藍原延珠が転生(と言う名のやり直し)をして里見蓮太郎の正妻になる為に色々と頑張るお話 (安全第一)
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1.終わりと始まり

どうもです、安全第一です。

この作品は延珠がれんたろーの為にENJUとなるお話です。

どーぞー


「里見君、君の負けだ」

 

 

 ───エンドレス・スクリーム

 

 

 光が天に立ち昇る。雲を穿ち、大穴を空け夜空の星を映し出させる。それは不気味な光景だったのかも知れないし神秘的な光景だったのかも知れない。

 

 少なくとも今の状況から言えば不気味な光景だろう。

 

「れ、蓮太郎オオオォォォォォッ!!!」

 

 その光が発せられた場所、フェリーの上では一人の少年の身体がその肉体ごと抉られ血の海を作り出していたのだから。

 

「………」

 

 肉を抉られた少年、里見蓮太郎は血の海に倒れ伏し、その命は風前の灯だった。彼の相棒である藍原延珠が幾ら揺さぶっても反応すらしない。

 

 本来ならこの後、里見蓮太郎は延珠の叫びによって復活し、AGV試験薬による無理矢理な再生で傷を癒し激戦の末、見事強敵である蛭子影胤を倒す物語だった。

 

 だがこの世界の蓮太郎は抉られた範囲が原作の世界よりも広かった。ただそれだけの事が蓮太郎の生死を大きく分けてしまった。

 

 そう、彼の傷は心臓まで抉ってしまっていたのだ。

 

 人間の重要な臓器の一つである心臓を破壊された。つまりそれは彼の完全なる死を意味する。

 

 それ故に、もう動かなかった。

 

 主人公の様に立ち上がる事も、ヒロインの為に立ち上がる事も、強敵を倒す為に立ち上がる事も、世界を救う為に立ち上がる事も。

 

 もう何も出来ない。

 

「れ、んたろ、う……?」

 

 延珠は蓮太郎の顔を見る。いつもは優しく時に厳しく、たまに恥ずかしがり屋な一面も見せた彼女にとって掛け替えのない最愛の人の顔。

 

 その顔は無表情で、冷たくなっていた。

 

「なん、で? 何で、起きないのだ……? ねえ、れんたろー……」

 

 ユサユサと彼をもう一度揺さぶる。だが返事は帰って来ない、来る筈が無い。

 

「妾を一人にしないって言ってたのに……? ねえ、嘘はダメなんだぞ……? 木更もそう言っていたではないか……」

 

 冗談だと、これが冗談なのだと信じたかった。直ぐに起きてくれるって、そして一緒に戦ってくれるって。

 

 

 でも、目の前の出来事は紛れもない現実だった。

 

 

 里見蓮太郎は、もう動かない。

 

 

「そん、な……。嘘だ、嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッッッ!!!!!」

 

「───嘘ではない」

 

「ッ!!」

 

 拒絶したくなる現実を否定しようとも、強敵がそれをさせなかった。

 

「あの一撃で里見君の心臓は確実に抉った。もう生きてはいまいよ」

 

「そんなの! 妾は信じない!」

 

「ならば君の目の前で倒れている彼は誰だ? 君を愛し、君が愛していた里見蓮太郎ではないのかね?」

 

「ぁ……」

 

 そう、延珠の傍で血の海に沈んでいるのは紛れもない彼自身だ。蛭子影胤の言葉に延珠は何も言えなくなった。

 

「彼は死んだ。その事実は曲げられないのだよ。無論、常識を覆すガストレアであろうともね」

 

 影胤が延珠へと歩み寄る。コツコツとその音が大きくなって行く。

 

「現実を、受け止めたまえ」

 

 影胤がサイケデリック・ゴスペルの引き金を引いた。その弾丸は延珠の脚を貫く。

 

「ああ"ぁあぁあ"ああ"ぁぁあ"ぁあああ"ああ"ぁあぁぁぁあ"ぁぁあぁあ"ぁッッッッ!!!!!」

 

 脚から血が吹き出る。その強烈な痛みが脚を中心に全身へと響き渡る。その痛みに延珠は悲鳴を上げた。

 

「里見蓮太郎と対峙して今解った。彼はこの私を倒せる程に強かった事を。弱いなどと先程は失礼な発言をしてしまったが訂正しよう」

 

 仮面の奥から心底笑っている様な笑い声が辺りに響き渡っていく。その視線は一度蓮太郎の方へと向けると、また延珠の方へと戻した。

 

「ならば何故、彼は死んだと思う?」

 

 

 

 ───それは、君が弱かったからだ。

 

 

 

「………ぇ?」

 

 影胤の指摘に延珠は意味が解らないと言った声を上げる。

 

「ヒヒヒッ、どうやら意味が解っていない様だね。ならば分かり易く教えてあげよう」

 

「つまり、君の存在が彼に枷を掛けたのだよ。藍原延珠」

 

「………ぁ」

 

 影胤の言葉に、延珠は思い出す。先程、影胤の銃撃を受けそうになっていた所を蓮太郎によって庇われ、逃れた事を。

 

 そしてAGV試験薬を投与して傷を無理矢理治癒させて、赤い目を光らせて影胤に飛び掛かって行った事を。

 

「君達イニシエーターは力が有る。それは私達人間では到底及ばないだろう。だが、それだけなのだよ」

 

 そう、それだけ。それだけの事なのだ。所詮、力が有るだけの唯の子供、それ以外は全て脆く弱い。

 

「君が通っていた小学校に君が呪われた子どもだと言う情報をリークしたのは他でもない私だ。当然、君は化け物呼ばわりされ忌み嫌われただろう。しかし、辛く苦しかったのは君だけだと思うかい?」

 

「……そんなこと、ない」

 

「そう、君の相棒である里見君も当然辛かったに違いない。彼は苦渋の決断で君をその小学校から離れさせたのだから」

 

 延珠が小学校のクラスとずっと友達でいたい気持ちは彼にも良く解っていた。出来れば和解してそのまま楽しく皆で学校生活を送らせたかった。

 

 だが現実はそう甘くない。

 

 現実は何時だって非情だ。

 

 その非情はやがて残酷な形となり、凶器となり、その者の心を抉る為だけに突き立てられる。

 

「君をこれ以上傷付けさせない為に、踏み潰されない為に、踏みにじられない為に、壊されない為に、彼は自分自身より君の事を第一に考え支えてきた」

 

 

 

 ───その結果がこれだ。

 

 

 

「あ、あぁぁあぁあ……」

 

 壊れて行く。壊されて行く。里見蓮太郎という護ってくれる存在が消えた今、現実が、虚実が、事実が、真実が、残酷な全てが凶器となり彼女に、藍原延珠の心に突き刺さり奥深くへと抉る。

 

「君の傍にはもう誰も居ない」

 

 更にその抉った心の傷に触れ、痛みを増幅させる。

 

「………ぁ……ぁ」

 

 崩壊寸前の心。もう藍原延珠には希望が何一つとして存在しない。もう放っておいてもいずれ死ぬ。存在意義を全て奪われ、失った彼女に出来る事は無い。

 

 止めとしては十分過ぎた。

 

「Good night、藍原延珠」

 

 せめてもの慈悲として、仮面の紳士は彼女の心の臓に向けて拳銃の引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねえ、蓮太郎が死んじゃったのは妾の所為なのか?

 

 でもそれは、妾の所為だったのは嘘なんかじゃない。

 

 それは本当なんだ。

 

 現実なんだ。

 

 真実なんだ。

 

 事実なんだ。

 

 

 

 

 

 ……蓮太郎。

 

 ………蓮太郎。

 

 …………蓮太郎。

 

 ……………れんたろー。

 

 ………………れん、たろう。

 

 

 

 

 

 貴方に、会いたいよ。

 

 妾は貴方のフィアンセだから。

 

 でも、妾は貴方の事を知っている様で全然知らなかった。

 

 生きて来たこの短い人生で辛い事や悲しい事、苦しい事や虚しい事、他にも沢山あるけれどいっぱいいっぱい経験した。

 

 だけど、妾よりも先に生まれていた貴方は妾以上に色んな事を経験していたんだと思う。

 

 そう考えると、妾は貴方の事を思いやっていなかったのかも知れない。

 

 蓮太郎の気持ちも知らないで、勝手な事ばかりしていたのかも知れない。

 

 それでも貴方は許してくれた、優しくしてくれた、甘えさせてくれた。

 

 貴方だけが、唯一の心の拠り所だった。

 

 裏返してみれば、貴方がいなければ生きていけないくらい心が脆かった。

 

 でも蓮太郎、貴方は強かった。

 

 どんなに辛い事があってもその心は折れなかった。すごく嬉しかったし、すごくかっこ良かったし、すごく頼もしかった。

 

 だから、妾は貴方に依存していた。

 

 だから迷惑を沢山かけた。

 

 その所為で貴方を死なせてしまった。

 

 だから、妾の所為だ。

 

 ごめんなさい。

 

 

 

 ……。

 

 ………。

 

 …………。

 

 ……………。

 

 

 

 ねえ蓮太郎。もう一度、貴方に会いたいよ。

 

 もう我儘なんて言わないから。

 

 もう貴方に依存なんてしないから。

 

 これからは蓮太郎を支えられる様に頑張るから。

 

 貴方を一人にしないから。

 

 だから、

 

 だから、

 

 だから……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───貴方に、会いたいよぉっ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

『───……良いだろう』

 

 ───……?

 

 延珠がそう思っていると、彼女の目の前の空間が裂け、そこから一人の白い青年が現れた。

 

 全身が白装束に身を包んでおり、胸の光り輝く玉によって彼の全てが神々しく、別次元の存在へと成っている。

 

『……今、貴様の心の叫びを聴いた。その願望を聴いた。……中々に興味深い魂だ』

 

 ───だ、れ……?

 

 

 

『……俺の名はウルキオラ・シファー。虚無を司る死の形であり、唯の【心の探求者】だ』

 

 

 

 延珠の問いに青年、ウルキオラはそう応えた。

 

 

 




知ってるか? 今、作者は大学の教育実習期間中なんだぜ……?

それとここに出てくるウルキオラは心を理解した&崩玉の力を解放しているULQUIORRAさんです。
例えれば一京のスキルを持っている安心院さんの様な存在です。


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2.蘇る希望

どうもです、安全第一です。

連続更新デース

(´・Д・)≡○)´д`ノ)ノ <デュクシッ☆


 ───ウルキオラ・シファー……?

 

『そうだ』

 

 反芻した延珠の声にウルキオラはそう応えた。そう言えば此処は何処なのだろうと疑問に思っていた。

 

 ───ここはどこなのだ?

 

『……此処は何処にでも有って何処にでも無い空間。生と死の狭間の世界。つまり何も無い虚無の世界だ』

 

 ───???

 

 延珠には少し難しかったのかも知れない。頭にクエスチョンマークが現れている。

 

『貴様には天国と地獄の間と言えば良く解るだろう』

 

 ───それなら妾にも解るかも。

 

 ようやく理解した延珠。だが死んだ筈の自分が何故此処にいるのか解らない。

 

『……貴様の魂を此処に呼び寄せたのは他でもないこの俺だ』

 

 ───じゃあ、ウルキオラは神様なのか?

 

『……強ち間違ってはいない。だが、神では無く死神の方だが』

 

 ───えっ

 

『……しかし、貴様を地獄に送ろうなどというつもりは毛頭無い』

 

 ───そ、そうか。なら、何で妾を此処に?

 

『……貴様の心からの願望を叶える為に』

 

 ───!

 

 延珠はウルキオラの言ったその言葉の意味が直ぐに解った。何故ならそう願ったのは他でもない延珠自身だからだ。

 

 恐る恐るウルキオラに再び訊く。奪われ、全てを失った彼女の希望がもう一度蘇るという希望を抱いて。

 

 ───わ、妾は、もう一度やり直せるのか……? 蓮太郎ともう一度会えるのか?

 

 

 

『ああ』

 

 

 

 ───……っ!

 

 延珠の頬から雫が流れ落ちる。肉体など無い筈なのに、勝手に零れ落ちる。悲しかったからでは無い、嬉しさの余りに。

 

 

 今ここに、藍原延珠の希望は蘇った。唯一の希望として、最後の希望として。

 

 

『……だが、このままでは到底不可能だ』

 

 しかしその蘇った希望を前にはしゃぎそうになった延珠をウルキオラかそう言い、制す。

 

 ───な、何で……!?

 

『それは貴様が一番良く知っている事だ』

 

 ───……!

 

『……貴様が死ぬ直前に誰に何を言われたのかもう忘れたのか?』

 

 ───そうだ……。妾は、蛭子影胤に弱いと指摘されて、それで……。

 

 記憶が蘇って来る。蛭子影胤によって蓮太郎を殺され、何も出来なくなった自分に弱いと指摘されたその記憶を。

 

 ───悔しい。

 

 ───悔しい。

 

 ───悔しい!

 

 延珠は己の脆弱さに歯噛みし、己の心中を吐露しながら後悔する。もっと自分が強ければ、蓮太郎を護れるだけの強さが有れば、蓮太郎を支えられるだけの心の強さが有ればと。

 

 

 

『……それをこの俺が徹底的に鍛え上げてやろう』

 

 

 

 ───!!

 

 ウルキオラの言葉に延珠は驚愕する。どうしようもない自分を鍛えてくれると言ってくれた。

 

『……俺は虚無を司る死の形。凡ゆる戦争に身を置いて来た。そして幾度と無く勝利を掴んで来た。その俺の培った技術の全てを貴様に叩き込んでやろう』

 

 ───……。

 

 勘の鋭い延珠ならば解る。目の前にいる死神は自分とは別次元の存在だと言うことを。恐らく世界に敵対しようともその圧倒的な力で勝利をもぎ取れる程に強いのだと。

 

『……それとも、このままの状態で転生させ再び己の無力さを味わうのか?』

 

 ───っ! 嫌だ!

 

 延珠は直ぐに否定した。このまま蘇っても結果は変わらないのだと言う事実は既に承知済みであった。

 

 延珠は懇願する。

 

 ───ウルキオラ! 妾を、徹底的に鍛えてくれ! ううん、鍛えて下さい! お願いします!

 

『……良いだろう。その願望、聞き届けた』

 

 

 

 

 

 バキン

 

 ───世界が変貌する。

 

 

 

 

 

「こ、此処は……」

 

『此処は虚夜宮(ラス・ノーチェス)の天蓋の上。俺の持つ世界の一つだ』

 

 硝子細工の様に出来ていた虚無の世界は砕け散り、その本性を現す。

 

 天には芸術的な美しさを持つ欠けた月が、周囲の世界は無駄の無い白と黒の色彩が支配していた。

 

 ふと自分自身を見ると、先程まで霊体だった己の身体に肉体が構成されていた。本当は霊体を実体化させただけなのだが、それは置いておこう。

 

『……そして、貴様を強くする為の世界だ』

 

「!」

 

 その言葉を聞き、延珠の表情は引き締まる。どのように強化するのかは解らないが、気を緩めてはいけないと本能が警告している。

 

『……内容によっては、地獄すら生温いものも有る。油断すれば里見蓮太郎とは二度と会えないと思え』

 

「っ! はいっ!」

 

 ウルキオラの言葉に、延珠は気迫の籠った返事をする。それを見たウルキオラは無表情だったが、どこか満足そうにしていた。

 

『……ならば、開始する。先ず基本の中の基本、基礎の中の基礎を徹底的に鍛えて上げる。これらを一週間以内に会得しろ』

 

「はい!」

 

 

 

 こうして始まる、地獄の様な修行が。だが、どれほど辛くても延珠は決して弱音を吐かなかった。里見蓮太郎という最愛のパートナーに再び会う為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねえ、蓮太郎。

 

 妾、とっても強くなるから。

 

 強くなって来るから。

 

 だから待ってて。

 

 今度こそ貴方の全てを支える為に強くなる。

 

 今度こそ貴方の最愛の人になってみせる。

 

 今度こそ貴方を死なせない。

 

 だから決別する。今までの自分自身に。

 

 

 

 さようなら『妾』

 

 そしてよろしくね、『私』

 

 




教育実習は中々大変です。

でも慣れて来るととても楽しいです。


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3.出発

どうもです、安全第一です。

三話連続更新でござる。

この話は延珠TUEEEEEと延珠の性格改変の要素が入っております。

それが大嫌いな読者様はお控え下さい。

ちなみに修行で十年経ってますが、魂の実体化をしただけなので見た目はロリです。ただ精神年齢が20歳のお姉さんになってるだけでして……
ですが20歳の姿(おっぱいはD)まで自在に変えられる事が出来ます。


 ───十年後。

 

『……上出来だ』

 

「!」

 

 ウルキオラから合格点を貰った。この日までにどれだけ時間が掛かったのか。

 

 十年前からの修行は地獄すら生温いものばかりだった。時にはウルキオラと共に別の世界に渡り、そこに存在する強者と殺し合いをした事も有った。

 

 一対一の殺し合いもあれば、一対多数の戦闘も、一対大多数の殲滅戦すらも有った。極め付けは延珠対全世界などと言う鬼畜過ぎるものまで有った。だが延珠はそれを全て打ち倒して来た。

 

 そして同時に、彼等の心を知ることも出来た。

 

 この十年間、己を見つめ直す時間も有れば、最愛の存在である里見蓮太郎や敗北した相手である蛭子影胤の事を考え直す時間も猶予も有った。

 

 だから考え方が変わった。

 

 蛭子影胤は里見蓮太郎という正義の成れの果てなのだと理解出来た。同情はしないが彼等には彼等なりの正義が有った。その正義を全うする為に必死だったのだと解った。

 

 自分自身の価値観も理解出来た。

 

 藍原延珠は人間だ。だが同時に化け物でもあった。生きていた頃は到底耐えられない現実だったが、この十年間でそれを受け入れるだけの心の余裕が出来た。

 

 

 

 私は人間で、

 

 私は化け物だ。

 

 

 

 別に自虐という訳では無い。そうなのだと言う現実を理解し許容しただけの事だ。そうすると別に何とも思わなくなった。

 

 現に延珠を徹底的に鍛え上げた張本人であるウルキオラも化け物だし、それ以上だ。最早化け物という単語では収まりきれない程に強大なナニカ。それを十年間も共に居れば自分などちっぽけな存在でしかない。自分以上の化け物なんて山ほどいるし、自分以下の化け物も山ほどいる。結局はただそれだけの事なのだ。

 

 十年間の修行の中で、ウルキオラが自分に対して手を抜いたなどと言う事は一切無かった。模擬戦という名の殺し合いの時も常に彼は延珠を殺すつもりで戦っていた。勿論延珠も殺されるつもりは毛頭無いし、殺らなければ殺られる事は理解していたから常に全力を超えた全戦力で迎え撃っていた。

 

 しかし今までまともに延珠の攻撃がウルキオラに直撃した事は無い。それは至極当然であった。

 

