Tiny Dungeon Another Story (のこのこ大王)
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共通編
第1章 動き出した運命 ―前編―


はじめに

本作はRosebleu様の作品、Tiny Dungeonシリーズの
一部設定をそのままおよび一部改変を行って使用しています。
ですが、原作を知らないという方でも何の問題もなく
楽しんで頂ける内容となっておりますので、ご安心下さい。

ただ、かなり設定の改変等をしているため
原作を知っておられる方からすれば
登場キャラクターおよび世界観に
違和感や不快な思いをされる恐れが
ありますので、ご注意下さい。

また人同士が戦う演出も含むためR15タグを
つけさせて頂きました。
あまりグロテスクな表現はしませんが、流血や暴力的な表現が
一部どうしても存在しますので、ご注意下さい。
バトル系は、どうしても血とか出るので・・・。

本作公開に関して事前にRosebleu様へ問い合わせており
キャラクターや世界観の改変・設定の一部使用などについて
担当者様より許可を頂いております。

原作を知らなくても十分楽しんでもらえるはずですので
ぜひ最後まで読んで頂けると嬉しいです。


 力が欲しかった。

 もう失わないために。

 

 そして力を求めた。

 全てを守るために。

 

 ・・・あの日は

 【力】を手にして戦士となる、とても重要な日だった。

 

 戦士になると決めた者は、一定の年齢になると

 儀式兵装(ぎしきへいそう)という武器を得るための儀式を行う。

 この武器を得て、初めて魔法というものが使用可能となる。

 魂の一部を武器化するこの武器は、本人の意思によって形状が決定する。

 周りの、同じく戦士を目指す少年少女達は、みんな熱気に包まれていた。

 何しろこれから一生付き合う相棒と呼べる武器を

 手にする日になるのだから。

 

 いよいよ始まるとガチガチに緊張している奴から

 どんな形状にしようか?と興奮気味に意見を言い合ってる奴らもいる。

 だが、俺にとっては、これはただの通過点に過ぎない。

 むしろここからが本当の意味でのスタートになる。

 

  ―――そう、もう二度と

          失わないための戦いを―――

 

 そんなことを考えているうちに、儀式の夜が始まった。

 時間は深夜。

 場所は森の奥深く。

 その中央にある、とても大きな広場に不似合いの小さな祭壇がある場所。

 設置されている松明が、辺りを幻想的に映し出している。

 

 だが、そんな独特の幻想は、突然の叫び声で現実に引き戻される。

 

 辺りを取り囲む翼を持った人の影達。

 監視役の大人達が次々と倒れていく。

 泣き叫ぶ者達。

 あたりは一瞬で血に染まり、翼を持った人影達の笑い声が

 支配していった。

 そんな中、俺の前に一人の翼を持った人影が立った。

 松明が、その姿を映し出す。

 全身を黒系で統一した服装。

 腰まで伸びた黒い髪。

 そして黒い翼。

 魔族の証。

 翼があること以外は、とても可愛い少女だった。

 だが少女は、その体には不釣り合いなほど

 大きな黒い刃を持っていた。

 

少女「人族は必要のない存在・・・いらない」

 

 氷のように冷たい瞳。

 感情を全く出さない表情。

 そして吐き捨てるように呟いた言葉。

 全てが敵意に満ちていた。

 

 少女が獲物を無造作に振り下ろす。

 咄嗟に腰に携えていた普通の剣で受け止める。

 ・・・だが

 あまりに重い一撃に、大きく後ろに吹き飛ばされる。

 

俺「なっ・・・」

 

 俺は、その一撃に言葉を失った。

 小柄な少女が、これだけ鋭い一撃を放ってきたのだ。

 【あの日】以来、俺は大人達相手に毎日猛特訓してきた。

 大人の重い一撃をも凌ぐ練習だってしてきた。

 なのに、目の前の少女の一撃は、そんな大人達をも超える一撃だった。

 

少女「・・・」

 

 少女は無言で、低い姿勢で獲物を構え直した。

 

俺「・・・」

 

 そうだ、驚いている場合じゃない。

 突然のことばかりで下らないことを考えていた自分を叱咤する。

 状況なんて一瞬で変わる。

 人が死ぬなんて一瞬だ。

 それをお前は【あの日】に嫌というほど味わったじゃないか。

 

 俺は立ち上がり、武器を構え直す。 

 今、俺には【死】が迫っている。

 だが俺は、死ぬわけにはいかない。

 

 ―――今死んだら

      俺は何のために今まで頑張ってきたのか

            生きてきたのかわからないじゃないか―――

 

 ・・・その直後

 少女の姿が一瞬ブレると、ものすごい勢いで突っ込んできた。

 吹き飛ばされたおかげで開いていた距離が、一瞬で詰まる。

 

 少女は勢いをつけたまま、大きく振りかぶった薙刀を振り下ろした。

 

 俺は剣で受け止める・・・フリをして、直前で相手に向かって走った。

 全力で振り下ろされた刃に対して、前に突っ込んだ勢いを維持しつつ

 体を回転させるように捻りながらギリギリで避ける。

 そしてすれ違いざまに体を回転させて遠心力を利用した

 全力の一撃を少女の側面に叩き込む。

 少女は全力の一撃をかわされ、隙だらけになるはずだった。

 ・・・だが

 少女は横からの攻撃を避けきれないと判断すると

 突進していた慣性を利用し、そのまま前に飛ぶように通り過ぎていった。

 結果として、俺の横からの薙ぎ払いは空振りに終わった。

 

俺「・・・うそ、だろ」

 

 俺は思わず、そう呟いだ。

 今の一撃は、俺が一番得意としていたカウンター技『旋風(せんぷう)』

 と呼ばれる技だ。

 自信のあった一撃を避けられ、焦っていた。

 だか、そんなこちらのことなど関係ないと言わんばかりに

 少女が動き出した。

 

少女「・・・抵抗なんて、無駄なのに」

 

 少女はそう呟くと、黒い翼を大きく広げて手をかざした。

 その手に、黒い何かが一気に集まっていく。

 そして、塊になったソレがまるで意思を持ったかのように

 突然俺に向かって飛んできた。

 咄嗟に剣で受け止めようとするが・・・

 

俺「ぐぉっ・・・!!」

 

 まるで体を貫通したかのような、強烈に刺す痛みと共に

 俺の体は大きく吹き飛び、壁に激突した。

 

 ―――それは、魔法と呼ばれるものだった

 

 体中に激痛が走り、動くことが出来ない。

 

 ゆっくりと。

 だが確実に。

 少女がこちらに歩いてくる。

 

 確実な死が近づいていた。

 恐怖で頭が混乱していたのか。

 それとも死ぬことを受け入れたからなのか。

 

俺「・・・君の、名前は?」

 

 唐突に、そんな言葉が出た。

 

少女「・・・どうして?」

 

俺「・・・どうしても、知りたくなった」

 

 聞いたところで何があるというわけでもない。

 今でもどうして名前なんて聞いたのか、説明出来ない。

 ただあの時、どうしても少女の名前が知りたくなった。

 

フィーネ「・・・あっそ。私は、フィーネ」

 

 そっけなく自身の名前を答えた彼女。

 

フィーネ「・・・もういい? じゃあ死んで。いらないから。」

 

 そう言うと少女は薙刀を振り上げた。

 俺の、死ぬ瞬間だ。

 

 気づけば涙が出ていた。

 死ぬのが怖かったわけじゃない。

 

 ―――もう二度と失わないために

      守りたいものを守るために

        必死に力を求め続けた先が

          自分すら守れずに死ぬ運命だったなんて―――

 

 ただ、無力な自分が悔しかった。

 

 目の前の少女は機械的に

 無表情なまま、黒き刃を振り下ろした。

 

 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・

 

 俺は、飛び起きた。

 

和也「・・・」

 

 夢だと理解するのに少し時間がかかった。

 

和也「・・・」

 

 懐かしい夢だった。

 あの日からまた、色々なことがあった。

 だが、儀式の夜からの出来事に関しては、恨んだことはない。

 ・・・そう、あれでよかったんだと。

 

 そんな感傷に浸りながら辺りを見回した。

 そして・・・それに気づいた。

 

?「・・・」

 

和也「・・・」

 

 そこには下着姿の可愛い女の子が立っていた。

 

和也「・・・お、おはよう?」

 

 とりあえず、何事もなかったかのように挨拶をしてみたが―――

 

?「・・・き」

 

和也「・・・き?」

 

?「きゃぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!」

 

 世界が揺れるほどの悲鳴をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第1章 動き出した運命 

 

 

 

 今日は、陽射しが少し強いぐらいの快晴。

 通い慣れた道を2人で歩く。

 いつもの光景。

 ・・・だが

 

亜梨沙「・・・妹、一生の不覚です」

 

 俺の名前は、藤堂(とうどう) 和也(かずや)

 どこにでも居そうな平凡な人間だ。 

 

 朝からブツブツと何かを言いながら隣を歩いているのは

 我が妹、風間(かざま) 亜梨沙(ありさ)だ。

 

 俺は妹と2人で、一緒の部屋に暮らしているんだが

 たま~に今朝のようなハプニングに見舞われる。

 今日はそれから、我が妹君は不機嫌なのか一切話しをしてくれない。

 

和也「・・・ホントに悪かったって。

   いい加減機嫌直してくれないか?」

 

亜梨沙「・・・別に」

 

和也「ん?」

 

亜梨沙「兄に着替えぐらい見られるのは構いません。

    むしろそのことによって妹に興味を・・・

    主に性的な方向で見てくれるのなら大歓迎です」

 

和也「あの・・・え?」

 

亜梨沙「むしろ見せる方向すら考えていたはずなのに・・・。

    なのにその千載一遇のチャンスで悲鳴を上げてしまうなんて・・・。

    妹、覚悟が足りていませんでした」

 

和也「ずっと不機嫌だと思ってたら、考えてたのそんなことっ!?」

 

 何を言い出すんだ、この妹。

 

亜梨沙「そんなこととは失礼な兄です。

    むしろ妹の生着替えを見たんです。

    『可愛かったよ』とか『思わず見惚れるほど綺麗だったね』とか

    色々と感想を言うべきではないかと。

    いえ、言いましょう今すぐ。」

 

 そう言いながら顔を近づけて抗議する亜梨沙。

 俺の両親は大戦争と呼ばれた戦いで死んでおり

 両親の親友だった風間家に引き取られたので

 妹といっても亜梨沙とは、血は繋がっていない

 義理の妹のような立場ではあるのだが・・・。

 

 そういや、たしかに最近は女性らしいプロポーションになってきて

 思わずドキっとしてしまうこともある・・・。

 

 駄目だ、考えが末期的だ。

 

和也「・・・馬鹿なこと言ってないで、さっさと行くぞ」

 

 朝見た亜梨沙の下着姿のイメージを振り払うように頭を軽く振りながら

 速度をあげて、歩き出す。

 

亜梨沙「ま、待ってください。

    こんな可愛い妹を置いていくつもりですか」

 

 後ろで亜梨沙が愚痴を言いつつ小走りに追いかけてくる。

 そして俺達の目的地が、ようやく見えてきた。

 

 

 ―――学園「フォース」

 大戦争と呼ばれた大きな戦争の後に4種族合同で

 設立された人材育成機関。

 主に将来的に軍事・内政に関わるものや

 その希望者を中心に生徒が構成され

 国の中枢になる者を育てるために文武両道を掲げて指導している。

 各国の王族も積極的に入学してくるほどの

 設備・授業内容・知名度を持つエリート学園。

 

 また4種族の偏見を無くすための取り組みも行われているが

 種族間の隔たりが大きく、まだまだ偏見の目は無くなっていないのが

 現状ではあるが、効果は出てきている。

 

 一定の年齢になり試験さえ合格すれば、誰でも入学することが出来る。

 1~5の五段階の階級でランク分けされており、入学時は1階級からで

 年1回ある進級試験に参加し、合格すると階級が上がる。

 5階級で卒業試験に合格すると、晴れて卒業となる。

 

 ただし進級試験が難関であり、進級出来ずに中途半端に

 階級を上下する者も多く、そういった者も特別試験に不合格だった場合

 退学となる非常に厳しい場所でもある。

 

 まだ歴史は浅い学園だが、既に数多くの優秀な生徒が育っており

 その存在意義と共に4種族間では、皆が目指す学園になっている。

 

 この学園を卒業した生徒は各種族の軍隊・内政で

 常に歓迎・優遇されているほどだ。

 

 

 そんな超エリートが集まる学園で、俺と亜梨沙は現在2階級だ。

 順調・・・とは言えないが、まあそれなりにやっていけている方だろう。

 

 校門を過ぎたあたりで、見慣れた姿を見つけ思わず声をかけた。

 

和也「おはよう、リピス」

 

リピス「ああ、和也か。 おはよう。」

 

メリィ「おはようございます。 和也様」

 

 少し眠そうな顔で答えたのは、かなり小柄な体格に金色の長い髪

 大きな耳が特徴的な少女で

 名前は、リピス=バルト。

 これでも竜族と呼ばれる種族の王女様だ。

 

 そしてそのすぐ後ろに居るのは、リピスの付きでメイド長をしている

 メリィ=フレールさん。

 綺麗な銀色の長い髪に、落ち着いた物腰。 丁寧な言葉遣い。

 その綺麗な顔立ちで、いかにも大人の女性といった感じなのだが

 まあ、この人は色々と残念な人だったりする。

 何が残念なのかは、そのうち嫌でもわかるだろう。

 

亜梨沙「リピスじゃないですか。おはようございます。」

 

リピス「なんだ、亜梨沙も居たのか。おはよう。」

 

メリィ「おはようございます。亜梨沙様」

 

亜梨沙「いきなりちょっと失礼です。リピス。

    あとメリィさん、おはようございます」

 

 一介の人族である俺が、どうして竜族の王女と知り合いなのかってのは

 まあ、本当に色々あったんだよ。

 主にメリィさんに、とび蹴りされた記憶がメインだけども。

 知り合いになって以来、亜梨沙とは特に仲良くなったみたいで

 2人でよく遊びに行くぐらいだ。

 

リピス「まあ、君と私の仲じゃないか。」

 

亜梨沙「毎回同じ台詞を言われている気がします」

 

リピス「気のせいではないか?

    気のせいだろう?

    うむ、きっと気のせいだ。」

 

亜梨沙「なるほど、気のせいでしたか」

 

和也「え!? それで納得しちゃうのっ!?」

 

 何気なく聞いていた2人の会話に思わず突っ込みを入れる。

 

リピス「うむ、相変わらず突っ込みが早いな」

 

亜梨沙「・・・兄にノリツッコミのタイミングを奪われました。

    色々どうしてくれるんですか」

 

和也「それって俺のせいかっ!?」

 

リピス「まあ結果的には和也が悪いな。

    ここは兄として大人しく妹の戦いを見学しておくべきところだ」

 

亜梨沙「妹の戦いに乱入するなんて。

    どれだけ妹好きなんですか。

    むしろ大歓迎です。」

 

リピス「妹に手を出すなんて、とんだ変態だな。」

 

和也「あれ? 何か話変わってないか?」

 

リピス・亜梨沙「いや、全然」

 

 謎の連携を見せる2人。

 いつもこうやって最終的には俺をイジメて遊ぶことが多い。

 

メリィ「ご歓談中失礼します。

    授業時間まであと5分ですが、お時間は大丈夫でしょうか?」

 

 冷静なメリィさんの意見に、思わず時間を確認する。

 

和也「げ、ホントだ。 これはやばい。」

 

リピス「では、そろそろ行くか。」

 

亜梨沙「そうしましょう。」

 

 そして俺達は小走りで教室に駆け込んだ。

 

 

 リピス達と別れ、亜梨沙と教室に入る。

 とたんに教室の空気が変わるのを感じた。

 まあ、いつも通りのことなので気にせずに席に着く。

 

?「人族風情が、どうしてまだ学園に居られるんだ?」

 

 背後から刺のある言葉が聞こえてきた。

 振り返ると、声の主はいつも通りのアイツ―――

 学園では名前を知らない奴は居ないんじゃないだろうか。

 少し長い髪を揺らしながら、尊大な態度でこちらを見下している

 こいつの名は、ヴァイス=フールス

 魔界の貴族。

 奴の家柄、魔王の一族は『魔王の血族(けつぞく)』と呼ばれ

 体内で魔力増幅を行える

 特殊な体質を持ち、強大な魔法を行使出来る魔族の中でもエリートだ。

 まあ当の本人の家は、一族とはいえ隅っこの隅っこで、血族の中でも

 それほど大きな力は持っていないのだが、それでも魔族の中では

 優秀な部類に入る強さを持っている。

 だが、その生まれ持った力を何か勘違いしている残念な奴でもある。

 

ヴァイス「どうした? 何も言い返さないのか?

     そうか。 ようやく自分が何の価値もないゴミだということを

     理解したか。」

 

 奴は満足そうに高笑いをすると、自分の席に着いた。

 事あるごとに人族をというか俺を馬鹿にしている。

 非常に残念ながら奴と俺では実力差がありすぎて相手にならないだろう。

 俺が魔法を一方的に撃たれて終了のお知らせがくる予想しか出来ない。

 なので最終的に実力行使をすることを厭わないヴァイスを

 相手にする場合は、言い返すより

 ある程度折り合いをつけて無視するのが無難だ。

 決して勝てないからやり過ごすのではない。

 単純に相手するのが馬鹿らしいからだ。

 

 そして授業開始の鐘が響くと同時に教室に一人の教師が入ってくる。

 彼女はセオラ=ムルム。

 留めてある長い髪を左右に小さく動かしながら教壇に立つ。

 

セオラ「さあ、みなさん。

    私語を止めて席に着きなさい。

    もう時間ですよっ!」

 

 彼女の声で、みんな席につく。

 

セオラ「・・・今日も欠席者は無しっと。

    大変結構です。体調管理は戦士の基本ですからね。」

 

 満足そうに微笑むと、出席簿を閉じた。

 綺麗なお姉さんといった感じの竜族で、生徒を

 種族・身分・容姿・成績などで差別せず

 全ての生徒を平等に扱うため生徒からの人気も高い。

 そしてこれでも竜族のNo3だとリピスが言っているほどの実力者だ。

 

セオラ「みなさん、忘れていないでしょうが

    明後日は全階級合同の実戦試験です。

    それに伴って明日は屋外探索となっています。

    どちらも実戦単位の対象ですから

    くれぐれも油断の無いように。」

 

 彼女の言葉に教室がまた、ざわつきはじめる。

 探索エリアが違うとはいえ、全階級が揃うイベントは滅多にない。

 それだけ大きなイベントともなれば貰える単位の数も質も高いだろう。

 単位が足りなければ進級試験すら受けれないこの学園で

 単位というものは、何より大事で最優先なものとなっている。

 特に学科より優遇される実戦での単位となれば、全生徒が欲しがる。

 

 俺も自然と手に力が入る。

 強さを求めてこの学園に入ったからだ。

 だから実戦の機会は素直にありがたかった。

 

亜梨沙「・・・今からそんなに気合を入れてどうするんですか。」

 

和也「はは、ちょっと楽しみでな。」

 

亜梨沙「まあ、楽しみなのは、妹も否定はしないです。」

 

 亜梨沙とそんな会話をしている時だった。

 

セオラ「こら、もう少し静かになさい!」

 

 先生が声を上げた。

 たしかに後ろの方の魔族連中が盛り上がっていて、少し騒がしかった。

 いつもなら、怒らせると怖いということを知っているので

 自然と落ち着くのだが、もうスグ行われるイベントで

 テンションが上がったのか、彼女の話を聞いていない。

 ・・・なんて命知らずな。

 そう思った直後、先生が動いた。

 

セオラ「私の言葉が聞けないと・・・」

 

 そうつぶやくと、手に持っていたチョークを構えて威嚇する。

 

魔族A「先生、甘いぜっ!」

 

 騒いでいた魔族の一人はそう言うと

 儀式兵装の杖を持ちながら 

 

魔族A「ファイアシールド!!」

 

 目の前に炎で作った盾を出した。

 

セオラ「なるほど・・・あくまで受けて立つということですか。

    いいでしょう。 何事も経験です。」

 

 落ち着いた口調でそう言うと、腕の振りだけでチョークを投げた。

 普通にチョークを投げた程度なら、この炎盾で消し炭になっただろう。

 だが・・・

 

魔族A「ぐはぁ!!」

 

 ありえない速度で飛んでいくチョークが、まるで何も存在しないかの如く

 軽々と炎盾を貫通して、魔族生徒の額に当たる。

 チョークの一撃を喰らった彼は、体ごと縦に3回転して教室の壁に激突。

 気を失って倒れた。

 

セオラ「さて、あとでしっかりとお説教タイムですわ。」

 

 まあ先生に立ち向かったという自業自得ではあるが

 騒いでいただけで、超高速チョーク弾丸を喰らって

 気絶+説教だなんて・・・。

 勇気と無謀の区別がつかなかった代償は厳しいものだった。

 

 その光景を見た残りの騒いでいた連中は

 さっきまでの光景が嘘のように無言になった。

 炎盾は、火系の防御魔法の初級ランクだ。

 初級と言っても、剣や槍といった物理攻撃を受け止めることが

 出来る硬さがあり、魔法もある程度防げる万能の盾だ。

 火属性を扱う者が使う、最も一般的な防御魔法である。

 それを、投げたチョークで貫くとか・・・。

 竜族の・・・というか先生の投げたチョークの破壊力が

 どれだけ危険かということが再確認出来た事件だった。

 

 

 

 ―――昼休み

 いつも通り亜梨沙と2人、食堂へ行くとリピスと

 メリィさんが、席を確保してくれていた。

 

和也「いつもすまないな。」

 

 そう言いながら席に着く。

 

リピス「まあ、気にするな。 ついでみたいなものだ。

    それに席を確保しているのはメリィだ。」

 

メリィ「主の席を確保するのは従者の務め。

    和也様達はリピス様の大事なご友人です。

    何の遠慮も必要ありません。」

 

 何度か同じようなやり取りをした記憶もあるが

 礼を言うのが何度目になったところで構わないだろう。

 

亜梨沙「そういえば、前から気になっていたのですが・・・。

    メリィさんって学園の生徒じゃないですよね?

    たしか部外者は入れないはずですよね、ここ。」

 

 何かを思い出したかのように話し出した亜梨沙。

 

和也「ん? そういえばそんな防衛装置があったな。」

 

 この学園は各世界の要人も多く居たり、また各世界の最新技術が

 集まっている場所でもあるので、装置に登録していないと

 防衛設備が反応して攻撃してくる要塞のような場所だ。

 

メリィ「ああ、そのことでしたら大丈夫ですよ。

    ちゃんと許可を得てますから。」

 

亜梨沙「よく許可出ましたね。

    この学園、そういう特例に関しても

    かなり厳しいって話を聞いたことがあります。」

 

メリィ「普通に話をして、ご理解頂きましたよ?」

 

 メリィさんが楽しそうな笑みを浮かべていた。

 ・・・こういうときの彼女が一番怖い。

 

リピス「普通・・・ねぇ。」

 

 ため息をつきながら、呆れ顔で自分のメイドを見るリピスに

 亜梨沙が無言で先を促す。

 

 『私は、いらないと言ったんだがな』と前置きを入れて話出す。

 

リピス「『竜族の姫を、お供も無しで通わせるなんてっ!!』

    と叫んで、竜族の特殊部隊と一緒に職員室に突入して

    中に居たセオラを巻き込み、2人で

    『認めなければ、戦争だっ!!』

    と言いながら、周りに居た竜族教師・生徒まで扇動して

    学園の主要箇所の大半を占拠。

    それでようやく許可が出た特例だったと

    記憶しているのだが・・・。        

    さて、普通とは何だろうな?」

 

 両手を広げてお手上げのポーズをしながら、リピスが事の顛末を語った。

 

亜梨沙「さすがメリィさん・・・歪みがないですね。」

 

和也「いや、むしろ歪みまくってるだろそれ。」

 

 そんなことがあったのか・・・と俺達は

 そんな竜族メイド長の武勇伝に呆れていた。

 

メリィ「まあ、細かいことはよろしいではありませんか。」

 

 はたして学園占拠は細かいことなのだろうか。

 まあ、彼女ならやりかねないと思えてしまうあたりが残念なのだが。

 

リピス「それに、護衛なら他にもいるだろう」

 

メリィ「あの娘達は、護衛を兼ねているというだけです」

 

亜梨沙「あの娘?」

 

リピス「同じクラスの生徒でな」

 

メリィ「あの娘達は学業の方がメインです。

    そしてリピス様のお世話は、私のものっ!」

 

リピス「まあこの駄メイドは置いておくとして

    明後日の実戦試験はダンジョン迷宮探索らしいな。」

 

メリィ「リピス様、ひどいですよ~」

 

 何もなかったように話の流れを変えたリピスに

 今までの凛とした雰囲気を投げ捨てて、見事なまでに子供化した

 口調でメイド長が抗議する。

 

リピス「・・・何か酷いことがあったか?」

 

メリィ「この見下す感じの冷淡なリピス様も、これはこれで・・・うふふ」

 

亜梨沙「駄目だ、このメイド。 早く何とかしないと。」

 

 完全にスイッチが入って駄メイド化したメリィさんに

 亜梨沙も呆れながら突っ込みを入れる。

 

和也「明後日の試験ってダンジョンの方だったのか。

   俺はてっきり明日が屋外探索だから試験も屋外だと思ってたよ。」

 

 もうここでメリィさんに突っ込みを入れていても話が進まないので

 俺も無視して会話を続ける。

 

リピス「私も、そう思っていたんだがな。

    学園長からの通知にそう書いてあったんだよ。」

 

 そう言って一枚の書類を目の前に出された。

 手触りからして違う、厚みのある上質の紙で作られた書類を手にする。

 文章を読もうとして、その一行目の文字に驚いた。

 

和也「これって・・・四界書(よんかいしょ)じゃないかっ!!」

 

 四界書とは、四界トップが話し合って決めたことに対しての内容や

 重要な決定事項に対して変更等があった場合に発行される書類で

 四界のトップしか発行出来ない、直筆のサイン入りの書類。

 

 国家的な条約の締結等の際に使用されることが多いらしい。

 主に重要な内容を四界トップで共有するためのものだ。

 

リピス「声がデカいぞ、和也」

 

 驚く俺に、少し低めの声で注意してくるリピス。

 

亜梨沙「うゎ・・・実物ってそんな感じなんですか。」

 

 亜梨沙も書類を気にしながら呟いた。

 

和也「お前、これって部外者に簡単に見せるもんじゃないだろ・・・」

 

 注意された意味を理解して、少し小声で抗議する。

 最重要機密扱いのものが、こんな簡単に出てくるとか・・・。

 

リピス「まあ、言いたいこともわかるがな。

    でも内容を良く見ろ。」

 

 そう促されて内容を恐る恐る確認する。

 すると・・・

 

和也「・・・なんだこれ」

 

 思わずそんな言葉が出た。

 

 『 四界書 -そんな名前の連絡だよん-

 

   学園運営についてのお知らせ

 

   今度、学園フォースでの実戦試験は改修中だった闘技場の地下が

   完成したので、そっちを使うことにした。

   なので急遽、地下ダンジョン探索に変更することにしたぞ。

   ついては決まりらしいので、一応連絡しておくよ。

   まあ、楽しみにしてくれ♪

                   魔族代表マリちゃん(*´▽`*)』

 

和也「・・・」

 

亜梨沙「・・・」

 

 沈黙が流れた。

 正直言葉が出なかった。

 覗き込んでいた亜梨沙も呆れ顔で固まっている。

 

リピス「確かに、形式的には四界書なんだが

    内容がこれではな。」

 

 リピスも引きつった笑顔だった。

 確かにこれは最重要機密とは言えないよな。

 

和也「いや・・・でもこれって俺が見てもよかったのか?」

 

 ふと思った素朴な疑問を聞いてみる。

 

リピス「それは四界書そのものを見たことか?

    それとも内容についてか?」

 

和也「まあ、どっちもだな。」

 

リピス「そのものについては私から見せたのだから問題ない。

    内容についても、一応はここの生徒である私も知ったこと。

    同じ生徒である和也達が見たところで

    そんなに有利になる内容でもないからな。」

 

メリィ「それに皆様が言いふらすこともないでしょうし

    別に構わないのではないでしょうか。」

 

 淡々と理由を話すリピスに、メリィさんが補足を入れる。

 

亜梨沙「それにしても・・・マリちゃんって。」

 

 マリちゃんこと、学園長マリア=ゴアは

 魔王妃にして、亡くなった魔王の代わりに

 現在魔界を統べている魔族代表の女性である。

 非常に強気で豪快な性格だが、腰まである長い黒髪が特徴的な

 大人の色気のある非常に美人な人で、今でも魔界の貴族達から

 求婚が耐えないそうだ。

 四界を代表してこの学園フォースの学園長になっている。

 大戦争中「赤き暴風」と呼ばれ、他界から何度も刺客を送られるが

 ほぼ全て返り討ちにしている魔族の中でも

 最上位に位置する強者でもある。

 そんな人が・・・マリちゃん・・・。

 

リピス「あの人は・・・まあ、なんだ。

    色々大変なんだろう、立場的に。」

 

 リピスが珍しく色々と濁した。

 きっと見なかったことにするべきなんだろう。

 

 そして残り時間は、この微妙な空気を引き摺ったまま

 誰も口を開くことなく終了することになった。

 

 

 

 放課後になり、亜梨沙と2人で寮へ帰る帰り道。

 亜梨沙が最近毎日通っているスイーツ屋のワッフルを買っている。

 元気の良い神族のおっさんが経営してるんだが

 どうしてもおっさんの見た目と店構えが合わない。

 などと下らないことを考えているうちに亜梨沙がワッフルを

 持って帰ってくる。

 

亜梨沙「お待たせしました。

    では帰りましょう」

 

 笑顔でそう言うと、嬉しそうにワッフルを食べながら歩く。

 

和也「今日は大きめのにしたんだな。」

 

 いつも亜梨沙が頼むものはサイズが小さめだ。

 何でも大きさから種類があったり、トッピングも色々あるそうだが

 男の俺では、よくわからない。

 一度、メニュー表を見たことがあるが、もはやあれは何かの呪文だった。

 

亜梨沙「いつも買ってるので、おまけして貰えました。」

 

和也「へぇ・・・珍しいこともあるんだな」

 

 思わぬ言葉にビックリした。

 そして俺はあのおっさんに対して、店構えと合ってないなんて

 思っていたことを素直に心の中で謝罪した。

 

 

 この世界は

 神族の住む大地を『神界』

 魔族の住む大地を『魔界』

 竜族の住む大地を『竜界』

 人族の住む大地を『人界』

 と呼ばれる4つの大陸と

 『中立地帯』と呼ばれる

 広大な大地で構成されている。

 かつてそれぞれに独立した文化だった4つの種族は

 技術の進歩により、出会うことになる。

 文化交流も行われ、新たな時代の幕開けかとも思われたが

 異文化・異種族に対しての偏見が無くなることはなく

 特にお互いを差別し合っていた神族と魔族は戦争状態に

 突入することになる。

 そしてその戦争という名の余波は竜族と人族をも巻き込むように

 戦火は世界へと広がりを見せていた。

 そんな、緊迫した状況が続いたある日・・・

 

 人族として生まれた一人の天才によって、ある武器が生み出された。

 『儀式兵装(ぎしきへいそう)』

 そう呼ばれ、年月の経った現在でも最強の武器として

 使用され続けるものが登場する。

 使い手本人の魂の一部を武器化することにより、その形状は多岐にわたり

 並の武器よりはるかに頑丈で万が一、砕けても再生する。

 そして何よりこの武器を最強足らしめるものが『魔法』だ。

 どういう原理か、この儀式兵装は魔法を使用可能にする。

 かつて魔法というものがあった時代が過ぎ去り

 その昔に魔法を使っていたとされる

 神族や魔族ですら使うことが出来なくなった魔法を

 この武器を持つだけで使用可能とする。

 この武器の登場によって戦争は激変する。

 

 魔法を復活させ、魔法最先端国家となった人族は

 一部の軍部に扇動される形で

 【世界を統一するのは人族だ】という宣戦布告を行う。

 これが後に【大戦争】と呼ばれる数百年続いた戦争の幕開けとなる。

 

 4種族最弱と呼ばれ、他界との条約締結時も不利な条件を飲まされ続けた

 人族の、まさに逆襲だった。

 会戦当初は、まさに人族の圧勝。

 儀式兵装にはもうひとつ【弾装(だんそう)】と

 呼ばれるものがついておりそれを使用することで

 魔法の威力を上げたり、攻撃に魔力を乗せて攻撃力を上げたりと

 魔法を前提とした戦いが出来る。

 この儀式兵装の登場により、身体的に人族より有利なはずの魔族も

 統率力の高さで一丸となっている神族も

 まるで歯が立たないほど圧倒的な状況だった。

 更にこの状況を後押ししたのが竜族だった。

 竜族もまた、神族・魔族の選民思想に嫌気が差していた種族であり

 人族とは、昔からの付き合いがある友好関係状態だった。

 その竜族が、人族との『互いに不干渉』という条約を締結。

 事実上の同盟に、神族・魔族達はお互いに手を取り合うことも

 出来ずに敗戦を重ねていった。

 

 このまま人族の勝利で終わるのか?

 誰もがそう思っていたとき、ある事件が起こった。

 突如として神族・魔族達が儀式兵装を使い出したのである。

 人族最高機密だった儀式兵装の機密を盗み出した神族と魔族は

 儀式兵装を手に入れる。

 また事実上同盟国だった竜族からも不干渉という条約を無視した

 儀式兵装の提供を迫られ半ば強制的な形で

 儀式兵装を提供させられることになる。

 これにより儀式兵装は、各世界共通の武器となり戦争がより

 泥沼になる原因となった。

 

 そして今から10年ほど前、ひとりの人族が他界を統べる王達に呼びかけ

 話し合いが行われることになった。

 それぞれの国は数百年続いた戦争に疲れ果て

 またそれぞれの国による事情もあり結果として

 事実上の休戦協定が結ばれることになった。

 

 これによって表立った戦争は終結し、世界に一時とはいえ

 平和が訪れることになる。

 結果、人族から始まって人族で終結した戦争というイメージは

 他界の種族達に悪いイメージだけを残す結果となり

 現在では【戦争そのものが人族のせい】ということになっている。

 なので人族は肩身が狭いのだ。

 

 こうして歩いているだけで、露骨に視線を逸らしたり、道を避けたり

 逆に睨み付けられたり、わざと道を譲らずに

 正面から歩いてくる奴まで居る。

 当然何かトラブルを起こせば、周りの奴らは口をそろえて

 『あの人族が悪い』とでも言い出すだろう。

 だから現在、この中立地帯に建設された学園都市に

 人族なんて俺と亜梨沙の2人だけだ。

 存在そのものが悪として定義されてしまっている以上

 好き好んで差別されにくる人族なんて居ないだろう。

 なので、あのスイーツ屋の神族のおっさんが人族である亜梨沙に

 『おまけ』をしたなんてビックリして当然だ。

 

亜梨沙「・・・今日は、ずいぶん無口ですね。

    何かありましたか?」

 

 こちらの様子を見ながら、亜梨沙が声をかけてくる。

 

和也「ああ、ちょっと考え事を・・・な」

 

 今更、人族の不遇を嘆いていても仕方が無い。

 それに俺は、ここで更に強くなるために来たのだから。

 

?「あら、お帰りなさい。

  和也君、亜梨沙ちゃん。」

 

 優しい声に顔を上げると、寮の玄関に女性が立っていた。

 すごく和やかな雰囲気ので、凄く若く見えるため

 大人なのに、いまいち年齢がわからない、そんな不思議な女性。

 女子寮の管理人である、神族のオリビアさんだ。

 

亜梨沙「オリビアさん、ただいまです。」

 

和也「あ、管理人さん。 ただ今帰りました。」

 

 ・・・考え事をしている間に、寮まで帰っていたのか。

 そんなことを考えつつ亜梨沙に続いて挨拶を返す。

 

 

 ここは学園フォースの女子寮だ。

 学園は全寮制で、部屋は2人部屋のみとなっている。

 ただ、別に男女が均等で入学してくるわけではないため

 当然偏る場合もある。

 現在男子寮は満員。

 女子寮の亜梨沙とは一応兄妹となっているので

 一緒の部屋にされてしまったというのが現状だ。

 ただでさえ人族ということで理不尽な嫌がらせもあるのに

 男一人、女子寮住まいというのは男子学生から恨まれて当然なわけで。

 もちろん、他の連中が考えているようなラッキースケベ的なイベントが

 無いわけではないが気をつけないと俺は

 色々と終了のしかねない。 主に人生的な意味で。

 

オリビア「今日は、ボリューム満点のお肉料理ですから楽しみにしててね」

 

 オリビアさんは寮内の家事を全てこなしている。

 他にも寮の清掃人や料理人は大勢居るので

 任せてしまってもいいはずなのに

 彼女は全てに関わらないと気が済まないらしい。

 手に持っているホウキも全然違和感がない。

 そしてオリビアさんは種族による差別をまったくしない人だ。

 管理人である彼女がそういう方針なため

 寮の中で嫌がらせをされることはない。

 

亜梨沙「・・・あまりボリュームがあると、後で大変ですから

    ほどほどでお願いします。」

 

オリビア「まあ、そんなに良いプロポーションをしてるのに、その発言。

     他の女の子から恨まれちゃうわよ。」

 

 少し呆れ顔で話すオリビアさん。

 そんな話に今朝の出来事を思い出す。

 

亜梨沙「・・・何で兄の顔が赤くなるんですか。

    まさか、ついに妹への興味が沸いたのですね!?」

 

和也「バカ言ってないで、行くぞ」

 

 形勢不利な話になりかねなかったので

 オリビアさんに一礼すると、早々に話を切り上げて寮内に逃げ込んだ。

 

 ・・・・・。

 

 夜風を切り裂く音がリズム良く響く。

 夜の自由時間。

 みんなは寮内で楽しく会話等をしている時間に、俺は外に居た。

 女子寮の裏にある森を抜けると、とても広い丘に出る。

 ここは静かで、人も滅多にこないため自己鍛錬の場所として使っている。

 

 

 俺は、ある事情で戦士の証たる儀式兵装を『持っていない』。

 持っていないということは、魔法が使えないということだ。

 魔法という強力な武器が無いので必然的に俺は、戦士としての

 レベルが下がってしまう。

 その圧倒的なハンデを乗り越えるために、俺は今まで頑張ってきた。

 普通の武器では、やはり魔法に対してあまり有効とは言えない。

 そこで俺の相棒として2つ持っているうちで主に使っているのが

 『強襲型魔法剣(きょうしゅうがたまほうけん)・紅(くれない)』だ。

 

 昔、世話になった人から餞別として貰ったものだ。

 刀身が火属性の魔法で出来ていて、出力を調整すれば

 大剣のようなサイズにもなる。

 普通の剣では、防御魔法を抜くことは基本的に難しいが

 この剣なら、抜くことが出来る。

 

 儀式兵装の解析は進んでいるものの、まだまだ未知の部分が多く

 特に魔法理論に関しては、まだまだ解析できていない部分も多い。

 だが今まで解析した結果だけでも、この魔法剣のような武器や

 人々の暮らしに魔法の恩恵をもたらし、文化レベルも

 飛躍的に向上している。

 

 そしてもう1つの相棒が

 『黒閃刀(こくせんとう)・鬼影(おにかげ)』だ。

 黒い刀身の刀で、特殊な魔法を使用した製法で作られたらしい逸品。

 死んだ両親の唯一の形見でもある刀で

 特殊な古代魔法が練りこまれており

 魔法そのものを打ち消す力が備わっている。

 打ち消せるなんて強いじゃないかと思うだろうが

 魔法は正確に魔力の強弱を把握して

 魔法の構成・流れ見切り、的確な位置を断ち切らないかぎり

 下手な接触や介入をすると暴走して魔力爆発を起こしてしまう。

 そのため、たとえば防御魔法を斬ろうとしても正確な位置以外に

 攻撃してしまうと、爆発して自分にもダメージが返ってくる。

 

 そもそも魔法の強弱や流れは眼で見えるものではなく

 簡単に魔法で調べることも出来ない。

 更に同じ魔法でも使い手によって力の強弱や流れは違ってくるために

 正確に把握するなど、はっきり言うと不可能なのだ。

 なので実際、この刀の使い道は本来薄いのだが・・・。

 そこに俺の『魔眼(まがん)』が活きてくる。

 それこそ俺の今の切り札と言えるだろう。

 

 俺は、この相棒達のおかげでそれなりに戦えているというわけだ。

 しかし魔法が使えない分、俺は自己鍛錬に力を入れてきた。

 せめて接近戦だけでも他の奴らに負けないように。

 それでも、この学園に来た当初は辛かった。

 周りは今までより数段格上の強者ばかり。

 魔法を乱発されては思うように戦えない。

 それで自信を無くしかけたことも何度かあった。

 

 ・・・だが、俺は諦めるわけにはいかなかった。

 あの日、俺は大事な人達を目の前で失った。

 そして儀式の日。

 俺は自分の命すら守れなかった。

 だから今度こそ、守りたいと思う全てを守るための力を

 手にすると誓った。

 今では、努力の甲斐もありそれなりの強さになっている。

 

和也「『この力を、守りたい全てのために』・・・か」

 

 この言葉は、剣をくれた人の口癖だ。

 その言葉を呟きながら、ひたすら剣を振り続けた。

 

 

 

 

 

 

 俺は今、空を見上げている。

 雲一つ無い青空だった。

 良い天気だ。

 川の水が沁みて、全身に奔る痛みが意識を覚醒させる。

 その時、誰かが駆け寄ってくる。

 

亜梨沙「兄さん! 生きてますかっ!?」

 

 不安そうな顔をしながら俺を心配する亜梨沙。

 

和也「・・・ああ、なんとかな。」

 

 返事をしながら立ち上がろうとするが、思うように力が入らない。

 ぶっちゃけ全身ボロボロだった。

 え?

 なぜこんな状況になってるのかって?

 ・・・つい先ほどの話だ。

 

 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・

 

亜梨沙「チェック箇所がありました。」

 

和也「お、順調だな」

 

 今日は試験前の実戦課外授業。

 森の中にあるチェック箇所を見つけ出し、そこに置いてある

 スタンプを用紙に押しながらゴールを目指すというもので

 スタンプの数とクリアタイム等が主な評価対象だ。

 明日行われる実戦試験と比べると地味で面白みに欠けるが

 この授業も立派な実戦試験扱いで、単位を取るためには重要だ。

 

亜梨沙「これで半分を超えました。

    時間的にも余裕ですから、高得点が期待出来ます。」

 

和也「まあ、俺達が稼げるチャンスだからな。」

 

 この授業は他の実戦試験と違って他パーティーへの攻撃は

 禁止されている。

 つまり『いつもの嫌がらせ』をされる心配が無い。

 それに人族である俺達とパーティーを組もうなんて物好きはいない。

 小規模試験なら1パーティー6人まで。

 大規模試験なら1パーティー10人までの編成では

 人数的にも不利な俺達にとって

 安心して得点を狙いにいける数少ない試験だ。

 

亜梨沙「モンスターも居ないので、ちょっとした遠足気分ですね」

 

和也「まあその辺は少し拍子抜けだがな」

 

 通常、実戦試験会場にはモンスターが徘徊している。

 魔法でコントロールされている人工モンスターなので

 相手を殺すような設定はされていない。

 ある程度は安心出来るのだが何事も万が一ということがある。

 実際過去に腕を切り落とされた者や

 矢が眼に当たって片目になってしまった者は

 もちろんのこと、死亡した奴も居たりする。

 まあ、この程度で死ぬレベルでは当然卒業すら出来ないだろうし

 実際戦場に立っても数分と生きられないだろう。

 だが、そういった事故も十分注意するべきである。

 またそういう事故を減らす取り組みも成されてきた。

 その一つが今、身に着けている『判定ネックレス』と呼ばれる

 青い首飾りだ。

 

 判定ネックレスと呼ばれるこの首飾りは、装着者の生命力に反応して

 動作する魔法装備だ。

 装備者が一定以下の生命力になった場合、首飾りは砕けてしまう。

 砕けた際、中に溜められていた回復魔法が発動して

 装着者の傷を癒すことが出来る。

 魔法の効果は強力で、片腕・片足ぐらいなら再生可能なほど

 強力なものだが強力な古代魔法技術を使用しているため

 非常に高価で一般には出回っていない。

 それを生徒全員に装着させれるほどの数を有している教育機関は

 恐らくここだけだろう。

 ちなみにこの首飾りが砕けた場合は、監督役の先生が持つ

 魔法技術を使用した

 端末に破壊情報が出ることになっていて、スグに救援に来てくれる。

 もちろん壊れた場合は、その場で失格となる。

 

 この技術が完成して以来、この学園では

 訓練中の死亡事故が0になったそうだ。

 また人によって痛みや傷に耐性のある奴が

 見た目だけで戦闘不能を宣言されてしまうような

 ことも無くなり、限りなく実戦に近い戦闘訓練が可能となった。

 ・・・ただ、多少やりすぎても死なないということの証明であり

 それゆえに故意にやり過ぎた攻撃をする奴らが出てくる弊害も

 発生してしまっている。

 それに超回復力があると言っても、頭を吹き飛ばされたり

 首を切り落とされたり心臓を完全破壊されれば

 さすがに死んでしまうので、そういう一撃は寸止めしなければならない。

 実戦試験中は広範囲で行われる戦闘全てを監視出来るわけがないと

 思っていたがどうも監視用の魔法アイテムがあるそうで

 あまりにも行き過ぎた行為の場合は、退学処分までありうるそうだ。

 この監視システムのおかげで、俺や亜梨沙は

 『嫌がらせ』程度で済んでいる。

 

亜梨沙「兄さん・・・」

 

 そんなことを考えていると、前を歩いていた亜梨沙が姿勢を低くして

 俺に合図を送ってくる。

 俺も身を屈めて様子を見る。

 

和也「・・・モンスターが、どうして」

 

 居ないはずの敵に注意しつつ『紅』を手に取る。 

 そのとき、急に森全体にピーっという音が鳴り響いたあとに

 声が聞こえた。

 

マリア「あー、あー。 入ってるのか、これ?

    ああ、入ってるな。」

 

 森全体に仕掛けられた拡声器から聞こえてくるその声は、学園長だった。

 やはり何かの緊急事態か・・・そう思って耳を澄ます。

 

マリア「学園長マリア=ゴアだ。

    今日は実戦試験なので楽しみにしていたんだが

    モンスター1匹居ないわ、パーティー同士の戦闘も無いわで

    見ていてつまらん。

    なので、敵性モンスターを適当に放った。

    ぜひ私を楽しませ・・・ゴホン!

    戦闘訓練だと思って楽しんでくれ♪」

 

セオラ「ちょ・・・学園長!

    何を勝手なことをなさっているんですかっ!!」

 

マリア「別にいいじゃないか~。

    お前だって『今日は何事もなく平和ですわ~』って

    言ってただろ~。」

 

セオラ「平和だからこれでいいって意味ですわ!

    それに何度も

    『今日の実戦試験は前日の予行演習で何も無いです』と

    お伝えしましたのに・・・。」

 

マリア「まあまあ、もうモンスター出しちゃったし・・・ってちょっと。

    こら、やめ・・・ガチャ!!」

 

 ・・・・・・・・。

 

 そして森に静寂が訪れた。

 俺と亜梨沙は思わず顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。

 学園長の思いつきは今に始まったわけではないが

 それでも結構な被害が出る。

 何せ予定外のことばかりを持ち込むため、当初の予定を大幅に

 変更せざるおえないこともよくあるからだ。

 そういったことに対処出来ない連中は、例外なく成績を落としている。

 まあ戦場だと思えば、こういったイレギュラーが無いわけではないので

 訓練にはなっているが、学園長はただの趣味でそれをしているから

 色々と問題だ。

 考えていても仕方が無い。

 俺は強襲型魔法剣・紅を構えなおす。

 それを見た亜梨沙も目の前の敵に集中する。

 

 そして指でカウントを開始。

 3

 2

 1

 ・・・。

 勢い良く飛び出した俺は手前の大型狼に斬り込む。

 

亜梨沙「我が手に力を!!」

 

 そう叫んだ亜梨沙の手には刀が出現する。

 そして飛び出した勢いのまま、奥に居たリザードマンに走りこんだ。

 突然の奇襲に、反応しようとした狼だったが

 そんなことをさせるわけがない。

 手にした剣をかなり手前だが振り抜く。

 その時、刀身部分の火属性魔法が剣から切り飛ばされて

 相手の後足に刺さる。

 これが強襲型と呼ばれるこの魔法剣の特徴で

 刀身を飛び道具として使用出来る。

 さながら魔法を放つようなものだ。

 そのまま刀身を再構成して足元まで走りこむ。

 後足をやられて咄嗟に動けないと判断した狼は、前足で俺を攻撃する。

 だが俺はその前足を飛び越えた。

 狼は顔をこちらに向けるとそのまま噛み付こうとしたが

 着地と同時に再び跳躍。

 相手の頭の上に乗ると、そこから首に向かって飛び降りながら

 一撃を入れる。

 断末魔を上げることすら出来ずに頭を切り落とされた狼は倒れた。

 

 相手の撃破を確認してスグに、亜梨沙の方を見るが

 もう既にリザードマンの両腕と頭が無かった。

 相変わらず容赦のない妹である。

 こちらも終わっていることを確認すると亜梨沙は、腰の鞘に刀を戻す。

 そして相手に向かって軽く頭を下げて礼をすると

 相手に背を向けてこちらにやってくる。

 いつの間にか儀式兵装は、何もなかったかのように消えていた。

 

 儀式兵装は、瞬時に出し入れ出来る関係で

 抜き身の武器が主流なのだが、彼女のは鞘つきで珍しいタイプと言える。

 別に鞘に戻さなくても体内に戻せるらしいが

 亜梨沙曰く『もう癖みたいなもの』だそうだ。

 

 儀式兵装は通常時、体内に存在する。

 元々魂の一部なので基本は魂と同化しているらしい。

 使いたい時に呼び出せば出てきて、使わない時は

 スグに体内に戻せるという非常に便利な武器である。

 俺も魔法剣の刀身を納めて、一息ついた。

 ちょうどその時、またピーという音が森全体に響く。

 

セオラ「今回試験の試験担当官を務めさせて頂いています

    セオラ=ムルムです。

    生徒の皆さんに伝達事項をお伝えしますわ。」

 

 まあ試験がどうなるかぐらいの説明はあるか・・・と苦笑する。

 

セオラ「現在進行中の実戦試験についてです。

    どこの誰とはあえて言いませんが、その方がやった

    『勝手なこと』ですがそれの撃破も評価対象とし

    試験は続行と致しますわ。

    ですから皆さん、気を抜かずに挑むように。

    以上ですわ。」

 

 そして通信は途絶えた。

 まあ予想の範囲内である。

 呆れ顔の亜梨沙に声をかけて、先に進むことにした。

 

 森の中心部にある川を超えて、少し小高い丘に差し掛かった時だった。

 突然の右前方から特殊な波動が一瞬だけ見えた。

 

和也「なっ!!」

 

 覚えのある、魔法の感覚。

 そして反射的に、隣に居た亜梨沙を突き飛ばした。

 

亜梨沙「あ・・・」

 

 突然突き飛ばされて呆然とした顔のまま

 こちらを見て何かを言おうとしたあたりで

 俺は、光に包まれた。

 

 ドゴォーーンッ!!! 

 

 そして大爆発。

 気づけば俺は、空を見上げていた。

 雲一つ無い青空だった。

 良い天気だ。

 川の水が沁みて、全身に奔る痛みが意識を覚醒させる。

 その時、誰かが駆け寄ってくる。

 

亜梨沙「兄さん! 生きてますかっ!?」

 

 不安そうな顔をしながら俺を心配する亜梨沙。

 

和也「・・・ああ、なんとかな。」

 

 返事をしながら立ち上がろうとするが、思うように力が入らない。

 ぶっちゃけ全身ボロボロだった。

 

和也「お前は怪我してないか?」

 

亜梨沙「兄のおかげで大丈夫です。

    それより妹は兄の方が心配です!!」

 

 突然飛んできた魔法に反応は出来たが

 亜梨沙を助けるので精一杯だった。

 『魔眼』と言われた特殊な技術を用いても

 さすがに誰かを助けようとすれば自分までは避けれない。

 俺には『魔眼』と呼ばれる特殊な力がある。

 その力は、魔法を『視覚的に捉える』ことが出来るそうだ。

 簡単に言えば魔法収束時の魔力波というものや、魔法の力分配が見える。

 範囲魔法でも範囲全体に均等の攻撃を出来る奴なんて

 天才と呼ばれる人種でも難しい。

 必ず魔力が薄く、火力が落ちる『魔力のムラ』がある。

 そういったものが見えるため発生する前に何処に逃げれば

 大丈夫かという先読みが可能となる。

 

 ただ、この魔眼は生まれ持った才能の一つであり

 全ての人間が持てるものではない。

 かなりレアな能力で、数百年に1人持っている奴が

 居るかどうかぐらいの特殊な能力の1つらしい。

 しかも個人差があり全員が全員、魔力を見切れる訳ではない。

 更にその中でも、先ほど言ったような

 魔法の力分配まで見れるような使い手は、まず居ない。

 僅かしか居ない希少な使い手の中でも、その大多数が

 『魔法発動前の魔力チャージ開始の始動が普通の奴より

 ほんの少し早くわかる』という程度である。

 なので基本的には、魔眼なんてカッコいい名前の割には

 地味な能力となってしまっている。

 苛烈な訓練次第では、魔法を完全に【視える】ようにもなる。

 しかし今までに訓練をして、魔力チャージ開始の始動が

 ほんの少し早くわかる以上の力まで到達した者は、ほぼ居ない。

 現代で魔眼を極めた使い手とされたのは、亡くなった神王様だけだ。

 そのため現在使い手は、居ないとされる幻の能力。

 

 今回はこいつのおかげで亜梨沙に怪我をさせずに済んだのだから

 ありがたい。

 

 亜梨沙の肩を借り、ようやく川の中から岸にたどり着いた俺は

 地面に寝そべった。

 

?「大丈夫ですかっ!?」

 

 ちょうどその時、見知らぬ声が聞こえた。

 俺を覗き込んできたのは神族の娘だった。

 

 整った美しい顔立ち

 白くて透き通るような肌

 まるで愛を囁くかのように動く艶のある唇

 綺麗な銀の長い髪は太陽の光を浴びで紫に輝く

 

 天使というものは、こういう姿をしているのではないかと錯覚するほど

 美しい神族の少女だった。

 

和也「・・・」

 

 その姿に見惚れて声が出なかった。

 そんな俺を見た少女は、優しく微笑むと

 

?「大丈夫、スグに助けますから」

 

 そう言うと、俺の胸に手を乗せて瞳を閉じる。

 その瞬間、俺の体を光が包んだ。

 

亜梨沙「・・・回復、魔法」

 

 俺の全身にある傷跡が消えていくと同時に、痛みも消えていく。

 彼女が使ったのは、間違いなく回復魔法だった。

 

 魔法とは―――

 火属性・水属性・土属性・風属性という基本4属性と

 その上位の属性に分かれている。

 

 ・火属性

 基本的に攻撃火力は4属性の中ではトップ。

 火を自在に扱うことにより、周囲を焼き尽くすことが可能。

 補助魔法にも攻撃力を強化するようなものが中心。

 見た目も派手であり、特に魔族は適正を持つものが多いため

 基本的には魔族の属性のような感じになってしまっている。

 

 ・水属性

 変則的で応用力が試される属性。

 攻撃系の魔法が少ないため、主に防御よりに使用されることが多い。

 特に神族に適正を持つものが多いため、神族の属性という

 扱いになっている。

 

 ・土属性

 防具に大地の加護を与えることにより

 通常以上の強度を与えることが出来る。

 また土属性の防御魔法は、魔法を相殺して無効化することが可能であり

 その根本的な性質は大きく異なっている。

 主に防御に使用される場合が多いが

 水同様応用力が試される属性と言える。

 特に竜族に適正を持つものが多いため

 竜族の属性のような扱いになっている。

 

 ・風属性

 大気の風を自在に操ることが出来る。

 4属性の中では一番魔法発動が早く、撃ち出す攻撃魔法の速度も早い。

 威力も決して低いわけでもないので

 先制攻撃やけん制として使用する場合では

 一番有利となる属性でもある。

 4属性の中で一番適正を持っているものが少ない

 希少な属性となっている。

 また唯一『加速魔法』という速度を上げる特殊な魔法が存在する属性。

 

 ちなみに人族は、火と水の使い手が多めではあるが

 土や風属性の者もそれなりに居るため

 種族的な偏りは無いと言えるだろう。

 

 これら以外にも雷・氷・爆炎などの上位魔法も存在する。

 回復魔法もその上位魔法の1つである。

 基本的に上位魔法は基本属性を発展させたものが中心だが回復魔法は

 はじめから上位属性としてしか存在せず制御が非常に難しい魔法で

 これを使える者は学園でも数える程度である。

 

?「これで大丈夫なはずです。」

 

 魔法を掛け終えた少女が、また優しく微笑む。

 

??「やっと追いついた~」

 

 背後でまた違う声が聞こえる。

 俺を覗き込んできた娘は

 今、目の前に居る少女とまったく同じ顔。

 違うのは髪形だけ。

 双子だとスグにわかった。

 そして同時に気づく。

 今、学園に居る神族の双子は1組しかない。

 

和也「・・・神界第一王女、セリナ=アスペリア」

 

 そう、目の前に居るこの2人は神族王家のお姫様である。

 

??「おお、やっぱり私達って有名だね。

   まあこんな美少女姉妹じゃ仕方ないかもね~」

 

 後から来た彼女は、先ほどの娘と違って活発な印象を受ける。

 

セリナ「はい、私がセリナ=アスペリアです。

    こっちは妹のエリナちゃんです。

    さあエリナちゃん、一緒に謝りましょう」

 

 少し抗議するような口調で妹の顔を見るセリナ。

 

エリナ「はは・・・ごめん」

 

セリナ「ごめんなさい、許してください」

 

 何故か王女2人が謝りだした。

 

亜梨沙「・・・どうして謝るんですか?

    あと何時まで兄に触っているつもりですか。」

 

 今まで状況に置いてけぼりだった亜梨沙がジト目で睨んでくる。

 

セリナ「きゃっ!?」

 

 指摘されて、自分が俺の頬を撫でていたことに気づいて慌てて

 手を引っ込める。

 きっと無意識だったのだろう。

 顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

エリナ「おや~?

    セリナにしては珍しいこともあるもんだね~。」

 

 ニヤニヤした顔で姉をからかう妹がそこに居た。

 

和也「・・・とりあえず謝られている状況がわからん。」

 

 ほっといても先に進まなさそうなので話を促す。

 

エリナ「え?

    いや~、あれって・・・実は私なんだよねぇ~」

 

 バツの悪そうな顔でそう告白するエリナ。

 

和也「・・・まさか、さっきの魔法」

 

 そう呟いた俺から露骨に視線を逸らすエリナ。

 間違いない。

 さっきの魔法攻撃は彼女の仕業だ。

 

亜梨沙「・・・なるほど、そういうことですか。」

 

 亜梨沙がおもむろに立ち上がると儀式兵装を手にエリナに近づく。

 

亜梨沙「とりあえず死んで下さい。

    兄にこれだけのことをして生きて帰れるなんて

    思ってないでしょうね?」

 

エリナ「いや!? わざとじゃなかったんだよ!?

    というか怖すぎる!!」

 

 亜梨沙の気迫に思わず後ずさりをするエリナ。

 

セリナ「エ・・・エリナちゃんも悪気があったわけじゃないんですよ!?

    ちょっと調子に乗っちゃっただけなんです!!」

 

 慌ててセリナも止めに入る。

 

エリナ「そ、そうそう。

    ちょ~っと退屈だな~って思ってる所で

    モンスター討伐が追加されたでしょ?

    それでほんの少し羽目を外して魔法を乱発してた時の

    流れ弾であって狙ってやったわけじゃないんだよっ!?」

 

亜梨沙「故意かどうかなんて関係ありません。

    ですから、とりあえず死んでくれれば何の問題もありません。

    ええ、死んで下さい」

 

エリナ「いや、こっちは大問題だよっ!?」

 

セリナ「ごめんなさい! 許してください! 勘弁してください!」

 

 ・・・何だか色々カオスな空間がそこにあった。

 

和也「亜梨沙、そこまでにしとけ。

   俺は大丈夫だから。」

 

 俺は立ち上がると亜梨沙を後ろから掴んで止める。

 立ち上がった体は、予想以上に軽い。

 やはり回復魔法は偉大だと思う。

 

亜梨沙「・・・ですが」

 

和也「大丈夫だから・・・な?」

 

 少し拗ねた顔をしながらだったが、儀式兵装をしまうと

 俺の腕に抱きつきながら不満そうにしている。

 

エリナ「そうそう。判定ネックレスも反応してないんだし

    命に別状があったわけじゃな・・・」

 

亜梨沙「シャー!!」

 

エリナ「ごめんにゃさ~ぃ!!」

 

 何故か猫語が飛び交いだす。

 

 結局、このゴタゴタで試験のクリアタイムボーナス点が少なくなったため

 ゴール地点で、また亜梨沙が不機嫌になってしまった。

 

 

 

 

 

 

リピス「ははは、ひひ、ふふははははは、そ、そんなことが

    あっははははは、あったたた、の、か・・・

    あはははははははは、ひひひ・・・」

 

 いつもの冷静な姿はそこに無く、竜族のお姫様は大爆笑していた。

 

メリィ「その場に居合わせられず、非常に残念です。」

 

 笑いを必死に堪えながらそう付け加えるメイド長。

 昼休みになり、いつもの場所でいつも通りの会話をしていたんだが

 朝の実戦試験の話をした途端に、これである。

 

亜梨沙「笑い事じゃないです。

    兄が死んだんじゃないかと本気で心配しました。」

 

 亜梨沙は亜梨沙で不機嫌だ。

 

和也「しかしリピス。

   あの神族双子王女はどんな娘なんだ?」

 

 このままでは単に笑い者にされるだけなので

 話題を変えるべく振ってみる。

 

リピス「ひひははははははは、あっはははははははは

    はははは、あぃた! あ、あたま打っていたははははは

    ふふはははは、ひひえへへへへ、ふふはははははは・・・」

 

 もう完全に笑い転げていた。

 

メリィ「あの王女様達のことでしたら私が。」

 

 そう言ってメリィさんが教えてくれた。

 

メリィ「神界第一王女 セリナ=アスペリア様

    文武両道、成績優秀、容姿端麗で礼儀正しく

    誰にでも優しい博愛主義。

    翼の数も神界唯一の八翼ですので神界では

    もはやアイドル扱いですね。

 

    そして

    神界第二王女 エリナ=アスペリア様

    こちらも文武両道、成績優秀、容姿端麗で明るく活発な性格

    誰とでも仲良くされていらっしゃるそうです。

    翼の数は六翼とセリナ様に一歩及びませんが

    それでも六翼持ちです。

    それにエリナ様は4属性全てを使える

    稀代の天才魔術師と言われる実力者です。」

 

 「翼」と呼ばれるそれは、魔族と神族のみが有する翼である。

 通常は消えているが、本人の意思によって

 背中に出現させることが出来る。

 基本的に神族は白色・魔族は黒色をしている。

 ごく稀に、白黒以外の色の翼をした者も生まれる。

 空を飛ぶことは出来ないが、それでも翼を使えば跳躍力は

 飛躍的に伸びる。

 元々魔法があった時代には、魔力を増幅する装置としての役割もあった。

 翼の枚数が多くなるほど、増幅量も膨大になるが

 大きな魔力は、制御も格段に難しくなるため

 強すぎると逆に魔法が発動出来ない。

 

 また翼は、本人の成長に合わせて増加することがある。

 

 翼単体では、魔法は発動出来ないため半ば飾りのように

 なってしまっていたが儀式兵装により

 魔法が行使出来るようになったため、本来の役割の一つである

 魔力増幅装置としての機能を最大限発揮出来るようになった。

 

 この翼は神族・魔族にとっての『誇り』であり『命』である。

 なので翼を貶されたり、翼を失うことは耐え難い屈辱らしい。

 

 大戦争を生き抜いた有名人達ですら六翼が最高枚数なのだから

 八翼を持つセリナの魔力は、それを超えるということだろう。

 また本来、一属性が普通。

 天才と言われる者でも二属性が使えるぐらいだと言われる魔法を

 4属性全て使えるというエリナもまた、姉に劣らぬ実力なのだろう。

 

メリィ「・・・ですから、この学園にもお2人の

    ファンクラブが存在するぐらいです。」

 

 つい自分の世界に入ってしまっていたが

 メリィさんの説明はまだ続いていたようだ。

 とりあえず話を聞いていなかったことがバレないように、

 になった疑問を聞いてみる。

 

和也「そんなに凄い2人なら、学園に来る理由って無いような・・・」

 

メリィ「そんなことは御座いません。

    リピス様もそうですが

    この学園出身ということ自体に価値があるのです。

    学園フォースは、それだけの価値があるとお考え下さい。」

 

和也「超エリート学園を出たという実績が欲しいということか。」

 

メリィ「はい、そういうことです。

    でなければ各界の王族まで学園に来ることはないでしょう。」

 

 身分が高い連中は連中なりに、そういった苦労があるということか。

 実際自分が高貴な生まれというわけでもないが

 まあ何となくわからなくもない。

 

メリィ「王族で思い出しました。

    そういえば2階級に学園長マリア様承認で

    転入生が来るそうですよ」

 

和也「え? 転入生?」

 

亜梨沙「こんな時期に・・・しかも2階級からですか。」

 

 不機嫌全開で会話に参加してこなかった亜梨沙ですら

 反応してしまう内容だった。

 入学することが困難と言われるほど厳しいこの学園で、1階級からでなく

 いきなり2階級スタートで入ってくるというのだ。

 そんな特例を許すほどの身分、もしくは実力者ということだ。

 

リピス「ああ、それについては本当だ。

    私のところにも報告が来ていたからな。」

 

 笑いすぎて腹が痛いと言いながら、リピスも参加してくる。

 

リピス「詳しいことは秘密だとか言い出して面倒だったが

    マリア王妃が「身元保証に関しては一切の責任を持つ」とまで

    言った人物だから、まあそれなりの人物なんだろう」

 

亜梨沙「学園長ということは魔族・・・ですか。」

 

リピス「だろうな。

    明日に転入予定らしいぞ。」

 

和也「明日ってことはダンジョン試験だろ。

   そんな日に入ってくるってことは試験に参加するのか?」

 

リピス「そうだろうな。

    まあ、敵になるなら容赦しないというだけの話だ。」

 

 そう言うと不敵な笑みを浮かべるリピス。

 明日行われる実戦試験では、パーティー同士の戦闘が解禁される。

 そうなれば当然、目障りなパーティーから潰されることは明白だ。

 当然そうした戦闘での評価もあるが、明日の試験は文字通り

 『全て』が評価対象となる。

 生き残ること。チェックポイントのアイテムを回収すること。その数。

 戦闘による勝率や、各戦闘における戦い方や各個人の役割など。

 その全てが監視され、評価される。

 大規模で一番単位に直結する3大イベントのひとつだ。

 

リピス「しかし、一度ぐらいは和也達とパーティーを

    組んでみたいものだな。」

 

 リピスは残念そうにそう呟いた。

 パーティー編成は基本的にクラス内で決めなければならない。

 実戦試験の内容によっては階級が同じならばクラス違いでも

 構わない場合もあるが階級単位での試験は滅多に無く

 1階級の時に数回あったが

 その時は、まだリピスと知り合ってはいなかった。

 なので基本的にクラスが違うためリピスとは

 未だパーティーを組んだことがない。

 

和也「そうだな。

   リピスが居れば心強いし。」

 

 竜族の中でも最強と呼ばれる金竜最後の生き残りであるリピスは

 もちろん竜界最強と言われている。

 現に今まで学園で行われた実戦形式の戦いで、敗北したことがない。

 去年の闘技大会でも、対戦相手の3階級の神族を防御魔法ごと

 一撃で葬っている。

 

亜梨沙「機会があれば、ぜひ一度ぐらいはやりたいです」

 

リピス「まあ、今年もまだ始まったばかりだし、また機会もあるだろう。」

 

 結局色々あった昼休みも最後は、いつも通りの雑談で終了した。

 

 

 放課後、亜梨沙は用事があるからと先に帰ってしまったので

 一人でブラブラと歩きながら寮へと帰る帰り道。

 街の広場が何やら騒がしかったので、様子を見に行くと・・・

 

魔族A「おい、泣いてるんじゃねーぞ!」

 

 魔族の一人が、何やら叫んでいた。

 よく見ると魔族6人が神族の少女1人を取り囲んでいる。

 しかも神族の少女は泣いているようだ。

 

ヴァイス「この高貴なる私の服を汚したんだ。

     当然死ぬ覚悟があったんだろうな?」

 

 しかも、よりにもよってヴァイス=フールスとその取り巻きだった。

 

魔族B「ヴァイス様の服に水をかけるなんて、良い度胸だ!」

 

 どうも広場の花壇に水撒きしている最中にヴァイスに

 水がかかったということで

 よってたかって絡んでいるようだ。

 

神族の少女「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

 

 可哀想に少女は泣きながら繰り返し謝罪している。

 

ヴァイス「泣いて謝罪したところで済む話ではない。

     どうしても許して欲しいのなら、この場で死ね!」

 

 もう言っていることが無茶苦茶だった。

 そして魔族の一人が少女の髪を乱暴に掴んだ。

 周りの連中は、見て見ぬふりをしている。

 まあ学生といえどもフォースの人間。

 武器を持たない普通の奴らが止めに行っても巻き添えになるだけなので

 仕方が無いのだが、それでも誰か止めにいって

 欲しかったと思ってしまう。

 

魔族C「この場で死んで、許しを請えばいいんだよ!」

 

 魔族の一人が拳を振り上げる。

 もう見ていられない。

 少女を殴ろうとした拳を受け止める。

 

魔族「何だ、お前!」

 

和也「ただの人族だよ!」

 

 少女の髪を掴んでいる腕をひねり上げて

 少女を魔族から引き離す。

 魔族は人族より身体能力が高いとはいえ

 所詮は『平均的に高め』である。

 魔法さえなければ、日頃から近接戦の訓練を続けている

 俺の相手じゃない。

 そしてそのまま後ろ回し蹴りを魔族の顔面に叩き込む。

 

魔族「ぐぇ!」

 

 完璧に決まった蹴りに、魔族はそのまま倒れて気を失った。

 

ヴァイス「・・・人族のゴミが、何のつもりだ!」

 

 不機嫌な魔王の血族様が、更に不機嫌そうにこちらを睨んでくる。

 

和也「水をかけられたぐらいでやりすぎだろ。

   そもそも儀式兵装を持っていない一般人相手に、フォースの生徒が

   6人がかりでってのも問題だ。」

 

ヴァイス「この高貴なる私を汚したということがどういうことかを

     躾の出来ていない神族に教えてやろうというのだ!」

 

和也「戦う力の無い娘相手に力を振るうなんてバカらしい!

   大体、そんなことしたら神族と戦争になるぞ!」

 

ヴァイス「ははは、むしろ大歓迎だ!

     神族ごとき魔族の相手では無いということを証明してやろう!」

 

 このバカは自分の下らないプライドで

 ようやく平和になった世の中を壊したいらしい。

 普段なら無視するのだが、ふざけたことを言い過ぎるこいつを

 このままには出来ない。

 

ヴァイス「せっかくだ。

     貴様も一緒に死ねばいい!」

 

 そう大声で言い放つと儀式兵装を手にした。

 ちなみに学園の外で許可無しで武器を使用すると厳罰である。

 しかし、もうこのバカを止めなければ話にならない。

 俺は、紅に手をかける。

 

?「ちょーっと待ったぁー!!」

 

 突然横から大きな声がした。

 銀色の長い髪を左右に結った美少女が歩いてくる。

 

和也「あいつは・・・」

 

 そう、彼女は朝に出会った少女。

 神族王女姉妹の妹。

 神族第二王女、エリナ=アスペリアだった。

 

エリナ「ちょっと!

    あなた達、何してるのよ!」

 

ヴァイス「神族王女か・・・。

     丁度良い。

     お前達、魔族の強さを教えてやれ!」

 

魔族A「わかりました!」

 

魔族B「へへ、やってやるぜ!」

 

 取り巻き魔族4人は剣タイプの儀式兵装を手に持つと

 エリナ王女を取り囲んだ。

 王女はまだ儀式兵装を構えていない。

 一斉にかかられると不利かもしれない。

 俺は剣を手に持つ。

 

エリナ「そこの人族!

    手出ししないで!」

 

 俺が加勢しようとしたのを止めるエリナ。

 その瞬間、魔族達が一斉にエリナに向かって飛び掛った。

 

魔族A「痛い目を見てもらうぜ!」

 

 同時に攻撃をした魔族達。

 儀式兵装を手にしていないエリナはそれでも余裕の笑みを

 浮かべたままだった。

 そして4本の剣がエリナに迫ったとき、その4本ともが空中で停止した。

 

魔族D「なっ!?」

 

魔族C「どうなってんだ!?」

 

エリナ「そんな攻撃じゃ、ウインドシールドは抜けないわよっ♪」

 

 余裕の笑みを崩さないエリナ。

 ウインドシールドは風の防御魔法で、他の防御魔法と違って

 見た目では発動しているか判らない透明なのが特徴だ。

 

ヴァイス「儀式兵装を召喚せずに、魔法だと!?」

 

 さすがのヴァイスも驚きを隠せないという表情だ。

 確かに彼女は儀式兵装を召喚していない。

 

エリナ「ブレイク!」

 

 皆が驚く中、エリナはそう言い放つと指を鳴らした。

 その直後、ウインドシールドを意図的に炸裂させた。

 内部に溜め込まれた気流が

 取り囲んでいた魔族達を飲み込んで舞い上がる。

 

魔族達「うぁぁぁぁぁ!!」

 

 叫び声と共に空高く舞い上がった魔族達は

 そのまま地面に叩きつけられ全員気絶する。

 

エリナ「儀式兵装は、普段から魂として体の中にあるもの。

    だから修行次第で、いちいち召喚しなくても

    ある程度の魔法ぐらいは使えるようになるんだよねぇ~」

 

 得意げな顔で語るエリナ。

 確かに原理的にはそうなんだろうが、そんなことが出来るなんて

 聞いたことが無い。

 恐らく彼女ぐらいしか出来ないのではないだろうか。

 

エリナ「さて、まだ続ける?」

 

ヴァイス「・・・ふん。

     高貴なるこのヴァイス様が、いちいち神族の小娘ごときの

     相手なんぞしていられるか。」

 

 エリスに向けて大きな舌打ちをすると、気絶した取り巻きを放置して

 一人でヴァイスが去っていった。

 まあ、あんなの見せられて戦おうとは思わないだろう。

 

 どうなるかと思ったが、まあ何とかなったと一息ついていると

 エリナがこちらに向かってくる。

 

エリス「そこの人族!

    あなたの目的は一体何!?」

 

 いきなりこれである。

 

和也「何の話だよ」

 

エリス「人族なんて卑しい種族が、何の目的も無しに

    その娘を助けるわけないじゃない!」

 

 俺の後ろに隠れていた神族の娘を指差しながら俺に詰め寄ってくる。

 まあ人族の印象が悪いことなんて今に始まったことじゃないが

 あんまりである。

 

和也「戦う力の無い娘を、理不尽な暴力から助けただけだろう。

   そんなのいちいち理由なんてないよ。」

 

エリス「そうやって平気で嘘をつくのが人族なんでしょ!

    私は騙されないわよ!」

 

 正直めんどくさいなと思っていると、後ろに隠れていた娘が

 俺の前に出てくる。

 

神族の少女「助けてくれて、ありがとう。

      誰も助けてくれなくて、すごく怖くて不安だったときに

      あなたが守ってくれて、本当にうれしかった!」

 

 少女は瞳に涙を溜めながら、嬉しそうに俺の手を握って挨拶してくれた。

 その光景に、先ほどまで詰め寄ってきていたエリナも呆然としている。

 

和也「まあ、結局そこの王女様が助けただけだし、俺は関係ないよ。

   それより、そっちの王女様にもお礼を言った方が

   いいんじゃないか?」

 

神族の少女「エリナ様、助けて頂きありがとうございます!」

 

エリナ「え? ええ、大丈夫だったかしら?」

 

神族の少女「はい! とっても嬉しかったです!」

 

エリナ「そう、よかった。

    ああいう勘違いした奴が居るから、注意しなきゃ駄目よ?」

 

 神族の少女は何度もお礼を言いながら、走り去っていった。

 

エリナ「さて、人族!

    ・・・ってあれ?」

 

 話の続きをしようとあたりを見回すが、既に和也の姿はなかった。

 

エリナ「に、逃げられたー!!」

 

 なんという不覚。

 せっかく目的を聞き出そうと思ったのに。

 ・・・でもまあ、さっきの雑魚魔王に比べればマシかも。

 

エリナ「・・・な、何考えてるのよ私!

    人族は悪い種族なんだから!」

 

 そう、人族は平気で嘘をつく種族。

 大戦争を起こした罪深い連中。

 人族とはそういうものだと教えられてきた。

 だけど、あの人族は弱者を助けるのが当然と言った。

 そんなの信じない。

 そんな人族が居るなんて聞いたことが無い。

 

エリナ「だったら確かめればいいじゃない・・・」

 

 自分の眼で真実を確かめよう。

 そう思った次には、もう確かめる段取りを考えていた。

 

エリナ「・・・待ってなさい、人族!」

 

 そう空に向かって叫ぶと、エリナは走って寮に帰るのだった。

 

 

 

 その日の夜。

 彼は、いつも通りの場所で剣を振っていた。

 聞けば毎日やっていることらしい。

 自主的に強くなろうという姿勢は好感が持てる。

 でも、彼の目的がわからない。

 私は森の中からファイア・アローを2連続で発射した。

 

和也「魔法か!」

 

 後ろから撃った魔法を、彼は2つとも魔法剣で斬り払った。

 

エリナ「へぇ、相殺出来るとか、なかなかじゃない」

 

 私は、彼の技術を褒めながら姿を見せる。

 魔法は通常、武器等に当たると不安定になり爆発することが多い。

 なので正確に魔法の流れを見切らないと

 魔法を斬るなんてことはできない。

 まあ、普通は流れなんて見切れないし

 恐らくは魔法による相殺あたりだろう。

 

和也「またお前か。

   今日は、よく会うな。」

 

エリナ「ホントなら会いたくないのだけど、仕方が無いよね」

 

和也「何が仕方ないんだよ」

 

 彼は、うんざりだと言うような顔で私を見てくる。

 でも私は、彼に興味があるし、彼の目的も知りたい。

 だから引くわけにはいかない。

 

エリナ「私、人族って最低な種族って聞いて育ったの。

    大戦争を起こした種族。

    平気で嘘をついて人を騙す最低な連中。

    ・・・でも、あなたは広場で神族の娘を助けた。

    助けたのは、何か目的があったとしか思えない。」

 

和也「・・・だから、別に目的なんて何もないって。」

 

エリナ「ええ、あの娘もそう言ってたわ。

    だからわからない。

    人族である、あなたのことが。」

 

 そう、わからない。

 目の前の人族の男のことが。

 だから、私は強硬手段に出ることにした。

 

エリナ「あなたのこと・・・試させてねっ!」

 

 私はそう叫ぶと、儀式兵装を手に六翼を広げて

 一気に魔力をチャージする。

 

エリナ「古の巨人よ。

    我は神の代行者。

    我が前に立ちふさがるは神の敵。

    巨人よ、神々の敵たる者達を蹴散らせ。

    さあ神兵として立ち上がれ、巨人よ!」

 

 詠唱が終わると目の前に広がる大きな魔方陣から巨大なゴーレムが

 姿を現す。

 古代魔法の1つで、巨人兵を召喚する魔法だ。

 5階建ての女子寮よりも大きな巨人がゆっくりと

 目の前の人族を見つめる。

 

和也「おいおい、なんだこれ・・・!?」

 

 人族の男は凄く驚いていた。

 当然だ。 この私しか使えない古代魔法の1つを披露したのだ。

 これぐらいのリアクションはしてもらわなくては。

 

エリナ「この子は、古代魔法で作ったゴーレムよ!

    あなたにこの子が倒せるかしら!?」

 

 ゴーレムに命令を送ると、その巨大な拳を人族に向けて振り下ろす。

 

和也「何で戦う必要があるんだよ!?」

 

 ゴーレムの一撃を回避しながら、人族の男は叫んでいる。

 

エリナ「あなたが神族の娘を助けた目的を答えなさい!

    今、不純な目的でしたって謝るのなら

    許してあげないこともないわ!」

 

和也「だから、目的なんて無いって!」

 

 あくまで話さないつもりなのか。

 だったら多少痛めつけても口を割らせて見せる!

 

エリナ「話さないつもりなら、徹底的にやるからね!」

 

 ゴーレムに襲われて、距離を取る人族。

 何度も攻撃しているようだが、そのたびに瞬時に傷が再生するゴーレム。

 このゴーレムは特別で、体に数箇所ある魔力核を破壊しなければ

 何度でも再生する強力なゴーレムであり

 以前、神界で城に居た駐屯兵一個大隊の練習相手に召喚したが

 怪我人続出で、何とか倒した時には

 部隊がボロボロで、盛大に怒られたことを思い出す。

 そんな強力なゴーレムを人族1人が勝てるわけがない。

 スグに泣いて謝るだろう。

 私は、そんなことを考えていた。

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 それから結構な時間が経った。

 ゴーレムは未だ人族を攻撃し続けている。

 人族はその攻撃を受けながら、未だ戦い続けている。

 

エリナ「・・・いい加減にしないと、あなた死んじゃうよ?」

 

 彼は既にボロボロだった。

 体中に切り傷・擦り傷があり、血も流れている。

 どう見ても勝てる見込みはない。

 

和也「・・・何度も言ってるが、俺はただ助けたかっただけだよ」

 

 もう立っているのがやっとなはずなのに、そう答えを返す彼の瞳は

 まだ死んでいなかった。

 

エリナ「・・・わからない。

    どうして何も言わないの?」

 

 ここまでやっても彼は何も言わない。

 何かを企んでいたことについて許しを請うわけでもない。

 かといって、冤罪だと私を罵ることもしない。

 ただ、私が何も無いって信じることを待っているように見える。

 人族って最低な種族じゃないの?

 自分勝手で平気で他種族を利用するんじゃないの?

 大戦争を起こした存在自体が悪なんじゃないの?

 

 彼は剣を構えなおしてゴーレムに突っ込む。

 右足を切り落とすが、スグに再生する。

 ゴーレムは近くの大岩を掴むと彼に向かって投げつける。

 回避するが、地面にぶつかった衝撃と細かい石の破片を受けて

 彼は後ろに飛ばされる。

 

エリナ「・・・」

 

 私は一体何をしているんだろう?

 私は何を信じてきたんだろう?

 

 本当は、人族も悪い種族ではないのかも・・・ 

 

 そんなことを考える頭を横に振る。

 それを意識してしまったら、今までの価値観全てを否定しかねない。

 すなわち、それは今まで生きてきた私を全て否定することで・・・。

 

 だから・・・最低なことに、考えることを放棄してしまった。

 

 私は、杖を振り上げる。

 

エリナ「・・・ゴーレムッ!

    さっさと倒してぇぇぇ!!」

 

 悲鳴に近い叫び声でゴーレムに指示を出す。

 

 ゴーレムは大きく振り上げた右腕を、彼に向かって振り下ろした。

 ・・・しかし。

 

 ドドドドッ!!

 彼の一撃によって、ゴーレムの右腕が再生せずに音を立てて崩れ落ちた。

 

エリス「え!?」

 

 ありえない。

 魔力核を破壊しないかぎり無理なのに。

 そんなことを考えていると土煙の中から彼は出てきた。

 

和也「・・・そんな泣きながら攻撃されたら

   負けられなくなったじゃないか」

 

 苦笑しながら、彼は私を見つめる。

 

エリナ「・・・え?」

 

 頬を触ると濡れた感触。

 無意識に私は泣いていたのか。

 ・・・私は、どうして泣いているのだろう。

 

 彼はボロボロの身体に気合を入れ直すと、剣を構えた。

 剣を自分の胸の前に垂直に構える。

 そして彼は呟いた。

 

和也「『この力を、守りたい全てのために』」 

 

 私はその言葉を聞いて思い出す。

 それは大好きだったお父様が、口癖のように言っていた台詞。

 そしてその構えも、お父様そのものだった。

 

 彼はゆっくりと剣を下に向けると

 そのままゴーレムに向けて走り出した。

 ゴーレムが左足で彼を踏み潰そうと足を下ろす。

 それをステップで大きく回避すると一気に距離を詰め

 その足の少し上を水平に斬る。

 するとまた足は再生することなく崩れ落ちる。

 正確に魔力核を破壊したからだ。

 召喚者の私でさえ、魔力核の場所なんてわからない。

 しかし彼の攻撃は、魔力の流れが見えてないと不可能な急所への

 正確な一撃。

 

 ゴーレムは左手をついて何とか体を支える。

 その左腕を駆けるように彼は登っていく。

 そしてゴーレムの額に飛び掛るように跳躍すると

 そのまま大きく剣を振った。

 

 ゴーレムは魔力の放出と共に崩れ落ちる。

 全ての魔力核が壊れたので体を維持出来ずに、ただの土の塊となった。

 

 土煙の中から出てきた彼は、その場で倒れた。

 私は大急ぎで彼の元に走っていった。

 

 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・

 

 俺はゆっくりと目を覚ます。

 そう、俺はゴーレムと戦って・・・

 

 ハッとして飛び起きようとして

 

和也「あっ・・・いってぇ~」

 

 頭に激痛が走り、起きることが出来なかった。

 

?「まだ、ちゃんと寝てなきゃダメよ!」

 

 声をかけられ、ゆっくりと閉じていた目を開ける。

 俺の顔を心配そうに覗き込むエリナがそこにいた。

 

和也「・・・何がどうなってるんだ?」

 

エリナ「覚えてないの?

    ゴーレム倒したのは?」

 

和也「・・・そういや倒したような気がするような?」

 

 少し記憶が曖昧だった。

 

エリナ「ゴーレム倒したスグ後、倒れたの。

    凄く心配したんだから。」

 

和也「・・・そうか」

 

 自分で襲っておいて心配ってどうよと思わなくはないが

 まあそれを言い出すとややこしくなりそうだ。

 

 それに記憶もハッキリしてくる。

 そう、俺は切り札を切ったことを。

 本来ならあまり人前で使うものではないのだが

 彼女の泣き顔を見たら、自然と使ってしまっていた。

 

 彼女に膝枕をされている状態のまま、しばらく無言で時間が過ぎる。

 

エリナ「・・・ごめん。」

 

 沈黙を破ったのは彼女の謝罪だった。

 

エリナ「私、ずっと『人族は悪い種族だ』って言われて育ってきたの。

    だからアナタもきっと悪人だった決め付けて・・・。

    結局あなたを試すようなことをしてしまったわ。」

 

和也「まあ誤解だってわかってもらえたなら、それでいいよ」

 

エリナ「・・・強いんだね」

 

和也「まあ、人族だからね。

   これぐらいで落ち込んでられないよ」

 

 冗談っぽくおどけてみせる。

 

エリナ「・・・もう、ホントに。」

 

 呆れた声だが、彼女の顔は笑顔だった。

 

エリナ「・・・私。

    もう一度、見つめなおしてみる。

    全てを自分の眼で、しっかりと。」

 

和也「・・・そうか。」

 

エリナ「だからさ」

 

 エリナは俺の手を握る。

 

エリナ「私たちもこれから・・・でいいかな?」

 

和也「ああ、よろこんで」

 

 俺も握っている手に力を入れて返事を返す。

 

 しばらくして、ようやく立ち上がれるようになった俺は

 エリナと2人で寮に帰る。

 

エリナ「一応回復魔法はかけてあるけど、痛い場所があったら

    スグに言ってね?」

 

和也「ああ、もう大丈夫だよ王女様。」

 

エリナ「・・・エリナ」

 

和也「ん?」

 

エリナ「王女様じゃなくて、エリナって呼んで」

 

和也「・・・わかったよ、エリナ」

 

エリナ「うん。 私も和也って呼ぶね」

 

和也「それにしても朝からずっと会ってるな、今日は。」

 

エリナ「ん?朝から?」

 

和也「忘れたとは言わさない。

   実戦試験の流れ弾を」

 

エリナ「・・・え?うそ?」

 

和也「ホントに忘れてた?」

 

エリナ「あーーーーーーー!!」

 

 突然こちらを指差し大声をあげる。

 

エリナ「あの時の人って和也だったんだ!?」

 

和也「なん・・だと?」

 

エリナ「・・・あはは。

    人族だとか、何だとか考えずに、ただ失敗したな~って

    ことだけで頭が一杯だったから・・・」

 

 笑って誤魔化すことしか出来ないエリナ。

 人族をあれだけ嫌っていたのに

 あの時はそんな素振りが無かったことを考えると

 まあそうなんだろうなと思える。

 

和也「まあ、もういいけどね・・・」

 

 人族って種族の運命だと思って素直に諦めよう。

 

エリナ「色々と、ご迷惑を・・・」

 

 エリナも苦笑いを浮かべながら、何度も謝罪を繰り返していた。

 そして寮の入り口まで帰ってきた。

 

エリナ「今日は、ホントにごめんなさい」

 

和也「それはもういいって」

 

 もう何度目になるかわからない謝罪を受け流す。

 本当に気にしていないし、ここまでされると逆に困ってしまう。

 

エリナ「・・・だから、これは私からの謝罪と感謝の気持ち」

 

 不意にエリナが俺に近づいたと思うと

 

エリナ「ん・・ちゅ・・ぱっ」

 

 頬にキスをされた。

 

エリナ「じゃあね!」

 

 スグに俺から離れると手を振りながら寮の中へと走っていった。

 

和也「・・・」

 

 頭が真っ白だった。

 しばらくキスされた頬を手で撫でながら呆然と立ち尽くしてしまった。

 

 そして、部屋に帰った俺に待っていたのは・・・

 

亜梨沙「兄さん・・・こんな時間まで何処に行ってたんですか!?

    心配して探しに行くところでした!!」

 

 妹からの2時間以上に渡る、お説教だった。

 

 

 

 

―――後編に続く

 




まず、この後書きまで読んで頂きありがとうございます。

どうでしたでしょうか?
初めて書いた作品にしては・・・と個人的には
自画自賛中です(笑)

原作を知っておられる方からすれば、かなり違う内容と
なっていたことでしょう。
原作を知らない方は、楽しんで貰えたでしょうか?

今後、よりオリジナル方向に走りますので
もはや二次創作という概念は捨てて適当に読んでもらえると
個人的には助かります。

元々は『小説家になろう!』様のサイトで
ひっそり投稿していたのですが
偶然こちらのサイト様の存在を知ったので
せっかくだしこちらにも・・・という形で
投稿させて頂きました。

それでは、後編後の後書きでお会い出来ることを期待しております。


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第1章 動き出した運命 ―後編―

 そしてその日がやってきた。

 雲一つない晴天。

 周りは喧騒と熱気に包まれていた。

 そう、今日は・・・

 

和也「ついに今日が来たか」

 

亜梨沙「相変わらずのお祭り状態ですね」

 

 全階級合同実戦試験 前期の開催日である。

 会場となる地下ダンジョンは闘技場から入るため、闘技場内に

 全階級が集まることになり、必然としてこの騒ぎである。

 

リピス「おや、和也達じゃないか。」

 

 少しでもブラつけば迷子確定というほどの人数の中から

 見知った顔が見える。

 

和也「お、リピスじゃないか」

 

亜梨沙「おはようございます、リピス」

 

リピス「2人とも、こんな後ろの方でいいのか?」

 

 俺達が居るのはダンジョン入り口からかなり離れた場所だ。

 正直スタートダッシュ狙いなら、まずありえない地点。

 

和也「スタートダッシュに巻き込まれるのだけは、ごめんだね。」

 

リピス「確かに、あれはもう無茶苦茶だからな。」

 

 開始直後は、やはり一番を狙って走るパーティーで

 入り口が大変なことになる。

 そして恒例のように、そのトラブルが発端となって入り口付近で

 戦闘が始まる。

 戦闘が邪魔で入れないパーティー、それらを押し退けようと

 介入するパーティーなども出始めて収集が着かなくなるのが

 開始直後のお約束だ。

 特に俺達人族がそんな中に入ってしまったら、最優先で狙われかねない。

 なので順位より完走を、ポイント確保よりも生存を優先しなければ

 単位は難しくなってしまう。

 必然としてあえて後ろからスタートするようになったという経緯がある。

 

亜梨沙「リピスこそ、前じゃなくていいんですか?」

 

 リピスのパーティーは竜族のみで構成されたチームで

 2階級の竜族の中でも実力者が揃っている。

 正直リピスのチームなら正面突破で

 あの開始直後のカオス空間を抜けれるだろう。

 何せ、毎回他のパーティーを攻撃出来るチーム戦では

 目に付いたパーティーを全て潰しながら前進するという

 豪快な戦い方をしている。

 竜界の姫とその親衛隊による部隊『チーム・竜姫』と呼ばれ

 このチームに狙われて撃破されなかったパーティーは

 今のところセリナとエリナの神族姉妹のチームだけだと言われている。

 決して出会いたくないチームの1つだ。

 

リピス「う~ん。 まあ出来ないこともないんだが・・・。」

 

 少し考えるように首を傾げたあと

 

リピス「後ろから追いかけるのも、愉しいじゃないか」

 

 不敵な笑みを浮かべながらとんでもないことを言うリピス。

 さすが『チーム・竜姫』のリーダーという発言である。

 

亜梨沙「まあ、私達を見つけた場合はスルーしてください。」

 

和也「それはもちろん頼んでおくよ」

 

リピス「それは出来ない相談だ。

    むしろ見つけたら全力で追いかけてやるから

    覚悟しておくんだな。」

 

 容赦の無い言葉を言い出したリピスに反論しようとしたところで

 学園長の挨拶が始まった。

 

マリア「学園長のマリア=ゴアだ。

    長々と話をするつもりはない。

    今更ルール説明も必要ないだろうし挨拶は、短くしておく。

 

    生徒諸君! 戦争にルールなどない!

    だが当然、守るべき良識というものもまた存在する!

    必要最小限の良識さえ理解し、遵守しさえすれば

    それ以外のあらゆる勝つため、生き残るための行動を

    その全てを評価対象とし判定する!

    諸君らはただ、持てる全ての力を出し切って勝ち残れ! 以上だ!

 

    では、これより

    全階級合同実戦試験 前期を開始する!」

 

 非常に簡潔で力強い開始宣言と共に一斉に生徒達が動き出す。

 開始10秒も経たずに早速、魔法も飛び交い始める。

 

リピス「うむ、ではダンジョン内で会おう」

 

亜梨沙「敵には会いたくないので、遠慮しておきます」

 

 リピスが自分のチームに合流しにいくのを確認して

 俺達もゆっくりと動き出した。

 

 

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 試験開始から1時間ほど経った。

 俺は序盤のチェックポイントに設置された端末で情報を確認していた。

 

亜梨沙「やっぱり石は無いですね」

 

和也「まあ、ゆっくりと進んでるからな」

 

 ダンジョン試験は、各所に設置された魔法石を回収しながら

 ゴール地点を目指すもので

 主なポイントは

 

 ダンジョンクリア時間

 魔法石の所持数

 パーティーの損耗率

 

 この3つが重要となってくる。

 クリア時間は、ゴール地点に到達した時間が早ければ早いほど

 ボーナスポイントとして加算される。

 魔法石は各チェックポイントに設置されている箱から

 1チーム1つづつ持っていくことが出来る。

 多くのチェックポイントで回収すればそれだけ有利になるが

 この魔法石には仕掛けがある。

 一定以上の数を持ってしまうと、チェックポイントの端末にある

 迷宮地図に自分達の位置が表示されてしまうというおまけがついている。

 

 しかもパーティー情報まで確認出来るようになってしまうので

 狙われる確率が非常に高くなってしまう。

 そして最後のパーティー損耗率は、チーム内の生存者の数や

 怪我の有無などが評価対象となる。

 2人チームの俺達は、2人とも怪我無くクリア出来れば損耗なしで

 高得点になるが2人のため、戦闘は非常に不利である。

 

 逆に5人パーティーだと戦闘は有利でも

 誰か1人でも脱落もしくは怪我をするだけで

 評価ポイントは下がってしまう。

 その他の戦闘回数または戦闘回避行動や同士討ちを狙うなどの

 高度な戦術ももちろん評価されるが

 上記3つに比べると低いと言わざるおえない。

 

 無理して全滅するリスクよりも、地道に戦闘回避しながら

 生き残って完走する方が総合的に点数は高いので

 俺達2人の方針は生存することを重視している。

 戦闘を極力回避している俺達だと

 どうしてもチェックポイントに魔法石が残ってるような

 タイミングでたどり着けない。

 

和也「しかし今回は荒れてるなぁ」

 

 端末を確認しながら、疑問に思ったことを口にする。

 

亜梨沙「残りパーティー数が、結構減りましたね」

 

 この端末は、ダンジョン内のパーティーの数と

 ダンジョン地図が表示される。

 現在、まだ魔法石を持ちすぎているチームは無いが

 開始してこの時間にしては、脱落チームの多さが目立つ。

 

和也「この時間ならまだお互いに、けん制し合って

   パーティー戦闘なんて、ほとんど無いはずなんだがな」

 

亜梨沙「まあ、潰し合ってくれているなら好都合です」

 

 端末を前に話し合っていると、遠くから気配を感じる。

 直後、2人とも壁際に隠れて武器を手に持つ。

 

 徐々に近くなる気配と複数の足音。

 間違いなく他パーティーだ。

 数は、おそらく6人。

 非常に不利だが、状況的にもう逃げるにしても手遅れだ。

 覚悟を決めて先手を取るために神経を尖らせる。

 

?「おっと、警戒しないでくれ。

  別に戦う気ないからさ~」

 

 何とも気楽な声と共に一人の男が姿を現した。

 

和也「・・・ギル=グレフか」

 

 ギル=グレフは、俺達と同じクラスの魔族だ。

 陽気で明るい性格で、何より種族による差別意識が無いため

 同族から異端の目で見られることもあるが

 それ以上に彼の性格ゆえか種族に関係なく人気が高い。

 四翼持ちで、火と風の二属性を扱えてオリジナル魔法まで持っている。

 魔族特有のゴリ押しな戦い方をせず、神族のような技術を駆使した

 心理戦を得意としており、去年の闘技大会では

 3階級の魔族を倒しているため

 現在フォースで名前の挙がる実力者の1人だ。

 

ギル「お、名前を覚えてくれていたとは光栄だね」

 

亜梨沙「で、何の用ですか?」

 

ギル「キミに会いたくて・・・さ」

 

 気障な台詞と共に亜梨沙の手を握ぎろうとして

 亜梨沙に思いっきり蹴り飛ばされる。

 

亜梨沙「勝手に手を握ろうとしないで下さい、ぶっちゃけキモいです」

 

ギル「ちょ・・・熱烈歓迎、すぎ・・・るん、ですけど・・・」

 

和也「いや、お前。

   ホントに何しに来たんだよ。」

 

ギル「いや~なに。

   ちょっと端末俺にも見せて~ってだけなんだけどね~」

 

 蹴り飛ばされた痛みを堪えながらも陽気に答えるギル。

 

亜梨沙「じゃあ、奥に居る5人は何ですか。

    伏兵じゃないんですか」

 

ギル「いやいや、他の連中は人族ってだけで嫌ってるでしょ?

   そんな状態で一緒に来ちゃったら戦闘になっちゃうじゃない。

   俺、そういうめんどくさいの嫌いなんだよねぇ」

 

 何を考えているのかさっぱりな笑顔。

 信用は出来ないが、状況的には問題なさそうだ。

 

和也「まあ、いいか。

   戦闘狙いなら、こんな芝居せずに正面からの方が有利なんだし。」

 

 俺が武器をしまうのを見て亜梨沙も武器をしまう。

 

亜梨沙「こんな変態の言うことを信じる気はありませんが

    兄がそういうのなら、妹は従います」

 

ギル「変態なんてひどい偏見だよ、妹ちゃん。」

 

亜梨沙「この場で斬られなかっただけ、よかったと思って下さい変態」

 

ギル「きっついねぇ~。

   まあ一応は信用してもらえたみたい・・・かな。

   じゃあ、ちょいと俺も端末見させてもらうよ」

 

 端末を軽快に操作して情報を引き出すギル。

 そんな奴をジト眼で監視する亜梨沙。

 なんというか、気まずい空気だった。

 

ギル「今回は荒れそうだねぇ」

 

和也「ん? ああ、そうだな。

   序盤の離脱率が高すぎる。」

 

ギル「これはこれで面白いからいいんだけどな」

 

 ある程度の情報を引き出したギルは端末を終了する。

 

ギル「よし、ありがとね。

   おかげで今後の方針が決まったよ」

 

亜梨沙「用件が終わったらさっさと帰って下さい」

 

ギル「ははは、じゃあまたね~」

 

 ギルは、俺達に軽く手を振りながら自分のパーティーに合流しにいった。

 

亜梨沙「なんだったんですか、あの変態」

 

和也「さてな。

   では、俺達も移動しますかね」

 

 何時までもここに居ても仕方が無いので移動を開始する俺達。

 そして俺達の懸念は現実のものとなる。

 

 

 ―――そして、試験開始から3時間が経った。

 とあるチェックポイントで情報を引き出すために端末を操作する。

 

 

亜梨沙「石が大量に残ってます。

    何ですか、この展開」

 

和也「・・・まあ、これが原因だろうな」

 

 俺は検索した結果を亜梨沙に見せる。

 

亜梨沙「・・・何ですか、これ」

 

 亜梨沙がそういうのも仕方が無い。

 開始から3時間ほどで二階級全体のパーティー脱落率69%という

 この数字。

 そして魔法石所持数超えで表示されている、ゴール手前にある

 広場に陣取る1つのパーティーの存在。

 

 そしてそのパーティー情報には

 パーティー数:1人

 データ:未登録

 所持魔法石:284個

 という簡素な文章がついているだけだった。

 

亜梨沙「魔法石ってたしか全体で500じゃなかったですか?」

 

和也「そのはずだな」

 

亜梨沙「偽情報という線は?」

 

和也「それはたぶんない。

   チェックポイントを通るたびに確認してたが

   まあ数値の上がり方は異常だが、上がっていく過程は確認済みだ」

 

亜梨沙「なら、この1人は通り過ぎようとする全てのパーティーを

    全滅させていると?」

 

和也「そう考えるのが自然だな」

 

 本来そんなことは真っ先に否定されるべきだ。

 そこまで強い生徒が居たら、誰もが知っているはずだし

 どれほど強くても1人行動はリスクが大きすぎる。

 だが、データを見るかぎりはそれらの常識を覆していた。

 

 考え事をしていると、不意に複数の足音が聞こえてくる。

 俺達は身構えて、武器に手をかける。

 どんな状況でも評価のためにパーティー戦を仕掛けてくる連中も

 また居るからだ。

 

?「あれ? もしかして和也?」

 

 暗がりから明かりのある端末付近に姿を現したのは

 昨日からやたらと縁のある少女だった。

 

和也「・・・なんだ、エリナか」

 

 昨日見た戦闘服スタイルで登場するエリナ。

 相変わらずこの魔法少女風の服は反則的に可愛さが増すから

 困ったもんだ。

 

エリナ「なんだとは、ひどいなぁ~。

    ・・・ところで何で構えてるの?」

 

和也「用件がわからん以上、警戒するだろう。

   パーティー戦ありルールだからな。」

 

エリナ「それこそ失礼だよ!

    私が宣言も無しに、和也を襲うわけないじゃない。

    ほら、みんなも儀式兵装は片付けて。」

 

 『昨日いきなり襲ってきた奴の言う台詞じゃないよな』と

 言いかけた言葉を飲み込む。

 言うと、どうせめんどうになるだけだ。

 

 エリナのパーティーの神族達はお互いの顔を見合わせたあと

 しぶしぶながらという感じで武器をしまう。

 それを確認して、こちらも警戒態勢を解いた。

 

エリナ「ちょっと試験が大変な感じになってるから

    端末で、もう一回情報収集しようかってことになって

    近場のここに寄ったんだけど、まさか和也が居るなんてね。」

 

和也「俺達も、ちょっと異常すぎるって話をしていたところだよ。」

 

 エリナは端末を見るために俺の隣に寄ってきたが・・・

 

 ムニュ!

 

和也「何っ!?」

 

亜梨沙「!!?」

 

神族達「はぁ!?」

 

 エリナは腕を組んで隣に並んだ。

 当然俺の腕には、胸が当たる。

 

エリナ「ん? どうしたの?」

 

 ニヤニヤとした顔で俺を見るエリナ。

 こいつ・・・わかっててやってるな。

 

和也「そ、そういう冗談は駄目だろ。

   むむ、胸が当たってるぞ。」

 

エリナ「にひっ。

    和也、顔真っ赤だよぉ♪」

 

 そう言いながら更に密着してくるエリナ。

 腕が・・・腕が胸に埋もれて!

 振りほどくのは簡単だが、振りほどくのがもったいなさ過ぎる。

 なんというトラップだ・・・!!

 

 周囲が唖然とする中、そのままの姿勢で端末を操作するエリナ。

 色々と聞いてくる疑問に俺なりの見解を、何とか答えつつ

 平常心を保つ努力をし続ける。

 

エリナ「じゃあ、この1人チームは結局どうなんだろうね?」

 

和也「それは、まあ予想でしかないが・・・」

 

エリナ「わかるの?」

 

和也「噂の転校生の可能性が高いだろうな。

   今日転入という話だし、学園長のお墨付きなら

   これだけのことが出来ても不思議じゃない。

   それに飛び入り参加ならデータが未登録ということも納得出来る。」

 

エリナ「え? 今日転校生来るの? 二階級に?」

 

和也「そうらしいぞ。

   まあ俺もちょっと前に聞いた話だけどな。」

 

エリナ「そっか~。

    マリア様のお墨付きとなると、興味があるなぁ。

    でも試験結果も出来れば高めで終えたいし~・・・」

 

和也「そういや姉はどうしたんだ?

   一緒じゃないのか?」

 

エリナ「セリナのこと?

    そういえば、セリナちゃんひどいんだよぉ~。

    一緒にチーム組もうねって言った時には

    もう別のチームに入っててさ~。

    『断れなかったの。ごめんね。』だよっ!?

    どうして先に私に声をかけてくれなかったのよ!」

 

 何だか溜まっていた不満に火をつけてしまったようだ。

 このまま10分ほど最近の出来事についての不満を漏らした後

 ようやく組んでいた腕を放した。

 

エリナ「さて、そろそろ真面目に作戦タイムといこうかな。」

 

 仲間の神族達に合図を送ると移動を開始し始める。

 

エリナ「それじゃ和也。

    またね♪」

 

 笑顔でウインクすると、軽く手を振ってからダンジョンの奥へと

 歩いていった。

 何だか色々疲れたなと、ため息をつく。

 ふと見上げるとエリナのパーティーに居た神族達が

 こちらを睨んでいる。

 

神族A「人族の分際でぇぇぇぇぇ!」

 

神族B「俺達のエリナ様を! エリナ様をぉぉぉ!」

 

 何とも殺気全開で恨み言を向けてくる。

 

エリナ「お~ぃ。

    みんな行くよ~?」

 

 遠くからのエリナの呼びかけに、しぶしぶといった感じで

 何度もこちらを睨みつけながら彼らもダンジョンの奥へと消えていった。

 

和也「・・・そういやファンクラブあるんだったよな、王女姉妹って」

 

 以前、メリィさんとの会話でそんな話を聞いた覚えがある。

 また色々とめんどうなことになりそうだと

 もう一度大きなため息をつく。

 

和也「さて、俺達も動くか」

 

 後ろに居る亜梨沙に声をかけて振り向く。

 

亜梨沙「にぃ~さぁ~ん♪

    どぉ~してぇ~、神族の王女様とぉ~

    あんなにぃ~、仲良しなんですかぁ~♪」

 

 とても眩しい笑顔とドス黒い殺気を併せ持った妹が、そこに居た。

 ・・・俺は、生きて試験を乗り切れるのだろうか?

 

 それからというもの、妹君のご機嫌はナナメのままだった。

 

和也「だから悪かったよ、説明しなくて。」

 

亜梨沙「つーん」

 

和也「余計な心配させたくなかったんだって」

 

亜梨沙「むしー」

 

 一切会話を受け付けてくれない。

 エリナと昨日、広場で睨まれた後

 夜にちょっとした腕試しに付き合ったと説明したのだが

 全てを聞いた瞬間からこれである。

 ゴーレムとガチ勝負してボロボロになったなんて言ったら

 もっと機嫌が悪くなりそうなので、その辺は誤魔化しておいた。

 

 結局2人とも、会話も無く目的地に向かって歩くだけの状態が続いた。

 そしてゴール近くの広場を歩いている時だった。

 突然真横からの光に気づく。

 

和也「亜梨沙!!」

 

亜梨沙「・・・!!」

 

 亜梨沙に声をかけながら前方に跳躍する。

 亜梨沙も反対方向に跳躍して回避する。

 俺達の間に着弾した炎は、そのまま壁のように広がる。

 着地した俺達は、武器を構える。

 

?「ふははははっ!

  待っていたぞ、汚らわしい人族!!」

 

 聞いたことのある声と共に、隠れていた奴らが出てくる。

 たぶん狙ってくるだろうとは思っていたが、予想を裏切らない奴だ。

 

ヴァイス「この魔王の血族たるヴァイス=フールス様が

     直々に相手をしてやろうというのだ。

     卑しい種族らしく、土下座をしながら自らをゴミ以下の存在だと

     宣言するのなら、見逃してやらんでもないぞ?」

 

 ヴァイスとその取り巻きパーティーが俺と亜梨沙の間の炎を利用して

 分断してくる。

 はじめからこれを狙っていたんだろう。

 

和也「・・・その魔王の血族様が、随分とせこいマネじゃないか」

 

ヴァイス「黙れゴミ以下の分際で。

     私自ら、掃除をしてやろうというのだ。

     ありがたく思えっ!!」

 

 大声と共にヴァイスに魔力が収束する。

 更に翼まで広げて増幅を加速させる。

 

和也「・・・!」

 

 舌打ちしながら奥へと走る。

 

ヴァイス「これが魔王の血族たる王者の力だっ!

     ドラゴン・フレイムゥゥ!!」

 

 それは、ヴァイスお気に入りのオリジナル火属性魔法。

 炎が竜を形成して現れる。

 

ヴァイス「さあ、喰らい尽くせ!!」

 

 ヴァイスの声と共に炎の竜がこちらに向かって突っ込んでくる。

 真横に跳んで避けるが、竜はスグに反転して迫ってくる。

 

和也「操作してるのか。

   厄介だな。」

 

 この竜そのものを何とかすることは可能だが、まだその時ではない。

 切り札は最後に切ってこその切り札だ。

 

和也「亜梨沙!!

   プランDだっ!!」

 

亜梨沙「でも、兄さんがっ!!」

 

和也「心配するな!

   プラン通りに行くぞ!!」

 

 俺は事前に決めていたプランの1つを亜梨沙に指示すると

 全速力で、奥に進む通路へと走る。

 

ヴァイス「逃げろ逃げろ!

     そうやって情けなく逃げ回っているのがお似合いだ!」

 

 高笑いをしながら上機嫌で俺を追いかけてくるヴァイス。

 俺は、何とか炎の竜を避けながら狭い通路に滑り込む。

 さすがに竜は通路まで入れないため、通路の入り口でぶつかり爆発する。

 

和也「ご自慢の魔法も全然だな!!」

 

 通路からわざと露骨に挑発してヴァイスを誘い出す。

 勝ち目なんてほとんど無い相手と、わざわざ相手に有利な場所で

 戦うつもりはない。

 

ヴァイス「・・・ほぅ。

     どうやら本格的に死にたいらしいなぁぁぁ!!!」

 

 挑発にのってこちらを追いかけてくるヴァイス。

 そのまま俺はヴァイスを引き付けてダンジョン奥に逃げ込んだ。

 

 そして和也とヴァイスが居なくなった広場で、取り残された魔族達が

 互いの顔を見合って笑い出す。

 

亜梨沙「・・・」

 

 亜梨沙は無言で剣を構える。

 兄が心配だ。

 一刻も早くこいつらを何とかしないと。

 

魔族A「まあ実戦なんだし事故ぐらいあってもいいよなぁ」

 

魔族B「そりゃ仕方ないだろ、実戦なんだし」

 

 亜梨沙を見ながらニヤニヤと笑う魔族達。

 集団で囲んで腕の一本でも斬ろうというつもりなのか。

 そんな考えをしていた彼女だったが・・・。

 

魔族C「実戦なんだし服ぐらい破れても仕方ないよなぁ」

 

魔族D「ちょっと色んなところを触っても問題ないよなぁ」

 

 魔族達の視線が自分の身体を舐めまわすように

 見ていることに気づいて、ため息をつく。

 

 全ての状況は教師に監視されているため無理やり押し倒したら

 即刻、教師の救援が来て処罰されるだろう。

 しかし実戦試験として戦闘で服が敗れたり相手を押さえつけるときに

 相手の身体を触るぐらいは、過度でなければ問題視されない。

 むしろトラップで全裸にされるトラウマトラップと呼ばれるものが

 あるぐらいだ。

 なので今、目の前にいる魔族達は簡単に言えば

 教師が止めにこないレベルのギリギリのラインまで

 集団で服を脱がして身体を触るぞという最低な話をしているのだ。

 

亜梨沙「・・・ああもう、これだから男は・・・」

 

 不機嫌さが増した、その言葉と共に僅かに収束する魔力。

 そして5対1という状況で、完全に油断しきった魔族達は

 それに気づかない。

 

亜梨沙「スピードアップ・ファースト」

 

 自身を加速する風属性のみが持つ強化魔法で

 彼女は一瞬にして魔族達の間合いに踏み込む。

 そして振り抜いた一撃が正確に魔族達を捉える。

 

魔族D「なっ!?」

 

魔族E「何時の間にっ!?」

 

 亜梨沙の奇襲は、まさに風が吹き抜けるが如く。

 一瞬で3人の魔族が斬られ、血を吹きながら壁にぶつかり気を失う。

 そして判定ネックレスが作動して瞬時に傷を塞ぐ。

 この瞬間、魔族3人の脱落が確定する。

 

 亜梨沙が、残りの2人に目を向ける。

 

魔族D「くっ!

   調子に乗るなよ、人族が!!」

 

魔族E「たっぷり可愛がってやるぜ!」

 

 2人の魔族は翼を広げて魔力を収束させる。

 

?「ライトニング・アロー!!」

 

 暗闇から突如叫び声と共に雷の矢が通り抜ける。

 

魔族D・E「ぎゃぁぁぁぁ!!」

 

 魔族2人を貫通して雷は消え去る。

 気を失って倒れた2人の判定ネックレスが作動して傷を癒す。

 

?「いや~、まったく困ったもんだ。」

 

 軽い言葉と共に現れたのはギル=グレフだった。

 

ギル「大丈夫だったかい、妹ちゃん?」

 

亜梨沙「・・・何のつもりですか」

 

ギル「いやね、いくら気に入らないからって

   集団で女の子を囲むってだけでもどうかと思うのに

   服を破るだなんだとか、同じ男としては許せなくてねぇ」

 

 相変わらずの陽気な話し方だが、少し声のトーンが低い。

 恐らく彼なりにある程度は真剣なのだろう。

 

亜梨沙「なるほど、それは俺の仕事だ・・・ということですか。」

 

ギル「そうそう。

   妹ちゃんみたいに超絶美少女の悩ましい姿を見るのは俺・・・

   って違うよ、そんなんじゃないよっ!?」

 

亜梨沙「じーーーーー」

 

ギル「うわぁ~。

   凄いジト目~。

   めっちゃ信用されてない感じだねぇ~」

 

 両手を広げてお手上げというポーズをしながら苦笑するギル。

 

ギル「でもまあ。

   魔族は、こんな奴らばかりじゃないってことだけは

   信じて欲しいんだわ。」

 

 ギルの言葉に奥で待機していた魔族達も、うんうんと頷く。

 彼らにも彼らなりの意地や矜持があるのだろう。

 亜梨沙は武器をしまうとギルに向かって一礼する。

 

亜梨沙「まあ、必要なかったとはいえ

    一応助けてくれてありがとうございます」

 

ギル「いいって。

   今回のは、こっち側が悪いわ。

   こいつらのことも任せてくれ」

 

 そう言うと、手を軽く振ってから仲間達と共に

 ダンジョンの奥へと消えていった。

 彼らを見送ってから亜梨沙は走り出す。

 

亜梨沙「兄が無事だといいんですが・・・」

 

 

 ・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 響く爆発音。

 駆け抜ける足音。

 普段ならとっくに別パーティーに出会うような大規模な移動も

 今回のパーティー脱落率からすれば誰にも出会わないのは

 むしろ当然と言えた。

 

ヴァイス「ふはははっ!!

     逃げろ! 逃げろ! 逃げろ!

     泣き喚きながら命乞いをしろっ!!」

 

 最近溜まった鬱憤を晴らすように、魔法を乱発するヴァイス。

 狭くて入り組んだダンジョン地形のおかげで直撃を食らう心配はないが

 それでも時間と共に正確になってくる攻撃に嫌気が差す。

 

和也「・・・これだから天才って奴は」

 

 ヴァイスは、こんな奴だが天才と呼ばれる部類に入る。

 学園の授業でも奴は最低限の練習しか行わず

 個別で特訓をしているわけでもない。

 生まれ持った力である魔王血族としての能力と六翼による潤沢な魔力。

 それを使える儀式兵装による魔法。

 魔族の中でも特に優れた身体能力。

 奴は遊んでいるにも関わらず、あの強さである。

 人並み以上の努力を必要としている俺からすれば羨ましいかぎりだ。

 

 愚痴を漏らしつつ、分かれ道を右に曲がる。

 もうどれぐらい走ったのかとか

 今どのあたりの場所なのかもさっぱりだ。

 そして真っ直ぐに伸びた道を抜けた先で、俺は後悔することになる。

 

和也「・・・くそっ!」

 

 思わず舌打ちをする。

 とても大きな広場に出てしまったからである。

 何処が出口かもわからないほど広大な場所だった。

 

ヴァイス「ふははははっ!

     さあ、鬼ごっこはおしまいだっ!!」

 

 高笑いしながらヴァイスが後ろから追ってきた。

 並みの魔族では考えられないほどの威力にも関わらず

 それを連続して行使してくる。

 

ヴァイス「高貴なる火球! 覇王の爆炎! 王者の炎柱!」

 

 火属性魔法が乱発されるが、変な名前がついているだけで

 火属性と上位の爆炎魔法を使ってきているだけだ。

 古代魔法と違い、現代魔法は基本的に詠唱を必要としないので

 魔法を意識しやすい名前や、あえて詠唱をすることで

 魔力を安定させ、より強力に出来るらしい。

 何とか直撃だけは回避するが、爆発系だけはどうしても

 広範囲かつ爆風による地味なダメージが蓄積するので困る。

 

和也「・・・ちっ!」

 

 何とか出口を探しながら逃げ回っていたが

 ついに壁側に押し込まれてしまった。

 

ヴァイス「あーっはっはっは!

     気分が良いぞ、人族!

     最高だ! 最高の気分だ!」

 

 未だかつて、これほど上機嫌だったこいつを見たことはあっただろうか。

 そんなことを考えるほどにヴァイスは、元気だった。

 

ヴァイス「さあ、泣いて命乞いをしろ!

     そうすれば一瞬で終わらせてやっても構わんぞ?」

 

和也「はっ、下らない。

   そんなこと言ってるからバカだと陰口叩かれるんだよ」

 

ヴァイス「・・・そうか。

     そこまで死にたいのなら、殺してやるっ!!!」

 

 今までの機嫌の良さが嘘のような怒り狂った表情をすると

 ご自慢の炎竜を呼び出した。

 

ヴァイス「泣き叫びながら燃え尽きろっ!!

     喰らい尽くせ! ドラゴン・フレイムゥゥゥ!!!」

 

 炎竜がこちらに向かって突っ込んでくる。

 避けることは不可能だ。

 ・・・切り札を使うことに若干の迷いがあった。

 まだまだ完成とは言えないし何より

 『あまり知られたくない』部類のものだ。

 こんなところで使ってしまっていいのかという疑問が、判断を遅らせる。

 

和也「くそっ!!」

 

 結局何も出来ないまま炎竜は、俺を喰らうように突っ込んできて・・・。

 

?「ファイア・アロー」

 

 突如暗闇から高速で飛来した炎矢が炎竜の側面にぶつかり

 竜の頭を吹き飛ばした。

 炎竜は、頭をやられてそのまま消滅する。

 

ヴァイス「なん・・・だとっ・・・!?」

 

 ヴァイスは驚愕した顔で消滅した竜の居た場所を見つめる。

 奴の炎竜は、並の魔法を喰らった程度で消えることはない。

 特に同属性魔法なら吸収してしまうほどだ。

 それが同属性の、しかも初級の魔法に潰されてしまった。

 それは奴が今まで体験したことがないものだっただろう。

 

 遠くからこちらに歩いてくる音が聞こえてくる。

 ヴァイスと俺は、音のする方向に振り向く。

 暗がりから出てきたものを見て、俺達は再び驚いた。

 

 氷のように冷たい瞳。

 感情を全く出さない表情。

 腰まで伸びた黒い髪。

 全身を黒系で統一した服装。

 小柄な身長。

 姿に似合わない大振りな黒刃の薙刀型儀式兵装。

 まるで周りの暗闇さえも従えたような黒に包まれた少女だった。

 

ヴァイス「き、貴様、何者だ!!」

 

 ヴァイスの問いに答えずに

 無言のままこちらに歩み寄ってきたかと思うと

 一気に距離を詰めて、彼女が獲物を無造作に振り下ろす。

 ヴァイスは咄嗟に剣で受け止めようとしたが・・・

 

ヴァイス「ぐあぁぁぁぁ!!」

 

 金属の砕けるような音と共に血しぶきをあげて吹き飛ぶヴァイス。

 受け止めようとした、あいつの儀式兵装が砕けたのだ。

 地面に2回ほどバウンドして壁に激突し、気絶したヴァイスに

 判定ネックレスは反応して回復魔法が発動していた。

 

少女「・・・」

 

 彼女は無言でヴァイスが戦闘不能になったことを確認すると

 まるで興味がないといった感じで、こちらに向き直した。

 

 彼女は無言で、低い姿勢で獲物を構える。

 

俺「・・・」

 

 そうだ、驚いている場合じゃない。

 儀式兵装を砕くだけの力を持った相手なのだ。

 余計なことを考えていたら一瞬で決着がついてしまう。

 

 俺も紅を構えて対峙する。

 ・・・ただ、目の前の彼女を見ていると懐かしさを覚えてしまって

 ふと口元が緩んでしまう。

 

 ・・・その直後

 彼女の姿が一瞬ブレると、ものすごい勢いで突っ込んできた。

 開いていた距離が、一瞬で詰まる。

 

 彼女は勢いをつけたまま、大きく振りかぶった薙刀を振り下ろした。

 

 俺は剣で受け止める・・・フリをして、直前で相手に向かって走った。

 全力で振り下ろされた刃に対して、前に突っ込んだ勢いを維持しつつ

 体を回転させるように捻りながらギリギリで避ける。

 そしてすれ違いざまに体を回転させて遠心力を利用した全力の一撃を

 少女の側面に叩き込む。

 少女は全力の一撃をかわされ、隙だらけになるはずだった。

 ・・・だが、やはり結果は変わらなかった。

 これでも休まず、ほぼ毎日修行してきた。

 今なら決まるかもという僅かな希望だったが

 やはり彼女には届かなかった。

 彼女は横からの攻撃を避けきれないと判断すると

 突進していた慣性を利用し、そのまま前に飛ぶように通り過ぎていった。

 結果として、俺の横からの薙ぎ払いは空振りに終わった。

 

 あの時ですら、あの強さだったのだ。

 彼女も天才と呼ばれる才能の持ち主なのだろう。

 いや、本当に周りが天才だらけで嫌気が差してくる。

 

少女「・・・」

 

 彼女は、手をかざした。

 その手に、炎が集まっていく。

 昔は、黒い塊だった。

 後からあれは魔法ではなく魔法が使えない者が撃つ

 純粋な魔力の塊だったことを知った。

 彼女は、あれからちゃんと魔法を使えるようになったのか。

 

少女「ファイア・ボール」

 

 僅かに呟いた彼女が、そのまま魔法を撃ってくる。

 通常のファイア・ボールの2倍近い大きさだ。

 

 彼女は、恐らくこれを回避出来ないと思っているだろう。

 普段ならまず切ることのない切り札を切ってみたいという

 衝動に駆られた。

 このままやられっぱなしじゃ、つまらない。

 

 魔眼を発動させ、飛んでくる火球の魔力的な流れを視て

 目の前まで迫った時、紅で『断ち斬る』

 火球が綺麗に2つに切断されると暴発もせずに消滅する。

 無表情だった彼女の顔に、驚きの表情が出る。

 

和也「・・・どうだ、フィーネ。

   俺だってこれぐらいは出来るようになったんだぞ」

 

 俺は、彼女に自慢する。

 ようやく一矢報いた気がした。

 

フィーネ「・・・」

 

 彼女は無言のままこちらに駆け寄ってくると

 そのまま飛びついてきて俺を押し倒した。

 

フィーネ「私の名前・・・覚えててくれた」

 

 今までの無表情が嘘のような泣き顔と笑顔の混ざった

 嬉しそうな顔だった。

 

和也「一瞬誰かと考えたんだがスグにわかったよ。

   まあ、昔よりずっと可愛くなってたんでビックリしたけどな」

 

フィーネ「・・・嬉しい」

 

 彼女は俺の胸に顔を埋めて離れようとしない。

 

フィーネ「会いたかった、あなたに。

     ずっとずっと会いたかった。

     ああ、本物のあなたの声、あなたのぬくもり、あなたの匂い。」

 

 嬉しそうに抱きつく彼女に、もう以前の氷のような

 冷たい表情だった面影はない。

 その変わりように思わず苦笑する。

 

和也「俺も会いたかったよ。

   あれからずっとフィーネのことが気になってたんだ」

 

 俺と彼女との関係は、その出会いから別れまで複雑だった。

 そして彼女のことを忘れたことは1日たりともなかった。

 

フィーネ「ごめんなさい、試すようなマネをして。

     それからありがとう、私を覚えていてくれて。」

 

和也「構わないさ。

   また、こうして会えたんだ」

 

 俺も彼女を抱きしめる。

 こんな再会が出来るなんて思ってもみなかったが

 また彼女に会えた、この奇跡を素直に喜んだ。

 

 その時、ふと視線を感じて横を向いた。

 

亜梨沙「兄さ~ん。

    ど~ゆ~ことかぁ~、も・ち・ろ・ん

    説明して~くれますよねぇ~♪」

 

 フィーネに抱きつかれて動けない俺は

心配して駆けつけてきた亜梨沙からの非常に怖い笑顔に迫られていた。

 いや、ホント怖いです。

 

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 闘技場出口付近に作られた仮設テントの中で

 試験を管理・確認している魔法アイテムの前にマリアとセオラが居た。

 

セオラ「・・・これは」

 

 驚きを隠せないセオラ。

 人族である和也と魔族であるフィーネが仲良く抱き合っているのだ。

 種族差別なんてする気はないが、そういった風潮があるのもまた事実。

 それらを超えた何かが、そこにあった。

 

マリア「いや~、あの無表情で

    何考えてるのか、さっぱりだったあの子が

    まさか男が出来ただけで、ここまで変わるなんてねぇ」

 

 我が子の成長を嬉しそうに見つめるマリア。

 

セオラ「・・・しかし、人族と魔族の関係。

    特に魔王の直系との関係なんて、周りが認めないと思うのですが」

 

 特に魔族はそういった意味で種族としてのプライドが高い。

 多種族を排斥する傾向が強い種族の王の直系と

 ましてや種族最下の人族では、釣り合いなんて取れないだろう。

 

マリア「それは本人達が解決すべき問題だろう。

    まあ、それでも私は応援してやるがな。

    あんなに嬉しそうな顔をされちゃ、何も言えんさ」

 

セオラ「なるほど。

    これで色々納得できましたわ。

    ここ数日、やたらと『藤堂 和也』の

    成績や素行のデータをご覧になっていた理由が」

 

マリア「そりゃ娘の相手となれば、気にもなるだろう。

    その点、あの男は中々見所がある」

 

セオラ「はぁ。

    まあ、フィーネ=ゴアを手に入れた藤堂 和也の

    人望という能力も立派な力ですからね。

    では決定で、よろしいですね?」

 

マリア「ああ、構わんよ。

    学園長として認めよう。」

 

セオラ「全階級合同実戦試験 前期

    2階級トップは、藤堂 和也パーティー!!」

 

 その日の放課後。

 試験結果の張り出された掲示板の前は、騒然としていた。

 その大半は、2階級の試験結果だろう。

 

 1位と大きく書かれた場所に

 俺と亜梨沙とフィーネの名前と共に書かれた最終状況。

 魔法石所持数287個。

 俺達は3個しかもっていなかったが

 フィーネが俺を待っている間に潰してきたパーティーから

 奪っていた284個が加算された結果、試験で獲得した

 総数の歴代1位を大幅に更新してしまったらしい。

 ・・・そう、フィーネがあそこで陣取っていたのは

 俺に会いたかったから。

 わざわざ学園に来たのも俺のためだそうだ。

 本人に確認を取ったがフィーネは、俺達と同じパーティーとして

 扱われることになっていたらしい。

 

 目立たないように、こっそりと学園を卒業するはずだった俺は

 動き出した運命によって、表舞台に押し上げられていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1章 動き出した運命 ~完~

 

 

 




第1章を最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

いかがでしたでしょうか?
もはや原作とは何だったのかというレベルです(笑)
誰が誰の位置かは、原作を知っておられる方なら
わかると思います。

原作を知らない方も楽しんで頂ければ幸いです。

そもそもこの『Tiny Dungeon Another Story』は
友人との何気ない会話の流れから
『じゃあ書いてみれば?』というノリで製作が始まりました。
当初は、ファンディスク的な何かにする予定だったのですが
書いているうちに何故だか、こうなってしまいました。
初心者の妄想劇ですが、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

それでは、次章でお会い出来ることを楽しみにしております。


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第2章 三世界の王女達と実戦訓練

 

 全階級合同実戦試験の次の日。

 俺達の教室で正式にフィーネの転入挨拶が行われた。

 

セオラ「もう皆さん、ご存知かとは思いますが

    昨日から転入されたフィーネ=ゴアさんです。

    今日から、このクラスとなります。」

 

フィーネ「フィーネ=ゴア。

     見ての通り魔族よ。

     よろしく」

 

 まるで興味が無いといった感じで簡素な自己紹介をしていた。

 

セオラ「隠しておいても無駄でしょうから、先に言っておきます。

    彼女は学園長マリア=ゴア様のご息女。

    つまり魔界の王女という立場のお方です。

    ですが彼女も学園長も、そういう扱いを望んではおりません。

    あくまで皆さんと同じ、一生徒として接してあげて下さい。」

 

フィーネ「立場や称号なんて下らない。

     そんなもの、いちいち気にしてないわ」

 

セオラ「では、皆さん。

    魔王血族の本家にして『漆黒(しっこく)の悪魔(あくま)』の

    二つ名を持っている彼女に万が一にも

    ちょっかいをかけるつもりでしたら

    そうですわね・・・遺書あたりを持参しておくのが

    後腐れが無くて良いのではないでしょうか」

 

フィーネ「そうね。

     そうして貰えると、遠慮なく消し炭に出来るから助かるわ」

 

 色々と物騒なやりとりに教室の隅に居るヴァイスが

 不機嫌そうなのがわかる。

 あれだけの実力差を見せ付けられてしまっては

 もうどうしようもないだろう。

 

和也「あれ? あいつの取り巻きって少なくなってないか?」

 

 いつもヴァイスの周りの席には奴の取り巻きが座っている。

 今日は、やたらと空席が目立つ。

 

亜梨沙「・・・ああ、あれですか。

    色々あって停学処分を受けたらしいですよ」

 

和也「・・・そうか」

 

 ヴァイスの取り巻きは、奴の庇護下で好き放題していた。

 この前も神族の一般人の少女をイジメていたりしていたことを考えると

 まあそういった処分も当然だろう。

 その件だけで言えば、出来ればヴァイスの奴も停学だったら

 反省の一つも・・・しないか。

 

 後から聞いた話によると、どうやらギル=グレフが

 この停学に関わっていたらしい。

 同族を庇うよりも同族の恥を処分する方を選ぶのは

 やはり根本的な考え方は魔族的である。

 

セオラ「・・・というわけで、席は好きな場所で構いませんわ。

    もっとも、もう決めているでしょうけども。」

 

 一通りの話が終わったらしく、フィーネは

 ゆっくりとこちらに歩いてくる。

 そして俺の隣まで来ると教室内の全生徒達に向かって笑顔を向ける。

 先ほどまでの無表情とは違い、年頃の少女が見せる可憐な笑顔に

 生徒達も見とれていた。

 

フィーネ「私は、藤堂 和也が持つ魔法よ。

     和也の邪魔になるものは、たとえ和也が望まなくても排除する。

     そして私は、和也の持つ最強の魔法として

     彼を最強の戦士にしてみせる。

     人族だ魔族だなんて下らない種族論は

     関係ないし興味すらない。

     和也に向ける敵意は全て、私に対しての挑戦状として

     受け取らせてもらうわ」

 

生徒達「な・・・なんだってぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 フィーネの宣言が終了して数秒後、教室が一気に騒がしくなる。

 誰がこんなことになると思っていただろう。

 ヴァイスなんかは、驚きの表情で口をあけたままだ。

 

和也「おい、フィーネ・・・」

 

フィーネ「もちろん本気よ。

     あの日、あなたは私の全てを救ってくれた。

     そして私は、あなたの魔法になった。

     だから遠慮せず使ってね、フィーネ=ゴアという魔法を。」

 

 彼女の笑顔が眩しかった。

 そして改めて思った。

 あの時の選択は間違っていなかったと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2章 三世界の王女達と実戦訓練

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝の講義中―――

 

和也「・・・」

 

フィーネ「うふふっ♪」

 

 朝の実習中―――

 

和也「・・・」

 

フィーネ「えへへっ♪」

 

 昼休み―――

 

和也「・・・」

 

フィーネ「すりすりっ♪」 

 

 今日のフィーネは、ずっとべったりとくっついて離れない。

 

リピス「・・・いやまあ、話には聞いていたんだが」

 

メリィ「これはまた・・・」

 

 いつものように昼食を取るため食堂に向かったのだが、これである。

 

亜梨沙「・・・妹、絶対に負けません」

 

 そんなフィーネに謎の対抗心を燃やす亜梨沙は反対側の腕を取っている。

 そして両手が塞がれた状況で食事など出来るわけも無く・・・

 

フィーネ「はい、あ~ん」

 

亜梨沙「はい、こっちもあ~んです」

 

和也「いや、自分で食べられるから」

 

 2人して同時に唐揚げと卵焼きを口元に持ってくる。

 

フィーネ「でも、両手が塞がってるから無理だよね?」

 

亜梨沙「さあ、大人しく食べてください」

 

リピス「うむ、では私はご飯を食わせてやろう」

 

メリィ「では、私はスープに致します」

 

和也「何で参加してくるんだよ」

 

リピス&メリィ「面白そうだから」

 

 ニヤニヤと笑いながら参戦してくる竜族2人。

 周囲の視線が、より一層怖いものになってくる。

 特に男連中の嫉妬の視線は、もはや呪詛のようなものだ。

 

和也「も・・・!?」

 

 もういい加減にしろと言うはずだったが開いた口に

 すかさず唐揚げを器用に押し込むフィーネ。

 

フィーネ「~♪」

 

 ご機嫌で次の唐揚げを準備するフィーネ。

 唐揚げそのものは美味しいんだが・・・

 

亜梨沙「次は、こっちです」

 

 無理やり卵焼きを口に入れてくる亜梨沙。

 

リピス「おかずばかりでも困るだろう。

    さあ、主食だぞ~ぅ」

 

 こちらも遠慮なく押し込んでくるリピス。

 

メリィ「さあ、口の中のものを流し込みましょう」

 

 楽しそうにスープの飲ませてくるメイド。

 もうなんだこれ。

 

リピス「それにしても、そんな楽しそうなフィーネを見るのは初めてだな」

 

 昼食後、終始俺から離れないフィーネを見ていたリピスが口を開いた。

 

和也「ん? 知り合いだったのか?」

 

リピス「ああ、四界の会合の時などに何度か会っている。」

 

フィーネ「私は暇だし、話相手になってもらってたのよ。」

 

リピス「いや、私も歳の近い友人が出来て助かっているよ。」

 

メリィ「リピス様、それはフィーネ様に対して失礼に当たるかと」

 

リピス「ん?何がだ」

 

メリィ「フィーネ様はまだお生まれになられて十数年ですが

    リピス様は既に百年以上ふげぅ!!」

 

 リピスの放った容赦の無い裏拳によって、膝から崩れ落ちるメリィさん。

 

リピス「主人の年齢をバラそうとするなんて

    とんでもないメイドだな、まったく。」

 

 竜族は他の種族に比べて子供が極端に生まれにくい種族であると同時に

 非常に長寿でもある。

 また一定のところで身体の成長が止まるので

 見た目も身体能力等も基本的に死ぬまで若いままを維持しており

 見た目では判別出来ないのが竜族の特徴でもある。

 そのため低出産率でも何とか種族として生存出来ているという

 側面もあるが、他の種族の女性からは強烈な嫉妬と憧れを持たれている。

 

 そして竜族の特徴で有名なもうひとつが『生まれてくる子供は

 必ず女の子である』という点だ。

 竜族の女性が産む子供は必ず女の子しか生まれない。

 なので基本的に他種族の男性との間に子供を作らなければならないのだが

 種族差別的な要素が未だ色濃いため

 どうしても恋愛に発展する確率が低い。

 そこに子供の生まれ難さが合わさり、種族的に数が少ないのが現状だ。

 しかし人族との間であればこの生まれ難さが解消されるどころか

 人間の一般女性と同じぐらいの確率に跳ね上がるため

 はるか昔から人族とは友好関係が続いている。

 

 竜族の中に男性も居るのだが、それには理由がある。

 竜族は、生涯を添い遂げる相手に『竜の祝福』というものを

 与えることが出来る。

 これを受けると受けた男性は種族が竜族に変換される。

 どういう原理か未だに不明ではあるが、この奇跡によって種族の中に

 男性を作ることも出来る。

 しかし先ほど説明したように、種族の壁というものは非常に高い。

 そのため竜族は、一夫多妻制などの政策を取っている。 

 

 

亜梨沙「でも、竜族ってホント羨ましいです。

    死ぬまで若いままとか、どれだけチートなんですか」

 

フィーネ「そこは羨ましいけど、リピスみたいに

     中途半端で成長が止まっちゃうのもねぇ」

 

 自然と視線がリピスの胸に集まる。

 

リピス「ほぅ・・・。

    宣戦布告を受け取っても構わないかね?」

 

和也「どうして俺を見ながら言うんだよ!」

 

リピス「それに私はまだ、成長は止まっていないっ!!」

 

 結局、昼休み終了を告げる鐘の音が鳴るまで

 ドタバタした状態が続いた。

 

 放課後、みんなで帰ろうかと言う話になった時だった。

 突然教室にやってきた学園長が放った一言からが

 スタートだった気がする。

 

 教室―――

 

マリア「お前、今日は私と同じ部屋だからな。」

 

フィーネ「和也のところがいい。

     離れたくなぃ~!」

 

マリア「寮の部屋はまだ整ってないからなぁ。

    久々に一緒の部屋なんだ。

    たっぷり私に甘えるがいい」

 

フィーネ「そんなのど~でもいいわよ!

     てか、引っ張らないで~!

     か~ず~やぁ~!!」

 

和也「・・・」

 

 そしてズルズルと引き摺られていくフィーネ。

 急な転校のために寮の準備が間に合わなかったそうだ。

 明日には寮に入れるみたいだが、今日のところは学園長と同じ部屋らしく

 強制連行されていった。

 

 廊下―――

 

亜梨沙「残念ながら、今日は掃除当番です。

    リピスを待たせても悪いので、先に帰ってて下さい」

 

和也「そうか、じゃあ先に行ってるぞ」

 

 校舎入口―――

 

メリィ「リピス様からの伝言です。

    『リピス、かずやに一刻も早く会いたいんだけどぉ~

     ど~してもぉ~先に処理しなきゃ駄目な~書類があるからぁ~

     先に帰ってくださぃ~しくしく』

     とのことですので、申し訳ございませんが

     リピス様は来ることが出来ません」

 

和也「自分の主人で遊んで、愉しそうですね・・・」

 

 という感じで、校内の広場でどうしようか思考中だ。

 

 しかし一人になってみて改めて思う。

 人族に対しての視線がいつも以上に厳しい。

 最近余計な目立ち方をした反動だろうか

 いつも以上に下校する生徒達から睨まれてばかりだ。

 まあ積極的に絡んでこないだけマシだと諦めよう。

 

エリナ「あれ? 和也?」

 

 ふと後ろから声をかけられ振り返ると、そこには神族王女姉妹が居た。

 あの一件で友人になって以来、どうもよく会う気がする。

 

和也「お、今帰りか?」

 

エリナ「これから街に寄って行くつもり。

    和也は1人なの?」

 

和也「ああ、いつも一緒な連中は全員予定があるそうで

   結局俺一人になったところだよ。」

 

エリナ「ふむふむ。

    つまり今は暇ってことだよね?」

 

 ニヤっとした顔で近づいてくるエリナに

 つい警戒して後退ってしまう。

 

エリナ「そんなに警戒しなくても~。

    ちょっと買い物に付き合ってよ」

 

 一瞬の隙をついて、さっと近づくと腕を絡めてくる。

 この王女様は、本当に男の弱点を突くのが上手い。

 

和也「まあ、もうそれは構わないんだが

   後ろのもう一人の王女様が置いてけぼりだぞ」

 

 状況についていけずにポカンとしているセリナ王女。

 

エリナ「ああ、そうか。」

 

 セリナ王女に近づいて何やら耳打ちを始めるエリナ。

 ニヤニヤとしながら話をしているあたりが何やら不安である。

 そしてしばらくして内緒話(本人を目の前にしてどうかと思うが)が

 終了する。

 

セリナ「あ、あの・・・!」

 

 遠慮がちにこちらに声をかけてくるセリナ王女。

 

エリナ「セリナちゃん! ファイトだよ!」

 

 謎の応援を開始するエリナ。

 

セリナ「お、お、お友達からで・・・お願いしますっ!!」

 

 そう言い切ると、真っ赤な顔をしながらこちらに手を差し出してくる。

 一体何だというのだろう・・・。

 

セリナ「あ・・・あれ?

    何か、違いました・・・か?」

 

 差し出した手をじっと見つめて固まっている俺に

 遠慮がちに聞いてくるセリナ王女。

 

エリナ「ちょっと和也。

    せっかくセリナちゃんが頑張ってるんだから

    答えてあげてよっ!」

 

 何故か怒られてしまった。

 

和也「えっと・・・。

   つまりどういうこと?」

 

セリナ「お・・・お友達・・・」

 

 ああ、そういうことか。

 ようやく状況を把握した俺は、差し出された手を握り返す。

 

和也「人族だけど・・・その・・・こちらこそ、よろしく。」

 

 こうしてセリナ王女とも友人となったわけだが・・・。

 考えてみれば、リピスにしろフィーネにしろ周りは王女だらけだ。

 これって実は凄いことなんじゃないだろうか。

 

和也「セリナ王女まで・・・か。」

 

セリナ「王女なんて言わずに、エリナちゃんと同じで

    ・・・名前で呼んで下さい。」

 

 思わず呟いた一言だったが、それにセリナ王女が反応する。

 

エリナ「おお、セリナちゃん大胆」

 

 確かに、双子で呼び方が違うというのも変な話だし

 あまりこういうことに抵抗しても無意味だろう。

 

和也「わかったよ、セリナ」

 

セリナ「はい。よろしくお願いしますね」

 

エリナ「よ~し。

    じゃあ予定通り、街に出よう!」

 

 何の予定通りなのだろうか。

 当然のように強引に連れて行かれることになった。

 

エリナ「まずは、あそこだよねっ!!」

 

 そう言うと小走りに、亜梨沙も通っているスイーツ屋へと

 向かっていった。

 女の子の甘いもの好きは、種族なんて関係ないのだと再認識してしまう。

 

セリナ「もう、エリナちゃんったら。」

 

 ため息をつきながらも、どこか楽しげに言うセリナ。

 

和也「エリナは元気だなぁ。

   セリナも行かないのか?」

 

セリナ「え? あ、はい。

    じゃあ行きましょうか。」

 

和也「え、俺もか?」

 

 結局俺も店に入ることなる。

 その後も、様々な店に付き合うことになった。

 エリナにからかわれ、セリナの言動に照れながらも楽しい時間となった。

 フォースに来て以来、亜梨沙や最近ではリピス等とも

 出かけることはあるが、それ以外の相手と遊ぶなんて考えもしなかった。

 

エリナ「いや~、今日は遊んだよね~。」

 

セリナ「私も久しぶりに遊びまわった気がします。」

 

 2人とも疲れながらも表情は笑顔のままだ。

 俺も久しぶりに本気で楽しんだ気がする。

 

オリビア「あら、みんなお帰りなさい」

 

 寮の前まで帰ってくると、玄関を掃除していたオリビアさんに出会った。

 

エリナ&セリナ「ただいま、お母さん」

 

オリビア「2人とも随分楽しそうね。

     何かいい事でもあったのかしら」

 

エリナ「今日は帰りに遊んできたからね」

 

セリナ「いつもより多く寄り道した気がします」

 

オリビア「そう、今日は和也君も一緒だったの?

     珍しいわね、男の子と一緒なんて。」

 

 仲良く会話を続ける3人。

 え~と・・・あれ?

 何か重要なことを言わなかったか?

 

オリビア「和也君、2人と仲良くしてくれてありがとう」

 

和也「え・・・ええ」

 

エリナ「ん?どしたの?」

 

和也「今、お母さんとか言わなかったか?」

 

エリナ「ああ、もしかして知らなかった?」

 

セリナ「私達のお母さんなんです」

 

和也「つまり・・・神界女王?」

 

オリビア「実は、そうなんですよ♪」

 

 衝撃の事実をあっさりと、しかも可愛らしく話すオリビアさん。

 寮内の、特に神族の娘達が彼女に対して妙に礼儀正しかったのは

 それが理由か。

 

和也「どうして女王様が管理人なんて・・・」

 

オリビア「娘2人が揃って学校の寮に入るってなったら寂しいじゃない。

     だから一緒についていこうって思ったらマリアちゃんがね

     『ちょうど女子寮に管理人が居ないんだよ』って言ってたから

     やることにしたの。

     娘の世話も出来るし、家事もたくさんやることがあって楽しいし

     こんなに素敵な場所って他にないじゃない♪」

 

 楽しそうに経緯説明をするオリビアさん。

 いや、そんな理由ってどうよ。

 

エリナ「あ~、まあこういう人だと思って諦めて」

 

セリナ「お母さん、家事全般が大好きなんですよ」

 

 俺の唖然とした顔を見て、そう話す双子姉妹。

 学園長といい、管理人といい、どうしてこう自由人が多いのだろう。

 

オリビア「ああ、神界はカイン君達が頑張ってくれてるから

     問題ないですよ」

 

 俺の心の声が届いたのか、そんなことを話すオリビアさん。

 任せられる人材が居るから問題ないって話でも無い様な気もするが・・・

 

オリビア「さあ、2人とも。

     今日あった楽しい出来事をお母さんにも教えて頂戴ね」

 

エリナ「ちょっとお母さん、押さなくても・・・」

 

オリビア「じゃあ和也君、またね♪」

 

 軽くウインクすると2人の背中を押して寮の奥へと消えていった。

 こうして見ると双子王女の、ちょっと歳の離れた

 お姉さんにしか見えない見た目だな。

 しかし考えて見れば実は、学園都市って凄い所なんじゃないか?と

 思ってしまう。

 こうも身近に王族関係が大量に居ると、もう・・・なんだろうね。

 

 夕食を終え、みんなが夜の自由時間を満喫しているころ

 俺は、いつもの丘で剣の素振りを繰り返していた。

 強襲型魔法剣『紅』で100回、黒閃刀『鬼影』で100回。

 それを1セットとして3セット繰り返すのが夜の日課だ。

 魔法の無い俺が、魔法が主体の戦いにおいて勝つためには

 純粋な技術を上げるしか道は無い。

 人より力強く正確な一撃を。

 人より素早く鋭い動きを。

 常にそれを意識しなければ、俺はこの世界で戦士としては

 生きていけないだろう。

 それにこの学園は、世界中から才能のある者達が集まっている場所だ。

 そんな場所でやっていくためには、当然の努力と言えるだろう。

 まあ、もう日課になっているからそんなに苦でも無いのだが・・・。

 

 そんなことを考えながら素振りをしていると

 目の前から見知った顔が現れた。

 

リピス「毎日頑張ってるじゃないか」

 

和也「リピスか。

   どうしたんだ、こんな時間に」

 

リピス「少し夜風に当たりたくなってな。

    散歩がてら見に来てしまった」

 

 夜に俺が、ここで剣を振っているのは女子寮で知らぬ者は居ない。

 夜になるとコソコソ(していたつもりはないが)外に出かける人族が

 不審だったらしく、毎晩後ろから複数の女子生徒に尾行されていた。

 もちろんあんな素人の尾行には即気づいたが

 別に何かあるわけでもないし放置していた。

 一週間ほどで、毎晩自主練習をしているだけだと

 納得して貰えたみたいで尾行は居なくなった。

 そしてその話は女子寮中に伝わり、最終的に亜梨沙から

 俺に帰ってきたという経緯がある。

 

和也「今まで見に来たことなんてなかったのに。

   ・・・何かあったのか?」

 

リピス「・・・いや。

    たまには気分転換したくなることもあるだけの話だよ」

 

和也「そうか。

   まあ、俺じゃ頼りないが話し相手ぐらいにはなるぞ」

 

リピス「本当に頼りないな。

    まあ、そこまで気を使って貰わなくても構わないよ」

 

 苦笑しながら答えるリピス。

 物珍しさから過度に心配してしまったようだ。

 

 そこで会話が止まってしまう。

 テンポ良く剣を振る風斬り音だけが響いていた。

 それからしばらくして、ふとリピスが声を掛けてきた。

 

リピス「・・・そういえば聞きたかったことがあるんだが」

 

和也「ん?なんだ?」

 

リピス「和也は、どうしてこの学園に来たんだ?

    こう言っては何だが、人族は世界的にあまり良い印象はない。

    この学園であっても差別の対象にされかねない存在だ」

 

 彼女の言う意見は、もっともだ。

 人族は人族の大陸以外では、本当に扱いがひどい。

 なので結果的に人族は閉鎖的な種族になっている。

 よほどの理由でも無いかぎり、外に出たがらないだろう。

 

和也「う~ん・・・。

   どうしてと言われてもなぁ。」

 

リピス「・・・話にくいことなら聞かないが」

 

和也「いや、別に構わないんだが。

   ・・・そうだなぁ。

   『力』が欲しいんだよ。」

 

 着飾ったことも言っても意味が無いので、俺はありのままを話す。

 

リピス「『力』?

    それはどうしてだ?」

 

 俺が『力』なんて言うのが予想外だったのか

 早い反応で先を促すリピス。

 

和也「俺はな、もう何も失いたくないんだよ。」

 

 俺は、素振りを止めてリピスを正面から見据える。

 

和也「昔、両親・友人とかそういった何もかもを奪われた。

   俺に『力』が無かったからだ。

   そして俺は、とある事件で、また『力』が無くて

   今度は俺自身が死にそうになった。

   『想い』だけでは届かなかった。

   だから、がむしゃらに『力』を得ようとした俺は

   ある人に出会って教えられた。

   『力』だけでも駄目なのだと。

   だから俺は、ここに居る。

   『力』だけでなく『想い』だけでない、本当の『力』を得るために。

   そして今度こそ、自分が守りたいと思うものを守れるように」

 

リピス「・・・そうか。

    和也も和也で、色々あったんだな」

 

 俺の話を聞いた後、しばらく考えるように瞳を閉じていたが

 ゆっくり開くと、そう感想を述べた。

 そしてそこで会話が、また止まった。

 ただ星空の下で2人、佇んでいた。

 

和也「・・・そういや、初めて会った日も

   確かこんな感じだったよな。」

 

 長い沈黙の後に、ふと彼女との出会いを思い出して口にする。

 

リピス「・・・そうだったな。

    こんな綺麗な星空の夜だったな」

 

 俺とリピスが出会ったは、2階級に上がった直後のこと。

 あの時も俺は自主練習のために、この丘に来たのだが

 その時、先客でその場に居たのがリピスだった。

 夜の丘で、一人で泣いていた彼女を放置出来ずに声をかけたことが

 彼女との始まり。

 結局あの時に泣いていた理由は、今も解らないが

 ただあの時に出会って居なかったら、今の関係は無かっただろう。

 

リピス「・・・あの時の和也の飛びっぷりは見事だったな」

 

 急にニヤニヤした顔になったかと思うと彼女は

 思い出したくない過去を語り出した。

 

和也「あれは・・・ひどかった・・・」

 

 リピスを探しに来たメリィさんに、リピスに手を出そうとした変態だと

 勘違いされてスーパーメイドキック(とび蹴り)という竜族の

 本気蹴りを叩き込まれて、俺は大きく飛んでいった。

 その後、何とか生還した俺の事情説明を無視して

 リピスの泣きはらした顔に気づいたメリィさんが

 俺が泣かせたと勘違いをして

 スーパーメイドスピンキック(回転とび蹴り)を俺に叩き込んで

 意識的にも物理的にも、はるか彼方へと飛んでいったことがあった。

 ちなみに全てが誤解だったとわかった時の彼女の謝罪は

 

メリィ「ごめ~んねっ♪ d(>▽・)ー☆」

 

 という、謝罪とは何なのかという哲学にまで発展しかねないものだった。

 

リピス「・・・夜風も冷たくなってきたみたいだし

    私は、そろそろ帰るとするよ」

 

和也「そうか。

   気をつけてな」

 

リピス「私を誰だと思ってるんだ」

 

 苦笑しながらそう答えた彼女は、寮の方角へと歩いていった。

 

 きっと彼女も立場や嫌な記憶と戦ってるんだろう。

 そしてそこから前へ進む努力もしているはずだ。

 だが、まだ俺ではそれを手助け・・・彼女に本当の意味での信頼を

 勝ち得ていないのだろう。

 それが俺でなくても別に構わない。

 ただ心の底から、彼女にも笑って過ごせる日々が来て欲しい。

 彼女の後ろ姿を見送りながら、そう思うのだった。

 

 

 次の日―――

 

 朝の実戦訓練の授業で闘技場に向かった俺達は、驚きの光景を目にした。

 

亜梨沙「何ですか、この人数は・・・」

 

 思わす亜梨沙が呟いた。

 目の前には、いつものクラスの人間だけじゃない。

 2階級の生徒全てが集合していた。

 

?「あー、あー、入ってますわね」

 

 聞き覚えのある声が闘技場内に響き渡る。

 

セオラ「生徒の皆さん、静粛に」

 

 観客席から出てきた先生の一言で、騒然としていた会場が静まる。

 

セオラ「本日予定しておりました皆さんの実戦訓練の時間なのですが

    担当教師の都合で急遽人数が足りなくなってしまいました。」

 

 その一言で会場が、ざわつく。

 実戦訓練の時間は各クラスで場所を順番に使いまわすのが本来の使い方で

 その際に担当教師が監督役として事故等が起きないように監視している。

 足りないということは実戦訓練が出来ないということ。

 実戦は誰もが一番気合の入る授業時間であり

 それを削られるとなったら不満が出るのも仕方が無い。

 

セオラ「皆さん、落ち着いてください。

    誰も中止にするとは言っておりませんわよ」

 

 そう言うと何やら大きな紙を取り出す。

 

セオラ「教師が足りないのであれば、一斉にやってしまえば

    問題ありませんわ。

    という訳で、こちらがランダムであなた方の対戦相手を

    決定させて頂きました。

    日頃戦うことの無い相手との戦闘になる方も居るでしょう。

    来るべき闘技大会のためにも今回は

    擬似的な闘技大会形式にしてみましたわ」

 

 先生の説明の後、数秒間会場は完全に静まり返っていたが・・・。

 

会場の生徒達「うおおおぉぉぉぉーーーーーー!!!」

 

 一気に歓声が沸いた。

 日頃の実戦訓練は体力強化のトレーニングや、仲の良い連中で組む関係上

 同じ相手との訓練ばかりとなってしまっており

 『つまらない』という声もあった。

 せっかく才能ある連中が集まっているのだ。

 どうせなら色んな奴と戦闘訓練をした方が良いに決まっている。

 俺も普段は、亜梨沙と訓練しかしていないので

 こういうのはむしろ歓迎だ。

 

セオラ「さあ、名前を呼ばれた生徒は出てきなさい」

 

 こうしていつもと違う授業が始まった。

 他人の戦いを見るのも勉強になる。

 次々と名前が呼ばれては戦いが始まる。

 普段は戦う機会があまり無い他クラスとの試合に

 みんな気合が入っていた。

 そして見慣れた奴らの試合も次々と始まっていく。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 ガシャン!と機械音が響く。

 排莢された薬莢が、カランと音を立てて地面に落ちる。

 

神族生徒「くっ! くそっ!!」

 

 神族の生徒は、全力でウォーターシールドを張る。

 翼を広げ、弾装まで使用した、まさに正真正銘の全力だ。

 

ヴァイス「止めれるものなら止めてみろっ!

     ドラゴン・フレイムゥゥ!!」

 

 ヴァイス自慢の炎竜がシールドごと神族生徒を飲み込む。

 

神族生徒「ぎゃぁぁぁぁーーーーーー!!」

 

 圧倒的な魔力差によって強引に防御魔法ごと相手を燃やしたヴァイス。

 

ヴァイス「ふははは! 所詮神族なんぞ、敵では無いのだよっ!」

 

 気絶している神族の男がつけていた判定ネックレスが反応している。

 圧倒的な力の差を見せ付けたヴァイスの高笑いが響く。

 終始相手に攻めさせなかった一方的とも言える試合だった。

 

セオラ「さあ、次の試合に行きますわよ」

 

 その次の試合はフィーネの名前が呼ばれる。

 

フィーネ「じゃあ、スグ戻ってくるからね」

 

 ずっと俺の隣に居たフィーネが、名残惜しそうにそう言うと

 試合場所へと歩いていく。

 好意を持たれることは嬉しいのだが、ここまで純粋に他種族の

 しかも美少女にぶつけられると、どうしていいか解らずに照れてしまう。

 

亜梨沙「なに鼻の下を伸ばしてるんですか」

 

 後ろから声をかけてきた亜梨沙にジト目で睨まれる。

 

和也「べ、別にそう言うわけじゃ・・・」

 

亜梨沙「妹のことなんて気にせずに、ど~ぞお好きに」

 

 ムスッとした顔で拗ねる亜梨沙。

 しかし、それでも腕を組んで離れないあたりが

 乙女心というやつなのだろうか。

 

フィーネ「ただいま~♪」

 

 亜梨沙にフォローを入れようとした瞬間に

 反対側の腕に抱きついてくるフィーネ。

 ああ・・・周囲の視線が・・・厳しいです。

 

和也「って、もう帰ってきたのか!」

 

 思わず試合場所を見ると、気絶した魔族の男が

 運び出されている所だった。

 これはもう試合ではなく一方的な虐殺と呼べるのではないだろうか。

 試合を見ていた連中は、何が起きたんだといった表情で固まっていた。

 

?「か~ずやっ!」

 

 聞き覚えのある声と共に、誰かが背中に飛びついてくる。

 振り返るとやはりというか、エリナとその後ろにセリナが居た。

 

エリナ「和也、おはよ!」

 

セリナ「和也くん、おはようございます」

 

和也「2人とも、おはよう。

   とりあえず何でエリナは抱きついてくるんだよ」

 

エリナ「だって楽しそうだったから・・・つい?」

 

和也「何で勢いでしかも疑問系・・・」

 

 更に追加された神族王女達のおかげで、周囲の特に男達の視線は

 もはや俺を呪い殺そうとする、まさに呪術のそれだ。

 口々に囁かれる言葉も呪詛と化している。

 

リピス「何をしているんだ、お前達は・・・」

 

 苦笑しながらリピスまでやってくる。

 

エリナ「お~、竜族の王女だ~」

 

セリナ「こら、セリナちゃん。

    リピス様に対して、失礼ですよ。」

 

リピス「別に構わないさ。

    そういえば神界の双子王女様と、会うのは初めてだったな」

 

フィーネ「私も初めてかも。」

 

エリナ「じゃあ自己紹介から、はじめよ~う!」

 

 何故かテンションが高いエリナ主導で自己紹介を

 それぞれすることになった。

 そして歳も近いんだし、呼び捨てで行こう!友達になろう!と

 トントン拍子で話が進んでいく。

 

亜梨沙「それにしても三界の王女が全員集合とか、珍しいですね」

 

エリナ「そうだよね~。

    ありそうで無かったもんね~。」

 

セリナ「今日は、たくさんお友達が増えて嬉しいです♪」

 

リピス「確かに話す機会が無かったからな。」

 

フィーネ「まあ、これからよろしくね」

 

 周囲は試合なんてそっちのけで、こちらをチラチラ見ている。

 各種族にとって王族は敬畏の対象で、本来なら直接見ることすらない

 雲の上の存在だ。

 その王族の王女様、しかも三世界の王女が全員集まっている今の状況は

 特殊といえるだろう。

 

 周囲のことなんて誰も気にしてないという感じで、王女様方や亜梨沙は

 色々と雑談をしていた。

 しかし問題点が、ひとつだけあった。

 

 何故、俺は取り囲まれているのか・・・!!

 左腕には亜梨沙、右腕にはフィーネ、背中にはエリナがくっつき

 その後ろにセリナ、正面にはリピスが立っている。

 先ほどから、本当に男性陣だけでなく女性陣の視線も怖いです。

 

魔族男生徒「何で、あいつばっかりモテるんだよっ!?」

 

神族男生徒「セリナ様が、人族なんかと・・・!!」

 

魔族女生徒「フィーネお姉さまが・・・!!」

 

神族女生徒「エリナ様が、あんな男にっ!!」

 

 同性にも人気があるなんて、さすがだと思うが

 それにしても女子にまで嫉妬されるとか、もうどうしたらいいんだよ。

 そもそも女子寮というアウェーで孤軍奮闘しているだけなのに

 更に敵が増えるというのか・・・。

 

 こっちの話題なんて関係なく試合は次々と進んでいく。

 

セオラ「では、次の試合は―――」

 

 呼ばれた2つの名前に周囲が、ざわつく。

 次の対戦は、セリナ 対 エリナという姉妹対決になった。

 なかなか見ることがない対戦カードに、皆がお祭り状態だ。

 

エリナ「え~、セリナちゃんか。

    仕方ないなぁ~」

 

セリナ「じゃあ、少し行ってきますね」

 

 エリナはめんどくさそうに、セリナはいつも通りに試合場所へと

 向かっていく。

 

リピス「確かに興味の湧く試合だな」

 

フィーネ「『白銀(はくぎん)の女神(めがみ)』と

     『エレメンタルマスター』の試合。

     かなり期待出来そうな内容だわ。」

 

 セリナは、その容姿と変幻自在の攻撃で相手を圧倒する姿から

 『白銀の女神』

 エリナは、4属性全てを使用した圧倒的火力による攻撃から

 『エレメンタルマスター』

 2人共に、二つ名を持っており神界での人気は圧倒的だ。

 他の生徒の試合なんて完全に興味が無かった2人が、興味を示すほどだ。

 俺個人も非常に興味のある内容に

 みんなで試合が見える位置まで移動する。

 

 セリナとエリナは、ある程度距離を取った位置で構える。

 

セオラ「それでは、はじめ!」

 

 先生の開始宣言と同時に周囲のギャラリーから歓声があがる。

 まだ何もしていないのに騒がしいかぎりだ。

 

 まず動いたのはエリナだ。

 

エリナ「まずは、準備運動・・・いっくよ~!」

 

 エリナの周囲に炎で出来た矢が出現する。

 その瞬間にまた周囲が、どよめいた。

 通常ファイアアローを同時展開する場合は威力が落ちるため

 小さい矢になりがちだ。

 それなりに魔力のある者でも5~6本ぐらいが限界か。

 六翼で魔王の血族でもあるヴァイスですら通常の威力を保ったままなら

 弾装を使っても15本ぐらいが限界だ。

 しかし目の前の天才は、それをはるかに超えていた。

 翼の枚数だけならヴァイスと同じで

 奴と違い血族としての魔力増幅能力もない彼女が

 ヴァイスを超える魔力を行使していることに驚かされる。

 魔法に関しての知識や技術が、先天的な能力差を覆している瞬間だった。

 

エリナ「ファイアアロー、1から10は速度重視で正面!

    11から20は左右から追尾弾で発射!!」

 

 ファイアアローが20本同時に発射される。

 それぞれに役割を持たせて、しかも10本が魔力操作による誘導弾。

 まさに天才の名に相応しい見事な魔力生成・収束と魔法制御力だ。

 

 対してセリナも負けていない。

 正面からの速い速度の10連の炎矢を剣状の儀式兵装で素早く切り払う。

 続いて誘導弾を焦らず後ろに下がりながら引き寄せて

 1つ1つ確実に切り払っていく。

 セリナの切り払いは、俺がやるような魔力の結合部分を斬るのではなく

 魔力を干渉させて消滅させている。

 その正確な魔力制御と判断力に、周囲は次第に言葉を失っていく。

 全てを切り払った直後のセリナに向かって

 いつの間にか魔力チャージしていたエリナが

 チャージした魔力を全て注ぎ込んだファイアアローを1本撃ち込む。

 放ったと同時に、もうセリナの前まで飛んでいる炎矢。

 恐ろしいほどの速度で、隙を狙った回避不能に見える一撃。

 

 セリナにあと数十センチのところで炎矢は停止したかと思うと

 一瞬で凍ってしまった。

 

セリナ「・・・アイスシールド」

 

 氷属性の防御魔法により、高速矢が空中で氷塊になり停止する。

 

セリナ「ブレイク!」

 

 セリナの言葉と共に氷塊と化していた矢が砕ける。

 砕けた氷は薄っすらと水分を空中に撒く形となり

 一瞬だけ白い霧の壁のようになる。

 その直後だった。

 

 その壁をセリナ側から貫く閃光。

 先ほどのエリナが放った高速矢並みの速さで一瞬にしてエリナに迫る。

 セリナの儀式兵装は、いつの間にか弓形態になっていた。 

 

エリナ「ウインドシールド!」

 

 目の前まで迫った魔力矢を風の防御魔法で受け止める。

 魔力が干渉し、発光現象が起きる。

 しかし徐々にエリナ側に押し込まれる魔力矢。

 だが・・・

 

エリナ「風よ!」

 

 エリナの声と共に矢の向きが、わずかにズレて彼女の左側を通過する。

 そして驚くことにそのまま曲がり続けて彼女の後ろを通って

 右側から前に出る。

 彼女の前まで移動してきた矢が空中で静止すると

 矢の前の魔方陣が出現した。

 

エリナ「風の通り道を確保!

    さあ・・・いっけー!」

 

 空中で静止していた魔力矢が目の前の魔方陣に突っ込むと

 魔方陣の魔力を吸収するかのように矢のサイズが大きくなり

 物凄い勢いでセリナに向かって飛んでいく。

 その強力な一撃を、槍形態となった儀式兵装で薙ぎ払う。

 激しい光と共に魔力干渉で相殺するセリナ。

 

亜梨沙「なんて無茶苦茶な制御ですか・・・信じられません。」

 

 亜梨沙は驚いた顔で、その光景を見ていた。

 

リピス「風の防御魔法である程度干渉して

    扱いやすい威力に落としたのか」

 

フィーネ「それだけじゃないわ。

     相手の魔力に自身の魔力を足して制御するとか

     聞いたことが無いわよ」

 

リピス「セリナにしたって魔力干渉で相殺なんて普通は無理だ。

    大抵やろうとしても、魔力が多すぎるか少なすぎて暴発する。

    毎回全ての魔法に対して、あんなに綺麗な相殺が出来る制御力は

    驚異的だな。」

 

 リピスもフィーネも、2人の王女の戦いを見て関心しながらも

 実力を計っているようだ。

 

 エリナの儀式兵装は、杖状のもので魔術師系が好む魔法制御に特化した

 武器形態だ。

 セリナの儀式兵装は、剣・槍・弓と形状が変化していたことを考えると

 状況に応じて変化させることが出来るタイプなのだろう。

 形状が変化する儀式兵装は、かなり珍しい。

 使いこなせなければ意味がないし、そもそも普通は使いやすい形状を

 多用してしまって、どうしても一つの形状で落ち着いてしまうからだ。

 

エリナ「今日も、いつも通りかな~」

 

セリナ「エリナちゃんは、相変わらず強引なんだから」

 

 周囲のことはそっちのけで、マイペースに戦いを続ける王女姉妹。

 2人にとっては、これはあくまで準備運動だが

 俺も見入ってしまうほど高レベルの戦いだ。

 

エリナ「さて、じゃあ第2弾! いってみよ~!」

 

 今度はエリナが杖を振ると、地面から槍状の形をした土の塊が

 空に向けて飛び出した。

 そして一定の高さまであがると、そのままセリナに向けて落下していく。

 しかしセリナは軽くステップを踏むだけで全て避けてしまう。

 集弾性が悪く、殆どがセリナの周りに落下しただけで

 セリナ自身には向かっていかなかったからだ。

 

エリナ「さあ、閉じよ!」

 

 エリナが杖をかざした瞬間だった。

 周りに刺さっていた土の槍が、一瞬にしてセリナの四方を取り囲むように

 巨大な土壁となってセリナを囲んだ。

 先ほどの魔法は、これの布石だったのか。

 

エリナ「ブレイク!」

 

 エリナの声と共に土壁が一斉に爆発した。

 

リピス「アースジャベリンを囮に、アースウォールを四方に展開して

    逃げ道を塞いでから

    わざと魔力バランスを崩壊させての大爆発による魔力ダメージか。

    防御魔法すら攻撃に使うとは・・・今度やってみようかな。」

 

 土属性使いのリピスは今の魔法が気に入ったのか

 自分ならどう使うかを考え始める。

 

フィーネ「でも・・・残念ながら外れたわね。」

 

 冷静にそう呟くフィーネ。

 セリナが土壁に囲まれる瞬間は、誰もが確認していた。

 しかし―――

 

亜梨沙「後ろに回りこみましたね。」

 

 亜梨沙も気づいていたようだった。

 俺も僅かに確認できた。

 土壁に閉じ込められる瞬間のセリナが一瞬「ゆがんだ」のだ。

 

リピス「あの一瞬で、水魔法の幻影を使用して逃げるとは

    ・・・さすがだな。」

 

 そう、アースウォールに囲まれたのは魔法で作ったセリナの幻影だ。

 本人は幻影を囮に土壁の外に逃れており、爆風に紛れてエリナの後ろに

 回り込んでいた。

 

 爆風で辺りが見えなくなっている間に、何かと何かがぶつかる音が響く。

 

和也「・・・おいおい、あいつ本当に魔術師かよ」

 

 風が吹いて煙が消える。

 すると剣形態で攻撃するセリナに対して、杖の先に炎の刀身をつけて

 大剣と化した杖で応戦するエリナの姿があった。

 視界の悪い間に接近戦に持ち込んだセリナが

 相手の守りにくい場所を正確に狙う連撃で

 追い詰めているようにも見えるがエリナは

 その全てを受け止め、回避し、時には自分から攻撃までしていた。

 

亜梨沙「あの動きには型のようなものが見えます。

    何かの流派の剣術を学んでいるようですね。」

 

 エリナの剣術は、構え方や太刀筋にセリナと同じような鋭さがある。

 恐らく同じ師についているのだろう。

 そもそも魔術師は魔法戦を中心とした遠距離に特化しており

 接近戦なんて出来ない。

 魔力を溜めている間に斬られて終了だ。

 エリナのような接近用の魔法もあるのだが

 やはり接近本職の戦士系には厳しく、あくまでけん制としての

 使い道しかない。

 しかし彼女はセリナの素早く正確な連撃を全て防ぎきっている。

 あれだけ戦えるなら戦士としても、かなりの実力があると言えるだろう。

 

 だが、相手はセリナだ。

 セリナはどうしても大振りになってしまう大剣の隙を執拗に攻める。

 ついにエリナがバランスを崩した瞬間を狙って

 低い姿勢からの横薙ぎを繰り出す。

 決まるかと思われた一撃だったが、直前で透明な何かに当たって止まる。

 

和也「・・・風の防御魔法か」

 

 ウインドシールドを張っていたエリナは、そのまま後ろに軽く跳ぶ。

 その瞬間に叫んだ。

 

エリナ「ブレイク!」

 

 ウインドシールドを魔力暴走させたのだが、少し使い方が違った。

 圧縮した風だけを自分に向けて放出したのだ。

 その暴風を利用して軽い跳躍が

 一瞬にして後方への大きな跳躍へと変化する。

 

 一気に距離を取ったエリナに、セリナは

 いつの間にか弓形態になっている儀式兵装から魔力矢を発射する。

 エリナは着地すると同時に大剣と化している杖を横薙ぎする。

 横薙ぎと同時に炎の刀身部分が切り離されて飛んでいく。

 さながら強襲型魔法剣『紅』と同じような使い方だ。

 そして魔力矢と炎の刀身部分が空中でぶつかり爆発してお互いに消える。

 

セオラ「・・・そこまで! 時間切れです!」

 

 先生の合図の数秒後に、盛大に湧き上がる歓声。

 今回は時間が無いため、通常より短い時間に設定されているとはいえ

 気づけば・・・というほど早く時間が過ぎていた。

 

エリナ「あ~、疲れた~」

 

セリナ「もう、真面目にやらないからでしょ」

 

 2人で話ながら、俺達の前までやってきた王女姉妹。

 

エリナ「和也、聞いてよ。

    接近戦とか苦手なのに、セリナちゃん容赦無いんだよ!」

 

セリナ「練習なんだから仕方ないでしょ、エリナちゃん」

 

和也「あれだけ戦えて接近戦苦手って、嫌味にしか聞こえんのだが・・・」

 

エリナ「え~。

    和也までセリナちゃんの味方するんだぁ~」

 

 味方だと思っていた俺の言葉に拗ねるエリナ。

 魔術師であれだけ戦えれば十分なんだが・・・。

 

セオラ「さあ、皆さん。

    時間がありませんから、どんどん行きますわよ。」

 

 そんな先生の声と共に、実戦訓練は順調に進んでいく。

 そして数試合進んだころだった。

 

セオラ「では、次の試合です。

    風間 亜梨沙! 我らがリピス様!

    前に出て下さい!」

 

 周囲が、にわかにざわつく。

 

亜梨沙「む、リピス・・・ですか」

 

リピス「亜梨沙か・・・面白い」

 

 2人ともお互いの試合は何度も観戦しているものの、直接戦うのは

 実は、初めてである。

 

神族A「竜族の王女の相手が人族か。

   これは一方的だな」

 

神族B「はは、人族もこうなると哀れだな。」

 

 亜梨沙と俺は、あまり全体の場で注目されることはないため実力は

 あまり知られてない。

 人族は悪だという風潮が自然と

 『人族はたいしたことない=人族は弱い』という感じになっている。

 これには俺が儀式兵装を持っていないという話もあって

 余計にそう思われている。

 

リピス「セオラ『先生』。

    私は今、一介の生徒だ。

    敬語や特別扱いをしないでくれと頼んだはずだが?」

 

セオラ「リピス様は、我らが主! 我らが頂点!

    リピス様に敬意を払わないなんて万死に値しますわ!

    そう、それは竜族の総意!!

    リピス様バンザーイ! リピス様バンザーイ!

    リピス様バンザーイ!」

 

 何故かリピスを称えるバンザイコールが起きた。

 そしてこのバンザーイに、2階級の竜族達も当たり前のように

 加わっている。

 こうなると彼らが満足して終わるまで誰も止められない。

 リピスも苦笑いしながら終わるのを待っているだけだ。

 

 そして数分後。

 

セオラ「はぁ・・・。

    久しぶりに満足するまで叫びましたわ~」

 

 他の竜族達も謎の拍手喝采をしている。

 魔族・神族達は、やっと終わったかという感じの疲れた顔をしていた。

 竜族は他種族と違い、王に対して絶対の忠誠を持っている。

 現在竜族を率いているリピスは竜界では

 まさに国民的アイドルのような扱いだ。

 リピスが、カラスが白いと言えばその日のうちに竜族の資料に

 カラスは白いと記載されるだろう。

 他種族のように利権争いだとか、そういう下らない内輪揉めは

 一切起きないのでその点は、実に羨ましい。

 ただリピスの決定が善悪関係なく施行されるという点においては

 非常に危ういと言える。

 

亜梨沙「で・・・いつになったら始まるんですか」

 

リピス「・・・色々すまないな」

 

 リピスが申し訳なさそうにしている。

 これもこれで非常に珍しい光景だ。

 立場的なこともあり、あまり直接的な謝罪をしないからだ。

 

セオラ「ああ、私としたことが!

    リピス様、お待たせして大変申し訳ございません!」

 

 大きく頭を下げて謝罪する先生。

 

リピス「・・・もういいから、始めてくれ」

 

セオラ「はい!

    では・・・開始して下さい!」

 

 何やらグダグダな感じで始まった亜梨沙とリピスの試合。

 

フィーネ「ねぇ和也。

     やっぱりリピスって強いの?」

 

和也「見てるのが嫌になるぐらいにな。

   でも本気で戦うことはしないだろうし、様子見で終わると思うが」

 

エリナ「リピスは、強いよね。

    前に戦ったことがあるけど、あれやばかったもん」

 

 やはり周囲の観戦している生徒達の興味も、リピスの実力だ。

 この組み合わせでは、さすがに亜梨沙に興味を持つような奴は

 居ないだろう。

 

 試合は、亜梨沙が刀を構えて様子見をしている。

 リピスは儀式兵装のトンファーを両手に持って余裕の表情だ。

 亜梨沙が中段の構えから下段の構えに、ゆっくりと切り替える。

 

和也「ああ、仕掛ける気だな」

 

 俺の声を聞いて3人の王女がリピスを注目する。

 しかし―――

 

 バチッ!

 短い音が響く。

 驚きの表情を見せる3人の王女。

 リピスは一瞬だけ驚いた顔をしたが、スグにニヤっと笑みを浮かべる。

 観戦している連中は、何が起こったのかと唖然としている。

 

リピス「・・・さすがだな。

    その速度は立派な武器だ」

 

亜梨沙「・・・金麟にアースシールドの魔力乗っけるとか

    どれだけチートなんですか。」

 

 いつの間にか上段の構えになっている亜梨沙は、ムスッとした顔だ。

 

フィーネ「・・・加速魔法」

 

和也「亜梨沙の得意魔法さ。

   あいつは加速魔法を瞬時にかけることが出来る。

   だからその速度を利用した手数で攻める攻撃が得意だ。

   対してリピスは本来、防具等を媒介にするアースシールドを

   金麟(きんりん)に乗っけて金麟そのものを強化することが

   出来るから、恐ろしいほどに硬い。」

 

 竜族には『気麟(きりん)』という特殊能力が生まれつき存在する。

 これは簡単に言えば防御魔法と同等の力を有している。

 常に全身を覆っており魔法・物理問わず有効な防御シールドであるため

 人族以下の魔法適合率で、攻撃魔法は使用出来ず、防御魔法や補助魔法も

 初級程度しか使えないという竜族にとって

 無くてはならないものである。

 そして気麟は攻防一体であり、気麟を纏ったままの拳や蹴りで

 相手の攻撃・防御魔法を砕いたり剣や槍等と撃ち合えたり出来る

 まさに全身鎧のようなものである。

 

 この気麟は意思によってコントロール出来るため

 全身でなく一箇所に集めて強度を増すこともできる。

 またこの気麟を一定方向に撃ち出すことで上位の攻撃魔法に匹敵する

 火力を生み出す攻撃が可能。

 その攻撃を『竜の息吹(ドラゴン・ブレス)』と呼ぶ。

 竜の息吹は撃つとしばらく気麟を使用不能になるが

 この一撃は、遠距離からでも中級防御魔法ぐらいなら簡単に貫く

 凶悪な威力で攻撃魔法の使えない彼らにとって

 まさに切り札たる一撃である。

 

 そして竜族は他種族より圧倒的に身体能力が高く、他種族からすれば常に

 加速・力強化・防御強化の各種補助魔法をかけているような能力なので

 魔法がほとんど使えなくても竜族は他種族と同等に戦ってきた。

 特に攻撃力は凄まじく、竜族のパンチ一発で岩が簡単に

 砕けるほどである。

 そのため竜族の一撃は防御魔法や強化魔法無しで受け止めるのは無謀だ。

 

 さらにリピスは『金竜(きんりゅう)』と呼ばれる特別な竜だ。

 『気麟』より数段能力の高い『金麟』という能力を持っている。

 一般の竜族よりはるかに高い身体能力と金麟による防御力。

 そこに僅かではあるが魔法という要素が加わることで

 彼女は大戦争で数々の戦果を上げた一人だ。 

 身近すぎて忘れがちだが、リピスは

 『金色(こんじき)の竜牙(りゅうが)』という二つ名を持つ

 有名な戦士である。

 

エリナ「金麟に魔法を乗せるなんて、ど~やるんだろ。

    興味あるな~。 どういう原理なんだろうな~。」

 

 エリナは、もう学者のように自分の興味に全力だ。

 対してフィーネとセリナの目は真剣になっていく。

 

 先ほどの音は、亜梨沙がリピスに攻撃をした際に金麟に弾かれた音だ。

 亜梨沙は加速魔法を利用して一瞬で距離を詰めて攻撃し

 それを弾かれたので元の位置に下がったというのが

 さっきの一瞬で起こった出来事だ。

 

亜梨沙「・・・行きます。

    スピードアップ・ファースト

    パワー・ウインド」

 

 加速魔法に攻撃強化魔法を付与して再度攻撃を仕掛ける亜梨沙。

 

リピス「舐められたものだな」

 

 加速中の亜梨沙の攻撃を全て金麟ではなく普通に回避するリピス。

 そしてそのままカウンターの右拳による一撃を放つ。

 

亜梨沙「舐めてるのはどっちですか」

 

 その右拳の一撃を受け止める振りをして・・・。

 風間流『旋風』を放つ亜梨沙。

 リピスの側面を捉えるが・・・。

 

 バチッ!

