生徒会の切札 (ニヒト)
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第一巻 生徒会の一存
存在しえないプロローグ


どうもニヒトと申します

にじファンが閉鎖になったため、こちらに移転してきました

今後ともよろしくお願いいたします

それでは『生徒会の切札』始めていきます


ルール1 神の存在を受け入れろ

 

ルール2 彼らに直接触れてはならない

 

ルール3 友達の友達は我ら。それが干渉限界

 

ルール4 《企業》の意向は何よりも優先される

 

ルール5 《スタッフ》は個人の思想を持ち込むなかれ

 

ルール6 情報の漏洩は最大にして最悪の禁忌である

 

ルール7 我らが騙すのはヒトではなく神であることを忘れてはならない

 

ルール8 このプロジェクトに道徳心は必要ない。全ては《企業》の利益のために

 

ルール9 性質上、《学園》の《保守》は最大の命題である

 

 

 

 

 

追加ルール 今年の生徒会には気をつけろ



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主人公設定

主人公の設定です

まぁ、ご都合主義ですがどうぞ


名前

   豹堂(ひょうどう) 真(まこと)

   旧姓:芹沢(せりざわ)

年齢

   16歳

所属

   碧陽学園2年B組

   碧陽学園生徒会 生徒会長補佐

身長

   167cm(ただし外見や武術における威圧感によってそれ以上に見える)

体重

   51kg(決して貧弱というわけではなく内に引き締められている)

趣味

   PCいじり・ゲーム・読書・体を動かすこと

外見

   クォーターであり金髪で目の色が蒼という日本人離れした容姿

   目が少し釣りあがっていて怖い印象を受ける

   肩まである後ろ髪を一つに束ねている

性格

   前述の外見のせいで初対面の相手には大半の場合避けられる

   しかしその性格は友好的で友人や彼を慕う後輩も多い

   他人に向けられる好意に対しては敏感

   だが本人がそのような体験をしたことがないため自分に対する好意には疎い

   中学のころはとある事情でかなり荒れていた

   そのため中学時代の一部の生徒にはかなり避けられている

備考

   もともとこちらの地方の出身ではなく前述の事情で中学入学前のころにこちらに越して来た

   現在祖父との二人暮らしで、祖父の経営する道場の師範代補佐として過ごしている

   ゲームが大好きで、杉崎と深夏曰く「真冬並みのゲーム廃人」

   運動神経もよく、深夏と同じく部活の助っ人によく呼ばれる

   近辺の不良がすぐ頭を下げるほど喧嘩も強いらしい

   杉崎は中学からの知り合い、会長・知弦・深夏は高校1年からの知り合い

   真冬とはネット上では過去に何度もあっていたが、現実では真冬が入学前に一度あった程度

 



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駄弁る生徒会①

これから本編です

こんな文章で満足して頂けたら嬉しいです

それではどうぞ


「世の中がつまらないんじゃないの。貴方がつまらない人間になったのよっ!」

 

 まどろみの中にあった俺の意識が、会長のどこかの本の受け売りの様な言葉によってもどってくる。

 折角気持ちよく寝ていたのに…。でも会長にしてはいい事をいったと働かない頭を使いながら思う。

 初めて経験したことも、何度もやっているうちに馴れて新鮮な気持ちを感じなくなるからな。

 初めての一本背負い。

 初めての面打ち。

 初めての瓦割り10枚。

 初めての…って、ここまで武術関連ばかりじゃないか?

 

 あ、自己紹介が遅れたな。

 俺の名前は豹堂(ひょうどう)真(まこと)。この碧陽学園生徒会の会長補佐の役職についている。

 ちなみにこの物語の語り部で、主人公でもある…急に俺は何を言い始めたんだ?主人公とかってなんだ?…まぁいいか。

 さて、そろそろ鍵がへんな事を言って、会長を慌てさせるころかな?

 

「じゃ、童貞も悪くないってことですか?」

『ぶっ!』

 

 …こいつは…俺の予想をはるかに超えたこと言いやがった…。

 おそらくうちのお子様会長は涙目で杉崎を睨んでいるだろう。何で分かるのかって?経験則だよ、うん。

 

「今の私の言葉から、どうしてそんな返しが来るわけ?」

「甘いですね会長。俺の思考回路は基本、まずはそっち方向に直結します!」

「なにを誇らしげに!杉崎はもうちょっと副会長としての自覚をねぇ……」

「ありますよ、自覚。この生徒会は俺のハーレムだという自覚なら十分―」

「ごめん。副会長の自覚はいいから、そっちの自覚を捨てることから始めようね」

 

 相変わらずだなぁこの二人は、と思いながら二人を眺める…おっとこの二人の紹介もしないとな。

 

 一人はこの生徒会の会長・桜野(さくらの)くりむだ。

 どこからどう見ても小学生としか思えない容姿・頭脳のスーパーお子様。

 よく高校3年まで進学できたものだ、ほんとに。

 

 もう一人は、この生徒会の数少ない男子の片割れの杉崎(すぎさき)鍵(けん)。

 見た目はかっこいいのに、常日頃からハーレムハーレム言っているせいかそこまでもてない二枚目半な男。

 まぁそれは理由があるからなんだがな。ちなみに俺の親友でもある。

 

「あれ?真起きてたのか?てっきり当分起きることないと思ったんだけど」

「おっす おはよう 相変わらずだなお前は…会長を口説くんなら後にしてくれ、あとに」

「く、口説くんじゃないわよ!まったく…」

 

 そういいながら会長はさきほど吹きだしたお茶をティッシュで吹いて、そのティッシュを丸めてゴミ箱に投げようとする。

 てか片目を閉じてまじに狙ってるよこの人…ほんとに子供だなぁ…そう思いながら俺は鞄からP○Pを取り出す。

 今日は何しようかなぁ…モン○ンでもいいしファンタシー○ターでもいいし…。

 

「かいちょー」

「なによぉ」

「好きです。付き合ってください」

「にゃわ!」

 

 そんな会長に対して、鍵が唐突に告白してティッシュが俺の目の前に飛んでくる。まぁどうでもいいや。

 よし、今日はパワ○ロでオールポジション作るまで粘るか。とりあえず最初はキャッチから…。

 

「なんで杉崎はそんな軽薄に告白できるのよ!」

「本気だからです!」

「嘘だ!」

「『ひ○らし』ネタは古いですよ会長…」

「大体杉崎にどこに本気があるのよ…生徒会に初めて顔出しした時のせりふ、覚えてる?」

「えっと…なんでしたっけ?『俺にかまわず先に行け!』でしたっけ?」

「ちなみに俺は『ナズェミデルンディス(0w0#)』でしたよね、確か」

「しょっぱなからどんな状況よ!それと豹堂!仮面○イダーは電○しか見てないわ!」

 

 まじかよ、ブ○イドもいい作品だと思うんだけどなぁ…ネタ抜きで。てか会長も仮面○イダー見てたんだな。

 

「あれ?違いますか?じゃあ…『ただの人間には興味ありません。宇宙人、未来人――』」

「危険よ杉崎!いろんな意味で」

「大丈夫です。原作派ですから」

「何の保障!?あとアニメの出来は神だよ!?」

「…二期はどうして作画がけい○ん!っぽかったのか…」

「やめなさい!そこには触れちゃいけないわ!」

 

 ゲームの画面に集中しつつ鍵に便乗して会長を弄る。

 お!天才きたこれいいとこまでいけるんじゃね?!

 

「皆好きです。超好きです。皆付き合って。絶対に幸せにしてみせるから。」

 

鍵がこの生徒会に顔を出した時のせりふを言う。まぁ、俺そん時いなかったけどね。

 

「そうよそれ!まったく…誰でもいいから付き合ってなんて誠実じゃないわ!」

 

 よく言うよ…鍵がそんなせりふを言ったのも、こういう考え方をするようになったのも会長のせい、というより会長のおかげなのに。

 

「一途なんです!美少女に!」

「括りが大きいわ!」

「希少種ですよー美少女。それによくないですか?最初から「俺は!ハーレムエンドを目指す!」って宣言するの」

「あんたはそこらのギャルゲ主人公とは基本スペックが違いすぎるわ」

「確かに…鍵は主人公の友人のギャグ要員って方が似合ってるかもな。まぁ俺もだろうけど」

「おい真!お前はなんでちょくちょくしか喋らないの!?そして俺の親友だよな?!なんでそんな俺に厳しいんだよ!」

「厳しい?俺はただ単に事実を述べただけだけど?」

「そ、そうよ!豹堂の言うとおりよ!」

 

 鍵が「顔はいいのにー!」とか言っているが無視無視。

 若干涙目になりながら鍵は俺の前にあった会長の捨てそこなったティッシュをゴミ箱に投げ入れる。

 

「…杉崎ってさ、さりげないところで優しいわよね…無意識に」

「え?…こういうギャップって好感度上がるでしょ?」

「狙い!?しまった!あたしの中の杉崎への好感度は若干上昇してしまったわ!?」

 

 この二人はほんとに仲いいなぁ、こんなに騒いで…って!?

 

「うああああああああああああ炎上したああああああああああああ」

「「急にどうした!?」」

 

 うう…畜生…またこいつ炎上しやがったよ…やべ、まじで涙出てきた…。

 そんなこと思いながらゲームを終了して、別のゲームに入れ替えていると生徒会室の扉が開いた。

 

「キー君、アカちゃんをいじめないの。それとニュー君…大丈夫?廊下中に声が響いてたけど…」

 

 この人は紅葉(あかば)知弦(ちづる)さん。俺の先輩でおこさま会長とは違い出るとこは出てる綺麗な先輩で、クールビューティーという言葉があう人だ。ほんとこの二人が親友って信じられないな…。

 ちなみにニュー君って言うのは俺のあだ名だ。

 真→しん→新→new→ニュー

 ってな感じのあだ名。まぁ個人的にも気に入っている。

 

「やだなぁ知弦さん、弄ってるんじゃなくて辱めてるんです」

「心配しないでください知弦先輩…これから別の世界に行くんで」

「余計に悪質よ?それ。あとニュー君、現実逃避はいいから。なんか厨二臭いわ」

 

 グフッ!…じ、実際逃げてる上に俺の趣味的にあってるから反論が出来ない…。

 

「大丈夫です同意の下ですから。てか今日集まり悪いですね俺のハーレム」

「ハーレムじゃなくて生徒会ね。それにキー君のそういうところ直せないのかしら?」

「ぐ…で、でもこれが俺ですから!これが俺のすべてですから」

「つまりお前はその程度の男ってことだな」

 

 あ、また鍵が涙目になった。相変わらずこいつ弄りやすいな(←Sっけ全開)

 

「まぁ、私はキー君のそういうところ嫌いじゃないけど…少しは改善するべきじゃないのかしら?」

「く、で、でもこういう人こそ落ちたら激しいにちがいな――」

「あ、それは正解。私小学校のころに好きな人に1日300通送ったりして最終的に精神崩壊まで追い込んだりしたし…あなたはどうかしら」

 

 ガクガクブルブル

 そのことを聞いた俺たち三人全員青ざめた顔で知弦先輩を見る…。

 そんな中鍵が口を開いた。

 

「分かりました…」

「あら、それを聞いても私を受け入れてくれるの?いま私の中のキー君に対する好感度がぐんと「知弦さんとは、体だけの関係を目指します!」…」

 

 ハァ…鍵のアホ…そういうのがあるから三枚目って言われるんだよ」

「お前は今日絶好調ですね!」

 

 あれ?俺声に出してないよね?あれ?

 

「声におもいっきし出てましたからね!?なにその「え!?」って顔!」

 

 今日の鍵は精神的にズタボロだな、主におれのせいで。

 そんな鍵とのやり取りをしているうちに、会長がどこからかお菓子を出して食べようとしていた。

 

『太りますよ』

 

 おっと鍵と被った。まぁ誰しもが思う事だもんな。

 

「ふ、太らないよ。私、太りにくい体質だし」

 

 そう言いながら会長はお菓子を口の中に放り込む。

 その刹那、知弦先輩と俺はアイコンタクトを交わす。

 

「えっとこの問題は…『メタボリックシンドローム』ね、よし正解っと」

「近年多いですよね、メタボな人って。この年でメタボって人もちょくちょくいますからね」

「…」

 

 この会話を聞いた会長が涙目の状態で椅子から崩れ落ちる…その間に俺は知弦先輩とほくそ笑む。

 そのとき鍵がこっちを見て青ざめてたように見えるけど、気のせいだろう。

 そして鍵が会長に近づいていく。

 

「会長、心配しないでくださいもし太ったら…」

「え、す、杉崎、太って醜くなった私も好きでいてくれるの?」

「その時は…仕事に生きればいい」

「リアルアドバイス?!」

「俺、陰ながら応援しますから!ブログに匿名で励ましのメール送りますから」

「陰からなんだ!匿名なんだ!太ったら見捨てるんだ!」

「だから太っちゃ駄目ですよ、太っちゃ」

 

 鍵が笑いかけながら会長にそういうが、お前さらっと酷いこと言ったよな。

 まぁ、それが杉崎鍵って人間なのだろうけどさ。

 そうこうしているうちにまた生徒会室の扉が開いて残り二人のメンバーが入ってきた。




作「移転してから一気に3話投稿です!」
真「まぁ、元々あったものを再び投稿しただけだけどな」
作「う”」
真「んで?これからはどう投稿していくんだ?」
作「再来週からテストだからね。すぐに続き、というわけには行かないね」
真「…あれ?なんだかデジャブが…」
作「なにが?まぁいいや。では改めまして、私ニヒトと『生徒会の切札』今後ともお願いいたします!」

作&真『それでは~』


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駄弁る生徒会②

第二話です!

今回ではヒロイン候補の一人が登場!

果たしてどうなることやら!

…!使いすぎて疲れた…

それではどうぞ!


「ういーっす」

「おそくなりましたー」

 

 対照的な掛け声で二人の美少女が生徒会室に入ってくる。

 ういーっす、と気の抜けたような挨拶をしながら入ってきたのは椎名(しいな)深夏(みなつ)。

 俺や鍵と同じ2年B組の所属で、生徒会副会長の役職についている。

 スポーツが得意…というより好きでよく(俺も一緒にだが)部活の助っ人に行っていたりする。

 碧陽に入学してから時々スポーツなんかで俺と勝負とかもしてる…勝率?五分五分だよ。

 

 深夏に隠れるように入ってきたのはこの生徒会メンバー唯一の1年生、椎名(しいな)真冬(まふゆ)だ。

 深夏とは対照的に白い肌と色素の抜けたような髪のおとなしい印象をもつ女の子。

 深夏の影響なのか分からないが男が苦手らしい。大丈夫かな俺…。

 ちなみにこの子とは昨日初めてあったためにいまいちどんな子なのか把握していない。

 でも鍵と深夏曰く”俺と同類”だそうだ…同類ってどういう意味だ?

 

「お?真冬ちゃん、鞄のストラップ変えた?」

「え、あ、はい。でもよく分かりましたね」

「大丈夫!真冬ちゃんのことは何でも把握しているつもりだから!」

「あ、ありがとうございます…」

 

 おい鍵、真冬ちゃんひいてるぞ。そんなことしてると深夏が―

 ガチッ!

 深夏が鍵にヘッドロックをかける。あーあ…俺知ーらねっと。

 

「おい鍵! あたしの目の前で真冬を口説くんじゃねーよ!」

「うぅ…ギブギブ…ちょ、見捨てないで真!助けて!いやまじで!」

 

 はぁ…まったくしょうがねーな…。

 

「深夏 そこらへんにしとけ…流石にそれはまずいぞ」

 

 "ちぇー"と言いながら深夏はヘッドロックをといていく。

 

「ま、真、ありがとう助か「そういうのは俺がやってやるって」おい!裏切ったなまこ、グエッ!」

 

 そう言いながら今度は俺が鍵にヘッドロックをかける。

 鍵が俺の手を叩いてギブって言っているが、この際無視。

 

「でもお前さっき深夏が技をといた瞬間に若干残念そうな顔したよな…何でだろう?」

「え!?なんでもないって!だから深夏!右手を振りかぶるのはやめ『グング○ル!』ゴハッ!」

 

 グチャ!

 鍵の顔辺りから聞こえてはいけない音が聞こえた気がする。

 そのまま俺が左腕の力を緩めると鍵が力なく崩れる…。

 その上深夏の右手が赤く染まってなんかないぞ…み、見えないって言ってるだろ!

 そう思いながら俺は自分の定位置である場所に座る。ちなみに俺の座っているのは俺は深夏と真冬ちゃんの間に座っているという感じになる。

 気持ちを落ち着かせるために机の中央にある『しっ○りチョコ』に口をつける。甘いもの大好きなんでね。

 

「あの…」

「ん?どうしたの真冬ちゃん?」

 

 俺の右隣に座っている真冬ちゃんがオズオズと俺に対して話しかけてくる。

 

「あの…豹堂先輩が「真」え?」

「真でいいよ、呼び方。そんな硬っ苦しい呼び方は苦手だから」

「で、でも…」

「うーん、じゃあ『真先輩』でどう?その方が呼びやすいかな?」

「じゃ、じゃあ今度からはその呼び方で…」

 

 よかった…昨日顔合わせした時の第一印象最悪だったから、真冬ちゃんとはコミュニケーションとれるか不安だったんだよな…。

 これで一歩前進、まずは仲良くすることから始めないとな。

 

「…流石だな真。男が苦手な真冬がまだ2回しか会ってない男のこと名前で呼ぶなんて…」

「ん?そうか?まぁ俺きっかけで男に対する苦手意識を払拭してくれればいいんだけど」

「いや、そういう意味じゃ…まぁいいか」

「そ、それで真先輩さっきの続きなんですけど…」

「あ、そうだったね。それで何を言おうとしたの?」

「はい…真先輩のそれ…」

 

 そう言いながら、真冬ちゃんが俺のP○Pを指差してくる。

 

「これ?いやぁ、これからモン○ンでもやろうかと「やっぱり!」うお!」

 

 真冬ちゃんがものすごい興奮して顔を近づけ…!?

 近い近い近い!!!真冬ちゃんの顔が俺の目の前にいいいいいいい!!!!

 

「真冬もやってるんですよ!モン○ン!」

「そ、そうなんだ…(やばい、今絶対俺の顔真っ赤だ)」

「はい!でも周りでモン○ン…というより趣味の合う友達がいなくて…」

 

 だから!と言いながらさらに顔を近づけてくる。やばいやばいやばい!!触れる触れる触れる!!

 意識が飛びかけた瞬間、急に真冬ちゃんが離れる。助かった…でも何で?

 よく見ると知弦先輩が真冬ちゃんの肩を掴んで椅子に座らせていた。

 

「こら、真冬ちゃん。ニュー君が困ってるでしょ」

「で、でも真冬!真先輩とゲームの話を「するために顔をあんなに近づけるの?」…!///」

 

 真冬ちゃんが真っ赤な顔をしてこっちを見てくる。

 思わず顔を背けたけど、俺の顔もそうとう真っ赤だと思う。

 コホン、と可愛いらしい声で仕切りなおす真冬ちゃん。

 

「あの、本題なんですけれども。もしよかったらで良いんですけど、真冬と一緒に一狩りいきません?」

「え!?あ、ああ、俺で良かったらいつでも良いよ」

「ありがとうございます!」

 

 というわけで、真冬ちゃんとモン○ンをすることになった…あれ、会議は?

 

 

鍵 side

 

「いつつ…」

 

 さっき深夏に受けた攻撃で刈り取られた意識が戻ってくる。

 てか真も真だよ…なにもそんなこと言わなくても…。

 まぁ、確かに俺も悪いんだけどさ…それを言うのはやめてほしいよ。

 とりあえず体を起こして、自分の定位置に座り真の方を見る。

 

「よっしゃ部位破壊!真冬ちゃん!援護よろしく!」

「はい!その間に真先輩は回復してきておいてください!」

「了解!」

 

 真冬ちゃんと一緒にモン○ンで熱狂していた。

 …え?真って、真冬ちゃんと昨日会ったばかりだよな?

 それなのにもう名前、というより親しげに呼ばれてる…なんか悔しいな。

 

「お、鍵起きたのか」

「あ、あぁ…にしても俺が気絶している間に何があったんだ?」

「まぁ…真のいつもの奴だよ」

 

 納得した あいつのフレンドリーさは異常だからな。

 この前なんかゲーセンで対戦した初対面の相手と気づいたらメアドとか交換してたし。

 それで今日は同類である真冬ちゃんとゲームの世界に狩りに出かけたってことか。

 でもそろそろ会長がご立腹だから会議を仕切り直そうか。

 

side out

 

 ところでさ、と鍵が深夏と真冬ちゃんに話しかけてくる。

 ちょうどクエストが終わって一息ついていたところだったので、鍵の言葉に耳を傾ける俺と真冬ちゃん。

 

「深夏と真冬ちゃんは『初めてのころはあんなに楽しかったのに』みたいなことってある?」

「なんだよやぶからぼうに」

「いや、さっき会長が言ってたんだよ『世の中がつまらなくなったんじゃなくて自分がつまらなくなったんだ』って」

「改めて考えても久々にいい言葉だよな。会長、今回の言葉はどこの本に書いてあったんですか?」

「久々とは失礼な!だ、大体、本で見つけた言葉なわけないじゃない!」

 

 会長、こっち向いて目を見て言いなさい。

 

「真冬はお化粧…コスメですかね」

『化粧?』

 

 今日はよく鍵と言葉が被るなぁ。こんなこと滅多に無いぞ。

 

「はい。子供のころはお母さんがお化粧しているの見てて羨ましいと思ってて、中学のころに初めて買った時はすごく嬉しかったんです。でも今だと最低限のメイクしかしなくなって…」

「ああ、なるほどね。でも大丈夫!真冬ちゃんは化粧しなくてもかわいいから!というより、真冬ちゃんの美貌を隠してしまう化粧なんてないほうがいい!」

「あ、ありがとうございます…」

 

 また口説いてるよ…てかほんとにこりねぇのな、鍵は。

 まぁ確かに、化粧が無いほうがその人の本当の姿って感じで嫌いじゃないけど。

 

「おい鍵!また真冬を口説いてんじゃねーよ!」

「や、やだなぁ深夏、嫉妬するんじゃないよ。お前も魅力的だからさ」

「いやいや、嫉妬じゃねーから…」

「深夏にも結婚したら真冬ちゃんが妹になるという魅力が―」

「しかもあたし本人の魅力じゃねぇし!明らかに真冬目当てじゃねぇか!」

 

 やばい、今日の鍵絶好調だ。どうせ「ヤキモチ焼いててかわいいなぁ」とでも思ってるんだろ

 

「ヤキモチなんて焼いてねーから!」

「おお!ついに以心伝心まで!ゴールインは近いぞ!」

 

 駄目だこいつ、最早手の施しようがない。

 

「怖いよ…そう思い込めるお前が怖いよ…」

「思い込み?仕方ない、そういうことにしてあげ、すいません調子乗りましたその拳を下ろしてください真様」

 

 流石にこれ以上はまずいと思ったので、鍵に近づいて拳を振り上げたら鍵が土下座してきた。。

 土下座するなら最初からすんなっての…。

 

「この光景を見てると鍵の方が成績良いなんて思えねーよな」

「キー君は優良枠で入ってきたのよね…ニュー君のほうがふさわしいと思うんだけど」

「いやいや、俺なんかが優良枠なんてそんな「終盤2回のテストわざと間違えたくせに」…」

 

 知弦先輩が笑いながら小声で言ってくる。

 なんでこの人知ってるんだ?俺が鍵を生徒会に入れるために"わざと"テストの点数下げたこと。

 やっぱりこの人だけは、敵に回しちゃ駄目だ。

 

「大体この学校の生徒会役員の選抜基準おかしいのよ!人気投票や優良枠もそうだけどメンタル面もきちんと評価に加えるべきだわ!」

「俺はこのシステムいいと思いますけどね」

 

 この碧陽学園の生徒会役員の選抜方法は他の学校とは一味違う。

 他の学校のように選挙などは行われず、純然たる(?)人気投票によって役員が決まる。

 しかしそれでは流石にまずい、ということでの妥協案が先ほど話に出てきた『優良枠』だ。

 これは学年の成績優秀者が希望すれば生徒会に入れるというもの。

 今期はその制度を使って鍵が生徒会入りした。

 

「よくよく考えたら、なんで真がここにいるんだ?」

「そういえばそうだよな。俺が折角入学当初かなり低かった成績をトップまで上げたのに…」

「知らねぇよ。一昨日こっちに戻ってきたら急に「お前、今日から生徒会役員な」って言われたんだよ」

 

 しかも会長補佐って言ういまいちよく分からない役職でな。

 てか会長の補佐ってことは、あの突拍子な考えに着いていけってことか?辛いわ…。

 

「そういえば、何で真先輩はすぐに生徒会に来なかったんですか?今学期始まって結構たってたのに」

「あー、俺実は3月の中旬くらいからアメリカにホームステイしてたから」

 

 そのためか時差ぼけなんだよなぁ…ようやく眠気がとれた所だよ。

 

「びっくりしたよ。帰ってきたらあの鍵が生徒会に入ってるんだもんな。まぁ、予想は出来てたけどね」

「すごいですよね、その点に関しては真冬、杉崎先輩が大きく見えます」

『真冬(ちゃん)、それは錯覚だ。鍵に尊敬するなんて末期だぞ』

「頭がいいのは事実だぞ、深夏に真。まぁ真には劣るけど」

「動機が不純なんだよ!お前が入るなら真のほうがマシだ!」

 

 まぁ俺はその逆で鍵を生徒会に入れようと思ったんだけどな。

 

「成績が良いだけって言う理由で入れるのはおかしいよ!そのせいで杉崎みたいな問題児が入ってきて―」

「生徒会のメンバーを全員メロメロにしたのは悪いと思ってますが…」

「誰一人なってないわよ!」

「ええ!?」

「なにその新鮮な驚き!自信過剰も甚だしいわね」

「そんな…まだ会長しか落ちてなかったなんて…」

「私も落ちてないわよ!杉崎なんかより、豹堂の方が断然良いわよ!」

 

 突然俺に話の矛先が向けられる。

 会長の言葉を聞いて鍵がこっちを睨んでいる。いや、俺にはそういう気持ちないから。

 どちらかといえば…そう、父親的な視点で見てるから。

 

「でも俺が一番恐怖するのは会長が最初に言ったことなんですよね」

「え?どういうこと?」

「つまらない自分になる、つまりは今のこの状態を楽しんでいるけど、最終的にはそれが当たり前のように感じてしまうと思うと…」

「たしかにそれはあるよな」

「あー、それは分かるかも。家が経営者だから生活基準を高くしたらなかなか下げられないよね」

「なるほど、それで会長は美少年をはべらせるのが趣味になったと」

「前々から俺にネットを使って調べさせてたのも、そのためだったんですね?」

「ないわよ!そんな趣味!あと豹堂、あんたが言うとしゃれにならないからやめなさい!」

「さらには札束で人の顔をペチペチ叩くのがやめられないと…」

「いまではこの碧陽学園に『桜野くりむ 被害者の会』が設立されたとかされてないとか…」

「どんな貴族よ私!そこまでのスケールじゃないから!しかも被害者の会って何!?」

「貧乏な今では家に侵入してくるアリの足を一本一本もぐのが唯一の生き甲斐と」

「他にもミミズや昆虫を虫眼鏡で焼くのもよくやっているという噂も…」

「ただの根暗じゃないのそんなの!」

 

 口論では会長は体力が低いから口論では鍵や俺には勝てない。

 やっぱり会長弄りは楽しいな。知弦先輩の気持ちが分かるよ。

 

「真冬も…そうはなりたくないですね。でもどうすればそうなるんでしょうか?」

「どうなんだろうね。世の中で勝ち組って言われている人たちは何か自分の中でやりたいことを見つけてそこそこの人生を送っているんだろうな」

「そこそこ幸せ…ねぇ。駄目だな」

「ん?どうした?」

 

 鍵がつぶやいたことに俺が反応する。

 それにつられるように会長や知弦先輩達も鍵を見つめる。

 

「俺は、ハーレムエンドを目指す!」

 

 鍵が拳を掲げ、高らかに宣言する。

 俺はそんな鍵をじっと見つめ、俺以外のメンバーは鍵の言葉に呆れている。

 

「妥協はするが高い位置で妥協してやる!美少女をはべらせて『美少女にはもう飽きたな』って言えるまで上ってから妥協してやる!」

「まぁ、目標を持つのはいいことだよな」

「ああ。そのスタンスは悪くないよな」

「そうですね。何も考えず上に上るのはいいことですよね」

 

 知弦先輩は言葉を出さず、鍵に対して微笑んでいる。

 生徒会のメンバーが各々賛同もしくは、納得している。

 

「えー疲れるのはいやだよぉ…」

 

 ただ一人、会長だけがそう発言する。

 この人はほんとに駄目人間だな。他のメンバーも呆れている。

 

「じゃ、今日の会議はここでしゅ~りょ~」

 

 ここで会長が飽きたのか会議を終了させる。

 そしてすぐさま、会長に感づかれないよう鍵にアイコンタクトを送る

 さぁ、俺たちの仕事のお時間だ。




作「さて、第二話の投稿でした」
真「…おいテス―」
作「次回の投稿はもうちょっと先かな~」
真「話聞け!テストどうしたんだお前!」
作「アーアーキコエナイー」
真「知らねぇぞ?どうなっても」


?「こちらでも作者は相変わらずのご様子で…」


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駄弁る生徒会③

短いですが駄弁る生徒会ラストです

それではどうぞ


知弦 side

 

「…で、杉崎はまた生徒会室に残ってるんだ。しかも今日は豹堂も一緒なのね」

 

 アカちゃんが生徒会室を眺めながらそうつぶやく。

 その言葉に対し深夏が首を鳴らしながら応答する。

 

「だから対応に困るんだよな。あたし達と話すために生徒会の雑務を全部引き受けてるんだもんな。真が手伝っているのもいまいち理解できないけど」

「ま、真冬は杉崎先輩のこと嫌いじゃないですよ?」

 

 真冬ちゃんがゲーム画面から目を離して深夏の言葉に反応する。

 

「この学校であいつのこと嫌いなやつなんていないわよ。杉崎はハーレム言わなきゃ彼女くらいできるし、豹堂に関しては何もしなくても彼女できるわよ。…まぁ、顔はちょっと怖いけど」

「あれ?アカちゃんもしかしてキー君とニュー君のこと…」

「そ、そんなことないわよ!」

 

 アカちゃんが顔を真っ赤にしながら反論する

 ニュー君の話をした瞬間、真冬ちゃんが反応したのもちょっと気になるけど、それよりもアカちゃんよ!

 あぁ…アカちゃんのあの顔もいいわぁ…。

 

「まぁ、あいつはなんだかんだ言ってうちの大黒柱なのかもね」

「でも会長さん、杉崎先輩と付き合ってあげないんですね」

「それとこれとは別よ。あんな甲斐性なしの上に浮気性のやつと…」

 

 まぁ、そこもキー君のいいところと言えるわね。どこかの学生ライダーみたいに、すべてを受け入れるっていうところは。

 …あら?真冬ちゃんがずっとゲームの画面を見つめているけど、どうしたのかしら?

 

「真冬ちゃん?さっきからずっと何を見つめてるの?」

「え?!い、いえ、なんでもないですよ?」

「これって…真のパートナーカード?」

「ちょっとお姉ちゃん!」

 

 深夏が真冬ちゃんのゲーム画面を覗き見ながらそう発言する。

 慌ててゲーム画面を隠す真冬ちゃんに、私は問いただす。

 

「真冬ちゃん、もしかして…ニュー君のことが気になってるの?」

「!?///そ、そんなわけないじゃないですか///」

 

 見るからに動揺している真冬ちゃん。またニュー君は女の子をオトしたのかしら。

 まだ完全にはオチていないようだけども、…これは時間の問題かしらね?

 そう考えながら私達は学園から離れていった…。

 

side out

 

 

 カリカリカリ…ペッタン。

 俺と鍵が書類に目を通し必要事項を記載し、承認印を押す。

 そんな音がさきほどから生徒会室に響いている。

 

「なぁ真」

「うん?どうした鍵」

 

 今の今まで作業に集中していた鍵が俺に話しかける。

 

「別にお前も残って作業を手伝うことないんだぜ?道場の手伝いもあるんだろ?」

「ん?気にしてたのか。いいさ、俺が好きでやってるだけだし。それに…」

 

 書類を机において笑みを浮かべながら口を開く。

 

「前にも言っただろ?一人で抱えるな、今のお前は一人じゃない。ってな」

 

 一瞬鍵がポカンとした表情をする。

 しかしすぐに顔を綻ばせ、こちらに笑いかけてくる。

 

「ああ そうだったな! 俺がミスしたらお前がフォローしてくれるもんな!」

「え? そこに関しては限度があるぜ?」

「な?! おいおい それは酷くないか?」

 

 お互いに笑いあいながら、冗談を言いながら作業を再び開始する。

 こんな日常が俺は大好きだ。こんな生活をこれからも続けていきたい。

 

 

 碧陽学園生徒会。ここはつまらない人間達が毎日笑いあう幸せな空間である。



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放送する生徒会①

テスト期間中なのに暇つぶしで投稿

これから一・二週間はマジで勉強するので、投稿しません

では、放送する生徒会どうぞ


「他人との触れ合いやぶつかり合いがあってこそ、人は成長していくのよ!」

 

 会長がいつものように小さい胸を張って言葉を発する。

 しかし!今はそんなことにかまっている暇はない!

 

「ちょっと真先輩!やっぱりグ○カスは卑怯ですよ!」

「そっちのス○フリもでしょ!フルバーストは避けきれないんだって!」

「ちょっと!そこのゲーオタ二人!きちんと話を聞きなさい!」

 

 今日は趣向を変えて真冬ちゃんとガ○ダムの格ゲーをしていた。

 俺の選んでいたのはグフ○スタム、1000コスでは最強ともいえるスペックを持つ"漢"の機体だ。

 真冬ちゃんはストラ○クフリーダム、3000コス故の高火力を有する機体。

 会長に言われたので渋々終了して会議に集中する。

 

「それで?今日の言葉はどういう意味ですか?」

「あ、ゲームしてても話は聞いていたのね」

 

 まぁ、一部は聞き逃してましたけどね。

 俺の言葉を聞いて会長がホワイトボードに文字を書き始める。

 書き終わってホワイトボードをバンッ!っと、いい音を立てながら叩く。

 

「これよ!」

「えーっと…ラジオ放送?」

 

 え?どういうこと?いまいち理解できないんだけど

 見ると鍵や椎名姉妹、さらには知弦先輩さえポカンとした表情をしている

 そんな中真冬ちゃんが一番最初に口を開く

 

「ら、ラジオって…音楽をかけたり喋ったりする、あのラジオですか?」

「そう、そのラジオよ」

「会長なんでいきなりラジオなんですか?そういうのは生徒会ではなく放送部の仕事でしょ?」

 

 俺が至極当然の事を会長に対して発する。

 他のメンバーも俺と同じ考えだったのか、会長に対し疑問の視線を向ける。

 

「何を言ってるの!生徒会って言うのは生徒をまとめる立場にあるのよ?政見放送みたいなのもたまにはやらないといけないわ!」

「政見放送なんてよく知ってましたね。意外です」

 

 そんな言葉に耳もくれず、会長が知弦先輩にの頭を撫でられて満足そうな顔をしていた。

 しかし撫でられていた会長が何かに気づいて知弦先輩の手から抜け出す。

 

「子供扱いしないで!政見放送くらいしってるわ!」

「そうだったわね、ごめんなさいアカちゃん」

「分かればいいのよ。分かれば」

 

 頬を膨らませながら怒る会長。…なんだか頬いっぱいに種を詰め込んだハムスターを思い出した。

 会長の方をながめていたら知弦先輩がアイコンタクトを送ってきた…なるほど。

 

「ところで知弦先輩、昨日のあのクイズ番組見ました?面白かったですよね」

「そうね、流石は高視聴率というべきかしら…そういえばその番組で政見放送の問題が出てた気が…」

「………と、とにかく政見放送よ!」

 

 滝のように汗を流しながら続けようとする会長。

 昨日のクイズ番組に影響されただろ、これ。

 まぁこの状態の会長は止められない事は分かりきっている。鍵達もやれやれという感じであきらめている感じだ。

 深夏も嘆息混じりで話し出す。

 

「まぁ四の五の言ってもどうせやるんだろ?でもなんでラジオなんだ?映像のほうが簡単じゃねーのか?」

「当初はその予定だったんだけど、放送部に言ったら『今渡せるのはこれくらいしか…』って言われたからラジオなの」

 

 そう言いつつ会長が珍しく、本当に珍しくてきぱきと準備をしていく。

 しかし配線関係は放送部にやらせていたようでマイクスタンドを俺たちの前に設置していく

 なるほどね、ここにくる前に同じクラスの放送部員の女子に「頑張って」と言われた理由が分かったよ…

 本当にお疲れ様です放送部員。今度放送部に顔を出しに行こうかな…

 …まったく関係ないけど、その事を言いにきた女子が顔を赤らめていたのは何でだろう?

 

「か、完璧に準備されちゃってます…」

 

 真冬ちゃんがゲームをしていた時とは正反対にテンションがガタ落ちしてた

 まぁ、目立つのがそこまで好きじゃない子だからなぁ…よし

 

「大丈夫だよ真冬ちゃん」

「ふぇ?な、何が大丈夫なんですか?真先輩」

「そんなに緊張しなくてもみんな素人だし、もしうまくいかなくても俺や皆がフォローするから」

「あ、ありがとうございます//」

 

 顔を少し俯けながら返事をする真冬ちゃん。これで少しは緊張がほぐれると良いんだけどな。

 ふと視線を感じたのでその方向見る…知弦先輩がめっちゃ怖い鋭い目つきでこちらを見ていた…。え、俺なんかした!?

 

「ほら最近は声優さんのラジオが増えてるでしょ?私達のような美少女達がラジオをすればリスナーも喜ぶはずよ!」

「いやそれは声優さんだからこそじゃ…」

「それに声優さんやリスナーの皆さんを舐めすぎでしょ…」

 

 俺と鍵が正論でつっこむ…というより鍵、お前今日初めて喋ったぞ

 しかし会長はこのまま企画を押し通すようだ

 

「可愛い声でキャピキャピ話していればその辺の男性リスナーなんてコロリよ」

「謝れ!俺と真以外の男性に謝れ」

『いや、お前(キー君)(杉崎先輩)(鍵)と俺(ニュー君)(真先輩)(真)を一緒にするなよ(しないの)(しないでください)』

「まさかの一斉射撃!?酷い!真はこの前リ○バスのラジオ聞いて楽しんでたじゃないか!」

 

 いや、あれはグリリバとか民○さんとかのネタを楽しむラジオだから。

 鍵とは違うから…多分。

 

「杉崎は騙されるのね…まぁ6人もいればネタは尽きるようなことは無いだろうし大丈夫、いつもどおりに話せば」

「いつも通り…ねぇ」

「杉崎は喋らないでね。杉崎の発言すべてが放送コードに引っかかるから」

「ひでぇ!」

「あ、豹堂は積極的に喋ってね?あんたの言動がこのラジオを左右するといっても過言ではないわ」

「?別に俺が喋ろうが喋るまいがラジオには関係ない気がするんですが…」

(((あ、そういえば本人は自分の人気を知らないんだった)))

 

 真冬ちゃん以外のメンバーがあきれたように俺の顔を見てくるが、なぜ?

 まぁ鍵が規制されるのは仕方が無いな、いつも発言があれだし、正直俺も付いていけない時あるしな。

 そんなことを考えていると会長が俺の近くに来て耳元に話しかけてきた。

 …え、それをやれと?うわ、顔がまじだし。はぁ…怒られても知ーらねっと。

 

「ん?真、急にパソコンを開いてどうした?」

「いや、これから全国の放送局を電波ジャックしてこの放送を全国に流そうかと」

『何しようとしてんの(るんだ)(るの)(るんです)!?』

「お前どうしたんだ!?正気を取り戻せ!」

「い、いやな?会長がそうしろって…」

 

 俺がそういった瞬間全員が会長を睨む…まぁ本気ではなかったんだろうな、多分。

 

「な、なに皆。私が放送するラジオなんだから世界に知らしめる必要が」

『ないです(ないわ)(ねーな)』

 

「う、うわああああああああああああああん!!!!!!」

 

 あ、ガチ泣きだこれ。

 

 

 そんなこんなで会長を知弦先輩が泣き止ませてラジオを始めようとする。

 ちなみにこれは生ではなく録音らしい。それならまだトラブルがあっても編集が出来るんで何とかなるだろう

 じゃあ何で電波ジャックしようとしたんだよ、生放送じゃないのに。

 まぁ、みんな落ち着いてラジオの準備を始めていた。

 真冬ちゃんは諦め半分興味半分でマイクを突いている。なんか癒されるな。

 知弦先輩は…あの人「コホン」とかいって喉の調子確認してるよ…。やることはすべて手を抜かない人だもんな。

 深夏はいつも通りだな。クラスでも代表として色々と喋っていたりするからな、慣れたものなんだろう。

 鍵は…喋れないからって若干不貞腐れてる。まぁ…元気出せよ。

 俺?PCで録音データとかのチェックをしたりしているよ。まぁ、なんだかんだで面白そうだし。

 そうして皆が準備が終わったのを確認した会長が口を開く。

 

「さぁ!始めるわよ!」

 

 そう言い会長が手元に何種類もあったボタンの一つを押してラジオ放送が始まった。



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放送する生徒会②

前期末テストが終了したので投稿再開です!

それでは放送する生徒会(またの名をカオスラジオ)、始めていきます!


