オリ主と剣製の麻帆良日記 (棚町京)
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プロローグ
全ての始まり


にじファンで、スメラギとして投稿していた者です。ネギまの作品が投稿されているのを見て、また書きたくなりました。途中までストックがあるので、出来る限り速く更新していきたいです。


俺の名前は棚町 京(たなまちみやこ)。歳は18。性別は男。

趣味はアニメ、ゲーム、二次創作の執筆。

世間一般でいうオタクだ。

 

 そんな俺はいま、病院のベッドの上で死にそうになっている。

理由は、末期のガン症状によるもので、なんとか意識を保っている状態である。

そのベッドを囲むように、数人の親戚の人たちと友人が泣きながら俺を見ている。

 

 何を言っているのかあまり聞こえないけど、とりあえず俺を心配しているらしい。

 

 嬉しいなぁ。

こんなに心配してくれるなんて。

けどごめん。もう無理だわ。

 

 だんだん意識が遠のいていく。

 

ああ、短い人生だったなぁ。

…心残りなのは、今読んでいる漫画の結末を知らないことと、執筆中の二次創

 

作を完結することなく死ぬことかなぁ。

ネギまとかブリーチとかいろいろ。あとあの作品のRPG、やりたかったなぁ。

 あと、できれば…

 

 

---学校、行きたかったなぁ---

 

 

 病気のため中学一年の頃からずっと入院生活をおくっていたため、学校に行けなかった。

そのため、ずっと学校に行きたいと思っていた。

 

 けど、その願いは叶うことはなかった。

 

 もう限界だ。保っていた意識が無くなっていく。

 

 

---さようなら…みんな…---

 

 

 そして俺は死んだ。この世界に未練を残して…

 

 

 

 

 

 「ならばその願い、叶えてあげよう」

 

 

 

 

 

 「ああ、暇だ」

 

 今、私は自分の家でボーっとしている。

これが満月の夜であれば桜通りで吸血することができるが、そうではないためすることがなくただボーっとしている。

 ここに話し相手がいれば変わってくるのだが、ここにいるのは命令に忠実なロボットと、うざい人形という話し相手にはならない奴しかいない。

 といっても、話をしたいと思う人間はこの学園にはいないけどな。

 

 「なにか起こらないものか」

 

 起こったら起こったで後始末がめんどくさいが、一時の暇つぶしにはなるため、ただ無駄に時間を浪費するより遥かにマシだ。

まぁ、そんな都合よく起きる訳がないのだが…

 

 「暇つぶしに散歩でもするか」

 

 と思って椅子から立ち上がろうとしたそのとき、

 

 

 家の外から強い魔力反応を感じた。

 

 

 そして、同時に強い風と光が発生した。

 

 

 「な、なんだこの反応は!?」

 

 信じられないぐらいの魔力の嵐が外で起きている。

中からその様子を見ようと思ったが、眩しくて見ることができなかった。

 

 

 「くそ!!どういうことだこれは!!こんな魔法見たことがないぞ!茶々丸!!」

 「ダメです、マスター。この現象についてまほネットで検索しましたが、当てはまる魔法はありません」

 「なんだと!!」

 

 茶々丸が検索しても当てはまらない魔法だと!!

つまり、それは私が使っている魔法とは違う魔法だということだ。

現に、長く生きてきた私でさえ見たことが無い物だ。

 とするとこれはなんだ?

 

 あれこれ考えていると、謎の嵐は徐々に弱まっていた。

そして、嵐はなくなりもとの静けさに戻っていた。

 

 

 「…一体なんだったんだ?今のは」

 

「わかりません。外に出てみますか?」

 

「行ってみよう」

 

 そう言って扉を開けると

 

 

 一人の人間が寝ていた…

 

 

 「どういうことだ?」

 

 「分かりませんが、少なくとも生きています」

 

 「それは見ていれば分かる。あの嵐は転移系の魔法なのか?」

 

 「おそらくそうでしょう」

 

 しかしこの状況はどう見てもおかしい。

 転移なら転移先で寝るなんてありえないし、何よりあの嵐。

ただの転移であんな嵐が出るなど聞いたことがない。

 

 

 「…謎だ」

 

 

 考えていると、茶々丸の携帯電話から着信がきた。

 

 「はい、茶々丸です。…はい、今御側にいますが。わかりました。

 マスター、学園長から電話です」

 

 「ジジイか…。なんだ?」

 

 『もしもしエヴァかの。おぬしの家の前から、ものすごい反応が観測されたのじゃが、どういうことかの?』

 

 「あれは私にもよくわからん。とりあえず言えることは、あの反応の後一人寝た状態で現れた」

 

 『寝ているじゃと?』

 

 「ああ」

 

 『ふむ。とりあえず、侵入者としてワシの部屋に運んでもらえんかのう?』

 

 「いいだろう。今から行けばいいのだな?」

 

 『よろしく頼むわい。誤解した先生、生徒にはワシが言っとくぞい』

 

 「当たり前だ。切るぞ」

 

 

 全く、めんどくさいことこの上ない。

だが…

 

 

 「いい暇つぶしにはなるな。いくぞ茶々丸」

 

 「はい。マスター」

 

 

 茶々丸に運ばせながら、ジジイの所に向かった。

 

 

 このとき、私は思いもしなかった。

まさかこの出会いが私、そしてあの男の運命を変えることになろうとは…



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神からの贈り物

一応、更新ペースは早めにしたいですが、一定のペースではないです。


 

 

 

「入るぞジジィ」

 

 

「失礼します」

 

 

 私は家の前に転送されてきた侵入者を、ジジィのところに運んだ。

こういうことは、こいつのところに運ぶのが一番いいだろう。

 

 

 「ご苦労じゃったのう、茶々丸君にエヴァよ」

 

 

 「ふん、別に。暇だったから運んだだけだ」

 

 

 「フォッフォッ、素直じゃないのう」

 

 

 …めんどくさい

 いちいち反応するのもめんどくさいから放っておこう。

それより、疑問に思ったことを聞こう。

 

 

 「そんなことより、他の先生や生徒はどうした?

あれくらいの魔法なら生徒でも気付くだろう」

 

 

 そう、いまここにいるのは私と茶々丸とジジィだけだ。

この場にタカミチすらいないのは、いったいどういうことだ?

 

 

 「どうやら、あの魔法に気付いたのはワシだけらしいのじゃ。

 現に、タカミチ君からはなんの連絡もないしのう」

 

 

 「なんだと?」

 

 

 あのタカミチすら感知することができないほどの高位転送魔法…

…わからない。全くわからない。

 

 

 「とりあえず、タカミチ君には連絡しておいたぞい。

あまり人が多くても駄目だしのう」

 

 

 「それがいいだろう。

  これでもし、この世界の魔法の定義を覆すようなものだと判明したら、めんどくさい事になるしな」

 

 

 まぁ、ありえないとは思うが、万が一のことがあるかもしれん。

用心に越した事はないだろう。

…それにしても、

 

 

 「こいつは一体何者なんだ?」

 

 

 私が見たことも聞いたこともない魔法でいきなり現れ、現れたと思ったら寝ているし、挙句の果てにあの魔法に気付いたのがジジィだけときた。

…謎だ。

 

 

 「とりあえず、侵入者についてはタカミチ君が来てから、起きるまで待つとしようかの」

 

 

 「…考えてもわからないなら、それしかないだろうな」

 

 

 事実、いくら考えても答えがでないしな。

 

 

 「すいません。遅くなりました」

 

 

 ジジィと話していたらタカミチがやってきた。

 

 

 「構わんよ。まだ起きとらんしのう」

 

 

 「それで、その人が例の…」

 

 

 「そうじゃ。まだ起きておらんから、どういう理由でここに転送されたかわからんが、少なくとも侵入者ではなかろう」

 

 と先程話していたことを、タカミチに報告していると

 

 

 

 「…ん、ふぁ…あれ?ここは…」

 

 

 

 寝ていた人間が起きた。

 

 

 

 

 

 

 …何か話し声が聞こえる。

おかしいな。俺死んだはずなのに。

目が開けれそう。

とりあえず起きてみよう。

 

 

 「…ん、ふぁ…あれ?ここは…」

 

 

 起きてみると、そこは入院いている病院の病室ではなかった。

強いて言うなら、どこかの学校の校長室を大きくしたような部屋だった。

その中にあるソファーに俺は寝ていた。

 なぜに?

 

 

 「起きたかのう」

 

 

 声が聞こえたのでその方向に体を向けると…

 

 

 「…なんで?」

 

 

 あまりの驚きにタメ口で喋ってしまった。

そこにいたのは四人。

しかも、その四人は俺が二次創作を執筆しているときに、大変お世話になった

あのネギまの登場人物ではないか!!

なにがなんなのか全くわからない…

 

 

 「混乱する気持ちはよく分かるのじゃが、とりあえずおぬしの名前を知りたいのじゃが…」

 

 

 落ち着け、俺。

とりあえず俺がこの人たちを知っていても相手は俺のことを知らない。

だからまず名前を言おう。

とりあえずそう考えて一旦頭を冷やそう。

 

 

 「…失礼しました。私の名前は棚町 京です」

 

 

 「棚町君、早速本題に入るのじゃがおぬし、ここに来た目的は何かわかるかのう?」

 

 

 「いえ、全く分かりません。

 現に、私もなぜこのような場所にいるのかわからなくて、少し混乱していますので、すいませんが分かりません」

 

 

 …私?なぜに一人称が私に?

まぁ、どうでもいいか。

 

 

 「ふむ、いつの間にかここにいたと。それを証明できるかのう?」

 

 

 「証明と言われましても、寝ていたら勝手にここにいたみたいですので」

 

 

 少し嘘を言った。

 死んだのに生きていたと言っても、多分というか絶対信じてもらえないだろうし。

 

 

 「どう思う?タカミチ君」

 

 

 「多分嘘は言っていないと思います。起きてからの行動が少しおかしかったので」

 

 

 「ああ。起きて周りをキョロキョロ見て、尚且つ私たちを見たときの困惑というか驚きというか。

 一連の行動を考えると、明らかに混乱しているときの行動だな」

 

 

 …すっげぇ警戒してる。

 まぁ、当然だろう。

夜に正体不明の侵入者がいたら、警戒するのは当たり前のことだよな。

あれ?ポケットの中に何か入ってる…

 

 「?どうした、お前」

 

 

 「いや、ポケットの中に何か入ってて」

 

 

 ポケットから出してみると、それは金色の紙が入っていた。

 

 

 「手紙?」

 

 

 「心当たりはあるかのう?」

 

 

 「いえ、全く」

 

 

 「読んでみて」

 

 

 「はい。ええっと

 

『君の願いはわかった。

その願い、叶えてあげよう。

この手紙を、必ず現地の最高責任者に渡すこと。

それで全てが解明するであろう。

by 神』

 

って神!!!」

 

 

「「「「神(じゃと)(だと)(だって)(ですか)!!!」」」」

 

 

 神だって!!!なんで?!意味が判らん!!

 

 

 「どういうことかのう。棚町君」

 

 

 「いやいや!!私にも神との関係なんて知りませんよ!!

ていうか、こんな手紙のやり取りができるほどの関係があったら、あんな人生ってあ…」

 

 

 「あんな人生?」

 

 

…言ってて虚しくなった。

本当はそう思っていたけど口に出さないように頑張って生きてきたのに。

 

 

 「…いえ、何でもありません。とりあえずこれを」

 

 

 「ふむ、わしが受けとるのがよいじゃろう」

 

 

 持っていた手紙を、学園長に渡した。

すると突然手紙が光だした。

 

 

「「「「「な!!!」」」」」

 

 

 そして、床に魔方陣がでると、そこから白い僧侶らしき服を着た中年の男性が現れた。

 

 

 「ふぅ。やはりこの世界のマナはすばらしいな」

 

 

 「おぬしは?まさか神なのか?」

 

 

 「いかにも。私は神だ。

 ただ、本来この世界に存在しない者だから、あまり長い間居られない可哀想な神だがな」

 

 

 うわぁ、本物の神だぁ。

すごいなぁ。

来て欲しい時にはいくら願っても現れないくせにいまさら出てきてもなぁ…

 

 

 「とりあえず、棚町」

 

 

 「…なにか?」

 

 

 めちゃくちゃ理不尽なこの状況に、不満を感じている俺に何か言おうとしているので、体を神の方向に向けた。

その時、

 

 

 神が俺に向かって頭を下げた。

 

 

 「…え?」

 

 

 「すまない。こんなことをしても、ただの自己満足でしかないのは重々承知している。

 ただ、せめて君の願いだけは、叶えてあげようと思ったんだ。

 怒るなら遠慮なく怒ってくれ。君にはその権利がある。」

 

 

「…」

 

 

 神のやった行動、発言に驚きを隠せない俺。

 そして、言っている意味が理解できない四人は、どう反応すればいいか分からないでいた。

 

 

 「近衛門」

 

 

 「な、なんじゃ?」

 

 

 「あなたに頼みたいことがある」

 

 

 「頼みたいことじゃと?」

 

 

 そして、神は俺が何か言う前に言った。

 

 

 「棚町を、学校に通わせてくれないか?」

 

 

 「何じゃと?」

 

 

 「!!!!」

 

 

 俺は今、とんでもないことを聞いた。

 学校に通わせてくれ?

ということは、本当に…

 

 

 「本当に、叶えてくれるの?」

 

 

 「ああ、せめての罪滅ぼしだ」

 

 

 ああ、願いが。願いが神にとどいた。

 願っても願っても叶うことがなかった夢が、

学校に行きたいという夢が、叶う…

 

 

 「う…ぐっ…えぐ…うわぁぁぁん!!」

 

 

 ダメだ。止めれない。止めることができない。

嬉しすぎて涙が止まらない。

 

 

 「こ、これはいったいどういうことじゃ?」

 

 

 「ああ、説明しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 どういうことだ?

 これまでの流れを見て考えると、こいつの願いは学校に行くことらしい。

しかし、こいつの容姿は、どう見ても高校生くらいにしか見えない。

姿だけを見るなら高校に通っているようにしかみえない。

そんな奴が学校に行けるのが泣くほど嬉しい?

分からない。

 学校に行きたくない私にとって理解できない。

 

 

 「こ、これはいったいどういうことじゃ?」

 

 

 やはりジジィも、いや、神とこいつ二人を除いた四人全員、理解できてない

 

だろうな。

代表してジジィが質問した。

 

 

 「ああ、説明しよう。ただ、時間がないから、詳しい説明は省かしてもらおう」

 

 

 まあ、そうなるだろう。

神は時間制限でこの場にいるからな。

今は無理だが後々本人に確認すればいいしな。

 

 

 「ぶっちゃけると、棚町は見た目は高校生くらいに見えるが、実際のところ中学校にすら行っていない」

 

 

 「なんじゃと!?」 「なっ!!」 「どういうことです!?」 「…!!」

 

 

 「勉強は独学だが、なんとか高校卒業レベルまではある。

 しかし、重い病気によって入、退院を繰り返していたため、学校に行くことができなかった」

 

 

 「なんと…」 「そんな…」 「「…」」

 

 

 「そんな生活を繰り返す内に、棚町さんは寝る前に神様、つまり私にこう願うようになった。

 

『学校に行かせてください』

 

 と。その願いは確かに届いていた。けど、叶えてあげることはできなかった」

 

 

 「なぜですか?」

 

 

 「人間はそれぞれ決められた人生を歩む。

 確かに、人間は必ずしも決められた人生を歩むとは限らん。けど、それは自分で死ぬほど努力して成功した人間か、何かに巻き込まれてしまった人間のどちらかだ。

 いすれにせよ、神自らが介入して人生を変えることはできないんだ」

 

 

 「なるほどのう…」 

 

 

 「それは…」

 

 

 まあ、そうだろうな。

 自分の能力を使って世界を救ったナギや、人間の勝手な思いで吸血鬼になった私が当てはまるな。

 

 

 「だから、私は言い方は悪いと思うが、棚町が死ぬのを待っていた。

 死んだら決められた人生から外れ、ようやく介入することができるからだ」

 

 

 「なるほどのう。だからさきほど自己満足と言っておったのか」

 

 

 確かにこれは自己満足だろうな。

こいつは生きている間に叶えて欲しかっただろう。

そう考えれば自己満足だな。

 

 

 「そういうことだ。さて、時間がないのでもう一度確認させてもらおう。

 近衛門よ。棚町を学校に通らせてもらえないか?」

 

 

 「うむ。そのような理由があるならよいじゃろう。

 のう、タカミチ君」

 

 

 「ええ。人としてここは許可するべきです」

 

 

 私はどうでもいいがな。

 

 

 「感謝する。それで、もう一つ頼みたいことがある」

 

 

 「なんじゃ?」

 

 

 「実はこちらの世界に転生させる時に、少々体をいじくったのだ。

 そしたら、棚町にある特殊能力が使えるようになった」

 

 

 「どういう能力ですか?」

 

 

 「『想像を力に変える能力』だ」

 

 

 「「「「…はい?」」」」 「ぐす、…え?」

 

 

 

 なんだその能力。

チートではないか。

 

 

 「棚町は入院をしている間漫画や小説、アニメなどの設定などを元に小説を執筆していたんだ。

 文庫に表すと二十冊以上。

 執筆している内に、それぞれの原作の設定や能力などを覚えていくようにな

 

ったんだ。

 魔法の世界に関わるから、生きていけるように覚えたことを有効活用できるようにとつけたんだ」

 

 

 間違ってはいない。

ただの人間が生きていけるほど甘くないからな。

だからといってチート能力をつけていいとは限らんがな。

 

 

 「それは、つまり使い道を誤らないように監視をして欲しいと?」

 

 

 「いや、確かに監視もして欲しいのだが少し違う。

 私が言いたいのは

 ----誰かで指導して欲しい。正しく能力が使えるように」

 

 

 「なるほど。つまり、こいつが能力を使いこなせるように、修行場所と指導者が必要だと」

 

 

 「そうだ。あまりに強すぎるゆえ、完全に使いこなせることができない。

 模擬戦の相手として指導者が必要なのだ」

 

 

 確かに、いきなり目覚めた能力を100%使いこなせるはずがない。

なら一人で何とかするよりも、誰かが相手をしてもらって、戦いながら慣れたほうがいいだろう。

 

 

 「指導者のう。しかし、これはここにいる四人の中でということじゃろう?」

 

 

 「ああ。できれば事情を知っているほうがいいな。

 そちらも、誰かに最初から全部説明するのはめんどいだろう」

 

 

 む?まてよ?この中の四人?

まず茶々丸は論外だ。

次にジジィも自分の地位を考えて無理だ。

次にタカミチ。こいつは『悠久の風』に入っているため、出張という名目で海外に出る。

指導できる時間などあるはずがない。無理だ。

ということは…

 

 

 「「「「じーーーー」」」」

 

 

 「私か…」

 

 

 私しかいない。 

めんどいと言えばめんどい。

しかし、さきほど私は何を思っていた?

家で何をしていた?

ここでNoと言えばまたそこに戻る。

けど、ここでYesと言えば…

 

 

 「…まぁ、暇つぶしにはなるだろう」

 

 

 「ほ、やってくれるかのうエヴァ」

 

 

 「どうせ暇だしな。

 堕落した生活を送るぐらいなら、指導者になるのもいいだろう」

 

 

 それにこいつの能力も気になるしな。

 

 

 「決まったな。ふう、よかった。

 これでいいか?棚町」

 

 

 「…ええ。本当に、十分すぎるくらい。

 ありがとう、神様。私の願いを叶えてくれて」

 

 

 「そう言ってもらえて嬉しいぞ。

 君もようやく報われたな」

 

 

 と話していると神の体が薄くなり始めた。

 

 

 「む。どうやら限界が来たらしいな。

 それでは近衛門よ。棚町のことをよろしく頼む」

 

 

 「うむ。任されよう」

 

 

 「棚町よ。さきほど体をいじくったと言ったが、それにより君の体はそれだけでも充分強い。

 能力を使うか使わないかは君自身が決めろ」

 

 

「ええ、わかったわ」

 

 

「それでは帰るとしよう。

 さらばだ」

 

 

 そう言って神は消えた。

さて、後は…

 

 

 

 

 

 

 神が消えた。

短い時間だったけど、俺にとって人生の分岐点なぐらい重要な出来事だった。

 

 

 「さて、棚町君。おぬしは学校に学校に行きたいかのう?」

 

 

 「はい、ぜひお願いします」

 

 

 「うむ。ではタカミチ君のクラスでよいかのう」

 

 

 「そうですね。そのほうが都合がいいでしょう」

 

 

 ということは2-Aか。

…?あれ?

 

 

 「すいません。女子校ですか?」

 

 

 「そうじゃよ。別によいじゃろう。だっておぬし、

 

  女の子ではないかのう?」

 

 

 は?え?ちょっとまて!

え?まさか、

 

 

 「体が女になってるーーーー!!!」

 

 

 「今頃気付いたか。

 口調で気づけよ」

 

 

 「ていうか男だったの!?」

 

 

 最悪だ…

なんで?ってあれ?ポケットの中にまだ何か入ってる。

 

 

「あれ?また手紙…」

 

 

 手紙が入っていたので読んでみた。

 

 

 『ついでに体を女にしておいた。

 そのほうが都合もいいだろう。

 よかったな!

 by 神』

 

 

 「よくないわよ!!」

 

 

 あの野郎!!俺が気にしていたことを現実にしやがって!!

確かに、名前が女っぽいから体も女にならないかなとは思ったけど、それは願いの中に入ってないし!!

いらんことをしやがってぇーー!!

 

 

 「次会ったらボッコボコにしてやるわ!!」

 

 

 「ドンマイじゃな」

 

 

 「はは…」

 

 

 「自業自得だ」

 

 

 「ご愁傷さまです」

 

 

 「とりあえず2-Aは決定と。

 次は住む場所じゃが」

 

 

 「私の家でいいだろう。そのほうがやりやすいしな」

 

 

 エヴァの家かぁ。

やったぜ!!ずっとエヴァの近くにいられる!!

 

 

 「警備については…どうする?棚町君」

 

 

 「できればやりたいのですが、まずは自分の能力を理解したいと思います」

 

 

 「ほ、やってくれるのかのう?」

 

 

 「ええ。実践経験を積みたいですし。

 なにより、守れる力があるのですから、使わないわけにはいきません」

 

 

 「ふむ、わかった。では能力を把握できたらいつでも言ってくれ。

 警備のシフトに入れるようにするわい」

 

 

 「ありがとうございます」

 

 

 こんな俺のために、真剣に考えてくれた四人のために、恩を返すのが本当の理由なのだけど恥ずかしいから言わない。

 

 

 「そんなところかのう。それじゃ棚町君」

 

 

 「はい」

 

 

 「これからよろしく頼むわい」

 

 

 「はい。よろしくお願いします」

 

 

 「頼んだぞい。エヴァ」

 

 

 「ふん、まぁいいだろう」

 

 

 これから始まる初めての中学校生活。

私は胸を踊らせながらエヴァについていった。



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主従

更新が遅くなり、大変申し訳ございませんでした。



 今、俺たち三人はエヴァを先頭にエヴァの家に向かっている。

 時刻は夜の十時過ぎ。

 そんな夜遅く、

 

 

「イェーーーイ。アハハハハ!!!」

 

 

 俺は大声で奇声を上げていた。

 今、とってもテンション上がってるーーー!!

 

 

「はしゃぐな!今何時だと思ってる!!」

 

 

「え?夜の十時でしょ?」

 

 

「わかっているなら騒ぐな!!」

 

 

 まぁ、確かに騒ぎすぎだとは思うけど別にいいんじゃね?

 

 

「だって願いが叶ったのよ。

 しかも久しぶりの外の空気が吸えて気持ちいいのよ。

 とっても最高だわ!!」

 

 

 ちなみに約二年ぶり。

 ずっと消毒液の臭いに囲まれていたら普通はしゃぐだろ。

 しかも、

 

 

「しかもこんなに体を動かしても大丈夫な体なんてほんとに久しぶりなのよ。

 年数で言うなら五年。

 はしゃがないほうがおかしいわ!!」

 

 

 そう。中一の頃から走るとか充分に体を動かすことをしたことがない。

 さらに高一の頃になると歩くことすらできなかった。

 だから今、歩いているだけでもとても嬉しいことなのだ。

 

 

「そ、そうか。わかった。

 わかったからはしゃぐのだけはやめてくれ。

 せめて家に着いてからにしてくれ」

 

 

「うっ。

 …わかったわ。我慢する」

 

 

 まぁ、常識で考えたら俺のやっていたことはただの変態にしか見えないよな

 

少し抑えよう。

 

 

「わかってくれたならいい」

 

 

 そういうとエヴァは前を向いた。

 俺はエヴァの後ろ姿をじっと見た。

 外見はただのどこにでもいる金髪幼女にしか見えない。

 けど歩き方や喋り方、そしてにじみ出ているオーラというか雰囲気が普通の人間とは全く違うのがわかる。

 これが六百年以上生きてきた吸血鬼か…

 俺はその吸血鬼のところにこれからお世話になる。

 しかも指導もしてくれる。

 これは凄い幸運なことではないか!!

 

 

「ああ、楽しみだなぁ」

 

 

「何がだ?」

 

 

「これからの生活」

 

 

「ふん、まぁおまえはそう思うだろうな。

 着いたぞ」

 

 

「ここかぁ…」

 

 

 着いた先は原作と同じの木で作られたログハウスだった。

 例えるなら山の中にひっそりと建っている木のペンションみたいな感じかな?

 林に囲まれていてかなり雰囲気がよかった。

 

 

「どうした?」

 

 

「いえ。ただ、物凄くいい雰囲気な家だなと思って。

 木の匂いが最高だわ。私こういう家に住んでみたかったのよ」

 

 

「そうか。気に入ってもらえてなによりだ」

 

 

 そう言うとエヴァは家の中に入った。

 俺も茶々丸と一緒に中に入った。

 中はとても整理されていて綺麗な感じだった。

 と、同時に所々人形が置いてあってとても女の子っぽい感じだった。

 

 

「…へぇ」

 

 

「なんだ、その反応は?」

 

 

「いえ、別に。

 ただ、人形がたくさんあってファンシーだなと思ってね」

 

 

「な!!」

 

 

 思ったことをそのまま口にしたことに反応してエヴァが顔を紅らめた。

 

 

「わ、私は人形使いだぞ!!

 そんな私が人形を持っていて何が悪い!!」

 

 

「そういう意味で言ったわけではないわ。

 ただ、可愛い人形がたくさんあるから女の子らしいなぁと」

 

 

「なっ!!!」

 

 

 さらに思ったことを言い返したら、エヴァの顔がトマトのようにさらに紅くなった。

 やべぇ、すごく可愛い!

 

 

「ふ、ふん!!なら別にいいだろう。

 それよりもだ!!」

 

 

 あ、話そらした。

 

 

「おまえは今から一緒に別荘に来てもらう。

 早速おまえの能力見せてもらうぞ」

 

 

「もう?」

 

 

「実際にどんなものか見てみないと指導できないだろう」

 

 

「確かにそうね」

 

 

 どんな感じの能力かわからない状態では、教えることもできないし、俺もわからないからだめだろう。

 だったら、さっさと確認しようということだろう。

 まぁ、俺もどんな感じなのか早く確認してみたいからいいだろう。

 というか断る理由もないしな。

 

 

「いいわ。

 けど、別荘ってどこ?」

 

 

「地下にある。付いて来い」

 

 

 と言ってエヴァは地下に向かって行った。

 俺も付いて行くのだがその前に、

 

 

「茶々丸。ちょっといい?」

 

 

「なんですか?棚町さん」

 

 

「さっきのエヴァの顔、保存してくれないかしら?」

 

 

「わかりました」

 

 

 さっきの顔は最高だったからな。

 あれは永久に保存するべきだね。

 

 

 

「オイ。ソコノ女ハ誰ダ?」

 

 

 地下に着いたら、変な声が聞こえた。

 声のした方向に顔を向けると、棚の上に座っている人形がいた。

 

 

「チャチャゼロ。こいつはこれからここで指導することになった棚町京だ。

 これからおまえを連れて別荘でする」

 

 

「オ、久シブリニ体ヲ動カセルノカ。

 ソイツヲ切リ刻ンデモイイノカ?」

 

 

「それはまた今度にしてくれ。棚町、こいつの名前はチャチャゼロだ。

 私の最古の従者にして性格が狂っている人形だ。

 主にナイフの使い方や近接戦闘の指導をする」

 

 

「性格が狂ってるって、どんな感じに?」

 

 

「とりあえず切り刻みたいらしい」

 

 

「オイオイ、マスターニ言ワレレタクハネェゼ。

 マスターダッテ」

 

 

「おまえは黙ってろ!!」

 

 

 うわぁ、横暴だ。

 

 

「とりあえず私についてこい!!」

 

 

 チャチャゼロの口を塞ぎながら言ってきたのでとりあえず付いて行った。

 

 

 

 

 

「うわぁ、すごい…」

 

 

 さっきまでいた地下室から変わって、南国の小島に聳え立つ塔の頂上にいた。

 ただ、防護柵というかそういったのがなくてとても怖い。

 例えると、東京タワーの展望台のところにいるのに、床はあるけどガラスと天井がない感じ。

 高所恐怖症の俺にとってとても怖い。

 

 

「すごいね、エヴァ」

 

 

「?どうした、まさかおまえ高sy「なんでもないわ!!気にしないでエヴァ

 

!!」

 わ、わかった」

 

 

 今の俺の状況を見て、それ以上このことには突っ込まなかった。

 けど、気付かれたから後々このことでいじられるんだろうなぁ。

 まぁ、俺の場合軽いから慣れれば大丈夫だろう。

 多分…

 

 

「さて、早速おまえの能力を見せてもらおうか。確か『想像を力に変える能力』だったか?