 また金麟に阻まれてしまい失敗する。

 その隙を逃さずリピスが蹴りを放つ。

 半身引いて蹴りを回避すると、そのままの勢いを利用して

 回し蹴りを放つがまた金麟に阻まれ

 思わず後ろに下がって距離を取る亜梨沙。

 

亜梨沙「・・・硬い」

 

 思わず舌打ちをする亜梨沙。

 自身が非力であるがゆえに手数と速度で戦ってきた。

 その自分と一番相性が悪いのがリピスのような防御の硬い相手だ。

 

リピス「逃げてばかりでは勝てないぞ~」

 

 リピスは余裕の笑みで亜梨沙を挑発する。

 

フィーネ「これは亜梨沙が不利だわ」

 

セリナ「相性の問題も大きいですね」

 

 いくら速度があっても防御が抜けなければ意味が無い。

 これをどう攻略するかがポイントだ。

 

 しかもリピスが使っているのが土属性というのも

 更にやっかいだと言える。

 土属性は他属性と違い、魔法を相殺・無効化してしまうという

 特性がある。

 

 他属性同士は、力比べのように互いの領域同士が衝突して

 より力が強い方が勝つという判りやすさがあるが

 土属性は相殺を主目的とした魔法制御のため

 相手の魔法に触れると干渉して霧散させようとする。

 

 相殺なんて強いじゃないかと思うかもしれないが、大きな欠点もある。

 それは、相殺の効率だ。

 一瞬で相殺するには大量の魔力と天才的な魔法制御の技量が

 必要になってくる。

 一応、アースシールドを防具等に付与すれば、魔法による直撃を受けても

 ある程度相殺されてダメージを軽減することも可能だが

 やはりダメージが残ってしまう。

 そのため、昔は基本的に『魔法は回避するもの』

 という状態だったらしいが防御魔法の研究の結果

 土属性魔法は大地等を媒介にして土壁を作るアースウォールなどで

 物理的に魔法を防御するのが主流となった歴史がある。

 

 直接防御魔法を展開出来る即応性が高い他属性と比べると

 劣るかもしれないが、その欠点が気にならないほどの長所が存在する。

 それは、このアースシールドによる武具への付与という点だ。

 

 魔法への干渉による相殺効果は、相手の魔法に触れることであるため

 武器に付与すれば相手の防御魔法を相殺しようとするため

 相手の防御魔法への事実上の弱体効果となり

 防具に付与して相手の攻撃を防げば

 相手の武器に付与された攻撃強化魔法や

 相手の蹴り等の身体なら身体強化の補助魔法を相殺しようとする。

 結果として相手の攻撃を弱体化したり補助魔法へ干渉して

 無効化しようとすることになるため

 対戦相手としては、常に魔法の維持や安定した威力の確保のために

 通常よりも魔法制御への集中力や、魔力消費を強要される形となる。

 防御魔法ですら攻撃として使用出来るということこそ

 応用力を求められる属性の醍醐味とも言えるだろう。

 

亜梨沙「これならどうですか。

    スピードアップ・セカンド!」

 

 悪い流れを変えるためか、積極的に攻撃を仕掛ける亜梨沙。

 加速魔法のランクを上げて瞬時にリピスの後ろに回り込む。

 そして後ろから一撃を振りかぶる。

 

リピス「だから、舐めているのはそっちなんだよ亜梨沙」

 

亜梨沙「!?」

 

 目の前からリピスが消えたと思ったら亜梨沙の後ろに回りこんでいた。

 リピスの左トンファーが振り下ろされる。

 踏み込む位置をズラして避ける亜梨沙。

 続けざまに右トンファーのアッパーが放たれる。

 体勢を捻って何とか回避して距離を取ろうとするが

 リピスが不気味に追いすがる。

 正直ビックリな光景である。

 加速魔法の中級レベルを使用している亜梨沙に

 いくら身体能力が高いとはいえ

 加速魔法が使えないリピスがついていけているのだ。

 さすが竜族、さすが金竜というところか。

 

亜梨沙「・・・くっ!」

 

リピス「さあ、どうした亜梨沙。

    まさかこのまま終わりじゃないだろうな」

 

 至近距離から離れることが出来ずに回避が続く亜梨沙に追いすがって

 距離を取らせないように接近し続けるリピス。

 どうしても刀が振りにくくなってしまい

 そうなると金麟を抜くような一撃が撃てず

 結果として一方的になってしまっている。

 それに気麟とは常に全身を覆う鎧であり、攻防一体と呼ばれているように

 拳や蹴りにも気麟が全て付いた状態での攻撃だ。

 ただでさえ重い一撃を誇る竜族の攻撃に気麟が

 常に追加されていることになる。

 これこそが竜族であり、魔法適応が種族的に低いにも関わらず

 他種族と対等以上に戦ってこれた要因でもある。

 

 更にリピスはアースシールドに大量の魔力を込めているようで

 接触していないにも関わらず、リピスに至近距離に迫られるだけで

 相殺干渉が発生しその効果に亜梨沙の付与魔法は影響を受け

 ジリジリと魔力を削られているようだ。

 

 初めこそ亜梨沙に罵声を浴びせていた連中達も居たが

 この高速戦闘を見て静まり返っている。

 

 今、加速魔法が切れれば一気に勝負を決められかねない状況なため

 亜梨沙は攻撃付与魔法を一度切って、加速魔法の制御と

 リピスから距離を取ることに専念することを選ぶ。

 結果的に攻撃手数が減少してしまい、一方的にリピスが亜梨沙を

 追い立てている状況になる。

 

 このままリピスの猛攻が続くかと思ったが、スグに亜梨沙が動いた。

 体勢が崩れた瞬間を狙ったリピスの一撃を受け止めようとする。

 今、防御魔法を使用していない亜梨沙では受け止めることは不可能だ。

 だが受け止めるのではなく、その威力をそのまま利用して

 ダメージを受けずに大きく後ろに吹き飛んで距離を取って着地する。

 このあたりは風間流の技術であり、この『受け』の技術が

 風間流のカウンター技の基礎となっている。

 あの若さで流派を名乗ることを許された彼女だからこそ

 今のような完璧なコントロールが可能なのである。

 

 ようやく距離が取れた亜梨沙は、刀を構え直す。

 リピスは、相変わらず余裕そうに低い姿勢で構える。

 

亜梨沙「・・・ストレスが溜まる一方です」

 

 ストレートな物言いにリピスが、思わず苦笑している。

 

亜梨沙「でも、兄の前でこのまま何も出来ずに時間切れは

    私のプライドが許せません。」

 

リピス「・・・ほう。

    ではどうするんだ?」

 

亜梨沙「少しだけ、やる気を出します」

 

 刀を上段の大振り右半開の構えを取る。

 

和也「亜梨沙の奴・・・ようやく、やる気になったか」

 

 構えを見て俺はそう呟いた。

 

フィーネ「・・・やる気ってことは

     今までのは、本気じゃなかったの?」

 

和也「ああ、そうだよ。

   あいつの速さは、まだこんなもんじゃない。」

 

 俺が笑みを浮かべながらそう言うとフィーネだけでなく

 セリナとエリナまで真剣に亜梨沙に視線を送る。

 

亜梨沙「スピードアップ・セカンド

    パワー・ウインド」

 

 強化魔法をかけた後、動かなくなる亜梨沙。

 リピスも空気が変わったことに気づいて目つきが鋭くなる。

 そして、それは一瞬にして起こった。

 

亜梨沙「風間流・三光(さんこう)」

 

 その呟きと共に亜梨沙が動く。

 そして―――

 

 大きな金属音が響いた。

 何かが地面を滑る音に土煙が上がる。

 

 リピスが居た場所には亜梨沙が刀を振り下ろした状態で立っており

 そのはるか前方に、トンファーで防御の構えをしているリピスが居た。

 リピスは亜梨沙の一撃を受け止めきれずに後ろに弾かれたのだ。

 土煙は、リピスが足を踏ん張って地面を擦った際に上がったものである。

 

リピス「・・・いや、今のは正直驚いた。

    まさか金麟を抜いてもなお、この威力とはな」

 

 そのリピスの呟きの数秒後―――

 

セオラ「・・・そこまで! 時間切れです!」

 

 先生の声が響いた。

 魔族と神族が唖然としている中、竜族達は歓声を上げて拍手をしていた。 

 

亜梨沙「ホント、うざいほどに硬かったです」

 

リピス「そっちこそ、面倒な速さだったじゃないか」

 

 互いに嫌味を言いながら、こちらに帰ってくる。

 

フィーネ「亜梨沙があそこまで強いとは思わなかったわ」

 

エリナ「あの速さは凄いよね」

 

セリナ「2人とも、凄かったです」

 

 王女様達の中で、亜梨沙の評価が急上昇しているようだ。

 

亜梨沙「まあ人族ですし、評価が低いのはいつものことです。

    なので別に気にしてません。」

 

リピス「そういうな。

    特に最後のは凄かった。」

 

 亜梨沙は、どうしても自分を卑下する癖がある。

 なのでこうして周りから褒められる機会は良い事だと思える。

 それに自慢の妹が褒められるのは俺も嬉しかったりする。

 

 亜梨沙も俺が知る天才の1人だ。

 風間流は、人族の中でも最強と呼ばれる武術である。

 彼女はこの若さで師範代を任され、風間流を名乗ることを許されている。

 基礎で最低でも10年かかると言われている風間流の中でも

 流派の名乗りを許されるには

 風間の当主であり風間流現継承者でもある彼女の祖父の許可が必要だ。

 

 あのクソ爺(当主様)は非常に厳しく、師範代の任命も10人ほどしか

 認めておらず、名乗りを許されているのだって

 数十万人居る門下生のうちで、たったの20人ほどしか居ないので

 教える側も大変みたいだ。

 亜梨沙の親父さんが、よく愚痴を言っていたのを覚えている。

 

 名乗りを許された者は、最強と呼ばれた風間の名を背負うことが

 義務となる。

 ちなみに俺は、クソ爺(当主様)に会うと必ず訓練という名の

 シゴキが待っているので、いつも全力で逃げている。

 

 話がそれたが、亜梨沙は同年代の人族の中でも特別で

 他流試合では負けたことが無いどころか、常に相手を圧倒し続けている。

 学園フォースでも、未だに負けたことはない。

 亜梨沙が本気で挑めば、スグに学園上位に名前があがるだろう。

 

リピス「なんだあれは。

    刀が3本あったぞ」

 

セリナ「私も3本あるように見えました。」

 

フィーネ「私もよ。

     あれってどうなってるの?」

 

亜梨沙「あれは単なる3連撃です。

    速度が速いから、3本あるように見えるだけです」

 

 淡々と説明する亜梨沙。

 しかし王女達は、簡単に納得できないようだ。

 

リピス「簡単に3連撃というが、あれは本当に3本の刀に

    同時攻撃された感じだぞ。

    見た目どころか、受け止めた衝撃まで連撃では無く

    同時の感覚だった。」

 

セリナ「しかも3連撃を全て同じ場所に集中させて

    威力を底上げしてましたよね」

 

エリナ「物凄い集中力と魔法制御力だよね」

 

フィーネ「そして攻撃全てが全力だったのも凄いわ。

     連撃だと、どうしても強弱が出ちゃうのに

     全て一撃必殺だったように見えたわ。」

 

 友人達が凄いと賛辞を送る。

 学園に来てからそういうことに慣れていない亜梨沙は

 さすがに顔を真っ赤にして照れている。

 

 『三光』は亜梨沙が特に力を入れて学んでいた技で

 超高速の3連撃による攻撃だが、その速さゆえに3連撃ではなく

 3人による同時攻撃と同じようになる。

 しかも3連撃全てが一撃必殺を信条とした全力の一振りである。

 いきなり3人同時攻撃なんてされれば普通の人間では

 対処出来ないだろう。

 また攻撃すべてを一箇所に集めて火力を倍増することも可能なので

 亜梨沙の手数重視が進化した先にあったとも言える技である。

 

 それからも次々と試合が進んでいく。

 エリナはリピスを捕まえて、先ほどのシールドの原理を解析しようと

 質問攻めにしている。

 フィーネとセリナは、亜梨沙の試合の話で盛り上がっているようだ。

 

 別に見て欲しい訳ではなかったので、こっそりとその場を離れて

 試合場所に向かった。

 そしてちょうど次の対戦発表をしようとしたセオラ先生が

 もう既に指定場所で立つ2人を見て呆れたような笑みを浮かべた。

 

和也「試験の時に会って以来、何となく

   こうなるんじゃないかと思ってたよ・・・ギル=グレフ」

 

ギル「そいつは奇遇だねぇ。

   俺も同じことを考えていた所だよ」

 

セオラ「では、はじめ!」 

 

 お互いに剣を構えて距離を取る。

 ギルの儀式兵装は双剣だ。

 不敵な笑みを浮かべながら二刀を上段と中段に構える。

 

魔族女生徒達「きゃ~~!!

       ギルく~~ん!!」

 

魔族男生徒達「人族なんて、さっさと倒してしまえよギル!」

 

 魔族からの人族への罵声と同族への歓声が響く。

 神族からは失笑が聞こえてくる。

 まあ想像通りの展開だ。

 俺はきっと、ギル=グレフの引き立て役なのだろう。

 そんなことを考えていると、いきなり聞き覚えのある声が響いた。

 

フィーネ「先に言っておくわ。

     私、フィーネ=ゴアは『藤堂 和也』が持つ魔法よ。

     和也の障害になるものは全て、私が排除する。

     だから今、和也に敵意を向けている連中は

     この私が相手になってあげるわ。

     さあ、灰になりたい奴から出てきなさいっ!」

 

 こっそり移動したはずだったが彼女には気づかれていたようだ。

 高々と振り上げた黒い儀式兵装を持ったフィーネが、そう宣言する。

 一瞬周囲が僅かにざわついたが、すぐに静まり返る。

 彼女が発している殺気が冗談の類ではないことを理解したのだろう。

 殆どが不満そうな顔か、唖然とした顔のどちらかになっている。 

 

セオラ「・・・生徒、フィーネ。

    気持ちはわからなくもありませんが、少し落ち着きなさい。」

 

 微妙な空気をかき消すように先生が話し出す。

 

セオラ「それに生徒の皆さん。

    ここは学園フォースであり中立地帯です。

    種族がどうとか、そういう下らないやり取りをする場所では

    ありません。

    そういう話は、どうぞ皆さんの国に帰ってからに

    なさって下さいな」

 

フィーネ「・・・ごめんなさい。

     どうやら強く言い過ぎたようだわ。」

 

 そう言って彼女は軽く謝罪を述べた。

 そうなると周囲の連中は、更にバツの悪そうな顔になる。

 完全に自分達が悪者扱いになってしまったからだ。

 

 暗に「これ以上やるなら退学処分も辞さない」と発言する竜族教師。

 何かあれば全力で相手をすると言う『漆黒の悪魔』フィーネ。

 それが人族を庇うためだというのだから、周囲の連中が

 面白くないのもわからなくはない。

 特にヴァイスの奴なんかは、その不満を隠そうともしていない。

 

 次に誰が動くのか。

 そう思っていると授業終了を告げる鐘の音が鳴る。

 

セオラ「・・・では時間ですので

    中途半端ではありますが、これで終了とします。」

 

 全員で終了の挨拶を済ませると、この何とも言えない空気を変えるためか

 誰もが何事も無かったようにそれぞれ校舎へと帰っていく。

 

和也「先生!」

 

 帰ろうとする先生を呼び止める。

 

セオラ「どうしましたか?」

 

和也「さっきは、ありがとうございます。」

 

セオラ「・・・何の話でしょうか。

    私は、感謝されるような特別なことをした覚えはありませんわよ。」

 

 軽く笑みを浮かべると彼女はそのまま歩いていった。

 彼女の人気は、こういう所にもあるのだろう。 

 

 そしてその日の昼休み。

 中庭の木陰で昼食を取っていたのだが、どうにも視線が気になる。

 周囲の生徒達が、しきりにこちらを見ているからだ。

 

フィーネ「わかってはいたけど、やっぱり下らない連中が多いわ」

 

セリナ「種族差別は確かに問題ですよね。

    もう戦争中じゃないんですから」

 

エリナ「・・・ははは。

    色々と・・・耳が痛い・・・」

 

リピス「でもまあ、戦争当時と比べれば格段にマシだ」

 

メリィ「確かに、戦争中は見つけ次第ぶっ殺せ!って感じでしたから」

 

亜梨沙「まあ人族は、戦争責任を押し付けられてますからね。

    まだこうして学園に通えるだけマシだと思ってますが」

 

 原因は、こうして魔族・神族・竜族の王女達が集まっているからだ。

 普段は見ることも出来ない雲の上の存在である王族が

 一堂に会しているのだから仕方が無い。

 それに亜梨沙も含めて全員が美少女というのも大きい。

 これだけの美少女達の中に混ざっている俺への不満を

 言っているのだろうか、こっちを見ている男軍団が

 何やら声を張り上げていた・・・。

 

 

 

 ―――同時刻

 華やかな王女様軍団の昼食風景を眺めながら食事をする男達が居た。

 

魔族男生徒A「・・・フィーネ様、やっぱ可愛いよなぁ~」

 

神族男生徒A「俺はセリナ王女だなぁ。

      あのお淑やかで女の子らしい感じがたまらん・・・!!」

 

魔族男生徒B「いやいや、エリナ王女だろ。

      あの元気っ娘な性格に、あのスタイル・・・完璧すぎる」

 

神族男生徒B「・・・俺は、リピス様だな」

 

魔族男生徒A「ロリコンだな」

 

神族男生徒A「ロリコンが居るな」

 

魔族男生徒B「ロリコン乙」

 

神族男生徒B「・・・ロリコン上等!!」

 

ギル「いやいや、妹ちゃんだって俺は全然アリだと思うぞ」

 

思春期真っ盛りな男達「・・・うむ、たしかに」

 

 男生徒達だけのグループが、好みの女性について熱く語り合っていた。

 彼らの場合は、むしろ美少女だったら誰でもいいというような感じでも

 あるが・・・。

 

ギル「それにしても、羨ましいかぎりだねぇ」

 

魔族男生徒A「いや、お前がそれを言うのかっ!?」

 

神族男生徒A「お前、普段あんな感じだぞっ!!」

 

魔族男生徒B「いつもなら種族や階級問わず

      色んな女の子達と一緒じゃないか」

 

神族男生徒B「リア充爆発しろ」

 

 彼、ギル=グレフは学園内でも人気がある生徒だ。

 その性格ゆえか種族や階級を問わず、数多くの友人が居る。

 特に女生徒の人気が高く、常に周りには女生徒が居ると言っても

 差支えが無いほどだ。

 しかし彼は男友達関係も大事にしており

 こうしてたまに男だけの集まりにも参加している。

 

ギル「おいおい、それひどくないか?」

 

 苦笑しながらも、そう答えるギル。

 

魔族男生徒B「いや、この想いはきっとモテない全男生徒の総意だ」

 

神族男生徒A「ああそうだ。

      それに関してだけは、種族など関係なしだ」

 

 ギルが知らずに世界に貢献していることが、1つある。

 彼と友人である以上、他の友人・・・つまりは他種族と接する機会が

 どうしても多くなってしまう。

 その結果、種族間の差別意識を持っている者でも

 その意識が徐々に低下してくるため彼の周りに居る者達は

 種族に関係なく相手そのものを見る傾向が強くなっている。

 

ギル「しかし、気になるねぇ・・・藤堂 和也」

 

魔族男生徒C「藤堂 和也は爆発すればいいんだっ!!」

 

神族男生徒C「そうだっ!!

      リア充爆発しろっ!!」

 

 ついには、会話に参加していなかった連中まで騒ぎ始める。

 

ギル「ははは、お前らは賑やかだな」

 

 笑いながらも視線は、ずっと和也に向けられていた。

 魔族・神族・竜族の三界の王女達から信頼される人族の剣士。

 聞けば儀式兵装を持っていない落ちこぼれらしいが

 それが本当なのかどうか。

 だから今回の対戦を非常に楽しみにしていたのだが・・・・。

 

ギル「やっぱり・・・気になるねぇ」

 

 一体何が、王女達を引き付けたのか。

 

ギル「今度の闘技大会が楽しみだ」

 

 残っていた飲み物を一気に飲み干すと、ギルは立ち上がる。

 その視線の先には、闘技大会で使用される闘技場が映っていた。

 

 

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 

 午後は魔法学と戦略理論の講座だ。

 魔法学に関しては、実際に使用出来ない俺には無意味かもしれないが

 知識としてあるだけで実際に役立つこともあるので手が抜けない。

 また戦略理論も重要な座学だ。

 たとえ戦術すら覆すほどの強者でも、戦略までは基本的に覆せない。

 戦場で1人強い奴が居たところで大勢に影響を与えるようなことはない。

 まあ大戦争で二つ名のついた有名人は

 戦況すら変えるほどの活躍をしているが

 あくまで彼らも単独行動ではなく、部隊単位で行動している。

 戦争では単独で出来ることは限られてくる。

 

 そういった意味で戦争として捉えるのであれば

 組織としての強さの方が重要だ。

 その統率力の高さも武器である神族は、むしろ大規模戦ほど強くなるため

 会戦初期に一番勢力を伸ばしたというのも理解出来る。

 

 また実技には及ばないものの、立派に単位の1つだ。

 年末になると毎年のように単位が足りない者達が補習などで走り回るのが

 学園フォースの風物詩になっている。

 去年、走り回る必要はなかったものの魔法が使えないため

 魔法実習の単位が取れない俺は、座学系の単位を全て取得して

 ようやくギリギリ進級試験を受けることが出来た。

 それを考えると今年も座学は一切落とすことが出来ない。

 

 教室内をそっと盗み見る。

 

 戦闘があまり得意でない文官系の連中や取得単位が危ない奴らは

 真面目に授業を受けている。

 逆に戦闘が得意な連中は居眠りをしたり、教科書を壁にして

 違うことをしていたりと真面目に受けてない奴らがほとんどだ。

 

 この中の何人が進級出来るのだろうか。

 そんなことを考えながらも俺は、ノートを書く作業に戻った。

 

 

 その日の夜。

 いつもの場所で日課の素振りをしていた。

 

和也「・・・ちょっと勿体無かったなぁ」

 

 そんな言葉が口から自然とこぼれる。

 ギル=グレフとの戦いだ。

 学園でも実力者の1人として名前のあがる魔族でクラスメイト。

 基本的に人族は他種族に嫌われているため

 練習相手になってもらえない。

 そのため亜梨沙との練習ばかりになってしまう。

 たま~に竜族の娘達が練習相手になってくれたりもするのだが

 あくまでたまにである。

 なので奴との対戦は、ある意味期待していたのだが・・・。

 

 そんなことを考えていると、後ろから足音が聞こえてくる。

 誰か来たのかと思って振り返る。

 

和也「・・・ッ!!?」

 

 後ろに居たのは人の型をした『何か』だった。

 頭のような部分に目は無く、口らしき部分には

 鋭い牙のようなものが生えている。

 むき出しの筋肉のようなものが全身を覆っていて

 まるで生まれたばかりの肉塊のようだ。

 3mほどの大きな巨体を引き摺るように

 ゆっくりとこちらに向かってくる。

 

 本能的に咄嗟に魔法剣・紅を構える。

 こちらに顔を向けた化け物は、右腕をあげてこちらに向ける。

 すると右腕が波打つようにグニョグニョをうねりながら姿を変える。

 そして右腕は魔導砲のようになる。

 

 魔導砲とは、旧文明の遺産である。

 魔力をチャージして撃ち出す古代兵器であり

 純粋な魔力の塊を撃ち出すため下手な魔法より強力で

 小さなものでも中級防御魔法を貫く威力があり

 大きいものだと城壁すら破壊するぐらいの威力を有している。

 

 こちらに向けたままの化け物の右腕が発光する。

 俺は咄嗟に回避行動を取る。

 

化け物「グルァァァ!!」

 

 雄たけびと共に魔導砲のようなものから魔法が発射される。

 

和也「何っ!?」

 

 魔導砲が撃ち出す魔力弾ではなく、飛んできたのは

 ファイア・アローだった。

 しかも1発や2発ではない。

 数十発の炎矢が連続で発射される。

 

 早急に回避行動を取っていたおかげで、初弾の数十発は回避出来たものの

 止まることを知らない壊れた機械のように、ファイア・アローを

 吐き出し続ける化け物の右腕。

 森の方へ逃げることも考えたが、それをすれば

 森ごと焼かれる危険性がある。

 かといって、見晴らしの良いこの丘では回避し続けるにも限界があった。

 徐々に追い詰められてしまうことに舌打ちをしながらも

 逆転の一手を打つことにした。

 

和也「・・・魔眼・発動!」

 

 俺の魔眼は、一般的に言われているような魔眼とは違う。

 昔に出会った、特殊な魔眼を使える人に直接指導してもらえる機会があり

 その時以来、こちらも努力を続けてきた。

 元々才能もあったらしいが現在、普通の魔眼よりも

 数倍優れたものに進化している。

 そしてこの魔眼は魔法が使えない俺にとって

 唯一魔法に対抗出来る切り札となりえる強力なカードだ。

 普段は切り札として使うことは滅多にないが

 今は命のやり取りをしている本物の殺し合いだ。

 出し惜しみをして死んでしまっては、話にもならない。

 

 魔眼の力を通常の生活レベルではなく、戦闘レベルにまで引き上げる。

 普段からここまで引き上げておけば、昔にあったエリナの流れ弾なども

 簡単に回避出来ただろうが、開放レベルをあげると

 それだけ精神力を消耗してしまう。

 これは俺の完全に力不足のせいではあるのだが、そういった理由もあり

 普段は抑えているのだが、今はそうも言っていられない。

 

 魔眼の力を上げた状態で化け物を見る。

 

和也「何なんだよ・・・こいつ」

 

 思わず足が止まりそうになるが、無理やり動かして走り出す。

 魔法の流れが捉えることが出来るようになり、大量に迫る炎矢の雨を

 最小限の動きで回避出来るようになったため

 余裕を持って回避していく。

 そして回避行動を取りながら相手を改めて確認する。

 

 魔眼の力によって初めてこの化け物が何者の正体が少しだけわかった。

 身体の中心に魔力コアがあり、肉体を構成しているのは

 土や岩を魔力で変化させたもので

 どちらかと言えばゴーレムに近い存在だ。

 

 ただ、ゴーレムとの違いは岩などをそのまま使用するわけでなく

 魔力で再構成しているという点が大きい。

 このため通常の岩などよりもはるかに硬く、防御力に優れる。

 また魔法に対してもそれなりの抵抗性もあるように見える。

 

 そして一番は、魔法を使うという点だ。

 魔法は儀式兵装無しでの使用は出来ない。

 古代兵器には魔法という概念がない。

 何故なら古代兵器で発動する攻撃は全て『純粋な魔力塊』だからである。

 今のこいつのように明確な魔法を使用することは出来ない。

 仮にあの腕が儀式兵装だったとしてもおかしい。

 何故なら儀式兵装があっても魔法を発動するのはそれを操る者だ。

 術者が、ファイア・アローならファイア・アローを

 『イメージ』する必要があるからだ。

 それだけの知能を持ち合わせているとも思えない。

 ではあの腕は何なのか?

 そもそもこいつは何なのか?

 

 だが、今はそんなことは関係ない。

 とりあえず目の前のこいつを何とかするのが先決だ。

 

 炎矢の雨の切れ間を見つけて一気に距離を詰める。

 すると奴の左腕が、グニョグニョと動き出すと剣状の腕に変化した。

 突っ込んでくる俺に向かって剣状と化した左腕を水平に薙いでくる。

 その攻撃をスライディングで避けながら

 そのまま奴の股下をすり抜ける。

 スグに起き上がると、そのまま奴に向かって振り向きざまに

 剣を上段から振り下ろす。

 ・・・手に硬い衝撃が伝わってくる。

 

和也「浅い・・・!!」

 

 思わず舌打ちをする。

 右肩付近を狙った一撃だった。

 魔力結合を狙えば簡単に斬れるはずだったが

 僅かに狙いがズレてしまう。

 そうなると硬い肉体の前に、どうしても刃が完全には通らず

 魔力核までは、届かない。

 

 痛みなどまるで感じていないかのように、振り返りざまに

 そのまま剣と化した左腕を振り下ろしてくる。

 すかさず右側に避け、そのまま『旋風』を化け物の右わき腹に叩き込む。

 

和也「うぉぉぉぉ!!」

 

 右わき腹に斬りこんだ刃を、そのまま先ほど傷をつけた右肩へと

 斬り上げる。

 この一撃で相手の右肩から右腕を巻き込んでわき腹までを

 完全に斬り飛ばした。

 すると相手の魔力核の一部が外に露出する。

 

 そのまま後ろに剣を投げ飛ばしてしまいそうになるほどの勢いを

 上半身と腕の力でなんとか止める。

 そしてそのまま剣を核に向けて振り下ろす。

 

 ガキィッ!!

 

 化け物は身体を捻りながら剣状の左腕でこの一撃を受け止める。 

 続けて、化け物が蹴りのモーションに入る。

 咄嗟に右膝を相手の蹴りに合わせるが、予想以上の威力で

 後ろに大きく吹き飛ばされる。

 

 苦痛に顔を歪めながらも身体を回転させながら着地をする。

 着地しながら更に身体を回転させ、その遠心力を利用しながら

 剣を横薙ぎする。

 すると刀身だけが化け物に飛んで行き、露出していた核に突き刺さる。

 

和也「ブレイク!」

 

 俺がそう声をあげると刀身は魔力暴走を起こして爆発する。

 

化け物「グアァァァァ!!!!」

 

 断末魔を上げる化け物。

 魔力核の一部が破損し、そこから魔力が漏れていき

 傷口を再生しようと集まっていた結合の弱い部分から

 順番に身体が崩壊していく。

 

 俺は魔法剣・紅を見つめる。

 

和也「これをくれたあの人には、本当に感謝しきれないな」

 

 そもそも魔法剣は数が非常に少ない。

 それは核となる魔力石が、かなり特殊な上に

 現在でも解析不可能な古代技術が使用されているからだ。

 強襲型最大の利点である刀身を飛ばすという行為は

 この核となっている魔力石の制御によるものらしく

 この『紅』に使われているものは、更に貴重なものだそうだ。

 先ほどのように飛ばした刀身を魔力暴走させて爆発させるなんてことは

 他の強襲型の名を持つ魔法剣では出来ないらしい。

 それは魔法で出来ている刀身は

 『魔法石が術者として魔法を行使している』という状態だからだ。

 術者が制御を崩すことで爆発させることの出来る技を

 意思を持たない魔力石にやれというのが不可能である。

 もし無理やり制御が崩れるように仕向ければ

 内臓されている魔力全てが爆発しかねない。

 

 ところがこの『紅』に関してだけは違う。

 使い手の意思を反映するかのように、剣の出力を変更できるので

 剣のサイズを細身の剣から大剣クラスまで調整が可能で

 先ほどのように飛ばした刀身の魔力爆発も出来てしまう。

 更に通常の魔法剣は、専用の装置でしか魔力の補充が出来ないため

 一度魔力を切らせてしまうと大変だが、この『紅』は

 何と太陽の光に当てているだけで勝手に魔力が補充されてしまう等

 全ての点において、他の魔法剣を圧倒するスペックになっている。

 

 まだ人界に居たころに、この『紅』を魔法関係の道具を扱う店の

 おっさんに見てもらったことがあるが、見たこともない量の大金を

 積まれて「売って欲しい」と頼み込まれたこともあったぐらいだ。

 

 俺は魔法剣をしまうと化け物の方を見る。

 まるで初めからそこに居なかったかのように

 何の痕跡も残さずに消滅してしまっていた。

 

和也「・・・アレは、一体何だったんだ?」

 

 周囲の荒れ具合を見れば、先ほどの戦闘が夢ではないことは一目瞭然だ。

 正直、あんな化け物が居るなんて聞いたこともない。

 結局あの化け物は何だったのか。

 そして何故いきなり襲ってきたのか。

 どうしてこんな場所に居たのか。

 色々と湧き上がる疑問に答えてくれる者が居るわけでもなく

 俺は、そのまま寮へ引き返すことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

第2章 三世界の王女達と実戦訓練 ~完~

 

 





まずは、最後まで読んで頂きありがとうございます。

今回の話は、どうだったでしょうか?
本作の主人公は自身を凡人だと評価していますが
実は、かなりの強キャラ設定となっております。
また登場キャラ達も上位レベルばかりが揃っていますので
強キャラ達による高レベルのバトルを展開していければいいなと
思っております。

まだまだ序盤です。
今後の話も頑張っていきますので
よろしくお願いします。


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第3章 下着泥棒と紅の死神

 

 普段と何も変わらない朝を迎えるはずだった。

 ベットから上半身を起こし周囲を確認する。

 俺達の部屋に大勢の女子生徒が詰め掛けていた。

 そして俺を取り囲むように並んでいるフィーネや神族王女姉妹。

 リピスやメリィさんまで居る。

 そして全員何故か顔を真っ赤にしながら怒っているのか

 恥ずかしがっているのか

 どうとも言えない表情を浮かべていた。

 

 隣で亜梨沙も状況についていけずにベットの上で

 フリーズしてしまっている。

 重苦しい雰囲気が部屋に溢れていた。

 

 やがて意を決したようにメリィさんが一歩前に出る。

 

メリィ「まあ・・・若い男性なら致し方ない部分もありますが・・・

    そうは言っても立派な犯罪です。

    まさか和也様が、そのような方だったとは・・・。

    いえ、そんなことを言っている場合ではありませんでしたね」

 

 色々長い前置きの入った後、大きな深呼吸が入る。

 そして・・・

 

メリィ「さあ、どこに隠したんですかっ!?」

 

和也「とりあえず、何の話だよっ!?」

 

 こうして俺の厄介な一日が始まった。

 

 

 

 

第3章 下着泥棒と紅の死神

 

 

 

 

 女子寮の食堂で朝食を食べる。

 これもいつものことだが、いつも以上に周囲の視線が痛い。

 

和也「・・・下着泥棒ねぇ」

 

 俺は大きくため息をついた。

 今日の朝、様々な場所から女生徒達の下着が無くなっていたそうだ。

 

亜梨沙「それで、女子寮で唯一の兄に疑惑が浮上した・・・と」

 

 証拠があったわけでもなく、目撃者がいるわけでもないのに

 俺が男だという理由だけで朝の騒ぎである。

 

リピス「まあ、なんだ。

    私も短絡的な発想だと止めたんだがな」

 

エリナ「それ、ダウトだよっ!

    リピスだって若い男だからなとか言ってたじゃん!」

 

リピス「真っ先に和也の部屋に走っていった奴には

    言われたくない台詞だな」

 

エリナ「うぐっ・・・」

 

フィーネ「でも、もし・・・。

     もしもよ。

     どうしてもって言うなら・・・わ、私、のなら・・・」

 

 何故か顔を真っ赤にしながらスカートを少し持ち上げるフィーネ。

 

セリナ「や・・やっぱり、そういうのに興味・・・あるんです、ね・・・」

 

 こちらも頬を赤らめながらモジモジとしている。

 もうなんだこれ。

 

亜梨沙「兄が、わざわざ下着を取って回るなんてこと、するわけないです」

 

 ため息をつきながら、そう言い出す亜梨沙。

 

亜梨沙「まず第一に下着が目的なら、一緒の部屋に居る

    私のを狙うに決まっているでしょうっ!!」

 

和也「いや、だから何でだよっ!

   むしろ、俺が下着泥棒前提の話をするなっ!」

 

メリィ「むしろ、どうして盗んでないんですかっ!

    それでも男ですかっ!?

    信じられませんっ!!」

 

和也「信じられないのは、アンタのその発想だよっ!!」

 

リピス「まあ、真面目な話としてだ。

    犯人がわからない以上、和也が疑われ続けるだろうな」

 

 それは周りの女生徒達の視線を見れば解る。

 俺達の部屋を捜索した結果、何も出てこなかったからだ。

 しかしそれだけの話であり、俺が犯人ではないという証拠もまた無い。

 結局は「犯人かもしれない」という疑念だけが

 残ってしまっている状態だ。

 

 それからというもの、常に疑惑の視線を向けられ続けていた。

 直接何か言われるわけでも、そういった噂が流れるわけでもない。

 それが余計に嫌になってくる。

 

和也「あ~、面倒なことになったなぁ~」

 

 その日の夜、ベットに倒れこみながら叫んだ。

 

亜梨沙「まあ、嫌な視線ばかりでしたからね」

 

 隣のベットで本を読んでいた亜梨沙が同意の言葉を述べる。

 

和也「これから毎日・・・というのは正直辛いなぁ」

 

亜梨沙「なら、いっそ捕まえればどうでしょう」

 

和也「ん? 何をだ?」

 

亜梨沙「ですから、下着泥棒の犯人を・・・です。

    犯人さえ捕まれば誰も兄を疑わないでしょう?」

 

和也「・・・捕まえるといってもなぁ」

 

 出来れば正直そうしたい。

 しかし、一切の証拠も無く犯人像もまったく解らない状況で

 それが出来るのか。

 そして疑惑の中心人物たる俺が犯人探しのためとはいえ

 女子寮の内部をウロウロするのも気が引けることではある。

 実際、女子寮に入ってからは必要最低限の移動以外は一切していない。

 ただでさえ人族ということで厄介がられているのに、男ということで

 かなり迷惑がられているのは雰囲気で解っていた。

 なのでなるべく目立たないように、迷惑にならないようにと

 夜に日課としていた自主練習が

 寮の庭⇒寮から少しだけ離れた平地⇒森を抜けた先の丘

 というように段々と場所が移動していった経緯もある。

 

亜梨沙「私も兄が下着泥棒扱いをされ続けるのは不愉快ですから」

 

 どうしようかと唸っているうちに、亜梨沙の中では

 もう決定事項になっていた。

 しかし――

 

和也「・・・お前も、泥棒扱いしてたよな」

 

亜梨沙「さて、明日から頑張りましょう!」

 

和也「・・・」

 

 そして俺達は下着泥棒を捕まえるために動くことになってしまった。

 

 

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 

 次の日、朝から被害者への聞き込みを行った。

 だが・・・

 

亜梨沙「・・・くだらない」

 

 早くも我が妹君は、ご機嫌ナナメだった。

 理由は簡単だ。

 俺達が、人族だからである。

 王女様軍団のおかげで忘れがちになることもあるが

 基本的に人族は嫌われている。

 たとえ下着泥棒を捕まえるためとはいえ

 協力的な奴は誰一人として居なかった。

 

 しばらく粘ってみたが誰もが、会話はスグに終了されてしまうため

 ほとんど話も聞けない状態に諦めかけた時だった。

 

フィーネ「和也、おはよう♪」

 

 挨拶と共に飛びついてくるフィーネを受け止める。

 種族を意識せず、こうして接することが出来る存在が

 どれだけ貴重なのかと、再確認してしまう。

 

亜梨沙「・・・おはよう・・・ございま、すっ!」

 

 挨拶と共に、俺の腕を強引に引っ張ってフィーネから引き剥がす亜梨沙。

 予想外の行動に、俺もフィーネも一瞬思考が停止する。

 

フィーネ「・・・何かあったの? 機嫌悪そうだけど」

 

 フリーズ状態から復帰したフィーネが

 亜梨沙の不機嫌に気づいて話しかける。

 

亜梨沙「別に・・・何でもありません」

 

和也「何でも無いわけないだろうに」

 

 普段あまりこういった感情を表に出さない亜梨沙が

 珍しく隠そうともしていない。

 仕方が無いので俺が、フィーネに状況を説明する。

 

フィーネ「・・・なるほど。

     まあ怒りたくなる気持ちは、解らないでもないわね」

 

 一通りの話を聞いたフィーネは、呆れたというような顔をしながら

 頷いた。

 

フィーネ「でもまあ、それとこれは別かな」

 

 そういうと亜梨沙と反対側の腕に抱きついてくる。

 

亜梨沙「・・・別に、兄にそういう強制をする気は・・・ありません」

 

フィーネ「私もよ。 でも、もしそういう話なら

     私は黙ってるつもり・・・ないからねっ♪」

 

 主語の無い会話だが、何故かプライド同士がぶつかっているような

 緊張感が二人の間に流れているような気がした。

 二人とも笑顔というのが、また逆に怖い。

 

フィーネ「まあ、下着泥棒のことは私も協力するわ。

     私も腹が立つからね」

 

 そういえば彼女も部屋に来た1人だ。

 ということは被害に合っているのだろうし、そう思うのは当然か。

 

フィーネ「そうだ。

     リピス達にも協力してもらいましょ。

     みんなでやる方が効率もいいわ」

 

亜梨沙「確かに、その方が色々と便利でしょう」

 

和也「なら、昼休みにでも話そうか」

 

 

 ・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

メリィ「はい、やりましょう」

 

 昼休み。

 いつも通りのメンバーでの昼食中に話題に出たので

 ついでに相談してみたら、メリィさんが圧倒的な速さで返事をしてきた。

 

セリナ「ぜひ捕まえましょう。

    女子寮全員の敵ですからね」

 

エリナ「だよね。

    女の敵は、捕まえないと」

 

リピス「まあ、捕まえるた方が安心でもあるからな」

 

 予想通りというべきか、次々と参加表明が出る。

 

メリィ「捕まえた上で、きっちりと自分が

    どれほどの罪を犯したのかということを

    教えて差し上げましょう」

 

 笑顔でものすごく怖いことを言い出すメイド長。

 

リピス「・・・やたらと気合が入ってるな」

 

メリィ「ぜひ、取り返さなければ・・・っ!!

    リピス様が穿いていた、あの純白のパンテぐふぉ!!」

 

リピス「・・・さて、では今日の放課後から

    調査開始ということにしようか」

 

 見事な裏拳でメイド長の口を封じたリピス。

 何とも言えない微妙な雰囲気で昼休みは終了した。

 

 そしてその日の夕方。

 女子寮前に集合した俺達は、聞いて回る持ち回りと編成を決め

 さっそく情報収集を開始した。

 

 セリナとエリナには神族の被害者を。

 フィーネと亜梨沙は魔族の被害者で、リピスとメリィさんが

 竜族の被害者をという感じで、種族に合わせた形にした。

 自分達の種族の王女様に聞かれたのでは答えないわけには

 いかないだろう。

 いきなり雲の上の存在である王族に声をかけられて

 怯えている娘も居たりして

 少し可哀想な気もしなくはないが、使えるものは何でも

 利用してしまいたい。

 

 そして俺はというと・・・・

 

和也「あとは、この辺りかなぁ」

 

 女子寮やその周辺で、隠れられそうな場所や

 寮を監視出来そうな場所の確認をしていた。

 誰にも見つからずに女子寮に侵入し、下着を盗んで逃げ出すというのは

 現実的ではない。

 寮を見張ってチャンスをうかがい、侵入してからもどこかに

 身を隠しながら犯行に及んでいると考えるのが自然だ。

 なので、犯人を見つける時や追いかける時に

 隠れられる場所などを事前に調べておけば

 追い詰めやすくなるというわけだ。

 

 大体の場所を調べ終え、ついでにいつもの丘まで来たとき

 人の気配がして、ゆっくりと慎重に近づいてみる。

 そこには1人の魔族の少女が居た。

 よく見るとフォースの制服を着てはいるのだが、見覚えの無い顔だった。 

 

 彼女の髪は、夕日に照らされ、より一層紅色に染まっていた。

 どこか遠くを見つめた瞳には、どことなく哀愁が漂っており

 時折、風になびく長い髪を気にすることもなく 

 物思いに耽っている感じに見える。

 その姿は、小柄な少女らしい可愛さを残しつつも

 どこか大人びていて美しかった。

 

?「・・・何か、ご用でも?」

 

 こちらに気づいた少女だったが、こちらを見ることもなく

 素っ気無い感じで声をかけてきた。

 

和也「い、いや。

   別に用事はない」

 

?「そう・・・ですか。

  でもまあ・・・」

 

 ゆっくりとこちらに向き直った少女と目が合う。

 

?「こちらには・・・用事、あったりするんですよ。

  人族の、藤堂 和也」

 

 少女から噴き出した殺気に、反射的に武器を手にする。

 一瞬にして目の前まで迫った彼女が「何か」を振り下ろしてくる。

 

 

 ガキィィ!!

 

 

 鈍い音が響く。

 小柄な少女に不釣合いな大斧を受け止めたが、勢いが殺しきれない。

 大きく吹き飛ばされるように後ろへと下げられたが

 何とか体勢を立て直して着地する。

 

?「あら、意外です。

  貧弱な人族には、今の一撃を防ぐ力なんて無いと思ったのに」

 

 彼女は可愛らしく首を捻りながら、そう呟いた。

 

和也「いきなり何なんだよ。

   事情ぐらいは説明して欲しいもんだな」

 

 人族が嫌われていることなんて今更ではあるが

 それでも突然、命を狙われるなんて思いもしなかった。

 

?「説明の必要、あります?」

 

和也「もちろん」

 

?「フィーネ=ゴア様のことです。

  あの方を誑かして、何をするつもりですか?

  魔界を統べるとか言い出す気じゃないでしょうね?」

 

和也「何の話かと思えば・・・。

   別に誑かしてもいないし、何もする気はないよ」

 

?「そんな言い訳にすらなっていない台詞で

  納得出来るとでも?」

 

 また一瞬にして距離を詰めてきた少女は、大斧を振り抜いてくる。

 横にステップして避けながら「風間流・旋風」を狙う。

 しかし少女は、斧の重さなんてまるで感じていないように

 縦に振り抜いた勢いを殺しながら、斧を回して石突の部分で

 旋風の一撃を受け止める。

 そして受け止めた後に下から上に向けて力を込めて

 剣を弾き飛ばそうとしてくる。

 その予想外の力に思わず後ろに跳躍して距離を取る。

 

?「・・・うん。

  少しは出来るみたいですね。

  ほんのちょっとだけ評価を改めてあげます」

 

 そう言いながらも大斧を構え直す少女。

 こちらはそれどころではない。

 ここ最近、旋風を返されることが多すぎて気持ちが萎えてしまう。

 旋風は本来、自らの背中を一瞬とはいえ

 相手に晒す危険なカウンター技だ。

 それゆえに決まれば必殺の一撃となるはず。

 それがこう何度も決め損ねるというのは自身の未熟を

 突きつけられているのと同じことで

 今までの努力が否定されたような気分になる。

 

 それに俺の予想が正しければ、彼女は・・・

 

和也「強化魔法を使わずに、まさかそこまでのパワーとスピードを

   出せるなんてな」

 

?「・・・ふふっ。

  よく解りましたね。

  ほんのちょっとから、ちょっとに評価の修正をしてあげます」

 

 少しカマをかけただけだったが、やはりそういうことか。

 あんな一瞬で強化魔法をかけれるなんて、そうそうない。

 俺が知っている・・・今そんなことが出来る奴は

 亜梨沙の加速魔法ぐらいだ。

 つまり予想としては事前にかけていたか

 それともそもそも使っていないかだ。

 そして最悪な方向で、その予想が当たってしまったことになる。

 魔力強化であるならまだ希望があったのだが・・・。

 

 それに疑念もある。

 いくら魔族が身体能力もある程度高いと言っても所詮は

 『ある程度』だからだ。

 今、目の前の彼女のそれは、まるで・・・。

 いや、今それを考えている暇ではない。

 

和也「・・・さて、どうするかな」

 

 相手に聞こえないように、そう呟く。

 とりあえず逃げることを最優先にしようとは思うが

 上手くいくかどうか・・・。

 

?「あまり時間もありませんから・・・

  そろそろ死んで下さいっ☆」

 

 そう可愛らしく宣言した彼女は、そんな可愛らしさの欠片もない

 全力の一撃を放ってくる。

 

和也「・・・」

 

 それを俺は最小限のサイドステップで回避する。

 スグに横薙ぎに変わる少女の攻撃を剣を当てて

 上方向へと勢いごと逃がす。

 綺麗に上に流れた大斧だったが、少女はそれも解っていたという感じで

 勢いを殺さずにそのまま回転しながらバックステップで

 後ろに少し跳んで距離を取る。

 そして遠心力が乗った状態のまま回転し続けながら

 こちらに跳躍してくる。

 もの凄い回転をしながらこちらに勢い良く落下してくる少女を

 ギリギリまで引き付けてから

 足元に紅の刀身部分だけを突き刺してから跳躍して回避する。

 

?「・・・っ!」

 

 大きな音と共に少女の一撃が、紅の刀身部分を粉砕しながら

 地面に突き刺さる。

 それと同時に紅の刀身が爆発してあたりを煙が覆う。

 

?「視界を奪ったつもりですか。

  舐めないで下さいっ!」

 

 手にしている大斧を勢い良く振るうと、その風圧で煙が

 一瞬にして消え去る。

 しかし―――

 

?「・・・逃げられて、しまいましたか」

 

 既に、その場に人族の男は居なかった。

 軽くあたりに意識を向けるが、気配も感じられない。

 

?「状況的に退却したのではなく、初めから退却するための一手

  ・・・ですか」

 

 迷ったあげくの退却ではなく、初めから逃げるために

 戦っていたということ。

 それを今の状況が証明している。

 

?「・・・うふふっ。

  あははははっ☆」

 

 思わず笑いが込み上げる。

 まさかここまで綺麗に逃げられると思っていなかった。

 

?「フィーネ様のことだけのはずでしたが・・・

  ミリス、気に入ってしまいましたっ♪」

 

 久々に、狩りがいのある相手に出会えました。

 

ミリス「待ってて下さいね、藤堂 和也。

    この『紅(くれない)の死神(しにがみ)』が

    必ず貴方の命を貰いに行きますからねっ☆」

 

 

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 

 すっかりあたりは暗くなり、月明かりが道を照らし出すころに

 集合場所となっていた女子寮正面玄関に

 みんなが集まり始めていたのだが・・・

 

亜梨沙「・・・なんでそんなに燃え尽きてる感じなんですか」

 

和也「・・・色々、あってね」

 

 玄関前に最初についた俺だったが、そのまま中央階段に

 腰掛けてだらけていた。

 

リピス「まあ、そろそろ夕食の時間でもある。

    食べながらの報告会にしようじゃないか」

 

 リピスの一声で、全員食堂に向かうことになった。

 

 

 

 女子寮の食堂は、夕食の時間ということもあって

 かなりの賑わいになっていた。

 そして、この食事に関しては女子寮でよかったと思っている。

 聞いた話によると、男子寮は献立表が発表されており

 そのスケジュール通りに食事が出る形式だ。

 

 しかし女子寮は、寮長のオリビアさんの提案により

 毎日市場で仕入れた食材で様々な料理を作り、それを並べて

 好きなものを好きなだけ食べるバイキング形式となっている。

 おかげで好きなものは多めに取ったり出来るし

 新鮮な食材をその場でプロが調理しているだけあって、味も申し分ない。

 

エリナ「う~ん、美味しぃぃぃ!」

 

セリナ「もう、エリナちゃん。

    ちゃんとバランスよく食べないとダメだよ」

 

亜梨沙「エリナは、見事なまでの偏食家ですね」

 

 エリナの皿には大量のパスタ・肉・フルーツが盛られていた。

 注意するセリナの皿は、多少野菜が多めだが全ての料理が

 バランス良く入っている。

 

エリナ「美味しいものを美味しく食べるのが良いんだよね」

 

亜梨沙「それでどうして、そのスタイルが維持出来ているのか・・・」

 

セリナ「そこの部分に関してだけは、不公平ですよね・・・」

 

リピス「うん。

    相変わらず、良い腕をしているな。

    ここの料理人は。」

 

フィーネ「ホントに。

     まさかここまで本格的なものが出てくるなんて

     思わなかったわ」

 

 3人は色々な話題で盛り上がり、リピスとフィーネは

 マイペースに料理を楽しんでいる。

 メリィさんは、リピスの後ろに控えていてリピスが何か言う前に

 それをさりげなく用意して実行している。

 これだけ見ていると、気が利く良いメイドにしか見えない。

 

 最近よく見かける食事風景。

 ほんの少し前までは、亜梨沙・リピスとメリィさんだけだった。

 いつの間にか増えたなと感じる。

 みんなと居る時は、人族へ向けられる敵意ある視線は

 ほとんどと言っていいほど無くなっている。

 ただ、相変わらず1人で居る時は遠慮が無いんだが・・・。

 まあ、さっきも殺されかけたからな。

 

和也「・・・悩んでないで、とりあえず食べてしまうか」

 

 俺は、食事中だけは悩むのを止めて

 食べることに集中することにした。

 

和也「お、ホントに今日の料理も美味い・・・」

 

 

 

 

 食事を終え、食後の紅茶を優雅に楽しんでいる時だった。

 

リピス「さて、そろそろ本題に入るか」

 

 彼女のそんな一声で、今日の結果報告が行われることになった。

 だが―――

 

メリィ「これは予想外な展開ですね」

 

 全員が沈黙して重い空気になっているのを気にしてか

 みんなの意見を代弁する形で、メリィさんが声を出した。

 

 犯行があったとされるのは朝の1時間ほどだ。

 そのわずか1時間で女子寮のいたる所で発生している。

 1人でやるには物理的に不可能だ。

 

セリナ「どういうことでしょう・・・」

 

エリナ「複数居るってこと?」

 

フィーネ「それは無いんじゃないかしら?」

 

 下着泥棒が複数で犯行に及ぶなんて聞いたことが無い。

 普通に考えれば単独犯だろう。

 しかし今日の被害状況を考えると、とても単独でやったとは思えない。

 そして被害場所も、問題だ。

 1階から最上階まで全て被害が出ているということだ。

 それだけ女子寮を動き回っていて

 誰にも見つかってないというのも変である。

 

亜梨沙「悩んでも仕方がありません。

    いっそ現行犯で捕まえましょう」

 

リピス「なるほど。

    確かにその方が手っ取り早そうだな」

 

亜梨沙「明日、担当場所を決めて張り込みましょう」

 

 そして誰が、どの辺りに行くかを相談して

 その場は解散となった。

 

 

 次の日。

 今日は休日で学園も休み。

 いつもならゆっくり寝ている時間に、俺は女子寮の玄関前を

 近くの茂みの中から監視していた。

 

 他のみんなは、それぞれ洗濯場や廊下の監視をしている。

 男の俺が女物の下着のある場所でうろうろしていては問題だと

 みんなから言われて、この配置になった。

 

和也「さて、これで現れてくれればいいんだが・・・」

 

 アレだけの騒ぎになったのだ。

 そんなに簡単に連日現れるとは思っていなかった。

 

 しばらく時間が経っても一向に現れる気配もない。

 暇になり、少し眠たくなってきたあたりで俺は見つけてしまった。

 

 女子寮の正面玄関から、女物のパンツを握り締めた

 小型な二足歩行で歩く小動物を。

 周囲を警戒しながら、音も立てずにコソコソとしていた。

 

小動物「・・・よし!」

 

和也「何が『よし!』だよ」

 

 気づかれる前に素早く小動物の傍まで接近して捕まえる。

 

小動物「ぎゃぁぁぁぁぁ!!

    離せぇぇぇぇ!!」

 

 ひたすら暴れる謎の生き物。

 

和也「うるさい」

 

 あまりに煩いので頭を殴る。

 

小動物「こ、これは誤解や!

    違うんや、何かの間違いや!」

 

 何も言わないうちから言い訳を始める小動物。

 

和也「・・・とりあえずガッチリを握り締めた

   そのパンツをせめて隠してから言えっての」

 

 もう呆れて何も言えない、この感じである。

 

小動物「そ、そうや。

    このパンツで妥協せんか?」

 

和也「・・・は?」

 

小動物「このピンクのしましまパンツは

    銀髪でスタイル抜群な美少女のパンツなんや。

    これをあげるさかいに、見逃してくれんか?」

 

 謎の小動物は、白地にピンクの縞模様が入ったパンツをこちらに

 差し出しながら懇願してくる。

 

和也「・・・アホらしい」

 

小動物「な、なんやてっ!?

    兄さんは、女の子に興味無いんか?

    そっちの人かっ!?」

 

和也「失礼な。

   女の子に興味もあるし、下着にもあるが

   それはあくまで付けている娘とセットでの話だ。

   パンツ単体で、そこまで盛り上がれるかよ」

 

小動物「兄さん、甘い!

    パンツから、その娘が穿いている姿を想像する!

    そしてパンツから、これをつけて恥らってる姿すら

    想像出来るんやで!!」

 

和也「いやいや。

   やっぱりちゃんとつけてる姿を見た方が、何倍も良いだろ。

   それにその娘のイメージと違う下着をつけてた場合とかだと

   そのギャップがまた、楽しめたりするからな」

 

小動物「・・・兄さんも、なかなかですな」

 

和也「お前さんも、なかなかにロマンを追い求めてるみたいだな」

 

亜梨沙「兄さ~ん♪

    盛り上がっている所で申し訳ないですが

    ちょ~っといいですかぁ?」

 

 いつの間にか後ろに居た亜梨沙が声をかけてくる。

 振り返ると目が合ったが、満面の笑みで怖かったりする。

 

?「今やっ!!」

 

 謎の声と共に、腕に何かがぶつかって痛みが走る。

 反射的に掴んでいた小動物を放してしまう。

 

小動物「た、助かりましたわ。

    太郎の兄貴!」

 

太郎「次郎、無事で何よりや」

 

 木の上で再会を喜び合う2匹の謎の小動物。

 もう1匹居たようだ。

 

次郎「兄さん、悪いがワシらは捕まる訳にはいかんのや」

 

太郎「そうや。

   という訳で、行かせてもらうで」

 

 こちらが声をかける暇も無く、一瞬で姿を消す2匹の小動物。

 

和也「・・・あ~あ、逃がしちゃったよ。

   いきなり声かけてくるからぁ」

 

亜梨沙「えっ!?

    妹のせいなんですか!?」

 

 その後、フィーネ達と合流して今出会った下着泥棒のことを伝えた。

 話終えると、全員が微妙な顔をしていた。

 

エリナ「・・・何、その珍妙な生き物」

 

和也「まあ、俺も見つけた時は微妙な気分だったけどな」

 

フィーネ「とりえず、そういう話なら色々なことに説明が付くわね」

 

 フィーネの言う通り、奴らが犯人だとすれば納得が出来る。

 女子寮全体で発生している点や、犯人が見つからずに移動出来る点など

 奴らなら小さいし、2匹いたしで説明が付く。

 

セリナ「肝心なのは、どうやって捕まえるかですね」

 

リピス「そうだな。

    一度は捕まえた訳だし、警戒してしばらくは身を隠す可能性が高いだろう」

 

和也「下手をすれば、もう来ない可能性もあるからな」

 

亜梨沙「・・・それは無いんじゃないでしょうか?」

 

和也「ん?どうしてだ?」

 

亜梨沙「その変態生物は、下着集めに情熱を燃やしていたんですよね?

    だったら、この女子寮以上の場所なんてありませんから」

 

リピス「ふむ。

    確かにそうだな」

 

 街には沢山の家はあるが、そこに必ず年頃の女性が居るとは限らない。

 確実に、しかも大量に狙えるという点では

 この女子寮が一番最高の場所と言えるのだ。

 

エリナ「・・・なら囮作戦とか、どうかな?」

 

 そんなエリナの提案で、囮作戦が開始されることになった。

 

 

 次の日の早朝。

 物干し台に並んだ色とりどりの下着達。

 そしてその近くに潜む、顔を真っ赤にしている少女達。

 

 事の発端は、もちろん囮作戦で使う『囮』だ。

 

リピス「囮というからには誰のを使うんだ?」

 

エリナ「え?」

 

リピス「え?じゃないだろう。

    実際に囮として使う下着を置かなければ意味がないだろう」

 

 その言葉と共に彼女達は、それぞれの顔を見合わせた後に

 何故か全員が俺を見る。

 

亜梨沙「・・・ここは実際に被害に合った人の方がいいんじゃないですか?

    ほら、盗られるということは次もまた狙われやすいでしょうし」

 

フィーネ「で、でも被害にまだ遭ってない人の方が

     向こうも盗る気になりやすいと思わない?」

 

リピス「もしくは、言い出した奴が出すかだな」

 

エリナ「え゛っ!?

    い、いや~・・・あ、そうだ。

    セリナちゃんのでいいんじゃないかなぁ。

    ほら、きっとセリナちゃんのだったら人気だろうし」

 

セリナ「ど、どうして私なんですか?

    エリナちゃんのだって、きっと人気ですよ」

 

リピス「・・・おっと、そういえばもう一人居たなぁ。

    メリィ、どこに行く気だ?」

 

メリィ「い、いえ、私は皆様へ紅茶でもお出ししようかなと・・・。

    それに囮の件でしたらリピス様のでもいいではありませんか?」

 

亜梨沙「そうですね、リピスも盗られてるみたいだし大丈夫ですよね」

 

リピス「大丈夫とは、どういう意味だっ!?」

 

 結局の所、自分の使っている下着を出すのが恥ずかしいため

 みんなけん制し合ってしまっている状態だ。

 そして結局議論の結果、誰か1人に押し付けるより全員でなら

 多少はマシだろうという結論となり、全員分の下着が並ぶことになった。

 

亜梨沙「兄さん、あまりジロジロと見ないで下さい。

    変態ですか」

 

 妹に指摘され、視線を逸らすと

 

リピス「ちゃんと監視しないと駄目だろう」

 

 怒られてしまった。

 

和也「俺に一体どうしろと・・・」

 

 さっさとこの居心地の悪い状況から脱出したい。

 その思いが通じたのか、奴が姿を現した。

 

次郎「・・・なんや、これ。

   こんなに色とりどりかつ上物なパンツが・・・大集合しとるっ!?」

 

 感動からか、身体を震わせながらゆっくりと下着に近づいていくバカ。

 

次郎「これは天からの贈り物や・・・。

   しかもこの匂いは、美少女のパンツに違いないっ!!」

 

 匂いでそんなことまで解るのか・・・。

 

エリナ「一匹だけ? もう一匹は?」

 

セリナ「・・・見当たりませんね」

 

亜梨沙「どうします?」

 

 みんなが俺を見つめる。

 

和也「・・・確保しよう。

   たぶんもう一匹は助けにくるはず。

   そこを狙おう」

 

 その言葉を聞いた亜梨沙が動き出す。

 一気に小動物との距離を詰める。

 

次郎「何やてっ!?」

 

 直前で亜梨沙に気づいた小動物は、下着を盗らずに後ろに下がる。

 しかし―――

 

リピス「残念だったな」

 

 後ろに回りこんでいたリピスに、あっさりと捕まってしまう。

 

次郎「離せぇぇぇぇ!!

   離さんか~~~ぃ!!」

 

 ジタバタと暴れるが、リピスが尻尾をしっかりと掴んでいて

 逃げることが出来ない。

 

太郎「次郎っ!!

   今助けるでぇぇ!!」

 

 どこからともなく叫び声が聞こえたと思うと

 リピスの腕に向かって何かが高速で飛んでいく。

 

太郎「ふげぇ!!」

 

 しかし、見えない壁にぶつかって大きく弾き飛ばされてしまう。

 

エリナ「ウインドシールドは、不可視ってのが便利なのよねぇ」

 

 得意げに語るエリナ。

 彼女には事前にこうなると予想して防御魔法を使ってもらっていた。

 

次郎「あ、兄貴!!」

 

太郎「ま、まだや。

   まだ終わらんでぇ!!」

 

次郎「兄貴!! 兄貴だけでも逃げてくれ!!」

 

太郎「次郎、何を言うんや!

   お前を置いて逃げれるかいな!!」

 

メリィ「なかなか良い度胸ですねぇ。

    た~っぷりとお相手して差し上げますから、大丈夫ですよぉ♪」

 

 メリィさんを筆頭に女性陣の笑顔と殺気を感じ取った太郎という名の

 小動物は、ジリジリと後ろに下がる。

 

セオラ「早朝から皆さんで、何をしているのですか?」

 

 騒ぎに気づいたセオラ先生がこちらにやってきた。

 この女子寮には未婚の女性教師も住んでいるため、寮内でも

 出会うことは多かったりする。

 一瞬全員がセオラ先生に気を取られた隙を突いた小動物は、走り出す。

 

太郎「じ、次郎。

   必ず助けるさかいに、待っとけよ!!」

 

 そう言いながらも俺達の間を綺麗に抜けていくが・・・

 

セオラ「・・・この生き物は何ですか?」

 

 セオラ先生の超反応により捕まってしまう。

 

和也「実はですねぇ・・・」

 

 俺達は一連の下着泥棒事件の顛末を先生に語った。

 

セオラ「・・・なるほど、そういうことですか」

 

 まるで生ゴミを持つように尻尾の部分だけを掴みながら

 ジト目で小動物を眺める先生。

 

太郎「離せぇぇぇ!!

   離さんかぃ、このババァ!!」

 

 ドゴッッ!!!

 

太郎「ごふぅ!!!」

 

 尻尾を掴んでいた先生が、命知らずの生き物を振り回して

 壁に激突させる。

 

次郎「あ、兄貴ぃぃぃ!!」

 

太郎「だ、大丈夫や・・・。

   こんな年増のこうげぶぅ!!!」

 

 先生は、根性のある生き物の両足をしっかり片手で持つと

 そのまま生き物の上半身を物干し台の金属部分に、無造作にぶつける。

 

太郎「ワ、ワシは・・・負け、へん。

   こんなバ―――」

 

 何か言いかけたようだが、再度金属部分に頭を激突させられ

 口から泡を吹いて失神する無謀な生き物。

 

次郎「兄貴ぃぃぃぃぃ!!!」

 

セオラ「さて、貴方はどんな声を出してくれるんでしょうねぇ?

    うふふふふっ♪」

 

次郎「ま、待ってんか・・・。

   ちょ、や、やめ・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 その後、小動物達の自供通り、森の奥から大量の下着が発見され

 この下着泥棒事件は終わりを告げた。

 ちなみに、二匹の小動物はセオラ先生が連れて行ってしまったので

 恐らく地獄を見ることになるだろう。

 先生に年齢の話を振るなんて、命知らずな連中だ。

 

 

 

 次の日の朝。

 教室に着くと、いつも通りの場所に荷物を置きながら

 フィーネや亜梨沙と世間話をしていた・・・そんな時だった。

 

太郎「おい、お前ら席に着かんかぃ!!」

 

次郎「姉さんが来られるさかいに、しゃんとせぃ!!」

 

 何故か昨日の変態生物が教壇に居た。

 

フィーネ「和也、あれって・・・」

 

和也「昨日の・・・だよな」

 

 教室の連中も何事かと戸惑っていると、セオラ先生がいつも通り

 教室に入ってくる。

 

セオラ「さあ皆さん、席に着いて下さい」

 

和也「あの、先生」

 

セオラ「何ですか? 生徒、和也」

 

和也「『それ』ってどういうことですか?」

 

 偉そうにふんぞり返っている例の二匹を指差しながら質問する。

 

セオラ「しばらく悪さをしないように監視することにしました。

    まあ、そういうことです」

 

 なるほど、先生の監視下なら何も悪さは出来ないだろう。

 

セオラ「では、はじめましょうか」

 

太郎「セオラ様。

   ささ、今日の予定表でございます」

 

次郎「お前ら、しっかり聞けよ。

   姉さんの言葉を聞き逃すんじゃね~ぞ!」

 

亜梨沙「・・・すっかり調教されてますね」

 

 従順な召使と化した二匹の生き物を見た亜梨沙の感想に

 フィーネも苦笑いしながら頷いた。

 

セオラ「今日は、皆さんに新しい転校生を紹介します」

 

 突然のサプライズ報告に、教室がざわつく。

 そしてそんな周囲の反応をまるで気にしないかのように

 教室のドアを開けて転校生が入ってくる。

 

フィーネ「あ・・・」

 

 フィーネが隣で声をあげる。

 俺も思わず出そうになったが何とか堪えた。 

 

亜梨沙「ん? 知り合いなんですか?」

 

 転校生として入ってきた魔族の女の子。

 その紅色の髪と整った顔立ちは忘れるはずもなかった。

 

フィーネ「・・・魔界でちょっとした知り合いなのよ。

     あの娘、何しにきたのかしら?

     学校なんて興味ないとか言ってた癖に・・・」

 

ミリス「ミリス=ベリセンと申します。

    よろしくお願いしますねっ☆」

 

 最低限だが、笑顔で明るい挨拶をする少女。

 その可愛さに男生徒達は歓声をあげる。

 ただ、同時に別のざわつきと共に『紅の死神』という単語が飛び交う。

 

セオラ「皆さんも知っているように、彼女は『紅の死神』という

    二つ名を持つ、魔界で数々の実績を上げている実力者です。

    ちょっかいを出すなら、それなりの覚悟をしておきなさい」

 

 先生の説明に、ざわつきが膨れ上がる。

 昔、神族の強硬派が魔族側の重要人物の暗殺を企て

 実力者のみで構成された特殊部隊を派遣したが

 『紅の死神』と呼ばれる魔族、たった1人によって

 壊滅させらたという話が、死神の代表的な噂話である。

 その他にも、魔界に対して反抗的な勢力や魔王妃に敵対している

 勢力を次々と壊滅させたとされており、その武勇伝の多さから

 大戦争後に登場したにも関わらず四界中に

 その名が知られる有名人である。

 

 一通りの挨拶が終わるとミリスは、ゆっくりとこちらにやってくる。

 そして俺の近くまで来ると、視線を合わせた上で

 こちらに満面の笑みを浮かべると、そのまま無言で奥の席に

 座ってしまう。

 

 そんな行動に、隣に居た亜梨沙とフィーネが首をかしげる。

 

和也「・・・面倒なことになったなぁ」

 

 そう・・・彼女こそ、この前襲ってきた魔族の少女だったからだ。

 目立たずに卒業するはずだった俺の学生生活は

 こうして次々と面倒ごとに巻き込まれていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

第3章 下着泥棒と紅の死神 ~完~

 





ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

今回は、比較的ギャグ回になりましたが
どうでしたでしょうか?
今はまだ序盤ですので新しい登場キャラが次々と登場したり
設定の説明などが多くなってしまいますが
それなりに読むのが面倒になるような長文は避けているつもりです。

登場キャラが多いので、全てのキャラが埋もれることなく
使いきれるように気を使っていきたいと最近思っています。

それでは、次章でお会い出来ることを楽しみにしています。


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第4章 波乱のクラス対抗戦

 

 ガキィィン!! 

 

 

 いつもより明るい夜。

 そう、今日は満月だ。

 その満月の夜に響く異質な音。

 

和也「・・・だから、いい加減にして欲しいんだが」

 

ミリス「そういう訳には行きません。

    正直にフィーネ様との関係を白状して下さい。

    ・・・いえ、死んでくれればおっけ~ですっ♪」

 

 自身の身の丈を超えるほどの大斧を、軽々と連続で振り回すミリス。

 その連撃をギリギリで回避しながら、後ろに大きく跳躍して距離を取る。

 

和也「・・・困ったなぁ」

 

 いつもの日課である訓練中に突然現れた彼女に襲われて

 既に結構な時間が経つ。

 そろそろ俺の体力も限界だ。

 

ミリス「ここまで粘れるなんてミリス、正直驚きました。

    甘く見ていたこと、素直に謝罪しますね」

 

 まだまだ余裕そうな彼女を見て、つい苦笑してしまう。

 そろそろ真剣にどうするか決めなければならないか・・・。

 

 そんなことを思っている時だった。

 夜の闇を切り裂くかの如く、巨大な炎柱が出現して

 2人の間に壁を作る。

 

フィーネ「・・・これはどういうことかしら?」

 

 闇から現れたのは、静かな怒りを秘めたフィーネだった。

 

ミリス「・・・これはフィーネ様。

    こんばんはっ☆」

 

フィーネ「これはどういうことかと聞いてるのよっ!!」

 

 まるで何事も無かったかのように挨拶をするミリスに

 語気を強めて迫るフィーネ。

 

ミリス「うふふっ。

    少し試させてもらっただけですよ」

 

フィーネ「・・・そう、そんなに死にたいのね」

 

 のんきに答えるミリスに、フィーネが得物を構える。

 するとミリスは大きく跳躍して距離を取ったかと思えば

 儀式兵装をしまう。

 

ミリス「フィーネ様と、あまり敵対する気はありません。

    ですが、ご自分の立場というものを思い出して下さい。

    そうすれば、そんな男を構ってる暇なんて・・・」

 

フィーネ「そこまでよ、ミリス。

     これ以上、和也を悪く言うのなら・・・『殺す』わよ」

 

 ミリスの言葉を途中で遮るフィーネ。

 フィーネの殺気が本物だと察すると、ニヤッと笑みを浮かべてから

 闇夜に消えていくミリス。

 そして満月の夜に静寂が戻った。 

 

 

 

 

 

 

 

第4章 波乱のクラス対抗戦

 

 

 

 

 

 

 

 

教師「さあ、走れ走れっ!!」

 

 闘技場に教師の声が響く。

 今日は朝から実技訓練だったのだが、教師の思いつきにより

 体力作りのマラソンになっている。

 

教師「お前ら、魔法を使うなよっ!!」

 

 魔法を使いそうになっていた神族達は、注意を受けて不満を口にする。

 

教師「魔法を封じられた状態で戦うことだってある。

   その時、最後にものを言うのは基礎体力だぞ」

 

 今の世界、魔法無しの戦闘は考えられないほどに魔法が浸透している。

 しかし実際の戦場で、魔法が封じられるということは

 想定しなければならない。

 そのため、やはり基礎体力というのは重要になってくる。

 

フィーネ「魔法が封じられた戦場なんて、遠慮したいわね」

 

亜梨沙「しかし、そういったことも想定することは大事です」

 

和也「まあ、戦場ってのは何が起こっても不思議じゃないだろうしな」

 

 軽く走りながら雑談する余裕のある俺達は

 適当に流しながら授業を受ける。

 そしてやはり基礎体力と言えば竜族だ。

 うちのクラスの竜族達は、やはりというべきか先頭を走っている。

 

和也「そういや気麟って魔法になるのか?」

 

亜梨沙「さあ?どうなんでしょうね」

 

フィーネ「似たようなものだけど、根本的な元になる力が違うらしいわよ」

 

和也「ふ~ん。

   やっぱりそうなのか」

 

 ふと知っている竜界のお姫様の顔が頭を過ぎる。

 そういや前に同じようなことを直接本人に聞いたような気がする。

 

教師「お前ら、真面目に走らないなら追加で筋トレもやらせるぞっ!!」

 

遅れている生徒達「はぃ! すいませんっ!!」

 

 結局午前の授業は、そのまま走り続けるだけで終了した。

 

 

 

 昼休みになり、いつものメンバーで食事を取っている時だ。

 今日は走りこみしかやっていないという亜梨沙の話に

 リピスが反応した。

 

リピス「魔法が使えないといえば、今日の実戦訓練もそうらしいな」

 

和也「ん? 何かあるのか、今日?」

 

リピス「今日の午後、どうやら2階級は授業内容が変更されるらしいぞ。

    何でも魔法無しでのクラス対抗戦をやるって話だったか」

 

エリナ「え? 何それ?」

 

リピス「昼休み前に、丁度セオラに会ったんだが

    その時にそんな話をしてたんだよ」

 

セリナ「魔法無しってことは、魔法禁止というルールってことですか?」

 

リピス「詳しく聞いた訳じゃないから知らないが

    そういう話だったぞ」

 

エリナ「げっ。

    そんなの私、どうすればいいのよ」

 

亜梨沙「大人しくやられればいいんじゃないですか」

 

エリナ「それ、ひどいよ~」

 

和也「まあ、午後になれば嫌でも解るか・・・」

 

リピス「そうだな。

    ま、楽しそうなイベントになりそうだ」

 

 次の授業の話で盛り上がっている時だった。

 

 ピー! ピー! ピー! 

 学内アナウンスの音が入る。

 

セオラ「2階級の生徒全員にお伝えします。

    本日午後からは、授業を変更して野外実戦訓練となりました。

    ですので昼休み終了後は、教室ではなく校門前に戦闘訓練用装備で

    集合して下さい。

    繰り返します――――」

 

 先ほどの話を裏付けるかのように

 授業変更のアナウンスが校内に響いた。

 

和也「せっかくだし、このままみんなで行くか?」

 

 何気なく口にした台詞だったが、みんな嬉しそうに返事をしてくれた。

 ・・・その可愛さに、ちょっと照れてしまった。

 

 校門前から2階級全員で今日の授業場所へと移動する。

 

亜梨沙「ここは相変わらずですね」

 

 今日使う場所を見て、亜梨沙は声のトーンを下げながら呟く。

 目の前に広がるのは、森の中にひっそりと残っている廃墟達だ。

 ここは大戦争時に前線基地として利用された砦跡。

 周囲に森しかないため、全力で暴れるには最適な場所になっているため

 たまに授業で使用されている。

 

 全員居ることが点呼で確認されると、2階級主任教師である

 セオラ先生が話し始める。

 

セオラ「本日は、職員会議により午後の授業を変更することになりました。

    みなさんにとっては、良い経験となるでしょう。

    今回は、クラスごとによる対抗戦と致します。」

 

 生徒達が、一気に騒ぎ出す。

 クラス対抗戦は、各階級で行われる戦いの1つだ。

 その名の通り、各クラスごとに分かれてクラス単位を部隊単位とする

 部隊戦となっている。

 闘技大会と違って、個々の技量よりも全体の団結力が

 勝敗を左右しやすい。

 

セオラ「盛り上がっているところ申し訳ありませんが

    そのままルールの説明をします。

    1度しか言いませんので、聞き逃しても知りませんわよ」

 

 その言葉で騒ぎは、若干落ち着く。

 おかげで何とか先生の言葉を聞くことが出来た。

 

セオラ「今回のルールは、次の通りです。

    1つ、生存数が10名以下になったチームは即敗退とします。

    1つ、今回は魔法・気麟の使用を禁止します。

    1つ、勝利条件はありませんので

       生存することを優先して下さい。

    1つ、今回の―――」

 

 ルールが1つ発表されるたびに歓声が起きる。

 元気な連中だ。

 

エリナ「え゛っ!?

    やっぱり魔法無しなのかぁ~」

 

セリナ「勝利条件が無いのなら、戦わない人が増えるような・・・」

 

 まあ2人の声は、もっともだ。

 魔法使いに魔法禁止は、戦えないのと同義である。

 そして勝利条件が無く、生存を優先するなら戦わないのが一番だ。

 

セオラ「・・・しかし、このルールでは誰も戦わないでしょう。

    ですから今回、チーム撃破数が3チームを超えたチームは

    本日出ている課題を全て免除して差し上げますわっ!!」

 

 当然ながら戦わない生徒が出ることも予想済みだと言わんがばかりに

 俺達からすれば非常に魅力的な提案を力強く宣言する。

 それを聞いた生徒達からの歓声が、最高潮に達する。

 

リピス「今日は、教科書を丸写すだけの面倒なものが多かったからな」

 

 隣に居る竜姫様は、撃破報酬に大変気合が入ってしまわれている。

 ・・・これは面倒なことになりそうだ。

 

 

 一通りの説明が終わると、各クラスごとに固まって

 スタート位置に移動する。

 

セオラ「それでは、ルール限定・クラス対抗戦を開始いたします。

    皆さん、正々堂々戦って下さい。

    では、スタートッ!!」

 

 開始宣言と共に歓声があがり、血の気の多い奴から走って

 敵の居る方向に進んでいく。

 

 ―――そして二時間後

 

セオラ「前半戦、終了!!」

 

 先生の声が森に響く。

 今回の戦いは前半、後半の2回を争う戦いだ。

 しかし後半戦は前半戦で、やられた奴の復活などはない。

 ただの休憩タイムである。

 

 俺達のクラスは、会場中央にある大きな砦を占拠して・・・

 いや『追い込まれて』おり、その中で休んでいた。

 

ギル「お、まだ残ってたみたいだな」

 

和也「ん? ああ、ギル=グレフか」

 

 休憩中に声をかけてきたのは、ギル=グレフだった。

 

ギル「かなりやられちゃったからねぇ、色々と」

 

和也「そうだな。

   『色々と』面倒なことになったな」

 

 俺達の状況は、実はかなりヤバイ状態だ。

 魔王の血族様を含めた特攻隊のおかげで、余計な戦いが多くなり

 最終的に敗残兵の如く、狩られる側になってしまった。

 そしてその原因を作った魔王の血族様達、主だった主力の連中は

 リピスの『チーム・竜姫』に正面から突貫して、あえなく散っていった。

 魔法が使えない状況で、よくあんな無謀なことが出来るものだ。

 

亜梨沙「もう勝つことは無理でしょう」

 

フィーネ「まあ、こうなったら生存を優先することしか出来ないわ」

 

 彼女達の言うように、勝つのは不可能だ。

 なにせ現在、うちのクラスでの生存者は13名。

 敗北条件の1つである10名以下ギリギリだ。

 そして残っているのは

 俺と亜梨沙の人族2人。

 フィーネ、ミリス、ギルの魔族3人。

 神族の女の子が3人。

 あとの5人は全員竜族の娘だ。

 

 それに比べて生き残っている他チームは、まだかなりの人数が居る。

 正直絶望的と言わざるおえない状況だ。

 

和也「だったら、連中を巻き込んでやるか」

 

 俺はそう言うと、戦況が表示される魔力端末を操作する。

 

ギル「お、何か面白いこと考えたみたいだな」

 

和也「面白いかどうかは解らんが・・・。

   とりあえず全員、悪いんだが見てくれ」

 

 周囲のクラスメイト全員に呼びかける。

 人族である俺の呼びかけに、顔を見合わせるクラスメイト達。

 

ギル「どれどれ、俺にも見せてくれ」

 

 ギルが大げさなリアクションをしながらこちらに歩いてくる。

 それを見ていた他の娘達も、集まってきてくれた。

 

 そして全員が戦況を確認出来る状態となったことを確認して

 俺は、話を始めた。

 

和也「まず生き残っているチームは、俺達を含めて3チーム。

   俺達のチームは残念ながら撃破チーム1だ。

   そして残っているチームの1つは

   神族王女姉妹が率いるチームで現在2チーム撃破。

   残りの1つが、竜族王女率いるチームで

   こちらも現在2チーム撃破」

 

フィーネ「やっかいなチームが残ったって訳ね」

 

和也「そういうことだな。

   そして前半戦終了直前、俺達のチームは

   挟撃を受けたのを覚えているか?」

 

亜梨沙「ああ、左右から同時に攻撃されていましたね。

    それでこの砦に逃げ込んだわけですし」

 

ギル「なるほど。

   王女様方は、強いチーム同士の潰し合いよりも

   潰れかけの俺達を狙って3チーム撃破を狙っていると

   ・・・そういうことか」

 

和也「理解が早くて助かる。

   つまり後半戦は、この2チームが事実上同盟を組むような形で

   襲ってくる確率が高い」

 

 そんな俺の予想に、神族の娘達から泣きそうになっている。

 まあ無理もない。

 圧倒的な戦力差になってしまうからな。

 

和也「そこでだ。

   このままじゃ負けるわ、どっちかのチームが3撃破ボーナス貰うわで

   つまらないから、巻き込んでやろうということだ」

 

フィーネ「どういうこと?」

 

和也「俺達は、まず最低限として生き残る。

   それだけで、向こうは3撃破出来ないからボーナスが貰えない。

   つまりみんな一緒に課題やろうぜってことだな」

 

ギル「なるほど、確かに自分達が貰えないなら相手を巻き込んで

   全員もらえなくしてしまえば、例え事実上の負けでも

   一矢報いたってことになるか。

   ・・・面白いこと考えるね」

 

亜梨沙「でも、実際どうするんですか?

    普通に戦ったら確実に押し潰されますよ?」

 

和也「それなら考えがある。

   だが、それにはここに居る全員の協力が必要なんだ」

 

 改めて周囲を見て、そして言葉を続ける。

 

和也「作戦に、協力してくれないか?」

 

 数秒の沈黙が流れる。

 これは無理か?と思った時だった。

 

フィーネ「私は、もちろん協力するわ。

     だって私は、和也と一心同体だもの」

 

亜梨沙「私も当然、協力します」

 

ギル「俺も協力するぜ。

   この状況で引き分け以上は狙えないだろうし

   代案があるわけでもないからな。

   ・・・そして何より、面白そうだ」

 

竜族達「わ、私達も協力します」

 

神族の3人「わ、私達も・・・」

 

 次々と声を出してくれるクラスメイト達。

 今までロクに会話すらしたことがない娘達であり

 種族的なこともあって拒否されると思っていただけに

 素直に嬉しかった。

 

フィーネ「・・・で、アナタはどうするのかしら」

 

 ただ1人、隅っこで様子見を決め込んでいた紅の死神ミリス=ベリセン。

 彼女は、わざとらしいぐらいに盛大なため息をつくと

 

ミリス「別に構いませんよ。

    今は『まだ味方』ですからね」

 

 意味ありげな台詞と共に、一応の参加を約束してくれた。

 その発言にフィーネの表情が険しくなったが

 ミリスはまったく気にしていない。

 

和也「・・・じゃあ時間も無いし、作戦を説明するぞ」

 

 

 

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 

 

セオラ「それでは時間ですっ!

    後半戦を開始致しますわ。

    では、スタートッ!!」

 

 後半戦開始が開始される。

 そして勢いよく飛び出していく生徒達。

 

?「姫様、偵察部隊が敵と交戦になったようです」

 

 開始宣言から、少し時間が経ったころ。

 傍に控えていた竜族の声に、ゆっくりと閉じていた瞼を開ける。

 

リピス「アイリス、彼らはまだ脱落してなかったんだな?」

 

アイリス「はい。

     人族の2人は、共に健在です。

     あと『漆黒の悪魔』『紅の死神』と魔族のギル=グレフも

     生き残っているとの報告があります」

 

リピス「残りわずかとはいえ、それなりに厄介なのも残ったか。

    さすが、と言っておくか」

 

?「でも、リピス様。

  その人族、そんなに警戒する必要ってあるんですかぁ?」

 

 反対側に立っていた竜族が不思議そうに聞いてくる。

 

リピス「ああ、気が抜けん相手だ。

    リリィも気をつけるんだな」

 

リリィ「はぁ~ぃ」

 

 とりあえずクラスメイト達を見渡す。

 誰もが私の指示を待っている状態だ。

 それは種族が違うはずの神族・魔族も含んでいる。

 他種族とはいえ、王族に対してそれなりに気を使っているのだろう。

 まあ、私に噛み付いた時点でメリィを含めた竜族達が

 先に色々してしまうのも影響しているのかもしれない。

 

 竜族の姫という重さに、改めて嫌気が差す・・・が

 だからといって、逃げ出す訳にもいかない。

 嫌な考えを打ち切るように頭を横に振ると思考を切り替える。

 

リピス「では、攻撃を―――」

 

 攻撃の号令をかけようとした時だった。

 

?「リピス様ぁぁぁぁぁ!!!」

 

 土煙と共に一人の竜族がこちらに向かってくる。

 そして―――

 

リピス「あ・・・」

 

?「あ・・・」

 

 切り株の根っこに足を引っ掛け

 

?「ふにゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 盛大に転がって私の後ろにある大木に、ぶつかった。

 

アイリス「はぁ・・・」

 

リリィ「あらあら」

 

リピス「・・・何をしているんだ、カリン」

 

カリン「も~しわけぇありましぇ~ん」

 

アイリス「・・・カリン。

     とりあえず逆さまになってる状態から何とかしなさい」

 

カリン「はぅ!?」

 

 指摘され、申し訳なさそうに立ち上がると

 

カリン「ああ、そうでした。

    リピス様、大変なんですっ!!」

 

リピス「何があったか、頼むから落ち着いて話してくれ」

 

 私は、苦笑いをしながらなだめる。

 

カリン「実は―――」

 

 

 

 同時刻・神族王女姉妹陣営

 

神族男生徒「セリナ様、偵察部隊が敵と接触いたしました」

 

セリナ「そうですか。

    ありがとうございます」

 

エリナ「そういえば、調査はどうなったの?」

 

神族男生徒「それに関しては既に調査済みです。

      人族2名の他に『漆黒の悪魔』や『紅の死神』

      またギル=グレフも健在との報告があがっています」

 

エリナ「そっか、ありがと」

 

 一礼すると神族男生徒は、その場を離れる。

 彼女達のクラスは、ほとんどが王女姉妹の親衛隊で構成されている。

 そのためチーム戦では、自動的に彼女達が指揮することに

 なってしまっていた。

 

エリナ「やっぱりまだ残ってたかぁ」

 

セリナ「楽しそうね、エリナちゃん」

 

エリナ「そう?

    私としては最近、セリナちゃんも楽しそうだと思うんだけど」

 

セリナ「そう、かな」

 

エリナ「うん、そう見えるよ」

 

セリナ「そっか」

 

 自由に生きようとする妹を見て、少し羨ましく思える。

 私も、彼女のように自由に生きることが出来ればと。

 

神族女生徒「セリナ様、エリナ様、大変ですっ!」

 

 突然、息を切らせて走りこんでくる神族女生徒。

 

セリナ「どうしました?」

 

神族王女生徒「そ、それが―――」

 

 

 

 

 同時刻・廃墟砦西側

 

神族男生徒A「ふん、そんなもの効くか!」

 

 神族女生徒が放った矢を、男生徒は剣で弾く。

 

神族女生徒「に、逃げよぅ!」

 

 その場に居た2人の女生徒と共に3人は逃げ出す。

 

神族男生徒A「逃がすかよ」

 

神族男生徒B「ははっ、待てよ」

 

 まるで狩りを楽しむかの如く、逃げた女子生徒を追いかける男生徒達。

 薄暗い廃墟となっている砦の中に入った瞬間だった。

 

竜族生徒1「おりゃ!」

 

竜族生徒2「はっ!」

 

男生徒達「ぐはぁ!!」

 

 暗がりから突如飛び出した竜族生徒による打撃をまともに受けて

 追いかけていた生徒達が次々と気絶していく。

 

魔族男生徒「く、くそっ!」

 

 神族達の後ろに控えていた魔族生徒達は迎撃体勢に入るが

 竜族達はスグに砦の中へ逃げてしまう。

 

魔族女生徒「ちょ、何それっ!?」

 

魔族男生徒「きっと俺達を誘い込もうとしてるんだよ。

      誰がそんな手に―――」

 

ギル「残念。

   もう少しだけ先を読めるようにならなきゃな」

 

魔族生徒達「!?」

 

 突如後ろに現れたギルの一撃で魔族生徒達は、気絶する。

 周りに敵が居ないことが確認出来ると、先ほど逃げていった

 神族女生徒3人組も姿を現す。

 

神族女生徒「上手くいきましたね」

 

竜族生徒1「そりゃもう、ギルくんの指揮だもん」

 

ギル「そんなに褒められたら俺、照れちゃうじゃない」

 

 戦闘訓練中とは思えないほど、華やかな笑い声が響く。

 

竜族生徒3「お~ぃ。 どうやら上手くいったぽいよ~」

 

 近くの大きな木の上で見張りをしていた竜族生徒が

 手を振りながら声をかけてくる。

 

ギル「おや、さすがだねぇ」

 

 

 

 

 同時刻・廃墟砦東側

 

神族男生徒「つ・・・強い」

 

魔族男生徒「これが噂に名高い『漆黒の悪魔』の実力かっ!?」

 

 周りには、既に数人の生徒が倒れている。

 何度も、一斉に攻撃を仕掛けているのに簡単に返されてしまうどころか

 攻撃をするたびに、何人も逆に倒されてしまう。

 実力の差を見せ付けられて彼らは、すっかり尻込んでしまう。

 

神族女生徒「で、でも囲んでしまえば・・・!!」

 

 そう言ってフィーネの横に回ろうとした女生徒だったが

 

ミリス「残念で~すっ♪」

 

神族女生徒「きゃぁぁぁ!!」

 

 突如現れたミリスの一撃で、女生徒は大きく吹っ飛んで気絶する。

 

魔族男生徒「『紅の死神』までっ!?」

 

魔族女生徒「そんな・・・どうすれば」

 

神族男生徒「ぞ、増援だ。

      増援を呼ぶぞっ!」

 

 ついに緊張に耐えかねた生徒が逃げるように後ろに下がろうとする。

 

亜梨沙「逃がしませんよ」

 

神族男生徒「っ!?」

 

 いつの間にか後ろに居る亜梨沙に反応しようとするが

 振り向く前に斬られる。

 

魔族女生徒「・・・そんなっ!?」

 

フィーネ「あら、こっちを向いてなくていいのかしら?」

 

ミリス「とりあえず倒れて下さいねっ☆」

 

 圧倒的な攻撃を前に叫び声すらあげれずに、次々と倒されていく生徒達。

 気づけば、あれだけ居た生徒達は全て倒されてしまっていた。

 

ミリス「手ごたえが無さ過ぎます」

 

フィーネ「何を期待してるのやら・・・。

     あ、そういえば亜梨沙が来たってことは―――」

 

亜梨沙「はい。

    成功したので撤退して下さい」

 

 

 

 

 同時刻・砦中央の森

 

和也「・・・はぁ、疲れた」

 

 俺は砦に何とか走って逃げ帰る。

 何度も後ろを警戒したが、誰も追ってきている様子はない。

 

 とりあえず作戦の成功を確認するため廃墟砦の屋上にあがる。

 すると、そこには既に残りのクラスメイト達が集合していた。

 そして俺を見つけると、みんなは満足そうな笑顔を見せてくれる。

 その顔を見て、作戦の成功を確信する。

 

 俺は、ゆっくりとみんなの横を抜けて

 屋上から下にある広場を眺められる位置へと移動する。

 そこには・・・

 

 両クラスが大激突する戦場が、広がっていた。

 西側は、竜族を正面に集めた△の形をした魚鱗陣で

 中央突破を仕掛けており

 東側は、両翼を前方に張り出し『∨』の形を取る鶴翼陣形で

 応戦していた。

 どちらも決め手に欠けており、中央は本物の戦場さながらの

 激戦区となっていた。

 

和也「よし、じゃあ最後の仕上げといきますか」

 

 俺の掛け声で、俺達のクラスも動き出す。

 

 

 

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 

 

 戦いは、泥沼のようになってきていた。

 それを打開すべく、西側陣営は動き出す。

 

神族男生徒A「で、出たっ!

      竜姫が来るぞっ!!」

 

 西側から迫る新たな増援を見つけた神族が声をあげる。

 その言葉に、一気に動揺が広がる。

 リピスが普段からよくチーム戦で組んでいるメンバーを

 『チーム・竜姫』とみんなは呼んでいるが、彼女らの強さは

 2階級では、広く知られている。

 数々の試験で、手当たり次第に他チームを潰して歩く姿から

 『破壊神』と呼ばれることもあるほどだ。

 

神族女生徒「金色の竜牙を、これ以上進ませちゃダメっ!!」

 

神族男生徒B「俺達、セリナ様親衛隊の力を見せる時だっ!!」

 

セリナの親衛隊「おおっ!!!」

 

神族男生徒C「エリナ様親衛隊っ!

      俺達の力をエリナ様にご覧頂く絶好の機会だっ!!

      気合入れていけよっ!!」

 

エリナの親衛隊「いくぜぇぇぇ!!!」

 

 中央に陣取る神族達から気合の入った雄たけびが聞こえてくる。

 しかし、まったく気にすることなく突撃する竜族達。

 

竜族生徒A「あの残念な変態共を蹴散らすわよっ!!」

 

竜族生徒B「我らがリピス様に勝利を!!」

 

アイリス「では、行きますっ!」

 

リリィ「は~ぃ。

    いっきますよぉ~♪」

 

カリン「頑張りますっ!!」

 

 激戦区だった中央が、更に激しさを増す。

 互いに姫様の親衛隊同士の意地のぶつかり合い。

 中途半端に引けない分、やっかいでもある。

 

神族男生徒C「うぉぉぉ!!

      竜姫、覚悟ぉぉぉ!!!」

 

 乱戦を上手くすり抜けた敵生徒がリピスに斬りかかる。

 だが―――

 

神族男生徒C「・・・なっ!?」

 

 一瞬のことだった。

 やられた生徒は何故自分が今、倒れているのか理解出来ていない。

 

リピス「さあ、敵本陣は目前だっ!

    一気に押し込めっ!!」

 

 自分に攻撃してきた相手のことなど、まったく気にせずに

 自部隊に指示を出しながら前進するリピス。

 本当の戦争を経験してきた彼女からすれば、死ぬ危険がほとんどない

 お遊びのようなものであり、勝って当然の戦いである。

 

リピス「・・・アイリス」

 

アイリス「はっ!」

 

リピス「私は客人を出迎えてくる。

    ここを任せるぞ」

 

アイリス「姫様お一人では―――」

 

リピス「私の決定に不満が?」

 

アイリス「い、いえ!」

 

リピス「お前まで居なくなっては前線が維持出来ない。

    だから頼むのだ。

    わかるな?」

 

アイリス「・・・はい」

 

リピス「では、頼んだぞ」

 

アイリス「姫様も、お気をつけ下さい」

 

 リピスはアイリスにその場を任せると反転して後方へと向かう。

 

リピス「さあ、和也。

    お前が作りたかった状況を、わざわざ作ってやったんだ。

    ・・・私を楽しませてくれよ」

 

 

 

 同時刻・東側陣営

 

エリナ「ちょ、中央押されすぎなんだけどぉ!?」

 

 中央の指揮を執っていたエリナは、焦っていた。

 何せ今の自分は魔法の使えない役立たずだ。

 一応、それなりの武術なども身に付けてはいる。

 乱戦をすり抜けて迫ってくる相手を儀式兵装の杖で

 倒せてはいるのだが、やはり苦手なものは苦手だ。

 

 また基本的に魔法を使用しない戦いでは

 どうしても竜族が有利となってしまう。

 たとえ気麟が無くとも、竜族の身体能力は、それほどにやっかいなのだ。

 

神族男生徒A「で、出たっ!

      竜姫が来るぞっ!!」

 

 そんな声が前線から響く。

 更に慌しくなる陣営。

 

エリナ「リピスまで来たら、もう止められないよぉ~」

 

神族男生徒D「ご安心ください、エリナ様」

 

神族女生徒「我々親衛隊が、必ず止めてみせますっ!」

 

 周囲に居た神族達は、そう宣言するとエリナに一礼して

 前線に向かっていく。

 

エリナ「セリナちゃん、早くしてねぇ~」

 

 空に向かって不安そうに声を出すエリナ。

 彼女の絶対的な自信は、魔法にある。

 その自信そのものを禁止されている状態では

 どうしても不安になってしまう。

 だが、彼女はそんな自分にダメ出しをする。

 

エリナ「実際の戦場じゃ、こんなことあっても不思議じゃないんだし

    こんなんじゃダメだよねっ!」

 

 気合を入れ直すが、それでも不安な気持ちは消えてくれない。

 

エリナ「はぁ~。

    和也とか来ないかなぁ」

 

 和也が居てくれれば、こんな不安もきっと―――

 

エリナ「お?」

 

 あれ?何で和也?

 しかも和也は、今回敵なわけで・・・

 

エリナ「あれぇ?」

 

 不安な気持ちは無くなったが、今度は和也のことで疑問が生まれる。

 どうして今、和也だったのだろう・・・。

 

 

 

 数分後・西側陣営後方

 

神族男生徒「て、敵だっ!!」

 

竜族生徒E「そんなっ!?

     どうしてこんな後ろからっ!?」

 

 陣営の後方から突如襲撃する東側軍勢。

 

魔族男生徒「神族だけだと思うなよっ!!」

 

竜族生徒F「そうよっ!

     私達だって居るんだから!!」

 

セリナ「みなさん、敵は隙を突かれて動揺しています。

    一気に蹴散らして勝利しましょうっ!!」

 

 本陣をエリナに任せて、別働隊を指揮していたセリナが

 西側陣営の後方に回り込んで奇襲を仕掛ける。

 この戦いは、相手チームを10人以下にしてしまえば良いという試合だ。

 正面から強い相手を倒しにかかる必要はない。

 

 奇襲が成功し、勝利を確信したセリナだったが――

 

神族男生徒「セリナ様っ!

      金色の竜牙がっ!!」

 

セリナ「えっ!?」

 

 

 

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 

 

竜族生徒G「主力は、ほとんど前線に行っちゃってるのに、どうするのよ~」

 

魔族女生徒「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

 

 突然の奇襲に混乱している西側陣営。

 

リピス「落ち着けっ!!

    しっかりと体勢を立て直せば十分追い返せるっ!!」

 

 最前線に居るはずのリピスの登場に一瞬周囲が静まり返るが・・・

 

神族男生徒「金色の竜牙だっ!」

 

竜族生徒E「リピス様が助けにきてくれたわっ!!」

 

リピス「我々は誇り高き竜族の戦士っ!

    どんな状況でも、誇りを胸に気高く歌えっ!!」

 

 

西側生徒達「うぉぉぉぉ!!!」

 

 リピスの激励により、一気に士気が最高潮に達する。

 

リピス「さあ、我々の力を奴らに見せつけてやれっ!!」

 

 彼女の言葉に、先ほどまで混乱していたとは思えないほど

 統制の取れた動きで反撃体勢を整える西側陣営の生徒達。

 

竜族生徒G「リピス様がいらっしゃれば勝てるわっ!!」

 

神族女生徒「勝利を約束された竜姫と共に!!」

 

 次々とリピスを称える西側陣営の生徒達。

 リピスは大戦争が終結する末期頃に戦場に出たのだが、そんな彼女が

 四界にその名を轟かすことになったのには理由がある。

 その1つが、生徒達が言う『勝つ』ということだ。

 

 リピスが戦場に出た戦いで、竜族は負けたことが無い。

 どんなに劣勢な状況でも、リピスが戦場に駆けつければ

 必ず引き分け以上の結果を残しており、敗北したことは一度もない。

 そんな勝利の女神に愛されたかのような結果が

 大戦争末期、わずかに登場しただけの彼女に

 二つ名と名声を与えることになった。

 

 一斉に反撃してくる敵を見て、思わず奇襲を仕掛けた側が浮き足立つ。

 

魔族男生徒「な、何なんだこいつらっ!?」

 

神族女生徒「奇襲をかけたのは、私達のはずなのにっ!?」

 

セリナ「皆さん、落ち着いて下さいっ!

    こちらの方が押していますっ!!

    焦らず確実に敵を撃破して下さいっ!!」

 

 仲間を激励するも、心の中でセリナは焦っていた。

 ある程度は対応されると思っていた作戦だったが

 予想以上に上手く決まった。

 これは勝ったと思えた展開を

 竜族王女リピス=バルトたった1人の登場で

 こちらが逆に押し込まれる結果となってしまったのだ。

 

 これが実戦経験の差なのだと思いたい。

 でなければ、自分は何のための王女なのか。

 

 悪い考えばかりなのは自分の悪い癖だ。

 自身の勝利をイメージしながら剣を手に取り、私も敵陣に突撃する。

 

 

 そのころ、東側本陣前で戦況が動き出す。

 

アイリス「押せっ! 押し込めっ!!」

 

 西側陣営の本体が東側陣営の本陣を突き崩すところまで来ていた。

 

エリナ「これは・・・まずいなぁ」

 

 もう組織的な攻撃が出来ているのが奇跡な状況だ。

 本当の戦争なら、とっくに退却命令を出している。

 

 そろそろ最後の突撃をする覚悟を決めるか。

 そんな心の整理をしている時だった。

 

和也「おや、思ったより本陣に人が居ないな」

 

エリナ「・・・え?」

 

 

 数分後・中央激戦区

 

魔族男生徒「くそっ!

      もう持たないぞ!」

 

神族女生徒「そんなこと解ってるわよっ!!

      それでも、エリナ様のところへ

      行かせる訳にはいかないのっ!!」

 

アイリス「申し訳ありませんが、あなた方はここで終わりです」

 

 吹き抜ける風の如く、蹴りによる一閃が生徒達を襲う。

 

 ガキィィン!!

 

フィーネ「楽しそうね、混ぜてもらえないかしら?」

 

アイリス「『漆黒の悪魔』だとっ!?

     バカな・・・何故敵対勢力を守るっ!?」

 

ミリス「そんなの、決まってるじゃないですかっ♪」

 

カリン「させませんっ!!」

 

 ガギィィ!!

 

 アイリスに向けてミリスが放った大斧による一撃を

 カリンが割り込んで受け止める。

 

リリィ「あらまあ。

    『紅の死神』まで居ますねぇ~」

 

亜梨沙「我々は同盟を結びましたっ!!

    一気に『チーム・竜姫』にトドメを刺しましょうっ!!」

 

 亜梨沙の声に、崩壊しかけていた東側陣営が息を吹き返す。

 

神族男生徒「『漆黒の悪魔』に『紅の死神』と同盟だってっ!?

      ・・・これはいけるかもしれないぞっ!!」

 

魔族女生徒「最後のチャンスよっ!!

      思いっきり暴れてやるわっ!!」

 

 時間も押し迫ったクラス対抗戦。

 その最後に特攻を仕掛ける東側陣営。

 わずかではあるが同盟という形で得た『増援』というものが

 士気を最高潮に押し上げた。

 

アイリス「くっ!

     体勢を立て直せっ!!」

 

リリィ「これは~・・・無理かなぁ~」

 

 もう誰もが限界の疲労を抱えていた。

 そして勝利することが確定していた状態からの予想外な

 展開によって、勝利から遠ざかってしまった西側は

 もう気力も尽きかけていた。

 

 対して誰しもが敗北を覚悟していた状況から援軍が到着し

 反転攻勢に出た東側は、勝利を確信して突撃を仕掛けている。

 この流れを止めるのは不可能だった。

 

アイリス「ま、まだだっ!

     まだ―――」

 

フィーネ「往生際の悪い指揮官は、戦死も早いらしいわよ?」

 

アイリス「くっ・・・!!」

 

 再び部隊をまとめようとしているアイリスに攻撃を仕掛けるフィーネ。

 アイリスは何とか回避するものの、とても『漆黒の悪魔』を

 相手にしながらという訳にはいかない。

 

カリン「今行きますっ!!」

 

ミリス「あら、どこに行くんですかぁ?」

 

カリン「にょわぁぁぁ!!」

 

 援護に行こうとしたカリンだったが、ミリスに妨害されてしまう。

 一瞬でも気を抜けばやられると本能的に察したカリンは

 ミリスと向き合った状態で動けなくなる。

 

リリィ「これは困りましたねぇ」

 

亜梨沙「そうですね。

    出来ればそのまま大人しくしてて貰えると助かります」

 

 こちらもお互いに背中を向ける訳には行かずに、けん制し合ったままだ。

 

 こうなると完全に試合は逆転する。

 残りわずかとなった人数であっても追撃の手を緩めない。

 

ギル「あと少しだっ!!

   みんな、頑張ろうぜぃ!!」

 

 ギルは、まだ脱落していない生徒を集めて

 最後の突撃を行っている。

 そして流れが完全に決まったころ―――

 

セオラ「時間となりましたっ!!

    スグに戦闘を中止しなさい、試合終了ですっ!!!」

 

 ビー!!!

 

 終了の合図が森に響く。

 やっと終わったという感じがあたりに漂う。

 緊張の糸が切れたのか皆、その場に座り込んだり倒れたりしている。

 

フィーネ「終わったみたいね」

 

亜梨沙「疲れましたね」

 

ミリス「まあ、本物の戦場に比べれば問題ありません」

 

アイリス「・・・どうして、そんなに体力が」

 

 試合終了の合図と共に、体力の限界となり安心感から

 その場に座り込んだアイリスは、未だ立ったまま会話を続ける

 彼女達が不思議でならなかった。

 

亜梨沙「そんなの、途中で休憩してたからに決まってるじゃないですか」

 

アイリス「・・・は?」

 

フィーネ「少し考えれば解らない?

     途中までリピスとセリナ達が全力でぶつかってくれてたおかげで

     こっちはゆっくりと休めたわ」

 

リリィ「あはは~。

    そ~いえばぁ、そ~ですねぇ」

 

アイリス「くっ!」

 

 自分が如何に目の前のことしか

 見えてなかったのかということに腹が立つ。

 それなりに出来るようになったという自信は

 結局自己満足だったという訳か。

 そんな自分の未熟さを噛み締めるアイリスだった。

 

 

 

 数分後―――

 

 学園側の救護班が忙しく戦場を駆ける。

 動ける者は、ゆっくりとだが集合場所に向かって歩いていく。

 

 そして全員が集合場所に集まって、終了の挨拶が行われる。

 

セオラ「まずは皆さん、お疲れ様でした。

    今回の対戦では本当のクラス対抗戦以上の戦いが行われたようで

    皆さんにとっても、学ぶことの多い戦いとなったのでは

    ないでしょうか?」

 

 先生の言葉に、皆が頷く。

 今回の戦いは未だかつて経験したことがないほどに『実戦』だった。

 

セオラ「皆さんの中には、今回の戦いで『実戦』と『恐怖』を意識して

    戦うことが怖くなった方も居るでしょう。

    しかし、その恐怖に勝たなければ、自分だけでなく

    一緒に戦う仲間の命まで危険に晒してしまうということを。

    そして今、皆さんが経験した『恐怖』を、自分達の親兄弟や

    大切な人に経験させないためにも皆さんが、この『恐怖』に

    打ち勝ってくれると、私は信じておりますわっ!」

 

 今回は、予想以上に激戦だったおかげで学ぶことも多かった。

 しかし、これでこそこの学園に来た甲斐があるというものだ。

 

 そして今回の結果が発表される。

 

セオラ「今回生存したチームは全て残り人数

    11名・13名・15名という大激戦でした。

    そして何より―――」

 

 先生の声が響く中、こちらを見つけたリピスが近づいてくる。

 

リピス「見つけたぞ、和也。

    やってくれたじゃないか」

 

和也「ん?

   何の話だ?」 

 

リピス「とぼけてもらっては困る。

    後半戦で私とセリナ達を戦わせるように仕向けただろう」

 

和也「げっ、バレてたか」

 

リピス「当たり前だ。

    これでも戦場で部隊指揮をした経験もあるんだ。

    それぐらい見抜けなければな」

 

和也「ん?

   ならどうしてわざわざ誘いに乗ったんだ?

   リピスなら制御出来ただろ」

 

リピス「本当の戦場ならそうしたさ。

    だがこれは所詮、お遊びだ。

    ならせっかくだし、本物の戦場って奴を

    全員に体験させてやるのも面白いと思ってな」

 

 悪そうな顔で語るリピスが、少し怖く見える。

 彼女は、生徒しか居ないとはいえ擬似的な戦場を

 全て制御していたということだ。

 

リピス「それに、和也が何か仕掛けてくると思っていたからな。

    どんなことをしてくるのかも興味があった」

 

和也「俺は結局のところ、リピスの手のひらの上だったというわけか」

 

リピス「まあ、そう悲観するな。

    和也のおかげで今日は皆が学ぶ点の多い

    非常に有意義な授業となった。

    それについては礼を言わねばならん」

 

和也「やめてくれ。

   俺は最善手を尽くして、結果としてそうなったってだけで

   感謝されるようなことは一切ないよ」

 

 改めて周りを見るが、誰もが疲れ切っている。

 それほどまでに全員、力を出し切った試合だった。

 

リピス「ところで話は、変わるんだが

    ・・・それは何だ?」

 

 そう言いながら、こちらを指差す。

 

フィーネ「~♪」

 

亜梨沙「(-ω-*)」

 

エリナ「ぎゅ~っ☆」

 

 俺は現在、何故か3人に抱きつかれている。 

 

和也「俺もよく解らんのだが・・・」

 

 事の発端は、エリナだった。

 そもそも後半戦の最後の方に、エリナの居る本陣に着いた俺は

 エリナに同盟を提案した。

 どちらも単体ではリピス達に勝てない。

 その提案にエリナが乗ってくれたおかげで

 最後にあれだけ押し返すことに、成功したのだ。

 

 だが、同盟後からだった。

 当初は俺も前線に行く予定だったのだが

 

エリナ「か~ずやぁ♪」

 

 とまあこのような感じで、謎に甘えてくるエリナに腕を取られ

 説得したのだが、どういう訳か離してくれなかったために

 最後まで本陣で、エリナと2人で腕を組んでいるだけという

 謎な状態だった。

 

 そして結局、集合場所へ移動する際も腕を組んだままだったために

 途中でフィーネに見つかり

 

フィーネ「ズルいっ!!

     私も腕組んで歩きたいっ!!」

 

 と言われて反対側の腕に抱きつかれてしまい

 集合場所に到着するなり亜梨沙に見つかって

 

亜梨沙「ああ、もう。

    だからどうして・・・っ!!」

 

 怒りモードの亜梨沙に詰め寄られたが

 

フィーネ「亜梨沙も、くっつけばいいのよ」

 

 というフィーネの提案に乗っかってしまい

 

亜梨沙「こ、これはなかなか・・・」

 

 俺の正面から抱きつく形となって現在に至る。 

 一連の話を黙って聞いていたリピスだったが

 

リピス「ほ~ぅ」

 

 ジト眼のまま、ずっとこちらを睨んでくる。

 リピスがそういうことをするのも珍しい光景ではあったが

 何分、普段そういうことをしないだけに怖かったりする。

 

リピス「まあ、ほどほどにするんだな」

 

 ジト眼のまま、ため息をつくと彼女はそのまま去っていった。

 

和也「何だったんだ・・・?」

 

 リピスの行動に少し疑問もあったが・・・

 

和也「とりあえず、どうしよう」

 

 抱きつかれて動けないこの状況の方が、切実な問題だったりする。

 

 このクラス対抗戦の内容は、学園長の元まで届くことになり

 その結果、また学園長の思いつきによるルール変更が起きることなど

 今はまだ、夢にも思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

第4章 波乱のクラス対抗戦 ~完~

 

 




まず、ここまで読んで頂きありがとうございます。
今回は戦闘を中心とした物語となりました。

ストーリーに登場する学園『フォース』は、次世代の育成を掲げており
主に軍事面の強化が中心となっています。
そのため文官よりも武官を重視した教育方針となっています。
これは戦争が終結してまだ10年しか経っていないということと
種族間の隔たりが依然あり、ちょっとしたことで戦争が再開される
可能性があるため、どうしても戦争を想定したものになっているという
話があるからです。
なので本作も、戦闘回がそれなりに多くなる予定です。

戦闘の合間を利用して、なるべくキャラ達の魅力を引き出すような
話を登場させたいとは思っています。

また今回は、原作に登場しないオリジナルキャラクターも
登場させました。
まあ、まだ新キャラは登場しますが・・・(笑)
今後も原作を知ってる方も、知らない方も
どちらにも楽しんで頂けるように物語を書いていく予定です。

初心者の私としては、いきなりの長編作という
無謀な挑戦となっていますが、頑張って完結させるために
頑張っていきますので、出来れば最後までお付き合い頂ければと
思っています。


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第5章 人族と黒き翼のプリンセス

 

 クラス対抗戦モドキの授業があった次の日。

 昼休みにリピスが見慣れない竜族の娘を連れてきた。

 

アイリス「アイリス=カチスと申します。

     皆様、よろしくお願い致します」

 

リリィ「リリィ=コネクトで~すぅ。

    よろしくお願いしますねぇ~」

 

カリン「カリン=ヤクトと言います。

    よろしくですっ!」

 

 3人がそれぞれに挨拶をする。

 

和也「うん。 で、誰なんだ?」

 

亜梨沙「ああ、そうでした。

    兄は出会っていなかったんでしたよね」

 

フィーネ「リピスのところの斬り込み隊よ」

 

 『チーム・竜姫』で常にリピスの傍に居て、戦闘では必ず正面に出てくる

 リピスの剣であり盾でもある竜族の娘が3人居ると聞いたことがある。

 

メリィ「この娘達は、リピス様の護衛部隊に所属しているのですが

    実戦経験がありませんので、護衛も兼ねて学園に通わせています」

 

 俺達が聞く前にメリィさんが事情を話してくれた。

 確かに戦争が無くなった今、実戦の経験が得られる場所は限られてくる。

 特に国を担う次世代が集うこの場所は、最高の環境と言えるだろう。

 

和也「ああ、この前言ってた護衛ってのが・・・」

 

リピス「そうだ。

    この娘達だ」

 

 各界の王女様達には特別な配慮がされている。

 そのひとつがクラス内の種族の比率だ。

 

 リピスのクラスには竜族が。

 セリナ・エリナのクラスには神族が。

 そして俺達のクラスには必然的に魔族が。

 

 それぞれ多めにクラスわけされている。

 もし俺のことが無くても、フィーネが転校してくれば

 必然的に俺達のクラスになっていただろう。

 

 そんなこともあり、俺達の階級だけクラス対抗戦は

 まるで種族対抗戦のような感じになってしまっている。

 

リピス「アイリス、カリン、リリィ。

    彼が藤堂 和也だ」

 

アイリス「はじめまして、藤堂様」

 

カリン「はじめましてです!

    藤堂様!」

 

リリィ「はじめましてぇ~、藤堂さまぁ」

 

 リピスの簡潔な紹介の後、俺に向かってわざわざもう一度

 挨拶をしてくる3人。

 

和也「藤堂様・・・ねぇ」

 

メリィ「ご存じないかもしれませんが、少なくとも竜界においては

    和也様、有名なんですよ」

 

和也「・・・何で?」

 

メリィ「さて、何故でしょう。

    少なくとも悪い意味ではありませんから、心配は無用です」

 

リピス「ま、まあいいじゃないか、そんな話は。

    そんなことより早く食事にしないと時間がないぞ」

 

 露骨に話題を変えたリピスに、メリィさんがニヤニヤとしていた。

 それにしてもどうして竜界で、そんなに有名なんだ俺・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5章 人族と黒き翼のプリンセス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金属のぶつかる音。

 地面を抉る音。

 そして爆発音。

 

 闘技場で自由訓練となった午前の授業は

 普段と変わらない訓練になるはずだった。

 だが―――

 

竜族生徒「こ、降参します・・・」

 

 喉元に突きつけられた大斧の迫力に戦意を失った生徒の声。

 

ミリス「あら、もう終わりですか?」

 

 反対側では神族生徒が強力な一撃を喰らったのだろうか

 地面に叩きつけられていた。

 

神族生徒「ぐぁぁ!!」

 

フィーネ「さあ、次は誰かしら」

 

 フィーネが転校してきたあたりから自由訓練の機会がなかったこともあり

 本日の自由訓練では、二つ名を持つ転校生2人に

 対戦申し込みが後を絶たない。

 クラス内の自由訓練で個人に対してここまで集中するのも珍しい。

 2階級に入ったあたりでギルやヴァイスが同じような感じに

 なっていたこともあったが、ここまでではなかった気がする。

 

ヴァイス「そう! そうだっ!

     我々魔族こそが最強なのだっ!!」

 

 自分はただ観戦しているだけにも関わらず、まるで自分のことのように

 上機嫌で笑うヴァイス。

 何だか色々とダメな子に見えてくる。

 アレでも強い部類に入る奴なんだがなぁ。

 

亜梨沙「では兄さん、行きますよ」

 

和也「ああ、遠慮せず来い」

 

 俺達はというと、隅っこの方で兄妹仲良く訓練をすることにした。

 人族として周りから嫌われていることもあり

 対戦申し込みなんてまず無い。

 あったとしても1対複数のような形ばかりで、まともに戦うというよりは

 訓練という名目を借りた、ただのイジメだ。

 だからどれだけ挑発されようとも俺や亜梨沙は基本的にそういった

 申し込みを断り続けている。

 そうなってくると必然的に訓練相手は亜梨沙だけになってしまう。

 なのでこれは『いつも通り』の訓練。

 

亜梨沙「では、遠慮なくっ!」

 

 亜梨沙は、いきなりノーモーションからの突きを出す。

 それを避けると、まるで避けるのが判っていたと言わんがばかりに

 そのまま横薙ぎに攻撃を変化させる。

 何とかしゃがんで回避すると、まるでこれも判っていたという感じで

 顔に向けて蹴りが迫ってきていた。

 蹴りに左肘を合わせて防ぐと、しゃがんでいた動作を利用して

 そのまま後ろに跳躍して距離を取る。

 

 ようやくまともに剣を構えられるようになって亜梨沙の方を見ると

 刀の先をこちらに向けた形で構えて、姿勢を低くしていた。

 

和也「あ、やべ」

 

 その構えが何を意味するのか知っていた俺は

 剣を中段に構えて回避の姿勢を作る。

 その直後だった。

 

亜梨沙「風間流『舞(まい)』鬼刃(きば)」

 

 呟き声の後、亜梨沙が一気に距離を詰めてくる。

 

 そして連続の突きが迫ってくる。 

 『鬼刃』は基本的に突きのみで攻撃する速度とリーチを優先した技。

 特に力よりも技能を重視するため歴代でも女性の使い手の多い『舞』だ。

 

 まるで演舞を見ているような優雅な連続技を『舞』といい

 風間の中でも『舞』を1つでも習得出来たなら師範代を名乗れるとさえ

 言われるほどに風間の流派そのものが詰まっている

 高度で習得者が少ない技である。

 『舞』は、一度発動してしまえば基本的に相手は防戦一方になりやすい。

 何故なら攻撃1つ1つが計算され、相手の反撃を許さないほどの

 連続攻撃であるからだ。

 

 また万が一、反撃された場合でも、構わずに攻撃する場合が多い。

 最小限の回避行動のみで相手の攻撃を避して

 流れを変えずにそのまま攻撃を継続していくために

 相手は下手に攻撃を仕掛けると、逆に自身のバランスを崩され

 『舞』の流れるような連撃の餌食になってしまうだろう。

 常に攻撃することを念頭に置いた

 まさに攻撃を主体とする風間流らしい技である。

 

 突きゆえにリーチと素早さがあり防御しにくく

 防御出来たとしても連撃を捌くには足が止まりやすい。

 そして足が止まれば、更に攻撃が回避出来なくなってくる。

 下手に反撃でもしようものなら、確実にカウンターを狙われるだろう。

 お互いの実力や技の特性を把握しているからこそ『鬼刃』に対して

 防御ではなく回避を迷い無く選択出来ている。

 

 しかし、さすが亜梨沙というところか。

 加速魔法無しで、この速度の連続突きが出せるとは。

 あのクソ爺(当主様)が亜梨沙を可愛がるのも

 単に孫というだけではなく

 この才能を認めているからだろう。

 

 幾度となく続く攻撃を避け続け、ついに反撃の一瞬を見つける。

 亜梨沙の一撃を追い詰められたふりをして受け止める体勢をとる。

 そして直前で風間流『旋風』を放つ。

 

 すると亜梨沙は、あっさりと『舞』を中断して大きく後方に跳躍する。

 まるで『旋風』が来ることが判っていたような感じの避け方だ。

 

和也「あ~。

   地味にショックだわ~」

 

亜梨沙「・・・何の話ですか?」

 

和也「いや、最近『旋風』が避けられ過ぎててさ。

   一撃必殺のカウンターが決められないとか

   もう自信無くすよなって話だよ」

 

 いくらお互いの手札を知り尽くしている相手とは言え

 あそこまで完全に避けられるとは・・・。

 

 まあ元々『旋風』は、魔法を想定していない技らしいので

 魔法で回避されるなら仕方が無いとも思えるが

 特に最近は、物理的に回避されることが多い気がする。

 

 両手を広げてお手上げのポーズを取ると、亜梨沙がジト眼になる。

 

亜梨沙「これだから兄は・・・」

 

 ため息までついて大きなリアクションを取る亜梨沙。

 

和也「な、なんだよ・・・」

 

亜梨沙「いいですか。

    そもそも『旋風』は『一撃必殺』の技です。

    相手に一瞬とは言え背中を見せるという『代償』を

    先に支払うことにより、強力で防御も回避もしにくい

    一撃を放てるんです。

 

    逆に適切でないタイミングで使ってしまえば

    背中からバッサリとやられてしまう危険な技でもあります。

    なので、しっかりと『使用出来る』タイミングを

    見極める眼や経験とリスクの高い技を使える度胸や技量が

    求められる、風間の中でも高度なカウンター技です。

 

    当然ながら、ここぞというタイミング以外では

    『使用出来ない技』なんです。

    それなのに―――」

 

 一度言葉を切って大きく深呼吸する亜梨沙。

 そして―――

 

亜梨沙「兄さんは本来『使用出来ない』タイミングで使いすぎなんですよ!

    普通だったら背中を見せた瞬間にやられてますっ!」

 

 藪を突いて蛇が出てくるとは、こういうことなのだろうか。

 色々と溜まっていた鬱憤を晴らすかのように

 説教モードに突入してしまった。

 こうなると長いんだよなぁ。

 

亜梨沙「妹としては、そんな危ない方向性で戦う兄が心配なんですっ!

    そんなに妹に心配させるなんて、とんだドS野郎ですねっ!

    え・・・いや、待って・・・。

    ド、ドSってことは・・・

    こ、言葉で攻めたり、おおお尻を、たた叩いたり

    ロ、ロープで縛る・・・つもりだろうし・・・。

    それに、あんなことや・・・こんなことまで・・・

    え? うそ・・・そんな・・・。

    そんなことまでし、しちゃうんですか・・・

    最低にドスケベですね、兄さん」

 

 何故か顔を真っ赤にしながら睨んでくる亜梨沙。

 

和也「勝手にエロいことを妄想して、それをまるで俺の妄想のように

   語って押し付け更に批判するとか、色々と突っ込みどころが

   多すぎるわ・・・」

 

亜梨沙「・・・つ、突っ込むだなんて・・・。

    に、兄さん、万が一耐えられない時は

    ・・・わ、私が頑張りますから

    そ、その・・・」

 

和也「とりあえず帰ってこ~い」  

 

亜梨沙「あぃたぁ!」

 

 バシっと亜梨沙の頭を軽く叩いた。

 

亜梨沙「もう、何するんですか兄さん」

 

和也「とりあえず亜梨沙のせいだろうが・・・」

 

亜梨沙「いいえ、違いますっ!

    大体、兄さんは・・・」

 

 また説教モードに入る亜梨沙。

 これはまた長くなりそうだと思った時だった。

 

 カーン!カーン!カーン!

 

和也「ほ、ほら。

   授業終了の合図だし、戻ろうぜ」

 

亜梨沙「あ、兄さん!

    まだ話は終わってません!」

 

 結局その場は何とか、うやむやにすることに成功し

 授業終了の合図に救われる形となった。

 

 

 

セリナ「そう言えば気になっていたんですが・・・」

 

 その日の昼休み。

 いつも自分からあまり話題を振ってこないセリナが

 珍しく話を振ってきた。

 

セリナ「フィーネと和也くんは、昔の知り合いという話でしたけど

    どうやって出会ったんですか?」

 

エリナ「あ、私もそれ気になる」

 

リピス「確かに、人族である和也が

    他種族の、しかも王族と知り合いというのは

    本来ならありえないことだからな」

 

 周りに身分を気にしない王族ばかりなので忘れがちだが

 王族である彼女達と言葉を交わすこと自体が

 本来ありえないことなのだ。

 最近多少はマシになったとはいえ、この世界は基本的に

 身分が重視されがちである。

 そのため身分の低い者ほど不遇を強いられている。

 

 例えばヴァイスの奴も魔界では貴族の家柄であり

 魔王の血族ということで普通の貴族達より格段に、上の身分だ。

 普段から『人族風情が!』とこちらを蔑んでいるが

 一番立場の弱い人族で、しかも平民と言える俺では

 そう言われても仕方がないというほどに身分的な格差がある。

 

 もっと言えば本来、ヴァイスに対して対等な発言をすること事態が

 無礼に当たると言われてしまっても仕方がないのだ。

 ただ、この学園フォースは学園内に身分を持ち出すことを禁じているため

 誰もが何も言わなだけの話である。

 

 ただ、そういうことを禁止したところでそういった尊敬や畏怖が

 無くなるわけでもなく誰も何も言わないだけで

 しっかり存在していると言える状態でもある。

 現に学内で王女達に話しかけているのは

 それぞれの種族で貴族に当たる学生達がほとんどで

 身分の低い者達は、声をかけることすらためらっていたり

 遠くから眺めているだけというのが、ほとんどだ。

 

 こうした世界の常識を考えてみても、俺とフィーネは

 人族の一般人と魔界の王女様という立場であり、普通ならどう頑張っても

 こうして仲良く一緒に居るような関係にはならないだろう。 

 

フィーネ「昔、人界に行った時に和也に会ったことがある。

     そして和也は当時、どうしようもなく子供だった私を

     助けてくれたことがある。

     ・・・ただ、それだけよ」

 

 そう言うとフィーネは『それだけだ』と言わんがばかりに

 手をひらひらと振っている。

 それ以上語るつもりはないという、わかりやすいアピールだ。

 俺も『そうだったな』と呟いて、それを後押しする。

 あの時の話は俺とフィーネの出会いであり

 今に至る重要な出来事であると同時に彼女との絆でもある。

 なので、誰かに気軽に語るような話でもない。

 

リピス「・・・そうか」

 

エリナ「むむむ・・・」

 

亜梨沙「・・・」

 

 好奇心の強いどこかの王女様あたりは納得していないようだが

 それでも誰もが、それ以上の追求は無理だと察して何も言わなかった。

 ・・・そう、ただ一人を除いては。

 

?「・・・そんな話では、納得出来きません」

 

 紅の死神ミリス=ベリセン。

 いつの間にか彼女が目の前に立っていた。

 

フィーネ「・・・ミリス。

     アナタには関係の無い話でしょ」

 

ミリス「・・・魔界にとってそこの人族が邪魔になった場合に

    例えば・・・フィーネ様は、そこの人族を殺せますか?」

 

フィーネ「バカなことを言わないで欲しいわ。

     そんなことになったら例え、母様と言えども敵に回すわよ」

 

ミリス「ミリスの仕事は『魔界の敵』を排除することです。

    ・・・ほら、十分に『邪魔な対象』ですよね?」

 

 こちらを見て微笑みながら、そう言うミリス。

 

フィーネ「・・・それ以上、和也に対して何か言うつもりなら

     それなりの覚悟をしてもらうわよ」

 

 いつの間にかフィーネの手には儀式兵装があった。

 

ミリス「・・・その人族のドコが良いんですか?

    そんなにカッコいい訳でもなく、聞けば儀式兵装すら持ってない

    ダメダメさんとか。

    強さについても『そこそこ』程度で―――」

 

 ノーモーションからのフィーネの一撃を

 後方に大きく跳躍して回避するミリス。

 

ミリス「前にも言いましたが・・・

    別にフィーネ様と、あまり敵対する気はありません」

 

 そう言いながらも『ですが・・・』と付け加えて

 

ミリス「場合によっては、例えフィーネ様と言えども容赦致しませんっ☆」

 

 笑顔でそう言い切ったミリスは

 スカートの端を摘むと、優雅に一礼して去って行った。

 

フィーネ「・・・」

 

 フィーネはミリスが去っていった方向をじっと睨みつけていたが

 少しして、まるでタイミングを見計らったように昼休みが終わり

 俺達は、教室へ戻った。

 

 

 

 

セオラ「・・・生徒、和也。

    お願いがあるのですが・・・」

 

 そんな何気ない一言だった。

 午後の授業中、セオラ先生に頼まれて教材を取りに行くことになった。

 その途中・・・

 

?「おや、未来の婿殿ではないか」

 

 階段に差し掛かったあたりで、上からそんな声が聞こえてきた。

 俺は階段の上を見上げる。

 

和也「学園長・・・」

 

 そこに居たのは、この学園フォースの学園長にして魔界の現トップである

 魔王妃マリア=ゴア、その人だった。

 

マリア「どうしたんだ、こんなところで」

 

和也「・・・い、いえ。

   セオラ先生に頼まれて・・・」

 

 俺は突然のことに驚きながらも、事情を説明しようとして・・・

 

マリア「まあ、立ち話もなんだ。

    学園長室にでも行こうか」

 

和也「あ、あの! ちょっと!

   話ぐらい聞いて下さいよ!」

 

マリア「まあ、いいからいいから」

 

 まったくこちらの話を聞こうともしない学園長に連れられて

 仕方なく学園長室まで行くことになった。

 

 

 

マリア「まあ、これぐらいしか出せんがね」

 

 そう言って差し出された紅茶を一口飲みながら

 改めて目の前の人物に視線を向ける。

 

 魔王妃マリア=ゴア。

 死んだ魔王に代わって魔界を統べる女王。

 そしてどういう訳か、この学園の学園長。

 見た目は、どう見ても25歳前後に見えるほどの若い見た目。

 それなのに熟成された大人の色気とでもいうのか

 いちいち動きが色っぽい。

 これで一児の母だというのだから、驚きである。

 魔界の貴族達から未だに求婚が耐えないという噂も

 あながち間違いではないだろう。

 

マリア「ん?何だ?」

 

和也「い、いえ。

   ・・・何でいきなり学園長室に呼ばれたのかな・・・と」

 

マリア「おや、どうして呼ばれたと思うんだ?」

 

和也「・・・階段で偶然出会ったというにしても

   ここまでの流れに作為的な何かを感じます。

   もしかして・・・セオラ先生も・・・ですか?」

 

マリア「・・・どうしてそう思う?」

 

和也「今思えば・・・ですが、そもそも根本から疑うべきだったんです。

   セオラ先生が授業で使う教材を忘れたことなんで今まで無かったのに

   今日に限って忘れたというのが、そもそも不自然だと

   気づくべきだった。

 

   そして偶然出会ったという学園長は、階段を下りていた途中。

   たまたま出会った俺と話がしたいという理由だけで

   わざわざ階段をまた上がるような効率の悪いことは

   普通しないでしょう。

 

   最後に、この紅茶・・・」

 

マリア「・・・紅茶?」

 

和也「スグに準備して出てきたわりには

   丁寧に入れられたものだとわかります。

   元々、このぐらいの時間に飲むつもりだった・・・ですよね?」

 

マリア「・・・」

 

 学園長は何も言わずに紅茶を一口飲む。

 そしてカップを置くと

 

マリア「・・・あっはっはっはっはっ!」

 

 盛大に笑い出した。

 

マリア「いやぁ~、さすがは未来の婿殿だ。

    なかなか見事だったよ」

 

 まるでちょっとした悪戯がバレてしまった

 子供のような笑顔を浮かべる学園長。

 

和也「・・・ということは」

 

マリア「ああ、そうだ。

    ちょっと婿殿と話がしたくてね」

 

和也「普通に呼び出すのでは・・・ダメだったんですか?」 

 

マリア「それじゃあ、つまらんだろう。

    ・・・それにあまり邪魔が入るのも嫌いでね」

 

 つまらないと言われた時は、ため息が出そうになったが

 まあ、要するに俺は試されたのだろう。

 人が悪いというか何と言うか・・・。

 

マリア「で、いきなり話の本題なんだが・・・」

 

和也「・・・はい」

 

 わざわざ人目につかないようにしてまで呼び出したぐらいだ。

 無理難題を言われるのか、それとも・・・。

 

マリア「うちの娘とは、どこまでいったんだ?

    もうヤっちゃったとか?」

 

和也「・・・えっと」

 

 いきなり何を言い出すんだ、この人。

 紅茶を飲んでいる最中なら吹き出していたところだ。

 

マリア「親としては、その辺は気になって当然だろう?」

 

和也「その前段階で、種族がどうとかは無いんですか?」

 

マリア「ん?何だ?

    反対でもして欲しいのか?」

 

和也「そういう訳ではないですが・・・」

 

マリア「そういうことはウチの娘と婿殿の問題だ。

    私は関係ないよ」

 

 まったくそのあたりには興味が無いという感じで言い切る学園長。

 神王妃のオリビアさんとかもそうだが、種族差別をしない人というだけで

 人族からすれば、ありがたいと言える。

 

マリア「まあ・・・

    呼び出した理由は、ちゃんとあるんだ。

    今更・・・と言ってしまえばそれまでなんだがな・・・。

    婿殿に、どうしても一度言っておきたいことがあったんだ」

 

 しっかりとした姿勢に座り直した学園長を見て、俺も姿勢を正す。

 

マリア「・・・あの日。

    人界で起きた事件。

    本当なら、多くの未来ある若者達が

    旅立つ日になるはずだっだだろう。

    それを・・・魔族側の問題で

    数多くの命を奪う惨劇となった。

    しかもそれを歴史の闇に葬ってしまった。

 

    だから・・・というだけではないのだが

    あの事件で唯一生き残った婿殿には

    どうしても直接謝罪がしたかった。

    魔界の代表、魔王妃マリア=ゴアとして言わせて欲しい。

    ・・・本当に、申し訳なかった」

 

 魔王妃である彼女が一介の人族に頭を下げる。

 本来ありえないことである。

 

マリア「・・・そしてもう一つ。

    ウチの娘を・・・フィーネを助けてくれて

    本当に、ありがとう」

 

 そう言うと学園長はもう一度、頭を深く下げた。 

 

和也「・・・ありがとうございます。

   その行動と想い、確かに見せて頂きました」

 

 儀式が行われたあの日、大勢の人族が死んだ。

 

 当時、神族・魔族の互いの強硬派が戦争を再開しようとした問題で

 話し合いによる解決が模索されている最中に、この事件は起こった。

 神族側が魔族に戦争を仕掛けるのに大義名分を与えてしまいかねない

 この問題を、当時存命だった魔王と神王様とで極秘裏に処理してしまい

 文字通り『無かった』ことにされてしまった。

 

 神族と魔族の勝手な言い分で起きた勝手な問題。

 それによって殺された者達は、その存在ごと歴史から消されてしまった。

 

 それをただ、受け入れるしかない人族。

 自分達の子供を、孫を、親を、兄弟を、殺されただけでは飽き足らず

 彼らが生きてきた情報全てが抹消(ころ)されたのだ。

 

 それでもなお耐えるしかない人族の、やり場の無い恨みと悲しみは

 今なお決して消えることは・・・ないだろう。

 

和也「その・・・人族として考えれば、色々思うところも確かにあります。

   ですが、あの儀式の日が無ければ・・・恐らく今の俺は

   無いでしょう。

   だから・・・あの日、死んでいった者達には申し訳ないですが

   俺個人はそれで十分です」

 

 それでも人は、歩いていかなければならない。

 前を向いて、一歩づつでも・・・確実に。

 俺は、それを恩師と言える人から教えて貰った。

 

 そもそも儀式の日に関しては、当事者の1人とはいえ

 直接的に関与した訳ではない学園長を責めるのもおかしな話だ。

 

マリア「・・・そうか。

    そう言って貰えると、助かる」

 

 のちに関係者の間では『儀式の日』と呼ばれることになった出来事だが

 決して他の誰かに広めてはならない。

 真実を知る、ごく一部の人達のみの記憶にだけ留まることを許された

 ・・・そんな事件。

 

マリア「特にフィーネの件は、本当に感謝しているんだ。

    ・・・あの何を考えてるのか解らなかったあの子が

    何度言っても見向きもしなかった

    家庭的なことや女の子らしいことを自分から教えて欲しいと

    言ってきたときは、本当に嬉しかった。

 

    それから表情や仕草も普通の女の子らしくなって・・・。

    何かあるとスグに、どこぞの人族の少年の話をするんだ。

    その時の照れた顔が、また可愛くて可愛くて・・・」

 

 語られるそれは、俺の知らない彼女の歩んできた道。

 俺に頭を下げていた時の苦しそうな、申し訳なさそうな顔とは違い

 自分の娘のことを嬉しそうに話す学園長。

 俺は、彼女の昔話をしばらく聞くことにした。

 

 

 カーン!カーン!カーン!

 

 

マリア「・・・おっと、もうそんな時間か」

 

 授業終了の鐘の音が響く。

 結局、放課後まで時間が経ってしまっていた。

 

和也「確かに、結構話をしましたから」

 

 主にフィーネのどういうところが可愛いだとかが中心ではあったが。

 

マリア「少し名残惜しいが、そろそろ私も仕事に戻るとするか」

 

 席を立つ学園長に続いて俺も立ち上がる。

 

和也「では、俺も失礼します」

 

 学園長室のドアに向かおうと歩き出す。

 

マリア「ああ、そうだ」

 

和也「はい?」

 

マリア「ウチの娘が、また迷惑をかけてるとは思うが・・・

    まあ、よろしくしてやってくれ。

    アレでも婿殿に会うのを楽しみにしていたんだ」

 

和也「いえ、こちらこそ彼女には感謝しています」

 

マリア「そうか。

    ・・・迷惑で思い出したが、『もう一人』の方はどうだ?」

 

和也「・・・紅い方ですか?」

 

マリア「・・・これだけで通じている時点で

    まあ迷惑をかけてるんだろうな」

 

和也「あははは・・・」

 

 『命狙われてるぐらいですから』という言葉を飲み込んで

 とりあえず笑って誤魔化す。

 あの娘も、どこまで本気か解らないし・・・。

 

マリア「あの娘も、良い子なんだがな・・・。

    どうも頑固な所があるというか

    言い出したら一直線とでもいうのか。

    とりあえず、私の方からそれとなく注意はして―――」

 

 バンッ!!

 

 大きな音と共に、学園長室のドアが勢い良く開いたかと思うと

 

フィーネ「母様っ!

     これは、どういうことっ!!」

 

 フィーネが仁王立ちしていた。

 

マリア「おやおや。

    何をそんなに怖い顔をしているんだ?」

 

フィーネ「隠れて和也を呼び出してるからでしょ!

     竜族まで巻き込んで、何してるのよっ!」

 

 ・・・やっぱりセオラ先生もグルだったか。

 

マリア「だってなぁ・・・。

    お前、普通に呼び出したら絶対に付いてくるだろ」

 

フィーネ「当たり前でしょ」

 

マリア「だからじゃないか。

    お前が居たら出来ない話もあるんだよ」

 

フィーネ「・・・私が居たら出来ない話って何よ」

 

マリア「さて、何だろうな?」

 

フィーネ「むぅ・・・」

 

 頬を膨らませて可愛く拗ねるフィーネ。

 

フィーネ「まあいいわ。

     もう話は終わったのよね?」

 

マリア「ああ。

    お前が入ってこなければ、婿殿が外に出ていたところだよ」

 

フィーネ「じゃあ、もういきましょ」

 

和也「・・・ああ」

 

 よほどこれ以上ここに居たくないのか、強引に手を引っ張って

 俺を外へと連れ出すフィーネ。

 

マリア「婿殿、また遊びに来るがいい。

    いつでも歓迎するぞ」

 

 背後で、学園長のそんな言葉を聞きながら

 俺は結局、学園の外まで連れ出された。

 

フィーネ「まったくもう・・・。

     油断も隙もないんだから」

 

和也「なんだ?

   母親とは仲良くいってないのか?」

 

フィーネ「別に、母様が嫌いなわけじゃないわ。

     こっそりと和也を呼び出したのが気に入らないの!」

 

和也「まあ、それはわからんでもないが・・・」

 

フィーネ「ねぇ、和也。

     母様から何か言われた?」

 

和也「いや、別に何もないよ。

   ただ・・・」

 

フィーネ「・・・ただ?」

 

和也「俺は話が出来てよかったと思ってるよ」

 

フィーネ「それならいいんだけど・・・」

 

 未だ納得出来ないという感じのフィーネ。

 

和也「そうだ、これから街を見て回らないか?」

 

フィーネ「え?」

 

和也「この街のこと、あまり知らないだろ?」

 

フィーネ「確かに、詳しくは無いわね」

 

和也「せっかくだし、これから俺が案内するよ」

 

フィーネ「ほ、ホントに!?」

 

和也「ああ」

 

フィーネ「やったぁっ!

     デート!

     和也とデ~ト~♪」

 

 さっきまでの不機嫌は、どこへやら。

 急にご機嫌になるフィーネ。

 

フィーネ「さあ、行きましょうっ♪」

 

 腕にぎゅっとしがみ付き、嬉しそうに隣を歩くフィーネ。

 彼女を連れて街を歩き出す。

 

 周囲の通行人等は、珍しそうこちらを見てくる。

 人族と魔族が仲良く歩いているなんて光景、まずありえないからだ。

 もしフィーネが魔界の王女だと知れば、もっと騒ぎになるだろう。

 だが、俺もフィーネも周囲の視線を気にすることはなかった。

 

魔族A「魔族の恥さらしめ」

 

 たまに、こちらに聞こえるようなそんな罵声もあったが

 その台詞が聞こえた瞬間に、フィーネが一瞬で相手の首に

 儀式兵装を当てて笑顔で『死んでみる?』と声をかけていた。

 

 そのせいか、途中からそんな言葉も聞こえなくなり

 後半になるほど、ゆっくりと色々な場所を案内することが出来た。

 

 そして俺がいつも訓練で使う丘で・・・

 

フィーネ「・・・綺麗」

 

 フィーネと2人、夕日を眺めていた。

 

 それから、どれぐらい時間が経っただろうか。

 

フィーネ「・・・和也」

 

 長かった沈黙を破ったのはフィーネだった。

 

和也「ん?」

 

フィーネ「ありがとう、私に出会ってくれて」

 

 その言葉と共に満面の笑みをこちらに向けてくるフィーネ。

 

和也「どうしたんだ、いきなり」

 

フィーネ「改めて、そう思ったの。

     和也が出会ってくれて、よかったって。

 

     和也のおかげで、私はこうして生きてる。

     今ある『誇り』も和也がくれたもの。

     それにね、和也のことを考えるだけで

     胸がポカポカってあったかくなるの。

     たまにキュッって痛くなったり不安になることもあるけど

     それ以上に、楽しいや嬉しいって想いがいっぱいで

     和也のことが大好きって気持ちが溢れてくる。

 

     誰かを想うことが、こんなにも素敵なことなんだって

     教えてくれたのも・・・和也なんだよ」

 

 フィーネの言葉を聞いて思い出す。

 学園長が語っていたフィーネの過去を。

 

 『どこぞの人族の少年に気に入ってもらうために

  髪型や服装といったオシャレに気を使い

  掃除や料理までやり始めたんだ。

  料理なんて魔界の料理よりも先に、人界の料理ばかり練習して・・・。

  そこまで露骨にやっておきながら、別に誰かのためじゃないって

  誤魔化そうとするんだ。

  それがまた可愛くて―――』

 

 ここまで真っ直ぐな想いを向けられたことがないので

 どうしていいのか、正直わからないが

 ただ、俺にも言えることがある。

 

和也「俺も、フィーネに出会えてよかった。

   フィーネに出会えなければ、俺はきっと

   強さしか省みない人間になっていたと思う。

 

   今の俺があるのは、フィーネのおかげなんだ。

   だから・・・ありがとう、俺に出会ってくれて」

 

フィーネ「・・・和也」

 

 俺達2人の出会いは、偶然が呼んだ奇跡だったのかもしれない。

 それでも俺は、彼女との出会いは必然だった。

 そんな気がしている。

 

 すっかりあたりは暗くなり、空には星が輝いていた。

 そろそろ帰る時間帯ではあるのだが、なんだかもったいない気がして。

 彼女もそう思ってくれているのだろうか。

 しばらくの間、二人で寄り添いながら、星空をただ眺めているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

第5章 人族と黒き翼のプリンセス ~完~

 

 

 





後書きまで読んで頂き、ありがとうございます。
今回は、皆様から『フィーネは、まだか!』
『メインヒロインなのにもっと前に出せ!』という声が
聞こえた気がしたので、フィーネの話を入れてみました。

もうそろそろ話を折り返して、ばら撒いた伏線の回収を始める方が
初心者の私にとっては良いのでしょうが、そんなことはしません(笑)

全体を見てもこれからですからね。
自らのハードルを上げまくりです。

最近ネットゲーとソシャゲが忙しくて執筆ペースが
かなり落ちてますので、投稿頻度が下がるかもしれません。
え? そんな理由はダメ?
・・・デスヨネー。

なるべく良いペースで投稿していけるように、頑張りますので
物語終了まで、お付き合い頂ければと思います。


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第6章 激戦の闘技大会 ―前編―

 

 ガンッ!!

 ガキィィン!!

 ドゴォォォン!!!

 

 大きく開けた平地に響く音。

 ここは学園の外にある戦闘訓練場の1つだ。

 

 ある日の午後。

 いつものように戦闘訓練をしていた俺達のクラスだったが

 どういう訳か、周りのやる気が全然違った。

 

魔族生徒「うぉぉぉぉ!!」

 

神族生徒「なめるなぁぁぁ!!」

 

 周囲は、気合の入った連中の掛け声も飛び交い

 さながら戦場のような状態にも見える。

 フィーネやミリスは、対戦希望の連中に囲まれており

 次々と相手をさせられていたりする。

 

和也「・・・なんでこんなに、みんな全力なんだ?」

 

 俺の素朴な疑問に、正面でこちらに剣を向けていた亜梨沙が

 ため息をついた。

 

亜梨沙「兄さん・・・明日、何があるのか

    忘れてないですか?」

 

和也「何かあったっけ?

 

亜梨沙「闘技大会ですっ!」

 

和也「・・・ああ、そういやそうだったな」

 

 学園フォースには、3大イベントと呼ばれるものがある。

 

 1・全階級合同実戦試験

 2・階級対抗総合戦闘大会

 3・闘技大会  

 

 この3つが学園内で盛り上がるイベントであり

 一番成績に直結するイベントでもある。

 

 

・全階級合同実戦試験

 これは前にやった実戦試験だ。 

 パーティーを組んで小隊とし、指定された場所を回りながら

 ゴールを目指すという探索型の試験だ。

 別のパーティーとの戦闘もあり、様々なことが試される試験で

 戦闘を回避する行動でさえ評価される特殊な試験。

 探索エリア内で、他の階級の探索エリアと重なっている場所が数箇所あり

 1階級でも運が悪ければ5階級のパーティーに出会ってしまうことも

 あるので注意が必要とされる。

 どちらかと言えば索敵・生存が優先される

 戦闘外の能力も強く問われる試験でもある。

 前期と後期の年2回あるため、単位としての重要度も高めだ。

 

・階級対抗総合戦闘大会

 各階級ごとを1つの大隊とし、階級同士で戦う大規模な戦闘試験である。

 

 1日目 1階級VS2階級

 2日目 3階級VS4階級

 3日目 5階級VS特別編成チーム

 

 という対戦が決まっており、5階級は教師を中心とした

 特別編成チームを相手する。

 また特別編成チームには各階級の優秀生徒が混ざっていることもあるため

 さながらドリームチームのようなメンバーになることが多い。

 部隊単位の戦闘となるため、チームワークなどが重要になってくる。

 

 部隊指揮が得意な者が作戦を立て、索敵が得意な者が偵察をするなど

 どれだけ自分の役割をやり切れるか。

 そしてどれだけ適材適所で人材配置が出来るか。

 そういった総合的な要素が問われる。

 実際の戦場を想定しており、普段の少数VS少数の戦闘ではなく

 多数VS多数という普段あまり経験しない戦闘に、向き合う必要もある。

 

 

・闘技大会

 学園で磨いてきた力を学園全体に見せ付けるイベント。

 1対1の個人戦と2対2のペア戦があり、それを学園内の

 闘技場で全生徒が見ている前で戦うことになる。

 階級によるランク別けなど一切なく、1階級の生徒が

 5階級の生徒と戦うなんてことも十分にありえる

 ランダム対戦となっている。

 そのため、ここで活躍した生徒は嫌でも全階級に名前が知れ渡り

 注目されてしまう。

 

 ペア戦は、それを希望した生徒により行われる。

 簡単に言えば仲の良い奴と戦いたいという奴が

 申請する戦いの形式だ。

 ペア戦の場合は、一度に5チームが登場して

 そのうち3チームが脱落したら終了となる。

 自分か相方のどちらかが戦闘不能になった時点で

 チームの敗退が決定するため、注意が必要ではある。

 

 どちらも他人の試合をゆっくり観戦出来ることもあり

 一番盛り上がるイベントでもある。

 

 

亜梨沙「もう、何で忘れてるんですか」

 

和也「いや、最近色々あったからさ」

 

 フィーネやセリナ・エリナの王女様方との出会いがあったり

 ミリスに襲われたりで、ここ最近周囲の環境が激変していた。

 おかげで学園の授業よりも、そっちに意識が向きがちだったりする。

 

和也「・・・そうか。

   もう闘技大会か」

 

 学園では、より強い者ほど他の生徒達から尊敬や畏怖の対象となり

 また軍関連からの勧誘も激しくなる。

 特に有名になった生徒は、在学中にも関わらず魔族なら魔界で

 神族なら神界でといった自分の故郷で英雄的な扱いで迎えられる。

 

 実際、四界どの種族でも平民の出である生徒が

 学園で有名になり、それぞれの世界の重要な役職を任されたり

 貴族の称号を得て上流階級の仲間入りを果たした者も居る。

 そのため、学園で有名になるということは生徒達にとって

 憧れであり、目標であると言える。

 

 この学園に入ってくる誰しもが、自分がそんな英雄となることを

 目指して頑張っている。

 

 他の2つの大きなイベントと違い、全生徒が観戦している前で

 戦う闘技大会は、そんな名前を売る絶好の機会であり

 これに賭けている生徒は、かなり多い。

 

和也「・・・今年は、どうなるんだろうねぇ」

 

 期待と不安。

 その両方を噛み締めながらも、頭を切り替える。

 俺は、正面の亜梨沙に対して、『行くぞ』という合図を込めて

 剣を構え直した。

 

 

 

 

第6章 激戦の闘技大会 ―前編―

 

 

 

 

 一切の穢れを寄せ付けないほどの白銀が

 太陽の光で一層輝いて見える。

 その白銀を身に纏った神族の少女は

 ゆったりとした足取りで倒れこんだ相手に近づくと

 

セリナ「これで、終わりですね」

 

 優しい笑顔と共に、相手に剣を向けた。

 

竜族「ま、参りました・・・」

 

セオラ「勝負ありっ!!

    勝者! セリナ=アスペリア!!」

 

 その宣言と共に、静まり返っていた場内が

 一気に歓声で溢れる。

 

 一年で恐らく一番学園が盛り上がるイベントである

 闘技大会が開催されていた。

 現在、神界王女であり『白銀の女神』の二つ名を持つ

 セリナの試合が終わったところだった。

 相手が1階級の竜族だったこともあり、勝負は一瞬でついてしまった。

 こうなると逆に相手の竜族の娘が可哀想に思えてくるが

 実戦では、自分と格上の相手と戦う局面だって当然あるだろう。

 その場合に、どうやって戦うのかということも

 瞬時に考えられなければ、生き残れない。

 そうした咄嗟の判断であったり、相手への対策という点も

 闘技大会では評価の対象だ。

 だから勝てない相手であっても善戦出来れば

 しっかりと評価はしてもらえる。

 

 周囲でまた歓声が上がる。

 こうしている間も、また次の試合が始まったようだ。

 

リピス「さっきから黙っているが、どうした?」

 

和也「い、いや。

   何でもないよ」

 

 隣に居たリピスに声をかけられ、思わずドモってしまう。

 

リピス「そんなに妹の試合が心配か?」

 

 ニヤニヤとした顔でリピスがこちらを覗き込んでくる。

 

和也「さっきのセリナの試合。

   対戦相手の娘が可哀想だと思ってただけだよ」

 

リピス「なんだ、そんなことか。

    つまらん」

 

メリィ「そんなことを、お気になさるだなんて・・・。

    もしかして、先ほどの娘が和也様の好みなんですか?」

 

リピス「なにっ!?

    そうなのかっ!?」

 

メリィ「先ほどの娘、胸が結構大きかったですねぇ。

    和也様もやはり男。

    大きな胸が大好きなんですね」

 

リピス「そ、そうなのか・・・。

    ・・・胸」

 

和也「だから、どうしてそんな話になるんだよっ!!」

 

 この2人は、どうしてちょっとでも何かあると俺をネタにしたがるのか。

 そして、眉間にシワを寄せて自分の胸を見るリピス。

 ・・・結構、気にしてるんだな。

 

 今、俺の周りにはリピスとメリィさんしか居ない。

 フィーネや亜梨沙、エリナは今頃、出場待機場所に居るだろう。

 事前に引いたクジ引きで、自分の対戦順番は決まるため

 出番が近くなると待機場所へ移動する決まりになっている。

 待機場所では、1人づつ個室で待機させられるため

 対峙する瞬間まで対戦相手がわからないため、緊張する生徒が大半だ。

 

 俺はまだだが、リピスの試合はもう既に終わっていたりする。

 ・・いや、あれを試合と言っていいのだろうか。

 4階級の魔族が相手だったんだが、開始前から『魔族こそ最強だっ!』と

 高らかに宣言し、他種族を見下す発言を繰り返していた。

 リピスは相手の挑発に一言も返事を返すこともなく

 ただ開始の合図を待っていた。

 そして開始の合図があった瞬間―――

 相手は、リピスの一撃で闘技場の壁に叩きつけられ気絶していた。

 

 一瞬で相手の懐まで踏み込めるだけの圧倒的な速度もそうだが

 相手がギリギリ発動した防御魔法を、まるで何もないかの如く貫いた

 強力な一撃は、もはや反則だと言えるだろう。

 これだけのことをして、補助魔法一切使用してないのだから

 リピスが本気で暴れたら、それこそ誰も

 止められないんじゃないだろうか。

 

リピス「・・・おい、和也」

 

 そんなことを考えているとリピスが話しかけてくる。

 ・・・なにやら顔を真っ赤にしながらというのが気になるが。

 

和也「お、おぅ。

   どうした?」

 

リピス「・・・む、胸をも、揉むとだな・・・

    そ、その、あの、えっと・・・。

    大きく・・・なる、と・・・聞いたのだが・・・。

    ・・・私の胸も・・・そ、育てる・・・ために、だな・・・

    も、ももも揉ん、だり・・・する・・・のか?」

 

和也「えっ!?

   いやいやいやいやっ!!

   無いからっ!

   そんなこと無いからっ!!」

 

メリィ「リピス様、最っ高ぉぉぉぉぉぉ!!!

    はぁはぁはぁ・・・」

 

和也「やっぱりアンタが犯人かっ!!」

 

 普段は王族らしく、尊大な態度が多いリピスだが

 どうもエッチなネタは苦手らしく、あまり会話にも参加してこないのだが

 たまに亜梨沙のように変な暴走の仕方をすることがある。

 その変な暴走が見たいのか、よくメリィさんが

 色々吹き込んでいたりする。

 自分の主人で何をやってるんだろうね、この人。

 

リピス「・・・そうか。

    やっぱり、小さい胸では・・・ダメなのか・・・」

 

 今まで見たことがないくらいにテンションが下がるリピス。

 何もそこまで落ち込まなくても・・・。

 

和也「違うって!

   別にリピスの胸を揉みたく無い訳じゃなくてだなぁ・・・」

 

リピス「だ、だったら・・・。

    だったら、その・・・揉む、のか?」

 

和也「・・・まあ、アレだ。

   リピスが良いなら・・・まあ、別に」

 

リピス「・・・ッ!!!」

 

 ボンッ!!と、音と煙が出るような感じで顔を更に真っ赤にしたリピスは

 メリィさんの後ろに隠れてしまう。

 

メリィ「いやっぁぁぁぁぁぁぁ!!!

    リピス様、かわゆぃっ!!

    何がもうって全部っ!!

    あぁぁぁぁんっ!いやぁぁぁぁんっ!!

    きゃっほぉぉぉぉぉぉぉいぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

フィーネ「ただい・・・ま・・・。

     ・・・何、これ?」

 

 いつの間にか試合を終えたフィーネが帰ってきたのだが

 目の前の光景は、そんな彼女の理解力を超えたものだったらしい。

 

 身体をクネクネとさせながら奇声を発する駄メイド。

 その駄メイドの後ろで顔を真っ赤にして隠れる普段からは

 想像できないリピス。

 そして周囲で起こっている竜族によるリピスへのバンザイコール。 

 

 このあまりのカオスっぷりに

 もはや俺も突っ込みを入れる気力もなかった。

 

セオラ「次の生徒!

    入場しなさい!」

 

 闘技場の一部が、カオスな状態にあろうとも

 セオラ先生による仕切りで次々と試合が執り行われる。

 そんな中―――

 

?「おーっほっほっほっ!」

 

 謎の高笑いが闘技場に響いた。

 何事かと闘技場を見ると、見るからにお嬢様という感じの

 神族の少女がいた。

 

?「さあ、ワタクシの舞台がやってきましたわ。

  みなさん、お待たせしてしまってごめんなさい」

 

 観客からの声援に答えるように

 手を振りながら余裕そうにしている神族の少女。

 

魔族男生徒達「アクアさ~んっ!!」

 

神族男生徒達「俺達が応援してますっ!!」

 

 信じられないことに普段から仲の悪い魔族の連中・・・というか

 種族を問わず、男連中からの声援が凄かった。

 例えるなら、それぞれの種族の王女様親衛隊に

 近いような感じといったところか。

 

 まあ、こんなバカ騒ぎされる相手と対戦でなくてよかったと思う。

 そう考えると、対戦相手は可哀想だな。

 

 ふと対戦相手が気になって視線を向けてみると―――

 

亜梨沙「・・・」

 

 物凄く、うんざりとした顔をしている亜梨沙が居た。

 

アクア「ワタクシの相手が人族、ということに文句もありますが・・・

    まあ、いいでしょう。

    レーベルト家の長女にして『氷の騎士』と呼ばれる

    このアクア=レーベルトと戦えることを光栄に思いなさい。

    おーっほっほっほっ!」

 

 よほど自信があるのか、大きな胸を揺らしながら

 大声で高笑いをする神族の娘。

 

セリナ「丁度、亜梨沙の試合ですね」

 

 いつの間にか帰ってきていたセリナが横に立つ。

 

和也「おかえり。

   まあ、あんな娘と対戦なんて亜梨沙の奴もついてないな」

 

セリナ「そうですね。

    レーベルト家と言えば、神界では

    知らない人が居ないほどですから」

 

 名門レーベルト家。

 セリナが言うには神族貴族の中でも特に有名で

 歴代の当主達は政治や軍事での

 重要な役割ばかりを任されている優秀な一家だそうだ。

 

 彼女は、そんな一家の長女で『氷の騎士』という

 二つ名を持つ騎士だそうな。

 ただ二つ名に関しては本人自らが、そう名乗っているものであり

 この学園フォースでようやく浸透し始めた程度の二つ名で

 四界的にみれば非常にマイナーらしい。

 しかし本人の実力は相当のものであり

 決して油断出来るものではないそうだ。

 

セオラ「生徒アクア、開始位置に移動しなさい」

 

アクア「あら。

    ワタクシとしたことが、失礼しましたわ」

 

 先生の軽い注意にも、平然とした顔で謝罪の言葉も素っ気無く

 少しも悪いと思っている様子はない。

 ただ自信に満ちた足取りで開始位置へと歩いている。

 

亜梨沙「・・・はぁ」

 

 一方、亜梨沙は『めんどくさい』という雰囲気を全開で出している。

 まあ気持ちは解らんでもない。

 俺だってこんな対戦相手だったら同じような顔をしていただろう。

 

神族女生徒「さっさと負けちゃえ、人族!!」

 

魔族女生徒「人族の癖に目障りなのよっ!!」

 

 相変わらず人族に対しての暴言もあったりして

 いつも通りの完全アウェーである。

 だが、常にこんな罵声を浴びせられる環境に居ると

 意図的にそういった雑音は遮断出来るようになるのだから

 人の環境への適応力というものは、凄いと思う。

 

セオラ「それでは、3階級 アクア=レーベルト

    2階級 風間 亜梨沙の試合を開始します」

 

亜梨沙「我が手に力を!!」

 

アクア「さあ、いらっしゃい。

    誇り高き我が剣よっ!!」

 

 2人は同時に儀式兵装を手にする。

 アクア=レーベルトは、剣の形をした儀式兵装を手にしている。

 その剣は、うっすらと青く光っているようにも見える。

 

セオラ「では、はじめっ!!」

 

 短くも力強い開始宣言と共に湧き上がる歓声。

 相変わらず、やかましいことだ。

 

アクア「では、行きますわよ!」

 

 声高らかに宣言した彼女は、正面から亜梨沙に向かって突っ込んでいく。

 そして剣を上から振り下ろす。

 これを同じく正面から受け止めようとした亜梨沙だったが―――

 

亜梨沙「・・・っ!!」

 

 強力な一撃に思わず受け流すように体勢を瞬時に変えると

 相手の力を利用して後ろに大きく跳躍する。

 

アクア「あら、初めから逃げの一手ですの?

    まあ、人族ですから仕方ありませんわね。

    おーっほっほっほ!」

 

亜梨沙「(・・・今のは、まさか)」

 

和也「・・・あれは、強化魔法か?」

 

セリナ「みたいですね。

    でも、あれは恐らく―――」

 

亜梨沙「(・・・恐らく、儀式兵装の特殊能力)」

 

 儀式兵装には一部だが、特殊な力を持ったものが存在する。

 例えば有名なのが、今は亡き魔王の儀式兵装だ。

 盾の形をした防御型だったが、その盾には魔法を反射する 

 特殊な力があったそうで、ほとんどの魔法を弾き返すため

 魔法が通用しない最強の防御力と称されるほどだった。

 

 血筋とか何か条件がある訳でもなく、本当に低い確率ではあるものの

 そういった特殊な儀式兵装を手にする者が居る。

 彼女もそんな一人だったのだろう。

 

アクア「ふふっ、どうやらワタクシの剣の素晴らしさに

    声も出ないようですわね。

    ワタクシの儀式兵装にはパワー・ウォーターが

    ワタクシの魔力を消費せず常にかかっている状態ですの。

    これこそ、ワタクシが選ばれた者であるという証ですわっ!!」

 

 上機嫌でそう語る彼女に対して、亜梨沙もそして俺達も呆れていた。

 

和也「何で自分でバラすんだよ・・・」

 

フィーネ「・・・」

 

 どんな力だって正確に把握さえすれば、何かしらの対策がある。

 しかし、たぶんそうだと相手の能力を決め付けて挑んだ時に

 もし違ったとなれば、こちらが逆に致命的な隙を生む可能性もある。

 だからこそ慎重に相手の出方や能力把握をするのは基本だ。

 

 相手に特殊能力のある儀式兵装だと認識されたとしても

 答えを言わなければ、それはどこまでいっても疑惑止まりだ。

 本当に自分の答えが合っているのか、それを元に戦っていいのかと

 疑心暗鬼にさせることも戦いにおいては重要な武器の1つであるにも

 かかわらず、アクア=レーベルトは、それをあっさりと捨てたのだ。

 

亜梨沙「・・・バカ女」

 

アクア「そんなにお褒めにならなくても・・・。

    あら? 何か違う言葉を仰りませんでした?」

 

亜梨沙「別に。

    素敵な武器ですねと言っただけです」

 

アクア「あらまあ。

    どうしようもない野蛮な人族でも

    ワタクシの儀式兵装の素晴らしさが

    理解出来たようで何よりですわ」

 

 おほほと、また高笑いをするアクア。

 そんな彼女を呆れ顔で見る亜梨沙。

 

亜梨沙「(どれだけバカでも、儀式兵装だけは厄介ですね)」

 

 ゆっくりと構えを取り始める亜梨沙。

 うっすらと青い刀身は、やはり水魔法の強化付与。

 常に強化魔法がかかっているということは

 常にあの力で攻撃してくることを意味する。

 魔法として使用していない分、魔力消費や制御に

 一切気を使う必要がないため単純な効果ではあるが

 非常に効果的であるとも言える。

 非力さを速度でカバーしている亜梨沙にとっては

 羨ましい能力であると言える。

 

亜梨沙「(今更それを嘆いても意味がありません。

     私は、私らしく戦うのみです)」

 

 加速魔法を準備しながら相手に向かって走り出す亜梨沙。

 途中で加速魔法がかかり、一気に高速で相手の前まで距離が詰まる。

 

 急激な速さに驚くアクアの表情すら気にも留めずに

 素早く相手までの距離を詰めた亜梨沙が突きを放つ。

 

アクア「そんな攻撃、当たりませんわよ」

 

 あくまでも優雅にという感じで回避するアクア。

 しかし、その突きは途中で止まると、横薙ぎに変化する。

 

 キィン!

 

 軽い金属音。

 避けられないと察したアクアは、剣で受け止める。

 その直後、亜梨沙は既に蹴りのモーションへと移行していた。

 

アクア「くっ!」

 

 何とか片腕を引くのが間に合い、蹴りを受け止めるモーションを取る。

 しかし蹴りは、亜梨沙のフェイントだ。

 亜梨沙は、蹴りと見せかけて防御しにきた相手の腕にそのまま足をかけて

 相手の腕を弾き飛ばしながら、一気に相手の真上に飛んだ。

 

 全てが高速かつ見たことも無い動きにアクアは、一瞬反応が遅れる。

 相手の真上に飛んだ亜梨沙は、そのまま刀を振り下ろそうという

 モーションを取る。

 一本の腕に体重をかけられた上、亜梨沙が飛ぶ際の反動で

 片腕を大きく弾かれた形となり、かなり体勢が崩れているアクア。

 いくら亜梨沙が軽いとはいえ、人間一人の体重を同じく年頃の女の子が

 支えられる訳が無い。

 それでも剣を持った方の腕だけを自分の頭の上に持っていき

 防御の姿勢を作ろうとしている。

 そしてアクアの剣が、亜梨沙の落下より僅かに早いようにも見える。

 だが―――

 

アクア「―――ッ!!?」

 

 亜梨沙は、落下しながら構えた刀を振り下ろすことなく着地する。

 そして着地した瞬間、既に刀を水平に振り抜こうとする構えを

 取っていた。

 更にその刀の刀身は、うっすら緑色に輝き出す。

 

亜梨沙「パワー・ウインド」

 

 その言葉と共に亜梨沙は、一気に相手に向けて刀を振り抜いた。

 

 バリィィン!!

 

 何かが砕ける音と共に、大きく吹き飛ぶアクア。

 そして地面を滑るズザァァァ!!という音がして

 ようやく彼女の身体は、移動を停止する。

 

 周囲に舞った砂埃が無くなると、そこにはアクアが倒れていた。

 会場は静まり返っていた。

 亜梨沙は、軽く息を吐く。

 

 鞘に刀を戻すと、アクアに向かって一礼して

 セオラ先生の終了宣言を待たずに、出口へと歩き出す。

 

?「まだ・・・終わって、いませんこと・・・よっ!」

 

 静かな会場に響く声。

 そして亜梨沙は、ゆっくりと振り返る。

 

アクア「勝手に・・・終わりにしないで、欲しいですわっ!」

 

 ゆっくりと立ち上がるアクア。

 

亜梨沙「・・・なるほど。

    アレではダメでしたか」

 

 あまり驚いている様子もなく、淡々としている亜梨沙。

 

セリナ「・・・良い反応でしたね」

 

和也「咄嗟にアイスシールドを展開して亜梨沙の一撃を遅らせながら

   威力を削いで、更に同時展開したウォーターシールドで

   直撃を防いだ・・・か。

   亜梨沙の一撃を完全に防げなかったとは言え

   よく対応出来たなと思う。

   あのお嬢様、凄いじゃないか」

 

 観客席に居る和也とセリナが、そんな話をしていると・・・

 

 ウオォォォォォ!!!

 

 歓声が巻き起こる。

 これは良い戦いをしているなとか、立ち上がったアクアへの激励だとか

 ましてや亜梨沙を褒める声ではない。

 他の3種族が、人族に負ける訳が無い。

 今のはちょっとしたマグレで、スグに人族が負けるはず。

 そんな意味が込められた、どうしようもない連中の叫び声である。

 

和也「・・・しかしアレだ」

 

 別段何かがあった訳ではない。

 そう、ただ痛みに耐えて立ち上がっている姿なだけなのに・・・。

 

和也「・・・とりあえずエロい」

 

セリナ「え? 何か言いましたか?」

 

和也「いや! 何も言ってないぞっ!」

 

 こちらを不思議そうに見るセリナ。

 

和也「(危ない、口に出ていたか)」

 

 何とかバレずには済んだが、これは色々と問題だろう。

 ふと周りを見ても神族も魔族も男連中は、ジッとアクアを見ている。

 

 さっき立ち上がる時も、大きな胸が揺れていた。

 ただ揺れていただけならいいのだが、どういう訳か無駄にエロいのだ。

 何がどう他と違うのかと問われても答えは出せない。

 しかし、何か圧倒的に違う。

 そしてこの時点で、ようやく理解した。

 

 アクア=レーベルトが種族を問わず男連中から人気な理由。

 大きな胸が特徴的のスタイル抜群な身体。

 顔も美少女と言えるし、家柄も申し分ない。

 これだけでも人気になれる要素たっぷりなのに

 更に、この無駄なエロさが加われば

 そりゃ男連中が放っておかないだろう。

 あのエロさは、もはや特殊能力の域だ。

 計算だろうがそうでなかろうが

 あのエロさは男を堕落させる危険なもの。

 特にあの胸は、まったくもってけしからん。

 何だ? 揉むのか? 揉めばいいのか?

 

セリナ「和也くん、どうしましたか?」

 

 ふと気づくと、こちらの顔を覗き込むようにして

 前に居るセリナと目が合う。

 

和也「おおおぅ!

   な・・・なな何だ?」

 

セリナ「ずっと、ぼーっとしていたみたいですから

    大丈夫かなと思いまして」

 

和也「何でもない、何でもないっ!!」

 

 色々と危なかった。

 いや、本当に危なかった。

 これは精神力の必要な戦いだ。

 しっかりと、おっぱ―――もとい亜梨沙の試合を見なければ。

 

 しかし、そう考えるとセリナの胸も大きい。

 まだ可愛らしさが残る顔立ちとは違い、身体は立派に女を主張している。

 そう言えば双子のエリナも胸、結構あったな。

 こう腕を絡めてくる時に当たるムニっという感触がまたなんとも―――

 

 ・・・ああ、ダメだ。

 色々と末期だ。

 余計なことばかり考えてしまう。

 俺は、自分の頬を両手でパンパンと叩いて気合を入れ直す。

 

フィーネ「ん?

     どうしたの、和也?」

 

和也「な、何でもないって」

 

 俺だって健全な青少年だ。

 そういう妄想の1つや2つはする。

 しかし、それを年頃の女の子に理解しろとは言えない。

 理解どころか軽蔑されるのがオチだ。

 

 周囲の女性陣に気づかれないように何とか色々と話題を逸らす。

 そんなことをしている間に、試合も動き出す。

 

亜梨沙「・・・」

 

 ゆっくりと刀を抜いて構える亜梨沙。

 

アクア「このワタクシを本気にさせたこと・・・

    後悔させてあげますわっ!」

 

 儀式兵装を掲げて四翼を開く。

 弾装の薬莢が地面に落ち、カランと音が鳴り

 彼女の足元に青く輝く魔方陣が展開される。

 

アクア「全てが凍りし、極寒の地。

    アナタは、生きて出られるかしら?

    さあ、いきますわよっ!!

    ワールド オブ アイスッ!!!」

 

 魔方陣が放つ強い光に闘技場全体が包まれる。

 あまりの眩しさに目を閉じる。

 そしてそのまま数秒後。

 

フィーネ「・・・フィールド変更魔法ってところかしら?」

 

リピス「なかなか、面白そうじゃないか」

 

 聞き慣れた声に、ゆっくりと目をあける。

 いつの間にかフィーネとリピスが、セリナと同じく隣に立っていた。

 感想を言う彼女らに対して、会場は誰も居ないと錯覚するほど

 静まり返っていた。

 俺は、フィーネ達の視線を追って、ゆっくりと亜梨沙達が居た

 戦闘フィールドを見る。

 

 そこには、別の世界が広がっていた。

 巨大な氷柱が、いくつも立ち並び

 フィールド全体が氷に閉ざされたエリアと化していた。

 

和也「・・・こんな魔法、見たことないぞ」

 

 魔法は、基本的に形が決まっていないため、様々な応用が可能だ。

 ただ、制御が非常に難しいため、それらを簡略化して使いやすくした

 テンプレート魔法が一番初めに覚える魔法となる。

 ファイア・アローやパワー・ウインドなど

 みんなが使っている魔法がそれで

 これらテンプレ魔法は長年の研究結果として

 非常に扱いやすい術式に進化したため

 誰もが好んで使用する一般的な魔法となった。

 

 逆に1から生み出すオリジナル魔法は、使い手が少ない。

 既存の概念に囚われない発想力と、オリジナル魔法を作れるだけの

 魔法制御力や魔法知識を持っている者が、そもそも少ないためである。

 なのでオリジナル魔法は、一種の強さの基準とも言え

 魔法を使う者達にとってはオリジナル魔法は

 1つの目標であり憧れでもある。

 

 そんなことを考えながらも亜梨沙を探す。

 すると大きな氷柱の横に立っていた。

 

亜梨沙「・・・」

 

 亜梨沙は、刀を構えながら周囲の様子を伺う。

 オリジナル魔法と言っても大半は、解りやすい攻撃魔法等が主流だ。

 魔法で広範囲のフィールドを変えるなんてやり方、経験したことがなく

 相手の次の一手が、まったく読めない。

 様子見するしかない状況に、自然と刀を握る手にも力が入る。

 

 ガシャーン!! 

 

 後ろで何かが砕けた音がする。

 見れば氷柱の一部が落ちて砕けた音だった。

 その瞬間、まるで亜梨沙が振り返るのを待っていたかのような

 タイミングで、亜梨沙の後ろから氷の槍のようなものが

 亜梨沙に向かって飛んできた。

 気づいた亜梨沙は跳躍して回避する。

 着地した瞬間、氷の張っている地面のせいで足が滑って着地が乱れる。

 その隙を見逃さないというようなタイミングで

 またも亜梨沙の前方と後方から、何本もの氷槍が亜梨沙を襲う。

 

 だが亜梨沙に命中する少し手前で、氷槍達は亜梨沙を避けるように

 急に向きを変えて違う場所へと飛んでいった。

 

和也「・・・ウインドシールドか」

 

 薄っすらとした壁が亜梨沙を周りを包んでいたのが

 氷槍が向きを変えられた瞬間

 その一瞬だけ見えた。

 

リピス「亜梨沙は、バランスの取れた良い戦士だな」

 

和也「まあ亜梨沙は、人界最強と呼ばれる風間流の師範代の一人だからな」

 

リピス「確か師範代は・・・教える立場だったか?」

 

 そうだなぁ、と少し前置きをしてから風間流の称号説明をする。

 

和也「まず最高師範。

   これが亜梨沙の爺さんで、風間の全てを決める決定権を持ってる。

 

   次に師範。

   まあクソ爺は、門下生の相手なんぞ滅多にしないから

   門下生を指導している最高指導者的な存在になってる。

   この師範をしてるのが亜梨沙の父親。

 

   その次が師範代。

   師範の代わりに人界の様々な場所で流派を教えている。

   まあ先生的な位置がこれだな。

   基本的に風間流で、まず目標にされるのが師範代ってこともあって

   全門下生の手本となるような者が選ばれているらしい。

   亜梨沙を含めて確か今は、10人ぐらいだったはず。

 

   で、次が準師範代

   基本的には師範代のサポート役という感じの扱いだ。

   だから師範代が中々見に行けない地方の道場なんかを中心に

   指導しに行ってる人が、ほとんどだな。

   人数も確か10人ちょっとだったはず。

 

   この次が、名乗り。

   名乗りは、まあ風間流以外の誰かと試合をする際に流派の名を

   名乗っていいかどうかの称号だ。

   流派の名を背負えるぐらいの強さを持っていると判断された奴だけが

   これになる。

 

   その下も色々あるが、名乗りより下は、似たようなものばかりだし

   長くなるから省く。

   まあ門下生が、数十万人居ると思ってくれればいい」

 

リピス「・・・ほぅ。

    まあ私の金麟を抜いたぐらいだし

    人界で亜梨沙は、かなり上位のレベルだということか」

 

和也「そういうことだな。

   あいつは自分を卑下する悪い癖があるが

   本人が思っている以上に亜梨沙は、強い」

 

 亜梨沙の全力を誰よりも知っているからこそ俺は、そう断言できる。

 そして何より、あの若さで風間流の師範代になった者は

 歴代を通しても数えるほどしか居ない。

 それほどまでに亜梨沙は、実力があるのだ。

 ただアイツの悪い癖で、全力で戦うことが滅多にない。

 俺には、いつも全力で戦わないことについて文句を言う癖に

 亜梨沙の方こそ全力で戦わないじゃないかと言っても

 スルーしてくる不公平さ・・・それが亜梨沙だ。

 

 俺とリピスが話している間も、亜梨沙の戦いは続いている。

 

亜梨沙「・・・っ!!」

 

 緩急をつけながらも常に死角から飛んでくる氷槍。

 滑る足元のせいで、なかなか上手く動けないながらも

 それらを回避しながら前へと進み、大きな氷柱の角を曲がった瞬間―――

 

アクア「待っていましたわっ!」

 

 亜梨沙が来ると予想していたアクアは

 無数の氷槍を周囲に準備していた。

 それらを一斉に亜梨沙へ向けて飛ばす。

 

亜梨沙「ウインドシールドッ!!」

 

 咄嗟に弾装を使用し、名前を叫んで魔力制御に集中する。

 弾装の薬莢が地面に落ちた瞬間、無数の氷槍が亜梨沙に襲い掛かる。

 

 亜梨沙は、風盾により強引に氷槍の軌道を変えようとする。

 

アクア「モード・ペネトレイトッ!!」

 

 アクアの声に反応してか、風盾にぶつかっていた氷槍のうち

 3本だけを残して、あとは全て砕け散る。

 だが残った3本は、風盾による軌道変更に逆らうように

 ズレていた矛先を亜梨沙に向け直した。

 

 何かを察した亜梨沙は、横へ逃げようとする。

 その瞬間、風盾を勢い良く氷槍が貫通して亜梨沙を襲う。

 

亜梨沙「―――ッ!!」

 

 何とか直撃は回避したものの氷槍の1本が亜梨沙の左腕に

 少し触れたらしく、服が少し切り裂かれて

 血が滲んでいる。

 

アクア「まだまだ、これからですわよっ!!」

 

 アクアは、更に氷槍を発射する。

 

亜梨沙「ウインドシールドッ!」

 

 風盾を展開するも―――

 

 バシュッ!!

 

 貫通力が増した氷槍は、いとも簡単に風盾を貫き亜梨沙に迫る。

 

亜梨沙「くっ!」

 

 下手に斬れば魔力爆発が起きるため、何とか刀で氷槍の矛先を

 ズラして回避する。

 

アクア「はぁぁぁぁっ!!」

 

 氷槍が回避されることを予想してか、アクアが跳躍して

 上から剣を振り下ろしてくる。

 亜梨沙は、それを横に飛んで回避するも

 またも着地で足が滑って体勢が崩れる。

 しかしアクアは、跳躍からの着地の際も

 まったく足を滑らせることはない。

 

アクア「もらいましたわっ!!」

 

 アクアは、振り落とした剣を水平に素早く構え直して亜梨沙に突っ込む。

 自身が作り出した氷の空間ゆえに、アクアが凍った地面で

 足を滑らせるようなことはないのだろう。

 

アクア「パワー・アイスッ!!」

 

 水の強化魔法がかかっている剣に、更に氷の強化魔法を重ねて

 アクアは、亜梨沙に向かって剣を薙ぎ払う。

 

亜梨沙「―――ッ」

 

 風盾も間に合わず、刀で受け流そうにも不安定な足元のおかげで

 体勢が崩れているだけでなく、力を入れて踏ん張ることも出来ない。

 しかもただでさえ力負けしていたところに強化魔法の重ねがけをされては

 とてもではないが防ぎきれない。

 

 何とか刀で受け止めようとするも、吹き飛ばされて

 大きな氷柱に激突する。

 氷柱は、衝撃に耐え切れずに倒壊していく。

 倒壊した氷柱で亜梨沙が激突した付近は、白い霧に覆われる。

 氷柱の瓦礫が亜梨沙の居た付近へ崩れ落ちる中、更にアクアは

 氷槍を発射して追撃をかける。

 

 そして数秒後、霧が晴れる。

 亜梨沙が居た場所は、倒壊した氷柱の残骸で埋まってしまっていた。

 

観客達「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

 一気に歓声が上がる。

 神族達を中心に、アクアへの賞賛の声も聞こえてくる。

 

セリナ「・・・和也くん」

 

 少し不安げな顔で俺を見るセリナ。

 

メリィ「・・・あの一撃。

    かなりまともに入ってしまいましたね」

 

 メリィさんも心配そうにしている。

 亜梨沙の心配をする2人に俺は『大丈夫』と声をかける。

 風間の師範代が、あの程度の攻撃で倒せるのなら

 誰も苦労はしないだろう。

 

 闘技場内は、アクアコールが起きており

 アクアも手を振って声援に応えている。

 もう勝ったつもりなのだろう。

 

 しかしセオラ先生は、まったく勝利宣言をする気配がない。

 それを気にしてか、アクアが声をかける。

 

アクア「ワタクシの勝利宣言は、まだですの?」

 

セオラ「・・・生徒アクア。

    あの燃え上がるような闘志に気づきませんか?」

 

 セオラがアクアにそう告げた瞬間だった。

 突然崩れた氷柱のあたりから竜巻が発生し

 辺り一面の氷柱の残骸を上へと吹き飛ばしていった。

 

 竜巻は、地面の氷まで吹き飛ばし

 氷柱の残骸があった付近だけ土の地面が見えている。

 そして消えた竜巻の中心には、亜梨沙が立っていた。

 

和也「・・・あ~あ」

 

リピス「ん? どうした?」

 

フィーネ「どうしたの?」

 

 2人が同じタイミングで声をかけてくる。

 

和也「まあアレだ。

   亜梨沙の奴、完全に怒り爆発ってところだな~と」

 

 長年、亜梨沙を見てきたから解る。

 あの眼は、完全に切れてるな。

 

フィーネ「怒ると何かあるの?」

 

和也「亜梨沙は、普段だと対戦相手にも気を使うことが多い。

   よほど嫌いな相手以外だと、一方的な展開にせず

   相手に多少は華を持たせたりして『良い勝負』をワザと演じる。

   まあ師範代としては、それでいいんだがな。

   でも、あの眼になった亜梨沙は、完全に容赦が無くなるんだよ。」

 

 俺も昔、あの眼になった亜梨沙と戦ったことがあるが

 普段は、絶対にやらないような相手の苦手な箇所を執拗に狙う攻撃や

 嫌がらせのような小技などを躊躇い無くやってくる。

 いつもは、全力を出さないように抑えているものが

 一気に出るという感じで、まさに亜梨沙の本気モードだと言える。

 ・・・まあ怒っている分、判断力が少し鈍くなるのが欠点だが。

 

フィーネ「なるほど、亜梨沙の本気か・・・」

 

リピス「・・・ほぅ。

    それは愉しみだ」

 

 リピスとフィーネは、不敵な笑みを浮かべる。

 

 闘技場内は、また一気に静まり返った。

 あれだけ綺麗に決まったと思える一撃を受けて

 まるでダメージを受けていないが如く、普通に立っているのだ。

 アクアも驚いた顔をしている。

 

 亜梨沙は、刀を構えると魔力を一気にチャージする。

 足元に緑色をした魔法陣が展開され、亜梨沙の構えた刀が

 緑色に輝き出す。

 

亜梨沙「風間流 ―風(かぜ)の章(しょう)― 烈風破滅斬(れっぷうはめつざん)ッ!!!」

 

 叫びと共に亜梨沙が刀を振り下ろす。

 その瞬間―――

 

 大きな衝撃音と共に辺り一面を爆発と砂塵が覆った。

 

 しばらくして辺りを覆っていた砂塵が無くなる。

 すると、戦闘フィールドが激変していた。

 

アクア「・・・そんな」

 

 アクアが作ったフィールドは、完全に崩れ去り消えていた。

 魔法で作られたフィールドは、本来破損しても魔力を込めるだけで

 元通りになる。

 しかし亜梨沙の一撃は、アクアのフィールドを作り出した

 フィールドを完全に破壊し、再生不可能な状態となっていた。

 それはすなわち、亜梨沙の一撃に使った魔力が

 アクアのフィールドを作っていた魔力よりも

 完全に上だということの証明である。

 

アクア「(み、認めません・・・。

    そんなこと、認めませんわっ!!)」

 

 神族や魔族は、翼のおかげで魔力を増幅することが可能なため

 強力な魔法が行使可能だ。

 逆に翼を持たない竜族や人族は、本来魔力的には劣ってしまうために

 あまり強力な魔法は使えない。

 

 しかし目の前の人族は、いったい何なのだ。

 神族である自分が翼を開いて弾装まで使用して使ったオリジナル魔法を

 同じくオリジナル魔法のような一撃で完全に潰した。

 しかも弾装を使わずに。

 そんな魔力を持った人族なんて聞いたことがない。

 そして、ここまで人族が強いという話も。

 

亜梨沙「・・・」

 

 亜梨沙は、無言のままアクアの近くまでゆっくり歩く。

 そして―――

 

亜梨沙「最強を掲げる風間流。

    その創設者、風間(かざま) 一刀斎(いっとうさい)が裔(すえ)

    風間 亜梨沙!

    流派師範代の末席なれど、剣舞見せよう、風間の舞をっ!

    風間は、ただ勝利あるのみっ!!」

 

 亜梨沙は『名乗り』を上げ、刀を持ち直して右半開の構えを取る。

 

 『名乗り』とは、風間流の中でそれが許された者が

 誰かと試合をする際に流派を名乗る行為だ。

 

 風間の名を広めるために名乗るのではなく

 『これから全力でお前を倒すぞ』という意思表示として

 用いられているのが風間の名乗りである。

 

 そして名乗りを上げた以上、決して無様な戦いは許されない。

 常に最強を掲げる風間において、名乗りとは

 それほどまでに重要なものとされている。

 

亜梨沙「スピードアップ・セカンドッ!!

