は腕を交差させてガードする。何十発もの銃弾が優磨を襲う。だがそれだけではなく…

 

「エンドレス・スクリーム!!!」

 

ぞわっと優磨の毛が泡立ち半ば本能的に身を伏せた。すると次の瞬間背後のブロック塀が崩れるのではなく穴が開いた。

 

「私も機械化兵士でね、内臓の殆どが機械さ。君は…改造が肉体の殆どに及んでいる…私の【新人類創造計画】とは違う…と言うことは君は…」

「おい、思考に入るのも良いが周りを見ろ」

「む…」

「隠禅・黒天風!!!」

 

影胤の顔に回し蹴りが炸裂する。この技は天童流戦闘術・二の型十六番の技…そしてこれを使うのは、

 

「優磨さん!無事か!」

「余裕のよっちゃんだぜ」

 

するとそこに小比奈が斬りかかってくる…が、

「甘いぞ!」

 

延珠が靴底に仕込んだバラニウムで防ぐと蹴っ飛ばす。延珠のモデルはラビット…つまりウサギだ。キック力はすさまじく高い。

 

「くっ!」

 

だが小比奈も大したもので小太刀でそれを防ぎ後退する。しかしそれだけでは終わらず後退した方向には夏が追う。

 

「チェイ!」

 

夏の左ジャブが小比奈に迫る。

 

「ふっ!」

 

だがそれを小太刀で防ぐともう一本で小太刀で斬りかかる。

 

「くっ!」

 

それは体をそらして躱しつつ小比奈のボディの向け右フックを放つ。

 

「当たらないよ」

 

だがそれすらも小太刀で防いだ…だが、

 

「甘いよ…」

 

左ジャブが放たれる…ギリギリで当たらないと判断した小比奈は避けなかった…だがそれは間違い…ギリギリで夏の拳は小比奈の顎をカスった…

 

「あれ…あれれ…」

「む、あれはいかん…」

 

影胤は舌打ちする。

今の小比奈は夏が何人にも見えるだろう。顎をカスった場合人間は脳ミソが揺れる。

 

「今のあんた気持ち悪いだろ?」

 

夏は拳を構え…

 

「今気絶させてあげる」

 

【バキィ!】っと夏の渾身の右ストレートが小比奈の頬に刺さった。

 

「がふ!」

 

小比奈は派手に吹っ飛びそのまま体を塀にめり込ませた…

時々ピクピクしているため死んではないだろう。

 

「ふむ…」

 

影胤は小比奈を壁から引き剥がすとこちらを見る。

 

「仕方ない。ここは撤退しよう」

「逃がすとおもって」

 

蓮太郎が行こうとするが優磨が止める。

 

「いいぜ、行けよ」

「優磨さん?」

「こっちも体勢は建て直した方がいいだろう…少なくともこいつは…今戦うのは危険だ」

「わかってくれて嬉しいよ…ではまた会おう。遺産をめぐるときの戦いでは手は抜かないよ」

 

そう言って影胤は小比奈を連れて去っていった。

それと共に警察のサイレンが聞こえて来る。遅すぎだろ来るのが…

 

「さあ、警察に事情説明なんてめんどくさいことからはフケようぜ?」

「しかし夏はまた腕をあげたな!」

「延珠もまた速くなったんじゃない?」

「しっかしあれとやりあうとか優磨さんも大概化けもんだな」

「ん~?」

「ああ!」

 

そこで木更が声をあげる。

 

「どうした?」

「肉を上に置いたままホットプレートの電源切るの忘れた…」

『…………えぇえええええ!!!』

「今すぐ帰るぞぉおおおお!!!」

 

優磨の号令と共に皆は走り出した。



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第3話

「蛭子 影胤…ねぇ」

「お前なら知ってると思ってよ。新人類創造計画元最高責任者ならさ」

 

影胤との戦いから次の日、優磨は菫の研究室に来ていた。

 

「まあ知ってるよ。と言うか元は彼も民警さ」

「なに?」

 

優磨は眉を寄せる。

 

「彼を改造したのはグリューネワルト翁だ。素晴らしい人物だよ。改造された方は狂ってしまったみたいだがね。因みに蛭子 影胤の民警時代の序列は134位…君よりずっと上だ。まあ君や里見君は序列なんてもので計るもんじゃないがね」

「しかしそのグリューネワルト翁というのは大したものらしいな。お前が人を誉めるなんて驚いたぜ」

「彼は私を含めた他の3人と違い生命を大事にしていた。そこは認めるべきだ」

「ふうん」

「そして彼の力は斥力フィールドを作ること。その頑丈さは対物ライフルの弾は勿論ビルを壊す際の鉄球何かも軽々弾く」

「めんどくせぇな…」

 

優磨は菫が耐熱ビーカーに入れた珈琲を飲み、タバコの火を消す。

 

「んじゃ、行ってくるわ」

「また用事かい?」

「庁舎にな。何か嫌な予感しかしないがあの子から直々に電話貰っちまったし…行くしかねぇだろ」

「君は本当に甘いねぇ」

 

菫の含み笑いを流しつつ優磨は外に出た。

 

 

優磨はその後電車で三十分ほど揺られ庁舎にやって来る。

夏や春を連れてきても良かったが今回は真面目な話だろう。そんな中連れてきたら絶対寝る…よだれ垂らして夏は寝るに決まってるし春も船を漕いでしまうだろう。それに今日は学校だ。

等と考えながら庁舎に入ると少し広めのホールに来る。

 

「あんだぁ、ガキは大人しく帰ってな」

 

最初自分に言われたのかと優磨は声の方を見たがその言葉を向けられたのは自分ではなく昨夜夕食を共にした里見 蓮太郎と木更へ向けられたものだった。まあもう自分はガキと呼ばれる年でもないな…等と考えながら彼らも呼ばれていたのかと思いつつ口論の方に向かう。

 

「何だ何だうるせぇな」

「優磨さん…」

 

蓮太郎は優磨を見る。

 

「確かお前伊熊 将監(いくま しょうげん)だろ?」

「お前も知ってるぜ。牙城 優磨だろ?民警内でも唯一二人のイニシエーターを持つ男…」

「【持つ】…じゃなくて【居る】…だろ?語彙が少なすぎんじゃねぇか?脳味噌まで筋肉になったか?」

「てめぇ…」

 

将監は背中の柄までバラニウムで出来た大剣に手を掛ける。

 

「今イニシエーターは居ないのか?」

「まぁな…つうか辞めとけよこんなとことで戦うのは…ここでやるのは少々不味いだろ?それに…」

 

優磨は半眼になる。

 

「弱いもの苛めは趣味じゃない」

 

ブチりと将監の中で何かが斬れた音がした。

 

「上等だごらぁああああ!!!」

「辞めないか!!!」

 

そこに将監の所属する大手民間警備会社・三ヶ島ロイヤルガーターの社長が止める。

 

「…ちっ!」

 

将監は構えを解く。

 

「行くぞ夏世」

「はい…」

(あの子が伊熊 将監のイニシエーターか…)

 

優磨は苦労が多そうな子だと思っていると三ヶ島社長が来る。

 

「うちのが申し訳ない」

「いや、謝るならそこの二人にしてくれ」

「おお、あなたは天童の…うちのが大変失礼した…」

「いえ、結構」

 

木更はどこかで複雑そうに言った。

 

 

それからそれぞれ席に座るとモニターに人が現れる。

 

「聖天子様…」

 

誰かが呟く…モニターにはこの東京エリアで最も偉い人物…聖天子とその側近で木更の祖父に当たる天童 菊之丞がいた…

 

「こんにちわ皆さん…楽にしてください」

 

そう言われても楽にはできない。たった三年とはいえその高い美貌とカリスマ…そして政治力は目を見張るものがあり支持率も高い。

 

「これからの話は他言無用且つ聞いたら降りることはできません…引くなら今です」

 

だがそれを聞いても立つものは居ない。

 

「分かりました。では皆さんには依頼を受けてもらいたいのです。それはこの町に侵入した感染源ガストレアの討伐…そしてそのガストレアが持つケースを無傷で奪還して欲しいのです」

 

そう言って報酬額が表示される。

 

「おぉ…」

 

額はあり得ないほど高い…依頼の難易度と合っていないのは一目瞭然だ。しかも他言無用というのは可笑しい…とは言え依頼の額で目が眩んだ大多数の人間は気づいていない。優磨を含めた少数は気づいているが…とそこに木更が立ち上がる。

 

「そのケースの中身について教えてもらえますか?」

「残念ですが依頼人のプライバシーの関することです。お教えできません」

「本当にそれだけですか?」

 

木更の言葉に聖天子はわずかに眉を寄せた。バレたくないものがバレたときの顔だ。だがその時わずかに優磨は何かを感じ取る。どこか不吉で…つい最近感じ取った気配。

 

熱探知(サーモグラフィー)…起動」

 

優磨はそう呟くと優磨の左目がキュインっと小さな音を立てて瞳孔が開き瞳が僅かに蒼くなる。そしてそのまま拳を握って構えると、

 

「なっ!」

「優磨さん!?」

 

隣にいた木更と蓮太郎を筆頭としたその場の全員が驚く中優磨は迷うことなく跳ぶ。そして右腕のスラスターが起動し服の袖を破りながら、

 

紅蓮(ぐれん)!!!」

「おっと!」

 

だがそこから突然現れた男は転がるように躱すと中央に立つ。

 

「行きなりずいぶんな先手だね兄弟(ブラザー)

「俺は生まれてこの方ずっと一人っ子だぜ」

 

優磨は構え直しながら中央に立った男…蛭子 影胤を見据える。

 

「てめぇ…」

「里見君に昨日の少女…確か木更と言ったかね…いやいや今日は良い日だ…」

「ねぇパパァ…あいつ斬って良い?」

「駄目だよ小比奈」

 

優磨に小太刀を向けた小比奈はちぇっと唇をつき出す。ああしている分には唯の女の子なのだが…

等と考えつつ優磨は拳を更に強く握る。

 

「で?態々何のようだ?まさか昨日の続きをやりに来た訳じゃないだろ?」

「ああ…私も【七星の遺産】を巡るレースに参加させてもらう。」

 

優磨は目を開く…七星の遺産…この名は菫から聞いたことがある。

 

「一度使えば人の意思でモノリスを崩壊させ大全滅を起こさせる政府指定の封印物…」

 

菫から聞いた一文を暗唱すると影胤は拍手する。

 

「素晴らしい知識だ…では礼儀として改めて名乗らせて貰おう。元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊…蛭子 影胤だ」

 

その言葉を聞いた瞬間蓮太郎と木更は眉を寄せた。

 

「さて諸君。ルールを説明しよう。これはレースだ。標的は七星の遺産を持った感染源ガストレアを先に撃破した方の勝ちだ」

「は!てめぇをやっちまえば関係ねぇだろうがよ!」

 

次の瞬間伊熊 将監が駆け出しバラニウム性の剣に手を掛けると抜き放ちながら降り下ろす。だが、

 

「残念だが此処でやる気はないよ」

 

剣は影胤に届かず止まる。そこに、

 

「パパに手を出すな!」

 

小比奈の蹴りが将監をぶっとばす。

 

「この!」

 

他の民警達もそれぞれ武器を取る。

 

「パパ…こいつらも殺していい?」

「駄目だよ…今はね」

 

そういうが早いか影胤は小比奈を抱えると、

 

「では去らばだ!次はレース会場で会おう!」

 

そう言ってまた消えた。

優磨だけは今だ熱探知(サーモグラフィー)を起動していたため見えてはいたが此処でやりあうのは周りの被害が大きすぎるため見逃すことにする。少なくとも影胤を相手にして周りに注意を払うのは不可能だ。

すると映像の聖天子が口を開く。

 

「依頼内容を変更します。感染源ウィルスからケースをあの男より早く奪還してください」

 

その場の全員が静かに頷いた。

 

 

 

「優磨さん!」

「ん?」

 

庁舎を出ると蓮太郎と木更が出てくる。

 

「貴方…機械化兵士だったんですね?」

 

木更が確認するように聞いてくるが、

 

「ああ、そこの蓮太郎と同じくな」

「しかし久しぶりに見たぜあんたの

力」

「里見君は知っていたのね」

「あ、ああ…あの人との関係者だしこの人普通に教えてくれるし」

「別段隠してもなぁ~、俺の場合お前みたいな【新人類創造計画】の人間と違って改造範囲が大きいからな」

 

この会話からもわかるように蓮太郎も影胤と同じ【新人類創造計画】を受けた人間だ。改造されているのは右腕と右足と左目を改造してある。とある事情があってこの力を極力使わないようにしているが…

すると三人の前に如何にも高級車と言う車が止まる。

そして窓が空くと、

 

「少し一緒にドライブは如何ですか?」

『え?』

 

蓮太郎と木更は窓から顔を出した人物に絶句した。

 

「おいおい、新手のナンパか?嬢ちゃん」

「貴方くらいですよ?私をお嬢ちゃん、何て呼ぶのは」

 

聖天子は少し悪戯顔で言った。

 

 

その後三人は車に乗せられると内蔵した冷蔵庫からジュースを渡される。

 

「普通こう言う場合はお酒なのですが優磨さん以外未成年ですし優磨さんもお酒が苦手でしたよね?」

「良く覚えてるな」

「その代わりメロンソーダやカルピスなどのジュースが好き…でしたね」

「本当に良く覚えてるもんだな」

 

そう言ってカルピスを受けとる。

 

「後、ここは禁煙ですからね」

「世知辛い世の中だ」

「たまにはタバコは吸わなくてもよいでしょう?」

『……………』

 

蓮太郎と木更は優磨と聖天子のやり取りを訝しげに見ている。

 

「ん?ああ…この子とは昔から菫関係で何度か会っててな」

「ああ~」

 

蓮太郎は納得したような顔をする。

今じゃエロゲーと死体を愛する空前絶後の大変態の菫だが、天才ではありガストレアの研究において日本では右に出るものはいない。そのため何度か上のものたちに研究室から連れ出され研究について色々と話し合いがあったりするのだがその際に優磨も一緒に連れていかれたことがありその際に会ってそれ以降懐かれて今に至る。

 

「しっかし二年前に初めて会ってから生で会うのは久しぶりだな…確か最期に会ったのは…」

「半年前の私の誕生日以来です」

「ああ~、夏がもう興奮して大変だったっけ」

「そうでしたね」

 

すると聖天子はモジモジしだし、

 

「それで…変ではないですか?」

「何が?」

「いえ、私も16才なのだと女中の方に言われて最近はこう言う服装が多いのですが…」

 

言われて見れば聖天子の服装は肩は全だしで少々露出が激しいドレスだ。とは言え素の美貌が人並外れているし薄くだが化粧もしてある。こうやって見てみればなんとも言えぬ色気と16と言う幼さが混ざりあった妖絶な雰囲気がある。

 

「そんなことはないだろ?普通に可愛い…いや、もう16だし綺麗だと言った方がいいか?」

 

優磨の言葉に聖天子は頬を赤らめつつも内心ガッツポーズをする。

 

(なに!?そう言うこと!?聖天子様ってこの人が好きなの!?)

(嘘だろ!?歳の差幾つだよ!いや優磨さんすげぇ若くは見えるけど菫さんと同い年だろ?つまり俺より一回りは年上だよな!?しかもこの人…)

 

蓮太郎と木更の言葉が重なる。

 

(しかも好かれてる方気付いてない…)

「???」

 

優磨の方はこの不思議な空気に首をかしげた。

 

「とまあ取り敢えずだ」

 

優磨は少し真剣な目になり、

 

「態々ここまで呼んだのはただ旧交を暖めようとした訳じゃないだろ?側近のじいさんや護衛なんかも無しでさ」

「……はい」

 

聖天子も長の顔となり優磨を見る。

 

「七星の遺産については知っているようですし説明は省きます。とにかく優磨さんには誰の手にも渡らぬように取り返してください」

「態々俺個人にってことは…他のプロモーターにもってことか?」

「はい」

「なあ、その七星の遺産って結局なんなんだ?俺たちは名前だって最近聞いたぞ」

 

蓮太郎に聞かれ聖天子は説明するか迷うが、

 

「安心しろ。こいつらは信用できる。流石に俺だけじゃキツいしこいつらにも力を借りる。良いか?」

「…わかりました。優磨さんがそう言うなら」

「よし、蓮太郎、木更ちゃん。これは絶対他言無用だぞ?それこそ国一つひっくり返る」

 

二人は無言で頷く。

 

「七星の遺産ってのは何でそう呼ばれるのかはわからん。だがそれは幾つかありその全てに特徴がある。それは…」

 

優磨は一つ呼吸を吸うと…

 

「ガストレアステージⅤを呼び寄せる」

 

優磨の言葉を聞いた瞬間蓮太郎と木更は自分の血が凍りついた気がした。



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第4話

ステージⅤ…本来ガストレアはⅣまでしか進化しない。だが極めて稀に触媒を用いることでⅤまで進化するガストレアが存在する。そしてそれらは十二星座(ゾディアック)と呼ばれその内2体は既に外国の民警でIP序列一位と二位がそれぞれ撃破しており元々十二星座と言われているが欠番が存在するため残り9体居る。

ステージⅤの大きな特徴としては其々特殊能力を持つこと、そしてこれが一番なのだが人間がガストレアへ用いれる最大の武器であるバラニウム…これに対し耐性を持っていることだ。つまり生半可どころか通常では撃破不能…それ故に十年前…人類が敗北した背景にはこの十二星座(ゾディアック)の存在が大きい。

 

 

 

 

「待ってくれ優磨さん…ガストレアは意思を持たない筈だ」

 

蓮太郎は顔を青くしながら言う。

 

「おいおい蓮太郎。それはガセだぜ?アメリカなんかじゃその説は否定されてる」

「だ、だけどどちらにしたってガストレアが人間の意思で動くなんて…」

 

すると優磨がコメカミを掻く。

 

「あ、わりぃ。言い方が悪かったな。べつに七星の遺産は人の意思でガストレアを動かすものじゃない」

「え?でも…」

「考えてみろ、そんなもんがあったらとっくの昔にそれ巡って戦争だ」

「あ…」

「正確に言うとな…【呼び寄せてる】んだよ」

『呼び寄せてる…?』

 

蓮太郎と木更は信じられないといった表情だ。

 

「そうだ…引き付けあってる。まるで磁石のN極とS極のように…いや、もっと深いところだな。ほら、あれだな。虫とか動物にあるだろ?フェルモン?そんなやつがあるのかもな。まあその辺の関係は分からない…でもよ…」

 

優磨は目を細める。

 

「俺から言わせりゃああれだな…まるで子供がオモチャを取り替えそうとしてる感じがあるよ」

『……………』

 

車内に重い空気が流れる。

 

「お分かりいただけたでしょうか…このままではどうなるのかを…」

「ええ…ですが蛭子 影胤は何をしたいんでしょうか…」

 

木更の言葉に蓮太郎は頷く。

 

「だよな…国乗っ取ろうとか…そんなのを考えてるような奴には見えなかったし…」

「まあどちらにせよあいつにはやれない代物ってわけだ」

 

優磨は蓮太郎を見据える。

 

「力…貸してもらうぜ?蓮太郎」

「ああ…」

 

蓮太郎は渡されたジュース一気に飲み干すと頷いた…

 

 

 

 

それから三日後…作戦の決行日だ。

その為蓮太郎と延珠、そして優磨と夏、春はビルの屋上に来ていた。何故ならこの面々はヘリによる上空からの移動となる。無論他の民警も目指しているが徒歩だしヘリの方が圧倒的に早い。

 

「ふむ…けっこう煩いものだな蓮太郎」

「そうだな」

 

ヘリのなかでは蓮太郎と延珠が話していた。

その話を聞きながら優磨は煙草に火を着ける。煙をゆっくり吸い込んでいるとあっという間に危険地帯に入る。

危険地帯とは東京エリアの外…つまりモノリスという壁で覆われた街の外を指しガストレアも多いと言うか巣窟である。

 

「優磨兄様…他の民警は大丈夫でしょうか…」

「あれだけの人数だ…蛭子 影胤相手なら分からないがガストレア相手になら平気だろ」

「あー!腕が鳴るな~…今度はキッチリ小比奈をぶっ飛ばすんだから」

「む…それは妾の仕事だ」

「僕だよ!」

「妾だ!」

「どっちでも良いから怪我だけはすんなよ」

 

すると優磨たちの降下ポイントに差し掛かる。

優磨・夏・春三人と蓮太郎・延珠コンビは敢えて別々のルートから民警と合流する算段だ。

 

「じゃあ行くぞ」

「おー!」

「はい!」

「優磨さん、気を付けてください」

「ああ…あ、そうそう。ほれ」

 

優磨は蓮太郎に薬を渡す。

 

「何ですかこれ…」

「菫からの餞別だ。AGV薬…それ一本でどんな大ケガも瞬時に回復一家に一本の薬だ」

「す、すげぇ…」

「まあ五分の一でガストレア化するけどな」

「ダメじゃないですか!!!」

「だぁかぁら、最後にどうしようもなくなったら使えってことだよ。あいつなりにお前の事気にいってんだぜ?」

「そうは思えませんけど…」

 

素直じゃないからな~あいつも…等と言ったことがバレたら解剖されかねないため心に仕舞っておきつつ優磨は夏と春抱える。

 

「じゃあまた後でな」

 

そう言って優磨は飛び降りる。

凄まじい風圧が掛かるがそれを気に求めず脚のスラスターを起動し減速する。更に両の手の平から何かが起動し空間が僅かに歪む。これは簡易的な重力制御装置でこれを使って飛んだりするのは無理だが高所からの落下の際に安全に降りるため使える。

それを使って静かに着地すると、優磨は靴を脱ぎ裸足になる。

 

無音走り(スニーキングダッシュ)…起動」

 

これは名前の通り脚の裏から衝撃を完全に吸収し音を起てずに走る。

更に目には最適且つ最短ルートが写っておりそれを使って目的地を目指す。

 

「速い速い~」

「ダメだよ夏、静かにしないと」

「はーい」

 

春に注意され唇を夏は尖らす。

 

「後一時間も走れば着くぞ…」

 

優磨がそう言った次の瞬間、ズン!っと地面が揺れる。

 

「え?」

 

夏は咄嗟に何が起きたのかわからず声を漏らした。春も同様で目を見開いている。

 

「ちっ…どこぞの馬鹿が爆弾使いやがったな…」

「と言うことは…」

 

春が呟いた瞬間草むらから何かが飛び出す。

 

「ウリャア!!!」

 

それを使って双眼を深紅へと変えた夏がバラニウム性のグローブを使いぶん殴る。

 

「不味いな…ガストレアが目を覚ました…」

 

優磨は周りを見渡す。数は今は多くないが徐々に増えていっている。このままでは危険だ。

 

「夏!春!強引にこの包囲網から突破する!」

「分かった!」

「はい!」

 

二人の了承を得るが早いか優磨は腕のスラスターを起動し袖を破りながら地面をぶん殴る。

 

烈震(れっしん)!!!!!!」

 

凄まじい砂煙が舞う。夏と春は既に目を積むって耳を塞いでいる。

それから優磨は脚のスラスターを起動し空高く跳ぶと包囲網から脱出しあっという間に逃げ出した。

 

 

 

 

「ここまで逃げれば大丈夫だろ」

 

優磨は一度夏と春を下ろすと一息吐く。心肺機能を強化してるとは言え10歳児を二人抱えて猛ダッシュはキツかったようだ。

 

「大丈夫?優兄」

「ああ…っ!」

 

優磨は素早く腰から銃を抜く。

 

「誰だ!?」

 

優磨が言うとゆっくり出てきた…ワンピースとスパッツという出で立ち…この顔は見たことがある。

 

「たしかお前伊熊 将監の…」

「貴方は将監さんに喧嘩を売っていた人ですね」

 

そう言ってショットガンを下ろす。

 

「始めまして。千寿(せんじゅ) 夏世(かよ)と申します」

「牙城 優磨だ」

「柊 夏だよ」

「柊 春です」

 

一応形式上名乗ると、

 

「さっきの爆発音はお前か?」

「はい、咄嗟だったので…」

「まあいいさ…」

 

優磨は夏世を見る。

 

「で?何人殺った」

「っ!

 

夏世は驚いたような顔になる。

 

「何で…?」

「お前自分が思ってるより血の臭いするぞ」

 

優磨が言うと夏世は俯く。

 

「二人です…」

「伊熊からの命令か?」

「報酬を分けたくないとの事で…」

「あの単細胞が考えそうなことだ」

 

優磨はため息を吐くと夏世を見る。

 

「で?どうだよ…殺しの気分は…」

「…辛い…です…まだなれません…でもその内…あぐぅ!」

 

慣れる…と言おうとした次の瞬間ゴン!っと夏世の頭に優磨の鉄拳が落ちた。

 

「馬鹿言ってんじゃねぇ!!!」

 

優磨の怒りに満ちた目に後ろにいた夏と春も竦み上がる。

 

「慣れるんじゃねぇ…慣れちまったときはな…人間辞めたときだ」

「良いんですよ、私は人間じゃ」

「アホ…お前は人間だ…俺から見れば10歳の人生酸いも甘いも知らねぇガキだよ」

「………」

 

優磨を夏世は呆然と見る。

 

「よし、ここで一度休憩しよう。エネルギー使い果たしちまった」

 

優磨の機械のエネルギー本来余りエネルギーという概念はない。普通に動かすだけであれば脳から発せられた電気信号通りに動くだけであり日常生活には支障はない。だが今回は重力制御に加えスラスターも連続しように長時間の使用も重なった。

そのため補給がいるのだ。

因みにエネルギーはカロリーで接種した食料の吸収しその際に生じたカロリーをエネルギーに変換する。

 

「わーい!」

「じゃあシート敷きますね。あ、夏世さんもどうぞ」

「え?あ、はい」

 

春が夏世を座らせるとバックを開けてお弁当を出す。

 

「はい、夏世ちゃん」

 

夏が夏世にサンドウィッチを渡す。

 

「………ええと…随分個性的な形のサンドウィッチですね…」

「う……」

 

優磨は視線をそらす。確かに優磨お手製のサンドウィッチは具は普通の物だが半面切った際に形が寄れてるし、具が飛び出てるしハッキリ言って下手くそだ。

 

「え~、でもこれ大分形保ってるよ?」

「うんうん。優磨兄様は見た目は凄いけど味事態は多分大丈夫だから」

「多分…ですか…」

 

夏世は恐る恐る口に入れる。

 

「ど、どうだ?」

「味濃いです…」

「そ、そうか…」

「でも……」

 

夏世は少し笑うと、

 

「美味しいです」

「そ、そうか!」

 

優磨は嬉しそうに頬を揺るませる。

 

「これでもうちょっと腕が上がってくれればな~」

「優磨兄様、蓮太郎さんに弟子入りしたらどうですか?」

「精進します…」

 

優磨は項垂れた。

それを見た夏世は笑う。

 

「変わってますね。牙城さんって」

「そうか?今話に出た蓮太郎何ゲイでロリコンでオカマバーのストリッパーだぞ」

「それは変は変でも変態という部類ですよね」

 

 

 

「ハックション!!!」

「大丈夫か?蓮太郎」

「あ…ああ…」

(何か俺も知らないところでトンでもないガセを撒かれてるような…)

 

 

 

 

「そう言えば夏世ってモデルは何なんだ?僕は蝦蛄だよ」

「私はバットです」

「ドルフィンです」

「イルカか…」

 

優磨は軽く片付けをしながら聴く。

 

「はい、なので戦闘向きではないんですかその分頭がいいんです。IQ200あります」

「それはすげぇな。俺も大学時代にやったことあったけど面倒臭いしふざけてやったら猿と同じくらいのIQ出てさ~」

 

因みに余談だが菫もやっておりその際のIQ値は測定不可能と出ている。

 

「それはどうかと思いますが子供のはIQが高めに出ますし…」

 

すると夏世の通信機に連絡が入る。

 

「あ、将監さん」

「お前何してやがる。あの男の居場所が分かったぞ」

『っ!』

 

優磨たちは黙っておく。

 

「明け方奇襲を掛ける。場所はメールするから急いできやがれ」

 

そう言って一方的に切ってしまう。

 

「じゃあ行くかぁ」

「よぅし」

「準備オーケーです」

 

優磨たちも立ち上がる。

 

「行くんですか?」

「ああ」

 

優磨は携帯を出すと電話を掛ける。

 

「おう蓮太郎か。集合地点変更だ。見つけたってよ。蛭子 影胤が…」

「本当か!?」

「ああ…今場所はメールする」

 

それから電話を切ると、

 

「んじゃ、行くぞ」

 

優磨の言葉に頷く伝えられた場所に向かって歩き出した。

 



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第5話

優磨たちが三十分ほど歩くと、突然銃声や人の声が聞こえてきた。

 

「不味いな…始まったようだ。走るぞ!」

 

そう言って優磨は夏と春と夏世を背負い走り出す。

 

「ちょ!はや!」

夏と春は当然慣れてるが初めての夏世は困惑する。

 

「舌噛むぞ!」

 

 

 

それから更に五分後…優磨たちが着いた時には死体の山がそこにあった。

傷から考えるにこれは全部蛭子 影胤とその娘、小比奈の犯行で間違いないだろう。

すると呻く声が聞こえた。

 

「大丈夫か?」

 

優磨たちは駆け寄る。するとその声の主は伊熊 将監であった。だが彼は腹部に自慢のバラニウム性の大剣が刺さっている。もう助からないだろう。

 

「か…よか…」

 

虚ろな目で将監は夏世を見る。

 

「ざまぁ…ねぇだろ…まああれだ…因果応報ってやつだ…」

「そんな難しい言葉を使えたんですね」

「うるせぇ…」

すると今度は優磨を見る。

 

「てめぇかよ…最後くれぇきれぇな女に看取られたかったぜ」

「贅沢言うんじゃねぇよ。で?最後に何か言い残したい事は?」

「……女もいねぇし家族もいねぇ…」

「そうか…」

 

それからだんだん将監の命の灯火が消えていく。

 

「夏世…」

「え?」

「悪かったな…」

 

そういい残し伊熊 将監は死んだ…

 

「優磨さん!」

 

そこに蓮太郎と延珠が来た。

 

「これって…」

 

蓮太郎はこの惨状を見て驚愕している。

 

「ここから200mほど進んだ教会に居るらしい」

「そうか…」

 

するとそこにガストレアの奇声が響く。

 

「音で起きて死体貪りに来たか…」

 

優磨たちがその声の方を向くと凄まじい数のガストレア…ステージはⅠ~Ⅲまで様々だ。

 

「優磨さん…」

 

夏世が前に出る。

 

「ここは私が…」

「馬鹿が…ガキおいていけるか」

 

夏世の提案を一蹴する。

 

「蓮太郎!延珠連れていけ!あと夏を貸してやる!」

「え?」

「春と夏世は俺と一緒にここで食い止めるぞ」

「なに言ってるんですか!まさかあの化け物にこの人たちだけをぶつけるんですか!?」

「大丈夫だよな?蓮太郎」

「…………」

 

蓮太郎は息を大きく吸うと、

 

「おう!」

「じゃあ延珠!行くよ」

「うむ!」

 

三人は走り出した。

 

 

 

 

「良いんですか!?」

「大丈夫だ…蓮太郎には切り札がある。とは言えここ全滅させたら追うぞ」

 

そう言いながら優磨はデザートイーグルをスライドさせて撃てるようにする。

それを合図に春もバレットM82を撃てるようにして夏世もショットガンを構える。

 

「行くぞ!」

 

決死の防衛戦の開幕だ。

 

 

 

 

一方その頃蓮太郎達は協会の扉をこじ開け入る。

 

「やぁ、里見くん」

「よう…」

「あはは!延珠に夏だー!」

そして構える。

 

「延珠…行くよ」

「うむ…」

「モデル・ラビット!相原 延珠!」

「モデル・シャコ!柊 夏!」

「モデル・マンティス!蛭子 小比奈!」

『参る!』

 

三人が跳躍すると蓮太郎は影胤を見る。

 

「私に…勝てるのかい?」

「勝てる…いや、勝つんだよ!」

 

次の瞬間蓮太郎の右手と右足被う人工皮膚がパリパリ音をたて割れていきその下に隠れる超バラニウム性の義手と義足が顔を出す。それと同時に蓮太郎の右目もキュインと音をたて赤く染まる。

 

「まさか君も…」

「礼儀として名乗ってやるよ…元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊「新人類創造計画」…里見 蓮太郎!」

 

そう言って蓮太郎の腕から空薬莢が排出され爆発的な推進力と共に影胤に突進する。

 

焔火扇(ほむらかせん)三点撃(バースト)!!!」

「っ!」

 

蓮太郎の拳は影胤の斥力フィールドを撃ち抜きながらぶっとばした。

 

 

 

「馬鹿な…」

 

とある部屋では驚愕の声が漏れていた。その場には木更と聖天子もいる。

 

「未だ存在したのか…大戦の遺物が…」

 

蓮太郎たちの戦いは衛星を通しここでリアルタイムで放送されていた。

 

「だがなんだこの男は…」

 

指差されたのは優磨だ。

その戦闘はまさしく悪鬼羅刹のごとくガストレアを千切っては投げ、千切っては投げている。明らかにというか普通に人間ではないし新人類創造計画の力とは思えない。

 

「それに関しては私がしましょう」

「菫さん!?」

 

木更は驚きの声を出す。当たり前だ。

自らを人外と呼びあれほど外に出ようとしなかった菫が誰に呼ばれたわけでもなく自分からいるのだ。

 

「牙城 優磨は今から八年前…瀕死の大怪我を負った…頭は割られ脳が零れそうになったし片目は潰れ、胴体の骨は余すところなく潰れ、グチャグチャになり生きてるのは普通不可能なくらいだったし如何なる治療を施そうとも助かるはずはなかった。ある手術を除けばな…」

 

菫は一度そこで切る。

まるでそれは罪悪感を振り払うように見えた。

 

「それは新世界創造計画…」

『っ!』

 

その場の全員が息を呑む。

 

「彼はたった一人の…被験者ですよ…しかもたった一度ではあるが彼は私の最高の出来と賞せるほど完璧な出来です。彼の前ではガストレアはステージⅠもⅢも対した差ではありません」

 

すると、

 

「な、なんだあれは!」

 

皆は画面を見る。

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

数は大分減ってきた。このままなら行ける…そう思った瞬間地面が揺れた。

 

「っ!」

 

一瞬遠くから見たとき山かと思ったがちがう…ガストレア・ステージⅣ…それが2体。

 

「お前ら下がれ!」

 

優磨は二人を下げると一度目を瞑る。もう後を考えていられない。ステージⅣが2体だ…こっちも切り札を切らせてもらう。

 

「優磨兄様…アレを使うんですね?」

「ああ…」

「アレ?」

 

優磨は煙草に火を着ける。本当は敵に嗅ぎ付けられると嫌だから吸わなかったがもういいだろう。

 

制限解除(リミッターオープン)…解除率…10%!!!」

 

ブシュッ!と音がした後スラスターが起動…だがその力は明らかに先程とは比べ物にならない。

 

「う…」

 

スラスターの熱が後ろにいる夏世たちにまで来る。その熱量はすさまじく優磨の足元は水分が蒸発を始めていた。

 

「これが優磨兄様の切り札だよ…」

 

優磨の力は普段抑えてある。無論それは力が強く…同時に優磨の体を動かしてるのは数少ない生身の部分である脳の指令だ。余りにも強すぎる力は脳に負担を掛ける。それ故に普段は制限しているのだ。

 

「ギャウ!」

 

ガストレアが一体飛び掛かってくる。だが、

 

「しゅ!」

 

それはパァン!という音と共に弾けた。これは何でもなくただのパンチ…だがスラスターが常時起動したそのパンチはステージⅠ程度であれば物の数ではない。

 

烈風(れっぷう)!!!」

 

優磨はスラスターで加速した鋭い回し蹴りでガストレアステージⅡを吹っ飛ばす。それと同時に駆け出しステージⅢと距離を詰め両腕の甲の方から高周波ブレードを出す。

 

覇爪(はそう)!!!」

 

一瞬でまるで爪に引き裂かれたかのような三つの傷で絶命させる。

そこにズン!っと地面が揺れ同時にステージⅣが来た…近くで見るとやはりでかい。だが…関係ない。

 

「ウォオオオオオ!!!」

 

優磨は疾走する。ステージⅣと間合いを密着させると拳を握る。

 

浮嶽(ふがく)!!!」

 

嶽とは山の事…詰まり山すらも浮かせるという意味を込めたジャンピングアッパーで打ち上げる。

更に、

 

鉄槌(てっつい)!!!」

 

浮嶽から流れるように空中に跳んだ優磨はダブルハンマーナックルと呼ばれる両腕の拳をカナヅチのように打ち落とす技でステージⅣを一体絶命させる。

 

「グギャアアアアアオオオオオオ!!!」

 

一瞬大気が震えステージⅣの尻尾が優磨を襲う。

 

「ぐぉ!」

 

優磨は吹っ飛ぶがスラスターを使い空中で体勢を戻すと銃を撃つ。

それはガストレアステージⅣの両の目を穿つ。

 

「ギャアアアア!!!」

 

バラニウム性の弾丸で撃たれ悶える。

 

優磨の左目は義眼だが蓮太郎のものとは違い能力が多い。蓮太郎の義眼は最大で1秒を14秒にして体感させるという力をもつ…だが優磨のは熱探知(サーモグラフィー)にナビゲーション、更に今回はスコープ機能を使った。これは優磨の動きと連動しまるでスコープを見て撃ったかのような精密射撃を可能としている。通常ではガストレアの両の目を撃つなど優磨の射撃能力では不可能だ。

そしてその隙をつき…

 

断罪(だんざい)…」

 

空へ飛び上がるとスラスターで加速しながら踵から高周波ブレードを出す。

そしてそのままステージⅣを真っ二つに切り裂いた……

 

 

 

 

「ぷはぁ…!」

 

優磨は制限解除(リミッターオープン)を解く。序でにタバコの火を消すと二人のところまで戻る。

 

「殲滅完了だ。蓮太郎の援護に行くぞ」

「何で最初からあれを…?」

 

夏世の言葉に優磨は頭をかく。

 

「疲れるんだあれは…」

 

確かに優磨の顔色はすこぶる悪くなっている。だが夏世はそれ以上に驚いるのはあれで【10%】しか解放していないのだ…詰まり間だ余力が…いや、寧ろ余力の方が大きい状態…

 

(何て…人…)

 

だがそれだけ力があれば影胤以上に危険な人間だ…それでありながらあのような行為には走らない。夏世にしてみればある意味謎だった。

すると、

 

「ん?」

 

優磨の携帯が鳴る。

 

「もしもし?」

「優磨さん!」

 

この声は聖天子だ…

 

「どうした?」

「ステージⅤ…出現しました」

「何!?」

 

遺産にもう呼び寄せられたということか…

 

「名は蠍座(スコーピオン)。蛭子 影胤コンビを撃破した里見さん達が既に手を撃つため天の梯子に向かってます」

「分かった」

 

優磨は重いからだを引きずりつつ向かった。



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第6話

優磨たちが聖天子から連絡を受けた頃…蓮太郎と延珠と夏は天の梯子に着いたところだった。

これは所謂レールガンモジュール…詰まり物質を超高速で放つ巨大な装置だ…

 

「やっぱ弾はないか…」

 

蓮太郎は舌打ちする。古いが作りはきっちりしているため動きはする。だが…打ち出すものがない…ならば、

 

「どうするのだ?蓮太郎」

「俺の義手を使う」

 

蓮太郎は剥き出しになった超バラニウム性の義手を外すと砲身に入れる。

 

「蓮太郎?」

「………あ、なんだ延珠…」

 

蓮太郎は明らかに反応が遅れて延珠に答える。

 

「怯えているのか?」

「……当たり前だろ…」

 

幸い邪魔な障害物はない…ガストレアステージⅤは遺産がある蓮太郎の方に来ている… だが…怖い。僅かに逸れれば東京エリアに当たるかもしれない。

 

「大丈夫だ蓮太郎」

「何でそう言いきれんだよ!」

「決まっておろう。あの時からお前は妾のヒーローでふぃあんせだぞ」

「っ!」

 

蓮太郎は目を見開き延珠を見る…

 

「やってやる…」

 

蓮太郎は集中する…そして、

 

「いっけぇ!」

 

蓮太郎はトリガーを引くと発射された超バラニウム性の義手はステージⅤにぶち当たる。

 

「……どうだ?」

 

三人は見つめる…確実に当たった…仕留めたはずだ…だが…

 

「グギャアアアアアアオオオオ!!!」

「そん…な…」

 

明らかに致命傷は与えてはいる…だが殺せた訳じゃない…

 

「何が…行けなかったんだ…」

「いや、タイミング…当てる場所…全て完璧だったぜ」

『っ!』

 

蓮太郎たちの三人が声の方を見ると、優磨、春、夏世の三人が来ていた…

 

「しっかしでけぇな…」

 

優磨も僅かに汗を垂らす。

 

「済まない…俺が…」

「何言ってんだ蓮太郎…言ったろ?完璧だったよお前は…それに悄気てる暇はねぇ…お前はもう一回撃たなきゃいけないんだぜ?」

『え?』

 

蓮太郎だけではなくその場の優磨以外全員が首を傾げた。

 

「蓮太郎…天誅ガールズって知ってるよな?」

「あ、ああ…」

「俺さ…何度か夏と春と一緒に見たんだけどやっぱさ…男は何とか戦隊とか仮面ライダーとか…そう言うのに憧れるよな?」

「あんたいきなり何いって…」

「まあ聞けよ…でもさ、俺も類に漏れず小さい頃は仮面ライダーとかになりたいって思った。それで見てみろよ。今じゃ改造人間だ。まあ俺の場合ショッカーじゃないし改造したのは残念な美女だったけどさ…」

『……???』

 

優磨以外の困惑は強くなっていく。

 

「んでさ、俺これだけゴールデンタイムヒーローみたいな体験したけど一つやってないんだ…」

「え?」

「やっぱヒーローってさ…空飛ぶんだよ…所謂御約束?そこでこのレールガンモジュール…幸い砲身は【人一人】位なら射ち出せる位大きい…」

「は?」

「と言うわけで蓮太郎…俺で撃て」

「……は、はぁ?ふざけんなよ!そんなん出来るわけ…」

 

優磨の真剣な瞳に冗談ではないことを蓮太郎は察する。

 

「無理だ優磨さん…さっきの義手とはちがう。外したらあんたどこに飛ぶか分かんないんだぞ…それこそ地の果てまで飛ばされて救助出来ずにガストレアに食い殺されるかもしれない」

「あ、俺90%くらいバラニウムだからガストレアは俺食えねぇよ」

「そういう問題じゃねぇ!」

 

蓮太郎は叫ぶ。

 

「死ぬかもしれないんだぞ…あんた…」

「お前が外さなければ平気だ」

「何なんだあんたは!」

 

蓮太郎は優磨さんを締め上げる。

 

「俺が悩んでるってのに…あんたは何でそんな簡単に決められんだよ…なんで…」

「信じてっからな」

 

優磨は蓮太郎の頭を撫でる。

 

「蓮太郎…さっきできたんだ。大丈夫…お前ならできる」

 

それから優磨は銃身に入るため向かう。

 

「優兄…」

「優磨兄様…」

「大丈夫だ」

 

優磨は優しく笑うと銃身の蓋をあける。

 

「蓮太郎」

「あ…」

 

優磨は名だけ呼ぶと入った。蓮太郎の目には…今は居ない父の背が写った気がした。

 

「………くそ!」

 

蓮太郎はもう一度トリガーを握る。

外したら終わり…だが逆に言えばガストレアに当てればガストレアをクッションに優磨は助かる間も知れない。

 

「蓮太郎!」

「蓮太郎!」

「蓮太郎さん!」

「里見さん!」

 

延珠、夏、春、夏世の声を聞き画面越しにガストレアステージⅤを見据える。

 

「いい加減しつこいんだ…とっととくたばりやがれぇえええええええ!!!」

 

次の瞬間画面を光が包み込む。

それと共に砲身から優磨が音速に匹敵する速さで射出…

 

「くぁ…」

 

思ったより凄まじいGが懸かる…だが…ここで折れるわけには行かない。折れれば後ろの子供たちに被害が及ぶ。大人として…年長者として…

 

「うぉ…おお…」

 

優磨の手の甲から高周波ブレードが出ると前に突きだしスラスターで音速に加速を加えながら回転を掛ける。

 

「ウォオオオオオ!!!!!!」

 

即興技にして今回限りの大技……

 

紅蓮槍(ぐれんそう)!【天】!!!」

 

空気との摩擦で服が火を吹きながらまさに紅蓮の槍となった優磨の一撃がガストレアステージⅤに決まった。

 

 

 

「優磨さーん!」

 

蓮太郎達はガストレアステージⅤの死体のところに来ていた。

優磨の名を呼ぶが返事はない。

 

「まさか…」

「う…ええ…」

 

夏がポロポロ涙を流す。

 

「夏…」

 

それを見た春も目に涙をためる。

 

「あの人は…頼りになる人だった…だからお前ら…今度はお前たちがあの人の意思を…」

「勝手に殺すな蓮太郎」

『え?』

 

すると次の瞬間ステージⅤの腹から高周波ブレードが現れ腹を掻っ捌くと優磨が這い出てきた。

 

「ゆう…」

「ま…兄様…」

「流石にダメージでかくってさ…動けねぇ…」

 

地べたに這いつくばりながら優磨は呟く…と言うか痛みがひどくて声がでないのだろう。

 

「あんた大概化け物だな…」

「へっ…まぁな。お陰様で人間ロケット体験できたよ」

「それで優磨さん。夢が叶った感想は?」

「……これっきり一度だけでもう十分だ。俺やっぱヒーロー向いてないな」

「まあ優兄は絶対途中でめんどくさくなるよね」

「私もそう思う」

「何ですと!?」

 

夏と春の言葉にその場が笑いに包まれる。すると次の瞬間大きな音をたて天の梯子が崩れだした。

 

「流石に限界越えたか…」

 

優磨は呟く…そして、

 

「まあ良いか…帰ろう…」

 

優磨は立ち上がろうと力を込めるが体の部品がイカれてるらしく動かない。

 

「あちゃー…」

「仕方ねぇな…」

 

蓮太郎は片手で器用に優磨を背負う。

 

「うぉ…重いなあんた」

「そりゃ体のほとんどが機械だぜ?」

 

それから…

 

「よし、出発進行!」

『おー!』

「グギャー!」

『ん?』

 

六人は謎の声の方を向く。

そこには…

 

「グギャー!」

「ピグィ!」

「キヅィ!」

『え?』

 

六人の顔色が悪くなる…何故なら目の前には…ガストレアの大群が迫っていた…

 

「よ、よしお前ら…」

 

優磨は一度息を数と…

 

「逃げろぉおおおおお!!!」

『わー!!!』

『ギャアアアアオオオオオ!!!』

 

その後六人はモノリスの近くまで大凡21㎞…所謂ハーフマラソンの距離を全速力で駆け抜けた…しかも蓮太郎は優磨を背負った状態で…人間やればできるもんである。

 

 

 

 

 

 

「と言うのが顛末だ」

「うん…色々突っ込みたいことがあるけどね優磨くん。どうしても言ってきたい事は一つだ。君は馬鹿なのかい?」

「いやいや…あの時はああするしかなかったんだって」

 

あの戦いから一ヶ月…優磨は直ぐに病院……ではなく菫の研究所に担ぎ込まれた。無論身体中の機械がオシャカになったからである。無事だったのもあるがやはり殆どがボロボロだ。

昨日やっと修理が終わり今日は検査だ。

 

「里見くんのロケットパンチも驚いたけどあの会議の場にいた皆も驚愕してたよ?君の人間ロケットとはね」

「むむ…」

「君はあれかい?鉄腕アトムかい?」

「ああ~、そう言えばあれの初代のラストって太陽に突っ込んでいったんだよな」

「君の場合は音速でガストレアに突っ込んだけどね」

 

菫は書類を机の上に置く。

 

「よし、もう大丈夫だよ」

「おう」

 

優磨はベットから降りると軽く腕を回す。

 

「と言うわけで優磨くん。修理費用なんだけどね」

「っ!」

 

優磨の表情が固くなる。

 

「いやぁ…流石に今回は範囲広いし、結構行くよ」

「あ、あの…何千万位だ?」

「桁がちがうよ」

「え゛?億か?」

「いや、兆」

「…………うーん…」

 

優磨は後ろにぶっ倒れた。

 

「まあ内蔵売っても無理だね。あ、君売る内蔵ないんだったね。あとそうだな…双子ちゃん風俗に売っても返すのは無理だろうし…借りで良いよ」

「そ、そうか…」

 

優磨はホッとする。

 

「まあ実は結構まとまった金額は君のスポンサーちゃんから貰ってるし聖天子様から修理費用は里見くんの義手の分まで貰えたしねぇ。たまには彼女に顔見せてあげなよ」

「あ、ああ…」

 

そう言えば最近忙しくてスポンサーのあの子に会ってない…たまには顔だすか…等と思っていると、

 

「優兄起きたー?」

「あ、菫さんお久し振りです」

「やあ」

 

そこに夏と春…そして、

 

「優磨さん。治りましたか?」

 

優磨の新たなプロモーターの夏世がいた。

あの後IISOに引き取られる予定だった夏世だが夏と春が別れたくないっと駄々を捏ねて菫が「じゃあ君が面倒見てあげればいい。今更一人や二人増えたって問題ないだろ?」と言い出して裏工作の結果優磨の三人目のプロモーターとなった。

 

「はいどうぞ」

 

夏世が優磨に渡したのは黒色スーツだ。

このあとちょっとした式典があるため夏と春と夏世もシャレた格好をしている。

 

「じゃあ着替えたら行くから外出てろよ」

『はーい』

 

三人は仲良く外に出る。最初夏世がうまくやれるか心配だったがこの様なら大丈夫だろう。子供はそういった意味では仲良くなるのは早い。

 

「君は意外とそう言う服も似合うねぇ」

「そうか?」

 

優磨はネクタイと格闘しながら答える。

 

「………一つ…聞いてもいいかな?」

「ん?」

「私から言っておいたのも何だがね?君は私や双子ちゃん達が言わなくても夏世ちゃん引き取るつもり立ったんじゃないのかい?」

「………まぁ…なぁ…」

 

優磨としては折角親しくなったし…菫に頼んでみようかとは思っていた。

 

「そうやって君は見境なく手を出すのかい?全て救えると思っているのかい?君の体は確かに凄い…でもね。君はどんなに切り詰めたって人間だ…人の脳味噌を持ち…その気になれば子供だって産ませることができる…だが君の行動は自分を考えていなさすぎる。何時か…死ぬよ」

「……………まあ今のご時世いつ死ぬかわからんよ。でも別に俺は死にたがりではないし死ぬ気もない。ただやるしかないだけさ」

 

優磨は着替え終えると煙草に火を着ける。

 

「お前が言う通り俺の手は小さくて狭い。全て救うなんて無理だしそれこそ夢の物語だ…でもさ…手を伸ばすのは出来る…その結果が成功か…失敗か…それは分かんねぇけどな…」

 

優磨は煙を吐く。

 

「夏たち呪われた子供達は知ってしまってる…人間の持つ闇を…残虐性を…いや、教えちまったんだよ。俺たち大人がな…」

「………」

 

優磨はもう一度煙を吐く。

 

「でもやっぱりあいつらはまだ十歳の子供だ…夏は見た目通り甘えん坊だし春はしっかりしてるように見えてあいつもあいつで甘えん坊…夏世も殺しを怖がる普通の心を持ってる…どんなに凄い力持ってても…あいつらはまだまだ子供なんだよ。それ故にどちらにでも転ぶ…」

 

優磨は煙を吸いつつも蛭子 小比奈を思い出す。夏にも春にも夏世にも…ああなる要因は幾らでも持ってる…天使のようで悪魔の心を持つ因子を…彼女達はまだ子供なのだから…

だから自分達は教えなければいけない…良いこと…悪いこと…そして、

 

「教えなければいけないんだよ…人の光をさ…」

 

絶望させちゃいけないんだ…人間の闇だけを教えちゃいけないんだ…人は闇を持つ…だが同時にこの世にはたくさん楽しいことがある…辛いこともあるかもしれない…でもそれを乗り越えるため楽しいこともたくさんあることを…

 

「やっぱり…悲しすぎるだろ。辛いことばっかりじゃさ…あの子達は子供なんだからさ…だから俺は手を伸ばす。目に届いてしかもこの短い腕が届く範囲しかできないけど…伸ばすのは無料(ただ)だろ?」

「偽善だね」

「偽善も善さ…まあ…」

 

優磨はタバコの火を消しながら最後の煙を吐く。

 

「俺は善人とは縁ほど遠いけどな…」

「そうだね…君はお人好しではあるけど善人ではない…むしろ気を付けないと悪人だよ?優しくて…頼りになる…だが過ぎれば君がいなくてはなにもできない人間を作ってしまう」

「ご忠告どうも…気を付けるよ」

 

そう言って優磨はドアに手を掛ける。

 

「でも君は変わらないね…優磨くん」

「お前は変わったな…」

「そうかい?まあ昔の方がエロゲー狂いにはなってなかったけどね」

「変人度が増したって話じゃねぇよ」

 

優磨はため息を一つ吐く。

 

「憑き物取れていい女になったって言う意味だよ」

 

菫は目を見開くが背を向けている優磨は気づかないままドアを開く。

 

「じゃあまた来る」

 

そう言って外に出ていくと菫は椅子に座る。

 

「全く…君は罪作りな男だよ…本当にね」

 

珍しく女性的な声で呟いたが誰も聞くことはなかった。

 

 

 

 

 

外に優磨が出るとちょうど蓮太郎と延珠も来ていた。

 

「よう英雄」

「勘弁してくれ」

 

蓮太郎と優磨はお互いガストレアステージⅤを討ち取り東京エリアを救った功労者として今日IP序列の昇格も加えた式典に参加するのだ。

 

「うわぁ延珠かわいい」

「夏たちも中々だぞ」

 

ちびっこ達はワキャワキャ言いながら先を歩く。

 

「……優磨さん」

「ん?」

「あんたあの中身なんだか知っていたのか?」

「………ああ…」

 

優磨がうなずくと蓮太郎は僅かに困惑した口調に変わる。

 

「あれ…何なんだよ……ガストレアステージⅤはあんな【壊れた三輪車】を狙ったんだ!?」

「それは俺もわからない…だが蓮太郎…」

「っ!」

 

優磨のシリアスな目に蓮太郎はたじろぐ…

 

「分からねぇがあれは明らかに普通じゃない…俺の想像だがあれの秘密に迫ると言うことは国はおろかガストレアの存在そのものの謎に迫る気がする…つまり危険だ」

「分かってるさ…だけどよ」

「最後まで聞け蓮太郎…つまりだ…今は大っぴらに言うな…今は座して情報を集めるときだ…そしていつか上の奴等に突き出して聞けば良い…今の状態では下手したら…殺されるぞ」