 名前どうりならおまえにとって力になる能力をイメージしてみろ。それで発動するはずだ」

 

 

「イメージねぇ…」

 

 

 自分が考えたオリジナル能力もいいけど、最初は好きなキャラが使っていた能力を使ってみようかな。

 好きなキャラ、よしあれにしよう。

 

 

超電磁砲(レールガン)かしら」

 

 

「レールガン?」

 

 

「コインある?

 って自分で用意すればいいか」

 

 

 適当にコインを思い浮かべて、右手に出すように念じる。

 すると、右手の手のひらにコインが出てきた。

 適当に念じたから、絵柄は付いてないけど重量感は本物だ。

 

 

「ふむ、能力だけでなく物質も出せるのか」

 

 

「測定完了。絵柄は付いていませんが重さは普通の重さです」

 

 

「オイオイ、マジカヨ。

 物ニ困ンネェジャネエカ」

 

 

 エヴァは考えるような顔をし、茶々丸は測定結果を淡白に報告し、チャチャゼロは今起きたことに驚いていた。

 

 

「まぁ、そういう能力だし。

 それじゃ、やってみるわ」

 

 

 そうして頭を切り替える。

 思い描くは学園都市第三位”御坂美琴”『超電磁砲』(レールガン)

 それをイメージする。

 すると、体に電気を帯びるようになった。

 

 電気を帯びているのを感じながら、右手にあるコインをコイントスするときと同じようにコインをおき、コインに電気を集めるようにする。

 

 アニメでも聞いたことがある電気の音を感じながら、指で弾いてコインを水平に飛ばすようにしながら発射する!!

 

 雷が落ちた時のような爆裂音を出しながら発射したレールガンは、目で捉えきれないほどの速さで発射され、それにより強烈な衝撃波が発生した。

 それにより地面は抉れた。

 

 

「なんだ、今のは」

 

 

「電気を帯びた弾丸。

 電気を利用した物だから、通常の弾丸より数倍も速く、威力も強烈なほどに強いわ」

 

 

「つまり、元は電気の能力で、その電気を利用して弾丸を発射するということか。

 茶々丸、今の測定結果は?」

 

 

「弾丸の速さは約マッハ5。威力は中級魔法以上。

 また、魔力反応は一切ありませんでした」

 

 

「雷の暴風並の威力でその速さ。

 更に魔力反応はないから、物理攻撃用の障壁でなければならない」

 

 

「恐らく魔法使いはこの攻撃を魔法と認識して、魔法障壁で防御すると思います。

 しかしこの攻撃は先程言ったように、物理障壁で防御しなければいけません」

 

 

「それで防御することができずやられると。

 ふむ…」

 

 

 ちなみに補足としてアスナの魔法無力化も効かないと思う。

 理由は、魔法や気の攻撃ではないから。

 と今はまだエヴァはアスナの能力は知らないから言えないけどね。

 

 

「あとこの能力、本物の雷出せるから」

 

 

 原作では雷を出して周辺一帯を停電させていたから多分出せると思う。

 説明して気付いたけど、あの作品の超能力ほとんどチートだろ。

 ま、別にいいか。この能力自体チートだし。

 

 

「しかし、たとえおまえの能力が強くても、おまえ自身が弱くては意味ないだろ。

 見た感じ、戦ったことないような感じだしな」

 

 

「うっ」

 

 

 確かに、俺は喧嘩すらしたことがないくらいの弱さだよ。

 

 

「けど、戦闘のイメージトレーニングはしていたよ!!」

 

 

「それも重要だが、一番大事なのは経験したかどうかだ。

 経験がなければ、相手の攻撃の予測が立てれないだろ」

 

 

「うっ」

 

 

 なんか俺自身なくしてきたなぁ。

 大丈夫なのだろうか…

 

 

「まぁ、そこら辺は指導と警備によってなんとかなるだろう」

 

 

 ?まてよ。

 これって、俺の能力で何とかなるかもしれない。

 

 

「ねぇ、エヴァ」

 

 

「なんだ?」

 

 

「一回模擬戦してみない?」

 

 

「何故だ?今のおまえでは戦いにすらならんぞ」

 

 

「そこら辺は能力でなんとかカバーするわ」

 

 

「おまえの能力か…

 試す価値はありそうだな。わかった」

 

 

 よし。後は準備する時間をくれたら大丈夫だ。

 

 

「とりあえず、少し準備してもいいかしら?」

 

 

「別に構わんぞ」

 

 

「ありがとう」

 

 

 このまま戦っても負けるのは確実だ。しかし、それは俺の能力を使えば何とかなる。

 『想像を力に変える能力』。

 この能力は俺が想像した能力が使える。

 つまり、原作キャラが持っていたスキルも、使うことが出来るのではないのだろうか。

 例えば某作品で登場していた、セイバーが持っていた『直感』。

 第六感的なセンスを用いた”状況把握、状況突破”。

 簡単に言うと、未来予知の如く相手の攻撃を予測して、その攻撃をどうするか一瞬にして把握し行動するというスキルだ。

 それを使えばなんとかなるかもしれない。

 やってみよう。

 能力はセイバーのスキルである『直感』。

 あとはさっき使った能力と適当に見繕って…

 

 

「準備できたわよ」

 

 

「できたか。とりあえずどのくらいできるかを見るための模擬戦だ。

 私とおまえの一対一でやるぞ」

 

 

「わかったわ」

 

 

 よかった。これでもし原作どうりに、三対一みたいなことになったら戦いにすらならないだろうな。

 多分いつかやるんだろうなぁ。

 考えている内に周りの空気が変わった。

 と同時に『直感』によって体が自然と構えをとった。

 

 

「では、いくぞ!!」

 

 

 言うのと同時に、氷柱のようなものがエヴァの周りに出現した。

 多分魔法の矢で間違いないだろう。

 数は二十。すべて俺を狙っている。

 

 

「まずは小手調べだ。

 これぐらいはなんとしろよ」

 

 

 言ってすべての氷の矢を放った。

 どうするかを考える前に、スキルのおかげで結論が出た。

 まず電撃で前方の矢以外を破壊。

 

 ガラスが割れるような音をしながら、破壊した氷の矢を耳で確認し、前方の矢は先程レールガンを放ったことでできた瓦礫の岩を風で集め、防壁のようにし矢を防いだ。

 

 

「やるな。

 だがそれで終わりと思うなよ」

 

 

 防いだと思ったら後ろからエヴァの声が聞こえた。けど、

 

 

「その行動はもう読んでいたわ」

 

 

「なっ!!」

 

 

 瞬動でエヴァの背後をとった。

 そのまま、右手に溜めていた電撃をエヴァに放った。

 

 

「ぐっ!!」

 

 

 エヴァは咄嗟に障壁で防いだ。

 が片手で防ぐのは厳しいのか顔が少し歪んでいた。

 俺はそれに追い討ちを掛けるために、先程と同じように風を使って、防壁代わりにしていた岩を引き寄せてエヴァに当てるようにした。

 

 

「ちっ!」

 

 

 さすがにまずいと思ったのか、エヴァは瞬動で横に逃げた。

 俺も、エヴァに当てるはずだった岩を避けるために瞬動で避けた。

 そして、また最初と同じように相対するようになった。

 

 

「…いったいどんな能力を使えばここまで動けるのだ?」

 

 

「それはまぁ、そういう能力だし。

 日頃のイメージトレーニングが実を結んだのでしょう。

 だって『想像を力に変える能力』よ。だったらピッタリじゃない」

 

 

 半分本当で半分嘘。

 本当はあのスキルを言ったほうがいいけど、説明するのがめんどくさい。

 というか今そんな余裕ない。

 後で言えばいいでしょ。

 

 

「確かにそう考えたら納得いくな。

 イメージしたことを力に変えるのならそういうことも可能か」

 

 

 現にエヴァも信じてくれたし。

 今はこれでいいでしょ。

 

 

「さて、では再開しようか」

 

 

「そうね。じゃあ今度は私からいくわ」

 

 

 俺は岩を集めてエヴァの視界に俺が映らないように放った。

 

 

「ふん、その程度の攻撃。

 これで充分だ」

 

 

 右手に魔力を込めて岩を殴った。

 

 普通見た目が十歳ぐらいの幼女が、自分の身長より二倍以上ある岩を砕けるはずがない。

 しかし、エヴァはただ岩にパンチをしただけで砕けた。

 そのままエヴァは迎撃しようとしたがしなかった。

 砕けた先にいるはずの俺がいない。

 そのように見えているはずだ。

 俺は放った岩を死角にして、近くまで移動していた。

 エヴァが俺に気付く前に、電撃を込めた右ストレートをエヴァの横腹にぶち込む!!

 

 

「中々の攻撃方法だ。

 しかし、まだ甘いぞ棚町」

 

 

 が、攻撃が当る前に、エヴァは一歩後ろに下がり俺のパンチを避けた。

 そしてがら空きになった腹に、エヴァは魔力を込めた左の拳を、腹に思いっきりぶち込んできた。

 スキルによって何とか読めた俺は、左手でエヴァの拳を防いだ。

 しかし、エヴァの力が強すぎて吹っ飛びそうになった。

 俺は吹っ飛ばないようにするために、体を反時計回りに捻った。

 ここで右手で攻撃することもできるが、相手は合気道をマスターした吸血鬼。

 恐らく受け流しながらカウンターしてくるはずだから、瞬動でその場から逃げた。

 

 

「いい判断だ。

 そこでもし右手で攻撃していたその瞬間、おまえの負けは決定していただろう」

 

 

 やっぱり。よかったぁ。

 このスキルやべぇな。

 素人の俺がここまで戦えるって、普通はありえないだろ。

 まぁ、それでも全然勝てる気がしないけどね。

 

 

「どうした?それで終わりか?」

 

 

「そんなわけないでしょ?これからよ」

 

 

「ふ、そうか。

 では続きといこうか」

 

 

「ええ、それじゃ」

 

 

「「いく(ぞ)(わよ)!!」」

 

 

 

--五分後--

 

 

「はぁ、はぁ、まだまだね」

 

 

「…手加減しているとはいえ、戦闘未経験者が私相手にここまでやるとは。

 正直驚いているぞ」

 

 

 結局、あの後色々と攻撃を仕掛けたが、それら全て避けられたり、受け止められたりされて一発も当てることなく負けた。

 さすがに戦闘経験ゼロの俺では、ここまでが限界だろうな。

 

 

「しかし、おまえの能力なら電気と風以外も出せるだろ。

 何故出さなかった?」

 

 

「だって、まだどのくらいの能力が出せるのかわからないのよ。

 能力を使おうとしたら、実は出せませんでしたでは話にならないでしょ?」

 

 

「む、確かにそうだな。

 しかし一つの能力でここまでとは…使いこなせれば、封印前の私ぐらいにはなるかもしれん」

 

 

「ないない。今の私では無理よ」

 

 

「今の、か。謙虚に見えて実は狙っているのか?」

 

 

「そりゃあね。それくらい強くなることができるなら狙うべきでしょ。

 けど、今の私では無理だから無難にそう答えたわけ」

 

 

 これからはエヴァが指導してくれるからいけると思う。多分。

 

 

「そうか…

 これから、おまえは私の教えを請う。と同時におまえは私の従者になる。

 それでいいか?」

 

 

「ええ。いいわよ」

 

 

「即答って、言った後だが本当にそれでいいのか?

 私の従者になるのだぞ。私はこの世界では悪の魔法使いだぞ。

 その従者になるというのが、どれだけのことかわかっているのか?

 後悔はしないのか?」

 

 

 とエヴァは言っているのだが、恐らく俺の回答をすべて信じていないのだろう。

 なにせ約六百年生きてきた吸血鬼だ。

 何度も裏切りられてきた経験を持っているからなのだろう。

 どうせ、おまえもそう言って裏切るのだろうと思っているのだろう。多分。

 俺はエヴァの顔を真剣に見つめながら

 

 

「聞く必要はないわ。

 これからお世話になるのだから、結局従者になるのと変わりはないと思うわ。

 それに、エヴァンジェリンの従者になったからと言って後悔はしないわ。

 悪の魔法使い?

 そんなの、この世界に来たばかりの人間にとって関係のない肩書きだわ。

 たったの数時間しか話したり模擬戦したりしたけど、悪だとは全く感じなかったわよ。

 そんな人が、悪の魔法使いと言ってもねぇ」

 

 

「しかし!!」

 

 

「それに」

 

 

「?」

 

 

 

「こんな見ず知らずの、しかもこの世界の人間とは全く違う私を指導してくるんだもの。

 あなたは、とっても優しい魔法使いだわ」

 

 

 

「…」

 

 

 エヴァは俺の話を聞いて愕然とした。

 今話したことは嘘偽りのない俺の本心だ。

 ていうか、原作読んでいて思っていたことだけど、エヴァは絶対悪の魔法使いではない。

 もし仮に悪の魔法使いなら、十五年も中学生を続いているはずがない。

 今までこんな生活をした腹いせに一般人を襲ったりするだろう。

 そういう行動をするのが、世間一般に広がっている悪の魔法使いがすることだろう。

 無限に続く中学生生活を送りながら、ひっそりと暮らしているエヴァを、未だに悪だと言っている魔法使いの連中こそが悪だと思う。

 だから俺は少しでもエヴァの支えになりたい。

 たとえエヴァがいらんと言っても、俺はずっと支え続けたい。

 なら、エヴァの従者になってもいいと思う。

 

 

「…おまえは変わっているな」

 

 

「それは、まぁ違う世界の人間だもの。

 この世界の人間とは違うはずだわ」

 

 

「…そうか。ふ、それもそうか」

 

 

「これからよろしくね。

 マスター エヴァ。」

 

 

「ああ、これからよろしくな。

 従者 棚町いや、京」

 

 

 とても慈愛のある笑顔で、俺を呼ぶエヴァ。

 原作では見たことがない笑顔だった。

 この笑顔が消えないように、またこの関係が崩れないようにエヴァの従者として頑張っていこう。

 俺は心に誓った。

 

 

 

 



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家族

 それは、燃え盛る大地。

 それは、嵐が住む大海原。

 それは、雷鳴轟く氷河。

 

 ここはどこだ?

 場所が見えるだけで、実際の場所ではないけど、こんな混沌とした場所から帰りたいです。

 とりあえず、状況を確認しよう。

 エヴァとの模擬戦の後、いろいろな技を使ったり、説明したりで時間がつぶれた。

 最初、体の使い方や技の出し方がぎこちなかったが、エヴァの指導の元なんとか自然にできるようになった。

 別荘から出た後エヴァの許可をとって、ふかふかのベットに寝た。

 けどすぐに寝れずイメージトレーニングをした。

 やっているうちに眠くなってきたので寝た。

 寝たはずなのに…

 

「ここはどこだ?」

 

 独り言を言ってみた。

 ま、誰も反応するはずがないけど

 

「ここは私の世界よ」

 

 って返事がきた!!

 とりあえず、声がした方向に体を向けてみると

 

「ようこそ、棚町京」

 

 めっさ俺好みの女性がいた。

 例えると、大河内の顔で目を釣り目にして、髪を下ろしているような感じだ。

 見て思ったのが人間ではないことだ。

 エヴァと同じように、見た目は人間に見えて何か特殊な生き物なのだろう。

 

「そうよ。私は人間ではないわ」

 

 なんか心が読まれてる。

 

「これからあなたの武器になる存在ですもの。

 それくらいどうってことないわ」

 

「武器になる存在?それはいったいどういうことだ?

 ていうかなんで俺男口調?」

 

「ここは、私の世界であると同時に精神世界でもある。

 あなたの外の体は女であるけど心は男よ。

 だから今の姿は男なのよ」

 

「なるほど。

 で?あんたの正体はなんだ?」

 

「そうね。けど時間がないから名前だけ言うわ。

 どうせ起きたらわかるでしょうし」

 

?いったいどういうことなのだろう。

 

「いい、よく聞きなさい。

 私の名前は”紅蓮”よ」

 

「紅蓮?」

 

 

「そうよ。

 ではまた今度会いましょう。我が主」

 

 

 美人さんがそういうと、世界が崩れ俺の意識がなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

「ん…んぁ…あれ?」

 

 気が付くと俺は起きていた。

 どうやら、俺は現実世界に戻ってこれたようだ。

 

「さっきのはいったいなんだったろう?

 …てあれ?」

 

 頭の中で整理しようとしたら、どういうことかベットの近くに日本刀らしき物が、鞘に納められながら置いてあった。

 しかもその刀から不思議な力を感じる…

 まさか…

 

「これってもしかして斬魄刀?」

 

 確かに、俺はエヴァの前であの作品の力を使った。

 けど、斬魄刀のことについては何も思っていないはず…

 …なぜ?

 俺は周りを見渡すと、金色の紙が置いてあった。

 金色の紙ってまた?

 

「なぜにまた?」

 

 俺は神からの手紙だと確信し読んでみた。

 

『棚町へ

 この斬魄刀は君へのプレゼントだ。

 理由はまぁ、気にするな。

 とりあえず、始解はできるようにしておいた。

 卍解は君次第だ。

 頑張りたまえ。

 追伸 あともう一つ、君にプレゼントするつもりだからそのつもりで

 by神』

 

 

 斬魄刀をプレゼントとか、なんかなんでもありだな。

 さすが神。

 ていうか、これ以上貰っても扱いきれないから、かなり困る。

 それと、もう一つプレゼントってなんだろう?

 

「京、おまえの部屋から何か変な気を感じるのだが…」

 

 考えていたらエヴァがやって来た。

 そりゃ来るでしょ。

 自分の家から、変な気を感じたらおかしいと思うか。

 

「ああ、何でもないわ。

 その説明もするから下に行ってて」

 

「わかった」

 

 俺はとりあえず斬魄刀を持って下に降りた。

 はぁ…説明めんどい。

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう。エヴァ、茶々丸、チャチャゼロ」

 

「おはようございます。京さん」

 

「オウ、ナンカ面白ソウナ武器持ッテンジャネエカ」

 

「ああ、おはよう。

 で?その刀はなんだ?」

 

 俺はとりあえず、エヴァと茶々丸とチャチャゼロに挨拶した。

 茶々丸は、朝ご飯を作っているため俺の方に顔を向けずに挨拶をして、チャチャゼロはエヴァが封印されているため、動くことはできないがエヴァと一緒で、斬魄刀に興味を示していた。

 

「これは斬魄刀という刀よ。

 といっても普通の刀ではないわ」

 

「どういうことだ?」

 

「簡単にいうと自我を持っているわ」

 

「なに!!武器が意思を持っているだと!!」

 

「ええ。そして、意思を持った斬魄刀自らが、名前を教えてもらうことによって名前を知ることができるわ」

 

「ということは、この刀から教えてもらえない限り、名前を知ることができないのか。

 なんとめんどくさい武器だな」

 

「ケケケ、コリャアオモシレェ。

 ホントオマエハナンデモアリダナ」

 

 ちなみに細かい説明をするつもりはない。

 まぁ、相手から聞いてきたら細かく説明はするけど。

 あの手紙の内容だと、気まぐれでプレゼンしたはずだから虚などはでないだろう。多分。

 

「あと、この刀は神からのプレゼントよ」

 

「なに!!昨日でたあの偽善者か!!」

 

「そうよ。証拠にほら。金色の手紙」

 

「…ほんと何でも有りだな。これ以上こいつを強くしてどうする。

 それにもう一つプレゼントって…」

 

「さあ?能力と武器をプレゼントしたから次は…従者?」

 

「…ありえないとは言い切れないのが怖いな」

 

 そう、ありえないと言い切れないのだ。

 能力、武器ときて次に戦闘系のプレゼントときたら従者しかない。

 まさかサーヴァント?いや、ないだろう。

 

「まあ、考えても仕方ないわ。

 とりあえず…」

 

「とりあえず?」

 

「朝食食べましょ?せっかく茶々丸が作ってくれたんだから。

 冷めないうちに食べましょ」

 

「…はぁ、まあいいだろう」

 

 エヴァと話している間に朝食が作り終わり、更にテーブルに並べ終えている。

 ここまで準備されているんだ。さっさと食べよう。

 と思っていたら、おかしなことに気付いた。

 

「あれ?」

 

「どうした?食べないのか?」

 

「ねぇ、茶々丸」

 

「はい、何でしょうか。京さん」

 

「なんで食べないの?」

 

「「は?」」

 

 

 と茶々丸とエヴァが一緒に返事をした。

 あれ?俺何か可笑しなこと言ったっけ?

 

「あ、あの京さん。私はガイドノイド。世間一般でいうロボットです。

 ですので食べる必要はありません」

 

「けど、食べることはできるのよね?」

 

「え、ええ。一応食べることはできますが…」

 

「なら一緒に食べましょう。

 ちょっと待ってて。茶々丸の分私が作ってくるから」

 

「し、しかし」

 

「なぜそこまで茶々丸を入れたがる?」

 

 茶々丸が困惑していると、エヴァが変わりに本元の疑問を質問してきた。

 なぜかって?そりゃあ

 

 

「エヴァと私は従者とマスターの関係でもあると同時に家族でしょ?

 ならエヴァの従者である茶々丸は同じように家族だわ。

 同じ家族なら皆で一緒に食べることはおかしなことではないでしょ?」

 

 

「…」

 

「ふ、そうか」

 

「ケケケ!!コイツハ面白レェ!!」

 

 

 そういうと茶々丸は驚きで固まり、エヴァは諦めというか認めたというかなんとも微妙な顔をしていて、チャチャゼロは爆笑していた。

 

「おまえの考えはわかった。

 茶々丸。一緒に食え」

 

「ですが…」

 

「こいつはこういう奴だ。

 諦めろ」

 

「…はい。わかりました」

 

 茶々丸はまだ困惑しながらも椅子に座ってくれた。

 さーて、作るとしますかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直に言って困りました。

 私は生まれて二年。

 マスターの従者として生まれました。

 ですので、京さんに家族だと言われても意味が判りませんでした。

 でも…

 

「さ、できたわよ。茶々丸」

 

 家族のためにということで、作ってもらえた朝食を見ると、心が温まるような気がしました。

 

「皆で言いましょ。食べる前の挨拶を」

 

「たまにはいいだろう。

 茶々丸も言うんだぞ」

 

 私が食べるのを賛成したマスターは、最初はよくわからない顔をしていましたが、今では少し顔が緩んでいました。

 食事の時、いやそれ以外のときでも見たことの無いような顔をしていました。

 

「わかりました。マスター」

 

 ああ、これが…

 

「「「いただきます」」」

 

 

 

 

これが『家族』というものでしょうか…



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2ーA

 とても幸せな朝食を食った後、俺は茶々丸の片付けを手伝おうと思った。

 しかし茶々丸とエヴァがそれを止めた。

 

 

「もうそろそろ、学校に行く準備をしないと間に合いません。

 私とマスターは、制服に着替えていますので大丈夫ですが、京さんはまだ着替えていません」

 

「おまえは学校に行きたいんだろ?

 朝食の片付けをして遅れるのは嫌だろ?」

 

 と言われ、俺は渋々止めた。

 ただ俺はここで一つ疑問に思った。

 

「私の制服ってないよね?」

 

「ああ、それなら大丈夫だ」

 

なぜ?と質問する前にインターホンがなった。

 

「郵便ですね」

 

「あのジジイが、こういうことで遅く行動するはずがないからな」

 

 なるほど。

 俺はこのあと学園長に会ってそのときに貰うのかと思ったけど。

 まぁ、直接貰ってもどこで着替えろって話になるけどね。

 

「予想通り、京さん宛てですね」

 

「ありがとう。茶々丸。

 部屋に戻って着替えてくるわ」

 

 俺の代わりに受け取ってくれた茶々丸に、お礼を言って着替えるために自分の部屋に戻った。

 箱を開けると、制服と何故か知らないけど白い下着が入っていた。

 

「…ええ、そうね。

 私は女ですもの」

 

 服を脱いで制服を着てみた。

 途中下着のサイズが合っていることに驚いたり、どうやって着るのかわからなくて時間がかかったが、なんとか着替えることができた。

 スカートだからすっごい足がスースーするけど、慣れれば大丈夫だろ。

 慣れたくないけどね…

 着替え終わって、俺はリビングに戻った。

 

「どう?似合ってる?」

 

「ああ、なかなか似合ってるぞ」

 

「とても似合ってますよ、京さん」

 

 よかった。

 ていうか今の俺、自分で言うのもなんだけどすっごい俺好み。

 顔は大河内に似ていて、目は釣り目で、深い青色のロン毛で、身長や体の形は大河内とほぼ一緒。

 ああ、これが自分じゃなかったらよかったのに。

 

「あのジジィの所にいくぞ」

 

「呼ばれたの?」

 

「おまえが着替えている間にな。

 恐らく、おまえに渡す物があるからだろう」

 

 確かに、教科書も何もないまま授業を受けても意味ないしな。

 

「わかったわ。

 それじゃ、行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校に向かう途中に、誰かに出会うのかと思ったけど、誰にも会うことなく着いてしまった。

 多分、エヴァ自身クラスメイトに会いたくないから、会わない道を通っていたのだろう。

 

「「失礼します」」

「入るぞジジィ」

 

 扉をノックして、それぞれの挨拶で入った。

 入ると学園長とタカミチがいた。

 

「おはよう。

 うむ、よく似合っておるぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「さて、棚町君。今日から登校するわけじゃが、どうかな?」

 

「ええ、とりあえず早く行きたいですね。

 とても楽しみにしてます」

 

「うむ。そう思ってくれると嬉しい限りじゃ」

 

「それで、用件は何でしょうか?」

 

「うむ、昨日能力を確認したと思うのじゃがどうじゃった?」

 

「そうですね、百パーセント使えることはできませんが、なんとか使うことはできますね」

 

「なるほどのう。

 エヴァはどう思ったかのう?」

 

「現時点ではタカミチといい勝負ができるぐらいだ。

 能力を使いこなすことができれば、封印前の私と同じぐらいか、それ以上だろうな」

 

「ほう…能力を使いこなせないでタカミチ君と勝負出来るとは。

 素晴らしいもんじゃ」

 

 いやいや、そんなに強くないから。

 確かに負けはない。

 一方通行(アクセラレータ)の能力である『反射』を使えば、攻撃は当たらなくなるし、それどころか撥ね返すからな。

 ただ、戦闘経験がなくまだ魔法が使えない今の状態では、勝つのは無理だろう。

 

「それでのう、いきなりで悪いのじゃが、夜の警備を手伝ってくれぬかのう?」

 

 警備か。

 経験を積むにはもってこいだけど…

 

「どう?エヴァ」

 

「別に構わん。おまえの為にもなるしな」

 

「わかったわ。

 やります」

 

「そうか。それじゃあ悪いが、わしらも棚町君の力を見てみたいのでな。

 今日の夜十時に、世界樹広場前に来てもらえないかのう?」

 

 恐らく、模擬戦をやるとういう意味だろう。

 相手は、多分タカミチだと思う。

 行く前に、別荘で少し鍛えようっと。

 

「わかりました」

 

「あとエヴァよ」

 

「なんだ?ジジィ」

 

「程々に、のう」

 

「…ちっ」

 

 多分桜通りのことだと思う。

 満月の時にしかできないから、十月現在からやらないと力が足りないと思う。

 

「先に教室に行ってくる。

 また後でな、京」

 

「失礼しました」

 

 もう話すこともないと決めたエヴァは、茶々丸を連れて学園長室を出た。

 先程予鈴が鳴ったので、そろそろ行かないと行けないだろう。

 

「それじゃ、僕らも行こうか」

 

「はい」

 

「棚町君」

 

「はい?」

 

 

「お主が、これからの人生楽しく幸せだと感じられることを願っておる。

 こちらも色々お願いすることはあるかもしれんが、変わりにお主の願いも聞く。

 その願いのためなら、わしは存分に協力するぞい。以上じゃ」

 

 

「…はい!!」

 

 学園長の話が心に響く。

 ここまで俺のことを思ってくれた人は、両親と友達を除いていなかった。

 だから余計嬉しく感じた。

 

 学園長から話をを聞いて、俺とタカミチは2-Aに向かっていた。

 

「さっきの学園長の話、僕もそう思っているから。

 何か困ったことがあったら相談してね。担任としても話を聞くから」

 

「ありがとうございます。高畑先生」

 

「どういたしまして。

 …さて着いたか」

 

 2-Aの教室の前。

 教室の外にいるのに話し声が聞こえる。

 原作通り、とっても元気な人達だな。

 

「すごく元気な人達ですね」

 

「まぁ、元気が取り柄だからね。

 ちょっと待ってて。紹介するとき呼ぶから」

 

「わかりました」

 

 いよいよだ。

 俺は今、猛烈に緊張している。

 これがまだ男女共学の学校ならまだいいのだが、ここは女子中。

 相手がすべて女子の中で自己紹介するのは、当たり前だがしたことがない。

 だから、なにをしたらどう反応されるのか検討もつかない。

 ああ、やばい。まじでやばい。

 

「入ってもいいよ」

 

 

 キターーーーーーーーー!!