    パワー・ウインドッ!!」

 

 叫んだ瞬間、一気に高速化してアクアの後ろまで回り込む。

 

アクア「アイスシールドッ!!」

 

 後ろからの一撃をアイスシールドで耐える。

 亜梨沙は、そのまま構わずに弾装を使用した2撃目を放つ。

 弾装の純粋魔力を攻撃に回しての一撃に氷盾は砕かれる。

 

 だがアクアも既に振り返っており、振り向きながらの一撃を放つ。

 亜梨沙は、その一撃を受け流すとカウンター気味に蹴りを入れる。

 脇腹に蹴りを受け、アクアが後ろに下がろうとするところを

 更に加速魔法による圧倒的な速さでアクアの後ろに、また回り込んだ。

 

亜梨沙「―――ッ!」

 

 後ろに回り込んだ亜梨沙だったが、アクアの後ろには

 まるで回り込まれるのが解っていたと言わんがばかりに氷槍が3本

 亜梨沙に向いていた。

 回り込んだ勢いを殺さずにそのまま側面まで移動する亜梨沙。

 それにより飛んできた氷槍は回避出来たものの

 その動きを予測していたかのように

 側面を向いていたアクアの一撃が亜梨沙を襲う。

 だが、アクアの完璧とも思える一撃をも亜梨沙は『旋風』で返す。

 

アクア「アイスシールドッ!!」

 

 タイミング的には決まったはずの旋風だったが

 アクアは弾装を使用しての氷盾で亜梨沙の旋風を防ぐ。

 攻撃を防がれた亜梨沙は、嫌な予感を感じて横に飛ぶ。

 

アクア「ブレイクジャベリンッ!!」

 

 アクアの声と共に氷盾が砕ける。

 しかし、ただ砕けたのではなく槍と化した破片が

 亜梨沙の居た場所に、大量に突き刺さる。

 判断が少しでも遅ければ亜梨沙は、危ないところだっただろう。

 

 そしてアクアの魔法制御技術も凄いと言える。

 本来、暴走させて爆発を誘発する『ブレイク』魔法を

 狙いを持たせて爆発をさせるとは。

 いや、あそこまでいくと、もはや別魔法への発展というべきか。

 どの道これほどの技術は、学園フォース内でも滅多に居ない。

 

 氷槍を回避した亜梨沙は、刀の先をアクアに向けた形で構えて

 姿勢を低くしていた。

 そして―――

 

亜梨沙「風間流『舞(まい)』鬼刃(きば)」

 

 呟き声の後、亜梨沙が一気に距離を詰める。

 

アクア「ッ!?」

 

 加速魔法を使用しての高速突きの嵐にアクアは

 氷盾を使いながらも必死に防御に徹する。

 そして防御に専念しすぎるあまり、足が止まってしまう。

 それが一番『鬼刃』に対してして、やってはならないことだと知らずに。

 

 足を止められロクに動き回れなくなった状態の相手に

 鬼刃の容赦の無い全力攻撃が始まる。

 ここぞとばかりに正面からの突きだけではなく側面からの攻撃や

 フェイント等が混ざり始め、攻撃の精度だけでなく

 攻撃速度まで上がり始める。

 全てが変則的かつ立体的な攻撃に、反撃どころか防御すら間に合わず

 対処しきれない攻撃で、腕や足に切傷が増えていく。

 

 しかしアクアも、このまま負けるような戦士ではない。

 

アクア「アイスシールドッ!!」

 

 亜梨沙が剣を引いた一瞬のタイミングを見逃さずに翼を広げ

 弾装を使用して全方位を囲むように氷盾を展開するアクア。

 

 目の前に出現した氷盾に亜梨沙は、1歩距離を取るも

 スグに姿勢を低く構え直して―――

 

亜梨沙「パワー・ウインド・セカンドッ!!」

 

 刀に、中級強化魔法をかける。

 直後に亜梨沙は、再び鬼刃を舞う。

 始め一撃目に魔力の衝突が少しあっただけで

 亜梨沙の刀は氷盾を貫通した。

 鬼刃の驚異的な連続突きにより一瞬で穴だらけになる氷盾。

 

 時間稼ぎまで潰されたアクアは、氷盾を捨てて後ろに下がる。

 

アクア「(いったいあの人族は、何者なんですのっ!?)」

 

 一般的な人族の平均レベルでは、中級の補助魔法1つが限界だ。

 目の前の相手は、腐ってもフォースに入学出来る相手と考えれば

 刀にかけた初級強化魔法と加速魔法の中級を同時使用しているのも

 まだ納得出来る。

 しかし、それが限界だ。

 それ以上は、魔力制御がどうとかの問題以前に

 『魔力そのものが足りない』のだ。

 

 翼の無い人族では、そこまでの魔力を用意することは出来ない。

 だから使える資質があっても根本的に無理であり

 弾装を使用して無理やり使えたとしても

 弾装分の魔力が切れれば維持出来なくなるため持久力が無い。

 だが目の前の人族は、弾装も使用せずに中級魔法を2つ併用している。

 

 亜梨沙は、後ろに下がったアクアとの距離を一瞬で詰める。

 加速魔法相手に距離をあけることが出来ず、再び防戦一方になるアクア。

 

アクア「・・・」

 

 必死に防戦するも徐々に押し込まれていく。

 直撃を回避するのが精一杯で、避けきれない攻撃に

 また切傷が増えていく。

 

 自然と悔しさが胸に広がる。

 学園に入学してから一度たりとも負けたことはない。

 今まで自分よりも上の階級相手でも勝利してきた。

 一度に複数の相手と戦っても常に勝ってきた。

 だからこそ間違いなく学園内でも、かなり上位の実力者であるという

 自信もある。

 

 そんな自分が、ここまで押されているのだ。

 人族は、弱いと言ったのは誰だろう。

 少なくとも目の前の戦士は、他種族に劣っているとは思えない。

 

亜梨沙「―――ッ!」

 

 アクアの防御を正面に集中させ、その隙を突いて

 またも脇腹を狙う軌道で蹴りを放つ。

 その蹴りを回避しようとしたアクアだったが

 それが亜梨沙のフェイントだと気づいた時には

 既に亜梨沙の蹴りが、アクアの剣を持った手を捉えていた。

 

 剣を持った手を捉えた蹴りが、そのまま勢い良く押し込まれる。

 

アクア「くぅっ!」

 

 腹まで押し込まれた蹴りで、剣の柄が脇腹にめり込んだ。

 苦痛で一瞬怯みそうになるが、痛みを堪えて氷槍を1本素早く作り出すと

 亜梨沙に向かって放つ。

 

 亜梨沙は、それを難なく回避すると、そのまま追撃しようとする。

 しかし足元にチラリと見えた氷槍に、後ろに軽く飛んで距離を取る。

 その瞬間、下からの氷槍が亜梨沙の居た場所から上へ飛んでいく。

 一瞬空いた距離のおかげでアクアは、体勢を整える。

 

 亜梨沙は、様子を見ることにしたのか

 刀の先をアクアに向けた形で、低い構え姿勢のまま動かない。

 

アクア「(くっ・・・力が・・・)」

 

 剣を思わず落としそうになり、手に力を入れ直すも

 思うように力が入らない。

 視界も少しボヤけてきている。

 ・・・恐らく、血を流しすぎたのだろう。

 身体中についた切傷は、既に痛みを感じないものの

 未だに少量ではあるが血を流し続けている。

 

 それでも構えは、崩さない。

 無様な姿は、決して見せない。

 

アクア「ワタクシは、アクア=レーベルトッ!

    誇り高き名門レーベルト家の長女ッ!!

    敗北など、決してありえませんわっ!!」

 

 翼を広げ、弾装を使う。

 アクアの周囲に氷槍が精製されていく。

 1本作るごとに弾装が排莢される。

 連装式の利点を最大限活用し、1本1本を必殺の威力としているようだ。

 

 儀式兵装の弾装は、二種類ある。

 単発式と連装式だ。

 

 単発式は、1発使うごとに弾を装填しなければならないという

 欠点があるもののその形状は連装式よりも大きく

 威力も連装式よりもかなり高い。

 連装式は、儀式兵装によって数が変わるが

 内部に数発から数十発の弾を入れておくことが出来る。

 そのため1発ごとにリロードが必要な単発式とは違い

 ある程度リロードの心配をせずに使用することが出来る。

 だが、単発式より弾は小さく威力も低い。

 

亜梨沙「・・・」

 

 強化魔法と加速魔法を維持しながら、鬼刃の構えで

 アクアの準備が整うのを待つ。

 待たずに鬼刃を舞い続ければ、恐らく押し切れただろう。

 しかし亜梨沙は、アクアの全てに正面から挑むつもりでいた。

 それは『名乗り』に値する強敵に対する敬意だけでなく

 流派師範代としての亜梨沙のプライドでもあった。

 

 そして、アクアの準備が整った。

 彼女の周りには30本を越える氷槍がある。

 その数に誰もが驚く。

 アロー魔法と違うものではあるのだろうが、それでもそれに近い魔法で

 この数を揃えた者が、今まで居ただろうか。

 

アクア「・・・アナタ。

    名前は、何だったかしら?」

 

亜梨沙「・・・風間 亜梨沙です」

 

アクア「そう。

    その名前、しっかりと覚えましたわ」

 

 その言葉と共に、掲げていた剣を亜梨沙に向ける。

 

アクア「行きますわよ、風間 亜梨沙ッ!!」

 

 一斉に氷槍が、まるで雨のように亜梨沙に降り注ぐ。

 それを亜梨沙は、何度も回避する。

 1本でも直撃すれば即負けが確定するほど強力な一撃を持つ氷槍の雨を

 まるで踊りでも踊っているかのような動きで

 氷槍を避けながらアクアに近づく。

 

 途中、避けきれない一撃に左腰にある刀の鞘を投げる。

 氷槍にぶつけた際に出来た一瞬の空間を全力で通り抜け

 ついにアクアの目前にたどり着く。

 亜梨沙の儀式兵装の弾装が使用され、排莢された薬莢が

 弧を描きながら宙を舞う。

 そして走り込んだ勢いのまま、アクアに向けて刀を振る。

 

アクア「パワー・アイス・サードッ!!!」

 

 叫び声と共に排莢された薬莢が、弾き飛ばされたかのように

 勢い良く飛び出す。

 あれだけの魔法を使ったにも関わらず上級魔法を使用するアクア。

 力を酷使した反動か、身体が悲鳴を上げるように痛むも

 構わずに魔法を使う。

 弾装を単純な魔力付与として剣に使うのではなく

 上級魔法を使用するためのブーストとして使用したのは

 彼女の魔力が既に限界だということだろう。

 

亜梨沙「(あれだけ使ったのに、まだ魔力や弾装が残ってるっ!?)」

 

 アレだけ魔力を注ぎ込んだ必殺の氷槍を

 全て囮にして待ち構えていたアクアに亜梨沙は、驚くしかなかった。

 

 氷槍に全ての魔力を使ったと思い、魔力の再チャージ前に接近戦に

 持ち込んでしまおうと大きく踏み込んだのだ。

 まさか待ち構えられていると思わず

 逆に大きく踏み込んだことが仇となり回避行動が取れない状況に

 なってしまったため、そのまま攻撃を選択する以外に道が無くなる。

 

 一方アクアは、思わず笑みを浮かべる。

 ・・・そう。

 全てアクアが『狙った通り』の結果なのだ。

 まさにアクアの執念が呼び込んだチャンスと言えるだろう。

 

 アクアは、強化魔法が付与された剣で亜梨沙の一撃を

 下から上へと、思いっきり弾く。

 

 ガキィィン!!

 

 高めの金属音と共に亜梨沙の刀が宙を舞う。

 中級の強化魔法に弾装の魔力付与があったとしても

 相手は、儀式兵装による初級強化と強力な上級強化魔法だ。

 アクアの強力な一撃に耐え切れず、刀を手放してしまった亜梨沙。

 

アクア「これで終わりですわっ!!!」

 

 下から上へと斬り上げた剣の勢いを止め、剣を握り直して足を踏み込む。

 そしてアクアの渾身の一撃が振り下ろされる。

 

 儀式兵装の刀以外の武器を持っていないように見える亜梨沙。

 その刀も弾かれ宙を舞っている。

 武器の無い亜梨沙に、アクアの攻撃は止めれない。

 誰もがアクアの勝利を確信しただろう。

 しかし亜梨沙は、振り下ろされる剣を前にして両手を

 鞘のあった左腰に当てている。

 しかし鞘は、氷槍を避けるために投げたため、もうそこには何もない。

 何も無いはずの場所に手を当て、構えた亜梨沙は呟いた。

 

亜梨沙「風間流・三光(さんこう)」

 

 ・・・。

 

 一瞬の出来事だった。

 亜梨沙は、何時の間にかアクアの少し離れた後方に居た。

 二人の間に風が吹いた瞬間、弾かれ宙を舞っていた亜梨沙の刀が

 綺麗に地面に突き刺さる。

 

アクア「・・・ホント、誰かしら。

    人族が弱いなんて言ったのは。

    全然、強いじゃないの」

 

亜梨沙「・・・」

 

アクア「正直・・・『悔しい』ですわ」

 

 アクアから少量ではあったが、勢い良く血が吹き出す。

 そしてゆっくりと地面に倒れこんだ。

 アクアの判定ネックレスが反応して身体中についていた傷を

 全て綺麗に治していく。

 

セオラ「勝負ありっ!!

    勝者! 風間 亜梨沙!」

 

 先生の宣言が、静まり返った闘技場内に響く。

 しかし、やはりというべきか歓声など起きない。

 ただ皆、呆然としている。

 

 亜梨沙は、儀式兵装の刀や鞘を拾った後にアクアに向けて一礼している。

 すると―――

 

 パチパチパチ

 

 俺の隣から小さいながらも拍手が聞こえてきた。

 

リピス「・・・素晴らしい戦いだった。

    やはり闘技大会は、こうでなければな」

 

フィーネ「面白い勝負だったわ」

 

メリィ「久々に良い勝負を見た気がします」

 

セリナ「どちらも素晴らしい戦いでした」

 

 彼女らの拍手の後に、竜族達が拍手をし始める。

 まあリピスが拍手しているのに、自分達がしないわけにも

 いかないというものあるが、元々友好関係にあった種族でもあるため

 そこまで抵抗を感じている娘も居ないだろう。

 神族や魔族連中は、もちろん拍手なんてしていない。

 竜族のみの、ささやかながらも闘技場内全体からの拍手。

 

 亜梨沙は、闘技場の観客席を軽く見回すとリピスを見つけて

 頬を紅く染めながらも、まるで『余計なことはするな』と言うように

 軽く睨んで控え室へと戻っていった。

 

和也「まあ、途中から全力だったから当然と言えば当然の結果だな」

 

リピス「しかし、最後のアレは何だ?

    武器らしいものが見えなかったぞ」

 

和也「まあ、気になるなら本人に聞けばいいさ」

 

 亜梨沙の最後の一撃。

 それを俺は、知っている。

 しかしアレは、文字通り亜梨沙にとっての切り札の1つだ。

 俺が説明する訳にもいかない。

 

リピス「・・・う~む」

 

和也「さて、俺もそろそろ行ってくるかな」

 

 そろそろ控え室に向かう時間となったため

 悩むリピスをそのままにして、控え室に向かう準備をする。

 

フィーネ「和也、頑張ってね」

 

セリナ「頑張って下さいね」

 

メリィ「応援しております」

 

 それぞれの応援を背に受けながら、控え室へと歩いていく。

 その途中―――

 

亜梨沙「・・・兄さん」

 

和也「よう。

   さっきは、良い勝負だった。

   俺も兄として鼻が高いぞ」

 

亜梨沙「・・・イジメですか、兄さん」

 

 勝ったことを褒めたつもりが、頬を膨らませて怒る亜梨沙。

 

和也「・・・何でそうなるんだよ」

 

亜梨沙「あれは、私の完全な油断です。

    そうでなければあそこでアレを使うことなんて―――」

 

和也「はいはい。

   わかった、わかった」

 

 そう言いながら強引に亜梨沙を抱きしめる。

 

亜梨沙「なっ!?

    ちょ、兄さん・・・」

 

和也「お前が完璧主義なのも、風間の師範代としての立場も知ってるが

   それでも、お前自身が頑張ってることを

   お前が否定しちゃダメだろう」

 

 初めは少し抵抗する素振りだったが、今は完全に大人しくなった亜梨沙。

 その頭を優しく撫でる。

 

和也「お前は、頑張ってるよ。

   さっきのも、風間の名に相応しい立派な戦いだった。

   だから勝ったことを素直に喜べ」

 

亜梨沙「・・・まあ。

    兄さんがそういうなら、そういうことにしてあげます」

 

 こちらと目を合わせないように顔を下に向けたまま

 こちらに身体を預けるように抱きついてきた亜梨沙。

 

 そして1~2分ぐらい経ったころに

 

亜梨沙「・・・兄さんの試合。

    応援してます」

 

 そう言うと、スッと俺から離れた。

 

和也「任せとけ。

   妹の前で、かっこ悪い所は見せられないからな」

 

 軽く笑いながら、俺は亜梨沙に手を振って控え室の中へと入っていった。

 

亜梨沙「・・・兄さん」

 

 私は、兄さんが見えなくなるまで、その姿を見送った。

 

亜梨沙「・・・はぁ」

 

 兄さんの姿が見えなくなった直後に、思わずため息が出る。

 私の考えなどお見通しだという感じだった。

 

 確かに兄さんの言う通りなのだが、それが悔しいのだ。

 

亜梨沙「だって、私は・・・。

    私は、兄さんのことをそれだけ理解出来てるとは言えませんから」

 

 何年も傍に居るのに、未だにあの人の全てを捉えきれない。

 これだけ見てきているのに・・・という想いがある。

 

亜梨沙「・・・ホント、兄さんなんて嫌いです」

 

 和也の向かった方角に、そんな言葉を呟く。

 そして、くるりと背を向けて歩き出す。

 

亜梨沙「・・・うそです。

    大好きですよ、兄さん」

 

 歩きながら、つい口からこぼれ出た言葉。 

 

 その言葉は、誰に聞かれる訳でもなく

 ただ辺りを吹く風の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

第6章 激戦の闘技大会 ―前編― ~完~

 

 

 





ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
今回から闘技大会編です。
バトルばかりです(笑)

闘技大会が終わったあたりから、また他ヒロインの話を
入れていく予定はしていますが
とりあえず現在続きを鋭意製作中ですので
お待ち頂けると幸いです。


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第6章 激戦の闘技大会 ―中編―

エリナ「えぇぇぇぇぇぇ~!!!」

 

 闘技場内は、全生徒が集まっており常に騒がしくはあるが

 そんな騒がしさに負けないほどの大きな声があがる。

 

エリナ「何? イジメ?

    私に何の恨みがあるのよぉぉぉ!!」

 

 フィーネ達のところへ帰ってきたエリナだったが

 亜梨沙の対戦の話を聞いた途端に、この状態である。

 

リピス「まあ、運が悪かったと思って諦めるんだな」

 

セリナ「・・・こればっかりは、どうしようもないです」

 

 理由は、実に簡単だ。

 亜梨沙の試合が、かなり良い勝負だったらしいのだが

 自分は、控え室に居たために見逃したのだ。

 

 しかも自身の対戦相手は、1階級の神族の女の子だった。

 そんな子に真剣になれるわけもなく、ある程度様子見をしながら

 優しく相手をしてあげただけなので、不完全燃焼である。

 

 なので、せめて他人の名勝負を

 1戦でも多く見れれば・・・と思っていた。

 その出鼻が盛大に挫かれ、不機嫌さが増していた。

 

亜梨沙「・・・何があったんですか?」

 

 ちょうど今、帰ってきた亜梨沙の目の前には

 座り込んで地面に『の』の字を書く、神界第二王女の姿があった。

 

フィーネ「えっと・・・。

     たぶん、気にしたら負けだと思うわよ」

 

亜梨沙「・・・なら見なかったことにします」

 

エリナ「ちょっとは、慰めてくれてもいいんじゃないかなっ!?」

 

 そんなやり取りをしていると、周囲から盛大な歓声と共に

 罵声が聞こえてくる。

 

魔族男生徒「さっさとくたばれ人族っ!!」

 

神族男生徒「めざわりなんだよっ!!」

 

 そんな言葉にフィーネ達は、一斉に戦闘フィールドを見た。

 

 

 

 

 

第6章 激戦の闘技大会 ―中編―

 

 

 

 

 

 

和也「(相変わらずだなぁ)」

 

 周囲の罵倒に思わず苦笑する。

 まあいつも通りと言えばいつも通りではあるのだが

 今回は、いつもより張り切った罵声が多い。

 

 恐らく亜梨沙のせいだろう。

 あいつが有名どころの1人を倒してしまったため

 下手に罵倒出来なくなってしまった。

 なら、もう1人の儀式兵装すらもっていない『落ちこぼれ』には

 無様に負けて欲しいと考えているのだ。

 そうすれば今まで通り『弱い人族』と罵倒出来るし万が一

 襲ってこられても、そんな弱い人族なら

 返り討ちにしてしまえばいい。

 

 彼らからすれば俺は、あくまで見下せる相手であって欲しいのだ。

 そもそも人族が戦争責任を押し付けられたのも

 国内の不満を外に向けるためのものだった。

 共通の敵を作ることによって自分達への敵意をそらす

 間違いなく有効な手である。

 

 まあその結果が今だ。

 結局立場的に弱い人族は、それを受け入れるしかなかった。

 

 だがそれを俺が今、受け入れる道理はない。

 

 そんなことを考えていると対戦相手が歩いてきた。

 

?「・・・」

 

 初めて見る顔の男の魔族だ。

 恐らく1階級の生徒だろう。

 

 

 彼の手には既に儀式兵装が握られている。

 大振りの刃がついた直槍を持ちながら開始位置で立ち止まる。

 

 俺も、紅を取り出すと刀身を生成して構える。

 

?「我が名は、アレン=ディレイズ!

  『魔槍』の名を継ぐ者!!」

 

 目の前の魔族は、いきなり大声で名を名乗った。

 

 『魔槍』という言葉で思い出す。

 そういえば、大戦争で『魔槍』と呼ばれた槍の名手が魔族に居て

 対神族戦で猛威を奮っていたとか。

 とある戦いで、神族の罠にかかった仲間を逃がすために

 自ら囮となり、たったひとりで敵陣に突撃して300人ほどの神族を

 巻き込んでの壮絶な最後と遂げた男が居たと。

 

 アレンは、槍を回してから構えを取る。

 その槍捌きは、見事なものだった。

 

セオラ「それでは、2階級 藤堂 和也

    1階級 アレン=ディレイズの試合を開始します」

 

 先生の声が闘技場に響く。

 相手の気迫が伝わってくる。

 

セオラ「では、はじめっ!!」

 

 開始宣言と共に歓声の波が周囲に広がった。

 

 少し相手が、こちらに歩くようにして移動してくると

 挨拶代わりと言わんがばかりに槍を連続で繰り出してくる。

 

 鋭い連続攻撃を避けると、くるっと軽く後ろに回りながら

 下がるように動くアレスの手元を見て反射的に後ろへ跳ぶ。

 

 その直後、足首を狙っていたであろう下方ギリギリの

 横薙ぎが通り過ぎていく。

 上半身の大きな動きで思わず槍を見失うところだった。

 

 すると今度は、上段の振り下ろしからの3連撃が来る。

 こちらも全て受け止めるが、槍の撓りまで計算に入れた

 見事な連続攻撃に、防戦一方になる。

 

 元々、剣と槍では武器としてのリーチが違う。

 しかも相手は、剣持ちとの戦いにも慣れているかのように

 的確な攻撃で、こちらが懐に入ろうとする隙を潰してくる。

 

 だが、このままでいい訳が無い。

 真っ直ぐにこちらの急所を狙ってきた一撃に

 横から大振りの一撃を重ねる。

 

アレン「・・・!」

 

 横方向に槍を大きく弾かれて体勢を崩すアレン。

 このチャンスに、一気にアレンの近くまで走りこむ。

 

和也「―――ッ!!」

 

 それは直感だった。

 急激に嫌な予感がして、姿勢を低く滑り込みで

 アレンの横を抜ける。

 

 するとその途中、ビュン!!という風切り音と共に

 頭上を通り過ぎる槍。

 かなり体勢を崩したと思っていたが、あれは誘いだったのだ。

 

 アレンの後ろに回り込んだ俺は、振り向き様に剣を振る。

 

和也「くっ!!」

 

 アレンは確かに、こちらに背中を向けていた。

 だが、まるでこちらの動きが解るかのように、槍を後ろに引く。

 勢いのついた石突が俺に襲いかかってくるも 

 それをギリギリで何とか避ける。

 

 アレンは、槍を短く持ったまま振り返りながらの一撃を

 振り下ろしてくる。

 俺は、その一撃を『旋風』で返す。

 

アレン「―――ッ!!」

 

 驚くアレンだったが、振り下ろした一撃で槍を地面に突き刺し

 突き刺した槍を支点として棒高跳びのように跳躍して宙を舞う。

 さすがの身体能力と言うべきか、それとも判断力を褒めるべきなのか。

 

 お互いに攻撃を外した2人は、互いに距離を取る。

 

和也「・・・」

 

 俺も無言で紅を構え直す。

 ここまで魔族の癖に魔法ひとつ使ってきていない。

 純粋な槍捌きだけで、これほどの相手と戦うのは

 随分と久しぶりだ。

 

 さすが『魔槍』の名を口にするだけはある。

 

アレン「・・・なるほど。

    これは失礼した」

 

 構えを解いたと思えば、こちらに謝罪してくるアレン。

 

和也「・・・」

 

 こちらは、構えを崩すつもりはない。

 そもそも基本的にプライドの塊である魔族が

 よりにもよって人族に謝罪なんてするはずがないからだ。

 何かあると勘ぐりたくもなる。

 

アレン「所詮は、人族。

    魔法など使わずとも倒せると思っていたが

    それは間違いのようだな」

 

和也「・・・いやいや。

   そのままでも十分、倒せるって」

 

アレン「ふっ」

 

 こちらの軽口に、少しだけアレンの口元から笑みがこぼれた。

 

 俺は、ようやく構えを解く。

 それを見てアレンは、槍を使いながら柔軟体操をし始めた。

 

和也「(・・・ああ、めんどくさくなりそうだなぁ)」

 

 こちらも身体を解しながら、どうしようかなと考える。

 

 少し異様な光景に見えたのだろう。

 周囲の生徒達の罵声が消え、歓声も消える。

 

リピス「さて、ここからが本番ってところだな」

 

フィーネ「当然、和也が勝つわ」

 

セリナ「でも、相手もかなりの使い手みたいですよ?」

 

エリナ「それに剣と槍じゃ、武器としての相性も悪いからね」

 

フィーネ「それでも和也が勝つの。

     私は、そう信じてるから」

 

 自信満々に笑顔で言い切ったフィーネに

 周囲で笑いが起きる。

 

 実際、みんな口に出さなかっただけで信じているのだ。

 和也が勝つことを。

 

 互いに準備運動が終わり、向き合う。

 アレンは再び槍を回し、いくつもの型を構えては

 また槍を回すという動作を何度か繰り返した後に

 槍を正面に構えた。

 

アレン「これより魔法を使用する。

    ・・・良い勝負を期待している」

 

 思わず苦笑してしまう。

 ここまで真っ直ぐに挑んでくる魔族なんて

 見たことが無い。

 本当に久しぶりに、純粋な勝負が楽しめそうだ。

 

 アレンから鋭い殺気が放たれる。

 そして一瞬見える見覚えのある魔力の流れ。

 俺は、反射的に真横に跳ぶ。

 

 ガリッ!!

 

 地面を削る音と共に俺の居た場所の地面が抉れていた。

 

和也「・・・加速魔法か」

 

 あの素早い突きは、間違いなく加速魔法だ。

 アレンとか言う魔族の周囲に展開された魔力の流れは

 亜梨沙のそれと、よく似ていた。

 だからこそ反射的に避けられたとも言える。

 

アレン「・・・」

 

 こちらの動きが無いことに加え、先ほどの一撃を避けたからか

 微妙にすり足で重心移動をしながら

 仕掛けるタイミングを図っているように動くアレン。

 

 俺が足を少し動かした時

 

 ジャリッ!

 

 小石を踏み砕いたのか、少し大きな音が鳴る。

 その瞬間―――

 

 ビュン!!

 

 風切り音と共に、アレンの槍が正面から来る。

 正確に、こちらの急所を狙った3連続突きだ。

 剣を合わせて軌道をそらし、回避すると 

 今度は、執拗に足元を狙う攻撃に変化する。

 

 それを避けながら踏み込むタイミングを探すも

 やはりそんなに簡単に、こちらの間合いに持っていけない。

 

 真っ直ぐ伸びた一撃に剣を引っ掛けるように

 相手の勢いを利用して後ろに大きく跳躍して距離を取る。

 

アレン「スピードアップ・ファーストッ!」

 

 アレンは、掛け声と共に加速魔法をかけ直し

 距離を詰めるために突撃してくる。

 

 魔族は、元々補助魔法が苦手だ。

 まあ大雑把な連中が多いという種族的なものもあるが

 魔力が多いため、細々した制御が必要な補助魔法よりも

 単純に魔力変換可能で、見た目も派手な攻撃魔法を選ぶ奴が

 多いというべきか。

 

 いくら元から速度も早いとはいえ、初級の加速魔法ならと思ったが

 それでもトータルで一般の中級魔法ぐらいの加速度になっている。

 

 それだけでも驚異的といえるが、まだまだ俺にも勝算はある。

 いつも亜梨沙を相手にしている俺なら魔眼のレベルを

 引き上げずとも十分に追えるのだ。

 

 俺は、足元の小石を相手に向けて蹴り上げる。

 だが蹴り上げた石は、アレスのはるか前方で落ちる。

 一瞬何か仕掛けてくるのかと警戒したアレスだったが

 スグに小石から視線を和也に戻す。

 

アレス「ッ!!」

 

 目前に迫っていた紅の刀身部分に驚く。

 走り込んでいる状態だったため、そのまま姿勢を低くして

 何とか回避するも、大きく体勢が崩れてしまい失速する。

 一瞬、小石に意識が向かってしまったため回避が遅れたのだ。

 

 体勢を立て直そうとした瞬間―――

 

 ドスッ!!

 

 鳩尾に走った激痛にアレスの身体は、くの字に曲がる。

 何時の間にか、和也が左肘をアレスの鳩尾に入れていた。

 そしてそのまま左腕を上に勢いよく上げる。

 

アレス「ぐあっ!!」

 

 くの字に曲がったせいで高さが下がっていた顔面に拳の裏が入る。

 綺麗に裏拳が顔に決まった形だ。

 

 更に追撃の回し蹴りがアレスに迫るも

 何とか地面を転がって避ける。

 立ち上がろうとするも、剣を何度も振り下ろされ

 立ち上がることが出来ない。

 

アレス「ハァッ!!」

 

 寝転んだ体勢のまま、槍を地面スレスレで横に薙ぐ。

 

和也「くっ!」

 

 避けそうとした和也だったが、間に合わずに足を払われ

 地面に倒れる。

 

 倒れる瞬間、刀身部分をアレンに投げつける。

 それをアレスは、後ろに逃げるように地面を更に転がりながら避ける。

 

 和也が立ち上がろうとした瞬間、今度は片膝をついたままのアレンが

 槍で突いてくる。

 

 スグに再展開した紅で槍を弾く。

 体勢が崩れたアレンに紅の刀身を投げつけようとする。

 

アレン「ウインド・アローッ!」

 

 そんな体勢から使えるのかと

 関心してしまうほど状態から放たれる風の刃。

 

和也「ちっ!」

 

 風の矢は、不可視であるという厄介な特性があるが

 生活レベル程度の魔眼でも、ある程度は捉えられる。

 

 出現した風の矢に刀身を投げつけ、爆発消滅させる。

 爆発の煙が、2人を包む。

 

 ガンッ!!

 キンッ!!

 ガガッ!!

 

 何かと何かがぶつかる音が闘技場内に響く。

 誰もが試合に見入っていた。

 

 少しして風が吹き、煙が消える。

 するとそこには視界の悪い中でも戦い続ける2人の姿があった。

 

 アレンの槍を横から蹴り上げ、体制を崩してから剣を振る。

 それを槍の持ち方を変えて逆に剣を横に弾こうとする。

 だが、アレンがそれをフェイントだと気づいた時には

 紅の刀身が消えており空振りに終わる。

 逆に空振りにより隙が生まれた脇腹に和也の蹴りが入る。

 

 しかし、痛みに耐えながら振られたアレンの左拳が和也に迫る。

 和也の顔に拳が当たる手前で、腕を片手で掴んで止める。

 何時の間にか紅をしまっていた和也は、もう片方の手で

 アレンの胸元を掴むと、そのまま投げ飛ばす。

 

 和也は、スグに紅を持つと追撃として

 またも刀身をアレンに向かって投げつける。

 

 大きく投げられたアレンは、地面に背中から叩きつけられる。

 痛む身体を酷使して、スグに立ち上がるアレンは

 目の前まで迫ってきていた紅の刀身を槍で弾く。

 

 そしてお互いに、相手をけん制するように

 得物を構えたまま見つめ合う。

 

アレン「・・・」

 

 アレンの槍に魔力が収束する。

 槍の穂先のみが緑色に輝く。

 

アレン「これで決めるっ!

    ウインド・クローッ!!」

 

 その叫びと共に高速の突きが迫る。

 体捌きだけでは避けきれないと判断し

 剣で弾こうとするが・・・

 

和也「なっ!?」

 

 その一撃は、速度だけでなく非常に重い。

 そして何より紅の刀身が押し負けているのだ。

 魔力同士の衝突が起きるも、紅の刀身が削られ

 ついには槍が紅の刀身を貫く。

 

和也「っ!!」

 

 身体を捻って回避動作を取るも、肩をかすめた一撃で

 肩口から血が出る。

 そしてアレンの一撃による風圧で後ろに吹き飛ばされ

 地面に叩きつけられた和也。

 

和也「・・・ふふっ。

   あはははははっ!!」

 

 大声で笑いながら立ち上がる和也に

 槍を構えて様子を伺うアレン。 

 

和也「・・・これは確かに申し訳なかった。

   俺も謝罪しよう」

 

アレン「・・・何の話だ?」

 

和也「これほどの使い手。

   確かに手加減しては申し訳ない」

 

 そう言うと和也は、紅を片付け

 腰に下げた刀を抜いた。

 黒い刀身をした真っ黒な刀。

 

和也「・・・そうだな。

   俺もせっかくだから『名乗ろう』。

   風間流、藤堂 和也だ」 

 

 和也は『黒閃刀(こくせんとう)・鬼影(おにかげ)』を構える。

 

和也「魔眼、完全開放」

 

 魔眼の力を完全に発揮する。

 その瞬間、全ての景色に違う『色』が現れる。

 

 突然、目の前の相手が気迫をぶつけてきた。

 その気迫の鋭さにアレンは無意識に1歩下がる。

 

 和也は、軽くステップを踏むように相手に迫る。

 アレンは槍を握り直すと、けん制するための

 速度を重視した突きを繰り出す。

 

 しかし和也は、まるでそれが解っていたかのように

 綺麗に避けると、そのまま懐に入ろうとする。

 何とか槍を引き戻しながらも、持ち手を変えて

 横薙ぎに槍を振るうアレン。

 

アレン「―――ッ!?」

 

 全てを見切っているかのように、またも姿勢を低くして

 完璧に避けた和也は、そのままアレンに蹴りを放つ。

 

 胸を蹴られ、後ろに数歩下がるアレスだが

 更にまた距離を詰めようとする和也の隙を

 狙い澄ませた一撃を放つ。

 だが、それすら完璧な回避をする和也。

 

 更に距離を詰めた和也は、走り込んだ勢いのまま

 アレンの鳩尾に、刀の柄を叩き込む。

 一瞬呼吸が止まるような一撃を受けて

 倒れそうになるも、大きく跳躍してこちらと距離を取ろうとする。

 だが、それを許すまいと和也が追いすがる。

 

アレン「ウインド・クローッ!!」

 

 無理をして追いすがると予想していたアレンは

 その瞬間を最大のチャンスと捉え、必殺の一撃を放つ。

 

アレン「―――なっ!?」

 

 それは確かに、誰が見ても完璧に相手を捉えた一撃のはずだった。

 

 和也は剣で受け止める・・・フリをしてそのまま相手に向かって走った。

 必殺の一撃に対して、前に突っ込んだ勢いを維持しつつ

 体を回転させるように捻りながらギリギリで避ける。

 そしてすれ違いざまに体を回転させた遠心力を利用した

 全力の一撃をアレンの側面に叩き込む。

 

アレン「ウインドシールドッ!!」

 

 必殺の一撃を回避され、圧倒的な隙が生まれる。

 その隙を狙われ、回避出来ない旋風の一撃を防ぐため

 ガシャン!という弾装の音と共に風の盾を展開するアレン。

 だが―――

 

 ブシュッ!!

 

 肉の切れる音と共にアレンの胴から血が吹き出る。

 

和也「風間流『旋風』」

 

 和也の呟きと共に、まるで紙のように何の抵抗も無く切り裂かれた

 風の盾が消え去り、アレンは地面に倒れこむ。

 判定ネックレスが砕けて傷を癒していく。

 

セオラ「し、勝負ありっ!!

    勝者! 藤堂 和也!」

 

 一番初めに我に返ったセオラが、勝利宣言を叫ぶ。

 

 セオラの声を聞いても、観戦している生徒達は

 その大半が唖然としたままだった。

 

 何とか我に返った連中も

 『あの魔族が弱かったんだ』と言い始める。

 そう言わなければ、自身の精神的な均衡が保てないのだろう。

 

 和也が控え室に歩き出したあたりで

 セリナが呟いた。

 

セリナ「和也くんの戦いをゆっくり見たのは、初めてですが・・・。

    彼は、本当に儀式兵装を持ってないのですか?」

 

エリナ「やっぱり、凄い・・・」

 

リピス「今の勝負、魔族の槍使いが弱かった訳じゃない。

    ・・・和也が強すぎるんだ」

 

メリィ「さすがですね。

    まさかあれほどの実力をお持ちだとは・・・」

 

 それぞれ信じられないという様子で和也のことを見ている。

 魔眼を使っていると知らない者からすれば、完全に相手の動きを

 見切っているとしか思えない動きだ。

 

亜梨沙「あの人は、よく私を天才だとか

    さすが師範代などと言いますが、私からすれば

    あの人の方が天才です。

    お爺様が『アレは化け物だ』と言われるのも解る気がします」

 

 亜梨沙の祖父であり風間現当主の風間(かざま) 源五郎(げんごろう)は

 和也の才能を恐ろしいと感じている一人だ。

 

 魔法が使えない和也は『魔法を必要としない技』しか習得出来ない。

 なので自身の幅を可能なかぎり広げようと、数少ない技を

 徹底的に修行し続けた結果、風間流の全ての基礎剣術と

 体術を習得するに至った。

 

 和也自身は、魔法が使えないことで自分は凡人だと思っているが

 周囲からすれば、天才以外の何者でもないのだ。

 

フィーネ「和也、カッコイイ・・・♪」

 

 和也の活躍にウットリしているフィーネの少し後ろの方で

 『マグレに決まっている』と周囲に不満げに語るヴァイス。

 そんなヴァイスの言葉に苦笑しながらも、和也を見つめる者が居た。

 

ギル「・・・ははっ。

   こんなの見せられたら、もうダメでしょ」

 

 学園フォースで上位の実力者と呼ばれる者、ギル=グレフ。

 

ギル「藤堂 和也。

   絶対に俺と戦ってもらうぜ」

 

 そう呟くと、ギルは観客席から姿を消す。

 それから少しして、闘技場内は騒がしさを取り戻す。

 

 儀式兵装のぶつかる音が響き、魔法の爆発音が轟く。

 勝った者は、己の強さを誇って喜び

 負けた者は、リベンジを誓い涙を流す。

 

 そうして、長かった闘技大会の個人戦が終了した。

 

 

 

 

 

 

第6章 激戦の闘技大会 ―中編― 完

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

正直、この和也VSアレンは困りました。
何度対戦を書いても、思い通りにいかず
アレンが勝手に三枚目になったり、残念キャラになったりと
キャラが安定しないどころか、試合結果も必殺技も
書いているうちに変更ばかりが起きて
当初予定と大幅に違う内容になってしまい
書き直すということを何度も繰り返したため
予想外に時間が、かかってしまいました。
簡単に表記するなら

6章中編を書く
 ↓
アレンが違うキャラになる
 ↓
書き直す
 ↓
試合展開が、おかしくなる
 ↓
書き直す
 ↓
またアレンが違うキャラに
 ↓
書き直す
 ↓
何とか形になる ← 今ここ New

という感じですかね。
よく『キャラが勝手に動く』という表現をされますが
正にその通りだと実感しました。
いや、物語を書くって難しいですね(笑)


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第6章 激戦の闘技大会 ―後編―

 

 ドクッ、ドクッ。

 自分の鼓動が早くなるのを感じる。

 この学園で何度戦っても、この瞬間だけは緊張する。

 

?「大丈夫よ、私。

  それに今日は、先輩と戦えるのだから」

 

 大きく深呼吸をする。

 その時、肩に誰かの手が触れた。

 

?「もう、相変わらず緊張してるの?」

 

 困った子ねと言うような、少し優しい声が聞こえる。

 その声を聞いた瞬間、身体から緊張が驚くほど無くなっていく。

 

 振り返るとそこには、いつもの優しい顔をしたレア先輩が居た。

 

レア「試合前に必要以上の緊張をしてしまうのは、アンタの悪い癖よ」

 

 肩に少しかかる程度の髪に、さっぱりとした性格。

 階級を1つでも上げることが難しいと言われるこの学園で

 現在5階級であり、その人柄から皆に慕われる人。

 名前は、レア=レイセン。

 私の大好きな人。

 

レア「イオナは、もう3階級だし

   実力もちゃんとついてきた。

   もっと自信を持っていいんだから」

 

イオナ「はい、先輩っ♪」

 

 私の名前は、イオナ=リハート。

 神族であり現在3階級。

 ごく普通の家庭で生まれて、子供のころからいつも一緒だった

 先輩に憧れて、先輩を追って戦士を目指した。

 

 フォースの入学試験は、想像以上に厳しいものだったが

 それでも入学して、私は先輩と同じ学園に通えるようになった。

 

 階級が違うため、学園内では休み時間ぐらいしか一緒に居れないが

 それでも寮の部屋は、同じだ。

 私の全ては、先輩と共にあると言ってもいいほどである。

 

 闘技場の方で歓声が大きな歓声が聞こえたかと思えば

 その直後に、控え室の外から声が掛かった。

 

レア「じゃあ、いこうか」

 

イオナ「はいっ!」

 

 そして私達は、闘技場に向かう。

 

 

 

 

 

第6章 激戦の闘技大会 ―後編―

 

 

 

 

 

 

 闘技場では、歓声が上がる。

 他のチームは既に開始位置におり、自分達が最後のようだ。

 

 闘技大会チーム戦。

 この戦いは、ペア戦を申請した生徒のみが

 先に行われた個人戦の代わりとして戦うものだ。

 同時に5チームが戦闘する乱戦で、3チームが脱落すれば終了となる。

 

 注意しなければならないのは、自分と相棒のどちらかが

 戦闘不能になった時点でチームとして失格になってしまうという点だ。

 チームワークはもちろん、乱戦をどう立ち回るかというのも

 重要になってくると言える。

 

セオラ「それでは、ペア戦の試合を開始します」

 

 竜族のセオラ先生が開始の宣言をしようとしている。

 私は、さっと周囲の相手を見る。

 

 やはり注意すべきは、5階級の神族ペアと

 同じく5階級の魔族ペアだ。

 正面からぶつかることは避けたい。

 

セオラ「では、はじめっ!!」

 

 開始宣言と共に再び沸き起こる歓声。

 

レア「あらら。

   いきなり狙われたわね」

 

 儀式兵装を手にしながら先輩は、後ろに居る私に

 聞こえるように声を出す。

 先輩の儀式兵装は、片手で扱えるほど少し短い槍だ。

 魔力が錬りこまれ通常より硬い、小型の盾も装備している。

 

 私も慌てて武器を出す。

 弓タイプの儀式兵装だ。

 

 先輩の言葉に、私は前を見る。

 

魔族男生徒A「もらったっ!」

 

 いつの間にか接近していた男は

 そう叫びながら剣を振り落としてくる。

 

 狙いは、私だ。

 しかし―――

 

 ガンッ!

 

 硬い金属音と共に私の前に現れたのは、先輩だった。

 

レア「アタシを無視しないで欲しいんだけど?」

 

 盾で軽く防ぎながら、先輩は余裕の笑みを浮かべる。

 その瞬間、私は反射的にバックステップを踏みながら弓を構える。

 そして魔力により生成された矢を一瞬で放つ。

 

 まるでレアを避けるようにレアの横を抜けた瞬間

 矢は、急激に曲がって男生徒を狙う。

 

魔族男生徒「ちっ」

 

 後ろに軽く下がって矢を避けるが

 今度は、レアの槍が迫る。

 

 ガキィン!

 

 レアの一撃を防いだのは、魔族の女生徒だった。

 

魔族女生徒「無茶しないでくれる?

      アンタがやられたら、負けになるって言ったでしょ」

 

 受け止めた一撃を弾くと、男生徒と共に後ろへ跳躍して距離を取る。

 

 相手は、5階級魔族で何かと話題になる2人。

 

 レイス=ジャハル

 ファナ=リドルド

 

 男女の魔族コンビだ。 

 どうも子供のころからの幼馴染らしく

 何かと一緒に居ることも多いのだが

 よく痴話喧嘩の絶えない2人だそうだ。

 

 そのわりには、何だかんだで一緒に居るので

 『恋人同士では?』という噂が、定期的に出るが

 それを毎回2人が否定しているという

 関係の良く解からない2人。

 

レイス「うるさいなぁ。

    わかってるって」

 

ファナ「わかってるなら、どうして勝手に行くのよ」

 

レイス「様子見だよ、様子見。

    ちょっと仕掛けてみただけじゃないか」

 

ファナ「ホント、昔からバカなんだから」

 

レイス「へいへい、悪かったですよ」

 

 戦闘中だと言うのに、口論を始める2人。

 

レア「・・・はいはい。

   夫婦喧嘩は、違う所でやってくれない?」

 

レイス「誰が夫婦だっ!」

ファナ「誰が夫婦よっ!」

 

 見事にハモる2人に思わずレアとイオナは、笑い出す。

 

ファナ「ああ、もう。

    思いっきり恥ずかしいじゃない」

 

 そう言いながら後退していく女生徒。

 

レイス「おいおい、俺のせいか?」

 

 何だか不満そうにしながら、男生徒も後退する。

 

イオナ「さすがに、退却判断も素早いですね。」

 

レア「まあ、あの2人も5階級だからね」

 

 このチーム戦は、一気に攻めかかることが有効とはかぎらない。

 他チームの動向にも注意しなければ、横槍もありうる。

 目の前のチームを撃破した瞬間に後ろから何てことも想定しなければ

 勝ち残れないのだ。

 

レア「それにしても、さっきの2人。

   いつも仲良さそうなんだよねぇ。

   ・・・恋人なのかな?」

 

イオナ「どうなんでしょう?

    そんな雰囲気は無かったような気しますけど」

 

レア「いいなぁ、恋人。

   私も頼れる人が欲しいかなぁ」

 

イオナ「せ、先輩っ!

    それなら・・・わ、私がっ!」

 

レア「・・・イオナは、可愛いなぁもう」

 

 顔を真っ赤にして、こちらに好意を向けてくれる後輩が

 たまらなく可愛く思え、思わず抱きしめる。

 

 レアがイオナに抱きついているころ、反対側でも

 既に戦いは、始まっていた。

 

 

竜族生徒A「はぁぁぁっ!!」

 

 渾身の一撃が神族生徒に迫る。

 

神族男生徒1「くぅっ!!」

 

 水盾に儀式兵装の剣で防ぐも、竜族の一撃に耐え切れず

 後ろに大きく吹き飛ばされる。

 

神族男生徒2「くそ、援護するぞ」

 

竜族生徒B「そう簡単には、行かせないよ!」

 

 竜族生徒に上手く立ち回られ、分断されてしまう神族生徒。

 自分達は5階級であり、相手は1階級の生徒だと侮ったため

 不意を突かれた彼らは、完全にペースを竜族ペアに握られてしまう。

 

神族男生徒2「邪魔をするなっ!

       ウォーター・アローッ!」

 

竜族生徒B「そんな攻撃当たらないよっ!」

 

 撃ち出される際に強力に圧縮され、その水圧で相手を切り裂く水の刃だが

 その刃となっている部分にさえ当たらなければ、ただの水である。

 特徴を理解していた竜族生徒は、刃の部分を綺麗に避けた。

 

神族男生徒1「くっそっ!

     調子に乗るなよっ!」

 

 一方、吹き飛ばされた神族生徒も立ち上がり反撃を行う。

 

神族男生徒1「くらえっ!

      アイス・アローッ!!」

 

 氷矢を3本連続で撃ち出す。

 

竜族生徒A「こんなの楽勝っ!!」

 

 そう宣言する通り、相手に向かって走りながら

 飛んでくる氷矢を全て避ける竜族生徒。

 

神族男生徒1「ちくしょうっ!

       こいつら本当に1階級なのかよっ!」

 

 そう言いながらも水の強化魔法を剣にかける神族生徒。

 

竜族生徒A「せいやっ!!」

 

 ガキンッ!!

 

 儀式兵装同士がぶつかり、軽く火花が散る。

 神族生徒は何とか受け止めるも、よろけながら後ろに下がる。

 

 距離が空くことを嫌った竜族生徒は、更に相手に迫ろうと前に出る。

 しかし―――

 

神族男生徒1「待ってたぜっ!

       アイス・ウォールッ!!」

 

 魔法により、竜族生徒を囲むように氷の壁が出来上がる。

 

竜族生徒A「あっ、まず・・・」

 

神族男生徒1「砕けろぉぉぉぉ!!!」

 

 叫び声と共に爆発する氷の壁。

 爆発した煙から逃げるように飛び出してきたのは

 防ぎきれなかった魔力ダメージと氷の欠片による

 物理的なダメージにより身体中に切り傷を負った

 竜族生徒だった。

 

竜族生徒A「いったぁ~ぃ・・・」

 

竜族生徒B「ちょっと、大丈夫!?」 

 

竜族生徒A「・・・まあ、何とか」

 

神族男生徒1「俺達5階級を舐めるなよっ!」

 

神族男生徒2「フォースで俺達は、必死に努力してきたんだっ!

       入ったばかりの奴らに負けるかよっ!!」

 

 フォースは、その入学・進級の難しさもあり

 上の階級になればなるほど、その自信からか

 プライドの高い者が多くなる傾向が強い。

 まして下の階級に負けるなど、本来はありえないのだ。

 

竜族生徒B「一旦退くわよ」

 

竜族生徒A「りょ~か~ぃ」

 

 形勢が不利だと判断した竜族ペアは、撤退を開始する。

 

神族男生徒1「黙って逃がすと思うのか?」

 

神族男生徒2「このまま仕留めてやるぜっ!」

 

 逆転して攻勢に転じている神族ペアは、この流れを維持したい。

 そのため追撃を仕掛けようとする。

 

 逃げる竜族ペアを追いかけ、距離を詰めたその瞬間だった。

 

?「フレイム・ピラーッ!!」

 

 神族・竜族ペア両方を巻き込むような位置に

 突如発生する巨大な炎の柱。

 

竜族生徒B「くっ!」

 

神族男生徒2「くっそっ!!」

 

 咄嗟に回避行動を取った4人だったが、2人が逃げ遅れ

 炎柱に巻き込まれ、ダメージを受けながらも外へ飛び出す。

 

?「逃がすかっ!

  ファイア・アローッ!!」

 

 3本の火矢が、一番ダメージを受けた神族男生徒に向かって飛ぶ。

 

神族男生徒1「させるかっ!

       ウォーターシールドッ!」

 

 水盾により火矢は、消されてしまう。

 そして神族・竜族ペアは、攻撃魔法が飛んできた方角を向くと・・・

 

魔族男生徒α「ちぃ、惜しかったか」

 

魔族男生徒β「まあ、ダメージは与えたんだ。

       これからが勝負だぜ」

 

 今まで隠れていた3階級の魔族チームが姿を現す。

 

神族男生徒1「ふんっ、これだから魔族は・・・」

 

竜族生徒A「卑怯・・・とは言えないけど、邪魔だよねぇ」

 

 想定内とはいえ、実際に三つ巴になると

 どんな流れになるか、誰も予想出来ない。

 

 どうすれば上手く立ち回れるのか。

 生き残るためには、勝つためにはどうすればいいのか。

 それぞれのペアが互いにけん制しながら必死に考えている時だった。

 

 風を切る音と共に迫る高速の矢。

 地面スレスレの位置を飛んでいたため、発見されずに飛び続ける。

 そして矢は目標の手前で急激に上昇した。

 

魔族男生徒β「―――なッ」

 

 自分達が優位だと慢心していたからか。

 それとも自分達が奇襲をかけた側という気持ちからか。

 足元から急激に迫る高速の魔力矢に対処出来ず

 その一撃をまともに喰らった魔族生徒は、その場に倒れこむ。

 判定ネックレスが砕けて回復効果が発動する。

 

セオラ「判定ネックレスの発動を確認っ!

    チームの脱落としますっ!!」

 

 一瞬の出来事に静まり返っていた会場がドッと騒ぎ出す。

 

 神族・竜族ペアは咄嗟に互いに距離を取ると

 矢の飛んできた方角を確認する。

 

レア「さっすがイオナ。

   アタシの自慢の後輩だわ」

 

イオナ「いえ、先輩の指示通りに撃っただけです」

 

 儀式兵装の弓を構えたままで、イオナはそう応える。

 

魔族男生徒α「くっそぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 相棒がやられ、自身も敗退してしまった悔しさからか

 叫び声をあげる魔族生徒。

 そう、これは5チームによるサバイバルだ。

 一瞬でも気を抜けば、それは致命的な隙となってしまう。

 

神族男生徒1「くそ、先を越されたか」

 

神族男生徒2「だが、まだまだこれからだ」

 

?「それはどうかしら?」

 

神族生徒達「!?」

 

 自分達の後ろから声が響く。

 突如飛来するファイア・アローに2人は

 二手に分かれるように跳躍して回避する。

 そこへ更に―――

 

レイス「もらったっ!!」

 

 いつの間にか回り込んでいた、初めにレア達と戦っていた

 レイスが神族生徒に攻撃を仕掛ける。

 

神族男生徒2「ぐあっ!」

 

 咄嗟に剣を受け止めるも、相手の儀式兵装には

 強化魔法がかかっていたため、受け止めきれず

 押し負けて吹き飛ばされる。

 

神族男生徒1「くそっ!

       不意打ちしか出来ないのか、魔族はっ!!」

 

ファナ「そうやって自分の無能を他人のせいにしてなさいっ!」

 

 5連続で発射されるファイア・アローに

 水盾を張るタイミングが取れず、逃げ回る神族生徒。

 

レイス「そらそらっ!

    同じ5階級なら、もっと反撃してみろよっ!」

 

 接近戦に持ち込まれ、儀式兵装の剣で撃ち合うも

 今までのダメージが蓄積された身体が、思うように動いてくれず

 防戦一方になる神族生徒。

 

 もう片方も、魔法による援護射撃に重点を置いた攻撃に

 相棒を助けに行くことが出来ない。

 邪魔をするファナを倒そうとするも

 魔法による攻撃が的確で、接近することが

 なかなか出来ない。

 結局魔法の撃ち合いになってしまい

 時間を稼がれてしまっている。

 

 こうなると、もはや神族男生徒2がどこまで耐え切るかが

 勝負の分かれ目となりそうだった。

 

イオナ「さて、先輩。

    次はどうしますか?」

 

レア「ん~。

   まあ相手から来てくれてるし

   竜族の子の相手かな」

 

 レアのその言葉で自分達が気づかれていると察して

 物陰から一気に飛び出す竜族ペア。

 

 左右から同時に来る儀式兵装の手甲による打撃。

 

 ガシャンッ!!

 

 少し鈍い金属音が混ざった音が響く。

 

レア「残念ながら、イオナの方には行かせない」

 

 竜族2人の一撃を、儀式兵装の槍と小型の盾で

 防いでしまうレア。

 上手く相手の力を逸らして綺麗に受け止めたレアを見て

 竜族ペアは、驚きの顔を浮かべる。

 

竜族生徒B「ま、まだまだっ!」

 

 接近状態から蹴りを放とうとする竜族生徒だったが・・・

 

イオナ「させないっ!」

 

 イオナの放つ魔力矢が竜族生徒に迫る。

 竜族ペアは、何とかそれを回避すると後ろに下がろうとする。

 

レア「そう簡単に下がらせないっ!」

 

 蹴りを放つ前に攻撃を回避し、バランスが崩れていた竜族生徒に向けて

 レアが槍による連続突きを繰り出す。

 

 しかしさすが竜族というべきか。

 器用にすべての攻撃を回避する。

 

 その動きの良さにレアは関心しながらも

 竜族生徒の左側面に回り込むために左に移動する。

 その瞬間、竜族生徒は眼を見開いて驚いた。

 

 レアが退いたスペースから魔力矢が飛んできたのだ。

 それは、ほんの少しでもレアが横に移動するのが遅ければ

 レアに当たっていたであろうタイミングで。

 

竜族生徒B「ちょ、嘘ッ!」

 

 魔力矢を反射的に回避するも、同時にレアからの

 槍による横薙ぎを防ぎきれずに吹き飛ばされる。

 

 レアとイオナの互いを信頼しているがゆえの

 コンビネーション攻撃と言える。

 常に一緒に居て、互いを熟知しているからこそ

 このような見事な連携が可能なのだ。

 

 更に追撃を仕掛けるために吹き飛んだ竜族生徒に向かって

 走ろうとしたレアだったが・・・

 

竜族生徒A「行かせないっ!!」

 

 割り込んできた竜族生徒の一撃を防御するも

 後ろに後退させられてしまう。

 

 竜族生徒は、更に追撃をかけようとするも

 魔力矢が飛んできて思わず後ろに下がる。

 

 すると体勢を立て直したレアが、攻撃を仕掛けてくる。

 その攻撃を回避してレアの右側に回り込もうとした瞬間だった。

 

竜族生徒A「ちょっ!?」

 

 まるでそこに来ることが解っていたというように

 魔力矢が飛んでくる。

 

 それを何とか回避すると、目の前から槍の連続突きが来る。

 槍を手甲で弾くと、急にレアが下にしゃがむ。

 その動きに思わず視線が下に行きそうになって気づく。

 まるで後ろから矢が飛んできているのを知っていたかのような

 タイミングでしゃがんだのだ。

 咄嗟に矢を避ける。

 

 体勢が崩れた所に、レアの立ち上がりながらの槍による

 振り上げ攻撃が迫る。

 手甲で受け止めるも弾かれて後ろに下げられてしまう。

 その瞬間、槍を回して逆に持ったレアが石突で

 竜族生徒の腹を突く。

 

 バチッ!

 

 魔力の乗っていない一撃だったため、気麟によって弾かれるも

 物理的な勢いに押されて竜族生徒は、たまらず後ろに下がる。

 下がる竜族生徒にレアが不気味に追いすがる。

 本来、接近戦の得意な竜族相手は

 距離を取って戦うのがセオリーだ。

 なのにあえて距離を詰めてくるレアを警戒して

 竜族生徒は、防御の構えのまま様子見を決め込む。

 

 だが、それこそレアの狙いだったと

 気づいた時には既に遅かった。

 

竜族生徒B「いったぁ~」

 

 ようやく、よろよろと立ち上がる竜族生徒。

 彼女が、ふらつきながらも前を見た瞬間だった。

 

 目の前から魔力矢が3本飛んでくる。

 何とか身体を動かして、回避しながら後ろに下がる。

 

 そんな竜族生徒に対して

 更に5本の魔力矢が飛んでくる。

 咄嗟に身構えるも、5本とも竜族生徒に向かって飛んでおらず

 彼女の周囲の地面に刺さるだけだった。

 

 焦った追撃で、狙いが悪かったのか?

 そんな考えが頭を過ぎった瞬間だった。

 

竜族生徒B「!?」

 

 足元が突如、魔力によって光りを発する。

 よく見ると地面に刺さった矢は、自分を中心として

 綺麗に五芒星の形をしていた。

 

イオナ「迂闊だったわね。

    これで終わりよっ!」

 

 イオナの足ともに魔法陣が出現する。

 二翼を広げ、弾装を使用した全力の魔力チャージで

 魔法を発動する。

 

イオナ「マジック・ペンタグラムッ!

    フルバーストッ!!」

 

 イオナの叫び声と共に五芒星は、大爆発を起こす。

 そして煙が消えると

 

竜族生徒B「・・・」

 

 倒れこんで気絶している竜族生徒の姿が出てきた。

 判定ネックレスも砕け、彼女に回復魔法がかかっている。

 

竜族生徒A「あっちゃ~」

 

セオラ「判定ネックレスの発動を確認っ!

    チームの脱落としますっ!!」

 

 場内に湧き上がる歓声。

 竜族ペアも頑張ってはいたものの

 連戦によるダメージの蓄積と、戦闘経験の差が

 明確に出てしまったといえる試合展開だった。

 

 一方そのころ、5階級同士の戦いにも

 決着の時が近づく。

 

神族男生徒2「くっそ・・・」

 

 ひたすら障害物を利用して逃げ回っていたが

 体力的にそろそろ限界だった。

 思ったよりフレイム・ピラーの一撃が効いていたようで

 足取りが重い。

 

 何とかレイスを振り切ったが、まだ周囲に居るようだ。

 ここで見つかれば一気に勝負を決められてしまうため

 だたひたすらに身を隠すしかない状態に、悔しさからか

 儀式兵装を握る手に力が入る。

 

神族男生徒1「なんてしつこいんだっ!」

 

 徹底的にファナにマークされ、邪魔され続けていた

 神族生徒は、完全に孤立して相棒の援護に行けない状態だった。

 

 しかしこのままでは負けてしまう。

 そう判断した神族生徒は、必勝の魔法に全てを賭ける。

 

神族男生徒1「ウォーター・アローッ!!」

 

 自身が出せる最大数である5本の矢を用意すると

 全てファナに向けて発射する。

 

ファナ「何度同じ攻撃をしても無駄よっ!

    ファイアシールドッ!!」

 

 神族生徒の攻撃は、ウォーター・アローと

 アイス・アローばかりだった。

 そもそも魔族と比べると攻撃魔法に種類が無い

 神族では、むしろそれが普通のレベルだ。

 だからこそ、何の違和感も持たなかった。

 

 しかし今回は、矢の数の多さに対抗するため

 弾装を使用した全力で炎盾を展開する。

 弾装による底上げもあり、全ての水の刃を防ぎきる。

 

 攻撃を防がれたはずの神族生徒だったが

 その口元には笑みがあった。

 そう、全て予定通りなのだ。

 

神族男生徒1「かかったなっ!

       アイス・ウォールッ!!」

 

ファナ「しまっ―――」

 

 何度も同じような攻撃だったために一瞬の油断が生まれ

 それを正確に突かれてしまう。

 正面からの攻撃に気を取られ、足元からの変則的な攻撃にまで

 注意が行かず、氷の壁に囲まれ退路を絶たれる。

 

神族男生徒1「これで終わりだっ!」

 

 これで終わりだ。

 これで決まった。

 これで勝った。

 

 神族生徒は、既に勝利しか頭になかった。

 必勝の魔法が決まり、完全に油断してしまっていた。

 

?「ああ、確かにそうだな」

 

神族男生徒1「なっ!?」

 

 それは勝利を確信していた心を鷲掴みにするような

 鋭く殺気立った声だった。

 

 ブシュ!!

 

神族男生徒1「な・・・なんでこっちに・・・」

 

 振り向くよりも早く、背中を大きく斬られて

 その場に倒れる神族生徒。

 術者が居なくなり、氷の壁は何もなかったように綺麗に無くなる。

 

 一対一だと思い込んでいた神族生徒にとって

 後ろからの奇襲は、まさに想定外だった。 

 

セオラ「判定ネックレスの発動を確認っ!

    これにより、3チームの敗退となり

    試合の終了としますっ!!」

 

 試合終了宣言に盛り上がる会場。

 突然の試合終了に、何事かと神族生徒2は

 物陰から飛び出して状況を確認する。

 

 そして負けたことを知り、その場で膝から崩れ落ちた。

 

ファナ「・・・ちょっと。

    遅かったじゃない」

 

レイス「ちょうど良いタイミングだったじゃないか」

 

ファナ「さっさとアンタがあっちを倒してれば問題なかったでしょ」

 

レイス「意外とアイツ逃げるのが上手くてさ。

    だからこっちに切り替えたんだよ」

 

ファナ「昔から自由気ままなんだから・・・」

 

レイス「結果オーライだろ。

    それに助けてやったのに、感謝ぐらいしてほしいもんだな」

 

ファナ「はいはい。

    アンタが予定通りにあっちを倒してくれないおかげで

    ピンチになったところを助けてくれて

    あ・り・が・とっ!」

 

レイス「・・・可愛げのない奴」

 

ファナ「うっさいわね、バカッ!」

 

レイス「いってっ!

    傷口を叩くなよっ!!」

ファナ「知らないわよ、バカッ!

    鈍感ッ! 朴念仁ッ!」

 

レイス「今、それ関係ないだろっ!」

 

ファナ「関係あるわよッ!!」

 

レア「・・・やっぱり夫婦喧嘩じゃない」

 

レイス「誰が夫婦だっ!」

ファナ「誰が夫婦よっ!」

 

 誰がどう見てもそうにしか見えない夫婦喧嘩をしながら

 2人は帰っていった。

 

レア「いや~。

   恋人って羨ましいなぁ~」

 

イオナ「な、何でいきなり抱きつくんですかぁ・・・」

 

レア「イオナって抱き心地がいいんだよねぇ~」

 

イオナ「まあ、せ、先輩ならいいですけど」

 

 まんざらでもない顔をしながら大人しく抱きしめられるイオナ。

 

 こうしてまた試合が1つ終了するが

 この数分後には、次の試合が行われるだろう。

 

 個人戦と違い、勝った喜びも

 負けた悔しさもペアを組んだ相手と共に分かち合う。

 

 闘技大会は、こうしてペア戦も終了し

 その幕を閉じることになった。

 

 そしてこの闘技大会をきっかけとして

 それぞれに動き出した者達が居たことを

 和也達は、まだ知らなかった。

 

 

 

 

第6章 激戦の闘技大会 ―後編― 完

 

 

 

 

 





闘技大会編が終了となります。

いかがでしたでしょうか?
これで一応戦闘回は、一旦お休みして
日常回に戻る予定です。

今回のペア戦は、予想外に書く時間がかかってしまい
皆様には申し訳ありませんでした。
そもそも本来、和也がペア戦に出場する予定でした。
しかし和也の強さをある程度表現しておくには
ペア戦では不十分だと考え、その結果として
今回のペア戦そのものを再度考え直さなければならず
もっと後半で登場予定だったレアとイオナの登場回と
することになった経緯があります。

ペア戦の中身についても対戦チームに
フィーネやリピスを入れる案や
神族王女姉妹ペアなども候補にあったりしたのですが
全体的なバランスを考えてボツにしたりと
色々苦労させられました。
また仕事の都合でシナリオにあてる時間が
減ってしまっているのも原因の1つでは
ありますが、まあこれに関しては
今後、配信の予定などを含めて
活動報告にて詳細を発表させて頂く予定です。


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第7章 変わり始めた白銀姫

 

 カーテンを開けると少し眩しく感じる光が差し込んでくる。

 今日も良い天気だ。

 朝の清々しい風が吹いている。

 朝風呂の後だったこともあり、いつもより涼しく感じる。

 

?「んん・・・眩しい」

 

 隣のベットでモゾモゾと布団の塊が動いている。

 朝に弱いと知ってはいるが、早めに起こさなければ

 身支度が間に合わない。

 

 少し可哀想だが、一気に掛け布団を剥ぎ取る。

 

エリナ「うぅ・・・ひどいよ、セリナちゃ~ん」

 

セリナ「そろそろ起きないと間に合わないよ、エリナちゃん」

 

エリナ「あと5分ぐらい大丈夫だよ~・・・」

 

セリナ「そんなこと言って、またドタバタ走り回るより

    その5分を準備に使おうとは思わないの?」

 

エリナ「・・・無理」

 

 毎朝同じようなやり取りをしているので

 言っても無駄だと解ってはいるが、それでも言わずにいられない。

 

セリナ「前みたいに、遅刻したらどうするんですか」

 

エリナ「アレは仕方ないでしょ。

    それともセリナは、ボサボサの頭で学校行ける?」

 

セリナ「身支度に時間がかかるなら、その分だけ早く起きれば

    良いだけでしょ」

 

エリナ「それが出来れば苦労しないよ~」

 

 エリナちゃんは、こう見えてかなりオシャレ好きなんです。

 特に朝の支度は、鏡の前から中々動かないほどに。

 服やアクセサリーも、私の倍以上持っていて

 たまに私が借りることがあるほど種類も多い。

 

 それだけこだわりを持っていれば

 どうしても時間がかかってしまうのは仕方が無いとは思います。

 それなら、その時間だけ早起きするのが普通なんですが

 エリナちゃんは、それが子供のころから苦手だったりします。

 

 でも、睡眠時間を削ってまで早起きして

 身支度を整えるのは全種族の女性にとっては、当然のことであり

 同時にもっと楽になればと願う部分でもありますよね。

 

 エリナちゃんは以前、髪型が上手くまとまらないという理由で

 学校を大幅遅刻してきた前科があるんです。

 

 それ以来、必ず一緒に登校するようになったんですが・・・。

 

 

 

 

第7章 変わり始めた白銀姫

 

 

 

 

エリナ「あ~、眠い~」

 

 いつの間にか朝風呂から帰ってきたエリナが 

 鏡の前で髪を梳かしながら、不満を言っている。

 そんなエリナが身支度を始めたことを確認して

 自分の身支度の続きをするセリナ。

 

 これが普段の2人の朝である。

 眠そうだったエリナも、身支度が進むにつれて

 目が覚めてきたのか、細かい部分を熱心に確認している。

 

セリナ「・・・そう言えば、エリナちゃん」

 

エリナ「ん~。

    な~に~?」

 

セリナ「最近なんだけど・・・。

    身だしなみに気合入ってない?」

 

エリナ「え? そ、そう?」

 

セリナ「うん。 特に最近、更にって感じですよね。

    以前なら、付けてる途中で昨日と同じような感じの髪留めだと

    気づいても『ま、いっか』って言ってそのままだったのに

    最近は、必ず違うのに付け替えるじゃないですか」

 

エリナ「そりゃ~、まあ。

    手を抜いても良いことなんてないじゃない?」

 

 その言葉を聞いて、一瞬で嘘だと思った。

 普段から色んなことで手を抜いているエリナちゃんが

 そんなことを言うはずがありません。

 何か別の理由があるはずです。

 

 普通なら、誰かに見せるためです。

 かといってエリナちゃんがそんなに見せたい相手って・・・。

 そこまできて、ようやく一人の顔が思い浮かびました。

 

セリナ「もしかして・・・和也、くん?」

 

 私がそう言った瞬間、エリナちゃんは手に持っていた

 髪用ブラシを落とし、それを拾おうとして

 椅子から転げ落ちました。

 

エリナ「いったぁ~ぃ・・・」

 

セリナ「・・・大丈夫?」

 

エリナ「大丈夫じゃないよ~・・・。

    もう、セリナが変なこと言うからぁ~」

 

 明らかな動揺を見せるエリナに、自身の考えが合っていたことを

 確信するセリナ。

 しかし、それはそれで疑問もある。

 

セリナ「どうしてそんなに気になるんですか?」

 

エリナ「もう、いいじゃない別に。

    それに何でそんなに食いつくのかなぁ」

 

 制服を着て身だしなみを整え、2人で部屋を出る。

 

 妙に詳細に聞いてくる姉に若干のうっとおしさを感じながらも

 その理由を考えるエリナ。

 

 寮の玄関あたりで、ひとつの答えが出る。

 

エリナ「・・・つまりセリナは、和也が好きだと」

 

セリナ「えっ!?

    何でそんな話に・・・」

 

エリナ「じゃあ、どういうことなのよ。

    ずっと和也、和也って言ってれば、そうとしか思えないよ」

 

セリナ「そう言う話じゃなくて。

    エリナちゃんが和也くんのことが好きなのは、どうして?

    っていう話ですよ」

 

エリナ「私が『和也が好き』ってことは既に決定なんだ・・・」

 

セリナ「そうじゃないんですか?」

 

エリナ「う~ん。

    ・・・もう、それでいいや」

 

セリナ「何ですか、その『面倒だし諦めた』って感じは。」

 

エリナ「セリナちゃん、わかってるならそれ以上は言わない。

    何だか知らないけど、ちょっとしつこいよっ!」

 

和也「喧嘩でもしてるのか?

   珍しいこともあるもんだな」

 

 突然後ろから現れた和也に、驚く2人。

 

セリナ「か、和也くん、どうしたんですか?」

 

エリナ「いい、いきなり声かけてきたら、びっくりするじゃない」

 

和也「いや・・・まあ。

   俺も一応女子寮に住んでるから玄関ぐらい通るんだが・・・」

 

 そこで2人は、ようやく気づく。

 ここは女子寮の玄関だったと。

 

セリナ「べ、別に喧嘩をしていたわけじゃないんですよ」

 

エリナ「まあ・・・あえて言うなら

    和也のせいだけど」

 

和也「俺の居ないところで俺が原因って

   そんなこと言われてもなぁ」

 

亜梨沙「・・・また何かやったんですか、兄さん?」

 

和也「俺は、無実だよっ!」

 

エリナ「そんなこともうどうでもいいから

    さっさと行きましょ」

 

和也「え? ちょ。

   いったい何なんだよ」

 

 和也の腕をグイグイと引っ張って歩くエリナ。

 

亜梨沙「・・・えっと。

    いったい何がどうなってるんですか?」

 

セリナ「・・・むぅ」

 

 置いていかれた2人だったが、その心境は

 全然違っていた。

 

 それから、今日の授業が一切頭に入らないセリナは

 ずっと教室の窓から外を眺めていた。

 

エリナ「・・・う~ん」

 

 朝から変だとは思っていたが、かなり重症なようだ。

 何とかしてあげたいという気持ちはあるが、何に悩んでいるのかが

 まったく解らないわけで・・・。

 

エリナ「仕方が無いなぁ。

    付き合ってあげましょうかね」

 

 徹底的に姉に付き合う覚悟を決めると、昼休みの鐘と共に

 腕を引っ張り場所を移動するエリナ。

 

 とりあえずいきなりのことに戸惑いながらも

 ズルズルと引っ張られていくセリナ。

 

 それを教室のクラスメイト達は

 ただ呆然と見ていることしか出来なかった。

 

 そして昼休み。

 いつもなら和也達と合流して食事をしているはずの時間。

 しかし今日、神族の双子姉妹は

 図書室にある個室の勉強部屋を占拠していた。

 

セリナ「ちょっとエリナちゃん。

    いきなりどうしたんですか?」

 

エリナ「どうしたのって言葉は、むしろこっちの台詞だよ。

    今日の授業、ちゃんと聞いてないでしょ」

 

セリナ「・・・まあ」

 

エリナ「どうせ朝の話の続きでしょ。

    どうして急に和也の話になったの?」

 

セリナ「・・・うん」

 

 しっかりと聞くために時間を取ってくれた妹に感謝しつつ

 セリナは、本心を話し出す。

 

セリナ「和也くんって不思議な人ですよね。

    人族というだけで色々言われるだけじゃなく

    意地悪とかもされてるって聞きました。

    でも、あんなに前向きに学園で

    いえ、この街で生きている。

 

    儀式兵装を持ってないという時点で

    本来なら戦士になんてなれないはずです。

    魔法が基本となっている今の世界では

    誰もが無謀なことだと思うでしょう。

 

    普通は、どれだけ訓練をしても無理なものは無理なんです。

    それなのに和也くんは、このフォースに入学してきました。

    それだけでも奇跡と言えます。

 

    本来なら、それだけで満足する結果なのに

    和也くんは、まだ先を見ています。

 

    そんな彼の努力や挑戦を見ていると

    自分でも信じられないぐらいに

    『私だってやれば出来るかもしれない』と思える気持ちに

    させてくれるんです」

 

 滅多に本心を打ち明けない姉の話を邪魔しないよう

 聞くことに集中しているエリナ。

 そんな妹に、姉は更に言葉を続ける。

 

セリナ「だから・・・かな。

    エリナちゃんが、和也くんのことを

    気に入るのも解ります。

    とても素敵な男の方だと思いますから。

 

    でもそこで思ったんです。

    どうして突然『甘えた』んだろうって」

 

 話を聞いて、ようやく姉の想いを理解したエリナ。

 少し頭の中を整理してから話し出す。

 

エリナ「なるほど、そういう話か。

    それなら簡単な話だよ」

 

セリナ「・・・簡単なの?」

 

エリナ「私が和也に甘えてる理由でしょ。

    それが知りたいなら、あそこに行けばいいんだよ」

 

セリナ「・・・?」

 

 

 その日の夜。

 

 エリナに指定された時間、その場所に向かう。

 すると、遠くから夜風を切り裂くような何かの音が

 リズム良く響いてくる。

 そこは、女子寮の裏にある森を抜けた所にある、とても広い丘。

 和也の自己鍛錬を行っている場所だった。

 

和也「ん?

   もしかして、セリナか?」

 

 真剣に刀を振っていた和也に何故か気づかれないよう

 茂みに隠れていたセリナだったが、声をかけられてしまい

 ゆっくりと姿を現す。

 

和也「・・・何でそんなところに居るんだ?」

 

 何となく気配でわかったものの

 まさかそんなところから出てくるとは思っていなかった。

 

セリナ「え、え~っと・・・。

    何と、なく?」

 

和也「そ、そうか。

   まあ別にどうでもいいんだが」

 

 突っ込み所が多すぎる発言に、色々と早々に諦めた和也。

 

 結局お互いに何も話さず、時間だけが過ぎていく。

 刀を振る音だけが、ただ周囲に響いていた。

 

セリナ「・・・和也くんは」

 

和也「ん?」

 

 どれぐらい経ったころだったか、ふとセリナが声をかけてきた。

 

セリナ「和也くんは、どうして戦士になろうと思ったんですか?

    儀式兵装・・・持ってないんですよね?」

 

和也「まあ儀式兵装は、確かに持っていないな。

   でもそれって、戦士を諦める理由になるのか?」

 

セリナ「え?」

 

和也「確かに魔法が当たり前になった今の世の中じゃ

   儀式兵装無しではやっていけないかもしれない。

   でも、そうやって無理だと決め付けるのってどうだろう?

 

   無理かもしれない。

   無謀かもしれない。

   不可能かもしれない。

 

   それでも、やってみなきゃわからないじゃないか。

   現にほら、俺はこうしてこの場に居るわけだし」

 

 和也の言うことは理解出来る。

 でも、それは運が良かっただけの奇跡だ。

 努力をした全員が報われるとは限らない。

 そんな否定的な意見が、セリナの頭を過ぎる。

 

和也「そして俺は、別に戦士になりたいわけじゃない。

   ・・・守りたいものがあるから、それを守れる力が欲しいだけだよ」

 

セリナ「・・・守りたいもの?」

 

 和也は、剣を構えた。

 剣を自分の胸の前に垂直に構える。

 

 その動きは、神族の騎士が自分の信念を剣に込めるという

 自身に気合を入れるための動作であり、伝統ある儀式。

 

 何故人族である和也が知っているのだろうと思った時だった。

 

和也「『この力を、守りたい全てのために』」 

 

 私は、その言葉を聞いて思い出す。

 それは亡くなったお父様が、口癖のように言っていた台詞。

 

 それを見て、お父様の言葉を思い出す。

 

神王「セリナ。

   お前は、いつも物事を悪い方へと考える癖がある。

   それが悪いとは思わない。

   だがな。

   もっと物事を前向きに考えてごらん。

   そうすればきっと・・・」

 

 まだ子供のころ。

 お父様から、そんな言葉を言われた気がする。

 

?「・・・!」

 

 何だろう、遠くから声が聞こえる。

 

?「大丈夫か、セリナ!」

 

 突然鮮明に聞こえた声に驚き、ハッとする。

 

和也「お、気づいたな。

   大丈夫か?」

 

セリナ「あれ? 和也・・・くん?」

 

 次第にハッキリとしてくる頭。

 

セリナ「大丈夫ですよ。

    ちょっとだけ、ぼーっとしちゃっただけです」

 

和也「まあ、それならいいんだが・・・。

   とりあえず、これでも使え」

 

 そう言うと、使っていないタオルを1枚差し出してくる和也。

 

セリナ「え・・・っと」

 

 何故渡されるのか、理解出来ていないセリナ。

 それに気づいた和也が言った。

 

和也「とりあえず、涙。

   拭いた方がいいかと思って」

 

セリナ「えっ!?」

 

 思わず自分の頬を手で触る。

 すると冷たい水の感触が伝わってくる。

 そして気づく。

 自分が泣いていたことに。

 

 和也からタオルを受け取ると、ゆっくりと涙を拭う。

 そして理解する。

 

セリナ「(本当は、まだ寂しかったんですね)」

 

 子供のころに死に別れた父親。

 神王という立場もあり、遊んでもらった記憶も殆ど無い。

 

 ―――ああ、だからか。

 きっとエリナちゃんも、和也くんの中に

 『お父様』を見たんですね。

 だから、あんなにも・・・。

 

 その後、和也の鍛錬が終了するまでセリナは

 ずっと無言で和也を見続けるのだった。

 

 

 次の日。

 勢い良く開けられたカーテンの向こうから、朝の光が差し込んでくる。

 

エリナ「んん・・・眩しい」

 

 相変わらずセリナが容赦無く起こしてくる。

 起きなければならないのは理解しているが

 それと身体が動くかは、また別問題なわけで・・・。

 

 そんなことを考えていると、またいつものように

 布団を剥ぎ取られる。

 

エリナ「うぅ・・・ひどいよ、セリナちゃ~ん」

 

セリナ「そろそろ起きないと間に合わないよ、エリナちゃん」

 

エリナ「あと5分ぐらい大丈夫だよ~・・・」

 

セリナ「昨日と同じこと言ってないで、起きて下さい」

 

エリナ「・・・無理」

 

 毎朝、同じようなやり取りが行われている気がする。

 それでも起きられないものは起きられない。

 

セリナ「遅刻しても知りませんよ」

 

エリナ「はぁぁぁ・・・。

    朝は、辛いなぁ」

 

 強烈な眠気と戦いながら風呂に入る。

 やはり朝風呂に入らないと、寝汗が気持ち悪い。

 それに汗の臭いをさせたままなんて、乙女として論外だ。

 

 何度か寝そうになりながらも

 その誘惑に耐え、風呂から出て身支度を始める。

 反対側では、セリナが既に身支度を始めていた。

 

 いつもの朝の光景。

 だが、今日は少し違うようだ。

 

セリナ「~♪」

 

 セリナがいつもより上機嫌なのだ。

 いつもより細かい部分を熱心に何度も確認している。

 

エリナ「・・・セリナちゃん」

 

セリナ「ん~。

    な~に~?」

 

エリナ「何で今日は、そんなに気合入ってるの?」

 

セリナ「え? そ、そう?」

 

 少し顔を赤くしながら答えるセリナを見て

 何かあったなと確信するエリナ。

 

 そして、その原因は恐らく――― 

 

エリナ「・・・和也でしょ?」

 

 私がそう言った瞬間、セリナちゃんは手に持っていた

 髪用ブラシを落とし、それを拾おうとして

 椅子から転げ落ちた。

 

セリナ「いったぁ~ぃ・・・」

 

エリナ「・・・大丈夫?」

 

セリナ「大丈夫じゃないですよ~・・・。

    もう、エリナちゃんが変なこと言うからですよ」

 

エリナ「やっぱり昨日、何かあったんじゃないの?」

 

セリナ「それは秘密です」

 

 制服を着て身だしなみを整え、2人で部屋を出る。

 そして女子寮の玄関前で、見慣れた後ろ姿を見つけると

 エリナは、元気良く走っていく。

 そして―――

 

エリナ「和也っ!

    おはよぅ!」

 

和也「ああ、おはよう。

   とりあえず勢い良く後ろから飛びつくのは

   何とかならんのか」

 

亜梨沙「ええ、ホントです。

    兄さん、もっと言いましょう」

 

 楽しそうに会話する3人を見て、ふと空を見上げるセリナ。

 

セリナ「(・・・前向きに、か。)」

 

 視線を戻すと、いつの間にかエリナが亜梨沙に追い回されている。

 それを苦笑しながら見つめる和也の隣に、私は並ぶ。

 そして勇気を出して腕を絡める。

 

和也「・・・えっ!?」

 

セリナ「ど、どうしました?」

 

和也「い、いや。

   普段そういうことやるのは、エリナだし

   ちょっとビックリした」

 

セリナ「・・・たまには良いじゃないですか」

 

和也「ま、まあ・・・俺は別にいいんだが・・・」

 

 そして2人は、学園に向けて歩き出す。

 和也は、顔を赤くして照れている。

 

 そんな和也くんを見て、何だか少しエリナちゃんの気持ちが

 解ったような気がします。

 

セリナ「(私だって、ちょっとぐらい甘えても

     ・・・いいですよね?)」

 

 空は、とても良い天気。

 いつも通りの朝なのに今日は、いつもと違っていた。

 世界は、見方を変えるだけで

 こんなにも違った一面を見せてくれる。

 

 そういうことですよね。

 ―――お父様。 

 

 

 

 

 

 

第7章 変わり始めた白銀姫 ―完―

 

 

 

 

 





一体誰でしょう。
戦闘回を一旦休んで日常回を入れるなんて言った奴は・・・。

あ、俺か。

というわけで、たまには日常回を挟んでみました。
どうせ後半は、嫌でもバトル中心ですからね。

今回は、妹のせいでサブキャラ感が凄かった
姉回としてみました。
どうでしたでしょうか?

あまりダラダラとならない程度に
今後も進めていきたいと思っておりますので
よければ、お付き合い下さい。


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第8章 魔界の奇術師(トリックスター) ―前編―

 

 そこは学園内の訓練施設の1つ。

 広大な森の中で戦う、野外戦闘場所。

 

 ガンッ!!

 ズザァァァ!!

 

神族女生徒A「やらせ―――」

 

?「遅い」

 

 神族生徒が相手に向けて手を上げた瞬間

 その胸には、槍が刺さっていた。

 

 相手が槍を引き抜くと、血が吹き出る。

 しかしスグに判定ネックレスによる回復が起きる。

 

神族男生徒B「な・・・何なんだよっ!」

 

神族男生徒C「話と違うじゃないかっ!!」

 

 倒れた相手が戦闘不能であると確認した男は

 残っている神族2人に視線を向ける。

 既に周囲には、神族生徒が何人も倒れており

 全員戦闘不能状態である。

 

神族男生徒B「ひ、ひぃ!!」

 

神族男生徒C「バ、バカッ!

      逃げる奴があるかっ!!」

 

 恐怖から堪らず逃げ出す神族男生徒。

 取り残されたもう一人も、足が震えて満足に動けないようだ。

 

?「・・・くだらんな」

 

 男はそう言うと、槍を正面に構える。

 翼が開かれ、魔力が集まる。

 

?「スピードアップ・ファーストッ!!」

 

 加速魔法の発動と共に男の姿が消える。

 そして―――

 

神族男生徒C「ぶはっ!!」

 

 一瞬にして胸を貫かれた神族生徒は、血を噴出しながら倒れる。

 同時に判定ネックレスが『砕かれて』発動する。

 そう、男は相手が首から提げていた判定ネックレスを

 わざわざ狙って破壊したのだ。

 

神族男生徒B「はぁ、はぁ」

 

 ひたすら森の中を走り、神族生徒は後ろを振り返る。

 誰かが追ってくる気配も音もしないことを確認して

 その場で大きな木にもたれかかる。

 

神族男生徒B「ち、ちくしょう・・・。

      何でこんなことに・・・」 

 

 神族生徒がそう呟いた瞬間だった。

 

 ドスッ!!

 

 短いながらも大きな音。

 わずかに何かにめり込んだ音もした。

 神族生徒は、自身に違和感を感じて下を向く。

 すると―――

 

神族男生徒B「な、なんだよ・・・これ」

 

 自分の胸に突き刺さる槍。

 それは自身を貫通して後ろの木に刺さっている。

 何処から、何時これが飛んできたのかも解らない。

 

神族男生徒B「なんで・・・こんな目に・・・」

 

 その言葉を最後に、神族生徒は気を失う。

 判定ネックレスの効果で槍が自動的に引き抜かれて地面に落ちる。

 そして傷口を瞬時に塞ぐ。

 

?「話にならんな」

 

 突如現れた男は、自分の槍を拾うと

 不満げに気絶している相手を見下ろす。 

 

アレン「まだだ・・・。

    この程度では、あの男に勝てんっ!!」

 

 そう・・・この男は、闘技大会で和也に負けた1階級の槍使い。

 『魔槍』の名を継ぐ者、アレン=ディレイズ。

 

 あの戦い以降、『人族に負けた魔族』と見下されることが多くなった。

 しかし見下してきた相手は、全て実力で黙らせている。

 先ほども1階級の神族生徒達が、その話題で戦いを挑んできた。

 それもアレン1人相手に6人同時という普通ならありえない勝負。 

 だが、結果はこの通り。

 

 アレンは、ガッカリしていた。

 それは人族に負けたと言われることではない。

 挑んでくる相手が弱すぎるからだ。

 これでは、練習相手にもならない。

 

 自分が尊敬する『魔槍』と呼ばれた父に追いつくため

 毎日欠かさず修行してきたアレン。

 同年代では、それなりに強いという自信もあった。

 しかし、あの人族に負けた。

 

 まだ『漆黒の悪魔』や『白銀の女神』に負けたというなら

 納得出来なくもない。

 彼女らは、生まれ持った才能というべきか

 努力した程度では埋まらないほどの圧倒的な翼の枚数と魔力がある。

 

 しかし自分を倒したあの人族は、どうだ。

 魔法を一切使用していないにも関わらず、あの強さだった。

 

 一瞬にして冷静かつ的確な判断を行い

 剣術と体術を合わせた独特な戦い方で相手を翻弄。

 魔法無しで、あの瞬発力に一撃の重さ。

 正直、距離を詰められたら勝てる気がしない。

 

 藤堂 和也。

 あの人族は、自分よりも高みに居る。

 あの男に勝てないようでは、とても父には追いつけない。

 

アレン「俺は、必ず。

    そう・・・必ずあの人族を倒してみせる」

 

 俺は『魔槍』の名を継ぐ者。

 更なる高みを目指すっ!!

 

 

 

 同時刻―――

 学園訓練施設の1つ。

 地下迷宮内。

 

魔族女生徒B「痛い、痛い」

 

 細かな氷槍が何本も刺さり動かなくなった右腕を

 左腕で押さえながら逃げる魔族生徒。

 

魔族女生徒C「だ、だから言ったのよっ!

       戦わない方がいいってっ!」 

 

 傷を負いながら狭い迷宮内を

 ひたすら走って逃げる魔族生徒達。

 

 後ろから悲鳴が聞こえる。

 それは、また1人仲間が倒されたことを意味する。

 これでやられたのは6人。

 生き残りは、自分達2人だけとなる。

 

 元々、気に入らなかった。

 周囲の連中からは、お姫様扱いをされ

 常に他人を見下しているような態度。

 

 しかし闘技大会で、面白いものが見れた。

 よりにもよって人族なんかに無様に負けたのだ。

 あれは気分の良いものだった。

 

 そんな時、周りの奴らに誘われたのだ。

 『アイツをボロボロにしてやろう』と。

 多少実力があるかもしれないが、人族に負けたぐらいだし

 私達8人がかりなら楽勝だという話に乗ってしまった。

 その結果が今である。

 

魔族女生徒B「お、追いつかれるっ!?」

 

 逃げる生徒は、後ろを振り返り悲鳴を上げる。

 後ろの通路が自分達の方へと凍ってきているからだ。

 

 2人は必死になって走り、大きな広場に出る。

 そしてそこで『追い込まれた』ことを知る。

 

魔族女生徒C「そ・・・そんな」

 

 広場は、まるで氷の世界。

 全てが凍っており、氷で出来た木が何本も立っている。

 

魔族女生徒B「出口が・・・」

 

 咄嗟に入ってきた場所を見ると、既に通路は

 分厚い氷の壁に覆われていた。

 

?「ようこそ、ワタクシの世界へ」

 

 どこからともなく声が響いてくる。

 その声に魔族生徒は、短い悲鳴を上げる。

 

?「だから言いましたでしょう?

  ワタクシの世界からは逃げられないと」

 

魔族女生徒C「で、出てきなさいよっ!」

 

 その言葉に反応してか、奥からゆっくり人影が出てくる。

 

アクア「どうしたのかしら?

    さっきまであんなに余裕そうでしたのに」

 

 奥から出てきたのは『氷の騎士』アクア=レーベルト。

 闘技大会で亜梨沙に負けた名門のお嬢様だ。

 

魔族女生徒C「しつこく追いかけてきて・・・。

       わ、私達が何したって言うのよっ!」

 

アクア「あら、攻撃を仕掛けてきたのは

    アナタ方でしょう?」

 

魔族女生徒B「わ、私達は何もしてないわっ!」

 

アクア「8人がかりで挑んでおいて、今度は言い訳かしら?」

 

 ジリジリと近づくアクアに気持ちが耐え切れず

 魔族生徒は儀式兵装の剣を手にする。

 

魔族女生徒C「アンタなんてぇぇぇぇ!!」

 

アクア「パワー・アイス・サードッ!」

 

 ガキィィィンッ!!!

 

 金属音の中に僅かに肉の切れる音が混ざる。

 

魔族女生徒C「く・・・」

 

 儀式兵装の剣同士がぶつかるも、魔族生徒の儀式兵装が

 衝撃に耐え切れずに折れる。

 強化魔法の初級と上級の重ねがけに無強化で挑めば

 儀式兵装といえども耐え切れるわけがない。

 そしてアクアの一撃がそのまま魔族生徒に決まり

 判定ネックレスの発動と共に魔族生徒は倒れる。

 

 アクアは、儀式兵装をしまい

 ため息をつくと、迷宮の奥へと歩き出す。

 

魔族女生徒B「・・・」

 

 その隙だらけの後ろ姿に、魔族生徒は

 溜めていた魔力を使いファイア・アローを3本、出現させる。

 

 現在の魔法は、古代魔法と違い詠唱が必要ない簡易型だ。

 普段から叫んでいるのは、魔法制御や魔力を溜める際の

 集中力のためである。

 やろうと思えば無言で発動することは誰にでも可能だ。

 

魔族女生徒B「(い、今しかない・・・)」

 

 今度狙われるのは自分だ。

 しかし今なら相手は隙だらけ。

 このチャンスを逃せば確実に自分がやられるだろう。

 

 発動したファイア・アロー3本全てを、アクアに向けて発射する。

 こちらを振り向くことなく歩くアクアの背中に3本の火矢が

 吸い込まれるように飛んでいく。

 

 パリィンッ!!

 

魔族女生徒B「なっ!?」

 

 確かにアクアの背中に当たった火矢。

 しかし当たった瞬間、アクアが砕けた。

 

 ・・・いや、正確にはアクアの姿が

 反射して映った氷の壁が砕けたのだ。

 

アクア「・・・残念ですわ」

 

魔族女生徒B「―――ッ!?」

 

 後ろから聞こえた声に、思わず振り返ろうとするも

 その前に背中を大きく斬られ倒れる魔族生徒。

 判定ネックレスが砕け、瞬時に傷が消えていく。

 

アクア「・・・本当に、残念ですわ」

 

 8人がかりなら・・・と思っていたが

 結果は、見ての通りだ。

 

 いつもなら自信に繋がった勝利も

 今は、ただ虚しいだけだ。

 

アクア「風間 亜梨沙・・・」

 

 あれから色々と調べた。

 

 ―――風間 亜梨沙

 人界で最強と言われる風間という一族の流派。

 彼女は、その流派の師範代と呼ばれる立場。

 師範代というものが理解出来ないが、かなり高い位置の位らしい。

 一族の本家にして、天才と言われており

 将来の一族を担うと期待されている一人だという。

 

 それを聞いてからアクアは、訓練の量を増やしていた。

 何故なら風間 亜梨沙は、自分と同じような立場なのだと知ったからだ。

 

 自分とて神界で有名な名門の一族本家。

 そして一族の中でも天才と呼ばれている。

 

 自分と同じような時間を過ごして来たはずの相手に

 正直完敗といってもいいほどの負け方をした。

 彼女があれだけの強さを手に入れたのに

 自分がその強さを手に入れられないはずがない。

 

アクア「ワタクシは、必ずアナタを超えてみせますわ」

 

 決意を新たにアクアは歩き出す。

 周囲から時折聞こえてくる『人族に負けた神族』という

 不名誉も気にしない。

 それは近いうちに必ず、自分を褒め称える賛辞へと変わるのだから。

 

 

 

 

 

 

第8章 魔界の奇術師(トリックスター) ―前編―

 

 

 

 

 

 

 それぞれがそれぞれにリベンジを誓っていたころ

 この男も動き出していた。

 

ギル「これで準備は、整った。

   さて、どう反応してくれるかねぇ」

 

 普段、通ることがない通路を歩いているのは

 学園で、その名を知らない者は居ないと言われ

 注目されている生徒。

 

 学園内で有名な相手ばかりが対戦相手となる不運な男。

 しかし、その全てに勝利してきた実力者。

 

 その名は『ギル=グレフ』

 実力ある魔族として、種族を問わず人気のある生徒として

 そして女好きの軟派な男として・・・。

 様々な武勇伝を持つ男は、それでもやはり戦士だった。

 強い者と戦いたい。

 その強さが知りたい。

 そんな思いが今の彼を動かしていた。

 

 

 ギル=グレフが動いてから2日後―――

 

和也「え?

   決闘・・・ですか?」

 

 放課後に学園長室に呼び出された和也。

 室内にギル=グレフが居たことに驚くが

 話を聞かされて、更に驚く。

 

マリア「そうだ。

    そこのギル=グレフから正式に

    闘技場での決闘申請書が出された」

 

 そう言いながら申請書をひらひらとさせる学園長。

 

 決闘申請書。

 昔、貴族同士の喧嘩を何とかしようと出来た制度。

 管理出来ない場所で勝手に殺し合いをされるよりは

 管理し、訓練の1つとして処理してしまおうという大人の事情が

 含まれたもので、相手を指名して申請すると

 指名された相手は、受けるか断るかを選択出来る。

 

 当然断っても何の罰則もない。

 相手が断ったと話を広める行為も禁止されているからだ。

 しかしプライドの高い貴族達が断るわけがない。

 

 この制度は、少し前にあまりにも

 私的(くだらない理由)な決闘が増えすぎたために

 一時的に禁止された経緯がある。

 最近復活したが『学園長が正当と判断した理由に限る』という

 特別事項が追加されたため、現在は申請しても却下される割合が高く

 ほぼ忘れ去られている制度だ。

 

フィーネ「へぇ・・・。

     この私の前で堂々と和也に決闘・・・ねぇ」

 

亜梨沙「とりあえずこの場で殺ってしまいましょう。

    それが学園のためです」

 

ギル「ちょ!?

   ちょ~っと待ったぁぁぁぁ!!

   『漆黒の悪魔』を相手になんて無理無理。

   あと妹ちゃん、学園のためってどういうことだよ~!

   俺、そんな害虫みたいに言われるとショックだぜ~」

 

亜梨沙「ギル=グレフは、手当たり次第に女性に声をかけて回る

    ナンパ野郎で、特に何も知らない下級生に犠牲者が多いと

    聞いたことがあります。

    それに兄さんに決闘挑むとか、この場で殺されても

    文句言えないほどの大罪です」

 

フィーネ「そうよね、亜梨沙。

     この場で始末しても問題無いわよね。

     だって和也に挑むってことは、そういうことなんだもの」

 

 いきなり殺気を隠そうともせず儀式兵装を手に持った2人に

 ギルは、思わず後ろに下がる。

 

マリア「まあ、待て2人とも。

    とりあえず話ぐらいは聞いてやれ」

 

 ため息と共に声をかける学園長の言葉で

 ようやく話が進む。

 

ギル「この前の全階級合同実戦試験から、ずっと気になってたんだ。

   我らが魔界のお姫様に気に入られた人族の男。

   そしてこの前の闘技大会では、魔界で期待の新人だった

   アレン=ディレイズまで打ち破った。

   人族、それも儀式兵装を持っていない奴がだぜ?

   しかもあの時の戦い・・・。

   アレは、すっげ~やばかった。

   もう俺、鳥肌立っちゃったからね。

 

   だから俺も、アンタに興味が沸いた。

   一度でいい。

   この男と誰にも邪魔されずに1対1で正面から

   堂々と戦いたいってね」

 

 終始笑顔で話すギル。

 そこには何の嫌味もない。

 ただ、瞳をキラキラさせながら夢を語る子供のような

 そんな純粋な気持ちで溢れていた。

 

 彼の想いが伝わったのか、亜梨沙もフィーネも

 いつの間にか、手から儀式兵装が消えていた。

 

マリア「私も、この話を聞かされたら断る理由が正直無くてな。

    だから婿殿に決めてもらおうと呼んだ訳だよ。

 

    正直な話をすれば私は、見てみたい。

    婿殿の倒したアレン=ディレイズは、1階級ながら

    父親に似た非常に優秀な戦士だからな。

    それを破った実力者が、今度は更に上位の実力者と戦う。

    想像しただけで面白いじゃないか」

 

 学園長から期待の眼差しを向けられ

 思わず苦笑する。

 

フィーネ「別にいいんじゃない?

     受けてあげれば?」

 

 フィーネから意外な言葉が出てきて

 室内の全員が驚きの顔になる。

 

フィーネ「だって私が、一瞬で終わらせてあげるもの」

 

 笑顔でそう言い放ったフィーネに

 今度は室内の全員の思考が一瞬停止する。

 

マリア「お前・・・何を言ってるんだ?」

 

 一番初めに我に返った学園長が

 恐らく全員が言いたかった一言を代弁する。

 

フィーネ「えっ?」

 

マリア「いや、だからな。

    あくまでこの決闘は、婿殿とギル=グレフとの試合であってな

    お前は関係ないんだぞ?」

 

フィーネ「何言ってるのよ。

     私は、和也の魔法よ。

     言うなら儀式兵装みたいなもの。

     要するに装備品よ。

     和也が戦うなら一緒に決まってるじゃない」

 

 フィーネが当然だという顔で、そんなとんでも論理を展開する。

 もう室内の全員は、完全に呆れてしまう。

 

亜梨沙「兄さん・・・。

    本当にフィーネに何もしてないんでしょうね?

    夜中にベットに連れ込んだりしてませんよねっ!?」

 

ギル「いやぁ~・・・。

   ホント、羨ましいぐらいに愛されてるねぇ」

 

マリア「お前、ホントに婿殿のことになると

    途端に無茶苦茶になるねぇ」

 

 そんな周囲の反応に訳がわからないという感じのフィーネ。

 

和也「気持ちは、嬉しい。

   だけど俺は、自分の力だけでやってみたいんだ。

   だからお願いするよ。

   今回は、後ろで応援しててほしい。

   フィーネの応援があったら、きっと大丈夫だから」

 

 彼女の頭を撫でながらそう諭す。

 

フィーネ「・・・和也がそう言うなら」

 

 いかにも渋々といった感じではあるが納得するフィーネ。

 

和也「まあ、何だか色々あったが・・・。

   とりあえず挑戦を受けよう。

   よろしく頼む」

 

ギル「挑戦を受けてくれて感謝するぜ。

   こっちこそ、よろしく頼むわ」

 

 どちらともなく互いに手を出し、握手を交わす。

 

マリア「では、この勝負。

    学園長マリア=ゴアの名において決定とする。

    開始日等については、明日に告知させてもらう」

 

 その一言で今回は、解散となった。

 そしてその日中に、2人の決闘の話が学園中に伝わることになる。

 

 次の日。

 学園内は、決闘の話で盛り上がっていた。

 しかしやはりというべきか。

 人族がどれだけ立っていられるか?という話が中心だ。

 

ヴァイス「人族ごときが決闘などと笑わせてくれるものだ」

 

 教室に入るなり、予想通りヴァイスが絡んでくる。

 

ヴァイス「まあ、無様に負けることが貴様らにとっての

     義務のようなものだからな。

     せいぜい我々を楽しませるような滑稽で

     みっともない負け姿を見せてくれよ」

 

 最近絡んで来なかった分だろうか。

 いつも以上にしつこいため、ついに無言だったフィーネが

 割り込んでくる。

 

フィーネ「・・・それで。

     アナタは、結局何がしたいのかしら?

     まあどの道、私の前で

     それ以上言わない方がいいわよ」

 

ヴァイス「い、いえ。

     フィーネ様では無くてですね・・・」

 

フィーネ「それ以上、言わない方がいいわよ」

 

ヴァイス「し、失礼します」

 

 笑顔で放たれる殺気に怯えたヴァイスは

 話を切り上げ、素早く距離を取った。

 

亜梨沙「しかし、この学園には諜報機関でもあるのでしょうか?

    噂が広まるのが早すぎるでしょ」

 

 別に誰も話した訳でもないのに、どういうわけか

 決闘の話が広がってしまった。

 誰かが偶然話を聞いたとしても、丸1日も経たずにこれである。

 噂を広めた奴は、これが戦場なら

 さぞ優秀な諜報員として重宝されただろう。

 

 教室の奥では、ギルもクラスメイト達から質問攻めに遭っていた。

 見るからにうんざりといった表情だ。

 

 そして昼休み。

 いつもの場所で食事をしていても

 どこからともなく聞こえてくるのは、決闘の話題ばかりだ。

 

リピス「何だか面白いことになってるじゃないか」

 

エリナ「そうそう。

    こっちのクラスもその話ばっかりだし」

 

メリィ「学園は、この話題一色になっておりますから」

 

セリナ「実際の所は、どうなんですか?」

 

 他のメンバーも興味津々といった感じで

 まさに逃げ道など無かった。

 

和也「本当だよ。

   明日、闘技場でやることになった」

 

 早朝、学園長室に呼び出された俺とギルは

 明日の実技時間に決闘をやると聞かされた。

 次の実技時間は、二階級全体での合同訓練となっている。

 その訓練の開始前にやってしまうそうだ。

 そうなると観客は、二階級全員ということになる。

 

エリナ「そっか~。

    なら応援出来るね」

 

セリナ「頑張って下さいね」

 

リピス「ぜひとも、あのゴミを処理してもらいたいものだな」

 

和也「リピスだけ、物騒だな。

   というかギルと何かあったのか?」

 

リピス「知らん」

 

メリィ「以前に出会った時の話です。

    リピス様の胸を見て『惜しいなぁ』と発言され

    3階の窓からリピス様に投げ捨てられた

    ということがありました」

 

リピス「余計なことを言うな」

 

 顔を横に向けて拗ねるリピス。

 

亜梨沙「何の躊躇いも無く3階から投げたんですか。

    色々とさすがですね」

 

和也「むしろ、それでよくアイツは生きていたな」

 

エリナ「魔法でも使ったんじゃない?」

 

メリィ「それがですね。

    落下中に魔法を使って足場を確保し

    空中で受身を取って静止した瞬間に

    リピス様が追撃として教卓を上から投げつけて

    見事にクリーンヒット。

    確実に地面に叩き落したはずなのですが

    ほとんど負傷していませんでした」

 

セリナ「教卓まで落としちゃいましたか・・・」

 

和也「いやホント。

   よく生きてたな」

 

 ふとしたことからギル=グレフの話を聞けたが

 何だか少しだけ同情したくなるエピソードだった。

 

 

 その夜。

 いつもの場所に到着した時だった。

 

和也「―――ッ!」

 

 あたり一面に広がる戦闘の後。

 地面は抉れ、草むらは焼けていた。

 

ミリス「あら。

    こんな時間にどうしましたか?」

 

 そしてその場所には『紅の死神』が立っていた。

 

和也「俺は、いつもの訓練に来ただけだよ。

   いや、そんなことよりこれは―――」

 

ミリス「アナタには関係ありません」

 

 こちらの言葉を遮るように言い切るミリス。

 その顔には、いつもの余裕は無かった。

 

ミリス「残念ですが、今アナタの相手をしている暇がありません。

    ですから、ここで好きなだけ無駄な努力でもしていて下さい」

 

 そう言うとスグに暗闇に向かって飛び去るように姿を消した。

 

和也「いったい何なんだ?」

 

 何か言いたくないことなのだろうか?

 いや、それにしても・・・。

 

和也「これは、どうすりゃいいんだよ」

 

 いつもの場所が荒地のようになってしまっていた。

 結局訓練ではなく、場所の整地作業に

 時間を取られてしまうことになった。

 

 寮に帰って風呂に入り、部屋に帰ると

 そのままベットに倒れこむ。

 明日は、ギル=グレフとの決闘が待っている。

 そのせいか、この日は興奮してなかなか寝付けなかった。

 

 

 

 

 

 

第8章 魔界の奇術師(トリックスター) ―前編― ~完~

 

 

 

 

 

 

 





まず、後書きまで読んで頂き有難う御座います。

日常回にする予定もあったのですが
先にギルくんのフラグを回収しようかなと思い
今回は、ギル編にしました。

次回は、ついにギル=グレフと和也が対決します。
どんな戦いになるか・・・後編をお楽しみに!


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第8章 魔界の奇術師(トリックスター) ―後編―

 

 そして決戦の日が来た。

 場所は、闘技大会の会場ともなった闘技場。

 決闘に相応しい所ではある。

 

 俺は、装備を念入りに確認する。

 相手が相手なだけに、恐らく一瞬の隙が命取りになりかねない。

 普段とは違う完全装備に、亜梨沙が俺の本気度を理解したようで

 他のメンバーを遠ざけてくれていた。

 

 その遠ざけられたメンバー達は

 試合を見るために観客席で一番良い場所を占拠していた。

 

エリナ「大丈夫かなぁ」

 

リピス「今からそんなに心配してどうするんだ?」

 

セリナ「相手が相手ですからね。

    私も心配です」

 

亜梨沙「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。

    兄さん、今回は初めから全力っぽいですから」

 

フィーネ「怪我しないかしら・・・」

 

リピス「いや、戦いなんだし怪我ぐらいするだろう」

 

亜梨沙「ホント、心配しすぎです」

 

エリナ「亜梨沙は、全然心配じゃないの?」

 

亜梨沙「私が一番、兄を見てきたんです。

    そんな私が、信じなくてどうするんですか」

 

フィーネ「そうよね。

     和也を信じて待つことも大事よね」

 

セリナ「では、勝ったときのお祝いを

    どこでするかでも決めましょうか?」

 

エリナ「お、いいね。

    それなら向こうの通りに新しくできたお店が

    結構美味しいらしいよ」

 

メリィ「では、私が先に予約をしておきましょう」

 

リピス「話がまとまったところで、丁度試合も始まるようだな」

 

 2人の戦士が登場すると同時に大きくなる歓声。

 その声の殆どは、人族に対する罵声とギルへの声援。

 だが、そんな中でも和也の耳には

 しっかりと彼女達の声が届いていた。

 

 

 

 

第8章 魔界の奇術師(トリックスター) ―後編―

 

 

 

 

 

 2人は、まずお互いに近づいて握手を交わす。

 

和也「まあ、お手柔らかに頼む」

 

ギル「それはこっちの台詞だぜ」

 

和也「凄い声援だな。

   人気があるとは聞いていたがこれほどとはな」

 

ギル「いやいや、こんなの誰だって同じだよ。

   この場に居るほとんどの奴らは

   『人族を倒す魔族』を見たいだけだって」

 

和也「そんなもんかね。

   ほら、女子からの黄色い声援なんかもあるじゃないか」

 

ギル「勘弁してくれよ。

   あんな適当な応援してる娘なんかより

   そっちのお姫様達の方が羨ましいぜ」

 

 そしてどちらともなく手を離す。

 

ギル「この前の全階級合同実戦試験は、ホント面白かった。

   だって何もかもが予想外もいいところ。

   無茶苦茶すぎて心の底から笑ったよ」

 

和也「ああ、それについては俺も同じだよ。

   まさかあんなことになるなんてな」

 

ギル「でも、だからこそ。

   今こうして俺達は、この場に居る」

 

和也「だな。

   前にも言ったが、こうなるような気はしていたよ」

 

ギル「ああ、俺もだ。

   今日この日が待ち遠しくて、夜はいつもより早く

   爆睡しちゃったよ」

 

和也「なら、よかったじゃないか。

   こっちは眠れなくて大変だったのに」

 

ギル「おいおい。

   それで実力が出なかったとか言わないでくれよ」

 

和也「当然だ。

   そんなことは無いから安心してくれ」

 

セオラ「では、そろそろ開始位置に移動しなさい」

 

 会話が少し切れた時を見計らって、先生が声をかけてきた。

 今回の試合の審判をしてくれるらしい。

 観客席には、ちゃっかり学園長も見える。

 

ギル「じゃあ、お互い全力でいこうぜ」

 

和也「ああ、悔いの無いような試合にしよう」

 

 その言葉を最後に、2人は離れる。

 

セオラ「それでは、これより2階級ギル=グレフと

    2階級藤堂 和也の決闘を行います。

    ルールは、規定通りの無制限1本勝負。

    相手を戦闘不能に追い込むか、降参宣言をさせれば勝ちですわ」

 

 先生の言葉に周囲は、一気に静まり返る。

 

 俺は、いつもの相棒である強襲型魔法剣『紅』を手に持つ。

 ギルもいつの間にか儀式兵装の双剣を手に持っている。

 

セオラ「2人とも、行きますわよ。

    ・・・では、はじめっ!!」

 

 開始宣言と共に盛大な歓声が起きる。

 相変わらず、うるさいかぎりだ。

 

 俺は、ゆっくりと紅を構える。

 対するギルも儀式兵装の双剣を構える。

 

 少しの間、お互い動かずに様子を見ていたが

 先に動いたのは、ギルだった。

 

ギル「ファイア・アロー!」

 

 前置き無しの魔法発動に少し驚くも

 俺は、それを左に軽く動いて避ける。

 しかし―――

 

和也「ッ!」

 

 火矢に紛れるように、そのスグ後ろを飛んでいた不可視の風の刃が

 急激に曲がり、こちらに飛んでくる。

 魔眼による魔力の流れと、一瞬だけ歪んだ空気で

 風の刃の存在と、その狙いに気づいて回避する。

 

ギル「やっぱりさすがだなっ!」

 

 風の刃を回避した瞬間、いつの間にか接近していたギルが

 そう声をかけながら双剣による連撃を仕掛けてくる。

 

 左剣の横薙ぎを後ろに下がって避けると

 半歩踏み込んだ右剣の振り下ろしが襲ってくる。

 それを横に軸をズラして回避する。

 しかし今度は、左剣が手首を返して横薙ぎを放ってくる。

 

 それを受け流すと、そのまま左腕の下から

 右剣による突きが、こちらの剣に向かって繰り出される。

 流れるような見事な連続攻撃。

 

 わざわざ剣を狙ってくるとは思っていなかったために

 剣を少し上に弾かれる。

 

 その隙を狙った左剣による上からの袈裟斬り。

 俺は、剣で防いでも連撃が止められないと考え

 恐れず1歩踏み込んで距離を詰める。

 

 振り下ろされる剣に対して前に出るという行動に

 さすがのギルも驚くが、そのまま剣を振り下ろす。

 だが俺は、左拳を下からアッパー気味に放つ。

 

ギル「ッ!」

 

 ギルの左剣を持つ手に直接撃ち込まれた和也の左拳。

 それにより袈裟斬りを止められただけでなく

 衝撃で左手に激痛が走る。

 

 痛みにより一瞬後ろに仰け反るも、右剣による横薙ぎで

 けん制を入れてくる。

 

 その横薙ぎを前のめりにしゃがんで回避すると

 そのままの勢いで立ち上がりながらタックルを入れる。

 

ギル「くそっ!!」

 

 タックルにより後ろに倒れそうになる姿勢を

 何とか維持するためには後ろに下がるしかない。

 そしてそれが解っているからこそ、そのまま更に前に出る和也。

 

 一瞬で距離を詰めた和也は、剣の柄で素早く

 ギルの胸に打撃を入れる。

 

 息が詰まるような一撃を受けながらも

 距離を取りたいギルは、蹴りを放つ。

 

 しかし和也は、それをギリギリで回避しながら

 左拳でギルの顔を殴る。

 

 ギルの顔が苦痛に歪むも、そのまま双剣を左右から

 クロスさせるように正面に振り下ろす。

 それを和也は、紅で受け止めるが

 いつの間にか左剣に風・右剣に火属性の強化魔法が

 かかっていたようで、後ろに吹き飛ばされるように押し返される。

 

ギル「―――ッ!?」

 

 ようやく距離が取れたと気を抜きかけた瞬間だった。

 小型のナイフのようなものが3本、飛んできていたことに

 気づいてギルは、咄嗟に横に大きく跳躍して回避する。

 

 しかし着地した瞬間、今度は魔法剣の刀身部分が飛んでくる。

 それを剣で弾こうとした時だった。

 

和也「ブレイク!」

 

 直前で爆発し、煙が視界を奪う。

 その瞬間にギルは、気づくことになる。

 これが狙いだったのだと。

 

ギル「ウインドシールド!」

 

 煙で視界が無い状態で更にナイフのようなものが何本か

 飛んできたため、全方位に風の盾を張る。

 おかげで飛んできていたナイフを全て防ぐことに成功する。

 

 周りを覆っていた煙もスグに晴れる。

 だが、その時だった。

 

和也「はぁぁぁぁっ!!」

 

 上に跳躍していた和也が、落下しながらの振り下ろし斬りを

 仕掛けてくる。

 

 それをそのまま風の盾で受け止めようとするが・・・

 

 バリバチッッ!! 

 

ギル「ちっ!」

 

 紅は、通常よりも大きな大剣サイズになっており

 風の盾との魔力衝突をするもあっさりと砕く。

 

 ギルは、双剣で紅を受け止めるが

 物理的な勢いに押されて後ろに下げられる。

 

 後ろに下がった足が、何かに当たった感触がして

 ギルは、足元をチラっと確認する。

 それは地面に刺さっていた、和也のナイフだった。

 それも1本ではなく、何本も周囲に落ちている。

 

 得体の知れない違和感を感じたギルが

 咄嗟に跳躍しようとした瞬間だった。

 

和也「バーストッ!!」

 

ギル「ッ!?」

 

 和也の叫び声と共に、そのナイフ達が一斉に爆発した。

 爆風が駆け抜けた後に発生した煙が周囲を覆う。

 

 その瞬間だった。

 

和也「―――ッ!?」

 

 それは一瞬だった。

 ほんの少し気を抜いた瞬間を正確に狙った一撃。

 

 煙の中から高まる魔力の流れに気づくのが遅れたこともだが

 気を抜いて身体が咄嗟に動けない状態を狙ったかのように

 速度を重視した超高速の風の刃が和也を襲う。

 

 何とか横に身体を捻るも、避けきれず

 腕を軽くかすめるように切られる。

 傷口から血が少し滲み出す。

 

 そして風の刃が駆け抜けたことによる余波で

 周囲の煙が吹き飛ばされる。

 

 すると、ギルの居た場所には周囲を囲む大きな炎盾。

 あの状況で咄嗟に反応出来る腕は、さすがは学園屈指の実力者。

 しかしさすがに無傷とは行かなかったようで

 炎盾が消え、ギルが姿を現すと彼の左足には

 火傷の痕と少量の出血があった。

 

ギル「・・・いやぁ。

   マジックナイフとは、やってくれるねぇ」

 

 マジックナイフ―――

 魔法アイテムの1つで、クナイのように刃と持ち手のみという

 金属製の投擲ナイフ。

 中央に付いているクリスタル状の石に魔力が込められており

 事前に指定した使用者の言葉に反応して

 魔力爆発を起こすように出来ている。

 

 威力は、一般的なアロー系ぐらいの威力があるが

 魔法が使える者からすれば、そんなものを持たなくても

 魔法を直接使えばいいだけの話であり

 またナイフそのものも使い捨てだが、そこそこの値段であり

 儀式兵装が無かった時代は重宝されたが現在では

 お金に余裕のある一部が趣味で買うような

 骨董品の扱いとなっている武器である。

 

 ちなみに学園では、基本的に持ち込み装備に制限は無い。

 よほど危ないものや、禁止されているもの以外は

 戦闘中に使用しても構わないことになっている。

 

 戦場では、相手が何をしてくるか解らない。

 特に補助として魔法アイテムを使用することは

 大戦争中でも一般的にあった。

 だから基本的に、こういう装備を使うことは反則ではない。

 

 ただ、こういうものを『小細工だ』として嫌う傾向が強い

 学園内において使う者は、極めて少ない。

 

和也「それ、結構良い値段してるんだぜ。

   惜しみなく使ったんだから、感謝して欲しいもんだな」

 

ギル「ははっ。

   数もあったから、確かに良い値段になりそうだ」

 

和也「まったく。

   これでまた、しばらく節約生活になりそうだよ」

 

ギル「そいつは、悪いことした。

   だが、それだけ全力で来てくれて嬉しいぜ」

 

和也「この学園屈指の実力者が相手なんだ。

   装備が悪くて負けましたなんて、言えないだろ?」

 

ギル「学園屈指なんて、最初に誰が言い出したんだろうな」

 

和也「それこそ学園屈指とか言われてる連中を

   全部倒したからだろ」

 

 まるで休み時間に友人同士が会話をしてるかのような風景。

 しかし2人は、会話しながらも負傷箇所を確認している。

 

 どれだけ力が入るのか。

 痛みは、どれぐらいか。

 どれぐらいの無理に耐えられるのか。

 

 その姿は、和やかな会話と真逆だった。 

 

ギル「さってと。

   じゃあ続けるぜ」

 

和也「ああ。

   そろそろ手加減無しでやらないと

   遠慮無く潰すぞ?」

 

 和也の言葉に不敵な笑みを浮かべたギルが

 早々に攻撃を仕掛けてくる。

 

ギル「面白れぇっ!!」

 

 そんな言葉と共に走りこんでくる。

 トップスピードで迫るギルの後ろが

 僅かだか揺らぐ。

 

 そのままの勢いで突っ込んできたギルは、上に跳躍する。

 すると後ろに控えていた風の刃が先にこちらに攻撃を仕掛けてくる。

 

和也「魔眼・完全開放」

 

 魔眼を開放し、景色の中に魔力という名の『色彩』を混ぜる。

 

 風の刃の軌道を完全に見切った和也は、最小限の動きで避ける。

 その直後、上から降ってくるように落下しながらギルが迫る。

 

ギル「パワー・ダブルッ!!」

 

 火と風の2種類が使えるギル=グレフならではの

 2種同時強化で、双剣に火と風の強化魔法をかける。

 

 そしてそのまま双剣を同時に振り下ろす。

 しかし―――

 

ギル「ッ!」

 

 勢いのついた双剣の一撃を最小限の動きだけで

 綺麗に回避する和也。

 

 回避した和也は、身体を回転させて遠心力をつけながら

 剣を横薙ぎに振る。 

 それをギルは、剣で受け止めようとするが―――

 

ギル「なっ!?」

 

 和也の横薙ぎは、紅の刀身部分のないフェイクだった。

 その回転した勢いで本命の蹴りが

 ギルの脇腹を捉える。

 

 カウンター気味に入った蹴りに、思わず胃の中身が

 飛び出そうになるも、何とか耐え切りながら

 後ろに下がろうとするが、和也の追撃が来る。

 

ギル「ウインドシールドッ!」

 

 魔法による盾で、一時的に時間を稼ぐことを選択するギル。

 そのまま体勢を立て直そうをするが・・・

 

 バシュッ!!

 

 和也の一撃が、風盾の魔力結合を切り裂き

 盾が一瞬で消える。

 

 予想外の出来事にギルは

 慌てて後ろに下がるも、その動きに和也が追いすがる。

 

ギル「ファイア・アローッ!!」

 

 けん制にと3本の矢を放つが、それを全てギリギリ器用に

 回避しながら迫ってくる和也。

 

 火矢に紛れて足元からいつの間にか迫っていた不可視の風の刃も

 まるで知っていたかのように飛び越える。

 

 そしてその跳躍のままギルに迫った和也は

 そのまま空中から剣を振り下ろす。

 

 それを振り向いて双剣で受け止めるギル。

 その瞬間、和也が鍔競りを嫌うように強引に剣を弾く。

 体勢を崩しながらも、横へ逃げるように跳躍する和也。

 

 すると和也が居た場所の地面が豪快な音と共に突然抉れる。

 先ほどの風の刃を誘導操作していたギルが

 和也の背後から迫るように仕向けていた一撃だ。

 

 全ての攻撃を回避しながら戦う和也を見て

 ギルは、驚きを隠せない。

 そう、まるで全てを予知でもしているかのような動き。

 これだけのことが出来る奴が、この学園に

 はたしてどれだけ居るだろうか。

 いや、四界を探しても数えるほどしか居ないだろう。

 

 何せ魔法が、攻撃が、まったく当たらないのだ。

 それどころか、全て綺麗にカウンターを取られている。

 どういう理屈か解らないが、これを攻略しなければ

 自分に勝ち目は、まず無い。

 

 ギルは、瞬時に考え始める。

 この試合が始まってから今までの流れを全て。

 そして、ひとつの結論を得る。

 

ギル「(なるほど・・・やってみる価値は、ありそうだな)」

 

 唯一の糸口に全てを賭け、双剣を構え直すギル。

 その行動に和也は、思わず眉を顰(ひそ)める。

 

 ギルは、確かに双剣を構えている。

 ただ、さっきまで使用していた強化魔法を全て切っていた。

 今の状況で切る理由が無いだけに、何かあるのではと

 警戒心が刺激される。

 

 無言で走り出したギルが

 軽く跳躍して空中から双剣を振り下ろしてくる。

 

 それを横にステップを踏んで回避すると

 側面から横薙ぎを放つ。

 だがギルは、それを左剣で受け止めると

 空いている右剣から突きが繰り出す。

 

 その突きを横薙ぎで払おうとした和也だったが

 途中で止まった突きのフェイントにやられる。

 

 そのまま剣を立てて『紅』を抑えるように鍔競り状態に

 持っていったギルは、突然翼を広げて魔力を一気にチャージし始める。

 接近する2人の足元に魔方陣が突如出現する。

 

 出現した魔法陣の魔力の流れから

 ギルが何をしようとしているのか察した和也は

 全力で離脱しようとするが、ギルがこれを許さない。

 

ギル「おいおい。

   どこに行こうってんだい?」

 

和也「―――お前ッ!!」

 

ギル「やっぱり、か。

   アンタ・・・どうやってるのか知らないが

   魔法が見切れるんだろ?」

 

和也「・・・」

 

ギル「まあ、それならそれで構わないさ。

   今から俺との楽しい我慢比べに付き合って貰うだけだからよっ!!」

 

 そして足元の魔方陣から大量の雷が放たれる。

 

ギル「ライトニング・ボルトッッ!!!」

 

和也「ぐぁぁぁぁっ!!」

 

 それは、ギルが限られた時間で閃いた作戦。

 攻撃が、魔法が当てられないのなら

 避けられない状態で撃てばいい。

 

ギル「ぐぉぉぉぉっ!!」

 

 ゼロ距離からの最大魔力による雷撃。

 それは自身にもダメージが及ぶ捨て身の一撃。

 

 闘技場の中央に巨大な雷の柱が空に向かって立ち上る。

 その巨大さに誰もが圧倒される。

 それは、まるでギル=グレフの気迫を表しているようだった。

 

フィーネ「和也ぁぁぁぁ!!」

 

 試合を観戦していたフィーネは

 思わず叫び声をあげる。

 

 他のお姫様達は

 ギルの捨て身の一撃に・・・。

 その気迫に声すら出せずに見つめているだけだった。

 

 巨大な雷は、その放電を終える合図のように

 最後は大爆発によって終わった。

 

 爆発による煙が周囲を覆う。

 

マリア「よせっ!!

    まだ試合は終わってないぞっ!!」

 

フィーネ「放してぇっ!!

     和也がっ!! 和也がっ!!」

 

 観客席から思わず飛び出そうとするフィーネを

 後ろから抑える学園長。

 

 今にも学園長を振り切って飛び出しそうな勢いのフィーネ。

 だが、彼女の前に突如として剣が行く手を阻むように出てくる。

 それは・・・セリナの儀式兵装だった。

 

セリナ「和也くんなら、きっと大丈夫です。

    だから私達は信じて待ちましょう」

 

エリナ「・・・うん、そうだよね。

    きっと大丈夫だよ、和也なら」

 

亜梨沙「兄さんは、フィーネが守らなければならないほど

    弱い人じゃありません。

    私の兄さんなんです。

    というか、あの人がアレぐらいで負けることはありません」

 

リピス「まあ、そう言う訳だ。

    和也を信じているのなら、慌てる必要などない。

    ただ、しっかりその戦いを見ておけばいい」

 

 他のメンバーが、和也への信頼を口にする。

 それを聞いたフィーネは、大人しく観客席へと戻る。

 

フィーネ「そう、よね。

     和也は、強い。

     ・・・そうよ。

     だってあの日、私を救ってくれたのだから。

     あの時の強さを持つ和也が、負けるはずないものね」

 

マリア「まったく。

    本当にお前は、婿殿の話になると滅茶苦茶だな」 

 

 そう言いながらも、娘の成長が嬉しい学園長。

 そして彼女達の話が決着したころ、闘技場を覆っていた煙が晴れる。

 

 まず見えたのは、ギル=グレフ。

 ある程度は調整出来る立場だったとはいえ

 全身にダメージを負い、立っているものの

 少しフラついている。

 

 対して和也は―――

 

和也「くっ・・・」

 

 全身ボロボロになりながらも、ヨロヨロと立ち上がっている。

 かなりのダメージを負っているのが見た目からでもハッキリとわかる。

 

 立ち上がる和也を見て、一瞬だけ驚くギルだが

 スグに双剣を構える。

 

 その決意に満ちた目が語る。

 『もう一度、捨て身の一撃を仕掛ける』と。

 

 その目を見た和也は、突然笑い出す。

 

和也「あっはははははっ!!」

 

ギル「おや、何か面白いことでもあったかい?」

 

和也「ああ。

   まさか、こんなにも追い詰められるとはな」

 

ギル「そりゃ俺だって全力だからねぇ。

   ・・・次で決めてやるよ」

 

和也「ああ、そうだな。

   次で決めよう」

 

 その言葉と共に和也は、剣を構えた。

 剣を自分の胸の前に垂直に構える。

 

和也「『この力を、守りたい全てのために』」 

 

 その構え、その姿にセリナとエリナは

 胸が締め付けられるような想いを抱く。

 

 構えを解いた和也は、一度深呼吸をする。

 そして―――

 

和也「最強を掲げる風間流。

   風間の姓も、魔法も持たぬ異端なれど

   手に持つ剣は、風間の技なり。

 

   我が道を阻む者は、人であれ、鬼であれ、神であれ

   全て構わず斬り捨てるっ!

   流派師範の称号を背負う一人としてっ!

   確実に・・・お前を倒すっ!!」 

 

 この言葉に、恐らく一番驚いたのは亜梨沙だった。

 

亜梨沙「兄さんが・・・。

    まともに『名乗る』ところなんて

    初めて、見ます・・・」

 

 誰に言う訳でもなく、自然にそんな独り言を呟く亜梨沙。

 

 そして和也から放たれる殺気という名の気迫に

 ギルは、興奮を抑えきれずに笑みがこぼれる。

 

ギル「最高だっ!!

   最高だぜっ!!!」

 

 ゆっくりと、だが確実に速度を上げながら迫ってくる和也に

 相打ちを覚悟したギルの捨て身の構えが立ち塞がる。

 

 そして紅の横薙ぎがギルに迫る。

 だが片方の剣で受け止めるギル。

 その一撃の軽さに思わず反対側をもう片方の剣で防御する。

 すると・・・

 

 ガキィィンッ!!!

 

 なんと黒閃刀・鬼影による一撃だった。

 突然、二刀を使う和也にギルは驚くも

 和也の攻撃を同じく二刀を使い防いでいく。

 

 そして二刀ともを押さえつけ、捨て身の一撃に

 持っていこうとした、まさにその時だった。

 

 捨て身技を警戒してか少しだけ後ろに下がった和也が

 いきなり紅を投げてくる。

 

 刀身ではなく剣そのものを投げてきたことに驚くも

 その攻撃を剣で弾く。

 

 すると、その隙を狙ってか

 今度は、鬼影が鋭い角度で飛んでくる。

 

 何とかそれすら回避した瞬間だった。

 

 ・・・それは、本当に刹那の一瞬だった。

 

 右腕、左手首、右太腿、左膝、鳩尾、喉。

 一瞬で、この6箇所に強烈な衝撃が入ったと思ったら

 いつもと違う景色が広がる。

 

ギル「(ああ、上に地面があるってことは

    逆さになってるのか)」

 

 ぼんやりと、そう認識するかしないか。

 そんな一瞬に全てが決まる。

 

 

 

和也「風間流『城落(しろおと)し』」

 

 

 

 その言葉と共に、いつの間にか逆さになり

 2mほど宙に浮いていたギルは

 渾身の力で地面に叩きつけられる。

 

 あまりの衝撃に、地面の小さい石が砕け

 頭から落下したギルの頭部から大量の血が吹き出る。

 

 そしてゆっくりと地面に倒れるギル=グレフ。

 判定ネックレスが発動して瞬時に傷を癒す。

 

セオラ「し、勝負ありっ!!

    しょ・・勝者、藤堂 和也っ!!」

 

 それは、誰もが信じられない結果だった。

 

 魔法が使えない、ただの人族。

 それが学園屈指の実力者と言われた男を倒したのだ。

 

 誰もが呆然としていた。

 

 この沈黙を破ったのは、やはりというべきか。

 彼女達だった。

 

お姫様達「和也ぁぁぁぁ!!」

 

 観客席から飛び出し、我先にと和也の下へと走る。

 

フィーネ「和也っ!!」

 

 泣き顔で和也の胸に飛び込んだのは、フィーネだった。

 

フィーネ「心配したんだからぁぁぁ!!」

 

和也「・・・すまない。

   でも、言っただろ。

   フィーネの応援があれば大丈夫だって」

 

 そう言いながら彼女の頭を撫でようとしたが・・・

 

エリナ「和也っ!」

 

セリナ「和也くんっ!」

 

亜梨沙「兄さんっ!」

 

 次々と飛びつかれて、すっかり身動きが取れなくなってしまった。

 

リピス「・・・和也。

    素晴らしい戦いだった。

    見事だったよ」

 

和也「何だかリピスにそこまで褒められると

   少し怖い気もするな」

 

リピス「・・・バカもの。

    素直に喜べ」

 

和也「・・・ありがとう」

 

 何とか片手を伸ばしてリピスの頭を撫でる。

 普段なら嫌がるリピスも、今回は大人しく撫でられている。

 

ギル「あ~あ。

   負けちまったよ~」

 

 突然の声に、皆も驚く。

 

 地面に倒れたままのギルが判定ネックレスのおかげで

 意識を取り戻したのだ。

 

ギル「あ~、頭が割れるように痛いわ」

 

和也「大丈夫か?

   まあ、半分ホントにそうなってるわけだが。」

 

ギル「マジかっ!

   判定ネックレスに感謝だな」

 

 そう言いながらも頭を抑えつつ立ち上がる。

 

ギル「いや~、アレだ。

   負けたのに、全然悔しくないわ。

   むしろ清々しい」

 

和也「俺も、本当の意味での全力なんて

   出したのは久々だった。

   今回は、色々勉強させられたよ。」

 

ギル「そう言って貰えると助かる」

 

 そしてお互いにどちらともなく手を差し出す。

 

和也「ギル=グレフ。

   お前の、その気高い精神と覚悟。

   そしてその強さに敬意を払う」

 

ギル「藤堂 和也。

   改めて、今回の決闘を受けてくれて感謝する。

   アンタの強さは、俺にとって新たな目標だ。

   必ず超えてみせるぜっ!」

 

 2人が握手をした瞬間だった。

 周囲から起こる拍手。

 

 それは、竜族達だけではなかった。

 ごく一部ではあるが、その実力を認めた

 魔族や神族の実力者達も、軽くではあるが

 手を叩いていた。

 

 しかしその拍手は、2人の健闘を称えたものではなく

 2人を実力ある者として、またはライバルとして

 認識することを意味する拍手だった。 

 

ミリス「ふふっ。

    そうでなくては、面白くありません。

    貴方を殺すのは、この私なんですからっ☆」

 

 こうして、落ちこぼれだと認識されていた人族は

 壮絶な努力の末に、学園内での地位を上げることになる。

 

 そしてそれは、新たな火種でもあるのだった。

 

 

 決闘終了後―――

 

 通常の二階級合同の訓練が予定通り開始された。

 

 先ほどの決闘にあてられてか、気迫に満ちた生徒が多い。

 当然、先ほど戦っていた2人と自分も戦いたいと

 対戦希望が殺到するが・・・。

 

和也「・・・ゴメン、無理」

 

ギル「・・・俺、もう動けねぇ」

 

 全力を出し切った2人は、糸の切れた人形のように

 まったく動けないほど疲労していた。

 

セオラ「・・・では、見学っと。

    単位も取れませんから、頑張って挽回するように」

 

和也「え゛っ!?」

 

ギル「ウソでしょ!?」

 

セオラ「授業を休むのですから、当然でしょう。

    決闘は、あくまで『個人的な戦い』であって

    授業ではありませんからね。」

 

 さならが死刑宣告である。

 

和也「ギ~ル~」

 

ギル「俺に言うなよぉ~」

 

 結局、単位を1つ落すことになり

 その挽回に3週間もかかることになった。

 

 

 

 

 

 

 

第8章 魔界の奇術師(トリックスター) ―後編― 完

 

 

 

 

 





まず、最後まで読んで頂きありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?

何とか予定通りのペースでいけました。
その点は、奇跡だ!と喜んでいる私です。

そろそろシリアスな展開も混ぜようかなと思いながらも
まだまだ立てたフラグの回収が追いつかないので
どうしようかなと考え中です。

まだまだ続きます!
先は長いです!
頑張りますので、よろしくお願いします!


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第9章 分岐路(わかれみち)

 決闘の翌日。

 

 学校内は、未だに騒がしかった。

 その理由は、もちろん―――

 

ヴァイス「ギル=グレフに頼み込んだらしいな。

     『わざと負けてくれ』と」

 

 教室に入るなり、おはようの挨拶より先に

 こんな言葉を投げかけられるあたり、まだまだ人族の印象は

 悪いままらしい。

 

和也「一体何の話をしてるんだよ」

 

ヴァイス「都合が悪くなると、とぼけるつもりか?

     人族とは、どこまでも姑息で意地汚い種族だな」

 

和也「解らないから聞いてるんだろうに。

   ヴァイス=フールス様ともあろうお方が

   そんなこともお解かりにならないのですか?」

 

ヴァイス「調子に乗るなよ、人族風情がっ!!」

 

 よほど沸点が低いのか、簡単な挑発でヴァイスは

 俺の胸元に掴みかかる。

 

ヴァイス「王女達の影にコソコソ隠れ

     そのおこぼれに群がるアリの如き卑しい種族が

     何を思い上がっ―――」

 

 溜まっていた鬱憤を吐き出すような

 そんな感情むき出しだったヴァイスが

 突如として止まる。

 

フィーネ「・・・その手を離しなさい」

 

 いつの間にかヴァイスの首元に

 フィーネの儀式兵装が突きつけられていた。

 

 彼女は、瞳を閉じたままで

 どこか違う場所を見ているかのように

 顔の向きもヴァイスの方とは微妙に違っている。

 

ヴァイス「くっ・・・」

 

フィーネ「早く離しなさい。

     私、気が短いわよ」

 

 フィーネは、閉じていた瞳をゆっくり開ける。

 そして顔の角度を変えないまま視線だけが動く。

 その眼光がヴァイスを捉えた瞬間

 

ヴァイス「・・・」

 

 目を合わせた瞬間に放たれた殺気に思わず

 ゆっくりと和也から手を離しながら、後ろに下がっていく。

 

 周りのクラスメイトの大半も、先ほどの話を信じてか

 疑惑の目を向けていたが、フィーネから発する殺意に

 誰もが視線を逸らしていた。

 

ギル「おはようさん、みんなっ!!」

 

 そんな空気を一切読まない明るい声が教室に響いた。

 

ギル「あら?何?

   何かあった?」

 

和也「ああ、実はな・・・」

 

 ギルに簡単に今あったことを説明する。

 話を聞いていたギルは、話が進むにつれ

 段々とジト目になっていく。

 

ギル「何それ?

   あの戦いが、やらせだったってことか?」

 

和也「どうやら、そうらしい。

   俺がお前に頼み込んで勝ちを『譲ってもらった』んだそうだ」

 

 ギルは、思わずため息をついた。

 

ギル「じゃあ何か?

   俺は、頼めば相手にわざと負けるような男だとでも?」

 

魔族女生徒「わ、私は・・・その・・・。

      何か弱みを握られてって・・・」

 

魔族男生徒「お、俺は、その・・・アレだ。

      金を渡されてって・・・」

 

ギル「あぁ!?」

 

魔族男生徒「い、いい、いや。

      俺が言った訳じゃないぜっ!!」

 

魔族女生徒「そ、そう。

      そんな噂を聞いただけでっ!!」

 

 珍しく怒りの感情を前に出したギルに

 声を出した生徒は、自分が言い出した訳じゃないと

 早々に会話から逃げ出す。

 

セオラ「みなさん、おはよ、う・・・。

    ・・・何があったのか。

    そうですわね・・・生徒 和也、説明しなさい」

 

 誰もが言葉を発することなく時間だけが過ぎ

 いつの間にかセオラ先生が教室に来る時間となっていた。

 

 指名された以上は、黙っている訳にもいかない。

 俺は、簡単に事情を説明する。

 

 話が進むにつれ、先生の目が段々と

 ジト目になっていく。

 

セオラ「いいですか、みなさん。

    何の話をなさろうが、みなさんの自由です。

    しかし、今後その噂話をした場合

    しかるべき処置を取らせて頂きますので

    以後、注意なさい」

 

 簡潔に話をまとめる先生に

 思わず一部の生徒から不満の声があがる。

 

魔族男生徒「しかし、先生―――」

 

 だが・・・

 

セオラ「お黙りなさいっ!」

 

 先生の一喝で、一気に静まり返る教室。

 

セオラ「あの決闘に不正があったと言うことは

    それに気づかなかった私と学園長に対しての

    暴言と同じことを意味します。

 

    自分の発言が、どういうことを意味するかも理解せずに

    話を拡散するような愚か者や

    あの戦いで、2人の実力が理解出来ずに

    『不正があった』などと言えるような

    レベルの低い生徒は、学園に不要です。

 

    もし今後、同じような噂を聞いた場合は

    徹底的に調べ上げ、噂を流した生徒を特定して

    しかるべき処分を行うよう、学園長には

    伝えておきますので、そのつもりでいなさい」

 

ヴァイス「ちっ」

 

セオラ「生徒 ヴァイス。

    何か言いたいことでも?」

 

ヴァイス「・・・いえ」

 

 それ以上、誰も何も言えなかった。

 もし不用意に触れてしまえば、それは処罰を意味するからだ。

 

 逆にヴァイスは、面白くない。

 そう、フィーネが来てからだ。

 彼女が常に和也の隣に居るせいで

 『人族風情が』などと罵倒出来ない。

 

 授業でも必ず一緒のため

 偶然を装って襲うことも無理だ。

 間違いなく返り討ちにされてしまう。

 

 そして一番腹立たしいのが

 人族が調子に乗っていることだ。

 

 偶然、勝ちを何度か拾っただけで

 最近特に態度がデカイ。

 

 常に姫様と一緒に居て守って貰えるからと

 まるで王様にでもなったかのように

 学園内を歩いている。

 

 姫様達さえ居なければ・・・。

 そう、昔は

 もっと目立たずに教室の隅にひっそりと居るような

 存在だったはずだ。

 

 そうだ。

 姫様達さえ居なければ。

 そうすればあんな人族なんぞ

 簡単に捻り潰せるはずなのに・・・。

 

 教室では、既にセオラ先生による講義が始まっている。

 

 ヴァイスは、つまらなそうに教科書を机の上に投げ置くのだった。

 

 

 

第9章 分岐路(わかれみち)

 

 

 

 その日の昼休み。

 

亜梨沙「そう言えば、兄さん」

 

和也「ん?」

 

亜梨沙「いつの間に『師範』になってたんですか?」

 

 突然のことだから一瞬何の話かと思えば

 実に、どうでもいい内容だった。

 

エリナ「師範?

    確か・・・風間流?だっけ?」

 

セリナ「流派・・・とか言う剣の技ですよね」

 

リピス「確か、亜梨沙が師範代だと言っていたな。

    そのひとつ上になるのか」

 

和也「まあ、そうなんだが・・・。

   何でそんなに風間流に興味があるんだよ」

 

エリナ「前から気にはなってたんだよ」

 

セリナ「でも、聞く機会が無かったというか・・・」

 

リピス「そもそも、和也も亜梨沙も

    人界の話をしないからな」

 

ギル「そもそも人族自体と会う機会も無いからねぇ」

 

和也「そうだっけ?」

 

亜梨沙「まあ、あまりする必要性もないですから」

 

リピス「せっかくだから、風間流の話を聞かせてくれ」

 

エリナ「おお、いいね。

    私も気になる」

 

セリナ「たまには、そういう話もいいですよね」

 

ギル「そうだな。

   俺も風間流には、興味がある」

 

和也「そんな良いもんでもないんだけどなぁ」

 

亜梨沙「ぶっちゃけ、つまらないですよ」

 

メリィ「まあ、そう言わずに

    お話してみては、下さいませんか?」

 

和也「・・・と、言う訳で

   ちびっ子相手にそういう説明をよくしている

   師範代に任せよう」

 

亜梨沙「・・・さっそく逃げましたね、兄さん」

 

和也「だって、めんどい」

 

亜梨沙「妹だって面倒ですよ」

 

 もう、仕方が無いですねと前置きを入れて

 諦めた亜梨沙が、話を始める。

 

亜梨沙「それは、もうずっと昔。

    風間なんとか~って人が編み出した風間流という

    武術がありました。

 

    この人は、とても変わった人で

    自分以外の門下生が編み出した技とかも

    積極的に採用していく人で

    いつの間にか、殴る・蹴る・投げるなどの

    体術も大量に入ってきました。

 

    実戦では、とりあえず勝てばいいから

    何でもありだぜってノリだったらしいですよ。

 

    その後、あの大戦争が始まります。

    その大戦争中に、我らが開祖と呼んでいる

    『風間 一刀斎』って人が現れます。

    この人が、今の風間流を創設しました。

    すなわち『儀式兵装』という『魔法』を取り入れたわけです。

 

    だから昔からの体術や剣術を残しながらも

    魔法による新しい攻め方を取り入れた、どこにもない

    変態的武術が誕生しました。 ぱちぱちぱち~。」

 

 拍手すら声で済ますあたり

 あまりやる気のない調子ではあるが

 亜梨沙らしいと言えば、亜梨沙らしい説明をする。

 

エリナ「変態的って・・・」

 

亜梨沙「変態ですよ、色々と」

 

 『面倒ですねぇ』と、ため息をつきながら

 亜梨沙の解説が続く。

 

亜梨沙「まず風間流には、防御がありません。

    気合と根性で避けて下さい。

 

    基本的に『避ける』か『カウンター』だけです。

 

    攻撃に関しては、基本的に『何でもあり』です。

    適当に相手をぶっとばせば問題ありません。

 

    あとは、自分の好みに合う技を適当に

    覚えるだけです」

 

エリナ「それって、全部の技を覚えなくてもいいってこと?」

 

亜梨沙「そうです。

    相手を圧倒出来るなら、どの技を使おうが

    自己流にアレンジしようが、オリジナル技を勝手に

    作ろうが、何の問題もありません」

 

リピス「そこまでまとまってないのに

    どうして『風間流』なんだ?」

 

亜梨沙「何をどうやっても構いませんが

    全員、暗黙の了解のように『風間の技』が

    原型として残るようなものしか作らないし

    使わないからですよ。

 

    まあ逆に原型が残らないような技だと

    妙にやりにくいので、誰もやらないだけですけどね」

 

セリナ「なるほど。

    原型は、必ず『風間流』だから

    どれだけ派生しても流派として成り立つということですか」

 

亜梨沙「簡単に言えば、そういうことですね」

 

 会話の流れが少し止まったあたりで

 お茶を飲む亜梨沙。

 

 質問が無くなったと判断すると

 会話を戻してきた。

 

亜梨沙「ところで兄さん。

    師範の話です。

    いつの間に、そんなことになったんですか」

 

和也「お前の親が悪いんだろうが・・・」

 

亜梨沙「あの2人が、どうしたんですか」

 

和也「師範代の時は、お前の親父さん・・・。

   早雲(そううん)さんに呼び出されたと思ったら

   クソ爺に待ち伏せされて、強制的に師範代の

   試験をやらされて・・・。

 

   今度は、それを警戒してたら

   この前の夏季休暇の時に一度帰っただろ。

   あの時だよ。

 

   夏美(なつみ)さん(亜梨沙の母親)が

   『カズ君、ちょっと手伝って欲しいんだけど~』って

   言ってくるから道場に行ったら、お前を抜いた

   全師範代と早雲さんやクソ爺までが勢ぞろいしてやがって・・・。

 

   『これより、藤堂 和也の師範試験を開始する』とか

   クソ爺が、さも当然のように言いやがるんだぞ?

   あの時ほど、本気で殺意を抱いたことはないな」

 

 その後、夏美さんに抗議したが

 『ごめんなさいね。

  お父様に頼まれちゃったのよ~(>з<)』

 という、お茶目な謝罪のみだった。

 

 

亜梨沙「・・・何、面白いことやってるんですか」

 

和也「全然面白くねぇよ。

   おかげでボロボロだったわ」

 

亜梨沙「ああ、そういえば

    夕食も食べずに爆睡していた日がありましたね。

 

    ・・・でも、よかったじゃないですか。

    これで師範。

    お爺様の最高師範まで、あと1つですよ」

 

和也「まったく興味がないわ」

 

亜梨沙「何を言ってるんですか。

    これでお爺様から最高師範を譲られれば

    風間流の頂点です。

    そうなれば、風間の姓をという声も出ます。

    ええ、それはもう絶対に。

 

    そして兄は、私と・・・。

    ・・・えへへっ♪

    嫌ですよ~、兄さんったら・・・

    もう・・・えっちなんですからぁ~♪」

 

和也「色々と突っ込みどころが多すぎるわ」

 

亜梨沙「あぃたぁ!」

 

 バシっと亜梨沙の頭を軽く叩いた。

 

亜梨沙「何するんですか、兄さん」

 

和也「とりあえず、謎の妄想から帰ってこれたじゃないか」

 

 『いいところだったのに・・・』とブツブツ言う亜梨沙。

 

 まあ、最高師範に興味がないという話は、本当だ。

 別に風間の頂点に立ちたい訳じゃない。

 全てを守る力が欲しかっただけで・・・。

 

ギル「あの『城崩し』だっけか?

   あの投げも、流派って奴なのか」

 

亜梨沙「まあ、一応そうなんですが・・・」

 

ギル「ん? どうした?」

 

亜梨沙「すっかり馴染んでいたので気づくのが遅れました。

    ・・・何で居るんですか?」

 

ギル「何だ。 そんなことか。

   和也、説明よろしく」

 

和也「そういや確かに。

   ・・・何で居るんだ?」

 

ギル「いやいやいや!!

   そういう冗談いらないからっ!!

   とりあえず儀式兵装出すのヤメテッ!!」

 

 おもむろに儀式兵装を出すフィーネ達に

 土下座も辞さない勢いで懇願するギル。

 

和也「いやまあ。

   ついそこで偶然会ってな。

   誘ったらついてきた」

 

ギル「そりゃお前、三界のお姫様達との食事だぜ!?

   そんなチャンスに飛びつかないバカは、居ないだろ~」

 

 どうも感覚が麻痺しがちだが、周囲に居るお姫様達は

 本来ならこうして一緒に居ることさえ出来ない存在なのだということを

 こういう話を聞くたびに思い出すが、麻痺した感覚のせいで

 スグに忘れてしまう。

 

 まあ、確かに親衛隊とか居るぐらいだもんな。

 

亜梨沙「そんなに知りたいのなら、丁度いいです。

    実際に見せましょう」

 

 そう言うと亜梨沙は、ギルを少し離れた位置に立たせる。

 

亜梨沙「ゆっくりやりますから、動かないでください」

 

ギル「おう、任せろ」

 

リピス「せっかくだし、近くで見せてもらおう」

 

 体術に興味を持ったのか、リピスが亜梨沙の近くまで移動する。

 

 確かに投げは、竜族に有効ではある。

 

 彼女らの『気麟』は、どういう訳か、投げるということに関してだけ

 発動しないという特性がある。

 

 まあ正確に言えば『掴む』という行動に関してだけは

 防ごうとしないのだ。

 

 普段全身を覆っている気麟だが、相手が掴もうとして伸ばした腕は

 気麟によって弾かれることはない。

 逆に掴むつもりで、実はギリギリで殴ろうというフェイントだと

 腕は気麟によって弾かれてしまう。

 

 また、殴るように腕を出してギリギリで掴もうというフェイントだと

 掴もうとしているため気麟が発動しない。

 

 まるで心理を読んでいるかのように、掴むという点に関してだけは

 気麟は、役に立たないのだ。

 

 まあ、それが解っていても腕力が4種族の中でぶっちぎりの竜族相手に

 接近戦で懐に入って投げるなんてリスクの高いことが

 出来るかと言われると、それはまた別の話なわけで・・・。

 

亜梨沙「・・・とまあ、普通はこんな感じです。

    兄さんのは、参考にしないでください。

    あの時兄さんが使ったのは、アレンジされていたので」

 

 2人相手に説明している亜梨沙の言葉が気になってきて

 亜梨沙の方を向く。

 

ギル「確かにあの時、足とかまで痛かったからねぇ」

 

リピス「それだけの瞬発力と一撃の重さが出せてるってことだな。

    和也の動きは、竜族に近い動きだと言えるな」

 

亜梨沙「まあ、みんなが魔法制御とかの練習してる時は

    いつも筋トレしてますからね。

    身体能力は、普通の人族を軽く越えてるはずですよ」

 

ギル「魔法が使えると、どうしても強化魔法とかで

   補えるから、魔法優先になるよな」

 

リピス「魔法制御の技術が上がれば、他の魔法も強化されるからな。

    そう考えれば、魔法優先になりやすいのは当然だろう」

 

亜梨沙「という訳で、以上で終わりです」

 

リピス「・・・亜梨沙」

 

亜梨沙「何ですか」

 

リピス「普通の城落しをしっかり決めてることをが見たいんだが

    亜梨沙でも出来るのか?」

 

亜梨沙「・・・めんどくさいですねぇ。

    力技は、あまり好きじゃないんですが」

 

 その言葉とは裏腹に、亜梨沙の構えが真剣だ。

 

ギル「え? ちょっ!?」

 

亜梨沙「はぁっ!!」

 

 いくら学園屈指の実力者といえ、不意を突かれた状態で

 かつ相手が風間の師範代ともなれば、結果は当然といえる。

 

 お手本通りの綺麗な城崩しが決まった。

 

リピス「なるほど、非常に参考になったよ」

 

亜梨沙「それは、よかったです」

 

ギル「ぐぉぉぉぉぉ・・・!!」

 

 和やかに話す2人とは対照的に、地面を転がりながら

 頭を抑えるギル。

 

 頭部を狙う技なだけに、たとえ手加減されても

 かなり痛いはずだ。

 

セリナ「隙の無い投げですね」

 

フィーネ「一瞬で懐に入る技術そのものが

     技の要でしょうね」

 

エリナ「体術って色々あるんだねぇ」

 

 食事をしながら適当に見学していたメンバーでさえ

 誰一人としてギルを心配していなかった。

 

 少し可哀想になってくる。

 

 しかし、苦しんでいたギルだったが

 ふと空を見上げるような大の字で止まると

 真剣な眼差しになる。

 

ギル「・・・天国ってのは、あるもんだな」

 

リピス「ふむ。

    哲学的な話だな」

 

亜梨沙「頭の打ち所が悪かったのでしょう」

 

 何気にひどい会話ではあるが・・・。

 そもそも会話が成立していると言えるのか。

 

ギル「竜王女に妹ちゃん。

   どっちもナイスだぜっ!」

 

 ぐっと親指を立てて非常に良い顔をしている

 さわやかな青年風のギル。

 

亜梨沙「?」

リピス「?」

 

 2人とも、何の話だという感じだ。

 ちなみに俺もさっぱりわからない。

 

ギル「妹ちゃんは、王道!

   白とピンクは、やっぱり男に人気だからな。

   白地にピンクのボーダー柄とは、さすがだぜっ!

 

   竜王女は、一部コアに大人気!

   ライトグリーンは、似合う奴にしか似合わないよなっ!」

 

 その発言からきっちり3秒後。

 

亜梨沙「!?」

リピス「!?」

 

 2人して同時に顔を真っ赤にしながら

 慌ててスカートを手で押さえる。

 

 それを見て、俺も何の話か理解する。

 ・・・いや、わかっても微妙な話なんだが。

 

 周囲の王女様達も、ジト目でギルを見ている。

 まあ、今ので周囲の女性を敵に回したってことだけは

 確定だろう。

 

 

 ドゴーンッ!!!

 

 

 大音量の衝撃音に振り向くと

 やはりと言うべきか、2人に追い回されるギルが居た。

 

リピス「本物の天国とやらに送ってやろうっ!」

 

亜梨沙「もうこの世に未練なんて無いですよねっ!」

 

ギル「いやいやっ!!

   まだまだ未練ありますよっ!?」

 

 亜梨沙ならともかく、リピスに追われるなんて展開は

 出来るかぎり、ご遠慮願いたい。

 

セリナ「2人とも、可愛らしいものを付けてますね」

 

エリナ「・・・それをセリナちゃんが言うかなぁ。

    自分だって今日、白のレースなのに・・・」

 

セリナ「きゃぁぁぁーーー!!

    和也くん、そこに居るんですよっ!!」

 

エリナ「まあ別にいいじゃない」

 

セリナ「・・・そういうこと言うなら

    こっちにも考えがあります」

 

エリナ「ん?」

 

セリナ「エリナちゃん、今日は黒に赤いリボン付きっ!」

 

エリナ「ちょっ!?

    どうして私まで巻き込むのよっ!」

 

セリナ「先にエリナちゃんが言うからですよっ!」

 

 謎に始まった乙女達の身を削った戦いに

 どうすればいいのか、まったくわからず

 ただ静観していると・・・。

 

 クイッ

 

 服の袖を引っ張られて、横を見る。

 

フィーネ「きょ、今日は・・・。

     ピ・・・ピンク、なの」

 

 こちらも顔を真っ赤にしながら

 恥かしそうに言うフィーネ。

 

 そんなことを聞かされ、どうすることも出来ずに

 ただ余計な妄想のみが捗るだけの状態。

 

 新手の拷問か何かだろうか。

 

 こうして今日の昼休みは、終始カオスな展開だった。

 

 

 

 そしてその日の夜。

 

 いつもの丘で訓練をしている時。

 後ろから何かが来る気配を感じた。

 ただ、それはあまり歓迎出来る部類のものでないのは

 前に一度、そいつと出会い、戦ったからだろうか。

 

 俺は、そっと近くの茂みに隠れる。

 以前に感じたことのある何かを引き摺ったような足音が

 近づいてくる。

 

 ゆっくりと紅を手にすると

 予め、魔眼を開放する。

 そう・・・勝負は、一瞬だ。

 

 そして足音が、自分の前を通過した瞬間だった。

 

 紅の刀身を展開しながら、目の前に居る『奴』に斬りかかる。

 

 目の前に居たのは、この前倒した人の型をした『何か』だった。

 相変わらず目が無いにも関わらず、こちらを向いて牙を見せてくる。

 

 一度戦った俺は、もう迷わない。

 こいつは、明確な『敵』だ。

 

 早々に開放した魔眼により、急所を的確に狙った一閃。

 雄叫びを上げる間も無く、綺麗に魔力コアごと真っ二つになる化け物。

 

 ズザァ!っと音を立てて崩れていく化け物に

 一瞬気を抜きそうになる。

 

 だが、周囲から感じる気配に

 一気に戦闘態勢に入る。

 

和也「(どれだけ居るんだ・・・!?)」

 

 それは、先ほど倒した化け物と同じ気配。

 1匹2匹どころではない、大量の数が

 こちらに向かってきていた。

 

 とてもではないが、1人では無理だ。

 一番近いのは、女子寮。

 走って女子寮に向かうか?

 

 そんなことを考えている間も、大量の足音が

 近づいてくる。

 

和也「・・・くそっ」

 

 俺は、大きく深呼吸をした。

 そして―――

 

 

 

 

 

 

第9章 分岐路(わかれみち) ―完―

 

 

 

 

 

 




まず、ここまで読んで頂きありがとうございます。

今回は、特に何もない日常回ですが
意外と重要な回だったり・・・。

次の章から後編に突入していきます。

それぞれの個別ルートに入りますので

漆黒の悪魔 フィーネ=ゴア編
金色の竜牙 リピス=バルト編
白銀の女神 セリナ=アスペリア編

どれでもお好きなルートから読んでもらって大丈夫です。
・・・と言いたいところではありますが
上から順番に読んで頂かないと盛大なネタバレに
遭遇しますので、ご注意下さい。

一度、全て読んだ後からなら、どこから再度読み直しても
大丈夫です(当然の話)


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漆黒の悪魔 フィーネ=ゴア編
第10章 再び戦争を行わないために


 

 俺は、大きく深呼吸をした。

 そして―――

 

?「邪魔です。

  ちょっと退いて―――

  いえ、そのままでおっけ~ですっ☆」

 

 あまりにも場違いというか、緊張感の無い声に

 一瞬思考が停止しそうになるが

 危険を感じて、その場を離れるように大きく跳躍する。

 

?「フレイム・レディアントッ!!」

 

 漆黒の闇を切り裂くような赤い炎の波が

 辺りを相手ごと焼き尽くす。

 

 火属性魔法のテンプレでは、上級と記載され

 5階級でも使える者は、数人ほどの高度な魔法だ。

 

 魔法に耐性を持つゴーレム達ですら

 炎の波からその身を守ることは出来なかった。

 

 全てを焼き尽くした炎が消えた瞬間。

 姿を現したのは、紅の死神と呼ばれる少女。

 

 ミリス=ベリセンだった。

 

 

 

 

 

第10章 再び戦争を行わないために

 

 

 

 

 

ミリス「そのままでおっけ~ですっ☆

    って言いましたよね?」

 

和也「そのままだったら死んでたじゃないか」

 

ミリス「ミリス、余計な労働って嫌なんですよね。

    何事も効率重視です」

 

和也「まあいいや。

   とりあえず助かった」

 

ミリス「え?

    何を言ってるんですか?」

 

和也「いやまあ。

   そっちには助けた覚えはないだろうが

   こっちは助かったからな」

 

ミリス「当然です。

    助けた覚えはありません。

    だって、これから死んでもらうんですからっ♪」

 

 そう言うと、巨大な大斧をこちらに向かって振り下ろしてくる。

 

 咄嗟に避けると大きな音と共に、さっき居た場所の地面が抉れていた。

 

和也「そんなことしてる場合じゃないだろうっ!

   この化け物どもが何なのか、調べる方が先だっ!」

 

ミリス「いえいえ。

    こちらの方が、よほど重要です。

    何しろ『見てはならないもの』を見た訳ですから」

 

 以前の時とは、明らかに違う本物の殺気が

 彼女から出ていた。

 

和也「『見てはならないもの』って―――」

 

ミリス「余計なおしゃべりは、ここまでですよっ♪」

 

 身体を一回転させ、遠心力を載せた強力な一撃を放つ。

 

 そんなもの防げる訳が無いので、後ろに下がって回避する。

 地面に当たったミリスの一撃で、周囲に小石が飛び砂が舞う。

 

 正直、こんな攻撃をまともに喰らったら

 即死するだろう。

 

 どうするべきかと思案している間にも

 ミリスは、まるで細い棒きれでも拾い上げるように

 大斧を軽々と持ち上げた。

 

 その瞬間―――

 

 軽い爆発音と共に、ミリスの大斧に炎矢が直撃する。

 

 しかし、さすがは『紅の死神』と呼ばれる戦士だ。

 普通なら衝撃で武器を手放したであろう一撃でも

 少し体勢が崩れた程度で、斧を手放すことはなく

 体勢もスグに元に戻った。

 

 そして炎矢が飛んできた方から

 足音と共に殺気が放たれる。

 

フィーネ「返答次第では、容赦しないわよ」

 

 暗闇を従えた闇の王女とでも言うべきか。

 そんな風に見えてしまうほどに

 今の彼女は、殺気立って居るようにも見える。

 

ミリス「相変わらず、そこの人族が関わると

    冷静さは、ゼロですか。

    仕方の無い人で―――」

 

 話の途中にも関わらずフィーネの振り下ろしてきた

 黒刃の薙刀型儀式兵装に、後ろへ跳躍して回避するミリス。

 

ミリス「・・・はぁ。

    こちらは任せるとしましょう」

 

 ため息をつきながら、ミリスは逃げるように

 飛び去っていった。

 

 当面の危機が過ぎ去り、ようやく一息つけるようになる。

 紅を片付けると、周囲を見渡す。

 

 既に奴らの痕跡は消滅し、焼かれた一部の草むらだけが

 ここで戦闘があったことを示している。

 

 ふいに身体に何かがぶつかる。

 

フィーネ「ごめんなさい。

     肝心な時に限って傍に居れなくて・・・」

 

 抱きつきながら、泣き声でそんなことを言う彼女を

 優しく抱きしめる。

 

和也「そんなことはないよ。

   フィーネのおかげで俺は、凄く助かってる。

   だから、笑顔で居てくれる方がいいな」

 

フィーネ「・・・ホント?」

 

和也「ああ、本当だ。

   前にも言ったが、俺はフィーネに会えて嬉しいんだぞ」

 

フィーネ「・・・私も、嬉しい」

 

和也「それにちゃんと来てくれたじゃないか。

   だから、気にしなくていいよ」

 

フィーネ「うん」

 

 そっと離れたと思えば、今度は腕を組んでくるフィーネ。

 

フィーネ「だから、しばらくは一緒に居るからね」

 

 この発言を、『寮に帰るまで』と勘違いした和也だったが―――

 

亜梨沙「・・・で?

    言い訳は、それで終わりですか兄さん?

 

    随分と命知らずになりましたねぇ♪」

 

 笑顔だが、怒っている感が凄く出ている亜梨沙に

 問い詰められる和也。

 

和也「いや、俺もこうなるとは・・・」

 

 理由は、横にくっついているフィーネだ。

 彼女の『しばらく』は、当面常にという意味だったようで

 こうして部屋までついてきていた。

 

亜梨沙「私の隣のベットで、2人仲良く寝るとか

    ど・う・い・う・つ・も・り・で・す・かっ!!」

 

フィーネ「そのうち、ここは『私と和也』の愛の巣になるんだし

     いいかなと思って」

 

亜梨沙「ここは、『妹と兄さん』の愛の巣なんですっ!

    部外者は、さっさと帰って下さいっ!」

 

和也「どの道、愛の巣とやらは確定なのかよ・・・」

 

 こうして好意を全面に出してくれるのは、嬉しい反面

 どう応えていけばいいのか、今の俺では解らないため

 少し困ってもいたりする。

 

フィーネ「和也。

     私、邪魔なの?

     もしかして・・・嫌い?」

 

和也「さっきも言ったが、俺はフィーネに会えて嬉しい。

   だから邪魔でもないし、嫌いでもないよ」

 

フィーネ「じゃあ・・・好き?」

 

和也「あ、ああ」

 

フィーネ「―――ッ!!」

 

 これ以上無いほどの笑顔で和也に抱きつくフィーネ。

 

亜梨沙「そこでイチャラブ空間作ってるバカップル。

    腹が立つので塩投げますよ」

 

 そこには、すっかり拗ねた妹が居た。

 それを見たフィーネは・・・

 

フィーネ「じゃあ、亜梨沙も一緒に寝ましょう」

 

和也「え?」

 

 そして俺は、亜梨沙とフィーネに挟まれて

 寝ることになった。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 ・・・って、寝れるわけがねぇーーーー!!

 

 

 和也達が、そんなことになっている時。

 

 世界が動き出していた。

 

 

 同時刻―――

 

 学園長室では、ミリスの報告を聞くマリアが居た。

 

ミリス「―――以上が、本日までの結果です」

 

マリア「・・・そうか。

    状況は、悪くなる一方か」

 

ミリス「もはや、事実を隠す方が難しくなっています。

    せめて軍の一部を動かされては?」

 

マリア「それがな・・・。

    どうも軍も下手に動かせなくなった」

 

ミリス「それは、どういう―――」

 

マリア「これを見れば解る。

    確認後、国境まで行って欲しい。

    理由は、解るな?」

 

 マリアから手渡された報告書に目を通したミリスは

 はっと目を見開くと―――

 

ミリス「至急、向かいますっ!」

 

 学園長室を飛び出していった。

 

 そして一人になった学園長は

 ふと窓から外を見る。

 

マリア「これは、魔族が今までに行ってきたことへの

    『報い』なのかもしれないな」

 

 その顔は、種族の未来を憂う長そのものだった。

 

 

 二時間後―――

 

 暗闇に灯る明かりが

 そこに人々の生活を映し出す。

 

 ここは、人界領。

 魔界との国境近くに、1つの集落がある。

 

 いつもは、静かな夜なのだが

 今日は騒がしかった。

 

?「師範っ!

  師範っ!」

 

 大柄の男が、勢い良く襖を開ける。

 そこには、優しげな顔をした男と

 いかにもという覇気を纏った初老の男の2人が居た。

 

?「おおっ!

  探しましたぞ師範っ!

  最高師範も、ご一緒でしたかっ!」

 

?「相変わらず元気な男じゃのぅ」

 

?「それで、大吾さん。

  どうしましたか?」

 

大吾「おお、そうだったっ!

   一大事だぞ、早雲どの! 源五郎どの!」

 

 そう・・・ここは、亜梨沙の故郷。

 風間流の総本山である、風間の里。

 

 そしてこの場に居るのは、亜梨沙の父親である

 風間 早雲と、亜梨沙の祖父である風間 源五郎。

 そして大吾と呼ばれた大柄の男は

 亜梨沙と同じ師範代の1人で、近藤(こんどう) 大吾(だいご)。

 

大吾「見回りの門下生が、魔族側から化け物の群れが迫ってくると

   報告してきたぞっ!」

 

早雲「化け物の群れとは?」

 

大吾「どうもよく解らんのだが

   どうやら『ゴーレム』とやらに似ているらしい」

 

早雲「それが本当なら、やっかいですね」

 

源五郎「うむ。

    我々だけで、様子を見てくるかのぅ」

 

大吾「では、さっそく行きましょうっ!」

 

 そして二十分後。

 

 国境が近い森の中で、彼らは『それ』を見つける。

 

 そこに居たのは人の型をした『何か』だった。

 頭のような部分に目は無く、口らしき部分には鋭い牙。

 むき出しの筋肉のようなものが全身を覆っていて、まるで肉塊のよう。

 3mほどの大きな巨体を引き摺るように、ゆっくりと歩いている。

 

 その数、百匹ほど。

 時折、草むらから飛び出す動物に

 腕を魔導砲のように変形させ、炎矢・氷矢など

 様々な属性の魔法を放っている。

 

早雲「何でしょうね、アレ。

   ゴーレムとも違うようですが・・・」

 

源五郎「魔法を使うゴーレムなんぞおらんからな」

 

大吾「どの道、国境を越えてきた以上

   魔族側の明確な侵攻だっ!」

 

早雲「声が大きいですよ、大吾さん。

   それにまだ、これらが魔族側の手先だと

   決まった訳じゃありません」

 

大吾「だが、自然にこんな化け物が生まれる訳がない」

 

源五郎「とりあえず、まずは片付けるとするかのぅ」

 

早雲「はい。 わかりました」

 

大吾「先鋒は、お任せをっ!」

 

 そう言うと、勢い良く飛び出す大吾。

 手には、儀式兵装の巨大な棍棒。

 

大吾「さあ、化け物どもっ!!

   人界に攻め込んできたことを後悔させてやるわっ!!」

 

 その大きな体を揺らしながら、化け物の群れに走っていく。

 

化け物「グルアァァァ!!!」

 

 大吾に気づいた化け物達は、一斉に魔法を発射する。

 

大吾「ファイアシールドッ!!」

 

 炎の盾を張るも、通常なら防ぎようのない量の魔法が

 大吾に集中する。

 

 だが―――

 

 バシッ!!

 ジジッ!!

 バシュ!!

 

 様々な音と共に、全ての魔法が弾かれる。

 

大吾「ふはははっ!!

   根性じゃ!

   根性が足りんっ!!」

 

 そんなことを言いながら目の前に居る化け物達を

 体当たりで跳ね飛ばしていく。

 

 化け物達が、再び大吾に狙いを集中しようとした瞬間。

 一瞬にして十数匹の化け物が崩れ落ちる。

 

早雲「あまり余所見をしていては

   スグに終わってしまいますよ?」

 

 突然現れた早雲に、化け物達が振り向いた瞬間

 またも化け物達が、一斉に真っ二つにされる。

 

源五郎「まあ、こんなもんじゃろうなぁ」

 

 たった3人で、百匹ほど居た化け物が

 何も出来ずに倒されていく。

 

 あっという間に全てが倒され

 辺りに静寂な夜が戻ってくる。

 

早雲「それで、どうされます?」

 

源五郎「う~む。

    門下生が見てしまった以上

    噂になるのは必死だからのぅ」

 

大吾「恐らく、里では盛り上がっているころでしょうなぁ」

 

源五郎「とりあえず、魔族側への確認をせねばならん」

 

早雲「では、確認が取れるまで

   この化け物は、見間違いで押し切りますか」

 

大吾「それが妥当でしょうなぁ。

   直接見た門下生達への根回しは、お任せ下さいっ!」

 

早雲「それでは、私の方で反発する方々を

   可能なかぎり抑えましょう」

 

源五郎「では、ワシの方で

    魔族側へ問い合わせるとしよう。

 

    各々方、よろしく頼むぞ」

 

早雲「はっ」

大吾「はっ」

 

 昔、人界では人界をまとめていた王家というべき

 『天保院家』という一族が居たのだが

 大戦争時に、魔族の奇襲によって滅ぼされてしまい

 天保院家の補佐をしていた風間家が

 今は、人界をまとめることになっている。

 

 彼らは、戦争を回避するため

 慎重に動き出す。

 

 

 次の日。

 

 魔界の領内。

 人界との国境にある砦に

 一人の少女が現れた。

 

砦司令官「く、紅の死神が、どうしてこんな場所に」

 

ミリス「特別な任務の途中です。

    ついでに、貴方にも用件がありまして」

 

砦司令官「わ、私は別に女王陛下に不満なんて・・・」

 

 紅の死神は、粛清する相手の前にしか姿を現さない。

 その噂が、司令官をより緊張させる。

 

ミリス「何を焦っているのですか?

    そんなことより、マリア様から伝言です。

 

    人界側から軍隊が国境を越えてきても

    決して動かないで下さい。

 

    攻撃されてもなるべく反撃せず

    対話による和平を模索するように・・・と」

 

砦司令官「なっ!?

     人界と戦争になるのですかっ!?」

 

ミリス「あくまで可能性の話です。

    ですから、この話を広めてはダメです。

    貴方の中だけに留めておきなさい」

 

砦司令官「はっ!

     了解いたしましたっ!」

 

 話を伝え終わると、早々に砦を離れるミリス。

 

ミリス「さて・・・。

    マリア様に逆らう連中を

    さっさとぶっ殺しますかっ☆」

 

 小声で、そう言うと

 森の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

第10章 再び戦争を行わないために ―完―

 

 

 

 

 





最後まで読んで頂きありがとうございます。

今回は、少し短い話となりましたが
第9章からの繋がりの話なので
短い感じとなりました。


今回から個別編に突入します。
原作を知っておられる方なら、何となく理解出来ると
思います。
原作を知らない方は、これから起きる物語を
より楽しんで頂けると思います。

次話以降、ドンドンと物語は動き出しますので
よろしくお願いします。


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第11章 広がる不安

 次の日。

 朝から学園長室にフィーネと共に入る。

 

マリア「おや、こんな朝早くからどうしたんだ?」

 

フィーネ「ミリスは、一体何をしにきたの?

     和也を殺そうとしてるところしか

     見たことがないんだけど?」

 

マリア「ああ、やっぱりか。

    その件に関しては、何度も注意はしているんだかな」

 

フィーネ「で、ミリスも今朝から見かけないわ。

     ・・・何か隠してるんじゃない?」

 

マリア「おいおい。

    いきなり何の話だ?」

 

 普通に追求しても、恐らく逃げられるだろう。

 魔王妃である彼女に、通用するか分からないが

 カマをかけてみる。

 

和也「ミリスは、昨日『マリア様に報告しなければ』と言っていました。

   とぼけても無駄です。

   『アレ』について何を知っているんですか?」

 

マリア「・・・」

 

和也「ここからは、予想ですが。

   恐らく、魔界にとって都合の悪いことが

   起きているんじゃないですか?」

 

マリア「どうしてそう思う?」

 

和也「まず、ミリスに余裕が無かった。

   彼女があそこまで焦っているということは

   他人に知られてはマズイということ。

 

   そして彼女がそこまで考える件だとすれば

   それは、学園長もしくは魔界そのものが

   関わっている件という可能性が高い。

 

   それに以前にも、彼女が『アレ』と

   戦っていた場面に出会ったことがあります。

 

   以上を総合すると、そうとしか考えられません」

 

マリア「はぁ・・・」

 

フィーネ「どうなのよ、母様。

     何かあったんでしょ?」

 

和也「一応、気を使ってフィーネだけしか

   連れてこなかったんです。

   話しては頂けませんか?」

 

マリア「やはりこうなったか。

    ・・・婿殿。

    鋭すぎるのも考えものだな」

 

和也「では、やはり・・・」

 

マリア「何かあったことは認めよう。

    それが魔界にとって非常に不利だということもな。

    だが、それ以上は言えん。

    理由は、説明せんでも解るな?」

 

和也「それは、理解しています。

   しかし、ある程度は説明頂けませんか?

   現に巻き込まれている訳ですし」

 

マリア「たとえ他言無用だとしても

    言う訳には、いかないのだ。

 

    今回の件は、魔界の恥とも言うべきこと。

    そして魔界の闇の歴史に触れることにもなる。

 

    そんなものに迂闊に触れて貰っては

    下手をすれば婿殿を魔界で

    一生監禁しなければならなくなる」

 

フィーネ「なら、私ならいいでしょう?」

 

マリア「お前は、ダメだ」

 

フィーネ「どうしてよっ!?」

 

マリア「言っただろう。

    この件は、魔界の闇の歴史に触れるものだと。

 

    真っ直ぐすぎるお前では、世界そのものへの影響を

    考えずに動いてしまうだろう。

 

    そうなっては困るのだ」

 

フィーネ「母様・・・」

 

 真剣な『魔王妃』の姿に

 俺達は、それ以上の追求が出来なくなってしまった。

 

 そしてその日の戦闘訓練。

 少し変わったことが起こる。

 

ギル「いや、やっぱりおかしいって」

 

 このギルの発言から、全てが始まった気がする。

 

 

 

 

 

第11章 広がる不安

 

 

 

 

 

和也「何がおかしいんだ?」

 

ギル「あいつらだよ」

 

 ギルは、とあるクラスメイトの集まりを指差す。

 そこでは、数人のグループ同士が訓練をしていた。

 

魔族男生徒「威勢が良いのは、口だけかぁ?」

 

神族男生徒「くそっ!!」

 

 魔族生徒が、ほぼ一方的な展開で神族生徒を

 追い詰めている。

 

亜梨沙「アレが、どうしたんですか?」

 

ギル「おかしんだよなぁ」

 

和也「だから何がおかしんだよ」

 

ギル「あいつ、あんなに強くなかったはずなんだよ」

 

 指を指すのは、一方的な展開で攻撃している魔族生徒。

 

ギル「あいつ、少し前までは今戦ってる奴に

   一度も勝てないぐらいのレベルだったんだよなぁ」

 

亜梨沙「・・・頑張って訓練したんじゃないですか?」

 

ギル「いやいやいや。

   たとえ訓練を頑張り始めたからって

   あそこまで急激に強くならないでしょ」

 

和也「悪いが、あいつの元々の実力を知らないから

   何とも言えないな」

 

ギル「いや、見ててくれれば多分わかるって」

 

 そう言われて試合を集中して見る。

 

神族男生徒「ウォーター・アローッ!」

 

 水の刃が出現し、魔族生徒に向かって飛んでいく。

 

魔族男生徒「そんなもの、飲み込んでやるぜっ!!

      ファイア・アローッ!!」

 

 アロー同士をぶつけるつもりだろうか。

 炎矢を出現させ、水の刃にぶつけ・・・。

 

和也「・・・おいおい、冗談だろ?」

 

 思わずそう呟く。

 

神族男生徒「・・・そんなっ!?」

 

 誰もが衝撃を受ける。

 出現した炎矢は、10本。

 

 しかも目の前の魔族男生徒は、翼を開いていない。

 翼を開かずに10本なんて魔王の血族である

 ヴァイスでもギリギリぐらいの本数だ。

 

 出現した炎矢は、水の刃を軽々と飲み込み

 残った矢が、神族生徒に降り注ぐ。

 

神族男生徒「ぐあぁぁぁぁ!!」

 

 避けきれない矢の雨に

 数本の直撃を受けて倒れる。

 

 判定ネックレスが発動して、勝敗が決する。

 

 勝負が終わると、魔族生徒は

 後ろに控えていた仲間と勝利を噛み締めていた。

 

 その姿を見ていた俺達だったが・・・。

 

ギル「・・・な?

   おかしいだろ?」

 

亜梨沙「意味が解りません。

    あんなに魔法制御が出来る魔族とか

    普通居ませんよ?」

 

フィーネ「彼、魔王の血族でもないわ。

     どうしてあんなに魔力があるのかしら?」

 

和也「知ってる奴なら、ギルが直接聞くのが早いんじゃないか?」

 

ギル「いや、もう聞いたんだが

   教えてくれないんだよねぇ」

 

亜梨沙「まあ普通は、切り札になるようなことは

    言いませんよね」

 

ギル「そういう訳でもなさそうなんだよねぇ。

   何か隠してるって感じでソワソワしてさ」

 

フィーネ「一時的に能力を上げるような魔法アイテムとか

     そういった特殊なアイテムってことはない?」

 

和也「まあ否定は出来ないけど、そんなのがあるとか

   聞いたことがないなぁ」

 

 どこまで言っても俺達の話は、推測でしかない。

 結論の出ない問答をしてる間にも、彼らの訓練は進んでいた。

 

魔族女生徒「あはははっ!

      日頃の恨みを晴らしてあげるっ!!」

 

神族女生徒「な・・・なんでこんなに強くなってるのよっ!!」

 

魔族女生徒「これで終わりよっ!

      ファイア・ボールッ!!」

 

 魔族生徒の放った火球は、平均より大きめだった。

 

神族女生徒「ウォーターシールドッ!!」

 

 ガチャンッ!と弾装が排出され、二翼開いた全力の防御。

 しかし―――

 

 パリッ!

 メキメキッ!

 

 火球と水盾が衝突して魔力が拡散して光を放つ。

 だが、火球は水盾を押し始めて

 水盾を構成する魔力壁に亀裂が入る。

 

神族女生徒「そんな・・・押さえ切れないなんてっ!?」

 

 火球が水盾を半分ほど貫いた瞬間、火球が破裂して

 大爆発が起こる。

 

 煙が風によって、かき消されると

 そこには倒れこむ神族女生徒と、彼女を包む

 判定ネックレスの光があった。

 

魔族女生徒「ははっ・・・あはははっ!

      やったわっ!

      最高の気分よっ!!」

 

 そんな彼女の興奮とは裏腹に

 和也達は、言いようの無い不安に駆られる。

 

和也「・・・彼女なら知っている。

   確か、ファイア・ボールは使えなかったはずだ」

 

亜梨沙「それに彼女は、こう言ってはなんですが

    さっきの神族の子に勝てるほどの実力じゃ

    なかったはずです」

 

ギル「急に強くなったって言っても

   色々と限度を超えてるんだよなぁ」

 

フィーネ「確かにこれは、気になるわね」

 

 言いようの無い不安と疑念だけが

 積み重なり、それをどうすることも出来ず

 ただ、彼らの訓練を遠くから見ていることしか

 出来なかった。

 

 

 その日の夜。

 

 フォース内で営業している酒場の1つから

 上機嫌で店を出る男が一人。

 

男「いやぁ~、気分が良いねぇ~。

  給料は上がったし、念願の彼女もやっと出来た。

  俺って人生の勝ち組さ~♪」

 

 ふらふらとした足取りで夜道を歩く男。

 

男「でも、ちょっと遅くなったよねぇ~。

  ・・・近道しちゃおっかなぁ~」

 

 男は、通い慣れた道から裏路地に入る。

 この道も男にとっては、よく通る道。

 いつも通りに歩いている時だった。

 

 ズザッ

 ヌチャ

 ギギッ

 

 聞きなれない音が前方から聞こえてくる。

 

男「なんだぁ?」

 

 おぼつかない足取りながらも

 ゆっくりと近づいていく。

 すると―――

 

男「・・・何だ、こいつはっ!!