「…………………」

 

冗談では無いことは直ぐにわかる。

 

「分かった…」

 

すると、そこに重い空気はすっ飛ばす声が聞こえる。

 

「蓮太郎ー!」

「優兄ー!」

「優磨兄様ー!」

「優磨さーん!」

『早くいこ!』

 

その笑顔に優磨と蓮太郎は笑みを浮かべる。

 

「ま、取り合えずいくか」

「ですね」

 

優磨と蓮太郎は歩みを進めた…




ひとまず一章完結です。次回からは二章となりあのこも登場です。

さて、この作品の主人公である優磨ですが個人的に私の理想の大人の男性をイメージしています。
普段はめんどく下がりで変な人ですがいざというときは皆の盾となり剣となってくれる。
若者が悩んでれば何でもない顔をして手を貸してくれる…そんな人が基盤です。まあ菫が言った通り気を付けないとその人がいないと何もできない人間が生まれる可能性がありますが、ブラック・ブレット世界ですからそう言う人がいたって良いと思うんです。特に子供たちにとってそう言う人間は必要だと思います。
さて、次回は聖天子ちゃんも結構出ますし分かる人には分かるゲス野郎や天才狙撃主…可愛い女の子や要らない男も出てきますが…よろしくお願いします。ではでは…


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二章 魔弾の狙撃主
第7話


蛭子 影胤の陰謀から早くも一ヶ月…段々暖かくなってきた。

さて優磨はこう言うときは何時も寝ているのだが今日は所用と言うか前回人生初の人間ロケットを体験し(まあ何度も体験してるやつもいないと思うが…)全身の機械が破損。その際に修理費用を出してくれたスポンサー様に今日は顔を出そうと夏と春と新たに加わった夏世を学校に送り出してからアポを取ってやって来たのだ。

 

「あったあった」

 

優磨の目に前に建つのは巨大なビル。名は【北美重工】…元々は小さな下請け工場だったが早く・確実に・丁寧に…の三つを心情に着実に業績を伸ばし今や大手の司馬重工と肩を並べる日本のトップ企業だ。

 

「あの…」

 

優磨は受付嬢に話しかけると、

 

「あら牙城さん。お久し振りです。お元気でしたか?」

「ああ。社長に会いに来たんだけど」 「少し待ってください」

 

優磨はここの会社の人間とは実は顔馴染みだったりする。

 

「はい、分かりました。どうぞ牙城さん」

「おう」

 

優磨が行くと、

 

「先輩…あの人が噂の牙城さんですか?」

 

優磨と親しげに話していた受付嬢の片割れが話しかけてきた。

 

「ええ、あの人が噂の…ね」

 

 

 

 

 

チーン…と言う音と共に社長室がある最上階に優磨は来る。すると、

 

「お久し振りです。牙城さん」

 

目の前に今どき見ることはほとんど…と言うかまず無いであろうメイド服に身を包んだ少女が現れる。

もしかしたらメイド萌えの方々であったら狂喜乱舞したかもしれないが…彼女は大人びた容姿と落ち着いた雰囲気で騙されるがまだ10才である。

 

「久し振りだな。榧ちゃん」

 

彼女の名は藤島(ふじしま) (かや)…恐らく想像がついたと思うが呪われた子供である。実はこの会社の社長は社長業と共に民警もやっておりその社長のプロモーターであり世話役が榧だ。

モデルはアント…つまり蟻だ。そのせいか力が異常に強くリンゴだろうが卵だろうが握りつぶし硬貨ですら曲げて千切る…一度夏と対戦したことがあったが夏のパンチが決まりながらも頬を握ってリタイアさせると言う荒業をしたことから頑丈でもある。

因みに彼女は既に身長が152㎝ある…基本的に10才の女の子の平均が140前後だと言われてるのでそうやって考えると早熟なのか…

 

「牙城さん…こちらです」

 

榧の案内のもと優磨は歩く。

 

「社長は多分社長室です。優磨さんが来ることは伝えてません」

「っておい!それ問題じゃねぇか」

「大丈夫です。社長は今から三時間は用事はなく牙城さん以外来客の予定もありません」

「いやいや。俺アポとったよな?」

「ええ、ですが私が伝えなければ社長は知ることはありません」

「何でわざわざんなことを…」

「だってそっちの方が社長が驚いて楽しいじゃないですか」

「…………」

 

優磨は頭を抱える。忘れていた…こいつは無類のいたずら好き…無表情で礼儀正しくひたすらここの社長に尽くしてる感じがあるが何時も何かしらの方法で驚かせそれを楽しんでいるのだ。

 

「だからと言って種明かしとかしようとしたらぶっ飛ばしますよ」

 

サラリと脅された…怖すぎる。

 

「入りますよ」

 

そう言って社長室に入ると何とそこにはひたすら本…壁にギッチリとつけられた巨大な本棚…そしてそこにはまた本が隙間なく入れられている…更にはそこに収まらずはみ出した本に埋もれる人影…

 

「おーい…」

 

優磨が呼ぶとモゾモゾ動く…

 

「牙城さん。揺すってきてください」

「まじかよ」

優磨はため息を吐きながら近づくと、

 

「起きろよ」

 

揺する…すると何か呻くと顔をあげた…

 

「あ…ええと…」

 

睨まれる…それはもう睨まれる…

とはいえ別に嫌われてるとかではなく純粋に目が悪いのだ。仕方なく優磨が眼鏡をかけてやる。

 

「……ああ…優磨さんこんにちは…」

 

そう言ってまた突っ伏して寝息をたてはじめ…

 

「って!優磨さん!?」

 

跳ね起きた…

 

「久し振りだな。由実ちゃん」

 

 

 

 

 

優磨の顔を見て早々飛び出して行ってしまったため戻ってくるのを待つ間に軽く彼女の紹介をしよう。

彼女は北美(きたみ) 由実(ゆみ)。北美重工の社長にして小さな下請け工場をここまで引き上げた凄腕経営者である。

だが生まれつき目が悪く眼鏡が手放せない。しかし顔立ちは非常に整っており可愛らしくまるで太陽のような笑みと慈母の様な性格…そして何より胸がでかい。本当にでかくそのでかさは木更ですら並ぶと貧乳に見えてくるくらいでかい。うつ伏せになると自分の胸に顔を埋めて寝れるくらいと言えばそのでかさが分かるだろうか…だが背は低く160もない。

性格は先程も書いたが慈母…もしくは菩薩…千手観音…等々形容できるがとにかく穏やかでおとなしく今でも優磨と歩くときは3歩後ろを歩くと来たもので今は絶滅した大和撫子といった風情だ。

因みに序列は4600位。

 

「あ…あのぉ…」

 

そこに戻ってきた。

 

「ああ、お帰り」

 

見てみれば髪を梳かして薄く化粧している。

 

「お…おお…おおおお久し振りです優磨しゃん!じゃなかった優磨さん!」

「うん、取り合えず落ち着け」

 

普段は優秀な社長としてその敏腕を振るっている由実だが基本的に人見知りである。しかも優磨とは特にそれが顕著で今に様に日常会話すらおぼつかない。

なぜか…そんなもん聞くまでもないが一応いっておくと由実は優磨が好きだからである。元々は由実の今は亡き父親が優磨とは友人(大学の先輩だったのだ)で昔から優磨とは顔見知り、更によく優磨は由実の家で由実の父にご飯を貰っておりその時から優しいお兄ちゃんのような存在として接していたが由実から見ればイケメンで優しくて落ち着いた大人の男性…当時一緒にいた同級生の男子は比べれば当たり前だが子供で自分を辛かってくる嫌な存在だった(本当は好きな女子をいじっていただけ) …そのためかずっと将来の夢は優磨お兄ちゃんのお嫁さんを物心ついたときから貫き通しておりある意味では一途な女性なのだ。

 

「風邪とかひいてないか?」

「あ、はい。榧ちゃんのお陰で病気に縁の無い生活を送ってます」

「それは良かった」

とは言え優磨から見れば大学の先輩の娘…手を出そうなどと言う気は全く無いため由実にとって何気に懸案事項だったりする。

 

「そう言えば序列上がったんですよね?凄いです、ステージⅤを倒すなんて」

「あー…うん」

 

ステージⅤを倒した詳細は基本的に伏せてある。無論蓮太郎の義手等のことや優磨の体を世間から隠すためである。新人類創造計画にせよ新世界創造計画にせよ都市伝説として語り継がれるのは良いが本当にあってはならないのだ。

まあ人間ロケットで倒したと言っても普通は信じはしないだろう。

 

「でも人間ロケットはやり過ぎです。もっとご自愛してください」

「はい…」

 

優磨は出されたお茶を口に含みつつ視線を逸らす。

 

「そもそも優磨さんは…」

「おおっと。そろそろ時間だな。またな由実ちゃん」

 

旗色が悪くなった優磨は退散した。

 

「あ!…もう…」

 

由実は寂しそうな顔を浮かべる。

 

「社長!」

 

そこに榧が飛び込んできた。

 

「せっかく二人きりだったのになんですか!?年頃の男女が二人きり…もうちょっとピンクな空間できないんですか!?」

「そ、そんな無理だよ…話すのだっていっぱいいっぱいなのに…」

「…はぁ……もうちょっとアッチを見習ってください」

「ええ!?無理無理絶対無理だよ」

「某スポ根漫画も言ってます。諦めたら…そこで試合終了ですよ…あなたは良いんですか?北美重工の情報収集能力をもって調べたところ牙城さんを狙っているのは今のところ三人…【柊 夏】【柊 春】そしてあの【聖天子様】ですよ!?柊双子でしたら社長が圧倒的大差で勝てると思いますが聖天子様とか金はあるでしょうし極めつけにあの美貌…あの美貌は社長にだってひけは取りません!しかも最近跡継ぎの話だって出ています。良いんですか!?」

「だ、大丈夫だよ…ほら、優磨さん高貴な生まれとかじゃないし…?」

「聖天子様がそう言ったのを気にする方だと思いで?」

「………」

 

寧ろ恋愛は自由論者だろう…

 

「せっかくあなたは聖天子様だろうが目じゃない武器があるんです、それを使っていかないと」

「うぅ…」

 

榧の説教はそれから一時間にも及びその日の仕事に影響が出たらしい…

 

 

 

 

「さて…これからどうするかな…」

 

優磨は北美重工ビルを出たあと次の行き先を考える。菫のところか…だが最近菫の様子が可笑しかった…もしかしたら病気にでもなったか…すると、

 

「ん?」

 

遠くに見たことある背中が見える。ダが可笑しい…まだこの時間は学校のはずだ…しかも少し視線が虚ろ…

 

「ったく…」

 

優磨は予定を決定させる。あの子から事情を聞こう。

 

「延珠ちゃん!」

 

優磨は蓮太郎のプロモーター…藍原 延珠に声をかけた…



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第8話

「延珠ちゃん!」

「っ!……なんだお主か」

 

延珠は生気の無くなった目で優磨を見つめる。いつもの生き生きとした目が無い…何かあったことは一目瞭然だ。

 

「一ヶ月ぶりだな。蓮太郎は元気か?」

 

だが敢えて優磨はどうと言うこと無い会話を始める。

 

「ふむ…元気だ。ではな」

「待て待て、折角会ったんだ。ちょっと家に寄れよ。飲みもんくらいは出せるぜ?」

「遠慮しておく」

 

延珠は行こうとするが…

 

「何があった…」

「っ!」

 

延珠は目を開く。

 

「分からないと思ったか?んな訳ないだろ。そこまで鈍くねぇよ」

「お主に分かる筈もない」

「そうだな。だが聞くだけなら出来るぞ」

 

延珠はしばらく黙ったがやがて観念したかに様に優磨に着いていった。

 

 

 

 

「ほれココアだ」

 

優磨は暖めたココアを延珠に渡す。

 

「で?何があった」

「バレた…」

「お前の正体がか?」

「うむ…」

 

何となくここに来るまでに想像はついていたため優磨は然程驚かない。

延珠に限らず呪われた子供を学校に通わすと言うことはそう言うリスクもある…そしてバレた場合は大概…

 

「友達が…妾をまるで化け物を見るような目で見るのだ…何をしたのだ?妾が何をしたのだ!?」

「……………」

 

優磨は何も言わない。ただ黙って聞くだけだ。

 

「妾は…ただ笑って…普通に暮らしたいだけなのに…蓮太郎と一緒に居たいだけなのに…何で…」

「人間は…異分子を恐れる…」

「え?」

 

優磨の言葉に延珠は首をかしげる。

 

「肌が違う…足がない…腕がない…言葉が違う…目の色が違う…文化が違う………時には性格が違う何て物でも人間は差別し出す。なぜか分かるか?」

「…………」

 

延珠は首を横に振る。

 

「さっき言ったように人間は異分子を恐れる…いや、嫌うからだ。皆同じ足並みで同じことを考えていなければいけない。冷静に考えれば無理だしそんなものは気持ち悪いだけだ。それでも人間は足並みを合わせていないと嫌なのさ…だからお前らを排斥したがる。くだらねぇけどな。人間は十人十色だ。明るいやつ…暗いやつ…口が上手い奴や…頭いいやつ…沢山違いがあってその上で少し身体能力が高くて特殊能力をもつって化け物扱いする…差別は辞めましょうなんてよく言えるな…って思うときはあるよ」

 

優磨の口調には重みがあった…恐らく…いや、間違いなく夏や春にも同じような状況があったのだろう。

 

「まあそんなところが人間なんだけどな…」

「え?」

「どんな人間も善意と悪意を持つ…それゆえに人間は善人で悪人分けられない。いや、分けちゃいけない」

「うむ…」

「善意の悪意…って言葉知ってるか?」

「なんだそれは」

「本人は良いことをしてるつもりでも他人から見れば悪意となると言う事だ」

 

優磨は天井を見る。

 

「昔ガストレア因子をもつ子供たちは隔離するか殺そうと言う話が上がったのは知ってるか?」

 

延珠は驚愕するが初めて聞く。

 

「まあ用はガストレアウィルスが拡散しないようにウィルスに犯されたものは邪魔だと言うやつなんだがな…まあそのあとすぐに感染するのは母体と繋がった子供だけと分かったんだがな。そんとき先導していたやつは自分は人類を救うため敢えて泥を被ってると言いたげな口調でな。まあそれについていく奴も多かったが言うんだそいつは…【人類救うため仕方の無い犠牲です】ってな。分かるか?俺たちの立場から見れば善意かもしれない。だがお前たちから見れば悪意となる…多くのものは自分と同じものに惹かれる…そして一握りの異分子を嫌う…それが人間だ…」

 

延珠はうなずく。

 

「所詮人間はバカなんだよ…下らねぇことに一々驚いて…弾こうとする。ちょっと違うとすぐに受け入れることを拒否する。呪われた子供だろうが奪われた世代だろうが…そこに普通に存在するだけなのによ」

「普通に存在…?」

「ああ、どんな力があろうとそれはここに在る物だ…だから受け入れるべきなのさ…憎もうが攻撃しようが変わりはしない。恐怖も敬いも要らない…どの人間もそこに存在し…普通に生きてるだけさ…お前たちもそうだろ?まあそうできないバカも多いのがまた事実だけどな」

「な、ならば…」

 

延珠は身を乗り出す。

 

「妾はどうすればいいのだ?」

「強くなれ…藍原 延珠…」

 

優磨の言葉に延珠は疑問符を浮かべる。自分は十分強いと思っていたのだが優磨は優しく言う。

 

「身も心も強くなれ…これからもお前には辛い現実が降り続ける…不幸なこと…悲しいこと…だがその全てを…善意も悪意も…幸も不幸も…憎しみや悲しみも…自分に向けられる全てを受けとめ…飲み込み…乗り越えられるように成るんだ…誰にも左右されない…自分を作れ…割れる事の無い…珠玉の心を…どこまでも延びつつける強靭な強さを…どんなことを言われようと自分は自分だと声高らかに言えるように…威張る事も…だが同時に遜る事もないように」

「……………」

 

延珠はジッと優磨を見ていた。

 

「ま、つまりは良い女に成れってことさ」

 

優磨はそれで話を終える。

 

「良い女か…うむ…良いことを教わったぞ」

「そうか?」

「だが優磨も奪われた世代だろう?ガストレアが憎くないのか?」

「俺さ…生まれたときから一人ぼっちだったからな」

「え?」

「両親は俺を生んですぐに事故で死んで…実家とは折り合いが悪く親戚たらい回しにされて結局施設に入れられた…だからバカにする奴多くてな。まあそう言う奴は全員グーパンチで返答してやったが…」

「会いたく…ないのか?」

「昔は会いたかった…でも今は夏がいて…春がいて…夏世がいて…毎日忙しくて感傷に浸る暇もない。でも…それもまた良いのかもしれない。いつも思い続けることが家族じゃない。心に生き続けてれば…それが共にいるってことなんじゃないかな…まあ俺記憶にどころか写真もないけどな…」

「そうか…」

 

すると優磨の携帯が鳴る。

蓮太郎からだ。

 

「妾がでる」

「そうか」

 

優磨が渡すと、

 

【優磨さんか!?延珠が!】

「蓮太郎…」

【なんだ延珠か…取り合えず優磨さんに…って延珠!?】

「今優磨の家に来ていてな…」

【はぁ?何でいんだよ…】

 

優磨が電話を代わる。

 

「取り合えずあれだ。家に来い。そんでちょっと抱き締めてやんな」

【え?】

「お姫様の悲しみは王子様しか本当の部分では癒せないからな」

 

 

 

 

 

 

 

その夜…

 

「ありがとな…優磨さん」

「ん~?」

 

結局あのあと延珠は蓮太郎の胸で泣くことになりそのあと帰ってきた夏たち三人を大いに困惑させたが今日は帰るのも何だと言うことでお泊まり会にそのままなだれ込み寝室では夏・春・夏世・延珠四人で団子になりながら寝ている。

 

「別に大人として言うべき事をいっただけだよ」

「はぁ…あんたには勝てねぇな」

 

蓮太郎も目の前のソファに座った。

 

「そうかぁ?喧嘩したら結構苦戦すると思うけど?」

「いやなんつうか…人としてと言うか男として勝てないって言うか…」

「なぁに、そのうちお前だって沢山経験して大人になるさ」

「そんなもんかよ…」

 

蓮太郎は頭を掻く…するとまた携帯が鳴った。その着信主に優磨は眉を寄せつつ電話に出た。

 

「もしもし…ああ、ん?おお…蓮太郎も?…分かった分かった…明日の五時だな」

 

優磨は電話を切る。

 

「蓮太郎。明日ちっと付き合え」

「何だ?」

「呼び出しだよ」

「警察にか?」

「じゃあ俺はお前を幼女に手を出した変態ですって突きだす事になるが?」

「冤罪だ!で?誰だったんだよ」

「この国で一番偉い女性だよ」

「………………え?」

 

蓮太郎の間の抜けた声が響いた。




そう言えば優磨と延珠全く絡んでないな…と言う訳で今回の話が生まれました。
元々この下りは影胤の策略でしたがこの作品では勝手にバレたと言う感じです。

基本的に今回は派手さはないし優磨の語りが多く退屈だとは思いますが、優磨の考え等を描いた一話を書いてみました。
上手く書けたかどうかは分かりませんが…まあこんな感じです。

では次回遂にあの子やくそ野郎の登場です。


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第9話

キーンコーンカーンコーン…今日も勾田高校の一日が終わる。これから部活等に興じる者も多いがこの高校にかよう一人、空前絶後の不幸顔にしてロリコンでホモでゲイバーのストリッパーこと里見 蓮太郎には関係ない。

 

「何か今俺の尊厳が著しく損なわれたような……」

 

蓮太郎は首をかしげつつ校門に向かう。今日は優磨に何か用事に付き合って欲しいとの事で早めに優磨の家に向かおうとしていた…のだが何故か校門に女子の人垣ができていた。

 

「ち…邪魔だな…有名人でも来てんのかよ」

 

蓮太郎は少し背伸びしてみる。すると居た…と言うか頭ひとつ抜け出ている。

 

「優磨さん!?」

「おーう蓮太郎。迎えに来たぜ」

 

優磨は愛車のポンコツ丸【命名者・夏】を軽く叩きながら蓮太郎に手を振る。それを見た蓮太郎は頭を抱えた。優磨は好みはあれど基本的にイケメンだ。しかも服のセンスが良いため自分に似合う服をサラッと嫌みなく着こなしている。しかも身長が高い男性は二、三割かっこよく見えるため優磨くらいの背丈と更に比較的肩幅もあるのでそりゃあ女子達の人混みができるわけなのだが…

 

(お前らより一回りは年上だけどな…)

 

蓮太郎は嘆息しながら人混みを掻き分け優真の所に来る。

 

「態々悪いな」

「良いって良いって。乗んなよ」

 

優磨はドアを開ける。

 

「なあ…これ動くのか?」

「動くんだよこれが」

 

蓮太郎が言うのも無理はない。明らかにこれは元々はこの軽自動車…多分スバルのレックスだと思うが所々塗装が剥げてるし錆び付いてる部分もある。

 

「まあ良いか…」

 

後ろに荷物を放りつつ蓮太郎がドアを閉めるが…

 

「ん?半ドアになったのか?」

 

そう思い何度も力を込めて閉めるが何度やっても半ドアの音…

 

「ああ、それ何か閉めるとちゃんと閉めてるのに半ドアの音するから」

「なんだそれ…」

 

蓮太郎はずっこけながらドアを閉めていると優磨も入ってくる。

 

「さてと…」

 

優磨は鍵を入れて回す。

キュルキュル音が出るがエンジンが掛からない。

 

「あれ?」

「おいおい…」

 

何度か回すが点く気配がない。

 

「ありゃ…機嫌悪いみたいだな」

「人間じゃねぇんだから…」

 

すると優磨はエンジンを蒸かしつつ…

 

「ふん!」

 

ごん!っとハンドルと叩く。するとプスンプフンと情けない音を出しつつエンジンが掛かった。

 

「ようし!だから好きだぞスバックス!」

「なんだその名前…」

「スバルのレックスだからスバックスだ。夏たちはポンコツ丸とか言う名前で呼ぶけどな」

「俺でもポンコツ丸って呼ぶよ…」

 

そして優磨がアクセルを踏むと、パスンピスン音を立てながらポンコツ丸が動き出した。

ちなみに余談だが蓮太郎はそのあと女子たちに優磨の事について質問攻めにあったとか…

 

 

 

 

 

 

そしてそれから一時間走り続け聖居が見えてきたと思った次の瞬間バフン!と言う音ともにエンジンから煙が上がり車が止まった。

 

「あらら!」

「嘘だろ!?」

「大丈夫だ…一時間ほど休憩させればまた動くようになる」

「完全に遅刻だよ!」

「仕方ねぇ…蓮太郎、手伝え」

「は?」

 

 

 

それから更に十分後…

優磨と蓮太郎はフラフラしながら聖居に入り案内されるとそこは記者会見室だった。更にそこでは聖天子と秘書が会見のリハーサルをしていた。

 

「練習とかするんだな…ゼィ…」

「そりゃあの子だって人の子だぜ…ゼハァ…」

 

すると聖天子は優磨の顔を見るとパァッと瞳を輝かせ小走りにやって来る。

 

「お久し振りです。優磨さん、里見さん」

「ああ…」

「?お疲れのようですけど何かあったんですか?」

「あー…そこまで車を押してきてたからな」

「はい?」

「この人の車が聖居が見え始めたところでエンスト起こしたんだよ」

「いや~スバックスの機嫌がな」

「あれまだ有ったんですか?」

「しってんのか?」

 

蓮太郎が聞くと聖天子が笑う。

 

「はい。何時完全に動かなくなっても可笑しくないあの面白い形の車ですよね」

「いやいやかっこいいだろ」

 

そんな話をしつつも優磨たちは謁見室に通される。

それからお茶を貰いながら優磨は本題に入る。

 

「で?何のようだ?」

「今から一週間後…ある人物と秘密裏に会談が行われます。その際の護衛を二人に頼みたいのです」

「ある人物?」

 

優磨が聞くと聖天子は頷き、

 

「大阪エリア大統領…斎武 宗玄」

 

優磨と蓮太郎は眉を寄せる。

 

「恐らく今なのは菊之丞さんが居ないからでしょうね」

 

天童 菊之丞…聖天子の側近にして木更の祖父だ…確か…

 

「ロシアに訪問中だっけか?」

「はい」

「大方です鬼の居ぬ間に洗濯ときたか」

「あのジジイの考えそうなことだぜ」

 

蓮太郎の言葉に優磨と聖天子は驚く。

 

「面識があるのか?」

「昔、天童にまだ居た頃に菊之丞(糞ジジイ)が俺を政治家にしようとしていてそんときにな…」

「そう言えば菊之丞さんに聞いたことがありますね…確か仏師の修業もさせられたとか」

「へぇ~じゃあ蓮太郎。俺の墓はお前に頼むわ」

「絶対嫌だ」

 

一瞬場は和むがすぐに顔を引き締め優磨は聞く。

 

「どんなやつだ?その斎武ってのはよ」

「アドルフ・ヒトラー」

『はい?』

 

優磨と聖天子は唖然とする。

 

「一番しっくり来るんだよ。アドルフ・ヒトラーがな。優磨さんだって知ってるだろ?斎武の独裁政治位なら」

「まあ一般教養程度ならな…そんで暗殺されかけること早20数回…」

「ああ、その逆に相手を暗殺することも厭わねぇけどな」

 

蓮太郎は頭をガリガリ掻くと、

 

「だけどよ…あんたにだって自慢の護衛居るだろ?」

「ええ、今紹介します」

 

そう言って入ってきた6人程の男達は全身が白…上から下まで真っ白な服を着ており何て言うか…変な制服だ。憲兵隊みたいだな…

 

「保脇 卓人三尉です。よろしく、牙城君、里見くん」

 

そう言った保脇は手を出す。

 

「よろしく」

 

優磨は愛想笑いを浮かべながら応じた…とは言え瞳が完全に歓迎してない。何て言うか嫌な目だ。

そうしていると蓮太郎も手を出されたが無視して聖天子に怒られる。

 

「では受けていただけるのならばまた連絡を…」

 

予定が押しているのか聖天子は急いで立ち上がりながら行く…その途中優磨の方を時間がないのが残念そうな目でチラホラ見ていたが優磨の方は全く気付かず手を振っており蓮太郎は聖天子に哀れみを含んだ顔を浮かべ保脇は優磨を呪い殺しそうな目で見ていた…

 

 

 

 

 

 

さて蓮太郎と優磨は謁見室を出る。

 

「出口何処だよ」

「安心しろよ。俺の義眼のナビゲーターシステムで一発だ」

「あんたの義眼何でもありだな…俺のなんて戦闘以外役に立たないぜ?」

「そうか?」

 

優磨は義眼を起動させるとキュインと言う音と共に瞳孔が開き青くなるとナビを表示する。

 

「此方だな…」

 

すると、いきなり横からDANGERと言う文字と共に矢印が現れた。優磨はそのガイドのままに蹴りを出す。

 

「え?」

「ぐぇ!」

 

蓮太郎は驚いたが見てみればさっきの憲兵隊擬きの一人が警棒片手に吹っ飛んで壁に激突していた。

 

「ったくよぉ…」

 

優磨は煙草に火を着けつつ角の方を見る。

 

「何か用かよ」

 

すると保脇を筆頭とした数名の護衛隊の人間が出てきた。

 

「確か…保脇だったか?」

「単刀直入に言う…護衛の任務を降りろ…聖天子様の隣に居るのは俺だ」

『はぁ?』

 

優磨と蓮太郎は唖然とする。

 

「何が救国の英雄だ…俺があの場にいれば俺がステージⅤを倒していた!」

「べつに隣にだったら何時もいるだろう」

 

蓮太郎の言葉に保脇は目尻を上げる。

 

「ふざけるな!会談の場の隣と車中を一緒にするな!」

「別に護衛するだけだしそんなに差がないだろう?」

 

優磨が言うと保脇はイヤらしいと言うか本能的に男女問わず嫌悪感を催す笑みを浮かべる。

 

「聖天子様は美しくなられたと思わないか?」

「どういう意味だ?」

「そろそろ跡継ぎが必要だと言うことだよ」

「うわぁ…」

 

優磨は大袈裟に気持ち悪い物を見る目をした。

 

「お前自分の年考えろよ…見た感じ俺とそんな年の差感じないぞ…普通にキモいわ」

「貴様…」

 

保脇は睨んでくる。

オーコワイコワイ…

 

「そうか…貴様があの牙城 優磨だな」

「どれかは知らんが確かに俺は牙城 優磨だが?」

「ふん!どんな色目を使ったのかは知らんが大したものだな」

「は?」

「聖天子様は貴様の写真を常に机の上において毎夜悩ましげな息を疲れている。全く…貴様のような野獣のどこが良いのやら」

「???」

 

優磨には全く意味がわからない。

 

「貴様に抱か…」

「何で知ってんだそんなこと…」

『………………』

 

優磨の一言でその場の時が止まる。

 

「お前まさか部屋に入ってんのか…?うわ…無い…マジでない!つうかそれ犯罪じゃね?うわー、十も過ぎれば女は人に見せたくないものも出るというのにマジでキモいわ!」

 

女は色々十も過ぎれば出てくる…16の女の子にもなれば尚更だ…それを…

 

「マジでキモいな…同じ男として恥ずかしいぜ…」

蓮太郎もドン引きしてる。

 

「う、うるさーい!とにかく貴様らは断れば…」

『断る!』

「なっ!」

 

保脇は驚愕するが、

 

「なら手足を折れ!」

 

保脇の命令で他の面々も動き出す。

蓮太郎もとっさに構えるが、

 

「蓮太郎、こんなところで暴れるのは不味いぜ」

「じゃあ…どうすんだよ…」

「こうすんだよ」

 

優磨は煙草を口から抜くとピン!と指で弾く。

 

『え?』

 

優磨以外が全員視線でそれを追う…そしてその先には…

 

『火災報知器!?』

 

優磨以外が驚いて声を出す中煙草の火が着いた方がぶつかる…そして次の瞬間耳を劈くような警報と共に消火剤と水が降る。

 

「うわぁああ!」

「さ、蓮太郎帰るぞ~。あ、足滑るから気を付けろよ」

「あ、はい」

「貴様!待つんぎゃ!」

 

保脇は思い切り消火剤に足を滑らせ転び…

 

「ぐぇ!」

 

優磨に踏まれて潰れた蛙のような声を出した。

 

「そうだ蓮太郎。今日は家で飯食っていけよ」

「え?いいんですか?」

「最近仕事無いだろ?すき焼き食おうぜ!」

「よぅっし!延珠呼びます」

「貴様等まぅわ!」

更に滑りまくって全身消火剤だらけになった保脇は射殺せそうな目でにらみ続けた。




書き上げてから思った…犯罪だこれ…
と言うわけで9話です。

裏設定ですが聖天子の写真はフレームに入れてありますが一番上に風景写真を入れてあります。そして下に優磨の写真があり聖天子様は完全に隠してるつもりです。とは言え中学生のエロ本の隠し方みたいな奴では結構普通に皆にバレています。
そのため女中の皆が聖天子に女性的な服を着せる際は「優磨さんが見てくれますよ」と言う必殺の言葉があります。

まあどうでもいい舞台裏でした。


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第10話

千寿 夏世は家で一人だった…夏と春は優磨から電話で頼まれた物を買いに行き、その間に夏世は部屋を片付けていたが終わってしまったので自室でボゥっとしていた…

優磨達が住んでいるマンションは非常に広く夏達三人にそれぞれ自室を与えられる。と言うのもこれは優磨が十歳にも成ったらプライバシーが欲しいだろうと気を使ってくれているためである。確かに十歳にもなれば生理が来る子は来ても可笑しくなくなってくるし下着等にだって気を使いたくなるお年頃だ。そういう意味では優磨はデリカシーがある男だと夏世は感心していた。

比べるわけではないが将監はそう言った気遣いは0である。と言うかあの筋肉脳味噌にはデリカシーと言う言葉は刻まれていない。

だが一番驚いたのは学校に行かされることになったことだ。これには本当に驚いた。最初自分の耳を疑い優磨の正気を疑った。自分みたいな呪われた子供が…だが優磨は平然と「子供は学校行くもんだ」と言ったのだ。

それからは怒濤の毎日だ…幸いにも勉強について行くのは簡単だった。だが質問攻めにされたりしたときは返答に困った…今までずっと戦っていたので好きなものはないし趣味もない…とはいえず困ってると夏と春が来て自分達と一緒に住んでること、そして自分達の親戚だと言うことを話し夏達を通すことでクラスの人たちとも話せるようになった。多分優磨がこっそり言っといたのだと今思えば分かるが嬉しかった…何よりも学校で体験できることは自分の今までの世界観を塗り替えた…給食も美味しかったし…遠足、雑談…授業………だが同時に恐ろしくなる…それらは全て優磨のお陰だ…そして同時にこれからも優磨にたくさん教えてもらえるだろう。だが自分は何か返せるのだろうか…命を助けられ…楽しいことを教えてくれた…その礼を返せるのだろうか…そして何よりも怖いのは……優磨が死んだら自分は耐えられるのだろうか…まだたくさん教えて欲しい…一緒にいて欲しい…だが今のご時世だ…何時死ぬともわからない。恐い…優磨と言う光が居なくなったら自分はその闇の中を歩いていけるのだろうか…?

 

「優磨…さん……」

「ただいま~!」

「夏世ちゃんただいま~」

「っ!」

 

夏世は帰ってきた夏達に驚いて飛び上がる。

 

「あ、そこに居たんだ……ってどうしたの夏世!?」

 

夏は夏世に駆け寄る。

 

「何でもないです」

「あるよ、そんな悲しそうな顔してさ…」

「そうだよ夏世ちゃん…無理にとは言えないけど教えて?私たちは家族なんだからさ…」

「………………お二人は…怖くないんですか?」

『え?』

 

二人は夏世の言葉に首をかしげる。

 

「優磨さんんが居なくなったら…私は恐いです…」

 

あぁ…と二人は合点が行く。そして、

 

「ぼくだって恐いよ…」

「私もです…」

 

それから夏が口を開く。

 

「昔さ…僕と春も同じ気持ちになったことがあるよ。でもね…優兄が言ってくれたんだ」

「え?」

「確かに俺の方が早く死ぬと思う…お前達と別れなきゃいけない時が来ると思う…だけどそれまでは一緒にいてやる…闇の中の歩き方を教えてやる…俺がいるときは幾らだって頼れ…居なけりゃ呼べ…世界の果てにいようが助けに行く…ってね」

「………」

「だから今はたくさん甘えて貯金しとかなきゃ…来ないで欲しいけど…来るかもしれない別れにさ…」

「私も……良いんでしょうか?」

「大丈夫だよ。優兄は優しいから…でもそれ以上はダメだよ」

「はい?」

「優兄を好きになったらダメっていってるの」

「…………ふぇ!なななな何言ってんですか!いったい幾つ年離れてると…」

「でも僕と春は好きだよ?」

「…………え?」

 

夏ははっきりと…春も顔を赤くしながらもはっきりとうなずいた…

 

「まあ優兄が手を出してこないけどね~僕的にはばっちこい何だけど」

「でもあの人他に敵多いよね…」

「ああーあのオッパイの化身と聖天子様っでしょ?寄りによって何だってどっちも美人なの!?しかも美人の前に人並み外れた…がつくらいのさ」

「は、はぃ?」

 

夏世は声が上擦る。

 

「ま、待ってください!今聖天子様って…」

『うん』

 

夏世はクラっと来た…国家元首までタラシこむとか何者なのだあの人は…

 

「まあ、優磨兄様は優しいからね」

 

多分…全部そこに帰結するのだろう…優しくて大人で…めんどく下がり屋なのにトラブルに何時も首を突っ込むことになる…

 

「そう…ですね」

「って好きになったらダメだからね!?」

「何でそうなるんですか!?」

 

すると…

 

「ただいま~」

「お邪魔します」

「夏!春!今日のゲームは妾が1人勝ちだぞ!」

 

優磨達が帰ってきた。

 

「お帰りなさい。優磨……その…」

「ん?」

「兄……さん…?」

「……ただいま、夏世」

 

優磨はグシグシと頭を少し乱暴な手つきで撫でてやる。

 

「やっば!敵増やした!!!!」

「夏世ちゃんダメ~!」

「ですから違いますって!」

「とりあえず玄関で暴れるな!」

 

優磨の声でスゴスゴと三人はリビングに行った。

 

 

 

 

 

 

「よし、準備はこんなもんかな」

「さすが蓮太郎。家事スキル高いな。家のハウスキーパーになってくれよ」

「いやいや…」

「給料これくらい出るけど?」

 

優磨が指で数字を作ると蓮太郎の目がチャリーンと言う効果音と共に¥に変わった。

思わず即決しかけたところにチャイムが鳴る。

 

「ん?」

 

優磨と蓮太郎が出ると…

 

「やっぱ此処やったんね」

「未織!?」

「ヤッホー里見くん。あとお久しゅう牙城さん。」

「おう未織ちゃん。どうしたんだ?」

「里見くんにご飯もろおう思たんやけど居なかったんで多分こっちかなと」

「成程ね、上がんなよ。材料はタップリ買ってある」

「え?」

「あんがとな~牙城さん。あんたのそういうとこ好きやわ。ちゅうわけで里見くん行こか~」

「うわ!馬鹿腕に絡み付くな!歩かない難いんだよ」

「ええやんええやん」

「青春だねぇ」

 

優磨は笑いながらキッチンに戻ろうとした瞬間またチャイムが鳴る。

 

「はいはい」

 

そしてドアを開けるが人が居ない。

 

「あれ?」

「ゆ…ま…さん……」

「ん?」

 

足元から何か呻く声が聞こえたため見てみれば黒髪のスタイルがいい美少女…と言うか木更が倒れていた。

 

「木更ちゃん!?」

『え!?』

奥からも優磨の声を聞いて皆が出てくる。

 

「木更さん!ええと、110だ!」

「駄目だよ蓮太郎!そっちは警察だよ!119しなきゃ!」

「駄目ですよ夏さん。死体は救急車は乗せてくれません」

「死んでないよ!」

 

すると次の瞬間グーっと言う音が響く。

 

『へ?』

「お腹…空いた…」

 

全員がずっこけたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

「つまり最初蓮太郎の所に行ったら居なくて俺のところに行ったと思い此処まで歩いてきたのか?結構距離あるだろ」

「でも私が調理するわけにいきませんし…」

「だけど違ってたらどうする気だったんだよ」

「そのときは優磨さんに作って貰う気だったわ」

「でも態々肉買ってこなくったてよかったのに…しかもタクシー使えば良かっただろ」

「お金が…」

「タクシー代位立て替えてやるっつぅの。少なくともお前らガキに懐心配されるような自堕落な生活してないから

な」

 

木更は優磨をマジマジ見たあと…

 

「里見くん。少しこの人の甲斐性貰いなさい」

「はぁ?」

「大丈夫だって木更ちゃん。こいつはこれから沢山のことを経験して俺何かよりいい男になるさ」

「……里見くん。爪の垢煎じて飲ませて貰いなさい」

「そうした方がいいかもな…」

「えー別に今のままでもええと思うで~」

「未織は黙ってなさい」

「べー」

「こんのぉ…」

 

不仲の二人を蓮太郎が止めつつ肉等々をテーブルに持っていく。

 

「さて、いただきま【ピンポーン】って今日はよく来るな~」

 

優磨が出ると…

 

「ゆゆゆ優磨ひゃんこんにちわ!」

「由実ちゃん!?」

『ええ!?』

 

夏と春が顔を出す。

「あ、夏ちゃんと春ちゃん」

「オッパイの化身…もとい、由実さん」

「こんにちわ」

 

基本的に双子はライバルで胸がでかいことを除けば由実にたいして好意的である。

 

「どうしたの?」

「お食事でも一緒にどうかと思いまして」

 

後ろに居たメイド服10歳児こと藤島 榧は肉を片手に言った。

 

 

 

 

 

「北美 由実です…は、初めまして!」

 

そこから勢いよく頭を下げて額を強打した由実はフグッと言って抑える。

 

「お、おう」

 

だが蓮太郎としては健全な男子なので動く度に揺れる胸にどうしても目が行く…

その大きさ足るや自分が恋い焦がれている木更より大きく動いたときに延珠や未織ならばシーン…木更ならタユン…由実ならばタ…ユン!、もしくはブォン!と言う効果音がつきそうである。しかし胸はでかいと慣性の法則に乗っ取って揺れる揺れる。と言うか千切れそうだ。

すると延珠が由実後ろに回り込み…

 

「久し振りだね未織ちゃん」

「ほんまやなぁ」

 

会社繋がりで知り合いの由実と未織が話している次の瞬間、

 

「とぉ!」

「キャア!」

 

胸を揉んだ…

 

「な、なんと…」

 

延珠は手をブルブル震わせ離れる。

 

「聞け蓮太郎!触り心地といい温度、感触…あらゆる方面から考えたがこれは本物だぞ!」

「そうに決まってんだろ!態々触って調べんな!」

「いやだが蓮太郎!妾は最初何か詰めてると思ったのだ!なのに…なのに本物なのだぞ!しかも木更よりでかい!どうやたらこんなになるのだぁああああああああああああ!!!!」

「ご、ごめんね?」

「あやまるなぁああああああ余計惨めになるのだああああああああ!」

 

ムニュンムニュンと延珠は由実の胸を揉み初め「よこせー!」とか叫びだし由実は涙目で

 

「あのなぁ…」

 

だが内心では、本物なのか…と思ってしまったのは墓場まで持っていこうと蓮太郎は心に決めたのであった…

 

 

 

 

 

それから一週間後…遂に来た…

 

「で、でかいぞ蓮太郎!」

「優兄!この車変な音を出さないよ!」

 

延珠と夏は大興奮し、春と夏世は最近のアニメの話しをしており蓮太郎は少し緊張した面持ちだ。

 

「つうか優磨さんスーツ着てきたんだな」

「一応礼式の場だからな。お前みたいな学生は制服で良いだろうけど俺は一応スーツでな」

「でも夏達は良いのか?」

「会議中は車に置いとくだろ」

『えー!』

 

優磨にブーイングが起きた。

 

「じゃあお前らずっと静かに立ち続け得る自信あるか?」

『…………』

 

全員黙ってそっぽ向いた。

 

「よし行くぞ」

 

優磨は先に出るとドアを支えながら聖天子の手を取る。聖天子は頬を少し赤くしながらその手を取って出てくるとその後ろをカバーするように蓮太郎が出る。それを見た保脇は優磨に殺人視線を送るが優磨は気にも止めずにホテルにエスコートする。

 

(優磨さんだと様になるな…少なくともああいうのは保脇じゃ無理だな)

 

と言うか聖天子レベルの美貌の持ち主ではエスコートする方も整っていないと不釣り合いと言うか似合わないと言うかはっきり言って滑稽になる。

自分で蓮太郎は想像してみるが木更だと間違いなく石を投げられそうだ…延珠なら…多分後ろに手が回る。

だが優磨はエスコートしながらも蓮太郎が出るまで待ちドアを閉める。こういう風に男女関係なくやれる辺りが優磨らしいと言うかカッコいいところだ。

 

「さ、行きますかお嬢様」

「は、はい…」

 

聖天子はブシュウ…と言う音と共に湯気が出そうだ。それを見た保脇は歯をギリギリ言わせながら見てる。

やはり優磨の方が男としても人としても上である。と言うかこいつなんか臭い…

それからホテルに入るとガチガチに固まった支配人から鍵を貰い最上階に向かう。

 

「さて現代のちょび髭首相の所に行きますか」

 

プッと聖天子と蓮太郎が吹いたところでドアを開けた…そこには天を衝く様な髪に年齢を感じさせない精気に満ちた顔…

 

「初めまして聖天子殿…斎武 宗玄だ」

「初めまして…」

 

すると斎武 宗玄は蓮太郎を見る。

 

「貴様…天童の貰われっ子か」

「あんだよ爺…まだ生きてたのか?とっとと謀殺されろよ」

「口を慎め民警風情が!!!!!!!!」

 

斎武 宗玄の空気が震えそうな怒号に聖天子は身を竦ませる。

そこから二人は言い合いに発展するが優磨は壁に凭れながらそれが終わるのを待つ。

 

「優磨さん?」

「大丈夫だよ。あの爺さんは蓮太郎を試してるだけだ」

「え?」

 

その証拠にすぐに口論は終わる…合格と言うところだろう。

 

「む…貴様はあの時天の梯子を使って飛んでいった…」

「どうも斎武 宗玄殿…お初にお目にかかります牙城 優磨です」

 

斎武は目を見開く。

 

「牙…城…?そうか…貴様あのNo.0か…」

 

斎武は笑い出す。

 

「なんと素晴らしい日だ。天童の貰われっ子だけではなくNo.0もいる…素晴らしい日だ!あっはっはっはっは!!!!!」

 

そして斎武は優磨と蓮太郎を見る。

 

「どうだ二人とも…俺の下に来ないか?女だろうが金だろうが好きなものをやろう。共に俺のものとなる世界を上から見ようではないか!」

「俺の物?」

 

優磨は斎武の言葉に首をかしげる。

 

「いずれ世界は俺の物になる…いや、するのだよ。邪魔なやつは消す、敵も消す、味方は残してやろう」

「寝言は寝てから言えよくそ爺」 「女も金もいらねぇよ。態々大阪まで引っ越せるかめんどくせぇ…それに俺は爺さんより嬢ちゃんの方が良いね」

「ふん…まあ良いさ。いずれ貴様らの方から頭を垂れることになる」

「斎武大頭領…」

 

聖天子が割って入る。

 

「本題に入りましょう」

「…ふん」

 

だがこの会議の成果は聖天子と斎武 宗玄は水と油のように決して交わることがないと言うことだけだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

『………………』

 

車内は静かだった…夏達はちびっこ組は既に眠気に耐えられず寝てしまっている。

蓮太郎は延珠に膝を貸してやりつつ考え事だ。

そして聖天子もどこか悲しげな目でいる。

 

「お前のせいじゃない」

「え?」

「全員話せば分かる奴等ばかりじゃない。それが分かっただけでも今回は上々だ」

 

優磨の言葉に聖天子は視線を落とす。

 

「頭では分かっているんです。でも…」

 

そこまで言った聖天子の頭を優磨は優しく撫でる。

 

「お前はよく頑張ったよ…嬢ちゃん」

「…はい…」

 

涙声になりつつ聖天子は答えた。

 

「しかし強烈な爺さんだったな」

「そりゃ一代でエリア纏めあげて長になったやつだぜ優磨さん」

 

然もありなんと言ったところだろう。

 

「どちらにしても斎武には気を付けろよ…お前は味方も多いけど敵も多いんだからな」

 

優磨の言葉に聖天子は頷く。

聖天子の公約には呪われた子供の差別廃止がありそのため味方も多いが敵も多いのが現状だ。

 

「思い描くのはいいが思いだけが先走りすぎると周りが見えなくなる。その結果殺されたら嫌だぞ」

「覚悟の上ですよ」

「周りはどうする?少なくとも俺はお前が死んだら悲しい」

 

優磨の言葉に聖天子はミルミル顔を赤くする。

 

(俺邪魔なんじゃねぇか?)

 

蓮太郎が顔を引き攣らせるが聖天子は顔を火照りを抑えるため備え付けの冷蔵庫からジュースを出す。それを優磨と蓮太郎にも渡し一口飲むと一息吐く。

 

「本当は…側近の女中の方にも言われているのです…跡継ぎをと…でも私は本当は愛する方と結婚し…子を成したいと思うのです」

「良いんじゃないか?その方が祝福されるだろう。周りがなんと言うかわからないが少なくとも両親に愛される子供は生まれる。その方が良いさ…だけどよ、お前好きな人とかいるのか?」

 

ブッと聖天子と序でに蓮太郎が吹いた。

 

「いや…あの…」

「まあ居るにせよ居ないにせよ俺の写真飾っていたらそういう相手が現れたとき気まずいぜ?」

「な!何故それを!?」

 

聖天子は驚愕した。二枚重ねにした写真をフレームに入れると言う完全な隠蔽(と本人は思っている)を何故当の優磨が知っているのだろうか…

 

「あ、いや…」

 

保脇の情報だが態々いって怖がらせたくはない。

 

「ある情報筋の情報だ。だけど気になる相手くらい居ないのか?ほら…警備隊の隊長とか」

 

すごくアプローチをかけまくっていたため優磨が聞いてみると、

 

「や、保脇さんですか?あの人は…何て言うか…怖いと言うかゾワッとすると言うか…」

 

端的に言って気持ち悪いと思われてると言うわけだな…

 

(保脇…)

(ざまぁ…)

 

優磨と蓮太郎は笑いそうになったがそれを耐える。

 

「でも気になる相手くらい居ないのか?」

「居ないわけではないんですけど…」

(気になるどころかガッツリ惚れてるだろあんた…)

 

蓮太郎の内心の突っ込みは聞こえるはずもない。

 

「へぇ?どんなやつ?」

「や、優しくて…気遣いができて…渡しにたいして謙ったり敬ったりせずに普通に接してくれて…ちょっと昼行灯で…でも私をちゃんと女の子扱いもしてくれるかたで…かっこよくて…強くて…そして面倒見もよくて…大人の男性です」

「何かギャルゲーの主人公みたいなやつだな。すげぇモテ要素の塊みたいなやつじゃん」

「…………………」

 

あんただよ!っとすごく突っ込みたかったが蓮太郎はゴクンと飲み込み黙っておく。

 

「じゃあ自分の気持ち言ったら?大方そういうやつって言うのは鈍感だと相場が決まってる」

(自分のことだからよく分かってんな…)

 

と蓮太郎は口に出掛けたが我慢して…

 

「ただその人は体が少し特殊で…」

「ん?」

「や、やはり立場上子を成せる方と言うのは絶対条件なのはわかっていて…」

 

蓮太郎はそう言うことかと頷く。優磨の体は特殊だ…云わば性交が出来るのか…さらに子を産ませることが出来るのか気になっているのだろう。

 

「おいおい…まさかそいつ不能なのか?」

「不能…?」

 

聖天子は一度止まりそれからまた赤面する。

 

「なな何言ってるんですか!そういう話ではありません!」

「ええ!?じゃあ他に何があるんだよ」

「……なあ、そういえば優磨さんってどうなんだ?」

「あ?」

「ほら、優磨さんって体の殆ど機械じゃん。そう言うのって出来るのか?」

「ああ、相手居ないから無いけど出来るぞ。生殖器は生身のままだし」

 

聖天子は驚いた顔で蓮太郎を見る。

だが蓮太郎はそのときには既に寝たフリに入っていた。

 

「ありがとうございます…里見さん」

「え?」

「あ、何でもありません…あのですね優磨さん…少しお話が…」

「ん?おう…」

 

少し真面目な聖天子の目に優磨も真剣な表情で見る。

 

「私は…」

「私は?」

「私はあなたをお慕………」

『だめぇええええええ!!!!』

『っ!』

 

あともう少しと言うところで夏と春が飛び起きた。

 

「ど、どうした?」

「今僕のレーダーが警告音を響かせたんだ…」

「同じく…」

 

凄まじいシンクロ率である…さすが双子。

 

「抜け駆けしようとしたでしょ…」

「な、なんのことでしょう…」

「その胸で優磨兄様を誘惑しようと…」

「してません!」

「???」

 

優磨が疑問符を浮かべていると夏と春が突然喋るのを辞めた。それと同時に夏世と延珠を起きてキョロキョロしだす。

 

「延珠?」

 

蓮太郎も寝たフリをやめる。

 

「何か嫌な予感がする」

『え?』

 

延珠の言葉に疑問符を浮かべた瞬間車が大きく横に揺れた。



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第11話

「がっ!」

 

車が揺れたと思った次の瞬間優磨の横腹に凄まじい痛みと衝撃が走り吹っ飛びそうになるが横に聖天子や夏たちがいることを思いだし必死に思い止まる。だが結局は凄まじい横揺れと衝撃で車はグシャグシャになりながら横転したためあまり意味はなかった。

 

(狙撃…か)

 

優磨はすぐさま状況を把握すると、

 

「脱出だ!」

 

優磨の声を聞いた蓮太郎は直ぐ様ドアを蹴りでブチ破り飛び出す。

 

「行くぞ!」

「はい…え?」

 

聖天子が脱出しようとすると動けない。見てみると車がグシャグシャになった際に足が引っ掛かっており嵌まった足が抜けなくなっている。

 

「くそ!」

 

優磨は高周波ブレードで斬ろうとするがその前に狙撃の警戒が先だと思い至り義眼を起動させる。

銃の威力…当たったときの角度…そこから射線を導きだし…

 

「彼処か!」

 

スコープモードで見てみれば人影が見える。

すると二射目が放たれる。

 

「っ!」

 

優磨は腰からデザートイーグルを抜くと義眼が銃線を計算し高速演算を開始…そして最適な発射角度を導きだし優磨はその義眼が導くままに撃つ。その間二射目が放たれた瞬間から一秒にも満たない。

そして二射目の銃弾は優磨の撃った銃弾をぶつかり火花を散らすと優磨の横を通り過ぎていく。その隙に優磨は聖天子の足を嵌めていた部分を切り離すと、

 

「しっかり捕まってろ!」

「は、はい!」

 

優磨にお姫様だっこされすっかりゆでダコになった聖天子は動きの邪魔にだけはならない様にしっかり捕まる。

 

「う…」

 

その際に当たった胸に流石の優磨も少し揺れた。

と言うか優磨だって男ではあるため普段は夏達の相手だしそういう相手はいないがこう言うときに何だが聖天子も少女と言うよりは女性になりつつあると言うのを再確認させられた気がした。

だがその中でも優磨は迷うことなく路地に向かい逃走を図る。

 

(3射目!)

 

優磨は再度義眼で計算…最適なルートを導きだし撃つと銃弾はまた火花を散らし逸れる。

 

(うそ…だろ…)

 

蓮太郎は驚愕していた。

 

(この人…銃弾を撃ってやがる!)

 

だが撃つだけではなく優磨はスラスターを起動し高く跳ぶと壁を蹴って射線から常に外れながら動くことで撃たれる可能性を下げている。

さながらその機動力は延珠にも劣らぬ機動力…純粋な速度なら延珠が圧倒的だろうが、銃、頑丈さ、さらに腕力や義眼などを使用した状況判断…総合すれば延珠以上かもしれない。

だがそこに虫の飛ぶような音聞こえた次の瞬間四、五射目が横から来る。

 

(馬鹿な…一人じゃねぇのか!?)