…テストの結果?キクナ


会「桜野くりむの!オールナイト全時空!」

杉「放送範囲でけぇ!」

豹「とうとう時空をも超えたよこのお子様会長!」

 

♪生徒会の一存OP 「Treasure」♪

 

会「さぁ始まりました桜野くりむのオールナイト全時空」

知「夜じゃないけどね」

豹「放課後の夕方ですよね、今」

会「この放送は富士見書房と小説投稿サイト・ハーメルンの提供でお送りいたします」

深「どうしたんだ富士見書房にハーメルンも…無駄な投資も甚だしいな,、い」

会「まぁギャラは0円の上に機材はこっちのものを使っているからスポンサーしてもらうことは何も無いんだけどね」

真「ならなんでスポンサーを読み上げたんですか?」

会「雰囲気よ、雰囲気。うん、今のところとってもラジオっぽいわ」

真「はぁ…なら良いんですけど…」

会「こら真冬ちゃん!そんな低いテンションじゃだめよ!リスナーはもっと女子の明るい会話を望んでるんだから!」

真「そうでしょうか…」

会「うん、男子リスナーなんてそんなもんよ」

杉「こらこらこら!なんでリスナーを見下げた発言するの!?生徒に喧嘩売ってるんですか!?」

会「パーソナリティあってのリスナーでしょ?」

杉「リスナーあってのパーソナリティでしょ!」

深「おお!鍵がまともな事言ってる!ラジオ効果すげぇ!」

豹「…でもよく考えてみるとリスナーはパーソナリティがいない放送では存在できない。さらにパーソナリティもリスナーがいなければ放送では存在できない。つまりリスナーとパーソナリティは表裏一体というわけで…」

真「そして真先輩が本編で使わなかった頭をフルに使ってます!真先輩帰ってきてください!」

会「そうよね…私が間違っていたわ杉崎…」

杉「分かれば良いですよ…分かれば…」

会「やっぱりある程度は媚びておかないといけないわよね。うん、私とっても大人ね」

杉「だからそういう発言が駄目だって―」

会「お便りのコーナー♪」

杉「無視!?ラジオなのに、言葉のキャッチボールは無視!?」

知「それがアカちゃんクオリティ」

豹「会長にまともな返答を期待しちゃ駄目だろ」

杉「なんで知弦さんと真は所々でしか喋らないの!?あんたらが一番舵取りしないといけない人たちでしょ!?」

知・豹「………」

杉「ラジオでの無言はやめましょうよ!」

会「さて一通目のおたよりは―」

杉「進行重視か!会話の流れは無視ですか!」

会「『生徒会の皆さんこんばっぱー!』はいこんばっぱー!」

杉「え何その恥ずかしい挨拶!恒例なの!?」

杉崎以外『こんばっぱー!』

杉「俺以外の共通認識!?唯一俺と同類の真まで!」

会「『桜野くりむのオールナイト全時空いつも楽しく聴かせていただいております』ありがとねー」

杉「嘘だ!これは第一回放送のはずだ」

豹「時系列なんてこの放送には些細なことだぜ?鍵」

杉「流石は『全時空』!」

会「あ、あと言い忘れてたけどこれ一応生でも放送されているわよ。まぁ今聴いてる人は少ないだろうから明日のお昼にも放送するけど」

杉「どうりでメールが来るはずだ!ていうよりそれだったらより一層発言に気をつけてくださいよ!」

会「はいはい、じゃメールの続きね。『ところで皆さんに質問なんですが皆さんはどんな告白をされたら嬉しいでしょうか?僕は好きな人がいて、どんな告白をしようか悩んでいます。くりねぇ、是非アドバイスをお願いします』」

杉「『くりねぇ』って呼ばれてるんだ!こんなにロリのくせに!」

会「そうねぇ…これは難しい問題ね。でも恋愛経験豊富な私から言わせれば―」

杉「男と手を繋いだことも無いくせに…」

会「む、あるよ!男と手を繋いだことくらい!」

杉「誰だ!俺のハーレムメンバーに手ぇ出したのは!出て来い!俺がじきじきに修正してや―」

豹「あ、それ俺だ。去年くらいに迷子になってた会長の手を引いて家まで送った記憶が…」

鍵「―るのはやめておこう、真なら。というか、迷子って…」

会「な、なによ!そんなことまで思い出さなくても良いわよ!それよりもこのお便りへの回答だけど…ふつーに告白すればいいと思う」

杉「なんか適当にアドバイスしたあああああああああああ!」

会「知弦はどう思う?」

知「そうね…好きにすれば良いじゃないかしら。私には関係ないし」

杉「パーソナリティがリスナーに冷てえええええええええ!」

会「真冬ちゃんはどう?」

真「え?そ、そうですね…真冬は…あの…分かりません」

杉「まさかの『分かりません』発言キタアアアアアアアアアアアアアア!」

会「深夏は?」

深「当たって砕けろ!以上!」

杉「もっとリスナーの心を丁重に扱おうよ!」

会「うんうん。最後に豹堂!」

豹「すいません、俺はそういう経験したことが無いんでノーコメントで」

杉「唯一の良心がああああああああああ!」

会「杉崎うっさい…さてと、次のお便りは『妹は預かった、返してほしくば指定した銀行の口座に…』ってあれ?これ間違いメールじゃないの。ちょっとスタッフーちゃんと確認してよねーまったく」

杉「スルーなの!?そんな重要そうなメールスルーしちゃっていいの!?」

真「それとスタッフなんてこの放送にはいない気がするんですが…」

会「『生徒会の皆さんこんばっぱー』こんばっぱー!」

杉崎以外『こんばっぱー!』

杉「だからなんで皆ノるの!?真もさらっと乗っかってるし!」

会「『くりねぇ、どうしよう。私お金が早急に必要で…というのも妹が誘拐されてしまって…両親も金策を練っているんだけどなかなか集まらなくて…どうしたらいいでしょうか』」

杉「ディープなお悩みきたあああああああああああ!ってかこのメールの前に110番しろよ!それにこれさっきのメールに関係してるだろ絶対!」

会「ううんどうしよ…よし!ラジオネーム《被害者の家族》さんには富士見書房と豹堂のポケットマネーから『まとまったお金』をお送りしまーす」

杉「用意しちゃうんだ!しかも自分じゃなくてスポンサーから!さらには真からも…って真?急にPCが壊れるくらいにタイピングをし始めてどうした?」

豹「ん?いやなに、まとまったお金を準備するために政府のトップの口座の金を俺のに書き換えようかと」

杉「やめろ!そんな犯罪レベルな事をしようとするんじゃない!」

豹「人質の命には変えられないだろうが!」

杉「急に正論を述べるんじゃない!」

会「よしそれではここで1曲、先日リリースされた私のニューシングル《妹はもう帰ってこない》です。それではどうぞ」

杉「空気よめよおおおおおおおおおおおお」

 

♪妹はもう帰ってこない FULL再生 ♪



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放送する生徒会③

ラジオ編後半!ちょこっと伏線をばら撒いてみたり…

まぁ文章力はいつも通り皆無ですがね!

では放送する生徒会③、どうぞ~


会「さて聴いていただいたのは現在発売中の《妹はもう帰ってこない》でした。1stシングルの《弟は白骨化していた》も合わせてよろしくね~」

杉「あんたの過去にいったい何があったんだ!」

真「妹である真冬には耐え難い曲でした…」

豹「……」

会「?あれ?どうしたの豹堂、ガラにも無く暗い顔しちゃって」

豹「え!?あ、なんでもないですよ。続けちゃってください」

会「そう?じゃあここで恒例のコーナー《椎名姉妹の姉妹でユリユリ♪》」

杉「…………それはちょっと聴いてみたいかも…」

豹「鍵、後でしばくぞ。てかなにやらせようとしてんですか!?」

真「杉崎先輩!?そこはちゃんとツッコンでくださいよ!少しは真先輩を見習ってください!」

深「そうだ!聞いてないぞそんなの!」

会「このコーナーはリスナーから送られた恥ずかしい百合っぽい脚本を椎名姉妹が演じるというこの放送屈指の人気コーナーよ」

杉「人気な設定なんだ…俺が言える立場じゃないけどここの生徒大丈夫か?」

豹「鍵安心しろ、お前共々すでに手遅れだ」

杉「ひでぇ!」

会「個人的には好きじゃないんだけどね?ほらご機嫌取りよ、ご機嫌取り。これやっておけば生徒も満足するだろし」

杉「だからそういう発言は本番中にしないでください!」

会「じゃ、椎名姉妹よろしくね~。はい、これ台本」

真「う、うぅ…本当にやるんですか?真先輩…」

豹「ご、ごめんね。さっきから会長が『止めるなよ?』って視線送ってきてるから…」

深「うわ、なんだよこれ…こんな読んでらねーよ…」

会「こら深夏!逃げないの!これを乗り越えてこそ本物の副会長よ!」

杉「副会長の資格全く関係ないでしょ…これ」

深「…やるしか…ねーようだな」

杉「なんで納得してんの!?」

真「真冬も…覚悟を決めました」

杉「何キッカケ!?ねぇ!何キッカケ!?」

知「ふふ…それでこそ椎名姉妹よ」

杉「あんたはなんで急に思い出したかのように発言するの!?」

豹「深夏に真冬ちゃん…大きくなって…」

杉「なんでお前はお前で泣いてるの!?お前二人の父親か!?」

会「それじゃ~いってみよー」

 

♪ 耽美なBGM ♪

『真冬……あたしもう……』

『あぁ、おねぇちゃん…んっ、あ、はぁはぁ』

『真冬…可愛いよ、真冬…』

『おねぇ…ちゃ……んん!』

 

 

杉「待て待て待て待て待て!個人的にはドキドキワクワクだけど、これは校内放送でやっていいレベルじゃないでしょ!?」

会「う、うん。そ、そうね。これはなんかやりすぎたわ…」

真「ええええええええ!?こ、これだけやらせておいて!」

深「ひでぇ!そういう反応されるとあたし達本格的にいたたまれねーじゃねーか!」

豹「//////////////////」

知「あら?ニュー君が顔を真っ赤にして思考停止しているわね。まぁそれは放っておいて、椎名姉妹の絡みは放送コードに引っかかるわね。そういうディープなのはプライベートだけで留めてもらえないかしら?」

深「勘違いされるような事言うなよ!プライベートはこんなんじゃねー!」

真「そうです!リスナーの皆さんは信じないでくださいね!」

知「…そうね、ここではそういうことにしておくべきだったわね。軽率な発言してごめんなさいね、二人とも」

椎名姉妹『もうやめてえええええええ!』

会「さ、さあ次のコーナー《杉崎鍵の『殴るなら俺を殴れ!』》」

杉「なんですかそのコーナー!」

会「このコーナーは校内でもし誰かを殴り飛ばそうなくらいカッとしてしまったらとりあえず杉崎を標的に発散しようというコーナーです」

杉「俺の人権は!?」

会「生徒のいざこざを解決するのも生徒会の仕事、というわけで今日も揉め事がありましたら2年B組の杉崎までご連絡を―」

杉「するなあああああああああああ」

会「仕方ないわねぇ…希望者もいないようだし今日はこのコーナー飛ばすわ」

杉「なんで俺の担当だけそんなコーナーなんですか…」

会「それじゃ今度は《豹堂真の『紳士にお悩み相談』》のコーナー」

杉「何この俺との差!おんなじ男なのに!」

会「このコーナーは、リスナーさんから送られた相談事に豹堂が紳士に答えるコーナーよ」

杉「…というより、ものすごい普通なコーナーですね」

会「うん、杉崎と違って豹堂は真面目だからね」

杉「そういう理由なんだ!俺と真の扱いの差って!」

豹「////…ハッ!あ、あれ?俺何してたっけ?」

会「お、豹堂起きた?これから豹堂のコーナーだから、はいこれお便り」

豹「え、あ、はい分かりました。えーと…2年B組の放送部員さんからのお便り…ってうちのクラスじゃねぇか」

杉「なんでうちのクラスからも参加してるんだよ…」

深「というかわかりやすい名前だなおい」

豹「まぁとりあえず読むな?『生徒会の皆さんこんばっぱー』はいこんばっぱー」

杉「…なぁ、なんか異様にお前なれてないか?」

豹「気にしない気にしない『実は私は同じクラスに好きな人がいるんですがその人は鈍感でさらに私は口下手で、彼とうまくしゃべることが出来ません。どうすればいいでしょうか?』…鈍感なやつねぇ…一体誰だろうな、その彼って」

杉「(鈍感なやつが好き…その彼って絶対真だよな?)」

深「(ああ。それにうちのクラスで真が好きな放送部員ってあいつしか…でもこいつの鈍感はしょうがないからなぁ…)」

豹「ん?二人ともどうした?」

杉&深『いや、なんでもないぞ?』

会「それよりも豹堂!リスナーさんの質問に答えないと!」

豹「あ、そうでしたね。うーん…とりあえず、その彼ときちんと話してみよう。そして面と向かって喋れる様になったら告白しちゃおう。その恋を俺は応援するよ!」

杉&深(自分自身のことなのに応援しちゃったよ!)

会「うんうん、やっぱり豹堂がコーナーすると安心ね!この調子で次のコーナー!」

杉「え!?あれだけでいいんですか?!」

会「次は私と豹堂のコーナー!《桜野くりむと豹堂真へのファンレター》!」

杉「明らかに差別してね!?コーナーの格差が激しいですよね!?真なんか個人のコーナー二つ目ですよ!?」

豹「俺これに関しては全く聞いてないんですけど…てか俺なんかにファンレターなんて来ないでしょ」

会「憧れの部長さんからのお便り『豹堂真様…前にあたしに対し親身な態度で助言をくれたあなた。今ではあたしのかけがえの無い存在となっております。お話したいことがございますので後日、陸上部の部室までおこしください』」

会長&真以外『これファンレターじゃなくてラブレターだああああああああああああ』

杉「お前何?!陸上部の誰かになんか助言言ってたの!?」

真「真先輩!ちょっと詳しく教えてください!」

豹「詳しくって言われても…あ、そういえば前に陸上部の部長からマネージャーにならないかって誘われてたな…その事かな?」

深「…最近陸上部の部長がよく真に絡んでくる理由はこれか」

会「それじゃ~次のお便りいくよ~、匿名希望さんからのお便り『桜野くりむ様、貴女の可愛らしさを見るたび僕の心はドキドキとときめいて―』」

杉「またラブレターか!てか誰だ!放送を利用して俺の女にちょっかいかけたやつは!いい度胸だ出て来い!俺が相手して―げふっ」

会「な、なにを口走ってるのよあんたは!」

杉「だ、だって、俺の彼女にラブレターなんて送ってくるやつがいるから…」

会「私は杉崎の彼女じゃないから!ラジオでそんなへんな事言わないの!」

杉「すいません、カッっとなってやりました。私は謝らない」

会「なんでそんなふてぶてしいの!?きちんと反省しなさい!」

杉「反省してま~す」

会「あんたはどこのスノボ選手よ!」

杉「うぅ…で、でもこの会長への手紙のコーナーは俺が嫉妬に狂ってしまうんで耐えられません」

会「う……」

深「…どうでも良いけどイチャついてないで早く進めろよ」

会「い、イチャついてなんかないわよ!深夏までへんな事言わないで!豹堂はなに温かい目で見てるのよ!」

豹「いぇ~なんでもないですよ~」

会「もう…二人のせいで調子が狂ったわ。次のコーナーいくわよ」

真「あ、なんだかんだ言って杉崎先輩の要望どおり手紙読むのやめてくれるんですね」

会「うぅ…と、とにかく次!《学園 五・七・五》」

豹「なんかさっきの俺のコーナー並みの定番コーナーが来ましたね」

会「うん、ネタ切れだから」

杉「言っちゃうんだ!そんな大事なこと放送内で言っちゃうんだ!」

会「このコーナーはリスナーの考えてくれたこの学園にまつわる面白おかしいことを五・七・五にして紹介するコーナーです」

豹「普通すぎてなんだか怖いな」

杉「だよな。逆に危機感を抱くほどありきたりなコーナーだよな、これ」

会「こほん、それでは参りましょう、匿名希望さんの五・七・五」

 

『燃えちまえ メラメラ燃えろ 杉崎家』

 

会「……す、素晴らしい詩ですね。情景が目に浮かぶようです」

杉「…………」

会「?えっと…杉崎?私が言うのもなんだけど…突っ込まないの?」

杉「いえ……すいませんリアルで身の危険を感じて、テンションが上がらないです」

会「あー……」

深「まぁ…完全に笑いのレベルを超えてるよな、これは」

真「真冬も若干引いてしまいました」

知「まぁ、でもそうよね。キー君ってそういう立場よね基本。皆の憧れの美少女の集まるコミュニティに在籍しているだけならまだしも、自分で『攻略する』『ハーレム』だの言っているから…自業自得?」

豹「知弦先輩の意見には一理あるかな?まぁ『限度を考えろよ?』っていう警告じゃないのか?これ」

杉「うぅ…ええい!構うもんか!ここは俺のハーレムだ!文句あるやつ出て来い!一人ひとり話し聞くし喧嘩も買うぜ!だから―」

会「だから?」

 

杉「火、つけるのだけは勘弁してください。まじですいませんでした」

 

会「…杉崎がラジオなのに泣きながら土下座したところで次のお便り…メタルカラーチャートのバー○トリンカーさんから」

豹&真『え!?うちの学校ってバース○リンカーいるの(いるんです)!?』

会「バースト○ンカーって何?」

深「…まぁ、あの二人が反応するような単語だって事は分かった」

会「私達には理解不能ね…とりあえず読むわね」

 

『金髪は さすがに駄目だと 思います』(字余り)

 

豹「ん?これって俺に対して?これ一応地毛なんだけど」

知「まぁ、ニュー君の見た目は仕方が無いわよね。これが無いとニュー君がニュー君じゃなくなるし」

会「とりあえず、これはしょうがないんでスルーするわね。それじゃ次のお便り」

 

『金が無い 勢いあまって 人さらい』

 

杉「犯人こいつだああああああああああああああああああ」

会「え?なにが?どういうこと?」

杉「いや、さっきの誘拐事件の…そんなことよりこいつの名前と住所!書いてないんですか!?」

会「それはないけど追伸の部分に『二万円も要求してやったZE!』とは書いてあるわ」

杉「やっす!二万かようちの生徒の妹の身代金!なんで両親用意できなかったんだよ!」

会「私に言われても困るんだけど…杉崎、世の中には恵まれない人たちもたくさんいるんだよ」

杉「そ、それはそうですけど…なんかこの事件割と浅い気がしてきました」

会「そんなの誰もが最初から気づいてた事じゃないの。まあ私達はラジオを続けましょう」

杉「収録中…てか放送中に決着つきそうですね、誘拐事件」

会「では、最後の五・七・五です」

 

『真面目にさ 仕事をしろよ 生徒会』

 

杉「一般生徒の素直な反応来ちゃったああああああああああああああああ!」

会「まったく失礼しちゃうわよね」

杉「いや…俺が言うのもあれですが、すげぇ気持ち分かります」

深「あたしも分かる」

真「真冬も分かります」

会「なによ!やるべきことはちゃんとやっているわよ!」

知「やらなくて良いことも大量にやっているけどね」

豹「今やっているこれだってやらなくてもいいことですもんね」

会「不愉快だわ!このコーナー終了!」

杉「そういう態度が駄目なんだと思います!」

会「それじゃ終わりも近いからフリートークでもやろうか」

豹「今までが十分フリーダムでしたけどね」

深「ん?会長さん、メールが来てるみたいだぜ」

会「え?なになに?」

真「ええと、ですね『妹が誘拐されていた件ですが無事解決いたしました!』だそうです。良かったですね!」

杉「おお、解決したか。良かった、良かった」

知「……チッ」

杉「今の舌打ち、おもいっきり聞こえてますよ知弦さん」

知「なんのことかしら?」

杉「録音&放送されているっていうのになにその開き直り!」

豹「…書き換えたのをまた直しとこっと」

杉「お前はまじでなにやってたの!?」

知「でも随分とあっさり解決したわね。どんな犯人だったのかしら?」

真「ええと、よくは分からないんですけど、最終的には攫われていた妹が自分で犯人を叩きのめしたそうです。犯人は…重症だそうです」

杉「二万円ほしかっただけの犯にいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!」

真「妹さんも基本は遊んで貰っていただけらしいです。でも偶然このラジオを聞いて、自分が攫われたことに気づいて犯人をボコボコしたそうです…」

杉「俺たちのせいなのか!」

深「結局この犯人はなんで二万円がほしかったんだ…」

真「えとですね・・・メールによると犯人は意識を失う前に『この子の姉に…貸したままの…二万円を返して…ほしかった…だけなのに…ガクッ』と倒れたそうです」

杉「いたたまれねえええええええええええ!てか、諸悪の根源は姉か!リスナーか!」

真「そのリスナーさんからのメールの最後は『悪は滅びるのよ!あっはっはっは!』で締めくくられてます」

杉「このラジオのリスナーはろくでもねぇな!」

豹「このリスナーが異常なだけじゃないか?」

真「ま、まあ一件落着ということで…」

杉「…俺この放送終わったら犯人とこ見舞いに行くわ。助かってくれよ…」

豹「鍵、先に行っておいてくれ。俺メロンとか買ってくるから」

会「え、ええと…色々ありましたがこのラジオもそろそろお別れの時間となりました」

杉「やっとか…短い番組の割に驚くほどディープだった…」

会「最後は『今日の知弦占い』でお別れです。それでは皆さんまた来週」

杉&豹『知弦占いって何!?』

 

♪ 神秘的なBGM ♪

 

知「それでは今日の知弦占いを。当校の獅子座のあなた、近日中に『世にも奇妙な物語』っぽい事態に巻き込まれるでしょう。タ○リを見かけたら全力で逃げましょう。ラッキーカラーは《殺意の色》どす黒いか真紅か、その辺は各々のイメージにお任せするわ。

ラッキーアイテムは《核》常に持ち歩けるならなおよし。貴方がメタルギアならばそれも可能になるでしょう。

最後に一言アドバイス

 

 

               死なないで

 

以上、知弦占いでした」

 

杉「怖いですよ!獅子座の人間今日が終わるまでビクビクですよ!」

豹「………」

真「?真先輩?どうしたんですか?顔色悪いですが…」

豹「真冬ちゃん!」

真「きゃ!な、なんですか!?ハッ!も、もしかして告白ですか!?そんな、放送中に告白なんて///」

豹「真冬ちゃん…確か今ピース○ォーカーとオ○スもってたよね!?今日の間貸してくれない!?お願いだから!」

深「……そういえば真って獅子座だったな…」

知「また来週、この時間に会いましょう…獅子座とニュー君以外」

杉「獅子座と真おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

♪ ED曲 《弟は白骨化していた》 ♪




作「今回はここでしゅ~りょ~」
真「…おい」
作「?真どうしたの?」
真「いや、前書きで言ってた伏線のことは言わないのか?」
作「はぁ…まったく真は…」
真「なんだ、その出来の悪い息子を見るような目は」
作「アニメとかをよく見る真なら分かるでしょ?伏線というものは、みだりに言ってはいけない物なんだよ!」
真「いや、知らんから」
作「だからあれだよ!?丸投げしたわけじゃねーべ!?」
真「口調が違うぞ。それにお前最近生徒会の小説読まずにアクセルワ」
作「アーアーキコエナイー(゜Д゜∩)」
真「こいつ…」
作「まぁ、きちんと伏線を回収するために頑張っていくよ!」
真「いやそれより本編書けよ」


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放送する生徒会④

放送する生徒会ラスト~

あのラジオの後の話ですね

あ、ちなみに前回のラジオに名前だけ出てきた陸上部部長と放送部員その一は今後登場予定です

…ま、出番少ないですがね

それでは放送する生徒会④始めます


杉崎side

 

「今日の放送は大好評だったね~!」

 

 例の番組の放送があった後の放課後。

 会長は大満足な顔で生徒会室でふんぞり返っていた。知弦さんも楽しそうにニヤニヤしている。

 しかし…俺や椎名姉妹はすっかりゲンナリしていた。

 あ、そういえば真はどうしたのかって言うと…。

 

「ま、真先輩大丈夫ですか?顔色がものすごい悪いんですが…」

「…うん?…あー大丈夫…ただの…寝不足だから…」

「寝不足だけじゃない気が…無理はしないでくださいね?」

「うん…ありがと…優しいね、真冬ちゃん…」

「い、いえ、後輩として当然です///」

 

 とまぁ、こんな感じでグロッキー状態になっていた

 なんでも昨日あの占いを聞いた後、今日学校に来るまでずっとピー○ウォーカーとオ○スを最高難易度でノーキルノーアラートプレイをしていたらしい。

 そのせいで夜も寝ていないみたいで教室に入ってきた時顔色が真っ白だった。

 まぁ、確かに昨日の占いはかなり怖かったがな…。

 余談だが真はさっきのように朝からたくさんの生徒に心配されている…7割方女子に…羨ましい…。

 それはそうと会長に聞こえないように小声で深夏と真と会話する。

 

「(なぁ…深夏、真…あれ好評だったように見えたか?)」

「(いや、少なくともうちのクラスではドン引きだったよな)」

「(あの放送中何回も周りから俺たちに暖かい視線が来てたよな…巡や守とかからも…)」

「(ああ…皆途中で箸を止めたっきり食欲なくして、結局昼飯が食えてなかったな)」

「(会長さんはなにをもって大好評だと思ってんだ?)」

「(会長や知弦先輩の…クラスメートの先輩に…聞いたら、どうやら二人に気を…遣って愛想笑いしていた…らしいぞ?)」

「(ああ、なるほどな…てかほんとにお前の交友は広いな)」

 

 俺と深夏が真の言葉で納得したところで会長がこちらに視線を向けてきた。俺たちはぎくりと体を強張らせる。

 

「三人のクラスではどうだった?皆大絶賛だったでしょ!」

「う……」

 

 そんな純粋な目で見られると…こう、事実を言い辛い…さすがの深夏もそっと視線を逸らしていた。

 俺はぎこちなく笑いながら会長に言う。

 

「え、ええ…大人気でしたよ」

「そうでしょう!」

 

 いかん、ここでつけ上がらせるのもまた問題だ。

 真も「なんかフォローしろ」と目配せしてくる。真、無茶すんな。

 

「ええ…そうですね、言うなれば職業ランキングにおける『会計事務』と同じくらい大人気でしたよ!」

「それ人気なの!?」

 

 会長は首をかしげていた…よし、なんとか誤魔化した(?)。深夏が「グッジョブ!」と俺を褒め称え、真は2000の特技を持つ男みたいに(震えながら)サムズアップをしていた。

 しかしそこで安心してしまったのが不味かったのか、会長の矛先はすぐさま真冬ちゃんに向いてしまった。

 

「真冬ちゃんのクラスでも人気だったよね!」

「え」

 

 真冬ちゃんが蛇に睨まれた蛙のようになる。…やっぱ彼女のクラスもうちと一緒か…。

 真冬ちゃんが困っているのを見かねたのか真が小さなメモに何か書き込んで会長に見えないように真冬ちゃんに渡す

 なるほど!真のことだ、真冬ちゃんを助けるために何か打開策を―

 

「は、はいそうですね…言うなれば、モ○ハンにおけるギギ○ブラくらい大人気でしたよ!」

「それは本当に人気といえるの!?というより私知らないんだけど!」

 

 チョイスが微妙だ!何でギギ○ブラチョイスした!どちらかと言えば不人気じゃないのかそいつは!?

 まぁ…真の助言を受けた真冬ちゃんもうまいこと(?)かわしていた…というよりほんとに今日の真は使い物にならないな。

 会長はすっかり気が緩んでいるのか「そっかそっかぁ」と実に満足げだ……なんだかいやな予感が―

 

「じゃあ第二回もやらないとね!」

『…………』

 

 会長以外全員…今回は知弦さんも含め嘆息する。

 知弦さんはある程度ノっていたけど、それでもシリーズ化するとなると話は別らしい。

 とりあえずグロッキー状態の真も含めて、全員でアイコンタクト会議開始。

 

(どうしますか?会長まだあれやるつもりですよ?)

(アカちゃんにしては執着が強いわね…一回やれば満足するとふんでいたのだけれど。下手にクラスメイトが気を遣ったことが裏目に出たわね)

(どうすんだよ…あたしもうあんなの勘弁だぜ?)

(俺も…いやだし、放送部にこれ以上…迷惑かけるのもまずいだろ…)

(真冬も…もう無理です…)

 

 全員でうーんと考え込む 会長は一人で上機嫌に次の企画を練っていた。

 うちのブレーンの真に何か対策を…駄目だ、今日は使い物にならなかったんだった。

 …しょうがないので自分でなんとか妥協案を考えて会長に提示してみた。

 

「会長」

「ん?なぁに杉崎」

「その…ですね?こういうのは、たまーにやるからこそ有り難味が出るんじゃないのかなぁと」

「?つまりどういうこと?」

「つ、つまりはですね?二回目をするとしたらある程度置いてからのほうが良いじゃないのかなぁ…と。ほら、オリンピックだって4年に一回だからすごい盛り上がるでしょ?」

「………」

 

 俺の提案に会長が考え込む…その間に俺は視線を皆に向ける。

 皆俺に向けて親指を立てている…だから真、手がなんか震えてるぞ無理すんな。

 そう、会長はすぐ別の流行に乗ってしまう人だ ある程度の期間抑えておけばこのような企画忘れてしまう…そう考えたわけだ

 会長は数秒間たっぷりと考え込んで…笑顔で答えてきた。

 

「そうね! このラジオはクオリティ重視だもんね」

「え、ええ」

 

 クオリティ…高かったか?あれ

 

「分かったわ杉崎、次は…そうね、うん一ヶ月は置いて放送しましょう!」

「そ、そうですね!」

 

 全員ほっとして胸をなでおろす…よかった…。

 こうして危険すぎるラジオの第二回放送は少なくとも一ヶ月はやらない事が決定した。

 これで当分は大丈夫だろう…そうだ、今日は真と真冬ちゃんとモ○ハンでもして気分を落ち着かせるか!

 って、真は体調悪いから無理か。何言ってるんだろうな、お―

 

「じゃあ次は生徒会のPRビデオの撮影に入りましょう! ようやく撮影用の機材が揃ったのよ!」

 

 ”ドンッ”っと机の上に大きなビデオカメラが置かれる……

 

『え?』

 

 全員が信じられないものを見たもしくは聞いたかのように固まる。

 真に至ってはさっき以上に顔色が悪くなっている…。

 会長だけ…会長が女神のような綺麗な笑顔を向けていた…だがこの笑顔は…

 

「さぁ…これから本番よ!」

『…………』

『いやああああああああああああああああああああああああああああ』

 

 今の俺たちには悪魔の微笑みのようだった。




作「しゅ~りょ~」
真「やる気ねぇな、おい」
作「今週来週が忙しいんだよ~週五シフトの休みは親戚の家へGoだし」
真「しらねえよ」
作「あ、それともうそろそろストックが切れてきそうなので更新遅くなっていくと思います。夏休みなのに書けないんだよね、これが」
真「…そっち先に言えよ!!」


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更正する生徒会①

原作一巻ラスト&一巻のシリアス回です!

ただし今回は様々な話が混ざり合ってカオスになっております

…実はオリジナルも混じってたり…


そ、それでは更正する生徒会①、始めていきます


「人生やり直すのに遅すぎるなんて事なんてないのよ!」

 

 今日も会長が本の受け売りのような言葉を胸を張りながら偉そうに語る。

 今日の言葉は人生をやり直す…か。人生をやり直す…生まれ変わる…転生…あ

 

「真冬ちゃん、ちょっとこのキャラ転生させて来ていい?ちょうどレベルも上がったから」

「あ、いいですよ…でも大丈夫ですか?折角レベルが上がっていい武器が使えるのに…」

「まぁ、大丈夫でしょ。俺と真冬ちゃんのコンビならそう簡単に負けることは無いだろうし。なにより…俺は真冬ちゃんを頼りにしてるからね」

「ふぇ!?///」

 

 今日も俺は真冬ちゃんとゲームをしていた。ちなみにソフトはファンタ○ースターポータブルだ。

 そのゲームの中でのシステムである転生を使いたいって言ったんだが、真冬ちゃんが顔を伏せたままこっちを見てくれない。

 …もしかして俺、真冬ちゃんに信用されていない!?

 

「なぁ深夏!俺ってまだ真冬ちゃんに信用されてないのか!?それはそれで結構ショックなんだけど!」

「…真、心配しなくても良いぞ。鍵と違ってお前は真冬に信用されてるから」

「おい深夏!”鍵と違って”ってことは、俺は信用されてないって言うのか!?」

『鍵は逆にひかれてるだろ』

「まさかの一致!」

「そこ!私語をしないの!それにこれは杉崎に言っているのよ!」

 

 会長がそう言いながら鍵に人差し指を突きつけていた。

 俺と鍵が鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていると、深夏が適度に焼けた小麦色の腕を鍵の首に回し…絞めあげていた…あれ?デジャブ?

 

「確かに、鍵に関しては早急に人生やり直させる必要があるよな」

「まぁそれはそれで見てみたいよな、鍵のこう…腐る前の状態(まぁ俺はこうなる前を知ってるけど)」

「良いわね。今のキー君もいいけど、更生したキー君というのにも少し興味があるわ」

「真冬も見たいです…真面目な杉崎先輩…多分かっこいいと思います…よ?」

「ちょ!更生って!俺は元から真面目ですし!てか真冬ちゃん?それだと今の俺全否定されてない?」

 

 鍵がメンバーからの言葉を捌きながら深夏のヘッドロックから逃れようとしている…あれ?目が虚ろになってないか?

 真冬ちゃんもそのことに気づいたのかあわあわ言い始めていた。

 

「深夏~?流石にそろそろやめてやったら?目がやばげなんだが…」

「ま、真先輩の言うとおりだよ!そろそろ離して上げてよぅ」

 

 まぁ、他ならぬ妹の頼みだし深夏といえどさすがにやめ―

 

「ごめん、真。そして真冬…生まれて初めて二人のお願いを…却下する!」

「なぜこんなところで!?」

 

 ようとはしなかった…てか俺は良いが何故ここで真冬ちゃんの頼みを断った!

 そして深夏はさらに力を強めていく…鍵の顔が青から紫になっていく。

 すると深夏の腕を掴んでいた鍵の腕から力が抜ける。深夏も気づいたのか、自分の腕の力徐々に緩めていく。

 すると鍵はそのまま立つことなく、生徒会室の床に突っ伏す…え?

 

「おい、深夏…お前まさか…」

「……お、おーい?鍵?あれ?殺っちゃった?」

「『やっちゃった』ってなに!?お姉ちゃん!?」

「ちょ!深夏!杉崎に人生やり直せとは言ったけど終わらせろとは言ってないわよ!?どうするのよ…この事がばれたら大変なことに…」

「生徒会初の死人ね…仕方ないわ、隠しましょう5人で…ニュー君、手伝ってくる?」

「唐突ですね…まぁ面白そうですからやりましょうか。ちょっとその辺の裏サイトいってそういうことしてるとこに連絡とってみます」

「ちょっと?あの…知弦に豹堂?なんでそんなに顔が活き活きとしているの?そんな顔今まで見たこと無いんだけど…」

「さ、ニュー君?キー君の体を抑えてからまずは四肢を切断―」

「されてたまるかああああああああああああああああああああ」

 

 あ、目を覚ました。てか声大きくて一瞬ビリビリきたぞ。

 そんな鍵を全員がボーっと見つめていたが深夏がポツリと呟く。

 

「あ、生き返ったのかよ…つまんねーの…」

「俺の生死の扱い軽くないか!?」

「隠し通す自信あったのに…」

「全く…鍵はほんとに駄目だな…」

 

 そう言いながら知弦先輩は残念そうにのこぎりを棚に、俺は黒いビニール袋を片付ける。

 ん?なんで生徒会室にそんなものがあって俺と知弦先輩がその位置を把握しているのかって?…知りたいのか?

 

「よ、良かったぁ…」

 

 生徒会の唯一の良心である真冬ちゃんだけが目尻に涙を浮かべて安堵のため息を漏らしていた。

 やっぱり真冬ちゃんは優しいな…

 

「お姉ちゃんが人殺し、紅葉先輩と真先輩も犯罪者にならなくて…」

「そっちかよ!」

 

 姉や俺たち先輩の事を心配してくれるなんて…え~…さらっとひでぇな真冬ちゃん。

 ま、まぁそういうところも真冬ちゃんらしいといえば真冬ちゃんらしい…のか?

 鍵が静かになったのに気になって鍵の方を見てみると会長と鍵が向き合ってお互いの顔を見つめていた…え、何この状況。

 

「会長……」

「杉崎……」

「……ボクは死にません、あなたが好きだから…」

「…杉崎…」

 

 会長がまじまじと鍵の顔を見つめているが、鍵は何を勘違いしたのか唇を突き出してくる。

 そんな鍵を見て会長は大きくため息をつき、そのまま自分の席に深く腰を降ろし再び鍵を見て、ため息。

 鍵は事態がうまく飲み込めていないのか目が点になっていた。

 

「…あ、やっぱりファーストキスは二人きりのほうが良かったですか?」

「はぁ…少しは期待したんだけどなぁ…」

「?キスですか?俺のほうは準備万端ですけど…」

「…ちなみにお前がキスしようとした瞬間俺は携帯を取り出して通報する準備していたがな」

「何しようとしてんの!?互いに了承していたら大丈夫だろ!」

「いや了承してないし。ちょっと期待したのよ…『馬鹿は死ななきゃ直らない』って言うでしょ?」

「はい?」

 

 あー…会長がなにが言いたいのか分かってきた。

 

「一回臨死体験したらマトモな人間になるんじゃないかなって期待したのに!」

「…あぁ、なんだそんなことですか?大丈夫ですよ会長!」

「んー?なにが?」

「俺はとてもマトモです!」

「本当にマトモな人はそんな発言自分からは絶対にしないわよ!」

 

 鍵が胸を張りながらそんな発言をしたが、速攻で会長に否定される。

 しかしまだ不満があるのか今度は今まで喋っていなかった俺たちに同意を求めてきた。

 

「皆!俺はマトモだよな!?」

『………』

 

 うん、予想は出来てはいたけど皆打ち合わせしたかのような沈黙だった。

 その沈黙に耐え切れなかったのか鍵が滝のように涙を流していた。

 

「鍵…安心しろ…」

「ま、真…お前だけは俺を心配してくれるのか…やっぱ持つべきは親ゆ―」

「お前は…マトモとは逆方向のベクトルをたどるほどすでに手遅れだから」

 

 あ、さらに悲しい顔をして文字の通り"orz"状態になってる…俺のせいじゃないよな?

 そのテンションのまま鍵は自分の席にどんよりした状態で座る。

 …さっきの絡みの時真冬ちゃんが小声で「杉崎先輩×真先輩…ありです!…でも逆もありかも…」って言っていた気がするけど…気のせいだろうな、気のせいであってほしい。

 鍵が席にいたのを見て会長が「こほん」とその見た目に合わない仕切り直しをして話を戻す。

 

「とにかく杉崎は更生すべきだと思うのよ。仮にも生徒会副会長なんだから、それなりの威厳は必要だと思うのよ」

「…威厳ねぇ…」

 

 鍵がそう言いながら会長のロリ容姿を眺めて…今度は鍵がため息。

 分かるぞその気持ち。会長にだけは威厳とか言われたくないよな。

 椎名姉妹も知弦先輩でさえ苦笑しているし。

 みんなの視線となにを考えているか気づいたのか会長が再び咳払いをする。

 

「と!に!か!く!今日は杉崎の性格を改善しましょう!それがいいわ!うん!」

「ど、どうしたんですか急にそんなこと言い出すなんて」

 

 確かにそうだよな~鍵の性格なんて前々から駄目だってわかっているのに、どうしてこのタイミングで鍵の性格を改善しようって話になるんだ?

 会長は自分の鞄から何かを取り出し、俺たちに突き出す。

 少し目を細めながら見てると、それはうちの新聞部が発行している校内新聞だった。

 うちの新聞部の部長はゴシップ系の記事が好きなようでよく会長がそれを見つけてはこの生徒会でも問題にされる。

 今日もその類かと思ってそれを眺めてみる…だが今回は性質がいつもと違った。

 深夏も興味深そうに声に出しながらその記事に書かれているタイトルを読み上げる。

 

「なになに?『速報!生徒会副会長・杉崎鍵は昔二股をかけていた!』だぁ?」

「あらあら大変ねぇキー君」

 

 深夏は胡散臭そうに記事をながめ、知弦先輩は心配をしているような口調で楽しんでいる。

 そんな中、真冬ちゃんだけが鍵のフォローをしてくる。

 

「酷い記事です!抗議しないとっ!杉崎先輩はそんなことする人じゃあ……で、ですよね?真先輩」

 

 途中で鍵が女性関係においては全く信用できない人物だということに気づいたみたいで俺に話を振ってきた。

 俺に話を振られても完全にはフォローできないよ?

