神様さえ、知らない場所へ『ダークソウル2』 (Artificial Line)
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旅の終わり、新たな始まり 

ロードランでの巡礼の後、ドラングレイグで王座に着いたはずだった。

だが、ここはどこだ?
見たこともない景色、亡者でも不死人でもない人間たち。

そして頭上では太陽が煌々と照っている。

私は、どこに来てしまったのだ?



目の前には、背丈の倍ほどもある光の壁がそびえ立っていた。

 

ふと足元に白い、何かが二つ浮かび上がる。

独特な、金属同士が擦れあうような音と共に浮かび上がったそれは、もう何度もこの地で目にしてきたものだった。

 

なんのためらいもなく、それに触れる。

そして語りかける。

 

手を貸してくれと。

 

それに呼応したかのように、変化が起きる。

 

白いサインを中心としてあたりに魔法陣が浮かび上がり、二つの人影がその中から召喚された。

 

一人は赤い衣が目を引く騎士甲冑に身を包んだ男。

一人は黒いドレスに身を包んだ、魔法使いのような女。

 

そして脳内に言葉が浮かび上がってくる。

 

『放浪騎士アルバを召喚しました』

 

『魔女ジャーリーを召喚しました』

 

放浪騎士アルバ、それに魔女ジャーリーといえば旅の巣柄、手に入れた防具の主だった人物だ。

珍しいこともあるのだな、と内心苦笑する。

 

彼らに一礼をする。

 

ゆっくりと、今までの道筋を振り返りながら。

 

それに応えるかのように、彼ら、彼女らもゆっくりと一礼を返した。

 

光の壁に指を指す。

それを見た二人は、ゆっくりと頷いた。

 

「これで、終わりだ」

 

小さく呟いた言葉。

自分に言い聞かせた言葉。

 

光の壁に手を触れる。

最初は普通の石壁のように抵抗があったが、直ぐにそれもなくなり光の中へ入っていく。

 

光を超えた先に見えたのは、ホールのような大きな空間。

そして、自分より大きな体躯をした騎士が2人。

 

次いで、2人も光を超えてやってきた。

 

数瞬、互いに睨みあう。

 

そして、黒い甲冑を身にまとった巨躯の者が剣を引き抜く。

 

それに応えるように、自らも背にあずけていたクレイモアを手に取る。

 

さあ、始めよう。

私の旅に、終わりを。

 

最初に動いたのは白い甲冑を纏った巨躯の者だった。

 

一瞬で背丈の何倍も跳躍し、手に構える直剣を私たち目掛けて振り下ろしてきた。

 

3人ともそれを横へローリングして回避する。

 

すかさず反撃に出る。

アルバは手にしていた直剣で白い巨躯の者の左足目掛けて一閃する。

 

だがみすみすカウンターを取られる巨躯のものではない。

バク転で直剣を避け、すぐさま距離を取る。

 

私はクレイモアを両手で握り、黒い巨躯のものへ走り出す。

このように体格差がある敵を相手取るときは、懐に潜り込むのが定石だ。

 

あちらの白い巨躯のものはあの二人に任せれば良いだろう。

自分が相手すべきはこの黒い騎士だ。

 

盾を構えていた黒い騎士だが、自らの間合いに私が入った瞬間、凄まじい勢いで剣を横薙ぎにしてきた。

それをギリギリのところで前へローリングし、回避する。

 

懐に潜れた。

ローリングの勢いをそのまま利用し、黒い騎士の右足の関節部分をクレイモアの切先で突く。

 

鎧と鎧の間に滑り込んだ剣先はそのまま黒い騎士の肉を貫いた。

 

多少のダメージは与えられたか。

そう思ったのも束の間、頭上が黒い影で遮られる。

 

危険を感じ、咄嗟に横へ跳んだものの、回避しきれずに剣先が私の脇腹を引き裂いた。

 

鋭い痛みが腹部に奔る。

一度距離を取り、態勢を立て直すべきか。

 

バックステップで黒い騎士から距離を取り、懐に下げてある瓶を仰ぐ。

 

エスト瓶、不死人の宝であり、不死人の傷を一瞬で癒す。

エストの熱さが喉を下ると同時に、腹部の傷が塞がっていった。

 

ふと視界の隅で戦闘を繰り広げている彼らが目に入った。

 

アルバが前衛で白い騎士の注意を引き、ジャーリーが確実にソウルの結晶槍を叩き込んでいる。

いい連携だ、そう内心で感嘆する。

 

あちらは心配なさそうだ。

私はこの黒い騎士に集中すれば良い。

 

クレイモアを握り直し、駆け出す。

左手に持つ龍の聖鈴を触媒にし、ソウルの大きな共鳴で牽制しつつ一気に間合いを詰める。

 

ソウルの大きな共鳴。

一定のソウルと引き換えに大きな闇を放つ。

 

闇術は生命の理を乱すとして多くの人々から蔑まれる術だ。

禁忌とさえしている国もいくつかある。

 

だがそんなことはどうでもいい。

勝つためにはなんでも使う。

それが私が今まで亡者化させずに旅を続けてこられた理由の一つだ。

 

共鳴で黒い騎士の視界を潰しつつ、一気にジャンプをしてやつの背後へ回り込む。

 

そしてすかさず神の怒りを発動させる。

神の怒り。

ダメージ有りの衝撃波を周囲に発生

見た目で分かりにくいが雷攻撃。

 

背後をとっていたことで上手く膝の関節部分へ命中させることができた。

 

後ろから予想以上の衝撃をモロに喰らったことにより、黒い騎士が膝末く。

 

「サヨウナラ」

 

身体を回転させ、その勢いに乗せてクレイモアを振りかぶる。

刃は兜と鎧の隙間に潜り込み、そのまま黒い騎士の首を跳ね飛ばした。

 

首を失った身体は、グダっとその場に倒れふせる。

 

それを見届け、そのまま

彼らの加勢に向かおうとしたとき。

白い騎士の断末魔が轟く。

 

彼らの方向へ視線を移すと、ジャーリーの結晶槍によって風穴を空けられた白い騎士が消滅している所だった。

 

あの2人の騎士のソウルが体に流れ込んでくる。

 

だが、決して気は抜かない。

これで終わりではないだろう。

 

『この先に進めば、デュナシャンドラがあなたを襲うでしょう』

 

この場に来る前に、緑衣の巡礼が言っていたことだ。

吸収したソウルの記憶から得た情報だが、

今打倒した騎士たちは王座の守護者、王座の監視者と呼ばれていたらしい。

 

となれば、デュナシャンドラ、この荒れ果てたドラングレイグの王妃ではない。

 

『不死よ』

 

突如としてホール内に声が響き渡る。

 

『試練を越えし不死よ』

 

声の方へと視線を向けると、形容し難い″何か″がそこにいた。

 

『今こそ、闇とひとつに…』

 

女性のような丸さを連想させるような形状。

だが、それ以上に醜い。

まるで人の憎悪や愚かさを投影したかのような。

 

アルバ達の方へ顔を向ける。

彼らも私を見据え、ゆっくりと頷いた。

 

どうやら準備は出来ているらしい。

 

ジャーリーが杖を振るう。

すると彼女の周囲に小さな結晶が5つ出現した。

 

追尾するソウルの結晶塊

結晶により更なる威力を得たソウルの塊

放たれた塊は敵を追尾する。

 

「悪いが、もう少し手伝ってくれ」

 

私の、その小さな呟きに二人は再び頷く。

 

龍の聖鈴を用いてとある奇跡を発動する。

 

太陽の光の剣

古い太陽の奇跡

武器を太陽の光の力で強化する

太陽の光の力とは、すなわち雷である。

 

奇跡によってエンチャントされたクレイモアは、眩く輝いていた。

 

アルバがデュナシャンドラへ向かい指を指す。

 

終わらせよう。

この長い旅路を。

 

終わらせることのできない呪われた放浪を。

 

クレイモアを両手でしっか握り直し、異形へと駆け出す。

真正面からの突撃。

それをみたデュナシャンドラはおもむろに片腕を上げた。

 

そしてその先から、心を蝕むような閃光が発せられる。

何か来る!そう思考した刹那。

閃光の中から淡い紫のレーザーが私に照射された。

 

間一髪のところで横へローリングして回避する。

だが、奴は私の回避方向へ合わせてレーザーを横薙ぎにしてきた。

 

「クッ!」

 

なんとかそれも前方へ転がることで避けれたが、このままではジリ貧か。

そう考えたのも束の間。

レーザーの照射が途切れた。

 

いや、実際は途切れさせられたと言ったほうが正しいだろう。

 

『アァァァ!!』

 

悲鳴と呼ぶのもおこがましい咆哮を、異形が上げる。

ジャーリーの結晶槍がデュナシャンドラの腕を、文字通り消し飛ばしたのだ。

 

すかさずアルバが追撃に出る。

直剣を両手持ちにし、異形の眼前で跳躍する。

 

そして落下の勢いと自らの自重を利用して、深々と剣をその醜い体に突き刺した。

 

これは好機だ。

再び私は異形へと駆け出す。

 

そして、その勢いのまま奴の手前で横回転する。

回転によって加速された大剣の刃が深々と異形の肉を引き裂いた。

 

『ウォォォォ!』

 

再び、およそ人のものではない咆哮を上げる異形。

それを聞いたジャーリーは、まるで黙れとでも言うかのように。

奴の顔とおぼしき部位へ結晶槍を叩き込む。

 

もはや虫の息の異形。

どうやら仮染めでも王妃であることには変わりはないらしい。

生命力も、戦闘力もそこまで高くないようだ。

 

クレイモアを異形に突き刺し、そのまま縦へ引き裂く。

そして追撃にソウルの大きな共鳴を傷口へ叩き込む。

 

アルバも直剣で奴の肉を、縦へ、横へ引き裂いていた。

 

だがそれでも、まだ異形はさぞ苦しそうに藻掻く。

 

早いところ終わらせよう。

 

クレイモアを奴へ深く突き刺し、それを足場として一気に駆け昇る。

そして異形の顔と自分の頭がほぼ同じ高さまできたところで、

奴と目があった。

 

腰に指していたダガーを引き抜くと思い切り異形の眉間目掛けて叩き込む。

 

『グォォォォォォォォォオオ!!!』

 

醜い異形、王妃デュナシャンドラは凄まじい悲鳴を上げる。

そしてそのまま奴の身体がソウル化していき、完全に消滅した。

 

地面に落ちたクレイモアを拾い上げる。

そしてアルバとジャーリーの方へ身体を向け一礼をする。

 

ジャーリーは丁寧に一礼を返しながら、アルバは手を振りながら元の世界へ帰還していった。

 

……これで終わったのか。

 

私はクレイモアを背に預けると、正面に見える巨大な石窯のようなモノへ歩みをすすめる。

石窯と私が今いるフロアは大きな亀裂で隔たれており、とても人の身で渡るのは無理そうだった。

 

さてどうしたものかと思考したとき、地面が少しだけ揺れた。

思わず背のクレイモアへ手をやる。

 

何が起こるのかと警戒していた時、亀裂に佇んでいた無数の″何か″が動き出した。

 

直感でそれが何かを理解する。

旅の道中、何度か対峙してきた者たち。

 

巨人だ。

 

だが同時にこうも直感した。

 

こいつらは敵ではないと。

 

なぜだかはわからない。

だが、そう直感したのだ。

 

巨人たちは私の前へ集まると互いに肩を組み、石窯への道となった。

 

私はなんのためらいもなく巨人たちの背に脚を乗せ石窯へと向かっていく。

 

石窯へと到達すると内部には石で出来た椅子がぽつんと一つだけ存在していた。

私はその椅子がなんなのか知っている。

 

王座。

そう呼ばれているそれは、世界にソウルを満たすためのもの。

 

ソウルが満ちる事によって世界から不死の呪いは薄れる。

だがそれも一時的なものだ。

 

いずれ火は消え、また同じことが繰り返される。

 

結局呪いを解く方法など、ありはしなかったのだ。

 

そういえば、初めてマデューラに訪れたとき、あの青の騎士がこう言っていたか。

 

『ここに来れば、呪いを解くことができる、 そう聞いてきたんでしょう?嘘っぱちなんです、全部』

 

ははは、その通りだったな。

ソウルの技によって呪いの進行は確かに止まった。

だが、不死の呪いが消えることはなかった。

 

とにかく、私は疲れたんだ。

 

少し休んでも構わないだろう。

 

ゆっくりと、王座ヘ腰を落とす。

同時にだんだんと意識が薄れてきた。

 

意識が完全に途切れる合間、ふと昔の記憶が蘇る。

 

大王を打倒し、その身を燃やして世界を火で照らす騎士。

 

その姿は、遠い遠い過去の自分。

 

ああ、懐かしい。

なんと懐かしい記憶だろう。

 

私は、まだ忘れずにいられたのだな。

 

私の意識は、微睡みに沈んでいった。

 




無駄に長かったですね。
次回から異世界に主人公をぶち込んでいきます。
ちなみに主人公の装備は
異国のフード+10
レディアの黒ローブ+5
竜血の手甲+10
アーロンの具足+5

右手1クレイモア+10
右手2ダガー+10
左手1龍の聖鈴+5
でふ


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異世界の姫

「ひ、ひと……?」

最初に聞こえたのは、その汚れのない絹のような声だった。

「なんだコイツ!?」

そして私の視界に入るのは、鎖帷子に身を包んだ兵士らしき男が5人。

「魔法陣の中から人が出て来た!?」

背後からの声に振り向くと、そこにいたのはドレスに身を包んだ白髪の美しい少女。
そして赤い衣が印象的な甲冑に身を包んだ赤髪の少女だった。



「いい天気ねぇ~」

 

「姫様、まだ国境を超えてないんですからリラックスしすぎないでください」

 

草原に設けられた街道を、私たちの一団は移動していた。

なぜかと問われれば。

 

戦争により備蓄の少なくなった食糧問題を解決するため隣国の王との交渉に行っていたからだ。

無事交渉も成立し、現在は帰路の真っ只中。

 

とはいっても、もちろん直接交渉したのは私ではない。

 

「そんな硬くならずにぃ。いくら職務中とは言ったって馬車の中には私たちしかいないんだから。いつもみたいにリリィってよんでよ~」

 

「はいはいリリィ、気を抜かないでくださいね」

 

「全く、アリョーナは真面目だなぁ~」

 

今回の私の任務は隣国へ向かう姫様の護衛。

そして何を隠そう、私の目の前に座ってるお方が今回の護衛対象。

ビカーナ王国第一王女、リリィ・ビカーナだ。

 

まあ姫様といっても、普段の彼女からお姫様という感じは微塵もしないのだが。

 

「あなたがフランク過ぎるだけです。全く」

 

「そんな事ないと思うけどなぁ~」

 

彼女との表面上の関係は、

王国の第一王女と近衛隊の一隊士の関係に過ぎないのだが。

 

「まあもう10年以上の付き合いですし、今更何も言いませんけどね」

 

「さっすがアリョーナちゃん!私の姉なことはあるねぇ」

 

「貴女の方が一つ年上ではないですか」

 

父親が王国の大臣だった私は、小さい頃から姫様の遊び相手としていつも一緒に遊んでいた。

周りからは姉妹のように育てられ、こうして私が近衛隊士となったあとでもいつも一緒にいる。

 

まあ私が近衛隊へ入隊したのは、幼い頃から共に居た彼女を守りたかったからなのだが。

 

辛く厳しい訓練に入隊テストを乗り越え、晴れて近衛隊士となったあとは、姫様の計らいでこうして専属の護衛として傍に置いてもらっている。

 

嬉しくもあり、また責任の重さも感じていた。

 

今回の任務は特に、だ。

極秘の訪問ということもあり、護衛の人数は必要最小限しかいない。

それに加えて、エリート集団である近衛隊は目立つためあまり動けず近衛隊士は私を含め3人しかいないのだ。

護衛のほとんどは、中央即応軍団から抜粋された兵士たちで構成されている。

とは言っても、彼らも近衛隊所属ではないにしろ各部隊のエリートであることには変わりない。

私が心配なのは、いつも共に剣を振っていた仲間ではないため連携が上手くとれるかとういことだ。

 

ふと窓の外へ視線をやる。

街道の左右は小高い丘になっており、私たちはその間を移動していた。

 

不意に視界に何かが入る。

目を凝らして見てみると、どうやら馬に乗った人のようだった。

 

「アレは……」

 

「ん?どったの?」

 

望遠鏡を取り出し、よく見てみる。

 

そして気がついた。

 

 

 

騎兵だ。

 

 

 

身体中に鋭い何かが走る。

 

「敵襲ー!!!!」

 

私がそう叫んだ時にはもう遅かった。

 

キィーンという風切り音の後、悲鳴が上がる。

敵弓兵の放った矢が先頭を走っていた騎士の頭を貫いていた。

 

先導を失い一気に隊列が乱れる。

だがここで止まってしまえば敵の思う壺だ。

 

精一杯の声量で馬車の騎手に指示を飛ばす。

 

「騎手!!何があっても止まるな!!走り続けるんだ!」

 

「りょ、りょうか…」

 

だが彼が返事を返しきる前に矢が彼の胸を貫く。

 

騎手を失った馬たちは、困惑しそのまま馬車は停車してしまった。

 