 

優磨は驚愕する。こうなったら一発は銃弾で、もう一発は体を張って守るしかないと覚悟を決めた瞬間…

 

「おりゃああああああ!」

「でぇええええええい!」

 

瞳を深紅に変えた延珠の飛び蹴りと夏のアッパーが銃弾と激突…凄まじい音と火花を散らしながら向きを強制的に変えさせられ優磨から逸れていく。そして…

 

「春!3時の方向にある一番高い建てもんだ!」

「はい!」

 

春の瞳が深紅に変わるとM82を構えるとスコープを覗き込む。一瞬の間があったあと…ドン!と言う音と共に銃弾が放たれた。

 

 

 

 

「くぅ!」

 

ビルの屋上で狙撃していた少女はとっさに身を踊らせて避ける。向こうにも良い腕を持つ狙撃主が居たらしい。しかもなんだあの男は…狙撃銃の弾丸を撃って逸らすなど人間業じゃない。しかも正面から当てていれば自分の使ってる銃弾の方が威力は上…つまり銃弾を逆に弾きながら撃った相手を撃ち抜けるはず…なのにあの男は側面に当てるように撃ってきたのだ。 どんなにまっすぐ飛ぶ銃弾も側面からの衝撃には弱い。

 

「マスター…邪魔が入ったのでシェンフィールドを回収後撤退します」

【馬鹿な!相手は無能な護衛だけじゃなかったのか!?】

「はい、恐らく民警を雇ったのだと思います。かなりの凄腕です」

【ちっ!仕方ない。一度撤退しろ。だが次は成功させろ】

「はい、マスター…」

【良い子だ…自分は誰だか分かるな】

「はい…ティナ・スプラウトあなたの忠実な部下です…」

【ふふ…良い子だ】

 

相違って通信を切ったあとティナと呼ばれた少女は先程まで暗殺対象のいた方向を見る。

 

「貴方は…何者?」

 

 

 

 

 

 

「また面倒なことになったねぇ…」

 

菫は呆れ半分驚き半分といった風税で優磨を見る。

暗殺騒動から一週間…優磨は菫のところで検査を受けていた。

あの後撃たれた殆どの弾丸は護衛の保脇達が無理やり回収していったため優磨に撃ち込まれた弾丸を抜き取って由実に調べてもらったら驚いたこと驚いたこと何と対物ライフルだと言うことが判明した…まあそりゃ戦車とか撃ち抜くために作られた銃だ…幾ら防弾処理されてるであろう聖天子の専用リムジンでも壊れるはずである。と言うかアレで済んだのが凄いところだ。

因みに次の日には一応反省会(ブリーディング)が行われたが基本的に責任の擦り付け合いに発展した挙げ句いきなり保脇が蓮太郎と優磨のせいだと発言。

保脇曰く、「この二人が来たとたんに事件は起きた」とのこと。勘弁してほしい限りなのだがどうも弁だけは立つらしく言うわ言うわ五月蝿い限りで途中から優磨と蓮太郎は何処までこいつは話続けられるのか気になり欠伸しながら聞いてたくらいだ。

まあ最後は聖天子の一喝で黙らされてその日の会議は終了。

とは言え一応責任を感じた優磨と蓮太郎は聖居の広報室に行き聖天使宛の手紙を見せてもらったのだがその内容も「赤目保護者め!」「今すぐ消えろ」のような分かりやすいものから…「聖天使様ハァハァペロペロ聖天使様の●●●に●●●して●●●した後俺の●●●を●●●したい」と言う切手つけて送るなよと思うような内容の手紙まで様々だ。と言うか最後のは多分聖天使が見たら卒倒する。

 

「しかし暗殺か…しかも狙撃…相当な手練れだね」

「まあ幾らひらけてたとは言えビルからは結構距離があった」

 

検査が終わった優磨は煙草に火を着ける。

 

「まああのときは向こうが俺の体に気付かずにいてくれたお陰で助かったようなもんだな」

 

狙撃者にしてみれば対物ライフルに耐え、あまつは弾丸を撃って外させてくる人間が同乗してるなど完全に予想外である。

 

「だが気を付けるんだよ。今回のことで分かったと思うが護衛の保脇以下全員役に立たないことが判明したからね」

「分かってるさ」

 

優磨は煙を吐きながら思い出していた。狙撃が起こってから保脇達が集まるまでに要した時間は何と3分…そんなカップラーメン出来るような時間が掛かっていたら優磨がいなかったら確実にやられていた。想像以上に使えない連中である。

 

「とは言え犯人の目星もついてないしどうするか…」

「何かないのかい?」

「ん~…虫が飛んでた」

「は?」

 

菫は耐熱ビーカーに淹れたコーヒーを片手に唖然とした。

 

「あいや…少し季節外れだったから記憶にあっただけだ…後はそうだな…蓮太郎たちには言わなかったけど犯人は複数犯かもしれない」

「その心は?」

「別々の方向から同時に狙撃された。弾丸は同じだったから仲間だろう」

「だったら教えてあげても良いんじゃないか?」

「いや何か引っ掛かるんだよ…」

 

何か…その何かに優磨は酷く引っ掛かっていた…複数犯の事件にしては何かが可笑しい… まあ今は考えても仕方がない。

 

「最後だが…イニシエーターの可能性がある」

「だろうね。対物ライフル何てバカでかい銃を連続して撃つとしたらよっぽど筋骨隆々の筋肉バカか君の言うイニシエーターの可能性がある。だがそんなものが複数居たら誰かの印象に残るだろう。複数いても目立たないならイニシエーターだね。まあ本当に複数犯ならの話だ。何かしらの仕掛けを施して自動的に撃てるようにした銃が設置されていたとしたら話はまた変わってくるけどね」

「可能なのか?」

「不可能ではないよ」

 

優磨は菫の抗弁を聞きながら煙を吐いた。

 

「そう言えば…夏達はどうだった?」

「ん?ああ…これだろ?」

 

夏達は常にガストレアウィルスに犯されて要ると言っても過言ではない。その為毎日ガストレアウィルスの進行を抑える注射を打ち…定期的に検査を受ける。菫が渡した書類にはその検査結果がかかれていた。

 

「柊 夏ちゃん…進行度23%…柊 春ちゃん進行度22%千寿 夏世ちゃん進行度25%…何か質問は?」

「安心はしたよ」

 

進行度は50%を消えると呪われた子供たちは形象崩壊を起こしガストレア化する…だがこれくらいならまだ大丈夫だろう。だが…いずれ来るのは分かっている。今ある薬だって進行速度を抑える力しかない…いずれ夏たちも形象崩壊を起こしガストレア化するだろう…その際に…きちんと自分は殺せるのだろうか…そして彼女たちの居ない生活に耐えられるのか?

居るのが当たり前となった彼女たち…居なくなったら喪失感に堪えられるのだろうか…多分無理だろう。と優磨は自嘲気味に笑う。昔より強くなったかもしれないが…幻想だったかもしれないな。

 

「優磨くん…」

「ん?ああ、なんだ?」

「君こそ大丈夫かい?」

「ん…ああ…」

 

優磨は頭を振る。こんなんじゃダメだろ…と、

 

「………今でも…すまないと思っている」

「え?」

「君の体の改造だ…君が死にかけて…半ば狂気に狩られていた私は君を助けたい半分…もう半分は自分の作った計画を実行したい気持ち半分で君を使った…」

 

まあそんな考えは簡単見破られたがね…と菫も自嘲気味に笑った。

優磨も思い出す。あの後生身の肉体をほとんど失ったことを知った自分は混乱と共に何でこんな体にしたのかと菫を恨んで詰め寄った。そしてわかったのだ…今のこいつは何も見えてないことに…今ほど達観してなかったし出来なかった自分はその時菫をぶん殴って…それから…

 

「お互い忘れる…それで話をつけただろ」

「ケジメってやつだよ…ちゃんと君に謝罪してなかったからね」

「……ふぅ…別に良いさ…お陰で夏や春に夏世とも会えた」

「そうかい…」

 

菫はどこか安心したような表情を浮かべる。

 

「ただ心配なのはそんなんじゃ君婚期逃すよ」

「お前に言われたくねぇし俺のからだ知ったら大概の女引くって」

(ほんと鈍感だねこいつは…)

 

菫は呆れながら、

 

「私は良いんだよ。死体達がある」

「……俺の心の傷抉ったんだ。ひとつお前のもえぐって良いか?」

「どうぞ?」

「お前は死体しか愛せないんじゃなくて…死体しか愛さないようにしてるだけだよな?」

「っ!」

「それで…アイツに操立ててるんだろ?」

 

アイツ…それは菫に胸のロケットに入ってる恋人のことだろう。

 

「人の勝手だろ?」

「勝手さ…でもそろそろ忘れてやれよ…そんなんじゃアイツ成仏出来なくなるぜ?」

 

忘れるない優しさはある…だが忘れてやる供養のしかたもある。死者が望むのは生者の幸福…アイツを忘れて幸せになれと優磨は暗にいっている。

菫にとって彼がどんな存在だったかは優磨は痛いほど知っている。それを踏まえた上で言っているのだ。

 

「お前が外に出ないのもそうだからだろ?太陽に…表の光に当たっていたら記憶が過去になってしまう…それが怖いんじゃないか?」

「……君は…」

 

本当に嫌な男だ…菫は伏し目に呟く。

 

「お前の友人だぜ?性格良いわけ無いだろ?」

「それもそう…か…」

 

菫は優磨を見つめつつ溜め息を吐いた。

 

「でも君は優しいね…その名が示す通り優しく人の心にへばりついた垢を磨き…その下に隠された本心を暴く…」

「違う…俺がその名にふさわしくなったのは結構最近だよ…」

「まあ…君も良い男になったと言う感じかな?」

「さぁな」

 

優磨はタバコの火を消しながら立ち上がる。

 

「そろそろ帰るな。また来るよ」

「ああ」

 

そう言葉少なめに交わし優磨は出ていく。

 

「君は…最近私は君を友人とは見れなくなってきたといったら…どんな顔するんだろうね…」

 

絶交を申し付けられたと勘違いするか…菫は笑いながら残りのコーヒーを飲んだ。




優磨と菫の関係…友人であり顔馴染みでメンテナンス担当で夏たちの主治医…でも何となくどれも完全には当てはまらない…そんな不思議な関係だと思っています。
因みに菫の昔の恋人に関する思いは作者の勝手な想像です。何と無くですがそんな感じだと思っています。
でも優磨を最近意識し始めているちょっと乙女チックな菫さんをこれからも描いていきたい。
そして優磨争奪戦したら多分今のところ菫が一番強いかもしれない…


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第12話

「ん?」

 

優磨が外に出て駐車場に向かう途中で近くの公園を見ると…

 

「やべ…高校生が子供に手を出してるって警察に連絡しないと…」

「ちっげぇよ!!!!」

 

不幸そうな顔をこちらに向けながらロリコン野郎こと蓮太郎は振り替える。

 

「よう、元歌のお兄さんでキノコ栽培師でアロマセラピストでゲイバーのストリッパーことロリコンの蓮太郎」

「何か最近ネット上でそんな風に言われてるけど全部ちげぇよ!」

「全部じゃないだろ」

「は?」

「いやロリコンは正解だろ?」

「不正解だよ!って言うかネットでも俺のロリコン説出てんだけどあんたじゃねぇよな!?」

「いや、アレ菫が広めたんだ」

「あんのくそ医者!!!!」

「???」

 

蓮太郎の足下でたこ焼きを食べる少女は疑問符を浮かべる。

 

「初めましてだな…牙城 優磨だ」

「初めまして…ティナ・スプライトです」

 

眠そうな目を擦りながらティナは錠剤を出すとボリボリ食べる。

 

「お前…こんな小さな子を薬漬けにして…」

「全然ちげぇよ!て言うかこれカフェインの錠剤だって書いてあるだろ!」

 

そんなことは百も承知だ。冗談の通じない奴だね。

 

「では里見さん。これにて…」

「ああ、じゃあなティナ」

 

ティナ危なっかしい足取りで何処かに行ってしまう。

 

「アレが新しい蓮太郎ロリハーレムランドの一員か…」

「だから俺がロリコンって言う事実無根のネタは何時まで引きずられるんだよ!」

 

蓮太郎に叫びが公園に響く。

 

「まあ次から真面目な話だ」

 

優磨は目を少し細めてベンチに座る。

 

「敵は相当な腕だ…」

「ええ…しかも多分内通者がいる」

「ああ…それを考えると相当な情報網だ…こっちの素性もバレてるかもしれない…」

『………ん?』

 

バレてるかもしれない…?

優磨と蓮太郎は顔を見合わせる。

バレてるとしたら…狙われるのが一人いる…唯一の非戦闘員…

 

『木更(さん)(ちゃん)!?』

 

二人は勢いよく立ち上がる。木更が危ない。

 

「蓮太郎!こっちだ」

 

二人は直ぐ様駐車場に向かいポンコツ丸に乗り込む。

そしてエンジンを掛けると相変わらずピスピスと情けない音を立ててエンジンがかかる。

 

「頼むぞスバックス君!」

 

勢いよく車を出した…

 

 

 

その頃天童民間警備会社前では…

 

「マスター…着きました」

【よしティナ…ではここの天童 木更を殺し、天童民間警備会社を麻痺させろ】

「了解です…ここの人数を聞いて良いですか?」

【ああ…ここにいるペアは一組だ。それは里見 蓮太郎&藍原 延珠ペア】

「え?」

 

ティナは手に持つ武器を落とし掛けた。

 

【まあ序列千番のペアだ。ステージⅤを倒したとかで有名だが大した敵ではない。天童木更に至っては腎臓に障害があり戦闘は不可能とのことだ。気を付けるべきなのはここではなくもう一つの民警・牙城民間警備会社の唯一のペアにして社長、牙城 優磨と柊 夏、柊 春、千寿 夏世のチームだ】

 

ティナは完全に武器を落とす。

 

「牙城は…強いんですか?」

【恐らくお前では相手にならないだろう。恐らくお前の銃弾を撃って弾いたのもそいつだ。全く…室戸の腰巾着がまだ生きていたか…】

「…………」

【とにかく牙城とは戦うな。上手く避けるんだ。いくらあいつでも一人でお前の暗殺から守るのは難しかろう】

「はい…マスター…」

 

ティナは通信を切ると武器を取り出しながら階段を上る。一階と二階の店は休みの時間帯を選んだ…後はドアを開ける。

 

「あら里見くん。おかえ…え?」

 

中には一人だ…良かった…無駄な人死には出ない。

 

「天童 木更さんですね?覚悟を…」

 

次の瞬間ティナが手に持つガトリングガンが火を吹いた…

毎秒100発にも及ぶ弾丸の雨が木更が居たとこに炸裂する。だがその時には既に木更は机の下にかくれていたが所詮は焼け石に水…次々来る弾丸で机はあっという間に砕かれた…だが、

 

「え?」

 

ティナは一度射撃を止めると、砂塵の中からゆっくりと立ち上がる影がある。

 

「…………」

 

その影の正体は木更だ…殺人刀(せつにんとう)雪影(ゆきかげ)を手に木更はティナを見据える。

 

「貴方は?」

「くっ!」

 

ティナは再度銃撃を開始…しようとしたがその前に木更が抜刀…居合いともに斬撃がティナを襲う。

 

(鎌鼬!?)

 

飛ぶ斬撃をティナはギリギリで躱すがそこに続けて放つ。

 

「ちっ!」

 

ティナは横に飛んで銃撃を開始…だが木更も動いて躱すと弾丸を刀で弾きながら特攻…そのままガトリングガンを切り捨てる。

だがティナは迷うことなく切り捨てられたガトリングガンを捨てながらナイフを抜くと木更の首を狙う。

 

「ふっ!」

 

それを木更は余裕を持って躱し距離をとる…が、

 

「か…は…」

 

木更は急に脇腹が痛くなる。持病の腎臓が悲鳴をあげ始めたのだ。

 

「ご免なさい…」

 

ティナは謝りながらゆっくり近づきナイフを構える。

予め自らのマスターに聞いていたことが役に立った。木更の腎臓が悲鳴をあげるまで待てば良いとは思っていたがここまで早いとは…

 

「さようなら…」

「里見…くん…」

 

ティナがナイフを降り下ろそうとした次の瞬間、

 

浮嶽(ふがく)!!!!」

 

山すら浮かせるスラスターによる加速つきのジャンピングアッパーはビルの一階から木更達がいる三階まで突き破りティナを狙う。

 

「くっ!」

 

ティナは後ろに飛んで躱すがそこに、

 

「天童式戦闘術二の型十六番!隠禅・黒天風!!!!」

 

背後のドアから勢いよく飛び出した蓮太郎の蹴りがティナを吹っ飛ばす。

 

「なっ…」

 

蹴っ飛ばしてから蓮太郎も相手に驚愕する。

 

「ティ…ナ?」

「里見…さん…?」

 

流石の優磨も困惑してると…

 

「これ以上邪魔しないでください…次は殺します」

 

そう言って窓から飛び出す。

 

「ああ!」

 

次の瞬間グシャ!っと嫌な音を立ててポンコツ丸の上に分割されたガトリングガンと共に着地したティナはそのまま走り去る…

 

「んのぉおおおおおおおお!!!!」

 

優磨は頭を抱えた…

 

「と、とにかく救急車!」

 

 

 

 

 

 

木更を救急車で運び、それに蓮太郎が付き添っていってから優磨は内側から殴って形を無理やり直すとバフバフ言い出したエンジンを労いながら延珠達を車で拾うと病院に向かう。

 

「ねぇ優兄…何でポンコツ丸窓とか無くなってんの?」

「小さい隕石がぶつかったんだよ…」

 

優磨は血の涙を流しながら車のハンドルを切る。

 

「しかし木更は大丈夫なのか?」

「心配だね」

「大したことが無いと良いんですけど…」

「葬式は清●記ですかね」

「勝手に殺すな夏世…」

 

病院につくと丁度良くエンジンがバホン!と言って沈黙…

 

「やっぱり買い換え時だよこれ…」

「かなぁ…」

 

夏の言葉に優磨は頬を掻く。

すると延珠はピクン!と背を伸ばす。

 

「どうした?」

「いま妾の蓮太郎メーターが振り切れた…蓮太郎の操の危機だ!」

 

そう言って能力を解放してないと言うのに凄まじい速度で駆け出した。

 

「…………まあ…いいか」

 

蓮太郎が木更に恋い焦がれてるのは周知の事実…二人っきりの病室でイチャついてたりするかもしれない。

すると木更の悲鳴が上がったような気がしたが特に危機感がある声じゃないため優磨たちはのんびり病室に向かった。



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第13話

ティナの襲撃から次の日…二度目の護衛任務の日となり前回の襲撃を含め諦めてるわけがないため今回は車を変えることにした。リムジンには先行してもらい護衛の車と思わせて中には聖天子と優磨チームと蓮太郎ペアが乗り込んだバンを発進させる。

優磨のポンコツ丸で行くと言う案も出たが前回ティナに踏み潰され遂にエンジンがご臨終なされたため現在エンジンを交換中である…

今回はもう頑丈ですごいエンジンにしてもらう予定である。

 

「そうですか…天童社長が…」

「まあ大丈夫だ…少し働きすぎだったんだし養生して貰うさ」

 

蓮太郎は努めて冷静でいるが本当は隣に居たいという気持ちがあるのは丸分かりだ。

 

「でもさ…その子って何者なの?」

「どう言うことだ?」

「だってさ…その子は狙撃できるんでしょ?しかもナイフで接近戦も出来て…何て言うか万能過ぎる気がするんだよ…」

「でもナイフだったら振り回せば良いんだし夏世ちゃんや延珠ちゃんだって…」

「いえ春さん…多分ティナ・スプライトは接近戦もできますよ」

「何でそういえるのだ?夏世」

「優兄の一撃を避けた…他にも蓮太郎蹴りを自分から飛んで衝撃をやわらげていたんだよね?」

「あ、ああ…」

 

やっぱり何者なんだろう…と夏は首をかしげる。こいつは基本的に考えるより行動派だが時々優磨たちも考え付かない物事の本質を見抜くことがある。そういう意味ではやはりお姉ちゃんなのだろう。

だが夏の言う通りかなりオールラウンドに戦えるらしい…通常狙撃主相手にするときは距離を詰めるのが手っ取り早い。何故なら近距離の銃撃には向かないからだ。狙撃とは文字通り狙って撃つ物…しかも最近はセミオートと言う物もあるが基本的に連射が出来ないのだ。一発撃ったら空薬莢を手動で排出しなければならないためなのだがとにかく連射はできない。だがティナは前回見る限り接近戦はナイフで行えるようだし相当厄介だ。それに前回使わなかっただけで拳銃を装備してくるかもしれないし何より前回はなぜかいなかったが仲間いるかもしれないのだ…

 

「ん?」

 

今度は優磨が悩む番だ。

そう言えば何故前回はティナの単独だったのだ?確かにティナは高い戦闘能力を持っていた…だが今回の黒幕はこちらの防衛をどこからか入手してまでの暗殺…つまり相当手の込んだやり方だ…そんなやつが一人での強襲をさせるのか?

 

(そうだ…複数の銃撃で俺は勝手に複数犯だと思っていたが…)

 

そして違和感の正体に気づく。

 

「そうだ…何であの時一人しか検知出来なかったんだ?」

『え?』

 

優磨を全員が見る。

 

「そうだ…何で…」

 

更に言えば狙撃のタイミングが完璧すぎた…前回来た合計3つの方向からの狙撃…息があっていすぎた…まるで一人の人間が全て撃ったかにように…

 

「優磨さん?」

 

蓮太郎が声をかけてくる。

 

「あ?ああわりぃわりぃ独り言だ」

 

そう言ってまた考え出す。

何故前回一人しか義眼で検知出来なかったのか…この義眼は三キロ先まで検知可能だ…無論人混みの中ではもっと短くなるが少なくともあんな人が少ない場所では短くなることはない。

なのに検知できたのは一人…つまり犯人は一人?そんな馬鹿な…じゃあ全く違う方向からの同時狙撃は…

その時優磨の脳裏にある菫との出来事が思い出される。

 

 

【なんだこの映像】

【ああ、これは空前絶後の堅物が作った機械化兵器だよ】

【はぁ~…どうやって動かしてんだ?】

【脳にチップを埋め込んでね…そこから信号を出してるのさ…まあ一度に動かせるのは三体が限界だね】

【何て言うんだ?】

【これの名は確か…】

 

 

 

「シェンフィールド…」

「シェン…なんですか?」

 

聖天子が話しかけてくるが優磨の耳に入ってこない。ばかな…あれは…でもだとしたら…

 

「優磨さん!?」

 

優磨はバンの後ろのドアを開けると義眼を起動させる。すると今度は検知した…設置された対物ライフルと虫のような小さな機械……それが三個ずつと遠くにティナ…

 

「全員伏せろ!」

 

優磨の声が響いた次の瞬間凄まじい量の弾丸がバンに炸裂した…

 

 

 

 

 

 

「ちぃ!」

 

優磨は腰から銃を抜き続けざまに撃つ。だが二発までは弾いたがもう二発が弾ききれていない。だが、

 

紅蓮(ぐれん)!【双打】!!!!」

 

両腕の紅蓮(ぐれん)が弾丸を迎え撃ち火花と爆音を出し優磨を吹っ飛ばしながらバンの荷台の側面を貫いていく。

 

「いってぇ…」

 

さすがに優磨もクラクラしている。

 

「地下駐車場だ!急げ!」

 

蓮太郎が叫ぶと運転手が慌ててすぐそこの地下駐車場に逃げ込む。

 

「や、ヤバかったな…」

 

蓮太郎が一息つくが優磨はまだ意識が朦朧としている。

 

「蓮太郎、妾が追う!」

「なに!?」

「いまなら間に合う!」

 

延珠が言う…

 

「分かった…でも…」

「なら僕もいくよ」

 

夏が手を上げる。

 

「…気を付けろよ…」

「うん」

「任せろ!」

 

延珠は夏を背負うと能力を解放し爆走した…

 

「延珠…」

 

すると聖天子が電話をしていたのか電話を切ると、

 

「里見さん!今すぐ二人を戻してください!」

「え?」

「国家元首の特権で調べました…ティナ・スプライト、序列は98位…藍原さんや柊さんでは相手になりません!」

「っ!?」

 

蓮太郎は電話を掛けるが結局その夜二人は帰ってこなかった…

 

 

 

 

 

 

 

「そこまで堕ちたか…エイン」

 

次の日優磨は菫の研究室で昨日の説明をしていた。

説明を聞いた菫は手に持っていたビーカーを握り潰さんばかりだ。

優磨が渡した書類にはティナのプロモーターが載っておりそこには【エイン・ランド】と記されていた。

かつて四賢人と呼ばれた菫の同僚と言うか外国版新人類創造計画【NEXT】の最高責任者…だが随分と腐ったやつだと言うことは分かった。

 

「それでどうするんだい?」

「夏は無事だ…そんな柔に鍛えちゃいない。ならきっと延珠ちゃんも無事だ…なら俺はティナを…」

 

すると携帯が鳴る。

 

【優磨さんか!?】

「どうした蓮太郎?」

【延珠と夏が見つかった。いま病院だ!】

「っ!分かった。すぐ行く!」

 

優磨は本日吸いすぎて吸った本数が二桁目に突入した煙草の火を携帯灰皿で消すと、

 

「じゃあな!」

 

優磨は飛び出す。

 

「全く…心配無用みたいなこと言って心配しまくりじゃないか」

 

菫は笑った。

 

それから30分ほどで病院に優磨は駆けつけると既に他の面々もいた。

延珠と夏はベットで寝ている。

 

「医者に聞いたけど麻酔を過剰に打ち過ぎて意識ないけど一週間くらいで目を覚ますらしい」

「良かった…」

 

春は腰が抜けたように椅子に座り込む。夏世も安心した顔だ。

 

「取り合えず相手の正体が分かった」

 

優磨が言うと三人は見る。

 

「ティナ・スプライトは俺やお前と同じ機械化兵士だ」

「え?」

 

蓮太郎は一瞬優磨の言葉を理解できなかった顔だ。

 

「執刀者はエイン・ランド…NEXTの最高責任者でとんだクズ野郎だ」

『…………』

「ティナの武器は脳に仕込んだチップから指令を出して操作するシェンフィールド…能力はシェンフィールドとの視界を共有だ。恐らく狙撃銃も同じ要領で遠隔操作してる」

「ま、待てよ…ティナは…呪われた子供だぞ?優磨さん…」

 

襲撃されたときにはっきり見たのだ…ティナの眼が紅くなってることを…

 

「菫から聞いたが理論上可能らしい…成功率は無論低いけどな」

「くそ…」

「後グットニュースとバットニュースがある」

「良いニュースですか?」

「エインの戦闘能力は皆無と言って良いらしい。つまり戦いに出張ることはない。だが裏を返せば…」

「ティナさん単体で序列98位を取っていると言うことですか?」

「その通りだ夏世…これがバットニュースだ」

 

それを聞いた全員が黙る…

 

「後3日後に3回目の護衛任務だ。斎武との会合も次で最後…つまり3日後が…」

 

最終決戦…全員の脳裏にその言葉が響いた…木更はいまだ入院…延珠と夏も未だ眼は覚まさない。 戦況は最悪…しかも今回の護衛も漏れてると考えて良いだろう…だがそれでも…

 

「俺はやるぞ」

 

蓮太郎は厳かに言った…

 

「ここで引けない…それに何よりあいつは本当は殺しなんかしたくないんだよ…そうじゃなきゃ昨日の襲撃だってもっと酷かった筈だ…」

「………」

「頼む優磨さん。多分あんたもティナと戦いたいと思ってると思う。だけど譲ってくれ…」

 

優磨は一度目を瞑ると…

 

「蓮太郎…序列100をきった連中は基本的に全員化けもんだ…そのくらいになれば全員国ひとつ滅ぼせるような奴等ばかり…普通じゃない。死ぬぞ…それでもやるのか?」

「ああ…」

『……………』

 

その場を沈黙が包み春と夏世はハラハラした面持ちで二人を見る。

 

「…………………ふぅ…」

 

優磨は息を吐く。

 

「若者の覚悟は言っても止まらんか…分かった…」

 

優磨はたつ。

 

「春、夏世は蓮太郎の援護だ」

「優磨さんは?」

「護衛をする…多分向こうも形振り構っていられないだろうからな…直接来る可能性もある」

 

それから優磨は拳を付きだす、

 

「この戦い…俺達で幕を下ろすぞ」

「ああ…」

「はい!」

「任せてください」

 

四人は拳をぶつけ合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後…ティナは最後のチャンスだと聞き廃ビルに隠れながら待ち伏せていた…今回の階段で使われる料亭は人が来ない代わりに廃棄物が捨てられることが多い場所でその一角に廃ビルがある。確かに人には見られないかもしれないが計画がバレていては意味がない。

 

(来た……)

 

ティナは車が三台出てきたことを確認すると銃を構えながらシェンフィールドで探る…一台目…居ない…2台目…無し… 最後のボロボロの車…見たことがあるがまさかあの車に?そう思いまさかと思いつつ見ると案の定いた…

 

(成程…敢えてあり得ない風情の車ですか…舐められたものですね)

 

そう思いつつ引き金を絞る…マズルフラッシュと共に弾丸が放たれる。だが次の瞬間あり得ないことが起きた。

 

「え?」

 

車はバオン!っと一瞬で加速…その速度はレーシングカーも欠くやと言う速度でしかも加速が尋常じゃない。余りの速さにスコープから外れティナは慌てて探す。すぐに見つけたが凄まじい速さで曲がったり進んだりするため狙いが定まらない。

 

(あれは…何!?)

 

ティナが困惑しているとスコープに黒い物体が入る。

 

「あ…」

 

完全に反応が遅れたティナは声を漏らしながらそれを見た…

 

「里見さん…?」

「天童式戦闘術、一の型五番!!虎搏天成!!!!」

 

神速の突きがティナを吹っ飛ばした。

 

「がはっ!」

「ティナ!」

 

蓮太郎は構え直しながら…

 

「立て!お前は…俺が倒す!!!!」

 

 

 

その頃車を疾走させていた優磨は…

 

「は、速いですね」

「Devel Sixteen…レーシングカーでも使われる5000馬力のエンジンだ」

「す、凄いですね。でもそろそろスピード緩めても…」

 

すると優磨は足元から何か拾うと後ろにいた聖天子に何かを渡す。

 

「これは?」

「アクセルペダルとブレーキペダル…」

「え?」

 

すると次の瞬間ドアが勝手に外れた…

 

「ええ!?」

「済まん…スピードは出たけど他の部品がもうダメだったみたいだな…速度に耐えられなかったみたいだ」

 

優磨が冷や汗を流した次の瞬間左側の前輪と後輪が吹っ飛び強制的にルパン三世宜しく片輪走行するはめになった。

 

「俺これ終わったら報酬で新車買うわ…」

「是非そうしてください!報酬弾みますから」

「マジか!?愛してます聖天子様!」

 

どう見てもふざけていってるがそれでも言われて嬉しいのか聖天子は顔を真っ赤にした。

すると遂に右側のタイヤも壊れ始めボンネットも飛ぶ。だと言うのにエンジンは更に唸りをあげスピードをあげていく。

 

「仕方ねぇ…行くぞ!」

「行くってどこに…きゃ!」

 

優磨はベルトを外し聖天子を抱え上げると車外に飛び出す。

その直後にポンコツ丸は電柱に激突し爆発した…

 

「くそぅ…エンジンは頑丈でも車体が持たないとは…」

 

優磨は聖天子に引きずられながら店に入る。運良く飛び出したところが店の近くで助かった…のだが…

 

「え?帰った?」

「急用が入ったとのことで…はい」

 

店の人が言うには斎武は急用で帰ったとのこと…どう言うことだ?

優磨と聖天子が首をかしげた次の瞬間銃声が響く。

 

「っ!」

 

優磨は聖天子を庇いながら跳ぶとカバーに入る。

 

「案の定形振り構わず来やがった…」

 

見てみれば皆東京エリアの警備隊…しかも先頭切ってるのは護衛隊の一人だった男だ。何で…

 

「いるかぁ牙城!」

「テメェが内通者か!?」

「そうだよ!お前とそこの(アマ)の首手土産に逃がさせてもらうぜ!」

「大阪にか!?」

「ばぁか…もっと上だよ」

「うえ?」

 

だが優磨の疑問に答える前に弾幕が激しくなる。

 

「優磨さん…」

「安心しな嬢ちゃん…」

 

優磨は腰から銃を抜き優しく笑いかけながら力強く答える…

 

「待ってな…お前は…俺が守る!!!!」

 

 

 

 

片や道を外した一人の少女を助けるため…片や命の危機を救うため…二人の男の戦いが幕を開ける。



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第14話

「死んだか?」

 

裏切り者たちは銃を一度下ろす…だがそれは間違いだった…

 

「勝手に殺すな…紅蓮(ぐれん)!!!!」

 

硝煙の中からスラスターで加速させた拳で一人殴り飛ばす。

 

「ぐべぇ!」

「こいつ生きてるぞ!」

 

瞬時に銃を構えるが実戦のじの字も知らないで来た親衛隊の隊長の腰巾着とそれに追随するものたちである。優磨の動きについていけない。

 

大蛇(オロチ)!!!!」

 

今回初公開の技は脚のスラスターを使い加速した速度での体当たり…無輪速いだけではなく優磨の体格…更に超バラニウムの体での激突であるため凄まじい破壊力である。

 

「くそ!うてぇ!うてぇ!」

「いでぇ!」

 

だが優磨の体に弾かれる。痛みはあるが…

 

「ん?」

 

すると優磨に勝てないと判断するや否や聖天子の方に数人行く。

 

烈風(れっぷう)!!!!」

 

優磨は飛び上がるとスラスターで加速させた回し蹴りで吹っ飛ばすと流れるように次々銃と素手で戦闘不能にしていく。

 

「死ねぇ!」

 

リーダー格の男が銃を向ける。

この男は優磨に銃は効きにくいと言うのを忘れたのかと思いきや銃口の先は聖天子に向いている。

 

「くっ!」

 

弾丸が発射されようとする…優磨は駆け出すがこれでは間に合わない…ならば切り札…

 

制限解除(リミッターオープン)…解除率10%!!!!」

 

優磨は制限をほんの少し解く…するとブシュッ!と言う音と共にスラスターが起動し周りを熱風が包み…手を出す。

すると次の瞬間パシッと言う音が出る…

 

「へ?」

 

リーダー格の男は間抜けな音を出した。本当は腕を出して弾いても良かったがそれだと跳弾で聖天子の身が危なかった…なので、

 

「出来るもんだな…銃弾キャッチって…」

 

やった優磨も少し驚いている。咄嗟だったが出来るものであった。

 

「うでぇえええええ!!!!」

 

一気に混乱の境地に達したリーダー格の男が命令すると残りが銃を構える。

 

「さすがに多いな…解除率・20%!」

 

熱風がわずかに強くなる…そこに銃弾が炸裂するがどこにも着弾することはなく全て優磨にキャッチされた。当たっても痛いだけだが今は後ろに聖天子がいる。20%も引き出したら多分明日辺り疲労によりゾンビみたいになっているであろうが仕方あるまい。

 

「ぶっ飛べ!竜巻(たつまき)!!!!」

 

優磨は瞬時に間合いをつめ敵の中心地で高周波ブレードを引き出すとスラスターを使い高速回転…まさに小さな竜巻となって吹っ飛ばすした…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がっはぁ…」

 

リーダー格の男は吹っ飛ばされて転がる。

 

「ば、化け物…」

「誰の命令だ?」

 

優磨は銃を額に押し付けながら聞く。

 

「ふ、馬鹿な男だ…俺なんかに構っていて良いのか?今頃保脇のバカは利用されてるのも知らずに里見のところに行ったぞ?」

「何!?」

 

そう言えばすっかり忘れていたがあいつらが居ない…

 

「まあティナ・スプライトはもう使い物にならないからな、丁度良いだろう?」

「ちっ…ならさっさとしゃべってもらうぞ」

「馬鹿が…しゃべるわけないだろ…俺は…ん?ああ、待っていた」

「はぁ?」

 

優磨は一瞬困惑したが背後の人間に話したことに気づき振り替えると優磨の真横を銃弾が通っていく。

 

『え?』

「上からの命令だよ鴻上さ~ん…死ね」

「…………」

「な…んで?」

 

鴻上と言うのか…等と考えてる場合ではない。優磨の遥か後方には瞳を深紅にした少女二人がいる。

 

「あなたが牙城 優磨?」

「あ、ああ…」

 

優磨としては三人に挟まれてることになってる聖天子をカバーしたいが下手に動けない…

 

「安心して、無駄な殺しは基本的にしないから。今回の私の仕事は役立たずの排除…聖天子の殺しは含まれてないからね」

 

そう言って少女は銃を背負うと、

 

「ふ、ふざけるなぁああああああ!!!!」

 

鴻上は走り出すと少女に襲いかかる…

 

「お願いね」

「……………」

 

先程から一言もしゃべらない少女の瞳が灼熱する…そしてペチン…っと言いそうな速度で手を振り抜くと鴻上の首がグルングルンと2回転し…沈黙した。

 

「あ、忘れてた忘れてた…私は聖夜(せいや) 秋菜(あきな)…そしてこの子は聖夜(せいや) 冬華(とうか)…その内私達のプロモーターと会うと思うけどおにぃさん…宜しくね~」

 

たった今人を殺したばかりとは思えない軽い足取りで秋菜と名乗った少女は冬華と言う少女を連れてどこかへいった…

 

「なん…だったのでしょう…」

「わからん…だが今は蓮太郎の方にいこう」

「はい」

 

そうは言うものの優磨には気になっていた…【うなじに刻まれた三枚の羽の紋章】…

 

 

 

 

 

 

 

少し時間を戻そう…優磨達が襲撃を受けた頃蓮太郎とティナは一瞬睨み合うと次の瞬間蓮太郎に対物ライフルの弾丸が炸裂する。

 

「うぉおおお!」

 

だがその前に蓮太郎は拳を地面に叩きつけ屋上から脱出し一旦逃走を図る。

 

「逃げましたか…なら…」

 

シェンフィールドを起動させ蓮太郎が逃げた階下に向かわせた…が、

 

「なっ!」

 

突然一機が破壊された。無論調整を終えたばかりのシェンフィールドが壊れるわけがない。とは言え蓮太郎のXD拳銃ではない…シェンフィールド越しに見えたのはショットガン…正式名称はスパス12だ…ショットガンは日本語で散弾銃…つまり小さな弾丸を無数に飛ばす銃だ……有効範囲は狭いがその無数の銃弾がシェンフィールドの唯一とも言える弱点でありカメラの部分を撃ち抜いたのだろう。そして撃ったのは

 

「確か千寿 夏世…」

 

 

 

階下では夏世が通信機に連絡を入れつつ走る。

 

「一機破壊完了です…春さん。準備を」

【OK】

 

IQ200の頭脳がフル回転を始める。

 

 

 

春はM82を構える。

 

「………」

 

息を吐ききり…ゆっくりと肺に空気を満たすと止める…そして…

 

「今!」

 

春は銃を撃った。

 

 

 

 

「なっ!」

 

ティナは本日三度目の驚愕を迎える。

今度は行きなり設置していた遠隔操作していた対物ライフルが一機撃ち抜かれ破壊されたのだ…

 

(今度は誰!?)

 

ティナはスコープで探すと遠くに春が見えた。

 

「くっ!」

 

春に銃身を向けようとした次の瞬間、

 

「天童式戦闘術・一の型十五番!!!!雲嶺毘湖鯉鮒(うねびこりゅう)!!!!三点撃(バースト)

 

腕と脚から空薬莢を排出しながら加速した蓮太郎の雲嶺毘湖鯉鮒(うねびこりゅう)!!!!が床をぶち抜きティナに炸裂、

 

「がっ…」

 

ティナは嘔吐感に襲われながらも脳から指令を送り遠隔操作で対物ライフルを放つ。

 

「ちぃ!」

 

だが一丁はすでに破壊済みであるため合計四発の対物ライフルの弾丸が来るがその内一発は春の放った銃弾で弾かれ…三発はティナが吹っ飛びながらはなったものの為か狙いは甘く簡単に軌道から外れた蓮太郎は再度階下に飛び降りる。

 

「くっ!」

 

ティナはシェンフィールドを2体放って追おうとするがその前に起動して浮いた瞬間夏世が階下から放った散弾が二機とも弱点を撃ち抜き沈黙…

 

「貴方は大した人です…」

 

夏世は呟くがティナには届かない…

 

「正しく神算鬼謀の狙撃主…と言って良いです。ですが…」

 

夏世には力はない…春も無い…蓮太郎は計算高くない…それに狙撃なんてこれっぽちも才能がない。

それに加えティナは狙撃が出来る…近距離も出来るし計算高い…

だが…夏世も春も蓮太郎も一芸であればティナを上回れた。

IQ200の頭脳を持つ夏世…狙撃に関しては天才的な春…義手と義足と義眼による絶対的な攻撃力を持つ蓮太郎…夏世が動かし春と蓮太郎はそれにしたがって動く…一人一人は神算鬼謀の狙撃主…ティナ・スプライトには勝てないかもしれない…だが3人揃えば文殊と知恵と言うように3人集まれば遠近更に知を加えたチームになれる。一人に3人とは卑怯かもしれないがこれは命がけの戦いだ…更にこれが民警の戦い方だ…

 

「っ!」

 

そこに続けて二丁破壊されたことをティナは気付き焦りが生まれる。

夏世が立てた作戦はこうだ…

ティナは設置した銃を5丁…自分のも合わせて合計6つの銃を使う…更に探索にシェンフィールド…だが逆に言えばティナは一度そこに陣取ると大きな動きはとれない。更に銃事態も動く訳じゃない。そこに夏世は着目した…確かに守りは堅牢だし、よしんぼ攻め込めても返り討ちに会うだろう。夏と延珠がその例だ…だがそこに漬け込めば勝てる…こっちは3人もいる…それを利用する。

まずこの作戦に辺り人員を分けた。

 

【一、ティナ・スプライトの先制打及び撃破(里見 蓮太郎)】

【二、シェンフィールドの撃破及び司令塔(千寿 夏世)】

【三、撃った瞬間のマズルフラッシュからライフルを見つけ出し破壊及びティナ・スプライトの意識を向けさせる(柊 春)】

 

このように分けた…まずこれには必要だった…シェンフィールドを使わせ…ライフルを撃たせることが…そのため蓮太郎には一番危険な役目を請け負ってもらった。あとは先述した通り蓮太郎のヒット&アウェイでティナにライフルを撃たせ破壊…更に階下に潜む夏世のショットガンでシェンフィールドを破壊した。

 

「そんな…」

 

最後の設置していた対物ライフルがが破壊されたときティナは声を漏らした。

 

「頭脳は私の方がよかったみたいですね」

 

夏世の読みが神算を上回る。

 

「く!」

 

ティナは自分のライフルで夏世を狙うが春の銃弾が先に放たれティナの銃を破壊する。

ティナが次に警戒したのは蓮太郎だ…あの攻撃力は驚異…だが空振りさせればそれまでだ。

そう思うが速いか屋上の唯一の出入り口に向かい走り出す。下から来る前に脱出する…

 

「すいません。計算通りです」

「え?」

 

ティナは耳が良いため聞こえ…動きが一瞬止まる。そして次の瞬間扉を空薬莢を飛ばしながらパンチでぶっ壊しながらティナを蓮太郎が吹っ飛ばす。

 

「ふぐっ!」

 

ティナは驚き半分痛み半分で思考を停止させるが咄嗟にナイフを抜き蓮太郎の心臓を狙う…だがそれはガギッ!と言う音と共に刺さらなかった。

 

(何か仕込んでる!?)

「悪いなティナ…」

 

これが最後だ…蓮太郎はそう呟きながら懐からナイフの形にへこんだグレネードを出す。

 

「っ!」

 

ティナは咄嗟に腕を交差させるが意味はない…これは…ダメージは皆無だからだ…これの名前は【フラッシュグレネード】。

爆音と光を出す暴徒鎮圧などに使われる手榴弾…それに気づいたときには強い光と音にティナは包まれる…

 

今までの状況を考えればティナのモデルは非常に夜目が効くと思われる。夜目が効くと言うことは暗闇でよく見える分光を見たとき視覚が使い物にならなくなる。普通の人間ですら暗闇から明るいところに出ると眩しいと思うのだ…ティナは恐らく今ので目が一時的に見えなくなってる…更にどういうわけか耳も抑えてる。もしかしたら耳も良かったのかもしれない。だがこれがティナの最後の隙…蓮太郎は使った分腕のカートリッジを補充して構える。

 

「ウォオオオオオ!!!!天童式戦闘術・一の型十五番!!!!雲嶺毘湖鯉鮒(うねびこりゅう)!!!!三点撃(バースト)!!!!」

 

ティナを天高く打ち上げる。

 

「がはっ!」

「ウォオオオオオ!!!!雲嶺毘湖鯉鮒(うねびこりゅう)!!!!三点撃(バースト)!!!!」

 

2度めで更に高く。

 

雲嶺毘湖鯉鮒(うねびこりゅう)!!!!三点撃(バースト)ォオオオオオオオ!!!!」

 

極めつけの3発目で

天高く打ち上げ蓮太郎は脚のスラスターで跳び上がり踵を天高く上げ月を背に空薬莢を3発排出する…一瞬静寂が辺りを包み…そして、

 

「天童式戦闘術二の型四番!!!!隠禅・上下花迷子(いんぜん・しょうかはなめいし)!!!!!!!!!!!!」

 

渾身の踵落としがティナを地面に急降下させ屋上の地面に叩きつけ地面が陥没しそのまま落下していき強制的に屋上から一階まで移動させた…

 

 

 

 

 

 

「う…あ…」

 

ティナは外まで這い出るそこで力尽きる。とは言え息はあるようだし死んではいないだろう。

 

「まさか…ここまでやるとは思いませんでした…」

「こっちも必死だったからな…」

 

肩で息をしながら蓮太郎達も来た。

 

「里見さん…私を殺してください…私の体を他国に渡すわけにはいきません…」

「…………はぁ」

 

蓮太郎は銃を仕舞う。

 

「え?」

「俺はお前を殺しに来たんじゃない…お前を生かすために来たんだ…お前の助命は聖天子様に頼むつもりだ…」

「里見さん…」

「安心しろ…お前は死なせない」

「……はい…」

 

ティナに蓮太郎は手を貸して立たせた…が、一発の銃声でまた崩れた…

 

「え?」

「ふん、手こずらせおってテロリストが…」

 

銃を片手に保脇がぼやいた。

 

「保脇!」

 

蓮太郎が保脇殴り飛ばそうとした瞬間他の護衛に組抑えられる。

 

「くっ!」

「離れろ!」

 

春と夏世も武器を手にしようとするがその前に撃ち抜かれた…

 

「あぐっ!」

「がっ…」

「やはり効きが悪いな」

 

するとニヤリと保脇は笑う。

 

「では諸君、実験だ…イニシエーターは通常の弾の場合何発で死ぬか…ここには被験者が三体もある」

「ヤメロォオオオオやすわきぃいいいいいい!!!!!!!」

 

蓮太郎は藻搔くが外れない。

 

「ではまず…一発…」

 

だがそこに別の銃声が響く…

 

「なっ…」

「そこまでです!」

 

凛とした声にその場の全員が固まる。

全員の視線の先には銃を構えた優磨と聖天子がいる。

 

「何で…貴女が…」

「そんなことはどうでもいいことです…貴方こそ何をしているのですか?」

「それは…」

「春!夏世!」

 

優磨は二人に駆け寄る…既に自己治癒が始まってるが間違いなく撃たれた傷だ…それが分かると犯人もわかる…そして優磨は自分の血が一瞬熱くなった後ドンドン冷えていくのを感じた…

 

「お前だな…」

「ひっ!」

 

優磨は睨み付けたわけではない…怖くないと言えば怖くない…見た目だけは…だが怖いのだ…恐ろしいのだ…優磨の目には感情はない…どこまでも冷めていて…まるで底無し沼のような目…無条件に【死】と言う字が保脇の脳裏に浮かんだ…

 

「な、何なんだお前は!撃ったからなんだ!たかだが赤目のガキに撃って何が悪い!誰もかな死ぬやつなんていな…」

 

そこまで言った保脇の足が切り離された。

 

「イギャアアアアア!!!!!!!!」

「黙れよ…空気が汚れる」

 

優磨は高周波ブレードを仕舞うと襟首持ち持ち上げると…

 

「うらぁ!」

「がふっ!」

 

優磨の拳で吹っ飛ぶが優磨は再度持ち上げ…

 

「らぁ!」

「うぎゃ!」

 

文字通り鉄拳で保脇を殴って吹っ飛ばし…再度持ち上げ殴って吹っ飛ばす…

 

「らぁ!らぁ!らぁ!」

「ぎゃ!ふごっ!がふっ!」

 

殴られるつど変な声を上げて吹っ飛ぶ保脇…だが優磨の手は殴って痛くなると言うことがないため威力が落ちることはない。

 

「ゆ、ゆるひて…」

「悪いな…俺は菩薩のような人間じゃない…でもこれ以上見せても教育に悪いからな…これで終わらせてやる」

 

優磨のスラスターが起動…

 

「2度とその顔見せんな次は殺す」

「ひぃやぁ!」

 

保脇は恐怖のあまり失禁し、その次の瞬間優磨には渾身の拳が保脇に刺さり保脇をぶっとばす。

 

「ぎびるべばぁああああ!!!!」

 

吹っ飛んだ保脇は壁に顔からぶつかり刺さる…ピクピク動いてるから死にはしないだろう…

 

「優磨兄様…」

「優磨兄さん…」

「…ごめんな…」

 

優磨はそっと春と夏世を抱き締める。

そして今回の事件は幕を下ろした…




どうも~次回でついに二章は終了です!長かったな。うん。

と言うわけで保脇は優磨兄さんにしこたま殴られた後に壁に突き刺されると言う結末にしました。本当はもうちょっとひどいやられかたもありましたがそこはカット。

さてちょっと早いですがあの組織も登場です。
因みに聖夜とはクリスマス…クリスマスと言えば柊の葉…と言うように一応聖夜双子と柊双子は名前が繋がってます。更に名前見ればわかるように四人一緒で春夏秋冬…まあどうでもいい話ですね。
余談ですが聖夜双子のプロモーターは優磨と知り合いです。まあその内出ますよ。

しかしこの作品の主人公…優磨の筈なのに今回の戦闘シーン優磨の部分は1803文字…なのに蓮太郎の部分は4211文字…この差は何!?ごめんね優磨…三章は君の出番もっとあるかもしれないから…因みにティナとの決着連続技…元はと言うかもろファイティングクライマックスの蓮太郎の必殺技です。

と言うわけで次回で二章は終了です。次回会いましょう。


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第15話

聖天子暗殺事件から早くも一週間…

皆はそれぞれの生活に戻っている。

まずは入院してた二人だが事件の二日後に目を覚まし次の日にはバタバタ病室で暴れられるようになった。

次に蓮太郎だが肉体的には大きな怪我はなかったが如何せん精神的な疲労が大きかったようで不幸面に更なる磨きをかけている。

春と夏世は保脇に撃たれた傷があったがそれは一時間ほどで跡形もなく消えた。まあ弾丸はすぐさま抜き取っておいたが…

優磨は20%の解放が響いたらしく四日ほどぶっ通しで寝てしまいその間春と夏世が揺すろうが叩こうが絶対起きず、死んだのではないかと二人が菫のところに駆け込んだのは秘密だ。

そして聖天子はいつも通り公務に戻っているが最近音楽を聴きながらやっているらしくイヤホンと携帯音楽プレイヤーを持ち歩き頬を赤く染めながら顔が緩みそうになったり、それを慌てて引き締めたりしている。それを見た側近の菊之丞がヤバイ物なのかとこっそり聞くと一定のリズムで愛してると言う音しか流れない。最近はプロの声優がこう言う萌え声?と言う物を出してるし、これもそういった物か…等と思ってそのままにしたが後になってみればどこかで聞いたことがある声だと首をかしげていたらしい。

さて…一応今回の首謀者たちだが殺された鴻上を除き厳罰に処された…いや、一人別に処置を受けた者がいた…保脇である。

こいつは優磨がしこたま殴った挙げ句壁に突き刺されたせいか顔が2、3倍に膨れ上がり、更に優磨の最後の渾身パンチが当たった部分だけグーの形に顔が凹んだらしい。お陰で飯もろくに食べられず外にも出てない。しかもずっと布団の中で、

【ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい】

と呟き続け今や頬は痩せこけ心身共にボロボロになったらしい。まあこれに同情するものは居ないし聖居の職員は皆口を揃えて保脇ザマァ…と言ったらしい。あくまで噂だが説得力がある。

最後だがティナの処遇…蓮太郎の嘆願があってか寛大な処置だと思いきやなんと天童民間警備会社の社員になった…懐広い社長だと優磨は寝起きの顔で呟いたらしい。

 

 

 

 

 

「今回はありがとうございました」

 

後日改めて全員聖居に呼ばれた皆は聖天子に礼を言われた。

 

「いえこちらこそ」

「ティナさん。会社は楽しいですか?」

「はい」

 

ティナの返答を聞いて聖天子は微笑む。

 

「そして優磨さんと里見さんは序列昇格もお目でとうございます。後日改めてお知らせしますが、98位を撃破した里見さんは300位…更に優磨さんは今回の活躍とイニシエーターが里見さんと共に98位を撃破したので500位に昇格です」

 

すると優磨が口を開く。

 

「それよりわかったか?」

「はい」

「もしかして鴻上ってやつを殺した二人か?」

 

蓮太郎の言葉に優磨はうなずく。既にあの二人のことは話してある。

 

「聖夜 秋菜…聖夜 冬華…この二人は双子です」

「珍しいな…」

 

夏と春のように双子であっても基本的にガストレアウィルスに感染するのは片方だけのことが多い。二人揃ってと言うのは実は結構稀なのだ。

 

「ええ、ですが驚くのはまだ先です」

 

そう言って聖天子は書類をめくる。

 

「聖夜 秋菜のモデルはイーグル…」

「鷲か…じゃあ眼が良いんだな」

「ええ」

「どれくらい良いんだ?」

「種類によっては五キロ先も見えるらしいし相当じゃないか?」

「ご、五キロ…」

 

とんでもない距離だ…

しかも鷹は動体視力も並外れていて恐らく銃弾くらいなら止まって見えるんじゃないだろうか…

 

「そして聖夜 冬華のモデルはベアです」

「熊…」

 

あの異常なパワーはそれでか…

熊は握力…腕力…そして脚力の3つ全てが非常に高スペックで人間くらいなら一捻り…と言うかワンパンチで死亡だ。

 

「更に調べてみたところ彼女たちの序列は14位…」

「じゅ、14位!?」

 

その場の全員が唖然とした…少なくとも自分達の遥か上の存在だ…

 

「そして彼女たちのプロモーターですが名前は…ああ、ありました。爪樹 楓…」

「っ!」

 

その名を聞いた瞬間優磨は自分の耳を疑った…

 

「優磨さん?」

 

全員が優磨の顔を見る。

 

「ん?あ、ああ…知り合いでさ…」

『ええ!?』

 

全員が優磨を見る…

 

「死んだと…思っていたんだけどな…」

 

優磨はどこか複雑そうな顔で出されたお茶をすすった。

 

 

 

 

 

 

 

その後聖居から退出したが優磨はずっと心此処に在らずといった風情で、蓮太郎たちの後ろを着いていっていた。

 

「か、楓って何者なのかしら…」

「まさか…彼女?」

「も、元カノの影が…」

「お前ら丸聞こえだぞ」

 

優磨が言うと全員驚きで飛び上がった。

 

「言っとくがお前らが想像してるような間柄じゃない。なんなら菫にも聞いてみろよ」

「あ、そういう知り合いですか…」

 

となると…

 

「絶対変人だ…」

 

全員うなずいた…

 

「おい。俺も変人扱いか?しかも(アレ)と同レベルかよ」

「だって…」

「うん…」

「はい…」

 

イニシエーター三人に言われた優磨は深く傷つく。

 

「しっかし昔から何考えてるか分からねぇ奴だったけど今度は何やる気だ…?」

 

優磨は頭を掻きながら呟いた…

 

 

 

 

 

 

 

その頃…

 

モノリスの外にある廃工場では三人の人間がいた…その内二人は十歳ほど…

一人は茶色掛かった髪を背中まで流しクリっとした目とか表情豊かな雰囲気…もう一人は片割れと同じ髪を後ろで束ねてポニーテールにした髪を揺らしながらつり目の黒い双眼を一人に注いでいた。だがそれからは表情はおろか性格や感情を読み取ることはできない…

そしてその二人の視線を一身に受ける女性…どこか浮世離れしたような美貌と雰囲気…手を伸ばしても届くことはないようなオーラ…その女性は肩までにした漆黒の髪を軽く揺らし薄く笑う。

 

「へぇ…どうだった?」

「楓が言うような感じはなかったよ?ほんとに強いの?牙城 優磨ってさ~私と冬華だけでもやれそうだよ」

 

ゆっくりと冬華も頷く。

 

「まあ彼は昔から昼行灯だからね…でも駄目よ?彼も旧式とはいえ私と同じ穴の狢…まあ弄ったのは別の人間だけどね」

楓と呼ばれた女性は美しくもどこか恐ろしい笑みを浮かべた。

 

「さ、そろそろいきましょうか…」

 

すると外から何かが鳴く声が聞こえる。

 

「あら?」

 

外に出てみればステージⅠ~Ⅳまでのガストレアに囲まれていた。その数はおおよそ300…

 

「二人は中にいなさい」

「は~い」

「…………」

 

楓の命令で二人は工場の中に入っていく。

 

「ふふ…全くステージⅠもⅣ大きさ以外対した差はないものね」

 

次の瞬間楓の右目はキュインと言う音と共に蒼くなり…左目が幾何学的な紋章を浮かび上がらせる。

 

「いくらでも来なさい…何体だろうが私には物の数じゃないわ…」

 

ニヤリと頬尻をあげた楓は疾走した…

 

 

それから十分後…その場にはステージⅠ~Ⅳの遺体以外残っていなかった…



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第三章 アジュバンド
第16話


すっかり最近は夏らしくなってきてじっとしてるだけでも汗を掻くようになった今日この頃…

 

「あつぃ…」

 

優磨はソファの上で伸びていた…優磨の体には一応冷却装置も内蔵されてるがあくまで機械のオーバーヒートを防ぐためのものなので優磨事態は涼しくない。

流石にエアコンを起動させようとリモコンを押す…が、

 

「あ?」

 

全く起動しない。

 

「おいおい…」

 

電池が切れてるのかとノロノロとした足取りでエアコンのスイッチを直接押す…起動した…

 

「あ~よかったこれで涼し…くねぇ!ぬるっ!?」

 

生温かい空気が優磨の体を包む。と言うかこれでは空気をかき回すだけだ。

仕方無しに電池を交換して温度を下げるがウンともスンとも言わず生温かい空気だけだし続ける。

 

「まさか壊れてるのか?」

 

この気温の中で壊れてるとか地獄である。

 

「おい壊れるな!」

 

優磨がエアコンを叩く…そして次の瞬間ボフン!っと言って完全に沈黙した…

 

 

 

 

「で?ここに避難してきたと」

「そう言うことだ。ここは涼しくて良いな」

 

優磨は菫の研究室に来ていた…ここは意外と快適な気温になっているのだ。流石病院。

 

「なら車でも見てきたらどうだい?もう一ヶ月も前だけど大破しただろう?」

「それが聖天子の嬢ちゃんが壊れたのはこちらのせいの部分もあるから車を用意するってこの間本人から電話来てな」

「さり気に君そう言えば国家元首のケー番知っていたんだったねぇ…いつ来るんだい?」

「今日」

「じゃあ家にいた方がいいんじゃ…」

「大丈夫だ…ここの病院に届くようにお願いしといたから」

「抜け目ないねぇ…」

 

するとそこに男が入ってきた。名前は忘れたがこの初老の男は新しい護衛隊の隊長だ。

 

「お届けに参りました」

「ああ」

「どうせだから君の新しい愛車でも見せてもらうよ」

「外は暑いぞ」

「平気だ」

 

三人ならんで出ていくと…

 

「これです…」

「はぁ?」

 

優磨の目の前には赤い車体…だが見上げるほどでかい…しかも滅茶苦茶頑丈そう…知ってるこれは…確か民間でも持てる世界最強の車…マローダー!?この強度は凄まじくプラスチック爆弾もものともせず壁を体当たりで破壊し車も平然と潰しながら走り続けることができてその窓も無論頑丈…

 

「では」

 

そう言って届けてくれた男は行ってしまうが菫と優磨は唖然としていた…

 

 

「まあ…少なくとも俺が死ぬまで壊れることはなかろうな」

「だねぇ…」

 

すると菫が何か思い出したような顔になる。

 

「そうだそうだ。少し今から付き合ってくれ」

「何かあるのか?」

「ああ、少し待っていてくれ。ついでだから君の新車の試運転と行こう」

 

そう言い残し菫は病院に消えた。

仕方ないので優磨がエンジンを掛けて待っていると菫が出てきた。

 

「な…」

 

優磨は唖然とした…何と菫が普通の格好をして出てきたのだ…あの菫がである…いつも白衣とその下にタイトスカートを履き髪をボサボサにしてる菫がでありしかもその髪も今は櫛を通し更に結んである。

 

「なんだいその間抜けな顔は…」

「お前何かあったのか?」

「ふふ、少し連れてって欲しいんだ…四丁目の…ね」

「っ!」

 

優磨はそれで思い至る。

 

「一人で行くと途中で折れてしまう…すまないが首根っこ掴んででも連れていってくれ…」

「…分かった…」

 

優磨は黙って車を出した…

 

 

 

非常に目立つがそれよりも優磨が菫が彼処に行く気になったのに驚いていた…四丁目にあるのはただひとつ…墓地である…そしてそこには菫が十年前に失った恋人の墓もあった…だがそこに菫は絶対近寄らなかった…優磨は自分の友人でもあったので毎年来ていたが菫はどんなになっても来ることはなかった…恐らく見せる顔がなかったのだろう…優磨は知っている。彼を失った菫がどんな凶行に走ったのかを…だからこそ誘うことはなかったがまさか自分から来るとは…

 

「何だいさっきからじろじろ人の顔を見て」

「いや…ちょっとな」

「驚いているんだろう?」

 

菫は自嘲気味に笑う。

 

「そろそろ…ちょうどいいだろう」

「?」

 

優磨が首をかしげると、

 

「そう言えば楓ちゃんが生きてることが判明したそうじゃないか。良いことだね」

「まあ…今度は何を企んでるんだかな…」

 

優磨がハンドルを切ると見えてきた…

 

 

 

 

 

 

ジャリ…と踏んだときに石が鳴る。

 

「結構きれいだ…」

「まあ一応毎年俺が掃除してたし…」

 

(つい最近誰かが来た形跡があるな…誰だ?)