 とりあえず深呼吸をして、タカミチが開けてくれた扉をくぐった。

 そして、教壇の前にきて、俺は平常心を保つように言った。

 

「今日から2-Aに転入することになりました、棚町京です。

 どうぞ、よろしくお願いします」

 

 

・・・・・・

・・・・

・・

 

 

え?何この沈黙。

俺、別に滑るようなギャグを言った覚えはないのだが…

 

『き…』

 

「き?」

 

『綺麗!!!』

 

…はい?

 

「どこから来たの?!」

 

「なんでこの時期に?!」

 

「身長はいくつ?!」

 

 などなど、一斉に質問されて答えたくても答えられない状況になった。

 これが女子中学生のパワーかぁー…

 やっていけるだろうか?

 

「はい、皆ストップ!!

 皆で一斉に質問したら答えられないでしょ。

 ここは報道部所属の私が代表して聞くわ」

 

 と、ここでパパラッチこと、朝倉がこの状況を打破してくれた。

 

「高畑先生。よろしいですか?」

 

「まぁ、最初の授業は僕の授業だから別に構わないよ」

 

「ありがとうございます!!」

 

 ええ~~

 一時間ずっとかよ…

 まぁ、別にいいけどさ。

 

「私の名前は朝倉和美です。

 どうぞ、よろしくおねがいします。棚町さん」

 

「お手柔らかに」

 

「出身地は?」

 

「山口県」

 

「なぜこの時期に転校を?」

 

「ここの学園長からお呼び出しがありましたので」

 

 嘘だけどね。

 悪いけど、ここは学園長をつかわさせてもらう。

 普通なら信じないけど、大丈夫だろう。

 

「ああ、なるほどね…」

 

 現に、パパラッチが励ましの目で俺を見てるからね。

 

「好きな食べ物と、嫌いな食べ物は?」

 

「好きなものは納豆。

 嫌いなものはチョコレートかな」

 

 ええ~!!なんで?!などなど。

 悪いな!!チョコレートは大っ嫌いなんだよ。

 

「趣味は?」

 

「趣味は執筆とゲームね」

 

「執筆?何を書いているの?」

 

「ファンタジー小説を少々」

 

 別に間違ってはいない。

 ジャンルはファンタジーだからね。

 

「へぇー。

 あ、忘れてた。身長と体重は?あとできればバストサイズも」

 

 これって、タカミチの前で言っていいのだろうか?

 別に俺は構わないけどさ…

 タカミチの方を向くと、タカミチは耳栓をしていた。

 さすが英国紳士。なのかな?

 そこら辺はわかっていたね。

 

「身長は167くらいで体重は…まぁ秘密ということで。

 バストはDくらいかな」

 

 体重はぶっちゃけこの状態で測ったことがないからわからない。

 バストは下着に書いてあった。

 

「なるほどね。ちなみにいまどこに住んでいるの?」

 

「後ろでニヤニヤしてる金髪の人」

 

「え?ってエヴァンジェリンさん!!」

 

「私を巻き込むな…」

 

 だって、質問に答えるときに笑っているのがむかつくんだもん。

 

「次はぶっちゃけ好きなタイプは?」

 

 でたよ…

 質問内容で一番して欲しくない質問だ。

 ここで男の時と同じことを言ったら同性愛者になるし、かといって男の好きなところを答えるのは無理。

 だって俺、ゲイやホモじゃねえし。

 

「ククク…」

 

 エヴァは、俺の本当の性別を知っているから、必死に笑いを堪えている。

 

「ははは…」

 

タカミチも知っているためか、遠い目をしながら苦笑いをしていた。

 

「ささ、タイプは何?」

 

 ここは、なんとかして答えるしかないだろう。

 

「そ、そうね、優しい性格の持ち主かしら」

 

「ほうほう」

 

 なんとか切り抜けることができた。

 ああ嫌だ嫌だ。

 あの神め。あいつのせいで、こんなめんどくさい答え方をしなければいけないなんて。

 

「さて、ドンドン行こう!!」

 

 

 まだまだ続く質問タイム。

 心の中ではめんどくさい気持ちもあったが。

 

 

 

 同時に、夢が叶って嬉しい気持ちで一杯だった。



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友人

刹那ファンの皆さん、すいません。
決して、刹那が嫌いなわけではありません。


「はぁ~、疲れたな~」

 

 一時間全部を質問に使った後、何事も無く授業をこなし現在、全ての疲れを一言で表すように、独り言を呟きながら一人歩いている。

 質問攻めをしているときは、色々大変だった。

 エヴァはずっとニヤニヤしているし、タカミチは椅子に座ってドンマイオーラを出しながらこっちを見てるし、刹那は警戒しているしなどカオスなことになっていた。

 その後学校に行ってはないが、独学で勉強していたのですっごく簡単だった。

 そして今、放課後なのだが委員長が後で教室に来てくださいと言っていたので、約束の時間まで時間があるので適当に歩いている。

 ただ、あまり人気のないところを歩いている。

 それは何故か?

 後ろから警戒オーラを感じるからだ。

 取り敢えず人気のないところまで歩いた。

 はぁ、ほんとめんどくさい。

 

「さっきから感じるのだけど、何?さっさと出てきたら?」

 

 挑発するような感じで、独り言を言うと二人出てきた。

 

「気づいていたとはね。だからこんな場所を歩いていたのかい?」

 

「…」

 

 出てきたのは、真名と刹那だった。

 恐らく、刹那が頼んで一緒に来たのだろう。

 

「で?何のようかしら?」

 

「この時期に転校するなど、普通に考えてありえないことだ。

 貴様、いったい何者だ?」

 

「学園長から、許可をもらって登校しているのだけど?」

 

「ふん、そんな事ありえないことだ。どうせ言っただけで、本当は許可などもらっていないのだろう?」

 

 …開いた口が塞がらない。

 刹那ってこんなにアホな奴だっけ?

 

「何を根拠にそんな事をいっているのかしら?

 まさか、確認をとらずにただ憶測を言っているわけじゃ、ないよね?」

 

「そ、そんなわけ」

 

「もういいわ。龍宮さんでしたっけ?」

 

「話しを聞け!!」

 

 うるさいなぁ…

 確認もしない奴がギャアギャア騒ぐんじゃねぇよ。

 

「落ち着け。で、何をすればいい?」

 

「学園長に、今電話をしてくれないかしら?

 こいつじゃ話にならないから」

 

「な!!き、貴様!!」

 

「落ち着けと言っているだろう。わかった、今連絡するよ」

 

「助かるわ」

 

 このかのことになるとここまでバカになるのか。

 …恐ろしいわぁ。

 

「もしもし、龍宮です。少し質問したいのですが…ええ、そのことです。

 …わかりました。今夜十時ですね。わかりました」

 

 終わったか。

 恐らく今日の夜、顔見せの時に全員に説明するつもりなのだろう。

 

「刹那、こいつのことは今日の夜十時に全員に説明するだってさ」

 

「な!それじゃ、それまでこいつを放っておけというのか?!」

 

「そうだ。それと、こいつの力を皆に見せるために模擬戦をするらしい」

 

「…そうか。わかった」

 

 ふう。なんとかなった。

 本当にめんどくさい。

 

「貴様」

 

「なにかしら?石頭」

 

「やめないか、二人とも」

 

「もし、お嬢様「木乃香だ」に手を出してみろ。

 その時は、貴様の首がないと思え」

 

「相手から近づいてきたらどうすればいいのかしら?」

 

「近づくな。自分から離れろ」

 

「…ねぇ、龍宮。この石頭、どうにかして欲しいのだけど」

 

「すまない。今刹那は頭に血が上っていてね。

 まぁ、私が何とかしておくよ」

 

「助かるわ」

 

 刹那が何か言う前に、回れ右をして逃げた。

 本当に、勘弁してくれ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウザいことが起きたけど、散歩をしていたら約束の時間になったので、教室に戻った。

 すると、教室の前に委員長が立っていた。

 

「お待たせしましたわ。

 どうぞお入りになって」

 

 そう言うと、委員長は扉を開けるよう促した。

 俺は言う通りに開けた。

 開けた途端、

 

 

『ようこそ!!2-Aへ!!』

 

 

 と言いながら、俺に向けて皆がクラッカーを鳴らした。

 …まぁ、原作を読んでいた俺は、ネギが来たときに歓迎会をしていたから、俺のときにもするというのは予想できていたよ?

 ただ、原作よりも凄かった。

 食べ物は立食パーティーレベルの量で、原作にはなかった垂れ幕やら折り紙で作った飾りなど装飾も凄かった。

 俺はそれに驚いて立ち止まった。

 

「?どうしました?」

 

「…なんで?なんで、こんなに派手に歓迎してくれるの?

 別に、こんなに豪華にやらなくてもいいんじゃないかな?」

 

「?何をおっしゃってるのですか?」

 

「え?」

 

 

「この歓迎会は、私たちとあなたが親睦を深めるために、そして2-A全員であなたを歓迎するためのものですわ。

 なら、派手にするのは当たり前のことですわ」

 

 

 …俺は、委員長が言った言葉に感激した。

 前の世界では、俺のためのパーティーなんかされたことがなかった。

 そういうこともあって、泣きそうになった。

 やばい、涙がでそうだ。

 

「どうしました?」

 

「いや、ちょっとホコリが目に入って」

 

 と苦し紛れに言ってみたが委員長は

 

「ふふ。そんなに喜んでもらえて、準備をしたかいがありましたわ」

 

「!!!べ、別にそんな…」

 

「ふふふ」

 

 こんな感じに、泣きそうになっているのがばれてしまった。

 

「委員長独占しすぎー!!」

 

「そうだそうだ!!」

 

 委員長と二人で話しをしていると、待ちきれなくなったのか騒ぎ始めた。

 

「皆が騒ぎ始めましたので、主役の棚町さんは真ん中の席へどうぞ」

 

 委員長が、皆の真ん中に開いている席に案内してもらった。

 

「さて、それではみなさん。堅い挨拶は嫌いということですので、とりあえずこれが乾杯の挨拶とさせていただきますわ」

 

『いえ~い!!』

 

「それではみなさん、」

 

 

『かんぱ~~い!!!』

 

 

 簡単な挨拶をした後、俺はジュースを飲もうとしたら

 

「なぁなぁ、ちょっとええかな」

 

 木乃香が話しかけてきた。

 同時に、教室の端っこにいる石頭が俺に向けて殺気を放ってきた。

 いい加減にしてくれ…

 

「なにかしら。近衛さん」

 

「名前でええよ」

 

「それなら木乃香さん、どうしました?」

 

「いきなりで悪いんやけど、ここに来る前何かあったん?

 おじいちゃんが理由なしに呼ぶわけあらへんから、何かあったんかなと思ってな」

 

 ああ、なるほどね。

 さすが学園長の孫。

 勘がいいねぇ。

 ただ、本当のことを言うわけにはいかないからはぐらかせてもらうよ。

 

「ごめんなさい。今、この楽しい雰囲気の中で話せることじゃないから話せないわ」

 

「そうなん?ならええで。

 気軽に言えない様な理由なら、無理に話さんでもええで」

 

「ごめんなさい、いつか言えたら言うわ」

 

 そういうと、あまり深く聞く必要はなかったのだろう。

 笑顔でアスナのところに戻っていった。

 それを見送っていると

 

「あ、あの~」

 

「ん?」

 

 声が聞こえたので、その方向に顔を向けると宮崎のどかがいた。

 

「なにかしら?ええと…」

 

「み、宮崎のどかです。どうぞ、よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしくね」

 

「あ、あの、これどうぞ」

 

「?」

 

 とのどかちゃんが、俺にプレゼントしてくれた。

 これってもしかして…

 

「図書カード?」

 

「は、はい。ぜひお使いになってくたさい」

 

「…」

 

 なんて、なんていい子なんだ。

 

「あの、どうしました?」

 

「い、いえ、その、プレゼントを貰ったことがなくてちょっと嬉しくて…」

 

 そう、俺は親や親戚の人からは貰ったことはあるが同年代の人からは貰ったことがない。

 だから今、嬉しくて涙が出てきた。

 

「っ…」

 

「え?」

 

「いや、その、ありがとね」

 

「あ、はい。どういたしまして」

 

 泣きながら感謝の言葉を言うと、のどかちゃんは笑顔で応えてくれた。

 周りの皆はこの状況を見て微笑んでいた。

 若干、一名未だに殺気を放ってくる奴はいるが。

 俺は少し恥ずかしかったが、それ以上にとても嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はこの時、心の中である決心をした。

 自分の力の使い道を…



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夜の会合

内容を少し変えました。


泣いたり笑ったり、とても感情豊かに楽しむことができた歓迎会は終わり、片づけを手伝おうとしたら皆から断られた。

理由を委員長に聞いたら

 

「片づけが終わるまでが歓迎会。

 なら、その主役であるあなたを、片付けの手伝いをさせるわけにはいきませんわ」

 

とのこと。

俺は心の底からお礼の言葉を言って、エヴァの家に帰ることにした。

ちなみに、エヴァは手伝う気はないと言ってすぐに帰った。

茶々丸は手伝っている。

この後は、エヴァの家で飯を食って休んだ後、別荘を使って能力の確認と模擬戦。

 そして夜十時、魔法先生、生徒達との会合。

 学園長とタカミチは大丈夫だと思うが、刹那の反応からして全員が歓迎するとは思わない。

 まぁ、しょうがないとは思う。

 俺が味方だという情報もなく、いきなり自分たちの領域に入ってきたのだ。

 しかも俺に関する詳しい情報は皆無。

 怪しむのは当然だと思う。

 なら、まず自分の力を見せつつ、周りの奴らに味方だという意思を見せればいいのだ。

 そのためにも、まずは自分の能力を少しでも極めるために、別荘で鍛える予定だ。

 と、一人で考え事をしていたらエヴァの家に着いた。

 

「ただいま~」

 

「帰ってきたか。

 初めての女子中の生活はどうだった?」

 

「とっても楽しかったわ。

 夢が叶って本当によかったわ」

 

「そうか。それはなによりだ」

 

 エヴァは、俺の答えに満足したのか口が綻んだ。

 

「それで、この後のことなんだけど…」

 

「夜の会合のために、別荘で能力の確認か?」

 

「そう。ついでに斬魄刀の確認もね」

 

 そう、確かに能力の確認もしたいけど、やっぱり朝神からもらった斬魄刀の能力が気になる。

 あの様子だと、たぶんあの石頭が喧嘩を吹っかけてくるから、相手に合わせる意味で確認したい。

 仮に吹っかけてこなくても、ちょっと頭を冷やしてもらうけどね。

 まぁ、能力を使えばいいけど刀があるんだから使うべきでしょ。

 

「ああ、あの謎の力を発していた刀か。

 あれはただの刀ではないのか?」

 

「いいえ、斬魄刀には必ず何かしらの能力があるわ。

 例えば氷の龍を出したり、剣が桜の花びらになったり、刀身が灰になったりなど色々あるわ」

 

「なるほど。つまり刀身の形が変わるものや、魔法みたいなことができるのか」

 

「簡単に言うとそうなるわ」

 

 ただ、あの神が送ってきた斬魄刀だ。

 恐らく能力はチートだと思うけどね。

 

「とりあえず、細かいことは別荘で教えてもらおう。

 今から行くか?」

 

「ええ、会合の時間までできる限りやりたいわ」

 

 会合まで、まだ四時間以上ある。

 別荘を使えば四日もある。

 

「よし、ならば今すぐ行こう。

 今回は、チャチャゼロと近接戦闘の模擬戦もやるぞ」

 

「え!?」

 

「オ、ヨウヤクカ。悪イケド本気デイカセテモラウゼ」

 

「…お手柔らかにね」

 

 会合の時、生きてるかな?俺。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雲ひとつなく空に点々と星がきれいに光っている今日、昨日現れた棚町君の力がここ世界樹広場にいる魔法先生、生徒に知らしめることになる。

 ただ…

 

「この状況はいったいどういうことかなぁ…」

 

 これからくる棚町君に対しての情報がないからだろう。

 ほぼ全員、疑問や不満の態度をとっている。

 僕や学園長がこの場で説明しようと思っていたから、何も聞かされていない人にとってとても怪しい存在だろう。

 ただ、棚町君の過去を知っている人にとってこれはあまりにひどい。

 先に説明できればいいが、話を聞く前に攻撃してしまう者がいると思う。

 現にすでに攻撃準備が整っている者がいる。

 大丈夫なのだろうかと心配していたら

 

『大丈夫じゃ、タカミチ君』

 

『どういうことですか?』

 

『まぁ、待っていればわかるわい』

 

『それはいったいどういう』

 

 

 

「こんばんわ、皆さん」

 

 

 

 いつの間にいたのか、僕達の目の前に棚町君がいきなり現れた。

 

 

 

【なっ!!!】

 

 

 

 学園長とエヴァを除いたすべての先生、生徒が驚きの声を上げた。

 何の気配もなく、何の予兆もなく現れたのだ。

 まるで、今までいたところから、直接ここに瞬間移動したかのような感じだった。

 縮地では、どんなにうまくなっても使用する前に使用者の気配がわかるし、なにより移動できる距離が全然合っていない。

 転移魔法では、転移先に魔方陣がでる。

 影を使った転移でも、影から出るため頭から出るはずだが、棚町君は一瞬で体全体を転移した。

 それ以前に、転移した場所が月の光で照らしていたため、影がなかったのでまずありえない。

 これが、棚町君が持っている能力…

 

「ふぉっふぉっ、よく来てくれたのう。棚町君」

 

「遅れて申し訳ございませんでした。

 その代わりとして、少し変わったことをしましたが…」

 

「別に気にせんでもよかったのじゃが。

 まぁ、幾分楽しめたぞい」

 

「ありがとうございます」

 

 周りの反応を他所に、二人で話している。

 周りは、先程のことがまだ理解できないのか混乱している。

 僕は…まぁ理解するのをあきらめたから、別にそれほど混乱していない。

 

「それじゃ、早速みんなに自己紹介を頼むわい」

 

「わかりました」

 

 と言うと、この場を朗らかにするかのように綺麗な笑顔で挨拶をした。

 

「はじめまして、皆さん。本日からあなた方の仲間になります棚町京です。

 よろしくお願いします」

 

 恐らく、これから仲間になるのだから少しは仲良くしてくれと言っているのだろうが、そうは聞こえないだろう。

 現に、いまだに警戒している人が大勢いる。

 

「ふぉっふぉっ、棚町君に質問したい者もおるじゃろうが、その前に棚町君の

 

強さどのくらいなのか、見極めさせてもらおうかの。

 相手はタカミチ君じゃ」

 

【なっ!!】

 

 僕は事前に知らされていたので、驚きはしなかったが他の先生や生徒は驚き

 

というか不満があるらしい。

 

「学園長!!なぜ相手が高畑先生なのですか!?」

 

「棚町君の力とこの学園の先生、生徒の力を比べた結果じゃ」

 

「それじゃ、我々はあの素性もわからない奴よりも弱いということですか!?」

 

「それじゃあ逆に聞くがのう、ガンドルフィーニ君。

 君は先程の棚町君がしたことを、きちんと理解しておるかのう?」

 

「そ、それは…」

 

 と、学園長とガンドルフィーニさん達が言い争っていると

 

「ご不満があるようでしたらお相手しますが?

 ええと…」

 

「ガンドルフィーニだ。

 それはどう言う意味だ?」

 

 

 棚町君が、これ以上醜い言い争いを聞きたくないような顔をしながら言ってきた。

 

「そんなに私が高畑先生と戦うのが不満なのでしたら、相手をしますといっているのですけど。

 いいですよね?学園長」

 

「ふむ、みなが不満を持っているのならそれでもよかろう。

 よいかな?ガンドルフィーニ君」

 

「ええ、かまいませんよ。

 このまま、舐められたまま仲間になっても困りますからね」

 

 いやいや、それは逆だと思いますよ…

 そう心の中で言っていたら

 

『高畑先生』

 

『何かな?棚町君?』

 

『一瞬で終わらせますので準備をしていてください』

 

『…わかった』

 

 やはり棚町君自身、エヴァとの訓練によって鍛えられたのか、ガンドルフィーニさんでは力不足だと思っているのだろう。

 現に、今ガンドルフィーニさんと向かい合っている棚町君は、戦闘態勢をとっていない。

 

「棚町君だっけ?」

 

「何でしょう?」

 

「やる気はあるのかね?見るからにやる気がないように思えるのだが…」

 

「思うのではなく、本当にないのですが」

 

「君は喧嘩を売っているのかね?」

 

「あら、年下の私ごときの言葉で、喧嘩を買ってくれるのですか?

 それは何よりです」

 

 おお、なかなか舌戦がうまいな。

 考えが一直線なガンドルフィーニさんが相手とはいえ、口で状況を有利にさせるとは。

 

「それに」

 

「なにかね?」

 

「私は高畑先生が相手だと思っていたのですが、私程度の口で怒るような相手

 

だとは…」

 

「き、貴様…」

 

「あれ?これ模擬戦ですよね?

 まさか始めの合図を聞かないで、自分の感情に身をまかせて攻撃するほど馬鹿なのですか?

 ああ、今までこの人から教わっていた生徒が可哀想で泣けてきますね」

 

「…」

 

「それでは、模擬戦、」

 

 学園長が開始の合図を言うと、ガンドルフィーニさんが身構えたが

 

「始め!!」

 

 

そう言った瞬間、ガンドルフィーニさんのみぞに棚町君の拳が入った。

 

「がっ!!」

 

そして拳の先から無詠唱で戒めの矢を撃って縛った。

 

「なっ!!」

 

「これで終わりね」

 

 そして、いつ出したのか、右手に持っているナイフを首に当てながらそう言った。

 この間僅か約五秒。

 本当に一瞬で倒した。

 

【…】

 

 この場にいるすべての先生、生徒達があまりの攻撃の速さに驚いて固まっている。

 勿論学園長や僕も入れて。

 

「学園長?」

 

「う、うむ。それまで!!」

 

 そういうと持っていたナイフをしまい、魔法を解いた。

 

「怒りに身を任せると、私程度でも一瞬で倒せますよ。

 勿体無いですね」

 

「くっ」

 

 あまりに一方的に負けたのが悔しいのか、まだ認められないようだ。

 学園長の言った通り、やはり僕がやるべきだったか。

 

「学園長、僕がやりますよ」

 

「うむ、頼むわい」

 

 それじゃ、僕の力で神からもらった能力、見定めてもらうよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予想外デース。

 自分から吹っかけてなんだけど、まさかここまでガンドルが弱いとは思わなかった。

 まぁ、流石に冷静な判断が出来ていなかったからだろう。

 あとは、俺についての情報が何も無かったからだろう。

 恐く、次戦う時があったら、こんなに楽には勝てないだろう。

 あと、エヴァからの念話で教えてもらってたけど、ここまで雰囲気が悪いとは思わなかった。

 だから『空間移動』の能力をつかって、驚かせたりなどをしてみた。

 ちなみに、きちんと学園長の許可をもらってやった。

 そして、ガンドルとの戦い。

 不毛な言い争いをずっと聞くぐらいなら俺が我慢して相手になればいいんじゃね?と思って申し込んだ。

 で、あの赤い従者の真似とは言わないけど、ちょっとがんばって舌戦してみたが、ひどいもんだ。

 超初心者の俺相手に負けるなんてどんだけだよ。

 その後、早くタカミチと勝負したいから速攻で倒した。

 無詠唱はエヴァが教えてくれたのだが、ぶっちゃけほとんど自分でなんとかなった。

 さすが『想像を力に変える能力』。

 魔法の出し方を漫画で読んだり、小説のネタのために資料を読んで覚えていたから、この能力のおかげで苦もなく出せた。

 本当にひどい能力だ。

 そして、現在。

 

「それじゃ、今度は僕が相手だよ。

 棚町君」

 

「ええ、受けてたつわ」

 

 おっと、一応言っておこう。

 言っても変わらなと思うけど…

 

「高畑先生」

 

「何かな?棚町君」

 

「本気で、お願いしますよ」

 

「それは君の力次第だよ」

 

 ですよね。

 もし仮に力が弱かったら出す必要がないもんな。

 ま、それはありえないが。

 

「わかりました。ご期待に沿えるようがんばりたいと思います」

 

「期待してるよ」

 

 言うことはなくなったので、いつでも戦闘できるように身を固める。

 

「準備できたようじゃの。

 それでは、模擬戦」

 

「始め!!」

 

 合図を出した瞬間、タカミチが居合い拳を出してきた。

 普通初見で反応できるわけないが、漫画で出てきていたのを覚えているうえ、『直感』のスキルで反応できた。

 数は二発。

 一つは顎に、もう一つはみぞを狙って撃ってきた。

 顎のは右腕で守り、みぞのは右足を九十度時計回りに動かして避けた。

 右腕に当たるが、右腕は強化の魔術で強化しているため全然痛くない。

 

「…まさか防がれるとはね」

 

 タカミチも、こうなることは予想できなかったのだろう。

 少し驚いていた。

 

「この程度ですか?

 そんなわけないですよね?」

 

 挑発するような感じで言ってみたが

 

「はは、確認程度だよ」

 

 と軽く流された。

 やはりあのガンドルとはまったく違うな。

 

「それじゃ、今度は私の番ですね」

 

 使う能力は…説明がめんどいからもう『超電磁砲』でいいや。

 右腕に電気を帯電させ、いつでも撃てるようにする。

 

「雷の魔法?いや、魔力が感じられない。これは…」

 

「考えるのはいいのですが、

 

 隙だらけですよ」

 

 隙があったので、縮地で後ろをとって雷を放った。

 

「一撃目はサービスです。

 避けてください」

 

「くっ!!」

 

 俺の言葉に反応したのだろう。

 あたる直前に瞬動で避けた。

 避けた場所は、雷によって地面が陥没した。

 障壁を使っても、防ぐのは難しいだろう。

 

「すごい威力だね。

 魔法じゃないね」

 

「ええ、まぁ魔法ではないですね」

 

 詳しくはここでは話さないけどね。

 めんどくさいし。

 

「初見で僕の技を見極められたからね。

 本気を出そうかな」

 

「したほうがいいと思いますよ。

 後で後悔すると思いますし」

 

「はは、それはいやだね

 それじゃ、本気で行くよ」

 

 と言うのと同時にあの構えをした。

 

 右手に気

 

 左手に魔力

 

 合成!!

 

 これが、『咸卦法』。

 とりあえず、なんか右手と左手の光を合わせた感じかな?