 でも…まさかこの話がいまさらになって出てくるなんてな。

 何にも反応しなかった俺や鍵を真冬ちゃんが不思議そうに見ているが会長は気づかなかったらしく、新聞を机において鍵を指差す。

 

「全く!生徒会役員ともあろう者がこんな記事かかれて!」

「…まぁあの新聞部はこういう記事好きですからね…」

 

 鍵はそう言いながら問題の新聞に目を通し始める。俺も鍵の後ろから一緒にざっとだが目を通す。

 見出しこそ派手ではあるが、内容はそこまで掘り下げられたものではなかった。

 隅々読み返しても結局「杉崎鍵は過去に二股をかけていた」という事しか書かれていなかった。

 さらにたちの悪いことに証言がかなりふわふわしていて、はっきりしていない情報源から引っ張ってきて書いている。

 彼女自身見た目は良いのだが性格がアレなため鍵でさえ口説くのをためらうほどの人だ。

 俺も悪い人とは思わないんだけど、テンションとか考え方が違うからなんか苦手なんだよな。

 

「杉崎!まずはその記事の内容が事実なのかハッキリして貰いましょうか!」

 

 会長はとてもご立腹のようだが…鍵はそんな真面目な空気が嫌なのか、顔を少し掻いてから話をごまかそうとする。

 

「あ、会長もしかして嫉妬ですか?俺の過去の女が気になって―」

「そうやって逃げようとしても無駄よ!」

 

 今日の会長は本気らしい。会長は一度言い出したら(子供っぽいから)止まらない。

 鍵もその事を理解しているのか苦しい表情を浮かべてくる。

 そんな状態の鍵に対して知弦先輩が追い討ちをかけて来た。

 

「キー君?アカちゃんがこうなったらもう事実確認が取れるまでずっと騒ぎ続けるわよ?だからもう諦めなさい」

「はぁ…分かってはいますけど…」

 

 鍵がいつにも増して真面目な表情をする…どうやら話す覚悟が出来たようだ。

 俺はその鍵の考えを尊重し、あえて何も言わない。する事といえば、鍵を見守るだけだ。

 

 そして鍵は会長の目をきちんと見据え、ハッキリとした口調で語った。

 

「結論から言って、事実です。俺は昔、二股をかけていました」



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更正する生徒会②

とうとう鍵の過去話です

まぁ、色々混ぜたせいでグダグダですが

それと次回の話はオリジナル(笑)なので、期待せずに待っていてください

ではどうぞ


「ちょっと待ちなさい」

 

 鍵の放った言葉に対し、会長が険しい表情で待ったをかける。

 

「なんですか?」

「なんですか?じゃないわよ!なによそれ!?妄想じゃないんでしょうね!?」

「失礼な。俺がそんな妄想をするような男に―」

「見えないわけないじゃない!」

「…まぁ、それはそうですよね…」

 

まぁいままでの鍵の言動や性格を考えてみればそう思うのが妥当だよな

 

「でもそうは言っても、事実は事実ですからねぇ…」

 

 そう言いながら鍵は席に着席して、ふんぞり返る。

 皆、そんな鍵を呆然と見ている。

 混乱している会長に代わって、知弦先輩が溜息を吐きながら鍵に対し確認をとる。

 

「ええと…キー君 それは見得を張ろうとしてついた嘘…というよりジョークでは…ないの?」

「む、失礼な。俺はいつだって真面目ですよ?」

「そういう発言が信じられないんだけど…」

「信じてください知弦さん。俺の言葉は、政治家が選挙前に掲げるマニフェスト並みに信用できますよ?」

「逆に信じられなくなったんだけど…というより、ニュー君はこの事知っていたの?さっきから驚いた様子が見られないんだけど」

「ええ、中学の時に詳しくでは無いですけど、鍵本人の口から聞きました。…その時はこんな性格じゃなかったんで、信憑性ありましたけど」

 

 知弦先輩が額に手をやりながら俺に聞いて来る。

 あの時は、鍵もこんなにチャラチャラした性格じゃなかった。むしろこの件についてかなり悩んでいて、かなり荒れた状態だった。

 どうやら知弦先輩は信じてくれたようだ。しかし今度は、深夏が鍵の顔を覗き込みながら発言する。

 

「そりゃおかしいだろ鍵」

「?いったい何がだ?」

「だって…そのことが事実だったとしたら、今更自分で努力することなく環境に…というより、女に恵まれてたんじゃねぇかよ。なんでハーレムなんかを目標とする必要があるんだよ」

「あー…それはそのー…」

「あ、分かったぞ。そうか、フラれたんだろ?その二人ともに」

「違うわ!好意バリバリだわ!少なくとも一人は妹だぞ!義理とは言え家族なのにフラれてたまるかってんだ!」

「ええー」

 

 深夏に限らず、他の皆も全く信じられないような目をしている。

 それに不満だったのか鍵が鼻を鳴らす。

 

「いい機会だから言っておこう!この生徒会のメンバーはどうも俺を舐めているフシがあるが、出るとこ出ればかなりモテるんだぞ!」

「オカ○バーとかでか?」

「そんな特殊環境限定の魅力じゃねーよ!」

「なるほど、熟年層か」

「理由が分からんわ!」

「千の風にでもなったのか?」

「私は死んでなどいません!」

「あ、分かった。真冬ちゃんの書いているBL小説だな?」

「ちょっと真先輩!それは言わないでください!///」

「よし、とりあえず後で真冬ちゃんとはきちんと話し合わないとな」

「…じゃあいったい誰にモテてるんだよ…」

「普通にモテるんだよ!同年代の女子に!」

「………」

 

 深夏は目をパチクリとさせ、真冬ちゃんにいたってはかなり驚いた状態で呆然としていた。

 

「そ、その発想は無かったですね…」

「ないの!?普通一番最初に出てくる発想だよね!?」

「世の中には科学では解明できないものも存在するんですね…」

「だね。これを解明するには、まず銀河系の誕生から解明しないと難しいレベルだね」

「酷い!真冬ちゃんは相変わらずサラリとひでぇ!てか真!そんなに大げさな話にするんじゃない!」

 

 鍵が全力全開で『自分がどれだけモテるのか』を、生徒会のメンバーに対して熱く語っている。

 そんな鍵を見かねたのか、会長が話を元に戻す。

 

「それで?杉崎がモテるのは…100歩譲って良いとして。義理の妹と…もう一人との話はどうなったのよ」

「あ、すっかり忘れてました…ええと、なんでしたっけ?」

「そんな存在がいるんだったら、ハーレムだのなんだの言わなくて良いんじゃないのかって話よ

「ああ、そうでしたそうでした」

 

 

 

 そこで鍵が一区切りを入れるために、生徒会室に備え付けてあるポットで番茶を淹れている。

 鍵が皆に「飲む人ー」と聞いている。しかし、全員早く続きを聞きたいのか、誰もほしいとは言わない。とりあえず俺だけはもらっておく。

 そして、淹れた番茶を鍵が一口飲んで話を再開させる。

 

「まー、確かに中学のころの俺はあんまり女に興味が無い…と言えば御幣がありますが、飛鳥と林檎…二股疑惑の幼馴染と義理の妹以外の女には殆ど眼中になかったですね」

「え?杉崎って中学時代からそんな感じじゃなかったの?」

「んーまあそうですね。今の俺からエロ要素と妙なテンションの高さを抜いたら、中学時代の俺になる感じですね」

「え、なにその理想の杉崎。高校に入って以降メキメキ堕落していっているのね」

 

 会長の言葉に対して少しムッとした表情を見せる鍵。

 まぁ間違ってはいないんだろうけど、発端を作った人には言われたくは無いんだろうな。

 会長はそんな鍵の様子には気にせず訊ねて来る。

 

「それで、自称カッコイイ杉崎は幼馴染と義理の妹に二股をかけて失敗したっていう話でいいの?」

「なんか引っかかるような言い方ですが…まぁそういうことになりますね」

「で、フラれたショックでエロゲに逃避して、今現在は新たなハーレムを形成しようと張り切っていると」

「はい、その通りです」

「…典型的な駄目男じゃない!」

「…………おおっ!」

「今気づいたの!?」

「今気づきました」

「どこまで堕落すれば気が済むのよ!あんたは!」

「いやぁ事実を省略して俯瞰してみると、俺ってなかなかに最低人間ですね」

「なにをヘラヘラと!副会長が最低人間なんてどうするのよ!」

「懐の深いこの生徒会に、乾杯」

「最低人間が、何をカッコつけてるのよ!しかも、その中身番茶でしょうが!」

 

 シリアスな話の展開だったはずなのに、いつものやり取りにように鍵が会長に責められていた。

 周りを見てみれば、俺を除いたメンバー全員も鍵に対してドン引きしていた。好感度がガンガン下がっていることだろう。

 さすがにまずいと思ったのか、鍵が少し補足の説明をする。

 

「実際問題、俺は確かに最低なやつだったんですよ。なにせ…自分の命よりも大切な二人を、傷つけたんですから…」

『………』

 

 鍵の言葉で会長はおろか、俺を含めた生徒会メンバー全員が静まり返る。そんな中、真冬ちゃんが最初に口を開く。

 

「で、でも、あの、その!真冬は…真冬は、杉崎先輩がそんな酷い人間だなんて、思いません!」

「真冬ちゃん?」

「それは、その、確かに真先輩と比べると杉崎先輩は女の子にだらしがないですけど……。でもでも、だからこそ、女の子を傷つけるようなことは絶対しない人だって、真冬は、思います!」

「…ありがとう、真冬ちゃん。でもね…傷つけたのは、事実だから」

「先輩…」

 

 真冬ちゃんが悲しそうに鍵を眺めている。鍵も少し苦しい表情を浮かべつつ、話を続ける。

 

「まぁ、その…俺にとって二人ともとても大切で…両親以上の大事な二人でね。家族、って言うよりも…家族の中でも特に大事な人…みたいなカテゴリでさ。そんな二人だったからこそ…俺が傷つけたっていう事実は、忘れちゃ…いけないんだよ」

「先輩…。で、でも!」

 

 真冬ちゃんがさらに何か言おうとするが、次の言葉がなかなか出てこない。そんな真冬ちゃんを見かねて、深夏が助け舟を出す。

 

「鍵。あたしも真冬の意見に賛成だ。あたしは…男子っていうのを信用はしていないし、お前のいい加減さも充分知っているけど、それでも、鍵が不真面目な気持ちで理由も無く女を傷つけるような下種じゃないって事だけは、確信しているからさ」

「深夏…」

「別に事細やかな理由を話せとは言わないけどさ…。多少の言い訳くらいは…しようぜ。少なくともここのメンバーは、お前の気持ちを汲み取ってやれるやつらだぜ?真にいたってはそう思ったからこそ、その事を話したんだろ?」

 

 深夏の言葉にここにいる全員が、コクリと頷く。

 鍵もそんな皆の対応に微笑み…口を開く。

 

「俺にとってはさ、その二人は…何よりも大事だったんだ。世界で一番愛している二人だった、と言っても過言じゃないくらいでさ。で、ある時に俺は幼馴染…飛鳥から告白されたんだ。俺も彼女のことを好きだったから、当然のように付き合うことになったんだ。でも妹は…義理の妹はそれが許せなかったようで、ちょっと事件が起きてしまったんだ」

「じ、事件?」

「すいません。詳しいことは、ちょっと勘弁してください」

「あ、え、えと、ごめん」

「いえ。ともかく色々とありまして…妹は、少し精神的に不安定になってしまいまして。入院生活を余儀なくされるほどに…」

「………」

「俺にとって妹もすごく大切な子だったから…林檎に付きっ切りの看病をするようになったんだ…彼女になったはずの、飛鳥を差し置いてすら…ね」

「それが二股って…周囲には言われるわけね?」

「はい、ご名答です」

「…なによ…それ…」

 

 会長が鍵の説明を聞いて憤慨した様子で立ち上がり、鍵に言い放つ。

 

「なんなのよそれ!そんなの、二股でも何でもないじゃない!」

「いえ、二股ですよ」

「どこがよ!だって、だって杉崎は、入院中の妹を心配していただけであって…」

「たとえ行動的にはそうだったとしても、俺の心は…その頃、確かに分割されていましたから。飛鳥と林檎…二人の女の子を同時に大事にしようとして、破綻してましたから。それはやっぱり、二股って言うんだと思います」

「そんな…」

 

 鍵の頑固とした主張に会長がシュンとなる。

 そんな微妙な空気の中、知弦先輩が気を遣って話を進める。

 

「それで?結局キー君達はどうなったの?」

「…簡単ですよ。典型的な浮気男の末路です。『あっちを立てればこっちが立たず』っていう状況に翻弄されて、大事なものの順番をつれられずに、結果…」

 

 その言葉を聞いて、知弦先輩さえも黙り込んでしまう。そんな状況でも鍵は、苦笑しながら、告げる。

 

 

「つまりは俺、杉崎鍵を主人公としたラブコメは一度、壮絶なバッドエンドを迎えたことがある…ってだけの話です。はい、以上で俺の過去話第一部、しゅうりょ~」

 

 

 

 

 

鍵 side

 

 

『………』

「うっ…」

 

 な、なんか、生徒会室全体の空気が「ドヨ~ン」としている。前に少しこの事を話した真でさえ、いつもの笑顔ではなく深く沈んだ表情になっている…。

 

「あ、安心しろ!俺と飛鳥は付き合っていたとはいえ、手を繋ぐ段階までしか進んでいないからな!結局は、幼馴染以上の関係にはなっていないな!うん!」

「いや、そこに関しては誰も気にしていないから」

 

 会長が淡々とツッコミを返してくる。それでもめげずに、俺は続ける。

 

「あ、それにほら、この事件を通して、今の俺になる決意を固めたんですから!だから、その、いい教訓になったと言うか

「なんなのよ、教訓って…」

 

 あきれたような声を出す会長に対して、俺は少しだけ真面目な表情で、言葉を返す。

 

 

「もう大事な人間に無理に順番なんて付けようとしないって。いくら苦しくて、辛くても。大事なものは、全部この両手に抱えられるような男になってやるって…決意したんです」

 

 

 真以外の皆がハッとした様子でこちらを見てくる。

 

「杉崎、まさか貴方、だからハーレムだなんて…」

「えっ、あー、いやー、その…」

 

 なんだか、まずいこと言っちゃったなぁ…。こういうのは言ってしまうのはカッコ悪いじゃないか…。

 ううう…、えーい!こうなったら話題を強制的に変えてしまえ!

 

「杉崎鍵物語、第二部!生徒会メンバー邂逅編、スタート!」

「はぁ?」

 

 会長は状況についていけないのか、キョトンとした表情を俺に見せる。数秒考えた結果、話題に追いついたのか再び会長が話し始める。

 

「ちょっと待ちなさい、杉崎。邂逅編もなにも、皆との出会いって、今年の春に生徒会室で顔合わせしただけじゃない」

「いやいや、自分は中学の頃から鍵と知り合ってますから」

「あ、そ、そうだったわね…てことは、豹堂を除いたメンバーに関しては邂逅なんて―」

「いや、あたしは一年前の…初夏くらいだったか?とにかく、一年の時に鍵にあっているぞ。確かにあの頃の鍵は、今ほどエロスの塊じゃなかったな、うん」

「え!?そうだったの!?」

「私も、去年の秋に一度会っているわね…保健室で」

「ほ、保健室?」

「えぇ。…そこで私がキー君を…大人の男にしてあげたのよ」

「え、ええ!?///」

 

 会長が知弦さんの発言に対して、顔を一気に朱色にする。

 でも知弦さん…保健室であったのは事実ですが、そんな嬉しい経験をした覚えがないんですが…。

 反応が追いつかない会長に対して、真冬ちゃんも追い討ちをかける。

 

「ここでは言ってませんでしたが、真冬も高校に入る前…中学3年の冬の頃に杉崎先輩と会っています」

「ま、真冬ちゃんまで…」

「はい、あの時杉崎先輩は…公園でコテリと倒れていました」

「何その出会い方!激しく気になるんだけど!てか、皆の出会いも気になる!なんで話さないのよおおおおおおおおおお!」

 

 会長が自分だけ除け者にされていじけている。…そうは言ってもなぁ…。

 

「会長、会長」

「なによ!」

「うわぁ!あの…この状況でとても言いにくいんですが…」

「だからなに!これ以上に衝撃的なことなんて、なかなか―」

「あの、会長と俺も出会ってるんですよ以前に。あ、その頃は会長じゃなくて副会長でしたけど」

「ふぇ?」

「しかも、去年の春。つまり、真を除いたここのメンバーの誰よりも早く邂逅してます」

「え………。ええええええええええええええええええええええ?!」

 

 会長の声が生徒会室を超え、推測だが廊下の隅まで聞こえる。

 そうか…あの時この人、俺の顔をちゃんと見ていなかったな。

 

「ちょっと、どういうことよ!それ!」

「や!やめてください会長!気持ちが悪くなりますから!時系列順に話していきますから!落ち着いてください!」

 

 会長が俺の襟首を掴んでぶらんぶらんと揺らしてくる。

 

 

 とりあえず、会長が襟首から手を離してから俺は一つ嘆息して、最初の大きな出会い…真との邂逅を話す事にした。



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回想する杉崎鍵

とうとう来ましたオリジナル(?)

今回のはあったかもしれない鍵の中学時代の話です

ちなみに過去話でオリキャラで登場しますが、今後も(出番少なめで)登場します

ではどうぞ


 俺は今現在、クラスの連中に取り囲まれている。

 事の発端は、俺の林檎と飛鳥の二人に対する行動の事をクラスの一部に知られたからだ。

 それからというもの、校舎の裏によく呼び出されては、その連中からサンドバックにされていた。

 でも…、俺のことはどうだっていい。林檎や飛鳥が受けた心の傷は、こんなものではないからな…。

 今日もいつもの様に、校舎裏に呼び出されてその連中に殴られる。俺もいつものように流されるままにしていた…。

 でも、今日は違った。

 

「何してんだよ、お前ら」

 

 何度か殴られているうちに背後から、威圧されるようなドスの聞いた声が届く。

 俺を囲んでいた奴らもそれに反応して、後ろを振り向く。

 

 そこには金髪で蒼い目が鋭く、日本人とは思えない容姿の生徒が、不機嫌そうな表情で立っていた。

 

 

 

 

真 side

 

 あー…よりによって、放課後に用事なんか頼まれるなんてなぁ…。

 ほんとだったら今頃、皆でカラオケに行って放課後を満喫しているところだったのに。

 さてと、確かこっちに…ん?なんだあれ?なんか1人の生徒を5・6人が囲んでいる。見た感じ、友好的な雰囲気じゃなさそうだけど…。

 囲まれているのは…うちのクラスの杉崎…だよな?

 俺は様子を見ようとして、校舎の影に身を隠す。

 すると、杉崎を囲んでいた連中が急に杉崎を殴り始めた。が、杉崎は抵抗するそぶりが見られない。

 

「何してんだよ、お前ら」

 

 そんな連中に若干イラつきながら、俺はそれを止めるために声をかけながらゆっくりと近づいていった。

 

真 side out

 

 

 

 

 俺を囲んでいた連中がその生徒、『豹堂真』を見て若干顔を青ざめている。

 というのも、あいつは様々な理由でこの学校では有名人だ。

 中学入学と同時にこっちに引っ越してきたんだが、自分の過去…というより、前に何処にいたのかすら分からない謎の存在。

 日本人離れした容姿を持ち、成績はいつもトップ。運動も出来て本人に自覚はないが周りの女子のあこがれになっている。

 でも当初はかなりの問題児扱いされていて、一時期には『近辺の不良全てを牛耳っている』なんて噂も流れていた。

 結局、その噂はガセだったんだけど、それからも一部の生徒から怖がられている。おそらくこいつらもその生徒の一部なんだろう…。

 

「んで?結局何してんの?おまえら」

「ひょ、豹堂さん!?い、いやなにも!ええ!何もしてませんよ?」

「ふーん…じゃあ、さっきそいつを殴っていたように見えたのは、見間違い…ってことか?」

『!?』

 

 見てたのか…全部…。周りの奴もかなり焦っているようで、体が若干震えている。

 

「え、えっと、あの、その…」

「はぁ…とりあえずさ」

『はい!』

「……失せろ!!」

『は!はいいいいいいいいいい!』

 

 その一言で俺を囲んでいた連中全員が、情けない声を出しながら走り去っていった。

 俺だけがその場に残っていると、豹堂がゆっくりと俺に近づいてくる。しかし、その表情は先ほどのような威圧するような表情ではなかった。

 

「大丈夫か?」

「……………」

「あ、あれ?おーい?」

 

 豹堂が心配そうに声をかけ、手を差し伸べてくる…。それを俺は…

 

 バシッ!

「?!」

 

 払いのける

 

「どうして…」

「?」

「どうして助けた!俺なんか!助ける価値なんてないんだ!ああされるのも、当然のことをしたんだ!」

 

 そう言いながら俺はそこから、いや、豹堂から逃げるように走っていった…。

 

 

 

 

 

 翌日、俺はいつもの様に自分のクラスに入っていく。すると昨日まで俺をいじめる…というより、ストレスのはけ口にしてきた連中は顔を逸らす。

 どうやら昨日の一件で、俺に対する接し方を考え直したようだ。それほどまでにあいつの影響力はかなりのものなんだろう。

 そんなことを考えつつ、自分の席に向かい鞄を下ろして席に座―

 

「おーっす!おはよー!」バシッ

「いって!なにしやがる!」

 

 ―ろうとして背中を叩かれる。思わず後ろを振り向くと、綺麗な金髪が最初に目に入る。

 そんな人物は自分の中では一人しかいない…そう、豹堂だ。

 でもなんで?いままで挨拶どころか、ろくに喋ったこともなかったのに…。 

 

「ごめんごめん。でも、挨拶は大事だろ?やっぱり」

「だからってそんなに思いっきり背中を叩くな!…てか、急にどうしたんだ?今まで挨拶なんてしたことないのに…」

「ふぇ?」

「食べ物を口に入れたまま返事をするな!てか、何食ってんだよ!?」

「モグモグ…はぁ。で、何の話だっけ?」

「なんで急に俺に話しかけてきたのかって話だよ!」

「あぁ、それの事ね。単純な話だよ」

 

 豹堂が笑いながらそう言う。それよりも、さっきの「ふぇ?」って台詞のせいで周りの女子がざわついているぞ…。

 

 

 

「今日からお前と友達になろうかと思ってさ!」

 

 

 

「……はっ?」

 

 …え?今こいつなんて言った?友達?え?理解できないんだけど…。

 ということで、俺はたった今から豹堂の友達になった…らしい…いまいち納得いかないけど。

 

 

 

 その日の昼休憩、豹堂に屋上に来いって言われた…なんで屋上なんだ?

 まさか、あいつもあの連中と同じように俺をサンドバックにするつもりか?

 それだとしたら何で俺のことを助けたり、友達だって言ったんだ?…あいつの考えは分からん。

 そう思いつつ、屋上の扉の前にたどり着く。

 …この扉を開けずに立ち去ろうかとも考えたが、なんだか癪なので開けることにした。

 

「おーい、豹堂~?言われたとおり来たけ…は?」

 

 その時俺の目に映った光景は…

 

「阿璃朱ちゃんナイス!後はコストオーバーになった弥生をたおすだけだ!」

「了解だ、伊勢崎一等兵。これより、敵機を殲滅する。可能な限り援護をしろ」

「あ、今回は軍人キャラなんだ…てか俺階級低くない!?」

「ボケながらこっち攻撃しないでよ…ってあれ?ボタン間違えた?」

「姉ちゃ~ん、それはロックオンボタンだって~…てか体力やばいからよけてよけて~。真~フォローしてあげて~」

「はいよ~…ってか、弥生ゲーム苦手なんだから無理してやらずに玲に任せればいいのに…これ、見るだけでも面白いぜ?」

「む…悪かったわね、ゲーム下手で。どうせ私はゲーム下手で真達の会話に入れない除け者よ」

「おい真…お前また地雷踏んだな…知らないぜ?どうなっても…って阿璃朱ちゃん?なにさらっと撃墜されてるの!?」

「油断した、気にするな伊勢崎二等。これから再び出撃する」

「なんかさらっと階級下がってるし!真も笑ってんじゃねーよ!」

 

 5人の男女が仲良く食事しながら、輪になってP○Pをしていた…。何このカオス…。

 

 

 

「えーと…とりあえず、皆自己紹介しようか…んじゃまず要から」

 

 あの後、俺が来たことに気づいた豹堂が俺を輪の中に加わらせてお互いに自己紹介をすることになった。

 よっしゃあ!と言いながら、要と言われた男子生徒が立ち上がる。

 ちょっと長めの黒い髪が特徴の男子生徒。いわゆる"イケメン"に部類される男子のようだ。

 

「俺は伊勢崎(いせざき)要(かなめ)だ!よろしく!」

「見た目と言動が馬鹿っぽいけど、そこそこにこいつ頭良いから」

「誰が馬鹿だあああああああああ!」

 

 そう言いながら豹堂に殴りかかるが、あえなく取り押さえられてる…。前言撤回、こいつは馬鹿だ。

 

「相変わらずね要は…あ、私は柊(ひいらぎ)弥生(やよい)よろしく。それとこっちは弟の玲(れい)よ」

「よろしく~。あ、姉ちゃんとは同い年だけど、双子ではないから~」

「…別にそれは言わなくても良いんじゃないの?」

 

 今度はピンクっぽい髪の女子と、童顔…というより女子っぽい顔立ちの男が挨拶してくる。

 良かった、どうやらこの二人は、先ほどの伊勢崎と違って(?)常識人のようだ。

 

「ふぅ…肉弾戦じゃ俺には勝てないのに…よくやるよ、要の奴」

 

 笑いながら豹堂が帰ってくる。というより、伊勢崎は大丈夫なのか?なんだかぐったりしてるが…。

 

「あ、要に関しては別に心配しなくても大丈夫だよ~?いつものことだし、ギャグ補正でいつもすぐ復活するから~」

「ギャグ補正ってなに!?現実にそんなモンが存在すんの?!てか、今俺の心読まなかったか!?」

「え~?そんなわけないじゃ~ん、アハハ~」

 

 柊玲…恐るべし。見た目に反してこいつは中々に厄介な奴と見た。

 

「えーと、弥生たちは自己紹介したから…後は阿璃朱だけか」

「そうですね、それでは…んっん」

 

 阿璃朱って呼ばれた子…下級生かな?なんだか喉の調子を確認してるけど…。

 

「んっん…初めまして、彩城(さいじょう)阿璃朱(ありす)です。この中で唯一の2年生ですが、気軽に話しかけてくださいね?」

 

 喋り終わった彩城―いや、もうこの際アリスちゃんで良いや―が自己紹介を終え、こっちを見ながら笑っている。

 …え?ちょっとまてよ?今、アリスちゃんが喋った声って俺の声じゃなかったか?

 俺が目を白黒させていると、豹堂達が俺の様子を見てクスクスと笑っている…なんか腹立つな。

 

「驚かせて悪かったな。阿璃朱は一度聴いた声なら何でも喋ることができるんだよ」

「え、なにそれ。つまり今のは、ちょっと聴いた俺の声を真似たって事か?」

「そういうことです。だから…んっん…ほら、口調も真似れば本人と聞き間違えるでしょ?」

 

 今度は柊姉の声を真似た上に、口調も似せてきたから本人かと思った…。

 

「とまぁ、こんな感じかな?俺らの紹介は。それじゃ、次は杉崎の紹介と行こうか」

 

 豹堂のその一声で全員がこちらを見てくる…なんだか、そんなに見られると恥ずかしいんだが。

 

「えーと…杉崎鍵です…あのー…よろしくお願いします」

 

 

 

 この日から豹堂…いや、真達とよく一緒に過ごすようになった。

 最初の頃こそ戸惑って、いまいち話すことも出来なかったけど徐々に慣れていった。

 後から聞いたが、真は暗かった俺を心配してこの集団に入れたらしい。

 そうやって過ごしていくうちに林檎や飛鳥のこと、吹っ切れてはいないがこれからどうするかを良く考えるようになった。

 そんな俺を見かねたのか、真は良く俺の相談を聞いてくれた…。

 そんな真だからこそ林檎と飛鳥、この二人に対する俺の行動を話した。真は親身に話を聞いた上で、俺に聞いてきた。

 

「つまり、お前はその二人を傷つけたと考えている。だからあの時連中にされるがままにしてたって事か?」

「あぁ、そうされるのが一番だと思ったんだ…。二人の受けた心の傷はあんなもんじゃないと思ったから…」

 

 そう俺が言うと真は俺の正面に立って言い放つ。

 

「鍵、それは自惚れだ」

「!?な、なんだと?それはどういうことだよ!」

「じゃあ逆に聞くが、その二人はお前がそうされるのを望んでるのか?」

「………」

 

 反論することが出来ない…。

 

「そんな風に考えるよりさ、二人を同時に幸せにすることを考えたほうが良いじゃないのか?」

 

 真はその場から立ち去ろうと俺から離れ、急に振り向いて口を開く

 

 

「一人で抱えるな、今のお前には俺や要たちがいるからな」

 

 

 その時に気づいたんだ、 俺は真に嫉妬…に似たものを感じていたんだ…。

 あいつの周りにいる皆はいつも笑顔でいる。俺には出来なかったことだ。

 真には、俺にはないものがある。そしてその俺にないものを見つけるのが、これから俺のするべき事だと。



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更正する生徒会③

原作一巻ラスト!(エピローグはありますがね)

ただ"原作は"ですがね…

あ、それと今回はあの人が登場!…まぁ原作読んでる人は分かっていらっしゃるでしょうが

では一巻ラスト、どうぞ


「では続きまして、会長がすごく気になっているようなので、会長との出会いをば」

 

 鍵が中学時代の頃の話、主に俺のことに関する事(俺との出会い方は少しぼかした)を話し終わり、次の話題に行こうとする。

 でも俺は、鍵の話した中のとある部分を考えていた。

 

(俺は鍵に嫉妬されていた?俺は鍵が持っていないものを持っている?)

 

 そんなことはない。俺は、鍵の思っているような人間なんかじゃない。俺はただの、独りよがりな人間なんだから…。

 

「会長との出会いは学校の廊下です」

「廊下?…まさか、すれ違っただけとか言い出すんじゃないでしょうね?」

「違いますよ。ちゃんと会話もしましたし」

「ええ?……うーん……全く覚えがないわ」

「でしょうね。会長はあの時、俺の顔を見ていない…というより、見れていないですから」

「?廊下で会って、喋ったのにもかかわらず顔は見れていないの?」

 

 会長が首をかしげながら考え込む。

 …こうして聞いてると、鍵と会長の出会いの経緯を詳しく知りたくなってくるな。

 他のメンバーも俺と同じ気持ちなのだろうか、興味津々な様子で鍵の話に耳を傾けていた。

 それに気づいたのかは分からないが鍵は番茶で口を潤し、再び語り始めた。

 

「そもそもあの頃の俺は、真と出会ってから緩和されたとは言え、中学の経緯があって少々荒れてまして。別に暴力を働いていたわけじゃないですよ?ただ、真達以外とは極力喋らずに、こう…『俺には近づくなよ?』という空気バリバリでして…」

「さっきの話を考えたら、まぁ…分からない話ではないわね」

「飛鳥は内地へ行っちゃうわ、妹とは面会謝絶になるわで、ますます自分を責めていましたね。そのせいか、すっかり落ちぶれた生活を過ごしていたんですけど…。そんな時に、出会ったんです。そう、…」

「お、とうとう私の登場ね!」

「The ghost of a books …そう、『本の化物』と」

「誰よ!てか、何で一回英語で言ったのよ!」

「貴方ですよ、会長。貴方との出会いを話しているんだから。あと、英語で言ったのはなんとなくなんで気にしないでください」

「気にするわ!それに私はざ ご、ご…『本の化物』じゃないわよ!」

 

 会長が鍵の『本の化物』発言に対して全力で否定してくる。

 てか会長、途中で英語訳言うの諦めたでしょ。見栄張ろうとするから…。

 

「具体的に言えば、大量の本を持って上半身が隠れちゃってるちびっこい先輩に出会ったんです。廊下の先から急にそんなのが出てきたら、本の化物かと思いますよ」

「う…そういえば、去年は副会長としてよくそんな雑用をしていた記憶も…」

「で、極力他人と交流を避けていた俺でも流石にそれを見過ごせるはずもなく、『大丈夫ですか?』と声をかけたのが、初めての出会いです」

「そ、そうだったんだ…あれ?でもそれじゃあ、何で私は覚えてないの?」

「それはですね、結局俺が本を半分ぐらい持って手伝うことにしたんですけど、それでも会長ちっこいから、俺の顔が自分の持ってた本の束のせいで全然見えなかったみたいですね。運び終わった後、俺もすぐに立ち去りましたから、結局俺の顔は見られなかったのかと」

「う……」

 

 話を真面目に聞きつつ、鍵の『ちっこい』発言に傷ついたようだ。会長は胸を押さえつつ呻いていた…ご愁傷様です。

 

「まいりましたよ。なんせ会長、三階の図書室から同じ三階の生徒会室に資料を持っていく途中だってのに、なぜか一階でウロウロしてたし」

「うっ」

「ただでさえ歩幅が小さいのに慎重に歩いているせいで、階段に辿り着くのに十分以上かかってましたし」

「うう…」

「そんなんだから、見かねて『俺が全部やりましょうか?』って声をかけても、『ふ、副会長をなめてはいけません!』とか妙に意地張るし。おかげで、余計に俺も時間潰されるし」

「ううう……」

「階段上る時なんて、腕と足がすんげープルプルしていて痛ましいし」

「あぁ、去年の私って……」

 

 会長ががっくりとうな垂れる。……でも会長。今の会長もそんな変わってないですよ?

 

「んで、期せずして長時間同行する羽目になってしまいまして。荒れていた俺もついつい油断して、軽くですけど会長に色々と話してしまいまして。二股で両方の女の子を傷つけて、自分はどうすれば良かったのか……みたいな愚痴ももらしたんですよ。そうしたら会長が……」

「?私がどうしたの?」

 

 首を傾げる会長。それを鍵が見て、溜息をつきつつ続ける。

 

「会長はこう言ったんですよ。『恋愛シミュレーションゲームをしなさい!貴方には主人公精神が足りないわ!』と」

 

『……は?』

 

 会長のみならず、俺を含めた生徒会全員が目を点にして耳を疑う。

 会長は必死に反論しているが、鍵は聞く耳を持っていない様子で話を再開する。

 

「どうやら会長はその時期に、丁度なんかの恋愛シミュレーションゲームをやって感動した直後だったらしくてですね。友達から勧められてやったら、不覚にも泣いてしまったとか言ってましたけど……」

「あ」

 

 どうやら思い当たる節があるのか、会長が声を上げる。

 まぁ、この人は流行にすぐ流されるからなぁ。この前も好きなお菓子が二転三転してたからなぁ。

 

「当然俺はキョトンとしましたよ。当時の俺はそういう系統のゲームに全く興味がありませんでしたし、会長みたいな人の口からそんな単語が出るなんて思いませんでしたから」

「あぅぅ…」

「でも会長はいたって本気で言うんですよ。『ああいうゲームの主人公を見なさい!モテモテなのに、結局皆を幸せにするじゃない!貴方はアレを参考にしないさい!それぐらいでちょうど良いわ!」

「きょ、去年の私はいったい……」

「その突飛な発想は、意外と俺の心にグサリときましてね。それからですよ。ギャルゲとエロゲに染まったのは」

「その性格や趣味って、私のせいだったんだ!」

 

 会長が深く落ち込んで、世界の終わりみたいな顔をしている。

 まぁ、今まで問題児と考えていた奴の性格やキャラが、自分の言った一言が切っ掛けだったんだもんな。

 知弦先輩と椎名姉妹もぎこちない表情で苦笑いをしている。

 

「でも…おれはそれで、救われました。ありがとうございました、会長」

「え?」

「あの頃の俺は、何をすれば良いのか全く分からなかったんです。でも会長は、そんな俺に指針をくれた」

「……ギャルゲだけどね」

「そうは言いますけど、あの頃の俺には結構衝撃だったんですよ?あれ。真に借りたりしてやっていたんですけど、特に…ハーレム系の展開になるものはカルチャーショックだったんですよ。ああ、こんな展開もあるんだなぁって。荒唐無稽だけど、でも、皆が微笑んでいられる未来は、ちゃんとあるんだなぁって」

「……杉崎……」

「特に、ギャルゲの主人公ってどういうわけか俺の状況にそっくりなのが多かったから。義理の妹とか幼馴染がいて、三角関係になって、軽くドロドロして」

「………」

「でも、悔しいんですけど、アイツら主人公と来たら十中八九、最後には幸福を掴みやがる。ホント…俺、何度泣いたことか。あぁ、どうして俺はこうはなれなかったんだろう。どうして俺は…二人をちゃんと、幸せにしてやれない情けない俺だったんだろうって。だから俺は決めたんです。俺は…『主人公』になろうって。真や主人公みたいに、皆を平気で幸せに、笑顔にする『コイツら側』になってやるって」

『………』

 

 鍵が拳を握りこむ。皆から視線を集めるが、鍵はいつもの表情で微笑む。

 

「俺はもうあの頃の俺じゃない。中学に真に助けてもらって、春には会長と出会って切っ掛けを貰って。夏には深夏に渇を入れられ、秋には知弦さんに癒され、冬に真冬ちゃんに励まされて。バイトも勉強もギャルゲも全部全力で取り組んで。そうやって一年自分を磨き続けて、俺は…もう、あの頃の俺じゃない。だから俺はこの生徒会に来た時、自信を持ってこう言えたんだ」

 

 一度息を吸って、鍵がもう一度あの言葉を告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きです。超好きです。皆付き合って、絶対に幸せにしてみせるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ~あ…あー眠い」

 

 次の日、俺は眠気を抑えつつ早朝の校舎を歩いていた。鍵に貸した最初のギャルゲをやり直していたせいでほぼ徹夜したからなぁ…。

 昨日はあの後会長が、残りの生徒会メンバーの邂逅を鍵から聞き出そうとしていたが、時間も時間ということではぐらかして終わらせていた。

 まぁ、知弦先輩達の話に俺も少しは興味があったけどな。

 階段を上り、文科系クラブの掲示板がある廊下を歩いているとブロンドの髪の女子生徒がせっせと新聞を張り出していた。

 その女子生徒に近づきつつ、びっくりさせないように声をかける。

 

「どうもです、リリシア先輩。こんな早朝からご苦労様です」

「ん?あら、真さんじゃないですか、ごきげんよう。あなたこそ、こんな早朝に登校なんて珍しいじゃありませんか」

 

 新聞部の部長である藤堂(とうどう)リリシア先輩は、優雅に微笑む。…昨日の事に関しては悪いことをしたとは思っていないな、こりゃ。

 彼女が俺を下の名前で呼んでいるのは、俺の外見が関係しているらしいが…いまいち分からん。まぁ、そこそこには信頼されているんだろうな。俺はいまいち苦手だけど。

 そうこうしているうちに新聞を張り終わったようだ。俺は再びリリシア先輩に声をかける。

 

「それで、昨日の今日でもう新聞新しくしたんですか?」

「ええ。杉崎鍵のあんな下らない間に合わせネタより、もっと面白いネタが入りましたので」

 

 そう言われて壁新聞を見てみると見出しには、『保健室で目撃!?看病をしたがるナース幽霊!』とデカデカと書かれていた。

 鍵の過去は、こんな間に合わせネタに負けたのか…哀れな鍵。

 

「どう?面白いでしょう?この藤堂リリシアにかかれば、一晩でこんな新聞作っちゃうのも朝飯前というものですわ!おーっほっほっほっほ!」

「え?まさかこの記事、一晩で作ったんですか?新聞部の皆さんも大変ですね」

「何を言っていますの?この事件が起きたのは昨日の放課後でしたし、わたくしがそのことを聞いた時点ではほとんど帰っていましたし、部員を集めるのは面倒でしたので、わたくしが徹夜で一人で作成しましたわ」

「え!これをたった一人で?」

 

 リリシア先輩の目元を見ると、ファンデーションで隠されてはいるがうっすらと隈が見える。

 

「…リリシア先輩は、どうしてそこまでするんです?お嬢様の道楽としては入れ込みすぎなのでは?」

「あら?あなたがそう言うとは思いませんでしたわ。道楽に入れ込むことにおかしい事があるのかしら?あなたのゲームや、杉崎鍵のハーレム作りだってそうでしょう?そんなことしなくたって生きていける。でも人間《生きるだけ》では満足できない生き物なのよ。極限状態にでも追い込まれない限りね」

 

 極限状態…か。あの時の俺みたいなことを言うんだろうか…。

 あの頃の俺は、何かに縋らないと生きていけなかったからな…。

 

「まぁ、下らない理由で始まったことですけど、今は楽しみをそこそこに見出してわたくしは新聞を書き続けていますの。確かに普通に考えれば、徹夜してまでするようなことではないかもしれませんわね。でも…わたくしの記事で取り上げる人間もそうですけど、人間はおかしいからこそ面白いのですわ。理解できないからこそ、人間なのですわ」

「へぇ……」

 

 リリシア先輩の言葉に、理解は出来なかったけどそうなのかもなとは思った。リリシア先輩はこういう部分が面白いんだろう。

 

「俺はそういうの嫌いじゃないですよ?むしろ好きなくらいです」

「…あなたはそういう点を直すべきだと思いますよ…」

「え?何がですか?」

「なんでもありません!もうこんな時間なので失礼いたしますわ。真さんごきげんよう。あ、杉崎鍵に彼に対しては追跡調査を行うのでまたお世話になると伝えておいて下さいましー」

 

 そう言うとリリシア先輩はスタスタと立ち去っていった。もうちょっと話してみたかったんだけどな。

 でも、今日のこの会話だけでもリリシア先輩の評価はがらりと変わったな。

 壁新聞の記事を見る。会長の嫌いなホラー系の記事…普通ならここははがしておくべきなんだけど…。

 

「先輩の道楽を邪魔しちゃいけないよな」

 

 そんなもの知らなかったような態度で掲示板から立ち去る。

 

 

 

 …決して会長が怖がるのを見たかったってわけじゃないぞ?



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豹堂真の日常

一巻終了の前に番外編として真のとある一日をお送りしようと思います

一応オリジナルですが、終盤は原作のとある場面に繋がってます

期待せずに、どうぞ~


 布団から出た俺は洗面所に向かい、歯を磨いて顔を洗ってタオルで顔を拭きながら自分の部屋に戻ってきた。

 この手順を終わらせるのに15分以上かかったのは内緒だ。

 

「ふぅ…あー、やっぱ起きてすぐに顔を洗うと目が一気に覚めるな。…まぁこんな時間に起きる必要はなかったけど」

 

 そう言いつつ俺は、自分のベッドの横の目覚まし時計を確認する。

 

[AM 06:58]

 

 いつもなら7時15分まで寝ているから、今日はなかなかの早起きだ。

 ん?15分しか変わらない?そんなことはない!15分早く起きるということは、15分間の布団のぬくもりを捨てることになる!

 さらには15分あればドラ○エなら2はレベルが上げれるし、G○ェネならば戦闘アニメを飛ばせばかなりターンが進められる!

 …うん、落ち着こう。朝起きたばかりなのになんなんだこのテンションは…。

 やはり昨日(というより今日)、真冬ちゃんや阿璃朱とオンゲを2時くらいまでしたのがまずかったのか…。

 そんなことを考えつつ制服に着替え、リビングに向かう。

 するとそこには、一人の男が新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。

 

「じいちゃんおはよー」

「お、真今日は早いな。どういう風の吹き回しだ?…まさか、彼女でも出来て一緒に登校か?」

「そんなわけないじゃん。俺なんかに彼女なんて出来るわけないよ」

 

 お互いに笑いながらそのような会話を進めていく。

 会話の中から分かるが、今目の前にいる人が、俺の母方の祖父であり保護者でもある豹堂(ひょうどう)啓児(けいじ)だ。

 確実に年齢は60以上いっているんだが、見た目は10代後半に見えてしまう程に若い。

 この前に一緒に街に行ったときに「兄弟ですか?」と言われるほどだ。

 その上自宅と同じ敷地に経営している道場の師範代で、俺もいまだに一度も勝てないほど強い。

 おっと、そんなことしてる場合じゃなかった。折角早く起きたんだし、今日はちょっと張り切って多めに弁当作ってみるか。

 

 

「…調子に乗りすぎた…。まさかここまで作ってしまうとは…」

「お前は何人に配るつもりだ…」

「そんなつもりじゃなかったんだけどなぁ…」

 

 作り終わった弁当を見て、俺とじいちゃんがあきれたようにその弁当を眺める。

 何故そんなことになっているかと言うと、今目の前にある弁当の量のせいだ。

 "ちょっと"気合を入れすぎて、重箱3段くらいになってしまった。

 まぁ、クラスの連中と一緒に食えば大丈夫かな?鍵なんかも、食費が浮くから助かるとか言いそうだしな。

 おっと、そうこうしているうちにかなりの時間が経っていた。そろそろ行こうかな?