 

「まあいいさ」

 

菫は花を供え…手を合わせる。優磨もそれに習い拝む…ふとチャリっと音がしたため目を開けてみると菫が自分のペンダントを墓に置いていた。

 

「菫!?」

「今日でそろそろ十年だ…長かったような…あっという間だったような…でも十年一昔…決着をつける日だ」

 

菫は立ち上がる…

 

「ありがとう…貴方のお陰で私は愛を知った…そしてゴメン…失う苦しみと悲しみを知り…私は一度壊れた…最後に…」

 

さようなら…そう言い残し菫は車に戻っていった。

「安心してくれ…菫は俺が守る」

 

そう言って去ろうとすると、

 

【頼むぜ優磨…あいつは本当は弱い人間だ…お前にやるにはもったいないけどやるよ】

「あいつとはずっと友人だから安心しろ」

【分かってねぇなあ…まあそこが優磨らしいか…ま、あとは頼むぜ】

「ああ、じゃあな。――――」

 

優磨は男の名を口にしてから車に戻る。

 

 

 

 

「そう言えば鍵は君が持っていたね」

「菫…泣いてもいいぞ」

「やめろ…優しくしないでくれ…私は…」

 

ソッと優磨は抱き締める…病的なまでに細くて…でも人間らしい柔らかさと温かさ…

 

「やめろ…やめろ…私は…君に優しくされる価値などない…」

「違う…お前は確かに一度道を間違えたかもしれない…でもお前は戻った…戻れたんだ…お前は罪犯したかもしんないけど…戻れたんだ…今はそれでいいだろう?」

「私に触れてると地獄に落ちるよ」

「お前に拾われたような命だ…地獄旅行のお供くらいしてやるさ」

「……う、ああ…」

「そう言えば…菫……今日お前誕生日だったな…今日から生まれ変われるじゃないか…」

「あ、ああ……」

「ハッピーバースディ…菫…」

 

優磨は優しく頭を撫でながら抱き締めた。

 

「さてそろそろ入っていいですか?」

『っ!』

 

菫と優磨は離れる。

 

「実はですね。少し仕事の依頼があるのですが」

「良いけど…」

 

 

優磨は声の方を恐る恐る見る。

 

「な、なにか怒ってないか?嬢ちゃん」

「まさか…優磨さんが大学時代の友人の菫博士と抱き合っていたって何を思うんですか?見たところ慰めていただけですし」

 

そのわりにこめかみに怒りマーク浮かび上がらせた聖天子は言った…



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第17話

優磨は今針の筵に上にいる気分だった…

今優磨の自宅には菫と聖天子が居た…まあマンション前には護衛隊の皆様が鎮座しているがそんなことはどうでもいい…とにかく今はこれから帰ってくるはずの夏たちや呼んだ蓮太郎達が急いで戻ってくるのを待つばかりである…と言うか早く来い。

 

「ふふ、別に怒る事は無いじゃないか。別段私たちは君が不快になるような関係じゃない」

「別に怒ってなどいません!」

 

嘘だ!っと叫びかけたが優磨は黙ってお茶を出す。

 

「ありがとうございます…」

 

なんか不機嫌全開だ…何が気に入らなかったのだろう…すると、

 

『ただいま~』

『お邪魔しまーす』

 

やっと来た…と思いきや不機嫌聖天子と普通の服を着ている菫を見た瞬間…

 

『すいません部屋間違えました』

「まてぇい!!!!」

 

皆様揃って出ていこうとした…が優磨が捕まえる。

 

「どこ行く気だ!」

「待て優磨さん!俺は幻を見てるに決まってる。なぜならここに聖天子様が居るわけないし更に言うなら先生が居るわけない!しかも白衣じゃない服…」

「もしかしたら今日食べた豆パンがよくなかったのかしら…やっぱり消費期限三日過ぎたのはダメね」

「妾も最近寝不足気味せいだな。お陰で起きてても幻が見える」

「最近朝方にしようとしているのですがそのせいか夢を見てるようですね」

「うーん…優兄の大切にとっておいたお菓子腐ってたのかな?」

「それとも優磨兄様のお手製ご飯が…」

「最近パソコンずっとやってたのが悪いんですね…目が疲れてるようです」

 

全員揃いも揃って失礼なやつらである。

 

「蓮太郎、これは現実だ。木更ちゃん、賞味期限ならまだしも消費期限はアウトだし三日過ぎたのって君の胃袋どうなってるの?延珠ちゃん、ちゃんと寝ないよ大きくならんぞ。ティナちゃん、夢は起きてては見ない。夏、俺が楽しみにしてた朝から並ばないと買えない限定お菓子食った犯人はお前か…あとで覚えてろ。春…確かに今日の朝飯は失敗したがそんな毒は入ってない。夏世、一日一時間を守れ…だが疲れ目にそんな症状はない」

 

優磨が次々ツッコミ…

 

「まあ入れよ。話があるみたいだ」

 

そう言っていれた…

 

 

 

 

 

 

 

「それで?何があったんだ?」

 

蓮太郎が聞くと聖天子は写真を出す。

 

「今日の夕方にもテレビでやりますがこれを…」

 

そう言って出したのは…

 

「モノリスの写真?」

「はい。よく見てください」

「…む?」

 

延珠がなにかに気づいたようだ。

 

「どうしたの?延珠」

「うむ…夏よ、よく見るとこのモノリスだけ白くなってないか?」

『え?』

 

優磨たちも注目する…

 

「本当だ…白化現象か?」

「ふむ…」

 

優磨が言い菫は顎に手を添える。

 

「はい…更に今朝ガストレア・モデルアントが侵入してきました。しかもモノリスの下に穴を開けてです」

「ええ!?じゃあモノリスの下を潜ってきたんですか?」

「つまり…ガストレアが本来弱める筈の磁場がここからは出ていない…もしくは弱まってる?」

「そうなります」

「だがどうやってるのだ?」

「恐らく犯人はこれです」

 

そう言ってもう一枚写真を出す。

 

「これは…まさか!?」

「はい、ステージⅣ…通称アルデバラン…」

「だけどおかしくないですか?ステージⅤならまだしもステージⅣでは近づけないはず…」

「それはわかりません…ですがこのアルデバランは現在は撃破されたステージⅤ、牡牛座(タウルス)に追従して現れたガストレアでその能力はバラニウムの浸食液を出す…」

「だけどあれ殆んど飛距離なんて無いに等しいくらいしか飛ばせない…となるとやっぱどうやって近づいたんだ?」

「里見くん、気にするのはそこじゃない。そこも重要だがそれ以上に重要なのは…」

 

菫は聖天子を見る。

 

「モノリスが白化現象をお越し始めた頃にガストレアで侵入してきたって事は白化現象は恐らくモノリスの力を失い始めてる可能性が高い…となると…あとどれくらいなんだい?モノリスが完全に機能を停止させるのは…」

「流石四賢人と呼ばれた室戸 菫さんですね…研究者が幾度となく計算を行いましたが残念ながらもって7日…現在技術者が集まり新たなモノリスを製作していますが十日掛かります…」

「待て…じゃあ三日は完全に無防備ってことか?」

「そうなります…しかもアルデバランはガストレアのなかでも唯一チームを組んで動く…つまりそこには間違いなくガストレアが集中して来ます。そこで皆さんにはその間の防衛のためアジュバンドを組んでもらいたいのです」

 

アジュバンドとは民警同士が連合を組み合う制度だが民警は皆一筋縄で行くような奴等ではなくこの制度を使う民警は非常に少ない。と言うか居ないと言っても差し支えない位だ。

 

「分かってんのか?民警は揃いも揃って変人ばっかだぞ?手を組むのがどれだけか…」

「ですが優磨さん…他に手はありません。残念ながら自衛隊だけでは防衛が完璧とは言えません」

「確かに…な…」

 

優磨はため息を一つ吐くと、

 

「俺はその依頼受けるよ」

「じゃあ僕も」

「私も受けます」

「まあ一人だけ逃げてもあれですしね」

 

優磨チームと…

 

「分かった。受ける…と言うか拒否できる雰囲気じゃねぇよ」

「安心しろ蓮太郎、妾が守るからな」

 

蓮太郎ペアはその依頼を受けた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではありがとうございました」

「いや、これから俺たちもアジュバンドのメンバー集めねぇとな…」

 

優磨が頭を掻いてると…

 

「あの優磨さん!」

「ん?」

「あの…菫さんとはどういう関係なんですか?」

「どういうって?」

「いや…その…あれです…恋人……とかでは?」

「ないない、それはない。俺と菫は大学時代からの友人だ」

「そ、そうですか!」

 

聖天子はパァッと顔を輝かせると、

 

「ではまた」

 

そう言ってスキップしながら迎えに来た護衛の人を連れて行ってしまった。

 

「?」

 

優磨は首をかしげながらリビングに戻る。

 

「どうだった?」

「スキップしながら帰っていった。なんか良いことでもあったのかな?」

 

何があったのか菫から聞いていた面々は優磨の一言を聞いた瞬間…

 

 

『はぁ…』

「溜め息!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて次の日…アジュバンド結成のためにも優磨は知り合いの民警に訪ねに行く。集合は今から5日後…それまでに優磨と蓮太郎で二人ずつ探す予定だ。

だが優磨はすでに一人見つけている。それは由実で昨日電話かけたら待ってましたと言わんばかりにワンコールで出た。

その上快諾である。となるとあと一人…一応心当たりはあるが遠いため新車のマローダーを運転してやってきた…

 

「さて行くか…」

 

優磨は車を降りるとビルに入っていく。

目的の場所は三階に合った。そこには看板があり、名は【深川民間警備会社】とある。

優磨がドアを叩くと、

 

「はい!」

 

パッチリした目に少し丸顔で服装はロングスカートに半袖のワンピースと言う出で立ちの十歳くらいの少女…名は【木上(きかみ) 風深(ふうか)】…そしてその奥にはタブレットを叩く人影…それと共にタブレットが音声を流す。

 

《優磨やんお久し~》

「ああ…」

 

 

 

 

 

 

 

彼は深川(ふかわ) 新一(しんいち)…序列930位の高位民警で性格は無口…等ではなく寧ろお喋りで気さくな人間だ。だが生まれつき声が出せず会話はもっぱらタブレットに言葉を打ち込んで会話する。

 

「と言うわけだ」

《ふーん…ニュースでみたときは何かの冗談かと思ったけど笑ってる場合やなさそうやな》

 

新一は腕を組む…こいつは基本的に関西弁だ。理由は元々大阪エリア出身なのだが向こうは半端じゃないくらいイニシエーターに対する迫害や差別がひどくこのままでは自分は良いが風深の身が危ないと判断し東京エリアに住み着いた人間だ。

 

「そこでアジュバンドに入ってほしいんだが…」

《まあええで?東京エリア吹っ飛ぶと困るしな。でもワイも風深もわざわざ負け戦やるんは趣味やない。そこでや…ここの屋上に行かへんか?》

「は?」

《ワイと風深の二人と戦ってもし勝てたら…ええで?》

「おいおい、俺は今日プロモーター無しだぜ?」

《ワイら二人かがりに負ける程度ではアルデバランたちに勝つなんて夢のまた夢やで?》

「ち…わかったよ…行くぞ」

 

優磨は新一と風深と共に屋上に上っていった。



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第18話

屋上で優磨はタバコに火を着ける。

 

「良いのか?怪我しねぇようにとか手加減できねぇぞ」

 

優磨が言うと新一はタブレットを叩く。

 

【かまへんよ。それくらいや無いとおもしゅうないわ】

 

それから新一はタブレットをしまうとバラニウム性の鞭をだす。地面を軽く叩くとピシッと良い感じに緊張感を持たせる音を出す。

 

(そう言えばあいつらどうやって意思の疎通するんだ?)

 

優磨としてはそこが甚だ疑問だ。新一は声が全く出せない。だが仮にも高序列ペアだ…何かしらの方法があるのだろう。

 

「とりあえず名乗るぜ?序列500位、牙城 優磨だ」

「序列930位、深川 新一さんとその相棒、モデル・ドックの木上 風深です!」

 

そう言った次の瞬間風深が走り出す。それと同時に瞳が灼熱し牙を剥き出しに走り出した。

 

「ガゥ!」

 

装備したバラニウム性の爪を優磨に風深は突き出す。

 

「おっと!」

 

優磨は腕から高周波ブレードを出して弾くと腕を鞭で打たれる。

 

「いってぇ!」

 

凄まじい痛みだ。

鞭とは扱いが非常に難しい武器で更に相手の体に穴を開けることはない。だが抉ることはできる。更に僅かに重くした鞭の先端は振るえば何と音速に匹敵する速さとなるらしい…しかも鞭は体の表面…つまり皮膚に痛手を与える。皮膚はいわば鍛えようがない人間の部位だ…ガストレアもそれは例外ではない。一度、二発ほど叩いてガストレアを悶絶させて動けなくしてるシーンを見たことがある。

 

(風深が意識を向けさせてその瞬間に敵を鞭で叩くか…相変わらずめんどくせぇ…)

「よそ見してる暇はありませんよ?」

「っ!」

 

横から爪が優磨を狙う。

優磨は上半身を逸らして躱すが足を鞭が襲う。

 

「ちっ!」

 

バシン!っと優磨の足を鞭が襲い再度凄まじい痛みが走る。

どれくらい痛いかと言えば鞭は拷問器具としても知られ昔は鞭打ち百回と言う罰があったがあれは死刑判決みたいなものだ…何故なら人間は鞭に十回も叩かれれば痛みでショック死するする…と言えば分かりやすいだろうか。

 

「………ったく…」

 

優磨は一度離れると目をつむる…本当はこれは使いたくなかったがやるしかなさそうだ。

 

制限解除!(リミッターオープン) 解除率…10%!」

 

次の瞬間ブシュッ!と言う音ともに優磨のスラスターが起動…同時に義眼が起動し片目が蒼く光る。

 

「え?」

 

次の瞬間優磨が走り出すと風深が反応しきれず…

 

大蛇(オロチ)!!!!」

高速の体当たりで風深は吹っ飛ぶ。最後に…

 

紅蓮(ぐれん)!!!!」

 

スラスターで加速した拳が新一を狙う。

 

「ウォオオオオラァアアアアア!!!!」

 

鞭で脇腹を叩かれたがそのまま優磨は殴り飛ばした…

 

 

 

 

 

 

 

【いやめっちゃ痛いんやけど!?】

 

新一はタブレットを叩きながら抗議する。

 

「言っただろ?手加減できないぞって」

【限度っちゅうもんがありますがな!】

「全くです!」

「でも約束通り勝ったんだ。組んでくれるだろ?」

【ま、仕方あらへんな。約束は守るで。大阪人は嘘はつかへん。ホラは吹くけどな】

「新さんが行くなら文句はありません。新さんのいる場所が私の場所です」

「じゃあ集合は…」

 

すると電話がなった。

 

「ん?」

 

由実からだ…

 

【優磨さんです。ニュース見ましたか!?】

「いや、ニュースは見てないが…」

 

すると新一がタブレットを叩いてテレビの画面にする。すると…

 

【本日…呪われた子供による殺人事件が起きました…】

 

優磨は表情が固まり…新一はタブレットを落とし掛けた…

世論が変わった瞬間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪いことは続くもの…とは誰が言ったのか知らないがあのニュースから二日後…優磨は小学校に来ていた。

先程の事件で聖天子の骨子である【ガストレア新法】は当然のごとく棄却され待ってましたと言わんばかりに呪われた子供達の戸籍を剥奪する新案が通された。ちなみにそれは昨日の話…早すぎるし明らかに何かの作為を感じるが世論は一瞬で呪われた子供達の糾弾を開始…今まで下火だったアンチ呪われた子供達勢もそれに乗っかって活動し始めたくらいだ。

そしてその線からかは分からないがバレたのだ…夏達の正体が…

 

「あ、来た来た」

 

夏達は校門の前に居た。

 

「よう、ちょっと書類とかあるからもう少し待ってろ」

 

優磨は三人の頭を順に撫でてから学校に入っていった。

 

 

 

 

「これで良いですか?」

「はい」

 

優磨の目の前には担任の先生だった人と校長、更には教頭と何故かPTAの会長まで居た。大仰なことである。

 

「では失礼しま…」

「お待ちになって」

 

PTA会長のおばさんが優磨を止める。

こいつはいかにも嫌な会長といった感じでつり目に三角眼鏡に化粧が濃くて服もケバケバしい…よくもまあこんなテンプレな雰囲気の姿に成れたものだ。

ちなみに校長は何ともヒョロヒョロしていて頼りないし教頭は出っ歯で嫌みったらしくネズミみたいだ。

 

「私…貴方に損害賠償を求めます」

「………はい?」

「貴方はこの学校に入学させる際あの化け物の正体を言ってませんでしたね?詐欺ですわ!」

「全くだ。お陰で肝が冷えましたよ」

「そ、そうですな」

 

優磨は咄嗟に手をテーブルの下に隠す…顔は必死に愛想笑いを浮かべていたが手が軋むほど握っていた。

とは言え額に怒りマークがピキピキ浮かぶ。とは言え目の前の人間は全く気づいていない。いや、担任の女性だけは気付いた…

 

「いやぁ…聞かれなかったんでね」

「そんなの常識でしょう?」

 

優磨は必死に怒りを理性と言う鍋に入れて我慢と言う蓋で押さえ込む。

 

「だいたいあんな化け物ガストレア掃除する以外に必要なんてありませんわ!」

「本当です!あんなやつらにする教育事態必要ありません」

「全くです」

 

プチリ…と優磨の堪忍袋が切れた…とは言え優磨はそれでも必死に愛想笑いを浮かべ…

 

「おい糞ババア、出っ歯、骨」

『え?』

 

今度は相手側が優磨の言葉に唖然とした。

 

「教えてやる。聞かれなかったことを言わなかったのは詐欺に問われねぇんだよ。そこに書類があったら別だが書類にも呪われた子供の入学を拒否することは書かれてねぇ…二つ目に詐欺を訴えた場合は損害賠償じゃなくて刑事事件だから警察の介入無しに訴えられないんだよ。お前民事訴訟とごっちゃになってないか?人に文句垂れるんなら一度六法全書読んでこい」

「な、なな…」

 

ババアは開いた口が塞がらない。

 

「訴えたきゃ好きにすれば良い…いっとくが俺は自分で弁護出来るくらいには六法全書読んでる…あんまり舐めるなよ」

 

出来るくらいに…と言ってはいるが優磨は弁護士の資格を取ればその場で起業できるくらいには勉強している。いざと言うとき夏達の弁護ができるようにするためだ。

 

「じゃあな。もう会うこともあるまい」

 

優磨はさっさと出ていった。

胸くそ悪いしイライラする…

 

「あ、お帰り~」

 

校門にいくと夏達が待っていた。

 

「さ、帰るぞ」

 

優磨の気が立っていることに夏達が気づく。すると、

 

『えい!』

 

夏が優磨の背中に、春が左腕に、夏世が右腕にしがみ付く。

 

「運んで~疲れた~」

「……はぁ…」

 

仕方ないと言う顔をしながらも優磨は三人をへばりつかせたまま歩き出す。

本音としては辛いんだろう…自分が来る前にあの大人達に何を言われたのか想像に難くない…だがそれでも自分の気を紛らわそうとしてくれる。

 

(お前達には救われるよ…)

「え?優磨兄何か言った?」

「いいや…さ、今日はカレーだぞ」

「焦がさないでくださいね」

「確かにこの間の焦げが浮いた妙に黒いカレーは嫌ですね」

「う…」

 

優磨が渋い顔をすると三人が笑い、優磨も笑う。皆がいればなんとでもなる気がした…



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第19話

学校での一件から更に次の日…

ゴロゴロと悪路を突き抜けながら外周区を一台の車が走る…運転主は優磨であった…何故こんなことをしてるかと言うと後ろにいる蓮太郎と延珠と木更に頼まれたのだ。

因みに他にも呪われた子供達がびっしり乗っている。その為今実は警察に見つかると非常にヤバイ。優磨の新車のマローダーは前に運転手を入れて二人…そして後ろには八人乗るが明らかに人数オーバー…まあ外周区には警察は来ないからそういう心配は無用だろう。

 

「もうすぐモノリス前に着くぞ~」

 

優磨が言うと皆が目を輝かせる。

因みに夏達はあっという間に後ろの子供達と仲良くなっている。

更に言うと蓮太郎は子供達に膝の上を巡っての戦いを繰り広げられており、それを見た木更は羨ましそうに見ている。

そして到着する。

 

「ようし!お前らいくぞ」

 

蓮太郎に連れられて子供達はモノリスの近くまでいく。

 

「ふぅ…」

 

それを見送りながら優磨はタバコに火をつけた。

 

「今日はありがとうございました」

 

すると木更が礼を言いに来た。

 

「あの子達は今里見くんが松崎さんって言う方に頼まれて先生をやっているんですけどそこの子達なんです」

「成程、新たな蓮太郎ロリハーレムランドの住人かと思ったぜ」

 

優磨が言うと木更がクスクス笑った。

 

「そう言えば夏ちゃん達がバレたそうですね」

「ん?…ああ…少なくとも表には出してないがやっぱり思うことは多いだろうな…」

 

優磨はそう言うとタバコを吸う…

肺に煙を入れると少し頭がスッキリしたような気になる。

 

「ま、のんびり探すさ…」

「でしたら先生は里見くんですけど、この青空教室何かどうです?」

「ふむ…悪くないかもな…」

 

とは言え先生はあのロリコンの蓮太郎だ…少し心配だな…等とふざけたことを考えてると帰ってきた。

 

「優磨さんすいません」

「別に良いさ。楽しかったか?」

「はい、それにこの間先生が言ってた将来の夢が決まりました」

 

一人の少女が笑っていってきたため優磨が、

 

「へぇ~、なんなんだ?」

「私は里見先生のお嫁さんになります!」

『私も!』

 

他の子供達も含め全員揃って手をあげていた…上げていないのは夏と春と夏世位であり延珠はもとよりティナもしっかりとあげている。

 

『………………………』

 

優磨と木更は固まると…

 

「木更ちゃん…警察だ…十才児に手を出そうとしている変態がいる」

「はい。わかりました…」

 

木更はなんの迷いもなく携帯を出すと110と打つ。

 

「ちょ!まてぇえええええ!!!!」

 

蓮太郎の絶叫にも似た叫びがそこら一体に響いた…

 

 

 

 

そして遂に集合日が来た…

優磨は新一ペアと由実ペアをマローダーに乗せると走り出す。

 

「深川さんお久しぶりです」

【いやぁ由実も久しぶりやなぁ。相変わらずでっかい乳ぶら下げてぇ…】

 

由実はサッと自分の胸を隠すが細腕では全く隠れない。寧ろ強調してる。だが…

 

「がぅ!」

「っ!」

 

新一は瞳を灼熱させた風深に噛まれて悲鳴をあげた。まあ声は出せないため悲鳴を出してる顔と言った感じだ。

 

「変わらないね~」

 

それを見て夏と春も笑う。夏世も最初は驚いていたが新一と風深のやり取りに笑ってる。

 

「お、見えてきた見えてきた」

 

遂に戦地が見えてきた…

 

 

 

 

 

 

 

「たしかこの辺りだったと思うんだけどな…」

 

キョロキョロ周りを見渡していると…

 

「こっちです。優磨さん!」

 

木更がこっちに向かって手を振る。

そっちの方に向かうと既にテントの外に蓮太郎達も集まっていた。

 

「あ、里見さん。こんにちわ」

「どうも…」

 

蓮太郎は視線を外しながら言葉少なめに返す。そうしないと頭を下げたり上げたりした際に揺れる胸に眼が行きかねないからだ。

するとそこに…

 

「姐さんメロンパン買ってきましたぁあああああああ!!!!」

 

金髪の男が飛び込んできた。

 

「はい、ありがとう」

 

木更が礼を言うとその男はスキップしながら自分のイニシエーターと思われる少女のとなりに座る。

 

「取り合えず自己紹介といくか…」

 

蓮太郎が言うとトップバッターに今の金髪の男が立ち上がる。

 

「片桐 玉樹だ!武器は…これだ!」

 

そう言うとメリケンサックとブーツから大音量が流れ出す。

どうもチェーンソーを仕込んでるらしい…

だがこれは音が凄いため不評で全員から「うるさーい!」と怒られた。だがそれでもメゲないのがこの玉樹と言う男らしく腰からマテバ拳銃と言うリボルバーを抜くと、

 

「これが俺のビィイイイイイイックマグナァアアアアアアム!!!!」

 

とかいって女性陣からフルボッコにされ、最後に、

 

「強制退場!!!!」

 

と言った夏にぶん殴られ空のお星さまにされた。誰も心配なぞしてないが…

 

「じゃあ先程のバカ兄貴に続くのは恥ずかしいけど…片桐 弓月よ…モデルはスパイダー」

 

そう言って弓月と名乗った指から蜘蛛の糸を出し木々との間に足場を作る。

 

「ざっとこんなもんね」

 

弓月は平坦な胸で威張るが…

 

「パンツ丸見えだぞ」

「ウラァアアアアア!!!!」

 

蓮太郎の一言でぶちギレ飛び蹴りをかました。

 

「あっぶね!」

「この変態!!!!痴漢!!!!ロリコン!!!!不幸顔!!!!ロリコン!!!!」

「不幸顔以外は違うし何故ロリコンを二回言った!?」

 

すると今度は愛想がない比較的長身の男が出る。

 

「薙沢 彰磨だ…そこの里見とは元同じ同門でな」

 

そう言って近くの木に向かって飛ぶと…

 

「天童式戦闘術一の型三番、轆轤鹿伏鬼!!!!」

 

すると木が弾けた。

 

「ん?」

 

優磨は違和感を覚えた…天童に内部破壊の技は無かった筈だ…

蓮太郎から聞いたことがあるが天童の技は全て強きを弱きを助けるのを基本としているため残虐性の高い技は無い筈なのだ。

あれを人に当てれば只では済まないだろう。蓮太郎も違和感は覚えたらしく首をかしげていると、

 

「ふ、布施…翠…です…」

 

舌足らずの声で魔女みたいな帽子を被った女の子が出てきた。

 

「モデルはキャット…です…」

 

そう言うと爪を伸ばした。優磨達やいつのまにか復活した玉樹はおぉ…と歓声の声を漏らす。

 

「そう言えばその帽子はどうしたんですか?」

 

夏世が聞くとビクッと翠は体を震わせる。だが彰磨は優しく、

 

「仲間に隠し事はするものじゃない」

 

と言う。そう言われ翠は帽子を外すと…そこには猫耳がピコピコ動いていた。

全員驚く。

 

「成程…因子が表に出たのか…」

 

イニシエーターの中には翼が出て空が飛べる奴もいる。

 

「ふ、ぇえ…」

 

すると風深が出てきた。

 

「私もね。歯が全部、牙なの」

 

イーっとしながら言う…確かに全て鋭い犬歯だ。

 

「だから良いなぁ…可愛くて…萌って奴だよ」

「そ、そう?」

 

すると背後から延珠と夏が近づき…

 

『えい!』

「キャアアアア!!!!」

 

パンツを下ろしやがった…

 

『あれ?』

「ふえええええええ!!!!」

「なにしてんだお前ら!」

 

優磨は驚きで声を出す。

 

「いや…その…」

「尻尾はないのかなぁ…と…」

「馬鹿かおどれらは!」

 

すると…

 

「言い訳の前に…」

 

目を灼熱させた榧は延珠と夏の頭を掴み…

 

「謝るのが先でしょう?」

『いーだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ!!!!』

 

プロレス技のアイアンクロー…相手の頭を掴み握力でミキミキ言わせる技である。しかもモデル・アントの榧の握力でのアイアンクロー…多分と言うか絶対痛い。

 

『ご、ごめんなさあああああい!!!!』

 

延珠と夏の絶叫が響いた…

 

 

 

「と言うわけでモデル・アントの藤島 榧です。能力は今の通り腕力と握力が高いです」

 

そう言って榧は近くの石を取ると簡単に握り潰して粉にしてしまう。

 

「以後お見知りおきを…」

 

メイド服の裾をつまんで挨拶する。

続いて…

 

「北美 由実です。よろしううおねぎゃいしましゅ!」

「落ち着け由実…」

 

由実は相変わらず人見知り全開だった。

次は新一達だ。

 

【あー。深川 新一や。生まれつき喋れへんけど会話事態は好きなんでよろしゅうたのんますわ】

「木上 風深です!職業は新さんの性奴隷です!」

『ぶっ!』

 

その場の全員が驚愕して吹いた。

 

【何でやねん!】

「冗談です」

 

なんだ…と全員が安心したところに…

 

「本当の職業は肉奴隷です!」

【変わっとらんがな!と言うかお前はワイを社会的に殺す気か!?】

「大丈夫です!新さんのだったら排泄物だろうが何だろうがきっちりお世話してあげます」

【重いわ!】

 

高速でタブレットを叩く新一と風深の口論と言うか全く噛み合わない会話は十分ほど続き…

 

「あー…牙城 優磨だ。イニシエーターはこの三人だ。まあ能力と言うか力はこの両腕の義手から高周波ブレードだ」

 

そう言ってスパスパ近くの木の枝を切る。

 

「柊 夏だよ、モデルは蝦蛄…だからね」

 

夏の瞳は深紅に変わり…

 

「ウラアアアアアア!」

 

木をぶん殴ると木が根っこからブチブチ言って吹っ飛んだ。

 

『おお~…ん?』

 

だが上に飛べばいつか落ちてくる…重力に乗っとり木は落下してきて…

 

「げっ!」

 

玉樹の上に落下した…その際プチっと言う音がしたが気のせいだろう…気のせいだといえ。

 

「こ、殺す気か!」

 

玉樹が下から這い出てきた…無駄に頑丈だ…

 

「次は私ですね。柊 春です。モデルは蝙蝠で遠距離狙撃が得意です。あと範囲は私を中心に五百メートル前後が限界ですがソナーもできます」

「千寿 夏世です。モデルはドルフィン…武器はショットガンです」

 

二人が続けて自己紹介をし…最後に蓮太郎ペアと何と木更はティナと組むことで参加した…これで計15名のアジュバンドが結成された…とは言え…

 

 

「全員キャラ濃いな…」

『あんたが言うな』

 

優磨の呟きは全員の総突っ込みを喰らったらしい。



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番外編 ハロウィン

本編?なにそれ美味しいの?ごめんなさい!ハロウィンネタです!


『トリック・オア・トリート!』

「あ?」

 

いきなり夏、春、夏世の三人に言われ優磨は驚く。だがよく考えれば今日はハロウィンである。とは言え優磨は去年も同じことをやられたため前にお菓子だけは買っておいたことを思いだし戸棚から三人にお菓子のバラエティーパックをそれぞれ渡す。

 

「ありがとう!じゃあいってきます」

「どこに行くんだ?」

「蓮太郎にもお菓子せがんでくる!」

 

と言って何処かに行ってしまった。

 

「全く…」

 

家事に戻ろうかとすると、チャイムが鳴った。

 

「はい?」

「トリック・オア・トリート!だぞ」

「なんだ偉い可愛いミイラ男だな…いや、ミイラ女か」

「ふっふっふ。そうであろう?と言うわけでお菓子をくれなきゃ悪戯するぞ?」

 

ミイラ女となった延珠はニッと笑った。まあ包帯で隠れていたけど…

 

 

 

 

 

 

延珠はどうも優磨のところで最後だったらしくお茶を貰っていた。

 

「夏たちは蓮太郎の所に行ったのか!?」

「ああ…不味かったか?」

「蓮太郎にお菓子を買う金があると思うのか?」

「…………………」

「まあ妾は悪戯でも良かったのだがそれは嫌だったらしく妾へのお菓子は準備していたらしいが…」

 

優磨は黙って合掌した…

するとまたチャイムが鳴った。

 

「今度は誰だ?」

 

開けると、

 

「トリック・オア・トリートォオオオオオ【バタン】ってドアを閉めるなぁああああああああ!」

「何故大の大人にお菓子をやらねばならん!!!!」

「あの…じゃあ私に頂戴」

 

片桐兄弟は兄である玉樹がフランケンシュタイン、妹の弓月がスパイダーマンの格好でやって来た。

 

 

 

「でもまさか延珠がいたのは驚いたよ」

「妾も弓月が来たのには驚いたぞ」

 

二人は仲良く話している。

 

「しっかし結構良いところに住んでるじゃねぇか」

「まあな」

 

するとまたチャイムが鳴った。

 

「今度は誰だ?」

 

優磨が内心呆れつつドアを解放する。

 

【トリック・オア・トリート~やで優磨~】

「と言うわけでお菓子をくれなきゃ悪戯するぞ?」

 

ドアの前ではタブレットを構えた謎のお面をつけた新一と犬なのに化け猫の仮装をした風深が居る。

 

「まあ…入んなよ」

 

優磨はお菓子足りるかどうか少し心配しながら家に入れた。

 

 

 

(しかしまた人が集まったもんだな…)

 

ガヤガヤと賑やかな部屋…まあこれだけ人が集まればそうだが夏が一人いてもこれぐらいの騒がしさは普通なので気にせず戸棚からお菓子を出して配ろうかと思ったその時またチャイムが鳴った…

 

「何だか今日は本当に人が来るな…」

「トリック・オア・トリート…」

「で、です!」

 

優磨が息を一つ吐いてから開けると驚愕した。

目の前には魔女が二人…方や10歳児に見えない10歳児…もう片方は胸を強調させるように改造されたものを来ている社長…

 

「由実ちゃんに榧ちゃんも来たのか」

「も?」

 

二人が奥を見ると皆揃って手を振る。

 

「た、たくさん居らしてますね…」

「まあ入んな」

「あ、はい」

 

由実と榧が入りリビングに行くと延珠は目を赤熱化させるとかはないがそれでもスピード特化型イニシエーターらしく凄まじい速さで近づくと…

 

 

「とぅ!」

「きゃあ!」

 

思いきり胸を揉んだ…

 

「むむ…やはり木更より大きく…更に驚きなのは柔らかい…」

「あ、だめ…」

 

艶やかな声を出されるがそこに榧が来て…

 

「離れなさい」

「っ!」

 

延珠をジャーマンスープレックスで投げる…と言うか上から下に落とすように投げる……威力があるやり方のジャーマンスープレックスを使って延珠を沈める。

 

「それを揉んで良いのは私とゆうムグ」

「言っちゃ駄目ぇええええええ!!!!」

「?」

 

優磨の方を見ながら顔を真っ赤にした由実は止める。

そしてまたチャイム…いい加減止まって欲しい…

 

「今度は誰だ?」

「トリック…オ…ア…トリ…ート」

「社長!目を覚ましてください!」

 

お腹からキュルキュル音を出した木更とそれを揺するティナは二人仲良くゾンビの格好(空腹で木更は本当にゾンビみたいになっている)でやって来た。

 

 

「姐さん!カップ麺買ってきました!!!!」

 

ワイワイガヤガヤと優磨の部屋でもそこそこキツくなってきた。

 

「はいありがと」

 

もう来るやつはいないだろう…と思っていたら…またチャイムが鳴った…

 

「次で最後にしてくれ…」

 

そう思いつつドアを開けると…

 

「優磨さん!助けて…くれ…」

「蓮太郎!?」

 

ゼーハー言いながら蓮太郎が立っていた…そこに、

 

『トリック・オア・トリート~!』

「また来たああああああああ!!!!」

 

夏、春、夏世…の三人が蓮太郎を追いかけていた。

 

「あ~…何してんだ?」

「だって逃げるんだもん」

「当たり前だ!俺は菓子持ってねぇよ!」

「じゃあ悪戯…」

「金無いとこからせびんな!」

「取り合えず…お入り?」

 

優磨は四人を入れた…

 

 

「と言うわけで里見くん。トリ…」

「ねぇよ」

「まだなにも言ってないわよ!」

「想像は着くわ!」

「ほらほら、茶でも飲みなよ」

 

優磨がお茶を出すと蓮太郎は一気飲みした。

そうとう苦労したんだろう…等と同情していたらまたチャイム…

 

「今度は誰だよ!」

「どうも優磨さん」

「………………ん?」

 

いきなりカボチャが目の前にいた。

 

「ど、どちら様でしょう?」

「トリック・オア・トリート…ですよ?優磨さん」

 

カボチャを取るとそこには聖天子の顔があった。

 

 

 

 

 

『……………』

 

その場は妙に静かになった。

と言うか国家元首が普通に自分達と同じ場所でお茶飲んでるとか有り得ない。

 

「そんなに固くならずに…」

「いや…なるだろ」

 

蓮太郎の突っ込みが入る。

 

「と言うかどうしたんだ?このカボチャ…」

「こっそり購入して作りました。これを被っていると街中歩いても誰も気づきません」

 

そりゃ国家元首がカボチャ被って街中を闊歩してるとか誰も想像できない…

 

「そう言えばそのチョコボールはどうした?」

 

優磨は空気を変えるため夏たちの戦利品の中から適当に聞く。

 

「ああ、それはあの辺なお面の…何だっけ?」

「蛭子 影胤さんからです」

『ぶー!』

 

それを聞いた蓮太郎たちは思いきり吹いた。

 

「あいつきてるのか!?」

「みたいですね…」

 

するとそこにチャイム…噂をすればなんとやらかと思い開ければ…

 

「トリック・オア・トリート…」

 

目の前には狐のコスプレの小比奈が一人立っていた…

 

 

 

 

 

 

 

次の日…

 

 

「と言うわけでお菓子をあげたらそのまま帰っていくし特になにもなかったんだよなぁ…」

「成る程ねぇ」

 

優磨は菫の研究室でコーヒーを啜る。

 

「しかしなんでお前今日も犬耳してんだ?」

「尻尾もあるよ?なぁに、どうせだから見せてあげようかと思ってね」

「まあ悪戯されたら敵わないから余り物だけど菓子やるよ」

「ふふ、悪いね」

 

優磨からチョコレートを受けとると菫が笑う。

 

「いつの間にか貰う立場からあげる立場に成ったんだな…俺…」

「お互いそれだけの年月は経ったと言うことさ」

「だな…」

 

二人はどこかしんみりとした空気を出した…

 

 

 

 

 

 

 

余談ではあるがモノリスの外では…

 

「ふむ、やはりハロウィンは小比奈一人で歩かせればこれだけは入るな」

「パパァ…私を使ってハロウィンの日にお菓子もらって食費浮かそうとするのは辞めようよぉ…めんどくさいし」

「そう言うものじゃないよ。ほら、チョコレートだ」

「わーい」

 

蛭子 影胤の陰謀は成功していた…

 




こんな感じの優磨たちのハロウィンでした。
一番ホクホクなのは絶対影胤です。


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第20話

「ふぁ~わ」

 

優磨は軽く体を動かしつつマローダーを軽くチェックしていた。予定では明日…モノリスは倒壊する。

流石に少し緊張してきた。

 

「ん?」

 

すると車内に人形が落ちていた。

 

「……ああ、蓮太郎達連れていった時のか……」

 

丁度良いから返しておこう。

そう思い優磨は車を発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

青空教室のと言うよりは青空の下にある広場と言った風情の場所に来た。

だが誰もいない。流石に少し早かったようだ。

仕方ないので人形を手に適当に座って待つ。そう言えば今何時だろう…時計は…しまった忘れた…時計は…こんな所にあるはず無いな。

そう思ったが何処かでチチチと聴こえた…

 

「落とし物かな」

 

それならそれで良いと探す…すると丁度皆が集まる場所に落ちてた。

 

「ん?」

 

確かに秒針があるがこれは時刻じゃなくて…残り時間を表してる。

しかもこれは何かダイナマイトみたいなものにバラニウムの破片がくっ付いてる。まあ相当でかいしこんな破片着けずともここに皆が居る状態で爆発したら皆死ぬ…

 

「なんだ爆弾かよ」

 

優磨は時計かと思って損したと捨てた。

 

「ったくよぉ……紛らわしいんだよ。つうかこんな場所に爆弾置いとくなっつうの……あぶねぇだろうが……って爆弾!?」

 

慌ててもう一度取り出す。残り時間…二分!?

 

「やばばばばばばばばばばば!!!!!!!!」

 

優磨は慌てて駆け出した。

 

 

 

 

その頃丁度蓮太郎と延珠は青空教室の生徒と向かう途中だった。

 

「今日は何をするの?」

「そうだな……ん?」

 

蓮太郎の視線の先にはマローダーがある。

 

「なんでここに優磨さんの車が……?」

「先生誰か来た……」

「え?」

 

砂塵をあげてやって来たのは…

 

「優磨さん!?」

「どけどけどけどけどけどけどけどけどけどけどけどけ!!!!!!!!!!!!」

「どうしたんですか!?」

「爆弾だぁあああああああ!!!!」

『げ!』

 

優磨は持ってるのをつき出すといかにも爆弾と言った感じの物を見た瞬間、漫画であれば目が飛び出していただろう。

ともかくそんなものを見せられては全員が固まった。

 

「蓮太郎退け!」

「はい!」

 

蓮太郎は言われるまま避けると優磨は地面に爆弾を滑らせそのまま車の下に投げ込むと…

 

「全員伏せろぉおおおおお!!!!」

 

優磨は急いで後ろに跳びながら叫ぶ。

 

『っ!』

 

次の瞬間凄まじい爆音が響いた…

 

 

 

 

 

 

 

「くそ!何処のどいつだよ!」

「さあな。それ考え出したら東京エリアの住人全員疑わなきゃなんねぇ」

 

優磨達は爆弾の至近距離爆破にもビクともしなかったマローダーにいた。恐らくあの爆弾は反呪われた子供の連中の…しかもとびきり過激な連中の仕業だ。因みに子供達は由実に電話して北美重工の社員が一時的に引き取っていった。基本的に北美重工はそう言うのには寛容と言うか差別はしない人たちばかりだ。何せ社長が民警やってるくらいだし……

会社の社宅に一時的に匿ってくれるらしいが蓮太郎は酷く気が立っていた。

 

「カッカしても犯人は捕まらん。今はとにかく明日の事を考えようぜ」

「そう言えば昨日木更さんと話したんだけど…」

「ん?」

「いや、何であのモノリスだったのかなって」

「と言うと?」

「いや、もっと街に近い場所もあるだろ?アレだけ統制が取れてるんだしもっと穴を開けるなら良い場所を見つけたと思うんだ」

「まあ考えられるのはあのモノリスだけ磁場が弱かったということだが……しかしとなるとアレを製造する段階で問題でもあったのか?」

「ええ、だから木更さんに調べてもらって……」

 

すると蓮太郎の携帯が鳴った。

 

「もしもし木更さんか?」

【里見くん!?急いで戻ってきて!】

「どうしたんだよ!」

【モノリスが……倒壊するわ!】

『っ!』

 

電話越しに聴こえた優磨と延珠も驚愕する。

そして視界の端には崩れ行くモノリスが見えていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウゥウウウウウラアアアア!!!!」

 

夏の右ストレートがガストレアステージⅡを吹き飛ばす。

 

「流石ですね」

 

榧は夏の戦闘能力を誉めつつガストレアステージⅠ二体を片手で一体ずつ頭を握りつぶした。

 

「ちっ!思ったより早かったな」

【まあこれくらいのは誤差の範囲やろ】

 

玉樹と新一は背中合わせになるとボヤく。

 

「天童式抜刀術 一の型の一番!滴水成氷!!!!」

 

爆音と共に木更の刃がガストレアを吹っ飛ばす。

 

「社長ってあんなに強かったんだ……」

「私も驚いたよ……」

「私も……」

 

ティナ、由実、春は後ろから狙撃で援護しつつ驚いていた。

 

「三人とも!次は四時の方角です!」

 

夏世が指示を飛ばすと三人は慌てて銃を向けた。

 

 

「ぎゃああう!」

 

風深はガストレアを噛み千切り更にそこに翠の爪と…

 

「天童式戦闘術 一の型八番!焔火扇!!!!」

 

彰磨の拳がガストレアの息の根を止める。

 

「数が多いな……」

「このままじゃ押しきられるかも……」

「本当にここぞとばかりに来るんだから……」

 

あまりの多さに彰磨は良いが翠と風深は息が上がり始めていた。

 

「あ……」

「翠!」

 

その隙を突きステージⅢが翠に飛び掛かる。

 

「え?」

 

だがそこに巨大な車がステージⅢを跳ね飛ばし更にそのまま周りのガストレアを潰し、吹っ飛ばしていく。

更に……

 

「ん?」

 

プチっと玉樹を吹き飛ばして止まるとドアが開き、

 

「すまん!遅れた!」

『そこじゃない!』

 

優磨が総突っ込みを受けた中蓮太郎も降りる。

 

「おいこた牙城 優磨!お前殺す気か!」

「ちょうど良いから一度死んで真っ白な兄貴になれば良いのに」

「おい弓月……それは酷くねぇか!?」

 

すると、

 

「ふん……重役出勤とは恐れ入るな」

「?」

 

そこに鎧を着た年齢から考えれば体格も良く鋭い眼光を持つ男……知勇兼備の英雄と呼ばれし者。だが片足がない……確か……

 

「我堂 長政だったか?」

「そうだ……本来であれば今夜のミーティングで話す筈が早まった」

「で?大将が何でこんな所に居るんだよ」

「突然車が飛び込んでくれば様子を見に来るのは普通だろう?」

 

そこにガストレアステージⅠが三体来るが、

 

「よ!っと」

「ちぃ!」

「ふん!」

 

優磨の拳と蓮太郎の銃に我堂の刀がガストレアの命を刈り取る。

 

「敵が多いな……」

 

優磨は義眼を起動させると片目がキュイン!っと音を立て更に瞳孔が開く。

 

(ギリギリ解放無しでもいけるか?……っ!)