 見た目的に。

 ただ、圧力というか闘気がさっきの状態とはまったく異なっている。

 これが、タカミチの本気。

 まぁ、ぶっちゃけると俺も能力を使えば使えるけど、使えるだけで扱えるとは限らない。

 恐く、振り回されて、魔力と気が枯渇して自爆するだろう。

 

「それじゃ、本気でいくよ。

 すぐにやられるのはなしだよ」

 

「ええ、それは勿論です。

 観客の期待に応えなければいけませんからね」

 

 と言うのと同時に、俺はさらに強化をした。

 あと、エヴァから教えてもらった魔力供給、『戦いの歌』。

 これを使ってさらに自分を高めた。

 

「はは、さらに気が強くなるとはね。

 けど、見かけ倒しにはならないでね」

 

「それはありえないのでご安心を」

 

さて、それではごらんいただこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

神からもらった能力を。

チート全快の能力を…



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力の使い方

 タカミチが『咸卦法』をし、京が『戦いの歌』を使って静かに睨み合った状況が続いた。

 最初に動いたのは京だった。

 縮地でタカミチの真正面に移動した。

 はっきり言って、なぜそのような行動をしたのか私にもわからんが、タカミチは手加減なく豪殺居合い拳を放った。

 だが、それが京にあたることはなかった。

 京はそれにあたる瞬間、右斜め前に飛び込んで避けた。

 

「はっ!!」

 

 右腕が地面に着いた時、それを軸に体を反時計周りに回りながら、魔力を込めた左足をタカミチに叩き込んだ。

 タカミチは驚きながらも、冷静に左腕をポケットからだし攻撃を防いだ。

 

「くぅっ!?」

 

 その蹴りは思った以上に強く、防いだはずのタカミチは吹っ飛んだ。

 タカミチは吹っ飛ばされながらも、ポケットにしまっている右手で居合い拳を放った。

 京は当たらないようその場を飛んだが、無理して飛んだため態勢が崩れてしまった。

 タカミチはそれを予想していたのか、豪殺居合い拳を京に向かって放っていた。

 その攻撃はほぼ直撃コース。

 今の棚町の状態で、その攻撃を避けるのは厳しいだろう。

 だが、棚町は

 

「ふふ」

 

 不敵な笑みを浮かべなから、真横に避けた。

 

「ほう」

 

 恐く、瞬動を空中で行う『虚空瞬動』を行ったのだろう。

 ふざけた能力を持ってはいるが、少なくとも数日で使える技ではない。 

 避けた京は、タカミチが吹っ飛ばされた場所に向かって電撃を放った。

 それに気づいたタカミチは、すぐに態勢を整え豪殺居合い拳を放ってなんとか相殺した。

 京は、相殺したときにでた煙の中に突っ込んだ。

 煙から出ることなくその中から電撃を放っているが、タカミチは危険を察知し煙の前から瞬動で逃げたため、当たることはなかった。

 

 が、その行動は全く意味がなかった。

 

「ここに移動するのはわかっていましたよ。高畑先生」

 

 タカミチが瞬動で移動した先には、煙の中に突っ込んでいたはずの京がすでにいたのだ。

 恐らく瞬動で移動したのだろうが、気配がなさすぎる。

 ここまでくれば、縮地の最高レベルである。

 これほどの縮地ができるのは、学園内だけでは私ぐらいだろう。

 別荘を使ったとはいえ、まさか数日でここまでとは…

 

「解放。魔法の射手・収束・雷の二十矢」

 

 移動した直後で動くことができないタカミチを狙って、京は右手で殴りながら魔法の射手を放った。

 タカミチは殴られる前に、『咸卦法』の密度を上げてなんとか防御した。

 

「ぐはっ!!」

 

 しかし、それで完全に防御できるはずもなく、腹に直撃したタカミチは苦悶の表情になり、血を吐いた。

 そして、京はここから逃がさないと言っているかの如く、タカミチの周りを囲むかのように電撃を放った。

 さながら爆弾が爆発したのような爆音をだし、地面に雷撃が当たったためさっきの京が放ったのと同じように土煙がでた。

 タカミチの周りに放ったため、たとえ魔法の射手付きの拳に耐えることができても、その場から動くことはできないだろう。

 現に、煙の中からタカミチが出てこない。

 ダメージが大きくて動けないのか、雷撃によって動くことができなかったのか…

 どちらにせよ煙がはれない限り、二人がどうなっているのか分からない。

 

 そして、煙が徐々にはれて二人の様子が見えるようになった。

 

『!!』

 

 その様子を見た魔法使い共が驚いた。

 なぜなら…

 

 タカミチは仰向けに倒され、京は馬乗りになりながらその上に乗っている。

 京は右手に真っ黒の剣を持っていて、その切っ先を首に向けていた。

 これで勝敗は決した。

 そのことを高らかに宣言するかの如く、京は言った。

 

「私の勝ちですね。高畑先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電撃を放ったことででた地面の砂を、電磁石で集めて作った剣を高畑先生に向けながら、俺は勝利宣言した。

 ふぅ~~~。

 なんとか勝つことができた。

 はっきりいって少しやばかった。

 さすがチート能力。

 戦闘初心者が、『虚空瞬動』使える時点で意味がわかんないし、ポンポンと次の行動予測ができるとか、半端ない。

 ただ、まだ完全に使いこなせてないし、行動予測と俺自身の動きが微妙に追いついていないから、その部分がタカミチに気づかれると勝てなくなるから、速攻で勝負に勝つしかなかった。

 

「そこまでじゃ。勝者は棚町君じゃな」

 

 学園長がそう言うと俺は能力を解除し、タカミチを起き上がらせた。

 

「ふう、強いね。棚町君。

 本気出して手も足もでないとはね」

 

「いえいえ、高畑先生が最初っから本気で戦っていたらやられていましたよ。

 あと、高畑先生が見たことがない技を使いましたので、逆に勝てないほうがおかしいですよ」

 

「ははは、まぁそうだね」

 

 あと、付け加えるなら場所が俺にとって有利に働いた。

 タカミチの攻撃は、豪殺居合拳からわかるように、広範囲攻撃を主体としている。

 もし、場所がエヴァの別荘だった場合、周りを気にする必要がないため、遠慮なく豪殺居合拳を使えるため、恐く手も足も出なかっただろう。

 

 と、互いが互いを褒め合っていると、先程秒殺されたガンドルがきた。

 

「一つ質問したいのだけどいいかな?」

 

「なんでしょう?」

 

「君はその力を何の目的に使うのかね?」

 

 ああ、やっぱりそういう質問しますか。

 まぁ、当然といえば当然だろうな。

 麻帆良のなかで一番強いと言われるタカミチを倒すほどだ。

 その力を、どのような目的に使うのか聞きたいのだろう。

 

「私は…」

 

 目的はもう決まっている。

 歓迎会の時に心に決めたのだ。

 

 

「私を友達と思ってくれている人達、私を助けてくれた恩人を守るために使いたい。

 そう思っています」

 

 

 違う世界から来た俺を助けてくれたエヴァ、タカミチ、学園長。

 俺を友達として歓迎してくれた2-A(一人を除いて)。

 恩を返す感じだけど、俺は前の世界ではここまでよくしてくれたことはなかった。

 だから、感謝という意味でチートであるこの能力を使って守りたい。

 そう思ったのだ。

 

「その人達を守るために使う…か」

 

 やはり立派な魔法使い(マギステル・マギ)として、そこは世のため人のために使って欲しいのだろう。

 ほとんどの魔法先生、生徒が微妙な顔になった。

 

「ほほ、素晴らしい目的じゃ。

 儂はいいと思うぞい」

 

「僕も同じ意見ですね」

 

 と学園長とタカミチは、応援するという意志を示してくれた。

 

「棚町君に質問したい人もおるじゃろうがもう夜も遅い。

 また後日、個別に質問することにしようかの」

 

 確かにもう夜も遅い。

 明日も学校はあるのでもう解散するべきだろう。

 

「今日の会合はこれにて終了じゃ。

 解散!!」

 

 そういうと皆言いたいことがあると思うけど、学園長の言うとおり素直に帰った。

 さすがに上の命令に逆らってまで質問する奴はいないか。

 そう思って、エヴァの家に帰ろうとしたら

 

「ちょっといいかな?」

 

 と龍宮が尋ねて来た。

 

「どうしたの?

 学園長の言う通り、もう夜遅いから明日にしたほうがいいと思うけど…」

 

「いや、用があるのは私ではなく刹那のほうでね。

 私はその伝言としてね」

 

 ああ、なるほど。

 つまり

 

「刹那本人は、歓迎会前のことを気にして直接呼びにくいから龍宮に頼んだと」

 

「そういうことだよ」

 

 やはり…

 めんどくさいけど、この後の事を考えるとここで良い関係を築けたらと考えたらいいかな?

 

「わかったわ。

 とりあえず、ついていけばいいのかしら?」

 

「ああ、すまないね」

 

 俺は龍宮についていくことにした。

 

 

 

 刹那の考えは、あの時と変わっているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 




戦闘を少し短めにしました。
模擬戦だし、周り市街地だしと考えたからです。


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心の思い

急展開すぎてごめんなさい。


 彼女の戦いは素晴らしかった。

 学園の中で学園長を除いて、一番強い高畑先生を無傷で倒した。

 しかも、彼女はあれで本気を出している感じではなかった。

 彼女が味方になると考えると、とても心強い。

 しかし、私たちはまだ彼女がなぜその強大な力を使うのか、その目的を知らない。

 だから、さらに警戒するのは当然のことだと思う。

 そして、ガンドルフィーニ先生が代表で質問してくれた。

 その力は何のために使うのか。

 その質問に彼女は、友達を守るため、恩人のために使うと言った。

 友達というのは、恐らく2-Aのことだろう。

 つまり、お嬢様を守ると言っているようなことだ。

 素晴らしいことだと思う。

 けど、本当にそう思っているのか。

 心の底からそう思っているのだろうか?

 その場凌ぎに言っているのではないのか?

 彼女について何も知らない私は、彼女の言ったことを信じることができなかった。

 だから、私は真名に頼んで彼女を呼んでもらうことにした。

 自分で呼べばいいのだけど、歓迎会前のやりとりの後だから行けなかった。

 言葉を聞いても信じることができない。

 なら、手段は一つ。

 

 

 剣を使って思いを聞くだけだ…

 

 けど、この時私は気付いてなかった。

 本当に戦いたい理由を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍宮について行くと、桜通りについた。

 原作でエヴァが吸血行動をしていた所だ。

 今の時期は紅葉で風が吹くと、紅く色づいた葉っぱが舞って風流があった。

 そして、その風流ある桜通りの真ん中に俺を呼んだ奴がいた。

 

「どうも、桜咲さん。

 私になにか御用ですか?」

 

「…」

 

 俺の質問に答えず、ただ平然と立っている。

 恐らく、俺の力の使い方に対してのことだと思うが…

 

「あなたは…」

 

「?」

 

「あなたは、高畑先生を倒す力を友人や恩人を守るために使う。

 そうおっしゃった」

 

「ええ。それがなにか?」

 

「だけど、私はまだそのことを信じれるほどの信頼、情報を得ていません」

 

 なるほど。

 つまり、

 

「高畑先生を倒すことと、信頼を得ることは関係ないと」

 

「そういう事です」

 

 まぁ、確かにそう思うだろうなぁ。

 俺がもし逆の立場だったら、突然現れて味方の中で一番強い人を倒して、その後綺麗事を並べて信用してくれって言われても困るだろうなぁ。

 

「じゃあ、どうすればいいのかしら?」

 

「…私は、あまり賢い人ではありません」

 

 認めたよ。自分で認めたよ、この人。

 と言っていると、刹那の雰囲気が変わった。

 

「だから、私はこの剣を使って確かめたいと思います」

 

 と言うのと同時に剣を抜き戦闘態勢に入った。

 

「けど、私は高畑先生を無傷で倒せるあなたに勝てる気がしません…」

 

 そう言いつつ気を溜め、そして

 

「ですので、不意打ちでいかせてもらいます!!!」

 

 瞬動で距離を詰めて、気を溜めた夕凪で斬りかかってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 棚町さんは、あの高畑先生を倒すほどだ。

 だから、バレないように剣に気を少し溜めて斬りかかった。

 しかし、

 

 棚町さんはどこから出したのかわからないが、刀が入っている状態の日本刀の鞘で、平然と刹那の攻撃を受け止めていた。

 

「な!!」

 

「まぁ、あの模擬戦を見たら、真正面から斬りかかってくるようなことはしないわね。

 なかなかいい判断だけど、気が刀から漏れていたから助かったわ」

 

 あの気を感じたのか。

 確かに気を溜めていたけど、それは数で表すなら一から五とわずかに増えたレベルだ。

 これは魔法生徒は勿論、先生でも気付くのは難しいほどの量だ。

 それを当たり前のように感じるとは…

 

「あと…」

 

 棚町さんが何か言うのと同時に

 

「行動が遅いわ」

 

 私の刀を右手に持ってた剣で受け流し、態勢を崩された瞬間、棚町さんがいつの間にか、気を溜めていた左手で私の腹を殴ろうとした。

が、しかしまるわかりです。

 

「その攻撃はよんでました」

 

 私は両手で持っていたのだが、右手だけにし空いた左手で、棚町さんの左腕に叩きつけて攻撃を逸らそうとした。

 そうすることで、棚町さんは態勢を崩し、その隙に体を時計回りに回転しながら斬りつけようと私は考えた。

 しかし、それが成功することはなかった。

 

「その言葉、そっくりそのまま返すわ」

 

 棚町さんは、殴ろうとしていた左手を使って私の右腕を掴み、そのまま体を時計回りに回りながら遠心力を利用して投げた。

 

「な!!くっ!!」

 

 私は投げられながらも、必死に態勢を整えようとした。

 しかし、棚町さんの攻撃を逸らそうと左手で力いっぱい叩きつけようとしたため、その分の力+棚町さんの投げる力が合わさって体が時計周りに回転していた。

 私は、態勢が整えることができず、そのまま地面に激突した。

 

「ぐはっ!!」

 

 棚町さんは、そのまま追撃できたのだが、やらずに先程投げるときに使っていた左手の感覚を確かめていた。

 そう、あたかもおまえはいつでも倒せるぞと、言っているような感じだった。

 

「はぁ、神鳴流ってこの程度ですか?

 あ、そうね。神鳴流が弱いのではなく、あなたがよわいのですね?

 ああ、納得しました」

 

「くっ…」

 

 棚町さんの言葉に少しイラつきを覚えながらも、私はなんとかたって見せたが、あまりの衝撃の強さに苦悶の表情を隠せないでいた。

 また、気を溜めていた左手で私の右腕を掴んで投げられたため、右腕の調子がおかしい。

 なんとか動かすことはできるが、百%の力を出すのは難しいだろう。

 けど、それでも戦うことはできる。

 なら、全力を出しきるまでだ。

 

「へぇ、立てるのね」

 

「当然です。

 まだ、確かめ終わっていません」

 

「真面目ね」

 

 と言いながら、棚町さんは魔力を溜めていた。

 

「なんで、そんなに確かめたいのかしら?」

 

「それは、あなたの言っていることが信じられないかr」

 

「違うわね」

 

「何が違うのですか?」

 

「もっと素直になりなさい。

 あなたのように、遠まわしに守るのではなく、自分の思いで守ることができる私に嫉妬しているのでしょう?」

 

「…なに?」

 

「あなたの任務は、近衛木乃香の護衛。

 けど、あなたは理由があって木乃香の近くで守ることができない」

 

「けど、高畑先生より強い私が、近くで守ることになったら遠くで守ってるあなたの意味が無い。

 だからあなたは嫉妬してるのではないかと」

 

「そんなことはない!!」

 

「それなら、なぜこんな勝者がわかっている無意味な戦いをしているのかしら?」

 

 反論しようとしたが、私は図星に近い感じになった。

 …ああ、そうか。

 だから、私はこんな無意味なことをしているのか…

 

「…あなたに」

 

「?」

 

「あなたに、私の何がわかるのですか!!」

 

 そう、私の過去も知らずに嫉妬をしていると、勝手に言われる筋合いはない。

 

「あら?私、先程言わなかったかしら?」

 

「え?」

 

「あなたは、とある理由で近づくことができないって」

 

 …まさか、この人は私の正体を知っている?

 そんなはずはない!!

 

「あなたの背中には、白い何かが付いている」

 

「な!!」

 

 そんな…なんで知っている?

 

「なんで知っているのですか?」

 

「企業秘密。それより

 

 隙だらけよ」

 

 !?

 しまっ!!

 

 私は話に気を取られすぎて、棚町さんの魔力が篭った拳を避けることができなかった。

 その拳は、見事に私の渠に当たった。

 

「がっ!!」

 

 気を高めて防御したが、そんなのは棚町さんの拳では雀の涙程度の防御ぐらいにしかならない。

 私は、そのまま吹っ飛ばされた。

 

「あなたの護衛は間違っている。

 遠くから見守って守ることが護衛なわけがない。

 それは監視と言ってもいいわ」

 

「ぐっ…」

 

 ダメージが大きすぎて、立ち上がるのという行動が苦しい。

 けど、なぜか棚町さんの言葉が心に響く。

 

「護衛というのは、護衛対象の近くで守ることを言うのよ?

 けど、あなたは何をしているのかしら?

 遠くでただ見ているだけで歩み寄ろうとせず、本当にただ見ているだけ。

 そんな奴が、護衛しているとか言わないで欲しいわ」

 

 いや、違う。

 心に響くというより…

 

 私の心を燃え上がらせるような感じだ。

 

「…だまれ」

 

「ましてや、誰かを護衛できるほど強くもないのにね。

 自惚れるのもいい加減にしなさい」

 

 聞いているうちに、先程まで立つこともできなかった体が動き始めた。

 

「だまれ!!」

 

「図星を突かれたからと言って、逆ギレするのは良くないわ。

 だって本当のことでしょ?」

 

 そして、私はもう我慢することができなかった。

 

「だまれ!!!!

 お前に何がわかる!!」

 

 気を無意識に放出し、そのまま瞬動で棚町さんの懐に移動した。

 そして居合い抜きする感じで棚町さんに斬りつけた。

 が、しかし、

 

「見え見えよ」

 

 棚町さんは刀を抜くこと無く、鞘で私の攻撃を受け流された。

 私は居合い抜きで刀を抜きながら、体を時計回りに回転しながら斬りつけた。

 

「私のこの剣はお嬢様を守る剣だ!!

 だからこそ、護衛の任務に就いた!!」

 

 しかし、この攻撃も鞘で受け流された。

 棚町さんは、私の攻撃を受け流すだけで、反撃をする素振りすら見せようともしない。

 私はそれにイラつきを覚えながらも攻撃を続けた。

 

「遠くで見守りながら守ることは、そんなにいけないことなのか!!」

 

「あなたは木乃香に知られたくないのでしょう?

 本当の姿を」

 

 私はこの言葉で止まってしまった。

 

「本当の姿を知られたくない。

 けど、木乃香を護衛したい。

 だから遠くで見守って護衛するしかない。

 そうでしょう?」

 

 それは、まさに私の心を完全に突かれた言葉であった。

 

「…なら」

 

「?」

 

「私はどうしたらいい!?」

 

 私の心の中は、完全に混乱していた。

 先程まで激情していた心に、さらに悲しみの感情が入れ混じって混乱していた。

 

「私は、一族の掟で知られていはいけない。

 けど、私はお嬢様を守ると心に誓った。 

 なら、私の取るべき行動は遠くで見守って護衛するしかないではないか!!」

 

 私の泣き言の言葉を、棚町さんは真剣な顔で聞いている。

 棚町さんの顔を見ながら、私は言葉を言い続けた。

 

「お嬢様は私の、昔からの幼馴染みであり最初の友達だ。

 ずっと迫害されてきた私を、友達として見てくれた。

 そのお嬢様を守ろうとする気持ちがそんなにいけないことか!!」

 

「それじゃ、あなた」

 

 

「そういう行動をされている木乃香の気持ちを、考えたことはあるのかしら?」

 

 

「!!!」

 

「剣の修業で忙しいあなたに会うことができずそのまま麻帆良に転入し、あなたが麻帆良に転入しても、あなたは木乃香と距離を置く。

 幼馴染みのあなただからこそ会って話がしたかった。

 けど、あなたはそれを拒否した。

 それがどれだけつらいことか、あなたにはわかる?」

 

「…」

 

「結局あなたは、自分のことしか考えていないじゃない」

 

 私は、私は…

 

「なら、わ、私はどうしたら、ええの?」

 

「簡単よ。距離を縮めなさい」

 

「せ、せやけど」

 

「別に過去を話しなさいと言っているわけではないわ。

 ただ、幼馴染みとしての距離に戻しなさいって言ってるのよ」

 

 けど、私は今までひどい行動をしてきた。

 それをお嬢様は許してくれるのだろうか?

 

「はぁ、仕方ないわね。

 桜咲刹那」

 

「?」

 

「この後、私は技をだしてこの勝負を決めるつもりだけど、そのときその技を耐えることができたら、あなたは今まで通りの態度で構わないわ。

 けど、耐えることができなかったら、私の言った通り元の関係に戻りなさい」

 

「なっ!!」

 

「あなたに決定権はないわ。

 こんな無意味な争い、すぐに終わらせるべきだし、なによりあなたの考えを待っていたら朝になりそうだからね」

 

言い返せない…

まさにその通りだから反論することができない。

 

「本気でいくわよ。

 あなたが受け止めればいいのだから、そんなに難しく考える必要はないわ」

 

 簡単に言う。

 今の私の体では、あまりにも万全とは言い難い。

 その状態で、あの高畑先生に勝つ人だ。

 とてもではないが、受け止めるのは難しいだろう。

 けど、それでも諦めることはできない。

 私は全力で受け止める!!

 

「覚悟はできたようね。

 それじゃ、

 

 本気でいくわ」

 

 その瞬間、

 とてつもない闘気が私に襲いかかった。

 

 それは、まさに虎に睨まれているうさぎの如く。

 私は体の震えを止めることができない。

 けど、私は構えを崩すという愚かなことはしない。

 私の行動は、誰にも縛られること無く自分で考えていく。

 そのためにも、私は負けるわけにはいかない!

 

 棚町さんの構えは居合い抜きの感じに腰を低くし、剣を抜けるようにして構えている。

 恐らくその姿勢からして居合い抜きをするのだと思うが…

 

 

「我流…」

 

「十文字斬り!!」

 

 

 それは、まさに全ての行動が神速といっても間違えではなかった。

 一瞬にして私の懐にくる速さ、刀を横、縦と振るう速度、全てが異常なまでの速さだった。

 私は、懐に来たときに反応することができて、刀を少し抜くことができたため、生身で受けるということにはならなかった。

 しかし、そのあと、横払いと縦払いの刀の振るう速度が異常だった。

 完全に同時攻撃とはいかないが、ほぼ遅れなく攻撃が来た。

 これこそ、まさに十字斬りといってもいいぐらい、惚れ惚れする技だった。

 この技を、私はなんとか受け止めることができた、のだが…

 

「なっ!!」

 

 なんと、棚町さんは気を圧縮して技を出していたため、斬空閃のように斬撃をとばすような感じになったのだ。

 斬撃の重さ、気の圧力に負け、私は受け止めながら吹っ飛ばされた。 

 このまま吹っ飛ばされるのかと思ったのだがそれはなかった。

 障害物に当たったわけでもないのに、背中に衝撃が走った

 

「ぐはっ!!」

 

 まるで壁に激突したかの如く、後ろには何もない場所で私の体が止まっていた。

 そして衝撃が走った瞬間

 今まで受け止めていた斬撃が爆発した。

 

「ああああああああ!!」

 

 先程の衝撃とほぼ同時に爆発したため、二つからくる痛みに耐えきれず私は絶叫した。

 そして、視界が暗くなっていくのを感じながら倒れた。

 私は、私は…

 

 

 

 

 

 

 ああ、体の節々がものすごく痛い…

 無理にカッコつけようとして十文字斬りを試してみたけど、今の俺の体では一回が限度だな。

 現に、無理して振った右腕が戦闘ができるほど動かすことができない。

 けど、なんとか刹那を倒すことができた。

 あんなこと言ってたけど、ぶっちゃけると早く元の関係に戻って欲しいと思っていたから、ちょうどいいやって思って、あんなことを言っていたんだけどね。

 まぁ、別に困ることもないしいいんじゃね?

 と自分で自己完結していたら、倒れた刹那を抱えて龍宮がこっちに来た。

 

「お疲れ」

 

「ええ、もう本当にいろいろな意味で疲れたわ」

 

「まぁ、刹那にはいい薬になっただろう。

 私は刹那を連れて、このまま寮に戻る」

 

「私も家に帰るわ。夜も遅いし」

 

「ふふ、ではまた明日学校で会おう」

 

「ええ、おやすみ龍宮。

 そっちの娘が起きたら伝えてくれるかしら?」

 

「なにをだい?」

 

「あなたの行動、楽しみにしているわと」

 

「わかった。そう伝えておこう」

 

「ありがとう。では、おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ」

 

 ああ、やっと今日の日程が終わった。

 さて、家に帰って茶々丸特製の飯でも食いますかな?

 

 

 

 

 

 

 ふぉっふぉっふぉ。

 棚町君が龍宮君に付いて行かれるのを見て、少しその様子を見させてもらったのじゃが。

 まさか刹那くんの問題を、少しとはいえ解決してくれるとはのう。

 助かるわい。

 これで、あの正直な刹那君は行動を起こさねばなるまい。

 

「しかしのう…まさか高畑君に勝つとはのう…」

 

 正真正銘神様から授かったとはいえ、無傷で勝つとは…恐れ入るわい。

 

「まぁ、人手不足の状況では願ったり叶ったりじゃ」

 

 独り言を呟いていたら

 机の上にいきなり黄金色の手紙が現れた。

 

「これは、もしやあの神様の手紙かのう?」

 

 とりあえず、儂はその手紙を見てみた。

 

「ふむふむ、これは…」

 

 

 

 

 

 

 

そして、この手紙こそ本当の始まり、そしてあの男の始まりの手紙であることを、儂は知る由も無かった…



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始まりの出会い

超展開に続く超展開。やっと、ここまで来た…


「ん…んぁ」

 

 小鳥のさえずり、朝日の眩しさに俺は目覚めた。

 刹那との戦いの後、茶々丸特製の晩飯を食って、別荘に行ってエヴァと茶々丸、チャチャゼロと一緒に鍛錬をした。

 タカミチを無傷で倒せたといっても、能力をもらってからまだ数日しかたっていない。

 完全に使いこなせるよう近、中、遠距離戦それぞれの戦い方や、エヴァから魔法を教えてもらったり、能力確認などを別荘で二日程した後家に戻ってちょっと雑談して寝た。

 そして今に至る。

 

「ふぁ~、良く寝た~」

 

 まぁ、良く寝たと言ってもあまり寝てないんだけどね。

 

「おはよう、紅蓮」

 

 ベットの近くに置いてある斬魄刀、”紅蓮”に朝の挨拶をした。

 すると、それに応えるかのように、少しだけ紅蓮が青色に光った。

 制服に着替えた後、リビングに行ってみると、エヴァはテーブルに座っていて、茶々丸は朝食を作っている

 チャチャゼロは椅子の上に置かれていた。

 

「おはよう、エヴァ、茶々丸、チャチャゼロ」

 

「おはよう、京」

 

「おはようございます、京さん」

 

「ヨウ、ミヤコ」

 

 皆にあいさつした後、茶々丸が作ってくれた朝食を皆で食べる。

 

「ああ、そうだ京」

 

「何?エヴァ」

 

「ジジィから電話がきてな、今日の夜昨日と同じ時間、同じ場所にきて欲しいそうだ」

 

「理由は?」

 

「その時に話すだとさ」

 

「ふ~ん」

 

 なんだろう?

 また全員での顔見せをするわけがないし、本当になんだろう?

 

「ちなみに、タカミチとジジィと私と京、あと茶々丸だけだとさ」

 

「あれ?全員じゃないんだ」

 

「どうやら、京についてのことらしい。詳しくは教えてくれなかったが」

 

「なるほどねぇ…」

 

 まぁ、俺のことに関することだから一々説明するのもめんどくさいのだろう。

 これ以上増やせないだろう。

 

「まぁ、とりあえず学校に行きましょう」

 

「だな」

 

 とりあえず、学校に行くことにしてこの話は終わりにした。

 

 その後、エヴァ達と一緒に教室に着く途中刹那と龍宮に会った。

 龍宮は、俺に向かって会釈したが、刹那は顔を背けてそのまま教室に向かった。

 けど、その時に見えた刹那の顔は、少し落ち込んでいるような表情をしていた。

 その後は何事もなく学校生活を送った。

 

 そして、ついに約束の時間になった…

 

 俺たちは世界樹前広場に行った。

 その場所には俺、茶々丸、エヴァ、チャチャゼロ、タカミチ、学園長の四人と一体が集まった。

 ここには、俺の事情を知っているメンバーしかいない。

 いったい、何が始まるというのだろうか?

 

「おい、ジジィ、呼んだ理由を教えろ」

 

「そうじゃの。実は、昨日あの模擬戦が終わった後、儂の机の上にこの手紙が置いてあったんじゃ」

 

 そう言って、見せてくれたのは金色の紙だった。

 

「その紙って…」

 

「そうじゃ。神からの手紙じゃった」

 

 

 私に手紙を渡すのではなく、ここの最高責任者である学園長に渡した。

 そこから推測できることは…

 

「内容は、今日この時間に集合するように、という内容かしら?」

 

「そうじゃ。詳しいことは今日説明するとのことじゃ」

 

「つまり、直接会いに来るっていうことかしら?」

 

「そうらしいのう」

 

 直接会いに来るということは、何かを渡すことなのか、それとも…

 

「どうせ、京に関係することだ。

 何か渡すということだろう」

 

 

「少し違うな、エヴァンジェリン・AK・マクダウェル」

 

 

「「「「「!!!」」」」」

 

 エヴァが呟く、とその後ろにいきなり神が現れた。

 

「そんなに驚くことはないと思うが」

 

「確か、あのとき魔法陣から登場しなかったかい?」

 

「ああ、あれはめんどくさいからこの方法にした。

 前のは、演出のためと言ったほうがいいかな」

 

 めんどくさいって…

 

「で?なんで私たちをここに呼んだのかしら?」

 

「説明する前に少し準備させてくれ。

 時間がないんだ」

 

 と言いながら神は地面に手をかざし、何かの陣を出した。

 え?ちょっと待て。この陣は…

 

「何をしたのかのう?」

 

「ただ召喚陣を出しただけだ。

 その後のことは、そこにいる棚町にさせるつもりだ」

 

 俺はこの陣を知っている。

 

「棚町よ。君にこれを渡そう」

 

 そう言って渡してきたのは赤い宝石だった。

 アーチャー、『エミヤ』が召喚される原因、触媒になったものだ。

 

「…これを触媒に召喚しろと?」

 

「まぁ、簡単に言うとそうなるな。

 ただ、今回のはちょっと意味合いが違う」

 

「どういうことじゃ?」

 

「今回のは違う。こっちで召喚という方法を使うことで、世界からこの世界に呼び寄せるための通り道を作るということだ。

 簡単に言うとあっちが送信、この召喚陣は受信用の陣と言うことだ」

 

「なんでそんなめんどくさいことをするのかしら?