「ちくしょう!姫様!頭を低くしていてください!」

 

「わ、わかったわ」

 

彼女の身体は小刻みに震えていた。

何とかして私が彼女を守らなくては。

ドアを蹴り開け、勢いよく外へ飛び出す。

 

馬車の馬は矢に射抜かれ既に絶命していた。

 

「アリョーナ!!!」

 

馬車から飛び出ると近衛隊の甲冑に身を包んだ男性が私の名前を叫んだ。

矢の死角に潜り込みながら、できる限りの声量で返事をする。

 

「ユージ先輩!」

 

「アリョーナ!!いいかよく聞け!お前とレイドは姫様を連れてこの場から逃げろ!まだ無事な馬を使うんだ!ここは俺と即応軍の兵士たちで食い止める!国境まで逃げろ!」

 

「何言ってるんですか!先輩たちを置いて行くなんてできません!」

 

「お前の任務を思い出せ!これは敵前逃亡ではなく姫様の安全を確保するためだ!なんとしても姫様を国へお返ししろ!!!」

 

ユージ先輩の剣幕に押され、頷く。

彼の言っていることは正しい。

 

悔しいが指示に従うのが最良の選択だろう。

 

「了解しました……」

 

「よし!わかったらいけ!すぐにでも騎兵が突撃してくるぞ!!」

 

先輩の言葉を聞いてから駆け出す。

手近で乗り手を失って困惑している馬の手綱を引いてなだめる。

そして馬車の影で矢をやり過ごしているレイドへ向かい、大声で叫んだ。

 

「レイド!!馬車から姫様を連れてこい!!馬にのってこの場から離脱するぞ!」

 

「え?りょ、了解!!」

 

馬に跨り、落ち着かせたところでレイドが姫様を連れてやって来る。

 

「姫様!乗ってください!レイド!お前も馬に乗れ!この場から離脱するぞ!」

 

姫の手を掴み引き上げる。

彼女を後ろへ跨らせたとき、レイドが訊いてきた。

 

「ユージ先輩や即応軍の人らはどうするんですか!?」

 

「彼らは殿だ!行くぞ!急げ!!」

 

「アリョーナ……」

 

「大丈夫です、貴女は私がお守りします!」

 

彼女の方を向き、そう一言返す。

 

こんなところで彼女を死なすわけにはいかない。

 

レイドが馬に乗ったことを確認してから、私は馬を駆け出させた。

 

 

 

 

 

「急げ!国境はすぐそこだぞ!!」

 

風を切りながら、後方を走るレイドへ叫ぶ。

 

自国の国境へと残り2キロ程だろうか。

これなら逃げきれるか。

 

そう思ったのも束の間、私は自分の考えが甘かったことを思い知らされる。

 

「キャアァ!!」

 

「うわッ!」

 

突然視界が揺らぎ、そしてそのまま地面へ投げ出される。

咄嗟に姫様を庇い彼女を受け止めた。

 

地面に打ち付けて痛む頭を無理やり動かし何が起きたか理解しようとする。

 

呆けた視界に映るのは、地面に広がった紅。

そしてその主は――

 

「先輩!!大丈夫っすか!?」

 

どうやら私たちが騎乗していた馬に矢が命中したようだ。

それで馬がバランスを崩し、私たちは落馬してしまったらしい。

 

レイドが馬から飛び降り駆け寄ってくる。

 

「ああ……私は大丈夫だ。姫様、お怪我は?」

 

「え、ええ。私は大丈夫よ……」

 

姫様が無事なことに安堵したのも束の間、ドッドッドッという地響きのような音が多数聞こえてきた。

直感でそれが何の音なのか理解する。

 

これは――騎馬の駆ける音だ。

 

先ほどの矢の事を合せると、私たちを襲撃した部隊のもので間違いないだろう。

 

そして今から騎乗して逃げても、あっという間に追いつかれる。

 

ならば……

 

「レイド!そこの廃屋へ姫様を避難させる!その後、私たち二人で奴らを迎え撃つぞ!」

 

「はぁ!?先輩正気ですか!?こっちは二人だけなんですよ!」

 

「今から騎乗したところでどのみち追いつかれる……広域魔法の使用を許可する!準備しろ!」

 

今にも泣き出しそうな姫様の手を引き、廃屋の中へ連れて行く。

こんなところで彼女は死なせない。

なんとしてでも奴らを討ち、彼女を本国へ帰還させる。

 

「姫様、安心してください。我々が必ず、貴女をお守りします」

 

「そーっすよ姫様。安心してください!刺し違えてでも姫様を守り抜きます」

 

「アリョーナ、レイド……私は……」

 

彼女の言葉に微笑みを返し、私とレイドは廃屋の外へ出た。

この街道は、辺りを草原に囲まれておりどうあがいても隠れられそうにはない。

 

既に廃屋の前には敵部隊が集結していた。

 

「レイド……」

 

「先輩、今までありがとうございました!さあ、行きましょう!」

 

「ああ……そうだな」

 

腰に挿してある刺剣を引き抜き、詠唱を開始する。

 

「姫を手に入れろ」

 

敵の隊長らしい男がそう呟く。

次の瞬間、8人ほどの騎士が

盾を構えながら突撃してきた!

 

「来ますよ先輩!!」

 

 

 

彼女らは、勝てるだろうか。

否――この状況だ。

 

戦闘に関してはド素人の私でもよくわかっている。

 

――この戦いは勝てない。

私は、捕縛されるか、或いはここで死ぬのだろう。

 

私には……何もできない。

その現実が、無力な自分がどうしようもなく憎い。

 

開け放たれた、いやそもそも元より扉のない玄関から彼女らの後ろ姿が見える。

 

それは死の覚悟を決めた、兵士の後ろ姿だった。

 

『姫を手に入れろ』

 

8人の敵が同時に彼女らへ突撃していく。

詠唱中のアリョーナを守る為、レイドは盾を構え前に出た。

 

敵の直剣がレイドの盾とぶつかり火花が上がった。

 

負けじと敵の剣を弾き返し、右手に持った得物を振るう。

 

アリョーナの剣先が赤く輝き、切先から火線が放たれた。

レイドの左側から切りかかろうとしていた騎士に火線が命中し、彼の身体は炎に包まれる。

 

レイドは二人からの攻撃を防ぎつつ、隙あらば攻勢に転じている。

アリョーナは魔法を織り交ぜながら、5人を相手取っていた。

 

「はぁぁぁ!!!」

 

彼女の火炎が、また一人を焼く。

言葉にもならない絶叫を上げながら焼かれた騎士は絶命していった。

 

「…!アリョーナ!!!」

 

だがその直後、敵の騎士が彼女の右腕を刃で切りつける。

鮮血が上がり、彼女の顔が大きく歪む。

 

後ろへ飛び退き追撃を躱したものの、利き手の自由を失ってしまった。

 

体勢を立て直していない彼女へ、更に追撃が来る。

敵の騎士が大きく踏み込みながら、彼女の胸を目掛けて突きを繰り出す。

――避けられない。

体勢を大きく崩していた彼女がそれを避けるのは不可能だった。

 

思わず身体が動き、私は廃屋の外へ彼女目掛けて駆け出していた。

 

……だが彼女が剣先に貫かれることはなかった。

 

「うッ……カハッ!」

 

レイドが彼女と敵騎士の間に割り込み、彼女の事を庇っていた。

彼の口から、彼の胸から鮮血が漏れ出す。

 

「レイド!!!!」

 

彼の名を叫びながら、アリョーナは彼に剣を立てている騎士の頭蓋を刺剣で砕く。

 

敵の騎士が後ろへ倒れるのと同時に、レイドの身体もまた後ろへ崩れ落ちた。

 

「レイドッ!?」

 

私が彼女らの元へと駆け寄った時、既にレイドは息をしていなかった。

深々と彼の左胸ヘ突き刺さっているのは、頭蓋を砕かれた騎士の直剣。

 

どうやら即死だったようだ。

 

どうしようもないやるせなさと、悲しみが一気に込み上げてきて涙腺を崩壊させる。

 

レイドは目を大きく見開いたまま、驚愕したような表情のまま、息を引き取っていた。

 

「許さない……」

 

アリョーナがそう呟くと、右手を抑えながら立ち上がる。

得物である刺剣は地面に突き刺し、ただ怒りを灯した瞳で敵を睨みつけていた。

 

「おいおい、まだ殺り合う気なのか。既に勝負はついただろう。この人数差で何ができるのだ」

 

敵の騎士の一人が、そう声をあげた。

 

「まだ……終わっていない。私は貴様らを殺し、姫様を国へお返しする……!!」

 

だが、それを嘲笑うかのように、彼らは切先を此方へ向けた。

 

「ならば騎士らしく、戦場で散らせてやろう。安心しろ、姫様を殺したりなどせん」

 

このままでは、間違いなくアリョーナは死に。

私は捕縛されるだろう。

 

首に下げてある王家のお守りをキツく握り締め、心の中で叫ぶ。

 

『お願い!!アリョーナだけでも救って!!』

 

その瞬間だった。

 

首に下げてあるお守りが眩い光に包まれ、一瞬視界が奪われる。

 

「うわっ!」

 

「なんだ!?」

 

視界が戻ると、私の手の中からお守りは消えていた。

 

「魔方陣……!?」

 

そして、その代わりのように、私たちと騎士たちの間に白い魔法陣が浮かび上がっていた。

 

魔方陣の中心に、魔力が集中していくのを感じる。

 

独特な、何とも言えない音が魔法陣から奏でられていた。

 

次に、私が見たものは、どこか現実離れしていて、それでも私に勇気や希望を与えてくれるような、そんなものだった。

 

「な、人だとッ!?」

 

敵の騎士の一人が絶叫にも似た声を上げる。

 

漆黒のローブに身を包み、フードで顔は見えない。

右手には大剣を、左手には黒く、無骨ながらもどこか神々しさを感じさせる盾を持った人影が、魔法陣の中心から浮かび上がってきていた。

 

 

 

 

 

「ひ、ひと……?」

 

最初に聞こえたのは、その汚れのない絹のような声だった。

 

「なんだコイツ!?」

 

そして私の視界に入るのは、鎖帷子に身を包んだ兵士らしき男が5人。

 

「魔法陣の中から人が出て来た!?」

 

背後からの声に振り向くと、そこにいたのはドレスに身を包んだ白髪の美しい少女。

そして赤い衣が印象的な甲冑に身を包んだ赤髪の少女が驚愕を孕んだ表情でこちらを見ていた。

 

私は混乱していた。

 

ロードランでの巡礼の後、ドラングレイグで王座に着いたはずだった。

 

だが、ここはどこだ?

見たこともない景色、亡者でも不死人でもない人間たち。

 

そして頭上では太陽が煌々と照っている。

 

私は、どこに来てしまったのだ?

 

ふと、頭の中にひとつの文章がが浮かび上がってくる。

 

『世界の主、リリィ・ビカーナに召喚されました』

 

未だに整理がつかない頭を無理やり働かせ、現状を把握する。

 

どうやら私は、何処かの世界に召喚されたようだ。

それも、驚くことに霊体ではなく、生身で。

 

私の背後で座り込んでいる二人組の片割れ。

白髪の美少女がこの世界の主ということはなんとなく理解できた。

 

それに明確な理由はなく、敢えて言うのならば、白霊としての経験からか。

 

現状が確実に異常事態なことに変わりはないが。

それでも私は、然程焦ってはいなかった。

 

だって――ロードランを巡っていた時はマヌスに引き込まれ、生身で過去のウーラシールヘ飛んだではないか。

だって――ドラングレイグを巡っていた時は灰の霧の核を使い、滅びたもの達の記憶を覗いたではないか。

 

長い――いや永い永い流浪の中で麻痺した感覚が、今は自らを落ち着かせていた。

 

兎に角、世界の主である白髪の少女等とこの目の前の騎士たちは敵対関係にあるらしい。

ならば召喚された身として、やることは一つ。

 

 

 

――目の前のこいつらをぶち殺し、彼女らの安全を確保する。

 

 

 

そう結論付けると、獲物を構える。

王の盾を地面に放り投げ、クレイモアを両手でしっかりと握った。

 

その構えは、大剣のそれではなく、どちらかと言えば刀や直剣の構えに近い。

右下へ刀身を流し、左肩を敵へ突き出すように構える。

 

「……イレギュラーが入ったが、作戦に変更はない。姫を手に入れろ」

 

敵の一人がそう呟いた瞬間――目の前の騎士たちが一斉に斬りかかってきた。

一人目の初撃をバックステップで回避し、次いで二人目の斬撃を横へローリングしてやり過ごす。

三人目の斬撃が来る――その前に攻勢へ転じる。

 

ローリングで得た加速を殺さぬまま大剣を振るい、今まさに切りかからんとしていた騎士を両断する。

まるで豆腐でも切るように。

鎖帷子ごと切り裂かれた胴体は、二つに分かたれた。

 

断末魔を上げることすら叶わずに、絶命させられた騎士の顔に浮かぶのは――驚愕。

 

裂かれた上半身が地面に落下する前に、次の攻撃へ移る。

刀身にかかる遠心力に身を任せ、そのまま身体を止めずに横へ回転させる。

 

私の二撃目と、騎士の上半身が地面に落下するのはほぼ同時だった。

 

遠心力と私の筋力によって加速された刀身が、騎士たちの上半身を引き裂く。

鎖帷子など、まるで意味をなさないように。

その人数差など、まるで問題のないように。

 

2人の騎士が同時に切り裂かれ、無様にもその半身は決別しあった。

 

元より、クレイモア等にあげられる大剣は、対複数戦を想定して作られているものが多く、1対5のこの状況では相性がいい。

まあ、とはいうものの多勢に無勢な時点で不利なのは周知の事実なのだが。

 

不死の英雄と、通常の人間ではそれすらも問題にならない。

 

そもそも土俵が違いすぎるのだ。

いうなれば、5歳ほどの女児と空を舞う飛龍を比べるようなものなのだから。

 

残るは2人。

味方の騎士がこうもあっさり。

凄惨に殺害されるのを目の当たりにしながら、未だに剣を構えてこちらを見据えるとは。

内心感嘆しつつ、腰に下げてある龍の聖鈴を左手に取る。

 

最大限の敬意を払い、痛みを感じぬように逝かせてやろう。

 

龍の聖鈴がドス黒い、それでいてどこか暖かい闇を纏う。

 

ソウルの大きな共鳴。

 

私から見て左側で盾を構えていた騎士に向かい、それを放つ。

放たれた共鳴が盾に着弾した瞬間。

 

――文字通り騎士は消し炭になっていた。

 

その光景に、術を放った本人である私が一番驚く。

確かにソウルの大きな共鳴は強力な業ではあるが、まさか跡形もなく消失してしまうとは。

 

闇に対する防御力が、盾にも鎖帷子にもなかったのだろうか?