 それ故、常に戦術を考え、練り直し、ウルキオラから繰り出される全ての攻撃や迎撃に対応出来る様に己を鍛えた。凡ゆる戦闘を予測し、凡ゆる技術を備え、凡ゆる術を用意し、凡ゆる勝利を予想し、凡ゆる敗北を予想した。

 

 だがウルキオラはどんな状況においても全て対処出来るオールラウンダーであるが故に、同じ手は二度と通じない。それどころか延珠が次に移す行動を先読みし、延珠の戦術を片っ端から壊した事も数知れず。

 

 しかし延珠は諦めなかった。戦術が片っ端から壊されたのならば、頭をフル回転させ壱から新たな戦術を組み立てるまでだと。それが不可能ならば零から再構築するまでだと。

 

 そして今日この時、初めて己の攻撃がウルキオラに直撃した。奇跡の中の奇跡と言っても過言ではないが、今のウルキオラを知っている者達からすれば途轍もない快挙と言っても良い。

 

 とはいえ、ウルキオラ自身は全く効いていない様子だったが。

 

『……合格だ、藍原延珠。もう俺から教える事は何も無い。今日を持ってお前の為の修行は終了する』

 

「……!」

 

 嬉しさの余り、はしゃぎそうになる。勿論、この修行が終わった事による喜びでは無く、やっと里見蓮太郎と会う為にやり直せる喜びに。

 

 だが、調子に乗ってはいけないと己を戒め、自制する。

 

「師匠、今まで本当に有難うございました」

 

 延珠は最大の感謝を込めて頭を小さく下げる。大きく下げてしまってはそこに大きな隙が出来るからだ。

 

『……今のお前ならば凡ゆる障害が立ちはだかっても問題無いだろう』

 

「これも全て師匠のお陰です。私はやっとスタートラインに立てるだけの資格を得たのだと思っています」

 

『……その培った技術を、お前の思うままに振るうが良い。俺から言えることはそれだけだ』

 

「はい」

 

 恐らく師弟の最後の会話。それを噛み締めながら延珠はウルキオラと話していた。

 

『……これより、お前を転生させる。時期はガストレア戦争の最中だ』

 

「ガストレア戦争の真っ只中という事は蓮太郎は6歳ぐらいかな……。でも、幼い蓮太郎も見てみたいな」

 

『……そしてお前に一つ言っておこう』

 

「何ですか?」

 

『お前をその時期に転生させるが、今のお前そのままをそこに転生させる』

 

「つまり赤ちゃんからやり直しじゃないんですね?」

 

『……そうだ。今のお前にその意味は解るな?』

 

「……それは、私を産んでくれた両親は存在しない事になる」

 

『……ああ。つまり藍原の性を持つ者はお前だけだ』

 

「……」

 

 両親が存在しない。それは生前の目的を失う事と同義だ。延珠がIISOに入ったのは両親を探す為だったのだ。その目的を失う事は蓮太郎に再び会う為と力を得た代償と言えた。

 

 だがそれは当然であり、延珠もそれ相応の代償が有ると覚悟していた。だからそこまで大きな衝撃では無かった。

 

「大丈夫です。生きているのかも解らない両親を探す事よりも蓮太郎を支える事の方が有意義ですから」

 

『……なら良いだろう』

 

 ───解空(デスコレール)

 

 延珠の目の前に突如として空間が裂けて行く。その先は暗闇で分からない。

 

『……この空間を渡れば、再びお前の全てをやり直せる』

 

「………」

 

 これを渡れば、あの世界に戻る事が出来る。再び里見蓮太郎を護る事が出来る。自然と延珠の身体が緊張していた。

 

「〜〜〜っ、よし!」

 

 パチン、と両手で自分の頬を叩き、気を引き締め、その足を進める。

 

「行ってきます、師匠」

 

『……ああ』

 

 延珠の足が進み、裂けた空間に入って行く。そしてその身体が空間に全て入った所で、裂け目が閉じて行った。

 

『……お前のような愚直な奴もたまには悪くない』

 

 一人残ったウルキオラはボソリと呟き、その姿を消した。

 

 

 

 その世界には、誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いた……」

 

 空間の終着点に着いた延珠はその空間の裂け目の外へ出た。

 

 そして彼女は驚愕する。

 

「……これが、ガストレア戦争……」

 

 延珠の目の前には崩壊した都市。血塗れとなり死んでいる自衛隊員、少数だが通常兵器によって殺されているガストレアが転がっていた。

 

 辺りは火の海と血の海による阿鼻叫喚の地獄絵図となっており、これを地獄以外に例える言葉が無かった。

 

「そしてどこかに蓮太郎が……」

 

 延珠は目を閉じ、全神経を集中させて発動する。

 

 

 ───探査回路(ペスキス)

 

 

 今の延珠は破面の側面を持つ死神の存在となっている。例えれば死神から虚化し、更に帰刃が出来る東仙要と同じ特殊な存在だ。だから破面の能力の一つである探査回路が使えるのだ。

 

 因みに延珠の持つ死神の力や虚の力を含めた破面の力、斬魄刀などは全能の存在であり超越者であるウルキオラによって施されて得たものだ。当然ながら内在闘争といった自分自身との戦争もやり終えている。

 

 延珠の発動した探査回路の範囲は崩壊した都市全体を余裕で包んだ。この都市だけならば誰が誰なのか、何処へ向かっているのか、何をしようとしているのかが把握出来る。

 

 そして見つけた、小さな魂。

 

「……いた!」

 

 間違いなく、彼の魂だ。それを確認した延珠は彼の元へ駆け付ける為に高速移動法、瞬歩でその場から姿を消した。

 

 誰にも視認出来ない速度で駆けて行く延珠。その間に邪魔となっていたガストレア達は刹那の間に屠る。それは全てステージIII以上のガストレア達であり、それが全て一撃で瞬殺されていた。

 

 ガストレアと戦っていた自衛隊員達は急に爆散して絶命した現象に唖然となり、次々に屠られ絶命して行くガストレア達を只々見ていただけだった。

 

「あそこだ!」

 

 瞬歩で駆けて行く中で延珠は視線の先に地に横たわる小さな子どもを見つける。先程、空対空ミサイルが直撃したガストレアがその場所をハードランディングしており、彼はその衝撃で吹き飛ばされていた。

 

 徐々に起き上がろうとしているガストレア。ぐぱあ、と口を大きく開け、蓮太郎を今にも喰らおうとしていた。

 

 

 

 だが彼女がそれを許さない。

 

 

 

 ガストレアに一瞬で肉薄し、得意の蹴りを使うこと無く掌底による打撃でガストレアを爆散させた。

 

「……だれ……?」

 

 肉片が飛び散る中、幼い声が延珠の耳に聴こえて来る。

 

 延珠が踵を返すととても幼い顔立ちの、しかし面影が残っている顔をした子どもがそこにいた。

 

「……蓮太郎」

 

 延珠はそう言い、蓮太郎に近付く。自分の名前を呼ばれた蓮太郎は驚いた表情をしていたが、幼くても蓮太郎はやはり蓮太郎だった。だから延珠は自然と微笑んでいた。

 

 そして倒れている蓮太郎を抱き寄せ、そのまま抱き締める。

 

 

 

 

 

 会いたかった。

 

 

 

 

 

「ただいま、蓮太郎」

 

 抱き締めていた蓮太郎を離し、女神の微笑みで彼を見る。蓮太郎は何を間違ったのか、こう呟いた。

 

「……お母さん……?」

 

「!」

 

 そう呟いた後、蓮太郎は安心したかの様に気を失い、延珠の胸の中で眠りに着いた。そんな彼を延珠は頭を優しく撫でながら苦笑していた。

 

「お母さん、かあ。ふふっ、未来では貴方の相棒なのにね。何だかおかしくなっちゃった」

 

 周りが地獄絵図の中で延珠は蓮太郎と会えた嬉しさに至福を感じていた。

 

 

 

 だが、今は来るべき時では無い。

 

 

 

「そこにいるのは誰だ?」

 

 延珠の後方から老練たる重い声が聴こえて来る。延珠が振り向くと、そこには蓮太郎が世話になる天童木更の祖父、天童菊之丞がそこにいた。

 

 来るべき時まで、この人に預けよう。蓮太郎が独り立ちするその時まで。

 

「……天童菊之丞さん」

 

「!?」

 

「蓮太郎を、頼みます。出来る限り支えてあげて下さい」

 

 蓮太郎をお姫様抱っこした延珠が菊之丞に歩み寄り、蓮太郎をそっと渡した。菊之丞は自分の名を知っていた事に驚愕していたが、何処か蓮太郎と似ているな、と延珠は思った。

 

 蓮太郎を渡した延珠は踵を返し、戦場へと歩いて行く。

 

「待て」

 

 それを菊之丞が引き止めた。延珠は足を止め、顔だけ彼に振り返る。

 

「お前は何者だ」

 

「ふふ、私は人間であり化け物です。そんな事より木更とも仲良くしないと嫌われちゃいますよ」

 

「!」

 

 微笑んでそう言った延珠は菊之丞が驚愕している間に瞬歩でその場から姿を消した。

 

「……希望、か?」

 

 蓮太郎や木更の、と言いかけたがそれは言葉に出さなかった。蓮太郎や木更の事を何故か知っている彼女が何者なのか解らない。つまり不確定要素だからだ。

 

 だが、少なくともあの微笑みはとても優しく、菊之丞の妻の様に包容力のあるものだという事は理解出来た。

 

「……希望であって欲しいものだ。あの少女には」

 

 彼女は人間と言ったが化け物とも言った。だから絶望という可能性も捨てきれない。しかし、菊之丞は希望であって欲しいと心から願っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さってと、蓮太郎の為に頑張らなきゃね」

 

 瞬歩で何処かの高層ビルへと移動した延珠はその地獄絵図を眺めていた。

 

 延珠の視線の先にはガストレアの大群が自衛隊へと迫って来ていた。視線を横へ移すと他のガストレアよりも更に大型のガストレアが避難民を襲っている。更に視線を移せば、避難民を襲っている大型ガストレアと同型のガストレアが三体、そして五体の大型ガストレアが先程蓮太郎が居た地点に迫っていた。

 

 先ずはガストレアの大群から一掃する事にしよう。そう考えた延珠は再び瞬歩でその場所へと一瞬で移動する。

 

「君! 危ないぞ!!」

 

 自衛隊の前に現れた延珠に隊員の一人が彼女に向かって叫ぶ。しかし延珠はその声を無視し、左手をガストレアの大群へ向けた。

 

 

 

「破道の八十八、飛竜撃賊震天雷炮」

 

 

 

 そう唱えた延珠の左手から広範囲に渡って強大な爆撃が放出された。

 

『ギシャアアアアァアアァァァアァアァアアァア………』

 

 その爆撃にガストレアの大群は為す術もなく呑み込まれ、全滅する。

 

「次」

 

 すかさず瞬歩で別のポイントへ移動し、避難民を襲う大型ガストレアの前に立ち塞がる。

 

 そのガストレアを前に、延珠は更なる破道を発動させる。

 

 

 

「破道の九十、黒棺」

 

 

 

 唱えた先から黒く巨大な棺が大型ガストレアを覆い、閉じ込めた。

 

 そして黒棺が解かれるとバラバラになったガストレアが現れた。その肉片は塵となり、消えて行った。

 

「次」

 

 再び瞬歩で移動。三体のガストレアの前に現れ、一瞬の内に三体全てを蹴り上げた。

 

 

 

「破道の九十一、千手皎天汰炮」

 

 

 

 蹴り上げ空中に放り出したガストレア三体に向けて凝縮した霊力を集中射出する。その威力は計り知れず、爆雲が天に立ち込める程に強大だった。

 

「次」

 

 更に瞬歩で移動する。蓮太郎がいる位置から約一キロメートル程の所に五体のガストレアが侵攻していた。

 

 延珠は手の平にビー玉程の球体を創り出し、それをガストレア達へ弾き飛ばした。その速度は音速を軽く超え、第三宇宙速度にまで達していた。

 

 ビー玉がガストレア達に着弾する寸前、延珠が唱える。

 

 

 

「破道の九十六、一刀火葬」

 

 

 

 刹那、超巨大な刀の形をした火柱が打ち上がる。その範囲、威力共に先程までの破道の非では無い。五体のガストレアは愚か、その付近にいたガストレア達まで焼き尽くし灰と帰していた。

 

「……よしっ、これで一先ず戦況は膠着状態に持ち込んだかな」

 

 腰に手を当て、探査回路によるリアルタイムの情報を確認しながらそう言う延珠。彼女がこの世界に蘇ってまだ二十分程度しか経っていない。その二十分で戦況をここまで変えた彼女の力は計り知れなかった。

 

「蓮太郎と会うまで後九年かぁ……。長いけど蓮太郎の為だもん、我慢しなきゃ。それに───」

 

 

 

 ───あんなに可愛い蓮太郎を抱き締められたから後十年は戦える!

 

 

 

 やはり、蓮太郎と会えた事が余りにも嬉しかったのだろう。顔が少しにやけてしまっている。この表情を鏡で見たら恥ずかしさの余り布団に潜り込んでしまうのは確定だろう。

 

「でも、蓮太郎がこの頃からとても辛い思いをしていたのは解った。なら、私はそれを支えてあげるだけ」

 

 緩んだ表情を引き締め、再び戦闘モードに切り替えた延珠は瞬歩を使ってその場から姿を消した。

 

 

 

 藍原延珠のやり直しの物語が、此処に始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藍原延珠

 

 IP序列三位

 

 二つ名は『劫火(ザ・クリムゾン)

 

 IISO最初のイニシエーターにして例外であるプロモーター不在のイニシエーターであり、世界最強の戦力を持つ。

 

 その圧倒的な戦闘能力にて、ゾディアックガストレア二体を撃破。IP序列は彼女の都合上、第三位となっているが、一位、二位のペアとの実力には雲泥の差がある程に強大。

 

 IISOに最初のイニシエーターとして登録された後、世界各国を渡りガストレア達を殲滅。その功績は余りにも大きい。

 

 特にアメリカ合衆国のモノリスに約十万体のガストレアが侵攻するという圧倒的絶望の状況の中、紅い劫火を纏いたった一人で全てを全滅させた事は全世界が認識している偉業である。

 

 

 

 ガストレア総撃破数:五十九万八千四百二十七体

 

 

 




言い忘れていましたが、この作品は殆どテキトーに書いております、ええ。

なので文字数が短かったり長かったりと不安定です。

文字数が長い話の時は作者のインスピレーションが爆発したと、逆に短ければ作者絶不調じゃーん、とそう認識して下さい。

デュクシ☆


追記

すみません、補足説明忘れてました。
破道の九十六・一刀火葬ですが、犠牲破道です。
しかし延珠は炎熱系の破道とは非常に相性が良く、一刀火葬をノーリスクで扱う事が出来る例外の存在です。


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4.運命の出会い

どうもデース(・ω・)ノ

更新しマース(=゚ω゚)ノ

いよいよ延珠の最愛の相棒との再開もとい出会いです。


 ガストレア戦争から早くも九年が経った。

 

 延珠はその間、単独イニシエーターとして各国を渡り活動し、ガストレア達を屠って来た。

 

 その結果、延珠のIP序列は三位。『劫火(ザ・クリムゾン)』の異名を持ち全世界から認識された。

 

 『劫火』の異名はゾディアックガストレアとの戦いと十万体のガストレアとの戦争の時に彼女から全てを焼き尽くす火炎を纏っている姿を取って名付けられた。仏教では劫火とは世界が壊滅する時に、この世を焼き尽くしてしまうと言う大火を意味しているそうだ。そう捉えると延珠の纏う火炎は正に劫火そのものだったのだろう。

 

 世界各国で活動している為、様々な権力者には貸しがあったり借りがあったりする。なので延珠の信頼は高い。

 

 現在、延珠は東京エリアにて活動していた。それは気まぐれでは無く、ちゃんとした目的があった。

 

 それは彼女の最愛の相棒である里見蓮太郎が自立し、IISO機関への加入をする時期であった。

 

 延珠は蓮太郎とペアを組む日を覚えていたのでこうして東京エリアに戻って来ている。

 

 話は別になるが、IISOでペアとして登録するにはプロモーターとイニシエーターの両方の承認が無ければならない。

 

 当然、世界最強の戦力である延珠の元にはプロモーターから山ほどのオファーが来ていた。しかも強者から弱者まで様々だったのでこれには延珠も苦笑したものだ。

 

 しかし延珠はそれらを全て拒否した。

 

 全ては蓮太郎と会う為なのだ。他のプロモーターとペアを組むつもりなど毛頭ない。しかし単独イニシエーターではペアは成立せず、序列なども向上しない。

 

 だが延珠は世界各国を渡り、幾多のガストレアを斃し戦果を挙げ、更にはゾディアックガストレアすらも討伐し、その名を全世界に知らしめる事で単独活動を許された例外である。

 

 

 

 さて、延珠は今IISOの東京エリア支部にやって来ていた。

 

 それを出迎えたのはIISO機関で働く職員の一人であった。その職員とは前から面識があり、延珠を様々な形でサポートしている優秀な職員でもあった。

 

「延珠様、ようこそおいで下さいました」

 

「良いよー、堅苦しいなあ」

 

「いえ、ガストレア戦争からご活躍されていた貴女様は最早英雄と呼ばれてもおかしくありません」

 

「同じ呪われた子どもなのに?」

 

「貴女様が幾ら呪われた子どもであっても関係ありません。寧ろ貴女様のご活躍によってこの東京エリアに限りますが、呪われた子ども達への差別は減っているのです。この偉業を達成なされた貴女様を慕う奪われた世代もいるのです」

 

「それは大切な人達をガストレアによって奪われる前に私が倒したからだよ。別にそこまで偉い事をしたっていう覚えも無いし、それが呪われた子ども達を差別する大人達を少なくしている訳じゃない」

 

「謙遜し過ぎですよ。ですが、やはり世の中はそう変わってくれないという事ですか」

 

「まあ、そうなるかな。私は化物だって自覚してるけど、他の呪われた子ども達は人間だからね。ただ望まずにそういう力を手にしてしまっただけの被害者だから」

 

「……難しいものです」

 

 お互いに苦笑する。この職員も奪われる世代の一人だが、呪われた子ども達を擁護する側の人間だった。今でも呪われた子ども達への支援をし続けているが、一人の力では限界があり、中々思う様にいかなかった。

 

 それは延珠にも言える事で、幾ら多大な功績を挙げようが、一人では限界があった。そういう意味ではお互い似たもの同士であった。

 

「では延珠様、貴女様がご希望なされていたプロモーターを招集して来ますので此処で少々お待ちください」

 

「うん、ありがとね」

 

 職員は延珠に軽く会釈すると別の部屋へと向かって行った。

 

 一人となった延珠は長椅子に座ると懐かしむように過去の記憶を思い出していた。

 

「そういえば『私』が『妾』だった当時は蓮太郎と会った瞬間に拒絶してたなぁ……」

 

 あの頃は人間不信と敵愾心に塗れていたから差し伸べた蓮太郎の手を思い切り弾いていた。

 

「あの時は悪い事をしちゃったな……」

 

