「提督、お呼びでしょうか?」
うむ、筑摩か。今日はお前に新しい装備を配備しようと思ってな。
「あら、新装備ですか。まさかドラム缶ですか?」
ドラム缶ならこうしていちいち呼ばないさ。ちょっとした特別品さ。
「それは楽しみです。少しわくわくしますね。」
あまりもったいぶっても仕方ないな。というわけで…航空巡洋艦、筑摩!今日から貴艦に瑞雲12型を配備する!整備をしっかりするように。
「承りました…って、え?12型を、私に?ではこの六三四航空隊の瑞雲は?」
そうだったな、そちらは私にいったん返してもらう。今日からこの隊は利根に一任する。
「そんな!待ってください、利根姉さんに申し訳が…」
決定事項だ。異議は受け付けん。
「……」
筑摩のカタパルトで12型がしっかり飛び立てるかテストする必要がある。午後の演習の前に時間をとるから、それまでに各種整備などの準備を済ませて、第二埠頭まで来なさい。
「了解しました。筑摩、失礼いたします。」
うむ。
…ふむ……
「提督、お待たせいたしました。」
いや、時間通りだ。整備は万全か?
「はい、航空甲板、水上機ともに問題ありません。」
よし、それではこれより水上機射出テストを行う。では筑摩、洋上に向かうぞ。立会に熊野も同伴する。
「了解です。熊野さん、あなたなら心強いわ。今回はよろしくお願いします。」
では行こうか。
ご苦労だった筑摩。これからしばらくは瑞雲12型の運用を任せるぞ。
「………」
どうした?なにかあるのか?
「なぜ私なのです?」
うん?
「だから、なぜ私なのですか?私が航空巡洋艦になったのはつい最近です。練度の面から言えば、最上型の方々、それに利根姉さんの方が上、新装備は先に姉さん達に配備すべきなのでは?」
そうだな。手っ取り早く戦力増強したければ他の者に持たせた方がいいだろう。
「ではなぜ?」
筑摩、お前の練度を上げることが急務だからだ。
「戦力増強よりも先にですか?」
そうだ。最近の敵情は複雑化しており、その時その時の判断に柔軟性を保たねばならない。あらゆる局面に対応しうる航空巡洋艦を、できるだけ多く、できるだけ高い練度に仕上げておきたい。私が管轄する艦隊での方針だ。
「………」
と、ここまでは私の考えであるが、今回の配備の理由はこれだけではない?
「…といいますと?」
利根だ。彼女あっての推薦だ。
「え…?」
どこから聞きつけたかは知らないが、利根は12型が配備されることを知ったや否や、私を訪ねてこう言った、筑摩に新型瑞雲を配備してくれ、と。
「どうして?」
利根は言っていたぞ?我輩並みの活躍を、筑摩にもしてもらわねばならん!と。つい先日航巡化したお前への祝いのつもりではないか?
「姉さん…」
ま、利根の推薦だけではお前にその瑞雲を任せなかった。私に感謝するんだな。
「ふふっ、わかりました。利根姉さんにだけ感謝いたします。」
…瑞雲を返しなさい。
「嫌です、もう任されちゃいましたし、利根姉さんとバトンタッチするまでは離しません。」
冗談だ。日々の鍛錬に励みなさい。
「はい、それでは、失礼しますね。」
あぁ。……あ、筑摩。
「はい?」
先ほどの訓練、なかなか様になってたぞ。次、大掛かりな作戦があったときに、艦隊の目となることを期待しているぞ。
「ありがとうございます。この子たちの力を発揮できるよう、頑張りますね。」
「利根姉さん、私、頑張りますね。」
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