いや、それにしてにもおかしい。

 

違和感を抱きつつ、クレイモアを構えなおす。

最後に残った騎士へ目を向けると、彼は驚愕と恐怖と怒りを孕んだような表情を此方へ向けていた。

 

「こ、この……!化物がぁぁ!!!」

 

騎士が絶叫しながら突撃してくる。

突撃の勢いのまま振り下ろされた剣を、私は避けることなく――

 

「あ、危ないッ!!!」

 

――大剣で弾き飛ばした。

俗にいうパリイという技だ。

 

騎士の身体は得物を弾かれた事によって、大きく仰け反る。

隙だらけの身体を掴み、クレイモアが勢いよく突き刺された。

 

「カッ…カハッ!」

 

小さな断末魔と共に口から鮮血が吐き出され、彼の生命は終止した。

 

――何とも歯ごたえのない敵だったな。ソウルの業で身体を強化していない、いうなれば一般人のようだ。

 

その事に激しい違和感を感じつつも、背後で座り込んでいる二人へ声をかける。

 

「大丈夫か?怪我は?」

 

「わ、私はだ、大丈夫……です。ただアリョーナが右腕を……」

 

――心底怯えたような声が返ってきた。

この少女が、世界の主で違いないはずだ。

なのに、まるで。

この状況を理解しきれていないような。

そんな、弱々しい声色だった。

 

まあ考えるのはあとだ。

白髪の少女がいうアリョーナと言う子は、きっとこの赤毛の娘だろう。

 

見れば右腕から血が滴っている。

現状を閑馬見るに、恐くは先ほどの騎士たちとの戦闘で負ったものだろう。

 

かなり傷が深いのか、ドクドクと鮮血が溢れ続けていた。

 

「君が、アリョーナか?」

 

「あ、ああ……そうだが貴公は…」

 

「少し動かないでくれよ?」

 

そう言うと龍の聖鈴を左手に構える。

聖鈴を取り出した瞬間、2人が一瞬怯えたような気がした。

 

まあ――恐くは先程の共鳴のせいだろう。

闇術を畏れるものは少なくない。

 

一つの奇跡を詠唱する。

 

大回復。

ごく一部の聖職者が使う偉大な奇跡

傷を大きく回復する。

 

なぜこの様な偉大な奇跡が扱えるのかといえば。

果てしない時を流浪し、幾度もソウルの業で肉体を強化したからにほかならない。

 

「か、回復魔法!?」

 

「それも最上位のモノかそれ以上……」

 

発動した瞬間に、彼女らが何か言ったきがするが、よく聞き取れなかった。

 

私の周囲が暖かい光に包まれ、彼女の傷が見る見るうちにふさがっていく。

光が完全に消えた時には、傷の痕すらも完全になくなっていた。

 

「き、傷が……!」

 

「よし、それで大丈夫だろう」

 

驚愕した表情で傷のあった部分を見ている少女二人。

大回復は通常、ほんのひと握りの聖職者が扱える奇跡だ。

きっと初めて、その効果を目の当たりにしたのだろう。

 

……まあ旅の道中共闘した白霊や世界の主たちは、その殆どが扱えていたわけなのだが。

 

「助けて頂いた事、感謝する。えっと、それで……少々聞きにくいことなのだが……」

 

「なんだ?」

 

「……貴公は何者なのだ?」

 

「え?」

 

「「え?」」

 

 

 

 

「……一度状況を整理しようか」

 

私と姫様は、突然現れたこの男に、今までの経緯を説明していた。

場所は先程の廃屋。

 

レイドの亡骸は祈りを捧げた後、廃屋の中へ運んできた。

彼の冷たくなった顔を見ると、どうしようもなく憤りと後悔の念がこみ上げてくる。

 

私が不甲斐ないばかりに、彼は私を庇って死んだ。

彼の遺族にどう顔向けすればいいのだろうか。

 

――考えていても現実は変わらない。

無理やり思考を断ち切り、私たちを救った男の話に耳を傾ける。

 

突如、魔法陣の中から現れたこの男。

漆黒のローブに身を包み、振るう得物はおお振りな大剣。

フードをかぶっているため顔は確認できないが、声からして男性で間違いないだろう。

 

見たことのない触媒を用い、最上級の回復魔法を扱いおまけに強力な攻撃魔法までも扱える。

そして、何よりも驚くべきは。

何の苦戦もなく歴戦の騎士5人を一瞬で切り伏せるその戦闘力だ。

 

一時も気を許さず、いつでも剣が抜けるようにしておく。

助けてもらった相手に対して、幾分無礼だとは重々承知しているが、姫様の安全の為には背に腹を変えられない。

まあ、そもそも戦ったところで、私は相手にすらならず殺されるのだろうが。

 

そんな私に対して、彼はと言えば。

 

どこか困惑した様子だった。

 

「まず、貴女方は隣国からの帰還中に、先程の騎士たちから襲撃を受けた。間違ってないな?」

 

「ええ、その通りよ」

 

「そして文字通り、絶体絶命に陥った時。リリィ嬢が持っていた王家のお守りが魔法陣を形成し、その中から私が現れたと」

 

「ああ、そういうことだ」

 

「……」

 

しばし彼は考え込む。

 

私はといえば、次のようなことを考えていた。

一体この男は何者なのか。

 

何故魔方陣の中から表れたのか。

何故我々を助けたのか。

果たしてそもそも味方なのか。

 

理解はしたものの、どこか腑に落ちない様子の男に姫様が声をかける。

 

「今度はこちらから質問いいかしら?」

 

「……ああ。構わない」

 

「と、その前にお顔を拝見させてもらえるかしら?助けてもらっておいて図々しいお願いだとは思うのですけれど」

 

姫様の言葉に、男は数瞬、戸惑ったような様相を見せたものの、直ぐにフードを取り払った。

 

「気が回らずに済まない。これでいいか?」

 

違和感。

最初に感じたのはそれだった。

 

「え?ええッ!?」

 

次いで姫様が酔狂な声を上げる。

 

美形。

一言で表すならこれに尽きるだろう。

灰色をした髪は、乱雑に伸びてはいるが、逆にそれも顔の雰囲気に合っていた。

 

年齢は19~25あたりだろうか?

 

スカイブルーの瞳には、瞳孔に合わせて赤黒いリングのようなものが浮かんでいる。

 

何処かの俳優を連想させる、そんな美形だった。

 

別に美形の戦士は珍しいことではない。

騎士階級や衛兵は軍や国の顔と言ってもいい存在だ。

 

当然のように、美形とはいかなくてもそれ相応の容姿をした者が殆どだ。

 

ならばこの違和感はなんなのか?

思考するまでもなく直ぐにその正体に気がついた。

 

――彼の纏っている雰囲気と容姿が余りにも一致していないのだ。

 

数多の戦場を渡り歩いてきたベテランの戦士。

または永い時を生き、多くのものを見た大賢者。

 

もしくは、その両方を掛け合わせたような重圧な風格を彼は醸し出している。

 

だがその実。

彼の容姿はどこからどう見ても20代前半程の青年にしか見えない。

 

「若い……」

 

「え?」

 

「いや、失礼した。貴公の纏っている雰囲気と容姿が余りにも一致しなかったものでな」

 

「それ私も思ったわ。その若さでそれほどまでの風格を纏っているなんて」

 

「……まあ、その辺は追々。それで?質問とは?」

 

「そうだったわね。じゃあ、最初に、貴方の名前を教えてもらってもよろしいかしら?」

 

「名前……」

 

彼は顎に手を当て、考え込む仕草をする。

何か名乗れない理由でもあるのだろうか?

 

だとしたら一層彼を信用することが難しくなる。

 

「名前は……ストレイド(迷い人)だ」

 

「ストレイド?」

 

ストレイド、そう名乗った彼の顔には、僅かに憂いが浮かんでいるような、そんな気がした。

恐くは偽名だろう。

先程の仕草と直感からそう判断する。

 

「分かりました、ストレイド。まずは助けて頂きありがとうございます」

 

言葉とともに、姫様は彼へ丁寧に一礼する。

仮にも一国の王女が。

素性も知れぬ男に向かって。

通常ならあってはならないことだ。

 

だが、幼少期から姫様を知ってる私としては、何の違和感もない。

 

彼女は元来こういう性格なのだ。

階級に関係なく、分け隔てなく誰にでも接する。

それは王家の人間としては致命的なのだろうが、人間としては立派な事だ、と私は思う。

 

私もそれに習って深々と頭を下げた。

 

「あ、ああ……」

 

「助けて頂いて、こんなこと聞くのも何なのですが、貴方は何者なのですか?」

 

「何者……なんと答えればいいものか。貴女方は白霊というものをご存知か?」

 

「いいえ、知りませんわ」

 

「姫様に同じく」

 

「ドラングレイグ……もしくはロードランという名は?」

 

「いえ……知りませんわね……アリョーナ?」

 

「私も存じ上げません」

 

「……」

 

私たちの返答を聞いた彼は、考え込むような仕草を取る。

しばらくそうした後。

 

不意に顔を上げると、姫様と私を交互に見ながら言葉を綴った。

 

「――恐くだが、ここは私が元いた世界とは異なる世界のようだ。私の立場を解りやすく言い表すとするならば、『守護霊』とでもいったところだろうか?」

 

「守護霊?それに異なる世界とは?」

 

「そのままの意味だ。この世界での私の主はリリィ嬢、貴女だ。有り体に言えば、貴女を死の危険から守るのが私の使命となる」

 

「つまり貴公は、姫様の使い魔とでもいうのか?」

 

「その表現にはいささか語弊があるが、まあ大体そのようなものだ。とはいうものの私も状況を掴みきれていないからどこまでが真実なのかはわからない」

 

突拍子もない話だった。

魔法陣から現れた男は、自らを姫様の守護霊だという。

 

少なからず今は、信じろと言われても無理があるが、彼自身も状況を理解しきれてない以上。

これ以上の追求は無意味だろうと思い、私は何も言わなかった。

 

「御伽噺のような話ね。まあ、それは置いておくとして。貴方はこれからどうするのですか?」

 

「さあ……決めてないな」

 

――嫌な予感がした。

 

「なら……私の護衛として一緒に王都まで来てくれないかしら?」

 

「姫様ッ!?」

 

ある程度予想していたセリフだが、それでも思わず間の抜けた声を上げてしまった。

話を振られた彼自身も、目を丸くしている。

 

「……今なんと?」

 

「だから私の護衛として、王都まで来てくれないかしら?」

 

「自分でいうのも変だが、貴女は少しは警戒しないのか?」

 

「そうですよ姫様!!」

 

全くもって彼に同意見である。

 

「警戒はしてるわよ。でも貴方の目的が私の殺害ならこんな悠長におしゃべりしないでしょ?誘拐が目的だとしても、貴方ほどの腕ならアリョーナを殺害してさっさと逃げられ

 

るはずだしね」

 

「そ、それはそうですが……」

 

「それに、王家に伝わるお守りから貴方が召喚されたのよ?お母様かお父様に聞けば何かわかるかもしれないわ」

 

「まあ、そうだが……どのみち世界の主についていく他ないか。解った、貴女の護衛につこう」

 

そのやりとりを目の当たりにし、思わずあんぐりと口を開けている私がいた。

 

いや、彼女のこの性格は今に始まったことではない。

『姫様だし、しょうがない』

と諦めを付け、私はそれ以上何も言わなかった。

 

それに、私の主が言った事だ。

私が口出ししていいことではない。

 

「えっと、アリョーナといったよな」

 

「あ、ああ。そうだ」

 

「兎に角、宜しくな。苦労は察するよ」

 

「こちらこそ。察してくれるかそうか……」

 

「何を言ってるの……?それよりもアリョーナ」

 

突然、姫様の声色が凛としたものに変わる。

それに少し驚き、思わず上擦った返事をしてしまった。

 

「は、はい!」

 

「散っていった英霊達に――」

 

目を瞑り、祈りを捧げる彼女からは先程の破天荒っぷりは一切感じない。

ただ、自らのために散った死者を労わう聖女の様であった。

 

私も目を瞑り、祈りを捧げる。

 

「さぁ……行きましょう。もうじき日が落ちるわ。急ぎましょう」

 

ストレイドは、感心したような、懐かしいような目で此方を見ていた。

 

 

 

 

「レイド。必ず姫様はお守りする。安らかに眠ってくれ」

 

最後にレイドの遺体へ声をかけてから、私は廃屋を出た。




少し改変して何話分かを統合させます。


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興味――好奇心

正直な話。

ただこの世界を見たい。

ただまだ見ぬ敵と合間見えたい。

ただ召喚者に死なれるのは気分が悪い。

それだけの話なのだ。


「日が大分傾いてきたな」

 

私たちは国境へと続く街道を歩いていた。

馬を使えれば良かったのだが。

廃屋から出たときには既に、無事な馬は一頭も残っていなかった。

 

「そうだな。本来ならこの時間には王都へ到着しているはずだ」

 

「きっと、今頃王都では大騒ぎになってるでしょうね」

 

先程まで頭上にあった太陽が、今は丘の影に没しようとしている。

 

現在は、先刻助けた二人と共に″王都″へ向かっている最中だ。

赤髪の、アリョーナという少女が先導し

次いでこの世界の主であるらしい白髪のリリィという少女。

そして殿として私が最後尾についている。

 

正直なことを謂うならば、三人でこの陣形をとっても余り意味はないのだが。

まあ何もしないよりはましなのだろうか。

 

最初は、王都などという目立つ場所に行くことには抵抗があった。

 

何故かと問われれば。

不死人である私は、永らく人目を避けて生活してきたからだ。

余りにも長い時間。

そうして生活してきたせいで人目のある場所に行くのには抵抗があった。

 

まあ、とは言っても。

そもそも人目と言える人目と最後に遭遇したのは、何百年も前のことなのだが。

 

では何故。

彼女達と共に王都へ向かうことにしたのか。

 

それは単純にこの世界についての情報が欲しかったからだ。

たとえ敵意を向けられたとしても、障害を駆逐し逃げ出せる自信があるというのも大きい。

 

この世界が、元いた世界と違う世界なのか。

或いは元いた世界の未来、もしくは過去の世界なのか。

 

まあそのどちらにせよ、正直の所どうでもいいのだが。

 

もうひとつの理由として。

――いやどちらかと言えばこちらが本心だろう。

 

ただ、純粋に、興味があるのだ。

 

不死人でも亡者でもない人間たち。

見たことも無い景色に頭上で輝く太陽。

聞いたことも無い土地に国。

 

それら全てに。

私は惹かれていた。

 

確かに、リスクはあるが。

今まで何度も死地を経験してきた私にとっては天秤を傾ける重りにはならなかった。

 

道すがら、彼女達がこの世界について色々と話してくれた。

 

最初に話してくれたのは、この世界にも魔法が存在し、幾つかの属性に分かれているということ。

 

魔法といっても、私が扱うソウルの魔術や呪術などとは大分異なるようで。

 

基本は火、水、風、土という四大属性と呼ばれるものらしいのだが。

その他にも、極少数だけが扱える光、闇、雷などの属性が存在しているそうだ。

特に雷属性は一時代に一人の人間しか扱えず、その魔法を扱える者は勇者と呼ばれるらしい。

 

……私の扱う攻撃奇跡の殆どは雷なのだが、大丈夫なのだろうか。

 

さらに彼女らが言うには、魔法には先天的に得意不得意とする属性があるらしく。

基本的には一人2種程しか扱えないそうだ。

稀に2種以上の魔法を行使する者もいるそうなのだが。

それは先天的な天才か。

或いは遥かな時を生きた賢者か。

そのどちらかだそうだ。

 

……私は魔術、奇跡、呪術、闇術全てを一応は扱えるのだが大丈夫だろうか。

 

次に話してくれたのは、周辺の地理についてだった。

 

いま、私達がいるのはアルスティン王国という農業国家らしい。

長閑な草原地帯に構えた国家で、軍事力は正直な所貧弱の一言だそうだ。

 

彼女達は食料問題の交渉のためアリスティン王国を訪問しており、母国への帰り道に襲撃にあったそうだ。

 

次に私達が今向かっている国。

彼女達の母国でもあるその国家は、名をビカーナ王国というらしい。

この地方では二番目に大きな国家であり、農業と漁業によって栄えている大国だそうだ。

 

そして何よりも驚いたことは。

美しい白髪に切れ長の目が特徴のこの美少女。

私の召喚主でもあるリリィ・ビカーナ。

彼女は、そのビカーナ王国の第一王女らしいのだ。

 

これまた大変な人に召喚されてしまったな、と内心苦笑した。

なぜアリョーナはリリィの事を姫様と呼んでいるのか気になってはいたのだが。

その理由もよく理解した。

 

まあ今までも。

 

御伽噺の主人公。

不死の王子リカール。

 

グウィン王の四騎士の一人。

深淵歩きアルトリウス。

 

亡国の姫君である。

ウーラシールの宵闇。

 

ドラングレイグの王国隊長。

ドラモンド。

 

など様々な文献に顔を覗かせていた者たちに召喚された経験があるので、別段焦ってもいない。

 

そして先程の騎士たちが所属していた国家。

ライトセイン帝国という国家について話してくれた。

ビカーナ王国やアリスティン王国より北方に位置し、この周辺では最大規模を誇る大国らしい。

軍事産業や戦争によって栄え、周辺国に侵攻しては領土を拡張してきた凶国であるそうだ。

現在も隣国へ侵攻中であり、目下戦争状態にあるらしい。

 

そしてその凶国が現在侵攻している国家というのは。

――彼女達の母国、ビカーナ王国だそうだ。

 

兵力差はおよそ3倍。

 

電撃戦で侵攻され、王国の北部はほぼ制圧されてしまっているそうだ。

 

現在は、王都より北方に位置する最後の城塞都市に防衛線を築き、なんとか保っている状況らしい。

だが、それはすなわち。

その城塞都市の陥落と同時に、王都は最後の砦を失うことを意味している。

 

そのことを話す彼女等の顔には憂いが浮かんでいた。

恐く、このままでは国がどうなるのか。

よく、理解できているのであろう。

 

ともかくとして、召喚されたからには世界の主を守ることが白霊としての誉れだ。

……まあ今の身体は白くもなければ、霊体の身体でもなく。

生身なわけであるのだが。

 

それは些細な問題だろう。

 

それに。

純粋に好奇心が刺激されるのだ。

 

――この地では一体どのような敵が出迎えてくれるのか。

――私よりも強い敵はいるのだろうか。

 

自分でいうのもおかしなことなのだが。

私は根っからの戦闘狂なのだ。

 

自分より強い敵。

困難な状況。

それらに直面すればするほど、あらゆる策を講じそれを突破することに楽しみを覚える。

 

でなければ。

あの果てしない旅の中で、私はとっくに亡者へ堕ちていたことだろう。

 

兎に角。

彼女の護衛としてついていれば遅かれ早かれ戦闘に巡り会えることであろう。

それに、召喚者に死なれるのも気分が悪い。

 

「あ、検問所が見えてきましたよッ!!」

 

「本当だわ!!襲撃がなくて良かったわね」

 

「あれが検問所……なのか?」

 

アリョーナの声に釣られ、思考を中断し前を見る。

 

視界に映ったのは巨大な石造り砦。

そしてどこか緊迫した様子の大勢の兵士達。

 

丘と丘の間を通る街道をぴったり遮るようにして造られたそれは。

どこからどう見ても検問所ではなく防衛用の拠点であった。

 

検問所の大扉の前にいた兵士たちが此方を指差してざわめき始めた。

どうやら我々に気がついたようだ。

 

対応は、基本的には彼女らに任せ、私は合わせる事にしよう。

 

数百年ぶりに見た正規の国軍や、稼働してる砦に多少感動しつつ。

私たちは検問所へ向けて歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姫様!!!!」

 

入室して開口一番。

髭面の中年男性がそう叫ぶ。

 

私たちは今、兵士に連れられ検問所の指揮官室へやってきていた。

 

兵士たちは私に対して訝しげな視線を送ってくるが、まあ仕方のないことだろう。

安否を心配されていた姫が怪しげな男と共に突然現れたのだ。

 

それを疑問に思わない者などきっといないだろう。

 

「ヘンケン警備隊長!!お久しぶりです!」

 

髭面に対して、リリィはそう返した。

どうやら知り合いだったようだ。

 

ならばスムーズに話は進むだろう。

 

微かな安堵感を覚え、小さく息をつく。

 

「ご無事で何よりです姫。アリョーナもよくぞ無事でいてくれた。して……そちらの男性は?」

 

「ああ、こちらは私たちを助けてくれた傭兵のストレイドよ」

 

リリィの紹介に合わせ、髭面が此方を見据える。

それに軽く会釈で返し、こちらも彼の目を見た。

 

そしてひとつの事を直感する。

 

――この男は……武人だ。

 

「傭兵ですか……それよりも助けてくれたと言いましたな?」

 

「ええ。私たちはアリスティンからの帰還中にライトセインの襲撃を受けました」

 

「なんとっ!アリスティンの領内でですか!?」

 

「そうよ。ただ小規模の部隊だったわ。恐く斥候か密命を受けた精鋭でしょうね」

 

「なるほど……」

 

「それでアリョーナを除いた護衛が壊滅し、覚悟を決めた時。たまたま通りかかった彼がライトセインの騎士たち5人を瞬時に倒して助けてくれたのよ」

 

「騎士を5人も同時にですかッ!?」

 

髭面は驚愕したような表情で此方を見てくる。

そんなにも驚くことなのだろうか?