 しみじみと思い出し、今の自分と昔の自分は全く違うのだと改めて認識していた。昔の自分と決別しただけで此処まで違うとは思いもしなかった。

 

「うん、気持ちの入れ替えとしてちょっとだけ仮眠しよっと」

 

 そう言うと延珠は長椅子に身体を預けて眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───延珠様、プロモーターの招集が終わりました。起きてください」

 

「……ぅ、ん、終わった? 起こしてくれてありがとね」

 

 あれから小一時間は経過しただろうか。延珠が寝ている所を先程の職員が起こしてくれた。

 

「延珠様も起きた事ですし、待合室にてプロモーターを待機させております」

 

「よっし、会いに行こっか」

 

 ピョン、と身体を跳ねるようにして飛び上がり立ち上がった。そして職員の後を付いて行く。

 

「あ、そういえば一つ言い忘れていました」

 

「どしたの?」

 

「延珠様のご希望なされたプロモーターとペアを組んだ場合、個人の持つIP序列は消えませんが、ペアでのIP序列は十二万番台からスタートとなります」

 

「別に良いよ。序列に執心してる訳じゃないし、私がIP序列三位に戻る時は政府とIISO機関からの特務による出撃時か、聖天子様に臨時許可されるかの二つだって聞いたから」

 

「なら問題ないですね」

 

 それが聞けて何よりです、と安心して言う職員。延珠がIP序列三位に戻るには先程述べたように『大絶滅』による危機が迫った際の政府による出撃要請が出た場合と、東京エリア統括者である聖天子から直に許可されるかの二つのパターンとなる。

 

 因みに延珠には更に制約が課されている。

 

 それは延珠の【卍解】【帰刃】を使用するには聖天子からの許可、又は承認が必要である。

 

 理由は単純で、それを使ってしまえば大陸が消滅してしまう程に超強力だからだ。その気になれば星すら破壊出来る為、基本的に使用を禁止されている。

 

 延珠は東仙要と同じ特殊な存在である。故に斬魄刀の解放である【始解】と【卍解】、そして【虚化】と【帰刃】が使用出来る。

 

 【始解】と【虚化】は延珠の判断で自由に使用可能だ。まあそれだけでも十分に強力なのだが、コントロールが自由自在に効く為、大陸を消滅させる事も出来れば、小規模な攻撃まで可能だ。なので周りに被害を出す事無く戦闘出来る。

 

 しかし【卍解】や【帰刃】は余りにも強力過ぎる為、コントロールによる制御が効いていて例え出力を抑えた攻撃だとしても、普通に大規模な攻撃となるのだ。

 

 ゾディアックガストレアの一体である【タウルス】相手に一度試しとして帰刃を使用した事があった。

 

 のだが、余りにも強大な力だったが故に、一分足らずで大陸ごと相手を消滅させてしまったのだ。

 

 そんな事もあり、卍解や帰刃は許可を下されて初めて使っている。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

 延珠と職員は待合室の前へと到着した。

 

「ここです。後はお互いに話し合い、ペアを組むかどうかお決めになり、ペアが成立しましたら私をお呼び下さい」

 

「オッケー、ありがとう」

 

「では、失礼します」

 

 そう言って職員は自分の仕事に戻って行った。

 

「……この先に蓮太郎が」

 

 やはり緊張する。九年前は蓮太郎が子どもだったから普通に接する事が出来たが、今回はそうはいかない。

 

「あ〜、やっぱり緊張するなあ〜」

 

 そう呟く延珠。しかしいつまでもこうしてる訳には行かない。

 

「よし、行こう!」

 

 延珠は腹を決めて待合室のドアノブに手を掛け、回す。そして待合室の扉が開かれた。

 

「失礼しまーす……」

 

 延珠は待合室の中へと入る。

 

 そしてその先には彼が居た。

 

 

 

「えっと、君が俺のイニシエーターになる藍原延珠で良いんだよな?」

 

 

 

(あっ……)

 

 久しぶりに見る彼の姿に延珠は見惚れてしまった。

 

 藍色が掛かった黒髪をして身に制服を包み、いつも不幸面をしているその表情。

 

 そしていつも『妾』だった時の自分を支えてくれた最愛の相棒。

 

 

 

 里見蓮太郎がそこに居た。

 

 

 

「うん、私が藍原延珠だよ。これからよろしくね、蓮太郎」

 

「ッ!」

 

 延珠は女神のような微笑みでそれに応える。蓮太郎は一瞬、彼女に見惚れそうになった。初対面でいきなり下の名前で言われてもそんな事はどうでも良くなる程に。

 

 お互いに見惚れたその姿。方や少年を長い間待ち続けた少女、方や初対面でここまで美しい微笑みを見た事が無かったと驚かされた少年。

 

 

 

 二人の運命が今、交差した。

 

 

 




藍原延珠についての補足説明

延珠は呪われた子どもですが、侵食率は存在しません。
だって魂を実体化した姿だもの。

後は死神と虚と破面の力を持ってるので私の書いているウルキオラさんと同じで始解と卍解、帰刃が使えます。
帰刃は虚化をした後に使用可能です。
作中でも述べてましたが、東仙要と同じ特殊なタイプとなりますのでご了承ください。


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5.里見蓮太郎

教育実習終わったわぁ〜(九月末にだけど)
しかし実習記録を終えていない現状。
面倒臭いけどやらなきゃ〜(泣

今回は蓮太郎視点です。

此処で原作と違う点を一つ。
原作では蓮太郎の天童式戦闘術の階級は初段ですが、ここでは四段になっています。

ではどーぞー(・ω・)ノ


 SIDE:里見蓮太郎

 

 俺の名は里見蓮太郎。勾田高校一年の十五歳だ。現在は木更さんについて天童家から出奔して天童民間警備会社を設立している。

 

 俺はその社員として最近IISO機関にプロモーターとして登録したばかりの新米民警だ。ペアは決まっていないが、恐らく序列は十二万台……、まあ民警のペア数が十万以上だと分かっていてもちょっとヘコむな。

 

 しかし序列が十二万台だとしてもそれなりの大立ち回りは出来ると自負している。

 

 幼少の頃から天童家の道場で天童式戦闘術を習得しているんだ。……階級は四段だけど、そんじょそこらの民警とは同じにしては困る。

 

 とはいっても、慢心してしまえば足元を掬われる。他の民警を見下すつもりも無いし、これからも精進して行こうと思う。

 

 それはそうとして。ある日、IISO機関の東京支部から招集が掛かった。電話の内容では、とあるイニシエーターが俺とペアを組む為に会う日だと伝えられた。イニシエーターの名は匿名だったのでそれが誰だか分からなかったけどな。

 

 俺は思わず首を傾げたが、ふとカレンダーを見ると今日はそのイニシエーターと顔を見せ合う日だった事を思い出した。そういえば以前からそういう話をしていたな。

 

 もうこんな日だったのか、と俺はそう思って準備をし始めた。忘れていた訳じゃ無いが、記憶の隅に留めていた程度だったからあまりピンと来ていなかった。

 

 そして準備を済ませ、そのイニシエーターとペアを組む為に自転車でIISO東京支部へと向けて漕ぎ出した。

 

 

 

 

 

 あれから一時間かけてIISO東京支部へとやって来た。俺が今住んでいる場所から結構離れているから大分時間が掛かってしまった。……もう少し近くのアパートに住んでいても良かったのかも知れない。

 

 IISO東京支部の入口には職員が待っていた。その人は見た目からして誠実な身なりをしていた。

 

「お待ちしておりました、里見様。私は勒乃(ろくの)と申します」

 

「わ、悪い。家から結構離れていたもんだから時間が掛かっちまった」

 

「いえ、里見様のお住まいから此処まで距離が空いている事は承知済みでしたので、どうぞお気になさらず」

 

「あ、ああ……」

 

「では、こちらへ。里見様をお呼びしたイニシエーターの下までご案内致します」

 

 そう勒乃さんが言い、中へと案内してくれた。見た目や言動から本当に誠実な人だと思った。

 

 通路を通っていると、俺はそのイニシエーターの名を聞いていなかった事を思い出し、勒乃さんに尋ねた。

 

「そういや勒乃さん、俺と組むイニシエーターの名前を知りたいんだが」

 

「おや、そういえばお相手からは匿名希望でしたので伝えられていませんでしたね」

 

 勒乃さんは納得がいったような感じでそう応えた。

 

「これからお互いに顔を見せ合うのに名前を知らないのは流石にいけませんね。匿名希望でしたが、ご本人からは里見様を此処へ招集した際には伝えても宜しいとの事でしたので……」

 

 そう言った勒乃さんは懐から書類を取り出し、俺に渡した。

 

「これが里見様のイニシエーターとなるお方の詳細でございます。ですが開示されていない情報もございますので悪しからず」

 

「ああ、どうも」

 

 書類を受け取り、俺はその内容を拝見。どんなイニシエーターが俺と組むのだろうか。そんな気持ちで最初は名前を見る。

 

 

 

「……なん……だと……!?」

 

 その瞬間、俺は驚愕した。

 

 

 

 思わず俺は勒乃さんに問い掛けた。

 

「お、おい! 勒乃さん! このイニシエーターって……!」

 

「何か不都合でも?」

 

「いや、どう考えてもおかしいだろこれ! 相手は超高位序列者、俺はなりたての新米民警なんだぞ!」

 

「確かにご冗談だと思われるでしょう。ですが、これは紛れもない事実です。彼女は里見様とペアを組む事をご所望されております」

 

 

 

 

 

 藍原延珠

 

 IP序列三位

 

 二つ名:『劫火(ザ・クリムゾン)

 

 生態が確認されている十一体ゾディアックガストレアの内、『金牛宮(タウルス)』『処女宮(ヴァルゴ)』を撃破。

 

 序列は聖天子と延珠本人の都合上、三位となっている。

 

 ガストレア総撃破数:五十九万八千四百二十七体

 

 

 

 

 

 書類には以上の事が記されていた。

 

 藍原延珠。民警ならその名前を知らない奴はいない。

 

 その中で彼女についての逸話が幾つか有る。

 

 

 

 曰く、ガストレア戦争時から活躍していたとか。

 

 曰く、序列一位と二位の間には隔絶とした戦闘能力が有るとか。

 

 曰く、序列一位の上には更に序列が有り、彼女がそこに君臨しているとか。

 

 曰く、徒手空拳だけで無く、銃火器をぶっ放す事も有るとか。

 

 

 

 この逸話はほんの一部だが、これだけでも十分ヤバイものばかりだ。

 

 そんな彼女が俺とペアを組みたいと言っているのだ。正直言って訳が分からなかった。というか誰が予想出来るかこんなもん。

 

 彼女が俺のイニシエーターになるという事実を知り、俺の背中は何処と無く重くなった気がした。何せ史上最強のイニシエーターが俺と組むんだ。寧ろプレッシャーを感じない奴の方が異常だ。

 

 しかし序列三位の彼女の請け負っている任務の内容はどんなものなのだろうか。超高位序列者だけあってその内容も過酷なものばかりなのかも知れない。

 

 相手になるガストレアも最低でも恐らくステージIII以上だろう。ステージIでも油断すれば死にかねないのに、彼女はもっとヤバイ奴らを六十万体近く斃している。

 

 

 もしかすると俺の民警としての初任務が命日かもなぁ……

 

 

「着きました。今から延珠様をお呼び致しますので、この待合室でお待ち下さい」

 

「……分かった」

 

 俺がそんな事を思っていると、勒乃さんにこの待合室で待つように言われた。

 

「……はぁ」

 

 待合室の長椅子に座ると、俺はため息を吐いた。まさかこんな事になるとは思ってもみなかった。

 

「藍原延珠……か」

 

 書類の写真を見てみると、にっこりと咲いた笑顔でVサインをした姿が写っている。呪われた子ども達の中でこんな笑顔を見るのは初めてだ。

 

 呪われた子ども達の大抵は笑顔を失った子どもばかりだ。だから民警の大半はイニシエーターを道具扱いにしている。

 

 俺も奪われた世代の一人だ。幼い頃にガストレアに両親を奪われ、木更さんを守る為に身体を張って右腕と右脚を奪われた。

 

 だから一時期は呪われた子ども達を恨み、憎んだ事も有る。その時は民警になったら呪われた子ども達を道具扱いにして使い潰してやると思った事もあった。

 

 だけどその考えは少しすればすぐに消え去った。それにはあの藍原延珠の存在があったからだ。

 

 当時、アメリカ合衆国のモノリスに約十万体のガストレアが侵攻する大規模な事件があった。数々のガストレア専門家や四賢人の一人で俺の古くからの知り合いである室戸菫先生も『大絶滅』は確実だと結論を出した程だ。恐らく現在序列一位のペアが出撃しても生き残る可能性は低い。但しゼロじゃないらしく、精々三十%程らしい。流石は序列一位って所か。

 

 そんな『大絶滅』確実と言わしめたそれを簡単に覆したのがあの藍原延珠だった。

 

 彼女が出撃してものの数分で十万体のガストレアが全滅したと聞いた時は思わず耳を疑った。有り得ないとも思った。

 

 しかしそれは菫先生からアメリカの大地の一部を消滅させた事実を聞き、その衛星写真を見せられた瞬間に肯定せざるを得なかった。

 

 だが同時にアメリカ合衆国のモノリスに居た者達から感謝の声が絶えないと聞き、俺の価値観は変わった。

 

 恐ろしいとは思うし、世界中の大人から恐れられている声も少なくない。けど、彼女は世界各地のモノリスへ赴き、復興支援や呪われた子ども達へ大量の食料と侵食抑制剤を配布している活動の方が多く、世界中から慕われている声も多いと聞いた。

 

 俺にはそこまで多くの呪われた子ども達や人間を救う事なんて出来ない。精々指で数えられる程度の人しか守れないと思う。だから素直に凄いと思った。

 

 藍原延珠も呪われた子どもだ。なのにそんな事はお構いなしに沢山の人々を救っている。奪われた世代の大人達も、呪われた子ども達も、無垢の世代の子ども達もみんな全て。

 

 それに比べて俺は何だったんだろう。ただ呪われた子ども達を恨み憎む為に生まれて来たのか?

 

 違う。そんな事の為に生まれて来たんじゃねえ!

 

 だから俺は自分を恥じた。情けないとも思った。呪われた子ども達も俺達と同じ『人間』なんだ。それを助けないで何が人間だと恥じた。

 

 そして、その時から俺は一から己を磨く為に鍛え始めた。

 

 天童式戦闘術を学んだのも、呪われた子ども達を守る力を手に入れる為だ。だから最初に言った通り、大抵の大立ち回りは出来ると自負している。

 

 勿論、藍原延珠のように世界中の人を救う事は出来ない。俺はスーパーマンとかヒーローじゃねえから世界中の人を救うなんてでけぇ事なんて言えねぇ。

 

 だけど両手で抱えられるだけの人を救えればそれで良いなんて言えるほど控えめな人間でもねぇ。

 

 それに呪われた子ども達を差別する奪われた世代の大人達を救うなんてとてもじゃねぇが無理だ。一時期呪われた子ども達を恨み憎んでいた俺が言えるセリフじゃねぇけど。

 

 それでも呪われた子ども達だけは救いたい。その意思は変わらねぇ。

 

「……よしっ」

 

 パチン、と両手で頬を叩き気を引き締める。

 

 体に鞭を打ってでも着いて行ってやる。俺が憧れた藍原延珠に追い付く為に。

 

 ……待てよ、そういえば逸話の内容ではガストレア戦争の時から活動していたんだよな?

 

 なら俺より……年上!?

 

 呪われた子ども達の最初の世代は十歳の子どもだ。それより年上の呪われた子どもがいるなんてどう考えても有り得ねぇ。

 

 けど、ガストレア戦争が始まる前から呪われた子どもがいてもおかしくねぇし……。

 

 じゃ、じゃあ敬語で接するべきか……? いやいや、年上の大人に敬語なんて使わなかった俺がそれを言うなんて無理があるぞ!?

 

 せ、せめて接しやすい言い方でやるべきか……?

 

 

 

 ガチャ

 

「失礼しまーす……」

 

 

 

「!?」

 

 俺がどう接するか四苦八苦していると突然ドアノブが回され、そこから女の子が恐る恐る入って来た。

 

 その外見は美少女と言っても良い十歳の女の子だった。年上らしいからてっきり大人の外見をしているかと思ったら違うようだ。

 

 とりあえず、当たり障りが無いように話し掛けるか。

 

「えっと、君が俺のイニシエーターになる藍原延珠で良いんだよな?」

 

 俺がそう話し掛けると彼女は驚いたような表情をした。俺は何故驚いているのか分からなかったがすぐにそれは消え、こちらに微笑みながら応えた。

 

 

 

「うん、私が藍原延珠だよ。これからよろしくね、蓮太郎」

 

 

 

「!?」

 

 今度はこちらが驚かされる番だった。その微笑みはまるで女神のようで、一瞬ドキッとさせられた。

 

 あ、危ねぇ……! 下手したら惚れちまう所だった……!

 

 ……待て、俺はロリコンじゃねえぞ!? 間違ってもロリコンじゃねぇからな!? 誤解するなよ!?

 

「……あ、あぁ。これからよろしくな、えーと……」

 

「延珠で良いよ。私も蓮太郎って呼ぶから」

 

「お、おう。じゃあ改めてこれからよろしくな、延珠」

 

「うん、これからよろしくね。蓮太郎」

 

 そう会話を交わした俺と延珠は互いに握手をした。

 

 だけど、延珠の微笑みには終始ドキドキさせられっぱなっしの俺だった……

 

 

 

 いや、だから俺はロリコンじゃねぇからな!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───これは、これから掛け替えの無い相棒になる彼女を愛する最初の出来事。

 

 

 




蓮太郎はロリコンだったのだよ……(合掌



実習中にて、とある先輩との寸劇。

タイトル:名刺交換


作者「oh、デュクシデュクシデュクシ☆」(名刺を渡す)

先輩「ohoh、パンジェンシパンジェンシ」(名刺を受け取る)

先輩「パンジェンシパンジェンシパンジェンシパンジェンシ〜」(こちらも名刺を渡す)

作者「オッオッ、デュクシデュクシデュクシデュクシ★」(名刺を受け取る)

作者「デュクデュクシ★」(手を差し出す)

先輩「パンジェンシパンジェンシ☆」(こっちも手を差し出す)

作者&先輩「ohohoh、セイセイセェ〜イ★」(握手する)










……なんだこれ(錯乱


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6.専用武器

どーもでーす(・Д・)ノ

ではでは更新しまーっす!