  や、止めろっ! こっちに来るなっ!

  ひ、ひぃぃ・・・。

 

  ギャァァァァーーーーーーー!!!」

 

 ズズッ

 バキッ

 ガリッ

 ゴキッ

 

?「モット・・・モットダ・・・」

 

 ズザッ

 ヌチャ

 ギギッ

 

 

 

 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・

 

 

 

 次の日。

 

 いつもの昼休み。

 

和也「ああ、セリナ達もか・・・」

 

 セリナ達からも同じような話を聞くことになった。

 

セリナ「そうなんですよ。

    ちょっとおかしいなって」

 

エリナ「ちょっとどころじゃないよっ!

    アレ、絶対にヤバイってっ!」

 

リピス「確かに、私のクラスにも

    そういう奴が居たなぁ」

 

亜梨沙「何が、どうヤバイんですか?」

 

エリナ「だって、どこからあんな魔力を出してるのかも

    わからないし、制御もロクに出来てないのに

    魔力塊にならずに『魔法』として発動してるとか

    何から何までありえないよっ!」

 

リピス「・・・加えて言うなら

    そもそも魔力量そのものをどうこうすることは出来ない。

    つまり何かしらの後天的要素が無ければ

    ああいったことは不可能だ」

 

 魔力量は、生まれ持った才能と同じで

 その容量は、決まっている。

 

 そこに魔法制御技術や翼などによる増幅といった

 要素が絡み合って、最終的な魔力総量というものが決定する。 

 

 だから訓練によって何とかなるのは、制御技術だけであって

 根本的な部分は、どうしようもない。

 

 魔族や神族が、翼を『誇り』とするのも

 その枚数を気にするのも、全てそれらが

 魔力に直結するからだ。

 

和也「本人の魔力量を超える魔力・・・ねぇ」

 

ギル「そういや、変な噂に

   学内じゃ便乗商売なんかも増えてるらしいぞ」

 

亜梨沙「何ですか、それ?」

 

ギル「何でも、付けるだけで魔力量が増えるアクセサリーとか

   持ってるだけで制御技術が上がる魔力石だとか

   あとは、飲むだけで魔力が増える薬だったかな?

 

   そんないかがわしい物が、最近みんなの間で

   取引されてるらしいぜ」

 

リピス「・・・下らないな」

 

エリナ「そんなもの、あるわけないじゃん。

    古代遺跡から出てきたものなら

    ありえなくもないけど、普通に出回る物じゃないし」

 

セリナ「確か、魔力石の中にそういう可能性があるって話なら

    聞いたことがありますね」

 

エリナ「でもアレって、可能性があるってだけで

    誰も成功させれてないよ」

 

亜梨沙「それで、噂って何ですか?」

 

ギル「何でも最近、化け物に襲われる事件が起きてるらしい。

   何でも夜にだけ現れて、人を喰うんだとよ」

 

亜梨沙「その噂と商売の関連性が解かりません」

 

ギル「自分の身は、自分で守ろうってことさ」

 

亜梨沙「ああ、そういうことですか」

 

和也「まあ商売の方は、どうでもいいが

   その化け物ってのは、どんな奴なんだ?」

 

 化け物という単語に心当たりがあった。

 でもまさか、アレが街中をウロウロしていたら

 嫌でも目に付くだろうし、それは無いか。

 

ギル「それがよ、肝心の化け物の姿は

   誰も見てないんだよねぇ」

 

リピス「それならどうして『化け物の仕業だ』などと

    言われるのだ?

    誰も見ていないのだろう?」

 

ギル「・・・それが、ここだけの話なんだがな」

 

 急に小声になるギルに

 自然と皆が近くに集まる。

 

ギル「どうも現場には、大型の獣らしき爪痕が

   その場で暴れたように地面や壁に残ってたんだとよ」

 

亜梨沙「・・・それが、どうしてここだけの話なんですか?

    そんなの現場に行けば誰でも見て確認出来ますよね?」

 

ギル「そう思うだろ?

   ところが調査に来た連中が、全部綺麗に

   痕跡を直していくんだとよ」

 

メリィ「・・・興味深い話ですね。

    もう少し詳しく話して頂けませんか?」

 

 普段は、一歩下がってリピスの世話をしているだけの

 メリィさんが、珍しく会話に食いついた。

 

ギル「俺もあくまで噂話として聞いて回っただけだぜ」

 

和也「何でそんなこと聞いて回るんだよ」

 

ギル「いや~、初めは魔力増幅関係で

   俺もそんなものがあるなら見てみたいなと

   思ってたんだが、聞いてるうちに

   こっちの噂の方が面白くなってきてな。

 

   気づいたら、こっちの話ばかり聞いて回ってたよ」

 

 そう言いながら笑うギル。

 

亜梨沙「何だか、本末転倒どころじゃないですね」

 

ギル「まあまあ。

   おかげでこうして色々と面白いこともわかった訳だし

   良いじゃないか」

 

メリィ「ギル=グレフ様。

    その痕跡を消していった方々ですが

    もう少し具体的な特徴なりを教えて貰えませんか?」

 

ギル「ああ、いいぜ」

 

 そう言うとギルとメリィさんは、少し離れた場所に移動して

 詳細な話をし始める。

 

セリナ「でも、どうして皆さんそんな安易な方法に

    頼ろうとするのでしょうか?」

 

エリナ「だよね。

    それが便利だとしても、そんなアイテムに頼ってばかりじゃ

    実力がつかなくて、いざって時に困るのに・・・」

 

亜梨沙「・・・でも、それはあくまで

    『出来る人間側』の理論ですよ」

 

セリナ「出来る人間側?」

 

亜梨沙「この世界には、どれだけ訓練しても

    埋められない圧倒的な差というものも

    存在するということです。

 

    才能のある人は、才能の無い人の努力や苦悩というものを

    決して理解することは出来ませんからね」

 

リピス「確かにな。

    我々からすれば、ちょっと頑張れば出来ることであっても

    他人からすれば、死に物狂いで努力しても

    出来ないという場合もある。

 

    そういう連中からすれば、簡単に強力な力が手に入るという

    アイテムがあれば、喉から手が出るほど欲しいだろうさ」

 

エリナ「・・・そういうもんかなぁ」

 

セリナ「出来る側・・・出来ない側・・・」

 

 エリナは、やはり天才側なんだろう。

 よく解らないという感じだ。

 

 対照的にセリナは、何やら考え込んでいるようだ。

 

 

 そしてその日の夜。

 

 大小様々な木々に囲まれた森林の中にある遺跡のような建物から

 鮮やかな紅色をした髪をなびかせながら出てきた少女が

 空を見上げる。

 

 夜空は、丁度満月だった。

 いつもよりも明るい夜だったが、少女は思わずため息を吐く。

 

ミリス「まさか、ここまで連中が馬鹿だったなんて・・・」

 

 手にしている紙束を無造作に投げ捨てる。

 風によって空に舞った紙だったが

 その全てが宙で突然燃えて灰になっていく。

 

ミリス「一度、マリア様の元へ帰る必要がありますね」

 

 夜空に浮かぶ満月が、一瞬だけ雲に隠れて

 完全な暗闇が広がる。

 

 そして再び満月によって森が照らされた時には

 既にミリスの姿は、無かった。

 

 

 次の日の夜。

 

 学園都市の人気の無い路地裏に

 数人の人影が動いていた。

 

?「・・・これで最後だな」

 

?「ああ、終わりだ」

 

?「散々暴れてくれたおかげで『処理』に手間取ったな」

 

?「まったく・・・こっちの身にも

  なって欲しいもんだな」

 

?「違いない」

 

?「無駄口を叩いてないで、さっさと撤収するぞ」

 

 人影達が、一斉に移動しようとした時だった。

 その進路上に、もう一人の人影が現れる。

 

?「あなた方に、少々お尋ねしたいことがあります。

  お時間、よろしいでしょうか?」

 

 そう言いながら人影が、月明かりの下まで移動する。

 月に照らし出された姿を見て、人影達は

 一歩後ろに下がる。

 

 若いメイド服を着た女性が、そこには居た。

 頭にある耳が、彼女が竜族であると告げている。

 

?「・・・何者だ?」

 

メイド「それは、私の台詞です。

    まあ、おおよその見当は付いてま―――」

 

 彼女が、最後まで話す前に

 一人の人影が、物凄い速さでメイドに襲いかかる。

 

 だが―――

 

?「がぁっ!!!」

 

 メイドに襲い掛かった人影だったが

 彼女の一撃に吹き飛ばされ、路地の壁に激突して気絶する。

 

メイド「・・・それで。

    お話を聞かせて頂いてもよろしいですか?」

 

 まるで何事も無かったかのように

 話を続けようとするメイドに、人影達は

 儀式兵装を手にして構える。

 

 その瞬間だった。

 フワフワと宙を漂うような感じで

 メイドと人影達の間に火球が現れる。

 

 そして―――

 

?「ブレイクッ!」 

 

 何処からともなく聞こえてきた声によって

 火球は、その場で爆発する。

 

 爆風と周囲を覆う煙で、一時的に視界が無くなる。

 

?「はやく撤退しなさい」

 

?「し、しかしっ!」

 

?「ここであなた方の誰か1人が捕まれば

  それで終わりなんですよ?」

 

?「・・・はっ」

 

 会話が丁度終わった瞬間に煙が晴れる。

 そしてメイドの前に現れたのは、紅の少女だった。

 

ミリス「『破滅の竜』メリィ=フレールさんでしたっけ。

    こんな夜更けに、人気のない場所で

    いったい、どうされたんですか?」

 

メリィ「それは、こちらの台詞です。

    まあ『紅の死神』が出てきた以上

    仮説に現実味が増した訳ですが・・・」

 

ミリス「やはり、貴女は放置しておけないようですね」

 

メリィ「・・・貴女こそ、そこまで魔族にこだわるのは

    どうしてですか?

    こう言っては何ですが、貴女の半分は竜―――」

 

ミリス「それ以上、言えば確実に殺しますよ?」

 

メリィ「・・・まあ、人には踏み込まれたくない話も

    ありますから無理にとは言いませんよ」

 

 急激に高まった殺気。

 それでもメリィは、余裕の笑みだ。

 

メリィ「では、私はこれで失礼します」

 

ミリス「簡単に逃がすとでも?」

 

 ミリスの言葉にメリィは、軽くウインクして返すと

 スカートの端を摘んで優雅に礼をする。

 

ミリス「ちょっと痛いですけど、我慢して下さいねっ☆」

 

 瞬時に出した儀式兵装の斧を一気に振り下ろす。

 しかしメリィは、それを軽く後ろに跳んで回避する。

 

 そのまま竜族の身体能力の高さで

 一気に裏路地を走り抜け、曲がり角を曲がって森の中へと

 逃げていく。

 

 しかしミリスも、竜族にまったく負けない身体能力で

 追いかける。

 そして曲がり角を勢い良く曲がって

 森の中に入った瞬間―――

 

メリィ「ちょっと痛いですけど、我慢して下さいねっ☆」 

 

 まるで意趣返しのように、まったく同じ台詞が

 後ろから聞こえてくる。

 そんなメリィの声に、ミリスは驚く。

 そしてメリィが左の拳を後ろに引いた構えを

 している姿を見て、ミリスは全力で防御体勢に入る。

 

 弾装を使い魔力をありったけ斧に付与して

 斧を盾代わりに前に出す。

 そして、魔族では使えるはずのない『気麟』を

 正面にのみ展開する。

 

 普通の奴なら、儀式兵装すら出していない相手に対して

 大げさすぎると誰もが思うだろう。 

 しかし、ミリスの判断は正しかった。

 

メリィ「ドラゴンブレスッ!!」

 

 メリィの放ったものは、竜族の切り札と言える竜の息吹。 

 角度を計算し、ミリスを森の奥へと吹き飛ばす。

 

 その威力は、周囲の木々どころか

 地面すら抉って何もかもを吹き飛ばした。

 

メリィ「・・・さて、必要な情報は

    それなりに揃ったので帰りましょうか」

 

 まるで竜巻が通り過ぎたかの如く

 めちゃくちゃになった森の中を

 何事も無く歩いていくメリィ。

 

 

 そのころ、大きく吹き飛ばされたミリスは

 地面に2度バウンドしてから、滑るように地面に落下する。

 

ミリス「・・・っ。

    さ、さすがは・・・竜族No2と、いうことですか・・・」

 

 致命傷にはならなかったものの、かなりのダメージを受け

 ボロボロになりながらも、ゆっくり立ち上がる。

 

ミリス「こうなってしまっては・・・時間の問題です・・・ね」

 

 傷ついた身体に気合を入れ直すと

 マリアに報告するために、学園へと急ぐのだった。

 

 

 同時刻―――

 

 女子寮の管理人室に、その場には不釣合いの男が居た。

 

オリビア「よく来てくれたわね、カイン君」

 

カイン「いえ、神王妃様のためならば

    この程度のことなど苦労の内には入りませんよ」

 

 胸にいくつもの勲章を付けた軍服に

 立派なマントを羽織った真面目そうな、この男は

 大戦争を戦い、いまや神界で宰相の地位を得た出世人。

 

 神界宰相 カイン=ライト

 

 神王妃であるオリビアに絶対の忠誠を誓う騎士である。

 

カイン「オリビア様の仰られていた件につきまして

    至急、お伝えする必要があると判断し

    こうして伺った訳です」

 

オリビア「感謝してるわ」

 

カイン「はっ!

    ありがとうございますっ!!

 

    ・・・では、さっそく報告させて頂きます」

 

 

 そして、その30分後―――

 

男「ギャァァァァーーーーーーー!!!」

 

 深夜の街に、また悲鳴があがる。

 

 ズズッ

 バキッ

 ガリッ

 ゴキッ

 

?「チカラ・・・タリナイ・・・」

 

 ズザッ

 ヌチャ

 ギギッ

 

 何か引き摺るような足音と共に

 何者かが、また動き出す。

 

 今、まさに世界がゆっくりと

 何かに押されるように急速に動き始める。

 

 その結末は、一体どこへ向かおうというのか・・・。

 

 

 

 

第11章 広がる不安 ―完―

 

 

 

 

 




まず、ここまで読んで頂きありがとうございます。

ついに盆休みに突入し、仕事から一時的に解放され
ようやく製作ペースが上がりました。
まあ、盆休みだけですけどね(笑)

物語に関しては、出来るだけ休みのうちに
進めたいなと思っております。


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第12章 四界会議

 

 次の日の朝。

 いつものように学園に登校していると

 校門の辺りで神妙な顔をしているリピス達に出会う。

 

和也「おはよう、リピス」

 

亜梨沙「おはようです」

 

フィーネ「おはよう」

 

リピス「ああ、和也達か。

    おはよう」

 

メリィ「皆様、おはようございます」

 

亜梨沙「どうしました?

    何か考え事ですか?」

 

リピス「ふむ・・・。

    いや、今解決した」

 

 そう言うと強引に和也の腕を掴むリピス。

 

リピス「悪いが、少し借りていくぞ」

 

和也「おい、ちょっとっ!

   どういうことか、少しぐらい説明してくれっ!」

 

リピス「ついてくれば勝手にわかる」

 

 ズルズルという感じで

 和也を引っ張って学園内に入っていくリピス。

 

フィーネ「・・・何、あれ?」

 

亜梨沙「・・・さあ?」

 

メリィ「ここは、リピス様にお任せ下さい」

 

 突然のことに、一礼するメリィが視界に入らないほど

 呆然となる2人だった。

 

 

 

 

第12章 四界会議

 

 

 

 

 

 そして引っ張られていた和也は

 学園長室へと向かう一本道の廊下に入る。

 

 その廊下で、和也は驚く。

 

オリビア「あら、和也くんじゃない」

 

 そこには、いつもの管理人としてではなく

 立派なドレスに身を包んだ『神王妃』が居た。

 

 しかも隣には、軍服の上から鎧を着た

 立派な騎士も居る。

 

オリビア「こっちは、カイン君。

     神界で頑張ってくれてる子なの」

 

カイン「貴方が藤堂 和也くんですか。

    私は神界で宰相をしている

    カイン=ライトという者です。

    どうか、お見知りおきを」

 

 カインと名乗った騎士は

 丁寧な挨拶と共に、こちらの手を握って握手をしてくる。

 

和也「あ・・・どうも」

 

 目の前の騎士から気迫というか、そのやる気に満ちた覇気というべきか

 そんな見えない力というべき何かに押されて

 少し間抜けな返事をしてしまう。

 

リピス「わざわざご足労願って申し訳ない」

 

オリビア「いえいえ。

     こちらも近日中に同じようなことを

     言っていたと思いますから。

 

     ・・・それにしても、どうして和也君を?」

 

リピス「これで形だけだが『全て揃った』訳だ。

    和也なら、十分だろう」

 

オリビア「・・・確かに。

     『条件』は整ったことになるわ」

 

 主語が見えない会話をされているが

 何となく関わり合いになるべきではないと

 俺の感が告げている。

 

和也「とりあえず、トップ同士の会話をするなら

   俺は、向こうへ行きたいんだが・・・」

 

リピス「まあ、そう急ぐな。

    それに和也が居ないと始まらないんだよ」

 

 そう言って学園長室の扉を開く。

 

 そこには、大きなテーブルが置いてあり

 学園長が既に座っていた。

 

マリア「竜王女どの・・・。

    話があるとは聞いていたが

    まさか神王妃まで一緒とは、聞いていないが?」

 

 いかにも不機嫌だというような強めの口調。

 まるでリピスをけん制するかのように

 先に言葉を発する学園長。

 

リピス「いや、先ほど丁度そこの廊下で出会った。

    神王妃どのも何やら魔王妃どのに話があるらしくてな。

    せっかくだから一緒に来てもらった」

 

オリビア「ええ、そうなんです。

     だから同じテーブルに着かせて頂くわね」

 

 そう言うと、2人はさっさとテーブルに座る。

 カインさんは、オリビアさんの少し後ろで立ったままだ。

 

 俺も、リピスが促す席に座らされる。

 

 4人が、綺麗に向かい合うような位置に座った瞬間

 魔王妃であるマリアは、その意味に気づいた。

 

リピス「これより、四界会議を執り行うっ!」

 

 その言葉に、学園長は『しまった』という顔をして

 苦しい顔をしていた。

 

 俺は、何の話かまったくついていけずに

 呆然としてしまう。

 

マリア「竜王女どのっ!

    それは―――」

 

リピス「なお、今回の開催は

    竜界と神界からの要請によるもので

    開催規定に準拠したものであるっ!」

 

マリア「人界側の代表者が居ないではないかっ!」

 

リピス「そこに居る藤堂 和也が人界の代理だ」

 

和也「はぁっ!?」

 

オリビア「人界の代表者の規定には

     『風間の直系または、風間流における

      師範以上の者とする』とされてるわ。

 

     和也くん。

     貴方、風間流で師範なのよね?」

 

和也「・・・ええ、まあ一応ですが」

 

リピス「だから問題ない。

    人界の代表者が代理を立てた。

    それだけの話だ」

 

マリア「強引すぎるではないかっ!

    人界側への配慮が、まったく無いっ!」

 

リピス「これでも最大限の配慮をしたつもりだが?

    それとも今更、人界の扱いに関しての議論が必要か?」

 

和也「ちょっと待ってくれっ!!」

 

リピス「・・・どうした?」

 

和也「どういうことか、ちゃんと説明をしてくれ。

   話についていけない」

 

リピス「簡単な話だ。

    ・・・和也。

    キミが人界を代表して四界会議に出てもらう。

 

    ちなみに拒否権は、無いと思ってくれて構わない」

 

和也「だから、どうして俺なんだよっ!

   それに人界の代表なら、クソ爺が居るだろうっ!」

 

リピス「風間 源五郎どのを呼んでいる暇がない。

    それに、先ほど言ったように条件的には

    和也は問題ないんだよ」

 

和也「だから、そういう話じゃ―――」

 

オリビア「和也君。

     ちょっといいかしら?」

 

 話を静観していたオリビアさんが、突然話に割り込んでくる。

 

オリビア「言いたい気持ちも解るけど、もしも代表を辞退すれば

     私達3人で、四界会議を継続することになるの。

 

     まずは、それを知って欲しいわ」

 

和也「・・・どういうことでしょう?」

 

オリビア「人界・・・人族の四界での扱いっていうのは

     言わなくても解っているわよね?

 

     そして四界会議は、本来それは形だけの形式であって

     人界に決定権は、何もないのよ」

 

和也「決定権が・・・ない?」

 

マリア「形の上では四界による合同決定なのだが

    人界は、戦争責任を負わされたことで

    会議内での発言は可能でも、決定権は持っていないんだよ。

    人界が持っている権利は、たった一つ。

 

    『四界会議を開催する際は

     四界の代表者が同じテーブルに座ること』

 

    この開催規定を成立させるために

    椅子に座るかどうかだけだ」

 

オリビア「だから言い方は悪いけど、一度開催してしまった以上

     もう『居ても居なくても変わらない』の。

     ・・・それがどういう意味か、解って貰えるかしら?」

 

リピス「・・・つまり、ここで四界で協力しなければならないような

    世界の命運を賭けたような話であっても

    人界を無視して話を進められるということだ。

 

    出来るのは、提案ぐらいで基本的には

    ただ聞いているだけなんだよ」

 

マリア「だから、一度開催された四界会議中に

    代表者を辞退して部屋を出ても、もう何の意味もない。

 

    下手をすれば、婿殿が出て行った後

    好き勝手に話を進めることも出来てしまう」

 

和也「そんな勝手な話がっ!」

 

リピス「・・・悪いが、それが今の現実だ」

 

オリビア「・・・リピス王女は

     アナタを利用したかもしれない。

 

     でも、もう無視していいはずのアナタの声に

     ちゃんと説明して、なるべく応えてあげているでしょ。

     その気持ちだけは、理解してあげて?」

 

和也「・・・」

 

 正直、初めて知る残酷な現実に

 言葉が出なかった。

 

 種族差別は、未だこんなにも根深い問題なのだ。

 その事実が重くのしかかってくるようだった。

 

 俺が無言で椅子に座り込むと

 リピスが、改めて宣言する。

 

リピス「では、四界会議を執り行うっ!」

 

 一瞬、部屋全体が静寂に包まれる。

 先に口を開いたのは、やはりというべきか

 魔王妃マリア=ゴアだった。

 

マリア「・・・ここまで強引な開催をした理由を

    ぜひとも聞かせてもらいたい」

 

リピス「それは、魔王妃どのが一番理解していると

    思っていたのだが?」

 

マリア「そもそも心当たりすらないな」

 

オリビア「・・・2人とも。

     余計なけん制は、必要ないでしょう?」

 

リピス「なら、さっさと本題に入るか。

 

    ・・・あの化け物は、何だ?」

 

マリア「・・・何の話だ?」

 

リピス「こちらが調べていたのは、既にそちらの部下から

    報告を受けたのだろう?

 

    ある程度の証拠と、それによる仮説がある。

    それが真実になる前に、話して貰えると助かるのだが?」

 

オリビア「こちらでも、有力な証拠と

     ある程度の情報を揃えてるの。

 

     立場的に言い難いことも理解するけど

     今、話して貰えないと余計に立場が悪くなるわ」

 

リピス「今、話してもらえるのなら

    今日まで情報を隠していたことに関して

    一切の追求をしないことを約束しよう」

 

オリビア「ついでに、この件に関して

     魔界側への責任追及も一切しないわ。

 

     ・・・だから、話して貰えないかしら?」

 

マリア「・・・」

 

リピス「だが、ここで話さないようなら

    その時は、こちらにも考えがある」

 

オリビア「その時は、竜界と神界は合同で

     今回の件に関して魔界側へ

     全ての責任追及をすることになるわ」

 

リピス「場合によっては、戦争も覚悟してもらうことになる」

 

オリビア「もう一度、大戦争を起こさないためにも

     協力して貰えないかしら?」

 

 世界を想っての強烈な脅しと、友人を思う提案。

 これが種族を代表する者達の話し合いなのか。

 

 事情もわからなければ、何をどう話していいかも

 わからず、ただ本当に参加しているだけだ。

 それが少し悔しかったりする。

 

マリア「・・・はぁ、負けたよ」

 

オリビア「じゃあ、話してくれない?」

 

マリア「発端は、大戦争の終結にある」

 

 もう隠すことが不可能だと察した学園長は

 この事件全てを話し出す。

 

マリア「戦争終結の際、やはり徹底抗戦を唱える集団が居た。

    そいつらは、特に戦時中から色々と問題の多い

    連中でもあったわけだが、彼らを説得し

    何とかまとめたと思っていたが、どうやら一部が

    裏では、コソコソと何かをしていたようでな。

 

    それが解ったのが、つい最近だ。

    『アレ』が出始めて調査した結果というやつだ」

 

リピス「あの化け物は、一体何なのだ?」

 

マリア「マジックマテリアルという物質を知っているか?」

 

オリビア「確か、魔力増幅が可能と言われている魔力石

     ・・・だったかしら?」

 

マリア「そうだ。

    そのマテリアルを奴らは、とんでもないものに

    利用しようとした」

 

オリビア「とんでもないもの?」

 

マリア「・・・強化兵計画。

    かつて人工的に強力な兵士を作り出そうという

    実験があった。

    だが、あまりにも非人道的なものであり

    実験で出た犠牲者は、数え切れないものだった。

 

    だからこそ終戦後、真っ先に凍結された計画だ。

    それを連中は、掘り返した」

 

リピス「・・・まさか」

 

マリア「そう、まさか・・・だ。

    連中は、そのマテリアルを凝縮した独自の薬を

    開発して、人体投与している。

 

    その産物が・・・あの化け物だ」

 

和也「・・・じゃあ、あいつらは」

 

マリア「元、人間・・・ということになる」

 

 その言葉を聞いた瞬間、全身に衝撃が走った。

 アレが、元人間なんて何の冗談だ。

 そんなことがあっていいはずがない。

 

マリア「一度、投与された人間は、一時的にだが魔力が増える。

    しかし、それを何度も大量に摂取し続けると

    数日から数週間の猶予期間を経て

    あのゴーレムに変化する。

 

    そして一度、ゴーレム化が始まれば

    止めることは出来ない。

    そのままゴーレムとなり

    二度と人間に戻ることは出来ない」

 

オリビア「・・・解除する薬とかは、無いのかしら?」

 

マリア「ミリスに調べさせたが、奴らの資料には

    元から人間に戻すことなど考えていない理論で

    薬が作られている。

 

    少量なら問題無いそうだが

    大量に投与された者は、魂の一部を媒介にして

    身体の中心に魔力コアを形成する。

    そのコアが拳ほどの大きさになった瞬間

    身体をゴーレムの強化外殻として再構成し始める。

 

    そうなったら後は、そのままゴーレムと化す。

    ただ、普通のゴーレムと違うのは

    魔力コアがで魂の一部出来ているという点だ。

 

    魂の一部。

    つまり儀式兵装または、その元となるものを

    利用しているため理性が無くなっても

    儀式兵装としての機能までは、無くならない。

    本来なら、それだけで魔法を発動させることは

    不可能なのだが、どういう訳か

    研究の結果として魔法が発動出来るらしい。

 

    魔力コアさえ潰されなければ何度でも再生可能で

    魔法による攻撃力の飛躍的上昇。

 

    そして外的要因によって人間に戻らぬよう

    完全に肉体をゴーレムとして再構成するために

    非常に強力で解除不能な術式を実現するための

    媒介として、マジックマテリアルは

    非常に優秀である。

    ・・・そう書いてあったとな」

 

リピス「・・・そのマジックマテリアルとやらは

    どんなものなのだ?

    見本は、ないのか?」

 

 リピスにそう聞かれた学園長は

 小さい袋を1つ、机の上に置く。

 

 そしてその袋から、飴玉ぐらいの青い小さな粒が

 何個が出てくる。   

 

マリア「・・・これが、そうだ」

 

リピス「・・・魔王妃どの。

    もっと早くこの件を言うべきだったな」

 

マリア「どういうことだ?」

 

リピス「今、学園内で生徒達によって妙な取引が

    されているのを知っているか?」

 

マリア「何か、そんな話を聞いたことがあるが

    詳しいことは知らないな」

 

リピス「何でも

    付けるだけで魔力量が増えるアクセサリーとか

    持ってるだけで制御技術が上がる魔力石だとか

 

    ・・・飲むだけで魔力が増える薬、とかな」

 

マリア「まさかっ!!」

 

リピス「早急に調べる必要性があるな」

 

和也「それが本当なら、学園内で化け物が・・・。

   いや、生徒達が化け物になるってことじゃないかっ!!」

 

オリビア「・・・カイン君、例の準備は出来てる?」

 

カイン「はっ!

    恐らく問題ないかと」

 

オリビア「実は昨日から、神界の特殊部隊をこっそり

     学園都市に待機させてあるの」

 

マリア「何だとっ!?」

 

オリビア「彼らに、医師団役になってもらいましょう」

 

カイン「魔王妃様がお持ちの見本を見せて

    『飲むと数日後には死ぬ副作用がある』

    『しかしスグに治療すれば助かる可能性がある』

    とでも言って薬の破棄と使用者が

    名乗り出ることを促しましょう。

 

    それで少なくとも、ある程度の被害を防止出来ます」

 

和也「・・・それで全員が応じるとも思えませんが」

 

カイン「まあ、そうでしょうね。

    ですが、かなりの被害を抑えことが可能です」

 

和也「その集めた被害者は、どうするんですか?」

 

カイン「当然、見捨てるような真似はしません。

    可能なかぎりの研究と治療を―――」

 

メリィ「会議中、失礼します」

 

 いつの間に入ってきたのか。

 メリィさんが、リピスの隣に立っていた。

 

ミリス「こちらも失礼します」

 

 メリィさんに気を取られているうちに

 ミリスまで、学園長の隣に立っていた。

 

リピス「四界会議中に、秘密は無しだ。

    メリィ、そのまま報告しろ」

 

マリア「こちらもだ。

    ミリス、構わないから報告しろ」

 

メリィ「わかりました。

    では、こちらから。

 

    街の住民に、怪しい薬を配っている集団を

    捕縛致しました。

 

    これが、その薬です」

 

 そう言ってメリィさんが机に置いたものは

 袋に入った飴玉ぐらいの青い小さな粒。

 

 ・・・マジックマテリアルだった。

 

ミリス「こちらからも報告です。

    先ほど、学園内にて例のゴーレム化した生徒を

    1名を発見。

 

    緊急だと判断し、その場で『処理』しました」

 

マリア「・・・そうか」

 

リピス「これで、調べる必要も無くなったな・・・」

 

メリィ「捕縛した連中を尋問したところ

    主犯格の魔族は、学園都市内に潜伏中だそうです」

 

リピス「・・・メリィ。

    お前のところの部隊は、どれぐらいかかる?」

 

メリィ「少なくとも、2日は必要です」

 

リピス「では、お前は部隊を引き連れてこい」

 

メリィ「スグに動きます」

 

 そう言うと、まるで消えるようにスッと消えた。

 

マリア「こちらの部隊で一番近いのは、どこだ?」

 

ミリス「国境警備隊が一番近いですが、彼らでも

    最低3日は、かかってしまいますね」

 

マリア「緊急連絡を送っておいてくれ。

    万が一の保険にもなる」

 

ミリス「解りました。

    ついでに周辺に他の部隊が居ないかも

    調べておきます」

 

 そう言って、ミリスは部屋を出て行った。

 

オリビア「こちらは、薬の回収と被害者の隔離。

     あと市民の避難も進めていきますね」

 

カイン「では、準備に取り掛かります」

 

 カインさんも、部屋を退出する。

 

リピス「こちらは、犯人の捜索と支援を中心に行おう」

 

マリア「私は、全生徒達への説明と

    学園内に各種施設の設置を担当しよう」

 

和也「・・・俺は、どうすれば」

 

リピス「和也には、私と共に遊撃に加わって欲しい。

    まずは、フィーネ達と合流して

    状況を説明してやれ。

 

    あとで、私からそっちに行く」

 

和也「わかった」

 

オリビア「じゃあ、これで終了ってことでいいかしら?」

 

マリア「ああ、私は問題ない」

 

和也「・・・俺もだ」

 

リピス「では、これで四界会議を終了するっ!」

 

 その言葉と共に全員が立ち上がる。

 

オリビア「でもマリアちゃん。

     こういう話は、もう少し早くして欲しいわ」

 

リピス「確かにな。

    今回のように、後手に回って被害が拡大していては

    本末転倒だろうに」

 

マリア「・・・以後、気をつけるよ」

 

 その言葉を聞いたリピスとオリビアさんは

 部屋を出て行った。

 

 そして俺もそれにつられて出ようとした時だった。

 

 ガタッ!

 

 大きな音に振り返ると

 机に手を突いて身体を支える学園長が居た。

 

和也「大丈夫ですかっ!?」

 

マリア「ああ、すまん。

    どうも気苦労が絶えなくてな」

 

和也「アナタに何かあれば、フィーネも悲しみます。

   ・・・それに、今回の件を大事にしないと

   竜界も神界も言っていましたし、あとは今の状況を

   抜け切るだけです」

 

マリア「・・・婿殿は、真っ直ぐなんだな」

 

和也「どういうことです?」

 

マリア「今回の件。

    黙認するということは、これは大きな借りとなる。

    それはいつか、必ず魔界の不利に繋がる。

    ・・・それが、交渉というものだよ」

 

和也「でも、オリビアさんとは友人関係だと聞いています。

   そんな友人を疑うような―――」

 

マリア「だからだよ。

    オリビアは、公私を決して混同しない。

    神界の代表として必要なら、私を敵に回すことも

    厭わないだろう」

 

和也「・・・学園長」

 

マリア「もちろん、この私も同じだかな」

 

 不敵な笑みを浮かべる学園長を見て

 少しだけホッとする。

 

マリア「さて、婿殿。

    娘達を頼む」

 

和也「はい。

   必ず守ってみせます」

 

 その言葉と共に2人とも学園長室を出る。

 そして俺は、フィーネ達の所へと向かった。

 

 それから30分後。

 学園の闘技場内に、全生徒が集合していた。

 

セオラ「それでは、これより魔王妃様並びに神王妃様から

    重要な話がありますので、静かに聞くように」

 

 その言葉で、闘技場内のざわめきが消える。

 

マリア「皆にまず、伝えなければならないことが2つある。

 

    まず1つ。

    これを見て欲しい。

 

    この青い粒は、一時的に魔力を増大する効果を持つ薬だが

    同時に、薬を飲んだ者の身体を蝕んで、数日から数週間後には

    死に至る非常に強力な毒物だ。

 

    これが学園内で広まっていることは知っている。

    もしこの薬を飲んだという者が居れば

    この後、専門の医師が来るので、その指示に従うようにっ!」

 

 この話を聞いた一部から、ざわめきや動揺が広がる。

 

魔族男生徒「それは、本当ですかっ!?」

 

神族女生徒「使用禁止のための嘘じゃないの?」

 

 誰もが突然の話に疑う意見が多くなる。

 

マリア「疑うのなら、それでもいいが

    何もせずに放置すれば確実に死ぬ毒物だ。

 

    治療を受けないという選択も構わないが

    その場合、発作が起きてどれだけ苦しんで死のうが

    学園は、一切責任を負わないっ!

 

    そして、専門の医師に見てもらえるのも

    今回が最初で最後だ。

    何故なら、今後は治療に専念するため

    新たに患者が増えても対応できないからだ。

 

    もし薬を飲んだ者が居るのなら

    自分の命に関わることだ。

    よく考えてから自分で判断するようにっ!」

 

 ざわざわと声が大きくなる。

 それはそうだろう。

 そんなものだと知らずに飲んでいた連中は

 半ばパニックになりかけている。

 

マリア「静かにしろっ!

 

    ・・・ちゃんと治療さえ受ければ大丈夫だ。

    だからちゃんと全員申告するように」

 

 その言葉で、ようやく事態が収集する。

 

和也「・・・」

 

 安心する連中を見て、思わず胸が痛くなる。

 何故なら俺は『場合によっては助からない』ことを知っているからだ。

 

 もしここで本当のことを言えば

 パニックになり、避難や防衛なんて不可能だろう。

 それが必要な嘘だとわかってはいても、やはり俺には

 苦しいものだ。

 

マリア「次に2つ目だ。

 

    この学園都市に、この薬が毒薬だと知った上で

    あえて配り歩く連中が居る。

    そんな連中を見逃すことは出来んっ!」

 

オリビア「危険な薬だと知りながら配るような人達を

     これ以上放置しておくことは、出来ません。

 

     この件に対して、先ほど四界会議を開き

     全員一致で、この不届き者を処罰することが決まりました。

 

     現在、各軍隊が既にこちらに向かっています。

     しかし、少し予定より遅れてしまっているの」 

 

マリア「だから、諸君ら学園生徒の出番だ。

    この学園都市に住む全ての人達のためにも

    少しでも早く平和を脅かす者を捕まえる。

 

    各軍隊が到着するまでの間、捜索を手伝って欲しい」

 

オリビア「現在相手は、学園都市内部に潜伏中です。

     そして都市内の様々な場所にゴーレムを放って

     街を混乱させようとしているの」

 

マリア「街が戦場になる可能性が高い。

    よって一般市民の避難を捜索と同時に行うことになる。

    可能なかぎり市民を避難させることが優先だ」

 

セオラ「皆さんっ!

    普段から何のために辛い訓練をしてきたのか

    思い出してくださいっ!

 

    そして、よりにもよって学園フォースを敵に回すことが

    どれだけ無謀なことかを、皆さんが愚か者達に

    実力をもって教えてあげなさいっ!!」

 

 初めは不安が強かった声も、次第に熱を帯びてくる。

 

魔族女生徒「この私達全員を敵に回すなんて、バカじゃないの?」

 

神族男生徒「まったくだ。

      俺達を舐めたことを後悔させてやるぜっ!!」

 

竜族生徒「そんな奴らを捕まえるぐらい楽勝でしょ。

     軍隊が到着する前に、終わらせてやるわっ!」

 

魔族男生徒「今こそ、実力の見せ所さっ!

      ここで活躍して、俺の優秀さを四界中に

      アピールしてやるっ!」

 

 最後には、全員一丸となって雄叫びをあげるように

 声を上げている。

 

 これで、当面の士気は問題ないだろう。

 

 そして話が終わると同時に

 まずは、薬を飲んだ者の隔離が始まる。

 

 薬に手を出さなかった者達は、それぞれ数十人単位で

 チームを組むことになる。

 

 チームが出来た順番に、捜索や避難誘導といった

 役割分担の書かれた手書きの紙が配られる。

 文字は、いかにも急いで書いたという感じで

 切迫した状況が伝わってくる。

 

亜梨沙「・・・で、そろそろ話してくれてもいいと思うんですが」

 

 隣で、ずっと黙っていた亜梨沙が

 ついに耐えかねて口を開く。

 

ギル「確かに、大変なことになってきたな」

 

フィーネ「私、詳しい話を母様に聞いてくる」

 

 マリアの元に行こうとするフィーネの腕を握って

 引き止める。

 

和也「もう少し待ってくれ。

   ・・・たぶん、もうスグだ」

 

セリナ「あっ、和也くん」

 

エリナ「和也を見っけ」

 

和也「丁度よかった。

   呼ぶ手間が省けたよ」

 

セリナ「?」

エリナ「?」

 

 さすが双子と言うべきか。

 見事にシンクロした動きで首を傾げる。

 

和也「実は―――」

 

 俺は、四界会議の内容をみんなに伝える。

 話が進むにつれて、みんなの顔が険しくなる。

 

亜梨沙「そんなことが・・・」

 

ギル「・・・くそっ、何て奴らだっ!」

 

エリナ「魔法を・・・人の命を何だと思ってるのよっ!」

 

セリナ「何てことを・・・」

 

フィーネ「魔族に・・・そんな連中が居たなんて・・・」

 

 誰もが信じられないという顔をしていた。

 無理もない。

 俺も、そんなバカなことが行われていたという

 衝撃を未だに引き摺っている。

 

リピス「待たせたな」

 

和也「今、丁度話をしたところだ」

 

リピス「それは、良いタイミングだったな。

    これから私達も、バカ共の捜索と市民の避難支援に出る。

    ただし、我々の場合は他の生徒達とは

    まったく別の動きをすることになる」

 

和也「別の動き?」

 

リピス「これだけの戦力を一箇所に集めるのは

    相手の動きが読めない以上は

    効率が悪いと言えるだろう。

 

    よって、我々も基本的には

    分担作業で活動することになる」

 

亜梨沙「それだとあまり他のチームと大差ないですね」

 

リピス「まあ基本は、そうだな。

    だが、本命を見つけた場合や

    それぞれで対処不能な状況になった場合は

    全員が合流して、全力で『処理』する」

 

ギル「基本は、遊撃で支援中心。

   状況によって、一点集中って感じだな」

 

リピス「そうだ。

    学園都市は、意外と大きいからな。

    それぞれをカバー出来るようにしておかなければ

    いざという時に、間に合わない可能性がある」

 

セリナ「大体は、わかりました。

    それでどういう分担にしますか」

 

リピス「亜梨沙とギルは、東側の遊撃を担当。

    私の護衛をしている竜族3人も連れて行け。

 

    セリナとエリナは、北側へ。

    北側は、まだ最前線の指揮が居ないから

    前線指揮を任せたい。

 

    和也とフィーネは、私と共に楽しい西側遊撃だ。

    一番手薄なエリアになるから、覚悟しておくんだな」

 

亜梨沙「どうして私が、こんなの(ギル)と一緒なんですか」

 

ギル「何気に扱い酷いなぁ」

 

リピス「人手が無いんだよ。

    文句なら後でいくらでも聞いてやる」

 

セリナ「ちなみに南側は、どうなってるんですか?」

 

リピス「神王妃どのが宰相と一緒に担当してくれている。

    また避難場所であり本陣となる学園は

    魔王妃どのが居てくれる。

 

    そして本陣と各エリアとの連絡を中継する

    中間施設は、セオラが担当することになっている。

 

    ちなみにフォースの教師達も

    それぞれの配置に向かっている最中だ」

 

エリナ「何だか、向こうの方も騒がしいね」

 

リピス「既に住民の避難が始まっているからな」

 

ギル「手回しが良いねぇ。

   よくこんな短時間で、ここまで準備出来るもんだな」

 

リピス「魔王妃どのや神王妃どの。

    そしてこの私も、大戦争経験者であり

    種族の代表としても、色々とやってきたんだ。

 

    これぐらい、やれないことはないよ」

 

亜梨沙「話が変わって申し訳ありませんが・・・。

    いくら避難してるにしても

    騒ぎが大きくなりすぎてませんか?」

 

 遠くに聞こえていた声が大きく、そして慌しくなる。

 

アイリス「大変です、リピス様っ!!」

 

 いきなり駆け込んできたのは

 前に紹介されたリピスの護衛を担当しているという竜族生徒。

 

リピス「何があった?」

 

アイリス「街中で、例のゴーレムが大量発生していますっ!」

 

 その言葉で、その場に居た全員に衝撃が走る。

 

リピス「何だとっ!?」

 

アイリス「また、避難誘導をしていた一部の学園生徒も

     ゴーレム化して市民を襲っていますっ!

 

     しかも完全にゴーレム化していないため

     現場が大混乱ですっ!」

 

リピス「完全にゴーレム化していない?」

 

アイリス「はいっ!

     身体の半分だけとか、頭と手だけとか

     部分的にゴーレム化しているため

     支援部隊も、攻撃を躊躇ってしまい

     被害が拡大していますっ!」

 

リピス「仕方が無い。

    話は、聞いての通りだ。

 

    これより分担して、ゴーレムの駆除をする」

 

亜梨沙「でも、ゴーレムって元は・・・」

 

リピス「気になる気持ちは理解出来るが

    部分的でもゴーレム化してしまえば

    助かる見込みは無い。

 

    ・・・迷いは、死を招くぞ」

 

亜梨沙「・・・言われなくても、わかってますよ」

 

リピス「それでは、一度解散だ。

    また全員無事で会おう」

 

エリナ「当然じゃない。

    さっと終わらせてみせるわ」

 

セリナ「ですね。

    被害を可能なかぎり減らしてみせます」

 

ギル「俺達の街で好き勝手やってくれたんだ。

   この借りは、絶対に返してやるぜ」

 

亜梨沙「・・・兄さん。

    絶対に無理しちゃダメですからね」

 

和也「それは、こっちの台詞だ。

   ・・・怪我するんじゃないぞ」

 

 そして亜梨沙とハイタッチをして別れる。

 

フィーネ「アナタは、必ず私が護ってみせるわ」

 

和也「気持ちは、嬉しいが

   それでフィーネに怪我なんてして欲しくない。

 

   だから俺が、フィーネを護る」

 

フィーネ「和也・・・」

 

 フィーネが、そっと抱きついてくる。

 それをゆっくりと抱きしめる。

 

フィーネ「そんなアナタも、大好き」

 

和也「俺もだよ」

 

リピス「・・・そろそろいいかね?」

 

 その声に振り向くと、ジト目でこちらを見るリピスが居た。

 

和也「あ、ああ。

   すまないな・・・」

 

フィーネ「それじゃ、行きましょう」

 

リピス「まったく・・・」

 

 少し気合が空回りしたような微妙な雰囲気になってしまったが

 それでも現場に向かう俺達の気持ちは、一つだった。

 

和也「こんなバカげたこと・・・。

   今すぐ終わらせてやるっ!!」

 

 

 

 

第12章 四界会議 ―完―

 

 

 

 





まず、ここまで読んで頂きありがとうございます。

盆休みブースト最後になる投稿です(笑)
それなりにペースで進行出来たので
まずまずと自画自賛してます。

フィーネ編も、あと少しといった感じとなりました。
これが終わると本作も終了・・・とはなりません。
そのあたりも含めて、次話以降もお楽しみ下さい。


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第13章 それぞれの戦い

はじめに


この第13章は、特に残酷な描写が
かなり使用された章となっておりますので
苦手な方は、ご注意下さい。




 

市民「や、やめてくれっ!

   あ・・・ああ、ああぁぁぁーー!!」

 

 ゴーレムが市民を生きたまま喰らう。

 

 骨を砕く生々しい音が周囲に響く。

 

魔族男生徒「くそっ!

      間に合わなかったかっ!」

 

魔族女生徒「とりあえず倒すわよっ!」

 

 2人同時にゴーレムの背中から斬りかかろうとした時だった。

 こちらに振り返ったゴーレムを見て2人は、攻撃を中止して

 後ろに下がり距離を取る。

 

 魔族女生徒の方は、口に手を当て苦しそうな顔をしていた。

 

魔族男生徒「・・・ちぃ」

 

 思わず舌打ちする魔族男生徒。

 

 振り向いたゴーレムは、口に食べかけの人の頭を銜えたままで

 足元には、頭の無い死体が転がっていた。

 半分砕けた頭から、色々なものが出ている。

 

 2人は、その衝撃的な光景に思わず怯んだのだ。

 

魔族男生徒「くそ、化け物め」

 

魔族女生徒「しばらく夢に出てきそう・・・」

 

 ゴーレムは、食べかけの頭を完全に飲み込むと

 魔族生徒達に飛び掛る。

 

 しかし―――

 

魔族男生徒「舐めるなよっ!」

 

 飛び掛ってきたゴーレムを炎盾で受け止める。

 

魔族女生徒「確か身体の中心にある魔力コアだったわよねっ!」

 

 炎盾にはじかれて後ろに下がるゴーレムに

 炎矢を3本放つ。

 

ゴーレム「グルァァ!!」

 

 ゴーレムの左腕が魔導砲の形になると

 そこから大量の炎矢が放たれる。

 

魔族女生徒「聞いてた通りだけど・・・ふざけすぎでしょっ!」

 

 自身の炎矢は、一瞬で相殺され

 相手の攻撃だけが大量に降り注ぐ。

 

 たまらず2人は、横にあるカフェのガラスを破りながら

 店の中に逃げる。

 

 今回渡された手書きのメモには

 ゴーレムの特徴と共に、人間をゴーレムに変えて操り

 世界への反乱を企てる集団という話の流れで

 ゴーレムが元は、人であるということや

 魔法が使えるなどの情報を支援に出た生徒達には伝えていたのだ。 

 

 黙っていても不完全なゴーレムが出現する以上

 いずれバレることになる。

 だから先に断片的な事実を公開することで

 表に出ては困る真実のみを上手く伏せることに成功していた。

 

 種族を代表して様々なことを取り仕切っていた王妃達の

 情報操作の上手さに、誰もが真実に気づくことはなかった。

 

 

 ガシャ!

 ガシャ!

 

 割れたガラスの欠片を踏みながら店内に入ってくるゴーレム。

 

 すると、机の下から外へ向けて何かが飛び出そうとする。

 

ゴーレム「ガァァ!」

 

 魔導砲となっている腕を外に向け、その飛び出す何かに向けて

 炎矢を3つ発射する。

 

 外には、炎矢が全て命中して燃えるカフェの椅子があった。

 

魔族男生徒「うおぉぉっ!!」

 

 奥のカウンターから魔族男生徒が飛び出して

 ゴーレムに斬りかかる。

 

 しかしゴーレムは、反対側の腕を剣状にして受け止める。

 

魔族女生徒「もらったっ!!」

 

 魔族男生徒の後ろから飛び出した魔族女生徒が

 ゴーレムの胸に向けて剣を突く。

 

魔族女生徒「パワー・ファイアッ!」

 

 炎の強化魔法を付与した突きで、ゴーレムの強化された外殻を貫く。

 

ゴーレム「グォォォォッ!!」

 

 叫び声と共に魔力コアが破損して

 崩れ落ちるゴーレム。

 

魔族男生徒「・・・後味が悪いな」

 

魔族女生徒「・・・ええ。

      人を殺すために訓練してきたはずなのに

      いざとなると、こんなにも気分が悪いなんてね」

 

 学園フォースでは、確かに戦争がもし再開された場合でもという

 想定も考慮され、実戦が中心となっている。

 もちろん、生徒同士の戦いも『いつか友人相手でも戦うことがある』と

 意識させるためではあるのだが、やはり判定ネックレスがあるせいで

 『相手が死ぬことはない』という安心感が『死』という概念から

 生徒達を遠ざけてしまっている。

 

 実際にこうして『死と隣り合わせの戦場』になれば

 今までの訓練なんてお遊びだったと誰もが感じることだろう。

 

魔族男生徒2「おい、大丈夫かっ!?」

 

魔族男生徒「ああ、こっちは大丈夫だ」

 

魔族男生徒2「なら、こっちを手伝ってくれ。

       ゴーレムが集団で行動していて突破出来ないんだ」

 

魔族男生徒「ちぃ、やっかいだな」

 

魔族女生徒「じゃあ、行きましょう」

 

 応援要請を受けた魔族生徒達は、仲間の元へと走っていった。

 

 街中にバラ撒かれた薬のせいで、様々な場所から

 ゴーレムが出現する。

 結果的に学園都市全体が戦場と化し

 生徒達は命がけの戦いを強いられていた。

 

 

 

 

 

第13章 それぞれの戦い

 

 

 

 

 

神族男生徒「よしっ!

      倒したぜっ!」

 

 ゴーレムを1体倒して、ガッツポーズをする生徒。

 

竜族生徒「上よっ!!」

 

 近くに居た竜族生徒の声に上を見上げる神族男生徒。

 

神族男生徒「―――え?」

 

 グシャッ!!

 

 何かの砕ける音と共に、民家の屋根から

 ゴーレムが1体飛び降りてくる。

 

ゴーレム「アアァ! ガアアァ!!」

 

 竜族生徒を威嚇するように叫ぶゴーレム。

 その足元には、踏み潰されて動かなくなった神族生徒。

 

竜族生徒「・・・あまり付き合いのある奴じゃなかったけど

     一応、敵討ちぐらいはしてあげるわっ!」

 

 竜族生徒が1歩踏み出した瞬間、ゴーレムの片腕が変化して

 魔導砲の形状となる。

 

 そしてそこから氷矢が大量に発射される。

 

竜族生徒「―――ッ!」

 

 儀式兵装の手甲で魔力爆発させないように

 器用に氷矢を弾きながら、高速でゴーレムに接近する。

 

ゴーレム「グルァッ!!」

 

 反対の腕を棍棒のような大きな鈍器に変化させ

 竜族生徒に振り下ろす。

 

 しかし―――

 

竜族生徒「どこ見てるのよ」

 

ゴーレム「!?」

 

竜族生徒「はっ!!」

 

 振り下ろした先に、竜族生徒は既に居なかった。

 ゴーレムの後ろに回りこんでいた竜族生徒の一撃が

 無防備な背中に突き刺さる。

 

ゴーレム「ガ・・・ガァッ!!」

 

 竜族生徒の一撃は、背中を貫通して内部にある

 魔力コアまで達していた。

 

 コアが壊されて形状が維持出来ずに、土塊に戻るゴーレム。

 

竜族生徒「学園5階級を舐めないで欲しいわね」 

 

 ゴーレムだった土塊にそう言い放つと

 神族生徒の死体を見る。

 

竜族生徒「・・・まだ、弔う暇がないの。

     ごめんなさい」

 

 そう言うと竜族生徒は、また戦いに戻っていった。

 

 

 

 

 細い路地をひたすら走る人影。

 

神族女生徒「さあ、こっちに来なさいっ!」

 

 後ろから迫る3体のゴーレムを誘き寄せながら逃げる神族女生徒。

 

神族女生徒「この先が、お前達の死に場所よっ!」

 

 路地を抜けた先にある広場で

 仲間達が待機していて、一斉攻撃を仕掛ける作戦になっている。

 

 だからゴーレム達から完全に逃げ切らないように

 調整しながら逃げる。

 

 そして路地を抜け、神族女生徒は仲間の待つ広場に出た。

 

神族女生徒「―――」

 

 一瞬、神族女生徒の思考が停止する。

 

 仲間が待っているはずの広場が、血に染まっていた。

 辺りには肉片が転がっており、上半身だけの死体や

 腕や足といった身体の一部が散乱している。

 

 そしてゴーレム達が死体を奪い合って喰らう。

 

 骨を砕く音。

 血が飛び散る音。

 肉を引き裂く音。

 

 異様な光景が、そこには広がっていた。

 

神族女生徒「あ・・・あ、あああ・・・」

 

 その場に崩れ落ちるように座り込む神族女生徒。

 今までチームを組んできたクラスメイトや友人達が

 皆、喰われている光景に呆然とするしかなかった。

 

 ガンッ!

 

 後ろから聞こえる音に神族生徒は、ゆっくりと振り返る。

 そこには先ほどまで誘導していたゴーレムが壁を掴みながら

 路地から出てきたところだった。

 

 その音に、周囲のゴーレム達が振り返る。

 そして・・・。

 

 周囲のゴーレム全てが神族女生徒を見る。

 

神族女生徒「い、いやぁぁぁ・・・

      た・・・たべないでぇぇぇぇ!!」

 

 目が無いはずの顔。

 なのに視線を感じて、一気に恐怖が爆発してパニックになる神族女生徒。

 恐怖から立ち上がることが出来ずに

 手を使って後ろに下がることしか出来ない。

 

 しかし後ろは、無常にも壁だった。

 完全に追い詰められた神族女生徒に、ゆっくりと近づくゴーレム達。

 

神族女生徒「死ぬのは嫌ぁぁぁ!!

      死にたくない死にたくない

      死にたくない死にたくない

      死にたくない死にたくない

      死にたくない死にたくないぃぃ!!」

 

 神族女生徒を囲むゴーレム達の輪が、小さくなっていく。

 そして一斉に飛びかかろうとした瞬間―――

 

?「はぁぁぁっ!!」

 

 掛け声と共にゴーレムが数体、崩れ落ちる。

 突然の出来事に、ゴーレム達が周囲を警戒する。

 

?「後ろが、無防備すぎますね」

 

 一瞬何かが閃くと、ゴーレムがまた崩れ落ちる。

 そして最後に残った1体も

 

?「これで終わりだっ!」

 

 物陰から出てきた人影の一撃に魔力コアを潰されて崩れ落ちる。

 

アイリス「これで全部見たいですね」

 

ギル「・・・間に合わなかったか」

 

亜梨沙「そこのアナタ。

    大丈夫ですか?」

 

神族女生徒「嫌ッ!!

      来ないでッ!!

      食べないでぇぇ!!」

 

 錯乱している神族生徒が、暴れだす。

 

亜梨沙「まったく・・・」

 

 そう言うと、素早く距離を詰めて

 神族女生徒の頬を平手で叩く。

 

 バチン!と良い音が響く。

 

神族女生徒「あ、ああ・・・」

 

亜梨沙「意識はありますか?

    こちらの声は、聞こえてますか?」

 

神族女生徒「みんな・・・食べられたの・・・。

      いつも一緒だったのに・・・一緒に学園を卒業しようねって

      ・・・約束してたのにっ!!」

 

 亜梨沙が無言で、もう一度平手で頬を叩く。

 

亜梨沙「しっかりしなさいっ!!

    アナタは、生き残ったんですっ!!

    生き残ったアナタだけが、彼らのことを語り継げるんですよっ!!

 

    彼らの死を無駄にする気ですかっ!?

    アナタは、彼らの分まで生きて・・・生き抜くんですっ!!」

 

神族女生徒「・・・ああ、あああぁぁぁっ!!」

 

 その場で号泣する神族女生徒。

 

カリン「周囲を調べましたが、ゴーレムは居ないようです」

 

リリィ「この辺りは、もう人も居ないみたいですねぇ~」

 

ギル「くそっ!

   どんどんと押されてるじゃないかっ!」

 

アイリス「予想以上にゴーレムが強いのと

     大量に居て、どこから来るのかも解りませんからね。

     地の利は、こちらにあるはずですが

     見通しの悪い市街地戦という状況は、こちらには不利です。

     一瞬の判断ミスが、死に繋がるような状態が続くため

     実力者でも、そう長くは持ちません」

 

カリン「私達なら、大丈夫ですっ!」

 

リリィ「カリンは、元気ですねぇ~」

 

アイリス「・・・私達も移動した方が良さそうですね」

 

ギル「賛成だ。

   情報も伝わって来ない以上、この場に留まるのは

   危険すぎるからな」

 

亜梨沙「立てますか?」

 

神族女生徒「・・・ごめんなさい。

      もう、大丈夫だから・・・」

 

 泣きやんだ神族女生徒も立ち上がる。

 

ギル「状況が変化しすぎている。

   一度、下がって状況を整理しようぜ」

 

 ギルの言葉で方針を決めた彼女達は、神族女生徒を連れて

 一度、中継地点に向かうのだった。

 

 

 ―――北側エリア

 

セリナ「必ずゴーレム1体に対して3人以上で戦いましょうっ!

    決して単独で行動しないようにっ!!」

 

エリナ「住民の避難が終わるまでの辛抱だよっ!

    みんな、頑張ろうっ!!」

 

 戦いながらも周囲への声かけを続ける神族王女姉妹に

 生徒達も奮起する。

 

魔族男生徒「神族ばかりに良いカッコさせるかよっ!」

 

竜族生徒「私達も、負けないわよっ!」

 

 ゴーレムの予想以上の強さに、いち早く気づいたセリナは

 北側エリアのチーム編成を変更して

 捜索活動を放棄し、救助活動のみに専念させた。

 

 その結果、北側エリアは目立った被害が出ずに済んでいる。

 

セリナ「深追いも無用ですっ!

    各自、持ち場の防衛に努めて下さいっ!」

 

 声をかけながらも、目の前に迫ったゴーレムの一撃を回避し

 隙だらけになった側面から、一撃でゴーレムを斬り裂く。

 

神族女生徒「くっ!」

 

 ゴーレムの体当たりに、民家の壁に激突して

 動けなくなる神族女生徒。

 

エリナ「させないっ!

    アイスジャベリンッ!!」

 

ゴーレム「グオオォッ!!」

 

 動けなくなった神族女生徒に近づくゴーレムを

 エリナが放った氷の槍が貫く。

 

神族女生徒2「手を貸すわっ!」

 

 起き上がることの出来ない神族女生徒を、別の生徒が起こす。

 

神族女生徒「・・・ありがとう」

 

神族女生徒2「お礼なら、エリナ様に言うべきね」

 

エリナ親衛隊A「おい、そこの2人っ!

       俺達が抑えている間に下がれっ!」

 

神族女生徒2「遠慮なく、そうさせてもらうわ」

 

 そう言うと、怪我をした神族女生徒と共に

 後ろに下がっていく神族女生徒2。

 

エリナ親衛隊B「俺達が居るかぎり、ここは通さんぞっ!」

 

エリナ親衛隊C「エリナ様親衛隊の実力を見せてやるっ!」

 

ゴーレム「ゴガァァッ!!」

 

 ゴーレムの1体が、こちらに向けて突進してくる。

 

エリナ親衛隊A「いくぜっ!

       デルタフォーメーション!」

 

 その掛け声と共に、ゴーレムを3方向から囲むように立つ3人。

 

エリナ親衛隊B「フォーメーションアタァァァック!!」

 

 一斉に3方向からの攻撃を防ぎきれず

 1人の攻撃が魔力コアを捉える。

 

 コアを砕かれたゴーレムは、その場で崩れ落ちる。

 

エリナ親衛隊C「離脱ッ!!」

 

 そして離脱という掛け声と共に3人は、それぞれに姿を消した。

 

ゴーレム「ウガガァァッ!!」

 

 また別のゴーレムが、こちらに向けて歩いてくる。

 そして先ほどのゴーレムが崩れ落ちた場所まで来た瞬間

 

エリナ親衛隊A「いくぜっ!

       デルタフォーメーション!」

 

エリナ親衛隊B「フォーメーションアタァァァック!!」

 

エリナ親衛隊C「離脱ッ!!」

 

 彼らが去った後には、崩れ落ちるゴーレムの姿。

 

ゴーレム「グルルルゥッ!」

 

 周囲のゴーレム達が集まり、少しづつ警戒するように進んでくる。

 今度は、3体のゴーレムがまとまって迫ってくる。

 

 すると、ゴーレム達の目の前に転がる小さな塊。

 

 バンッ!!っという音と共に煙が周囲に広がる。

 

ゴーレム「ガァァァ!!」

 

 ゴーレム達が殺気立ち、周囲の建物を壊すように暴れる。

 そんな中―――

 

エリナ親衛隊A「デルタフォーメーション!」

 

エリナ親衛隊B「フォーメーションアタァァァック!!」

 

エリナ親衛隊C「離脱ッ!!」

 

 彼らの声が聞こえたと思えば、何かの崩れ落ちる音。

 

 周囲の煙が消えた時、ゴーレムの数は2体になっていた。

 

ゴーレム「ギギィィッ!!」

 

 ゴーレム達は、周囲の建物の中を調べ始める。

 だが、それぞれに分かれた瞬間―――

 

エリナ親衛隊A「デルタフォーメーション!」

 

エリナ親衛隊B「フォーメーションアタァァァック!!」

 

エリナ親衛隊C「離脱ッ!!」

 

 その掛け声に、反対側に居たゴーレムが

 突進してくる。

 

 しかし、現場に着いた時には

 既に土塊があるだけだった。

 

 最後のゴーレムが周囲を警戒しながらゆっくりと後ろに下がる。

 そして細い路地に入ろうとした瞬間だった。

 

エリナ親衛隊A「デルタフォーメーション!」

 

 探していた声の主。

 神族3人が姿を現す。

 

エリナ親衛隊B「フォーメーションアタァァァック!!」

 

 3方向からの同時攻撃に、為す術なく魔力コアを破壊される。

 

エリナ親衛隊C「離脱ッ!!」

 

 そして彼らは、また姿を消した。

 

魔族女生徒「・・・優秀、と素直に認めたくないなぁ」

 

竜族生徒「・・・同感」

 

 そんな彼らの活躍を後ろの仲間達は

 微妙な笑みを浮かべながら見ているのだった。

 

 

 

 

竜族生徒「はぁ、はぁ」

 

 何度も後ろを確認しながら走る竜族生徒。

 

竜族生徒「あっ」

 

 曲がり角にある小さな花壇に足を引っ掛けて

 倒れてしまう。

 

竜族生徒「いったぁ~」

 

 フラフラしながらも立ち上がろうとした瞬間だった。

 

 ドスンッ!という大きな音と共に

 目の前に何かが落ちてきた。

 

 ゆっくりと視線を上に上げる。 

 

ゴーレム「ゴガッ! ギィ!」

 

 1体のゴーレムが目の前に居た。

 

竜族生徒「あ・・・ああ・・・」

 

 突然の恐怖から、思考が止まり

 その場から動けなくなる竜族生徒。

 

 ゴーレムは、大きな口を開けながら

 竜族生徒に迫る。

 

?「させませんわっ!!」

 

 その言葉と共にゴーレムの身体が真っ二つになる。

 

竜族生徒「・・・え?」

 

アクア「何をボサっとしているのかしら?

    化け物に食べられる趣味でも?」

 

竜族生徒「そ、そんなのある訳ないじゃないっ!」

 

アクア「なら、さっさと後ろに下がりなさい」

 

竜族生徒「・・・ありがとう」

 

 小さな声で、感謝の言葉を言うと

 そのまま後ろに走っていく竜族生徒。

 

アクア「まあ、素直ではありませんわね」

 

 ため息をつくアクアは、気配に気づいて上を向く。

 

ゴーレム「グヴァァァ!!」

 

 大きな建物の屋根から、ゴーレムがアクアに向かって

 飛び降りてくる。

 

?「ウインド・クローッ!!」

 

 何処となく聞こえてきた声と共に

 まるで風で出来た槍のようなものが、落下するゴーレムに向かって飛ぶ。

 そして空中でゴーレムを貫いた。

 

 身体の中央を大きく貫かれたゴーレムは

 空中で吹き飛ばされながら土塊になる。

 

アクア「・・・余計なお世話ですわ。

    あの程度なら余裕で対処出来ましたのに」

 

 物陰から出てきた槍を持つ魔族に

 アクアは、感謝ではなく苦情を口にする。

 

アレン「それは、済まなかったな」

 

アクア「・・・あら?

    どこかで見たことがあると思えば

    男の人族に負けた槍使いですわね」

 

アレン「・・・こちらも、どこかで見たと思えば

    女の人族に負けた神族だったな」

 

アクア「・・・あら。

    ボロ負けしていた方に、言われたくありませんわ」

 

アレン「・・・負けは、負けだろう。

    そんな些細なことに拘るから、負けたのではないか?」

 

 喧嘩を始める2人に気づかれないように

 ゆっくりと近づくゴーレム達。

 

 だが―――

 

アレン「邪魔だっ!!」

アクア「邪魔ですわっ!!」

 

 2人がそれぞれ別方向に居たゴーレムを一撃で倒す。

 

アクア「・・・これでは、話も満足に出来ませんわね」

 

アレン「この話は、ゴーレムどもを片付けた後だ」

 

アクア「不本意ですが、仕方ありませんわね」

 

 その言葉を最後に、2人は別々の方向へと

 走っていた。

 

 

 

 

 ―――東側第二門前

 

 東側には、普段は使用されない裏口用の門が存在する。

 現在は、ゴーレムの侵入を防ぐために閉ざされているが

 東側で逃げ遅れた支援部隊は、この門に居る部隊の支援を受け

 この裏門を通って脱出する手筈になっていた。

 

 だが―――

 

魔族男生徒「くそっ!!

      誰も居ないのかっ!?

      頼む!! 開けてくれっ!!」

 

 門を叩く魔族生徒。

 だが門は、一向に開く気配がない。

 

?「どうしたっ!?

  何故、門が開いてないんだっ!?」

 

 後ろから来た魔族が、声をかける。

 

魔族男生徒「ああ、レイスか。

      ・・・見ての通りさ。

      返事も無ければ門も開かない」

 

レイス「誰かは居るはずだろうっ!!

 

    誰か門を開けてくれっ!!

    このままじゃ全滅するっ!!」

 

?「ちょっとっ!!

  どうして門が開いてないのよっ!!」

 

 後ろからまた1人、魔族生徒が走ってきた。

 

魔族男生徒「ファナか。

      見ての通りだ。

      門に誰も居ないみたいで返事すらない」

 

ファナ「そんなはず無いわっ!!

    ここは、中央拠点にも近いし

    何かあればスグに誰か見に来るはずでしょ!!」

 

レイス「落ち着け。

    現に開かない以上、どうしようもない」

 

 レイスとファナ。

 闘技大会のチーム戦で活躍した魔族5階級コンビ。

 彼らも戦ってはいたが、彼らの居たエリアは

 もう全滅寸前だった。

 退路も断たれた彼らにとって、唯一の逃走経路となるのが

 この門だった。

 

 しかし、この門が開かない以上

 彼らに逃げ道は、無くなった。

 

ファナ「落ち着ける訳がないでしょうっ!?

    足止めしてるみんなが、もうスグこっちに来るのよっ!?」

 

魔族男生徒「門が開かない以上、俺達にもう逃げ場はない。

      今から壁沿いに進んでもゴーレムの群れの中に

      突っ込むだけだからな」

 

レイス「・・・ここで戦うしかない。

    門が開くかどうかなんて関係ない。

    もう、ここ以上に戦いやすい場所がない」

 

魔族男生徒「確かに。

      狭い通路なんかは、分断されやすくて

      散々だったからな。

 

      門前の広場以上の場所なんて、もうない」

 

ファナ「誰か居ないのっ!?

    門を開けてっ!!」

 

 何度も門を叩くが、一向に返事すらない。

 

 そうしている間にも、足止めを終えて門に駆け込もうとする

 集団が到着する。

 

 彼らは、開いていない門を見て愕然としていた。

 

神族男生徒「くそっ!!

      どうして開かないんだよっ!!」

 

竜族生徒「こうなったら、門を破壊しましょうっ!!

     それしかないわっ!!」

 

レイス「・・・この門は

    そう簡単に潰せる代物じゃないぞ。

 

    こんなに厳重な魔法が―――」

 

ファナ「レイスッ!!

    ゴーレムが来たわっ!!」

 

 足止めされていたゴーレムの集団が

 ゾロゾロとレイス達に迫ってくる。

 

レイス「くそっ!!

    戦うしかないっ!!」

 

 追い詰められたレイス達は

 開かない門を背に、懸命に戦い続けた。

 

 

 そのころ、中央の拠点付近に発生したゴーレムを倒した小隊が

 東門の異変に気づいて向かっていた。

 

神族女生徒「レア、本当なの?

      東門が突破されてるかもしれないって」

 

 走りながらも隣に居るクラスメイトに声をかける神族生徒。

 

レア「ちょっとおかしいのよ。

   突破されてるかもってのは、あくまで可能性の話よ?」

 

イオナ「でも、一切報告してこない以上は

    突破されている可能性もありますよね」

 

 レアとイオナ。

 闘技大会のチーム戦で活躍したコンビ。

 彼女達は、一向に状況報告をしてこない第二東門がおかしいと

 周辺のゴーレム掃討後、こうして独自に確認するために

 向かっていた。

 

神族男生徒「だが、独断で向かっちまってよかったのか?

      報告を入れてからの方が・・・」

 

レア「それだと、もし突破されていたら

   周辺の部隊を含めて手遅れになるわ」

 

神族女生徒「アンタって昔から、そうやって『先生~』って

      何でも先生に頼ってたよね」

 

神族男生徒「そんな昔の話を持ち出すなよっ!!」

 

レア「ああ、そうだったわね」

 

イオナ「そうだったんですか?」

 

神族男生徒「ああ、くっそ。

      後輩の前で何て話をしてくれるんだよっ!!」

 

神族女生徒「残念ながら、イオナちゃんは

      レアにしか興味ないんだから気にしても意味ないわよ」

 

イオナ「べ、別に先輩だけってことは・・・」

 

レア「あら、イオナ。

   私じゃ不満?」

 

イオナ「そんな訳ないじゃないですかっ!」

 

レア「やっぱりイオナは、可愛いなぁ」

 

イオナ「からかわないで下さいっ!」

 

神族女生徒「さて、そろそろ門が見えてきたわ」

 

神族男生徒「誰かが戦ってるな」

 

 門に近づくにつれ、爆発音や金属音などが

 血の臭いと共に伝わってくる。

 

 そしてレア達が門の前についた時だった。

 周囲の物陰に隠れるようにして

 多数の生徒が、座り込んでいる。

 

 そして門の向こうでは、誰かが戦っている音がする。

 時折、叫び声も聞こえてくる。

 

レア「どうなってるのっ!?

   どうして門を開けないのっ!?」

 

 近くに隠れていた生徒の胸元を掴んで引っ張り上げる。

 

魔族男生徒「―――だよ」

 

レア「何?」

 

魔族男生徒「怖いんだよっ!!

      だってみんな喰われていったんだぞっ!!

 

      目の前で、何人も化け物に喰われて

      『痛い、助けて』って叫び声を上げながら

      生きたまま喰われていったんだよっ!!」

 

レア「・・・ふざけるなっ!!」

 

 レアは、魔族男生徒を思いっきり殴り飛ばした。

 

魔族男生徒「お前達は、見たこと無いから言えるんだっ!!

      耳に残ってるんだよっ!!

 

      骨を噛み砕く音がっ!

      肉を引き裂く音がっ!!

      血を吸う音がっ!!!」

 

レア「そんなの、私達だって何度も見てきたわよっ!!

   それでも、怖いのを我慢して必死に戦ってるのっ!!

 

   そんな下らない理由で、仲間を見捨てるなぁぁぁ!!!」

 

 レアは、立ち上がろうとしていた魔族男生徒を

 また思いっきり殴り飛ばした。

 

イオナ「・・・先輩」

 

神族女生徒「レア、もういいでしょ。

      そんな奴を殴っても、どうしようもないわ」

 

神族男生徒「おいっ!

      もうスグ、門が開くぞっ!

      準備してくれっ!!」

 

 その言葉に、周囲に隠れていた生徒達は

 蜘蛛の子を散らすように、走って逃げていった。

 

レア「・・・いい?

   門が開いたら、周囲の生存者を助けて

   スグまた門を閉じる。

 

   門の閉じるタイミングが重要になるわ」

 

神族男生徒「そっちは、任せとけ」

 

神族女生徒「いつも通り、レアが突撃。

      イオナちゃんがレアの援護。

      私は、負傷者の回収ってことで」

 

レア「それで行きましょう。

   じゃあ、お願い」

 

神族男生徒「よっしゃ、行くぜ!」

 

 掛け声と共に門を開く。

 門は、ゆっくりと音を立てながら開いていく。

 

レア「はぁぁぁぁ!!」

 

 門から飛び出すと、目の前に居たゴーレムを

 一突きで倒す。

 

 そのまま戦っている魔族生徒の横からゴーレムに攻撃を仕掛けて

 魔力コアを破壊する。

 

魔族男生徒「・・・あんた等・・・は?」

 

レア「助けにきたわっ!

   急いで後ろに下がってっ!!」

 

魔族男生徒「・・・遅かった・・・じゃない、か。

      俺より、他の連中を・・・助けてやって、くれ」

 

 よく見ると魔族男生徒の身体中に傷があり

 大量の血が流れている。

 

 ・・・どう見ても助からないことは、すぐにわかった。

 

 周囲には、もう死体ばかりが転がっていた。

 全滅かと諦めかけたその時、物陰から門に向かう

 人影が現れる。

 

 魔族の1人が、負傷者だろうか、1人を引っ張るように

 門へと向かっていた。

 途中、神族女生徒が手伝って負傷者を門の中へと

 入れることに成功する。

 

 それを見届けると、周囲をもう一度見渡して

 生存者が居ないことを確認し、レア達も門の中に避難する。

 門が閉まるタイミングも、かなり良かったが

 それでもゴーレム達が突進して、滑り込もうとする。

 

 このまま殺到されては、門が閉まるのを妨害されかねない。

 イオナが狙撃を続けるも、迫るゴーレム達の数が多すぎて

 勢いを止められそうにない。

 

 レアは、決意して門の外に出る。

 

イオナ「何してるんですか先輩ッ!!」 

 

レア「このままじゃ、この門まで危ない。

   だから門が閉まるまで、誰かが外で

   あいつらを止めなきゃっ!!」

 

イオナ「そんなことしたら、先輩がっ!!」

 

 レアを止めようとしたイオナだったが

 いつの間にかレアの隣に居た魔族男生徒に

 気づいて立ち止まる。

 

魔族男生徒「これは・・・俺の、仕事・・・だ」

 

レア「貴方、何を―――」

 

魔族男生徒「あとは・・・頼む、ぜ・・・」

 

 レアの方を向いて、そう言葉を残すとレアを掴む。

 

魔族男生徒「うおおぉぉぉっ!!!」

 

 最後の力を振り絞るような声で

 レアを門の中へと投げ込んだ。

 

魔族男生徒「クソ・・・どもめ・・・。

      くた、ばり、や・・・がれ・・・」

 

 荒い呼吸のまま、ゴーレム達に向き直る。

 いつの間にか手にしていたのは、魔力を込めると爆発する

 大きな岩を破壊する時などに使われる魔力石。

 

魔族男生徒「みんな・・・今・・・逝く、ぜ・・・」

 

 そう呟くと迫ってくるゴーレムの群れの中に飛び込んだ。

 その瞬間、魔力石が爆発してゴーレム達ごと粉々になる。

 爆風の中、門が完全に閉まる。

 

レア「・・・結局、ほとんどダメだったじゃないっ!!」

 

 レアは、自分の無力さに苛立っていた。

 もう少し早く気づくことが出来れば、もっと多くの命を

 助けられたかもしれないと。

 

神族男生徒「・・・そう自分を責めるな、レア。

      お前は、よくやったさ」

 

イオナ「・・・先輩」

 

 先輩が苦しんでいるのに、どう声をかけていいかもわからず

 ただ見ているだけの自分が腹立たしかった。

 

 そんな時、助けた2人の手当てをしていた

 神族女生徒が戻ってくる。

 

イオナ「助かった方は、大丈夫でしたか?」

 

神族女生徒「・・・イオナちゃん。

      今は、行かない方がいいわ」

 

 その言葉と雰囲気に、嫌な予感がして

 ふと助けた2人の方を見る。

 

イオナ「あの2人は、確か・・・」

 

 イオナの見つめる先に、門から助け出せた2人が居た。

 しかし―――

 

ファナ「しっかりしてっ!」

 

レイス「そんなに・・・騒ぐ、なよ」

 

 レイスの腹部には、大きな穴が開いており

 そこから傷口が見えないほど大量の出血をしていた。

 

 起き上がることの出来ないレイスに

 ファナが膝枕している状態だ。

 

ファナ「どうして私をかばったりしたのよっ!」

 

レイス「・・・好きな、女を・・・護るのに・・・

    理由って・・・必要、か?」

 

ファナ「それでアンタが死んだら、何にもならないじゃないっ!」

 

レイス「はは・・・それも、そう・・・だな・・・」

 

ファナ「・・・私も。

    私も・・・アンタのことが好き・・・。

    ・・・大好きなのっ!!

    だから・・・お願い・・・死なないでっ!!」

 

レイス「なんだ・・・そう、だった・・・のか・・・。

    ・・・余計な、ことを・・・考えず、に・・・

    気持ち・・・言えば、よかった、な」

 

ファナ「今度、買い物に付き合ってくれるって言ってたでしょっ!!

    約束破る気っ!?」

 

レイス「そう・・だった、な」

 

 レイスは、空を見上げて、ゆっくりと手を伸ばす。

 まるで空を掴もうとしているかのようだった。

 

レイス「・・・ああ。

    死に・・・たく・・・ねぇ、なぁ・・・」

 

 次の瞬間。

 レイスの身体から、力が抜ける。

 伸ばしていた手も、地面に落ちた。

 

ファナ「・・・嘘でしょ。

    ねぇ、返事してよ」

 

 軽く揺すってもレイスは、何も反応しない。

 

ファナ「い・・・いや・・・。

    逝かないで・・・逝かないでよっ!

    嘘でしょ・・・嘘って言ってよっ!

 

    一緒に買い物行くって言ったじゃないっ!

    私達、お互いに好きだって言えたじゃないっ!

    ・・・私達・・・これからじゃない・・・。

 

    ああ・・・あああ・・・。

    あああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!」

 

 レイスを抱きしめながら、ファナは

 ひたすら泣き続けた。

 

 

 

 ―――西側エリア

 

 一番手薄なエリアであり、また運が悪いことに

 ゴーレムの出現数も一番多いエリアとなったため

 死傷者数も、他のエリアと比べて圧倒的となっていた。

 

和也「うおおぉぉっ!!」

 

フィーネ「消えなさいっ!!」

 

リピス「はっ!!」

 

 倒しても倒しても現れるゴーレム達に

 西側エリアに配置された生徒や教師達の大半が

 既に死んでいた。

 

 生き残っている者も、その殆どが

 怪我をしており、満足に戦えない状態だった。

 

 そんな中、常に最前線に居て

 周囲の仲間を助けながら戦い続ける3人が

 彼らの唯一の希望であった。

 

魔族男生徒「我らがフィーネ様に続けっ!!」

 

竜族生徒「勝利の女神に愛されたリピス様が

     いらっしゃるのよっ!!

     必ず勝てるわっ!!」

 

神族男生徒「アイツらの仇は、俺が取ってやるっ!!」

 

 怪我をして前に出れない者達も

 必死に魔法で援護をしていた。

 

和也「こいつら、全然減らないな」

 

フィーネ「それだけ多くの人が犠牲になってるのよ。

     ・・・最低な連中だわ」

 

リピス「本当に気分が良いものではないな。

    さっさと本命を見つけ出したいところだ」

 

 文句を言いながらも、周囲のゴーレムを倒し続ける3人。

 そんな時だった。

 

?「これは、これは。

  こんなところに貴重な素材があるじゃないですか」

 

 暢気な声に、一瞬何が起こったのかと思ってしまう。

 

?「これでは、落ち着いて話が出来ませんねぇ」

 

 そう言うと、小さな音が鳴る。

 すると周囲のゴーレム達は、一斉に攻撃を止めて

 声の主の周囲に綺麗に並ぶ。

 

 そこには、見たことのある男が居た。

 

和也「ヴァイス・・・お前、何やってるんだ?」

 

 そこに居たのは、魔法の血族であり

 俺達のクラスメイトであるヴァイス=フールスだった。

 

 

 

 

 

第13章 それぞれの戦い ―完―

 

 

 

 

 





ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

少し予定外に早く文章が仕上がったので
ゲリラ的に投稿してみました。

フィーネ編も、残すところあと少し。
最後を引っ張られても『早く続きを読ませろっ!!』と
なるだけなので、出来るかぎり早めに上げたいとは
思っています。
単行本とかで、物凄く良い場面で『次回に続く』となると
もどかしくなりますからね(笑)

前にも書きましたが、フィーネ編で本作が終了とは
なりません。
実は、まだまだ続きます。。。

それでは、私は次話製作に入らせて頂きますので
このあたりで失礼します。


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第14章 黄金の翼

和也「ヴァイス・・・お前、何やってるんだ?」

 

 ゴーレム達に囲まれて、俺達の目の前に現れたのは

 魔王の血族、ヴァイス=フールスだった。

 

?「おや?

  この素材の知り合いでしたか。

  それでは、ややこしいですので

  自己紹介をさせて頂きましょうかねぇ」

 

 俺は、ビックリした。

 普段から尊大な男が、こんな奇妙な話し方をするところを

 見たことがないからだ。

 

ダレス「私の名前は、ダレス=ドーレ。

    人は、私を天才魔術師と呼びます」

 

 ヴァイスそっくりの姿形に声をした男が

 そう名乗った。

 

和也「・・・どういうことだ?」

 

ダレス「ああ、そうでした。

    実はですね。

    この肉体の持ち主である魔族と融合して

    この身体を貰った訳ですよ」

 

リピス「融合・・・だと?」

 

ダレス「聞いて下さいますか?

    私の苦労話を・・・」

 

 

 

 

 

 

第14章 黄金の翼

 

 

 

 

 

 

 

 咳払いをしてからダレスと名乗る男は、語り始める。

 

ダレス「初めは、強化兵計画という実験をしていたんですよ。

    人工的に強い兵士を作ろうって話だったんですけどね。

 

    しかし、失敗続きで上手くいかなかったんですよ。

    どうしても人の姿を保ったままというのが

    上手くいかなかった。

 

    でも、そこに拘らなければ素晴らしい作品だったんです。

    なのに上の連中は、あろうことか研究そのものを封印したっ!!

 

    もう少しで、もっと完全なものが出来そうだったんですよっ!

    だから私は、こっそり計画を続けました。

 

    そしてたどり着いたんですよっ!」

 

 男は、天を仰ぎながら両手を大きく広げた。

 

ダレス「初めから完璧な生命体が作れないのなら

    既存の生命体をベースにして、より良いものにすればいいとっ!!

 

    人をベースにして、まずは強化兵計画の成果を利用した

    強化したゴーレムを生成する。

 

    そしてその魔力コアに、制御用の魔法石を埋め込み

    あとは、マジックマテリアルを利用した

    吸収元素を生み出すだけっ!!

 

    これでゴーレムは、喰らった相手の能力や経験を吸収して

    自動進化するっ!!

    そして魔力コアとして利用している魂の一部を刺激して

    強制的に魔法を発動させることも可能となったっ!!

 

    そう、彼らは喰えば喰うほど強くなるっ!!」

 

 非道な研究成果を、誇らしげに語る男。

 その満面の笑みに狂気を感じる。

 

ダレス「しかも、最近になって吸収元素の操作が可能になりましてね。

    なんとっ!!

 

    こうして吸収した相手の姿形を真似ることも

    出来るようになったんですよっ!!」

 

和也「・・・じゃあヴァイスは」

 

ダレス「はい。

    私が喰らいましたよ」

 

和也「お前・・・」

 

ダレス「おっと、勘違いなさらないで下さいよ。

    この魔王の血族様は、自分から実験体に志願なさったのですから」

 

和也「どういうことだ?」

 

ダレス「何でも、もっと力が欲しいとおっしゃっていましてね。

    それでご協力して差し上げたのですよ。

 

    現にほら、私と共に彼の力が・・・。

    魔王の血族という血の力が、吸収元素によって

    最高の状態になっています」

 

和也「・・・あいつ。

   何てバカなことを」

 

 あれほどの力を持ちながら、安易な力に頼ろうとするなんて

 俺には信じられなかった。

 

リピス「では、このバカ騒ぎも

    お前の仕業ということか」

 

ダレス「はい・・・そうですよ、竜王女様。

    全ては、我が研究のためです」

 

フィーネ「ふざけないでっ!!

     アナタのおかげでどれだけの人が死んだと思ってるのっ!!」

 

ダレス「これは、姫様。

    勘違いをなさっては困ります。

 

    これも全ては、魔族のため。

    世界を魔族が制するための、まあちょっとした犠牲ですよ。

 

    この研究で、アナタの翼だって蘇るんですよ?

    どうです、悪い話じゃないでしょう?」

 

フィーネ「・・・」

 

 フィーネは、魔界では公然の秘密とされているが

 背中に翼を持っていない。

 

 正確には、元々八翼あり将来を期待されていたが

 とある事件で、翼を全て失ってしまう。

 

 そのことで一時は、次期魔王候補から外れたとされる

 声もあったが、彼女は血族が持つ血の力である

 体内にて魔力増幅をする力で、六翼持ちと

 同等以上の魔力量を出せるまでに成長した。

 

 そのためそういった声は、小さくなったが

 未だに『翼の無い魔王など認められない』という

 一部の貴族達からは、良く思われてはいない。

 

ダレス「どうです?

    私に協力して頂ければ

    その願いを叶えて差し上げますよ?」

 

フィーネ「・・・愚問ね」

 

 フィーネが手を上げると、一瞬で炎矢が5本出現する。

 しかも通常よりも大きなサイズだ。

 

 それが全てダレスに向かって飛んでいく。

 しかし―――

 

 バシュ!!

 

 ダレスの目の前で、炎は全て何かにぶつかって消されてしまう。

 

ダレス「やれやれ。

    交渉どころではなさそうですねぇ」

 

 ダレスの周りのゴーレム達が、どんどんと一つに融合し始める。

 

ダレス「では、仕方がありません。

 

    魔王本家のその力。

    そして金竜の能力。

 

    全て私が取り込んであげましょうっ!!」

 

 ダレス本人も、ゴーレム達と融合して

 大きな肉の塊が出来上がる。

 

和也「・・・ちっ。

   やっかいだな」

 

 思わず舌打ちが入る。

 

 肉塊は成長を続け、やがて形が出来上がる。

 

 頭には大きな角が2本生え

 口には鋭い牙がある。

 

 下半身は蛇のようになっていて

 背中には大きな黒い六翼。

 

 手には巨大な儀式兵装の剣。

 周囲の民家が小さく見えるほど大きな巨体。

 

 その圧倒的な存在感に、誰もが言葉を失う。

 

ダレス「どうです、みなさん。

    素晴らしいでしょう、この姿。

    そしてこの力」

 

 そう言うと、下半身部分の後ろの先を

 まるで鞭のように地面に叩きつける。

 

 地面が一瞬揺れて、周囲の民家は崩れ落ちる。

 

フィーネ「ただ大きいだけでしょっ!!」

 

 いつもより魔力を込めた特大の火球が

 ダレスに向かって飛んでいく。

 

 しかし―――

 

ダレス「あはははははっ!!

    その程度では、傷すら出来ませんよっ!!」

 

 火球は確かに命中したが、まったくダメージが入っていない。

 

ダレス「魔法というものは、こうして使うのですよっ!

 

    四属性アローッ!!」

 

 奴が手をかざすと

 

 ファイアアロー

 ウォーターアロー

 ウインドアロー

 アースアロー

 

 これら基本四属性のアロー系魔法が

 全て同時に雨のように降り注ぐ。

 

 しかもアローのサイズが、人と同じぐらいの特大サイズなため

 降り注ぐ範囲全てを破壊し、瓦礫の山へと変えていく。

 

 逃げ遅れた周囲の生徒達も次々と魔法の直撃を受けて

 倒れていく。

 

リピス「これは、無理だっ!!

    生徒達を一度、後ろに下がらせろっ!!」

 

 巻き添えになっている生徒達にこれ以上の被害が出ないように

 一度距離を取らせる。

 

フィーネ「四属性同時だなんて、聞いたことがないわよっ!!」

 

和也「もう何でもありだなっ!」

 

リピス「こうも簡単にありえないことが起きると

    やる気が無くなるな」

 

 翼無しでも圧倒的な魔力で防御するフィーネに

 魔眼を駆使して回避にする和也や

 竜族特有の身体能力で避けるリピス。

 

 ただその場から逃げることしか出来ない

 生徒達からすれば、目の前の化け物も

 リピス達も、そう大差が無いと思えただろう。

 

ダレス「あははははっ。

    逃げ回っているだけでは、私は倒せませんよ」

 

 上機嫌に笑いながら四属性魔法を乱射するダレス。

 

フィーネ「どうしてこんな無茶が出来るのよっ!!」

 

ダレス「なに、簡単なことですよ姫様。

    命と儀式兵装の数です」

 

 化け物の顔が、ニヤっと笑みを浮かべる。

 

リピス「それは、どういうことだ?」

 

和也「・・・まさか」

 

フィーネ「和也、わかるの?」

 

和也「取り込んだ者の能力を奪えるという話なら

   それは何も魔王の血族の力や気麟だけじゃない・・・。

   翼や魔法の属性・儀式兵装も、取り込んでいると考えるべきだ」

 

リピス「・・・なるほど。

    そういうことか」

 

フィーネ「・・・それって」

 

ダレス「いやぁ、人族なのに頭が良いですねぇ。

    ・・・そうですっ!

 

    様々な者を取り込めば、四属性それぞれの使い手なんて

    スグに集まります。

    そして同時に儀式兵装も手に入ります。

    取り込み続けた儀式兵装を、1つに纏め上げれば

    通常ではありえないほど強力な儀式兵装が完成します。

 

    しかも、気麟や翼といったものも融合させ1つとすることで

    これらも、非常に強力な効果を発揮します。

    なので、四属性同時に魔法を放つということも

    今の私には、造作も無いことなのですよっ!!」

 

 天を仰ぎながら、両手を広げて

 自慢そうに語るダレス。

 

リピス「はぁっ!!」

 

 その隙を突いて、近くにあった大きめの瓦礫を

 ダレスに向かって投げつける。

 

 しかし、ダレスに当たる直前

 何か壁のようなものに当たって砕け散る瓦礫。

 

リピス「・・・やはり、気麟か」

 

ダレス「ええ。

    竜族にも随分と『ご協力』頂きましたからねぇ」

 

 魔法・気麟・翼・魔王の血族の増幅能力。

 

 目の前の化け物は、その全てを持っている。

 

和也「まったく・・・どうするんだよ、これ」

 

リピス「奴とて不死身という訳ではないだろう」

 

フィーネ「でも、防御を抜くだけでも

     かなりの威力が必要よ?」

 

和也「問題は、ダメージを入れたとして

   素直にいくのか、どうかだな」

 

リピス「なら、試してみようじゃないかっ!」

 

 そう言うとリピスがダレスに向かって走り出す。

 

ダレス「何をしようが無駄ですよっ!」

 

 大きな強化儀式兵装の剣をリピスに向かって振り下ろす。

 

 その巨大さと重さは、まるで建物が倒れてきたかのような

 衝撃だった。

 

 リピスは、真横に飛んで回避したものの

 その風圧に押し戻される。

 

リピス「くそっ。

    大きいというだけで、既にやっかいだな」

 

和也「動くだけで周囲の建物を潰してるぐらいだからな」

 

フィーネ「なら、近づかなければいいのよっ!」

 

 今度は、フィーネによる魔法攻撃。

 しかしやはりというべきか、気麟によって防がれる。

 

ダレス「その程度の魔法・・・防御魔法を使うまでもありませんね」

 

 そう軽々とダレスは言うが、先ほどフィーネの放った

 特大の火球は、それだけで上級魔法クラスの破壊力があったはずだ。

 

 これが効かないとなると、かなり面倒な話になってくる。

 

 気麟は、魔法とは違うモノであるため

 魔眼で見切ることも出来ない。

 

和也「本格的に打つ手が無くなってきたなぁ」

 

リピス「全員集まれば、何とか出来るかもしれんが・・・」

 

フィーネ「でも、みんなもゴーレム討伐で動けないでしょ」

 

 そう、ここに集まっていたゴーレムだけが融合して

 このダレスが生まれただけの話で

 学園都市の、その他エリアには、まだまだゴーレムが大量に居る。

 

 逆にもし全員が合流したとしても、学園都市に居る全てのゴーレムに

 合流され融合してしまうと、逆に相手が強化されてしまうという

 ことにもなってしまう。

 

 そのため、あまり迂闊なことが出来ないのが現状だ。

 

リピス「とりあえず、一撃入れてみないと

    始まらないな」

 

和也「確かにな。

   俺とリピスで接近しよう。

 

   フィーネは援護を頼む。

   どちらかが接近出来れば、一撃決めるってことで」

 

フィーネ「了解、援護するわ」

 

リピス「和也、遅れるなよっ!」

 

和也「いやいや。

   竜族の全力に追いつける訳ないだろ」

 

 全力で駆けるリピスについて行こうとするも

 周囲のまだ残っている建物や瓦礫を利用した

 立体的で変則的な動きに、いくら普段から身体を

 鍛えているといっても人族である俺が

 ついていけるはずもない。

 

ダレス「いいですねぇ。

    やはり研究素体は、元気がないと」

 

 巨大な儀式兵装が、リピスに向かって振り下ろされる。

 

フィーネ「させないわっ!

     魔力増幅ッ!!

     フレイム・ジャベリンッ!!」

 

 ダレスの一撃が近くに命中するだけでも危険なので

 それをフィーネにけん制してもらう。

 

 血族としての増幅能力を利用した炎槍が

 気麟を抜いて、儀式兵装の横腹に命中する。

 その衝撃で、リピスを狙った一撃が大きく反れる。

 

 それを好機と見たリピスは、正面ではなく側面に

 回り込むために、移動距離を大きく取る。

 必然として相手に立て直す時間を与えることにもなるが

 それを阻止するのが、遅れて駆け込む俺の役目だ。

 

 バランスを立て直そうとしたダレスに

 正面から斬り込む。

 

和也「紅ッ!

   最大出力ッ!!」

 

 大剣と化した紅で、まず気麟に攻撃する。

 

 バチバチッ!っと軽い火花が散ったが

 何とか切り裂くことに成功して

 更にダレスに接近する。

 

ダレス「ほぅ!

    人族の分際で、なかなかやるじゃないですかっ!!」

 

 目標を俺に定めたダレスが

 尻尾を薙ぎ払う。

 

フィーネ「ファイア・アローッ!!」

 

 8本の巨大な炎矢が、ダレスの尻尾の進行方向上に

 突き刺さる。

 

 尻尾で地面に刺さっている炎矢を薙ぐ瞬間

 衝突の衝撃で一瞬、尻尾の動きが遮られる。

 一瞬というべき僅かな時間ではあるが

 それが8回続けば、それは俺にとって

 十分、尻尾を回避する時間となる。

 

 後ろに大きく2度ほど跳躍して尻尾の範囲から

 退避しながら、紅の刀身部分をダレスの尻尾に投げつける。

 

 刀身が刺さり爆発するも

 その一撃を気にしていないかのように

 今度は、自分の背後にまで回り込んでいたリピスの

 迎撃をするために振り返る。

 しかし―――

 

ダレス「ッ!?」

 

 連続で魔法を食らい続けた尻尾が、反転途中に崩れ落ち

 バランスを崩してしまう。

 

ダレス「まだですっ!!

    四属性シールドッ!!」

 

 翼と血族による魔力増幅だろうか

 一瞬で膨大な魔力が集まり

 瞬時に四属性それぞれのシールドが展開される。

 

 そこまでしたとしても、目の前でバランスを崩した時点で

 それは・・・リピスを前にしての致命的な隙となる。

 

リピス「これで、終わりだッ!

    ドラゴン・ブレスッ!!」

 

 竜族が持つ気麟の上位と言われ、金竜しか持っていないとされる

 幻の気麟・・・『金麟』

 

 その金麟を使用したドラゴン・ブレス。

 この威力以上の竜の息吹を放てる竜族など、この世に居ないだろう。

 

 気麟を抜き、翼と血族による魔力増幅をした

 四属性の魔法による盾を吹き飛ばし

 周囲の建物や瓦礫を巻き込み、後ろにあった

 魔法が付与された壁も破壊し、地面すら抉って

 あのダレスの巨体すら宙に舞った。

 

 凄まじい轟音と発光で、目を開けていられない。

 

 そして数秒後、音と光が収まり

 俺は、ゆっくり目をあける。

 

和也「・・・」

 

 そこには街の面影など無かった。

 

 周囲の建物も、瓦礫も、石畳の道も、街の壁も

 すべてが消え去り、目の前には

 土が抉れて大きな穴が開いた地面と

 その場所から地平線へと伸びる破壊の後だけだった。

 

フィーネ「・・・さすが金竜ってところかしら」

 

 さすがのフィーネも、驚いているようだった。

 気麟による竜の息吹なら何度も見たことがあるが

 威力がケタ違いすぎる。

 

 改めて、金竜という存在の恐ろしさを実感する瞬間だった。

 

リピス「はぁ・・・」

 

 よく見ると、大きく開いた穴の前に

 リピスが立っていた。

 

和也「この威力は、凄いな」

 

 俺は、リピスの隣まで移動する。

 

リピス「だからいつもは、使うことが無いのだがな」

 

 さすがに少し疲れたという感じのリピス。

 

和也「しかし、やっとこれで終わったわけだ」

 

?「何が終わったのですか?」

 

 気を抜こうとした瞬間、聞き覚えのある声に

 咄嗟に身構える。

 

 リピスやフィーネ達も、身構えながら周囲を見渡している。

 

 すると、大きな穴の地面からダレスが出てくる。

 

ダレス「・・・さすが竜界最強と呼ばれる金竜。

    素晴らしい力ですね」

 

 左腕を失った上半身だけのダレスが、不敵な笑みを浮かべていた。

 

リピス「まだ生きていたのか。

    案外、しぶといな」

 

フィーネ「でも、そんな姿でどうするのかしら?」

 

ダレス「ふはははっ。

    ご心配には及びませんよ姫様」

 

 あくまで余裕なダレスに嫌な予感がする。

 

和也「フィーネッ!!

   ダレスにトドメを刺せッ!!」

 

フィーネ「はぁっ!!」

 

 俺の声に反応したフィーネが、ダレスに炎槍を放つ。

 だが―――

 

ダレス「無駄ですよっ!」

 

 炎槍がダレスを狙うも、ダレスが右腕を犠牲にして

 直撃を回避する。

 

ダレス「これで終わったと思ってもらっては困ります。

    ここからが・・・私の研究の真髄ですっ!!」

 

 ダレスの身体が急に再生を始める。

 しかも物凄い速さで。

 

 3人とも言葉を一瞬失っている間に

 ダレスは、完全な姿に戻る。

 

ダレス「どうです、みなさんっ!

    これこそ、吸収元素の力ですっ!!」

 

 まるでゴーレムの再生を見ているようだが

 その再生速度が尋常じゃない。

 

リピス「・・・ちっ」

 

 思わずリピスも苦い顔をして舌打ちをしている。

 竜の息吹は、その性質上

 一度使用するとしばらく撃てないどころか

 通常の気麟すら一時的に使用出来なくなる。

 そしてそれは金麟も例外ではない。

 

和也「・・・くそ」

 

フィーネ「・・・」

 

 あれだけの再生速度なら、もう奴を完全に消し去る必要がある。

 しかも・・・一撃で、だ。

 

 リピスでも、半分ほど残っていた。

 金麟の回復を待ってフィーネとの同時攻撃で

 はたして、完全に消し去ることは可能なのか?

 

ダレス「金麟を一定時間使えなくなった金竜に

    翼の無い魔王の血族と

    儀式兵装を持たない人族ですか。

 

    そんな者達で、私に勝てるとまだ思っているのですか?」

 

 対してダレスは、余裕な表情に戻っている。

 まだまだ力は、ありそうだ。

 

ダレス「せっかく金竜の一撃を見せて頂いたのですから

    お返しをしないといけませんねぇ」

 

 そう言うと両手を空に向けて大きく広げる。

 

ダレス「さあっ!

    いきますよっ!!」

 

 翼・血族の力で魔力が増幅され

 儀式兵装によって形を得る。

 問題は、魔力量だ。

 これまでのがお遊びだったというような

 ケタ違いの魔力量が集まりだす。

 

 ダレスの目の前に巨大な魔方陣が現れる。

 

和也「―――ッ!!!」

 

 魔眼でそれを確認した瞬間

 胸を握りつぶすかのような魔力量の圧力と

 これから何が起きるかの想像がつく。

 

和也「リピスッ!!

   フィーネッ!!

 

   魔方陣の射程から、出来るだけ離れろぉぉぉぉぉ!!!」

 

 全力の声を出し、そして俺自身も走る。

 リピス達も、俺の言葉で何かを察したのだろうか

 全力で魔方陣の前から逃げる。

 

ダレス「これぞ・・・神の一撃ッ!!!」

 

 魔方陣の中で圧縮され続けた魔力が

 ダレスの声と共に放出される。

 

 その光に音など無かった。

 ただ学園都市のほぼ中央を、分断するように

 駆け抜けていった。

 

 そして、光の通った場所には

 文字通り何も残らなかった。

 

和也「・・・」

 

 まるで何かで綺麗に切り取ったかのように

 その部分だけ消えていた。

 

 運良くフォースに直撃しなかったものの

 フォースの外側の城壁が一部範囲内だったため

 消えていた。

 

 あの城壁は、軍事拠点の城よりも強力だと

 言われているほど強固な壁だったのに。

 

ダレス「あはははははっ。

    そうですっ!!

    私こそが神っ!!」

 

 上機嫌で笑うダレス。

 

リピス「これは・・・どうしたものか」

 

フィーネ「・・・冗談じゃないわ。

     何が神よっ!!」

 

 こいつを今ここで倒さなければ

 俺達に未来は無いだろう。

 

 しかし、こちらの全力で倒しきれなかった以上

 何か対策をしなければならない。

 

 セリナ達と合流するか?

 いや、北側に移動したら

 今度は北側の連中を巻き込むどころか

 あっちのゴーレムと合流されてしまう。

 

 亜梨沙達では、正直火力が足りない。

 火力で言えば、王妃達か?

 いや、2人が同じ場所に居てくれればよかったが

 2人は位置的にも大きく離れている。

 

 どの道、俺達がこの場を離れれば

 目の前の化け物による都市の破壊が加速する。

 

 援軍が来る様子もない。 

 正直、打つ手が無い。

 

 ここまでなのか?

 そんな想いも過ぎるが、諦めるつもりはない。

 俺は、皆を守るために努力してきた。

 それを自分で否定することだけは、絶対にない。

 

 あるはずだ。

 この状況をひっくり返せる何かが。

 

 ・・・どこだ。

 

 考えろっ!

 探せっ!

 

 お前の力は、こんなものかっ!!

 そう自分で自分を励ましていた瞬間だった。

 

和也「・・・俺の・・・力・・・」

 

 そのワードに何かが引っかかる。

 

 ・・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 懐かしい記憶と共に思い出される過去。

 そして・・・

 

 フィーネと目が合うと彼女も同じことを

 考えていたのだろうか。

 こんな状況にも関わらずこちらに笑顔を向けた。

 

 そして俺の目の前まで来ると、俺の両手を

 握り締めてきた。

 

フィーネ「やっと、アナタの役に立てるのね」

 

和也「・・・俺は、そんなつもりで

   君を助けた訳じゃない」

 

フィーネ「・・・違うわ。

     これは、私がしたいことなの。

     大好きなアナタのために、やりたいことなの」

 

和也「・・・フィーネ」

 

フィーネ「お願い、和也。

     私に力を貸して」

 

和也「・・・はぁ。

   絶対に無理だけはするなよ」

 

フィーネ「ええ、もちろん」

 

 そしてフィーネは、こちらに背中を向ける。

 

 俺は、その背中に手で触れる。

 手に『懐かしさ』と『熱さ』が伝わってくる。

 

和也「我が手に力を」

 

 俺がそう呟くと、フィーネの背中が一瞬だけ光る。

 

フィーネ「じゃあ、行ってくるわ」

 

 そう言ってフィーネは、ダレスの正面に出る。

 

ダレス「ふはははははっ。

    そろそろお遊びもここまでです。

 

    姫様方を揃って吸収し

    私は、より完全な神へとなるのですっ!!」

 

リピス「・・・ふん。

    神とは、愚かだな」

 

フィーネ「ええ、そうね。

     ダレス、貴方はただの化け物よ」

 

ダレス「何とでも言って下さい。

    どの道、姫様方は、ここで終わりなのですから」

 

フィーネ「終わるのは、貴方よ」

 

 フィーネの足元に巨大な魔方陣が展開される。

 周囲に膨大な魔力が集まりだす。

 

 その量が急速に増加し続け、やがて先ほど

 自分が使用した魔方陣の魔力を超えもなお

 魔力の集まる速度も、その量も衰えるどころか

 更に加速している現実に、ダレスも驚愕の顔をしていた。

 

ダレス「・・・一体、何なのです。

    この力は、どういうことですかっ!」

 

リピス「・・・魔王の血族としての力だけではない。

    何だ、この魔力量は・・・」

 

フィーネ「これが、私の本当の力」

 

 フィーネの背中から、ゆっくりと『何か』が出てくる。

 

ダレス「バ、バカなっ!!

    姫様は、確かに失ったはずっ!!」

 

リピス「しかも、あの色は・・・」

 

 フィーネの背中に現れたのは

 彼女が失ったとされる八翼。

 

 しかも、黄金に輝く光翼だった。

 

 

 

 

 

 

 

第14章 黄金の翼 ―完―

 

 

 

 

 

 




まずここまで読んで頂きありがとうございます。

フィーネ編も残すは、後1話となりました。
最後は、連続で投稿したいので
数時間後には最終話も投稿させて頂く予定です。

・・・間に合うと良いな(切実)。

あと、違う場所から前回までの感想を頂きました。
『死んでいったキャラ達に救いを』というお便りですが
これに関しては、既に考えていることがありますので
今後続く物語と共に、お待ち頂けるとその内に・・・。

それでは、大至急製作に戻ります。。。


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最終章 全ての始まり

昔、人界で事件が起こった。

 

 『儀式の日』とのちに呼ばれることになる事件だ。

 

 儀式によって、その日に儀式兵装を手にすることになっていた

 人族の子供達が、当時の魔族強硬派達による独断によって

 一方的に惨殺された。

 

 その事件で、現場に居たのが俺とフィーネだ。

 もちろんお互い敵同士。

 

 俺は、フィーネと戦うも魔法によって敗北する。

 まあ、魔法といっても当時の彼女は

 自分の血による増幅と八翼の増幅を制御出来ず

 ただ大量の魔法を塊として放つことしか出来なかった。

 

俺「・・・君の、名前は?」

 

少女「・・・どうして?」

 

俺「・・・どうしても、知りたくなった」

 

フィーネ「・・・あっそ。私は、フィーネ」

 

フィーネ「・・・もういい? じゃあ死んで。いらないから。」

 

 そう言うと少女は薙刀を振り上げた。

 俺の、死ぬ瞬間だ。

 

 目の前の少女は機械的に

 無表情なまま、黒き刃を振り下ろす。

 

 俺は、目を瞑る。

 

 儀式兵装が風を切る音がして―――

 

 

 

 

 

最終章 全ての始まり

 

 

 

 

 

?「きゃぁぁぁぁぁーーーーーー!!!」

 

 甲高い叫び声が聞こえてきた。

 俺は、そっと目を開ける。

 

 そこには、血だらけで倒れるフィーネと名乗った少女が居た。

 背中を大きく切られている。

 

魔族男「まったく・・・こんなに簡単にいくとはなぁ」

 

魔族女「ええ。

    恨まないで下さいね、姫様。

    これも全部、貴女が悪いんですから」

 

魔族男「こんなガキのころから八翼だって?

    冗談じゃない。

    お前に居られると、俺達が魔界の実権を

    握れなくなるだろうが」

 

フィーネ「・・・だ、騙した、のね」

 

魔族女「騙される方が悪いんですよ、お姫様。

    あはははははっ」

 

魔族男「さて、ここから楽しいショーだ」

 

 そう言うと倒れたフィーネを足で踏みつけ

 背中の翼を引っ張る。

 

魔族男「何枚目で死ぬと思う?」

 

魔族女「そうねぇ、6枚目ぐらいかしら?」

 

魔族男「じゃあ、やるぜ」

 

 そういうと、男は自分の儀式兵装で

 フィーネの翼を1枚切り取る。

 

フィーネ「あああぁぁぁぁぁぁっ!!!

     痛いっ!!

     止めてぇぇぇぇ!!!」

 

魔族男「さあ、次は2枚目だ」

 

魔族女「こうなると、八翼も惨めねぇ」

 

 こうして、八枚の翼を拷問のように

 1枚づつ切られ、全ての翼が無くなる。

 

フィーネ「・・・」

 

 途中で痛みに耐え切れずに失神したフィーネを

 無造作に掴むと、まるでゴミを投げるように

 適当に投げる。

 

魔族男「まだ生きてやがる」

 

魔族女「でもまあ、放置しても死ぬでしょ」

 

魔族男「確かにな。

    楽に死なせることなねぇな」

 

 魔族達は、他に生き残っている者が居ないか

 周囲を探し始める。

 

 投げ捨てられたフィーネは

 俺の目の前に落ちてきた。

 

 あまり動くことが出来ない俺は

 ゆっくりだが、彼女に近づく。

 

フィーネ「・・・母様、痛い。

     ・・・助けて」

 

 うつろな目で、必死に助けを求める少女。

 

和也「・・・」

 

 一瞬、殺してあげた方が楽になるのでは?

 そんな考えが浮かんだ。

 だが―――

 

和也「・・・彼女は、生きるべきだ」

 

 だが、この場に包帯も無ければ薬もない。

 このままでは確実に死ぬだろう。

 もし自分が動けたとしても、魔族達に見つかって

 俺が殺されるだけだ。

 

 それでも、何としてでも

 彼女を助けたかった。

 自分を殺そうとした相手だなんて

 その時には、もう考えてもいなかった。

 ただ、救いを求める彼女を助けたかった。

 

 そんな時だった。

 突然俺の心に声が響いた。

 

?「お前は、何を望む。

  何を願う」

 

和也「・・・誰だ」

 

 周囲を見渡すも、誰も居ない。

 しかし声は、確実に聞こえる。

 

?「お前は、何を欲するのだ」

 

和也「・・・俺が、欲しいもの」

 

 この場を抜け切るだけの力?

 ・・・いや、魔族達にもし負ければ意味が無い。

 

 救援?

 来るまでに、彼女が耐えられないだろう。

 

 なら、俺が望むものは?

 願うことは?

 欲したものは何だ?

 

和也「・・・俺は」

 

 段々と想いが形になる。

 

和也「・・・俺は、彼女を助けたい」

 

 そして彼女の血だらけの背中に手を当てる。

 

和也「彼女を助けて欲しい。

   そして、彼女にあの美しい翼をもう一度。

 

   今度は、もう失うことがないように

   強くて、立派で、でもとても綺麗な

   そんな四界で一番の翼を彼女にあげて欲しい」

 

?「それがお前の想いか。

  ・・・その願い、確かに聞き届けた」

 

 その瞬間、儀式に使用されるはずだった

 魔方陣が起動して1つの儀式兵装を生み出す。

 

 そして、彼女に新しい翼が生まれた。

 

フィーネ「それが、この翼。

     和也がくれた、私だけの翼」

 

ダレス「バカなぁっ!?

    他人に埋め込まれた儀式兵装が

    動く訳が無いっ!!

    どれだけ私が、実験したと思っているのですかっ!?

    ありえないっ!! ありえないっ!!」

 

リピス「それは、おそらく兵器としてではなく

    『フィーネの翼』として生まれたからだろうな。

 

    ・・・しかし、まさかこんな奇跡を見る日が来るとはな」

 

 フィーネの黄金の八翼が、更に輝きを増す。

 

ダレス「!?

    どういうことだ、これはっ!?」

 

 自身の魔力までが、まるで吸い取られるように

 フィーネの元へ向かい、彼女の魔力の一部となる。

 

ダレス「他人の魔力を吸収だとっ!?

    ありえんっ!!

    何なのだっ!!

    何が起こっているっ!?」

 

和也「・・・それが彼女の翼の力。

   儀式兵装が、稀に持つとされる特殊能力。

   周囲の魔力全てを吸収して自身の力とする事が出来る」

 

フィーネ「そして、これが私の儀式兵装の力。

     私の黒い刃は、集めた魔力を更に増幅することが可能なの」

 

 翼の儀式兵装が、魔力を吸収・増幅し続けて

 薙刀の儀式兵装と血族の力が、更に魔力を増幅し続ける。

 

ダレス「そ・・・そんな強大な魔力を

    どうして制御可能なんですかっ!?

    いくら魔王の血族といえども不可能ですっ!!」

 

フィーネ「・・・ええ。

     確かに普通は、無理だわ。

     昔、そのせいで魔法がまったく使えなかったもの」

 

 魔力が制御しきれなかったフィーネは

 圧倒的な力を持っていても、使用出来なかった。

 そのため、逆に弱かったのだ。

 

フィーネ「でも、私には和也のくれた翼があるっ!!」

 

リピス「・・・そうか。

    通常ではありえない魔力を

    通常ではありえない2つの儀式兵装により制御したのか」

 

 魔法陣から炎が出現する。

 炎は、まるで荒れ狂う海のように波打つ。

 

 誰もが、その光景を眺めていた。

 そして思っただろう。

 

 この炎に触れては、命がない・・・と。

 

フィーネ「さあ、いくわよ。

     これが・・・藤堂 和也が持つ

     最強の儀式兵装にして『魔法』である

     フィーネ=ゴアの力」

 

 魔法陣の炎を開放する。

 

フィーネ「―――インフェルノ」

 

 燃え盛る波が一面を覆う。

 

ダレス「この私が、最高傑作がっ!!

    負ける訳がないのですっ!!!」

 

 四属性の防御魔法を

 気麟・翼・血族の力・弾装まで使用して

 強力な結界を張る。

 

 しかし、炎はそれらに触れると結界を溶かすように

 侵食しながら進んでいく。

 

ダレス「来るなっ!!

    来るなぁ!!」

 

 儀式兵装で炎を消し飛ばそうと

 勢い良く叩きつける。

 

 だが、炎は儀式兵装を溶かしながら

 更に進む。

 

 そしてダレスを捉える。

 

ダレス「溶けるうぅぅぅぅ!!!

    ぎゃぁぁぁぁぁーーーー!!!」

 

 炎が触れた箇所から

 燃えるのではなく溶けていく。

 

 やがて炎は、ダレスを覆って

 全てを飲み込んだ。

 

 奴の断末魔も小さくなり

 あの巨体が、僅かな時間で完全に消えた。

 

 そして、残ったのは

 地面が、マグマのように溶けて湯気があがり

 まるで地獄の釜のような大きな穴だけだった。

 

 全てを終えたフィーネが

 和也の胸に飛びついてくる。

 

和也「・・・おかえり」

 

フィーネ「・・・うん。

     ただいま」

 

 そのころ学園都市各場所では

 ダレスが消滅した瞬間、暴れていたゴーレム達が

 一斉に土塊に戻る。

 

 一瞬、何事かと思った生徒達だったが

 自分達が勝ったことを知ると

 

 ある者は、歓喜して声を上げ

 ある者は、死んだ者達を思って黙祷を捧げ

 ある者は、その場で泣き崩れた。

 

 こうして、長かった1日が・・・

 学園都市内で起きた戦争が終わりを告げる。

 

 

 そしてそれから3日経った。

 

 戦いの結果、学園都市の市民6割と

 学園生徒の約半数が死傷した戦いで

 学園も街もボロボロだった。

 

 当初は、まともに動ける者が

 ほぼ居なかったため

 復旧どころではなかったが

 今は、魔族側の軍隊が到着して

 何とか復旧作業が開始される。

 

 メリィさんが連れてきた部隊は、一部を残して

 逃げた他の魔術師達を追っているそうだ。

 捕獲も順調だそうで、あと数日あれば

 全員捕まえれるらしい。

 

 学園もしばらく休校となるらしく

 故郷に戻る者も居るが大半が都市に残って

 復旧作業を手伝っている。

 

 それでも戦いの跡は、深く鋭いものだった。

 未だ大切な誰かを失った者達の悲しみは癒えることなく

 救護エリアには怪我人で溢れかえっている。

 

 政治の面では、追求しないと決定していたものの

 やはり魔族が原因の被害だと一部の神族達が騒いだ。

 

 しかし、これを鎮めたのは意外にも人族だった。 

 人界代表である風間 源五郎は、人界側に出たゴーレムが

 魔族側の仕業ではないということを、学園都市での戦いの前に

 魔王妃側へ確認しており、また国境を越えた

 ゴーレムの追撃まで認めていると、魔族側の譲歩を認めて

 やり取りの手紙を証拠として出してきた。

 

 思わぬ伏兵に、神界側の強硬な勢力も

 二の句が継げず、勢いが沈静化。

 

 結局は、追求の必要なしと決着した。

 

 全てが、次に向けて進んでいる。

 時間は、止まることはない。

 

 その日の夜中。

 

和也「・・・」

 

 俺は寝付けずに、街をうろうろとして

 最後に街の中央にある広場に着いた。

 

 ここには、この前の戦いで犠牲になった者達を

 追悼する石碑が建てられている。

 

和也「・・・また、全てを護ることは出来なかったか」

 

 自分1人の力で何とかならないことは

 よくわかっている。

 しかし、それでもと思ってしまうのだ。

 

和也「・・・俺に力があれば」

 

 もっと違う結末になったかもしれない。

 そんなありえない想像をしてしまう。

 

?「―――だったら、私と契約しませんか?」

 

和也「誰だっ!?」

 

 後ろを振り返ると、そこには1人の少女が立っていた。

 

和也「・・・キミは?」

 

久遠「私の名前は、久遠」

 

 久遠と名乗った少女は、どこか違和感があった。

 そう、まるで『ここに居るべき者ではない』という

 場違いな感じがする。

 

久遠「・・・後悔しているのなら

   戦うことを恐れないのなら

   私と戦って。

   私の手を取って」 

 

 そう言って手を差し出してくる。

 それから、和也は久遠と名乗った少女と

 何度か会話を交わした後

 少女の手を、ゆっくりと取った。

 

 すると2人は、その場から『消えた』

 まるで初めからその場に居なかったかのように

 痕跡を一切残さず。

 

 そしてこれが、彼の・・・。

 永遠に続く戦いの始まりでもあった。

 

 

 

 

 

最終章 全ての始まり ―完―

 

 

 

 

 

 

・おまけ

フィーネ編が、そのまま進んだその後の世界。

 

*風間 亜梨沙

風間の家に生まれ、若くして風間流の師範代になった

若き天才。

 

学園を卒業後、王女達と一緒に

合同結婚式を挙げて念願だった和也の嫁になる。

2人の娘も生まれ、幸せに暮らした。

 

和也が多忙なため、彼に代わって

風間一族を纏める立場となる。

 

常に心の強さを説いた彼女の教え子達は

のちの風間を大いに発展させることになる。

 

 

 

*フィーネ=ゴア

魔王の1人娘として生まれ

幼少期から激しい人生を送ることになるも

そこで運命の相手に出会い

人らしく生きるようになった少女。

 

学園を卒業後、合同結婚式で

夢だった和也の嫁となる。

 

魔界を纏める立場になると

真面目で直情的な彼女では

なかなか上手く制御できずに悩むこともあったが

ミリスやギルといった仲間や和也に支えられ

やがて立派に魔界を統べることになる。

 

2人の娘と1人の息子が産まれ

子供達を溺愛したという。

 

 

 

 

*リピス=バルト

竜界の王女にして金竜最後の生き残り。

大戦争では激動の人生を経験し

一度は、挫折したこともある王女。

 

学園卒業後は、彼女の提案により藤堂 和也との

合同結婚式が行われ、彼女も妻となる。

 

結婚にも前向きだった彼女は、結婚後

和也を支えるために裏方に回ることが多くなる。

和也の意思を尊重して、竜の祝福は行わなかったが

彼との間に2人の女の子を授かる。

 

娘達には、厳しくも優しい母親となり

ようやく彼女は、何かが吹っ切れたように

笑顔になる。

 

 

 

 

*セリナ=アスペリア

神界第一王女として生まれ

常に王女としての重圧に悩まされてきた少女。

 

学園卒業後の合同結婚式に参加を

否定していたが、エリナに説得されて

和也の嫁となる。

 

何かと他の嫁達に遠慮してしまい

和也との生活よりも神界を纏める仕事を

優先しがちなため、よくエリナに説教されるのが

彼女達の新たな関係となる。

 

結局、和也との間に子供は出来ず

他の嫁達と共に育児を頑張ることになる。

 

 

 

 

*エリナ=アスペリア

神界第二王女として生まれるが

その責任を丸投げて、自由に生きようとする

非常に奔放な性格の少女。

 

学園卒業後、合同結婚式に参加して

姉共々、和也の嫁となる。

 

古代遺跡の調査団を結成して

未知の技術を解明しようと研究者の道を歩む。

数年後、彼女のおかげで

四界の文化レベルは、飛躍的に向上することになる。

 

和也との間に2人の男の子を授かるが

育児が苦手なため、姉に半分任せきりになる

ダメな母親だが、それでも子供には

可能なかぎりの愛情を注いだ。

 

 

 

 

 

 

上記は、あくまで可能性の話。

物語が別の可能性を選ぶのであれば

また違った結末を迎えることになるだろう。

 

 

 

 




皆様、まずはフィーネ編を最後まで読んで頂き
ありがとうございました。

気分的には、やりきった感があるのですが
物語が全然終わってない現実もあるので
現在、現実逃避中です(笑)

原作とは、まったく展開の違う内容になったと
思っております。
原作を知らない方も楽しんで頂けたでしょうか?

次は、竜族編になります。
こちらもよろしければ、ぜひどうぞっ!!


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金色の竜牙 リピス=バルト編
第10章 もう一人の金竜


 

 俺は、大きく深呼吸をした。

 そして―――

 

?「なかなか、面白いことをしているようだな」

 

 後ろから聞きなれた声が聞こえ、思わず後ろを振り返る。

 

 そこには、竜界の王女リピス=バルトが居た。

 

和也「どうして、ここに・・・」

 

リピス「少し様子でもと思っていたんだが・・・。

    どうやら思わぬ当たりを引いたようだな」

 

 

 

 

 

第10章 もう一人の金竜

 

 

 

 

 

 

ゴーレム「グアァァ!」

 

 周囲のゴーレム達が集まりだす。

 皆、警戒しながらも少しづつ近づいてくる。

 

リピス「さて・・・。

    メリィ、やってしまえ」

 

 後ろに声をかけると、そこにはいつの間にか

 儀式兵装を装備したメリィさんが、そこに居た。

 

 左手のみに巨大な手甲が装備されている。

 

メリィ「では、離れていて下さいねぇ♪」

 

 左手を前へと突き出すと

 巨大な手甲が変形して魔導砲形態となる。

 

メリィ「いやっほ~ぃ♪」 

 

 軽い声と共に発射される魔導砲。

 ゴーレム達を光が飲み込み、大爆発を起こす。

 

 非常に大きな衝撃と共に

 丘が吹き飛んだ。

 

和也「一撃・・・かよ」

 

 たった一撃で数十体居たゴーレム達が

 丘ごと消し飛ぶ、その威力に驚く。

 

リピス「ちゃんと加減はしろと言っただろうに」

 

メリィ「ちゃんとしましたよ。

    現にほら」

 

 指を指す方向に再生しようともがくゴーレムが

 1体だけ居た。

 

 腕が生え、その腕が魔導砲のような形を取ろうとしたが

 

メリィ「ダメですよぉ♪」

 

 腕を踏みつけて破壊するメリィさん。

 そしてそのまま魔力コアだけを取り出す。

 

リピス「それを徹底的に調べておけ」

 

メリィ「はい、リピス様」

 

 彼女は、そう返事をすると

 特殊な機材をどこからともなく取り出し

 魔力コアを封印する。

 

和也「・・・いつも思うんだが

   あの人ってどこから色々出してるんだろうな」

 

 よく何も無い所からティーセットが出てくることがある。

 手には何も持っていなかったはずなのにと毎回思う。

 

リピス「まあ、考えたら負けって奴じゃないのか?」

 

和也「・・・そんなもんかねぇ。

   で、結局あの化け物は何なんだ?」

 

リピス「よく解らんから、捕まえることにしたんだよ」

 

和也「なるほど・・・解ったら俺にも教えてくれ」

 

リピス「確約は出来んが・・・。

    まあ可能なかぎり、そうしよう」

 

 結局奴らが何なのかが解らず

 うやむやのまま、寮に戻ることになった。

 

 

 次の日。

 実戦訓練で、ちょっとしたイベントがあった。

 

和也「ランダム戦・・・ねぇ」

 

 今日は、2階級合同で実戦訓練が行われる予定だったが

 その内容が、色々と問題だ。

 

 それぞれが、くじを引いて

 そこに書かれた番号順に、スタートエリアから

 1人で地下迷宮へと入っていく。

 途中の広場で別の入り口から来た奴と

 出会うようになっていて、出会った奴と

 ペアを組んで迷宮を攻略するという内容だ。

 

 そこで問題なのは、俺が人族だという点。

 亜梨沙もそうだが、俺達がヴァイスなどと

 ペアだったりしたら大変なことになる。

 

 そんな不安と共に、くじを引いて迷宮に入る。

 そして広場に出た瞬間―――

 

?「みつけたっ♪」

 

 気の抜けるような声と共に

 何かが飛び込んできた。

 

 迷宮内が薄暗いこともあるが

 殺気も気配も感じない、その見事な動きに

 思わず避ける動作を忘れてしまい

 抱きつかれる。

 

?「はぁ・・・これが殿方の温もりなのですねぇ」

 

 気づけば、見知らぬ娘に抱きつかれていた。

 目の前に彼女の頭があり

 そこから耳がピコピコを動いているのが見えるため

 何とか彼女が竜族だということは理解出来た。

 

和也「・・・え~っと。

   とりあえず離れてもらえると助かるんだが」

 

?「ダメですよ。

  離れたら、この温もりが無くなってしまいます」

 

和也「う~ん・・・」

 

 フィーネの時は、彼女だと解っていたからよかったが

 今回は、まったく心当たりもない。

 それに、まだ顔すら見えない彼女だが、意外と胸が大きいようで

 結構な感触が伝わって・・・

 

和也「・・・おっと。

   そろそろ色々ヤバイので

   一度、向かい合って話をしよう」

 

?「もぅ、意外とワガママさんなんですねぇ。

  ・・・そこも可愛いですけど」

 

 ようやく離れてくれた竜族の娘。

 これでやっと彼女の顔が見れた。

 

 ・・・とても可愛い娘だった。

 

和也「(こんな娘なら、一度会ったら忘れないと思うんだがな)」

 

 悩んでいても仕方が無い。

 思い切って聞いてみることにした。

 

和也「・・・こう言っては悪いんだが

   キミに会った記憶がないんだよ」

 

?「それは、そうですよ。

  私が一方的に、アナタを知っているというだけです」

 

 その言葉を聞いて、一瞬ホッとする。

 とりあえず忘れていたという展開では、なさそうだ。

 

?「そう言えば、自己紹介がまだでした」

 

 そう言うと彼女は、少しだけ距離を取る。

 おかげで丁度、明かりの前に立ってくれる形となり

 彼女の姿がハッキリと見えた。

 

 美しいと可愛いの、真ん中と言えるような

 綺麗な顔立ちに、金色の長い髪が特徴的だった。

 

和也「金色の・・・髪?」

 

 竜族は、金竜以外で髪の色が金色になることはない。

 だからこそ、金竜と言われる元となったと、聞いたことがある。

 

イリス「私は、イリスと申します。

    よろしくお願いしますね、和也様」

 

 丁寧な挨拶で深々と頭を下げるイリス。

 

和也「とりあえず、『様』は止めてくれ」

 

イリス「では、どうお呼びすればいいのでしょう?」

 

和也「和也でいいよ」

 

イリス「・・・和也」

 

和也「そう、それでいいよ」

 

イリス「和也・・・和也・・・和也」

 

 まるで何かを言い聞かせるように何度も

 俺の名を呟く少女。

 

和也「とりあえず色々と聞きたいんだが・・・」

 

イリス「はい? 何でしょう?」

 

和也「キミのその髪の色は、金竜ってことでいいのか?」

 

イリス「・・・イリスです」

 

和也「え?」

 

イリス「私のことは、イリスと呼んで下さい」

 

和也「・・・イリス。

   金竜だけと言われる金色の髪をしているが

   それは、金竜だということか?」

 

イリス「そうですよ。

    私は、金竜です」

 

和也「・・・確か金竜は

   リピスを残して死んでいるはずだ」

 

イリス「その話は、また今度。

    今は、デートしましょう。

    デートです」

 

 そう言うと強引に腕を組んで歩き出す。

 

和也「お、おい!

   まだ話は・・・」

 

イリス「いつまでもここにいては、ダメです。

    だからデートです」

 

 まるで取り付く島も無い。

 

 そして始まる彼女曰く『デート』

 腕を組んで、まるで恋人同士のように歩くが

 薄暗い迷宮内では、デートという雰囲気よりも

 何か出そうという雰囲気の方が強いと思える。

 

 だが、いくら進んでもモンスター1匹たりとも

 出てこない。

 確か今回は、かなりの量を出したと聞いていたのだが・・・。

 

イリス「どうしました?」

 

和也「・・・何でもない。

   いや、あるのか。

 

   キミは、一体何者なんだ?」

 

イリス「私のことより、和也の話が聞きたいです」

 

 ・・・こちらの会話が成立しない。

 

イリス「何が好きで、何が嫌いで、普段はどういうことを

    しているとか・・・聞かせて下さい」

 

 かなり一方的ではあったが、俺のことばかり聞くイリス。

 1つ知るたびに笑顔で喜ぶ彼女を見ているかぎり

 悪い娘ではないのだろうとは思う。

 

 そしてまったく何事もなく

 迷宮の出口まで来てしまう。

 

イリス「はぁ・・・。

    愉しい時間は、一瞬で終わってしまいますねぇ」

 

 心の底から残念という表情のイリス。

 

和也「キミは―――」

 

 俺が言葉を発した瞬間だった。

 

イリス「ん―――」

 

 俺の口を彼女の唇が塞ぐ。

 突然のことに思考が停止する。

 

イリス「初めてのキス・・・素敵でした」

 

 顔を赤らめて恥らう彼女に

 思わずドキッとしてしまう。

 

イリス「名残惜しいですが、今日はこれで。

    ・・・また、必ず会いましょうね」

 

 そう言い残すと、迷宮の暗闇の中へと

 消えるように姿を消した。

 

和也「・・・」

 

 唇にまだ残る彼女の肌の温もりを感じながら

 しばらく放心していた俺だが

 捜索隊の出現で、一気に熱が抜ける。

 

 どうやら俺の本来ペアになる予定だった

 神族生徒が何者かに襲われて

 重症を負ったそうだ。

 

 判定ネックレスで回復した直後に

 もう一度攻撃されたようで

 かなりひどい状態らしい。

 

 俺は、迷宮内で不審者を見たことを話したが

 特徴全ては伝えなかった。

 

 何故なら、あんなにも楽しそうに

 少女らしい一面を見せていた彼女が

 そんなことをしたと信じたくなかったのだろう。

 

 まずリピスに確認してみよう。

 金竜のことなら彼女が知らないはずもないだろうし

 後で聞きに行こう。

 

 だが、これが全ての発端となる。

 

 

 昼休み。

 さっそくリピスに尋ねてみる。

 

リピス「私の他に金竜が居るかだと?

    何故、そんなことを聞く?」

 

 俺は、迷宮内で出会った少女について話をした。

 

リピス「・・・見間違いではないのか?」

 

和也「確かに少し薄暗い場所だったが

   明かりの前に立った時に、ちゃんと確認したよ」

 

メリィ「・・・ですが、金竜は

    リピス様以外・・・もう居ないのです」

 

 リピスの両親も大戦争で死んでいる。

 元々金竜は、一族そのものが全滅していて

 リピス達以外は居なかった。

 そこで両親が死んでしまった以上

 生き残りは、リピスだけだとなる。

 

和也「・・・見間違い・・・だったのかなぁ」

 

 しかし、あの鮮やかな金色の髪は

 今でもハッキリと思い出せる。

 

リピス「そこまで言うなら、少し調べてみるか」

 

メリィ「では、手配しておきましょう」

 

 その時は、それで会話が終了した。

 リピス達からすれば、ありえない話である以上

 聞き流されるだろう話ではあったが

 俺の中では、彼女の姿が・・・。

 その声が鮮明に記憶に残っているのだった。

 

和也「・・・彼女は、いったい」

 

 そんなモヤモヤとした気持ちを抱えたまま

 夜を迎える。

 

 いつもの丘は、メリィさんの一撃で荒地と化していたが

 まあ剣を振るぐらいには、困ることはない。

 

 いつも通りの訓練をしている最中だった。

 

 近くの茂みから、こちらをジッと見る気配を感じて

 声をかける。

 

和也「・・・誰だか知らないが

   何かあるなら、出てきたらどうだ?」

 

?「あらら。

  見つかってしまいました」

 

 茂みから出てきた人影が、月の光に照らされる。

 

イリス「えへへっ・・・きちゃったっ♪」

 

 可愛らしい笑みと共に、彼女が現れた。

 

和也「・・・キミに聞きたいことがある」

 

イリス「・・・イリスって名前で呼んでくれないと

    何も答えません」

 

 そう言っていきなり拗ねる彼女。

 

和也「・・・イリス。

   教えて欲しい。

 

   キミは、一体何者なんだ?」

 

イリス「前に言った通りですよ。

    それに、私は私です。

    それ以上でもそれ以下でもありません」

 

 そう言いながら腕を組んでくるイリス。

 

イリス「そんなことより、また和也の話が聞きたいです。

    ・・・ダメですか?」

 

 上目遣いで、こちらの顔色を伺うイリス。

 きっと彼女とは、もっと長く時間をかける必要があるのだろう。

 

和也「・・・そうだなぁ」

 

 俺は、一旦追及を諦めて無難な会話をすることにした。

 事を急いで、下手に彼女が手元から居なくなられる方が

 後で色々と困ることにもなる。

 

 結局、訓練を中止して

 彼女との会話をすることにした。

 

 相変わらず気になったことは、その場聞いてきたり

 1つ何かを知ると笑顔で喜んだ。

 その姿は、子供のようだった。

 

イリス「・・・あら。

    もうこんな時間ですか」

 

 夜も深まり、そろそろ深夜という時間となると

 彼女の方から会話を終了してきた。

 

イリス「名残惜しいですが・・・今日は帰ります」

 

 帰ると言った彼女だったが

 正面から抱きついてきて―――

 

イリス「ん・・・ちゅ・・・はぁ・・・」

 

 少し長めのキスをされた。

 

イリス「じゃあ和也。

    また会いましょうねっ♪」

 

 やることをやりきった彼女は

 あっさりと引き下がり、姿を消した。

 

和也「・・・」

 

 フィーネやエリナのおかげ?で

 急に抱きつかれたりすることには慣れてきたのだが・・・

 

 キスは、わかっていても避けれない。

 そこが男の悲しいところでもある。

 

和也「だって・・・あんなに可愛い娘だぞ?」

 

 誰に言い訳しているのか、わからないが

 一人でひたすら言い訳をしていた俺は

 半ば放心状態で、寮へと帰るのだった。

 

 

 

 

 

第10章 もう一人の金竜 ―完―

 

 

 

 

 





まず、ここまで読んで頂きありがとうございます。

この回から竜族編になります。
基本的には第9章からの派生物語ですが
色々と最終的な展開もありますので
気長に読んで頂けると、ありがたいです。



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第11章 竜王女との一日

 次の日、いつもの実戦訓練が

 面倒なことになっていた。

 

 本来なら途中で中止になった

 ランダム戦の再実施のはずが

 気まぐれな学園長のおかげで

 変更されることになってしまったのだ。

 

 この気まぐれで毎回対応に追われる

 教師陣は、ため息しか出ない。

 

 生徒達にとっては、良い場合と悪い場合の

 どちらかであるため、意見が割れるところではあるが

 大抵ロクなことにならない。

 

 そして今回、やはりと言うべきか

 俺にとっては、ロクでもないことになった。

 

 

 

 

 

第11章 竜王女(しょうじょ)との一日

 

 

 

 

 

 細い道を抜け、少し広い場所に出る。

 すると、そこには既に人影が1つ。

 

 相手は誰なのかと近づいてみると・・・

 

?「・・・これは、楽しいことになったな」

 

 聞き覚えのある声に誘われて

 更に近づくと、そこには見知った顔。

 竜族の中で最強と呼ばれる少女が居た。

 

和也「・・・俺にとっては、最悪な展開だな」

 

リピス「まあ、そう言うな。

    滅多にないことじゃないか」

 

和也「だから余計に嫌なんだよ」

 

リピス「ほぅ?」

 

和也「何度も戦うのなら、それなりに対策も考えるが

   戦わない可能性の方が高い確率に

   いちいち対策なんて取らないだろう?」

 

リピス「しかし、万が一という点では

    必要なことだな。

    現に、こうして低い確率に出会ってしまったのだから」

 

 今回、学園長の気まぐれは

 地下迷宮で出会った相手を全て倒していくという

 大雑把なサバイバル戦だった。

 

 そして俺は、よりにもよっていきなり

 最悪なカードを引いてしまったことになる。

 

和也「・・・もう俺の負けでいいわって

   言いたくなる気分だ」

 

 いきなりリピスに出会うなんて

 最悪だとしか言いようが無い。

 

リピス「弱気とは、珍しいな」

 

和也「普通に考えて金竜に勝てる訳ないだろうに」

 

リピス「それは、やってみなければ

    わからないだろう?」

 

 そう言いながら儀式兵装を手にするリピス。

 

和也「・・・はぁ。

   仕方が無いなぁ」

 

 ため息と共に『紅』を手にする。

 

 その瞬間―――

 

 ブオンッ!!

 

 そんな物騒な風切り音と共に

 リピスのトンファーが迫ってくる。

 

 紅で受け止めるも、数秒ほど粘って

 刀身が砕かれる。

 

 そのまま迫るリピスの一撃を避けつつ

 片手でリピスの腕を掴む。

 

リピス「甘いなっ!」

 

 だが、小柄な少女の見た目に合わない

 強力な力によって簡単に振り解かれてしまう。

 

 苦し紛れに刀身を再構成した紅で

 リピスを狙うも、金麟によって弾かれる。

 

 こちらが弾かれ、よろけた隙を狙ったリピスの蹴りを

 金麟による干渉が最小限の位置から

 蹴りで合わせて何とか勢いを殺す。

 

 そのまま何とか距離を取って

 乱れた呼吸を整える。

 

和也「・・・ホント、金麟ってどう対処すりゃいいんだよ」

 

 気麟なら、紅でも抜くことは可能だ。

 しかしリピスの金麟は、気麟よりも硬い上に

 魔法による補助を受けているために

 圧倒的な防御力となっている。

 

 正直、これを抜くには魔法が必要だ。

 もしくは、魔眼で金麟の流れを見切るかだが

 魔眼は、基本的に対魔法にしか効果がない。

 

 リピスには、ああ言ったが

 それなりに研究と対策は練っていた。

 しかし現状では、まだ確実な手が無い。

 

 恐らく、魔法が使えない俺は

 竜族と・・・特にリピスとは、かなり相性が悪いのだろう。

 

リピス「さあ、和也。

    準備運動は、これぐらいでいいだろう?」

 

 これからが本番だと言いたげなリピスの発言に

 思わず苦笑する。

 

和也「ああ、じゃあいくぜ」

 

 俺がゆっくりと腰を落として

 いつでも動ける体勢になると

 それを見たリピスは、身構える。

 

 そして俺は、一気に走り出した。

 

和也「じゃあなっ!!」

 

リピス「・・・」

 

 いきなり後ろを向いて全力で逃げ出す俺に

 一瞬ポカンとしていたリピスだったが・・・

 

リピス「ふむ。

    追いかけるというのも、また一興か」

 

 よりにもよって全力で追いかけてきた。

 

和也「全力で追いかけてくる奴があるかっ!!」

 

リピス「大人しくやられるんだなっ!!」

 

 和也が曲がった曲がり角に差し掛かった瞬間

 飛来する小さいものが3つ。

 

和也「バーストッ!」

 

 リピスの近くで、それらが爆発する。

 だが―――

 

リピス「やはり一筋縄では、いかないようだな」

 

 煙から出てきたのは

 まったく無傷な、リピスだった。

 

和也「・・・マジックナイフでもダメか」

 

 そう言いながら紅の刀身部分を投げつけ

 リピスの直前で爆発させて、煙幕とする。

 

リピス「さて、いつまで逃げ切れるかな?」

 

 煙幕が晴れた瞬間、口元に笑みを浮かべ

 和也を追い、走り抜ける。

 

和也「ああ、くっそ。

   リピスから逃げ切るのは不可能に近いからなぁ」

 

 身体能力で圧倒的な差がある。

 いくら頑張ってみたところで竜族が有利なことに変わりはない。

 

 後ろから徐々に迫ってくるプレッシャーを感じながら

 十字路を左に曲がった瞬間、見慣れた奴に出会う。

 

ギル「お、いいじゃない。

   この前のリベンジと行きましょうかね」

 

 こちらを見つけると、やる気満々のギルが見えた。

 

和也「危ないから、退いてろっ!!」

 

 全力で走りながら、目の前の障害物(ギル)に声をかける。

 

ギル「ん? え?」

 

 こちらの様子がおかしいことに気づくも

 状況がイマイチ理解出来ずに棒立ちになるギル。

 

 その横をすり抜けるように走り抜ける。

 

 通り過ぎた和也を見て、呆然とするギルだったが・・・

 

?「邪魔だっ!!」

 

 後ろから聞こえた声に振り返った瞬間―――

 

ギル「ぐはぁっ!!!」

 

 何かに思いっきり殴られて、吹き飛ばされるギル。

 

 彼が気を失う瞬間に見たのは

 和也を追いかけるリピスの尻尾だった。

 

 そしてこの時間、迷宮内を逃げ回る人族と

 それを追い回す金竜が、様々な場所で目撃されることになる。

 

 いつも通りなら『所詮は、最弱種族だ』と

 笑いのネタにされている所だが

 現場を目撃した生徒の大半を、リピスが通り抜けついでに

 撃破していったため、この話題は結果的に

 『金竜を見たら逃げろ』という教訓として

 しばらくの間、語り継がれる話題へと進化したのだった。

 

 そして2階級を中心に、この金竜の新たなる武勇伝が

 広まっているころ、俺達は

 いつも通りの場所で昼食を食べていた。

 

フィーネ「和也、大丈夫?」

 

和也「・・・散々だった」

 

 実戦訓練中、ずっと追い回されていたため

 走り続けた結果、まだ昼だというのに

 体力的に辛かった。

 

リピス「まあ、良い運動になったな」

 

 対してリピスは、さすがというか

 まだ元気そうだ。

 竜族の身体能力ってやつは、ある意味で化け物だと

 再確認する。

 

セリナ「その話で、学園中は持ちきりですね」

 

エリナ「そりゃ、アレだけ派手に暴れれば・・・ねぇ」

 

亜梨沙「いきなりだったので、ビックリしました」

 

 迷宮内を逃げ回っている時、セリナ達ともすれ違ったのだが

 さすがというべきか、リピスの一撃を

 綺麗に回避していたようだ。

 

リピス「魔王妃どのが言っていたじゃないか。

    『出会った全ての相手を倒せ』と。

 

    それにそもそもの原因は

    迷宮内を逃げ回った和也だろう」

 

和也「よりにもよって俺のせいかよ」

 

リピス「大人しくその場で戦えば

    迷宮内で、アレだけ走り回ることもなかっただろう?」

 

和也「だから、無茶を言うなよ・・・。

   紅で抜けない以上、金麟を相手に戦うような

   真似はしない。

 

   攻撃が当たらない以上は、逃げるしかないだろ」

 

リピス「なら、今後の課題という訳だな」

 

和也「まあ、そうなるんだろうが・・・。

   気持ち的に、納得出来ないなぁ」

 

 俺は、そう言って後ろに倒れて寝転がった。

 いつも通り、綺麗な青色の空が広がっている。

 

 空を眺めていると、誰かに頭を少し持ち上げられる。

 

和也「ん?」

 

 スグに頭の後ろに柔らかい感覚と

 優しい匂いが、香る。

 

 そして、いつの間にかリピスの顔が

 視界に入ってくる。

 

リピス「まあ・・・アレだ。

    この私から逃げ切っただけでも

    褒めておくべきだったな。

    ・・・和也は、頑張ったよ」

 

 リピスの顔が見えて気づく。

 これは、膝枕の状態なのだと。

 

フィーネ「―――ッ!!」

 

亜梨沙「・・・むぅ」

 

セリナ「・・・」

 

エリナ「・・・ふ~ん」

 

 この状態では。優しいリピスの顔しか見えないが

 何故か周囲の王女様方が不機嫌な顔をしているのが

 理解出来てしまう。

 

 そしてリピスは、突然どうして

 こんなことをしたのだろうか。

 普段は、そんなこと絶対にしないのに。

 

 しかし、改めてこうして膝枕をされた状態で

 リピスを見る。 

 

 いつもは、小柄ながら王族らしい態度が

 頑張って背伸びしている少女のようで

 愛らしい感じではあるが

 こうして自分が見下ろされる視線になると

 また違った見え方がする。

 

 整った顔立ちは、可愛さと綺麗さを兼ね備えており

 それなりの長さに伸びている金色の髪が

 太陽の光に反射して、キラキラと輝き

 彼女の雰囲気を、より大人びた感じへと引き立てている。

 

 特に慈愛に満ちた優しい瞳と

 頭を撫でる手の感触が、遠い昔の記憶の中にしか居ない

 母親の雰囲気と似ていた。

 それらを見ると、やっぱり彼女は年上なんだなと思えてくる。

 

 ゆっくり瞳を閉じて身体の力を抜くと

 さわやかな風が吹いてきて

 何だかとても気持ちが良い。

 

 こんなにゆっくりとしたのは、何年ぶりだろうか。

 そんなことを考えているうちに、いつの間にか

 俺は、眠りについてしまった。

 

 

 ・・・・・・・。

 

 

 周囲には、燃える家。

 聞こえてくるのは、怒号や悲鳴。

 落ちているのは、血と肉。

 

 倒れている人々は、皆死んでいた。

 

 そんな中をひたすら何かを探して歩く。

 

 みつからない。

 みつからない。

 みつからない。

 

 何処に行ったのか。

 

 探し続けて、ようやく倒れている一人の女性を見つける。

 嬉しい気持ちと絶望する気持ちの板挟み。

 

 その女性の元に駆け寄ると

 

?「コロ、シテ・・・」

 

 もう人間とは呼べない姿の女性が

 自身の死を懇願して縋ってくる。

 

 それが怖くて

 それが悲しくて

 

 近くに落ちていた少し大きめの石を手にすると

 両手でしっかりと掴んで

 その女性の頭に、振り下ろした。

 

 何度も

 何度も

 何度も

 何度も

 何度も

 

 気づけば、一面血だらけだった。

 

 手の震えが止まらない。

 流れる涙が止まらない。

 心の痛みが止まらない。

 

 声にもならない悲しみに

 深い絶望に心が支配される。 

 

 どうしてこんなことになったのか?

 そんな意味の無い疑問。

 

 そして願うのは『やり直し』

 こうなる前に、何か出来れば

 結末は違ったかもしれないという

 誰もが経験する『後悔』。

 

 その後悔を胸に抱いた瞬間

 後ろに気配を感じて、振り向く。

 

久遠「―――そう願うなら、私と戦って」

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

?「―――ッ!」

 

 誰かの声が聞こえる。

 

?「―――和也ッ!」

 

和也「・・・っ!」

 

 ハッとして目を覚ます。

 

リピス「大丈夫か、和也ッ!?」

 

 心配そうに顔を覗き込むリピスと目が合う。

 

和也「俺は・・・」

 

リピス「しばらく眠っていたんだよ。

    少ししてから、うなされ出して心配したぞ」

 

和也「・・・そうか」

 

 ゆっくりと立ち上がる。

 少し頭が重いが何とかなるだろう。

 

和也「ところで、みんなは?」

 

 周囲に誰もおらず、俺とリピスだけだった。

 

リピス「皆は、授業に行ったよ」

 

 その言葉に慌てて時計台を見る。

 ・・・とっくに授業中だった。

 

和也「起こしてくれればよかったのに・・・」

 

リピス「あまりにも気持ちよさそうに寝ていたからな。

    せっかくだし寝かせておいたんだよ」

 

和也「・・・まあ、悪かったな。

   リピスまで授業に出れなくて」

 

リピス「別に問題ない。

    それに、久しぶりにゆっくりできた」

 

 彼女は、竜族の代表として様々な仕事を

 学生生活と両立してやっている。

 その忙しさを、全て理解出来るとは言えないが

 かなり大変なものであることは、容易に想像出来る。

 

リピス「・・・そうだ。

    せっかく授業をサボったのだから

    もう少し付き合ってもらおうか」

 

 突然のリピスの提案。

 腕を掴まれれば、人族では振り解くことは不可能だ。

 俺は、そのままリピスに引っ張られる。

 

 連れて行かれた先は、小さな雰囲気のある喫茶店だった。

 

 適当に注文を済ませたリピスと向かい合うように座る。

 

リピス「ここは、良いスイーツを出す店なんだよ」

 

 本当に楽しみなんだろう。

 先ほどから耳の先がピコピコとせわしなく動いている。

 

和也「まさか、フォースでこんなことをする日が来るとは

   思わなかったよ」

 

リピス「それは、私もだ」

 

 一流の戦士となるための学園に入って

 まさか授業をサボり、喫茶店に来るなんて

 誰も思わないだろう。

 

 そして目の前に置かれたのは、2つの大きめなパフェ。

 

和也「俺の分までパフェなのか」

 

リピス「何だ、嫌いなのか?」

 

和也「いや、そういう訳じゃないが」

 

リピス「なら、いいじゃないか」

 

 そう言いながら、リピスは目の前に置かれた

 フルーツたっぷりのパフェを食べる。

 

 平然と食べているが、耳が嬉しそうに動いていて

 なんだが微笑ましい。

 

 俺もとりあえず目の前のチョコたっぷりのパフェに

 手を付ける。

 

 俺には少し甘さが強いが、味がしっかりしていて

 かなり美味しい。

 俺が甘さと格闘していたからだろうか

 リピスが自分のフルーツをスプーンにのせると

 

リピス「少しはこれで甘さもマシになるだろう」

 

 そう言って差し出してきた。

 

和也「・・・えっと」

 

リピス「さっさと食え」

 

 強引に口をあけられて、押し込まれる。

 確かにフルーツのおかげで口の中の甘さが和らぐ。

 

和也「もう少し、マシな食べさせ方をだな・・・」

 

リピス「さて、次はそっちのを食べたい」

 

 俺の抗議は、あっさりとスルーされた。

 

リピス「はやくしろ」

 

 口をあけて、食べさせろと催促するリピス。

 とりあえずチョコの面積が大きい部分を

 リピスの口に入れる。

 

リピス「・・・うん。

    美味しい」

 

 満足そうにしているリピス。

 ・・・間接キスとか、気にしないのか?

 

 それともそんなことを気にしている俺の方が

 どうかしているのか。

 

 そんな下らないことを考えながら

 その後も何度か食べさせ合いをさせられつつ

 パフェを完食する。

 

リピス「普段から、こうしていられると良いんだがな」

 

 食後の紅茶を飲みながら、そう呟くリピス。

 

和也「そうだな」

 

 こんなにゆったりとした日は、本当に珍しい。

 

リピス「いつもは、フィーネ達が一緒で

    こうして2人きりになる機会が無いからな」

 

和也「確かに・・・2人ってのは久しぶりだな」

 

 リピスと2人きりになったのは

 初めて彼女と会った時以来だ。

 

 あの日、泣いていた彼女を思い出す。

 彼女は、どうして泣いていたのか。

 以前はそれほど気にしていなかったが

 今は、とても気になっていた。

 

和也「なあ、リピス」

 

リピス「ん? どうした?」

 

和也「あの日―――」

 

?「みつけたっ!!」

 

 俺の言葉をかき消すように大きい声と共に

 ドタバタと人が押し寄せてくる。

 

亜梨沙「やっと見つけましたよ、兄さんっ!」

 

フィーネ「和也を勝手に連れていかないでよ、リピスっ!」

 

エリナ「そうだよっ!

    2人だけとか、ズルいよっ!」

 

セリナ「・・・えっと。

    その・・・みんなで仲良くが、いいです」

 

 迫るような勢いで、和也の隣に座ったり

 抱きついてきたりする少女達。

 

リピス「・・・残念。

    時間切れ・・・か」

 

 残念そうに呟くリピス。

 

 結局、フィーネ達もパフェを食べ始めたのだが

 

フィーネ「はい、和也」

 

亜梨沙「先に妹の方からです」

 

エリナ「こっちの方がいいよね?」

 

セリナ「えっと・・・あ、あ~ん」

 

 何故か途中から俺にパフェを食べさせる方向に流れが傾き

 追加で様々な種類のパフェを食べさせられることになった。

 

 何とか全てを食べ終え

 しばらく甘いものは要らないと思っていたら・・・

 

オリビア「今日は、甘いスイーツ系を中心にしてみたの♪」

 

 夕食まで甘いものが登場し、俺の戦いは

 過酷を極めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

第11章 竜王女(しょうじょ)との一日 ―完―

 

 

 

 

 

 




最後まで、読んで頂きありがとうございます。

今回は、遅くなって申し訳ないです。
仕事の関係もありますので
また元のペースに戻ってる感じですかね。
出来るだけ早めに投稿出来るように
頑張ってはいるのですが・・・。

行方不明にならない程度に、やっていきますので
ご理解のほど、よろしくお願いします。


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第12章 狂愛/純愛

 

 その日は、朝から雨だった。

 時間が経つにつれて、雲の量が多くなり

 周囲も薄暗くなる。

 

 しかしそんな天気でも

 ・・・いや、そんな天気だからこそ

 実戦訓練は、予定通り開始される。

 

和也「視界が悪すぎるぞ、これは・・・」

 

 薄暗い森というだけでも悪条件なのに

 雨のせいで、余計に視界が確保出来ない。

 

 途中何度かクラスメイトに出会うも

 こちらに気づかず歩いていたため

 簡単に奇襲で撃破出来てしまう。

 

和也「・・・これは、練習になってるのか?」

 

 確かに悪天候での戦闘もあるだろうが

 時間と共に風も出始め、嵐になりそうな天気だ。

 こんな中を行軍するなんて、出来れば遠慮したいところだ。

 

 次第に雨まで強くなり、本格的に面倒な天気になってくる。

 このままでは体力が削られるため

 どこか休める場所を探して森を歩いていく。

 

?「・・・うぅ・・・っく」

 

 風と森のざわめきでかき消されそうになっているが

 確かに誰かの声が聞こえる。

 

 その声を頼りに歩いていくと

 小さな洞窟を見つける。

 

和也「・・・この中か?」

 

 俺は、警戒しながらゆっくり入っていく。

 

 洞窟の中に入ると、ようやくハッキリと声が聞こえる。

 明かりが無いため、俺は紅の刀身を出す。

 

 火属性魔法で構成された刀身であるため

 それなりの明かりを確保することが出来る。 

 

 紅を手に、更に奥へと進む。

 すると誰かが、膝を抱えて泣いていた。

 

和也「・・・誰か、居るのか?」

 

 声を出すが、泣いてばかりで返事がない。

 俺は、声の主に近づく。

 

和也「・・・キミは」

 

 明かりに照らされたのは、金色の髪。

 泣いていたのは、見知った顔。

 普段は、そんな顔を見せたことが無い

 意外な少女だった。

 

 

 

 

 

第12章 狂愛/純愛

 

 

 

 

 

和也「・・・どうしたんだ?」 

 

 俺は、そっと近づく。

 

リピス「・・・かず、や?」

 

 頬の涙を拭きながら 

 ゆっくりとこちらを見るリピス。

 

 多少虚ろな目をしていたリピスだったが

 数秒後、ハッとして顔を背ける。

 

リピス「な、何でもないっ!!」

 

和也「・・・いや、明らかに泣いて―――」

 

リピス「泣いてなどないっ!!」

 

 かなり食い気味にこちらの言葉を遮るリピス。

 

和也「・・・」

 

 微妙な空気が流れているのを感じる。

 彼女にとって、見られてはマズイものだったのだろう。

 

 ・・・しかし、これで彼女が泣いているのを見るのは

 2度目となる。

 

 何が彼女を悲しませるのだろうか?

 

 その時だった。

 突然大きな雷が近くに落ちたのだろうか

 静寂を切り裂く大きな音が周囲に響く。

 

リピス「・・・うぅ」

 

 身体を小刻みに震わせながら

 一層小さくなるリピス。

 

和也「・・・まあ別に話したくないなら

   それでいいけど」

 

 軽くため息をつきながらリピスの隣に座る。

 近くに落ちている枯れ木を集めて

 紅を近づけると、スグに燃え上がった。

 

 あとは、ずっと火を絶やさないように

 定期的に木を投げ入れる。

 

 時折、雷の音でリピスがビクビクとしていたが

 それ以外は、何もない。

 ただ、ずっと傍に座っているだけ。

 

 それから、どれだけの時間が経っただろうか。

 リピスがようやく口を開いた。

 

リピス「・・・嫌いなんだ」

 

和也「・・・ん?」

 

リピス「・・・雷の音は、嫌いなんだよ。

    色々と嫌なことを思い出す」

 

和也「・・・そうか」

 

リピス「・・・何も聞かないのか?」

 

和也「話したくなったら話せばいいさ。

   無理に聞こうとは思わない。

 

   ・・・ただ、リピスが苦しんでいるのが

   どうしても見過ごせなくなったら

   俺から聞くかもな」

 

リピス「・・・そうか」

 

 そう言いながら、リピスは

 俺にくっつくように隣に座り直す。

 

リピス「・・・しばらくこのままでいさせてくれ」

 

 彼女が何に苦しんでいるのか。

 それはきっと、彼女にしか解らないだろう。

 

 ただ、この時からだろうか。

 俺は、彼女の心を救いたいと思うようになっていた。

 

 

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 

 どれぐらいの時間が経っただろうか。

 未だ外は、嵐のような天候だ。

 皆は、ちゃんと何処かで雨宿り出来ているだろうか?

 そんなことを考えている時だった。

 

リピス「・・・なあ、和也」

 

和也「・・・ん?

   どうした?」

 

リピス「ひとりというのは、寂しいものだな」

 

和也「・・・そうだな。

   でもリピスは、ひとりじゃないだろ?」

 

リピス「・・・ひとりだよ」

 

和也「そんなことはない。

   俺や亜梨沙。

   フィーネやセリナやエリナ。

   メリィさん達もいるだろ」

 

リピス「・・・みんな、どこまでいっても

    最後は、別れることになる。

    結局は・・・他人さ」

 

和也「・・・そう言いたくなる気持ちは

   わからなくもない。

 

   昔の俺も、同じようなことを

   考えていた時期があったからな」

 

 そっとリピスの手を握る。

 

和也「・・・ほら。

   リピスが他人という俺だって

   こんなにも暖かな温もりを

   リピスに伝えることが出来る。

 

   それに、リピスがそう思っていなかったとしても

   俺達は、ずっとリピスと一緒だと思ってるし

   メリィさん達だって、リピスを大切に思ってるよ。

   ・・・金竜の王女としてもそうだろうが

   リピスって、ひとりの女の子としても・・・な」

 

リピス「・・・それでも―――」

 

和也「『それでも』と思うのなら、これだけは言っておく。

 

   俺は、お前を・・・リピスを裏切ったりしない。

   ずっと一緒に居てやる。

   ひとりが寂しいのなら

   俺がお前の『家族』になってやる」

 

リピス「・・・か、ぞく」

 

和也「泣きたい時は泣けばいい。

   ・・・今まで、よく一人で我慢したな」

 

リピス「うぅ・・・あぁ・・・」

 

和也「辛かっただろう。

   苦しかっただろう。

 

   ごめんな。

   気づいてやるのが遅れてしまって」

 

リピス「うあぁぁぁぁぁッッ―――」

 

 リピスは、俺の胸に飛びついて

 ひたすら泣き続けた。

 

和也「・・・やっと、キミの心を見つけることが出来た」

 

 百年以上生きているといっても、それは

 俺達、普通の寿命を生きる種族からしての話だ。

 

 竜族からすれば、彼女は

 まだまだ年齢の浅い少女。

 そんな少女が、突然両親を失い

 そして何も解らず種族の長を任され

 その役割を演じさせられる。

 

 立場的に弱音を吐くことは出来ず

 周囲に居るメリィさん達にさえ

 いつの間にか心を許すことが・・・

 本当の意味で、信頼することが出来なくなるほど

 追い詰められていたのだろう。

 

 それほどまでに、リピスは疲れていたのだ。

 竜族王女としての尊大な態度は

 それを演じるためのものであって

 本来の彼女は、きっとそれすら負担に感じるほど

 繊細な少女なのだろう。

 

 俺は、彼女が寂しくないように

 しっかりと抱きしめる。

 

 それからしばらくして

 泣き止んだリピスが、語りだす。

 

リピス「・・・あの日、雷の音が鳴っていたんだ。

 

    夜なのに、外が騒がしくて

    廊下に出たら悲鳴が聞こえた。

 

    怖かったけど、それでもみんなが心配になって

    ゆっくり声のした方に近づいたんだ。

 

    そうしたら・・・。

 

    一面、血の海。

    何人もの竜族が倒れていて

    みんな死んでいた。

 

    その中で、動いている人影があった。

    それが・・・お父様とお母様。

 

    何かに取り付かれたように2人は暴れて

    止めようとした者達を皆殺しにしていた。

 

    正直、何が起きているのか解らない。

    今でも、どうしてああなったのか

    原因は、解っていない。

 

    そんな時、2人と目が合った。

    そうしたら、2人が何て言ったと思う?

    『私達を殺してくれ』だとさ。

 

    自分自身が制御出来ないから

    殺してくれと暴れながら私に迫ってきた。

 

    その時、もう訳がわからなくて

    私は、泣きながら竜の息吹を放って

    ・・・私は、2人を。

    両親を殺してしまったんだ。

 

    その時から、私はひとりだった。

    両親は何時の間にか病死になっていて

    私は、竜族の長だ。

 

    その日から絶えず寂しさが襲ってきた。

    誰にも言えず、ひたすら耐えるしかなかった。

    それが・・・両親を殺した私への罰なのだとな」

 

 病死と言われていた竜王が、そんなことになっていたとは。

 リピスの告白に、驚きを隠せなかった。

 彼女の背負っている十字架の重さは

 並大抵のものじゃない。

 

和也「・・・もしかして、竜の息吹をあまり使わないのは」

 

リピス「威力があるからというのもあるが

    ・・・使うと思い出してしまうんだよ」

 

 ・・・でも、それでも。

 俺は、彼女を支えると決めたんだ。

 

和也「・・・俺の話も聞いてくれるか?」

 

リピス「・・・うん」

 

和也「・・・昔、住んでいた村が

   化け物の群れに襲われて全滅したんだ。

 

   その日、村の外まで遊びに行ってた俺は

   村が燃えてることに気づいて急いで戻った。

 

   村の中は、誰も居なかった。

   みんな喰われて死んでいた。

 

   俺は、両親を探したよ。

   そしてしばらく歩いて

   ようやく母親の後姿を見つけた。

 

   俺が『母さん』って呼ぶとな

   振り返ったんだよ。

 

   身体が何かの化け物に寄生されててな。

   脇腹や背中から腕のようなものが生えてたり

   頭が逆さになってたりしてたんだが

   口にはしっかり、父さんの頭を銜えた

   化け物になった母さんが。

 

   俺は、声が出なかった。

   そんな化け物になった母さんが

   地面を這いずりながら

   こっちに来るんだよ。

 

   『お願い、殺して』って言いながら。

 

   化け物が迫ってきた時

   俺は、咄嗟に近くに落ちてた大き目の石を

   手にして、母さんの頭めがけて

   何度も何度も、殴り続けた。

 

   何度目か、殴った時に

   母さんが言ったんだ。

   『こんなことさせて、ごめんね』って。

 

   その後、風間家の部隊が

   村に来て、俺は亜梨沙のところに保護されたんだよ。

 

   でも、その時

   俺は、ひとりだった。

   あの時は、自分ひとりで生きていくんだ。

   自分が強くならないと、何も護れないんだって

   がむしゃらになっていた気がするよ」

 

リピス「・・・そうだったのか」

 

和也「まだ大戦争が終わって10年だ。

   みんなきっと、何かしら抱えて生きているんだろう。

 

   だから、俺達だって

   きっとこれからだよ。

 

   だって、ここからが新しい一歩なんだから」

 

リピス「・・・そう、だな」

 

 再びリピスが胸に抱きついてくる。

 

リピス「ありがとう、和也。

    私に出会ってくれて」

 

和也「俺もだよ。

   ありがとう、俺に出会ってくれて」

 

 抱き合う2人。

 

 それを遠くから見ていた人影が

 ゆっくりと離れる。

 

?「はぁ、聞くんじゃなかったです」

 

 自分が一番可哀想な人生を送ってきた。

 そう思えるからこそ、逆に胸を張って生きてこれた

 ということもあった。

 

 しかし、やはり上には上がいる。

 自分よりも過酷な人生を歩みながら、自分よりも

 未来を信じて歩もうとする姿を見せ付けられては

 もう何も言えない。

 

?「藤堂 和也・・・か」

 

 フィーネ様が夢中になる理由も解らなくもない。

 そう思ってしまった思考を何とか振り払うと

 水に塗れた紅く長い髪の手入れを素早く済ませて

 雨の止んだ森の中へと歩いていくのだった。

 

 

 ―――その日の夜。

 

 夜の暗闇の中、静寂に包まれていた森に

 突如として爆音が轟く。

 

 1つ2つではない。

 何度も閃光と共に周囲の木々を薙ぎ倒しながら

 音を立てて周囲を破壊する。

 

?「E-RIS004、そこまでだ」

 

 爆音が止まった瞬間、森に人の声が響く。

 茂みの間から出てきたのは、白衣を来た者達。

 

?「試験結果は、良好。

  これで、長年の苦労も報われるだろう」

 

 年老いた男を中心に、小さい喜びの輪が広がる。

 ―――ただ、一人を除いて。

 

E-RIS004「はぁ、つまんないなぁ」

 

 E-RIS004と呼ばれた少女らしき人影は

 白衣の集団とは違い、実につまらなさそうにしていた。

 

E-RIS004「あ、そうだ。

     今ならまだ居るよね?」

 

 何かを思いついたのか、場所を移動しようとするE-RIS004。

 

?「E-RIS004、何処へ行く?」

 

 白衣集団の中心人物らしき、年老いた男が

 E-RIS004と呼ばれている少女を呼び止める。

 

E-RIS004「つまらないから、あの人に会ってくるの」

 

?「何を言っているんだっ!

  あの人族との接触は、禁止したはずだろうっ!」

 

 若そうな男が、怒りながら声を出す。

 

E-RIS004「だから、昨日はちゃんと大人しくしてたじゃない」

 

?「あの人族との接触は、永久に禁じる。

  お前に与える影響が予想外すぎる」

 

E-RIS004「嫌よっ!

     私は、会いに行くんだからっ!」

 

?「・・・仕方が無い」

 

 年老いた男は、何かの小さな箱を取り出すと

 赤いボタンを押す。

 

E-RIS004「きゃぁぁぁぁっ!!」

 

 E-RIS004に首輪がついていて、そこから

 魔法によるダメージが入る。

 

?「お前には、我々の道具だということを

  再認識させる必要がありそうだな。

 

  ・・・おお、そうだ。

  ついでに、あの人族の記憶も削除しておこう」

 

 強力な雷魔法が、少女に攻撃し続ける。

 普通なら、一瞬で気を失うほどの雷撃。

 

E-RIS004「―――さない」

 

?「・・・む?

  これは、どうしたことか」

 

 本来なら、いかに実験体といえ

 もう既に倒れているはずのE-RIS004。

 しかし一向に倒れる気配がない。

 

?「これ以上は、ダメージが残ってしまいます」

 

 隣から、そんな言葉をかけられるが

 老人はボタンを離そうとしない。

 

?「多少なら問題ない。

  それよりも今は、『躾』が重要だ」

 

 その言葉と共に、装置の出力を一気に上げようとした瞬間

 

E-RIS004「許さないっ!!」

 

 何かが爆発したような『気』が駆け抜け

 白衣の集団は、その場に尻餅をつく。

 

E-RIS004「・・・私から

     あの人を奪うことは、絶対に許さないっ!!」

 

 丁度、空を覆っていた雲が晴れ月明かりが差し込んでくる。

 そこには、白衣を着た集団と金色の髪の少女。

 

 普通ならば、少女が謎の集団に

 襲われているようにも見える場面。

 しかし事実は、違っていた。

 

 少女の瞳は、獰猛な獣が獲物を見つめるそれであり

 彼女を抑えるための首輪は、壊れて彼女の足元に落ちていた。

 

E-RIS004「・・・私は

・・・私はっ!!

・・・私は、イリスッ!!」

 

 恐怖から逃げ出す白衣の集団だったが

 枷から解放された獣によって

 次々と狩られていく。

 

 それは、一方的な虐殺だった。

 

 左手には、大きな手甲を装備しており

 その手甲は、手の部分が巨大な鉤爪になっている。

 

 その爪は、人を簡単に貫いたり引き裂いたりしており

 非常に強力だ。

 右手には、大きめのトンファーを持っている。

 その一撃は、人を簡単に粉々に砕いていた。

 

 また足にも足甲を装備しており

 彼女の蹴りは、人の頭を簡単に吹き飛ばしていく。

 

 全てが儀式兵装のようであるが、儀式兵装とは

 本来は、1人につき1つだ。

 

 しかし今は、どれが儀式兵装であったとしても

 関係など無いだろう。

 

 ひたすら命乞いしかしていない者まで

 容赦無く殺していく彼女の姿は

 いつの間にか血で赤黒く染まっていた。

 

?「・・・な、何故だっ!?

  あの人族は、竜王女のお気に入りというだけで

  何もないと言ったはずだぞっ!!」

 

 この惨劇で、唯一『生かされていた』年老いた男は

 イリスに向かってそう叫ぶ。

 

イリス「・・・あの人は。

    ・・・和也は、私の王子様。

 

    街を見て回っても、みんな私を避けるの。

    私を押し倒そうとした男達も居たわ。

    みんな、私のことを嫌うの。

    ひどいことしてくるの。

 

    でも、あの人は・・・和也だけは違ったわ。

 

    私のことをちゃんと見てくれる。

    私のことを気遣ってくれる。

    私のことを好きでいてくれる。

 

    お話だっていっぱいしてくれるの。

    あの人だけは・・・私の味方で居てくれる」

 

 まるで夢を語る少女のように、楽しそうに話すイリスは

 その身を染め上げる鮮血を気にすることなく

 ゆっくり年老いた男に近づいていく。

 

イリス「だから・・・だからね」

 

 そのまま男の目の前まで来たイリスは

 左腕を上げる。

 

イリス「私から和也を奪う悪い人は

    ・・・壊しても、いいよね?」

 

?「や、やめ―――」

 

 男の頭に巨大な爪が振り下ろされ

 グシャっという音と共に、男は倒れる。

 

 数秒後、笑い声が辺りに響く。

 

イリス「・・・な~んだ。

    意外と簡単なことだったわ。

 

    こんな連中

    さっさとこうしておけば、よかった」

 

 周囲の屍を、気にすることなく歩くイリス。

 何か動きにくいと感じて、自身を見る。

 そこでようやく、自分の姿に気づく。

 

イリス「・・・こんな汚れた姿じゃ

    和也に嫌われちゃう。

    着替えて、お風呂にも入って・・・。

 

    ・・・でも、それだと今日は会えないわ」

 

 時間的にも和也は、既に寮に帰っている時間だ。

 今日は、もう間に合わない。

 

イリス「・・・今日は諦めるしかないわね」

 

 残念そうにそう呟くイリスだったが

 何かをひらめいて、急に元気になる。

 

イリス「・・・そうよ。

    そうだわ。

 

    な~んだ・・・簡単なことじゃない」

 

 突然その場で踊りだすイリス。

 そして何度目かのターンを終えると

 両手を空に向けて大きく広げて天を仰ぐ。

 

イリス「待っててね、和也。

    私達だけの世界、スグに用意するからっ♪」

 

 そしてまた、笑いながら踊りだす。

 森の舞踏会は、血で染め上げられ

 周囲には、屍と化した動かない観客達。

 

 月明かりに照らされた少女は

 ただ一人、楽しそうに踊り続けるのだった。

 

 

 

 

 

第12章 狂愛/純愛 ―完―

 

 

 

 

 





ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
活動報告でお伝えした通りの予定で
公開出来てホッとしております。

リピス編、今回は
2人の金竜を1つの対比で演出してみました。
物書き初心者として、色々な方向に挑戦して
みてはいますが、なかなか難しいと感じています。

リピス編も、そろそろ本格的に終焉に向かう予定ですので
次回も、よろしくお願いします。

**連絡事項**
改めてご挨拶等や、その他色々とありますので
活動報告の方に記載させて頂きます。


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第13章 狂気の序曲

 大雨の日の翌日。

 俺は、周囲からの視線に耐えながら

 学園生活を送っていた。

 

 それは何も今に始まったことじゃない。

 人族である以上、どうしても

 そういった視線を向けられてしまう。

 

 だからと言ってはなんだが

 それらの視線には慣れているはずだった。

 

 しかし―――

 

 今回の視線は、俺が今まで経験したどの視線とも違った。

 

亜梨沙「・・・」

 

フィーネ「・・・」

 

セリナ「・・・」

 

エリナ「・・・」

 

 その視線には、種族差別なんてしないはずの

 彼女達も含まれている。

 誰もが無言で、こちらを睨んでいた。

 

 理由は、実に簡単だ。

 

リピス「~♪」

 

 隣でベッタリと甘えるように

 くっついている、この小柄な猫。

 

 彼女の行動で、今の状態があると言える。

 

 それは、少し前。

 朝の女子寮からだった。

 

 

 

 

 

第13章 狂気の序曲

 

 

 

 

 

 今日の朝、いつものように支度を整え

 寮の玄関前に行くと、いつも待ち合わせている

 フィーネだけでなく、セリナとエリナまで居た。

 

フィーネ「おはよう、和也」

 

セリナ「おはようございます、和也くん」

 

エリナ「おはよう、和也」

 

和也「ああ、みんな。

   おはよう」

 

亜梨沙「皆さん、おはようございます」

 

 みんな、それぞれに挨拶を交わす。

 今日も、いつも通りの朝だ。

 

 挨拶も終わりそろそろ行こうかという話になった時

 大階段から1つの団体が降りてくる。

 

 それはリピス達、竜族の集団だ。

 こちらに気づいたリピスが声をかけてくる。

 

リピス「おはよう、夫殿」

 

 その瞬間、快晴の空に雷鳴が轟いた。

 

アイリス「おめでとうございます」

カリン「おめでとうございますです」

リリィ「おめでと~ございま~すぅ」

メリィ「おめでとうございます」

 

 綺麗に揃った一礼と、祝いの言葉。

 

フィーネ「・・・」

 

セリナ「・・・」

 

エリナ「・・・」

 

亜梨沙「・・・」

 

和也「・・・」

 

 一瞬何が起こったのか理解出来なかった。

 俺達が呆然としている間に

 こちらに歩いてきたリピスが

 俺に腕を絡めると

 

リピス「さあ、行こうか夫殿」

 

 そう言って歩き出そうとする。

 

亜梨沙「ちょ、ちょ~っと待って下さいっ!」

 

 何とか我に返った亜梨沙が

 リピスを呼び止める。

 

リピス「ん? どうした?」

 

亜梨沙「とりあえず説明ですっ!

    説明をしましょうっ!!」

 

エリナ「そ、そうよっ!

    説明を要求するっ!」

 

リピス「説明も何も、見たままだが?」

 

セリナ「意味がわかりませんっ!

    もっと具体的な説明を要求しますっ!」

 

 4人がリピスに食い下がってる。

 その後ろで大人しいフィーネだが

 

フィーネ「・・・竜界は一夫多妻だからまだ大丈夫

     ・・・まだ諦めなくても大丈夫

     ・・・一夫多妻だからチャンスはあるもん」

 

 ブツブツと何やら自分に言い聞かせるように

 何かを呟いていた。

 

リピス「うむ。

    和也が『家族になる』と言ってくれたのでな。

    正式な婚姻は、少し先になるが

    まあ、そういうことだと察してくれ」

 

亜梨沙「なっ!?」

 

エリナ「ウソッ!?」

 

セリナ「ホントですかっ!?」

 

フィーネ「まだ大丈夫だも~んっ!!」

 

 一人だけ何か違う叫び声が聞こえた気もするが

 リピスの話を聞いて、ようやく俺は意味を理解する。

 

 確かに『家族になってやる』と言った。

 それは、家族のような関係であり

 あくまで擬似家族であって信頼関係の話だ。

 

 しかしリピスは、それを『本当の家族』と

 思っているようだ。

 そして俺とリピスが本当の家族になるには・・・。

 

和也「って飛躍しすぎだろっ!!」

 

リピス「どうした?」

 

和也「いや、確かに家族になるとは言ったが―――」

 

リピス「まさか・・・違う、のか?」

 

 急に泣きそうな顔になるリピス。

 

和也「いやいやいや。

   確かに家族になるとは言ったんだが

   ちょ~っと話が急すぎないかと―――」

 

リピス「家族になるのだ。

    早い方がいいだろう。

    ・・・それともやっぱり私とでは嫌、なのか?」

 

和也「そ、そんなこと言ってないだろ。

   別に嫌じゃないよ」

 

リピス「な、何だ。

    私が一人でただ勘違いしていただけかと

    思ってしまったではないか。

    もう、困った夫殿だ」

 

 先ほどの泣きそうな顔から

 一気に嬉しそうな顔になり

 更にギュッとしがみ付くように寄り添ってくるリピス。

 

 耳は、ピコピコとせわしなく上下し

 尻尾は嬉しそうにパタパタと左右に揺れている。

 ・・・何この可愛い猫。

 思わずそう思えるほど

 今までのリピスから、圧倒的にかけ離れた

 甘えるのが大好きっ!!と全身で表現する

 小柄な猫が、そこに居た。

 

 そして状況に若干ついていけない

 王女様達を置き去りにして学園へと歩く。

 

 すれ違う人々は、珍しい出し物でも見るように

 俺とリピスを見ている。

 

和也「あ、あのメリィさん?」

 

メリィ「はい、何でしょう?」

 

和也「これってかなり不味くないですか?

   リピスって竜界ではアイドル的な人気なんですよね?」

 

メリィ「ご心配には及びません。

    皆、こうなると理解しておりましたから」

 

和也「え?」

 

メリィ「以前に

   『竜界においては和也様、有名なんですよ』

    と話をしていたこと、覚えていらっしゃいますか?」

 

和也「・・・確か、そんなこと言ってましたね」

 

メリィ「リピス様は、我が竜界の王家である金竜最後の1人です。

    もちろんこのまま絶滅というのは非常に困ります。

    ですから、リピス様にはぜひとも跡継ぎをという声が

    上がっています」

 

 まあ、それはそうだろう。

 王家の血筋が絶えることは、種族全体の衰退に繋がる。

 ・・・今の人界のように。

 

メリィ「ですから、理想としては

    人族からお相手を探すべきだということで

    竜族内は意見が一致しております」

 

 これも当然だろう。

 人族との間なら、子供が生まれにくい竜族でも

 可能性が非常に高まるというのは

 既に結果が出ている話だからだ。

 

メリィ「しかし、リピス様の意見に沿わないお相手では

    子供どころか結婚生活まで立ち行かないでしょう」

 

 会ったこともない相手であったり

 どうしても相性が合わない相手と結婚なんて

 そりゃ長続きしないだろう。

 

メリィ「ですから

    1・人族で

    2・リピス様のお相手に相応しく

    3・リピス様が選んだお相手

    であるのが理想です」

 

和也「・・・まあ、そうでしょうね」

 

メリィ「それでは、当てはめていきましょうか」

 

 嬉しそうに話を続けるメリィさん。

 

メリィ「1番・和也様は人族なので問題ありません。

 

    2番・和也様は風間家でも上位の位をお持ちで

       人界を代表出来る立場にもいらっしゃいます。

 

    3番・リピス様がご結婚を考えるほど仲が良く

       リピス様に近い年頃の人族の男性は

       和也様以外にいらっしゃいません」

 

和也「・・・」

 

メリィ「ですので、近い将来として

    和也様とは、そういう仲になるものだと

    誰もが思っておりました」

 

アイリス「はい、ですから何の問題もありません」

 

カリン「むしろ予定通りですっ!」

 

リリィ「竜界では、常識問題ですよぉ~」

 

 昔、『竜界においては和也様、有名なんですよ』と

 言われた時は、考えてもいなかったが

 確かに絶滅するかどうかの王家の未来を考えるのは

 種族としての急務だ。

 

 そう考えると、前々から俺は

 リピスの相手として候補に上がっていたということか。

 

 ふとリピスを見る。

 いつも見ていたリピスと違い

 こちらを強く信頼してくれているのがわかる。

 

和也「(・・・まあ

    そんな未来も、いいかもしれないな)」

 

 雲一つない空を見上げると

 何を悩んでいたんだと思えるほど

 気持ちが晴れていく。

 

和也「(まあ、なるようになるさ)」

 

 それに今更、リピスを手放そうとも思わない。

 彼女と歩く今後の人生を少しだけ考えながら

 学園の門をくぐっていった。

 

 フィーネ達は、どうしていいのかわからず

 混乱気味だったところから落ち着きを取り戻し

 昼休みに入ったあたりからだったか

 

亜梨沙「緊急事態です。

    対策を考えましょう」

 

 この我が妹の言葉によって

 一箇所に集まり、何やら相談事をしていた。

 

 一夫多妻がどうとか聞こえてきている時点で

 怪しさ爆発って感じではあるが・・・。

 

 そして、その日の夜。

 

 俺はいつもの場所でいつもの訓練をしていた。

 

 やはり一人で剣を振っている瞬間は

 余計なことを考えずに済む。

 一番心が落ち着く時間でもある。

 

和也「ん?」

 

 最近、誰かが見に来ることが

 多くなったからだろうか。

 

 何かの気配に気づいて声をかける。

 

和也「・・・そんなところで何をしてるんだ?」

 

 すると茂みの中から出てくる影が1つ。

 

イリス「えへっ。

    見つかっちゃったっ♪」

 

 気配の主は、イリスだった。

 

和也「もっと堂々と会いにくればいいだろう?」

 

イリス「それじゃつまらないじゃない」

 

 そう言ってこちらに近づいてくるイリス。

 

和也「・・・待ってくれ」

 

イリス「ん?

    どうしたの?」

 

和也「・・・その血は何だ?」

 

 それは、本当に偶然だった。

 

 月明かりと彼女の手の位置で

 見えてしまった、彼女の右手の内側に

 ほんの少しだけあった擦れた血。

 

 そして擦れ方で、彼女自身の血でないことは

 スグにわかる。

 

イリス「ううん。

    何でもないの」

 

 手を隠すイリスの仕草で

 俺は、嫌な予感を感じる。

 

 イリスの動きは、何かあった場合に

 スグに動けるように少し構えた感じにしか見えない。

 

 それは、自分が嘘をついていると

 認めているようなものだ。

 

和也「もう一度だけ聞く。

   その血は何だ?

   ・・・頼むから答えて欲しい」

 

イリス「・・・ちょっとコケちゃったときに―――」

 

 俺を見て、逃げ切れないと思ったのか

 途中で嘘の言い訳を辞めるイリス。

 

イリス「・・・やっぱり和也は、凄いんだね」

 

和也「答えになってない。

   ・・・その血は、何の血だ?」

 

イリス「ちゃんと手も洗ったはずたったのになぁ」

 

和也「・・・答えてくれっ!!」

 

イリス「・・・急いでるって言ってるのに

    しつこく絡んでくる連中が居たの。

    許せないよね、私と和也の邪魔をするんだよ?」

 

和也「・・・まさか」

 

イリス「私と和也の世界に、あんなのいらないでしょ?