 

正直な話。

彼ら5人よりも王国兵1人の方が強かった。

 

そんなどうでもいいことを考えていると、髭面が真面目な顔で此方に近づいてくる。

彼から放たれる威圧感は、凄まじいの一言だった。

が、私は表情一つ変えずに彼の方へ体を向ける。

 

もはやただの人間相手にたじろぐことなどありえない。

 

「貴公……今の話は本当なのだな?」

 

一部は嘘。

その言葉を喉の奥へ飲み込み、無表情で応対する。

 

「ああ。本当だ」

 

「……姫様を助けていただいたこと、深く感謝する。ありがとう」

 

「気にするな」

 

「一つ質問をいいか?」

 

「答えられる範囲なら」

 

「貴公は何故姫様を助けたのだ?見たところビカーナ人には見えないが」

 

「通り道で美女達が襲われていたら普通助けるだろう」

 

理由を考えるのも面倒だったので、私はそう答えた。

先程まで真顔だった髭面の表情が、気抜けしたように崩れる。

 

ふと彼女等の方へ目をやると、リリィは目を丸くして顔を赤めていた。

アリョーナは俯きながら体を震えさせている。

 

――二人共未通女だな。

またもやそんなどうでもいいことが頭をよぎった。

 

どうも永すぎる流浪の結果。

私の緊張感は麻痺しきっているらしい。

 

「ふっ。なるほどな。傭兵か」

 

そういうと。

髭面はリリィ達の方へ向き直る。

 

失言だったかと、内心思っていたのだが杞憂に終わったようだ。

 

「姫様、これよりどうなさるおつもりですか?」

 

「……(ボーッ」

 

「姫様?」

 

「えっ!?ああ!そうね、とりあえず一刻早く王都ヘ戻りたいと思っているわ」

 

「そちらの傭兵も一緒にですか?」

 

「ええそうよ。偶然とはいえ、私たちの命を助けて頂いたのだからお礼はしなければならないし。それに彼が護衛に着いてくれていれば安心だしね」

 

「姫様が決めたことならば私めは何も申し上げませんが……。一言だけ。もうちょっと慎重にお考え下さい」

 

「慎重に考えた結果よ」

 

「分かりました。今日はこの砦でお休みになって、明日の早朝お立ちになるといいでしょう。もう日も暮れますゆえ。王都へは伝令兵を向かわせておきます」

 

「色々ありがとう。ええ、そうさせてもらうわ」

 

色々あった1日。

まあ私からしたらまだ数時間しか過ごしていないのだが。

それもなんとか終わりそうだ。

 

 

 

 

部屋のドアが小気味よくノックされる。

まあ大方誰だかは予想が付いている。

 

最悪家畜小屋で寝ることを覚悟していたのだが、私に貸し与えられた部屋は予想以上に綺麗な客室だった。

正直、今まで過ごしてきた世界が世界だったので違和感しか感じない。

 

「どうぞ」

 

「お邪魔しまーす。って凄い武器!!?どうしたのこれ?」

 

部屋中に所狭しと並べられた武器を見たリリィが目を丸くする。

まあ至って当然の反応だろう。

 

「今後使うべき武器の選定。そちらこそどうしたんだ?こんな夜更けに」

 

「私はせっかくだから貴方に色々お話を聞きたいと思って。それよりもこんな数の武器どうしたの?こんな大荷物持っていたようには見えなかったけど」

 

「ああ、ソウルの収納術で……ってこちらの世界にはソウルの術がなかったのだな。まあ簡単に説明すると、私の世界では物質を魂に変換する術が確立されているんだ。それで

 

魂に刻み込んでいた物を自由に取り出したり閉まったりすることができるのさ。この武具は全てそうして魂に変換して持ち歩いていたものだよ」

 

「何それッ!!凄い便利な術ね!!」

 

彼女は驚いた様な表情で、部屋に置かれた武具を眺めていた。

果たして女性が武具などを見て楽しいのか。

私には解りかねるが彼女が楽しそうなのでまあ良しとしよう。

 

「凄い…どれも洗練されていて素晴らしい武具ね。さぞ高価な物なのではなくて?」

 

「さぁ。どうだろうな。人殺しの道具に価値なぞつけても私は仕方ないと思うがね」

 

私はそう言うと、使わない武具をソウルに変換して収納し始める。

武具が白い光に包まれ、最後には粒子となって胸へ吸い込まれていく。

 

その光景を見ていたリリィは、心底驚いた様な表情を浮かべていた。

 

「それがソウルの収納術…?」

 

「ああ。そうだ」

 

「なんだかとても不思議な術ね。物が白い光になって消えちゃうなんて」

 

「使い慣れた私からしたら、あまりそうは感じないな。でも、確かに初めて見た時は衝撃的だった記憶があるよ」

 

後に残ったのはアルバの兜、ロイエスの鎧、ロイエスの籠手、上級騎士の具足。

そして太陽の直剣、番兵の盾、渇望の鈴。

 

「これが明日身に着ける武具?」

 

「ああ。王都、それも姫と共に行くのだから中途半端な武具は身につけられないだろ?」

 

多少茶化しながら。

私はそう言うとその武具たちを身に纏わせる。

 

刹那、全身が淡い光に包まれる。

何が起きたか、リリィが理解するよりも早く。

一瞬の内に、先ほどまで目の前にあった武具を私は身にまとっていた。

 

「身に着けるとこんな感じだ」

 

「凄い……御伽話に出てくる聖騎士様のようだわ…」

 

しばらく、彼女は私の姿を眺めていた。

余りにも見てくるため少し照れくさくなり、彼女へ言葉を飛ばす。

 

「それよりも、何か話を聞きにきたのではないか?」

 

「あ、ああ…そうだったわ。すっかり忘れるところだった」

 

「私に答えられることなら話そう。暇つぶしにもならないかもしれないが」

 

兜の下で苦笑しつつ、リリィに椅子に座ることを促す。

私はフル装備のままベットに腰を掛けた。

ギィっとベットが唸ったが、きっと平気だろう。

 

「で、何がききたいんだ?」

 

「う~ん、そうねぇ。じゃあいっぺんに聞くのもあれだから一つだけ。この世界に召喚される前は何をしていたの?」

 

「召喚される前か…。多分聞いてもつまらないぞ?」

 

「それでも聞いてみたいの。平気よ」

 

「そっか。じゃあ少しだけ話すぞ。っと、その前にアリョーナ、扉の外から盗み聞きなんてしてないで入って来い」

 

私がそう言うと、リリィは訝しげな表情をしたが、それもすぐに驚きへと変わる。

 

キィっと木扉が開き、アリョーナが入室してきたのだ。

 

「バレていたのか…………」

 

「当たり前だ。最初からわかっていたぞ」

 

「え!!?アリョーナ!?」

 

「すいません姫様、盗み聞きなどしてしまい」

 

「おい、私への謝罪はどうした」

 

「貴方を見張るのも私の仕事。致し方ない事だ」

 

「何開き直ってんだ。まあいいや。それじゃ話すぞ。アリョーナはそのへんに座ってくれ。」

 

私は、ゆっくりと語り始める。

今までの自らの軌跡を振り返るように。

 

今まで乗り越えてきた試練を思い出しながら。

もちろん、不死の呪いの部分は伏せて。

 

 

「なんだか凄い興味をそそられる話だったわね…」

 

「御伽話の様でしたね。しかし彼の強さと比較して考えるとあながち虚構でもない気がします」

 

彼の話を聞き終えた後、私達は自室に戻ってきていた。

普段ならばそれぞれ別の個室が用意されるのだが。

姫様が『アリョーナと同室がいいわ』とおっしゃったので久々に同じ部屋で夜を過ごすことになった。

 

恐らく。

今日起きた事が原因だろう。

 

あんなモノを耐性のない人間が見たら、だれでも恐怖心を抱くに決まっている。

 

表面上では明るく振舞っていても、やはりどこか恐怖を感じているのだろう。

私にできることは彼女のそばに居てあげる事しかない。

 

「たしかにね。まあでも彼が悪い人じゃなくてよかったわ。人格破綻者だったら今頃私達まで殺されていたかもしれないし」

 

「そう決めつけるのは些か早計ですよ。まだ彼の詳しい素性もわからないんですからあまり気を許しすぎないでください」

 

「大丈夫よ。彼、心に影があるのは確かだけど根は悪人じゃないわ」

 

自信満々と言った表情で姫様はそう語る。

そのドヤ顔に少々イラッと来たが、姫様のこう言う勘は外れたことがないので何も言い返せない。

 

彼女は先天的に他人を見抜く才能があるのだ。

だから彼女に隠し事は愚か、スパイでさえも通用しない。

 

昔に一度。

王宮にスパイが潜入していたことがあったのだが、その時も姫様が一発で見破りあえなく御用となった。

 

この姫様の才能は、人間それぞれが持っている類のものなのか、はたまた魔法の類なのかハッキリとはわかっていない。

ただ恐らく。

彼女には魔力の流れや波長を読み取る力があるらしく、それを応用しているのではないか?と学者は言っていた。

 

ただ本人もこの力の事をよく理解していないらしく真相は定かではない。

 

「ただストレイド。心の大部分が影で隠れちゃっててちっとも心情が読めないのよねぇ。解るのは基幹となってる人格くらいだもの。オマケにポーカーフェイスだし」

 

「…………それって相当危険じゃないんですか?」

 

「ああ、大丈夫だと思うわ。その基幹となってる人格が善人みたいだから」

 

姫様の適当っぷりに若干呆れる。

まあ彼女のこの性格は今に始まったことではない。

 

「…………くれぐれも用心だけはしてくださいね?私だっていつもお側に入れるとは限らないのですから」

 

「はいはーい。ほら、もう寝ないと明日に響くわよ?明かり消すね」

 

「わかりました。お休みなさいリリィ」

 

「おやすみ、アリョーナ」

 

部屋の明かりが落とされる。

月明かりを残し、暗闇に包まれた室内には虫の囁きが響いていた。

 

「ねぇ、アリョーナ」

 

「何ですか?」

 

「(頼りにしてるからね)」

 

「?」

 

彼女のその小さい呟きは私の耳に届くことはなく、虫の声と共に虚空へ消えていった。

 

 

 

「あれが王都…?」

 

「ああ、そうだ」

 

早朝砦から出発し、馬を走らせること2時間。

視界の先に何やら巨大な城壁のようなものが見えてきた。

 

アノールロンド程の物ではないが、それでも立派で強固そうな城壁だ。

 

王都に近づくに連れ人通りも増え、朝の活気が肌に伝わってきた。

 

数百年ぶりに見た人の営みに、思わず涙すら零れそうになる。

酷く懐かしい、忘れかけていた感覚だ。

 

悠久の時を旅した中で、忘却されていた記憶が蘇ってきた。

 

「凄いな…」

 

「そうか?」

 

隣を征くアリョーナがそう聞き返してくる。

 

「ああ…元の世界じゃ何年も人の営みなんて見てなかったからな」

 

「昨日話してくれたことだが、そんなにも酷いものだったのか?その元いた世界というのは?」

 

「ここと比べたら地獄と天国くらい差があるな」

 

自嘲混じりにそう答える。

前の世界の凄惨さを伝えるには言葉だけでは足りない。

 

そこら中にうごめく亡者。

ソウルに狂った人間たち。

人を喰らう異型の怪物たち。

 

きっとこの世界の住人達には想像もできないだろう。

 

「昨日も少しだけ見たが装備を変えたのだな。相当高価な甲冑に見えるが……そんなモノを着て戦えるのか?」

 

「神の武器にすら対抗できる防御力はあるさ」

 

そう冗談交じりに返すとアリョーナは訝しげにこちらを覗きこんできた。

実際冗談ではないのだが…まあそれは言うに及ばず。

来るべき時に見せたほうが早いだろう。

 

「既に出迎えの部隊が展開しているな。ストレイド、くれぐれも素性はバラすなよ?」

 

「解ってる。私だって面倒事はゴメンだ」

 

 

 

城門前に到達すると、既に近衛隊だろうか?

アリョーナの身につけている甲冑と似た装備に身を包んだ部隊が出迎えてくれた。

赤い衣が印象的な、凛々しい鎧だ。

どことなく放浪騎士アルバのものと似ているなとそう感じた。

 

「おかえりなさいませ姫様!!心配しておりました!!アリョーナもよくぞ無事に戻ってきてくれた」

 

白髪交じりの髭面が特徴的な中年男性が、馬車から降りるリリィに手を貸しながらそういった。

リリィが馬車から降りるのに合わせ、部隊の兵士達も一斉に馬から降りる。

私もそれに習い、馬から飛び降りた。

 

見たところ髭面の彼がこの赤い部隊の隊長のようだ。

 

「ライル少将、出迎えご苦労様。ご心配をかけました」

 

「いえいえ、我々の力及ばず、姫様をこのような目に合わせてしまったのですから。いかなる処分も謹んで受ける所存にございまする」

 

「そんなことおっしゃらないで。彼らがいなければ私も、そしてアリョーナもここには帰ってこれませんでした」

 

「ありがとう御座います。して…アリョーナの隣におられる騎士殿は?」

 

近衛隊の兵士、全員の視線がこちらに突き刺さる。

まあ予想通りの展開なので一切たじろぐことはない。

 

「ああ、彼は道中私達の事を救ってくれた傭兵で放浪騎士のストレイドです。道中の護衛をしていただきました。これから報酬の支払い等の為、一度王宮に招待する予定です」

 

「傭兵…………ですと…?」

 

ライルという髭面の眉間に皺が寄る。

周りの近衛隊士たちもざわつき始めた。

 

まあそれも当然か。

 

「おい、傭兵だってよ」

 

「あの甲冑で傭兵?ありゃ国宝レベルのしろものだぞ」

 

「それに放浪騎士って、どこかの国の元上級騎士か?」

 

「傭兵なんかに姫様の護衛を任せていたのか!?」

 

彼らは国軍、それも近衛隊という誇りある部隊の兵士たちだ。

金次第でどこへでもつく傭兵にいい思いは抱いていないのだろう。

 

そしてその傭兵に姫の護衛という最重要任務が任されていたのだ。

よく思う人間などいるわけがない。

 

「ふむ…アリョーナ。彼は信用できるのかね?」

 

「まだ顔を合わせてから短いのでなんとも。ただ腕は私が今まで見てきた剣士の中で最も優れているでしょう」

 

「なるほど…これは騎士殿、失礼仕った。私はライル・アークマン少将、近衛大隊の指揮官兼ビカーナ王国の筆頭武官だ。よろしくお願いする」

 

「こちらこそ。放浪騎士で傭兵のストレイドだ。よろしく頼む」

 

差し出されたライルの手をしっかり握り、堅い握手を交わす。

まるでこちらの人間性を確かめるかのように交わされた握手は普通よりも長く続いた。

 

「では姫様、国王様がお待ちです。王宮へと向かいましょう」

 

王都専用の馬車にリリィが乗り込むと、兵士達もそれぞれ馬へとまたがった。

 




説明回ですね。

言ってた通り続きとして投稿させていただきやした。

これだけじゃ味気ないし進展もないので今日の深夜。
次話も投稿させてもらいます。

ストレイドという名前は、オラフィスのストレイドさんから取ったのではなく
アーマードコアfAの主人公の機体の初期名です。
オレ「主人公名何にしよう……」
オレ「あ、せや!!ACfAの初期機体名とかいいんじゃね!」
オレ「よし、『ストレイド』と」
オレ「フーっ、やっと書き終わった」
オレ「ん?そういやDks2にもストレイドっていなかったっけ……?」



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謁見




まだ見ぬ未来に胸を躍らせる

一体何時ぶりの感覚だろう。


「ここがビカーナ王城だ」

 

部隊が停止し、

アリョーナがそう呟く。

 

私の眼前にはドレングレイグ王城を彷彿とさせる、立派な城がそびえ立っていた。

アノールロンドまでとはいかないものの、決して劣るものではない立派な城だ。

 

道中通ってきた城下町も美しく、活気であふれていた。

とても戦時下の国とは思えない。

 

そして何よりも驚いたのは。

リリィの国民からの人気っぷりである。

 

王都に入城した途端、多くの人々から歓声が上がったのには一瞬何事かと思った。

 

『姫様だ!!姫様がお戻りになられたぞ!!』

 

『姫様ー!!心配しておりました!!』

 

『姫様ー!!』

 

その群衆の声一つ一つにリリィは馬車から笑顔で手を振り返していた。

まあ彼女が国民から人気があることは大方予想がついていた。

 

美しく、誰にでも優しい王女を毛嫌いする国民など早々いるはずもない。

 

彼女の人気ぶりから察するに、きっと王室の支持率も高いのではないだろうか。

そんなことを推測しつつ、王城へと続く橋を渡っていく。

 

城下町と王城は深い堀で隔てられており、その間には木製の大橋がかけられている。

 

堀の深さはおおよそ15メートルほど、幅は30メートルはあるだろうか?