どーぞーヽ(´o`)


 延珠と蓮太郎のペア成立後、一週間の時が経った。

 

 今では二人の仲は殆ど慣れており、硬い感じは無くなっていた。

 

 蓮太郎としてはお互いに慣れるのにもう少し時間が掛かると思っていたが、こうもあっさり慣れるとは拍子抜けだっただろう。

 

 まあ蓮太郎もこちらの方が助かると思っていたが。

 

 しかし延珠の高い家事スキルには驚かされるばかりだった。料理にしては自分より上手いと来た。

 

 後は蓮太郎に無償でお金を貸してくれる所だろうか。蓮太郎も無駄使いする気は無いが、いつも金欠なので一番ありがたいと思っていた。

 

 延珠のお金は単独イニシエーターとして世界各国を活動した際に得たものらしい。因みに延珠の口座には億単位で入っているらしいが蓮太郎は知らない話である。

 

 そして現在、蓮太郎のアパートでは延珠ととある話をしていた。

 

「司馬重工?」

 

「うん、丁度私専用の武器の改良と弾丸が出来たからそれを取りに行くんだ。良かったら一緒に行く? 何なら私の頼みで蓮太郎に武器や弾薬を提供させてあげても良いけど……」

 

「あ、ああ。俺も武器を自分で用意するのは骨が折れるからな」

 

 延珠はパトロンである司馬重工に向かおうと思い、蓮太郎を誘おうと言って来た。

 

 蓮太郎としては迷惑を掛ける訳にはいかないので断ろうとしたが、正直に言うと自分で武器や弾薬を揃えるのは少し無理があった。まあ蓮太郎もXD拳銃を持っている為、武器の方は問題ないのだが、主に弾薬を揃えたり補充したりする面では普通に無理だった。

 

 理由は簡単で、金欠だからだ。

 

 延珠は相当顔が広い。聖天子を始めとした世界各国の首脳達ともパイプが繋がっている。世界に名立たる巨大兵器会社、司馬重工との面識があるのは当然と言えた。

 

 延珠の提案ではあるが、司馬重工がパトロンとして蓮太郎の武器を提供してくれるのはありがたい事だ。こんな機会はそう来ないだろう。

 

 そんな訳で、延珠の言葉に甘える事にして彼女と共に司馬重工へと出掛けに行った。

 

 

 

 

 

「よう来てくれたなぁ延珠ちゃん。私も嬉しいわぁ〜」

 

「しばらくぶりだね、未織。色々と世話になりっぱなしだね」

 

 司馬重工本社へとやって来た二人は入口で御令嬢である司馬未織が待っているのを見かけ、お互いに挨拶を交わしていた。

 

「ううん、別にええで〜。これからもよろしゅうな〜。それと、そこにおる男の子は?」

 

 延珠と嬉しそうに話し込む未織がちら、と蓮太郎の方を向いて尋ねた。

 

「うん、こっちは里見蓮太郎って言うの。最近ペアを組んでね、私のプロモーターだよ」

 

「ほぇ〜、この子が延珠ちゃんの……」

 

「……えっと、里見蓮太郎だ。さっき延珠が言った通り、彼女のプロモーターを務めてる」

 

 延珠の紹介に未織は感心しているかのように蓮太郎の方を見る。そして納得がいったかのような表情をした。

 

「……ふふ、この子はかなりの逸材やなぁ。私もなんかこうピーンと来たで!」

 

「でしょ?」

 

「?」

 

 女の子同士の会話に全くついていけない蓮太郎。彼は終始頭にクエスチョンマークばかり出ていた。

 

 

 

 

 

「それで、私の武器の改良と弾丸の製造と量産が出来たって聞いたけど、どうなの?」

 

「うんうん、バッチリ出来てるで〜。前の銃より威力は格段に向上してるけど、反動も前より大きくなってるからそこだけ注意やな」

 

「オッケー、重畳だよ未織」

 

「感謝の極みや〜」

 

 未織はそう言うと、スーツケースを職員から受け取り、それを延珠に渡した。

 

 

 

「モルゲンクルノデウム鉄鋼で造られた『454カスールカスタムオートマチック』。全長33.5cm、重量4kg、装弾数7発。これは前から変わってへんけど、内部構造は色々と改造しとるから威力だけは段違いや」

 

 延珠がスーツケースを開けると、白銀の拳銃がそこにあった。

 

 

 

「何だこの銃は……!?」

 

 始めて見るその拳銃を前に、蓮太郎は驚愕していた。

 

 

 

 馬鹿でかい。第一印象はこれに尽きた。

 

 

 

 蓮太郎の使っているXD拳銃は全長18cm、重量650g、装弾数12発と小型で扱いやすい代物だ。

 

 なのにあの白銀の拳銃はどうだ。蓮太郎のXD拳銃を超えた大型の拳銃というとんでもないものだ。

 

 それにモルゲンクルノデウム鉄鋼という金属すら聞いたことが無い。恐らく希少な金属なのだろうと予想した。

 

「弾頭はどうなの?」

 

「今までは普通のバラニウム製弾頭を使ってたんやけど、延珠ちゃんが使うには威力不足と見なしてもっと強力な弾頭を造ったわ〜」

 

「どんなもの?」

 

 延珠が弾倉の先に出ている弾丸を見て尋ねる。

 

「【ステージIVすら一撃で撃ち殺せる】というコンセプトで製造した『銃弾専用特殊バラニウム』を鋳溶かして作った454カスール改造弾の爆裂徹鋼弾頭を使用してるわぁ」

 

「かなり凄いね。まあ後は適当にガストレアで試し撃ちするよ」

 

 カシュン、と454カスールカスタムオートマチックに弾倉をセットした。

 

「ガストレアに試し撃ちする辺り、延珠ちゃんは中々バイオレンスやなぁ……」

 

「そうかな? 私専用の拳銃と銃弾を製造する辺り、未織も人の事言えないよ?」

 

「あらぁ、手痛いわぁ〜」

 

 なんだこの会話。少なくとも女子が交わす会話ではない。蓮太郎は驚きの連続で相当疲れていた。

 

 すると未織は蓮太郎の方を向いて微笑みながら言った。

 

「ああそうそう、里見ちゃん。私、里見ちゃんの事かなり気に入ったわぁ〜! だから延珠ちゃんと一緒でパトロンになってあげるわ〜」

 

「お、おう。俺としても毎回弾薬を揃えたりするのは骨が折れるからな。これからよろしく頼む」

 

「これからよろしゅうな〜」

 

 とりあえず蓮太郎は未織と握手をする。

 

「でも色々と条件があるんやけど、延珠ちゃん良えかな?」

 

「うん、別に良いけど……未織の事だから同じ高校に通えとか言うんだと思うんだけど、多分既に条件は満たしてると思うよ?」

 

 延珠がそう言うと未織はこてん、と首を傾げた。

 

「あら? そうなん?」

 

「一体何のこと……」

 

 蓮太郎がそこまで言い掛けると、何と無く未織に似た人物が蓮太郎の高校にいたような記憶を思い出した。

 

「……まてよ、もしかしてアンタってウチの勾田高校の生徒会長……か?」

 

「そうやけど、あれ? もしかして里見ちゃんは勾田高校の生徒やった?」

 

「そうだが……」

 

 そう蓮太郎が肯定すると、未織は非常に嬉しそうな表情を浮かべてぴょんぴょんと跳ねた。

 

「ホンマ!? いやぁ〜まさかウチの高校の生徒やったなんて気付かんかったわぁ〜!」

 

「何ていうか……奇遇、なのか?」

 

 少々困惑しながら蓮太郎が言う。そんな様子を延珠は苦笑しながら見ていた。

 

 それにしても他の女が愛する蓮太郎に迫っているのにも関わらずライバル意識をしないのは色々と大人になったから故の余裕なのだろうか。流石はENJUである。

 

 プルルルルプルルルル

 

 すると、延珠が着ている大きめの黄色いパーカーのポケットから着信音が鳴り響いた。

 

「ん? 私のスマホから?」

 

 延珠はそう言いながらスマホを取り出し、通話マークをタップして耳に当てた。

 

「もしもし?」

 

『もしもし、聖天子です。二週間ぶり、でしょうか?』

 

「うん、まあ二週間ぶりかな。聖天子様?」

 

「!?」

 

 延珠の口から東京エリア統括者の名が出て来たのを聞いた蓮太郎は再び驚く。まさか直接延珠のスマホに電話を掛けるとは思わなかったのだ。

 

「どしたの?」

 

『依頼です。第19号モノリス付近にステージI三体、ステージII一体、ステージIII二体、ステージIV四体、合計十体のガストレアが接近中、モノリスを突破するつもりです。藍原延珠、里見蓮太郎ペアは直ちに現地に向かい迎撃、殲滅して下さい』

 

「オッケー、丁度改良した454カスールカスタムオートマチックの性能を試したかった所なんだ。ガストレアには悪いけど、この銃の餌食になって貰うよ」

 

 割と重大な事なのだが、延珠は454カスールカスタムオートマチックを懐に入れて軽くそう言った。

 

『流石は世界最強のイニシエーター。かなり重大な事態なのですが、それをこうも簡単に引き受ける辺り、化物を自称しているだけありますね……』

 

「フフ、聖天子様の言う通り、私は化物だよ。そして相手は唯の化物、一度死ねばそこで終わる儚い命。そこに人間も非人間も無い。だから私は殺せる。微塵の躊躇も無く、一片の後悔も無く鏖殺できる。何故なら私は化物だからね」

 

『……では、ご武運を』

 

「Roger」

 

 耳からスマホを離し、通話終了のマークをタップする。そして着ていたパーカーのフードを深く被り、蓮太郎に顔を向けた。

 

「蓮太郎、早速だけど初任務だよ。第19号モノリスにガストレアが接近。相手はステージI三体、ステージII一体、ステージIII二体、ステージIV四体、合計十体。藍原、里見ペアは直ちに現地に向かい迎撃及び殲滅せよとの事」

 

「……!?」

 

 ゾクリ、と蓮太郎の背筋が震えた。

 

 フードを被った延珠の表情は暗くて見えないが、そこに鋭く射殺さんとする紅い眼が輝いていた。

 

 

 

(……これがIP序列三位の力、か)

 

 

 

 蓮太郎は嫌でもその事実を知った。普段は女神の様に優しく美しい美少女が、一度戦闘に入れば忽ち正真正銘の化物になる事に。

 

「……分かった、行こう」

 

 それでも蓮太郎は延珠に恐怖を覚える事は無かった。それは戦いにおいて覚悟を決めなければならないと悟っていた事と、藍原延珠を愛し始めていたのが理由だ。

 

 尤も、蓮太郎自身は藍原延珠を愛し始めている事に気付いていなかった───

 

 

 




……うん、現在進行形で反省してるよ? やっちまったと後悔もしてるよ?
でも、仕方ないじゃん!? 作者HELLSING大好きなんだよおおおぉぉぉおぉおぉおおぉッ!!!
それにENJUが454カスールをアーカードの旦那みたいにクールに撃つシーンとか新鮮じゃん!?
拳銃の知識とか全然ないからwiki見て書いてたけど「作者おバカー」とか言わないでね!?
これは作者の趣味全開の作品だから細けえことはいいんだよ!(錯乱


……なのでHELLSING要素アリのタグも入れときますわ(白目


あ、それと蓮太郎は原作では未織の条件で仕方なく勾田高校に通ってますけど、こっちは以前から高校に入学していた設定です。なのでクラスメイトとの仲も良いです。


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7.化物

どーもです。
ちょっと遅くなりましたね。
では更新しまーっす!


注意事項
・延珠TUEEE
・少々グロい表現アリ
・HELLSING要素たっぷり
・お前のような幼女がいてたまるか



 ───『化物』とは何なのか、知っていますか?

 

 

 

「『化物』とは何なのか……、とな?」

 

「ええ」

 

 聖居のプライベートルームにて、東京エリア統括者である聖天子と、それを補佐する天童菊之丞がある話をしていた。

 

「それはつまり……ガストレアや呪われた子ども達の事を言いたいのか?」

 

「いいえ、違います。彼女にとって(・・・・・・)ガストレアは有象無象の『唯の化け物』に過ぎません。そして呪われた子ども達は『人間』で『唯の被害者』なのです」

 

 菊之丞の答えを聖天子はそう否定する。菊之丞はふむ、と顎に手を掛けて考え込む。

 

「では、話の焦点を変えましょう。何故、ガストレアに対抗する為に『民警』とは存在しているのでしょう?」

 

「……『民警』が何故存在している理由、か? ……諸説は色々と有るが、 ガストレア退治のプロフェッショナルが足りないからでは無かったか?」

 

 再び菊之丞は答えを出す。その答えに聖天子は頷く。

 

「はい、菊之丞さんの言う通り、億単位でこの世界を蔓延っているガストレアを全て駆逐するには数が圧倒的に足りなかったのです」

 

「では何故、このような問いを掛けた?」

 

 菊之丞は不思議そうに聖天子に問う。今まで聖天子がこのような質問をすることなど無かったからだ。

 

「……貴方は、正真正銘の『化物』を見たことがありますか?」

 

「正真正銘の『化物』だと?」

 

 聖天子がそう言った正真正銘の『化物』。その摩訶不思議な質問には思わず訝しげに反芻するしか無かった。

 

「……時間が空いている今、貴方に話しましょう。民警すら知る由も無い『本来の民警』と『正真正銘の化物』の話を───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月明かりが照らす深夜、延珠と蓮太郎はその場所へと到着した。

 

「……あれ?」

 

 だが、思わず延珠は首を傾げた。何かがおかしいと、そう思った。気の所為だと、そう思った。だが───

 

 

 

 

 

 ───報告に上がっているガストレアより二十匹以上多いのは気の所為なのだろうか───

 

 

 

 

 

「ど、どういう事だ……!?」

 

 蓮太郎はガストレアの群れに驚愕する。初任務でまさか予想外の事態に陥るとは思ってもみなかった。

 

 二十匹以上ものガストレアの大群は全てステージIIIと見た。だが、見るからにおかしいものが一つ。

 

 

 

 口と思わしき部位から機関銃が飛び出ている事だ。

 

 

 

 恐らく過去に自衛隊から奪ったものなのだろう。それを活かして己の武器にするなど、予想外にも程が有る。

 

「どうすんだよ、延珠……!」

 

 蓮太郎は延珠に顔を向けて言う。この想定外の事態に、大抵の民警ならば撤退の二文字しか無いだろうからだ。それぐらい蓮太郎でも解っていた。

 

 だが延珠の表情はフードを深く被っている為、よく見えない。

 

 

 

「蓮太郎」

 

 

 

 ただ延珠はそう言い放つだけだった。

 

「!」

 

 その言葉を聞いた蓮太郎は此処に来る前に延珠と交わした会話を思い出す。

 

 

 

 

 

『蓮太郎。今回が初任務という訳だけど、貴方は私の事を『何一つ』知らない。だから貴方は知らなければならない』

 

『……?』

 

『だから、今回は被害の及ばない範囲に避難してて』

 

『ど、どういう事だよ……それ……』

 

『見せてあげる。『正真正銘の化物』の姿をね』

 

『なっ……』

 

『貴方がそれを見てどう思うのか、これからどう決断するのかは貴方次第。何ならペアを解消して貰っても構わない』

 

『!?』

 

『全ては貴方の意思で決まる。それだけは覚えてて』

 

『……分かった』

 

 

 

 

 

「………っ」

 

 蓮太郎は延珠の意思を尊重し、被害の及ばない範囲へと後退する。それを見た延珠は表情こそ見えないものの、満足した様子だった。

 

「……さて」

 

 延珠はガストレアに振り返り、その足を一歩ずつ進めた。

 

『グゲゲゲゲゲッ』

 

 その様子をステージIII達を率いていたステージIVのガストレアが嗤う。

 

 既に機関銃の射程範囲内。

 

 相手もそれは分かっている事だ。それにも関わらず、此方に進む歩は止まることが無い。

 

 それは愚行以外の何物でも無かった。

 

 

 

 ───この状況で逃げないとは。

 

 ───本気か?

 

 ───正気か?

 

 ───馬鹿か?

 

 ───まあいい。

 

 ───殺せ。

 

 

 

 

 

 ───そして始まる殺戮の嵐。

 

 

 

 

 

「………」

 

 その殺戮の嵐を延珠はその身に一斉に受けた。

 

 

 

 逃げる事も無く。

 

 避ける事も無く。

 

 退く事も無く。

 

 痛がる事も無く。

 

 泣く事も無く。

 

 

 

「え、延珠ッッッ!!!」

 

 それを見た蓮太郎は思わず叫ぶ。相棒が殺戮の嵐をその身に受けているのだから無理もない。

 

 

 

 その間にも殺戮は続く。銃弾の一つ一つが延珠の幼い身体を抉っていく。

 

 

 

 頭蓋が砕かれる。

 

 身体ごと内臓が抉れる。

 

 骨が砕ける。

 

 左腕が千切れる。

 

 全身に銃弾が貫かれる。

 

 

 

 銃弾の嵐は地面にも突き刺さり、そこに土煙を上げた。

 

 土煙が収まると、そこには美しい少女だったものが斃れていた。

 

 それは余りにもグロテスクで、血みどろの死体同然だった。

 

「え、延珠ッ延珠ウウウゥゥゥウウゥウウゥウゥゥウゥウゥッッッ!!!!!」

 

 変わり果てた延珠の姿に、蓮太郎は悲鳴に近い叫び声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何、だと?」

 

「以上が『本来の民警』の姿なのです」

 

 菊之丞は驚愕していた。

 

 聖天子が話した内容はどれも信じ難いものばかりだったのだ。

 

「『本来の民警』……いや、IISO機関の元の姿は『対化物殲滅特化組織』だっただと? そんなもの聞いた事が無い」

 

「はい、私も三代目聖天子となる以前は知る由も無かった事です。『対化物殲滅特化組織』だった当時はあの藍原延珠が統括・監督し、十人の呪われた子どもを選出して少数精鋭を作り上げ、全世界でガストレア殲滅活動を行う内容だった様です」

 

「十人だと……? 余りにも少な過ぎる」

 

「仰る通りです。その余りにも少な過ぎる人数に加え、メンバー全員が幼な過ぎました。それ故に『対化物殲滅特化組織』はやむなくIISO機関へと組織の様式を鞍替えするしか無かった様です」

 

「確かに、ガストレアを殲滅するには時間も人数も足りないだろうな。それに呪われた子どもの第一世代が十歳の子どもなのだ。間に合わないのは明白だっただろうに」

 

「……ですが、元々十人の呪われた子どもを選出するには理由があったようです」

 

「……何?」

 

「貴方がもし呪われた子どもの立場だとしたら、目の前にガストレアという化物が襲いかかって来たら、これから先その化物達と戦い続けなければならないと知った時、その心や身体は耐えられるでしょうか?」

 

「……無理だろうな」

 

「そう───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無惨な死体と化した少女の眼が紅く光る。

 

「……フッフッフッフッフッ」

 

 少女が嗤い始める。

 

「えん、じゅ……?」

 

 蓮太郎がその様子に少女の名を呼ぶ。だが、度が越した驚愕にその声は小さく途切れ途切れだ。

 

「……クックックックックッ」

 

 少女の紅く長い髪が黒く染まる。

 

「……アハハハハハハハッ」

 

 ニヤリ、と不気味な笑みを浮かべ、更に嗤う。

 

『グォ……ォ』

 

 その光景はガストレア達すら戦慄を覚える。その戦慄に身体が動かない。

 