    だから壊しちゃったっ♪」

 

和也「・・・何故、殺した」

 

イリス「だって、必要ないでしょ?

    私達の世界は、もっと私達のためだけに

    あるべきだもの」

 

和也「・・・どうして、そんなに簡単に殺したんだ」

 

イリス「和也なら解ってくれるでしょ?

    だって、私の王子様だもん」

 

和也「・・・解る訳が無いだろうっ!!」

 

 俺は、紅を抜く。

 

イリス「・・・どうして和也は

    私に剣を向けるの?」

 

和也「・・・お願いだ。

   これ以上何もせず、俺と一緒に来てくれ。

   

   学園長やオリビアさんなら

   キミを悪いようにはしないだろう」

 

イリス「・・・それは出来ないわ」

 

和也「・・・どうして?」

 

イリス「だって、私と和也の世界には

    そんなの不要だもの。

    

    みんな私と和也の邪魔ばかりする悪い人達ばかりよ」

 

和也「そんなことはないっ!」

 

イリス「私知ってるの。

 

    学園長であり魔王妃でもある マリア=ゴア。

    寮管理人でもあり神王妃でもある オリビア=アスペリア。

    学園生徒であり、竜王女でもある リピス=バルト。

 

    この3人は、特に悪い人。

    真っ先に壊しちゃう必要があるって何度も聞かされたわ」

 

和也「それは違うっ!

   あの人達は、信用できる人だっ!」

 

イリス「・・・ああ、そういうことか」

 

和也「・・・」

 

イリス「そういうことなのね。

    可哀想な和也」

 

和也「何の話だ?」

 

イリス「悪い人達に操られているのね。

    だから私に剣を向けるんだわ。

 

    でも、心配しないで。

    スグに私が助けてあげる。

 

    悪い人達を全部壊して

    その後で、2人で創りましょう。

    

    ―――私達だけの幸せな世界をっ!!」

 

 突然の放たれる強力な殺気に

 思わず後ろに数歩下がる。

 

 イリスは、何時の間にか儀式兵装を手にしていた。

 左手の大きな爪。

 右手のトンファー。

 足の足甲。

 どれにも弾装らしきものがついていた。

 つまり、全てが儀式兵装ということになる。

 

 本来ありえないことだ。

 儀式兵装とは、1人に1つだ。

 それ以上は、魂を分割しすぎて

 使用者の精神を蝕んでしまい、長くは持たないからだ。

 

 そこで気づく。

 もしかして彼女は―――

 

イリス「ごめんね、和也。

    少し痛いかも知れないけど我慢してね。

    

    これも悪い人達から和也を護るためなのよ」

 

 その言葉の瞬間―――

 イリスの姿が消えたと思ったら

 もう目の前まで踏み込んできていた。

 

 左手の大きな爪の一撃を紅で受け止める。

 

和也「―――ッ!?」

 

 受け止めた瞬間から削られる刀身。

 スグに持たないと判断して何とか身体を捻って避ける。

 

 そこへ今度は、右手のトンファーが迫ってくる。

 

 刀身の再構成する時間すら無かったため

 片手で鬼影を抜くと、鬼影で受け止める。

 

 しかし竜族、しかも金竜の一撃だ。

 威力を殺すことは不可能であるため

 その一撃の威力を全て受け流す形で

 大きくわざと吹き飛んで距離を取る。

 

イリス「あはははっ!!

    凄いね、和也っ!!」

 

 何が楽しいのか、その場で笑いながら踊りだすイリス。

 

イリス「世界は、これから変わっていくのっ!

    もう少しよっ!

    あと少しで、世界は私と和也のものになるっ!!」

 

 その時、後ろの方で大きな爆発音が響いた。

 

和也「何だっ!?」

 

イリス「研究所に居た出来損ないのゴーレム達を

    ぜ~んぶ開放したの。

    邪魔な連中を全て綺麗にしてくれるのよ」

 

和也「・・・くそっ!!」

 

 方角的に女子寮と学園の方角だ。

 スグにでも走っていきたいが

 目の前の彼女を何とかしなければ、どうしようもない。

 

イリス「さあ、和也。

    一緒に行きましょう。

    

    アナタと私。

    2人だけの世界へ―――」

 

 そう言って、こちらに左手を伸ばしてくる。

 

和也「・・・残念だな」

 

イリス「?」

 

和也「自分の左手を、よく見てみろ」

 

イリス「・・・あ」

 

 彼女の左手は、儀式兵装の大きな爪の形になっており

 とても手が握れる状態ではない。

 

和也「そんな手じゃ、解かり合えない。

   手を取り合うことが出来ないよ」

 

イリス「・・・そんなことはないわ。

    だから壊すんだものっ!!」

 

 イリスが左手を横に振るうと

 隣に立っていた大きな木が、軽々と吹き飛ばされる。

 

イリス「だから壊して創るのっ!!

    2人だけの世界をっ!!

 

    誰にも邪魔されない2人だけの未来をっ!!」

 

 更に強くなる殺気は、もはや形を持った怨念のように

 周囲を覆っていた。

 

 こんな状況の中。

 俺は、彼女を助けたいと思っていた。

 

 きっと彼女は、被害者だ。

 誰かに利用され、戦うことを強要され

 踊り続ける哀れな人形。

 

 だが俺は知っている。

 ここ数日ではあったが、彼女と過ごした時間は

 決して彼女が、ただの人形ではないことを・・・。

 

 彼女の中には、ちゃんと普通の少女としての心が

 しっかりと残っていることを。

 

和也「(・・・俺にどこまで出来るか解らないが)」

 

 そう、俺に彼女を救うことは無理かもしれない。

 でも、諦めたくなかった。

 

 俺は、諦めるためにこの場所へ来た訳じゃない。

 

 和也は、剣を構えた。

 剣を自分の胸の前に垂直に構える。

 

和也「『この力を、守りたい全てのために』」 

 

 そして和也は、イリスに向かって走り出した。

 

 

 

 

 

第13章 狂気の序曲 ―完―

 

 




まず、ここまで読んで頂きありがとうございます。

投稿ペースが遅れてしまい申し訳ありません。
最近、ロゼブル様から発売された新作とか
すたじお緑茶様から出た新作の南・・・
南斗六聖拳じゃなくて・・・
南斗聖帝十字陵でしたっけ?
(*南十字星恋歌です)
とか積みゲーを
消化してると時間無いですね・・・。

まあそれも半分ありましたが
前回があまりにも綺麗に終わったため
次回をどう繋げて展開しようか
非常に悩みました。
おかげで最後の展開を現在予定から
少し変更中です。

リピス編も、そろそろ終盤になってきました。
最後まで面白い展開に出来るように努力致します。

**こちらのサイト様専用のコメント**
フィーネ編に、一部コピペの際
謎に私のログイン情報とか一緒に添付されていました。
何だか申し訳ありません。

ただ、一言あるとすれば
『感想とかで教えてくれても、いいんですよ?(笑)』
いや、本当に自分で見つけた時は
非常に焦りました。

普段やらないことをやるとミスって
どうしても出るものですね・・・。


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第14章 届かぬ想い

 突然の爆発音。

 突如襲ってくるゴーレム達。

 

 男子寮は、まさに大騒ぎだった。

 

ゴーレム「グオオォォォ!!」

 

 暴れまわるゴーレム達に、近くに居た生徒達が応戦する。

 

神族男生徒A「何だこいつらはっ!?」

 

魔族男生徒A「とりあえず倒すのが先だっ!!」

 

 ゴーレムに向かって2人とも魔法を放つ。

 だが、ゴーレムに直撃するもまるで何かに弾かれるように

 魔法が効かない。

 

神族男生徒A「くそっ!!

      魔法が弾かれたぞ」

 

魔族男生徒A「何なんだ、こいつらはっ!?」

 

 ゾロゾロと寮に侵入してくるゴーレム達。

 だが、生徒達も集まってくる。

 

神族男生徒B「おい、どうしたっ!?」

 

魔族男生徒B「何があったっ!?」

 

ギル「おいおい、こりゃ何の騒ぎだ?」

 

アレン「・・・騒がしいな」

 

ヴァイス「煩いぞ、お前らっ!!」

 

 そして同じく女子寮でも

 ゴーレム達の襲撃があった。

 

 しかし―――

 

神族女生徒A「とりあえずこっちに置いておくわ」

 

魔族女生徒A「そこのテーブルこっちに持ってきてっ!」

 

竜族生徒A「まだ寝ぼけてる人は、こっちで顔を洗ってっ!!」

 

アクア「女子寮を狙ったことを後悔させてあげますわ」

 

レア「人の安眠を妨げた罪は重いわっ!!」

 

イオナ「先輩・・・結構元気ですね」

 

フィーネ「とりあえず全員叩き起こしたわよ」

 

エリナ「1階の避難も完了したよ~」

 

セリナ「あとは迎え撃つだけですね」

 

亜梨沙「兄さんは大丈夫でしょうか・・・」

 

エリナ「和也なら、きっと大丈夫だよ」

 

セリナ「そう言えば、リピス達が居ませんね」

 

フィーネ「彼女達こそ大丈夫でしょ」

 

 本来なら女子寮も奇襲同然に襲われるはずだった。

 しかし、対男子用の侵入警戒網にゴーレム達が引っかかったため

 こうして事前準備をする時間が稼げているのだ。

 

ミリス「はたして、それを喜ぶべきなのか。

    悲しむべきなのか。

    迷ってしまいますよね」

 

 ミリスの言葉に、周囲の生徒達は一斉に頷く。

 

ゴーレム「グルァァァァ!!」

 

 叫び声と共に玄関扉を破壊して侵入してくるゴーレム達。

 

セリナ「さあ、迎え撃ちますよっ!!」

 

 そして生徒達とゴーレム達の壮絶な戦いが始まった。

 

 だがそのころ、街では一方的な殺戮が起きていた。

 

市民A「た、助けてくれぇぇぇ!!」

 

市民B「いやぁぁぁぁ!!」

 

市民C「こ、殺さないでくれぇぇぇ!!」

 

 戦う力を持たない街の人々は

 ただ逃げ惑うしかなかった。

 

 騒ぎに気づいた学園の教師達と

 たまたま2人で酒を飲んでいた神王妃と魔王妃。

 

 彼女達は、それぞれに街に出て市民を助けるも

 この学園都市は広すぎる。

 

 とてもではないが人数が足りない。

 

 圧倒的なまでに後手となってしまい

 被害だけが拡大していく。

 

 

 

 

 

第14章 届かぬ想い

 

 

 

 

 

 夜の暗闇の中、火花が散って

 一瞬だけ周囲を照らす。

 

 響く金属音。

 2つの影が動く。

 動きながら2つは、何度もぶつかる。

 

 時折、その衝撃に耐え切れず

 草むらは刈られ、木々が倒れる。

 

 風を切り裂く音と共に迫る爪を

 ギリギリのところで回避して、紅を振るう。

 

 しかし、バチッっという音と共に

 弾かれてしまう。

 

 その瞬間を狙った蹴りが来るも

 後ろに大きく跳躍して回避する。

 

和也「はぁ・・・はぁ・・・」

 

 何度も攻撃を仕掛けるも

 和也はイリスを止めるどころか

 一撃入れることすら出来ていない。

 

和也「金麟を・・・何とかしないと・・・」

 

 何度も攻撃を仕掛けるが

 全て金麟によって受け止められてしまっている。

 

 ただでさえ、こちらは一撃もらえば即アウトの状況で

 かつ、相手の方が圧倒的に身体能力が上な状態だ。

 精神力がジリジリと削られているのが、わかる。

 

イリス「ラララ~♪

    ランララ~♪」

 

 対して相手は、歌を歌いながらこちらに

 近づいてくる。

 疲れている様子など、まったくない。

 

 初めから竜族相手に長期戦を挑めば

 こうなるとわかっていたため、短期決戦のつもりで

 戦ったのだが、金麟の予想以上の堅さをどうすることも

 出来ず、こうして時間だけが過ぎてしまっている。

 

和也「せめて、魔眼で金麟を見切ることが出来れば・・・」

 

 魔眼という便利な能力に頼り過ぎないように

 普段から頼らないと自身に言ってきたくせに

 ピンチになると、こうも頼ってしまう自分が情けない。

 

 自分の強さは、所詮持って生まれた特殊な能力のおかげに

 過ぎないのではないかと思えてしまう。

 

和也「・・・はっ。

   らしくないな」

 

 そんなこと、昔からずっと色々考えてきたことだ。

 手にした力である以上、それと上手に付き合っていくと

 決めたはずなのに・・・。

 

イリス「・・・和也。

    私ね、あまり時間がないの」

 

和也「・・・」

 

イリス「街とかぜ~んぶ壊しに行きたいから

    ・・・そろそろ本気でいくね?

 

    痛いのは、男の子だし我慢出来るよね?

    だって私の王子様だもんっ♪」

 

 彼女の周りに風が吹く。

 その瞬間、魔力の高まりを感じる。

 

和也「ここで、更に魔法かよ・・・」

 

 今まで魔法を使ってこなかったから

 もしかして魔法が使えないのではという

 甘い期待が砕け散る。

 

 だが―――

 

和也「魔法を使ってくれるなら、まだいける」

 

 そう、俺にはこの力。

 魔眼がある。

 

和也「・・・魔眼、開放」

 

 見える景色に魔法という色が加わる。

 その色は、イリスが何をしようとしているのかを

 俺に教えてくれる。

 

イリス「アースジャベリンッ!」

 

 竜族は、本来魔法との相性が悪いため

 攻撃魔法が使えない。

 これはいかに金竜といえども同じだ。

 

 実際、リピスも使えない。

 しかし、目の前の金竜はその常識を超えてきた。

 

 だが、魔眼で先にそれを知った俺に

 動揺はない。

 それに彼女なら、何をしてきてもおかしくないと思えるからだ。

 

 迫る土槍を紙一重で避けながらイリスに近づく。

 

イリス「凄いね、和也ッ!

    だけど―――」

 

和也「それは既に見切っているっ!!」

 

 足元から出現して四方を囲もうとしたアースウォール。

 既にそれを使うことを『知っていた』俺は、更に加速して

 範囲から抜け切る。

 

 そのままイリスの正面まで来た俺は

 

和也「これならどうだっ!

   紅、最大出力ッ!!」

 

 紅の魔力を最大限に放出して大剣状にする。

 そしてそのまま剣を横に薙ぐ。

 

 バチバチッ!!

 ガキンッ!!

 

イリス「―――」

 

 紅の一撃をイリスは右手のトンファーで受け止めている。

 これがダメなら本当に打つ手が無い所だった一撃。

 そして金麟を抜いたこのチャンスを逃がす訳にはいかない。

 

 その場でクルっと一回転して遠心力をつけた一撃を放つ。

 それを左の爪を開いて、紅の刀身を掴んで止めるイリス。

 

 だが―――

 

イリス「・・・え?」

 

 掴んだ瞬間に感触が無くなる左手。

 

 和也は掴まれた瞬間に刀身を消して

 そのままイリスの前で大きく踏み込んで

 紅を振り下ろす。

 

 イリスは、刀身の無い剣にも関わらず

 右手のトンファーで受け止める体勢を取る。

 

 ガキィン!!

 

 トンファーに当たる直前で、刀身が再構成され

 紅とぶつかり音が響く。

 

和也「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 両手に込める力を更に強めて一気に押し込む。

 同時に再度、紅を最大出力状態にして威力を上げる。

 

イリス「くっ・・・」

 

 片腕だったとはいえ

 人族相手に力で押し負けると思っていなかったイリスは

 後ろに吹き飛ばされる。

 

 空中で体勢を立て直して着地するイリス。

 だが、目前には既に和也が走りこんできていた。

 

和也「まだまだっ!!」

 

 せっかく流れがこちらに来たのだ。

 このチャンスを逃す手はない。

 

イリス「アースジャ―――」

 

和也「遅いっ!!」

 

 出現した土槍を斬りながらイリスに紅を振り下ろす。 

 それを横に飛ぶような速さで避けるイリス。

 

 和也の背中を取ったイリスは

 隙だらけになった背中へ、そのまま左手を前へ突き出す。

 

 しかし和也は、そう来ると予想し

 そのまま身体を捻って回避しながら

 今度は、イリスの側面へ『旋風』を放つ。

 

 それは、確実に決まるタイミング。

 金麟を抜けるようにと紅は、最大出力。

 決まったと思われた一撃。

 

和也「―――なッ!?」

 

 空を斬る攻撃。

 何の手ごたえもなく、振り抜いた一撃。

 

 それもそのはず。

 紅に・・・刀身はついていなかった。

 

 咄嗟に跳躍して距離を取る。

 

イリス「あら?

    どうしたの?」

 

 暢気な声でこちらの様子を見るイリスを

 警戒しつつも、手に持つ紅を確認する。

 

和也「・・・ちっ」

 

 思わず舌打ちをする。

 何度もイリスの儀式兵装に刀身を削られ

 更に最大出力で振り回してた結果だろう。

 予想以上に早く、紅の魔力が切れ

 使用不能になってしまった。

 

和也「・・・タイミングが悪すぎる」

 

 そう愚痴りながら、紅を片付けて

 鬼影を抜く。

 

 正直、鬼影は対魔法用であって

 気麟を抜けるような代物ではない。

 

 手持ちのマジックナイフもリピス相手に

 試して、金麟を抜けないことは実証済みだ。

 

 つまりこの時点で、金麟を抜く手段を

 失ったことになる。

 

 そして、この瞬間から

 戦いは、一方的なものになってしまう。

 

 攻撃が通じない相手に攻撃をしても意味はなく

 相手も避ける必要のない攻撃をわざわざ避けることはない。

 

 ひたすら相手の攻撃を避けることしか出来ず

 逃げ回るしか出来ない状況が苦しい。

 

イリス「ねえ、和也。

    さっきみたいに攻撃してこないの?」

 

 イリスの言葉を聞き流しながら

 必死に頭を働かせるが、打開策が見つからない。

 

 攻撃を回避してカウンターを入れても

 やはり金麟に阻まれる。

 それどころか、時間と共に体力差が出始め

 イリスの動きについていくことが出来なくなってくる。

 

 こうなると、直撃をもらうのは時間の問題だ。

 それが解っているだけに、余計に焦ってしまい

 考えがまとまらない。

 

 避けきれない攻撃が増え、受け止めることも出来ないために

 何とか受け流すも、やはり衝撃を完全に殺しきれない。

 全身に少しづつ蓄積していくダメージ。

 そして攻撃を受け止め続ける鬼影も、このままではもたない。

 

 誰が見ても絶体絶命だった。

 

 しかし、それでも俺は剣を構える。

 

和也「ここで逃げたら、俺はきっと一生後悔する」

 

 逃げるという選択肢は、初めから無かった。

 ここでもし自分の命を惜しんで逃げたら

 彼女を助けることが出来ないどころか

 自分自身が許せなくなる。

 

和也「俺は、もう逃げたくない。

   もう、あんな想いはしたくないんだ」

 

 ゆっくりと瞳を閉じる。

 

 自分の母親を手にかけた記憶が蘇る。

 あんな想いは、二度とゴメンだ。

 

 もう打つ手がない以上、俺が最後に頼れるのは

 一つだけだ。

 

 やはり・・・俺はまだ未熟だと言うことか・・・。

 

和也「・・・魔眼よ。

   一瞬だ。

   一瞬だけでいい。

 

   俺に金麟を見せてくれ。

   俺は、彼女を助けたいんだ。

 

   今後もう使えなくなったって構わない。

   今だけでいい。

   

   ・・・頼む。

   俺に力を貸してくれ・・・ッ!!」

 

 そしてゆっくりと瞳を開ける。

 

和也「・・・魔眼、完全開放ッ!」

 

 全力の魔眼により、ほんの少しの魔力ですら

 明確な色をもつ。

 

イリス「本当に、時間が無いの。

    そろそろ終わりにしましょう、和也」

 

 イリスは、まるで投げられた槍のように

 鋭く一直線に、こちらに迫ってくる。

 

 左腕が上から振り下ろされるも

 魔眼にその色は見えない。

 

 横に移動して避けると、今度は蹴りが来る。

 それを上半身を後ろに引いて避ける。

 今度は、右手の一撃が迫ってくるも

 蹴りを合わせて勢いを殺しながら横に流す。

 

 一旦距離を取ろうとするも、竜族相手では

 それも不可能だ。

 

 一撃が全て必殺に見えるほど強力な攻撃が

 連続で襲い掛かってくる。

 

 魔眼は、未だに金麟を捉えることは出来ない。

 

 そして何度目かの攻撃を回避した瞬間だった。

 

和也「―――ッ」

 

 イリスの一撃を避けきれず

 防御で受け止めてしまう。

 

 当然防御しきれるわけもなく、吹き飛ばされる。

 

和也「・・・ぐっ」 

 

 全身が痛みで悲鳴を上げている。

 だが、立ち上がらなければ終わってしまう。

 

 必死になって身体を動かし、立ち上がる。

 

 ゆっくりと近づくイリス。

 

 俺は、剣を構える。

 

和也「俺は・・・諦めないッ!」

 

 一瞬で距離を詰めてきたイリス。

 その攻撃の瞬間―――

 

イリス「―――え?」

 

和也「―――っ!?」

 

 イリスの速度を重視した

 左手の爪を前へと突き出した一撃。

 

 金竜の身体能力が、その一撃を

 まるで槍の一突きのような鋭さへと

 変化させる。

 

 だが、その動きをまるで知っていたかのように

 完璧な回避を見せる和也。

 

イリス「・・・」

 

 その動きに、改めて警戒を強めるイリス。

 

和也「・・・今のは」

 

 イリスが攻撃する瞬間。

 その一瞬に、今まで見たことも無い色を感じ

 直感でそれを回避しただけだった。

 それが、まさかイリスの一撃を避けることに繋がるなんて・・・。

 

 自分の動きが信じられないと思っていたときだった。

 視界の外から、先ほどの色が迫ってくるのが解る。

 前を向くとイリスが左腕を後ろに下げていた。

 その周囲に新しい色の動きが見える。

 

 俺は、その色を信じて動く。

 

イリス「・・・?」

 

 またもフェイントを入れた一撃を綺麗に回避され

 イリスは、その違和感に軽く首を捻る。

 

和也「・・・まさか」

 

 自身の手が震えているのを感じる。

 

 突然見えた新たな色。

 それは、俺にとって最後の希望となる。

 

 イリスがまたも急激に距離を詰め

 驚異的な連撃を放ってくる。

 しかし、それらを全て回避する。

 

和也「行けぇぇぇっ!!」

 

 未だ信じられない想いがあった。

 だからこそ、今起こっている奇跡を

 信じたいという気持ちを刀に込める。

 

 色の流れの合間を狙った一撃。

 

 ガキンッ!!

 

イリス「―――ッ!?」

 

 こちらの一撃を左腕で受け止めたイリス。

 だかその瞳が見開いている。

 

 金麟が一切反応しなかったのだ。

 何の抵抗もせず、こちらの一撃が通ったことに

 驚くイリス。

 

 更にそのまま蹴りを放つ。

 当然、金麟に阻まれるはずだが

 金麟は何の反応も見せない。

 

 イリスは、咄嗟に右のトンファーで受け止める。

 彼女の顔は、驚いたままだ。

 

 しかしスグに警戒心からか

 彼女の方から一度距離を取ってくる。

 

イリス「・・・何をしたの?」

 

和也「・・・別に何も」

 

イリス「嘘をつかないで。

    金麟が急に反応しなくなるなんて」

 

和也「・・・」

 

イリス「・・・そう、あくまで私の邪魔をするのね」

 

 その瞬間、膨大な色の膨らみを感じる。

 色としては初めて見るが

 きっと、それは恐らく・・・

 

和也「・・・」

 

 次の攻撃が、彼女に一撃決める最大のチャンスになるだろう。

 正直、まだ完璧と言えない能力でこんな賭けには出たくない。

 足も自然と後ろに下がろうとする。

 

 だが、それでもと自身に言い聞かせ

 勇気を出して刀を構える。

 

 勝負は、きっと一瞬だ。

 ほんの少しでも見逃せば終わる。

 だから俺は、イリスの全てを見逃さないように

 ジッと彼女を見る。

 

イリス「行くわよ、和也。

    直撃するとさすがに壊れちゃうから

    気をつけてね。

 

    でも、大丈夫よね。

    だって和也だもん」

 

 もはや意味の解らない言葉を無視して

 相手の動きに合わせる。

 

イリス「竜(ドラゴン)の息吹(ブレス)ッ!!」

 

 放たれたのは、竜族の切り札。

 必殺の威力を持った圧倒的な一撃。

 

 迫ってくる何層にも重なる色の波を見極める。

 

和也「うおぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 俺は、正面から竜の放つ最強の息吹に向かって

 刀を振り抜いた。

 

 

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 

 強烈な光が収まると、2つの影が重なっていた。

 

イリス「・・・」

 

和也「・・・」

 

 イリスは、竜の息吹を放った左腕を前に突き出した状態で

 止まっている。

 

 その喉元には、黒く光る一本の刀。

 

イリス「まさか、竜の息吹を斬るなんて・・・ね」

 

 その顔は、何処となく嬉しそうでもあった。

 

和也「・・・頼む。

   武器を捨てて、降参してくれ。

 

   ・・・キミを、斬りたくはない」

 

 彼女を倒すことは出来た。

 彼女を殺すことも出来た。

 だが、そんなことはしたくない。

 彼女が自分の意思で、こちらに来てもらわないと

 意味がないからだ。

 

 だからこそ、俺は祈るように投降を呼びかける。

 

イリス「・・・やっぱり和也は和也だね。

    本当に、私が思った通り。

 

    私だけの王子様だわ」

 

和也「何を言って―――」

 

 強烈な衝撃が腹部を襲い

 そのまま大きく吹き飛ばされる。

 

 地面に何度かぶつかりながら、地面を滑ってようやく止まる。

 

和也「・・・がっ」

 

 口から血が出る。

 腹部に受けた一撃で、骨が何本かやられたようだ。

 身体も思うように動かない。

 

イリス「少しそこで眠っていてね、和也。

    次に目覚めた時は、二人の世界が完成しているはずだから」

 

 笑顔でそう言うイリスを見て

 自然と涙が出る。

 

和也「(俺は結局・・・彼女を止められないのか)」

 

 悔しかった。

 ただ、ひたすらに悔しかった。

 

 ゆっくりと街の方へと歩き出すイリスを

 止めることも出来ない。

 

 そもそも、声すらもう出ない。

 

 だが、それでも俺は手を動かし

 横に落ちていた鬼影を持つ。

 

 そして立つはずのない身体を必死に動かそうとする。

 まだ諦めたくなかった。

 もう諦めたくなかった。

 そんな想いが無駄と知りつつ身体を動かそうと

 必死にもがく。

 

 そんな時だった。

 

?「それでこそ、リピス様の認めたお方です」

 

 突然現れた声。

 イリスも立ち止まり、ゆっくりこちらを向く。

 

 俺のスグ横に、何時の間にか現れたのは

 メイド服を着た竜族。

 

 メリィ=フレールが立っていた。

 

 

 

 

 

第14章 届かぬ想い ―完―

 




まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。

最近、季節の変わり目で寒くなってきました。
そしてバッチリ風邪をひいてしまいました・・・。

リピス編も、いよいよ次で最終話となる予定です。
そしてリピス編の次は、セリナ編へと続く予定となって
おりますので、よろしければお付き合い頂けるとありがたいです。


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最終章 決着、そして・・・

 隣に立っているメリィさん。

 彼女の気配に俺は、一切気づかなかった。

 

 やはり、彼女も大戦争経験者ということか。

 

メリィ「噂を聞いた時は、何の冗談かと思いましたが

    実物を見ても、やはり冗談にしか思えませんね」

 

イリス「・・・アナタも、私の邪魔をするの?」

 

メリィ「私は、ただ和也様を引き取りに来ただけですよ」

 

 そう言うと俺を軽々と持ち上げる。

 

メリィ「少し我慢して下さいね」

 

和也「ぐっ・・・」

 

 その振動で痛みが全身に広がる。

 

イリス「私から和也を奪うつもりねっ!?」

 

メリィ「・・・う~ん」

 

 少し悩むように首を捻った後

 

メリィ「結果的には、そうなりますね」

 

 ニヤッとした顔で、そう答えた瞬間だった。

 

 強力な力に身体が引っ張られる。

 

 物凄い速さで流れる周囲の背景。

 

 気づけば高速で走るメリィさんに

 まるで物を運ぶように引っ張られ、移動していた。

 

和也「・・・これは」

 

 自分の身体が少し光っていて

 身体中の痛みが消えていく。

 

メリィ「とりあえず、応急処置程度になりますが

    少しはマシになりましたか?」

 

和也「メリィさん、回復魔法が使え―――」

 

 彼女の方へ振り向いた瞬間、言葉を失う。

 

 竜族であるはずの彼女の背中には

 真っ白な六翼があった。

 

メリィ「・・・ああ、これですか?

    私の父は神族なんですよ」

 

 竜族の母から生まれる子供は、必ず竜族の娘である。

 しかし例外として稀に、父親側の特性を受け継いだ子供が

 生まれる場合がある。

 

 しかし、それでも六翼もの翼を受け継ぐ竜族なんて

 さすがに聞いたことが無い。

 

メリィ「・・・あの。

    そんなにジッと見られると

    さすがに照れるのですが」

 

 翼に見とれていると、メリィさんと目が合う。

 珍しく恥かしがるメリィさんを見て

 急にこちらも恥かしくなる。

 

 視線を逸らした瞬間―――

 

 ドォーンッ!!

 

 後ろの方で大きな音が聞こえた。

 

 音のした方向に視線を向けると

 こちらを追いかけてくるイリスの姿があった。

 

メリィ「・・・はぁ。

    面倒ですねぇ」

 

 そう言いながらも、森を抜け

 街の屋根の上を走る。

 

 後ろから来るイリスは

 一見何もない空間を何度も殴りながら走ってきている。

 その余計な動作で、なかなかこちらに追いつけない。

 

 魔眼を開放していた俺は

 何が起こっているのか、しっかりと見えていた。

 

 メリィさんは、後方を確認していないにも関わらず

 イリスの進行方向に薄いウォーターシールドを

 定期的に設置して邪魔をしている。

 

 それだけならイリスを止めることは出来ないのだが

 彼女は、魔力の密度をかなり変化させていた。

 

 要するに、壊れやすい壁と壊れにくい壁を

 見分けがつかないように設置しているのだ。

 

 簡単に壊せる壁なら走りながら軽く殴るだけで十分であり

 力を込める必要はない。

 しかし、壊れにくい壁はそうはいかない。

 力を込めた一撃で破壊しなければならない。

 

 毎回、力を込めて破壊していけば

 無駄に力を使ってしまうし、走る勢いを殺してしまう。

 なので毎回全力攻撃というのは効率が悪い。

 

 しかしそうしなければならないのであれば

 そのつもりで行動するため、ロスを減らすことも可能となる。

 

 だから、そうならないように壊れやすい壁で相手を油断させ

 ここぞというタイミングで強力な壁を出現させることで

 殴って初めてそれと気づいた時には

 足は止まっており、目の前の壁を殴る動作が必要となる。

 結果的に大幅に時間を取られ、こちらに追いつけないのだ。

 

 的確な足止めを行いながらも

 こちらに回復魔法をかけ続けてくれていて

 しかも高速で足場の悪い屋根の上を走っている。

 

 ちょっと困った癖のあるメイドという仮面に

 見事に騙されていた。

 リピスが竜界のNo2だと言っていたことを思い出す。

 やはり『破滅の竜』の二つ名は、伊達ではないと言うことか。

 

メリィ「・・・ちっ」

 

 舌打ちと共に膨れ上がる膨大な魔力。

 六翼が生み出す潤沢な魔力で術式が組まれていく。

 

メリィ「和也様。

    少し手荒に動きますので、ご注意を」

 

和也「っ!?」

 

 その言葉で、後ろのイリスが

 何をしようとしているのかに気づく。

 

イリス「ドラゴンブレスッ!!」

 

 イリスが後ろから放ってきた竜の息吹。

 

 直後に、大きく上に跳躍するメリィさん。

 足元どころか、周囲の建物全てが光の中に消える。

 

 発光が落ち着き、周囲が見えるようになった瞬間

 俺は、二重に驚いた。

 

 眼下に広がるのは、破壊された街並み。

 イリスの一撃で周囲の建物は全て消し飛ばされ

 ほとんど痕跡すら残っていない。

 その強力な一撃に驚いた。

 

 そして何も無いはずの空中を

 俺を持ったまま走るメリィさんに、また驚く。

 

和也「・・・これは、まさか」

 

 魔眼が捉えたのは、メリィさんの足元。

 空中で着地するタイミングで

 アイスシールドを一瞬だけ発生させ

 それを足場に空中を走っているのだ。

 

 魔法は応用力だと学園でよく聞いてはいたが

 この光景を見ると、その言葉の重みが解る。

 柔軟な発想が、常識をはるかに超えていた。

 

メリィ「和也様。

    もう少しご辛抱下さい。

    あと少しです」

 

 そう言いながら更に移動速度を加速させるメリィさん。

 

 何となく気になって後ろを振り返ると

 はるか後方に、イリスが立っている。

 

 こちらを見る瞳は、野生の獣のように鋭く

 強烈な敵意に満ちていた。

 

 

 

 

 

最終章 決着、そして・・・

 

 

 

 

 

 街から少し離れた森に建つ2つの大きく立派な建物。

 

 学園フォースが管理する学園寮。

 ここには、街をはるかに越える数のゴーレム達が

 集まってきており、生徒達とゴーレムの戦いが続いていた。

 

神族男生徒A「もらったっ!!」

 

 儀式兵装の剣による一撃で魔力コアを潰され

 土塊と化すゴーレム。

 

魔族男生徒A「魔法が効かないってだけだろっ!!」

 

 ゴーレムの一撃を魔法で受け止めた後

 儀式兵装の剣でゴーレムを押し返す。

 

ギル「任せろっ!!」

 

 押し返されてよろけるゴーレムを側面から

 双剣で切り裂く。

 

ゴーレム「ガァァァ・・・」

 

 コアを潰され倒れるゴーレム。

 その近くで、ゴーレム達が寮の中へとなだれ込もうとするも

 

アレン「遅いっ!!」

 

 高速の3連撃で3体のゴーレムが土塊になる。

 

ゴーレム「グアアアァァァ!!」

 

 乱戦の間をすり抜け、アレンの後ろに回り込んだゴーレムが

 腕を大きく振り上げる。

 

 それに気づいて、軽く避けると

 カウンター気味に槍を突き出そうとする。

 

 しかし―――

 

アレン「・・・ちっ」

 

 舌打ちしたアレンは、後ろに軽く跳躍する。

 すると炎の竜がゴーレムに巻きつくように

 現れる。

 

ヴァイス「ドラゴンフレイムゥゥッ!!」

 

 竜は、巨大な火柱となりゴーレムを焼き尽くそうとする。

 だが・・・

 

ゴーレム「アアァァァッ!!」

 

 まるで効いていないという感じで

 あっさりと周囲の炎を吹き飛ばすゴーレム。

 

ヴァイス「・・・何故だっ!?」

 

 悔しそうに横の壁を殴るヴァイス。

 

ギル「おいおい。

   魔法が効かないってのは、もうみんな試しただろ」

 

ヴァイス「私は、ヴァイス=フールスだぞっ!?

     魔王の血族たる私がっ!!

     この私の魔法がっ!!

     たかがゴーレム如きに効かぬなどっ!!

     認めんっ!!

     認められるかぁぁぁぁっ!!」

 

 そう言いながら魔法を乱射するヴァイス。

 ヴァイスは、剣を使った接近戦もちゃんと実力がある。

 しかし彼の場合は、魔法による圧倒的な攻撃というものが

 自分のスタイルであり自信でもあった。

 

 それが使い魔の1つに分類されるゴーレム相手に

 効かないということが、彼にとっては屈辱だったのだろう。

 

 しかし周囲の生徒達からすれば、いい迷惑だ。

 

 効かない魔法を周囲にばら撒かれ、迂闊に飛び出せない。

 魔王の血族であるがゆえに

 潤沢な魔力によって魔力切れは、なかなか起きない。

 そして下手に高威力であるがゆえに、強引に防御しながら

 前に出ることも出来ない。

 

 結局ゴーレムの味方をしていると言われても仕方が無いほど

 彼の行動は、邪魔であった。

 

 しかし彼は魔界においては名門貴族だ。

 その彼に下手にちょっかいを出して

 面倒なことに巻き込まれたくないと考えるのは

 皆同じだろう。

 だから誰もが見てみぬふりを決め込んでいた。

 

魔族男生徒C「どうだった?」

 

レイス「やっぱり、女子寮の方も同じみたいだな」

 

 後方で女子寮への連絡手段を模索していた集団は

 レイスとファナが持つ思念で会話出来る魔法アイテムで

 連絡を取らせていた。

 

魔族男生徒D「しかし羨ましいぜ。

      そんな貴重なマジックアイテム持ってて

      更にそれで連絡が取れる相手が女子寮に居るなんて」

 

魔族男生徒E「まったくだ。

      しかもファナちゃん、可愛いもんなぁ」

 

周囲の魔族男生徒達「リア充めっ!!」

 

レイス「・・・お前らが連絡しろって言ったんだろうが」

 

 うんざりだという顔のレイス。

 彼からすれば、ずっとその話題ばかりを振られ続けている。

 確かに彼女とそうなれたらという気持ちもあるが

 いい加減にしてくれという想いも強い。

 

神族男生徒C「女子寮もってことは、街も危なそうだな」

 

神族男生徒D「さすがに教師達も動いてるだろう」

 

 状況がわからず、突撃すべきか

 慎重に行くべきか、男子寮内では意見が割れていた。

 そんな時だった。

 

ギル「いや、待てよ。

   女子寮も襲われてるんだよな?」

 

レイス「ああ、ファナの話じゃ

    向こうも比較的防戦に徹しているから

    ほとんど被害は出ていないらしいが

    ゴーレムの数が多すぎるって言ってたな」

 

ギル「ということは、非常時の今。

   救援として女子寮内部に入ることは

   可能という訳だ」

 

 その言葉に周囲の男達は、ざわつき始める。

 

魔族男生徒G「つまり、合法的に秘密の園に入れる訳か・・・」

 

神族男生徒E「しかも、助けを求める女子生徒達がいっぱいだ」

 

魔族男生徒H「ってことはだな。

       助けが必要だよな」

 

神族男生徒F「そりゃ男として困ってる女性を助けるのは

       当然だな」

 

ギル「そして颯爽と現れる男。

   ゴーレムの魔の手から女生徒達を助け出す。

   ・・・そして彼女達は、自分を護ってくれる

   男の背中に、キュンっと来る訳だ」

 

男子寮の男達「王道的なイベントじゃね~かっ!!」

 

 丁度その瞬間だった。

 

ヴァイス「・・・ぐっ」

 

 魔力が尽きて立っていられなくなり

 片膝をついたヴァイスを見て、それは起きた。

 

魔族男生徒J「今しかないっ!!」

 

神族男生徒G「どけどけっ!!

       邪魔なんだよっ!!」

 

 男達が一斉に突撃を開始する。

 

単純な男達「千載一遇のチャンスを邪魔するなぁぁぁぁぁ!!!」

 

 突然、一斉突撃をする男生徒達に

 ゴーレム達は押し負ける。

 

ゴーレム「ガァァァ!!」

 

神族男生徒A「俺の邪魔をするなぁぁぁ!!」

 

魔族男生徒B「大人しく土塊になってろぉぉぉぉ!!!」

 

 攻撃を仕掛けるはずが、左右からの同時攻撃という

 カウンターを受け、あっさりと倒されるゴーレム。

 

 他のゴーレム達も欲望に忠実な生徒達の突進の波に飲まれて

 次々と撃破されていく。

 一体、今までの戦いは何だったのかと思える展開。

 

 殺気立った男達によって、男子寮周辺のゴーレムは

 短時間で一掃される。

 

欲望に忠実な男達「行くぜっ!!

         俺達を待つ女子寮にっ!!」

 

 我先にと争うように集団が走っていく。

 

ゴーレム「ア・・・アアァ」

 

 殺し損ねたゴーレムが修復を開始し始める。

 しかし―――

 

 ドスッ!

 

 短くも重い音と共にゴーレムが崩れ落ちる。

 

アレン「まったく。

    詰めの甘い連中だ」

 

 興味が無かったアレンは

 彼らが中途半端に蹴散らしたゴーレム達の完全な破壊のために

 1人残って周辺の後始末をすることを選ぶ。

 

 そして男子寮には、もう1人残っている人物が居た。

 

ヴァイス「・・・くそぉぉぉ!!

     私はっ!!

     私はぁぁぁぁっ!!!」

 

 何度も床を殴るヴァイス。

 完全にプライドを汚された彼は

 ただひたすら叫び続けるのだった。

 

 

 ・・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 空中をひたすら走っているメリィさんが

 学園中央にある大きな公園の上を通る。

 

 その公園の広場に人影が1つ。

 

和也「・・・あれは」

 

 それは、竜界の姫。

 

 『金色の竜牙』リピス=バルトだった。

 

メリィ「姫様のことなら大丈夫です。

    ご心配には及びません」

 

 優しくそう言うと、そのまま

 リピスを通り過ぎていく。

 

 その時、リピスと目が合う。

 彼女は、笑顔だった。

 まるで心配するなと言っているような、そんな笑顔。

 

 そんなリピスを見て、自然とこちらも笑顔になる。

 そしてそのまま彼女とすれ違う形で

 メリィさんに運ばれていくのだった。

 

 ・・・ちょっと見た目が悪すぎるのが

 しまらない感じではある。

 

 

 和也を見送ったリピスは

 儀式兵装を手に、相手の到着を待つ。

 

 

 そしてついに2人の金竜が出会う。

 

 

イリス「あら。

    わざわざ待っててくれるなんて」

 

 悠長な声と共に現れたイリスだが

 その瞳には殺意に満ちている。

 

リピス「・・・感謝しろ。

    私自らが相手をしてやる。

    お前は、その存在そのものが

    竜族への冒涜だからな」

 

イリス「ひどいわ。

    私が何をしたっていうのかしら」

 

リピス「お前が被害者だと思っているのは

    恐らく和也ぐらいだろう。

    ほとんど無差別に人を殺す化け物が

    ・・・図々しいにも程がある」

 

イリス「・・・和也を返して。

    私の愛しい人を奪わないで」

 

リピス「何が愛しいだ。

    ・・・お前の語る愛は

    ただのママゴトにしか見えない」

 

イリス「そんなことはないわ。

    和也は、私の王子様。

    私は彼を愛しているもの」

 

リピス「だから所詮は、ママゴトだと言うのだ。

    恋と愛の区別もなく

    ただの『理想』を押し付けるなど

    話にもならん」

 

イリス「・・・どうやら、話をしても

    無駄なようね」

 

リピス「ようやく気づいたようで何よりだ」

 

 リピスがそう答えた瞬間。

 

 イリスが目の前まで一瞬で距離を詰めてくる。

 そして左の大きな爪を振り下ろす。

 

 リピスが左のトンファーで受け止めると

 金属がぶつかる音が響き、火花が散る。

 

 イリスが右のトンファーを持つ手に

 力を込めて動かそうとした瞬間

 リピスが右のトンファーで

 小さく最小限の動きで攻撃を仕掛けてくる。

 

 それを上半身を後ろにそらして避け

 逆に蹴りをカウンター気味に放つ。

 だが、下の地面が持ち上がり

 その蹴りに出した足を邪魔するように壁となる。

 

イリス「ちっ」

 

 無言のアースウォール展開に苛立ちながら

 後ろに下がろうとするが、周囲にも同様に

 シールドが展開され、四方を囲まれる。

 

 だが、一瞬何かが閃いたかと思えば

 大きな爪の一振りで四方全ての壁が切り裂かれ

 破壊される。

 

 スグに周囲を確認するもリピスの姿は見えない。

 

 ハッとして横に転がるように飛ぶ。

 すると自分の居た場所に

 上から降ってきたリピスの一撃が地面に刺さり

 地面が抉れる。

 

 スグに立ち上がるとリピスの前まで走りこみ

 右のトンファーを勢い良く放つ。

 

 リピスは、その場で一回転してから

 左のトンファーをイリスの右の攻撃にぶつける。

 

 激しい音と衝撃が駆け抜ける。

 互いに金麟を持つ者同士。

 一撃の重みが他の竜族とは大きく違う。

 

 リピスが少し物理的に後ろに下げられるが

 イリスも後ろへと跳躍して距離を取る。

 

 お互いに一呼吸してから

 再度、イリスから仕掛けてくる。

 

イリス「アースジャベリンッ!!」

 

 10本以上はあるだろうか。

 無数の土槍がリピスに向かって降り注ぐ。

 

リピス「くだらんな」

 

 右のトンファーから弾装の薬莢が1つ排出される。

 そしてリピスが右手を大きく前に突き出す。

 

リピス「はぁっ!!」

 

 気合の入った一撃は、弾装の魔力を正面に放出し

 飛んできていた土槍全てを破壊する。

 

イリス「・・・へぇ」

 

 その行為を軽く鼻で笑うと

 左手の爪の大きな弾装から薬莢が排出される。

 瞬間的に膨れ上がる魔力。

 明らかに単装式だ。

 

 強化された爪を大きく振り上げてこちらに

 迫ってくるイリス。

 

 振り下ろされる一撃を受け止める・・・ふりをする。

 

イリス「―――ッ!?」

 

 左手の爪を前に出ることで避けつつ

 腕を掴んでくるリピス。

 

 その両手には、何時の間にか儀式兵装が無かった。

 そして気づけば視界は逆さを向いている。

 イリスがそれを認識した瞬間だった。

 

リピス「はあぁぁぁぁっ!!!」

 

 地面に何かが激突する凄まじい音。

 イリスが背中から地面に叩き落され

 大きくバウンドして再度地面に落ちる。

 

 人族どころか、魔族・神族であっても

 恐らく即死しているだろう。

 

リピス「・・・やはり、付け焼刃では

    上手くいかないものだな」

 

 イリスを投げた一撃。

 それは以前、亜梨沙から教えてもらったもの。

 

 風間流・城落し

 

 しかし不完全だったため、落下点がズレて

 頭ではなく背中から地面に叩きつけてしまった。

 その失敗にリピスは、ため息をつく。

 

イリス「・・・ふふっ。

    あははっ、あはははは」

 

 倒れていたイリスから聞こえてくる笑い声。

 

リピス「・・・ちっ。

    ついに化け物が本性を現したか」

 

 立ち上がるイリス。

 たとえ不完全だったにしろ、金麟の反応しない

 投げ技で、しかも金竜の全力で投げたのだ。

 これほどの一撃を喰らえば

 普通の竜族ですら死んでいるだろう。

 

 しかし、イリスは立ち上がった。

 

 その姿を変化させながら。

 

 何時の間にか両腕が儀式兵装のような爪になっている。

 しかも装備しているのではなく

 融合しているように見える。

 

イリス「もう絶対に許さない。

    めちゃくちゃに壊してあげる」

 

 一瞬で距離を詰めてきたイリスは

 両腕を広げて左右から物を掴むように

 攻撃してくる。

 

 それを両手のトンファーで受け止める。

 しかし―――

 

リピス「・・・くっ」

 

 明らかに威力が上がっている。

 力で押し負けそうになるのを堪えていると

 爪が手のように曲がり

 掴もうとしてくる。

 

 それに瞬時に気づいたリピスは

 力を込めて足を曲げ、全力で後ろに向かって跳躍する。

 

 何とか相手の攻撃を避け

 後ろに着地するリピス。

 

 イリスの爪と手が一体化している。

 そのため爪で掴むという行為が可能となっているため

 トンファーで迂闊に受け止めてしまえば

 そのまま腕ごと握られてしまう。

 

 戦術を見直す必要があるなと考えた瞬間。

 着地を狙って走りこんできたリピスの爪による突き。

 

 槍のように鋭い一撃を避けると、イリスは構わず

 連続で突きを入れてくる。

 

 さながら槍の連撃といった攻撃を避けきると

 今度は爪と化した手を広げて

 振り回してくる。

 

 下手に受け止められない一撃を

 リピスは打ち払いながら相手の隙を探す。

 

 イリスが蹴りを放ってきた瞬間に

 同じく蹴りを合わせて勢いを殺す。

 

 これは、和也がよくやる防御方法だ。

 リピスは、普段から和也を見ていた。

 当然、その戦い方もだ。

 

リピス「それがまさかこんなところで役立つとはな」

 

 そう言いながら、体勢を立て直そうとするイリスの

 足元を狙った蹴りを放つ。

 

 体勢の悪さから防御を諦め、後ろに跳躍して距離を取るイリス。

 

 低い姿勢でこちらを睨むイリス。

 その周囲で魔力が膨れ上がる。

 

リピス「・・・弾装まで融合したのか」

 

 イリスが跳躍する。

 

リピス「・・・速いっ!!」

 

 飛び掛ってくるような一撃を打ち払うと

 再度、突進してくるイリスを

 ギリギリで回避する。

 

 大きな爪を振り回し、暴れるように突っ込んでくるイリス。

 徐々に慣性が上乗せされ破壊力を増す攻撃。

 

 時には周囲を走りまわってこちらの死角に回しこもうとしたり

 フェイントを入れて、かく乱までしてくる厄介さに

 さすがのリピスも防戦一方となる。

 

 何度目かの撃ち合いの後、イリスの右腕に釣られて

 防御しようとした瞬間、逆方向からの蹴りを喰らう。

 

 大きく吹き飛び地面を1度バウンドして滑りながら止まる。

 

イリス「あははっ。

    あははははっ。

 

    待ってて和也。

    もうスグよっ!!

    もうスグだからねっ!!」

 

リピス「・・・煩い獣だ」

 

 何とか直前で膝を出して受け止めたため

 直撃は回避したものの、全身に溜まっていく

 ダメージは、無視出来るものではない。

 

 どうしたものかと考えている時だった。

 イリスが動き出す。

 

イリス「・・・もう飽きてきたから

    壊しちゃうわね」

 

 左手に集まる金麟の大きなうねりに

 イリスが次に何をしようとしているかが解る。

 

リピス「・・・ほぅ。

    私に、それで勝てると思っているのか?」

 

イリス「何も残らないようにしてあげる。

    その方が、ゴミより良いでしょ?」

 

リピス「・・・はぁ」

 

 ため息をつくリピス。

 

リピス「本当に、お前という存在は

    竜族にとって冒涜でしかないな」

 

 リピスの手にも金麟が集まり始める。

 しかし―――

 

イリス「な、何よ・・・それ」

 

 イリスは、驚く。

 

 リピスに集まっているのは金麟。

 しかし、ただの金麟ではない。

 

リピス「・・・私の全力の一撃だ」

 

 リピスは、金麟にアースシールドを以前使っていたことがあった。

 それは彼女が、金麟に魔力を馴染ませることが出来るからだ。

 

 それゆえに、今彼女の手元に集まっている金麟は

 魔力が練りこまれ通常の何倍もの密度になっている。

 

イリス「そ、そんなことが・・・。

    魔力と金麟を融合させるなんて・・・」

 

リピス「竜界王女として、竜族の代表者として、そして金竜として。

    お前の存在を認めない。

    この場で決着を付けさせてもらう」

 

イリス「冗談じゃないわっ!!

    2人だけの・・・私と和也の世界を創るのっ!!

    邪魔なんてさせないわっ!!」

 

 そして先にイリスが動いた。

 

イリス「ドラゴンブレスッッッ!!!」

 

 その攻撃は、地面を抉りながら突き進む。

 金竜が放つ竜族最強の一撃がリピスに迫る。

 

リピス「これが・・・私から手向けと受け取れっ!!

    竜(ドラゴン)の咆吼(バスター)ァァァァァッ!!!」

 

 その一撃は、イリスの放った竜の息吹を一瞬で飲み込み

 全てを光で覆った。

 

 凄まじい爆発と発光が、周囲の何もかもを消し去る。

 

 そして少し時間が経って

 音が消え、光が無くなり

 ようやく辺りを見ることが出来るようになると

 公園は、跡形も無く消えていた。

 

 周囲は、ただの荒地と化し

 全てが消え去っていた。

 

 たた、1つを除いて。

 

イリス「・・・ああ、和也。

    和也は、ドコ?」

 

 荒地の中に倒れていたのは、イリスだった。

 全身がボロボロで血まみれ。

 左腕も吹き飛ばされたのか、失っていた。

 

 ただひたすら、虚ろな瞳で

 和也を呼び続ける。

 

リピス「だから所詮は、ママゴトだと言ったのだ。

    お前の『愛』は、実らない」

 

イリス「・・・和也、大好き。

    大好き・・・大好き・・・大好き」

 

 壊れた機械のように大好きと繰り返すイリスに

 リピスは近づいて・・・止めを刺した。

 

リピス「もし、違った形で出会えていたなら―――」

 

 途中で言葉を止め、立ち上がるリピス。

 

リピス「いや、やめておこう。

    考えても無駄なことだ」

 

 そう言ってイリスに背を向け

 リピスは、歩き出すのだった。

 

 

 こうして一連の騒動が、ようやく一つの決着をみる。

 

 街に居たゴーレム達は、途中で到着した竜族の特殊部隊と

 学園教師や学園長達によって倒され

 一番数が多かった寮周辺のゴーレムも

 生徒達によって倒され、ゴーレムは全て居なくなった。

 

 その後、まもなく暴れる金竜の姿を見たという

 複数の目撃情報が出るも、竜界はそれを否定。

 

 そもそも金竜の生き残りがリピス1人だということは

 世界中の誰もが認めていることであり

 その他に居たなんてことは、誰も証明出来ない。

 

 結局、現世界体制に反感を持つ者による攻撃だとして

 この事件は処理されることになった。

 

 ただ、街の3割の住民が犠牲となった事件だけに

 学園はしばらく休校となり

 皆は、街の復旧を手伝っている。

 

 街には常時、一定の部隊が駐留することが決まり

 見回りの兵士を見かけることが多くなり

 少し物騒になったが、まあ仕方が無いだろう。

 

 俺は結局、ベットの上で事の顛末をリピスから聞かされた。

 

 イリスやゴーレムを創り出したと思われる集団の死体を

 メリィさんが、発見していると説明され

 その上で、イリスの件は他言無用と念押しされる。

 まあ、当然の話だろう。

 

 イリスのことが話せないため、大怪我をした俺を

 心配して駆けつけたフィーネ達には

 本当のことが話せずに悪いことをしたと思っている。

 

 時間は、止まることはない。

 皆が、次へと歩き出そうとしている。

 

 

 ―――そして数日後。

 

 メリィさんの回復魔法のおかげで

 通常よりもかなり早く、動けるようになった俺は

 いつもの訓練に使っていた丘に来ていた。

 

 そこはすっかり荒地となっている。

 

和也「・・・イリス」

 

 俺は、イリスとの出会いを思い出す。

 突然現れた彼女。

 数日ではあったが、楽しかった日々。

 

和也「俺は、また守れなかったのか・・・」

 

 自然と手に力が入る。

 彼女の笑顔が離れない。

 

 後悔の念が押し寄せてくる。

 

?「見つけた」

 

 突然後ろから響く声に

 ハッとして振り返る。

 

 そこには小柄な少女が立っていた。

 

和也「・・・キミは」

 

 彼女を見て何かを思い出しそうになるが

 突然頭が痛み出す。

 

 ・・・思い出せない。

 

久遠「私の名前は、久遠」

 

 そして差し出される手。

 

久遠「さあ、行きましょう」

 

 何故だか解らない。

 しかし、彼女の言葉に手が伸びる。

 

 ゆっくりと彼女の手を取った瞬間。

 周囲は、光に包まれる。

 

 そして和也と少女は、跡形もなく姿を消した。 

 

 

 

 

 

最終章 決着、そして・・・ ―完―

 

 

 

 

 

・おまけ

リピス編が、そのまま進んだその後の世界。

 

*風間 亜梨沙

風間の家に生まれ、若くして風間流の師範代になった

若き天才。

 

学園を卒業後、王女達と一緒に

合同結婚式を挙げて念願だった和也の嫁になる。

1人の息子が生まれ、幸せに暮らした。

 

和也が多忙なため、彼に代わって

風間一族を纏める立場となる。

 

また最近、竜族で風間流を学ぶものが増え

対応に追われているという。

 

 

 

 

*フィーネ=ゴア

魔王の1人娘として生まれ

幼少期から激しい人生を送ることになるも

そこで運命の相手に出会い

人らしく生きるようになった少女。

 

学園を卒業後、合同結婚式で

夢だった和也の嫁となる。

 

マリアの補佐をしながら

魔界の姫としての立場で

様々な外交をするようになり

その存在は、女性達の憧れとなる。

 

息子が1人生まれ、その子を溺愛した。

 

 

 

 

*リピス=バルト

竜界の王女にして金竜最後の生き残り。

大戦争では激動の人生を経験し

一度は、挫折したこともある王女。

 

学園卒業後は、彼女の提案により藤堂 和也との

合同結婚式が行われ、彼女も妻となる。

 

和也が竜の祝福を受け、正式に竜王となり

彼女も正式に竜王妃となる。

 

5人の娘にも恵まれた彼女は

竜族を上手くまとめて繁栄させ

後の竜界の歴史書に、名前が頻繁に出るほど

有名な王妃となる。

 

 

 

 

*セリナ=アスペリア

神界第一王女として生まれ

常に王女としての重圧に悩まされてきた少女。

 

学園卒業後の合同結婚式に参加して

和也の嫁となる。

 

2人の娘を育てながらも神王妃である

母オリビアの手伝いをしながら

神界を上手くまとめることに奔走する。

そのおかげで和也にたまにしか会えず

不満を言っているらしい。

 

 

 

 

*エリナ=アスペリア

神界第二王女として生まれるが

その責任を丸投げて、自由に生きようとする

非常に奔放な性格の少女。

 

学園卒業後、合同結婚式に参加して

姉共々、和也の嫁となる。

 

自分の研究施設を作り

オリジナル魔法の研究を始め

戦闘だけでなく生活に役立つ魔法を

次々と作り出していく。

その結果、学園フォースの教科書に

名前と功績が載るほどの有名な研究者となる。

 

1人の娘を育てながら、たまに姉の子供を預かったり

するも意外に家庭的で、家事と育児と仕事全てを

完璧にこなす優秀な母親となり、周囲を驚かせた。

 

 

 

 

 

 

上記は、あくまで可能性の話。

物語が別の可能性を選ぶのであれば

また違った結末を迎えることになるだろう。

 




リピス編を最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

リピス編が終了でございます。
やっと終わったという感です。
でも残念ながら本編全体的に見ると
まだまだ先が長いんですよねぇ・・・。

ちょっとだけ現実逃避したいです(笑)

次からは、セリナファン待望の
セリナ編がスタートします。
・・・セリナファンって居るのかな?とか
一瞬思ってしまいました。

それぞれの各ヒロイン編も
最後の話に繋がる大事な話になりますので
頑張っていきたいです。
・・・更新ペースも、出来れば維持したい。


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白銀の女神 セリナ=アスペリア編
第10章 双子の気持ち


 俺は、大きく深呼吸をした。

 そして―――

 

和也「―――ッ!?」

 

 急に横の茂みから何かが襲い掛かってきた。

 

?「ガアアァァァ!!」

 

 狼のようなものが飛び掛ってくる。

 

 咄嗟に鬼影で切り抜ける。

 

?「アアァァ・・・」

 

 いきなりだったため普通に斬ったが

 魔力コアを捉えていたのだろう、相手は崩れ落ちる。

 

 だが、相手に違和感がある。

 

和也「・・・いまのは」

 

 確かにゴーレムだった。

 だが、その形状はどう見ても狼型。

 

 通常、ゴーレムは人型のみだ。

 確かその姿以外だと・・・魔力効率がどうとか・・・

 えっと・・・あれ?

 な、何だかとにかく効率悪いし、制御も非常に難しいらしい。

 

 ああ、やはり魔法系の授業は苦手だ。

 

 そんなことを考えていると

 ゴーレムの集団が目の前まで迫ってきていた。

 

和也「・・・何だ、こいつら」

 

 ゴーレム達は、四足で狼のような姿や

 八本足で、蜘蛛のような形状をしている奴も居る。

 

 こんなに色々な姿をしているなんて聞いたことがない。

 

 そしてゴーレム達は、全て俺を見ている。

 

 どいつもこいつも目が無いにも関わらず

 目線が合っているような感覚がする。

 

和也「ちっ、化け物どもめ」

 

 周囲には2~30匹ぐらいのゴーレムが居る。

 この程度なら、先ほどのように魔法を乱射されなければ

 何とでもなるが、後ろから来ている数は

 ちょっとご遠慮願いたい。

 

 こちらの動きに合わせるように

 ゆっくりと戦闘態勢になるゴーレム達。

 

 初手の行動で全てが決まる。

 

 意を決して仕掛けようとした瞬間―――

 

?「ファイア・アローッ!」

 

?「ウォーター・アローッ!」

 

 突然の声と共に火と水の矢が何本も飛んでくる。

 そして・・・

 

ゴーレム達「ググアアァァァ!!」

 

 矢を受けたゴーレム達が次々と崩れていく。

 

 矢が飛んできた方角から、足音が聞こえる。

 やってきた相手は―――

 

セリナ「和也くん、大丈夫ですか!?」

 

エリナ「和也、生きてる!?」

 

 神界王女姉妹だった。

 

和也「セリナにエリナ・・・。

   どうしてここに?」

 

セリナ「和也くんの様子を見に来たんです」

 

エリナ「そうしたら、ベストタイミングだったって訳だね」

 

 俺の隣まで来た2人は、軽くこちらに微笑みかけると

 正面の敵を見据える。

 

エリナ「さってと。

    じゃあ、倒しますかね」

 

セリナ「エリナちゃん、無茶なことはしないようにね」

 

エリナ「わかってますよっと」

 

 そして2人は、同時に攻撃を再開する。

 そこからは、一方的だった。

 

 エリナの広範囲魔法の連続攻撃で

 ゴーレム達は、次々とコアを潰され崩れ落ちるか

 身体の一部を破壊され、進行が遅れる。

 

 そしてセリナも儀式兵装を弓へと変化させ

 狙撃で1体づつ確実に撃破していく。

 

 それでも敵は、かなりの量だ。

 少しづつ距離が縮まっていく。

 

 しかし―――

 

エリナ「そろそろ本気でいこうかしらっ!」

 

 翼を広げ、弾装を使う。

 一瞬にして強大な魔力が集まる。

 これだけの魔力を一瞬で収束させるなんて

 一体どれだけの制御技術を持っているのだろうか。

 

エリナ「エリナちゃん必殺っ!

    ファイア・ストームッ!!」

 

 謎の掛け声と共に発動した魔法は

 そんなことがどうでも良くなるほどの威力だった。

 

 出現した炎の竜巻は、周囲を巻き込み

 巻き込んだ全てを燃やし尽くしている。

 

 しかも火と風の属性双方の特性を上手く利用して

 次々と相手を飲み込んでいく。

 

 やはり彼女は、天才だ。

 これほどの魔法を難なく使用し

 数多くの敵を一瞬にして仕留めることが出来るのだから。

 

 彼女の魔法が消えると

 周囲には、焼き尽くされた草の残骸が残る丘だけが残った。

 

 まさに圧倒的な戦い。

 だが歴史に名を刻んだ者達は、その誰もが

 今のエリナ以上の戦果を次々と上げている。

 

 それは、俺の目標の1つだ。

 彼ら、彼女らに追いつくことが出来れば

 もっと多くを守ることが出来る。

 

 そんなことを考えていると

 2人がこちらにやってくる。

 

セリナ「相変わらず、強力な魔法を簡単に使うんだから・・・」

 

エリナ「やっぱり魔法は、派手にドカーンといかないとね」

 

和也「お前、それ魔族の発想だぞ・・・」

 

セリナ「和也くん。

    それにしても、あれは何だったんですか?」

 

和也「いや、俺もさっぱり解らん」

 

エリナ「ゴーレムっぽかったんだけど

    な~んかちょっと違う気もするんだよねぇ」

 

 3人で悩んでみるも、結論なんて出るはずも無い。

 

 結局、この日は時間も遅かったので

 女子寮に帰るだけとなった。

 

 

 

 

 

第10章 双子の気持ち

 

 

 

 

 

和也「悪いな」

 

 その言葉と共に振り抜かれた紅の一撃で

 神族生徒が倒れる。

 

フィーネ「和也~♪」

 

亜梨沙「さすが兄さんです」

 

リピス「本当に、和也は良い動きをする」

 

エリナ「さっすが和也」

 

 彼の周囲に常に居るフィーネ達は

 和也の活躍に喜び、これでもかと声を上げている。

 

ミリス「・・・まあまあですね」

 

ギル「いいね、いいね。

   そうでなきゃリベンジする気にならないぜ」

 

ヴァイス「ふん。

     やはり神族は、弱者の集まりだな」

 

 彼を認めている者、認めたくない者、そういった者達も

 また彼に視線を向けていた。

 

 そんな中、彼女は―――

 

セリナ「和也・・・くん・・・」

 

 他の種族から恨みや憎しみを持たれ

 今も蔑まれ続ける種族・・・人族として生まれた少年。

 

 そして儀式兵装を持たない戦士。

 なのに今、フォースで一番気になる男の子。

 

 特に最近、彼を見ていると

 何だかモヤモヤとした気持ちになってくる。

 どうしてだろう?

 考えても答えは出ない。

 

 こんなモヤモヤは、以前エリナちゃんと話した時以来。

 

セリナ「あ―――」

 

 思い出した。

 そう、こんな時こそ―――

 

 

 ・・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 その日の夜。

 少し早いかもと思いながらも、彼が居るいつもの丘へ行く。

 

 丘に近づくと、剣が空気を斬る独特の音が聞こえてくる。

 そして私は、スグに目的の人物を見つける。

 

和也「・・・セリナか?」

 

 さすが、というべきか。

 気配だけで私と気づくなんて。

 

セリナ「こんばんは」

 

 出来る限りさりげなく声をかけてみる。

 

和也「・・・何か用か?」

 

セリナ「え、えっと~」

 

 いきなり用件があることがバレてます・・・。

 

セリナ「・・・」

 

和也「・・・」

 

 そして沈黙。

 

 ・・・どうしましょう。

 こういう時、どうしていいのか解りません。

 

和也「・・・まあ、話したくなったらでいいよ」

 

 そういうと、剣の素振りに戻る和也。

 

 ああ、気を使わせてしまった。

 思えば、いつもそうだ。

 周囲に気を使ってもらってばかり。

 

セリナ「・・・あ、あの・・・ですね」

 

和也「だから無理しなくてもいいって」

 

セリナ「それではダメなんですっ!」

 

 思わず叫んでしまう。

 

セリナ「それでは・・・ダメなんです」

 

和也「・・・それは、どうしてだ?」

 

セリナ「・・・私は。

    私は、神界第一王女。

    私がしっかりしなければ、いけないんです。

    神界を代表する者として―――」

 

和也「それは、オリビアさんが望んでいることか?」

 

 こちらの言葉を遮るように発せられた問いかけ。

 

セリナ「それは・・・」

 

和也「違うだろ?」

 

 確かにお母さんは、私達に自由に生きて欲しいと

 言っています。

 

 でも、私は神界の王女。

 ただ自由に生きるという訳にはいきません。

 

 神界に居た時は、常に周囲から

 

 念願の八翼。

 天才的な才能。

 これぞ我らが夢見た王女。

 

 このように様々な期待をかけられてきました。

 そしてそれに応えるのが王族の使命だとも。

 

 神族みんなの期待を、夢を裏切る訳にはいかない。

 

セリナ「・・・でも」

 

和也「神界第一王女ってのは、キミの全てか?」

 

 唐突な質問。

 その意味が理解出来ず首を傾げる。

 

和也「言い方を変えよう。

   キミは神界第一王女であり、王女としての立場以外では

   動いてはいけないのか?

   王女として不適切と言われれば、学園を辞めることも

   友達を選ぶことも、食べるものや着る服だって

   周りの誰かに決められてもいいのか?」

 

セリナ「それは・・・」

 

和也「要するに、そういうことさ。

   キミは確かに王女だ。

   それを捨てろなんて言わない。

 

   でもあくまでそれは一部だ。

   キミは、セリナだ。

   セリナ=アスペリアという一人の神族でもある。

 

   キミは、キミだ。

   他の誰でもない。

   肝心なのは、キミ自身の気持ちなんじゃないのか?」

 

 その言葉を聞いて、心がざわつく。

 神界では、まったく逆の・・・。

 王女としての振る舞いばかりを求められた。

 

 どうして彼は、その逆を言うのだろう。

 どうして私は、その言葉でこんな気持ちになるのだろう。

 

セリナ「・・・」

 

 彼に対する様々な想いが胸の中でグルグルと回る。

 

 もっと彼のことを知りたい。

 気づけば、私は以前から聞きたかったことを聞いていた。

 

セリナ「どうして和也くんが、騎士の型を知ってるんですか?」

 

和也「騎士の型?」

 

セリナ「これです」

 

 私は、剣を持ってるように垂直に構える。

 

和也「ああ、それか」

 

セリナ「神族ではない和也くんが、どうしてそれを知っているのか。

    そしてどうしてそれをやるのか、気になっていたんです」

 

和也「・・・昔、とある事件で神界に行くことになってな。

   その時に出会った人から教えてもらったんだよ。

 

   その人に、俺は本当の強さとは何かを教えてもらった気がする。

   あの人に出会わなければ、今の俺は無かっただろう」

 

 そう、あの儀式の日。

 新たな翼を得たフィーネが裏切り者達を倒した後

 魔王妃の率いる部隊と、事件を知った神族の部隊が

 ほぼ同時に乗り込んできた。

 

 人族の少年を抱える魔族の少女。

 その2人以外は、全て死んでいた。

 

 生き残り2人は、大事な事件の証人だ。

 魔王妃のマリアは、娘が決して離そうとしない

 人族の少年共々、魔界に引き取るつもりだった。

 

 だが神族側も黙っていない。

 魔界との交渉に有利になる事件の証人を

 連れていかれる訳にはいかない。

 2人とも神界に身柄という声が上がる。

 

 だが魔界の王女であるフィーネを神界になんて

 人質と同じようなものだと反発され

 互いに妥協した結果、フィーネは魔界へ戻り

 俺は神界に連れて行かれることになった。

 

 神界で、何度も同じようなことばかり質問・・・

 いや、あれは尋問とでもいうべきか。

 何度も何度も同じことばかり聞かれうんざりしていた。

 だが、ある日を境にそれが無くなり

 ある程度、自由に動き回れるようになった。

 

 そんな時だった。

 あの人に出会ったのは。

 

 さすがにフィーネとのことまでは話せないため

 ある程度、誤魔化しながらセリナに関係のある部分だけを

 選んで話す。

 

セリナ「・・・その人から教わったんですか?

    あの・・・言葉も」

 

和也「『この力を、守りたい全てのために』。

   そう、あの人は、この言葉を口癖のように言っていたよ」

 

 その言葉は、昔に何度も聞いた神王だったお父様の口癖。

 

セリナ「・・・もしかして」

 

和也「そう、俺が出会い・・・そして師の一人として

   今でも尊敬している偉大な人。

   今は亡き神王アルバート=アスペリア」

 

 俺に、強襲型魔法剣・紅を譲ってくれた人。

 俺に、魔眼とその使い方を教えてくれた人。

 そして、俺に本当の強さを教えてくれた人。

 

セリナ「・・・」

 

 そうなんじゃないか・・・と思っていた。

 だって彼は、あまりにもお父様の面影を残していたから。

 

和也「やっと、これを渡せる頃合かな」

 

 そう言って彼が差し出してきたのは

 とても古そうな封筒だった。

 

 それに書かれた文字を見てハッとする。

 

 『親愛なる我が娘 セリナへ』

 

 そう書かれた封筒を受け取る。

 震える手で、ゆっくりと開ける。

 

 

 『セリナへ。

  

  お前の自由に生きなさい』

 

 

 簡潔に、そう書かれただけの手紙。

 

和也「『私には、2人の娘が居てね。

    いつか会うことがあったら渡してくれないか』

 

   ・・・そう言われて持ってたんだよ」

 

セリナ「・・・お父様」

 

 まるで私が、悩むことが解っていたという手紙。

 

 たった一文の言葉。

 でも、それだけで私は何かを許されたような気持ちになる。

 

 自然と流れる涙。

 

セリナ「ああ・・・ぁぁあぁぁ・・・・」

 

 気づけば和也に抱きついて号泣し始めるセリナ。

 

和也「・・・」

 

 ・・・まったく。

 こうなると解ってて手紙を渡したでしょ・・・。

 

 昔を思い出す。

 突然出会った、何処となく底知れない雰囲気を持った男。

 当時は、神王だと気づかず、あの人も名前しか名乗らなかったため

 おじさんと呼んでたっけか。

 

 俺の魔眼の師であり、心の師でもある。

 人界に戻ってしばらくして、あの時のおじさんが

 神王であり、その神王が亡くなったことを知った。

 

 『また会えるといいな』と言っていた癖にと

 当時は、怒ってたっけか。

 

 昔のことを色々と思い出しながら

 俺は、彼女が泣き止むまで

 抱きしめ続ける。

 

 

 そして寮への帰り道。

 しっかりと握られた手。

 

 手を繋いで歩く2人は、そのまま女子寮の前に到着する。

 

セリナ「・・・今日は、ありがとうございます」

 

 静寂を破ったのは、セリナのそんな一言。

 

和也「いや、俺の方こそ

   色々と黙ってて悪かったな」

 

 名残惜しそうに離れる手。

 

セリナ「じゃあ、おやすみなさい」

 

和也「ああ、おやすみ」

 

 先に女子寮の中へと入っていったセリナだったが

 何かを思い出したかのように戻ってくる。

 

 そして―――

 

和也「―――!?」

 

 目の前に彼女の顔。

 唐突に塞がれる唇。

 

セリナ「・・・ん、ちゅ・・・」

 

 それは、紛れも無くキスだった。

 呆然としている俺から、そっと離れるセリナ。

 

セリナ「・・・私。

    フィーネ達や、エリナちゃんにだって

    絶対に負けませんっ♪」

 

 楽しそうに笑顔でそう言うと

 今度こそ女子寮の中へと走っていった。

 

和也「・・・」

 

 今のは、一体何なんだ。

 エリナも昔、頬だったが突然キスしてきたことがあった。

 

 神族の挨拶のようなものなのか?

 ・・・いや、そんな話聞いたことがない。

 

 本当は理解しているはずだが、それを隠すように

 出口の無い迷路に迷ったが如く余計な言い訳を探す和也だった。

 

 

 そして次の日の朝。

 いつも通り、皆で玄関前に集まる。

 

 朝の挨拶を済ませ、いつも通りに学園に行くはずだった。

 

セリナ「お、おはよう・・・ございます」

 

エリナ「おっはよ~」

 

 それは、まるで待ち構えていたような双子姉妹の登場。

 

和也「ああ、おはよう」

 

 俺に続いて皆が挨拶する。

 

 セリナだけ気のせいか、俺と視線を合わせたがらない。

 まあ、理由が解らない訳でもないが・・・。

 

 昨日キスされたことを思い出す。

 ・・・やばい。

 自分も顔が赤くなりそうだ。

 

 そんな時、すっと隣に移動してきたエリナ。

 

エリナ「昨日、セリナちゃんとキスしたんだって?」

 

 小声だが、はっきりと聞こえた声。

 思わずエリナの方へ振り向く。

 

エリナ「にひひっ♪

    私の情報網を甘く見ちゃダメだよ~」

 

和也「・・・いや、それセリナから直接聞き出したんだろ」

 

エリナ「まあ、そんな細かいことはどうでもいいの。

    ・・・問題は、セリナちゃんとキスしたこと」

 

 両手で俺の顔をしっかり押さえるエリナ。

 

エリナ「セリナちゃんとは唇で、私は頬。

    これって不公平だよね」

 

和也「不公平とか、そういう問題じゃ―――」

 

エリナ「・・・んぅ、は、ちゅ・・・」

 

 口を塞ぐような強引なキス。

 

フィーネ「ああああぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 

亜梨沙「―――ッ!!?」

 

リピス「・・・ほぅ」

 

メリィ「あら、まあっ♪」

 

セリナ「もう、エリナちゃんは・・・」

 

 周囲の反応なんて気にしてないというような

 少し長めのキス。

 

 そしてゆっくりと離れる唇と唇。

 

エリナ「・・・なんか、照れるね」

 

 少し顔を赤らめるエリナ。

 その普段とは違う乙女な顔に

 俺の心は、カウンター気味のクリティカルヒットを

 喰らったように一撃ダウンしそうになる。

 

 ・・・これは危ない。

 本能がそう告げる。

 

 よく考えれば、周囲に居る皆は全て

 これ以上無いほどに美少女ばかりだ。

 

和也「(・・・まさかフォースに来て

    こんな悩みを抱えることになるとはな)」

 

 周囲では、先ほどのキスについてエリナを問い詰めたり

 俺の腕を取り合ったりしている。

 

 だが、俺は今。

 完全に思考が遠くに行っていた。

 

 いや本当に・・・。

 どうなるんだろうな。

 

 

 ふと見上げた空は、雲一つ無い快晴。

 眩しいほどに輝く太陽に、笑われている気がした日だった。

 

 

 

 

第10章 双子の気持ち ―完―

 

 

 




ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

セリナ編のスタートです。

そのスタートでいきなり投稿遅れてしまい
申し訳ないです。

最近、また仕事が忙しかったり
体調悪かったりで・・・。

個別編を書いてると
どうしても他のキャラが出しにくくなり
出番が減ってしまいます。
既に扱いに困っているキャラが・・・(笑)

それら色々とまとめて最後に
上手く繋げられるといいなと思いながら
今回は、この辺で失礼します。


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第11章 悪魔(学園長)のトラップ

?「あああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 静寂を切り裂く叫び声が

 夜の森に響く。

 

 そして爆音。

 周囲の木々を吹き飛ばす。 

 

?「また、発作ですか」

 

 暴れる何かを少し離れた場所から眺める人影が2つ。

 

?「ええ、もう少ししたら治まるわ」

 

?「もう少し静かにして欲しいところではありますね。

  ただでさえ、嗅ぎ回られているのですから」

 

?「仕方が無いでしょう?

  それともアナタが止める?」

 

?「・・・まさか。

  私にそのような権限はありませんよ」

 

 2つの影が会話していると

 暴れていた何かが、急に止まる。

 

 人影のように見えるが

 その荒々しい動きは、一種の獣のようにも見える。

 

?「例の準備は、まだかぁ!!」

 

?「あと少しといったところですね。

  まあ、待ちきれないのは私も同じですが―――」

 

?「あまり待たせすぎるとお前からぶっ殺すぞっ!!」

 

?「ええ。

  その時は、どうぞお好きに」

 

 殺気を放ちながら叫ぶように声をかける

 獣のような人影の圧力を、平然と受け流す人影。

 

 そして夜の森に静寂が戻る。

 

 何かが、動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

第11章 悪魔(学園長)のトラップ

 

 

 

 

 

 いつもと変わらない朝。

 

 珍しくフォースの門前で学園長から声をかけられる。

 今思えば、この時点で逃げるべきだったのかもしれない。  

 

マリア「やあ皆、おはよう」

 

 突然の学園長に皆、一瞬だけ驚くも

 挨拶を交わしていく。

 

マリア「挨拶は、済んだな。

    よし、では婿殿を借りていくぞ」

 

 まるで手荷物を持つように

 俺をズルズルと引っ張っていく。

 

和也「え?・・・あのっ!

   ちょっとっ!?」

 

マリア「まあまあ。

    紅茶ぐらいは出すから」

 

 いきなり和也を引っ張っていく魔王妃の姿に

 誰もが呆然と首を傾げていた。 

 

 

 そして朝の学園長室。

 

和也「・・・えっと」

 

マリア「まあ、せっかく用意したんだ。

    とりあえず飲んでくれ」

 

 学園長の言葉で、紅茶を飲む。

 

 ・・・入れ方の完璧な紅茶。

 美味いと思う一方で、嫌な予感もしてくる。

 

マリア「・・・ふむ。

    あまり緊張させても申し訳ない。

    そろそろ用件としようか」

 

和也「・・・それは聞かなかったことには

   出来ませんかね?」

 

マリア「あははははっ。

    察しが良いのは嫌いじゃない。

 

    ついでに言えば、拒否権が無いことぐらい

    わかってるだろうに」

 

和也「まあ、聞くだけは聞いておかないと」

 

マリア「そう警戒するな。

    ちょっとしたことを頼みたいだけだ」

 

 その『ちょっとしたこと』が怖いんだよと

 心の中で突っ込む。

 

マリア「実は、森にある廃墟エリアがあっただろう」

 

和也「・・・ああ、あの以前に2階級で

   クラス対抗戦もどきをやった場所ですね」

 

 あの時は、本当にやばかった。

 正直、リピスが誘いに乗ってくれなければ

 ウチのクラスは敗退していただろう。

 

マリア「あの時、随分と派手にやってくれたそうだな。

    おかげで整理しないと授業が出来ないほどに

    荒れたと報告が来ていてな。

 

    せっかくだからと工事をしたんだよ」

 

和也「・・・工事、ですか」

 

マリア「そうだ。

    あまり同じ場所ばかりで実戦訓練をやっても

    変に土地勘があったりして、正確な訓練にならんからな」

 

 確かに、同じ場所に同じメンバーでの戦いなら

 場所による有利不利や、訓練だという慣れが出てくる。

 そうなると効率が悪くなるどころか

 変な癖がついたりして、本当の実戦で

 それが命取りになる危険性まである。

 

マリア「ついては、婿殿達に新しいエリアでの

    実戦訓練のテストを頼みたい」

 

和也「テスト・・・ですか?」

 

マリア「そうだ。

    実際にテストしなければ、予期しない事故も

    起こりうることもある。

 

    テストも無しに使用出来んさ」

 

和也「・・・つまり、実験体になれと」

 

マリア「実験体とは、人聞きが悪い。

    有志によるエリアテストだよ。

 

    中途半端な連中に任せる訳にもいかんからな」

 

 まあ、中途半端な奴なら事故が起きる確率が跳ね上がってしまう。

 どんな事態になろうとも対処出来るだけの実力が無いと危険だからだ。

 

 確かにフィーネ達なら、実力的にも申し分ないだろう。

 だが―――

 

和也「普通、5階級の生徒に声をかけますよね?」

 

 疑問に思ったことを聞いてみる。

 本来なら一番実力者が集まる5階級の生徒が

 テストを請け負うのが普通だ。

 

マリア「ああ、5階級の連中か。

    あいつら最近、私が声をかけると逃げるんだよ。

    失礼な奴らだ」

 

 ・・・ああ、やっぱりそういうことですか。

 

マリア「それにセオラの奴にも話を通しておいた。

    『特別に単位付きの授業扱いにして差し上げます』

    だそうだぞ」

 

 それを聞いて、眉間にシワを寄せながら

 笑顔で怒っている先生の姿が浮かんだ。

 

 ・・・先生も、苦労してるんですね。

 

マリア「開始は、午後からの授業時間全てを使って行う。

    メンバーを揃えて昼食後に、エリアの集合地点に来るように。

 

    詳しいテストの内容は、この紙にまとめておいた。

    まあ、飯でも食べながら確認しておいてくれ」

 

 その言葉と共に机の上に置かれる紙。

 

和也「・・・はぁ。

   わかりました」

 

マリア「そうか、引き受けてくれるか。

    さすがは、婿殿だ」

 

 『拒否権はない』と自分で言った癖にと

 喉元まで出てきた言葉を飲み込む。

 

和也「・・・しかし。

   この話なら、あの場で全員にしてもよかったのでは?」

 

マリア「・・・」

 

 無言のまま、紅茶を飲む学園長。

 そして―――

 

マリア「ここからが、本当の用件だ」

 

 目つきが鋭くなった。

 その顔に、思わず身構える。

 

マリア「ミリスから報告を受けたんだが。

    ・・・婿殿は、あの化け物と戦ったそうだな?」

 

和也「・・・あの化け物?」

 

 化け物と言われてスグに心当たりが出てくる。

 

マリア「とぼける必要はない。

    いつも夜に自主訓練をしている丘で・・・だそうだな」

 

和也「・・・」

 

 何を意図してこの質問をしてきているのだろうか?

 それが気になる。

 だからこそ―――

 

和也「・・・いえ、知りませんね」

 

マリア「・・・そうか。

    まあ、いいだろう」

 

 ゆっくりとため息をつく学園長。

 

マリア「・・・もし、何か見たら

    『必ず』報告して欲しい」

 

和也「はい」

 

 そして、その後。

 あくまでゆっくりと学園長室を出る。

 

 学園長室から廊下を歩いて曲がり角を曲がった瞬間

 

和也「・・・ちっ」

 

 思わず舌打ちが出る。

 

和也「・・・食えない人だ」

 

 ミリスのことは、報告があったにしろ

 確証は無かっただろう。

 

 確証があれば、あんなまどろっこしいことは

 してこない性格なのは、もうわかっていることだ。

 

 しかし先ほどのやりとりで、俺の一瞬の迷いを

 的確に見切ってきた。

 これでは確証を取られたのと同義だ。

 

 やはり、魔王妃・・・ということか。

 

 自身の未熟さを痛感しながら

 俺は、教室に向かうのだった。

 

 

 そのころ、学園長室では

 カップに残った紅茶をゆっくりと飲む学園長が居た。

 

ミリス「・・・その顔を見るかぎり

    やはり、あの人族は対象との戦闘をしていると

    いうことですか?」

 

 いつの間に現れたのだろうか。

 マリアの後ろにミリスが立っていた。

 

マリア「ああ。

    一瞬だけ返答を躊躇った瞬間に

    目が泳いだ。

 

    上手く誤魔化してはいたがな」

 

ミリス「・・・生意気な人族です」

 

マリア「まあ、そう言うな。

    お前でも見分けがつかないほど

    上手く嘘をつける度胸と判断は素晴らしいじゃないか。

 

    それが、ウチの娘の婿だというのだから

    将来が楽しみだ」

 

ミリス「・・・私は、楽しくありませんが」

 

マリア「相変わらずだなぁ、お前も」

 

ミリス「・・・ところで、どうして嘘をついたんでしょう。

    あの人族にとって、何のメリットもないのに」

 

マリア「ははっ。

    お前もまだまだだなぁ」

 

ミリス「・・・」

 

マリア「あの男はな。

    一瞬で、仲間を庇うことを選んだのだよ」

 

ミリス「・・・どういうことです?」

 

マリア「・・・もし、アレが神族・竜族、そして人族の内の

    どれかが作った実験体だとしよう。

 

    それが他種族に・・・それも皆が知ることに

    なったらどうなる?」

 

ミリス「・・・あ」

 

マリア「・・・そう。

    そのリスクに気づいて誤魔化した。

 

    自分の周囲に居る誰かを守るために・・・な」

 

ミリス「・・・やっぱり生意気です」

 

 そのミリスの言葉に盛大に笑う学園長。

 

 不機嫌そうな顔のミリスは、そのまま学園長室を出て

 何処かへと飛び去っていった。

 

 

 

 そして午後。

 

 新しくなったエリアで開始を告げる合図が鳴る。

 今回は、エリアの稼動テストだ。

 そのためエリア全てを使う必要がある。

 

 なので全員で1箇所から歩いて確認するのではなく

 あくまで授業の一環として使用しなければならない。

 

 そして人数は、多い方がいい。

 昼休み、声をかけると皆、快く参加してくれた。

 

フィーネ「もちろん一緒に行くわ」

 

亜梨沙「まあ、兄さんが行くのでしたら」

 

リピス「たまにはそういうのもいいだろう」

 

エリナ「面白そう!」

 

セリナ「そういうテストも大事ですよね」

 

ギル「いいねいいね。 楽しそうだ」

 

 今、彼らもそれぞれのスタート位置から

 歩き出したころだろう。

 

 エリア内を全て調べるために手分けするしかない。

 しかし学園長の書いた紙には

 『各自、出会った相手とも戦闘すること』と記載してあり

 きっちり戦闘させる気でいるらしい。

 

 というか、フィーネ達が本気でぶつかったら

 またエリアが壊滅するんじゃないのか?と思っていたのだが

 開始してスグに、俺のそんな心配が

 予想外な方向で裏切られることになる。

 

 

フィーネ「はぁ・・・。

     和也は、どこかしら」

 

 再会した当初と比べれば大人しくはなったものの

 未だに何かあるごとに『和也』と言うフィーネ。

 今も和也と出会っても戦うなんてルールを無視して

 仲間となるつもりだ。

 

フィーネ「・・・はぁ」

 

 森の中を歩いていて、ふと足元に張られた1本の糸に気づく。

 こんな子供騙しと思わなくもないが、あまりレベルが高すぎる

 トラップでは訓練にもならないだろう。

 

 ため息をつきながら、その糸を超えようとして気づく。

 糸を跨いだ先に絶妙に隠された更にもう1本の糸。

 

 まあ、こんなものかと思いながら

 その糸すら避けようとした瞬間―――

 

 左右の草むらから飛び出してくる網。

 魔力を利用した見えない糸にかかると発動するトラップ。

 それを難なく後方に軽く飛んで避けた瞬間だった。

 

 着地した地面が消える。

 

フィーネ「・・・え?」

 

 まるでそこに着地するとわかっていたかのように

 設置されていた落とし穴だ。

 

 しかもかなりの深さ。

 落下しながら彼女は思う。

 

 ・・・ああ。

 そう言えば、このトラップを作ったの母様だったわ・・・と。

 

 その瞬間、大きな火柱があがる。

 落とし穴の中にも仕掛けられていたトラップごと

 破壊して地面に着地するフィーネ。

 

フィーネ「・・・和也が居なかったら

     もう帰ってるところだわ」

 

 そう呟くと、和也を探して歩き出す。

 

 トラップというものは

 それを作った者の性格を露骨に反映する。

 

 正直者が作れば、正直で単純明快なトラップに。

 ひねくれ者が作れば、予想外で難解なトラップに。

 

 では、魔界を統べる魔王妃がトラップを作ったのなら

 果たして、どのようなものになるのか・・・。

 

 フィーネから数分後。

 各地では、それぞれに悲鳴が上がっていた。

 

亜梨沙「ちょっと、リピス。

    何とかして下さい」

 

リピス「・・・ふむ。

    どうしたものかな」

 

 彼女達は、森の中で出会った。

 以前、決着が付かなかった戦いのリベンジだと

 2人が儀式兵装をぶつけ合った瞬間。

 

 周囲から魔力が通ったワイヤーが

 まるで蜘蛛の巣のように周囲に張り巡らされた。

 異常に強化されたワイヤーなため

 簡単には切ることが出来ない。

 

 それが周囲に展開し、身動きが取りにくくなっている所に

 魔法技術で作られた自動砲台から魔力塊が

 狙いを定めていくつも飛んでくる。

 

 逃げ場を潰して遠距離からの飽和攻撃。

 まるで良く出来た戦術論の授業だ。

 

 飛んでくる魔力塊を弾き、ワイヤーを破壊するも

 数が多すぎる。

 

 綺麗に足止めされ、2人はイライラしながら

 トラップから抜け出すために戦うのだった。

 

 

 同じころ―――

 

ギル「いやいやいやっ!!

   無理無理無理ーーーーっ!!!」

 

 エリア内に見つけた洞窟の中を進んでいたギルが

 叫びながら地上を目指して走る。

 

?「グアアアアァァァァッ!!!」

?「シャァァァーーー!!!」

 

 後ろからは、何かの雄叫びが聞こえてくる。

 そして地鳴りのように響く大勢の足音。

 

ギル「何であんなに敵性モンスター配置されてるんだよっ!?」

 

 逃げれば逃げるほど、増え続けるモンスター。

 そして出口を目指しているはずなのに

 一向に見えない外からの光。

 

 ・・・おかしい。

 そう思った時、既に手遅れだった。

 洞窟自体が変化し、閉じ込めてしまう大規模トラップ。

 

 その仕組みに気づいた時には

 彼は逃げ場の無い広場に追い詰められ

 大勢のモンスターに囲まれていた。

 

ギル「これは、ちょっとやりすぎでしょーーー!!!」

 

 その叫び声を合図に一斉に飛び掛ってくるモンスター。

 

 彼は、果たして脱落することなく切り抜けることが

 出来るのだろうか?

 

 

 そしてこちらでも

 嫌がらせに特化したトラップが発動していた。

 

 そこは、エリア中央にある廃墟の中。

 

エリナ「い~や~ぁぁぁぁ!!!」

 

セリナ「エリナちゃんが、無計画に魔法撃つからぁぁぁぁ!!!」

 

 2人は、走っていた。

 

 その後ろからうごめく白いもの。

 

 そもそも出会いがしらの白いスライムに

 エリナが魔法を放ったのが原因だった。

 

エリナ「魔法を吸収して増殖するなんて、聞いてないよぉぉぉぉ!!!」

 

 エリナの高圧縮された魔力を元に、増殖を続けるスライム。

 増えるだけならまだしも、スライム達は彼女らを追いかける。

 

 ブシュッ!!

 

 謎の白い液体を発射する。

 

セリナ「きゃぁっ!!!」

 

 それを慌てて回避するセリナ。

 しかし完全に避けきれず、液体の一部が

 腕にかかる。

 

 すると、その部分の鎧と服が解け始める。

 

セリナ「あんな消化液を出すスライムなんて聞いてことがないですよっ!」

 

エリナ「服だけ溶かすなんて、何でそんな液体出すんだろうね?」

 

セリナ「そんな興味があるなら

    エリナちゃんだけ残ればいいじゃないですか」

 

エリナ「そんなことしたら裸にされちゃうじゃない!」

 

 2人で走りながら会話する。

 その間も、じわりじわりと距離を詰めてくるスライム。

 

セリナ「このままじゃ追いつかれちゃいます。

    反撃するタイ――――」

 

 セリナが話している時だった。

 

 2人の足元が崩れて大きな穴が開く。

 

セリナ「きゃぁぁぁぁぁ!!」

エリナ「うっそぉぉぉぉ!!」

 

 重なるように悲鳴をあげながら

 2人は、落ちていった。

 

 

 それから10分ほど経ったころ。

 数々のトラップに悩まされながらも

 廃墟の中を歩く和也が居た。

 

和也「・・・もう帰りたい」

 

 正直な気持ちを声に出す。

 

 この新エリア。

 とにかくトラップが多いのだ。

 しかも多いだけでなく1つ1つが姑息。

 更に計算しつくされたものばかりで

 トラップに耐性の無い者が入ってしまえば

 間違いなく脱出不可能だろう。

 

 さっさとゴール地点に移動して

 皆と帰ろうと思って慎重に進んでいた時だった。

 

?「・・・・・あぁ・・・・・ちょ・・・・」

 

?「・・・・だめ・・・・・いた・・・・・」

 

 何やら奥から声が聞こえてくる。

 

 また新手のトラップかと警戒しながら

 進んだ俺の前に、信じられない光景が広がる。

 

セリナ「エリナ・・・ちゃん、動いちゃダメですよ・・・」

 

エリナ「そんなこと言っても・・・こんな格好・・・」

 

 広場のようになっている場所に

 いくつもの魔力が通ったワイヤーが張り巡らされており

 それに引っかかったのだろうか。

 

 双子の姉妹が、何とも言えない体勢で

 抱きつくように絡まっていた。

 

 しかも鎧や服が溶けているようで

 半裸状態になり下着も見えている。

 

 それだけでなく、何やら白くてネバネバした液体が

 身体にかかっており・・・。

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 ・・・とにかく非常にエロいのだ。

 

和也「・・・」

 

 その2人の姿に、まるで光に集まる虫のように

 ふらふらと近づいていく。

 

 ジャリッ!

 

 足で小石を踏み潰したのだろう。

 少し大きな音が鳴る。

 

 その音で、2人がこちらを向く。

 

セリナ「え?」

 

エリナ「か・・・ずや?」

 

 少し呆然とした顔をしていたのだが

 数秒ほどすると―――

 

セリナ「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」

エリナ「いやぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 2人で大きな悲鳴を上げた。

 

セリナ「ど、どうして和也くんがっ!?」

 

エリナ「何でっ!? どうしてっ!?」

 

 何とかしようともがくも―――

 

セリナ「ちょ・・・エリナちゃん。

    動かないでよっ!」

 

エリナ「だって、この体勢だったら

    和也に色々と見られちゃうじゃないっ!?」

 

セリナ「そっちに動いたら、私の方が見えちゃいますっ!」

 

 喧嘩しながらモゾモゾと動くたびに

 白い液が服を溶かし、更に露出が上がっていく。

 

和也「・・・何とかなりそうか?」

 

 とりあえずとっさに後ろを向いて見ないようにしているが

 振り向きたいという衝動もある。

 

 ・・・だって、男の子なんですもの。

 

 しばらくああでもないこうでもないと

 言い合いをしていた2人だが、ようやく意味が無いと

 理解して結論を出す。

 

セリナ「和也くん・・・。

    とりあえず手伝って下さい・・・」

 

エリナ「ただし、見ちゃダメだからねっ!!」

 

 目を閉じたまま絡まっている糸を1本づつ外していく。

 セリナ達の声だけを頼りに動くのだから

 こちらのミスも目立つ。

 

 手を動かすたびに、何か柔らかいものによく当たり

 そのたびにどちらかの可愛らしい悲鳴が聞こえる。

 

エリナ「ワザとじゃないよねっ!?」

 

和也「目を閉じてるんだから仕方が無いだろ」

 

 そう言いながら手を伸ばすと

 

セリナ「きゃんっ!!」

 

 先ほどまでの柔らかさと違う

 本当に弾力のある大きな何かを掴んでしまう。

 

 何だろうか?

 本当に柔らかい。

 

セリナ「あ・・・ちょっと、かず・・・くん・・・あぁ」

 

エリナ「ちょっと和也!

    何でセリナちゃんの胸を揉んでるのよっ!!」

 

和也「えっ!?」

 

 驚いて目をあけてしまう。

 

セリナ「え・・・」

 

エリナ「あ・・・」

 

和也「・・・」

 

 ばっちりと目が合う。

 そして一瞬だったが、彼女達が

 もはや、ほぼ下着姿になっているのを見てしまう。

 

 そして、予想通りと言うべきか。

 世界が震えるほどの悲鳴が響いた。

 

 

 ・・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 数時間後。

 

 フィーネ以外の全員が、ゴール地点でグッタリとしていた。

 セリナとエリナは、一度帰って制服に着替え直している。

 

 誰もが何も語らない異様な光景。

 

 そこに陽気な声が聞こえてくる。

 

マリア「どうだ、お前達?

    我ながら良いエリアに仕上がったと思うんだが―――」

 

 笑顔でそんなことを言う学園長に

 全員で、突っ込んだ。

 

被害者達「もう二度とやりませんっ!!」

 

 その後、事態の報告を受けたセオラにより

 このエリアは、また改装工事されることになり

 あのトラップ達も封印されることになった。

 

 唯一、被害がほぼ無かったフィーネは、後にこう言った。

 

フィーネ「母様の性格を考えれば

     まともなトラップが1つもあるわけないじゃない。

 

     その時点で、普通に対処しようとするのが間違いよ」

 

 その言葉で、俺達は再びうな垂れるのだった。

 

 

 

 

 

第11章 悪魔(学園長)のトラップ ―完―

 

 

 




ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

かなり投稿が遅れてしまい申し訳ありません。
風邪で長期間、倒れてました。

もう色々とダメですね。
この話も、まだまだ長いというのに
既に次のオリジナル作品とか
考えたりして末期です。

調子が戻ったら、一気に作品を
進めたいと思っております。


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第12章 大戦争の残火

そこは、一面に『死』が漂っていた。

 

 燃える建物。

 逃げ惑う人々。

 

 悲鳴。

 怒号。

 爆発。

 

 1人、また1人と・・・人が死んでいく。

 

 肉を切り裂く音がする。

 それは、また1つの命が消えたことを意味する。

 

?「はぁ・・・はぁ・・・」

 

 立派な鎧に身を包んだ騎士は

 その鎧にいくつもの返り血を浴びながら

 燃える炎の中を、身を引き摺るようにして歩く。

 

騎士A「カイン様ッ!!」

 

 騎士の1人が、その男に駆け寄る。

 

カイン「・・・住民の避難は、終わりましたか?」

 

騎士A「はいっ!!

   あとは我々だけですっ!!」

 

 その言葉を聞いて、彼は

 はるか後方に目を向ける。

 

カイン「・・・これでは、オリビア様に合わせる顔がないですね」

 

 立派な城が炎に包まれていた。

 その城は、ただの城ではない。

 

 神族を象徴する城。

 

 そしてそれを見つめる男は

 若くして神界宰相の地位まで出世した騎士。

 

 その名は、カイン=ライト。

 

騎士A「住民に犠牲を出さず、更にこれほど素早い反撃準備は

    カイン様出なければ不可能でしたっ!!

    ・・・不甲斐ないのは、むしろ我々の方です」

 

カイン「・・・では、私達も合流して

    この借りを、一秒でも早く返してやりましょうっ!!」

 

 そして2人は、炎の中を走り抜けていった。

 

 

 

 

 

第12章 大戦争の残火

 

 

 

 

 

 昼休みの学園長室。

 

 部屋は、いつもと違い重い空気に包まれていた。

 

マリア「・・・で、状況はどうなってるんだ?」

 

オリビア「まもなく神界側は、制圧出来るみたいだわ」

 

マリア「それで終わってくれるとありがたいのだがな」

 

リピス「・・・まったく。

    神王妃と魔王妃が2人揃って何を言ってるんだ?」

 

マリア「それは、どういうことだ?」

 

リピス「メリィ、説明を」

 

メリィ「現在、大規模な部隊の行軍を確認しています」

 

 そう言って、地図を取り出すと

 複数の印をつけていく。

 

オリビア「―――ッ!?」

 

マリア「・・・ほぅ」

 

メリィ「今回、神界を襲った規模と同等の大きさです」

 

オリビア「こんなにも大規模に動けるなんて・・・」

 

マリア「しかし、ここまで広範囲に部隊を広げるからには

    何か理由があるはずだ」

 

リピス「それは、もちろん・・・」

 

 そう言って地図の一部に指を指す。

 

リピス「―――ここ、だろうな」

 

マリア「・・・やはり、か」

 

オリビア「・・・」

 

リピス「さて、どうするべきかな」

 

 誰もが口を閉ざしていた。

 

 正直、答えは一つしかない。

 

 しかし、それは大きな賭けとなるだろう。

 そして大きな犠牲を伴うだろう。

 だが、それしかないと解っているからこそ

 だれもそれを口に出来ずにいた。

 

 しばらくの静寂の後

 

マリア「・・・戦いの準備をしよう」

 

オリビア「それは―――」

 

リピス「いや、私も賛成だ。

    状況から考えて、戦いは避けられないだろう」

 

マリア「こうなってしまった以上は、最善を尽くすしかない。

 

    ・・・責任問題は、戦いの後だ」

 

オリビア「・・・そうね。

     わかったわ。

     被害は最小限に抑えなきゃね」

 

リピス「皆には、辛いことを押し付けてしまうだろうが

    何もしなければ・・・逃げればいいという訳には

    いかないからな」

 

マリア「・・・よし。

    では、方針から決めよう」

 

 

 3世界のトップが話し合っているころ

 学園の中庭でも

 違った問題が発生していた。

 

 重い空気が周囲を覆っている。

 だが、それだけではない。

 

 このピリピリとした感じ。

 通常の授業では無い・・・そう、特別な授業。

 

 闘技大会やクラス対抗戦の時のような

 独特の緊張感のある感じに似ている。

 

 まるで、ライバルと対峙しているような

 そんな空気だ。

 

エリナ「はい、あ~ん」

 

セリナ「ダメですよ、エリナちゃん。

    まずは、こっちからです」

 

和也「・・・」

 

 2人の王女が俺の左右に座り

 『あ~ん』と食事を口元に持ってくる。

 

亜梨沙「それは、妹である私の仕事です。

    勝手に取らないで下さい」

 

フィーネ「私もっ!

     私もやるのっ!」

 

 そしてそんな2人に乗っかり

 加わろうとする2人。

 

 ドウナッテルノ、コレ?

 

 リピスが居ないから、誰も止めるものが居ない。

 ・・・いや、リピスが居たら面白がって自分も参加してるか。

 

 そこで、ふと思ったことを口にする。

 

和也「そういや、リピスは何で居ないんだ?」

 

亜梨沙「何でも、学園長に話があるそうですよ。

    

    あ、そこは妹の席ですよっ!」

 

セリナ「そう言えば、お母さんも

    用事があるって学園にきてましたね。

 

    ダメですよ、押さないで下さいっ!」

 

フィーネ「母様、今日は複雑そうな顔をしてたわ。

     何かあったのかしら?

 

     あ、それ私もやるのっ!」

 

エリナ「3人集まってるってことも考えられるよね。

    まあ、何だかんだで種族トップだし、色々あるんじゃないの?

 

    ちょっと、そこは私の席よっ!」

 

亜梨沙「意外と世間話をしてるだけって可能性もありますよ。

 

    甘いですね、その程度で私の邪魔は出来ませんよ」

 

フィーネ「まあ母様だからね。

     真面目な話が長続きしないっていうのは納得出来るわ。

 

     和也の隣は、私なのっ!」

 

セリナ「でも、急に慌てて集まってた感じでしたよ。

    お母さん、かなり慌ててましたから。

 

    やったっ♪ 和也くんの隣は貰いましたよっ!」

 

エリナ「大きなことになりそうなら、嫌でも解るから

    今のところは、大丈夫なんじゃない?

 

    あ、和也。

    はい、あ~ん♪」

 

亜梨沙「まあ、何かあれば言ってくるでしょう」

 

    兄さんは、それ苦手ですよ」

 

セリナ「そうなんですかっ!?」

フィーネ「そうなのっ!?」

エリナ「ホントっ!?」

 

亜梨沙「昔から『食感が苦手だ』と言ってましたからね」

 

エリナ「ううぅ・・・」

 

 短く唸りながら、箸で持ち上げていたものを戻すエリナ。

 

 確かに彼女が掴んでいたやつは、俺が苦手なものだ。

 

亜梨沙「・・・ふっ。

    全然ダメですね」

 

 何故か、勝ち誇った顔をする亜梨沙。

 

フィーネ「ち、ちなみに。

     和也は、何が好きなの?」

 

亜梨沙「この中で言えば・・・割とこれとか好きですね」

 

 そう言いながら亜梨沙が箸で掴もうとした瞬間

 

エリナ「もらったっ!!」

 

 横から突然、エリナの箸が現れて

 それを奪っていく。

 

亜梨沙「な・・・卑怯ですよっ!」

 

エリナ「恋愛は、過程じゃなくて結果よ、結果」

 

 そう言いながら、奪ったものを俺に前に出す。

 

エリナ「はい、あ~ん」

 

 会話しながらも、和也の隣や『あ~ん』の順番を取り合う4人。

 

 それを見ていた周囲から上がる呪詛のような声。

 

 かつて、学園に入学した時には

 こんな未来を想像すらしていなかった。

 

 だから嬉しいと思う反面、どうしていいのか本当に解らない。

 

 この状況で、誰か1人を選ぼうものなら

 大騒ぎになるかもしれない。

 

 ・・・それに、だ。

 

和也「(こんなにそれぞれ可愛く、違った魅力を持った

    娘達から、誰か1人に絞れるか?)」

 

 普通男なら選べないだろう。

 

 そう自分に言い訳をしながら、差し出される食事を

 口にするしかない和也だった。

 

 

 

 和也が、そんなことを考えているころ。

 

 荒地で爆発が起きる。

 

 そこでは、ゴーレムの集団が、人界に迫っていた。

 

 しかし、それを阻もうと人界の軍隊が戦いを仕掛けていた。

 

 だが人界側の数は、ゴーレム達よりも圧倒的に少ない。

 数にして3倍ほどの差だ。

 普通なら、止められるはずの無い状況。

 

 圧倒的な劣勢に思えた人界側。

 本格的な戦いが始まり、集団同士がぶつかる。

 

 だがその瞬間、その一瞬で全ての決着がつく。

 

?「「ふはははっ!!

 

   根性じゃ!

 

   根性が足りんっ!!」

 

 

 大柄の男が、ゴーレムの大群に突っ込むと

 それらを手に持った巨大な棍棒で、空へと吹き飛ばす。

 

 そしてその大柄の男に続けとばかりに

 大勢の人族が、斬り込んでいく。

 

 皆、黒い服装で身を包み

 白い鉢巻のような紐を腕に巻いていた。

 

 その紐には黒色で『風』と書かれている。

 

ゴーレム「ギギッ!!」

 

 八足の虫のようなゴーレムが

 大きな鎌のようになってる腕を振り回してくる。

 

 しかし―――

 

 ガンッ!!

 

 相手の一撃を儀式兵装の剣で受け止める。

 

風間剣士A「ふっ!」

 

 相手に蹴りを入れて後ろに大きく跳躍する。

 

 その瞬間―――

 

ゴーレム「ギ・・・ガ・・・?」

 

 自分がやられたことすら解らずに崩れ落ちるゴーレム。

 

 風間剣士Aが蹴りで上に跳躍した瞬間

 その下を滑るように低い姿勢で走りこんできた風間剣士Bが

 下段から跳ぶように上段へと儀式兵装の刀を振り上げた。

 

 ゴーレムの視線からは決して見えない位置からの連携攻撃。

 

ゴーレム「グアガガガァ!!」

 

 ゴーレムを倒した風間剣士Bが着地した正面に居た

 人型のゴーレムが、両腕を振り下ろしてくる。

 

 だが―――

 

ゴーレム「ガ・・・ガガ・・・」

 

 腕を振り下ろす前に、両腕を切り落とされ

 コアを潰されて崩れ落ちるゴーレム。

 

風間剣士B「風間流 ―火の章―『火炎弐連』」

風間剣士A「風間流 ―水の章―『裂水斬』」

 

 後ろに居た風間剣士Aによる一撃が両腕を切り落とし

 その援護が来ることを知っていたかのように

 正面からの風間剣士Bによる一撃でコアが破壊されたのだ。 

 

 一瞬の出来事に、ゴーレムは反応すら出来なかった。

 

 彼ら以外も、次々とゴーレム達を倒していく。

 その光景は、一方的な虐殺にも見えるほど。

 

 まさに圧勝。

 1人1人の強さが、普通の兵士とは

 比べ物にならないほどの強さ。

 

大吾「がっはっはっ!!

   ワシらがおるかぎり、誰も人界には

   近づけさせんぞっ!!」

 

 その言葉に、周囲から勝利の声が上がる。

 

 大柄の男。

 彼の名は、近藤 大吾(こんどう だいご)

 

 亜梨沙と同じ風間師範代の肩書きを持ち

 風間の里に住む者だ。

 

 そして彼の周囲にいる者は、全て風間の里の住人。

 それは人界が誇る、最強の部隊でもある。

 

風間剣士C「しかし大吾様。

     この使い魔のような連中は

     何なのでしょう?」

 

大吾「ワシも解らん。

   だが、心配するな。

   師範達が、調べておる。

 

   だからワシらのやるべきことは

   このような連中を、人界に入れさせんことだ」

 

風間剣士C「確かに、そうですね。

     では、私は帰還の準備を始めます」

 

大吾「うむ、たのむぞ」

 

 風間剣士は、笑顔で頷くと後ろへ下がっていった。

 

 それを確認した後、大吾は

 空を見上げて呟いた。

 

大吾「・・・何か大変なことが起こりそうじゃわい」

 

 

 大吾が不安を口にしたころ。

 

 神界では、カインも勝利を手にしていた。

 

神族騎士A「しかし、これほど素早く城を取り戻せるとは

     さすがは、カイン様です」

 

カイン「いえ、皆が頑張ってくれたおかげです。

    ・・・欲を言えば、こうなる前に何とか出来ればよかったのですが」

 

神族騎士B「そんなことはありません。

     あの奇襲を防ぐことは不可能です。

 

     あんな攻撃を受けて、被害がこの程度で済んだ。

     それをやってのけたカイン様を、誰が非難出来るでしょうか?」

 

カイン「それでも、私はそれを防ぎたかった」

 

 被害が抑えられたからといって

 まったく被害が無かった訳ではない。

 失われたものも多く、決して楽観視していいことではなかった。

 

神族騎士A「・・・そう言えば首謀者は、結局見つかりませんでしたね」

 

神族騎士B「そもそも、連中は何がしたかったんだ?

     せっかく占領した城も、殆ど抵抗せず逃げていくとは・・・」

 

カイン「・・・何故、でしょうね」

 

 そこがカインも一番引っかかっていた。

 何故、ここまで用意周到な計画をして城を落としたにも関わらず

 まるで、それが目的ではなかったかのように捨てたのか。

 

 そこまで考えて、ハッとする。

 

カイン「まさか、狙いは―――」

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 その日の夜。

 

 森の中を進む集団があった。

 

?「で、神界の方はどうなったのかしら?」

 

?「予定通りに足止めしました。

  これで何の問題もありません」

 

?「なら、他の連中はどうしたよ?」

 

?「全て予定通りです。

  まったく問題ありません。

  下手な横槍など気にせず、好きなだけ暴れられますよ」

 

?「そうか、そうか。

  そいつぁ~結構だ」

 

 声は、とても満足そうだった。

 

?「これで、俺達の戦いが始められる。

  ・・・そうだ。

 『大戦争』は、終わっちゃいねぇっ!!」

 

 その声に周囲からも声があがる。

 

 彼らの声を聞きながら、瞳を閉じる。

 

 あの時の光景が蘇る。

 全ては、あの時から始まった。

 

?「待ってろよ・・・偽善者ども。

  『借り』は、必ず返してやるよ」

 

 目を開けなからそう呟くと

 夜の闇に溶け込むかのように彼らは

 森の中へと姿を消した。

 

 

 

?「ふふふっ♪

  や~っと見つけましたっ☆」

 

 しかし、その集団を見つめる影が1つ。

 

?「なるほど・・・やはり本命はこちらでしたか」

 

 少し乱れた紅い髪を軽く整えると

 口元に笑みを浮かべる。

 

?「まあ、そんなに死にたいのでしたら

  徹底的に殺してあげないと・・・ですよねっ☆」

 

 そう呟くと、その影は音も立てずに姿を消した。

 

 

 

 

 

第12章 大戦争の残火 ―完―

 

 

 

 

 

 

 




まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。

仕事が年末で忙しいです(切実)

そして今年の風邪は、完治しても
スグ別の風邪を呼んでくるので
体調もずっと悪いまま(もうヤダ)

そのため更新ペースが低下しておりまして
大変申し訳ありません。

年末年始の休暇あたりで何とか挽回出来ると
いいなという希望的観測です。

物語的には、そろそろ戦いが始まる感じとなります。
なかなか登場キャラが多く、全てを上手く使いきれずに
悩んでますが、何とか頑張りたいと思ってますので
寛大な心で次話をお待ち頂けると助かります。


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第13章 決戦・学園都市 ―前編―





 

 薄暗い空に太陽が昇り始め、光が周囲を照らし出す。

 

 人々の叫ぶ声。

 走り回る足音。

 

 いつもなら静寂に包まれているはずの時間。

 だが、今日この日だけは違った。

 

 街の住人達が次々と集まってくる。

 そこは、学園都市の中心部にある城のような建物。

 

 ―――学園フォース

 

 次世代を担う優秀な若者を育てる人材育成機関。

 その優秀な生徒達は、学園中央広場に整列していた。

 

 いつもは自信に満ちている生徒達だが

 今は皆、険しい表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

第13章 決戦・学園都市 ―前編―

 

 

 

 

 

マリア「―――以上が、諸君らを取り巻く状況だ」

 

 説明を終えた学園長の話に、ざわめきすら起きない。

 声すら出ないのだろう。

 

 俺ですら、その状況に言葉を失う。

 

 この学園に、現体制に反対する勢力が攻めてくるというのだ。

 しかもその数は、こちらの5倍ほどだという。

 

 戦争も終わり、誰もがそんなことをする奴なんて居ないと

 思っていたに違いない。

 

 しかも相手は、こちらの皆殺しを目的としており

 学園都市を包囲するように軍団が迫ってきているというのだ。

 当然、逃げ道もない。

 

 更に悪いことに、四界それぞれに対しても攻撃を行っており

 その影響で、学園都市に来れる援軍など無い。

 

 全ての状況が、絶望的な戦いだといっている。

 

リピス「まあ、君らが絶望するだろうとは予想していた。

    だが、それでもこうして話しているのは何故だと思う?」

 

 唐突なリピスの質問に広場は、ざわつき始める。

 

リピス「・・・ハッキリと言わせてもらう。

    我々には、既に逃げ場などない。

 

    戦うか、抵抗せず殺されるかの

    どちらかを選べと・・・そういう話だ」

 

 その言葉に、泣き出す女生徒も居る。

 パニックになって叫ぶ生徒も出始める。

 

リピス「まだ戦って生き残る道を選ぶ者が居るのなら

    我々と共に戦って欲しい。

 

    だが戦う意思の無い者は、今すぐここから出て行くがいい。

    ・・・もっとも、逃げ場など無いがな」

 

オリビア「彼女の言葉は、少し厳しいかもしれないけれど

     事実として、私達は戦わなきゃならないわ」

 

マリア「でなければ、ただ殺されるのを待つしかないのだからな」

 

セオラ「皆さんっ!!

    今まで何のために辛い授業を耐え抜いてきたのですかっ!?

    何のために、強くなろうと武器を手にしたのですかっ!?

 

    もう一度、それを思い出してくださいっ!!」

 

マリア「残念ながら、私は最後まで諦めるつもりはない。

    力を持たぬ街の住民達を守れるのは、我々だけだからな」

 

リピス「しかも、こちらは勝つ必要はない。

    四界最高峰の防御力を持つ、このフォースで防衛をしているだけでいい。

 

    それだけで相手の負けとなる」

 

オリビア「それに相手の数が多いと言っても

     大半がゴーレムによって構成されているの。

 

     無理せず防衛に徹すれば、それほど難しい戦いではないわ」

 

リピス「もう一度だけ言おう。

    無理に戦う必要はない。

    戦う意思のある者だけ、この場に残ればいい。

 

    戦う意思の無い者は、街の住民達と一緒に

    フォース内部で大人しくしているんだな」

 

 3世界トップの話が終わると、周囲は静まり返る。

 

 皆、不安なのだ。

 

 戦うために学園で訓練してきたとはいえ

 今から行われるのは、本物の殺し合い。

 教科書の中だけで語られていた『本物の戦争』

 

 戦わなければならないという気持ちよりも

 死への恐怖が強いのだろう。

 

 ・・・そろそろだ。

 

 俺は、大きく息を吸い込んだ。

 そして―――

 

和也「・・・俺は、ここで戦うぜっ!!

   なぁ~に、1人5匹ゴーレムを倒せばいいだけだろ?

   何なら俺が50匹ぐらい倒してもいいんだぜ?」

 

 大きな声を出す俺に、皆の視線が集まる。

 

フィーネ「・・・そうね。

     和也が戦うのなら、私も戦うわ。

     それが、私の役目だもの」

 

亜梨沙「兄さんが戦うなら、妹も戦います。

    第一、逃げるなんて選択肢・・・誰が選ぶのですか?」

 

エリナ「私も当然、戦うっ!

    とっておきの魔法、全部まとめて喰らわせてあげるわっ♪」

 

セリナ「力の無い街の人達を見捨てるなんて出来ません。

    弱き人々を護ってこそ、フォースの生徒ですっ!」

 

ギル「そうだぜ、みんなっ!!

   俺達フォースの生徒が、戦う前から逃げ出すなんて

   そんなダサいこと、しないよなっ!!」

 

 俺の後に続いて、次々と声を上げる仲間たち。

 

 すると周囲が徐々に沸き立ってくる。

 

魔族男生徒「・・・俺も戦うぜっ!!

      人族なんかに負けてられるかよっ!!」

 

神族男生徒「俺達、神族だけでも撃退してやるよっ!!」

 

竜族生徒「リピス様と戦えるなんて光栄だわっ!!」

 

魔族女生徒「フォースに喧嘩売るなんて、ホントにバカな連中ねっ!!

      身の程って奴を教えてあげるわっ!!」

 

神族女生徒「所詮は、数だけでしょ?

      簡単に蹴散らしてあげるわっ!!」

 

 最後の方は、皆が叫び声を上げ

 大いに沸き立った。

 

マリア「では諸君っ!!

    戦いの始まりだっ!!

 

    諸君らの健闘を祈るっ!!」

 

 その言葉と共に、それぞれ持ち場へと向かうため

 生徒達は動き出す。

 

リピス「・・・ご苦労だったな、和也」

 

 いつの間にか隣に来ていたリピスが声をかけてくる。

 

和也「・・・あまりこういうのは好きじゃないんだがな」

 

リピス「そういうな。

    こうでもしなければ、死人が増えるだけだ」

 

 それは解っているのだが・・・。

 そう・・・先ほどのは、リピスに頼まれて行ったこと。

 

 つまり・・・扇動だ。

 

 こうしなければ唯一、戦える学園生徒がパニックになり

 最悪バラバラに逃げ出すだろう。

 

 そうなったら最後、包囲され逃げ場の無い中を

 連携も取れずに、ただ殺されていくだけ。

 

 それだけは避けなければならない。

 だからこそ、皆が自主的にやる気が出るように仕向けたのだ。

 

リピス「言いたいことは理解出来るが

    その話は、戦いが終わった後で聞こう。

 

    今は、先にやるべきことがある」

 

和也「・・・そうだな。

   まずは、生き残ることだ」

 

マリア「話は、終わったかね?」

 

 まるで見計らったかのように現れる学園長。

 

フィーネ「で、母様。

     実際はどうなのよ?」

 

マリア「ん?

    何がだ?」

 

フィーネ「相手のことよ。

     ・・・何か隠してるでしょ?」

 

マリア「ほぅ。

    お前にそんなことが解るなんてなぁ」

 

フィーネ「いったいどれだけ母様の娘をやってきたと思ってるのよ」

 

マリア「おや、嬉しいことを言ってくれるねぇ」

 

フィーネ「ちょっ!!

     いきなり抱きつかないでよっ!!」

 

 抵抗するも上手く抱きついた学園長は、全然離れる気がないようだ。

 

オリビア「あら、仲が良いわね」

 

エリナ「お母さんっ!」

 

セリナ「どうしたんですか?」

 

オリビア「アナタ達に、先に謝っておこうと思って」

 

セリナ「謝る?」

 

オリビア「今回の騒動を起こした中心人物達は

     大戦争を生き抜いた精鋭なの。

     だから、みんなにお願いしなきゃならないわ」

 

エリナ「もしかして・・・相手はもう解ってるの?」

 

オリビア「それは・・・」

 

 言いたくないのだろうか。

 明らかに言葉に詰まる神王妃。

 

マリア「神族軍・第3特別遊撃隊、という部隊を知っているか?」

 

 それを見かねてか、横から話に入ってくる学園長。

 

エリナ「何か聞いたことがあるんだけど・・・」

 

セリナ「・・・確か、停戦命令を無視して

    戦い続けた部隊、だったと聞いたことがあります」

 

エリナ「あっ。

    そうそう、それだよっ!」

 

リピス「奴らは、停戦を無視して戦い続けた。

    その結果、四界会議で奴らの『処分』が決定。

 

    そして大半のメンバーを『処分』した」

 

マリア「だが、残念なことに

    肝心な中心メンバーには逃げられてしまってな。

 

    それ以降、奴らの足取りは不明だった」

 

和也「・・・なるほど。

   つまり、攻めてくる相手は元神族軍であり

   目的は・・・復讐ってところですか」

 

マリア「復讐なら、まだマシだったのだがな」

 

和也「他に目的が?」

 

リピス「奴らの最終目的は、大戦争を再び起こすことだ。

    この学園を襲うのは、あくまでそのための準備さ」

 

和也「・・・ふざけた連中だ」

 

マリア「そのふざけた連中を婿殿達に倒して貰いたい」

 

セリナ「私達が・・・ですか?」

 

リピス「そうだ。

    フォース防衛は、生徒達と魔王妃どの・神王妃どのに任せる。

 

    我々は、敵側の主メンバー達を狙って襲撃する」

 

フィーネ「私達だけで突撃するの?」

 

エリナ「それは、さすがに無謀じゃない?」

 

セリナ「エリナちゃんから、そんな言葉が出るなんて・・・」

 

エリナ「ちょっとそれはどういう意味っ!?」

 

亜梨沙「・・・日頃の行い、じゃないでしょうか」

 

和也「・・・そうだろうな」

 

エリナ「みんな、何気に酷いよっ!」

 

オリビア「まあ、みんな仲良しなのね」

 

マリア「皆、程よく和んだところで作戦を説明する。

 

    まず防衛に関して。

    都市全域は広すぎるため、街の住民全てを現在フォースに収容している。

    防衛も一番防衛のしやすいフォースのみで行う。

 

    だが、都市そのものを簡単に放棄するのも惜しい。

    よって放棄する都市をトラップとする。

 

    相手の主メンバーは、それぞれ別々の場所から

    フォースを目指して進行してくることになっている。

 

    それをトラップで利用して足止め、隔離を行う。

    隔離が成功したタイミングで攻撃を仕掛けて討ち取るという予定だ」

 

フィーネ「それって全員で一気に仕掛けるの?」

 

マリア「いや、どのタイミングで相手がトラップにかかるか解らない。

    賭けにはなるが、それぞれに分かれて戦ってもらうことになる」

 

リピス「そういう意味でも中途半端な奴に任せる訳にはいかないんだよ」

 

和也「なるほどな」

 

マリア「我々が残してしまったものの後始末を

    婿殿達や、学生らにさせるのは心苦しいが

    そうも言っておられんのだ」

 

オリビア「私達が直接出られればいいんだけど・・・」

 

リピス「2人は、後方から全体指揮と援護を担当してもらうことになっている。

    そうでなければ、防衛線など簡単に崩されてしまうからな」

 

 いくら優秀な生徒が集う場所とはいえ

 本当の殺し合いを経験したことがない学生だ。

 

 影響力の大きい2人が指揮を執るという安心感。

 防衛線全てを援護出来るだけの判断力と戦闘力。

 

 これらを満たせるのは、この2人だけだろう。

 

マリア「既に準備は、済ませてある。

    あとは・・・婿殿達次第だ」

 

和也「・・・拒否権なんて無いんでしょ?」

 

マリア「あっはっはっはっはっ!

    察しが良いのは嫌いじゃないぞ、婿殿」

 

フィーネ「ホント、母様は強引なんだから」

 

セリナ「でも、私達にしか出来ないことです」

 

エリナ「なら、やるしかないよね」

 

ギル「いいね、いいね。

   こういうの俺は、大好きだぜっ!!」

 

亜梨沙「・・・ああ、居たんですか」

 

ギル「ちょっ!?

   それってひどくないっ!?」

 

フィーネ「静かだから、てっきり逃げたかと思ったわ」

 

エリナ「私も、どこか防衛に行ったと思ってたよ」

 

リピス「まあ、これこそ日頃の行いだな」

 

ギル「いやいやいやっ!

   ちょっと俺の扱い悪くないっ!?

   セリナ姫も、そう思うでしょ!?」

 

セリナ「・・・えっと」

 

 苦笑いで誤魔化すセリナ。

 

 そして周囲に起こる笑い声。

 皆、いつも通りだ。

 これならいけるだろう。

 

和也「よし。

   じゃあみんな、行くぞっ!!」

 

 俺の掛け声と共に、皆は

 それぞれの場所へと走っていくのだった。

 

 

 そのころ、学園近くの森を進む集団があった。

 

?「さて、もうスグ学園都市とやらか。

  アイツら本当に来るんだろうなぁ・・・」

 

 大きな身体をした大男が、そんな言葉を口にしながら

 森の中を歩いていく。

 

?「少し予定よりも早いが・・・まあいいか。

  先に俺が皆殺しにしても問題ないだろう。

 

  遅れてくるアイツらが悪いんだからな」

 

?「なら、先にアナタが死んでみますか?」

 

?「!?」

 

 急に聞こえてきた声に周囲をうかがう大男。

 

?「元神族軍・第3特別遊撃隊の『切り込み隊長』と呼ばれた

  ガルス=ディーランですね?」

 

ガルス「誰だっ!?

    姿を見せやがれっ!!」

 

 大声で叫ぶも誰も姿を見せない。

 

?「ふふふっ。

  何を怯えているんですか?」

 

ガルス「俺が怯えてるだとっ!?

    ふざけやがって・・・。

    誰だか知らんが、お前から殺してやるよっ!!」

 

?「そうでなくては困ります。

  ただ逃げ回るだけの相手は、つまらないですからねっ☆」

 

 ガルスの周囲のゴーレム達が戦闘態勢に入る。

 だが、その瞬間―――

 

 呪文を発動させる声と共に

 攻撃魔法が雨のように飛んでくる。

 

 ガルスは咄嗟に防御魔法を展開して防ぐも

 ゴーレム達は、そうはいかない。

 

 周囲のゴーレム達は、一瞬で全て撃破される。

 

ガルス「くそっ!!」

 

 思わず舌打ちをするガルスの前に

 ようやく人が現れる。

 

ミリス「さて、素敵な悲鳴を聞かせて下さいねっ☆」

 

 姿を現したのは『紅の死神』と呼ばれる少女。

 

 ミリス=ベリセンだった。

 

 

 

 

 

第13章 決戦・学園都市 ―前編― ~完~

 

 

 




ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

相変わらず色々とあり、投稿遅れ気味で申し訳ないです。
本当に今年の冬の風邪は、完治してくれない・・・。


本編のセリナ編も、あと2章となりました。
逆に2章で終われるのかというぐらいに
話がまだ、まとまっていない状況なので
現在進行形で考えています。

セリナ編もそうですが、最終編もありますので
まだまだ先はあります。

よろしければ最後までお付き合い頂けると幸いです。


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第14章 決戦・学園都市 ―後編―

 

 

魔族男生徒「ファイア・アローッ!!」

魔族女生徒「アイス・アローッ!!」

 

ゴーレム「グ・・・ガァァァ・・・」

 

 魔法の直撃を受けてゴーレムが倒れる。

 

ゴーレム「ガァァァァッ!!」

 

 別のゴーレムが大きな瓦礫を投げつけてくる。

 

竜族生徒「はぁっ!!」

 

 横から飛び出した竜族生徒が、飛んできた瓦礫を破壊する。

 

魔族男生徒「お前も死にやがれっ!!

      ファイア・アローッ!!」

 

 火矢の直撃で、瓦礫を投げたゴーレムも崩れ落ちた。

 

魔族女生徒「助かったわ」

 

魔族男生徒「へっ!

      余計なお世話だぜ」

 

竜族生徒「あっそ。

     じゃあ次に何かあってもアナタは無視するわ」

 

魔族女生徒「・・・そうしちゃえば?

      つまらない見栄っ張っちゃって」

 

魔族男生徒「なっ!?

      べ、別にいいじゃね~かっ!」

 

竜族生徒「ええ、別に構わないわよ。

     さっきも言った通り、無視するだけだもの」

 

魔族男生徒「竜族のくせに―――」

 

?「はいはい。

  お前の負けだよ、一年坊主」

 

 竜族生徒に迫ろうとした魔族男生徒の頭の上に手が置かれる。

 

魔族男生徒「誰だっ!!」

 

 子供扱いされ、怒りながら振り向く魔族男生徒。

 

レイス「種族なんざ関係ない。

    女を敵に回した時点で、男は負けさ」

 

魔族男生徒「あ、あんた・・・レイス=ジャハル」

 

レイス「ん?

    俺のこと知ってるのか?」

 

魔族男生徒「学園の魔族では・・・わりと有名、です」

 

 いきなり目の前に実力者の1人として数えられる

 5階級の先輩が現れ、すっかり毒気を抜かれる魔族男生徒。

 

レイス「俺って有名らしいぜ?」

 

ファナ「そうやってスグに調子に乗るんだから・・・」

 

 レイスが楽しそうに振り返ると

 そこには、ファナ=リドルドが居た。

 

ファナ「交代よ。

    貴方達は、一旦後ろに下がって休憩しなさい」

 

魔族女生徒「はい、先輩っ!

      ありがとうございますっ!」

 

竜族生徒「では、私も失礼します」

 

レイス「お前も、後ろに下がって休め」

 

魔族男生徒「は、はいっ!!」

 

 魔族男生徒も慌てて一礼をすると後ろに下がっていく。

 

レイス「・・・しっかし、アレだな」

 

ファナ「・・・何よ」

 

レイス「どうして一気に襲ってこないで

    こうも散発的なんだ?」

 

 レイスが言うように、攻めてきた直後は

 それなりに大勢で攻めてきていた軍団だが

 スグに組織的な攻撃は無くなり、こうして定期的に

 ゴーレムが数体、侵入してくるぐらいになっている。

 

ファナ「・・・そんなの相手に聞けば?」

 

レイス「その辺のゴーレムでも捕まえてか?」

 

ファナ「ひょっとしたら会話出来るゴーレムが居るかもよ?」

 

レイス「んな、バカな話があるか」

 

ファナ「・・・まあ、バカな話は置いておくとして

    多分アレのせいじゃない?」

 

 そう言って、はるか前方を指差すファナ。

 その場所では、先ほどからいくつもの建物が崩れ落ちている。

 

レイス「・・・まあ、派手にやってるねぇ」

 

ファナ「どこの誰かは知らないけど

    楽させてもらえるんだからいいんじゃない?」

 

レイス「・・・確かにそうだな」

 

 そう言いながら、レイスは遠くに視線を向けていた。

 

 レイスが向けた視線の先。

 建物が崩れ落ちた場所では、戦いが起きていた。

 

グレイ「この『殲滅のグレイ』と呼ばれた、グレイ=バーンズを相手に

    よく戦えていると褒めてやろう」

 

 神族軍の軍服を着た長身の男は、疲れているにも関わらず

 それを感じさせない表情で、そう言い放つ。

 

アイリス「それは、こちらの台詞です。

     我々を相手に、よく粘りますね」

 

カリン「それも、ここまでですっ!!」

 

リリィ「疲れているのぉ~、バレてますよぉ~?」

 

 リピスの護衛である3人の竜族達が、神族の男と対峙している。

 

 グレイと名乗る男は、大戦争を生き抜いただけあり

 攻守のバランスが取れた優秀な兵士であったが、相手が悪い。

 

 彼女ら3人は、リピスの護衛部隊を率いる

 『破滅の竜』の二つ名を持つ、メリィ=フレールが

 その才能を見込んで直接育てている期待の若手達だ。

 

 護衛部隊の中でも上位であり、学園内でも5階級の竜族を越える

 戦闘力を持つ彼女らを一度に3人相手にしては、いかに実力者といえど

 苦戦するのは当然だと言える。

 

 そして更にやっかいなことに―――

 

ギル「おいおい、俺を忘れてもらっちゃ困るぜっ!!」

 

 瓦礫の影から飛び出したギルが、雷矢を放つ。

 

グレイ「くっ!!」

 

 防御魔法が間に合わないと判断して横に跳躍する。

 

 竜族相手には、魔法による遠距離攻撃でゴリ押しするのがセオリーだ。

 竜族は、攻撃魔法が使用出来ず、防御魔法も初級程度しか使えない。

 しかも大多数は、土属性であり完全ガードできないからだ。

 

 しかし、その弱点をギルが的確にカバーしていた。

 彼の援護で、接近戦に持ち込みやすくなり

 結果としてかなり有利な展開に持ち込めている。

 

アイリス「カリン、リリィ。

     次で終わらせますよ」

 

カリン「了解ですっ!!」

 

リリィ「はぃは~ぃ」

 

 アイリスの掛け声で、一斉に飛び掛る3人。

 

 そんな彼女らのスグ後ろでも剣戟が鳴り響く。

 

バガム「『神速のバガム』と呼ばれた

    この俺の速度に追いつけるだとっ!?」

 

 大戦争時、神族軍兵士に支給されていた防具に

 身を包んだ小柄な男は驚きながら、そう叫ぶ。

 

亜梨沙「この程度の速度で神速とか、ふざけすぎです」

 

 そう言いながら亜梨沙は蹴りを放つ。

 

バガム「ぐおっ!!」

 

 まともに決まった一撃に、思わず後ろに下がる。

 

バガム「ふ・・・ふふふっ」

 

亜梨沙「何か、おかしなことでも?」

 

バガム「大戦争から10年・・・。

    まさかこれほどの使い手が居ようとはな。

 

    だが、こうでなくては面白くないっ!!」

 

亜梨沙「はぁ・・・。

    何だか、根性の人を思い出すほど、暑苦しいですね」

 

 バガムが距離を詰めて放った剣による一撃を

 刀で軽く払い除けると、少しだけ後ろに下がる。

 

 そして低い姿勢で刀を構える。

 

亜梨沙「さて、そろそろ終わりにしましょう。

    風間流『舞』鬼刃―――」

 

 

 

 

 

第14章 決戦・学園都市 ―後編―

 

 

 

 

 

 森の木々が爆音と共に薙ぎ倒されていく。

 

ガルス「うおおぉぉぉぉっ!!」

 

 自分の身長を超えるほど大きな大剣を

 身体全てを使って振り下ろす。

 

 しかし―――

 

 ガギィンッ!!!

 

ミリス「ざんね~んですっ☆」

 

 振り下ろされた剣圧で、突風が起きるほどの一撃を

 大斧で軽々と受け止めるミリス。

 

ガルス「くそっ!!

    お前、竜族だなっ!?」

 

 それ以外に説明がつかない。

 いくら強化魔法を使おうが、小柄な少女に

 ここまで自分が力で圧倒される訳が無い。

 

ミリス「不愉快ですが・・・まあいいでしょう。

    私が竜族だとしたら、どうしますか?」

 

ガルス「竜族が、どうして攻撃魔法が使える?

    それにお前には耳がない」

 

 そう、ミリスが竜族ならば

 一番目立つ『耳』が頭にあるはず。

 

 だが彼女には、それが見当たらない。

 

ミリス「それを馬鹿正直に答えると思ってるのですか?」

 

ガルス「・・・」

 

ミリス「まあ、どの道ここで死ぬアナタが

    気にすることではありません」

 

 その言葉と共に、力任せに受け止めていた大剣を押し返す。

 後ろに押し込まれたガルスだが、満足そうに剣を構え直す。

 

ガルス「まさか小娘相手に使うことになるとはなぁ。

 

    ―――パワー・ウォーター・フォースッ!!!」

 

 ガルスの儀式兵装から弾装が弾き出されると同時に

 大剣は、まるで水が刀身を覆うかのように青く光る。

 

 ファーストを初級

 セカンドを中級

 サードを上級

 

 となっている現代魔法において、それを超えるものは

 超級という分類になる。

 

 この超級までたどり着ける者は、その魔法を根本から理解し

 全てを制御出来なければならない。

 それが可能なのは、やはり一部の才能ある者のみとされている。

 

ミリス「・・・超級強化、ですか。

    さすがは『切り込み隊長』と呼ばれただけは、ありますね」

 

ガルス「第3隊で、腕力だけは

    隊長達よりも上だったんだ。

 

    その俺が、竜族とはいえ

    小娘ごときに腕力で負けられるかよっ!!」

 

 強化された大剣をミリスに向けて薙ぎ払う。

 それを後ろに大きく跳躍して回避するミリス。

 

 周囲の木々が、まるで紙のように綺麗に薙ぎ払われる。

 

ガルス「どうだっ!!

    さすがに竜族でも、これは受け止められまいっ!!」

 

ミリス「・・・はぁ」

 

 ため息をつくと、ミリスは感情の一切無い瞳で

 ガルスを見る。

 

ミリス「竜族、竜族、竜族、竜族、竜族。

    ・・・ホント、煩いゴミですね」

 

 大斧を両手で持つと、下段に構える。

 

ミリス「そんなに死にたいのなら、今すぐ殺してあげます」

 

 ミリスの姿が一瞬ブレると、その圧倒的な身体能力で

 ガルスの目の前に迫る。

 

 しかし、ガルスもそれに反応して大剣を上から振り下ろそうとする。

 だが―――

 

 ミリスはガルスの直前で大きく上に跳躍する。

 その瞬間、ミリスの後ろからいつの間にか発動していた

 ファイア・アローが5本飛んできていた。

 

ガルス「ちっ」

 

 舌打ちをしながら大剣をそのまま振り下ろし

 剣圧で火矢を爆発させて潰す。

 

 だがその瞬間―――

 

ミリス「ファイア・ボール」

 

 後ろから聞こえる呪文にガルスは

 咄嗟に横に跳躍する。

 

ミリス「ブレイク」

 

 火球がガルスの横を抜ける瞬間に爆発させるミリス。

 一瞬にして視界が悪くなる。

 

ガルス「させるかよっ!!」

 

 大剣を大きく薙ぎ払う。

 その剣圧で周囲の煙が一気に払われる。

 

ガルス「―――ッ」

 

 周囲の煙が消えた時。

 ガルスは、自身の背中にそっと触れるように置かれた

 手の感触に気づいて、ゆっくりと振り返る。

 

 そこには、いつの間にか後ろに回りこんでいたミリスが

 瞳を閉じた状態で左手をそっとガルスの背中に当てていた。

 

ミリス「竜(ドラゴン)の息吹(ブレス)―――」

 

 

 ・・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 一面を覆った爆音と発光が収まる。

 すると森には、無理やり新しい道を作ろうとしたかのように

 一部分だけ木々が根こそぎ土ごと吹き飛ばされていた。

 

ガルス「ぐ・・・がぁ・・・」

 

 全身ばボロボロ、折れた儀式兵装を杖代わりにし

 口から血を吐きながらも、ガルスが起き上がる。

 

 そんなガルスにゆっくりと近づくミリス。

 

ミリス「・・・せっかくですから教えてあげましょう」

 

 ミリスの後ろからゆっくりと『それ』は現れる。

 

ガルス「・・・紅い・・・六翼と、耳に尻尾・・・だと」

 

 ミリスに今まで無かったはずの、耳や尻尾が現れ

 更に紅い六枚の翼が出現する。

 

ミリス「私の名は、ミリス=ベリセン。

    人は、私をこう呼びます。

 

    ・・・『紅の死神』と」

 

ガルス「ハーフ・・・だった、のか」

 

ミリス「違います。

    私は『魔族』です。

 

    ・・・では、さようなら。

 

    フレイム・ピラー」

 

 ガルスを中心に巨大な火柱があがる。

 その中で、ガルスは無言のまま燃え尽きるのだった。

 

 

 

 同じころ。

 ―――学園都市。

 

和也「はぁぁぁぁっ!!」

 

フィーネ「ファイア・ボールッ!!」

 

リピス「はっ!!」

 

 3人によって次々とゴーレム達が倒されていくが

 一向のその数が減る気配がない。

 

フィーネ「ホント、何でこんなに居るのよ」

 

リピス「ボヤいても数は減らないぞ」

 

フィーネ「それはそうだけど・・・」

 

ゴーレム「シャシャッ!!」

 

 建物の上から、蜘蛛のようなゴーレムが落下してくる。

 

和也「バレバレなんだよっ!!」

 

 落下してくるゴーレムに、紅の刀身を投げつける。

 急所に紅の刀身が刺さったゴーレムは、そのまま崩れ落ちる。

 

リピス「これだけの数を、よく用意出来たものだな。

    今後の調査項目に加える必要があるな」

 

フィーネ「そんな後のことよりも、さっさと目の前の連中を

     蹴散らしましょう」

 

和也「そうだな。

   先に行かせたセリナとエリナも心配だ」

 

 会話しながらもゴーレムを倒し続ける和也達だったが

 更に周囲からゴーレムが集まってくる。

 

リピス「これは、完全に誤算だな」

 

フィーネ「何が、準備は出来てるよ。

     後で、文句言ってやるわ」

 

 集まってきたゴーレム達は、周囲を囲むように展開し

 隙をうかがうようにジワジワと動いている。

 

和也「面倒だなぁ」

 

 横から飛び出してきたサソリのようなゴーレムの一撃を

 『旋風』で返しながらも、周囲の様子に呆れる和也。

 

 そして更に遠くからもゴーレム達が近づいてくる音が聞こえる。

 

和也「完全にハズレくじだな」

 

 ため息をつきながらも、正面から突っ込んでくるゴーレムに

 対応するため剣を構える和也だった。

 

 

 王女姉妹は、トラップのポイント付近まで移動していた。

 もう少しというところで、2人の足は止まる。

 

 正面の瓦礫の上に、女が座っていた。

 

?「この先は、王女様方といえど通行禁止です」

 

 長い髪を印象的に揺らしながら女は、そう声をかけてくる。

 

セリナ「アナタも首謀者の1人ですね」

 

ラナ「ラナ=ハルハムと申します」

 

エリナ「どうしてこんなことをするのよ」

 

ラナ「さあ?」

 

エリナ「馬鹿にしてるの?」

 

ラナ「私に、あの人の考えは解りませんもの。

   ・・・私は、ただあの人のやりたいことを手伝うだけ」

 

エリナ「・・・そう」

 

 エリナは、セリナの方に振り向くと

 

エリナ「セリナちゃんは、先に行って。

    たぶん、スグそこに元凶が居るはずだから」

 

セリナ「何を言ってるんですか、エリナちゃん。

    エリナちゃんをひと―――」

 

エリナ「時間稼ぎに付き合う必要なんてない。

    それに、ここで逃がす訳には行かないでしょ」

 

セリナ「それは、そうですけど・・・」

 

エリナ「そんなに私、信用無いかなぁ」

 

セリナ「・・・」

 

 セリナは、瞳を閉じて考える。

 ほんの数秒だったが、彼女にとっては

 数時間と同等の時間に思えただろう。

 

 ゆっくりと瞳を開ける。

 

セリナ「・・・わかりました。

    絶対に無茶は、ダメですからね」

 

エリナ「それは、こっちの台詞だよ。

    ・・・気をつけて」

 

セリナ「エリナちゃんもね」

 

 そう言葉を交わすと2人は、ラナに向き合う。

 

ラナ「・・・相談事は、終わ―――」

 

エリナ「光の雫よっ!!」

 

 ラナが話終わる前に、魔法による奇襲を仕掛けるエリナ。

 一瞬で、周囲を眩しいまでの光が覆う。

 

ラナ「アイス・ジャベリンッ!!」

 

 光で視界を奪われながらも魔法を放つラナ。

 光が収まり、周囲が見えるようになる。

 

 すると、エリナの横にはアースウォールが

 まるで道のように続いて展開されており

 その土壁にラナの氷槍が突き刺さっていた。

 

 そしてその土壁の道のはるか先に

 駆け抜けるセリナの姿があった。

 

 ラナは、どちらかが自分を抜けていくだろうと判断し

 その移動経路に魔法を放った。

 

 だがエリナも発光の光と相手の魔法を防御するために

 土壁で道を作り、そこをセリナが走り抜けていったのだ。

 

エリナ「・・・残念だけど、アナタの相手は私よ」

 

ラナ「・・・あらそう。

   一人で挑んできた勇気は、褒めてあげる。

   だけど、その元気は何時までもつでしょうね」

 

 互いに儀式兵装を構え直し、対峙する。

 そのまま、にらみ合いが少しの間続くことになる。

 

 

 

 ・・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 

?「ふむ。

  到着したのは、私が一番というところですか」

 

 フォースの正面門の前で、男は呟いた。

 

 ゆったりとした足取りで正門へと歩く男に

 正門前の生徒達は、遠巻きに見ているだけだ。

 

 何故攻撃しないのか?

 それは、単純な話。

 

 一番の激戦となる正門前は、5階級を中心に

 多くの優秀な生徒達が配置されていた。

 

 彼らは、期待通りに大勢押しかけてきた

 ゴーレム達を圧倒する。

 

 まさに圧勝。

 

 これなら余裕だと思った時

 この男が現れたのだ。

 

 そして・・・。

 

 男の後ろには、多くの生徒達が倒れている。

 この男1人にやられたのだ。

 

男「さて―――」

 

 男がこれからどうしようと考えた瞬間。

 

 大量の火矢が男に降り注いだ。

 しかし―――

 

 バンッ!

 

 大量の火矢は、男に当たる前に

 何かに当たって弾けるように消える。

 

男「・・・また無駄なことを」

 

 ため息をつくように、そんな言葉を呟く。

 

?「この私が居るかぎり、貴様に勝ち目などない」

 

 男の前に、一人の生徒が立ち塞がるように飛び出す。

 

ヴァイス「・・・そう。

     『魔王の血族』たる、このヴァイス=フールスが

     お前に引導を渡してくれよう」

 

男「ほぅ。

  魔王の血族・・・ですか」

 

ヴァイス「貴様も運が無いな。

     この私が居る場所に攻撃を仕掛けたのだから」

 

男「ふむ。

  名乗られた以上は、こちらも名乗りましょう」

 

 乱れた前髪を直すと、身なりを整える。

 

ワング「神族軍・第3特別遊撃隊のワング=ハーケンと申します」

 

 礼儀正しく一礼するワングと名乗る男。

 

魔族男生徒「・・・アイツ、死んだな」

 

魔族女生徒「でも、今全員で仕掛ければ・・・」

 

神族男生徒「さっきの戦いを見てなかったのか?

      あんな化け物、どうやって倒すんだよ」

 

神族女生徒「皆殺しが目的なんでしょ。

      どうせなら、仕掛けた方がまだマシだわ」

 

 周囲で弱きになっていた生徒達が

 少しづつ距離を縮めていく。

 

ワング「・・・懲りない人たちですね。

    まあ・・・若者なら、こんなものでしょうかね」

 

ヴァイス「せめてもの情けだ。

     苦しまぬように、一瞬で終わらせてやろう」

 

 竜の形をした炎が、ヴァイスの後ろから

 ゆっくりと姿を現す。

 

ヴァイス「ドラゴン・フレイムッ!!」

 

 炎竜がワングに向かって襲い掛かる。

 

神族女生徒「今よっ!!」

 

 1人の神族女生徒の声と共に

 周囲の生徒達が一斉に攻撃魔法をワングに向けて放つ。

 

ワング「では、私もそろそろ仕事をしますかね」

 

 自分に向かって飛んでくる大量の攻撃魔法を前にしても

 余裕の表情を崩さないワング。

 

 防御魔法すら使用していない所に魔法が直撃し

 大爆発を起こす。

 

 しかし―――

 

ワング「さて、今度は私からで構いませんね?」

 

 煙の中から出てきたのは、無傷のワングだった。

 それを見た生徒達は、驚きの表情で固まる。

 

ヴァイス「・・・くそっ!!

     まだだっ!!」

 

 儀式兵装を構え直すと、ワングに向かって走り出した。

 

 

 

 そのころ、セリナは戦闘を避け

 更に奥へと走っていたが、何かに気づいて

 ゆっくりと足を止める。

 

 そこは、今が戦闘中だということが嘘のように

 静かだった。

 

 誰も居ない街にポツンと立つ男が1人。

 神族軍の軍服に使い込まれた防具。

 手には包帯を巻いている。

 

 男は、ゆっくりとセリナに向き合う。

 

男「ほぅ。

  まさか神界の王女様自ら出てくるとはな。

 

  ・・・これは手間が省けた」

 

セリナ「・・・アナタが、首謀者ですね?」

 

ジャック「神族軍・第3特別遊撃隊

     部隊長のジャック=ダルケンだ」

 

セリナ「亡き神王アルバート=アスペリアが娘。

    神界王位継承権第一位、セリナ=アスペリアです」

 

ジャック「・・・わざわざ死ぬために、ご苦労なことだ」

 

セリナ「アナタの目的は、何ですか?」

 

ジャック「・・・セリナ王女。

     貴女は、今の世界をどう思う?」

 

セリナ「今の・・・世界、ですか?」

 

ジャック「そうだ。

     誰もが大戦争は終結したと。

     この10年は、平和だったと口を揃えて

     言うことだろう」

 

セリナ「・・・」

 

ジャック「だが、実際は違う。

     未だに国境では、小競り合いが多く

     それぞれの国内でも、強硬派と保守派が

     下らない権力争いばかりしている。

 

     そして国を背負いながらもそれを口に出来ず

     どれだけの同胞が、戦争の後に

     くだらないやりとりで死んでいったと思っている。

 

     かつて誇りを胸に戦い続けた日々は

     ただ下らない権力争いの果てに

     邪魔者を排除するだけの装置に成り下がった。

     それが我ら軍人の末路だ。

 

     それに何の意味がある?

     我々は、そんなことのために

     戦ってきた訳ではない」

 

セリナ「・・・だから戦争を再び起こすと?」

 

ジャック「・・・可能性の話だ。

     偽りの平和の影に隠れ

     こそこそと戦争を続けるのなら

     誇りを胸に、堂々と正面から戦争を

     仕掛けるべき。

 

     ・・・だから我々がやるのだ。

     この世界には腐った連中が多すぎる。

 

     そんな連中を全て綺麗に掃除してから

     改めて決めればいい。

 

     戦争をするのか、止めるのかをな」

 

セリナ「・・・一体どれだけの罪の無い人々が

    巻き込まれると思っているのですか。

 

    この学園都市で暮らす人々を

    どうして巻き込んだのですか?」

 

ジャック「この学園都市は、いずれ必ず障害となるからだ。

 

     そしてこの都市から、我々の戦いを始める。

     何かを変えるには、何かが犠牲になることもある」

 

セリナ「どれだけ立派な理由を並べようとも

    力無き人々を巻き込んだ時点で、それはただの自己満足です。

 

    それ以外の方法を考えもせず、ただ自分のしたいことだけを

    しているだけの子供です。

 

    そんなアナタに、思想や理念を語る資格は、ありませんっ!!」

 

ジャック「・・・理解してもらおうとは思っていない」

 

 剣状の儀式兵装を構えるジャック。

 

セリナ「私は、アナタを必ず止めてみせます」

 

 セリナも儀式兵装を手にする。

 

 ゆっくりと距離を詰め・・・そして2人は、激突した。

 

 

 

 

 

第14章 決戦・学園都市 ―後編― ~完~

 

 

 

 

 




まず、ここまで読んで頂きありがとうございます。

セリナ編も残すは、あと1話。
最後の結末は、どうなるのか?

それは最終章のお楽しみということで。

セリナ編の後は、また別の話が始まります。
よろしければ最後までお付き合い頂けると幸いです。


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最終章 想いの強さ

 

 

 人気の無い街並みに爆音が響く。

 

 時折、崩れ落ちる建物がその威力を物語る。

 

ラナ「アイス・ジャベリンッ!」

 

エリナ「ファイア・ジャベリンッ!」

 

 氷と炎の槍が、互いにぶつかり消滅する。

 

ラナ「―――ッ!」

 

 爆発の煙が不自然に動いたことに気づき

 咄嗟に横の建物の影に隠れる。

 

 すると、先ほどまで居た場所が

 見えない何かで抉られる。

 

ラナ「不可視の刃・・・」

 

 風の魔法特有の不可視の刃が飛んできていたのだ。

 それに気づき回避出来たことに安堵した瞬間だった。

 

 自身の足元から膨れ上がる魔力の波と展開される魔法陣。

 大戦争を生き抜いた彼女は、直感的にそれが危険だと判断して

 更に横へと大きく跳躍する。

 

 魔法陣から真上に大きな炎柱が出現する。

 その炎柱は、周囲に大きな火球を振り撒きながら消えていく。

 

 だがその周囲に撒かれた火球は、周囲を焼き尽くすように

 広範囲を攻撃する。

 

ラナ「アイス・シールドッ!」

 

 大量の火球がランダムで降り注ぐ状況。

 さすがに回避出来ず、氷盾で避けきれない一撃を防御する。

 氷盾は強度があるのか、受け止めてもビクともしない。

 

 しかし、1つの火球を受け止めた瞬間だった。

 

 突如周囲から巨大な土壁が出現し、ラナを覆う。

 更に、大量の氷槍がそのラナを覆っている土壁を貫く。

 何本もの氷槍が貫いた後、はるか遠くから聞こえた

 「ブレイク」という声と共に爆発した。

 

 爆発した場所に駆けつけたエリナだが

 煙が晴れた場所には、血の跡だけが残されていた。

 

エリナ「・・・また探すところからかぁ」

 

 ため息をつくと、スグに瓦礫と化した場所から移動し

 建物の影に姿を隠す。

 

 同じく、エリナと別方向に逃げて隠れるラナは

 回復魔法を自身に使いながら周囲をうかがう。

 

ラナ「・・・さすがは、我らが待ち望んでいた王女様ってところかしら」

 

 自嘲気味にそう呟く。

 

 先ほど、エリナは風の刃をこちらがどう避けるか

 解っていて誘導したのだ。

 だから、建物の影に隠れたにも関わらず

 正確にこちらの足元から炎柱を出せたのだろう。

 

 それだけなら、まだいい。

 恐ろしいのは、その後の火球からだ。

 火球を1つ防いだ瞬間からの攻撃。

 

 恐らく火球1つ1つに魔力的な『糸』をつけていたのだろう。

 建物や地面とは違う反応をした火球の場所にこちらが居る前提で

 『見えていない』にも関わらず、遠距離から

 あれだけ正確な魔法による連撃を行ってきたのだ。

 

 そもそも神族は魔族と違い、限られた魔力をどう使うかという

 考え方が一般的であり制御技術を中心に訓練を行う。

 

 一方、魔族は神族よりも魔力量が平均的に総じて高いため

 1つの魔法に効率良く魔力を収束させて、最小限で最大限の攻撃を

 行う神族とは違い、急速に魔力を集め

 膨大な魔力をばら撒くという感じになっている。

 

 そのため、両者では同じ魔法でも決定的に違う部分がいくつも存在する。

 その1つが『魔法の習得数』だ。

 

 魔族は、ばら撒くように魔法を使うために

 様々な攻撃系を中心とした魔法を習得する。

 

 神族は、魔法の制御や効率化の問題で

 1つの魔法を極めようとする傾向が強く

 必然的に習得魔法が少ない。

 そのため選択範囲が狭く、決め手に欠けることも多い。

 

 属性も天才と呼ばれる部類でなければ

 1属性しか習得出来ないというのも

 選択の幅を狭めていると言える。

 

 魔族は、その圧倒的な魔力量で

 遠距離から魔法での殲滅が中心。

 身体能力も比較的高いために

 接近・遠距離どちらも可能な万能型が多い。

 

 普通なら、今戦っている神族王女も

 神族ならではの選択の狭さに苦労しているはずだ。

 

 だが、彼女は違う。

 

 エレメンタルマスターの二つ名が示すように

 彼女に属性による縛りはない。

 

 神族らしい魔法の正確な制御技術も然ることながら

 魔族を想わせる魔力量と魔法の種類。

 

 神界でも数えるほどしか居ない六翼による魔力量と

 魔族を越えるとも言われる圧倒的な魔法習得率。

 攻撃方法も、神族と魔族を合わせたような

 繊細さと大胆さを兼ね備えた変幻自在と言えるほど

 先の読めない攻撃展開。

 

 正直、これほどやるとは思っていなかった。

 

 ―――しかし

 

 ラナは、瞳を閉じて思い出す。

 

 大戦争で家族を亡くし、身寄りの無かった自分を引き取って

 育ててくれた、普段は無口で無愛想な男の顔を。

 

ラナ「・・・唯一、私が勝っているのは

   大戦争を駆け抜けたという実戦経験のみ」

 

 ラナは、ゆっくり眼を開ける。

 

ラナ「神界第二王女 エリナ=アスペリア。

   ここで、必ず仕留めてみせる」

 

 その決意と共に、作戦を練りだす。

 

 ―――最悪、負けてもいい。

 自分の役割は、作戦完了までの陽動だ。

 あの人がやりたいと願う悲願の第一歩。

 その礎となれるなら、自身の命なんて

 計算に入れる必要などないのだから。

 

 

 

 

 

最終章 想いの強さ

 

 

 

 

 

 エリナも、周囲に魔力の網を張り巡らせながら

 魔力を限界まで溜め込んでいた。

 

エリナ「・・・次は、逃がさない」

 

 先ほどの一撃で倒せなかったことが彼女にとっては

 かなりの痛手であった。

 

 初めから積極的に戦う気が無い素振り。

 だが背を向ければ、逃がすまいと攻撃してくる姿勢。

 

 ・・・どう考えても囮である。

 先に行ったセリナのことも気がかりだ。

 出来れば早々に決着をつけたい。

 

?「相手と実力が拮抗し、状態が停滞したときこそ

  有利であると同時に不利なのです。

 

  相手に考える時間を与えてしまえば、それだけ

  有効な策を練る時間を与えてしまう。

  逆に、考える時間を確保出来れば

  こちらも相手に対して策を練る時間を得たことになる。

 

  つまり、どれだけ早く対策を練り攻撃をするか。

  相手に対策を立てさせないかが重要なのです」

 

 ふと、今は神界に居るであろう

 とある騎士の言葉を思い出す。

 

 そう、こちらもある程度の対策を練ってはいるのだが

 それは相手も同じだろう。

 

 神族である以上、相手にそこまで変化に富んだ戦いが出来るとは

 思っていないが、相手は本当の殺し合いを生き抜いてきた精鋭。

 

 ほんの少しでも油断すれば、こちらの命が危ない。

 出来れば対策を立てられる前に倒したかった。

 

 ・・・だが、既にこうなってしまったことを

 どうこう言っても始まらないだろう。

 

 いくつか追い詰め方は、考えた。

 あとは、予定通りに相手を誘導するだけ。

 

 いざ、動こうとした瞬間。

 周囲に展開していた魔力の網に、反応が出る。

 

 相手に気づかれないように、極僅かな魔力による索敵。

 相手は気づいていないはず。

 

 ・・・なのに、相手はまるでこちらの動きを知っているかのように

 大胆に警戒もせず歩いている。

 

エリナ「・・・遅かった、かなぁ」

 

 それは、既に相手が対策を立て実行したという合図。

 見過ごせない以上、こちらは仕掛ける側。

 ・・・つまり、罠にかかりにいくことに他ならない。

 

エリナ「さあ・・・いくよ、エリナ。

    きっと大丈夫。

    いつも通りにやれば、絶対大丈夫」

 

 自身を励まし、儀式兵装の杖を握り直す。

 

 そして、スグそこまで迫った相手に速攻で仕掛ける。

 

エリナ「アイス・ジャベリンッ!」

 

 死角からの魔法。

 完全に捉えた一撃。

 

 氷槍は、吸い込まれるようにそこに居た人影に当たる。

 ・・・だが。

 

 軽い水の音と共に、その人影は崩れ去る。

 

エリナ「・・・幻影魔法ッ!」

 

 これを仕掛けてきたということは、相手は・・・。

 

 咄嗟に後ろを向くエリナ。

 

 すると、儀式兵装である槍を構えて

 こちらに突っ込んでくるラナの姿。

 

 エリナは、状況を的確に判断する。

 

 槍の刃に薄い水色。

 強化魔法を使用済みだと判断。

 

 距離は近すぎて攻撃魔法も

 防御魔法すら間に合わない。

 

 回避は、無理。

 下手な回避は、命取りになりかねない。

 

 なら、解は―――

 

エリナ「ファイア・ソードッ!」

 

 儀式兵装の杖の先から、炎の刀身が出現する。

 炎の剣で槍の一撃を逸らしながら受け止める。

 

 一瞬で奇襲を受け止める判断をしたエリナに

 ラナは驚くも、そのまま連続の突きを繰り出す。

 

 相手は、あくまで魔導士。

 このまま接近戦で押し込めば勝てると槍を振るう

 ラナだったが、槍を繰り出すたびに

 表情が曇っていく。

 

 神族は、魔法習得の少なさが決め手に欠けるため

 最終的に接近戦で勝負を決めることが多い。

 そのため、強化魔法などを使用した状態での

 接近戦は、日頃から訓練している。

 

 当然、魔導士に後れを取るようなことはない。

 

 しかし今、自分の攻撃は全て防がれている。

 槍と剣という相性差をも覆し、時折狙い済ましたかのような

 エリナからの一撃があったりもする。

 

 正直、予想外だった。

 大戦争でも、ここまで接近戦が出来る魔導士なんて

 見た事がない。

 

 嫌な気配がして、ラナは後ろに下がって距離を取ろうとする。

 その瞬間をエリナは、見逃さなかった。

 

 相手が後ろに下がる瞬間、炎の剣を横に薙ぐ。

 当然、下がるラナには当たらない。

 

 だが・・・。

 

ラナ「―――ッ!?」

 

 刀身が切り離され、まるで炎槍のように飛んできたではないか。

 その一撃を避けきれず、ラナの胸に炎剣は突き刺さる。

 

 決まったかに見えた一撃だった。

 

 しかし炎剣が刺さったラナは、水となり消える。

 

エリナ「ウソッ!!

    幻影魔法だったのッ!?」

 

 幻影魔法とは、その名の通り幻影を見せる魔法だ。

 幻影は、動くことはもちろん、質量を持って戦うなんて

 本来はありえないのだ。

 

 今まで戦っていたラナが、途中で幻影に入れ替わる場面なんて無かった。

 そもそも幻影が動く訳が無い。

 

 しかし、目の前の相手は水となり消えた。

 

 それが何を意味するかに気づいた時

 ラナの槍がエリナの左腕を捉えていた。

 

エリナ「―――ッ」

 

 痛みに耐えながら右腕をラナに突き出して叫ぶ。

 

エリナ「光の雫よっ!!」

 

 周囲を強い光が覆う。

 その光が消えた時、その場には誰も居なかった。

 

 物陰に隠れたエリナは、左腕に回復魔法をかける。

 咄嗟に回避行動を取ったため、相手の攻撃が腕に当たるだけで

 済んだが、もう少し遅ければ串刺しにされていただろう。

 

 何かあると考え、周囲に微弱な魔力索敵網を

 張っていたため、後ろからの奇襲に何とか反応し

 致命傷を避けることが出来た。

 

 しかし現在、完全に相手のペースになってしまっている。

 あの動く幻影魔法は、やっかいだ。

 

 もうこれは、周囲がどうとか関係なく

 文字通り全力で戦わなければならないと

 エリナは考える。

 

 そんなエリナの近くをラナの幻影魔法が歩いていた。

 

ラナ「まだ、近くに居るはず・・・」

 

 ラナにも余裕は、なかった。

 先ほどの一撃は、まさに一撃必殺のはずだった。

 アレで仕留められなかったのが痛い。

 

 これで対策でも立てられたら実にやっかいなことになる。

 そう考えている時だった。

 

 ガラガラと小さく瓦礫が崩れる音がスグ横から聞こえてくる。

 

ラナ「・・・っ!!」

 

 その音のした場所へ、跳躍して向かう。

 すると瓦礫の影から這い出してきたばかりの

 エリナの無防備な背中が見えた。

 

 思わずラナの口元に笑みが浮かぶ。

 自分が今、跳躍している。

 このままこの無防備な背中に落下しながら

 槍を突き刺せば終わりだ・・・と。

 

 槍がエリナの背中に迫った瞬間・・・。

 

 氷の盾が目の前に広がり、槍を受け止める。

 だが―――

 

ラナ「そんなこと、解っていたわッ!!」

 

 エリナの横から『もう一人のラナ』が現れ、エリナに向けて

 槍を突き出す。

 

 完全な奇襲に避けることは出来ないはずだった。

 しかしエリナの前で、またしても槍が止まる。

 

 それは不可視の風盾。

 奇襲を止められたラナだったが、その口元には笑み。

 

 そう、ここまでは予想した通りなのだ。

 本命の一撃は、もう一人のラナとは反対側の瓦礫の影から出てきた

 『更にもう一人のラナ』だった。

 

ラナ「―――さようなら」

 

 その言葉と共に、槍をエリナに向かって真っ直ぐ突く。

 

 そして槍は、エリナを捉え胸を貫いた。

 

 これで終わり。

 ラナは、そう思っていた。

 

 しかし―――

 

 胸を貫かれたはずのエリナは、水の音と共に消え去る。

 

ラナ「幻影魔法ッ!?」

 

 まさか自分と同じ手で来るとは思っていなかった。

 その油断が、致命的なミスとなる。

 

 咄嗟に周囲を伺うも、奇襲が来る様子はない。

 こちらの不意をつけたであろうタイミングで

 仕掛けてこなかったことに疑問が湧く。

 

 その瞬間だった。

 圧倒的な魔力量を感じ、全身に恐怖が走る。

 

 嫌な気配を感じて上を見上げると

 上空には、空を覆うように広がる魔法陣。

 それは、街の一区画を全て覆っていた。

 

エリナ「もう、躊躇わない。

    遠慮も、配慮も、後のことも気にしない。

    ただ、全力で戦うのみ」

 

 どこからともなく聞こえてくるエリナの声。

 

エリナ「そこに居るのが幻影だって構わない。

    どうせ確実に近くには居るのだから、このあたり一帯を

    まとめて、全部消し去れば問題無い」

 

 まるで独り言のような呟き。

 

 そして魔法陣から出現し、下へと落下し始める大量の火球。

 それは雨のように降り注ぎ、地面に当たると爆発しながら周囲を炎で焼き尽くす。

 

エリナ「これは、私のオリジナル魔法。

    人に見せるのは、これが初めて。

 

    全てを焼き尽くす炎の雨。

    ―――名は『ナパーム・レイン』」

 

 その戦いは、一方的だった。

 

 逃げ場の無い炎の雨に

 ラナの幻影達は、一瞬で消滅し

 近くに隠れていたラナ本人も、防御魔法や瓦礫を利用して

 凌ごうとするも圧倒的な熱量によって

 全てが破壊され、溶けていく中を無事で逃げきれる訳がない。

 

 文字通り、街の一区画は丸ごと焼き尽くされた。

 

 圧倒的な爆発の連鎖は、魔法陣の消滅と共に

 やがて終わりをむかえる。

 

 周囲の街並みは、瓦礫のかけら1つすら残さずに破壊され

 地面からは、未だに蒸気が立ち昇っている。  

 

ラナ「・・・あぁ・・・くっ」

 

 何とか、防御魔法を最後まで展開し続けたものの

 殆ど気休め程度にしかならず、防ぐことが出来なかった。

 

 全身に相当なダメージを負いながらも

 無理やり立ち上がろうとするラナ。

 

 しかしその想いとは違い、身体は言うことを聞かない。

 

エリナ「・・・これで勝負アリ、でいいかしら?」

 

 気づけば、ラナの目の前には

 六翼を広げたエリナの姿。

 

ラナ「・・・いえ、まだです」

 

 身体が動かないため、顔すらこちらに向けない状態で

 ラナは、そう言葉を発する。

 

エリナ「・・・もう動けないのに、どうして」

 

 そう言いながらラナに近づくエリナ。

 そしてラナの目の前まで来た瞬間。

 

ラナ「・・・あの人のために散れるのなら、私はそれでいい」

 

 いつの間にかラナの手に握られていた魔法石。

 

 ようやくラナの意図に気づいてハッとするエリナ。

 

 その瞬間―――

 

 魔法石が輝き、周囲を巻き込んだ大爆発が起こる。

 

 事前に展開していたウインドシールドが爆発を防いだため

 無傷で済んだものの、まさか自爆してくるとは思わなかった。

 

エリナ「どうして・・・」

 

 その疑問に答える者は、もうここには居なかった。

 

 

 一方、学園の正門前は静かだった。

 

ワング「あちらもあちらで、盛り上がっているようですねぇ」

 

 『ナパーム・レイン』が街の一部を焼き払っている光景を眺めながら

 ワングが、感想を述べる。

 

ヴァイス「・・・ぐっ・・・がっ」

 

 喉元を掴まれ片腕で持ち上げられた状態のヴァイスが、苦しそうな声をあげる。

 

ワング「まあ、キミは頑張った方ですよ。

    その辺に転がっている連中よりは・・・ですがね」

 

 周囲には、倒れた生徒達。

 

 まさに一方的だった。

 魔法をいくら放っても、ワングの周囲に展開されているであろう

 謎の見えない壁で霧散してしまう。

 

 強力な魔法なら多少は霧散までに時間があるとはいえ

 ワングに届く前に、やはり消えてしまう。

 

 よって数による魔法攻撃が、事実上無効化されていた。

 

 なら、接近戦ならどうだったのか?

 それを行うだけの度胸を、まだ学園生徒達は持ち合わせていなかった。

 

 今の世界において『魔法』というものが占める割合は高い。

 攻撃・防御・補助

 全てにおいて魔法を使用している。

 

 その魔法が効かない相手。

 化け物とも呼べる相手に出会い、実戦経験の少ない彼らは

 パニックを起こし、冷静な判断力が無くなり

 組織的な行動はもちろん、戦いを放棄して逃げ出す者まで居た。

 

 そんな状態で、ワングを止めることなど出来る訳が無い。

 学園生徒の経験の無さが露呈した結果とも言える。

 

ワング「まあ死に逝くアナタに言っても意味は無いのでしょうが

    一応、言って差し上げましょうか。

 

    アナタの魔力は確かに強力です。

    さすがは魔王の血族と言えるでしょう。

 

    しかし・・・それだけなのですよ、アナタは」

 

ヴァイス「な・・・なに、が・・・いい、たい」

 

ワング「せっかくの魔力をロクに練り込めもせず、制御も適当。

    ただ膨大の魔力を放射しているのみ。

 

    要するに効率が悪すぎるのですよ。

    1を強化するのに10の魔力を使用しているような感じでしょうか。

    消費魔力と結果の効果が噛み合っておらず、非常に無駄な部分が多すぎます。

 

    まあ、魔族らしいと言ってしまえば・・・その通りなのですがね」

 

 その言葉にヴァイスは苦しいのか、何も答えない。

 

ワング「せっかくの才能とも呼べる力に頼りきった単調な力押し。

    それでは宝の持ち腐れ以下です。

 

    己の力量を知り、考え、行動し、努力する。

    そんな初歩的なことも出来ないキミでは

    私どころか・・・そうですね、人族にも劣ると言えましょう」 

 

 苦しげに喘ぐだけだったヴァイスの瞳に意思が戻り

 自分を掴む腕を両手で掴む。

 ダメージによって力が入らず、形だけになってしまっているが

 それでもヴァイスが、懸命にもがく。

 

ヴァイス「人族、以下・・・だと・・・。

     ・・・ば、かに・・・するな・・・!」

 

ワング「ほう・・・まだこれだけの元気が残っていましたか。

    それとも自身のプライドが傷いた結果でしょうか。

    

    どちらにしても若者は、やはりこうでなくては」

 

 何気なく、ヴァイスを掴んでいた手を離す。

 その瞬間、ヴァイスの腹部をワングの強烈な蹴りが襲う。

 

 ヴァイスは、声にならない声を上げながら

 はるか後方にある学園の教室の窓を破りながら中へと吹き飛ばされる。

 

ワング「まあ最後に、人生の先達たる私から一言。

 

    余計なプライドは、自身を破滅させるだけで

    何の役にも立ちはしませんよ」

 

?「確かにそうだな」

 

 突然聞こえてきた声に、ワングは驚きの表情を浮かべる。

 

?「余計なことばかりしているから

  お前はこうして私と出会ってしまった。

 

  まさに自身の破滅だな」

 

 正面から堂々と現れたのは

 フォースの学園長にして魔界を統べる者。

 

 『赤き暴風』をはじめとして

 数々の二つ名で呼ばれ、大戦争を駆け抜けた生きる伝説。

 

 その名は、マリア=ゴア。

 魔王妃となってからも、その力は衰えることなく

 数々の伝説を今もなお生み出し続ける偉大な女性。

 

ワング「・・・わざわざそちらから出てきてくれるとは」

 

マリア「こちらにとっても好都合だ。

    余計な被害をこれ以上出されることもなくなる」

 

 何気なく儀式兵装の大鎌を手に出すマリアに

 ワングは、一層の警戒をする。

 

 大戦争中、彼女1人に一体どれだけの数の部隊が

 ・・・同胞達が散っていったことか。

 

マリア「さて、ではさっさと終わらせてしまおうか」

 

 そう言うとマリアの周囲に火球が3つ出来る。

 それぞれが別々の動きをしながら、ワングに向かって飛ぶ。

 

 しかし、ワングの手前で何かに邪魔をされるように

 3つの火球は霧散して消滅する。

 

マリア「・・・ほぅ」

 

ワング「・・・ふっふっふ。

    この私に魔法が―――」

 

 ワングが自身満々に言葉を並べている時だった。

 

 何かを破るような強引な音と共に、ワングの地面に突き刺さる炎槍。

 それを見たワングは、言葉を失う。

 

マリア「これぐらい収束させれば貫通可能、か。

    ・・・めんどうだなぁ」

 

 まるで何事も無く次の炎槍を生成するマリアに

 ワングは、驚きの表情を向ける。

 

マリア「ん?・・・ああ。

    何も不思議なことじゃないだろう。

 

    私は、オリビアや神王と何度も戦ってきたんだ。

    あいつらの防御の堅さは、お前らが一番良く知ってるだろ?」

 

 確かに、オリビアは神界で一番と評されるほど防御が上手い。

 神王も、どちらかと言えば防御やカウンターを狙うことが得意だった。

 

 確かにそんな強力な防御を抜くために必要な技術だったとはいえ

 そんなに簡単にこちらの防御が抜かれるなんて・・・。

 

 ワングにとって、この霧散能力は自分の自信の源でもあったがゆえに

 その精神的なダメージは計り知れない。

 

マリア「そら、ぼ~っとするな」

 

 いつの間にか5つの炎槍を生成していたマリアが

 連続で炎槍を撃ってくる。

 

ワング「ア、アイスシールドッ!!」

 

 霧散の力だけでは無理なため、氷盾を張って防御する。

 

 しかし、その氷盾すらも貫通して炎槍が飛んでくる。

 そして避けきれない1つの炎槍がワングの足を貫く。

 

ワング「・・・ぐっ」

 

 防御していたのでは、自分は負けるだけだろう。

 ・・・だったら。

 

ワング「アイス・ジャベリンッ!!」

 

 氷盾にギリギリまで隠れながらの

 カウンターを狙った氷槍を3本放つ。

 

 しかし、それらはマリアのはるか前方で小さな爆発と共に

 消え去ってしまう。

 

ワング「・・・何だ、今のは」

 

マリア「軽い魔法で相殺しただけじゃないか

    いちいち驚くほどのことかねぇ。」

 

 何を言ってるんだ、こいつは?

 そんな目でワングを見るマリア。

 

ワング「くそっ!

    もう一度だっ!!」

 

 必死に氷槍を何本もマリアに向けて放ち続けるも

 全て、はるか手前で爆発消滅させられる。

 

ワング「何て・・・制御技術、だ・・・」

 

 氷槍すべての進行方向を先読みし

 その場所に小さな火球を置いてぶつけることで

 魔力干渉し、相殺しているのだ。

 

 簡単そうに見えて、しっかりと

 どの場所に火球を出現させるのかという

 空間把握や、魔力制御は神族だって簡単に出来るものじゃない。

 

 しかも、もし外してしまえば無防備な自分へ

 魔法が直撃してしまうことにもなる。

 そんな豪胆さも、信じられない領域だ。

 

ワング「・・・」

 

 少しづつ後ろに下がるワング。

 そして、そんなワングの後ろからゴーレムの集団が現れる。

 

マリア「・・・はぁ。

    もう逃げの一手なのか」

 

 不満げにため息をつくと、儀式兵装を片付けて

 さっさと後ろを向いて歩き出すマリア。

 

マリア「ここまで逃げ腰では、面白くも何ともない。

    興味が無くなった。

 

    ・・・あとは、お前の好きにしろ」

 

 そう言いながら片手を上げて

 ひらひらとさせながら学園の奥へと歩いていく

 マリアの姿に、ワングは戸惑いの表情を浮かべる。

 

 確かにこのままでは負けるだけだと、逃げることを選択し

 足止めのゴーレムを呼んだのは自分だ。

 逃がしてくれるというのならありがたい話ではあるが

 その理由が解らない。

 

 彼女は確かに言った。

 『あとは、お前の好きにしろ』と。

 

ワング「―――ッ!」

 

 その言葉の意味に気づいた時。

 彼は、大きな突撃槍に貫かれていた。

 

 それは、まさに吹き抜ける一陣の風。

 

 後ろからワングに合流するために歩いていたゴーレムの一団は

 その風によって大きく空へと跳ね飛ばされながら消滅していく。

 

 高々と串刺しのまま持ち上げられるワング。

 その突撃槍を持つ相手の顔を見て、驚く。

 

ワング「『魔族狩り(デモンハント)』だと・・・!!」

 

セオラ「生徒達の仇は、取らせて貰いますわよ」

 

 突撃槍の儀式兵装を手にしていたのは

 大戦争『魔族狩り』の二つ名で、特に魔族に恐れられていた竜族。

 今は学園にて教師を務める竜界No3の実力者 セオラ=ムルムだった。

 

 何人もの生徒達を失った今の彼女に

 手加減などという言葉は存在しない。

 

 胸を貫かれ、ロクに動けないワングを

 槍を大きく振るって真上に投げるように放す。

 

 真上に投げ出されたワングを見ることもなく

 ただ左手を上に掲げたセオラは、呟く。

 

セオラ「―――竜の息吹(ドラゴンブレス)」

 

 空に向かって放たれた竜の息吹。

 息吹に包まれ、ワングはそのまま光の中へと消えていった。

 

 

 息吹の光が、まるで天へと昇る柱のように周囲を照らしている。

 そんな光すら、届かぬ街の片隅では

 2つの影がぶつかり合う。

 

 そこは、街中で戦いが起きていることが嘘のように

 静寂に包まれていた。

 

 その静寂を時折、剣戟の音が破る。

 

セリナ「たぁっ!!」

 

ジャック「はっ!!」

 

 2人の儀式兵装が、勢い良くぶつかる。

 

 そのままお互いに剣を振るうも

 剣同士がぶつかるだけで相手に届かない。

 

 何度目かの攻撃の瞬間、セリナの儀式兵装が

 いつの間にか剣から槍に変化していた。

 

 普通なら驚くところだが

 ジャックは、あくまで冷静に距離を詰めようと動く。

 

 槍のリーチを生かし、接近をさせまいと連続突きを繰り出すセリナに

 さすがに回避しきれず剣で受け止めるジャック。

 

 それでも強引に距離を詰め、槍の一撃を回避し

 剣の間合いに入った瞬間、一気に剣を横へと薙ぐ。

 

 横薙ぎを、後ろに回転しながら跳躍して回避するセリナ。

 

 回転しているセリナが逆さの状態で、ジャックの方へ向いた瞬間

 いつの間にか弓になっていた儀式兵装から放たれる魔力矢。

 

 体勢を崩しながらも、身体を捻って回避するジャック。

 

 着地したセリナは、そのまま距離を取るように小刻みな跳躍をしながら

 弓矢による魔力矢を乱射してくる。

 

ジャック「ウォーターシールドッ!」

 

 本来の盾系の魔法と違い、どちらかと言えば

 セリナ側に近い場所に出現した水盾。

 

 展開された水盾は、魔力矢を完全には防がず

 魔力矢の速度と威力を減少させるだけで、矢自体は貫通している。

 

 あまり意味がないように思える水盾。

 

 だが、速度の落ちた矢の間を綺麗にすり抜けて

 前に出ようとするジャックを見れば

 それが無駄ではないことは、一目瞭然だ。

 

セリナ「アイス・アローッ!!」

 

 接近されたくないセリナは、氷矢を放つ。

 

 氷矢が水盾に当たった瞬間、水盾は一瞬にして凍る。

 その凍ってしまった水盾を魔力矢が軽々と貫いていく。

 

 ジャックは瞬時に、横の建物横の路地に隠れる。

 隠れた建物の少し上に向かって魔力矢を1発だけ放つセリナ。

 

 すると上にあった大きな看板に当たり

 落下した看板は、そのまま路地の入り口を塞ぐ。

 

 それを確認したセリナは、儀式兵装を剣に変化させると

 距離を取るために移動する。

 

 手数と変幻自在の攻撃で、押し込んでいるようにも見えるセリナだが

 実は、追い込まれているのは、どちらかと言えば彼女の方だった。

 

 ジャックの戦いは、まさに戦場を生き抜いてきた歴戦の兵そのもの。

 何か突出したものがある訳ではないにも関わらず

 どうしても押し負けてしまうのだ。

 

 だから、どうしても距離を取りたいセリナだが

 ジャックは、それを許すまいと接近戦を挑んでくる。

 

 結局は、セリナが逃げ回りながら戦っているのが現状だ。

 

 セリナを見失ったジャックは

 ある程度の広さがある通りに出て

 剣を構えて瞳を閉じている。

 

 それをセリナが見つけ、かなり遠い距離から

 弓に変化させた儀式兵装で狙撃しようと建物の上から

 狙いを定める。

 

 魔力矢を収束させ、威力を上げた時。

 セリナは、正面からの視線を感じる。

 

セリナ「・・・やっぱり、見つかってしまいましたか」

 

 いつの間にか目を開けて、こちらを見ているジャック。

 

 構わず魔力矢を撃つ。

 通常よりもかなり速度の速い矢がジャックに向かって飛ぶ。

 前に出ると踏んで少し手前を狙った一撃だったが

 その予想を大きく裏切る。

 

 ジャックは、周囲の建物を利用して

 様々な場所を跳躍したり、走りながら

 狙撃できないように接近してくる。

 

 セリナは、構えていた次の矢を

 そのまま上空に向けて構えると、そのまま放つ。

 

 はるか上空に飛んだ矢が、空中で炸裂し

 何十本もの矢になって雨のように降り注ぐ。

 

ジャック「うおぉぉぉっ!!」

 

 気迫の叫び声と共に

 防御魔法を一切使用せず、魔法矢の雨の中を

 走り抜けていく。

 

 そのままセリナの前まで走ってきたジャックは

 彼女に向けて跳躍して剣を振り下ろす。

 

セリナ「パワー・アイス・サードッ!!」

 

 儀式兵装を剣にして強化魔法を付与し

 ジャックの一撃を受け止める。

 

セリナ「―――ッ!」

 

 上級強化魔法を使用したにも関わらず

 押し負けて後ろに下げられる。

 

セリナ「アイスジャベリンッ!」

 

ジャック「ウォーター・アローッ!」

 

 双方の魔法が綺麗にぶつかり、全てが消滅する。

 下級魔法を貫けなかったことにセリナは、驚く。

 

ジャック「そのような想いの無い攻撃など

     所詮は、形ばかりだ」

 

 剣を水平に構えたジャックは

 前かがみの体勢を取る。

 

ジャック「戦う意思が無いのなら

     全てを捨てて大人しく去れッ!!」

 

 あっという間に距離を詰めてたジャックは

 剣を横に薙ぐ。

 

 重い一撃に、表情が厳しくなるも

 何とか受け止めるセリナ。

 

セリナ「神界王女として、そしてセリナ=アスペリアとして

    ・・・みんなが笑って過ごせる日々のために

    私はここで負ける訳にはいかないんですっ!」

 

 強引に剣を弾いて、返す刃でジャックに斬りかかる。

 

ジャック「そのような形ばかりの意思で

     この私が倒せるつもりかっ!!」

 

 セリナの一撃よりも速く、ジャックは距離を詰めて

 そのまま勢い良く体当たりを入れる。

 

 カウンター気味に入った一撃に

 セリナは大きく吹き飛ばされる。

 

 一瞬、意識が飛びそうになるも

 何とか足で着地して、体勢を立て直す。

 

 ジャックは、また剣を構えて前かがみの姿勢を取る。

 

ジャック「私は、グレイのようなバランスのよさも

        バガムのような素早さも

        ガルスのような腕力も

        ワングのような特殊な儀式兵装も

        ラナのようなオリジナル魔法も

     何も持ち合わせてはいない。

 

     だが、彼らは私を隊長として認め

     共に戦ってくれた。

 

     私には背負うものがある。

     その全てを賭しても成さねばならぬ願いがある。

 

     その想いが、背負うものが

     私を強くしてくれるッ!!