 

「んじゃ、そろそろ学校行って来るねー」

「ん?もうそんな時間か。車に気をつけていけよー」

 

 そんなじいちゃんの言葉を背に、俺は家を出る。てか、車に気をつけろって小学生かよ。

 にしても、いつもと違う時間に家を出るだけで景色がガラリと変わるもんだな。

 いつもなら見ない学生もチラホラ見えるし、あの女子生徒だって…あれ?もしかしてあれって…。

 半分確信し半分疑いながら、その特徴的な水色のポニーテールの女子生徒に近づいていき、向こうからは顔が見えない位置から顔を確認し、声をかける。

 

「優姫先輩おはようございます。登校のときに会うなんて珍しいですね」

「?」

 

 一瞬誰に声をかけられたのか分からなかったようで、ハトが豆鉄砲食らったような顔をした。

 先輩はこっちの顔をまじまじと見て、俺が誰なのかようやく分かったようだ。

 声を聞いて誰か分からなかったのが恥ずかしいのか、先輩の顔は少し朱色に染まっていた。

 

「ま、真君!?な、なんで!?」

「なんでって、ここが自分の通学路ですし…。まぁ、いつもはもうちょっと遅い時間ですがね」

 

 俺は笑いながら話すが、先輩は何か考え込むような表情で話を聞かずにこっちを見てこない。

 

(ま、まさか真君に会えるなんて!今日の血液型占い、早速当たってる!でも、今週の正座占いは最悪だったから、慎重にこのチャンスを活かさないと…)

「せんぱ~い?お~い、聞こえてますー?」

「え!?あ、ご、ごめんね。ちょっと考え事しちゃってて。ア、アハハ」

 

 "ワタワタ"と効果音が出ているかのごとく、普段のイメージからは想像できないくらい取り乱す先輩…うん、なんか可愛いな。

 この人は七海(ななうみ)優姫(ゆうき)先輩。碧陽の三年生で、陸上部の部長さんでもある。この前のカオスラジオで話に出た人だ。

 可愛いというより綺麗と言った方が似合う容姿で、碧陽だけでなく他校からもかなりの人気がある。

 

「んで、折角会ったんですし、一緒に登校しません?」

「ほんとに!?ふ、不束者ですが!よろしくお願いいたします!」

「先輩!?ちょ、顔を上げてください!なんか周りの視線が痛いですし!」

 

 先輩が右手を前に出しつつ、腰を綺麗に90度曲げて大声でそんな事を言うもんだから、周りの学生やら近くのおばちゃんやらがこちらに視線を向けてくる。

 先輩もそのことに気づいたようで、あわてて姿勢を正しつつ周りに視線を送る。…というより、これは威圧しているのではないだろうか?

 まぁ、そんなこんなで先輩と一緒に登校する事になったわけなんだが…。

 

「ううううう…」

「あのー、先輩?」

「うわぁ!!なななに?」

「いや、さっきからずっと俯いて呻いていたんで、体調でも悪いのかなぁ…と」

 

 そう、さっきから…いや、一緒に学校に向かい始めてから先輩の様子がおかしい。

 最初は俺を見てにやけるだけだったんだが、途中で何かに気づいたかのような表情をして周りを気にし始めて、今に至る。

 

「体調悪いなら無理せず休んだほうがいいですよ?なんなら家までおぶって行きましょうか?」

「い、いや!いいから!…いや、でもそれもありかも…」

 

 否定の後ろの部分は、ごにょごにょとしか聞こえなかった…なんて言ったんだろう?

 そんな事を考えていると先輩が「それよりも!」と、俺に話しかけてくる。

 

「あ、あたし達って、今のこの状態、どんな風に思われてるんだろうね!?」

「どんな風にって…先輩後輩が一緒に登校してる…ってだけじゃないですか?」

 

 何を当たり前のことをと思いながら言ったのだが、それを聞いた先輩はかなりしょげていた。

 

「だよねだよね…真君に限って、そういう浮いた話はある訳ないだろうし」

「浮いた話?何がですか?」

「なんでもないよ!」

 

 そんな他愛もない会話をしつつ、俺と先輩は学校に向かった。

 

 学校に着くまで、先輩の表情がずっとにやけと名残惜しそうな顔だったことを、付け加えておこう。

 

 

 

 その後自分の教室に着いたのだが、着いたとたんに巡(めぐる)に絡まれた。

 どうやら今日鍵が風邪をひいて休んだようで、機嫌がすこぶる悪いようだ。巡は鍵のことが好きだからな。

 そのことを巡に言うと、ツンデレ口調で何か言って立ち去っていった…あ、守(まもる)が殴られてる。

 まぁそんなことはどうでも良いが、鍵が休んだというのは結構気になる。

 昨日巡に付き合わされて映画の撮影をさせられてたが…それが原因か?バイト終わったら見舞いにでもいってやるか。

 俺は今日最初の授業、物理の実験中にそんな事を考えていた。

 

「おいどうした。手が止まっているようだが?」

「ん?あ、ごめん。何してたっけ?」

「あぁ、等速直線運動の実験だ。僕が機械にセットされているテープを引っ張る係だ。故に豹堂は、テープの間隔を計測する大事な役割を頼む」

「了解…全く関係ないが、その口調直したらどうだ?なんか普通じゃないし」

「僕が普通じゃない…か。何を今更なことを」

 

 そんなたわいのない会話をしつつ、隣にいる奴と実験を進める。

 こいつは中谷(なかたに)風雅(ふうが)。俺と同じクラスにいる"愛すべき変人"だ。

 幼さの残る穏和な顔つきで一見すると常識人なのだが、行動やら考え方がとち狂っているために変人として見られている。

 この前も二枚貝の研究だか知らんが、2日ほど姿をくらましてやがった。もちろん誰にも言わずに。

 そんな事を考えていると後ろから声をかけられる。

 

「真~そっち実験終わったか~?」

「守か。終わったけど…どうした?簡単な実験なんだしすぐに終わるだろ?」

「実はさ…まぁ、見てもらったら分かると思うぜ…」

「何が…え?」

 

 守に見せられたのは、目のハイライトが消えてブツブツと何かを小声で呟きながら実験道具をもつ守の姉・巡の姿だった。

 …あ、そういえばこいつ等の紹介してなかったな…まぁいっか。

 

「いやそこはしろよ!ただでさえ出番すくねぇんだからここ位は頼むよ!」

「ここで超能力使うなよ。しかも今回はなぜか微妙じゃないし」

 

 そう言いつつ、風雅に許可を貰い実験結果の書いてあるプリントを守に渡す。

 めんどくさいが、この二人の紹介でもするか…。

 

 男の方が宇宙(うちゅう)守(まもる)で女の方が宇宙(うちゅう)巡(めぐる)だ。

 …え?それで終わりなのかって?他には…守は超能力者で、巡はアイドルってことぐらいしかないぞ?

 

「いや、僕は充分すごいと思うのだが」

「そうか?超能力者なんて知り合いにもう一人いるんだけど…」

「ふむ…興味深いな…今度、ぜひとも会って見たい」

「別にいいけど…解剖するとかは言うなよ?」

「流石にそんな事はしない…多分」

 

 一応冗談で言ったのだが、やっぱりこいつは発想が駄目だ…。

 話を戻すが、何故守達がこんな状況になっているのだろうか?

 守に話を聞いたところによると、鍵が登校していないのにテンションが上がらない巡が、その鬱憤をすべて実験道具に向けた結果ぶっ壊れてしまったらしい。

 そのために実験が続けられなかったらしい。実験道具を壊すほどの握力ってなんだよ…。

 

 とりあえずその場は巡を教科の先生に謝罪させた。そのときも巡は放心状態だった…もう告っちまえよ…。

 後ろで風雅が「興味深い…」と言っていた。お前はほんとにいろんなものに興味もつのな…。

 

 

「それで?そっちは協力取り付けれたの?」

 

 昼休み、俺は昼飯を食べながらとある計画について話し合っていた。

 この話はあまり他人に聞かれたくないため、俺を含めて4人で話し合っている。

 

「あぁ とりあえず文芸部と、阿璃朱のつてで演劇部は協力してもらうことになったよ。そっちは?」

「こっちもコンピ研の協力をなんとか取り付けれたわ…まぁ、変な条件つけようとしてきたから、殴りかけたけどね」

「頼むから穏便にしてくれよ。もしそんなことしたら、協力してもらえなくなるからな」

「心配しなくても良いよ~。もしも~姉ちゃんにそんな事する輩がいたら~…僕が徹底的に潰すから」

「それが不安なんだって言ってんだよ!」

 

 "はぁはぁ"と俺は息を荒くしながら叫ぶ。そのせいで周りから刺さる視線、視線…。

 相変わらずこの二人が同時に話をすると、どんな流れになるのか分からないから精神的に疲れる…。

 

 最初に俺に話しかけてきたのは柊(ひいらぎ)弥生(やよい)。所属は2年B組ではないが、よく今みたいに昼飯を一緒に食べたりしている。

 決して人付き合いが悪いと言う事ではないんだが、ちょっと口が悪くて皆から少し距離を置かれている。

 だがその本性(?)はお化けなどのオカルト系がかなり苦手な普通の女の子だ。

 

 話している途中で豹変したやつは柊(ひいらぎ)玲(れい)で、苗字や会話から分かるように弥生の弟だ。

 普段はいつものほほんとした口調で、クラスでもマスコット的な存在。

 弥生とは正反対で、人付き合いは積極的な裏表のない奴…と言いたいのだが、さっきみたいに突然雰囲気が変わることもある。

 

 二人とも映画研究会に所属していて、最近では俺たちを巻き込んで映画を撮影しようとしている。

 それがさっきから言っている、『計画』だ。映画研究会だけでは上映はおろか、撮影自体が出来ないため俺に相談して『様々な部活と協力して撮影してみないか?』と言うことになった。

 ちなみにその映画研究会にはこの二人しか所属していない。

 

「あ、そうだ。小毬ちゃん、放送部の部長には話してみてくれた?」

「う、うん!部長にも、話してみたら、『面白そう!流石は生徒会会長補佐!』って言ってくれたよ!」

「なら大丈夫そうだね。てか、これ考えたの弥生たちだし、生徒会の役職は関係ないだろ…」

「あ、あはは…」

 

 そう言いながら茶色のショートカットの少女が力なく笑う。

 この子は赤荻(あかおぎ)小毬(こまり)ちゃん、俺と同じクラスの女の子だ。

 普段はおとなしい上に口下手なんだけど、所属する部活動の一環であるラジオ放送においてはかなりのトーク力で人気パーソナリティーとして全校生徒に知られている。

 彼女もこの映画撮影には参加してくれて、放送部への根回しなんかを手伝ってくれてる。

 

「今のところ演劇部、文芸部、放送部、コンピ研。エキストラは要とかにも来てもらうようにいってるけど…」

「うーん…俳優に脚本、機材に編集は目処が立ったけど、やっぱり難しいなぁ映画って」

「で、でも豹堂くんはすごいよ!豹堂君が動かなかったら、部への話し合いだって出来なかったかもしれないんだもん!」

「む…それはどういう意味?あたしと玲なんかじゃ、ここまで出きなかったって事?どうせ私は人付き合いが悪いですよーだ」

「い、いやそういう意味で言ったじゃなくて!えっと、あの…豹堂君助けて~」

 

 弥生と小毬ちゃんが言い合いをしている…というより、弥生が一方的に噛み付いているだけだが。

 まぁ、いつもの事だからスルーしつつ、昼飯に舌鼓をうとうと弁当を見る…あれ?エビフライが一つ減って、綺麗に尻尾だけが残っている。

 

「もぐもぐ…う~ん、カロリーメイトもいいけどマコ君の作るおかずもなかなかだなぁ~♪」

「おい四季、お前いつの間に来たんだ。そして俺の断り無しで勝手に弁当食ってんじゃねーよ!」

「え~こんなに作ってきたんだし、どうせキー君やみんなと一緒に食べるつもりだったんでしょ?♪」

「う…いや、まぁそうなんだけどさ…」

「やーいマコ君照れてるー♪」

「うっせぇ!照れてねぇよ!」

 

 けらけら笑いながら薄い緑色の髪の女の子…いや、男の"娘"が俺を指差してくる。

 こいつの名前は神埼(かんざき)四季(しき)。

 前述の通り、見た目は女の子であるが正真正銘男…のはずだ。だから皆からは男の"娘"と呼称されている。

 授業にはほとんど顔を出さないのにテストでは毎回10位以内に入っているためか、碧陽学園七不思議のひとつ『幻の男の娘』として噂されている。事実今日こいつを見たのは今が最初だし。

 なぜそんな奴と知り合いなのかと言うと…まぁ、偶然に偶然が重なったとでも言っておこう。

 

「んで?なんでお前は俺の膝の上に乗っかってんだ?」

「ん~?そりゃあ、マコ君の弁当にありつくために決まっているじゃないか!」

「いや、そんな「何当たり前のことを」みたいな顔で言われても」

「え~いいじゃん、別に。あ、ついでに『アーン』でもしてくれない?」

「なぜ俺がそんな事をせにゃいかんのだ」

 

 二つ目の要求は華麗にスルーする俺。

 まぁ、別にたくさんある上に元より皆で食べようと思ってたし。でも膝の上に乗るのはやめてくれ、俺が食えないから。

 そんな状況を見かねたのか、めずらしく小毬ちゃんが自分から四季に話しかける。

 

「し、四季ちゃん。豹堂君が困ってるし、どいてあげてよ(羨ましいなぁ…あのラジオでも言われてたけど、やっぱりこの気持ちはきちんと伝えないといけないのかな…)」

「そうよ、今は食事を楽しむ時間なんだからさっさと退きなさいよ(…なんなのかしらこのぶつけどころのないムカムカは)」

「…とか言って、二人ともほんとは羨ましいんでしょ。顔に書いてあるよ♪」

『え゛!?』

「んなわけないだろ、二人がそんな事思うなんて…なぁ玲」

「え!?う、うん無いと思うよ~(相変わらずだなぁ真は。小毬ちゃんの好意に全く気づいてないし…でもそれは姉ちゃんにも言える事か)」

 

 四季の言葉に対し、小毬ちゃんと弥生は反論し玲は呆れたような表情で言葉を返す。なんで呆れているのだろか。四季の言葉に対してか?

 

 そんな事があったが、最終的に四季に巡達も含めた大所帯で昼飯にありついた。

 途中、四季がいじりの対象を小毬ちゃんにしたために、小毬ちゃんの精神的ライフが0を通り越してマイナスになっていた。

 …『狂戦士の魂(バーサーカーソウル)!』…気にするな、ただの妄言だ。

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 再び処変わって、とあるゲームショップ。何故俺はここにいるのか?ゲームを買いに来た…わけではない。

 ここは俺のバイト先だ。本当ならば今日は休みだったのだが、大学生の先輩が風邪を引いて出れないために急遽店長にヘルプを頼まれたんだ。そういえば鍵も風邪引いてたっけ?風邪が流行ってんなぁ。

 先輩にそのことを伝えたら、「なら、ゴホッゴホッ…今度お詫びに!ガハッゴホッ…買い物に付き合ってあげるよ!」と、息絶え絶えな口調でありながら、耳がキーンとなる程大きな声で言われた。丁重にお断りしたけど。

 もちろん会長にも事情を説明して会議に欠席することを伝えた。最初こそ『駄目!』の一点張りだったが、俺が今度お勧めのチョコケーキを奢ると言ったら態度を一変させて見送ってくれた。恐るべし、お菓子への欲求。

 

「たく…なんでお前なんかとシフトかぶらねぇといけないんだよ…」

「うっせぇぞ愛華。無駄口叩かずに手を動かせ、手を」

「わぁーってるよ!お前にだけは言われたくねぇよ!」

「はいはいわかってますよー。愛華はおりこうさんですからねー」

「殺してぇ…お前に殺傷設定のス○ーライトブレイカーぶち込みてぇ…」

「やめろ。お前が言うと冗談なんだろうが冗談に聞こえない」

 

 隣にいるサイドポニーの少女と私語をしながら接客をする。

 この糞ア…少女は四月一日(わたぬき)愛華(まなか)。お互いに、いわゆる腐れ縁という間柄である。

 容姿は某魔砲…じゃなかった、某魔法少女にそっくりで相違点は髪の色くらいだ。

 しかし見た目に反して性格はひねくれていて、さっきのように口は悪く喧嘩っ早い(認めたくはないが)残念美少女である。

 これで生徒会副会長とは思えない…。あ、生徒会と言っても要が会長を務めている近隣校、音吹(おとぶき)高校の生徒会だからな?まぁ、分かってるかとは思うが一応な。

 

「そんで?最近はどうだ?高校には慣れたか?」

「あぁ、ようやく慣れてきたところだよ…まぁ、いつでも腕試しが出来るから退屈はしないし」

「そうか、なら良かった。アレ以降要には勝てそうか?」

「要さんに勝つなんてそんな恐れ多い事言えるかよ!あの人はあたしの目標となる人だ!」

「…要が聞いたら大喜びしそうな台詞だな」

 

 何故こんな会話をしているのか、それは音吹の生徒会のシステムにある。

 碧陽の生徒会の選抜は知っての通り人気投票だが、音吹の選抜も一風変わっている。

 それは純粋なる『強さ』によって決まる。つまりは『生徒のなかで最も強かったやつが生徒会長になる』と言うことだ。

 今現在の音吹高校の生徒会会長は、俺の親友でもある伊勢崎(いせざき)要(かなめ)が勤めている。つまりは今現在あいつが一番強いと言うことだ。

 しかし愛華は一年でありながら、要に負けこそはしたものの善戦し見事生徒会副会長の座に着いた(本人は要と戦えさえ出来ればよかったらしい)。

 

「まぁ楽しそうで何よりだよ。それこそ、紹介した甲斐があるってもんだ」

「お、珍しく素直じゃねーか。でも…あたしもそれに関しては感謝して「ア○ソリュート・パワーフォース!」…」

「ん?何か言おうとしたか?ちょうど声が被って聞こえなかったんだが」

「…いや、何でもない。それよりも今の声、お前の後輩じゃないのか?」

「知らんな、あんなテンションで大声を張り上げる後輩なんて俺にはいな「ス○ーダスト・ミラージュ!」…ちょっと逝ってくる」

「字が違うぞ、字が。まぁ頑張れ」

 

 愛華が満面の笑みを浮かべながら俺を見てくる…あのアマ…。

 そう呟きながら、俺はこの店舗の一角にある『デュエルスペース』に足を踏み入れる。

 

「だー!また負けた!やっぱし勝てねぇよ!」

「ふん!貴様などでは俺の足元にも及ばない。キングはただ一人!この俺だ!」

 

 人差し指を点に掲げながら、ゴスロリを着た少女がそう叫ぶ。

 周りにいる小学生や他の客もそれに対して羨望の視線と盛大な拍手を送る。

 

(やっぱしな…だろうと思ったよ。技名を叫ぶ馬鹿はこいつしかいないだろうからな)

 

 女だからキングじゃないし、その台詞の元ネタの人もキングじゃなくなったし。

 そう思いつつそのゴスロリ少女に近づきながら、一応客なので敬語で話しかける。

 

「お客様、他のお客様の迷惑になりますのでもう少し静かにして頂けますか?」

「あ、すいませ…って、シン先輩じゃないですか。どうしたんですか?敬語なんて使って、気持ちが悪いですよ」

「…そっちは一応客だろ?形だけでも敬語は使わにゃあかんだろ。そして気持ち悪いとはなんだ、気持ち悪いとは」

「あ、そういえばそうですね。だって、先輩が敬語を使うところなんてほとんどないもんですから」

 

 俺はそんな印象なのか?今朝だって、優姫先輩や会長に対しては敬語だったんだが…。

 今、俺の目の前にいる他の客からの注目の的になっているゴスロリ少女は彩城(さいじょう)阿璃朱(アリス)、俺の後輩で朝や昼の会話にも出てきた張本人だ。

 やる気のなさそうな目、背中の真ん中程まである黒髪が特徴の少女だ。

 俺や真冬ちゃんと一緒にゲームをするほどゲームが好きで、さらにはカードゲームにもはまっていて『黒い幻影』とか言う痛いあだ名までつくほどの腕前だ。

 ちなみにあだ名の『幻影』の由来は、阿璃朱の特技に由来している。一体どんな特技なのかと言うと…。

 

「あと、遊○やらジ○ックの声を真似ながら劇中の台詞を叫ぶな。お前がやると本人かと思うじゃねーか」

「えー、そんなのあたしのキャラに反するじゃないですか。それこそ『万死に値する!』ですよ」

「…喉のチェックしなくても出来るようになったのな、それ」

 

 そう、こいつは他人(アニメのキャラも)の声をまねることが出来るんだ、しかも完璧に。

 それにキャラも変えれるから、別人としか思えないほどの演技をする。そのためか演劇部では期待の新人として重宝されている。

 ちなみにさっきの台詞はガン○ムにティ○リアさんだな。わかってしまう俺もどうなのだろうか。

 

「おーい真~いつまでやって…あぁ…やっぱしお前か」

「お、な○はのそっくりさんじゃないですか。お願いですからO☆HA☆NA☆SHIはやめてくださいよ?」

「いや、しねぇから。あと毎回言ってるが誰だよ、それ」

 

 愛華と阿璃朱がいつもと同じ会話を繰り広げる。あれ?俺空気じゃね?ここいる意味ないよな…なんか泣きそう。

 

 その後、勤務中にもかかわらず阿璃須に唆されて対戦をさせられた。

 最初はストレス発散に図書館エクゾ使ってやろうかとも思ったが流石にやめて、シンプルなシンクロンを使った。

 勝率?負けるわけがないだろ?弟子如きに。

 

 

 バイトが終わってから俺は、阿璃朱や弥生たちと鍵の家に向かっていた。もちろん、果物なんかのお見舞いも持ってな。

 阿璃朱はすぐに了承してくれたし、小毬ちゃんに弥生と玲には連絡したらすぐ来てくれた。愛華は…また道場破りにいったらしい。

 

「にしても珍しいわよね、鍵が風邪を引くなんて。昨日なんかあったのかしら?」

「昨日…体調悪そうだったし、それに巡ちゃんに付き合わされて何かしていたような…それとは関係ないよね?多分」

「関係ない…と言い辛いな、それは」

「それが本当だとしたら相当災難でしたね、鍵先輩」

「ま~今から行くんだし~その時聞けば良いんじゃない~?」

 

 だな、と言いつつ俺たちは鍵の自宅に向かう。

 ある程度歩くとうちと同じ制服の生徒が数名見えた。あれは…会長達?

 

「会長達も鍵のとこにお見舞い行くところなのか?」

「え、会長さんには連絡してなかったの?」

「いや、連絡しようとしたら繋がらなかったし…いつもなら絶対に繋がる真冬ちゃんにも」

「相変わらずユッキーとは仲がいいですね、シン先輩は。いっそ付き合えばいいのに」

 

 そう冗談交じりの会話を続けながらも、会長達に向かいながら歩き続ける。後ろで小毬ちゃんと弥生が何か言っているようだが、まぁ俺には関係ないだろう。

 しかし、会長達の様子がおかしい。先ほどから同じ位置に留まったまま動かない…どうやら、他校の生徒に絡まれたようだ。

 なんだかいやな予感がする…。そう感じ取った俺は鞄を阿璃朱に預け、会長達に向かって走り出した…。

 

 

真冬 side

 

 

 去年の冬

 真冬は、いつもゲームを買っているお店に行って、新作のゲームを買って帰る途中でした。

 でも、その道中で運悪くガラの悪い二人組の男の人に絡まれたんです

 

「君可愛いね、高校生?それとも中学生?」

「え、あの、その…」

「まぁ俺達からしたらどうでも良いんだけどね。そんなこと」

「それよりもさ、暇なら俺たちとお茶しない?俺たちが奢るからさ」

「い、いえ、け、結構です」

「えー良いじゃん、どうせ暇なんでしょ?」

 

 そういいながら、一人が真冬の手を掴んできました。

 その頃の真冬は真先輩や杉崎先輩に出会う前で、男の人に対してはまだ苦手意識が残っている頃でした。

 真冬はすぐに手を振りほどこうしました、でも男の人の力に敵うはずも、ただただ心の中で助けを祈っていました。

 

「お兄さんたち~、ゴホッ…何してんの~、ゲホッ…あー、だるい…やっぱこの状態で外出するんじゃなかった…」

「あぁ、なんだぁてめぇ?」

 

 そんな事を思っていると、唐突に誰かが話しかけてきました。

 真冬と男の人たちがその方向を見ると、金髪でマスクをつけた怪しい雰囲気をまとった人でした。年は…真冬と同じくらいだったと思います。

 

「いや、ガハッ、怪しい連中が可愛い子を連れ去ろうとしてるからさ」

「怪しいのはてめぇだ!なんだよその格好は!」

「え~、知らない奴に、ゴホッ言う必要ないだろ、クシュン…はぁ」

 

 金髪さんは、咳き込みながら余裕の表情(顔色は非常に悪かったです)を浮かべていました。

 

「なぁ…こいつ、どっかで見た気が…」

「あ!思い出した!最近この辺一帯の不良共を仕切ってるやつじゃねぇか!?名前は確か…」

「そんなんどうでも、ゴホッ…あー、もうだるい…あんたら!警察に連絡されたくなかったら、さっさとその子の、ゲホッ手離して帰りナ!」

 

 見るからに体調が悪そうなのに大声を挙げるから、"ゼエゼエ"と言った息遣いが聞こえてくる。

 でも、金髪さんが言った"警察"の言葉に動揺したのか、真冬の手を離して男の人たちは逃げていきました。

 真冬はその瞬間に緊張の糸が切れたかのようにその場にペタンと座り込んでしまいした。

 その様子を見て、金髪さんが真冬に近づいてきて手を差し伸べてくれました。

 

(でも男の人に、自分から触れるのは…嫌です。恥ずかしいですし)

 

 なので申し訳なかったんですが、手をとらず自分で立ち上がりました。

 金髪さんは最初こそ戸惑ったものの、手を引っ込ませて笑いながら心配をしてくれました。

 

「それでだいじょ、クシュン!ごめんね、ちょっと風邪気味で。大丈夫だった?」

「あ、はい、ありがとうございました。…でもなんで助けてくれたんですか?真冬とは初対面ですし…」

「え?ケホッ、困っている人を助けるのは当然じゃない?それに、それを早くやりたくて仕方が無いんでしょ?」

 

 金髪さんが指を指した方向…それは真冬が持っていたレジ袋でした。

 なんで分かったんでしょうか?

 

「それ、あの店が用意してる予約ソフト用のレジ袋だし、制服のままってことは学校から直接来たんでしょ?」

「あ、当たってます…でもそれだけで?それだけの理由で助けてくれたんですか?」

「うん。…まぁちょっと別の理由もあるけどね…」

 

 最後のほうはマスクのせいもあって声がくぐもっていて聞こえませんでした。

 でも、そのときは別に気にはなりませんでした。

 

「ゲホッゴホッ…これは本格的にまずいな…それじゃ…」

「あ、せめてお名前を!」

 

 そういった瞬間には、金髪さんは見えなくなってしまいました。しかも靴が焦げたのか、少しゴムのにおいがしました。

 どんだけ足速いんですか…それに体調もわるいんじゃ…。

 

 あの時は金髪さんにいつか恩返しをしたいとずっと考えていました。

 そしたら、次の日に公園で倒れていた杉崎先輩を見つけたんです。

 あの時の金髪さんのように、困っている人を理由も考えず助けれるような人間に…。

 気づいたら真冬は、杉崎先輩を運んで、風邪を引かないようにしてから立ち去ってしまいました。…金髪さんのように出来たのでしょうか…。

 

 え?ここまでなんで長々と回想しているのか、ですか?

 あの…それがですね…。

 

「いたたたた!!」

「………」

 

 

 そのときとほぼ同じ状況が、今ここに出来上がってしまっていたからです。

 

真冬 side out

 

 俺は会長達に向かって様子を見ながら走っていた。

 そして俺がある程度会長たちに近づいた瞬間、信じられない…というより、普段からは想像もできないことが起きた。

 

 二人組みの男の片割れに対して真冬ちゃんが、鞄で殴ったんだ。

 

 一瞬だけ驚いたが俺はさらに速度を上げる。

 すると今度は向こうが真冬ちゃんを殴ろうとする…あの野郎…。

 俺はそのまま体をちょうど真冬ちゃんと、真冬ちゃんを殴ろうとした野郎の間に滑り込ませ野郎の腕を掴む。

 

「いたたたた!!」

「………」

 

 少し力の加減を間違えたようで、野郎が情けの無い声を上げる。

 

「ま、真先輩…」

 

 真冬ちゃんが若干涙目でこちらを見てくる…。

 怒りを抑えながら掴んだ腕の持ち主の顔を確認する。

 

「…あ、お前…」

「いててて…げ、ひょ、豹堂さん!?」

 

 向こうも気づいたようだ。こいつは中学のころ、鍵をいじめていた連中の一人だ。

 アレ以降鍵にはちょっかいをかけてはいなかったから、もう懲りたのだろうと思っていたのだが…。

 

「久しぶりだな…アレで懲りたかと思ったが、マダこんなことしてんのか?」

「いや、豹堂さんだって見てたでしょ!?先に手を出したのは向こう…」

「うっせぇよ」

 

 そう言いながら、俺はそいつを地面に押し倒し胸倉に掴みかかる。

 今日はどうやら心の抑えが中々利かないようだ。会長たちが何か言っているようだが、今の俺にはそれすら聞こえない。

 

「うちの可愛い後輩泣かしている時点で、てめぇに同情する気なんかねぇよ。今ここで俺にボコボコにされるか、二度と鍵や皆に関わらないと約束するか…どっちか選べ」

 

 俺はそう言いながら胸倉を掴んでいた手の力を抜く。そうすると、そいつらはとぼとぼと帰っていった。

 そいつらがいなくなるのを見計らって、会長達を見る。会長達はおびえた様子で俺のことを見てくる…当然だよな、俺があんなにキレるのを見たのは初めてだろうし。

 

「大丈夫でしたか?怪我ありません?」

「いや、大丈夫…それよりも豹堂…」

「…すいません、みっともないとこ見せちゃて。でも、これが俺なんですよ。…嫌いになりました?」

「いや!あたし達のために体を張ってくれたわけだし!」

「…そうですか」

 

 知弦先輩は微笑んでこっちを見て、深夏は「私よりも速い…流石だな」とか言っている。

 うちの生徒会のメンバーの良い所の一つなんだろうな、この懐の深さは…。

 

「真冬ちゃんも大丈夫?あいつに変なことされなかった?」

「だ、大丈夫です。真先輩が来てくれなかったどうなっていたかは分かりませんが…」

 

 俯きながら真冬ちゃんが声を搾り出す。若干体も震えている…相当怖かったんだろう。まだ男性恐怖症が残っている真冬ちゃんがあんな行動に出るなんて…よっぽど酷いこと言われたのか?

 

「そ、それと真先輩ちょっと聞きた「豹堂、ちょっと質問があるんだけど、良い?」」

 

 真冬ちゃんが何か言おうとしたが、会長の言葉にかき消される。

 真冬ちゃんの質問も気になったが、会長がかなり真剣な顔つきだったので会長の話を聞く体制にはいる。

 

「さっきの連中から聞いたんだけど…」

 

 俺は会長から、連中に聞かされた内容を聞いた。その内容には、鍵がいじめられていたことと俺と鍵が出合った時の状況の事が含まれていた。

 そして、会長が説明をし終わったところで俺に質問を投げかける。

 

「これって…全部、本当のことなの?」

「…えぇ、事実です」

 

 あいつは会長達を心配させまいとその部分を伏せたのだろが、ここは正直に言わせて貰う。

 

「どうして隠してたの?そんなに私達が信用できないってこと?!」

「そうじゃないですよ。信用していなかったらあいつは過去事態喋りませんよ」

「う…じゃ、じゃあどうして!?」

 

 会長がいつものお子様オーラを消し飛ばすほどの勢いで話しかけてくる。本当だったら、本人に直接言わせたほうがいいのだろうがあえて俺の考えを言葉にする。

 

「あいつは…多分、皆を心配させたくないだけなんですよ。このことを話すと、会長は絶対に心配するでしょ?」

「あたりまえじゃない!同じ生徒会の役員なんだから!」

「だからですよ。あいつも言ってたでしょ?皆には、笑顔でいてほしいって。だからだと思います。それに、会長達がそんな顔をするんだったら鍵が覚悟を決めたのが悔やまれるじゃないですか」

「え?」

「あいつ、言ってたんですよ、前に。俺が『全部は話さないのか?』って聞いたとき」

 

『ああ、俺がそのことを言うと絶対に心配するだろ?前にも言ったけど、俺は全員を笑顔にしたいんだ。心配なんてかけてたまるかよ』

 

『……』

「ほんと馬鹿ですよね。他人のために自分の身を犠牲にするなんて…俺なんかには、出来ないですよ」

 

 俺がそう言うと、会長も表情を変える。鍵が求める、笑顔と言う表情に。

 

「あ、俺がこれ言ったのは秘密ですからね?ばらさないくださいよ?」

「わかってるわよ…ニュー君の弱みを一つゲットしたんだから」

「知弦先輩!?なに黒い顔で怖いこと言ってんですか!?」

 

 見ると深夏や真冬ちゃんも、いつの間にか合流した弥生たちも笑顔だった。

 

 理解してはいたつもりだったけど、改めて理解することが出来た。

 鍵の目指すハーレム…その象徴である笑顔の良さを…。



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存在しえないエピローグ

今回はエピローグとプロローグなので同時に投稿します

まぁ正直いらないかもね


《スタッフ活動レポート 其の九十七》

 

・怪談流布による猜疑心増大プロジェクト 失敗

・定例の昼食動向調査 奇妙な校内放送による妨害により 失敗

・生徒会のスキャンダルによる牽制 効果認められず

・杉崎鍵の思想に準ずる形での学園干渉 失敗

・スタッフ作戦会議 我々の苛立ちを煽る結果に(生徒会室監視が裏目に)。

・生徒会の近況 団結力が増大した模様。最早余談を許さない。

 

○今年度の生徒会に関する総合的所感

 

 一言で言って、非常にまずい。

 しばらく様子を見守っていたが、今年の生徒会は確かに厄介なようだ。

 本人たちに自覚がないのは不幸中の幸いだろうか。いや、自覚がない分、余計にたちが悪いとも捉えられる。

 

 なんにせよ、本腰を吸えて、早急に対処法を検討すべきである。

 

 結果だけ見れば、今年度の我々の成果は惨憺たる状況である。

 《スタッフ》の思想統制がとれていないことも、ここにきて、歪みとして表れ始めた。

 

 やはり、あの生徒会は危険である。

 《企業》の未来のためには、排除は必須。

 

 かといって、あまり直接的に動きすぎれば、《ルール》に反してしまう。

 もどかしい。このもどかしさが《スタッフ》全体の不協和音に繋がり、その隙はあの生徒会の活躍を許し、また、《スタッフ》の苛立ちの原因となる。

 完全なる、悪循環。

 

 最早、猶予はない。

 

 

 ……そろそろ、あの生徒会を、本気で潰さなくては。

 



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第二巻 生徒会の二心
存在しえないプロローグ


○スタッフへの通達

 

 近頃、諸君らの干渉成果に関して、《企業》の上層部から疑問の声が上がり始めている。

 仕事の性質上、明確な数字として諸君らの功績は測れるものではない。しかし、今期はあまりに《企業》への貢献が見られない。

 《ヒューマン・フィードバック・システム》の異変を指摘する声もあるにはあるが、活動状況を鑑みるに、その可能性は極めて低い。つまり、言い訳はきかないということだ。

 そのため、《スタッフ》の諸君らには、今一度危機感をもって、このプロジェクトにあたってもらいたい。

 《学園》の空気に当てられ、機が緩んではいなかったか?

 マニュアルに頼りすぎ、柔軟な対応を忘れていなかったか?

 自分の立場や権力を、過信しすぎてはいないか?

 

 子供を侮るな。

 

 諸君らの能力は確かに高い。この日本に君ら以上に人心を掌握する術に炊けた精鋭は存在しないだろう。

 しかし、この年代の未熟な子供の心を完全に把握するというのは、優秀な諸君らだからこそ難しい部分もあるのではなかろうか。

 そして。

 

 

 だからこそ、特に、あの生徒会に後れをとるのではなかろうか。

 

 

 そこで《企業》は、この度、新たな打開策を導入することを決定した。

 

 その打開策とは――

 

 

追記

 

 "奴ら"が生徒会に接触する動きを見せているらしい。

 

 あまり思わしくない状況だが、そこまで気にする問題ではないため議論は無しとする

 



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反省する生徒会①

お待たせいたしました

多分これからもこんな感じの更新ペースになると思われます


「過去の失敗を糧にしてこそ、我々は前に進めるの『そんなの、俺のほうが嫌に決まってんだろぉ!!』いきなり何!?」

「あ、すいません。ヘッドホンの端子が抜けました」

 

 俺はいそいで生徒会室の隅に鎮座してあるパソコンに再び端子を接続する。

 いやぁ、やっぱりリ○バスのこのシーンはいいなぁ…反対側のヘッドホンで聞いてる真冬ちゃんも涙腺が崩壊してるし。

 会議が始まるようなので、視線をホワイトボードに向けてみると大きな字で《第一回 生徒会大反省会》と書かれていた。……でもさ…

 

「反省会って言っても、会長に関しては反省点しか無いような…主に身長とか身長とか」

「ちょっと豹堂!全部聞こえているわよ!それにあんたも男子としては低いほうでしょうが!」

 

 あれま、ここ最近俺は心の中で呟くのが苦手になっているらしい。

 てか俺ってそんなに身長低いのか?確かに160後半は低いとは思うけど、今までそんな事言われたためしがないんだけど。

 俺が会長の言葉に熟考していると、深夏が文句を垂れる。

 

「え~、反省って言ったってまだ半年しか活動してねぇじゃんか」

「こら深夏!やる気を出しなさい!それにあんたは去年の生徒会のメンバーでもあるでしょうが!」

「いや、今日のは『現生徒会』ということだろ?だったら…」

 

 会長にそう言われても乗り気ではない深夏。

 おそらく深夏の性格上、真面目な生徒会っていうのはやりづらいんだろう…もしくは去年の生徒会がかなりシャキっとしてたから、その反動だろうか?

 あ、ちなみに深夏が先輩方に対して敬語じゃないのは、去年も生徒会として活動した結果らしい。まぁ、深夏の敬語なんか違和感バリバリだしな。

 すると会長が机をバシッと叩きながら怒鳴る。

 

「そういう生温い考えが、現生徒会を堕落させているのよ!」

「堕落って」

 

 会長の言葉に対し、鍵が口を開く。

 たしかに緩いって言葉に対しては否定はしないけど、そんなに酷くはなっていないとは思うんだけど。

 俺はいつも生徒会室に来て、真冬ちゃんが来たら一緒にゲームして会議が始まってから会長に怒られて…あれ?

 もしかして俺ってこのメンバーの中で一番堕落してる?…まじで?

 ま、まぁ俺と鍵と真冬ちゃんは今年からメンバーに加わったから、前年度の生徒会の空気を感じたことは無いし。そのせいで感じ方に違いがあるのか?

 鍵は若干考え込むような表情を見せ、真冬ちゃんも複雑そうな表情で苦笑していた。

 知弦先輩がボソッと、「この空気の八割はアカちゃんの怠惰のせいだけどね」と言っていた。容赦ねぇ…。

 まぁちゃんと会長には聞こえないように呟いたみたいだけど…ん?