 

 

 そして、黒い劫火が巻き起こり彼女を包み込む。

 

 

 

 ───対化物のプロフェッショナルが『人間』では心許ないのです。

 

 

 

 竜巻の様な劫火の渦で、紅い眼を光らせ悠然と立ち上がる。

 

 ───すぐに傷付く。

 

 銃弾で貫かれた筈の彼女の身体が異常な速度で再生し始める。

 

 ───すぐに死ぬ。

 

 全ての内臓が再生を終える。

 

 ───心すら弱い。

 

 骨や頭蓋が再生を終える。

 

 ───『化物』を殲滅するのに一番効率が良いのは『正真正銘の化物』なのです。

 

 千切れた左腕が繋がる。

 

 ───そして、『正真正銘の化物』こそが───

 

 皮膚の再生が終わり、美しい肌色をした肉体へと戻る。

 

 ───藍原延珠という『人間』です。

 

「な……!」

 

 劫火の渦が晴れ、現れた彼女の姿を見た蓮太郎は更に驚愕する。

 

 

 

 延珠の服装が変わっている。

 

 

 

 血の色を示す赤色をしたロングコートに大きな帽子。内側も正装の様な黒服に身を包んでいる。

 

 

 

 その姿は人智を超越した圧倒的な強さを誇る最強の吸血鬼。

 

 

 

『アーカード』

 

 

 

 延珠はその彼を模倣し、再現しているのだ。

 

 延珠がウルキオラとの修行をしている時期、様々な世界を渡りその世界に存在する強者や化物達と死闘を繰り広げた。

 

 その中で延珠が尊敬して止まなかった化物こそが最強の吸血鬼、アーカードである。

 

 神を信仰している身でありながら独自の観点を持ち、ある国の王として軍を指揮して敗北し、処刑された。

 

 自らの妄執のままに血みどろの戦争に明け暮れ、従う者全てを死に至らせ、挙句に戦争に敗北し、自分自身すら処刑場に引き出されるに至っても、なお自分の人生の結末を受け入れられなかった“弱い人間”。

 

 そして“魔”が引き寄せられ、それを受け容れた為に人間から化物へと成った“愚かな人間”。

 

『化物とは人間でいられることに耐えられなかった弱い生き物である』と、彼は言う。延珠はこの言葉に酷く納得が行った。

 

 延珠もまた、嘗て蓮太郎を守れなかった罪に苛まれ、それに耐えられず“やり直し”という形で化物へと成った“弱い人間”なのだ。

 

 それに共感し、彼を尊敬の対象にした。今では崇拝すらしている。

 

 そして彼との死闘という名の闘争を終えて“心”を識った延珠はその後も彼の姿を模倣し、その戦闘スタイルを取り始めた。

 

 

 

心身模倣(イミテーション・スタイル)

 

 

 

 ウルキオラとの修行の中で、延珠が会得した彼女だけの“技術”である。

 

 その性質は『模倣』。その者の心や戦闘技術、服装などを忠実に再現するものだ。

 

 ただその者の超能力や異能までは模倣出来ないが、延珠が重宝している技術だ。

 

 これもウルキオラとの戦いで殺されない為のもの。彼女はこれを駆使し、戦い抜いて来た。

 

 そして先程の死体同然の体たらくから完全に再生した極めて高い不死性もウルキオラと戦い続ける為のものだった。

 

 全ては蓮太郎に会う為に。

 

 

 

 

 

 不敵な笑みを浮かべ、懐から454カスールカスタムオートマチックをゆっくりと取り出す。

 

 それを天へ高く掲げる。月明かりに照らされた銀色の拳銃はその美しさを一層際立たせた。

 

 

 

 そして銀色の拳銃を勢いよく下ろし、右腕を台にするような射撃の構えを取った。

 

 

 

 トリガーを引く。

 

 銃口から弾丸が発射される。

 

 排莢口から空薬莢が排出される。

 

 もう一度トリガーを引く。

 

 二発、三発と撃つ。

 

 

 

 その銃弾は三体のガストレアに命中し、その身体を爆散させた。

 

 間髪入れずそのままガストレアの大群に向けて撃ちまくる。

 

 

 撃つ。

 

 撃つ。

 

 撃つ。

 

 撃つ。

 

 撃つ。

 

 

 撃ち終えた454カスールカスタムオートマチックの弾倉が地面に落ちる。

 

 瞬く間にガストレアは駆逐され、残すはステージIVのガストレア一体となっていた。

 

「ステージIVすら一撃で撃ち殺せる『銃弾専用特殊バラニウム』を鋳溶かして作った13mm爆裂徹鋼弾。これを喰らって平気な化物(フリークス)はいないよ」

 

 そう言いながら新たな弾倉を装填する延珠。

 

 延珠がガストレアへと一歩踏み出す。

 

『グオォオォォッ……』

 

 ガストレアは既に恐怖している。目の前にいる少女は人間の皮を被った化物なのだと理解していた。

 

 一歩、また一歩と延珠が迫る。

 

 一歩、また一歩とガストレアが退く。

 

『グギィイイィイイィッ!』

 

 その恐怖に耐えられず、ガストレアは背を向けて逃走を開始した。

 

「……逃げる、か」

 

 その様子を見た延珠は紅く光る眼を細める。

 

「化物は斃す側に在らず、常に斃される側で有るべし。この気構えを持って始めて己は化物だと主張出来る」

 

 そして憤った様に目を見開き、怒鳴りつけた。

 

「だが化物が逃走を図るなど貴様、それでも化物(フリークス)のつもりか! 恥を知れッ!!!」

 

 憤った彼女は454カスールカスタムオートマチックを逃走しているガストレアへと撃ちまくった。

 

『ギィイィイヤァアァァアァッ……』

 

 銃弾の嵐を受けたガストレアは四肢を捥がれ、内臓を潰され、頭蓋を砕かれ、全身の骨を砕かれ、肉塊へと変わり果てて消滅していった。

 

 

 

 

 

「え、延珠……」

 

 その一部始終を、蓮太郎は何も出来ずにただ見る事しか出来なかった───

 

 

 




心身模倣(イミテーション・スタイル)
凡ゆる世界を渡り、強者や化物達との死闘を経て識った『心』を完全模倣し、そのものの特徴を引き出す延珠だけの『技術』。元々は天性の素質を持っていた延珠が色々と規格外になった事で、相手の力を識る為に覚醒したもの。
これを行使すると、延珠が選択したその特定の人物の戦闘スタイル、性格、話し方、その他諸々を模倣することが出来る。
但し、その特定の人物が持つ超能力や異能だけは模倣する事が出来ない。理由はあくまで模倣をしているだけで、その者の持つ超能力や異能はその者の『オリジナル』故に“コピー&ペースト”が不可能だから。


延珠の不死性
ウルキオラとの地獄の修行を乗り越える為に発現した性質。
その内容は『卍解』と『帰刃』の力を全て解放した全身全霊の全戦力状態にならない限り、凡ゆる手段で殺しても絶対に死なずすぐに復活する事。
簡単に言えばアーカードの拘束制御術式 零号を解放しないと幾らでも復活する不死性と似ている。
この極めて高い不死性こそ藍原延珠の真骨頂の一つであり、聖天子すら彼女を化物と言わしめている理由でもある。





……うん、やり過ぎちゃったわ。
延珠のキャラ崩壊してたしね。
まあ『心身模倣』の都合上、そのキャラに近い性格になります。
今回はアーカードの旦那でした。
次は誰にしようかな〜(ゲスい笑み


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8.理解と決意

どうもです(・ω・)ノ
一応こちらを更新しまっす。



「……」

 

 延珠がガストレアを殲滅したその日の深夜、蓮太郎は自分が住んでいるアパートのベランダで一人月明かりを眺めていた。

 

「……化物、か……」

 

 蓮太郎は静かに呟き、後ろを振り返る。そこには既に就寝している延珠の姿があった。

 

 天使の様な彼女の寝顔は先刻ガストレアを殲滅した姿とはとてもではないが似ても似つかない。

 

 紅い髪が黒く染まった延珠はまるで別人、いや最早別次元の存在と化していた。あれが一体誰なのか蓮太郎は知る由もない。

 

 自覚は無いが、蓮太郎は延珠を愛おしい存在だと認識している。だが、それと同時に恐怖も感じていた。ガストレアを殲滅した出来事以降、蓮太郎は無意識にそう感じてしまっていた。

 

 延珠の姿を見て、恐怖してしまっている自分がいる。

 

(……クソッ)

 

 好意よりも先にその感情が出ている事に気付いた蓮太郎はそのまま俯き、自分を叱責する。

 

(延珠はただガストレアを殲滅しただけだ。それだけなんだ。たけど……)

 

 怖い。IP序列三位という超高位序列者である故に、恐ろしい力を有しているだろうとは思っていた。

 

 だが蓋を開けてみれば、蓮太郎の想像以上の光景を目の当たりにした。

 

 ステージIIIのガストレアによる銃撃の嵐をその身に受け、平然と再生した延珠の持つ限りなく高い不死性。

 

 

 

 即死のダメージを負っても死なない。

 

 頭蓋を破壊されても死なない。

 

 心臓を潰されても死なない。

 

 頸動脈を掻き切られても死なない。

 

 全身の骨をへし折っても死なない。

 

 全身を消し飛ばす一撃を喰らっても死なない。

 

 存在そのものを無に帰しても死なない。

 

 

 

 延珠の持つ不死性とはそういうものだ。吸血鬼アーカードからそれを学んだ彼女は不死性を得る事に成功した。

 

 生も死も、何もかもがペテン。

 

 死を超越し、生をも超越する。それは『超越者』と呼ばれる所以の一つなのだ。延珠を鍛え上げたウルキオラ然り、アーカード然り。その他には『史上最低・最悪の運び屋』と呼ばれる赤屍蔵人などもカテゴライズされる。延珠もその中の一人なのだ。

 

 当然ながら蓮太郎自身はそれを知らない。

 

 ただ延珠も持つ不死性は兎も角、彼女の戦闘能力も別次元の領域なのだろうと予想は付けている。454カスール改造銃による一方的な蹂躙しか見せ付けられていないが、恐らくIP序列百位以内の強者すら敵わないだろう。

 

 延珠が化物と自称するのも間違いでは無い。不死性を持つ時点で既に化物なのだから。

 

(だからなのか、あの時俺にああ言ったのは……)

 

 

 

 ───蓮太郎。今回が初任務という訳だけど、貴方は私の事を『何一つ』知らない。だから貴方は知らなければならない。

 

 ───見せてあげる。『正真正銘の化物』の姿をね。

 

 ───貴方がそれを見てどう思うのか、これからどう決断するのかは貴方次第。何ならペアを解消して貰っても構わない。

 

 ───全ては貴方の意思で決まる。それだけは覚えてて。

 

 

 

 ガストレア殲滅の依頼の際、延珠が蓮太郎にそう言ったのは余計な隠し事はしない為だ。

 

 長い間隠せば隠すほど、それを急に知ってしまった衝撃は大きくなってしまう。下手をすればその絆を壊しなねない。

 

 延珠はそれを見越して蓮太郎に忠告を促した。しかしそれには延珠から蓮太郎へ向けられたある思いがあるからこそできるものだった。

 

 

 それは『信頼』

 

 

 蓮太郎ならば受け入れてくれるだろうと、蓮太郎ならば許してくれるだろうと。延珠は全面的に蓮太郎を信頼していた。

 

 寧ろ蓮太郎を信じて疑わないと言う絶対的な信頼と例えた方が分かるかも知れない。

 

(……延珠は、俺を信じ切っている。疑いの余地が無い程に信じ切っている。だけど何でペアを組んで一週間しか経っていない相手にそこまで信じ切れるんだ……?)

 

 それこそ延珠の秘密なのではないだろうか。しかし蓮太郎には、延珠が化物である事実の方が余程秘密にしておかなければならないものなのでないだろうか、と思ってしまう。

 

 唯、違和感というよりおかしいと思える部分は有った。それは今まで誰ともペアを組んで来なかった筈の超高位序列者であるイニシエーター(延珠)が何処の馬の骨とも知れないプロモーター(蓮太郎)と組むという所だった。

 

 ならば考えられるのは、過去に延珠が蓮太郎に関わっていたという点のみ。だが過去の記憶を遡ってもそれといえるようなものは無かった。それもその筈、数年前の記憶など時が経てば忘れてしまうのだから仕様が無い。

 

 唯一つだけ微かに覚えているのは、ガストレア戦争の際に何処かで母親のような暖かい何かに包まれた感覚だけだった。

 

 それを思い出し、もう一度延珠の方向へと顔を向ける。

 

「……まさか、な」

 

 延珠の寝顔を見て、蓮太郎は苦笑する。延珠に関する書類には、幼い見た目と裏腹に蓮太郎より年上という事実があるし、彼女がガストレア戦争の時期から活動していたと記されていた。もしかするとあの時の感覚が延珠のものだったとしたら、蓮太郎をプロモーターとして選ぶ可能性は有るのかも知れない。まあそれ以上の彼女との接点は無い筈なので消去法として考えたまでだが。

 

「……俺も寝るか」

 

 深夜にもなれば流石に眠気が襲って来る。蓮太郎は延珠の隣に敷いている布団へ潜った。

 そして彼は思う。

 

(……延珠が化物とか、何を隠してるとか考えるのはもうやめだ。考えれば考えるほど訳分からなくなる。なら幾ら考えてもしょうがねえし延珠には延珠の都合が有る筈なんだ。それに詮索なんて野暮な事、俺が上手く出来る訳が無いし……)

 

 蓮太郎は延珠とペアを組んで一週間の出来事を思い出す。

 彼女は蓮太郎と出会ってからかは分からないが、とても生き生きとしていた感じだった。

 笑顔を絶やさず、蓮太郎にいつも接してくれるその姿からはとてもではないが邪な気持ちを抱えているとは思えない。

 

(それに、延珠は延珠だ。まだ一週間しか経ってないけど、こいつはとても優しい奴だってくらい分かる)

 

 蓮太郎と会う前は世界中の呪われた子ども達を支援し、救って来たのだ。延珠を批判する大人もいるが、彼女を高く評価している大人もいる。そんな彼女自身が悪巧みをしている筈もない。

 

(……後、これは俺の勝手な思い込みかも知れねえけど)

 

 延珠に手を伸ばし、綺麗な紅色の髪を伸ばした頭に手を置く。

 

(こいつはずっと一人だったんだ。ずっと支える立場だったから傍に誰も居なかった)

 

 これは延珠とペアを組んで一週間過ごしたから垣間見えた一面だ。

 笑顔を絶やさない彼女だが、悲しい表情を見せる時があった。それは彼女が寝付いた後、蓮太郎が延珠を見て目撃したものだった。

 

 泣いていた。

 

 延珠が何を思って泣いていたのかは分からない。だが自らを化物と自称している時点で一人ぼっちだという事は理解していた。

 

 理解していた筈なのに、蓮太郎は恐怖を覚えてしまった。蓮太郎が自らを叱責したのにはそれが理由だった。

 

 蓮太郎よりも辛い道を歩んでいるだろう彼女を誰が責められようか。

 

「……ごめんな、延珠。お前に対して恐怖感を抱えてた。お前は何も悪くないのにな───……」

 

 その頭を撫でて蓮太郎は謝罪しながら優しく紅い髪を梳いていく。

 

「だから決めた、これからずっとお前を支えてやるって。俺も支えられっぱなしじゃ割に合わねえしな」

 

 この一週間、延珠に世話になりっぱなしだった蓮太郎はどう恩を返すのか分からないでいた。だが今回の任務で彼女の強さを知り、化物という烙印をその小さな背中に背負った辛さを見た蓮太郎はたった今、決意した。

 

 延珠が一人ぼっちにならないように、その傍に居る事を。

 

 もう延珠に対する恐怖は無い。彼女は化物であり、相棒であり、そして一人の女の子なのだ。

 

「お前は俺を守ってくれた。なら俺もお前を守ってやる。絶対に───……」

 

 その言葉の後に眠りに付いた蓮太郎。そして彼の言葉が届いたのか、とても幸せそうな表情で頭に置かれたままの蓮太郎の手を大切そうに抱き締めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして夜は明けて行く。

 

 明日の希望に向かって、朝日が顔を出す。

 

 ガストレアに支配され地獄と化した世界でも、夜明けの日の光は優しく彼等を包み込む。

 

 その日の光に希望を持って進む者もいれば、絶望して堕ちていく者もいる。

 

 この世界は希望よりも絶望が覆い包んでいるけども。

 

 少なくとも、朝日の光に包まれながら寄り添い合って寝ている紅い髪の少女とその(かたわ)らに居る少年は、『希望』なのだろう───……

 

 

 




次の更新は問題児の方になりそうです。



安全第一のひとりごと
アニメ『結城友奈は勇者である』を見ているのですが、内容が地味にエグい……
それでもって樹ちゃん一人だけ声を失うとか……
どうか黒沢ともよさんに仕事与えてやってえええぇええぇえええぇえ!!!
あの天使ボイスを聴きたいんや……
ティナの声の人だったしぃ……
ともよさんだけ声の仕事無くなるとか一種のリストラだよ!(錯乱)


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9.延珠と蓮太郎の日常(の一部)

どうもです。
次は問題児を更新するとか言いながらこっちを更新するという暴挙をやってのけた安全第一でっす。

あ、第三宇宙速度の速さで石は投げないでね!(汗
死んじゃうから!(大汗



それと昨日、『楽園追放』と『ゆるゆり』の映画を観に行きました。
両方とも良作でしたよ。


 次の日。

 

 蓮太郎が延珠を支える決意したその旨を伝えると延珠は驚いた表情をした後、とても嬉しそうに微笑みを浮かべていたという。

 

 それ以来、二人の仲は一段と良くなった。

 

 そして時より垣間見た彼女の悲しい表情は見えなくなり、蓮太郎もそれを見て満足そうにしていた。

 

 依頼に関しては、ガストレアとの戦闘で未だに延珠の454カスール改造銃による蹂躙が繰り広げられていたものの、殺し損ねたものや自身を襲おうとする敵を斃すだけの活躍はするようになった。

 

 また、蓮太郎は延珠の戦闘を邪魔する事無くそれを援護、または延珠との連携によるガストレア殲滅というスタイルを取るようにもなる。

 

 やはり延珠の戦闘能力は別次元の領域に達しており、一度454カスール改造銃無しの素手による戦いを見たが、それはもう圧倒的蹂躙だった。

 

 拳の一振りで地形を変える一撃。

 

 いつどこで移動したのかすら分からない瞬間移動。

 

 手刀による斬撃はガストレアの再生能力すら手に負えないほどの斬れ味。

 

 一つ一つの形に全く隙が無く、完璧と言える技の数々。

 

 ガストレアの個体における特徴を瞬時に看破し、弱点を即座に見出す観察眼。

 

 ガストレアの個体ごとによる相手の弱点を利用しての蹂躙。

 

 これだけでもほんの一部なのだが、それをイニシエーターの力を使わず、単なる膂力だけで成し得ている。

 