 私のように、あなた自身が呼び寄せればいいのではないのかしら?」

 

「棚町のような違う世界の人間を、そう何回も送り出すと世界の拒絶反応、抑止力がひどくなる。

 元からいない人間を呼ぶのだからな」

 

「つまり、異物が混入されたのだからそれを除去するという感じ、でいいのだな?」

 

「そういうことだ」

 

 となると、俺という存在がここにいる以上絶対抑止力は現れるのだろう。

 

「だから、今回は違う世界の人間を、この世界に召喚するという方法を使うことで世界からの拒絶反応を弱くする。

 けど、この世界にとって異物である以上、結局抑止力は発生するのだがな」

 

「直接神が関わるよりかはひどくないって言うことでしょう?」

 

「そういうことだ」

 

 俺が召喚をするということで、世界は俺が召喚をしたと認識し、抑止力を出しにくくなるということか。

 けど、異物を混入しているということに変わりはなく、神がやるよりかはましになるというだけで、結局抑止力は出でしまうのだろう。

 ややこしいなぁ、おい。

 

「で?なぜこんなことをしてまで、違う世界の人間を呼ばないといけないんだ?」

 

「…ある世界に一人の男がいた。

 

 その男は自分の理想のために、自分を犠牲にしてまでいろいろな人を助けた。

 しかし、男は自分はただ人が救いたいだけで、恩をもらうためにやっているのではないと、助けられた人間から何一つ恩をもらうこと無く救い続けた。

 結局、その男は行き過ぎた行動から、世界に裏切られて死んでしまう。

 その世界の神はそれを見て、こう言ったんだ。

 

『俺は神だ、人間を平等に見ることが使命だ。その神が恩を一度足りとも恩をもらうこと無く、それどころか仇で返される人間を黙ってみることなどできない』

 

 だから、その男を違う世界に飛ばすことを決めた。

 しかし、その男をただ違う世界に飛ばすと、飛ばした世界がその男を抑止力という名で潰しにかかる。

 そこで、選ばれたのが棚町なのだ」

 

「私?」

 

「そうだ。一番いい方法が召喚なのだが、飛ばしたい世界の住人がその方法をすると世界が混乱してしまう。

 そうだろう?元からいない人間を呼び寄せる上に、その召喚方法も知らないのにそれを神が直接教えるとなれば、それこそ神がやるよりひどいことが起きる。

 しかし、棚町は元々は違う世界の人間。

 しかも、趣味でマンガやアニメの設定を覚えている。

 その覚えている知識の中にある召喚方法を使えば、抑止力の度合いが弱くなる」

 

「なるほどのう」

 

「というわけで、すまないがやらせてもらうぞ近衛近右衛門。

 拒否権はないがな」

 

「いや、そのような事情があるのならば別にかまわんぞい。

 のう、タカミチ君」

 

「ええ、僕もいいと思います」

 

「では、早速やってもらおう、棚町」

 

 神からもらったのは、生涯衛宮士郎が持ち続けていた赤い宝石。

 つまり、fateでの召喚方法をすればいいということだな。

 

「告げる―――」

 

「汝の身は我が剣に、我が命運は汝の剣に――」

 

「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ――」

 

 詠唱していくうちに、神が俺の体に付けた魔術回路が悲鳴を挙げていく。

 初めて魔術回路を使うため、大量に体中に動き回る魔力は、俺にとって耐え難い痛みだ。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 けど、耐えてみせる。

 俺が召喚することで、あの士郎が救われるのならば。

 絶対成功させてみせる!!

 

 そして、

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 最後の行の詠唱を言い終えるとともに、限界まで魔術回路が加速した。

 同時に、召喚陣から猛烈な風と閃光が発せられた。

 その場にいた全員は、風と光により目を開けることができなかった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 限界まで使用した魔術回路の痛みに耐えながら、俺は召喚陣から発生する風と光が収まるのを待った。

 

 そして、徐々に収まり目を開けてみると

 

 そこには赤い聖骸布に身を纏った男がいた。

 

 ただ、原作のアーチャーとは違い、髪の毛が真っ白ではなく主人公衛宮士郎の髪の毛と同じ赤色で、肌の色も褐色肌ではなく普通の色になっていた。

 色々と考えていると、その男は俺と目が合った。

 そして、俺と男は自然と言葉を発した。

 

 

 

「「問おう。あなたが「俺」「私」の「マスター」「サーヴァント」か」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 後に、この瞬間こそ俺と剣製衛宮士郎の麻帆良での、人生の始まりであり、物語の始まりを意味するのだと理解するのだった…



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幕間 終わりの始まり

とある日…

「さて、たまにはランキング見てみるか」

「ん?4位か。4位ねぇ…
 
 4位!!(;゚Д゚)!」

ほんと、恐れ多いことです。
お気に入りに登録している方々、評価してくださった方々、見てくださっている方々、本当にありがとうございます。


 俺は正義の味方になりたかった。

 九を救い、一を捨てるのではなく、十すべてを助ける存在になりたかった。

 あの聖杯戦争で前者になって、世界と契約した未来の俺にならないために、必死に色々なことを学んだり経験したりした。

 

 遠坂と一緒に、倫敦にある魔術協会に行って魔術について学び、

 

 シエルさんから、鉄甲作用を付けた黒鍵の投擲術を学び、

 

 バゼットさんから素手での近接戦闘を学び、

 

 遠野志貴と出会う毎に殺し合いながら、七夜の体術を(完璧ではないが)見て盗み、

 

 橙子さんから、魔術についてさらに詳しく教えてもらったり、

 

 両義さんに、兼定を投影した物をやって本気状態になって殺りあったり、

 

 真祖の吸血鬼であるアルクェイドさんや、死徒二十七祖のアルトリュージュさんなどとなぜか殺り合ったり、

 

 なぜか分からないけど、青子さんに気に入れられ、死合という名の模擬戦をしたり、

 

 メレム・ソロモンが、俺の固有結界が珍しいということで、見せる代わりに自身が持ってる宝を見せてくれたり等、

 

 今思い返せば、生きているのが不思議な程の人生を過ごしてきた。

 そして、それらを使って紛争地域に行ったりなどして、色々な人達を救ってきた。

 けど、魔術の秘匿を無視して救ってきたせいなのだろうか。

 魔術協会が俺を封印指定をして、俺を捕まえるために行動してきた。

 様々な手段を用いて、魔術協会から逃げながら正義の味方のような行動をしてきた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 しかし、組織対個人では限界があった。

 今、俺は致命傷を負っている。

 

 ある紛争に参加して、俺はいつも通り人を救おうとしていた。

 しかし、魔術協会も俺を捕まえるために、その紛争に参加してきた。

 俺はそれを知ってはいたが、紛争に巻き込まれている人達を見捨てるわけにはいかず、そのまま参加した。

 

 紛争が収まりそうになったとき、協会側は焦ったのだろう。

 最初は戦闘の流れ弾みたいにして俺を狙っていたのだが、全く効かないとわかり直接挑んできた。

 沢山の模擬戦のおかげで、苦も無く倒せると思っていた。

 けど、魔術の流れ弾が無関係の人に当たりそうになった。

 俺が庇うことで、なんとか当たらずにすんだが、当たり所が悪く致命傷になってしまった。

 それでもなんとか魔術師を倒すこができた。

 

 そして現在、協会側からの追撃を逃れるため、痛む体を無理して逃げている。

 

「はぁ、はぁ、これは、まずいな…」

 

 喰らったのが攻撃魔術と呪いの魔術の融合型の魔術だったため、ただでさえ致命傷なのに呪いのせいで悪化している。

 アヴァロンのおかげで傷は塞がってきたのだが、先程の戦闘で魔力がほとんど残っていない状態で使ったため、皮膚が塞がっただけで消費した血と、抉れた臓器の修復ができていない。

 まぁ、その場で死んで協会側に遺体を回収されるよりかはまだマシなんだが…

 

「さて、この後どうしようか…」

 

 とりあえずこの後の短い間の俺の行動だが選択肢はある。

 このまま死ぬか、遺体を残さないようにするか…

 どっちにしろ俺が死ぬことに代わりはない。

 死ぬのか…

 

「けど、庇って俺が死ぬ代わりに助けることができたんだ。

 正義の味方として充分な死に方だと思う」

 

 救えない命はあった。

それに悔やむ気持ちもある。

 けど、それが行き過ぎてアーチャーは摩耗してしまったのだ。

 俺は遠坂や橙子さん、両義さん、シエルさんなど色々な人達から同じようなことを教えてもらった。

 

 

『救えない命は確かにあるだろう。けど、行動したからこそ救えた命がある。

 それらの命を蔑ろにして、救えない命ばかり見ていてはいつか摩耗してしまう。

 

 過去を振り返るな。現実(いま)を見ろ』

 

 

 それを最初に言われたとき、俺は理解できなかった。

 けど、摩耗した自分、アーチャーを見たことがある俺はすぐに理解できた。

その教えを心に刻み、色々な人達を救った。

 ああ、俺は救えたのか…

 そう思うだけで俺の心は摩耗することはなかった。

 だから俺はアーチャーのように後悔していない。

 

 ただ、ひとつ…

 

「俺は、正義の味方になれたかな?遠坂」

 

 遠坂…

 

「結局、面と向かって言えなかったなぁ…」

 

 そう、唯一心残りなのは遠坂にまだ告白してない。

 

「ごめんな遠坂。

 迷惑ばかりかけて」

 

「愛してる、遠坂…」

 

 そうして俺は、遺体を残さないようにするために、投影して自爆しようとした時、

 

 

「…なに恥ずかしい台詞を言いなが死のうとしてんのよ」

 

 

「え?」

 

 声をした方向を見ると

 

 そこには顔を真っ赤にして立っている遠坂がいた。

 

「遠坂?」

 

「まったく、あんたを助けようとして来たらいきなり告白だもの。

 …まぁ、嬉しかったけど」

 

「え?」

 

「な、なんでもないわよ!!

 とりあえずあんたを助けに来たの!!」

 

 最後なにか言ってたけど声が小さくて聞こえなかった。

 

「士郎。いまの自分の体がどうなっているのかわかるよね?」

 

「ああ、傷は皮膚が塞がっただけで、中は致命的な状態。

 さらに、呪いによって魔術や宝具による治療が効きづらくなっている。

 それ以前に、宝具を起動する為に必要な魔力が全く無い」

 

「そう。そして助かるには」

 

「新しい体に移るしかない…」

 

「そう、空の入れ物に入るしかない」

 

 確かに、いまの状況から助かるにはその方法しかない。

 けど…

 

「遠坂は、魂を別の入れ物に入れる魔術ができるのか?」

 

「できるわけ無いでしょう。

 私の専門は第二魔法、人形師のようなことできるわけ無いでしょう」

 

「それじゃ、どうしようもないじゃないか」

 

「大丈夫よ。人形師がこういうことが起きるのを予想して、あらかじめ準備していたらしいわ」

 

「どういうこと?」

 

「まず、士郎の体を作る。

 これはまぁ人形師だから普通にできたらしいわ。

 けど、次からが問題だったらしいわ」

 

「魂を人形に移す…」

 

「そう。その場に本人が居合わせたらいいんだけど、そう都合よく目の前でそういうことが起きるわけじゃない。

 だから、その場に居なくてもできるよう体に細工しておいたらしいわ」

 

 細工?

 けど、自分の体を解析してもそんなものは見つからないんだけど…

 

「見つかるわけ無いでしょう。

 魔術で見つかるような細工だったら、他の魔術師にわかってしまうでしょう」

 

 確かにそうだ。

 せっかく生き延びられるように細工しておいたのに、バレてしまっては意味が無い。

 

「細工の内容は曰く、士郎が死んでしまった場合、自動的に人形に移るということらしいわよ。

 あの人形師は、自分の体の予備を作っておいて、死んでしまったらその人形に移るというのをやってるから、それを他人の体に置き換えてやったらしいわよ。

 ただ、自分以外でそれをやったことがないから少し苦労したらしいわよ」

 

 つまり…

 

「俺が死んだら」

 

「今、私が持ってるこの人形に移るというわけ」

 

 といいながら、遠坂が持っていた荷物の中から人形が出てきた。

 

「燈子さん…」

 

「そうそう、人形師から士郎に伝言があるわ」

 

「え?」

 

「『これで貸し借りは無しだ。自分の体を大切にするようにしろ』だって。

 あんた、あの人形師から貸しを作るなんて…いったい何をしたのかしら?」

 

「はは…」

 

「まぁ、いいわ。

 これで助かることができる。けど…」

 

「大体予想できるよ。

 協会が俺を捕まえようと、必死になりはじめたんだろ?」

 

「…」

 

 やはりそうか…

 そして、この場に遠坂がいるということは、遠坂も協会から命令が来たのだろう。

 

「今、大師父とミス・ブルーがなんとか時間を稼いでるけど、それも時間の問題。

 恐らく、今までのようなことはできないわ」

 

「そうか…」

 

 ただでさえさっきまでの状況で、俺は死にそうになったのだ。

 今回は燈子さんが準備してくれたからよかったけど、それが何度もできるとは限らない。

 確かに、橙子さんのようにひっそりと生きていれば、まだ生きていける確率が高くなる。

 けど…

 

「だからと言って、おれはこの生き方を変えることはしない。

 それをしてしまったら俺じゃなくなる」

 

「…はぁ、言うと思ったわ」

 

 俺がそう言うと遠坂は呆れながら言った。

 

「私が第二魔法を完全に完成していたら、確実に他の世界に飛ばせるのに…」

 

「え?」

 

「私の専門はさっき言った第二魔法でしょ?

 けど、まだ私は穴を開ける程度のことしかできないのよ」

 

「ちなみにその穴で他の世界に行ける確率は?」

 

「よくて二割ってところかしら?」

 

「そうか…」

 

「どうする?それでも行く?」

 

 必ず行けるとは限らない。

 けど、それでも魔術協会が本気で俺を殺そうとしてるこの世界にいるよりまだましだ。

 なら、俺がとる方法は一つ。

 

「それでも、俺は他の世界で正義の味方を続けたい。

 それが俺の生き方だから…」

 

「…そう」

 

 遠坂は、呆れてはいるが微笑んでいた。

 

「わかったわ。

 穴を開けるために欠陥品ではあるけど、宝石剣があるからこれを使って穴を開けるわ。

 あとは」

 

「俺が死んで、体をこの人形に変えたらいいんだな?」

 

「ええ、そしてその後、私が穴を開くからそれに入ればいいわ」

 

「わかった」

 

 そして、俺は人形に移ろうとして死のうとした瞬間

 

 

 

「はーい、ストップ。

 おまえら何大博打しようとしてんだよ」

 

 

 

「「え?!」」

 

 声がする方向に向くとそこには

 

 言峰が着ていた服を白くした、両義さん似の何かが居た。

 

「まったく、完成されてない状態で無理やり第二魔法やろうとするなんて…

 ないわほんと」

 

「あなた、誰?

 というか人間?」

 

「ああ、やっぱり気配で大体は勘付くか。

 そうだよ。俺は人間ではない。

 

 簡単に言うと、この世界の神だ」

 

「「は?」」

 

 俺と遠坂は自称神が言ったことに困惑した。

 いや、確かにアルクェイドさんとか、アルトリュージュさんのように人間じゃない気配がしているのはわかる。

 けど、だからと言って…

 

「あなたが神だって言っても、それを信じれるほどの証拠がないと信じきれないんだけど」

 

「まぁ、確かにそうだよな。

 んじゃあ

 

 これで信じてくれるよな?」

 

 と言うと、さっきから感じる痛みと不快感が消えた。

 まさかと思い、自分の体を解析してみると

 

「傷と呪いが、消えた…」

 

「え?!嘘?!

 まさか、魔術をする素振りも見せず無詠唱で治療したっていうの!!」

 

「出来るに決まってるだろ。

 俺は神なんだから」

 

「「…」」

 

「これで信じてくれたかい?」

 

 信じないわけにはいかないだろう。

 無詠唱で、しかも何の素振りもせず、致命傷の傷と魔術や宝具を使った治療を妨げる呪いを、一緒にしかも一瞬で消したんだ。

 そんなことができる奴なんて聞いたことがないし、そんな魔術絶対存在しないだろ。

 現に、俺より魔術に詳しい遠坂が俺と同じ反応しているんだ。

 俺と同じ考えなんだろう。

 

「…まぁ、実際に見せてくれたんだから、信じるしか無いんだけど。

 で?神様が何の用でしょうか?」

 

「何の用かだって?

 簡単だ。

 

 そんな博打で、衛宮士郎を他の世界に飛ばされる前に、俺が確実に成功する方法と、プレゼント付きで助けに来たんだよ」

 

「「…は?」」

 

 神が言ったことに俺と遠坂はまた困惑した。

 神様が俺を助けに来た?

 

「なんでさ?

 俺、神様のために何の良いこともしてないんだけど」

 

「俺は『平等』という考えを元に行動している。

 神というのは、その世界で生きている全ての命を考えなければならない。

 他の全ての命に対して、害を与える存在にはそれ相応の報いを、他の全ての命に対して、幸福を与える存在にはそれ相応の報奨を。

 それが俺の『平等』についての考えだ。

 だから衛宮士郎。

 命を救い続けた正義の味方には、それ相応の報奨を貰える権利がある」

 

「ちょっとまってくれ。

 確かに俺は命を救い続けた。

 けど、救ってきた人からその分の報奨をもらってる。

 これで充分平等にはなるじゃないか」

 

「…はぁ。

 お前は自分がどれだけのことをしてきたのか、まだ自覚がないのか…」

 

「?」

 

 俺が一人言われたことに疑問を持っていると

 

「ああ、なるほどそういうことね」

 

 遠坂が納得していた。

 

「どいうこと?」

 

「お前は命を救う毎に貰う対価と、救った命が釣り合ってないんだよ」

 

 そんなはずはない。

 あの聖杯戦争が終わった後、遠坂は俺が対価を貰わずにやっていくのおかしいと言われて、貰うようにと聞き飽きるほど言われた。

 そういうのもあって、俺はそれ以降助けた人からは対価を貰っている。

 だから、別におかしいことはないんだけど…

 

「それじゃあ、一つ聞いてみたいんだが。

 お前はいつもどんな対価を貰ってる?」

 

「助けた人が家持ってたら一泊してもらったり、情報を貰ったりとかかな?」

 

「「はぁ…」」

 

 そういうと遠坂と神は呆れながら溜め息を吐いた。

 なんでさ?

 これくらいの対価なら別に大丈夫だと思うんだが…

 

「衛宮士郎。

 命の重さは、その程度の対価で釣り合うのか?

 お前が思っている命の重さは、その程度なのか?」

 

「そんなわけっ!」

 

「そんなわけないよな。

 たくさんの命が目の前で消えたあの大火災から切嗣によって救われ、切嗣の思いを受け継いで、全ての命を助けると決めたお前が、そんなこと思うわけ無いよな?

 だからこそ、お前が貰った対価と命の重さが釣り合ってないんだ」

 

「どういうことだ?」

 

「釣り合ってないということはつまり、まだ対価の貰い残しがあるんだ。

 そして、さっき言ったとおり、俺の行動原理は『平等』だ。

 その貰い残し分を、お前にあげるために行動しているんだ」

 

「その貰い残しが、さっき言った確実に他の世界に飛ばすのとプレゼントってわけね」

 

「そういうことだ」

 

「ああ、そうそう。

 俺はもう対価を貰ったから、そんなことしなくていいっていう意見は却下するから」

 

 言おうと思ったことを言われた。

 

「さて、時間がないからすぐにやらせてもらう。

 まずは、魂をその人形に移すために殺さないといけないんだが、その前にその人形を改良させてもらおう」

 

「改良?」

 

「まぁ、改良内容はあとで自分で確認してくれ。

 ぶっちゃけると、その改良ももうし終わったんだけどね」

 

「…さすが神様、と言ったところね」

 

 正直言って、どんな改良をされたのかわからないから、自分の体をあの人形に変えたくないんだけど…

 

「あとはその人形に服を着せてるっと、よし終了」

 

 人形の服装を見ると、それはまるっきりあのアーチャーと同じ服装だった。

 

「ちょっとまて、何故にその服?」

 

「似合うからいいでしょ」

 

 そんな理由かよ…

 

「さて、ではその人形に移ってもらおう」

 

「え?!もう?!ちょっ!!」

 

「はい、ドーン」

 

 神がそう言いながら、指パッチンをするのを見るのと同時に意識がなくなった。

 

 そして、俺はすぐに意識を取り戻したのだが、体に違和感を感じた。

その違和感を探すために、自分の体を解析してみた。

 

(――――――同調、開始《トレースオン》)

 

身体詳細……大体変わらず。ただ肌の色、髪の色など魔術使用による身体的副作用改善。

身体機能……変わらず。ただ鍛錬することによる身体機能上昇率二倍増。

魔術回路……全二十七回路使用可能+α、投影使用可能、強化使用可能、真名解放可能、壊れた幻想使用可能、無限の剣製条件付きで可能。

魔力量……五倍増。(!!!!)

 

「ちょっとまて、なんで魔力量が五倍も増えてるんだ?」

 

「俺からのプレゼント。

 あ、あと今の状態では魔術回路の数は変わらないけど、鍛錬するうちに数が増えて最終的には二倍になる予定だから」

 

「よかったわね士郎。

 これで、あんたも人外の領域に確実に近づいたわね」

 

 喜んでいいのだろうか?

 まぁ、身体機能が上昇しやすくなったのはうれしいけど…

 

「で、固有結界が条件付きで使用可能って、条件って何?」

 

「固有結界は、自由に使えるとお前のためにならないから条件を付けた。

 内容は、自分で考えろ」

 

「いや、理由はわかるけど、内容教えてくれないのかよ」

 

「教えないということは、それくらい使うのをやめてくれって言う意味だ。

 使いたければ、頑張れ」

 

「はぁ…」

 

「さて、次が本番だ。

 衛宮士郎、お前を他の世界に飛ばす」

 

「けど、どうやって飛ばすのかしら?

 まさか、第二魔法を使うつもり?」

 

「いいや、そんなもん使うより確実に他の世界に飛ばせて、なおかつ飛ばした先の世界に迷惑かけること無くいける方法だ」

 

「世界に迷惑を掛ける?

 それって抑止力のこと?」

 

「そうだ。

 元から存在しないものがいきなり世界にくるんだ。

 その世界からしてみれば、世界の秩序を乱す存在だろう。

 その存在を世界が見逃すわけがない。

 恐らくというか、確実に世界は抹消するために動くだろう。

 その抑止力を最小限に抑えるための方法だ」

 

「なるほどね。

 どちらにしろ、確実に世界が動くなら、その力を少しでも弱らせるためってことかしら?」

 

「そういうことだ。

 だからこそ、衛宮士郎にいろいろプレゼントしたんだ。

 その抑止力に対抗できるために」

 

 抑止力。

 別名世界の掃除屋。

 あのアーチャーがその存在になったらしいがつまり最低でもアーチャーレベル、英霊以上の強さを持つ者が来るっていうことか。

 …まぁ、アルクェイドさんみたいな真祖の吸血鬼よりかは弱いだろう、多分…

 

「その方法だが、簡単に言うと飛ばす先の世界に衛宮士郎、お前が召喚されるということだ」

 

「召喚?」

 

「言うなればこちら側が送信側、飛ばす先の世界が受信側になるということだ」

 

「ああ、なるほどね。

 仮に、飛ばす先の世界に召喚魔法というのがあった場合、世界から見たら召喚魔法をしているという認識になるということね?」

 

「そ。

 それによって世界からの干渉を防ぎ、なおかつ使い魔という形にすることで

、結果的には邪魔な存在ということで抑止力は働くけど力は弱くなるというこ

とさ」

 

「なるほど。

 ちなみに、その方法を使うことによってどのくらい弱くなるんだ?」

 

「簡単に言うと、真祖の吸血鬼からアーチャーくらい」

 

「「うわぁ…」」

 

「だから、もし仮にさっきおまえらがしようとしていた方法で成功していた場合、そんな奴といつか戦うことになっていたというわけだ」

 

 …それ、もう確実に死んでいたな俺。

 

「召喚陣は、おまえらが知っているこの陣でいいよな?

 ぶっちゃけ陣の種類はなんでもいいし」

 

 と言いながら出した召喚陣は…なんだろう?

 見たことはあるんだけど…

 

「懐かしいわね。

 あの陣を使うなんて、空気を読んでいるのかよくわからないわ」

 

「遠坂はわかるのか?」

 

「士郎だってわかるでしょう?ってそうだった…。

 士郎は正規の方法で召喚してないからわかるわけないか」

 

「?」

 

「この陣は、聖杯戦争でサーヴァントを召喚するときに使う陣よ」

 

「へぇ」

 

 セイバーが召喚されたときにでてきていたあの陣か…

 それは覚えているわけないよな。

 一瞬しかでてなかったし。

 

「では衛宮士郎。

 この陣の上に立ってくれ」

 

「わかった」

 

 神にそう言われたので、俺は陣の上にたった。

 

「もう少ししたらその陣が光りだす。

 それは受信側が召喚するために、詠唱を始めたということだ。

 それまで、遠坂嬢と暇を潰していたらいい」

 

 と言うと神は歩きながら気配を消した。

 このまま俺達を放っておくことはしないと思うから近くにいるとは思うけど、どこにいるのかはわからない。

 

「…まぁ、いいか」

 

 というわけで、いま遠坂とふたりっきりになったわけだけど…

 

「「…」」

 

 どうしようか…

 この方法が成功したら、もう二度と会うことはないのに、俺は何を話すか迷っている。

 

「…っぷ」

 

 と考えていると、遠坂がいきなり笑い始めた。

 

「どうした、遠坂。

 いきなり笑い出して」

 

「ごめんごめん。

 今士郎が思っていることを想像したら笑っちゃって、ふふ」

 

「失礼だぞ、遠坂!!」

 

「だから謝ってるでしょ!!」

 

 もう会うことができなくなるのに喧嘩していまう。

 けど、これが俺らのいつも通りな会話なんだと思う。

 

「ははは」

 

「ふふふ」

 

 ああ、こういう雰囲気ももうなくなるのか…

 

「ありがとな、遠坂」

 

「え?」

 

「もし遠坂がいなかったら、俺はアーチャーのようになっていたと思う。

 傍に遠坂がいたからこそ、自分の理想に絶望すること無く生きていけたんだと思う」

 

「…」

 

 だからこそ、感謝と自分の思いを伝え忘れないように、万感の思いを込めて伝えたいと思う。

 

「遠坂。

 

 ありがとう。…愛してる」

 

「っ!!」

 

 そう言うと、遠坂は顔を真っ赤にして、

 

「…私もよ、士郎。

 

 愛してる」

 

 泣きながらそう返事してくれた。

 ああ、やっと、やっと伝えることができた。

 しかも遠坂が同じ思いだと知って、男としてこれほど嬉しいことはない。

 

「士郎」

 

「?」

 

「約束して。別の世界では私のことは気にしないで、パートナーをしっかり作るって」

 

「な!!」

 

「確かに私の事をずっと愛してくれるのは嬉しいわ。

 けど、それによって、あなたを縛りたくないの。

 士郎の自由に生きて欲しい。

 絶対、作りなさいよ」

 

 泣きながら、けど威圧的に遠坂は言ってきた。

 遠坂は、世界に居ない人間を愛し続けるより、その世界にいる人間を愛して、生き続けて欲しいと言われた。

 正直、俺は別の世界に行っても、作るつもりは一切なかった。

 俺にとって、初恋の相手であり、人生を変えてくれた恩人だ。

 そんな人の最後の願いなら、叶えなければならない。

 けど、せめてこれだけは…

 

「…わかった。

 けど、これだけはわかって欲しい」

 

「?」

 

 

「どんな相手だろうとも、俺の初恋の相手であり、人生最高の恩人なのは全世界で遠坂ただ一人だ。

 これだけは、俺の心に刻みたい。

 絶対に、忘れたりしないよ」

 

 

「相変わらずね、士郎は…」

 

「ありがとう。私も、初恋の相手は絶対に忘れないわ」

 

 とても素敵な泣き笑いをしながら、遠坂はそう俺に言ってくれた。

 と、同時に陣が光だした。

 

「始まったか。

 最後に言うが、あっちの世界についたら目の前に人がいると思うが、そいつがお前を召喚した人でマスターになる人だ。

 間違っても殺すなよ」

 

「わかった」

 

 さっきまで気配を消していた神が、いきなり出て来て説明し始めた。

 

「ありがとな、神。

 ところで、なんで両儀さんの姿なんだ?」

 

「ん?簡単な理由だよ。

 こいつの体が、一番適しているからだよ」

 

「?」

 

「いや、理解できないならそれでいい。

 それより、俺に感謝を言うなら、今まで良い事をしてきたお前自身に言いな。

 やってきた行動のおかげで今があるんだ。

 

 お前のやってきたことは誇っていいことなんだ」

 

 …ああ、そうか。

 確かに救えなかった命があった。

 けど、同時に俺が行動したからこそ救えた命がある。

 

 誇って、いいんだな…

 

 光が強くなった。

 もうそろそろ詠唱が完了するのだろう。

 

「それじゃあ、遠坂」

 

「グスッ、何?士郎?」

 

 まだ真っ赤になりながら泣いている遠坂に、この言葉を送って行こう。

 

 

 

「行ってくるよ」

 

 

 

「…いってらっしゃい。

 元気でね」

 

 

 

 そして俺はこの世界からいなくなった…

 

 

 

 

 

 

 あまりにも眩しすぎて目を閉じていたが、光が弱くなったのを感じて目を開けてみると、

 目の前に、美少女がいた。

 

 神が言ったことを信じると、目の前にいるこの女の子が俺のマスターなんだろう。

 そう思っていると目が合った。

 俺は、自然と思ったことを口に出した。

 

 

「「問おう。あなたが「俺」「私」の「マスター」「サーヴァント」か」」

 

 

 そして、この言葉がこの世界で生きる俺の第二の人生の始まりであった…



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会談

遅くなって、本当に申し訳ございません。
就活が始まりましたので、更新頻度は遅くなります。


 

 どうやら召喚に成功したらしいのだが、ここがどこなのか、どういう世界なのかわからないので状況を説明してもらうよう促した。

 とりあえず中で話そうということになり、今代表者の部屋に向かっている。

 ただ一つ、疑問に思うのが

 

「ここ、どこ?