 

突然義眼がDANGERと言う文字と共に矢印を表示し優磨は伏せる。

 

すると頭の上を何かが通過していき…

 

「ギャアアア!」

 

近くの名も知らぬ民警の腕を吹き飛ばす。

 

「なんだ今の……」

 

蓮太郎達もなにが起きたのか分かっていない。優磨ですら義眼がなければ避けるのは無理だし少なくとも吹き飛ばされたのは自分だろう。

 

「あの方角か?」

 

優磨がスコープで探すと見えた…恐らくステージⅢのガストレア。するとまた発射してきた。

 

「よけ……」

 

ろと言う前に光みたいなものが優磨の横を通過していき背後の民警の上半身を吹き飛ばした。それをみたイニシエーターが悲鳴をあげて膝をつく。

 

「くそ!」

 

速すぎる…あの破壊力にこの速度…

 

「優磨兄さん……あれは?」

「恐らく……遠距離狙撃型のガストレアだ……」

「そんなのが居るのかよ」

「今までは居なかった……少なくとも今回が初めてだ…」

「そう言えば……」

 

我堂が顎に手を添える。

 

「ここ最近突然戦闘機などが落ちると言う事故が多発していたらしい。まさか……」

「めんどくさぇのが出やがった……」

 

優磨は舌打ちする。

義眼で見ることはできるが距離がありすぎるため攻撃はこちらからはできない。

 

「ん?」

 

すると急に影が射した…

 

『な……』

 

全員が絶句する……間違いない……あれが……

 

『アルデバラン……』

「馬鹿な……首を撥ね飛ばしたはずだ……」

 

我堂も信じられないといった雰囲気だ…だが首を撥ね飛ばした?いくらガストレアでも首を撥ね飛ばされたら死ぬ筈だ……少なくとも今までのガストレアはそうだった。

 

「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」

 

大気が震え……更に地面まで震える。

 

優磨達は耳を押さえてはいるが犬の因子を持つため聴覚が優れている風深や、フクロウの因子を持つティナ、蝙蝠の春、他にも耳が良いイニシエーターは引き付けを起こしている。

下手したら鼓膜にも危険だ。

だがアルデバランの咆哮が収まるとガストレアが撤退していく。さっきまで死体を喰っていたものですら引き上げていく……ものの一分で戦場だった場所は戦場跡に変わった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シィット!なんだありゃあ!」

 

玉樹が箱を蹴っ飛ばすが誰も責めない。寧ろそうなるのも仕方ないといった雰囲気がある。

遠距離狙撃型の新種ガストレア……更に圧倒的なまでのアルデバラン……しかも今回の襲撃で後ろに行かされていた民警はまだしも前線の自衛隊は殆んど壊滅的な打撃を受けたらしい。少なくとも今回の戦いでは自衛隊は戦うことはないだろう。

 

「遠距離狙撃型のガストレアに関しては心当たりがある」

「なに?」

「多分鉄砲魚だ」

 

蓮太郎の言葉に全員が納得する。確かに水を高速で吐いて獲物をとる魚の鉄砲魚の因子なら出来るかもしれない。

 

「詳しいな」

「まあファーブル昆虫記が好きだったからその延長でな」

「成程……そして蟻の巣とかに水流して神の怒りだぁ!とか言って遊んでいたと……」

『うわぁ……暗い……』

「誰もそんなこと言ってないだろ!」

 

優磨がからかい全員が蓮太郎から距離を取り蓮太郎が叫んだ。

 

「でも……やっていたんだろ?」

「何で決めつけてんだよ!」

「違うのか?言っちまえよ……田舎のおっかさんが泣いてるぜ?」

「そうです!やってました!……ってなに言わすんだ!ああそうですよ!やってましたけど何ですか!?って言うか俺を苛めて楽しいのか!?優磨さん!」

「スッゴク楽しい」

「この外道!」

「菫の唯一の友人だぜ?性格良いわけないだろ」

『……ああ~』

 

それを聞いた玉樹ペアと新一ペア二組以外は菫を知ってるため納得した。

 

「誰だそいつ」

「ああ、玉樹と新一達は知らないんだったな…そうだな。年中白衣着ていて……あ、最近仕事以外は着てないか?まああと髪伸ばし放題でだけど顔事態は美人で……」

「これか?」

 

玉樹が小指を立ててくるが優磨は首を振る。

 

「天地がひっくり返ってもあり得ない。そうだな……後は……」

『空前絶後の大変態……』

 

全員口がハモった。

 

「呼んだかい?」

「…………」

 

優磨は声がしたため後ろを振り替えると菫が居た。

 

「そうそうお前おま……でぇええええ!」

「人をお化けみたいに言わないでくれよ」

「あんたが……」

【空前絶後の大変態……】

 

玉樹と新一は息を呑む。

 

「はっはっは!解剖されたいのかい?」

「すいませんでした!」

 

玉樹と新一は同時に土下座した。

 

「て言うかなにしに来たんだよ」

「治療だよ、一応私も医者だしねぇ」

「そう言えばそんな設定もあったな」

「設定言わないでもらえるかい?」

 

そんなやり取りでテントの中は明るくなった。

 

「飯にするか?」

 

優磨の言葉に全員が頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すげぇな……」

 

テーブルの上にはスープと缶詰め……更にお握りだ。簡素だがこんな状況では上々だろう。

 

「意外と料理うまいんだな」

「一応うちのシェフだから」

 

玉樹が作ったスープは味が濃いめだが疲れた体に染みた。

 

「そう言えばこの三角形と言うよりは三角錐みたいな形のおにぎりの制作者は……」

「俺だよ」

 

夏世の言葉にムスっとしながら優磨は答えた。

 

【相変わらず不器用でんなぁ】

「うるせぇ」

「そんなことないですよ?すごく美味しいです」

「お前ら由実見習え」

 

すると、

 

「さあデザートだよ」

 

菫が何か持ってきた……刺激臭!?

 

『うぐぉ!』

 

全員が椅子から落ちかけた。

 

「さぁ……デザートだ」

 

菫は鍋からなんと言うか紫色のデロッとした何かを出してくる。

 

「いや……その……」

「お残しは許さないよ?残した者は……解剖だ」

『…………南無三!』

 

全員が口にそれを入れる。

あれ?意外とうまい……何てことはなく……

 

『がっはぁ!』

 

全員吹いた……それを見て菫は腹を抱えて笑う。だがそれだけに悲劇はとどまらず、

 

「我堂様からの伝れ【ベチャ】ウギャアアアアアアアアア目が……目がああああああああああああああ!!!!」

 

伝令に着た男の誰かが吐いた紫色の物体が顔に直撃し目に入ったらしく転げ回る。

 

「菫!何んだこれは!」

「ん?この間解剖した死体の腹の中に入っていたホットケーキだ」

『………………』

 

ダッとテントの全員が外に向かって走り出す。

 

「目がああああああががががががががががががが!!!!」

 

無論入り口で転がっていた男は全員に遠慮なくドカドカ踏まれ伝令が伝わったのは皆が胃の中を強制的にスッキリさせられ更に口を百回ほどすすいできた後だった……




今回一番ひどい目に遭った男の人には合掌…
そしてマローダーに轢かれても普通に復活する玉樹…お前が一番化け物だ!


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第21話

ちょっと今日は短めです。まあ


前回の騒動のあと…蓮太郎と優磨は我堂が居るテントの前に来た。

 

「む、来たか」

 

我堂の隣には和服に身を包んだ恐らく彼のイニシエーターが鎮座する。

 

「どうなんだよ。戦況は……」

「良くはないな。少なくともあの遠距離狙撃型のガストレアのお陰で士気も低い」

「それだが恐らく鉄砲魚の因子だ」

「成程…だが今回呼んだのはそれについてだ」

「ん?」

「里見 蓮太郎リーダー及び牙城 優磨……お前たちを処罰せねばならん」

「あ?」

 

優磨は唖然とした。

 

「今日の戦いではお前たち二人は遅れて登場し更にその直後に敵は撤退した……用は良いとこだけ頂いた状態だ」

「おいおい、俺たちだって好きで遅れた訳じゃないんだぞ」

「言い訳は聞かん。だが本来なら首でも撥ね飛ばすがチャンスをやろう」

「チャンス?」

「そうだ……お前たちは誰にも言うこと無く二人であの遠距離狙撃型ガストレアを撃ち取ってこい!」

 

用は死に場所やる的な事を言われただけだ。どう考えても返り討ちなのだが東京エリアを救った英雄の死はさぞや良い士気の向上になるだろう。

 

「あ?ふざけんのも大概にしろ!」

 

蓮太郎は我堂に掴み掛かろうとするがその前に隣のイニシエーターに吹き飛ばされた。

 

「止めろ朝霞!」

「止めときな蓮太郎……」

 

我堂は朝霞と呼ばれたイニシエーター止め、優磨は蓮太郎をキャッチしつつ止めた。

 

「上等だ……きっちりぶっ殺して帰ってきたらてめぇの髭全部素手で引き抜いて頭と同じくツルツルにしてやるよタコ野郎」

「ふん、やれるものならやってみろ」

「ああ」

 

そして蓮太郎を連れて出ていこうとすると、

 

「あと待て……」

「何だよまだ様か?」

「俺は剥げているんじゃない。剃っているんだ。所謂スキンヘッド。決して生え際の後退が進みすぎていっそのこと剃ってしまった方が間抜けにならんとか思っておらんからな」

「………………ああ、そうかい」

 

優磨は何処か同情めいた顔をしてから出ていった…

 

「……カツラ買うか……」

「無理して若作りしなくても……」

「いや、あの二人の頭を見ていたら若い頃の俺もあんな感じだったと思っただけだ…」

 

我堂は少し悄気てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで?何の話だったんだ?」

「厳重注意だったよ。遅刻したからな」

 

優磨たちは半分嘘…もう半分は本当の会話を続ける。

 

「ほら、さっさと寝ようぜ?明日も激戦になるかもしれないんだ」

 

優磨がいうと全員頷きそれぞれの就寝用のテントに潜り込んだ。

 

 

優磨には春が右腕、夏世が左腕、夏が上に乗って寝ていた。物凄く暑いがまるで明日……誰にも告げずに命懸けのたった二人の特攻にいくことに気づいているかと思ったが本能敵的にだろう。

とは言えここまで纏わり着かれると眠れないのでそっと離れて外に出ると煙草を咥える。

 

「ほら」

 

火が目の前に出された。

 

「悪いな……菫」

「人生最後の一服になるかもしれないんだしね」

やはり気づいていたか……と優磨は笑う。

 

「君の嘘は分かりやすい。少なくとも私はわかるよ。あの三人だって気づいていたんじゃないかな?それこそ本能的に深層心理が働いたんだ。だから君にくっついていた…」

 

かもしれないな……と優磨は煙を吸い込むと吐き出す。夜闇の中に紫煙が溶けていった。

 

「死ぬなよ……」

「……ああ」

 

そう言って夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

明け方…蓮太郎はXD拳銃にサイレンサーを取り付け更にバラニウム性のナイフを持つ。

 

「ふぁぁああ~」

 

優磨もデザートイーグルにマガジンを持てるだけ持ち最後に軽く体を動かす。

 

「行くか」

「はい」

 

そして誰にも告げること無く二人は姿を消した…

 

 

 

ガサ…と不気味に葉を踏んだ音が響く。

 

「思ったより樹を食われてるな…」

「これは…」

 

蓮太郎は見ると眉を寄せる…

 

「これはコカだ」

「コカっていうとあの麻薬とかのか?」

「ああ…何でコカだけこんな重点的に取られてるんだ?」

 

すると何かが飛びかかってきた。

 

『っ!』

 

優磨は素早く高周波ブレードを出すと切り裂く。

 

「不味いぞ蓮太郎……」

「ああ……」

 

周りにはガストレアが二人を囲んでいた。

それを見た蓮太郎はXD拳銃を抜いて撃てるようにする。

 

「やるしかないか……」

「ああ……」

 

二人は構える。

 

「ギャア!」

 

ガストレアが飛び掛かってきた。

 

「ちぃ!」

 

蓮太郎は眉間を撃ち抜く。

 

「おらぁ!」

 

優磨は更に飛び掛かって来たガストレアを次々切り裂き…吹き飛ばしていく。

 

「数!だけ!は!多!い!」

 

!の度に飛び掛かってきたガストレアを撃ち抜き続け蓮太郎は弾をリロードし更に撃つ。

 

「全くだな…」

 

優磨は腰を落とすと…

 

竜巻(たつまき)!!!!」

 

スラスターで高速回転しそのまま切り飛ばしていく。

 

「くそ……何体居やがる……」

「幾らなんでも多すぎだろ」

 

かれこれもう三十体ほど倒したところで二人は息が上がり始める。

 

(仕方ねぇ……制限解除(リミッターオープン)して一気に抜けるか……)

 

すると突然、

 

「伏せたまえ」

『え?』

 

優磨と蓮太郎は咄嗟に伏せる。

 

「ホームレス……リーパァアアアアアアアアアア!!!!」

 

鎌状に放たれた斥力フィールドがガストレアの命をまるで死神の鎌の様に刈り取る。たった一撃で周囲のガストレアを全滅させた恐ろしい技……こんな技を使うのは一人だし目の前には……

「パパァ…こいつら延珠と夏を連れていたやつだよ」

「ああ、知ってるよ」

 

シルクハットにふざけた仮面…更に燕尾服の腰にはスパンキングソドミーとサイキックゴスペルと言う趣味の悪いマシンピストルと化したベレッタ……

更に横には小太刀を合計4本持った十歳くらいの少女…

 

「蛭子……」

「影胤……」

「久し振りだね我が友(マイフレンド)よ、そして我が兄弟(マイブラザー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後急いでその場を離れ……今何故か男三人と少女一人が雑炊を食っていた。

 

「そろそろ銃を下ろしてくれないかね?食いづらいんだが?」

「そうだぜ蓮太郎……今は食うことに集中しな」

「だが優磨さん!こいつは……」

「そんなもん脅しにもなりゃしないのはお前が一番知ってるだろ?」

「……」

 

影胤の斥力フィールドは対物ライフルも通さない……確かに効かない。

 

「それに本当に俺達に攻撃する気があるながらさっき無警告で技を放っていた筈だ。少なくとも今は戦う気はないんだろ?」

 

今は……の部分が強調されているものの優磨は特別警戒していない。

 

「はっはっは。流石に兄弟(ブラザー)……素晴らしい。よく私の事を分かっている。だが何故こんなところに?今は東京エリアは結構ヤバイんじゃないのかい?」

「知っていたか……」

「情報は何にも勝る武器だ。まあ関係のない話だったがね。それで?何でこんなところにいるんだい?」

「ちょっとそこまでガストレアを倒しに行けと禿げタコに言われてね」

「……パパァ、この人頭大丈夫?」

「少しパパも心配だよ」

「喧嘩売ってるのか?」

 

優磨のコメカミが引き攣る。だが直ぐに平静に戻り、

 

「まああれだ。遠距離狙撃型のガストレアが出てな…それを倒しにな」

「そう言えば丁度この奥に変わったガストレアが居たよ」

『っ!』

 

二人は影胤を見る。恐らくそれが…

 

「よし行くか」

「ああ」

「そうだね、行くよ小比奈」

「うん」

 

そう言って四人は歩きだし……

 

『……ってお前らも来るのかよ!』

「別に問題はあるまい?」

「何が目的だ……」

「別に普通に興味があるだけだよ」

「だってパパがいくって言うから」

『…………』

 

勝手にしろ…と呟きつつ優磨と蓮太郎の二人は肩が重くなったような感覚の中歩きだした…




今度日曜日辺りに報告があります。
実は十二月辺りから前々から画策していた計画を実行します。詳しくは活動報告までお待ちください。


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第22話

優磨、蓮太郎……更に何故か蛭子 影胤とその娘、小比奈を引き連れ四人は更に奥深くに入っていく。

 

「此方で良いのか?」

「ああ、あれから移動されていたらお手上げだが私がみたのはこの先だ」

「そう言って俺達を嵌めようとしてんじゃ……」

「蓮太郎」

 

優磨が呼ぶと蓮太郎はその方向を見る。

 

「またコカか?」

「みたいだな……あいつらも薬物ジャンキーになったりするのかね」

「他に考えられるのは……っ!」

「伏せろ」

 

でかい木の影に居た……

 

「これが……遠距離狙撃型ガストレア……」

「間違いねぇ……あのとき見えたやつと同じだ……」

「ふむ……周りにあるのはコカみたいだね……おおかたあれで飼われてるって奴かな?」

 

人間にもある……薬漬けにされて言うことを聞かせられると言うパターンが……ガストレアにもあるようだ。それとも無駄に知恵を付けたか……

 

「さて、やるかい?」

『ああ……』

 

不幸なことに機械化の三人はどれも静かに暗殺出来るような力ではない。

 

「天童式戦闘術 一の型三番!!!!」

制限解除(リミッターオープン)!解除率 20%!!!!」

「エンドレス……」

 

三人は飛び出す。

一種遅れて遠距離狙撃型ガストレアが気づくが遅い。

 

「轆轤鹿伏鬼 三点撃(バースト)!!!!」

断罪(だんざい)!!!!」

「スクリーム!!!!」

 

凄まじい爆音とガストレアの悲鳴が辺り一体を包んだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠距離狙撃型ガストレアが始末されて凡そ一時間後……ガストレアの大群が再度進軍していた。

 

 

「くっ!」

 

翠はその頃孤軍奮闘していた。先程逃げ遅れたイニシエーターを逃がしたときに逃げ遅れた上に彰磨とははぐれてしまったのだ。

 

「翠!」

「っ!」

 

ガストレアに背後をとられたが夏のパンチでガストレアは吹っ飛ばされ動かなくなった。

 

「あ、ありがとうございます」

「良いよ別に。友達でしょ?」

「う、うん」

 

翠は照れながら答えた。

 

「でもなんか敵さんも必死だね……」

 

頬を少しあげて笑いながら夏はボクシングのスタイルとなる。

 

「そう言えば今回は狙撃がないですね……」

「そうだね……何かあったのか……ギリギリまで使わないか……もしくは目的は別か……」

「あれは!?」

 

翠が指差した方には戦闘機が飛んでいた。

 

「ちょ!撃ち落とされるよ!?」

 

だが戦闘機は何も障害なくガストレアを殲滅していく。

 

「どう言うことでしょうか」

「……翠……今は考えてる時間はなさそうだよ……」

 

夏が言うと翠も構える。周りを取り囲む多くのガストレア……

 

「行くよ!!!!」

 

夏が走り出すとガストレアも飛び上がる。

 

「ラァ!」

 

だが飛び上がっても夏のアッパーでぶっ飛ばされる。

 

「ウラウラウラァ!」

 

凄まじい連続の拳……雨あられの拳は次々ガストレアを屠って行く。

 

(強い……)

 

翠は爪で凪ぎ払いながら夏を見ていた……いつも優磨に隠れてしまうが夏も春も夏世もイニシエーターとしての力は低くない。能力的に戦闘が得意かどうかはあるもののそれぞれの得意分野であれば十分上位に喰い込める。

特に夏は素の状態でもボクシングと言う下積みがある。それに加え蝦蛄のパンチ力と眼……

広い視界に動体視力……そこに加わる絶対的な攻撃力……近距離での限定となるがその強さは単独でも百位以内に入れる。

だが最初からギア全開で行けば……

 

「はぁ……はぁ……」

 

当然息は上がる。

普段は優磨と一緒にいることで息が上がらないように優磨が指示を出しているが夏はテンションが上がりすぎると自分の体力考えられなくなる。

しかも翠の方に行くガストレアもまとめて排除しているのだ。

だがそこに……

 

「やば……」

 

夏にガストレアが飛びかかり牙を向ける。

 

覇爪(はそう)!!!!」

 

だがその前に三分割にされた。

 

「優兄!?」

「悪い……遅れた……」

 

優磨は全身から汗を吹き出しあちこち傷もあるし泥だらけだ……

それもそのはず……優磨はあの後解除率を30%まで上げて蓮太郎達を背負いガストレアの大群から逃走……しかも半日以上かかった道のりを一時間ほどで戻ってきたのだ。その早さは延珠も上回っていたがその分死ぬかと思った……と後に蓮太郎が語っている。

 

「さて……ここから俺も参戦するぞ!」

 

優磨は高周波ブレードを出すとガストレアを引き裂きながら夏と翠を回収し、

 

烈震(れっしん)!!!!」

 

地面に走る衝撃でガストレアは体制を崩す。

 

紅蓮(ぐれん)!!!!」

 

右ストレートでぶっ飛ばすと駆け出した……

 

 

 

 

 

その頃蓮太郎は、

 

「焔火扇!!!!」

 

ガストレアをカートリッジ一本分使用して屠る。

 

「大丈夫か?」

「え、ええ」

 

蓮太郎の後ろには玉樹と逸れた弓月が居る。

 

「つうかあんたの腕……」

「この間も見ただろ?」

「何度見てもすごいわね」

「まぁな……」

 

蓮太郎は頭を掻く。その視線の先には、

 

「マキシマムペイン!」

 

影胤が無双していた。

 

「これだ!待ち望んだのはこれだよ!まさに地獄、待ち望みしハァレェルゥヤァアアアアアア!!!!ヒャッハー!」

『……………』

 

何か色んなものがぶっ壊れていた。完全に危ない人だ。

 

「ん?」

 

すると段々ガストレアが退いていく……

 

「ぷはぁ……」

 

蓮太郎は一息吐くと弓月を見る。

 

「おい、怪我はないか?」

「無いわよ、あったってそのうち治るわ」

「良いから見せてみろって」

「ちょ!あ、こら触んな!」

 

弓月は顔を真っ赤にして暴れるが蓮太郎はそんなものを気にせず軽く見る。

怪我はないな。流石に服の下は見れないからわからんがそこは自己責任とするしかないな。

 

「何か優磨兄さんみたい……」

 

偶々近くを通り掛かった夏世はそう呟いたらしい……

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

「はぁ……」

「ふぃ~…」

「…………」

【極楽浄土やな】

『死んでどうする』

 

戦いの夜……優磨、蓮太郎、玉樹、彰磨、新一は風呂に入っていた。

ここは民警達の共同浴場だ。プレハブのためあまり居心地が良いとは言えないが今は他の民警は居ないしちょうどいい。

 

「いい湯だぜぇ……」

 

玉樹は爺臭いこといってるが…

 

「はぁ……」

「なんだ里見……まだ悩んでるのか?」

「そりゃそうだろ……まさか我堂が死ぬなんて……」

 

そう、先の戦いで我堂はガストレアに狙い撃ちされたらしい。そのせいで戦死……優磨じゃなければガストレアに狙い撃ちなんぞされようものなら当たり前の結果だ。だが蓮太郎の悩みはその先……

 

「しかも次のリーダー俺って……」

「ま、序列の問題だな」

 

優磨はお湯を肩に掛ける。

 

「なあ、あんたがやってくれないか?」

「あほ、俺序列は五百位だぜ?お前の方が高いじゃん」

「だけど……」

「ちょうど良いからやってみな……少なくともここに居るものは皆お前がリーダーと言うことに異存はない」

 

優磨がそう言うと玉樹と彰磨と新一は頷く。

 

「そうか……」

「だけどもう来ない可能性もあるんだよな?」

「それはないだろう」

 

玉樹の言葉を彰磨は否定する。

 

「あれだけリーダー格の人間を狙い撃ちにしたんだ……まず間違いなく次は総戦力を注ぎ込んでくるだろう」

「げぇ~……」

 

玉樹は嫌そうに舌をだした。

 

「となるとやはりアルデバランを撃破か……」

「だが……」

 

そこが難関だった……実は先ほどの戦いに来た戦闘機は優磨が聖天子に連絡して出してもらったのだがその際にアルデバランを見つけ爆撃したらしい……結果は返り討ち……

致命傷を与えたらしいのだが何と傷が治癒したらしい……しかも明らかにガストレアを上回る速度でだ……

 

「そりゃあ首飛ばしたのに生きてるわけだ」

 

優磨は湯に体を沈める。

 

「まあそこは由実ちゃんが何か考えがあるって言ってたけど……」

「あ~やっと入れる~」

「夏ちゃんちゃんと体洗ってから入るのよ」

『っ!』

 

何と女性陣が入ってきたらしい。

 

「でも由実さんでかい……」

「え?」

 

声からして木更と由実だろう……

 

「ほんとですね……そんなにウェスト細いのに何で胸だけ……」

「ほんとですよねティナさん……実は人間じゃないんじゃ……」

「だよね、絶対人間じゃないよ」

「私もあれくらいには無理でも……大きくなるのでしょうか……」

「うむむ……行くぞ風深!」

「おう!」

「ちょ、だめ揉まないで……!」

「頭蓋骨が軋む音が聞きたいようですね」

『イーダダダダダダダダダダダダ!』

 

恐らく声から考えるにティナ、春、弓月、夏世、延珠、風深、由実、榧で最後は頭を握られている延珠と風深だろう。

 

「うわー翠の耳濡れてペタンってなってて可愛い~」

「く、くすぐらないで……」

「何?ここが弱いの?良いではないか~!」

「あ……ダメぇ……」

 

これは多分翠と夏。

 

 

『…………』

「優磨さん。あんたどういう教育してんだ?」

「あんなこと教えた覚えはないんだがな……」

「まあ翠には良い教育になるだろう。あいつは他人との関わりを怖がる傾向があるからな」

【ええんやろかそれで……】

 

防水機能もあるらしいタブレットを叩いていた新一は突然目をかっぴらく。

 

【と言うことは今……女の花園やな……この壁を境に……】

 

それを聞いた玉樹も目を開く。

 

「そう言えばそうだな……これは行くしかないな」

「っておい!辞めろよ!」

「ボーイ……この壁ひとつ向こうには姐さんも居るんだぜ?」

「う……」

「なんだ里見。お前未だに木更一筋で距離縮まってないのか?」

「ほっといてくれ!」

【さぁ~できたでぇ~】

 

新一は桶で足場を作っていた。

 

「よぉし!」

「行くでぇ!」

 

二人は壁に手をかけ登ると……

 

「よう、くそ兄貴」

「やぁ、新一さん」

『…………………』

 

既に弓月が糸を張って足場を製作し風深と待ち構えていた……

 

「オー…」

【マイガ!】

「いっぺん死んで来いくそ兄貴!!!!」

「見るんだったら私だけにしてください!」

 

瞳を赤くした二人のパンチがそれぞれに決まる。成人男性位の威力は軽く越えるパンチは二人を壁まで吹っ飛ばした……

 

「全く……」

 

ちなみに優磨は最初から待ち伏せされていたことに気付いていたため何も言わなかったのだがそれを後々文句言われたのは別の話だ。

 

「っ!」

 

すると、弓月は蓮太郎と目が合うと顔を真っ赤にして恥ずかしそうに女子スペースの方に消えていった。

 

「……なんだ?あいつ……」

 

蓮太郎は疑問符を飛ばすが、

 

「また新たな住人か……」

 

優磨は湯に更に体を沈めながら呟いた……




因みにバストランキングは………

延珠、夏、夏世、風深、弓月>春、ティナ>>>>【エベレスト級に高い壁レベル】>>>>>>榧>>>>>>【越えるのは諦めた方がいいレベル】>>>>>>木更>>>>>【越えるのは100%無理だから諦めな、人間諦めも大事だレベル】>>>>>>>>>>>>由実

でした。


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第23話

「……よし!」

 

蓮太郎は頬叩く。ここまで来たらやるしかないと自分に喝をいれて歩みを進める。

ある広場の壇上に上がると他の民警たちの視線が蓮太郎に集まる。

 

「新たなリーダーとなった里見 蓮太郎だ!」

 

だが次の瞬間……

 

「うるせぇ!帰れ!」

「俺はてめぇなんざ認めねぇぞ!」

『そうだそうだ!』

 

盛大なブーイングが起きた。

まあそれも当たり前と言うか仕方ないだろう。蓮太郎は若すぎる。

すると一人壇上に上がってきた。

 

「……」

「どうせもう無理なんだよ!リーダーだかなんだか知らねぇがどっか失せ【パン!】……?」

 

男は肩に走った痛みに一瞬疑問を覚え……

 

「ギャアアアアアアア!!!!」

 

撃たれたと気付き痛みに転げ回る。

 

「俺は意見など求めていない」

 

蓮太郎はゾッとするような冷たい声で言った。

 

「う、撃ったぞ……」

「俺を卑下する時間何てない。アルデバランは近いうちにまた来る。そのときは諸君にもまた命を懸けてもらう」

「ふ、ふざけんな!前回ので一気に減っちまったんだぞ!」

「医務室で寝ている奴も使えばいい」

「じょ、冗談だろ……」

「先程医者に聞いたが十分動けるとの事だ」

 

その医者とは菫の事だ。菫に掛かればどんな仮病も簡単に見抜かれる。

 

「決戦は近い……遺書だけでも準備しとくんだな」

 

そう言い残し蓮太郎は壇上から降りた。

 

 

 

「よう、随分悪役になってきたもんだ」

 

優磨達が待ち伏せていた。こうすることは予め聞いていたためあまり驚かない。

 

「俺には纏める才覚はありませんから……仕方ないです」

「ん?」

 

すると目の前に人影……確か、

 

「私は認めません」

「千布 朝霞だったか?」

 

我堂のイニシエーターだった少女は今まで閉じていた瞳を開き赤熱させた。

 

「あなたのやり方は暴君そのものです」

「そうだ。お前のプロモーターだった我堂は優秀なリーダーだったが俺は違う。ならやれるやり方でやるしかない」

「……」

すると朝霞が身を低くする。

 

「ならば私が出来ることは……あなたを否定する事です」

 

そう言って地面が凹むほど強く踏みしめると飛び出す。

だが、

 

「よっと」

「っ!」

 

優磨に簡単に組伏せられた。

 

「やめときな……八つ当たりはみっともないぜ?」

「っ!」

 

朝霞は目を見開く。

 

「我堂との間には確かな絆が有ったんだろう……だがお前のはただの八つ当たりだぜ?」

「く……」

「我堂が死んだのは蓮太郎のせいじゃないし何よりこいつは里見 蓮太郎だ……我堂 長政じゃない」

 

そっと離してやると暴れなかった。

分かっているのだろう。だがこの子もやはり10才の女の子なんだ……

 

「行くぞ」

 

蓮太郎はそう言ってあるきだし優磨達もついていった。

 

 

 

 

 

 

「お帰り~」

「未織?」

「由実さんに頼まれとった奴持ってきたで?」

 

そう言って出したのは……爆弾?

 

「司馬重工と北美重工の合作!EP爆弾~」

 

某猫型ロボットの声真似で指差す。

 

「これはでかい爆発で内部に内蔵された小さな爆弾を爆散、そんでもって小さい爆弾が次々連鎖爆発していくっちゅうしろもんや。気を付けてな?衝撃にメタくそ弱くてしかもその爆発近距離で受けたら牙城さんでも死ぬで?」

「おいおい……」

 

凄まじすぎる……少なくとも対物ライフルより威力は上だと言うことだ。

 

「ただ使い方やけどこれを近くでやっても駄目や。アルデバランの体内にぶちこんで爆発させる……それ以外に方法はない」

「なら俺がそれをやる」

 

蓮太郎が立候補した。

 

「衝撃与えなきゃいいんだろ?」

「そうやね」

「気を付けろよ」

「ああ」

 

蓮太郎はEP爆弾を持つ。

手に汗が滲んだ気がした……

 

「蓮太郎?」

「あ、ああ大丈夫だ」

 

延珠が心配そうに顔を覗き込むと慌てて何でもないように言う。

 

「しかしとんでもねぇ奴と当たったもんだぜ」

 

玉樹はテーブルに足をのせながらぼやいた。

 

「次で終わるさ」

 

優磨の言葉に全員が頷いた……

 

 

次の日……

 

「ふぅ……」

 

優磨は軽く体を動かしていた。

 

「昼間から精が出るな」

「薙沢?」

 

そこにやって来た彰磨に優磨は首をかしげた。

 

「ちょうどいい。少し組手をやってみないか?」

 

そう言って彰磨は構える。

 

「ふ、良いぜ」

 

優磨も拳を握った……そして、

 

『うっらぁ!』

 

二人の拳は交差するが互いの顔にぶつかることはなくギリギリで躱す。

 

「く!」

「ち!」

 

素早く二人は距離を取ると優磨は蹴りを放つ。

 

「しゅ!」

 

だがそれ彰磨は伏せて躱すと、

 

「天童式戦闘術 三陀玉麒麟(さんだまきりん)!!!!」

 

顎に向けた掌打はまともに食らえば脳を揺さぶられただろう。だが、

 

風車(かざぐるま)!!!!」

 

優磨は攻撃に逆らわずまるで風を受けて回る風車のごとくスラスターを使って回転し彰磨にサマーソルトキックを放つ。

 

「ちぃ!」

 

だが彰磨はそれも躱すと転がって距離を取る……そして、

 

「天童式戦闘術 一の型八番!焔火扇!!!!」

「紅蓮!!!!」

 

高速の拳がぶつかり合うと凄まじい音と共に二人とも吹っ飛ぶ。

 

「いっつぅ……」

「流石だな……」

 

彰磨が立ち上がると優磨も立ち上がる。

 

「恐らく今日来るな……」

「まあそうだろうな」

 

優磨は頭を掻くと彰磨が真剣な目で……

 

「お前に頼みがある」

「何だ?」

「俺が……」

 

すると次の瞬間警報が鳴る。

 

『っ!』

「来たぞぉおおおおおお!!!!」

 

遂に最終決戦の幕開けである。

 

 

 

 

 

 

「ウリャア!」

「紅蓮!!!!」

 

夏と優磨がぶん殴ってガストレアを吹っ飛ばす。

 

「蓮太郎は向かったの!?」

「ああ……っ!」

 

飛びかかってきたガストレアを遠くから春が銃撃して落とす。

 

「助かった!」

 

ジェスチャーで感謝を伝えると春も答える。

 

「さてさて……そろそろ爆発しても良い筈なんだが……」

「優磨さん!」

「由実ちゃん?」

 

そこに榧と由実が来た。

 

「大変です!爆弾が……」

「え?」

「爆弾が起爆しないんです!」

「っ!何でだ!」

「多分……不具合が……」

「くそ!」

 

優磨は足のスラスターを起動……一気に加速すると蓮太郎の元に駆け出した。

 

 

 

 

「くそ……」

 

その頃蓮太郎は義手を失っていた……

爆弾が起爆せず自分を犠牲にして外部から衝撃を与えて爆発させる筈がアルデバランのバラニウム侵食液を喰らってしまい義手が溶けたのだ。

 

「ここまで来て……」

 

目の前にはアルデバランが迫っている。ここまでかと諦めた瞬間……

 

「困ってるようだな。里見」

「彰磨…兄?」

 

蓮太郎は目を見開く……

 

「事情は聞いた……後は任せろ」

「ど、どういうことだよ!」

 

だが彰磨は答えず歩を進める。

 

「蓮太郎!……に薙沢?」

「牙城か……そいつを連れてここを離れろ……」

「……死ぬ気か?」

「……俺は天童を破門された……理由は技をアレンジしたからだ」

 

木を内部破裂させた轆轤鹿伏鬼が優磨の脳裏に浮かんだ。

 

「だからこの技は破棄する……俺の死でな」

「やめろ!彰磨兄!!!!」

 

だが彰磨は笑みを返すだけ、

 

「牙城 優磨!お前と言う男に頼みがある」

「……何だ?」

「頼み事は三つ……一つ目はその蓮太郎の事だ……こいつは要領は悪いし顔も世界の不幸を全て背負ったようだ……だが良い奴だし何時かとんでもない事をやってのけてこの世界を変えてくれると信じてる。だから頼む……俺の弟分を……」

「ああ……」

「二つ目は木更だ……あいつは両親を奪い、蓮太郎に大ケガを負わせた原因である天童を憎み……復讐に取り付かれた。今は良い……だが何時かあいつが狂ったとき……止めてくれ……あいつの刀が天童以外にも向いたとき……止めてくれ……」

「分かった……」

「最後に……翠を頼む……あいつと俺は常に互いの孤独を埋めてきた……だが俺が死んだらあいつはまた独りだ。だからあいつを独りにしないでくれ……」

「任せろ……だが薙沢、俺で良いのか?アジュバンドで偶々一緒になっただけだぜ?」

「良いんだ……これでも人を見る目はある……」

「了解だ……後は俺に任せろ」

「ああ……」

 

彰磨は走り出す。

 

「行くなぁああああああああ!!!!」

「行くぞ蓮太郎!」

 

蓮太郎を荷物みたいに担ぎ上げると優磨は彰磨と反対方向に走り出す。

 

「天童式戦闘術……」

「優磨さん!!!!離せぇええええええ!!!!」

 

蓮太郎の声を背に彰磨は跳躍……

 

「一の型三番……」

 

脳裏に浮かぶは走馬灯……楽しいこと……悲しいこと……全部が彰磨の脳裏をかける。

 

(蓮太郎……木更……翠……去らばだ!!!!)

 

轆轤鹿伏鬼(ろくろかぶと)!!!!【(かい)】」

 

彰磨の拳がアルデバランと激突……その衝撃はアルデバランの内部を駆け回りそのまま爆弾にも届く……

そして次の瞬間耳を劈く爆音共に爆発した……

 

 

 

 

「はっ!」

 

蓮太郎はベットの上で目を覚ます。

 

「里見くん!」

「里見さん!」

「蓮太郎!」

 

木更、ティナ、延珠……他にも優磨と彰磨を除いたアジュバンドのメンバーが居た。

 

「戦いは!?」

「アルデバランが死んだあと蜘蛛の子を散らすように逃げていったわ……更に代替モノリスも完成して穴も塞いだわ……でも彰磨兄さんは……」

「っ…!」

 

そこに優磨が入ってきた。

 

「目は覚ましたか?」

「っ!てんめぇえええええええ!!!!」

 

蓮太郎は義手がない状態のままベットから飛び降りると優磨を思い切りぶん殴った。

機材を滅茶苦茶にしながら吹っ飛ぶと蓮太郎は優磨に馬乗りになる。

 

「優磨兄!!!!」

 

他の面々も蓮太郎を止めに入ろうとしたが優磨が手で制する。

 

「ラァ!ラァ!ラァ!」

 

ガスッ!と殴る度に音がする。

更にメキャ!っと言う音がした。恐らく拳が砕けたか……

 

「はぁ……はぁ……」

 

蓮太郎は血が滴る手をブラリと下ろす……

 

「言えよ……なんか言い訳してみろよ!」

 

蓮太郎は叫ぶ。

 

「何であのとき見捨てたぁあああああああああああ!!!!」

「……すまん……俺のせいだ」

「っ!……そうだよ……あんたが!」

 

蓮太郎は拳を振り上げるがそこで止まる……その代わり落ちてきたのは涙だった……

 

「分かってんだ……あんたは悪くない……悪いのは俺だ……ごめん……俺が……」

「お前は悪くねぇよ」

 

彰磨は笑って逝った……ならそこに誰が悪いなどと言うのはない……

 

「お互い長生きしようや」

 

彰磨の分まで生きる……そう言葉裏に込められた意味を汲み取った蓮太郎は涙を流しながら頷いた……




結構駆け足で終わらせちゃったかな……
でも大丈夫だ。問題ない。

と言うわけでアジュバンドも終わりました。次回、遂に虐殺事件と言うか木更闇が登場して翠と話してこの章も終わりです!

まあ彰磨は一度表舞台から退場しましたが翠はこれからも出てきます。

さて、次章からは遂に逃亡編……優磨達がどう絡んでいくのか……そして五翔会にいる優磨とは何かしらの因縁がありそうな楓の少し出ます。
では皆さん。また次回で~
ps.活動報告の方でアンケートやってます。出来れば御協力いただけると嬉しいです!


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第24話

純和風の畳張りの道場がある。

そこの看板にかいてあるのは天童流……その中には刀を横に置いた木更……更に蓮太郎、延珠、ティナ、優磨、夏、春、夏世、そして新たに優磨が引き取った翠が後ろに鎮座していた。だが皆緊張した面持ちだ。

 

そこに人が入ってきた。

 

「木更……」

 

憎しみと恐れを込めて彼女を呼ぶ男……それは、

 

「お久し振りですね。和光お兄様……」

 

 

 

 

 

 

天童 和光……木更の異母兄に当たり天童式神槍術の免許皆伝……更に現在は国土交通大臣だ。テレビでも時々見る。和光は蓮太郎の手に巻かれた包帯を見て少し眉を寄せてから、

 

「持ってきたんだろうな?」

「ええ……」

 

木更は書類を投げ手渡す。それを血走った目で和光は見ると、

 

「どこで見つけた」

「使えるものは何でも使うのが信条ですから」

「く……」

憎々しい目で和光は木更を見る。

 

「余り良い趣味とは行けませんね。モノリスのバラニウムに別の金属を混ぜて上前を跳ねるとは……お金に困ってるとは思えませんが?」

「分かっていないな木更……政界なんてものは金が全てだ。双子の処女と3Pがしたい。セルフの殺人がしたい。純粋に金を要求するものもいる。だがそれが現実だ。金はあればあるほど良い。そうすればのし上がれる」

 

蓮太郎はそれを聞いて胸くそが悪くなる。

 

「ん?誰だお前は」

 

優磨は今まで閉じていた瞳を開ける。

 

「今回の立会人の牙城 優磨だ」

「牙城?」

 

どこかで聞いたことがあると行った感じだが今は関係ない。

 

「ですが和光お兄様、あなたのせいで今回の戦いが起きました。そのせいで多くの人も死にました」

「計算では三十年は大丈夫だったんだ!現にこの十年は問題なかった」

「だけどアルデバランには意味はなかった」

 

和光は息を詰まらせる。

 

「もういいでしょう」

 

木更は刀を持つ。

 

「ち、かずみ!槍だ!」

 

かずみと呼ばれた女性は槍を和光に渡す。

 

「二人とも、最後に聞かせてくれ!この戦い、本当にやらなくちゃいけないのか!?天童流の免許皆伝者同士の戦いには興味がある。だけどそれは真剣じゃなくて木刀や竹刀を使ってやるべきじゃないのか!?」

「蓮太郎!」

 

ついに耐えられなくなって蓮太郎が叫ぶがそれを優磨が止める。

 

「もう止まらん」

「その男の言う通りだ蓮太郎。この女はここで始末しないと秘密をしゃべる」

「そうよ里見くん……やっと追い詰めたのよ……ここで始末するわ」

「……………」

 

蓮太郎は歯を噛みしめる。

それから優磨は二人の間に入った。

 

「最後に聞く……この場で起きたことは例え死人が出たとしても法の元に出さない……それで良いんだな?」

「ああ、立会人のかずみも了承している」

「ええ、立会人の里見くん了承しているわ」

 

優磨は最後に目を閉じ……開いた……

 

「死合……開始!」

 

 

戦いの直後は二人は膠着状態になった。それはそうだろう。少なくとも手の内はかなりバレてる筈だ。

 

「ちっ」

 

和光は槍を構え直す。名は天童式神槍術【八面玲瓏の構え】……心にわだかまりを捨て空のように澄み切った境地になることによっておこなう天童式神槍術の攻防一体の構え……

それを見ると木更は薄く笑った。

 

「余裕のつもりか?」

「ええ、和光お兄様……あなたは変わらない……」

 

そう言って木更は体を半身にして腕を振り上げる様に構える。

 

「天童式抜刀術【竜虎双撃の構え】……天童を葬るために作り出した私のオリジナルです」

「ば、馬鹿な!技の創出は助寄与師匠から禁止されている!」

「馬鹿はお兄様です。免許皆伝になれば免除されるのですよ?」

「なっ!」

 

和光は距離を取った。始めてみる構え……ならば迷う暇はない!

 

「天童式神槍術 三の型一番!天子玄明窩(あまこげんめいか)!!!!」

 

鋭い踏み込みからの突き……だがそれよりも早い木更の一撃が放たれる。

 

「ふん!」

 

だがそれを躱して槍を突き出す……だがなぜか踏み込めずまるで段差を踏み外したかのように前に転んだ。

 

「え?え?」

 

和光は意味がわからないようだ。

 

「天童式抜刀術 零の型三番……阿魏悪双頭剣(あぎおそうとうけん)……神速の2連斬……2撃目は音速を越えます」

「イギャアアアアア!!!!足がぁああああああ!!!!!!!!」

 

ゴトっと和光は空中から落ちた自分の足を見て悲鳴をあげた。

見ていた者達も驚愕する。

 

「天童式抜刀術 零の型一番…螺旋卍斬花(らせんまんざんか)……血止めをしました。まだあなたに聞くことがあります。お父様とお母様を殺し、里見くん大ケガをさせた事故……あの時に関わったのは誰です?」

 

木更が冷たい声で聞くと和光は震えながら……

 

「け……計画に加担していたのは私、天童日向、天童玄琢、天童燳敏、天童菊之丞……その五人……だけだ」

 

震えながら和光は答え、木更は冷たい目を向ける。

 

「少ないのですね。何故あんな事を?」

「それは……お、親父殿が天童の闇を告発しようとしたからだ!天童は財政界にも重鎮を置く家……無論のし上るために汚いことにだって手を染めた!それを親父殿は突然偽善に目覚めたのか告発すると言い出したんだ!だから殺すしかなかった!!!!」

「仮にもあなた方の父親なのによくも殺せたものですね」

「俺達が真に忠誠を誓うのはお爺様だけだ!それにあの男は母上が死んだというのにすぐに妾腹と結婚してお前を……っ!」

 

和光はしまった!と顔を強張らせたが木更は表情を変えない…

 

「そうですか……行くわよ、皆」

 

木更が言うと皆は立ち上がって出た……

 

「良かったよ木更さん。殺すんじゃないかと……」

 

外に出たあと蓮太郎は話しかけるが……

 

「ふふ、里見くん……私がそんな慈悲を与えたと思う?」

『え?』

 

何となく気付いていた優磨以外全員が声を漏らした……

 

「天童式抜刀術 零の型一番……螺旋卍斬花(らせんまんざんか) 開花(オープン) 復讐するは、我にあり!」

 

次の瞬間道場の中で何かが爆ぜた音がし……かずみと呼ばれた女性の悲鳴が響いた……何が起きたか……そんなものは分かりきっている。

 

「ふふ……アハハハハハハハハハハ!!!!」

 

木更は笑っていた。

 

「凄いでしょう?里見くん!私、遂に一人討ったのよ?どうですか?優磨さん。私凄いでしょう?」

 

木更の笑みは綺麗だった……人を殺した人の目ではない。

 

「後四人……」

「ふざけんなよ木更さん!あんた狂ってるよ、絶対間違ってる!あんなのただの虐殺だ!一方的な処刑じゃねぇか!」

「でもね里見くん……だからこそ私は裁けた!悪を裁けるのはそれを上回る悪だけ!」

「な……んなわけないだろ!」

「いいえ、あるのよ。貴方は蛭子影胤も殺しきれなかったし、斉武宗玄も殺せなかった!でも私は殺せた!これが何よりもの証拠よ。悪は強い……正義は必ず勝つ?ええ、勝つでしょう。でも裁けるのは悪だけよ」

「違う!それは……」

「はいそこまで!」

 

遂に優磨が口を開いた。

 

「はっきり言って俺はこの件に関して完全なる部外者だ。だから極力口は挟まないつもりだ。復讐は何も生まないと言うがそんなもん関係者にしてみれば偽善の言葉だ……だが木更ちゃん……悪が裁くってのは違う。裁くのは善でも悪でもない。人だよ」

「……………」

「裁くのは人でしかない。殺すと言う裁きを与えるのも生かすと言う裁きを与えるのも人さ。少なくとも俺は君を止める権利はない。だがもしその刃が外に向いたとき……」

 

彰磨との約束もある……と内心呟きながら……

 

「俺が本気で相手する」

「……そうですか」

 

木更は背を向ける。

 

「じゃあ先に帰るわね」

 

そう言って木更は走っていった。

 

「優磨さん……」

「さっき言った通りだ……悔しいが俺には止める権利がない……止めてもあの子の心に響かない。でもお前は違う」

 

優磨は蓮太郎を見る。

 

「何かあったとき……木更ちゃんを止められるのはお前だけだ……」

 

優磨は煙草に火をつけた。

 

「俺にできるのはお前の悩み一緒に考えることぐらいだよ」

「じゃあ……俺どうしたら良いんでしょう」

 

悪……善……蓮太郎は考えても思い付かない難題だ。

 

「悪も善も定義が曖昧だ。だからこそ……お前の中の正義を信じてみろ。やれるだけやってみれば良いんじゃないか?少なくともお前のやって来た事を否定するには少し若すぎるしな」

「そう……ですね」

「でもさっきの木更怖かった……」

「あれが闇か……」

 

優磨の呟きはタバコの紫煙と一緒に消えていった……

 

 

 

 

 

次の日……爆発跡地にマローダーが停まった。

 

「着いたぞ~」

 

優磨が降りるとそこに夏達が降りる。

花を置くと皆で手を合わせた。

 

「よし、行くか」

 

夏、春、夏世は車に戻るが翠は戻らない。

 

「翠?」

「彰磨さんは私を孤独から救ってくれました……私はずっと独りぼっちで……こんな耳をしてるからなんですけど……私は彰磨さんに何か返せたんでしょうか」

「返せてたさ……死ぬ直前までお前の事を考えていた……自分の孤独を塞いでくれてたって言っていたよ」

「……」

「さ、新しい家に帰ろうか」

「本当に良いんですか?」

「ああ、帰るぞ」

「……はい」

 

優磨が手を出すと翠はそれをとる。

 

「あー!ズルい!」

 

夏達が優磨に抱きついてくる。

 

「全く……」

 

優磨は全員抱き上げる。

何時までこの幸せが続くのかわからない……でも今は……

 

「よし帰るか!」

「うん!」

「はい!」

「了解!」

「ひゃい!」

 

この一瞬の幸せが永遠に続きます様に……

 

 

 

 

 

 

 

「う……」

 

彰磨は目を覚ました。

 

「あら、やっと目を覚ましたわね」

「お、前は……?」

「私は爪樹 楓……あなた自分の名前言える?」

「な…ぎ沢……彰磨……」

「よし言えるわね」

 

楓が顔を向けた瞬間彰磨は驚愕した。

 

「その目は……」

 

楓の右目は幾何学的な模様が……左目は蒼く光っている……

 

「ふふ、ごめんなさいね。驚かせて」

 

楓は力を解除したが間違いなくあの目は……

 

「さ、一つ取引といきましょう」

「取引?」

「今あなたは片目は潰れ、腕と足を片方ずつ失い全身の6割が火傷……でも生きてるわ。そこであなたにチャンス……もし生きたいのなら……一つ賭けをしましょ」

「賭け?」

「そう、生きるか死ぬかの大博打をね」

 

楓は笑う。

だが彰磨の目には手の甲に付けられた4枚羽の模様が印象に残った。




やった!遂に終わったよ。
次から逃亡編です。優磨の介入でどうなることやら……と言うわけでまた次回。

活動報告でアンケートやってます。ご協力お願いします。


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第四章 逃亡激戦編
第25話


「うーん……」

 

優磨は今チラシを見ていた。

 

「何してんの?優磨兄」

 

夏が覗いてきた。

 

「ん?ああ、引っ越そうかと思ってさ」

「ええ!何で!?もしかしてそんなに近隣住民に迷惑かけていたんですか?」

 

春が驚いて翠とやっていたトランプタワーを崩した。

 

「いや、俺の居心地が悪くて……」

「何でですか?」

 

そこに優磨の部屋から本を持ってきた夏世が聞く。最近夏世はいろんな本を読んでおり優磨の部屋から小難しい本を引っ張り出してきては読んでいる。

 

「いや、最近近隣の方から幼女を多数連れ込む変人判定されて来ていて……」

『あぁ……』

 

それに純粋に流石にこの大所帯では狭くなってきていると言うのも大きい。思いきって事務所を開くついでに家でも買うかと思っていた。だがそこにチャイムが鳴る。

 

「はいはい」

 

するとドアの前に居たのは……

 

「木更ちゃん?」

「こんにちわ優磨さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

和光との一件以来会うのは久しぶりの木更にお茶を出すと、

 

「どうしたんだ?急に」

「あ、はい……その……」

 

木更は少し迷う。希望で夏たちはちょっと出ていって貰っている。

 

「その……」

「どうしたんだよ。何でも言ってみな。力になれるかもしれないぜ?」

「そ、そうですか?でしたらですね……」

「おう」

「お見合いしません?」

「………は?」

 

優磨は唖然とした。確かにこのままでは行き遅れ確定の状態ではあるがまさかこんな子供に心配されるとは……

 

「あ!間違えました!ちゃんと最初から説明するとですね……私は今度お見合いすることになりました」

「なぬ!」

 

流石に驚いた。

 

「その際に付き添う人が欲しいんですが……」

「そう言うのって蓮太郎が行くんじゃ……」

「……です……」

「え?」

「彼……その日補習です……」

「……………………………」

 

よりによって恋い焦がれてる人の見合いの日に補習かよ!と叫びたかったが優磨は飲み込んだ。

 

「さ、サボれば?」

「それをサボると進級出来なくなるそうです」

「おいおい……」

 

あいつ結構学業ヤバイんじゃねぇか?

 

「それで知り合いに大人の人といったら優磨さんしかいなくて……」

「……はぁ、分かったよ……何時だ?その日に行ってやるよ」

「ありがとうございます!」

「そう言えば何て言うやつとするんだ?」

「櫃間 篤郎と言う人です」

「たしか今の警視総監……」

 

結構歳の差があるような……と言う優磨の突っ込みは心の中だけにされた……

 

 

 

 

 

それから三日後……優磨はブラックスーツとネクタイを着ける。

 

「じゃあ行ってくるわ」

「行ってらっしゃーい」

 

だが夏たちは知らなかった……これから起きる事件のことを……それにより優磨と別れ離れになることを……

 

 

 

 

 

 

 

 

「お久し振りです。木更さん」

 

会って最初の言葉である。

 

(これが櫃間 篤郎か……)

 

優磨は木更の隣で櫃間を見る。

 

(成程……中々のイケメンだし頭も良さそうだ……でも)

 

優磨は目を細める。

 

「いや、木更さんは相変わらず美しい」

「いえ……」

 

木更いわく自身が天童を出奔したさいに櫃間との縁談は一時的に破談。だが最近になって櫃間の方から優磨の後ろにいる紫垣(しがき) 仙一(せんいち)に連絡が来たらしい。

第一印象は良いかもしれないが……

 

(なんつうか……本心が見えねぇ……)

 

何と言うか一見いい人に見えるのだがまるで本心を隠すための演技をしてるように見える。

少なくとも友達にはなれそうにない。

 

「じゃあ後は若い二人に任せましょう」

「ですね」

 

仙一に言われ優磨は立ち上がると退出した。

 

 

 

「最初は蓮太郎が来ると思っていたので驚きましたよ」

「蓮太郎は勉学もあるのでね」

 

鯉を見ながら仙一と優磨は話す。すると仙一の電話が鳴る。

 

「おっと失礼」

 

仙一が何処かに行くと丁度木更達も出てきた。邪魔にならないように別の場所に行こうとしたら不思議なものが目に入る。

 

(じ、自立移動する置き岩?)

 

その岩はそのままズズ……っと影に隠れた。

 

「はぁ……」

 

優磨はその方に向かう。誰だか何となく想像は付いた。

そして影に入ると……

 

「なにしてんだよ蓮太郎」

 

岩がピクッと動いた……

 

「……仕方ねぇ警備員」

「まてまて!」

 

蓮太郎が岩をひっくり返して出てきた。岩から生まれた岩太郎……もとい、蓮太郎の登場である。

 

「そんなに気になるんなら補習うける事態になるんじゃねぇよ」

「う……」

「しかもお前木更ちゃんから聞いたがお見合いすることに反対しなかったんだろ?」

「ぐ……」

 

まあ仕方ないことか……

 

「あ、キスしてる」

「っ!」

 

馬鹿だね。この角度じゃ木更たちは見えるはずもない。のだが覗いた蓮太郎が固まった。

 

「おいどうしたんだよ」

 

見てみたら二人がキスする直前……ええっ!