 他にも蓮太郎との連携では相手の弱点を的確に指示したり、対ガストレアの戦術や戦略を練り上げる指揮官としての技術も併せ持っていた。それも幾千通りものガストレア殲滅の攻略手順を瞬時に練り上げるのだから、蓮太郎は素直に凄いとしか言い様がなかった。

 

 特に延珠は対人戦が得意であり、蓮太郎は彼女に対人における戦い方を学び、日々鍛錬を怠らなかった。延珠に一日でも近付きたいのだろう。延珠もその姿を見て蓮太郎の鍛錬に付き合っている。

 

 蓮太郎は高校に通っている為、大体の時間はそこで過ごすが、それ以外の時間は自身の鍛錬やたまにやって来るガストレア討伐の依頼を請けていた。

 

 これは、延珠と蓮太郎の過ごす何気ない日常の一部である。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

「よっ」

 

「うおっ!?」

 

 延珠の足払いによって踵から左脚を丸ごと刈り取られた蓮太郎は重心を失い、そのまますっ転ぶ。

 

 その隙を逃さず、転んだ蓮太郎がうつ伏せになった瞬間に左膝から背中の中央に乗り、利き腕である右腕の肘から上の部分を右足で踏んで拘束、右手で頭を抑え止めに手刀を作った左手で蓮太郎の首筋に当てる。これだけの動作をコンマ一秒以内で全てやり終え、延珠が告げた。

 

「チェックメイト」

 

「……参った」

 

 蓮太郎が降参の意を示すと、延珠は拘束を解き、蓮太郎から離れる。

 

「あー、これで何敗目だ?」

 

「五百二十三敗目。それよりも、身体の重心の運び方がなってないよ。他にも相手への視線、眼球運動、表情の作り方、呼吸、肉体の初動、攻撃の軌道、足運び、体勢の安定性の確保、凡ゆる体勢からの状況対応etc。これでもまだほんの一部なんだけど、一番痛いのは戦闘に関する技術を全て出し尽くしてしまっている事。対人戦で最も大切なのは、手札を大量に用意していかに相手に行動を読ませず且つ相手の行動アルゴリズムを看破して弱点を瞬時に見抜き最低でも一万通りもの攻略方法を見出すのかなんだけどね。それを呼吸するかの如く当たり前に出来る者は戦闘面を極限まで極めた存在だけで、大抵そういう人は超越者とか修羅とか羅刹とか呼ばれるんだけど、流石に蓮太郎には無理だよね」

 

「そ、そこまでは無理っす」

 

 戦闘面について長々と説明した延珠に蓮太郎は少し引き気味だった。

 

(師匠との修行時代の頃は色んな世界を渡ってそんなやり手とも殺り合ったからなぁ……。

 正直、私が一番恐かった相手はそういう面での超越者だったし)

 

 そんな蓮太郎を尻目に、延珠はしみじみと過去について思い出していた。

 

 過去に延珠と殺し合いをした者達は千差万別。延珠のような強大な不死性を持っている者や地球規模の威力を誇る絶大な一撃を持つ者、宇宙法則を操る者や森羅万象を創造する者など、一人ひとりが究極の領域に至っている超越者だった。

 

 だが延珠にとってその類の超越者を相手とするのは得意分野であり、取るに足らない存在と言えた。

 そんな延珠にも、最も恐れているタイプの超越者がいる。

 

 

 

 それは『戦闘に関する全技術を極限以上に極めている』超越者である。

 

 

 

 その類の超越者こそ延珠が最も恐れ、最も警戒している。

 

 それは何故か。

 

 例えとして、地球規模の攻撃を繰り出せる者がいたとしよう。

 だが地球規模の攻撃とは大抵何らかの動作が必要としてくる。魔法使いなら詠唱、忍者なら術を発動する際の印結びと言ったような具合だ。

 

 そしてそれを相手は黙って見ているだろうか。

 

 答えは否である。

 

 戦闘に関する全技術を極めた超越者達は、相手が何かをする前にその動作を既に封じているのだ。

 

 何かをする前に、既に何かをし終えている。戦闘面を極めた超越者はこれくらい朝飯前でやってのける。

 

 音速?

 

 光速?

 

 神速?

 

 そんな中途半端な速さ(・・・・・・・)など遅過ぎて欠伸が出るに違いない。

 

 戦闘技術を極めに極めた超越者達に速さなど存在しない。

 

 残るのは結果のみ。

 

 そして行動の過程を省略する技術すら彼等は当たり前のようにやってのけるのだ。

 

 例え相手が不老不死であれば、永遠に苦しむ方法で甚振(いたぶ)ればいい。痛みを感じない不老不死ならば精神を嬲り殺しにすれば良い。精神が壊れている不老不死ならば死亡一歩手前まで追い込み、そのまま晒し者として放置し永遠と苦しませれば良い。

 

 ファンタジーものでもそう。例え最強の主人公が敵でそのステータスが那由他の彼方であり、此方が一般人程度のステータスしか無かったとしても、そんなものハンデにすらならない。究極の戦闘技術を極める者ならば防御力完全無視の即死ダメージを与える事すら容易なのだ。

 

 最強の主人公が武器を一振りで星を半壊させる大規模な攻撃を繰り出しそれに巻き込まれたしても、どのような体勢で対応しどのような動きで避けどのような回避ルートを割り出しどのような歩法で移動するのかを刹那の間に組み込めば余裕で生還出来る。それも無傷で。

 

 そして相手が天性の戦闘センスを持っていたとしても、相手は天性の戦闘センスを何も活かせず何も出来ずに死ぬだけだ。

 

 どこかの漫画で空手を始め、師範代に一日目はボロ負けしたが二日目は只々相手の様子を観察し全てを解析する事で三日目は圧勝出来た理事長がいたらしいが、超越者ならば逆にそれを逆手に取るくらいは簡単にする。それ以前に肉体の初動すら感じ取れない上に速度など存在しないので、その理事長が永遠にボロ負けし続けるビジョンしか浮かばない。

 

 他にも戦闘に関する天才は見ればすぐに敵の技術を習得出来ると勘違いされているが、それは戦闘技術を極め切れていない敵が悪いだけで、極限以上の戦闘技術なら天才であればあるほどそれを習得する事が出来なくなるのだ。

 

 要するに『極限まで極めた戦闘技術』は見て覚えるタイプである天才に対して非常に相性が良い。逆に言えば天才タイプの最も恐ろしい天敵なのだ。『天才殺し』と言っても過言では無いだろう。

 

 まず、上記までに挙げた戦闘技術ですら基礎の基礎、基本の中の基本なので例え天才がそれを習得して良い気になっていたら死亡ルート一直線である。

 

 それに加えて基礎の基礎、基本の中の基本の技術やそれ以上の戦闘技術を盗まれても、その技術に対するカウンターの技術やそのカウンターに対するカウンターの技術、そしてそれすら上回る戦闘技術を備えている事など明白であり、『その戦闘技術を盗めば盗むほど自身の足下が掬われ易くなる』仕組みになっているのだ。

 

 延珠の師匠であるウルキオラは専らこのタイプなのである。それでいて延珠が過去に殺し合いをした千差万別の超越者達のタイプ全てを兼ね備えているのだから余計に恐ろしい。そこまでの次元に至ったルーツを知りたいぐらいだ。

 

 ウルキオラを除いて過去に殺し合った戦闘技術を極めた超越者の中で一つ例を挙げるとすれば、全盛期時代の『キング・ブラッドレイ』であろう。齢六十を超えても尚、圧倒的な戦闘技術を持っていたが、全盛期時代はその比では無い。

 

 あれの繰り出す剣技は最早剣技とは言えなかった。いつの間にか移動しており、いつの間にか斬り終えている。延珠ですら動作の一つすら予測する事が出来なかった程だ。もしも彼がこの世界にいたならば、世界中にいるガストレアの総数は現在の二分の一以下になっていた筈だ。

 

 というか、延珠と殺し合ったあの時は眼帯を外していなかったので全力を出していたのかすら怪しかった。

 

 寧ろ眼帯を外してしまえば最後、延珠は何も出来ずに永遠と殺され続けていたのかも知れない。

 

「そう思うと世界って広過ぎるよね……」

 

「何か言ったか?」

 

「ううん、何でも無いよ。ただ私よりも強い人は山ほどいるって現実を再確認しただけだよ」

 

「え、なにそれ怖い」

 

 何故か蓮太郎は戦慄した。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 夕食の時間。

 

 二人だけの食卓だが、家族のような他愛ない会話が繰り広げられていた。

 

「そういえば延珠って学校はどうするんだ?」

 

「え? こう見えて私、外国の大学卒業してるよ?」

 

「……え?」

 

「あれ? 言ってなかったっけ?」

 

「いや、お前とペアを組んで一年経つけど始めて聞いたぞ」

 

「あはは……」

 

 思い返してみれば言ってなかったような気がする。延珠は思わず苦笑いを零した。

 

 先程の通り、延珠は大学を卒業している。見た目こそロリだが、年齢は蓮太郎よりも年上なので問題ない。

 

 まあ仮に十歳の子どもだとしても、何処かの赤色が特徴の十四歳弐号機パイロットもドイツの大学を卒業していたので問題ない筈だ。

 

「じゃあ俺が高校に行ってる間はどうしてんだ?」

 

「うーん、その日によってまちまちだけど、ここでボーッとしたり外周区に遊びに行ったり病院の地下室にいる菫の手伝いをしたり、かな」

 

「ま、延珠がそれで良いなら良いか」

 

 延珠は基本的に自由行動だが、蓮太郎よりも遥かに強い延珠が危機的状況に陥る訳が無いし、外周区の呪われた子ども達もみんな延珠に懐いている。四賢人の一人である室戸菫は延珠に多大な興味(主に延珠の持つ力に)を抱いており、解剖したいとか何とか言っていた。室戸菫だけ危ない発言をしていたが、延珠は特に気にしていないようだ。

 

 それに延珠の持つ力は科学程度では解明する事すら出来ない。一種のブラックボックスのようなものだが、手掛かりを掴むなら魔術といったオカルトの領域まで手を染めなければならないだろう。

 

 まあ例え四賢人全員がオカルトに手を染めた所で何も解りはしないしどうにもならない。どうしても魔術を構築したいのなら、科学の領域を完全に捨て去るしか無いだろう。魔術とはその存在自体がブラックボックスなのだから。

 

 延珠が過去に殺し合った超越者を例に挙げるならば、水銀の蛇・メルクリウスが創り上げた『エイヴィヒカイト』という魔術。

 

 これ自体は創った本人しか解らないので四賢人はおろか、延珠でも解らず、魔術というのはこういう事を言い、大半以上が正体不明なのである。

 

 閑話休題。

 

 蓮太郎は別に延珠の行動を制限するつもりは無い。というか蓮太郎より延珠の方が年上なので行動を制限するという事自体おかしいのだが。

 

 そこで蓮太郎がふと思い出したように、別の話題を切り出す。

 

「そういえば、ここ最近この東京エリアによくガストレアが侵入しているって噂を聞いたんだが、本当なのか?」

 

「そうだね、ここ最近は頻繁にガストレアが侵入してるのは確かかな」

 

「なあ、それって俺達がペアを組んだ時の初任務と関係あると思うか? 今思い返せばあの時も妙におかしいとは思ったんだ。ステージIとステージIIはともかく、ステージIII二体にステージIV四体、そして新しく機関銃を取り込んだステージIIIの大群。あれは普通じゃない」

 

「うん、下手したらモノリスを突破されていたかも知れないしね。関連性が無いとは言い切れない」

 

 あの時のガストレア侵攻ははっきり言って異常だ。報告に上がっていた数で十体、機関銃を搭載したステージIIIの二十体以上の大群、合わせて三十体以上のガストレアが一斉に侵攻して来たのだ。それこそモノリスを突破する勢いだったのは間違い無いだろう。

 

 常識ではモノリスを突破出来るのはステージVのみ。

 だがガストレアとは常識を覆す寄生生物。ステージVだけがモノリスを突破するとは限らないのだ。

 その内、ステージIVのガストレアがモノリスを突破する可能性が生まれるだろうと延珠は予想していた。実際にそれは現実になるのだから人類からすれば迷惑極まりない。

 

「まあステージIII以上のガストレアが侵入した例は無いみたいだから他の民警に任せれば良いよ。今の蓮太郎なら機械化兵士の力を使わずにステージIIIを倒せるし、使えばステージIVも圧倒出来るから問題ないよ」

 

「まあ深刻に考える必要も無いか。ステージVが来ても延珠がいるから無問題だろうし」

 

「まあ超高位序列者のいない他のエリアは絶望的だろうけど」

 

 流石に他のエリアにも最低一人は高位序列者はいるので絶望的とまではいかないだろうが、ステージVが現れれば最悪の事態なのは間違いないだろう。それこそ絶望的なのだが。

 

「それでなんだけど、最近頻繁に現れるガストレアの件は誰かが裏で暗躍している可能性があると思う」

 

「誰かが裏で暗躍か……」

 

「だからその可能性を考えて東京エリア全体を私なりに調査してるんだ。三ヶ月くらい前からだけど」

 

「え、それも初耳なんだが」

 

「えへへ、ごめんね」

 

 苦笑しながら謝罪する延珠。だが基本自由行動の延珠だからこそ出来るのであって責めるつもりは毛頭ない。

 

「それで判明した事なんだけど、この東京エリアに『仮面を付けた燕尾服の男』が出没しているらしいんだよ」

 

「仮面を付けた……」

 

 少なくとも蓮太郎には思い当たりは無い。しかし仮面を付け、燕尾服の格好をしているのは奇妙だとは思ったが。

 

 だが蓮太郎に思い当たりは無くとも、延珠自身にはあった。というかありまくりだ。

 

「だけど私には思い当たりがあるんだ」

 

「……まあ世界各国を渡って活躍してたらそりゃあ思い当たりもあるよな」

 

「うん、だからその男の個人情報をIP序列三位のアクセス権限を使用して調べたんだけどね」

 

 実際は転生してから一度も会ったことが無いのだが、それを言ってしまえば話が拗れるので敢えて頷いておく。

 

「……そいつの情報は?」

 

「その男は元民警。問題行動が多過ぎてライセンスは停止・序列凍結中になってるけど、ライセンス停止前の序列は百三十四位」

 

「百三十四位……かなりの高位だな」

 

 百位近くの序列者と知れば普通は驚く所なのだが、IP序列が三位という超高位序列者が目の前にいる為、そこまで驚きはしなかった。ただ相当な実力者であることに納得した蓮太郎である。

 

 因みに現在の蓮太郎達のIP序列は十万五千六百三十七位。初任務完了と共に序列が上がったが、それ以降はあまり依頼を請けていない。しかし延珠の持つ元々の資金が億単位なので貧乏生活は免れている。ただ天童民間警備会社は延珠のヒモによって存続していると言っておこう。

 

「そして仮面の男の名前は蛭子影胤。イニシエーターの方は蛭子小比奈。蛭子小比奈はモデル・マンティスのイニシエーターで武器を持てば無敵らしいよ」

 

「蛭子影胤に蛭子小比奈……か」

 

「ついでに言っておくけど、蛭子影胤は『陸上自衛隊東部方面隊第787機械化特殊部隊』に所属していた。その意味は分かるよね?」

 

「成る程、つまり俺と同じで機械化兵士って訳か……面倒だな」

 

「あと蓮太郎が昔大怪我をして運び込まれたのがセクション二十二だったけど、蛭子影胤はセクション十六。つまり蓮太郎の所属していたセクション二十二の戦術思想はステージIVすら倒せる超人的攻撃力を主体としたものだけど、蛭子影胤の所属するセクション十六の戦術思想はステージIVの攻撃を止めることが出来る斥力フィールドによる絶対防御。まあ言えば真逆だね」

 

「だが機械化兵士って時点で厄介なのは決定だな。確かその斥力フィールドって……」

 

「対戦車ライフルすら防げる代物だよ。でも蓮太郎の攻撃力なら貫通出来るけどね。ただ一つだけ言えるのは防御だけじゃないって事を念頭に置いといて」

 

「分かった、俺も蛭子影胤と蛭子小比奈について独自に調べてみる。鉢合わせだけは勘弁願いたいけどな」

 

「鉢合わせしたらしたで、私が直々に嬲り殺しにしてあげるから心配ないよ。出来れば今発注してる新しい専用銃が完成してから始末したいけど。もうじき完成するらしいし、性能を試す的当てにしたいからね」

 

「物騒な物言いだなオイ。まあそれもお前の良い所なんだけど」

 

「ありがと、蓮太郎」

 

「どーいたしまして」

 

 そう言いながら蓮太郎はこれから戦う可能性のある蛭子親子に心の中で合掌した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 里見蓮太郎と蛭子影胤が対峙する日はそう遠くは無かった。

 

 

 




この話でジャッカルの登場が確定となりました(白目
やったね影胤さん! (試し撃ちの)実験台になれるよ!(錯乱
後はれんたろーの強化フラグ回収なり



延珠が過去に殺し合ったラスボスの皆さん
・ULQUIORRAさん
・アーカードの旦那
・赤屍さん
・キング・ブラッドレイ大総統閣下(全盛期ver)
・ニート
他にもいっぱいいるよ!(白目


因みに延珠がラスボスの皆さんに殺された回数
・ULQUIORRAさん:?回
・アーカードの旦那:12回
・赤屍さん:76回
・キング・ブラッドレイ大総統閣下(全盛期ver):107回
・ニート:0回(流出階位で対抗した為)

因みにアーカードの旦那と戦った時は不死性が無かったけど、一回旦那倒したら平然と復活したのを見て真似しようとしたらなんか不死性を獲得出来たというエピソードがあったりなかったり

どの殺し合いも決着が着かなかったのでULQUIORRAさんが全部止めてます。


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10.始まりのプロローグ

どうもです。
今年最後の更新となりまーす。

今回の話はdies irae要素があります。
そしてENJUの本性とウルキオラならぬULQUIORRAの超絶チートの内容が明らかになります。



 その場所が何処なのか。

 

 地上、空中、地底、地獄、天国、煉獄。多々あるが、二神がいる場所はその範疇から逸脱している。

 

 そこは場所というには曖昧である。だが、そこに名称があればこう言わせてもらおう。

 

 

 

 宇宙空間、と。

 

 

 

「久しぶりだね、師匠」

 

 左右に纏め、髪留めで留めた紅蓮の如き色をした長髪を持つ幼き少女が語りかける。相対するは白の装束を身に包み、腰には刀を挿し、側頭部には骸骨の破片が付いているあの時から変わらない格好をした【絶対無】。

 

『……ああ』

「ッ!?」

 

 凄まじ過ぎる衝撃。今、彼が一言発しただけで全宇宙という存在が無数に消し飛んだ。直後に彼が無数もの次元世界や平行世界、多次元宇宙を創り出していた為に事無きを得たが、内心冷や汗が止まらない。あれでも並みの覇道神レベルにまで格を落としている状態なのだ。

 

 遠い、やはり遠い。

 