 建物がどう見ても日本の建築物には見えないんだけど…」

 

 とつぶやくほどここがどこなのか気になる。

 日本らしい建物が全く見当たらないから、つい独り言を言ったのだが、マスターはその独り言が聞こえたらしく答えてくれた。

 

「ふふ、まぁそう思うのは仕方ないわね。 

 ちなみに、ここは日本の学園都市、麻帆良学園よ」

 

「え?!ここ、日本なのか!」

 

 おれはここが日本だっていうのに驚いた。

 俺の反応は予想通りだったのか、皆笑っていた。

 そういうやりとりをしていると、ここの学園の長の部屋に着いた。

 

「ふぉっふぉ、さてまずは互い自己紹介をしようかの?

 儂はこの学園長で関東魔法協会の理事長である近衛近衛門じゃ」

 

 

「僕はここの学園の教師と、広域指導教員をやっているタカミチ・k・高畑だよ。

 よろしく」

 

 まず、学園長とメガネを掛けている男性が自己紹介してくれた。

 学園長は見た目が人間には見えないけど、さすがにそれを言うのは失礼なので言わないようにした。

 高畑という人は、雰囲気からかなり強いと思えた。

 

「私の名はエヴァンジェリン・AK・マクダウェルだ。

 真祖の吸血鬼だ」

 

「茶々丸です。

 先ほど紹介されたマスターの従者で、ガイドノイドです」

 

 次に、金髪の小さい女の子と見た目がロボットっぽく見える二人が紹介された。

 ていうか真祖の吸血鬼って!!

 

「真祖の吸血鬼!?」

 

「そうだが?

 ああ、心配するな。別に人間を吸血しても魔法で治療できるから大丈夫だ

 それに、忌々しいが私は封印されている。

 仮にしようと思ってもそこにいるタカミチにやられるだけだ。

 ていうかそれ以前にできない」

 

「そうか…」

 

 俺がいた世界の真祖は吸血すると、無条件で死徒化するから警戒したがその心配は必要なかった。

 封印か…

 なら、別に気にする必要はないな。

 従者の茶々丸は、気配が人間ではなくけどマクダウェルみたいな人外の気配もないから疑問に思っていたがまさかロボットだとは…

 こっちの世界は技術力が進んでるなぁ…

 そして、

 

「どうも、私はあなたのマスターにしてエヴァの従者である棚町京です。

 これからよろしくお願いします」

 

 俺に挨拶した女の子がおれのマスターらしい。

 歩き方や仕草を見ると一般人レベルにしか見えないのだが、底知れぬ雰囲気から恐らく何かしらの能力に目覚めたばかりなのだろう。

 

「俺の名前は衛宮士郎です。

 この世界とは違う、別の世界から来ました」

 

「さて、お互い自己紹介も終わったから、まずはこちらの世界について説明しようかの。

 質問とかはひと通り説明し終わってからでの」

 

「わかりました」

 

 とりあえず、学園長からこの世界の魔法について説明してくれた。

 この世界には2つの世界があり、今いる世界が『旧世界』、そしてもう一つが『魔法世界』。

 詳しくは教えてもらえなかったが、魔法世界はその名の通り魔法が大っぴら使われている世界らしく、また住んでいる住人も獣人は勿論竜種などまさにファンタジーな世界らしい。

そして、次に教えてもらえたのがこの世界に存在する魔法についてだった。

 教えてくれたことを纏めると、俺がいた世界でいう魔術がこっちの世界でいう魔法だった。

 ただ、こちらの世界の魔法は俺の世界の魔術より大規模で威力が大きいのが主流らしい。

 俺の世界の魔術でもあるにはあるが、その前に準備をしなければならないため詠唱するだけで発動することができるわけではない。

 その後も、この世界に存在する大きな魔法組織や、関東と関西それぞれにある協会、関西で発達している陰陽術や剣術の名門神鳴流など様々なことを教えてくれた。

 

「まぁ、こんなところかのう。

 何か質問はあるかい?」

 

「もし、一般人に魔法などがばれてしまうとどうなるのですか?」

 

「もし魔法などがバレてしまった場合、その場を治めるようなことを言ったり、最悪記憶消去の魔法を使うよ。

 あと、ばらしてしまった魔法使いなどはオコジョになるんだ」

 

「はぁ、オコジョですか…」

 

 俺はそれを聞いて、あまりの軽い処置に驚きを通り越して呆れてしまった。

 まぁ、死ぬよりかはましか。

 

「さて、この世界についての説明はこれでいいとして。

 次はお主がいた世界について説明してもらえるかのう?」

 

「あ、はいわかりました。

 簡単にですけど俺がいた世界について説明します」

 

 俺も、この世界と自分がいた世界の違いを説明した。

 俺の世界にも『魔法』使いはいるが存在する『魔法』は五つしかなく、そのうち存命する『魔法』使いは四人しかいない。

 後は魔術と魔法の違いについて、魔術協会についてなど説明した。

 

「ちなみに、もし魔術の秘匿を破ってしまったら問答無用に殺されます」

 

「…なんとも血生臭い世界だな」

 

「それぞれの魔術師は秘匿を最優先にするので、他の魔術師について調べない限り全くわからないのです」

 

「ちなみに、そちらの世界の『魔法』とはどんなのがあるのかのう?」

 

「第一から第五魔法あるなかで、自分がわかるのは第二と第三魔法しかわかりません。

 まず、第二魔法ですがこれは並行世界の観察、移動です。

 次に第三魔法ですがこれは魂の物質化、つまり完全なる不老不死を実現する魔法です」

 

「完全に魔法の内容が違うな。

 実現できる自信がないな」

 

「大まかな説明は以上です」

 

「うむ、ちなみにお主は何の魔術ができるのかの?」

 

「自分は解析と強化、投影ができます」

 

 最大の切り札である無限の剣製は伏せておく。

 さすがに、まだ出会ってすぐの人達に教えるのはありえないことだから。

 ただ、マスターである棚町さんにはあとで教えるけど。

 言いながら考えていると、マクダウェルさんが質問してきた。

 

「それらはどういう魔術なんだ?」

 

「解析は物質の構造把握、強化は存在意義を強化させるという魔術で例えばナイフなら切れ味、食材なら栄養度が上がるということ。

 投影は簡単に言うと魔力を練って物質を再現するという魔術なんだ。

 ただ、投影したものは本物のワンランク下になるのは確実で、魔力で作ったものだから普通なら数分で消えてしまうんだ」

 

「そうなるとお前が持ってる魔術はそんなに強くないのか?」

 

「普通はね。

 ただ、俺の場合他の魔術師とは違って、投影した物は俺の意志で存在させるか消滅するか決めることができるんだ」

 

「…それはすごいのう」

 

 俺の属性はまだ教えない。

 あまりにも特徴的すぎるからさすがに言えない。

 学園長が感嘆と言うと棚町さんが質問してきた。

 

「その投影って、例えば今見本となる物を渡せばそれを複製できるのよね?」

 

「ああ、見本となる物を見せてくれたらできるよ」

 

「じゃあ、これを複製してみて」

 

 と言って棚町さんが俺に渡してきたのは、殺人貴が使っていたナイフによく似ている物だった。

 少し驚いたが、ナイフというだけで中身が何もないからよく似ているだけだろう。

 

「わかった」

 

 橙子さんの人形と、神からのプレゼントによる魔術の影響を確認するには少し物足りないけど、一応確認にはなるから本気でやってみよう。

 渡された直後に無意識に解析したが、本気でやるからには細部まで解析する。

 解析できたらいよいよ開始だ。

 

ーーー投影、開始

 

「「「おおお…」」」

 

「ほう…」

 

 高畑さんと学園長と棚町さんは感嘆の声をあげ、マクダウェルさんは感心するように声を上げた。

 そして俺は、

 

「…なんだこれ」

 

 あまりの自分の性能の良さに驚いて、思考が鈍くなっている。

 いや、確かに細部まで解析して本気で投影した上に、自分の体の性能が上がっている状態だから前の俺より精度は上なのはわかる。

 けど、だからといって限りなく本物に近いのができるのはおかしいだろ。

 仮にAランクを70以上、Bランクを69~50にしよう。

 前までの俺がAクラス70を複製しようとしたら、ワンランク下のBクラス50ができていた。

 しかし、今の俺はAクラス70を複製しようとしたら、恐らくBクラス69.99…とワンランク下だけど限りなく本物に近い物ができる。

 現に、今できているナイフがまさにその状態だからだ。

 しかも、魔力消費量が通常の約1/5と訳がわからない。

 ていうかここまで性能よくしないと倒せない世界の抑止力って…

 ああ、考えたくない。

 

「すごいのう。

 見た感じ、限りなく本物に近いと思うんじゃが」

 

「先刻おまえが言ったことを踏まえると、本物と比べるとわかるぐら

 

い劣化している物ができるという話のはずなんだが。

 おまえが今複製した物は、見比べてもどちらが本物でどちらが偽物なのかわからんぞ」

 

「まぁ、そのかわり先刻言った魔術以外は三流どころか全然できないんだけどね…」

 

 俺の特化型の属性のせいなのは解っているんだけどね。

 まぁ、そこまで教えないけど。

 

「ふむ、よくわかった。

 さて、衛宮殿のここでの扱いについてなんじゃが…」

 

 いよいよ本題である俺のここでの扱い。

 普通ならいきなり現れてきた侵入者を軟禁状態にして監視するとか、とりあえず自由な状態にはしないと思うけど…

 

「お主は、中学校の副担任と広域指導教員になってもらいたい」

 

「…なんでさ?」

 

 俺は学園長の提案に驚いてしまって、敬語を抜かして返事してしまった。

 ていうか本当になんで?

 

「ちょっと待ってください。

 見ず知らずの自分がなぜ教師を?」

 

「まぁ、落ち着きなさい。

 理由はきちんと説明するわい。

 確かに違う世界から来た人間を、おいそれと自由にさしてたら部下が君のことを警戒してしまう恐れがある。

 だから、この麻帆良で一番強いタカミチ君の下に置いとけば監視ということにはなるじゃろ。

 あとは棚町君のクラスの副担任じゃったら、従者として近くにいれるからよいと思うんじゃ。

 それに、お主自身儂らが警戒しないといけないことをするとは思わないと判断したのじゃ」

 

「はぁ…なるほど」

 

 さすが組織のトップに立っている人はよく考えている。

 今ここにいる人以外から見たら、俺はマスターの従者ということしかわからない。

 そんな人間を普通に監視するぐらいなら、一番強い高畑さんの下に置くことで解決できるということか。

 けど…

 

「俺、教員免許なんて持ってないのですが…」

 

「そこは儂がなんとかするわい」

 

 トップだからできることで無理やりにするということか…

 

「教員としてやる以上お主に担当教科を決めないといけないんじゃが、何かやりたい教科はあるかのう?」

 

 もうきまっていること前提で話を進めるんだ。

 まぁ、他に選択肢が無い以上それしかないんだけど…

 

「そうですね…英語か社会がいいですね」

 

「なるほど。

 英語はそこにいるタカミチ君がやっているから、社会をやってもらおうかのう」

 

「わかりました。

 あと、質問なんですけど広域指導教員ってなんですか?」

 

「この学園は、いい意味と悪い意味で元気な学生がたくさんおる。

 だがらその分、トラブルがたくさんでてしまうんじゃ。

 そのトラブルを指導という意味で沈静化するのが仕事じゃ。

 まぁ、要はパトロールをするということじゃ」

 

「なるほど…」

 

 学園都市であるため、見た感じこの学園はかなり広いと思う。

 さらにここは魔法使いもいる学園だ。

 公共機関が介入されたら困るトラブルもあるのだろう。

 それを教員であり魔法使いである人達がパトロールをして、公共機関が介入する前に解決をするということか。

 

「ただ、魔法使いであり教員である先生の数が足りんくてのう、広域指導教員の数が少ないんじゃ。

 だからお主がやって欲しいのじゃ。

 勿論、副担任としての給料とは別に広域指導教員としての給料も支払うわい。

 やってはもらえないかのう?」

 

「やってもいいのですが、その代わりとしてお願いしたいことがあるのですが…」

 

 まぁ、やってもいいんだけど今の俺の状況を考えたら、ちょっと条件を出さないとできないよなぁ…

 

「なんじゃい?」

 

「まず、自分の戸籍を用意して欲しいのと、あと衣食住をお願いしたいのですが…」

 

「なんじゃ、そういうことは勿論かまわんぞい。

 それ以前に戸籍がなければ教員にはなれないんじゃから、お主が頼まなくてもやるつもりだったわい」

 

「ありがとうございます。

 それで、あと衣食住は…」

 

「うむ。

 先ほど言ったとおり教員をやるなら両方の給料が入る。

 それがあれば困ることはなかろう。

 そして、肝心の住む場所なんじゃが…」

 

「それについては私の家で充分だろう。

 こいつの力がどんなものなのか気になるしな」

 

「だそうじゃ。

 住む場所はエヴァの家でいいじゃろう」

 

「わかりました。

 喜んでやらしてもらいます」

 

「ありがとう。

 助かるわい」

 

 これでここで生きて行くことができる。

 みんな優しい人達で助かった。

 

「それで早速なんじゃが明日からやってもらいたい。

 というわけで、朝またこの部屋まで来るように。

 あと、麻帆良におる魔法使い達に紹介をしたいので、明日の夜先ほどいた世界樹前の広場にきて欲しい。

 詳しい時間はまた明日説明するわい」

 

「わかりました」

 

 早速明日からか。

 先生なんてやったことないから緊張するなぁ…

 

「今日話すことはこれでお終いかのう。

 何か質問はあるかい?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「それじゃあ、エヴァの家に行ってゆっくり休みなさい。

 忘れずに明日の朝またここに来るんじゃ」

 

「はい、わかりました」

 

「話が終わったところで私の家に行くぞ」

 

 話が終わると、すぐに連れていきたいのかマクダウェルがそう言いながら動き始めた。

 家の主である以上、とりあえず付いていくしか無いと思い俺も動き始めた。

 

 

 そうして付いて行くとある家の前で止まった。

 

「ここが私の家だ」

 

 その家は木で出来ていているログハウスだった。

 なかなか風情があっていいなぁと思っていると

 

「私の家を見て感慨深く思うのは嬉しいのだが、今は時間があまりない。

 すまないが、私に付いてきて欲しい」

 

「ああ、すまない」

 

 なにやらやりたいことがあるらしく、すぐについてきてくれと言われた。

 何をするのか分からないが、とりあえず言う事を聞くしか無いから大人しく付いて行った。

 付いて行くと地下に着いた。

 そこには、両手で抱えないと持てないくらい大きいボトルが置いてあった。

 その中にはなにやらリゾートっぽいのがあるのだが…

 と考えていると、

 

「ナンダ?マタアタラシイジュウシャカ?

 ホントウニマルクナッタナ、ゴシュジンハ」

 

 どこからか声が聞こえた。

 けど辺りを見回しても人らしい面影がなく、どこから発しているのかわからない。

 

「うるさいぞチャチャゼロ。

 何を連れてこようが私の勝手だろ」

 

 

「ベツニ、ワルイイミデイッタワケジャネェンダケドナ。

 キリキザムアイテガフエテウレシイカラ、ベツニイインダケドナ」

 

 マクダウェルがどこかに顔を向けながら話しているので、そこ顔を向けると。

 人形が話をしていた。

 

「人形?」

 

「あまり驚かないようだな。

 紹介しよう。私の最初の従者であるチャチャゼロだ」

 

「ヨロシク。

 コンドオマエノチヲミセテクレヨ」

 

「ははは…。

 衛宮士郎だ。よろしく…」

 

 挨拶の内容から、この人形は相手と斬り合うことが好きらしい。

 ていうか、チャチャゼロの手に持っているのが包丁というのでもう確定した。

 

「エヴァ、先に行ってるよ」

 

「ああ、先に行って準備でもしていてくれ」

 

「わかったわ」

 

 そう言うと、棚町さんはボトルの前に立って、消えた。

 

「なんでさ?」

 

「さて、とりあえずそのボトルの前に立ってくれ。

 話はそれからだ」

 

「いやいや、少しは説明してくれても」

 

「さっさと立ってくれ。

 時間がもったいない」

 

 無理やりボトルの前に立たされると、

 

 薄暗い部屋から変わって雲一つない青空の下にいた。

 

「…どこ?」

 

「ここは私が作った別荘だ。

 京もここにいる」

 

 あとからマクダウェルさんがチャチャゼロを連れて来た。

 

「別荘?」

 

「魔法で作った物だ。

 ちなみに、ここで一日を過ごさないとここから出れないからな」

 

「え?じゃあ、明日どうするの?」

 

「最後まで聞け。

 ただ、ここの一日は外では一時間しか経ってない。

 簡単に言うと逆浦島現象だな」

 

「なるほど…」

 

 体を休めるにはもってこいの別荘だな。

 なんて便利な魔法なんだ。

 

「さて、今からお前の実力を見せてもらおう。

 ただ、本気は出さなくていい。

 雰囲気からして、お前が本気を出すと別荘が壊されそうなのでな」

 

「なるほどね…」

 

「あとは京の実践訓練を兼ねている。

 恐らくというか、確実に今の京ではお前の本気には勝てないからな」

 

「まぁ、うん、勝てないだろうね」

 

 見た感じまだ素人っぽいし。

 けど、先刻も感じたけど素人のはずなのに雰囲気に違和感を感じさせる。

 この違和感が何なのかわかるかもしれない。

 

「今の?なんで今の状態ではってわかるの?」

 

「なに、貴様も戦ってみればわかる」

 

 なにやら意味深な返答をしてきた。

 

「とりあえず、私に着いて来い。

 訓練する場所に案内してやる」

 

 と言うと何の柵もない橋の上を渡り始めた。

 意外に高いなと思いつつ着いて行った。

 橋に繋がっていたもう一つの塔に着いた。

 その場所に、

 準備体操をしている棚町さんがいた。

 ただ、

 

「ん?」

 

 明らかに先刻と色々変わっている。

 先刻の棚町さんは雰囲気に違和感があっただけで、それ以外は素人にしか見えなかった。

 しかし、今の棚町さんはレベルが上がっている。

 何かに似ている。

 この感じは…

 

「私は準備完了よ。

 衛宮さんはどうかしら?」

 

「え?ああ、大丈夫だよ。

 いつでもいけるよ」

 

 この世界に転送された状態のままの格好だからいつでもいける。

 

「そう。じゃあ、

 

 戦いましょうか」

 

「!?」

 

 棚町さんがそういうと一気に空気が変わった。

 肌で感じるだけでわかる。

 明らかに素人のレベルではない。

 おかしい。

 全くもっておかしい。

 ただ、この感じは…

 

「構えなくてもいいのかしら?」

 

「あ、ああごめん」

 

 とりあえず武器を構える。

 様子見を兼ねて、黒鍵を両手で持てるだけ持って準備する。

 この武器なら遠距離からも攻撃ができ、近距離でも攻撃ができる。

 相手の実力を図るにはもってこいだろう。

 

「…なるほどね」

 

「どうしたの?」

 

「いえ、別になんでもないわ」

 

 そう言うと棚町さんはどこから出したのか、鞘に納まっている日本刀を出した。

 ただ、普通の刀ではないのがわかる。

 解析してみても出来なかった。

 まるで調べられないように守っているようにしているのか、とりあえず何かで防がれている。

 

「それじゃあ、

 

 先手は貰うわ」

 

「!?」

 

 俺は咄嗟に左手に持っていた三本の黒鍵で、左脇腹を守るようにした。

 すると、黒鍵に棚町さんの居合が当たった。

 

「ぐっ!!」

 

 棚町さんは居合で攻撃した後、そのまま俺の背後に移動した。

 思っていた以上に攻撃が重くて驚いた。

 しかも、投影した後更に強化したはずの黒鍵が、今の攻撃で罅が入っている。

 

「ふっ!」

 

 背後にいた棚町さんは、一息いれてなにかしようとした。

 後ろにいるから何をするのかわからないが予測はできる。

 恐らく、振り向きながら刀で攻撃するだろう。

 俺はその場ですぐにしゃがんだ。

 すると頭の上から風切音が聞こえた。

 避けるのに成功したと思いながら反撃をする。

 体を思いっきり反時計回りに振り向きながら、左手の指に挟んである三本の黒鍵で攻撃した。

 

「くっ!!」

 

 棚町さんは、地面が割れるほど力を出して後方に避けた。

 俺は次の行動にでた。

 そのまま振り向く力を利用して、右手に持っている三本の黒鍵を後方に下がった棚町さんに投擲した。

 投げた瞬間の棚町さんの態勢は片足が地面に着いていた。

 思いっきり後方に下がったため、投擲した黒鍵が当たる頃でもまだ態勢を完全に戻すのは厳しいだろう。

 恐らく地面を滑っているか止まるかのどっちかだろう。

 

 しかし、棚町さんがとった行動はどちらでもなかった。

 棚町さんは片足が地面に着いた瞬間、右に側転した。

 黒鍵が手元から離れた瞬間にしたため、投げるのをやめることができずそのまま棚町さんに当たること無く飛んでいった。

 かわりに左手にある黒鍵を、俺の予測した側転した先に投擲した。

 棚町さんはそのまま側転すると思ったが、左手が地面に着いた瞬間、そのまま上に飛んだ。

 確かにそのまま側転してしまうと、両足が地面に着いたときに黒鍵があたってしまうので、そこから更に防御や回避行動をとる暇がない。

 だから上に飛ぶしかないのだが…

 

 それは予測の範囲内だ。

 そう、俺は投げながら俺は行動していた。

 棚町さんが飛ぶだろうと予測していたところに直線に走っていた。

 そして、棚町さんが飛ぶ瞬間に俺も飛んでいた。

 棚町さんは、俺の行動を見て驚いていた。

 そりゃあ驚くだろう。

 

 気付いた時には自分の腹に俺の右手が当たっていたのだから。

 

「ぐぅっ!!」

 

 体がくの字になり、呻き声を挙げながら地面に吹っ飛んでいった。

 ちょっと本気で殴っただけなのだが、地面にぶつかると少し陥没した。

 …あれ?

 いや、確かに身体強化の魔術をかけた状態で、殴った時の強さを確かめるために右手に黒鍵を投影して投擲せず、わざわざ殴りにいったのだが。

 まさか地面が陥没するとは思わなかった。

 ていうか無事なのだろうか。

 と心配していたら、

 

「いたたた…」

 

 と棚町さんが少し痛がりながら、左手でお腹を押さえながら立ち上がった。

 ただ、痛がっているだけで戦闘に支障はきたさないようだ。

 

「ああ、やっぱり厳しいわね。

 さすがに刀を抜いただけでは、全く勝てる気がしないわ」

 

「抜いただけ?」

 

「この刀には名前があり同時に意思もある。

 刀から名前を教えてくれるということは、持ち主を主として認められたということになるわ。

 そして主がその名前を言うことによって形が変化し、それぞれ特別な能力が追加されるようになる。

 それを『始解』と言うのよ」

 

「つまり、その始解とやらをやるとその刀の形が変化して、更に能力がプラスされるというわけだね?」

 

「そう。

 まぁ、まだ使いこなせてないから仮に使っても衛宮さんには勝てないと思うわ」

 

 使う本人がそう言うからにはそれが事実なんだろう。

 使った瞬間に相手を即死にするという、反則能力でもなさそうだし。

 なら大丈夫だろう。

 

「さて、それじゃあ

 

 使わせてもらうわ」

 

 瞬間、更に空気が重くなった。

 正確には棚町さんからではなく、持っている刀からプラスで重くなったようだ。

 

「起きろ、ーーー”紅蓮”」

 

 

 そう言うと、持っていた刀『紅蓮』は光り始め、徐々に普通の日本刀から形を変えた。

 鍔がなくなり主の手を守るように、柄の前まで刀が伸びた。

 そして光が消えると『紅蓮』という名の通り、刀全体が赤々と燃え盛るような色になっている。

 色と刀の名前から判断すると、恐らく火を主力とした能力かもしれない。

 けどそう判断するのは速過ぎると思う。

 現に俺が知っている宝具で、名前と形から能力を判断できない物もある。

 少し様子見をしたほうが得策か。

 

「ん~これでもまだなのね…」

 

「何が?」

 

「いいえ、こちらの話。

 それじゃあ、続きを始めましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 始解をしてから約十分くらい経って、俺は霊力が切れたため地面に転がっていた。

 結局始解をしても、士郎に勝つことは出来なかった。

 ただ、黒鍵以外の武器を投影させることができたので良としよう。

 一番見たかったあの双剣が見れなかったのが、とても残念だけど…

 

「なぁ、マクダウェルさん」

 

「エヴァでいい。

 京は私の従者である以上、お前も私の従者であることに変わりはない」

 

「じゃあ、エヴァ。

 棚町さんって、最近になって戦い始めた?」

 

「そうだ。

 厳密に言うなら約一週間くらいか」

 

「一週間でこれほど動けるのか…

 すごいなぁ」

 

 まぁ、たった一週間でここまで動けるのは、俺から見てもおかしいと言える。

 さすがセイバーさんが持っていたスキル『直感』。

 まじチートだろ。

 考えていると、士郎が俺に近づいてきた。

 

「お疲れ。

 よく頑張ったよ」

 

「せめて服に傷をつけるくらいはしたかったわ」

 

「…まだ余裕ありそうだね」

 

 苦笑いしながら俺に手を差し伸べてくれた。

 

「ただ強がっているだけよ」

 

 俺は士郎の手を掴み、その勢いで立った。

 

「棚町さんはすごいね。

 すぐに抜けられそうだ」

 

「京でいいわ。

 それはこれからの鍛錬次第でしょ」

 

 現時点では、どんなに頑張っても勝つことが出来ない。

 でも、この世界で生きていくためには、せめて同じくらいには成長しないと。

 

「追い付いてみせるわ。

 だって、あなたのマスターなのだからね」

 

「はは、そうか。

 なら、頑張らないとね」

 

「そのためにも、衛宮さん。

 もう一回やりましょう」

 

「士郎でいいよ。

 いいよ。何回でもやろう」

 

 

 

 目標の壁は遠く、高い。

 けど、必ず超えなければならない。

 力の使い方の為ではなく、別の何かのために…

 俺は、そんな気がした。

 



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魔眼の会合

投稿が遅くなってしまい、大変申し訳ございません…
就活や研究等により、遅くなってしまいました。
しかも、こんなに遅かったというのに内容が進んでいないという…

本当に、申し訳ございませんでした。


 そこは『分裂』する世界。

 

 

 そこは『歪曲』する世界。

 

 

 そこは『死』が溢れている世界。

 

 

 三つの世界が入り乱れていて、何を基準にしているのかまったくわからない世界の中、俺はただ彷徨っていた。

 どれだけ時間が経ったのか、ここに居続けてもいいのか全くわからない。

 ちなみに精神体が彷徨っているため、今の体は男だ。

 

 

「さて、どうすればいいんだ?」

 

「私と話をして終わったらここから出られる」

 

 

 俺の言葉に答えた声が聞こえたのでその方向を向くと、

 あの神様がそこにいた。

 

 

「んん?なんで神様がここにいるんだ?」

 

「君がなぜこの場にいるのか、その理由を教えるのと謝罪するためだ」

 

 

 なるほど、なぜこのような状況になったのかを説明してくれるのか。

 それは助かる。

 ん?謝罪?