水の張られていない空堀ではあるが、堀の底にスパイクが敷き詰められているため防御効果は高そうだ。

 

悠久の過去に参戦した攻城戦の記憶が蘇ってきた。

思えばあの時、私が不死であることが発覚したのだ。

 

突撃騎兵だった私は攻略部隊の第一波として攻撃に参加していた。

 

魔法科部隊の城門破壊成功に際し。

最初の突撃部隊が編成された。

 

私は第一波突撃隊の隊長に任命され、

仲間とともに騎馬をかり、ランスを構え城内めがけ突撃をしたのだ。

 

城内へと通ずる大橋に差し掛かった際だった。

突如爆音とともに橋が大きく揺れたのだ。

 

何事か!?そう思うよりも早く、目の前から火炎が迫ってきた。

 

一瞬うちに察した。

敵の罠に嵌められたのだ、と。

 

瞬く間に辺りは炎に包まれ、私は業火に飲まれた。

 

周りでは、部下たちの声にもならない絶叫が木霊している。

生きたたま肌を焼かれる苦痛に悶絶し、私はそのまま落馬した。

 

喉を焼かれ、眼球が溶け落ち、もはや叫ぶことも見ることも叶わなくなってからも、意識だけはハッキリとあった。

 

最早神経も焼かれてしまったのか、何も感じなくなった頃。

ようやく私の意識は暗闇に落ちていった。

 

だが私は眼を覚ました。

それも、何故か母国の自宅のベットの上で。

 

その時に気がついてしまった。

 

『私は不死の呪いを受けてしまったのか』

 

と。

 

それから後の事は殆ど覚えていない。

次に記憶があるのは北の不死院に幽閉されていたことぐらいだ。

 

橋を渡り終え、城門をくぐると。

そこには道の左右に列を成した衛兵たちが姫の帰還を出迎えていた。

 

『おかえりなさいませ。リリィ第一王女様!!』

 

リリィの馬車が城内に入った途端、衛兵たちから一斉に言葉が発せられる。

やっぱり愛されてるんだなぁと改めて思い、兜の下で苦笑した。

 

「皆さん、ご心配をおかけしました」

 

リリィが凛とした声でそう返した。

 

  

 

 

 

 

「アリョーナ、ストレイド。いきましょ」

 

城内への入り口で馬を降り、従者へと預ける。

リリィが手招きをしているので私とアリョーナは駆け足で彼女の元へと向かった。

 

「これから私と共に謁見の間へと向かうわ。謁見の作法は心得ていて?」

 

「ああ、一応。この国のものと合っているかは分からないが」

 

「装備からしてどう見ても異国の騎士だし、そのへんは大丈夫だと思うわ」

 

城内は綺羅びやかな装飾がなされ、至る所に高級そうな美術品などが展示されていた。

室内だけならアノールにもまさるのではないか?そんなどうでもいいことを考えつつ。

リリィの後を歩いて行く。

 

使用人や衛兵達は彼女の姿を見るたびに深々と一礼を送り、自らの仕事に戻っていく。

そしてそうしている者達のほとんどが訝しげな視線を私に送っているのには気がついていた。

 

まあ当然か。

 

先頭をいくライルが大扉の前で立ち止まった。

恐らくはここが謁見の間なのだろう。

 

一国の王、女王と顔を合わせるというのに、不思議なことに微塵も緊張はしていない。

麻痺しすぎた感覚もいかがなものなのか、とこの時ばかりは思わず苦笑した。

 

「リリィ第一王女様、及び傭兵ストレイド殿入場」

 

衛兵の一人がそう叫び、大扉が開かれた。

 

ライルに続いてリリィ、その後ろに私とアリョーナが続くといった感じで入室する。

 

さぁ、国王陛下、女王陛下との初顔合わせだ。

 

「よくぞ戻った、リリィ。心配しておったぞ。アリョーナも無事な用で何よりだ。ユージ、レイドの件は実に残念だったな…」

 

部屋の中ほどまで行ったところで一礼をし、兜を脱いで片膝を付き頭を垂れる。

 

リリィの父親、つまり国王陛下はどことなくグウィン王に似ている気がした。

きっと立派な髭による部分が大きいのだろうが。

 

「ご心配をお掛けしました。リリィ・ビカーナ、ただいま戻りましたわ」

 

「怪我もないようでよかった。して、例の傭兵とやらはそちらの騎士殿かな?」

 

「いかにも。私達の事を救って下さったストレイド様です」

 

「ふむ、なるほど。ストレイド殿、頭をお上げになってくださるか」

 

国王陛下にそう促され頭を上げる。

やはり見ればみるほどグウィン王に似ている。

そのことに内心苦笑いしつつも表情は一切崩さない。

 

「貴公が娘を救ってくださったのだな?」

 

「はい。街道でライトセインの将兵に襲撃されている所を」

 

「そうか。まずは感謝する。娘を救ってくれてありがとう。差支えが無ければその理由を聞いても構わないかな?」

 

理由、どう答えるべきか。

数瞬そう悩んでる内にリリィが口を挟んだ。

 

「お父様。そのことも含めて内密にお話したいことがございます。人払いをお願いしても?」

 

国王は訝しげな表情を浮かべつつ。

家臣に合図を送った。

 

謁見の間から私達しかいなくなったのを見計らって、リリィが話を始める。

 

「単刀直入に申し上げます。私は彼を個人的に雇いたいと思っております」

 

謁見の間に暫くの間静寂が立ち込める。

そうしたのち、国王が至極当然の事を聞き返した。

 

「何を言っておるのだ…?お前には近衛隊が…」

 

「彼は普通の人間ではありません。私がお母様より頂いたお守り。王家のお守りより召喚されたのです」

 

「何だと…?」

 

リリィがそう言うと、女王と国王が何やらざわつき始めた。

どうやら何か事情を知っているようだ。

 

「…………異界の英雄。失望と絶望の果てに翻弄された英雄は、歪みに導かれこの地へと現れる…」

 

しばしの沈黙。

それを破るように言葉を紡いだのはリリィだった。

 

「…………なんですかそれは?」

 

「貴女に授けたお守りと共に保管されていた詩です。私達はてっきり御伽話の類だとばかり思っていましたが…」

 

「まさか本当だったとは…」

 

つまりは

 

私の様な人間が過去にもいた…?

前の世界とこの世界には何らかの繋がりがあるのか?

 

「リリィ、事情は分かった。彼を専属の傭兵として雇うことを特別に許可しよう」

 

「ありがとう御座います」

 

「ただし、彼の素性については一切他言無用だ。無駄な混乱を招きかねない。私の方から筆頭武官であるライル少将と筆頭文官のハスキンには伝えておく」

 

「解りました」

 

「ストレイド殿、そういうわけでよろしく頼むぞ。後、すまないが暫くの間は監察官としてアリョーナに監視させることにする。我々も貴公の事を信用した訳ではないのでな」

 

「わ、私ですか?」

 

「了解しました。いえいえお気になさらずに。致し方ないことです」

 

「たしか近衛隊の宿舎に空き部屋があっただろう?アリョーナ、案内してやってくれ。リリィにはまだ聞きたいことがあるから残りなさい」

 

「了解しました。では失礼します陛下」

 

アリョーナが一礼してから反転し、退室していく。

私もそれに習い、深々と頭を下げた後彼女を追いかけた。

 

「なんだかとんでもない話になったな」

 

「全くだ。まさかこんなに話がスムーズに進むとは私も思っていなかった」

 

「疑いたくなるくらいあっさりだったな」

 

「きっと陛下達はなにか深い事情を知っているのだと思う。姫様を残したのもそれが理由ではないか?」

 

「なるほどな。しかし近衛隊と同じ宿舎だって?隊士からの反発がすごそうだ」

 

「実際凄いだろうな…まあ気を悪くしないでくれ。さぁ宿舎はこっちだ」

 

アリョーナと話しながら歩みを進める。

 

さぁ、この世界ではどんなことが自分を待っているのか。




どうも

深夜更新です
いつもより駄文感増してるんで注意してください(´・ω・`)

早く戦闘パートが書きたくてウズウズしてます

そういえばハーメルンって挿絵投稿できないんでしょうか?
もしそうならPixvやニコニコ静画のURL貼っても平気なんですかね?


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2日間

こちらの世界は最高だ。

そう、戦争でどれだけ人が死んでいようが、どこかで虐殺が行われていようが。

元の世界に比べたら、な。



http://seiga.nicovideo.jp/seiga/im4592109
※ストレイドです。
良かったらドゾー


ホトトギスのさえずりと、鶏の鳴き声が早朝の王城に響いていた。

亡者の呻き声と、異型の雄叫びしか聞こえなかった前の世界とはまさに天と地の差である。

 

 

あれから2日。

 

城門の前には多くの兵士が騎乗して待機していた。

主となっている部隊は近衛隊だが、それを補助のように中央即応軍の兵士達が数名混じっている。

合わせて40名ほどだろうか?小隊規模の人数はいるだろう。

 

こんな早朝から私達は何をしているのかというと。

 

リリィ。

あのお転婆姫様が城塞都市へ視察に行くことになったのだ。

 

私達はその護衛になる。

 

なぜ最前線に姫様自ら赴くのかといえば。

 

理由は2日前まで遡る。

 

 

 

 

 

私とアリョーナは謁見の後、近衛隊の宿舎へ向かっていた。

中庭に敷かれた連絡通路を歩いている際。

何か見覚えのあるものが視界に入る。

 

「ん?あれは…?」

 

「お、おい!そっちは洗濯場だぞ!!」

 

通路を外れて、その何かを確認しにいく。

 

やはりか。

私の記憶に焼きついたものと"何か"は一致していた。

 

幾度となく灯したそれは、不死の安息の場であり、唯一の癒やしだった。

 

「なぜ篝火がここに……………?」

 

「お、おいってば!って……なんだこれは?こんなものなかった気がするが…?」

 

追い付いてきたアリョーナが訝しげに首をかしげる。

彼女の反応を見る限り、もともとあったものではなさそうだ。

 

「これは篝火というものだ」

 

「かがりび?」

 

「そう。前の世界で唯一私達を癒してくれるものだった」

 

「これが?この錆びついた剣がか?」

 

そういう彼女の問は無視し。

ちょっと離れてろとだけ言い返した。

 

彼女曰く、錆びついた剣に手をかざす。

そして自らのソウルをいくらか送り込む。

 

するとどうだろう。

ボッ、と何も火の気がないところから炎が起き、一瞬の内に焚き火となった。

 

彼女はその光景を目の当たりにし、眼を丸くしている。

 

「うおっ!貴公。一体何をしたのだ?火炎魔法でも使ったのか?」

 

「いや、そうじゃない。ほらこの炎は触っても熱くないんだ」

 

そう言いながら右手を炎の中に突っ込んで見せてみる。

それにまた彼女は驚いた様相を見せたが、お構い無しにそのままエスト瓶を補充した。

 

「それにこの炎は水をかけても消えないし、暴風に曝されても消えることはない。不思議な火なのさ」

 

「そんな便利な火があるのだな…それに貴公が言う癒やしというのも何となく理解出来た気がする。この炎を見ていると何故か心が安らぐな…」

 

なぜ篝火までもがこの世界にあるのか。

疑問は残るが、まあコチラにとってデメリットはないので一先ずおいておくとしよう。

 

「寄り道して悪かったな。近衛隊の宿舎にいくのだろ?」

 

「あ、ああそうだった。それじゃ改めて向かうとするか」

 

 

 

 

宿舎の中にある休憩所の扉を開け、フル装備のまま中へと入っていく。

部屋へ行くより先に隊士への紹介を済ませておいたほうがいいだろう。というアリョーナの提案のためだ。

 

入室すると、皆が皆驚いた表情を浮かべているがまあ当然だろう。

 

アリョーナが口を開くよりも早く。

一人の隊士が声を上げた。

 

「お、おい!アリョーナ!!なんでそいつがここにいるんだよ!!」

 

他の隊士達もそうだ!と言いたげに頷いていた。

 

ここまで予想通りの反応。

まあ彼らは王国でも屈指の精鋭部隊だ。

 

誇り高い彼らからすれば、傭兵が自らの寝床にいることでさえ気分が悪いに決まっている。

 

まあ最も、これからもっと気分が悪くするような事を彼女が言うのだが。

 

「今日から共に生活することになった傭兵のストレイドだ。皆よろしく頼む」

 

しばしの静寂。

それはまさに、嵐の前の静けさだった。

 

「アリョーナ中尉!!なんで傭兵風情が我々近衛隊と一緒なのですか!?」

 

「納得できません!!」

 

「どういうことですか!?」

 

「説明してください!!」

 

休憩室内に響き渡る怒号。叫び。

正直ここまで盛大にバッシングされるとは思っていなかった。

 

いやまあある意味当然なのだろうが。

 

「別に近衛隊に入隊する訳ではない。この宿舎の空き部屋を使うだけだ。姫様が専属の傭兵として個人的に彼をお雇いになった」

 

「はぁ!?姫様が個人的にってどういうことだよ!?」

 

「傭兵と同じ場所で寝るなんて耐えられません!!」

 

彼女の説明に対して不服な様子の隊士達。

まあ、王室直轄の部隊である彼らからしたら、自分たちの仕事を奪われたと感じるのだろう。

それも、素性も分からぬ一介の傭兵風情に。

 

「お前たち、黙れ」

 

若い男の声が室内に響き渡る。

そのセリフの通り、先程まで騒いでいた隊士達は静かになった。

 

隊士達の間から一人の男が前に出てくる。

身長180程、私より少し小さい程度で茶髪の短髪。

キリッとした眼に整った顔立ちが印象的な20代前半の男だった。

 

「オレと決闘しろ。貴様が敗北した場合この場から失せてもらう」

 

男は私を指さしながらそう言い放った。

 

すかさずアリョーナが反論する。

 

「黙れリディス!!姫様と国王陛下の決定だぞ!!」

 

私の戦いを知ってる彼女は、なんとかそのような事態は避けたいのだろう。

彼女は必死にリディスという男を止めようとする。

 

だが

 

「いいだろう。確かに皆も傭兵、それも実力が不詳とあらば納得がいかないだろうからな」

 

そんなことお構いなしに私は二つ返事でOKを出す。

アリョーナがあんぐりと口を開けてこちらを見返して来たが、次第にその表情も諦めへと変わっていった。

 

アリョーナ、すまないな。

 

なぜ決闘と受けたかと聞かれれば。

 

実力を顕示しておくため

 

とか

 

とりあえず場を収めるため

 

とか幾つか理由は浮かぶが。

 

まあ本音を言うならば。

 

『だってそのほうが楽しそうじゃないか』

 

これに限る。

 

 

 

 

 

 

「いいだろう。確かに皆も傭兵、それも実力が不詳とあらば納得がいかないだろうからな」

 

私は場を収めようと必死だった。

だが彼のその一言で全てを諦める。

 

何を言い出すかと思えば。

ホントに何を言い出しているのだこの男は。

 

別にストレイドの身を心配しているわけではない。

彼の戦いを間近で見たことのある人間ならば、きっとだれでもそうだろう。

 

私が心配しているのは、むしろリディスの方だ。

いくら近衛隊でも有数の実力者とは言え、ストレイドの戦闘を見た後では不安しか残らない。

 

あの戦いぶりは異常だ。

少なくとも人間業ではない事は確かだ。

 

彼が召喚され、騎士を切り伏せた時。

 

その時、確信したことが一つある。

 

"彼の剣技は対人用のものではない"

 

そう、彼の攻撃は対人戦闘では余りにも過剰火力なのだ。

 

遠心力に刃を乗せ、更に筋力で加速させた回転斬り。

人間を一撃で消し炭にしてしまう闇魔法。

 

そのどれもが対人用とは思えない過剰な威力を持っている。

 

恐らくは、対獣用や対魔族用の類ではないだろうか。

 