 少女は嘗て水銀の蛇から『紅蓮の劫火』と称され黄金の獣、永遠の刹那と並び同等の力量を誇る覇道神へと至った。更に力を付けた現在なら天魔・夜刀には及ばないものの、それに近い実力を持っている。

 

 だが、目の前の【絶対無】には到底及ばない。

 

 紅蓮の劫火・藍原延珠の師匠であるウルキオラ・シファーの正体は【絶対無】。全宇宙・全次元世界・全平行世界・全法則・全概念・森羅万象を創成した凡ゆる『無』の総体。能力と言ったものは存在せず、『無』という単純なものしかない。

 

 そして総ての無である為、魂の保有量や質に限界が無く、無量大数すら超越している。現在においても尚、超新星爆発並みの勢いで膨れ上がっている。

 

 故に底が『無い』。

 

 だからこそ【絶対無】。

 

 如何に水銀の蛇だろうと、黄金の獣だろうと、永遠の刹那だろうと、【絶対無】の前には無力同然。永劫回帰も怒りの日も超越の物語も『無い』のだから。

 

 この【絶対無】はあの第六天波旬すら凌駕する。そして彼を直接倒せる事の出来る唯一の例外の中の例外。

 

 まず【絶対無】である彼の前には覇道も求道も『無い』。故に第六天波旬の持つ「己を唯一の宇宙と断ずる神域すら超越した唯我の渇望」すらも『無い』と断じて一切合切否定出来るのだ。

 

 水銀の蛇が使う『素粒子間時間跳躍(エレメンタリーパーティクル)因果律崩壊(タイムパラドックス)』の因果律操作による「無かったこと」にするものとは違い、純粋に「因果律ごと無に帰す(・・・・・・・・・)」だけのもの。

 

 小難しい設定は要らない。ただ『無』であるだけなのだ。

 

 第六天波旬の強過ぎる自己愛のように、ウルキオラも純粋なる『無』なのである。

 

(やっぱり……次元が違うとかそういう次元じゃない(・・・・・・・・・・・・・・・・・))

 

 延珠は只々それを思い知らされていた。立つ場所が違い過ぎると。第六天波旬は愚か天魔・夜刀にすら劣る己では、第六天波旬を倒せる彼には永遠に届かないのだと。

 

 そもそも【絶対無】であるウルキオラには「強い」・「弱い」といった概念が存在しておらず、「勝利」・「敗北」といった概念も無い。つまりそれは「勝負にすらならない」と同義なのだ。

 

 そう、彼に挑むなど烏滸(おこ)がましいにも程がある。あぁ、なんと烏滸がましいのか。

 

 

 

(だからこそ面白い───)

 

 

 

 笑う。

 

 紅蓮の劫火は、絶対的な力量差を思い知らされた状況すら面白いと断じ、楽しげに笑みを深く浮かべる。そう、最低でもそれだけの狂気が無ければウルキオラを認識しただけで消滅してしまうだろう。

 

 逆に覇道神に必要である強大な狂気が無ければ認識すら出来ない。

 昔、延珠が死んだ直後にその魂を拾い上げられた頃のウルキオラは今よりも更に格を下げた状態にあり、「格を限り『無く』下げていた」からこそ力無き延珠が目にしても消滅しなかった。

 

 だが今は違う。覇道神となった延珠を見てウルキオラはその力を並みの覇道神レベルに戻した(・・・)のだ。つまり僅かながら認められたという事。

 

 人の身でよくぞここまで練り上げた、と。

 

 

 

形成(Yetzirah)───

 

 『黙示録・審判の刀刃(Klinge judgement Apokalypse)』」

 

 

 

 延珠がそう呟くと、何処からともなく劫火が舞い、延珠の手には無駄を一切省いた一本の日本刀が握られていた。

 

 それに伴い彼女の服装は黒衣のSS軍服姿となり、腕には星形を複雑にしたような図柄の記された腕章を付け、極め付けに紅蓮の長髪を左右に留めていた髪留めが外されたそれは美しく靡いている。

 

 その姿はまるで戦女神(マーズ)の降臨すら幻視する程の美しさであった。

 

 さあ、今こそ『無』に魅せてやろうではないか。例えそれが無に帰されようとも、これは悲劇でも喜劇でも無いのだから。

 

 故に全身全霊を掛けて、この刹那たる一時を愉しもう───

 

 

 

 

 

 育み壊された 哀しき記憶

 

 夢幻に立ち尽くし 形を失くしていく曖昧な真理

 

 ならば速度を超えて撃ち破ろう 限界を

 

 いつか辿り着ける 生も死も超越したその先に

 

 紅蓮に燃ゆるその眼差し 熱く響く命の鼓動

 

 強く深く 真実を貫いていく 

 

 満身創痍の心を燃やし 君との明日を切り開きたい

 

 この躰に全てを込めて 闘おう

 

 遥か彼方の希望を信じて

 

 

 

 

 

 ───流出(Atziluth)

 

 

 

 

 

運命の円環より語り継がれよ終末の日(Heimskringla Saga Ragnarök)

 

 

 

 

 

 

 瞬く間に藍原延珠の渇望が全宇宙に展開される。凡ゆる総てが終末と消滅に塗り変わる全宇宙の中、ウルキオラは何事も無く佇んでいる。効いている素振りも無い。

 

 だがそれで良い。

 

 それが良いのだ。

 

 そうでなければ、始まらない。

 

 

 

「───さあ、知られざる幕間劇(グランギニョル)を始めよう」

 

 

 

 自身を更なる超越の世界へ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……夢、かぁ」

 

 随分と懐かしい夢を見たものだ。延珠はそう思い、ふとカレンダーを見る。

 

「そっか、今日からだったね」

 

 この日は蓮太郎がある依頼を請け、仮面の紳士・蛭子影胤と邂逅する。そこから物語は始まり、短い間で延珠と蓮太郎は命を落とした。

 

 師匠であるウルキオラと出会った頃から薄々と感付いていたが、とある水銀からそれらに関する知識を得てそれは確信となった。

 

 嘗ての延珠と蓮太郎が蛭子影胤との戦いに敗れ、命を落としたという結末は正史の世界における結末でないのだと。彼女らの結末は平行世界におけるIFなのだと。

 

 この宇宙が単一のものではなく、無数の未来のうちの一つを進んでいるに過ぎないという「平行世界」の概念を作り出した張本人である水銀が言ったのだ。彼の言葉に偽りなど無い。

 

 それを聞き延珠は安心した。もしも自らが辿った結末が正史であったとしたら、彼女は即座にその宇宙へ赴き、流出を行っているだろう。

 

 まあそれはそうとして、水銀の言葉は信用に足るものだと延珠は認識している。

 

 確かに胡散臭い雰囲気を持ち、黄金の獣や黄昏の女神以外の対人関係は皆無と言って良い。彼に関わった者は皆、その人生を狂わされているのだから仕方のない事だが。

 

 しかし生まれながらにして人生が既に狂っている延珠は、自身の人生が更に狂わされようが知った事ではない。寧ろ水銀の在り方すら延珠は称賛を送っている。協力すらしたいと思っている程に。

 

 歴代神の誰より強い責任感を持ち、 歴代神の誰より未来を重く受け止め、歴代神の誰より理想の未来を勝ち取るために努力していた、根はあまりにも純粋で誠実な男なのだ。

 

 ただ純粋に黄昏の女神を愛し、その愛が報われないと知っていようとも、彼は彼の女神の為にその身を粉にして暗躍を続けた。

 

 恋は盲目、という言葉があるが正にそれである。そしてそれは延珠にも言えた事だ。

 

 里見蓮太郎という一人の男の為に延珠は凡ゆる力を欲し、その為だけに生まれた壮絶な狂気と共に凡ゆる力を得て来た。

 

 今でこそその狂気はなりを潜めているが、いざとなればこの宇宙の「座」に就き渇望を流出して里見蓮太郎以外の総てを消し去り、彼と永遠になる事も厭わない。当然それは最終手段であり、彼の意思を無視して行うというのは延珠としては好まないのだが、いずれはそれを実行する気でいる。

 

 

 

 この様に、藍原延珠という存在は大いに狂っている。

 

 

 

 この強過ぎる狂気がいつ発現したのかは分からない。だが、この狂気は里見蓮太郎の為だけにある。もしかすると、生前の頃からそれは潜んでいたのかも知れない。

 

 水銀からは「その狂気は愛する者すら滅ぼす」という呪いの言葉を受けている程に歪んだ狂気であるが、それがあるからこそ延珠は蓮太郎に限り無く優しくなれるし、限り無く強くなれる。

 

 それに延珠はこれほどの狂気ですら圧倒的に足りないと断じている。里見蓮太郎という存在すら消し飛ばしてしまうだけの強過ぎる狂気(あい)が無ければ、彼と共に悠久の時を過ごす事など叶わない。

 

 この日の為に彼女は力を付け、凡ゆる策を講じて用意した。常人が見ればそれは過剰過ぎるのだが、彼女からすれば準備不足同然だろう。

 

(正史の世界を見て来た私にとってはその通りに動いてくれると万々歳なんだけれど、どうなるんだろうね。凡ゆる手段を用意したのは良いが、未知である以上未来は誰にも分からない、か)

 

 まあカール・クラフトにしてみればその辺りも既知なんだろうなぁ、と思いながら身体を起こし、布団から出る。

 

(ま、未来がどうなろうと私の描いた脚本(シナリオ)通りに動かしてあげる。蓮太郎は死なないし死なせない)

 

 延珠はそう不敵に笑い、その場から去って行く。そこに残るのは彼女の愛しき里見蓮太郎が眠っている。

 

(蓮太郎と悠久の時を過ごす為にはどんな事もするし、蓮太郎を守る為なら宇宙すら消し去っても良い)

 

 玄関の扉を開けアパートから出ると、それに合わせるかのように朝日が東京エリアを照らして行く。その日の光は延珠にも届き、紅色の長髪が色彩の如く溶け込む。

 そこに一陣の風が吹き、流水のように靡く長髪。延珠は朝日に向けて手を伸ばし、それを掴むように握り締めた。

 

「───総ては蓮太郎、貴方の為に」

 

 

 

 

 

 ───では一つ、皆様私の歌劇をご観覧あれ。

 

 ───その筋書きはありきたりだが。

 

 ───役者が良い。至高と信ずる。

 

 ───故に、面白くなると思うよ。

 

 

 

 

 

 ───では、今宵の恐怖劇(グランギニョル)を始めよう。

 




ENJUの聖遺物の詳細

『黙示録・審判の刀刃』
(クリンゲ・ジャッジメント・アポカリュプセ)

武装具現型。
形状は無駄のない日本刀。
位階は流出。


流出
『運命の円環より語り継がれよ終末の日』
(ヘイムスクリングラ・サガ・ラグナレク)

発現は覇道型。「里見蓮太郎以外の存在総てを消し去りたい」という渇望が具現化した能力。
刀に凝縮した熱量は最早計測不能。一振りで超新星爆発、両手で振るえばグランドクロスを引き起こすというワケワカメな規模の威力を発揮する。
流出の能力は「里見蓮太郎を除く凡ゆる宇宙を物質・非物質に関係無く例え概念や森羅万象であろうと一切合切強制的に消し去る」というもの。簡単に例えたらマッキーパンチの覇道型。もしくはマッキー☆スマイルの覇道型でもおk
元々、これは「里見蓮太郎と一緒にいたい」という渇望であり求道寄りだったのだが、狂気の果てに「里見蓮太郎以外の存在を許さない」「消えて無くなれ」という渇望に歪んでしまい、覇道型となった。もうヤンデレとかそんなレベルじゃないね(白目
ようするに劣化版波旬っぽくなっちゃったENJUである(白目
まあ波旬よりは救いがあるけどね! れんたろーがいればどうにかなるし。
因みに波旬とULQUIORRAは当然効かない。ニートや獣殿、練炭は流出で対抗すれば問題ナシ。
詠唱はブラブレのOP。丸々コピーはダメなので色々と改造してます。



まあこれでもやり過ぎとは思うけど、ULQUIORRAが波旬K.O出来るのは些かやり過ぎたと反省してる。うん。


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11.邂逅

最近、pixivの『泣ける艦これ』を見て号泣してます。マジで。
めっちゃ感動する。

今回は蓮太郎のチート具合が分かる回。

ではどうぞ。


 外周区。

 

 そこは呪われた子ども達が落ち延びている場所。そして、呪われた子ども達への差別意識が抜けない大人達が忌み嫌う場所でもある。

 

 東京エリア内の呪われた子ども達への差別意識は他のエリアより薄い方だ。そして今や英雄視されている藍原延珠の影響もあり、彼女らを保護する大人達も多い。

 

 だが、ガストレアショックから立ち直れた大人達が多いこの東京エリアであるが、未だに立ち直れない大人達も少なくない。

 

 それらは産んでしまった呪われた子どもを外周区の近くに捨てている。故に亡くなっている呪われた子ども達は数多くいる。

 

 そして外周区はモノリス付近に存在し、たまにモノリスの磁場結界を抜けて来るガストレアと遭遇し易い。

 

 その為、外周区の建物はガストレア戦争の傷を残したままであり、修繕される事は無い。当然ライフラインも途絶している。

 

 さて、その外周区にステージIIIのガストレアが侵入したとの報告が藍原延珠の元に届いた。

 

 延珠はそれを承諾。直ぐさま殲滅へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 

『ギシャアアアァァァァァ!!!』

 

 目の前の少女に異形の怪物が襲い掛かる。大きな口に鋭い牙、丸太よりも太い腕に鉄すら切り裂く爪を少女を潰そうとする。

 

 だが、

 

「……クククッ」

 

 不敵に笑う少女が白銀の拳銃を構え異形の大顎に狙いを定める。

 

 そして引き金を引く。

 

 拳銃の撃鉄が十三ミリ爆裂徹甲弾の雷管を叩き、銃口から発射される。

 

 銃弾は空気を裂きながら異形の大顎へと吸い込まれ、首から上ごと顎を千切り抉る。

 

『───!!?』

 

 首から上を全て持って行かれた異形は何が起きたのか分からず困惑した。

 

 空高く跳ばされている異形の頭が最初に見たのは自身の胴体。そして首の部分からは噴水のように吹き出ている赤い液体。

 

 次に視界に入るのは、先程の少女。だが彼女が浮かべている笑みは悍ましく、蹂躙を愉しむような笑みであった。

 

 そしてギラリと銀色に光る拳銃が此方に銃口を向けている。あれが自身の首を顎ごと千切ったものであると初めて理解した。そして、

 

「Amen」

 

 そんな言葉が聞こえた後、異形の意識は唐突に途絶えた。

 

 

 

 

 

「うん、任務遂行」

 

 ガストレアの首を消し飛ばした少女、藍原延珠は残った胴体をカスール改造銃で肉塊に変えて始末し、その後は外周区の中を歩いていた。

 

「全く、たかがステージIIIなのに私を駆り出すなんて。東京エリアの民警はそこまで貧弱じゃないんだけどなぁ」

 

 延珠は心底呆れながら頭を掻き、そう呟く。ステージIII程度なら千番台の民警で事足りるというのに。

 

「……とは言っても七匹同時に攻めて来られるとお手上げ状態か。ま、仕方ないね」

 

 ステージIIIのガストレアはそう弱くない。ステージIすら油断すれば死に至るのに、ステージIIとなれば死を覚悟して挑まなければならないレベルだ。ましてはステージIIIともなれば生半可な民警なら単独では絶対に倒せない相手。ステージIV・ステージVに至っては超高位序列者に頼らなければならない。

 

 そんな強さを持つガストレアをあっさりと殲滅する延珠の方が可笑しいのだ。過去に十万体ものガストレアを僅か数分で全滅させたその力は推して知るべしである。

 

 現在は活動が控えめになっているものの、カスール改造銃のみで蹂躙と殲滅の繰り返し。誰がどう考えても可笑しいと認識するのが普通なのだ。

 

 だが延珠の扱うカスール改造銃は人類では扱えない代物。内部構造を弄り、威力を尋常外まで引き上げたそれは最早銃であって銃では無い。故にガストレア殲滅が容易いのだ。

 

 そして近々完成予定である黒金の拳銃はカスール改造銃の威力を更に上回る。

 

 それもその筈、“ステージVを撃ち殺す”コンセプトで造られた物である為、“殲滅用”として用いられる事になっている。

 

「んー、私が描いた脚本通りに動かしてあげると言った所でその通りに動かせるとは限らないなぁ。私はあの水銀ほどの脚本家じゃないし詐欺師でもない。精々最悪の事態にならないように調整する程度しか出来ないのが痛いよ……」

 

 はーやれやれ、とため息を吐く延珠。日は既に夕暮れへと傾いている。別の依頼を請けた蓮太郎は丁度あの仮面の男と邂逅している所だろう。

 

「よし、じゃあぼちぼち動こうっと。まあ赤屍さんみたいに常時0時間行動も出来るけど、瞬歩で十分だね」

 

 そう言うと、延珠はその場から一瞬で姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、里見蓮太郎は相棒である延珠が特務でガストレア殲滅に出向いたのと同時に届いた依頼を請け、その現場に辿り着いていた。

 

 まあその時にエラの張ったゴツい顔をしている殺人課の主任刑事が脅して来た等の事はあったが、適当にあしらってどうにかした。今日の食事当番は自分なので、さっさと依頼を片付けたい一心である。

 

「お前、相棒のイニシエーターはどうした? お前等民警の戦闘員は二人一組で戦うのが基本なんだろ?」

「ん? あぁ、あいつはいま別の依頼に出向いててな。今ごろガストレアを潰し終えている所だろうぜ」

「……それはどういう事だ?」

「あんたも知ってるだろうが、俺の相棒は藍原延珠って言ってな。IP序列三位の英雄だ」

「……は?」

 

 蓮太郎の相棒が藍原延珠という人物と知り、素っ頓狂な顔をしてしまう多田島。藍原延珠といえば知らない者はいないとされる英雄。イニシエーターの身でありながら世界中を駆け巡り、人類の危機を幾度となく救って来た。

 

 そんな人物の相棒が目の前にいる少年だという事が信じられない。だが蓮太郎からは嘘を吐いている様子は見られない。

 

「どうやらモノリスからステージIIIのガストレアが七体もやって来たらしいんだとよ。それで外周区で迎え撃つ形で一人殲滅に向かった訳だ。しかしこうもあっさりモノリスの結界が抜けられるとはこの先心配になるぜ……」

「……そりゃマジかよ……」

 

 そして依頼の内容を聞き、内心冷や汗をかく。ステージIIIが七体も侵入して来ているとは緊急事態にも程がある。もしも藍原延珠がいなければ今ごろこの東京エリアはパンデミックと殺戮の嵐に塗れているだろう。下手をすれば更にガストレアが侵入して被害が甚大になったかもしれない。

 しかしガストレアが侵入しているのはこちらも同じ事で。

 

「まあ、あっちがどうにかなってもこっちがな……。ガストレアなんだろ?」

「まあな……。さっきも言ったが、間違いなくガストレアがいる」

 