 

     皆のためなど、そのような薄っぺらい信念に

     何を成し遂げることが出来るというのだっ!!」

 

 ジャックは真っ直ぐとセリナに向かって走り出す。

 それを受け止めようとするセリナ。

 

セリナ「―――ッ!?」

 

 走ってくるジャックは、特に何も魔法を使用していない。

 にも関わらず、彼の姿がセリナには数倍大きく見えた。

 

 そんな巨人の一撃に、セリナは大きく吹き飛ばされ

 いくつもの建物を破壊して、ようやく止まる。

 

 ダメージを受け、よろよろと立ち上がるセリナ。

 そんなセリナを睨みつけるジャック。

 

セリナ「・・・私は」

 

 みんなと笑顔で過ごしたいという願いも

 それを薄いと言われ腹が立つことも本当だ。

 

 しかし、この願いでは届かないということなのか。

 私の願いは、そんなに薄いものなのか。

 

 意味の無い自問自答を繰り返す。

 そんな時だった。

 

 

 「神界第一王女ってのは、キミの全てか?」

 

 「キミは、キミだ。

  他の誰でもない。

  肝心なのは、キミ自身の気持ちなんじゃないのか?」

 

 

 頭の中で、ふと和也に言われた言葉が聞こえてくる。

 

 

  『セリナへ。

  

   お前の自由に生きなさい』

 

 

 お父様からの手紙を思い出す。

 

セリナ「・・・」

 

 瞳を閉じて考える。

 そして自分の心と向き合う。

 

 イメージする。

 自分の心に向き合って、自分の世界を構築する。

 

 それは、みんなと笑い合う笑顔の世界。

 最近では、フィーネや亜梨沙など人も増えた。

 

 種族なんて関係ない。

 皆が手を取り合っていける世界。

 

 それはいつも思い描いている世界だ。

 いつも通りの世界に安心する。

 

 そんな時だった。

 

 ふと、隣に暖かな温もりを感じる。

 気づけば、私は誰かと腕を組んでいた。

 

 私は、その相手の顔を見る。

 

 ―――そこには

     私の大好きな和也(ひと)の笑顔―――

 

セリナ「・・・そう、だったんですね」

 

 ゆっくりと目を開ける。

 

セリナ「意外と、簡単なことでした」

 

 自然とこぼれる笑み。

 

 セリナは、儀式兵装の剣を構えると、八翼を広げる。

 

 急激に魔力が集まり、魔法陣が出現する。

 

セリナ「我が言葉は、太古より続く盟約を代行せしもの。

    ゆえに代行者として命ずる。

 

    古の力、元素を司る精霊達よ。

    我が呼びかけに応え、あるべき力を我が前に示せ」

 

 膨大な魔力が、セリナの儀式兵装に集まっていく。

 

 セリナは、基本的に翼を出すことはない。

 本人の性格もあり、真剣に戦う時でも

 どこかで心のブレーキがかかり、本当の意味での全力を

 出したことがないのだ。

 

 そんな彼女が今、全ての力を出そうとしていた。

 八翼の限界まで魔力を集め、制御し、何度も練り込む。

 

セリナ「・・・で、できた。

    『魔剣・フラガラッハ』」

 

 肩で息をしながらも、完成した魔法を見て、そう呟く。

 

 彼女の剣は、刀身に文字通り『全ての魔力』が付与されており

 闇のような真っ黒い刀身になっていた。

 

セリナ「・・・私は、みんなが笑顔で笑っていける世界を

    種族を超えて、みんなが手を取り合える世界を見たい。

 

    ・・・大好きな、あの人の隣でっ!!」

 

 セリナが構えた剣を見て、ジャックは驚く。

 

 あれだけ膨大な魔力を全て剣に付与するだけでも

 ありえないほどの制御力が必要だ。

 しかもただ付与しているのではく、八翼という

 超がつくほど強力な魔力全てを、何度も練り込んで圧縮し

 密度の高い魔力へと変換し続けたのだ。

 

 こんなことは、亡き神王達ですら不可能だろう。

 

ジャック「・・・だが、やらねばならない。

     超えなければいけない。

 

     私にも、背負っているものがあるッ!!」

 

 自身の儀式兵装に強化魔法を付与すると

 真っ直ぐセリナに向かって走っていくジャック。

 

 そしてジャックがセリナに斬りかかる瞬間だった。

 

ジャック「―――ッ!?」

 

 セリナの魔剣フラガラッハも

 当然こちらに斬りかかってくるのは、わかっていたことだ。

 

 あんなもの、当たれば一撃、当然受け止めることなど

 出来る訳が無い。

 だからこそ、それを回避して、カウンターを入れることだけに

 専念しての行動だった。

 

 ・・・だが。

 迫った瞬間、魔剣の暴力的なまでの魔力的圧力によって

 こちらの強化魔法が全て根こそぎ吹き飛ばされたのだ。

 

 それだけならいい。

 儀式兵装すらその圧力に負け、分解されて魂へと返る。

 

 よって、丸腰となった自分に

 魔剣の刃が、容赦無く迫る。

 

ジャック「―――これが、伝説と呼ばれた八翼の」

 

 その言葉は、最後まで続くことなく魔剣の闇の中へと消えていった。

 

 セリナの一撃で、剣を振るった場所だけ

 何もかもが分解され、消滅して、まるで何かで

 くり抜いたかのような形になっていた。

 

 

 そのころ、竜界の国境付近。

 

?「予想通り、やってきましたか。

  だがしかーしっ!!

 

  この私が居るかぎり、生きたまま帰れるなんて

  思っちゃ~いませんよねぇ~っ!!」

 

 謎のポーズを決めながら、何処かの国のメイド長が叫ぶ。

 

 他の国は、全て陽動のためとはいえ攻め込まれた。

 そんな報告を聞いて、彼女は竜界にも来るのではと考え

 こうして軍を率いて待っていたのだ。

 

竜族兵A「・・・この人っていつもこうなんですか?」

 

竜族兵B「・・・大体は、こんな感じかなぁ」

 

竜族兵A「そ、そうなんですか」

 

竜族兵C「でもまあ、アレでも強いし部下への気配りも出来る

     良い上官であることは間違いないのよねぇ」

 

何だかアレなメイド長「さあ、リピス様のために蹴散らしますよっ!!」

 

竜族兵達「全ては、リピス様のためにっ!!」

 

 そしてその数分後。

 

 全ての将が倒れ、魔力制御を失ったゴーレム達が

 次々と崩れ落ちていく。

 

和也「お・・・終わった、のか?」

 

フィーネ「・・・たぶん、ね」

 

リピス「ということは、我々の勝利だということだ」

 

 学園でも勝利を喜ぶ声が聞こえてくる。

 

 それにより、ようやく学園都市での戦いが終わりを告げることになった。

 

 一般人には被害は無かったとはいえ

 学園生徒の2割が名誉の戦死を遂げ、各世界でも

 ゴーレム達との戦いで死傷者がそれなりに出てしまった。

 

 政治でも、元神族軍が起こした事件だけに

 神族側への厳しい追及・・・といっても騒いでいるのは

 魔族が中心なのだが、それでも竜族・人族からも

 あまり良い声は出ていない。

 

 しかし、今回。

 何故か魔界側だけが攻め込まれていないのと

 首謀者含め、重要な人物を神界王女自らが

 粛清したこともあり、魔界陰謀説などの話題も飛び出し

 かなり白熱した議論となった。

 

 だが結果的に、神界への処置は

 当面は外交面で不利益を被るものの

 一時的なもので長期化はしない決定となった。

 

 街は、一般人が無事なものの

 建物は、かなり破壊されており

 復興までには時間がかかりそうだった。

 

 学園もしばらくは、休校となり

 皆は、それぞれ街の復興を手伝っている。

 

 今回、俺はただフィーネ達と囮になった感じなだけで

 何もしていない。

 

 もっと上手く動けていたら、もっと多くの命を

 救えたのではないかという意味の無い後悔。

 

 そう思った瞬間。

 

和也「・・・っ!」

 

 突然の頭の痛みに頭を抑えながら座り込む。

 

 目の前に突如浮かぶ、見覚えの無い石碑。

 

 「・・・また、全てを護ることは出来なかったか」

 「・・・俺に力があれば」

 

 死んだ者達を思う後悔の念。

 

 そして今度は、荒れ果て別の場所にすら見える

 いつも訓練をしている丘の風景。

 

 「俺は、また守れなかったのか・・・」

 

 またも後悔の念。

 

 そして見知らぬ、出会ってすらも居ない

 金色の髪の少女の笑顔。

 

 気づけば、涙が出ていた。

 

 どういうことだか、理解が出来ない。

 混乱した頭の中身を整理する前に

 誰かが自分の正面に立っている気配に気づく。

 

 見上げると、そこには一人の少女が立っていた。

 

 「私の名前は、久遠」

 

 頭の中にまた、声が響く。

 苦しむ俺に、彼女は何も言わずに

 そっと手を差し伸べてくる。

 

 その顔は、少し寂しそうな笑顔だった。

 

 俺は、差し出された手に違和感を感じることなく握る。

 

 すると、和也と少女は

 その場から消えるように姿を消した。

 

 

 

 

 

最終章 想いの強さ ~完~

 

 

 

 

 

 

 

 

・おまけ

セリナ編が、そのまま進んだその後の世界。

 

*風間 亜梨沙

風間の家に生まれ、若くして風間流の師範代になった

若き天才。

 

学園を卒業後、王女達と一緒に

合同結婚式を挙げて念願だった和也の嫁になる。

1人の娘が生まれ、幸せに暮らした。

 

和也が多忙なため、彼に代わって

風間一族を纏める立場となる。

 

和也が天界に行くことが多くなり

たまにしか会えなくなったことが不満となり

たびたび天界に押しかけていくことになる。

 

そのたびに風間を強引に任される師範代達は

ため息をつくのだった。

 

 

 

 

*フィーネ=ゴア

魔王の1人娘として生まれ

幼少期から激しい人生を送ることになるも

そこで運命の相手に出会い

人らしく生きるようになった少女。

 

学園を卒業後、合同結婚式で

夢だった和也の嫁となる。

 

事件後、魔界では

天界よりも優位に立ったと増長する者が

後を絶えず、魔界全体の統率力を強化するために

何かと忙しくなり、たびたびミリスと喧嘩をすることになる。

 

そのたびに神界に家出してくるため

神界と魔界は、何度も一触即発の自体を迎えることになる。

 

和也との間に1人の娘を授かり

その娘を溺愛したという。

 

 

 

 

*リピス=バルト

竜界の王女にして金竜最後の生き残り。

大戦争では激動の人生を経験し

一度は、挫折したこともある王女。

 

学園卒業後は、彼女の提案により藤堂 和也との

合同結婚式が行われ、彼女も妻となる。

 

卒業後も続く和也争奪戦に関係ないとばかりに

自国の内政に従事するも

時折、ちゃっかり和也を独占していたりするなど

策謀家としての素質も見せる。

 

2人の娘にも恵まれ、竜族を繁栄させ

のちに学園の教科書に載るほどの活躍を見せる。

 

 

 

 

*セリナ=アスペリア

神界第一王女として生まれ

常に王女としての重圧に悩まされてきた少女。

 

学園卒業後の合同結婚式に参加して

和也の嫁となる。

 

和也への気持ちを隠さなくなった彼女は

エリナを超えるほど積極的になり

時にはフィーネ達をも押し退けるほどに。

 

また亡き父を超える政治手腕を発揮し

神族を一つに纏め上げるなど

偉大な王としての素質を開花させる。

 

1人の息子と2人の娘を授かり

幸せに暮らした。

 

 

 

 

*エリナ=アスペリア

神界第二王女として生まれるが

その責任を丸投げて、自由に生きようとする

非常に奔放な性格の少女。

 

学園卒業後、合同結婚式に参加して

姉共々、和也の嫁となる。

 

姉に代わって外交の場に登場することが多くなり

その姿は、女性達の憧れとなる。

 

また古代遺跡や古代魔法に関しての

研究チームを作ることに尽力し

魔法学の象徴とまで呼ばれる存在となる。

 

休暇になると、必ず和也の部屋に入り浸ったり

よく他の誰かと和也の取り合いをしている姿も

恒例行事となる。

 

和也との間に2人の息子を授かり

幸せに暮らしたという。

 

 

 

 

上記は、あくまで可能性の話。

物語が別の可能性を選ぶのであれば

また違った結末を迎えることになるだろう。

 




まず、ここまで読んで頂きありがとうございます。

ようやくセリナ編が完結しました。
仕事が忙しかったり、物語の演出に悩んだりと
色々と散々でした。

特に演出や、今後の物語の構成に関しては
かなり悩みました。
おかげでかなり文字数も増えました。
一番短い章と比べると倍以上の差があったり・・・。

物語は3人のヒロイン回が終了して
感動のフィナーレに・・・向かいません(笑)
原作を知っておられる方なら、やっぱりかと
笑っておられるかと思います。
原作を知らない人は、まだあるんだ、長いよと
突っ込んでいることでしょう。

申し訳ないですが、まだあるんです。
よろしければ最後までお付き合い頂けると嬉しいです。


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風間流師範代 風間 亜梨沙編
第10章 風間の里


*こちらのサイト様では
 1000文字を超えないと1話と出来ないため
 非常に残念ですが冒頭部分に

 第■■章 与えられた可能性 

 を強引に入れさせて頂きました。
 章管理を利用して演出したかっただけに
 ちょっと残念です。。。



 

 第■■章 与えられた可能性

 

 

 

 

 

 それは、本来なら訪れることはなかったであろう時間。

 

 可能性として存在しながらも、選ばれることは

 まず無いと言えるほどの小さなもの。

 

少女「・・・変化が必要なのかな」

 

 そんな僅かな選択肢への道を手にした少女は呟く。

 

 彼女の前に何かが落ちてくる。

 

 大きな音と共に落ちてきた何かが、ゆっくりと動く。

 

 それは、人。

 

 全身は既にボロボロにも関わらず

 その瞳には決して揺らぐことがない意思が感じられる。

 

 左手には、刀身が炎魔法で生成されている魔法剣。

 

 右手には、どこまでも深く、暗い闇を想わせる漆黒の刃。

 

 その瞳の先には、まるで山のように大きな巨体を動かしながら

 ゆっくりとこちらに迫ってくる巨大な何か。

 

 それを見据えると、剣を突き出し構えを取る。

 

少女「私に残された力も時間も僅か。

   ・・・なら、諦めるのではなく挑むこと。

   ・・・最後までもがき続けることが大事。

 

   それは、私の存在理由でもあるのだから」

 

?「・・・その通りだ。

  たとえ決して訪れることがない可能性であったとしても

  俺は、絶対に諦めないッ!!」

 

 そんな気迫と共に発せられた言葉に

 少女は驚き、そして微笑んだ。

 

 いくつもの希望と絶望を見てきた彼女にとって

 それは、今までとは違う輝きを放つ宝石。

 

 だからこそ、彼女は賭けてみようと思った。

 

少女「・・・微弱な可能性だからこそ

   その変化は大きいものとなる。

 

   それがどういう影響をもたらすのかは

   誰にも解らない。

 

   ・・・けれど、だからこそ

   試す価値は十分にある」

 

 手にしていた小さな可能性が、光を発して輝きだす。

 

少女「たとえ失敗しても・・・。

   いえ、彼女ならきっと・・・」

 

 

 ―――そして全てが光に包まれた

 

 

 

 

 

 第■■章 与えられた可能性 ~完~

 

 

 

 

 

==========================

下記より第10章 風間の里

==========================

 

 

 

 

 

 

 俺は、大きく深呼吸をした。

 そして―――

 

和也「―――!?」

 

 決意を胸に閉じていた瞳を開けた瞬間だった。

 

 それは、何もない空間だった。

 

 一面何も無く、ただ地面のような白い大地が

 広がるのみだ。

 

 空は、夕暮れのように染まっている。

 

和也「・・・」

 

 正直、訳がわからない。

 

 先ほどまで、夜の丘に居たはずだ。

 

 ゴーレムどもの姿も見えない。

 

 魔法による幻影かとも考えたが

 幻影なら魔眼が勝手に反応する。

 

 しかし魔眼は、何も反応しない。

 

 恐らく、今の俺は

 相当に間抜けな顔をしているだろうと

 自分でも解るが・・・。

 

和也「一体、何なんだよ・・・」

 

 もう考えることを放棄したくなった時

 

?「ごめんなさい。

  でも、これで大丈夫なはずだから」

 

 突然、後ろから聞こえた声に

 振り返ろうとした瞬間

 

 意識が、ぷっつりと切れた。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

?「―――さん」

 

 誰かが呼ぶ声が聞こえる。

 

 その声は、いつも聞き慣れた声。

 すぐに誰だか理解する。

 

亜梨沙「兄さん、大丈夫ですか?」

 

 優しい声に誘われるように、ゆっくり目を覚ます。

 

和也「・・・ああ、亜梨沙か」

 

 目の前に亜梨沙の顔が見え、安心する。

 

 その瞬間に全てを思い出し、勢い良く起きる。

 

亜梨沙「・・・もう。

    びっくりするじゃないですか、兄さん」

 

 亜梨沙の苦情を無視して周囲を見る。

 

 良く晴れた快晴の中を馬車の荷台で揺られているようだ。

 

 あの一面が■■大地と夕暮れの■に覆われた

 訳のわからない場所でも、■■■■達と戦おうとしていた

 ■の■でもない。

 

和也「―――えっ?」

 

 思い出そうとして記憶が抜け落ちていることに気づく。

 

和也「そんな馬鹿な・・・」

 

 とても大事なことだった気がする。

 もう一度思い出そうと考える。

 

 しかし―――

 

和也「あれ?

   何を思い出そうとしていたんだ?」

 

 何を考えていたのかという根本から思い出せない。

 

 この歳で、物忘れが激しいのは嫌だなぁ。

 

亜梨沙「ちょっと兄さん。

    何時までこの可愛い妹を放置しておくつもりですか」

 

和也「・・・それ自分で言うのかよ」

 

 まあ、確かに亜梨沙は可愛い。

 

 顔も可愛いと美人の中間という感じで

 あと数年もすれば、確実に美人になると言える整った顔立ち。

 小柄ながらもスタイルは良く、胸も結構あるため

 ぶっちゃけるとロリ巨乳に片足を突っ込んでいる感じだ。

 

 本人は、胸が邪魔で刀が振りにくいなんて言っていたが

 『それを 捨てるなんて とんでもないっ!』である。

 

 全男子にとっての大注目カテゴリーに分類されているのだから

 周囲の男共が、放っておくわけがない。

 

 学園では人族ということで嫌われていたから解らないが

 人界に居たころは、よく門下生を中心に告白されていたっけか。

 

 毎日のように呼び出されての告白。

 それが嫌になった亜梨沙は、ある日突然言い出した。

 『最低限、私より強い人でなければ無条件で断ります』と。

 

 当時は、まだ『名乗り』だった亜梨沙だが

 それでも『名乗り』がそんなことを言い出したのだから

 亜梨沙に好意を持っていた門下生達は

 その日、お通夜のような状態だった。

 

 一部、やる気が出た連中も居たらしいが・・・。

 

亜梨沙「それで、兄さん。

    かなりうなされていましたが、大丈夫ですか?」

 

和也「・・・ああ。

   何だかスッキリしないが、何とかな」

 

 空から眩しい太陽の光が差し込んできて

 思わず顔を逸らす。

 

 それは、太陽が一番輝く季節である夏の

 それも、とても暑い日のことだった。

 

 なだらかな山の坂道を大きな荷台の馬車が

 ゆっくりと進んでいく。

 

和也「・・・ところで、何でこんなところに居るんだ?」

 

亜梨沙「そんな質問をするなんて

    本当に大丈夫ですか、兄さん?」

 

 心配そうに冷たい水を差し出す亜梨沙。

 

 それを受け取り、喉に流し込む。

 

 冷たい水の感触と共に

 頭の中が整理されていくような

 意識がハッキリしてくるような

 そんな感覚。

 

 ある程度、水を飲んだところで思い出す。

 

和也「・・・ああ、そういえば」

 

 何でこんなことを忘れていたのだろうと

 疑問に思いながらも

 そのまま馬車に揺られて、進むこと数時間。

 

 ようやく目的地が見えてくる。

 

和也「ああ、やっと見えてきたか」

 

 見えてきたといっても、まだはるか先ではあるが

 大きな鳥居が見えてくる。

 

亜梨沙「・・・なんだか帰ってきたって感じがしますね」

 

和也「まあ、本当に帰ってきている訳だし

   間違ってはいないよな」

 

亜梨沙「・・・兄さん。

    それは、言っちゃダメですよ」

 

 そう言いながら、何かを取り出す亜梨沙。

 

亜梨沙「さあ、兄さん。

    先にご飯を食べてしまいましょう」

 

和也「ああ、そうだなぁ」

 

 どうせ、あの鳥居までには

 あと一時間はかかるだろう。

 

亜梨沙「はい、あ~ん」

 

 途中の街で買った弁当から

 漬物を掴んで近づけてくる。

 

和也「・・・だから、一人でも食べられるって」

 

亜梨沙「ダメですよ、兄さん。

    私からでないと食べさせません」

 

 ここ数日・・・というか

 こうして移動中の数日間。

 

 亜梨沙は妙に高いテンションで

 やたらと絡んでくることが多かった。

 たしかに、ここ最近は

 2人きりになることは、そう多くなかったが・・・。

 

 仕方なく口をあけると、嬉しそうに

 漬物を口に入れてくる亜梨沙。

 

亜梨沙「はい、じゃあ次。

    これにしましょう」

 

 今度は、薄味の漬物を口に入れてくる。

 

亜梨沙「・・・う~ん。

    では、今度はこれです」

 

 そして次に酸っぱめの漬物を入れてくる。

 

亜梨沙「次は~・・・。

    この子にしましょう」

 

 そう言いながら白い漬物を箸で掴む亜梨沙。

 

和也「・・・漬物率、高くね?」

 

亜梨沙「やだな~、兄さん。

    気のせいですよぉ~」

 

和也「気のせいで

   口の中が漬物だらけにならねぇよ」

 

 バリバリと歯ごたえバッチリな漬物を噛み砕いていく。

 

 様々な味の漬物が混ざり合って、何とも言えない味になる。

 

 そんなやりとりをしながら食事を済ませると

 俺達は、ようやく巨大な鳥居の前に到着する。

 

 ここまで乗せてくれた馬車のおっさんに礼を言うと

 改めて鳥居の奥に続く長い道を見る。

 

 周囲に人気が一切無い山奥にも関わらず

 この場所だけ、綺麗に草木が整理され

 明らかに人の手が入っていくることが解る。

 

和也「ここも相変わらずだなぁ」

 

亜梨沙「そうですね。

    ・・・では、行きましょうか」

 

 そうして2人は、奥へと歩き出す。

 

 

 

 

 

 第◆▼章 к¢ж―――ё§Ω―――

 

 

 

 

 

 「理の外れを―――」

 

 『―――違い―――だけ―――』

 

 「―――修正を―――影響―――」

 

 『まだ―――絶望が―――』

 

 「―――認めず―――裁きを―――」

 

 『―――は――――――つもり―――』

 

 連結

 修正

 確認

 

?「簡単に割り込めると思わないで欲しいわ。

  だって、ここからが『反撃』ですもの。

 

  ・・・そうでしょう? 和也」

 

 

 

 

 

 第10章 風間の里

 

 

 

 

 

和也「―――」

 

 ふと周囲の景色が一瞬だけ歪んだように見えた。

 

 それは、とても見覚えがあるのだが

 同時にひどく気持ちが悪い風景で―――

 

亜梨沙「どうしたのですか、兄さん?」

 

和也「・・・いや、何でもない」

 

 旅の疲れでも出たか。

 そう自分に言い聞かせ、亜梨沙に追いつくために

 少し速めに歩く。

 

 しばらく歩いたところで大きな門のある

 1つの街に到着する。

 

門兵A「・・・あっ!

    お帰りなさいませっ!!」

 

門兵B「お久しぶりですっ!!」

 

 見知った門兵達が声をかけてくる。

 

亜梨沙「ええ、久しぶりです」

 

和也「久しぶりだな」

 

 彼らは昔、共に道場で汗を流した仲間だ。

 今でも定期的に道場に通っているらしい。

 

 門兵達と挨拶を交わしながら門を抜ける。

 少し古いと感じる昔ながらの街並みが広がり

 懐かしい気分にさせてくれる。

 

 そう、ここは人界。

 風間の里と呼ばれる山奥の街。

 

 俺が育った場所の1つであり

 亜梨沙の生まれ故郷だ。

 

 俺達は、学園の長い夏季休暇を利用して

 一度、風間の里に戻ってきていた。

 

 まあ出発前から、フィーネ達が付いてこようとして

 色々とゴタゴタがあったが・・・。

 

 最後には、捨てられた子犬のような瞳で

 見送る彼女達を何とか振り切って

 ようやくという感じではある。

 

 非常に精神力を削られた事件を思い出し

 感傷に浸っている間に、街の中心にある

 巨大な屋敷が見えてくる。

 

 その屋敷の正面入り口から入った瞬間だった。

 

?「どうした、どうしたっ!!

  気合が、根性が足りておらんぞぅ!!」

 

 屋敷中に響きそうなほど大きな声が

 聞こえてくる。

 

 その声を聞いて亜梨沙と顔を見合わせる。

 

和也「・・・ああ、大吾さんか」

亜梨沙「・・・ああ、根性の人ですね」

 

 2人で声を揃えて同じ人物を思い浮かべ

 

和也「まあ、とりあえず・・・」

 

亜梨沙「・・・面倒なのでスルーしましょう」

 

 そして同じ結論に至る。

 

 入り口横にある巨大な道場を避けるように

 一切無視して奥へと進む。

 

 そして敷地の奥に立つ、年季の入った平屋に入る。

 

亜梨沙「ただい―――」

 

 挨拶をしようとした亜梨沙だったが

 

?「お帰りなさい、亜梨沙ちゃんっ!!」

 

 突然飛び出してきた和服姿の女性に抱きつかれ

 身動きが取れなくなる。

 

亜梨沙「ちょ・・・ま」

 

 言葉を発しようもガッチリとホールドされており

 興奮気味に抱きついている女性は、離れる気配がない。

 

和也「・・・相変わらずですね、夏美さん」

 

夏美「あら、カズ君もお帰りなさい」

 

 この人は、風間 夏美さん。

 亜梨沙の母親だ。

 

和也「そろそろ離してやらないと

   亜梨沙が苦しそうですよ」

 

夏美「あら、いけない」

 

亜梨沙「はぁ・・・はぁ・・・」

 

 ようやく濃厚な抱きつきから開放された亜梨沙。

 ちなみに毎回このようなやりとりをしている。

 

夏美「長旅で疲れたでしょう?

   すぐにお茶を用意するわね」

 

 そういって、奥へと消えていく夏美さん。

 相変わらずだなぁと思いながらも居間へと移動する。

 

 居間に入ると見知った顔があった。

 机を挟んだ正面に座ると一礼する。

 

和也「只今、帰りました。

   お久しぶりです、早雲さん」

 

亜梨沙「お久しぶりです、お父様」

 

早雲「久しぶりだね、2人とも。

   元気だったかい?」

 

和也「おかげさまで、病気1つ無く―――」

 

亜梨沙「・・・ああ、もうダメ」

 

 せっかく形式的な挨拶をしていたのだが

 亜梨沙の奴が諦めて、その場で大の字に寝そべる。

 

早雲「ははは、そんなに疲れたのかい?」

 

和也「玄関で夏美さんにいつも通り抱きつかれてましたからね」

 

早雲「なるほど、それでか」

 

 事情を聞いて、更に笑う早雲さん。

 

 この人は、風間 早雲さん。

 俺の両親の親友だった人であり

 亜梨沙の父親。

 

 そして風間流の師範を長年勤める

 名実ともに風間家を代表する1人である。

 

 見た目通りの柔らかな雰囲気を持つ人で

 形式や習慣にも、そこまでうるさくない。

 

 一見すると、とても戦士には見えない優男なのだが

 師範を務めるだけの強さと信頼を持っている。

 

 俺も一応は、師範ではあるけど

 とてもではないが、この人と同格だとは思っていない。

 

夏美「あらあら。

   女の子が、そんなはしたない格好をして」

 

 お茶を持ってきた夏美さんに軽く注意されると

 亜梨沙は、渋々といった感じで起き上がる。

 

亜梨沙「じゃあこうしてます」

 

 そう言うと俺に抱きついて、もたれかかる。

 

和也「何でそうなるんだよ」

 

亜梨沙「いいじゃないですか。

    たまにはこういうのも」

 

 そんなにギュッと抱きつかれると

 亜梨沙の胸が押し当てられて、柔らかな感触と

 女の子特有というべきか、良い匂いが漂ってくる。

 

 色々とヤバイ状況だ。

 

夏美「本当に、亜梨沙はカズ君が大好きなのね」

 

亜梨沙「そ~ですよ~。

    もう、ずっとこのままでもいいですよ~」

 

 完全にやる気が無くなっている亜梨沙。

 まあ、ここまでダメ人間な感じになるのは

 実家特有なので、そこまで注意することでもないのだが。

 

早雲「そういえば、当主様が

   和也君が帰ってきたら

   部屋に来るようにって言っていたよ」

 

和也「あのクソ爺、まだ生きていやがったか。

  (御当主様も、お元気なのですね)」

 

亜梨沙「兄さん、本音と建前が逆ですよ」

 

早雲「ははは、相変わらず当主様が嫌いかい?」

 

和也「あの強引なやり方さえなければ

   少しは、まともに相手することも考えますけどね」

 

早雲「確かに、少し強引だと感じる部分もあるが

   それもあの方の魅力だと思えば、そう悪いことでもないだろう?」

 

和也「そう思えるのは、早雲さんぐらいですよ」

 

 出されたお茶をゆっくりと飲む。

 相変わらず夏美さんが入れたお茶は、美味い。

 

 今のやりとりでも解るように

 早雲さんは、夏美さんと結婚して風間の一員となった人だ。

 

 2人は、昔からの幼馴染だったらしい。

 

和也「―――」

 

 ふと、嫌な気配を感じて立ち上がる。

 

夏美「あら、どうしたの?」

 

和也「・・・ちょっとトイレへ」

 

 そう言って部屋を出てトイレとは逆方向へと歩き出す。

 

夏美「・・・せめてトイレの方向に行って欲しいわ」

 

 明らかな嘘に、夏美さんは子供のように頬を膨らませる。

 

早雲「まあまあ、夏美さん。

   和也君の当主様嫌いは、今に始まったことじゃないでしょう?」

 

 その言葉を聞いて、亜梨沙は

 身なりを整えて正座する。

 

亜梨沙「・・・1人で逃げるなんて」

 

 亜梨沙が、そう愚痴を言おうとした時だった。

 

 居間に1人の老人が現れる。

 

源五郎「おお、亜梨沙か。

    久しぶりじゃな」

 

亜梨沙「お爺様も、お元気そうでなによりです」

 

 綺麗に一礼する亜梨沙を見て、満足そうに頷くと

 周囲を見渡す。

 

源五郎「・・・和也は、どうした?」

 

早雲「いつも通り、というところですよ」

 

源五郎「・・・まったく。

    その才能をもっと違うところで使えというのだ」

 

 大きなため息をつく。

 

 彼は、風間 源五郎。

 風間の現当主にして、風間流最高師範。

 現在の人界を統べる権力者でもある。

 

源五郎「夏美、ワシにも茶をくれ」

 

夏美「もう、お父様ったら」

 

 苦笑しながらも、お茶を用意するために

 一度、居間から出る夏美。

 

早雲「・・・しかし、和也君。

   また一段と成長しているようでしたよ」

 

 ふと、呟くように言った一言に

 源五郎は、食いついた。

 

源五郎「ほう。

    あ奴、また成長したのか」

 

早雲「ええ。

   当主様の気配も、私より先に気づいたみたいです。

 

   ・・・少し、自信を無くしてしまいそうですよ」

 

源五郎「お前が、そんなことを気にするとはな」

 

早雲「私とて『師範』ですから」

 

源五郎「はっはっは。

    確かに、確かに」

 

 笑いあう2人の話を聞きながら亜梨沙は思う。

 

 やはりあの人は、別格なのだと。

 自分は、お爺様の気配なんてまったく感じなかった。

 お爺様の気配に気づけるのは、お父様とあの人ぐらいだ。

 

 それにお爺様以外に負けたことが無いお父様が

 あの人のことだけは、今のように意識している。

 

亜梨沙「(私は、本当にあの人に追いつけたのかな・・・)」

 

 ふと、そんな疑問を感じる。

 同じ師範代になった時、追いついたと思っていた背中は

 いつの間にか、また遠くなってしまったように感じる。

 

亜梨沙「(いつの間にか『師範』ですからね)」

 

 そんなことを思いながら飲んだお茶は

 いつもより少し苦く感じた。

 

 

 その頃、山道を歩いていた和也は

 ようやく目的地にたどり着く。

 

 街から少し離れた場所にあるそこは

 かつて集落があったことを思わせる

 瓦礫が大量にあった。

 

 燃えて炭になった柱なども

 風化しながらも、当時のまま残っている。 

 

 その瓦礫の中にある草むらだらけになっている道を

 適当に草刈りしながら進むと、目的のものを見つける。

 

和也「ただいま、父さん、母さん」

 

 そこには、石が積まれただけの小さな墓。

 

 挨拶を済ませると、周囲の雑草を刈り取り

 石も磨いて綺麗にする。

 

 全てを終えて、ふと良い風が吹いていることに気づくと

 ゆっくり空を見上げる。

 

 空は、すっかり夕日に染まっていた。

 

和也「・・・そろそろ帰るか」

 

 あのクソ爺も、そろそろ諦めただろう。

 そんなことを考えながら風間の里へと帰る。

 

 里に着いたときには、すっかり夜になっていた。

 

 少し早足で、風間家の門を抜けると

 

?「おお、そこに居るのは

  もしかして和也か?」

 

 少し大きめの声に呼び止められる。

 

和也「・・・お久しぶりです、皆さん」

 

 声を聞いて、スグに大吾さんだと気づいたが

 振り向いてみると、そこには何人もの姿が。

 

大吾「久しぶりだな、和也」

 

善影「久しぶりだね、和也くん」

 

春華「あら、久しぶりじゃないっ♪」

 

忠「帰ってきていたのか、和也」

 

 彼らは、全員風間の中でも師範代と呼ばれる人達。

 

 声も大きく大柄な人は、近藤 大吾(こんどう だいご)

 

 長身で少し細身な人は、加藤 善影(かとう よしかげ)

 

 長い髪をした少し若め女性は、西宮 春華(にしのみや はるか)

 

 小柄ながらも渋い顔が印象的な人は、山本 忠(やまもと ただし)

 

 この4人は、風間の里に住居があるため

 風間の里と周辺の街の門下生達は

 4人が面倒を見ていると言える状態だ。

 

 早雲さんやクソ爺は

 名乗り以上や師範代ぐらいの上位連中の相手を

 基本的にしているため、それ以下は

 師範代から教わることが一般的になっている。

 

 久しぶりだとか懐かしいだとか言いながらも

 スグに周囲を取り囲まれ、道場の中へと

 連行されてしまう。

 

 道場内は、練習終わりの門下生達が大勢おり

 皆、口々に挨拶をしてくれる。

 

 一連の挨拶攻撃がようやく終了すると

 忠さんが木刀を投げてくる。

 

忠「さて、どれほど腕を上げたか

  見せてもらおうか」

 

善影「何だ、忠。

   去年負けたのが、そんなに気に入らないのか?」

 

忠「去年のことは関係ないさ。

  純粋に、どれだけ強くなったのか知りたいだけだ」

 

大吾「はっはっは。

   そう言いながら、しっかり勝つつもりだろう?」

 

春華「まったく、これだから男共は。

   和也だって長旅で疲れてるよね?」

 

 そう言いながらギュッと俺を抱きしめ離れてくれない春華さん。

 昔から、お姉さん的な感じで面倒を見てくれた人であるが

 この抱きつき癖というか、常に抱きついてくるのが困る。

 

 おかげで亜梨沙と、よく一緒になって抱きつかれ

 周囲の男共に嫉妬という名の殺気を向けられて、苦労したものだ。

 

 そして少し年上のお姉さん的な女性に抱きつかれて

 反応しない男は普通、居ないだろう。

 

 思春期の男にとって、まさに拷問だった。

 まあ、おかげでフィーネ達に抱きつかれても

 色々と我慢出来ているのだが・・・。

 

忠「春華は、さっさと和也を離せ。

  勝負が出来ないだろう」

 

春華「あら、私にそんな口聞いていいのかしら?」

 

忠「な、何だよ」

 

春華「先月だったかしら。

   月見堂の看板―――」

 

忠「ちょっ!

  何でお前っ!?」

 

善影「お、何だ。

   気になるじゃないか」

 

忠「気にしなくていいんだよっ!!

  というか春華っ!!

 

  何でお前・・・」

 

春華「私、あそこの常連だからねぇ」

 

 月見堂というのは、この街にある

 人界でも有名な甘味処だ。

 

 月見堂のために何時間もかけて

 この里に来る人も居るほどで

 特に女性に大変人気な店である。

 

善影「話が途中だと気になるじゃないか。

   構わん、春華。

 

   話を続けろ」

 

忠「待て待て待てっ!!

 

  勝手に話を―――」

 

 こちらに詰め寄ってこようとした忠さんだったが

 

大吾「ワシも気になる。

   というわけで忠は、大人しくしておけ」

 

 大吾さんという大柄な筋肉に捕まり

 あっという間に身動きが取れなくなる。

 

春華「月見堂の看板娘の―――」

 

忠「むぐぅっ!!」

 

 口まで抑えられ、話を止められない忠さんは

 それでも懸命にもがく。

 

 しかし大柄で力もある大吾さんを振り解くことは

 不可能であり、この時点で既に絶望的な状態である。

 

 結果として、門下生達もいる道場内で

 盛大な忠さんの失恋話が始まる。

 

 そして・・・。

 

忠「・・・」

 

 精神力をガリガリと削られた忠さんの

 燃え尽きた姿だけが残った。

 

 他人事ではあったが、これはひどい罰ゲームである。

 

善影「はっはっは。

   その顔は、確かに『おじさん』だな」

 

大吾「でもまあ、本格的に声をかける前でよかったじゃないか」

 

春華「そうよねぇ。

   これが本気で口説く前だったから、まだ笑い話で済んでるのよ」

 

 要約すると、月見堂に看板娘と呼ばれる可愛い娘が居るらしい。

 その娘に好意がある忠さんが頑張って声をかけたらしいが

 『おじさん』扱いを受けたとのこと。

 その予期せぬカウンターにやられて、口説く前に

 精神的ダメージで撤退したらしい。

 

 渋い顔をしてはいるが、忠さんは、春華さんや善影さんと同じく

 まだ20代と若いのだ。

 しかしその顔のせいで、よく+10歳以上勘違いされることがある。

 

 門下生達は、それぞれに反応しているが

 大半は、笑っている。

 残りも『俺もその娘を狙ってる』という連中ばかりなので

 何か攻略のヒントがないかと聞き耳を立てているという感じだ。

 

春華「まあ、声をかけたいなら

   私に言えばよかったのに。

 

   紹介ぐらいならしてあげたわよ」

 

忠「ほ、本当かっ!?」

 

 一部の門下生達も、一斉に中腰で前のめりになる。

 

春華「だって、もうあの娘とは友達だもの」

 

忠「な、ならぜひっ!!」

 

春華「う~ん。

   ど~しよっかなぁ~?」

 

忠「・・・月見堂の抹茶パフェ」

 

春華「・・・サイズ大なら」

 

忠「・・・仕方ない、それで手を打とう」

 

 こうして、謎の取引が行われた。

 

夏美「あらあら、何だか今日は賑やかね」

 

 道場の入り口から現れたのは、夏見さん。

 道場の横では、庭に運び込まれる大量の鍋。

 

夏美「あら、カズ君。

   道場に居たのね。

 

   お父様が探してらっしゃったわよ」

 

 『困った子ね』とでも言いたげな感じで

 苦笑している夏美さん。

 

和也「あのクソ爺。

   まだ諦めてなかったのか」

 

春華「和也の最高師範嫌いも

   相変わらずなのね。

 

   大丈夫よ。

   お姉ちゃんは、和也の味方だから」

 

善影「相変わらずの言い方だな。

   俺達じゃ、恐れ多くてそんなこと言えないぜ」

 

忠「まったくだ。

  そんなこと言おうものなら

  命がいくつあっても足りないところだ」

 

大吾「まあ、若さというものは

   そういう無鉄砲さでもあるからな。

 

   善影なんぞ、子供のころから―――」

 

善影「ちょっと大吾さん。

   どうして俺の話になってるんですかっ!」

 

夏美「はいはい。

   話は、別に食べながらで構わないから

   全員ちゃんと受け取ってからにしてね」

 

 やんわりと釘を刺す夏美さんに

 皆が庭に出る。

 

 庭では、既に多くの門下生が夕食を受け取り

 食べているところだった。

 

 風間では、はるか昔から

 一族や門下生達を養うために

 食事を提供するという習慣がある。

 

 人間、食事さえ何とかなれば

 剣を握っていられるものだ。

 

 そうして剣を磨き、戦場で活躍して出世し

 金も権力も手にした者達が

 風間への恩を返すために色々と援助する。

 

 それが繰り返された結果、今の風間の繁栄がある。

 

 クソ爺の顔を見ながら食事をする気になれない俺は

 そのまま門下生達との食事に混ざる。

 

 料理を受け取り、縁側に座った時

 隣に当たり前のように座る気配が一つ。

 

亜梨沙「どうしてこっちで食事をしてるんですか?」

 

和也「そういう亜梨沙だって、料理持ってるじゃないか」

 

亜梨沙「兄さんの妹ですからね。

    兄さんがやりそうなことは、解ります」

 

和也「・・・そっか」

 

 それ以上は、何も言わずに料理を食べる。

 ・・・それは、とても懐かしい味だった。

 

 途中、大吾さん達に亜梨沙も見つかり

 みんなの輪の中へと引っ張っていかれた。

 

 そしてみんなが笑いながら食事を楽しんでいた。

 それを見ながら考える。

 何時までもクソ爺を避けている訳にもいかない。

 

 どのタイミングで攻撃を仕掛け・・・

 

 ・・・どのタイミングで倒し―――

 

 えっと、アレだ。

 挨拶。

 そう、挨拶をするかだ。

 

和也「めんどくさいなぁ」

 

 夜空の月に向かって、小さく呟く。

 

 しかし和也の悩みなど関係なく

 月は綺麗に輝いていた。

 

 

 

 

 

 第10章 風間の里 ~完~

 

 

 

 

 




まず、ここまで読んで頂きありがとうございます。

人界:亜梨沙編のスタートとなります。

本来原作は4部作であり、この4択目から最終に向かう
話になっていましたが、このAnother Storyでは
更に個別編を1つ追加するという茨の道に
自分から突入しました(笑)

仕事や私用の関係上、投稿がペース通りに
ならないことも多々ありますが
よろしければ、次話も気長にお待ち頂けると幸いです。


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第11章 通り魔事件

 

 

 

 外は、まだ薄暗く静かな早朝。

 

 まだ朝日すら出ていない時間に

 

 鳴り響く音。

 響く掛け声。

 

 それらは、当たり前のように周囲の景色に溶け込んでいた。

 

和也「次っ!!

   片手切り返し100本っ!!」

 

門下生「おぅっ!!」

 

 彼らは、元気な声と共に片手で木刀を切り返す。

 

 風間の朝訓練に付き合うことになった俺は

 何故か・・・というか面倒なことに

 門下生の相手をすることになってしまった。

 

 本来、彼らの相手をする4人だが

 

 大吾さんは、自主鍛錬と称して山へ勝手に向かい

 忠さんと春華さんは昨日、善影さんと飲み歩いたそうで

 二日酔いのため家で倒れており

 その善影さんも、ここまで来たのはいいが

 やはり二日酔いで無理だと言い、奥の部屋で倒れていた。

 

 早雲さんも、クソ爺と用事があるらしく

 昨日の夜遅くに2人揃って出て行った。

 

 結果、彼らの面倒を見れるのは

 俺と亜梨沙の2人だけ。

 

 そして亜梨沙の奴は、珍しくというか

 長旅の疲れでも出たのか、絶賛夢の中なので

 もう俺しかいない。

 

 門下生達は、4人に関しては

 よくあることだと苦笑していた。

 今後のことも考えて、早雲さんかクソ爺を使って

 あの4人を一度、色んな意味で鍛え直す必要がありそうだ。

 

 そんなことを考えていると

 切り返しが100回目になる。

 

和也「次っ!!

   逆の手に持ち替えて、もう100本っ!!」

 

門下生「おぅっ!!」

 

 利き手とは逆側で切り返しを行う門下生達。

 

 利き手を負傷したから負けましたでは、笑い話にもならない。

 そのため両手ともそれなりに使えるようにというのが

 風間の伝統だ。

 

 そのためか、風間は二刀使いも多い。

 爺や早雲さんは、どちらも実は二刀使う。

 

 亜梨沙の奴は「1本でも手に余る」と言って

 基本的に1本しか使わない。

 

 まあその意見には俺も同意しているため

 俺も基本は、1本しか使っていない。

 

 そして武器も剣だけという訳ではない。

 どんな武器でも使いこなせなければならないという教えを

 昔から守っており、様々な武器を扱うこともある。

 

 これは儀式兵装が誕生する以前の話らしい。

 戦場で武器を選んでいる暇などないということだろう。

 それに、様々な武器を扱うことで

 その武器の長所や短所も解るため、地味に良い教えだと思っている。

 

 そうしている間に

 切り返しがまた100回目になる。

 

和也「次っ!!

   魔法制御っ!!

   儀式兵装装備っ!!」

 

門下生「おぅっ!!」

 

 返事と共に儀式兵装を手にする門下生達。

 

 俺は、完全に無縁だが儀式兵装を持つ以上

 魔法が扱えなければ話にならない。

 

 そもそも儀式兵装を開発した人族だが

 魔法との相性は、竜族の次に低い。

 

 翼のような魔力増幅を持っている訳でもなく

 魔力量が多い訳でもない。

 なら低い適正を補うには、もう制御技術しかない。

 

 人族の中には、極稀にその血に

 魔力を増幅する役割を持った【人族版、魔王の血族】とも言うべき

 特殊な能力を持って生まれる者が居る。

 まあ本当に、極稀にしか生まれないので

 一生に一度、出会えるかどうかとまで言われているほど希少な存在だ。

 

 などと考えながらも、一人一人をチェックして回る。

 

和也「・・・アンタは、手元以外の魔力の流れが雑すぎる。

   もう少し自分よりも遠くの魔力も制御出来ないと

   強化系しか使えなくなるぞ」

 

門下生「は、はいっ!」

 

 指摘した門下生は、制御を少し遠くまで意識したようで

 流れがそれなりにマシになっている。

 

和也「・・・アンタは、収束にムラがありすぎる。

   これだと集めた量の半分ぐらいしか威力が出せないぞ」

 

門下生「う、うすっ!」

 

 指摘され、魔力の密度を均一にしようとする。

 だがその分、範囲が狭まってくる。

 それが気になるのか、再度力を込めようとする門下生。

 

和也「・・・いや、そのままでいい。

   アンタの元々の制御だと、それぐらいが本来なんだよ。

 

   今までのは、それを薄く引き伸ばしていただけの話だ。

   ちゃんとした密度になれば、まあそれぐらいになるよ」

 

門下生「そ、そうだったのですか。

    ありがとうございますっ!」

 

 頭を下げる門下生に手を振りながら

 他の連中にも声をかけて回る。

 

 彼らには「魔法が使えなくても肌で感じられる」と

 カッコイイ台詞で誤魔化しているが

 実は、魔眼で見ていたりする。

 

 魔眼の方が確実に魔力の流れが見えるため

 的確なアドバイスがしやすかったりするためだ。

 

 周囲の明るさに気づけば、もう朝日が昇っていた。

 そして遠くから聞こえてくる音と匂い。

 

和也「・・・よし、全員止めっ!!

 

   本日の朝訓練は、ここまでっ!!

   あとは飯の準備だっ!

   場所を開けて鍋を運べっ!!」

 

 そう言った瞬間に、夏美さんと女性達が

 朝の食事を持ってくる。

 

夏美「あら、丁度良いタイミングだったみたいね」

 

和也「そうですね。

   今、終わったところですよ」

 

夏美「でも、カズ君が朝の訓練に付き合うなんて珍しいわね」

 

和也「本来ここに居るはずの師範代って方々が、全員居ないですからねぇ」

 

夏美「ふふっ、確かにそうね」

 

 夏美さんは、俺に朝食を渡すと

 微笑みながら食事の配給へと戻る。

 

 俺は、渡された食事を食べながら考える。

 

和也「そういや、あんな遅くに出たってことは

   それなりに重要な話だったはずだ。

 

   何だか嫌な予感がするなぁ・・・」

 

 

 

 

 

 第11章 通り魔事件

 

 

 

 

 

早雲「いや、わざわざ済まなかったね和也くん」

 

和也「いえ、まあ別に構いませんが・・・」

 

忠「・・・面目ない」

 

 その日の朝、帰ってきた早雲さんは

 スグに俺と忠さんを呼んだ。

 

 どこから聞いたのか、スグに朝訓練の話になる。

 忠さんからすれば、居心地の悪い話だろう。

 

早雲「まあ別に、そのことで呼んだ訳じゃないのだけどね」

 

 苦笑しながらも話を続ける早雲さん。

 

早雲「2人は、深見の街に行ったことはあるかい?」

 

和也「昔、亜梨沙と何度か行ったことがあります」

 

忠「私も、数年前ですが指導で何度か行ってますね」

 

 深見の街は、海沿いの大きな港街だ。

 風間の里に届く品物は、ほとんどがこの港街から

 運ばれてくる。

 

 周辺の街と比べても賑わっている街と言える。

 

早雲「それなら早い。

   実は、2人にはその深見に行って貰いたいんだよ」

 

忠「私と・・・和也でですか?」

 

早雲「実は、深見で通り魔事件が多発しているらしい」

 

和也「通り魔・・・」

 

早雲「人を襲って殺しているそうだ。

   既に何人も犠牲になっている。

 

   うちの門下生にも被害が出ていてね」

 

忠「それで、うちが乗り出すことに?」

 

早雲「それもあるんだけどね。

   どうも相手は相当面倒な相手みたいでね。

 

   あそこの兵士達では、正直相手にならない」

 

和也「周辺だと、確かにここから人を出す方が早い・・・か」

 

早雲「それにね、どうも目撃者の話では

   『境界』を超えて移動しているみたいなんだよ」

 

忠「・・・それはっ!?」

 

 『境界』とは、人界や魔界といった

 それぞれの世界の境界線のことだ。

 

 これを何の許可も無く超えた場合は

 相手側に即殺されても何の文句も言えない。

 

 もし部隊単位で超えようものなら

 侵略と判断され、戦争となるだろう。

 

和也「仮に『境界』を超えている相手となると

   問題は、更にややこしくなる。

 

   だから俺達で確認しろってことですよね」

 

早雲「簡単に言ってしまえば、その通りだね。

   それに、返り討ちになるような腕の人間を送る訳にもいかない。

 

   そして私や当主様が動いては、向こうを警戒させてしまうかも

   しれないからね」

 

和也「・・・つまり、裏を取れってことですね」

 

早雲「・・・さすがだね」

 

忠「どういうことだ、和也?」

 

和也「何の支援も無しに『境界』を超える馬鹿ならいいけど

   普通なら、そんなことはないって話ですよ」

 

忠「・・・なるほど。

  舞台を描いた脚本家を探す訳だな」

 

和也「ついでを言えば、興行主もってところですか」

 

早雲「あっちもあっちで色々とあるみたいだから

   あまり向こうを刺激したくはない。

 

   でも、こちらにもこちらの事情がある。

   2人には、それを踏まえた上で動いて欲しい」

 

忠「はい、わかりました」

 

 そして少しの準備時間を経て・・・主に忠さんが

 二日酔いの薬を飲んでまともに動けるようになってから出発する。

 

忠「そういえば、和也と2人っていうのは

  はじめてか?」

 

和也「こういう機会は、初めてですね」

 

忠「何だか、新鮮でいいな。

 

  ・・・そういえば、出発前に道場が騒がしかったが

  何かあったのか?」

 

和也「・・・ああ、アレですか」

 

 俺達の出発前に山から帰ってきた大吾さんが

 早雲さんに捕まっていた。

 

 俺からの苦情もあるが

 どうやら最初は、大吾さんと忠さんに

 今回の件を任せる予定だったらしく

 門下生の訓練を放置していたこともまとめて

 道場で、シゴきに遭っていた。

 

 早雲さんも何気に厳しい時は厳しい。

 

 全力で戦う大吾さんが何も出来ず

 早雲さんの練習台のように、一方的にやられ続ける。

 その一方的なシゴきに、門下生達は

 改めて、師範代と師範の差を認識していたらしい。

 

和也「俺が出る時に、残りの2人も呼ばれてたので

   たぶん、同じようなことになってると思いますよ」

 

忠「・・・危なかった」

 

 忠さんは、心の底から安心したという表情をしていた。

 

和也「そう思うなら、せめて朝の練習に出れるぐらいの

   体力を残しておいて下さいよ」

 

忠「和也、それはもっともではあるが

  男には、戦わなければならない時だってあるんだぞ」

 

和也「・・・それで潰れちゃ意味ないでしょうに」

 

 そんな話をしながら、途中で手配しておいた馬車に乗り

 深見の街へと向かうのだった。

 

 

 そのころ、風間の里―――

 

亜梨沙「・・・どうして起こしてくれなかったんですか」

 

夏美「疲れてるだろうと思ったのよ」

 

亜梨沙「兄さんが深見まで使いで出るなんて聞いてません」

 

夏美「それは、お父様達が決めたことだから

   私に言われても困るわ」

 

亜梨沙「深見なら、デートになったのに・・・」

 

 超不機嫌だという顔で朝食を食べる亜梨沙。

 それを涼しい顔で受け流す夏美。

 

源五郎「何か問題でもあったか、亜梨沙よ」

 

亜梨沙「いえ、別に」

 

 突然、居間に入ってきた源五郎に

 亜梨沙は不機嫌そうな声で返事する。

 

源五郎「そんな声じゃ、不満があると

    言っておるようなものじゃないか」

 

亜梨沙「じゃあ、不満があります」

 

夏美「もう、亜梨沙ったら・・・」

 

源五郎「和也、和也と

    そんなに奴がいいのか」

 

亜梨沙「実力的にも人柄的にも

    何か問題でもありますか?」

 

源五郎「いや、問題なんぞありゃせんよ。

    むしろ、和也とくっついてくれる方が

    風間の家にとっても有益じゃ」

 

亜梨沙「さすがお爺様。

    わかっていらっしゃる」

 

夏美「そういう反応だけは早いんだから・・・」

 

源五郎「そう、和也に関しては

    今のところ問題ない。

 

    順調に強くなっておるからな。

    問題なのは、お前じゃ」

 

亜梨沙「・・・私、ですか」

 

源五郎「それなりに強くなっておるのは

    手合わせせんでも解る。

 

    じゃが、お前の力は

    その程度では無いはずじゃ。

    お前もまた、和也に次ぐ才能を持っておるのじゃからな」

 

亜梨沙「あの人の才能と比べ―――」

 

早雲「そういう考えが、いけないとは思わないかい?」

 

 居間に入りながら会話に参加する早雲。

 

源五郎「基礎だけで10年はかかるとされる我々の流派で

    お前は、既に師範代としてやっていけるだけの実力となった。

 

    それだけでも十分、才能があると思うのじゃがな」

 

亜梨沙「確かにそうですが・・・」

 

 風間に入門して10年近くになるが

 その時点で既に師範代というのは

 歴代でも数えるほどである。

 

 善影や春華達のような才能ある若い現師範代ですら

 15年以上経って、ようやく師範代となれた。

 

 一桁の年月で師範代になった亜梨沙は

 間違いなく天才なのだ。

 

早雲「確かに、和也君の才能は恐ろしいものがある。

   一度見た技は、もうほとんど当たらなくなるし

   技自体をコピーすることも出来るからね。

 

   でも、亜梨沙がそれを意識する必要はない」

 

源五郎「あんな化け物と比べれば

    どんな奴でも見劣りしてしまうじゃろ。

 

    それに別にお前は、あ奴と同じになりたい訳ではなかろう?」

 

亜梨沙「・・・」

 

源五郎「お前には、お前が目指すべき場所がある。

    お前が和也と同じ場所を目指しても無意味じゃ」

 

早雲「純粋な剣術や体術では、どうやっても和也君には勝てない。

   でもそんな和也君でも苦手なものはある」

 

亜梨沙「魔法・・・ですか」

 

早雲「そう、魔法。

   魔法を合わせた力。

 

   和也君は、ちょっと特殊だけど

   本来は、魔法を組み合わせた戦いこそが

   この世界での標準だからね」

 

源五郎「さよう。

    お前は、剣術や体術といった

    和也と同じ場所で張り合おうとしすぎておる。

 

    お前には、魔法という才能が

    和也には無い、お前だけの才能があるはずじゃ。

 

    ・・・それは、何よりお前自身が解っていることじゃろう?」

 

亜梨沙「・・・」

 

 そう、それは何より彼女自身が解っていることだ。

 彼女は、人族でありながら

 魔法の適正値が異常に高いのだ。

 それは、彼女だけが持つ力。

 

早雲「本当に和也君に追いつきたいのなら

   和也君の隣に立っていたいと思うのなら

 

   ・・・亜梨沙は、亜梨沙の道で『武』を極めなければね」

 

 そう言って目の前のお茶を飲むと

 居間から出て行こうとする早雲。

 

源五郎「おや、どうした?」

 

早雲「いえ、そろそろ善影君と春華君が

   動けるようになると思いますので

   ちょっと『鍛えなおそう』かと」

 

 笑顔でそう言うと居間を出て行く早雲。

 

源五郎「まあ、あ奴らも一度まとめて

    相手しようと思っておったし、丁度良いか」

 

亜梨沙「・・・私は」

 

源五郎「・・・ふむ。

    なら、せっかくじゃ。

 

    しばらく、お前の相手をワシがしよう」

 

亜梨沙「お爺様が・・・ですかっ!?」

 

 源五郎は、早雲と和也以外とは

 手合わせを基本的にしない。

 

 大吾達ですら、年に1回あるかどうかだ。

 亜梨沙に関しては、一度も相手したことはない。

 

源五郎「ワシも、もうそろそろ歳じゃからな。

    次代を育てることも悪くなかろう」

 

 源五郎は、お茶を飲むと

 すっと立ち上がる。

 

源五郎「準備が出来たら『剣技の間』に来るといい」

 

 そう言うと、居間を出て行った。

 

亜梨沙「剣技の間・・・」 

 

 剣技の間とは、風間家の奥にひっそりと立つ

 少し小さめの道場のことだ。

 

 ここは普段から一般の門下生どころか

 師範代ですら立ち入り禁止とされている神聖な場所。

 

 年に2回の大掃除の時でしか入ったことはない。

 しかもここの掃除が出来るのは、名乗り以上だけという

 決まりになっている。

 

 この場所を使えるのは

 師範以上だけであり、過去に何度もこの場所で

 師範達による真剣勝負の場となったり

 奥義の伝授が行われたそうだ。

 

 まさに風間の歴史が詰まった場所。

 

 そしてこの日から、亜梨沙は連日

 源五郎と、この剣技の間で特訓を行うことになる。

 

 

 そんなことになっているとは知らない和也と忠は

 長時間、馬車に揺られて

 ようやく目的地である深見の街に到着する。

 

忠「いつ来ても、ここは賑やかだな」

 

和也「まあ、うちは山奥ですからね」

 

忠「とりあえず、ここの道場に挨拶するか」

 

和也「ですね」

 

 この街の外れにある道場を目指し、2人は歩き出す。

 

 しばらく進むと、見えてくる大きな道場。

 

忠「邪魔するぞ~」

 

 さも自分の家のように入っていく忠。

 

和也「・・・もうちょっと挨拶とか無いんですか」

 

 中に居た門下生達は、忠に気づくと

 練習を中断して集まってくる。

 

?「急な訪問とは、何かありましたか?」

 

 初めに声をかけてきたのは、少し細身の男。

 何だか少し疲れているような表情にも見える。

 

忠「ああ、ちょっとした用事で近くにきたついでだ。

 

  ・・・和也。

  この人が、この道場の主の

 『田中 一太夫(いちだゆう)』さんだ」

 

 深見に来る道中で、一応話しは聞いていた。

 

 大きい街だが、名乗り以上がおらず

 一番年長の、この田中という人が道場を見ているのだと。

 

和也「和也といいます。

 

   山本師範代の付き人をしています。

   よろしくお願いします」

 

忠「おい、いきなり何を―――」

 

 声を上げそうになる忠さんを抑えて

 小声で話しかける。

 

和也「どこの誰が見ているか、解らないんですから

   俺の身分は、偽った方がいいでしょ」

 

忠「何で、お前なんだよ。

  偽るなら俺の方が―――」

 

和也「忠さんは、ここに何度か師範代として来てるんですから

   意味無いじゃないですか。

 

   俺は、外に教えに出たことはないですし

   何より学園に行っていたから、存在も風間の里以外じゃ

   そんなに知られてないですからね」

 

 和也は、たしかに師範であるが

 それをいちいち全門下生に報告して回っている訳ではない。

 

 ある程度の役職者が知っていればいいだけの話なので

 実は、和也が師範だということは

 風間の里以外の風間の人間は、殆ど知らなかったりする。

 

一太夫「あの~。

    何かありましたか?」

 

 ひそひそと会話しているこちらを気にして

 声をかけてくる一太夫。

 

和也「何もないですよ、ええ。

 

   ね、山本師範代?」

 

忠「あ、ああ。

  問題ない」

 

 面倒ごとを押し付けやがってという忠の目線を

 涼しい顔で無視する和也。

 

忠「せっかく近くに来たのだから

  練習を見てやろうと思ってな」

 

 その言葉に門下生達は、声をあげる。

 なかなか師範代クラスに指導して貰える機会がないためか

 皆、気合が入ったようだ。

 

 もう少し、こういう大きな街には

 最低限、名乗りぐらいは置いておけるように

 してはやりたいのだが、なかなかそう上手くいかないのが

 世の中ではある。

 

 せっかくなので忠さんの指導を受ける連中の中に混ざって

 訓練をやってみる。

 

 思いっきりワザと素人丸出しの動きをして遊んでいると

 忠さんの何か言いたげなジト目が、こちらを見ているが

 気づかない振りをして見なかったことにする。

 

 そんな道場の外では

 何事も無く賑わう深見の街。

 

 まるで通り魔事件など無かったかのように

 人通りが絶えない。

 

 その街を遠くから見る人影が1つ。

 

?「まさか、こんなところまで来ることになるなんて・・・」

 

 面倒なことになったと、ため息をつく。

 

?「こちらに逆らうだけに飽き足らず

  独自行動・・・しかも勝手な『境界超え』とは

  単に殺すだけじゃ、気が済みません」

 

 長く伸びた紅髪が風に靡く。

 その髪を軽く手で払うようにして整える。

 

?「さて、いつも通り

  さっさと殺してしまいますかっ☆」

 

 そう言うと人影は、音も無く消えた。

 

 

 

 

 

 第11章 通り魔事件 ~完~

 

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

ちょっと今後の展開を含めて
色々と悩んでいたのと仕事が相変わらず忙しいため
かなり更新が遅れてしまい、申し訳ありません。

まあ、違う作品の投稿もしてたら
余計にですけどね・・・。
あっちは、まあ息抜きのつもりでやっていく予定です。

詰みゲーを消化してる暇が無いので
連休が欲しいところですが
とりあえず失踪しない程度には頑張りますので
今後もよろしくお願いします。


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第12章 紅色の月

 

 

 

 その日は、雲1つ無い空に月が輝いていた。

 

 虫の鳴き声だけが聞こえる街の外。

 

 しかし、その静寂を悲鳴が切り裂く。

 

?「ぎゃぁぁぁぁっ!!」

 

 断末魔と共に倒れる男。

 

?「へへっ、逃げ切れると思ってる時点で

  甘いんだよ」

 

 既に死んでいる男に対して、そう言葉をかける人影。

 

?「ちっ、先を越されちまったか」

 

?「くそっ。

  今回は、お前の勝ちかよ・・・」

 

 少しして、数人の人影が集まると

 何やら小さな袋をやり取りする。

 

?「よし、これで今までの出費を取り戻したぜ」

 

?「俺は、これで赤字じゃないか」

 

?「次は、俺が頂くから覚悟してな」

 

?「あ・・・あのぅ・・・」

 

 盛り上がる彼らから少し離れた位置に居た人影が

 申し訳無さそうに声を出す。

 

?「ああっ!?

  何か文句でもあるのかよっ!」

 

?「い、いえっ!

  そ・・・そう、言う、訳・・・では」

 

?「だったら何なんだよ」

 

?「こ、これ以上は・・・その・・・。

  あまり、派手に動かない方が・・・その・・・」

 

?「俺達に指図しようってのかっ!?」

 

?「いえいえっ!!

  滅相もないっ!!」

 

?「だったら、何なんだよ」

 

?「か、風間の里から今回の事件に対して

  その・・調査が入りまして・・・」

 

?「それがどうしたってんだよ」

 

?「そ、その。

  調査に来たのが・・・風間の・・・その。

  師範代・・・でして・・・」

 

?「師範代?

  何だそりゃ?」

 

?「俺は聞いたことがあるぜ。

  何でも人界で『風間』とかいう集団がいて

  相当強いとか。

  中でもその師範代とかいうのが、強いらしい」

 

?「え、ええ。

  で、ですから、これ以上は騒がない方が―――」

 

?「ほぅ。

  面白いじゃないか」

 

?「へ?」

 

?「雑魚ばっかりで飽きてきたところだったんだ。

  お前ら、今度の獲物はその『師範代』とやらにしようぜ」

 

?「ああ、そりゃいいな」

 

?「いやいやいやっ!!

  師範代達は、普通の人族では―――」

 

?「うっせぇ!!

  黙ってろっ!!」

 

?「ひ、ひぃぃぃ」

 

?「よし、決めた。

  次は『師範代』とやらが獲物だ。

 

  特別らしいから、次の掛け金は倍でどうだ?」

 

?「いいねぇ。

  そうこなくっちゃ」

 

?「おいおい、いいのか?

  次も俺の金になるんだぜ、それ?」

 

?「ぬかせ。

  次は、俺が勝つんだよ」

 

 夜の闇の中、光に照らされた集団は

 次の獲物をどうやって狩ろうかと

 ギラギラした目で街の方面を見ていた。

 

 その中で、一人だけ異質な者。

 ひたすら怯える者が居た。

 

?「・・・あ、ああ。

  わ、私は、どうすれば・・・」

 

 

 

 

 

 第12章 紅色の月

 

 

 

 

 

 快晴の空の下。

 無数の人が行き交い賑わう街。

 

 だがそんな街の一角だけ

 人が居なくなっていた。

 

忠「・・・こりゃひどいな」

 

 街外れの草むらにあった死体を見ながら忠は、呟く。

 

 周囲は、野次馬が来ないように街の警備兵達に

 囲わせている。

 

忠「無抵抗な相手を背中からバッサリってところだな。

  それに身体中に擦り傷も無数にある。

  ・・・必死で逃げてたんだな」

 

和也「・・・複数の足跡、か。

   見た感じ3~4人ってところかなぁ」

 

 現場から必要な情報を探し出す。

 本来なら、遺体を家族に返して早急に弔ってやりたいのだが

 そういう訳にもいかない。

 

 それに、犯人を倒すこと。

 それこそが、一番の弔いとなるだろう。

 

忠「・・・これは早急に手を打つ必要があるな」

 

 そう呟くと忠は、立ち上がる。

 

忠「・・・よし。

  こっちは、終わったぞ」

 

和也「こっちも終わりました」

 

忠「じゃあ、あとは警備兵に任せて俺達は

  作戦会議といきますかね」

 

和也「なら、昨日のあそこにしますか」

 

 警備兵に声をかけ、俺達は街へと移動する。

 

店員「いらっしゃいっ!

   適当なところに座っておくれっ!」

 

 元気の良い女性の声を聞きながら店の奥にある席へと着く。

 

 この席は周囲をよく見渡せるし、厨房が近く話し声が

 周囲に聞こえにくい良い場所だ。

 

 注文を済ませると、2人で芝居を始める。

 まるで本当にちょっとついでにこの街に立ち寄っただけの

 師範代と弟子を演じるためだ。

 俺があまりにも一般の弟子らしく、忠さんに投げっぱなしのためか

 忠さんが何度かジト目になるも、適当な雑談をしているうちに注文した料理が届く。

 

 それに手をつけたぐらいから

 どちらともなく真剣な話を始める。

 

忠「・・・で、『訓練の成果』はあったか?」

 

和也「そうですねぇ・・・。

   『3~4人』に相手してもらいましたけど

   やっぱり『人族じゃないぐらい』強かったですね。

   ただ『引き際や逃げ方が雑』だったので

   狙うとすれば、そのあたりかなと」

 

忠「俺の方も色々あったよ。

  竹刀を投げ捨てて逃げる『無抵抗な奴』を

  容赦なく追い詰めて『後ろから一撃』だ。

  ついつい、注意してしまったよ。

  『それなりの腕』があるんだから、もっと正面から

  戦えないのかってね」

 

和也「まあ、そういう奴ほど『目立ちたがり』だったり

   『自分の強さを自慢』したがるのが困りものですね」

 

忠「『お前もそう思う』か?」

 

和也「そうですねぇ。

   『その可能性が一番高そう』ではありますね」

 

 そこで一度会話が途切れる。

 そうなると箸も自然と進む。

 

 そうして食事を終え、俺は席を立つ。

 

和也「忠さんは、どうするんですか?」

 

忠「今日は、一杯『ひっかけて』いくよ」

 

和也「ほどほどにして下さいよ?

   じゃあ俺は、宿に戻って『勉強』してますよ」

 

忠「お前も頑張るねぇ」

 

和也「そりゃ、まだ学生ですからね」

 

 そう言って手を振りながら店を出る。

 

 和也と別れた忠は、別の店に入る。

 そこで適当に酒とつまみを注文して

 しばらく時間を潰し始める。

 

 和也の方は、宿へと向けて歩き出す。

 

 相変わらず多い人の波をすり抜けるように歩き

 曲がり角を曲がった瞬間だった。

 

?「きゃっ!」

 

和也「おっとっ!」

 

 急に飛び出してきた相手とぶつかる。

 

少女「ご、ごめんなさい」

 

 まるで顔を隠すように

 大きな手ぬぐいを頭からかぶっており

 その顔を見ることは出来ないが

 女物の着物を着ていることと

 声からして、年頃の少女だろうか。

 

和也「こちらこそ、悪かったな」

 

少女「あっ!」

 

 一瞬こちらを見た少女。

 その顔を見ることは出来ないが

 驚いたような声をあげた。

 

和也「ん? 何か?」

 

少女「い、いえ。

   急いでますので、これで」

 

 まるで俺から逃げるように走っていく少女。

 

 何だったんだと思いながらも

 歩こうとして、足元に何かあることに気づく。

 

 拾い上げると、それは小さな髪留めだった。

 

和也「・・・」

 

 それを手にした俺は、少女の走っていった方角に向けて

 ゆっくりと歩き出す。

 

 

 それから数時間後。

 

店員「ありがとうございました~」

 

 店員の声に見送られ、忠が店を出る。

 

 すっかりあたりは夜になっており

 街の雰囲気もすっかり変わっていた。

 

 まだ夜になったばかりだからか

 人の流れは、まだまだ多い。

 

忠「さて、行くか」

 

 そう呟くと、少し酔った頼りない足取りで

 夜の街を歩く。

 

 ある程度歩いたところで

 ふらふらしながら人気の無い街の外れに

 出たあたりからか。

 

 周囲の空気が変化し、あれだけ居た人達もまったく居ない。

 そう思っていると、前から人影が近づいてくる。

 

忠「・・・」

 

 その大胆すぎる態度に、忠は軽くため息をつく。

 

魔族兵A「へっへっへ」

 

魔族兵B「聞いてた話と違って、随分と弱そうじゃね~か」

 

魔族兵C「まあ、少しぐらいは愉しませて欲しいもんだな」

 

 前から近づいてきたのは

 魔族であることを隠そうともせず

 あろうことか、儀式兵装を既に手にしているのだ。

 

忠「・・・お前らが、殺しの犯人か?」

 

魔族兵A「だったら、どうしたって言うんだ?」

 

魔族兵B「人族なんて、いくら殺したって問題ないだろ?」

 

忠「・・・そうか」

 

 先ほどまでのフラフラとした足取りではない

 しっかりとした立ち姿になる忠。

 

魔族兵C「お、やる気かぁ?」

 

 ニヤニヤとした笑みを浮かべながら

 魔族兵達は、武器を構える。

 

魔族兵A「せっかくだ。

    誰に殺されたいか、選ばせてやろう」

 

魔族兵B「俺を選べば、楽に殺してやるぜ?」

 

魔族兵C「何を言ってやがる。

    俺だ。 俺を選べって」

 

 そう言いながら忠に近づく魔族兵C。

 

 そして忠の肩に手を伸ばそうとした瞬間だった。

 

魔族兵C「・・・あれ?」

 

 確かに左手を伸ばしたはずだった。

 しかし視界に左手が無い。

 

 そして感じる左手の違和感。

 

 ふと視線を向けると―――

 

魔族兵C「な・・・なんだよ、これ」

 

 魔族兵Cの左手は腕ごと綺麗に無くなっていた。

 

 その状況を確認した瞬間

 

魔族兵C「俺の腕がぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 急激な痛みと共に派手に血が噴出す。

 

魔族兵A「なっ・・・」

 

魔族兵B「お前っ! 何しやがったっ!?」

 

忠「・・・」

 

 忠の手には、いつの間にか儀式兵装の刀が握られていた。

 

魔族兵B「何しやがったって聞いてるだろうっ!!」

 

 儀式兵装の剣を手に忠に向けて走ってくる魔族兵B。

 そのままの勢いで剣を振り下ろす。

 

 確実に捉えた一撃。

 しかし腕を振り抜いたはずなのに

 目の前の相手に、振り下ろされるはずの剣が降りてこない。

 

 違和感を覚え、ゆっくりと自身を確認する。

 そして気づく。

 

魔族兵B「う、腕がぁぁぁぁぁ!!!」

 

 自分の腕が綺麗に切り落とされていた。

 

忠「・・・で。

  もう終わりか?」

 

 殺気を含んだ眼に見据えられ

 魔族兵Aは、自然と後ろに足が下がる。

 

魔族兵C「よくもやりやがったなあぁぁぁぁ!!!」

 

 左腕を切り落とされた魔族兵Cが右手で剣を持ち

 切りかかってくる。

 

 剣を振りながら、忠の横を通り過ぎていく魔族兵C。

 横を過ぎてから数歩歩いたのちに、魔族兵Cは

 まるで電池の切れた人形のように不自然な体勢で動かなくなる。

 

 そして、ぽとりっと頭が転げ落ちた。

 

忠「口を割らせるのは、1人で十分だ。

  残りは全員、この場で死ね」

 

 そう言い放った一言で彼らは、ようやく気づく。

 

 これは、戦ってはいけない部類の相手だ・・・と。

 

魔族兵A「く、くそがぁぁぁぁ!!」

 

 そう叫びながら必死に逃げる魔族兵A。

 

魔族兵B「ま、待ってくれっ!!

    俺を置いて逃げるなよぉぉぉぉ!!!」

 

 腕を落とされた魔族兵Bも、腕を抑えながら逃げ出す。

 

 逃げる相手を何故か、そのまま見送った忠。

 周囲に静寂が戻ると、儀式兵装を片付けた後に

 深いため息をつく。

 

 そして―――

 

忠「隠れてないで、そろそろ出て来い」

 

 そう言って草むらの方向を向く忠。

 

 すると、草むらから人影がゆっくりと出てくる。

 

忠「・・・説明してもらおうか」

 

田中「・・・」

 

 出てきたのは、この街の道場を管理していた

 田中 一太夫だった。

 

田中「・・・ったんだ」

 

忠「何だって?」

 

田中「だから辞めておけと言ったんだっ!!

   師範代襲撃なんて上手くいかないって何度もっ!!

 

   なのにあいつら、全然人の話を聞きもせずにぃぃぃぃ!!」

 

 昼間に見せていた気弱そうな感じは微塵も無く

 ただ、何かに取り付かれたように叫ぶ田中 一太夫。

 

田中「・・・ければ」

 

 ゆっくりとした動きで儀式兵装の刀を手にする一太夫。

 

田中「お前達さえ、来なければ

   こんなことにはならなかったんだぁぁぁぁ!!」

 

 そして忠に向けて走り出し

 忠の前で、足を踏み込んで刀を横薙ぎする。

 

 それを後ろに下がって避ける忠。

 だが一太夫も反応して横薙ぎが不完全ながらも

 突きへと変化する。

 

 風間流らしい変則攻撃。

 だが、相手が悪かった。

 

 突きを避けられただけでなく

 突きを放つために前に突き出した腕を掴まれる。

 

 そして―――

 

忠「風間流『風車(かざぐるま)』」

 

 一太夫は、掴まれた腕を中心に一回転して地面に強く叩きつけられる。

 その衝撃で息が詰まり、呼吸出来ないような感覚に陥ったのちに

 意識を失った。

 

忠「・・・まったく」

 

 可能性はあったとはいえ、まさか同胞の中から

 こういった者が出るとは。

 

忠「さて、どう対処しようかねぇ」

 

 夜空に浮かぶ月を見上げながら

 忠は、これからのことを思案するのだった。

 

 

 同じ頃。

 

 夜の森を逃げ惑う魔族兵の2人。

 

魔族兵B「腕が痛てぇ・・・ちくしょうっ!!」

 

魔族兵A「くそっ! くそっ!」

 

 たかが人族だと思っていた。

 その油断が招いたのだという事も解っている。

 全ては、自分達のせいだと。

 

 しかし―――

 

魔族兵A「何なんだよ、あの化け物はっ!!」

 

 そう言うしかなかった。

 手にしていた儀式兵装を振るう瞬間が

 まったく見えなかったのだ。

 

 人族の分際で、そんなに強いなんて

 聞いていない。

 少なくとも、そんな奴が居るなんて―――

 

 考え事をしていると、横を走っていた魔族兵Bが

 立ち止まっていることに気づく。

 

魔族兵A「お前、何を立ち止まってるんだよっ!!」

 

 早く『境界』を超えなければ、あの化け物に追いつかれる。

 焦る気持ちを隠そうともせず返事をしない魔族兵Bに近づく。

 そして乱暴に肩を掴んだ瞬間だった。

 

 それは、本当に簡単に転げ落ちた。

 足元にコロコロと転がったのは、人の頭部。

 それに気づいた瞬間、頭の取れた魔族兵Bから大量の血が吹き出る。

 

魔族兵A「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 恐怖から腰を抜かしてその場にへたり込む。

 しかし、この場に居ては危険だという本能からか

 這い蹲りながら、その場を離れようともがく。

 

 そんな時だった。

 もがいていた魔族兵は、ふと後ろに人の気配を感じる。

 

 魔族兵は、ゆっくりと振り返る。

 すると、そこには誰かが立っていた。

 

 月に照らし出されたのは、美しいほどに輝く

 紅色の長い髪。

 

 そしてその小柄な身体に似合わぬ大きな斧。

 

 神秘的にも見える、その光景を見て一瞬意識が遠のくも

 スグに一つの結論にたどり着く。

 

魔族兵A「・・・ま、まさか・・・紅の死神・・・」

 

 その言葉を聞いて満足そうな笑みを浮かべた相手を見て

 魔族兵は、自身の結論が間違っていないことを知る。

 

 だが次の瞬間。

 魔族兵が見たのは、目の前に迫る大斧の刃。

 

 目の前に死神が居る。

 それが意味することに気づく前に、魔族兵の首が飛んだ。

 

 魔族兵2人の死体を確認すると

 その場を離れようとする『死神』だったが

 横から飛んできた『何か』を手で受け止める。

 

?「・・・これは」

 

 昼間に無くしたと思っていた小さな髪留めだった。

 髪留めが飛んできた方角に視線を向ける。

 

?「せっかく落し物を届けたのに

  何も睨むことはないだろ、ミリス」

 

ミリス「アナタは・・・」

 

和也「まあ、用件はそれだけじゃないけどな」

 

ミリス「この髪留めが、どうして私のものだと?」

 

和也「昼間にぶつかったじゃないか」

 

ミリス「・・・何の話でしょう?」

 

和也「隠さなくてもいい。

   一般人が、あんなに気配無く歩いている訳が無い。

   それに、それをよく見ろ」

 

ミリス「・・・あっ」

 

 それは、髪留めについていた

 1本の紅色をした長い髪の毛。

 

和也「あの和服姿、結構似合ってたよ」

 

ミリス「・・・そうやって、フィーネ様達を

    誑かしたのですか?」

 

和也「・・・素直な感想だよ」

 

ミリス「・・・」

 

和也「色々な情報と予想を繋ぎ合わせれば

   答えは、ある程度解るってね」

 

 ミリスの眼が一層険しくなる。

 

和也「・・・初めは、大掛かりな動きかと警戒した。

   でも、どうも行動が『雑』すぎる。

   だから独自行動だとも考えたんだが・・・。

 

   ミリスが居るとなると、話が変わってくるな」

 

ミリス「・・・何の話か知りませんが」

 

 そう言いながらも大斧を静かに両手で持ち直す。

 

ミリス「ここでは、フィーネ様に助けて貰えませんよ?」

 

 一瞬で距離を詰めてきたミリスが

 大斧を一気に横に薙ぐ。

 

 それを横に避けながら、落ちていたそれなりに長い棒を拾う。

 

ミリス「はぁっ!!」

 

 続けざまに上から振り下ろされる一撃を避けつつ

 斧の横腹を思いっきり棒で叩く。

 

 普通なら、その一撃に体勢を崩すだろう。

 だがミリスは、違った。

 

和也「・・・ちっ」

 

 棒が勢いに負けて折れる。

 後ろに下がると、ミリスを見据える。

 

和也「前から何となく解っていたことだが

   キミは・・・竜族との―――」

 

ミリス「私は、魔族です。

    それ以上でもそれ以下でもありません」

 

 こちらの言葉を遮るように話すミリス。

 何かしらの理由があるのだろうか。

 

和也「・・・そうか」

 

 しかしだからといって彼女の能力が変わる訳ではない。

 

 魔法剣・紅を構える。

 

ミリス「せっかくのチャンスですから

    確実に殺してあげますねっ☆」

 

和也「別に戦う必要はないと思うが?」

 

ミリス「アナタの場合、この件以外にも

    色々と片付くじゃないですか~♪」

 

 ミリスが跳躍する。

 周囲の木々を蹴りながら周囲を動き回る。

 

 強化魔法を使用していないにも関わらず

 ありえないほどの速さで動き回っている。

 

 そして狙い済ましたかのように後ろから

 斧を振りかぶって突撃してくる。

 

 ギリギリのところで回避すると

 紅をすれ違いざまに振り抜く。

 

 バチッ!!

 

 気麟に弾かれる形で後ろに下げられる。

 

 『やはり金麟を抜いた時のように』

 全力で無いと厳しいのか。

 

 そう思った瞬間に疑問が湧く。

 俺は、先ほど『やはり金麟を抜いた時のように』と思った。

 だが、俺の記憶に金麟を抜いた経験はない。

 

 なのに今、確かに紅の全力状態で金麟が抜けると

 確信していた感じだった。

 

 一体何なんだ・・・と考えたかったが

 ミリスの連撃がそれを許してくれない。

 

 大斧は、その見た目通りの重さと威力を有しており

 迂闊に受け止めようとすれば、武器ごとやられるだろう。

 だからこそ、こういう一撃は回避することしか出来ない。

 

 何とか回避し続けるも、いちいち斧が風を切る音が聞こえるので

 精神的な圧力が計り知れない。

 ジワジワと削られる精神力が無くなってしまう前に

 一撃を決める隙を探す。

 

 そんな時だった。

 見たことも無い色が一瞬だけ見えた気がした。

 

 単なる見間違いかとも思ったが

 チラチラと何度も見えるため、気になって

 魔眼を完全開放する。

 

 すると明確になる見たことも無い色。

 そしてそれがミリスの周囲に纏われている。

 

 それが何を意味するのか。

 魔眼を使い続けてきた俺にとって

 それはあまりにも衝撃的な出来事だった。

 

ミリス「・・・もらいましたっ☆」

 

 色々と考えている間に

 ミリスに決定的な一撃のチャンスを掴まれてしまう。

 

 迫る大斧の一撃に、反射的に体が動く。

 普通なら避けられない一撃。

 

 だが、新しい色が本当に『それ』であるのなら・・・。

 

 そして大斧を振り抜いたミリス。

 

ミリス「―――ッ!!」

 

 完全に捉えたと思った一撃を

 回避され、ミリスは驚きの顔を浮かべる。

 

 そして更にミリスは、気づく。

 自分に迫ってくる投擲物に。

 

和也「バーストッ!!」

 

 ミリスの渾身の一撃を回避した和也は

 後ろに下がりながらマジックナイフを投擲していた。

 

 ミリスの目の前で爆発し、爆煙が周囲を包む。

 

ミリス「・・・逃がしませんっ!!」

 

 煙の中から飛び出すミリス。

 

ミリス「なっ!?」

 

 飛び出したミリスが見たのは

 周囲の木々に突き刺さったマジックナイフだった。

 

和也「ブレイクッ!!」

 

 和也の声と共に爆発するマジックナイフ。

 

 マジックナイフは『事前登録した所有者のキーワード』によって

 爆発するため、1本ごとに別けることもある程度まとめることも出来る。

 出なければ意図せず爆発してしまうこともあるからだ。

 

 マジックナイフの爆発で、またも周囲を爆煙に包まれるミリス。

 だが、周囲から聞こえてくる何かの軋むような音に

 大斧を盾代わりに気麟を周囲に全力展開する。

 

 すると煙の外から、爆発によって倒れた木々が

 ミリスに向けて倒れてくる。

 

 何本もの木々が、ミリスに倒れこんで

 彼女を埋めてしまう。

 

 だが―――

 

ミリス「この程度で、私を倒せると思わないで欲しいですね」

 

 急に炎柱が現れ、ミリスを覆っている木々を焼き尽くす。

 そして炎の中から現れる無傷のミリス。

 

ミリス「・・・」

 

 周囲を一度伺った後、無言で地面に思いっきり大斧をぶつける。

 一瞬地面が揺らぎ、土は抉れて周囲の木々の残骸などを

 全て吹き飛ばす。

 

 強く握られた手は振るえ、溢れ出る魔力は

 眼に見えるほど強力に周囲を漂う。

 

ミリス「私より、不幸な人生だなんて言わせない・・・」

 

 そう思った瞬間に気づく。

 何故、自分はあの人族の過去を知っているのか。

 記憶にないはずの出来事。

 

 その瞬間。

 一瞬だが、竜王女とあの人族が洞窟のような場所で

 抱き合っている姿が見える。

 

 だか次の瞬間、強烈な頭痛に顔が歪む。

 

ミリス「・・・今のは」

 

 少しして頭痛が治まると、先ほどまでの記憶が

 非常に曖昧になってくる。

 

ミリス「何なんですか、一体・・・」

 

 人族に逃げられただけでなく

 よく解らない出来事に巻き込まれているような

 この圧倒的な不快感。

 

 この怒りを何処にぶつけていいのか解らず

 ただ、夜空の月を睨みつけるミリスだった。

 

 

 

 

 

第12章 紅色の月 ~完~

 

 

 

 

 




まず、ここまで読んで頂きありがとうございます。

現在更新が大幅に遅れてしまい申し訳ありません。
仕事で時間があまり取れないところに
色々と私事が重なりまして・・・。

なるべく何とかするべく頑張りたいとは思っております。

話は変わりますが、rosebleu様の新作
戦乙女らんなばうとっ!はプレイされましたか?
もちろん私は、ルート2つともセットで全プレイしました。

と軽く宣伝を入れつつ、何とか完走目指して
頑張っていきます。


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第13章 開戦の狼煙

 

 月を睨みつけている一人の少女が居た。

 紅い髪が夜風になびくも、その視線は

 ただ月だけを見ていた。

 

 しばらくして、ゆっくりと瞳を閉じた少女は

 その場から姿を消した。

 

 同じころ、夜空の月の下。

 別の場所では、激しい剣戟の音が響いていた。

 

 何度もぶつかる音が聞こえていたが

 ふと唐突に静寂が訪れる。

 

 終わったかと思った瞬間。

 爆音と共に周囲に暴風が吹き荒れ

 周囲の木々が薙ぎ倒される。

 

亜梨沙「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

 肩で息をしながらも、その瞳は鋭いまま。

 振り抜いた刀の先をじっと見つめている。

 

源五郎「・・・」

 

 大して源五郎は、呼吸を乱してはおらず

 平静のまま、一点を見つめている。

 

 一見すれば、どちらが優勢だったかは明らかだ。

 だが―――

 

源五郎「・・・見事だ、亜梨沙よ。

    今の呼吸を忘れるでないぞ」

 

 そう言うと

 

 『亜梨沙の首元で寸止めされていた二本の刀』を片付ける。

 

 師範の早雲や和也ですら、二刀持つ源五郎と戦うことはなかった。

 まして師範代相手に二本を持つことなど

 本来は、ありえないのだ。

 

亜梨沙「・・・」

 

 源五郎からの気迫が消えたことを確認して

 ようやく亜梨沙は、震える手を抑えながら

 

 『源五郎の喉元に突きつけた刀』をゆっくりと下げる。

 

源五郎「・・・まったく。

    和也といい、お前といい

 

    後継者に恵まれたことは良いが

    こうもあっさりと強くなられると、ワシや早雲の立つ瀬が無いわ」

 

 苦笑しながらも、満足そうに語る源五郎。

 

 ふと周囲に張り詰めていた空気が緩んだ時だった。

 

早雲「・・・失礼します」

 

 いつの間にか近くに居た早雲が声をかける。

 

源五郎「・・・ふむ。

    何かあったか?」

 

 いつもにこやかな表情の早雲が

 珍しく厳しい顔をしていることに気づいた源五郎は

 スグに何かあったことを察する。

 

早雲「魔族側の境界に―――」

 

 

 

 

 

第13章 開戦の狼煙

 

 

 

 

 

 同じ頃。

 

 フォースの学園長室の扉が勢い良く開く。

 

魔族近衛兵「マリア様ッ!!」

 

マリア「・・・何があった」

 

 ミリスの部下である近衛兵が

 こんな時間に飛び込んできたのだ。

 

 何かあったと思うのは、マリアでなくとも

 察することは出来るだろう。

 

魔族近衛兵「魔界の強硬派が

      人族側へと部隊を侵攻させたとの報告がッ!!!」

 

マリア「・・・なッ!!!」

 

 いくら何でもありえないはずだった。

 何の理由もなく、突然戦争など始めれば

 竜族や神族だって黙ってはいない。

 

 最悪、他3種族全てを敵に回すということになる。

 

マリア「突然、どうしてそんなことになったっ!!

    ミリスは、どうしたっ!!

 

    状況を明確に説明しろっ!!!」

 

魔族近衛兵「―――ッ!!!」

 

 目の前の近衛兵が驚きと恐怖の表情を

 浮かべていることに気づいて

 マリアは、ようやく自分が冷静でないことを理解する。

 

 現在の世界においても最強クラスの戦士に詰め寄られたのだ。

 その迫力に思わず言葉を詰まらせてしまうのも無理はない。

 

マリア「・・・すまない。

    詳しい話は、移動しながら聞くことにする。

 

    出来るだけ足の速い馬を用意してくれ」

 

魔族近衛兵「は、はいっ!!

      既にマリア様の馬は、下に用意して―――」

 

 近衛兵の言葉を最後まで聞く前に

 学園長室の窓から飛び降りる。

 空中にいくつもの風盾を作り、それを足場にしながら

 短時間で地面へと着地すると、目の前に用意されていた

 馬に飛び乗る。

 

マリア「・・・くそっ。

    どうしてこうも急激な動きになったんだ・・・」

 

 あまりにも急すぎると思いながらも

 馬を走らせ学園の門を抜け、街の大通りを突き進む。

 

 街の人達は、何事かと思いながらも道をあける。

 

 マリアに遅れること2分ほどで、今度は

 魔族の兵士が乗る騎馬隊のような集団が

 同じく街を走り抜けていった。

 

 

 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・

 

 

 そして次の日。

 

和也「じゃあ、ちょっと行ってきます」

 

忠「ああ、頼んだぞ」

 

 まだ朝日が昇る前で、周囲もまだ少し薄暗い。

 しかし、これ以上は待てないということもある。

 

 俺は、用意した馬に乗る。

 

 忠さんが、一太夫の口を割ってくれたおかげで

 今の現状が非常に危ないということがわかった。

 

 それを知らせるために、一度俺だけ

 風間の里へと戻ることになった。

 

忠「こっちはこっちでもう少し調べてみる。

  道中は、気をつけろよ」

 

和也「はい。

   忠さんも、気をつけて」

 

 お互いに手を伸ばして握手を交わすと

 馬を勢い良く走らせた。

 

和也「・・・何でこんなことになってるんだよ」

 

 思わず愚痴がこぼれる。

 

 一太夫が言うには

 彼らは、ただ魔族の兵士だったとのこと。

 

 そんな奴らが何をしにきたのかと言えば

 ただ暴れて来いと言われてきただけらしい。

 

 何をそんな馬鹿なと思わなくもないが

 一太夫も、死んだ連中も本当に暴れていただけだそうだ。

 

 彼らは、一太夫が多額の借金をしており

 道場の運営資金にまで手を出していることを知っていたらしく

 それら全てを返済出来るほどの報酬を条件に

 一太夫を利用していた。

 

 何故、ただ暴れるだけなのに

 そこまで用意周到だったのか。

 計画性があったにも関わらず、何故あそこまで

 短絡的な行動を取っていたのか。

 

 そもそもそんな命令をした奴に何の得があるのか。

 

 解らないことだらけではあったが

 ミリスが居たという事実を当てはめると見えてくることもある。

 

 彼女は、学園長・・・魔王妃マリア=ゴア率いる保守派側だ。

 となれば、相手の魔族兵やその命令を出していた奴は

 強硬派の連中ということになる。

 

 奴らは、たびたび問題を起こしては

 人族と戦争を起こそうと・・・人族を根絶やしにしようとしてきた。

 

 そのもっとも解りやすい例が

 あの『儀式の日』だ。

 

 そう考えると、今回の件は

 簡単な話では無くなってくる。

 

 連中の狙いは、もしかして―――

 

和也「・・・」

 

 その可能性が捨てきれないからこそ

 俺だけ先に里へと戻ることにしたのだ。

 

 これがただの考えすぎだと良いんだが・・・。

 

 

 

 その数時間後。

 

 すっかり陽が昇り、いつも通りの朝を迎える。

 だが、この日。

 

 風間の里は、物々しい雰囲気に包まれていた。

 

警備兵「・・・以上が現在までの状況です」

 

 境界を警備していた兵士の話を聞いて

 道場内が騒がしくなる。

 

源五郎「待て待て、お主ら。

    ・・・向こうからの返答は、どうなっておる?」

 

早雲「ほとんどが予想通りの返答です。

   あと、向こうも動いては居るようですね」

 

 早雲が差し出した手紙を受け取ると

 内容に目を通す。

 

 乱雑に書かれた文字が、その緊急性を物語っている。

 

源五郎「・・・」

 

 源五郎は、瞳を閉じて考える。

 自分は、人族は、どう動くべきか。

 

 今回、相手がここまで露骨に動いてくるとは思っていなかった。

 こちらを刺激することが、どういうことになるのか

 それを理解した上での行動だろう。

 

 そうなると、こちらもいよいよ覚悟を決めなければならない。

 

 周囲では、もう戦うことが決まっているかのような

 雰囲気に包まれている。

 

 無理も無い。

 今まで人族は、戦争終結後も数々の犠牲を払ってきた。

 そうして一時的とはいえ平和を保ってきたのだが

 それをあっさりまた向こうの都合で破ってきたのだ。

 

 そう何度も我慢が出来る訳ではない。

 こうなってくると誰であっても、この流れを止めることは

 恐らく出来ないだろう。

 

 なら、自分はどうするべきなのか。

 どこでこの一連の騒ぎの幕を引くべきなのか。

 

源五郎「・・・」

 

 そしてゆっくりと目を開けると

 ざわついていた者達は、静まり返る。

 

早雲「・・・どうされますか?」

 

源五郎「・・・無論、このままという訳にもいくまい。

    とりあえず、境界を越えた者共を始末する。

 

    今より30分後、出発するっ!!」

 

風間兵達「おうっ!!!」

 

 気合の入った掛け声と共に一斉に動き出す風間の者達。

 全員が、戦争用の黒衣装に身を包む。

 

亜梨沙「・・・やはり、始まるのですか」

 

源五郎「・・・こうなってしまっては

    止められんからな」

 

 そう言いながら1枚の紙を懐から取り出すと

 亜梨沙に突き出す。

 

源五郎「和也の奴がスグにでも帰ってくるだろう。

    ・・・帰ってきたら、これを渡しておいてくれ」

 

亜梨沙「・・・これは?」

 

源五郎「和也に渡しさえすればいい。

    ・・・留守は、任せるぞ」

 

 亜梨沙が手紙を受け取ると、源五郎も服を着替えるために

 自室へと帰っていく。

 

亜梨沙「・・・兄さん。

    こんな時に、何やってるんですか」

 

 そう呟く亜梨沙の声は、周囲の誰に届くわけでもなく

 人々の物音に掻き消されるのだった。

 

 

 そして数時間後。

 

 人族側の境界を越えた部隊が

 風間の里へと向かって歩いていた。

 

ゴーレムA「ギギギッ」

 

ゴーレムB「ガガッ」

 

 魔族の部隊は、人ではなかった。

 殆どが、様々な形をしたゴーレムであり

 それを操る術者が僅かに居るだけ。

 

魔術兵「・・・しかし、我々だけで大丈夫でしょうか?」

 

魔術兵長「何も我々だけで人族全てを殺しにいくわけではない」

 

魔術兵「では、この進軍の意味は・・・」

 

魔術兵長「我々が攻めれば、奴らは出てこざるおえまい。

     そこである程度戦ったのちに境界まで逃げる。

 

     そうすれば奴らは必ず追いかけてくるだろう。

     境界を越えてくれるように誘導してやれば

     あとは、本隊が奴らを皆殺しにしてくれる」

 

魔術兵「しかし、境界を越えずに我々のせいだと言えば

    他種族が黙っていません」

 

魔術兵長「だからこそのゴーレムだ。

     ゴーレムの残骸で、我々の仕業だという証拠にはならん。

     証拠が欲しい奴らは、必ず我ら術者を狙うだろう」

 

魔術兵「なるほど。

    そして奴らに境界を部隊で越えたという状況に追い込んで

    それを理由に殲滅するわけですね」

 

魔術兵長「そういうことだ。

     経緯は、どうあれ境界を人族の部隊が越えたという

     事実と、奴らの死体さえあれば

     あとでいくらでも理由は付け足せる。

     そうなれば腑抜けな魔王妃達、保守派の連中も

     黙って見ているしか出来ないだろうよ」

 

魔術兵「・・・そうなれば

    一気に人界を滅ぼして、我々魔族の力を示すことが出来ますね」

 

魔術兵長「竜族や神族連中も、我々に対して強く出れなくなるだろう。

     そうなれば、世界は我ら魔族のものだ」

 

 その言葉に周囲の数人の魔族兵が声をあげる。

 

 彼らは今の世界に満足などしていない。

 停戦などしなければ、今頃魔族が世界を

 支配する王者になっていたはずだ。

 他種族に大きい顔をされることなんて・・・。

 ましてや人族が未だに残っていることなど

 なかったはずなのに・・・と。

 

 魔族と神族が、仲が悪いことは有名だが

 魔族と境界が繋がっている人族も

 実は、神族以上に仲が悪かったりする。

 

 それは、魔族の一部が未だに人族を

 格下に見ているということもあるが

 ことあるごとに何か事件を起こしては

 人族領へと侵攻し、人族を虐殺しているからだ。

 

 それに対し、下手に強硬派と対峙すれば

 国が分裂してしまい、神族や竜族に横槍を入れる隙を

 作ってしまうことになるため

 どうしても処分が甘くなってしまう。

 だから何年かペースで同じような事件が起こってしまうのだ。

 

 竜族や神族も口を出してはいるが

 そもそもそれを嫌っているのが強硬派であり

 むしろそうして大戦争が再開してくれる方が

 彼らにとって都合が良いというのも厄介な点である。

 

 本来なら『儀式の日』と呼ばれた事件で

 大戦争が再び始まるはずだった。

 

 だが、死に損ないの魔王と、同じく死にかけの神王が

 あっさりと事を収めてしまった。

 そのせいで、また何年も時間をかけて

 準備するハメになってしまったのだ。

 

 だが今回は、魔王も神王も既にこの世に居ない。

 王妃達では、止められない。

 

魔術兵長「今度こそ、我々魔族が世界を統べるのだっ!」

 

 そう声をあげた瞬間だった。

 

魔族偵察兵「人族の部隊が見えましたっ!

      こちらに向かっていますっ!」

 

 偵察兵の言葉に、兵士達がゴーレムを配置に付かせる。

 

魔術兵長「いいか、あくまで境界まで

     引っ張っていくのが目的だ。

 

     調子に乗って皆殺しにするなよ」

 

 その言葉に笑声が聞こえてくる。

 

 あくまで彼らにとって人族とは、格下の相手なのである。

 

魔術兵「奴らと交戦、開始しますっ!!!」

 

 最前線の魔術兵達から交戦開始の声が聞こえてくる。

 偵察兵からの情報では、相手はそこまで数が多くない。

 

 あまり調子に乗って殺しすぎると

 撤退されてしまう。

 

 そうなっては困るため、ある程度のところで

 ワザと負けを演じなければならない。

 

 人族相手にワザとでも負けを装って逃げることに

 抵抗が無い訳ではないが、これも魔族のため。

 

魔術兵A「ゴーレムがやられたっ! 後退するっ!」

 

魔族兵B「く、くそっ!!

     この俺が・・・!!」

 

 考え事をしていると、開始直後だというのに

 次々と撤退・・・というか逃げてくる魔術兵達が多い。

 

魔術兵長「お前ら、良い逃げっぷりじゃないか。

     そんなに必死に演技しなくたって

     奴らなら引っかかってくれるさ」

 

 そう声をかけるも、誰もこちらの話など聞いていない。

 さすがにそうなってくると演技ではないのかと

 思えてくるが、そう簡単に数年かけて揃えたゴーレム部隊が

 負けるはずがない。

 

 どうなっているのだと、偵察兵を呼ぼうとした瞬間だった。

 大きな音と共に戦場の音が急激に近くなる。

 

 激しい爆風が駆け抜け、何かが飛んでくる。

 よく見ると、それは人。

 

 魔族兵や術者達が、吹き飛ばされている姿だった。

 

 それを見て、信じられないという気持ちが

 彼をその場に呆然と立たせる。

 

 戦場で呆然としている者がどうなるのか。

 それは誰より、戦場に立つ者なら

 誰でも理解出来ることのはずなのに。

 

?「お前が隊長か?」

 

 鋭い声が聞こえ、我に返るも

 その全てが遅かった。

 

 ゆっくりと地面に落下したのは、彼の頭。

 大量の血を撒き散らしながら身体も倒れる。

 

善影「・・・ふん。

   所詮、この程度か」

 

 吐き捨てるように呟く善影。

 

大吾「敵は、総崩れだっ!

   一気に叩き潰せ!!」

 

 鋭く切り込んだ刃となった者達が、敵陣を切り裂く。

 

 早々に逃げ出した者達も

 結局逃げ切れず、全て倒された。

 

 本来なら、勝利した声が聞こえてきそうなほど

 圧勝しているはずなのに、一切声が聞こえない。

 

 皆、次があるという感じで

 黙々と部隊の編成などを行っている。

 

 あくまで今のは敵の先遣隊に過ぎない。

 

 部隊の再編成がほぼ終わった所で

 早雲が声をかける。

 

早雲「・・・踏み込みますか?」

 

 そう声をかけられた源五郎は

 座っていた椅子から立ち上がる。

 

源五郎「当然じゃ。

    罠だと解っていても、ここで退いては

    人族に未来など無い。

 

    ワシの命程度で、人族の今後が開けるのなら

    願っても無いことだわい」

 

早雲「・・・」

 

源五郎「お前にも、苦労をかけるな早雲。

 

    さあ、お前と善影は里へ帰れ」

 

早雲「そういう訳にはいきません。

   せめて事の顛末ぐらいは―――」

 

源五郎「お前に何かあったら

    夏美は、どうなる?

 

    ワシを娘の婿を巻き込んだ

    不出来な父にするつもりか?」

 

善影「今更、何を言ってるんですかね?」

 

 いつの間にか近くまで来ていた

 善影が、苦笑しながら歩いてくる。

 

早雲「そうですよ。

   相談もなく勝手に決めてしまって」

 

善影「最高師範だって好き勝手やってるんですから

   俺達の希望ぐらい聞いてくれてもいいんじゃないですか?

 

   何も戦死するまで付き合うって

   言ってる訳じゃないんですから」

 

源五郎「・・・勝手にせい」

 

 まるで子供が拗ねるように

 そう呟く源五郎に、周囲で笑いが起こる。

 

 その後、準備が整った風間の戦士達は

 境界に向けて歩き出すのだった。

 

 

 その頃、風間の里に1頭の馬が駆け込む。

 

 そのまま中を駆け抜けると、風間の家へと入っていく。

 スグに馬を下りると声をあげる。

 

和也「誰か居ないかっ!!」

 

?「そんなに声を出さなくても聞こえてますよ」

 

 声がする方を振り返ると、そこには亜梨沙が居た。

 

和也「クソ爺か、早雲さんは、何処にいる?」

 

亜梨沙「何をそんなに慌ててるんですか?」

 

和也「ちょっと緊急事態になりそうなんだ。

   で、何処にいる?」

 

亜梨沙「ほとんどの人は、境界まで行きましたよ」

 

和也「境界だとっ!?

   まさか―――」

 

亜梨沙「境界を越えてきた魔族と戦争しに行きました」

 

和也「―――ッ!?」

 

 まさかとは思ったが、早すぎる。

 あのクソ爺は、一体何を考えてやがる。

 

 そんなことをしたら、本格的な戦争になる。

 それでは、連中の思う壺じゃないか。

 

亜梨沙「そうそう。

    お爺様から、これを預かってます」

 

 そう言って差し出されたのは、1枚の手紙。

 

 奪うように手に取ると

 中身を確認する。

 

 

 ・・・・・・・。

 

 

 何度も手紙を読み返した後

 ため息を付く兄さん。

 

 結局、中身は確認してないが

 どうせお爺様のことだ。

 ロクなことは書いてないだろう。

 

 すっと兄さんが立ち上がる。

 

 その表情を見てハッとする。

 何か覚悟を決めた時の表情だ。

 

 ほとんど見ることの無い表情だが

 大人っぽく見えてとてもカッコイイので

 思わず見とれてしまいそうになる。

 

和也「状況は、理解した。

   俺は、俺のやれることをやってくる。

 

   万が一のこともある。

   お前は、里に残ってろ」

 

亜梨沙「・・・それで、私が納得するとでも?」

 

 置いていかれないために

 私は、刀を握ったのだ。

 

和也「言っただろう。

   万が一のためだと。

 

   俺達が帰ってきた時に

   帰る場所が無けりゃ困る。

 

   お前に、その場所になってくれって言ってるんだよ」

 

亜梨沙「・・・」

 

 そういう言い方は、正直ズルいと思う。

 これも惚れた弱みなのだろうか。

 

 こうも真剣に頼まれると、断れなくなってくる。

 

 兄さんが心配だという思いとは別に

 兄さんへの想いが強くなってくる。

 

 そうだ。

 この人は、戦場へ行こうというのだ。

 なのに、私が動かなくてどうする。

 この人にとって、本当に帰ってくる場所にならなければ。

 

 だから―――

 

亜梨沙「だったら、1つだけ条件」

 

和也「条件?」

 

亜梨沙「ええ、条件です」

 

 そう言いながらスッと兄さんに近づく。

 そして―――

 

亜梨沙「んっ・・・ふぁ・・・ぁ・・・むぅ・・・」

 

 自分からキスをした。

 長年の夢が叶ったからだろうか。

 

 イマイチ実感が無いものの、それでも構わずに続ける。

 だが息を止めていたことを思い出し

 急に息苦しくなって、少し未練があったが離れる。

 

 その時に見た兄さんのテレた顔が

 一番印象に残ったかもしれない。

 

和也「・・・亜梨沙」

 

亜梨沙「必ず、帰ってきて下さいよ?」

 

和也「・・・ああ、必ず」

 

 そう言うと、兄さんは

 スグ馬に乗って走っていった。

 

 

 ・・・・・・・。

 

 

 馬で走りながら境界へと向かう。

 

 さっきから顔が熱い。

 亜梨沙がいきなりキスしてきたからだ。

 

 前から好意を持たれていることは気づいていたが

 兄妹のように育ってきたこともあり

 意識しないようにしてきたのだが、亜梨沙がそれを超えてきた。

 

和也「・・・ちゃんとその気持ちに向き合ってやらないとな」

 

 そう思いながら進んでいくと、前方に見知った顔が。

 急いで馬を止める。

 

春華「そんなに急いで何処に行くのって

   聞く必要も無かったみたいね。

 

   ・・・良い顔してるじゃない」

 

和也「・・・行ってきます」

 

春華「そっか。

   まあ男の子だもんね。

 

   じゃあせめて、馬ぐらいは交換していきなさい。

   じゃないと途中で走れなくなるかもよ」

 

和也「ありがとうございます」

 

 春華が用意していた馬に乗り換える。

 

春華「生きて帰ってきなさいよ」

 

和也「はい、必ず」

 

 そう短く言葉を交わすと、馬を走らせ

 森を駆け抜けていく。

 

 

 和也が里から境界へと向かった後。

 

 亜梨沙は、準備を済ませると

 一人で里の外に出ていた。

 

亜梨沙「・・・」

 

 里の中は、春華と残った一部門下生が守っている。

 

 だが出来れば里を戦場としたくはない。

 

 だからこそ、亜梨沙は単独で周囲の偵察を行っていた。

 

 ここまで敵が来るようなことは無いとは思う。

 しかし万が一ということもある。

 

 周囲を警戒しながら不規則に警戒を続ける亜梨沙は

 僅かではあるが、遠くを移動する音に気づく。

 

 それが人族の者でないと感じ

 一気に距離を詰める。

 

 ここは風間の里。

 地の利は、圧倒的に彼女にある。

 

 相手もこちらに気づいたようで

 けん制程度の火球が飛んでくるが

 風盾で吹き飛ばしながら接近して

 一撃を振り下ろすと、バチッ!と

 気麟特有の壁に阻まれる。

 

?「・・・やれやれ。

  アナタに構っている暇は、無いのですけれど」

 

 紅い髪をなびかせながら

 巨大な斧を振り上げる。

 

 さすがに受け止めることも出来ない一撃に

 亜梨沙は、跳躍して回避する。

 

亜梨沙「・・・こんなところで何してるんですか。

    ここは、許可無く気軽に入って良い場所じゃないですよ」

 

 亜梨沙は、相手に見覚えがあった。

 

 そう、その相手は―――

 

ミリス「邪魔しないで貰えます?

    じゃないとミンチにしちゃいますよ?」

 

 紅の死神と呼ばれる少女。

 

 ミリス=ベリセンだった。

 

 

 

 

 

第13章 開戦の狼煙 ~完~

 

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

まずは、活動報告での内容通り
期限内で投稿出来たのでホッとしております。

活動報告内でも触れましたが
このAnother Storyを投稿開始して
あっという間に1年が経過しました。
そう思うと、長い作品になってしまったなと思ってしまいます。
ただ、失踪せずに続けられているのも
読んで下さっている皆様のおかげですので感謝しております。

Another Story自体は、もう終盤へと差し掛かっております。
最後まで完走したいと思っておりますので
よろしければお付き合い頂ければ幸いです。


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第14章 己が信じるもののために

 

 

 その日。

 大戦争終結後、初めての大規模な戦闘が起こった。

 

 のちに『人魔決戦』と呼ばれることになる戦い。

 魔族強硬派が望んだ戦いであったが

 はたして今の状況までもが、彼らが望んだことだっただろうか?

 

 そこは魔界側の境界近くにある砦。

 大戦争時は、多くの部隊の中継地点となり

 人界側への重要な、けん制の役割を果たしていた場所。

 

 戦争が終結し、もうかつての役割を

 果たす必要がなくなったはずの場所。

 

 その場所は今、当時よりも凄惨な場所となっていた。

 

 砦の中だけでなく、その周囲にまで

 無数の死体が転がっている。

 

 どれだけの命が、ここで散っただろうか。

 まるでそれを確かめるかのように

 人族の兵士達の手で、人族・魔族関係なく

 死んでいった者達の死体が丁寧に並べられていく。

 

大吾「砦周辺には、もう敵はおらんようですな」

 

早雲「重傷者、戦死者の亡骸を人界へと搬送するために

   一部隊を戦場より離脱させる予定です」

 

善影「こっちは、あと1日はかかりそうですよ。

   何せ数が多すぎますからね」

 

源五郎「・・・そうか」

 

 報告を聞く源五郎は、難しい顔をしたまま

 微動だにしない。

 

善影「兵の中には、魔族側のは放置でもいいんじゃないかって話も

   出てきてますよ。

 

   まあ、何でこいつらまで丁重に扱うのかって感じの

   疑問の声って奴ですかね」

 

源五郎「我らには、我らのやり方がある。

    あくまで我らに正義があるということを

    示すためにも必要なことじゃ」

 

大吾「それに、奴らと同じに成り下がっては

   意味が無いからのぅ」

 

早雲「あくまで人界側は、売られた喧嘩を買っただけ。

   そう魔界だけでなく、その他にも

   思わせなければならないからね」

 

善影「・・・なるほど。

   では、そういう方向で更に徹底させますかね」

 

 めんどくさいなぁと言いたげな顔で

 現場指揮に戻る善影。

 

大吾「・・・今回、真っ先に切り込んだくせに

   こういうことだけは、面倒がりおって」

 

早雲「まあ、仕方が無いのかもしれないですね。

   善影君にとっては、弔い合戦のようなものですから・・・」

 

大吾「確か・・・弟でしたか」

 

早雲「そうですね。

   その他にも、同じような想いでこの場に居る者も

   多いでしょうから、不満が出るのも

   ある程度は仕方がないことでしょう」

 

 

 『儀式の日』

 

 そう呼ばれることになった日。

 善影は、弟を失った。

 

 それは何も彼に限った話ではない。

 

 魔族の死体を黙々と運ぶ男は。その日、息子を。

 怪我人の手当てをしている女は、恋人を。

 部隊の再編を指揮する年老いた男は、孫を。

 

 その他にも、参加している者達の大半が

 あの日、大事な者を失った。

 

 だが、その報いを奪った側の彼らは受けなかった。

 

 それどころか

 

 弟が

 妹が

 息子が

 娘が

 孫が

 恋人が

 父が

 母が

 

 彼ら彼女らが居たという事実すらを

 政治的な理由で抹消(ころ)されたのだ。

 

 大事な者を奪われただけでなく、死してなお

 更にもう一度抹消(ころ)される。

 

 そんな目に遭ってなお

 声を上げて反発することすら許されない。

 

 その時の彼らのやり場の無い

 苦しみ・嘆き・憎しみ・悲しみ・怒りといった感情は

 一体どこへと、ぶつければよかったのだろうか。

 

 やり場の無い気持ちだけを抱いたまま

 過ごしてきた彼らにとって、今回の魔族側の行為は

 もはや許せるものでは無くなっていた。

 

 誰もが、復讐という想いに背中を押されていた。

 

 復讐の牙を磨き続けてきた人族と

 人族を見下し、侮っていた魔族。

 

 その両者が、ぶつかればどうなるか。

 結果は、実に簡単だった。

 

 人族の3倍以上の兵力を配置していた魔族強硬派は

 復讐の鬼となり、死を恐れぬ死兵と化している

 人族の突撃を受け、壊滅的な被害を受けて

 敗走することになった。

 

 魂の気迫とでも言うべきか、心の叫びとでも言うべきか

 復讐の機会を得た人族の、風間の戦士達は

 傷つこうとも、倒れようとも

 己の命など省みず、身体が動くかぎり

 目の前の魔族をただひたすら殺していく。

 

 しかも人界最強と呼ばれる風間流。

 実戦で磨かれ、より相手を殺すことに特化した

 その技を学び、強くなった彼らがその全てを惜しみなく

 つぎ込んで殺しにくるのだ。

 

 まさに、地獄と呼ぶべき場所となっていたことだろう。

 

 その光景を実際に見ながらも

 何とか逃げることが出来た

 僅かな魔族兵達も居たが

 その誰もが恐怖で全身を震わせながら

 口を開こうとはしなかったという。

 

 

 

 

 

第14章 己が信じるもののために

 

 

 

 

 

 森の木々が、綺麗に薙ぎ倒される。

 その一撃を避けながら亜梨沙は、魔力付与した一撃を放つ。

 

 気麟では防げないと察して、竜族特有の身体能力で

 後ろに一瞬で下がるミリス。

 

亜梨沙「・・・で、こんなところで何をしてるんですか?

    返答次第では、容赦しませんよ」

 

ミリス「・・・こちらとしては

    余計なことをしている余裕なんて無いのですが」

 

 そう言いながらため息を付くミリス。

 

亜梨沙「目的を聞いているだけです」

 

ミリス「・・・人族の保護っと言ったら信じますか?」

 

亜梨沙「意味が解りません。

    今、仕掛けてきているのはそっちでしょう?」

 

ミリス「あんな連中と一緒にされたくありません。

 

    連中は、マリア様の政(まつりごと)を良しとしない

    何でも力で解決したがる強硬派です。

 

    私達とは違うものです」

 

亜梨沙「・・・結局、また身内争いの巻き添えですか。

    『儀式の日』から、魔族は何も学んでいないのですね」

 

ミリス「学んでいるから、わざわざ来たのですよ。

 

    ・・・強硬派の別働隊が、既に迫っています。

    2000・・・といった所です。

    悪いことは言いませんから、さっさと非難誘導を

    してきた方がいいですよ」

 

亜梨沙「・・・で、わざわざそんなことを言いに?」

 

ミリス「ええ。

    こちらで抑えられなかったからといって

    このまま人族がやられるのを

    マリア様が、見過ごせないと仰るので・・・ね」

 

亜梨沙「なら、用は済みましたね。

    じゃあ、さっさと帰って下さい」

 

ミリス「・・・聞いて居なかったのですか?

    魔族の部隊が―――」

 

亜梨沙「そんなもの、倒すだけです」

 

ミリス「2000を?

    もうそんなに兵力が残っていないのに?」

 

亜梨沙「ええ」

 

ミリス「・・・頭がおかしくなりましたか?

    どう考えても全滅するだけですよ?」

 

亜梨沙「どうせ春華さんも、同じことを言うでしょう。

    だから、もう用が済んだのなら

    さっさと帰って下さい」

 

ミリス「なるほど。

    やっぱり人族は、お馬鹿の集まりだったと

    いう訳ですか」

 

 そう言うとミリスは、背を向ける。

 

亜梨沙「人族は、決して逃げません。

    どこかの誰かのように、自らの出生や

    種族を否定するような人とは違うんですよ」

 

ミリス「・・・今、何か言いましたか?」

 

亜梨沙「ええ。

    自分を生んだ母親を否定するような

    生き方をする、そんな人生逃げてばかりの人と

    我々人族は、違うの・・・で、す・・・よ?」

 

 話していた亜梨沙は、ふと違和感に気づく。

 

 『私は何故、そんなことを知っているのだろう』と。

 

 だが、そんなことを考える間もなく

 意識は、目の前のミリスに奪われる。

 

 圧倒的なまでの殺意。

 

 それをまとったまま、ミリスはゆっくりと

 こちらに振り返る。

 

ミリス「何の苦労もない、普通の家庭に生まれ

    不自由なく暮らしてきた、そんなアナタに

    私の何が解るっていうのです?」

 

 あくまでミリスは、笑顔だった。

 だが、その放たれている明確なまでの殺気が

 間違いなく彼女の本心だろう。

 

亜梨沙「解る訳ないじゃないですか。

    まあ、そんな逃げてばかりの人生なんて

    解りたくもないですけどね」

 

ミリス「・・・気が、変わりました」

 

 ゆっくりと大斧を構えるミリス。

 

ミリス「そんなに死にたいのなら

    先に殺してあげますね」

 

 その言葉と共に、大きく跳躍するミリス。

 

亜梨沙「・・・」

 

 ミリス=ベリセン。

 

 紅の死神と呼ばれる少女。

 彼女の生い立ちに、同情も出来るし

 そうなったことに一定の理解も出来る。

 

 ・・・だが。

 

 私は、あの人をずっと見てきた。

 

 家族や友人、故郷など全てを一瞬で失った時

 あの人は、涙を見せず剣を振り続けていた。

 

 『儀式の日』では、多くの友と共に

 あれだけ必要としていた儀式兵装を失った。

 それでも、あの人は諦めなかった。

 

 周囲から馬鹿にされることもあった。

 無駄だと諭されることもあった。

 でも諦めなかった。

 

 誰もが逃げ出したくなるような状態でも。

 

 逃げても誰も責めないだろう状況でも。

 

 あの人は、必ず前を向いて歩き続けてきた。

 

 だからこそ―――

 

亜梨沙「ただ嫌なことから、自分から、逃げ出したアナタに

    私は、何度でも言います。

 

    『逃げるだけでは、何も解決しない』とっ!!」

 

ミリス「―――ッ!!」

 

 身体を回転させならが落下し

 遠心力と重力を全て大斧の刃に乗せた一撃を放つミリス。

 

 亜梨沙が、後ろに大きく飛び退いた瞬間。

 

 鈍い音と共に地面に突き刺さった大斧を中心に

 一瞬にして地面が砕け、割れ、亀裂が入り

 爆風によって周囲全てを吹き飛ばす。

 

 爆風と土煙が消え、視界が戻った亜梨沙が見たものは

 ミリスを中心に深く抉れた地面と

 巨大なクレーターだった。

 

亜梨沙「・・・」

 

 きっと今のが、全力の一撃だろう。

 そうなるとやはり、攻撃を受け止めることは不可能だ。

 

 頭の中で冷静な計算をしながらも

 視線は、ミリスを向いたままだ。

 

ミリス「・・・」

 

 ミリスは、無言のまま大斧を低い姿勢で構える。

 

ミリス「パワー・ファイア・サード」

 

 ボソっと呟いた一言で、大斧に強力な魔力が宿る。

 

 魔力が斧全体に行き渡った瞬間、ミリスの姿が一瞬だけブレる。

 

亜梨沙「スピードアップ・セカンド!!」

 

 亜梨沙がそう叫んだ頃には、もう亜梨沙の正面で

 斧を振り下ろす体勢になっているミリス。

 

 通常なら回避不可能なタイミングではあったが

 斧は、空を切って地面に刺さる。

 衝撃でまた、地面に大きな穴が開く。

 

 亜梨沙は、加速魔法による速度で

 何とかミリスの一撃を回避する。

 

 大きく後ろに跳躍して逃げた亜梨沙だが

 

亜梨沙「―――ッ!!」 

 

 顔の目前まで迫っていた炎槍。

 体勢を横に倒しながら

 頭を横に傾けることで、ギリギリ回避する。

 

 更に追撃で後ろから飛んできている2本を

 片足で踏ん張り、横に跳躍することで回避する。

 

 空中で体勢を立て直し、着地した瞬間。

 言葉に出来ない圧力を上から感じて

 また後ろに飛び退く。

 

 凄まじい爆音と共に、亜梨沙の居た場所を

 上から落下してきたミリスの一撃が地面ごと吹き飛ばす。

 

ミリス「『逃げるだけでは、何も解決しない』・・・ですか。

 

     よくもまあ、そんなことが言えますね。

     家族に守られ、甘えながら育った世間知らずが

     今度は、人にお説教なんて。

 

     随分と、上から目線ですよね」

 

亜梨沙「・・・それで、同情した方がよかったですか?

 

    それとも『アナタは間違っていない』とでも

    言って欲しいんですか?

 

    そんな安い同情や気休めなんていらないですよね」

 

ミリス「・・・何が言いたいのです?」

 

亜梨沙「確かに私は、比較的恵まれた環境に生まれたでしょう。

 

    でも、数多くの出来事を見てきました。

 

    大切な誰かを失った人々。

    やり場のない怒り。

    癒えることのない悲しみ。

 

    それは、アナタも経験したことでしょう。

 

    だけど、それでも時間は進むのです。

    人は、生きているうちは、歩かなければいけないんです。

    先に進まなければいけないんです。

 

    私が見てきた人は

    どんなに辛くても、ほんの少しでも前へと

    進もうとしてきました。

 

    だから―――」

 

ミリス「―――だから、それらを乗り越えて前に進めと?

 

    どんなに辛くとも、悲しくとも

    全てを糧にして前向きに生きろと?」

 

 ミリスの周囲に魔力が集まり始める。

 それは、今までと比べ物にならないほどの魔力量。

 

 ミリスを中心に風が巻き起こり、ミリスに変化が起こる。

 

ミリス「・・・それでも。

 

    それでも前に進めない人は、どうすればいいのです?

 

    悲しみに潰され、辛さを乗り越えることが出来ない人は?

 

    誰もが前に進める訳じゃありません。

    誰もが幸せになれる訳じゃありません。

    誰もが強い心を持っている訳じゃありません。

 

    ・・・だったら。

 

    そうじゃない人は

    過去を引き摺ったまま生きていくしかないでしょう?」

 

 魔力がミリスに収束するように集まると

 いつの間にかミリスには

 竜族特有の耳と尻尾。

 背中には魔族や神族達特有の翼が付いていた。

 

亜梨沙「・・・紅い、翼」

 

 ミリスの翼は、魔族のような黒色でも

 神族のような白色でもない。

 

 彼女の髪同様、紅色の翼だった。

 

ミリス「はぁっ!」

 

 彼女が翼を広げ、雄叫びのような声と共に

 突っ込んでくる。

 

 ガシャンという音がして

 地面に弾装の薬莢が落ちる。

 

亜梨沙「パワー・ウインド・サード!!!」

 

 咄嗟の出来事に、何とか強化魔法を発動するが

 

亜梨沙「くっ!!」

 

 大斧の一撃を流しきれずに後ろに吹き飛ばされる。

 

 運よく木々にぶつからずに体勢を立て直して着地出来たが

 着地した瞬間、目の前にはもうミリスの姿。

 

亜梨沙「スピードアップ・サードッ!!!」

 

 人間の動きをはるかに超える速度でミリスの追撃を回避するが

 ミリスも一般の竜族をはるかに越える身体能力で

 亜梨沙を追いかける。

 

ミリス「ファイアジャベリンッ!!」

 

 炎槍が何本も後ろから飛んでくる。

 それらを回避しながら木々を使って不規則に動く。

 

 しかしミリスも同じような動きをして

 決して振り切れない。

 それどころか、距離が縮まるたびに

 大斧の一撃を避けなければならず

 距離を取ろうにも炎槍が雨のように襲ってくるので

 反撃どころではない。

 

 何度目かの接近による大斧の一撃が

 亜梨沙の着地を狙って襲い掛かる。

 

 着地タイミングを狙われ、体勢的に逃げることも出来ない。

 

亜梨沙「―――ウインド・シールドッ!!」

 

 弾装を使用して、通常よりも素早く風盾を展開するが・・・。

 

ミリス「そんなものっ!!」

 

 力任せの豪快な一撃が風盾を軽々と砕く。

 

亜梨沙「ブレイクッ!!!」

 

 風盾が砕かれた瞬間に、風盾を暴走させる亜梨沙。

 砕けた破片が、亜梨沙とミリスの大斧の間で魔力爆発して

 暴風を呼び起こす。

 

 強力な風により、僅かに亜梨沙は右へ。

 ミリスの大斧は左へと流される。

 

 その僅かな差は、亜梨沙にとって

 ミリスの一撃を避けるのに十分なものだった。

 

 そのまま右へと転がるように避け

 素早く地面を叩き飛び上がるように後ろへと

 下がりながら手をかざす。

 

亜梨沙「ウインド・アローッ!!」

 

 5本の不可視の矢が、ミリスに向かって飛ぶ。

 

ミリス「はぁぁっ!!」

 

 その場で大きく大斧を下から上へと振り上げる。

 すると斧の先に付与されていた魔力が放射され

 飛んできていた不可視の矢全てを巻き込んで

 周囲の木々ごと爆発する。

 

 着地して体勢を立て直した亜梨沙を

 爆煙が包み込むように広がり、視界を奪う。

 

 すると周囲からいくつもの音が聞こえてくる。

 

 地面を踏む音。

 草が揺れる音。

 木々を蹴る音。

 

 それらの音に神経を尖らせ、集中する亜梨沙。

 

 ガシャン。

 

 僅かに聞こえる弾装の音。

 

 そしてほんの僅かな違和感を本能的に察知し

 大きくその場から後ろへと跳躍する。

 

 煙の中から出てきた亜梨沙が見たものは

 ミリスが巨大な炎の塊を、亜梨沙の居た場所へと

 投げ込んでいる瞬間だった。

 

 地面に着弾した炎は、一瞬にして周囲を焼き尽くす。

 何とかギリギリの所で範囲から逃れた亜梨沙。

 

 燃え盛る森の中、亜梨沙は

 炎の奥をただ一点見つめる。

 

 すると、その炎の中から出来たのは

 まるで炎の化身のようなミリスの姿。

 

 彼女は、無表情な顔をしていたが

 亜梨沙と目が合うと

 ニヤっと口元だけ笑みを浮かべる。

 

ミリス「どうやら口だけのようですね?」

 

亜梨沙「・・・」

 

 無言のまま、剣先をミリスに向けて

 低い姿勢で構えを取る。

 

 そして―――

 

亜梨沙「風間流『舞』鬼刃」

 

 亜梨沙の姿が一瞬にして消える。

 次の瞬間には、もうミリスに亜梨沙の突きが迫っていた。

 

ミリス「こんなものっ!」

 

 儀式兵装を破壊するつもりで大斧を横に薙いで

 攻撃を弾く。

 

 だが―――

 

ミリス「―――ッ!!」

 

 確かに強く弾いた感触があったにも関わらず

 目の前には、既に亜梨沙の突きが、また迫っていた。

 

 それを落ち着いて回避しながらカウンターを狙うべく

 斧を握り直した瞬間。

 

ミリス「―――ッ!?」

 

 ミリスが見たのは、またも目の前に迫っていた

 突きによる一撃。

 

 何とか斧で防ぐも、スグにまた新しい突きがやってくる。

 まるで無数の突きが波のように押し寄せてくる感じだ。

 

 たまらず防御に徹するミリス。

 

 防御と回避を織り交ぜながら

 常に動くことで反撃の糸口を探そうとするが

 予想外に隙が無いため、思わず舌打ちするミリス。

 

ミリス「(攻撃の1つ1つは、たいしたことがないのに

     無視する訳には行かない絶妙な所に腹が立っちゃいますね)」

 

 亜梨沙の攻撃は、気麟を抜く一撃ではあるが

 やはり減衰されるためか、ミリスにとっては

 当たっても致命傷にはならないほどだ。

 

 しかし、それゆえに厄介である。

 

 腕や足に当たれば、ダメージではあるが致命傷ではない。

 だが、その一撃によって動きが鈍れば

 防御が疎かになり、また別の一撃を受けやすくなる。

 

 そうなれば、あとは誰でも理解の出来る負の連鎖だ。

 

 一見すれば、たいしたことが無い攻撃でも

 こうも素早い連続攻撃では

 積もり積もって致命傷にまで発展する。

 

 それを本能的に察してか

 徹底して防御に徹しながらも

 反撃の機会をうかがうミリス。

 

亜梨沙「(予想以上に防御が堅いですね)」

 

 見た目には、圧倒的に押しているように見える状況だが

 一切通らない攻撃に、亜梨沙も一撃決めるための隙を探していた。

 

 せめて動きを止められれば

 本格的な攻撃に移れるのだが、ミリスはそれを知ってか知らずか

 常に動いて逃げようとしている。

 

 気麟や大斧を上手く利用し、徹底して防御してくるため

 有効打を入れる隙がない。

 しかし今、攻撃を止める訳にもいかない。

 

 せっかく流れをこちらに引き寄せているのだ。

 ミリスの攻撃を封じているだけでも十分な意味がある。

 

亜梨沙「(攻撃特化な癖に、防御が上手いとか

     地味な嫌がらせですよね、これって)」

 

 心の中で、そんな愚痴をもらしつつ

 攻撃の手を緩めずに前へ、前へと

 積極的に攻め続ける亜梨沙。

 

 数え切れないほどの攻防を一瞬で繰り広げながら

 森の中を移動する2人。

 

 数分ほど経ったあたりで、ミリスが動く。

 

 突然、勢い良く後ろに跳躍するミリスに

 距離を取らせまいと亜梨沙もスグに追いかける。

 

 だが後ろに下がったミリスは、大斧を地面に叩きつける。

 その瞬間―――

 

ミリス「ブレイクッ!!」

 

 大斧に付与していた強化魔法を

 叩きつける瞬間に魔力暴走させ爆発させる。

 

亜梨沙「くっ!!」

 

 突然、迫る爆音と煙。

 そして大量の石が亜梨沙を襲う。

 

 たまらず風盾を張りながら後ろに下がる亜梨沙。

 

 しかし、次の瞬間。

 

ミリス「もらいましたっ☆」

 

 煙の中から無傷のミリスが突進してくる。

 

 今までの戦闘でも見ることがなかった

 最高速の突撃というのもあっただろう。

 

 だが、それ以上に亜梨沙を驚かせたのは

 ミリスが無傷だったこと。

 

 あれだけ強引な魔力爆発を起こせば

 普通なら本人にもかなりのダメージが入るはず。

 

 なのにミリスは、ダメージを一切受けずに突撃してきたのだ。

 

亜梨沙「―――ッ!!!」

 

 風盾は、簡単に砕かれ

 目の前に大斧が迫る。

 

 何とか直撃を避けようと、刀で大斧の軌道をそらそうと

 抵抗してみるも、並の竜族をはるかに越える圧倒的な力に押され

 正面から防御する状況に持っていかれる。

 

 そして亜梨沙は、ミリスの強力な一撃に吹き飛ばされ

 何本もの木にぶつかって、ようやく地面に落ちる。

 

ミリス「・・・まあ、こんなものですよね」

 

 地面に倒れ、動かなくなった亜梨沙を見て

 ミリスは、背を向ける。

 

 だが1歩足を進めた瞬間、ため息をつく。

 

ミリス「本当に殺しますよ?」

 

 そう言い放ったミリスの視線の先には

 立ち上がる亜梨沙の姿。

 

亜梨沙「・・・」

 

 無言で立ち上がった亜梨沙は

 冷静に考え、そして答えに至る。

 

亜梨沙「(・・・そうか。

     彼女には、気麟がありましたね)」

 

 ミリスが無傷な理由は

 まさに亜梨沙の考えた通り。

 

 本来なら自滅するような魔力暴走でも

 気麟が防御してくれるため

 こういった強引な方法も取れるのだ。

 

 だが、普通の竜族では

 気麟の質や魔力適正の低さに伴う制御の下手さなど

 様々なこともあり、簡単に出来ることではない。

 

 数々の実戦を潜り抜けてきた彼女だからであり

 一般的な竜族を越える能力を持つ彼女のような実力者でなければ

 不可能だと言える一手だった。

 

 ミリスが、大斧を構える。

 

亜梨沙「(さすがは、死神と呼ばれるだけはありますね。

     ・・・このままでは、負ける)」

 

 つい弱気になる心。

 だが、スグに気持ちは

 元に戻る。

 

亜梨沙「(私は、あの人の隣に立ちたいと

     ずっと思ってきました。

 

     だからこそ剣を取ったのです。

 

     ・・・こんな所で、負ける訳にはいかない)」

 

 何度か、深呼吸をする。

 そして―――

 

亜梨沙「最強を掲げる風間流。

    その創設者、風間(かざま) 一刀斎(いっとうさい)が裔(すえ)

    風間 亜梨沙!

    流派師範代の末席なれど、剣舞を見せよう、風間の舞をっ!

    風間は、ただ勝利あるのみっ!!」

 

 亜梨沙は『名乗り』を上げ、刀を持ち直して右半開の構えを取る。

 

ミリス「・・・」

 

 その姿に、ミリスは違和感を覚える。

 

 片手で刀を持っているのは、別に問題ではない。

 だが、もう片方の手は

 腰のあたりで、何も持たずに構えているだけ。

 

 片手の一撃で気麟を抜くつもりか?

 空いた手で投げを狙ってくる?

 何かアイテムでも使用する気か?

 それとも別の何かが?

 

 今までに見たことがない構えに

 ミリスは、警戒を強める。

 

亜梨沙「・・・」

 

 互いに無言のまま動かない。

 

 まるで時間が止まってしまったかのようにさえ

 感じてしまう状態。

 

 だが、2人の間を風が通り抜けた瞬間。

 

亜梨沙「風間流 ―風の章― 奥義・神風(かみかぜ)」

 

 亜梨沙の姿が、一瞬にして消える。

 

ミリス「―――ッ!?」

 

 次の瞬間。

 

 ミリスは、もの凄い勢いで

 何本もの木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ぶ。

 

 そして地面に何度がバウンドして、ようやく止まる。

 

 大斧で身体を支えながら

 ミリスは、よろよろと立ち上がる。

 

ミリス「(・・・見えなかった)」

 

 表情こそ平静を装っているが

 内心では、かなり焦っていた。

 

 今の亜梨沙の一撃が、正直見えていなかったのだ。

 本能的に正面からだと察して防御し

 それが正しかったというだけの話。

 

 そして正面からの攻撃であったのに

 防ぐどころか、圧倒的に力負けしたことも

 驚いている理由の1つだ。

 

 まさか、竜族以外にここまで思いっきり防御状態の自分を

 吹き飛ばせる者が居るとは思っていなかった。

 

 立ち上がったミリスは

 正面から気配を感じて前を向く。

 

ミリス「―――ッ!?」

 

 そしてミリスは、またも驚く。

 

亜梨沙「・・・アナタでも、そんな顔、するんですね」

 

 無表情な顔で、そう言う亜梨沙の声も

 ミリスには、届いていない。

 

ミリス「・・・二刀流、ですか」

 

 そう、ミリスが驚いていたのは・・・。

 

亜梨沙「何か問題でも?」

 

 二刀流で構える亜梨沙を見たからだった。

 

 いつの間にか握られていた刀。

 しかも儀式兵装の刀と良く似ている。

 

ミリス「―――ッ!?」

 

 亜梨沙の刀を見た瞬間

 亜梨沙が消える。

 

亜梨沙「どこを見ているのです?」

 

 後ろから聞こえる声に

 慌てて振り返ると、いつの間にか後ろの方に

 移動していた亜梨沙を見つける。

 

ミリス「(何時の間に・・・)」

 

 完全に見えなかった。

 さっきの一撃も、今の動きも。

 

 それもそのはず。

 

 亜梨沙の使った神風は

 風間流の中でも風属性の魔法を使用する者達が

 習得する『風の章』と呼ばれる技の種類の中でも

 奥義とされる技。

 

 加速魔法なのだが、上級を超える超級に位置しており

 その超級をはるかに超える速度を出すことが出来る。

 

 だが、使用するには高難度の制御能力と適正。

 そして圧倒的な魔力量が必要となってくる。

 

 風間流の中でも、これが使えるのは

 居ないとされてきた。

 

 だが、最高師範である祖父との壮絶な訓練において

 彼女は、この奥義を習得していたのだ。

 

 亜梨沙を観察していたミリスは

 もう1つの事実に気づく。

 

ミリス「・・・その魔力量は、一体何です?」

 

亜梨沙「それこそ、何か問題でもありますか?」

 

ミリス「人族が、そんな馬鹿みたいな魔力を集めることも

    制御することも出来ないはず―――」

 

 そこまで言ってから、ミリスは気づいてハッとする。

 

ミリス「・・・たしか、人族には

    魔王の血族と同じく、血による増幅が可能な者が

    ごく稀に居ると聞いたことがあります。

 

    ・・・なるほど、そういうことですか」

 

 恐らく、そういうことなのだろう。

 何せ、六翼であり全力である今の自分を超える

 魔力を、目の前の人族が出しているのだ。

 

 本来なら、間違いなくありえないこと。

 

亜梨沙「まさか、これを使うことになるとは思いませんでした。

    しかし、これを使う以上、必ず勝ちます」

 

 そう言って亜梨沙が、二刀を構える。

 刀についている弾装から排莢される音がして

 2つの薬莢が転がり落ちる。

 

 すると二刀を中心に魔力が制御され、形を成す。

 

ミリス「儀式兵装を2本も持ってるなんて、聞いたことがないですよ?」

 

亜梨沙「この刀は、2本一対。

    2本で1つの儀式兵装です。

 

    普段は、1本しか使いませんし

    もう1本は、風魔法を利用して隠してますけどね」

 

 1本でも手に余ると言う亜梨沙は

 本当に全力の時で無ければ2本を使おうとはしない。

 

 以前、氷の騎士ことアクア=レーベルトとの試合において

 最後に使ったのも、この隠してあった刀だ。

 

 腰に帯刀しているのだが、風魔法を利用して

 見えないようにしているため

 隠していない1本の刀と鞘だけしか持っていないと

 思われていただけなのだ。

 

ミリス「・・・2本一対の儀式兵装も、聞いたことありませんけどね」

 

 刀が2本とも弾装を持ち

 魔力を制御しているのなら

 それはもう、儀式兵装を2本持っているのと同じである。

 

亜梨沙「・・・では、そろそろいきます。

    手加減は一切出来ないので、死んでも怨まないで下さい」

 

 亜梨沙を中心に一気に膨大な魔力が膨れ上がる。 

 

ミリス「それは、こちらの台詞です」

 

 ミリスも対抗して魔力を集める。

 気麟を前面のみに展開して厚くする。

 大斧についている単発式の弾装から薬莢が飛び出る。

 

 再び動かなくなる2人。

 だが、少しづつではあるが

 空気が張り詰めていく。

 

 そして2人が同時に仕掛けようと動いた瞬間―――

 

亜梨沙「―――ッ」

ミリス「ちっ」

 

 突然、横から飛んできた炎槍を

 2人とも跳躍して回避する。

 

ゴーレム「ガァァ!!」

 

魔族兵A「こんなところに

    人族と裏切り者が居るとはな」

 

 乱入してきたのは、侵攻してきていた魔族部隊の1つ。

 ミリスが来ると言っていた部隊だ。

 

魔族兵B「どうせ殺すんだ。

    さっさと始末して、先に進まないと

    俺達が文句言われちまうぜ」

 

魔族兵A「おっと、そうだった。

    そういう訳だ。

    ゴーレムを100匹ほど置いてやるから

    まあせいぜい頑張れ」

 

 その言葉に周囲の魔族兵からは、笑いが出る。

 

 だが、次の瞬間。

 

ゴーレム「ガ・・・?」

 

 一瞬にして周囲のゴーレム達が崩れ去る。

 

魔族兵A「へ?」

 

魔族兵B「な・・・何が起こった?」

 

 困惑する2人の元に

 多くの兵士やゴーレムが次々と合流してくる。

 

魔族小隊長「どうした? 何が―――」

 

 駆けつけた者達も、ゴーレム達も

 言葉を失い、一点を見つめる。

 

 その見つめる先に居たのは

 亜梨沙とミリスの2人。

 

 

ミリス「私達の邪魔を―――」

亜梨沙「―――しないで下さいっ!!!」

 

 

 全力状態の2人が突撃し

 一瞬で先発隊が壊滅する。

 

 ミリスの驚異的な一撃は

 周囲の敵を破壊し、薙ぎ倒し、吹き飛ばす。

 

 亜梨沙の圧倒的な速度に

 相手は、攻撃されたことすら気づかず

 呆然とした顔のまま倒れていく。

 

 その騒ぎに本隊が気づいて合流するも

 簡単に2人を止めることは出来ない。

 

魔族兵C「ば・・・化け物だっ!!」

 

魔族兵D「に、逃げろっ!!

    こんなの相手―――」

 

 最後まで台詞を言う前に、魔族兵Dの首は落ちる。

 

 恐怖が恐怖を呼び、それが全体に広がって

 もはやパニック状態と化す。

 それでも、2人の追撃は止まるどころか

 激しさを増す。

 

 まるで自身の鬱憤を吐き出すが如く

 さながら狂戦士のように暴れ続ける。

 

 

 2人が暴れている頃。

 

和也「―――やっと見つけたっ!!」

 

 森の中を馬で走り続けていた和也は

 ようやく探していたものを見つける。

 

 森から出て草原へと向かう和也。

 

 その先には 

 人族と、魔族が部隊を展開してにらみ合っている

 まさに戦場と呼べる場所があった。

 

 人族側の部隊の中を走りぬけ

 探していた相手の前で馬を下りる。

 

和也「探したぞ、クソ爺ッ!!」

 

源五郎「・・・相変わらず口の悪い奴じゃのぅ」

 

和也「どういうことか、説明しやがれっ!!」

 

大吾「こら、和也ッ!

   最高師範に対して―――」

 

源五郎「構わん。

    それに、今更じゃからの」

 

 和也の態度を注意しようとした大吾だったが

 源五郎に制止される。

 

和也「こんなもんまで、残して何がしたいんだよっ!!」

 

 和也が出してきたのは

 源五郎が和也に残してきた手紙。

 

源五郎「・・・書いてあった通りじゃ」

 

和也「だから、どうしてそう急な話に―――」

 

源五郎「急な話ではない」

 

和也「どう考えても―――」

 

源五郎「まあ聞け」

 

 食いついてくる和也を制止すると

 咳払いをして間を取る。

 

 そして和也に正面から向き合う。

 

源五郎「大戦争からだ。

    あの戦いの後、人族は知っての通り

    全ての責任を負った。

 

    まあそれで世界が平和になるのならという

    話でもあったし、それを誰もが受け入れ

    新しい世界に憧れた。

 

    だが、結果はどうだ。

 

    人族だけが無理難題を強いられ

    魔族と神族は、覇権争いを辞めるどころか

    水面下で小競り合いを続けている。

 

    そしてそのとばっちりを受けるのは

    いつも人族じゃ。

 

    『儀式の日』が解り易い例じゃろう。

 

    大切な誰かを失ってなお

    ワシらは、我慢を続けた。

 

    しかし、それを他のどの種族も

    正しく理解しておらん。

 

    ・・・いや、理解なぞ

    最初からする気が無いのじゃろうなぁ」

 

和也「いや、だからといって―――」

 

源五郎「お前の言いたいことも解らんでもない。

 

    全ての者がそうではないというのであろう?

    それは、ワシも理解しておる。

 

    だが、それがどうしたというのだ。

    少数の理解者が居たとて、それが大勢に影響ある訳ではない。

 

    結局、今回のように

    また人族が苦しむだけとなるじゃろう。

 

    それが今後も、永遠に続くのじゃ。

 

    考えても見よ。

 

    自分の子や、孫や、その後に続く者達にまで

    このような不幸を引き継ぐことになる。

    負の遺産は、我々の代で消し去るべきこと。

 

    だからこそ、我らは立ち上がったのじゃ。

 

    我らの命を賭して、真の平和を勝ち取るために」

 

 その言葉に和也は、言葉を失う。

 

 今、この場に居る彼らは

 死ぬつもりで来ているのだと理解したからだ。

 

 死ぬまで戦い、その実力と人族の不満を

 世界に見せ付けることで

 人族が差別される時代を終わらせるために。

 

 だから、目の前に居る

 この気に入らない爺さんは、俺にこんな手紙を残したのだと。

 

 もう止まらない彼らを止めるための手段として。

 人族の未来のためとして。

 ・・・そして、多くの命を救うために。

 

 人族は、王家とも呼べる一族が滅んだことで

 その役割を風間家が引き継いでいる。

 

 なので最高師範の言葉が絶対とされている。

 つまり、最高師範の言葉であれば

 逆らうことは許されない。

 

 そして、最高師範になるためには

 最高師範からその位を譲渡される以外に

 もう1つ、方法がある。

 

 それは―――

 

和也「・・・まったく。

   気に入らないクソ爺だと思ってたが

   やっぱり気に入らない。

 

   俺がこうすることも解った上で

   こんなものまで残しやがって」

 

源五郎「・・・何とでも言え。

    ワシはワシが正しいと思った道を

    ただ進むのみじゃ」

 

和也「・・・最高師範。

 

   師範の権限として

   『交代試合』をこの場で挑む」

 

大吾「―――ッ!?」

 

善影「―――ッ!?」

 

早雲「・・・」

 

 周囲に居た風間の部隊にも動揺が広がる。

 

 交代試合とは、師範が最高師範に挑む権利であり

 これに師範が勝つと、強制的に最高師範となる。

 

 ほとんど使われることがない制度であり

 これが使われた試合は、基本的に

 どちらかが死ぬ場合が多い。

 

 何故なら真剣勝負であり、一切の手加減などありえないからだ。

 師範が、その生涯でただ1度だけ使える権利であり

 まさに命を賭けた戦いを意味する。

 

和也「俺が勝ったら

   今すぐ、全軍を引いてもらう」

 

源五郎「そういう話は

    ワシに勝ってからにするのじゃな」

 

 誰もが動揺する中、早雲だけは冷静だった。

 

早雲「今すぐ、交代試合の場所を用意します。

   手の空いている者は、手伝って下さい」

 

 その言葉に冷静さを取り戻した数人が

 手伝いを始める。

 

和也「・・・こんな回りくどい手を使いやがって」

 

源五郎「こうでもせねば、責任が全体に及ぶであろう。

    そうなっては、困るのでな」

 

 ニヤっと口元に笑みを浮かべる源五郎に

 和也は、ため息をつく。

 

和也「(・・・このクソ爺め)」

 

 こうなるまでの流れが、全て目の前に居る老人による

 仕掛けであると解っているが

 それに乗っかる以外に、自分の望む結果を得る術がない。

 

 そのことが余計に腹立たしい。

 

 こうして、戦場にて異例の戦いが

 行われようとしていた。

 

 

 

 

 

第14章 己が信じるもののために ~完~

 

 

 

 

 




まず、ここまで読んで頂きありがとう御座います。

前回、次は別作品の方を優先するとの話を
しましたが、別作品側が予想外に難航しております。

なので、問題無く進められるこちらを優先致しました。

恐らく当面は、こちら優先になりそうです。

予定変更に伴い、あちら側を期待されていた方には
申し訳ない変更となってしまいましたが
品質向上のための措置ですので
ご理解・ご協力をお願いします。


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最終章 運命を変えるための戦いへ

 

 風間の部隊と睨み合う魔族軍。

 

 強硬派が中心となって編成した部隊だ。

 

ゴルダ「お前達っ!!

    ここから先は、私の領土だっ!!

 

    それをお情けで生きているような人族どもに

    踏み荒らされる訳にはいかんのだっ!!」

 

 うるさく喚いているのは、強硬派の1人。

 魔界でもそれなりの地位に居る上級貴族。

 

 しかしゴルダは、焦っていた。

 正直、こんなことになるなんて聞いていないからだ。

 

 他の連中も、一瞬で終わる戦いだと笑い

 これで忌々しい魔王妃を蹴落として

 権力を握れるとしか言っていなかったのに・・・と。

 

魔族部隊長「・・・それにしてもゴルダ様。

      何故、人族は今更になって

      侵攻してきたのでしょう?

 

      奴らが攻めてくる理由が解りません」

 

 魔族部隊の部隊長は、そう首をかしげながら質問する。

 

 そもそも、強硬派が中心になっているだけで

 この場に居るほとんどの将兵は、事情を知らない正規軍なのだ。

 

 彼らからすれば、突然部隊を召集したかと思えば

 即、人族との戦争の最前線に立たされたような状態。

 

 なので状況がイマイチ理解出来ず、部隊士気も低い。

 

ゴルダ「そんなもの、この私が知る訳ないだろうっ!!

    お前らは、奴らを皆殺しにすればいいんだっ!!」

 

魔族部隊長「・・・は、はぁ」

 

ゴルダ「・・・ああ、そうだ。

 

    おい、お前っ!

    返事は、まだ帰って来ないのかっ!?」

 

 突然、思い出したかのように

 本陣の隅に立つ兵士に声をかけるゴルダ。

 

魔族兵「は、はい。

    まだ返答があったとの報告は

    どこからもありません」

 

ゴルダ「くそっ!!

    どういうことだ・・・。

 

    どうして返事が来ないんだよっ!!」

 

 目の前にあった机を勢いよく蹴り飛ばす。

 

 他の強硬派の仲間である貴族達に

 応援と今後の方針を決めるため

 伝令を出したのだが、一向に帰ってくる気配がない。

 

ゴルダ「まさか、あいつら・・・。

    この私に罪を擦り付けて逃げるつもりじゃ・・・!!」

 

 もしかしたら捨て駒にされたのでは?

 そう考えると、返事が来ないのも当然だ。

 

 なら、こんなところに居たら

 全ての責任を押し付けられてしまう。

 人族に捕まっても、魔王妃側に捕まっても

 自分は、殺される。

 

ゴルダ「ああぁぁぁぁっ!!!

 

    くそっ! くそっ!! くそっ!!!

 

    どうしたらいいんだっ!!

    どうしたら・・・!!」

 

 不機嫌さを隠そうともせず、苛立ちを声にしながら

 その場をグルグルと回りだす。

 

 そんな時だった。

 

魔族兵「あ、あの・・・」

 

 入り口を警備していた兵士が声をかけてくる。

 

ゴルダ「何だ、貴様ッ!!

    この俺に文句でもあるのかっ!?」

 

魔族兵「い、いえ。

    その・・・あの・・・」

 

ゴルダ「これ以上、私を苛立たせるなら

    その首を刎ねるぞっ!!」

 

?「首が飛ぶのは、お前の方だよ」

 

 戸惑う兵士を押し退けるように1人の人物が現れる。

 

ゴルダ「え・・・あ・・・。

    ・・・ア、ナタ・・・様、は・・・」

 

?「何せ、この私自ら殺しにきてやったのだから」

 

 その姿を見て、ゴルダは震えながら腰を抜かして

 その場に尻餅をつく。

 

 そう、ゴルダの前に現れたのは―――

 

マリア「魔界と人界を混乱させた責任は

    キッチリとお前達の命で償わせてやろう」

 

 魔王妃 マリア=ゴアだった。

 

 

 

 

 

最終章 運命を変えるための戦いへ

 

 

 

 

 

和也「・・・」

 

源五郎「・・・」

 

 互いに無言のまま見つめ合う。

 

 風間の主なメンバーが、その周囲を囲むように立っている。

 

 その誰もが、2人を止めようとはしなかった。

 いや、出来ないというべきか。

 

 交代試合は、それほどまでに重要なものであり

 これに口を挟めるのは、師範である早雲だけである。

 その早雲が、何も言わずに2人の戦いを見届けようとしている。

 

 それを師範代以下の自分達が、口出し出来る訳がない。

 それほどまでに、風間は伝統を重んじている集団なのだ。

 

 早雲が何も言わないのは

 事前に源五郎と、この話をしていたためだ。

 

 源五郎が何をしたいのか。

 そして和也に残した手紙の中身。

 その全てを知っていて、それら全てを受け入れているからこそ

 こうして自分から率先して準備を進めていたのだ。

 

 臨時で用意された場所で、これから2人の真剣勝負が始まる。

 

 さすがに魔族軍と睨み合っている状況なため

 前衛配置の者達は、敵の動きを監視しているが

 それ以外の全ての者が、今から始まる勝負を見届けようと

 集まっていた。

 

 少しして、和也と源五郎の間に早雲が立つ。

 

早雲「準備は、よろしいですか?」

 

 その問いに、和也と源五郎は

 無言のまま頷く。

 

早雲「では、これより

   『交代試合』を行います。

 

   双方、死をもっての決着を覚悟し

   互いに死力を尽くすこと」

 

 和也は、強襲型魔法剣・紅を手にする。

 

 源五郎も、儀式兵装ではない方の刀を1本手にする。

 

早雲「・・・交代試合。

 

   ・・・はじめッ!!!」

 

 そう叫んだ瞬間。

 早雲は、物凄い速さで後ろに下がって

 戦いの舞台の外へと出る。

 

 その早雲が飛び退いた場所では、既に

 剣戟が鳴り響いていた。

 

 仕掛けたのは、意外にも源五郎だった。

 

 基本に忠実な連撃。

 それは『舞』にも似た流れるような動き。

 何十年と積み重ねてきた歴史を感じる連続攻撃だ。

 

 これだけでも風間の名乗りクラスが

 目で追うのが、やっとという速さ。

 

 とてもではないが、名乗り以下では話にならない。

 

 そんな最高師範の動きに驚いている者達が

 ほとんどだが、師範代である

 大吾・善影や早雲といった役職者は

 和也の動きを見ていた。

 

 最高師範の連続攻撃を

 和也は、冷静に全て受け流している。 

 

 反撃が入れられそうな瞬間も何度かあったが

 それでも和也は、防御に徹して様子見をしている。

 

 いつもは、攻撃的な戦いをする和也らしくない動きに

 師範代達は、何かあると考え

 その動きから目を離さない。

 

 何度目かになる反撃のチャンスを無視した和也に

 源五郎も不思議に思い、一歩余計に前へと

 踏み込んだ瞬間だった。

 

 今までより少し大きい音が周囲に響く。

 

源五郎「―――ほぅ」

 

 眉を顰めながら関心する源五郎。

 

 それは、初めて和也から攻撃をした瞬間だった。

 

 源五郎が、腰に下げたもう1本の刀。

 まだ刀身が半分以上鞘に収まったままではあったが

 片手で少しだけ引き上げられ、僅かに見える刀身部分で

 しっかりと和也の一撃を止めていた。

 

和也「最初から、2本を使えよクソ爺。

 

   しかも儀式兵装の方を使わないとか

   ふざけてるのか?」

 

 源五郎は、強引に儀式兵装の刀を引き抜く。

 剣を弾かれるような形となり、後ろに下がる和也。

 

源五郎「まあ、そう焦らんでも良いじゃろう?

    準備運動は、必要じゃて」

 

 そう言いながら、ゆっくりと二刀流で構える。

 

 すると周囲に少し風が吹いたような気がした。

 

和也「殺し合いの最中に準備運動とは

   随分と余裕そうじゃないか」

 

源五郎「そう思うなら、そう思えばいい。

    くだらん挑発をしている暇があるなら

    さっさとかかってこい」

 

和也「そっちこそ。

   そんな安い挑発なんて無視するに決まってるだろ」

 

 和也は、剣先を下げながら後ろへと持って行き

 下段の構えで様子を見る。

 

 互いに警戒しながらも、じわじわと距離が詰まっていく。

 

 そして、ここでも先に動いたのは源五郎だ。

 

 まっすぐに突撃してくる源五郎に

 和也は下段から上へと切り上げる。

 

和也「―――ちっ」

 

 源五郎は、その一撃に刀を2本とも合わせる。

 しかしあくまで受け止めるように合わせただけ。

 

 和也の力を利用して、上へと浮き上がると

 そのまま蹴りを放ってくる。

 

 しかしそれを身体を横にそらして回避する和也。

 

 着地後、すぐにそのまま二刀による連撃が襲ってくるも

 これを綺麗に受け流す。

 

 3度目の攻撃を受け流した瞬間に

 和也は、蹴りを放つ。

 

源五郎「―――ッ!」

 

 狙いは、左手に持つ儀式兵装の刀。

 その持ち手に向かって蹴りを放ったのだ。

 

 並みの者なら、その一撃で

 指が折れるか、あまりの痛みに

 武器を手放すだろう。

 

 だが、源五郎は

 ごく自然に、刀を引き戻す。

 

和也「めんどくせぇ・・・」

 

 蹴りの感触から、何が起こったのかを察して

 スグに距離を取る和也。

 

和也「相変わらず、せっこいシールドだな」

 

源五郎「なあに、小さいなら小さいなりに

    使いようがあるというだけだわい」

 

 そう、蹴りが直撃する瞬間。

 非常に小さいがウインド・シールドが展開されていたのだ。

 

 再び仕切り直しとなり

 互いに武器を構える2人。

 

 しかし今度は、和也が動く。

 

 いきなり紅の刀身を飛ばして

 源五郎の正面まで走りこむ。

 

 刀身が、源五郎の正面まで飛んでいくと

 

和也「ブレイク!」

 

 爆発させて煙幕にて視界を奪う。

 

 そのまま正面から走っていき

 刀身を再構成しながら大きく跳躍。

 

 大上段からの渾身の一撃を

 源五郎の居る場所へと放つ。

 

 だがその一撃は、空を切る。

 

 その瞬間、横から迫る2本の刃。

 

大吾「―――なっ!?」

 

善影「―――ッ!?」

 

早雲「・・・」

 

 1本目は、身体を捻って回避し

 2本目は、刀の腹を肘で弾きながら

 源五郎に向かって剣を振る。

 

 和也の一撃に対し

 源五郎は、足で和也の持つ剣の柄を蹴る。

 

 それによって剣の軌道をズラして回避する。

 

 体勢まで崩れたかに見えた和也だったが

 そのままの勢いを利用して

 源五郎に体当たりをする。

 

 体当たりが来ることに気づいた

 源五郎は、バックステップをする。

 

 後ろに引き気味の相手への体当たりは

 やはり威力が低く、源五郎は

 ダメージを気にすることなく

 素早く下がりながら刀を振るう。

 

 不発に終わった体当たり。

 スグに来る源五郎の攻撃を屈んで回避すると

 起き上がりと同時に突きを放つ。

 

 それを弾いて防いだ源五郎は

 刀を2本とも上段で構えて低い姿勢を取る。

 

和也「―――ちっ!」

 

 慌てて後ろに下がる和也だが、少し遅かった。

 

源五郎「風間流 山津波(やまつなみ)」

 

 高速の上段攻撃に

 紅の刀身が耐え切れず、消えそうになる。

 

 このままでは、刀身が消え

 回避不能の一撃を受けることになるため

 和也は、押し負けるように

 後ろに大きく吹き飛ぶことを選ぶ。

 

 勢いよく地面に叩きつけられる和也。

 

和也「・・・いったいなぁ」

 

 愚痴を言いながらもスグに立ち上がる和也。

 

 一方、その戦いを見ていた

 師範代達は、驚愕していた。

 

 見たことも無いような戦い方の連続に

 それらに対する対応力の高さ。

 

 何より、自分達がその場に立っていたなら

 既に試合は、終わっていただろうという恐怖。

 

和也「前より格段に強いじゃねぇか。

   まだ強くなるのかよ、クソ爺の癖に・・・」

 

源五郎「・・・お前には、まだ解るまい。

 

    ワシは、決して出来の良い弟子ではなかった。

 

    低すぎる魔法適正。

    凡人と呼ばれる剣の才能の無さ。

 

    何度も馬鹿にされてきたし

    何度も敗北を味わってきた。

 

    それでもワシはな。

 

    最高師範を継ぐことになった。

    とても名誉なことだと喜んだ。

    ようやく苦労が報われたと。

 

    じゃが、同時に感じたよ。

 

    歴代の最高師範達が背負ってきた重圧を」

 

 そう言うと再び刀を構える。

 

源五郎「ワシは、今。

    風間歴代の最高師範達の想いを背負って立っておる。

 

    そして何より、ワシ自身の全てを賭して

    この場に立っておるのだ。

 

    もしまだ半端な気持ちでおるのなら

    今すぐにでも去れ」

 

 何度も挫折してきた中であっても

 決して源五郎は、諦めることはなかった。

 

 それでもと必死に努力し、磨き上げてきた技で

 彼は、最高師範の地位に就いたのだ。

 

 その自信が、彼を信頼する門下生達の声が

 そして歴代の最高師範達が背負ってきた重圧が

 彼を強くする。

 

和也「・・・ふざけんな。

 

   俺にだって譲れないものはある。

 

   それのためにここまできたんだ。

   文句があるなら俺を倒してから言うんだな」

 

 そう、自分にも譲れないものがある。

 ここで負けてしまっては、亜梨沙に申し訳ない。

 

 それにフィーネやリピス。

 セリナやエリナだって戦争の中に巻き込んでしまう。

 

 彼女達の笑顔すら守れないなんて冗談じゃない。

 

 ・・・我ながら女の子ばかりだな。

 

 よし、アレだ。

 ギルだ。

 ギルの奴もついでにつけておこう。

 

 これで女の子ばかりじゃなくなったぞ。

 

和也「・・・ふっ」

 

 思わず自分の中でのやり取りに笑みがこぼれる。

 

 そうだ。

 何を気負っていたのだ。

 

 俺には、やりたいことがある。

 そして、守りたいものがある。

 そのために、目の前のクソ爺を倒す必要があるだけだ。

 

和也「・・・紅では、いざって時に辛いな」

 

 そう考えるとやはり、こいつしかない。

 紅を片付け、黒閃刀・鬼影を腰から引き抜く。

 

源五郎「いくぞっ!!」

 

 気合の入った声と共に

 源五郎がこちらに迫ってくる。

 

和也「・・・」

 

 中段の構えで出方を伺う。

 

 正面まで来た源五郎は、二刀別々で左右から攻撃を仕掛けてくる。

 

 それを冷静に後ろに下がって回避する。

 

 すると、それを解っていたかのように

 

源五郎「風間流 水平斬(すいへいざん)」

 

 源五郎は、いつの間にか刀を1本地面に刺し

 両手で1本を持った状態で横薙ぎの追撃を仕掛けてくる。

 それを上手く刀で受け止める和也。

 

和也「風間流 弐式連脚(にしきれんしゃく)」

 

 そのままの体勢で連続蹴りを放つ和也。

 

 連続蹴りを避けながら

 前に突き出した足の足首を

 片手で綺麗に掴む源五郎。

 

和也「させるかっ!!」

 

 受け止めていた相手の刀を大きく弾きながらも

 その場で掴まれた足を軸に一回転して

 無理やり手を振り解く。

 

 体勢を崩しながらも、何とか逃げ出すことに成功した和也。

 だが着地した瞬間、彼が見たものは

 地面に刺していた刀を再び持って二刀流に戻り

 低い姿勢で剣先をこちらに向けている源五郎の姿。

 

和也「―――ッ!」

 

 あれは、まさか・・・。

 そう思った時点で、既に遅い。

 

 亜梨沙が使う時の構えと、妙にダブって見えた。

 

源五郎「風間流『舞』鬼刃」

 

 その呟きと共に、流れる風の如く

 連続の突きが迫ってきた。

 

和也「くっ・・・」

 

 亜梨沙よりも正確かつ力強い突きの猛攻に

 思わず後ろに下がりながらの防御となる。

 

源五郎「パワー・ウインドッ!

    スピードアップ・ファーストッ!」

 

 更に強化魔法を使って威力と速度を上げてくる。

 正直、あまり長く捌き続ける自信はない。

 

 だが・・・。

 

和也「(魔法を使ったことが仇になったな、クソ爺)」

 

 そう、魔法を使ってくれた方がありがたい。

 何故なら―――

 

和也「魔眼、開放」

 

 魔眼の力を解放する。

 すると、魔力に色彩が生まれ

 その流れを見せてくれる。

 

源五郎「―――ッ!?」

 

 金属同士が、激しくぶつかる音が響いた。

 

和也「・・・ちっ」

 

 思わず和也が舌打ちをする。

 

 鬼刃を全て避けながら放った一撃を受け止められたからだ。

 

 不満げな和也とは対照的に

 源五郎は、驚きを隠さなかった。

 

 本来、舞とは相手に反撃を許さないほどの

 高度な連続攻撃だ。

 

 しかも鬼刃は、そのリーチと手数から

 もっとも反撃しにくい技の1つである。

 

 それを受け止めるのではなく

 全ての攻撃を見切った上で

 カウンターを入れられるなんて

 源五郎の生涯でも初めてのことだった。

 

和也「はぁっ!!」

 

 鍔競りの状態から勢い良く刀を弾く。

 だが源五郎は、体勢を崩すことなく後ろに下がる。

 

 和也は、源五郎に向かって走り

 跳躍して上から刀を全力で振り下ろす。

 

和也「風間流 刀破斬(とうはざん)」

 

 対して源五郎は、刀を下から上に

 勢い良く斬り上げる。

 

源五郎「風間流 昇り龍(のぼりりゅう)」

 

 互いの獲物が、勢い良くぶつかって

 金属独特の音が響く。

 

 源五郎が、またも少し押し負ける。

 だが、後ろに戻されながらも

 刀を上段と中段に構え直していた。

 

源五郎「風間流 雪崩(なだれ)」

 

 突進から二刀を使い分け

 上段と中段からの2段攻撃。

 

和也「風間流 天征斬(てんせいざん)」

 

 対して和也は、下段の構えから

 上に向かって斬り上げる。

 

 魔眼により、その動きを完全に見切れる和也。

 

 先に来た中段攻撃を下から掬い上げるように

 受け止めならが上方向に流していく。

 

 そして、そのまま流してきた中段と

 次に来た上段攻撃をまとめて受け止める。

 

 更に一瞬だけ受け止めたのち

 身体ごと横に流れるようにすり抜ける。

 

 急に力をそらされ、前のめりになる源五郎。

 

 身体をそらした和也は、そのまま回転して

 回し蹴りをガラ空きとなった源五郎の後頭部に向けて放つ。

 

和也「風間流 烈空脚(れっくうきゃく)」

 

 完璧に決まったかのように見えた一撃だったが

 歴戦を潜り抜けてきた源五郎は、反射的にその場で屈む。

 

 相手が急に屈んだために、その蹴りは空を切る。

 

 対して屈んだ源五郎は、そのまま足払いを放つ。

 

和也「―――ッ!」

 

 片足で立っていた所を足払いされて

 和也が宙に浮く。

 

 その瞬間に見えたのは

 屈んだ状態から空いている片腕を

 上段に構えようとしている源五郎の姿。

 

源五郎「はぁっ!!」

 

 片手しか振れなかったとはいえ

 バランスを崩して倒れこむ相手への追い討ちだ。

 

 これで決まったと勢い良く振った一撃だったが―――

 

和也「風間流 飛燕脚(ひえんきゃく)」

 

 地面に身体が落ちるより先に片手をついて

 なんとそのまま片手で身体を支え

 逆立ち状態のようになる。

 

 そして源五郎の上段攻撃に対し

 刀の柄に直接、逆立ちのまま蹴りを入れる。

 

 その一撃を利用して後ろに吹き飛ぶように地面に転がり

 スグに立ち上がる。

 

 源五郎は、思わぬ一撃に一瞬怯むが

 低い姿勢で構え直してから呟く。

 

源五郎「風間流 風の章 疾風刃(しっぷうば)・連歌(れんか)」

 

 源五郎が二刀を高速で何度も振るう。

 

 すると物凄い速さで、魔力のこもった

 不可視の斬撃が、大量に連続で和也に向かって飛んでいく。

 

和也「はぁぁぁぁっ!!」

 

 飛んでくる目に見えない大量の斬撃。

 その魔力の流れを魔眼で見切り

 正面から全て斬り裂く。

 

 斬撃は、斬り裂かれて霧散するように消えていく。

 

 周囲に居る門下生や師範代。

 早雲さえも、目の前の攻防に言葉を失っていた。

 

 正直に言えば、和也がここまで強いとは

 誰も思っていなかったのだ。

 

 いつもいつの間にか練習から逃げ

 姿を消すことが多い和也。

 

 源五郎と早雲は

 その強さを認めているようだが

 正直、師範どころか師範代すらおかしいのではないか。

 

 そもそも儀式兵装を持ってない者が

 それほど強い訳がない。

 

 要するに、2人のお気に入りだからこその師範であり

 本当の師範は、早雲1人だ。

 

 そう思う者も少なくはなかった。

 

 実際、師範代達ですら本気で戦えば

 和也は、自分達より下であると思い込んでいた。

 師範になったのも、いずれ風間を継がせるための

 準備程度にしか考えていなかった。

 

 しかしこの戦いを見て

 彼らは、同じことが言えるだろうか。

 

 否、言える訳が無い。

 

 最高師範と互角に戦う少年。

 しかも儀式兵装すら・・・魔法という圧倒的な

 戦力を持たないにも関わらずにだ。

 

 そう。

 まさに今、この瞬間。

 

 初めて『藤堂 和也』という少年の

 本当の実力と、その圧倒的な才能を

 風間の者達が知ることになったのだ。

 

 

 源五郎も和也も

 互いに肩で息をしながらも

 相手から視線をそらさない。

 

源五郎「・・・和也よ。

    よう、ここまで強くなった。

 

    亜梨沙といい、お前といい

    ワシは、良い後継に恵まれた」

 

和也「・・・」

 

 源五郎は、大きく2回。

 深呼吸をする。

 

 そして―――

 

源五郎「最強を掲げる風間流。

    その創設者、風間(かざま) 一刀斎(いっとうさい)が裔(すえ)

 

    姓は、風間っ!

    名は、源五郎っ!

 

    我が一撃は、人を斬り、鬼を斬り、神すら斬る魔剣なりっ!!

    流派最高師範を背負う者として、常勝無敗の道を往くっ!!

 

    我が前に立つは、死ぬことと同義なりっ!!

    それでも立つなら容赦はせぬっ!!!」

 

 源五郎は『名乗り』を上げ、刀を持ち直して右半開の構えを取る。

 

 恐らく、今この場に居る誰もが

 最高師範である源五郎の名乗りを初めて聞いたであろう。

 誰もが、その気迫に自然と足が後ろに下がる。

 

 それは、対峙している和也も例外ではなかった。

 

 源五郎の周囲に魔力が集まる。

 それは、決して多い量でも

 練り込まれて質の高いものでもない。

 

 だが、そんな魔力の収束であるにも関わらず

 まるでフィーネ達のような強大なものに感じる。

 

和也「・・・」

 

 源五郎の気迫に、飲み込まれそうになるも

 何とか持ち直す。

 

 2人の間に風が吹く。

 

源五郎「風間流 五光(ごこう)」

 

 それは、一瞬だった。

 

 和也が大きく後ろへ吹き飛び

 設置してあった柵を薙ぎ倒して地面に倒れる。

 

 以前、亜梨沙がリピス相手に使った『三光(さんこう)』

 三本同時に刀が襲ってくるというものだったが

 源五郎は、それを更に強化し五本同時としてきた。

 

 しかも亜梨沙の時とは違い

 一箇所にまとめて威力を上げるのではなく

 五箇所バラバラに攻撃したのだ。

 

 一流と呼ばれる戦士でも

 超高速で迫る五本の刃を避ける術はない。

 

 

 誰もが決着がついたと思った、その時だった。

 

和也「・・・いって~なぁ、ホント」

 

 よろよろと立ち上がる和也を見て

 どよめきが起きる。

 

 あの一撃を受けてなお、立っているのだ。

 誰もがありえないという顔をしていた。

 

和也「今ので俺を殺せなかったのは

   致命的だったな、クソ爺。

 

   次は、確実に・・・返してやるよ」

 

 その言葉に、周囲のどよめきが大きくなる。

 誰もが、それこそありえないと口にする。

 

 だが和也は、そんなことを気にせず

 大きく一度、深呼吸をする。

 

 そして―――

 

和也「最強を掲げる風間流。

   風間の姓も、魔法も持たぬ異端なれど

   手に持つ剣は、風間の技なり。

   

   我が道を阻む者は、人であれ、鬼であれ、神であれ

   全て構わず斬り捨てるっ!

 

   流派師範の称号を背負う者としてっ!

   そして何より、一人の戦士としてっ!   

   

   風間流最高師範 風間 源五郎っ!!

 

   貴方を・・・超えるっ!!!」 

 

 和也も、全力の名乗りを上げる。

 

和也「魔眼・・・完全開放ッ!!」

 

 完全開放で、魔力が更に濃く

 より色鮮やかにその流れを見せる。

 

源五郎「・・・五光は、ワシが最高師範の位を

    勝ち取った技じゃ。

 

    まさにワシの全て。

    それを破れると言うか・・・」

 

 再び源五郎の周りに魔力が集まる。

 

源五郎「よかろうっ!!

 

    ワシの魂の一撃ッ!!

 

    破れるものなら、破ってみせいッ!!!」

 

 源五郎の叫びと共に、その一撃が放たれる。

 

源五郎「風間流 五光ッ!!!」

 

 超高速の五本の刃が、和也の逃げ場を塞ぐように

 正面だけでなく、左右からも迫ってくる。

 

 たとえ、見切っていたとしても対処出来るものではない。

 一人で五本もの刀を受け止めることなど

 出来はしないのだから。

 

 そして五本の刃は、全てが

 和也を捉えて、その身体を切り刻む・・・はずだった。

 

源五郎「―――ッ!?」

 

 確実に捉えたはずだった。

 なのに、刃が当たる瞬間に

 

 和也は・・・消えたのだ。

 

 信じられない。

 そんな想いのまま刀を振り抜くしかない源五郎。

 

 和也の幻を斬った瞬間。

 彼の耳には、声が聞こえた。

 

和也「風間流 奥義 陽炎(かげろう)」

 

 その言葉と共に、源五郎は

 胸に強烈な一撃を受けて吹き飛ぶ。

 

 一撃を受けた瞬間。

 源五郎は、思い出す。

 

 

 風間流 奥義 陽炎。

 

 それは、相手の視線を

 誘導し、見切り、外れることで

 相手に今居る位置よりも

 少しズレた位置に自身の幻影を見せる技。

 

 これは、魔法を一切使わず

 己の体術のみで、それを行うとされており

 

 どうすれば習得出来るのか。

 どうすればそのような動きが可能になるのか。

 

 そういった説明が一切無く

 ただ、そういう技が存在するということだけが

 書物に記されているだけだった。

 

 そしてこの奥義は、天才と呼ばれた

 風間 一刀斎のみが使用出来たとされている。

 

 一刀斎以降、誰もが挑戦するが

 誰一人として習得出来たものは居ない。

 

 かつて自分も習得するために努力したが

 どう頑張っても無理だったため諦めた技。

 

 

 それらを思い出し、源五郎は

 吹き飛ぶ瞬間、呟いた。

 

源五郎「・・・見事だ」

 

和也「・・・」

 

 血飛沫と共に大きく吹き飛び

 やがて地面に大の字で倒れる源五郎。

 

 ほんの数秒ではあったが

 誰もが声すら出すことが出来ず

 その光景を見ていた。

 

 そして―――

 

和也「俺の・・・勝ちだな」

 

 そう呟いた和也の声に

 早雲が意識を取り戻す。

 

早雲「お義父さんっ!!」

 

 その声に、周囲は皆

 呆然とした状態から立ち直る。

 

大吾達「最高師範ッ!!!」

 

 皆、心配して源五郎を取り囲む。

 

早雲「早く、救護班をっ!!」

 

 その場で応急処置がされて

 運ばれていく源五郎。

 

和也「・・・」

 

 急所を外したとはいえ

 かなりの傷になっていることは

 斬った和也自身が知っていることだ。

 

 それでも・・・。

 あそこでほんの少しでも手加減すれば

 きっと源五郎は、最小限の傷で避けていただろう。

 

 そうなれば、きっと次こそ確実に

 首を狙うことになっていた。

 

 だから、これが自分に出来た精一杯だと

 自身に言い聞かせる。

 

 そんなことを考えていると

 前線の警備をしている方向が騒がしくなる。

 

和也「(まさか・・・)」

 

 一瞬、最悪のシナリオが頭をよぎる。

 

 遅かったかと。

 

 だが兵と揉めながら

 こちらに歩いてくる人物を見て

 和也は、呆然とする。

 

マリア「だから、戦いに来たんじゃないって何度も言ってるだろうっ!

 

    さっさと源五郎殿に取り次いでくれっ!!」

 

和也「・・・学園、長・・・?」

 

マリア「ん? ああ。

    良い所で会えたな、婿殿。

 

    悪いが源五郎殿に取り次いで欲しい」

 

 源五郎の名を聞いて、和也は意識を取り戻す。

 

和也「もしかして、今回の件ですか?」

 

マリア「ああ。

    こちらは、戦う意思などない。

 

    だから即時停戦と話し合いの場を設けたい」

 

和也「・・・なるほど、わかりました。

 

   ですが今・・・」

 

早雲「何を言ってるんだい?

 

   今はもう、和也くんが人界の代表者だよ」

 

 和也が振り向くと、後ろには早雲が居た。

 

和也「・・・え?」

 

早雲「交代試合は、勝負が決した。

   あの試合に文句が出る訳がない。

 

   だからこそ、これからは

   和也くんが思う通りに進めるといい」

 

 その言葉を聞いて和也は

 全身に重いプレッシャーを感じた。

 

 自分の行動全てが、人界の未来を決めるということ。

 

 その重みを背負って初めて

 源五郎の言葉の意味を理解した気がした。

 

早雲「そう心配しなくていい。

   私や、亜梨沙。

   他にもたくさんの人達が協力してくれる。

 

   だから何も気にすることはない」

 

和也「・・・早雲さん」

 

マリア「・・・えっと、なんだ。

 

    話があまり見えないんだが・・・」

 

和也「ああ、すいません。

 

   とりあえず、停戦も話し合いもわかりました。

   軍も今すぐに引きます」

 

マリア「ああ、それは助かるが・・・。

 

    それでいいのか?」

 

 奥に居る早雲さんに確認を取るように

 あえて訊ねるマリア。

 

早雲「ええ。 構いませんよ。

   それが人族側の決定です」

 

マリア「わかった。

 

    こちらも軍を解散させよう。

    話し合いの席は、スグにでも開きたい。

 

    日時と場所に関しては、今夜中に使者を送るから

    あとで確認と返事が欲しい。

    では、すまないが今日はこれで失礼する」

 

 そう言うと、乗ってきた馬に乗って

 魔族側へと帰っていく学園長。

 

和也「・・・これで、何とかなった・・・のかな?」

 

 

 

 ・・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 

 こうして、人魔決戦と呼ばれる戦いは

 長引くことなく終結することになる。

 

 今回、魔界側は珍しいことに

 全面的に非を認めて謝罪。

 

 国力低下を気にして処分しなかった強硬派を一掃し

 その処分を以って、正式な幕引きとした。

 

 人界は、この謝罪を受け入れると共に

 以前から魔界有利で不平等だとされてきた

 いくつかの条約の変更を要求し、実現させた。

 

 それにより、ようやく人界と魔界は

 対等な立場となったのである。

 

 これに口を出してきたのは、やはり神族の強硬派だ。

 

 魔界への制裁を主張し、これを機に

 影響力を増して四界のトップになろうという

 野心を覗かせた。

 

 だが竜界が、これに待ったをかける。

 

 今回は、被害が当事者間しかないことや

 当事者同士で解決出来ている問題を

 ややこしくする行為だと神界強硬派を非難。

 

 特使として破滅の竜ことメリィ=フレールを派遣する。

 

 その効果なのだろうか。

 

 たった、一週間で特使が帰ったことも驚いたが

 彼女が帰った後、神族強硬派は

 すっかりその勢いを失い

 しばらくの間、神王妃の邪魔をしなくなったという。

 

 ・・・あのメイド。

 絶対何かやらかしたな。

 

 そうそう。

 

 たった2人で2000の魔族兵を追い払うとか

 無茶なことをした大馬鹿娘2人だが

 いつの間にか仲良くなったみたいで

 結構、手紙のやりとりをしているらしい。

 

 

 そして学園の方だが

 やはり当面は、俺達人族が行くと

 問題が起きるかもしれないとのことで

 しばらく休学することになった。

 

 まあ学園長が、何とかするから心配するなと

 言っていたので、まあ任せることにしよう。

 

 風間の里では、何とか日々の日常が戻りつつあった。

 

 意外だったのは、皆が

 俺を本当に最高師範と認めてくれていることだ。

 

 早雲さん達から「最高師範」なんて呼ばれると

 気持ち悪くて全然慣れないなど、今後の課題も多いが・・・。

 

 最高師範といえば、クソ爺だが

 幸い、命に別状が無かったらしく

 一応怪我人として療養しているが

 ジッとせずに門下生の訓練に顔を出すなど

 前より積極的に動いている。

 

 ホント、化け物だなあのクソ爺。

 

 人界の代表者としての仕事も

 早雲さん達に助けて貰いながら

 何とかやれるようになってきた。

 

 代表者として会うリピスに

 未だに散々からかわれることを除けばだが・・・。

 

 

 そして忙しい日々は、あっという間に過ぎ去り・・・。

 

 

 一ヵ月後。

 

 俺は、小高い丘の上に来ていた。

 

 目の前には、人魔決戦の時に戦死した者の慰霊碑が建っている。

 

 その前で、佇んでいる時だった。

 

?「・・・やっと見つけた」

 

 その声は、とても懐かしく

 そしてとても寂しそうな声だった。

 

和也「そうだな、久遠。

   少し遅いぐらいだ」

 

久遠「―――えっ?」

 

 和也が、振り向くと

 そこには、驚いた久遠の姿があった。

 

久遠「アナタ・・・記憶が?」

 

和也「ほんの少し前ぐらいから・・・かな。

   ある程度は、戻ったよ」

 

久遠「・・・そう」

 

 そこで一度、会話が途切れる。

 

 気持ちの良い風が吹く。

 

 その風が吹き抜けた後。

 俺は思ったことを口にする。

 

和也「亜梨沙には、迷惑をかけたなぁ」

 

久遠「・・・ミリスとかいう娘のこと?」

 

和也「ああ。

 

   ミリスとあの場で戦うのは

   本来、俺の役目だったはずだからな」

 

久遠「でも、それは仕方が無いわ。

 

   そうでなければ、この結末は訪れなかった」

 

和也「・・・まあ、そうなんだけどな」

 

 そしてまた、会話が途切れる。

 

 何気なく周囲を見渡すと、違和感に気づく。

 

 飛んでいる鳥・風に靡く草花・流れる雲

 全てが止まっている。

 

和也「そろそろ時間なのか」

 

久遠「・・・ええ」

 

和也「・・・いけそうか?」

 

久遠「それは、大丈夫。

 

   あの娘、亜梨沙とアナタが頑張ってくれたから。

   ・・・あと、あのミリスって娘もね」

 

和也「この経験があれば、次こそきっとやれるさ」

 

久遠「あそこに向かう前に

   和也には、手伝って欲しいことがあるの」

 

和也「ん? そんなこと言うの初めてじゃないか?」

 

久遠「ええ。

   これは、文字通り

   最初で最後の大勝負。

 

   これが成功しても失敗しても

   アナタは、最後の戦いに挑むことになる」

 

和也「・・・最後、か」

 

 その言葉で、様々なことを思い出す。

 繰り返してきたいくつもの出来事が、走馬灯のように

 頭の中を駆け巡る。

 

久遠「・・・じゃあ、そろそろ行きましょうか」

 

和也「ああ、行こう」

 

 そして俺は、差し出された久遠の手を握る。

 

 すると周囲が光に包まれた。

 

 

 光が消えると、その場に居たはずの2人は

 居なくなっていた。

 

 それと同時に止まっていた世界が動き出す。

 

 そこへ、1人の少女が歩いてくる。

 

亜梨沙「・・・あれ?