 方向的に俺が聞こえて、会長には聞こえないなんてありえないはずなんだけど。

 そう考えながら視線を上げると、知弦先輩が微笑みながらこっちを見ていた。

 

「こんなこと、無敵○人108つの技の一つを使えばお茶の子さいさいよ」

「無○超人!?あんた我○Xにでも修行つけてもらったのか!?」

 

 すると今回も俺だけに聞こえるように喋っていたのか、皆が心配そうな視線を向けてくる。お願いだからそんな目で見ないで。

 会長だけは俺には目もくれず、机をバシッっと叩く。

 会長?それいつもやってますけど、知弦先輩とかが和むだけなんですけど。

 しかも叩いた後、隠れて痛がってるでしょ。俺知ってるんですからね。

 

「とりあえずは豹堂!あんたから始めるわよ!」

「え、俺ですか?自分で言うのもなんですが、反省点なんて無いと思うんですけど…」

「確かに、ニュー君は性格に学力共に反省点なんて無いわよね」

「珍しくべた褒めだな…知弦さん…まぁ事実ではあるけど」

 

 え、何このいつもとは違う空気。ものすごい恥ずかしいんだけど。

 しかしそんな事も気にせず、俺に対しある言葉を突きつける。

 

 

 

 

「確かにルックスは良いけど、目つきと髪の色のせいで不良っぽいじゃない!」

 

 

 

 

 その言葉を聴いた瞬間俺は思わず顔がこわばり、机を両手で思い切り叩く。

 あまりの事態に、全員が俺を凝視してくる。

 

「ひ、人が一番気にしている事を…!」

「あ、気にはしていたんですね…見た目のこと」

「そりゃ気にするよ…初対面の人には避けられ、新入生達には恐い先輩と認識され…もう挙げているだけでもへこんでくるよ…」

 

 今までの経験上そうだからなぁ…。真冬ちゃんや会長も、初めて見たときは明らかに拒絶してたし。

 そのまま俺は椅子から降り、床に体育座りで落ち込む。

 もうどうにでもなれ…。

 そんな状況の俺に対し、言い過ぎたと自覚していたのか会長がフォローしてくる。

 

「だ、大丈夫よ豹堂!あんたにだって良いとこあるわよ!」

「良いとこを理解する以前に、喋ってくれさえしませんがね…」

「う。で、でもほら、杉崎を見てみなよ!杉崎なんて、存在自体反省するべきだよ?」

「ここでまさかの俺の人格全否定!?」

「じゃあ、豹堂に勝てる部分ある?」

「く…否定出来ない…」

 

 すごく純真な顔で首を傾げながら鍵に言葉をかける。

 今日は珍しく会長鬼畜だな…俺と鍵の精神的ライフが振り切れそうだ…。

 

「お、俺にだって真に勝るとも劣らない所や、いいところあるよな!?」

 

 ………。

 数秒間、生徒会室の中が静寂に包まれ、それを深夏の一言が破る。

 

「反省会…すべきかもしれねぇな…」

「うおぉい!何その急激な方向転換!」

「真冬も…杉崎先輩を見ていると、早急に反省会を開催する必要性を感じました」

「真冬ちゃんって、何気に酷いこと言うよね!」

「キー君は反省するために生まれてきたような子よね」

「そんな目的で生まれる悲しい子供がいてたまりますかっ!」

「ストレス解消のために鍵の反省点を108つは挙げてやる…」

「煩悩の数!?お前はお前で酷いな!」

「知弦先輩、手伝ってくれませんか?」

「おもしろそうね、手伝うわ。いくつ見つけてあげましょう…腕がなるわ」

『ふふふふふふふふ』

 

 俺と知弦先輩が楽しげに笑いあう。

 え?会長たちがビビッてる?関係ないよそんなの。ハハッ

 その空気に耐え切れなかったのか、鍵が立ち上がりながら声を張り上げる。

 

「ええい!そうさ!どうせ俺は反省点ばかりさ!」

「おぉ、ついに認めたか。よし、今日は『鍵更正(かいぞう)計画』に変更だな」

「なんかルビが違うような気がするぞ。それはともかく、そんな俺に対して反省を促すのは愚の骨頂!だから今回は俺以外のメンバーが反省するべきでしょう!」

「珍しく説得力があるわね。自分を全否定してるのに」

 

 確かに珍しいことではあるよな、鍵の発言に説得力があるのは。

 俺が覚えている限り、最後に説得力がある事言ってたのは…あったっけ?

 皆がひるんでいるうちに、鍵がこの会議の主導権を握る。

 

「というわけで会長!今日は最高責任者たる貴女が率先して反省をするべきでしょう!」

「えぇ?わ、私の反省点?」

 

 鍵の発言に会長以外のメンバーが『確かに…』と呟きあう。

 流石にこれは逃げられないと悟ったのか、会長が真剣に考え始める。

 5分ほどたった後、会長が考えに考えを凝らして皆に伝える。

 

 

「ないわね」

 

 

「どんだけ自分にあめぇンだてめええええええええええええええええええ!!」

「お前の血は何色だあああああああああああああああああああああ?!」

「うわ!杉崎と豹堂が切れた!理由無くキレる現代の若者怖い!それに豹堂はなんか怒りのベクトルが違う!」

「理由ありまくりだわ!古代の老人でもキレるわ!」

 

 見れば深夏や知弦先輩、挙句の果てには真冬ちゃんでさえ額に怒りマークが浮かび上がっていた。

 

「えと…なんで皆怒ってるの?…あぁなるほど、私があまりにも完璧すぎて嫉妬しちゃったのかな?」

 

 …あぁ?

 

「ごめんね、やっぱり会長に選ばれるくらいだから私って、欠点とかないんだよねぇ」

 

 "ピキ、ピキ、ピキ"

 周りからそんな音が聞こえてくる。かく言う俺も今しがた頭の中で"ブチッ"って音が聞こえたし。

 今おそらく、会長以外のメンバーの考えは一つだろう。

 その胸に秘めた言葉を、すべて出し切る。

 

『会長(さん)(アカちゃん)!』

「え、な、なにみんな?そんな怖い顔をして」

『正座しなさい!これから反省会しますよ!』



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反省する生徒会②

大変お待たせいたしました

間が開きすぎて10代が終わってしまいました(・ω・`)

暇な時にちょっとづつ書いたので話がグダグダかつ、(何故か?)パロディ多めです

次話はおそらく1月終わりになると思われます

では、『反省する生徒会②』始めていきます


20xx年 ○月×日

 

「これより碧陽学園生徒会会長、桜野くりむの裁判を始める」

 

 俺はそう言いながら何故か、何故かあった木槌を打ち付ける。

 そして視線を右に向け、用意された台詞通りに言葉を発する。

 

「検察側、用意できていますか?」

「検察側、用意できています」

 

 俺が声をかけると右側に陣取っていた鍵がすぐさま返答する。

 それを確認した後、今度は左に視線を向け返答を待つ。

 しかし左に存在している席からは、声は返ってこなかった。

 それもそのはず、その席には誰もいないのだから。

 

「…弁護側は準備はおろか、弁護をする気すらないようですね。それでは被告、桜野くりむの判決を―」

『異議あり!』

 

 木槌を叩き判決を読み上げようとした瞬間、俺とは反対側の席から声が上がる。

 

「なんで私が判決なんか受けないといけないのよ!第一、私以外全員検察側に座っているじゃない!」

「おや、桜野被告」

「被告言うな!」

「何故そこに座っているのですか?あなたは自分の弁護は自分ですると言って他人の弁護を断ったじゃないですか」

「まさかの掛け持ち!?とりあえずみんな会議に戻りなさいよ!」

「え~、ここからが一番盛り上がるですけど…」

「いいから早くしなさい!」

『は~い』

 

 

 

 

 

 というわけで、ただいま真面目に会長の反省会を実施中だ。

 ちなみに俺は自分の出番が来るまでおとなしく事の成り行きを眺めている。

 順番としては、鍵→真冬ちゃん→深夏→俺→知弦先輩の順にしている。会長にばれないように相談したんだけどな。

 今は丁度真冬ちゃんからバトンタッチして深夏が会長の反省点を挙げている…なんか皆生き生きしてるな。

 そんな風に眺めていると、いつの間にか俺の後ろに這い寄っていた知弦先輩が俺に小声話しかけてくる。

 

「(で?これからどうするのニュー君)」

「(え、何がです?)」

「(アカちゃんの事よ。ニュー君ならこれからの展開が読めないなんて事は無いでしょ?)」

 

 これからの展開…まぁ、いつものように会長が最後には折れて皆でフォローするって流れになるんだろうけど…。

 

「(いつもの事ですから別に大丈夫じゃないです?)」

「(いつもならね?でも今日は違う。今日はアカちゃん自身の話だからいつも以上にへこむわよ)」

「(うげ、確かに言えてるかも…。まぁ、その時は俺がちょっと落ち着かせてから鍵にパスしますよ)」

「(どうして?確かにキー君が言っても場は収まるでしょうけど、ニュー君が言ったほうが説得力はあるんじゃないかしら)」

 

 心底不思議そうな表情をしながら知弦先輩は疑問の声を上げる。

 そんな先輩に対し、少し苦笑いしながら簡潔に言った。

 

「そういう役回りをこなしてこその、ハーレムの主でしょ」

 

 

 そうこうしている内に俺の出番が来たようで、深夏が俺に対して手招きしてきた。

 滅多にない機会なので俺も気合入れて会長の反省点挙げないと―

 

「すいませんスいませんスイませんスイマせんスイマセんスイマセン。ゴメンナサイごメンナサイごめンナサイごめんナサイごめんなサイごめんなさイごめんなさい」

 

 こええよ!ドンだけ精神ライフ削ってんだよ前の三人!なんか『かゆい うま』に通じる何かを感じるぞ!?

 なんかさっきから三人が目線を合わせないと思ったらこういう事かよ……。

 

「ほら、会長落ち着いてください。気を確かに」

「すいませんすいませんすいませんすいません。ごめんなさいごめんなさいごめんにゃさいごめんなさい」

「……アレ~こんなところに有名ケーキ店のショコラケーキが~」

「頂戴!……ハッ!」

「はい、真面目に反省会やりましょうね~」

 

 若干演技してやがったな、このお子様会長……。

 いくらなんでもおかしいと思ったんだよ、そのくらいで壊れるほどやわじゃないはずだし…どっかの誰かのせいで。

 あ、知弦先輩がにこやかにこっち見てる……もしかして考えてる事ばれた?

 俺は冷や汗をかきつつ知弦先輩の視線をスルーし、会長を見ながら話し始める。

 

「それじゃ次は俺が反省点を挙げますね」

「う~!う~!」

「そのう~う~言うのをやめなさい!全く……会長のそういうところが反省点ですよ」

「そういうところ?具体的にはどのへん?」

「人の話を聞かないところ、何を言っているのかわからないところ、最初と最後で話してることが違うところ、未だに学校全体に無線LAN付けてくれないところです」

「なんかものすごいリアルな反省点来た!てか、最後の奴は私に言っても無理でしょ!?」

 

 机の向かい側に座っている会長がまくし立ててくるが、聞かなかったことにしつつ俺は言葉を続ける。

 

「そんな風にいつも話を変えようとするところも反省点ですよ。とある外宇宙からの使者は、こんな言葉を残しています」

「ツッコミどころ満載なんだけど!?外宇宙からって何!?第一そんな存在とどうやって知り合ったの!?というかそんな存在が喋るの!?そしていやな予感しかしないんだけど!」

「喋りますよ?きちんと。『あなたは、そこにいますか』って。まぁ、自分はその質問に対して全力で逃げましたけどね」

「普通にシャベッタァァァァァァ!でも名言でもなんでもないし、ただの質問じゃないのそれ!……というより、その質問に対してはものすごい危機感を覚えるわ……」

 

 会長が発狂したりつっこんだり、真面目に考察したりしているがそんなのかまわずに話を続ける。

 

「その外宇宙生命体はきっとこう言いたかったんですよ。『あなたは自分という”個性”を持ち、行動していますか?自分の言動に責任をもって行動をしていますか?』といいたかったんですよ、多分」

「案外マトモなこと言ってた!しかも、何故か分からないけどかなり凝縮されてる!?」

「まぁ、簡単に言えば『真面目にやれ』ってことじゃないです?」

「さっきまでのが全部台無しだああああああああ!!謝れ!外宇宙生命体に謝れ!」

「なにを言ってるんです?」

「なにがよ!」

 

 会長が俺の発言に興奮してきているが、そこに俺ははっきりとした言葉で止めの一言を放つ。

 

「外宇宙生命体なんているわけないでしょ、常識的に考えて。これは全部自分がたった今考えた事です」

 

「そんなの分かっとるわああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 なんだか別の世界線の会長が降臨したのか、見事な叫びを会長が披露しているが豹堂真はクール(SPW風)にスルーし、知弦先輩にバトンタッチした。

 

 



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反省する生徒会③

お待たせしました、反省する生徒会③です

次も早く投稿したいのですが、もうすぐテストなので難しいと思います

では、どうぞ~


「アカちゃん……貴女には失望したわ」

 

 俺からバトンを受け取った知弦先輩が長い髪をかきあげながら、冷酷な目で会長を見下ろす。

 知弦先輩、その視線が俺に向いているわけじゃないですけどめっちゃ怖いです!

 

「ち、知弦まで……」

「かの偉人べ○ータは、よくこう叫んだものよ。『カ○ロットォォォ!』と」

「だからなに!」

「つまり、アカちゃんは自分の行動をよく省みて、この生徒会及び学校をよりよい未来へと導くべきという意味よ」

「『カカ○ットォォォ!』にそんな深い意味は絶対にないよ!」

「ついにべジータ否定ですか……」

「ヘタレでも野菜大好きでも一応王子様でしょ、アレ。否定しちゃダメですよ」

「アレって言っちゃってるし!というより、ベジータはいいよ別に!彼を否定はしないよ!」

「まさか、ラ○ィッツ派なのかしら?」

「何派でもないよ!特定のサ○ヤ人に思い入れはまったくないよ!」

「ナ○ック星人萌えとは、またマニアックな……」

「なんの話題!?これ、なんの話題!?」

「鳥○明は天才だということを語るのでしょう?」

「違うわよ!」

「はい!天才は荒木○呂彦だと思います!」

「ドラゴン○ールの次はジョ○ョか!どれだけ○ャンプ好きなのよ!?」

「まさか、アカちゃんは○ンデー派なのかしら?」

「サ○デーだったらケン○チが一番だと思います!」

「なんでサブカルチャーの話になると豹堂は生き生きするのよ?!」

「我が日本のサブカルチャーは、世界一ィィィ!」

「またジョジ○ネタか!というより、少年漫画はもういいよ!今は――」

『今は?』

 

 

「私の反省点を語りなさいよ!」

 

 

「了解」

「あ」

 

 そのやり取りの直後、知弦先輩はニヤリと笑い、会長は蒼白な表情に変わる。

 会長は知弦先輩と俺に誘導された。

 自分で反省点を求めたことにより、その話題から話を反らせず完全に受け入れざるを得ない状況に。

 会長の扱いは超一流だな、知弦先輩……やっぱ知弦先輩こえーわ。

 

「さてアカちゃん、自分でその話題を求めた以上、真摯に受け止める覚悟は出来ていると見ていいのかしら?」

「うぅ……」

「いいのかしら?」

「は、はい」

 

 会長が明らかに怯えながら答える。

 知弦先輩はそれを聞くと満足そうにしながら、会長の反省点を指摘し始める。

 

「まずアカちゃん」

「はい……」

「もうちょっと体にメリハリが欲しいわ」

「やっぱり理不尽よぉぉぉぉぉ!」

 

 会長に7272のダメージ!会長が一瞬で泣き崩れる。

 が、今の知弦先輩は止められない。

 会長の苦しむ姿ってSの人を刺激するだけじゃなく、ノーマルな人間をもSに引き込むからな……恐ろしい事に。

 

「私の趣味的にはその幼児体型も大好きなのだけれどね。生徒会長らしいという観点から見ると、どうしても威圧感には欠けるわよね」

「私にどうしろと……」

「牛乳を飲むのよ、アカちゃん。そして、転倒して派手に顔から浴びてしまい、カラーイラストになるのよ」

「どさくさに紛れて、なんで妙にエロティックな絵を作ろうとしているのよ!」

「ほら、キー君なんて何処からか早速牛乳を用意してきて、凄くキラキラした目でこちらを見つめているわよ」

「杉崎はそういうことになると仕事早いよねぇ!」

 

 そう言いつつ会長は鍵の持っていた牛乳を奪い、ゴキュゴキュと飲み干した。

 てか会長、その反応はその行為を理解する、というより分かっちゃってるのは墓穴掘っているようなものじゃ。

 あ、鍵が号泣してる。慰める気にもなれないけど。

 

「あらあら、アカちゃん。そんなことするからほら、キー君泣いちゃったじゃない」

「男の涙って軽いわねっ!」

「まあ仕方ないわ。体のメリハリに関しては諦めましょう」

「ほっ」

「ではアカちゃん、せめて制服をもっと挑発的にしましょうか。某セレブ姉妹が来ていそうなものを……」

「そんな格好で生徒会長が闊歩している学校って、どうなのよ!」

「エキサイティングだわ」

「そんな一言ですまさないでよ!」

「ほら、キー君も大喜びよ!制服調達のため、早速知り合いのコスプレ愛好家に連絡をとっているみたいよ!」

「やめなさい、そこのエロ副会長!」

「鍵のバカ野郎!そんな事しなくても、うちの演劇部に頼みゃあ良いだろうが!」

「あんたもか!このバカ補佐!」

 

そう言いながら会長に鍵の携帯と俺のスマホが没収される。……クソがぁぁぁぁ!

 

「あらあら、キー君処か今度はニュー君も号泣ね」

「男の涙大安売りねぇ!」

 

 ちなみに俺が会長にそんな制服を着せようとした理由は、今度のコミケにそんな格好の会長を連れていけばウケると思ったからだ。

 だから、深夏と真冬ちゃんは鍵を見るような目で俺を見ないで!

 

「ふぅ、仕方ないわね。キー君サービスを兼ねた、アカちゃんの反省点のピックアップだったけど……どうもこの方向性じゃ、アカちゃんは意地でも受け入れないようね」

「当たり前でしょう!」

「じゃあ、今度は精神的な面でいきましょうか」

「そうよ!そういうのが普通――」

「アカちゃん、心が子供よ。もっと大人になりなさい」

「いきなり核心ついてきたぁー!今までがギャグだっただけに、妙にグサッと来たわ!」

 

 会長が大いに動揺している中、知弦先輩が温かい眼差しで言葉をかける。

 

「アカちゃんは、やれば出来る子なんだから」

「なんか本格的に教育が始まったわ!同級生から母性的な目で見られているわ、私!」

「そのためにはアカちゃん。まずは、社会をその身で感じる必要があるわね」

「しゃ、社会?あぁ、アルバイトとかしてみるってこと?なるほど、それは確かに一理あるかも――」

「そう?なら早速駅前に行ってスカートを短くして、暇そうに佇んでみるのよアカちゃん。そのうち脂ぎった中年のオジさんが『三万円でどう?』とか声かけてくると思うから、あとはそれに従えば一発で大人の階段を――」

「知弦は私の友達よねぇ!?親友なのよねぇ!?時々私、知弦との友情に全く自身がなくなるんだけど!」

「当たり前じゃない、アカちゃん。私達は親友よ。やーねー、こんなジョークに本気になるだなんて」

「知弦……」

「今のは冗談よ。さすがに顔見知りじゃない人ととは嫌よね。だったらニュー君なんかが――」

「そういう意味じゃないわよ?!」

「てかなんで俺まで巻き込まれてんですか!?」

「今のも冗談よ、まったく。ニュー君まで取り乱しちゃって。アカちゃんの体を他人に汚させるわけないじゃない。……汚していいのは、私だけなんだから」

「飛び越したよ!なんか今の発言で、親友の域を飛び出したわよ!」

「大丈夫よ。マリア様は今、他のライトノベルを見ているから」

「意味が分からないわ!」

「まあ、それも冗談として……」

「知弦って、何処からが冗談なのか全く分からないのよね……」

「あら、アカちゃん。そんなの簡単よ」

「え?」

「アカちゃんと接している時の私は、基本的に偽りよ」

「友情があっさり壊れた!……私もう、人が信じれないかも……」

 

 会長ががっくりとうな垂れる。それを見た知弦先輩が、「そう!」と叫ぶ。

 

「それよ!それが社会の厳しさよ、アカちゃん!簡単に人を信じたら痛い目にあうという教訓よ!」

「!こ、これが……」

「やったわ、アカちゃん!あなたはまた一つ、大人になったわ!」

「お、大人に?え、えへへ。……えーと、なんか、素直には喜びづらいけど……」

「これでアカちゃんの反省点は、残り7951個に減ったわ!」

「もう殺してぇー!そんなに会長であることに文句があるなら、もう首を刎ねればいいのよぉぉ――――!!」

 

 アストラルフィニッシュ!

 そんな音声が聞こえそうな勢いで、会長はおいおいと泣き出し始めてしまった……。




長かったので一旦ここで終了です

次回は未明です


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反省する生徒会④

予約投稿の設定を忘れたまま寝落ちしてました(・ω・`)

というわけで反省する生徒会ラストです

う~ん…相変わらず文章乏しい&本編とほぼ同じ


 知弦先輩の猛攻により泣き出してしまった会長の声だけが、生徒会室に響いている。

 その状況に見かねた真冬ちゃんだけが立ち上がり、会長の傍に寄りその肩に手をおく。

 

「大丈夫ですよ、会長さん。反省点は多くても、会長さんにはそれに負けないくらい良いところも沢山あるのですから」

「ま、真冬ちゃん……」

 

 会長が顔をぐしゃぐしゃにしながら顔をあげ、そこに真冬ちゃんが優しい笑顔を見せる。

 

「大丈夫です。真冬も会長さんの欠点は5236個ほど思い付いてしまいましたが、ずっとずっと必死で考えた結果なんと、会長さんには合計で二つも良いところがあると真冬は結論しましたから」

「う、うわああああああああああん」

 

 零距離からのオーバーキル!?えげつねぇ!

 真冬ちゃんが「あ、あれ?」と可愛らしく戸惑っている。

 真冬ちゃんは時々爆弾投げ込むからなぁ……狙ってやってるのか、只の天然なのか……恐らく後者だろうけど。

 会長が今にも近くの山で冷たくなりそうな勢いなのだが、先程までの負い目があって俺達も気まずくなっていく。

 その空気を打破するためなのか真冬ちゃんのフォローするためなのか、はたまた半ばやけくそなのか深夏が会長を励ましにかかる。

 

「だ、大丈夫だ会長さん。鍵の反省点なんて2000個はあるし、真だって1500はあるぜ!」

「どちらにしたって私より少ないじゃないのよぉぉぉぉぉぉぉ!」

「い、いや、それはその……。そうなんだよなぁ。鍵はエロという点を除けば割と完璧人間だし、真は真でサブカルチャーを除かなくてもチートだからなぁ」

「うわぁぁぁぁん!私は、杉崎や豹堂にすら劣るんだぁ!」

「あ、いや……会長さんはその、単純にどこが凄く悪いというよりは、えと、総合的に能力低いというか、軒並み平均以下というか……」

「うわぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

 会長がさっきの6割増位の勢いでさらに泣き叫ぶ。

 その状況を作った深夏だが、ぽりぽりと頭をかきながら鍵と俺を見て「ごめん、やっぱタッチ」とか言ってきやがった。

 さっきよりも何十倍も空気悪くなってんだけど、俺たちにどうしろと。

 鍵も唸りながらフォローを考えているが、先日鍵が真冬ちゃんにフォローしたところ、やる気のベクトルを逆に持って行く程の効果だった事を思い出す。

 流石にあの状況を再び作り出すのは不味いと考えた俺は鍵にアイコンタクトを送り、先に俺がフォローするのを伝えた。

 気持ちを込め過ぎると威圧するような声になるので、ある程度穏やかな声にしつつ机の向かい側に座る会長に話しかけ始める。

 

「会長、良いですか?」

「ぐすっ……何よぉ……」

 

 涙で顔がぐしゃぐしゃになりながら、会長がこちらを向いてくる。

 

「俺さっき言いましたよね?『あなたはあなたという個性を持っていますか』って」

「それが……どうしたのよ」

「その通りの意味ですよ。悔しいですけど、会長はいつも『自分』という個性を持って会議をしています、俺と違って、失敗を恐れずにね。まぁ、いつも寄り道しちゃったりしてますけど」

 

 苦笑しながら、俺は俺の感じたことをただ素直に言葉にする。

 

「でもそれはある種の才能だと思いますよ。人間誰しも自分や自分の行動に対して疑問を持ちながら生きていますから」

「……」

「だから、えーと……反省点を補える位にそういう他人の持たない部分を伸ばしていけば良いとおもいますよ」

 

 うわぁ、俺何言ってんだろ。自分でも何言ってるのか分かんなくなってきたし、こんなんじゃ会長納得しないだろ……。

 案の定、泣き叫ぶのを少しは抑えてくれたが釈然としない表情のままだった。

 何か言おう、何か言おうと頭の中を巡らせるが全く考えが纏まらない。

 

 

「会長は可愛い」

 

 

『……ふへ(は)?』

 

 俺と会長がほぼ同時に声をあげながら驚く。

 今の言葉は俺の口からではなく、俺の横にいる鍵からだった。

 おそらく俺があまりに戸惑っていたから助け船を出してくれたようだ……助かるよ、ほんと。

 

「どんなに駄目人間でも、可愛ければ許されます。少なくとも俺、杉崎鍵にとっての会長の可愛らしさは、7951個の欠点なんて補ってあまりあるどころか、大幅にプラスに傾くって話です」

「……なによそれ。そんなの……結局、容姿だけってことじゃない……。私なんて……ただの嫌われ者なんじゃない……やっぱり」

 

 鍵の言葉にも、会長は回復しない。

 しかし、それでも鍵は言葉を続ける。

 

「何が不満だと言うんですか」

「え?」

「欠点が沢山あっても、それでも好きだと言って貰えることのどこが悪いと言うんですか」

「杉崎……」

「俺はたまたま容姿って観点で語ってますけど、他のメンバーだって同じですよ。それこそ会長の欠点なんて、何千個という単位で皆思い付いてしまいます。でも……誰かが一言でも、会長のことが嫌いだなんて言った人間がいますか?」

「そ、それは……」

「じゃあ、話を変えましょう。会長は……俺のこと、嫌いですか?」

「え?そ、そんなの――」

「悪いですけど、今回は真面目に答えて下さい。勘違いとかしませんから」

「…………」

 

 鍵のいつもと違う眼差しに会長は少したじろぐが、顔を背けながらぽつりと言葉を返す。

 

「き、嫌いじゃないわよ……別に」

 

 会長が頬を朱に染める。

 いつもの鍵なら叫んで暴走するが、今回は自粛しているようで全く叫ばない。

 

「ありがとうございます。でも俺こんなだし……って自分で言うのもアレなんですけど。欠点とか反省点とかで見たら、会長からしたらボロボロ出てくるでしょう?」

「と、当然よ!杉崎の欠点なんて、挙げ始めたらそれだけで高校生活終わるわっ!」

 

 会長が少しだけ元気になりながら胸を張る。

 一瞬、鍵のこめかみに血管が浮かぶがそのまま話を続ける。

 

「でも、それでも会長は俺のことを好きと言ってくれる」

「す、す、す、好きなんて言ってないじゃない!き、嫌いじゃないって言っただけよ」

「ええとじゃあ、まあ、それでいいです。会長は俺のこと、嫌いじゃない。……たくさん悪口が思いつくのに」

「あ……」

「それと同じですよ。まあ、俺から会長への感情は、『嫌いじゃない』よりもっと強い、『大好き』ですよね。……そういう感情に欠点だのなんだのって、関係ないんですよ。それは皆同じです。俺と意味は違っても皆、会長のこと『大好き』なのは間違いないですよ」

「杉崎……皆……」

 

 会長が周囲を見て確認する。知弦先輩も椎名姉妹に俺も温かい視線と笑顔を会長に向ける。

 

「まあ、色々と反省すべきことはあると思いますけどね。会長も俺も、それに皆も。だからと言って、欠点の数や得意なことの数だけが、その人間の全てじゃない。だから会長、会長は自信を持って良いと思いますよ?たくさん欠点あるのに、それでも皆に好かれるって、それは尋常じゃない才能ですよ。誇ってください」

 

 鍵の言葉に会長は袖で涙を拭う。

 皆の光景をしばし見守った後、会長が顔をあげ、満面の笑みを見せた。

 

「え、えへへ!やっぱりね!私は生粋の生徒会長なのよ!私ほど生徒会長に向いた人間は、そうはいないのよ」

 

 会長が椅子の上に立ち上がり、高笑い。

 復活、会長が高らかに復活。

 ふぅ……何となったな。これでこの件は――

 

「あはははははは!そうよ!私が会長に相応しくないわけないよね!やー、何を血迷っていたんだかっ!だって人気投票よ、人気投票!私が一番人望あるってことじゃない!そうよ!知弦に杉崎、豹堂が私の欠点を何千個とか言うのも、全部妬みってことよね!そうよそうよ!」

 

 ブッツン!

 

 再び脳内の血管が切れるような音がする。

 周りも再び怒りのオーラが漂っているが、俺の周辺だけ異常なオーラが漂う。

 そうだ……この人の才能、他人の神経を逆撫でする絶対的な才能だけはどうにもならない。

 慰めなんか甘っちょろい。落ち込ませたままにしておけば良かった。

 周りが徐々に怒りのゲージを貯めていくが、俺のゲージはとっくに臨界点を突破する。

 それに真っ先に気付いた真冬ちゃんが自分の怒りを抑えつつ、俺を止めにかかるが、俺は止まらない。

 

「カーイーチョー」

「え、何よ豹堂?」

 

 そう言いつつ会長が俺の顔をみる。その瞬間、会長だけでなく他のメンバーまでもが顔を青ざめさせる。

 

「ちょっと話があるからこっち来ようね~……大丈夫、そんなに時間はかける気はナイカラ」

 

 

 

 その後、暴走状態となった豹堂真は会長の反省会を深夜まで行い、最終的に桜野くりむに、

 

「私は生徒会長として間違っておりました。今後は誠心誠意、生徒の為に尽くさせていただく所存でございます」

 

と、号泣しながら言わせるまでに至った。

 

 しかし翌日

 

「過去を振り返ってばかりじゃ駄目!だって、時は前にしか進まないのだからっ!」

 

と発言する会長を発見し、メンバーは呆れ、会長を公正させるのを諦めた。

 また、その反省会を行なった後、生徒会メンバーに一つの密約が交わされた

 

『豹堂真を絶対に怒らせてはならない』

 

 これが守られるかどうかは、神のみぞ知る




これで反省する生徒会終了

次回は番外編を予定しております


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バレンタイン特別編 七海優姫編

というわけでバレンタイン特別企画の番外編です

まず最初はヒロイン候補唯一の年上、七海優姫からです

他のヒロイン候補は今日中、最悪明日までには投稿します


 ついに、ついにこの日が来た!

 そう言いながらあたし、七海優姫は丁寧にラッピングされた小さな箱を鞄の中に入れる。

 今日は2月14日―即ちバレンタイン、愛しの真くんに本命チョコを渡す日が!

 実は去年、大失敗をしてお母さんに台所使用禁止令を出されてたんだよね……。

 でも今年は違う!愛する真くんの為にこの一年、様々な知識を集めてきたんだから!

 

「それじゃ行って、ゴホッ!ゴホッ!」

「姉さん大丈夫?昨日寝てないんでしょ?」

「大丈夫よ、我が妹…こんなもの、我が武士道が押し通る!」

「私の姉さんがこんなに厨二病なわけがない。まぁ、気をつけてよね」

「どうしよう、渡して告白されたら……いや、むしろこっちから告白して―」

「聞いてないね、どう見ても。豹堂さんに迷惑だけはかけちゃ駄目だよ」

 

 妹が何か言ってるけど、今のあたしにはバレンタインチョコの事でいっぱい!

 真くん喜んでくれるかな~♪

 

 

 

 というわけでやってまいりました、真くんの通学路。

 特に待ち合わせをしているわけでは無いけど、いつもここでニアミスするから待ち伏せするよ!

 

「くしゅん!あ~やっぱり風邪かな~」

「珍しいですね、なんかあったんです?」

「うん。昨日ちょっとね~……え?」

 

 あたし、一体誰に話しかけられた?

 妹は学校が違うからさっき分かれたばかりのはずなんだけど。

 そう思いつつ、声をかけられた方に顔を向ける。

 

「優姫先輩、おはようございます」

「…………はにゃ!?」

 

 いきなりの出来事に、あたしは思わず出したことの無いような変な声を出してしまう。

 てか、真くんいつもより来るの早くない!?

 

「ど、どどどどどど」

「落ち着いてください。深呼吸、深呼吸」

「すーはー……うん、落ち着いたよ」

「そうですか、良かった。で、何であんなに取り乱したんです?」

 

 誰のせいだ!誰の!

 そう叫びそうになるのを堪えつつ、話を返そうとする。

 しかしその瞬間、身体が急に重くなり足がふらつき始めた。

 

「あ、あれ……?」

 

 体勢を立て直そうと足に力をいれようとするけど立て直せず、思いがけず真くんに抱きつく形になる。

 

「うわ!ちょ、先輩、どうしました!?」

 

 今までに聞いたことの無い位に狼狽した声が真君の口から響く。

 こんな可愛い声も出せるんだ……なんか新鮮。

 ボーっとそんな事を考えていると真君の冷たい手があたしのおでこに当てられ、今度は少し怒気の孕んだ声が発せられる。

 

「……凄い熱じゃないですか。どうしてこんな状態で登校しようとしたんですか」

「いや、だって……ゴホッ」

 

 理由は、目の前にいるんだけどなぁ。

 そう口に出しそうになるけど、あまりに身体がだるすぎて言葉にならない。

 ……元から口に出す気はないけど。

 

「こんな状態で学校なんて行ってる場合じゃないですよ。ほら、家まで送りますから」

 

 そう言いながら真君があたしの前で背中を見せて屈みこ……え?

 

「ほら、早く背中に乗ってください」

「いやいや、そんな悪いよおぶってもらうなんて。それに……」

 

 そう言いながら周りを見渡す。自分達がそうであるように、今は丁度学生達が登校する時間帯。

 そんな中おぶって貰うなんて、恥ずかしすぎる。絶対に明日からこの時間帯登校出来ない。

 

「じゃあ、前に貰った命令権今使います。だから早く」

「うぅ~……」

 

 そう声にならない声を挙げつつ、拒否を表そうとするが今の真くんには通じそうにもないので諦める。

 ちなみに命令権って言うのは、前に陸上のアドバイスをくれたお礼にあたしが何でもするっていう権利の事。

 こんなことに使わなくてもいいのに……。

 観念して恥ずかしさで顔を真っ赤にしつつ、真くんの背中に全体重を預ける。

 そのままあたしを持ち上げると、真くんはゆっくりと歩き始める。

 周りの学生から奇怪な目で見られるが、本人は気にしていないようだ。

 

「ほんとに先輩は馬鹿ですよ。そんな状態で来られても、こっちが気が気じゃないですよ」

「……」

 

 いつも以上に厳しい言葉をかけられるけど、事実なので言い返す事が出来ない。

 でも……そんな風に、誰だろうと思ったことを素直に言葉にする様な人だったからこそ、あたしは真くんの事を好きになったのかもしれない。

 

 前の"私"は自分に厳しく、他人にも厳しく当たる冷たい人間だった。

 大家族を支える両親を助けるために、兄ちゃんや姉ちゃんの様になるために……。

 そんな風に生きている内に周りの人間は私から遠ざかっていき、私は徐々に孤立していった。

 でもあの日、見慣れない金髪の少年が言葉をかけてきた。

 

「走る時の足はもっと上げた方が良いですよ」

「は?誰、あんた」

 

 それが私……いや、"あたし"と真くんとの出会い。

 あれからあたしの気持ちはずっと、一人にだけ向かっている。

 

「真くん、ちょっと止まってくれる?」

「何ですか?早く家に戻った方が良いと思いますが?」

 

 そう悪態をつきつつもあたしの意見を聞き、ちゃんとその場に止まってくれる。

 やっぱり真くんは優しいな……。

 止まっている間に、自分の鞄を探る。

 そして指先に固い感触を感じ、それを手で掴み鞄から取り出す。

 

「これ……バレンタインのチョコ」

「え、先輩……ありがとうございま、ッ!?」

 

 受け取ってもらった瞬間に、真くんの頬に口づけをする。

 ライバルは沢山居るけど、絶対に負けてなんかいられない。いずれは、絶対に真くんと一緒に……。

 

「真くん、ハッピーバレンタイン♪」



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バレンタイン特別編 赤荻小毬編

バレンタイン特別編第二段

今回はこの作品の中でも珍しい常識人、赤荻小毬です


ようやく二人目…後三人分だけど、やはり今日中は無理そうです

それと前話の予約投稿に不具合があって迷惑をおかけしました

ここで謝罪させて頂きます


「あえいうえおあお、んっん!うぅー……緊張してきました」

 

 そう言いながらも、いつもの様に喉の調子を確認しながら台本を読んでいるのに苦笑しつつ、準備を進める。

 

 昼休憩の始まって少ししてあたし、赤荻(あかおぎ)小毬(こまり)は放送室のブースの中にいました。

 あたしの所属している放送部の活動の一つとして、毎週木曜日の昼休憩に放送しているラジオ番組のパーソナリティーをあたしが務めているからです。

 今日もその放送なんですが、ちょっと今日は特別です。

 その理由は二つあって、一つは今日の日付。

 今日はバレンタインデーということなのでパーソナリティーの恋愛話の語るとか……。

 あたしの恋愛なんか、語るほどの物じゃないですし、それに、あたしはずっと、豹堂くんだけを―

 

「失礼しまーす」

「ッ!?」

 

 台本を読むのに夢中になっていたら放送開始5分前になってしまった様で、今回の放送のゲストさんが来てしまいました。

 実はこのラジオ、時々ゲストをお呼びして放送しています。

 まぁ、基本的には部活の部長さんや生徒会の人達ばかりなんですが。

 そして今回のゲストさんなんですが、これが今日緊張しているもう一つの理由。

 なんと今回のゲストが……

 

「生放送とか怖いんだけど、下手なこと言えないし……あ、小毬ちゃん今日はよろしく」

「あ、ひ、豹堂くん!よ、よろしくね!

 

 そう、豹堂真くん……あたしの、好きな人……

 

 

 放送部のラジオ『碧陽通信』は昼休憩時間のほぼ半分の20分程の番組で、自分達で言うのもなんですが、生徒さん達には結構な人気があります。

 曲のリクエストやゲストのリクエスト等を受けたりもしますが、一番人気なのは『ゲストへの質問』のコーナー。

 普段は真面目な部長さんの知られざるプライベートや、あたしからの質問に四苦八苦するゲストさんの様子が生徒さんに好評になってます。(恥ずかしながら、あたしはラジオ中に性格が変わってしまうんです)

 ただ今回はバレンタインということで、ゲストとパーソナリティー”二人”の恋愛話をする……。

 あたしの恋愛話は豹堂くんだけですが、当然名前は出しません。

 そっちはまだ大丈夫だけど、一番の問題は豹堂くんの恋愛話。

 もし、今好きな人が居るなんて言われたら……そう考えただけでも気が気じゃありません。

 

「れ、恋愛話!?俺も話さなきゃ駄目?」

「う~ん、企画だから話さないとね?」

「なんか小毬ちゃん生き生きしてない?」

 

 放送直前なのにリラックスムードだけど、あたしの心境は大変です。今日はきちんと喋れるのかな?

 ブースの外の他の部員から、後一分の指示が来る。

 

「それじゃ、スタンバイしようか」

「流石ベテラン、慣れてらっしゃる」

「そんなこと無いよ。あたしだって緊張するよ」

 

 今日は別の意味で緊張してますけど。

 

「ミスしたらフォローお願いするよ」

「珍しいかもね、あたしが豹堂くんのフォローなんて」

 

 開始10秒前でも笑いながらの会話しつつ、あたしは心の中でつぶやく

 

 

 今日も、笑われるようなとちりをしませんように

 

 3,2,1――GO

 

「本日のお昼も、失礼いたします。碧陽通信、始まります」

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~緊張したぁ~」

「でも初めてやったのに豹堂くん、殆どミスは無かったよね」

「……そういえば今日は小毬ちゃんはミスが多かったよね~」

「あ、それは言わないでよー」

 

 放送が終わり、少し遅めのお昼を人が殆どいない屋上でとる。

 2月の風は少し冷たいけど、あたしの体はドキドキで温かくて気にならない。

 

 豹堂くんの言ったように、今日はあたしの方がミスが多かった。

 豹堂くんの恋愛話に近づくほど緊張していたから。

 結果的には、豹堂くんの恋愛話で「好きになった人はいない」という解答でした。

 嬉しい反面、悲しい気持ちでもありました。

 何故なら「好きな人はいない」、つまりはあたしの事はなんとも思っていない……。

 

「でもこっちもミスしたから、おあいこかな?」

「いや、でも、こっちのミスにはフォローしてくれましたし」

 

 さりげない優しさ……それが豹堂くんの良いところ。

 今日だけでなく、あの時も―

 

 あたしと豹堂くんが知り合ったのは高校に入学して、同じクラスになってから。

 最初は、金髪だし目付き悪いしで印象は最悪でした。

 でもある日、部長と豹堂くんが話ていて、しかもかなり頼み込んでいる様子でした。

 その日の放課後に偶然豹堂くんを見つけて後をつけたら、その先に捨て猫がいて、その猫を心配そうに眺めている豹堂君が……。

 豹堂くん自身は理由があって飼えないから、色々な人に頼んでいたんです。

 そこに偶然居合わせたあたしが、その猫を引き取って飼うことになったんです。

 それから猫の様子を話し合ったりしていく内に、豹堂くんは、ほんとは優しいということを知り、そしてあたしは豹堂くんに惹かれていきました。

 

「あ、もうそろそろ教室に戻らないと」

「え、もうそんな時間です?」

 

 時計を見ると確かに、休憩終了5分前でした。

 少し焦りつつお弁当を鞄に片付け、代わりに小さな箱を取り出す。

 少しだけ……少しだけでも、勇気を出さなきゃ。

 

「ひょ……真くん」

 

 真くんは、あたしがいつもと違う呼び方をしたのに少しだけびっくりしつつも、穏やかな表情をあたしに向けてくれる。

 いつかは、お互いの関係が進展した状態で、これを渡したいな。

 すこしはにかみつつ、それを差し出す。

 

「これ、チョコです。味の保証は、出来ませんけれど」



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バレンタイン特別編 柊弥生編

ようやく三人目です

今回はキャラの中で一番ギャップが激しい『柊弥生』です

…バレンタインとか言っておきながら、一週間が過ぎようとしていますがね

しかも急ごしらえの文章で何がなんだか…orz


「弥生先輩!チョコ、受け取って下さい!」

「ん、ありがと」

 

 そう短い返事をすると、後輩の女生徒は廊下を走り去っていく。

 突然だが私、柊(ひいらぎ)弥生(やよい)はイライラしている。

 決して今の女生徒に怒っている訳じゃない。

 理由は単純

 

ガラガラ

「やっぱり、まだ来てないのね

 

 ここ、映画研究会の部室に私一人だけしか居ないからだ

 とは言っても映画研究会、通称”映研”の部員は総員三人しか居ないのでそう思い易いのかもしれない。

 

 映研の部員は私と、私の弟である玲、そして真の三人だ。

 でも玲はサッカー部の練習試合に助っ人へ行ったので、集まるのは私と真だけになる。

 その張本人である真がまだ来ていないのだ。

 そもそも、真が今年から生徒会のメンバーになってからというもの、放課後にこの部室に顔を出すことが激減したし、最近では生徒会の後輩と仲良くなってるって噂だし。

 ……なんだかそう考えてみると余計に腹がたつわね。

 今日はちゃんと部室来るって昨日言ってたのに、まだ来てないし。

 まさか、忘れているわけじゃないわよね?