 

 

「なんで謝罪?」

 

「簡潔に言うと、君に最後のプレゼントをしたらこんな結果になった」

 

「…はい?」

 

 

 ちょっとまて。

 スキル『直感』についてこれる体に、(エヴァ曰く)魔力量がナギと同等かそれ以上の量がある。また、チートすぎる能力にオリジナルの斬魄刀に、さらに従者ま

でプレゼントしたのにさらにまた追加って…

 

 

「どんだけ俺を強くしたいんだよ。インフレしすぎだろ」

 

「それにはちゃんとした理由がある」

 

「理由?」

 

「君は、この世界に転生された時点で、世界にとっては邪魔な存在でしか無い。それが例え全く戦う力が無いとしてもだ。

 つまり、君は無条件で、世界の修正力と戦わなくてはいけない。力の有無関係なしに」

 

「なるほど。要は、その修正力に対抗出来るようにするために、ここまでするということか」

 

「そういうことだ」

 

 

 うわぁ…逆に考えたら、これくらい力がないと勝てないくらい強いのかよ…

 

 

「ちなみに衛宮士郎に関しては、召喚の手順をふんで来たから、君ほど強い修正力は出てこない。

 しかも、元居た世界の神から対抗出来るために、色々プレゼントしてくれたらしいから心配する必要はない」

 

「へぇ。で?最後に貰える力って何?」

 

「ああ、それは『内包する世界(World entailing)』だ」

 

「『内包する世界』?」

 

「魔眼の名称だ」

 

「…は?」

 

 

 オイオイオイ

 

 

「魔眼って、あの」

 

「代表的な魔眼と言えば、メデューサの『石化の魔眼』や、あとは遠野志貴や両義式が使っていた『直視の魔眼』等だな」

 

「さすがに魔眼はちょっと強すぎるだろ」

 

「ちなみに、君に渡した能力と斬魄刀、魔眼、体これら全て全力で使いこなせて、ようやく修正力に勝つことができる」

 

「まじかよ…あれ?ちょっとまて、交錯する…

 まさか」

 

「その交錯する世界というのは今現在君が見ている世界だ」

 

「『直死』と『歪曲』と『分裂』の三つ。

 その三つを世界と定義して、その三つの世界が一つの魔眼に内包されている。そういうことか?」

 

「そういうことだ」

 

 

 さすがに強すぎるだろ…

 だって『直死』ってあの事だと思うし、『歪曲』ってあのキャラが使っていたのと同じだと思う。『分裂』はわかんないけど文字通りだったらやばいだろ。

 

 

「一つ質問したいんだけど」

 

「なんだ?」

 

「たしか、『歪曲』って超能力と魔眼の間で、正確に言ったら魔眼じゃないはずなんだけど」

 

「それは、私が勝手に『歪曲』を魔眼として定義したからだ。だから、浅上が使っていたのとは別物として考えてくれ」

 

「わかった」

 

 

 神が質問に答えてくれるのと同時に、体というか意識が薄れてきた。

 神が俺に説明すべきことは全部したのだろう。

 

 

「あ、あと最後に渡しておく物がある。

 その魔眼が周りにバレないようにするために、専用のコンタクトレンズを作っておいた。 戦闘の時以外はできる限り付けておくように」

 

「わかった」

 

 

 神からコンタクトをもらうと、視界が段々狭くなってきた。

 

 

「では、がんばりたまえ」

 

 

 神のその言葉を最後に、俺は意識を失った。

 けど、最後に見た神の表情がほんの少し、ほんの少しだけ、悲しそうな顔をしていたような気がした。

 

 

 

 

 

 

「ふぁああ…」

 

 京との模擬戦を何回かやった後、俺のこの世界の魔法の適正を検査してもらった。

 結果は、とてもひどかった。

 俺の属性は剣であるために、この世界のどの属性にも適さなかった。

 ぎりぎり闇が使えるくらいで、どんなに頑張っても上級魔法は使えない。できても威力が約三分の二に下がってしまう中級魔法が限界らしい。

 また、魔術回路を通しながらだと魔法がすぐに使えるのだが、燃費が非常に悪い。攻撃魔法の中で一番初級である『魔法の矢』一本を出すのに、干将莫耶を十回分、投影したときに消費される量と一緒だった。

 威力はただ出しただけなので測ってないが、エヴァ曰く、本来一本の威力はさっき私にパンチしてきたのと同じくらいだとのこと。

 今のところ、魔法は戦闘に使えるレベルではないというのがわかった。

 

 その後は京の鍛錬が始まった。

 俺も、早く自分の体に慣れるために鍛錬を始めた。

 別荘で一日を過ごした後は、部屋に案内され、その部屋で寝た。

 

 そして、今起きたところである。

 

 

「別荘でも思ったけど、こんなに気持ち良く寝れたのは久しぶりだよ」  

 

 

 清々しい気分になりながら着替え、俺はリビングに向かった。

 すると、エヴァと茶々丸がいた。

 

 

「おはよう。エヴァ、茶々丸」

 

「おはようございます。衛宮さん」

 

「おはよう、士郎」

 

 

 茶々丸は朝食を作っていて、エヴァは紅茶を飲んで寛いでいる。

 

 

「京は?」

 

「まだ起きてない。もう少ししたら起きるんじゃないか?」

 

 

 エヴァが飲みながら適当に答えていると、

 

 

「皆、おはよう」

 

 

 全員で棚町さんに声を掛けようとしたが、顔を見た瞬間唖然としてしまった。

 棚町さんの目の色が銀色になっていた。

 目から何か不思議な力を感じるということは魔眼なのだろう。

 

 

「おい、京。その目はどうした?」

 

「ん?ああ、目?

 またあの神からもらったわ」

 

「またか…

 どれだけ京を強くしたいんだ…」

 

「神?どういうこと?」

 

「ああ、おまえは知らないか。実は京はこの世界の人間ではなく、お前と同じ違う世界の人間だったんだ」

 

「え!?」

 

 

 それから俺はエヴァから棚町さんのことを教えてもらった。

 なぜこの世界に来たのか、棚町さんの持ってる能力等々。

 それを聞いてなぜ模擬戦であれほど戦えたのかようやく理解した。

 ただ、棚町さんのことを聞いてもあの時感じた違和感がわからない。

 あれはなんだろうか…

 

 

「…ということだ。ん?どうした、わからないところでもあったか?」

 

 

 と考え事していたら説明が終わっていた。

 

 

「あ、いや問題ないよ」

 

「ならいいが…」

 

 

 違和感の正体がわからない以上、無闇に言う必要はないな。

 

 

「まぁ、神が考えていることも一理あると思うよ。

 抑止力を強くしないように、召喚という方法で来た俺と違って棚町さんは世界から見たらいきなり来たんだ。

 そう考えたら、その抑止力に対抗できるようにするのは間違いではないよ」

 

「確かにな…」

 

「ただ、使いこなせなかったから意味ないと思うけど」

 

「うう…」

 

 

 というかこのままだと能力に振り回されて終わってしまうかもしれない。

 

 

「さて、棚町さんも起きたことだし、ここから出る?」

 

「外の時間を考えたらちょうどいい時間だろう

 京は動けるか?」

 

「体は問題ないわ。

 出れるならでたほうがいいと思うわ」

 

「俺は先に学園長に会いに行ってくる」

 

「いってらっしゃい。

 多分、教室で会うわね」

 

「貴様が教室に入ったときが楽しみだ」

 

「いってらっしゃいませ」

 

 

さて、とりあえず行ってくるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、俺は家を出て、2-Aの教室にいる。

 士郎は昨日学園長に言われた通り、学園長室に向かっていった。

 俺とエヴァと茶々丸は、普通に教室に向かった。

 教室に入って、俺は刹那がどういう行動をとるのか非常に楽しみだった。

 が、さすが臆病刹那。

 木乃香を何回もチラ見するだけで、行動にでることはなかった。

 チラ見をする毎に木乃香が刹那を見てしまうので、目線が合うのだが刹那はすぐに目を逸らしてしまうため全く意味が無い。

 これ、事情を知らない人から見たらただの変態にしか見えないと思うんだけど…

 

 と刹那を観察しているとタカミチが教室に入ってきた。

 

 

「ええ、今日からこのクラスに新しい副担任の先生が赴任されます」

 

「朝倉、どういうこと?」

 

「うっそ!私、そんな情報聞いたこと無いんだけど!!」

 

 

 まぁ、聞いたことあるわけがない。

 だって、昨日違う世界から来たばかりだし。

 少なくとも、俺とエヴァと茶々丸とタカミチ、あと学園長くらいしか知らないだろう。

 

 

「元気がいいねぇ。

 とりあえず、もう入ってもいいよ」

 

 

 タカミチが教室の外にいる士郎を呼んだ。

 そして、教室に入ってきたのは、スーツ姿の士郎だった。

 

 

「ええと、初めまして。

 今日からこのクラスの副担任になった衛宮士郎です。よろしくお願いします」

 

『…』

 

 

 士郎が自己紹介するとクラスメイト全員が静かになった。

 全員が静かになったのが気になったのか、士郎は首を傾げた。

 俺とエヴァはこの後何が起こるのかわかっているため耳を塞いだ。

 

 

『かっ…』

 

「か?」

 

『かっこいい!!!!』

 

 

 大音量で言った。

 俺はこの後、恐らくというか確実に俺と同じことになると思ったので、心のなかで士郎に向かって同情しつつも。

 

 

 

 

 

 

 

 この雰囲気が楽しくて仕方がなかった。



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歓迎、夜の始まり

 自分の授業時間を使った壮絶な質問が終わり、俺は今、広域指導員として学園内を歩いている。

 と言っても、まだ学園内を把握できてないので、女子中等部周辺しか歩くことが出来ない。

 ただ、一つ問題があるとすれば、俺はまだこの学園に来たばかりでまだ顔を覚えられていないため、ほとんどの生徒が俺を見てくる。

 視線が気になるので、迷うかもしれないけどちょっと遠くまで歩くことにした。

 

 歩きながら、俺は今後のことを考えていた。

 エヴァから聞いたこの世界の戦いは、広範囲の魔法を使った戦いらしい。

 対魔力が低い俺にとって、かなり厳しい戦いになるのは考えるまでもない。

 弓を使った遠距離での戦いならまだ大丈夫だとは思うが、近接戦闘で魔法を使われたら一溜まりもない。

 ただ、近接戦闘に関しては、エヴァ並に最強クラスレベルの力はあるので、心配する必要はないらしい。

 さすがに、覚醒状態の両義さんとか、真祖の吸血鬼のアルクェイドさんとか、殺人貴とか相手にしてたから、近接戦闘は自信あった。

 今後の課題として、魔法の防御に関する対策を考える必要がある。

 と、対策を考えながら歩き回っていると、

 

 前方で男性が四人で、女の子一人を囲むようにして絡んでいた。

 背中を向けているので、顔は見えないが、制服から判断して女子中等部だとわかった。

 状況的に、女の子に男性達がいらいらしているところだ。

 これは助けに行かなくてはと思ったそのとき、女の子の右隣の男性が手を出そうとしていた。

 俺はその腕を掴むため、走った。

 間に合うか?

 

 

「いいから、そのまま付いてくればいいんだよ!!」

 

 

 そう言いながら、男性が女子中学生を掴もうとした腕を、俺は掴んだ。

 

 

「男が女の子相手に手を出すのは、さすがにだめでしょ」

 

「なっ、なんだお前は!!」

 

「え?」

 

「怪我はない?、」

 

 

 と、女の子に声をかけて見たら、

 

 女の子の顔に見覚えがあった。

 えっと、確か…

 

 

「大河内さん」

 

 

 

 

 

 

 今日の放課後は、新しく来た衛宮先生を歓迎するために、歓迎会を開くことになった。

 その準備のために、私は一人でお菓子の買出しに行くことになった。

 いつもは、裕奈とまき絵と亜子のグループと一緒に行動しているから、そんなに警戒することはなかった。

 というより、女子校エリアのちょっと端っこの店に買いに行くとはいえ、エリア内である以上、警戒する必要は無いと思っていた。

 だから、

 

 

「なぁ、そこの君」

 

「え?」

 

 

 まさか、男性から声をかけられるとは思わなかった。

 しかも、四人に囲まれながら。

 いつものメンバーで遊んでいるときに、声をかけられたことはあるけど、一人の時に声なんてかけられたことないから、どう対応すればいいかわからない。

 どうしよう…

 

 

「今暇?暇なら一緒に遊ばない?」

 

「え、えっと…」

 

「大丈夫、悪いようにはしないからさ」

 

「一応、予定はあるんですけど…」

 

「ちょっと、ちょっと付き合うだけでいいからさ」

 

「いや、あの…」

 

 

 と、私が返事に困っていると、男性たちの言動が段々荒っぽくなってきた。

 

 

「そんなに困る必要ないだろ?付いてきたらいいんだって」

 

「なぁ、別にいいだろ?」

 

「でも…」

 

 

 そして、男性の一人が痺れを切らしたのか、

 

 

「いいから、そのまま付いてくればいいんだよ!!」

 

 

 と、私の腕を掴もうとしてきた。

 やばいと思ったその時、

 

 

「男が女の子相手に手を出すのは、さすがにだめでしょ」

 

 

 後ろから、男の人がそう言いながら、男性の腕を掴んだ。

 

 

「なっ、なんだお前は!!」

 

「え?」

 

 

 後ろからだったので、誰だろうと腕を掴んだ男の人を見るために、顔を振り向いてみると、

 

 副担任の衛宮先生だった。

 

 

「怪我はない?大河内さん」

 

「は、はい。大丈夫です」

 

「それはよかった」

 

 

 衛宮先生に、怪我はないことを報告すると、男性の腕を掴みながら安堵した。

 

 

「この野郎、離せ!」

 

 

 と、腕を掴まれている男性は、衛宮先生の手を振り払おうとしたが、

 

 

「くっ!このっ!離せよ!」

 

 

 衛宮先生の掴む力が強いのか、振り払えないでいた。

 

 

「この子の副担任である以上、自分の受け持つ生徒に危害を加えようとした奴の腕を掴むのは当然のことだろ?なら、離すわけにはいかないね」

 

「てめぇ!」

 

 衛宮先生が腕を離さずにいると、一人の男性が衛宮先生に殴りかかった。

 危ない、と思ったけど、

 

 

「危ないって」

 

 

 と言いながら、空いている左手で殴ってきた男性の腕を掴んだ。

 

 

「なっ!!ってイテェーー!!」

 

「ちょっ!!痛い痛い!!」

 

「はぁ…、元気なのはいいけど、落ち着こうよ」

 

 

 衛宮先生に腕を掴まれている二人は、絶叫しながら体をジタバタするぐらい痛がっている。

 恐らく、衛宮先生の力が強いのだろう。

 現に、何か軋む音が聞こえてくるくらいだし…

 

 

「で?どうする?一応、俺広域指導員だから、これ以上抵抗するとそれ相応の対処をしないといけないんだけど…」

 

「え?」

 

「広域指導員だと!?」

 

「あのデスメガネと同じ、広域指導員!」

 

 

 衛宮先生が広域指導員だというのを、今初めて聞いた私は驚いた。

 男性たちも皆驚いている。

 広域指導員が全部合わせて何人いるかはわからない。

 ただ、その中でも、麻帆良学園の中で一番有名なのが、デスメガネという名前で広がっている、高畑先生だ。

 あまりの強さに、学園内で広まったあだ名らしい。

 

 その広域指導員に、衛宮先生もなっているとは思わなかった。

 

 

「これ以上抵抗しないなら、このことは内密にしとくよ。

 でも、まだするようなら…」

 

「ひっ!!」

 

「わ、わかりました!!」

 

「もう二度としないか?」

 

「はい!!しません!!」

 

「誓います!しませんから、手を離してって痛いいいいい!」

 

「よし、ならいいよ」

 

 

 衛宮先生がそう言いながら、手を離した。

 

 

「ひ、ひぃーーーー!!」

 

「お、おい!待てよ!」

 

「こんな奴がいるなんて聞いてねぇよーー!!」

 

「うわあああ!!」

 

 

 それぞれが声を挙げながら、走り去っていった。

 

 

「まったく…?どうしたの、大河内さん」

 

「あ、いえ、その、ありがとうございました」

 

 

 一連の状況に驚いていた私は、衛宮先生の言葉で我に帰った。

 ちょっと焦ったけど、助けて貰ったので、なんとか礼を忘れずに言うことができた。

 

 

「大河内さんに怪我が無くてよかったよ。まぁ、偶然なんだけどね」

 

「衛宮先生は、どのような用事で?」

 

「今日は、副担任としての仕事は終わったから、広域指導員として、周りを歩いていたんだ」

 

「なるほど…」

 

「でね…申し訳ないんだけど…」

 

 

 衛宮先生は、ほんとに申し訳なさそうな顔をして言ってきた。

 

 

「まだ、麻帆良に来たばかりだから、よくわからないんだよね。

 広域指導員として、さすがに迷子になりましたは洒落にならないと思うしさ…」

 

「確かにそうですね…」

 

「もし暇だったら、少しでいいから案内してもらえないかな?」

 

 

 案内したいけど、衛宮先生の歓迎会のための買い物をしないといけないし…

 どうしよう…

 そう考えていると、私の携帯が鳴った。

 裕奈からだ。

 

 

「あ、ちょっと失礼します」

 

「どうぞ」

 

 

 内容的に、衛宮先生の歓迎会のことだと思うから、衛宮先生に聞かれないよう小声で話す。

 

 

「はい、もしもし」

 

『もしもし、アキラ?

 今、どこにいる?』

 

「歓迎会の買い物に向かう途中だけど」

 

『衛宮先生見なかった?歓迎会に誘うために声かけようと思ったけど、職員室に居なくて。

 今、みんなで探しているところなんだ』

 

「今、近くにいるけど」

 

『え!ほんと!じゃあ、そのまま教室まで連れてきて来れないかな?』

 

「買い物は?私、まだ何も買ってないけど…」

 

『買い物はほかの人に頼むからいいよ。とりあえず、連れてくることが重要だから。あ、あと今準備してるから、遅めに連れてきてね。頼んだよ!』

 

「あ、ちょっとっ」

 

 電話が切れた…

 どうしよう…

 とりあえず、連れてくるのはいいけど、早く連れてきても準備が出来てないからまだいいって言ってたけど…

 教室に連れていくための理由も考えないと。

 

 

「衛宮先生。案内するのはいいですけど、そのあと教室まで来てもらえませんか?

 教科書を忘れてしまったので、もって帰りたいのですけど…」

 

「いいよ。どうせ、このあとの予定はないからね」

 

「ありがとうございます」

 

 

 道のりとしては、目的地を教室として、少し遠回りしながら案内しようと思う。

 

 ただ、細かく案内してると時間が掛かるので、最低限知っていたほうがいいお店等、簡単に案内した。

 場所が女子校エリアなため、生徒が男性と一緒に歩いているのは、かなり目立つ。

 ちょっと恥ずかしかったけど、けど、

 

 

 少しだけ、役得だなって思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 士郎のことだから、誰かに出会うとは思ってたけど。

 まさか大河内さんとは思わなかった。

 教室に士郎を連れて来れるなら、誰でもいいけど。

 

 歓迎会の準備で、俺に割り振られた仕事を終わらせた俺は、そう思っていた。

 雪広さんの命令を、忠実に従うだけの簡単な仕事です。

 

 仕事が終わったので、昨日無駄な戦いをしてまで約束させた奴の様子を見てみた。

 すると、そこには

 

 自分の仕事をしながら、挙動不審にちらちらと、木乃香を見ている不審者がいた。

 

 

「はぁ…」

 

 

 あまりのひどさに、ため息を出してしまった。

 事情を知らないクラスメイトは、いつもとは雰囲気が違う刹那に不審に思い。

 事情を知っている龍宮は、刹那の様子を見て、声を出さないよう必死に笑いを堪えていた。

 笑ってないで何とかしろよ、龍宮。

 ちなみに、木乃香は明日菜と一緒に作業をしていて、刹那の様子に気付いていない。

 この状況を改善するために、俺は刹那に近づいた。

 

 

「あなたは何をやっているのかしら、桜咲さん」

 

「い、いえ別に」

 

「約束で、木乃香と元の関係に戻れって言ったけど、不審者になれとは言ってないわ」

 

「し、しかし…」

 

「はぁ、刹那。ちょっと来なさい」

 

 

 と言いながら、手招きをした。

 

 

「え?」

 

「いいから。来なさい」

 

 

 何度も言うと、渋々とだが刹那は来てくれた。

 

 

「今から言ううことを実行しなさい。まず…」

 

 

 周りには聞こえないよう、小さい声で説明した。

 

 

「…え!?いや、それはちょっと」

 

「約束、守りなさい」

 

「うっ。わかりました…」

 

 

 そう言うと、刹那は緊張した様子で木乃香に近付いていった。

 刹那が行動を起こしたのが不思議に思ったのか、龍宮が話しかけてきた。

 

 

「刹那に何を言ったんだい?」

 

「見ればわかるわ」

 

 

 龍宮と話していると、刹那が木乃香に話しかけた。

 

 

「あ、あの、お嬢様」

 

「え?って、せっちゃんやん!どないしたん?」

 

「あれ?桜咲さんだ。どうしたの?」

 

 

 自分から話しかけても聞いてくれなかった刹那が、自分から訪ねてきたのがよっぽど嬉しかったのだろう。

 嬉々とした表情で刹那に答えた。

 明日菜も、あまり自分から話しかけないクラスメイトを不思議に思っているのか、少し驚いている。

 

 

「い、いえ、その…」

 

「?」

 

 

 

「お、お嬢様の、仕事のお手伝いを、してもいいでしょうか?」

 

 

 

「…うん!!ええよ!!一緒にしよ!というわけなんやけど、明日菜、ええよな?」

 

「え?まぁ、別に問題ないけど」

 

「ほな、三人で一緒にしよ!」

 

 

 木乃香はそう言いながら、花のような笑顔で三人で作業し始めた。

 刹那の行動と木乃香の様子の変化に不思議に思ったのか、クラスメイトからどういう関係なのか問いただされていた。

 

 

「なるほど、そういうことか」

 

「こうでもしないと行動しないでしょ」

 

「で、刹那の分の仕事は棚町さんがやると」

 

「自分の仕事が終わったし、暇だしね。あと、こうでもしないと、あいつ行動しないしね」

 

「まぁ、一理あるね」

 

 

 龍宮と話していると、ちょうど雪広さんが騒ぎを収めたていた。

 

 しばらくして、みんなだいたい作業が終わるのと同時に、大河内さんが明石さんに電話してきた。

 

 

「みんな!あと少しで到着だって!」

 

「皆さん、準備はよろしいですわね」

 

 

 雪広さんが言うのと同時に、大河内さんと士郎が入ってきた。

 

 

『ようこそー!衛宮先生ー!』

 

「…?」

 

 

 主役である士郎は、どういう状況なのかわかっていないようだ。

 

 

「これは、衛宮先生の歓迎会ですわ」

 

「歓迎会、にしてはすごいことになってるけど」

 

「新しく赴任してきた先生を祝うのは当然のことですわ」

 

「…」

 

 

 雪広さんの話を聞いて、士郎は呆然とした。

 

 

「衛宮先生?どうなされました?」

 

「…いや、まさかこんな盛大な歓迎会を俺なんかのために開いてくれるとは、思ってなくてね

 嬉しいよ。ありがとう、みんな」

 

 

 女子校ということもあって、男性から、しかも笑顔で感謝の言葉をあまり言われ慣れていないのだろう。

 俺以外のほぼ全員が顔を赤らめた。

 

 その後はそんな大きな騒ぎもなく、俺の時と同じように歓迎会は進んだ。

 ただ、衛宮先生と一緒に行動していた大河内さんは、みんなから質問攻めをされていたけどね。

 

 

 

 楽しかった歓迎会も終わり、片付けも終わり、俺はエヴァの家に帰って休んだ。

 

 

「楽しかったけど、疲れたわ」

 

「お疲れ」

 

「士郎はどうだった?」

 

「ああ、とても楽しかったよ」

 

「そうか」

 

「そう、それを聞けて安心したわ」

 

 

 主役が楽しいと思えるのなら、それで充分だ。

 エヴァも私と同じことを思っているのだろう。

 

 

「さて、このあとは修行かしら?」

 

「そうだな、少し休んだらそうしよう」

 

「じゃあ、先に晩ご飯でも食べるか」

 

「手伝います」

 

「いいわね」

 

「そのほうがいいだろう」

 

 

 茶々丸と士郎が台所に向かおうとした、その時

 

 

「「「ん?」」」

 

 

 俺と士郎とエヴァが、同時に声を挙げた。

 

 

「なぁ、エヴァ。

 これって」

 

 

「ああ、恐らく侵入者だ。

 先程から、物凄く弱い気配が沢山でていたが、私が出るほどではないと思ったから無視していたんだが…」

 

 

「ああ、また新たな侵入者がでた。しかも、一回目よりかなり強い」

 

 

「二回?私は一回しか感じなかったけど…」

 

 

 士郎とエヴァは、二回と言っているが、俺は今さっきでた気配しかわからなかった。

 いきなり感じた気配に、俺たちで考えていると、

 電話が鳴った。

 

 

「恐らくジジィからだな」

 

「私が出るわ」

 

 

 俺は、エヴァに言いながら電話をとった。

 

 

「もしもし、棚町ですが」

 

『おお、棚町くんか!

 緊急事態じゃ!』

 

「どうなさいました?」

 

『恐らく、西の者が召喚したであろう鬼が、二方向からの時間差による侵入ということが起きたんじゃ』

 

「時間差…つまり、一回目の侵入は囮で、今さっきのが本命と」

 

『そうじゃ。それで、一回目に教師を出してしまって、二回目のは生徒で対処することになったのじゃ。

 しかも、最初に侵入してきた鬼は、力は弱いが、如何せん数が多くてのう…』

 

「救援に行けないと」

 

『そうじゃ。それで、すまんが棚町君と衛宮君で、救援に行ってもらいたいのじゃが』

 

「わかりました。

 今すぐ向かいます」

 

『ありがたい。

 よろしく頼む』

 

「失礼します」

 

「やはり、侵入者か?」

 

「鬼の時間差攻撃らしいわ。

 一回目に主力の先生達を出してしまって、本命の二回目は生徒でどうにかするしかなくなったって言ってたわ」

 

「なるほど、で、士郎と京が行くのか?」

 

「ええ、学園長に頼まれたわ」

 

「頼まれなくても、俺は行くけどね」

 

「さすがね」

 

 

 そういうと、士郎はすぐさま戦闘準備を始めた。

 俺は、まだ戦闘用の服を作ってないから、適当に動きやすい服に着替えた。

 

 着替え終わって外に出ると、そこには赤い外套を身に纏った士郎と、見送りに来たエヴァ、その後ろに控える茶々丸と、茶々丸の頭の上にチャチャゼロがいた。

 

 

「準備は万全か?」

 

「俺は、武器はいつでも出せるから大丈夫」

 

「私もよ」

 

「ならいい。士郎は心配する必要は全くないが、京は初の実践だからな。

 気をつけろよ」

 

「大丈夫よ。エヴァに鍛えられたのだから」

 

「ふふ、そうか」

 

 

 さて、今すぐに救援に行かないといけないから、急がないと。

 

 

「さて、そろそろ行きましょう」

 

「ああ、それじゃ、行ってくる」

 

「行ってこい」

 

「お体に気を付けて」

 

「サッサトイッテコイ」

 

 

 三人の言葉を聞いて、俺と士郎は救援場所に最大速で向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 行ったか。

 

 

「さて、二人が帰ってくるまで酒でも飲んで待っていよう」

 

「オ、イイネェ。サスガゴシュジン」

 

「京さん、大丈夫でしょうか?」

 

 

 茶々丸が心配そうに私に聞いてきた。

 

 

「さっきも言ったが、心配する必要はない。

 確かに強い気配はするが、今の京でも充分倒せる」

 

「…わかりました」

 

 

 さて、どのようにして倒すのか。

 楽しみだ。



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化物退治 前

いろいろ書き方が下手くそではありますが、何卒よろしくお願い致します…


 麻帆良学園郊外。

 漆黒の森を抜け、少し広めの広場。

――そこは、鬼や烏族の妖怪の溜まり場とかしていた。

 

 数にして、およそ三十。

 まさか、麻帆良でこんな大量の妖怪を相手にしないといけないとは思ってもいなかった。

 主力である先生方は、最初に出てきた侵入者に向かったため、この妖怪達は私たち生徒でなんとかしなければならない。

 一応、何回か西の刺客を倒すときがあったため、此処にいる生徒全員が全く実践経験が無いという訳ではない。

 しかし、それでも、大量の、しかも中には、恐らく先生でも苦戦するレベルの妖怪たちを相手に戦うなど、無謀でしかない。

 

 魔法生徒の中で、戦力として期待できるのは、私と龍宮、高音さん、佐倉さんの四人で、あとはそれなりに魔法が使える程度で、近接戦闘がほとんど出来ない。

 そのため、学園長は無駄な犠牲を出さないために、私たち四人で時間を稼ぎつつ、余裕があれば倒すよう指示された。

 時間を稼いでいる間に、こちらで救援を出すらしい。

 これは…かなり厳しい戦いになりそうだ。

 

 

「お、お姉さま…」

 

「大丈夫よ、愛衣。時間を稼げばいいのよ。

 此処にいる全ての鬼を倒す必要はないわ。

 余裕があれば倒せばいいだけの話です」

 

「は、はい…」

 

 

 高音さんが佐倉さんを励ますように話していたが、確かに間違ってはいない。

 しかし、数、質両方とも負けている以上、気休め程度にしかならない。

 

 

「どうした?戦う前に、気持ちが負けているように見えるのだが」

 

「別に、負けてなどない。高音さんの言ってるように、時間を稼げばいいのだ」

 

「ふ、なら別にいいけどな」

 

 

 龍宮とそんなこと話していると、高音さんが動こうとした。

 

 

「先手は私が行きます。桜咲さんはその後に続いて、龍宮さんは援護射撃を。

 愛衣は龍宮さんを守るようにして、余裕があれば魔法で援護を」

 

「「わかりました」」

 

「了解した」

 

 

 年は高音さんが上だが、戦場の経験は断然龍宮が上なので、敬語じゃなくても注意はしないらしい。

 そう考えていると、高音さんが体に影を纏いながら、鬼に突っ込んだ。

 

 

「――五十の影槍!!」

 

 

 巨大な黒衣仮面の使い魔を、自分の体の後ろに出しながら、影の槍を妖怪の集団に放った。

 威力よりたくさんの妖怪に当たるようにしたのか、妖怪たちは軽くいなした。

 

 

「なんや、その程度かいな」

 

「ふふ」

 

 

 出会って早々、いきなり攻撃してきた高音さんに意識を向けたため、妖怪は隙だらけだ。

 このタイミング、逃さない!