そして、恐ろしいのはそれだけではない。

彼の攻撃は、そのどれもが上記の様な威力を誇っている。

 

それなのにも関わらず。

攻撃後の隙が全くといっていいほどないのだ。

 

まあそれも、剣技についてはまだ説明がつく。

 

だが魔法はどうだ。

魔法と言うものは通常。

より高度、より高威力なものになればなるほど詠唱が複雑になってくる。

 

つまりは発動するまでのタイムラグが、上位魔法になればなるほど増えるということだ。

実際私が扱える最上位の魔法は、詠唱に20秒程の時間を要する。

 

だが彼の扱う魔法はどうだったか。

 

人間を一撃で消し炭にしてしまう闇魔法も。

最上位のものと同等かそれ以上の回復魔法も。

 

ほぼ詠唱のタイムラグ無しに発動させていたのだ。

 

これに関しては恐らく。

こちらの世界と、彼の元いた世界の魔法の体形が異なる事が理由だと思われる。

 

その辺りは、学者に聞いてみないとよくわからないが、

兎にも角にも、彼の扱う魔法はこちらの世界では戦術兵器並みのものばかりなのだ。

 

そんな御伽話の英雄もびっくりな存在に、挑むということがどういうことかをリディスは理解していない。

まあ彼の強さを知らないのだから当然といえば当然なのだが。

 

これからどうすればいいんだ。

 

そう頭を悩ませていた時、ストレイドが小声で小さくつぶやいた。

 

「心配するな、怪我はさせないさ」

 

彼はそう言うとリディスの後を追って、訓練場へと歩いて行った。

 

 

 

 

既に近衛隊の訓練場には噂を聞きつけた兵士達が集まっており、さながらコンサート前のようだった。

群衆の中には、近衛隊の真紅の衣に混じって、群青色の衣がちらほら見える。

 

どうやら中央即応軍の兵士たちにも噂は伝わっているようだった。

 

『姫様が雇った傭兵と王室の忠狼リディスが決闘をするらしい』と。

 

リディスの二つ名である王室の忠狼。

確かに彼の実力はこの二つ名に相応しいものがある。

 

彼自身はこの二つ名を嫌っているのだが。

彼の功績が大きくなるに連れてその二つ名も拡散してしまい、今じゃもう手遅れ状態だ。

 

だがそれでも。

王国でも5本の指に数えられる彼だとしても。

 

きっとストレイドには勝てない。

私はそう直感していた。

 

ずっと剣を共に振るってきた戦友ではなく。

昨日知り合ったばかりの彼が勝つ。

 

そう確信した。

 

それはリディスと共に長く戦ってきたからこそ。

昨日ストレイドの戦闘を目の前で見たからこそだった。

 

「ずいぶんギャラリーが多いな。で、武器はどうする?決闘なら同じ武器でやりあうのが常だろ?」

 

ストレイドがそう言い放つと、二人の前に刺剣が二刀投げ込まれる。

あれはビカーナ正規軍支給のレイピアだ。

 

特別な特徴はなく。

強いて言うなら特徴がないのが特徴とでも言うべき、使いやすい刺剣だ。

 

一本一本が王国軍専属の鍛冶によって鍛えられ、前線の兵士からの評判もいい。

 

リディスはそのレイピアを拾い上げ、切っ先をストレイドに向けたまま言葉を発した。

 

「武器を取れ。ルールは相手を行動不能にさせれば勝ち。魔法は禁止だ。ホントは殺してりたいところだが、姫様が選んだ傭兵だ。特別に見逃してやる」

 

彼の言葉を聞き、ストレイドも無言でレイピアを拾い上げる。

そして切っ先をリディスへと向けた。

 

「開始!!」

 

決闘責任者がそう叫んだ瞬間。

 

 

 

―― 一瞬で場の空気が凍りついた。

 

 

 

 

まだ二人共動いてすらいないのに、だ。

 

それはなぜか。

ストレイド。

彼から滲み出てくる強烈な殺気。

その異常とまで言える殺気。

 

それに場の人間皆が圧倒されていたのだ。

 

洗練されすぎた殺気が、レイピアの切っ先と共にリディスへと向けられていた。

 

しばし睨み合いが続いたが、その静寂はリディスによって崩される。

 

瞬きをする間も与えぬ、高速の突きをストレイドの脳天めがけ繰り出したのだ。

 

その光景を見ていたギャラリーは

 

『ああ、決まったな』

 

と、そう思ったことであろう。

相手が彼じゃなければ、私もそう思っていたはずだ。

 

普通の人間には、あの突きを躱す事はまず不可能だ。

いわば超至近距離で射られる矢を回避するようなものなのだから。

 

だが彼は違った。

 

その一撃をバックステップで距離を取り、いともたやすく躱してみせる。

 

多くの観衆は、一瞬何が起きたか理解できなかったことだろう。

普通なら確実に食らっているはずの攻撃。

 

それを焦るでもなく、またギリギリでもなく。

まるで当然とでも言うように、ストレイドは躱してみせた。

 

リディスの顔には一瞬驚愕の色が浮かんでいた。

彼本人も確実に当てられると、そう確信があったのだろう。

 

「次は、私の番」

 

ストレイドがそう、小さく呟く。

その時、彼は兜の下でニヤリと笑ったような、そんな気がした。

 

バックステップで後退した瞬間、勢い良くリディスへ向かい駆け出し、切っ先を突きつける。

 

その突きを寸前の所で回避したリディスは、体勢を整えるため距離を取ろうとバックステップで後ろへ下がる。

 

だが、ストレイドはそれを許さなかった。

突きを繰り出した体勢からそのままローリングをし、リディスとの距離を一気に縮める。

 

そしてローリングで得た加速を殺さぬまま、突きを繰り出した。

 

リディスもそれに対し回避行動をとるが、体勢を整えきれていない状態では躱し切ることは無理だった。

 

レイピアの切っ先がリディスの脇腹へと吸い込まれる。

金属同士がぶつかり合う爆音と共に、真紅が空中を舞った。

 

余りにも一瞬の出来事で、周りにいたものは何が起きたか理解しきれなかった。

 

数瞬の間を置いてから、何が起きたかを理解する。

 

リディスの身体を、ストレイドのレイピアが貫通していた。

それも、近衛隊の上等な鎧を突き破って、だ。

 

しかも驚くことに、貫通しているレイピアの切っ先は、15cm程が折れてなくなっていた。

ということは、刃物の鋭さに頼らず己の腕力のみで鎧を貫通させたということになる。

 

ストレイドがレイピアを引き抜くと、リディスの身体はそのまま力なく倒れた。

 

ストレイドは立ち上がると、レイピアを持ったまま彼に近づいていく。

それと時を同じくして、圧倒されていた群集たちが我に返った。

 

「リ、リディス様…?」

 

「う、うそ…リディス様が……」

 

「お、おい!!傭兵!!もういいだろ!!決着はついたはずだ!!」

 

恐怖を孕んだ声が彼を呼び止める。

それを無視して、彼は腰に下げてある何かを手にとった。

 

そう。

例の魔法の触媒だ。

 

あの闇魔法が脳内で蘇る。

一瞬止めに入ろうとしたが、彼が何をしようとしているのか理解し、その必要はないと判断した。

 

彼の周りが白い、温かい光で包まれる。

 

私の傷を癒やすときに使ったものと同じ回復魔法だ。

やはり殆ど詠唱のタイムラグ無しに発動させている。

 

光が完全に消える頃にはリディスは意識を取り戻していた。

 

「クソッ…いったい何が?」

 

「私の勝ちでいいな?」

 

「…………ああ、オレの負けだ。お前の事を、オレは認めよう」

 

リディスがそう言った瞬間。

ギャラリーからけたたましいといえるレベルの歓声が発せられる。

 

湧く観衆を完全にスルーし、

ストレイドはリディスに手を貸し、立ち上がらせた。

 

「一体何をしたんだ?」

 

「傷を塞いだだけさ」

 

彼はそれだけ呟くと、私の方へ歩いてくる。

全く、ハラハラさせてくれた。

 

「さあ、アリョーナ。部屋への案内がまだだったろう?案内してくれ」

 

「ふふふ、貴公面白いな。ああ、わかった。しかし怪我はさせないのではなかったのか?」

 

「そこは、まあ、あれだよ。塞がってるし平気だろ」

 

「ふふ」

 

小言の二、三言くらい言ってやろうかと思っていたのだが。

彼の切り替えの早さを見て、その思いもどっかへいってしまった。

 

さてと…これから大変そうだな。

 

そう思いつつも、どこかでこれからを楽しみにしている自分がいた。

 

 

 

 

アリョーナに案内された部屋で暫く身体を休めていると、小気味の良いノック音が聞こえて

きた。

 

先ほどの決闘騒ぎから3時間ほど。

近衛隊士達は、決闘を目の当たりにしたことでかはどうか解らないが、しぶしぶといった感

じで私のことを認めたようだった。

 

3時間何をしていたのかと問われれば。

別段これといって何もしていなかった。

 

あえて言うとするならば、窓からこちらを覗きこんでくる近衛隊や中央即応軍の女子共をい

なしていたことぐらいだろうか。

 

ノックされたドアへと向かう。

時刻は夕暮れ時。

大方アリョーナが夕飯の知らせに来たのでは無いだろうか、と当たりをつけながらドアノブ

 

を回した。

 

「はぁーい!ストレイド調子はどう?」

 

「…………」

 

だがそこに居たのはアリョーナではなかった。

もっと言えば近衛隊の衣装すら身につけていない。

 

そこにはこの国の王女。

リリィ・ビカーナ。

その人の姿があった。

 

ドアの向こう側に見える幾人かの隊士達は、唖然とした様子でその場で固まっていた。

 

「ちょ!ちょ!無言でドア閉め内でよ~ッ!」

 

ドアの向こう側から何やら叫び声が聞こえるので、やれやれとドアを再び開ける。

 

「もうー!!なんでしめたのよ!!」

 

「いや、反射てきに」

 

「反射って何!!?」

 

「まあまあ、そこはおいておくとして、どうしたんだ?姫自らやってくるなんて」

 

「ちょっと話したいことがあってねー」

 

それだけいうと、お転婆姫様はズイズイと部屋に入ってくる。

それに呆れにも似た驚きを抱きつつ、彼女の身辺を世話しているアリョーナには頭が上がら

ないなと、そう思った。

 

「姫様-ッ!!???」

 

そんな事を思考していると、その苦労人の叫び声が聞こえてくる。

肩で息をしながら走ってきた赤毛の娘には、同情せざる得ない。

 

「ん?どったのアリョーナ」

 

「どったのではありません!!勝手に自室からいなくなられては困ります!!」

 

「勝手じゃないわよ。ちゃんと書き置きしたわ」

 

「『暫く留守にします。探さないでください』何て書き置き書き置きの意味がありません!

 

!っていうかむしろそのせいで城内大騒ぎですよ!!」

 

「まあまあ。どうどう、落ち着いて。伝えるべきことを伝えたらすぐに戻るわ」

 

リリィはそう言うと、眼をつむる。

すると不思議なことに、先程までの破天荒っぷりはどこへやら。

厳格な。それでいて高貴な。まさしく一国の王女に相応しい風格を醸し出していた。

 

「傭兵ストレイド。及び近衛大隊第1近衛小隊所属、アリョーナ中尉に命じます」

 

思わずつばを飲むような、凛とした声色に少したじろぐ。

そして、それと同時に興味が湧いた。

 

一体この少女は何者なのだと。

 

何を言っているのだ?彼女はこの国の王女ではないか。

 

きっと大多数の人はそう思うかもしれない。

たしかにそのとおりだ。

 

だが、私が持った興味とは別のニュアンスの回答だ。

 

見てくれはせいぜい十代後半から二十代前半の少女。

いや、事実その通りだろう。

 

だがしかし、それでは

この彼女の纏っている風格、及び荘厳さは何なのだろう。

 

不死の英雄である自分すらも、驚愕させ、勝るとも劣らないその圧倒的な存在感は何なのだ

ろう。

 

「私、リリィ・ビカーナは明後日。城塞都市アリスライキへ視察へ向かいます。両名はその

 

際の私の身辺警護を命じます」

 

数瞬の間の後、アリョーナは頭を下げる。

 

「謹んで拝命致します」

 

「勿論、私もだ」

 

私達がそう返すと、リリィの表情は一気にヘニャっとしたものに崩れる。

 

先ほどまでの荘厳とした面構えはどこへやら。

いま眼の前にいるのは、歳相応の笑顔と雰囲気を携えた、可憐な少女だった。

 

「良し、じゃあよろしく頼んだわよ」

 

「勿論です。姫様、差し障りがなければ、急に視察が決定した理由を聞いても?」

 

「父上と母上と共に話しあった結果よ。残念ながら詳細なことは教えてあげられないけども

 

「いえ、こちらこそ余計なことを聞いてしまい、申し訳ありません」

 

「もう、いくら仕事中だからってそんなに畏まらなくてもいいのに。ストレイド?というわ

 

けだからよろしくね。当日の日程は後程ライル少将経由で伝えるわ」

 

「了解した」

 

「じゃあ、私はこれで」

 

"あーあ、アリョーナが来なければ暫くお話していこうと思ったんだけどなぁ"

 

去り際に彼女が小声で言っていたことに本当の目的が垣間見れた気がした。

 

 

 




深夜投稿です(通常運転です)

最初にも貼りましたがストレイドです
http://seiga.nicovideo.jp/seiga/im4592109

雑な絵で許してやぁ…

あ、まだまだ続きがあるんですが先に前半だけ投稿しておきます。

※後半アップしました。


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城塞都市アリスライキ

大分短いし文はいつもより幼稚だしオマケの遅刻だしうわあああああああああ(´・ω・`)
申し訳ないっす。

最近スランプ気味なのです。

個人的にこの文章は気に食わない部分が多いので、スランプを脱した時に纏めて書き直したいと思いますm(__)m




現在、紅と群青の部隊は、王都より北へ続く街道を移動していた。

 

王都を発って早3時間。

現在の時刻は正午より少し前といったところであろうか。

 

視界の奥に、石造りの砦が見えてきた。

 

いや、それは最早。

砦という言葉は適切ではないだろう。

 

要塞。大げさに言うならば城。

 

街まるまる一つを、そのまま要塞としたような光景に思わず息を呑む。

 

圧巻。

まさにその一言だった。

 

「見えてきたな。あれが城塞都市アリスライキだ。王都の最終防衛線だな」

 

隣を行くアリョーナがそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第一王女、リリィ・ビカーナ様。ご入城」

 

門の両サイドにいる兵達から声が上がる。

けたたましいとも言える歓声が上がる中、私達は城門をくぐった。

 

リリィの乗る馬車よりも先行するは、私とアリョーナの騎馬。

それに続いて彼女の乗る馬車や、護衛兵たちが追従してくる。

 

中に入ると、まず眼に飛び込んできたのはおびただしい数の兵士達。

 

そして

 

その誰もが、街道を避けるように整列していた。

その誰もが、凛とした面構えでこちらに敬礼していた。

 

その光景に思わず圧倒されかける。

 

素晴らしい光景だ。

内心でそう言葉を漏らす。

 

この光景だけでも、彼等兵士の忠誠心の高さ。

そして、リリィ・ビカーナという少女の支持率の高さが伺える。

 

だが、しかし。

私は、この状況に一つの疑問を抱いていた。

 

"要塞の規模に反して、将兵の絶対数が少なすぎる…"

 

途中で合流してきた騎馬達の先導に従い、私達はひとつの建物へと馬を向かわせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「情報は確かなので?」

 

ここは、アリスライキより北方に陣を構える帝国軍駐屯地のとあるテント内。

メガネをクイッと直しながら、細身の男は上官らしき人物に話しかける。

 

「ああ。皇帝陛下直々のものだ。今、城塞都市アリスライキには"リリィ・ビカーナ"が視察に訪れている。陛下は直ちに攻勢を仕掛けよと仰っている」

 

このテント内には2人の男が居た。

一人は先に声を上げた、メガネをかけた細身の男。

纏っている真紅の鎧には、ところどころに金メッキが施されており、過剰とも言える綺羅びやかさを誇っていた。

 

人によっては趣味が悪いと感想を抱くであろうその鎧は、帝国軍における指揮官の証。

 

そしてもう一人の男。

色黒な肌をした、鋭い眼光を持つ壮年の男性。

メガネの男と同じ鎧にマントを取り付けたものを装備しているその男は、この場における最高指揮官。

つまり、ビカーナ攻略部隊の総大将である。

 

リリィやストレイドが見たならば、

『成金コンビ』

と命名するであろう男二人組は、その瞳に静かな闘志を宿していた。

 

我らが皇帝陛下の為。

全ては彼の計画遂行のため。

 

テントの外では、アリスライキへの攻撃準備を完了した、凡そ10万の帝国兵が待機している。

兵力差は圧倒的。

万に一つも負けることはありえない。

 

「それはそれは。ならば早急に動く他ありませぬ。既に全軍には指令を伝達済みであります。後は師団長の掛け声一つで攻撃が始まります」

 

「ふむ。それならば、あまり兵たちを待たせるわけにもいかんな」

 

総大将はそう言うと、テントの外へと歩みを進めた。

外へ出た彼を待ち構えるは、凡そ10万の帝国兵たち。

 