 ……ちょっと気が引けるけど、生徒会室に行ってみようかしら

 そう考えつつ、椅子から立ち上がり部室のドアに向かい、引き戸を開ける。

 すると開けた戸の前に、見慣れた金髪が私の目に映る。

 

「あ、弥生ごめん、遅くなった」

「…………」

 

 そう言いながら笑顔を見せる真に、内心泣きそうな嬉しくなるが、それ以上に謎の怒りを覚える。

 

「ちょっとそこに座って」

 

 

 

「大体真は時間にルーズなのよ。この前だって、集合時間ぎりぎりだったじゃないの」

「いや、それは」

「それはじゃない。そんなだったら、彼女出来たら困るわよ」

「うっせ、彼氏いない奴に言われたかねーよ。お前はいつも一言多いんだよ」

「あ、それを言うかしら。どーせ私は男に好かれない様な薄情な女ですよーだ」

 

 真を椅子に座らせてのいつもの様な言い合い。

 でもこんな言い合いをするのは決まって、私の方からふっかける。

 今日だって久々部室に来てくれたのは嬉しいのに、それを圧し殺してまで冷たく当たる。

 理由は……よく分からない

 真とは別に仲は悪くはないし、この映研を創るのに貢献してくれたしで寧ろ異性としては一番の友人―

 

 ズキッ!

 

 突然に胸が苦しくなる。

 しかし物理的に苦しい訳では無く、精神的に胸が苦しくなる。

 

「(何で?特に自分が傷つく様な事は言ってないのに……)」

 

 私は心の中で考えを巡らせるが、何故かは全く理解できない。

 そう動揺していると、こっちの気持ちなんて気にせずに真がさらに動揺させるような事を口走る。

 

「はぁ……そんな相手に困ってるんなら、いっそ俺達が付き合うか?そしたら万事解決だろ」

 

 真の口から発せられた言葉を聞いた瞬間、二人の時間が止まる―

 そんな表現がピッタリな位、部室が静まり返る。

 そしてその言葉を理解した私の顔は、血が沸騰したかの様に熱くなってくる。

 

「な、何言ってるのよ!そそそそ、そんなの、断るに決まってるでしょ!?」

「いや、冗談に決まってるだろ。そんな露骨に断らなくても良いじゃん。はぁ、真冬ちゃんとかなら面白い返ししてくれるのになぁ」

 

 真が若干不機嫌そうな口調で反論し、また胸が痛くなる。

 いつもと同じはずなのに、いつもと同じ気持ちになれない。

 陰鬱な気持ちになっていると、見計らったかようなタイミングで私の携帯にメールが届く。

 差出人は……他の部活へ助っ人に行ったはずの弟・玲からだった。

 私は真に気取られないように来たメールを早速確認する。

 

『どう姉ちゃん?真と二人きりを満喫してる?』

 

 そう書いてあるメールに対し、「そんな状況じゃない!」と叫びそうになるけど、その気持ちを抑えつつさらにメールを読み進める。

 

『まぁ、姉ちゃんの事だろうから訳も分からず不機嫌で真にきつく当たって、空気が悪くなってるんだろうけどね』

 

 ……何で分かるのよ。

 時々だけど、私は玲って実は超能力者じゃないかと思う。

 よく私とか皆の考えている事を読んでくるし……。

 でもそんな玲だからこそ頼りになるし、おそらく今メールしたのもこの空気を打破するアドバイスを書いて送ったから。

 そう期待しつつ、読み進めたメールにはこう書いてあった。

 

『そんな姉ちゃんにアドバイス。どうして姉ちゃんが不機嫌なのかを、朝から今までの行動を省みて考えてみなよ』

 

「朝からの……行動?」

 

 玲のアドバイスに少し疑問を抱きつつ、真に勘づかれないように頭を巡らせる。

 確か朝は珍しく真と一緒に登校する約束をしてたけど、なんか七海先輩が体調不良とかで登校出来ないから家まで送るとかで一緒に登校出来なかった。

 休憩時間には話に行こうとしたら、真は同じクラスの女子とか後輩とかに囲まれてて話すことが出来なかった。

 特に昼休憩に関してはラジオに出演して、その後放送部の子と仲良く昼を食べたらしくここでも話すことが―

 

「あ」

 

 そこまで考えて、一日不機嫌だった理由に気づく。

 今日一日、殆ど気にしていなかったバレンタインで、真と喋ることが出来なかった。

 今まで学校で真と一度も喋らないことなんてなかった。

 その事に対して私は、焼きもちを妬いていたんだ。

 気持ちを出せないことに対する苛立ちと、悲しみ。

 それが、胸の痛みの原因。

 

 そして再び玲からのメールに目を戻すと、残りはたった数行しか書いていなかった。

 

『姉ちゃん、本当の気持ちに気づきなよ。真はそんな事で態度を変えるような薄情な人間じゃないよ』

 

「本当の気持ち……」

 

 玲のメールで、私の本当の気持ちと、素直になることが出来ない理由も気づくことが出来た。

 私は社交的な玲と違って内向的で、人と接する事や自分を知られる事が苦手だった。

 でも偶然真と話すようになって、内向的な自分と徐々に決別出来るようになっていった。

 なのに、真に対してだけはずっと自分の事を分からせない様にしていた。

 何故なら、知られるのが怖かったから。

 自分を変えてくれた真に、特別な感情を抱いている事を―

 それを知った真が、私から離れてしまう事を―

 でも……玲のメールに背中を押され、今度はそんな消極的な自分に腹がたってくる。

 もう、自分の想いを押し潰すのは卒業

 先ずは今の関係を少し進展させるためと、正直に謝るために―

 鞄の中に入っていた飾り気の無い箱を取り出す。

 

「真、あの、いつもきつく当たってごめんなさい」

「え、いや別にいつもの事だし」

 

 笑いながらそう言う真の言葉に、素直になれなかった自分にますます腹がたつ。

 でもこれからは、恐れずに本当の自分を知ってもらいたい。

 

「それで、その、これ謝罪代わりのチョコ。……本命かどうかは、自分で考えて」



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バレンタイン特別編 四月一日愛華編

一週間かけてようやく執筆が終わった…

でも後一つ残っている上に、バレンタインが終わって2週間近くたってる…

というわけで今回は音吹の生徒会副会長・四月一日愛華の出番です

…実はここまでの4人のメンバーの名前に季節に関する言葉が入っているのに気づいた方はいただろうか…

ではどうぞ~


「いらっしゃいませ~」

 

 ここはゲームを中心にカードゲームやマンガなんかも取り扱っている店

 あたし、四月一日(わたぬき)愛華(まなか)は四月からここでバイトさせてもらっている。

 まぁあたしはゲームの事は全く知らなかったんだが……。

 というのも、あたしが音吹高校の生徒というのが関係している。

 あたしが通っている音吹高校はお世辞にも評判が良いとは言えない。

 確かに数年前の音吹はかなり荒れていたけど、現在はスポーツなどに力を入れてまっとうな高校になろうとしている。

 でも、一度下がりきってしまった評価が上がるにはかなりの時間がかかる上、最近では音吹の生徒というだけで毛嫌いする人もいたりする。

 あたしは家庭の事情でお袋との二人暮らしで、中学卒業と同時にあたしは就職するつもりだった。

 でもお袋はそんなあたしを止め、昔から得意だった空手の推薦で音吹に入学する事になった。

 しかし推薦で入学したとはいえ、高校はそれなりに金がかかる。

 そのためにバイトをしよう思っていたんだが、さっき言っていた評判のせいであたしをバイトで雇ってくれる店は居なかった。

 でも忌々しいが、ある奴の紹介でここのアルバイトさせてもらうことになったんだ。

 まぁ、おかげ様で今まで知らなかった無駄な知識が増えたがな。

 そんな事を考えていると、20代程のフワフワした女性に声をかけられる。

 

「愛華ちゃんお疲れさま~」

「あ、店長お疲れ様です」

 

 この人がこの店の店長さんで、あたしの恩人の一人だ。

 見た目は20代なんだが知り合いの祖父とかと同級生だという噂の不思議な人だ。

 

「どう、仕事にはなれた~?」

「そうですね、もうここでバイトをさせてもらって一年近くですからね」

「そうかぁ、もう一年経つのか~……懐かしいなぁ」

 

 そう言いながら店長は頬を弛ませる。

 一年程前にあたしはここのバイトの面接を受けた。

 その時はいつもの様にネームバリューで不採用になると思っていたが、この人は違った。

 あたしが音吹の生徒と知っても、面接での”あたし”を見て採用してくれた。

 

「そういえば今日はバレンタインだけど、愛華ちゃんは真君には渡したのぉ?」

「な、なんであいつの名前が出てくるんですか!第一あたしはバレンタインなんか気にしてないです!」

 

 店長が悪戯っぽく微笑んでくる。

 そうだ、今日はバレンタインだ。

 さっき言ったようにあたしはバレンタインに興味を持ったことは無い。

 だが高校のとある先輩が『バレンタインに感謝を伝えたら♪』とか言ってきたんで、それに乗ってみようと今年は若干意識してた。

 しかしながらあたしは料理が出来ないから市販のバレンタインチョコだし、第一今日はあいつシフトじゃないからこっちに来ないし……失敗したな。

 そんな風に考えていると再び店長があたしに声をかけてくる。

 

「あ、因みにこれから真君が来るからね~」

「なんであたしの考えてる事が分かるんですか!第一、真は関係ないんですよ!」

「へぇ~、誰が関係ないって?」

「だから真だって……!?」

 シュッ!

 

 あたしが店長と喋っていると、後ろから声をかけられる。

 それに驚いたあたしは思わず足を軸に回転しながら裏拳を決めようとする。

 バシィッ!

 

 しかしあたしの力+遠心力がのった裏拳は背後にいた謎の人物に片手一本で止められる。

 

「あっぶねぇなぁ、声をかけただけなのに裏拳かますんじゃねぇよ。今の俺とか要とかじゃないと止められねぇぞ」

「う、うっせぇな!お前が何でここにいんだよ!?」

 

 裏拳を止めた人物―

 その人物こそが、あたしがチョコを渡す……ある意味ではあたしの恩人、豹堂真だった。

 

 その後店長は含み笑いをしながら帰宅したが、真はその後もバイト先に居た。

 今日は新作ゲームの発売日だったからソフトの受け取りに来たらしい。

 

「予約商品取りに来るなら最初から言っておけよ……」

「そこは別に良いだろ、今は店員としてではなく客として来てるんだから」

「ならお前のシフトの時にやりゃ良いだろ」

「ばぁか。ゲームってのは発売日に購入して、その日の内にクリアするもんなんだよ」

「馬鹿はお前だ、ばぁか」

 

 そうお互いに毒を吐きながら会計を進める。

 何時もの事ながら、真とは喧嘩口調では話してしまう。

 理由としては初対面でのお互いの印象が悪かったからかもしれない。

 

 あたしは中学から様々な道場破りをしていた。

 そんな風に強く生きていれば母親を守れるし、あたしと母親を捨てた父親を忘れられると思ったから。

 ある日、あたしはいつもの様に道場破りに行っていた。

 そこの道場の師範代は高齢ながらも若さを保ち、近所でも評判の武道家だった。

 あたしはそいつに挑戦しようとしたが相手にされず、師範代の補佐である孫と闘うことになった。

 結果は完敗……

 金髪で武術なんかとは無縁そうな奴に、あたしは完璧に抑え込まれた。

 その師範代の孫っていうのが、真だった。

 それから何度も挑んだが負け続け、結局未だに一勝も獲れずにいた。

 でもそうしていく内に認めたくはないが、お互いの仲は良くなっていた。

 その中であたしの家庭の事情を話すくらいになっていき、真から高校やバイト先を紹介して貰ったりもした。

 その事に対してだけは感謝しているが、口に出しての感謝は一度も無い。

 言葉に出す…弱さを出すのが怖かったからだ。

 けれども今日はバレンタインだ、これに便乗して素直にならせてもらうことにしよう。

 普通はこの日に好意を伝えるらしいが、あたしは感謝を伝えさせてもらおう。

 会計が済んだ後、レジを同じシフトに入っていた相方に任せ店の事務所に戻る。

 そして自分の飾り気の無い鞄の中から、市販のチョコを取り出しレジ近くに戻る。

 

「真!」

 

 そう叫びながら手に持っていたチョコを思いきり投げつける

 流石に投げつけられたのにビックリしたのか、それとも発売したゲームに舞い上がっていたのかは分からないが、チョコを顔にぶつけてしまう

 

「いってぇな!愛華、一体何しやがる!」

「そんなんじゃ怪我しねぇだろ。と、とりあえずそれ開けてみろよ」

 

 そう言うと真は頭の上に”?”を浮かべつつ箱を開けていく。

 そして箱を開けた真は目を見開きながらこっちを見てくる。

 

「チョコだ、ありがたく受け取りな!べ、別にお前が好きとかじゃなくて、感謝の気持ちだかんな!」



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バレンタイン特別編 椎名真冬編

ようやく特別編終了です…ここまで書くのに月が変わってしまった…

しかも気づいたら番外編の中で一番文字数多いし…

ほんとお待たせしてスイマセン…待ってる人なんていないか

ラストは唯一の原作キャラ、椎名真冬です

今回の話は今までの特別編の裏側という感じから始まります

ではどうぞ~


「はぁー……手が冷たいです。先輩はまだでしょうか……?」

 

 寒さで白くなった息を、両手に吹き掛けながら私、椎名真冬は碧陽学園の正門前で背をもたれそう呟く。

 今日はバレンタインデー、真冬はこの日のために真先輩へチョコを渡すのを模索していました。

 それが何故朝に渡そうとしているのか、それには理由があります。

 確かに生徒会室で渡せば手間もかからないですが……ただ、お姉ちゃん達他の生徒会メンバーに見られるのが嫌だったんで……。

 そのために寒い中早起きして正門前で待っているのに、登校時間の15分前になっても真先輩が来ません。

 

「遅いですね……まさか今日は休みですかね?」

「あ、真冬ちゃんおはよう」

 

 そう俯きながら考えていると真冬を呼ぶ声が聞こえてきたので、思わず顔を上げる。

 声の主はお目当ての真先輩……ではなく、同じく生徒会メンバーの杉崎先輩でした。

 

「あ、杉崎先輩でしたか……」

「え、なんで俺が声をかけただけでそんなテンション下がってるの」

「いえ何でもないですよ。決して、真先輩じゃなくて残念とか思っていませんから」

「全部口に出ちゃってるし!まぁ、大体予想は出来てたけどさ……」

 

 真冬が何も考えずに言った言葉で杉崎先輩がかなり凹んでいました。

 でもすぐに回復して再び真冬に話しかけて来ます。

 

「もしかして、真の事待ってるの?」

「はい。約束とかはしていませんが……」

「あー……非常に言いにくいんだけど、多分待っても真は当分来ないよ」

「!?どうしてですか?なんで来ないんですか!?」

 

 真冬が勢い良く喋りだしたためか、杉崎先輩は困惑しながら喋りだしました。

 

「えっと、実はさっきここに来る途中に真に会ったんだよ。そしたら、その……」

 

 そこまで喋ってから、杉崎先輩は口を濁し始める。

 でも真冬が鋭い眼光で見続けるので、再び喋りだしました。

 

「それがさ、七海先輩が風邪引いたらしくてさ、偶然会った真が家までおぶって送るらしくて」

「七海……確か陸上部の部長さんでしたよね」

「う、うん、その七海先輩」

 

 杉崎先輩が若干ひきつった顔をしながらこっちを見てくる。

 どうして杉崎先輩がなかなか言ってこなかったのか分かりました。

 理由は一つ、真先輩が七海先輩と一緒に居るから

 七海先輩は前に生徒会が行なったラジオで真先輩にラブレターを送ってた人です。

 簡単に言えば、真冬の敵です。

 なのにその七海先輩が真先輩に家まで送ってもらっている。しかも、おぶって……ふふ

 

「フフフ……」

「ちょ、真冬ちゃん、何そんな怪しい笑い方してるの?」

「そんな事無いですよ?……おにぃ」

「その呼び方はやめてって言ったじゃん!」

 

 杉崎先輩が怯えながらこっち見ていますが何故でしょうか……?

 結局、真冬は真先輩が来るのを待たずに教室に向かう事にしました。

 ちなみに杉崎先輩は顔を青ざめ、ブツブツ小言を言いながら教室に向かっていき、真先輩は結局1分ほど遅刻したそうです。

 

 

 

 

 時は進んでお昼の休憩時間になりました。

 いつものようにアリスちゃんとお昼を食べてます。

 

『では本日の特別企画、ゲストさんに恋愛話を語って頂きましょう』

『げ、マジですか。これ絶対に言わないと駄目です?』

『駄目です♪』

『そんな清々しい位の笑顔で言わなくても!』

 

 真先輩と放送部さんのラジオでの掛け合いを聞きながら……。

 学校に来てから昼休憩までの間に真先輩にチョコを渡そうと試みましたが、他の生徒さんに囲まれていた様だったので断念しました。

 それで昼休憩に渡そうとしたら、まさかのラジオ放送のゲストで渡せませんでした。

 

「はぁ、今日は本当に運が無いですね……」

「どしたのユッキー、いつも以上にネガティブな発言して」

 

 真冬が深いため息をつくと、真冬の目の前に座っているアリスちゃんが声をかけてくる。

 彩城(さいじょう)阿璃朱(アリス)ちゃんは真先輩を通じての友人で、今では唯一無二の親友です。

 

「いえ実は、朝から真先輩にチョコを渡そうとしているんですが」

「大体分かった、つまりはシン先輩にチョコを渡そうとするが毎回タイミングが悪くて渡せないと」

「そうです、全くその通りです」

 

 アリスちゃんが言った事を聞きながら、真冬の臆病さに少し自己嫌悪を陥る。

 そんな考えを読んでか、アリスちゃんが優しい笑顔を見せながら話しかける。

 

「ユッキー、タイミングなんて関係ないよ。そんなもの考えてたら渡せる物の渡せないよ?」

 

 そう喋った上で、今度は小悪魔の様な表情を見せながら囁いてくる。

 

「ユッキーはシン先輩が好きなんでしょ?」

「!?な、なななななな」

「良いよ良いよ、みなまで言わない。そんなに好きなら分かるでしょ、シン先輩がタイミングなんて気にしないって事。恥ずかしがらずに渡しちゃいなよ」

「……そう、ですよね」

 

 そうですよね、タイミングなんて関係ないです!

 こうなったら恥ずかしがらずに生徒会室で渡してやるです!

 それに気づかせてくれたアリスちゃんにはお礼を言わないと!

 

「アリスちゃん、ありがとうございま―」

「ちなみにあたしはとっくに渡しておいた」

「アリスちゃんのバカアアアア!!!!!」

「あ、ちょ、ユッキーィィィィ!」

 

 アリスちゃんも今日のイベントの敵だったのですね、そうだったのです!

 でも、アドバイスはありがたくいただきます!

 

 

 

 そして、待ちに待った放課後の生徒会室で、来てすぐに渡すつもりだったんですが……。

 

「え、真先輩は今日は欠席ですか?」

「そうだよ~、今日は映研に顔出すんだってさ~」

 

 ほ、本当に今日は運が無いですね……なんでこうもタイミングを逃すのでしょうか?

 動揺しすぎて思わず会長さんの肩を掴みかかる。

 

「なんで、なんで今日に限って止めなかったんですか!?」

「ちょ、真冬ちゃん落ち着いて!止めるもなにも、昨日から今日は来れないって言ってたでしょ~」

 

 あ、そういえば昨日オンラインゲームのチャットでも言ってましたね。

 うぅ……完全に失念していました。

 このままだと渡すことが出来ません……真先輩のお家を知りませんし。

 ……いや、今日は確かゲームの発売日でしたよね?

 もし予約しているとしたら、真先輩のバイト先に行くかもしれませんね。

 ならこの後に行ってみるのもアリかもです!

 

 

 

 

 という訳で、生徒会が終わって一度映研に行ってからゲームショップに来ました。

 そして今は外から店舗の中を確認すると、真先輩の特徴的な金髪を簡単に見つかりました。

 しかし真先輩は何処かで見たような女の子と喋っていました。

 

『ばぁか、ゲームってのは発売日に購入して、その日の内にクリアするもんなんだよ』

『馬鹿はお前だ、ばぁか』

「楽しそう、ですね……」

 

 二人の会話を聞きながら、真冬は少し頬を膨らませる。

 真先輩は真冬と話すときは優しく話してくれてはいますが、今みたいなふざけあう様な感じで話してくれた事は無いのでちょっとジェラシーです。

 ……ここで待ってましょうか。楽しそうに話してますし。

 ……うん、そうしましょう。

 そう心の中で自分を納得させ、そこを離れ――

 

「HEYHEYカーノジョー」

「きゃっ!な、なんですか!」

「いーや?ただ暇そうな君に声をかけただけだよ☆」

「フフフ、び、美少女、フフフ」

 

 ようとすると突然に三人組に声をかけられました。

 服を見ると、見覚えのある音吹高校の制服でしょうか?

 それにしても気持ち悪いですね、こんなのは無視しておくのが一番です。

 

「すいません、真冬用事があるので失礼します」

 

 ガシッ

 逃げようとすると、一番最初に声をかけてきた変態さんが真冬の腕を掴んできました。

 

「いーじゃーん、ちょっとお茶しよっていってるだけだっTE」

「いや!離してください!」

 

 真冬は声をあげますが、周りの通行人は見てみぬふりで誰もこっちを見てくれません。

 恐い……恐いです、助けて……!

 

「セイヤァァァァ!!!!!」

「イェァァァァァ!?」

 

 そんな掛け声が聞こえると、真冬の前を金色が通りすぎて真冬を囲んでいた一人を吹き飛ばしました。

 そんな事をして”金色”が該当するのは……

 

「ヤッホー、真冬ちゃんおはよう。いや、時間的には”こんばんわ”かな」

「ま、真先輩!」

 

 そんなやり取りをしている内に吹き飛ばされた変態が真先輩を睨みながら立ち上がりました。

 

「HEYHEY、やってくれんじゃねぇか!ナイト気取りとかふざけんじゃねぇZO!」

「……ここに取り出したるは何の変哲もない100円玉」

 

 真先輩はそう言いながらポケットから小銭を取り出す。

 そしてそれを真上に弾き、落ちてくる硬貨を人差し指と中指で挟みがら

 

「さて、この100円玉に力をこめると……そぉい!」

 

 力をこめると真先輩が持っていた硬貨が、半分に曲がる。

 

『!?』

「ふぅ……さてお前ら、こうなりたくないなら……さっさと失せやがれ!」

 

 普段は温厚な真先輩の口から怒号が響く。

 そして一瞬体がビリビリするほどの声に、真冬を囲んでいた変態さん達は身体が震えている。

 

『す、すいませんでしたあああああ!!!!』

 

 そう言葉を残すと、三人とも走って逃げ出し、先輩はそれを見送りながらため息つく。

 

「はぁ……あいつら音吹の生徒か?あいつが会長になってから大人しくなってたはずなんだけど……」

 

 そこまで喋ってから、真冬が呆然としているのに気付いた様で心配そうに見つめてくる。

 そんな真先輩を見てると、少し目がうるうるしてきます。

 

「あ、真冬ちゃん大丈夫?もうちょっと早く気づいてあげればよか、イィ!」

「……」

 

 お、思わず抱きついてしまいました……どうしましょう?

 先輩も真冬が抱きついたのに面食らったようで変な声をあげます。

 

「ま、真冬ちゃ、あの、ちちち、近いよよよよよよ?」

「……かった……」

「ど、どうした、の?」

「怖かった……です」

「……そうだよね、怖かったよね?」

 

 真冬が小さくそう言うと、先輩が頭を撫でて落ち着かせてくれました……。

 

 

 

 

 

 その後、先輩と一緒に近くの公園のベンチに移動しました

 この公園は一年程前に倒れた杉崎先輩を助けた場所でもあります

 あの時はその少し前に出会った金髪さんの様になりたいという思いが強かったです。

 その金髪さんが真先輩だと知って、知り合えて……嬉しかったです。

 嬉しかったですけど、まだ真先輩は真冬に心を開いたようには思えません。

 さっきみたいに普段とは違う、荒々しい面を見せてはくれませんが、どうしてなんでしょう?

 そんな事を考えていると真先輩が腕に提げてた袋を見せながら話しかけてきました。

 

「あ、そういえばバイト先に来たって事は、これ買いに来たの?」

「いえ、違いますよ。目的は……」

 

 そこまで言うと、朝から先輩に会えなかった苛立ちと、さっき思わず抱きついた恥ずかしさとで頭が混乱して悪戯っぽい口調で喋り始めてしまいます。

 

「本当だったら朝から先輩に用事が有ったんですけどね~」

「え、マジで?」

「そうですよ~……なのに先輩は、朝から他の先輩にかまって遅刻して、お昼は公衆の面前でイチャイチャして、放課後は放課後で生徒会すっぽかして―」

「ごめん、なんか恥ずかしくなってくるからやめて下さい何でもしますから」

「何でも……ですか?」

 

 そう言うと先輩が苦虫を潰したような顔をしながら「あ、やべ」と呟くのを、真冬は聞き逃しませんでした。

 なら、周りに誰も居ませんし少しだけ積極的にならせてもらいます。

 

「だったら、もう一度真冬を抱き締めてください」

「え、い、いやなんで?さっきのは混乱してたからだし、第一真冬ちゃん男苦手でしょ?」

「えぇそうです、今先輩の横に居るだけでも震えが出てきてしまいそうです」

「だ、だったら……」

 

 一瞬先輩が喜んだ様な表情を見せる。

 でもそんな表情を見せる先輩にムッとしながら、言葉を続ける。

 

「でも、さっき先輩に抱きついた時は凄く落ち着けたんです!だから!」

 

 そう言いながら、真冬は先輩を見ながら手を広げる。

 先輩は顔を真っ赤にしてますが、多分、真冬の顔も真っ赤です。

 でも、こんな形でも良いから先輩を感じていたい。

 真冬が動かないのを見て、先輩も心を決めたのか少しずつ近づいて囁いてくる。

 

「そ、それじゃ、いくよ……?」

「は、はい……」

 

 ギュッ

 さっきみたいな衝動からではなく、自分からだからか心臓が凄くドキドキします

 でも耳元から聞こえてくる先輩の胸も、かなりドキドキしてます

 抱き付いたのはほんの数秒でしたが、真冬にも、おそらく先輩にもかなり長いように感じられました。

 お互いに顔は真っ赤ですが、今日の目的はこれじゃないです。

 鞄を焦って探りながら、目的の物を探し出し取り出す。

 

「先輩、抱きつくのも嬉しいですけどこれが本命です。一応手作りですけど……チョコ、どうぞ」




はい、というわけで特別編が終了しました

今回の特別編、企画し始めたのがバレンタイン直前だったのもあってストックがない上にバイトが異常に忙しかったのもあって読者の皆様に大変ご迷惑をおかけしました、ほんとに申し訳ございません

またいつか企画をするときはきちんと計画を立ててからにします…

次回の投稿に関してなんですが、本編に限りなく近い番外編を投稿します

ただ次は過去に他のサイトで公開したものをそのまま投稿するので、若干原作とは違う設定が出てくると思いますので、その辺はご了承ください


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サイドストーリー 音吹高校の猛者達

またもや本編ではないです…どうかご勘弁を

今回は今までの話の中でちょっと出てきた『音吹高校』の話をちょこっとだけ

方向音痴な超能力者『伊勢崎要』、素直になれない武闘少女『四月一日愛華』だけでなく、個性的なメンバーのいる音吹高校生徒会!

そんなお話です!

※これは生徒会シリーズが完結(?)する前に書いた話のために一部設定が異なることをご了承ください


「今回はこれ!『何よりも誠実さを大切に』だ!」

 

 少し長めの黒髪が目立つ少年がそう言いながら、ホワイトボードを叩く。

 ここは音吹高校の生徒会室、ここでは毎日生徒会役員達が熱弁を奮っている。

 

「あ~…要さん?」

「ん?どうした愛華」

 

 しかしそれを見ていた一人の女子生徒が異を唱える。

 

「要さんが文字書き始めた辺りかな?その間に二人程出ていったんだけど…」

「……え?」

 

 見ると、目の前には女の子が一人座っているだけ。

 この部屋には席が五つあるが、今現在この教室内には二人しか居なかった。

 

「…え~…」

 

 音吹高校生徒会、最初からクライマックスの様である。

 

 

 

 

「よし、とりあえず会議を再開するぞ」

 

 あの後俺は、抜け出した残りのメンバーを連れ戻して会議を再開させていた。

 あ、自己紹介がまだだったな。俺の名前は伊勢崎(いせざき)要(かなめ)、ここ音吹高校の生徒会長を勤めさせてもらっている。

 え?親友ポジなのに出番が少ない?ハハ、ナンノコトヤラ。

 

「うぅ~頭が痛い~」

「頭へこんで無い?よーくん力だけはすごいから」

「うるさいぞ真逆コンビ、そもそも会議を抜け出すのが悪いんだろうが」

 

 頭を押さえながら二人が口々に文句を言ってくる。

 先に喋っていたのが真崎(まざき)楓(かえで)、うちの生徒会の会計だ。

 学年は一年…のはずなんだが、背が低くて童顔なために実年齢よりも結構年下に見られるらしい。(小6に間違われたとかないとか)

 ちなみにれっきとした男である。

 後から喋り、俺の事を"よーくん"と読んできたのは逆上(さかがみ)葉瑠(はる)、こっちは俺のいっこ上で三年生だ。

 眼鏡をかけていて一見クールなイケメンなのだが、自由奔放優柔不断でいつも手を焼かせる。さらには女というオチもある。

 ちなみに年上だけど敬語は本人が"むず痒い"との事なので使ってはいない。

 この二人は容姿、中身とも正反対なため周りからは名字を一つずつ取って『真逆コンビ』と呼ばれている。

 

「ま、まぁ要さん。とりあえず落ち着きましょ。会議の時間も無くなるし」

「…そうだな。とりあえず会議を進めるか」

 

 先程から見守っていたもう一人が俺に声をかける。

 この子は四月一日(わたぬき)愛華(まなか)、一年ではあるがうちの副会長の一人である。

 ルックスやスタイルも良いので人気があるはずなのだが、俺の友人曰く言動や性格が悪い…らしい。

 

「ほら、楓もハル先輩も会議始めますよ」

「え~」

「マナちゃんはよーくんに甘いよー」

「甘いって…あたし達は仮にも生徒会なんだから、会議くらいはやってくださいよ」

『え~』

「え~じゃない!早く始めますよ!」

『は~い』

 

 …性格悪いか?普通に面倒見の良い子だと思うんだけど。

 そんな事を考えながら、全員席に着いたのを確認し会議を再開する。

 

「さて、それじゃあ改めて。今月のスローガンは『何よりも誠実さを大切に』を掲げていきたいと思います」

 

 俺が再びホワイトボードを指しながら言うと、先程まで涙目で頭をさすっていた楓が手を挙げる。

 

「は~い質問があります」

「ほう、なんだ楓」

「”誠実さ”って、具体的にはどうすれば良いですか」

 

 ピシッ

 楓がそう言った瞬間、俺と愛華の辺りからそんな音がした気がした。

 

「あ、あれだよ、誠実さって言うのは…なんだろうな愛華」

「あたし!?あ~その~…ごめん楓、わかんないわ」

「てかよーくん、意味を知らない言葉をスローガンにしようとしてたの?」

「う゛」

 

 ヤバい、いつものパターンだ。

 というのも他のメンバーと違い、俺と愛華はお世辞にも頭が良いとは言えない。テストだって毎回下から数えた方が早いし。

 どうしてそんな俺や愛華が生徒会役員になったのか。

 それは音吹の非常に特殊な役員の選出方法があるからだ。

 俺の友人が通っている碧陽は人気投票によって決めているらしいが、うちは純然たる”闘い”によって決められる。

 具体的に言えば、4月に行なわれる”武闘祭”で優秀な成績を収めた四名(今年は五名)が生徒会役員となる。

 つまりは学力関係無しに生徒会の役員が選出されるということになる。

 しかし今年の生徒会のメンバーはどういったわけか成績上位者三人と下位者二人の五人が選出され、生徒会の内部で学力の格差が生まれている(まぁ、あまり会議に問題はないがな)。

 それによって毎回、俺や愛華がポカをやらかすと他のメンバーにツッコミを入れられフォローされるというのがお決まりになっている。

 

「良い?誠実さって言うのは「広辞苑によると他人や物事に対し、真面目に取り組むって書いてあるね」…へ?」

 

 葉瑠が誠実さを説明しようとすると、入口からの言葉に遮られる。

 

「つまり、『誠実さを大切に』というのはそう言った心意気を最優先しろ。という事だね」

 

 入口からの声の主がそう言いながら、俺の右斜め前の席につく。

 

「…いきなり入ってきて私の見せ場奪うの止めてくれません?雪海先生」

「ん?いきなりではないよ。僕は部屋に入る前にきちんとノックはしたからね」

「ノックほとんど聞こえなかったんですけど」

 

 ほんとに?と言いながら首を傾げる先生。やっぱし教師というより友達のような感覚だな…。

 この人は植野(うえの)雪海(ゆきみ)先生、音吹高校の教師でありこの生徒会の顧問を勤めている。

 やる気の無さそうな目、伸ばしたらこうなったという様な髪が目を引く美人教師だ。

 ちょこちょこ会議に参加しては俺達(特に葉瑠)の雰囲気を乱してくる。

 でも時々的確なアドバイスをしてくるから憎めないんだよなぁ…。

 

「つか、なんでその席座ってんです?そこは―」

「別に良いじゃないか、どうせ今日この席は空席…なるほど」

 

 ん?雪海先生が急ににやけながら…いや、俺を除いた全員がにやけながらこちらを見てくる。

 

「な~るほど~」

「今日要さんが若干テンション低かったのは」

「愛しの愛しの彼女さんがお休みだったからなんだね!」

「…ハァ!?」

 

 それを言われた瞬間、俺の胸の鼓動が途端に速くなり体の体温が上昇してくる。

 

「ば、ちげーよ!そんな事ねーって!」

「とか何とか言っても、顔真っ赤ですよ」

「まぁ、二人のアツアツっぷりはうちの生徒全員知ってるから」

「今更どうってことはないですけどね」

「だからそんなんじゃねーって!」

 

 楓、葉瑠、愛華の順に俺をいじってくる。

 実は生徒会メンバーの最後の一人は…その、俺の彼女なんだ…。

 今日はちょっと用事があるらしく、今回の会議には欠席している。

 別に、カナさんが居ないからテンションが低いとか、いつものフォローが無いから寂しいとか、そんなこと全く思っていないし…。

 

「さて、伊勢崎を虐めるのはここまでにしておいて」

『(あ、虐めてるって自覚はあったんだ)』

「今回はどういった経緯でこのスローガンにしたんだい?」

「だから俺もカナさんに依存するのを減らそうと…へ?」

 

 ブツブツ一人で唸っていたら雪海先生から唐突に質問を投げかけられる。

 全く話聞いていなかったからどう答えれば良いか分からないんだけど…。

 

「…その様子だと聞いていなかった様だね。どうしてこのスローガンなのか?って話だよ」

 

 雪海先生がホワイトボードを指差しながら声をかける。

 これ?…あぁ俺が書いたやつか。

 

「ここ最近、うちの生徒のマナーが悪いとの苦情が増えてきまして」

『あぁ…』

 

 理由を言った途端、全員が納得したのか脱力した声を出す。

 この音吹高校は、前述の生徒会選出方法からなのか腕利き…というより、不良と呼ばれる輩が数多く在籍している。

 そんな生徒がたくさん在籍している我が校は、”野蛮な学校””魔の巣窟”と呼ばれる程の悪評が広まっている。

 もちろん生徒全員が全員不良というわけでも無いし、大半の生徒は卒業するまでに更正し世に出ていっている。

 しかし一度広まってしまった評判を覆す事は難しく、今でも悪評高い音吹高校が定着してしまっている。

 

「最近も多いですよね、私たちを腫れ物の様に扱う人達。この前ナンパされたんですけどそいつら、あたしが音吹の生徒って気づいたら即座に逃げてましたし」

「あ~分かる。私もこの前ナンパされたんだけど、音吹って言った瞬間に怯えてたね」

「それは葉瑠があまりにも怖いから怯えてただけじゃ…」

 

 葉瑠は実際キレると怖いし、たちの悪い事に満足するまで止まらないジャンキーだし…。

 そんな刹那、俺の顔に激しい風が吹いたかと思うと顔の数センチ前に拳が存在していた。

 

「い~ま、何を考えていたのかなぁ?それに気のせいかもしれないけど、誰が恐いって…?」

「い、いや、何でもナイヨ?」

 

 半分片言になりながら返事を返すと、半信半疑の表情で俺の顔を見ながら席に着く葉瑠。

 やっぱこえぇよこいつ…。

 

「でもそうは考えていない人たちもいるとは思いますけどね」

 

 これまでほとんど会議に参加していなかった楓が、突然意見を出す。

 

「確かになぁ、あたしのバイト先の店長はあたしが音吹の生徒と言っても採用してくれたし、偏見を持っていない人も少なからずはいるんだけどな」

「とはいえ、確かにこれ以上うちの評価を下げられないね…伊勢崎も、たまには良い事言うね」

「先生!"たまに"は余計です!"たまに"は!」

 

 あるぇ?今日俺いじられてばかりじゃね?

 若干心に傷を入れられつつ、俺は再びホワイトボードの前に立ち他の奴らに顔を向ける。

 

「とりあえず、イメージアップのための案を自分なりに考えてみたんだけど」

「えーっと…ボランティアに朝の挨拶運動?」

「うわぁ、堅っ苦しい物ばっかだね」

「想像してみ。今まで無愛想だったうちの生徒達が、急にボランティアをし始めるんだぜ?一体どういう印象受けるよ?」

「なんか企んでるとしか思えないよ」

「それ以前に参加自体しないと思います」

 

 う~ん…やっぱそう言われるかあ…。

 でもこういうのしか思いつかねぇんだよなぁ。昨日これ考えるのだって二時間くらいかかってたし。

 

「じゃなんか二人は案、ある?」

『……う~ん』

 

 考え込むうちの作戦参謀二人。

 やっぱり自主的に行動させるのは難しいよなぁ。

 

「…やっぱりさ、そんなことしても駄目だと思うんだ」

「ん~?マナちゃんどした?」

 

 ずっと考え込むように俯いていた愛華がようやく口を開く。

 それに葉瑠が反応し声をかけると、勢い良く椅子から立ち上がる。

 

「あたし達を避けているのは、本当のあたし達を知らない人たちなんだ。だったら、そんな綺麗事で塗り固められた上辺だけのあたし達を見せても、結局は変わらないんじゃない…んですか?」

 

 普段使っている敬語を忘れるほど興奮しながら、俺に言葉をまくし立てる。

 若干敬語を使わなかったことを気にしているのか、若干頬を染めながら再び話し始める。

 

「と、とにかく、うちのイメージアップを図るなら、本来のあたし達を見てもらえればいいと思います!」

 

 そう言うと、愛華は再び席に着く。

 あまりの興奮ぶりに、生徒会室が静まり返る。

 しかし俺はまったく別のことを考えていた。

 

(本来の俺達…近隣の人たちとの、ふれあい…そうだ!)

 

 今度は俺がかなりの勢いで立ち上がる。

 そしてそのままホワイトボードの前に立ち、先ほどまで書いてあった字を消し新たな文字を書き始める。

 そんな様子を、先生を含め全員が眺めてくる。

 

「決めたぞ皆!」

『え、なにが(です)?』

「これが、俺達の起死回生の企画だ!」

 

 バン!といい音を立てながらホワイトボードを叩く。勢い良く叩きすぎた…手のひらいてぇ…。

 

「えーっと…『音吹高校学園祭の開催』…」

「学園祭の開催!?」

 

 その単語を見た瞬間、葉瑠が真っ先に反応する。祭りが大好きだからなぁ…葉瑠。

 音吹高校の学園祭、実は今現時点では存在していない。

 しかもうちの学園祭は所謂バトルロワイヤルであり、本当の意味でのお祭りだった。

 ただ10年ほど前、学園祭において重傷者を出したために学園祭は無くなってしまった。

 

「一つ質問良いですか?要先輩」

「おう、なんだ楓」

「音吹高校の学園祭が昔武祭だったことは知ってます。でもそれを開催させたって全く関係ないのでは…」

「ふん、甘いね。スイカに塩を大匙5杯かけたくらい甘い」

「それかけすぎで絶対辛いよね」

 

 葉瑠にツッコミをいれるが、そんな事お構い無しに続ける。

 

「俺が言っているのは"武祭の開催"じゃなくて、音吹高校の"文化祭の開催"だよ」

 

 そこまで聞いてやっと理解できたのか、葉瑠と楓の表情が硬いものから笑みに変わる。

 対照的に愛華と雪海先生は出来ていないのか、首をかしげている。

 その二人に対し、改めて俺の考えを述べる。

 

「今年の秋音吹高校文化祭を開催し、一般の人達を招き入れたいと思います!」

 

 

 

「お疲れ様」

「あ、ありがとうございます」

 

 会議が終わった後、俺は一人残り(先生はいるけど)今日の議論を差し入れのスポーツドリンクを飲みながらまとめていた。

 今日は中々に面白い案が出てきたので、いつも以上にペンが進む。

 そんな俺の様子を見ていた雪海先生が、若干申し訳なさそうに声をかけてくる。

 

「一つ、質問しても良いかい?」

「はい?なんです?」

「すまないね、忙しい時に。…どうしてそんなに拘るんだい?」

「え、何に対してです?」

「この学校についてだよ。そんなに改善に尽力して…この学校が堕落した本当の理由、知っているんだろう?」

 

 何だか真面目な雰囲気になってきて、ふざけたい気持ちが出てくるけどここは我慢だ。

 俺は一旦ペンを机に置き、先生を正面にしながら話す。

 

「はい、知ってます。本当の理由…この生徒会自体なんでしょう?」

 

 音吹が荒れてしまった本当の理由、それはこの生徒会によるものだった。

 強い者が生徒会になる、その方法が取り入れられて以降腕に自信があるものばかりが生徒会役員になっていった。そうなると腕っぷしの強さに権力という大きな物まで付加されてしまう。

 その結果、生徒会の生徒が増長してしまい手のつけられな手のつけられない状態になってしまった。

 それが何年も続いてしまえば、自ずと風紀は悪くなるし近隣の人達からも煙たがられる様になる。

 これがうちが荒れてしまった理由、力に溺れていった物達の末路…でもな

 

「やはり知っていたんだね。だったらなおさら「だからこそ、ですよ」…なんだって?」

「理由を知ったからこそ、俺がこの学校を変えないといけないんです」

 

 雪海先生がこっちにポカンといった表情を見せてくる。

 そんな表情の先生に俺は、俺の気持ちを話し始める。

 

「俺本当だったら、音吹に来るつもりは全く無かったんです」

「知ってるよ、確か…碧陽に行きたかったんだっけ?」

「はい。友人も殆ど碧陽志望だったんですけど…」

 

 う~ん、これは言っても良いのだろうか?