だがその前に木更が仕切り板宜しく手を入れた。

 

「何だ良かったな蓮太郎……あれ?」

 

いつの間にか蓮太郎は消えていた。

 

「あれ?」

 

優磨は更に首をかしげることになった。

 

 

 

 

 

 

 

それから一時間程後にお見合いは終了し優磨はある場所に向かっていた。あの男の行き先など一つくらいなものだろう。

 

「菫、入るぞ」

「ん?おお、優磨くん。里見くんがさっきから負のオーラでこの空間を侵食してくるんだ。必死に念仏唱えて対抗してるがもう無理だ。君も手伝ってくれ」

 

中には机に突っ伏す蓮太郎とそれを遠くから見ながらコーヒーを淹れている菫がいた。

 

「念仏より効く言葉をかけてやる。木更ちゃんはキスしてないぞ」

「っ!本当か!」

「あ、ああ……キスする前に手を入れてな」

「そ、そうだったのか……」

「どうせそんなもんだろうとは思っていたけどやはり木更絡みか……」

 

菫は呆れたように言う。

 

「全く、いい加減にしたらどうだい?木更みたいな超優良物件が残っていた方が驚きなんだよ?」

「あんた俺を追い詰めて楽しいか?」

「そりゃあもう楽しいね」

「こんの外道!」

「今更だね」

 

菫は蓮太郎と優磨にもコーヒーを渡した。

 

「でも真剣な話どうするんだい?少なくとも君は木更が好きなんだろう?」

「それは……」

「木更の幸せ願って身を引く~何て言うなよ?お前そんな物分かり良い人間じゃねぇだろ。それにお前はやることがある……違うか?」

「いや……」

 

和光との一件は今だ記憶に新しい……決めた筈だ……あの時また木更が天童殺しの木更になったとき……止めると……

 

「分かってるけどさ……俺と木更さんってどんな関係なんだろう」

「主人と下僕」

「雇い主とパシり」

「だよなぁ……」

 

菫と優磨の言葉に蓮太郎は更に机に体重を掛ける。

 

「まあ……一つ言っておくとな?止めて欲しかったんだそうだぜ」

「木更さんが?」

「ああ」

 

言うべきかどうか悩んだが言っておいた方がいいだろう。

 

「そうか……あ、そうだ」

 

蓮太郎がなにか思い出したようだ 。

 

「ブラックスワンプロジェクトって知らないか?」

「いや?」

「ブラックスワン……ねぇ。聞いたこともないよ」

 

黒い白鳥……どっかの理論だったかのような気がする。

 

「じゃあ……【新世界創造計画】は?」

 

菫と優磨の表情が固まった。

 

「お前どこでそれを……」

「ある筋の情報だよ。知ってるんだな?」

「まあそろそろ話しておいてもいいだろう。里見くんや蛭子 影胤……さらにティナちゃんのように新人類創造計画は一部を機械化させたもの……だが新世界創造計画はその先……体の殆んどを機械化させた兵士だ」

「体の殆んどを?」

 

蓮太郎は優磨を見る。

 

「その通りだ蓮太郎……俺は唯一の新世界創造計画の成功例だ。まあ俺以外にこの手術を受けたものはいないけどな」

「理由は新人類創造計画ですら一人100億円前後掛かる……それが全身だ。いったいどれくらい掛かるか想像に難くないだろ?更に……全身の機械化など成功率は0に近い」

「そうだったのか……」

 

すると蓮太郎は時計を見ると立ち上がる。

 

「これから人と会うからまた」

「ああ、気を付けろよ。最近機械化兵士の残党が刈られると言う事件も起きてる」

「そうなのか?先生」

「ああ、私の担当した子もいた。君ももしかしたら……」

「わかった気を付ける。じゃあな」

 

そう言って蓮太郎は出ていった。

 

「また事件の予兆か……」

 

優磨はコーヒーを口にいれた。

 

 

 

蓮太郎はある廃ビルに入る。

 

「おーい、来たぞ」

 

するとピシャっと何か液体を踏んだ。

 

「え?」

 

蓮太郎の視線の先に人が倒れている。待ち合わせをしていた水原 鬼八だ。

 

「大丈夫か!」

 

駆け寄るが脈はない。

 

「くそ!」

「居たぞ!」

「なっ!」

 

いきなり蓮太郎は組抑えられる。

 

「殺人の現行犯で逮捕する!」

「んな!待て!違う!!!!!」

 

だが蓮太郎の主張は覆ることなくそのまま連行された。

 

 

 

蓮太郎が逮捕された頃……優磨は道を歩いていた……少し遅くなってしまった……なんか買っていくか……

因みに皆好きな食事の嗜好が異なり、夏は貝とか好きで春はお肉(しかも内臓)夏世は魚で翠は鰹節……モデルが嗜好に影響すると言うのは聞いたことがないが今度菫に聞いてみよう。

だが、

 

(さっきからつけられてるな……)

 

優磨は走り出すと一気に路地に入る。そして……

 

「誰だ!」

 

優磨が鋭く叫ぶと人が来た。

 

「はじめまして、巳継 悠河と言います……五翔会の者です」

「五翔会?」

 

優磨は初めて聞く言葉に眉を寄せた。

 

「ええ、人も国境も越えた組織ですよ。実はですね、貴方を引き入れるように上から通達です。ご同行願いますよ」

「ふざけんな。用事あるなら自分で来いとその上に言っとけ」

 

優磨が言うと……

 

「めんどくせぇな……やっちまおうぜダークストーカー」

「っ!」

 

突然虚空からナイフが現れ優磨を狙う。

 

「ちっ!」

 

咄嗟に高周波ブレードで弾くが後ろからガチャン!っと言う音が聞こえた……

 

「がっ!」

 

次の瞬間凄まじい衝撃が背中に走る。

 

「が……はぁ……」

 

壁に手を付き立ち上がる……だが、

 

「うら!」

 

壁が突然吹っ飛び優磨を中から出てきた人間が蹴っ飛ばす。

 

「ぐ……あ……」

 

そこに追い討ちを掛けるように狙撃弾が襲い掛かる。

 

「ぐ……」

 

優磨はふらつきながら一度距離を取るため逃げる。

 

(クソッタレ……死んじまう……)

 

だがその先に人形を抱っこした女の子がいた。

 

「死んじゃえ」

 

ホイールに刃が付いた何かが優磨を狙う。

 

「くっ!」

 

高周波ブレードで止めるが押される。

 

制限(リミッター)……」

『させるかよ……』

 

そこに凄まじい威力の拳と蹴りが優磨をぶっとばす。

 

「がっはぁ!」

 

優磨は地面を転がる。

 

「ぐ、う……」

 

優磨が立ち上がると目の前に巳継 悠河がいた……

 

「くっ!」

 

優磨は拳を握って振りかぶるがそれより早く悠河の拳が添えられた。

 

「さようなら……ヴァイロケーション」

 

ズン!っと内蔵が滅茶苦茶になるような衝撃が優磨の体を駆け巡る。

 

「ごふ!」

 

優磨は膝をつく……

 

「呆気ないもんだね~」

「さ、最後の仕上げだ」

 

巳継達は筒のような銃を構える。

 

「では、来世で会いましょうか」

 

シュポポ!っと発射されたのは炸裂弾……巳継達が持っているのはグレネードランチャー……それに気づいたときにはすでに発射されており……よしんぼ気付いていたとしても動けなかった優磨には関係のない話だった。

 

(夏……春……夏世……翠……菫……由美ちゃん……榧ちゃん……新一……風深ちゃん……蓮太郎……木更ちゃん……延珠ちゃん……ティナちゃん……)

 

優磨は知り合いやかけがえのない大切な人たちのことを思い浮かべながら爆炎に包まれた……

 

 

 

【こちらネスト。牙城 優磨は始末したそうだ。腕一本残してチリらしい】

「そうかそうか、あいつは俺をうさん臭がっていたしな……良かった」

【しかし腕一本残していいのか?】

「下手に何もでないと探そうとするだろう?だが完全に死んだと腕を見せてやれば諦めるさ、ネスト」

【まあいい。櫃間……あんたの計画も順調か?】

「ああ、天童も木更もすべて俺のものさ……」

 

下品な笑みを浮かべた櫃間は電話越しにも聞こえる笑いを漏らした……




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第26話

短めですが更新です。


菫の研究室では哀しみの空気が流れていた。

 

「事件の後……これだけが残っていたらしい……」

 

菫が顎でしゃくった先には義手が一個……間違いなく優磨の物だ……

 

「そんな……」

 

由実はイヤイヤと首を横に振る。

 

【どうせあれやろ?この後「うっそー!」とか言うて出てくるんやろ?優磨も悪趣味な騙しをするもんやな……なあ、そうなんやろ?】

 

新一が茶化すように言う……だがタブレットを叩く手が震えているのは見え見えだ。

 

「なんで……」

 

木更は俯いてしまう。蓮太郎は逮捕され、ティナも警察に連れていかれた……更に優磨も死んだと伝えられた……頭が真っ白だ。

 

『………………』

 

そして夏達はなにも言葉を発しなかった……それもそうだろう……ショックがでか過ぎた……頭の処理が追い付かない。

優磨が死ぬ……そんなことはないと四人とも思っていた。

 

「後、正式な通達が来ると思うが君たち四人はプロモーターが死んだことでIISOにまた引き取られる……そうしたら恐らく……」

 

四人はバラバラになる……と続けた。

 

「荷物だけは……纏めておいてくれ……」

 

菫に言われるが頷く力も夏たちにはなかった……

 

強い悲しみは涙すら流すことを許さない……

 

 

 

 

 

 

 

夏達は帰ると言葉も発せずにそれぞれの好き場所に座った……

 

 

夏はソファーにいた……優磨の腕枕で寝たり……ここに座ってゲームやったりした。

格ゲーしたりして……負けそうになって優磨に現実で攻撃加えたり……怒られたり呆れられたり褒められたり笑ったり……

 

(何で死んじゃうんだよ……優兄……)

 

 

 

春は自室でベットに居た。部屋には優磨が買ってくれた服があった。思い出があった……

テストで百点とって誉められて頭を撫でられるのが好きだった……凄いな春って言われるのが好きだった……

 

(もっと誉めて欲しかった……優磨兄様……)

 

 

 

夏世は優磨の自室に居た……ここで本を読むのが好きだった。

優磨は意外と読書家でいろんなジャンルの本があった……でもあっという間に読んでしまって今度一緒に買いに行く予定だったのだ。

 

(優磨兄さんは嘘つきです……何で死んじゃうんですか?……ねぇ!)

 

 

翠はリビングにいた……

ここで包丁やフライパンと料理本を片手にまるでガストレアステージⅤと相対してるような顔で食材とバトルを繰り広げる優磨を見ているのが好きだった。

 

(また……私は無くしてしまった……)

 

 

 

新一は自分の事務所に帰ると机を蹴っ飛ばした。

 

「新さん……」

 

風深はそれを不安そうに見ていた。

 

(ふざるんやない……あの殺したって死なんようなやつが死ぬやと……?くそ!)

 

 

由実は自室のベットの中に居た。

時々すすり泣く声が聞こえる。

 

「…………」

 

榧はそれをドアの前で聞いていた……

 

(牙城さん……あれだけの人に好かれていて……なぜ死んだんですか?)

 

 

 

 

皆が帰った後……菫は煙草に火を着けた。無論彼女は喫煙者ではない。

だが……いつも優磨が吸っていた銘柄のタバコを見つけ買ってきたのだ。

 

「げほ!げほ!全く……何が楽しくてこんな煙吸っていたんだろうね」

 

菫はぶつぶつ言うが口から取ることはない。

 

(最低な男だ……私に二度も失う哀しみを味あわせるとは……ね……とは言え、このままここに居るわけにも行かないか)

 

 

 

 

 

木更は……警察署に面会に来ていた。

 

「よう木更さん」

 

すこし疲れたような表情だが基本的に蓮太郎は元気そうだ。

 

「元気そうね」

「まあな。拘置所は三食昼寝付きだ。逆に健康になるぜ」

 

それから蓮太郎は座る。

 

「それで……何かあったのか?」

「え?」

「いや、なんつうか落ち込んでる感じがあったんだ。櫃間に何かされたのか?」

 

木更は首を横に振る。

 

「里見くん……心して聞いて」

「あ、ああ」

「……優磨さんが死んだわ」

「…………すまん木更さん。ここで贅沢に暮らしたら耳が悪くなったみたいだ……もう一度頼む」

「だから……優磨さんが死んだわ」

 

蓮太郎は目を開く。

 

「嘘だろ?あの人殺したって死ぬような人じゃねぇだろ?」

「嘘じゃないわ!腕一本残して爆死したのよ……」

「…………殺ったのは誰だ?」

「分からない……ただ手口から見て複数人……さらに腕は立つ筈よ」

 

それを聞きながら蓮太郎は少ない脳みそをフル回転させる。

 

「もしかしたら……」

「え?」

「俺を嵌めた奴と同じか……」

「どう言うこと?」

「現場には俺のXD拳銃が落ちてた……しかも俺がその場に居たから俺が犯人扱いされてんだけど実際は違うんだ……盗まれていたんだよ」

「っ!じゃあ……」

「それにタイミングが可笑しいだろ?俺が逮捕された日に優磨さんが殺された……しかも聞いたけどティナも捕まったんだろ?」

「え、ええ……この間の狙撃事件の犯人だって……」

「……タイミングから考えてもきっと繋がってるはずだ………よし」

「何をするの?」

「悪いけど言えない。ただ木更さん……」

 

蓮太郎は何時にない真剣な目で……

 

「俺はやってない……絶対に無実を勝ち取ってティナの無実も取って帰ってくる……」

「え?」

「多分相手は正攻法じゃ無理だ。だから少し強引に行く。多分相手もそっちの方が尻尾を出すはずだ」

「ちょっと里見くん?」

「後さ、夏たちに手紙書くから届けてくれ……後、延珠に腹出して寝るなって」

「う、うん」

 

矢継ぎ早に言われ木更は頷くしかない。

 

「里見 蓮太郎!時間だ」

 

刑務官に連れていかれる。

 

「あ、最後に木更さん!」

「え?」

「本当は見合いなんかして欲しくなかった。下らない意地で良いと言ったけどさ、本当は嫌だったよ」

 

そう言って蓮太郎は連れ出された。

 

「……馬鹿……」

 

木更の呟きは誰にも届くことはなかった。

 

 

 

 

その夜……

 

夏達は今だ最初に陣取った場所から動くことはなかった……

朝から何も食べていない……お腹は空いた筈なのに空腹を感じない。

 

(そう言えば注射まだしてなかったな……)

だが別に良いか……と夏は動かなかった。優磨がいない……なら別に生き長らえる必要もない気がしていた。

だがトイレには行きたくなった。

 

「……………」

 

夏はトボトボとトイレに入る。

トイレには優磨と皆で撮った写真が飾ってあった。

 

「優兄……」

 

会いたかった……会ってその胸に飛び込みたかった……その願いがもう二度と叶うことはないのは分かってる。

 

(飛び降りれば……死ねるかな?)

 

思考がどんどん行ってはいけない方向に行く。

 

「何だ……優兄に簡単に会えるじゃん……」

 

フラりとした足取りでベランダに向かう。

 

(優兄……今行くから……)

 

ベランダに立つ……外は生ぬるい風が包んでいた……

 

(はは……行ったら怒られるかな……でも……良いか……)

 

夏はベランダを乗り越えるとそのまま重力に身を任せ……

 

「はいそこまで」

 

る前に誰かに後ろ首を捕まれ戻された。

 

「え?」

「全く……何やってるんだい?」

「菫……何でここに」

「普通に入ってきたんだよ。全く不用心だね~鍵も掛けずに」

「………………」

『あ………』

 

すると丁度他の面々も来た。

 

「お、丁度良い。少し話そうか」

 

菫は珍しく優しげで……暖かな声で言った。




多分次から大きく動き出します。

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第27話

「いやぁ、優磨くんと付き合いは長かったけど家に来るのは初めてだね。何時も彼の方から来てたから……」

 

菫は優磨の家に常備されているインスタントコーヒーを飲む。夏達もジュースを菫が出して置いていたが手を着けない。

 

「……夏ちゃん。何であんなことをしようとしたの?」

『え?』

 

夏以外の三人が驚いたように見る。

 

「この子ベランダから飛ぼうとしたんだよ?私が引っ張ってこなきゃこの高さだし死んでいたね」

「行けると思ったんだ……」

「優磨くんのところにかい?」

 

夏は頷く。

 

「安直だねぇ……でも死後の世界があるとしたら確かに会えたかもねぇ……でもそれは辞めた方がいい。優磨くんに怒られるよ」

「それでもいい……それでも会いたいよ……」

 

他の三人も俯いてしまう。共感できてしまったのだろう。

 

「駄目だよ。それはいけないね」

「菫は会いたくないの!?」

「会いたいに決まってるだろ!!!!!」

 

夏達は金縛りに遭ったように固まる。あの菫が……大声を出した?

 

「言っておくが……あいつとの付き合いは君たちより長いんだ……あいつが死んで何ともないと本気で思ってるのか?恨みたいくらいだよ……こんな気持ちにさせるようなあいつをね……でも分かってるから……あいつが悲しんでもらって嬉しいようなやつじゃないって」

「そんなの僕たちだって分かってるよ!!!!!でも僕たちはそんな風に割りきれないよ」

「誰も割り切れとは言ってないよ」

『え?』

「それで言ったら私だって全然割り切れてないよ。でもね君達……私たちはまだ生きてる……生きてるって事は前に進まなくちゃいけない。そうする義務があるんだよ。そして前に進んで……死んだ人の分まで生きるんだ……そうしなきゃいけないんだよ」

 

菫は……過去に恋人を失ったとき夏のように自暴自棄になり壊れた……だが優磨が……一度拒否した光にまた地獄の縁から引き上げてくれるお節介のお陰で今に至る。

 

「それに……君達はまだやらなきゃいけないことがあるだろう?」

『え?』

「このままでいいのかい?優磨くんが殺られて……このまま引き下がるのかい?なら優磨くんが笑ってくれる形で決着を着けるべきなんじゃないのかい?」

 

夏達はハッとする。そうだ……まだ犯人は生きてる。だが菫は敵を獲れとは言っていない。決着を着けるべきなんじゃないのか?っと言っている。

そうだ……犯人にはそれこそ優磨の墓前で土下座させなきゃならない……それができるのも自分達でしかないのだ。

 

「殺しは駄目だよ?優磨くんはそんなの望まない。犯人殺して死人が生き返るならこの世は殺人まみれさ」

 

夏達は頷く。その眼には先程とは違い、強い意思があった。菫がよく知る眼と同じ……

 

「それでいい……」

 

最後に菫は四人を抱き締めた。

 

「辛いだろう……悲しいだろう……犯人を見たら憎しみが湧いて殺したくなるかもしれない。いや、なるだろう。だがそれでも殺すな。憎しみは原動力になる。だがそれで戦うな。十歳の女の子に言うのは酷だがね……憎しみや哀しみは何も生まないと言うが違うよ……生んじゃならないんだ……生まれたそれはきっともっと憎しみを生むからね」

 

菫がそういうと説得力があった。

それを聞いた夏達は力強く頷く。

 

「さて、これからどうしようか」

 

菫が呟くとチャイムが鳴った。

 

 

 

 

「まさか木更ちゃんと延珠ちゃんが来るとはね。驚いたよ」

「私も菫さんが来てるとは……」

「妾も驚いたぞ」

 

そう言うと木更は手紙を出した。

 

「なんだいこれ……」

 

菫は見ると眉を寄せる。

 

「うわ、なんだいこのミミズがのたうち回ったようなもう字だけでも呪われそうな不幸の手紙は」

「いえ、里見くんが咄嗟に書いたらしくて……」

「ああ、何か暗号にしたつもり程度の暗号があるね」

「え?」

 

夏達が見てみる。その手紙には、

 

【あー、お前ら。優磨さんが死んで

すごく辛いと思う。でも元気だせ。

にんげん辛くたって生きる事からに

げられないんだ。あの人だって生き

る事をお前たちに望むと思う。

て言うわけだから俺は現在警察に

つかまってるが優磨さんから一人

だち出来るのを祈ってるよ。

えーと……つうわけでじゃあな】

 

『字……汚な』

「木更の通訳無しではアワや読めないところだったね。それにしても……なんと適当な暗号だ」

 

菫は苦笑いした。

 

「ふむ、妾には全くわからんぞ?」

「僕も……」

 

延珠と夏は暗号が分からないらしい。

 

「夏さん。これは暗号の典型的な作り方です。よく警察の方にバレませんでしたね」

「ホントよね」

「よっぽどの馬鹿なんだよ」

 

菫が切って捨てた。

 

「これの頭文字を読んでみたまえ」

『えーと……』

 

【あすにげるてつだえ……】

 

『ああ!』

 

【明日、逃げる、手伝え……】

 

「里見くんからのメッセージだ。明日脱獄するから手伝え……この場合は犯人探しもだ……」

『……』

「やるのか?」

 

四人……いや、延珠も頷いたため五人が頷く。

 

「じゃあ私は……」

「君は事務所の掃除でもしたらどうだい?後、櫃間から情報取れたら取れば良い」

「あ、はい」

「とは言え……バレたら私も無事じゃすまないだろうねぇ」

【ならワイと】

「私に……」

 

全員が声の方を見る。

 

【「お任せあれ】」

「新一に……風深!?」

「木更さんや菫さんの警護は私達がやりましょう」

「盗み聞きかい?」

【んなわけあるかい。ドア空いてたんで入ったら聞こえただけや。風深が偶々力解放しとったからな】

「物は言い様だね」

 

すると風深が鼻を動かす。

 

「ん?木更さんつい先程男の人とお会いしてました?男性用コロンの香りがします」

「う、うん。さっき櫃間さんが急に来てね」

「あと懐中時計とはずいぶん古風何ですね」

「これも櫃間さんに……ってわかるの!?」

「音でわかりますよ~それに時計つけてないですし。どんなのですか?コロンの香りから考えて結構お金持ちですよね?」

「まあ一応警視総監だしね」

 

木更が懐中時計を出した。

「ふむ……確かに安いものでもないがそんな高価なものでもないな……」

「あれ?これ複数人の香りがしますね」

「店の人のとかでは?」

 

夏世が聞くが首を横に振った。

 

「だとしたらもっと多いですよ。人数は三人ですね。あ、木更さんは除外してますよ?」

「三人?随分少ないね」

「あと……何か微かにですけど火薬の臭いです」

「火薬?」

「正確には硝煙の臭いです」

 

警視総監の持ち物から硝煙の香り?

菫や木更に新一や夏世は首をかしげた。硝煙の香りは普通に体に染み付くことはない。余程撃っていれば別だがそんなのは現場の機動隊やSAT……他には民警位だろう。

 

「少し失礼」

 

菫が開いたりして見てみる。

 

「うん……別段仕掛けとかはないかな?」

そう言いつつ叩く。

 

「ん?」

 

何度か叩く。

 

「これは……」

「どうかしたの?」

 

夏が身を乗り出してきた。

 

「何か中に仕込んであるね。何だろう……少し借りても良いかい?」

「あ、はい」

 

菫は懐にいれた。

 

「それにしても子供達は明日行くんだろう?じゃあ私たちは何をしようか」

【別視点から考えるとかか?】

「その視点は?」

「…………」

 

菫はため息をはいた。

 

「まあ色々調べることはある。ここに来るまえに調べておいたが里見くんの事件だがどうも臭い」

「どういう事だ?菫」

「犯人確保から容疑者から被疑者への以降が早い。陣頭指揮を取っているのがなんと櫃間と言う人間らしいよ?」

「櫃間!?」

 

木更が驚愕した。

 

「ああ、だから少し驚いている。どうもねぇ……他にもティナちゃんの容疑の固まる早さとか全部その辺も櫃間が絡んでるらしい」

「どうやって調べてんですか?」

 

夏世が恐る恐る聞くと、

 

「え?警察のデータベースにハッキング」

 

ズコッと全員ずっこけた。よりによって警察にハッキングとか勇気ありすぎである。

 

「足はつかないよ」

「そう言う問題じゃないですね……」

「まあ今は……私たちは少し櫃間の事を調べようか。君達はまず里見くんと脱出したらそうだな……まずは事件の発端の水原 鬼八の事件現場に向かうんだ。そこに何かあるかもしれない」

「分かった」

 

後は……菫達の住み処だが……ここはダメだし事務所や菫の地下室は今回の事件の性質上襲撃の可能性があるし危険……

 

「由美ちゃんの所にでも行こうか」

「でもあの人は……」

「大丈夫だよ。榧ちゃんが何とかしてくれてるさ」

 

菫は笑っていった。完全に他人任せである。

 

 

 

その頃由実は……

 

「食べてください」

「いらない」

 

榧が持ってきた食事を拒否していた。

 

「食べてください」

「いらない」

「食べて……」

「だからいらなもご!」

 

強引に口に入れられた。

 

「全く。ショックなのはわかりますが餓死されては困ります。食べていただきます」

 

そう言って榧は瞳を赤く灼熱させ由実に無理矢理サンドウィッチを口に押し込んでいく。

 

「もごむぐごもご!!!!!」

「さて、後はスープですね」

「っ!」

 

そのまま口に入ってるのに容赦なく流し込むと手で口を押さえた。なので吐き出す訳にも行かず飲み込んだ。

 

「こういう風に食べさせられたくなかったら次から普通に食べてください」

「………榧ちゃんには分からないよ……私の気持ち」

「ええ、分かりませんね。分かろうとも思いませんよ」

「っ!」

 

由実は体を震わせる。

 

「ただわかるのは……いまの由実さんを見たら牙城さんは悲しむでしょうね」

「え?」

「私が知る北美 由実と言う女性は過ぎるくらいの慈しみの心を持つ人です。何時も優しく笑い、他人の心を暖めてくれる……そんな人です……」

 

榧はゆっくり言葉を紡ぐ。元々饒舌ではない。いくら大人びた容姿を持ってるとは言え心はまだ十歳の女の子なのだ。

 

「私も……牙城さんも……そう言う由実さんが好きだったんですよ?」

 

そう言って榧は部屋を出た。

 

「……………………」

 

由実はゆっくりと今の言葉を飲み込んでいく……何をやっていたのだろう。ショックだからといって寝込んでる場合じゃないのに……自分にやれることはまだ残ってる……なら寝込むのはそれからだ。

すると電話が鳴る。

 

「あ、もしもし。菫さん?はい……分かりました。うちの本社に来てください」

 

菫から作戦の概要を聞くと由実は自分の会社を本拠地にすることを了承した……




ごめんなさい。本格始動は次になりそうです。



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第28話

木更に会った次の日……蓮太郎は護送されていた。一応蓮太郎の名誉のために言うがまだ刑務所へ行くのではない。だが何処に向かってるのかも教えてくれない。聞いても黙って待ての一点張りだ。

 

「ん?」

 

すると見慣れた建物に入った。

 

(って!ここ聖居じゃねぇか!!!!!)

 

蓮太郎の驚きを他所に入っていった。

 

 

 

 

 

「お久し振りです。里見さん」

「ああ」

 

聖天子と蓮太郎は向かい会う。さっき護衛の人は今出されたので蓮太郎と聖天子の二人だけだ。そう言えば何気に優磨無しで二人きりと言うのは初めてだ。

そう思うと寂しさが込み上げてきた。いや、ここで暗くなってもしょうがない。蓮太郎が急遽ここに連れ出されたのは恐らく暗号を解いた夏たちは気づいてると信じる。そして絶対逃げ出すのだ。泣くのはその後でも良い。

 

「で?何のようだ?」

「はい……里見さん。貴方には民警を自主的に辞めていただきます」

「っ!」

 

民警をやめる……それは延珠との別れを意味していた。

だが、

 

「ホラよ」

 

蓮太郎はパスケースごと投げる。民警辞めたからと言っても恐らく延珠には夏たちが一緒に居るだろう。木更や菫も居るのだし大丈夫だとおもう。

 

「随分あっさり渡すのですね」

「まぁな……」

 

蓮太郎は聖天子をみる。特に変わった様子はない。優磨が死んだと聞いたときは聖天子ももっと取り乱してると思ったが一応上に立つものとしてしっかりしてるのか……もしかしたら……

 

(まさか……)

 

蓮太郎は頭に浮かんだ仮説を証明するため動く。

 

「俺は無実だ。それ直ぐに返してもらうから大事に保管しててくれ」

「証拠はあるのですか?私のところには貴方が犯罪者という証拠が出てきたと聞きましたが?」

「これから探すさ……だけど怪しいと思わないのか?俺が捕まったのと同時刻に優磨さんが殺されたんだぞ?可笑しいだろ」

「え?」

 

聖天子は一瞬蓮太郎が何を言ったのか分からなかった。

 

(やはりな……)

「優磨さんが……死んだ?」

「ああ……犯人はわからないが確かに殺されたよ」

「そんな……」

「あの菊之丞(ジジイ)らしいぜ」

 

大方優磨の死だけは隠したんだろう。残念ながら蓮太郎にバラされたが……

 

「本当なのですか?」

「ああ」

 

聖天子は体が震えていた。

 

「俺はいくぜ」

「貴方は何ともないんですか?」

「……」

 

立ち上がろうとしたが蓮太郎は聖天子を再度見る。

 

「腸煮え繰り返りそうだよ。だけど落ち込んでたって仕方ねぇ……」

 

それから蓮太郎は、俺は……と続ける。

 

「犯人見つけるのが先だと思うぜ?」

 

そう言ってから蓮太郎は外に出て手錠を着けられて行った。

 

「……菊之丞さん」

「なんでしょうか?」

 

聖天子が呼ぶと菊之丞が入ってきた。

 

「貴方は……知っていたのでしょう」

「ええ……時を見て言うつもりでした」

 

そう思っていたのは本当だ。時とタイミングを見て言うつもりだった。

 

「何故ですか?」

「……あんたが壊れると思ったからです」

「え?」

「貴方は……牙城 優磨をどう思っておられましたか?」

「………………」

 

それは今までも幾度となく問われてきた。今までははぐらかして来たが……そう言う時ではないと分かっている。

 

「お慕い…していました。一人の男性として……愛していました……」

「ええ……分かっていました……だからこそ……言えなかった。分かって欲しいとは申しません」

「……犯人は?」

「目下調べています。ですが証拠を一つも残しておらず……」

「一つもですか?」

「はい。残っていたのは牙城 優磨の腕一本」

聖天子は俯くと再度顔をあげた。

 

「何か分かったら今度は教えてください」

「わかりました」

 

そう言ってから菊之丞は出ていった。

 

「腕一本残して死体はない……そう聞いたら何か生きてるような気がするのは……私の希望ですか?」

 

誰に言ったわけでもなく聖天子はそう呟いた。

そして最後に、

 

「里見さん……お願いします」

 

蓮太郎が何か企んでると分かっていたため聖天子は祈った。

 

 

 

 

 

 

 

蓮太郎は来た道を車で戻っていた。

 

「来たよ」

 

夏・春・夏世・翠・延珠と言うチームイニシエーターは影から車が来るのを見ていた。

 

「よし……行こ…え?」

 

夏達が車に襲いかかろうとした瞬間別の何かが飛び出していった。かなりのスピード出していた車は避けたが激しく横転した。

 

「やば!」

 

夏達は車に駆け寄る。いつの間にか飛び出した何か居なくなっていた。

 

「蓮太郎!」

 

延珠が叫ぶと横転した車のドアが上空に向かって吹っ飛んだ。

 

「ごほ!随分な出迎えだな」

 

蓮太郎は這い出てきた。

 

「蓮太郎!」

 

延珠が蓮太郎に抱きつく。

 

「怪我はないか?」

「たん瘤はできた」

 

大きな怪我はないだろう。

 

「とにかく此処は危険です。移動しましょう」

 

夏世が言うと全員は頷いて移動を開始した。

 

 

 

「こちらダークストーカー……予想外が起きました」

【どうした?】

「車が横転して里見 蓮太郎が脱走……その際に複数名をつれています」

【ちっ……まあ良い。行き先が分かったら教えろ。丁度良いから全員始末する】

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

櫃間 篤郎は携帯をしまう。本来なら車を襲撃して蓮太郎を始末する算段だった。なのに逃走されるとは……

 

「くそ……」

 

悪態をつきながら櫃間はある建物に入る。今日は愛すべき木更に会いに来たのだ。

もう夕方だが別に大丈夫だろう。蓮太郎は捕まえた……ティナも居ない。延珠も時間の問題。さぞ落ち込んでいるだろう。抱き締めてキスのひとつでもしてやろう。とドアを開けた。

だが、

 

「え?」

「あら櫃間さん」

 

そこには木更と由実と榧が掃除をしていた。

 

「な、何してるんだい?」

「ほら、皆が戻ってきたときに汚いと嫌じゃないですか」

 

櫃間はずっこけそうになった。木更はまだ帰ってくると思っている。

 

「そ、そうだね。何か手伝おうか?」

「いえ、大丈夫です。もう終わるので」

 

するとドンッと榧とぶつかった。後ろを向いたままだったため気付かなかったのだろう。

 

「失礼しました」

「イや、大丈夫だ」

 

櫃間は内心渋い顔をした。由実と榧の二人がいては木更に近づくこともできない。

 

「それで……何かご用ですか?」

「あ、いや……少し近くに寄ったから大丈夫かと思ってね」

「大丈夫ですよ。私がしっかりしないと里見くんたちが帰ってきたときに困ります」

「そ、そうだね。アハハハハハ……じゃあ邪魔みたいだから僕は帰るよ」

「あ、はい。では」

「あ、その前に……見合いの返事ですが……」

「まだ保留させてください。里見くんたちが帰ってくるまで行けませんから」

「そうか。じゃあね」

 

櫃間は出ていった後八つ当たりかわりに壁を蹴って足の指の骨にヒビをいれたのは別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪い待たせた」

 

蓮太郎はホテルのロビーの隣のカフェというかラウンジみたいになってる場所に来る。

今の蓮太郎は見慣れた高校の制服に身を包み髪を鋤かして拘置所に居たときは剃れなかった髭も剃ってきた。

 

「で?最初はどうする?」

「まずは現場にいけって」

「あ~……」

 

夏に言われ蓮太郎は成程と頷く。現場百辺と良く言うものだ。

 

「よし、行くか」

「そう言うわけに行かないんだけど」

『っ!』

 

蓮太郎達は声の主のほうをみる。そこには蓮太郎と然程差はないと思われる年格好の男がいた。

 

「初めまして、五翔会所属三枚羽の巳継 悠河です」

「五翔会?」

 

蓮太郎は初めて聞く名前に首をかしげた。

 

「まあどうでも良いことですよ……貴方は……いや、貴方達はここで死ぬ!そう、牙城 優磨のようにね」

『っ!』

 

全員驚愕し、蓮太郎は全身の血が沸騰した気がした。

 

「そうかよ……てめぇか!」

 

蓮太郎は義眼を起動……幾何学的な模様が走ると演算を開始……そのまま疾走した。

 

 

 

 

陰禅(いんぜん)黒天風(こくてんふう)!!!!!」

 

鋭い回し蹴りが悠河を襲う……だが、

 

「遅いんですよ」

「っ!」

 

継の瞬間悠河の両目にも同じ幾何学的な模様が走ると、演算を開始。蓮太郎の回し蹴りを躱すと逆にカウンター気味のキックが入る。

 

「ぐっ!」

「蓮太郎!」

 

それをみた延珠が瞳を赤熱。強靭な足腰から放たれた飛び蹴りが悠河を狙う。だがそれを簡単に見切られ躱される。

 

「ウォオオオオオ!」

 

夏も瞳を赤熱すると素早いラッシュを打つ。

 

「甘いね」

「っ!」

 

逆にクロスカウンターを決められ夏は吹っ飛ぶ。

 

「ちぃ!」

 

蓮太郎の拳が悠河を吹っ飛ばす。

 

 

「なっ!」

 

悠河は少し驚いた顔をするが直ぐに冷静さを取り戻す。

 

陰禅(いんぜん)玄明窩(げんめいか)!!!!!」

 

すばやいニ連続蹴りを悠河は伏せて躱すと蓮太郎の顎に狙いをつける。

 

「残念でしたね……スペックが違うんですよ!君と僕では見ている時間(せかい)が違うんです!」

 

だがそこに突如鋭い爪が悠河を狙った。

 

「っ!」

 

流石に後ろにとんで躱す。

翠はあと少しだったのに……と言う顔だ。

 

「流石に複数人はめんどくさいなぁ」

「油断してんじゃ……ねぇよ!」

 

蓮太郎は拳を突き出す。

 

「油断?違うよ」

 

悠河はパシッと簡単に止めて……

 

「余裕って奴だよ」

 

トンっと拳が添えられた次の瞬間蓮太郎の体をバラバラにするような振動が走り血を吐く。

 

「蓮太郎!」

「っるさいな」

 

悠河は延珠に狙いをつけようとした瞬間……

 

「やっぱり油断してんじゃねぇか」

「え?」

三陀玉麒麟(さんだたまきりん)!!!!!!!!!!」

 

顎に掌底を打ち込まれ悠河は脳震盪を起こされる。

 

「馬鹿な……」

 

口から血を吐きながら立ち上がった蓮太郎は深く腰を落とし、

 

「天童式戦闘術一の型八番 焔火扇(ほむらかせん)!!!三点撃(バースト)!」

 

ガシャンと言う音と共にカートリッジが排出……凄まじい推進力を生み出し悠河は蓮太郎のパンチで吹っ飛ぶ。

 

「うぐ……がは!」

 

蓮太郎は更に血を吐いた。

 

「大丈夫ですか?」

 

夏世が来た。

 

「内臓にダメージが入ったのかもしれません。取り合えずここは……」

 

逃げましょう……と言おうとした瞬間銃声と共に窓に亀裂が走った。

 

「おとなしく出てこい!里見 蓮太郎!!!!!」

「ち、この声はおっさんじゃねぇか」

「知り合い?」

「ああ、ヤクザも仏に見える位強面で俺の取り調べもやったくそ刑事だよ」

 

だが防弾ガラスで助かった。あと少しで蜂の巣だ。

 

「とにかく上だ。此処に居ても追い付かれる」

 

蓮太郎の言葉に頷くと全員で階段を上がっていく。

背後でガラスが砕けた音がした……

 

 

 

 

「くっ……」

 

背後からマシンガンで撃たれる。遠慮も何もあったものじゃない。

 

「うりゃ!」

 

それをみた延珠が銃弾を躱しながら跳躍……銃を蹴りあげるとハイキックで意識を刈り取った。

 

「いたぞ!」

 

すると今度は窓を突き破って入ってきた。

 

「邪魔を……」

 

その方には夏が向かい打ち……

 

「すんな!!!!!」

 

入って来た窓が殴り飛ばした。

 

「ん?」

 

すると銃を落としていた。

 

「ベレッタか……」

 

この銃には嫌な思い出がある……変な仮面をつけた狂言野郎が使っていた……だが無いよりは良いだろう。

そう自分に言い聞かせホルスターにしまい再度上がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、お前大丈夫か!?」

「おい多田島。お前の顔を近づけたら彼がショック死するよ」

「どういう意味だよ如月!」

「つ……」

 

悠河は目を覚ました。

 

「お前名前は?」

「あ、巳継 悠河です。民警なのですが暴れてた男を捕まえようとしたら返り討ちに会いました」

「ちっ!」

 

多田島が舌打ちする。

 

「とにかく後を追いたまえ」

『櫃間警視……』

 

多田島と如月は眉を寄せる。

どうも二人はこの男が好きになれない。現にこの事件だって重役出勤だし何よりここまで出てくる立場の人間じゃない。だが警察は階級社会……上の命令には聞かなくてはならない。

 

「了解……」

 

二人は上に向かう。

 

「何をしているダークストーカー」

 

誰も居なくなったところで話し始める。

 

「流石に人数がいましたし何より里見 蓮太郎の瞬間的な爆発は驚異的です」

「言い訳は良い……確実に仕留めろ」

 

もっと強い絶望を与えねば木更はこちらに転がらないだろう。

 

「分かってますよ」

 

悠河は少し足をふらつかせながら出ようとし、

 

「そう言えば何で足を怪我してんですか?」

「うるさい!さっさと行け!」

 

悠河は訝しんでから行った。

 

(くそ!)

 

櫃間は内心地団駄を踏んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

蓮太郎達はドア開ける。

 

「で?どうするんですか?」

「………………」

「あの……里見さん?」

 

夏世が再度聞く。

 

「わりぃ……なんも考えてなかった」

『ええ!?』

「と、取り合えず逃げてれば良い手が思い付くかと思ったんだが全く思い付かなかった」

「どうするんですか!?来てますよ」

「……………」

 

蓮太郎は下を見る。

 

「…………ギリギリだな」

「どうするきだ?蓮太郎」

「飛ぶぞ」

『………は?』

 

延珠達は唖然とした。

 

「ここから飛び降りるぞ」

『………ええええええ!!!!!』

 

驚愕するのも束の間で蓮太郎は延珠達を抱き上げると……

 

「祈れ……さすれば道は開かれん……って言葉知ってるか?」

「ま、待つのだ蓮太郎!流石にこの高さは妾達でも助からん!」

「そ、そうだよ!」

「此処にいるよかましだ!!!!!」

『いいぃいいいいいいやぁあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!』

 

蓮太郎達は空に身を投げ出すと重力に乗っとり落下……

 

(後はタイミングだ……)

 

そして蓮太郎は先程人工皮膚が剥がれ露出した腕を握ると集中……今だ!

 

焔火扇(ほむらかせん)!!!!!三点撃(バースト)!!!!!」

 

蓮太郎の拳が壁と激突……凄まじい量の火花を散らしながらガクン!と減速し壁にぶら下がる。

 

「これをもう一回くらいやれば下に降りられるだろ」

『む、むちゃくちゃだ……』

 

優磨ならやるかもしれないが他にも居たとは……しかも身近に……

だがそこに……

 

「っ!蓮太郎!」

 

夏は瞳を赤熱させると跳んできた弾丸を殴って弾く。

 

「くそ!誰だ!?」

「分かりませんけど急ぎましょう!」

「ちっ!」

 

蓮太郎は腕を引き抜きながら再度降りようとする。だが足のほうを撃たれた。

 

「うぉ!」

 

義足の方で助かった。だが、相当な距離がある。ティナ並みの狙撃能力だ。

 

「ん?」

 

ティナ並みの狙撃能力?まさか……

だが迷ってる暇はない。素早く壁から手を引き抜くと今度は足の人工皮膚が剥がれていき、

 

「天童式戦闘術 ニの型十六番!隠禅(いんぜん)黒天風(こくてんふう)!!!!!」

 

ドゴン!と言う音と共に蓮太郎達は壁から離れていく。

 

「え?そっち!?」

「壁に突き刺さりながら行く予定だったけど残念ながら警察が来ちまったからな!」

 

跳んだ先には川が見える。

 

「これで……どうだ!」

 

水の上に着水するときは高所から落ちると高さによってはコンクリートに匹敵する固さになる……だがそれは水の上に普通に落ちた場合だ。実は普通であれば無理だが斜めから……しかもかなりの早さで石で水切りするように落ちる……いや、滑り込むように水に入ると痛いが死なないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ…はぁ……」

『げほ!げほ!』

 

全員体を引きずるように這い上がる。あの後思ったより川の流れが早く半ば流されるように来た……だが何とか包囲網を越えただろう。

 

「く……」

 

だが蓮太郎達は疲労のため力尽き寝てしまう。

 

「………………………」

 

それを遠くから見つめる視線に蓮太郎達は気づくことは無かった。




活動報告の方のアンケートは継続中です。


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第29話

「う……」

 

蓮太郎はボンヤリと目を覚ます。

 

「つまり私はアンタたちが言う里見 蓮太郎は銃を盗まれてその銃で鬼八は殺されてたから里見 蓮太郎は犯人じゃないと言うご都合主義を信じろって?」

「何だと!お前は妾の蓮太郎を疑うのか!?」

「延珠さん。ストップです。話が進みません。そうですね、確かに貴女の言う通り無茶苦茶ですが逆に信用できませんか?私が貴女を騙そうと思ったらもっとマシな嘘をつきます」

「……………」

 

静かになった。

 

「話は終わったか?」

 

蓮太郎は体を起こす。

 

「蓮太郎!!!!!」

 

延珠は体に飛び付いてきた。

 

「もう3日も寝ていたのだぞ?」

「3日!?」

 

蓮太郎は頭を抱えた。

 

「疲労半分、後は傷でしょうね。外傷はありませんが恐らく内臓に傷を負った可能性があります。まるで中国拳法の発勁のように振動を中に通したんでしょう」

 

夏世はナースのように説明してくれた。すると、蓮太郎の視界に初めて見る少女……いや、正確に言うと生で見るのが初めてなだけで顔自体は初めてじゃない。

 

「お前は……確か鬼八の……」

「そうよ。貴方が殺した水原 鬼八のイニシエーター、紅露 火垂よ」

 

そういった次の瞬間蓮太郎の眉間に銃が突き付けられた。

 

『ちょ!』

 

延珠達が止めようとするが、それを蓮太郎が制する。

 

「言い訳はしないの?」

「ふざけんな。やってもいない罪の言い訳なんざする必要ねぇだろ」

『……………』

 

一瞬静寂が包み……スッと銃が離された。

 

「嘘じゃ……無いみたいね」

 

銃を仕舞いながら言う。

 

「だけど完全に信用した訳じゃないのよ?」

「別に良いさ」

 

蓮太郎は首をコキリと鳴らしながら立ち上がる。

 

「で?そう言えば夏と春は?」

「ああ、あの二人なら……」

 

そこに帰ってきた。

 

「ただいま~」

「どうだった?」

「バッチリ」

 

翠は夏から携帯を受け取る。

 

「水原 鬼八の携帯の最後の履歴にあった駿見って人の住所も調べてきたよ」

「どうやったんだ?」

 

蓮太郎が聞くと、春が携帯を出した。

 

「出発する前に菫さんが渡してくれたんです。盗聴完全防備、更に水に浸そうが手榴弾爆破させようが対物ライフルブッ放そうが傷1つ着かないと言う代物です。そしてこれ使って菫さん連絡取ったんです。そしたら同じ医者同士顔は知っててハッキングとか色々やって調べてくれました。木更さんに電話かけます?」

「あの人何でもありだな……まあそれは遠慮しとく」

 

声を聞いたら会いたくなるからな……

と一人思っていると、

 

「……ガブ!」

「いってぇえええええええええ!!!!!」

 

延珠に噛みつかれた。噛むのは風深だけで十分である。

 

 

 

 

「で?そのムグ…駿見ってハグ…言う奴にング心当たりは?」

「食べながら話さないで。その人は私の検査とかしてくれる人よ。此処のところ休んでるって聞いてたけど……」

「ふむ……何か言ってませんでしたか?」

「……そう言えば鬼八と何か話してたわ……よく覚えてないけど。その後からね。私に対して妙によそよそしくなって一人で動き出したのは……」

 

蓮太郎はパンを飲み込むと、一気にスープを飲み込んで立ち上がる。

 

「先ずはそこだな……」

「はいどうぞ……」

 

翠は蓮太郎に銃を渡す。

 

「ベレッタか……本当に良い思い出がないな」

 

変な仮面の男が頭によぎり悪寒が走った。

 

「じゃあ行くの?」

「ああ」

 

他の皆もそれぞれ装備を揃え、出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ!クソォオオオオオ!!!!!」

 

櫃間はダンダン地面を踏んで骨にヒビを入れていたことを思いだし痛み余りに飛び上がった。

 

「櫃間さん……(頭は)大丈夫ですか?」

「うるさい!!!!!お前がきっちり始末しとかないからだ!」

「仕方ないじゃないですか。あのときまだ脳味噌揺れてて狙撃なんて高等技術成功させられる状況じゃないんですから」

「言い訳はきかん!!!!!」

 

こうなってるのは一時間前……

 

 

「ふ~ふ~ふふ~ん♪」

 

櫃間は有頂天だった。蓮太郎は生死不明……

つ・ま・り……木更は今度こそ落ち込んでいるはずである。

ここは婚約者になる予定の身としては元気付けてやるのが筋……我ながらかっこよすぎる。

と、思いながら事務所に来ると……

 

「じゃあ行きましょうか」

 

バン!っとドアが急に開き、

 

「ぶべ!」

 

櫃間は後ろに倒れた。

 

「あ、すいません」

「確か君は……この間の……」

 

榧は櫃間に頭を下げたがその拍子に背中の荷物が落ち……

 

「ぎぇええええ!!!!!!!!!!」

 

因みにモデル・アントの榧は軽々と持っていたが事務所にあった書類や物の総重量百キロ近い物が櫃間の上に降って櫃間の悲鳴が近所に響いた。

 

「なんの騒ぎ!?」

 

木更が顔を出した。

 

「ひ、櫃間さん?」

「だ、大丈夫だ……」

 

櫃間は痛みに耐えながら木更に見栄を張るため強がる。

 

「そうですか。なら良いです」

「すいません。木更さん」

「良いのよ」

 

木更は優しく笑いかけた。

 

「あ、ああ~木更さん……1つお話が……」

「え?」

「昨日……里見君が……」

「ああ、逃げたんですよね?さっき手紙が来ましたよ」

「そうそう逃げて……え?」

「ほら……」

 

木更が出すと、心配するな~みたいなことを書いた紙を見せられた。

 

「筆跡的にも間違いなく里見くんですよ」

「い、いつこの紙が?」

「今朝事務所にありまして。多分ドアの隙間に入れたんですよ」

「証拠として……頂いても?」

「ええ、蓮太郎君の無実は信じていますけどだからといって隠しだてするようなものではないですし」

 

櫃間は手紙を懐に入れた。

 

「で、ですがこれから何か用事でも?」

「あ、由美さんと一緒にパジャマパーティです。今から楽しみで楽しみで」

「そろそろ行きませんか?」

「あ、そうね。では櫃間さん。また」

「あ、うん……」

 

木更と榧は行った後……

 

「~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

櫃間は声にならない奇声あげ壁をぶん殴りその結果手の骨が砕けて飛び上がった。

 

そして時間を戻し、

 

「とにかく殺せ!絶対だぁあああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!ハミングバード!分かったな!?今は、駿見とか言う医者のところに来るはずだ!民警を向かわせたしいざとなったらケルベロスも出す!!!!!」

【あーはいはい】

 

通信が切れると悠河はギブス付きの手と足……更に目の回りに付いたアオタン付きの櫃間を見て笑い櫃間は悠河を睨み付けた。

 

 

とある部屋では……

 

「うわ~嫌だ嫌だ」

「まさか警察の人間につけておけば警察の動きも分かるだろうとつけた盗聴器でこんなことがわかるとは……」

「でもこの人頭大丈夫ですかね」

【世も末っちゅうやつやな~】

 

謎の四人は機械を囲んで呟いた……そこ

 

「なにやってんですか?悪人ごっこですか?」

 

榧と木更が入ると菫、風深、由美と新一が振り替える。

 

「ちょっとね。さて、聞いたことないコードネームが出てきた……」

「大丈夫でしょうか……」

「残念だが私たちはまだ派手に動けない。ここ里見君たちで凌いで貰うしかないね。なぁに、相手が何者だろうと死ぬような人間じゃないよ」

 

菫はケラケラ笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、結構普通だな……」

 

その頃蓮太郎達は調べていたマンション前にいた。

 

「とにかく入りましょう」

「よし……」

 

蓮太郎はドアを叩く。だが返事はない。

 

「居ないのか……?」

「う……!」

 

翠が顔をしかめた。

 

「どうかしたのか?」

 

延珠が翠の顔を覗き混む。

 

「何かが腐敗した臭いです」

『っ!』

 

全員が顔を引き締める。

 

「ん?」

 

ドアの鍵が空いている。

 

「いくぞ……」

 

蓮太郎が銃を抜きながらドアを開ける。それと共に異常なまでに冷えた空気と何かが腐敗した臭いが鼻孔を突いた。

 

「くそ……」

 

蓮太郎達は入っていく。そしてその奥には……

 

「駿見医師か?」

「服装から考えるに……恐らく」

 

蓮太郎が確認を取ると火垂が頷いた。

 

「酷い……」

 

春の言葉に全員がうなずく。

駿見の顔は変形するまで殴られたり蹴られており手足の爪は剥がされている。完全に拷問自体を楽しんでるやつの手口だ。

 

「………………」

 

蓮太郎は近くにあったタオルケットで駿見の遺体を見えなくすると、

 

「何かあるかもしれない……探そう」

 

蓮太郎の言葉に皆は静かに頷いた。

 

 

 

 

「これは……ただの書類か」

 

皆で捜索するが駄目だ……ない。

 

「はぁ……」

 

春は歩き回りながら探す。パソコンも見たが完全に初期化されており書類も紙くず同然のものばかり……

だが、

 

「ん?」

 

春は通った場所をもう一度通る。

 

「これって……夏!」

「なぁに?」

「ここ殴って」

「え?」

 

夏は春が指差した場所を見て驚く。

 

「でも下の人に迷惑が……」

「良いから!」

「わ、分かったよ」

 

夏は渋々力を解放……そして、

 

「ウッラァ!」

 

床を殴った……

 

「何してんだ!」

 

蓮太郎たちも驚いて来た……だがそこには……

 

「なんだこのデータチップ……」

 

拾い上げる。ケースに入れられたそれは隠すようにあった。

 

「見てみるぞ」

 

蓮太郎は自分の携帯にそのチップを入れて読み込む……そこにはガストレア写真があった。

 

「これって……」

「知ってるのか?」

 

火垂が頷く。

 

「鬼八さんと三週間位前に倒したやつよ」

「じゃあ関係なし……かなぁ……」

「いや、これを見ろ」

 

夏の考えを否定して蓮太郎は指を指す。

 

「この星形に羽根の紋章はなんだ?」

「捕まえたときに気になってはいたけど……そう言えばなんなのかしら……」

「これはどこに運び込まれた?」

「確か……」

「あれ?」

 

春が周りを見渡す。

 

「どうした?」

「住民が……居ません」

「え?」

 

春は床を殴ったため人が来ないかどうか能力を解放しコウモリの音響察知を使い見ていたのだが……誰もいないのだ。

 

「どう言うことだ?」

「分かりません……あ、来ました!三人です……一人は大柄で男だと思いますが……後の二人は……子供?」

「分からないけどヤバそうだね。蓮太郎!逃げよう!」

「ああ!」

 

蓮太郎素早く携帯をしまい外に出た。

そこで……

 

「よう、ボーイ」

「……ち…てめえかよ……」

 

蓮太郎達の前には金髪のガタイ良い男と……和服に双刀と言う出で立ちの少女……更に男と同じ金髪にどこか迷った顔をした少女……忘れもしない……アジュバンド以来会わなかったが、

 

「玉樹……!」

「よう、逃亡犯 里見 蓮太郎」




ちょっと?いやかなりフライング気味だけど玉樹たち登場……でも、これで良いのだ。


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第30話

「知り合いですか?」

「ああ、よく知ってるよクソッタレ」

 

火垂の言葉に蓮太郎は肯定と共に舌打ちした。

見ての通り……この三人は自分達に差し向けられた敵だろう。だが戦うにせよ逃げるにせよ困難を極める相手なのは間違いない。

 

「犯罪者みてぇな面してっから何時かやるんじゃねぇかと思っていたがまさかこんなに早いとはな」

「待て、俺はやってない」

「じゃあ何で逃げてるのですか?」

「それは……」

 

下手に説明すればこいつらも巻き込むことになる……そう思うと蓮太郎は口を濁らせる。

 

「答えられねぇってことは……捕まえるしかねぇぜ」

「ねぇ!」

 

弓月は蓮太郎を見る。

 

「どうなのよ……」

 

弓月は目が言っていた……違うと言って欲しいと……

 

「……っ……」

 

蓮太郎は拳を握る。

 

「事情があって逃げてる。内容は言えないけどな。だが納得しないんだろ?」

「ああ……」

「じゃあ……!」

 

蓮太郎は後ろに飛ぶ。

それと入れ替わるように夏が前に出た。

 

「損害請求はそっち持ちでね!」

 

夏が廊下をぶん殴り亀裂が入っていく。

 

『なっ!』

 

玉樹たち三人が驚愕してる間に蓮太郎達は走り出す。

 

「シィット!弓月!糸で道を作れ!」

「………あ、うん!」

 

 

 

 

 

「どうするんですか!?」

「逃げるのは無理だ。あいつらの事だ。出入口全部糸で封鎖してる可能性がある。ならいっそのこと広い場所で迎え撃つ。その方が玉樹の妹の糸も幾分マシだ。後、あのチップのデータ送っとけ!」

「はい!」

 

蓮太郎達は屋上に出る。運が良いことに周りにはこのマンションより高い建物はない。

これなら狙撃の心配はないだろう。

 

「ここがお前らの墓場で良いのか?」

 

玉樹達も追い付いてきた。

 

「ああ?ここで死ぬわけないだろ」

 

蓮太郎は腰を落とすと義眼を解放……更に人工皮膚が剥がれていく。

 

「本気か?」

「ああ、ここで止まれないんだよ」

 

蓮太郎にあわせて夏達も力を解放しそれに併せ瞳が灼熱する。

 

「仕方ねぇな」

 

玉樹のメリケンサック型のチェーンソーが音を出す。

 

「弓月!覚悟決めろ……行くぞ、朝霞」

 

二人は頷く。

 

「そう言えばちゃんと名乗ってなかったな。元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊【新人類創造計画】所属・里見 蓮太郎……これより敵を排除する!」

 

蓮太郎は足のカートリッジを炸裂させながら疾走した。

 

 

 

 

陰禅(いんぜん)黒天風(こくてんふう)!!!!!」

 

玉樹の顔に蓮太郎のハイキックが決まった……ように見えた。

 

「朝霞!」

 

蓮太郎は驚く。朝霞のカートリッジ一個使用した黒天風を双刀で受け止めたのだ。

 

「残念でしたね。行きますよ」

 

朝霞の双刀が蓮太郎の襲う。

 

「くっ!」

「甘いぞ!」

 

蓮太郎の頭の上を延珠が通過……コンクリートの塊も簡単に砕く飛び蹴りが朝霞を吹っ飛ばす。だが、

 

「甘いのはそっち!」

「しまった……」

 

延珠が弓月の糸で拘束された。

そこに、

 

「うるぅうううらあああああ!!!!!!!!!!」

 

夏が疾走……

 

「くっ!」

 

弓月が糸を出すが夏はそれをギリギリで躱しながら距離を詰める。

 

「見えてんの!?」

「当たり前でしょ!!!!!」

 

だがその前に夏の足元に穴が開いた。

 

「くっ!」

 

玉樹はマテバ拳銃を夏から蓮太郎に向けながら蓮太郎と距離を詰める。

 

「おら!」

 

チェーンソーが蓮太郎を襲う。

 

「駄目!」

 

だがその間に翠の爪が入り玉樹の動きを止める。更に、

 

「らぁ!」

 

蓮太郎はカートリッジを炸裂させて加速させたパンチで玉樹をぶん殴る。

 

「ご!」

 

玉樹は吹っ飛ぶ。

 

「はぁ!」

 

入れ違いに朝霞が来たが、

 

「この!」

「うりゃ!」

 

延珠と夏のダブルコンボで沈めた。

最後は……

 

「もう辞めようぜ。玉樹の妹……もう勝負はついた。幾らお前でもこの人数に勝てないだろ」

「………………………じゃあ、聞かせなさいよ……あんた今何やってんの?」

「それは言えない。お前たちを巻き込むからな。だが……俺はやってな……」

「そんなこと聞いてない!!!!!!!!!!」

「え?」

 

蓮太郎は困惑した。

 

「アタシがどれだけ驚いたと思ってんのよ……いきなり殺人犯に成ってるしいきなり警察の人間来て捕まえろって言われるしどれだけ……嫌々此処に来たと思ってんのよ」

「お前……」

 

だが次の瞬間ヘリが屋上まで上昇してきた。

 

「え?」

 

パン!っと一発の銃声……それと共に眉間を撃ち抜かれた火垂峩後ろに倒れた。

 

『っ!』

 

振り替えるとぬいぐるみを抱えた少女が笑う。

 

「死んじゃえ」

 

次の瞬間ヘリから更に狙撃銃が発射された。

 

「弓月!!!!!」

 

蓮太郎は脚のカートリッジ炸裂させて弓月に近づくとそのまま覆い被さる。

 

「蓮太郎!!!!!」

 

延珠が叫ぶ。

 

「ごほ!」

 

蓮太郎血を吐いた……ジワリ……と背中に血が広がる。

 

「え?え?」

 

弓月は驚愕と事態の把握ができてなかった。

 

「すまん……俺はお前たちを巻き込みたくなかった。だけどお前にそんな思いさせてたんだな……悪かったよ……」

 

蓮太郎がそう言っているとヘリから銃撃してきた少女が来た。

 

「これが終わったら……全部話す」

 

そう言って蓮太郎は立ち上がる。

 

「大丈夫ですか?」

 

春が心配そうに来た。

 

「急所は外れてるし弾は貫通した……なんとかなるだろ」

 

蓮太郎の視線は既に襲撃者の方に向けられていた。

 

「誰だお前は」

「私はハミングバード……まあ覚えなくてもいいよ」

 

だって……と呟くと、

 

「ここで死ぬから」

 

そういった瞬間何かがハミングバードの隣に落下した。

 

死滅都市の徘徊者(ネクロポリス・ストライダー)……殺っちゃえ」

 

タイヤのような形状のそれは突然刃をだし蓮太郎たちを襲う。

 

「避けろお前ら!!!!!」

 

蓮太郎達は散開する。

 

「行っとくけど幾ら逃げたって何処までも追っていくよ?私が念じれば余裕だもんね」

(念じる?)