それは、帝国軍の中でも精鋭だけを集めて結集された、"ビカーナ王家討伐師団"である。

 

「将兵たちよ。時はきた。我らが親愛なる皇帝陛下は、この大陸を統合し、真の平和をもたらすことをご所望である。しかし、それに

反する愚か共はこの先の砦。城塞都市アリスライキに籠城し、未だに無駄な抵抗を続けている。奴らを完膚なきまでに撃滅し、我らが皇帝陛

 

下の理想を果さんがため。10万の勇猛なる将兵達よ。――進撃を開始せよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひと通りの視察を終えた後、私達は、最初に訪れた建物へと戻ってきていた。

やはりと言うべきか。なんというべきか。

 

姫様の行かれる先々で、兵たちからの歓声が上がったことは言うに及ばない。

 

その声一つ一つに姫様は優しく微笑みを返していた。

 

ストレイドはその歓声に若干呆れていたが、まあそれも仕方の無いことだろう。

 

現在私達は王族用の客間で休息をとっているところだった。

 

「いやー、疲れたわぁ…」

 

「お疲れ様です姫様」

 

そう言いながらソファへと見を投げ出すは、私の主。

先ほどまでの優雅さはどこへやら。

 

今目の前にいるのは、歳相応の可愛さを持った唯の少女。

 

相も変わらず素早い変わり身だこと。

 

「お疲れ様。しかし、やはりというべきか。リリィの人気はすさまじいな。思わず圧倒されてしまったよ」

 

そして。

今口を開いたのは、綺羅びやかさと荘厳さを醸し出す白の鎧を身に纏っている騎士。

姫様の次に注目を集めていたであろうストレイドだった。

 

「お世辞はいいわよストレイド。でもありがとね」

 

お世辞では無いだろうと内心ツッコミを入れつつ、彼の顔を見る。

やはりと言うべきか、苦笑を浮かべながら視線を返してきた。

 

各々がまったりと休息の時間を過ごしていたその時だった。

 

部屋全体を揺らす、爆音が聞こえたのは。

 

それもひとつや2つではない。

断続的に轟く爆音。

まるで何かが城壁に当たっているような、そんな爆音だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最前線である城壁の外部。

 

「第三魔法科部隊!連絡途絶!!」

 

「ダメです!!敵の数が多すぎて持ちこたえられません!!」

 

「中央守備隊劣勢です!!敵は多数の龍騎兵を投入している模様!歩兵科部隊だけでは刃が立ちません!!」

 

「何だ……………この状況は…」

 

アリスライキの中央防衛隊隊長である男は、そう言葉を漏らしていた。

 

死屍累々。

今の状況は、まさにその一言がふさわしい。

 

辺り一面を埋めるほどの爆発痕。

そして血液、死体。

耳には悲鳴、破裂音、そして剣戟が絶え間なく届いていた。

 

城塞都市アリスライキに対するライトセイン帝国軍の大規模攻撃が始まって、早30分。

 

敵の猛攻が迫る中、守備部隊はギリギリの所で敵の進撃を防いでいた。

 

姫様が視察に訪れたタイミングでの、敵の大規模攻勢。

とても偶然には思えない。

 

恐らくだが。

何らかの理由で情報が漏れていたのであろう。

 

失態だ。

 

苦虫を潰したような心情で、そうつぶやく。

 

今すぐにでも情報を漏洩させた売国奴を絞め殺してやりたいところだが、

生憎、今はそうも言っていられる状況では無かった。

 

敵部隊はもう眼前まで迫っている。

 

なんとしてでも、これを退け姫様の身を守らねばならない。

だが、兵力差は歴然であり、その上こちらは龍騎兵に対する有効な対抗手段を持ちえていなかった。

 

絶望的な戦況であった。

攻城戦に置いて、攻撃側は守備側の三倍の兵力が必要だと言われている。

 

我々の軍勢は約3万。

それも、各地からの敗走部隊や、残存兵力を寄せ集めた上での数字だ。

 

それに対してもう一方。

ライトセイン帝国軍。

敵軍はおおよそ10万の大部隊である。

 

もう一度言おう。

攻城戦に置いて、攻撃側は守備側の三倍の兵力が必要だと言われている。

 

今の敵軍は、その条件を十分に満たしていた。

 

ほぼ万全な状態の敵軍と、各地からの寄せ集め部隊である我々。

勝機はほぼないに等しい。

 

だが、しかし。

 

それでも我々は戦わなければならぬ。

 

我らが姫のため。

我らが王国のため。

 

「騎馬隊、突撃準備!魔法科部隊は騎馬隊の突撃後、遠距離からの火炎魔法で敵部隊を殲滅せよ!」

 

この絶望的な状況でも、決して彼等ビカーナ軍の士気は低くは無かった。

それは今日、視察でこの要塞を来訪していた、彼等が姫の存在故。

 

姫の御旗の元に集まった軍勢故。

 

「突撃ィィィ!!!!」

 

『ウラァーーーーーーーーー!!!!』

 

彼女がいる限り、彼等が屈服する事は無いだろう。

男達は、死渦巻く戦場へと突撃していった。




最初に言ったとおりまるっと書きなおすかもしれません。

次話は本編とは関係のない番外編になります。

興味のない方は読まないでも問題ないで!m(__)m

本編の続きの投稿はGW前を目指したいです


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番外編+アンケと感想に対するお礼

ども。

スランプまっただ中な私です(´・ω・`)

まずはたくさんの感想、評価。本当に有難うございます!!
やはり感想をいただくとモチベーションが上がりますね。

返信できていないものもありますが、全て読ませて頂いてます。ホントにみんなありがとねぇm(__)m

霊体のコーデに関してはできるだけ出していきたいと思います
思わずくすっとしてしまったコーデもあり、一時期はゲームのほうでその格好で侵入を楽しんでおりました

今回は番外編と題しまして、少し書いてみた東方xダークSSのプロローグを投下させていただきます。まあ東方クロスっつてもプロローグは一切東方要素ありませんけどね!!(早く本編かけ?すんません言い訳しようもありませぬ)

続きが読んでみたいという声が幾つか上がった場合は、短編としてそちらも投下されていただこうかと思っております。

では改めまして、皆様感想、お気に入り、評価などなどありがとうございました。
それらは私の餌となります

拙い上の亀更新ではありますが、お付き合いいただける方。
今後共よろしくお願いします!



きっと現代人ならば

 

『まるで世界の終わりのようだ』

 

とそう呟くのでは無いか。

 

事実その言葉は寸分間違っていない。

なんせ、既に世界は終わったに違いないのだから。

 

小さめの音楽ホールのような。

半球状の広場。

いやこの表現は適切では無い。

 

例えも浮かんで来ないが、その空間には、2人の人物が居た。

 

床一面には灰がつもり、辺りは煙たい空気が覆っている。

 

ラグナロクの後のようだとか、

妖怪戦争を終えた月面のようだとか、

 

言いようはいくつもあるのだろうが

その空間には、それだけでは言い表せぬ、深い悲劇が満ちていた。

 

先も述べたとおり、この空間には二人の人物がいる。

 

独り。

煤けた、それで居て昔放っていたであろう荘厳さを感じさせる鎧に身を包む。

通常の人間の二倍はあろうかという背丈の騎士。

 

悠久の過去。

 

反逆者として追放された。

それでもぬくもりを求め続けた。

常に孤独であった騎士。

 

レイム。

現在では"煙の騎士"の通称で呼ばれる、過去の英雄。

 

 

そしてもう独り。

 

純白の、ロングコートと騎士甲冑を合わせたような鎧に身を包む。

通常の人間とさして変わらない背格好の男。

 

右手には、それだけで圧倒的な存在感を放つ大剣。

この国を、過去統治した王の武器。

 

煙の騎士の主でもあった王の武器。

 

――ルーラーソードを、唯 しっかりと握っている。

 

左手には漆黒の円盾。

 

由来も分からぬ黒き騎士たちの盾。

 

――番兵の盾を握りしめている。

 

この白き騎士の成した偉業は。

それまでの歴史を見ても、そしてこれからの歴史の中でも。

 

決して超えることは無いであろう、無かったであろうもの。

いや、もしかしたら独りだけ、それに並ぶ偉業を遂げた戦士も居たかもしれない。

 

だが、それを知るものも。

ましてや記録を残した者も存在はしていない。

 

ただ、たとえそうであろうが、この騎士の成した偉業は唯一無二のものであり、そして決して他と比べられるものではなかった。

 

しかし、それでも。

彼の成した偉業は決して、語り継がれることは無いであろう。

 

理由は単純明快にして、そして余りにも悲劇だ。

 

――誰も彼の成した事を知り得ないから。

 

闇の王。

きっと彼の境遇を知る者ならば、そう呼ぶであろう。

 

世界から火を消しさり、世界に闇と人の時代をもたらした張本人。

 

彼を英雄と呼ぶか。

はたまた世界を滅ぼした悪魔と呼ぶかは。

視点によって千差万別であろうが。

 

だがしかし。

一つだけ言える事がある。

 

彼を超える魂を持った存在は、もうこの世界には存在しないであろうと。

 

 

両者が剣を構える。

 

刹那。

 

両者の戦端は開かれた。

 

先に動くは煙の騎士。

左手に担いだ、板とも形容できる大剣を白の騎士へ振りかぶる。

 

白の騎士はその攻撃を、大きくバックステップすることで躱し、そして駆け出す。

 

右手だけで持っていた大剣を両手で持ち直し、煙の騎士の懐へ転がり込んだ。

渾身の力をこめ、大剣を振りかぶる。

 

その剣は、吸い込まれるように煙の騎士の甲冑へ命中し、そして斬り裂いた。

 

斬り裂いたと言っても、それは煙の騎士にとっても。

そして白い騎士にとってもかすり傷のようなものにほかならないのだが。

 

 

次いで巨躯の騎士の反撃が、白き騎士を襲う。

左手に持っていた直剣を振りかぶり、小さき騎士の頭部めがけて振り下ろされた。

 

回避は間に合わない。

そう判断したのか。

 

白き騎士は左手に握っていた盾を繰り出し、煙の騎士の一撃を防ぐ。

 

グァン!!と。

非常に重い。傍から聞けば爆発音のような。

金属音が辺りに鳴り響き、白き騎士の足は灰の中へと沈む。

足首が完全に灰に没した騎士は、盾で受け止めていた直剣を、力任せに弾き返す。

 

渾身の力を込めて振り下ろした直剣が弾き返されたことにも動じず。

煙の騎士はそのまま後ろへと跳躍し、白き騎士から距離をとった。

 

再び睨み合う二人の騎士。

 

その沈黙を打ち破るは、煙の騎士の咆哮。

 

およそ人のものではない雄叫びに、周囲の空気が轟く。

 

普通の人間であれば、それだけで失神してしまうような魂の叫びを全身に浴びても尚。

白き騎士は一切動じる事なく、その切っ先を煙の騎士へと向けた。

 

その瞬間。

常人には眼にも止まらない早さで駆け出す2人。

尋常ならざる瞬発力で加速された剣先が、お互いを貫かんと接近しあう。

 

過剰とも言える殺意が込められた一撃を、両者は半身を翻すことによって回避した。

 

音速をも超える一撃が放たれた空間に残されるは。

それによって生じた耳を劈く爆音。

 

煙の騎士が左手を上げる。

手にされた特大剣が、目の前の白き騎士へと振りかぶられた。

 

横振りで迫る特大剣を、屈むことによって。

間一髪回避する白き騎士。

 

通常の人間が喰らおうものなら、後には人間であった面影を残さぬ肉塊が転がるばかりであろう一撃。

 

白き騎士はそのまま後方へとローリングをし、煙の騎士の間合いから離脱する。

 

そしてその瞬間に跳躍。

一瞬で人の背丈まで跳躍し、煙の騎士の脳天めがけ大剣を振り下ろした。

 

全体重と。

重力。

そして騎士の筋力によって極限まで加速された刃が、煙の騎士の頭を砕かんと迫る。

 

その一撃を回避できないと判断した煙の騎士は、首をかしげるようにして脳天への直撃を避けた。

しかし、攻撃が回避できたわけでは勿論ない。

 

煙の騎士の右肩に命中した一撃は、そのまま右腕を刳った、

 

あまりの衝撃に、思わずよろける煙の騎士。

 

これ好機とばかりに追撃を放つ白き騎士。

 

身体を回転させて、勢いつけた大剣で煙の騎士の胴体を斬りつける。

 

白き騎士は勝ちを悟った。

それはそうだろう。

 

会心の一撃を二度続けて命中させたのだ。

 

過剰とも、異常とも言える威力の斬撃。

 

だが、その考えが、彼に一瞬の隙を呼んでしまった。

 

煙の騎士へ最後の一撃を放とうと踏み込む騎士。

 

だがその一撃が煙の騎士へ届くことは無かった。

 

「――グッ!?」

 

煙の騎士の膝蹴りが、攻撃モーション中の騎士の腹を蹴り上げる。

 

想像を絶する衝撃に、白き騎士は堪らず吹き飛んだ。

 

10メートル近い距離を飛んだ後、地面に叩きつけられる全身。

 

肺から空気が逃げ出そうとするが、先ほどの蹴りのせいか否か。

呼吸器官はその仕事を放棄する。

 

普通の人間であれば、即死するような一撃の後も、白き騎士はその意識を保ち続けていた。

 

それも嫌というほどハッキリと。

 

――調子に乗りすぎた。

 

騎士は鉛の様な身体に鞭を打ち、立ち上がる。

未だに機能していない呼吸器官を恨めしく思いながらも、その腰に下げてあった瓶を呷った。

 

エスト瓶。

不死人の宝たる鈍い緑ガラスの瓶

篝火でエストを溜め、飲んでHPを回復する

 

その瞬間に、異常を訴えていた騎士の身体は平静を取り戻し、傷はみるみる塞がっていく。

 

そしてポーチから金色の粉を取り出すと、それを頭上へ向かって撒いた。

 

修理の光粉

魔力を帯びた金属を紛状に加工したもの

装備の耐久度を回復させる

 

武器や防具は使い続けると耐久度が下がり、

壊れると使いものにならなくなる

不意の事態を考えるなら持っておくべき

備えなき者に災いを嘆く資格はないのだ

 

すると、煙の騎士の蹴りによって歪んだ鎧は見る見ると元通りの姿に戻っていった。

 

白き騎士は視線を煙の騎士へと向ける。

煙の騎士もまた、ちぎれた腕が元通りになっており、白き騎士は内心舌打ちした。

 

――闇の子の加護によるものか…。

 

再び切っ先を互いに向け合う両者。

 

戦いはまだ終わらない。

 

 

 

 

それからの戦いは、まさに一進一退と表すのに相応しいものであった。

 

白き騎士の一撃を、煙の騎士が特大剣で受け止め、お返しとばかりに直剣をその脳天めがけて振り下ろす。

白き騎士はそれをローリングで回避し、左手に持った鈴のようなもの――渇望の聖鈴――から撃ちだした"ソウルの大きな共鳴"でけん制する。

 

ソウルの大きな共鳴

生命の力を捻じ曲げる闇術

一定のソウルと引き換えに、大きな闇を放つ

 

ソウルを持たなくても使う事は可能

ただし、威力は極端に落ちる

 

既にこの戦いが始まってから15分は立っているであろう。

この間、2人は一切の手を緩めることなく全力を出し続けている。

 

しかし、それでも2人の剣捌は衰えることを知らず。

むしろ勢いをましていた。

 

一切の疲労を見せることなく戦い続ける2人。

 

彼等は一体なにものなのか。

 

そう疑問に思う人もいるのでは無いだろうか。

 

端的にいうと、彼等は人間である。

勿論、唯の人間ではないが。

 

不死人。

白き騎士の様な存在はそう呼ばれている。

 

死んでも死ねない、呪われた存在。

呪いの証「ダークリング」があらわれはじめ、患った人は「不死人」と呼ばれるようになった。

不死人はやがて考える器官を失い、誰とも構わず襲う「亡者」に変貌する。

そのためダークリングを患った者たちは、健全な人々から嫌われ、追放され、世界の終わりまで幽閉される運命にあった。

 

彼はその中でも、不死の英雄と呼ばれる存在。

先も語った通り、世界から火を消しさり、世界に闇と人の時代をもたらした張本人。

 

神すらも寄せ付けぬ、圧倒的なソウルをその身に宿す者。

 

彼を主役とした御伽話があるのならば。

勇者という呼び方が最も相応しいであろう。

 

悲劇の主人公。

闇の王。

抗い続ける者。

 

希望などない世界で、絶望が満ち満ちた世界で。

それでも必死に希望を探し続ける、哀れな存在。

 

 

煙の騎士"レイム"も似たような存在である。

彼等2人に、大きな違いは存在しない。

 

きっと本質は同じ者同士だ。

 

何が彼等を分けたのかは、誰にも解らない。

それはきっと、本人達も知り得ないことだし、また知ろうともしないことだろう。

 

レイムの一撃が、白き騎士へ迫る。

それをぎりぎりの所で盾を使い受け流す白き騎士。

 

受けた腕ごと持って行かれそうな衝撃に踏ん張りつつ、ルーラーソードの切っ先を突き立てる。

それを避けるでもなく、ただただ受け入れるレイム。

 

左肩に深々と突き刺さった大剣は、白き騎士に確かな手応えを感じさせた。

 

だが、結果として、それが油断を招く事となる。

 

レイムは大剣ごと白き騎士の右腕を掴み拘束した。

 

――マズイッ!?