 自分で言うのは恥ずかしいんだが…。

 

「その、俺って所謂…方向音痴でして」

「まさか、道に迷って入試が受けられなかった、なんて言うんじゃ無いだろうね」

「……」

「図星かい?全く…高校生、いや、当時は中学生だね。その年になって迷子だなんてね」

 

 うぅ…返す言葉がねぇ…。

 雪海先生に精神的ライフをゴッソリ削られつつ、話を続ける。

 

「と、とにかく!俺は碧陽には入学出来ず、滑り止めで受けたこの学校に入学することになったんです」

「なるほど、で?どうしたらそんな考えになるんだい?」

「…正直、音吹に入ってから何もする気になれなくて、つまらない学生生活を送るのかなって思ってたんです」

 

 その時の頃を少しだけ思い出し、少しだけ微笑む俺。

 

「でもそんな時に武闘祭見て、それで今年になって生徒会長っていう大層な役職についたとき運命だと思ったんです」

「運命?この学校に来た事がかい?」

「はい、そうです。もしかしたらこの学校を変えるために、俺はここにいるんじゃないのか、って。それに…」

「それに?」

 

 

「カナさんや葉瑠達に、笑って卒業して、音吹の生徒で良かったって言ってもらえるような、後悔しないような学校にしたいんです」

 

 

 これが俺の胸に秘めた思い。

 自分勝手で、誰かに頼まれたわけでもない行為。

 それでも俺は後悔したくないし、カナさん達にも後悔してもらいたくない。

 雪海先生も俺の気持ちを理解してくれているのか、こちらに微笑みかけてくる。

 

「そんなに君は愛しの彼女が大好きなんだね」

 

 この期に及んで弄ってきやがった!俺の感動返せよ!

 

「…そうですよ、悪いですか?好きな人のためにエゴを振りかざさすのは」

「いや、他の人がどう思うかは分からないけど僕はきらいじゃないよ。そんな素敵な自分勝手」

「先生、楓にナ○シコ勧められましたね?」

「やっぱり分かった?あれはいい作品だね」

 

 なんだろうか、このほのぼの感。さっきまでのシリアスっぽい空気何処行った。

 でも、こういう雰囲気が今の音吹には必要なんだろうな…。

 そう思いながら俺は、机の上にあった"もう一枚"の企画書に再び目を移した。

 

 

 『碧陽・音吹の合同計画』と書かれた企画書に――



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揺らぐ豹堂真

数ヶ月ぶりですが、ようやく書きあがりました

ただちょっと自分でも何書いていたのか若干分からないくらいちぐはぐな文章です

あ、そういえば投稿してないうちに挿絵機能が追加されたそうで

自分で絵を書きたかったけど、未だにペンタブ練習してないんで書けないんですがね…

もし良かったら挿絵を書いて頂けたらな~なんて…ぶしつけすぎるか

そ、それじゃ、気を取り直していってみよ~


「さて約束の時間なわけだが……ほんとにあってるのか?冷やかしとか人違いじゃないのか、これ」

 

 放課後

 現在俺はいつもの生徒会室ではなく、別の教室の前で左手にピンク色の手紙を持ちながら立っている。

 どうしてこんな所に居るのかといわれると正直な所恥ずかしいのだが、今左手に握られている手紙が関係してくる。

 実はこの手紙、今朝登校して来たら俺の下駄箱に入っていたものなんだけど……その……所謂『ラブレター』とかいうものらしく、今日の放課後にこの教室に来て欲しいとのことだった。

 でもさ、これが本物のラブレターだとしてもさ……

 

「なんで呼び出し場所がここなんだよ……」

 

 そう呟きながら教室の名前のプレートを見れば、そこにははっきりと『生徒指導室』と書かれている。

 俺がさっき冷やかしとか言っていたのもこれが原因だ

 こんなシチュエーション、俺の人生16年間の中で初めての事だから俺もかなり緊張しているわけなんだが、呼び出し場所がここだからな~……。

 

「まぁ、冷やかしなら冷やかしで話のネタにすれば良いし、それでもストレスが収まりきらなかったら鍵で発散すれば良いし」

 

 さらっと親友をストレスのはけ口にしているのをカミングアウトしたが、周りに誰もいないから問題は無いだろう。

 覚悟を決めつつ俺は生徒指導室の扉をゆっくり開いていく…!

 

「し、失礼しまー…す?」

 

 生徒指導室に入るとそこには一つの人影が夕日に照らされていた

 夕陽によっていまいちどんな人かは認識でないが、服装を見て一つだけ分かることがある

目の前にいるのは女子生徒じゃない。男だとかそういう意味ではないが

 この人は……教師だ、多分

 後ろで束ねた髪とグラマララスな体系をもつ美女ではあるが、なんだ?この違和感

 

「ようやく来たか、豹堂。時間通りではあるが待ちくたびれたよ」

「誰ですか?見たことあるような無いような……」

 

 そう、多分と言ったのは俺がこの教師らしき人物を見たことがなかったからだ。

 ここまで堂々と、しかも教室にまで入り込んでいるのだから保護者ではないのだろうが。

 

「あぁ、自己紹介がまだだったな。私の名前は真儀瑠(まぎる)紗鳥(さとり)、今日臨時で雇われた教師で生徒会の顧問も勤めることになった」

「へぇ、臨時教員ですか(臨時教員?それがさっきの違和感の正体か?)」

 

 口では納得したように喋るが、内心未だに釈然としない。

 だって臨時で採用された教員が何いきなり生徒にラブレターとか送ってるんだよ。そこが一番の謎だわ

 

「とりあえずあなたが教員だということは分かりました。それで、これを送ってのもあなたってことで良いんですか?」

「あぁ、それは正真正銘私が書いたものだ」

「なんなんですか、いきなりこんなラブレターみたいなもん送りつけてきて。そういうイベントはギャルゲの中だけにしてください」

「なんだ?普通思春期真っ只中の男子高校生は、こういうシチュエーションに興奮するもんじゃないのか?」

 

 そりゃ興奮するだろ……呼び出し相手が教師だったり、場所が放課後の教室じゃなくて生徒指導室なんかじゃなかったらな。

 個人的にはいつも強気な先輩が急におとなしくなって告白してくるタイプの方が……何言ってんだ俺?

 

「まぁそんなのはどうでも良いですから、早く本題にしてください。どうせなんか俺に用があって呼び出したんでしょ?」

「ほう、やはりお前は有能だな。この状況ですぐさまそこまで考えるとはな」

 

 好きで優秀になった訳じゃないけどな。

 そう内心で軽く悪態をつきながら、先生の言葉に耳を傾ける。半分ほど聞き流しているけど。

 

「実は生徒会の顧問に私が就任してな。それで、これを期に人気投票などを廃止し、私が新たな生徒会メンバーを選出しようと思ってな」

「へぇ~……へ?」

 

 ……は?今なんて言ったこの臨時教師

 "人気投票を廃止"?"新しい生徒会メンバーを選出"?何馬鹿げた事言ってんだ?

 

「何言ってんですか、人気投票はうちの大事な行事の一つです。第一、校長や他の先生達がそんなの許可するわけ無いでしょう!?」

「その大事な行事に対してPTA等からも苦情を貰っているわけだが?それにこの事に関しては理事長からの許可も正式に下りている」

「はぁ!?……でも、それもそうか……」

 

 そう、今年の鍵に代表される今までの優良枠という措置があるとはいえ、結局のところ生徒会のメンバーはビジュアルで決められる。

 実際にはビジュアル以外の理由で投票されるメンバーもいるのだが、PTAなどにはそれが伝わらずかなりの大顰蹙をくらっているのは良く聞く。

 しかし今までそんなことを言われつつ、人気投票は10年もの間続いたんだ。

 なのに急に廃止だなんて納得が行かない。第一、なんでそんな重要なことを俺に?

 

「……もう一つ聞いていいですか?なんで現在の生徒会メンバーである俺にそんな事を話したんです?」

「やはりお前は有能だな。それでこそ私が選出した生徒会長候補一位だ」

「……はぁ?」

 

 今日何度目かの驚きと共に、呆れがこみ上げてくる。

 いや、さっきから異様に俺の事を褒めてくるし、今度は急に生徒会会長候補とか言ってきて。ほんとにこの臨時教師は何がしたいんだ?

 

「俺なんか生徒会長になれるわけないでしょ。何を根拠に言って―」

「お前は自分の事を過小評価し過ぎだ。我々はお前のその他人を引き寄せるカリスマ性と、その異様なまでに切れる頭脳をかっている」

「…まるで俺の事を知りつくしているかのような物言いですね。まぁ、そう言って頂けるのはありがたいですが、俺はそんな人の上に立って物事を動かすより動かしている様子を見るほうが好きなんですよ」

 

 そうだ、俺は人の上に立つような人間じゃないし、上に立つ人をサポートしてそれによって皆が笑顔になるのが好きなんだ。

 

「そうか……」

「第一、俺は今の生徒会が好きなんです。そういうのは辞めて頂けますかね?それじゃ、俺は生徒会室に行かないといけないので」

 

 だから、そんな話に賛同できるわけがない。

 自分の言いたいことを言い終わると、俺は体の向きを反転させ部屋から出ようとする。

 向こうもその事を少しは予想できていたのか、あまり反論せず静かに俺の言葉を飲み込み動かない。

 しかし、俺が扉側に目を向けていたから気づかなかったなかったが、臨時教師の口が再び開かれ、後ろから冷ややかな声がかけられる。

 

「なら仕方が無い。豹堂、我々の要求が呑めないという言うのなら、現生徒会のメンバーに三年前の事件を話してやろう。さぁ、どうする?」

「ッ!?」

 

 その台詞を聞いた瞬間、俺の身体が反射的に教師の胸倉を掴みかかる。

 こっちはかなり息が上がった状態だが、向こうは全く動揺せず涼しい顔でこちらを見てくる。

 

「なんで、なんであんたがその事を…!」

「ほう、今まで貴様達を監視してきたがそんな激情を見せることは無かったな」

「なんで!なんで……」

「さぁ、どうする?我々に協力するのならばメンバーに話さないようにしてやろう」

「……分かった、あんたに協力する。だから、あの事は話さないでくれ、頼む」

「懸命な判断だ」

 

 そう言うと臨時教師は俺の手を自分から引き剥がし、高圧的な目を向けながら声をかけてくる。

 

 

「そうだな、まずは手始めとして……杉崎鍵の排除に手を貸してもらおう」



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勉強する生徒会①

お久しぶりのニヒトです

なんとか上げれました…実は一日ほど頭痛でダウンしてほとんど書けてなかったんで、書き切れないかと思いました

なので、相変わらずのクオリティです、はい

あ、それと不躾ながら挿絵を募集しようかなと思ってます。送ってくださると感謝です

それでは『勉強する生徒会①』始まります


「どんなに無駄と思えることでも、それは経験として着実に人を成長させるのよ!」

「おぉ……」

 

 今日もいつもの生徒会室で、会長の本から丸々引用しました感バリバリの言葉から幕を開ける

 いつも通りならそんな言葉はスルーしてしまうのだが、今日の言葉に対して俺は思わず感銘してしまう

 

「そうですよね、そうですよね会長!無駄だと思っても、やればその行為は経験に繋がるんですよね!」

「う、うん。というよりどうしたの豹堂、いつもならスルーしてゲームしてるのに

「何言ってんですか会長!今日の言葉、自分の心に響きました。流石会長、良い事を言いますね」

「そ、そうかしら?」

「そうですよ!どんなに無駄だと分かって課金しても、それは良い経験になりますからね!」

「それは経験かもしれないけど人として駄目じゃないの!?あたしの名言をそんな事と一緒にしないで!」

「何言ってんですか会長!俺達の課金が、あるプロ野球チームを優勝に導くかもしれないんですよ!?」

「一体何十年先なんですかねぇ!?」

 

俺と会長の怒涛の会話は会長の体力切れにより強制終了

別に良いと思うんだけどなぁ、課金

さすが何百万とかは流石に駄目だけど、自分が稼いだお金をやりくりして使うことは別に問題ないと思う

ちなみに俺は諭吉さんが何名か犠牲になって、蘭○のSRが3枚出てきたよ。いやぁ、自分のくじ運の良さが怖い

 

「つまりは会長!遂に俺のハーレムを目指すという行為も、無駄じゃないと「ただし杉崎以外!てか、杉崎うっさい」くそ!疲れきっている今なら大丈夫だと思ったのに!」

 

そして何を思ったか鍵がさらに会長に会話を吹っ掛けるが、即座に会長に拒否される

てか鍵、お前は学習しねーのな

 

 

「そ、そんなわけで、今日は、勉強会をします!生徒会役員たるもの、勉学に励まなくてどうするの!だから今日は、生徒会役員全体の平均成績の向上を図り、全員で勉強会をしようと思います!

 

そう言いながら会長が自分の鞄からファンシーなシャーペンやら消しゴムやらと共に教科書とノートを机の上に放り出す

成績……ねぇ

こう言っちゃなんだけど、俺の成績カンストしてるんだけど…いや、マジで

そらそうだよなー、毎回毎回詰め込んだ知識フル回転させてテスト受けてるんだから

にしても珍しいなぁ、会長のほうから勉強なんて単語が出るなんて

うちの生徒会は成績に関係なく人気投票で集まっているため、成績の良いメンバーが集まるわけでもない。人の上に立つやつらとしては最悪だろうけど

でも今年は俺も含めて何気に成績上位者のみだ

優良枠の鍵や学年トップの知弦先輩はもちろん、深夏はああ見えてTOP5にはいるし、真冬ちゃんは上の中だし(最近は俺が勉強を教えていることもあり、成績上昇中らしい)。

 ただ、会長に関しては成績が良い悪い以前に会長自身から『勉強』という単語がでること自体が珍しい、というかそんな話題自体出ることはない。

 ……?テスト前の勉強会?自発的?……ん?

 これってもしかして……もしかするか?

 

「知弦先輩、今度のテストに向けて教えて欲しいところがあるんですけど」

「なぁにニュー君、珍しいわね。私に勉強の事を聞いてくるなんて」

 

 俺が『テスト』という単語を口にしたとき、会長が一瞬肩を震わせたのを確認しながら知弦先輩の横に移動する。

 ま、テストの結果はほぼ毎回100点だからは教えてもらうことなんてないんだけどね。

 ……仮にテスト悪かったとしても、弱みを見せるなんてしたくないし。

 

「ここなんですけど……(知弦先輩、もしかして会長の成績ってやばいんです?」

「どれどれ?(相変わらず鋭いわねニュー君、ご名答。で?ニュー君はここからどうするわけ?」

 

 どうするっつてもなー……どうしよ。

 また全員で攻め立てたこの前の反省会みたいに、会長が凹むのだけは避けたいなぁ(その後すぐに調子に乗ってたけど。

 うーん…知弦先輩ならどうすんだろ。

 

「知弦先、うっ(ち、近い……!」

 

 再び知弦先輩に視線を戻すと、俺の顔の数センチ前に先輩の顔ががががががががが。

 なんか心なしか良い匂いするし、若干知弦先輩の顔も赤―

 

「いだだだだだだだだだだだ

「…………

「ま、真冬ちゃん?俺の耳引っ張ってどうし、痛い痛い痛い!

 

知弦先輩の方をずっと見てたら真冬ちゃんが俺の左耳をおもいっきし引っ張ってきた

 しかも結構強めな力で、若干目のハイライトが消えかかりながら。

 真冬ちゃんがそんな事するなんて意外だな……てか耳がひりひりしてきた。

 

「……近いです」

「へ?なにが?」

「なんでもないです!速く席に戻ってください!狭いです!」

「う、うん」

 

 なんか今日の真冬ちゃんはご機嫌なナナメのようだ。理由?……知らんな

 俺が席に戻っても機嫌が悪いままのようで、今度は会長に静かに語りかける。

 

「会長さん……もしかして、あんまり成績良くないんですか?」

「にゃあっ!?」

 

 あぁ、もうこれ確定だわ。

 いくら真冬ちゃんから160キロオーバーのど真ん中ストレートが投げ込まれたからってうろたえ過ぎだろ、汗ダラッダラじゃねえか。

 が、これ以上追求すれば確実に逆切れされる事が分かりきっているので、各々素直に勉強会の準備を進める。

 ……いつものごとく、皆のS心が瞳からひしひし感じるのはつっこまないほうがいいのだろうか。

 会長が可愛らしく(考えは邪だが)咳払いをしながら皆に号令をかける。

 

「え~と、とりあえず、学年は違うけど今日は全員で勉強しましょう」

「え?どうやって?」

 

 教科書をパラパラめくりながら会長が言うと、深夏が机に足をかけながら訊ねる。おい深夏、行儀が悪いぞ。

 それに……見えそうだから……何がとは言わないが、やめてくれ。

 

「たかが一・二時間全員で勉強したって効率悪いし、そんなに効果なさそうだから。だから今日は、勉強のコツとかテストのちょっとしたテクニックなんかを教えあおうかな……って」

 

 そう言いながら会長は、上目遣いで皆を見てくる。

 ……みんなで教えあう、つってもな~。

 声に出しちゃいけないだろうけど、ぶっちゃけ会長以外は今更そんないらねぇしな。

 これは完全に『会長による会長のための勉強会』だな、うん。

 まぁ、俺達はひじょ~に寛大な心を持ってるから、指摘しないけどね~。

 ……何故だろう、勉強会の単語が出てから知弦先輩と真冬ちゃんがチラチラこっち見てる気がする……怖くて視線を向けれないけど。

 

「じゃあ、始めましょうか」

 

 知弦先輩が場を仕切るが、明らかに『いじり倒す』という欲望が燃え盛っている。

 知弦先輩にセ○メダル入れちゃ駄目だな、確実に勝てないヤ○ーが生まれるわ。

 そんなことに全く気づかない会長は、知弦先輩に対し感謝しているようだ。知らぬが仏とはこの事か。

 

「じゃあまず、基本的なテストに対する心持からね。それじゃあニュー君、お願いね」

「え、俺ですか?また面倒く、ゲフンゲフン、なんでもないです。始めましょうか」

「う、うん!お願いするわ!」

 

 あ、あぶねぇ。思わず本音が出かけたよ、聞かれたらやばかったな

 そう思いつつ俺はまず席から立ち上がり、ホワイトボードの前に立ち、文字を書き始める。

 

「それじゃあ、ちょっと軽い問題を出します。この問題を解いて下さい」

 

 ホワイトボードには、『1+1』と書いてある。

 この問題を会長が見た直後、不適に笑いながら答えを書く。

 

「そんなの簡単よ!『1+1=2』に決まってるじゃない!」

 

 会長が自慢げに答えを書くが、俺は笑顔のまま静かに、冷たく言い放つ

 

「ぶぶ~っ!全然違います

「ちょっと!どういうことよ!こんなの簡単な足し算でしょ!?このくらい私にだって出来るわよ」

「残念ながらこれは普通の計算じゃなく、『2進数』の足し算です。なので答えは『1+1=|10<イチゼロ>』になります」

 

 残念でした~♪そんな風に言うと、会長が顔を真っ赤にしながら言葉を捲し立てる

 

「聞いてないわよ、そんなの!二進数とか普通のテストに出るわけないじゃない!」

「俺は一言も言ってませんよ?聞かれませんでしたし」

「……へ?」

 

 頭に『?』を大量に生成している会長だが、俺は静かに言葉を続ける。

 

「確かに簡単な問題を出すとは言いました。しかし、その内容を確認しなかったのは会長のミスです」

「う゛……」

「テストも同じです。文章をよく読み、引っかからないようにするのが、一番気をつけないといけないことです」

『……』

 

 あ、あるぇ?

 会長だけじゃなく、全員がこっちを見ながら大人しく話し聞いてね?

 や、やっぱ真面目な話は駄目だ!やっぱ、ふざけないと!

 

「まぁ、最終手段は思考を加速させて考える時間を1000倍にする事ですがね」

「…は?そ、そんなの普通の人間に出来ないじゃないの!」

「え?会長はできないんですか?」

「逆にこっちが聞きたいわ!あんたは出るって言うの!?」

「なに言ってるんですか!プロゲーマーは一瞬の判断ミスが命取りになりますからね!」

「あたしはプロゲーマーじゃないわよおおおおおおおおおお!!」

「後は保存した視界スクショを確認しながらテストをやるとか―」

「だぁかぁらぁ!普通の人間には出来ないでしょうがあああああああああ!!あんたはアンドロイドかってのおおおおおおおおおおお!!」

 

 怒髪天!会長の短い髪が、天井を襲う!

 うん、やっぱりこの生徒会は茶番が大事だな!

 

 

 

 

 ……なのに俺は、この幸せな時間を自ら手放そうとしている。

 あと少しで、この平穏は崩れるかもしれない。



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勉強する生徒会②

はい、ほぼ1日引きこもってたら何とか書けました

ちょっと目標として、夏季休業が終わるまでに『二心』編を終わらせるというのが出来ましたのでちょっとペースアップします

予定としては今週中にはまた、投稿するつもりではいます

もうちょっとで予約してたゲームが発売するんでそっちに気が行ってしまいそうですが…

では勉強する生徒会②、どうぞー


 若干俺のテンションが下がっているが、そんなことは関係なく会長のためだけの勉強会は進行していく。

 

「では次に国語あたりなんてどうかしら?」

「い、いいわね!国語って私ホントに、にが…じゃなくって、凄く出来るんだけど、いつも満点なんだけど、ほら、面倒なこと多いから!うん!だからコツとか聞きたいわ!」

 

 おい、今一瞬苦手って言いかけたぞ、必死に取り繕ってるけど隠し切れてねぇぞ。

 なんかハムスターあたりが必死に食べ物を自分の巣箱に運んでいるのを思い出した……我ながら例えが分かりづらいな。

 しかしその小動物っぽさに萌えてしまったのか、ほかのメンバーの目がランランと輝いている。俺も不覚にも、その、少し萌えてしまった

 

 

「あ、じゃあ真冬の得意科目ですから、国語のコツは真冬にお任せください!」

 

 珍しく真冬ちゃんが立ち上がり、名乗る出る。会長はそれに対してキラキラ光る期待の目で身を乗り出しながら見てる…演技忘れてるって。

 てか声に出していえないけど、真冬ちゃんが自分から率先する時って大概きついんだよな。精神的ライフが削れる的な意味で。

 

「いいですか、会長さん。まず国語とはすなわち、シナリオです!」

「し、シナリオ?」

「そうです!ゲームにおけるシナリオにスポットを当てたもの。これが国語なのです!」

「は、はぁ」

「それを踏まえた上で考えてみましょう。文章問題『相手が攻撃を宣言したこの瞬間、トラップカードオープン!手札のマジックカードは全て墓地へ送られる!』と言う問題があったとします

「絶対にそんな問題は出ないでしょうね。出るとしてもデ○エルアカデミア位よね」

「では会長さん、この場面に対する、相手のリアクションとして最も妥当な台詞をお願いします

「国語じゃないよねそれ!?もはや小説執筆とかに関する問題だよね、それ!」

「国語です!まごうとなき国語です!誰がなんと言おうとも国語です!さあ!」

「うぅ…えぇと…『うわぁ、しまったぁ』とか?」

「フンッ、チャンチャラおかしいですね」

「鼻で笑われた!?なんか鼻で笑われたんだけど!?真冬ちゃんのキャラが若干ぶれている気がするわ!」

「そんなことだから成績が悪いんですよ、会長さん!」

「理不尽だわ!なんで態度と行動の両方でバッシングされてるのよ!?」

「全く……では、模範解答を真冬が―言ってはつまらないので、真先輩、お願いします」

「え、ここで俺に振ってくるの?」

 

 やっべ、ここは真面目に言った方が良いのかボケに走ったほうが良いのか、その選択肢が重要だ。

 ……てかこの勉強会自体がボケみたい物だから真面目にやったほうが負けか。うん、そういうことにしておこう。

 ネタを考えながら立ち上がった俺に、何処かの社長か元キ○グのどちらかわからない魂が降りてくる!

 

「じゃあ模範解答行きまーす。『ふん!甘いぞ遊○!』」

「遊○って誰よ、遊○って」

「『リバースカードオープン!トラップカード、魔○の賄賂!この効果によりそのトラップカードの発動は無効となり、貴様はカードを一枚ドローする!』以上です」

「さ、流石は先輩です!状況を的確に判断し、逆転までもっていくとは!」

「分かる訳ないじゃない!逆転させるかどうかはその人のさじ加減じゃない!」

「はぁ、駄目ですね会長さん。会長さんはクリエイティブ精神が足りません」

「国語のテストにクリエイティブ精神を持ち込まないで欲しいわ!」

「必要なことですよ?最近真冬はアリスちゃんとテストで『杉崎先輩は受け?攻め?』って問題が出てきたときの回答とか、真先輩は…いえ、なんでもないです」

「今最後なんて言おうとしたのかは、あえて聞かないことにするわ。とりあえずまずテストにそんな問題が出たら教師を殴るわね。そしてそんな会話をする真冬ちゃん達を小一時間正座させて問い詰めるわね」

「そんなことだから駄目なのです!そこは出題者さえ悶えさせる文章を書いてこその、真のボーイズラバーなのですよ!」

「ボーイズラバーって何!?そんなの目指してないしっ!」

「まったく、仕方がありません。会長さんには、国語の才能が無いようです」

「完全にBL基準だよねぇ!?それ以外の要素、まったくないわよねぇ!?」

「真冬から言えることはもうありません。なので次の教科に移りましょう」

 

 真冬ちゃんが可愛らしく口を尖らせながら、自分の席に座りなおす。

 にしても、この生徒会で一番マトモだったのって真冬ちゃんだったはずなのに、どんどん壊れていってる気がするな。

 まぁ、雰囲気に慣れてきて本当の姿が垣間見えるようになって来たってことにしておこう、うん

 会長に視線を戻すと、少しゲンナリしながら「今日は完全にアウェーだわ…」とか呟いている。

 会長?気づいていないでしょうけど、実はいつも会長にとってはアウェーなんですよ、ここ

 その証拠にそんな状態なのに誰もやめようとしてないでしょ?知弦先輩は半分趣味でしょうけど、これがいつもの生徒会ですから。

 ある程度の覚悟が出来たのか、会長が今度は自分から勉強する教科を指定しだした。

 

「じゃ、じゃあ次は数学でも勉強しましょうか。数学が得意なのは―」

「あ、あたしだ」

『え゛』

「おいちょっと待て。何で会長さんだけじゃなく、全員が全員意外そうな顔してるんだ」

「い、いやぁ…」

 

 鍵が汗をかきながら作り笑顔とおぼしきものを深夏に向けている。ちなみに俺や他の皆もぎこちない笑いを顔に張り付いている。

 いや、深夏の成績がいいのは前から知ってたけどさ、いきなり「数学が得意」って言われてもなぁ?なんか深夏のイメージとは真逆な感じがする。

 知弦先輩も同じようなことを考えていたのか、嘆息しながら小さく呟く。

 

「なんか……キャラがぶれちゃったわ、私の中で」

「なんで残念そうに言うんだよっ!」

「真冬は、お姉ちゃんの知ってはいけない一面を知ってしまった気がします」

「だからなんで禁忌扱いなんだよ、あたしの得意科目がぁ!妹なら普通に受け止めてくれよ!」

「お姉ちゃんはもう、真冬の知ってるお姉ちゃんじゃあ……ないんだね」

「重いわ!ここの台詞だけ抜き出したらとてつもなくシリアスなシーンみてぇだろ!」

「でも真冬は信じてるからっ!お姉ちゃん!」

「まるで姉が心○獣身して暗○騎士になってしまったみたいなノリはやめろぉ!」

 

 知弦先輩はともかく、真冬ちゃんまでもこのテンションか。真冬ちゃんは怖いねぇ、ほんと

 真冬ちゃんに続き、今後は俺と鍵も深い溜息をつく。

 

「そうは言われても…なぁ、鍵?」

「だよな。なんか、こう、ヒロインのとしてイマイチバランスとれてないよなぁ」

「そのバランス必要か!?第一、あたしはヒロインじゃねぇ!」

「本来なら、深夏は…『運動は出来るけど勉強はからっきし駄目だぜ!』『因数分解って何だよ。勝手に分解すんなよ、自然のままにしておけよ』みたいなキャラであるべきだと俺は思うんだ」

「後半はシリーズ屈指の鬱シナリオだよな、それ。てか性格で得意分野を決めるんじゃねぇ!」

「だってお前、『数学得意と言う要素に激しく萌える』なんてレス見たこと無いだろ?そういうことだよ」

「……ここだけの話さ、優姫先輩いるだろ、陸上部の。苦手科目は数学らしくてさ、知弦先輩とかにコツ教えてもらってるらしいぞ」

「マジかよ、あのクールな優姫先輩がか?」

「でな、何で数学が苦手なのか聞いたんだよ、遠回しに。そしたらさ…」

 

 

『べ、別に勉強が出来ないわけじゃないんだよ!?ただ、部活が忙しいし、それに、その…数字見てると頭痛くなってくるし…』

 

 

「って、俯きプラス両手の人差し指合わせながら言ってた」

 

「萌えええええええええええええええええええ!!!!」

 

 なんか急に鍵が『クリ○ンのことかぁぁあぁぁ!』見たいなテンションで大声を上げ始めた。

 なに?装飾銃からレールガンでもぶっ放すの?……あ、これ別の世界線の鍵だったわ。

 

「そういうのだよ!そういうギャップがあるこそのヒロインなんだよ!だから深夏もそういうのを目指せ!」

「だからぁ!そもそも萌えなんて追求してねぇから別にいいよ!それに真、お前優姫さんのことネタにして、後でどうなってもしらねぇからな!」

 

 そう言い切ると、深夏は再び自分の席にゆっくり"ドカッ"と座る。

 う~ん、確かに優姫先輩を本人がいないとこでいじったのはまずかったかな……今度謝っておこ。

 

 ……ん?そういえば数学のテストのコツは?

 



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勉強する生徒会③

お待たせしました、書き上げるのに一ヶ月かかってしまいました…

いやぁ、副業の提督業がいそがし(ry

今回で勉強する生徒会もラスト、二巻のラストも見えてきました

そして書いてて思ったのんですが、ここまでの小ネタ全部分かった方がはたしているのだろうか…

最悪ちょっと減らすのもありかな?と考え始めている今日この頃

では『勉強する生徒会③』、どうぞ~


 会長をすっかり置き去りにしたまま、深夏が不満そうにふんぞり返っている。

 まぁ勉強のコツを教えてくれって言われて張り切っていたのに、鍵のせいでヒロインはどういうものか説教されたわけだしな。

 俺?俺はただ優姫先輩の話をしただけだぞ?……そう考えると、俺の方が何もしてないな。さっきの会話内では。

 深夏からコツを教えてもらうのは無理だと判断したのか、会長はさきほどから鍵と知弦先輩を交互にちらちら見ている。

 まぁこの二人に期待するのは同然だろう。知弦先輩は三年の学年一位、鍵は俺と同じく二年の成績トップ三人衆の一人だ。

 さらに付け加えるとこの二人は才能とか関係なく、自分の努力一つでその順位まで上り詰めた実力者だから「勉強のコツ」を知っている、と判断したんだろう。

 しかし、会長は目先のことしか考えず二人の性格と言うものを忘れている。

 この二人が簡単に会長をいじる絶好のタイミングを逃すか?答えは、否

 

「杉崎は、得意科目なに?」

 

 深く考えずに発した会長の言葉に対し、鍵が額に手を当てながら考えるポーズをとる。

 すると会長の真後ろに鎮座しているホワイトボードに、選択肢のようなものが現れる。

 

 ・コツを教えてあげる

 ・「それじゃ力にならないよ」と、優しく諭す

 ・抱く

 

 ちょっと待て、ここはフラ○シナスじゃないだろ。第一会長が精霊なわけないし……。

 いや、逆に精霊だから十○みたいに知識が無いという可能性も…いや、ないか

 うーん、この選択肢を真面目に考察すると一番下だとなんかバッドの匂いがするから、まず無し

 二番目は一番無難そうに見えるけど、これだと別キャラのフラグが優先されそうだからこれは後に回す

 となると、消去法で一番上になるわけだが…なんかつまんねぇな。もうちょっと違った選択肢があってもいいのに

 鍵もそれが気になったのか、ずっと頭を抱えながらうなり続けている

 よくよく考えたら、この選択肢って俺が言うべき台詞じゃないだろ

 

「むぅ…」

「す、杉崎?どうしたの?そんな柄にもなく悩みだして」

「ちょっと待っててください会長。俺は今、重要な岐路に立たされているんです」

「は、はぁ」

「ここの選択肢次第で、俺が会長を抱けるかどうかが決まるんです!」

「決まらないわよ!そんな雑談なんかでほいほい私の感情が変わるわけないでしょうが!」

「分かっていませんね、会長。ギャルゲーだと、たった一回軽いフラグを回収し忘れただけでまるで違うルートに行っちゃう事だってあるんですよ!」

「そうそう、俺もあったよそういう事。ポケ6で詩○エンド目指したら神社での特訓ルートになったり、ランダム女王こと○ヤさんはフラグの回収さえできないことだってありますからね」

「杉崎と豹堂は本気でこの世界をゲームと同一に捉えている節があるわよねぇ!」

「馬鹿な。そんなゲームと現実をごっちゃにしている勘違い少年を見るような目で見ないでください」

「そうですよ、俺だってちゃんと現実とゲームを区別しています。なんで、今プレイしている『人生』と言うクソゲーを終わらせてきます」

「完全に予備軍&手遅れでしょうがぁ!」

「失礼な。会長、ギャルゲ信者の俺や真が、実際に女の子を落としたこと、ありますか?」

「な、無いわね…」

「でしょう?ゲームと現実を混同していない証です」

「世の中にはそれでもリアルの女子を落とす、落と○神という人物がいてだな…」

「あれは元が端正な顔立ちだから元々モテるだろ!実際女○編のち―」

「おいやめろ!この前○神編のアニメやってたけど見てない人からはネタバレになるだろ!

「(端正な顔立ちとかはこの二人にも言えることなんだけどねぇ)でも単に現実が厳しいだけじゃないかしら、それ」

「ふ、何を言っているんですか会長。俺がちょっと本気を出せば美少女の一人や二人、簡単に落ちますよ」

「どぉせ、ゲームとかの二次元の話でしょ?」

「む。そこまで言うなら、見せてあげますよ会長。俺の真の実力を……主人公としての真の実力をね!」

 

 杉崎鍵は桜野くりむを攻略したっ!

 

「ほうら、さすが一人称小説の主人公。地の文の改ざんぐらい朝飯前ですよ」

「完全に反則技じゃないの!事実無根だし!」

「事実無根?まぁ、そういうことにしておきましょうかね。読者の手前」

「やめてよそういう発言!っていうか、その『自分は主人公認識』が一番危ないわよ!確かにこの生徒会の活動を記した小説の執筆は杉崎と豹堂に任せているけど、それを混同するのはやめなさい」

「あぁ、そういえば俺も執筆担当でしたね。忘れてました」

「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 会長の校舎中に響き渡るような叫びが、本日も出ました。

 実はこの碧陽学園生徒会の会議の内容は、小説として執筆され全国で発売されているんだ。

 その小説の執筆は鍵と俺に一任されている。たった今思い出したけどな。

 てぇことは、こんな事もできんのかな?ちょっと試してみよ。この前の真冬ちゃんのBL小説を参考にして……っと

 

 杉崎鍵は中目黒を攻略したっ!

 

「おぉ、すげぇ。ほんとに出来た」

「おいいいいいいいいいい!?ちょっとまじでやめてくんない!?」

「何言ってんだ、見てみろよ!真冬ちゃんがキラキラと輝く瞳でお前を見ているぞ!」

「そういう目で見てくれるのはありがたいけど理由が理由だからなぁ!!」

「ワクワク、ワクワク!」

「ワクワクとかやめてくんない!?結構クル物があるんだけど!?」

「いい加減ふざけるのやめてコツ教えてよ!」

「そ、そうですね。このままいくと空想内の俺の貞操が危ない気がするんで」

 

 顔色が黄土色になりながら鍵が会長に向き直るが、一瞬知弦先輩を見たのを、俺は見逃さなかった。

 どうやら時間稼ぎのために若干ふざけていらしい。BLに関しては確実に本気で拒否してただろうけど。

 

「んじゃあ一番基本的なことでも。とりあえず教科書を読むよりはノートを見返したほうがいいですよ?板書しているのであればね」

「なんで?一応出題範囲は教科書が指定されるよ?」

「それはそうですけど、学校でのテストっていう物は授業で出た内容を再確認するものですから」

「あ、そうか。ノートって授業内容を纏めた物だから、そこを押さえておけば大丈夫ってことね!」

「当たり前のことですが、教科書を読むに越したことは無いです。でも優先順位としてはノートの方が上というのは頭に入れておいてください」

「うん!凄くためになった!」

 

 天真爛漫、というよりは、幼児のような笑顔を見せながら鍵にお礼を言っている。

 ここまで聞いていた感じだけど、会長は頭が悪いわけじゃなくてバカ正直なだけなんだろうなぁ、どっかのライ○ーゲームプレイヤーみたいな感じで。

 出題範囲を言われたら、言われた範囲を全部目を通す姿が容易に想像できるし、そんな無茶な勉強法で数ヵ月の内容を捌くなんて、さすがに俺でも出来ないわ。

 ……それでも授業は気を抜いてしまう会長の性格にも問題はあるのだが。

 

 その後も鍵によるごくごく一般的な勉強のアドバイスが続けられていく。

 会長はご満悦の様子で先ほどから鍵に対して感謝の言葉を連呼しているが、数十分前までの『勉強できますキャラ』は何処へと行ってしまったのだろうか。

 その全てを捨てきりながら、今度は満面の笑みで知弦先輩にも助力を乞い始める。

 

「知弦もコツとかある?」

「無いわね。日々の努力が一番よアカちゃん」

「あぁ!会長さんがバッサリ斬られたっ!」

 

 知弦先輩が天使の様な笑みから、ハ○メンの『悪○』の様な切れ味抜群かつ強烈な対応が会長を襲う!

 会長は会長で、背後に灰色の『ガーン!』というイメージ映像が出てきそうなほどショックを受けたご様子で、両目に涙を溜めていた。

 

「う、うぅ、知弦ぅ」

「そんな今にも泣きそうな声を出しても駄目よ。今回は私、アカちゃんに何も教えるつもりは無いから」

「な、なんでよぉ。私、今回は知弦のノートを一番あてにしてたのにぃ!」

 

 ぽかぽかと知弦先輩のおなかの辺りを殴りかかる会長

 なるほど、これが世に言う『逆ギレ』という奴か?

 ところで会長、いま知弦先輩を一番あてにしてたって言いましたよね?つまりは俺たちにはあまり期待していなかったと、しみるわぁ~。

 

「アカちゃん?テストっていうのは、日々の勉強の成果を試す所謂イベントの様なものなの。今更あがくなんて、見苦しいわ」

「て、テスト勉強くらいは皆するじゃない!」

「確かに。私に迷惑かけないなら自由にして下さって結構よ?」

「う、うぅ…」

 

 なんか、珍しく知弦先輩が会長に対してきつい対応するな。他のメンバーもその対応に驚いたのか、お互いに顔を見合わせている。

 しかし当の本人はと言うと、こちらを見ながら口の端をニィッと吊り上げている。

 うん、超怖い。お遊びモードに入って会長を弄るのが楽しいのは分かるんだけど、そんな邪悪な笑みをこっちに見せないで下さい、せっかくの美人が台無しです、はい。

 そんな知弦先輩に対して会長は諦めずに制服の裾を引っ張りながらアプローチをしている。

 

「知弦ぅ。私達、親友だよね?」

「そうよ、アカちゃん。『対等な』、親友よね」

「うっ」

 

 はい、案の定一瞬で身体をばっさりやられました

 イメージ的にはスト○イクとイン○ルス辺りの対艦刀で両断された感じかな。意味が分からない?即死級だってこと。

 

「え、ええと、でも、ほら、ちょっとしたコツくらい」

「ない」

 

 見せてやるよドSの真髄を!

 

「た、対等な友人でもアドバイスのしあいくらいはするでしょ

「アカちゃんは私になにかアドバイス出来るの?」

 

 遊び心を教えてやる

 

「う、えーと……そうだ!知弦、こんなの―」

「知ってる」

「まだ何も言ってない上に若干被り気味で言わないでよ!」

「アカちゃん如きの知識、私のデータベースは全て網羅していると思うけど」

 

 手加減はねぇよ

 

「じゃ、じゃあ、コツを教えてくれたらジュースを―」

「買収なんてサイテー」

 

 あるのは弄るという欲望だけだ

 

「く……わ、分かったわよ!なによ!知弦なんて……知弦なんて、もう、絶交よ!」

「そう、アカちゃんはそういう子だったのね。自分のメリットになる人間としか友達になれない思想の持ち主だったのね……失望したわ」

「う、ウワアアアアアアアアアアアアン!」

 

 これがSの力だ

 

 ASTRAL FINISH!