 

つまり脳波と言うことか?と夏世は推測した。まるでティナのシェンフィールドだ。

 

「ほらほらぁ!止まったら死ぬよ!!!!!」

「この!」

 

春は跳んで避けながら銃を向けた。だが、別方向からもまた跳んできたため狙うのを中止した。

 

「アハハハハハ!!!!!どうしたの!?それで終わり!?」

「くそ……!」

 

体力だって無限じゃない。何時までも逃げてるわけには行かない。しかも蓮太郎は背中を撃たれているのだ。

 

「これでおわ【パン!】……え?」

 

ハミングバードは唖然としたまま後ろを向いた。

 

「残念でしたね」

 

続けて2、3と銃弾を撃ち込む。

 

「なん……で?」

「私……死なないから」

 

先程撃たれた筈の火垂が言う……

 

(今だ!)

 

蓮太郎はハミングバードと距離を詰める。

 

「しまっ!」

焔火扇(ほむらかせん)!!!!!三点撃(バースト)!!!!!」

 

ハミングバードは吹っ飛ぶとフェンスをぶち破りそのまま屋上から落下していく。

 

「ウォオオオオオオ!!!!!」

 

蓮太郎もそれを追い飛び降りると、

 

轆轤鹿伏鬼(ろくろかぶと)!!!!!三点撃(バースト)

「がっ!」

 

だが、ハミングバードは死滅都市の徘徊者(ネクロポリス・ストライダー)を操作し自分の足場の変えるとそれに乗って飛び上がる。

 

「なっ!」

 

形状的に飛べないと思い込んでいた蓮太郎は上下が反対にされ、一気に窮地に陥る。

 

「邪魔なんだよ!!!!!」

 

死滅都市の徘徊者(ネクロポリス・ストライダー)が上から迫る。

だがそれは横からの衝撃で逸れた。

 

「ちっ!」

 

春の狙撃で逸らされハミングバードは舌打ちした。

 

「おいおい、お里が知れ始めたぜ」

「っ!」

 

ハミングバードは一瞬蓮太郎が空に浮かんだのかと思ったが違う……

 

(糸!?)

「助かったぜ……弓月!!!!!」

 

蓮太郎はラストチャンスに全て掛ける。

 

「天道式戦闘術 一の型十五番!!!!!雲嶺毘湖鯉鮒(うねびこりゅう) 三点撃(バースト)!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

凄まじい衝撃がハミングバードを打ち上げる。

だがそれでは終わらず蓮太郎は弓月が可視化できるまで太く束ねた糸を使ってハミングバードより高く跳躍……

 

「天道式戦闘術……」

 

蓮太郎は逆さまになる……最後の一撃だ。

 

「二の型十一番!」

 

脚のカートリッジが全て排出され凄まじい運動エネルギーを生む。

 

隠禅(いんぜん)哭汀(こくてい) 全弾撃発(アンリミテッドバースト)!!!!!!!!!!!!!!!」

 

オーバヘッドキックにも似たその一撃はハミングバードを今度こそ屋上から地面まで強制的に叩きつけた。

 

 

 

 

「うぐ……がっ!」

「よう……」

 

糸を伝って蓮太郎が降りるとハミングバードは虫の息だった。まあ当たり前……いや、普通なら死ぬ筈だ。どう言う体しているのだ?

 

「く、くく……まさかここまでとはね……」

「おい……最後に聞かせろ。五翔会とは何だ!何が目的なんだ」

「目的?そんなの知らないね。でも、五翔会が何だかは教えてあげる。五翔会は国境を越え……人種も越えた組織……そしてそこの戦闘員にはある力が授けられる。例えば私のはエイン・ランドが設計したシェンフィールドの進化番……あんたがこの間戦った悠河は室戸 菫の義眼の進化番……他にもあるよ?」

「誰がボスだ?」

「分からないけど……五翔会の人間は羽根の入れ墨がある。この数で決まって最大5枚……5枚羽根は最高幹部って言われてて実質こいつらが動かしてる」

「?」

 

蓮太郎は少し違和感を覚えた。なんでこいつこんなにあっさり答えるんだ?

すると何処かでチチチチと音がする。まさか……

 

「っ!」

「ちっ!バレたか」

 

蓮太郎は後ろに向かって走りだし垣根に飛び込む。

ピピ!っと言う音が響き次の瞬間ハミングバードが抱いていた人形が爆発……ハミングバードを肉片ひとつ残さず消し飛ばした。

 

「くそ……」

 

戦いが終わったと安心すると背中の傷が痛み出す……

 

「……この……」

 

馬鹿体!と渇を入れて立ち上がる。

ここで寝てられるほど暇じゃない筈だ。すると誰かに体を支えられる。一瞬延珠達の誰かかと思ったが、大きい。

 

「よう」

「玉樹……」

「まああれだ。信じてやるよ。俺の妹体張って守ってもらったしな……」

「……」

「その代わり全部話してもらうぜ」

「分かったよ」

「しっかしこれのどこに弓月は惚れ【糞兄貴ィ!!!!!(バキィ!!!!!)】」

「グエラップ!!!!!」

 

玉樹が突然現れた弓月に蹴り飛ばされた。

 

「このボケ!カス!アホ!何言おうとしてんのよ!」

「ゆ、弓月!ごめ!がはっ!」

 

!の度に弓月に蹴り飛ばされた玉樹は白目を剥いている。

 

「蓮太郎!無事か」

 

そこに延珠達も来た。

 

「ああ……」

 

ズキズキ痛みがひどくなってきた。

 

「とにかく何処かで治療するか」

「大丈夫です。既に医者の手配してます」

 

そう言って春は携帯を見せながら言った。

 

「もしかしてあの人か?」

「今の状況で医者の選り好みできませんよ」

「……分かったよ……」

 

それから蓮太郎は火垂を見る。

 

「そう言えばお前頭撃たれたのになんで生きてんだ?」

「それはあとで話しますよ」

「そうか」

 

それから蓮太郎達はあるきだした……




十一月中はアンケート継続中です。


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第31話

「くそ!」

 

櫃間は机を叩き、骨にヒビが入っていたのを忘れ、ギャ!っと飛び上がった。

 

「だから言ったでしょう?里見 蓮太郎の瞬間的な爆発力は侮れないって」

「こうなったらソードテールを出す!」

「ケルベロス出さないんですか?」

「あの戦闘狂何ぞだしたら裏工作は難しくなる。ギリギリまで出さん」

「まあ良いですけど……行き先に心当たりあるんですか?」

「ふん!行方を眩ましたとはいえあいつが頼れる場所は限られてる」

「成程。じゃあ後は貴方はそこから退けた方がいいですよ」

「どういういウゴッフ!!!!」

 

暴れた振動で棚の上から金属製のファイルが櫃間の頭に直撃しドクドク血を流しながら机に突っ伏して気絶した。

 

「あーあ……誰かー?」

 

悠河はため息を吐きながら医者を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

「つ、つまりあれか!?警察が嵌めようって話なのか!?」

「そうなるわ」

 

前回の一件から早くも2日……木更が盗聴器で録音した声を聞かせながら玉樹達に説明していた。

 

「だから言ったじゃん!怪しいって」

「だ、だってお前が耄碌してるだけかと……」

「あ゛?」

「いえ、何でもないです」

【はっはっは!玉樹は妹に頭上がらんのやね】

「仲が良いのは良いことですよ」

 

新一と風深はニヨニヨしながら見ていた。

 

「さて、そろそろ……」

「ただいま帰りました~」

 

由美と榧が帰ってきた。

 

「変な模様が入っているガストレアの一部持ち帰ってきました。いま研究室の方で調べてます」

「大変でした。大急ぎでトラックで運び出して逃げようとしますし……」

「じゃあどうしたの?」

 

夏が聞くと、榧は頬を少し掻いて、

 

「トラックを正面から受け止めて横に投げ飛ばしました。運転手はちゃんと無事です」

『ええ!?』

 

榧はパワー型イニシエーターだ。だが走るトラックを受け止めて横に投げ飛ばすとかどういうパワーしてるのだろう。

 

「最近またパワーが上がった気がしますね」

「そうか。まだ榧は壁にぶつかってないのだな?羨ましい」

 

延珠が言うようにイニシエーターも限界点が存在する。まあそれを越える方法が存在するがここで深く記すのは辞めておこう。

 

「ふぅ……」

「蓮太郎!」

 

蓮太郎が治療を終えて来た。

 

「いや~狙撃銃の弾丸を体使って庇うとかなに考えてんのさ」

「そう言うけどさ先生……俺は銃弾をキャッチできないし銃で撃って逸らすのだって出来ないんだからさ」

「いや、そんな人間辞めてます技使えとは言ってないんだけどさ」

 

菫の治療は完璧だった。流石である。

 

「さて、説明願おうか……」

 

蓮太郎が言うと火垂がうなずく。

 

「私のモデルはプラナリアです」

「プラナリア?」

 

全員が蓮太郎を見る。

 

「何で俺見んだよ」

「いや、君こういうの詳しいだろ?」

「はぁ……確かウズムシの仲間で再生能力が異常に高い奴だったよな?」

「はい、なので私は頭撃ち抜かれようと心臓切り裂かれようと一度死んでから復活できるんです」

『へぇ~』

「ただ死んでる間に体燃やされたりしたらもちろん死にますし再生にも限度はあります」

「そうなんだ~僕も腕くらいならくっつくけど凄いな~」

「そうなの!?」

 

夏の言葉に夏世や翠ですら驚愕した。

 

「うん。切り取られてもその断面同士くっ付けとくと30秒くらいでくっつくよ。まあ流石に生えないけどね」

『………………………』

 

生えたら某緑色のナメクジ星人である。

 

「とにかくこれからどうするか……」

「検査が終了するには少し時間が要りますから……里見さん。シャワー浴びてきたらどうでしょうか」

 

榧がマジマジと見ると、

 

「少し男臭いです」

「マジかよ!」

「シャワー室は地下二階です」

「悪いな」

 

蓮太郎は部屋を出た。

 

「さて、妾も……」

「貴方はここです」

 

榧に延珠は捕縛された。

 

 

 

 

 

 

「ふぃ~」

 

かれこれ数日ぶりのシャワーだ。この怪我では銭湯とかにも行けないし内心有り難っていた。

 

「つっ!」

 

傷に石鹸が染みる。

見てみれば細かい古傷や生傷が結構ある。

 

「……まだダメだな……」

 

蓮太郎は壁に額をつける。優磨なら……きっともっと上手くやった……もっと簡単に……鮮やかに……だが自分はこんなにボロボロになってやっとだ。夏達の援護なしだったらもっと酷かったと思う。

 

「俺かっこわりぃな」

 

蓮太郎は頭を振って意識を向け直す。自分なりにまだやれることはある。ならばそれをやるだけだ。

 

「………っ!」

 

蓮太郎は咄嗟に体を捻って横に飛ぶ。すると壁に突如現れたナイフが刺さった。

 

「中々勘が良いようだな」

「誰だてめぇ!」

「俺の名はソードテール……五翔会の3枚羽根だ」

 

そう言ってまた消えた。

 

「俺の力は皮膚に光化学化……俺が見えねえだろ」

「ちっ!」

 

蓮太郎は外に飛び出す。

 

「里見くん!何のさわ……」

「木更さんこっちく……」

『キャアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!』

 

木更を含め駆け付けた女性陣が悲鳴をあげた。

 

「里見くん。君自分の格好考えてみたまえ」

「ああ!」

 

菫に指摘され蓮太郎は気づく。

蓮太郎は現在シャワーを浴びる都合上全裸である。無論ソードテールと名乗る男に襲われたため着替える暇などあるはずもない。

 

「取り合えずこれを!」

 

榧が近くにあったバスローブを投げる。酷く間抜けだが無いよりは良い。

 

「なんだぁこの騒ぎは」

「っ!」

 

近くにソードテールの声が聞こえた。

 

「声だけが聞こえる?」

「光化学化する力らしい」

「また面倒だな」

 

他の面々も武器を構える。

 

「ふん……俺の姿なんて誰も見えオブゥ!」

 

ソードテールは体をくの字に曲げる。

 

「お…ごふ……」

 

胃から食べ物が競り上がってくる。

 

「何で……」

 

すると殴った張本人の夏は赤くした瞳を向ける。

 

「だって見えてるもん」

「え?」

「僕のモデルはシャコ……シャコは凄く目が良くてその気になれば赤外線とか電磁波とか見えるんだよ?普段は見えないように力抑えてるけどさ」

「な……」

 

夏は後ろに跳ぶ。

 

「これで終わりだ!」

 

夏の拳が迫り……

 

「ばぁか」

 

逆に夏が吹っ飛んだ。

 

「残念だったなぁ。俺はナノチューブの筋肉……更に高い回復能力を加えた機械化兵士だ」

「くっ!」

 

蓮太郎は義眼を起動させ突っ込む。

 

「らぁ!」

「ふん!」

 

義手と機械化した腕がぶつかる。

 

「ウォオオリャアアアア!!!!」

 

玉樹はチェーンソー付きメリケンサックを振りかぶる。

 

「はぁ!」

「やぁ!」

「うりゃ!」

「えい!」

「がう!」

 

瞳を灼熱させた榧、朝霞、延珠、翠、風深の近距離系の戦闘ができる面々も突っ込む。他の面々は支援が得意な面々だ。だがこの狭い中では支援は無理だろう。無論菫に戦闘は不可能だし木更は腎臓がある。

 

「うらぁ!」

「ちぃ!」

 

ソードテールがナイフで蓮太郎を迎撃する。

 

「くっ!」

 

そこに、

 

「鬼八さんの仇……」

「っ!」

 

火垂が銃を向けた。だが、

 

「おせぇんだよ!」

 

それより先にナイフが投擲される。

だが火垂には関係ない。死んだと生き返るのだ。

だが、それより先にナイフを捕まれた。

 

「なに!」

「里見さん……?」

「お前の相手は……」

 

腕に残った薬莢が全て排出される。

 

「俺だ!!!!焔火扇(ほむらかせん)三点撃(バースト)!!!!」

 

ソードテールが吹っ飛ぶ。

 

「いつつ……」

 

蓮太郎は手を見る。思いきりナイフを掴んだため結構深く切っていた。

 

「なにやってんですか!?私は刺されたって平気ですよ!」

「……体が勝手に動いたんだよ!ほっとけ!」

 

蓮太郎は拳を握る。

 

「夏……どうだ」

「こっちに来てる」

 

夏以外には視認が出来ないため蓮太郎は舌打ちした。

 

「うらぁ!」

 

夏が距離を詰める。

 

「さっきは油断したから良いの一発もらったがよ。もう油断しねぇよ!」

陰禅(いんぜん)黒天風(こくてんふう)!!!!」

 

夏の殴っている場所から恐らく居ると思われる場所に蹴りを叩き込む。

 

「あめぇ!」

「ぐっ!」

 

蓮太郎は吹っ飛んだ。

 

「蓮太郎!貴様!」

 

延珠が飛び蹴りを放つがそこには既に居らず間違えてそのまま弓月に蹴りを入れそうになる。

 

「あぶな!」

「す、すまん!」

(どうする……ん?)

 

蓮太郎は良く見る……良く見ると……何処に居るのか分かってしまった。

 

「夏!思い切りなぐれぇ!」

 

蓮太郎が走り出す。

 

(一撃で決める!)

 

恐らく相手はまだ気付いていない。ならば今しか見えないだろう。

 

「っ!」

 

ソードテールも蓮太郎に場所が気づかれたのに気づく。

 

「何故だ!?」

「お前馬鹿なんじゃないか?自分の体良く見ろ」

「っ!」

 

ソードテールの体にはベットリと血が付いていた。恐らく蓮太郎を吹っ飛ばしたときに手の傷から出ていた血がついたのだろう。流石に血は消せない。

 

「ウォオオオリャアアアアアア!!!!」

「がっ!」

 

ドゴン!と夏の鉄筋コンクリートにすら大穴を空ける拳がソードテールの背中にめり込む。

普通ならそのまま衝撃は前の方に流れるが……今回はそうはさせない。

先程からぶん殴っても立ってくることを考えるとタフさも普通じゃない。ならば、

 

「天童式戦闘術 一の型十二番 閃空瀲艶(せんくうれいえん)!!!!」

 

ズン!っと蓮太郎の拳の勁力が余すところなくソードテールの体の内部に伝えられ……

 

「がはっ!」

 

ソードテールは血をはいて倒れた。

恐らく内臓はボロボロだろう。夏のパンチの力を閃空瀲艶(せんくうれいえん)で体の内部に押し止めさせたのだ。体の中を夏のパンチが駆け抜けたようなもの……内臓は外傷に比べて損壊が酷いだろう。

 

「やったな」

「うん!」

 

蓮太郎と夏がハイタッチすると、

 

「流石ですねぇ」

「っ!……巳継 悠河……」

「こいつが……」

 

全員が現れた悠河を見る。

 

「全く、ソードテールには良く言っといたんですけどねぇ。里見さんは強いと」

「お前もやるのか?」

「まさか、そんな弱った君とやっても楽しくないですよ。これをあげに来たんです」

 

そう言って悠河は蓮太郎に鍵を投げる。

 

「五翔会の秘密基地みたいなところの鍵です。其処に答えがある。場所は外周区のNO.0013番モノリスです」

 

そう言って背を向ける。

 

「そこで全ての決着をつけましょう。次は僕も油断も手加減もしない。僕の【万物を見抜く眼】を……【万物を砕く拳】を……全てを賭けて君を……殺す」

「やってみろ……なら俺も【大切な人と繋げる手】を……【大切な人と共に歩む脚】を……【大切な人と同じ景色を見る眼】を……持ってる全ての力を使ってお前を倒す」

 

悠河は去る……

 

「絶対にだ……」

 

蓮太郎の呟きは誰も聞くことはなかった……



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第32話

「トリヒュドラヒジン?」

「ええ、しかも相当量のが検出されました」

 

由美の報告に全員が眉を寄せた。

 

「蓮太郎。そのトリ何とかとは何だ?」

「トリヒュドラヒジンだ。昔ガストレアウィルスの侵食抑えるっていわれた薬だ。まあ一時的だったんだけどな」

「でもあれ……確かもう一つ効果があって強い催眠状態に落とすって」

「その通りだよ木更ちゃん。まあお陰でレイプ薬の意味合いが今は強いね。ちなみに今でも裏ルートのアダルトビデオ何かそういうのもあるよ」

「あんまり聞きたい話じゃねぇな」

 

玉樹が気分悪そうにいった。

 

【まあそう言うのは需要がある限り無くならん奴や。でも何でガストレアからそんなもん出てきたん?】

「分かりません」

「どちらにせよ殴り込むしかないな」

 

蓮太郎は立ち上がる。

 

「行くのかい?」

「ああ」

「なら私たちは君たちが帰ってきたらすぐに行えるように最後の仕上げの準備をしておこう」

 

菫、木更、由美、榧、新一、風深、玉樹、弓月達は待機組……そして、

 

「行くぜ」

『おお!』

 

蓮太郎、延珠、火垂、 夏、春、夏世、翠は攻撃組に入る。

 

「さて、行ってくる」

 

蓮太郎達は出ていく。

 

「大丈夫でしょうか……」

「まあ危険だね。でもまあ……信じるしかないだろう」

「そう……ですね」

 

木更は蓮太郎達が出ていったドアを見つめていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか……」

 

蓮太郎はモノリスの近くに来る。

 

「でもなんかある?」

「………ああ!」

 

春が声をあげた。

 

「どうした?」

「これを……」

 

皆が春が指差すマンホールを見ると、

 

『ああ!!!!』

 

そこには羽根の模様が彫ってあった。

 

「そこでこれか……」

 

蓮太郎は鍵を取り出すと穴に差し込み……ガチャリという音と共に開けた。

 

「いくぞ」

 

蓮太郎が飛び降りると皆も続いた……

 

 

 

 

 

「暗いな……」

 

延珠が呟く。

 

「そうだな」

「同感です」

「うん……」

 

蓮太郎、夏世、翠も同意するが……

 

「そう?」

「特に気になりませんけど?」

 

目が良かったり暗闇に慣れてるモデルの夏と春は何ともないと言った顔だ。

 

「ん?」

 

すると光が見えた。

 

「あれは……」

 

そこを見ると何かの研究室らしくかなり広い。

 

「なんだここ……」

 

入ってみるが一体何の……

 

『っ!』

 

次の瞬間耳をつんざくような鳴き声が響く。

 

「何だ一体……」

 

蓮太郎達は身構えながら先に進む……そして、

 

『なっ……』

 

蓮太郎達は息を飲んだ。

背中から変な汗が出る……口がカラカラになる……目が見ることを拒否する……

 

「何……これ……」

 

夏が喉の奥からやっと声を出した……

 

目の前にあるのは大量の檻……中にガストレアが入れられたと言う注釈がはいるが……

しかもこの檻……バラニウムで出来ている。普通ガストレアはバラニウムに囲まれれば衰弱死するはずなのだ。なのにピンピンしている。

 

「そう言うことかよ……」

 

羽根の模様があるガストレアもここから出てきた一体だったのだ。

五翔会の目的は……

 

「分かったみたいですね」

『っ!』

 

声の方を向くと悠河がいた。

 

「ああ、五翔会の目的は……バラニウムに耐性を持つガストレアを作り出すこと」

「正解です」

「だが何故だ!」

 

ガストレアに対してはステージⅤを除きバラニウムが有効……そのお陰で人類は生き長らえたといっても過言ではない。だがその安全神話が崩れてしまえば五翔会の人間だって危険なはずだ。

 

「その為のトリヒュドラヒジンだよ」

「まさか……」

「そう、トリヒュドラヒジンには一種の麻薬のような効果がある。それを使うことで耐性ガストレアを従わせるのさ」

「何故そこまでする!」

 

蓮太郎には分からなかった。何故そこまでする必要があるのだろうか。

 

「バラニウム……この金属が後どれくらいこの地球に埋蔵されているのかわかるかい?何と世界中のバラニウムを集めてにガストレアの殲滅には圧倒的に足りない。ならば毒を以て毒を制すればいい」

「ようはガストレアにガストレアをぶつけるって訳か……だがそれで終わりじゃねえだろ?」

「流石だ。そうだよ……ガストレアが消えた後には今度は脅威になってもらう。今度は世界中に耐性ガストレア牙を剥く。だが従わない国だけだ」

「そうやってお山の大将になる気か?」

 

蓮太郎は腰を落とすと義眼を解放する。

 

「そんなことはさせねぇ……五翔会だろうがなんだろうが関係ねぇ……俺がそんなもんぶち抜いてやる!」

「やってみなよ!」

 

蓮太郎と悠河は疾走……そして、

 

焔火扇(ほむらかせん)!!!!」

 

カートリッジが排出され推進力を味方に拳を突き出す。

 

超振動デバイス(ヴァイロ・オーケストレーション)!!!!」

『っ!』

 

凄まじい轟音と共に両者が吹っ飛ぶ。

 

「じゃあ俺はお前らチビの相手と行こうか」

『っ!』

 

夏たちは力を解放しながら振り替える。そこには金髪にピアスで体つきは貧相でもないが決して恵まれてるとも言えない普通のチンピラ……だがもっとも気になったのは両腕が真っ黒なの事だ。日焼けしてるとかそういうのではない。純粋に黒い……バラニウムの義手であることは一目で分かった。

 

「五翔会 三枚羽根 ケルベロスこと北沢(きたざわ) (はじめ)だ。わりぃが……死んでもらうぜ」

「くっ!」

 

夏たちも臨戦態勢を取る。

 

遂に最終決戦の幕が上がった。

 

 

 

 

「うぉおおお!」

 

夏と延珠と碧が疾走。後ろには春と夏世と火垂が援護する。普通であればこれで一蹴だ……あくまで普通であればだが……

 

「うぉら!」

 

北沢は地面を思いきり殴る。その際に地面に亀裂が走り夏達は足を取られる。

そこを一気に間合いを詰め、

 

「ふん!」

 

北沢の腕からカートリッジが排出。蓮太郎の義手を上回る推進力を味方に延珠に拳を撃ち込む。どれくらい上かと言うとカートリッジ一発で蓮太郎のカートリッジ三発分の威力を持っていた。

 

「がっ!」

「延珠!」

 

更に延珠が吹っ飛んだ先には春達がいた。

 

「くっ!」

 

春達は咄嗟にキャッチしたが……

 

「馬鹿な奴等だ」

「っ!」

 

北沢の右ストレートで春の肋骨が折られた。

 

「二人」

 

更にカートリッジを排出させ夏世を壁にめり込ませた。

 

「三人」

 

最後に火垂の腕を折りながら上へ打ち上げた。

 

「こんのぉおおおおお!!!!!!!!」

 

夏は地面から足を無理矢理引き抜き疾走。翠もそれに続く。

 

「はぁ!」

 

翠の爪が迫る……だが、

 

「ん?」

 

簡単に捕まれ引っ張られると……

 

「おら!」

「ぐっ!」

 

バランスが崩れたところにボディnを穿つパンチが翠を倒す。

 

「らぁ!」

 

そこに夏が来るが夏の拳に合わせカートリッジを排出……そしてクロスカウンターをぶちこんだ。

 

「がふ……」

 

夏は膝をつく。

 

「わりぃが……俺はお前のプロモーターの牙城 優磨ですら殺したんだぜ?お前なんざに負けるかよ」

 

背を向けながら北沢は言った。本当は違うがそういった方が夏悔しがると思っていったのだが……それは失敗だった。

 

「そう……か……」

「ん?」

 

夏は立ち上がる。この中で唯一モデル・シャコである夏はかなり打たれ強かった。

 

「なら余計に負けられない……お前は僕が倒す!!!!」

 

夏は瞳を更に赤熱させる。

 

「やってみろよ!」

 

北沢は走り出す。

北沢の義手はカートリッジ一発で二回パンチ力を上昇させられる。

更に上昇させられる力は蓮太郎のおよそ三倍……

だが夏は恐れることなく優磨直伝のボクシングスタイルを取る。

 

「おっらぁ!」

 

北沢の拳が迫る。

だが、

 

「はぁ!」

 

それを横に跳んで夏は避けると肝臓打ち(レバーブロウ)を打つ。

 

「ぐっ!」

 

北沢は裏拳で夏を追うが後ろに跳んで躱してもう一度詰めて肝臓打ち(レバーブロウ)……

 

「てめ!」

 

カートリッジを炸裂させて北沢の拳の打ち下ろし……も躱して肝臓打ち(レバーブロウ)!!!!

 

「くっ!」

 

北沢は怯んで頭を下げる……そこに……

 

「ドォオオオオオリャアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

渾身の右ストレート……メキャ!っと言う音と共に北沢は吹っ飛んだ。

 

「ぐぼっふ!!!!」

 

北沢は吹っ飛び周りの機械を蹴散らす。

今のは優磨に習った技術だ。

 

ボクシングにおいて実は重量級でもないとそんなに一発KO勝ちはない。夏のように軽量な体の選手はひたすら相手の一撃を躱して肝臓打ち(レバーブロウ)が鉄則だ。

無論そのような試合は観客は盛り上がらないし劇的な展開もない。ひたすらボディ打って点数あげて判定勝ちも多い。

鮮やかさはない。派手さもない。だが同時に確実性がある。故に優磨は夏のパンチ力を活かせるボクシングを教えていた。

 

「ウォオオオオ!!!!!!!!」

 

止めの一撃を撃ち込むべく疾走し……突然の横からの衝撃に夏は吹っ飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間を戻そう。

 

「ウォオオオオ!!!!」

「ハァアアアア!!!!」

 

蓮太郎と悠河の戦いはひたすら乱打戦へとなっていた。無論互いの一撃はギリギリで躱している。だが精神力をゴリゴリ削られていくのを蓮太郎は感じていた。

 

「ウォオ!」

 

蓮太郎の蹴りあげを悠河は躱す。

 

「はぁ!」

 

そこからカウンターキックを狙うが蓮太郎の義眼がそれを捕らえ躱す。

二人の義眼は秒単位で演算速度を上げていった。だが……時間と共に蓮太郎が押され始めた。

 

「ハハハ!そんな低スペックの義眼を着けられたことを恨むんだね!」

「恨むか!この目は先生が俺に両目で世界を見るために着けたんだ!」

 

感謝こそすれ……恨む理由は微塵もない!

 

「そうかい……ならこれで終わりだ!超振動デバイス(ヴァイロ・オーケストレーション)!!!!」

「舐めんな!!!!雲嶺毘湖鯉鮒(うねびこりゅう)!!!!全弾撃発(アンリミテッドバースト)ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

悠河の拳と蓮太郎の義手が再度ぶつかり合う……

 

 

 

 

 

「かはっ!」

 

蓮太郎は転がりながら肺にたまった空気を吐き出す。

 

「はぁ……はぁ……」

 

周りを見渡す。悠河もどこかに吹っ飛んだらしい。

 

「っ!」

 

すると延珠達を見つけた。

 

「大丈夫か!」

 

駆け寄ると皆はボロボロだが何とか息はある。

だが、

 

「う……しろ…」

「っ!」

 

背後から北沢の襲撃を受ける。

 

「ぐっ!」

 

咄嗟に義足のカートリッジを排出し地面を蹴って躱す。

だが、その先には北沢と同じ顔をした脚が義足の男……

 

「がふっ!」

 

そいつも脚のカートリッジを排出し蓮太郎を蹴り飛ばす。

 

「里見さん伏せて!」

 

夏世に引き倒されると縦断がすぐ前を通過した。

 

「何だと……」

 

遠くに見えるが狙撃狙したのも北沢と同じ顔をした男……

 

「じゃあ改めて……五翔会 三枚羽根 北沢 一だ」

「同じく……北沢 次郎。向こうにいるのは三郎」

「三人揃ってケルベロスって訳だ。因みに俺は義手、次郎は義足で三郎は義眼だ」

「すいません……」

「謝んな夏世……」

 

蓮太郎は構える。何とかしてこいつらも倒さねば全滅する。

 

「オォオオオオオ!!!!」

 

蓮太郎は腕にカートリッジ補充しながら走り出す。

 

「焔火扇!三点撃(バースト)!!!!」

「よ!」

 

だが蓮太郎の一撃はカートリッジ一個使用されただけで止められた。

 

「残念だったなぁ!!!!」

 

次郎の回し蹴りに吹っ飛ばされる。

 

「ごふっ!ごふっ!」

 

蓮太郎は転げ周りながらも狙撃を避ける。

 

「くそ!」

 

蓮太郎は立ち上がる。

 

「っ!蓮太郎!!!!」

「え?」

 

蓮太郎は後ろを振り替える……そこには拳銃を構える悠河がいた。

この距離なら外れることはない。

 

「すみませんねぇ……任務成功第一ですから」

「……………」

 

走馬灯が流れていく……ああ、死ぬんだとぼんやり思った。

 

「さよなら……」

「っ!」

 

だが次の瞬間蓮太郎の前に何かが立ちふさがり後ろに崩れた。

 

「火垂!」

 

蓮太郎が抱き止める。

 

「何で……」

「体が勝手に動いたんです……ほっといてください」

「大丈夫だ。すぐに……」

「それは無理だ」

 

悠河の言葉に蓮太郎は睨み付ける。

 

「最近はモデルが判明してないイニシエーターもいるし案外イニシエーターはバラニウム弾でも死なないことがある。だからこれさ」

 

悠河が見せた黒い弾頭の銃弾。一見は蓮太郎達も使うものと似ているが、

 

「濃縮バラニウム弾……イニシエーターに対しても絶大な威力を発揮する弾丸ですよ」

「てめぇホラ吹くのも!」

「多分……合ってます」

「え?」

 

段々火垂の呼吸が浅くなる。

 

「里見さん……私……楽しかった……皆でワイワイ……鬼八さんが居なくなってから初めてそう思えました」

「おい!そんなこと言うなよ」

「きっとあなたは凄い人になれると思います……女の勘ですけどね……」

 

だから……

 

「生きてください」

 

火垂の体から力が抜ける。

 

「火垂……火垂!!!!!!!!」

「ジ・エンドだ」

 

蓮太郎の頭に銃口が押し付けられる。

 

「……」

 

皆が動き出す。だがそれはケルベロスが行く道を塞ぐ。

 

(駄目だ……)

 

夏はその中呆然とした。

もうどうにもならない……蓮太郎は殺されて……自分達も殺されるのだ。

 

(嫌だ……!!!!)

 

心が叫ぶ……魂が咆哮する。

 

「……て……い……」

 

夏の目から涙が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昔約束した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が居ないときに危なくなったら呼べ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どんなに小さい声でも……例えどんなに遠くにいても……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前が心の底から呼べば……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶対に助けに行くから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

来る筈無いのは分かってる。だがそれも夏は呼んだ。

大好きで……大切な兄と呼ぶ男を……

 

「優兄……たすけて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「任せろ」

 

そんな声が聞こえた次の瞬間状況が変わった。




登録数が気付けば100人突破……パンパカパーン!!!!
やったー!
皆さんありがとうございまーす!


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第33話

『え?』

 

その場の全員が突然唖然とした。突然天井にヒビが入り穴が開くと一人の男が乱入。

銃を撃つとまず悠河の銃を撃ち、更にそのまま乱射しケルベロスを待避させる。そして男は着地すると、

 

「すまん!遅れた!!!!」

「優……兄……?」

 

夏は信じられないと言う顔だ。

 

「おう、なんだ夏」

「優兄!」

「優磨兄様!」

「優磨兄さん!」

「優磨さん……!」

 

四人に抱きつかれる。

 

「何だ何だお前らちっとは成長したかと思えばまだまだだな」

「ばかぁ!何で遅れるんだよ!」

 

優磨は皆の頭を撫でる。

 

「ごめん……だけどもう大丈夫だ」

 

優磨は次に蓮太郎の元に行く。

「よう」

「優磨さん……俺!」

「ありがとう」

「え?」

 

優磨はそっと火垂に触れる。

 

「お前は夏たちを守ってくれた。そしてお前は彼女の復讐と言う鎖を解いていた。成長したな」

「……」

「だからこそ今は立て……言っていただろう?生きろと」

「……はい」

 

蓮太郎は立ち上がると優磨と背中合わせになる。

 

「お前は義眼使いだ。俺はあのクソヤロウ三人組を倒す」

「大丈夫……だろうな。あんたなら。人間やめてるだろうし」

「失敬な。俺は人間だぜ?」

「どうだかな」

 

優磨は肘で蓮太郎をつつく。

 

「行くぞ。蓮太郎」

「ああ、優磨さん」

 

二人はそれぞれの相手に疾走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

制限解除(リミッターオープン)!解除率30%!!!!」

 

制限(リミッター)が解除され優磨の腕のスラスター火を吹く。

 

「くそ……まあいい!もう一度殺してやる!」

 

そう言うと狙撃弾が飛んでくる。

 

「オッラァ!」

 

狙撃弾を優磨は正面で殴り来た方にそのまま跳ね返す。

 

反射鏡(はんしゃきょう)!!!!」

 

飛んできた速度を上回る速度で狙撃弾はそのまま帰っていく。

 

「がご……」

『へ?』

 

そして北沢 三朗は眉間から血を流し絶命した……

 

「はい一人終わり」

「な、舐めるなぁああああ!」

「ん?」

 

優磨に北沢 二郎の蹴りが迫る。

それを優磨は伏せて躱す。

更に北沢 一が優磨に迫る。

 

「よ!」

 

優磨は体を逸らして躱していく。

 

「せぇの!」

 

優磨はスラスターを起動させ拳を加速……それを連続で行い……

 

紅蓮(ぐれん)(かさ)穿(うが)ち】!!!!」

 

同じ場所に連続で打ち込み北沢 一は血を吐きながら吹っ飛ぶ。

 

「キサマァアアアアアアア!」

 

北沢 二郎の蹴りが迫る。それを、

 

「ふん!!!!」

 

優磨は肘と足で挟んで止めると体を捻り裏拳。

 

「ぐふっ!」

「おらぁ!」

 

更にボディーブロウ…そして相手の首を抱えるようにする技……俗に言うフロントチョークといわれる技で思いきり締めつつ体を捻りながら地面に転がる。その際にメギャっと言う音がし、血の泡を吐きながら北沢 二郎の命を刈り取る。

 

「さて……」

 

優磨は最後に北沢 一を見る。

 

「馬鹿な……こんなあっさり……」

「お前らさぁ……自分より弱いやつとしか戦ったこと無いだろ?んで個人では勝てない相手には三人で囲って倒してた。だからなぁお前らさぁ……」

 

覚悟が感じれねぇよ……そう優磨がいった。

 

「殺される覚悟が……叩きのめされる覚悟が……感じれねぇんだよ!!!!」

 

優磨の制限(リミッター)が40%まで引き出される。

 

紅蓮(ぐれん)!!!!」

「うぉおおお!!!!」

 

カートリッジをすべて使いきり北沢 一の拳と優磨の拳が火花と轟音を撒き散らしぶつかる。

 

「オオオオオオオオラァアアアアアアア!!!!!!!!」

「なっ!」

 

北沢 一は自分の拳が粉砕されたのを確認しながら優磨の拳を顔で受ける。

メリゴキゴキャっと言う音と共に北沢 一の顔面がグルングルンと回転し首が四回転し絶命した。

 

「何時か俺も地獄に行くとは思うけどよ……その時は顔見せんなよ」

 

優磨は背を向けると夏達の元に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悠河ぁあああああああああ!!!!!!!!」

 

蓮太郎は悠河と間合いを詰める。

 

「ちぃ!!!!」

 

悠河の蹴りが迫る。

それを伏せて躱すと、飛び上がる。

 

「天童式戦闘術 二の型四番!!!!隠禅(いんぜん)上下花迷子(しょうかはなめいし)!!!!三点撃(バースト)

 

脳天に強烈な踵落としが決まる。

義眼がバチバチ音を立てる。まるで蓮太郎感情に呼応するかのように……

 

「がっ!」

「うぉおおおお!焔火扇!!!!三点撃(バースト)!!!!」

悠河は壁まで吹っ飛ぶ。

 

「くそ!」

 

悠河は懐から非常用に隠し持っていた銃を抜くと蓮太郎に狙いをつける。

 

「死ねぇえええええええ!!!!」

「っ!」

(こんなところで……死ねるかぁあああああああああ!!!!!!!!)

 

火垂を殺された……何がなんでも絶対に倒す……!!!!

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」

 

蓮太郎の義眼の奥が火花を散らした。

 

「ん?」

 

すると、周りが白くなる。その場には蓮太郎と悠河のみ……何かは分からないが……何が起きてるのかはわかる。

周りの時がゆっくりと流れてるのだ。そのため悠河が撃った銃弾がゆっくりとこちらに向かってくる。

 

「……………」

 

蓮太郎はその中で警察から奪ったベレッタと火垂の遺体から取っておいたガバメントを構える。

 

「ウォオオオオオオ!!!!!!!!」

 

続けて二丁撃つ……ベレッタの銃弾が悠河が撃った銃弾を弾き……火垂のガバメント銃弾が悠河の胸を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

「がはっ!」

「よう」

 

蓮太郎は悠河に近づく。

 

「撃つ瞬間が……見えなかった?」

「お前にはそう見えていたんだな」

 

確かに全てが遅くなった世界でいつもの感覚で蓮太郎は動けていた。端から見れば確かに蓮太郎が高速で動いたように見えるだろう。

 

「はは……まさか二度も天童の技に負けるとはね」

「なに?」

 

蓮太郎は眉を寄せる。

 

「君と同じ技を使う男さ……僕はそいつに破れて四枚羽根から三枚に堕ちた……まあ実力は確かだよ。何て言ったって三秒で僕は負けた」

「……………」

 

蓮太郎は背筋が凍った。この男を三秒で倒すなど普通じゃない。

 

「……ごほ!ごは!」

 

悠河は血をはく。

 

「言っておくけど五翔会の戦闘員はこれで全てじゃない。少なくとも……僕クラスだっている。君は何時まで戦えるのかな?」

「んなもん決まってる……」

 

蓮太郎は背を向ける。

「敵意向けてくんなら全部ぶっ潰すだけだ」

「は……は……君は……馬鹿…だ……ね……でも……」

 

嫌な馬鹿じゃない……そう言って悠河は動かなくなった。

 

 

 

 

 

「…………」

 

蓮太郎は火垂を抱き上げる。

 

「蓮太郎……」

「帰ろう……延じ……」

「う、ん……」

『え?』

 

蓮太郎と延珠は目を見開く。

 

「あ、里見さんも死んだんですか……?」

『で、でたぁああああああ!!!!!!!!』

蓮太郎は突然目覚めた火垂を投げてしまった。

 

『ええ!?』

 

夏達も突然起きた火垂に驚愕する。

 

「いったぁ!」

 

火垂は背中から落ちて悲鳴をあげる。

 

「おおおおお前幾らなんでも化けてでるのが早すぎだろ!」

「そそそそそそうだ!幾らなんでも早すぎだ!」

「いや、何でか死んでなかったのよ……何でかしら……」

 

火垂が懐をいじり……取り出したのは、

 

「携帯?」

「ああ!」

 

これは菫特製の携帯。例え対物ライフルを当たっても傷一つ着かないとか言う携帯だ。余計なことに血糊噴射機能まで着いていたらしくそれのお陰で死んだと蓮太郎は思い込んでいた。

火垂は衝撃で一時的に気を失っていただけらしい。

 

「俺は気づいてたぜ?」

 

優磨の言葉に蓮太郎は驚く。

 

「じゃあなんで言って……」

「あそこで言うようなものじゃなかろう?」

「う……」

「まあいいじゃん!」

 

夏がバンバン蓮太郎を叩く。

 

「んじゃ、ここをどうにかして壊すか……」

「いや、その前に……」

 

優磨はUSBを出すとコンピューターの差し込む……それから弄ると、

 

「よしOK」

 

優磨はUSBを抜く。

 

「ちょうど良いからここの研究の証拠ももらっていこうぜ?ついでにここの爆破も設定した」

「あるんですか?」

「ああ、いざというときの自爆装置があって……」

【後……1分です】

「あれ?」

 

確か後十分くらい後に爆発する予定にしたんだが……

 

「にげろぉおおおおおお」

「優兄のばかぁああああああ」

「うわぁああああん」

「うそですよねぇええええ」

「ふぇえええええ」

「何であんたはそう詰めが甘いんだよぉおおおおおお」

「走るぞ火垂ぅうううう」

「なんなのこのひとぉおおおお」

 

皆は走り出す。優磨が絡むとろくなことがないのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

ドンッ!っと言う音がした……

 

「先生この音は……」

「多分……どこかで爆発が起きたね……」

 

留守番組は準備が終わったため蓮太郎達の迎えに来ていた。

 

「入りますか?」

「いえ、誰か来ます」

 

耳が良い風深が言う。

 

「数は……あれ?一人多い?」

「まさかボーイ達が殺られたんじゃ……」

「そんなわけないでしょ!」

 

弓月が怒鳴る。

すると、ドガン!と言う音と共にマンホールが飛ぶ。

 

「し、死ぬかと思った!」

 

蓮太郎が這い出る。それに続くように延珠達も這い出てきた。

 

「里見くん!」

 

木更は蓮太郎に駆け寄る。

 

「大丈夫!?」

「まあ何とか……」

 

皆は出終えると……

 

「よっこいしょ!」

 

優磨が出る。

 

『え?』

「よう」

『で、出たぁああああああ優磨さんのお化けぇえええええええ!!!!』

 

菫以外全員飛び上がって叫び菫ですらポカーンとしている。

 

『南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏!!!!』

「アーメン!!!!」

「ジーザス!!!!」

「いやいやいや!俺生きてるし!後玉樹、それ死んだ人間に言う言葉じゃないから!!!!」

「じゃあ……本物なんですか?」

 

由美が聞く。

 

「おう、由美ちゃんが最後におねしょした年も言えるぜ?確か……」

「わー!」

 

由美が優磨の口を塞ぐ。

 

「本当に優磨さんなんですね?」

「ああ」

 

すると優磨は由美に抱きつかれた。

 

「よかった……本当に……よかったぁ……」

「そうか……」

 

優磨は優しく由美の頭を撫でる。そして菫と目が合うと、

 

「お帰り、優磨くん」

「ああ、ただいま」

 

すると、菫は優磨の腕を見る。

 

「あれ?君は腕が無くなっていたんじゃないの?」

「ああ~、何か襲われた後ガチガチ歯が鳴るし目眩がするし幻覚まで見えてきて最終的に意識失ったんだけどさ……まあ、起きたら元に戻ってた」

「は?」

「そんでさ。俺が目覚めたのって数年前に潰れた廃病院らしくてお化けの襲来に怯えながらそこから脱出してついでに起きたときに置いてあったメモに指示された場所に来たらお前らの戦闘に乱入する嵌めになったんだ」

『いやいやいや……』

 

色々と突っ込みどころ満載にして可笑しいだろそれと全員が思った。

 

「しかし誰が俺の治療したんだろうな」

 

優磨の体はご存じの通り殆どが機械だ。その性でまず普通の病院は無理……菫ほどの科学者ならばともかく素人などが治療はできない。

 

(少なくとも菫レベルの天才……しかも機械化兵士の知識を持つもの……もしくは俺と同じ機械化兵士の人間……か?)

 

優磨は頭を掻きつつもここで考え込んでも仕方ないと頭を振るう。

 

「で?これからどうするんだ?」

「最後のゴミ掃除といくんだよ」

 

菫は悪そうな笑顔でそういった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから三十分後……櫃間は車を爆走させていた。

悠河やケルベロス連絡が取れなくなったのは先程……まさか負けたのかと櫃間は心中穏やかではなかった。

だがそこに来たのは木更から電話と包み……内容は結婚を承諾するとのことと包みの中身タキシード。急にのため怪しい気もしたがそれ以上に歓喜が身を包んでいた。しかも前々から驚かせようと挙式の準備をしていたらしく後は櫃間が送った服を着て来ればよいとのこと。まさか自分を驚かせるためにこっそり準備してたとは恐れ入る。可愛いじゃないか。

 

(くくく……里見 蓮太郎……木更は貰うぞ!!!!)