    ここに兄さんが居るって聞いてきたのに」

 

 周囲を探しても誰も居ない。

 そもそも隠れられるような場所でもない。

 

亜梨沙「・・・ん?」

 

 周囲を探していた亜梨沙は

 ふと立ち止まって考える。

 

亜梨沙「兄さんって・・・誰でしたっけ?」

 

 

 

 

 

最終章 運命を変えるための戦いへ ―完―

 

 

 

 

 

・おまけ

亜梨沙編が、そのまま進んだその後の世界。

 

*風間 τ■ж―――

 

 

?「コノ世界ニ、続キナドナイ。

 

  世界ニ存在スル全テハ

  絶望トイウ名ノ願イニヨッテ消エ去ルカラダ」

 

久遠「だからって当てつけに世界1つに丸ごと干渉して

   消そうだなんて・・・」

 

 ため息をついたあと

 哀れむような目で久遠は、言った。

 

久遠「どうして、そんな願いしか持てなかったのかしら」

 

 それは、久遠では永遠に知ることが出来ないであろう願い。

 

 何故なら彼女は、その対極に居るのだから。

 

?「アア、全テ消エテシマエ」

 

久遠「とりあえず、これ以上の干渉は許さないわ。

 

   この世界は、ここで切り離して閉じさせて貰うわよ」

 

 久遠が、そう言うと

 世界そのものが停止して、やがて世界は『閉じられた』

 

 

 

 

 




まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。

久々に調子良く書けているので
このままラストまで突っ走れればいいな(希望)

人族編終了です。
意外と長かったです。

と言う訳で、残すは最終章のみとなります。
ということは、残り数章で
この長かった物語が終わりとなります。

あと少しなので頑張っていきます。


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■■ 閉じられた世界 ■■
第▲章 天保院の娘


 燃え盛る炎。

 逃げ惑う人々。

 

 聞こえる悲鳴。

 聞こえる笑い声。

 

?「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

 まだ幼い少女は、泣きながら走る。

 

 後ろを何度も振り返りながら

 ただ必死に走る。

 

 森の中は、足場も悪く

 少女の足では、なかなか思うように先に進めない。

 

 頭の中で巡るのは

 家族や友人。

 そして自分を護るために

 残った人々の顔。

 

 どうしてこんなことになったのだろう。

 

 そんなこと、今更考えても

 意味が無いのは、解っている。

 

 それでも、どうしてと思ってしまう。

 

 自分は、もちろん

 周囲の皆も、何も悪いことなんてしてないのにと。

 

 なのにどうして、こんなことになったのか。

 

?「あっ!」

 

 石に引っかかって派手に転ぶ。

 

 膝を擦りむいたのか、血が出てくる。

 その痛みが、余計に涙を流させる。

 そして何より、惨めになってくる。

 

?「どうして・・・。

  なんで・・・・」

 

 意味の無い思考のループ。

 

 何とか起き上がるも、足に力が入らない。

 

 どうしようかと思った瞬間。

 

魔族兵A「おいっ! 居たぞっ!!」

 

 そんな声が聞こえる。

 

 慌てて少女は、声のする方向を向く。

 

魔族兵B「ようやく見つけたぜ」

 

魔族兵C「へへへっ、可愛い娘じゃないか」

 

 3人の魔族の兵士に見つかってしまった。

 

?「あ・・・あぁ・・・」

 

 逃げなきゃとダメだと心は叫ぶが

 足が動いてくれない。

 

魔族兵A「お前、こんなガギが趣味なのか?」

 

魔族兵C「いいじゃね~か、別に」

 

魔族兵B「俺ならあと5年ってところか」

 

魔族兵C「どうせ殺すのだし、その前に

    遊んだっていいだろ?」

 

魔族兵A「まあ・・・好きにしろ」

 

魔族兵B「さっさと終わらせろよ」

 

魔族兵C「わかってるって」

 

 気持ちの悪い顔で、こちらに迫ってくる魔族兵。

 

 逃げようとしたが、スグに捕まって押し倒される。

 

?「いやっ! やだっ!!」

 

 抵抗しようも、相手は男。

 とてもではないが、幼い少女では

 どうすることも出来ない。

 

魔族兵C「まずは、その邪魔なものから

    脱いじゃおうね」

 

?「やだやだやだやだやだっ!!」

 

 何となく、自分がどうなるのか。

 何をされるのか、理解出来てしまう。

 

 それが悲しくて。 悔しくて。

 

 自分は、何のために生まれてきたのだろう。

 

 少なくとも、こんな最後を迎えたくはない。

 

?「誰かっ!

  誰かっ!!」

 

魔族兵C「そんなに暴れても、誰も助けになんてこないよ。

    だから、俺と遊ぼうよ」

 

 着ている着物が脱がされようとしている。

 

 こんなの・・・絶対に嫌だ。

 

?「・・・誰でもいいから。

 

  誰でもいいから、助けてっ!!!」

 

 神様でも何でもいい。

 誰でもいいから。

 お願い・・・私を助けて。

 

 目を閉じながらも必死で抵抗した。

 

 

 

 

 

第▲章 天保院の娘

 

 

 

 

 

 

 この少女の名は『天保院(てんぽういん) 咲耶(さくや)』

 

 かつて人界をまとめていた一族『天保院』家の娘。

 

 だが大戦争時に、天保院は滅んだ。

 そう、それは今日この日にだ。

 

 この場所は、人界の天保院家の土地。

 この日は、魔族の部隊が

 人界が手薄になっている瞬間を狙って攻め込み

 天保院一族を皆殺しにした日。

 

 そしてもう、天保院は彼女一人を残すのみ。

 

 その彼女も、この場で魔族兵の玩具にされたあげく

 殺されるという運命が待っていた。

 

 この歴史は、定められたもの。

 動くことがないもの。

 可能性が無いもの。

 

 そう、彼女に助かる要素は、無かったのだ。

 だからこそ、この場で彼女が死ぬことは

 覆しようのない事実だった。

 

 

 そうとも知らず、彼女は

 今も必死で抵抗する。

 

 あるはずもない奇跡を信じて。

 

 男に両腕をついに捕まれ

 自分がつけていた帯で手を縛られる。

 

 それでも少女は、泣きながら抵抗する。

 

魔族兵A「何をガキ相手に

    時間かけてるんだよ」

 

 魔族兵Aが、近づいてくる。

 

魔族兵C「こう暴れてくれる方が興奮するじゃないか」

 

 その言葉に魔族兵Aは、呆れる。

 

魔族兵A「ホントにお前、趣味変わってるな。

 

    おい、お前だってそう思うだろ?」

 

 魔族兵Aは、少し離れた位置に立っていた

 魔族兵Bに向かって声をかける。

 

魔族兵B「・・・」

 

魔族兵A「ん? どうした?」

 

 ボーっと立っているだけの魔族兵Bに

 近づく魔族兵A。

 

魔族兵A「おいおい、何ボケっとしてるんだよ」

 

 声をかけながら、肩をポンと叩く。

 

 すると、ボトっと重い音と共に地面に何かが落ちる。

 

 それは、魔族兵Bの頭だった。

 

魔族兵A「―――」

 

 思わず叫び声をあげる魔族兵A。

 だが声は、一向に出ない。

 

 フュー、フューと空気の抜ける音だけがする。

 

 悪い予感がして、魔族兵Aは

 自分の喉を触る。

 

 するとネチャっとした感触。

 手を確認すると大量の血が付着していた。

 

 そこで初めて魔族兵Aは、気づいた。

 自分の喉が斬られていることに。

 

 だが、それに気づいた瞬間。

 

 背後から心臓を一突きされ

 そのまま地面に倒れた。

 

 さすがに何度も大きな音がしたために

 魔族兵Cが、振り向く。

 

魔族兵C「―――なっ!?」

 

 そこには、人族の戦士が1人と

 仲間2人の死体。

 

 驚きながらも立ち上がり

 儀式兵装を出そうとした瞬間

 

?「まあ、ゆっくり眠れ」

 

 その声を最後に、彼の意識は途切れ

 頭がゆっくり地面に落ちた。

 

 

 一方、咲耶は目を瞑って

 身体を丸めて抵抗するような姿のまま。

 

 だがスグに少女は、状況の変化に気づく。

 

 服を脱がしていた男の手が

 突然止まったこと。

 

 周囲が一瞬だが、騒がしかったこと。

 

 そして、ふと自分に覆いかぶさっていた

 男の重さを感じていないことに気づいて

 ゆっくりと目をあける。

 

 覆いかぶさっていた男の姿が見えない。

 

 何が起こったのだろうか。

 上半身を起こして周囲を見渡そうとする。

 

 すると、一人の人族らしき少年が立っている。

 手に持っている魔法で出来た刀身の剣が印象的だ。

 

 周囲には、先ほどの魔族兵達の死体。

 

?「おい、大丈夫か?」

 

 人族の少年が声をかけてくる。

 

咲耶「・・・」

 

 状況が上手く飲み込めず呆然とする咲耶。

 

?「しっかりしろ。

  大丈夫か?」

 

 肩を揺すられ、咲耶は少年を見る。

 

咲耶「・・・アナタは?」

 

?「俺か?

  キミに用事があってね。

 

  まあ簡単に言えば、キミを助けにきたって所かな」

 

咲耶「たすけ、に?」

 

?「ああ、そうだ」

 

 目の前の少年が笑顔でそう答える。

 

 それを見て、ようやく自分が助かったことに

 気づく咲耶。

 

咲耶「う・・・ひっく・・・」

 

?「ん? え?」

 

咲耶「うぁぁぁぁっーーー!!」

 

 突然抱きついて泣き出す咲耶に

 どうしていいか解らず、少年は困った顔をしていたが

 やがて咲耶を優しく抱きしめ、泣き止むのを待つことにした。

 

 

 それから少しして、泣き止んだ咲耶は

 ようやく自分の服装に気づいて

 慌てて服装の乱れを整える。

 

 その間、警戒するように姿勢を低くして

 周囲を見渡す少年。

 

咲耶「・・・あの」

 

?「何だ?

  もう大丈夫か?」

 

咲耶「おかげさまで助かりました。

 

   それで、えっと。

   他の人は・・・」

 

?「・・・」

 

 無言で何も語らない様子に

 それが何を意味するのか、察する咲耶。

 

咲耶「・・・どうして、こんなことに」

 

?「さあ、どうしてだろうな」

 

 そう言いながらずっと座り込んでいる

 咲耶の前まで歩いてくると

 膝を付いて視線を合わせる少年。

 

?「悪いが、追撃部隊が近くまで来ているようだ。

 

  そろそろ移動しよう」

 

咲耶「どこへ行くのですか?」

 

?「とりあえず、この場から逃げる。

 

  あとは、俺の知り合いがキミを待ってる。

  そこまで送り届けるのが、俺の役目だよ」

 

咲耶「・・・知り合い?

   どなたのことでしょう?」

 

?「悪いが、質問は後回しだ。

  さあ、移動しよう」

 

 差し出された手を掴んで立ちあがる咲耶。

 

 そして、まるで親鳥について歩く雛のように

 おぼつかない足取りで、また森の中を走る。

 

 少年は、何度も周囲を警戒しながら

 それでもあまり離れないように動き回っている。

 

 何度も休憩を挟みながら

 数時間歩き続けるが、未だ森から抜け出る様子はない。

 

 もうスグ、日が暮れるという頃に

 少し小さめの洞窟を見つける。

 

?「よし、中は問題なさそうだな。

 

  今日は、ここで夜を過ごそう」

 

 そう言って簡単な準備を始める少年。

 

咲耶「・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

 咲耶の人生の中で

 恐らく一番歩いただろう。

 

 正直体力の限界だった。

 

 しかし、目の前の少年は

 さほど疲れを見せずに作業している。

 

 自分に合わせてくれているのだろうということも

 自分の足が遅いということも解っていた。

 

 こんなことなら、真面目に武道を練習しておけばよかった。

 そんな思いが咲耶の頭を過ぎる。

 

 そうすれば、少なくとも今のように

 迷惑をかけることもなければ、さっきの魔族のように

 抵抗も出来ないなんてことも無かっただろう。

 

 今まで自分を叱ってくれていた人々を思い出す。

 彼ら、彼女らは皆、私を助けるために

 襲撃を受けて燃える屋敷に残った。

 

 ・・・恐らく助からないだろう。

 

 いつも忠告は、遅れて突き刺さる。

 それを今ほど実感したことはない。

 

 自然に涙が溢れてくる。

 

?「・・・大丈夫か?」

 

 そんな時、タイミング良く声をかけられる。

 

咲耶「・・・大丈夫です」

 

 涙を拭きながら、そう答える。

 

?「我慢することはない。

  泣きたい時は、泣けばいい。

 

  大事な人を目の前で失う悲しみは

  俺にも経験があるからな。

 

  そんな時は、感情を押し殺す必要はない。

  思いっきり泣いて、悲しんであげればいい」

 

咲耶「うぅ・・・あぁ・・・」

 

 優しい言葉をかけられて

 張り詰めていた緊張の糸が切れたのだろう。

 

 咲耶は、また少年に抱きつきながら泣き出す。

 

 そして疲れていたこともあり

 そのまま眠ってしまった。

 

 

 そして次の日。

 

 また2人で森の中を進む。

 

 魔族が合図に使う、金属太鼓の音が

 後ろから聞こえるたびに怯えながらも

 それでも何とか前に進む。

 

 しかし、段々と音が近づいてくる。

 追いつかれるのも時間の問題だった。

 

 目の前を歩いている少年の顔も険しい。

 

 いっそ自分を置いて逃げれば

 彼だけでも助かるのではないか?

 

 そう考えることもあったが

 そうなれば、私は今度こそ魔族達に

 なぶり殺しにされるだろう。

 

 あの時、自分に襲い掛かってきた

 魔族の顔を思い出す。

 

 気持ち悪くて寒気が走る。

 

咲耶「(本当に私ってダメだわ)」

 

 自分のことをつい優先してしまう。

 

 命がけで私を助けようとしてくれている

 目の前の彼を利用しようとしている。

 

 そんな自分に嫌気が差す。

 

?「・・・ここまでくれば、何とかなるな」

 

 そんな時だった。

 

 目の前の少年の足が止まった。

 

咲耶「どうしたのですか?」

 

?「・・・ここから真っ直ぐ行ったところに

  大きな岩がある。

 

  そこから右に向かえば

  スグに小さな祠が立ってる。

 

  その場所に、知り合いが待ってる」

 

 その言葉を聞いて嫌な予感がした。

 

 自分を助けるために残った人々も

 直前に同じように逃げる道を言った後

 自分を残して魔族達に向かっていったからだ。

 

?「もう追いつかれる。

 

  俺がここで―――」

 

咲耶「・・・嫌ですっ!」

 

 突然声を上げて拒否する私を見て

 彼は、驚いた表情をした。

 

咲耶「もうスグなんでしょう?

 

   だったら一緒に逃げましょう?

   私も頑張って走りますからっ!!」

 

?「・・・気持ちは、凄く嬉しいが

  もうそれじゃ間に合わないんだよ」

 

 そう言うと剣の柄だけを取り出す彼。

 

 それは、刀身が魔法で出来ていた剣の柄だ。

 

?「刀身形勢」

 

 そう言うと、剣の刀身が現れる。

 

 そして、急に鋭い目つきになると

 突然、剣を横に薙ぐ。

 

 すると、刀身だけが分離して

 森の中へと飛んでいく。

 

 その直後、悲鳴のような声が聞こえてくる。

 

?「この剣は、俺が世話になった人から貰ったものなんだ。

 

 『強襲型魔法剣・紅』と言ってね。

 今のように刀身を魔法のように飛ばすことも出来る

 とても便利な剣なんだよ」

 

 そう言って、その剣の柄を私に持たせ

 彼は、腰にさげていた刀を抜く。

 

 普通の刀とは違う、真っ黒な刀だった。

 

魔族兵「おいっ!! 一人やられてるぞっ!!」

 

 スグ近くだろうか。

 はっきりと魔族達の声が聞こえる。

 

?「さあ、急いでっ!」

 

咲耶「でもっ!!」

 

?「大丈夫。

  きっとまた会えるよ」

 

 これから大勢の魔族達と

 たった一人で戦おうとしているのに

 彼は、笑顔でそう言ってくれた。

 

咲耶「・・・約束。

 

   そう、約束ですっ!

   絶対ですよっ!!」

 

?「ああ」

 

 彼は、そうはっきりと返事をしてくれた。

 その言葉に私は、決心して彼に背を向けると

 教えられた道を走る。

 

 後ろからは、剣戟の音。

 そして叫び声や悲鳴などが聞こえてくる。

 

 爆発音がして振り返りそうになるも

 何とか堪えて走る。

 

 あの人は、約束してくれた。

 だから、それを信じて走る。

 

咲耶「・・・あっ!」

 

 あの人の名前を聞いていなかったことに気づいて

 咲耶は、後悔する。

 

咲耶「せめて、名前だけでも

   聞いておきたかったな・・・」

 

 そんなことを考えながらも

 目印の大岩を右に曲がる。

 

 

 そして―――

 

咲耶「・・・見えたっ!」

 

 たどり着いたその場所には

 とても小さい祠が1つ、ひっそりと立っていた。

 

 だが・・・。

 

咲耶「・・・あれ?」

 

 周囲に人の気配は無い。

 

 あの人の話では、人が居るはずなのに・・・と」

 

 嫌な想像をしてしまう。

 このままだと、私も見つかってしまう。

 

 何のためにここまで来たのか。

 私のために命を捨てて戦ってくれた人達の行為が

 全て無駄になってしまうと。

 

 どうしたらいいのか解らず

 途方に暮れている時だった。

 

?「・・・ようやく出会えた」

 

 後ろから聞こえてきた少女の声に

 咲耶は、振り返る。

 

 そこには、宙に浮かぶ少女の姿があった。

 

咲耶「・・・え?

   ・・・あれ?」

 

 そこで咲耶は、気づく。

 

 周囲が全て『止まっている』ことに。

 

?「はじめまして・・・というべきかしら。

  天保院 咲耶」

 

咲耶「あ・・・あなた、は?」

 

久遠「私の名は、久遠。

 

   アナタを待っていたわ」

 

咲耶「も、もしかして

   あの人が言ってた人?」

 

久遠「そういうことになるのかしら」

 

咲耶「アナタは、一体何者なの?

 

   それに周囲は、どうなってるの?」

 

久遠「・・・アナタは、本来

   あの魔族兵達に玩具にされたあげく

   死ぬはずだった」

 

咲耶「・・・え?」

 

久遠「アナタには、生き残る未来なんて

   ・・・可能性なんて本来なかったの。

 

  あの時、誰も助けなんてこないまま

  アナタは殺されるはずだった」

 

咲耶「そ、そんなっ!?

 

   でも、だって、あの人が―――」

 

久遠「そう。

   和也がアナタを助けたのは

   私が、そうさせたから。

 

   アナタには、生き残って貰わないと困るから」

 

咲耶「・・・和也」

 

 あの人の名前が、思いがけずに解り

 この異常な状況の中であっても

 つい嬉しくなってしまう。

 

久遠「・・・話を続けてもいいかしら?」

 

咲耶「・・・え?

   あ・・・はい・・・」

 

久遠「アナタが生きていること。

   それそのものが重要なの。

 

   ここまで来てくれれば・・・。

   アイツの領域から出てくれれば

   やりようは、いくらでもある」

 

咲耶「・・・話が、全然解らないのですけど」

 

久遠「詳しい話は、後でしてあげる。

 

   でも今は、私と一緒に来てもらうわ」

 

咲耶「え? どこへ?」

 

久遠「そうね。

   時間を越えて、世界を超えて。

 

   違う未来へと直結した世界・・・かしら?」

 

咲耶「???」

 

 よく解らないという顔の咲耶に、思わずため息をつく久遠。

 

久遠「・・・いいわ。

   簡潔にしてあげる。

 

   和也を助けたいと思うのなら

   私の手をとって」

 

 そう言って久遠は、手を差し出す。

 

咲耶「あの人を・・・助ける?」

 

久遠「そう。

   アナタというイレギュラーが。

 

   ありえないはずの存在が

   和也の手助けとなる」

 

咲耶「・・・」

 

 正直、よく解らなかった。

 何がどうなってるのかも、目の前の少女も。

 

 でも一つだけ解ることがある。

 

咲耶「あの人の・・・和也の助けになるのなら」

 

 そう言って久遠の手をとった咲耶。

 

久遠「・・・ありがとう」

 

 お礼の言葉の瞬間。

 

 眩しいまでの光が発生して周囲を包む。

 

 それと同時に、止まっていた世界も動き出す。

 

 だが―――

 

 2人の姿は、そこにはなかった。

 

 

 

 

 

第▲章 天保院の娘 ―完―

 

 

 

 

 



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第▼章 抗う者達

 

 

 

 

 咲耶は、ゆっくり目をあける。

 

 そこは、一面が真っ白な世界。

 

 見たことが無い、初めて見る世界。

 

 

「気が付いたかしら?」

 

「・・・ここは?」

 

「・・・私の世界ってところかな」

 

「アナタは。一体・・・」

 

「さて、あまり時間が無いの。

 

 アナタには、相応しい仕事を用意してあげる。

 あまり良い道ではないけれど

 頑張って生き残るも、諦めて死ぬも

 好きにすればいいわ」

 

 

 

 

 

第▼章 抗う者達

 

 

 

 

 

「え? ちょっと待ってっ!

 

 私は、あの人の助けになるって聞いたから

 ついてきたのよっ!?」

 

 突然の話の流れに、咲耶は慌てて久遠に詰め寄る。

 

「ええ。

 

 だから、もうその役目は終わったわ」

 

「どういうこと?」

 

「・・・悪いけど

 別に『天保院 咲耶』だから助けた訳じゃないの。

 

 『奴にとっての急所』が『天保院 咲耶』だった

 という話であって、アナタそのものには用がないの」

 

「・・・意味が解らないわ。

 

 それに、詳しい話をしてくれるって言ってたじゃない」

 

「・・・これでも十分、詳しい話をしているのだけれどね」

 

 『面倒だわ』と久遠は、ため息をつく。

 

「和也が戦う相手にとって『天保院 咲耶』という存在が

 位置する場所は、非常に大きくて

 ある意味、急所とでも言うべきものだった。

 

 でもね、前に言ったけど

 アナタは、元々『生き残る可能性が無い』存在なの。

 

 だからいくらアイツの急所でも

 狙うことが出来なかったのよ。

 

 ほんの僅かでも可能性があったのなら

 また違ったのだけどね」

 

「・・・それなら、どうして私は

 和也に助けられたの?」

 

「それは、和也のおかげよ。

 

 和也が、頑張ってくれたおかげで

 本来なら可能性が無い未来が開けた。

 そして、その可能性が新たな可能性を示した。

 

 アイツにとっては、信じられないことでしょうね。

 あるはずのない可能性を

 あるはずの無い未来への道を、強引に『作られた』のだから」

 

「・・・じゃあ、私は」

 

「そう。

 

 アナタは、和也と彼に影響された者達によって

 助けられたってことになるのかしらね」

 

「・・・」

 

 その話を聞いて咲耶は、急に怖くなった。

 

 何故なら、あの場で本来なら自分は

 死んでいたという現実をハッキリと認識してしまったからだ。

 

 急に死を意識してしまい、戸惑う咲耶。

 

「・・・話を続けるわ。

 

 『天保院 咲耶』という急所への攻撃は

  もう終わったの。

 

 そしてこれ以上、和也の援護は出来ない。

 だからあとは、和也次第よ」

 

「・・・私は、何もしてないわ」

 

「だから言ったでしょう?

 

 アナタは、本来死ぬはずだった。

 助かる未来は、無かった。

 

 何千、何万という時間を繰り返しても

 アナタは、その全てで死ぬ存在なの。

 

 そんなアナタが生きている。

 生き残る可能性という道が出来てしまった。

 

 それを作った時点で・・・それそのものが

 アイツへの攻撃となるの。

 

 だから助かった後のアナタには

 もう本来なら何の価値もない。

 

 あとは、好きにすればいいって

 そう思っていたのだけれど・・・」

 

 咲耶の肩に

 そっと触れる久遠。

 

 久遠が咲耶の肩を軽く押す。

 

 すると後ろの見えない亀裂へと

 咲耶は、吸い込まれそうになる。

 

「な、何なのっ!?」

 

「さっきも言ったでしょう?

 

 アナタに仕事を用意してあげるって。

 感謝してよね。

 

 このまま放置されて消滅するはずのアナタに

 ちゃんとした道を用意してあげるのだから。

 

 和也に感謝しなさい」

 

「・・・和也。

 

 そう、和也っ!

 

 あの人は、無事なのっ!?」

 

「和也は、無事よ。

 

 といっても、これから最後の戦いに行く訳だし

 どうなるかは、解らないけどね」

 

「なら、少しでいいから

 あの人に会わせてっ!!」

 

「心配しなくていいわ。

 

 ・・・どうせスグに忘れるから」

 

「・・・どういうこと?」

 

「その先に行けば

 アナタは、ここでの出来事も

 私や和也のことも、全て忘れるわ。

 

 だから自分の心配でもしながら、そっちに行きなさい。

 

 そっちも、決して楽な道ではないのだから」

 

「・・・私は、忘れないわっ!」

 

「・・・そう。

 

 まあ、何をどう頑張った所で

 忘れるということからは、逃れられないけどね」

 

「・・・それでも。

 

 それでもっ!

 

 私は、忘れないっ!

 だって、約束したものっ!!

 

 あの人とっ!

 また会おうってっ!!」

 

 もう身体の半分以上が吸い込まれている。

 その状態でも咲耶は、叫ぶ。

 

「だから・・・和也のことだけは

 絶対に忘れないからっ!!!」

 

 その叫びを最後に、彼女は吸い込まれ

 見えない亀裂は、元に戻った。

 

「・・・本当に、これでよかったのかしら?」

 

 そう言いながら振り返った彼女の前には―――

 

「ああ。

 それに今、会ってもあまり意味はないからな」

 

 いつもとは、少し雰囲気が違う和也が居た。

 

「・・・もう全ての記憶を?」

 

「まあ、な」

 

 苦笑する顔を見て思う。

 

 確かに、その記憶は彼にとって

 あまり良い記憶という訳では

 ないということを。

 

「それでも、これで俺は

 皆と共に戦いにいける」

 

 そう決意する彼に

 私は、何を言うべきだろうか。

 

「私は・・・」

 

「ありがとう」

 

 私の話を遮るように

 突然告げられる感謝の言葉。

 

「え・・・?」

 

「本来なら、こんな戦いにすら立つことが

 出来なかった。

 

 でも、久遠のおかげで俺は

 自分の運命に抗うことが出来る」

 

「・・・それは、私の台詞よ。

 

 私は、ただアナタを利用しているだけ。

 過去、私に関わった人達は

 みんな最後に、私を怨んで消えていった・・・」

 

 悲しそうな顔をする久遠。

 和也は、そんな彼女に近づいて

 そっと抱きしめる。

 

「少なくとも、俺は感謝してる。

 

 何度も負け続けた頼りない俺だけれど

 見捨てずに信じ続けて、助け続けてくれた

 ・・・そんなキミを怨むなんてとんでもない」

 

 その言葉を聞いて

 久遠は、彼を選んでよかったと

 心からそう思った。

 

 やがて白い世界に、巨大な門が現れる。

 

 そして門は、ゆっくりと開く。

 

「そろそろか」

 

 門の中は、どこまでも続いているように見える

 真っ黒な世界。

 

「・・・自信を持って。

 アナタは、数え切れないほど多くの

 勇者や英雄と呼ばれた人達ですら成し得なかった

 『奇跡』を起こした・・・特別な人」

 

 私がそう言うと、また和也は苦笑した。

 

「そんなに俺は、良いもんじゃないよ。

 それに『アイツ』には、未だ一度も勝てていない」

 

「・・・でも、これから勝ってくれるんでしょう?」

 

「ああ、当たり前だ。

 最後は、やっぱり勝って終わりたいからな」

 

 今度は、満面の笑みで和也は答えた。

 

「さて、じゃあ行ってくるかな」

 

 覚悟を決めた顔で、門の前に立つ和也。

 

「・・・和也」

 

「ん?」

 

 ふと呼び止められて、振り返る和也。

 

 すると―――

 

「ちゅ・・・んぁ・・・」

 

 短いながらも想いのこもったキス。

 

「・・・ははは」

 

 顔を真っ赤にしながら、乾いた声で笑う和也。

 

「じゃあ、いってらっしゃい」

 

「ああ、行ってくる」

 

 照れ隠しをしながらも、ハッキリとした口調で

 返事をすると和也は、門の中へと入っていく。

 

 和也が中に入ると、門は自動的に閉まる。

 

「・・・さて、と」

 

 門が閉まったことを確認すると

 久遠は、その場に倒れる。

 

「最後まで見届けられないのが、残念だわ・・・」

 

 そう・・・彼女は、もはや限界だった。

 力を使い果たし、その存在ごと消えようとしていた。

 

 久遠は、瞳を閉じてゆっくりと眠る。

 

 そして久遠は、光に包まれて消えた・・・。

 

 

 

 

 

第▼章 抗う者達 ―完―

 

 

 

 




まず、ここまで読んで頂きありがとうございます。

一部、ご指摘を受けまして
台詞の頭に名前をつける文章形式を変更して
つけないようにしてみました。

書き物の知識がない初心者なので
頂いたアドバイスを反映させながら
よりよい作品にしていければと思っています。

読みにくい、解かりにくいなどありましたら
また指摘頂けるとありがたいです。


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人界の姫 天保院 咲耶 編
 1 そして動き出す物語


 

 

 とても深い闇の中に居た。

 

 もがいても、沈んでいくことに変わりはない。

 ここに居てはいけないと、本能が叫ぶが

 どうすることも出来ない。

 

 そしてそのうち、考えることが出来なくなり

 自分が何者なのか、わからなくなっている。

 

 それでも沈んでいく。

 

 もう何もかもが溶け合うような感覚の後

 突然膨大な記憶の波に飲み込まれる。

 

 そして、その記憶が

 ようやく自分が何者であるかを思い出させてくれる。

 

 思い出すのは、昔の記憶。

 

 そう、それは『儀式の日』と

 呼ばれることになる・・・そんな日の記憶だった。

 

 

 

 

 

 1 そして動き出す物語 

 

 

 

 

 

 映像が浮かぶ。

 記憶が戻る。

 

 時間は深夜。

 場所は森の奥深く。

 その中央にある、とても大きな広場に不似合いの小さな祭壇がある場所。

 設置されている松明が、辺りを幻想的に映し出している。

 

 だが、そんな独特の幻想は、突然の叫び声で現実に引き戻される。

 

 辺りを取り囲む翼を持った人の影達。

 監視役の大人達が次々と倒れていく。

 泣き叫ぶ者達。

 あたりは一瞬で血に染まり、翼を持った人影達の笑い声が

 支配していった。

 そんな中、私の前に一人の翼を持った人影が立った。

 松明が、その姿を映し出す。

 全身を黒系で統一した服装。

 腰まで伸びた黒い髪。

 そして黒い翼。

 魔族の証。

 翼があること以外は、とても可愛い少女だった。

 だが少女は、その体には不釣り合いなほど

 大きな黒い刃を持っていた。

 

「人族は必要のない存在・・・いらない」

 

 氷のように冷たい瞳。

 感情を全く出さない表情。

 そして吐き捨てるように呟いた言葉。

 全てが敵意に満ちていた。

 

 少女が獲物を無造作に振り下ろす。

 咄嗟に武器を取り出す。

 

「刀身形勢っ!」

 

 炎の刀身が出来ると同時に迫った攻撃を

 何とか受け止めるも、非常に重い一撃だ。

 

「―――ッ!?」

 

 無表情だった少女の顔が驚きに変わる。

 そして私の武器をジッと見つめる。

 

「はっ!」

 

 相手の武器を跳ね上げるように

 上へと弾くが、目の前の少女は、後ろに逃げる。

 

 後ろに下がった彼女だが

 やはり気になるのか、私の武器をジッと見つめる。

 

「・・・そんなにこれって珍しいかしら?」

 

「・・・」

 

 無言で何も答えない魔族の少女。

 

 そして驚きや興味があるというような視線は、消え去る。

 少女は無言で、低い姿勢で獲物を構え直した。

 

 ・・・その直後

 少女の姿が一瞬ブレると、ものすごい勢いで突っ込んできた。

 開いていた距離が、一瞬で詰まる。

 

 少女は勢いをつけたまま、大きく振りかぶった薙刀を振り下ろした。

 

 私は剣で受け止める・・・フリをして、直前で相手に向かって走った。

 全力で振り下ろされた刃に対して、前に突っ込んだ勢いを維持しつつ

 体を回転させるように捻りながらギリギリで避ける。

 そしてすれ違いざまに体を回転させて遠心力を利用した

 全力の一撃を少女の側面に叩き込む。

 少女は全力の一撃をかわされ、隙だらけになるはずだった。

 ・・・だが

 少女は横からの攻撃を避けきれないと判断すると

 突進していた慣性を利用し、そのまま前に飛ぶように通り過ぎていった。

 結果として、私の横からの薙ぎ払いは空振りに終わった。

 

「・・・くっ」

 

 今の一撃は、必死に練習してきた技の一つ『旋風(せんぷう)』。

 高度なカウンター技だ。

 

 完璧に決まったと思った一撃を避けられたことが

 何より悔しかった。

 だか、そんなこちらのことなど関係ないと言わんばかりに

 少女が動き出した。

 

「・・・抵抗なんて、無駄なのに」

 

 少女はそう呟くと、黒い翼を大きく広げて手をかざした。

 その手に、黒い何かが一気に集まっていく。

 そして、塊になったソレがまるで意思を持ったかのように

 突然、私に向かって飛んできた。

 

 ―――それは、魔法と呼ばれるもの

 

「・・・行ってっ!」

 

 私は、剣をその場で横に薙ぐ。

 

 掛け声と共に、刀身部分が切り離され

 まるで魔法のように、正面から迫る

 黒い塊とぶつかって爆発する。

 

 爆発が収まると、再び武器を持って対峙する。

 

「・・・アナタ、名前は?」

 

 唐突に、そんな言葉が出た。

 

「・・・どうして?」

 

「・・・興味が出たって理由じゃダメかしら?」

 

 聞いたところで何があるというわけでもない。

 今でもどうして名前なんて聞いたのか、説明出来ない。

 ただあの時、どうしても彼女の名前が知りたくなった。

 

 ・・・いや『聞かなければならない』ような気がした。

 

「・・・あっそ。私は、フィーネ」

 

 そっけなく自身の名前を答えた彼女。

 

「・・・もういい? じゃあ死んで。いらないから。」

 

 そう言うと少女は薙刀を振り上げて構える。

 

 そんな時だった。

 突然、心に声が響いた。

 

「お前は、何を望む。

 何を願う」

 

「・・・誰?」

 

 目の前の少女を警戒しながら

 周囲をうかがうも、誰も居ない。

 しかし声は、確実に聞こえる。

 

「お前は、何を欲するのだ」

 

「・・・私が、欲しいもの?」

 

 私が望むものは、何?

 願うことは?

 欲したものは何だったの?

 

「・・・私は」

 

 段々と想いが形になる。

 

「・・・私は、皆を助けたい」

 

「世界は、理不尽に満ちている。

 そんなもの全てから、私が皆を護りたい。

 

 ・・・だから、そんな護る力が欲しい。

 抗う力が欲しいっ!」

 

「それがお前の想いか。

 ・・・その願い、確かに聞き届けた」

 

 その瞬間、儀式に使用されるはずだった

 魔方陣が起動して周囲を光が包む。

 

 

 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・

 

 

 私は、飛び起きた。

 

「・・・」

 

 夢だと理解するのに少し時間がかかった。

 

「・・・」

 

 懐かしい夢だった。

 あの日からまた、色々なことがあった。

 

 でも私は、その全てを受け入れながら前へと

 進まなければならない。

 

 ・・・生き残った者として。

 

「・・・やっと起きましたか? 姫様」

 

「・・・」

 

 声をかけられ、声がした方向へと顔を向けると

 そこには下着姿の可愛い女の子が立っていた。

 

「・・・ああ、亜梨沙。

 おはよう」

 

「ええ、おはよう御座います。

 

 朝の挨拶も良いですが、早く起きないと

 食事をしている時間が無くなりますよ?」

 

 その指摘に、慌てて時計を確認する。

 

 本当にあまり余裕が無い時間だ。

 

「でも、とりあえず汗を流さないと・・・」

 

 大急ぎで準備をして私は、風呂場へと向かった。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 今日は、陽射しが少し強いぐらいの快晴。

 通い慣れた道を2人で歩く。

 いつもの光景。

 

「姫様は、たまに寝坊されますよね」

 

 亜梨沙が、突然そんなことを言い出す。

 

 彼女は、風間 亜梨沙。

 

 人界最強と呼ばれる『風間流』という武術の家に生まれ

 私の警護として同行してくれている、私の親友だ。

 

 そして私は、天保院 咲耶。

 

 人界を統べる天保院家の生き残り。

 家族や親類は、皆死んだ。

 

 だから生き残っている私が、必然的に当主となり

 人界を統治しなければならなくなった。

 でも私には、そんな力も知識もない。

 

 なので風間家の人達に手伝ってもらいながら

 何とか統治をしているといった状態だ。

 

「お布団には、入ると出たくなくなる魔法でも

 かかっているのかしらね?」

 

「まあ・・・その気持ちは、解らなくはないですけど」

 

 そんなどうでもいい話をしながら歩いていくと

 私達の目的地が、ようやく見えてくる。

 

 

 ―――学園「フォース」

 大戦争と呼ばれた大きな戦争の後に4種族合同で

 設立された人材育成機関。

 主に将来的に軍事・内政に関わるものや

 その希望者を中心に生徒が構成され

 国の中枢になる者を育てるために文武両道を掲げて指導している。

 各国の王族も積極的に入学してくるほどの

 設備・授業内容・知名度を持つエリート学園。

 

 この学園を卒業した生徒は各種族の軍隊・内政で

 常に歓迎・優遇されているほどだ。

 

 そんな超エリートが集まる学園で、私と亜梨沙は現在2階級だ。

 順調・・・とは言えないが、まあそれなりにやっていけている方だと思う。

 

 校門を過ぎたあたりで、見慣れた姿を見つけ思わず声をかけた。

 

「おはよう、リピス」

 

「ああ、咲耶か。 おはよう」

 

「おはようございます。 咲耶様」

 

 少し眠そうな顔で答えたのは、かなり小柄な体格に金色の長い髪

 大きな耳が特徴的な少女で

 名前は、リピス=バルト。

 これでも竜族と呼ばれる種族の王女様だ。

 

 そしてそのすぐ後ろに居るのは、リピスの付きでメイド長をしている

 メリィ=フレールさん。

 綺麗な銀色の長い髪に、落ち着いた物腰。 丁寧な言葉遣い。

 その綺麗な顔立ちで、いかにも大人の女性といった感じなのだが

 まあ、この人は色々と残念な人だったりする。

 何が残念なのかは、そのうち嫌でもわかるわ。

 

「リピスじゃないですか。おはようございます。」

 

「なんだ、亜梨沙も居たのか。おはよう。」

 

「おはようございます。亜梨沙様」

 

「いきなりちょっと失礼です。リピス。

 あとメリィさん、おはようございます」

 

 私は、立場的に人界のお姫様と呼ばれることもあり

 同じような立場のリピスとは、スグに仲良くなった。

 

 ここに来てからは、亜梨沙も含めて

 よく一緒に遊びに出かけることも多い。

 

「まあ、君と私の仲じゃないか。」

 

「毎回同じ台詞を言われている気がします」

 

「気のせいではないか?

 気のせいだろう?

 うむ、きっと気のせいだ。」

 

「なるほど、気のせいでしたか」

 

「・・・」

 

 何気なく聞いていた2人の会話に思わず突っ込みそうになるが

 何とか踏みとどまる。

 

 ここでもし突っ込みを入れれば、今度は

 私をからかう流れになるのは学習済みだ。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 2人の『さあ、突っ込んでこいよ』という

 期待に満ちた目をあえてスルーして先に進む。

 

「・・・ここで突っ込みが無いとは

 咲耶もわかっていないな」

 

 待っていた反応が無かったことが

 よほど残念なのか、ついにリピスの方から

 指摘が入る。

 

「そうですよ、姫様。

 ここは、こうビシっと会話に参加する流れでした」

 

 謎の連携を見せる2人。

 いつも最後は、私をイジメて遊ぶことが多い。

 困った2人である。

 

「そんなこと言って、どうせ私で遊ぶ気だったのでしょう?

 

 残念ながら時間も無いから無理よ」

 

「あ、ホントですね。 これはやばい」

 

「では、そろそろ行くとしようか」

 

 それでもまだ時間は、少し余裕があったため

 3人並んで校内へと入っていく。

 

 

 リピス達と別れ、亜梨沙と教室に入る。

 とたんに教室の空気が変わるのを感じた。

 まあ、いつも通りのことなので気にせずに席に着く。

 

「人族風情が、どうしてまだ学園に居られるんだろうな?」

 

 背後から刺のある言葉が聞こえてきた。

 振り返ると、声の主はいつも通りのアイツ―――

 学園では名前を知らない奴は居ないだろう。

 少し長い髪を揺らしながら、尊大な態度でこちらを見下している

 このムカつく奴は、ヴァイス=フールス

 魔界の貴族。

 奴の家柄、魔王の一族は『魔王の血族(けつぞく)』と呼ばれ

 体内で魔力増幅を行える

 特殊な体質を持ち、強大な魔法を行使出来る魔族の中でもエリート。

 

 まあ当の本人の家は、一族とはいえ隅っこの隅っこで、血族の中でも

 それほど大きな力は持っていないのだが、それでも魔族の中では

 優秀な部類に入る強さを持っている。

 だが、その生まれ持った力を何か勘違いしている残念な奴でもある。

 

「毎回、学習しない人ですね。

 

 姫様を侮辱するということは

 人界そのものへの侮辱です。

 

 ・・・また、マリア様に詰め寄られたいのですか?」

 

 またかという顔で、亜梨沙が私とムカつくアイツとの間に入る。

 

「何を言うかと思えば・・・。

 

 別に私は、そこの女に言った訳ではない。

 そう、ただのひとりごとだよ、ひとりごと。

 

 それがただ聞こえてしまった・・・それだけだ」

 

 言うだけ言うと満足そうに高笑いをしながら、自分の席に着く。

 事あるごとに人族を馬鹿にする態度を取っているのが

 このヴァイスだ。

 

 だが相手が普通の人族ではないため

 表立って批判して人界を敵に回しては

 外交問題へと発展する。

 

 そしてそれは自分達の主であり

 この学園の学園長でもあるマリア=ゴアの顔に泥を塗る行為と

 なってしまう。

 

 学園に入学した初日に、今のようなことを言ったため

 マリア=ゴアより『人族2人に対しての暴言を禁止する』との

 禁止事項が出された。

 

 下手に外交問題へと発展すれば、他種族に付け入る隙となり

 自分達が不利な立場になる。

 そのため、余計なことをするなという命令だ。

 

 殺気すら放ちながらの警告に、すっかり彼らは大人しくなった。

 だが、彼らは姑息だった。

 

 表立って批判しなければいいだけだと

 今のような方向や、陰口を言うようになったのだ。

 

 どちらが良いという訳でもないが

 結局は、あまり変わっていないと感じるのは

 きっと私だけではないはずだ。

 

 

 

 少しして、授業開始の鐘が響くと同時に教室に一人の教師が入ってくる。

 彼女はセオラ=ムルム。

 留めてある長い髪を左右に小さく動かしながら教壇に立つ。

 

「さあ、みなさん。

 私語を止めて席に着きなさい。

 もう時間ですよっ!」

 

 彼女の声で、みんな席につく。

 

「・・・今日も欠席者は無しっと。

 大変結構です。体調管理は戦士の基本ですからね。」

 

 満足そうに微笑むと、出席簿を閉じた。

 綺麗なお姉さんといった感じの竜族で、生徒を

 種族・身分・容姿・成績などで差別せず

 全ての生徒を平等に扱うため生徒からの人気も高い。

 そしてこれでも竜族のNo3だとリピスが言っているほどの実力者だ。

 

「みなさん、忘れていないでしょうが

 明後日は全階級合同の実戦試験です。

 それに伴って明日は屋外探索となっています。

 どちらも実戦単位の対象ですから

 くれぐれも油断の無いように。」

 

 彼女の言葉に教室がまた、ざわつきはじめる。

 探索エリアが違うとはいえ、全階級が揃うイベントは滅多にない。

 それだけ大きなイベントともなれば貰える単位の数も質も高いだろう。

 単位が足りなければ進級試験すら受けれないこの学園で

 単位というものは、何より大事で最優先なものとなっている。

 特に学科より優遇される実戦での単位となれば、全生徒が欲しがる。

 

「こら、もう少し静かになさい!」

 

 先生が声を上げた。

 たしかに後ろの方の魔族連中が盛り上がっていて、少し騒がしかった。

 いつもなら、怒らせると怖いということを知っているので

 自然と落ち着くのだが、もうスグ行われるイベントで

 テンションが上がったのか、彼女の話を聞いていない。

 ・・・なんて命知らずな。

 そう思った直後、先生が動いた。

 

「私の言葉が聞けないと・・・」

 

 そうつぶやくと、手に持っていたチョークを構えて威嚇する。

 

「先生、甘いぜっ!」

 

 騒いでいた魔族の一人はそう言うと

 儀式兵装の杖を持ちながら 

 

「ファイアシールド!!」

 

 目の前に炎で作った盾を出した。

 

「なるほど・・・あくまで受けて立つということですか。

 いいでしょう。 何事も経験です」

 

 落ち着いた口調でそう言うと、腕の振りだけでチョークを投げた。

 普通にチョークを投げた程度なら、この炎盾で消し炭になっただろう。

 だが・・・

 

「ぐはぁ!!」

 

 ありえない速度で飛んでいくチョークが、まるで何も存在しないかの如く

 軽々と炎盾を貫通して、魔族生徒の額に当たる。

 チョークの一撃を喰らった彼は、後ろに大きく吹き飛んで教室の壁に激突。

 気を失って倒れた。

 

「さて、あとでしっかりとお説教タイムですわ。」

 

 まあ先生に立ち向かったという自業自得ではあるが

 騒いでいただけで、超高速チョーク弾丸を喰らって

 気絶+説教だなんて・・・。

 勇気と無謀の区別がつかなかった代償は厳しいものだった。

 

 その光景を見た残りの騒いでいた連中は

 さっきまでの光景が嘘のように無言になった。

 炎盾は、火系の防御魔法の初級ランクだ。

 初級と言っても、剣や槍といった物理攻撃を受け止めることが

 出来る硬さがあり、魔法もある程度防げる万能の盾だ。

 火属性を扱う者が使う、最も一般的な防御魔法である。

 それを、投げたチョークで貫くとか・・・。

 竜族の・・・というか先生の投げたチョークの破壊力が

 どれだけ危険かということが再確認出来た事件だった。

 

 

 

 ―――昼休み

 いつも通り亜梨沙と2人、食堂へ行くとリピスと

 メリィさんが、席を確保してくれていた。

 

「いつもすまないわね。」

 

 そう言いながら席に着く。

 

「まあ、気にするな。 ついでみたいなものだ。

    それに席を確保しているのはメリィだ。」

 

「主の席を確保するのは従者の務め。

 咲耶様達はリピス様の大事なご友人です。

 何の遠慮も必要ありません。」

 

 何度か同じようなやり取りをした記憶もあるが

 礼を言うのが何度目になったところで構わないだろう。

 

「そういえば、前から気になっていたのですが・・・。

 メリィさんって学園の生徒じゃないですよね?

 たしか部外者は入れないはずですよね、ここ」

 

 何かを思い出したかのように話し出した亜梨沙。

 

「そういえばそんな防衛装置があったわね」

 

 亜梨沙に言われて私は、思い出す。

 

 この学園は各世界の要人も多く居たり、また各世界の最新技術が

 集まっている場所でもあるので、装置に登録していないと

 防衛設備が反応して攻撃してくる要塞のような場所だということを。

 

「ああ、そのことでしたら大丈夫ですよ。

 ちゃんと許可を得てますから」

 

「よく許可出ましたね。

 この学園、そういう特例に関しても

 かなり厳しいって話を聞いたことがあります。

 

 ・・・学園でも占拠しましたか?」

 

「・・・よく解ったな、亜梨沙」

 

 亜梨沙の発言に、リピスが驚く。

 

「別に知っていた訳では・・・あれ?」

 

 急に考え込む亜梨沙。

 

「前に、聞いたような・・・」

 

 亜梨沙の脳内に映像が出る。

 

 それは、いつもの昼休みの風景。

 そこで話されるメリィの学園占拠話。

 

 それを隣に居た少年と一緒になって呆れている自分。

 

 あの人は―――

 

「・・・くっ!!」

 

 急激な頭痛に襲われて苦しむ亜梨沙。

 

「大丈夫かっ!?」

 

「大丈夫ですか、亜梨沙様っ!?」

 

「どうしたの、亜梨沙っ!?」

 

 頭を抑えて苦しむ亜梨沙だったが

 やがて落ち着いたのか、椅子にもたれかかる。

 

「・・・大丈夫です・・・なんとか」

 

 肩で息をしながらも、そう返事をする亜梨沙。

 

「何でも無い訳ないだろう。

 ・・・メリィ」

 

「はい。

 スグに医師を手配します」

 

「そこまで大げさにしなくても、大丈夫です」

 

 まだ苦しそうではあるが

 心配させまいと、無理やり笑顔を作る亜梨沙。

 

「無理はしないで、亜梨沙。

 今日は、リピスに甘えさせてもらいましょう」

 

 私は、そう言ってリピスと視線を合わせる。

 それで理解してくれたのか

 メリィさんが、医者の準備をしにいってくれた。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 放課後になると、寄り道せずに帰りを急ぐ。

 やがて寮が見えてくる。

 

「あら、お帰りなさい。

 咲耶ちゃん」

 

 優しい声に顔を上げると、寮の玄関に女性が立っていた。

 すごく和やかな雰囲気ので、凄く若く見えるため

 大人なのに、いまいち年齢がわからない、そんな不思議な女性。

 

 だがこう見えて、神王妃というとんでもない肩書きを持っている。

 初めて会った時は、緊張もしたが

 今では、すっかり仲良く話しをさせてもらっている。

 

「オリビアさん、ただいま」

 

 ここは学園フォースの女子寮。

 学園は全寮制で、部屋は2人部屋のみとなっている。

 

 もちろんルームメイトは、亜梨沙。 

 

 愉しそうに箒を使って玄関を掃除するオリビアさん。

 彼女は、寮内の家事を全てこなしている。

 他にも寮の清掃人や料理人は大勢居るので

 任せてしまってもいいはずなのに

 彼女は全てに関わらないと気が済まないらしい。

 手に持っているホウキも全然違和感がない。

 そしてオリビアさんは種族による差別をまったくしない人だ。

 管理人である彼女がそういう方針なため

 寮の中で嫌がらせをされることはない。

 

 それにまあ、神王妃に逆らうような度胸のある人物は

 女子寮どころか、四界中を探しても

 まともに居ないだろう。

 

「そう言えば、亜梨沙は

 大人しくしてましたか?」

 

「ええ。

 ちゃんと寝かし付けておいたわよ」

 

 愉しそうに、そう言うオリビアさん。

 

 あれから診察を受けた亜梨沙は

 異常無しとの判断だったのだが

 精神的なストレス負荷がかかっている状態らしく

 大事をとって早退させていた。

 

「ありがとうございます。

 

 では、私も顔を見てきます」

 

 お礼を言って頭を下げると

 少し早足で、自室に戻る。

 

 

 ・・・・・。

 

 

 夜風を切り裂く音がリズム良く響く。

 夜の自由時間。

 みんなは寮内で楽しく会話等をしている時間に、私は外に居た。

 女子寮の裏にある森を抜けると、とても広い丘に出る。

 ここは静かで、人も滅多にこないため自己鍛錬の場所として

 使わせてもらっている。

 

 私には、正直

 戦士としての才能が無い。

 

 これは、亜梨沙のお爺さんであり

 私の後見人になってくれている風間家当主であり

 風間流の最高師範でもある、風間 源五郎からも言われたことだ。

 

 だから私は、人の何倍も努力しなければ

 とてもではないが、ついていくことができない。

 

 そんな私を助けてくれるのが、手に持っている

 『強襲型魔法剣・紅』だ。

 

 これは、私が助けられた際に

 握り締めていたものだ。

 

 いつ、誰から貰ったものなのか

 覚えていないが、これを見ていると

 とても懐かしく、暖かい気持ちになる。 

 

 この剣は、刀身が火属性の魔法で出来ていて

 出力を調整すれば、大剣のようなサイズにもなる。

 

 普通の剣では、防御魔法を抜くことは基本的に難しいが

 この剣なら、抜くことが出来る。

 

 儀式兵装も持ってはいるが

 攻撃をするためのものではない。

 

 だからこそ、攻撃の際は

 この剣だけが頼りだ。

 

 それに儀式兵装は、便利すぎて

 あまり頼っていては、自分の実力が

 上がってくれないというのもある。

 

 一応、魔力切れ対策用に普通の剣も

 持っているが、これは完全に予備であり

 魔力切れになることなんて考えたくもない。

 

 剣を振り終わると、タオルで汗を拭く。

 

 そしていつも、この時に思う。

 

『何故、頑張っているのだろうか』と。

 

 実は、何故自分が頑張っているのか

 正確には、理解していない。

 

 でも、心の中の自分が言うのだ。

 

 決して努力を怠るなと。

 頑張り、努力し続けろと。

 

 でなければ、必ず後悔することになる。

 

 ―――それは

 

「あぁ・・・!!」

 

 『また』あの頭痛だ。

 

 しばらく頭を抑えながらその場に座り込んで

 痛みに耐える。

 

 そして痛みが無くなった頃に思うのだ。

 

 『私は、何を思い出そうとしていたのか』と。

 最近、この繰り返しが多い気がしている。

 

 だが、思い出せないことをどうすることも出来ない。

 

 頭の痛みが、完全に治まったのを確認すると

 その日の練習を切り上げて

 私は、寮へと帰るのだった。

 

 

 

 

 

 1 そして動き出す物語 ―完―

 

 

 

 

 




まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。

えっと。
残り2~3章ぐらいで終了の予定だったのですが
またも茨の道に、自ら飛び込んでしまいました。

話の流れは、感の良い人なら
もうどういう感じになるか、予想が出来るところまで
行ってしまっています。

あと最近は
連続投稿しておりますが
そろそろ力尽きると思いますので、ご了承下さい(笑)


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 2 漆黒の翼

 

 たまに来る頭痛が気になるも

 それなりに学園生活を送っていた。

 

 何度か、医師に見てもらったが

 原因が解らないそうで、対策の取りようがない。

 まあ、長年の付き合いでもある偏頭痛ため

 最近は、慣れてきたとでもいうべきか。

 

 ある日の放課後。

 

 亜梨沙と2人で日用品の買い物を済ませて

 帰っている途中だった。

 

「おい、泣いてるんじゃねーぞ!」

 

 魔族の一人が、何やら叫んでいた。

 よく見ると魔族6人が神族の少女1人を取り囲んでいる。

 しかも神族の少女は泣いているようだ。

 

「この高貴なる私の服を汚したんだ。

 当然死ぬ覚悟があったんだろうな?」

 

 しかも、よりにもよってヴァイス=フールスとその取り巻きだった。

 

「ヴァイス様の服に水をかけるなんて、良い度胸だ!」

 

 どうも広場の花壇に水撒きしている最中にヴァイスに

 水がかかったということで

 よってたかって絡んでいるようだ。

 

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

 

 可哀想に少女は泣きながら繰り返し謝罪している。

 

「泣いて謝罪したところで済む話ではない。

 どうしても許して欲しいのなら、この場で死ね!」

 

 まるで子供のように理不尽な怒り方をするヴァイス。

 

「・・・もう無茶苦茶ね」

 

「本当ですね。

 アレじゃまるで駄々をこねる子供です」

 

 相変わらずの暴君ぶりに、つい2人揃ってため息をつく。

 

 軽く周囲を見ても、誰もが『関わりたくない』という感じだ。

 まあ制服を見ればフォースの人間だと解るため

 皆、手出し出来ないという方が正しいのか。

 

「・・・ねぇ、亜梨沙」

 

「姫様が、そんな声を出す時は

 大抵ロクな話じゃないのですけど」

 

 不満そうな顔をする亜梨沙に思わず苦笑する。

 

「そんなに警戒しなくても。

 ・・・ちょっとだけ手を出すだけよ」

 

「・・・はぁ。

 どうせ止めてもやるのでしょう?」

 

「あら、解ってるじゃない。

 で、亜梨沙はね・・・」

 

 コソコソと裏通りに移動する2人。

 

「この場で死んで、許しを請えばいいんだよ!」

 

 魔族の一人が拳を振り上げる。

 少女を殴ろうとした瞬間だった。

 

 鋭い音と共に、魔族生徒と少女の間に

 炎で出来た剣のようなものが突き刺さる。

 

 そして―――

 

「ブレイクッ!」

 

 どこからか聞こえてきた声と共に

 その炎の剣は、爆発して

 周囲は、煙に包まれる。

 

「な・・・なんだこれっ!」

 

「一体何が起こったのだっ!?」

 

 混乱するヴァイスと取り巻き達。

 

 少しして煙が晴れ、周囲を見渡せるようになる。

 

「くそっ! 誰だっ!?

 この私に喧嘩を売ってきたのはっ!?」

 

 更に怒りが増したヴァイスだったが・・・。

 

「あ、あれ?

 居ないぞっ!」

 

「ホントだ。

 くそっ! 何処に行ったっ!?」

 

 取り巻き立ちが騒ぎ出す。

 

 それもそのはず。

 目の前に居た神族の少女が消えていたのだ。

 

「馬鹿にされて黙っていられるかっ!!

 探し出せっ!!」

 

 取り巻き達に周囲を探させるヴァイス。

 

「おい、お前かっ!?」

 

「知ってるなら答えろっ!!」

 

 ヴァイスが近くに居るためか

 取り巻き達は、威圧的に周囲に居る人達や

 通りかかる学生達に声をかけている。

 

 そんな彼らから通りを2つほど超えた場所に

 彼女らは、居た。

 

「もう大丈夫でしょう」

 

「怪我は、してませんか?」

 

「あ・・・あの、アナタ達は?」

 

「ああ、ただの通りすがりだから気にしないで」

 

「そうです。

 さあ、早く家に帰りなさい。

 もう、ああいうのに捕まらないで下さいよ」

 

「は、はい。

 ありがとうございますっ!」

 

 神族の少女は、何度もこちらに頭を下げながら

 家へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 2 漆黒の翼

 

 

 

 

 

 同じ頃、広場では

 

「おい、テメェ何か知らねぇのかよっ!!」

 

 取り巻き達が、まだ通行人達に詰め寄っていた。

 

「お前は、何かし―――」

 

「・・・わね」

 

「何だっ!?

 何か文句でもあるのかっ!?

 あるってんなら容赦しねぇ―――」

 

「うっさいって言ってるのよっ!」

 

「ぐぇ!」

 

 魔族生徒の一人が、大きく宙に浮いてから倒れる。

 

「な・・・何だ、お前っ!」

 

 周囲の取り巻き達が気づいて

 その相手を囲む。

 

「む・・・貴様は・・・」

 

 ヴァイスが相手を見て珍しく言葉を濁す。

 

「一体何なのよ・・・」

 

 不満げな表情をしながら彼らの前に立つ

 銀色の長い髪を左右に結った美少女。

 

 神族王女姉妹の妹。

 神族第二王女、エリナ=アスペリアだった。

 

「神族王女か・・・。

 よもや貴様では、無いだろうな?」

 

「だから何の話よっ!

 さっきもいきなり突っかかってきたしっ!」

 

 いきなり訳の解らないことに巻き込まれ

 既に怒り気味のエリナ。

 

「さっきの神族の女のことだ。

 同族だからと、助けたのではないか?」

 

「だから何の話なのよっ!

 喧嘩でも売ってるのっ!?」

 

 いがみ合う両者。

 

 そんな時だった。

 

「一体、何の騒ぎだ?」

 

 その一言を聞いただけで

 相手が身分の高い相手だと解るほど

 重圧のある声が広場に響く。

 

 ヴァイス達やエリナが振り向く。

 

 そこには、竜界の頂点に立つ者。

 

 金色の竜牙の二つ名を持つ竜界王女

 リピス=バルトが立っていた。

 

 その後ろには、同じく二つ名を持つ

 メイド長 メリィ=フレールも居る。

 

「竜界王女・・・か」

 

「・・・」

 

 2人とも機嫌が悪そうに顔を背ける。

 

「・・・何があったと聞いている」

 

 少し威圧的に声をかけるリピス。

 

「・・・そこの連中がいきなり絡んできたのよ。

 訳わかんない話ばっかりで、意味が解らないわ」

 

「いきなり手を出してきたのは

 お前の方だろっ!?」

 

「そうだっ!

 どうせさっきの神族も、こいつが

 助けたに違いないぜっ!」

 

 エリナの言葉に声をあげて反論する取り巻き達。

 

「そう声を荒げなくても話は、聞こえている。

 犬でも、もう少し利口だぞ?」

 

 リピスが、ため息をつく。

 

「竜族の癖に、俺達を犬扱いだとっ!?」

 

「王女だか何だか知らないが

 調子に乗るなよっ!!」

 

 馬鹿にされたことが腹立たしいのか

 怒りの矛先が、リピスに向かう。

 

「ヴァイス様、こんな連中

 まとめてやってしまいましょうっ!」

 

「・・・ふむ。

 お前は、そんなに死にたいのか?」

 

 強気に出る魔族生徒に

 あくまで冷静に対応するリピス。

 

「何だとっ!?」

 

「くそっ!!

 馬鹿にしやがってっ!!」

 

 冷静で焦る様子のないリピスに対して

 にわかに殺気立つ取り巻き達。

 

 彼らが儀式兵装を取り出した瞬間だった。

 

「―――ッ!?」

 

 ヴァイスを含めた取り巻き全員が凍りつく。

 

 自分達を取り囲むように全方向から

 強烈な殺気が向けられていることに気づいたからだ。

 

 様子見していたはず竜族の男は、手に金槌を持っている。

 とある店の前に立つ竜族の店主は、大きな包丁を。

 出店の竜族の女は、儀式兵装を。

 広場の隅で隠れていた竜族の幼い少女ですら

 落ちていた石を拾い集めて魔族達を睨んでいる。

 

 竜界でリピスは、アイドルのような存在で

 竜族は皆、熱狂的な信者であると言える。

 

 自分達の象徴に対して敵意を見せた相手に

 彼らは、間違いなく容赦などしないだろう。

 

 気づけば、リピスの後ろに居たはずの

 メリィが、リピスの前に出ている。

 

 そして更に―――

 

「それ以上、リピス様に対して

 無礼な行いをするのなら容赦は、しませんよ?」

 

 後ろから声をかけられ、彼らが振り向くと

 そこには、3人の竜族が居た。

 

「手加減はぁ~しませんよぉ~?」

 

「我々が相手になりますっ!」

 

 アイリス=カチス

 リリィ=コネクト

 カリン=ヤクト

 

 リピスの護衛を勤める3人も合流してきていた。

 

「・・・ふん。

 魔界の貴族にして魔王の血族でもある

 このヴァイス様が、この程度のことで

 相手にする訳が無いだろう」

 

 大きな舌打ちをすると

 一人でさっさと歩いていく。

 

「ま、待って下さいよっ!」

 

 取り巻き達も、慌ててヴァイスの後を追う。

 

 彼らが、見えなくなるまで離れた瞬間。

 

 周囲に張り詰めていた空気が無くなり

 周りの竜族達もそれぞれの生活に戻っていく。

 

「へ~。

 ホントに竜族って統一感あるんだね~」

 

 そんな様子にエリナは、関心していた。

 

「キミも、あまり大きな騒ぎは

 起こさない方がいい。

 

 王女という立場は、嫌でも付いてくる。

 ・・・オリビアどのにも迷惑をかけたくないだろう?」

 

「・・・うっ」

 

 母親の名前を出されて、思わず言葉が詰まるエリナ。

 

「わ、私は

 巻き込まれただけだもんっ!

 

 私、今回悪くないわよっ!」

 

「悪い、悪くないの問題ではないのだが・・・」

 

 子供のような言い分に、思わずリピスは

 苦笑して追及する気を失う。

 

「まあ『気をつけろ』ということだ」

 

 それだけ言うと

 颯爽と歩いていくリピス。

 

 その後ろを綺麗についていくメリィとアイリス達。

 

「はぁ・・・。

 もう疲れたから、私も帰ろう」

 

 そう言ってエリナも寮へと帰るのだった。

 

 

 そして次の日。

 

 その日が、やってきた。

 雲一つない晴天。

 周りは喧騒と熱気に包まれていた。

 そう、今日は・・・

 

「ついに、この日が来たわ」

 

「相変わらずのお祭り状態ですね」

 

 全階級合同実戦試験 前期の開催日である。

 会場となる地下ダンジョンは闘技場から入るため、闘技場内に

 全階級が集まることになり、必然としてこの騒ぎである。

 

「おや、咲耶達じゃないか」

 

 少しでもブラつけば迷子確定というほどの人数の中から

 見知った顔が見える。

 

「あら、リピスじゃない」

 

「おはようございます、リピス」

 

「2人とも、こんな後ろの方でいいのか?」

 

 私達が居るのはダンジョン入り口から、かなり離れた場所だ。

 正直スタートダッシュ狙いなら、まずありえない地点。

 

「スタートダッシュに巻き込まれるのだけは、ごめんだわ」

 

「確かに、あれはもう無茶苦茶だからな」

 

 開始直後は、やはり一番を狙って走るパーティーで

 入り口が大変なことになる。

 そして恒例のように

 そのトラブルが発端となって入り口付近で戦闘が始まる。

 

 戦闘が邪魔で入れないパーティー、それらを押し退けようと

 介入するパーティーなども出始めて収集が着かなくなるのが

 開始直後のお約束だ。

 

 特に私達人族がそんな中に入ってしまったら、最優先で狙われかねない。

 

 なので順位より完走を、ポイント確保よりも生存を優先しなければ

 単位は難しくなってしまう。

 必然としてあえて後ろからスタートするようになったという経緯がある。

 

「リピスこそ、前じゃなくていいんですか?」

 

 リピスのパーティーは竜族のみで構成されたチームで

 2階級の竜族の中でも実力者が揃っている。

 正直リピスのチームなら正面突破で

 あの開始直後のカオス空間を抜けれるだろう。

 

 何せ、毎回他のパーティーを攻撃出来るチーム戦では

 目に付いたパーティーを全て潰しながら前進するという

 豪快な戦い方をしている。

 

 竜界の姫とその親衛隊による部隊『チーム・竜姫』と呼ばれ

 このチームに狙われて撃破されなかったパーティーは

 今のところセリナとエリナの神族姉妹のチームだけだと言われている。

 

 決して出会いたくないチームの1つだ。

 

「う~ん。 まあ出来ないこともないんだが・・・」

 

 少し考えるように首を傾げたあと

 

「後ろから追いかけるのも、愉しいじゃないか」

 

 不敵な笑みを浮かべながらとんでもないことを言うリピス。

 さすが『チーム・竜姫』のリーダーという発言である。

 

「まあ、私達を見つけた場合はスルーしてください」

 

「ええ、無視してくれて構わないから」

 

「それは出来ない相談だ。

 むしろ見つけたら全力で追いかけてやるから

 覚悟しておくんだな。」

 

 容赦の無い言葉を言い出したリピスに反論しようとしたところで

 学園長の挨拶が始まった。

 

「学園長のマリア=ゴアだ。

 長々と話をするつもりはない。

 今更ルール説明も必要ないだろうし挨拶は、短くしておく。

 

 生徒諸君! 戦争にルールなどない!

 だが当然、守るべき良識というものもまた存在する!

 

 必要最小限の良識さえ理解し、遵守しさえすれば

 それ以外のあらゆる勝つため、生き残るための行動を

 その全てを評価対象とし判定する!

 諸君らはただ、持てる全ての力を出し切って勝ち残れ! 以上だ!

 

 では、これより

 全階級合同実戦試験 前期を開始する!」

 

 非常に簡潔で力強い開始宣言と共に一斉に生徒達が動き出す。

 開始10秒も経たずに早速、魔法も飛び交い始める。

 

「うむ、ではダンジョン内で会おう」

 

「敵には会いたくないので、遠慮しておきます」

 

 リピスが自分のチームに合流しにいくのを確認して

 私達もゆっくりと動き出した。

 

 

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 試験開始から1時間ほど経った。

 私は、序盤のチェックポイントに設置された端末で

 情報を確認していた。

 

「やっぱり石は無いですね」

 

「まあ、ゆっくりと進んでるからね」

 

 ダンジョン試験は、各所に設置された魔法石を回収しながら

 ゴール地点を目指すもので

 主なポイントは

 

 ダンジョンクリア時間

 魔法石の所持数

 パーティーの損耗率

 

 この3つが重要となってくる。

 

 無理して全滅するリスクよりも、地道に戦闘回避しながら

 生き残って完走する方が総合的に点数は高いので

 私達2人の方針は生存することを重視している。

 

 戦闘を極力回避していると

 どうしてもチェックポイントに魔法石が残ってるような

 タイミングでたどり着けない。

 

「しかし今回は、荒れてるわねぇ」

 

 端末を確認しながら、疑問に思ったことを口にする。

 

「残りパーティー数が、結構減りましたね」

 

 この端末は、ダンジョン内のパーティーの数と

 ダンジョン地図が表示される。

 現在、まだ魔法石を持ちすぎているチームは無いが

 開始してこの時間にしては、脱落チームの多さが目立つ。

 

「この時間ならまだお互いに、けん制し合って

 パーティー戦闘なんて、ほとんど無いはずなのに・・・」

 

「まあ、潰し合ってくれているなら好都合です」

 

 端末を前に話し合っていると

 突然、亜梨沙が壁際に隠れて武器を手に持つ。

 

 それを見て、慌てて反対側に隠れる。

 

 少しして複数の足音が聞こえてくる。

 間違いなく他パーティーだ。

 

 非常に不利だが、状況的にもう逃げるにしても手遅れ。

 覚悟を決めて先手を取るために神経を尖らせる。

 

「おっと、警戒しないでくれ。

 別に戦う気ないからさ~」

 

 何とも気楽な声と共に一人の男が姿を現した。

 

「・・・ギル=グレフですか」

 

 亜梨沙が相手の名を呟く。

 

 

 ギル=グレフ

 

 私達と同じクラスの魔族だ。

 陽気で明るい性格で、何より種族による差別意識が無いため

 同族から異端の目で見られることもあるが

 それ以上に彼の性格ゆえか種族に関係なく人気が高い。

 

 四翼持ちで、火と風の二属性を扱えてオリジナル魔法まで持っている。

 魔族特有のゴリ押しな戦い方をせず、神族のような技術を駆使した

 心理戦を得意としており、去年の闘技大会では

 3階級の魔族を倒しているため

 現在フォースで名前の挙がる実力者の1人だ。

 

「お、名前を覚えてくれていたとは光栄だね」

 

「で、何の用ですか?」

 

「キミ達に会いたくて・・・さ」

 

 気障な台詞と共に咲耶の手を握ぎろうとして

 亜梨沙に思いっきり蹴り飛ばされる。

 

「姫様に何するんですか。

 変なことすると蹴りますよ」

 

「もう既に蹴られてるんですけど・・・」

 

「下がって大丈夫よ、亜梨沙。

 ・・・それで、何の用かしら?」

 

「いや~・・・なに。

 ちょっと端末俺にも見せて~ってだけなんだけどね~」

 

 蹴り飛ばされた痛みを堪えながらも陽気に答えるギル。

 

「じゃあ、奥に居る5人は何ですか。

 伏兵じゃないんですか」

 

「いやいや、他の連中は人族ってだけで嫌ってるでしょ?

 そんな状態で一緒に来ちゃったら戦闘になっちゃうじゃない。

 俺、そういうめんどくさいの嫌いなんだよねぇ」

 

 何を考えているのかさっぱりな笑顔。

 まあ攻撃してくるなら、とっくに襲ってきているだろうし

 一応は、言い分を信じるべきだろう。

 

「亜梨沙も、武器を片付けて。

 戦う訳ではないみたいだから」

 

「こんな変態の言うことを信じる気ですかっ!?」

 

「変態なんてひどい偏見だよ、妹ちゃん。」

 

「この場で斬られなかっただけ、よかったと思って下さい変態」

 

「もう、亜梨沙。

 いいから私とこっちに行きましょう」

 

 強引に亜梨沙を端末付近から遠ざける。

 

「とりあえず信用して貰えたってことで

 ちょいと俺も端末見させてもらうよ」

 

 端末を軽快に操作して情報を引き出すギル。

 そんなギルをジト眼で監視する亜梨沙。

 なんというか、気まずい空気だった。

 

「今回は荒れそうだねぇ」

 

「そうね。

 序盤でこれは、予想外だわ」

 

「これはこれで面白いからいいんだけどな」

 

 ある程度の情報を引き出したギルは端末を終了する。

 

「よし、ありがとね。

 おかげで今後の方針が決まったよ」

 

「用件が終わったらさっさと帰って下さい」

 

「ははは、じゃあまたね~」

 

 ギルは、私達に軽く手を振りながら自分のパーティーに合流しにいった。

 

 そしてパーティーに合流したギルだったが

 ここでふと気づく。

 

「あれ?

 何で俺『妹ちゃん』って言ったんだ?」

 

 別に彼女の家族構成を知ってる訳ではない。

 

 そう、別に兄―――

 

「あ・・・っててっ!」

 

 突然の頭痛に苦しむギル。

 

「おい、大丈夫かっ!?」

 

 周囲の仲間が心配して集まってくる。

 

 

 一方、ギルが去った後。

 

「なんだったんですか、あの変態」

 

「さあ?

 じゃあ、私達も移動しましょう」

 

 何時までもここに居ても仕方が無いので移動を開始する。

 そして私達の懸念は、現実のものとなる。

 

 

 ―――そして、試験開始から3時間が経った。

 とあるチェックポイントで情報を引き出すために端末を操作する。

 

 

「石が大量に残ってます。

 何ですか、この展開」

 

「・・・まあ、これが原因でしょうね」

 

 私は、検索した結果を亜梨沙に見せる。

 

「・・・何ですか、これ」

 

 亜梨沙がそういうのも仕方が無い。

 開始から3時間ほどで二階級全体のパーティー脱落率78%という

 この数字。

 そして魔法石所持数超えで表示されている、ゴール手前にある

 広場に陣取る1つのパーティーの存在。

 

 そしてそのパーティー情報には

 パーティー数:登録準備中

 データ:未登録

 所持魔法石:306個

 という簡素な文章がついているだけだった。

 

「魔法石ってたしか全体で500でしたよね?」

 

「ええ、そのはずよ」

 

「偽情報という線は、ないですか?」

 

「それはたぶんないわ。

 チェックポイントを通るたびに確認してたけど

 数値の上がり方は、確かに異常。

 でも上がっていく過程は、確認済みよ」

 

「なら、この不明パーティーは

 通り過ぎようとする全てのパーティーを全滅させていると?」

 

「そう考えるのが自然ね」

 

「でも、この登録準備中って何ですかね?」

 

「さあ?

 私も見たことが無いわ」

 

 2人で首をかしげていると

 ふと亜梨沙が、横を向く。

 

「誰ですかっ!!」

 

 儀式兵装を構えて通路側を見つめる亜梨沙。

 

「ごめんなさい。

 驚かせちゃったみたいですね」

 

 そう言いながら歩いてきたのは

 長い銀色の髪をなびかせる少女。

 

 その姿から『白銀の女神』と呼ばれる神界の王女。

 

 神界第一王女 セリナ=アスペリア だった。

 

「・・・亜梨沙。

 武器を片付けて」

 

「ですが・・・」

 

「大丈夫よ。

 戦いに来た訳ではない・・・よね?」

 

 相手に確認するように話す。

 

「はい。

 私は、端末を使わせて頂きたいだけです」

 

 そうですよと言うように笑顔で答えるセリナ。

 

 その姿に亜梨沙は、警戒を解く。

 

「一応、チームの皆は

 奥で待機してもらってます。

 私一人でなら、構いませんよね?」

 

 あくまで主導権は、そっちだと言うセリナに

 思わず苦笑する。

 

「ええ。

 離れているから、自由に使って」

 

 そう言って亜梨沙と2人で端に移動する。

 

「ありがとうございます」

 

 一礼するとセリナは、端末を操作する。

 

 しばらく操作すると端末を離れる。

 

「では、これで失礼します。

 

 ・・・出来れば、出会わないことを祈っています」

 

 そう言って笑顔で一礼すると

 仲間の方へと帰っていくセリナ。

 

「・・・ええ。

 出来れば、もうこの試験中は

 出会いたくないわね」

 

 セリナの背中に向かって、そう呟く咲耶。

 

 

 その後も、中継地点には

 大量の魔法石がある。

 

 途中、端末で気になる情報もいくつか

 拾いながらも先へと進む。

 

 しかしさすがに離脱率は、変動しない。

 皆、警戒しているのだ。

 

 そんな中、特に別パーティーと接触せずに

 順調に進んでゴール近くの広場を歩いている時だった。

 突然真横からの光に気づく。

 

「姫様っ!」

 

「―――ッ!」

 

 私に向かって飛んできた炎を

 私は、盾で受け止める。

 

 すると魔法は、盾に当たると霧散して消えた。

 

「ふははははっ!

 待っていたぞ、汚らわしい人族!!」

 

 聞いたことのある声と共に、隠れていた奴らが出てくる。

 たぶん狙ってくるだろうとは思っていたが、予想を裏切らない奴だ。

 

「この魔王の血族たるヴァイス=フールス様が

 直々に相手をしてやろうというのだ。

 卑しい種族らしく、土下座をしながら自らをゴミ以下の存在だと

 宣言するのなら、見逃してやらんでもないぞ?」

 

 予想通りというべき相手の登場に

 咲耶は、ため息をつく。

 

「・・・今のは、確実に姫様への侮辱です。

 それは、どういうことか理解してますよね?」

 

「黙れゴミ以下の分際で。

 私自ら、掃除をしてやろうというのだ。

 ありがたく思えっ!!」

 

 大声と共にヴァイスに魔力が収束する。

 更に翼まで広げて増幅を加速させる。

 

「・・・亜梨沙、走るわよ」

 

 そう小声で亜梨沙に言う。

 

「これが魔王の血族たる王者の力だっ!

 ドラゴン・フレイムゥゥ!!」

 

 それは、ヴァイスお気に入りのオリジナル火属性魔法。

 炎が竜を形成して現れる。

 

「刀身形勢」

 

 咲耶は、紅の刀身を出す。

 

「さあ、喰らい尽くせ!!」

 

 ヴァイスの声と共に炎の竜がこちらに向かって突っ込んでくる。

 

「はっ!」

 

 剣を薙ぐと、刀身部分だけが炎竜に向かって飛んでいく。

 

 そして竜の牙と、ぶつかって爆発する。

 さすがに炎竜を潰すことは、出来なかったが

 今の一撃で炎竜は、後ろに大きく下がる。

 

「そんなもので、私の魔法を止められる訳がないだろうっ!」

 

 高笑いをしながら、炎竜の体勢を立て直す。

 

 その間に、咲耶達は

 全力で通路の奥へと逃げる。

 

「逃げろ逃げろ!

 そうやって情けなく逃げ回っているのがお似合いだ!」

 

 高笑いをしながら上機嫌で私を追いかけてくるヴァイス。

 さすがに竜は通路まで入れないため、通路の入り口でぶつかり爆発する。

 

「ご自慢の魔法も、その程度なのかしらっ!!」

 

 通路からわざと露骨に挑発してヴァイスを誘い出す。

 

「・・・ほぅ。

 どうやら本格的に死にたいらしいなぁぁぁ!!!」

 

 挑発にのってこちらを追いかけてくるヴァイス。

 そんなヴァイスの後ろを慌ててついていく魔族達。

 そのままヴァイスを引き付けてダンジョン奥へと逃げ込む。

 

 響く爆発音。

 駆け抜ける足音。

 普段ならとっくに別パーティーに出会うような大規模な移動も

 今回のパーティー脱落率からすれば誰にも出会わないのは

 むしろ当然と言えた。

 

「ふはははっ!!

 逃げろ! 逃げろ! 逃げろ!

 泣き喚きながら命乞いをしろっ!!」

 

 最近溜まった鬱憤を晴らすように、魔法を乱発するヴァイス。

 狭くて入り組んだダンジョン地形のおかげで直撃を食らう心配はないが

 それでも時間と共に正確になってくる攻撃に嫌気が差す。

 

「・・・これだから天才は」

 

 生まれ持った力である魔王血族としての能力と

 六翼による潤沢な魔力。

 

 それを使える儀式兵装による魔法。

 魔族の中でも特に優れた身体能力。

 

 ヴァイスは、遊んでいるにも関わらず

 あの強さである。

 

 人並み以上の努力を必要としている私からすれば

 羨ましいかぎりだ。

 

 愚痴を漏らしつつ、分かれ道を左に曲がる。

 

「姫様、何を考えているのですか?」

 

 隣で併走する亜梨沙が、声をかけてくる。

 彼女は、私と違って加速魔法を使用しているため

 平然とした顔で走っている。

 

 彼女も天才と呼ばれる才能の持ち主だ。

 そう思うと、周囲が天才だらけで嫌になってくる。

 

「・・・この次のはずっ!」

 

 そう呟いて

 次の曲がり角を右に曲がったあと

 スグ正面にある十字路をまた右に曲がる。

 

 亜梨沙は、突然の連続右折に驚きながらも

 何とかついてくる。

 

「逃がすかっ!!

 王者の魔弾っ!!」

 

 何だか変な名前のついた炎の塊を放つヴァイス。

 それは、咲耶達が曲がった曲がり角を右に曲がった瞬間

 爆発を起こす。

 

「ふははっ!

 やはりこの私からは、逃げ切れなかったようだなっ!!」

 

 ヴァイスと、その仲間達が

 曲がり角を曲がった瞬間に立ち止まる。

 

 爆煙に包まれた通路だったが、スグに視界が戻る。

 

 すると、ヴァイス達の正面には―――

 

「ふぅ・・・危なかったです」

 

「あららぁ~。

 いきなりはぁ~、危ないですよぉ~?」

 

「奇襲とは、やってくれるわね」

 

 防御魔法を展開したままで立っている3人の竜族。

 リピスの護衛をしている竜族達だ。

 そして更に―――

 

「まだ我々に挑んでくる命知らずが居たとはな」

 

 彼女らの後ろで堂々とした姿で立つ竜王女の姿。

 

 そして更にその後ろにも2人の竜族達が

 戦闘態勢を取っていた。

 

「チーム竜姫・・・だとっ!!」

 

「な、なんでこいつらがっ!!」

 

 ヴァイスのチームである魔族達が焦り出す。

 

「ちっ・・・」

 

 ヴァイスは、舌打ちをする。

 そう・・・彼は、気づいたのだ。

 

「おのれ・・・人族の分際で

 この私を罠にかけるとは・・・!!」

 

 そう・・・咲耶は、これを狙っていたのだ。

 

 途中、端末でリピス達も一定数の魔法石所持を超え

 パーティー位置が表示されていた。

 

 彼女らが通るであろうルートを予想して

 そこにヴァイス達を誘導し、自分達だけは逃げ切る。

 

 いくつもの偶然に助けられる形ではあったが

 咲耶の作戦は、見事成功したことになる。

 

「せっかくの挑戦者だ。

 た~っぷりと相手をしてやれ」

 

 その言葉と共に

 竜族達が一斉にヴァイス達に向かって飛び出す。

 

 

 ・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 

 通路の奥から聞こえてくる爆発音と

 悲鳴に咲耶は、堪えきれずに笑い出す。

 

「姫様、こういうのだけは

 上手いんですから」

 

 亜梨沙は、呆れ顔だった。

 

 本当にギリギリではあったが

 何とかリピス達にヴァイス達を

 押し付けることに成功した咲耶達は

 そのままゴール地点へと急ぐ。

 

 

 そしてゴール地点手前の広場に戻ってきた時だった。

 

「姫様、足止めをしますから

 逃げてください」

 

 突然、儀式兵装を構えてそんなことを言う亜梨沙に

 声をかけようとした瞬間だった。

 

 広場の出口から流れてくる圧倒的な魔力の波。

 

 そして遠くからこちらに歩いてくる音が聞こえてくる。

 亜梨沙と私は、音のする方向を見つめる。

 暗がりから出てきたものを見て私達は、再び驚いた。

 

 氷のように冷たい瞳。

 感情を全く出さない表情。

 腰まで伸びた黒い髪。

 全身を黒系で統一した服装。

 小柄な身長。

 姿に似合わない大振りな黒刃の薙刀型儀式兵装。

 まるで周りの暗闇さえも従えたような黒に包まれた少女だった。

 

「何者ですかっ!」

 

 亜梨沙の問いに答えずに

 無言のままこちらに歩み寄ってきたかと思うと

 一気に距離を詰めて、彼女が獲物を無造作に振り下ろす。

 亜梨沙は、咄嗟に剣で受け止めようとしたが・・・

 

「く・・・っ・・・!!」

 

 圧倒的な力の差だったのか

 亜梨沙は、一撃に耐え切れずに吹き飛ばされ

 広場の壁に激突する。

 

「亜梨沙っ!!」

 

「・・・大丈夫、です」

 

 亜梨沙に駆け寄ると

 心配ないという感じで立ち上がる。

 

「危険ですので、姫様は

 どうか逃げてください。

 

 目の前の相手は

 只者では、ありません」

 

 亜梨沙が、そんなことをいうのは

 非常に珍しいことだった。

 

 だが、亜梨沙の肩を軽く叩く。

 そして―――

 

「アナタこそ、ここでジッとしてて。

 どうやら、私に用らしいから」

 

 そう言って私は、少女に向き直る。

 

「我が手に力を!」

 

 片付けていた儀式兵装を取り出す。

 

 小盾よりは、少しだけ大きめの盾が腕に装備される。

 

 これが私の儀式兵装。

 四界でも珍しい防御型だ。

 

 そしてもう片手で紅を持つ。

 

「刀身形勢」

 

 刀身を出すと盾を前に、剣を後ろに向けて

 防御寄りの構えを取る。

 

「姫様では―――」

 

「いいから、黙って見ておきなさい。

 相手にも失礼でしょう?」

 

 亜梨沙の言葉を遮るように

 言葉を被せる咲耶。

 

 亜梨沙が黙ったのを確認すると

 改めて紅を構え直す。

 ・・・ただ、目の前の彼女を見ていると懐かしさを覚えてしまって

 ふと口元が緩んでしまう。

 

 ・・・その直後

 彼女の姿が一瞬ブレると、ものすごい勢いで突っ込んできた。

 開いていた距離が、一瞬で詰まる。

 

 彼女は勢いをつけたまま、大きく振りかぶった薙刀を振り下ろした。

 

 私は、剣で受け止める・・・フリをして、直前で相手に向かって走った。

 全力で振り下ろされた刃に対して、前に突っ込んだ勢いを維持しつつ

 体を回転させるように捻りながらギリギリで避ける。

 そしてすれ違いざまに体を回転させて遠心力を利用した全力の一撃を

 少女の側面に叩き込む。

 

 少女は全力の一撃をかわされ、隙だらけになるはずだった。

 ・・・だが、やはり結果は変わらなかった。

 これでも休まず、ほぼ毎日修行してきた。

 今なら決まるかもという僅かな希望だったが

 やはり彼女には届かなかった。

 

 彼女は、横からの攻撃を避けきれないと判断すると

 突進していた慣性を利用し、そのまま前に飛ぶように通り過ぎていった。

 結果として、私の横からの薙ぎ払いは、空振りに終わった。

 

 あの時ですら、あの強さだったのだ。

 彼女も天才と呼ばれる才能の持ち主なのだろう。

 いや、本当に周りが天才だらけで嫌気が差してくる。

 

「・・・」

 

 少女の後ろから、ゆっくりと黒い何かが出てくる。

 

 それは、漆黒の翼。

 魔族の象徴。

 

 そして、魔界最高の枚数を誇る

 黒き八翼が展開される。

 

 すると周囲に一気に魔力が集まりだす。

 あまりの強さに魔力が視覚化されるほどだ。

 

 彼女は、手をかざした。

 その手に、炎が集まっていく。

 昔は、黒い塊だった。

 後からあれは魔法ではなく魔法が使えない者が撃つ

 純粋な魔力の塊だったことを知った。

 彼女は、あれからちゃんと魔法を使えるようになったのか。

 

「ファイア・ボール」

 

 僅かに呟いた彼女が、そのまま魔法を撃ってくる。

 通常のファイア・ボールよりは、少し小さめだ。

 

 集まった魔力は、強力だが

 魔法を形勢する際に、そのほとんどが

 こぼれてしまっている。

 

 相変わらず苦手なのだなと思ってしまう。

 

 飛んできた火球を盾で受け止める。

 

 普通ならいくら儀式兵装の盾でも

 魔法の一撃を防ぐのは、難しい。

 

 一般的には、防御魔法を併用する。

 

 だが私は、そのまま受け止める。

 すると魔法は、霧散して消える。

 

 無表情だった彼女の口元に笑みが浮かぶ。

 

「・・・久しぶりね、フィーネ。

 ちゃんと笑えるようになったのね」

 

「・・・」

 

 彼女は無言のままだったが

 

「くっ・・・ぁ・・・!!」

 

 頭を抑えて苦しみ出す。

 

「大丈夫っ!?」

 

 彼女に急いで駆け寄る。

 

「・・・か、ず・・・あぁっ!!」

 

 頭を振りながら痛みに耐えるフィーネ。

 

 それから少しして、痛みが引いたのか

 改めてこちらを見るフィーネ。

 

「もう、大丈夫だわ」

 

「本当に?

 医者を呼びましょうか?」

 

「ええ、心配いらないわ」

 

 2人の間に微妙な空気が流れる。

 

 それから少ししてフィーネから声をかけてくる。

 

「・・・名前」

 

「え?」

 

「私の名前・・・覚えてたのね」

 

「ええ。

 ・・・と言ってもまあ

 忘れられそうにないけど・・・ね」

 

 あの時は、本当に色々な出来事があった。

 そう簡単に忘れることなど出来ないだろう。

 

 ふとフィーネから

 手が、ゆっくり差し出される。

 

「また会えてよかった。

 ようやく私は、アナタに借りが返せる」

 

 差し出された手を握る。

 

「私も会えて嬉しいわ。

 どうしているのか、気になってたからね」

 

 2人で握手をしている姿を見ていた亜梨沙が

 こちらに歩いてくる。

 

「えっと。

 

 ・・・どういうことでしょうか?」

 

 驚いた顔のまま、そんな質問をする亜梨沙から

 フィーネの方を向くと彼女も同時に、こちらを向く。

 

 そして視線が合うと思わず2人で笑い出す。

 

 

 そんな様子を闘技場出口付近に作られた仮設テントの中で

 魔法アイテムを利用して見ているマリアとセオラ。

 

「・・・これは」

 

 驚きを隠せないセオラ。

 いくら立場的には、同じ王女であっても

 仲が悪い人族と魔族が、手を取り合って笑っているのだ。

 種族差別なんてする気はないが、そういった風潮があるのもまた事実。

 それらを超えた何かが、そこにあった。

 

「いや~、あの無表情で

 何考えてるのか、さっぱりだったあの子が

 ここまで変わるなんてねぇ」

 

 我が子の成長を嬉しそうに見つめるマリア。

 

「・・・なるほど。

 これで色々納得できましたわ。

 ここ数日、やたらと『天保院 咲耶』の

 成績や素行のデータをご覧になっていた理由が」

 

「そりゃ娘の命の恩人となれば、気にもなるだろう?」

 

「まあ、確かに。

 

 ・・・では、申請通りということでよろしいですね?」

 

「ああ、構わんよ。

 学園長として認めよう。」

 

「フィーネ=ゴアのパーティー登録を完了。

 

 これにより

 全階級合同実戦試験 前期

 2階級トップは、天保院 咲耶パーティー!!」

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 その日の放課後。

 試験結果の張り出された掲示板の前は、騒然としていた。

 その大半は、2階級の試験結果だろう。

 

 1位と大きく書かれた場所に

 人族の名前が書かれているからだ。

 

 フィーネが、私達のチームとして処理されたため

 彼女の持っていた魔法石が加算された結果、試験で獲得した

 総数の歴代1位を大幅に更新してしまったらしい。

 

 ・・・そう、フィーネがあそこで陣取っていたのは

 私に会いたかったから。

 

 わざわざ学園に来たのも私のため。

 

 そう、彼女は

 私に借りを返しに来たのだ。

 

 こうして学園生活は、次第に華やかさを増すことになる。

 

 天保院家、最後の生き残り。

 彼女の運命は、今後どうなるのだろうか?

 

 

 

 

 

 2 漆黒の翼 ―完―

 

 

 

 

 

 

 



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 3 少女の力

 

 全階級合同実戦試験の次の日。

 私達の教室で正式にフィーネの転入挨拶が行われた。

「もう皆さん、ご存知かとは思いますが

 昨日から転入されたフィーネ=ゴアさんです。

 今日から、このクラスとなります。」

「フィーネ=ゴア。

 見ての通り魔族よ。

 よろしく」

 

 まるで興味が無いといった感じで簡素な自己紹介をしていた。

「隠しておいても無駄でしょうから、先に言っておきます。

 彼女は学園長マリア=ゴア様のご息女。

 つまり魔界の王女という立場のお方です。

 ですが彼女も学園長も、そういう扱いを望んではおりません。

 あくまで皆さんと同じ、一生徒として接してあげて下さい。」

「立場や称号なんて下らない。

 そんなもの、いちいち気にしてないわ」

「では、皆さん。

 魔王血族の本家にして『漆黒の悪魔』の

 二つ名を持っている彼女に、万が一にも

 ちょっかいをかけるつもりでしたら

 そうですわね・・・遺書あたりを持参しておくのが

 後腐れが無くて良いのではないでしょうか」

「そうね。

 そうして貰えると、遠慮なく消し炭に出来るから助かるわ」

 

 魔界の次期後継者とも言える本物の血統。

 魔王の血族・・・それも本家が現れたのだ。

 

 教室の隅で偉そうにしている癇癪持ちの貴族様あたりは

 人気を取られて、さぞ不機嫌だろう。

「・・・あら」

 

 てっきり不機嫌な顔をしているかと思えば

 上機嫌で嬉しそうなヴァイス。

 

「・・・ああ、あれですか。

 どうせ、これで魔族がどうとか思ってるんじゃないですか?」

「・・・ああ、なるほど」

 

 言われてみると、確かにそういうことだろうなと納得出来る。

 あの男にとっては、魔族こそが最高の種族なのだから。

 

「・・・それにしても連中、かなりボロボロね」

 

「ああ、それはですね―――」

 亜梨沙が聞いた話によると

 どうやらリピス達「チーム竜姫」に徹底的に

 痛めつけられたらしく

 軽く回復魔法をかけた程度では、完治しなかったらしい。

 

 回復系魔法は、非常に便利ではあるが

 あまり多用すると、身体の抵抗力を減少させてしまうそうだ。

 

 身体そのものが、何もしなくても

 回復魔法で治ってしまうのなら身体は

 何もしなくなる。

 

 何もしなければ、元からあった力が衰える。

 それが続けば、ちょっとした怪我でも命取りになりかねない

 なんてことも可能性としてはある訳で。

 

 なので緊急を要するような傷以外の

 擦り傷などは、普通の治療で対応される。

「・・・というわけで、席は好きな場所で構いませんわ。

 もっとも、もう決めているでしょうけども。」

 一通りの話が終わったらしく、フィーネは

 ゆっくりとこちらに歩いてくる。

 そして私の隣まで来ると教室内の全生徒達に向かって笑顔を向ける。

 先ほどまでの無表情とは違い、年頃の少女が見せる可憐な笑顔に

 生徒達も見とれていた。

「私は、彼女・・・『天保院 咲耶』に借りを返しにしきたの。

 

 人族だ魔族だなんて下らない種族論は

 関係ないし興味すらない。

 

 咲耶に向ける敵意は全て、私に対しての挑戦状として

 受け取らせてもらうわ」

「な・・・なんだってぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 フィーネの宣言が終了して数秒後、教室が一気に騒がしくなる。

 誰がこんなことになると思っていただろうか。

 ヴァイスなどは、驚きの表情で口をあけたままだ。

 

「という訳で・・・これからよろしくねっ!」

 

 こちらに振り向いた彼女の笑顔は、とても眩しいものだった。

 

 

 

 

 

3 少女の力

 

 

 

 

 

 それから何日か過ぎ、フィーネも学園に慣れてきた。

 リピスと知り合いだったことに驚きもしたが

 2人共、王女と考えれば自然か。

 

 そしていつもの日々が返ってくる。

 合同実戦試験のおかげで

 余計な視線は、増えたものの

 今までと比べて悪意が無いだけマシだと言える。

 

 フィーネのこともあって

 あれから嫌がらせも無くなった。

 

 まあ、平常運転なのは

 どこかの貴族様だけ・・・って所かな。

 

 そんなことを考えていると

 強い風が吹いてきた。

 

 森の木々が風に揺れる。

 

「ここは、本当に相変わらずね」

 

 今日使う場所を見て私は、そう呟く。

 目の前に広がるのは、森の中にひっそりと残っている廃墟。

 

 ここは大戦争時に前線基地として利用された砦跡。

 周囲に森しかないため、全力で暴れるには最適な場所になっている。

 

 全員居ることが点呼で確認されると、2階級主任教師である

 セオラ先生が話し始める。

「本日は、事前に連絡していた通り

 クラス対抗戦を行います」

 

 その言葉に生徒達が、一気に騒ぎ出す。

 クラス対抗戦は、各階級で行われる戦いの1つだ。

 その名の通り、各クラスごとに分かれてクラス単位を部隊単位とする

 部隊戦となっている。

 普段の訓練とは違い、個々の技量よりも全体の団結力が

 勝敗を左右しやすい。

「盛り上がっているところ申し訳ありませんが

 そのままルールの説明をします。

 1度しか言いませんので、聞き逃しても知りませんわよ」

 

 その言葉で騒ぎは、若干落ち着く。

 おかげで何とか先生の言葉を聞くことが出来た。

「今回のルールは、次の通りです。

 1つ、生存数が10名以下になったチームは即敗退とします。

 1つ、勝利チームが確定した時点で試合終了です。

 1つ、今回の―――」

 ルールが1つ発表されるたびに歓声が起きる。

 このあたりは、さすがフォースというべきか。

「へえ、面白そうな授業ね」

 

 フィーネが珍しく乗り気だ。

 まあここ最近、実戦授業では

 対戦希望者に囲まれ続けていたので

 普段とは違う内容に興味が出たというべきだろうか。

「こんな勝負、フィーネ様を擁する我らの勝利は

 間違いないではないかっ!

 ふははははっ!!」

 

 どこからともなく聞こえてきたのは

 相変わらずのヴァイスの声。

 

 周りの取り巻き達と調子に乗って騒いでいる。

 

「ホント、どうしてあんなのが

 魔王の血族なのかしら」

 

 ため息をつくフィーネに思わず笑いが出る。

 

「生まれは、選べませんからね」

 

 亜梨沙もそれに同意するように笑う。

 

 一通りの説明が終わると、各クラスごとに固まって

 スタート位置に移動する。

「それでは、ルール限定・クラス対抗戦を開始いたします。

 皆さん、正々堂々戦って下さい。

 では、スタートッ!!」

 開始宣言と共に歓声があがる。

 

「さあ、我らの力を見せ付けてやるのだっ!!」

 

 ヴァイス達が勢い良く飛び出していく。

 それに続けとばかりに大半の生徒達が走り出す。

 

「・・・こんなに統率が取れてなくて、大丈夫かしら?」

 

 ふと思ったことを呟くも

 もう全てが遅かった。

 ―――そして二時間後

「前半戦、終了!!」

 前半戦終了の合図が森に響く。

 

 今回の戦いは前半、後半の2回を争う戦いだ。

 しかし後半戦は前半戦で、やられた奴の復活などはない。

 ただの休憩タイムである。

 

 私達のクラスは、森の中で見つけた洞窟に逃げ込んでいた。

 

「おや、キミ達も残っていたのかい?

 さすがだねぇ」

「ん? ああ、変態ですか」

 

「相変わらず厳しいねぇ」

 

 休憩中に声をかけてきたのは、ギル=グレフ。

 てっきり連中と一緒になって玉砕したのかと思っていたが

 どうやら彼は、冷静だったらしい。

 

「馬鹿みたいに無闇に突っ込むからよ。

 アレじゃ壊滅して当然じゃない」

 

「あら、我らが姫君も同じ意見ときたか。

 ・・・まあ、当然か」

 

 フィーネの冷静な意見にギルは、苦笑しながら答える。

 私達の状況は、実はかなり危ない状態だ。

 

 どこかの貴族様を中心としたクラスの大半が

 神族王女姉妹を擁するチームに突撃して

 あっさりと返り討ちに遭った。

 

 ヴァイスが自慢の炎竜を従えて突撃するも

 エレメンタルマスターの称号を持つエリナ=アスペリアの前に

 完膚なきまでに叩きのめされた。

 

 成す統べなく壊滅し、敗走するクラスメイト達。

 それらに容赦無く降り注ぐ、様々な属性の上級魔法。

 

 たった1人によって部隊が壊滅させられることは

 大戦争でもあった出来事らしいが

 彼女は、それを今やってみせたのだ。

 

 さすがは、二つ名を持つ

 神界期待の王女姉妹といった所か。

 

「もう勝つことは無理でしょう」

「まあ、こうなったら生存を優先することしか出来ないわ」

 彼女達の言うように勝つのは、もう事実上不可能だ。

 なにせ現在、うちのクラスでの生存者は15名。

 敗北条件の1つである10名以下ギリギリだ。

 

 残っているのは、私と亜梨沙・フィーネ。

 そして魔族と神族の女の子が3人づつとギル=グレフ。

 あとの5人は全員竜族の娘だ。

 

 他に残っているチームは

 かなり疲弊している状況ではあるが

 それに比べて、神族王女姉妹のチームは

 ほとんど無傷で残っている。

 

 前半戦の最後の方に

 壊滅しかかっていた2チームが合同で

 王女姉妹チームに挑んだみたいだが

 見事に玉砕したようだ。

 

 とてもではないが

 正面からぶつかることだけは

 避けなければならないだろう。

 

「・・・そこに居るのは、誰かしら?

 まだ休憩時間は、終わってないわよ」

 

 突然、入り口の方向を向いて声を上げたフィーネに

 全員の視線が、洞窟入り口に集まる。

 

 すると、ゆっくりと現れる人影。

 

「もちろん、知っています。

 しかし『移動や交渉も禁止』とは

 決まっていませんよ」

 

「そうなのです!」

 

「まぁ~気楽に考えましょ~」

 

「アナタ達は・・・」

 

 現れたのは、リピスの護衛である

 アイリス・カリン・リリィの3人だった。

 

 

 

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 

「それでは時間ですっ!

 後半戦を開始致しますわっ!!」

 後半戦開始が開始される。

 そして勢いよく飛び出していく生徒達。

 

「後半戦もこのままの勢いで行きますか~」

 

「もう、エリナちゃん。

 あまり調子に乗ったらダメですよ」

 

「大丈夫だって。

 私の魔法の前に、敵は無いっ!!ってね」

 

 前半戦、大活躍だったエリナは

 ご機嫌だった。

 

 好き放題魔法が使えるということもあったが

 あのリピス率いるチームでさえ

 エリナの圧倒的な魔法攻撃に攻めきれず

 多くの犠牲を出して敗走していったのだ。

 

 それを解っているだけに

 セリナですらあまり注意出来ずにいた。

 こういう時は、何を言っても無駄だと

 知っているからというのもある。

 

 周囲もエリナを持ち上げるせいで

 余計に調子に乗っているということもあるが・・・。

 

「あとは、竜姫にトドメを刺すだけだな」

 

「それと、漆黒の悪魔のチームが壊滅寸前だけど

 まだ残っているわ」

 

「いくら漆黒の悪魔と言えども、セリナ様やエリナ様には

 勝てっこないわよ」

 

 もはや勝利ムードの王女姉妹チーム。

 気楽に周囲を捜索しながら進軍する。

 

 そして―――

 

「竜姫のチームを発見しました!

 交戦を開始します!」

 

 セリナ達へと伝わるリピスのチーム発見の知らせ。

 

「よっしっ!

 エリナちゃんに、お任せっ!!」

 

「もう・・・仕方が無いんだから。

 私も一応動くから、間違って攻撃しちゃダメですからね」

 

「解ってるって~」

 

 本当に理解しているのかと確認したくなるほど

 軽い返事に不安を感じつつも

 念のために別働隊を作って後方からの奇襲を狙う

 セリナは、エリナに本陣を任せて出撃する。

 

「さて、みんなっ!

 前半戦と同じ要領でお願いねっ!!」

 

「はいっ!!」

 

 エリナの声に元気良く応えるクラスメイト達。

 

 前半戦は、左右の防御を固めて中央に相手を集め

 合図と共に、一気に中央から左右に人を移動させる。

 

 そして、味方が退避した瞬間に

 直線状に魔法を乱射。

 一気に相手を殲滅するという戦法だ。

 

「さってと。

 今度は、とっておきの魔法を使おうかなぁ」

 

 愉しそうにそう呟くと、翼を広げて魔力をチャージし始めるエリナ。

 

 同じ頃、リピスのチームは

 王女姉妹チームの正面から突撃していた。

 

「押すのですっ!

 我々が優勢なのですっ!!」

 

「皆さ~ん。

 頑張って相手を~押し込みましょうねぇ~」

 

 最前線で戦いながらも部隊指揮を行う

 カリンとリリィ。

 

「乱戦に持ち込めば、大きな魔法は

 使用出来なくなるだろう。

 そこが狙い目だっ!!」

 

 目前に迫っていた魔族生徒の一撃を回避し

 蹴りによるカウンターを入れながらも

 周囲を鼓舞し続けるアイリス。

 

 少しずつではあるが、前へと押し込み始めるリピスのチーム。

 

 そんな戦況を遠くから見ていた1つの部隊が

 ゆっくりと移動を開始する。

 

 その時だった。

 

 いきなり魔法が飛んできて

 何人もの生徒達が、避け損なって倒れていく。

 

「何事ですかっ!?」

 

 部隊を率いていたセリナが声をあげる。

 

「こんな所に少数で居たら、撃破して下さいって

 言ってるようなものじゃないかしら?」

 

 その言葉が聞こえた瞬間

 黒い魔力の塊が、セリナの部隊を襲う。

 

 純粋な魔力の塊は通常、威力が低いにも関わらず

 着弾した付近の相手を全て吹き飛ばし、戦闘不能にする。

 

 そして姿を現したのは、黒き八翼を広げた少女。

 

「し、漆黒の悪魔だとっ!?」

 

「な・・・なんでこんな所にっ!!」

 

 フィーネの姿を見ただけで

 動揺するセリナの部隊。

 

 四界に、たった2人しか居ない八翼を持つ相手であり

 その圧倒的な魔力は今、見せられたばかりだ。

 視覚で捉えられるほど明確化している黒い魔力の塊が

 より、彼らの恐怖を煽っている。

 

「彼女の相手は、私がします。

 皆さんは、今のうちに―――」

 

 自身がフィーネの足止めをしている間に

 奇襲部隊を移動させようとするセリナ。

 

「残念ですが、それは無理ですね」

 

「そうそう。

 だって俺達が居る訳だし」

 

 急に飛び出してきた亜梨沙とギルによって

 数人の生徒達が倒される。

 

「わ、私達だってっ!!」

 

 更に森の中から、次々と出てくる生徒達の攻撃によって

 セリナの部隊は、犠牲者が増え混乱していく。

 

「な・・・どうして」

 

「さあ?

 それは、自分で考えるべき話だわ。

 

 まあ、答えが理解出来ても

 もう遅いのだけれどねっ!!」

 

 驚くセリナに向かってフィーネが突っ込む。

 

 上段からの一撃に剣形態で何とか受け止めるセリナだが

 後ろに大きく吹き飛ばされる。

 

「気を抜いてると―――」

 

 フィーネが言葉を発した瞬間

 

 森の中から魔力矢が飛んでくる。

 それを全て叩き潰すフィーネ。

 

 すると今度は、草むらからセリナ自身が突撃してくる。

 手にしているのは、既に槍形態になった儀式兵装だ。

 

 間合いギリギリで急停止からの連続突き。

 しかしフィーネも同じく長物を扱うためか

 なかなか体勢を崩すことも出来ない。

 

 そうしている間にも

 味方が次々とやられていく。

 

 亜梨沙とギルだ。

 この2人が中心となって

 暴れているおかげで、並の生徒では

 歯が立たない。

 

「余所見だなんて、余裕そうじゃないっ!!」

 

 フィーネの横薙ぎを受け止めるも

 想定よりもはるかに重い一撃に、堪らず後ろに下がる。

 

 確かに余所見なんてしている暇は、無さそうだ。

 目の前の相手は、次期魔王最有力の王女。

 二つ名を持つ実力者だ。

 

 ・・・それにしても腑に落ちない点がある。

 

 それは、今この瞬間で

 こちらに仕掛けてきたタイミングだ。

 

 この位置で騒げば、リピス達のチームにも

 居場所がバレる可能性が高い。

 

 そうなれば、こちらだけでなく

 フィーネ達もついでとばかりに倒されるだろう。

 

 むしろ、リスクが高いのは

 彼女達の方である。

 

 そこまで考えて、ふとセオラ先生の言葉を思い出す。

 

「―――まさかっ!?」

 

「どうやら答えにたどり着いたようね」

 

「そんな・・・このタイミングでなんて」

 

「さっきも言ったと思うけど

 ・・・気づいた所で、もう遅いけどね」

 

 状況を整理した結果、答えにたどり着き

 自身が罠にかかってしまっていたことに気づいたセリナ。

 

 だが、それに気づけたとしても

 フィーネが言うように、もう遅かった。

 

 何故ならもう逃げ出せるような状態は

 とっくに過ぎているほどの乱戦。

 

 相手は、漆黒の悪魔と

 実力者として知られるギル。

 更に実力は不明だが、強いと解る人族の少女。

 

 仲間を見捨てれば逃げ切れないこともないが

 そんなことは、出来るはずもない。

 

 だったら―――

 

「せめてここで、アナタ方を全員倒しますっ!」

 

「へぇ、面白いこと言うじゃない。

 ・・・その勝負、受けて立つわっ!!」

 

 セリナとフィーネの儀式兵装が

 もの凄い魔力衝突を起こしながら、派手にぶつかる。

 

 

 一方リピスは、本陣で状況を眺めていた。

 

「今頃は、フィーネとセリナ王女が戦っているぐらいか。

 なら、こちらもそろそろといった所か」

 

 自身のクラスが良い感じに中央に集められていることに

 気づきながらも、あえて放置する。

 

「さあ、咲耶。

 キミの切り札を見せてもらおう」

 

 その表情は、まるで悪戯を思いついた子供のように

 愉しそうだった。

 

 

 そして数分経ち、戦況が膠着しそうになった時。

 

「合図だっ!!

 一斉に動いて、相手を中央に集めるんだっ!!」

 

 王女姉妹側からの合図で

 彼らは、一気に左右に分かれて中央に道を作る。

 

「さあ、エリナちゃんとっておきの魔法を

 プレゼントしてあげるわっ!!」

 

 王女姉妹側の本陣で、魔法陣が展開され

 膨大な魔力が集まる。

 

「エリナちゃんオリジナル!

 ファイア・トルネードッ!!」

 

 一直線に炎の竜巻が戦場の中央を駆け抜ける。

 こんなものに巻き込まれたら即アウトだと解るほどの

 強力な魔法だ。

 

 王女姉妹側は、左右に分かれて回避したが

 リピス側は、回避が間に合わない。

 

 だが、そんなリピス側の最前線に立つ一人の少女が居た。

 

 人界の王女 天保院 咲耶 だ。

 

 彼女は、儀式兵装の盾を正面に突き出し

 なんとエリナの広範囲魔法を受け止めようとしていた。

 

「さあ、頼んだわよ。

 ・・・私の儀式兵装」

 

 その姿に周囲の誰もが無謀だと思った。

 

 目の前の人族は、やられるだろうと。

 

「モード・ドレインッ!!」

 

 その叫び声と共に、咲耶にぶつかる炎の竜巻。

 

 激しい魔力の発光と共に誰もが視界を奪われる。

 そして激しい風に何とか吹き飛ばされないようにと

 必死に堪えるしかない。

 

 

 どれほどの時間が経っただろうか。

 激しい風も、発光も無くなり

 視界が戻ってくる。

 

 すると誰もが口をあけ

 驚きの表情のまま固まる。

 

 何故なら―――

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

 肩で息をしながらも

 立っている少女の姿。

 

 そう、エリナの魔法を

 咲耶が一人で防ぎきったのだ。

 

 誰もが信じられないという顔をしていた。

 

「ま、まだ・・・ここから、よ」

 

 つらそうな表情をしている咲耶だが

 王女姉妹の左側に別れた集団へと

 構えていた盾の向きを変える。

 

「モード・リバース」

 

 その呟きと共に咲耶の盾は

 上下に少しスライドして大きくなる。

 

 そして真ん中には青い色の宝石のようなものが出てくる。

 

 次の瞬間、物凄い魔力が一瞬で膨れ上がり

 咲耶の正面に魔法陣が出現する。

 

「これは、お返しするわ。

 ・・・リバースマジックッ!!」

 

 魔法陣から飛び出したのは

 先ほどの魔法。

 

 エリナのファイア・トルネード。

 

 その炎の竜巻は、王女姉妹チームの左側集団を飲み込んで

 全てを焼き尽くす。

 

 そして左側集団は、一瞬で壊滅する。

 

「・・・うそ・・・でしょ」

 

 その様子を見ていたエリナは

 信じられないといった顔をしていた。

 

 魔法を跳ね返す魔法も確かに存在する。

 だが、それは非常に高度であり

 そんなものを使えるのは、四界でも限られた者のみだ。

 

 当然、人族の姫が使えるなんて話は聞いたことがない。

 

 しかも今使った魔法は、上級魔法を超える威力を持った

 まさに自信作だった。

 

 そんなものまで跳ね返されるだなんて・・・。

 

「く、くそっ!

 体勢を立て直せっ!!」

 

 周囲の声にハッとするエリナ。

 

 前を見れば、リピス達のチームが

 もう目の前まで迫ってきていた。

 

 乱戦になってしまうと大きな魔法は

 味方を巻き込むため使用出来ない。

 

 しかもこちらは、予想外の攻撃に動揺して

 指揮系統がバラバラだ。

 

 それに比べて相手は―――

 

「さあ、一気に攻め込めっ!

 勝利は、目前だっ!!」

 

 リピスが直接指揮を執っている。

 先ほどのこともあり、生徒達の士気も最高潮だ。

 

 となれば結果は、一目瞭然と言える。

 10分もしないうちに決着がついた。

 

 試合終了の合図が森に響く。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

「・・・負けちゃいましたね」

 

「ぶぅ~」

 

 試合後、妹を探しにきてみれば

 思いっきり不機嫌だ。

 

 後半戦開始前までの機嫌は、どこへ行ったのだろうか。

 ・・・まあ解らなくもないけれど。

 

「アレ、何なのよ。

 思いっきり魔法返されたし・・・」

 

「そんなに気になるのなら

 直接聞いてみたらいいじゃないですか」

 

「・・・むぅ」

 

 正直、珍しいと思った。

 彼女は、興味があることに関しては

 周囲の迷惑など顧みず、突撃するタイプだからだ。

 

「な~んか、あの娘。

 気に入らないんだよねぇ。

 

 ・・・何がって言われると困るんだけど」

 

「エリナちゃんにしては、珍しいね」

 

 彼女は、誰とでも仲良く出来る性格だ。

 そんな彼女が明確な理由もなく嫌うなんて。

 

「そう、違和感っていうのかな。

 どうも『違う』って感じるんだよねぇ」

 

「そんなものなのかな?

 私は、そこまで感じないけど」

 

 そうは言ったものの

 自分もその感覚には、覚えがある。

 

 何とも言えない不安というべきか

 何かが足りないというべきなのか。

 

 そんなことを考えている王女姉妹とは別に

 咲耶達は、喜んでいた。

 

「危なかったけど、何とか勝てたわね」

 

「リピスが奇襲部隊の位置を

 正確に把握していたのも良かったです」

 

「この程度の戦いなど

 『本物』と比べれば遊びのようなものだ」

 

「ああ、勝てたのは良かったけど

 ホント疲れたわ」

 

 それぞれが上手く立ち回ったからこそ

 何とかなったと言える勝負。

 

 しかしそれゆえに、皆が学ぶべきことも多かった。

 

「しかし、咲耶の切り札は

 恐ろしいと感じるほど見事だったな」

 

 そう言ってリピスが盾をつけていた腕を見る。

 

「いつもあれぐらい上手くいってくれると

 いいのだけど」

 

「相変わらず姫様は、無茶ばっかりですからね」

 

「でも、それこそ咲耶って感じだわ」

 

 言いたい放題の仲間に囲まれながらも

 愉しそうに笑い合う。

 

 そんな中、ふと視線を感じて振り返る咲耶。

 

「・・・」

 

 一瞬だが、誰かの視線を感じた気がしたが

 どれだけ見ても森の中に誰か居るようには

 見えなかった。

 

「あら、どうかしら?」

 

「・・・何でもないわ」

 

 声をかけられ、皆のところへと歩いていく咲耶。

 

 彼女達が去っていった後。

 

 少し大きな木の陰から、人影が現れる。

 

「・・・まあまあって所でしょうか」

 

 風になびく紅い髪を手で整えながら

 口元に笑みを浮かべると、ゆっくり姿と消した。

 

 

 

 

 

3 少女の力 ―完―

 

 

 

 

 

 

 




まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。

予想外に投稿までに時間がかかってしまいました。
最近また、やることが多くて時間管理が難しいです。

最近、ようやくキャラ名を頭につける癖から
脱出できました。
つい癖で入れちゃってたので。

なるべくペースを守りながら
更新していければいいなと思っております。


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 4 異変

 

 学園内では、魔法学の授業が行われていた。

 

 魔法をどのように効率的に使用するのか。

 また属性の特徴と、その応用方法など

 実戦で役立つ使用法が説明されていく。

 

 皆が、それらを真剣に聞き入っている中

 咲耶だけは、どこか遠くを見つめたまま

 考え事をしていた。

 

「・・・」

 

 いくら考えても答えなど、初めから出る訳が無いことは

 自身が一番解っているはずなのに、考えずには居られない。

 

 ・・・それは、ある日突然起こった出来事だった。

 

 

 

 

 

 4 異変

 

 

 

 

 

 その日は、珍しく朝早くに目が覚めた。

 

 大きな欠伸をしてから周囲を見渡す。

 いつも通り、自分と亜梨沙の部屋だ。

 

 だが・・・

 

「あれ?」

 

 亜梨沙のベットは、空だった。

 

 亜梨沙も早くに起きて、風呂にでも行ったのだろうか?

 そんなことを考えながら

 自分も用意をして、少し早いが風呂へと向かう。

 

「・・・う~ん」

 

 少し早いためか、脱衣所には誰も居なかった。

 

 珍しいなと思いながらも服を脱いでいる時だった。

 

 何かが落ちる音がして、音のした方を向く。

 するとそこには、女子学生服が落ちていた。

 

「・・・忘れ物、な訳ないか」

 

 たぶん、浴場に誰か居るのだろう。

 

 そう思って落ちた制服を正面の棚に入れると

 支度をして大浴場に向かう。

 

「あれ・・・誰も居ない」

 

 この広い大浴場を独り占め出来ることは

 良いことではあるが、しばらく待ってみても

 誰も来る様子がない。

 

 風呂からあがると部屋へと戻る。

 そろそろ良い時間になってくるのに

 誰ともすれ違わない。

 

 部屋に帰るが、やはり亜梨沙の姿がない。

 制服に着替えて、少し待ってみるが

 やはり亜梨沙が帰ってくる気配がない。

 

 私は、食堂に移動してみる。

 

「・・・」

 

 いつもなら食堂は、朝食を食べる生徒達でいっぱいのはずだ。

 しかし人の姿は、まったく無い。

 

 だがテーブルには、数々の朝食たちが並んでいる。

 

 どういうことだろう。

 悩んでもまったく状況が解らない。

 厨房にも誰も居ない。

 

 いや、むしろ―――

 

「・・・人の気配が、無い」

 

 女子寮全体から、物音一つしない。

 試しに管理人室へと行ってみるが、やはり王妃様は居なかった。

 

 嫌な予感がして、学園へと向かってみる。

 

 森の散歩道を抜け、街まで移動すると

 嫌な予感が当たっていたことが解る。

 

 街全体から、人の気配が消えていた。

 

 広場・商店・大通りや路地にも

 人がまったく居ない。

 

 焼きたてのパンの匂いや

 乱雑に並べられた雑貨など

 開店している店もあるが、店内を調べてみても

 誰も居る様子がない。

 

 自分の足音だけが響く中

 周囲を警戒しながら街中を進む。

 

 空を見上げても、鳥はおらず

 公園に住み着いている猫も居ない。

 

 ふと公園を通り過ぎた頃だった。

 

 横の大きめの路地から、小さな球が転がってくる。

 何処にでもある子供が投げて遊ぶ玩具だ。

 

 しかし路地を見ても誰も居ない。

 

「・・・風で転がってきた?」

 

 人の気配が無い以上、それぐらいしか考えられないだろう。

 拾った球を目立つ場所に置くと、大通りに戻る。

 

 そして静寂の中を歩き続け、ようやく学園にたどり着く。

 

 中へと入るが、やはり誰も居ない。

 

 自分の教室に入ってみると

 そこは、まるで授業中のような感じになっていた。

 

 広げられた教科書。

 

 黒板には『魔法学 魔法の応用と実戦での使用例』と題された

 数々の魔法応用例が書かれている。

 

 授業中に何かあって、そのまま全員出て行ったというような

 状態に見える教室内。

 

 職員室や学園長室なども見て回ったが誰も居る様子がない。

 ただ、ついさっきまで人が居たような雰囲気を残しているだけ。

 

「・・・一体、どうなってるの?」

 

 思わず呟いた声が、廊下に響き渡る。

 だが、返事が返ってくることはない。

 

 学園内で、人を探すことを諦めかけた瞬間だった。

 

 ふと、後ろに人の気配を感じる。

 私は、ゆっくりと振り返る。

 

 すると、廊下の曲がり角に居た人影が姿を隠す。

 

 ようやく見つけた状況への手がかりだ。

 急いでその曲がり角へと走る。

 

 曲がり角を曲がると

 丁度、目の前の階段を下へと降りる人影が一瞬だけ見えた。

 

 私は、急いで階段を下りる。

 

 階段を下りると正面玄関から外へと出る

 相手の後姿が見えた。

 

 学園の制服を来た女の子。

 腰まである紅い髪をなびかせながら走っていく。

 

「ねぇ! 待ってっ!」

 

 大声で呼びかけながら後を追う。

 しかし彼女は、決して振り返ることなく

 逃げるように走っていく。

 

 私は、彼女を追いかけて走る。

 そしてようやく彼女は、1つの建物の中へと入っていく。

 

 『学園闘技場』

 実戦訓練や闘技大会などに使用されるだけでなく

 地下に広がる迷宮など、様々な施設が集まっており

 学園内でも何度も足を運ぶことになる場所。

 

 咲耶が、闘技場に入ると

 紅髪の少女は、後ろを向いたまま

 闘技場の中央に立っていた。

 

「・・・鬼ごっこは、終わりってことかしら?」

 

 警戒しながらも声をかける。

 

「・・・」

 

 聞こえているはずなのに、何も返事をしない少女。

 

 ゆっくりと少女に向かって歩き出す。

 そして、闘技場の中央付近に差し掛かった時だった。

 

 とても重い金属音と共に何かが地面に突き刺さる音。

 

 少女の隣には、いつの間にか

 彼女と同じぐらいの巨大な大斧が地面に突き刺さっていた。

 

 その光景に、思わず足を止める。

 

 すると、紅髪の少女がゆっくりと振り返ってくる。

 

「―――!」

 

 思わず私は、息を呑んだ。

 

 少女の顔には、仮面が付けられていた。

 顔を覆う仮面は、真っ白な下地に赤色で目と口だけが描かれており

 線1本で笑顔を表現していた。

 

 悪趣味にもほどがある。

 

 仮面の少女は、隣に刺さっていた大斧を

 まるで薪を1本拾うような気軽さで

 ひょいっと持ち上げる。

 

 私は、儀式兵装の盾を出して紅を構える。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 しばらくの睨み合い。

 まだ正確に敵と決まった訳ではなかったので

 仕掛けようか悩んでいた時だった。

 

 突然、大きく跳躍する仮面の少女。

 

 そしてこちら目掛けて落下しながら大斧を振り下ろしてくる。

 とても防げるような一撃ではないため

 真横に跳んで回避する。

 

 地面に突き刺さった一撃は、激しい音と共に地面を抉り

 小さな穴が出来ていた。

 

 仮面の少女は、何事も無かったかのように

 大斧を構え直す。

 

「(攻めさせる訳にはいかない)」

 

 咄嗟にそう判断して、自分から仕掛けていく。

 

 紅に更に強化魔法をかけ、仮面の少女に向けて切り込む。

 

 だが私の一撃は、相手の大斧によって簡単に弾かれる。

 

「―――くっ!」

 

 武器ごと弾かれそうになるが、何とか耐える。

 そこへ、狙い澄ましたかのような大斧による一撃が迫ってくる。

 

 大きく体勢が崩された状態なため

 直撃だけは防ごうと、盾で受け止める。

 

 直撃だけは回避するが、やはり大きく吹き飛ばされる咲耶。

 

「・・・いった~ぃ」

 

 背中を強く打ったためか、なかなか起き上がることが出来ない咲耶。

 盾で受け止めた腕は、衝撃まで吸収しきれず腕が痺れて何も感じない。

 

 圧倒的なまでの力の差だ。

 まるで竜族を正面から相手しているような感じだろうか。

 

 何とか上半身を起こした咲耶だったが

 そこで動きが止まる。

 

 既に目の前には、仮面の少女。

 

 仮面のせいで表情を見ることは出来ないが

 既に大斧を上段に構えている。

 

 先ほどの力の差と、今の状況。

 そのどちらもが、回避不能の『死』を予感させる。

 

 そして仮面の少女は、その特徴的な紅髪をなびかせながら

 大斧を振り下ろした。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 私は、飛び起きる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

 周囲を見渡すと、そこはいつもの自分と亜梨沙の部屋だ。

 

「・・・今のは」

 

 それが、きっと夢だったと思うのに

 しばらく時間が必要だった。

 

「・・・姫様?」

 

 反対側で寝ていた亜梨沙がベットから起き上がる。

 

「・・・ああ、おはよう亜梨沙」

 

「・・・どうされました?

 すごい汗ですよ?」

 

 亜梨沙に指摘され、ようやく自分が

 大量の汗をかいていることに気づく。

 

「・・・ちょっとね」

 

「・・・とりあえず、まずはお風呂に行きましょうか」

 

「そうね。

 それがいいわ」

 

 亜梨沙に促される形で、風呂場に行くことになった。

 

 脱衣所には、少し時間が早いこともあったが

 それでも数人の生徒の姿があった。

 

 人の気配を感じ、安心しながら服を脱いでいる時だった。

 

 何かが落ちる音が聞こえ、ハッとして音のした方を向く。

 するとそこには、女子学生服が落ちていた。

 

「ちょっと、私の制服落とさないでよ」

 

「あはは、ごめん」

 

 そこには、仲が良さそうな魔族が2人居た。

 

 ただ気になったのは、その制服だ。

 夢で見た通りの場所に、夢で見た通りの状態で

 落ちていたのだ。

 

「(・・・ただの偶然よね)」

 

 そう自分に言い聞かせ、大浴場へと向かう。

 

 それから身体を洗って、汗を流し

 風呂からあがると部屋へと戻る。

 

 部屋に帰ると制服に着替える。

 身だしなみを整えると

 私達は、食堂へと向かう。

 

 いつも通りの食堂は、朝食を食べる生徒達でいっぱいだ。

 既にほとんどのテーブルには、生徒が座っている。

 

「―――えっ」

 

 咲耶は、テーブルを見て驚く。

 

 生徒達が食べている朝食は、夢で見た通りのものだった。

 しかも並んでいる順番まで。

 

「・・・姫様?

 どうかしました?」

 

「・・・い、いえ。

 何でもないわ」

 

 偶然だと自身に言い聞かせながら

 朝食を済ませ、フィーネと合流して学園へと向かう。

 

 森の散歩道を抜け、街まで移動すると

 咲耶は、言葉に出来ない不安を感じた。

 

 焼きたてのパンの匂いや

 乱雑に並べられた雑貨など

 夢で見た通りの光景が広がっていた。

 

 ただ夢と違うのは、人が大勢居ることだけ。

 

 空を見上げれば、鳥が何事もなく飛んでいる。

 公園の近くを通れば、住み着いている猫達が

 集まって何やら騒いでいる。

 

 そして、ふと公園を通り過ぎた頃だった。

 

 横の大きめの路地から、小さな球が転がってくる。

 何処にでもある子供が投げて遊ぶ玩具だ。

 

 咲耶は、驚いて路地を見る。

 

 するとそこには、小さな魔族の少年が数人居た。

 

「はい、あまり周りに迷惑かけちゃダメよ」

 

「は~い!」

 

 玩具を拾ったフィーネが、子供達に玩具を返す。

 そのやり取りを黙って見ている咲耶。

 

「姫様?

 本当に大丈夫ですか?」

 

「え、ええ。

 大丈夫・・・大丈夫だから」

 

 それは、心配している亜梨沙にではなく

 自身に言い聞かせるかのような言葉だった。

 

 そして学園に着くと、いつもの席へ座る。

 

 いつも通りの日常。

 今日の授業は、実戦ではなく座学だ。

 

 魔族の教師が教壇に立ち、黒板に文字を書いていく。

 

 『魔法学 魔法の応用と実戦での使用例』

 

 それが、本日の授業内容だった。

 それを見た瞬間、思わずため息が出た。

 

「・・・ホント、一体何なのよ」

 

 とても授業を受ける気にもなれず

 窓の外から、空を見上げる。

 

 外をぼんやり眺めていると

 授業が終了する合図が鳴る。

 

 ようやく終わったかと思い、視線を教室に戻そうとした瞬間。

 

 中庭に見えたのは

 学園の制服を来た女の子。

 腰まである紅い髪をなびかせながら歩いていた。

 

「―――あの子っ!!」

 

 思わず教室を飛び出す咲耶。

 

「姫様っ!」

 

「どうしたの咲耶っ!」

 

 後ろから2人の声が聞こえるも

 それどころではなかった。

 

 急いで中庭に出て周囲を見渡す。

 すると見覚えのある紅髪の少女の後姿を見つけ

 走って追いかける。

 

 すると紅髪の少女は、ある場所の中へと入っていった。

 

「・・・やっぱりここ、なのね」

 

 そこは『学園闘技場』。

 

 咲耶は、ゆっくりと中に入る。

 建物の中を進み、闘技場の中央である

 戦闘エリアへ入ろうとした瞬間だった。

 

「はい、ちょっとストップッ♪」

 

 気が抜けるような軽い口調で、後ろから声が聞こえた。

 

 咲耶が振り向くと、驚きの表情で固まる。

 

「金色の・・・髪・・・」

 

「ええ、金色の髪よ。

 そんなに珍しいかな?」

 

 金色の髪は、竜族王家である金竜という種族だけしか

 その髪色にはならないと言われている。

 

 目の前に現れた少女は

 その金色の髪をしていた。

 

 美少女と言っても差し支えない容姿。

 

 おまけのようについている大きな耳と尻尾は

 完全に竜族のそれである。

 

「アナタ・・・金竜、なの?」

 

「ええ、そう。

 でも今は、そんなことど~でもいいわ」

 

 平然と衝撃の事実を話す少女。

 

「いや、意外と重要なことなんじゃないかな・・・それって」

 

「もう、だから今はそれどころじゃなのよ」

 

 そう言って咲耶の後ろを指差す金竜の少女。

 

 咲耶が振り返ると、そこには

 何故か自分が紅髪の少女と戦う姿が。

 

 しかも夢の通りの内容で、あっさりと追い詰められている。

 少しだけ違う点があるとすれば

 それは、紅髪の少女が

 あの不気味な仮面をつけていないという点だけ。

 仮面の下の素顔は、とても可愛い顔をしていた。

 

 そして大斧が自分に向かって振り下ろされる瞬間。

 大きな金属音と共に大斧が弾かれる。

 

 そこには、フィーネと亜梨沙の姿があった。

 

「・・・これが、アナタがこれから向かう選択肢の1つよ」

 

「・・・何なのこれ」

 

「詳しく話しをしてる時間もないの。

 そして今度は、こっち」

 

 そういうと今度は、咲耶が入ってきた闘技場の入り口を指差す。

 

「なによ・・・これ」

 

 咲耶が入り口を見ると、入り口は

 黒い霧に包まれていた。

 

「これが、もう1つの選択肢。

 残念だけど、どうなるか解らないから先も見えないけどね」

 

「先? 選択肢?

 一体何なのよっ!?」

 

 朝から感じ続けた言いようが無い不安が

 ここにきて爆発し、思わず叫ぶ咲耶。

 

「もう、そんなに叫ばなくても聞こえてるわよ」

 

「ちゃんと説明してっ!」

 

「だから言ったでしょ。

 説明してる時間なんて無いって。

 残念だけど、もう時間・・・かな」

 

「時間って・・・。

 ちょ、これ何よっ!?」

 

 気づけば、周囲から真っ黒い闇が迫ってきていた。

 

「あとは、アナタ次第。

 どちらを選んでも、きっと誰もアナタを恨んだりしないわ。

 だってアナタは、和也を助けてくれたんだから」

 

「か、ず・・・や?」

 

 頭が割れるように痛みだし

 咲耶は、思わずしゃがみ込む。

 

「そう、和也。

 私の王子様よ」

 

 周囲の闇に飲み込まれる瞬間、咲耶が見たのは

 笑顔を浮かべた金色の髪の少女。

 

 そして咲耶の意識は、遠のいていった。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 咲耶は、ハッとして周囲を伺う。

 教室内は、授業中であり

 静寂の中、魔族教師の声と黒板に文字を書く音だけが

 聞こえていた。

 

 『魔法学 魔法の応用と実戦での使用例』

 

 黒板に書かれている文字を見て

 咲耶は、思わずため息を付く。

 

「・・・また、夢なの?」

 

 とても授業を受ける気にもなれず

 窓の外から、空を見上げる。

 

 でも不思議なことがある。

 夢だというのなら、あの竜族の少女は

 一体何なのだろうか?

 

 もちろん会ったことなどない。

 そもそも金竜は、リピス1人だけなのだ。

 

 であるなら、彼女は何なのか?

 

 外をぼんやり眺めながら考えていると

 授業が終了する合図が鳴る。

 

 ようやく終わったかと思い、視線を教室に戻そうとした瞬間。

 

 中庭に見えたのは

 学園の制服を来た女の子。

 腰まである紅い髪をなびかせながら歩いていた。

 

「―――ッ!?」

 

 思わず教室を飛び出す咲耶。

 

「姫様っ!」

 

「どうしたの咲耶っ!」

 

 後ろから2人の声が聞こえるも

 それどころではなかった。

 

 急いで中庭に出て周囲を見渡す。

 すると見覚えのある紅髪の少女の後姿を見つけ

 走って追いかける。

 

 すると紅髪の少女は、ある場所の中へと入っていった。

 

「・・・やっぱりここ、なのね」

 

 そこは『学園闘技場』。

 

 咲耶は、ゆっくりと中に入る。

 建物の中を進み、闘技場の中央である

 戦闘エリアへ入ろうとした瞬間だった。

 

 ふと足が止まる。

 

 頭に過ぎるのは、先ほど夢で出てきた金色の髪をした

 竜族の少女の言葉。

 

『これが、アナタがこれから向かう選択肢の1つよ』

 

 その言葉が、前へ進もうとしていた足を止めた。

 そして恐る恐る、後ろを振り返る。

 

 するとそこには、先ほど入ってきた闘技場の入り口。

 さすがに黒い霧は、かかっていないが

 それでも不思議と不気味な感じに見えてくる。

 

『これが、もう1つの選択肢。

 残念だけど、どうなるか解らないから先も見えないけどね』

 

 あの夢で見た少女の言葉が蘇ってくる。

 

『あとは、アナタ次第。

 どちらを選んでも、きっと誰もアナタを恨んだりしないわ。

 だってアナタは、和也を助けてくれたんだから』

 

 まるで人生の選択肢が見えていて

 それを選べと言われているように感じて

 思わず苦笑する。

 

 そんな馬鹿げたこと、ある訳ないのにと。

 

『そう、和也。

 私の王子様よ』

 

 でも、あの眩しいまでの笑顔が

 私の気持ちを鈍らせる。

 

「・・・うん、決めた」

 

 少し悩みもしたが、私は

 選んだ方向へと歩き出す。

 

 そして闘技場の『入り口』に向かった。

 

 我ながら馬鹿らしいと思いながらも

 入り口から外に出る。

 

「―――えっ」

 

 確かに闘技場の外へと出たはずだった。

 

 だが目の前には、白い世界が一面に広がっている。

 

 何も無い、ただ白いだけの世界。

 

「・・・また、夢でも見てるのかしら」

 

「ホント、夢であって欲しいわね」

 

 突然、後ろから声をかけられ

 咄嗟に振り返る咲耶。

 

 するとそこには、1人の少女が立っていた。

 

「ホント、勘弁して欲しいわ。

 私を具現化して起こすだけには飽き足らず

 壁を壊そうだなんて」

 

「・・・えっと、アナタ・・・誰?」

 

「別に誰でもいいわよ。

 どうせまた忘れるんだから」

 

「どういうこと?

 それに、この白い場所は何なの?」

 

「はいはい。

 もう面倒だわ、アナタ。

 

 私は、和也がどうしてもって言うから

 アナタの世界だけを隔離したの。

 

 万が一、和也が負けて世界がアイツのものになっても

 そっちの世界だけには干渉出来ないようにって。

 

 なのに何?

 

 世界を勝手に壊す。

 人を無理やり起こす。

 和也の気持ちを無視する。

 

 こっちが文句を言いたいわよ」

 

 少女の剣幕に押されて、思わずたじろぐ咲耶。

 

「いい?

 警告は、したからね」

 

 そういうと少女は、咲耶の肩をポンと押す。

 すると見えない何かに引っ張られるように

 後ろに吸い込まれていく咲耶。

 

「ちょ、ちょっと待ってっ!」

 

「アナタが和也のことを想うのなら

 和也がアナタだけでもって世界を切り離した意味。

 

 ・・・理解出来るでしょ」

 

「和也・・・そう、和也。

 和也って誰なのっ!?」

 

「だから言ってるでしょ。

 どうせアナタは忘れるの。

 

 これ以上、迷惑をかけないで」

 

「ちゃんと・・・教えてよっ!!」

 

 白い地面に紅を突き立て、踏ん張り続ける咲耶。

 

「なんて強情な娘なの。

 泣いていた頃が懐かしいわね」

 

「・・・くっ!!」

 

 踏ん張り続ける手も、そろそろ握力が限界になってくる。

 それでも今、手を離してはいけないと

 自分の心が叫んでいるように感じて、咲耶は手を離さない。

 

「・・・はぁ」

 

 咲耶の態度を見て、ため息を付く少女。

 

「・・・わかったわ。

 なら、賭けをしましょう」

 

「・・・賭け?」

 

「これからアナタを一度、世界ごとリセットする。

 その時、もしもアナタが

 『もう一度、この場所までたどり着けた場合』

 ちゃんと説明もしてあげるし、何なら手伝ってあげてもいい。

 

 ただし、アナタの世界での分岐点である日時を

 過ぎてしまった場合は、この世界への扉は

 完全に閉じさせてもらうわ。

 

 たとえ壊れたままの世界であろうと

 アナタは、そこを永遠に彷徨うことになる。

 私は、そんなの知ったことじゃない。

 

 ・・・これで、どうかしら?」

 

「・・・いいわ。

 その賭け、受けて立ってあげるっ!!」

 

 挑発的な笑みを浮かべる少女に

 思わず返事をしてしまったが、後悔はしていない。

 

「そう、じゃあ行きなさい。

 ・・・精々、無駄な努力でもすることね」

 

「・・・見てなさい。

 必ず、帰ってきてやるんだからっ!!」

 

 その言葉と共に咲耶は、紅の刀身を消す。

 すると咲耶は、そのまま何も無い空間に飲み込まれる。

 

「・・・ホント、強情な娘ね」

 

 思わずため息をつく少女。

 

 助けてやった時は、泣いてばかりだったのに。

 

「でも、私を具現させるだけの力があったことの方が驚いたわ」

 

 そんなに簡単なことではないはずなのにと

 少女は、首をかしげる。

 

「・・・でもまあ、いいわ。

 彼女が、どういう道を進むことになっても

 それは、彼女自身が選んだことだもの」

 

 少女は、後ろを振り返る。

 そこには、先ほどまで無かったはずの大きな門。

 

「・・・ね、和也」

 

 少女の呟きは、誰に聞こえるでもなく

 ただ呟いた少女自身の耳だけに届くのだった。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 私は、とても深い闇の中に居た。

 

 もがいても、沈んでいくことに変わりはない。

 ここに居てはいけないと、本能が叫ぶが

 どうすることも出来ない。

 

 そしてそのうち、考えることが出来なくなり

 自分が何者なのか、わからなくなっている。

 

 それでも沈んでいく。

 

 もう何もかもが溶け合うような感覚の後

 突然膨大な記憶の波に飲み込まれる。

 

 そして、その記憶が

 ようやく自分が何者であるかを思い出させてくれる。

 

 思い出すのは、昔の記憶。

 

 そう、それは『儀式の日』と

 呼ばれることになる・・・そんな日の記憶。

 

「人族は必要のない存在・・・いらない」

 

 氷のように冷たい瞳。

 感情を全く出さない表情。

 そして吐き捨てるように呟いた言葉。

 全てが敵意に満ちていた。

 

 あの時のフィーネは、本当に無表情だった。

 

 最初は、敵として出会った。

 

 でも最後には、仲間として別れた魔族の少女。

 

 そして同じくあの日。

 私は、皆を護るための力である

 『儀式兵装』を手に入れた。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 私は、ゆっくりと目をあけた。

 

「・・・」

 

 夢だと理解するのに少し時間がかかった。

 

「・・・」

 

 懐かしい夢だった。

 あの日からまた、色々なことがあった。

 

 でも私は、その全てを受け入れながら前へと

 進まなければならない。

 

 ・・・生き残った者として。

 

「・・・やっと起きましたか? 姫様」

 

「・・・」

 

 声をかけられ、声がした方向へと顔を向けると

 そこには下着姿の可愛い女の子が立っていた。

 

「・・・ああ、おはよう亜梨沙」

 

「ええ、おはよう御座います。

 

 朝の挨拶も良いですが、早く起きないと

 食事をしている時間が無くなりますよ?」

 

 その指摘に、慌てて時計を確認する。

 

 本当にあまり余裕が無い時間だ。

 

「でも、とりあえず汗を流さないと・・・」

 

 大急ぎで準備をして私は、風呂場へと向かった。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 今日は、陽射しが少し強いぐらいの快晴。

 

「さあ、姫様。

 そろそろ行きますよ」

 

「ええ、行きましょうか」

 

 2人は、今日も変わらない通学路を並んで歩いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 4 異変 ―完―

 

 

 

 

 




まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。

そろそろ物語も最終に向かってまいりました。
感の良い人なら、展開がそろそろ読めたって人も居るかもですが
わからない振りをして読んでやって頂けると助かります。


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 5 覚醒 ―前編―

 いつの頃だっただろうか。

 

 私は、夢を見るようになった。

 

 それは、まるで演劇を見ているような感覚。

 私は、観客席から見ている観客。

 

 目の前で行われる演目は、王道と言えば王道的な物語。

 

 魔法が使えない少年が、それでも努力し続けて

 そして戦士となっていく。

 

 いつしか少年を認めた仲間達が集まり

 やがて少年は、世界を覆う暗雲を切り払う。

 

 まるで、おとぎ話のような物語だが

 決して嫌だとは、思わない。

 

 ふと、舞台に立つ少年が

 こちらを向く。

 

 そして彼は、私に手を差し伸べる。

 

 「・・・」

 

 目が覚めると、いつもの部屋の天井が見える。

 

 「・・・また、か」

 

 思わずため息が出る。

 

 ここ数日、同じ夢ばかりを見る。

 

 だが―――

 

 「全然、覚えがない話なんだけどね」

 

 こんな内容の本など、読んだことがない。

 いや、それどころか・・・

 

 「どうして、こんな夢を見るのかしら」

 

 隣を見ると亜梨沙は、まだ眠っていた。

 

 まだ朝日も昇っていない休日。

 

 何だか目が覚めてしまったので

 朝の支度を済ませて、少し散歩に出かける。

 

 寮の階段に差し掛かった時だった。

 

 「―――」

 

 目の前に、まるで夢のような感じの幻影が見える。

 

 人族らしい少年と、その周囲に集まる笑顔の少女達。

 

 少年は知らないが、少女達は知っている。

 

 亜梨沙にフィーネ、リピスだけでなく、神族王女姉妹達もだ。

 彼女らは、笑いながら玄関から歩いてゆく。

 

 自然と私は、彼らの後を追うように歩き出す。

 

 

 

 

 

 5 覚醒 ―前編―

 

 

 

 

 

 まだ辺りは、外灯が付いている。

 そんな早朝にも関わらず、私は歩いていた。

 

 幻影の彼女達は、私が見たことも無いほど

 とても良い笑顔をしていた。

 

 ある程度、先に進んだ所で

 ふっと幻影が消える。

 

 ・・・だが。

 

 「・・・」

 

 私は、スグに歩き出す。

 何故だか知らないが、次に向かうべき場所が

 何となく解ってしまう。

 

 まだ街は、人気の無い寝静まった状態だ。

 その中を、私は進んでいく。

 

 街中では、様々なものが見えた。

 

 いつものクレープ屋で、仲良くクレープを食べる亜梨沙達。

 

 街の広場では、前に助けた神族の子が

 何故か、私達ではなく夢で見た少年に助けられていた。

 

 ふと正面から、神族王女姉妹に連れられて歩く少年が

 横を通り過ぎてゆく。

 

 そして私は、学校に到着する。

 何故か開いている門を通って中へと入る。

 

 目の前に広がるのは、まさに学園の日常だった。

 

 いつもの昼休みの光景。

 それぞれの生徒達が楽しそうに会話をしながら歩いている。

 

 だが、1つだけ信じられない光景を見た。

 

 中庭に集まる集団。

 夢で見た少年が中心となり、先ほどのメンバーに

 メリィさんとリピス護衛の竜族トリオであるアイリス達。

 

 更に、何処かで見覚えがある紅い髪をした少女。

 ギル=グレフや、他にも魔族や神族が数人混ざっている。

 

 それらが、いがみ合うことなく

 仲が良さそうに食事をしていた。

 

 「―――」

 

 気づけば自然と涙が出ていた。

 

 私は、こういう光景が見たかったからだ。

 誰もが手を取り合える世界。

 

 そんな世界になれば、きっと皆が笑顔になれると。

 

 「・・・そんな世界なんて来る訳ないじゃない」

 

 気づけば、幻影達は消え去り

 目の前には、一人の少女が居た。

 

 「皆、自分のことで必死。

  他人のことなんて気遣う余裕なんて無い。

 

  結局、最後は他人を見捨ててでも自身の幸福を願う」

 

 「そんなことはないわ。

 

  確かにそういう人も居るかもしれない。

  でも、そんな人ばかりじゃない」

 

 「じゃあ儀式の日は、どうして起こったの?

  学園で、どうしてあなた達は

  他の種族から避けられているの?

 

  何故、未だに戦争の火種が消えないのかしら?」

 

 「・・・それは」

 

 「所詮夢は、夢なのよ」

 

 確かに、少女の言葉は正しいかもしれない。

 未だ世界から憎しみが消えることはない。

 

 ・・・でも。

 ・・・だけど。

 

 「そうじゃないかもしれない」

 

 「・・・何を」

 

 「私は、フィーネと解り合えた。

  リピスとも友達になった。

 

  ・・・きっと神族王女姉妹とだって仲良くなってみせる」

 

 「・・・たとえそうなったとしても

  世界は、そう簡単には出来ていない。

 

  結局世界に影響を与えられずに、ただ無駄な努力をして終わるのよ」

 

 「それは、まだ決まった話じゃないわ」

 

 「いいえ、そうなるのよ」

 

 「違うわっ!

  未来なんて誰にもわからない。

 

  可能性は、どこかに必ずあるっ!

  たとえ無くても、作ってみせるっ!」

 

 咲耶の言葉に、思わずたじろぐ少女。

 

 「ちょっかいを出した癖に

  こんな娘に返り討ちにされちゃって

  まあ、情けないわね」

 

 突然、後ろから声が響く。

 振り向くと、そこには目の前の少女と同じ姿の少女が居た。

 

 「それで、もう用件は終わり?

 

  私、さっきから順番待ちしてるのよ。

  そろそろ終わってくれないかしら?」

 

 「お、お前は・・・」

 

 「それに、勝手に私の姿を使わないでくれる?

  ・・・ああ、もう最悪。

 

  そんなの私じゃないわ」

 

 蔑むような視線の先には―――

 

 「コ・・・コレハ、ドウイウコトダッ!」

 

 いつの間にか、はじめに現れた少女は

 醜い化け物の姿になっていた。

 

 「・・・」

 

 その姿を見て咲耶は、驚きの表情を浮かべる。

 

 化け物の身体から煙が出始めると

 やがて崩れてゆく。

 

 「ナゼだ・・・どうシテこんな・・・。

  たカガ、ニンゲンゴトキニ・・・」

 

 「それが理解出来ないからアナタは、この娘に負けたのよ」

 

 「ま・・・あ、イイ。

  ソレデモ、ソノホカニ、エイキョウナド・・・ナイ。

 

  せい、ゼイ・・・ムダナアガキデモ、スル・・・ン、ダナ」

 

 化け物は、最後まで

 笑い声をあげ続けて、そして消滅した。

 

 「・・・さてと」

 

 その言葉と共に、こちらを向く少女。

 咲耶は、少女を見つめ返す。

 

 「変な邪魔が入ったから、ちょっとだけ

  助けてあげようと思ったのだけれど・・・。

 

  ・・・どうやら、必要なかったみたいね」

 

 「あ、あなたは?」

 

 「そんなことを聞いてどうするの?」

 

 「え?」

 

 「私が何者なのか知らなければ

  会話もしないのかしら?」

 

 「そう言う訳じゃないけど・・・」

 

 「なら、下らない質問はしないことね」

 

 「・・・」

 

 上から目線の態度に腹が立つも

 我慢して言葉を飲み込む。

 

 「でもまあ、これで理解したわ。

 

  アナタが和也と同じく

 『私に選ばれる可能性がある存在』だってことに」

 

 「・・・選ばれる存在?」

 

 「たぶん、元からそうだった訳じゃないのでしょうね。

  恐らくは、和也と同じような道を歩いた結果として

  そういう意思の強さや、力を手にしたって所かしら?」

 

 「・・・えっと」

 

 勝手に一人で話を進めて納得している少女。

 正直、何の話をしているのか解らない。

 

 「でも、これでもしかしたら

  ・・・可能性が広げられるかもしれない」

 

 そう言うと、少女が再び咲耶を見る。

 

 「アイツを一人で撃退しただけでなく

  私に少しとはいえ、力を補充したアナタに

  少しだけ手を貸してあげるわ」

 

 「・・・手を貸す?」

 

 「そう。 お手伝い。

  もうこの世界は、色々と手遅れだからね。

  それぐらいしなきゃ、もう無理だわ。

 

  さっきアイツが利用していた『記憶の残滓』を

  ついでだから使わせてもらいましょうか」

 

 少女の手のひらから、小さな光の球が現れると

 強い光を放って消える。

 

 すると目の前には、先ほどの幻影が現れていた。

 

 「アナタには、サポート役をつけてあげる。

  彼女なら適任でしょう。

  何せ、私やアイツすら知らない間に

  勝手に干渉しちゃうほど、行動力があるみたいだからね。

 

  ・・・さて、そろそろ時間も無いから最後にひとつ。

 

  これだけは、覚えておきなさい。

  『アナタの選択は、この世界を巻き込む』ということを」

 

 そう言うと、少女は消えるように姿を消した。

 

 何が何だか理解出来ずに呆然とする咲耶。

 

 すると、目の前にあった幻影が消えて

 1つのカギが現れる。

 

 ゆっくりと近づき、カギを拾う。

 カギを手にした瞬間だった。

 

 「あぁ・・・ッ!!」

 

 強烈な頭の痛みに、思わずしゃがみ込む。

 

 激痛の中、イメージが見える。

 

 それは、いつかどこかで会ったことがあるような

 そんな感じがする金色の髪をした竜族の少女。

 

 そして、数分後。

 ようやく痛みが無くなると

 咲耶は、立ち上がり女子寮へと駆け出す。

 

 「・・・」

 

 部屋に戻ると、装備を整える。

 戦闘準備をして、外へと出る。

 

 大きく深呼吸をすると

 もう一度、見えたイメージを思い出す。

 

 それは、ここから少し離れた森の奥深くだ。

 

 まだ暗い森の中を、何とか進んでいく。

 

 しばらく進んで、ようやくその場所を見つける。

 

 こんなに奥深くの森であるはずなのに

 人の気配がする。

 

 慎重に様子を見ると

 巧妙に隠されては居るが、洞窟のような所に

 建物が建っていた。

 

 見張りだろうか、2人の神族が立っている。

 

 「・・・」

 

 スッと近づいて肘うちを入れ、1人を気絶させる。

 

 「だ、誰だっ!!」

 

 声をあげる見張りの目の前まで

 一気に迫ると、腕を両手で掴む。

 

 「風間流『風車』」

 

 見張りは、掴まれた腕を中心に一回転して地面に強く叩きつけられる。

 その衝撃で息が詰まり、呼吸出来ないような感覚に陥ったのちに

 意識を失った。

 

「・・・ふぅ」

 

 本来、風車は『片手』で行う技だが

 力が劣る咲耶では、両手で何とか投げられるといった感じだ。

 

 周囲に人が居ないことを確認すると

 奥へと入っていく咲耶。

 

 警戒しながら歩いている時だった。

 

 カチっという音がして

 魔力が周囲に飛散するような感覚がする。

 

 「・・・しまった」

 

 そう思った時には、遅かった。

 

 カンカンと、金属の打ち付けるような音が

 建物全体に広がる。

 

 周囲から現れる研究者達を倒しながら

 一番奥へと突き進む咲耶は、ついに研究所の中心部にたどり着く。

 

 だが。

 

 「たかが人族1人相手に何をやっているっ!!

 

  さっさと研究体を出せっ!!」

 

 その言葉と共に

 ゴーレムのようなものが、咲耶に襲いかかってくる。

 

 何故だか知らないが、ゴーレム達の急所を知っている。

 そんな不思議な感覚の中で

 咲耶は、ゴーレムと対峙する。

 

「たしか中央の、魔力コアッ!」

 

 ゴーレムの一撃を回避しながら、胸を紅で貫く咲耶。

 魔力コアが破壊され、崩れ落ちるゴーレム。

 

 仲間が倒されてもゴーレム達は、決して恐れるようなことはない。

 大量のゴーレムが、咲耶に迫る。

 

「くっ・・・」

 

 さすがに数が多すぎて押され始める咲耶。

 

 左からの攻撃を盾で防ぎ、右からの攻撃を身体を捻って回避する。

 だが、気づけば後ろからも攻撃が迫っていた。

 

「しまっ―――」

 

 気づいた時には、もう遅い。

 

 咲耶の背中に吸い込まれるように、ゴーレムの一撃が迫る。

 

 ―――だが。

 

 咲耶の背中に攻撃が当たる直前で

 ゴーレムが停止する。

 

 そして崩れ落ちていく。

 

「な、何が起こったのだっ!!」

 

 騒ぎ出す研究者達。

 

「まったく。

 無茶しすぎよ、咲耶」

 

 声と共に現れたのは―――

 

「本当です。

 姫様は、無茶なことばかりされるのですから」

 

 フィーネと亜梨沙だった。

 

「2人とも、どうして・・・」

 

「2人だけではないぞ」

 

 更に奥から、ゴーレムの魔力コアが

 数個壊れた状態で飛んでくる。

 

「まったく、下らんことをしてくれる連中だ」

 

「本当ですね。

 リピス様に歯向かうとか、万死に値します」

 

「リピス・・・メリィさんも・・・」

 

 信じられないといった顔をする咲耶。

 

「まあ私達は、亜梨沙とフィーネが

 2人揃って、こんな時間に出かけるのが気になってな」

 

「私は、咲耶が出て行くのが見えたから

 ついてきただけよ」

 

「私は、姫様が武装して出かけようとしていたので

 心配で、後をつけました」

 

 思わず苦笑する。

 何となくでついてくるなんてと思いながらも

 仲間の存在を感謝する。

 

「とりあえず話は、後っ!

 まずは、こいつらを一人残らず倒してっ!」

 

 咲耶の声に、皆が応える。

 

 圧倒的な戦力を前に、ゴーレム達や

 抵抗していた者達は、一瞬にして全て倒された。

 

 その後に施設を捜索すると

 数々の非人道的な研究が見つかる。

 

「我ら竜族を中心に、随分とやってくれたものだな」

 

 平静を装いながらも強い口調のリピス。

 

「では、こいつら全員まとめて

 竜界に運んでおきます。

 

 もちろん、色々と吐かせた後になりますが」

 

 メリィさんも若干、殺気が漏れている。

 

「で・・・咲耶は、どうしてこんな場所を知ってたの?」

 

 皆の疑問を代弁するようにフィーネが質問する。

 

「この娘を探していたの」

 

 咲耶が巧妙に隠された扉の奥から

 一人の少女をベットごと運んでくる。

 

「―――!?」

 

 皆が一斉に驚く。

 

 それは、金色の髪をした竜族。

 

 金竜だった。

 

 その金竜の少女が、ゆっくりと目を覚ます。

 

「ん・・・あぁ・・・」

 

 大きく伸びをしてから周囲を確認した後に

 咲耶の方を向く。

 

「・・・あら、久しぶりね」

 

「・・・えっと、前にどこかで会ったかしら?」

 

「ああ、そっか。

 まだ記憶が無いんだものね」

 

 軽く笑いながら、ベットから起き上がる竜族の少女。

 

「私の名前は、イリス。

 金竜として生み出された実験体ってところかな。

 

 まあ、前と違って本格的な実験を受けていないから

 色々と違う所もあるかもだけどね」

 

 軽々と重要な話をするイリスに

 フィーネ達は、呆然となる。

 

「・・・アナタは、何を知ってるの?」

 

「どういうこと?」

 

「アナタは、サポート役なんでしょう?

 そう聞いたわ。

 

 だから、アナタなら何か知ってるんじゃないかって」

 

「う~ん。

 知ってるといえば知ってるだろうけど

 何の話かを、ハッキリして欲しいわ」

 

 咲耶は、自分が焦っていることに気づく。

 

「そうよね。

 まずは、ちゃんと説明しなきゃね」

 

 そして咲耶は、話し出す。

 

 毎日のように見る夢の話。

 そこに登場する少年と少女達。

 先ほど出会った少女との会話。

 そしてここに来た理由。

 

「なるほど。

 私をサポート役としてってことは

 勝手に動いても問題ないってことかな」

 

 全てを聞き終えると、呟くようにイリスが話す。

 

「何かが起こっている。

 そんな気がするの。

 

 だから何か知っていることがあるなら

 教えて欲しい」

 

「・・・それは、世界を巻き込んでも良いってこと?」

 

「え?

 どういうこと?」

 

「アナタがやろうとしていることは、この世界そのものを巻き込むこと。

 関係の無い誰かの命まで賭けるということよ」

 

 その言葉を聞いて思い出す。

 

 『アナタの選択は、この世界を巻き込む』ということを。

 

 あの少女に言われた台詞だ。

 

「間を割って済まないが

 我々にも解るように、もう少しはじめから

 説明をしてくれないか?」

 

 後ろで聞いていたリピスが会話に入ってくる。

 

「・・・めんどくさい」

 

「何だと?」

 

「そんなのめんどくさいわ」

 

「・・・世界を巻き込むような話なら

 咲耶達の一存だけで決められると困るのだよ」

 

「・・・そんなことばかり言ってるから

 和也に選ばれる世界の確率が低いのよ」

 

「何の話だ?」

 

「べっつに~」

 

 突然始まった金竜同士の痴話喧嘩のような状態に

 咲耶達は、どうしていいのか解らずに困惑していた。

 

「はいはい。

 もうそれぐらいにしてくれないかしら?

 

 話が進まないわ」

 

 一向に終わらない喧嘩に、堪らずフィーネが介入する。

 

「・・・はぁ」

 

「・・・」

 

 二人とも、とりあえずは大人しくなったが

 あまり仲は、良さそうには見えなかった。

 

「それで、もう少し詳しく話をしてくれないかしら?」

 

「・・・はぁ、めんどくさいわ」

 

 イリスは、めんどくさそうにため息をつく。

 そして『そんなに私も知らないけど』と前置きをしてから

 話をし始める。

 

「私が知っていることは、まず世界がいくつもあること。

 

 例えば、道を歩いていて右に進む道と

 左に進む道に分かれていたとする。

 

 その時、例えば右を選んだとしましょう。

 右に進んでも道が続くだけで、いつの間にか迷子になってしまう。

 

 でもそこで狩人に出会って、街まで案内してもらえることになる。

 それがきっかけで、狩人と恋に落ちて結婚する。

 

 だけどもし、左の道を歩いていたら

 どうなっていただろう?

 

 もし左の道を選んでしまっていたら、普通に街に着いてしまうかもしれない。

 そうすれば、狩人に出会っていないから

 狩人と結婚していないかもしれない。

 

 これが、いくつもある世界の話。

 

 右の道を選んだ世界。

 左の道を選んだ世界。

 

 そうした『かもしれない』という可能性の世界が

 見えない所に、いくつも存在しているの。

 

 大きく言えば、私という存在が居ない世界や

 極端に言えば、魔族や神族さえ存在しない世界もある」

 

 その話を聞いて、咲耶達は驚きの表情を浮かべる。

 普段から感情を表に出しにくいリピスですら、驚いている。

 

「それで、今この世界はニセモノなの。

 

 本来は、存在しない世界。

 強引に作った世界って言った方が正しいのかしら。

 

 無理やり作って隔離した、やがて閉じられる世界」

 

「あ、あなたは、どうしてそんなことが解るの?

 どうして、そんなことを知っているのよ?」

 

 納得がいかないという表情のフィーネが声を上げる。

 

「それは、私の存在が不安定だから。

 あなた達のように、影響をまともに受けるような存在じゃないの。

 

 そしてさっきも言ったように、可能性としては低い部類だから

 余計に影響を受けにくいわ。

 逆に、存在ごと消されそうになったことが何度もあるぐらい」

 

「・・・不安定? 可能性? 消される?」

 

 意味が解らないという感じの咲耶。

 それを見て『だからめんどうなのよ』とため息をつくイリス。

 

「可能性があっても、それが選ばれる可能性が低ければ

 その世界ごと消えてしまうの。

 

 ・・・毎日使うものと、10年に1回使うもの。

 どちらか1つしか部屋に置けないのなら

 どっちを置く?

 

 そんなの答えは、決まっているでしょう?

 

 それと同じ。

 選ばれない可能性は、やがて消えてしまうのよ」

 

「なら、この世界がニセモノっていうのは

 どういうことですか?」

 

 無言だった亜梨沙も、会話に参加してくる。

 

「さっきも言ったけど、この世界は作られたの。

 咲耶って一人の人間の核とした、ゆりかご。

 

 たぶん、和也がそれを願ったのね。

 和也は、優しいから」

 

「・・・私を核として、作られた?」

 

「そうよ。

 可能性の世界は、もうスグ全てが崩壊するかもしれない

 危機を迎えているの。

 

 全ての可能性で、絶望が支配する世界となってしまう。

 だけど、切り離されたこの世界は

 その影響を受けることがないわ。

 

 このまま何もしなければ、この世界だけは助かる。

 たとえニセモノの世界であってもね」

 

「世界が全て崩壊するということは、どういうことだ?」

 

 皆が気になったことをリピスが代弁してくれる。

 

「詳しくは知らないけど、崩壊するの。

 それを止めるために、和也が戦ってる。

 

 そしてもし、あなた達が動けば

 全てのことを思い出す。

 

 私の言っていることも理解出来るようになる。

 でもそれは、世界を危険に晒す行為でしかないわ」

 

「思い出す?

 我々は、何かを忘れているとでも?

 

 それに世界を危険に晒すというのは、どういうことだ?」

 

「皆、忘れているの。

 思い出しては、不都合だから。

 

 それを思い出した瞬間、この世界は

 本当の意味でニセモノとなる。

 

 そして世界は、切り離される前の状態に戻ってしまう。

 

 ・・・そう。

 世界の崩壊に巻き込まれてしまうことになる」

 

 誰もが言葉に詰まっていた。

 信じられないという想い。

 

 ありえないと言いたいが、目の前の少女が

 そんなウソをつく理由がない。

 

「だから確認してるの。

 

 あなたは、自分のために世界を巻き込めるの?

 関係の無い人達の命まで賭けれる?

 

 世界の崩壊に巻き込むってことは、そういうことよ」

 

「・・・」

 

 もしそれが本当ならば、関係の無い人々まで

 巻き込んでしまうことになる。

 

「だから、選ぶのなら後悔しない選択をすることね。

 

 あなたがどちらを選んでも、きっと誰も

 あなたを責めないはずだから」

 

「誰も?

 他にも居るの?」

 

「ええ。

 別世界のあなた達よ。

 

 別世界のあなた達は、きっとあなたがどちらを選んでも

 責めたりなんてしないわ。

 

 あなたは、和也を助けてくれたのだから」

 

「・・・和也?」

 

「そう、和也。

 

 私の王子様よ」

 

 笑顔でそう答える少女を見て羨ましいと思った。

 

 彼女なら、きっと迷わずに世界を賭けれるだろうと。

 その純粋で迷いの無い想いが、眩しく見えた。

 

「・・・それで、どうするの?」

 

「少し待ってくれないか。

 世界を巻き込むというのなら、それ相応の準備なども必要だ」

 

 決断を迫るイリスをリピスが止める。

 

「・・・そんなだから確率低いのよ」

 

「・・・またそれか。

 何の話か解らんから、何とも言えんな」

 

「それに、そこまで時間は無いわ」

 

「どういうことだ?」

 

「この世界は、もうそこまで猶予が無いの。

 中途半端に壊してしまったから。

 

 ちょっかいを出されたのが良い例よ。

 

 だから、閉じるにしても、壊すにしても

 この場で決めないと手遅れになるわ。

 

 もし結論を先送りしたら最後、どっちも選べずに

 永遠に同じ日の同じ時間を繰り返すことになる。

 毎回記憶を消されていることにも気づかず

 それこそ永遠に同じことを繰り返すだけになってしまうわ」

 

「そんな・・・」

 

 思わず咲耶が、呟く。

 

 知らない内に、既に動き出していた事実。

 もう後戻りは、出来ない現実。

 そして全ては、自身の選択にかかっているという重圧。

 

「もう、既に半分は後戻り出来ない所まで

 来てしまっているのよ。

 

 だからあとは、この場で選ぶだけよ。

 

 真実を知り、全てを賭けて戦う道を選ぶのか。

 それとも、このニセモノの世界で平和に暮らすか」

 

 そう言えばあの少女も言っていたっけ。

 

 『もうこの世界は、色々と手遅れだからね。

  それぐらいしなきゃ、もう無理だわ』

 

 あの少女も知っていたということか。

 こうなることを。

 

 ・・・私は、瞳を閉じて考える。

 

 仲間のこと。

 人界のこと。

 そして世界のこと。

 

 ふと気づけば、誰かが手を握っていた。

 

 目を開けてみると、そこにはフィーネの顔があった。

 

「咲耶の思う通りにすればいいわ」

 

 笑顔でそう言うフィーネに安心感を覚える。

 すると、もう反対側の手が握られる。

 

「姫様が選ぶのであれば、私はついて行くだけです」

 

 それは、亜梨沙だった。

 

「やれやれ。

 これじゃまるで私が悪者じゃないか」

 

「ふふっ。

 本当ですね、リピス様」

 

「咲耶。

 遠慮することはない。

 

 これだけのメンバーが協力するのだ。

 上手くいくさ」

 

「そうです、咲耶様。

 我々が居るかぎり、楽勝ですよ」

 

 リピスとメリィが、咲耶を応援する。

 

 色々な想いが、こみ上げてくる。

 それを1つ1つ噛み締めながら、咲耶は宣言する。

 

「私は、戦う道を選ぶ。

 何かが起こっていて、それを見てみぬ振りは出来ない。

 

 それがたとえ、違う世界の話であっても

 私は、全てを護るとあの日に誓ったのだから」

 

「・・・わかったわ。

 じゃあ、始めましょうか。

 

 世界を繋ぐために。

 そして世界を越えるために」 

 

 そしてイリスは、咲耶の前に立つ。

 

「カギを渡して。

 アレが必要だから」

 

「・・・ああ、これのこと?」

 

 少女から渡されたカギをイリスに手渡す。

 

「さて、まずは

 人数を揃えましょうか」

 

 そう言うと森の方へと歩き出すイリス。

 

 それに続く咲耶達。

 

 森を抜け、いつの間にか女子寮まで帰ってくる咲耶達。

 

 周囲は、朝日が昇り始めており

 明るくなっている。

 

 彼女は、迷うことなく女子寮の中へと入っていく。

 

 そしてとある部屋の前で止まる。

 

「・・・ここって確か」

 

 ふと、この部屋が誰の部屋かを思い出すフィーネ。

 

 ガチャガチャ。

 

 カギが掛かっているためか、扉は開かない。

 

「え~ぃ♪」

 

 いきなり迷い無く扉を殴り飛ばすイリス。

 

 大きな音と共に、扉が吹き飛ぶ。

 

「ちょ、ちょっとっ!?」

 

 突然のことに驚く咲耶達。

 

「な、何事ですかっ!?」

 

「な、なな何事ぉぉっ!?」

 

 中で寝ていた部屋の住人の声が聞こえる。

 かなり驚いている様子だ。

 

 そんな周囲の様子を気にすることなく

 部屋の中へと入っていくイリス。

 

「扉をいきなり壊すとか、無茶苦茶ね・・・」

 

 呆れながらもフィーネを先頭に部屋へと入る咲耶達。

 

 中には、ベットから飛び起きている双子の姉妹。

 

 セリナとエリナの姉妹が居た。

 

 

 

 

 5 覚醒 ―前編― ~完~

 

 

 

 




まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。

最近気づいたのですが、この作品。
平均読了時間が10時間越えているみたいですね。
当初は、ここまで超大作化する予定は無かったのですが・・・。

物語もラストに向けて加速してきたために
伏線の回収や世界観の説明などで
説明が多くなってくる回も増えますが
まあ気長に読んで頂けると助かります。


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最終 覚醒 ―後編―

 

 

 

 

 部屋は、重い空気に包まれていた。

 

 身だしなみを整えた王女姉妹が、ようやくその場に座る。

 

「・・・さて。

 どういうことか、説明して下さい」

 

「あぁ・・・眠い」

 

 冷静に話しをするセリナの横では

 叩き起こされて眠そうなエリナの姿。

 

 イリスが説明することが面倒だと言い出したために

 仕方なく、咲耶達が説明をする。

 

 世界のこと。

 戦う道を選んだこと。

 

「ちょっと・・・簡単には信じられない話ですね」

 

 全ての話を聞き終えたセリナは

 あくまで冷静に、そう話す。

 

「・・・でもまあ、ありえない話って訳でもないんじゃない?

 こうして金竜が2人居るってこと自体が、既におかしな話だし」

 

 反対にエリナは、驚きもしたが

 どちらかと言えば、セリナよりは話を信じてくれている。

 

「そうは言うけど、エリナちゃん。

 もし本当なら、誰が何の理由で

 こんな回りくどいことをしているっていうの?

 

 世界を崩壊させるためなら、さっさとやってしまうべきでしょう?」

 

「それは、和也が居るから。

 

 和也が、戦ってくれているから

 崩壊が遅れているの」

 

 二人の会話にイリスが入ってくる。

 

「和也って誰です?」

 

「私の王子様よ。

 

 まあ、あなた達は

 忘れているから、どうしようもないでしょうけど」

 

「・・・?」

 

 いまいち解らないという顔をするセリナ。

 

「まあ、いいわ。

 役者は、揃った訳だし

 そろそろ行きましょう」

 

 そう言ってイリスが立ち上がる。

 

「行くってどこへ?」

 

「もちろん、全ての分岐点よ」

 

 イリスの言葉に全員が首をかしげる。

 

「私は、あのゴミ共の手配をしてきます」

 

 そう言ってメリィさんだけが別れる。

 

 寮の玄関から外に出ると

 イリスが、カギを空に掲げる。

 

 するとカギから光が出て、森の方を示した。

 

 それに従うように進むイリス。

 皆、まだ半信半疑な感じではあるが

 それでもイリスの後をついていく。

 

 しばらく進んで、イリスが立ち止まる。

 

「・・・懐かしいな、この場所」

 

 そう呟くイリス。

 

「・・・この場所って」

 

 咲耶も気づいた。

 

 そう、この場所は

 普段から自主練習に使用している丘だった。

 

「あ、見つけた」

 

 何かを探していた彼女が見つけたのは

 ほんの僅かに揺らぐ境界。

 

 それは、世界の亀裂だった。

 

 

 

 

 

 最終 覚醒 ―後編―

 

 

 

 

 

 イリスは、おもむろにその亀裂に近づくと

 持っていたカギを突き刺す。

 

 すると、何も無かったはずの空間に扉が現れる。

 

「こ、これは・・・」

 

 皆が驚く中、咲耶が何とか声を出す。

 

「ここは、全ての世界の分岐点。

 

 だからここが一番影響が強く

 そして一番不安定なところ」

 

 そう言いながら扉を開く。

 扉の向こうは、何も無い白い世界が広がっている。

 

「さあ、早く入って。

 

 あまり待たせると、あの娘が煩いわよ」

 

「え、あ・・・ちょっとっ!?」

 

 そう言って強引に、皆を中へと押し込むイリス。

 

「・・・」

 

 中に押し込められた咲耶達は、再び言葉を失った。

 

 見渡す限り真っ白な世界。

 そして何もない世界。

 

「はぁ・・・。

 やっと来たのね。

 

 随分と遅かったじゃない」 

 

 突然声をかけられ

 思わず咲耶達は、振り返る。

 

 そこには、一人の少女の姿。

 

「これでも早く来た方だと思うんだけどなぁ」

 

 イリスだけは、何事も無かったかのように話す。

 『説明ばっかりで時間がかかったのよ』と不満げなイリスに

 『いちいち説明してるから遅くなるのよ』と反論する少女。

 

「まあ、いいわ。

 

 とりあえず合格ってことにしてあげる」

 

「相変わらず、捻くれてるよね」

 

「・・・何か言った?」

 

「べっつに~」

 

 仲が良いのか悪いのか。

 謎の口論を始める2人。

 

「・・・えっと。

 

 話を進めて欲しいのだけど」

 

 遠慮しがちに咲耶が、間に入ってくる。

 

「・・・そうね。

 あまり時間も無いことだし、はじめましょうか」

 

 そう言ってこちらに向き直る少女。

 

 少女が手を前に出すと、一瞬で杖が出てくる。

 それを握ると、少女を中心に魔法陣が形成される。

 

 すると少女の少し前に巨大な透明のクリスタルの塊が現れる。

 

「全員、それに触れて。

 そして精神を集中・・・いえ、頭の中を空っぽにして」

 

「それって私も?」

 

「あなたもよ、イリス」

 

「あら、そう」

 

 イリスがクリスタルに触れたのを見て

 皆が、恐る恐るクリスタルに手を伸ばす。

 

「・・・全員、余計なことを考えすぎよ。

 そんなことじゃ何時まで経っても終わらないわ」

 

 ため息をつきながら注意され

 全員が再度、精神統一を開始する。

 

 やがて魔力が収束して

 彼女らは、立ったまま意識を失う。

 

「―――ッ!」

 

 魔力をコントロールしていた少女は

 予想外の事態に驚く。

 

「まさか、これは・・・!!」

 

 それは、考えもしなかった事態。

 

 咲耶を中心に広がる巨大な魔法陣。

 

「・・・ふふ・・・ははっ・・・あははははっ!!」

 

 それがどういうことを意味するのかに気づくと

 少女は、愉しそうに笑い出す。

 

「そう、やっぱりそうなのね。

 

 やはり、あなたはイレギュラーな存在だった。

 でもそれは、和也を・・・世界を救う力となるかもしれない」

 

 少女は、魔力のバランスをより咲耶に傾ける。

 

「さあ、あなたの力を・・・想いの強さを見せてみなさいっ!!」

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 彼女達は、夢を見ていた。

 

 目の前には、舞台が用意され

 自分は、観客席に座っている。

 そんな感覚。

 

 そこで行われる演劇は、別の世界の物語。

 舞台の上に現れた、もう一人の自分は

 一人の人族の少年と出会い

 そして影響を受けて変わっていく。

 

 まるでよく出来たおとぎ話のようにも見える。

 でも、自分の心の中には

 それらが真実であったことを示すかのように

 暖かな気持ちが広がっていく。

 

 そうして1つの演劇が終わると

 物語は、第2幕を迎える。

 

 それは、一人の少年の物語。

 彼は、常に絶望の淵に居た。

 

 謎の化け物達に故郷を奪われ

 実の母親をその手にかけた。

 

 そして今後は、儀式の日と呼ばれる事件に

 巻き込まれて、大勢の仲間を失った。

 

 それでも彼は、負けなかった。

 

 彼は、戦士となって学園フォースに入学して

 数々の出会いと経験を重ねていく。

 

 時には、嫌がらせを受けながらも

 彼はそれらを乗り越えて先を目指していた。

 

 そんな彼の元に集う少女達。

 だが、またも起こってしまう悲劇。

 

 しかし彼は、諦めなかった。

 彼の想いは、やがて世界を越える。

 

 彼は、一人の少女の力によって

 世界を覆う巨大な闇との戦いを決意する。

 

 それは、永遠に続く彼の戦いの始まり。

 

 彼1人の力だけでは、到底勝てない大きな力。

 彼は、死ぬ間際に少女の力を借りて世界を越える。

 

 一度、今の世界を閉じてこれ以上の被害を出さないようにして

 別の平行世界を作る。

 

 そしてその別の平行世界で彼は、もう一度やり直す。

 物語が終盤になると、彼は必ず

 巨大な闇との戦いに挑む。

 

 だが結局は、負けてしまう。

 そしてまた1つの世界を閉じ、そして1つの世界が生み出される。

 

 こうして彼は、何度も戦いに挑んだ。

 

 だが何百、何千と繰り返しても、やはり勝てない。

 

 それもそのはず。

 今までも、少女の力を借りて『勇者』と呼ばれた者や

 『王』と呼ばれた者達などが同じく世界を覆う闇と戦った。

 だが結果は、同じ。

 

 そして永遠とも呼べる繰り返しの中で、ついに彼らは挫折した。

 彼らにとって『一番マシ』と言える世界に逃げ込んだのだ。

 力を貸してくれた少女への怨嗟を口にしながら。

 

 少年よりも、力を持つ者達が勝てなかったのだ。

 魔法すら持たない人族が、勝てる訳が無い。

 

 ―――だが。

 

 少年は、諦めなかった。

 何万、何億をも超える数の敗北を重ねても

 彼の心は、決して折れることはなかった。

 

 たとえ、人族が優位に立つような世界を手にしても

 魔族や神族が大きな失態を犯すような世界であっても

 彼は、それをよしとせず

 常に戦い続けた。

 

 何故なら少年は

 『全ての人々の幸せ』を願って戦っていたからだ。

 

 あれだけ他種族から冷遇されてきた少年が

 それでも全ての種族の幸福を願っている。

 

 どんなに辛くても。

 どんなに苦しくても。

 

 一歩間違えば、自身の存在ごと世界から

 消え去ってしまうという恐怖の中を。

 

 決して目を逸らさずに。

 常に未来を信じて。

 

 傷ついた心と身体を奮い立たせて

 巨大な闇に挑み続ける。

 

 こんなことを、他の誰が出来るというのだ。

 過酷なんて言葉では、表現できないほどの道を

 彼は、ボロボロになりながらも歩き続けていた。

 

 その事実を知った少女達は

 自身の魂が震えるのを感じた。

 

 そして少女達は、意識を取り戻して

 ゆっくりと目を開けた。

 

「・・・ああぁ」

 

「・・・和也・・・和也ぁ」

 

 咲耶とフィーネは、その場で泣き崩れる。

 

「兄さんは・・・本当に・・・」

 

「和也くん・・・和也くんっ!」

 

「もう・・・ホントに。

 和也は、無茶ばっかりするんだからぁ・・・」

 

「まったく、困った男だ。

 ・・・困った男だよ、キミは」

 

 亜梨沙・セリナやエリナは、もちろんのこと

 リピスまで泣いていた。

 

「・・・意外ね。

 あなたは、平然としてるじゃない」

 

「・・・うん。

 だって和也は、私の王子様なのよ?