 先ほどまで選択肢が表示されていたホワイトボードにそんな文字が表示されつつ、会長が完膚なきまでに叩きのめされ(精神的に)死亡

 一気に力が抜けたのか、ハムスターが伸びてるような格好で机に突っ伏す。

 

「きょ、今日の紅葉先輩はいつになく厳しかったですね……」

「うん、怖くて俺も若干手が震えてるよ、ほら」

「あ、ほんとですね。大丈夫ですか?」

 

 気づけば真冬ちゃんが俺の真横に移動し、怯えながらそんなことを呟く。

 でもそんな状態でも俺のことを心配してくれる真冬ちゃんはほんまにええ子やなぁ……。

 そんな俺達に知弦先輩は怪しげな微笑みをこちらに見せながら、今度は自分の鞄からノートを取り出す。

 ノートの色が黒だったから、一瞬あのDE○THなN○TEかと思ってしまった。いくら知弦先輩とはいえそれはないよな。

 俺以外のメンバーが完全に面食らって静かに知弦先輩を見守っていると、知弦先輩はノートを持ったまま会長の背後に回る。

 そして会長の肩を叩き、振り向いた会長に知弦先輩はそのノートを手渡す。

 

「こ、これって……知弦?」

「仕方ないわね。やっぱり私達、親友だものね。私に何のメリットも無いけど、ノート……貸してあげる。だから泣き止んで?」

 

 そのまま、背後から会長を聖母のような微笑みで抱きしめる。

 その行動に会長は安堵と嬉しさによって泣き出してしまう。が、これは……知弦先輩の策略なのだろう。

 ほかの面子、特に鍵などは感心するかのような目で知弦先輩を見ている。

 飴と鞭の使い方、あれだけ一度どん底に落としておけば感情の上がり幅は相当なものになる。

 単純に好感度を上げるなら難しいことは無い。が、一度どん底を味わえば同じ出来事でもプラスが大きく感じる。

 温かい物を食べたの後につめたい飲み物を飲むと歯に激痛が走るそれと同じだ。

 それを知弦先輩は会長に実行し、自分の存在を大きくしたのだ。

 なるほど……会長がいつも知弦先輩に依存的なのは、こんな行動の積み重ね、いや、刷り込みが効いていたということだったのか……いやぁ、やっぱり怖いわぁ。

 俺と同じことを考えていたのか、鍵が知弦先輩に視線を向けているが、何を考えているのだか……。

 鍵と知弦先輩が何か目と目で話し合っている蚊帳の外で、真冬ちゃんが再び話しかけてくる。

 

「凄いですね……知弦先輩」

「ん?あぁ、凄いって言うより怖いの一言だよね。あの人身掌握術、先輩のカリスマ性と相まって最強に見えるよ」

「そうですよね……真冬もあんな特技が欲しいです。そうしたら……きっと」

「え、真冬ちゃんにはそんなものは必要ないと思うけど?真冬ちゃんなら皆の人気は得られると思うけど」

「いえそうじゃなくて……良いです、真先輩は知らなくても」

「?なんだかなぁ」

 

 真冬ちゃんは何を言いたかったのだろうか……今の俺には理解できない。

 ……あれ?鍵が知弦先輩からなんかメモみたいなの受け取ったぞ?何々…『アカちゃんを攻略するポイント』…え?

 鍵が何の疑いもなくメモを眺めているが、確実に何かあるぞこれ。

 鍵と会長が知弦先輩に渡されたものを熟読しているのを確認しながら、俺は知弦先輩の横に屈み込みながら移動する。

 

「(ち、知弦先輩?い、今、鍵に何渡しました?)」

「(あら?ニュー君は私に何か意見でもあるのかしら?)」

「(い、いや、そういうわけじゃなくてですね?)」

「(キー君の事は気にしないで。私が事後処理しておくから)」

「(あの、お願いですから穏便にしてくださいね?)」

「(あら、私が証拠を残すようなへまをするとでも?)」

「ですよね~」

 

 なんだろう…今日は会長のテストに関する議題だったはずなのに、結局この人の怖さを認識するだけになってしまった気がする。

 その毒牙にかかってしまった鍵と会長、この二人に何もなければ良いのだが。

 

 

 

 

 数日後、会長は見事に赤点をとってしまった。

 その小さな身体で教師に目一杯反論をしていたが、その反論が聞き入れられることはなく連行されていった。

 その際「あのノートおかしいのよ!なんか人の名前が書いてあるだけだし!」と聞こえてきたのは気のせいだろう。気のせいだと信じたい。

 

 また同時期、鍵が警察に補導されると言う自体が発生した。

 なぜか女性用の下着を身に付け、町中を歩いていたところ、御用になったそうだ。

 しかし補導の際、「これはおまじないなんだ!そうだろ!ちづー」というところまで喋った後、吹き矢が首元に刺さりその出来事の記憶が無くなってしまった事により、大事にはならなかったそうだ。

 ……ちなみにその事件が起きた場所の近くで、長い黒髪の美少女が目撃されたそうだがその真偽も定かではない。

 

 もう一つ余談だが、噂によれば知弦さんの人心掌握術の講座が裏で密かに行われたそうだ。

 そして、一人がその方法をマスターしたらしいのだが、その人物は俺の情報網をもってしても見つける事が出来なかった。

 唯一分かったのは、性別が女性等ことだけ。これだけじゃ何も分からないがな。

 

 

 うん、やっぱりこの碧陽って普通じゃないな。それも再認識できたわ。



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私の生徒会①

本当は年明けと同時に投稿したかったのですが、中々に時間がかかって無理でした(・ω・`)

はい、というわけで二巻のラストです、シリアスです
今回は原作準拠ではなく、アニメ版にアレンジを加えたようなものになります
そして今回をもって、執筆をしばしお休みさせていただきます
今年が終わるまでには復帰できてると良いなぁ……

では、『私の生徒会①』どうぞ


「先人の知恵を受け継いでこそ、明るい未来が拓けるのよ!」

 

 今回も会長のどっかの本から引用したような言葉をえらっそうに語るところから会議がスタート

 なんだか知らんが会長の目の前に大量の書籍が山積みになっているのが見えるのだが……まぁ、めんどくさいからスルー

 ……テンションが低いって?さっきまでゴッドイーター2やっててさ、まぁ、うん、ちょっと鬱になってるよね

 安易な死亡フラグはやめようよ、まじで。戦闘の前に『この戦いが終わったら―』とか、定番中の定番だよ。どこの柿○だっての……あれはステーキか

 

「そんなわけで今日は、皆で本を読もー!おー!」

『……おー』

 

 俺を含めた全員がバイ○ハザードとかに出て来るゾンビみたいな声を出しながら、それはもうぐったりと手を上げる。

 うん、どんなわけで読書になるのかを小一時間くらい問い詰めたいわ。やらないけど

 

「やっぱり新しい活動のヒントって、本の中にこそあると思うのよ。ネットはもう古い!時代は本なのよ!

「一周回って新しい発想ね」

 

 知弦先輩がそのきれいな黒髪を手で梳きながら感心したように呟いている。

 いや、確実に調子に乗りますからあんましそういうの言わないほうが……。

 

「そうでしょう、そうでしょう!読書=インテリ!」

「どんだけ安直な発想だよ……それだったら、真がインテリって事になるぞ。ほとんどラノベだけど」

 

 ほら、案の定会長が調子乗ったよ。それに対して深夏がボソッと反論してるよ。

 つうか深夏、俺がラノベだけ読んでると思うなよ!?俺だって他にも漫画やら攻略本も読んでるからな!

 

「それ自慢することじゃねーよ。結局そっち方面じゃねーか」

「俺口に出してないよ?!」

「いや、普通に口に出てたし」

「まじかぁ……なぁ鍵、今日の深夏テンション低くねぇか?」

「ん?あぁ、あれだろ、運動できて勉強も出来る深夏でも興味の無いものには反応できないんだろ」

「なるほど、少年漫画でないとやる気が出ないってことか……」

 

 チラッと会長のほうを見直す。

 姉とは違い、読書好きな真冬ちゃんは目をキラキラさせている。まるで艦○れのキラキラ状態だ。

 

「やっぱり本は最高ですよね!」

「ああっ、真冬ちゃんなら分かってくれると思ってたわ!」

「もちろんです!ところで、BL本はどこにあるんですか?」

「うちの図書館にそんなものは無いわ!」

「ええー……がっかりです。……あっ、ありましたよ?」

「あったの!?」

 

 ……うん、どうしてこの姉妹はこうも真逆なのか。

 いや、二人ともいい子なんだよ?でも、なんだろ、なんか情熱のベクトルを間違えてるというか。

 まぁ残念ながらそれは俺自身にも言えることではあるんだけどな!

 

「あ、会長?俺は自分で本持ってきてるんでそれ読んでも良いです?」

「ん?いーよー」

 

 本から視線を外しながらかなり間延びした返事が返ってくる。

 会長の手にある本の表紙にでかでかと平仮名で『あかずきん』と書いてあるのは気のせいだと信じたい。

 一応会長から許可をもらえたので、自分の鞄から小説を全部取り出す。

 

「……豹堂?」

「ん?なんですか?」

「『ん?なんですか?』じゃないわよ!なによそのライトノベルの山は!」

「やだなぁ~、これ布教用ですよ、全部。毎日いろんな小説の一巻を持って来てますからね」

「あんたの鞄は四次元ポケットかっ!?」

 

 そんな大声出してつっこまなくて良いと思うんだけどなぁ。

 ……もしかして、本の量に驚いてる?その発想は無かった!

 さって、会長は鍵あたりに任せておいて俺は読書に励むとするか。な~に読もっかな~。

 うーん、アクセル・○ールドも良いし、イン○ックスも良いし……やっべ、マジで悩むぞ。

 

「あの、真先輩?」

「うん?どうしたの真冬ちゃん」

「いえ、特に用があるってわけじゃなくて。真先輩がいったいどんな本読んでるのか興味があって」

「なるほどね。俺の読んでる本ね~……正直なところ俺ってあんまり本読まないんだよね」

「え、でもかなりの本読んでますよね?」

「いやね、俺ってまずアニメを見てから原作読むタイプなんだよ」

「へ~、初めて知りました」

「そう?今手に持ってるア○セル・ワールドもインデッ○スもアニメを見てから原作読んだからね」

「へ~……ちなみに真先輩、一つ言いたいことがあります」

「ん?なにかな?」

「その二冊が出てる出版社、この生徒会の記録を書籍化してる富士見書房じゃないです」

 

 冷たく、的確な真冬ちゃんのツッコミが俺の胸に刺さる。

 後ろではなにやら鍵と深夏が読書を無視して雑談をしているようだが、話の内容は今の俺の耳には入ってこない。

 

「だ、だだだだだだだだ大丈夫だよ?!ま、まままままままだフ○メタとかデート・ア・○イブもあるし!」

「ちょ、真先輩落ち着いてください!真冬が悪かったです!」

「フル○タアナザーもよろしく!」

「ザ・ダイレクトマーケティング!真先輩、目を覚ましてください!」

「ひでぶ!」

 

 真冬ちゃんの全く痛くもないビンタを受け、『おれは しょうきに もどった!』

 

「それ戻ってないです!」

「いや、もう大丈夫だよ。ありがと」

「いえ、真冬も急にへんなこと言ってスイマセン」

「(おい深夏、なんだあのピンク色な空気は。真冬ちゃんは俺のハーレムの一員だぞ!?」

「(あたしに聞かれてもなー。つうか、ハーレムじゃなくて生徒会な」

「ん?なんか二人言ったか?」

『いいや?何にも?』

 

 この二人は息合ってるなぁ。夫婦漫才とか合いそう。

 さて、読書に戻ろうかとも思ったのだが、よくよく考えたらこれ全部布教用で自分が読んでる最新刊がないんだよな。

 じゃあ読書しなくていいじゃん!と、脳内で結論付けられたので先ほど声をかけてきた真冬ちゃんに声をかけ返す。

 

「今更だけど、真冬ちゃんはなんの本読んでるの?」

「BLです!」

「分かってたけどそんな可愛らしい笑顔で言われても反応しづらいよ!」

「そんな……可愛らしいなんて……」

「BLで顔隠すと普通に照れてるのか、BLで高揚してるのかわかんなから!」

「む、心外ですね。真冬だって普通に照れたりしますよ?」

「それは人間として普通だよ!」

「チャットの顔文字で頬を染めるなんて、テキストに保存してコピペするくらいです!」

「感情までバーチャルなの?!」

「さ、最近は恋愛小説なんかを自分に置き換えて読んだりしてます」

「それも一般的な女の子だと普通……だと思うよ?」

「ならそれで解決ですね!」

「何にも解決してないよ!?え、何その自己完結!?」

 

 珍しく俺がツッコミ、真冬ちゃんがボケと言う構図での攻防。

 俺がスタミナ切れでぜーぜー言ってるのに、真冬ちゃんは満足げといった表情でBL熟読に戻ってる。

 なんか、真冬ちゃん変わったなぁ。いい意味で。当初俺の容姿だけでビクついてた子と同一人物とは思えないわ。

 真冬ちゃんが完全に自分の世界に戻ってしまったので、その奥で優雅に読書をしている知弦先輩に申し訳なさそうに声をかけることにする。

 

「知弦先輩、何読んで―」

 

 本の背表紙には丁寧に書かれた『目障りなアイツを消す十の方法』と書かれている。

 

「すいませんまずその本の内容を実行する相手を教えてくださいそれによって対応が変わってきますのでお願いします」

「あら?ニュー君、どうしてそんな調査○団の敬礼をとっているのかしら?」

 

 淡々と言葉を返してくる知弦先輩に対して、敬礼を崩さずに言葉を返す。

 

「い、いや。その本を実践する相手が俺か鍵なのかでどうすれば良いのか変わって来ますので」

「ああ、この本のこと?やーねー、ニュー君ったら。別にニュー君やキー君をどうこうしようって訳じゃないのよ?」

「ほ、本当ですか?」

 

 敬礼を崩しながら知弦先輩の女神のような笑みを真正面から見つめる。

 

「キー君に関しては、速やかに消しはしないから」

 

「やめてくださいほんとに、さすがに鍵が可愛そう過ぎます」

 

 自分のことではないのに、脊髄反射で俺は綺麗な90度のお辞儀をする。

 いや、鍵が知弦先輩に拷問的なことをされるのはいつものことだけどさ、さすがに死人が出るのはまずいだろ。

 

「冗談に決まってるでしょニュー君?私だってこの生徒会が好きなんだから、それを崩壊させるようにするわけないでしょう」

「で、ですよね~。さすがにこの空間が崩壊するのは嫌ですもんね!」

 

 少し心を痛めつつ顔を上げ直すと、再び知弦先輩がとても綺麗な笑顔を見せていた。

 あれ、この展開さっきも見たような―

 

「でもニュー君を私のものだけにするって言うのも、悪くはないかもしれないわね」

 

「お願いします許してください。せめて家のパソコンのハードディスクだけ消させてください」

 

 床に頭をこすり付けるくらい深く深く土下座をする。

 そしてその体勢から高速でじいちゃんにパソコンのハードディスクを初期化させるようメールをうつ。

 

「一時の感情で行動を起こすのは愚の骨頂よ、ニュー君」

「いや、完全に俺死ぬ流れじゃないですかこれ」

「あのね?私はこんな本が図書館にあるはどうかと思って内容を検閲してただけよ」

「ち、ちなみに中身のほうは……?」

「中身はギャグタッチのものだったから、安心していいわよ」

「よ、よかったぁ。第一そんな本が図書館にあるわけないですもんね」

「そうね。でも個人的には、『ゲーム脳の治し方』とか『パソコンのゲームデータのばれない消し方』が興味をそそられたわ」

「完全に俺対策じゃないですか!なんでそんなピンポイントな本が!?」

 

 ちょっとその二冊を図書館に置いた奴名乗れ!

 教師じゃなかったらOHANASHIするから!

 

「まぁまぁ、落ち着きなさい。他にも面白そうな本はあるわよ。例えば……『絶対成就!恋占い大百科』とか」

「どストレートな名前ですねそれ。にしても、知弦先輩って恋占いに興味あるんです?」

「私が好きなわけじゃないんだけど、優姫が占い好きだからなんとなくね」

「あぁ、七海先輩って占いとかジンクスとか大好きですからね」

「そうなのよ。あれはもう病気の域ね」

「それは言いすぎですよ。うーん、折角なので相性でも占ってみます?」

「ええ、いいわよ。えーっと……じゃあニュー君、ちょっと教えてほしいのだけど」

「あ、誕生日とかですかね?俺の誕生日は8月ー」

 

「いえ、ニュー君にはFPSで殺した相手兵の数を教えて」

 

「パッと出るわけないじゃないですか!」

「あら、ゲーム内とはいえ殺した人数をニュー君は覚えてないっていうの?」

「家ならすぐにリザルト画面確認出来るんですがねぇ!」

「そんなニュー君と、背後からのナイフキル六千人の私との相性は……」

「えげつねぇ!背後からってのが余計に怖さを醸し出してる!」

「あらびっくり!当たってるわ!」

「何が一体どう当たってるのか分からないんですが、それは」

「えぇっと、《『えげつねぇ!』と相手に怒鳴り、信頼関係がぐちゃぐちゃになるでしょう》ですって。ほんと、ニュー君酷いわ……」

「言っちゃあなんですけど、あなたそんな簡単に崩れ去るような心じゃないでしょ」

「ふふっ、分かっているじゃない。それじゃあ、次はどれにしましょうか」

「次は簡単なのにしてくださいよ……」

「じゃあニュー君の好きそうな『ガチャ占い』なんてどうかしら?」

「すっげー不安な響きなんですけど……一応、内容を聞いても良いですか?」

「ええとね、《今すぐにモバマ○にログインしてコンプガチャを回し続けて、Sレアが出れば運が良い》ですって」

「それ完全に手段が目的化してますよねぇ!ホントにその本って信頼出来るんですか?」

「個人の心の持ちようじゃないかしら」

「最早その本の存在意義は無いですよね!?」

「私ももう疲れたわ……最後に簡単なのやって終わりましょうか」

「ありがたい限りてす……で、今度の占いはなんですか?」

「じゃあ……これやりましょうか『握手占い』」

「なんか、簡単すぎて違和感バリバリなんですが」

「安心して、ただ私と握手するだけだから」

 

 そう言いながら知弦先輩は俺の前に綺麗な手を差し伸べてくる。

 改めて考えてみると、俺ってあまり女の子と手をつないだこと無いな。

 え、会長とはつないだんだろって?あれはつないだっていうより、引っ張ってあげたって感じの方がしっくりくるし。

 

「ニュー君?」

「あっ、はいはい。じゃあ失礼して……」

 

 ポケットからハンカチを取りだしちゃんと手を拭いてから、俺も左手をさしだし知弦先輩の手を、握る。

 ……知弦先輩の手、温かいな。ってそうじゃねぇ!これで一体何が分かるんだ?

 当の本人はずっとニコニコと周りの様子を観察しているが……周り?

 見れば、周りの四人は読書を中止し、向こうもこちらの様子を見ている。な、なんか特に悪いことをしたわけでもないのにすっごい気まずい雰囲気なんだが。

 特に鍵と真冬ちゃんの視線が滅茶苦茶恐い。おそらく『視線で人を殺すってあんな感じなんだろう。見たことないけど。

 

「ち、知弦先輩?これ、いつまでしたら良いんですか?」

「期限は無いわ。ニュー君が嫌ならやめれば良いし、嫌じゃなければずっとしてても良いわよ?」

「嫌って訳じゃないんですが……」

「なら続けましょ」

「ぎ、御意」

 

 あ、やべぇ。テンパり過ぎて変な言葉遣いになった、これはもう駄目かも分からんね。

 そんな俺の考えをよそに、時間は刻一刻と進んでいく。

他のメンバーも落ち着きなく、そわそわし始めている。

 しかし知弦先輩は他人事かの如く、ただ静かに優しい笑顔を見せ続ける。

 時折握る手の強弱を変えたりして俺の鼓動はどんどん加速していく。

 これ、もしかして俺は試されているんじゃなかろうか?『やり返してみなさい』みたいな感じで。

 その時、俺(の脇腹)に電流走る―

 

「いたたたたっ!えっ、ちょっ、何!?」

「……手、いつまでつないでるんですか」

「ちょっ、真冬ちゃんやめて!痛い痛い!離す!離すから!」

 

 真冬ちゃんが唐突に俺の脇腹にダイレクトアタックしてきため、即座に手を離す。

 離すのを確認した真冬ちゃんは最後に思い切りつねって、何事もなかったかのように自分の席に戻り、姿勢を正す。

なんだったんだ、先のつねる強さは?あれが俗に言う『ゆ○たまご』理論なのだろうか。

 

「な、なんで俺がこんな目に……」

「ふふふ、ニュー君ありがとう。おかげで良い結果が出たわ」

「……その感じだと、俺には結果を教えてくれないんですね」

「ええ、真冬ちゃんにはまた今度じっくりと教えるわ」

「今度?今じゃないんですか?」

 

 そう俺が聞くと知弦先輩は笑顔だけ見せ、無言で席を立つ。

 会長も声をかけようとするが、それよりも早く知弦先輩生徒会室を出ていってしまう。

 知弦先輩が出ていき、生徒会室には先程とは違った静寂が流れる。

 しかし、すぐさまその静寂はぶち壊される。

 

「おー、青春してるか若人どもよ」

 

 いきなり、ホントにいきなりうちの顧問・真儀瑠先生が教室に入ってくる。

 他のメンバーが困惑している中、俺は即座にアイコンタクトを送る。

 すると向こうもアイコンタクトの主旨を理解したのか、こちらに笑顔を送ってくる。

 成る程、とりあえず今は『生徒』と『教師』を演じる訳か……

 

「なんですか真儀琉先生、滅多に顔出さないくせに」

「顔出さないのではない、出したくないのだ」

「顧問としてあるまじき発言ですね、それ」

 

 俺と先生が話し出したのをきっかけに、他のメンバーも硬直から続々と抜け出す。

 その中で鍵が真っ先にツッコミ、改めて質問を投げ掛ける。

 

「で、今日はどうして顔を出したんです?」

「ふむ、いい質問だ。実は生徒会宛にこんなものが届いてな」

 

 そう言いながらその物を取り出す。

 取り出されたものは、ピンク色をした封筒に『碧陽学園生徒会宛』と書かれたごくごく普通の―

 

『手紙?』

 

 

 

 

 

 

 自分でも意外だった

 あれからある程度の年月が経とうとしているとはいえ、自分からあの事を告白しようだなんて。

 これも、ニュー君のおかげかしらね。

 内心でそう思いながら、体は相手が指定した場所にほぼ無意識に向かっている。

 私が終わり、また私が進むための後押しをしてくれた、あの場所へ―

 待ち合わせ場所が視界に入り確認してみれば、先客がいるようだ。

 しかしその姿を見た瞬間、二年以上会っていないにも関わらずすぐさまそれが彼女だと理解できた。

 ある程度近づき、私は声をかけた

 

「久しぶりね、奏」

 

 私の、元親友に―



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私の生徒会②

お久しぶりです、ニヒトです。
大学生から就活生、就活生から社会人へとジョブチェンジしている間に一年と数か月が経っておりました。

久しぶりの投稿ということで、いつもの3割増しの駄文になっております(個人評価)
そして今後も不定期が続きますが、それでも読んでいただけると幸いです
それでは、どうぞ


 夕焼けのオレンジ色に染まる橋にいた元親友に、私は戸惑いながらも声をかけていた。

 中学時代にはかけていなかった黒いフレームの眼鏡をかけているけど、その顔と短く切り揃えられた黒髪はあの時から全く変わっていない。

 声をかけられた宮代(みやしろ)奏(かなで)は、ゆっくりとこちらを向き私の顔を見ると優しく微笑みながら口を開いた。

 

「……久しぶり、知弦。正直、あたしなんかに会いに来てくれるとは思ってなかった」

「それは私だってそうよ。あの時の私のままだったら、多分、今ここにいるなんて絶対にありえなかったわ」

 

 きっと、私がここに来られたのは皆のおかげ。そう考えると、皆には感謝すべきなのかしら?

 でも正直にお礼をなんだか癪な感じがするわね。特にニュー君に対しては。

 確かに今の私があるのは彼のおかげでもあるけど……あんな初対面されたら、ちょっとね。

 

「ふふっ」

「……なによ、人の顔を見て笑うなんて失礼じゃないかしら?」

「ごめんなさい。知弦、すっごい楽しそうな顔してたから」

「顔に出てた?」

「そうそう、久々にそんな顔見るとなんだかほっとするよ」

 

 奏はクスクスと再び笑顔になる。

 …何か違和感を感じるわね。あれから三年経ったとはいえ、ここまで変わるものかしら。

 

『話がしたい』

 

 そう奏から連絡があったのが今日の朝。了承したのはその場の勢いってのもあるのだけど……

 なんて言えば良いのかしら、……心で感じた、かしら?

 言葉では言えないのだけども、奏の声を久しぶりに聞いた時に何かを感じた…なんだか変な言い回しね。

 

「それで?今日私を呼び出したのはどういった用件かしら」

「そう…だね、私から呼び出したんだから私が話さなきゃいけないよね。まずは謝りたいの、ごめんなさい」

 

 そこで一旦言葉を切ると、奏は深々と頭を下げながら言葉を再び口にする。

 

「謝ったところで許してもらえるなんて思ってはいないし、許してもらおうとも思ってない。ただ直接会ってけじめをつけようと思ったの」

「馬鹿だよね。あたしが知弦を傷つけさえしなければ良かっただけなのに。ほんとに馬鹿だよ、あたし…」

「……本当にね。私がここに来た時点で、ある程度予想出来そうなものだけれど」

「え-」

 

 私の言葉に驚いたのか、奏は思わず顔を上げ私の顔を凝視する。

 その目には驚愕や恐れの感情が見てとれた。

 一瞬その目に圧され目を逸らそうとしてしまうけど、一度目を閉じ気持ちを落ち着かせ再び口を開く。

 

 

「一度砕けてしまったガラスは元には戻らない。でも、再び作り直すことは出来る。私達の関係もそう、完全に修復するのは難しいかもしれない。なら、もう一度作り直さない?奏」

 

 

 これが私の答え。生徒会のメンバーのおかげで見つけられた、今の私の気持ち。

 

「ずるいよ…私がさっきの言葉を伝えるのに、すごい決心をしてきたのに、あっさり許されて、もっと、早く、こうしてれば……」

 

 奏の言葉の続きは、私には聞こえなかった。

 ただ聞こえるのは、膝をつき、すすり泣く彼女の声だけだった。

 

 

 

 

 それからすこし落ち着き、泣き止んだ奏と私は川を見つめながら、お互いの事を少しずつ話していた。

 

「で?」

「で……って、なに?」

 

 そう、朝に連絡を受けた時に奏が言ってきたのは、話がしたい、ということ。

 でも謝るということだけではなく、自分にどういう変化があったのかの事も話したい、と伝えられていた。

 ここまでで変化の理由などはあまり触れられていない。

 奏にはまだそちらに関しては話したくない、という雰囲気を感じた。

 なので、あたしがそのことに触れ、あえて逃げ道を無くしてみる。

 

「話してくれるんじゃないの?あなたが変わった理由」

「うぅ、なんで覚えてるのさ……」

「その話題の時だけ声のトーンが違っていたら、誰だって気になるに決まっているでしょう?」

「うーん……改めて話すとなると恥ずかしいけど、短い話だから少しだけ我慢してくれるとうれしいかな」

 

 

 

 

 

 高校に入学してからのあたしは、何もなかった。

 表情も、心も、あたしという存在自体が完全に凍りついてた。

 人間関係もいつか壊れてしまうものだから、また新しく作っていくのも馬鹿らしい。

 そう思って高校では人との関わり合いを極力避けていけばいい。そうすれば傷つくこともない。そう思ってた。

 でも、そんなあたしの考え方を壊す出来事があったの。

 去年の武祭の後だったかな、新入生だったそいつがあたしに付きまとうようになったのは。

 つきまとうといっても、ストーカーみたいな事をする訳じゃなくて、鬱陶しい程に話しかけてくるようになってただけなんだけど。

 しかも、運の悪いことに一年生で生徒会のメンバーに選ばれてしまって、否応にも顔を合わせるようになったんだ。

 毎日毎日、生徒会室で話しかけるあいつに鬱陶しく感じても、不思議と完全に拒絶するような事は全く無かった。

 それで何か月か経った頃、当時の先輩や周りの人から言われて気づいたんだ。

 

 

 あたし、そいつと話すようになってから笑うようになってたの。

 

 

 

 愛想笑いでも、作った笑顔でもなく、心からの笑顔のなんていつ以来だったか分からないくらいだった。

 それに気づいてからそいつと話すのが本当に楽しくなって、それが続くうちにまた気づくんだ。

 私はそいつの事が好きなんだ。そして、これが本当の愛情って感情なんだって。

 知弦の居場所を奪ったあたしに、そんな安らぎの場所を求めること自体許されないことだと思ってた。

 なのに、あたしはそいつの横という居場所を求めた。

 柄にもなくそいつの事呼び出して、柄にもなく緊張しながら告白して、了承を得たときには恥ずかしいくらいに喜んじゃって……。

 そういう事があったからかな。知弦にもそんな場所が出来てるって聞いたとき、安心したんだ

 あたしにそういう場所が出来たからこそ、居場所の大切さが、分かったから。

 奪ったあたしが言うのもおかしいかもしれない。けど、いつかその人たちに言いたいんだ。

 

 

 知弦の事、救ってくれてありがとう。すごく感謝してる……って。

 

 

 

 

「……」

「これがあたしに起きた事の簡単な顛末。……つまらなかったかな」

「つまらなかったわね」

「即答!?」

「話の大半が惚気話なのに、楽しめという方が無理な話じゃないかしら」

「そう……かもね」

「それに……いつまでそこにいる気なのかしら?早く出てきたらどう?」

 

 半身になりながら、橋の反対側に声をかけた。

 すると、誰もいないはずの橋の下から見慣れた金髪の少年と初めて見る茶髪の少年が青ざめた顔をしながら現れた。



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私の生徒会③

「おいどうすんだよ?ばれてるみたいだぞ」

「仕方がないだろ。腹くくって上に上がるぞ」

「うぇぇ……ぜってぇカナさんにボコボコにされる……」

 

 知弦先輩に促され俺ともう一人は苦虫を潰したような表情で橋の上へと上がる。

 奏と呼ばれていた他校生はもう一人の顔を見てかなり驚いているようだが、俺の顔を見た知弦先輩は呆れた顔で俺に話しかけてくる。

 

「やっぱり貴方のだったのね、ニュー君。盗み聞きなんて趣味が悪いわよ」

「す、すいません……あの、知弦先輩、いつから気づいてたんですか?」

「最初からよ。見つからないように下へ潜り込んだみたいだけど、それ以前に近づいてきた時点で気づいていたわよ」

「マジですか。見えたとしても一瞬だと思っていたんですが」

「人間の視野は200度まで一応見えるのよ。まぁ、気付いていたのは私だけみたいだけどね」

 

 知弦先輩が視線を俺以外の方向へと向ける。

 つられて見てみるとつられて見てみると、奏さんと伊勢崎要(もう一人の侵入者)が取っ組み合いをしていた。

 

「ちょ、カナさん!落とすのはやめてください!」

「うるさいわねぇ!なんであんたがここにいるのよ!今日は生徒会は欠席するって伝えたでしょ?!」

「いや、最近カナさん暗かったのが気になって……自分の彼女が心配にならない彼氏がいますか?」

「っ!カッコつけるんじゃないわよ!」

「あっ!ちょ、カナさんヤバいです!マジでおち……」

 

 うわぁ……あの要が反撃しなかったとはいえ簡単に落とされた。

 生徒会のメンバーっぽいから相当強いんだろうな。

 まぁ、話を盗み聞きした感じだと俺に彼女が出来た事を黙ってたみたいだし、いいか。

 

「ふぅ、とりあえずこいつの処理は良いとして……そこの金髪の君」

「はいぃ!何でしょうか!」

 

 急に呼ばれてびっくりして思わず声が上ずってしまった……。

 あ、知弦先輩が俺を見ながら笑ってる。恥ずかしすぎる。

 

「もしかして君が豹堂君?この馬鹿からよく聞いてるよ。金髪で目つきの悪い友人が碧陽にいるって」

「こいつ、今意識があったらボコボコにしてるぞ」

「他にも運動も出来て勉強も出来るこいつ()なんかよりずっと凄い奴だって」

「……いえ、俺なんかよりも要の方がずっと凄いですよ」

「え?」

 

 そうだ、まがい物の俺なんかより、純粋なこいつの方がずっと。

 

「謙虚だね、こいつに爪の垢煎じて飲ませたいよ」

「そうでしょう?私の自慢の後輩よ」

「なるほど。彼が知弦の"大切な人"ってこと、か」

「……少し違うわ。私の"大切な人達のうちの一人"よ」

「へぇ……。それじゃあ、今度は全員と会わせてほしいな」

「えぇ、機会があれば是非」

「そうね。それじゃあ知弦も豹堂君も、またね」

 

 そう言いながら奏と呼ばれていた人は、意識を失ったままの要を引きずりながら去っていった。

 

 

 要達と別れた後、俺と知弦先輩は学校へと並んで歩を進めていた。

 しかし、別れた後から数分経っても特に会話は無く、知弦先輩からの質問でようやくその静寂は破られた。

 

「さっきの彼、もしかしてニュー君の知り合い?」

「え、あっはい。中学の時の友人です」

「そうなの?珍しい偶然ね。私の友人の彼氏がニュー君の友人だなんて」

「奏さん……やっぱりさっきの人が手紙の―」

「手紙?」

「あ」

 

 しまった。あの手紙は本来知弦先輩宛であって、本来は俺たちが見ちゃいけないもの。

 あの時はあの場の流れでつい見ちゃったけど、どう誤魔化したものか……。

 俺があたふたしていると、知弦先輩がいたずらっぽく笑う。

 

「ごめんなさい。あの手紙、実は私が先生に頼んで生徒会のみんなにに渡してもらうようにお願いしてたの」

「え!?なんでそんなことを?」

「どうしてかしらね。自分でもよく分からないわ。でも、みんなには知っておいてほしかったのかもしれないわね」

「そうですか……」

「それともう二つ、ニュー君に質問があるわ」

「二つもですか?」

「そう。一つは、手紙を見て私を探しに来た理由はなんなの?」

「それは……会ってみたいと思ったからですかね」

「会ってみたいって、奏に?どうして?」

「……似ていると思ったからですかね俺と」

「え?」

 

 自分の過去を、他人に話す。

 簡単なことかもしれないけど、本人にとってはかなり難しいことだ。

 知弦先輩の過去。さっき会っていた友人の奏さんからいじめを受けていたということ。

 知弦先輩は紆余曲折ありながらもそれを、消化し、他人に伝えられるようになった。

 俺には、おそらくできないことだ。

 少し俺が顔を伏せたのでそれ以上の回答が返ってこないと判断したのか、知弦先輩は別の話題を切り出す

 

「じゃあもう一つの質問だけど、ニュー君はいつになったら"先輩"呼びをやめてくれるのかしら」

「先輩呼びをやめる……鍵と同じようにさん付けって事ですか?それはちょっと……」

「なによ。なにか呼びたくない理由でもあるの?もう1年近くの付き合いなのに」

「いや、あの……なんというか、純粋に恥ずかしいというか……」

「ふ~ん……」

 

 うっわ、めっちゃ怖い目つきなんだけど。人を見ただけで殺せそうなレベルなんだけど。

 これ言わないと相当恨まれるやつだろ……しょうがないか。

 

「ち、知弦、さん」

「え」

 

 うわ、知弦先輩キョトンとしてるよ。

 やばいよ、なんか顔がめっちゃ熱いよ。絶対顔真っ赤だよ

 知弦先輩もそんな俺を見ていられなかったのか、すぐに顔をそらして前を向く

 

「あ、先輩今の―」

「録音しておいたからね」

「え、ちょ、知弦先輩、今の無し!今の無しで!消してください!」

「嫌よ。これは私が厳重に保管しておくわ」

「やめてください!結構困りますから!」

 

 知弦先輩は少し小走りで進み始める。俺もそれに合わせて知弦先輩の横につける。

 知弦先輩の顔は夕陽に当たったせいか軽く赤みを帯びていた。



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第三巻 生徒会の三振
変身する生徒会①


4年弱ぶりの投稿になります。
そのため短めです。
今後も出来るだけ投稿しようとは思っています。

それとこれまで書いていた存在しえない○○は文字数制限のため省略となります。
そのため書く予定だった内容を今回の冒頭に記載しています。


「先生、提出プリント集めてきました」

「あら委員長、ありがとう。仕事早いわね」

「いえ、それが仕事ですから……あれ、何見てるんですか?」

「ん?あぁ、これ?姉妹校との国内留学用のパンフレットよ」

「国内留学?そんな制度ありましたっけ」

「学園長が思い付きで始めたのよ。今のところ希望者はゼロだけどね」

「なるほど……ちょっと見せてもらってもいいですか?」

「いいよ。興味あったら応募してみる?一年のあなたがいきなり学校離れるのはどうかとも思うけど」

「確かにそうですね。興味はありますけど遠慮し……」

「ん?どうかした?」

「……あっ、いえ、なんでもありません」

「そう、そろそろ授業始まるから教室に戻りなさい」

「はい、失礼します……先生」

「なに?」

「放課後、国内留学に関しての説明を受けてもいいですか」

 

 

===========================================================

 

 

「団結力というものは、時に全ての悪を打破するのよ!」

 

 会長がいつものように小さな体を精一杯使って、なにかの本の受け売りを偉そうに語っていた。

 いつものように、とは言ってもかなり久しぶりな気が――うん、気のせいだろう。

 

「おお、その通りだぜ会長さん!正義の絆は、何よりも強い!」

 

 会長の言葉に対して、俺の左隣に座っていた深夏がノリノリで応じる。

 おそらく『正義の絆』というフレーズが深夏の琴線に触れてしまったのだろう。

 それに対し我らが会長様は満足気に頷いている。

 早速脱線気味だが大丈夫なのだろうか?

 そんな俺の心配を読み取ったのかは分からないが、深夏と会長の間に座っている鍵が軌道修正にかかった。

 

「えっと、今日はたしか……夏休み前の全校集会でやる『出し物』の話し合いでしたよね。毎年恒例、生徒会役員による寸劇でしたっけ?」

「そうそれ!!」

 

 大きく叫んだ後、会長は背伸びをしながらホワイトボードに勢いよく"出し物について"と書いていた。

 あー……そういやそんなのもあったなぁ。

 そんな集中して見るものじゃないからそこまで覚えてなかったわ。

 一人で納得していると、右隣に座っている真冬ちゃんが控えめに質問をしてきた。

 

「あの、どうして生徒会による寸劇が毎年恒例なんですか?」

「うーん……詳しい理由は分からないけど、うちの生徒会が特殊だからじゃないかな」

「特殊というと?」

「ほら、うちの生徒会って人気投票でしょ?そうなると真冬ちゃん達みたいな可愛い子達をステージで見たいって気持ちがあるんじゃないかな」

 

 "今年は俺と鍵って例外がいるけどね"と補足すると、真冬ちゃんはあまり納得出来てなさそうな表情をする。

 

「まぁそれもあるらしいけど、元々は夏休み前に堅い挨拶も芸がないってことで昔の生徒会がちょっとしたイベントとしてやったのがキッカケらしいぞ」

「え、そうなのか。そういう話は初めて聞いたな」

「あたしも人づてで聞いたから真偽は分からないけどな。んで、前の代がやったことは大体次の代もマネするから」

「気づいたら伝統になってしまった、と。面倒くさいしてくれたなぁ歴代の生徒会……」

「まぁそう言うなよ。別にやらなくても問題はないけど、あたし達の代で終わらすのはなんか嫌じゃないか?」

「うーん、そういうもんか?」

「何を言う!」

 

 俺と深夏が話していたことを聞いていたのか、鍵が勢いよく立ち上がる

 

「美少女達がステージで脚光を浴びる絶好の機会!やらなくて問題ないわけがない!」

「お前去年は注目してなかったじゃねーか」

「去年の今頃は色々余裕がなかったからな!しかし今年は別!俺のハーレムメンバーがスポットライトを浴びる……その機会を逃してたまるか!」

「……俺も壇上に上ることになるはずだけどメンバーに入ってるわけないよな?」

「大丈夫だ!真は脳内でいないこととして処理するからな!」

「ひでーなおい」

 

 鍵は全力で主張するが、俺を含めた生徒会メンバー全員から冷たい視線と沈黙を浴びせられる。

 そして少しの間があってから会長が呟いた。

 

「……今年は杉崎も出る側だけど?」

「…………」

「つまり、観客視点でゆっくり会長達を鑑賞しているひまなど無いと」

「な、ナニィィィィィィ!?」

 

 叫ぶと同時に真っ白になり項垂れる鍵。

 

「あのさぁ、さっき俺が壇上に上がるかもって言った時にお前も上がる可能性は考えなかったのかよ」

「全く考えてなかった……真は去年も出てたし……」

「俺は手伝いでなぜか駆り出されただけだって」

「生徒会に在籍しているばかりに、生徒会が主催するイベントを素直に楽しめないとは……なんというジレンマ!」

「杉崎は無駄に叫ばない。とにかく、今回の演目について話し合うわよ」

 

そう言いながら会長が淡々と会議を進め、鍵も諦めたのかしぶしぶ会議に加わった。

……何か考えてそうだが、大丈夫だろうか。弥生辺りに監視してもらうか。

 

「差し当たっては演目を決めようと思うのだけど」

「あれ、会長いつもみたいに『これやるわよ!』ってこないんですか」

「たしかに、いつもは大体何やりたいか出してから議論はじめるのに」

「ううん……特にやりたいことないっていうか……」

 

鍵や俺の疑問に対してしかめっ面で唸る会長。

ハッキリしない会長を見かねた知弦さんが補足してきた。

 

「アカちゃんも私と同じであんまり乗り気じゃないのよ。去年、アカちゃんは台本おぼえるのに苦労したからね」

「ああ、なるほど」

「そういえば去年かなり悪戦苦闘してましたね。アドバイス求められましたけど」

「え、なんてアドバイスしたんだよ」

「ひたすら長時間音読して覚えろって言ったけど」

「出たよ、ショートスリーパーだからこその積み込み……それ他の人じゃマネできないから」

「多分それも原因の一端よニュー君」

「良いんだけどなぁ……積み込み法」

 

そんな会話をしていると会長が気持ちに全員に呼びかけた。



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