 

 

「神鳴流奥義――百烈桜花斬!!」

 

 

 桜の花びらを出しながら、円を描くように剣を振り、複数の敵に当てる。

 傍から見れば、踊りながら桜の花びらを出しているように見えるが、この桜の花びらは奥義で出ているため、花びらに当たるだけでも強い。

 影の槍に気を取られていた鬼達は、奇襲で出した私の奥義に対応できず、身に受けた。

 しかし、当てることはできたが、傷は浅く、倒すほどではなかった。

 

 

「硬いな…」

 

「神鳴流?!まさかいるとはっ!」

 

 

 驚いていた鬼は、頭に龍宮の援護射撃をくらって散っていった。

 

 

「高音さん、気を付けてください。予想以上に硬いです」

 

「そのようですね。お互い、無理をしないようにしましょう」

 

「はい」

 

 

 高音さんとやり取りしていると、烏族の妖怪が二体私たちに突っ込んできた。

 高音さんは、巨大な使い魔から影の槍を放った。

 同時に、私も斬空閃を放って、動きを止めようとした。

 

 

「甘い!!」

 

「ふん、その程度」

 

 

 烏族の二体は、冷静に、二つの攻撃をいなしつつ、向かってきた。

 しかし、いなしている間はかなり短いとはいえ、他の攻撃を喰らいやすくなる。

 その隙を、龍宮は見逃さない。

 

――二回、銃声が響きわたる。

 それは、龍宮のスナイパーライフルから放たれた銃声だ。

 

 

「しまっ、ぐぅお!」

 

「なんの!!」

 

 

 二体は、回避行動をとるが、そのうち一体は避けることが出来ず、散っていった。

 もう一体は、弾を掠める程度に終わってしまったが、無理して避けたため、体勢が崩れた。

 体勢が崩れた所を狙って…

 

 

「魔法の射手――連弾・火の三十矢!!」

 

「な!なんやて!!」

 

 

 愛衣さんは魔法を放った。

 いつでも魔法を放てるよう、準備していた愛衣さんは、鬼が体勢を崩したところを、火属性の矢を放った。

 

 

「ぐぅああああ!!」

 

 

 矢は全弾命中し、爆発音と共に散っていった。

 

 

「嬢ちゃん達、やるやないか」

 

「ただの小娘かと思ったが、ええやないか」

 

「こりゃあ、ちょっと本気出さないといかんな」

 

 

 見た目からして、そう強いとは思っていなかったのだろう。

 妖怪たちは、私たちの強さを確認し、全員が戦闘態勢に入った。

 

 

「ここからが本番です」

 

「ええ、がんばりましょう」

 

 

 私がそう言うと、妖怪たちは一斉に攻めてきた。

 私たちは、それに臆さず、対抗した。

 

――剣と剣がぶつかり合う音。

 

――魔法による爆発音。

 

――響きわたる銃声。

 

――怒号や絶叫。

 

 それらの音を奏でる当事者は、踊るかの如く、戦場を駆け巡った。

――さながら、円舞曲に沿って踊るかのように。

 しかし、それも長くは続かない。

 最初から数、質ともに負けているこの戦い。

 結末は目に見えていた。

 

 

「はぁ、はぁ」

 

「く…」

 

「これは、さすがに…」

 

「まずい、ですね」

 

 

 私たちは、肩で息をしながら、そう答えた。

 

 高音さんは、常に使い魔を出しているため、自動防御により体のダメージはほとんどない。

 しかし、使い魔をずっと出したことにより、魔力が尽きかけている。

 愛衣さんは、魔力はまだあるが、本来の戦闘は後衛であるため、体力があまりない。

 その中で、動き回りながら魔法を放っていたために、体力が限界に近づいている。

 龍宮は、体力はまだ余裕がある。

 だが、戦闘スタイルが銃による攻撃のため、弾が無くなれば戦闘自体が厳しくなる。

 そのため、弾が尽きかけている今の状況は非常に危険だ。

 そして、私は出来る限り気を使わないよう、戦闘してきたが、それでも消費はする。

 そろそろ厳しくなってきた。

 一方、妖怪は全員が無傷ではないが、戦闘に支障をきたすほどではなく、まだまだ余裕である。

数も、最初に倒した三体と、他にも六体、計九体倒したが、まだ二十一体もいる。

 

 

 

「救援は、まだでしょうか?」

 

「先程、学園長から連絡が来た。今向かっているらしい」

 

「あと、少し、ですね」

 

 

 息を切らしながら、答える愛衣さん。

 体力が厳しいのがよくわかる。

 

 

「まさか、ここまでやるとは思わんかったわい。せやけど、もう限界やろ」

 

 

 私たちの今の状況に気づいたのか、一体の鬼がそう言ってきた。

 

 

「勝手に決めるな。私たちは、まだやれる」

 

 

 内心、焦りながら強気に答えた。

 ここで、弱音を吐いても意味ないからだ。

 

 

「そうかい。

 ――なら、これで終いやな」

 

 

 鬼がそう言った瞬間――

 

 

「――え?」

 

 

――愛衣さんが、鳥族の妖怪に蹴り飛ばされ、木の幹に叩きつけられた。

 

 

「ぐぅ、ゲホ、ゲホ!」

 

 

 幸い、意識は失わなかったが、蹴りの威力からして、何かしらの重傷を負ったに違いない。

 

 

「愛衣!!」

 

「愛衣さん!!」

 

 

 私と高音さんが、愛衣さんを助けに近づこうとした。

 

 

「高音さん、気を散らしてはいけない!!」

 

 

 ただ、龍宮は高音さんの行動に警告した。

 

 

「隙ありやで、嬢ちゃん」

 

 

 高音さんは、愛衣さんに向かっているため、近くにいる鬼の攻撃に気づくことが出来なかった。

――鬼による棍棒の攻撃が、高音さんに襲いかかる。

 

 

「きゃあああ!!」

 

「高音さん!!」

 

「嬢ちゃんの防御は中々厄介や。

 せやけど、その防御、ちゃんと自分で意識せぇへんと起動せんのやな。

 ま、もし起動してたらやばかったけどな」

 

「なんや、博打かいな」

 

「結果がよければええんや」

 

「それもそうやな」

 

 

 談話してる妖怪たちを他所に、状況はかなり厳しくなってきた。

 

 怪我人二人を守りながら、この数を相手に戦えるほど、実力もなければ、体力もない。

――まずい。

 

 

「さて、あとは厄介な遠距離使いと、神鳴流の嬢ちゃんやな」

 

「数で攻めれば余裕やな」

 

「戦いに夢中になってて忘れそうになってんやけど、本来の目的って何やっけ?」

 

「おい、脳筋。せやから、お主は脳筋やんやで」

 

「なんやと?!」

 

 

 くそ、こちらの状況を知っててやってるのか、妖怪たちの繰り広げている漫才に、非常に腹が立つ。

 

 

「貴様ら――」

 

 

 腹いせに、攻撃しようとしたが――

 

 

「ほら、お前らがそないなことするから、嬢ちゃん怒り始めたやんか。

 堪忍な、嬢ちゃん」

 

「まぁ、怒りに身を任せた攻撃を喰らうほど、馬鹿ではないだろうがな」

 

 

 別の鬼と鳥族の同時攻撃により、そうはいかず、突き飛ばされた。

 

 

「がっ!!くそ…!」

 

 

 剣を地面に差し、なんとか地面に叩きつけられることはなかった。

 

 

「刹那!!」

 

「だ、大丈夫だ。龍宮は?」

 

「ああ、さすがに厳しくなってきた。

 ただ、時間を稼ぐだけならいけるが、二人を守りながらだと、弾薬が足りない」

 

「やはりな…。こっちも、守りながらだと気が足りない」

 

 

 龍宮と現状を確認したが、やはり危険な状況だというのは龍宮もわかっていたらしい。

 どうする…

 

 

「む、今のを耐えるか。嬢ちゃん、中々やるやないか」

 

「で?目的ってなんやっけ?」

 

「はぁ、全く…。ええか、よく覚えておけよ。

 目的は、

 

 ――近衛木乃香を奪取することやろ」

 

 

――わかってはいた。

 

 

「ああ、そうやったな。まぁ、楽勝やろ」

 

 

――だからこそ、私は此処にいる。

 

 

「せや。敵の主力は、今頃足止めされとるやろうしな」

 

「がははは!この戦、もろうたな!」

 

「黙れ…」

 

 

――お嬢様を守る身として、これ以上は許さない。

 

 

「ん?なんやて?」

 

「黙れとっ!!」

 

「落ち着け、刹那!!」

 

 

 妖怪たちの態度に、激情しながら戦おうとしたが、龍宮に止められた。

 

 

「離せ、龍宮!!」

 

「時間を稼ぐのが目的だ!!それなのに、自分から戦いに行こうとしてどうする!!状況を考えろ!」

 

「くっ…!!」

 

 

 龍宮のあまりにも正論過ぎる意見に、止まるしかなかった。

 

 

「やはり、見た目どおりの小娘かいな。つまらんなぁ」

 

「そんな慎重にならんでもええで。

 どうせ、こっちが勝つのは変わへんから」

 

「ふ、お前たちがなんと言おうとも、稼がせてもらう。

 たとえ結末が決まっていてもな」

 

 

 龍宮が反論する。

 しかし、鬼が言っているのが事実。

 反論しても、それはただの強がりに過ぎない。

 

 

「ほほう。嬢ちゃん言うやないか」

 

「そんじゃあ…

 ――行かせてもらうで!!」

 

 

 言うと、一斉に襲い掛かってきた。

 

 

「くっ…」

 

「一斉にくるか…」

 

「これで、終いや!!」

 

 

 私たちが反撃しようとした、その時…

 

 

「っ!!いかん!!全員止まれぇ!!」

 

 

 妖怪達の中の一体が叫んだ。

 なんだ?と思ったその時…

 

 

――――凶れ―――

 

 

――妖怪達のすぐ目の前の空間が、歪んだ

 

 

「な、なんや!?」

 

「空間が、歪んだ!?」

 

 

 妖怪達が、動揺して完全に動きを止めた。

 戦闘中に、動揺して動きを止めるなど、相手に隙をさらしていることになる。

 今、まさにその状況が起こっている、その空間に…

 

 

――――銀色の流星が降り注ぐ――――

 

 

「あかん!!皆、散れぇ!!」

 

 

 矢の速度が速く、また暗闇の中ということもあって、一筋の銀色の流星に見えた。

 その数、約二十本。

 各々が矢を避けようとした。

 しかし、すぐ近くまできているため、回避が間に合わない者がでた。

 回避を諦め、受け止めようとした瞬間、

――矢が、爆発した。

 

 

「がああああ!!」

 

「ば、爆発やて!?」

 

「くそがあああああああ!!」

 

 

 爆発に耐える者、耐えることができず散っていく者。

 先程まで苦戦していた妖怪たちが、無残に散っていく。

 

 

「これは…何が起きているんだ?」

 

「恐らく、救援だとは思うが…

 こんな攻撃方法ができる魔法使いなんて、麻帆良には居ないはず…」

 

 

 前兆もなく空間が歪み、約二十本の高速の矢がほぼ同時に降り注ぎ、尚且つ矢が爆発する…

――まさか…

 

 

「――助けに来たわよ、龍宮さん、桜咲さん」

 

 

「「!!」」

 

 

 気配が無かった後ろから、棚町さんの声が聞こえた。

 驚いて後ろを振り向くと、

 

――棚町さんと衛宮先生が、悠然と立っていた。

 

 

「遅くなってごめん。あとは俺たちに任せて、休んでて」

 

「全く…熱くなるのはいいけど、他人に迷惑かけるのは駄目でしょう」

 

「う…」

 

「学園長からの救援で、間違いないんだね?」

 

「ええ、間違いないわ」

 

「もうちょっと早く到着しようと思ったんだけど、思いの外遠くて。

 申し訳ない」

 

「い、いえそんな」

 

 

 到着した二人と話していると

 

 

「やってくれるやないか」

 

「不意打ちとはいえ、ここまで強力な攻撃だったとは。見事だ」

 

 

 あの爆発の中、散った妖怪もいるが、全部というわけではなく。

 まだ半数近く残っていた。

 

 

「へぇ、あの攻撃に耐えるなんて。中々強いのね」

 

「ああ。そこは私も驚いてる。まだこんなにも残っているとはな」

 

「ええ、けど」

 

「「この程度の力なら、二人で余裕で倒せる(わ)(な)」」

 

 

 

 とても涼しい顔で、二人は自信満々にそう言った。

 あれ?そういえば、衛宮先生の口調が変わっているような…

 

 

「がはははは!!どこからそんな妄想が言えるんや!傑作やわ!」

 

「高々小娘と小僧に、我々を倒すなど…よくそんなことが言えるものだ」

 

「あ、あかん!面白すぎて、腹が痛いわ!」

 

「不意打ちが成功した程度やろ。阿保すぎるわ!」

 

 

 先生と棚町さんのを聞いて、妖怪たちは嘲笑と侮蔑の態度をとった。

 まぁ、わからなくもない。

 いきなり現れた二人が、こいつら弱いから倒せると言ったんだ。

 味方である私でも、さすがに困惑してしまう。

 と、思っていたその時。

 

―――空気が、重くなった

 

 

『!!!!』

 

 

 敵味方関係なく、身構えるようになった。

 あれほど騒いでいた妖怪たちも、雰囲気に呑まれ、戦闘態勢に入った。

 

 

「フフフフ…」

 

「クククク…」

 

 

 そして、元凶である二人は、薄ら笑いを浮かべながら、闘気を出していた。

 

 

「貴方たちの言葉、そっくりそのままお返しするわ」

 

「力量も測れず、見下すとは…哀れなものだ」

 

 

 そう言うと、棚町さんは用意していた刀を抜き、衛宮先生は白と黒の二刀を出した。

 

 

「なら、私たちの力、存分に味わいなさい」

 

「舐めてかかると、後悔するぞ」

 

 

「「覚悟(しなさい)(するがいい)」」

 

 

 二人は、妖怪の群れに向かって疾駆した。

 妖怪たちは、迎え撃とうとする。

 

――第二ラウンドが、始まる…

 



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化物退治 中

…はい、お久しぶりです。
投稿が非常に遅くなってしまい、誠に申し訳ございませんでした…

卒論や新人研修等、様々な事が起こり執筆する時間、気力がありませんでした…

しかし、投稿を待っているとの感想や、何故か上がっていた評価を見て、
罪悪感と同時に待って下さっている方がいることに嬉しさが溢れ、何とか書き上げることができました。

重ね重ね、2年以上間が空いてしまい、申し訳ございませんでした…



 棚町さんは、瞬動で妖怪たちの懐に飛び込む。

 妖怪たちは、その速さに一瞬付いて来れず、反応が遅れた。

 その隙を、棚町さんは逃しはしない。

 

「隙だらけね」

 

「なっ!!しまっ!」

 

 棚町さんは、適当に近くに居た妖怪に切りつけた。

 妖怪は、気づくのが遅く、台詞が最後まで言う前に、真っ二つにされた。

 

「この程度で、隙が出るとか…

 話にならないわ」

 

「小娘が!この程度で調子にのるんやないで!」

 

 棚町さんの呟きに、鬼が反応し、棚町さんに向かっていく。

 しかし、その鬼に、棚町さんは顔すら向けず、周りにいる妖怪に斬りに行く。

 

「舐めとんやないで!!」

 

 そう、反応する必要が無かった。

 なぜなら…

 

「私を忘れてはないかね?」

 

 白と黒の双剣を手に持つ、衛宮先生がいるからだ。

 鬼は気づいたが、遅かった。

 既に、剣を振っていた。

 

「がぁっ!」

 

「全く…。挑発するのは構わないが、他力本願すぎないかね」

 

「数が多いのだから、一々気にしていたらきりがないわ」

 

 二人は言い合いながら剣を振る。

 傍から見てもあまりに舐めている行動だ。

 

「く、こいつらホンマなめとんなおい…!」

 

「せやけどこいつら、強すぎやで!」

 

 先ほどまでの状況とは変わり、妖怪側が押されている。

 たった二人の人間に、倍以上の数がいる妖怪が苦戦する。

 その事実は、妖怪側に更なる焦りを生み出す。

 

「はぁっ!」

 

「ふっ!」

 

 棚町さんが刀を振り、衛宮先生が双剣を振る。

 さすがの妖怪側も、一振りでやられることはないが、何合かの切り合いのうちに倒される。

 しかし、

 

「人間如きが、これでもくらいな!」

 

「!」

 

 決して油断はしていないはずである。

 棚町さんは背後からの攻撃に反応できず、気づくのが遅かった。

 そこに、

 

「死にたくなければ伏せろ」

 

 そう言いながら、衛宮先生はすでに矢を放っていた。

 

「放ってから言う事じゃ、ないでしょ!」

 

「なに、君なら避けれるだろう?」

 

 衛宮先生が言う通り、間一髪のところで伏せながら、別の敵に刀を振る。

 

 __二人の戦闘は、私たちの戦闘とは違い、舞ってるかの如くに倒していく。

 

 さながら、二人による舞踏を妖怪達に魅せつけるかの如く。

 しかし、その舞踏も次第に乱れが生じていく。

 棚町さんが視覚外からの攻撃に対処しきれていない。

 

「くっ!」

 

 1、2回程度の攻撃ならなんとか捌けている。

 しかし、回数が多くなるうちに次第に棚町さんの顔が歪み始めた。

 なんとか衛宮先生がフォローしてはいるものの、妖怪側も気づき始め棚町さんに集中して攻撃し始める。

 

「確かに嬢ちゃんは強いが、そっちの兄ちゃんほどじゃない」

 

「弱いところから攻めるのは卑怯じゃないやろ」

 

 次第に攻撃が激しくなる。

 それでも耐えているのは、前方からの攻撃は完璧に対処しているからなのだろう。

 顔は苦痛に歪み、妖怪達の攻撃が掠りはじめる。

 

「はっははは!!最初の威勢はどないした!」

 

「そろそろ決めさせてもらおう」

 

 そういうと、妖怪たちは全方位から棚町さんに向かって同時に仕掛けてきた。

 前方の攻撃しか対処できないと、妖怪達は考えたのだろう。

 全方位からというだけあって、逃げる隙間はなく迎え撃つしか方法はない。

 

「いけない!」

 

「棚町さん!」

 

 衛宮先生も同じ状況のためか、助けに行けずにいる

 この状況で、棚町さんを助けることができるのは私と真名だけだと思った。

 しかし…

 

「フフフ…」

 

 全方位からの攻撃に対して、棚町さんは鞘に収めた刀に手を置き、不敵な笑みを零しながら、

 

「----我流 "漸次"瞬無撃砕」

 

 瞬きの間に、棚町さんの対面の妖怪が倒された。

 一拍置いてその他の方向の妖怪が1体倒された。

 漸次という名の通り、一度に倒される妖怪の数が2、3と増えていく。

 まだ、妖怪と棚町さんの距離はそれほど近くない。

 それなのに、刀を抜いただけで倒したようにしか見えない。

  

「み、見えない…」

 

 そして、何回か刀を振る内に棚町さんに向かっていった妖怪は全て消滅した。

 今の技は…

 

「なんとかなったようだな」

 

「何度も助けてもらってたら、私が来た意味がないじゃない」

 

「ふっ、ならもっと強くならないといけないな」

 

「わかってるわよ」

 

 衛宮先生が棚町さんと合流した。

 周りを見渡してみると、棚町さんに向かった妖怪以外がほとんど消滅している。

 恐らく、衛宮先生も棚町さんと同じように、向かってきた妖怪を撃退したのだろう。

 

「これが、衛宮先生と京の実力…」

 

 真名が珍しく驚いている。

 当たり前だ、逆にこの状況で驚かないほうが可笑しい。

 模擬戦ではあったものの、高畑先生に勝利し、私を圧倒させた棚町さん。

 実力は不明ではあるが、学園に来たばかりでありながらすぐに広域指導員に選ばれた衛宮先生。 

 ある程度は予想できるが、ここまでとは思わなかった。

 

 私たちが驚いている中、衛宮先生はある方向に顔を向けた。

 

「さて、妖怪の残りは僅かだが…」

 

「敵の術者の場所が特定できたのかしら?」

 

「ああ、そう遠くない場所にいる。

 恐らく、此処に向けた妖怪で事足りると思ったのだろう」

 

「なるほど、倒したらすぐに侵入できるように、けど目視で見つからない距離にいると」

 

「そういう事だ」

 

「な、なんやと!!」

 

 会話の内容を聞いて、私たちは言葉を失った。

 衛宮先生は、戦いながら妖怪を召還した敵の術者を見つけたというのだ。

 ただでさえ木々に邪魔されてる中で、さらにこの暗闇だ。

 探知魔法でも使わない限り、普通は無理だ。

 狙撃手である真名でも、戦いながらは不可能だ。

 

「此処は君に任せていいかね?」

 

「大丈夫よ。妖怪の数もそんなに多くないわ。

 というより、このくらい倒せるようにならないと話にならないわ」

 

「ふっ、たしかに。

 では、任せたぞ」

 

 そう言うと、衛宮先生は顔を向けた方向に向かった。

 妖怪は阻止するべく衛宮先生の前方に立ちふさがったが

 

「行かせっ」

 

「邪魔はさせないわ」

 

 棚町さんが妖怪に向けて電撃を飛ばし、阻止する。

 妖怪はあたる前に避けたが、道を塞ぐことができず衛宮先生を通す。

 衛宮先生は、そのまま瞬動を使って術者に向かっていった。

 

「ち、無理やったか」

 

「嬢ちゃん、面妖な術を持っとるようやな。

 西洋の術には見えんかったが」

 

「敵に教える必要はないわ」

 

「はは!せやな!」

 

 衛宮先生を通したことを悔やまず、雷撃を放った棚町さんに興味を示した。

 一方、棚町さんは電撃を左腕に纏いながら、妖怪隊に冷たくあしらう。

 

「私はまだ未熟者。たから力を扱いきれてないの。

 けど、この状況なら関係ないわ」

 

 そう言いながら、電撃の音が大きくなる。

 次の瞬間、

 

__姿が消え、音が妖怪の背後から鳴り響いた。

 

 妖怪は悲鳴を上げる暇もなく、消滅した。

 

「先ほどまでの私と一緒にすると、痛い目見るわよ。

 さぁ…

 

 |Totentanz≪死の舞踏≫を始めましょう?」

 

 そこから先は、終始棚町さんが優勢だった。

 

___光が明滅しては爆音が鳴り響き、

 

___銀色の閃光が風切り音と共に走る。

 

 

 それらが発生した後、妖怪が消滅する。

 まるで既に決まっているかの如く。

 妖怪たちは脇役のように踊っては去る。

 成程、確かに棚町さんが言った通り、これは妖怪たちを巻き込んだ舞踏だ。

 時折棚町さんが妖怪たちの攻撃を受けるのも、観客を飽きさせないよう仕組んでるとしか思えない。

 ありえない思考になるのは、私たちが疲労してるのか、棚町さんが強すぎるのかはわからない。

 ただ、一つ確実なのは…

 

「ぐあああああ!」

 

「これで、あと1体」

 

 妖怪を殲滅できる可能性があるという事だ。

 

「はぁ、はぁ…」

 

 さすがの棚町さんも、肩で呼吸する程疲労が溜まっている。

 一方、妖怪は最後まで残っているだけあってまだ余裕がある。

 

「やるなぁ嬢ちゃん。

 まさか儂だけ残るとは思わんかったわ」

 

「さすがに、疲れたわ。

 さっさと、決めさせてもらうわよ」

 

「がっはははは!!

 ほんま、面白い小娘よな!

 さて、儂も術者が危険な気がするんでな。

 とっとと決めさせてもらうわい」

 

 そう言うと、両者構えをとりながら集中する。

 双方の得物が唸りを上げる。

 それほどまでに集中しているのだ。

 

「っ…」

 

 私と真名は、その様子を固唾を飲んで見守る。

 指一本でも動かせば殺される…

 そう思わずにはいられなかった。

 そして、棚町さんの足が少し動いたその時、

 

「もろうたで!!」

 

「っ!」

 

 妖怪が疾駆しながら得物を振り上げる。

 棚町さんの足の動きの隙を突いたと思ったのだろう。

 現に、棚町さんは若干驚きの表情を見せた。

 

「儂の、勝ちやあああ!!」

 

 まさに、渾身の一撃とも言える振り下ろし。

 攻撃が当たるその瞬間、

 棚町さんの姿が、また消えた。

 妖怪の攻撃は、空しくも空振りただ轟音が鳴り響くだけとなった。

 背後に回り、右手が刀の柄に添えられる。

 

「なっ!!」

 

「終わりよ。

 ___我流、十文字切り」

 

 その技は、先日私が喰らった技。

 技を見るのは2度目であるにも拘らず、縦、横同時に振っているようにしか見えない。

 完璧に背後をとり、神速と言っていい攻撃は確実に捉えた。

 

「舐めるなよ小娘ええええ!!」

 

 しかし、今度は妖怪の番だと言わんばかりに、体を捻りながら前方に跳んだ。

 棚町さんの攻撃は、妖怪の右腕と脇腹に当たりはしたものの、妖怪を消滅できるほどではなかった。

 妖怪は捻りながら、得物を振り回す。

 先ほどと比べると、速さも威力も弱い。

 しかし、得物が大きく妖怪の力であれば、人間を殺すにはそれでも充分だ。

 棚町さんは攻撃を行った直後である為、大きな隙ができている。

 このままでは…!!

 

「今度こそ、終いやああああああああ!!」

 

「___いいえ、あなたの負けよ」

 

 攻撃が当たる瞬間、

 

 棚町さんの左手から、一筋の閃光が轟音と共に奔る。

 

 閃光は、妖怪の腕を貫通させ、頭も貫いた。

 振りぬいた右腕はそのままに、左手は真名の羅漢銭のようにコインを弾く様な形で前に突き出していた。

 

「そ、そんな阿保な…」

 

「さっさと消えなさい。

 ここは、あなた達が居ていい世界ではないわ」

 

 棚町さんがそう言うと、妖怪は口元を緩ませながら消えていった。

 最後の1体が、消滅した。

 それを確認すると、棚町さんは地面に四つん這いになった。

 一拍置いて、私たちは棚町さんに駆け寄った。

 

「棚町さん!!!」

 

「はぁ、はぁ…

 流石に、疲れたわ…」

 

「全く…無茶をする」

 

 真名は呆れながらも、一安心している。

 私も、無事なのを確認して安堵している。

 

「っつ…」

 

「うっ…」

 

 高宮さんと佐倉さんが目を覚ました。

 それと同時に、

 遠方から、轟音が鳴り響いた。

 術者を捕まえに向かった衛宮先生がまだ帰ってこない。

 しかし、それでも思った。

 

 

 

 その音は、まるでこの戦いの終わりの鐘に聞こえた…

 

 

 




戦闘場面が難しい…
これから頑張っていきたいと思います。


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