 

狂喜じみた顔で降りると松葉杖をつき、三角巾で腕を吊るして頭に包帯をぐるぐる巻いた櫃間は車を降りる。

 

「ここだな」

 

少し寂れた感じはあるがお洒落な教会だ。

 

「あ、櫃間さん」

「っ!」

 

櫃間は入ると一瞬計画全てが頭から消えた。中に居た木更は当たり前だがドレス姿……だが……美しかった。

 

「行きましょう?」

 

櫃間は木更の腕を取り歩き出す。中には由美や新一に菫や見たことのない長髪の男等が居た。何か見たことがあるような無いような人間が多数いる……

 

(まあいい)

 

櫃間は牧師の前に立つ。

 

「これより……近いの言葉をのべてもらいます」

 

牧師にしては酷く体つきが大柄な金髪の牧師は口を開いた……



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第34話

櫃間処刑の日……
ちょっとグロ注意です。


「二人は永遠の愛を誓いますか?」

『誓います』

 

櫃間はニヤつく顔を押さえるのに必死だった。だが本当の目的は木更を使って天童を潰して貰う。だが同時に木更を好きにできるのだ。

ジュルリ……と内心舌舐めずりする。今夜は初夜だ。櫃間が頭に描いてることは詳しく書けばR15では無くR18の方に投稿せねばならなくなるため割愛させていただくが少なくとも16の女子で想像するには少々ドン引きしてしまう。

 

「では最後に櫃間さん……」

「はい」

 

ついに近いのキスか?等と思っていると……

 

「てめえは自分の罪を認めて俺っちの女神から今すぐ離れろカス野郎」

「え?ブベっし!!!!」

 

唖然とした次の瞬間顔に鋭い痛みと衝撃が来る。

 

「な、なんだ!」

「久しぶりだなぁ!」

 

牧師の変装を解くと牧師は玉樹だった。

 

「貴様は!」

 

すると、櫃間の後ろ首を掴んで持ち上げる。

 

「初めまして……だな?櫃間 篤郎」

「だ、誰だ……」

 

すると持ち上げていた男はカツラを外す。

 

「|Please allow me to introduce myself. My name is Yuma Gajou《初めまして、会えて嬉しいです。私の名前は牙城 優磨です》」

 

流暢な英語でスラスラと自己紹介した優磨は拳を握る。

 

「一、二の……三!」

 

優磨の拳は無事だった櫃間の腕をへし折りついでに肋骨も粉砕しながら櫃間を吹っ飛ばしていく。

 

「ゴベルバ!!!!」

 

床を転がりながら目の前にたった人間を見る。

 

「よう……櫃間」

「里見……蓮太郎……」

 

櫃間は目を見開く。ここに来てやっと自分が誘き出されたことに気がつく。

 

「ま、待て!取引と行こう!お前の罪は無罪にする!これでどうだ!?」

「その心配はいらないよ」

 

菫が懐中時計を取り出す。

「あんまり故人の物を人に送るもんじゃないね」

「何だと?」

 

菫が懐中時計そ開けるとそこにはデータチップがあった。そこには……櫃間の悪事が記されていた。

 

「二枚底になっていてね。火垂ちゃんの誕生日に開いたんだよ」

 

二枚目の裏には……鬼八の火垂への言葉も刻まれていた。

 

「あの男!」

「最後の最後にな……てめえは鬼八に負けたんだよ」

「くそ!なら幾ら欲しい!?金をやろう!どうだ!?」

 

蓮太郎のなかでなにかが崩れた気がした。この……クズ野郎。

 

「っ!」

 

蓮太郎のベレッタが火を吹き櫃間の足に穴を開けた。

 

「イギャアアアアアアア!!!!!!!!」

「あああああああ!!!!」

 

蓮太郎は櫃間をカートリッジを炸裂させて吹っ飛ばす。

 

「げごぅ……」

 

壁に叩き付けられ櫃間は変な声が出た。

 

「てめえが……てめえみたいなやつが……」

 

蓮太郎は腰落とす。

 

「ウォオオオオ!!!!」

 

蓮太郎拳を振りかぶる……だが次の瞬間銃声と共に蓮太郎の足元に穴が開いた。

 

『っ!』

「失礼するわね」

 

軽い足取りで教会の屋上から着地する人影……その人影を見た瞬間優磨と菫の目が開かれる。別に並外れた美貌だからとかそう言うわけではない。

 

「優磨も菫も久し振りね。元気だった」

「楓……」

 

爪樹 楓……優磨と菫の大学時代の友人にして死んだと思われていた人間が現れた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何よ。久しぶりの友人に挨拶もないの?」

「はは……実は幽霊とか言うオチじゃねえよな」

「あり得ないわ。そんな三流脚本家が書きそうなつまんないオチ」

「じゃあ今の君は……ここで登場することを考えても」

「流石菫ね。改めて名乗らせて貰うわ。五翔会 四枚羽根の爪樹 楓よ序列は14位」

 

全員が戦慄した。元々優磨達の一部は知っていたが本人の口から語られると改めて戦慄する。

 

「た、助けに来てくれたのか!?」

 

櫃間は希望の光を見たが、

 

「何いってんのよ」

「へ?」

 

次の瞬間櫃間の胸から鮮血が舞った。楓は懐から抜いた拳銃で胸を撃ったのである。

 

「失敗せし者には死を……忘れた訳じゃないでしょう?」

「くっ」

 

すると次に楓は瞬時に蓮太郎の背後に移動。

 

『っ!』

 

その場の全員が反応できず蓮太郎は関節を極められながら盾にされる。

 

「さ、取引と行きましょう。優磨、貴方は持っているんでしょう?USB」

「……」

「それを渡せばこの坊やを殺さない。ただ渡さなければ……分かるでしょ?」

「……」

「優磨さん!渡すな!」

「……楓ぇ……これってお前本当に嫌な取引だな。俺の行動なんて一つだろ」

 

そう言ってUSBを投げる。

 

「離せ」

「ええ、言われなくてもね」

 

楓は蓮太郎を拘束しながらUSBを拾う……その隙を突き優磨は銃を撃つ。

 

「ふふ!」

 

だが楓はそれが分かっていたように蓮太郎を離すと跳躍して回避。 だが優磨は義眼を起動させると更に追撃した……が、

 

「残念ね」

 

瞬時に楓の両目が変わり優磨の撃った弾丸を楓の銃弾が弾いた。

 

「その目は……」

 

楓の右目は赤く……幾何学的な模様が走り、左目は蒼く光る。

 

「まさか優磨さんと里見くんの義眼をどっちも?」

「まあそう言うことね。私の執刀者は腕がよかったから」

 

そう言うと菫が顔を強ばらせる。

 

「可能性の話だった。今回の戦いの戦闘員達の力は全てが四賢人の作ったもの……つまり……五翔会の執刀医は……」

「ええそうよ。グリューネワルト……まあ私のは別の人間だけどね」

「……」

 

確か……菫が唯一尊敬した人物……楓を執刀した人間も気になるがグリューネワルトも何があったのだろうか……

 

「まあ別にそんな話したって仕方ないんだけどね」

 

楓は肩を竦めた。

 

「くっ!」

 

春はバレットM82を構える。

だが……

 

「春さん!」

 

榧に突き飛ばされると底に大きな穴が開いた。

 

「あはは~流石だね~」

「たしかお前は……」

「あ、お兄さん元気~?」

 

スタッと窓から降りてくる。

 

「初めまして~の人ばっかりだね。私は聖夜 秋菜でーす」

「っ!」

 

ドン!っと榧は疾走……同時に瞳が赤熱したが……

 

「…………………」

 

秋菜と榧の間に別の人間が乱入する。するとそれは榧の突進を人差し指をピンっと立てるとそれで止めた。

 

「なっ!」

「あ、この子は聖夜 冬華だよ。私の双子のお姉ちゃん」

「…………………」

 

人差し指で押しているだけなのに走る大型トラックですら投げ飛ばす榧を顔色一つ変えずに冬華は止める。

 

「雑魚に興味ない……だって」

「っ!?」

 

そして冬華は榧の顔を掴むとそのまま床に叩き付けて埋めた。

 

「榧ちゃん!」

 

由美が声をあげる。

 

「はぁ!」

 

すると冬華の体を弓月の糸が縛り上げ、

 

「オォオオオオオリャアアアアアア!!!!」

「でぇえええええええええい!!!!!!!!」

 

夏と延珠の一撃が完全に決まった……が、

 

「?」

 

冬華は後退りすらしなかった。寧ろ攻撃した夏と延珠の方がダメージを受けていた。

 

「…………」

 

無言で糸を引っ張る。

 

「無駄だよ。それを引きちぎるなんてそれこそステージⅤ位じゃな【ミシ……】え?」

 

すると建物の方が軋み始めた。

 

「…………」

「翻訳するとねぇ。私を縛ってる糸は頑丈でも建物はそうは行かないだろうだって」

 

そう秋菜がいった瞬間建物の壁が引き壊され悠々と冬華は歩き出す。

 

【んなアホな……】

「うそぉ……」

 

新一と風深は唖然とした。

だがそこに……

 

「?」

 

銃声が響き冬華は背中に感じた痛みに首をかしげる。

 

「くく……ばかめ!」

 

櫃間が撃ったらしい。どうも防弾繊維のインナーを着てて今まで死んだふりしてたらしい。

 

「これは濃縮バラニウム弾だ!14のイニシエーターだか知らないがお前も死ぬ……え?」

 

そんな中でも感情がないかのような冬華は背中から弾丸を爪でグリっとやって出すと櫃間に近づく。

 

「く、くるなぁ!」

 

何発も冬華は喰らうがまるで効いてないらしく至近距離まで近づくとニィっと口を開く。

 

「残念だったわねぇ……彼女、体質なのかバラニウムの効きが悪いのよ。それに体が頑丈で基本的に弾丸深く刺さらないし」

『っ!』

 

その場の全員が驚愕する。本当に冬華は……イニシエーターなのか?

 

「ひ、ひい!」

 

櫃間の顔に恐怖が浮かび……聞くはずのない言葉を聞いた。

 

「いただきます」

「ギィヤアアアアアア!!!!!!!!」

「ひっ!」

 

ガリ!ゴリっと音を立て櫃間が冬華に咀嚼されていく。

 

「がごっ!ぐぇ!がぁ!」

 

指は毟り取られ、鼻を千切られ足を引きちぎられ内臓を引っ張り出され飲み込まれ目玉を食われて脳を噛み砕かれ……

 

「ごちそうさまでした」

 

櫃間 篤郎という男は服と僅かな血痕を残してこの世から骨も残らず消えた……

それから冬華は両手を併せ頭を下げる。

 

「うぷっ!」

 

蓮太郎が吐いた。

当たり前だ。優磨でも吐き気を催した。

 

「……………」

「楓……それがお前のパートナーか?」

「ええ、私の家族よ」

 

楓はにっこり笑う。

 

「じゃ、そろそろ帰るわね」

「そうか」

「あら?こう言うときは逃がすと思ってんのかって言って来るんじゃないの?」

「俺や蓮太郎は消耗しちまったんでな。帰って貰えるなら帰って貰うさ」

「そう」

 

そう言って楓は秋菜と冬華背負うとフックショットと呼ばれる銃を出して窓枠に引っ掻けて昇る。

 

「なあ楓!」

「なに?」

「お前は……何をする気だ?」

「……ふふ。優磨も知ってるでしょう?女は……」

 

秘密を持っていた方が綺麗に見える……そう言って妖艶な笑みを浮かべた楓は二人を連れて姿を消した。

 

「……………」

「優磨さん?」

 

他の皆が優磨を見る。

 

「何か……大きなことが起きそうだな」

 

だが楓……優磨は内心呟く。

 

(俺は……お前が敵だとは思えないんだ……)

 

例えこれが馬鹿だと言われて甘さだと言われても……過去とは言え俺は君を愛し……君に愛された間柄だったからかもしれないが……それでもそう思うのはいけないことなのだろうか……

優磨の心の言葉は……誰にも届くことはなかった。




櫃間の最後……生きたまま喰われる……でした。
多分俺の文才ではこれ以上グロいのは書けません。


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第35話

命を賭けた戦いから一週間……天童民間警備会社は騒がしかった。

 

「里見くん!準備できた?」

「あと優磨さんが肉買ってくればオーケーだよ」

「ようっし!汁物も出来たぜ」

 

題して、蓮太郎無実勝ち取りおめでとう&優磨さん帰還やったね会。本当はもっと早くやりたかったのだが楓が去った直後に優磨と蓮太郎がぶっ倒れたのだ。二人とも極度の疲労……まあ蓮太郎は此処のところ心から休まる日はなかっただろうし優磨は目覚めてすぐに向かったらしい。そんなときに制限解除(リミッターオープン)である。死んだように眠って当たり前だろう。

だがやっと二人とも起き出したためパーティーである。そのため料理できるやつは料理をして、他の皆は買い物に駆り出されていた。

 

【おーい!デザート買ってきたでぇ!】

「ただいま帰りました」

 

新一と力持ちの榧が入ってくる。

 

「じゃあ後は優兄と……」

「?まだ来るの?」

 

テーブルを吹いた火垂は首をかしげた。

 

「はい、多分凄く驚かれると思いますが……」

 

夏世が誤魔化すように言う。

 

「はぁ?」

 

すると、

 

「すいません遅れました」

『いい!?』

 

蓮太郎などの一部の面々を除き漫画だったら目が飛び出しそうな顔を皆はする。玉樹に至ってはソファから落ちた。そりゃそうだろう……いきなり国家元首、聖天子様が入ってきたのだ。

「ななななななな!!!!」

 

火垂ですら驚愕して口をあんぐりと開けている。

 

「何でここに国家元首が!?」

「あ~それはな」

 

蓮太郎が説明しようとすると、

 

「うぃーっす!」

 

優磨が肉を両手に帰ってきた。

 

「お?嬢ちゃんも来たんだな?」

「はい」

 

聖天子は一つ持つとか言って優磨から荷物を奪う。その姿はまるで夫……

 

「あ、お持ちしますね」

 

聖天子から由美が袋を奪った。

 

「うわぁ、良いお肉ですね。流石優磨さんです」

 

由美は優磨に寄り添いながら言う。

 

「ほん!っとそうですね!」

 

すると聖天子は由美と優磨の間に割り込んで優磨にくっつきながら優磨が持っていた袋を覗く。

 

『………………』

 

バチバチと由実と聖天子の視線がぶつかり火花を散らす。

 

「おいボーイ……俺はどうも幻覚と幻聴とか見えて聞こえるように……」

「現実だ。受け入れろ」

 

玉樹は蓮太郎に耳打ちしながら言う。

 

「おっまえ何だあの羨ましい状況は!北美もスッゲェ美女で胸でかくてしかも金持ちで性格良好と言う超優良物件でもう一人は国家元首ってもう俺は何が何だか……」

「しかも優磨さん向けられてる好意に気付いてないからな?」

「あれだけ好き好き光線出されてて気付かないって馬鹿なんじゃないのか!?」

 

二人が話してると、

 

「ただいま帰りました!」

「ティナ!」

 

久しぶりにティナとのご対面である。

 

「大丈夫か?」

「はい。ちゃんと3食昼寝付きで取り調べがキツかった事を除けば然程苦労は無かったです」

「取り調べが?」

「はい。でも3食水のみで五日間耐えると言う偉業を木更社長と成し遂げたこの鋼の精神力をもってすれば平気でした」

 

ティナの言葉にその場の全員が涙した。どう考えても10歳児の精神力の付け方ではない。

そこに、

 

「さ、出来たぞ。皆食べようか」

 

菫が言う。だが、

 

『(あんた)(おまえ)(あなた)何もやってない(ですよね)(よな)!?』

 

全員が突っ込んだ……

 

 

 

 

 

 

 

さて、今回のパーティーはすき焼きである。久々の肉と言うこともあり蓮太郎と延珠と木更とティナと玉樹と弓月は目が血走っている。

 

『頂きます!』

 

そして戦場へと変わる。箸が飛び交い肉が飛ぶ戦い。遅きに失した物は肉が食べられないため全員が必死だ。

 

「おいお前ら野菜も食え!なに肉だけ集中的食ってんだ!」

「ふぇんふぁふぉうふぉふぉ【蓮太郎こそ】」

「ティナちゃん!それは私のお肉よ!」

「社長でもそれは聞けません!」

「あ!またとれなかった」

「勝負の世界は非情ですよ。由実さん」

【ちょおい!風深!ワイの皿から持ってくんやない!】

「良いじゃないですか。後で私を食べて良いので」

【いらんわ!】

「おおいマイシスター!糸で俺の箸縛り上げて使えねえようにすんな」

「兄貴はなにも食わなくて良いでしょ」

「ああ!僕の育ててたお肉!」

「あ、ごめんね。夏」

「こんなときには育ててる方も悪いんですよ」

「………(ハグハグ)」

「み、皆さん落ち着いて……と言うか私にもください!国家元首権限で行使しますよ!」

『世界一下らねえ権限の使い方!?と言うかストライキ起こしますよ!!!!』

「…………………」

 

優磨は皿を置くと静かに外に出た……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふぅ~」

 

優磨は肺から煙を出す。

 

「どうだい?シャバの空気は」

「それは蓮太郎に言うべきだろう?菫」

 

行き交う車を見ながら優磨はまた煙を吸い込み始めた。

 

「大まかなのは聞いた。夏たちを立ち直らせてくれてありがとな。菫」

「ふふ、君のお節介が伝染ったのかもしれないね」

「そいつは厄介だな。もう二度と治らないぜ?」

 

そういうと二人は笑う。

 

「まあ……良かったよ。また亡くすのは御免だからね」

「?俺とあいつじゃ立ち位置が違うだろう?」

 

優磨は菫の元カレを思い出す。

 

「……はぁ………」

 

溜め息吐かれた。

 

「君は本当に大馬鹿だ」

「む……」

 

失敬な……と思ったが優磨はタバコを口に咥えてそっぽ向く。

 

「で?君は誰に治療されたんだい?」

「だから意識無かったから分かんないんだって……まあ……おおよその予想はつくけどさ」

「だろうねぇ。君の治療何て高等技術を行えるのなんて簡単な想像がつくけどね」

「ふぅ~」

 

優磨は紫煙を吐き出す。

 

「なに考えてんだか……あいつは」

「まあ今は」

 

菫は優磨の肩に頭を落とす。

 

菫は女性としてはかなり身長が高いがそれでも優磨よりは低い。まあそのお陰でいまの体勢はかなり楽ではあるが……

 

「君の生還を喜ぼうか。良かったよ本当に……君が生きていてね」

「菫……」

 

菫は肩に頭を乗せたまま優磨を見上げる。

「っ!」

 

トクン!っと心臓が少し跳ねた。普段は友人としての距離だが……今はその距離を割っていることは優磨でも気付いたし敢えて気づかないふりをしたが流石に少し無視できなくなってきた。

 

「菫……」

 

優磨は菫の腰に腕を回す。

 

「あ……」

 

菫は肩から頭を離して拒否と言うにはあまりにも弱い力で優磨を押し返そうと力を込めたが……やがてその力を抜いた。

 

『………………』

 

菫は瞳を閉じる。優磨に委ねたのは容易に想像できた。

 

「すみ……」

『だめぇ!』

 

後数ミリで唇がくっつく筈だったがその前に待ったが入り優磨と菫はガバッと離れた。

 

(あっぶねぇ!!!!)

 

つい流れと雰囲気に流されしちまう所であった。本当に危なかった。少し残念と思う気持ちもあるがそれ以上に今乱入してきた面々に感謝である。

 

「ど、どうしたお前ら」

 

声が少し上ずっている。

 

「僕たちのセンサーが大音量で鳴ったんだ!」

「菫さん!抜け駆け禁止です!」

 

流石の菫も少し焦った顔色だ。

 

「いや、これはだね……別に何もなかったんだ」

「油断も隙もありません」

 

そう言って聖天子は優磨の腕にくっつく。

 

「あ、ずるい!」

 

由実は反対腕にくっつく。

それを見た夏達は我先にと優磨に引っ付き始めた。

 

「おいおいお前ら……」

「全く……」

 

優磨と菫の二人は笑う。

 

「よし、飯の続きといくか!」

『うん!』

『はい!』

「そうだね」

 

皆は笑いながら食事に戻った。

 

 

 

その頃蓮太郎は……

 

「ほれ、蓮太郎アーンだ」

「お兄さん……どうぞ」

「ほ、ほら!食べなさいよ」

「べ、別に気なんか使ってないわよ!」

 

上から順に延珠、ティナ、火垂、弓月が蓮太郎に食わせていたが……

 

「お……おう……」

(南無……)

 

それを見ていた面々は合掌した。想像つくと思うがこの四人に蓮太郎は民警からフードファイターに転職した方が良いんじゃないかと思うほど量を食べていた。

 

(まずい……腹がもう……)

 

因みにこのあと食い過ぎでトイレに籠ることに別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある部屋……

 

「つまり……全ては灰の中だと?」

「そうよ。仙一さん」

 

楓は画面に向かって話す。そこには木更にお見合いを持っていった紫垣 仙一と、大阪の国家元首である齋武が映っていた。

 

「ふん!天童を潰すには少々あの小僧では荷が重かったか……しかも奥の手の一つである耐性ガストレアを消されるとは……研究成果ごとな……」

「まあ仕方ないでしょう。しかし楓くん。何かしらでコピーは取ってなかったのか?」

「残念だったわね仙一さん。彼は【データチップやUSBにコピー】は一応安全を取ってしなかったみたいだわ」

「まあいい、まだ切り札は幾らでもある。じゃあな」

 

齋武は通信を切る。

 

「ま、楓くん。また仕事が入ったら連絡するよ」

 

仙一も通信を切った。

 

「すこーし怪しまれてたね~」

 

背後から秋菜が声をかけてくる。 一応隣には冬華もいるが無口で無表情で無感情なためか存在が希薄だ。

 

「ま、平気よ」

 

楓が肩を竦めると、新たに通信が入った。盗聴などを完全にシャットアウトした特殊電波での通信は一人しかいない。

 

「はい?」

「よう楓」

 

向こう側は暗いのか顔が見えない。だが声だけ聞く限り楓と同年代と考えて大丈夫だろう。

 

「そっちに送った耐性ガストレアのデータは大丈夫かしら?」

「ああ。全く、とんでもないもん作り出そうとしてやがったな」

 

ヘラヘラとした口調で男はしゃべる。

 

「まあいいや、で?久々の愛しの優磨と会えてどうだったよ」

「………今もしあなたが目の前にいたらぶん殴ってるわ」

「おいおい俺は戦闘能力皆無だぜ?死んじまうよ」

「百回くらい死んできたら良いんじゃないかな?」

 

秋菜が言うと冬華もミリ単位で頷いた。

 

「ひっでぇ!お前ら三人揃いも揃ってさぁ~」

 

楓はそんな声を聞きながらぼんやり考える。

彼は良くも悪くも変わらずと言ったところだった。まあ少し大人びたと言うかフケた感じはあったが……菫は……全く変動がなかった。妖怪か何かだったのだろうか……

 

「とりあえず今回の一件も終了したし当分は休暇貰うわ」

「その間何するんだ?」

「さぁ?旅に出るのも良いわね」

「じゃあロシアとかロシアとかロシアとかどうだ?」

「……私休暇貰うって言うの聞いてた?」

「ああ、だからついでにある男の素性洗って欲しいんだよ。別についでで良いからさ」

「…………はぁ、分かったわ」

「いやぁ~ありがたい。ほんと良い女だよおまえは何でお前と優磨付き合わなかったの?」

「……脈絡って言葉知ってる?」

「いや~お前ら意識しあってたの丸分かりなのにくっつかねえで微妙な距離のままで居たしさ~」

「…………一つ教えておくわ。あまり女に過去の話をしない方がいいわよ」

 

すると相手がブーッ!と吹いた。

 

「何言ってんだよ。お前の中でまだ過去になってな【ブツン!】」

 

これ以上聞いていると通信相手をミンチにしたくなりそうだったため楓は通信を切った。

 

(過去になってない……か)

 

楓は自嘲気味に笑う。

しかしあいつは相変わらず性格がクソ捻くれていて悪い。

付き合いは大学の頃からだからいい加減慣れても良さそうだがアレの底意地の悪さにだけは慣れることがない。と言うか年々あいつへの怒りだけが蓄積されていく。なまじ大学時代の優磨との関係を知られてるだけに菫と同じくらいタチが悪い。

 

(好きでは……あったのよね……いや、今でもか……)

 

好きだったし……好かれていた。でも……お互い一歩先に踏み込むのを恐れた。好きあっていたのは分かってはいたけど……もしそれが気のせいだったときを恐れて踏み込まなかった。今の状況を考えれば馬鹿だったと思うが……

 

「お互い若かったものね」

「楓さんババくイダダダダダダ!」

 

楓のアイアンクローで秋菜は黙らせられる。

 

(まあ、一応命助けられたご恩くらいは返すとしましょうか)

 

楓は立ち上がる。一応こんな体にされたとはいえアイツに助けられなければ死んでいたはずなのだ。

 

「行くわよ」

「イエーイ!ロシアだロシアだ!ボルシチ食べよう!」

「…………【ジュルリ】」

 

楓に二人も続く。

 

(ま、どうせすぐにまた会うでしょうけど……会うのを楽しみにさせて貰うわ)

 

「Yuma You're the most important person to me Even now.《優磨貴方は私にとって特別な人なのよ》」

 

そう呟くと楓は外に出ていった。




遂に六巻まで終了です!

いやはや長かった。
今回は菫さんのターンと楓のターン……そして新たに現れた謎の男。名前は敢えてまだ出さなかったんだよ!
更に楓は実は五翔会に所属してるが仲間ではなかった。彼女には色々暗躍してもらいます。

さてさて、連絡なのですが当分は本編書きません。取り合えず原作8巻が出るまでは番外編かいていきます。なのでこっちの執筆は当分はのんびりとなります。
取り合えず書こうと思ってるのは優磨の出生の話と言うか優磨の実家の話。本編では語られることは無かった優磨の隠された秘密。とまあ銘打ってみましたがそんな大層なもんではないです。

さてさてとりあえずはここまで読んでくれた皆様には感謝感激です。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。


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クリスマス特別編
メリークリスマス


ではクリスマス特別編です。
まずは作者のオリジナル。正確にはクリスマスイブのお話し~


聖夜……またの名をクリスマス。これはキリスト教におけるイエス・キリストの誕生日でありその日の町はリア充の巣窟となる。

だが同時に恋人同士のお楽しみ日と言うだけではなく子供へのプレゼントをサンタさんが届ける日でもある。

これはその日の前夜の物語……クリスマス・イブの夜のお話である。

 

ハッピーメリークリスマス!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし!」

 

優磨は赤い服に赤い帽子……更に白い髭をつける。そして麻袋を肩に掛ければ完成。

今夜はクリスマス・イブ……なのでここは一つ優磨がサンタになって皆に届けてあげようと言うことで優磨はサンタ変装したのだ。

 

「さて行くか……あ、その前に」

 

優磨は四つ箱を出す。

 

(えーと確か……)

 

優磨は紙を取り出す。そこには皆から集めたプレゼント要望書が入っている。一応言っておくが子供たちには内緒である。

 

(まず夏は……)

 

【遊園地いきたい】

 

(これはサンタじゃなくて俺への要望書だろうが!)

 

優磨は内心全力で突っ込んだが飲み込んで……

 

(じゃあこれだな)

 

優磨は遊園地のチケットを夏の枕元に置く。

 

(えーと春は……)

 

【新作の服がほしい】

 

是非とも夏に見習ってほしい女子力である。

 

(じゃあこの服をあげよう)

 

この間雑誌で見ていて目輝かせていた服を置く。

次は夏世だ。

 

【本が欲しいです】

 

(いやはや夏世らしい)

 

優磨が笑うと、

 

【追伸。優磨さんの懐具合と相談して大丈夫です】

 

ずっこけた。

 

(ま、まあ蓮太郎お薦めのファーブル昆虫記あげよう)

 

最後に翠……まあ我が家の良心とも言えるこの少女はたぶん和ませてくれるだろ……

 

【鰹節一本下さい】

 

(何でやねん!!!!!)

 

つい関西弁になった。だが鰹節……何で鰹節なのだ!

 

(まあ持ってるんだけどさ)

 

優磨は枕元に鰹節を置いた。と言うかなぜ持ってるの?

 

(よし、次はあそこだな)

 

優磨は外に出ていった。

 

 

 

 

(到着!)

 

サンタと言うより泥棒よろしく向かったのはボロアパート……じゃなくて蓮太郎の家である。正確には延珠と前回の一件で新たに蓮太郎のイニシエーターとなった火垂(裏で菫や聖天子の暗躍があったには言うまでもない)にプレゼントである。既に蓮太郎から許可をもらって窓は開けてもらっておいたのでそこから侵入する。

既に三人とも寝ていた。蓮太郎の首に延珠と火垂は腕を回して抱きついてる。

地味に極っていて蓮太郎は苦しそうだ。それを外してやりながら……

 

(えーと、延珠ちゃんのは……)

 

【おっぱいだ!妾に木更……いや、由実……ええい!この際聖天子位でも良いのでくれ!】

 

(……………)

 

優磨はこめかみを抑えた。

 

(皆デケェのばっかだな……)

 

仕方ないので胸はあげられないが変わりに、

 

(この【モ〜モ〜・ミルク 天然生乳成分100%】で我慢してくれ……)

 

因みにこれはカルシウム含有量が通常の二倍とされており胸を成長させた少女たちに大人気だが在庫が少ない貴重なものだ。マジでこれで勘弁願いたい。

次に火垂は……

 

【牛乳と卵お願いします】

 

(お使いか!)

 

優磨は頭を抑えながら冷蔵庫にいれておく。

 

(さてと……)

 

序でに優磨は蓮太郎にもプレゼントを渡す。本人には内緒のプレゼントである。

決して高くはないが品の良いカジュアルな腕時計。これなら学生でも良いしさらに卒業してからもつけられる逸品だ。耐久性も抜群。

 

(次は……)

 

優磨は外に出た。

 

 

 

 

 

 

「ゴガ~!」

 

凄まじいイビキを轟かせるのは片桐 玉樹……その隣には耳栓をした弓月がいた。

 

(確か弓月は……)

 

【素直になりたい】

 

(いやサンタには物を頼んでくれよ!)

 

何でこう無茶な物だったりするのだ。言っておくがサンタは織姫と彦星ではないのでそんな七夕よろしくお願無理でございますなので変わりに、

 

(素直になれます薬……とかいてあるビタミン剤……)

 

ようはこれ飲んで暗示を自分にかけて素直になってくれと優磨は思いながら外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

次は新一と風深の所だろだが……

 

【プレゼントはわ・た・し(ハート)……ってやりたいので長くて赤いリボン下さい】

 

(……………………)

 

もうなにも言わないし思うまい。

優磨は赤いリボンを枕元においておく。

 

(がんばれ新一)

 

 

 

 

 

 

さて次は……

 

(木更ちゃんに予め許可もらったとはいえ端から見たら犯罪者だよな…俺……)

 

優磨は盗むものはなにもない天童民間警備会社に入る。木更はここでティナと寝泊まりしてるのだ。

 

(あれ?確かティナちゃんの願いって……)

 

優磨は紙を見る。

 

【私には良いので木更社長の心労を取り除くものあげてください】

 

(ええこや!ええこスギだろ!)

 

優磨は目頭が熱くなった。

 

(じゃあこれをあげよう)

 

カモミールティーのティーバックをあげる。このお茶は別名グットナイトティー称され神経を静める効果があるハーブティーだ。

 

(良い夢を~)

 

優磨はそっと出ていく。

 

 

 

 

 

後3つ……

 

(お邪魔しまーす……)

「あ、優磨さん」

 

由実はまだ起きていたらしい。

 

「あ、まだ起きてたのか?」

「ちょっと最近年末のせいで仕事が立て込んで」

「大変だな」

 

それから優磨はそっと奥にある榧と言うか由実のと言うかそんな自室に入る。

 

(ええと榧ちゃんには……)

 

【最近由実さんが肩凝りが酷いらしく可哀想ですので由実さんに肩揉み券あげてください。まあ原因は仕事量が多いのと胸の重さでしょうけど】

 

(この子も苦労して……ん?)

 

【追伸、どうせなので優磨さんが揉んであげても良いですよ?いや寧ろそっちの方がいいでしょうしそのまま肩から下に【グシャ!】】

 

途中で危なくなってきた気がして優磨は紙を握りつぶす。

 

「優磨さん?」

「あ、由実ちゃん。ほら!」

「え?」

 

由実は優磨に渡された箱を開ける。中はネックレスだった。

 

「メリークリスマス」

「はい……」

 

由実は嬉しそうに頬を緩める。

 

「じゃあまだ届けるから俺は……っ!」

 

突然跳ね起きた榧が後ろから襲う……それを優磨は躱して逃亡した。

 

「アデュー!!!!!」

 

砂塵をあげて優磨は撤退した……

 

「ちっ!」

「榧ちゃん?」

 

由実は困惑した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

聖天子は目頭を揉む。年末と言うことで国家元首としての仕事も多い。夜も更けてきたと言うところでやっと終わった。

すると窓が叩かれる。

 

「え?」

 

窓を見るとサンタの格好をした意中の男……優磨が木に登って来ていた。

 

「優磨さん?!」

「よう」

「どうやってここに……」

「俺の義眼は赤外線とかも見れるからここの警備を潜り抜けつつやって来た」

 

そう言ってプレゼントを渡す。

 

「ハッピーメリークリスマス」

 

中身はイヤリングだ。

聖天子は優磨の笑みを見て顔が赤くなった。

 

「ん?風邪か?無理すんなよ」

 

優磨は聖天子の額に自分の額をくっつける。

 

「っ!」

「ん?何か暑くなって……うぉ!」

 

聖天子は優磨を羞恥が限界になったため突き飛ばした……結果優磨は木から落ち……

 

「侵入者だ!!!!!」

「げっ!」

「侵入者だ!!!!!」

「出会え出会え!!!!!」

「殿中で御座る!」

「控えおろう!聖天子様の御前でござるぞ!」

 

いやお前らなんなんだよ!と言う突っ込みを我慢しながら優磨は爆走。

 

『まぁあああああてぇえええええええルゥ●ァン!!!!!!!!!!』

「誰が●ゥパァンだぁああああああ!!!!!」

 

聖夜の夜にサンタと聖居の警備隊が追いかけっこと言う色々ありえない状況となった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼィ……ハァ……ヒィ……オェ……フゥ……」

「いやはや色々突っ込みたいけどお疲れさま」

 

菫に出された水をイッキに飲む。

 

「で?私にはないのかい?」

「これだよ」

 

優磨は瓶と箱を出す。

 

「ワインとチーズとクラッカー?」

「まあ独り身同士飲もうや」

「お酒苦手なくせに」

「まあワインなんて一杯でも飲めば記憶飛ぶしな」

「更に明日二日酔い決定だよ?」

「介護よろ~」

 

優磨はグラスにワインを入れる。

 

『乾杯』

 

二人はグラスを掲げた。



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お疲れクリスマス

風来坊のジャンク屋様からの希望です。


「いやーサンタさんがまさか本当にチケットくれるとはね~」

 

クリスマスイブの次の日……と言うか今日こそがクリスマス当日なのだがそれは横に置いておきとにかく優磨たち五人は遊園地に来ていた。

因みに夏と翠は気づいてないっぽいが春と夏世は優磨がサンタだと気付いている。

敢えて気付いてない振りをしてるが逆にその気遣いが痛い……

 

「じゃあ優兄!まずはジェットコースター制覇と行こう!」

「優磨兄様!一緒にコーヒーカップに……」

「優磨兄さん。お化け屋敷いきましょ」

「優磨お兄ちゃん。メリーゴーランド乗りたい……」

「全員一緒に回っから落ち着け!」

 

優磨は四人に引きずられながら歩き出した……

 

 

『アバババババババ!!!!!』

「もっと早くぅううううう!!!!!」

 

夏に高速回転させられるコーヒーカップに乗り……

 

 

 

 

「グワァアアアアアア!!!!!」

『キャアアアアアアア!!!!!』

 

お化けにビビった夏たちが力解放して反撃しようとしたのを止め……

 

 

 

「はぁ~のんびりできる……」

『ふぅ~』

 

メリーゴーランドで休憩し……

 

 

 

 

「……………」

『……キャアアアアアアア!!!!!!!!!!』

「うぉおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」

 

ジェットコースターで全員声をだし……

 

 

 

 

 

『ふぃ~』

「さ、弁当にするぞ」

 

四人とも椅子に座る。

とはいえ一番疲労しているのは実は優磨である。子供の元気にはついていくのが大変だ。休日のお父さんの気分である。

 

「さ、皆食べていいぞ」

「これおにぎりですか?」

「おにぎりって言うより……潰れた座布団だよね」

『うん……』

「ガーン!」

 

優磨はショックで項垂れた。優磨の調理技術は一向に上がる気配がなかった。

 

「でも味はまだいいですね」

「あ、ホントだ。前みたいに塩をつけすぎてジャリジャリ言わない」

「……」

 

もう優磨のライフはゼロであった。

 

『ごちそうさまでした』

 

まあ全部何だかんだ言いつつも全部食べてくれるので嬉しいことは嬉しいが……

 

「あ、優兄!次あれいこう!」

「え?」

 

まだ行くの?という声を飲み込みながら優磨が引っ張られていくとそこには世界一恐怖を味わえるというジェットコースター……

 

「えー……」

「さ!レッツラゴー!!!!!」

「え!ちょま!イヤァアアアアア!!!!!」

 

因みにその数十秒後……

 

「ギィイイエエエエエエ!!!!!」

「ヤッホォオオオオオオイ!!!!!」

 

再度悲鳴をあげたのは別の話……

 

 

 

 

 

 

 

「ヒィヒィ……」

 

あれから楽しかったのか夏はもう一度もう一度と結局十回も乗った……

なんだあの無尽蔵絶叫系大好き娘は……

 

「優磨兄様」

「あ、春」

「あれ乗りませんか?」

 

またコーヒーカップか……まあ良いだろう?余り回さないようにさせよう。そう思いつつ乗ると……

 

「ん?」

 

何故かガッチリ固定された。

 

「これって……」

 

恐る恐るここのタイトルを見る。

 

【世界一回るコーヒーカップ】

 

「…………うそでしょおおおおおおおおお!!!!!」

 

次の瞬間ものすごい速度で回転を開始……

 

「キャー!」

「うわっべべべべっべべ!!!!!」

 

遠心力に負けないように歯を食い縛る。そうだこの程度なんだろうか……こんなのレールガンモジュールに比べればさしたるものでもな……

 

「ヒェエエエエエ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぷぅ……」

 

優磨はふらふらしながら口を押さえる。あれはなんと十分間も回され続けるという恐怖のコーヒーカップ……死ぬかと思った。

 

「あ、優磨兄さん」

「か、夏世?」

 

嫌な予感……

 

「お化け屋敷いきませんか?まだ行ってない所があるので」

「お、おう」

 

お化け屋敷なら大丈夫だろう……そう思っていた時が自分にもありました……

 

 

「ウボォオオオオオオ!!!!!」

「いい!」

 

このお化け屋敷の名前は【世界一危ないお化け屋敷】……

どれくらい危険かと言うとお化けが本当に襲ってくるしあちこちにガチモノの罠があるし入る前に怪我しても自己責任でと言う書類書かされるくらいである。というかここの遊園地は世界一なんとか言うのが好きなのだろうか……

 

(俺……これが終わったらタバコ吸うんだ……)

 

優磨はお化けから逃げて罠を躱しながらそう思った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぃ……はぁ……ふぅ……」

 

優磨はベンチで息を整える。死ぬかと思った……

 

「優磨お兄ちゃん」

「み、翠……ちょっと休ませて……ん?」

「はい」

 

ソフトクリームを出された。

 

「疲れてたから……」

「お前ほんと良い子だなぁ!」

 

あの三人も是非見習ってほしい優しさである。鰹節頼んだりするけど……

だがそこに……

 

「おい」

「え?」

 

突然手錠かけられた。

 

「いま幼女を連れ回すと通報を受けた変質者を確保した。これより連行する」

「え?」

「さあキリキリ歩け!」

「ちょい待てって!違う!」

「良いわけは署で聞く!」

「弁護士……じゃない!刑事の如月を呼べ!俺は変質者じゃない!」

「変質者は皆そういうんだ!良いから歩け!」

「イヤァアアアアア!!!!!」

 

 

 

その後如月刑事が来るまで優磨の疑いを晴らすのにたっぷり一時間はかかったのは別の話である……

 

(きょ、今日は散々だ……)

 

優磨はガックシと肩を落とした……



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デート?

L 11 エルエルフ様からの希望です。


優磨は勾田病院の前に居た。

タバコを吸いながら待ち合わせに居るのだが……

 

「うーん……」

 

優磨は考える。それは一週間前……

 

 

 

 

 

【おーい優磨くん。来週の日曜日遊びにいかないか?】

「はぁ?」

 

家で夏たちが延珠と遊びにいくと出ていった後に電話が来た。まあ菫からだ……

 

「まさか死体運びの手伝いか?」

【おいおい、それは遊びにいくとは言わないだろう?】

 

いや、菫なら言う……

 

【純粋に遊びにだよ。問題あるか?】

「いや、問題はないけど……」

【そうかい?じゃあ一時に勾田病院の前で待ち合わせだ】

「夜の……ではないよな?」

【君は私をなんだと思ってるんだい?13時だ】

「お、おう」

【じゃあ夏ちゃんたちには内緒だよ?】

「え?夏たちも一緒だとダメなのか?」

【ダメだ】

 

そう言って電話が切られた。

 

「遊びにねぇ」

 

と言うか見た感じはデートだろうと思うがまさか菫が自分とデート目的で誘うわけはないと優磨は笑うと大方何か悩みでもできたかと考えた。

しかし大学時代のマドンナ(顔はよかったし昔はあそこまで性格がネジ曲がってなかったため菫はモテたのだ)と遊びにとは……

 

(いや~大学時代モテなかった分嬉しくないもんでもないね)

 

優磨はカラカラ笑いながら片付けを再開した。

因みに優磨はモテなかったわけではない。顔がイケメンだし面倒見は昔から良かったしモテた。盛大にモテたが優磨が全く相手の好意に気づかなかったのだ。更に途中からは楓とつるみ出して二人が意識してるのが丸わかりだったため女子が寄り付かなくなったと言うのが正解である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……」

 

だが悩みとはなんだろう……と言うか菫が悩み相談とか余り似合わない。すると、

 

「すまない。待たせたね」

「え?」

 

周りがざわついた。そりゃそうだ。

現れたのは美女……服装は白のワンピースにカーディガンを羽織り下には柔らかいロングスカート……髪は後ろで縛ってある。

 

「お、お前……」

「ん?」

「頭どこかに打ち付けたのか?」

「喧嘩売ってるんだね?そうなんだね?しかも大安売りだね!?」

 

菫のコメカミに怒りマークが浮いた。

 

「だってお前そんな普通の服って……」

「そりゃあ君と出掛けるんだからこういう服を着るに決まってるだろう?」

「……………」

 

少しキュンと来た。我ながら乙女か……?

 

「さ、行こうか」

「どこにいくんだ?」

「見たい映画があるんだ。行こう」

 

菫に手を引かれ優磨は歩き出す。その後に後悔した……凄く派手なグロ映画だったからだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや?食べないのかい?」

「食えるか!」

 

映画の後は昼飯を食べに来た……内容はステーキ……菫はパクパク食べてるが優磨は先程の映画の為か食欲はない。

まあ、開始三秒で内蔵が飛び出し平均一分後とに血と手足が吹っ飛ぶあの映画……

 

「うぅ……」

 

しかも周りの目が痛い。菫は元々誰もが目を引く美女だ。その菫がおしゃれをして先程気づいたが薄く化粧もしている。そんな美女がいれば男は皆その女を見るだろう。優磨が居なかったら恐らく何度かナンパされてる。

 

「で?本当は何だったんだ?」

「本当に遊びたかったんだけど?」

 

優磨は頭を掻く。本当なのだろうか?どうも疑ってしまう。

 

「さて次は……」

「元気だなー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから二人は服を見たり……

 

「似合うかい?」

「お前元の顔が良いから大概似合うけど……こっちの方がいいんじゃないか?」

 

優磨が縹色の羽織ものを見せる。

 

「相変わらずそういうセンスは良いねえ」

「そうか?」

「ネーミングセンスは壊滅的だけどね」

「ぐはぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~♪~♪~♪~♪~」

「君意外と歌がうまいんだよねぇ」

「それほどでも無いぞ?」

 

カラオケで歌ったり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次はこれ行こうか」

「これやるには俺たち歳いってねえか?」

「平気平気」

 

優磨は菫にプリクラ機に入れられる。

 

【はい、笑顔で~】

 

写真を撮り終え絵を描く。

 

「優磨くんには髭でも書いてやろう」

「なぬ!」

「そう言えば君余り髭濃くないよねぇ」

「まあな。よし、菫にはちょん髷でも……」

「女の頭にそんな落書きするんじゃないよ !」

 

菫に頭を叩かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グ~zzZ」

「…………」

 

夜……優磨は寝ていた。とはいえここは家ではなく菫の研究室なのだが酒にはメタクソ弱い優磨である。ワイングラス一杯、ビールコップ一杯にましてやウィスキーなんぞ飲んだらどんなに薄めていたってぶっ倒れる。

それくらい優磨は酒に弱いため弱いお酒をジュースで限界まで薄めて舐めるように飲んでいたがあっという間によって寝てしまった。

 

「普通飲んで寝るのは女の方だろうにねぇ」

 

菫は苦笑いする。

 

「そう言えばしきりに何で遊びに誘ったか気にしてたねぇ」

 

そう言うと菫は優磨に近づく。

 

「君がまだ楓ちゃん好きなのは知ってるしねぇ……それでもやっぱり……」

 

君と二人で居たかった……ただそれだけではいけないかい?

 

「ふふ」

 

チュッと優磨の頬に菫は口付けした。

 

「今回はこれくらいで勘弁してあげるよ」

 

まあ次酔って倒れたら操の安全は約束しないけどね。

ククク……と菫は笑うとグラスのお酒を飲み干した。



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食事会

ドロイデン様からの希望です。


「ん?」

 

ある日優磨は郵便受けに来ていた手紙を見る。

 

「何々……」

 

【食事への招待……蛭子 影胤】

 

「は?」

 

優磨は唖然とした。ナンデスカコレハ……すると、携帯が鳴った。

 

「はいモシモシ」

【優磨さんか?変な手紙が来てさ】

「俺の所にも来たぞ?」

 

電話の向こうでずっこけた音が聞こえた。

 

【どうする?】

「別に行っても良いと思うぜ?」

 

食事先は高級レストランだ。完全予約制でしかも一見お断りで料理がとんでもなく旨いと聞く。

 

【でも……】

「なあに、何かあったときは戦えばいい。流石に俺とお前二人だけ纏めてだったらキツいだろう?それぐらいは分かってるさ。後、この店正装じゃないとは入れないぞ」

【うげ……制服じゃ……】

「多分ダメじゃね?まあ俺のを貸してやるよ」

【サイズ大丈夫何ですか?】

「むかーし着てた奴だ。今だと合わないって奴だから多分蓮太郎なら大丈夫だろ」

【ならお願いします】

 

そうして電話を切る。するとまた来た。

 

「はいはい」

【わたしわたし】

「詐欺はお断りですので」

【メリーさん。あなたの後ろにいるの】

「こわ!」

 

菫からだ。

 

「何だよ」

【いやね、蛭子 影胤から食事の誘い受けたんだけどどうするべきだと思う?】

「は?」

 

優磨は顎が外れかけるほど口をあんぐりと開けた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後……優磨と蓮太郎はスーツを……菫はワンピーススタイルで店に向かう。

 

「せ、先生もそういう服を着るんだな」

「店が店だからね」

「しっかしなんのようだ?」

 

この面子を呼び出すとは……

すると店が見えてきた。

入ると……

 

「牙城 優磨様、室戸 菫様、里見 蓮太郎様でございますか?」

「ああ」

「蛭子 影胤様がお待ちでございます」

 

支配人と思われる男性に連れていかれると既に影胤は居た。

変なお面に燕尾服とシルクハッド……おいおい、

 

「ここの店長とは懇意にしていてね。こういう服装でも入れるのだよ」

『………』

 

全員が唖然とした。

 

「さ、座りたまえ」

 

全員が言われるままに座る。

 

「で?目的はなんだ」

「里見くん。私は純粋に君たちと話したかっただけだ。別にドンパチやるわけではない。今日は食事を楽しみたまえ」

「……」

 

すると来た。

 

「前菜の【蟹のムース】でございます」

『……』

 

とりあえず険悪ムードを払拭させる。

 

「さ、食べようじゃないか」

「えーと……」

「一番外側のから使っていくんだ」

優磨に言われ蓮太郎も食べ始める。

 

「続いてはサラダのキャロット・ラペでございます」

「え?」

「里見くん。ようはニンジンサラダだ。そんな謎の物体が出てきたみたいな顔をするな」

 

蓮太郎はカチコチになっていく。

 

「ジャガイモのヴィシソワーズでございます」

「ヴィシソワーズ?」

「スープの事だよ」

 

蓮太郎は啜らないように気を付けながら飲む。

 

「パンでございます」

「な、なぜこのタイミングでパンが……」

「口直しだよ」

 

優磨に言われた……

 

「では魚料理のイシモチのムニエルラ・フランス梨のソースでございます」

「い、イシモチ?」

「はい、シログチ等とも呼ばれる魚でございます」

「はぁ」

 

蓮太郎は曖昧にうなずいた……

 

「ではソルベのラフランスのシャーベットでございます」

「なあ優磨さん。何でここでデザートでるんだ?」

「これも口直しだよ。次肉料理が来るからその前にさっぱりさせようと言うことだ」

「へぇ~」

 

そうこうしてるとまた来た。

 

「本日は鶏レバーのテリーヌ・グリーンソース掛けでございます」

 

蓮太郎はしくはくしながら食べる。だがここまで来て思ったが蓮太郎以外はなれてる。あの影胤ですらマナー事態はしっかりしてるし優磨や菫も慣れた手つきで食べていく。

 

(優磨さんも慣れた感じがあるのも意外だな……)

 

それからフルーツにデザートと食べて食後のコーヒーまで行く。

 

「しかし急になんだ」

 

優磨が聞く。

 

「なに、アルデバランの時には祿に話せなかったからね。こう言うときでないと里見くんや牙城君とは話せないし私の執刀医のグリューネワルト翁が言っていた室戸博士にも一度見てみたかった」

「私のことはなんと?」

「性格が折角の美貌を消してお釣りまで寄越してくる」

『ププ……』

 

優磨と蓮太郎は笑いそうになった。

 

「だが牙城くんもこういう場に慣れていたのは驚きだ」

「ふ、昔色々あったからな」

「昔ねぇ」

 

優磨はどこか遠い目をした。

 

「さて、プチフールも来たし食べようじゃないか」

「最後の最後にまたお菓子か?」

「締めのお菓子だよ」

 

優磨は笑いながらプチフールを口にいれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあな」

「楽しかったよ」

 

影胤は背を向ける。

 

「おい」

「なんだい?」

「……いや、ごちそうになったよ」

 

そう、今回の料金は全て影胤が持った。因みに一人頭うん万円掛かってる。もし払えと言われても困った額だった。

 

「招待したのはこちらだ。気にしなくていい」

「それでもだ。だけど借りとは思わないからな」

「結構だよ」

 

そう言って影胤は少し笑みを浮かべたような声を出しながら闇へと消えていった……

 

「……さぁ、帰るぞ」

「そうだね」

「ああ……」

 

優磨が言うと二人もうなずく。そうして三人も家路を急いだ……



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平和な日

はせきょう様からの希望です。


「ふぅ……」

 

優磨はタバコの煙をはく。死にかけながらも戦って終わった。つかの間の平和だ。だが……

 

「平和すぎてなんだかな~」

 

平和だと平和で落ち着かない。どうするか……

 

「優兄どうしたの?」

 

夏が顔を出した。

 

「ん?いや、ここんところ慌ただしかったせいでなんか落ち着かなくてな」

「ふぅん……じゃあ出掛けようよ」

「え?」

「皆ー!優兄がなんか買ってくれるて!」

「ええ!?」

『やったー!』

 

他の三人も出てきた……まあ、良いだろう。ここのところ慌ただしい生活だった。束の間の平和かもしれないがならばその束の間を堪能させてもらおう。

 

「じゃあいくぞ」

 

優磨はタバコの火を消すと四人を連れて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五人が最初に来たのは服屋……基本的に男っぽい夏も服選びは好きだし他の三人なんぞ言わずもがな……つまり優磨は一人退屈な顔で待つことになる。

 

(まああんなことがあった後だと、こういう退屈な時間ってのも大事だとしみじみ思うな)

 

「優兄ー」

「ん?」

 

シャッと試着室から出てきた夏の格好は長袖のふわふわした毛が着いたファーのチュニックに下は腿まで出すホットパンツと言う出で立ち……少々寒々しいが寒さに強いしボーイッシュな美女候補(ここだけの話成長すれば美女度合いだけで言うと四人の中では一番かもしれない)の夏が着ると非常可愛い。

 

「おお~似合う似会う」

「そう~?」

 

夏は頬を崩しながらくるりと回る。

 

「優磨兄様」

「お?」

 

次は春……

黒いフレアワンピースに白いカーディガンを羽織っている。下には黒タイツ……将来は美人ではなくどちらかと言えば可愛い系の女の子の卵の春……めんこい事~

 

「可愛いじゃん」

「えへへ~」

 

春が頬を染めながら照れる。

 

「優磨兄さん」

「お、夏世か」

 

次に出てきたのは夏世……

長袖の青いセーターに下は足首まで届く白のロングスカート。

夏世も成長すればきっとどちらかと言えば清楚で頭の良い美人になるだろう。更に髪を卸してるためいつもより大人びた感じがする。

 

「大人っぽいな~」

「良いじゃないですか」

 

夏世はニコッと笑う。会ったばかりの頃からは考えられない笑顔であった。

 

「ゆ、優磨お兄ちゃん」

「翠?」

 

翠が出てきた。服装は所謂アマロリと言われるふわふわが多いドレスタイプの服でいつも着用してる帽子と非常に似合う。自分に合う服が良く分かっておりセンスは他の三人以上かもしれない。

 

「センス良いじゃないか」

「……」

 

照れて翠は帽子で顔を隠した。

 

「それで良いのか?」

 

優磨が聞くと四人とも頷く。

それを見た優磨がレジに向かう。

 

「合計【ピー】円です」

「げ……」

 

値段の高さに優磨は卒倒しかけたのは秘密である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから五人は買った服で歩く。

子供たちは優磨に引っ付き虫状態で端から見たら年の離れた兄弟に見えるだろう。本来は親子でもぎりぎり通じそうな程なのだが優磨は見た目が若いため誰も親子とは思わない。

 

「でもまた優兄とデート出来て良かったね~」

 

夏がそう言うと他の三人も頷く。

 

(デートねぇ……)

 

優磨にしてみればデートというよりは父親の気分である。

まあこいつらがデートだと言うならば……

 

「じゃあお嬢さんたち……」

 

優磨は夏たちを放すと振り返り四人を見る。

 

「これからお茶でもどうですか?」

『………喜んで』

 

そう言うとすぐそこの喫茶店に入った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~」

 

優磨はコーヒーを飲む。

因みに夏たちはパフェを食っている。ふくは汚さ無いようにはしてるがその反面口の回りに結構ついてる。

将来の美人候補たちはまだまだそういったところには甘い……だが……

 

(何時かそう言ったものにも気を使うようになるんだろうな……)

何時までも彼女たちは子供じゃない。今は自分が好きだといってくれるが一過性の物だろう。危機を助けてるからそういった感情を持つだけで何時か彼女たちだって本当に好きな人が出来て今の居場所から出る。仕方ないし当たり前だがそれでも寂しい……だがきっと男がほっとかない美人になってモテるだろう。そして見つけたとき……自分は祝福しなければならない立場だ……彼女たちを守る立場をその男に譲らなくてはならない。

その時ちゃんと守れる男なのだろうか……呪われた子供である彼女たちと生きれる覚悟があるのか……

 

(まあ、そんときはきちんとぶん殴って試しちゃる……)

 

優磨が固くまだ見ぬ将来に誓いをたてながら……

 

「おいおい、口に着いてるぞ」

『え?』

(ま、当分は大丈夫だな)

 

優磨は笑いそうなのを我慢しながら拭きつつそう思った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにその後優磨は自分を四回以上も殴らなくてはならない事態にいつしか発展してしまうのだがそれはまだ先の未来の話である。




以上でクリスマス特別編は終了です。
次回からはオリジナルのお話を書いていこうと思いますが以前より更新速度は落ちると思われます。

とりあえずは……皆さんメリークリスマス!
そしてこれからもよろしくお願い致します。


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