 マンションの階段を上り、現場の二○二号室に向かうとそこには警官隊がドアの前を固めていた。

 

「なにか変化は?」

 

 多田島の言葉に警官隊の一人が青い顔をして振り返る。

 

「す、すみません。たったいまポイントマンが二人、懸垂降下にて窓から突入。その後、連絡が途絶えました」

 

 現場の空気が凍る。

 

「馬鹿野郎! どうして民警の到着を待たなかった!」

「我が物顔で現場を荒らすあいつ等に手柄を横取りされたくなかったんですよ! 主任だって気持ち、わかるでしょう!」

 

 彼の言った通り、民警と警察の仲は悪い。敗戦後、ガストレア絡みの事件は民警の同伴無しに現場に入れないという内容の法律が制定されたからである。

 

 これは警察官の死亡率を少しでも下げる為の必要な措置とのことだが、所轄に土足で踏み込んでくる民警の社員を温かく受け入れてくれる警察官などどこにも存在しなかった。

 

「んなこたぁどうでもいい! それより───」

「分かってる。俺が突入する!」

 

 蓮太郎が言葉を発した時には既にXD拳銃を抜き、遊底(スライド)を引いて弾を発射出来るようにしていた。

 

 多田島はその行動を見て、警察官に顎をしゃくって命令。それを認識した警官隊二名がドアの前に配置さて、彼等の持っていた全長の短縮された扉破壊用散弾銃(ドアブリーチャー)蝶番(ヒンジ)に当てられる。

 

 そして蓮太郎が一呼吸、あらゆる状況に対応出来るように思考をクリアにする。

 

 そして一言。

 

「やってくれ」

 

 二挺のショットガンが火を噴き、それと同時に蓮太郎がドアを蹴り破る。

 

 夕暮れの日の光が六畳の小部屋に照らされており、そこに蓮太郎が突入した。

 

「……これは」

 

 突入した蓮太郎が見たものは血に染まった壁、そして一人の男。

 

 身長は一九○は超えているだろうか。細過ぎる手足に胴体、細い縦縞の入ったワインレッドの燕尾服にシルクハット、極め付きは舞踏会用の仮面という奇妙な出で立ち。

 

 そして蓮太郎は延珠の言っていた事を思い出す。

 

(燕尾服を着た仮面の男。なるほど、こいつが……)

 

 蓮太郎がそれに思い至ると、仮面男が首を巡らせてこちらを見て薄笑いを浮かべる。仮面の奥に潜んでいる鋭い視線が蓮太郎を刺した。

 

「やあ民警くん。随分遅かったじゃないか」

 

「アンタ、民警じゃないな。そっちに倒れている警官はアンタが殺したんだろ?」

 

「おや、正解だよ。確かに私も感染源ガストレアを追っていた。しかし同業者ではない。なぜならね───」

 

 男は芝居がかった調子で両手を広げる。

 

「───この警官隊を殺したのは私だ」

 

「そうかよ。それじゃ───」

 

 気配からして敵だという事は分かっていたが、仮面男が自ら敵だと宣言したのだ。

 

 

 

 

 

「───殺しても文句はない訳だ」

 

 ならば遠慮なく殺してやろうではないか。

 

 

 

 

 

 蓮太郎が居たのは仮面男の背後(・・)。左手に持つXD拳銃を彼の後頭部に当てていた。

 

「!」

 

 仮面男はそれにいち早く気付き、拳銃が発砲される前に首を傾けて回避。同時に拳銃を抜き撃ち(クイックドロウ)

 

 蓮太郎は身体を逸らしてそれを避け、逸らした勢いで一回転し左脚で回し蹴りを放つ。

 

「フッ!」

 

 隠禅・黒天風。

 

 一年間、延珠との戦闘訓練の際に指摘された事の一つ。

 

 

 

『技名を叫びながら技を放つと威力が下がるよ。それに技名を叫ぶという事は「今から技を放ちまーす」って宣言しているのと同じ』

 

 

 

 それ以降、最低限の呼吸と共に技を放つ事を覚えた。次の行動を読ませずいかに先手を取れるかが重要になって来る。

 

「オ、なかなかやるね」

 

 だが仮面男も然る者。反対側から迫る回し蹴りを目視する事なく左腕で難なく受け止め、右脚で裏回し蹴りを放つ。

 

 その攻撃を蓮太郎は右腕で受け止める。そして左手に持っていた拳銃で仮面男の背中に狙いを定めた。

 

「!」

 

 しかし直ぐさま照準を男の持つ拳銃の銃口に変え、引き金を引く。同時に男も拳銃の引き金を引いており、発射されたお互いの銃弾がぶつかり合って潰れる。

 

 最後はお互いに距離を取り、再び相対する形となった。

 

「ほう、想像以上だよ」

 

「アンタもな」

 

 コイツは強い。

 

 蓮太郎はそう認識した。あの男はこちらを見ずに照準を自分に定めていた。もしもそのまま背後を撃っていたらお互いに相討ちになっていただろう。

 

 その時、場違いな携帯の着信音が室内に鳴り響く。

 

 音源は二つ(・・)

 

「ん、なんだ延珠?」

 

「小比奈か……」

 

 同時に蓮太郎と仮面男が電話に出る。殺伐とした空気の中、平然と電話に出る二人は相当な実力を持つ者だと伺えた。

 

「そっか、依頼終わったんだな。え、手応えが無かった?」

 

「ああ、うん。そうか分かった」

 

 他愛ない会話が続く。それでも相手から意識を外していない。蓮太郎と仮面男はそれを難なくこなしていた。

 

「これからそちらに合流す───」

 

「しょうがないだろ? ま、俺もさっさと依頼終わらせるから───」

 

「───こっちを見ろ化け物め! 仲間の仇だッ!」

 

 ちらりとドアのあった方向を見てみれば警官隊数人がカービンライフルを構えていた。

 

 仮面男はそちらを見ずに早撃ち。ホルスターから抜いていた為に抜き撃ちは出来なかったが、最小限の動きだけで気配を悟らせずに撃つ。

 

「!」

 

 だが、その銃弾はありもしない方向へ着弾した。

 

 原因は相対している少年、里見蓮太郎。

 

銃弾撃ち(ビリヤード)

 

 銃弾を銃弾で撃つという荒唐無稽な技術である。音速以上の銃弾を音速以上の銃弾で弾く技術を持っている人間など世界中で一人いるかいないかである。

 

 しかし蓮太郎は難なくやってのけた。しかも『義眼』を使わずに。

 

 そして蓮太郎は警官隊数人に向けてギロリと睨みつけ、殺気を放つ。この男に立ち向かうのは自殺行為であると。何より邪魔で仕方ない。

 

 

 

 ───死ぬぞ、お前等。

 

 

 

「ッ!?───……」

 

 蓮太郎の凄まじい殺気に当てられた警官隊達はその場で気絶した。所謂『殺気で相手の意識を失わせる技術』である。

 

 仮面男は警官隊へ視線を向けている蓮太郎に数発発砲。だが仮面男に出来る技術が蓮太郎には出来ない道理など無い。

 

 視線を警官隊に向けたまま男の拳銃が発砲したと同時に発砲。『銃弾撃ち』で相手の銃弾を撃ち落とした。

 

「いや、なんでもない。ちょっと立て込んでてね。すぐそっちに行く」

 

「あぁ、なんでもないぜ。現場がゴタゴタしてるだけだ。すぐに終わらせて帰る」

 

 そして異常な攻防があったのにも関わらず、お互いに携帯電話を手放してはいなかった。

 

 同時に通話が終わり男は携帯電話のフリップを閉じ、蓮太郎はスマホをポケットへしまった。

 

 すると、男は心底楽しそうな調子で仮面を抑えながら、喉の奥でキキキという笑いを漏らした。

 

「いやはや、ここまでとは思いも寄らなかった。私と互角とはかなりの逸材だね君は」

 

「ありがたいお世辞をどーも。アンタがここまで強いとは俺も予想外だったよ」

 

 蓮太郎は軽薄そうな笑みで男を見る。それに対抗して仮面男もこちらを見る。仮面の奥の瞳がギロリと蓮太郎を捉えた。

 

「ところで君、名前は?」

 

「里見蓮太郎だ」

 

「サトミ、里見くんね……」

 

 男は口の中でそうブツブツと呟きながら割れた窓ガラスをくぐってベランダに出ると、手すりに足をかける。

 

「おい、アンタの名は知ってるぜ。蛭子影胤」

 

 蓮太郎が男の名を口にすると、影胤は驚く事もなくこちらを振り返った。

 

「おや、私の名を知っているとはね。ますます興味深いよ君は」

 

「アンタの目的は?」

 

「ふむ、目的かね? 強いて言うなら世界を滅ぼす事、かな?」

 

「世界を滅ぼすだと?」

 

「そう、私は世界を滅ぼす者。誰にも私を止める事は出来ない」

 

「そうかよ。なら俺が止めてやらぁ」

 

「ククク、やはり面白い。君とはまた何処かで会えそうだ。いや、私から会いに行くべきかな?」

 

「今日は見逃してやる。延珠が待っているからな。だが次は殺す、必ず殺す」

 

「おやおや、怖いねぇ。なら私も殺す気で君と会おう」

 

 そして影胤は一足飛びにベランダから飛び降りた。

 

 

 

「……さて、さっさと依頼を終わらせるか」

 

 蓮太郎は踵を返し、気絶させた警官隊数人を多田島に任せると、目を閉じ辺りの気配を探る。すると恐らく感染者であろう岡島純明の気配を察知。その方向へと向かって行くのであった。

 

 

 




最初の邂逅はあっさり(?)としたものである。
まあそういうラノベとかもあるし大丈夫だよね!



現在のENJUの持つ超絶チート。

・死神と虚と破面の力

・始解、卍解、帰刃

・カスール改造銃

・ジャッカル(手に入る予定)

・アーカード並みの不死性

・赤屍さん並みの不死性

・常時0時間行動(赤屍さんのやつ)

・覇道太極(永劫破壊)
太極は『修羅外道外法羅刹』
※因みにパラメータは全て98。天魔・夜刀に次ぐ強さを持つ覇道神。

・極限を超越した戦闘技術



こんなもんですかね。
なんたるチート(白目


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12.番外編その一

エイプリルフールネタとして書いていたらいつの間にか0時を超えていました。
最早エイプリルフールネタじゃねー!(白目


 高校の授業を終えた蓮太郎はいつものように帰路を自転車で漕いでいた。

 

「今日も平和だな……いや、平和じゃないんだけどな」

 

 蓮太郎と延珠がペアを組み始めて約十ヶ月。だがその間はガストレア討伐任務やそれに関する事件に全くと言って良いほど関わらなかった。

 

 とはいえこれは準備期間に過ぎない。延珠による戦闘技術の習得、それの向上。蓮太郎がこの残酷な世界すら容易く戦い抜く事が出来る力を得るという延珠の計画である。まあ覇道神である延珠にとってこの世界など歯牙にも掛けないのだろう。蓮太郎は知る由もないが。

 

 アパートに到着し自転車を駐輪場に置き、階段を上る。

 

 今日は延珠が食事を作る当番の日だ。彼女が振る舞う料理は蓮太郎すら絶賛してしまう程に美味い。思わず三つ星レストランで働いてたのかと聞いてしまったのはいい思い出だ。

 

(さて、今日の晩飯は何かな〜)

 

 そう軽い気分で住んでいる部屋のドアノブに手を掛け、それを回してドアを開ける。

 

「延珠ただいまー」

 

 アパートに自室に入り、学校鞄を置こうとした時───

 

 

 

 

 

「な、なんだよ……これ……!?」

 

 蓮太郎は驚愕した。

 

 

 

 

 

 そこにいたのは血みどろになって倒れている愛しき相棒の姿。彼女はピクリとも動かない。

 

「え、延珠っ!!」

 

 思わず駆け寄り、延珠を抱き上げる。だがそれでも起きなかった。

 

(一体、誰が……!?)

 

 蓮太郎は周りを見渡すが、凶器の類らしきものは落ちていない。窓は閉まっており、ガラスには何もされていない。暗殺された形跡や遠くから狙撃の後は無いという事だ。

 

 だがその前に延珠はIP序列三位の超高位序列者。そう易易(やすやす)と死ぬような存在ではない。それに彼女には不死性がある。万が一の事があっても直ぐに復活する筈。

 

 だが今の延珠はどうだ。再生しない上に動かない。

 

「延珠ッ延珠ッ!!」

 

 頭から血の気が失せる感覚を感じた蓮太郎は必死に延珠に呼び掛ける。

 

 誰に殺されたかなんて今はどうでもいい。蓮太郎は延珠に呼び掛けるだけしか出来なかった。

 

 だが幾ら蓮太郎が呼び掛けようとも、未だ彼女が起き上がる気配は無い。

 

「え、延珠……」

 

 蓮太郎は絶望する。こんな何気ない日常で彼女が死ぬとは思いも寄らなかったのだ。

 

 護れなかった。最愛の相棒を救えなかった。

 

「起きてくれ……起きてくれよ、延珠……」

 

 目尻からうっすらと一粒の涙が浮かび上がる。身体を震わせ、彼女の身体を抱き締めた。

 

「延珠、延珠……」

 

 お前のお陰で俺は変われたんだ。お前の存在が俺に光を照らしてくれだんだ。

 

 お前と折角ペアを組んだのに、死んでしまっては元も子もない。お前が死んだら俺は一体どうすれば良いんだ。木更さんと俺とお前で天童民間警備会社。木更さんが設立して俺が付いて行ってお前が変えてくれて、だから俺と木更さんは変われた。この三人で今の天童民間警備会社が成り立っている。

 

 何より、俺がお前を愛しているんだ。短い間でお前の事を知って、理解して。そしてお前も俺の事を知って、理解してくれて。笑顔でそれを受け容れてくれて。その時から俺はお前に惚れた。

 

 好きなんだ。恋い焦がれているんだ。屈託の無いその笑顔が眩しくて、その幸せをいつでも感じていたくて───

 

「延珠……」

 

 でも、彼女はこんなに冷たい。あんなに暖かった少女はその温もりを宿していない。

 

 突如として奪われた俺の光。今の俺の周りは日が暮れていないのに真っ暗になっていた。

 

「えん、じゅ……」

 

 嫌だ。

 

 嫌だ。

 

 嫌だ。

 

「………」

 

 後悔、後悔、後悔。ボロボロと涙を零しながら蓮太郎の心には後悔の二文字が占めていた。

 

 だがあまりにも突発過ぎた悲劇は、蓮太郎の心の正常性を失わせる。嫌だ、嫌だ、嫌だ、と───

 

 

 

 

 

 あぁ、嫌だ。認めない。

 

 このような終わりなど許せない。

 

 俺は。私は(・・)こんな結末など決して認めない。

 

 あぁそうだ。こんな結末など認めるものか。

 

 やり直したい。

 

 私が納得出来る結末をよこせ。

 

 

 

 

 

 渇望が、蓮太郎の心を支配する。『自分の望む結末以外は認めない』という渇望が総てを支配して行く。

 

 人の身であった蓮太郎の身体は最早別次元となった。

 

 途轍も無い神気が辺りを埋め尽くす。凄まじい渇望と神気によって空間が歪められる。

 

「───………」

 

 蓮太郎は抱き締めた彼女の顎に手を添え、自らの唇と彼女の唇を合わせた。恐らく、純粋に彼女を愛することが出来るのはこれが最後。この先は渇望によってその愛は歪められ、間違った愛になるという確信があったから。

 

 愛があろうと、歪んだ愛だろうと、それを向ける対象がいなければその愛は愛ではない。愛であって愛に非ず。

 

 冷たくなった彼女だったが、その唇の味は最初で最後に味わう至高の味であった。

 

 出来れば、この先もこの至高を味わいたい。だからやり直すのだ。

 

 愛を取り戻す為に。

 

 

 

 彼は謳う。

 

 

 

 

 

 武器も言葉も傷つける(Et arma et verba vulnerant Et arma )

 

 

 

 順境は友を与え、欠乏は友を試す(Fortuna amicos conciliat inopia amicos probat Exempla)

 

 

 

 運命は、軽薄である(Levis est fortuna) 運命は、与えたものをすぐに返すよう求める(id cito reposcit quod dedit )

 

 

 

 運命は、それ自身が盲目であるだけでなく、(Non solum fortuna ipsa est caeca sed etiam)常に助ける者たちを盲目にする(eos caecos facit quos semper adiuvat)

 

 

 

 僅かの愚かさを思慮に混ぜよ、(Misce stultitiam consiliis)時に理性を失うことも好ましい(brevem dulce est desipere in loc)

 

 

 

 食べろ、飲め、遊べ、死後に快楽はなし(Ede bibe lude post mortem nulla voluptas)

 

 

 

 

 

 ───流出(Atziluth)───

 

 

 

 

 

 『未知の結末を見る(Acta est fabula)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだこれは?」

 

 絶対無、ウルキオラ・シファーがノートを見て首を傾げた。

 

 すると凄まじい速度で階段を駆け上ってくる音が聞こえて来る。

 

「しっ、しししし師匠!!! それを見ちゃダメ〜〜〜っ!!!」

 

 そして現れるこの内容を書いた張本人、藍原延珠。その表情は真っ赤で息も絶え絶えだった。

 

 ウルキオラは顔だけを延珠の方に向け、一言。

 

「……里見蓮太郎を水銀にしてどうする。奴に水銀は似合わん。常識的に考えて奴に合うのは永遠の刹那だろう」

 

「」

 

 呆れた表情でバッサリと言われた。

 

「……まず、いきなり流出位階に至れる者など波旬か黄昏ぐらいしかいないだろうが」

 

「い、いやっ、そ、その、あの……」

 

「大方、お前の愛が迷走して生まれた産物という事は間違いないが……」

 

 ウルキオラは思い出す。

 

 確かに水銀の愛は本物であり、一途に愛する姿勢は良いだろう。だがその愛が天元突破してストーカーと化していたあの姿はもう、なんというか、何も言えなかった。

 

 永遠の刹那なら解る。だがコズミック変質者と里見蓮太郎を合わせてみろ。全然似合わないしシュール過ぎてカオスになる。見た目幼女の延珠をストーカーする蓮太郎とかそれはもう重度を超えたロリコンだ。多分、延珠は黄昏とは違い積極的にストーカーされに行くスタイルを取るだろう。

 

 つまり何が言いたいのかと言うと……

 

 

 

「変態、という訳だな。お前は」

 

「きゅう」

 

 

 

 己の黒歴史ノートを見られ、挙げ句の果てに師匠であるウルキオラから変態認定された延珠は羞恥の余り、気を失ってバタンキューしたのだった。

 

 

 

 終わり




ENJUちゃんは変態。
蓮太郎への愛があまりにも強すぎてこうなってしまったのである。
好感度メーターが振り切り過ぎてしまった故の帰結なのだ。

因みにこの後黒歴史ノートを滅尽滅相しました(笑

かなりテキトーに作ったので削除するかも知れません。
そこの所はご理解下さい。m(_ _)m


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