 これぐらいのことをしていても、不思議じゃないわ」

 

「・・・あっそう」

 

 イリスの笑顔に、つい顔を背ける少女。

 

 そして、同じ頃。

 四界を覆うほど、空一面に巨大な魔法陣が現れる。

 

 魔法陣から、光があふれ出し

 やがて世界を光が包んだ。

 

 世界中の人々は、その光によって知った。

 

 たくさんの悲劇があったことを。

 数々の世界があることを。

 

 そして、人知れず世界のために戦い続ける

 人族の少年が居ることを。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 しばらく時間が経って

 咲耶達は、冷静さを取り戻す。

 

「・・・聞きたいことがあるのだけれど」

 

 沈黙の中、咲耶が少女に向かって話し出す。

 

「もう一度、聞かせて欲しい。

 あなたは、何者なの?」

 

「私の名前は、久遠。

 人々の『願い』から生まれた存在」

 

「願いから生まれた?」

 

「そうよ。

 皆、願いを持っている。

 

 ああしたい。

 こうなりたい。

 こうであって欲しい。

 

 そうした願いが、私を生み出した。

 

 その中でも、私は人々の『希望』から生まれた」

 

「久遠。

 あなたの目的は、何なの?」

 

「私の目的は、人々の『希望』を叶えること。

 人々を幸福へと導くことが、私の生まれた意味よ。

 

 そしてアイツ。

 和也が戦っているものは

 人々の恨み・嘆き・悲しみといった怨嗟の声。

 

 そこから生まれた『絶望』。

 アイツの目的は、世界を絶望に導くこと。

 世界を破滅させること」

 

「なら、どうして和也は

 その『絶望』と戦っているの?」

 

「私もアイツも、お互いに直接戦うことは出来ないの。

 

 だからお互いに、自分の力だけで

 世界を導いて、その影響力で勝負することになるのだけれど・・・」

 

 そこで一度、言葉を切る久遠。

 

「・・・だけど?」

 

 フィーネが先を促すように言葉を口にする。

 

「・・・だけどね。

 人って思っている以上に、自分のことを不幸だと思っているものなのよ。

 

 本当に不幸な人なんて、数えるほどしか居ないのに

 現状よりも少しでも悪くなると『ああ、不幸だ』って口にする。

 

 自分が今、幸福だなんて思う人より、はるかに多い数よ。

 

 そして、その想いが力となってお互いに影響する。

 

 つまりね、アイツの方が圧倒的に優位なのよ。

 だから私は、違う手を打つことにした。

 

 人々の中から、特に皆の期待を集めている者。

 人々を率いている者。

 

 そういった人々の期待を集める者の『希望』は

 とても力が大きいわ。

 

 だからそういった人達に手伝ってもらうことにしたの。

 彼らが戦うのであれば、私が直接手を出す訳じゃないから

 アイツを直接滅ぼすことも可能になる。

 

 ・・・でも結果は、ダメだった」

 

 久遠の寂しそうな顔を見て、皆が黙ってしまう。

 

 それは、先ほど見た記憶の1つにあった。

 久遠のおかげで、一番マシな未来を選ぶことが出来たのに

 彼らは、最後にそんな彼女に対して

 罵声を浴びせながら逃げていったのだ。

 

「・・・そして私の力も、どんどんと減っていったわ。

 

 そして最後に選んだのが、和也だったの。

 彼は、今までの誰よりも強い光を放っていた。

 彼しか居ないと思ったわ。

 

 もし彼が負けるのであれば

 それが人々の『願い』が決めた結末なのだと

 私も諦めることが出来るって」

 

 結果として久遠の選択は、正しかったのかもしれない。

 何故なら彼は、未だに戦い続けているのだから。

 

「でも、もう終わり。

 これ以上の世界を作ることは出来ない。

 私の力も、もう無いわ。

 

 だからこれが最後のチャンスなの」

 

「なら私達には、何が出来る?

 何をすれば、和也の手助けが出来るの?」

 

「・・・今からアナタ達を元の世界に戻すわ。

 世界が繋がってしまったから

 もうスグ、また大きな事件が起きる。

 

 ・・・いえ、多分アイツが仕掛けてくるわ。

 今この世界は、一番影響力がある世界になっている。

 

 だからこの世界を守り通すことが出来れば・・・

 人々が『絶望』ではなく『希望』を信じることが出来たのなら

 それは、和也の力となり、アイツを倒せる唯一のチャンスとなる」

 

 久遠が杖を横に振ると、扉が現れる。

 

「天保院 咲耶。

 

 あなたは、和也と同じく『人々の希望を集める者』。

 その力によって世界は、間違いなく変化しようとしている」

 

「どういうこと?」

 

「元の世界に帰れば、自然に解ると思う。

 世界全てに拡散する魔法だなんて、見たことがないわ」

 

 クスクスと笑う久遠に、何のことか解らないと

 首をかしげる咲耶。

 

「さあ、時間がもう無いわ。

 

 さっさと帰りなさい」

 

「あなたは、どうするの久遠?」

 

「私は、私でやることがあるの。

 心配しなくても、和也のためになることよ」

 

「・・・そう。

 わかったわ」

 

 咲耶達は、扉から元の世界へと帰っていく。

 

 そして全員が帰った後。

 

「ゴメンね、和也。

 私も、あなたを助けたいの。

 

 ・・・だから、戦わせて」

 

 久遠の足元には、巨大な魔法陣が現れる。

 

「さあ、行くわよっ!!」

 

 

 一方その頃。

 

 咲耶達は、女子寮の前に転送されていた。

 

 だが、その瞬間に見たのは

 せわしなく寮から出てくる女生徒達の姿。

 

「ああ、セリナ様。

 至急、学園まで行ってください。

 

 学園長達が、お待ちですっ!」

 

 そう言って神族の少女は、走っていった。

 

「・・・とりあえず何かあったみたいね」

 

「学園にまずは、行きましょうか」

 

 雰囲気から何かあったと感じて学園に急ぐ咲耶達。

 

 街まで出た瞬間、彼女達は

 今までみたことがない光景を目にしていた。

 

 街の住民達も一斉に避難を開始している。

 年老いた魔族の老人に、神族の男性が

 手を貸している。

 

 神族の商店の店主が、店から食材を運び出そうとしているのを

 数名の竜族達が手伝っている。

 

 他にも種族を超えて、避難準備が進んでいた。

 

 その光景に驚きながらも学園へと急ぐ。

 

 そして学園に到着すると

 既に学園内は、避難所になっており

 各種の対応が既に始まっていた。

 

「おお、ようやく帰ってきたかっ!」

 

 呆然とその光景を見ていると

 声をかけられる。

 

「スグに話をしたい。

 こっちにきてもらえるか?」

 

 それは、学園長にして魔王妃のマリア=ゴアだった。

 

 彼女に連れられて学園長室に入る。

 

「あっ、お母さんっ!」

 

「あら、帰ってきたのね」

 

 中には、既にオリビア王妃の姿があった。

 

「悪いが、時間が惜しい。

 全員、席についてくれ」

 

 マリアに促され、全員が椅子に座る。

 

「話は、大体理解している。

 まさか、世界が知らないうちに

 こんなにも動いていたとはな」

 

「・・・ちょ、ちょっと待ってよっ!

 どうして母様が知ってるのよっ!」

 

 フィーネが皆が突っ込みたい部分に

 いち早く反応する。

 

「なんでも何も、既に四界中が

 この話題で持ちきりだぞ」

 

「ええ。

 セリナちゃん達が、頑張ってくれたおかげでね」

 

 マリアとオリビアが

 一部始終を語りだす。

 

 突然、世界を覆った魔法陣。

 

 蘇る記憶。

 過去の悲劇。

 これから起こるであろう出来事。

 自分達がすべきこと。

 

 そして、藤堂 和也という少年の存在。

 

「それから、各地に連絡を取った。

 既に魔界・人界・神界で軍の準備が進んでいる」

 

「竜界も、メリィちゃんが向かってくれるって

 言ってたから、竜界も大丈夫よ」

 

「という訳で、まずはこれを見てくれ」

 

 手早く地図を取り出すマリア。

 

「偵察を放ってみたら、さっそくまあ盛大な数のゴーレムどもが

 うじゃうじゃと見つかってな」

 

 地図に目印がされていく。

 学園都市を囲むようにありえないほどの数が存在していた。

 

「当面は、これらから都市を守るというのが目的になるだろう。

 

 各界の軍隊は、外側から奴らを撃破して

 それぞれの担当エリア掃討後、学園都市内に入って

 防衛に回るという手順になっている」

 

「もちろん、みんなにも防衛に協力してもらうわ」

 

 咲耶達が会議をしている頃。

 

 既に周辺の避難は、完了しており

 学生達も、防衛準備に取り掛かっている。

 

 何度も繰り返してきた作業を思い出し

 予想以上に早く準備が整っていく。

 

「ここのバリケードに、もう少し人が欲しいわ」

 

「確かあっちに材料余ってなかったか?」

 

「手が空いている奴は、こっちを手伝ってくれっ!」

 

「順番に並んでくださ~いっ!」

 

 いつもなら種族同士で固まって作業をしているはずが

 今は、種族がバラバラに動いている。

 

 誰もがそんなことを気にせず手を取り合っている。

 彼らは、自分達と共に戦う戦友だ。

 

 背中を預ける相手を差別しても何の意味もない。

 それに相手は、ちゃんと別に存在することが解っている。

 今はそんなこと後回しだと皆が考えていた。

 

「これは、ここでいいかい?」

 

「は、はいっ!

 助かります」

 

「いいって。

 可愛い娘のお願いは、断れないさ」

 

 いつもの調子で種族問わず女の子を口説いているギル。

 

「・・・悪いが邪魔だ」

 

 それを押し退けて、大きな荷物を降ろす魔族。

 

「おっと、危ないねぇ。

 ・・・って何だ、アンタか」

 

「・・・誰かと思えば」

 

 それは、かつて和也と戦い

 そして敗れた1階級の魔族。

 

 アレン=ディレイズ。

 

「悪いが、俺が先に行かせてもらう」

 

「おいおい、そりゃ俺の台詞だ。

 先に勝負をするのは、俺だよ」

 

 主語の無い会話だが、2人は譲ろうとはしない。

 

 そんな時だった。

 

「丁度良い所だったな」

 

 ふと声がして2人が振り向くと

 そこには、1人の魔族の姿。

 

 魔王の血族として名高い

 ヴァイス=フールスだった。

 

「おや、珍しい。

 俺・・・もしくは、こっちに何か用かい?」

 

 軽い口調で返事をするギル。

 

「悪いが、両方だ」

 

 いつもと違う雰囲気のヴァイス。

 その態度に、2人とも黙って先を促す。

 

「・・・私には、清算したい過去がある。

 どうしても成し遂げたいことがある。

 

 だが、残念なことに

 私一人では、成し遂げることは無理だろう。

 

 しかしこれを避けて通ることだけは、決して出来ない」

 

 そこで一度、言葉を切るヴァイス。

 一度大きく深呼吸をしたのち

 

「・・・頼む。

 私に力を貸して欲しい。

 

 この通りだ」

 

 そう言って頭を下げるヴァイス。

 

「―――ッ!?」

 

 ギルは、驚いた。

 

 正直、プライドの塊のような男だと思っていた。

 他人を認めることが無い傲慢な魔族の典型だと。

 

 そんな男が、他人に頭を下げて頼みごとをしてきたのだ。

 

 アレスも意外そうな顔をしている。

 1階級でも、ヴァイスの名と

 その傲慢な態度は、噂になっていた。

 

 だからこそ、目の前の男が

 噂とは、かけ離れた存在に見える。

 

 ヴァイスは、ひたすら頭を下げ続ける。

 

 その姿にギルは、ため息をつく。

 そして―――

 

「ああ、いいぜ。

 俺でよければ、力を貸そう」

 

「・・・ああ、いいだろう。

 この魔槍の力、お前に貸すことを誓おう」

 

「・・・すまない。

 そして、ありがとう」

 

 ヴァイスは、2人に感謝して

 もう一度深く頭を下げた。

 

 

 

 

 

 最終 覚醒 ―後編― ~完~

 

 

 

 

 

 




まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。

咲耶編は、これで終了となります。
といっても続きが、これから和也編として
始まるので、あまり関係ないですけど。

これでようやく話も残り僅かとなりました。
最後まで何とか製作ペースを維持したいと思います。


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Another Story
 種族を超えて


 

 

 

 

 

 ここは、何もない空間だった。

 

 一面何も無く、ただ地面のような白い大地が

 広がるのみだ。

 

 空は、夕暮れのように染まっている。

 

 

 そんな異世界のような場所で

 誰かが戦っていた。

 

 片方は、人。

 

 その手には、漆黒の刃。

 真っ直ぐに相手を見つめるその瞳からも

 揺ぎ無い信念を感じることが出来る。

 

 もう片方は、異形。

 

 巨大な身体に大きな翼を持つ。

 腕も左右に3本づつあり、その全てに武器を持っている。

 近づいただけでも精神を蝕まれてしまいそうなほどの

 深い闇・・・怨念を背負っているかのような存在。

 

「オマエハ、ジュウブンニタタカッタ。

 

 ダガソレモ、ココマデダ。

 マケヲミトメレバ、イママデノセカイノナカカラ

 スキナケツマツヲエラバセテヤロウ。

 

 ・・・ドウダ、ワルイハナシデハアルマイ」

 

「・・・皆が戦うことを選んだ。

 命を賭けて、未来を勝ち取るために。

 

 それなのに、俺が先に負けるなんてありえないだろ」

 

「・・・オロカナ。

 

 ワレニカテヌコトハ、オマエジシンガ

 イチバンリカイシテイルダロウニ」

 

「そんなの、やってみなきゃ解らないだろっ!」

 

「ナラバ、ココデ

 クチハテルガイイッ!」

 

 物理的攻撃だけでなく、数多くの魔法も

 一瞬にして大量に飛んでくる。

 

 まるで大軍を1人で相手にしているような感覚。

 普通なら回避不能に見える無数の攻撃。

 

 ―――だが。

 

「真眼―――開放ッ!!」

 

 真眼を開放した瞬間。

 全ての攻撃が数秒後、何処に着弾するかが見える。

 

 だからこそ、その見えた未来の通りに

 攻撃を回避して、相手に迫る。

 

「・・・ナンダトッ!?」

 

「はぁぁぁっ!!」

 

 鬼影による一撃で、腕を1本切り落とす。

 

 だがスグに腕は、再生されてしまう。

 

 

 ―――真眼。

 

 それは、魔眼の最終形態。

 数秒先の未来を見通す力。

 

 今までの歴史の中で、誰一人として

 たどり着くことが出来なかった境地。

 

 本来ならば、和也も

 手にすることは、出来なかったはずの力。

 

 だが、数え切れないほどの平行世界を経験し

 その全てを引き継いでいる、今の和也は

 人の一生をはるかに超える時間を過ごしている。

 それも、戦いで埋め尽くされた時間。

 

 この特殊な状況が、彼に更なる力を与えたと言える。

 

 ・・・しかし。

 

「シネッ!!」

 

 まるで巨大な壁が迫ってくるような『面』での攻撃に

 回避することが出来ず、防御姿勢を取るが・・・

 

「くそっ!!」

 

 だが、圧倒的な力に大きく吹き飛ばされる。

 

 いくら相手の攻撃が見えるといっても

 回避不能な一撃だけは、どうしようもない。

 

 そしてなにより

 魔眼・真眼共に、防御や回避のための力であり

 純粋な攻撃に関しては、意味が無いといえる。

 

 常に再生する相手を超える火力が無い和也。

 

 攻撃がほぼ当てられないものの

 それ以外に特に問題がない異形の化物。

 

 ほとんど互角に見える両者。

 

 だが、その僅かにある差が

 決定的な差となって、お互いの勝敗を別けてきた。

 

 この差が埋められない以上、和也に勝ち目など無い。

 

 ―――それでも。

 

「・・・それでも、俺は

 諦める訳には、いかないんだよぉぉぉっ!!!」

 

 心と身体を奮い立たせて

 気迫と共に異形の化物へと突撃する和也。

 

 そして渾身の一撃を振り下ろす。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 その頃、学園の中庭に

 全生徒が綺麗に整列していた。

 

 皆、その顔は

 決意とやる気に満ちている。

 

 そこへ、学園長であるマリア=ゴアが

 学園の外壁の上に現れる。

 丁度、全生徒を見渡せる位置だ。

 

 更に、学園長の後ろには

 オリビアの姿もある。

 2人ともいつもの格好ではなく

 戦闘をするための衣服を身につけていた。

 

「・・・詳しい説明など

 もはや不要だろう。

 よって簡潔に話しをする」

 

 ここで一度、言葉を切り

 大きな深呼吸をする。

 

 そして―――

 

「連中は、踏み荒らそうとしている。

 

 我々の命を。

 我々の自由を。

 我々の誇りを。

 

 ・・・だが。

 

 戦争に個人的な感情を持ち出すことは

 愚か者のすることだ。

 

 味方を危険に晒すだけで

 邪魔以外の何者でもない。

 

 ―――しかし。

 

 それらを黙って見過ごすほど

 我々は、甘くはないっ!!

 

 手には、力をっ!!

 胸には、誇りをっ!!

 

 持ったのならば、いざ進めっ!!

 

 恐れるものなど、あるものかっ!!

 

 強くっ!!

 気高くっ!!

 

 ただ真っ直ぐ、前だけを向いてっ!!

 

 戦友(なかま)と共に、突き進めっ!!

 

 その行いを以ってっ!!

 

 奴らにっ!!

 世界にっ!!!

 

 ここは、我々の居場所なのだとっ!!

 

 我々は、生きているのだということをっ!!

 

 思いっきり見せ付けてやれっ!!!

 

 さあっ!!!

 世界を賭けた大勝負の始まりだっ!!!!」

 

 魂の叫びとでもいうような

 学園長の言葉を合図に―――。

 

「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 

 学園全体が震えるほどの声が、周囲に響く。

 

 

 

 

 

 種族を超えて

 

 

 

 

 

 外壁に展開する生徒達は

 その光景に思わず息を呑む。

 

 地平線の彼方から現れたのは

 ゴーレムの群れ。

 

 それは、決して途切れることなく

 現れ続けている。

 

 何百万? 何千万?

 

 最前線と言える場所に配置されているのは

 生徒の中でも、特に優秀な者達ばかり。

 

 そんな彼らでも、気が遠くなるような

 大軍が押し寄せてきていた。

 

 先ほどの決意が揺らぎそうになる。

 

「・・・へっ!

 どれだけの数だろうと、負けるかよっ!!」

 

 それは、誰かが言った言葉。

 

 ―――だが。

 

「そ、そうよっ!

 私達なら、勝てるわっ!!」

 

「・・・当たり前だろ?

 俺達だって、あの数え切れない戦いの記憶を

 引き継いでるんだっ!!」

 

「ああ、そうさっ!

 あんな未来にしないためにも

 俺達がやるしかないんだよっ!!」

 

「今度こそ、徹底的に蹴散らしてやるわっ!!」

 

 その勇気ある声が、周囲に再び火を灯す。

 

 ゴーレムの大軍が迫ってくると

 やがて呻き声が聞こえてくる。

 

 それは、まるで地獄から這い出ようとする

 死人達を思わせるような声。

 

 いくら数多くの戦闘を体験した記憶があるといっても

 やはり恐怖心は、なかなか抑えることが難しいだろう。

 

 しかし彼女は、違った。

 

 六翼を広げ、最大まで溜め込んだ魔力を

 更に効率良く練りこむ。

 

 エレメンタルマスターと呼ばれる少女。

 神界王女 エリナ=アスペリア。

 

 彼女は、街の中央にある大きな時計台の最上階に居た。

 そこは、街の全てが見渡せる絶好の場所。

 

「この一撃が、開戦の狼煙となる。

 

 だからこそ、皆を勇気付けるため

 手加減無しの全力で、いかせて貰うわっ!!」

 

 空に広がる巨大な魔法陣。

 

 そこから降り注ぐ巨大な火球の雨。

 

「全てを焼き尽くせっ!

 ナパーム・レインッ!!」

 

 その燃え盛る雨は

 文字通り、周囲を焼き尽くし

 ゴーレム達を飲み込んでいく。

 

 その圧倒的な光景に歓声が上がる。

 

 だがエリナは、そんな声を無視するように

 次の魔力収束を始めていた。

 

「私は、私にしか出来ない役割を果たすだけ。

 

 ・・・だからセリナちゃん、お願いね」

 

 見つめる先は、はるか遠い場所。

 

 姉が向かった場所を見つめながら

 また魔法を展開する。

 

「さて・・・どんどん行きましょうかっ!!」

 

 そしてまた、ゴーレムの群れに火球の雨が降り注ぐ。

 

 

 それから少し後の事。

 

 神界から行軍していた神族軍は

 境界を超えたあたりで、ゴーレム集団を見つける。

 

「これは、世界の命運を賭けた戦いですっ!!」

 

 そう叫ぶのは、軍を率いている者。

 

 神界宰相 カイン=ライト。

 

 彼は、儀式兵装の剣を掲げる。

 

「我らの未来を護るためっ!

 命を賭して戦い抜くのだっ!!

 

 ここが我らの死に場所と心得よっ!!

 

 総員、突撃ィィィッ!!!」

 

「うおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 

 

 同じ頃。

 竜界でも敵と対峙していた。

 

「リピス様のためっ!

 世界のためっ!!

 

 今こそ竜族の力を四界に見せ付けてやるのだっ!!」

 

 軍を率いているのは、竜界No2。

 

 破滅の竜 メリィ=フレール。

 

「全軍、前進せよっ!!!

 

 我らは、竜族ッ!!!

 誇り高き戦士ッ!!!

 どんな時でも、誇りを胸に気高く謳えっ!!!」

 

「全ては、リピス様のためにっ!!!!!」

 

 

 そして人界でも。

 

「この戦いに、全てが詰まっていると言えるじゃろうっ!!」

 

 先頭に立つのは、人界をまとめる者。

 

 風間流最高師範 風間 源五郎。

 

「この最後の戦いを乗り越えることが出来れば

 我らが悲願である、人族への不当な差別も

 無くなることになるっ!!

 

 この一戦ッ!!

 

 人族が、決して他種族に劣っていないことを

 見せ付けてやるのじゃっ!!!

 

 そしてっ!!

 我らの手で、真の平和を勝ち取るぞっ!!!」

 

「おぅッ!!!!!」

 

 

 更に魔界でも。

 

「この戦いで活躍した者は

 必ず後の歴史書において、永遠に名を刻むことになるでしょうっ!!」

 

 魔族軍の先頭に立つのは、紅い髪の少女。

 

 紅の死神 ミリス=ベリセン。

 

「命を惜しむなッ!!

 名こそを惜しめッ!!

 

 我ら魔族こそが四界最強ッ!!!

 

 我らの名で、歴史書を埋め尽くてやりましょうっ!!!」

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 

 

 それぞれの軍で突撃命令が出て

 一斉に世界中で戦いが始まった。

 

 まるでかつての大戦争のようである。

 だが大戦争とは、大きくその内容が違う。

 

 誰が、四種族全てが手を取り合って

 戦う日が来ると予想出来ただろうか。

 

 そして学園都市で戦う者達は

 その奇跡を一番感じていた。 

 

 外周の門が破られ、内部の各所にある門が

 既に第二・第三の防衛ラインとなっていた。

 

 街の外周エリアでは、既に市街地戦が繰り広げられている。

 

「へっ!

 ゴーレムなんて余裕だぜっ!!」

 

 ゴーレムを倒してポーズを決める神族男生徒。

 

「馬鹿ッ!

 上よッ!!」

 

 路地に居た竜族が、咄嗟に声を出す。

 

「同じ手にかかるかよっ!!」

 

 上から落下してきたゴーレムを真横に跳んで回避する。

 

「ファイア・アローッ!!」

 

 2本の炎矢がゴーレムに命中して

 魔力コアが露出する。

 

「はぁっ!!」

 

 走りこんでいた竜族生徒が

 そのまま魔力コアに、一撃を決める。

 

 勢い良く魔力コアが壊れると

 ゴーレムも崩れ落ちる。

 

「・・・アナタ、死にたいのッ!?」

 

 竜族が、神族男生徒に詰め寄る。

 

「そんなつもりは、無いさ。

 さすがに気づいてたからな」

 

「・・・じゃあ、どうしてっ!!」

 

「悪い悪い。

 相手を油断させるつもりだったんだよ。

 

 ・・・そっか。

 確かアンタだったよな。

 俺の・・・敵を討ってくれたの」

 

 蘇るのは、違う世界の記憶。

 油断して死んだこと。

 

 そして彼女が、代わりにゴーレムを倒したこと。

 

「・・・」

 

「手間をかけさせて、すまない。

 ・・・そして、ありがとう」

 

「解ってるなら、それでいいわ・・・」

 

「ああ、今度こそ生き残ってやるぜ。

 だからまあ、背中は任せていいか?」

 

「ええ。

 隙があったら遠慮なく、蹴ってやるわ」

 

「え?

 うっそ。

 

 そんな流れだっけっ!?」

 

「はいはい、じゃあ行くわよ」

 

 そして2人は、路地から飛び出し通路に出る。

 

 正面に居たゴーレムを素早く撃破すると

 そのまま先へと進んでいった。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

「くそっ!

 数が多すぎるっ!!」

 

「さっさとしろっ!

 後ろに下がるぞっ!!」

 

 ゴーレムの群れに追われて逃げる魔族男生徒と神族男生徒。

 

 大通りに出た所で追いつかれる。

 

「ギギギッ!!」

 

「トカゲもどきの癖にっ!!」

 

 後ろからトカゲのようなゴーレムが

 飛びついてくる。

 

 それを何とか避ける魔族男生徒。

 

「邪魔しやがって・・・ッ!!」

 

 神族生徒が助けに行こうとするが

 遅れてやってきたゴーレムに阻まれる。

 

「無効種とは、ついてないな・・・」

 

 魔法が使えないため、ゴーレムに切りかかる神族生徒。

 

 かつて様々な世界で様々なゴーレム達が登場していた。

 

 魔導砲のような腕を作って魔法を放つ『砲撃種』

 

 魔法が一切通用しない『無効種』

 

 様々な形をした『変化種』

 

 それぞれをそう分類して、彼らは呼んでいた。

 

 特に砲撃種と無効種は

 その迎撃方法が大きく違ってくるため

 区別して呼ぶことで、誰もが理解しやすくしている。

 

 提案したのは、オリビア王妃。

 それをマリア王妃が素早く全体に伝えることにより

 迎撃効率を向上させることに成功していた。

 

「く・・・このっ!!」

 

 何度も飛びついてくるトカゲ型ゴーレムに捕まってしまい

 押し倒されるが、頭に剣を突き刺して

 それ以上の追撃を防いでいる。

 

 だが、それでも長くは続かない。

 

 そんな時だった。

 

「デルタフォーメーション!」

 

「フォーメーションアタァァァック!!」

 

「離脱ッ!!」

 

 複数の声が聞こえると同時に

 目の前のトカゲ型ゴーレムが崩れ落ちる。

 

「今のは・・・」

 

 ゴーレムと戦っていた神族生徒も

 目の前のゴーレムが一瞬で蹴散らされ

 呆然としていた。

 

「俺達エリナ様親衛隊が、この場を引き受ける」

 

「お前達は、防衛ラインが下がったことを伝えてくれ」

 

「撤退完了までは、エリナ様の名にかけて死守してみせる」

 

 姿こそ見えないが

 複数の声が聞こえてくる。

 

「・・・ああ、すまないが頼む」

 

 状況を理解した神族生徒が、そう言うと

 魔族生徒と共に後ろへと下がる。

 

 少しして、彼らを追うように

 ゴーレムの集団が現れる。

 

「来たな、ゴーレム共めっ!」

 

「我々の真の力・・・その命を以って知るがいいっ!」

 

「エリナ様親衛隊は、四界最強だっ!」

 

 それぞれが言葉を口にすると

 まるで1つに繋がっているかのように

 見事な連携を見せる。

 

「さあ、いくぞっ!」

 

「これが、我らの新たなる必殺技っ!」

 

「マキシマム・デルタフォーメーションッ!!!」

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

「くそっ!!

 このままじゃ、味方と一緒に敵まで門の中へと

 入ってくるぞっ!!」

 

 門を開けて撤退する味方を支援していた

 魔族男生徒が叫ぶ。

 

「ダ、ダメだっ!!

 仲間を見捨てるなんて・・・出来ないっ!!」

 

 同じく魔族の生徒が声を出す。

 

「じゃあ、どうしろって言うんだよっ!!

 俺達だけじゃ、あれだけの数を止めきれないぞっ!!」

 

「絶対ダメだっ!!

 オ、オレは、もう・・・逃げ出さないって決めたんだっ!!」

 

 そう言って門から外に出る。

 

 逃げ込んでくる味方。

 それに密着するぐらいに近い敵。

 

 突撃してくる敵を受け止めることは

 並大抵では、出来ないことだ。

 多分、あっさりと自分は死ぬことになるだろう。

 

 『死』の恐怖で足が震える。

 だが、もう自分は逃げないと決めたのだ。

 あんな想いは、二度とゴメンだと。

 

「へえ。

 成長したじゃない」

 

 後ろから突然声をかけられ

 驚きながらも振り返る。

 

 ―――そこには

 

「さて、じゃあ行きましょうかっ!!」

 

「俺達は、撤退支援に回る。

 イオナは、レアの援護をしてやれっ!!」

 

「はいっ!!」

 

 かつて別の世界で

 自分を殴った神族の少女。

 

 レア=レイセン。

 

 彼女のチームが援護に来ていた。

 

 前線から傷ついた仲間が必死に逃げ込んでくる。

 途中で後ろから攻撃されて逃げ損なってしまう

 仲間が出ないように、レア達が前に出て

 ゴーレム達をけん制する。

 

 レア達は、確かに強かったが

 圧倒的な物量の前に、厳しい戦いを強いられていた。

 

「ハッ!!」

 

 レアの一撃でゴーレムが崩れる。

 

 そのレアの後ろからゴーレムが迫るが・・・

 

「させないっ!!」

 

 イオナの狙撃により、ゴーレムは崩れ落ちた。

 

「数が多すぎるぞっ!」

 

「文句言ってないで、手を動かしなさいよっ!」

 

 味方の神族生徒達も、愚痴が出るほど押し込まれていた。

 

「これじゃ、門を閉めるタイミングなんて無いじゃないかっ!!」

 

 門を閉めようと準備していた魔族生徒だが

 乱戦になりすぎていて、閉めるどころの話では

 無くなっていた。

 

「門が閉められなきゃ、どうしようもないぞっ!!」

 

 誰に言う訳でもなく、魔族生徒は叫ぶ。

 

「・・・なら、そのまま開けておけ」

 

 後ろから肩を叩かれて

 驚きながら振り返る。

 

「あ・・・あんたは、確か・・・」

 

「あとは、俺達に任せな」

 

 そう言って彼らは、門へと走っていく。

 

「引くタイミングを私が作るから

 その間に、逃げてっ!!」

 

「先輩っ!!

 囮になるつもりでしょうっ!!

 

 そんなのダメですよっ!!」

 

「お前だけを見捨てる訳ないだろっ!」

 

「そうよっ!

 私達なら何とかなるわっ!」

 

 レアの提案を仲間達が一蹴する。

 

「・・・そうそうっ!

 まだまだこれからだぜっ!!」

 

 何処からとも無く響く声と共に

 大量の炎矢が降り注ぐ。

 その攻撃によってゴーレム達が崩れていく。

 

 その瞬間に少しだけ隙が出来る。

 

「今のうちに集結してっ!!」

 

 誰かの言った言葉で

 レア達は、1ヶ所に集まる。

 

「・・・あれ。

 アナタ達は・・・」

 

「援護に来たぜ」

 

「今度は、私達が助ける番だから」

 

 援護に来たのは、魔族のチーム。

 その中心に居るのは

 

 レイス=ジャハル

 ファナ=リドルド

 

「まあ、あんた等には

 いつぞや世話になったみたいだからな」

 

「もう、何でそう上から目線なのよ」

 

 いつも通りのレイスに、ファナが突っ込む。

 

「よかった。

 2人とも生きてたのね」

 

 ホッとした顔のレナ。

 

「ええ。

 アナタ達も無事でよかったわ」

 

「まあ、借りを返しにきたとでも思ってくれ」

 

 会話をしながらも、周囲に残っているゴーレム達を蹴散らしていく。

 先ほどまで劣勢だったのが嘘のように

 一気に攻勢へと転じていた。

 

 全てを倒すと、門まで逃げ込む。

 周囲に敵や味方が居ないことを確認してから門を閉める。

 

「・・・そう言えば、名乗ってなかったわね。

 

 私は、レア=レイセン。

 この娘は、イオナ=リハート」

 

 紹介されてイオナも頭を下げる。

 

「そう言えばそうだったな。

 

 俺は、レイス=ジャハル。

 こっちは、ファナ=リドルド」

 

「ファナって呼んでくれていいわ。

 よろしくね」

 

「こちらこそ。

 私のこともレアって呼んでくれて構わないわ」

 

 そう言って握手をする2人。

 

「グアアアァァァッ!!!」

 

 突然の叫び声に

 全員が門の上に出る。

 

 すると門の前には

 いつの間にか、大量のゴーレム達が迫っていた。

 

「とりあえず、まずは

 あいつらの始末からかな」

 

「ええ、そうね。

 

 みんなっ!

 いくわよっ!!」

 

「俺達も負けてられないっ!

 いくぞっ!!」

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

「ガガアアァァッ!!!」

 

 炎の矢が、文字通り雨のように降り注ぐ。

 

「くっ・・・!!

 これじゃ前に出れないぞっ!!」

 

「何人かで防御魔法を使えば―――」

 

「馬鹿野郎っ!

 それぐらいで何とかなる訳ないだろうっ!!」

 

 砲撃種の大軍が

 魔法を乱射しながら行軍していた。

 

 それを止めるために

 数多くの生徒達が集まっていたが

 圧倒的な物量の前に、多くの生徒が

 戦死もしくは負傷していた。 

 

「だが、ここを抜かれる訳にはいかない。

 この先の大通りまで進まれたら

 両側の連中が、挟み撃ちにされてしまうっ!」

 

「―――だったら、押し返せば問題ありませんわ」

 

 突然、後ろから声をかけられた

 生徒達は、一斉に振り返る。

 

 そこには、一人の神族女生徒。 

 

「グアァァァッ!!」

 

 ゴーレムが、後ろから現れた女生徒に

 大量の炎矢を放つ。

 

「この程度の攻撃で―――」

 

 翼を開いて足元に魔法陣が出現する。

 

 そして炎矢が迫る中、魔法陣から放たれた光が

 周囲を照らす。

 

 魔力による発光が収まり

 視界が戻ると、生徒達は驚きの表情のまま固まる。

 

 周囲が氷に覆いつくされ

 大量の炎矢も、空中で凍りつき

 地面に落ちていた。

 

「―――『氷の騎士』と呼ばれるワタクシを

 倒せるなど、思っていませんわよね?」

 

 彼女は、かつて亜梨沙との戦いに敗れた

 名門レーベルト家の長女。

 

 アクア=レーベルト。

 

「グガガッ!!」

 

 周辺のゴーレム達が、一斉に集まりだす。

 

 更に膨れ上がるゴーレムの軍団。

 

「数を揃えた所で、所詮は烏合の衆。

 ワタクシの相手では、ありませんわ」

 

 そう言い放つアクアだが

 明らかな数の差。

 

「おいっ!

 無理せず隠れろっ!!」

 

 近くで隠れていた魔族男生徒が

 アクアに声をかける。

 

「ご心配なく。

 あの程度・・・相手にもなりませんわ」

 

 そう言って手のひらに魔力を集める。

 

「ガァァァッ!!」

 

 ゴーレム達が示し合わせたかのように

 一斉攻撃を仕掛けてくる。

 

 まさに炎の雨というような大量の炎矢。

 

「光栄に思いなさい。

 我がライバルを倒すために編み出した

 新しい技の実験体となれるのですからっ!!」

 

 そう言って集めた魔力を開放する。

 

「さあ、全ての者に永遠の静寂を。

 ―――アブソリュート・ゼロッ!!!」

 

 まるで周囲の氷が侵食していくかの如く

 一瞬にして全てのものが氷に閉ざされる。

 

 その光景に見ていた生徒達は

 再び口をあけて呆然としていた。

 

 燃えていた家。

 飛んできていた大量の炎矢。

 ゴーレム達。

 

 全てが凍っていた。

 

「・・・ブレイクですわ」

 

 剣を天へと掲げながらアクアが

 そう呟くと、凍っていたゴーレム達が

 全て一気に砕け散る。

 

 粉々になった氷の結晶が宙に舞い

 幻想的な世界のようになっていた。

 

「・・・すごい」

 

「・・・これが、噂に名高いレーベルト家の力」

 

 やがて周囲から興奮気味に声があがる。

 

「さあ皆さん。

 このワタクシが居るかぎり

 この場は、誰も通しませんことよっ!!」

 

 その言葉に諦めかけていた生徒達が

 再びやる気を取り戻す。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

「はぁぁっ!!」

 

 飛び込んだ勢いのまま

 正面にいたゴーレムを、一瞬で撃破する。

 

「甘いっ!!」

 

 その横を縫うように

 正確な槍による突きが、奥に居たゴーレムを倒す。

 

「爆ぜろっ!!」

 

 周囲に集まろうとしていたゴーレム達を

 一撃で壊滅させる。

 

 それでもスグにゴーレム達が集まってきて

 彼らを包囲する。

 

 彼らは、防衛線をしている訳ではない。

 自ら前へと出て、攻め込んでいるのだ。

 

 味方の防衛ラインは、とっくに下がっているのに

 彼らだけは、この場を維持し続けていた。

 

「わかっていたけど、きっついねぇ」

 

 堪らずに弱音を吐いたのは、ギル=グレフ。

 

「いいからさっさと手を動かせ」

 

 ギルと入れ替わるように動いて

 槍を振るうのは、アレン=ディレイズ。

 

「ここで止まる訳には、いかんのだっ!」

 

 周囲に魔法を放ってゴーレムを

 けん制するのは、ヴァイス=フールス。

 

 彼らは、ある目的のために

 あえて前へと進んでいた。

 

 それでも、度重なる戦闘で

 疲労の色が出ていた。

 

「ガガガッ!!」

 

 孤立している彼らに

 容赦なく襲い掛かるゴーレム達。

 

「くっ!」

 

 倒しても倒してキリが無い。

 周囲は、敵だらけ。

 

「一度、隠れてやり過ごすっての手だぞ」

 

 あくまで正面から前進することを選ぶヴァイスに

 ギルが、声をかける。

 

「そういう訳には、いかんのだっ!

 私にも、意地というものがあるっ!

 譲れないものがあるっ!

 

 命を賭してでも成さねばならぬものがあるっ!!」

 

 そう叫ぶヴァイスに向かって

 ゴーレムが3体同時に飛び掛る。

 

「・・・なっ!?」

 

 しかし空中で、ゴーレム達は

 魔力コアを破壊されて崩れ落ちる。

 

「―――威勢が良いガギどもじゃね~かっ!」

 

「まあ彼も成長した、ということでしょうか」

 

「どちらでも構わん。

 我々のやることに影響が無ければな」

 

「それにしても、我々以外にも

 こんなことをしている連中が居たとはな」

 

「それが魔族の、しかも学生というのだから

 何とも言えない話よね」

 

 次々と現れるのは

 神族軍の制服を纏った集団。

 

「そこの小僧。

 ここは、我々が引き受けてやろう。

 

 さっさと行くが良い」

 

 奥から最後に現れたのは

 いかにも歴戦の兵という感じの男。

 

「お前たちは・・・」

 

 その顔ぶれにヴァイスが言葉を詰まらせる。

 

 ギルやアレンも驚きの表情をしている。 

 

「『命を賭してでも成さねばならぬものがある』・・・か。

 

 その信念が本当ならば、貫き通してみせろっ!

 さあ、早く行くがいいっ!!」

 

「・・・感謝する」

 

 ヴァイスは、彼らに一礼すると

 ギル達と共に先へと進む。

 

「・・・ふっ。

 魔族から礼を言われるとはな・・・」

 

 そう呟くと、儀式兵装を取り出す。

 

 周囲には、既に彼らを取り囲むようにゴーレム達が

 集まってきていた。

 

「我ら『第3特別遊撃隊』の力を

 愚か者共に見せ付けてやれっ!!」

 

「うおおぉぉっ!!!」

 

 掛け声と共に周囲に散開して

 ゴーレム達を次々に撃破していく様子は

 まさに歴戦の兵といえる強さだった。

 

 

 各地で激戦が繰り広げられている頃。

 

 学園の外にある森林を利用して

 ゴーレムをやり過ごしている者達が居た。

 

「本当に来るんでしょうね?」

 

 そんな疑問を口にしたのは、フィーネ。

 皆が戦っているのに自分達だけは

 こうして隠れていることに不満げだ。

 

「もう少しの辛抱だ。

 あまり殺気立つと見つかるぞ」

 

 それをなだめるのは、リピス。

 ここで見つかっては、何の意味が無い。

 

 彼女だけでなはく

 後ろに居る亜梨沙や、セリナにまで

 同じことを言われていた。

 

「落ち着きがないのも困り者よね」

 

「・・・アナタにそう言われるってことは

 よっぽどなんでしょうね。

 

 少し頭を冷やさなきゃ」

 

「ちょ、それどういう―――」

 

「いいから騒がないで」

 

 イリスにまで注意されるなんてと

 言いたげなフィーネに、イリスが反論しようと

 するが、咲耶に口を塞がれる。

 

「・・・皆さん、来ましたよ」

 

 小声だが鋭い声に

 全員が、一斉に気配を最大限に消す。

 

 すると奥の方から独特な足音と共に

 その主が姿を現す。

 

「・・・あれが、魔導機兵」

 

 巨人が騎士の鎧を着ているような

 そんな巨大なものが歩いてくる。

 

 しかも1体ではなく何体もだ。

 

 

 ―――魔導機兵

 

 はるか昔の大戦で使用された古代技術で作られた兵器。

 強襲型魔法剣などと同じ失われた過去の遺産。

 

「稼動するものが発掘されたなんて

 聞いたことがないですよ」

 

「それも多分、向こうの力って所でしょうね」

 

 驚きながら呟く亜梨沙に、咲耶が答える。

 

「どちらにせよ、アレを学園都市に近づける訳にはいきません」

 

「そうだ。

 あれの背中にある魔導砲は

 城塞すら一撃で破壊する火力があるとされているからな」

 

 セリナとリピスが、今回の目的を口にする。

 

 偵察部隊の報告で、発見することが出来た魔導機兵。

 これが学園都市に迫ってしまえば

 魔導砲の一斉攻撃によって、防衛どころの話ではなくなる。

 

 だからこそ、敵陣の中へ突入して

 脅威となる魔導機兵を排除し、かつ逃げ延びることが可能な

 戦力として、彼女らが選ばれた。

 

 いくら防衛線に成功しようとも

 この魔導機兵が1体でも残ってしまえば

 何の意味もない。

 

 近づく部隊に息を殺して待つ咲耶達。

 

 ―――そして。

 

「いくわよっ!!」

 

 その声と共に一斉に飛び出す彼女達。

 

 近くに居たゴーレム達を蹴散らしながら

 魔導機兵まで一気に迫るために全力で走る。

 

 それに気づいた魔導機兵達も彼女らの方を向く。

 

「ここは、絶対に通さないわよっ!!」

 

 フィーネの言葉と共に

 全員が一斉攻撃を開始して

 周囲に爆音が響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 種族を超えて ―完―

 

 

 

 

 

 




まず、ここまで読んで頂きありがとうございます。

今回は、最終決戦的な感じだったので
登場キャラが多すぎて収拾つかない・・・。

そしてどうしてもダイジェストっぽくなってしまうのが
私が、まだまだ素人だということなのかも知れないですが・・・。

暇つぶしがてらに読んで頂けると幸いです。


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 絶望からの刺客

 

 

 

 

「遅いっ!」

 

 蹴りによる一閃で、ゴーレム達が崩れ落ちる。

 

「はっ!!」

 

 横では、正拳突きでゴーレムが吹き飛ばれている。

 吹き飛んだゴーレムが、周囲のゴーレムを巻き込んで

 壁に激突する。

 

「もらいましたよぉ~」

 

 壁にまとめられたゴーレム達の上から

 大きな鎚が降って来る。

 

 地面を揺るがすほどの一撃で

 魔力コアごと粉砕されて、砕け散る。

 

 激戦地となっている場所の1つでは

 

 アイリス=カチス

 カリン=ヤクト

 リリィ=コネクト 

 

 この竜族の3人が中心となり防衛していた。

 

 竜族の次代を担う者として

 徹底的な訓練をしてきた彼女達は

 更に平行世界という記憶を得て

 その才能を開花させていた。

 

 圧倒的なまでの戦いに

 周囲の生徒達も気合が入る。

 

「竜族ばかりに良い格好させるかよっ!」

 

「俺達だって、まだまだやれるぜっ!!」

 

 魔法による援護攻撃で、周囲を固めることにより

 効率よく防御出来ていた。

 

「第ニ部隊、魔法攻撃っ!!

 第三部隊、後退支援っ!!」

 

 それは、戦いながらも部隊指揮をしている

 アイリスの功績が大きい。

 

 今までの経験と、種族間の問題が無い状態なら

 彼女の指揮経験は、立派な武器となっていた。

 

 

 一方、学園の本陣では

 マリアが唸っていた。

 

「・・・私が前線に立てないとはなぁ」

 

 正直な話。

 

 マリアやオリビア、そしてセオラなど

 大戦争で、その名を轟かせた者達が

 最前線に立つことが被害を抑えるという点でも

 理想的である。

 

 だが、学園都市全体を使用した防衛線において

 都市全体の防衛を考慮しつつ、その場の判断で

 被害を最小限に抑える判断や指示を出せる者は

 やはり実戦経験や部隊指揮経験を持つ者に限られてしまう。

 

 本来ならば、自らが最前線に立ちたかったという想い。

 だからこそ、戦況が伝わってくるごとに唸り声をあげてしまう。

 

 ・・・まあ単純に地図と、にらめっこというのも性に合わない。

 

「しかし、あの娘らに任せると決めたのだ。

 それを信じてやらねばな」

 

 一度大きく深呼吸をすると、矢継ぎ早に指示を出す。

 

「私が今、出来ることは被害を最小限にすることだ」

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

「邪魔よっ!!」

 

 咲耶の一撃で、ゴーレムが倒れていく。

 

 魔導機兵に迫る彼女達は

 その行く手を遮るゴーレムの集団を蹴散らしていた。

 

 さすがに、学園都市の最高戦力だけあって

 その殲滅力は、凄まじいものがある。

 

 学園都市の激戦区よりも数が多いゴーレム達を

 一瞬で壊滅していく。

 

「このまま駆け抜けるぞっ!!」

 

 リピスを先頭にゴーレムの群れを抜け切る。

 

 その時だった。

 

 物凄い地響きが周囲に鳴り響き

 地面が揺れているように感じる。

 

「な・・・あれはっ!?」

 

 先頭に居たリピスが、驚きの声をあげる。

 全員が、その声に釣られて

 正面に視線が集まる。

 

 山の手前にあった大きな森から出てきたのは

 巨大な城塞のような建物。

 それが移動しているのだ。

 

「移動要塞・・・ッ!?」

 

 それを見たセリナも声をあげる。

 

「移動要塞って何なのっ!?」

 

 フィーネも驚きを隠せない表情をしながらも

 セリナに詰め寄る。

 

「移動要塞とは―――」

 

 

 ―――移動要塞

 

 魔導機兵と同じく古代兵器の1つ。

 城塞のような建物が巨大な魔力結晶によって

 移動することから、その名がつけられた。

 

 だがこれも魔導機兵と同じく

 廃墟同然のようなものしか発見されておらず

 動くことは、もちろん不可能であり

 未知の部分が多すぎて手がつけられていないものである。

 

「―――ですから、完全に動くものなんて・・・」

 

「どうやら、相手は

 よっぽど私達を脅威に感じているってことでしょうね」

 

 セリナ達とは対照的に咲耶は、あくまで冷静に話す。

 

「これは、二手に分かれるしかないだろう。

 

 知識のある私とセリナで、移動要塞を潰す。

 

 フィーネは、要塞への道を確保して貰う。

 当然、咲耶達への援護も頼む。

 

 咲耶達は、魔導機兵の破壊だ。

 無理そうなら足止めだけで構わない。

 

 我々が城塞破壊後に、フィーネと合流して

 そちらに向かうまで耐えてくれればいい」

 

「逆にこっちが先に全部潰して、援護に行ってあげますよ」

 

 ニヤッとした顔で、そう言う亜梨沙に

 全員が笑顔になる。

 

「全員、無事で勝ちましょうっ!!」

 

 咲耶の掛け声に、全員で手を合わせて声をあげる。

 

 そして綺麗に散開して走り出す。

 

 

 

 

 

 絶望からの刺客

 

 

 

 

 

「風間流 山津波」

 

 その一撃で、魔導機兵の片足が崩れ落ちる。

 

「風間流 水平連斬」

 

 その一撃で、崩れた片足の代わりに地面についていた手が

 潰されて魔導機兵は、盛大に倒れる。

 

 何とか起き上がろうとした瞬間。

 

「―――風間流 五光」

 

 2本の刀から放たれる一瞬の5連撃に

 胸部にある魔力コアが破壊され、魔導機兵は機能停止となる。

 

 彼女達もまた、数々の経験と知識により

 更に上の力を手にしていた。

 

「へぇ、やるじゃない」

 

 愉しそうな声で、腕の儀式兵装を振り回しながら

 イリスは、亜梨沙の戦いぶりに感心する。

 

 イリスの腕に当たったゴーレム達は

 全て一撃で魔力コアごと吹き飛ばされて土塊となっていく。

 

「二人とも、強すぎるだけだと思うけどね」

 

 横から飛んできた炎矢を盾で吸収した後に

 正面のゴーレムに盾を向け直す。

 

「リバースッ!!」

 

 盾から炎矢が出現すると、そのままゴーレムの魔力コアを貫いて破壊する。

 

「でもまあ、私は

 私の出来ることをただやるだけ」

 

 そう言いながらも、また1体のゴーレムを破壊する咲耶。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

「消えなさいっ!!」

 

 巨大な炎が、周囲全てのゴーレムを飲み込む。

 その中から無効種だけが無傷で現れるも

 フィーネの薙刀によってあっさりと撃破されていく。

 

 圧倒的な戦いで、次々とゴーレムを撃破し

 その数を減らしていくフィーネ。

 

 何度目かになる魔法を放った時だった。

 

「―――ッ!?」

 

 放った魔法が、まるで跳ね返されるように

 自分へと返ってきたのだ。

 

 咄嗟に跳躍して回避する。

 

「さすがは、姫だ」

 

「・・・アナタは、確か」

 

 フィーネの前に現れたのは―――

 

「私は、偉大なる貴族 ゴルダ=ハーン」

 

 尊大な態度で現れたのは

 かつて強硬派として人界との戦争を起こして

 マリアによって処刑された1人。

 

 今は、記憶が戻った瞬間に

 魔界から追放されるという目に遭い

 身を隠していた、ゴルダだった。

 

「自分から死ぬために出てくるなんて

 ・・・手間が省けて助かるわ」

 

 そう言うと八翼を広げて魔力を収束させる。

 

「ファイア・ボール!」

 

 巨大な火球をゴルダに向かって放つ。

 だがゴルダは、逃げる様子も無く

 少し大きめの盾を前に出す。

 

 その盾に火球が直撃した瞬間だった。

 

「―――ッ!?」

 

 火球が、跳ね返り

 フィーネに向かって飛んできたのだ。

 

 何とか横に跳躍して回避する。

 

「ふはははっ!

 どうです、この儀式兵装の力はっ!!」

 

「・・・どうしてアナタが儀式兵装を2つも持っているのよ」

 

「さすがは、魔王の娘なだけはある。

 そう、これは私が神より授かった新たな力だっ!」

 

「神から授かった?」

 

「そう、神だ。

 魔界を追放された私に、神が現れた。

 

 『世界を統べる力をやろう』と。

 それがこの力。

 

 かつて魔王が持っていた、四界最強の盾っ!!

 全ての魔法を反射する圧倒的な力っ!!

 

 そして更にこの翼っ!!」

 

 そう言って翼を広げるゴルダ。

 背中には、黒い八翼。

 

 元は、二翼しかなかったはずのゴルダに

 何故、八枚もの翼があるのか。

 

 理由を考えていると咲耶の言葉を思い出す。

 

「(そうか、これが相手の干渉・・・)」

 

「私が、新たなる魔界の指導者となるのだっ!

 

 手始めに、貴様や目障りだった王妃どもも

 まとめて殺してくれるわっ!!」

 

「面白いこと言うじゃない。

 そこまで言うからには、この場で殺されても

 文句はないわよね?」

 

「くくくっ!

 いかに魔王の娘とて、魔法の通じぬ私に

 勝てる訳がないだろう!」

 

 数秒ほど、両者は睨みあって

 そして激突した。

 

 

 同じ頃。

 要塞の入り口では

 2人が戦っていた。

 

「これでは、キリがないな」

 

 リピスが思わずため息をつく。

 

 それもそのはず。

 先ほどから倒しても倒しても一向に数が減るようには

 見えないからだ。

 

「・・・リピスは、先に行って下さい」

 

「いや、しかし―――」

 

「移動要塞をあまり前に進ませる訳には行きません。

 万が一、学園都市が見える場所まで行かれたら

 士気に関わります」

 

 もし学園都市で戦う生徒達が

 こんな巨大兵器を見てしまっては

 大幅な士気の低下は、免れない。

 

「ここは、突破力のある方が

 先に進むべきでしょう?」

 

「・・・わかった。

 無理は、絶対にするなよ」

 

「もちろんです」

 

 笑顔でそう答えるセリナ。

 

 リピスは、一瞬にして正面の敵を撃破すると

 そのまま駆け抜けていく。

 

 それからしばらく、終わりの見えないゴーレムとの

 戦いを続けている時だった。

 

 周囲のゴーレム達が、突然攻撃を止めて

 綺麗に整列する。

 

 その様子が不気味で、構えを解かずに様子見をするセリナ。

 

「これは、これは。

 誰かと思えば、神族王女様ではないですか」

 

 丁寧な口調で1人の魔族が現れる。

 

「アナタは―――」

 

 目の前に現れたのは

 かつて、フィーネに敗れた魔族。

 数々の被害を出した張本人。

 

 ダレス=ドーレ。

 

「お初にお目にかかります」

 

 丁寧な一礼をするダレス。

 

「アナタは、どうして『そちら側』なんですか?」

 

「・・・さすがは、二つ名を持つ神界期待の王女様ですね。

 スグにそれに気づくとは、予想以上ですよ」

 

 軽く咳払いをしてから、ダレスは語りだす。

 

「私は、自分の研究を思い通りに行えればそれでいい。

 その環境を用意してくれる。

 

 それさえ問題無ければ、あとは世界がどうなろうと

 知ったことではないのですよ」

 

「・・・アイスジャベリンッ!」

 

 セリナは、一瞬の隙をついて

 突然の氷槍による攻撃を行う。

 

 確実に捉えたと思った一撃だったが・・・。

 

「甘いですね」

 

 そう言って儀式兵装の剣で氷槍を『切り払う』。

 氷槍は、霧散して消えていく。

 

「―――それは」

 

「いや、私もね。

 アレ以来、色々な知識が入ってきましてね。

 

 そこから更に研究した結果。

 どうやら種族を統一した方が効率的であるということが

 解ったのですよ。

 

 その研究結果がコレです」

 

 仰々しく構えるダレス。

 そして―――

 

「魔眼・・・開放ッ!!」

 

 その言葉と共にダレスの瞳には

 魔力が色を持つ。

 

「さあ今度は、こちらから行きますよっ!」

 

 そう言うとセリナに向かって一直線に走ってくるダレス。

 

「たあっ!」

 

 掛け声と共に迫ってきた

 ダレスの一撃を防ごうとするも―――

 

「―――ッ!?」

 

 剣状態の儀式兵装の刀身部分である

 魔法剣が受け止めることも出来ずに切り裂かれる。

 

 何とか横に回避が間に合うも

 スグに距離を取るために、更に後ろに跳躍するセリナ。

 

 驚きながらも剣状だった儀式兵装を槍に変化させる。

 魔法剣である剣状態では、魔法を斬ることが出来る

 魔眼相手では話にならないのは、先ほどの結果の通りだ。

 

「確か、神王 アルバート=アスペリアが

 魔眼使いだったと聞いたことがあります。

 

 どうですか?

 お父上の得意とされた能力を相手にする気分は?」

 

「はっ!」

 

 これが答えだとでもいうような

 強烈な槍による一撃を、難なく受け止めるダレス。

 

「まあ、強化魔法が無ければこんなものですね」

 

 そう言いながら翼を広げる。

 灰色の八翼が展開される。

 

「神族ばかりを合成した結果

 どうにも色の悪い翼になってしまいましたが

 まあ八翼という力の方が重要でしょうか」

 

 八翼による魔力収束で、一瞬にして強化魔法を使用するダレス。

 

「さあ、アナタも取り込んで差し上げましょう」

 

 強力な強化魔法による一撃を

 横に跳躍して回避するセリナ。

 

 すると地面に当たった一撃で、大穴が出来る。

 

「(強化魔法も無しで受け止める訳には、いきませんね)」

 

 和也の記憶を持つ彼女は、魔眼に対しての確かな

 知識を持っているため、強化魔法などを全て切っていた。

 

 そのため、圧倒的な力差が生まれてしまっている。

 

 ダレスの動きに合わせるように

 距離を取り続けて反撃の機会を探るセリナは

 再び槍を構えるのだった。

 

 

 そして、奥へと向かったリピスは

 ようやく要塞の中心部である

 動力部へと到達する。

 

 中には、巨大な魔力コアがあった。

 

「・・・これを破壊すれば」

 

「そう簡単にいきますかな?」

 

 突然声をかけられて、振り返ると

 そこには、神族の老人が1人。

 

「・・・メリィから聞いている。

 1人、首謀者が逃亡中だったとな。

 

 よくもまあ、我ら竜族で遊んでくれたものだ」

 

 目の前に現れたのは

 かつてイリスを作り出した研究者の中心人物。

 

「遊んだなどと滅相も無い。

 我々は、新しい兵士の研究をしていただけ」

 

「魔族といい、神族といい。

 よほど兵士強化の実験が好きなのだな」

 

 思わずため息が出る。

 そうまでして、戦争がしたいのかと。

 

「まあ、我々にとっては

 研究さえ出来れば、それでいい」

 

「・・・なるほど。

 それがお前たちの『条件』か」

 

「・・・はっはっはっ!

 さすがは、竜王女。

 

 理解が早い」

 

「だが、残念だったな。

 この私の目の前に現れた以上

 生きて帰れるなどと、思うなよ」

 

「ふははははっ!

 それは、こちらの台詞ですよ」

 

 そう言うと、老人の身体に変化が起きる。

 3mほどの大きさになり、背中には巨大な竜の翼。

 顔も前に尖った形にとなって、頭には角が出てくる。

 やがて見た目が完全に、ドラゴンとなってしまう。

 

「・・・なんだ、その醜い姿は」

 

「これぞ、金竜の始祖の力ッ!!

 あんな『出来損ない(イリス)』とは違う

 竜族本来の力を完全に解放した姿ッ!!」

 

「・・・どこまでも、竜族を侮辱するか」

 

 儀式兵装を構えるリピス。

 

「さあ、我が実験の礎となれることを

 喜ぶがいいっ!!」

 

 1匹の竜と化した老人が

 勢い良くリピスに飛び掛る。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 一方、ひたすら前へと進んでいたヴァイス達は

 ようやく目当てのものを見つける。

 

 そこには、一体の魔導機兵の姿。

 亜梨沙達が戦っている魔法機兵とは

 姿形が、少し違う改装されたものだ。

 

 その魔力コアには、一人の魔族が埋め込まれていた。

 それは、ヴァイス=フールスだった。

 

「やはり、存在していると思っていたよ」

 

 学園都市に迫る、その魔導機兵を見たヴァイスが語り出す。

 

「かつて私は、力を求めた。

 何者にも負けない、最強の力を。

 

 だが結果は、この通りだ。

 安易な力に頼り、自己研鑽をしなかったものの末路。

 数多くの世界で私は、ただ自身の力に溺れ

 他者を見下すだけの、どうしようもない屑だった」

 

 一度、大きく深呼吸。

 そして。

 

「だが私は、運がいい。

 平行世界とはいえ、やり直す機会を得た。

 

 そしてこうした自らの行いを省みることで

 ようやく思い出すことが出来た。

 

 何故、剣を手にしたのかという初心を。

 私は、何のために強さを求めたのかということを」

 

「へぇ、そいつは何だい?」

 

 隣に立つギルが、その先を促す。

 

「私は、憧れたのだ。

 

 歴史書で語られる、戦場で活躍した者達達に。

 人々を守るために、自らの命を賭して戦った者達に。

 そして、未来を信じて戦った全ての勇者達にッ!!」

 

 ヴァイスは、勢い良く儀式兵装の剣を手にする。

 

「だからこそっ!

 目の前にある我が過ちを

 自らの手で清算しなければならんのだっ!!」

 

 目の前で魔導機兵のコアになっているのは

 かつての弱かった自分。

 そんなものを放置しておきたくはない。

 

 だからこそ、誰よりも先に自分の手で潰すために

 ヴァイスは、ここまでやってきたのだ。

 

「まさか、アンタから

 そんな言葉を聞ける日が来るなんてなぁ。

 

 ・・・でもまあ、嫌いじゃないぜ」

 

 双剣を構えて、ヴァイスより前に出るギル。

 

「自らの過ちを認め、前へと進む。

 簡単そうに見えて実は、なかなか出来ることではない」

 

 ギルとは、反対側からアレンが槍を手に前へと出る。

 

「私1人では、遺憾ながら破壊は不可能だろう。

 だが、3人ならば破壊も可能なはずだ。

 

 悪いが協力してくれるとありがたい」

 

「いいってことよ。

 それに、こういう熱い展開も悪くはないってね」

 

「我が槍が、道を切り開こう。

 存分に、本懐を成し遂げるがいい」

 

「うむ。

 では、いくぞっ!!」

 

 ヴァイスの掛け声で、一斉に飛び掛る3人だった。

 

 

 

 

 

 絶望からの刺客 ―完― 

 

 

 

 

 

 



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 反撃

 

 戦いが始まって、もうかなりの時間が経っていた。

 

 しかし、各地の戦闘は

 一向に終息する気配はない。

 

 戦う力の無い者達も

 怪我人の手当てや、食事の提供。

 安全が確保されている場所なら見張りや伝令などにも

 積極的に参加していた。

 

 誰もが、それぞれ自分が出来ることで戦っていた。

 誰一人として諦めている者は、居なかった。

 

 そして彼らも

 決して諦めてなどいなかった。

 

「はっ!!」

 

 魔力の練りこまれた鋭い槍の一撃が

 強化魔導機兵の片足を捉える。

 

 だが、強力な炎盾が現れて

 その一撃を防ぐ。

 

 その直後、魔導機兵による

 大振りな腕による一撃が、アレンを襲う。

 

 咄嗟に回避するも、その威力に

 吹き飛ばされ、壁に激突する。

 

 その衝撃に思わず口から血を吐く。

 

 そこへ、魔導機兵が足をあげ

 踏み潰そうとしてくる。

 

「させるかっ!」

 

 片方に炎。

 片方に風。

 

 飛び出してきたギルが

 それぞれの強化魔法を付与した双剣で

 魔導機兵の足を受け止める。

 

 魔導機兵そのものの質量的な重量もあるが

 何より、魔力まである踏み付けに

 防いでいるギルの顔も歪む。

 

「これでどうだっ!!」

 

 起き上がったアレンが

 槍に魔力を収束させて、ギルの横から

 突き上げる。

 

 力の均衡が崩れ、足が浮き上がった形になって

 バランスを崩す魔導機兵。

 

 だが、魔導機兵の腰付近にある

 魔導砲台から今度は、無数の魔力塊が飛んでくる。

 

 明確な魔法ではないものの、それなりの威力がある攻撃が

 雨のように降って来る。

 

「やらせんぞっ!」

 

 六枚の翼を開いたヴァイスが

 横から大量の炎矢を発射する。

 

 その全てが、魔導砲台から発射された魔力塊に命中して

 空中で爆発を起こす。

 

「まさか、そこまでの魔法制御が出来たなんてな」

 

 こちらに逃げてきたギルが、愉しそうにヴァイスに声をかける。

 

「・・・」

 

 ギルの言葉には、反応せず

 ヴァイスは、ただ魔導機兵のコアを見つめている。

 

「・・・こちらの攻撃は

 ほとんど防がれている。

 

 あの魔力の壁というべき防御を何とか出来なければ

 我々に勝ち目は無いぞ」

 

 アレンが、冷静な意見を述べる。

 

 彼らが相手にしているのは、通常の魔導機兵ではなく

 力ある者をコアとした生体兵器だ。

 

 コアとなっている者の命すら燃やし尽くして魔力と成す

 まさに後先考えていない、その場限りの究極兵器。

 

「・・・あのコアにさえ届けばな」

 

「あのコアに届けば確実に破壊出来るのかい?」

 

 何気なく呟いたヴァイスの一言に、ギルが食いつく。

 

「方法が無い訳ではない。

 確実に・・・とは言い切れないが・・・

 いや、確実に破壊してみせよう」

 

「おっ、いいねぇ。

 そういう台詞があってこそって感じだな」

 

「だが、正直な所。

 近づくことさえ容易ではない」

 

 彼らは、幾度と無く接近して攻撃してきたが

 その強力な魔力や魔導砲などの武器。

 そしてその大きな巨体によって、思うような攻撃が出来ていなかった。

 

 しかも攻撃するたびに強力な反撃までついてくる。

 防御や回避でやり過ごそうにも、広範囲に強力な魔力を

 撃ち込んで来るため、どうしても防げない一撃によって

 ダメージが蓄積されていく。

 

 魔導機兵にたどり着くまでの戦闘を含め

 彼らは、長期間に渡る連戦を強いられており

 体力的にも精神的にも限界が近づいていた。

 

 

 

 

 

 反撃

 

 

 

 

 

 魔導機兵が、その巨大な拳を振り下ろしてくる。

 

「よっと」

 

 軽快な声で、その一撃を避けるギル。

 

「さすがに、そこまで大振りだと――ー」

 

 相手を見上げたギルが、咄嗟に飛び退く。

 

 その直後、ギルが居た場所に降り注ぐ魔力塊の雨。

 

「あっぶねぇ~」

 

「気を抜いているからだ」

 

 横から飛び出したアレンが

 足元を狙って槍を突き出す。

 

「ウインド・クローッ!!」

 

「ライトニング・アローッ!!」

 

 ギルの放つ雷の矢と

 アレンの放つ風爪が

 同時に魔導機兵の足元へ飛んでいく。

 

 だが、激しい魔力の衝突が起こるも

 結局は、かき消されてしまう。

 

「やっぱり、ダメか」

 

「やはり無理か」

 

 それは、同時だった。

 

 今の一撃は、まるで効果がないということが

 解っていたというようなことを同時に呟く。

 

 それに気づいてお互いに相手を見る。

 

「・・・やはり、そういうことか」

 

「それは、お互い様でしょ?」

 

 主語の無い会話だが

 2人の間に、何かしらが飛び交う。

 

「お前たち、何をしている?」

 

 その様子に、たまらずヴァイスが声をかける。

 

「な~に、お互いそろそろ保険をかけるのは

 止めにしようかって話だよ」

 

「まあこれで無理なら、本当にどうしようも無くなるからな」

 

 2人の言葉に、首をかしげるヴァイス。

 

「要するに、コアまでの道は作ってやるって話さ。

 ・・・アンタのためにな」

 

「そういうことだ」

 

 そう言うと2人は、武器を構える。

 翼を開き、魔力を収束する姿からも

 次の一撃が、特別なものだと感じ取れた。

 

 だからこそ、ヴァイスも無言で翼を開く。

 彼の誇りそのものと言ってもいい六翼が、勢い良く広がる。

 

 それを合図に、2人が走り出す。

 

 途中で止まったギルを気にすることなく

 アレンは、魔導機兵の近くまで一気に近づく。

 

 そして―――

 

「我が槍は、全てを刺し貫く魔槍ッ!

 

 たとえ四界最高の盾であっても、貫いてみせるッ!!

 

 くらえッ!!

 

 ペネトレイターァァァァッ!!!」

 

 アレンは、そう叫びながら槍を投げる。

 

 凄まじい突風をまき散らしながら、投擲された槍が

 魔力壁に激突し、一瞬でその壁を貫通し

 魔導機兵の左足首に命中すると、足首そのものを吹き飛ばすように貫通して

 更に奥へと飛び去っていった。

 

 足が潰れたことで体勢を崩す魔導機兵は

 左腕を地面について、身体を支える。

 

「さ~すが。

 ナイス壁抜きだぜ」

 

 壊れた建物の上に立っていたギルが、そんな軽口をいう。

 

 だが、彼の瞳は真剣そのもの。

 

 手には、雷魔法で形成されている巨大な弓矢。

 

「アロー・レインッ!」

 

 放った矢が魔導機兵の目の前で炸裂して無数の矢になり

 雨のように降り注ぐ。

 

 しかしそれを魔導砲が、綺麗に撃ち落としていく。

 

「ホーミング・アローッ!!」

 

 連続して放たれた矢は、魔導砲の攻撃を回避するように動きながら

 先ほどの矢雨を囮とするように、魔導砲の前へとたどり着く。

 

 魔導砲の前に迫った矢は、その正面で突然爆発すると

 周囲の矢を巻き込んで大爆発となる。

 

 それにより魔導砲は、ダメージを受けて

 一時的に動かなくなる。

 

「ウイークショットッ!!!」

 

 最後に放たれた矢は、真っ直ぐに飛ばず変則的にあり得ない軌道を描きながら

 魔導機兵に向かって飛んでいく。

 

 そして地面についた魔法機兵の腕の隙間から腕の中へと入っていく。

 

 狭い中を決してぶつからずに進み、そのまま魔導機兵の肩部の内部に到達すると

 急激に魔力が膨れ上がって大爆発を起こす。

 

 魔導機兵の肩部構造の一番弱い部分が的確に破壊され

 腕が見事に破壊されて地面に落ちる。

 

 放った矢が、これだけ正確な動きをするということは

 それだけの魔力制御が出来ていないと無理だろう。

 

 おそらくこれほどの制御が出来る者は、本当に数えるほどである。

 

 左側の足と腕が潰されたことにより体勢を維持出来なくなった魔導機兵が

 地面に倒れこむ。

 

 地面まで3mぐらいの位置まで下がってきた魔力コア。

 その場所に、いつの間にかヴァイスが入り込んでいた。

 

 少しの間、無言でコアに内蔵されている自分の姿を見つめていたヴァイスだったが

 ゆっくりと右手をコアに向ける。

 

「・・・これが、私の答えだ」

 

 そう言うと一気に魔力が膨れ上がる。

 

 その圧倒的な魔力量に、ギルとアレンは

 思わず息を呑む。

 

 これほどの魔力は、そう簡単に集められるものではないからだ。

 

 その瞬間。

 

 魔導機兵の巨体が、ヴァイスの炎魔法によって宙に舞う。

 

 ありえないほど強力な一撃に吹き飛ばされた魔導機兵。

 更に、その身体を周囲の炎がまとわりつくように集まり

 やがて巨大な龍の姿となって全てを燃やし尽くす。

 

 魔導機兵を完全に消滅させると

 3人は、その場にへたり込む。

 

「あ~・・・。

 

 何とかなったな」

 

「ああ、まったくだ。

 おかげで力を使い切ってしまった」

 

「これで、ようやく

 私は、前に進めるというものだ」

 

 それぞれが感想を口にする。

 ここまでの連戦で、さすがの彼らも

 もはや立ち上がる気力も残っていないようだった。

 

「ま、あとはお姫様達が何とかするだろ」

 

「あとは、結末を見守るだけということか」

 

「・・・それも悪くはないな」

 

 3人は、空を見上げる。

 

 その顔は、まるで勝利を確信しているかのような

 清々しい笑顔だった。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 暗い建物の中で、剣戟が響く。

 

 周囲のゴーレム達は、まるで通路に立つ石造のように動かない。

 

 何故なら、それは

 ゴーレムの主が、そう命じているからだ。

 

 それは、男の自信。

 それは、男の余裕。

 それは、男の傲慢。

 

 最高の力を得た男は

 それを過信し、一騎打ちを選んだ。

 

 圧倒的なまでに押し込んでいる現状だけを見れば

 それは間違っていないようにも見える。

 

 だが、それは彼女にとって

 絶好の機会でもあった。

 

「逃げてばかりでは、勝てませんよっ!」

 

 強化魔法を利用した一撃を振り回すダレス。

 

 時折、その余波で周囲のゴーレムが破壊されるが

 まったく気にもしていない。

 

 吹き飛ばされて壁に激突したセリナだが

 何とかスグに立ち上がる。

 

 八翼による強力な魔法と

 魔眼による対魔法能力によって

 セリナの力は、そのほとんどが潰されていた。

 

 彼女の儀式兵装は

 剣状では、刀身が魔法だ。

 

 弓では、放つ矢が全て魔力矢。

 

 そして通常の魔法だけでなく強化魔法なども

 使用すれば、全て魔眼で見切られてしまう。

 

 だからこそ、槍を中心に

 普段は、あまり使用しない斧や鞭などといった

 多種多様さで、何とか戦っているという状態になっている。

 

 この世界は、魔法が中心だ。

 

 魔法の使用が前提とされている戦いにおいて

 魔法を封じられることが、これほどまでに辛いことであるということは

 経験して初めて知ることになるだろう。

 

 更に厄介なのは、相手は問題なく魔法を使えるという点だ。

 

 それによって、戦いは

 ほとんどが一方的な感じになってしまっている。

 

 だが、そんな中

 セリナは、違うことを考えていた。

 

「そろそろ大人しく死になさいっ!!」

 

 強化魔法が、これでもかとかかっている一撃を

 あえて受け止める。

 

 本来なら受け止められるはずもないのだが

 受け止める一瞬で、一気に強化魔法を自身にかける。

 

 これによって『事前にかけていたため、動きを見切られる』という

 ことを防いだのだ。

 

「小賢しい真似です。

 ですが、いつまでそれが出来ますかね?」

 

 スグにセリナの槍を払い退けると

 立て続けに剣を振るってくる。

 

 その一撃に、またもセリナは

 受け止めるような姿勢をする。

 

 ただ先ほどと違うのは

 直前に正面に大きな氷盾が展開されたという点だ。

 

「その程度の防御などっ!!」

 

 今のダレスにとって

 正面に展開された盾は、魔眼によって簡単に処理出来るものだ。

 

 構わず盾ごと、その奥に居るであろうセリナに向かって剣を振り下ろす。

 

「―――ッ!?」

 

 盾が砕けた先には、誰も居なかった。

 

 居ると思っていたセリナは、予想よりも人間1人分ほど

 横にズレた位置で、既に槍を構えていた。

 

「ハアァァッ!!」

 

 ダレスの不意をついた正確な一撃。

 

 様々な強化魔法を使用していたダレスが咄嗟に避ける。

 

 肉を切り裂くような音と共に

 大量の血が周囲に飛び散る。

 

 何とか後ろに下がったダレス。

 

 槍による一撃を放ったままの姿勢のセリナ。

 

「・・・よくも。

 よくもやってくれましたねぇッ!!!」

 

 強烈な殺気と共にセリナを睨みつけるダレス。

 

「(・・・浅かった。

  でも、思った通り)」

 

 地面に落ちたダレスの左腕を一瞬だけ確認すると

 セリナは、ダレスに向き直る。

 

「・・・アナタは、力に振り回されているだけ。

 最高の力も、それを使う者によっては無意味となる」

 

「なんだとッ!?」

 

「・・・きっと。

 きっと、あの人ならこんな手には

 引っかからなかった。

 

 八翼や魔眼は、決して万能の力じゃない」

 

「そんなはずはありません。

 

 これぞ神殺しすら可能な最高の力ッ!!」

 

 一瞬にして切られた腕が再生する。

 

 そして叫びながら襲い掛かってくるダレスの攻撃を

 綺麗に受け流す。

 

 時折、攻撃を受け止めたりもするが

 先ほどのカウンターが気になるのか

 ダレスがあまり強引に攻めてこないこともあり

 セリナは、余裕を持って攻撃を回避することが出来る。

 

 何度目かの攻撃を氷盾で防御しようとするセリナ。

 

 それをそのまま切ったダレスは

 またも、それがフェイントだと気づく。

 

 ・・・いや、気づいていたからこそ切ったのだ。

 

 その振り抜いた剣を素早く切り返して

 セリナよりも先に攻撃を仕掛ける。

 

 だが、ダレスが見たのは

 既に弓状となった儀式兵装を構えていたセリナだった。

 

 至近距離から放たれた魔力矢を

 何とか身体を捻って回避する。

 

 顔の横をギリギリ通過する魔力矢を見送るように

 首を動かして回避したダレスだったが

 視線をセリナに戻した時―――

 

「―――ッ!?」

 

 儀式兵装を剣状にして強化魔法を全力で付与し

 ダレスに向かって剣を振り抜く瞬間のセリナの姿が

 ダレスの瞳に映る。

 

 崩れた体勢では、満足に受け止めることも出来ず

 大きく吹き飛ばされて壁に激突するダレス。

 

 そう、魔眼はあくまで

 『視界内の魔力』しか視ることは出来ない。

 ダレスとの戦いの中で、セリナはそれに気づいたのだ。

 

 そしてもう1つ彼女が気づいたことがある。

 

 それは―――

 

「・・・やはりアナタは、戦士ではない。

 どれだけの力を得ても、戦いの感覚や経験までは

 補うことは出来ません」

 

 ダレスが、いくら強力な力を得ても

 彼は『魔法学者』だ。

 

 普通の相手であるなら問題にならないこと。

 

 だがダレスが相手にしているのは

 

 その神族特融の魔力制御の高さと

 理論的に相手を追い詰める変幻自在の戦いから

 二つ名を得るに至った一流の戦士だ。

 

 決して力によるゴリ押しだけで勝てる相手ではない。

 

「み・・・認められるわけがないっ!!

 

 この力こそ、最強の証っ!!

 私の研究こそ、最高なのですっ!!」

 

 周囲に待機させていたゴーレム達を次々と取り込むダレス。

 

 そして5mほどの巨体となり

 もはや人間としての形ではなくなる。

 

 セリナは、儀式兵装の剣を構えると、八翼を広げる。

 

「私は・・・ただ、あの人の剣として。

 

 あの人の前に立ちはだかる全ての障害を切り払う」

 

 急激に魔力が集まり、魔法陣が出現する。

 

「我が言葉は、太古より続く盟約を代行せしもの。

 ゆえに代行者として命ずる。

 

 古の力、元素を司る精霊達よ。

 我が呼びかけに応え、あるべき力を我が前に示せ」

 

 膨大な魔力が、セリナの儀式兵装に集まっていく。

 

 そして彼女の手には、漆黒の剣が現れる。

 

「この世界は、私が治めてこそ

 永遠の楽園となるのですッ!!」

 

 化け物となったダレスにセリナは剣を構えると

 

「ハァァァァッ!!!」

 

 掛け声と共に魔剣を『投げる』。

 

 高速で迫ってくる魔剣に、圧倒的なまでの魔力で

 障壁を作るも、全てが魔剣によって分解され

 壁の意味を成さない。

 

 ダレスは、魔眼を利用して

 何とかギリギリの位置で、魔剣を避けることに成功する。

 

 魔剣が横を通り抜ける瞬間に、腕が分解されるも

 それは、さして重要なことではない。

 

 避けた今こそが、最大のチャンスなのだ。

 

 次に魔剣を作られる前に、決着をつけてしまえばいい。

 そして彼女を取り込めば、あの魔剣すら

 自分の物とすることも可能だ。

 

「―――モード・アンサラ―」

 

 勝利を確信していたダレスは

 彼女が呟いた言葉に気づいてはいなかった。

 

 残った腕に剣を持ち、強化魔法をありったけ付与して

 振り下ろそうとした瞬間だった。

 

 ダレスの後ろから、突如何かが高速で飛んできて

 彼の背中に突き刺さる。

 

 ―――それは、セリナが投げた魔剣フラガラッハだった。

 

「な、なぜ―――」

 

 何かを言おうとしたダレスだったが

 魔剣の魔力によって一瞬にして分解されてしまい

 跡形もなく消え去る。

 

「魔剣は、決して相手を逃がしません」

 

 そう言って剣を回収したセリナだったが

 回収した瞬間、その場に倒れた。

 

「・・・少し、力を使い過ぎましたか。

 

 ・・・あとは、お願いしますね」

 

 そう言うと、彼女は気を失った。

 

 

 

 

 彼女達が戦っている頃。

 

 彼女達に負けないほどの激戦を繰り広げている者が1人。

 

「アア、愚カダ。

 ドレダケ努力シヨウトモ、貴様ニ勝チ目ナド無イ」

 

 まるでこの世全ての憎悪であるかのような

 怨念をまとった巨人が、魂すらも凍り付いてしまうような

 声を発する。

 

 普通の人間なら、その声を聴いただけでも

 発狂してしまうだろう。

 

「・・・もう、何度目だ?

 いい加減、聞き飽きたぜ、そのセリフ」

 

 既にボロボロの身体にも関わらず

 ゆっくりと立ち上がる少年。

 

「諦めるのは、お前の方だ。

 

 ・・・今度こそ、必ずお前に勝つッ!!」

 

「一体、貴様ハ何者ダ?

 

 タダノ人間ガ、ココマデ戦エル訳ガナイ。

 

 カツテ、数多クノ者達ガ我ニ挑ンダガ

 ソノ全テガ、無駄デアルト気付イテ

 我ニ降ッタ。

 

 何故、貴様ハ諦メナイ?

 何ガ貴様ヲ支エテイルノダ?」

 

「・・・俺は、ただ守りたいだけだ。

 

 彼女達を。

 

 そして、あの世界をッ!!」

 

 そう叫ぶと、黒く輝く刀を手にして

 少年は、巨人に向かって駆け出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 反撃 ―完― 

 

 

 

 

 




まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。

更新が大幅に遅れてしまい大変申し訳ありません。
私的に色々とありすぎて、ちょっと時間が無かったもので・・・。
とりあえず半分ぐらいは片付いたので
まあ何とか投稿を再開できるようには、なりました。

もう最後なんだから、まとまった時間が欲しいと
思ってしまいます。
とりあえずは、更新ペースを何とか戻せるように
していこうという予定ではあります。


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 誰が為に

 

 周囲に爆音が響く。

 

 強力な魔法が、周囲に飛び交い

 すっかり戦場は、荒れ地と化していた。

 

 自身の魔法が弾かれても

 それを気にすることなく強気に攻め続ける姿勢に

 ゴルダは、必死に応戦する。

 

 強力な強化魔法を互いに付与しているためか

 その一撃ごとの威力が、もはや並の竜族を超える一撃となっている。

 

 それらがぶつかるたびに周囲に衝撃が走る。

 

 後ろに下がるフィーネは、けん制とばかりに

 火弾を大量に放つ。

 

 本来なら、狙いを定めて全てフィーネに跳ね返せばいいのだが

 今のゴルダに、その余裕はない。

 

 とりあえずで正面に出された盾が、全ての火弾を弾く。

 それら全てが流れ弾と化し、周囲を破壊する。

 

 後ろに下がったフィーネが

 スグにゴルダに向かって突進する。

 

 フィーネの一撃を剣で何とか受け止めるが

 体勢が崩れる。

 

 その隙に側面に回り込んだフィーネが片手をゴルダに向かってかざす。

 魔力が一瞬にして収束し、炎が飛び出す。

 

 だが、ゴルダも反射の能力がある盾をフィーネに向ける。

 

 このまま魔法を放てば自身に跳ね返る。

 

 しかし、フィーネは構わずそのまま魔法を放つ。

 

 フィーネとゴルダの間に魔力による強力な発光現象が起きた後

 大爆発が起こる。

 

 フィーネは、大きく吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。

 明らかに無謀な攻めによるダメージだ。

 

 だがゴルダも至近距離での魔力爆発による衝撃を殺しきれず

 後ろに大きく吹き飛ばされていた。

 

 

 

 

 

 誰が為に

 

 

 

 

 

「く・・くそっ。

 なんて奴だ」

 

 ゆっくりと立ち上がったゴルダは

 倒れているフィーネに向かって、そう言葉を発する。

 

 一方的な展開になると思われたが

 フィーネによる捨て身の攻撃多いためか

 ゴルダも、ダメージが蓄積してきていた。

 

 そのフィーネも、立ち上がる。

 明らかにダメージを負っており、ボロボロだ。

 

 魔族は、本来その圧倒的な魔力による

 魔法攻撃を主体として戦うことが一般的である。

 

 しかし反射能力を持つ儀式兵装の盾によって

 その主力である魔法を実質無効化された状態では

 攻撃の手数が減ってしまう。

 

 しかもゴルダは、超常的な力で

 八翼を手に入れている。

 

 血族による増幅が無いとはいえ、それでも八翼の魔力は

 かなりのものであり、魔力的にも明確な差が開きにくい。

 

 捨て身の一撃を決めるつもりでなければ

 ゴルダに対してダメージを与えることが難しいどころか

 一方的に攻められてしまうことになる。

 

 攻めているのは、フィーネだが

 実際にピンチなのもフィーネであった。

 

 そんなことを知ってか知らずか

 ゴルダが、翼を広げる。

 

「小賢しい小娘めっ!

 そろそろ死んでしまえっ!!」

 

 無数の火矢がフィーネに向かって飛ぶ。

 

「はぁっ!!」

 

 弾装を使用し、武器に魔力を付与したフィーネが

 その魔力を放射状に吹き飛ばす。

 

 フィーネの放った魔力にぶつかった火矢は

 次々と爆発して、結果的に相殺される。

 

 爆発により発生した煙の中から

 突然、ゴルダが飛び出してくる。

 

 振り抜かれた一撃を何とか受け止めるフィーネ。

 

 だがそれにより体勢が崩れる。

 

「そこだっ!!」

 

 その隙を見逃さなかったゴルダが

 フィーネの横腹に蹴りを入れる。

 

「―――くぅっ!!」

 

 八翼の強化魔法により竜族並の一撃になっている蹴りを

 まともに受けて、苦痛の表情のまま大きく吹き飛ばされるフィーネ。

 

「いくら抵抗してみたところで、この私に勝てる訳がないっ!!

 

 あの訳の解らないところで戦う人族のゴミ屑も、消滅するだろうっ!

 

 そして学園もっ!

 他の世界もっ!

 全て破壊され尽くすっ!

 

 その後に残った全てを、私が統べるのだっ!!

 

 絶望という名の破壊者が過ぎ去った世界こそ

 選ばれた者だけが集う世界となるだろうっ!!

 

 私は、その世界を統べる王となる男だっ!!」

 

 そんなゴルダの演説を無視するかのように

 ヨロヨロと立ち上がるフィーネ。

 

「・・・その執念だけは、認めよう。

 だが所詮は、無駄な努力だ。

 

 何故なら、私に勝つことなど出来ないのだからっ!!」

 

 大きく高笑いをするゴルダに

 刃を向けるフィーネ。

 

「・・・私は、負けない。

 負ける訳には、いかない。

 

 私は、あの人の『魔法』なのだから」

 

「ふははははっ!!

 これでトドメだっ!!

 

 フュリオス・フレイムゥゥッ!!!」

 

 高圧縮された魔力によって

 地獄の業火を思わせるような真紅の炎が

 マグマのように噴き出す。

 

「私は・・・私は・・・ッ!!!」

 

 

 ―――まだ、あの人に

     何も返せていないッ!!!

 

 

 真紅の炎が、フィーネを呑み込む。

 

「ふははははっ!!

 私こそ、真の王なのだっ!!」

 

 勝利を確信し、有頂天になるゴルダ。

 

 だが、その瞬間だった。

 

 炎の中から突然、光が天へと立ち昇る。

 その勢いで、真紅の炎は吹き飛ばされる。

 

「な・・・なんだっ!?

 何が起こったのだっ!?」

 

 しばらく光の柱が輝くが、スグにそれは消え去った。

 

 そして光の柱があった場所には―――

 

 光輝く黄金の翼を広げたフィーネの姿。

 

「―――」

 

 あまりにも神々しいその姿に

 ゴルダも一瞬、我を忘れて見入ってしまう。

 

 フィーネは、ゆっくりと閉じていた瞳を開ける。

 

 周囲に広がる、この温かみを知っている。

 それは、とても懐かしいものだ。

 

 彼女の周囲に自然と魔力が集まり始める。

 その圧倒的なまでの量に、ゴルダは意識を取り戻す。

 

「な・・・な、なんだっ!?

 何なのだ、それはっ!?」

 

 半ばパニックになりながら叫ぶゴルダ。

 気づかないうちに、足が自然と後ろに下がる。

 

 ゴルダが見たもの。

 それは、フィーネの翼。

 

 

 『黄金色に光輝く十二枚の翼』

 

 

 本来、翼とは

 ごく稀ではあるが、本人の成長と共に

 その枚数を増やすことがあると言われている。

 

 そして儀式兵装。

 この兵器も、本人の魂の一部であるためか

 使い手の成長と共に進化することがあるとされている。

 

 果たして、彼女の場合は

 どちらであったのだろうか。

 

 その十二翼が集める魔力を

 更に増幅し、2つの儀式兵装で制御する。

 

 翼に関しても、本来の使い手の許可無しに

 その力の全てを発揮しているように見える。

 

 まるで何もかもを呑み込んでしまうかのような

 巨大な黒い影が周囲に現れ出す。

 

 魔力が限界を超えて視覚で認識出来るまでになっているのだ。

 

 それだけではない。

 

 周囲の瓦礫や小石などが、魔力によって分解され

 純粋な魔力塊として取り込まれていく。

 

「ぶ・・・物理的な、ものを

 ・・・ま、まま魔力として、取り込む・・・だと・・・ッ!?」

 

 魔法が、物質を隷属しているのだ。

 そんなこと、ありえるわけがない。

 

 周囲の大気が、既に彼女の支配化にあることに気づくが

 その時点で、既に全てが遅かった。

 

「私は・・・ただ、あの人の最強の魔法として。

 

 あの人の障害となる全てを薙ぎ払う」

 

 ゆっくりとフィーネが片手をゴルダに向ける。

 それを見たゴルダは、その場で動けなくなる。

 

 それは圧倒的なまでの恐怖。

 彼にとって、フィーネの行動は『死刑宣告』と同義なのだ。

 

 彼女の手に、ありえないほどの魔力が収束する。

 

 ここでゴルダは、ようやく手に持っている盾に気づく。

 そしてそれを正面に出すと

 ありったけの防御魔法で、自身を包む。

 

「い、嫌だっ!!

 死にたくないっ!!

 俺は、真の王な―――」

 

 命乞いなのか。

 それとも錯乱しているだけなのか。

 大声で泣き喚くゴルダ。

 

 その瞬間、フィーネが言葉を発した。

 

「―――プロミネンス」

 

 言葉と共に『何か』が周囲に放たれる。

 

 そしてゴルダは、自分がどうなったのか

 知るよりも早く、塵1つ残さずに燃え尽きた。

 

 それは、まるで消滅させたかの如く

 一瞬の出来事だった。

 

 更にフィーネの魔法の余波で

 かなり遠くに居たゴーレム達まで

 魔力の影響を受けて消滅していく。

 

 そして周囲全ての敵が消え去った頃

 フィーネの翼から輝きが消え、元の漆黒の八翼へと戻っていた。

 

 翼が元に戻った瞬間、フィーネはその場に倒れそうになり

 儀式兵装を地面に突き立てて、何とか堪える。

 

「あとは・・・任せたわよ」

 

 そう言うと、やはり限界だったのか

 その場に座り込み

 彼女は、そのまま意識を失うのだった。

 

 

 フィーネの戦いが決着した頃。

 

 未だ決着が付かない戦いもあった。

 

 少し薄暗い、大きな部屋の中で

 2つの影が何度もぶつかる。

 

 弾装が排莢される音と共に

 魔力が膨れ上がる。

 

 金麟と合わさり、強力な一撃と化した攻撃。

 

 その一撃に対応すべく、同じく金麟をまとった一撃が放たれる。

 

 互いの一撃がぶつかり、激しい光を放つも

 威力が相殺され、後ろに下がることになるリピス。

 

「なんて力だ・・・」

 

 竜族は、元々その圧倒的な身体能力で

 戦う種族であり、特にその腕力と脚力は

 多種族では、ありえないほどの性能である。

 

 だからこそ、同種族との戦闘ぐらいでしか

 基本的に『力負け』するようなことはない。

 

 そして竜族の頂点である金竜。

 一般の竜族をはるかに超える能力を持つとされる

 その金竜である彼女が、力負けをしているのだ。

 当然、彼女にとっても初めての経験だろう。

 

 気づけば既に相手が目の前まで迫ってきている。

 振り下ろされる腕から逃げるように、横へと回避する。

 

 相手の側面に回り込んだ形になり

 チャンスとばかりに前へと出ようとした瞬間。

 

「―――ッ!!」

 

 竜人は、着地した片足のみで

 リピスのいる方向へと思いっきり跳躍するように

 体当たりをしてくる。

 

 咄嗟に両腕で受け止めるが

 その威力に、大きく後ろに吹き飛ばされ

 地面に2度ほど叩きつけられ、ようやく止まる。

 

「素晴らしい。

 実に素晴らしい。

 

 これぞ最高の力」

 

 自身の姿を確認しながら

 感慨深げに、そう呟く竜人と化した研究者。

 

「・・・そうして得た力で

 一体何をするつもりだ?

 

 まさか、神になる・・・などと言うつもりではないだろうな?」

 

 立ち上がったリピスが

 竜人に声をかける。

 

 その質問に、数秒ほど悩むような仕草を見せた後

 

「それも、悪くないかもしれんな」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、そう答える竜人。

 

「好奇心の先は、俗物的な野心か。

 

 ・・・愚か者だとは思っていたが

 これほどまでとはな」

 

「何とでも言うがいい。

 既に金竜を超え、他種族相手でも

 圧倒出来るほどの力を得たのだ。

 

 いずれは、あの神のような存在すら

 超える日も来よう」

 

「利用されているだけとも知らずに

 よくもまあ、それだけのことが言えるものだ」

 

「利用しているのは、お互い様だ。

 ・・・もっとも、最後に笑うのは

 この私だがなッ!!」

 

 ノーモーションからの素早い突進。

 そして一気に距離を詰めると

 そのまま両腕で掴みかかるようにリピスに迫る。

 

 相手が迫った瞬間に大きく上へと跳躍し

 空中で半回転すると、天井に足をついて

 そこから一気に急降下する。

 

 まるで稲妻のような一撃を

 後ろに下がって回避する竜人だが

 真下に着地したリピスは

 着地時に屈んだ動作を利用して

 瞬時に前への突進に切り替える。

 

 竜人は、避けきれないと判断して

 両腕で正面をガードする。

 

 そこへ勢いと弾装を利用したリピスの右ストレートが入る。

 周囲に衝撃波が走るほどの一撃だ。

 

 だが、両腕でしっかりガードしている竜人は

 ビクともしない。

 

 構わずそのまま、今度は左の一撃。

 弾装を利用しての攻撃は、またも防がれるも

 竜人を少し後ろへと押し下げる。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 リピスの声と共に

 物凄い速さと威力のある連続攻撃が開始される。

 

 連装式の特徴を最大限に生かし

 1回ごとの攻撃に弾装を利用しての最大攻撃。

 

 一撃ごとに周囲の空気が揺らぐのが見えるほどの

 強力なラッシュ攻撃に、防御し続ける竜人だが

 後ろに少しづつ下げられていく。

 

 数えきれないほどの連撃の後

 最後の一撃とばかりに

 一歩大きく踏み込んだ一撃を放とうとするリピス。

 

 その瞬間を見逃さずに、ガードを解いて

 大きく踏み込み、気合の入った一撃を放つ竜人。

 

 互いの一撃が激突して、激しい音と衝撃波が

 周囲を駆け抜ける中、2人はお互いに

 後ろへ大きく吹き飛ばされる。

 

 互いに壁に激突するが、スグに立ち上がる2人。

 

「・・・さすが金竜というべきか。

 まさか、何の改良も無しで、ここまでの力を持つとはな」

 

「他人を実験道具にしか見ていない貴様では解るまい。

 人の意思の力というものを」

 

「そんな数値化不可能な不明瞭なものなど

 初めから考慮などしておらんわ。

 

 調べれば、必ずそこには原因がある。

 それさえ解れば、その強さも解明出来よう」

 

「・・・やはり愚か者だな」

 

「そこまでいうのなら、お前は

 何のために戦うというのだ?」

 

「・・・私はな、決めたのだ。

 あの男のために戦うと。

 

 あの無鉄砲な男を護るための盾として。

 全ての障害を寄せ付けぬ四界最強の盾になると」

 

「・・・ふ、ふははははっ!!

 他人のためだとっ!!

 

 下らぬっ!!

 実に下らぬっ!!」

 

「下らないと思うのなら・・・試してみるか?」

 

「・・・ほぅ。

 

 面白いっ!!

 ならば、我が最高の一撃を受けてみよッ!!」

 

 竜人の腕に、急速に金麟が集まる。

 それは、一瞬にして通常の竜族の気麟を軽く超える量だ。

 

 対してリピスも金麟を集める。

 魔力を練り込んで更に強力なものにしていく。

 

 そして弾装を使用して、更に魔力量を上げる。

 

 だがここで竜人が異変に気付く。

 周囲を突然見渡してから、再びリピスを見る。

 

「・・・ど、どうして薬莢がないのだ。

 

 そんなことは、どうでもいいっ!!

 何故、弾装を使用し続けられるのだっ!?

 

 それは、本当に弾装かっ!?」

 

「・・・やれやれ。

 

 煩いだけでなく、質問も多すぎる。

 それに、いちいち答えると思っているのか?」

 

 リピスの素っ気ない返答の間にも

 排莢され続ける弾装の弾。

 

 弾装とは、単装式と連装式がある。

 

 単装式は、その名の通り1度使用してしまうと

 再び弾を込める必要がある。

 

 その分、連装式と違い火力が高い。

 

 連装式は、数発~数十発の弾を1度に

 入れておくことが可能であるため

 火力は落ちるが、連続使用が可能となっている。

 

 ただ制限があり

 『1度の攻撃で1つしか弾装が使用出来ない』

 という点である。

 

 1回の攻撃に複数の弾装を使用出来ないという制限のために

 単装式を超える火力が出せないのだ。

 これに関しては、使用者のためのリミッターではないのか?

 と考えられている。

 

 しかし、今のリピスは

 金麟と魔力を溜めつつ、練り合わせている段階であり

 攻撃をしている訳ではない。

 にも関わらず、今も絶えず弾装が壊れたように

 使用され続けている。

 

 そして本来なら、排莢された薬莢は

 物理的なものなので、その場に残る。

 しかし先ほどまで使用していたはずの薬莢は

 周囲の何処にも、その残骸が無く

 更にリピスが今、排莢しているものも

 地面に落ちた瞬間に、消えているのだ。

 

「まさか・・・儀式兵装の特殊能力かっ!?」

 

「・・・ようやくそれにたどり着いたか。

 研究者の癖に、意外と頭の回転が鈍いな」

 

「・・・1度に連続使用可能?

 いや、では何故薬莢が消えるのだ?

 

 それに、既にかなり使用したはずの弾装が

 何故まだあんなに使用出来るのだ?

 

 弾装の補給など、していないはず―――」

 

 ブツブツとリピスの儀式兵装に関しての推測を立てる。

 

 だが、ふと意識がリピスの腕に向いた瞬間。

 彼の思考は、停止する。

 

 それは、圧倒的なまでの力。

 リピスの周囲には、普段は視えないはずの金麟が

 嫌というほどハッキリ見える。

 

 練り込まれた魔力がケタ外れすぎて

 視覚化出来るまでになっているのだ。

 

 そこで彼は、ようやく気づく。

 

 時間を与えるほど、自身が不利だということに。

 

「うおおおぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 慌てて全力の『竜(ドラゴン)の息吹(ブレス)』を放つ竜人。

 魔導機兵をまとめて破壊出来るほど強力な一撃がリピスに迫る。

 

「・・・私の儀式兵装の能力は

 弾装の無限供給と1度に使える弾装制限の解除だ。

 

 儀式兵装が得る特殊能力は、何も1つだけではないということだ」

 

 リピスは、必殺の構えをとる。

 

 その間も、弾装は使用され続けている。

 空気すら振動するほどに高まる力。

 

「これは、私からの手向けだ。

 

 ―――『竜(ドラゴン)の鎮魂歌(レクイエム)』」

 

 

 その一撃は、相手の息吹を一瞬で呑み込み

 奥にあった動力コアをも巻き込んで、全てを吹き飛ばす。

 

 移動要塞の中心から、天へと昇る光。

 光は、雲をも吹き飛ばし

 ひたすら天に向かって昇っていった。

 

 やがて光の柱は、その姿を消す。

 

 全ての中心点では、竜人も動力コアも

 跡形も無く消えていた。

 

 ただ、そこには勝者であるリピスが居るだけ。

 

「・・・ああ。

 今回は、本当に疲れたな。

 

 あとは任せて、ゆっくりさせてもらうとしようか」

 

 そう言うと、大の字になってその場に倒れるリピス。

 

 

 同じ頃、外でも戦いが終わろうとしていた。

 

「そ~れっ!!」

 

 イリスは、近くに居たゴーレムを掴むと

 そのまま魔導機兵に向かって投げつける。

 

 ゴーレムが足に当たって大きくバランスを崩して倒れる魔導機兵。

 

 その隙を逃さず、コアまで迫った亜里沙が強力な一撃を叩き込み

 魔力コアを破壊する。

 

 コアが破壊され、崩れ落ちる魔導機兵。

 

「これで最後のはずだけど・・・」

 

 亜里沙は、周囲を確認しならが呟く。

 

 既に数十体を超える数を破壊し

 もう周囲には、確認出来ない。

 

「大きいのは、居なくなったってことは

 あとは小さいのだけってことかしら?」

 

 イリスも、残っているゴーレムの動きを見ながら

 確認するように言う。

 

 だが、次の瞬間だった。

 

 巨大な音と共に、近くにあった山の影から

 大きな巨人が現れる。

 

「・・・まさか、アレも魔導機兵っ!?」

 

「お~。

 おっき~ねぇ~」

 

「でも、上半身しかありませんよ?」

 

 山の影から現れたのは

 通常よりも巨大な魔導機兵。

 

 だが、亜里沙の指摘するように

 上半身だけの出来損ないだ。

 

 しかし―――

 

 両腕をまるで二脚銃架のようにして

 背中に背負った巨大な魔導砲を突き出した。

 

 魔導砲が、設置されると

 急激な魔力収束が起こる。

 

「魔力の収束量が異常すぎますよっ!!」

 

「周囲のゴーレム達から吸い上げているのね・・・っ!!」

 

 よく見ると、周囲の生き残りのゴーレム達が

 全て崩れていく。

 

 そのせいで、発射に必要な魔力が一瞬にして溜まってしまう。

 そしてそのまま発射体勢に入る。

 

 狙いは、もちろん―――

 

「この方角は・・・学園都市ですっ!!」

 

「ダメッ!!

 間に合わないっ!!」

 

 魔導機兵を破壊しようにも距離がありすぎた。

 

 そのまま無常にも魔導砲が発射された。

 

 

 

 

 

 誰が為に ―完―

 

 

 

 




まずここまで読んで頂きありがとうございます。

最後の方は、やっぱりバトル回祭りですよね。
わかっていたけど避けられない。
これが王道というものか・・・とかくだらないことを
考えながら作業してたりします。

残すところ、あと1話となりました。
現在進行形で製作中ですので
なるべく本日中には、最終話も
投稿しようという予定ではあります。

・・・予定通りにいくといいなぁ。


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 未来を信じて

 山の影から現れた巨大な魔導機兵。

 だがそれは、上半身だけの出来損ない。

 

 しかし―――

 

 両腕をまるで二脚銃架のようにして

 背中に背負った巨大な魔導砲を突き出した。

 

 魔導砲が、設置されると

 急激な魔力収束が起こる。

 

 周囲のゴーレム達を解体してまで

 一気に魔力を集めていくため

 スグに発射可能な魔力が集まってしまう。

 そしてそのまま発射体勢に入る。

 

 狙いは、もちろん―――

 

「この方角は・・・学園都市ですっ!!」

 

「ダメッ!!

 間に合わないっ!!」

 

 魔導機兵を破壊しようにも距離がありすぎた。

 

 そのまま無常にも魔導砲が発射された。

 

 

 

 

 

 未来(あす)を信じて

 

 

 

 

 

 轟音と共に光の束が駆け抜ける。

 

 まさかの隠し技に、やられたと悔しがる亜里沙だったが

 魔導砲の射線上に人影を見つける。

 

「・・・姫様ッ!?」

 

 魔導砲から発射された光に、咲耶が立ちはだかるように立つ。

 

「モード・ドレインッ!!!」

 

 咲耶の言葉は、一瞬にして魔導砲との衝突時に起きた

 魔力衝突音でかき消される。

 

 一瞬、後ろに飛ばされそうになるも

 何とかギリギリの所で耐えるが、とてもではないが

 あと何秒もつかも解らないほど、圧倒的な差だ。

 

 儀式兵装にヒビが入る音がする。

 

 それでも彼女は、諦めない。

 強襲型魔法剣・紅を持っていた手の方も

 そのまま盾を抑えるために、前へと突き出す。

 

「私は、護ると・・・誓ったのだからッ!!!」

 

 彼女の魂の叫びに応えてだろうか。

 1つの奇跡が起こった。

 

 彼女が居る場所から上へと光が伸びる。

 

 よく見るとそれは『紅』からだった。

 

 そこで彼女は、紅の真の性能に気づく。

 そして―――

 

「紅ッ!!

 完全解放ッ!!!」

 

 その瞬間、上へと伸びていた光が

 巨大な柱と化す。

 

 受け止めていた魔導砲の威力も

 かなり抑えられていく。

 

 紅は、本来

 『外部の魔力を内部に取り込んで刀身を形成する』

 という性質を持っている。

 

 だから専用の施設で魔力を溜める必要がないのである。

 その性質が、盾に吸収されずに零れ落ち

 結局、魔導砲の魔力に戻ってしまう魔力を取り込み

 入りきらない分を、勝手に刀身として出力したのだ。

 

 これは、和也ですら知らなかったこと。

 

 まあ、魔法を正面から吸収しようなんて

 普通は、思わないので仕方がないと言える話ではあるが。

 

 これにより、儀式兵装の盾と

 魔法剣によって、かなりの魔力を受け止めることに成功する。

 

 だが、それでも魔導砲の威力は

 強力なものであった。

 

 後ろに下げられる咲耶。

 殺しきれない魔力によって体中に傷が出来るも

 彼女は、決して逃げようとはしない。

 

「私は・・・絶対に、諦めないッ!!!」

 

 その瞬間、世界全てが光に包まれるような感覚が起こる。

 魔導砲を受け止めていた咲耶を中心に、周囲が光によって白に染まる。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 発光が止まり、ようやく周囲に色が戻る。

 

 すると、発光の中心点には

 防御姿勢のまま立っている咲耶の姿。

 

 だが、すぐに咲耶は

 その場で崩れ落ちるように倒れる。

 

「姫様ッ!!」

 

 慌てて亜里沙が駆け寄って抱き起す。

 

「・・・どう?」

 

「・・・大丈夫。

 気を失っているだけみたい」

 

 イリスの問いかけに、ほっとした表情で答える亜里沙。

 

「そう・・・じゃあ、あとは任せたわ」

 

 そう言うとイリスは

 巨大な魔導機兵に向き直る。

 

 上半身だけの魔導機兵は

 再度、魔力を集めだそうとしていた。

 

「もう1発、撃つつもり?

 悪いけど、その前に終わりよ」

 

 イリスの儀式兵装から

 単発式特融の大きな薬莢が排莢される。

 

 そして金麟と魔力が、儀式兵装に集まる。

 

「・・・意外とやれるものね」

 

 そう呟くイリス。

 

 集まった金麟と魔力を練り上げるのは

 本来、リピスしかしていないことのはずだが

 イリスは、当然のように同じく魔力を練り込んでいた。

 

「まあ、これだけやれれば十分かな」

 

 リピスほどではないが、それでもかなりの力が

 彼女の手元で収束していた。

 それは、かなり離れたこの位置からでも十分だと

 思えるほどに強力な力。

 

「さっさと舞台から退場しなさい。

 

 ―――竜(ドラゴン)の咆吼(バスター)ァァァァァッ!!!」

 

 放たれた一撃は、まるで竜のように

 力強く一直線に飛び

 巨大な魔導機兵の魔力コアを食いちぎるように貫いた。

 

 コアが潰された魔導機兵は

 音をたてながら崩れていく。

 

 最後の魔導機兵が崩れた瞬間だった。

 

 四界中のゴーレム達が、次々と崩れ去っていく。

 

 初めは。何事かと思っていた者達も

 それが自分達の勝利の合図だと知ると

 その場で歓喜して喜んだり

 泣き崩れて座り込む者など

 様々な反応を見せた。

 

 だが数分後には

 四界は、勝利を喜ぶ声で満ち溢れた。

 

 

 

 その様子を知った巨人は

 怒りと疑問の声をあげる。

 

「何故ダッ!!

 オ前達ハ、ドウシテソウ戦エルノダッ!!

 

 絶望ニ支配サレ、世界ノ破滅ヲ願ッタ怨嗟ノ想イヲ

 ソウ簡単ニ覆セル訳ガナイッ!!」

 

「・・・世界は、何も絶望している人だけじゃない。

 

 希望を持って生きている者達だって数多く居るっ!!

 未来(あす)を信じて、必死に生きているんだよっ!!」

 

「ナラバ、私ヲ倒シテ

 証明シテミセヨッ!!

 

 絶望ニ勝ル希望ナドトイウモノガ

 本当ニアルノナラナッ!!!」

 

 巨大な腕が和也に向かって振り下ろされる。

 

 その瞬間―――

 

 和也のはるか後方から

 物凄い数の魔法が飛んできて

 巨人の腕を破壊する。

 

 和也は、驚いて後ろを振り向く。

 

 すると―――

 

 何もない地平線を埋め尽くす、人、人、人の波。

 それは、決して途切れることなく続いている。

 

 数えきれないほどの多くの人が

 こちらに向かって歩いてきていた。

 

 その人々の先頭を歩く者達を見て

 和也だけでなく、巨人ですら息を呑む。

 

 先頭に見えるのは、各種族の歴代の王達の姿。

 

 後ろに続くのは、歴史書に載っているような

 有名な戦士から、その名すら忘れらされたような

 名も無き戦士まで、階級や種族に関係なく勢揃いしていた。

 

「一体コイツラハ、何処カラ現レタノダッ!!

 我ガ世界ニ干渉ナド出来ヌハズナノニッ!!」

 

 巨人が支配する世界では

 干渉力によって送り込まれた和也以外は

 入れないはずの世界。

 

 だが―――

 

「これこそが人々の希望の力。

 アナタの対極に位置する力よ」

 

 それは、何処からともなく聞こえてきた声。

 希望の化身である少女の声。

 

 一定の距離まで近づくと

 一斉に儀式兵装を手にして

 突撃を開始する。

 

 彼らの声は、世界を揺るがすほどの叫び。

 魂の叫びとも言えるその迫力に

 巨人は、無意識に一歩後ろへと下がる。

 

 この瞬間、絶望の化身である巨人は

 初めて『恐怖』という感情を知る。

 

 未来を信じて戦い、そして散って逝った者達が

 世界のために、再び剣をとって立ち上がる。

 

 この奇跡に、思わず涙がこぼれる。

 

 途切れることのない人の波に背を向け

 巨人に向き直る。

 

「これが・・・俺達の答えだっ!!!

 

 俺達はッ!!!

 決して絶望に屈しないッ!!!!」

 

 そう叫びながら、和也も巨人に向かって駆け出す。

 

 

 

 これは、一人の少年の物語。

 

 彼は、壮絶な人生を経験してもなお

 絶望に屈せず、希望と未来を信じて歩き続けた。

 

 その軌跡の物語。

 

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 

 気が付けば光の中に居た。

 

 ふと視線を感じてそちらを向く。

 

「本当に、貴方を選んでよかった」

 

 そこには、見覚えのある姿。

 

 希望の化身・久遠。

 

「ああ、何とかなったよ」

 

 思わず和也は、苦笑する。

 

「それで、これからなんだけど・・・」

 

「なんだ? まだ何かあるのか?」

 

「いいえ。

 これからやるのは、世界の作り直し」

 

「作り直し?」

 

「私達の力の影響で

 世界は、本来の姿からかけ離れすぎた。

 

 そして元に戻すことも不可能。

 だから作り直すしかないの」

 

「・・・そっか」

 

「そこで、貴方にお願いがあるの」

 

「・・・ん?」

 

「世界を作る際の基準を貴方に任せようと思うの」

 

「おいおい、勘弁してくれ。

 そんな責任、欲しくないよ」

 

「これは、世界のために戦ってくれた

 報酬みたいなものだと思ってくれていいわ。

 

 もう消えてしまう私に代わって

 世界を作って欲しいの」

 

「・・・その世界は

 どんな世界でもいいのか?」

 

「ええ、貴方に任せるわ」

 

「・・・よし。

 

 ―――なら」

 

 和也は、心の中で世界を創る。

 

 その一端を見た久遠は、思わず声をあげる。

 

「ちょ・・・ちょっとっ!!」

 

「だって、何でもいいんだろ?」

 

 不敵な笑みでそう答える和也を見て

 久遠は、不満そうな顔をするが

 スグに表情を変える。

 

「・・・なら、私も1つ干渉しちゃおうかな」

 

 

 

 

 

 そして、世界は創り直された。

 

 

 

 

 

 それは『絶望の干渉』が一切無かった世界。

 

 大戦争も、竜王の乱心も、神王の病気も

 

 かつて絶望が干渉したが故に生まれた世界の歪みを

 全て『無かったこと』にした世界。

 

 そこでは、多少の種族間のいざこざはあるものの

 争いの無い、平和な世界。

 

 大戦争で戦死した者達も、大戦争が無くなり

 普通に生活していた。

 

 そんな世界の空に

 世界を覆うほどの巨大な魔法陣が出現する。

 

 そして『記憶の継承』が行われる。

 様々な記憶が世界中の人々の中に現れる。

 

 かつて、大戦争というものが起こり

 世界が争いに包まれる世界を。

 

 いくつもの世界の果てに

 世界の命運をかけた壮大な戦いがあったことを。

 

 一人の人族の少年が

 世界のために戦い続けたことを。

 

 それら全ての記憶が継承された瞬間。

 

 再び世界は、歓喜に包まれた。

 そして死別した者達と、こうしてまた

 暮せているという奇跡に感謝した。

 

 

 

 

 

 ―――そして半年後。

 

 

 

 

 

 学園都市に向かう道を

 1組の冒険者が歩く。

 

 フードを深く被り

 寄り添うように歩いている。

 

「・・・まったく、視界が悪くて仕方がない」

 

「なら、フードをとれば?」

 

「・・・解ってて言ってるだろ?」

 

「さあ?

 どうかしらね?」

 

 あれから、2人は世界を見て回った。

 何より自分の目で世界を見たかったのだ。

 

 そうしてようやく、この学園都市へと帰ってきた。

 

「まさかこんなに有名人になるとはな・・・」

 

「世界を救った英雄だもの。

 仕方がないのではないかしら?」

 

「・・・誰のせいだと思ってるんだよ」

 

 和也は、今の世界を創った際

 隣に歩いている『消えるはずだった』久遠を

 一人の人間として世界に誕生させたのだ。

 

 まさかそんなことをするとは思っていなかった久遠は

 和也のそんな願いの1つに、ささやかながら抵抗すべく

 今までの世界の記憶を、世界全ての人々に

 継承させるという干渉を行った。

 

 そのせいで、こうしてフードで顔を隠していなければ

 どこの誰に出会っても、騒ぎになってしまうのだ。

 

 適当なやり取りをしながら学園都市の門の前まで来る。

 

「・・・あれ?」

 

 和也は、思わず首をかしげる。

 

 普段は開きっぱなしの門が

 閉じられているのだ。

 

「何かあったのか?」

 

 そう言いながら門へと近づく。

 

 そして門の目の前まで来た時だった。

 

「開門ッ!!!

 

 世界を救った英雄のご帰還だッ!!!」

 

「一番初めに英雄をお迎え出来るとは

 光栄でありますッ!!!」

 

 2人の門兵が最上級の敬礼をしながら声をあげる。

 

 和也が驚いている間に

 門が大きな音をたてながら開く。

 

 すると―――

 

 街は、お祭りのような騒ぎだった。

 

 真ん中の道だけ開けられ

 左右には、これでもかというほどの人。

 

 皆が歓声をあげている。

 

「さあ、どうぞっ!!

 お通り下さいっ!!」

 

 門兵に促され、2人は道を歩く。

 

 2人の姿が見えると

 歓声は、悲鳴に聞こえるほど騒がしくなる。

 

 そんな中を驚きながらも歩いていく。

 

 やがて学園フォースの門が見える。

 

 その門の前には―――

 

 魔王と魔王妃。

 神王と神王妃。

 竜王と竜王妃。

 

 天保院家と風間家。

 そしてその関係者達。

 

 更に

 フィーネ。

 リピス。

 セリナ。

 亜里沙。

 咲耶。

 エリナ。

 イリス。

 

 後ろには、アイリス達や

 ヴァイスやギル達も笑顔で立っていた。

 

「ほら、ボケっとしてない」

 

 後ろから久遠に押されて

 前に出る。

 

「・・・ただいま」

 

 何を言うか迷ったが

 やはりこれだろう。

 

 数秒ほどの沈黙の後

 

「和也ぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 彼女達は、眩しいほどの笑顔で

 和也に向かって走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 未来(あす)を信じて ―完―

 

 

Tiny Dungeon Another Story ―完結―

 

 

 

 




まずは、最後まで読んで頂きありがとうございます。

ついに完結致しました。

初めは、こんな大作になると思っておらず
思いがけない1年超えの作品となりました。

思い返せば、当初の予定から
かけ離れたシナリオになり、何度修正したか
覚えていないほどです。

元々は、本家作品の番外編というかFDのような作品である
Endless Dungeon
の製作発表前から始めた企画であり
本家とのネタ被り(妹キャラ・2人目の金竜など)もあり
色々な意味で良い経験をさせて頂いたと思っております。

誤字脱字など、次回作への反省点も多い内容ではありますが
とりあえずは、完成出来てよかったです。

今、読み返すとはじめの方は
何故あんなに本家に寄り添ったシナリオだったのか
自分でも疑問です(笑)
正直、ここまでオリジナル路線でやるなら
完全オリジナルでも良かったかも?と思ったりもしましたが
本家作品があったからこそ、これだけの話が書けただけの話であり
二次だからこその良さもあると再確認も出来ました。

大世界杯(学園都市全てを使ったチームデスマッチみたいなもの)
とかのネタも当初は入れていく予定をしていたのですが
結局は、入れず仕舞いになってしまいました。
まあ機会があれば、おまけ的な感じで
どこかで書けることがあるといいなとは思っています。

少しだけ休憩を挟んでから
見切り発車して失敗した問題作を何とかすべく
作業に戻りたいと思います。

最後になりましたが
初心者の初作品であり、このような駄文にも関わらず
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

もしよろしければ
次回作以降でも、お会い出来ると嬉しいです。

本当に最後まで読んで頂きありがとうございました。


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おまけ編
おまけ1


これは、データ整理中に見つけたものをあげた『おまけ』です。
元々は以下の設定を考えて文章化し、これを見ながら
小説を書いてました。

『このおまけで書かれているのは、あくまで初期設定参考資料です。
 そのため本作とは【設定が異なる部分が多数存在します】』

上記のことを十分ご理解の上で、読んで頂けると幸いです。


ひっそりとタイニーダンジョンを基軸として

2次作品を作ってみよう。

 

 

*世界観

人族・魔族・神族・竜族の4種族が住む大きな大陸がある。

4種族間に交流はあったものの、互いを理解することはなく

神族と魔族では、常に小競り合いが続いていた。

その中でも最弱種族を称され、他3種族から下に見られていた人族だったが

儀式兵装を作った一人の魔術師によって扇動され、他の3種族との戦争を開始。

他種族も、これを機に争い初め、最終的には4つ巴の大戦争へ発展。

数百年以上に渡り、長い大戦争をし続けていたが

10年ほど前、各世界の代表達が死んでいったことで

4種族間で会談が行われることになり結果として

大戦争は停戦という形で、幕を閉じた。

 

停戦から1年後、その教訓を生かし

それぞれの種族が互いを理解し友好関係を築くと共に

次世代の人材育成を兼ねた施設として

4種族が合同出資・運営する学園都市を建設した。

こうして世界は、緩やかに平和への路線を歩むことになる。

 

 

 

 

 

 

「人族とは」

4種族の中では最弱と言われる。

常に下の扱いを受けてきたが、1人の天才によって

儀式兵装と呼ばれる魔法を行使出来る優秀な武器が誕生したことを

きっかけに、世界統一を目指して戦争を起こした種族。

戦争終結後を呼びかけたのも人族。

そのためか、他種族からあまり良いイメージを持たれていない。

儀式兵装を使用しても魔力を増幅する術が無く

高位の魔法は使用出来ない。

ごく稀に、魔族・神族の持つ翼のような魔力増幅を

体内で出来る人間が生まれることがある。

 

「魔族とは」

かつて魔法を使用していた種族。

魔法技術の衰退と共に他の種族同様に魔法が使用出来なくなった。

人族より強靭な肉体を持っている。

自由に出し入れ可能な黒い翼を持っている。

魔族は基本的に全員黒い翼を持っている。

魔法に関しては、攻撃魔法に特化している。

逆に補助系等の魔法操作の難しいものは苦手としている。

神族と特に仲が悪い。

 

「神族」

かつて魔法を使用していた種族。

魔族同様に、魔法が一度失われてしまった関係で現在は

儀式兵装無しでは、行使出来ない。

人族と比べて、若干身体能力は低いが

知能が発達しており、かなり頭の回転も早い。

また仲間意識・集団意識が強く統率力があるため

集団戦闘による強さが神族の強さでもある。

自由に出し入れ可能な白い翼を持っている。

神族は基本的に全員白い翼を持っている。

魔法に関しては、防御系に特化している。

攻撃系魔法も中級程度までは使用出来るので

多種多様な魔法の行使が可能である。

はるか昔より魔族とは半戦争状態だったため、仲が悪い。

 

「竜族」

かつては大空を飛んでいたと言われる種族。

今では翼も無く、容姿も他種族同様に人族と酷似している。

猫のように大きな耳が頭にあり、お尻あたりに尻尾も付いている。

驚異的な身体能力と「気麟(キリン)」と呼ばれる闘気をまとっている。

魔法は、相性が悪いためか攻撃魔法は基本的に使用出来ない。

人族と同じく、基本的には魔力を増幅する術が無いので

防御・補助系も、あまり使えない。

 

竜族は他の種族に比べて子供が極端に生まれにくい種族であると同時に

非常に長寿でもある。

また一定のところで身体の成長が止まるので、見た目も身体能力等も基本的に

死ぬまで若いままを維持しており、見た目では判別出来ないのが

竜族の最大の特徴でもある。

そのため低出産率でも何とか種族として生存出来ているという側面もあるが

他の種族の女性からは強烈な嫉妬と憧れを持たれている。

 

そして竜族の特徴で有名なもうひとつが『生まれてくる子供は

必ず女の子である』という点だ。

竜族の女性が産む子供は必ず女の子しか生まれない。

なので基本的に他種族の男性との間に子供を作らなければならないのだが

種族差別的な要素が未だ色濃いため、どうしても恋愛に発展する確率が低い。

そこに子供の生まれ難さが合わさり、種族的に数が少ないのが現状だ。

しかし人族との間であればこの生まれ難さが解消されるどころか

人間の一般女性と同じぐらいの確率に跳ね上がるため

はるか昔から人族とは友好関係が続いている。

 

竜族の中に男性も居るのだが、それには理由がある。

竜族は、生涯を添い遂げる相手に『竜の祝福』というものを

与えることが出来る。

これを受けると受けた男性は種族が竜族に変換される。

どういう原理か未だに不明ではあるが、この奇跡によって種族の中に

男性を作ることも出来る。

しかし先ほど説明したように、種族の壁というものは非常に高い。

そのため竜族は、一夫多妻制などの政策を取っている。 

 

 

 

「翼」

魔族と神族のみが有する翼。

ごく稀に、白黒以外の色の翼をした者も生まれる。

空を飛ぶことは出来ないが、それでも翼を使えば跳躍力は飛躍的に伸びる。

元々魔法があった時代には、魔力を増幅する装置としての役割もあった。

翼の枚数が多くなるほど、増幅量も膨大になるが

大きな魔力は、制御も格段に難しくなるため

強すぎると逆に魔法が発動出来ない。

 

また翼は、本人の成長に合わせて増加することがある。

 

翼単体では、魔法は発動出来ない。

儀式兵装により、魔法が行使出来るようになったため

本来の役割の一つである魔力増幅装置としての機能を

最大限発揮出来るようになった。

 

 

「気麟」

竜族のみが持つ特殊能力。

自身の周りに闘気を展開し、防御フィールドを形成する。

これにより生身でも物理・魔法を受け止めることが可能。

簡単に言えば専用の防御魔法を常にまとっていると考えればよい。

防御に関して非常に鉄壁な種族と言える。

 

また気麟を一定方向に打ち出すことが可能で

その威力は中級程度の魔法攻撃に匹敵する威力。

しかし打ち出すと、一定時間は気麟を再装出来ない。

この一撃は「ドラゴンブレス(竜の息吹)」と呼ばれ

竜族固有の必殺技の1つとなっている。

対竜族戦では、この気麟をどう対処するかが重要となってくる。

 

竜族でも王家のみ「金麟(キンリン)」と呼ばれる気麟の上位に位置する

強力な気麟を使用することが出来る。

 

 

 

「魔法の使用域」

種族によって魔法への適正が違うため、必然的に方向性が偏る。

各種族の使える平均的な魔法レベルは下記の通り。

 

    攻撃系魔法 防御系魔法 補助系魔法

人族   初級    初級    中級

 

魔族   上級    中級    初級  

 

神族   中級    上級    上級

 

竜族   不可    初級    初級

 

 

 

「魔法とは」

火・水・土・風の四大元素を元とする現象。

基本的に種族を問わず、1人1種類の使用しか出来ない。

天才と言われる者でも2種類までしか使えない。

3種類・4種類使えるのは歴史に名を残した

稀代の魔術師と呼ばれた者たちのみである。

 

四大元素の上位に光・闇という元素も存在するが

扱い方がまったくわからず、また存在も不明なために

あったという伝説のみが存在する。

 

現代の魔法は呪文詠唱の必要は無く、魔力を集めながら集中すれば魔法の術式は

全て儀式兵装がやってくれるので、あとはしっかり発動するのみである。

自己暗示により魔力の増幅値を底上げするために

あえて呪文詠唱する者もいるが

集中力を高める目的で詠唱するため正式な呪文でない場合が多い。

 

また古代魔法と呼ばれる、はるか昔に滅びた魔法文明時代に

使用されていた魔法が存在する。

現代の魔法と違い、魔法発動をする際は必ず呪文詠唱が必要となる。

現代魔法より段違いの威力を誇るものが多いが、扱いが非常に難しく

並の魔術師では使用出来ない。

 

 

「魔法の属性について」

火・水・土・風の4つが基本属性である。

上位に雷・氷・爆炎などの四属性派生の属性もあるが

扱いが難しいため万人が使用出来るものではない。

属性に適正が無い場合は、ほぼその属性は使用出来ないため大半は

自分に合った属性の習得が推奨される。

 

 

・火

基本的に攻撃火力は4属性の中ではトップ。

火を自在に扱うことにより、周囲を焼き尽くすことが可能。

見た目も派手であり、特に魔族は適正を持つものが多いため

基本的には魔族の属性のような感じになってしまっている。

 

・水

変則的で応用力が試される属性。

攻撃力も4属性中最低であるため、主に防御よりに使用されることが多い。

特に神族に適正を持つものが多いため、神族の属性という扱いになっている。

 

・土

4属性の中では最高の防御強度を持つ。

防具に大地の加護を与えることにより、通常以上の強度を与えると共に

魔法を相殺する力を発揮する、

主に防御に使用される場合が多いが、水同様応用力が試される属性と言える。

特に竜族に適正を持つものが多いため、竜族の属性のような扱いになっている。

 

・風

大気の風を自在に操ることが出来る。

4属性の中では一番魔法発動が早く、撃ち出す攻撃魔法の速度も早い。

そのため奇襲・先制攻撃に向いている。

4属性の中で一番適正を持っているものが少ない希少な属性となっている。

 

 

 

 

 

「魔力とは」

魔法を行使する際に使用される力。

本来、目には見えないが空気中や物質に含まれている。

4種族も体内に、種族・個体間に差があるものの

魔力を有しており、それらを利用して魔法の原動力としている。

 

神族・魔族は、翼で魔力の増幅が可能。

人族・竜族は、基本的には増幅出来ない。

 

ただ魔法は術式と制御が出来て初めて使用出来るものであって

魔力のみでは、魔力を単純に物理的な力として打ち出すことしか出来ない。

また打ち出せるほど強力な魔力を供給出来るのは

基本的に翼を持つ魔族・神族だけである。

 

それでも十分に強力ではあるが、よほどの膨大な量で無いかぎり

魔法を使用した方が圧倒的に強い。

 

 

 

「魔王の血族」

魔族の王家血筋は、生まれながらに体内で魔力増幅が可能である。

その血が濃いほどに増幅効果が高く、強力である。

翼と体内増幅の2重効果で、高位魔法を使用出来るため

強力な戦士となりやすい。

その優秀な血筋を敬愛と畏怖を込めて魔王の血族と呼んでいる。

 

 

 

「儀式兵装」

かつて人族が戦争へと踏み出した原因と言われる武器。

自身の魂の一部を具現化した武器で、魔法を使用するために必要不可欠なもの。

儀式兵装を介して魔法術式を構築することで

魔法を具現化することが可能となった。

魂の一部を使用しているため、本人の成長に合わせて武器も

変化することがわかっている。

 

戦争中期以降に他種族にも技術漏れたため、他種族でも儀式兵装が普及し

戦争が泥沼になり激化した経緯もある。

この武器無しでは、どの種族も魔法を行使出来ない。

基本的には儀式兵装を手に持っていないと魔法発動は不可能とされている。

 

そして儀式兵装もう1つの特徴は、弾装である。

指先ほどの小さいものだが、その弾装には魔力が蓄積されており

弾装を使用すると、物理的な攻撃に魔力が付与したり

魔法ならば魔力準備無しで即発動や魔法使用時に上乗せすることで

通常より高い威力を出すことが出来る。

弾装は使い捨てで排莢される。

新しい弾装を装填すれば何度でも使用出来るので

儀式兵装の威力を底上げするものとなっている。

1回の攻撃・魔法に対して1つの弾装しか使用出来ない。

 

儀式兵装の中には、なにかしらの特殊能力を有した

規格外の儀式兵装が誕生する場合がある。

 

単装式=1回使用するたびに弾を装填する必要のある弾装。

    弾そのものが大きい。

    1回ごとに再装填が必要だが、非常に高威力を出せる。   

 

連装式=複数の弾を装填可能で、無くなるまでは連続して使用可能な弾装。

    単装式に比べると威力は落ちるが、連続して使用可能なため

    手数で攻める際には有利である。

 

上記2種類がある。

 

基本的には魂化している。

本人の呼び出しに反応して現れるため、普段から装備している必要はない。

 

 

 

 

「魔法武器・アイテム・装置など」

儀式兵装から様々な魔法を使用する方法が研究されて実用化されたもの。

武器は儀式兵装を詳しく研究する過程で生まれたもの。

アイテムや装置は、より魔法を様々な用途に使用するために出来た

装置のようなもの。

 

これらの発展により、儀式兵装を使用しなくても様々な魔法の使用と

その魔法の応用品が生まれ、魔法が日常に普及するきっかけとなった。

 

魔法技術の進歩により、ここ数十年は飛躍的に文化レベルも向上した。

 

ただ、これだけの研究を重ねても儀式兵装を完全に解析出来ず

また、超えることも出来ていない。

 

 

 

 

 

 

「学園フォース」

大戦争終結後に四種族合同で設立された人材育成機関。

主に将来的に軍事・内政に関わるものや、その希望者を中心に

生徒が構成されている。

国の中枢になる者を育てるために文武両道を掲げて指導している。

 

また四種族の偏見を無くすための取り組みも行われているが

種族間の隔たりが大きく、まだまだ偏見の目は無くなっていないのが

現状ではあるが、効果は出てきている。

 

一定の年齢になり試験さえ合格すれば入学することが出来る。

1~5の五段階の階級でランク分けされており、入学時は1階級から。

年1回ある進級試験に参加し、合格すると階級が上がる。

5階級で卒業試験に合格すると、晴れて卒業となる。

 

ただし進級試験に3回連続で参加しない、もしくは不合格だった場合は

1階級下がる。

1階級で3度参加しないか不合格だった場合は退学処分となる。

また何度も同じ階級を行ったり来たりしているような

中途半端な状態が続く者は特別試験があり

それが不合格だった場合は退学となる。

 

まだ始まったばかりの学園だが、既に数多くの優秀な生徒が育っており

その存在意義と共に四種族間では、皆が目指す学園になりつつある。

 

入学・進級の難しさもあり、この学園を卒業した生徒は各種族の軍隊・内政で

常に歓迎・優遇されている。

 

 

 

 

 

 

・主人公 人族 藤堂 和也

 

 かつて大戦争で両親を失い、風間家に引き取られる。

 とある事情により儀式兵装を持ってない。

 粗雑な部分もあるが、真面目で人の痛みが理解出来る。

 天賦の才を持っていているが、日々の鍛錬を欠かさない努力家。

 しかも魔眼という希少なを能力を持っている。

 更に魔眼の力も常人を超えており、全力で戦えば魔法が使えないという

 ハンデをまったく感じさせない驚異的な強さを持っている。

 しかし儀式兵装を持っていないということだけで他種族からは

 落ちこぼれと思われている。

 本人は自分を凡人だと思っているが、基礎で10年、極めるのに一生涯かかる と言われる風間流をわずか8年で習得してしまった稀代の天才。

 だが、やる気にならないと『切り札は簡単に切るものじゃない』と言って

 全力を出したがらない悪い癖がある。

 とある事件をきっかけに、人生が大きく動くことになる。

 両親は大戦争で死亡しており、両親の親友だった風間家に引き取られる。

 

 現在、学園2階級。

 

 剣士であり剣術風間流を扱う。

 「魔眼」と呼ばれる特異体質を持つ。

 風間流独特の変則的な攻撃方法が得意。

 

 武器は、赤剣 「強襲型魔法剣・紅」

     黒刀 「黒閃刀・鬼影」

     神殺しの剣 「アガルハルド」

 

 魔法は、儀式兵装を持ってないので、基本的には使用不可。 

 

 彼の武器は2つ存在する。

 「紅」は炎の魔力で刀身形成された剣。

 通常は柄だけだが、発動させると炎の魔力で刀身を形成し剣となる。

 魔力充電は、日光に当てるだけという、お手軽さ。

 彼の場合は魔法が使えないため、魔法武器が主力となる。

 魔法武器の中でも優秀な部類に入る武器で

 出力の調節により、剣の強度を変更出来るので威力を上げることも可能。

 また剣先部分を飛ばすことにより、遠距離攻撃の真似事も出来る。

 

 「黒閃刀・鬼影」は死んだ両親の唯一の形見である刀。

 特殊な古代魔法が練りこまれており、魔法そのものを打ち消す力が

 備わっている。

 打ち消すといっても、うかつに使えば魔法を暴発させるだけで

 扱いにくいため使い手が居なかった刀。

 強力な対魔法刀で、上位防御魔法を簡単に斬ることが出来る。

 ただ、それは魔眼の力とセットで可能なだけであり

 普通の人間では魔力暴発を起こしてしまう。

 

 

 「アガルハイド」は

 神々との戦いに敗れ、力を失って休眠状態となった

 アガルハイドの核になる剣。

 主人公を契約者として、再びその姿を取り戻そうとする。

 かつて神々によって作られた「全ての悪を滅する存在」として作られたが

 様々な経験を経て、自我が生まれる。

 その後、突如として創造主である神を狩り出したために

 神殺しの悪しき者として、神々によって倒されたはずだったが

 慈愛の女神ミルフィナによって消滅を免れる。

 生き残りはしたが、全ての力を失ってしまったため、長い眠りにつく。

 彼の目的は再び力をつけて神々を狩ること。

 

 アガルハイドは、神々が創り出した剣。

 所持者は、アガルハイドの力により4属性魔法や

 その上位属性を全て使用可能となる。

 

 使用する場合は、剣の出現を願えば手元に出現する。

 その原理は、一切わかっていない。

 ただ儀式兵装と同じように出し入れ可能なため

 儀式兵装と勘違いされることもある。

 

 

 

 

 

 

 

ヒロイン1 人族 風間 亜梨沙

 

 主人公の義理妹。

 

 家では両親に溺愛されている。

 優先順位が兄一択なため、たまに暴走する。

 元々ブラコン気味だったが

 主人公の遭った事件後は、重度のブラコンとなった。

 兄から離れるのを嫌って学園に入ってくる。

 兄ほどの際立った天賦の才は無いものの、剣術も幼少期から鍛えられ

 本人にも十二分に才能があり、この若さで

 風間流の名乗りを許されるほどの天才。

 

 名乗りを許されたという自信がある一方、常に兄の和也を見てきたために

 どうしても比べてしまって自分を卑下してしまうことがある。

 生まれながらに体内で魔力増幅が出来る特殊体質であったため

 魔法に関しては通常の人族を超える力を持つ。 

 現在、学園2階級。

 

 剣士であり剣術風間流を扱う。

 非力さを補うために、速度を重視するスピード型。

 武器は、日本刀・儀式兵装の太刀

 弾装は、連装式。

 魔法は、攻撃系魔法:中級

     防御系魔法:中級

     補助系魔法:上級

 

 魔法属性:風属性

 

 生まれながらに体内に魔力増幅能力を持っていたため

 全ての魔法が一定レベル以上使用可能。

 特に加速系の魔法に特化しており、制御の難しい魔法の重ねがけや

 オリジナルの加速魔法も使用出来る。

 

*儀式兵装は本来、刀2本であるが

 1本は、風魔法により見えないようにされ隠されている。

 二刀流が本気モード。

 刀1本ごとに弾装があるため、実質儀式兵装を2本持っている状態で

 体内魔力増幅と合わせると、魔王の血族であるヴァイスを超える

 魔力と魔力制御能力になる。

 

 

 

 

【風間流】

かつて人族で最強と呼ばれた男、風間が使っていた剣術。

武器の構え方や戦い方が独特で、全ての攻撃が基本的に一撃必殺を

信条としている。

そのため防御は、基本的にカウンター系しかない。

また打撃・投げ等の体術も織り交ぜた実戦で磨き抜かれた技が中心の

独特なスタイルのため一族でも使いこなせる者が少ない

希少なものになっている。

基礎の習得に10年。極めるには、一生涯かかると言われる厳しい流派である。

 

 

 

【魔眼】

稀に魔法の根幹そのものを視覚情報として捉えることが可能な者が居る。

それを訓練により任意に使用出来る技術としたもの。

要約すると魔法の力そのものの流れが見える。

ただ、あくまで漠然と見えるだけなので、だからどうだというものではない。

しかしこの魔眼を訓練し続ければ、魔法の強弱が見えるため

範囲魔法などで効果の薄い場所を判別出来たりすることも可能になる。

はるか昔、神族の魔眼持ちが魔法を「斬って」消滅させたという話が

残っているが伝説としてであって、おとぎ話扱いである。

 

 

 

 

 

 

 

ヒロイン2 漆黒の悪魔 フィーネ=ゴア

 

 魔族の王の一人娘であり、次期魔王最有力候補。

 魔王妃に溺愛されている。

 幼少時代は感情と呼べるものが、ほとんど無い機械的な状態。

 幼少期に既に八翼持っており、将来を有望視されていたが

 八翼の、あまりに強すぎる魔力を制御出来ずに、魔力そのものを

 物理的な力に変換して打ち出すのが限界だった。

 

 しかしある日起きた事件で全ての翼を失ってしまう。

 次期魔王の最有力候補から外れたかに思えたが

 魔王の血族としての象徴たる体内の魔力増幅のみで

 六翼の魔族以上の魔力を出し、何より扱えないほどの魔力から

 扱える魔力になったことで魔法を使用出来るようになり

 魔力を物理的な力で打ち出すだけの状態より、逆に強くなった。

 

 翼を失ってなお、最上位クラスの力を持つ彼女に

 改めて魔王血族というものの強大さを感じさせられることになる。

 

 彼女の翼を、もう見ることは無くなったが、人間性が豊かになり

 年頃の少女らしくなった。

 

 他人を種族や実力のみで評価せず、内面を評価し

 言いたいことは基本的に、はっきりと言う。

 主人公とは面識があり、主人公の前では性格が変わる。

 学園2階級に転校してくる。

 

 薙刀を使用する魔族にしては珍しい防御を重視するタイプ。

 独特のリーチと一撃の威力を兼ね備えた万能タイプ。

 武器は、儀式兵装の薙刀

 弾装は、単装式。

 魔法は、攻撃系魔法:最上級

     防御系魔法:上級

     補助系魔法:初級

 

 魔法属性:火属性

 翼の枚数:元は、八翼。

 

 オリジナルの攻撃魔法を数多く有しており

 現在の魔界において最上位ランクに位置する。

 儀式兵装の弾装は単発式で、弾の大きさも通常単発式平均サイズの2倍。

 そのため弾装を使用しての攻撃は桁違いの威力となる。

 ただ単発式の欠点として使用ごとに装填しなければならない。

 

*主人公の儀式兵装によって構築された八翼を持つ。

 自身の儀式兵装と同じように扱えるため

 実質的に儀式兵装を2つ持っている状態。

 魔力が強すぎて全力だと自身の儀式兵装と翼では制御不能だったが

 翼が儀式兵装化したため、完全に魔力制御が可能となった。

 そのため彼女の全力での魔力量は、大戦争を生き抜いた

 実力者達をはるかに越える量である。

 

 

 

 

 

ヒロイン3 金色の竜牙 リピス=バルト

 

 現・竜族リーダーである。

 まだ彼女は正確に王位を継承してはいない。

 王位継承は竜族の場合、その生涯の伴侶と一緒に継承することに

 なっているためパートナーの居ない彼女は

 リーダーではあるものの王女という位置のままである。

 常に王族として尊大な態度が多く言葉も厳しい表現が多いが

 他人を思いやることが出来る心を持っている。

 人との関わり合いを避ける傾向が強いが、実は甘えるのが大好き。

 そんな本心を隠すため、どうしても言動で予防線を張って逃げてしまう。

 地味にスタイルを気にしている。

 大戦争の経験者。

 竜族の中ではアイドル的な存在。

 現在、学園2階級。

 

 接近戦を重視したインファイトスタイル。

 竜族の腕力で一撃必殺を狙い、その脚力で動き回る接近型。

 武器は、儀式兵装のトンファー。

 弾装は、連装式。

 魔法は、攻撃系魔法:不可

     防御系魔法:初級

     補助系魔法:中級

 

 魔法属性:土属性

 

 数多くの実戦を経験しており、その実力は他種族から恐れられた。

 金麟と魔法を併用した竜族でも珍しいスタイルで戦う。

 魔法もある程度使用でき、特に能力強化を使用しての戦闘は驚異的。

 

 儀式兵装も特殊で、通常1回づつしか使用出来ない弾装を

 1撃に全弾込めることが可能。

 その威力は魔力強化された城壁を吹き飛ばしたという噂が流れるほど。

 

 

 

 

 

 

 

ヒロイン4 白銀の女神 セリナ=アスペリア

 

 神王妃の娘で、次期神王最有力候補。

 神族に長らく生まれなかった八翼を持った王女。

 妹も稀代の魔術師としての才能があったため

 姉妹揃って期待されている。

 非常に温厚な性格で男性が少し苦手。

 一途で健気な姿勢が、いつの間にか神族でファンクラブが出来てしまうほど。

 最近の悩みは、成長し続ける胸の大きさについて。

 頭の回転が異常に早く、洞察力も高いため

 相手の動きを、予測したかのような動きをする。

 現在、学園2階級。

 

 主に剣を主体に近距離をする剣士タイプ。

 武器は、儀式兵装の可変武器。

 弾装は、連装式。

 魔法は、攻撃系魔法:上級

     防御系魔法:最上級

     補助系魔法:最上級

 

 魔法属性:水属性・土属性

 翼の枚数:八翼

 

 魔法に関しては、水・土属性のほとんどの魔法が使用可能な状態。 

 2元素が使え、魔術レベルも非常に高い。

 

 戦士としての技量も高レベルで、魔法戦士としては

 4世界の中でもトップクラス。

 

 ただ本人の温厚な性格があって本当の意味での本気で戦うことは

 滅多に無い。

 儀式兵装は特殊中の特殊な武器で

 本人の意思によりその形状を大きく変化させる。

 

 儀式兵装は、剣・槍・鞭など多岐にわたる変化を見せる。

 状況に応じて変化させながら戦うため、臨機応変さが求められる

 非常に難度の高い武器だが、頭の回転と洞察力という持ち前の武器が

 この儀式兵装の力を100%引き出していると言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

ヒロイン5 エレメンタルマスター エリナ=アスペリア

 

 神王の娘で、次期神王候補。

 白翼の女神の妹。

 姉とは対照的に明るい性格で友人も多い。

 魔法に、こだわりがあるようで

 神族としては、特殊すぎる魔法習得率を誇っている。

 四大元素全てを使用出来る稀代の大魔術師としての才能の持ち主。

 また古代魔法にも精通しており、魔法だけに関してなら

 世界最高の知識を有している。

 本人は、接近戦は苦手と言うが本格的な剣術指導も受けており

 接近戦でもかなりの実力がある。

 亡き父親と和也を重ねて見ており、彼に甘えるようになる。

 

 現在、学園2階級。

 

 魔法を主体とした魔術師タイプ。

 武器は、儀式兵装の杖。

 弾装は、連装式。

 魔法は、攻撃系魔法:最上級

     防御系魔法:最上級

     補助系魔法:最上級

 

 魔法属性:四大元素全て

 翼の枚数:六翼

 

 四大元素全てに呪文詠唱が必要な古代魔法まで使用出来る。

 間違いなく魔法の知識だけなら世界一の魔術師。

 

 魔法の威力も最上位ランクで、並の魔術師では相手にならないどころか

 一方的な虐殺になってしまうレベル。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒロイン6 紅の死神 ミリス=ベリセン  

 

 魔王妃の右腕とも言われる実質的に魔界No2の人物。

 父親は魔族、母親が竜族というハーフ。 

 現在、両親ともに死亡している。

 ハーフだからか、翼の色が赤色である。

 魔王妃直属の部下であり、主に表に出せない仕事を担当している。

 数年前に、神族の強硬派が暴走し、魔王妃に暗殺部隊を派遣したが

 彼女一人によって潰されている。

 魔族・竜族双方の特徴を受け継いでいるため基礎能力が既に高い。

 学園2階級に転校してくる。

 

 基本的には竜族の身体能力を生かした

 接近戦で戦う近距離タイプ。

 武器は、儀式兵装の大斧。

 弾装は、単装式。

 魔法は、攻撃系魔法:上級

     防御系魔法:不可

     補助系魔法:上級

 

 魔法属性:火属性

 翼の枚数:六翼

 

 魔族の高火力な攻撃魔法に竜族の身体能力と気麟を合わせ持つ強力な戦士。

 混血ゆえの問題か、防御魔法だけは、まったく使えないが

 そもそもの能力が高く、補助魔法と気麟で殆どの攻撃を止めてしまう。

 

 近接戦主体だが、遠距離で魔法戦が出来ないわけでもないため

 戦う距離を選ばない万能戦士。

 

 竜族の腕力で振り下ろす大斧は破壊力が高く、弾装も単発式なため

 補助魔法も使用すれば、その一撃は最上位の防御魔法すら貫くレベルになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒロイン7 破滅の竜 メリィ=フレール

 

 現・竜族王女お付でメイド長をしている女性。

 知識や教養のある理知的な女性のはずなのだが、本来の性分である

 テンションの高さと話術を抑えきれず、よく暴走している。

 王女を第一に考え行動しているが、ついでに王女で遊んでいることも。

 父親が神族で母親が竜族のハーフ。

 過去に竜族の特殊部隊に居た経歴もあるため、護衛も兼ねている。

 見た目は若い女性のようだが種族が長寿なため

 実際の年齢は2ひゃ・・・21才です。

 

 ヤダナー、ソンナ ウソナンテイイマセンヨ、エエ。

 

 他種族から破滅の竜と呼ばれ、恐れられている。

 大戦争経験者。

 

 竜族の腕力で一撃必殺を狙い、その脚力で動き回る接近型。

 武器は、儀式兵装のガントレット。

 弾装は 弾装は単装式。

 魔法は、攻撃系魔法:不可

     防御系魔法:上級

     補助系魔法:上級

 

 魔法属性:水属性

 翼の枚数:六翼

 

 大戦争で数多くの戦功を上げ、他種族から破滅の竜の通り名で

 恐れられるように、かなりの実力者である。

 元・竜族の特殊部隊の隊長であり、現・竜族のNo2の位置にいる女性。

 

 その戦い方は奇襲で瞬間的に仕留めるか

 罠を用いて心理戦を仕掛けるかが基本。

 相手を倒すためのあらゆる手段を厭わない。

 あらゆる薬物と罠・拘束系の魔法に精通しており

 それらを駆使した戦闘は、確実に相手を殺すことに特化している。

 

 神族の血のおかげで翼を持ち、防御魔法と補助魔法が高位レベルまで使える。

 混血ゆえの反動か、攻撃系魔法は一切使えない。

 

 儀式兵装は、左手にのみ装着しているガントレット。

 ガントレットには魔力を撃ち出す砲門があり、専用の魔導砲形態がある。

 この魔導砲は、中級程度の防御魔法を貫くことが可能。

 魔導砲形態で魔力を最大限に詰め込んだ魔導砲は

 一部隊を壊滅させるほどの範囲・威力を有する。

 これにより竜族が基本的に不得意とされる遠距離戦も可能。

 

 また常に様々な武器やマジックアイテムを所持しており

 状況に応じて色々なものを使う。

 

 

 

 

 

 

 

ヒロイン8 孤高の令嬢 セイジ=ミリエリネ *こいつも保留!

 

 神界に本社があり四界に広く展開する

 魔法武器・アイテムを販売している会社「エヴァンティ」

 現在では、四界全ての経済に深く浸透しており、その影響力は

 たとえ各世界の王といえと、無視出来ないほど巨大。

 そんな超巨大企業の社長の一人娘。

 超がつくお嬢様なのだが、言葉が辛辣で

 他人と距離を取っている感じがあり、一人でいることも多い。

 美人で無口・クール・運動全般が得意で、意外と面倒見がいいのと

 いつも窓辺で外を眺めている憂いを帯びた表情が

 一層ミステリアスな魅力を引き出し、彼女のファンは男女問わず非常に多い。

 神族では珍しく身体能力が、かなり高い。

 

 

 武器は、儀式兵装の念動剣。

 弾装は、特殊弾装。

 魔法は、攻撃系魔法:中級

     防御系魔法:上級

     補助系魔法:上級

 

 魔法属性:水属性

 翼の枚数:二翼

 

 儀式兵装は、自身の周囲に展開される10本の剣。

 常に浮遊しており、彼女の意思で相手に向かって飛ぶ。

 魔力的な媒介としても使える非常に便利な武器。

 普段は、その特徴を隠すため普通に1本手で剣を持つのみ。

 

 

 

 

*↓現在 保留キャラ 使うかどうか検討中!!

 

ヒロインRe:2 人界の姫君  天保院 咲耶

 

 人界を統べる天保院家のお姫様。

 人族では

 中心となる天保院家

 政治補佐をする冷泉家

 武力補佐をする風間家

 の三家が中心となって国が動いている。

 天保院は、直系血縁者の殆どが死亡しており

 現在は、直系ただ一人の咲耶が当主となっているが、まだ年齢が若いため

 実際の業務は、天保院家の分家と冷泉・風間の重鎮が取り仕切っている。

 実権は、ほとんど持っていないが彼女に仕える直属の近衛部隊『暁』だけは

 咲耶に完全忠誠を誓う部隊で、その実力は他種族の特殊部隊が

 「名前すら聞きたくない」と口を揃えるほど。

 咲耶から実権を奪おうとする政敵も存在するが、暁が中心となって

 睨みを利かせている。

 

 姫付と呼ばれる自分専用の武官になる予定だった和也が拒否しているので

 連れ帰る目的で学園都市にやってくるが、そのまま居つくことになる。

 和也のことが気に入っていて、どうしても自分のものにしたくて

 しょうがない。

 ただ、それが恋だとまだ気づいていない。

 

 武器は、儀式兵装の扇子

 弾装は、単発式

 魔法は、攻撃系魔法:最上級

     防御系魔法:最上級

     補助系魔法:最上級

 

 魔法属性:火属性・風属性

 

 体内で魔力増幅が可能な特殊体質で、その中でも特に才能があり

 翼を持たない人族だが、八翼持ちと同格の魔力を持っている。

 人界の象徴的な扱い。

 館暮らしで世間に対しての知識が偏っている部分もある世間知らずで

 口調も上から目線なことも多いが、中身は年相応の少女である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*↓現行 保留キャラ 使うかどうかは検討中!!

 

ヒロイン9 死に別れたはずの少女 冷泉 久遠

 

 和也の初恋の相手であり、幼馴染の少女。

 森でモンスターに襲われた和也を庇って死んだはずの少女。

 慈愛の女神ミルフィナによって時の狭間で

 人とは異なる時間・世界を生きることになり

 時を超えようとする和也をサポートする存在となる。

 

 

 武器は、神杖・ツェリーア

 補助枠、神杖に魔力変換装置

 魔法は、失われた古代魔法

 

 

 魔法属性:光属性・闇属性

 

 時の狭間で、人とは違う時間の中で世界の様々な真実を見てきた。

 現代では失われた古代の魔法を主体としており

 武器も神々が創り出した神杖。

 神杖には周囲の全てを隷属させ、強制的に自身の魔力へ変換する

 強力な装置がついており、これを全開で使用した場合は

 神々を超える魔力を出すことも可能になる。

 

 永遠の時の中で、和也に再び出会うことだけを願って生きてきたため

 彼女の全ての優先事項が和也である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サブキャラクター

 

 

 

神族3階級のセレブ騎士  アクア=レーベルト

 

 名門レーベルト家の長女。

 神界では貴族の中でも有名で、歴代の当主達は政治や軍事での

 重要な役割ばかりを任されている。

 そんな自分の家を誇りにしているのだが、甘やかされて育ったためか

 お嬢様特有の世間知らずな部分がある。

 発言や行動でも色々残念なことが多い。

 生まれ持った才能で、戦士としての能力は高い。

 『氷の騎士』という二つ名を広めるために

 自己紹介では必ず名前より先に言うようにしているらしい。

 その甲斐があってか、二つ名として広がりを見せるようになってきている。

  

 

 武器は、儀式兵装の剣

 弾装は、連装式。

 魔法は、攻撃系魔法:中級

     防御系魔法:上級

     補助系魔法:上級

 

 魔法属性:水属性

 翼の枚数:四翼

 

 全てが一定以上の能力を持っており、特に魔法は

 水属性の上位にあたる氷属性の使い手でもある。

 いつもその日の気分で動く、天真爛漫なお嬢様。

 スタイル抜群で美人なので特に異性(男)からのアプローチが

 凄いのだが、それ以上に何気ない仕草や行動そのものが

 とにかく色っぽいを通り越してエロの領域にまで達しているせいで

 普段は神族を嫌っている魔族側の男ですら

 彼女の虜になってしまっている者が続出している。

 

 

 

 

 

 

 

神族5階級の女騎士  レア=レイセン

 

 学園に通う神族の少女。

 現在5階級。

 槍と盾を手に戦場を駆ける騎士であり、常に前に出て壁役や囮役を

 引き受けるため同じ階級の神族達から信頼がある。

 そのため1対多数の戦闘に対しての適応力が高い。

 必ずと言っていいほど、イオナ=リハートとチームを組む。

 

 武器は、儀式兵装の槍

 弾装は、単発式。

 魔法は、攻撃系魔法:中級

     防御系魔法:上級

     補助系魔法:上級

 

 魔法属性:土属性

 翼の枚数:二翼

 

 弱いものイジメや不真面目を嫌う性格。

 3階級のイオナ=リハートと仲が良く、よく一緒に居る。

 神族らしい防御に重点を置いた堅実な戦い方が得意。 

 

 

 

 

神族3階級の弓兵  イオナ=リハート

 

 学園に通う神族の少女。

 現在3階級。

 

 必ずと言っていいほど、先輩のレア=レイセンとチームを組む。

 

 武器は、儀式兵装の弓

 弾装は、連装式。

 魔法は、攻撃系魔法:中級

     防御系魔法:上級

     補助系魔法:上級

 

 魔法属性:水属性

 翼の枚数:二翼

 

 レア=レイセンを先輩と呼び、常に傍にいる少女。

 典型的な神族で目立った特徴は無いものの

 着実に自力を伸ばしている。

 弓兵としては連射よりも狙撃を得意としており

 遠距離からの狙撃には、努力と才能が見える。

 先輩のレアとは同じ故郷の幼馴染。

 

 

 

 

 

 竜族護衛トリオ1人目 アイリス=カチス

 

 リピスの護衛も兼ねている2階級の学生。

 風属性魔法の使い手で、何より速度を追い求めている。

 3人の中でもリーダー的な位置でまとめ役にもなっている。

 普段は冷静沈着なのだが、色恋沙汰に弱い。

 

 武器は、儀式兵装の足鎧

 弾装は、連装式。

 魔法は、攻撃系魔法:なし

     防御系魔法:初級

     補助系魔法:初級

 

 魔法属性:風属性

 翼の枚数:なし

 

 人族の父を持つ典型的な竜族の娘。

 儀式兵装は足を覆う鎧型をしており、殴るより蹴ることに主眼を置いている。

 腕にも手甲を装備していることと、基本的に竜族は

 手甲型の儀式兵装が多いため、よく勘違いされる。

 加速系魔法の習得に力を入れている。

 マイナーながら一応『疾風のアイリス』という二つ名がある。

 

 

 

 

 

 

 竜族護衛トリオ2人目 カリン=ヤクト

 

 リピスの護衛も兼ねている2階級の学生。

 土属性を扱う普通の竜族の娘。

 3人の中で、マスコット的な位置になっているのが不満。

 身長が低いのも悩み。

 

 武器は、儀式兵装の手甲

 弾装は、単発式。

 魔法は、攻撃系魔法:なし

     防御系魔法:初級

     補助系魔法:初級

 

 魔法属性:土属性

 翼の枚数:なし

 

 土属性に手甲型の儀式兵装という典型的な竜族スタイルな娘。

 そのため他種族との戦いではテンプレ通りの対処法で撃退されてしまうため

 悩んでいたが、その悩みをたまたまメイド長と化しているメリィに

 知られることになり、メリィの特訓(遊び相手)を受けることになる。

 

 その結果、全体的な基礎能力の上昇に加えて異常に防御が上手くなったため

 今は、竜族兵士が数人がかりで攻撃してもカリンの防御を抜くことが

 不可能なほどに。

 マイナーながら一応他の2人に二つ名があることが羨ましいのか

 自ら『鉄壁のカリン』という二つ名を広めようと頑張っている。

 

 

 

 

 

 

 

 竜族護衛トリオ3人目 リリィ=コネクト

 

 リピスの護衛も兼ねている2階級の学生。

 基本的におっとりした性格で、ぽわぽわとしている。

 3人の中では、一番家庭的で家事の腕前はメイド長のメリィが保障するほど。

 スタイル抜群の巨乳娘で、家事以外では基本的にドジっ娘属性もあったりして

 隠れファンは、結構多い。

 

 武器は、儀式兵装の大槌

 弾装は、単発式。

 魔法は、攻撃系魔法:なし

     防御系魔法:初級

     補助系魔法:初級

 

 魔法属性:火属性

 翼の枚数:なし

 

 竜族となった元人族の父親を持つ娘。

 竜族になった人族の男性の2番目の奥さんが自分を生んだ母親である。

 自分の家庭が一夫多妻制なので、それに対して特に寛容的。

 竜族でも火属性使いという珍しいタイプ。

 アホな娘に見えがちだが、これでも学力は学園でもトップクラス。

 そして竜族の中でも特に力が強く、火力が高い。

 マイナーながら一応『破砕のリリィ』という二つ名がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔王妃 マリア=ゴア

 

 大戦争で「赤き暴風」と呼ばれ、その名を世界に轟かせた1人。

 のちに魔王と結ばれ、魔王妃の地位に。

 魔王の死後は、魔界を束ねる立場として行動している。

 現在、学園の学園長になっている。

 性格は積極的・大雑把で後先考えない行動が多い。

 お祭り等のイベントごとが大好き。

 娘のフィーネを溺愛している。

 

 武器は、儀式兵装の鎌。

 弾装は、連装式。

 魔法は、攻撃系魔法:最上級

     防御系魔法:上級

     補助系魔法:初級

 

 魔法属性:火属性・風属性

 翼の枚数:六翼

 

 火と風の攻撃系魔法を全て習得しており

 オリジナルの攻撃魔法も多数持っている。

 常に赤い衣装で戦場を駆け、彼女が戦ったあとの土地が

 暴風の被害に遭ったかのように荒れていることから

 赤き暴風という名が付いた。

 

 特に広範囲の殲滅魔法を得意とし、魔法を複数連続で使用することも

 可能なため、1人で相手部隊を壊滅させることもよくあった。

 大戦争中は、各世界から最優先抹殺者の1人として何度も

 部隊を差し向けられたこともある。

 魔族狩りのセオラ=ムルムと戦って生き残っている

 数少ない魔族の1人でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神王妃 オリビア=アスペリア

 

 大戦争で「蒼き守護者」と呼ばれた実力者。

 のちに神王と結ばれ、神王妃の地位に。

 神王の死後は、神界を束ねる立場として行動している。

 現在、学園が管理する寮の寮長になっている。

 性格は温和で穏やかな比較的おとなしいが

 行動力や決断力があり、自分のやりたいことに対してだけは遠慮がない。

 娘2人を溺愛している。

 魔王妃とは、親友のような付き合い。

 

 武器は、儀式兵装の棒。

 弾装は、連装式。

 魔法は、攻撃系魔法:中級

     防御系魔法:最上級

     補助系魔法:最上級

 

 魔法属性:水属性・土属性

 翼の枚数:六翼

 

 水と土の防御魔法を全て習得し、更にオリジナル魔法も複数持っている。

 防御に関しては神王すら凌駕する力を持ち

 結婚前は神王直属の親衛隊の隊長をしていた。

 

 大戦中に神族が押し負けていた戦場で、最前線に立つ神王に

 傷1つ負わせることなく常に守り続け

 戦局を五分にまで引き戻したこともある。

 また大戦中にマリア=ゴアと何度も戦った経験を持つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔族狩り セオラ=ムルム

 

 大戦争で「魔族狩り」と呼ばれ、その名が知れ渡る実力者。

 現・竜族でNo3の位置にいる。

 メリィと共に竜界のために動いている。

 現在、学園の教師もやっている。

 性格は、はっきりとしていて行動的。

 不正や不真面目を嫌う真面目さがあるが、リピスが絡むとダメになる。

 

 武器は、儀式兵装の突撃槍。

 弾装は、連装式。

 魔法は、攻撃系魔法:不可

     防御系魔法:初級

     補助系魔法:初級

 

 魔法属性:風属性

 

 魔法能力そのものは典型的な竜族だが、儀式兵装そのものに

 上位の防御魔法が付与されている魔法付与がある特殊な武器を持つ。

 

 槍の周りに防御魔法を張ることで槍を中心に

 相手魔法を受け流すように防御する。

 またその状態から加速魔法を使用して突撃してくる。

 

 竜族の脚力に加速魔法という驚異的な速度で突進し

 迎撃に物理・魔法が飛んできても

 槍を中心とした防御フィールドや気麟を使用して突き抜け、

 ひたすら突進しての一撃を信条としている。

 

 攻防一体の戦い方で、攻撃魔法を寄せ付けないことから

 特に竜族の嫌う魔族との戦いで多大な戦果をあげた。

 また彼女の一撃は神族の防御魔法をも簡単に貫くため

 神族の一部からも恐れられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神界の宰相 カイン=ライト

 

 大戦争を生き抜いた英雄の1人。

 天才的な采配で神族に数々の勝利をもたらした。

 現・神界のNo2の位置で神界に居ない神王妃に変わって

 神界で政務を行っている。

 神王妃を妄信しており、彼女の言うことは全て正義に変換される。

 基本的に真面目で騎士道精神を重んじるが

 神王妃の絡んだ件に関してだけは、何よりも神王妃が優先され

 どんな手段を使っても達成しようとする。

 

 武器は、儀式兵装の大盾と剣。

 弾装は、連装式。

 魔法は、攻撃系魔法:中級

     防御系魔法:最上級

     補助系魔法:最上級

 

 魔法属性:水属性・土属性

 翼の枚数:四翼

 

 頭の回転・直感に優れ、部隊への指示も的確な隊長適正の高い人物。

 自身も戦うこともあり、魔王妃マリア=ゴア等の

 名のある人物とも戦っている。

 儀式兵装は大盾とその裏に収められている剣。

 弾装は剣に付いている。

 盾そのものに防御魔法が付与されており

 神王妃と同じく防御が異常なまでに硬く

 「守護騎士」の二つ名を持つほど。

 

 オリジナル魔法を持ち、常に魔法を絡めた戦い方をする。

 単体の戦闘能力も高いが、部隊を指揮したときに発揮される部隊単位の戦力が

 彼の持ち味である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔王の血族 ヴァイス=フールス

 

 魔界で数少ない魔王家の分家に生まれた魔族の男。

 名家に生まれ、生まれながらに戦士としての資質を有していたために

 それを自分の実力と勘違いし、尊大な性格に育ってしまっている。

 魔族こそ最高の種族であり、他の種族は下であると信じて疑わない。

 現在学園2階級。 

 

 武器は、儀式兵装の剣。

 弾装は、連装式。

 魔法は、攻撃系魔法:上級

     防御系魔法:中級

     補助系魔法:初級

 

 魔法属性:火属性

 翼の枚数:六翼

 

 火属性の他にオリジナル魔法もいくつか習得している。

 実力的には魔王の血族として申し分は無いのだが、自身が傲慢であり

 修行もあまりしないため、一定レベルで止まってしまっている。

 しかしそれに気づかずに自分が強いと信じ

 他者を見下すことしかしていない。

 

 

 

 

 

 

 

 学園上位の実力者 ギル=グレフ

 

 魔界で生まれた普通の魔族。

 強さというものの意味を求めて学園に入る。

 陽気で明るく、種族を気にせず誰とも仲良くなれる性格で

 種族を問わずに人気があり、特に女性が多い。

 女好きを隠すことなく振舞っているが

 女性とのトラブルを起こしたことがない。

 

 武器は、儀式兵装の二剣。

 弾装は、連装式。

 魔法は、攻撃系魔法:上級

     防御系魔法:中級

     補助系魔法:初級

 

 魔法属性:火属性・風属性

 翼の枚数:四翼

 

 四翼でありながら2属性が使え、オリジナル魔法も持つ魔族。

 神族並の頭の回転と直感を持ち、心理戦で相手を翻弄する。

 剣術だけでなく体術にも心得があり、けん制程度ではあるが織り交ぜてくる。

 努力している姿を見られるのを嫌っており

 誰も真剣に修行する彼を見た者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 魔槍の再来 アレン=ディレイズ

 

 1階級の寡黙な魔族。

 特定の友人もおらず、日々自己鍛錬に時間を費やす槍使い。

 自分より強い相手と戦うことが好きで

 逆に自分より弱い相手には見向きもしない。

 かつて大戦争で「魔槍」と呼ばれた父に強い憧れと敬意を持つ。

 純粋な力の強さ以外の能力も強さであると知っており

 それを軽視する者を嫌う。

 

 武器は、儀式兵装の槍。

 弾装は、連装式。

 魔法は、攻撃系魔法:上級

     防御系魔法:中級

     補助系魔法:初級

 

 魔法属性:風属性

 翼の枚数:二翼

 

 直槍を使った正面からの正攻法を好む。

 また彼は攻撃しながら魔法の使用が可能という特技を持っており

 物理攻撃と魔法攻撃を同時にすることが出来るため

 反撃をさせない一方的な攻撃が可能。

 

 また純粋な槍使いとしてもかなりのレベルであり

 学園での模擬戦では負けたことがない。

 その槍さばきは、かつて「魔槍」と呼ばれた彼の父に迫る腕を誇る。

 

 

 

 

 

 

 

 慈愛の女神 ミルフィナ

 

 世界を創造した神々の1人。

 神々の中では下位の存在であるため、他の神々の方針に逆らえない。

 創造した世界、そこに存在する生命全てを愛しており

 自分達の都合で世界を潰したり創造したりして「遊んでいる」他の神々と

 距離を取っている。

 

 世界のために他の神々を何とかしたいが自身では止める力がないため

 裏側で色々と動いており、神を倒せる力を持つアガルハイドを

 助けたりしている。

 彼女が起こした行動が、人族・藤堂 和也とその周囲の運命を

 大きく変えることに繋がる。

 他にも何か考えがあるようだが・・・。

 

 

 アガルハイドは、失った力を取り戻すために

 自分を使うことが出来る契約者を欲し

 契約者と共に戦うことで力を取り戻すことを目的としている。

 

 藤堂 和也は、自分の運命が、神々の遊びだったことに怒り

 運命を変えることを願う。

 アガルハイドとは「神々が敵」という共通の認識で一致している。

 

#アガルハイドに力をつけさせるためと

 神々に運命を翻弄されてしまった人間への

 僅かばかりの贖罪で、藤堂 和也には過去をやり直すことが

 出来る時の旅を用意し その案内役に彼がもっとも心に想い続けた

 久遠をつけた。# *現在、登場検討中キャラにつき文章も保留

 

 全ては計算されており、全て偶然ではなく必然である。

 それが意味する先には何があるのか。

 

 




皆様、こちらのシナリオではお久しぶりです。

ちょっとデータ整理をしている際に出てきたものが懐かしくて
ついあげてみました。

元々は、このような設定を2週間ほどかけて考えて整理し
これらを元に物語を書いていました。
しかし色々あって完成したものは、ご存じの通り
そのままの部分もあれば、大幅に違う部分もあります。
・・・苦労した部分は、今となっては良い思い出です。

ちなみに本編で登場しているのに設定の記載が無い人物は
全て途中で考えて、その場で追加したキャラとかなので
私の頭の中にしか設定がないです(笑)

何度か修正しようかなと思いながらも結局は
最後まで、このまま使い続けて完結を迎えました。

主人公の剣『アガルハイド』→元帥閣下のレナードの武器
ヒロイン8の大商人の娘→元帥閣下のアリス

など再利用もどんどんしてます。

ちなみにアレンに関しては
公式が『デイル=グラン』というキャラをHP上で
『グラン=デイル』と表記ミスをしていたことがあり
この作品を作る切っ掛けとなった友人と
『きっと新キャラに違いない(笑)』
『1年キャラとかじゃない?((笑)』
『槍使いがメインに居ないから槍使いとか?』
『じゃあ1階級の槍使い(寡黙)で(爆笑)』
というやりとりから誕生したりと
結構やりたい放題だった気がします。

時期は一切未定ですが、その内に『大世界杯』を
彼らが勝ち取った世界のその後の一幕として
書きたいなと思っております。

仕事との兼ね合いになりますが、その日がなるべく早く来る日を
私自身も願っておりますので、またその日にこうして
皆様に読んで頂けると幸いです。


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おまけ2

おまけ2は、使ってたメモ帳です。

いつもこんな感じでメモを見ながら書いてます。
やっぱり書いておかないと覚えるまでに作者ですら
時間かかりますからね。




 

 

ひっそりタイニープロット的な感じの何か Rosebleu 様 に 敬礼!!

 

 

魔法関連は、バランス大事なので設定を忘れないように!!

 

    攻撃系魔法 防御系魔法 補助系魔法

人族   初級    初級    中級

 

魔族   上級    中級    初級  

 

神族   中級    上級    上級

 

竜族   不可    初級    初級

 

 

 

 

 

 

1章

登場人物紹介が中心

ここでフィーネも登場。

 

和也

亜梨沙

リピス

メリィ

序盤登場

教室から

ヴァイス

セオラ

登場

 

 

ダンジョン試験の通知

 

昼休み

リピスとメリィと亜梨沙と一緒にお昼

ダンジョン試験の話が中心

転校生の話が出る

 

放課後

街全体の説明

 

 

寮に到着

管理人と化している神王妃オリビアに挨拶(現時点ではオリビアが王妃とは知らない)

 

夜の寮前

日課の鍛錬をする和也

 

 

 

 

 

 

 

 

外のスタンプラリー

 

順調にチェックコースを通過する和也と亜梨沙

 

突如飛んでくるエリナの魔法をギリギリで避ける和也

セリナが走ってきて謝罪

エリナも来て適当に謝罪

適当に別れる

 

 

昼飯

リピスとメリィに合流しての食事

神族王女姉妹の話が出る

神族王女姉妹登場と軽い説明

ついでに転校生の話も出る

ダンジョン試験前日

 

 

 

放課後

亜梨沙が用事

一人で帰ることに

途中でヴァイスが神族といざこざを起こしている

止めに入る和也

巻き添えになって戦闘になりかける

エリナ登場

厳重抗議でヴァイス退散

エリナの尋問から和也も逃げる

 

 

 

自己鍛錬中にエリナ登場

放課後の件の追求再び

 

勝負をすることになり、森を抜けた先の丘へ

 

 

 

 

*神界第二王女 エレメンタルマスター エリナ=アスペリア戦*

 

 

エリナの召喚したゴーレムとの戦い

ダメージを負いつつゴーレムを撃破して気を失う。

 

エリナの膝枕で起きる和也

誤解が解けてエリナと友人になる

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョン前

全生徒が集合して待機

学園長マリア登場

マリア演説

マリアの開始宣言でスタート

 

*全階級一斉ダンジョン探索試験開始*

 

序盤から脱落者が多いことに気づく

そのまま進行

 

徐々に脱落者の数が増える

警戒して進行ペースが全体的に落ちる

 

途中で神族第二王女エリナ=アスペリアのパーティーに出会う

 

途中でトラップ祭りで亜梨沙と別々になる

 

一人で進んだ先で、フィーネが待ち構えている

ヴァイス等も、ここでやられている

 

 

 

 

*魔界第一王女 漆黒の悪魔 フィーネ=ゴア戦*

 

 

 

 

途中で名前呼んで終了(腕試し程度の競り合い)

 

亜梨沙合流

学園長と先生の会話

ダンジョン試験一位通過

正式に転入の挨拶

 

 

1章 出会い編 完結

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2章 

 

フィーネくっつき継続

昼の食事で亜梨沙+竜族x2つき

適当にお互いの位置関係の説明。

明日の戦闘訓練が各階級無差別対戦だという話になる

 

放課後

一人のところでエリナと出会う

エリナに強引に腕を組まれてデートへ

街中でセリナと出会って正式紹介される。

 

帰ってオリビアが神界女王だとわかる

 

リピスが様子を見に来る

リピスと会話

・リピスとの出会い

 

 

 

次の日

朝 

各階級クラス無差別戦闘訓練開始。

 

ヴァイス=神族に圧勝

 

セリナxエリナ戦

 

亜梨沙xリピス戦

 

和也xギル戦

 

 

昼休み

お姫様全員集合

 

放課後

みんなでワイワイ

 

異形の敵と戦闘。

 

 

 

 

2章  完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**困った時のメモ帳コーナー

 

下記は、メモがわりに使用。

 

 

 

下着泥棒回にでもしよう。

女子寮で下着泥棒が発生するようになる。

和也が疑われ、その疑いを晴らすために犯人探しをする。

知能の高い種族の兄弟による犯行で、囮作戦により確保に成功する。

様子を見に来たセオラに引き渡される際にネタあり。

 

 

 

 

 

和也・故郷に帰る

故郷からの謎の呼び出しを受けて急ぎ戻る。

その道中に回想で思い当たる話を思い出す展開。

到着後、風間の当主と話。

その後に姫様登場から色々と話があって逃げ帰るも

姫様が転校してきて終了のお知らせ。

 

 

 

 

 

リピスの護衛トリオの紹介を受ける

ついでに竜界で和也がちょいと有名な件も出る

ただ、この時は結婚相手という話は出ない。

 

午前の授業で亜梨沙と手合わせ

『舞』の説明と登場に合わせて和也の『旋風』に

ついての話のくだりをちょっと出す。

 

 

 

 

闘技大会

 

各キャラ達の戦いも色々と紹介する。

見所的には亜梨沙と神族の高飛車との戦い

あとは姫様の初戦闘回なので、その辺も紹介。

 

 

神族お嬢様セイジ&和也でタッグマッチ戦

その時の相手に槍使いが出る

1階級の槍使いvs和也 を実現させる。

 

 

次章

セリナ王女

自身の置かれた立場、環境など

何も変えられないという否定的な意見を

和也の行動で改めることになると同時に

好きになるという話を王女視点で語る章。

 

 

 

クラス対抗集団戦大会

和也・亜梨沙・姫様・フィーネ・ギル・魔王様の居るチーム

リピス・お嬢様の居るチーム

神族姉妹の居るチーム

最終的にこの3チームの三つ巴になってそれぞれがそれぞれに戦う。

結局時間切れで終了する。

 

 

 

 

 

固有ルート

魔界・フィーネ王女編

 

神界・魔界で同時にゲートが発見される。

解析中にゲートから異形の魔物の大群が出現する。

急遽、学園都市側から神族・竜族を含めた支援軍が救援に向かう。

主人公達も救援に向かう。

 

最後は、魔王妃とかでも倒せない敵を

失ったはずの翼を開いたフィーネによって倒されEND

 

 

 

 

 リピス編

 

金竜が対抗馬でもう1匹出てくるとかいいんじゃない?

 

もう1人とリピスが会うのは、やはり最終決戦のとき。

それまでは、メリィとかが会う→戦う→強さを出すとかでいい。

和也をどう絡めるかは、要検討!

 

恋愛要素絡めるとか、ありかも。

もう1匹が和也を好きになるけど、理由があって死ぬとか。

 

*設定追加

敵に回るもう1匹が

和也に執着する(恋愛でも可)けど、その凶悪性から

和也が敵に回る→和也ピンチ!→リピスが助けにくる。

 

↑ただこれだと、最強系主人公としてどうだろう?

 負けシーンはなるべく無しにしたいからなぁ。

 

 主人公は別の場所で理由つけて戦わせる? ←検討中!

 

 

 

 

 

    セリナ編

 

コンセプト的な何かを決めたい。

 

方向性だよね。

 

姉妹だし、姉妹的な感じもちょい欲しい。

 

原作かぶりなしで。

 

 

 

最終決戦は、セリナで決着をつけたい。

 

じゃあ和也をどうするか?

というのも問題。

今回は、怪我リタイアは無しで。

 

主要人物として

 

 神界女王オリビア

 神界宰相カイン

 

 セリナ

 エリナ

 

 これらは必ず絡めること。

 

 

 

神族結末

 

1・テンプレ謎の魔導士集団

 

2・神界で内乱!

 

3・神界側が魔界側のせいにするための

  刺客を放った。

  神界の大物の関与。

 

さあ、どれにしようか!

 

 

 

 

 

・展開メモ

 

 

第10章

 和也が女子寮に逃げる途中でセリナとエリナに会う。

 3人でゴーレム撃破。

 姉妹の強さをそれなりに出す。

 

 和也と神王の繋がり&セリナの気持ちを表現。

 

第11章

今回の敵がどういう奴なのか、本格的に出す。

 

学園長からの依頼で

地下迷宮ダンジョンのテスターに選ばれる。

 

第12章

この辺で、本格的に敵側が動き出す感じで。

 

第13章

戦いの序曲的なものをスタート。

あとは姉妹デート的なのも欲しいかもしれない。

 

第14章

戦いは学園都市を巻き込み、お約束のゴーレム達の祭り開催。

 

 

最終章

セリナとボスとの戦いがメイン。

和也の『剣』となることを誓った彼女が

成長する姿を描く。

 

最後は、全ての魔力を剣に収束させた

『魔剣フラガラッハ』による一撃で全てを切り裂き終了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***名前一覧表***

 

キャラの名前が出てこない時は、ここを確認!

 

主人公 人族 カズヤ=トウドウ 和也 藤堂

 

ヒロイン1 人族 アリサ=カザマ 亜梨沙 風間

 

ヒロイン2 漆黒の悪魔 フィーネ=ゴア

 

ヒロイン3 金色の竜牙 リピス=バルト

 

ヒロイン4 白銀の女神 セリナ=アスペリア

 

ヒロイン5 エレメンタルマスター エリナ=アスペリア

 

ヒロイン6 紅の死神 ミリス=ベリセン

 

ヒロイン7 破滅の竜 メリィ=フレール

 

竜族編 もう一人の金竜 イリス

 

ヒロインRe:2 人界の姫君  天保院 咲耶

 

ヒロイン9 死に別れたはずの少女 クオン=テンシンイン 天真院 久遠

 

神族3階級 氷の騎士 アクア=レーベルト

 

神族リベンジリンク

 

先輩 レア=レイセン

後輩 イオナ=リハート

 

 

竜族護衛トリオ

 

アイリス=カチス

カリン=ヤクト

リリィ=コネクト

 

魔族幼馴染コンビ

 

レイス=ジャハル

ファナ=リドルド

 

 

魔王 ジェイス=ゴア

 

神王 アルバート=アスペリア

 

魔王妃 マリア=ゴア

 

神王妃 オリビア=アスペリア

 

悪魔狩り セオラ=ムルム

 

神界の宰相 カイン=ライト

 

魔王の血族 ヴァイス=フールス

 

学園上位の実力者 ギル=グレフ

 

魔槍の再来 アレン=ディレイズ

 

慈愛の女神 ミルフィナ

 

 

風間流の創始者 風間 一刀斎(かざま いっとうさい)

 

風間流現継承者 風間 源五郎(かざま げんごろう)

 

風間流の師範(亜梨沙の父親) 風間 早雲(かざま そううん)

 

亜梨沙の母親 風間 夏美(かざま なつみ)

 

根性の人 風間師範代 近藤 大吾(こんどう だいご)

 

 

 長身で少し細身な人は、加藤 善影(かとう よしかげ)

 

 長い髪をした少し若め女性は、西宮 春華(にしのみや はるか)

 

 小柄ながらも渋い顔が印象的な人は、山本 忠(やまもと ただし)

 

 

一般生徒愛称=男生徒・女生徒

 

 

*敵側

ダレス=ドーレ 第一部フィーネ編のラスボス

 

元神族軍・第3特別遊撃隊の『切り込み隊長』ガルス=ディーラン 大剣

 

殲滅のグレイ=バーンズ

 

神速のバガム=ジューン

 

ワング=ハーケン

 

副ラナ=ハルハム 槍使い

 

部隊長ジャック=ダルケン 剣

 

 

・漢字と数字に関しては

 世界と翼に関しては漢字表記

 その他は普通の数字

 

 

―その他―

 

学校アナウンス

 授業や時間を知らせる鐘の音『カーン!カーン!カーン!』

 通常『』

 重要連絡事項系『ピー! ピー! ピー!』

 試合系『ビー!!!』

 

回復ネックレス=判定ネックレス

 

和也の魔法剣=強襲型魔法剣・紅

   刀の方=黒閃刀・鬼影

 

 

風間流『舞』鬼刃

風間流 ―風の章― 烈風破滅斬

 

名乗り

亜梨沙「最強を掲げる風間流。

    その創設者、風間(かざま) 一刀斎(いっとうさい)が裔(すえ)

    風間 亜梨沙!

    流派師範代の末席なれど、剣舞を見せよう、風間の舞をっ!

    風間は、ただ勝利あるのみっ!!」

 

 

人界のお姫様を守るお付の武士=姫付

 

和也が受け継いだ言葉=『この力を、守りたい全てのために』

 

防御魔法=ファイア

     ウインド   語尾にシールド

     アース

     ウォーター

 

風加速=スピードアップ セカンドとサードの段階設定あり

 

攻撃強化=ファイア

     ウインド   パワー・属性名

     アース

     ウォーター

 

攻撃魔法=ファイア

     ウインド   語尾にアロー

     アース

     ウォーター

 

レディアント=放射系、語尾に属性名

 

     ピラー=柱の意味 語尾に使用

 

     フュリオス=怒りの~ 猛烈な~ 

 

五芒星=ペンタグラム

     六芒星=ヘキサグラム

 

     ストーム・ピアース

 

ヴァイスの魔法=ドラゴン・フレイム 炎竜の姿の魔法で遠隔操作可能

        メルト・ナパーム ゼロ距離で溶ける。

 

アクアの魔法=ワールドオブアイス 一定フィールドを氷の世界に変え

                 自身に有利な地形にする。

 モード「ペネトレイト」 アイスジャベリンの貫通特化魔法

       アブソリュート・ゼロ 周囲の敵を一瞬で凍らせてしまう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一応、これでおまけは終了です。

結構なげやりというか、アバウトに書いてるのが
解って頂けると思います。

初めのタイトルは『ひっそりタイニーダンジョン』でした。
思い出すと懐かしい感じです。

結局、変更修正してると
原型なんて何処かへ行ってしまうものですよね。

こういった試行錯誤が、今書いている作品に活きているので
何事も経験が大事だと再認識しています。

元々の物語は、神々を『悪』と認識したアガルハイドと共に
和也が世界そのものを暇つぶしの遊び道具としていた
神々を倒すために挑み、打ち勝つという話を中心として
勝つまでに何度か過去に戻って違う世界を歩み
それを最後に久遠が統合して全員の力が揃うという展開を予定しており
ラストは、慈愛の女神の力も借りて神々から世界と自由を勝ち取るが
慈愛の女神の価値観も『偏って』いたために、その偏った愛情も
違うと否定して最後は和也が女神と対峙する・・・という流れでした。

まあこれがどう変化したかは、言うまでも無く全てを読まれた皆さまは
もうご存知でしょうが・・・。

タイニーダンジョンを懐かしく思い出す切っ掛けとなれば
幸いだと思い、今回投稿させて頂きました。

完全に未定ですが、オリジナル作品を今後も継続するか
二次作をまた書くかは決めていませんが
このようなものにお付き合い下さった皆様に愉しんで頂けるような
作品を今後も作っていきたいとは思っております。

それでは、今回はこれで失礼させて頂きます。


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