 

そう思考し、白き騎士は脱出を試みる。

が、時既に遅かった。

 

騎士は自分の頭上を仰ぎ見る。

そこには、今まさに、直剣を突き刺さんとするレイムの姿。

 

――ああ、これは死んだな。

 

白き騎士の右肩に切っ先が突き立てられ、そのまま身体を貫いていく。

右肩から侵入した刃は、そのまま騎士の心臓を貫いた。

 

遠ざかる意識の中。

 

白き騎士が最後に見たものは。

ただ悲しそうに佇むレイムと。

 

自らの血で染まった、灰色の地面だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは。

 

絶望の英雄。

全てを失った哀れな英雄の、新たな物語の幕開け。

 

誰にもその偉業を知られることの無かった。

とある白き騎士が幻想となったお話。

 

不死の英雄。

闇の王は。

 

その世界で何を見出すのか。

 

それは誰も知り得なかった。

存在しなかったお話。

 

 

 

 

希望を欲した英雄は――

 

 

 

 

―――幻想郷へと辿り着く。




続きが見たいという方がいらっしゃいましたら、一言お願いします

興味ねえよペッ!って方
はい本当に申し訳ありません(´・ω・`)


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恐怖と狂気

生きてます。
お久しぶりです。

暫く書いてなかったせいで書き方が結構変わってるかもしんないっす。

あと皆さんコメントありがとうございます
ホント励みになってます
亀更新ですが、お付き合いいただける方、宜しくお願いします。


戦場には様々な感情が渦巻いているのが常だ。

恐怖、憎悪、焦燥、高揚、虚無

 

その中で、最も人を支配しやすいものは何か。

答えは"恐怖"である。

 

アリスライキ正面戦線は、地獄とかしていた。

 

耳を塞いでもなお飛び込んでくる怒号、悲鳴、剣戟、爆発音。

帝国軍の圧倒的な戦力を前に、ビカーナ王国軍は為す術なく乱戦へと引き込まれた。

 

赤と青が入り乱れ、最早戦線というものは存在していない。

 

「オラァ!!」

 

「クソッ!!」

 

王国兵の一人が、帝国兵に突き飛ばされ、それをまた別の帝国兵がとどめを刺す。

 

戦力差は圧倒的であり、この防衛線が突破されるのも最早時間の問題であろう。

 

バスタードソードを持った帝国兵が、一人の王国兵の武器を弾き飛ばす。

今にも振り下ろされんとする大剣を前に、王国兵は死を覚悟した。

 

――だが何時までたっても剣は振り下ろされない。

 

「どうした、恐怖を煽って遊んでいるのか?一思いにやれ!!」

 

思わずそう叫んだ王国兵だったが、次の瞬間

彼は絶句することとなる。

 

"グチャッ"

 

何か生体的なものが潰れた嫌な音が聞こえた。

 

"バキバキッ"

 

何かを無理やり引きちぎる様な、不快な音が響いた。

 

"ドルゥ"

 

何かを引き釣りだすような、身の毛もよだつ音が耳に届いた。

 

刹那、帝国兵の身体から頭が脊髄ごと引きぬかれ、吹き飛ぶ。

 

首からは噴水のように鮮血が溢れ、頭部を失った身体はゆっくりと倒れた。

 

そしてその背後には…

 

「ひぃいッ!!!」

 

全身に返り血を浴びた騎士が、陽炎のように立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

帝国軍正面部隊の兵士たちは、戦慄していた。

つい直前までは圧倒的に優勢だった彼等の士気は、今や地に落ちてしまっている。

 

その原因は。

 

「なんだよ…何なんだよコイツは!!!」

 

彼等の視線の先にいるたった一人の騎士。

全身に返り血を浴び、圧倒的な殺気と威圧感を放っているその騎士は、

緩慢な動作で手にしていた大剣の矛先をこちらへと向けた。

 

その瞬間、全身に走る恐怖。

死にたくない、死にたくない、死にたくない。

彼等の生存本能は雄叫びを揚げ、自らの役目を放棄して逃げ出せと通告していた。

 

今、もし一人でも逃走する者がいれば、それは部隊全体へと伝搬し彼等は瓦解してしまっていただろう。

だがしかし、圧倒的な恐怖を目の前にしても彼等は武器を構え続けた。

さすがは生え抜きの精鋭部隊といったところだろうか。

 

ここで逃げておけばよかったということを、彼等はもっと後に知ることとなる。

まあ、それを知った時にはもう遅かったのだが。

 

あの不気味な騎士が突然と現れたのは、つい15分前のことである。

 

今まで乱戦を行ってた王国兵達が潮が引くかのように撤退を始め、代わりにあの化け物が現れた。

 

どう見ても装備は王国兵のものではない。

恐らくは傭兵か放浪騎士の類だろうか。

 

今騎士の手には二つのものが握られていた。

ひとつはクレイモアと呼ばれる両手用の剣としてはこぶりな大剣。

そしてもうひとつは――

 

「…!?」

 

帝国軍兵士の生首であった。

それも唯の生首ではない。

頭部が脊髄ごと引きずり出されており、必要以上の惨たらしさを放っていた。

 

同胞の無残な姿を前した彼等にあったのは、怒りの感情ではない。

恐怖。唯それだけだった。

 

騎士が生首を投げ捨て思い切り踏み砕く。

そしてその瞬間、駈け出した。

 

「む、迎え撃てー!!!!相手は一人だ!臆するな!!」

 

帝国軍指揮官がそう叫ぶ。

 

王国軍は既に城壁の手前まで後退しており、彼の言葉の通り前線にいるのはかの騎士ただ一人であった。

 

アリスライキ第一次正面攻略部隊の人数は凡そ3000人。

既に500人程の兵を失ってはいるが、それでも尚その数は圧倒的。

ただ一人の騎士など無問題だと、心の奥に恐怖を抱きながらも思っていた。

 

そう、通常ならばたった一人など無問題。

"通常ならば"。

 

先頭を走っていた帝国兵が、騎士と接敵する。

 

「ウォォォ!!!」

 

雄叫びを上げながら、手にしていたロングソードを振りかざし、騎士へと斬りかかった。

だがしかし。

 

バァン!!

 

何かを跳ね飛ばす様な音と共に、鮮血が舞う。

 

血煙に遮られ、後続の帝国兵達は一瞬、騎士の姿を見失った。

次の瞬間。

血のカーテンの中からあらわれた大剣が、帝国兵の胴を貫く。

兵士が声を上げる前に左へ振りぬかれた刃は、彼の胴体を完全に破壊しただけではなく

その先にいた帝国兵の脳漿をぶちまけさせた。

 

「ば、化け物めぇええ!」

 

同胞の無残な死に様を前にした兵士は、半狂乱になって騎士へと斬りかかる。

自らに向けられた直剣を、騎士は大剣で当たり前のように防ぎ、そのまま兵士を両断した。

 

死体が地面に倒れる前に、周りにいた帝国兵へとそれを蹴り飛ばす。

 

そして騎士は一つの"魔法"を唱えた。

 

「な、なんだこれは!?」

 

闇術

 

『生命の残滓』

魔術師の異端として伝承に残る

ナヴァーランの秘術

地に眠る古い死者の魂を呼び醒ます

 

 

騎士を中心とした地面から、辺りに闇色の炎が吹き上がった。

騎士の周囲に居た帝国兵は15人。

その誰もが闇の炎を身に受け、声を上げる事もできずに絶命する。

 

兵士達は絶句する他無かった。

たった3分程の間で18人もの人間が殺されたのだ。

運良く、闇術の範囲外で助かった帝国兵達も恐怖で釘付けとなり、その場から動けずにいる。

 

その光景を見た騎士は、兜の下で嘲笑する。

そして、反撃の危険が無いと見るやいなや、もう一つの闇術を発動させた。

 

"まともに戦う価値もない"

 

闇術

 

『死者の活性』

生命の抜け落ちた死骸に働きかけ

闇の炎で爆発させる闇術

 

生命を愚弄するこの術は闇術のなかでも

特に忌み嫌われる

 

騎士の周囲に転がる18体もの死体が一瞬光り、収束する。

そして次の瞬間。

 

「うわぁぁ!?」

 

紫色の閃光が辺りを包んだ。

爆音と禍々しい光が辺りに満ち満る。

 

爆風が収まった後にあったのは、大剣を構え佇む騎士

そしておびただしい量の無残な死体であった。

 

この一撃。

たった一撃で殺された帝国兵の数は約200人。

 

その光景を見ていた他の兵士達の心は、完全に折れてしまっていた。

 

なんだ、つまらん。

そうとでも言いたげに、騎士はゆらりゆらりと残存する帝国兵へと近づいていく。

 

だがしかし。

騎士は途中で歩みを止めた。

 

それはなぜか。

 

その答えはその場にいる者ならば、全員理解できただろう。

 

 

 

最初に形容しがたい金切り音の様な音が辺りに鳴り響いた。

 

次に騎士と帝国兵達の間に真赤な魔法陣が広がる。

 

そしてその中から浮かび上がってくる真赤な人影。

 

最後に、頭の中に直接流れ込んでくる一つの文章。

 

 

 

 

 

 

『闇霊 不死の英雄xxに侵入されました』




後で加筆しますん。

闇霊の装備
ファーナム一式にルーラーソード、王の盾

いずれも最大強化


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不死の英雄の逆鱗

3年ぶりの投稿に自分でも草を禁じ得ない。
本当に申し訳ありませんでしたぁーーー!!!!


彼は兜の下で口角を釣り上げた。

 

視線の先では陽炎のように赤が揺れめいていた。

圧倒的なまでのオーラ。どれだけの不死を屠ってきたのだろう?

自らにまさるとも劣らない莫大なソウル。

 

赤と兜のせいで、その視線は見えないが、それでもこちらに殺気を向けている事は十全に理解できる。

 

彼は左手の聖鈴をしまい、虚空より小盾を掴む。

ドランシールド。彼を彼の地で支え続けた相棒とも言える盾。

 

パリイをしやすい小盾ながら、相応の防御性能も兼ね備えている逸品。

 

クレイモアの切っ先を闇霊へと向ける。

それに習ってか、闇霊も一礼にて応えた。

 

 

瞬間、お互いが地面を蹴り上げる。

あまりの膂力によって地面は抉られ、土煙を上げる。

 

ルーラーソードとクレイモアの切っ先がぶつかり、尋常ではない金属音が辺りへと響き渡った。

 

―――重いな…。

 

鍔迫り合いに持ち込まれては不利になる。

彼は瞬時にそう思考し、バックステップで距離をとろうとする。

 

だがそれを許すほど闇霊は甘くはなかった。

彼が引いた瞬間、前へローリングし大剣の切っ先をストレイドへと突き立てる。

 

ストレイドはそれをドランシールドで防ぎつつ、闇霊の右へと回り込もうとする。

だがそんな行動はわかっている、とでも言わんばかりに闇霊は大剣を両手持ちにし連撃を浴びせた。

 

一撃一撃が酷く重い。

防ぐたびに小盾を握る左腕がしびれる。

 

このままでは守りを崩される。

ストレイドは連撃の隙をついて闇霊のプレートアーマーに前蹴りを放った。

 

それにより闇霊は数歩後ずさる。

そのチャンスを逃すまいと、ストレイドはクレイモアで突きを放つ。

闇霊はギリギリの所で盾でそれを防ぎきった。

 

その直後闇霊とストレイドは同時にバックステップで距離を取る。

 

クレイモアをソウルへと還し、虚空からロングソードに持ち替える。

 

仕切り直しだ。

 

互いが再び肉薄し、剣戟が巻き起こる。

防ぎ反撃し、また防ぎ回避し、反撃する。

甲高い金属音が連続し、火花が散った。

 

闇霊とストレイドの剣戟の速さに空気が悲鳴を上げ、風切り音と金属音がこだまする。

 

右からの大剣による切り払い、ブラフ、本命は次段のシールドバッシュ。右へローリングで回避。ついで反撃、起き上がりと同時に切り上げ、ミス、左からのなぎ払い、防がれる。

 

高速で思考し、それを実践していく。

だがそれは相手も同じ。

ここまでのオーラを纏う相手だ、生半可な敵ではないと理解していたがここまでとは。

生死のかかった剣戟の最中だというのに、ストレイドも

そして闇霊も兜の下で嗤っていた。

 

ああ、ここまで闘気の高ぶる戦いはいつ以来だ。

オーンスタインに殺されたときか?アルトリウスに蹂躙されたときか?毒竜を打倒したときか?反逆者レイムと打ち合ったときか?白王を相手にしたときか?それとも別世界の己が侵入してきたときか?

 

声にならぬ嗤いが互いから漏れていた。

 

互いに距離を取り、息を整える。

そして互いに左手に出現させたのは、聖鈴。

 

ストレイドは暗月の剣のエンチャントを。闇霊は固い騎士の誓いを。

 

さあ、これで決めようか。

どちらも無言ではあったが、そう伝わってくるものがあった。

 

武器を構え直し、互いに駆け出す――――事はなかった。

 

 

 

『グォオオオオオオオオオ!!!!!!』

 

 

周囲に人のものではない咆哮が轟、闇霊とストレイドは緩慢な動作でそちらを見やる。

 

視界に写ったものは赤。

凶暴性の実体化とはこういうものか。見たものにそう思わせる獰猛な面が空を羽ばたいていた。

 

トカゲのような四肢に大きな翼。

彼らにとっては見慣れた存在。

 

「間に合ったか!誉れある帝国の竜騎兵よ!」

 

耳障りな帝国司令官の声が聞こえた気がする。

破壊の化身、ドラゴンがそこにはいた。

 

 

「…………」

 

『………』

 

 

だが闇霊とストレイドの間には、竜を前にした高揚感も、恐怖も何もなかった。

あるのは"苛立ち"。

久方ぶりの強敵との死合を邪魔されたという苛立ちのみ。

 

闇霊がこちらを見る。

ストレイドはそれに応えるようにゆっくりと頷いた。

 

闇霊がドラゴン、ひいてはその背に乗る竜騎兵に向けて首切りの動作を行う。

 

この竜騎兵は大変に不幸であった。

ただ職務に忠実だった結果、最悪のタイミングで戦場についてしまった。

 

怒りを覚えた不死の英雄達はどうするのか。

 

「さあそこな悪鬼どもを焼き尽くし、我らが皇帝陛下に勝r…を!?」

 

答えは簡単――――――蹂躙である。

 

帝国の司令官が口上をいい切る前に、空に太陽の光が奔った。

同時に深淵色をした闇の塊も。

 

突然の事に反応が遅れたドラゴンは次々と被弾し、20秒も持たずドラゴンステーキとなった。

もはやステーキというよりも消し炭だが。

 

だが彼ら不死の英雄達の怒りはこの程度では収まらない。

であればどうするか?

 

この水をさした眼の前の軍隊への報復である。

 

闇霊とストレイドは一瞬、チラリと視線を合わせると互いに駆け出した。

目標は帝国軍の陣地。

 

突然の標的変更に帝国軍はざわめきたつが、すぐさま弓などを用いて反撃に移れた事はさすがと言えよう。

だが無意味だ。

 

闇霊がハベルの大盾を両手に構え矢を防ぎ、疾走する。

その影に隠れるようにして、ストレイドがソウルの魔術で応射していく。

 

ソウルの槍、結晶槍、白竜の息、ソウルの奔流。

 

それは帝国軍にとって間違いなく地獄だった。

 

青い魔力の奔流に掠っただけで、跡形もなく消え去る兵士たち。

それを見た者たちは恐怖のあまり逃走を開始した。

 

一度瓦解を初めてしまえば後は早く。

次々に逃亡兵が増え陣形は崩壊していく。

 

不死の英雄たちはそんなものお構いなしと。

崩れた隊列に突っ込んでいく。

ハベルの大盾の圧倒的質量は兵士を唯の肉塊へと変えていく。

 

そうしてできた死体はストレイドが生命の残滓で爆弾へと。

 

しばしそれが続いた後、その陣地で動くものは2つの人影だけだった。

 

闇霊とストレイド。

不死の英雄たちの逆鱗に触れた帝国軍は今、逃げ切れた者を除き

唯の例外もなく屍となっている。

 

その光景に、闇霊は呆れるといった動作を行ったあと、天を仰いだ。

それはまるで、『情けなさすぎるぞ貴様ら』と言っているようにも見える。

 

しばしの間をおいて、闇霊はストレイドに向き直った。

思わず身構えたが、闇霊はストレイドに対し一礼をする。

 

どういうことだと、とりあえず返しておくかと彼も礼をする。

 

それをみた闇霊は小さくこちらに手をふった後、自らの首に大剣を当て切り落とした。

赤い残滓となって消えていく闇霊。

ストレイドは唖然とするしかなかった。

 

「十分な人間性を得て満足したのか、それとも面白そうな世界を見つけたと喜々して帰っただけか…さて…どうでもいいが疲れたな…」

 

彼はつぶやき、血溜まりの上に腰を下ろした。

 

アリシア達近衛隊が彼のもとにやってきたのは、その5分後であった。



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